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【偽シナ企画】第二章導入

カミル・アイゼンシュミット 2019年6月8日


 恐らく地下室天井近くの隅、であろうと推測できる視野角の映像だった。
 年式の問題だろうか、音声が入っておらずノイズが激しいうえ途切れ途切れではあるものの、監視カメラによるそれは儀式のほぼ最初から最後までを捉えたもの。地下室奥に陣取る黒衣の人物、そして二名ほどの信者。コンクリートがむきだしの床に跪き、黒衣の人物を両手で仰ぐような仕草で信者達は崇拝行為と思しきそれを繰り返す。
 やがて信者達は壊れかけのパイプ椅子に座り、催眠術か何かだろうか、黒衣の人物によってトランス状態に陥っていく。パイプ椅子から転げ落ちるのではという勢いで痙攣を繰り返し、数分で大人しくなった。
 そこからやはり数分ほど、画面に変化は見られない。昏倒しているのだろう信者二人を前に、黒衣の人物もまたじっと座って動かなかった。音声が入っていれば何か別の情報も得られたのかもしれないが、ここでそれを言っても詮無いことだろう。
 静止画像かと思うような数分が過ぎ、黒衣の人物が動いた。
 ふわり、ふわり、長い衣装の裾を踊らせて、信者の一人に――大型のナイフを振り下ろす。返す腕で隣の信者も。思いきり振りぬいた腕のせいで、ばっ、と監視カメラのレンズにまで鮮血が飛んできた。赤く濡れた画面の中央、頸動脈から血を噴きあげている憐れな犠牲者二名がずるずると血の海の床に沈んでいく。
 黒衣の人物はそのまま犠牲者を捨て置くかと思われたが、レールか何かで隅に追いやられていた黒い紐状のものを中央まで引いてくると、そこへ慣れた手つきで犠牲者を逆さ吊りにしていく。片腕一本で成人男性を持ち上げているので、映像はひどく非現実的だ。
 こうして貸し出される前は潰れたSMクラブか何かだったのだろう、拘束具には鋲が打たれていたり黒光りするレザーであったりして、余計につくりもの感がある。しかしこれはつくりものでも何かのビデオ作品でもなく、監視カメラが捉えた現実の事件だ。
 黒衣の人物は逆さ吊りにされた犠牲者を丹念に、大型ナイフで削ぎ切りにしはじめる。
 そこに、冬期の味覚であるアンコウの吊るし切りを連想した者もいたかもしれない。しかし今吊るし切りにされているのは魚でも食材でもなく、数分前まで生きた人間であったものだ。
 削ぎ切りは延々と二時間にわたって続き、拘束具から下がっているのはわずかな肉の切れ端をつけただけの骨にされている。床の惨状に至っては、今更触れる必要はないだろう。
 子供が泥遊びをするように、積み上がった肉片をもてあそびながら黒衣の人物は転がりまわる。楽しくて仕方がないと言わんばかりに。
 そして動画のシークバーが残り数秒になったところで、黒衣の人物は正確に――そう、最初からそこにカメラがあったことを知っていた風情でレンズに振り返った。そしてどういう奇跡であろうか、フードの中はいついかなる時でも暗く何も見えなかったはずなのに、カメラを見上げて、彼もしくは彼女は――明らかに笑ってみせる。
 動画は、そこで終わった。

 スーツの男と、風俗店勤務の亮子。儀式に参加するはずだった信者二人から得られた情報は、北池袋から四ブロックほど離れた区画を示していた。当然、そんな儀式が行われるのだからあまり治安のよい界隈ではない。
 猟兵達は教団エンブレムが押された封筒の中身に従い、本当に動くのかあやしくなる、錆び付いた暗証番号式の鍵を開け、かび臭い階段を降りていく。かつてはライブハウスか、それともショーパブか何かだったのか、埃が積もり蜘蛛の巣が張った装飾がうすら寂しい。
 妙に長い階段の終端には無機質なドアがあり、そこに鍵はかかっていない。
 ゆっくりノブを回すと、その先にはやはりいくつかのパイプ椅子。そして最も奥まった、一段高くなっているあたりに頭から爪先まで黒い布で覆われた人物――『生と死の支配者』、が破れ放題のソファで寛いでいた。
「ようこそ」
 すっぽり黒衣で覆われているせいで、その人物が男か女かは判別しがたい。強いて言うなら男であり女である、とでも表現すべきなのか。若く艶めいた女の声と壮年の男の声、甲高い男児と女児の声が細かにいりまじる。比喩ではなく現実に声質が変化し、混ぜ合わされるのだ。
「生と死を言祝ぐ宴へ」
 ――冒涜の間違いじゃないのか、と思った猟兵は恐らく正しい。


冒険『死の幻影』

POW 体力・気力で粘り反撃に移る

SPD 『生と死の支配者』の一瞬の隙を狙う

WIZ 勘でタイミングを計る


●第2章のプレイングについて
『生と死の支配者』の何らかの力により全員昏倒のうえ、生々しい自身の『死』のヴィジョンを幻視する、というシーンからのリプレイとなります。
必ず「自身が死ぬ悪夢」の内容についてプレイングをかけてください。『生と死の支配者』は参加者が悪夢から目覚める瞬間、回避困難な斬撃にて参加者を殺害しようとしてきますので、悪夢の内容とあわせ、必ず「どう回避するか」を上記能力値判定を参考に記述してください。
この「悪夢の内容」「回避方法」のプレイング内容によって、次回第3章ボス戦にて与ダメ率が上がる特殊ルールがあります。純粋なプレイングボーナス扱いであり、最低でも等倍です。与ダメ率の公開、および減算(ペナルティ)はありません。ご安心下さい。
※第2章に参加していなかった場合、第3章では等倍扱いとなります

また、お手数ですが使用予定のユーベルコードは第二章リプレイが公開されるまで『公開』、あるいは『活性化』の状態にしていただけますようお願いいたします。
なおユーベルコード指定部分は300字の文字制限に含みません。

それでは皆様の熱いプレイング、お待ちしております。




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カミル・アイゼンシュミット 2019年6月8日
第2章プレイング〆切りは6/12、朝8:30です。
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