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月、降りて

ユア・アラマート 2019年12月30日


背中を覚えている。
当時は今よりも小さかったから、それは大きくて頼もしく見えた。

今はどうだろうか。
頼りなさが消えたわけじゃないけれどと、反対側を向いて寝転がる背中を見る。

今日も空の明るい夜。
憂鬱と美味しいご飯を携えた男がやってきた。




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ユア・アラマート 2019年12月30日
(客室を出て、電気をつけないままキッチンに近づいて冷蔵庫から水のペットボトルを一つ取る。戻る道すがらに蓋を開けつつ口をつけると、乾いた喉に冷えた水分がよく染み込んだ) ――キリ? 水いるか? (顔は見ていないが起きているだろう。中に入りながら声をかけると、カーテンの隙間から差し込んでいた光を閉じ直すことで部屋から追い出す。ベッドに腰を下ろし、返事がないなら背中にこれを押し付けてやろうかという心算で)
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
(微睡むほど可愛らしさもない。ただ目を閉じていた。猫のようにするりとベッドを抜け出た気配がこちらを見ているのを、身動ぎせぬまま黙していた。無視というよりかは、それが普通なのだと)……。(掛かる声には、シーツの隙間から抜いて向けた掌だけで応えた。渇いていないと言えば嘘になる。満たすものが、それではなかったとしても)
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ユア・アラマート 2019年12月30日
ん。 (シーツから生えてきたような男の手。目当てのものを渡す前に、軽く自分の手のひらを乗せて指で撫でる。ゴツゴツした指だとか、男らしい皮膚の厚みなんかを確認してから。改めてボトルを置いてやる) 飲むなら起きるんだぞ? 零したら怒るからな。
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
……おう。(面倒くさそうに投げやりに。柔い掌と入れ替わりに置かれたボトルを軽く握ると、べこりと不穏な音がして凹む。力加減が上手く出来ない)あんま触るな。握り潰す。(酷く億劫にベッドサイドへ座り直して、水を喉に流し込む。吸い込まれるように中身が殆ど消えた)
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ユア・アラマート 2019年12月30日
分かってる。さすがに、やりすぎないタイミングくらいは読めているよ。長い付き合いだしな。 (それは同時に、彼が誰かを傷つけるのを危惧する性格なのも知っているということだ) そう簡単に壊れるほどヤワじゃないんだ。平気だよ。 (他に何か欲しいものは? 首をかしげる)
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
……。最近は。段々酷くなってる。(ぽつり吐いたのは忠告か愚痴か、わからぬくらいの温度。枕元に放り出した煙草の箱をひしゃげさせながら一本取り出して咥え、ライター代わりに指先に灯した揺火で先を炙る)何も。……腹減ってるなら食えよ。(向こうの冷蔵庫にしまい込まれた土産を声色で指して)
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ユア・アラマート 2019年12月30日
……そうか。じゃあ、もっと気をつけて触ることにするよ。 (そう言われて、接触自体を控えるというつもりがないのがありありの返事で応える。ふわりと暗い部屋に浮かぶ、一筋の煙を見上げ) さっきつまみ食いはしたからな。ちゃんと食べるのまた後で、せっかくだし一緒がいいだろう? (二人でいるのに、一人で食事というのも味気ない) あ、あとでまたレシピを教えてくれな。
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
(わかっていたので頭を抱えるだけで済ませる。穏便だ)食ったのか、早いな。(気に入らなかったということはなさそうで、それならいいと煙を吐く。ああ、と気のなさそうな返事をしてから)……料理、楽しいか。
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ユア・アラマート 2019年12月30日
お前も、私のことはよく知っているだろう? (遠ざけようとして遠ざかるタイプじゃないなんて、今更だと) うん、我慢しようかとは思ったんだけどな。美味しそうだったんで。 (いつもながら、お土産で持ってきてくれる男の料理は美味しい。最近はよく、作り方も聞くようになっていた) そうだな。最近は特に、楽しいよ。自分で食べるばかりじゃなくなったからな。
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
ああ。お前も、……お前ら皆、諦めが悪い。(全く以って捗らない。嘆息はひとつでやめにする)……そうか。ならいい。(お前にも一緒に食べる相手が出来たか、と。それはまあ、昔から見ている顔故の──ある種親心とも言えるものだったろうか。多少背が伸びようとあまり印象は変わっていない)
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ユア・アラマート 2019年12月30日
私の諦めの悪さは、あそこで学んだものだからな。筋金入りだよ。ラフィアも相変わらずみたいじゃないか。 (あの群れが培ってきた、簡単に現状を受け入れないという反骨精神を受け継ぐ人形を思い出して唇が綻ぶ) 私なんかにも友人が増えてくれたからな。けど、お前だって。こうして料理を持っていく相手が私だけなわけないだろう? 楽しくないのか? (彼の前ならそう取り繕う必要も無いせいか、無意識に取る仕草は少し子供らしい。純粋な疑問、といった風で)
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
あれは……雛か。刷り込みか。そろそろ巣立てばいい。(立ち寄るたびに何だかんだと囀るそれは、慣れたものでもあるのだが。年が明ければこっちにも来るのだと思い出して頭が痛い)……「なんか」と言うな。(くしゃり。少し雑に銀糸の髪を撫でる。力加減は細心の注意をして、人形にするのとは違う触り方だ)料理は発散方法の一つだ。楽しむ為じゃねェ。
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ユア・アラマート 2019年12月30日
確かに、親と思い込んでいるフシがあるな。とはいえそれでもう何年だ。巣立ったからこそずけずけ物を言うんじゃないか? あれは。 (本格的に他世界での拠点づくりが始まる都合、顔を合わせる機会は増える。自分はいいが、目の前の男はそれも頭痛の種のようで、形ばかりにがんばれと告げる) んん。…ふふ、そうだな。ごめん。 (髪を撫でられて解けた笑顔。背中もそうだが、この手だって変わってない) けど、自分の料理で人が喜ぶと嬉しくならないか?
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
何度頭凹ませても懲りやしねェ。手足の一つも折るべきか?(気が進まないなりに割と真剣に考えている。懐かれている自覚はある)……。…………。(頭から手を離して、思い浮かべた顔がひとつやふたつ。揃いも揃って同じことを言うそれらを、瞼閉して追い遣った)……子犬が増えただけだ。
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ユア・アラマート 2019年12月30日
これは予想だが。多分手足を折られてもいつもの調子でびーびー泣きながらお前に寄っていくんじゃないか? (まるで現実のように脳内で光景が浮かぶ) ……難儀してるな。 (体を傾がせ、そのままぽすんと横になる。彼がどんな思いで日々を過ごしているか、完全にわかるわけではないが事情は察しているので小さく笑って) その子犬が未練になるのが嫌なんだろうが。子犬だからな。カワイイのが仕事みたいなものだぞ。
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
(思い至ったので思わず顔を顰めた。却下だ)……せめてお前に懐けばいいのに。(全く柄ではないが、恨み言のように呟いた。子供の扱いが得意な訳でもないのに)可愛くねェ。……ただ、喧しい。(ああ、本当に。日々の静穏がそれで埋まっていく。だけれど、)突き放せばそれで終わるのが、まだマシだ。
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ユア・アラマート 2019年12月30日
私にだって懐いていると思うけれどね。まあ、お前には負ける。 (愛想よく、ギルドの面々に可愛がられているが。それでも一番なついてるのはこのしかめっ面の男だと思う) でも、嫌いではないんだろう? (嫌いならそれこそ、こうなる前にもっと彼は静かな環境にいるはずだ) ……でもお前、目の前で鳴いてる子犬はわりと放っておけないだろう? それがあっての今だろうし。
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
ただの目付役なのにな。(サボりの口実に監視をしていた。包み隠さず言えばそういう事だが、気付けばご覧の有様で)……、──。(黙ったのは、普段あまり考える方向ではないことだった所為だ。元々、ギルドに身を寄せる前から。騒がしさは傍らにあった当たり前のものだったから、違和感なく拾い上げる)……だがあの子犬はもう、鳴いていない。
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ユア・アラマート 2019年12月30日
お前、何をするにしても思っている以上に丁寧に人に接しているんだよ。 (無自覚なんだろう。ある意味自らの行いから出てきた結果なのだが、そうは思っていなさそうだ) また別の子犬が、目の前にやってきて鳴かないとも限らない。……それに、今ここで私がお前に助けてって言ったら、きっと足をとめるんじゃないか?
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キリ・ガルウィング 2019年12月30日
丁寧……?(何処が、と顔に書いてある。気付けば随分と短くなった煙草を寄せた灰皿に押し付けて、もう一本咥えた)……。(解りやすい喩えにぴたり、指が止まる。それが覚えのないものでなかったから尚のこと。目を伏せて微かに口元へ笑みを浮かべると、後ろで寝転がるそれをもう一度撫ぜた)──滅多に言わねェからな、お前は。
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ユア・アラマート 2019年12月31日
ちゃんと面倒見てるってことだよ。 (やっぱり自覚がないんだな、という顔をする。重ね重ね、本気で雑なら人など寄ってこないのだと思うが。性根に染み込んでいるんだろうなという感想。見上げる彼の動きが一度止まって、それから掌が振ってくるとおかしそうな笑い声で出迎えて) 私も大概意地っ張りだからな。 (すり、と自分から手に頬を擦り付ける) でも、お前なら聞いてくれるんじゃって思ってしまうんだよ。
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
そういうもんかね。(無意識であるなら止めようもない。それに今更でもあるのだろう。つまり自分の蒔いた種だというのが全く以って面倒くさいが、最早諦めるより他にないということだ)……俺がいなくなるまでの間だからな。(他に頼る相手はいるだろうか。友がいるなら平気だろうか。擦り寄る柔い肌のその裏に流れる、血色の匂いを見つける獣を抑えつけるように、ぎしりと手の動きを止めた)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
そういうものさ。まあ、だからこそ私も皆もお前が好きなんだ。 (その好意が、回り回って終活の妨げになっているのは。本当にままならないものだと他人事ながら少し同情する) ……だから、お前がラフィアに纏わりつかれているのを見ても止めないし。ラフィアに注意もしないって言ったら、怒るか? (手から緊張が伝わって、そっと離れる。積極的に邪魔はしないが、積極的に助けもしない。自分とて、この時間が出来得る限りで長引く方がいいと思っているのだから)
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
好き、ねェ。(ピンとこないものというのはどうしたってある。だからと言って態々跳ね除けるまでもないそれらを扱いあぐねて、終いには儘ならぬと嘆息を落とす)(儘ならない。儘ならない。目の前にあるのは、あの頃より少し大人びただけの、いつものお前だ)
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
……お前こそ。ユア。(ぞわり、ごきり。骨が歪んで蜜色の毛並で覆われた、人狼の片腕がその目の前で爪を閃かせる)

お前を殺せば終わりだと。俺がそうしたら、……怒るか。
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ユア・アラマート 2019年12月31日
(ぱちり、ぱちりと色素の薄い緑が瞬いて。電気のない部屋の中でも剣呑な輝きを見せる爪を写し込んだ) ……そうだなあ。 (のんびりと。ゆっくりと。声色は落ち着いて、指先を伸ばすとナイフのような爪を一度だけ撫ぜた) 怒らないよ。怒らないし。
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ユア・アラマート 2019年12月31日
――私を殺したら、誰よりお前が一番悲しむから。お前に殺されてなんか、やらないよ。
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
……、そうか。(溜息のような、安堵のような声をひとつ。瞬きふたつ程の間にするすると縮んだ骨と指と。撫でられた鉤爪はいつものように、短く切り揃えられた男の爪になる)
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
(多分、恐ろしいのだ。思うより近づく終わりが。月が満ちる前に焼き切れそうになる理性が。此の期に及んでさえ、──だから)……サンキュ。(小さく零したのが珍しいものだったと、気付くこともなく)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
ああ。だから、私に関しては。いつか自分が壊してしまうんじゃって思う必要なないよ。――キリの事は大事だからな。だからこそ、お前の思う通りになってなってやらない。そういうものだ。 (珍しく聞こえた礼は、茶化さずに聞いておこう。結局自分も、あの人形はギルドの面々と同じくらいには彼の足を引っ張るつもりなのだ)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
――それに、私の体がそんなにもろくないのは。お前だってよーく分かったことだろう?
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
脆くねェのと壊れねェのは、別の話だ。ったく。(吐き捨てるような声と裏腹に、悪戯に笑うその頰を指の背で触れる。人に頼る前に自制するのが己のやり方だった筈だ)……来月は、少し早めに来る。今日は遅すぎた。(正確に言えばいつも通りに来たが、悪化するのが早かった、というところ。自由な時間が徐々に減っているのが、なんとも窮屈だ)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
ふふ、そうかもしれないな。でも似たようなものだろう? (ざっくりとした答え。大事なのは、これで彼が少しでも気を軽くしてくれたかどうかなのだから。頬に触れる指に、心地よさそうに目を細める) ん、分かった。連絡くれたら空けておくから。 (無理はしないでほしい。そんな忠告は、言わずとも伝わっているだろうという信頼がある)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
さてと、――それじゃあ二度寝するか? (ほら、と両手を広げてみせる)
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
似てもいねェよ。(昔から変わらない。己の周りにあるものは壊れやすいものばかりだ。それでもまあ、中にはそうでもないものもある。あの人形の頭だったり、この銀の髪だったり)
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
(その両手の意味するところが分かりすぎて片眉が上がる)抱き枕にしてェなら勝手にしろ。(思い切り肺を空にして紫煙を吐いた。煙草をぐりぐりと灰皿に押し付け、空いたベッドの隅に横になった。背中を向けて)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
あっ、こら。ちょっと煙いぞ。あとせめてこっちを向いてもいいじゃないか。照れなくてもいいのに。 (楽しげに笑いながら、空振りの両手はそのまま背中にしがみつくためのものに再利用。振り向けと言うくせに、見慣れた広い背中に身を寄せてそれを許さず) 起きたら、一緒にご飯な。 (もう一度、言い含めるように)
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キリ・ガルウィング 2019年12月31日
嫌だね。(子供じみた物言い。けれども背中の温度が求めるものも同じと知っている。刺された釘には、)……覚えてたらな。(微かに、笑ったような声色で)
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ユア・アラマート 2019年12月31日
意地悪め。 (いつものことだ。そんなだから、誰も彼もお前を諦められない。そう言ったら、また整った顔が不機嫌そうになるので言わないでおくけれど) じゃあ、覚えていたらな。
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ユア・アラマート 2019年12月31日
――おやすみ、キリ。いい夢を。 (夜明けまで数時間。明るい夜の終わりも、そう遠くないから。今は眠って、朝日を待つことにしよう)
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