学校
遙々・ハルカ 2019年4月15日
新学期が始まると共に新入生も入ってきた
子どもらしさを残した後輩たちは概ね同じ顔にしか見えない
そもそも真面目な部活動でも入っていなければ
彼らと会話をすることもないのだ
ああそういえば、オレってどの部活に籍あったっけ
生活指導の教師の向こう側、グラウンドが見えている
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遙々・ハルカ 2019年4月22日
(右から左へ抜けていく教師の声。内容は真面目に聞いていなくても大体わかる。今年から三年になるのにまた髪のメッシュをそのままにして来ただとか、ピアスをいい加減やめろとか、春休み前にも言ったのにどうして出来ていないんだとか、そういう話だ。教師はどいつもこいつも書類でオレの境遇を知っているから、お前の身の上はわかっているが、とかも必ず言う。両親がいないからピアスを開けると思っているのだろうか? 因果関係なんかないだろフツー)
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(そもそも、勉学の場に相応しくないだの何だのと言うが、座学だって体育だって何だって、髪の色がおかしかろうがピアスを着けていようが、女子なら化粧をしていようが何の妨げにもならない。……いや、あんま汗かくと化粧ってやつは崩れるから、女子は嫌がるかもしれないけれども。ともかく、メッシュやピアスが学校生活において妨げになる、相応しくない、と言われる意味が理解できないのだ。何故ですかと尋ねるとキレられたので、もう尋ねないことにしているが)
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(窓ガラスの向こう側では、新入生の獲得がしたい運動部が精力的に活動をしている。快音と共に晴れた空に白球が飛び、ボールを蹴りながら大きな声で指示を飛ばす同学年の男子生徒、作った黄色い声でそれを応援する女生徒は多分二年生だろう。ご苦労なことだ。青春を満喫しているなら悪くない、彼らには彼らの人生とかいうものがある。オレに延々と説教を垂れているこの教師も、彼の人生にとってこれが仕事なのだから仕方がないだろう。ただ、だからといってオレの時間を無闇に消費するのはやめてほしい)
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(「聞いているのか、遙々?」――その言葉だけをきっちり頭で判別して、微妙にグラウンドへ向けていた視線を、教師の方へと戻す)聞いてますよォ。先生ェもさ~、毎回オレのこと叱るのに時間取ってて大変だな~と思ってさァ。(何せこの教師とは一年生の後半辺りからの付き合いだ。その頃からオレはピアスを開け始めて、二年になってから髪にメッシュを入れた。あの時期はかんかんになって眦を釣り上げていた彼も、今では困ったような呆れたような顔をするだけになった。けれども定期的に廊下でオレを捕まえてこうして職員室で説教を垂れるので、仕事熱心だなあと感心する。今は「お前の所為だろうが」と眉間を押さえていた。仕事熱心だなあ)
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(アルバイト先で叱られたりしないのかと問われたこともあったが、人手も足りてないし全くないっスねと答えた後は溜息のみに終わった。そして前述の通り、教師はオレの身の上――両親がいなくて施設育ちだという話――を持ち出し、バイトが大変なのもわかるが、これじゃあ卒業後はどんな仕事に就けるかわからないぞ、という風に続ける。そういえばオレはこの間の進路希望表だかなんだかに、就職、と書いたのだっけ。あの日は本当に何も考えてなくて、まあ今もあんまし将来ってものを考えているわけじゃあないんだが)……センセェ~……医大とか行こうと思ったら、どうなるんスかねェ~。
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(ぽかん、と。大の大人が口を開ける様を見る機会はなかなかない。笑いたくなったのを堪え、むつかしいスかね、と付け加える。我に返った教師の方はしかしオレの言葉が本気かふざけているのか判別が付かなかったらしく、口ごもりながらも「そりゃあ、お前、成績の問題があるだろう」とか言う。まあそりゃそうだ。テキトーに波を付けて解答を書いているし。「なんでまた」という言葉が聞こえて、合法的に解剖が出来るからと素直に答えることは出来なかった。医大なら多分、身体の解剖も心理の解剖も出来るはずだとは)あー……。
遙々・ハルカ 2019年4月22日
いや~……なんかちょっと、ホラ、先生もさァ、言ったじゃないスか。オレはホラ、親がいねェ~し? 同じような子どもばっかのトコで育ったわけスよ。オレは何で親がいねェ~のかよく知らねンすけど。事故で亡くしたとかさ、病気で亡くしたとか、そういうヤツもいたワケ。そ~いうのを思い出すとさァ……なんかこう、オレが頑張って? 頭いい感じの医者になったら? もっちょい病気の人を治してやって、親を亡くす子どもを減らせるんじゃねっかな~とか……最近気付いたンすよね。いやでも偏差値ど~なんかなァ~……。
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(つらつら喋り終えると、些かの間があった。ちょっと狙い過ぎただろうかと思い教師の顔色を窺うと、)うわ。センセ泣きそうな顔ウケるんすけど。(思ったことがそのまま口から出てしまった。教師は「バカ野郎」と言いながらスポーツタオルを手に取り顔を拭く。アホくせェ不出来な話をしてしまったと思ったが、案外ウケたらしい。わざとらしいくらいの話がいいということだろうか。環境そのものは事実なので、真実味はあったかもしれない)やっぱ偏差値? つか成績? がヤベェ~すかね。もっちょい頑張った方がいっかな? てか、もっちょい頑張ったくらいで受験間に合いますかね?
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(困ったような顔を作って見せると、タオルを置いた教師は真面目な顔になっており、低い声で「そうだな」と唸った。そうして、オレのクラス担任を呼ぶ。彼は「遙々、まだ髪の色戻してないのか」と当初の生活指導教師と同じようなことを言った)いやァ~今は進路相談? してンすよ先生ェ~。(まさかと笑った担任に、生活指導教師が首を振る。彼がオレのした話をかいつまんで伝えると担任は唸り、生真面目な顔で「やっぱり成績の方もなあ」と首を捻った)髪とピアスはオシャレっすよ~。(笑って見せたら担任に生徒名簿で軽く叩く仕草をされた。昨今はマジで叩くと保護者から文句を言われるらしい。可哀相に)
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(具体的にオレが医大を選ぶなら、という話になる。こういうところは教師というツールを使うのが正答だろう。高すぎるハードルを用意しておらず、かつ奨学金制度のある大学が望ましい、という結論はさもありなん、だ。奨学金とかいう借金はまあ今現在も背負っているのだし、それを返済する目処は幸い、猟兵とかいう仕事のお陰で立っている。奨学金返したいんでその分を給料でくれませんか? と尋ねたらそのまま貰えそうな気がするからぼろい商売だ。まあそれは置いといて。――条件を満たせば奨学金の全額免除が存在する大学もあるそうだ)ヘェ~太っ腹なトコもあるんすね。
遙々・ハルカ 2019年4月22日
(ただ、結局のところ――)ははあ~やっぱ成績かァ~。(奨学金を貰うなら、合格のみでなく成績優秀者の席を狙う必要がある。そうなってくると、今のままの成績では非常に難しい、というのが教師二人の結論だった。まあ大体予想通りだ。オレが今から頑張って勉強する、ということに関しては別段どうということもないが、面倒臭いのはクラス連中に「何急に頑張っちゃってんの笑」とか言われた時の返しだろう。さすがにヤバいかなと思って。くらいしか思いつかない。それか、高い給料もらえるかなと思って、がいいか)まァ~必要なら面接とか試験のときだけ黒染めしてピアス外すんで。問題は実際成績っすね。(身なりもちゃんとしろと言われる。ちゃんとって何すかとか言うと説教リターンズって感じになってしまうのでスルーしておく)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
塾とかは通えねェんで、まー、過去問とか? あと図書館スかねェ、その辺活用したらなんとかなります?(インターネットや施設を利用すれば大体のものは手に入るものだ。今だって別に授業を聞いていないわけではないし、有用な部分はちゃんと聞いてノートも取っている。あまり真面目にやりすぎるとクラス連中ががり勉だとか真面目だとか言って変にマウント取ってくる――あんま出来ねェ方がいいって頭おかしいのかあいつら?――から誇示せず隠した方がいいというだけのことで。教師二人は言う。「お前のやる気次第だろう」と)そっすね。ちょっと本気出しちゃおっかな~。(やる気だけで解決すりゃ、誰も失敗をすることはないだろうに)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(最初から本気になっといてくれよと教師は笑う。今まで不真面目でやる気の無かった生徒がやりたいことを見つけてやる気を出してくれた――多分、彼らの中ではそんな感じのストーリーに仕上がっているのではないだろうか。この分なら大体成功しているのだろう。後はクラスでつるんでいる連中の方も言い包めて納得させてしまえば、順風満帆なまま高校生活とやらを終えられる。そんでもって医大に入って、生まれてこの方目下興味の対象から外れる気配のない『人間』というものについて学ぶことが出来るわけだ。人体の詳細な作りも、脳の電気信号、精神及び心理的な様々な病理や仕組みも)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
そんじゃ、失礼しまァ~す。(職員室から出る頃、当初は眉間に皺を寄せていた生活指導教師も、冴えない表情をしていたクラス担任も、かなり愛想が良くなっていた。生徒が素直に勉学に励んでくれた方が、彼らとしては手が掛からなくていいだろうし、きっと仕事の評価も上がるのだろう。とはいえオレも調べるのが面倒だった進学先の見当がつけられたワケで、これは結構なWin-Winてヤツではないだろうか)いやァ、オレも成長したなあ~。
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(随分と昔。オレの年齢が一桁のガキだった頃。施設で食堂へ行く時間だった。それぞれの過ごしていた部屋から出て、階段を並んで下り、食堂で皆揃って夕飯を食べるのだ。その日、二階の、食堂から一番遠い部屋にいたオレは列の一番後ろに着き、ふと。前にいたヤツの背中を思い切り押してみた。するとそいつはバランスを大きく崩して段を踏み外して落っこち、前の子どもにぶつかり、その子どももバランスを崩して――後はドミノを倒すように、一番下まで波及した。絡まり合った細い手足に、けたたましい泣き声といたましい呻き声の中、真っ青な顔をした施設長はオレに尋ねた。「どうしてXXXちゃんを押したりしたの?」)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(「――どうなるか気になったから」)(素直に答えたオレを、彼女は医者に診せた。それで気付いた。オレは素直に答えてはいけないのだ。そして、こういう実験を見える場所でやってはいけない。やるなら見つからない場所で。咎められない場所で。知られない場所で。法に触れれば罰せられる。他人の何かを害すれば糾弾される。この世は思ったより窮屈で、けれども――けれども案外死角は多く、そして死角は作ることも出来る。目眩ましをしてもいい。兎角この世は不自由で生きづらいが、自由に泳ぐ場所を見つけるか作るかすればいい。大概のものに、抜け道はある)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(学校という場所でさえ、細々とした実験は出来る。誰かをひっそり焚き付け誘導することや、生徒の多くが望む言葉を探ることは、好奇心と知識欲を僅かながらでも満たしてくれていた。特に後者は、人間社会とかいうもので生きるには案外役立つことで、概ね、人間というのは望む言葉を掛けてやれば勝手に心とやらを開くのだ。そうしてそこに指を突っ込んで、するりと入り込む。そいつはあまりオレを警戒しなくなる。これが既に小さな『死角』だ。「あいつがそんなことをするわけがない」そんな言葉を生み出してくれる死角)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
……まあ。(ただ問題として、“付き合う”とかいう概念については今のところまだまだ理解がし難い。入り込んだ先で“そういうこと”になったのは一度や二度ではないものの、大概が半年ほど経った辺りで「ハルカってさ、本当は、わたしじゃなくてもいいんじゃないかなって」とか「ハルカもしかして、他に好きな人いる?」とか言われて、それを否定しても信じてもらえずに別れを切り出される破目になる。……実際のところ、前者は正解のど真ん中を貫いているものだから、こういう時の女というものは恐ろしいと舌を巻いてしまう)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(彼女でなくてもいい。――そうだ。特別気に入った他人、というのは殆どいないし、子どもの頃に気に入ったあの子もその子も、歳を経るにつれ面白味が感じられなくなりいらなくなったし、今ではそういった誰かが出来る気配もない。そもそも“彼女”だって要らないわけだ。誰も要らないのだから。ただ女と付き合っておけば『普通』そうに見えるし、「好きです付き合ってください」と言われて「いいよ」と答えると嬉しそうな顔をされるものだから、より生きやすいだけだ。例えその女の名前を一文字たりとも知らなくても。適当に彼女のことが可愛いとかここが好きだけどこれは勘弁してほしいとか言いながら、別れた後には「あ~あ、いつもオレ振られんだけど」とか言っておけば、なべて世は事も無し)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(『人間』というものに沿って巧く嘘を吐けば吐くほど、この世は呼吸がしやすくなる)(それにしても)
遙々・ハルカ 2019年4月23日
(――オレってどの部活に籍あったっけ? 全く思い出せねェな)