【社長室】ガレージ【業務連絡】
クー・ツヴァンツィヒ 4月9日18時
1階、社長のガレージ
扉を叩けば、理知的で穏やかな合成音声があなたを出迎える。
1
オルガ・ヴェルレーヌ 4月9日23時
ただいまぁ、クーちゃん。
(鼻唄を歌いながらハンドバッグを振り回し、上機嫌にガレージへと侵入してくる人魚)
(出ていった時のゾンビじみた顔色が嘘のように明るい)
クー・ツヴァンツィヒ 4月10日01時
おかえり マリア。
(鉄の擦れる音を立て、ワンフロアぶち抜きの広いガレージが狭く感じるほどの巨体が振り向いた)
随分 機嫌が 良いが 探していた ネタ とやらが 見つかった のかな。
オルガ・ヴェルレーヌ 4月10日18時
そうなのよ!聞いて頂戴!
(長い魚体でコンクリート打ちっぱなしの床を叩き、ドレスに絡むリボンをひらめかせる)
そのゾンビの如く窶れた哀れなあたしは、せめて人波でも眺めて砂粒のようなネタを集めて固めようとカフェのテラス席に座ったの。いつものカフェよぉ、飲み物はカフェオレ。知ってるでしょう?
そうしたらね、そうしたらよ!
なんとも素敵な男女が通り掛かるじゃない!これは神の思し召しと思ったわ!ええ、あたしは都合のいい時には神に祈ったりもするわぁ。知ってるわよね。
早速捕まえて話を聞いてみたら、そしたら!なんと結婚したばかりの夫婦だって言うじゃない!なぁんて素敵なのかしらぁ!
それで思わずね、思わずよ?ここに来なさいって言っておいたの!カフェオレ一杯では到底聞き尽くせる気がしなかったのだもの!
あぁ、楽しみ!いつ来るかしら!来たらあたしの部屋に通して頂戴ね!
(バタン!言うだけ言って、オルガはガレージを後にした)
クー・ツヴァンツィヒ 4月11日23時
そう か。それは よかった。
マリアが 元気に なって 嬉しいよ。
(バタンと勢いよく閉じたドアを長め、目のような青いライトを明滅させる)
私に できるのは その 夫婦が ここを 訪れてくれる ことを 祈る こと だけだが。
……。
せめて もてなしの 準備くらいは しておこうか。
(オルガのことは崇敬しているが、あの調子で迫るオルガにもう一度会いたいと思う人間が稀であることも知っている。ガレージのシャッターを上げ、自分は目立たぬよう隅で脚部を畳んで小さくなった)
鬼桐・相馬 4月13日00時
(硬質な靴音を響かせ、開け放たれたシャッター前に立つ)
(右手には大きな茶封筒。程よい厚みのあるそれに改めて視線を落とし)
……こういうのは代理が持ってきてもいいものなのか。
まあ、先方には伝えてあると言っていたし。渡すだけならそう問題でもないな。
――失礼。
本日持ち込み予定の原稿を代理で持ってきたんだが……
(ガレージ内を窺い気味に声を発した)
クー・ツヴァンツィヒ 4月13日19時
――驚いた な。
まさか 本当に 来るとは。
(チカチカ、青いランプを明滅させて少し身を起こす)
いや 持ち込み と 言ったかな。
なら 別件 か。
いらっしゃい。どうぞ 中へ。
狭いところで すまないね。
鬼桐・相馬 4月23日00時
(視界に青色が灯る。ややあって動きを伴い出したその姿に向き直り)
(『本当に』『別件』? ……まあいいか)
本来持ち込むはずの者に急用ができてな。俺が代理で持ってきた。
本人に限るとのことであれば、今夜以降こちらに連絡するよう伝える。
問題ないよ。
……それに十分広いと思うがな。身体の大きさの違いか。
(又はこの積まれた箱や書類のせいか。踏んだり跨がないよう避けつつも)
おっと。
(足を下ろした先にあった書類束。寸でのところで靴跡をつけるところだった――何とか踏みとどまれた)
クー・ツヴァンツィヒ 4月25日00時
………ああ いや。
代理 での 持ち込みも 可能 だよ。
掲載が 決まれば 本人にも 連絡を 取らせて もらうが。
(大きな身体を軋ませて木製の椅子を押しやり、その前で脚を畳んで見せる)
どうぞ かけてくれ。
……そのあたりの 紙束は 恐らく マリアの 書き損じ だろう。
踏んで くれても 構わないから。
(ちかちか、青いランプが明滅する。笑っているようだ)
鬼桐・相馬 5月17日01時
そうか、良かった。
構わないよ、連絡先はこの封筒に入れてある。
(積み上げられたものを視界に捉えながら、示された椅子へと改めて歩を進め)
では、失礼する。
(彼と向かい合い、その動きに合わせて着席)
(視線を正面に戻せば小刻みに瞬く青。滲む喜色に軽くかぶりを振り)
さっき踏みかけたからな、意識に入れ込み済みだ。もう踏むことはない。
――が、些か雑然とし過ぎているな。なんというか(『汚い』は飲み込む)、全部片付けたくなる状況だよ。
…………ああ、この原稿の主も部屋が散らかっていることが多いんだ。
その『マリア』と似たような性質でも持っているのかもしれん。
(獄卒の癖にだらしのない、と最後に付け加えた)
クー・ツヴァンツィヒ 5月23日20時
それならば 安心だ。
マリアは 靴跡がついても 気にしない だろうが きみが 滑っては 大変 だからね。
私 個人としては もう少し 広々としている方が 良いのだけれど――この 身体では どうしようも無い。
…… 失礼 話が 逸れたね。それでは 拝見 しよう。
(封筒を受け取るため脚を伸ばす)
(原稿を捲りながら、青いランプをまた明滅させて)
それくらいの 方が 物書き らしい かもしれないね。
…… 獄卒。
(考え込むように暫し静止して)
マリアの ことは 知らない か。
彼女 から 聞いていた 特徴と きみは 類似点が 多いのだが。
アンティークの ドレスを 着た 黒髪の 女性 だ。
鬼桐・相馬 6月5日21時
滑るくらいは問題ない、が。
(封筒を渡し終えるとやや深く椅子へと腰かける。ぴんと伸びた上背はそのままに)
(右の手指を滑らせるは、額中央から伸びる一角じみた羅刹の角)
――これがな。滑ったり倒れると大概これが穴を開けたり破壊したりするから、恐らく被害を被るのはそちら側だ。
……どんな広さでも、この状況を作っている本人が意識を変えない限り。いずれ散らかると思うぞ。
鬼桐・相馬 6月5日21時
マリア? マリア……いや、最近聞いた中にも、知人にも同じ名前の者はいないが……。
ほう。俺の特徴を。
(しばしの沈黙。程なくして、青光を反射させた金目が瞬けば)
ドレスで思い出した。
カフェから相当な勢いで飛び出してきたおん……女性がいたな。その尾鰭でよく動けたなというくらいの。
黒髪だったように思う……そうだ、ドレスも黒だった。リボンやヒラヒラした部分が沢山で。
隣に妻がいたんだが、話を聞きたいと勢いが凄まじかったんだよ。
正直話半分でいたんだが、まさか、彼女が『マリア』?
クー・ツヴァンツィヒ 6月11日11時
(ちかちかと青いランプを明滅させて、アームについた手のような部品で背後のコーヒーメーカーのボタンを押した。ガリガリと豆を挽く音が響く)
それは なかなか 苦労 しそうだな。しかし 私も この通り……
(ガツン、と脚を床に突き立てて)
……な ものでね。
この社屋は 丈夫に作ってある。
幾らでも 滑ってくれて 構わない。
(ランプをゆったり点滅させながら、冗談めかしてアームを振った)
クー・ツヴァンツィヒ 6月11日11時
(パチ。ランプが消える。次第に震えるように明滅して)
……目に 浮かぶ。
ああ その女性が マリアだ。
オルガ・マリア・ヴェルレーヌ。
私の 友人で 我が社の看板作家だよ。
迷惑を かけたね。マリアは 馴れ初め話に 目がなくて……。
鬼桐・相馬 6月23日01時
ああ、相当数の枕をこれのせいで駄目にした。ほかに振り向いたら柱に角がぶつかって削れたりな。
(――柱が。一応付け加えて)
(挽きの音があっても尚重く鋭く響いた音に、視線を脚部へ移す。次に傷一つない床、はらりと舞う書類へ)
(最後に点滅するランプへ移ると同時に薄く笑み)
其方が良くとも、破けば流石にマリアとやらが悲鳴をあげるぞ。
鬼桐・相馬 6月23日01時
……なるほど、彼女が。
(この状態を作っている、と。……なるほど。肩を竦め)
看板作家ならば、この状態も多少は目を瞑らないといかんな。
いや、気にしないでくれ。現に今話題を振られるまでは忘れていた訳だから。
(両手を膝の上で組み、やや前傾姿勢をとると)
話がいっているということは、彼女の『馴れ初めを聞きたい』件が本気で、且つ継続しているということか。
クー・ツヴァンツィヒ 6月30日16時
ああ 枕。枕は どうしようもない な。
それに……
(ランプをちかちかと点滅させ、宙に浮かせた手で音もなく自らの頭部を指さして)
柱は 私も よく 削ってしまう。だから ここ以外では できるだけ 小さくなって いるんだ。
(この図体では限度があるが、と付け足し、ぎぎ、と上体を丸めた)
なに 所詮は 書き損じだ。彼女に 省みられることも ない……週末には 私に 纏めて捨てられる 運命だよ。
君との 話の種に なるのなら マリアも よくやったと 誉めそやすに 違いない。
クー・ツヴァンツィヒ 6月30日16時
その通り だ。
出版社の 代表など 言わば 作家の おこぼれで 生活 しているようなものだから……。
(ぱちり 冗談めかして悲しそうにランプを弱める)
(姿勢を改めた彼にこちらも居住まいを正し、手を胸部に添えて)
……心の底から 本気だろうね。
そもそも 彼女が この手の話において 本気でなかったことが ない。
街で 興味を引かれた 夫婦や恋人 に声を掛け 待ちぼうけて 最終的に 自棄酒をする……が いつもの 流れだ。