【1:1】雨降り
宵雛花・十雉 2020年5月5日
あれはいったい何の帰り道だったろうか。
ともかくその日は雨が降っていた。
しとしと、しとしと――
まったく湿っぽくて気が滅入る。
隣の女がどう思っていたかは知らないが。
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お相手:
花仰木・寧(f22642)
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宵雛花・十雉 2020年5月6日
へぇ、意外。嫌な顔の一つでもされると思ってたんだがよ。(満足げな様子を横目で見る。まぁ、自分も満更ではないが)
……ああ。(成る程と、納得したように息を吐いた)それじゃあ仕方ねぇな。
花仰木・寧 2020年5月8日
そう? あなたの意表を突けたのなら、猶楽しいわね。(咥内のチープな甘さは、どこか懐かしい香りがした。こんな菓子を煙草の代替えに持ち歩くなど、ほんとう、存外にかわいらしい男だと思う) 仕方ない。……と、お思いになる? 免罪符とするには、捨てたものが大きくとも?
宵雛花・十雉 2020年5月8日
アンタ、食えない女だってよく言われない?(ラムネ菓子の先端をがりがりと齧りつつ)
思うよ。……なんとなく、今なら分かるような気がするっていうかさ。(同じ立場だったら自分も似たようなことを望むかもしれないと、そう思ったから)
花仰木・寧 2020年5月10日
まあ、十雉さんの胃は繊細ですこと。あまいお菓子しか受けつけられない?
(男の横顔を見る。私が忘れたものを、知っている貌だ)……そう。あなたがそう仰るなら、そうだったのかもしれませんわね。女は恋のために家を捨てた。――いえ、もっとはっきり言えば、両親や友人たち、責任、義務、そうしたすべてを捨てて、男を取った。こんな雨の夜に。ちいさな鞄ひとつを持って。
宵雛花・十雉 2020年5月10日
馬鹿言え。オレだってもう餓鬼じゃねぇんだ。酸いも甘いも、苦いのだって……(いつからか、無意識に苦味を求めてしまっている自分もいた)
……それで、その女はどうなったんだい?駆け落ちの首尾は。(何となく続きを聞くのが怖くなりつつも、そう促して)
花仰木・寧 2020年5月11日
苦いのだって?(口の端に、揶揄するような笑み。甘いシガレットに歯を立て、軽い音を立て欠片を割る)
……うまくいきましたわよ。女は見事、恋を手に入れた。ほかの何をなくそうともね。だから、そうね。めでたしめでたしで、良いのではないかしら。――これは、只のお話ですもの。(そう言って、灰色に煙る空へ向けて左手を掲げた)
宵雛花・十雉 2020年5月11日
苦いのだって、平気さ。(真ん中から折って口に放れば、そのまま奥歯で噛み砕いた)
そっか……(呆気ない終わりにも思えたが、物語というものは得てしてそういうものなのかもしれない)めでたしでもそうじゃなくっても、女が後悔してねぇといいんだけどな。(ぼんやりと仰いだ空は先程よりも雨脚を強めている。どうやらもう少し雨宿りを続ける必要がありそうだ)
花仰木・寧 2020年5月13日
ま、口に入れてみなければわかりませんしね。(煙草に見せかけた菓子のようにも)
……後悔なんてしようがないわ。(呟きはちいさい。濡れた手を下ろして振り返った顔は、にこりと笑っていた) お優しいのね、あなた。――嘘でも朝だと思い込めば、夜は明けるもの、ですっけ。ならば屹度、女にとっては男に連れ出された世界こそが、朝だったのでしょう。
宵雛花・十雉 2020年5月13日
別に、優しくなんてねぇよ。そういう話聞くと自分に重ねちまうだけ。自分勝手だろ?(嘘でもと聞けば、そうだよ、と口端を持ち上げて)そっか……なら、よかった。(女の答えに、どこか満足げに目を閉じた)
……雨、やまねぇな。
花仰木・寧 2020年5月15日
それをエゴと呼ぶか、優しさと呼ぶかは、ひとによるのではなくて? いつだって、受け取る側が決めるものだわ、そんなもの。
――止まない雨はない。とも申しますが……止みませんわねえ。どころか、激しくなっている気がするのは、私の気のせいかしら。あなた、手妻みたいに傘でも出せませんの。
宵雛花・十雉 2020年5月15日
言うねぇ、相変わらず。いいよ、ならアンタの好きに受け取ってくれ。(降参とばかりに両手を挙げた)
……おいおい、いったいオレを何だと思ってんだよ。傘ならいつもは持ち歩いてんだけどさ、今日に限って置いてきちまった。(言って、今も事務所の入り口に立てかけてあるであろう傘に想いを馳せる)
こりゃあ、もう少しこの暇つぶしを続けねぇとなんねぇんじゃねぇかい。……面白い話、もうねぇの?
花仰木・寧 2020年5月17日
まあ、肝心なときにお持ちでないのね。(“使えない男”などとはまさか口にしないが、ついた吐息に若干滲み出てしまった気はする) いらない日にも持ち歩くほど、お気に入りですの。
……あなた、本当に読み聞かせをせがむ子どものような。どんなお話がお聞きになりたいの。
宵雛花・十雉 2020年5月17日
あーあー見えない聞こえなーい(わざとらしく目を逸らし、耳を塞いで)
そうだよ、気に入ってんだ。なかなかモノがいいんだぜ?丈夫だから盾にもなるしよ。
……お、話してくれんの?言ってみるもんだなぁ。んー、どうせなら幸せになる話がいい。
花仰木・寧 2020年5月18日
ちゃんばらごっこの剣みたいなものかしら。ふふ、じゃあ十雉坊ちゃんのために、昔読んだ絵本のおはなしでもしてさしあげましょうか。
宵雛花・十雉 2020年5月19日
お、懐かしい。ちゃんばらごっこ、ガキの頃はよくやったよ。
……へへ、寧お姉ちゃんは優しいなぁ。(調子のいいことを言いながら、わくわくと物語の始まりを待った)
花仰木・寧 2020年5月19日
(わがまま坊やめ、と呆れたような目線を返す。そうして、遠い記憶を辿った。難しくはない。昔のことならば、よく覚えているのだ)……では、傘にちなんだお話を。
――あるところに、ひとふりの傘を相棒に世界中を旅する旅人がいました。
花仰木・寧 2020年5月19日
(それは、大事な傘をうっかり水たまりに落っことしてしまった旅人が、迷子の傘を探して不思議な世界を旅するお話だった)(案外、女の話しぶりは悪くない。話しながら、手近な木箱の埃を払い、軽く腰掛ける。――残念ながら、普段なら下に敷くはずのハンカチは、湿ったままだったので)
宵雛花・十雉 2020年5月20日
(呆れた視線には、くい、と片眉を上げて応える)
(時には感嘆を、時には感想を漏らしながらも女の話に聞き入っている様子だ)
花仰木・寧 2020年5月22日
「きみの探している傘は、これかい?」
「ちがうよ、ぼくの傘はもっともっと特別なんだ」
(人助けをしながら出会いと別れを繰り返し、長い旅の果てに旅人はようやく傘との再会を果たす)ああけれど、傘はあちこちが破れ、折れて、すっかりぼろぼろです。傘もまた、旅人を探してたくさんの冒険をしたのでしょう。
「これじゃもう、役には立たないね」魔女が言い――
花仰木・寧 2020年5月22日
(話をしている間に、少し、雨脚は弱まってきたようだった。遠い空の彼方に、切れ目を入れたような光が差している)……天使の梯子ね。
宵雛花・十雉 2020年5月22日
ん……(声に誘われるように見上げれば、遠目に広がる神秘的な光景)なぁに、天使様がアレを伝って降りてくんの?……なんだろ、これからいいことありそうだな。オレもアンタも。(少し発想が子供じみていただろうか。まぁいいや、隣の女とは今更隠すような間柄でもない筈だ)
……あのさ、魔女は何したんだよ。
花仰木・寧 2020年5月23日
(ふ、と穏やかに微笑んだ)……そうね。屹度、しあわせを運んできてくれるわ。いい子のもとにはね。
ああ、――魔女は、壊れてしまった傘の代わりに、魔法の傘を旅人にあげようとするのよ。しもべを助けてくれたお礼に。「うんと役に立つ、特別製の傘さ」ってね。けれど旅人は泣き出して、首を振る。
「だめだよ。いくら壊れてしまっても、この傘だけがぼくにとって一番の特別なんだ。世界で唯一の、相棒だもの」
宵雛花・十雉 2020年5月23日
はは、んじゃあオレもいい子にしてねぇとなぁ。(本気かどうか。ともかく可笑しそうに笑って)
……馬鹿だねぇ。穴開きの傘なんて、もう傘かどうかも分かんねぇのにさ。(親指と人差し指で挟んだ前髪を弄び)けどオレは好きだよ、そういうの。
花仰木・寧 2020年5月25日
本当に。まあ、穴は魔女が繕ってくれるのだけれど。……面白いのが、魔法の傘なんて作れるのに、魔女のお直しは何故か手作業なんですのよ。糸と針で穴を塞いで、添え木で骨を支えるの。(笑いながら、縫い針を操るような仕草をしてみせる) 子ども心に、魔法でぱぱっと直せないのかと不思議に思ったものだわ。
花仰木・寧 2020年5月25日
そうして、旅人はつぎはぎの傘と一緒に、元の世界へ帰っていきました。次の冒険をはじめるために。――めでたし、めでたし。
宵雛花・十雉 2020年5月25日
(物語が幕を閉じたのと同時、語り部に惜しみない拍手を送る)有難う。こりゃあ紛れもないハッピーエンドだな。読み聞かせの才能あんじゃね?寧。……しっかし作んのと直すのとじゃ勝手が違うのかね。魔法ってやつにゃ詳しくないけどさ。
花仰木・寧 2020年5月27日
お話の教訓としては、『物も友も大切に』『情けは人のためならず』……といったところかしら。まあ、よして。記憶を頼りにしていたから、随分拙かったでしょうに。――魔法がかりの傘じゃなかったから、かしら。それとも、自分のレシピじゃないから? 魔法使いの猟兵の方と知り合えたら、訊いてみましょうか。
宵雛花・十雉 2020年5月27日
へぇ、寧ってお話に意味合いだとか教訓だとかを求めるタイプ?オレは楽しけりゃいいかなってタイプ。(それは別に相手を否定する訳ではなくて、単に自分と違った感性を楽しんでいた)
謙遜すんなよー、少なくともオレは聞いてて心地よかったぜ。童心に帰ったっていうの?
……寧も魔法使えそうな感じすんのにな。(自分にそう感じさせたのは彼女の持つ雰囲気だろうか)
花仰木・寧 2020年5月28日
(指摘にはたと瞬いて、思案した)……自覚はなかったのだけれど、そうね。確かに、わりと考えがちかもしれないわ。作者の意図や、メッセージ性だとか。おかしいかしら?
花仰木・寧 2020年5月28日
ああ、悪魔と契約はしておりますけれど、無から何かを作り出すような術に心得はございませんわね。アレのは、幻術に近いような気がするもの。……そもそも、私の力ではございませんし。
宵雛花・十雉 2020年5月28日
おかしかねぇよ。ただオレが単純に、そうなんだなぁって思ったってだけ。お前っていっつも何考えてっかよく分かんねぇからさ。ちらっとでも中身が見えて嬉しいってぇの?(そこまで言うと、先手を打つように人差し指を立てて)……あ、笑うなよ?自分でもちょっと柄にもねぇこと言ってんなって思ってんだから。
宵雛花・十雉 2020年5月28日
悪魔って、戦いの時に出てくるアレ?魔法じゃないにしてもスゲェよなぁ。オレも初めて見た時ビビ……驚いちまったもん。そうか悪魔だったんか、アイツ。
花仰木・寧 2020年5月28日
笑いはしませんけれど、(言葉を続けようとして、口を噤む。代わりに、困ったように眉を下げて微笑んだ)……私、そんなに何を考えているか、わからない? いえ、そうかもね。自分のことを話すのは、得意じゃないのよ。――つまらない自尊心、かもしれないけれど。
花仰木・寧 2020年5月28日
ええ。アマラントスと呼んでいるわ。まあ、悪魔といえば聞こえはいいけれど、つまりは影朧ですわ。……契約で縛っているだけの。
宵雛花・十雉 2020年5月28日
うん、少なくともオレにゃさっぱり分かんねぇな。(ここは濁すべきところではないだろうと、はっきりそう伝えて)これでもお前のこと知りたいって思ってんだぜ?別に探偵としてじゃねぇよ。友達としてさ。
……得意じゃねぇってのは、どうして?寧の中で何が邪魔してんのさ。
宵雛花・十雉 2020年5月28日
影朧だって?マジか、そりゃあ気が付かなかった……なんでまた、影朧と契約することになったんだい。
花仰木・寧 2020年5月30日
…………。(沈黙は少しばかり長かった。悪魔との契約にしたって、常ならば「色々と」などと言って笑って流すだろう。それが躊躇われるくらいには、彼に対する友情と信頼は、重くて)(彼の言葉が、腹に座るくらいには) 半分は、只の習い性ですわね。もう半分は、
花仰木・寧 2020年5月30日
――こわいから、かしら。
宵雛花・十雉 2020年5月30日
!……(雨は去ったというのに、まるで雷にでも打たれたかのようだった。慰めの言葉のひとつでもかけてやるつもりだったのだが)……そう。(いつもならよく回る舌も縺れたようになって、とても軽々しく言葉をかけられない。だって、それは)オレも、分かる気がするよ。(少しだけ俯いて、視線だけを友へ向けた)
……寧の感じてる怖さがどんな怖さか、聞いてもいいかい?
花仰木・寧 2020年5月30日
そんなに重く捉えないで。(彼の貌が翳れば、つい反射のように笑って口をつく。それも或いは、習い性の欠片かもしれない)――悪魔との契約に、代償が必要なことはご存じ? 私はそれに、……ある、記憶を差し出した。だから私は昔のことを少し、覚えていなくて。……欠けていて。それがつまり、……駄目ね、言葉にするのは難しいわ。(もどかしそうに、両耳の羽が羽搏いて下がった)
宵雛花・十雉 2020年5月30日
(重く捉えるなと言われれば、ただ静かに首を横に振った)代償……聞いたことあんな。契約のために命を差し出すヤツもいるとか。
……ん、いいよ。大丈夫だから。ゆっくり一つずつで。(もしかすると、こちらから質問した方が答えやすいだろうか、そう思って)ある記憶ってのは何についての記憶だい?それとも何の記憶かも覚えてないとか?……あぁ、もちろん答えたくなけりゃ無理に言わなくってもいいからな。
花仰木・寧 2020年5月31日
それは、……何についての記憶かは、わかってるわ。(目線の置き所を探して、遠く光差す空の方へ向けられた。その光の中に、紡ぐ言葉があるかのように)……思い出しては、いけないような気がするのよ。代償に与えたのだから、別に、望んだって思い出せる代物ではないけれど。でも、直視するのも恐ろしいから、何もかもを誤魔化す癖がついたんだわ。
宵雛花・十雉 2020年5月31日
(目線はつられるように遠くの空へ。依然として差し伸べられた光を見れば、再び彼女の方へと戻した)思い出してはいけないとか、思い出せないとか、そういうのはひとまず横に置いたとしてさ。……寧は、思い出したいと思ってんのかい?(自分が聞きたいのは、彼女の飾らない気持ちや欲求の部分だったから)
今、聞いてんのはオレだけだからさ。誰に遠慮する必要も気ィ遣う必要もねぇよ。今日ここで聞いたこと、他の奴には言わねぇって約束する。
花仰木・寧 2020年6月1日
そういう視点で考えたことは、なかったわ。どうかしらね、(どうすべきかではなく、“どうしたいか”。舌の上で転がすように呟いて、雨上がりの曇天から足許に視線を落とした。汚れた靴の、爪先が揺れる) ……知りたいと、思う瞬間もある。けれど、それ以上に――思い出したくないわ。だから見ないようにして、探らないようにして、……怖いから、蓋をするのよ。――その癖、傍にあることには安心するの。(ここに。右手で指輪の嵌まった手を握りこんだ)
宵雛花・十雉 2020年6月1日
成る程ね。(彼女の思いを肯定するでも否定するでもなく、ただ受け止めた)なら、まだオレに出番は回ってこねぇかな。いつか寧が知りたいって思ったらさ、その時はオレも手伝うよ。何が出来るかなんて分かんねぇけどよ。……だから、必要ならいつでも呼んでくれ。(言いながら、彼女の指で輝くそれへと視線を滑らせた)あのさ、寧。お前の忘れちまった記憶って、もしかして……
花仰木・寧 2020年6月2日
……ありがとう。(俯いて、ヒールを履いた足を揺らしていた。まるで少女のような仕草だった。風切り歩くおとなの姿を、どこかへ忘れてきたように。だから、)(女の指先が差し伸べられて、男の口元に人差し指を立てる。ほろ苦さを飲み下すように、笑った。ちいさく首を振る)――もう少しだけ、弱虫でいさせて。
宵雛花・十雉 2020年6月3日
(目を見張る。現れた少女につられて、奥底に眠る幼い自分が少しだけ顔を覗かせてしまったようにも思えた)
(唇に指が触れた瞬間、言葉の続きはぴたりと止む)……おう。(短く了承の合図だけを返す。彼女の前では、あまりかっこ悪い姿は見せたくないなと思った)
花仰木・寧 2020年6月4日
(頭上には光が差し始めている。天使が降りてくるのを待つのもいいが、)……そろそろ、戻りましょう。あなたの傘を迎えに行かなくてはね。
宵雛花・十雉 2020年6月4日
……ああ、そうだな。そろそろ寂しがってる頃かもしれねぇ。(気が付けば随分と長居をしてしまった。降り注ぐ光に、眩しそうに目を細めて)家まで送るよ。(言って歩き始めた。水溜りの合間を縫って、帰る場所へと)