0
【独白】夢の挟間

杜鬼・クロウ 2020年6月21日


一言で告げるならば、高天原。
ある種の幽世。

そこにはさわさわと柔らかな木々の話す声。鳥達の囀り。
敷き詰められた睡蓮が咲き誇り、幾つもの花の香に甘さが混じる。

その世界に立つ二人。月の曜と日の曜。
水辺に響き渡るは、月の男が奏でる素朴な篠笛の音。
連ねた玉飾りを揺らし、悠然と相対する。


『……終ぞ折れてしもうたか。いずれその日は来ると憂虞してはいたものの、儂の予期よりも早うてからに』
「理解に苦しむな。器の玄に何故、創造主は……」
『坊は”優しすぎる”故、未だ扱える代物ではないであろう。杜……あの者らの手に渡ったのが幸運だったよの』
「余は器の玄と違い、現世の憂いに興味は抱かぬ。総て救うなど、為しえもしない事を。烏滸がましい」
『果たしてそうだろうか』
「なんと?」
『だから、坊にはあれを託したのだ』
(自身を使わせぬのは、唯の優しさだけとは余には思えないが。記憶すら明け渡さずひた隠しにしているのは……)
『……』
「どこまで視えている?」
『まさか。儂は予知者ではないぞ』
「創造主」
『ほっほ、そう睨むな。……だが、時は近い。交わる時が』
「……其は汝の命か?」
『分かっておろう』
「解せぬ……ならば、片割れも?」
『はてさて』
「はぁ。好きにせい」

――儂の願いは末永い現世の安寧。
――余は汝の願いの為の万物。

妖鎮まりし月の夜に、此度も篠笛が響き霧散する。




0