others;或る男の手記
マリィシャ・アーカート 2022年5月16日
■■年■■月■■日
■■■が産まれる。
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マリィシャ・アーカート 2022年5月17日
■■■は我々の希望だ。
真実を、けして揺らがぬ理をその身に降ろし、皆の光となるに相応しい器だ。
そういうふうに育てなくてはいけない。
■■や■■や■■は依代として未熟であった。
我々の信仰に耐えられず逃げ出してしまった。
真の威光を前にみずから目を潰してしまった。
精神をよからぬものに売り渡したか狂ってしまった。
■■■は、そうであってはならない。今度こそは失敗しない。
マリィシャ・アーカート 2022年5月24日
■■■が知っているはずのないことを口にした。知る必要がないことだ。
そもそも学校などに通わせる必要があったのだろうか?
■■のときは幽閉して失敗した。外側の情報を完全に遮断するのは得策ではなかった。
学校生活も■■■の精神には必要なのかもしれない。
リスクは排除させればいい。
危険な思想を■■■に取り入れさせようとした女子生徒はとうに特定が済んでいる。明日には片がつくはずだ。
マリィシャ・アーカート 2022年5月24日
■■■が監視に気付いていないとも思わなかった。
その目を掻い潜ることができるとも、思っていなかった。我々が浅はかだった。
■■■は何事もなかったかのように、少し遅れて帰宅する。何者かと会っていたらしい。危険思想の持ち主でなければいいのだが。
監視の人数を増やすか、或いは、もう学校に通わせる必要もないかもしれない。
15歳。じゅうぶんではあるまいか。
マリィシャ・アーカート 2022年5月24日
信者たちが■■■様を崇めている。
信者たち
私もそうだ あの方を目の前にして涙が出てきた
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
「あなたたちのせいよ」
■■■は確かにそう言った。
しかしあまりにも綺麗に笑っていて、わたしは耳と目がおかしくなってしまったのかと思った。
有り得ることだ。■■■は今や私の娘どころか教団のいちリーダー程度の枠に収まるような存在ではないのだから。
我々は求めた。確かに求めた。■■■に人間を捨てることを求めた。
我々のせい。
そうなのだろう。
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
■■■様
■■■様
■■■様
■■■様
■■■様
■■■様
■■■様
■■■様
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
■■■様と■■■様の前で叫んで平伏した者がいた。
■■■様は「わたしはそのような名前ではありません」と仰った。
我々は沈黙してそれが告げられるのを待った。長い時間だったように思われた。
「イリスと呼びなさい」
■■■様はイリス様となった。
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
イリス様は時折、我々のような――つまり人間のようなお召し物に着替えて、何処かへ赴かれる。
我々以外にも救済を施しているのだろう。
一度教団の者がイリス様を外界の不浄から護るべしと同行を申し出たことがあったが断られた。
食い下がった者も居たが、程なくして彼の目は潰れてしまった。
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
エリイがいない、といったようなことを、イリス様が呟いた。
誰かのことをずっと探しておられる。
我々の誰も、その少女と思しき存在のことを知らない。
その方もまた、
かみさまであろうか。
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
遺書になるだろうか。
遺書をどう書くものかも知らない。
我々はただイリス様の言葉に縋っているだけだった。
それでよかったし、それがよかった。
煙が回ってきた
この火は
陽炎の向こうにいるのがイリス様の言っていた「エリイ」か?
マリィシャ・アーカート 2022年5月25日
◆◆◆◆◆
(一人のジャーナリストが、焼け跡から発見した手記。
所々は焦げているものの、半ば不自然なほど原型を留めている)
(地方紙の記事のスクラップ――新興宗教団体■■■■■■■本部、放火か)
(少女の写真。氏名は■■・真理依とされているが消息は不明。焼け跡に彼女の痕跡はない)