古ぼけた日記
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月11日
―城を散策する君は一冊の本を見つけた、どうやらこの城の住人の日記のようだ。名前もなく、表紙は褪せて古ぼけた印象を持ったこの日記を、君は見てもいいし、見ないまま元の場所に戻しても良い―
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アドルファス・エーレンフリート 2019年3月11日
父上から初めて稽古をつけてもらった、覚えたことをなにかに記しておくようにと言われたので日記を始めることにした、いつも優しい父上は稽古中はとても厳しい、それだけ真剣なのだと母上は言っていた 早く一人前になりたい
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月12日
父上の従騎士として供回りを許された。聖典はまだ諳んずる事もできないし槍の腕もまだまだ だけど一歩ずつ、経験を積んでいこう。最初からうまくいくことなんて無いんだから
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月16日
家元を離れ、聖騎士団の寄宿舎に入る事になった、これから実践的な訓練と騎士としての心構えを重ね正式に叙勲を目指すことになる。不安がないと言えば嘘になるがそれ以上に期待の方が大きい。
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月17日
合同訓練の際で人だかりの先に見かけた、とても美しく、そして誰も敵わない程に強かったあの人、凛々しい佇まいに思わず目を奪われた。私はこの日を忘れられそうにない
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月22日
どうやらその人は「エレノア」という名前らしい。かなりの武門のご息女だとか、だとしたら色々合点が付く、そしてそれに至るまでにどれほどの努力が合ったのか…一つの目標が出来た、彼女と並び立つ程に自らを磨く。ただ騎士になる、漠然と道を進むことに疑問を感じていた中にふと開けた目標、大切にしたい
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月24日
迷宮探査の実地訓練で災魔と出くわしてしまった、私とエレノア殿、そしてもうひとりの同期、よくつるむブルックリン殿の若輩3人、逃げるも必死、進むも必死、だが3人無事とは言えないがなんとか生きて帰れた、エレノア殿をかばい、目を負傷した。余計な真似をしたと思う、光こそ失いはしなかったが、傷のついた目元が鱗で覆われてしまった。少し異形な感じがして、これは嫌だな
アドルファス・エーレンフリート 2019年3月29日
竜化が強く出ている目を眼帯で隠していたらエレノア殿に喝を入れられた、確かに失礼だったかもしれない、心なしか気が楽になった気がする
アドルファス・エーレンフリート 2019年4月6日
晴れて我々三人は騎士として訓練の全行程を終え、「契約の儀」を終え、生涯に渡って付き合っていくことになる相棒たる竜槍を得た、これからは自分の選んだ道を進んでいくことになる、大きく分けて迷宮に潜り、巣食う災魔を狩り、未然に危険の目を摘む「異端審問官」 迷宮から出て来た災魔を都市の目前で防ぐ「守護騎士」の2つ、更にそこから分化していくが、私とエレノア殿は異端審問官を、ブルックリン殿は家の意向から守護騎士の道を選んだ。ブルックリン殿の明るさには何度か救われている、道は違えども目指す方向は同じと決意を固め、我々は別れた
アドルファス・エーレンフリート 2019年4月14日
宿舎で過ごす最終日、訓練場が騒がしい事に興味を覚えて向かってみればエレノア殿と同期生達が模擬戦を行っているようだ、話を聞いてみれば「彼女に勝てば相棒契約が出来るらしい」と、思えば彼女を始めてみたのもこういう場面だった気がする 思い出にふけっていると眼の前の野次馬が割れて眼の前が開けた。彼女が、目の前にいる
アドルファス・エーレンフリート 2019年4月19日
眼の前の彼女は私に「戦え」と、短く告げた。まず頭をよぎったのは「無理だ」という事実。何度か彼女と模擬戦を行ったが、未だに勝てたことが無い。次に巡ってきたのは「彼女と共に居ることが出来る時間はもう無い」という現実…そして先程の話が頭を過り、ある提案が口をついて出た
アドルファス・エーレンフリート 2019年7月30日
模擬戦が始まる、眼前の相手は恐ろしく強い、分かっていたことだが改めて実感する だがなぜかいつものような押し負ける苦しさや呑まれるような気はしなかった、ただひたすらに彼女と槍を交わす事が楽しく、不意に顔が笑みで歪む 一合ごとに世界が加速していくような、そんな感覚を覚えた