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第三夜 不死という言葉が導くもの

御園・桜花 2020年4月12日


不死、という言葉を聞いて、貴方は生と死、どちらを思い浮かべるでしょうか。
不死者とは言葉通り、『死なずの者』『死ねずの者』という意味になります。
一般的には、生き汚く死ねない者、どんな状況でも生き延びる者を指す言葉ではありません。
死してなお死の安寧に浸れぬ者、死してなお活動する者の事を指す言葉です。
吸血鬼、マミー、などリビングデッドと称される者は勿論、骸の海より来たる者は全て、不死者という枠組みに入れて良い、1度滅びてなお生きているかのように動く者たちを指す言葉です。

では……サクラミラージュを統べる、不死帝は?

サクラミラージュでは、転生システムにより転生したもの以外では、定命の者しか生まれません。
数百年も生きる生命は、普通には生まれてこないのです。

ならば不死帝は、転生システムにより異世界から生まれ変わった神だったのでしょうか?

彼の方の正しい呼称は大正帝ですが、それ自体は大した問題ではありません。
不死帝と呼ばれ、その呼称を取り締まらない…それを自ら認めていると他者に認知されるその姿勢。
長く生きることへの民から大正帝に贈られた尊称ではないと、私は考えます。

彼の方がオブリビオンであると他者に明示するもの。
この地が誰により囲われた箱庭であるか明示するもの。
転生システムを作り上げ、それにより異世界から侵入するオブリビオンを制限し、その力を我が身と世界の制限に充てるもの。
独裁者であることを全ての異世界に宣言するもの。
その全てが、あの3文字にこめられているのだと、私は思います。

貴方は、良き独裁者はお嫌いですか?
良き独裁者は衆愚政治に勝るという考え方に否定的ですか?

この世界…サクラミラージュでも、オブリビオン…支配者たる不死帝による搾取が、全くないわけではありません。
それでも、他の異世界での人類よりは、この世界の人類は平和に暮らしていると私は考えます。
だからこそそれは悪いことではない、と私は考えるのです。

過激な方なら、サクラミラージュは、人がオブリビオンに家畜化された世界だ、と仰るでしょう。
私は、比較的穏和な行動がとれるオブリビオンと、人間の融和が成功した唯一の世界だ、と申し上げます。

今宵の議論は熱くなりすぎたようですね。
明晩は趣向を変えて、幻朧桜を愛でる話にしましょうか。
それとも、転生を持ち込めそうな世界の話をしましょうか。
それはまた、お会いしてから考えることにいたしましょう。




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