【1対1RP】雷香&正純【紫色の空模様】
納・正純 2020年3月9日
三月のある日のこと。
俺はその時、肌寒さの所在を聞かれて空おぼめく強風に吹かれ、旗色が悪いと見て近くの喫茶店に逃げ込んだ。
喫茶『絵空事』。最近町はずれに出来たこの喫茶店の壁には、店長の趣味の影響による『空の写真』が、相も変わらず所狭しと張られていて。
以前会計の時に話した情報を鵜呑みにするのならば、どうやらここの主は写真のコンテストでも何度か優勝する程の腕前の持ち主であったらしく。
店に飾られている写真のいずれもが、この喫茶店の近くにある展望台や、電波塔。もしくは、小高い丘陵や山麓で撮影された物だそうだ。
写真の腕を褒めた際、『この辺は良い空が取れる場所が多いんだ』と、嬉しそうに応えていたのを覚えている。
――――で、ええと――――どこまで話したかな。
そうそう。それで、あの時俺は昼過ぎの用事を済ませて、軽く休憩でも――――と思いながら、『絵空事』の前まで来て。
そこで、一面ガラス張りの向こうに知り合いの顔を見かけたのだった。
軽く店内を見渡した感じでは、昼下がりのカフェは込み合っていて。
とりあえず見付けられた空いている席は、『彼女』の向かいしかありはしなかった。
だから、俺は店に入って、店主の『相席でも良いか』という問いに快くYesを返して、――――それで、今に至る訳だ。
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狛居坂・雷香 2020年3月10日
(それは例えるなら青天の霹靂のようなことでした。狛居坂雷香は今日“相席”という文化に初めて触れました。――ああ、人が多い所ではこのようなこともあるんですね――と、いつの間にか満ち満ちた客席を見回しながら、店員さんの提案を承諾しました。……とはいえ、此処しか席が無いのですから、此処に座る……それは、相手方には“仕方の無いこと”。決して、自分が選ばれたなんてことは無いのです。むしろそれは、不本意ですらあるかもしれない……。なので私は、せめて迷惑にならないように、静かにしていようと思いました。やがて、誰かの来る音がして、わたしは軽い会釈だけ。手持ちの冒険小説に目を落としたまま、暖かなショコラショーに口付けを。その時まで私はそれを通り雨のような物と思っていて、まさか霹靂とは思っていなかったのです)
納・正純 2020年3月10日
――――もし、そこのお嬢さん。もしも宜しければ、こちらに座っても構わないかな? それとも、こうお聞きした方がよろしいだろうか――――よ、雷香。ここ、良いかい?
(実際のところ――――『空いている席は見えなかった』というのは、店の外側からガラス越しに見ていた時の感想であって、事実ではなかった。店内に入って良く目を凝らしてみれば、奥の方にちらほらと空いた席はあったのだ。その全てが、誰かの向かいであることには変わらなかったけれども。だから、友人のいるここを選んだのは、間違いなく自分の意思によるものだった。図々しくも、断られるとは思いもせず紅茶の注文を行って、俺は紫色の虹彩へと声をかけたのだった)
狛居坂・雷香 2020年3月10日
(冒険小説、第三章の佳境。別れた友と酒場で思わぬ再会を果たした主人公。こちらを振り向いたその知己が、久方の再開にどんな台詞を喋るのか――その答えは、次の頁を捲るより先に、頭の上から降ってきました。本の中の主人公はけしてお嬢さんではなく、ましてわたしなどではありませんでしたが)
狛居坂・雷香 2020年3月10日
お、納さん……?! お久しぶりです、ね? も、もちろん、構いませんが……。まさかこの店で誰か知り合いに会うことになるとは、まったく思っていませんでした。……よく来られるんですか? この店に。
(驚いて。急ぎ、スピンを挟んで本は置き、頭を切り替えてわたしは向き直ります。正直な話、これまで余り親しく話したことのある方では無かったので、驚きました。普段、空に浮かんでいることくらいしか特徴の無いわたしが、今は空を飛びもせずちんまりと椅子に縮こまっているのに、よくも名前を思い出せた物だなあ、とわたしはその慧眼と記憶力に慄きました。慣れた紅茶の注文に、わたしは納さんにとって此処は一見の店では無いと推理します。紅茶の置いていない喫茶店というものは考えにくいので、この推理の根拠はとても薄弱です)
納・正純 2020年3月12日
ハッハ! これは参ったな、俺が言いたいことをぜ~んぶ先に言われちまった。OK、そう言うことなら俺が先に答えるとしよう。答えその1、『全く同感だ、俺もこの店で猟兵仲間と会うとは思わなかったよ』! 答えその2、『最近だが、良く通ってるぜ。メニューの制覇をしたくてね』。
(確かな同意を確認し、滑るように雷香の向かいへと腰を落ち着ける。テーブル越しに見える彼女の目は色を変えながら『驚愕』を全力で表現しているようで、どこか親しみやすいものを感じざるを得なかった。シンプルな紅茶を頼んだのは、先日の来訪でこの店のメニューに載ってある全ての珈琲を飲み終わって――――今日が、たまたま次のページへ移る日だっただけである)
狛居坂・雷香 2020年3月12日
(納さんの言葉を聞いた時、わたしは自分の小さな横紙破りに気が付きました。初めに頼むべきはこの店の顔。つまり最も勧められているであろう、第一段落のカップを注文するのがマナー……いえ、セオリーだったのでは、と。わたしが心のままに選んだショコラショーは、シェイクやミルクセーキと並んでその配列はメニューの遥か後位。温冷備わった各種茶葉、レモンティーにジンジャーティー。マサラチャイまで間に挟まっては、このショコラショーに納さんが辿り着くまでいったい何月掛かるのか、わたしにはまったく想像が出来ません。まず隗より始めよ、といいます。わたしは次の来店にはまず珈琲から。いえ、少し苦手なので、今納さんが注文した紅茶からやり直そうと思いました)
狛居坂・雷香 2020年3月12日
なるほど……。わたしの推理力も、もしかすれば、捨てた物では無いかもしれません……ああ、いえ。こちらの話です。お気になさらず。(咳払い)わたしの問いが、納さんの問いと言うならば、わたしも返さなければいけませんね。わたしの方は――今日が初めてです。とはいえ、もう入って何時間にもなるのですが(改めて考えれば、少し迷惑かな、と思います。ドリンク一杯で席を占拠――いえ、今は“占拠”では無くなりましたが。このまま話を続けるのであれば、この素敵なお店へ礼を失する真似は出来ません。ぱたりとわたしはメニューから「SWEETS」ページを開きました。勿論、義務感だけが理由ではありません。夜の綺羅星の様なそれらは、なんと魅力的なのでしょう!)外を泳ぐわたしが、ふと横を振り向けば、窓の「中」に空が見えたので。――気が付けば、わたしの手は、扉にかかっていたのです。
狛居坂・雷香 2020年3月12日
(わたしは納さんのことをよく知りません。けれど、彼がこの店のサービス……味や香りに期待を寄せていることを、わたしは知りました。メニューの制覇とは、つまりそういうことです。「空」に魅かれたわたしとは、もしかしたら合わない話があるかもしれません。――それでもいいと、わたしは思いました。その時は、美味しかったカップの話を聞こう。美味しそうなスイーツの話をしよう。そう決めました。このたった一階だけの摩天楼で起きた「奇跡」なら――どんな話であろうとも、楽しくなるに違いはないのです)
納・正純 2020年3月15日
おや、そうだったのかい? それは嬉しい驚きだ、しかも二重にね。まず、この店のパンケーキはとても美味しいのさ。ふわふわした雲みたいな生地の上に『ポッピングシャワー』風味のアイスが乗っていて、それがまた何とも最高でな。試したことは無いが、多分そのショコラティーにも合うと思うぜ? ――――それから、ここの店主は『元プロカメラマン』らしくてよ。特に、空の写真を撮るのが好きだったんだと。……その言い方からすると、雷香も『空』が好きなのかい? それとも、『写真』の方かな。
(いつもよりお喋りになってしまうのは、――――いや、普段からこんなものだったかもしれないが――――手元にお冷しか置かれていないからだろうか? それとも、目の前の相手が話しやすいから? 気持ち的には後者を選びたい二択だ)
狛居坂・雷香 2020年3月16日
(ページの最初の一枚は、まるで一枚の絵画のようで。サイズいっぱいに主張するアイスクリーム乗せパンケーキと、冠された『スーパーセル』という商品名。入道雲の生地に雨霰のアイスとは何ともセンスがよろしいです。いえ、もしかするとラムネのぱちぱちが雷を表しているのかも……。考えすぎかもしれません。真相は霧の中です)
(納さんにレビューのお礼を添えて、店員さんに注文を済ませました。これは紛れも無くこの店の看板メニューで、わたしが思うに挽回の機会は、思ったより早く来たのです)
そう聞かれると……“両方”好き、と答えたいですね。好きな物に優劣を付けるのは、苦手で……けれど、やはり、わたしの大きな構成要素は“空”ですので。空に関しては“好き”以上、以外の感情がある……かも、しれません。
(わたしを店に誘った空に目を向けると、其処には鉄塔を被写体にした夕暮れがありました。なるほど、プロとアマで差は出るものです)
納・正純 2020年3月18日
またしても奇遇だね、俺もそうだ。『空』も『写真』も両方好きだが――――、どちらかと言えば『空』の方が好きでな。……なあ、雷香? もし良ければで構わないんだが、その――――空に対する特別な感情という奴が、一体何か聞いてもよいかな? 俺はいわゆる『知りたがり』でね。
(雷香の注文に『同じものを二つで』と付け足して、自分の分のパンケーキも確保しておく。その追加注文からほとんど時を置かずして運ばれてきた紅茶に、追加の角砂糖を二つ入れて溶かす。前に食べたことがあるメニューをもう一度頼むのはこの店では初めての事だったが、例のパンケーキが空の会話にピッタリな味だったことを思い出したのだ)
狛居坂・雷香 2020年3月19日
知りたがりさん。(こくり、頷きました。お知り合いでなければ、少し警戒していたかもしれません)もちろん、構いません。けれど、なんだか複雑で……きっと、上手には話せないのですが……えぇと……(わたしが、空に思うこと。渦巻く感情を解きほぐすのは、中々に難しいことです。最初からひとつひとつ、箇条書きに考えましょう)(いつでもわたしの願いを聞いて、危険から守ってくれる)『恩』(“だれか”が死んで“わたし”が生まれた。たった一つだけ託された想い)――『遺産』(五年に亘る長く短い旅。何もかも違うあらゆる世界で、それだけは変わらずにわたしを導いてくれた)『道しるべ』(一人の人間には大きすぎる力。時折夢に見る、抗えない程の巨大な存在感)『畏怖』……『信仰』(ただ、美しく思う)『憧憬』……難しい、ですね。(「納さんは?」その一言は、口に留めました。知りたがり――ならば、尋ねるよりも語るべきだと思ったのです)
納・正純 2020年3月24日
ありがとう。一人で喫茶店に来ることが増えていたから忘れていたが、やっぱり紅茶は人と話しながら飲むのが一番美味い。……さて、成る程。雷香は色んな感情を空に抱いているんだな。そうなると、説明ってのは難しいか。――――それじゃ、次は単純にこう聞いてみるとしよう。『空は好きかい』?
(香り高い紅茶を片手に、雷香との話に興じる。パンケーキは頼んですぐという訳に行かないが、今はむしろその待ち時間がありがたかった。どうやら彼女にとって『空』というものは特別なものであるらしい。それも、人並み以上に。興味が湧いてきてしまった。雷香にとっての空とは一体何なのだろう。どうして彼女は空にここまでの想いを抱くようになったのだろう、と)
狛居坂・雷香 2020年3月26日
(いつもより随分喋った気がして、御冷で喉を潤しました。ショコラショーはとっておき。まだパンケーキが控えているのです)勿論……大好きです。(けれど、それはさっきも言ったこと。一体何を答えればよいのでしょうか? 少しだけ、言い淀んで。考えて)……恋、のような感情では、ありません。それは、親のような……(言葉に困って)――いつも側にいて。いつもわたしを抱いてくれる。納さんや……他の誰かよりも、わたしはいつも、いつだって空に近いから(理由を探して。その、どれもが真実です。けれど、あまりしっくりは来てくれなくて。それらはまるで“後付け”のような。つまるところ)ああ……けれど、そう……どれ程言葉を連ねても。――好きな物は、好きなのです。“こう”だったから……でなく、わたしは、最初から空が好きだったのです。“雛鳥が卵を破って最初に見た景色”――それが、わたしの見上げる、空なのです。
納・正純 2020年3月28日
そいつは良い。最高じゃないか。その様子だと、雷香はアメリアあたりと気が合いそうだな? 空が大好きなのはあいつもだからよ。今度会うことがあったら、色々聞いてみると良いぜ。多分、今の雷香みたいにたくさん言葉を使って、懇切丁寧に語ってくれると思うからさ。……おっと、おいでなすったぜ。
(答えにくい質問をしてしまったかとも思ったが、どうやら雷香が気を遣って自分の質問の意図を上手くつかんでくれたようだ。こうした空の話を聞くたびに、自分の生まれた世界に空がないことを思い出す。雷香はどうしてそこまで空が好きなのか気になり、その質問を投げようかと思って――――パンケーキの到着に先を越されてしまった)
狛居坂・雷香 2020年3月30日
そうですね。以前、お話した時には、大変よくして頂きました。アメリアさんを始めとして、納さんや、その他の皆さま。同じ“好き”を……分かち合える人たちと出会えたことは、たいへん幸運です。また、機会があれば――今のように、そんなお話もしてみたいです、ね。――おや!(思ったよりもよほど早く、パンケーキはやってきました。もしかすると、そう感じただけかもしれません。お喋りは時の流れを早めるのです。丁寧に、点対象に置かれた向かい合わせのパンケーキ。わたしは手を合わせて呟くと、ナイフで生地の雲を割りました)けれど……少し意外でした。なんとなく、納さんがこういうのを頼むイメージが、あまり……なかったもので。以前にも、頼んだことがあったんですよね。
納・正純 2020年4月4日
おっと、これは失敬! もう話してたんだったら、俺の方から特に何を言うでもなかったな? アメリアは『好き』を一杯持ってやがるからな、雷香の空への想いをぶつけてみるのも楽しいと思うぜ。……失敬ついでにもう一個だけ『好きの話』を言うならば、俺もそれなりに甘いのは好きでね。料理って文化には強く惹かれるとこがあるのさ。それに――――うむ。この食感は、何度味わっても『味わい深くて好き』だからよ。
(『スーパーセル』にナイフを投入し、柔らかい雲を切るようにして一口大の塊を作った。雲に彩りを添えるのは紫色のブルーベリーソースと、色とりどりのポッピングシャワー入りアイスクリーム。先に口にしたのは、雷香へ『どうぞ気兼ねなく食べてくれ』を示すためである。彼女がこれを食べた反応も楽しみだ)
狛居坂・雷香 2020年4月16日
ええ、ええ。勝手な印象ですが……起こる事、出会う物、何だって楽しめてしまうような――そんな印象の人……でした、かね?(相変わらず、言語化するのって難しい……そんなことを考えながら)(納さんの“告白”を聞いて、わたしもそれを真似る様に、紫色と青色の滲み込んだ生地を口へ運びました)ン――――(それは、吹き抜ける風の様なお味でした。風味、とはよく言った物です。ミントとラムネの爽快感。清涼感。いえ、アイスなのです。“涼”はある意味で、当然なのですが。慈雨に打たれるような心地よい冷たさに、わたしはつい目を閉じました。雨の当たるのに似た感覚――弾けるラムネが口を叩くのです)……そうですね。これは“スーパー”です。看板に偽りの無い、美味しさです。教えて頂き、ありがとうございました。(次の一切れ、口に運びます。合うと所感を頂いたショコラショーは、温存していたのが嘘のようなスピードで嵩を減らしていきました)
納・正純 2020年4月20日
ンン……。いやいや、正に。雷香のお墨付きが出るのも分かる味だぜ。コイツは文字通りに『スーパー』だ。新しい物好きの俺がリピりたくなるんだから間違いないね。太鼓判を押しても構わない。……。なあ、俺からの質問続きで申し訳ないんだが。雷香が『空』について詳しいのって、もしかしてどこかで勉強を重ねてきたからなのかい? ショコラティーのお供で良ければ、『知りたがりさん』の質問にまたしてもお付き合いいただいても?
(こちらから勧めた一品が彼女に無事受け入れられた様子を見て、正純は静かに安心していた。安心は手にある紅茶の消費をやや早くさせ、さらにもう一つの質問まで図々しくも行わせた。何を隠そう、彼は欲張りだったのだ)
狛居坂・雷香 2020年4月24日
食通……という訳では無いわたしのお墨付きに、いったいどれ程の価値があるのかは疑問ですが……このパンケーキは、おいしいです。(そもそも、先にお墨を付けたのは納さんでした。その上に太鼓判も押されて、三度目には一体何が重なるのか、すこし気になります)……ええ、構いませんよ? 美味しいパンケーキのお礼……というのは、違うでしょうか? えぇっと、まあ、それは置いといて……。(ショコラティーを一口。カップの底が見えました)たしかに、空の勉強はしていました。内訳は……“責任”が5、“興味”が3、“経験”が2……といったところ、でしょうか。『どこで』と言われると、少し困ってしまうのですが……空の下だったり、図書館の中だったり、です。
納・正純 2020年4月26日
いやいや、気に入ってくれたならそれで良いのさ。『スーパーセル』を勧めたかいもあるってもんだ、ほっとしたよ。……さて、なるほどな。俺としては、その話を聞いて雷香が空を勉強するに至った『動機』と、その『方法』について更に知りたくなってきたんだが――――、それは喫茶店の中で紅茶を飲んでパンケーキをつまみながらの状況で聞いても大丈夫なことかい? 無理はしないで良いからな。
(『誰が』は既に最初から明らかになっている。あと重要なのは『どうして』と『どうやって』だ。こうして話を深く聞くにつれて、やはり雷香は空に対して多くのテクスチャからなる感情を抱いていることは明らかであるように思える。話題によっては、話にくい場合もあるだろう。一応替えの話題を頭の中に忍ばせつつ、話の櫂をそちらに向けた)
狛居坂・雷香 2020年4月28日
ううん……。そうですね。この場に相応しくなさそうなお話は、極力カットするよう努めます。……さて、『動機』……それは勿論、一番大きいのは“知っていなければ”という思い。危険物取扱者責任――みたいなものです。天候とは天災、天災とは災害。納さんも、さわりだけは話したかも、ですが……わたしには、それを動かせる授けられた天恵と、それを操れる与えられた恩恵があるのです。(ふわり、とわたしは示唆的に指先を蛍の様に丸く点燈させました。一部では『聖人』と呼ばれる人間が生まれ持つ、燦爛の特性。わたしもその一種であるようで、しかし光らせられるのはこの指先だけです)指先《タクト》を振って、空模様を調律する。言うまでも無く、使い方を誤れば、容易に毒になる劇薬です。――わたしはソレを、日常的に、ある利己《エゴ》の為に使っています。……だから、わたしは万が一にも誤らない為にも、とかつて勉学を志したのです。
納・正純 2020年5月2日
……そうだったのか。成る程、そりゃ……『空が好き』とは一概に言えねえはずだな。先の非礼を詫びるよ、すまなかった。俺の動機は往々にして『知りたいから』だが、雷香は『知らなくては』という動機で知識を得てきたわけだ。……感服の至りだよ。「今日の分の会計は俺に任せて欲しい」と言いたくなるくらいにな。……辛くは無かったのかい?
(この時彼女から聞いた話は、実際のところ――――正純にとって、新鮮な響きを伴っていた。彼は『その話を知らなかった』のだ。だが、正純はそれについて――――いわゆる、『ギフト』の詳細について――――雷香に深く訊いたりはしなかった。理由を上げるなら、第一に野暮であるから。第二に、雷香にその力の成り立ちを聞くには『まだ早い』と感じたからだった。紅茶のカップがあって助かったと思う。円滑な会話を進める時と、答えにくいだろう質問を投げる時にはこういうものが必要だ)
狛居坂・雷香 2020年5月6日
いえいえ。謝られることなんて。だって、好きな事には、違いありませんとも。『知らなければいけない事』と『好きな事』が重なるなんて。それは、とても尊い奇跡なのですよ? ――わたしは、“空の研究”が出来て幸せでした。どんな雲が夕焼けに似合うのか。どんな空気が夜空を鮮明にさせるのか。どんな風が旅人の疲れを癒せるか。――納さんは、きっと、知らない事でしょう。わたしは、それを知れました。辛かったことはあった気がします。けれど、それはもう忘れました。いま思い出すことは、楽しいことばかり。……だからわたしは、今日も空を泳いでいるのです。(目を閉じて、少しだけ感じる浮遊感。ちまちまと食べていたパンケーキの、最後の欠片をフォークで取りました
)…………『方法』については、それはとても語ることが多くって。これは、またの機会にとっておくとしましょう。おかせてください。
納・正純 2020年5月7日
……おやまあ、ハハッ! これはこれは、気を遣わせてしまったかな? それとも、これはもしかしてのろけ話を聞かされているのか? いずれにしても、『もっと』とねだりたくなるような気持ちの良いお話じゃないか! 良いねエ。確かに雷香の言う通り、俺はお前ほど空に明るくないし、その事を心から羨ましく思うよ。俺の馴染みの宙(ソラ)は、いつどこを見回しても黒い顔以外俺に見せてくれなかったもんでな!
(彼女がパンケーキを食べ終わったのに合わせて、少しだけ残っていた紅茶を飲み干した。既に『誰が』と『どうして』は解き明かされて、この場に残っている謎は『どうやって』だけ。ミステリ小説なら最終盤の推理パートに入るころだった)
納・正純 2020年5月7日
……へぇ? 『またの機会に取っておく』ねえ……。そいつは、――――またいつか、どこかで雷香とこうしてお話する機会があるかもしれない――――そういうお誘いだと、そう考えて良いのかな?
狛居坂・雷香 2020年5月12日
……あったら、素敵ですね? ええと、そうですね……。わたしは、異性の方をお誘い出来るような、経験豊かな人間では無いので……。これが終わった後に、すぐに「では次は」、と約束できるようなフットワークの軽さは無い、のですが。――――けれど、きっと、機会はありますよ。納さんも、空が好きなら……その下に、わたしはいますから。今日、此処。此の席。この喫茶店の空の下で出会えた様に、このパンケーキの空の隣で話せた様に、きっとまた、空模様が導いてくれるでしょう。……次は、わたしも何かお話を聞かせて頂ければ、と思います。わたしの旅したSSWは、帆船《ガレオン》と呼ばれる製薬実験ステーションの中だけの冒険でしたが、それでも、360度に広がる遠大な夜空は、素晴らしく思いました。何かまた――ええ。楽しいことを、お話しましょう。わたしも、その時には頑張りますとも。
納・正純 2020年5月13日
ふはは、これはまたご謙遜がお上手でいらっしゃる。そういった奇麗な物言いで判断をゆだねるのは、経験豊富な人間の常套手だとばかり思っていたが……それとも、これも俺の考え過ぎだったかな?
――――おっと、いけないいけない。喋りすぎて俺のボロが出る前に、そろそろお開きにするとしようか。もうそろそろ日も落ちてきたころだし、それに……。
納・正純 2020年5月13日
――――次の機会は、『空模様が導いて』くれるんだろ? その時を楽しみに待ってるさ。……さ、そろそろ行くかい? 良かったら店の少し前くらいまでは送るぜ。
(まだまだ『知りたいこと』は山積みにあるが、この時正純は何も焦ってはいなかった。なぜならば、今回のこの出会いは偶然が運んできてくれたものであるが――――、次回からは違うからだ。空はその色と模様を変えながらどこまでも続き、次のチャンスを俺たちに示してくれるだろう。何も恐れることは無い。『指先《タクト》を振って、空模様を調律する』ことについては――――、そういう燦爛の特性を持つスペシャリストが目の前にいる。何を焦ることがあるだろうか)
狛居坂・雷香 2020年5月15日
……慣れたように聞こえるのは、“冒険者”としての経験、でしょうか。“誰”が相手でもない“みんな”。お別れの時は、いつだって、誰とだって、わたしは綺麗に丁寧に再開を願ったんですよ?(叶うことは、稀なのですが。けれどそれは、別れの前に口に出す言葉ではありません)だから、今は本当に、慣れていないのです。このままでは、わたしもボロが出てしまうことでしょう……ええ、行きましょう。お昼の閉店時間も、迫っていますしね?(――それで、一言二言話して。席を立って、扉の近くで待ちました。結局会計をどうしたかは――此処では秘しておきましょう)(わたしは久しぶりの感情を持ちました。『話したりない』――……期さずも秘した、わたしの誇るべき物語。それを繙かれるのは、少し恥ずかしくもあるけれど。ああ、けれど――物語とは伝えられる為にあるのですから。だからわたしは、また、彼と話したくなったのです。)
納・正純 2020年5月24日
――――なんてこった、奇遇だね。それじゃ雷香も俺と同じようにボロを隠しながら話してたわけだ。奇遇で始まって奇遇で終わるとは。……それじゃ行こうか、雷香のお陰で面白いひと時を過ごせたよ。『また』会おう。その時は雷香の話の続きを聞かせてくれ。まだまだ『聞き足りない』んでね。
(二人が秘密の会計を終えて、店を出て少し歩いた頃、そこにあるのは分かれ道であった。分かれ道に至ったということは、今日の話はここまでということでもあった。街を見下ろす高台にひっそりとある隠れ家風カフェ、喫茶『絵空事』から長く伸びる一本道の岐路に立つ二人を、四時半過ぎの空だけが見ていた。春前の空のその向こうは、既に落ちた日が見えていて。そして離れていく二つの影を、青い空の遠くの方で紫色の空模様だけが見ていたという)
(終了)
狛居坂・雷香 2020年5月24日
(次は、喫煙席に座っておきましょうかね?)
(終了)