pour toujours
霧島・ニュイ 2023年1月28日
ひしひし、しとしと。
それは何の音?
ーーお別れが近づいてきている。
人形の彼女を沢山連れて歩いてきた。
旅行に行ったり、散歩したり。
戦場に連れて行ったり、娯楽に連れて行ったり。
それはひとり遊び。
それでも、僕には確かに救いだったんだ。
そんな日々も、あと僅か。
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霧島・ニュイ 2023年1月28日
(彼女とはなんだかんだで長いのかもしれない。
リサと死に別れてから、遺体をリサイクルした。
人形師に金で物を言わせて従わせ、人形に変えた。遺体は腐る。だから細かなメンテナンスが必要だった。
金が必要だったから咎人を殺した。……心地良さも、あった。)
霧島・ニュイ 2023年1月28日
(それでも気づいている。変えて変えて……ほぼ元の形は残っていないなんて。
それでも目の前の人形に愛を注ぎ続けた。たとえ中身がなくても。)
霧島・ニュイ 2023年1月28日
(でも……もう最初の形はないんだ)
霧島・ニュイ 2023年1月28日
(人形に依存していたけど今は少し薄れている。チョビに出会ったからだ。
人懐っこくて無邪気で…実はかなりの魔性で感情の欲しがり。
こんな僕の感情を貪欲に欲しがってくれる。
そんなチョビに心から救われているんだ…
人形をぎゅうとして寝ていた過去。人の温もりを欲していた過去。
愛犬を抱きしめて眠れば温かさに満たされた)
霧島・ニュイ 2023年2月6日
……リサちゃん。
(今日は朝から夜まで君と二人きり。
ダクセで思い出の場所を、好きな場所を人形の君と巡った。
君と一緒にあちこち行ったね。それを噛み締めるように地を踏み締めて。)
霧島・ニュイ 2023年2月6日
(躊躇っていた。
分かっていた。いつか君と離れる日が来ると。誰に言われる訳もなく分かっていたんだ。
死者は眠らせてあげるべきなんて……当たり前のことはどうでも良かった。
君が生きたくないなら僕が動かしてあげる。
憎んでいるよ、愛おしいリサちゃん)
霧島・ニュイ 2023年2月6日
…………。
君に沢山の感情を貰ったね…
(激しいまでの愛おしさを、憎しみを、安らぎを、初めての恋心を決して忘れない。忘れられるものか)
霧島・ニュイ 2023年2月6日
(僕はもう希望を見つけてしまった。
ーー魂人。
一度死した人間と会えるかもしれない。本人にとっては地獄。けれど、僕にとっては紛れもない希望だった。
死に別れた大切な人とまた会えるかもしれないなんて)
霧島・ニュイ 2023年2月6日
(希望を見てもなお、僕は躊躇っていた。
だって本当に魂人として存在しているかも分からない。存在していても会えるかも分からない。雲を掴むような仮説でしかないのだ。
その賭けのために心の拠り所を捨てることは怖かった。
だから、長い間本腰を出せずにいた)
霧島・ニュイ 2023年2月9日
………、人に話してみるものだよねー。
(傍らのもの言わぬ人形に語り掛けている。初めて呼び捨てにしたマブダチに占いをされて、本心を引き出されたから。本物のリサちゃんに逢いに行く方に舵を切る事を決めた)
霧島・ニュイ 2023年2月9日
(きっと自分の遺体を再利用しているなんて見られたら嫌われてしまう。再会しても今まで通り行くなんて思えなかったけど。リサちゃんに嫌われるのは怖かった)
霧島・ニュイ 2023年2月9日
…………。
(自分の感情が怖くなることがある。自分の激しい感情が。でも、間違えずにこの愛おしい感情を抱き続けていたい。
愛していた。過去形だと思っていた。
それでも。)
愛しているよ、リサちゃん……
(思い出が色褪せてなお、想いは強くなるばかりだった)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
………。
(だから。とうとうこの日が来ちゃったね。)
リサちゃん。本当にありがとう。
(人形遊びは所詮ひとり遊び。それでもそのおかげで僕はここまで来れた。
この人形は、遺体は、僕が捧げたものを受け取って握りしめてくれるだろうか。そうだったらいいな)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(たどり着いたのは特別な場所だ。僕にとってとても大切で思い出深い場所だ。
記憶をなくした僕が始めの頃にたどり着いた場所だ。
鬱蒼と茂る暗い森。いかにも危険そうに見えるが、獰猛な動物は住んでいない。牙を剥く動物はいても倒せる程度のものだ。
危険人物が寄り付かないそこを避難場所にしていた。探せば木の実などは見つかるから、よく滞在していた。
1番お気に入りの場所は、いっとう大きく立派な栗の木)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(暫く木の下に座って佇んでいた。
何度も木の根っこと傍らの人形を見比べてから。
やがてリサの髪から赤の椿の飾りを外して、目を閉じさせた)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(さて、大仕事だ。
持ってきたシャベルを手に、根元を掘り始めた。
ざくざく、ざくざく、カツン。
掘り進めると何かに当たってシャベルが止まった。金属音を聴きながら懐かしそうな表情になる。
手応えに安心する。そう、僕はかつてここに埋めたのだから)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(幾重にも包まれたビニール袋を丁寧に開けて、鈍色の箱を開けた。
リサを人形にする際に、やはり人体だから不要な部分が出る。その部分は埋葬していた。だって腐っちゃうし。
パーツを取替える度に埋めていた。そろそろ守護たる栗の木に怒られそうだ。大丈夫、僕は知ってる。木は許してくれるって。いつも毬栗程度で見逃してくれるもん)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(それらひとつひとつを見て、重さに安心した。やがて加えるとそれを更に深い場所に置くべく掘り進めた。よし、設置。やはり過去のものから奥にしまうべきだ)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(やがて、リサを横たえて、寝かせる。冷たい土の中に置いていくのは抵抗があった。だけど火葬よりマシだと思う。用意した椿の花を、彼女が愛する赤と白の花をいっぱい敷き詰めて、土葬する)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
……………。
(名残惜しくて後ろ髪を引かれる想いだ。ごめんね、さんざん利用したのに。それでも、赦してくれる?)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
!!
(上からぽとっと毬栗が落ちた。
いつだってこの栗の木は僕を励ますようにぽとぽとと栗を落としてくる)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
……。ありがと。
…………それじゃ、また来るね、リサちゃん。
(栗の木の幹に軽く口付けをした。
彼女の躰は、真実はここにある。
思い出も僕の想いも。)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(それら全て、本物の想い人には内緒だ。
嘘も毒も罪も呑み込んでいこう)
霧島・ニュイ 2023年2月10日
(やがてその場を後にした)
【〆】