深夜、高架橋下
遙々・ハルカ 2020年7月22日
丑三つ時を過ぎただろうか、時計は見えない
川辺の高架橋下にはドラム缶がひとつ
その中では赤々と炎が燃えていて
そのすぐ傍では、青年が揺れる橙色を眺めている
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・先着一名
・誰でもどうぞ
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遙々・ハルカ 2020年7月22日
(ドラム缶は誰が置いたものやらわからない。大方ホームレスだの釣り人だの、そういう輩が置いたのだろう。こういう場所に来る学生は――青年も含め――ドラム缶を利用することはあっても、わざわざ持ってきて置くことはないのだから)(ドラム缶の中には、布と枝と、それから紙屑がたくさん入っている。そうしてそれは今まさに、端から黒々と焦げ消えていっていた)……煙くせ。(ぱちぱちと、小さく爆ぜる音が聞こえる)
ロカジ・ミナイ 2020年7月24日
くっさい煙だねぇ、本当に。(いつの間に。唐突に。不躾に。ドラム缶の反対側から不満たっぷりの声が響く。声の主らしき派手な頭の大男は、ちょっと離れた高い位置に蹲み込んでいて、目線の高さはちょうど成人男性程度である。男の乗る塊は乾いた苔がこびりついていたり色褪せた落書きがあったりと散々な有様で、石なのかコンクリートなのか、もはや不明であった) 何が燃えてるんだか。これはアンタの火かい?
遙々・ハルカ 2020年7月25日
(傍らに殆ど空のバッグ。いかにも面白くもなさそうな表情で火を抱えたドラム缶を眺めていたが
)……。……。おわ。(金の視線を動かし、上げた声は社交辞令じみている。ポケットに突っ込んだ片手を出しもしないまま、ドラム缶向こうに“出現”した男の姿を、はっきりと見た)エ~、吃驚した。火ィ付けたのがオレかっつー意味ならオレだけどね。結構~前から置いてあるよコレ。色んな奴がなんやかんや入れて燃やしてんじゃねェ~の? 最近なら花火の燃えカスとかも入ってそ~。
ロカジ・ミナイ 2020年7月28日
へぇ、そうなの。さながら公共の焼却炉ってとこかい。珍しいものを置く人がいるもんだ。(顎を上げて炎の中を覗く素振りをする。ポケットから引っ張り出された手には煙草の箱が握られていた) ……と聞くと、あんまり煙草の火には向いてなさそうだね。でもアンタが火を持ってるとしたら予定通りだ。火かしてくんない?(咥えた煙草の先っちょを上下させてねだる)
遙々・ハルカ 2020年7月31日
冬場はよく人がいんだけどね。(それは勿論家を持たない人間とか、家に居付かれない人間だ。――火はよく燃えている。たくさんの紙片。幾らかの布。一緒に入れられた枝が跳ねるように割れて音がする。眼鏡のレンズに光が反射する)まァ~、何燃やしてたかわかんねェのはフツーに怖そ~。ダイオキシン的な。てかここに手ェつかタバコ突っ込んで火ィ付けんの火傷しねェ?(それも怖ェ~わ。などと言いながら、こちらもまたポケットから出した手に、マッチ箱がひとつ。軽く振って示して見せ、ドラム缶を半周するようにごく僅かな距離を歩く)
ロカジ・ミナイ 2020年8月1日
夏場の焚き火は暑苦しいもんね。その人たち、今は別の場所で涼んでるのかな。(そういう流れで周囲を見渡す。火の明かりの影響か川辺は暗く見えた) ライター 置いてきちゃってね、でも煙を辿れば火があるでしょ?そんで降りて来たわけよ。けどもまさかこんな立派な火だと思わなくてさぁ。(火傷しちゃうね、と大袈裟に肩を竦めて、まるで言い訳でもするみたいに身の上を話して)(近く手元に気が付くとたちまち目を輝かせた)ああ、いいね、マッチ。ナチュラル志向だ。うんうん、ひとつ付けてみておくれよ。(上下させていたものをピタリと止める。そして無防備に顎をあげた)
遙々・ハルカ 2020年8月6日
まァ~ね、みんな群れてっしどうせそーよ。(人気はない。遠くに街と車の灯り、高架橋の上にも今は通るものはなく静かだった。都会の夜は浅いが、ここに落ちた影は色濃い)ライター忘れる喫煙者ってたまに見るけどさァ~……なに? 忘れんぼさん?(大学でもちょいちょいいるよ、と青年は笑う。軽い歩調、スニーカーよりは重たい足音で彼の前まで辿り着く。小さな箱を無意味にもう一度振るとシャカシャカ音がした。指先で押し開け、一本だけ取り出して)マッチは火に放り込んじゃえばゴミも出ないしさァ、なんかイイよね、この、(言いながら擦る。僅かな音、たちまちともる火。照らされる金眼。小さなそれを差し出し)擦って付けるカンジ――、ほい、おひとつどーぞ。……違ったっけ? ワハハ。
ロカジ・ミナイ 2020年8月12日
君は群れないんだ。(涼しい場所があるなら知りたいくらいだけど。人工的な景色に温かみはない。生命的な息吹の熱もない。されど暑い。そんなまるで異空間で、男が十分に近寄るのを目で追って) ふふ、そう。忘れんぼさん。わざと忘れんぼさんになったりもするけども。……んん、ありがとさん。(火と煙草が上手く重なるように静止する。頬をすぼめて吸い込んでから唇を開けば、燐の香りが鼻をくすぐった。煙草と一緒にそれも味わうのが、男にとってマッチの醍醐味だった) 大学生なんだ。学校楽しい?
遙々・ハルカ 2020年8月20日
暑いじゃん?(人間てやつはさ。軽やかな声で言葉を浮かべながら、青年は僅か肩を傾ける程度の動きで、役割を終えたマッチ棒をドラム缶の中に放り込む)ハイ、ど〜いたしまして。はは。火ィ借りる為に忘れんの?(顔を顰めるようにしながら笑い、一歩、二歩、川側に歩んだ。体温からも火からも、距離を取るようにして)どっかで見た『親戚のおじさん』みてェ〜なこと言うじゃ〜ん。ウケる。まーね、楽しーよ。オレはねェ、勉強好きな優等生てヤツだから。ワハハ。
ロカジ・ミナイ 2020年8月23日
まぁねぇ。多少の風通しの良さは必要だねぇ。(マッチ棒ごときでドラム缶の炎はびくともしないだろうが。煙を吐く息だって同じで、男のため息がどんなに深くたってドラム缶の火はそんなものなかったみたいに煌々と燃えている) 半分正解。僕の証拠を残すために忘れるのさ。火ィ借りることになるのはその結果で、こうやって暑苦しい状況に巡り合ったってわけよ。(少し離れたことでよく見える様になった相手の姿をぼーっと眺める。他に見るものも見えるものもないからさ) カカカ!おじさんはなかろ?きっと10も離れてないってのに。あー、えーっと、学部?だっけ?優等生くんはなんの勉強してんの?
遙々・ハルカ 2020年8月31日
(互いの言葉の間で、ぱちぱちとごく小さな音が弾けている。足元の川原は砂利砂利と、丸く削れた小石ばかりだ。その上を歩くともなく)
証拠ォ?(思いもしなかった、というような声。遠くなった灯りに照らされた頬は不思議がるような、面白がるような色が混ざっている)「爪痕を残したい」みてェ〜な響きで面白ェね。ま〜どっちかっつーと、覚えててほしいの? てカンジだけど。(白く覗く足首は痩せている。靴裏で小さな石ころを転がしながら、彼の眸を見て笑った)だってそれ、良く知らん親戚の学生に出せる話題がないから取り敢えず学校のこと聞いとくおじさんムーヴじゃん? オレはね〜医学部。(半ば笑いながらに答え、薄い肩を竦めた)お医者さんの勉強よ。
ロカジ・ミナイ 2020年9月9日
そそそ。爪痕を残したいの。唾つけるとか、足跡を残すとか、そんな風にも言う。忘れられたくない日もあるでしょ。要するに僕が火を借りる時は、いい場所からの帰りか寝坊して急いでたかのどっちかって事よ。(今日はどっちだったのか。ここへ来る前のことを思い出したのか、煙を溜めるのに噤んだ唇が弧を描く)
……医学部?奇遇だね!僕もお医者の勉強してたのよ。聞いてみるもんだなぁ。……なんて、過去の話を持ち出したらまたおじさんとか言われそうだけどさ。あくまでもちょっとした仲間意識みたいな、純粋な興味で聞くけど。なんで医者を目指してるんだい?(石ころの転がる音に注意が移る。不健康そうな肌と医者という言葉のチグハグさが、眼鏡の青年の印象を強く引き立てていた)
遙々・ハルカ 2020年9月28日
(声を立てずに笑った。鼻で笑うのによく似ていたが)寝坊助か寂しんぼかどっちかかァ。女だったら面倒くさいタイプっぽい特徴じゃんウケる。(オマケに「思い出し笑いする奴はむっつりスケベだってさ」などと言う。靴裏の下にいた小石が、そこから溢れて転がっていった)
「なんで」?(まるで少し困ったように聞き返し、考える風情で顎を引いた。僅かな間。火と、石ころと、それから川の流れる音。遠くで電車が通っている。その間を通り過ぎて)アー……出来るから?(疑問形である。半笑いの。そうして双眸を細め彼の姿をよくよく眺めながら)そーいう“おじさん”は勉強してた、……てコトは今別にお医者じゃないでーすてコト? それかやめちゃった人ぽい言い方。
ロカジ・ミナイ 2020年10月1日
男だからそんなに面倒臭くない、……と思う。きっとね。たぶん。自分の相手したことないから分かんないけどさ。(むっつりじゃなくてただのスケベだよ、と口を尖らせた)
それって、医学の勉強がしたいってこと?それとも治療がしたいってこと?(曖昧で掴み所のない返答だったから、当然こちらにも疑問符が浮かぶ。顎に手を当て首を傾げていたとこに、視線を感じてそっちを見た) 僕はやめちゃった人。代わりってんじゃないけど、薬屋をやってる。……ロカジでいいよ。せめて“おじさん”はやめて!(幼稚にイーっとした並びの良い歯の隙間から苦情みたいに白い煙を吐いた)
遙々・ハルカ 2020年10月18日
寂しんぼの男は面倒くさいでしょ、ワハハ。――成る程ね、こんなトコでよく知らん奴とも立ち話するの割と好きそ~。(明確に笑い、ぶらぶらとした足取りで歩き出す。その場から半円を描くように)
勉強は好きだよ。なんでもね。『知る』とか『解る』のは愉しーじゃん? 難しけりゃもっと面白いワケ。で、医学部は確かに難しい学問筆頭みたいなトコあるわな。……手が届くんだからやってみたいじゃん?(手。白くて細い手を、薄い闇の中でひらひら動かして見せながら)薬屋かァ~、薬学もフツーに難しジャンルだと思うけど。ふうん。(興味のあるような、ないような口振り。視線は彼に流したままでいる)ロカジおじさん? ……嘘ウソ。呼び捨てしていーの? オレの名前もいる?
ロカジ・ミナイ 2020年10月28日
笑いながらディスらないでくれませんかー?……まぁね、お喋りは好きよ。暇つぶしにちょうどいいしさ。運がいいといいい話に繋がったりするしさ。(歩く男を目で追わず、自分の見たいものを見ている。視線の先には砂利しかないが) 両方ってことかい。そうね、学問として面白いのは同感よ。病も怪我も自分の身体のことなのに、みんな知らないで平気で生きてる。医学はそれを知れる。薬屋もその仲間だよね。……手を伸ばしたい先でもあるのかい?(ひらひらと宙に舞う手に気が付いて、視線をやった) 長ったらしく呼ばれるのを待つのは退屈だからね、呼び捨てでいいさ。君の名前を聞けるなら聞いておきたいな。頂戴。
遙々・ハルカ 2020年11月9日
呼び捨てでイイて言う年上新鮮~。ディスってまではねェ~けどつまり、面倒くさい男って思われんのは嫌なんだ。(笑う、)(ドラム缶から離れる程、薄い闇が僅かずつ粘度を増していく。その中に足を踏み入れながら)
ベクトル違い同ジャンルって感じよな。(医学と薬学は)アハ。……――手が届くのと手を伸ばすのって違くない? そういうのって……、(言葉を途中まで発しながらしかし、続きは無かった。ただおそらく。暗がりで顔がよく見えなくても、青年が笑っていることだけはよくわかるはずだ)ん~~~~。(「どうしよっかなァ」ぷらぷらと歩くような声で言い、それから)まァ~、いっか。ロカジさんてどっちかっつーと職質されそーだし。オレはね~、ハルカだよ。(名で正体をあらわすみたいに。ひょいと内側まで戻ってくる。灯りの届く内側まで)
ロカジ・ミナイ 2020年11月18日
手が届くのと手を伸ばすのは違うよ。全然違う。手をピンと伸ばすとこは同じなのにね。届くといいねぇ、届いたらその手に収めるまで気を抜いちゃダメよ。(ちょっとばかりお兄さん風を吹かしたように見えるかもしれない。何でかって、暗がりの足音で砂利が動く度、その隙間を砂礫が溢れ落ちていくのを想像していたからで。いつの間にか視線もそっちへ落ちていた) カカカ!職質されそうとは!失礼極まりない!あながち間違いではないけども!大丈夫大丈夫、「猟兵でーす」って言ったら許してもらえるし気にしてないよ。(豪快に笑ってたって、ちゃんと声は聞いていた。名が聞こえたら、現れた本人の姿と名を脳に教え込むみたいに反芻する) ……ハルカくん。ハルカくんね。(最後の一口を強く吸い込んで、吸い殻を火に焼べた) 覚えとくよ。君と僕は似てるからね、髪の色とか。センスいいよ、ハルカくん。
ロカジ・ミナイ 2020年11月18日
(よいこらせと立ち上がる。己の姿を炎の灯りに見せびらかすみたいに) ……そいじゃ、一服したしお友だちもできたし、そろそろ行こうかな。なんだか、君とはまた逢う気がするねぇ。(ニヤニヤした顔が暗がりに溶け込んだなら、男の姿もまた吸い込まれるように消えていくだろう)
遙々・ハルカ 2020年12月5日
(音無く笑った。厚い靴底で躙られる砂利。月のように細く撓んだ双眸で彼の眉間辺りを眺め、その笑い声を聞く)――ああ。(それは半ば確信していたことが確定した納得の声で、同時に応答でもあった。放物線とも呼べない短な煙草の落下を見送って)今似てるって言われっと、同じように職質されそ~って感じでヤだなァ~。ワハハ。(灯りのギリギリ内側で足を止めたまま)まァ~実際、猟兵ならどっかで遇うでしょ。火ィ忘れた甲斐があったね、ロカジさん。(じゃあね、と痩せた片手を振り、暫く。……周囲に静寂が満ちるまでそうしていた。自分以外の気配が消え、虫の声が遠く、電車が一本、通り過ぎるまで)
遙々・ハルカ 2020年12月5日
(気怠い不真面目な足取りで、弾ける音も静かになってきたドラム缶の方へと歩み寄る。中を覗き込むと、まず紙片――札――は全て炭化しており、布――裂いたシャツ――も殆ど原型をとどめていない。枝はもう少し足すべきだろう。それとごく短い煙草の吸殻。何もかもが炭と灰になって崩れ消えるまで、まだ若干の時間が掛かりそうだった)(けれど概ね、予定と予想していた通りの結果だ。他者に遭遇することも可能性として考慮していたし、おそらく何かに気付いていたとしても、通報するようなたちではなさそうな相手に見えたのは幸運だろう。一切に気付きもしない愚鈍であれば一番良かったのは確かだが)ふぁ、(欠伸をひとつ)
遙々・ハルカ 2020年12月5日
(自身の髪先を軽くつまんだ。ピンク色に染めた一房の
)……。……。……。煙臭ェ~。(これだけは難だ)