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≪遺された映像機器≫

ヒマワリ・アサヌマ 2020年3月22日


【開始】


─────ザ──ザッ─────────



これで……いいのかしら?
映ってる?わね?
……よし、じゃあ……何から話そうかしら。


(白衣を着た小柄な女性。明るい緑髪を二つに縛り、後ろに垂らしている)
(瞳は青い。燻んでいるようだが、目蓋の開きが小さいからだろう)



まずは……そうね。
私が何者で、ここは何処なのか、かしら。
私は沼上、この研究所の研究員。便宜上は博士、と呼ばれているけれど………今はどうでもいいわね。次。


この研究所は、人造人間……『フラスコチャイルド』を生み出し──いいえ…造り出す場所。
そして偽神細胞を埋め込み、『ストームブレイド』とする場所。
理論的には、最高のコストパフォーマンスで、最高の軍団を作ることが、可能。
そういう場所。そういう施設よ。

名称の記録も………必要よね。その為のこれだし。
Flower計画──通称【F】計画。
『フラスコチャイルド』に花の種子の形をした『偽神細胞』を埋め込み、人造戦士とする計画。
やがてその種が開花した時、彼らは一人の猟兵となる。



──ええ、そうでしょうね。
これを見た貴方がどんな顔をしているかぐらいはわかるわ。
私の手元にあるこのカップの中身が何か、貴方が当てられるぐらいには。ね。



(飲み込んで。暫しの沈黙。)



それでも、この世界の希望よ。
確かに非人道的かもしれない。倫理に反することかもしれない。
……かもしれないなんて狡いわね。きっとそうよ、その通り。
例え貴方が許容しても、神が私を赦さないでしょう。当然のことよ。
だけど、こうして造り出された子らに罪はない。断罪される謂れはない。
もしあの子たちが世界を救うことが出来るのなら、私たちは地獄に落ちたって構わないわ。
皆、そうした覚悟を持って、ここで生きているのだから。


何も、あの子たちを血の通わない兵器として扱っているわけではないの。
もちろん、研究として痛い目にも、苦しい目にも遭わせてしまっているのは事実だけれど…………
………それ以外は、出来る限り最良の環境で、最良の教育をしているわ。
彼らは世界を救う英雄である前に、一人一人の人間であり、幼い子ども。
世界を救って彼らの人生は終わりではないし、それ以前の人生だってもちろん存在する。
そういった"人生"を、人として、人間として生きていけるようにするべきだと……私は考えているの。
だから、あの子たちに何を捧げたって構わない。
それが私の人としての…人生の生き方よ。


残念ながら、あの子たちを都合の良い人形のように扱っている上層部や研究員もいるけれどね………一部は、そう考えないとやってられないって人もいるわ。気持ちは……そうね…………
私だって、そう扱えるぐらいの方が……きっと今より楽だもの。



……だからといって、あの子たちから目を背ける理由になんて……なりはしない。絶対に。
私には、あの子たちを生み出した責任と、あの子たちを保護する義務がある。
そうでなくとも、あの子たちは、私の──────




≪≪!!!Emergency!!! !!!Emergency!!!≫≫

≪BEEP≫≪BEEP≫≪BEEP≫≪BEEP≫

≪≪!!!Emergency!!! !!!Emergency!!!≫≫

≪BEEP≫≪BEEP≫≪BEEP≫≪BEEP≫




「博士!!緊急事態です!!!」

…落ち着いて、何があったの?

「先程地上の観測所から、北西の方角に『オブリビオン・ストーム』が発生したとの連絡!時速50kmで現在南下中とのこと!衰えるどころか、依然、勢いを増しています!」

…っ……早い。
……侵攻予測は?

「っ………それが…………」

…………まさか、

「ここの、真上を通過するだろう、と」

………
……
……


「……博士」



………わかったわ。


各員に通達!この研究所、『ガーデン』は今この時を以て廃棄とします!
最期まで抗う者は第一エリアに集合!逃げる者は急いで脱出しなさい!!

「りょ、了解!」

実験体は私、沼上が最期まで管理を───

「ぁっ…博士!それが………」

何かしら?貴方も早く脱出を…

「実験体……いえ、"ヨル"と"ユウ"、他数名、既に、『オブリビオン・ストーム』へ向かわせ────ウッ!?」

誰!?誰がそんなことをッッ!!!

「……お、恐らく、"庭師"の指示か、と………」

……ッ………!!………、………!!!!!

……………



………………ごめんなさい、貴方に当たっても仕方ないわね。
先に行ってて頂戴。5分………いえ、3分で向かうわ。

「……は、はいっ!!」






………………………ッッッッ!!!!!!


(ガ ゴンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!)



あの、名前だけの狸爺の連中め………ッッ!!!!!

こんな時ばかり…………ッッ!!!!


……………

……………………



……ふぅ〜〜〜〜……………………………


今、私に出来ることをするしかない。


──
──────?


"ヨル"と"ユウ"、他数名………?

まだ、ひょっとしたらあの子は………!!


(若葉のような髪が一度靡いて行き)


(数十秒と待たず、戻った)



………もし、貴方。
そう、この映像を見ている貴方。


もし、もしも、
"ヒマワリ"という名前の子が、生き残っていたら、


どうか、





どうか…………救って欲しい。







───ブ──ッン──────────



【終了】




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