【プロローグ】
世母都・かんろ 2019年5月22日
今日も、雨が降っていた。
さらさらと。
しとしとと。
まるで、空がさめざめと泣くような霧雨。
この館の周りは、いつも雨ばかりだ。
けれど、ごく稀に、それはそれは美しい、奇跡のような虹が架かるのだと近所に住まう老人は語った。
平屋の一軒家の玄関扉に飾られた、紫陽花のステンドグラス。
ポストはあれど、表札は、ない。
ただ、玄関扉には鈍い色をした真鍮のプレートが打ち付けられていた。
「霧鳴館」
烟るような霧雨に包まれた舘は、濡れた緑の草木の中にひっそりと佇んでいた。
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