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正義のミカタ

#ヒーローズアース

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#ヒーローズアース


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「畜生……!」
 ヒーローの一人が、口元の血を拭って舌打ちする。
 彼の目の前にはまるで嘲弄するかのような笑みを浮かべたヴィラン、そして、棒を担う何人ものオブリビオンたちが立ちはだかっていた。
 多勢に無勢とはこのことか。ヴィランだけならいざしらず、オブリビオンまで乱入して来ては彼一人ではどうしようもなかった。
 頼れる仲間たちは三々五々に散って行き、自分と同じくそれぞれヴィランとオブリビオンの相手をしているはずだ。
 ……そして、恐らく自分と同じく苦戦を強いられているはずだ。
「やるしかねえ……。ああ、やるしかねえよなぁ……!!」
 ヒーローは――アレフは奥歯を噛んで激痛を堪え、武器を構える。今も自分の兄弟たちが戦っているのだと思えば、奮起せざるをえなかった。ベートも、ギメルも、ダレットも、ヘーも。他の兄弟たちだって、きっと同じ思いで戦っている。
 それに、戦う術を持たない一般人たちを危険に晒すことはできない。
 だから自分が――自分たちヒーローがやるべきなのだ。
 命を賭した、この時間稼ぎを。
「クソっ、クソっ、クソッタレ……!」
 己の運命を呪い、この運命に自分を乗せた神を呪い。
 彼は立つ、戦いの場に。
 流れる血でぬかるむ武器の柄を、震える手で握る。急激な失血で体温が冷えていくのが自分でも感じられるほどだった。
 ちらりと後方を見れば、一般人たちが逃げ去る姿が見えた。
 そこへ混じって、自分も逃げ出したいとは思わなかった。
 ただ、その代わりに――
「誰か、助けてくれよぉ……!!」
 ヒーローらしからぬ、ただ非力なヒトとして。彼は助けを求める声を上げた。
 その声は、ヴィランとオブリビオンたちによって掻き消される――。



「よく集まってくれた、お前さんたち」
 猟兵たちをグリモアベースに呼び集めたのは、石動・劒だ。彼は面々を見渡して、本題に入る。
「ヒーローズアースで英雄祭っつー催し物が始まるらしいんだが……。どうにもこれがきな臭くってな」
 彼が話すところによると、元々英雄祭は何かとヴィランによるトラブルが多いらしい。
 それゆえ、兄弟ヒーローとして名を馳せる一般ヒーローたちがそのために警備をして、実際にヴィランによる襲撃を撃退しようと奮闘していた。
「だが、そこにオブリビオンどもまで乱入して来やがるらしい」
 オブリビオンたちはこの祭りに使われる、とある特殊な祭具を狙って襲撃しているようだ。
 あるいは、ヴィランを唆して同時に襲撃を仕掛けているのかもしれない、と劔は語る。
「会場ではヒーローたちが戦っているが……猟兵じゃねえあいつらに、ヴィランはともかくオブリビオンまでも相手するとなると荷が勝ち過ぎる」
 質、量ともにオブリビオンはヒーローたちを上回る。ヴィランと一緒に暴れ回られ続けては、少しもしない内に英雄祭は血祭りへと変貌してしまうだろう。
「お前さんたちにはこのヒーローたちの救援に向かって貰う。それで猟兵がオブリビオンを相手取ることで、敵の分断を図る。そうすれば兄弟ヒーローたちがヴィランどもの相手をしやすくなるだろう」
 ヒーローたちも負傷はしているだろうが、彼らとて一般ヒーローたちの中では名を馳せるほどの実力者揃いだ。ヴィランたちに遅れを取ることは無いはずだ。回復などの何らかの支援をしてやれば、それも更に盤石になることだろう。
「敵は『呪法擬人化胡狼兵』。魔法によって動物が変化させられて作られた兵士だ。元が畜生だからって侮るなよ、連携に優れ、その棒術は並じゃあねえ」
 呪詛のオーラを身に纏い、黒い鎖を放つことで攻撃した敵から生命力を奪う戦法。
 そして影武装形態と呼ばれる変身を遂げて、棒術と攻撃魔法を用いた巧みな連携で攻撃してくる戦術。
 最後に人化を自ら解除して、巨大な魔獣に変身することで爆発的にスピードと反応速度を高める奥の手。
 どこをとっても厄介な敵だ。
「オブリビオンを誘引しての戦闘は人の多い祭りの会場じゃちと難しいだろうが、お前さんたちならきっとやれる。必要があれば一般人たちの避難誘導も手伝ってやってくれ」
 戦いが終われば、英雄祭も再開できる。そうすれば、きっとヒーローたち共々祭りを楽しめることだろう。
「最後に、一つだけ。……大抵の人間ってのは、助けが要る。特に、助けもなく戦場に立ち続けるってのは難しいもんだ」
 孤軍奮闘。それは敵ばかりではなく、己との戦いでもある。
 それを続けられる者は少ない。それを永続できる者は――きっと、皆無に近いだろう。
「あいつらの言う“ヒーロー”ってのは助ける側だ。人々を助けて、戦って……立ち続ける」
 ヒーローがが立ち続けていれば、人々の希望になる。人々は安心を得られる。だから、ヒーローたちは助け続けて、戦い続けて、そして立ち続ける。
 悪に立ち向かう盾として。
 悪を許さぬ剣として。
 だが――だが、彼らとて人だ。人であれば、助けを必要とするものだ。
 それならば、ヒーローである“人”は、一体誰に助けられれば良い?
「……だから、あいつらの助けになってやって欲しい。そうすりゃ、きっとあいつらもまだ、戦場で立ち続けることができる」
 あるいはそれは、酷な話かもしれないが。
 それでも必要なのだ。悪に立ち向かう存在が。
「以上だ。お前さんたちだったらこの悲劇も救ってくれると信じてるぜ。行って来い、猟兵!」


三味なずな
 お世話になっております、三味なずなです。
 今回は14作目。ヒーローズアースでの依頼になります。

・第一章
 集団戦『呪法擬人化胡狼兵』:つよつよ

 ヒーローたちがこのオブリビオンに加えてヴィランたちとも戦っています。
 猟兵たちはそこへ救援に向かい、オブリビオンを相手にすることで敵を分断します。ヴィランはヒーローに任せておいて大丈夫です。
 また、猟兵たちは避難誘導やヒーローたちへの助力を行うことができます。

 兄弟ヒーローたちの名前はそれぞれ兄から順に「アレフ、ベート、ギメル、ダレット、ヘー、ヴァヴ、ザイン、ヘット、テット……」です。それぞれ祭りの会場の各地でオブリビオンとヴィランを相手にしています。

 なずなのマスターページにアドリブ度などの便利な記号がございます。よろしければご参考下さい。

 人々をヒーローが助ける。では、ヒーローは誰に助けられるのでしょう?
 そして、彼らを助けたその“誰か”は一体“何者”によって助けられるのでしょう?
 あなたなりの、そして猟兵たちなりの答えを、リプレイの展開に応じて、プレイングを通してお教え頂ければと思います。
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第1章 集団戦 『呪法擬人化胡狼兵』

POW   :    カース・インベーダー
自身に【黒い霧のような呪いのオーラ】をまとい、高速移動と【生命力を奪う影の鎖】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    シャドウ・アームズ
対象の攻撃を軽減する【影武装形態(シャドウアームドモード)】に変身しつつ、【棒術と攻撃魔法のコンビネーション】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    アンチェイン・ビースト
【自身にかけられた人化の呪いを解除する】事で【巨大な魔獣】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:エル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オルカ・ディウス

■心情
ヒーローは誰が助けるのか、か……
答えは、『同じ志を持った誰か』なのだろうよ
今はヒーローでなかったとしても、人々を護るその背中に憧れ、誇りに思い、自らその危険へと踏み込んでいく大馬鹿者共がな?
もっとも、今すぐに助けを求めているものに必ずしも手が差し伸べられるとは限らん……
そういう時は『神頼み』でもするといい
ひょっとしたは、思わぬ救いの手が現れるかもしれんぞ?
この我のようにな!
■戦法
スーパー・ジャスティスを使用して、強化した体で攻撃していこう
技能【念動力】も敵の動きを止めるのに使えればよいな



 劣勢だった。
 全力を尽くしてなお、兄弟ヒーローの長兄アレフは苦戦を強いられていた。
 否、苦戦どころではない。状況は最悪、絶望的だ。アレフを取り囲むように胡狼兵とヴィランが2人ずつ、合計4人。
 つん、と口の中に嫌な匂いが香る。鉄のような血と、逆流して来た胃酸と内臓の味。それらが口腔でないまぜになって、死の匂い、死の予感として頭の中に充満する。
「どうすりゃ良いんだ……」
 ヒーローとして、『盾』として。震える手でなおも武器を構えながら。アレフは絶望を呟く。言葉にしたものの、どうしようもないことなどわかっていた。
 青褪めた頬に、涙が伝う。絶望、諦念、そして、弱い自分への情けなさ。涙の塩辛さが唇を濡らすと、自然、言葉が漏れていた。
「誰か、助けてくれよぉ……っ!」
 誰も来てくれはしないとわかっていても、そう口にせざるを得なかった。ここで死んでしまうと、わかっていても――

「――そういう時は『神頼み』でもすると良い」

 声がした。
「もっとも、我を含め神々が常に応えられるかはそれこそ神のみぞ知ることであるがな。しかし、ひょっとしたら思わぬ救いの手が現れるやもしれん」
 初めは幻聴を疑った。声は朗々として響き、どこか神秘的ですらあった。
 声のした方向へ目を向けると、そこにはドレスのような衣装の女がいた。
「この我のようにな」



 正義感が強い者。自己犠牲の精神を備えた者。そしてその両方を持つ者。
 いずれの者も、海底都市『ニーラ・カーナ』にいたと、オルカ・ディウス(神海戦姫・f16905)は記憶していた。
 彼らはその性分ゆえに犠牲になりやすい。損な役回りを進んで引き受け、誰かを守り、誰かのために死ぬ。
 オルカディウスはそれを幾百、幾千、幾万と守護神として海底都市で観てきた。
 海底火山が噴火した時、その身を呈して都市を護った者がいた。
 凶悪な怪物が海底都市に襲撃した時、自ら打って出て怪物と相討ちした者がいた。
 流れ着いた深海魚が都市内に未知の疫病を持ち込んだ時、自らの身体を使ってその疫病の特効薬を造り出し、人々を癒やした者がいた。
 それがもう、どれほど前のことだっただろうか。どれだけ前の出来事であったとしても、その名、その死に様はオルカディウスの記憶にいまだ鮮明に記憶されている。
 そして、彼らを助ける者たちのことも、彼女はまた記憶していた。犠牲になろうとする彼らを、助けようとする者たち――同じ志を持った者たちのこともまた覚えていた。
 彼らは人々を護るその背中に憧れ、誇りに思っていた。時には守護神たる自分に「彼らのようになりたい」と希う者もいた。そして、彼らは「助ける者」を助けた。自らもまた、その身を呈して危機へと踏み込むことによって。
「……大馬鹿者どもめ」
 ヴィランとオブリビオン、そして満身創痍のヒーローを前にして、オルカディウスは呟く。言葉の先は、果たして誰に向けられたものなのか。
 彼女が全身から放った黄金のオーラは物理的な影響力さえ伴ってヴィランを吹き飛ばし、オブリビオンたちを怯ませる。
 そして、オルカディウスは地に膝をついたヒーローの前へと進み出た。
「立てるな?」
 大丈夫か、と心配などしなかった。
 ここは任せろ、とも気遣わなかった。
 満身創痍のヒーローへと、ただ確認だけを投げかけた。
「……ああ」
「ならばよし。我はオブリビオンを貰って行くぞ」
 ふらつきながら立ち上がる男へ、神は一瞥もくれずに胡狼兵たちの前に立ちはだかる。
 オルカディウスは守護神だった。今はともかくとして、かつては人々を助けることのできる力を持っていた。しかし、当時より力を貸しすぎることは人々の堕落を招くことを彼はよくよく理解していたために、人の力で対処できることは民に任せた。
 だが、今は違う。オルカディウスは守護神ではない。
「人の子らに力を貸すというのは、やはり存外悪くないものだな」
 口元に笑みを刻みながら、オルカは呟く。高速で挟み込むように迫る胡狼兵の片方を念動力で縛って、もう片方の攻撃を飛翔することで回避する。
「これより先は神の試練。――さあ、汝らに耐えきれるかな?」

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
判定:【WIZ】
思うところはいろいろあるけど、まずは体を動かすのが先だな。
おれも正直怖ぇけど、そうも言ってられねえか。

《二十五番目の錫の兵隊》を矢面に立たせて、おれは後ろから《兵隊》や他の仲間を〈援護射撃〉する。
魔獣形態は……真正面からぶつかり合ったらこっちが不利だよな。まともに喰らうとマズい一撃を〈第六感〉〈見切り〉でいなしながら、仲間と歩調を合わせて弱っている奴から叩いて数を減らすことを優先するか。〈目潰し〉とか〈武器落とし〉で攻撃の機会を潰したり、威力を削ぐことも忘れずにやっておく。

そこまでやって余裕がまだあんなら、逃げ遅れた人たちの避難を手伝うかな。


セゲル・スヴェアボルグ

まずは手近な奴から助けに入るとしよう。
ヒーローかどうかなど関係あるまい。
助けを求める声に応えなければ、猟兵の名折れってもんよ。

猟兵を戦闘面で助けてくれるものなど、基本的には猟兵しかおらん。
それはヒーローとて同じだろう。
今ここにいる一人のヒーローと同じように助けを求めている奴らがいる。
ならば、今この時、ヒーローとしてすべきことは何か?
それが分からんほど頭が固い男でもないだろう。

なに、この程度の数であれば、剛勇ナル手勢で抑え込んで見せよう。
時間稼ぎ?違うな。俺はこいつらを倒すためにここに来たのだからな。
巨大な魔獣など恐れるに足らん。
いくら素早く動こうとも、我が軍勢が壁となって阻むのみよ。


パーム・アンテルシオ


ヒーロー…みんなの為に戦う人たち。
颯爽と現れて人を助けて…悪を挫く。
ふふふ。どこかで聞いたような話だよね。

ユーベルコード…月歌美人。
この世界の英雄の趣味は、わからないけど…
私の知ってるヒーローは、こういう歌…熱い歌がお約束だった。
立ち上がれ、闇を払え、燃え上がる想いを胸に。

私は、私の歌が届く誰かを助けるよ。届けられるだけの人を助けるよ。
それは、ヒーローたちかもしれないし…猟兵の皆かもしれない。
…誰かを。人を助けることが、私の心を助ける事にもなるから。

皆は、独りで戦ってるかもしれない。
でも…孤独が繋がれば。それは、もう、独りじゃない。
少しでも、それが伝わればいいな。
みんなにも。
そして、私にも。



 絶体絶命の危機は怖い。
 当然だ。命を喪うかもしれないなんて怖すぎる。ましてや、戦いでは命を“喪わせる”こともあるのだから尚更だ。
 だから鏡島・嵐がヒーローの助けに入ったのは、それに共感してしまったからだろう。
 現場に来た時、彼が一番先に目にしたものは敵に囲まれたヒーローの姿だった。這いつくばり、今まさにオブリビオンたちの手によって命が奪われんとしていた。
 それがどうしても耐えられなかった。

「うわあああああああッ!!」

 雄叫びというよりはむしろ悲鳴。
 とどめを刺そうとしていたオブリビオンたちへ、スリングショットでの投石が当たる。殺意の視線が嵐へ移る。
 ひ、と嵐の口から恐怖が漏れた。行動してから、もっとうまい救助方法があったのではないかと後悔もした。
 けれど、一度でも立ち止まっていたら助けられなかった。助けられないことは、きっと今よりも後悔する。だから――
「く、く、来るなら来い! おれが、おれが相手になってやる……っ!」
 震える声で挑発の言葉を口にして、震える手でスリングショットを構える。こちらに注目していたオブリビオンとヴィランたちがおかしそうにあざ笑った。
「そんな震えた手でどうやって相手になるんだよ」
 ヴィランの一人がからかい半分に挑発し返す。嵐は何も反論できなかった。彼にとって戦いとは――命のやり取りとは怖くて仕方のないものだ。戦おうと頭で思っていたとしても、身体は恐怖で震えてしまう。幾度もの戦いを経て、なお慣れることも麻痺することもない根源的な恐怖そのものなのだ
「なんだよ、何も言わないのかよ」
「自殺志願者だろ。やっちまおうぜ」
 ヴィランたちから二人、嵐の方へと近付いていく。オブリビオンたちはそれで十分だろうとばかりに再び手負いのヒーローの方へと向き直った。
「だ、だめだ……っ!」
 そのヒーローを殺さないでくれ、と言うように嵐は手を伸ばす。殺しちゃダメだ。殺されちゃダメだ。そんなこと、そんなこと――

「――その勇気は評価するが」

 声の直後に、何十にも重なった銃声が響き渡った。射出された魔法弾が弾道を描いてオブリビオンたちに直撃する。
「蛮勇とはゆめ履き違えぬことだ」
 軍靴の音と共に嵐の前に幾人もの兵士が通り過ぎ、ヴィランを散らしてオブリビオンへと銃口を向ける。その後から、ずしりと重量感のある足取りで現れたのは大きな青いドラゴニアン――セゲル・スヴェアボルグだった。
 味方の猟兵。自分の他にも援軍が来てくれていたことに気付いて、嵐は胸を撫で下ろす。その安心感からか、緊張で震えていた足からは完全に力が抜けてしまい、彼は地にへたり込んでしまった。
「あ、あれ……?」
「ね、あなた大丈夫かな? 立てる?」
 桃色の妖狐、パーム・アンテルシオが後方からふわりと現れて、手を差し伸べる。
「だ、大丈夫……」
 小さな女の子の手を借りるわけにもいかず、なんとか奮起して立ち上がる。相変わらず膝は笑ったままだったが、それでもその震えは少しだけ小さくなっていた。



 助けが必要ならば誰であれ助けるべきだろう。
 セゲルはそのように考えて、それを実行していた。今回の作戦内容はヒーローを助けるものだ。だが、猟兵や一般人たちが助けを求める場合も予測できていたし、こうして実際に起きていた。
 彼はおよそ70人以上になる小隊――あるいは中隊とする規定もあるが――を召喚すると、すぐさま救援に入った。猟兵一人、ヒーローが一人。猟兵は見るからに怯えていて、ヒーローはひどい手傷を負っていた。
 召喚された指揮官の号令一下、小隊が銃火と共に突撃していく。どれもセゲル自身と強さの変わらぬ精鋭たちだ。
「あ、ありがとう、助かった……」
 セゲルを見上げて、助けられた嵐が礼を述べる。顔を見て、それから足を見た。身体は震えているようだった。
「猟兵を戦闘で助けられる者が同じ猟兵しかいない以上、助けることは当然だ」
 鋭い牙の生え揃った大きな口を開き、大したことはないとばかりに一笑してみせる。
 事実、戦う者を助けられるのは仲間か、あるいはそれよりも上位のものだ。だからこそ、共に戦い、共に助け合う。人も、ヒーローも、そして猟兵も。
 銃声と剣戟の音が飛び交う中でセゲルが問う。
「お前さんはまだ戦えるか?」
「……怖いけど、身体は動く」
「上等だ。戦うために身体が動いている内は“死んでいない”」
 嵐は頷き、セゲルに並び立つ。戦う者として、そして生者として、彼はまだ死んでいない。
 そしてセゲルが次に目を向けたのは、救助したヒーローだった。
「ここは俺たちに任せておけ。お前さんと同じように、助けを求めている兄弟がいるんだろう?」
 ならば今、何をするべきなのか。
 そんなことは火を見るよりも明らかだろうと、言葉にせずとも瞳で伝えて。
「……っ、ありがとうございますっ!」
 一礼を残して、ヒーローは他の兄弟たちへの救援へと向かった。それを見送り、さて、とセゲルはオブリビオンたちに臨む。
「さて、場を預かってしまった以上、きっちりやることをこなさなくてはな」



 ヒーロー。それはみんなのために戦う者たち。
 誰かの窮地に颯爽と現れては悪を挫いて人を助ける。それはまだ幼いパームであってもどこかで聞いたような話だった。

「――陽の下、月の下、幻想を創りだそう」

 パームのその言葉を合図にして、狭間から流れ出した旋律が戦場に響き渡る。アップテンポで勇ましい、そんなメロディ。
 パームは非力だ。拳や刃で物事を解決する力を有さない。だから自分はきっと彼らのようなヒーローではない。
 それでも、やれることはある。できることがある。
「私は、私の歌が届く誰かを助けるよ。届けられるだけの人を助ける」
 それがパームのやれることで、できることだ。
 歌の届く先はヒーローたちかもしれないし、猟兵たちかもしれない。
 届きさえすればきっと誰かを、人を助けることができる。それはきっと、自分自身を助けることに繋がるのだから――。
「この世界のヒーローたちの趣味は知らないけれど、こんな歌はどうかな」
 イントロが終わって、パームは歌を歌い始める。彼女の知るヒーローたちが好んでいた詩を。
「♪立ち上がれ 闇を払え 燃え上がる想いをその胸に」
 熱い律動、勇ましい曲、心を奮い立たせる詩。
 燃え上がる炎のような光で照らす、そんな歌。
「♪武器をとり 戦い続ける 人々の平和を守るため」
 銃声。剣戟。悲鳴。雄叫び。戦場の恐ろしい音の中でも旋律は響き渡って、あまねく戦う者たちの心を奮い立たせる。
「――胸に燃ゆるは熱き想い、腕に宿るは猛き力。その想いを盾に、その力を刃に。……頼んだ!」
 パームの歌に背中を押されるように、嵐が兵士の霊を呼び出す。呼び出された彼らもまた、セゲルの兵士たちに加わりオブリビオンたちへと立ち向かって行く。
 勇壮な音楽が響き渡る中で、戦意の高揚した兵士たちは戦い続ける
「♪たとえ暗闇の中だとしても たとえ孤独であったとしても 手を取り合おう 共に戦おう 独りと独りが繋がれば それはもう仲間だから」
 伝われ、と。そう念じながら、思いを乗せて彼女は歌う。
 少しでも良い。欠片でも良い。伝わって欲しい。
 みんなに、そして――自分自身にも。

 そうして、彼らは戦った。悪と、そして過去の怪物と。
 これは戦う者の物語。
 あるいは、それを助ける者たちの――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
◎(連携も歓迎)

オレはヴィランじみた外見や振る舞いだが…正しき者が救われない結末は大っ嫌いなのさ
助けよう、ヒーロー達。敵対する輩を八つ裂きにしてでも、ね

【調律・機神の偏祝】を使用
【メカニック】【ハッキング】、持参のヘルメス始め高度情報体を駆使し周辺情報を収集
最も苦戦しているヒーローを特定、手助けを

ヒーローを始め、深手を負う一般人がいたら【医術】で診察
症状に合わせて薬効調整したノドンスを服薬して貰い応急処置
先程の分析結果を元に、最も安全なルートで逃がす

オブリビオンには【属性攻撃】【範囲攻撃】を付与した【全力魔法】
詠えよ、我がルーン。凍て付かせよイス、押し潰せよラーグ。一匹たりとも生きて帰すなよ?


雷陣・通

こういう時は言う台詞は決まってるんだ!
「大丈夫だ、俺達が――Hero to Heroが来た!」
「後は俺達へ任せてくれ」

さて、相手は棒術使いで、鎖使いで、高速で動く
だが問題はねえ!
地面に杭を打つように足を踏ん張り、一歩一歩と進み
視力を持って攻撃を見切り、カウンターで影の鎖を『手刀』で両断
攻防一体、正中線を揺らさず、正道を進み、拳を振るわん
逃げようものならイナズマカッターを投擲して雷属性とマヒ攻撃を乗せてやる

「棒術の特性は汎用性にある」
殺気を込めた残像をフェイントにスライディングで距離を詰め
棒を『手刀』で切断
「で、お前は杖術は使えるのか?」
二回攻撃、首元に手刀を叩き込み、そのまま引き回して膝!


ティアー・ロード

「多くの乙女が楽しむ祭典を狙うとは
例えケモ耳があろうともこの私が許さん!」

「まだやれるかな?異郷の同士くん」
「そう、私もヒーロー(マスク)!涙の支配者さ!」

「さぁ、ヒーロータイムだ❗
主題歌を流す準備はいいかい?」


使用UC は刻印「仏心鬼手」!
強力な念動力で敵が行う味方への攻撃を剃らしたり
回避が必要な場面の味方に移動の支援を行うよ
「おっと、危ない危ない」
「私の手が届く範囲でヴィランは栄えない!」

私自身が鎖で攻撃されたら念動力で跳ね返そうか
「チェーンデスマッチ希望かな
生憎体が無くてねぇ」
「自分に巻くといい、お似合いだよ?」


「ところで同士
これはとても重要な確認なんだけど……
君たちに姉妹っている?」



「――いた。あっちに少年ヒーローがいる」
 モノクルを覗き込みながら、建物の裏手の方を指差すのはヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)だ。彼は魔帯に編み込まれた高度情報体を利用して、モノクルの倍率を上げる。“ヘルメスの片視鏡”と呼ばれるそれは、物質を透視して建物の向こう側で膝を付くヒーローの姿をヴォルフガングに視せていた。
「あれは……一般人を守っているところかな。少しまずそうだ」
「それはいけない、急がなくては。うら若き乙女であったなら尚更速く!」
 ふわふわと宙を浮いたヒーローマスクのティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)が飛翔し、ヴォルフガングの指し示した方向へと屋根を飛び越えて向かって行く。
「うおー、仮面のねーちゃんライトニング速えな! 負けてらんねえぜ、なあ狼のにーちゃん、俺たちも行こう!」
「そうだね、あんまり余裕もなさそうだ。付いて来て」
 興奮する雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)を連れて、ヴォルフガングは建物の裏へと駆けて行く――。



 今まさに眼の前の獲物へと飛びかかろうとするオブリビオンを、念動力で取り押さえることは容易だった。
「コードセレクト、ザ・フォース!」
 現場に急行したティアーはその仮面の身体にサイキックエナジーを纏ったかと思うとそれを放射することで振り被られた敵の武器を掴み取る。ぐ、とオブリビオンが武器を引くが、不可視のサイキックエナジーに固定されたそれはまったくびくともしなかった。
「多くの乙女たちが楽しむ祭典を狙うとは、たとえケモミミであろうともこの私が許さん!!」
 そこへ颯爽とティアーは踊り出て、敵の注意を引く。数体のオブリビオンの注意が一斉にこちらに向いた。
 ふわふわと宙に浮きながら、背にしたヒーローへ声をかける。
「まだやれるかな? 異郷の同志くん」
「お前は、まさか……」
「そう、私もヒーロー! 涙の支配者、ティアー・ロードさ!」
 よほど絶望的な状況だったのだろう。突然の増援にヒーローは驚いたように目を瞬かせ、そして血だらけの顔でありながらも安心したように口角を上げた。
「助けに来てくれたのか、ありがとう……。でも奴らは――」
「大丈夫だ!」
 駆けつけた通が戦闘態勢に入りながら力強く応える。
「俺達が――Hero to Heroが来た。だから後は俺たちに任せてくれ!」
 まだ幼い彼の背は小さく未熟だ。だが、それでも任せられるに足る自信と実力を通が持っていることは、助け出されたヒーローにもわかった。
「すまない……」
「謝るようなことでもないよ。さ、応急手当をしよう」
 蒼い霊薬の入った小瓶の蓋を乱暴に歯で開けて、ヒーローに経口摂取させる。内容はノドンスの霊薬と呼ばれる、魔導機術によって精製した開発中の薬だ。服薬するとあらかたの怪我や疾患の治療効果と滋養強壮の作用をもたらす。今回精製されたそれもその効用に違わず、ヒーローの傷を癒やしたのかその苦しそうな表情を和らげさせた。

 救助が進んでいることを確認し、ティアーはオブリビオンたちへと向き直る。
 不可視のはずのサイキックエナジーが、ティアーの周囲を陽炎めいてゆらりと揺らした。一転攻勢の姿勢だ。
「さあ、ここから先はヒーロータイムだ! 主題歌を流す準備は良いかい?」
 言葉と共に、ティアーのサイキックエナジーが迸った。不可視のそれが、時にオブリビオンを攻撃し、時に敵の動きを阻害することで撹乱する。
 そこへ飛び込むのは通だ。
 徒手空拳の彼は一気に距離を詰めようとするが、オブリビオンはまず不可視の妨害よりも正面にいる通に対処することを選んだらしい。妨害される棒を諦め、黒い霧のような呪いのオーラを身に纏って黒い鎖を射出する。
「――見えたッ!」
 鎖の軌道を瞬時に直感的に理解した通の回避は素早かった。サイドステップ、半身になることで正面被弾率を下げて紙一重の回避を演じ、両手を手刀にしてこれらの鎖を断ち切る。
 敵の攻撃を防ぎながら、敵の選択肢を奪い、なおかつ彼我の距離を詰める。まさに攻防一体。その進撃は幼い少年らしからぬ実力に裏打ちされたものに違いなかった。
 だが、接近は同時にデメリットを孕んでいる。ティアーのサイキックエナジーは精密操作が可能だが、そうであっても通が乱戦状態に入れば敵も味方も高速で戦うため誤って攻撃しかねない。だからと言って、通が飛び込まなければティアーの攻撃手段は決定打に欠けた。
 ゆえにティアーがやるべきことはただ一つ。彼の援護である。
 ティアーはもう一人のオブリビオンが横から通を狙って鎖を射出するのを見逃さなかった。
「おっと、チェーンデスマッチをご希望かな? 生憎と彼には先約があるみたいでね」
 不可視のサイキックエナジーが黒い鎖を阻み、掴み上げ、それを逆にコントロールすることで敵の身体へと巻き付ける。いくら高速で動くオブリビオンといえども、自分に繋がる鎖を掴まれてしまってはいかようにもしがたかった。
「代わりに私が相手をしようにも身体が無い。自分に巻くと良いだろう。その耳と合わさって、とてもお似合いだね?」

 一体が鎖で捕縛される一方で、もう一人はまだ健在だ。連携を得意とする胡狼兵だが、それは連携しなければ戦えないということを意味しない。
 敵の強さの本質は、その棒術にあると通は見ていた。高速、鎖、呪詛。どれをしてみても敵の主軸ではなくそれを支える補助の小道具に過ぎない。
 そして棒術の特性はその汎用性にある。突き、払い、振り回しの攻撃に始まり、受けや回避に用いることもできる。それでいてリーチは長く、中距離戦は棒術の間合いだ。この敵の射程圏内を潜り抜けなければ通の拳は相手に届かない。
「ライトニングにカッ飛ばぁすっ!」
 殺気を放ち、少年は身を屈める。強引に突破するかのような加速。
 当然それをやすやすと通す胡狼兵でもない。対応して横薙ぎに棒が払われる――が、しっかりと命中するはずだった棒は虚空を掻いただけで終わる。
 残像。それに気付いたオブリビオンは視線を上下に揺らす。横薙ぎの攻撃ならば、回避先は上か下。上ならば迎撃はまだ間に合うが――
 通がいたのは、棒の下。彼は残像を囮にスライディングで迫っていた。
 慌ててオブリビオンは受けに回る。敵の当身を警戒して、長棒を斜めに構えるが――
「いまだ!」
 それは通の手刀でもって切断されてしまう。
「――で、お前は“杖”術は使えるのか?」
 返答は棒を捨てることだった。最後の足掻きとばかりにオブリビオンは飛びかかろうとするも、接近戦は通の間合いである。首元に手刀が叩き込まれたかと思うと、胡狼兵の身体が横へ飛び、それを追い打ちするようにボディを膝で貫かれる。内臓を守る骨の無い腹部への攻撃をまともに食らった胡狼兵は地に転がされる。
「これで終わりだ!」



 そう、通の言う通りこれで終わりだ。
「さあ開演だ」
 外見も、振る舞いも、この世界で言うところのヴィランに似たものとして周囲に見られていることは、彼自身よく理解していた。いつの頃からそのように見せようとしていたかはもう思い出すのも苦労する。最初から、あるいは、背徳の都、犯罪者の街を故郷としていたからかもしれない。それとも人ならざるモノに成り果ててからだったか――。余人をしてそれは判然とはせぬが。
 だが、そんな彼をしても生来の“甘さ”は棄てきれぬものだった。“正しき者が報われない結末”を諦念によって割り切ることなく、それを彼は「大っ嫌い」と言って憚らない。
「――指令『法則を我が意の儘に、戯れの幕を落とさん』」
 だからその嫌いなものを撥ね退けようと、ヴォルフガングは「遊びはここまでだ」と幕を切って落とさせて、そして本気で戦う幕をその手で開く。
「助けよう、ヒーロー達。敵対する輩を八つ裂きにしてでも、ね」
 彼が宙に描くはルーン魔術の二文字だ。
 輝きを放ち、冷気を呼び起こすのは“Is(イス)”のルーン。
「詠えよ、我がルーン。――凍て付かせよ、イス」
 冷気は地を這い、オブリビオンたちの足元を瞬時に凍りつかせる。足を封じられたオブリビオンは、もう逃げられない。あとは始末されるだけだ。
 次に輝くルーンは水を意味する“Lagu(ラーグ)”の文字。
「押し潰せ、ラーグ。……一匹たりとも生きて帰すなよ?」
 無慈悲な瞳に宿るのは鋭い殺意。
 大量の水の奔流が突如として現れて、動けないオブリビオンたちを圧倒的な質量で押し潰した。
 入念に事前準備を済ませた魔法の、全力全開。容赦も慈悲も無い一掃。
 水浸しになったそこで、耳をピンと張って。ヴォルフガングは呟いた。
「……お祭り再開する時、これ片付けるのどうしよう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛


英雄祭……なんて素敵な響きなのでしょう
せっかくの催しを襲撃するなど断じて許せませんね……!

ヒーローの方に間近で会えてしまいますしっ
ちょっぴり、……とっても楽しみ
がんばりましょうね、ノクティス

常に挫けることなく立ち続ける、
その背に勇気づけられる者は多いことでしょう
人の心を支えられるヒーローこそは私の憧れ
私もそうで在りたい、そうで在らねばならないのです

参ります

藍色の龍『noctis』を夜星の槍へと変えて
覚悟を胸に槍を振るいましょう
攻撃は見切り、武器受けでいなして
【瞬き光】を浴びせましょう
動けなければただの大きな的に過ぎません
穿ちましょう、命絶つ一槍、串刺して



 英雄祭。
 なんと素敵な響きだろうか。三咲・織愛(綾綴・f01585)はその言葉一つに期待の高まりを感じずにはいられなかった。
 普段は小さな本屋を営む彼女であっても、やはりお祭りごとともなれば高揚もする。ヒーローたちにも間近で会えるとならば尚更のこと。それは彼女にとって、ちょっぴり――いや、とても楽しみなことに違いなかった。
 英雄。ヒーロー。
 それは常に挫けることなく立ち続ける者。それは巨悪に立ち向かう者。その背に勇気づけられる者は多いことだろう。
 織愛自身もまた、本に綴られた物語を通してその姿に勇気付けられた者の一人であり、記述の中で語られる人々の心を支えるその在り方に対して憧れを持つ者だった。
 だからこそ、そのヒーローたちと間近に出会える機会である英雄祭を襲撃するなど、織愛にとっては許しがたいことだった。
「がんばりましょうね、ノクティス」
 藍色竜ノクティスへと手を伸ばすと、小竜は一鳴きして夜星の槍へとその身を変じさせて彼女の手中に収まる。
 両手に槍を。瞳に殺意を。
 そして、胸には覚悟を。
「――参ります」
 言葉と共に、竜槍と共に。彼女はオブリビオンたち目掛けて疾走した。
 対するオブリビオンはその身を巨大な獣に変じさせる。大地を揺るがしかねないほどの咆哮を上げる。
 だが、織愛は怯むことはない。
 ノクティスが共に戦ってくれるから、というのもあるだろう。他の猟兵たちもいるという安心感も、きっとある。
 けれど一番の理由は――人の心を支えられるヒーローのように自分も在りたいという願い。そして、そう在らねばならないという、使命感にも似た思い。
 ゆえに、彼女はここで臆するわけにはいかなかった。
 敵の牙を、敵の爪を見切って回避し、槍を使って受け流す。敵は巨体なれどその俊敏性と反応速度は尋常ではない。まともにやり合っていてはまず勝てないことは目に見えていた。
 だから彼女は槍を構える。刃を点に向け、陽光を反射させるように。
「止まりなさい!」
 織愛の言葉に応じて、竜槍ノクティスはまるで夜のようなその刃から光を放つ。放たれた星光は軌跡を描いて獣へ迫り、その四肢を空へと縫い止めて動きを封じた。
「穿ちましょう」
 動かなければ、獣へ変じた胡狼兵などただの大きな的に過ぎない。
 振り被ったノクティスを、織愛は全力で投擲する。
 命絶つ一槍、過たず。昼間にあって夜の流星の如く空を駆けた竜槍は、獣の心臓を貫いた。オブリビオンは黒い灰へと変じて、ざあ、とまるで空が泣くように地に降り注ぐ。
「……まだまだ、遠いですね」
 呟いた一言は、どこに向けられたものか。誰へ向けられたものか。あるいは――どこにも向けられていないものなのか。
 槍から小竜へと変じて戻ってきたノクティスが一鳴きして、主人を見上げる。
「お祭り、再開すると良いですね」

成功 🔵​🔵​🔴​

ザザ・ロッシ


ヒーローズアース出身
事件に巻き込まれた現地民の体で参加

避難の最中
一般人の少年の耳が拾った慟哭は
彼を突き動かす力があった

ヒーローの元へ駆けつけ肩を貸して共に逃げようとするぞ
わかんねぇ
なんでこんなことしてるのか本当にわかんねぇ
けど、いつも助けてもらってんだから
今だけは俺が助けたっていいだろ

当然逃げられるわけないし
攻撃されるよな
だからせめてもの抵抗に全力パンチだ
力があるかどうかなんて関係ねぇ
俺は
いま
このヒーローを助けたい

え?
なんだいまの…
ユーベルコードか?
俺が使ったのか…!?


※演出上可能なら
リプレイ中に猟兵へ覚醒したという形でお願いします
アドリブや連携は大歓迎です
厳しければ遠慮なく流してください



 ザザ・ロッシ(野次馬民間人・f18629)が地元の英雄祭に来たのは、ひとえにヒーローたちを見に来るためだった。
 英雄祭は毎年ヴィランによるトラブルが多い祭事だ。それを毎年、英雄祭に詰めているヒーローたちがそれを撃退する。自分はその野次馬となって、ヒーローたちが戦う姿や怪我人を救出する姿へと喝采を送る。「ああ、自分もあんな風になれたならば」と思いながら。
 とはいえ、ザザにはヒーローのような特異な能力があるわけでもないし、アームドヒーローのように超兵器を持っているわけでもなければ、ヴィジランテのように戦闘訓練を受けて技量を鍛えているわけでもない。精々が、友達とのごっこ遊びの中で高所から飛び降て怪我をするのが関の山だ。
『緊急警報、緊急警報。一般人の皆さんは、職員の指示に従って避難して下さい』
 その日の英雄祭はどこか変だった。いつもは鳴らない緊急警報が鳴って、スタッフたちに避難を促される。誰もが切迫した表情で、混乱の中でどうやらオブリビオンと一緒にヴィランが戦っているのだと漏れ聞こえて来た。
「オブリビオンとヴィランかぁ」
 見に行きたい、という野次馬根性がむくむくと湧き上がって、会場の外へと避難する足が止まる。今回の警備ヒーローたちは兄弟ヒーローだ。彼らならばきっとオブリビオンとヴィランが相手でも勇ましく戦って、華々しい勝利を収めてくれるだろう――そう無邪気に信じていた。
 ――ふと、遠くから少年らしき悲鳴が聞こえて来た。
「……え?」
 今のは尋常ならざる悲鳴だった。転んだとか、そういった軽傷では到底出せないような悲鳴。
 表情から余裕が消える。遅れて、逃げ遅れた少年がいることに気付いたザザは、走っていた。避難する人たちとは、逆の方角へ。スタッフに任せるべきだとか、そんなことを考えられる余裕は一切なかった。ただ「助けに行かないといけない」という感情に衝き動かされて、彼は悲鳴の聞こえた方角へと走っていた。
「はぁっ、はぁっ……ここか……?」
 悲鳴の場所へ行くと、そこには赤が広がっていた。
 血だ。
 その中央には、少年が横たわっていた。
 一般人らしき彼が死んでいることに気付いた時、ザザは込み上げてくる嘔吐感で口元を抑えた。胃がむかむかして心臓の音がやけに大きく聞こえた。今まで怪我人だとかは野次馬の時に見たことはあるけれど、こんな小さな子の死を目の当たりにするのは初めてだった。そして、その死から自分自身の死を予感することも――。
「……そ、そうだ、ヒーロー……」
 震える声で呟く。ここにはヒーローがいるはずだ。
 周辺を見渡すと存外すぐに見つかった。ただし、満身創痍で捨て置かれた状態で。
「だ、大丈夫か!?」
 駆け寄って助け起こす。呻き声が返って来て、安心した。普段は華々しい活躍をしてきたヒーローは今や見るも無惨な状態になっていたが、それでもなんとか生きていた。
「ギメル兄さんが、俺のために囮になって……」
「しゃ、喋らないで。今、助けるから」
 緊張で手を震わせながら、倒れ伏すヒーローを肩を貸して助け起こす。
 そのまま半ば引きずるようにみんなが避難していった方向へと進もうとして――けれど、それは叶わなかった。
「オブリビオン……っ!?」
 よく考えなくても当然のことだ。ここはもはや祭りの会場ではなく戦場。そしてここでヒーローが負けていたということは、ここには敵が出て来ることを意味している。
「見逃しては、くれない、よな……」
 武器である棒を構えたのを見て、そっとヒーローを座らせる。
 手も足も、声も恐怖で震えっぱなしだった。立っていることも怪しい。
 だが、ザザは救いたかった。死んでいた子供の代わりに、せめて救えるかもしれないヒーローの命を。
 それがきっと、自分の憧れるヒーローそのもののはずだから――。
「う、うおぉぉぉぉおおッ!」
 大人しくしていても、抵抗しても死ぬだろうことは言うまでもないことだった。だからせめて足掻いてみせると決めたのも、また火を見るよりも明らかだった。力があるかどうかなど関係なしに、彼はこのヒーローを助けたいと、強く強く願ったから――。
 ――その願いにまるで呼応するように、拳に火が灯った。
 たかが弱者の抵抗と侮っていたオブリビオンが、殴り飛ばされて火に包まれる。
「な、なんだ今の……」
 ザザはただヒーローに憧れるだけの少年だった。
「――ユーベルコードを、俺が使ったのか……!?」
 こうして、猟兵になるまでは。

成功 🔵​🔵​🔴​

レン・オブシディアン

求められるなら応えましょう、それが"道具"の本懐ですから。
…彼らが共に戦う担い手で無いというのは残念ですが。

僕は地上から索敵し、劣勢に陥っているヒーローの救援に向かいますよ。
「――遅くなりましたが、後の事は任されましたよ!」
合流後はヒーローとオブリビオンの間に割って入り、大鎌を振るいます。
ユーベルコードで火の壁を作り出し、オブリビオンの気を引きましょう。

「大見得を切った以上この壁を通す訳には行きません。さあ、覚悟して下さいね」
敵は多数、ならば短く鎌を振るい隙を作らない事に注力します。
確実にオブリビオンの周囲を燃やし、致命の一撃を叩き込める隙を粘り強く探しますよ。
――此処ですっ、刻器、身撃!!


ラグ・ガーベッジ

「ああウザってぇ」
ユーベルコードによって硬質化した腕や足をビルの側面へと突き刺し
眼下の争いを面倒臭そうに見下ろしている

「アダムルスの野郎、妙な道具が有るから確認してこいだの人をパシりやがって……」
声に苛立ちが混じり始めた辺りで視線が止まる

「テメェはサボりとは良いご身分だよなぁ!?」
目にも留まらぬ速さで体の一部を変化させ、ビルの壁から弾かれるように飛び出していく

「刻器身撃!俺様の憂さ晴らしの為に死ね雑魚がぁ!!!」

飛び降りた勢いをそのままに
他のヒーローや猟兵を襲うオブリビオンの脳天めがけ
片足を長く鋭い刃に変え天空から貫くような飛び蹴りをかます

「ハッ……雑魚が雑魚を嬲って調子こいてんじゃねぇよ」


灰炭・炎火
【結社】
もう大丈夫! あーしが……きた!
ヒーロー達を助けたげる! 間に割り込むように入ってどーん!
ほらほら、オブリビオンの相手はあーしがしてあげるから、ヒーローは、ヒーローのやるべきことをやったって!

え、あーし?
あーしはけっ……(そうや、結社なのったら基本あかんやった! えーっとえっと)け、結構可愛い新人ヒーロー、そう……コールアッシュ・フレイムファイヤー!(ばぁーん)

……と、とにかく! ここはあーしにまかせて!
んー、大暴れはよくないからー……えいっ、【怪力】任せで、でこぴーん!

(しばらく戦ってから)
………………あれ? 
どったの? ニャメ。
なんか見つけた? ……居るの? 五番目が? 


伴場・戈子

よくやったねェ、ガキども。後は任せときな。安心しな、親が子供を守るように、アタシらがアンタたちを守ってやろう。独り立ちするまではねェ。

敵の数が多いね。ゴッド・クリエイションで手持ちの駄菓子に命を与えて、避難誘導やひよっこヒーローどもの支援に向かわせようか。ちょいと筋力を引き上げてやれば十分だろうさね。

おっと、勿論菓子人形任せにしてもいられないからね。アタシ自身は人を襲おうとしているオブリビオンと切り結ぼうか。
欲はかかず、時間稼ぎに徹するよ。

鼓舞の要領で市民にも声掛けしようか。慌てるんじゃないよ!時間はアタシが作ってやる!おさない、かけない、しゃべらない……だ。知ってるかい?


ビリウット・ヒューテンリヒ
◎ 

──バロウズ、やはり"いるんだね"
はてさて、どうなるかは私にも分からないさ
過去は見れても未来は記憶されないからねぇ
ここで終わるようであればそれまで
もしも"目覚めた"のならば…
ふふ、歓迎会を開かなくてはならないね

私は私の仕事をしよう
もう大丈夫だヒーロー、ここは私が請け負う
さぁバロウズ…たらふくお食べ

形態変化「アナイアレイション」
秒間80発の弾丸を吐き出すガトリングガンさ
壁を背に、薙ぎ払うように銃撃

さて問題です
過去に刻まれた記憶を参照できる私だが…
「今正に過去になっている弾丸たち」を再現するとどうなるでしょうか

高速移動?どうでもいいね
たとえ銃弾が個でしかなくとも
個を束ねた『面』で圧殺するまでだ



 ヒーローとはピンチの時に颯爽と現れるものだ。
 兄弟ヒーローの7男、ザインもそうだった。緊急事態の中にあって、一般人のピンチに駆けつけた。
 一般人を救出して逃がすところまではうまくいったが、その後がまずかった。敵の数と機動力を甘く見積もっていた。実力差はあれど、囮の役目さえ果たしたら自分もまた逃げ出そうという希望は儚く打ち砕かれ、ザインはオブリビオンたちに為す術もなく打ちのめされた。
 ここで死ぬんだな。地に伏しながら、去来する死の予感を受け入れ始めた頃。“それ”は来た。
 最初は何が起きているのかわからなかった。赤色の何かが通り過ぎたかと思うと、その軌跡上にいたオブリビオンたちが吹っ飛ばされた。
「もう大丈夫! あーしが……来た!」
 次に何が起きているのか信じられなかった。ザインの眼の前で飛ぶのは、赤い瞳に金髪のフェアリーだったから。



「君は一体……誰だ?」
 呆然とした様子で、今しがた助けたばかりのヒーローがこちらを見上げながら問いかけて来る。だから灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)はいつものように胸を張って、口を開いた。
「あーしは結――」
 結社の長針の“Ⅱ”、灰炭・炎火だと。名乗ろうとしたところで舌が止まる。
 彼女の所属する“結社”とは世に隠匿された、いわゆる秘密組織である。そしてその鋼の『掟』には、「いかなる場合であれ、結社の存在とその構成員について世に知られてはならぬ」という項目があった。そして炎火はその掟を生来の口の軽さから数ヶ月前に破ってしまい、始末書を書かされるハメになったばかりだった。
 このままではまた怒られる。なんとか誤魔化さなければならない。そう考えた彼女は咄嗟に機転を利かせる。
「……け、結構可愛い新人ヒーロー、そう! ――コールアッシュ・フレイムファイヤー!」
「なんだいそのトンチンカンな名前は」
 呆れたような声で溜息をつきながら現れたのは、大きな矛を担いだ老婆であった。
「えっ、あっ……?」
「ああ、言わなくったってアンタが何を言いたいのかわかるよ。アタシらが一体何者なのかって話だろう? アンタがそれを知る必要はないよ」
 困惑して目を白黒させるヒーローを見下ろして、ハン、と老婆は――伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)は鼻で笑った。
「ただ、ガキンチョにしてはよく耐えた方だ。――後は任せときな。アタシらがアンタたちを守ってやろうじゃないか。親が子を守るように、独り立ちできるまでねェ」
 ひゅん、と担いでいた“アンチノミーの矛”を振るいながら、彼女は懐から何かを振り撒いた。
「受容しな、アンチノミーの矛」
 駄菓子だ。何十と空に撒かれたそれらへと矛がかざされると、そこに生命が宿り、擬似的な手と足が生えて来る。【ゴッドクリエイション】、神なるものが使える、創造物に生命を吹き込むユーベルコードだ。手足の生えた菓子人形たちは、三々五々に散って避難誘導やヒーローたちの支援へ向かう
「さあ、仕事の時間だよ、アンタら! 菓子人形どもに遅れを取ったらタダじゃおかないからね!」
「ひぇぇっ、あ、あーし今回はニャメ使えないから、その分ちょっと補正がかかったりとかは……」
 オブリビオンを純粋な腕力でもって吹っ飛ばした炎火が戈子をうかがうが、鼻で一笑に伏されて終わりだった。戈子もまた結社の構成員、ナンバーズの一人。その中でも古参であり、ご意見番としてナンバーズたちを見守る役目を負っていた。
「大丈夫さ、炎火。いつも通り頑張っていれば戈子殿も認めてくれる」
 銃を手にしたビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)が、薄く微笑みながらフォローを入れる。
「だから私たちは私たちにできる仕事をしよう。そうだろう、レン?」
「ええ。オブリビオンたちから彼らを助けられるのは、僕たちだけですから」
 大鎌を担った青年、レン・オブシディアン(短針のⅪ・f17345)が頷きを返しながら言う。
 ビリウットとレン。この二人もまた、結社の構成員だった。比較的最近になって結社に加わった二人は、戦いを前にしてそれぞれ意気軒昂としているようだった。
「僕も求められたならば応えますよ。それが“道具”としての本懐ですから」
 言い終えるや、レンは手にした“モトの大鎌”を振るう。黒曜石の刃が陽の光を照り返したかと思うと、それは赤熱してヒーローと自分たちの間に赤い炎の壁を作り出す。
「大見得を切った以上、この壁を通す訳には行きませんね」
 短針の“Ⅺ”たるレンが担い、またヤドリガミである彼自身でもある“モトの大鎌”はその名に冠したモトの名の通り『干魃』を司り、火と風を操る。それによって彼は炎の壁で戦場を区切ったのだ。
「――ここから先は越えさせません。覚悟して下さい」
 最初に動いたのは、レンだった。
 彼は長柄の大鎌をいつもよりも短く持つことで威力が出る大振りな攻撃ではなく、隙を生まずに手数を重視した攻撃を繰り出す。
 だが、オブリビオンとてさる者だ。赤熱する刃を躱し、受け流す。
 普通ならばそれで良かっただろう。だが、およそレンは――否、ナンバーズとは尋常ならざる者たちだ。
「燃えて下さい!」
 躱され、受け流された大鎌の刃はその特性を発揮する。避けた場所から火柱が上がるのだ。そしてその火柱はオブリビオンを取り囲むような半円形に形成され、第二の“炎の壁”となる。
「ここですっ! 刻器、身撃――ッ!!」
 逃げ場を断たれたオブリビオンへと、“モトの大鎌”を振り抜く。
 致命の一撃。赤熱した黒曜石の刃が胡狼兵の身体を質量でもって叩き斬り、燃え上がらせた。ゆらり、と元はオブリビオンだった黒い灰が炎の中で揺らめいて、不可視の生命力がレンへと取り込まれる。

 だがそれは、一対一での話だ。
 レンは“モトの大鎌”の特性上、一騎打ちのデスマッチに持ち込むことが容易だが、では他のナンバーズが、連携を得意とする複数の胡狼兵に襲われたらどうなるだろうか。
「どうでもいいね」
 ビリウットは長棒を構えてこちらを睨みつける胡狼兵へと冷たく言い捨て、“バロウズの魔銃”の銃口をオブリビオンたちへ向ける。
「さあ、バロウズ。……たらふくお食べ」
 ビリウットの――“飼い主”の言葉を合図に、まるで軛から解放された獣のようにその魔銃は周囲にある物を吸収し始めた。屋台、三角コーン、土や草、金網フェンス……。ありとあらゆる物が魔銃に喰われて行く。バリバリと、ムシャムシャと。それはまるで、魔獣が食い散らかすように。
 そして、喰らう魔銃はリボルバー銃だったその姿を、まるで牙を剥くように変貌させていく。大きく、無骨で、暴力的なフォルム。それは、ガトリングガンだった。

         全 滅
「形態変化――『Annihilation』」

 その名を知らしめるように、魔銃は“吼えた”。
 秒間80発の連射速度で弾を撃ち出す。いかに敵が多くても、高速移動しようとも、このガトリングガンに弾幕を張られてはひとたまりもない。
「さて、問題です」
 弾幕を貼りながら、飄々とビリウットは言葉を紡ぐ。
「私はレコード・キーパーだ。過去に刻まれた記憶たちを参照できる」
 かつてビリウットは世界の記憶、アカシック・レコードを守護する一族として生まれ、守り人として活動していた。その彼女が得意とするのは世界の記憶より現象を再現する『追蹤魔術』――。
「そんな私が『今ここで過去になっている弾丸たち』を再現すると……どうなるでしょうか?」
 答えは簡単。現実に解答が示される。
 『銃弾が発射された』という世界の記憶に刻まれた現象がその場で再現されて、そこから銃弾が現れる。現れた銃弾は、弾幕をより厚く、より広いものへと変える。個を束ねて作り出した『面』によって圧殺するまでだ。
 そこでオブリビオンたちに待ち受けているのは「蜂の巣になって死ぬ」というたった一つの結末だけである。

 だが。だがそれは、あくまでビリウットが固定砲台になっているから。
 機動力に優れた胡狼兵が、その長棒でもって三次元的な機動を実現し、恐るべき弾幕を乗り越えて彼女に襲い掛かったとしたら。ビリウットは弾幕の形成を中断せざるを得ないだろう。それはオブリビオンたちにとっての“隙”になる。
「――なんてことを考えてたんだろうねェ」
 だが、その意図を戈子が挫く。
 棒高跳びの要領で飛来して来た胡狼兵を“アンチノミーの矛”で貫いた。
 防戦の秘訣の一つとして、相手の立場になって考える、というものがある。こちらの持つ脅威へ対処しようと考える敵の思考を経験と直感、そして知恵によって読み解き、その企みを阻む。敵のやりたい動きを封じる。それこそが最大の防御になり得ると戈子は知っていた。
「ウチの子に手ェ出そうなんて太ェ野郎どもだねェ。そんなこと、このアタシが許すと思ったのかい?」
「やあ、ありがたいね戈子殿。こっちも固定砲台として集中できるってものだ」
 こと“防戦”に関して戈子の右に出る者は結社にいない。信頼と敬意を込めたビリウットの言葉に、戈子は口角を釣り上げる。
「ハッ、その感謝は全部仕事を終えてから言うんだね! ――さあ、これが終わったら避難誘導だ。『おさない』『かけない』『しゃべれない』を遵守させな!」

「『お』『か』『し』だよね、わかってるよばっちゃ!」
 妖精ならではの機動力を活かし、炎火が宙を舞う。彼女は無手でありながら、しかし三次元機動に切り替えて来た敵を空中で叩き落としていた。
 炎火はフェアリーでありながら、結社内でも“歩く災害”とまで称されるほどの怪力の持ち主だ。ゆえに今回、彼女の得物たる刻器“ニャメの重斧”は使わずにいた。彼女がひとたびその重斧を振るえば、地震の如き大破壊をもたらしてしまうからだ。
 そのことは彼女もよくよく理解していた。ゆえにこそ、敵を“ミンチの弾丸”にして周囲の建物を壊さないように配慮するようにしていた。
 そう、例えばデコピンぐらいの威力ならばちょうど良いだろう。
 飛び上がる敵の額を、軽く小突いてやるぐらいのつもりで爪弾く。すると敵は炎火の怪力から放たれるそのデコピンを受けてその軌道を直角に曲げて地面に叩き落とされる。
「このままパパっと終わらせて、みんなを避難誘導するし!」
 言ってから、ふと違和感を覚えたように炎火はあれ、と小首を傾げた。
「あれ、そーいや一人いないような……」



「ああ~~~~~~クッソウザってェ~~~~~~!」
 英雄祭の会場を見下ろす大きなビル。その壁面にラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)は取り付いていた。彼女はユーベルコードによって腕を硬質化させた刃に変え、それを壁面に突き刺すことによって下界の状況を面倒臭そうに見下ろしていた。
「あんにゃろう、妙な道具が有るから確認してこいだの人をパシりやがって……」
 結社の最古参より『英雄祭へ行け』という指令を受けた。それはまだ良い。だが、当の本人はどういうわけだか断固として行かないと言い張っていたのだ。
「俺がパシられてやるってのにテメェはサボりとは良いご身分だよなぁ!?」
 幸い、伝えられていた祭具の祀られていた本殿までは敵がまだ侵入できていなかったらしい。「杞憂じゃねぇかよ」と吐き捨てて、他のナンバーズたちが戦っている場所へと視線を移した。
「……ッあああああああ!!!! やめだヤメ!! こんなクソ面倒な見張りなんてやってられっかっつーの!!」
 突然癇癪を起こしたようにラグは叫んだかと思うと、ビルの壁面を蹴って弾かれるようにその戦場へと降下していく。
 結社のナンバーズの中には、その身を武器に変じることのできる“短針”と呼ばれる者たちがいる。ラグもまたその短針の一人であり、彼女は武器である己を高めることによって、その完成形である“クロノスウェポン”へ至ることを目的としていた。
 クロノスへと至るには戦いが必要だ。戦うことによって経験を積み、それによって自分の歴史を作り上げる。だから彼女はこんな敵が来るのだか来ないのだかわからない見張りなどやってはいられないのだ。
「刻器身撃――!」
 飛び降りの勢いをそのまま利用して。ナンバーズたちと戦うオブリビオンの一体の脳天めがけて、まるで日本刀のような刃へ変わった片脚を突き立てる。
「俺様の憂さ晴らしのために死ね雑魚がぁっ!!!!」
 天高くより落ちて来た刃は狙い過たずオブリビオンの脳天を縦に斬り裂き、その生命を一瞬で断ち切った。
「チッ、雑魚が雑魚を嬲って調子こいてんじゃねぇよ……」
 刃にしていた足を戻して、地に降り立つ。なぜだか異様に胸がざわついて、落ち着かなかった。
「おおー、ラグちゃんそないなとこにいたん? ちょっと探してまったん――」
 やけども、と続く炎火の言葉は、その手に握られた“ニャメの重斧”の震動によって遮られた。
「え、あれ? どったの、ニャメ?」
「これはどうやら……“いる”みたいだね」
 同じく何かを訴えかけるように震える“バロウズの魔銃”を見下ろして、ビリウットが呟く。
「ああ? いるって何がだよ?」
「もしかして、それって――Ⅴ番目が?」
「はてさて、どうかな。私にもわからないさ。私は過去は見れても未来は記憶されないからねぇ」
 ざわつく胸を抑えるラグ。震える重斧を抑える炎火。ビリウットは魔銃の示す方向を見遣りながら、ただ肩を竦める。
「ここは戦場だからね。ここで終わるようであればそれまで」
 けれど――
「もしも"目覚めた"のならば……。ふふっ、歓迎会を開かなくてはならないね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

十河・アラジ

ボクはまだ戦闘にはあまり自信が無いから今回はヒーローたちの支援をしよう
「生まれながらの光」、これで彼らの傷を少しでも多く癒すんだ
最低限彼らの邪魔になりさえしなければボクはどれだけ疲労しても構わない

立ち続ける彼らが人々の希望なら、人々を助けるのがヒーローなら
その希望を守るのは、彼らを助けるのはボクの役目だ
ボクはヒーローじゃないけど誰かを助けたいって思う気持ちはきっと同じはず
苦しい時に支えてくれる人がいることがどれだけ救いになるかボクは知ってるから
だからあなたたちの手伝いをさせて欲しいんだ

……それにボクはヒーローじゃないなんて言ったけど、ホントは少しだけ憧れもあるしね
がんばれ、ヒーロー!


ヴィクティム・ウィンターミュート
◎人手が最も少ない場所へ

ヒーローに向けられる棒の動きを【見切り】
棒を踏みつけて攻撃をインターセプト

ハロー
調子はどうだいヒーロー?
厳しそうなら下がっていい
まだまだやれるってんなら、ヴィランを頼むわ
ん?俺かい?
名も無きただの、端役だよ

さて、前座ども
ちょーいとばっかし居座りすぎたな
プロローグはもう終いだ

奴らの内一体のUC発動を【見切り】と【第六感】で察知
【早業】でUC準備、【覚悟】を決めて敢えて受ける
──エネルギー吸収完了だ
テメェらの死に化粧に相応しい血刃を受け取りな
【カウンター】で薙ぎ払い、一網打尽だ

悪ィけど、端役にも満たない連中が出しゃばりすぎだ
俺より上手く立ち回れるようになってから出直してこい


狭筵・桜人
ヒーローも大変ですねえ。
たまには人任せってのも悪くないと思いますよ。

エレクトロレギオンを展開。
満身創痍のヒーローさんと敵の間に割って入ります。

助けるのは構いませんけどねえ。
私が代わりに戦うとでも?いやいやまさか。
レギオンをバリケードにして避難誘導するんですよ。

防護を優先して配置。オブリビオンには砲撃の【一斉発射】で応戦させます。
私は一般人を流れ弾から【かばう】ように立ち回りますね。
ヒーローさんは余力があればヴィランの相手をお願いします。

何事もやれる人がやるでいいじゃないですか。
ご兄弟もいらっしゃることですし
心強い猟兵方もこの通り揃い踏みです。
ま、こんなときに一人で戦う必要はないってことですね。


ヌル・リリファ
“ひと”なら、たすけをもとめればいいんじゃないかな。ヒーローでも、ひとはひとでしょう?道具じゃないんでしょう?なら、つらかったら。いえばいいとおもうよ。
(道具は、人形はたすけを求めたりしないけど。ひとなら求めるくらいは自由だとおもう。)

UCを【全力魔法】で発動。
わたしのほのおは、怪我はなおすし、強化もするから。ヒーローでいたいって、まだたたかいたいって本人がのぞむなら。そのちからをかしてあげるはずだよ。

あとは、【見切り】【盾受け】とかで対処しつつ、【衝撃波】とかですきをつくって【カウンター】。【一斉発射】で攻撃する。
おおきくなってるんだから、あてるくらいはできる。
わたしは最高傑作だからね。



 正義には力が伴わなければ意味がない。
 それはある側面の真理であり、そして兄弟ヒーローの末子、テットの信条でもあった。
 だからこそ、鍛錬に鍛錬を重ねて人々を今まで守って来た。戦い続けて来た。
 だが、気付いてしまった。努力をいくら積み重ねようとも、越えられない実力差というものは存在する。それをこのオブリビオンたちの襲撃によって知ってしまった。
 背中には何人もの一般人たちがいた。会場の隅、袋小路に逃げ込んだのをこうして救出に来たのだが、何匹ものオブリビオンによって蓋をされるように自分も閉じ込められ、ゆっくりと嬲るように追い詰められていた。
「大丈夫、大丈夫だ……俺がなんとか、するから……ッ!」
 兄弟の中では最年少の彼はそれでもなんとか勝機を見出すべく、武器を握って戦い続けていた。だが、見えて来るのは暗雲ばかり。勝機どころか一般人を逃がす隙さえ見えて来ない。それでも、「助けてやってくれ」とは口にできても、「助けてくれ」とは口にしたくなかった。
 胡狼兵の一匹が長棒を振り上げる。
 ――もうダメか。
 そう思った矢先のことだった。黒い影が空から振って来て、長棒を足場にするように踏み付け、跳躍した。
 すと、と黒のマントをはためかせながら、地に降り立ったのは一人の青年。ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172だった。
「Hello, hero.(どうも、ヒーロー) ――調子はどうだい?」
 彼はテットに視線もくれずそう投げかけて胡狼兵たちと向き合う。
「厳しそうなら下がって良いぜ。まだまだやれるってんならヴィランを頼みたいんだが。できるか?」
「……お前は、猟兵か?」
「ん? 俺か。ああ、そうだな」
 ヴィクティムは頷きを返して、答える。
「――名もなきただの端役だよ、ヒーロー」



 ヒーローも大変だなぁ。
 というのが満身創痍のテットを見た狭筵・桜人(不実の標・f15055)の感想だった。こうして人を助けるために独りで戦い続けなくてはならないなんて、正気の沙汰ではない。それは敵の抱く敵対心を操作する術に長けた彼ならばよくよく知れたことだった。
「ま、助けるのは構いませんけれどねえ」
 そう言いながら、彼は百数十体もの小型戦闘用機械兵器を瞬時に展開する。
 だからと言って、彼らヒーローの代わりに敵の矢面に立つ必要はない。ヘイトコントロールとは敵に心理上の、あるいは戦力的な脅威であるものを演出してやることが重要なのだ。
 であれば、何もわざわざ自分が出る必要は無い。こうして数だけは多い機械兵器を前衛として展開してやるだけで十分だ。
「さあ、遊んでやりなさい」
 フィンガースナップ。ぱちんと鳴らせば、機械兵器たちの銃口がオブリビオンへと一斉に向いて、一斉射撃が始まった。弾幕が形成されたことにより敵の攻撃の手が鈍る。
「立てます? 歩けます?」
 一般人たちへ向けて語りかけると、避難誘導が始まることを察した彼らは立ち上がって頷きを返す。
「それは重畳。この人数を担ぎ出すのは骨が折れますし、それにそこまでは仕事として依頼されてませんからね」
 冗談めかして肩を竦め、桜人は一般人たちの誘導を始める。口でこそ冗談を口にしていた彼だったが、それでも防護を優先して、いつでも我が身を呈して一般人を流れ弾から守れるような位置取りを意識しながらの行動だ。
「そこの人、大丈夫ですか?」
 一人、足をくじいたのか歩くのが遅い人がいた。先に進む人たちのところへと機械兵士たちを移動させながら、自分はその人のフォローへと向かう。
「す、すみません……転んだ時に、足を怪我してしまって……」
「それなら、ボクに任せて下さい」
 横合いから少年の声がした。白と黒で分かれた不思議な髪の色をした少年、十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)だ。
「治療だったら、ボクにもできます」
「おっと、それは願ってもない申し出ですね。お願いできます?」
 アラジと怪我人、そして避難誘導中の一般人を見比べて、桜人は素早く判断を下した。敵であれば、守りが脆弱で被害を与えやすい避難誘導中の一般人を狙う可能性は高かった。
「ええ。やれます」
 アラジの頷きを確認して、急いで桜人は避難誘導中の方へと駆けて行く。
 アラジは一つ、深呼吸をしてからその身体から光を解き放った。
「落ち着いて、リラックスしてください。すぐに治りますから」
 聖者として生まれ持った聖なる光を当て続ける。
 ――誰かを助け、誰かを守る。
 アラジは自分の役目は一貫してそれであると自認していた。そして同時に、戦闘ではまだ第一線で活躍する猟兵たちと比べると、戦い慣れていないこともまた自覚していた。だからこそ、誰かを守るのではなく、誰かを助けることを今は優先する。それがきっと、誰かを助けることに繋がると信じて。
「……これで大丈夫ですよ」
「ホントに痛くなくなってる……。あ、ありがとうございますっ」
「急いで下さい。今度は、転ばないように。みんなは先に安全なところに行っているでしょうから」
 戦場となっている場所から少し離れた場所で待っていた桜人の方を指すと、ぺこりと一般人は一礼してそちらの方へ駆けて行く。
 それを見届けて、ふう、と彼は溜息をついた。聖者としての光を放つことで誰かを癒やすことは多大な疲労を伴う。額を拭ってから、そこにびっしりと脂汗が浮かび上がっていたことにようやく自分で気付いた。高速治療をしようとしたせいだ。
「……大丈夫」
 最低限、戦う猟兵たちやヒーローたちの邪魔にさえならなければ、自分はどれだけ疲労しようが構わなかった。彼らの安全に比べればあまりにも対価としては安い。
「すまない」
 横から声がかかって振り向くと、そこには満身創痍の身体のヒーロー、テットがいた。
「俺も治して貰えないか? できるだけ速くに。……俺も、戦わなきゃいけないんだ」
「そんな……」
 無茶な、と声に出してしまいそうになった。テットは外傷だけでもかなりの傷を負っている。外傷を治す程度の治療は可能だろうが、完治とまではいかない。最悪、戦っている内に死んでしまいかねないほどだ。
 だが、それはテットも理解した上でのことだったようだ。深く、深く、アラジへ向けて頭を下げる。
「頼む。治りきらなくていい。戦えさえすればいい」
「……治してやればいいと思いますよ」
 桜人が横から口を差し挟む。避難誘導を終えて戻って来たのだろう。おそらくは、今度はヒーローの方を回収しに。
「多分その人、治しても治さなくても戦いに行くでしょうし。それなら治した方がまだマシです」
 彼はいまだに頭を下げ続けるテットを見てから、アラジを見遣る。
「何事もやれる人がやるで良いと思うんですけどね、私も。この人にはご兄弟もいらっしゃることですし、それに心強い猟兵たちも揃い踏みなわけですし」
 でも、と彼は肩をすくめる。
「一人で戦われるよりは遥かにマシです。一人で戦う必要なんて、まるでないんですから」
「……わかりました。ボクも全力を尽くして治療にあたります」
 桜人の言葉を聞いて、アラジは頷きを返した。彼の全身から放たれる光が、その強さをいや増す。
「立ち続けるヒーローが人々の希望になるなら。人々を助けるのがヒーローなら。――その希望を守り、助けるのがボクの役目です」
 死線に送り出してしまうのだろうということを理解しながらも、はっきりと言葉にして光を放つ彼の表情は決然としたものになっていた。
 誰かを助けたいと思う気持ちは、きっとこのヒーローも自分も同じはずだ。苦しい時、病める時に支えてくれる人がいることは救いだ。アラジはそれを知っていて、だから彼らヒーローを助けたいと願った。その思いが痛いほどに理解できてしまったから――彼は治療せざるをえなかった。
 光の輝きを更に強める。アラジの呼吸が荒々しくなり、全身から汗が吹き出て視界がかすみ始めた。
「だいじょうぶ」
 ふと、横から少女の声がして、自分以外の光が加わった。霞む視界の中、横をみやるとそこにはミレナリィドールの少女、ヌル・リリファがいた。
「わたしのほのおも、怪我をなおせる。ふたりでやれば、すこしはふたんがかるくなる、とおもう」
 彼女は構築した術式で不死鳥の形をした炎を作り出し、それをテットに宿らせる。
「ヒーローも、りょうへいも。“ひと”なら、たすけをもとめていいとおもう」
 不死鳥を通して、治療のためのエネルギーの供給を行いながら、ヌルは独り言を呟くように続けた。
「ヒーローも、りょうへいも、ひとはひとでしょう? どうぐじゃないなら、つらかったら、いえばいいとおもうよ」
 人であれば辛いと思う感情がある。意思がある。そして、助けを求める自由がある。だから良いのだと、彼女は肯定した。
 道具は――人形は助けを求めたりなどしない。助けを求められたら、助けるぐらい。だからこそ、彼女は助ける。猟兵も、ヒーローも。人を助ける。
「……ありがとう」
 青褪めた顔色になりながらも、アラジはなんとか笑みを形作って礼を言った。それを少しだけ不思議そうな顔をしながら、人形であるヌルは頷くに留めた。
 二人の尽力の甲斐あって、テットの傷は急速に癒えた。アラジの光が大きく治療に特化していた分、ヌルの不死鳥の炎はそのリソースを大きく身体強化する炎の加護に裂くことができていた。
「ありがとう――行って来る!」
 治療してくれたアラジへ。戦うための加護をも与えてくれたヌルへ。そして、自分のことを理解して後押ししてくれた桜人へ。一礼を残して、彼は再び戦場へと向かって行った。



 ヴィクティムが桜人の放った機械兵器を利用しながら敵を惹き付けてからしばらく。
「すまない、待たせた!」
 テットが戻って来た。一瞥して治療を受けたことを理解すると、ヴィクティムは口角を吊り上げて笑う。
「待ってたぜ、ヒーロー。――さて、前座ども! ちょいとばかし居座り過ぎだな。プロローグはもうお終いだぜ」
 ばさりとマントを翻し、端役は敵役たちの前に立つ。こたびの自分の役割は、主役のための露払いだ。
 ゆらり、と胡狼兵の影が揺らいで、その全身を影が差したかのように暗く染め上げた。影武装形態だ。跳躍し、あるいは疾走して。オブリビオンたちはその棒術で、攻撃魔法で、端役こそが邪魔なのだとばかりに襲い掛かる。
 それを彼は――避けなかった。
「悪ィけど、端役にも満たない連中が出しゃばりすぎだ。さっさと降りな」
 棒に突き刺され、殴打され、攻撃魔法に貫かれ――それらは全て、無効化されていた。完全に脱力した状態の彼によって。
「――エネルギー吸収完了。ま、華々しく退場させてやるよ。テメェらの死に化粧に相応しい血刃を受け取りな!」
 そして、彼の右腕のサイバーデッキ“フェアライト・チャリオット”から赤が排出される。血の刃だ。
 勢いよく出てきたそれは、ヴィクティムの指定に従って敵だけを狙って飛び交い、その腕を、足を切り裂く。
「俺より上手く立ち回れるようになってから出直してこい」
 そうセリフを言い捨てて、たん、とヴィクティムはサイドステップを踏む。端役の役目は、これでおしまい。
 そして、ヴィクティムがどいたそこから、ヒーローが飛び出して、突撃して行った。

「がんばれ、ヒーロー!」――アラジは憧れ混じりの声援を送り。
「難儀なものですね」――桜人は半ば呆れたように見つめ。
「わたしはどうぐだから」――ヌルは自分にできる援護を行い。
「任せたぜ、主役」――ヴィクティムは自称の通りに端役に徹した。

 これは、誰かのために戦ったヒーローの話。
 そして、そのヒーローを助けた猟兵たちの物語だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『英雄賛歌』

POW   :    ショーを楽しむ

SPD   :    屋台を巡る

WIZ   :    パフォーマンスを楽しむ

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


~英雄祭 再開のお知らせ~

 英雄祭は毎年恒例の催し物です。
 例年ヴィランなどの襲撃が頻発する当行事ですが、今年はそれらと比べて比較にならない被害がもたらされました。
 ですが、これで伝統ある英雄祭を取り止めるのは悪人どもの思う壺です。我々はヒーローや猟兵有志による協力を得て、英雄祭を再開することと相成りました。

 会場には此度の襲撃で活躍してくれたヒーローと猟兵たちがおります。是非彼らを労って頂ければ幸いです。
 一部エリアはご利用頂けませんが、屋台ストリート、ヒーローショーやパフォーマンスは催しております。
 また、祭具『英雄の篭手』の一般開放イベントもございます。こちらは手に持つだけで、あなたが普段使っている武器や防具、アイテムから、意思なきはずの彼らが普段何を考えているのか『声』を聞くことができる不思議な祭具です。取り扱いは慎重にお願いします。

再開日時:6/9(日)08:31~
鏡島・嵐
【◎】
ふぅ、あの後は何とか最後まで戦うことが出来たし、束の間の休息ってやつだな。
……え? 確かにおれは猟兵だけど、大したことはしてねえよ。頑張ったのは兄弟でヒーローやってるアイツらの方だ。
一応、彼らにも挨拶していくか。お互いお疲れさんだ。何かおれに出来ることがあったら気軽に相談してくれ。

あとは一通り会場をぶらぶらしながら、祭を楽しむ。屋台で美味そうなモン物色したり、パフォーマンスを見物したり。
へえ、アイテムの声を聴ける篭手かぁ。面白いアイテムあんのな。
……一応おれ物持ちはいい方だと思ってるけど、向こうからはどういう風に見えてんのかな?


パーム・アンテルシオ
英雄の篭手…ものの、気持ち。
…気にならないって言ったら、嘘になるけど。
聞かなくても、わかってる事だから…ね。
だから、それよりは。

●SPD?
あの時、助けた彼は…無事だったのかな。
他のヒーローを助けに行く、みたいだったけど…
…直接話す必要はないから…遠目にでも、姿を見られたらいいな。
助けた人を。自分のした、できた事を。しっかりと目にして、認識する。
それは…必要なことだから。力になることだから。そうだよね?

そうと決まれば…順番に回っていこうかな。
まずは、屋台から。この世界の食べ物は、どういうものがあるのかな?ふふふ。
…別に、食べ物が気になるから、屋台から周り始めたわけじゃ…ないよ?

【アドリブ歓迎】



 ヒーローズアースは最近になって発見されたばかりの世界だ。UDCアースをはじめとした異世界と似通った箇所は多かれど、相違点はそれなりに多い。
「ええっと……ティル、グル……?」
 爪先立ちしてなんとか低い背を伸ばし、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は屋台を覗き込む。すると、店員の男が乗り出すようにパームに話しかけてきた。
「なんだいお嬢ちゃん、ティルグルを知らねえのかい?」
「初めて見るよ。これってゴマ団子なの?」
「団子(ダンプリング)とはちょっと違うな。これはウチの故郷のキャンディだ。どうだい、一つサービスしとくぜ」
「良いの?」
 やった、と九尾を揺らしながら、ティルグルと呼ばれるゴマを使ったキャンディを受け取り、口の中でころりと転がす。砂糖の甘さとゴマの風味がして、親しみやすくもエキゾチックな味だ。いくつか買うと、店員の男も喜んだ様子だった。
「~~~~♪」
 鼻歌を歌いながら、ころころとティルグルを口の中で転がしながら他の屋台も見て回る。ヒーローズアースの食物は独特ながらも親しみやすくて、パームは気に入ったようだった。ご当地のヒーローを模したファングッズや飴、ブロマイド付きの駄菓子が多く売られているのはなんともこの世界らしい。
 屋台巡りを楽しむ途中。ばったりと、オブリビオンたちとの戦いで共闘した青年、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)と出くわした。
「あれ。もしかして、歌っていた……」
「あ。あの時の……」
 どちらもそれなりに特徴的な格好をしているのだ、見間違えるはずもなかった。一旦合流、という形を取って、二人は屋台通りを歩いていく。

「――へえ。それじゃあ助けたヒーローを探しがてらに屋台見物ってところか?」
「うん。改めてここでパトロールしてるみたいだから、遠目にでも見られたら良いかなって」
 どこぞのヒーローをモチーフにしたフランクフルトにかぶりつく嵐の表情は、戦闘時とは打って変わって、本来の快活さを取り戻していた。それに対して、横で並び歩くパームの表情はどこか浮かない。
「もったいないな。どうせなら、一応でも挨拶した方が良いと思うけど」
「うん、まあそうなんだけど……なんて声かけたら良いかわからないし」
 からん。パームが困ったように苦笑すると、頬の中ですっかり小さくなってしまった飴玉が転がった。
 甘いケチャップのついたフランクフルトを嚥下して、嵐が口を開く。
「そんなの簡単だ。『お互いお疲れさん』とか、『なんかできることあったら気軽に相談してくれ』とか……。いや、後半はおれじゃなくて、お前が言う分だけどさ」
 戦闘中のパームの歌で精神的にだいぶ救われた部分がある手前、見栄を張り切れない様子ながら彼は「他には……」とかける言葉を捻り出す。
「そういうので良いのかな」
「良いんだよ。ほら、そろそろヒーローのいるところに着くぞ」
「えっ。もうつくの?」
 遠目に見て無事を確認したら本当にそれで満足するつもりだったのだろう。嵐に置いて行かれて少しばかり逡巡してからふるふると首を横に振り、パームは慌ててその背を追う。
「あなたたちは助けて下さった猟兵の!」
 二人が近付いて行くと、ヒーローの方もこちらに気付いて手を振って来た。自分たちが助けた兄弟ヒーローの次男、ベートだ。彼はちょうどファンの少年少女たちを相手にしているところだったようだ。
「襲撃の時はありがとう。お蔭で兄弟のピンチを助けることができたよ」
「お疲れさん。邪魔だったか?」
「いやいや、恩人に対してそんなことは言わないさ」
 笑うベートの腕やら脚に子どもたちがぶら下がる。べったりの状態だった。
「おにいちゃんとおねえちゃん、だれー?」
「お祭りを守ってくれた人たちだよ。俺たちを助けてくれたんだ」
「じゃあヒーローなんだ!」
 すごーい、と男の子が声を上げ、わいわいと子どもたちが嵐とパームのところへ群がる。幼い彼らからしてみれば、ヒーローを助けられる者と言ったらヒーローなのだろう。
「いやおれは猟兵だし、大したことは――」
 子どもの純真な言葉に、思わず嵐はたじろぎながらも照れ隠しに謙遜を口にする。
「リョーヘー?」
「それってヒーローよりも強いんだ! すげー!」
 だがそこはやはり子ども相手。通じるわけがなかった。「ブキ見せてブキ!」「チョーノーリョクとかないのー?」と怒涛の勢いで質問攻めに遭う。
「だから頑張ったのは兄弟でヒーローやってるアイツらの方でなー!」
「でもにーちゃん助けたじゃん! ねえベートにーちゃん?」
「そうだね。戦ってる時に来てくれなかったらピンチだったわけだし」
「あっ、お前ベート! もしかしてなすり付ける気だったな!?」
 子どもたちに腕やらマフラーやら引っ張ったりぶら下がられたりもみくちゃにされながらも、けれど無理矢理振り払えないのはやはり人柄だろう。恨めしそうな視線をベートへ向けるが、フリーになったヒーローは「さてなんのことやら」と肩を竦めるだけだ。

「そっちの君もお疲れ様。君の歌、兄弟を助ける時も聞こえてたよ」
「……うん。お疲れ様」
 苦笑いしながら子どもたちと嵐とのやり取りを見守っていると、ベートが話しかけて来た。少しだけ対応がぎこちなくなってしまう。
「……そっか。私の歌、ずっと聞こえてたんだ」
「ああ。勇ましい歌だった。まるでフィクションの中で歌われる挿入歌みたいだったよ」
 ある意味ヒーローらしいたとえに、思わずパームは笑みを零してしまう。
「気に入って貰えたなら、嬉しいな」
 笑みを形作るその裏側で。ふと、このベートを助けていなかったならこの感想も聞けなかったのだろうな、と考えてしまう。
 直接話す必要はない。遠目に姿を確認するだけで良い。
 最初こそ、そんな風に思っていたけれど。
 自分が行ったこと。自分が成し遂げたこと。自分が助けた人を、こうして実際に言葉を交わすことは、パームの何よりの達成感として胸の内に残った。きっと、これを繰り返すことで彼女は力を付けていけるのだろう。そしてそれはきっと、嵐にしても同じことだ。

「そうだ、今祭具が一般公開されているんだ。君たちも触れてみたらどうかな? 物の声が聞こえるようになる、不思議な力が秘められているらしいんだ」
「――はいっ! 行く! おれ行く!!」
 ふと思い付いたようなベートの提案に、子どもたちにもみくちゃにされている嵐がいち早く反応を示した。どうにか子どもたちの熱烈な歓待から逃れたいのだろう。
 遊び足りない子どもたちをなんとかなだめすかして、三人は祭具のあるテントへと入る。……子どもたちを連れて。
「……おれは羊飼いじゃないんだが」
「ははは、確かに。学校の社会科見学みたいになっちゃったね」
「私はどっちかっていうと、カモの親子みたいだなって思ったけど」
 付いて来る子どもたちを見ながら、三者三様の表現をするのはやはり生まれ育った環境の違いか。
 ともかく、テントに入るとなるほど確かに。そこには祭具が――古ぼけた鉄の篭手が祀られていた。年季を感じさせる外見ながらも、けれどよく手入れされていることが伺える。
「これがサイグー?」「みせてみせてー」「さわりたーい!」
「触るのはもう少し大人になってからね」
 祭具を手にベートが子どもたちに言うと「ええー」と不満げな声が返って来た。
 眼の前の篭手にパームはまじまじと見入ってしまう。
「これが祭具なんだね……」
「触ってみるかい?」
 ベートに篭手を差し出されるも、パームは眉尻を下げながら、困ったような笑顔でそれを手で遮る。
「……いや、遠慮しておくよ。気にならないって言ったら嘘になるけど、聞かなくてもわかっていることをわざわざ聞く必要はないから」
「それならおれが触ってみたい。一応物持ちは良い方だと思ってるんだけど、向こうからしてみたらどういう風に見ているのか気になってさ」
 それじゃあどうぞ。ベートが差し出した祭具を手に持つ。
『――おい、坊主』
「うわっ、本当に声が!?」
 低い、男の声がした。きょろきょろと辺りを見回すが、当然それらしき者はいない。
 声のした方向は嵐の身に付けるポンチョの中からだ。ごそごそと声のしたところを探ると、使い込まれたハーモニカが出てきた。
『ガキどもに振り回されっぱなしじゃねえか』
「く、口調がヤンキーだ……」
『うるせえほっとけ。……それより、ガキどもの相手なら俺があるだろ? さっさと吹きな』
 驚きの余りに瞠目する嵐。ハーモニカの言葉に流されるように、その吹口に唇を当てる。
『そう、そうだ。ガキどもにゃ明るめのメロディが喜ばれる。……おっと、ミスるんじゃねえぞ、ガキどもは動揺に敏感だ』
「わあー、にーちゃんハーモニカふけたの?」「すっごくきれいなおとー!」
『よーしよし。うまいことやれてるじゃねえか。……こうすりゃテメエももみくちゃにされることもねえ。そうだろ?』
 ノスタルジックでありながらもノリの良い音色を奏でながら、そうだな、と胸中で嵐は頷きを返す。
 ふと、他の音色が混じり始めた。こちらの奏でる音に寄り添うような、優しく柔らかい音色。どこから聞こえて来るともしれない音の流れ。そこへ、歌が加わって来た。
「――――――♪」
 パームだ。メロディも、歌も。彼女の身に付けたユーベルコードによるものだった。

 それから、しばらく。ハーモニカによる指導のもとで、二人は子どもたちへの小さな小さな音楽会を開くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ

【SPD】
もう水、嫌い…(水を除けた疲労でぐったり)
けど誰かの涙も大っ嫌いだから、ね。手は抜けないさ

ヒーロー達を見掛けたら健闘を讃えつつ…英雄の籠手?珍しいものもあるんだね
声を聴くのであれば最初からの相棒、この鞭かな
忌まわしい故郷からの…80年は硬いお付き合いとはお互い年を取るもんだ
「お互い外見は変わってねーだろ」…はは、それもそうだ!

生きる為に、願いの為に、君で何人の敵を屠ってきただろうか
「100から先は数えてねーな」…そうだね

オレは死ぬわけにはいかない、悲願を果たすまでは
だからきっと、これからも多くの敵を屠るだろう
老いも若きも、善も悪もなく…敵ならば、全て
悪いが、地獄の底まで頼んだよ



「もう水、嫌い……」
 水切り用のワイパーを杖に、ヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)は大きな溜息をつく。
 オブリビオンとの戦闘で一時は水浸しになった会場だが、彼の多大な労力と時間を犠牲にその姿をなんとか取り戻していた。
「……けど、誰かの涙も大っ嫌いだから、ね」
 だから彼はオブリビオンの襲撃から人々を助けたし、だから彼はお祭りで残念な思いをさせないようにこうして水捌けをした。“大っ嫌い”を遠ざけるために手は抜けない。
 ヴォルフガングが借りた備品を返すために運営事務所になっているテントへ向かうと、そこにはちょうど兄弟ヒーローがいた。ヴォルフガングたちの助けたヴァヴだ。
「ああ、ヴァヴ。怪我の方はどうだった?」
「お陰様でピンピンしてるさ。すごいな、あの薬は」
「まだ試作段階だけどね。副作用とかあるかもしれないから、何かあったら教えてよ」
 もちろん、とヴァヴが頷くのを見て、少し安心する。霊薬と言えども予後経過の観察は重要だ。
「何にせよ、お前たちが助けてくれたお陰で俺もこうして生きてるし、祭りも再開できた。ありがとう」
「オレたちがオブリビオンの相手をしている間、ヒーローたちがヴィランの間をしてくれたお陰でもある。そうでしょ?」
「ヴィラン撃退まで取られちゃかなわんさ」
 ははは、と二人で冗談に笑いながら、ヴォルフガングは借りていた水切りワイパーを事務所の定位置に横たえる。
「そういえば、英雄の篭手はもう触ったか?」
「ああ……アイテムの声が聴こえる篭手なんだっけ」
「一般人の他に守れた成果なんだ。事務所の隣にあるんだし、いっぺん触って来たらどうだい?」
 ヴァヴの提案に、ふぅむとヴォルフガングは考えるような素振りを見せる。見せるだけで興味はあったし、その長く豊かな尻尾はばっさばっさと横に揺れていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」



 テントには、古ぼけた鉄の篭手が祀られていた。
 実際に触れてみるが、何か光が溢れるだとかいったことは起きない。しばらく待っていても何も聞こえず、ヴォルフガングは首を傾げてしまう。
「聞こえないな……。まあ、長い付き合いだから寝ちゃってるのかもしれないけど」
『あ゛? 勝手に俺を年寄り扱いするんじゃねえよ』
 仕方ない諦めるか。そう思って独り言を呟いた矢先に、ヴォルフガングの持つ鞭から声がした。
「……ホントに話した」
『話しちゃ悪ィかよ』
「ううん、嬉しいよ。……あの故郷から80年以上の長い付き合いなんだ。こうしてホントに話せることがあるなんて、お互い年を取るもんだ」
『お互い外見は変わってねーけどな』
「……はは、それもそうだ!」
 愛執の呪い。それによって彼は齢100にまで達していたが、外見は年若い青年にしか見えない。それなりに便利に思うことも、不便に思うこともあるこの呪いだが、こうして冗談として笑い合えるのはこの鞭が同じ時を歩んで来た者であるがゆえにだろう。
「生きる為に、願いの為に、君で何人の敵を屠ってきただろうか」
『テメーが食った歳の数よりも多いことだけは覚えてるぜ』
「それって100から先は数えてないってこと?」
 そういうこと、と声が返って来て、呆れたように苦笑してしまう。
『この際だ、単刀直入に聞いちまうが――テメエ、こうやっていつまで生きていくつもりだ?』
「……さあ、どうだろう。少なくともまだ死ぬわけにはいかない、かな」
『テメエの悲願とやらを果たすまでか』
 うん、と頷きを返す。
 ヴォルフガングは人狼だ。人狼は一般的には寿命が短いとされているが、彼がわけても例外的に長寿であるのはその“呪い”による不老のお陰である。
 長い長い時に晒されたことにより、ヴォルフガングの記憶は風化してしまっていて。遠い遠い昔にいた、双子の妹やあれほど愛しいと思っていた養子たちの顔は、もう細部が曖昧にしか思い出せない。多くのものを長い時間の中で取りこぼしながらもなお、彼は自分の望む悲願を果たしたいと、そう強く願っていた。
「だから、きっと。きっとこれからも多くの敵を屠るだろうね」
『ああ、俺たちはいつでもそうして生きてきた』
「老いも若きも、善も悪もなく……。敵ならば、全て屠って来た」
『死んだら地獄行きじゃ済まねえだろうな』
「はは、そうだね。……それじゃ、悪いが地獄の底まで付き合っておくれよ」
 ああ、と。鞭からの返答が聞こえて来て。
 それからぱったりと、長年の相棒からの声は聞こえなくなってしまった。
 英雄の篭手へと再度伸びかけた手を、一瞬の逡巡の後に引っ込めて。ヴォルフガングは踵を返す。
 立ち止まっては、いられなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヌル・リリファ
道具のこえ。

それは、すこし。きになる。

わたしのけんは、わたしがつかいてで満足してるのかな?
わたしはけんの達人ってわけじゃないから。マスターがつけた機能にたすけられてるばかりで、つかいこなせていないとおもうから。

(問題ない。
貴方のためにつくられた剣だから。
貴方はまだまだかもしれないけど、貴方以上に使い熟せる人はいないから。
十分、大切に扱ってくれている、と。)

そっか。
わたしは、マスターの意思ならなんでもしたがうけど。
……道具としてうまれたからにはつかってほしいとはおもうから。

貴方もそうなのかもしれないね。
いつか、完璧に性能をひきだしてみせる。それまでつかう。
だから。これからも、よろしくね?



 道具の声。
 英雄の篭手に触れれば、それが聞こえるようになる、とヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)は聞いていた。
 気になっていた。
 少し。ほんの少しだけ。自分のような人形として作られていない、知性を備えられていない道具たちが、どんなことを話すのだろうか。
 剣を一本、抱えるように両手に持って、英雄の篭手があるテントの中へと入っていった。刃の上に精緻な魔術刻印が施された、ルーンソードと呼ばれる不思議な剣。ヌルがマスターに与えられた物の一つだ。
 テントの中へと一人、入り。照明の下で、英雄の篭手に手を伸ばす。
「……おしえて、わたしのけん」
 篭手に左手を添えながら、右手の剣に目を落とす。
「わたしがつかいてで、満足している? ちゃんとあなたを、つかいこなせている?」
 ヌルの言葉へ応じるように、ルーンソードの刃が照明の光を鈍く反射する。
『問題ない』
 理知的な声。無機質なようでいて、それでいて冷たすぎない声。ルーンソードが返答する。
『私は貴方のために作られた。私は剣だ。不満など感じようはずもない』
「……でも、わたしはけんの達人じゃないから」
 思い浮かぶのは数人の猟兵たち。彼らはそれぞれの得物を手に、戦いへと身を投じていく。中には、自分のルーンソードと同じように剣を得物とする者でさえいた。
「マスターがつけた機能にたすけられているばかりで、つかいこなせていないとおもう」
 剣を得物とする他の猟兵たちと比較して、自分は剣というものを十全に使いこなせていない。それがヌルの出した自己評価だった。
 ルーンソードは流す魔力によって様々な効果を発揮する。それゆえに、純粋な剣技に頼らず戦うこともできた。振るえないというわけでもないが、自分は剣術に秀でているわけでもなし。ヌルはただよく斬れて、多様な機能を持つ武器としてしか剣を握れていない。それはヌルの都合だ。剣であれば、剣に意思があるとすれば、きっと剣本来としての運用をされることを望むだろう。
『問い返す』
 ルーンソードは理知的な声音のまま、ヌルに問いかける。
『貴方は魔造人形だ。ある種の兵器として定義が可能でもある。兵器とはすなわち戦う物だ。だが、貴方は戦う以外の行動をとってきた』
「それは……」
 その通りだ。欠けた記憶を探すため、あるいは自分を維持するため。ヌルは外の世界を渡り歩き、様々な物を見て来た。そしてあるいは、様々な人々たちと出会い、関係を築き上げた。
『兵器が戦う、壊す以外の運用をされているのであれば、剣もまた斬る以外の運用をされていても問題は無いと判断する』
「そういう、ものなのかな」
『客観的な評価として、貴方は未熟であり十全ではない。だが、貴方以上に私を使いこなせる人物はいないだろう。よって、私は充分に大切に扱われていると自己評価する』
「……そっか」
 は、とヌルの口から吐息が漏れる。そこに含まれていたのは、安堵か、嬉しさか、それとも――。
「わたしは、マスターの意思ならなんでもしたがうけど。……道具としてうまれたからにはつかってほしいとはおもうから」
 少なくとも、暗い倉庫の中で永い時間を眠り続けたいとは思わない。望まれて、機能を搭載されて、造り出されたからにはその機能を使われたいと思う。たとえ、この身が朽ち果てようとも。
『………………』
 剣は黙して語らない。英雄の篭手による、道具と会話する力が失せてしまったのだろう。
「あなたもそうかもしれないね」
 だから、言葉が返って来ないとわかっていながら。ヌルは感謝を示すかのように、ぎゅっとその剣を抱きしめて。
「いつか、あなたの性能を完璧にひきだしてみせる。あなたをつかいこなしてみせる。だから――」
 誓いの言葉を落として。剣の刃へ目を落とす。美しくも精緻な魔術刻印が、きらりと光を反射した。
「――だから、これからもよろしくね」

成功 🔵​🔵​🔴​

ザザ・ロッシ

【結社】

猟兵になったのが信じられずフラフラと人の動きに沿って歩いてたら祭具の前にまで来ていた
触れた後は聞こえた声へ走る

声が聞こえる?
いや武器なんか持ってない俺に聞こえたんなら
きっとどこかでまだ救助を待ってる人の声だ
いま行く!


……
どこから見ても要救助者じゃないよな
もしかして、俺のこと呼んだりした?
してないよな、そうだよな
ごめんやっぱ呼ん……

ウォアアア!?
突然女の子に剣が刺さって…いや生えてる!?
……でも、なんでだ
『俺はこの剣を知ってる』

結社? 俺の剣…?
なあ、力があれば俺にも命を救えるのか?
これがあればヒーローを助けられるのか?
それなら俺はなんだってやる
Ⅴにもなってやる!
この剣を
俺にくれ!


ハゼル・ワタナベ
◎【結社】

遅れて来てみたと思ったら…どーしたんだビリウット?
…最後の一人が現れただァ?
ハハッまさか、一体ソイツは何処に居るンだよ

しっかし、祭具…
武器本体の俺自身が触れたらどーなっちまうかは興味あるよな

(―聴こえたのは、血反吐を吐くような、死に際の男の声
語り口からしてまさか、俺の父親の?
…ンな、まさか)

振り払うように頭を振って、ビリウットと共にⅤの許へ
…おい、ラグは大丈夫なのか?
おい説明しろって!畜生…けど、そうか
お前が“最後の一人”ってンなら俺も迎え入れるぜ

「非日常側に踏み込むってンなら『結社』はサポートを尽くすぜ。
目的はまた追って話す。その剣を引き抜くか、否か。そいつはお前さんに任せるよ」


ラグ・ガーベッジ
【結社】◎

「アダムルスの野郎が調べろっつうから何だと思えば……」
「くっだらねぇ、たかが祭りの出し物じゃねぇか」
祭りで賑わう喧騒から少し離れ、屋台の串焼き片手に不貞腐れている

「あ"あ"?俺様以下の雑魚どもの声なんざ聞く価値あるかよ」
結社の仲間に祭りに参加しないのか尋ねられたら不機嫌そうに返す

「あ"?ンだこら俺がテメェみてぇな雑魚に助けヴェベボラ(ry」
ザザに話しかけられ追い払おうとした瞬間顔から剣が飛び出す

「……あ"あ"!?どう言うことだ!俺から剣を抜きやがった!?……変身、できねぇ……」
抜けた剣が、今まで変身することの出来た武器の1つであり
それが失われたことを自覚

「ざけんな返しやがれ!!!」


ビリウット・ヒューテンリヒ
◎【結社】

ふーむ
彼が目覚めた最後の一人か
適格者であるならば、最後の刻器は応えてくれるだろうけど

その肝心の刻器が無いのだよね
まぁいい、私も祭具とやらに触れてみよう

「埋もれていた中に、最後の一振り在り」

…?それはどういう
彼の悲鳴!まさか敵襲が

ん…なんだ、ラグといるだけか
──いや、ラグから剣?
戦闘態勢でもないのにどうして…ハッ!
まさかバロウズ、アレが?

「それは君の剣だ。引き抜いたが最後、君の生活は大きく変わり、何も知らなかった頃には戻れないだろう。今なら力を秘匿し、埋没することもできる。ここが、日常と非日常の境目だ」

「ラグ、癇癪は止めたまえ。彼がその剣を十全に使えるどうか…この先で判断することだよ」


レン・オブシディアン

結社の面々から離れ、一人祭りの様子を見て回っている
先程助けたヒーロー等に挨拶しつつ、目指すは『英雄の篭手』の展示場所

「この話を聞いた時から試してみたいと思っていたのですよね」
"Ⅺ"と刻まれた時計を手に、英雄の篭手に手を翳し集中する
(何か先代の話でも聞ければ参考になるのですが)
暫くの集中の後、聞こえた声は掠れた老人のものだ
声は辛辣に幾つかの指摘をした後、何かを言伝ると聞こえなくなる

「使い手に求めすぎるな、合わせる事を覚えろ。ですか…」
耳が痛かった様子で眉間を揉みほぐし、最後に言われた言葉を思い返すとその場を立ち去る
「それにしても、最後の一人が来るとは一体…皆様に合流した方が良いのでしょうか?」



「よく考えてみると、祭りに参加するのは初めてかもしれませんね」
 レン・オブシディアン(短針のⅪ・f17345)は賑わう雑踏の中で、きょろりきょろりと辺りを見回しながら歩いていた。
 彼は大鎌のヤドリガミである。祭具として祀られて来た経歴こそあれ、その頃に彼は自我を有していなかったし、何よりたとえ自我があったとしても、彼にとって祭りとは「外でやっているもの」であって、蔵の中に死蔵されている自分には関わりようのないものだと考えていた。
 それに、彼はナンバーズの短針としては比較的新参だ。生きていくために懸命に努力して来たがゆえに、その生活に祭りなどというものが入り込む余地もなかった。こうして、任務として祭りの会場に来ることにならなければ。
「……そう考えてみると、少し感慨深いものです」
 耳を澄ませば、賑やかな人々の話し声が。鼻を鳴らせば、芳しいソースの匂いが漂って来て。少し見回せば、人々の楽しげな笑顔が視界に映る。
「君たちが守ったものだ。良いものだろう?」
「――あなたは、兄弟ヒーローの」
 兄弟ヒーローのザイン。レンが他のナンバーズと共に救った当人だった。パトロールの途中でこちらを見つけたのだろう。
「7男のザインだ。襲撃の時は救出ありがとう、あのまま死ぬのかと思ったよ」
「そちらもヴィラン戦で活躍したようで。無事で何よりです」
「オブリビオンを相手にした君たちの方こそ無事でよかったよ」
「猟兵の専門分野ですから。適材適所ですよ」
 穏やかな笑みでレンが答えると、よく言うよ、とザインもからりと笑って頷いた。
「ああ、そうだ。英雄の篭手は見に行ったか?」
「今から他の仲間と一緒に見に行くところですよ」
「そりゃいい。一年に一度しかない機会なんだ。よく耳を傾けることだね」
 それじゃあまた、と二人は別れる。
 レンが足を向ける先は、英雄の篭手が置かれるテントだ。



「やあ。ようやく来たね、レン」
 テントの前で待っていたのは赤褐色の女、ビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)だった。
「お待たせしました。……ハゼルさんは?」
「まだだね。多分、私たちとの合流の前にお祭りでも見て回っているんじゃないかな。まあ、心配はいらないだろうさ」
 成程、と当て推量へレンは頷きを返す。そうだったとしても不思議ではないだろう。ハゼルもナンバーズになる以前はヴィラン組織の一員だったとはいえ、そういった祭りを楽しんでいたこともあったはずだ。それならば、たまの羽休めぐらいは良いだろう。
「そういえば、例の反応はどうなりましたか?」
「ああ、“Ⅴ”番目の話かい。それがどうもあれからさっぱりでね。バロウズはうんともすんとも言わないもんだから、こうして直接問い質してやろうかと思ってて」
 ビリウットが紫色の瞳をついと逸らしてテントの中、英雄の篭手へと向ける。
「うまく話せなかったらレンに仲介を頼むとしよう」
「刻器同士で僕がヤドリガミとはいえ、さすがに無茶ですよ」
 冗談と苦笑の応酬を交えながら二人はテントの中へと入って行く。途中、焦った様子の少年がテントから飛び出して行った。ぶつかりそうになって、「すんません」と言い残して彼は立ち去って行く。
 二人がテントの中に入ると、そこは照明で照らされていて、中央の台座には古ぼけた黒鉄の篭手が置いてあった。
 目配せ。お先にどうぞ、というビリウットの目線での合図に対して素直に厚意を受け取り、レンは篭手へと手を伸ばす。ちゃり、と彼が懐から出したのは、“Ⅺ”のナンバーズに伝わる懐中時計だ。
『……此度のⅨは、随分と若いのう』
 しばしの集中の後に、懐中時計から聞こえて来たのはしわがれた老人のものらしき声だった。
『道具に性能以外のものを求めるとは、いやはや』
「求めますよ。僕はヤドリガミで、ナンバーズですから」
 彼はヤドリガミであるから、道具はただの物としては見えず。
 彼はナンバーズであるから、道具にただの物以上の価値を見出していた。
「先代と比べて、僕はどうなのでしょうか」
『……未熟じゃのう』
 溜息の後に、懐中時計から出て来たのはその一言だった。
 秀でているわけがない、という自己分析こそあったものの、レンからしてみればそれなりに堪える言葉でもある。だが、それに留まらず懐中時計は更に傷口へ塩を塗り込むが如く言葉を連ねた。
『まず後衛にまで気が回っておらん。後衛まで敵を漏らさぬのは良いが、今代のⅣやⅥが広域殲滅の準備を終えてもなお前衛を維持しようと躍起になるのは周囲を見ておらんことの証左よ。ただ邪魔なだけだ、早う退け』
「おっしゃる通りで……」
 元々大鎌は鈍重な武器だ。それゆえに動きが鈍くなり、それゆえに戦場における危機を事前に察知して回避するために絶え間ない状況把握を必要される武器でもある。この懐中時計はつまりそれを示しているのだろう。
 あるいは先代の話しでも聞ければ参考にできるのだが、という思惑こそあったが。想像以上の収穫やもしれなかった。もっとも、ひたすらに耳が痛いことは難点だったが。
『武器としても、使い手に求め過ぎるでない。貴様はそこらに転がる武器ではなく、意思を持った武器なのだ。合わせるのを覚えることだ』
「…………」
 戦士として致命的な難点を指摘された直後に、武器としての心構えを説かれたその時のレンの心情たるやいかばかりか。言葉が胸に来たようで、「金言ありがとうございます」などと口にする余裕すらないようだ。ただ黙して眉間の辺りに指を当てる。
『最後に。奴を信用し過ぎるな。貴様も逸脱した存在だが、奴はそもそも人では――』
 言葉は、そこで途切れた。篭手のもたらしていた効果が切れたのだろう。
「……奴?」
 一体誰を指した言葉だったのだろうか。引っ掛かるものを感じながらも、さりとてまた篭手に手を伸ばす気にもなれない。「一度頼って二度目も頼ろうなどとはまったく軟弱な話じゃのう」などと辛辣な言葉が待ち受けているであろうことは間違いないだろう。
 篭手に背を向け、待っていたビリウットのところへ向かう。
「終ったかい?」
「ええ。……だいぶ厳しい方でした」
「良薬口に苦しというやつだろうね」
 レンの苦笑に対してビリウットはからりと笑い、入れ替わるように篭手へと向かう。
「……さあ。教えておくれ、バロウズ」
 右手にバロウズの魔銃を手に、左手で篭手に振れる。
「ここに“Ⅴ”はいるのはわかった。だが、肝心の刻器はない」
 ナンバーズの長針が刻器に選ばれる時、当然刻器はその選んだ長針の近くにいる。
 しかし長針の候補は示されたものの、この会場にそれらしき刻器は見当たらない。あるいはこの英雄の篭手こそがそうかとも考えたが、恐らくは違う。強力な刻器を放置することは非常に危険であり、場合によっては長針候補よりも優先して保護しなくてはならなかった。
「刻器は、どこにあるんだい?」
『――箱、ある』
 長針の問いかけに応じて、バロウズが応える。ヒトでないものが無理矢理に人の言葉を喋らされているような、そんな口調だった。
『箱のナカ、たくさんアル。たくさんアルナカ、サイゴのヒトフリ、アル』
「箱……?」
 一体その一語が何を示しているのか、ビリウットには咄嗟にはわからなかった。
 不審がる様子の彼女を見て心配になったのか、後ろからレンが問いかけてくる。
「バロウズは、なんと?」
「箱の中にⅤの刻器がある、と。辛うじてそう解釈できる程度で、話すのが得意そうではなかった。聞き取りには時間がかかりそうだね」
「それは……効果時間もありますし、難しそうですね」
 ビリウットは頷きを返す。そもそも、この様子ではバロウズから話を聞き出せるかどうかも怪しいものだ。“魔銃にして魔獣”たるバロウズをこんな形で恨む日が来るとは思わなかった。



「よう、ビリウット、レン。どーしたんだよ」
 二人で考えあぐねている中、テントの中に入って来たのは、ハゼル・ワタナベ(“∞”のⅧ・f17036)だった。彼は結社の長から増派として現地へ向かうように指示された者の一人だった。
「君にはまだ言ってなかったかな。……最後の一人、“Ⅴ”がここに現れたようでね」
「最後の一人だァ? ハハッ、まさか。それならソイツはどこにいるンだって話だろ」
 ビリウットの説明を冗談か何かと受け取ったのか、ハゼルは一笑する。偶然居合わせた任務の途中でナンバーズが見つかるなど、ありえないほどの低確率であることは彼とて知れたことだった。
「バロウズとニャメが示した。長針がいることは間違いないだろうね」
「……オイオイ、マジかよ」
 だが、ビリウットの連ねた言葉で、ハゼルの表情から笑みが消えた。クロックウェポンだけならばともかく、クロノスウェポンたるニャメまでもが長針の存在を示していることは、その情報がほぼ確実なものであることを意味していた。
「長針の捜索と並行して、刻器の捜索も行わないといけないみたいだ。御大将もこれを想定して君を派遣して来たのか、それとも……」
 いや、今考えても詮無きことか、とビリウットは首を横に振る。
 一方で、ハゼルは難しそうな顔をしていた。
「けどよ、探すったってどうすんだよ」
 二人の顔を見合わせる。レン・オブシディアン、ハゼル・ワタナベ、ビリウット・ヒューテンリヒ、そしてこの場にはいないが、ラグ・ガーベッジ。いずれも捜索に向いた人材ではなく、新参の部類に入る者たちばかりである。頼みの綱であるご意見番も、襲撃後に所用で外しているようだった。
「残念だけど、バロウズからは英雄の篭手で限られた情報しか聞き出せなかったんだよね」
「でしたら、長針ではありませんが、ハゼルさんが英雄の篭手に触れてみては? 何か手がかりになるものがわかるかもしれません」
 小さく手を挙げながらレンが提案する。レンやハゼルをはじめとしたナンバーズの短針はその身を刻器へと変ずることができる。それゆえ、英雄の篭手の力を借りれば刻器の場所がわかるかもしれない、という淡い期待だった。
 ……しれっと自分ではなくハゼルにやらせようとしているのは、それだけ先の懐中時計の言葉がいまだに胸に刺さり続けているのだろう。
「まーいいけどよ」
 そんなレンの思惑など知ってか知らずか、ハゼルは篭手へと手を伸ばす。彼自身、この英雄の篭手の話を小耳に挟んだときから、武器に変身できる自分が触れたらどうなるのかは興味があった。
 瞑目し、耳を澄ませることしばし。
 己の内の中から、小さな小さな声が聞こえてくる。
『ヘイゼル……。ヘイゼル……』
 男の声。低く、か細く、それでいて優しげな声。内から聞こえるその声は、ハゼルの本来の名前を呼んでいた。
 咳き込むような音の後に、何かが吐き出される音がした。吐血したんだ。なぜかハゼルにはそれが理解できてしまった。
『お前は生きろ……。俺の分まで、そして母さんの分まで……』
「――――ッ」
 待てよ。反射的に声を上げそうになって、思い留まる。
 この声は過去の記憶だ。根拠もなく、ハゼルにはそれがわかっていた。すでに喪っていた記憶。おそらくは、彼がヴィラン組織で洗脳されてしまう以前のもの。だからこちらが何か言ったとしても、きっと会話はできない。まるで壊れかけのラジオのように。
『そして俺の代わりに、■■■■――』
 か細い声では、最後の方は辛うじてしか聞き取れず。
 己の内側から聞こえて来る声はそれを境にぱったりと聞こえなくなってしまった。
「今の、は……」
 いつの間にか、からからに乾いてしまった唇で呟く。
 あの声は、自分の父親の声だ。死に際の、父が遺したメッセージ。
「ンな、まさか……」
 なぜそんなことがわかるんだ、と自分で口にしながらも。けれど己の今までになく冴えた直感とも言うべきものは、ハゼルに確信を抱かせていた。
 遺されたメッセージが何を示していて、なぜ英雄の篭手に触れたことで再生されたのかはわからない。ただ、『生きろ』と言われたことだけが、彼の脳裏へと毒のように染み付いて広がっていくのを感じた。
「……ハゼルさん、ハゼルさん。大丈夫ですか?」
「あ? えっ、いや……」
 はっ、と。レンの呼びかけられて、ハゼルは我に返った。
 心配そうに見上げてくるレンから視線を逸らして、額に浮いた脂汗を拭う。ズキズキと頭痛がした。
「何かわかったかい?」
「……いや、なンも。“Ⅴ”と刻器は地道に探すしかねェな」
「そうか……。手がかりなしとなると、本当に足で稼ぐことになりそうだね……」
 ふむ、とビリウットが考え込むように腕を組む。
 何にせよ、アテは外れたのだ。ならばどうにかして手がかりを掴むなり探し当てるなりしなくてはならない。
 とにかく、ここにいても埒が明かない。そう判断した彼らは、テントから出る。
 その時だった。少年の悲鳴が聞こえたのは――。
「こんな時に敵襲……!? 急ごう、二人とも!」



 時計の針は巻き戻る。
 ザザ・ロッシ(翼を知らぬ雛鳥・f18629)は家に帰る気にもなれず、ふらりふらりと祭りの会場内を歩いていた。
 彼は未だに自分が猟兵になったことが信じられなかった。
 猟兵――オブリビオンと戦う者たち。その存在はザザも知っていた。時にヒーローとして、人によっては時としてヒーロー以上に語ることもある存在だ。
「俺が、猟兵……?」
 呟き、己の手のひらを見る。この手から確かに出たのだ、炎が。なのに今は火の粉も出ず、火傷すら負っていない。元の綺麗な手のままだ。それがまた非現実的で、ともすれば自分がオブリビオン相手に立ち向かったのは夢だったのではないかと錯覚すらさせる。
「わっかんねえよ……」
 生命の危機に瀕して、力を望んで。
 いざ欲した力を手に入れてみれば、ザザはそれを持て余してしまっていた。どうすれば良いのかまったくわからなかった。
 誰かを守る? 悪と戦う? 本当にあるのかどうかも疑わしいこの力で? 訓練の一つもしていない自分が?
 何かをしなくてはならないという焦燥感。降って湧いた力と己に対する不信感。それらはまとめて未熟さゆえの視野の狭さと、まったく整理のついていない感情によって、不明瞭の暗闇に閉ざされ未来に対する漠然とした不安感としてザザの胸にわだかまる。
「……あれ?」
 歩いている内に。いつの間にか、ザザはテントの中に来ていた。
 降り積もった精神的疲労で頭をぼんやりとさせながら、彼はまるで吸い寄せられるように、あるいは導かれるようにテントの中に安置されたある物に手を伸ばす。
 黒鉄色の、英雄の篭手。
 触れると、自分の指先にひんやりとした鉄の感触が返って来た。冷たい、なんとなく安心するような感覚――。
 りぃん、りぃぃん。甲高い音が聞こえた。

『――こっちよ』

「………………え?」

 りぃん、りぃぃん。ざあ、と頭の中にわだかまっていたもやが晴れた気がした。
 声が聞こえたのだ。確かに、今、テントの外から。
『――こっちに来て』
「聞こえた……今、聞こえた!」
 何の声なのかはまったく判然としない。声の聞こえる先は遠い。
「まさか、まだどこかで救助を待っている人が……?」
 それともあるいは、オブリビオンとヴィランたちが性懲りもなくまた襲撃を仕掛けに来たのか。
「行かなきゃ……!」
 気付いた時には、ザザは駆けていた。どうすれば良いのかわからない不明瞭さも、立ち向かったとしても自分の力で抗えるのかという不信感も、足を止めようとする不安感も、すべてすべて押し退けて。彼は危機に瀕しているのかもしれない“声”の元へと走り出す。
 勢いよくテントから飛び出すと、一組の男女にぶつかりそうになる。「すんません」と謝って、ザザは先を急ぐ。
『――こっち』
『――こっちに来て』
『――わたしを見つけて』
「っ、間に合ってくれ……!」
 祈るように呟きながら、声のする方向へと、声の近くなって来る方向へと駆けていく。
 そして辿り着いた先には――1人の少女がいた。



「やぁ~~~~~~ってらんねぇ~~~~~~……」
 ラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)は不服だった。
「あんにゃろうが調べろっつうから何だと思えば……。くっだらねぇ! たかが祭りの出し物じゃねぇか」
 祭りの喧騒から少し外れて。金網フェンスにもたれかかりながら彼女は不貞腐れていた。苛立ち紛れに、屋台で買った串焼き数本の鶏肉を一気に噛み取る。ガシャ、と金網が揺れた。
 結社の長からの指令で、祭りに使われる祭具を守れ、監視しろと言われ、使いっ走りにされた。それが腹立たしかった。その上、その肝心の監視していた祭具がクロックウェポンであるだとかクロノスウェポンのような結社にとって重要な遺物ではなく、単なるちょっと不思議な能力があるだけの祭具だと言うのがまた腹立たしかった。
「俺様以下の雑魚が同じ雑魚どもの声聞かせて何になるってんだよ……」
 短針として、武器として最強を目指すラグからしてみれば、英雄の篭手だか言うアイテムの声を聞き出す祭具は興味をそそる対象ではなく、ただ鬱陶しいものでしかなかった。防具として非常に高い防御性があるだとか、あるいはもっと戦闘において有用な能力があるのならばともかく、ただ声を聞くしか価値が無いような道具はラグからしてっみればただの“雑魚”だった。
「とりあえず帰ったらあんにゃろういっぺんしばき倒さねえと気が済まねえ……」
 乱暴に串からネギを噛み千切りながら、ラグは日頃から考えている結社長奇襲作戦を練り始める。今までどういうわけだか一本も取れたことがなかったが、今回ばかりはかなり怒っているので一本ぐらいは取れそうな気がする。怒りのパワー補正で。
 ――そんなことを考えている時だった。雑踏の中から、一人の少年が慌てた様子で駆けて来たのは。
 そいつはラグの眼の前で肩で息をしながら立ち止まり、こちらを見下ろして来た。

「――お前、もしかして俺のこと呼んだりした?」



 “声”のした方向にいた少女は、どう見ても要救助者ではなかった。
 ピンピンしてるし串焼きを食べているし、なんならめちゃくちゃ目つきが鋭くて、まだ小さいのにガラが悪そうな外見をしていた。
『――わたしはここよ』
『――わたしはここ』
『――ここにいる』
 りぃん。りぃぃん。りぃぃぃん。
 けれど聞こえる声は、明らかに目の前の少女から発されたものだ。
 肩で息をしながらも、ザザは少女――ラグ・ガーベッジへと声をかける。

「――お前、もしかして俺のこと呼んだりした?」

「はぁ? 誰がお前みたいなモヤシ野郎を呼ぶんだよ」

「「……………………………………」」

 沈黙。
 見た目通り救助者なんかじゃなかったし、外見通りガラが悪かったし、何なら聞こえていた声とはまったく違う声だった。
「あ、ああ……。呼んでないよな、そうだよな……」
 徒労感に溜息をつきながら、ザザは踵を返そうとする。
『――私を置いて行かないで』
『――私はここにいるわ』
『――ここにいる』
「ッ…………」
 りぃん、りぃぃん。りぃぃぃん。
 立ち去ろうとした瞬間に、またあの声が聞こえて来る。またあの甲高い音が聞こえて来る。
 だから、最後に確認だけしようと思って。ザザはラグの方へと向き直った。
「……ごめん、やっぱ呼んでないか? 君の方から声がするんだけど」
「あ゛? ンだこら、どういう因縁の付け方だよクソ野郎」
 金網を鳴らしてメンチを切って来るラグに、思わずザザは一歩引いてしまう。ヤバイやっぱり怒らせてしまった。どうやって逃げよう。そんなことを考えていると、ラグは一歩また一歩と威嚇するように距離を詰めて来る。

「俺はテメェみてぇな雑魚に構ってる時間なんてヴェベボラァ――ッ」

 ――剣が出てきた。ラグの、頭から。

「……えっ。ハァッ!? ウォアアアッ!?」
 目を白黒させながらザザは尻餅をついた。見上げる先には、顔面から剣を生やした、異形と言って差し支えない少女の姿があった。
「け、けけ、剣!? 女の子に剣が刺さって…いや生えてる!?」
 驚き慌てながらあとじさる。信じがたい光景だった。ラグの頭から飛び出して来た、刃が黒で覆われた両手剣をまじまじと見つめる。
「~~~~~~っ!? ~~~~~~ッ!!」
 一方でラグは必死に何かを訴えかけるように手足をバタつかせていた。目も口も、全て剣によって塞がれているのだろう。闇雲に両手両足が振り回され、声になっていない声を必死に上げている。
「どうした、一体何の騒ぎだ!」
 そこへ駆け付けて来たのは、ビリウット、レン、ハゼルの三人だった。
「はァ? なんだありゃ。ラグから剣が生えてやがる」
「ラグさんの力が暴走したのでしょうか」
「戦闘態勢でもないのに……いや」
 瞠目するハゼル。状況を把握しようとするレン。ビリウットがなにかに気付いたかのように声を上げた。
「まさか、アレが……ラグから生えている剣が、“Ⅴ”の刻器なのか……!?」
 三人の視線の向かう先が、ラグから生える“刻器”から一斉に目の前で尻餅をついた少年へと注がれる。
「となると、こちらの少年が最後の一人――」
「――刻器に選ばれた長針の“Ⅴ”、ってワケか」
 三人からの視線が集まる中で、当のザザは混乱しきった様子で剣と三人を見比べる。
「な、なんなんだ? どういうことなんだ……!?」
「とりあえず立って下さい。手、貸しますから」
 ほら、と差し出されたレンの手を取って、ザザはその場から立たされる。
「さて、どこから説明したものかな……。端的に言えば、君は“武器に選ばれた”わけなのだけれども」
「武器に、選ばれた……?」
 ビリウットが顎に手をやって、どう話したものか考えながら説明を始める。呆然とした様子のザザは、ただ頭を傾げるばかりだ。まあそういう反応になるよね、と苦笑しながら、彼女は説明を続けていく。
「私たちは“結社”と呼ばれる秘密組織の構成員、ナンバーズだ。結社は武器によって選ばれた者、武器自体に変身できる特別な者たちで構成した、オブリビオンと戦う組織でね。選ばれた者には身体のどこかに――君の場合なら、“Ⅴ”を示す痣が身体のどこかに浮かび上がるはずなんだ」
 ここまではいいかな、と確認して来るビリウットに、ザザは困惑した表情を浮かべながら頷きを返す。
 結社という名前はともかく、オブリビオンたちと戦う秘密組織の話は噂程度にだがザザも聞いていた。
「君は今、そこのラグの頭から生えている剣に見初められて、ナンバーズになる資格を与えられた」
 ビリウットはナンバーズとして、目の前の少年を射抜くかの如く見据える。
「それはもう、君の剣だ。引き抜いたが最後、君の生活は大きく変わり、何も知らなかった頃には戻れないだろう。刻器は絶大な力を秘めた武器であるがゆえに、一度その剣を手にすれば戦う運命からは逃れることができない。だが、今なら力を秘匿し、埋没することもできる」
「お、俺に選べってことか……?」
「ああ。ここが、日常と非日常の境目だ。その剣を手に執るか、それとも埋没させるか」
 ビリウットが視線を剣へと向ける。ザザもそれに釣られるように剣を見た。
「そいつはお前にとっての非日常の象徴だ。だが、非日常側に踏み込むってンなら“結社”はサポートを尽くすぜ」
 誘惑を囁く蛇のように、けれど心から真摯な言葉をハゼルは口にする。
「あなたは僕たちからしてみれば、最後の1ピース。今まで探しても見つからなかった最後のナンバーズです。ですがそれは今のあなたとは関係のない話。――戦うか、戦わないか。あなたが決めて下さい」
 レンが思いやりのある、けれど突き放すような一言を向ける。
 三人の言葉に対して、果たしてザザは――前へ一歩、踏み出した。
「……なあ。力があれば、俺にも命を救えるのか?」
「ああ、救えるだろうな。その気になりゃ何十人、何百人と救えるだろうさ」
 ザザの問いかけに、ハゼルが返す。
「……これがあれば、ヒーローを助けられるのか?」
「助けられるでしょうね。眼の前にあるのは、ヒーローたち以上の力ですから」
 ザザの問いかけに、レンが返す。
「……これがあれば、オブリビオンたちと戦えるんだな?」
「戦えるとも。これから何百、何千というオブリビオンたちとの戦いが待っている」
 ザザの問いかけに、ビリウットが返す。
「それなら――」
 それなら。
 ザザは前へ歩を進める。そして、彼は剣の柄に手をかけた。
「――なってやる。猟兵にも、ナンバーズにも! “Ⅴ”にだってなってやる!」
 ぎゅ、と柄を握りしめる。
 りぃん、りぃん。甲高い音が脳裏に響いて。なぜか、この剣がとても懐かしいもののように感じられた。
 自分はこの剣を知っている。
 デジャヴとはまた別の、既知の感覚。それを胸に、彼は力を込めて剣を引き抜く。

「だからこの剣を――俺に、くれ!」

 言葉と共に引き抜かれた剣は、陽の光を反射することもなく、ただ黒い刃を外気に晒した。
 風を斬る音とともに両手剣の切っ先が地に落ちる。
「クッソ、一体全体何がどうなって……あ"あ"!?」
 剣を引き抜かれたラグが顔をしかめながら頭を横に振り、そしてザザの持つ黒の剣を見て声を上げた。
「はぁ!? どう言うこった、それは俺様の剣だろ!?」
 慌てた様子でラグが右腕を前に出すと、腕が短剣、サーベル、レイピア、銃火器、棍棒――様々な武器の形に変化する。だが、ただ一つ。黒い剣には変化させられていなかった。
 ナンバーズの短針たるラグは、短針の中でも特殊であり様々な武器種に変身することができる。だが、その内の一つである黒の両手剣に変身する力が失われたことを今、ようやく自覚したのだ。
「……変身、できねぇ……」
 愕然とした様子でラグが呟きながら自分の腕を見下ろし、そしてザザへと目を向けた。
 目に宿されたのは、純然たる怒りである。
「ざけんな、俺の剣だ返しやがれッ!!!!」
「ラグさん、駄目です」
 レンの黒曜石の大鎌が横から差し込まれ、ザザへの行く手を阻む。黒い刃の上で“Ⅺ”の数字が光った。
「癇癪はやめたまえ、ラグ」
「けどよ、ビリウット! 俺様の剣が!! なんだってこんなクソ雑魚ヘナチョコ野郎にくれてやらなきゃいけないんだよ!?」
「彼がその剣を十全に使えるかどうか。それはこの先、彼が出す戦果から判断するべきことだ」
 レンに制されてなお吠えるラグへと、ビリウットが冷徹な言葉で抑え込む。ビリウットがレンへと視線を送ると、レンは頷きを返して大鎌を下ろした。
「ここで暴れてもどうにもなりませんよ、ラグさん」
「クソ、畜生ォ……ッ! 俺様は絶対認めねェぞ……!」
「認めるも認めないもねェよ。もうアイツは選ばれちまったンだ。そうなりゃもう俺たちがどうこう言ったところで関係ねえ」
 大きな喪失感の中で両膝を地面についたラグを、ハゼルは引っ張り上げるようにして立たせる。
「さあ、行こうか。ナンバーズが増えたのなら、やるべきことがある」
 ビリウットはそう言って、踵を返して歩いて行く。それにハゼルとレンが続き、のろのろとラグが付いて行った。
 ザザは一人、手にした刻器に目を落とす。
『――――――――』
「――“プロメテウスの灯”」
 りぃん。りぃぃん。
 甲高い音は、その一語を残して消えてしまった。きっと、それがこの刻器の本来の銘なのだろう。
 刃から顔を上げて、雑踏を一瞥する。
 これから自分は、戦いの世界へと身を投じる。
 すぐにはヒーローたちのように人を守ることは難しいかもしれない。
 すぐには猟兵たちのようにオブリビオンを倒すことはできないかもしれない。

 けれど。
 だからこそ。
 せめて、ここから先は――

「――胸を張れる生き方をしてゆこう」

 りぃん。
 甲高い音が、もう一度だけ“プロメテウスの灯”から聞こえた気がして。
 彼はそれを合図にするように、ナンバーズたちの背を追いかけて走り始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


おっと、祭り再開か
暢気なもんだ…ま、悪人への反抗を表すってのは分かるけどさ
俺が思うに、この事件どーもまだ終わってなさそうなんだよな
一回退けたくらいで平和ボケできるほど、俺は甘くないぜ

ま、主役どもは祭りを楽しんでていいさ
こういう地味な仕事はそれこそ「端役」がやることなんだしよ
補給の為に、屋台で飯だけ買って…高いところに陣取るか

ドローン展開
広域警戒開始
飯でも食いながら異常が無いか目を光らせるとしようか

しかし賑わってるなぁ
やっぱヒーローって、皆の中心に立つ存在なんだろうか
(わずかな羨望と、悔悟の念)
…ハッ!ますます俺には向いてねえな
称賛だの喝采だの、必要ないね

端役は黙って、やるべきことをやるだけさ



「暢気なもんだな」
 眼下に広がる英雄祭の風景を見下ろしながら、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は溜息をつく。
 悪人への反抗を祭りの続行でもって示す、という理念自体は理解はできる。だが、それはそれとして一般人もヒーローたちも、そして猟兵たちも、襲撃されたことを忘れたかのように笑い合っている姿は脳天気なように見えてしまっていた。
「俺が思うに、この事件はまだどうも終わってなさそうなんだがな……」
 網膜上に映し出された無数の映像情報は、祭りの会場を含めた周辺地域一帯を映し出している。
 うまく具体的な言語化はできないが――彼の持つ非合法工作員としての嗅覚はまだ「キナ臭い」と告げていた。
「一回退けたくらいで平和ボケできるほど、ストリートも平和だったら良かったのにな」
 ドブ底のようなストリートで生まれ育ち、這い上がって来たのは彼としても不本意な境遇だ。あるいはもっと生まれる時に振られるサイコロの出目が違えば、マシな環境で生まれることができたのかもしれないと空想することもある。
「キナ臭えことへの鼻ばっかりキいてもしかたねえのにな」
 この危機への嗅覚は仕事上有用な能力だし、今だって有効活用している。誇りに思うこともある。だが、それが生まれ育った境遇から得た能力であると思うと、複雑な気持ちにもなろうものだ。
「ま、主役どもは祭りを楽しんでりゃ良いさ。こういう地味な仕事こそ、端役の領分なわけだしよ」
 展開された映像情報ウィンドウへ目を配りながら、屋台で買ってきた焼きそばに手をつける。横目でちらりと見るのは、映像情報を録って来ている偵察ドローンたちの上体を一覧にした情報ウィンドウだ。お世辞にもお行儀の良い食事風景とは言えなかったが、生憎とストリートでは“お行儀”など腹の足しにもならなかった。
 それに今こうして監視できる者が自分一人しかいない以上、敵を倒すためのヒントとして情報を読み取る努力をするのは自分の役割だ。
「しっかし、賑わってるなぁ……」
 麺をすすりながら、会場内の映像情報に目を落とす。誰も彼もが楽しそうに笑い合いながら、祭りを楽しんでいた。
 妬ましくは感じなかった。休憩時間として割り当てられているが、今は任務中であって監視役に徹しているのだから。
「……祭りなんて、なにすりゃいいのかもわかんねえしな」
 特に、一人での楽しみ方なんて。あるいはこんな時に相棒たちがいてくれれば楽しく回れたのかもしれないが。
 映像情報を拡大する。兄弟ヒーローの一人が、一般人に囲まれて称賛を受けているところが見えた。
「やっぱヒーローってのはみんなの中心に立つ存在なんだな……」
 いつの間にか、麺をすする口も止まって。
 ふと、故郷にいたストリートサムライのことを思い出した。あのゴミ溜めのような環境の中にあってもその熟達した腕前と人望で皆の尊敬を集め、自分がかつて憧れていた――
「……ハンッ、ヒーローなんざますます俺にゃ向いてねえな」
 眉間にしわを寄せて。胸の内に去来した羨望や悔悟と一緒に掘り起こしてしまった過去の記憶も有耶無耶にする。
「俺はハッカーだ。非合法工作員なんかが、中心に立っちゃいけねえ……」
 自分に言い聞かせるように。有耶無耶にした羨望と悔悟を轢き潰し殺し切って封印するかのように。彼は呟く。
「称賛も、喝采も必要ない。――俺は端役だ」
 自分は影のような存在。目立たない存在。
 常に足りない部分を補完し続けて、常に主役を引き立てる――そんな役割。
 ぎし、と奥歯が鳴って。
 それをスイッチにしたかのように、彼はまた情報ウィンドウたちを引き寄せて、情報の海の中へと戻って行った。
「……やるべきことを、やるだけだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

安喰・八束

なんだい、もう祭りかい?
出遅れちまったかと思ったが、いい時に来たかね、こりゃあ。

英雄の篭手?
道具の声が……ねえ。
ちっと怖くもあるな、小言言われちまいそうでさ。
(古い、幾度も手を入れた痕跡の残る猟銃。己の“古女房”)
長い、長い付き合いになるからな。
……試してみてもいいかい。

(また銃剣の留め具緩んでる)(煤はもっと丁寧に取って)(油差しが甘い)(振り回し方考えて)(槍じゃないんだから)

(生きて)

(ちゃんとしてくれなきゃ貴方を守れない)

……。
……はいはい、ああ、うるせえ。
聞くんじゃねえなぁ、こんなもんはさ。



 オブリビオンとヴィランによる同時襲撃があった。
 そのように安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は聞いていた。だが、実際に現地に赴いてみればどうだろうか。襲撃は終わっていたし、お祭りは再開されているではないか。
「出遅れちまったなぁ……」
 まいったね、こりゃ。猟銃を肩に担いで溜息をつく。敵と戦うために装備を整えて来たと言うのに、敵の姿が影も形もないとは肩透かしも良いところだ。いっそ喜劇的ですらある。
「……ま、ある意味良い時に来たかね、こりゃあ」
 溜息一つ。気分を変えるスイッチには充分だ。
 戦いなんて無いに越したことは無い。給料分の働きぐらいは、とは思うが、こうして実際に仕事が無いのは仕方ない。いるのかもわからない神様からのサプライズプレゼントのようなものとして八束は受け取ることにした。
「さて、何か面白いものでもないかねえ」
 歩いて見るが、ヒーローショーを見るような歳でもないし、屋台は食い物ばかり。射的屋はやればきっと入れ食いだろうが、店主からはきっと「本職お断り」とでも言われてしまうことだろう。
 ――ふと、一枚のポスターが見えた。
「……英雄の篭手?」
 道具の声が聞こえる不思議な篭手を、このお祭り会場で一般開放すると記されていた。
「道具の声が、ねえ……」
 ふぅん、と言う彼の表情は、少し胡散臭いようなものを見る顔で。
 それはすぐに苦笑に変わった。
「……ちっと怖くもあるな。小言を言われちまいそうだ」
 肩に担いだ猟銃を“古女房”を振り返るようにして見遣る。
 長い長い付き合いなのだ。ここでこいつがどんなことを言うのか試してみたい。仮にお小言が待っていたとしても……たまには、良いだろう。
 そうと決まれば早かった。八束は英雄の篭手のあるテントへと足を運び、中に入っていく。
 照明に照らされた下には、黒鉄の篭手があった。
「外見は意外と普通なんだな」
 呟きながら、篭手に触れる。劇的な光が溢れるような演出があるわけでもなし。じっと待つのも性分に合わないため、八束は振り返るように猟銃を見遣りながら声をかける。
「よう、聞こえるか?」
『聞こえてる。古いとはいってもお婆ちゃんじゃないんだから……』
 優しい、年嵩の女性の声。懐かしむように八束は目を細める。彼はふっと口元に笑みを浮かべながら、呼びかけた時よりも幾分か明るい声で話し始めた。
「聞こえてるならお前から話しかけてくれよ」
『嫌よ。点検も手入れも雑なあなたにどうして声をかけないといけないの』
「おいおい、そう言うなよ。長年連れ添った仲じゃねえか」
 口調は愉快そうに、冗談に付き合うかのように八束はおどけてみせる。
『長年連れ添う気が少しでもあるなら、もっとちゃんと手入れしてよ。また銃剣の留め具が緩んでるし』
「あんまりキツく巻き過ぎると、着脱がキツくってなあ」
『銃口の煤はもっと丁寧に取って』
「はいはい、それはわかりましたよ」
『あと油差しが甘い』
「油だってタダじゃないんだがね。まあ、そうだな」
『振り回し方はちゃんと考えて。槍じゃないんだから』
「いや、そんなつもりはない……つもりなんだが……」
『それから――』
「まだあるのか……?」
 的確に痛いところを突いて来る“古女房”のお小言に、そろそろげんなりし始める。『ええもちろん』と言う“古女房”は、これが最後だと言って言葉を連ねた。
『――生きて』
 どこまでも真摯で、優しい――祈るような一言。
 その一言へ、さすがに八束も軽口を返せず。時間が一瞬、止まったかのように思えた。
『あなたがちゃんとしてくれなきゃ、あたなを守れない』
「……はいはい、どうも」
 なんとか、言葉を絞り出して。八束はうつむきがちに頭を掻く。“古女房”は背にいるから、どうせ見えやしないだろうと思いながら。
 ああ、まったくうるさいやつだ。小言ばかりネチネチとつついて来る。
 ――けれど、それがどうしてか憎めない。
『……………………』
「……ああ、時間切れか」
 溜息一つ。――気分を変えるには、充分なスイッチ。
 テントの布をかきわけて、外へと八束は出て行く。
「ああ、まったく。聞くんじゃねえなぁ、こんなもんはさ……」
 近場にガンショップはあっただろうか。
 手入れ用の品を求めて彼は歩いて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雷陣・通

【SPD判定】
おお、すげえ!
(屋台で買ったホットドッグを食べつつ)

そういうイベントがあるんだ、英雄の籠手なんかすごそうだなあ、宝石五個埋め込んでない?
大丈夫?
じゃあ、俺も武器の声を聴いてみたいな。
この『ウルトラサンダーボルト雷神丸』
普段は使わねえけど、ここぞという時に使ってる日本刀だ。
これでずっと戦ってきたんだけど、こいつは俺の事なんて言うかな?
多分さ、感謝してると思うんだ。
すげー格好いいネーミングにしてくれたことに
だから感想を聞いてみたい。

籠手様、籠手様、どうかこのウルトラサンダーボルト雷神丸の声をお聞かせください(合掌)

……え、怒ってるの!?
名前ダメなの!?



 英雄の篭手。
 なんだかすごそうなアイテムっぽい、というのが雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)が抱いた、まだ幼い彼なりの感想だった。屋台で売っていたホットドッグもすごかった(美味しかった)が、展示されているというこの篭手もまたすごそう(すごそう)である。名前がライトニング英雄の篭手とかだったら、もっとすごいことになっていただろう。
 それはともかく、通は英雄の篭手などと大層な名前がついているのだから、きっと綺羅びやかなデザインで、宝石が5つぐらい埋め込んであったりしてもおかしくはない篭手なのだろう――などと勝手な期待を膨らませていた。
 結論から言おう。期待はずれだった。
 台座の上に鎮座するのは黒鉄の篭手。飾りっ気など一欠片として持たないような防具がそこにはあった。
「まあ、ちゃんとアイテムの声が聞こえるなら……」
 篭手のデザインのショボさに肩透かしを食らいながらも、気を取り直して通は手を差し伸べる。
 彼が聞きたいと願うのは、武器の声。グリモアベースで支給されて以来、通が背負い続けている日本刀。

 ――銘を、“ウルトラサンダーボルト雷神丸”。

 ここぞという時に頼りになる通の切り札の一つだった。
 普段使いこそしないものの、戦いの時はウルトラサンダーボルト雷神丸はいつも背に差していたし、どんな戦いだって一緒に乗り越えて来た。
 そんな刀が、自分のことをなんと言うのか通は純粋に気になっていた。
 きっと感謝してくれているだろう、というのはなんとなく予想できていた。切り札という超カッコイイポジション。そしてウルトラサンダーボルト雷神丸というハイパーカッコイイネーミング。多分きっと絶対、この刀は喜んでくれていたに違いない。喜んでくれていたなら感想が聞きたい!
 ――そう願って、通は篭手へと触れる。
「籠手様、籠手様、どうかこのウルトラサンダーボルト雷神丸の声をお聞かせください……」
『誰がウルトラサンダーボルト雷神丸じゃクルルァッ!!』
 むぅん、と念的な何かを送りながら祈っていた通は、いきなりの大音声に曲げていた背筋をピーンと伸ばしてしまう。
「えっ……も、もしかして、ウルトラサンダーボルト雷神丸なのか……!?」
『ああそうだよ、俺がお前にその超絶残念な名前を付けられた刀だよ!!』
「超……!?」
 荒々しいヤンキーのような声だった。期待していた感謝の言葉は一片たりとも存在せず、代わりに寄越されたのは“超絶残念”とまで形容された自分のネーミングセンスへの酷評である。
「……え、怒ってるの!?」
『むしろなんで怒ってないと思えるんだよ当然怒ってるに決まってるんだよなぁ!?』
 がん、と後頭部から殴られた時のようにショックだった。目を白黒させながら、自分のつけた渾身のネーミングのどこが悪かったのか省みるがわからない。
「ど、どこが悪かったんだよ!」
『ウルトラサンダーボルトの辺り全部だが?』
「ほぼ全部じゃん!」
『そうだよ全部だよ!!』
 嘘だろ、と言うように通は頭を抱える。サンダーボルト。そこが一番カッコイイ名前の部分なのだ。ウルトラが付くことで更にカッコよさはパワーアップ。ウルトラカッコイイネーミングのはずなのに!
『この際だから言わせて貰うけどなあ、もっと俺を使えよ、俺を!』
「えっ、だって俺空手がメイン……」

『うるせ~~!!!!!! 知らねえ~~~~!!!!』
                   Japanese swo
                        rd

 通に対して不満たらたららしいウルトラサンダーボルト雷神丸は、絶叫にも似た叫び声を上げる。相当に不満が溜まっていたらしい。
『大抵お前いっつも俺の代わりに使うのが手刀じゃねえか、手刀! 俺の出番どこだよ!?』
「いや、だってお前地形破壊するぐらい威力高いから、使える場面が限られてるっていうか……」
『そうじゃねェ――――ッ!! わかってねえ~~~~ッ!! 手刀にお株が奪われるのは一億兆歩譲ってまだわかるが、なんで俺を使った攻撃が地形破壊攻撃なんだよ!? 斬れよ!! 日本刀なんだから斬れよ!! キレるぞ!?』
「いやキレてるじゃん……」
『だから斬れるっつってんだろうがオルァン!?』
 ぎゃあぎゃあとすさまじい剣幕で怒声を上げるウルトラサンダーボルト雷神丸。声量と怒りだけで一人でに刀が動き出さんばかりの気勢だった。
「や、でも雷斬刃あるし……」
『雷の刃じゃねえか!! 違うんだよ俺の刃で斬れっての!! 日本刀を本来の使い方しなさい今宵の虎徹は血に飢えてんだよわかるだろ!?』
「いや、わかんねーよ。お前ウルトラサンダーボルト雷神丸だし……」
『はぁ~~~~~~~~~~~???????(クソデカ溜息) だからそのクソダサネーミングをどうにかしろって言ってんだよなァ!?』

 ………………
 …………
 ……

 通とウルトラサンダーボルト雷神丸との言い争いは果てしなく。
 篭手の効果が切れて物理的に会話できなくなるまでその舌戦は続いたと言う――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛


わあぁ、英雄祭再開できましたね!
どうしましょう! ヒーローの方にサインをいただきに行こうかしら。

屋台も気になりますしー、ヒーローショーは必ず見ないとですね!
先ずはちょっぴりお腹を満たしてからショー観戦ですっ!

ヒーローにちなんだ食べ物などあるのかしら
ノクティスを抱っこしながら一緒に見て回ります
あっ、あの紙カップ、ヒーローがプリントされていますよ
……買っちゃいましょう
美味しそうな物があればそれも一緒に
ノクティスとわけっこしますね

ショー観戦はやはり良い席を取らなければなりません(きりっ)
きゃー! かっこいいです!
そこです! やってしまってください!

やっぱりヒーローは最高ですね!



 英雄祭の再開。
 それは三咲・織愛(綾綴・f01585)にとっての何よりの吉報だった。
「どうしましょう! ねえ、ノクティスはどこから回ればいいと思いますか?」
 入り口で貰ったパンフレットを広げて、織愛は小竜ノクティスに問いかける。ぎゃう、ぎゃう、とノクティスがヒーローショーの催される広場を足で叩いた。
「そうね、ヒーローショーは必見ですもの。終わった後にはサイン会もあるらしいですから、必ず行かないといけませんっ!」
 楽しそうな笑顔になりながら、赤いペンで広場を囲う。
 けれど開催時間は少し先だ。さて、それでは始まるまでどうやって時間を過ごそうか。そんな風に悩んでいると、きゅう、とノクティスのお腹から可愛らしい音が聞こえて来た。
「あっ。……ふふっ、そういえばご飯がまだでしたね。始まるまでは、屋台を回ってご飯にしましょうか」
 ぎゃう、と両翼を天に広げて小竜は飛び、パンフレットを閉じた織愛は立ち上がる。
「さあ、行きましょう!」



 ヒーローズエンブレムがプリントされたクッキー。
 ヒーローの顔がプリントされたメロンパン。
 ヒーローブロマイド入りのドロップス。
「はぁ~……。ヒーローズアース、最高ですね……」
 ご満悦の様子で、織愛はカバンの中に入ったグッズ類を眺める。他にもヒーローの顔がプリントされた紙コップやTシャツもあって、織愛の財布は軽くなる一方だった。だが惜しくはない。お布施したこのお金たちは回り回ってヒーローたちを応援する資金になるのだから。
 すっかり上機嫌な織愛をよそに、ノクティスはヒーローよりも食い気に走っていた。ぎゃうぎゃう、と織愛に与えられたケバブの肉をおいしそうに食べている。
 ここはヒーローショー会場の最前列。早々に場所取りに成功した織愛は、ショーの始まりを今か今かと待っていた。
「あっ。ノクティス、見てくださいノクティス! ショーが始まりますよ!!」
 眼の前の舞台の上で、舞台袖からヴィラン役が現れたかと思うと舞台から観客席へと降り立つ。会場内の観覧者一人を壇上に攫う、お約束の展開だ。純真な子どもたちは戦々恐々、織愛の方はドキドキワクワク。どんな子が選ばれるのだろうかと期待に胸を膨らませていると――
『よォし、今回の人質は貴様だ~! グワハハハ!』
 こちらに来たヴィランがひょいと、織愛の隣でケバブを食べていたノクティスを攫って行った。
「……の、ノクティス――!?」
 びっくりして思わず追い縋るように手を伸ばす織愛。ぎゃうー、と小竜も鳴き声を上げるが、やんぬるかな伸ばした手は虚空を掻いた。
「ああ、ノクティスが攫われてしまうだなんて……」
 ショックを受けたように手をだらんと下げて、うつむきがちになる顔をキッと壇上にいるヴィランへ向ける。
「なんて羨ましい……!!」
 あと一つ隣。ヴィラン役が何かの気の迷いで自分を選んでいたなら、自分が人質役になってヒーローを間近で拝めていたかもしれないのに! これが遠くにいる誰とも知らない子ならまだしも、すぐ隣の身近な子が攫われたとなれば自分にもワンチャンス存在していたのかもしれないのに、と悔やんでも悔やみきれない。肩を震わせる織愛へと、いじましくもノクティスはぎゃーう、ぎゃーうと鳴き声を上げ続けているが彼女の長い耳には全く届いていなかった。
「あっ、ヒーロー! きゃーかっこいいです! きゃーっ!!」
 だがそんな深い悔悟の念に包まれていた織愛も、ヒーローの登場と共にコロッとそんな悔しさはどこかに吹き飛んでしまった。子どもたちや大きなお友達に混じって、入場口で販売されていたサイリウムを振り声の限り応援する。
「がんばってくださーい! そこ、そこです! やってしまってください! 右ストレート! 左ジャブ! 右フック!! 決まったぁーっ!!」
 ヒーローの必殺コンボを、自分もまたモーション入れながら応援しているのだから自然と熱も入る。普段のおっとりとした顔は、年相応の快活な少女のそれに変わっていた。
 ヴィラン役の退場と共に、ヒーローに抱きかかえられて救出されたノクティスが、織愛の元へ届けられる。
『もう大丈夫、悪は僕たちが退治した! 君の友達もこうして無事だ。良かったね!』
 ヒーローの爽やかな声と共に、織愛へ飛んで行くようにノクティスが飛びついた。
「ありがとうございます、ありがとうございます……!!」
 目を潤ませながら間近に来たヒーローを見上げ、織愛はただただ感謝の言葉を口にする。その声は感極まって色々と限界のようだった。ぷぎゅる、と抱きしめられ過ぎたノクティスが変な声を上げて、ようやく我に返った織愛に解放される。
「やっぱりヒーローは……最高ですね……」
 織愛はショーが終わってからも、半ば以上放心した様子で席に座ったままだった。少し心配そうにノクティスがぎゃう、と鳴き声を上げる。
「――はっ、そうでした」
 その鳴き声で我に返ったのか、織愛の表情が引き締まる。
「次は握手会とサイン会でした! こうしてはいられませんノクティス、さあ次に行きますよ!!」
 ……さすがのノクティスも、この時の織愛のマイペースさには付いていけなかったようで。駆け足気味に次の会場に急ぐ織愛の背に向けて、呆れたようにぎゃあ、と一鳴きすると、その後を追いかけて行くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

十河・アラジ
◎◎◎

実際に戦っている所を間近で見はしたけどその時はじっくり見ている余裕も無かったし
一度見に行こうかな、ヒーローショー
たしか、演劇みたいなものだよね
静かに見ていた方がいいのかな、それとも……?

あ、『英雄の篭手』っていうのも気になるな……
物にも想いが宿る、以前それを身を以てしったことだし
その本当の声を聞けるっていうならぜひとも聞いてみたいな
普段使っている武具も気になるけど、今回はこの「道化猫のぬいぐるみ」の声を
まだ付き合いは半年程度だけど、ボクの事どう思ってるんだろう……?



 初めて自分の玩具を買ったのが、今からもう半年近く前のことになるだろうか。
 UDCアースで起きた、儀式を行うことで玩具をUDCへと変えてしまうあの事件は未だ記憶に新しい。ついこの間に起きた出来事のように思い返せる。
 十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)は手にしたぬいぐるみの目尻から流れる涙滴模様を指先でなぞった。
「ボクは……君のことを、宝物と言えるのかな」
 物には想いが宿る。アラジはその事件を通して、身をもってそれを知った。
 かつては幼い子どもたちに宝物のように大切にされてきたであろう玩具たちが、その宿った想いを利用されてUDCに変えられてしまい、自分たちの眼の前に立ち塞がって来たことはそう忘れられるものではない。
「まだ半年ぐらいしか一緒に過ごせていないけれど、ボクはちゃんと君に思いを伝えられたかな……」
 UDCへと変貌する前の、あの玩具たちのように。自分は思いを注げただろうか。
「……君はボクを、どう思ってるんだろう」
 自分の抱いた思いは、このぬいぐるみへどこまで伝わっているのだろうか。
「どうか、教えて欲しい」
 照明に照らされた、テントの中。
 アラジは一人、英雄の篭手へと手を伸ばす。指先に、鉄の冷たさが伝わって来た。
『どうかな? そうかな?』
 あはははは、うふふふふ。愉快そうな笑い声。聞こえる先は、ぬいぐるみ。
 英雄の篭手の伝説は本当だったんだ。アラジが目を丸くしていると、ぬいぐるみは言葉を連ねる。
『お手入れするよね 保管もバッチリ 大切にされてる それはきっと 間違いないよ』
 リズムを踏むような、歌うような。それでいて、こちらを少しからかうようでいて、語る言葉は全て真心からのもの。なんとも不思議な話し方をする道化猫だった。
「……良かった。大切にしていることは、伝わってたんだね」
『そうだね だけども 貰ってばかり! ぼくからきみへが何もない!』
 安堵したのも束の間。即座に接いで来たぬいぐるみの言葉に「えっ」と驚いたような声を上げる。
 ぬいぐるみから、自分へ。そんなことを言われても、とアラジは困惑する。相手は今でこそ話しているが、今が終わればまた何も話さないただのぬいぐるみだ。そんなぬいぐるみから何かしてもらうようなことなど何も無いだろうに。
「ボクは何もいらないよ。ただ君を大切にしたいだけで……」
『そうはいかない 関係性は双方向 一方的じゃあつまらない!』
「そんなこと言ったって、どうすれば――」
『――そこで提案 発案さ!』
 アラジの言葉を遮って、ぬいぐるみが声を上げる。わ、と一歩あとじさる。
『アラジ 君は優しい子 とってもとっても優しい子 だから君は考えすぎる 一人で全部抱え込む』
「そんな、ことは――」
 無い、とは言えなかった。玩具がUDCに変えられてしまったあの事件の時さえも、アラジは自分で勝手に玩具たちがどのような経緯でUDCになったかを想像してしまって、同情してしまって。そして、戦う者たちを助けていた。
『ぼくを頼って 聞かせてよ アラジの話を 聞かせてよ かなしいことや つらいこと たのしいことや 愉快なことも 色んなことを 聞かせてよ』
 それが、きっとこの道化猫のぬいぐるみに対してできる“頼る”ということ。思いを伝えることに違いなかった。
「……うん、わかったよ。ボクの話でよければ、聞いて欲しい」
『楽しみにしてる』
 アラジの答えに満足したのか。あるいはちょうど効果時間を迎えたのか。ぬいぐるみはそう言い残すと、沈黙した。
「話かぁ……」
 何を話したものかな。道化猫のぬいぐるみを見下ろしながらうぅん、と悩む。
「あ、ヒーローショー」
 気付いたように声を上げて、アラジはテントから出て行った。
 どうせ話すのなら、最初は明るい話題の方が良いだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
やれやれこれで一安心……てこともなさそうですけど。
休憩!休憩します!

私は兄弟ヒーロー末っ子テットさんのお見舞いにー……
お見舞いなんて言ったら辛気臭くなりますね。
せっかくなので握手とかサインとかくださいって言いに行きます。

無事ですか?いやまあ無事でないと困ります。
せっかく助けたのに死なれたら徒労じゃないですか。
あなたが誰かを救いたいと思うように
あなたを救いたいと思う誰かさんもいるってことです。
私ですか?私は報酬次第ですねえ。ンッフフ!

ま、無理は禁物ってことで。お大事に。


……あ、サイン貰い忘れましたね。



 やれやれ、と溜息が出て行った。
 見渡す祭りの様子は襲撃があったと言われても、少し信じられないほどに賑やかなものだった。
 だが、これで一安心ということはないだろう。狭筵・桜人(不実の標・f15055)はそう踏んでいた。まだ祭りが再開できるようになったというだけだ。まだ、何かがある気がしてならなかった。それは“元”とは付くものの、正規UDCエージェントだった彼の経験から来る直感でもあっただろうか。
 とにもかくにも――
「休憩! 休憩します!」
 息抜きできる時に息抜きするべきだ。
 危惧を頭の片隅へ。桜人は会場内を闊歩する。人が集まり賑やかな場所は、彼とて気分が高揚するものだった。
「おや、あなたはテットさんでしたっけ」
 途中、パトロール中らしき兄弟ヒーローの一人を見つけて、声をかける。
「お前は、助けてくれた……」
「ええ、そうですそうです。こんなところで会うなんて奇遇ですねえ」
 目を瞬かせるテットに、桜人は頷きを返す。お見舞いに行くことは決めていたが、まさかその道中で出くわすとは。
「ああ、怪我の方は大丈夫ですか?」
「お陰様で。あの二人の治療のお蔭で、信じられないほど早く治ったよ」
「それは重畳。無事でいてくれないと困ってしまいます」
 フフフ、と桜人は笑う。自分たち猟兵もユーベルコードで治療を受ける時がある。効果がなかったら、それはもう大変なことだ。それに――
「せっかく助けたのに、死なれたら徒労ですからね」
「ははは……確かにそうだ。助けたのに死なると、悲しい」
 苦笑しながらもテットが頷く。彼もまた、そういった苦い経験があったのだろう。
「……でも、俺たちは助けられたから死ななかった。みんな死ぬかと思ってたのに、不思議なことにまだ生きている」
「フフ、不思議なんかじゃありませんよ」
 桜人の薄い笑みに、虚を突かれたようにテットが目を瞬かせる。
「あなたが誰かを救いたいと思うように、あなたを救いたいと思う誰かはいる。――そういうことです」
「……そうか。ヒーローになったらもう助ける側だと思っていたんだがなぁ」
「ヒーローでも人は人ですから。助けもすれば助けられもするでしょうよ」
「それは猟兵もなのか?」
「ええ、もちろん。助けもすれば助けられもしますよ」
 持ちつ持たれつ。そういうことだ。
 とはいえ。
「まあ私が助けるのは報酬次第ですけどねえ。ンッフフ!」
 冗談なのか、本気なのか。桜人の言葉に、テットは頬を掻くしかなかった。
「なら、助けて貰えたのだから何か礼が必要だな。飯は食べたか? うまいフランクフルトを売ってる屋台があったんだ」
「おや、奢りとは嬉しいですね。他人の金で食う飯は何よりうまいと言います。ご相伴に預かるとしましょうか」
 握手だとか、サインだとか。お見舞いに向かおうとしていた時には、そんな言い訳を考えていたが。ヒーローに飯を奢られるというだけで、自慢の一つになりそうだ。
 常に帯びた春色の笑みは、嬉しそうなものに変わって。先導するテットの背に続いて歩く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルカ・ディウス

▼あなたはどこへむかいますか?
〉(SPD)屋台を巡る〈

■心情
ふむ……無事に開催できてよかったと言うべきか
では、屋台でも巡るとするか
ふふふ……我を楽しませてくれる催し物があることに期待するぞ?



 オルカ・ディウス(神海戦姫・f16905)は一柱の女神だ。
 かつては超古代文明の海底都市『ニーラ・カーナ』の守護神として君臨していたが、そのニーラ・カーナも今は都市としての体裁を保っていない。
「無事に開催できて重畳、と言うべきか」
 賑々しい祭りの様子を見回しながら、オルカディウスは遥けし海底都市を想った。
 思えば、守護神として君臨していた時は祭りとは参加するものではなく、祀られるものだった。人々は踊りや歌、供物を捧げて日々の感謝を示し、そして彼らは今ここにいる人の子たちと同じように笑っていた。守護神は、それをただ眺めていた。
「この街ではかつての英雄に、か」
 神としてはやや複雑な気持ちにもなろうものだ。
 かつてのヒーローたちが祀られることで、今のヒーローはその名誉を間接的に得る。それによってヒーローたちは人々を守護する責務を負い、今生と死後に渡っての名誉を担保される。名誉と責務を前提にしたある種の社会システムだ。
「……もう既に、時代は神々のものではなく、人の子ら、ヒーローたちの時代なのやもしれんな」
 会場内をパトロールするヒーロー。子どもたちの相手をするヒーロー。それらを眺めながらオルカディウスは吐息する。寂寥感にも似た感情が胸の内にはあった。
 それらを振り払うように、オルカディウスは屋台を見遣る。当然のことではあるが、ニーラ・カーナにはなかったものばかりで目新しい。
「店主。このリンゴ飴とやらを一つ」
「あいよぉ!」
「店主、このわたあめなるものを」
「はいはい、気を付けて食べてね!」
「店主、この仮面は儀式用か?」
「はははっ、そいつぁご当地ヒーローの仮面だよ。仮面を被ってヒーロー気分ってな!」
「成程。一つ買おう」
 猟兵として得ていた人の子らが使う貨幣を手に、それらを一つずつ買って行く。放っておけば供物として捧げられていたかつてとは違って、自分で何を買うのか選ぶというのは楽しいものだ。仮面を頭に付け、リンゴ飴とわたあめを手にしながらうむ、と満足そうに頷く。
「さて、我を楽しませてくれるものだと良いのだが」
 見目が良いものを選んだが、果たして味の方はいかほどのものだろうか。わたあめを口にすると、ふわりとした食感が唇に当たり、甘味が舌の上で踊る。
「良いものだな。些か俗っぽくはあるが、雲のようでいながら甘い」
 かつての海底都市の守護神からしてみれば、雲というものは遥か遠くの、それこそ目にすることもない存在だった。海底深くに築かれた都市からは、水によって隔たれて、蒼い空を見上げることができない。それゆえにこのデザインは物珍しいようにも見えて、その甘さは彼女の心をくすぐっていた。
「ではこちらの赤い……リンゴ飴だったか。こちらも甘いのか」
 同じ飴なのだから甘いのだろう。ぺろりと表面を舐めると、確かに甘い。ふと道行く人がリンゴ飴をかじっているところが見えて、オルカディウスもまたそれにならってリンゴ飴をかじる。
 きゅ、と眉根が寄った。
 表面は甘いが、中身のリンゴの酸味が強烈だった。想像していた味と違って、オルカディウスは口を離して目を瞬かせる。
「……むぅ」
 確かにうまい。うまいが、慣れない。感想はそれに尽きた。
 いずれ自分も、人の世に馴染める時が来るのだろうか。
 オルカディウスは溜息と共に人々を見遣る。
 神の目に映る人々は、かつてのニーラ・カーナと同じく笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰炭・炎火
……クク。
十二ノ刻印ガ漸ク揃ッタ
アダムルスメ、時間ヲカケオッテ。
“5番目”ヲ引キズリ出シタノデアレバ、出来損ナイノ“7番目”ハ最早用済ミ………処分ハサテオキ……
我ガ持チ主モ次ノ段階ニ進厶頃合イカ。
今コソ我ガ真ノ姿ノ一端ヲオゴッッッッッ



……どうしよう
ニャメとお話できるんかな? って思っただけなのに。
ちょっと、か、軽くね? 叩いてみただけなのに。
ぜ、絶対壊れへんとおもってたのに。
ひ……罅……入っちゃった……

ど、どうしよ、おっちゃんに怒られる……
てゆか、みんなに見られたら絶対報告される……
に、逃げよ!!

〜こうして炎火は皆と別行動をとったのであった〜



 ――クク、ククハハハッ!

 ――遂ニ揃ッタカ、十二ノ刻印。

 ――最後ノ刻印ニマダ時間ガカカルモノダト思ッテイタガ……。

 ――時間コソカカッタガ、悪クハナイ。

 ――“Ⅴ”ヲ引キズリ出シタノデアレバ、最早出来損ナイノ“Ⅶ”は用済ミカ。

 ――ジキニアノ無理ナ構造ニモ限界ガ見エテ来ル頃合イダロウヨ。

 ――ソレハサテオキ、我ガ今代ノ担イ手モ、モウ次ノ段階ニ進ンデ良イ頃合イカ。

 ――ナレバ見セテクレヨウ。我ガ真ノ姿、ソノ一端ヲゴォッッッッッ!?



 襲撃が終わって、祭りが再開されて。すっかり任務を終わらせた気分になっていた灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)はお祭りの屋台巡りへと繰り出していた。もっとなんか他にやるべきこととかあった気がするが、炎火にしてみればやるべきことより今ある楽しそうなことの方が重要だ。
 そんな中で英雄の篭手を一般公開しているポスターを見て、炎火はようやっと結社の長に英雄の篭手を守るようにも言われていたことを思い出した。
 彼女自身、自分の担う刻器、“Ⅱ”のクロノスウェポンたる“ニャメの重斧”がどんなことを喋るのか興味があったこともあって、ニャメを手にテントをくぐって英雄の篭手に触れた。
 ニャメとは、話せた。確かに話せた。
 背筋がぞわぞわする話し方で、なんだか不気味だった。むつかしいことばかり言っていて、何を言っているのか。そもそも自分と話しているのかわからなかった。
 そこで炎火は気付いた。「あ、わかったじゃんねえ。これ多分英雄の篭手の不具合か何かでしょ~!」と。楽観的に捉えた。
 不具合か何かならば是非もなし。
 えい、と軽く(※註:当時彼女の怪力は264でPOWは262だったことをここに付記しておく)小さな手でニャメを叩いた。斜め四十五度チョップだ。
 するとどういうことだろうか。「ヲゴォッッッッッ!?」なる奇っ怪な声と共にニャメは沈黙した。
 そして今。
「ど、ど、どうしよう……」
 炎火は口元を両手で覆いながら戸惑っていた。
 クロノスウェポン。それは結社に伝わる特別な武器であり、気が遠くなるほどの年月と戦闘経験を蓄積したクロックウェポンが到達するある種の極点だ。
 そして炎火の担う“ニャメの重斧”もまたその極点に到達したクロノスの一振りである。その質量を無制限に増加させる性質を持つそれは、炎火の持つ怪力の異能で振り回したとて傷の一つも負わぬほどに強靭な耐久性を誇っていた。
 その“ニャメの重斧”に、亀裂が入った。
「ぜ、絶対壊れへんとおもってたのに……」
 炎火としても、ニャメのことは特に気に入っていた。軽すぎて手からすっぽ抜ける他の武器とは違ってニャメは扱いやすく、また振るっても敵諸共に粉砕するようなことも今まで無かった。
「ど、どどど、どうしよう……」
 それだけに、絶大な信頼を置いていた愛用の武器に亀裂が入ったことは炎火としてはショックな事態であることに違いなかった。
「こんなん絶対、おっちゃんに怒られる……!?」
 お前本当にショックなんだろうな。
 とにもかくにも、大事な大事なクロノスウェポンに亀裂が入ったなどとおっちゃんこと結社の長に知られたら一体どんな罰が待っているか知れたものではない。また人間用の鉛筆を使って反省文を書かされる、フェアリー特攻の罰は絶対に御免だった。
「てゆか、みんなに見られたら絶対報告されるし……」
 うーん、うーんと亀裂の入ったニャメを手に思い悩んで。炎火は結論を出した。
「に、逃げよ!!」
 ――こうして、炎火は脱走したことでナンバーズとは別行動をとることになったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『邪神の男』

POW   :    暴力の嗜み
【隙を見せた姿勢】から【近接攻撃に対するカウンター】を放ち、【急所へのダメージ】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    獣は這い、鳥は堕ちる
【敵を地面に押し潰す超重力】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    魂の簒奪者
【歴史に名を残したヴィランや怪物】の霊を召喚する。これは【ユーベルコード】や【全盛期の技能と武器】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:FMI

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠スサノオ・アルマです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 今一度、ヒーローズアースの歴史を紐解こう。
 かつてこの世界にヒトはいなかった。何柱もの神々がいて、そして不死の怪物どもがいた。
 神々は不死の怪物どもを討伐し、怪物どもの使っていたユーベルコードをある場所へと凝縮した。

      センターオブジアース
 そこが「 世界の中心 」である――というのが、よく言われる一説だ。

 この“世界の中心”に凝縮されたユーベルコードは生命創造の礎となり、人類を創ったとされている。
 それから気の遠くなるほどの時間が流れて、人類は歴史を重ねてきた。
 善悪による二大決戦があった。善神と悪神、ヒーローとヴィランが戦う、ジャスティス・ウォーだ。この戦いは世界に甚大なダメージを負わせたものであるとして、今なお人々の記憶へと鮮明に刻み込まれている。
 ――そして今。
 かつてジャスティス・ウォーにおいて、悪神の陣営に参画していた一柱の神が、オブリビオンとして復活を遂げていた。骸の海を漂流し、もう本来崇められ畏れられてきた名前ももう忘れ去られた神。
 今はただ、“邪神の男”と呼ばれていた。
「……そうか。祭具の奪取は猟兵の手によって防がれてしまったか」
 傅く部下のオブリビオンを見下しながら、邪神の男は骨の身体を軋ませる。さて、どうしたものかと呟くその姿は、まるでチェス盤を前に次の一手を考えているかのように悠然としたものだ。
 対して、跪き頭を垂れる部下の表情は恐怖の一色に染まっていた。肌という肌から脂汗を滲ませ、青褪めた顔色で身体を震わせていた。
「大儀であった。今この時をもって、貴様の担っていた任を解く」
 そんな部下を労い、緊張するなと言うように。邪神の男は椅子から立ち上がって、その頭に手を置く。
 その手の先に、血色の花が咲いた。
 頭部を失い物言わぬ肉塊と成り果てた部下は、そのまま黒い塵と化す。
「猟兵ども相手は貴様らには荷が勝ちすぎる。奴らに苦しめられて嬲り殺されるその前に、骸の海にて眠るが良い」
 瞑目する彼の表情に浮かぶのは慈悲だ。
「――これより邪悪を始めよう」
 そして、閉じていた目が開かれた時。
 邪神の男からあらゆる慈悲が消え去っていた。
「我が悪、猟兵どもの正義。どちらが勝り、どちらが敗れるか。我に正義を示して見せよ」

………………
…………
……

「敵の首魁が現れる」
 緊迫した様子で、グリモア猟兵の劒が祭りの会場で君たちの顔を見渡す。
「ジャスティス・ウォーにて悪の陣営で暗躍した邪神の一柱。邪悪を司ると言われている“邪神の男”――今回の敵はそいつだ」
 邪神の男は歴史書にいわく「接近戦においては後の先を取ったカウンターを得手としていた」逸話の通り、身体能力が異常に高い。
 また、重力を操るとも言われ、中距離、長距離戦を挑もうにも重力に押し潰された事例も多く記録されている。
 定説ではないものの、この能力は本来の彼の能力では無いと研究者には考察されている。邪神の男は邪悪を司り、歴史に名を残したヴィランや怪物たちの霊を召喚する力を持つと言われていた。
「冗談ではなく、胡狼兵どもと比較にならねえほどに強い。猟兵の一人二人でどうにかなる相手じゃねえ」
 神妙な面持ちで、劒は会場を見遣る。
 時は既に夕方。襲撃の予知があってから、会場から人々の避難は既に行われていた。
「邪神の男はその邪悪によって人を惑わす。奴の言葉に惑わされたヴィランどもも、邪神の男と一緒にこっちに来てるようだ。余程あの祭具が欲しいんだろうな」
 ヴィランについては兄弟ヒーローたちが対処する。
 敵の首魁の討伐が、猟兵たちの仕事であり勝利条件だ。
「奴の言葉は邪悪だ。奴は正義を問うて来るだろう。それに対して――自分なりの正義、自分なりの価値観を示し返してやれねえと、思考を掻き乱される。ヴィランのようにはならないが、先制攻撃されちまうだろうな。今一度、手前の正義や守りたいものを振り返っておいてくれ」
 以上だ、とグリモア猟兵は締め括る。
 時間はそう多くはない。
 決戦の始まりは、もうすぐそこまで迫っていた。
オルカ・ディウス

■心情
はてさて、これでもかつては悪神の側についていた身。懐かしさを感じればよいのか、困ったものよなぁ?
まぁ、昔話をするような間柄でもなし。本題といこう。
我にとっての『正義』は、いつだろうと、立場が違えど唯一無二。
『滅びた我が都市で眠る、民の安寧を護ること』よ。
彼らの眠りを妨げるというのならば、我はどんな相手にも立ち向かおう。ヒーローだろうと、ヴィランだろうと、オブリビオンだろうとな。
覚悟せよ邪神。既に貴様は、我の敵だ。

■戦闘
技能:第六感、技能:念動力を駆使し敵の先制は回避を試みよう。
そして、こちらは大神海を発動し攻撃を行う。
奴はヴィランや怪物の霊を召喚するのだったかな?纏めてなぎ払おう。



 悠然と、邪神の男は現れた。
 まるで散歩にでも赴いたかのような自然体。だが、彼の後ろにはヴィランや、怪物が従えられていた。ならず者の集団、と言えば大したことがなさそうだが。されど決して軽んじられる相手ではないことは猟兵たちには充分に察せられた。
 猟兵たちの間に緊張感が走る中。泰然自若とした様子で前に出た者がいた。
 オルカ・ディウス(神海戦姫・f16905)だ。
「はてさて、これでもかつてのジャスティス・ウォーでは悪神の陣営に付いた身。言わばかつての戦友なのだが――これは久しいと言うべきなのか?」
「ほう、ニーラ・カーナの守護神か。まだ朽ち果てていなかったとは驚きだな。貴様を信仰する者などもういないだろうに」
 皮肉げなオルカディウスの言葉に邪神の男もまた肩を揺らしながら笑みを返す。それは決して親しい者に向けるそれではなく、嘲笑に違いなかった。そもそも二人は陣営こそ同じだったものの、共に肩を並べて戦うことがなかったのだから。
「貴様こそとっくに滅び去ったものだとばかり思っていたがな。……まあ、昔話に花を咲かせる間柄でもなし。本題に入ろうか」
 飄々としていたオルカディウスの纏う気配が一変する。彼女が杖を構えると、杖に秘められた魔力が周囲の景色を陽炎めいて揺らがせる。そしてその揺らぎの向こうにあってなお強く瞳の中に輝くのは、敵意の感情だ。
「何をしに来た? よもや祭りを楽しみに来たわけでもあるまい」
「邪悪を行いに来た。そして貴様らの正義を見に来た」
 睨めつける守護神の瞳を、邪神の男は事もなげに返す。まるで演劇でも見に来たかのような口調に、オルカディウスの瞳が細まった。
「さあ、問おう。守護するものなき守護神よ、貴様の正義とは何だ?」
 邪神の男から黒い波動が放たれる。それこそが彼の司るという邪悪に違いなかった。おぞましく、また空恐ろしいものである。
 それを見て、しかしオルカディウスが戦意を萎えさせることはなかった。むしろその戦意を漲らせ、自らもまたその身に秘めたる神気を放出する。
「我が『正義』はいつ何時であれ、立場を異にすれど唯一無二。『すでに滅びし我が守護都市ニーラ・カーナにて眠る、民らの安寧を護ること』のみ」
 邪神の男から放たれた邪悪が、放出された神気によって打ち消される。衝突点から、ごう、と暴風が巻き起こった。
「彼らの眠りを妨げるというのならば、我はいかなる外敵の前にも立ち塞がろう。ヒーロー然り、ヴィラン然り、またオブリビオン然り」
「地上には無関心だと思っていたのだがな」
「戯けたことを。オブリビオンは世界を滅ぼす。我がニーラ・カーナをも滅さんとする者に、どうして敵対せずにいられようか」
 まったく道理だな、と愉快げに肩を揺らす邪神の男へと、オルカディウスは杖の先端を向ける。
「覚悟せよ、邪神。すでに貴様は我が外敵よ。――荒ぶる海よ、吠え立てろ!」
 オルカディウスのその言葉によって、周囲の景色に異変が起きる。屋台、建物。周囲にあるあらゆる無機物がその姿を海水へと変じせしめた。
 海神の権能。オルカディウスの立つ地を一時的にせよ己が神域へと変えて、無機物を海水へと変えることにより津波を引き起こす力だ。権能により自由自在に操られる津波は、オルカディウスの眼の前にいたヴィランや怪物たちを飲み込んでしまう。津波とはすなわち巨大な質量による攻撃に他ならない。ヴィランが耐えられるはずもなく、怪物もまたその津波から半数以上が戦闘不能に陥る。
 ごうごうと轟く波を、掲げる杖で引かせる。後に残るのは戦闘不能に陥ったヴィランと怪物。そして――
「……成程、重力か」
 邪神の男が立っていた。彼の周囲が水に一切濡れていないのは、超重力を展開したことによって、重力の壁によって津波を防いだのだ。
「我が配下が半壊か。邪悪の前座としては申し分ないな。守護神を称し正義を謳っただけのことはある」
 戦力の大半を喪っておきながらしかし男に焦った様子はなく。むしろこちらの一撃を称賛さえして来る。
 杖を構えながら、オルカディウスは吐息した。敵の戦力を削れはしたものの、これは随分とタフな戦いになりそうだ。
「……やれやれ。かつての知り合いになぞ会うものではないな」

成功 🔵​🔵​🔴​

アマニア・イェーガー

正義というものに特別こだわりはないけれど……そうね、私にとってソレに近しいものは──"時間"かしら

積み重なった時間、その厚みを持つ物は、私にとって正義と呼べるものかもしれないわ

そしてそれらを生み出す人類こそ私の守るもの。私が猟兵(イェーガー)を名乗り、彼らを助ける理由

ずいぶんと出遅れてしまったけど、私も加勢させてもらおうかしら

あなたも重力を操るなら、私はその重力すら掌握する
【鍵開け】【ハッキング】を併用しユーベルコードを発動
【破壊工作】で重力崩壊を誘発しブラックホールを生成して攻撃するわ
"邪神"は封じ込めるのが一番よ

もし先制攻撃されれば【視力】で攻撃を読んで、【カウンター】で対処



「随分出遅れてしまったみたいね」
 襲撃があって、英雄祭がいつの間にかに終わっていて。
 後の祭りという言葉がこれほどに似合う状況は無いとすら思っていたが――
「まだまだ後宴は続いているようね。加勢させて貰うわ」
 アマニア・イェーガー(謎の美女アンティークマニア・f00589)は笑みさえ湛えて戦場に赴いた。周囲は水浸し。辺りには戦闘不能のヴィランと怪物――初っ端から随分と派手にやったらしい。
「遅参者か。いや、ちょうど良い。貴様もこの余興に付き合って貰おうか」
「残念だけど、曲芸は専門外よ」
「なに、簡単な質問だとも」
 怪訝な表情を浮かべるアマニアへと、邪神の男が笑みを浮かべる。その笑みに、底知れぬ畏れを抱いて彼女は身構えた。
「――貴様の正義とは何だ?」
 男の周囲に黒い何かが集まるのが見えた。一瞬後、それが波動となってアマニアへと襲いかかって来る。邪神の男が司る邪悪を高密度に凝縮した邪悪の波動だ。
「正義というものに特別こだわりはないけれど……そうね、私にとってソレに近しいものは――」
 アマニアは空中に展開した電脳世界へとアクセスし、周囲の環境をハックする。環境の情報を掌握し、操作権限を奪取した。
「――“時間”かしら」
 時間。それは積み重なるもの。物に堆積するように積み重なり、厚みを形成していくもの。それが正義、それが価値観の根底にあると、彼女は言った。

 ゆえにそれらを生み出す人類こそが、彼女の護るべきものに違いなく。
      イェーガー
 アマニアが“猟兵”を名乗り、人類を助ける理由に相違なかった。
               オブリビオン
「悪いけど、そういう意味では“リバイブ版”はお呼びじゃないわ。」

 それそのものに価値があるのではなく。時間を経たからこそ価値がある。
 ジャスティス・ウォーから生き延びた邪神であればいざしらず、一度は滅びて骸の海から蘇ったオブリビオンでは“厚み”が足りない。
 環境へのハッキングによって掌握したのは重力の操作権限。数値を編集することで、迫る邪悪の波動の尽くを“撃ち落とす”。
「人の身にしては変わった価値観を持つ者だな。重力を操るのもまた珍しい」
 波動を撃ち落としたアマニアはそのまま重力の槌を邪神の男へ向ける。砕けるアスファルトを軌跡としながら、しかしそれは同じく重力を操る邪神の男によって防がれてしまった。
「いいや、違うね」
 それを見て、アマニアは不敵に笑う。その表情は、何もわかっちゃいやしないと言わんばかりだ。
「――私はあなたのように重力を操っているんじゃない。私は“掌握”してるんだ」
 ハッキング、完了。
 邪神の男によって操られていた重力の操作権限を奪い去り、重力の槌に加えて威力を倍増させる。アスファルトが砕け、クレーターが形成され、邪神の男が膝を屈した。
「“邪神”は封じ込めるのが一番ね」
 本来ならば、ブラックホールなりで対処すれば良いのだろうが。生憎とここは広大無辺の空間ではなく、人間の住む街が戦場となっている。広域殲滅もこのような場所では考えものだ。
「勇者と言うには、まだ少し足りんな」
 ふと、嫌な予感を覚えて。重力制御も中断してアマニアはバックステップを踏んだ。一瞬後に自分の今までいた場所にクレーターが穿たれる。重力によってその身を封じ込められたはずの邪神の男による重力攻撃だ。
「復刻版とはいえ、強さはやっぱり神様級か……」
 そんなところまで再現しなくても良かっただろうに。アマニアは引きつった笑みを浮かべながらも、再度重力の操作権限を奪うべくハッキングを始める。
「さあ、これより始まるのは重力の奪い合い。貴様が惑星に“愛されている”かどうか確かめようではないか」
「地面にキスするのはそっちだよ。君と違って惑星の方は重ねた年月の桁が違うんだ。爪の垢を煎じて呑む代わりにすればいいさ」

成功 🔵​🔵​🔴​

三咲・織愛


異な事を問うのですね
正義など聞いてどうするつもりなのでしょう
ただ否定するだけなら子供にだって出来ますよ

槍を構え、見据えます
私の正義。悪戯に無辜の人々を痛め付ける者を滅ぼします。ただそれだけ。
生きられる筈だった命を、救いを求める人を、救うために。
出来る事は限られる、全てを救える訳じゃない。そんな事は知っている!
それでも己の手の届く範囲で、あがいて救ってみせるんです

深呼吸。目標は邪神の男。そこに辿り着くまでの道は、最低限の回避で構わない
〈見切り〉〈武器受け〉、〈範囲攻撃〉で道を切り開きます。振り返らない
【覚悟】を見せましょう。決して退かない、退いてなどやるものか!殺気を纏い正面から穿ちます



 面白い。
 それが邪神の男の持った、猟兵たちへの印象だった。
 ヒーローズアースのヒーローたちと同じく各々の正義を持ち、しかしてヒーローたちとは違って実力を秘めた存在。個々の力は邪神の身に遠く及びはしないものの、それでもこうして団結して立ち向かって来る姿は、邪神の男にとって興味深いものだった。
「さて、次の相手は――」
 誰だ、と言おうとした瞬間。藍色の槍が飛んで来た。首を横に振ると、頬を掠めて行く。
「不意打ちとは丁寧なご挨拶痛み入る」
 避けた槍は小竜へと変身した。翼を羽ばたかせながら戻る先にいたのはエルフの少女――三咲・織愛(綾綴・f01585)だった。
「次は外しません」
 風切り音。小竜ノクティスが再び姿を変えた槍を構えて、織愛は男を見据える。それに対して、邪神の男は臆するでもなく嘲笑するでもなく、ただ鷹揚に頷きを返した。
「結構。貴様もまた、己が正義を持ち我に立ち向かわんとする者であるがゆえに」
 睨め付ける織愛へと視線を返す邪神の男。「さて」と思い立ったように彼は声を上げる。
「それでは一つ答えて貰おうか。――貴様の持つ正義とは何か?」
「異なことを問うのですね。正義など聞いてどうするつもりなのでしょうか」
 男から放たれる邪悪の波動。それを受け切って、織愛は邪気に纏わり付かれながらも男へ向ける敵意を萎えさせない。
「私の正義をわざわざ聞いて、否定するだけならば児戯に等しいです」
「否。貴様らの持つ正義が無意味であると、どうして邪悪である我が身で否定できようか」
「……では、なぜその問いの真意とは?」
「知れたことよ」
 怪訝な表情をする織愛へと、愚問だとばかりに男は口を開く。
「我が司りし権能は邪悪。ゆえに敵対するべき敵の名よりも、相対者の抱く正義を知っているべきなのだ」
 神へと挑戦する者としての名乗り上げ。邪神の男はそれを求めているのだろう、と織愛は理解する。解しきれぬ価値観ではあったが、それは相手が神ゆえにか。
「……良いです。でしたら、名乗り上げの代わりに教えて差し上げましょう」
 眼光の鋭さをいや増して、織愛は殺気を放ち始める。怒り、敵意。華奢な彼女の内に渦巻く感情が物理を超えて纏わり付いて来る邪気を打ち払う。
「私の正義。生きられるはずだった命を――救いを求める人を救うため。徒に無辜の人々を痛め付ける者を滅ぼすこと。ただそれだけです」
「人の身には過ぎた大望だな。全てを救えるわけではないとわかっていてなお、その大望を抱くか」
「できることも限られていて、全てを救えるわけでもない。……そんなことは知っています」
 織愛は邪神の男の邪悪な言葉を払い除けるように槍を振る。ざあ、と黒いもやのように周囲に漂っていた邪気が諸共に霧散した。
「それでも救いたい。私の手の届く限り、足掻いて手を伸ばして――そして、救ってみせます」
 人の心の支えになることは簡単ではない。認められて、信頼されて、そして希望を示さなくてはならない。
 人の心を支える者。その背で人々を勇気付ける者。ヒーロー。
 その在り方に憧れを抱いた織愛は、だからこそ彼の者たちのように手を差し伸べ続ける。救い続ける。理不尽に生命を奪わんとするオブリビオンたちから、救いを求める者たちを。
「ノクティス、力を貸して」
 強敵を前に、小竜の槍に小さく呟き。
 決意と敵意を瞳に宿して、彼女は駆けた。
「我が相対する正義としては申し分ないな」
 不敵に笑う邪神の男が手を振った。すると大蛇のような敵が現れ、織愛へと立ち塞がる。
 襲いかかる大蛇。織愛はその噛みつきを槍でいなす。目標は邪神の男ただ一つ。そこに辿り着くまでの回避は最低限で構わない。
 最短、最速。
 手の届く限り救う。そう言った。救うためには邪悪を滅ぼさなくてはならない。
 だから、織愛は手を届かせるために跳ぶ。
 大蛇の身体を足場にして棒高跳びの要領で飛び上がる。
 空中からの一撃。敵の反撃を恐れず、刺し違えてでも一撃を見舞うという覚悟の顕れ。
 退けない。退かない。退いてなどやるものか。ありったけの殺意を槍の穂先に込めて。
「届、けぇ――ッ!」
 祈るような叫びと共に、織愛は槍を振り下ろした。邪神の男はそれを左腕で庇うように受け止める。
 ぱっ、と。赤黒い花が咲いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーム・アンテルシオ
私の正義。それは…人を助ける事、だよ。
正義とは…正しい行いをする事、だから。
…なんて。あなたの求めてる答えは、そうじゃないんだよね。

これは、正義であって、使命であって。義務でもある。
課された義務でも。
望まない使命でも。
逃げる事は、許されない。

…ちょっと、違ったかな。
逃げる事は、許さない。
許さないんだ。私自身が。
定められた正義こそが、私の正義。
決めたんだ、私が。
だから、これが。私の正義だよ。

ユーベルコード…山茶禍。
ふふふ。悪いけど、私は…接近戦は、不得手だから。
ちょっと、ズルしちゃうね。
あなたは「その反撃を当てられない」。
神様が、歪んだ運命に、どう立ち向かうか。
見せて貰おうかな。

【アドリブ歓迎】


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
正義、か。……以前、ある人と似たようなことを問答したよ。そいつは、自分を犠牲にしてでも人を救うのが正義の味方だって言ってた。
でも、おれは身勝手で自分が一番大事な臆病者だからさ、それだけじゃ満足しねえんだ。
人も救う。自分も救う。それでその在り方に胸を張れる。欲張りで傲慢だけど、それがおれの目指す正義ってヤツだ!

他の味方を〈援護射撃〉や〈鼓舞〉で助けながら、自分も攻撃に参加。
向こうの攻撃は《逆転結界・魔鏡幻像》で相殺したり、〈第六感〉を働かせつつ〈見切り〉で凌ぐ。妨害出来そうなら〈フェイント〉を混ぜつつ〈目潰し〉や〈武器落とし〉で攻撃のタイミングを潰すようにするぞ。



 戦場の地は水でぬかるみ、クレーター状に穿たれた跡がいくつもあった。
「さあ、次だ」
 惨憺たる有様になった祭りの会場で、邪神の男は立っていた。彼はその邪気を侍らせることにより、怪物を召喚してみせる。
「それとも、邪神討伐の前に怪物退治の方がお好みかね?」
「どっちもお断りだ、そんなもの」
 ざ、と邪神の男の前に現れたのは鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)だ。相変わらず恐怖心は拭い去れないのか、その脚は微かに震えていて。けれど、その表情には決然とした対峙の意思があった。
「ほう。ではその震えている脚と貴様の抱いた恐怖のままに、尻尾を巻いて逃げ出すと?」
「いいや、おれは逃げない。……逃げたらきっと後悔する」
 スリングショットを構えながら、嵐は身構える。
 最初はヒーローの窮地を助けたいと願った。眼の前で命が奪われることに耐えきれなかった。
 そして今は――守りたいと願った。自分のハーモニカを加えた、あの小さな演奏会を楽しんでいた子どもたちを、祭りを楽しんでいたこの街の人々が害されたくないと想った。
「だから俺が今から始めるのは――ただの、“守るための戦い”だ」
 身体を震わせ、己の勇気を奮わせる嵐の宣戦。それを邪神の男は嘲笑する。
「笑わせる。我が身可愛い臆病者にどうして何者かを守れようものか」
「ッ…………」
 男の讒言に身を固くして、衝動的に何か言い返そうとした。けれど、言葉は出なかった。
 臆病で、強くもない。そんな自分がどうして邪神などという強敵を相手に何かを守ってみせると言えるのだろうか。己の胸中から疑問の感情が湧き上がって来る。考えるな、と念じても、一度芽生えたそれは止まる気配を見せない。恐怖で身体が震え、立っていることすらままならないほどに力が抜けていくのが感じられた。
 ――駄目だ。ぎゅっと目をつぶる。勇気を振り絞るべきだ。それはわかっている。だが、身体が言うことを聞かない。
「大丈夫」
 邪神の邪気にあてられて恐怖を増幅させられた嵐の隣に、ふわりと降り立ったのは桃色の妖狐、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)だ。
「私たちなら立ち向かえる。そうでしょう?」
 頭2つ分も低い視点から微笑んだ顔で見上げられる。共に戦い、共に子どもたちと触れ合ったパームのその言葉は、どんな激励よりも胸の内に響いた。
 気付けば震えは小さくなっていて。全身を麻痺させるかのような恐怖は鳴りを潜めていた。
「……ああ!」
 嵐は再びスリングショットを構えて。パームもその九尾から“気”を放出させ始める。
「ふむ。恐怖してなお突き進むか」
 臨戦態勢になった二人を前にして、邪神の男は笑みを浮かべた。まるで新しい玩具を見つけたかのような邪な笑みだった。
「ならば、貴様らの正義を示すが良い。さあ、貴様らの正義とは何だ?」
 言葉と同時に、男から邪気の波動が放たれる。黒色のそれが二人へ襲いかかる。
「おれの正義は、救うことだ!」
 黒の波動に立ち向かうように、嵐は前へと踏み出した。逆風を受けるように波動にぶつかりながらも、彼はその身を退かせない。
 正義とは何か――それはかつて、ある者と交わした問答に似通ったものだった。相手は『自分を犠牲にしてでも人を救うことが、正義の味方だ』と主張した。
 嵐もそれは間違っていないと思っていた。それどころか、その献身的な自己犠牲の精神は立派なものだとさえ思っていた。
「アンタの言う通り、おれは身勝手で我が身可愛い臆病者だ。自分を犠牲にしてでもなんて、見栄すら張れねえ」
 自分を犠牲にできるほど人間ができているわけではない。それは嵐自身がよく知っている。
 だから、嵐は嵐なりの正義の結論を出した。
「人も救う! 自分も救う! ――自己犠牲なんて俺にはできねえ。でも、この在り方ならおれは胸を張れる! 欲張りで傲慢だけど、それがおれの目指す正義ってヤツだ!」
 纏わり付かんとしてくる邪気を、言葉によって弾き飛ばす。飛散した黒い波動が、きらきらと周囲に拡散していく。
「正義とは正しい行いで、人を助けることは正しいこと。だから、私の正義は人を助けることだ」
 隣に立つパームが言葉を零すように呟く。
 人を助けることは一般的に正しい行いだ。正義が正しい行いだとすれば、人助けとは正義に違いないだろう。
 だが、黒い波動は晴れなかった。パームが示した正義は欺瞞であるかと言うように、彼女の身に纏わり付いていく。邪神の男が片眉を吊り上げた。
「それは貴様の抱く真の正義ではないな」
「……うん、そうだね。これはあくまで一般論。私の正義は、そうじゃない」
 少しだけ困ったような笑みをパームは浮かべる。
 助けること――それについては嘘偽りはない。彼女もまた、嵐と同じく人に利することこそが正義だと信じていた。
「これは正義であり、使命であり、義務でもある」
 己が抱く正義。望まぬ使命。課された義務。――それら全ては全て同じで、捨てることも逃げ出すことも許されぬもの。
 ――否。
「私は、私自身がこの正義から逃げることを許さない。この定められた正義こそが私の“正義”」
 たとえ己に付けられた足枷だとしても。たとえそれが己を呪う呪詛だとしても。
「私がそう決めたから――だから、これが私の“正義”だよ」
 宣言と共に、彼女は桃色の“気”を九尾から放つ。身体に纏わり付くかのようだった邪気が、一瞬にして払われた。
「陰の下、火の下、生命の運命を動かそう――。さあ、行くよ!」
「ああ、合わせるぜ!」
 パームが見えざる呪詛を放ち、嵐もそれを援護するかのようにスリングショットから石を投げ放つ。
「貴様らの正義、しかとこの耳に聞き留めたぞ」
 不敵な笑みを浮かべた邪神の男が手を振ると、甲冑を纏ったヴィランが盾となるかのように現れる。強力な邪神の男に加えて、更に増えた敵は厄介極まりない。
「鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界。彼方と此方は触れ合うこと能わず」
 ――もっとも、それは普通ならばの話だが。
 嵐の詠唱によって召喚されたのは一枚の鏡だ。姿見ほどのそれは甲冑のヴィランを映し出す。
「……幻遊びはお終いだ」
 鏡面に映し出された瞬間。忽然と召喚されたヴィランはその姿を消した。
「送還のユーベルコードで相殺したか。小賢しいことを」
 召喚して盾にするはずだったヴィランが打ち消された邪神の男を守る者はいない。迫るパームの放つ呪詛。不可視であるはずのそれを手でもって弾き返そうと邪神の男が手を振るが、嵐がそれを許さない。スリングショットから放たれた投石が、狙い過たず振った手を妨害する。
「近接戦闘は不得手だから、あなたのカウンターには付き合わないよ。悪いけどちょっぴりズルさせてね」
「相殺。遠距離攻撃。小さなアドバンテージを積み重ねる戦法か。かつての人々もまた、知恵でもってこうして立ち向かって来たものだ……。まったくもって小賢しい」
 弾き損ねた呪詛によって一時的に身動きを封じられ、忌々しげに邪神の男が呟く。単なる呪詛ならばいざしらず、これは運命を縛り上げることで行動を制限させる類の呪いだ。神とて運命を変えられてしまっては、解呪にいささか時間がかかる。
「さあ、畳み掛けるよ!」
「ああ。ここで正義を貫き通すぜ!」
 救うための、そして助けるための戦いは始まったばかりだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハゼル・ワタナベ
◎(【結社】との合流可)

正義を問うだァ?
シャバいコト聞いてくるなァ、テメェもよォ


(ふと脳裏に過ぎるは、篭手を触れた際に響いた父親の遺言
『生きろ』だ?顔も名も知らねェ親の分にか?
…クソったれ、じゃあアンタは何の為に生きてきた
命を賭してまで戦いたい理由があったのなら―…)

俺が、継いでやる

決意を込め、UC発動
超重力に対抗すべく毒気の瘴気を高める

―俺の正義は一つ
その顔も名も知らねェクソッタレの親が生きたこの世界を護りてェんだよ
俺がこんな身体になっちまったのも、親父なりの覚悟があってのことだろ
それなら何だって引き継いでやる
…今の俺は、一人じゃねェからな


ラグ・ガーベッジ
◎【結社】

少し離れてザザの様子を眺めている

「ああ……ムカつくぜ」
「今日は1から10までクソッタレだ」
使いっ走りから始まり、雑魚の掃除、雑魚のお守り
果てには力の一部を喪った

「けど一番ムカつくのは――」
そう、目の前の光景こそ腹ただしい

自分から”力”を奪った少年が、己よりも明らかに
その”力”を使いこなしているから

「あ”あ”……ムカつく」
苛立ちの対象は己自身

「武器は……使いこなせねぇ奴が悪い……」
それが己の掲げる正義(アイデンティティ)

「散々言ってきたことだよなぁ!!?」
どれほど惨めでも屈辱でも、そこだけは曲げられない

「認めてやるよクソッタレがぁ!!!」

その両腕を刃に変え、新たな仲間の元へと駆け出した


レン・オブシディアン
◎【結社】
「僕の正義、価値観ですか…」
「決まっています。"Ⅺ"が示すのは超克、苦難を超えて成長し続ける事で価値を証明するのですよ」
邪神の男に相対し、己の映し身である"Ⅺ"の刻器、夜の間へと移行したホロンの冥鎌を構える。

「周囲をよく見て合わせる、なら今必要な事は…」
耳に残るのは掠れた老人の声。
独り言ち、無闇に踏み込まず周囲にも視線を向けて戦場を見る。

(前衛は足りています、ですが情報通りのカウンター。無策で突っ込めば返り討ちですか)
(…なら僕の出来る事は)
火の魔術による【属性攻撃】を発動。
生成した火の戦鎌を空に翳し、袈裟懸けに振り下ろす。
「援護します! どうか皆様心の赴くままに!」


ビリウット・ヒューテンリヒ
【結社】◎

私にとっての正義だって?
決まっている

結社、そしてそれを束ねるアダムルス・アダマンティン
それが私の信ずる正義であり、絶対の価値観だ
御託はもういいかい?手早く済ませよう
戈子殿、私が使う!防御は任せた!

バロウズ!形態変化【ペネトレイト・セントリー】
戈とバロウズの変わり種二刀流で戦うよ

ザザ、これが私達の戦い方だ
君の武器は特別だ
良く見て、良く考えて、そして躊躇わないで
──良い子だ 君はきっと強くなる

さ、集中しよう
戈子殿、近接攻撃を仕掛ける
守りは一任する…いざ!

──ところで
実は私が途中で、バロウズを握ってないことに気づいたかい?
いやね、何を隠そうあの形態は

自動銃座になるんだよ
バロウズ、Fire!


灰炭・炎火
【結社】◎
あーん! やっぱりちゃんと謝ろー、ごめんなさーい!
……正義っていうのは、間違いを認めること!
失敗したことを、ちゃ~んと受け入れること!
そう! あーしやらかしちゃったけど!! だからごめんなさい!!!
そいでもって――たとえどんなときでも! あーしは結社の灰炭炎火!
倒すべき敵は、きちんと倒すの――――あれ? ニャメの罅が広がって……ああ割れちゃっ……ん?
……中から綺麗なニャメがでてきた……スリムになった?
でもこれ、使える……? よし、行こう、新しいニャメ!
…………でえええい!(敵に向かって投げつける)


ザザ・ロッシ
【結社】◎

戦いの技術なんてないし経験もない
でも武器はあるから剣を振り回して斬りかかる
派手にぶっ飛ばされるのは目に見えてるけど
どんだけキツくても立ち上がるさ

正義なんか知るかよ
俺はついさっきようやく知ったんだ
自分たちがどれだけ守られてきたのかって
守り切れなかった人がどれだけいたのかって
だから、ヒーローや猟兵に辛いこと押し付けて平然としてられるかよ
俺も手伝う、俺も戦うぜ

これが俺の戦う動機だ
…勘違いすんなよオブリビオン
これはお前への回答なんかじゃない
俺の、剣に対する宣言だ

わかったなプロメテウス
力を、貸してくれ!


封印を解く技能で剣の封印を解き
ユーベルコード使用


……えっ
結社の人ってこんなに多いの?


伴場・戈子
【結社】◎
青臭いガキどもだねェ。アタシゃ生憎だけど、そんな風に正義だなんだと語るのには疲れちまったよ。
だが、今となっちゃ尻の青いガキどもがそんな青臭いことを言えるようにしてやることくらいが、アタシの役目さね。

久々に神気全開で行く!ビリウット、アてられるんじゃぁないよ!

(真の姿解放。「不浄禊祓」によって神気を纏い、敵の邪悪な言葉を退ける)

歴史に名を残したヴィランや怪物――その程度で、神を冒せると思うんじゃぁないよ。

アンタも腐っても神さね。涜神を許さぬ結界の概念的防御力がわからないわけじゃあないだろう。

正義だなんだと今更言いやしないが――護る事にかけて、アタシを崩せると思わないことだね。



 戦場。怪物どもを侍らせた邪神の男が、現れた6人の猟兵たちを見る。
 男、女、容姿や種族は様々で、明確な共通点と言えばただ「猟兵である」というただ一点。
 戦場に並び立つ彼らは――“ナンバーズ”。武器に選ばれし者、あるいは武器へとその身を変じせしめる者の集まった秘密組織“結社”の構成員たちだ。
「束になってかかって来た、というわけでもなさそうだな」
 笑みを消して、邪神の男は顎を撫でる。彼の視線の先に立つのは“長針のⅢ”たる伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)だ。視線を寄越されたとて、戈子はただハンと鼻を鳴らすのみである。交錯する視線には並々ならぬ確執と敵意が含まれていた。戈子はヒーローズアース創世の神の一柱だ。ジャスティス・ウォーも含め、遥けき歴史の中で邪神の男と浅からぬ因縁があるのだろう。
「良かろう。だが、貴様らがいまだにあの名乗り上げをやっていたとて、聞いてやる義理もなし」
 邪神の男が大袈裟に肩を竦めてみせると、足元を這うように辺り一帯へと邪気の黒いモヤが広がる。
「名乗り上げに代わり、貴様らの持つ正義を示してみせよ」
 拡散された邪気は、構えるナンバーズたちへと足から纏わり付いていく。

 舌打ち一つ。真っ先に邪気を蹴立てるようにして前へ一歩出たのは“短針のⅧ”たるハゼル・ワタナベ(“∞”のⅧ・f17036)だった。
「正義を示すだァ? シャバいコト聞いてくるなァ、テメェもよォ」
 足元の邪気を鬱陶しげに一瞥してから、ハゼルはオブリビオンを睨め付ける。
 彼が思い出すのは、英雄の篭手に触れてからというもの、脳裏にこびり付いたかのように離れない父親の遺した言葉だ。
「……俺の正義は一つ。顔も名も知らねェクソッタレな親が生きたこの世界を護りてェ。それだけだ」
 ぐっと握った拳を己の胸に置く。
 ハゼルはヴィラン組織によって肉体改造を施された強化人間だ。その結果、彼は戦うための力と、武器に変身するための短針としての能力を手にした。
「俺がこんな身体になっちまったのも、親父たちなりに覚悟があってのことだろ」
 ならばそれに応えたい。
 共に過ごした記憶さえも定かでないどころか、顔すら覚えてない親だが。それでも、それは確かに自分に託された思いだから。
 それを継いでやりたい。
 両親が何のために生きて、何のために命を賭して戦って来たのかもわからない。けれど、確かにそこに命を賭して戦い、生きてきた理由があるのなら。それがわかるまで彼は守り続けたいと願った。
 自分のようなヴィラン崩れには大それた願いだが――けれど、今の彼は一人ではない。仲間がいる。
 仲間がいるなら、きっと成し遂げられるはずだから――
「――“ウロボロスの毒牙”ァ!」
 胸に置いた手に、柄が握られる。彼が横薙ぎに手を振ると、しなりと共に一本の蛇腹剣が彼の周囲に纏わり付いていた邪気を払った。

 僅かに薄らいだ邪気の中で、黒の外套を揺らして刻器を構える者がいた。“短針のⅪ”たるレン・オブシディアン(短針のⅪ・f17345)だ。
「僕の正義、価値観ですか……」
 呟く言葉に迷いや戸惑いはない。そこに含まれているものは、愚問だと言わんばかりの意志の力。
「決まっています。"Ⅺ"が示すのは“超克”」
 オン、と風を裂くのは、黒曜石の刃に“Ⅺ”が刻み込まれた刻器にして、ヤドリガミたる彼の本体である“モトの大鎌”。
「苦難に打ち克ち、超えて、成長し続けること。――それによって僕の価値は証明されます」
 回転した大鎌の刃が邪気を払って切り裂く。形状こそ変わらないが、その纏う神気は桁違いに増大していた。
 ――『ホロンの冥鎌』。
 “夜の間(PM形態)”と呼び習わされる、刻器の持つもう一つの形態だ。
「高みを目指し続けることこそ僕の正義。――邪神というこの試練も、乗り越えますよ」
 いつの間にか、一回りほど巨大化した冥鎌を構え直す。

 バァン、と空を裂くような銃声がした。
「私にとっての正義だって?」
 手にした銃の刻器“バロウズの魔銃”を天に向け、自分に纏わり付いていた邪気を払ったのはビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)だ。
「決まっている。結社、そしてそれを束ねる長。それが私の信ずる正義であり、絶対の価値観だ」
 彼女の心酔する結社の長。彼がひとたび是と言えばそれは彼女にとってそれは是となり、否と言えば彼女にとっても否となる。
 かつては一族が全てだった。記憶の守り人としての任を負った一族の中にあって、ビリウットはその禁忌を破り、破門された。
 そして今。森に隠遁していた時に結社の長より刻器“バロウズの魔銃”を授けられたあの時から、ビリウットの価値観の全ては結社のものとなっていた。
 はあ、と大きな溜息一つ。戈子が槍を担いで前に出る。
「青臭いガキどもだねェ。アタシゃ生憎だけど、そんな風に正義だなんだと語るのには疲れちまったよ」
 ハゼルは顔も知らぬ親のことを想い。
 レンは見果てぬ高みを望み。
 ビリウットは底知れぬ結社を盲信する。
 彼らのような情熱を、数千年の歳月を経て風化してしまった戈子は抱けない。
「だが、今となっちゃ尻の青いガキどもがそんな青臭いことを言えるようにしてやることくらいが、アタシの役目さね」
 骨張った手で、己の拳を胸に当てる。
 ちゃり、と懐中時計の鎖が鳴って。からん、とピルケースの中に入った使いもしない胃痛薬が乾いた音を出した。
 戈子は大きな愛を抱きながらも、その“Ⅲ”の時計は“諦念”を背負っていた。この愛は、役目は、正義とは呼べない。邪気を祓うこと能わない。ゆえに――
「刻器、献身。――久々に神気全開で行く! アてられるんじゃあないよッ!」
 戈子は膨大な神気を放出した。
 くにつくりの戈神。
 古文書で語られしその名に違わぬ神気は、辺りに充満していた邪気の悉くを己より遠ざける。沈黙を保っていた邪神の男が、ほう、と口の端を釣り上げた。
「……正義を掲げずして我が邪気を祓うか」
「アンタも腐っても神なら、神気結界の概念防御がわからないわけでもないだろうに」
「ああ、涜神を退けるその力はわかるとも。しかし、貴様も正義を掲げぬようになるとはな」
「……昔の話はおやめ。一度は去った神が口を利くもんじゃあないよ」
 漂う邪気の中で嘲笑する邪神の男。奔流する神気の中で敵意を露わにする戈子。
 神の対峙は周囲の環境にまで影響を及ぼす。いつか、かつての歴史上にあった光景の再現。
 だが。しかし――
 今はもう神の時代にあらず。人の世にして英雄の時代。ゆえにこそ――
「――ビリウット!」
「ああ、戈子殿! 私が使う、防御は任せた!」
「任されたよ、アンタの防御。木っ端ヴィランにヒヨッ子怪物、アタシの前じゃどれもクソガキ同然さね!」
 戈子は真の姿にその身を変じせしめ、矛となり。ビリウットの手に収まった。
 片手に“バロウズの魔銃”。片手に“神の八千戈”。
「二刀流。――些か変わり種ではあるけど、神殺しにはちょうど良い」
 形態を変えゆくバロウズの銃口を邪神に向けながら、ビリウットは口の端を吊り上げる。
「ザザ、よく見ておくと良い。これが私たち“結社”の戦い方だ」
 振り返らずに。後ろに控える青年、覚醒したばかりの“長針のⅤ”たるザザ・ロッシ(Ⅴの昇華・f18629)へと呼びかける。
「君の武器は特別だ。だからよく聞いて、感じて、考えて。――そして躊躇わないことだ。そうすれば、きっと君のクロックウェポンは君に応えてくれる」

「俺の……クロックウェポン」
 ナンバーズの先達、ビリウットの言葉に促されるようにザザはその手に握った黒い金属に覆われた剣へと目を落とす。
「俺は――」
 ザザは覚醒したばかりの猟兵だ。選ばれたばかりの長針だ。戦いの技術も、経験も皆無に等しく。オブリビオンどころかヴィランと戦って勝負になるかも怪しいものだ。

        クロックウェポン
 だが、その手に  剣  があることは間違いない。

「――俺は、正義なんざわからねえ」
 ぎゅ、と剣の柄を握り締める。
 彼は一般人だった。ヒーローになれないと知りながらも、憧れ、声援を送るだけだった、ただの少年。
 普通であった彼の内に、正義や信条などという確固とした価値観は存在しない。
 なぜなら、彼は今日知ったばかりだったのだから。
 自分たちがどれだけ悪から守られて来たのか。
 守りきれなかった人たちがどれだけいたのか。
 守ろうとした人たちが、守りきれなかった人たちが、どんな末路を辿るのか。
「ただ、俺は――ヒーローや猟兵に辛いこと押し付けて平然としてられねぇっ!」
 ザザは確かに、正義や信条などという確固とした価値観を持たない。
 だが、彼の中には――揺るぎない“芯”が存在していた。
「俺も手伝う、俺も戦う!」
 叫び声と共に、ザザに纏わり付いていた邪気が霧散する。
 いてもたってもいられなくて。任せっきりにするのは嫌だから。
 だから戦うと決めた。それが彼の戦うための理由だった。
 胸を張れる生き方をしてゆこうと、そう決めたばかりなのだから。
「勘違いすんなよ、オブリビオン。これはお前への“名乗り上げ”なんかじゃない」
 重たそうに。不器用に。彼は己が手にした剣を構える。
 黒い金属に覆われた刃が、太陽の光で鈍く輝いた。
「これは俺の剣に対する宣言だ」
 りぃん。りぃぃん。りぃぃぃん。
 甲高い音が、応えるように鳴り響く。刃がを覆う黒い金属が、少しずつ変容していく。
「だから、俺に力を貸してくれ! ――命を焼べろ、“プロメテウスの灯”!」
 まるで封印が解かれたかのように。彼の持つ“プロメテウスの灯”の刃が黒から白に変わる。無骨で到底武器としての役目を果たさないような剣だったそれは、ザザの力によって輝かんばかりの優美な刃へと変貌していた。
 ――“結社”の“長針”たちは武器に選ばれし者だ。
 優秀な担い手を求める武器の性質なのか、彼らは自覚の有無こそあるものの、何かしらの才能や異能に恵まれている場合が多い。
 例えば“長針のⅡ”、灰炭・炎火は必要なパワーを無尽蔵に引き出せる怪力の異能の持ち主だ。
 例えば“長針のⅢ”、ビリウット・ヒューテンリヒは世界の記憶から現象を魔術として引き出す“追蹤魔術”なる特別な術の担い手だ。
 例えば“長針のⅧ”、ハゼル・ワタナベは訓練を受けたわけでもないのに毒の扱いに長けており、自由自在に操ることができる毒使いだ。
 他にも、今代の長針たちはその多くが異能や特別な才能に恵まれている。過去に存在した多くの長針たちも、また同様に。
 そして“長針のⅤ”、ザザ・ロッシは――「封印を解く」ことに特化するという、ただそれだけの異能を無自覚に有していた。

 その輝きを見ながら、“短針のⅦ”たるラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)は苛立たしげな表情を隠さなかった。
「ああ、ムカつくぜ……」
 忌々しそうな視線の先にあるのは、つい数時間前までは己の内に封じられていたはずの“プロメテウスの灯”だ。
「……今日はイチからジュウまでクソッタレだ」
 祭具を見張れと使いっ走りにされて、流れで雑魚の掃除とお守りをするハメになった。挙句の果てには己の内に封じられ、ラグが変身できる武器の一つである“プロメテウスの灯”さえも奪われた。
 ああ、まったく苛立たしい。腹立たしい。忌々しい。
 だが、違う。それらは全て些末な怒りの火種に過ぎない。
「だがよ、一番ムカつくのは――」
 眼の前の光景だ。
 かつて自分では黒い金属に覆われた、ただの鈍器程度にしか扱えなかったあの“プロメテウスの灯”が、自分から“力”を奪い取った少年によって本来あるべき真の姿を晒しているという事実。ポッと出の新参者が、自分よりも明らかにその武器を使いこなせているという現実。
 それらこそが、ラグの怒りに違いなかった。
「――畜生。畜生、チクショウ、あ゙あ゙――ッ! ムカつくぜ……!!」
 怒りのままに叫びを上げる。だが、暴れ出しはしない。
「武器は……使いこなせねぇ奴が悪い……」
 己の抑え込むように、呟くのはラグの掲げる信条だった。
「散々言ってきたことだよなぁ!!?」
 “力”を奪い取られてどれほど惨めでも。新参者に武器の扱いで越されてどれだけ屈辱でも。
 そこだけは曲げられない。そこだけは変わらない。

               アイデンティティ  
 ――それこそが、ラグの掲げる “正義” なのだから。

 両腕を刃に変えて、振り回し。漂っていた邪気を切り裂き駆け出して行く。
 新参者を含めた仲間たちと、肩を並べる。
「認めてやるよクソッタレがぁ!!!」 

 ――そして、最後に。
 遅れてやって来たのは、一条の赤色だった。
「あーん、やっぱりごめんなさーい!」
 その赤色こそが“長針のⅡ”、灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)だった。彼女はひび割れたクロノスウェポン“ニャメの重斧”を手に、邪気の中を突っ切ってナンバーズたちと合流する。
 邪気が炎火を阻めなかったのは、彼女の中にしっかりとした正義があったから。それを今示したから。
 間違いを認め、失敗を受け入れ、過ちを謝ること。
 それこそが、トラブルメイカーたる炎火の持つ確固とした正義に違いなかった。
「随分遅かったじゃねェか、一体どこで油売ってたンだよ」
 少し安心したような表情で、ハゼルは迎え。
「お祭りの時にも探したんですけれどね。心配したんですよ」
 いつものように、微苦笑しながらレンは一瞥し。
「炎火はそこらへんでくたばるタマじゃねぇだろ」
 心配することすら無駄だとばかりにラグは吐き捨て。
「えっ、結社の人ってまだいたの」
 仲間の多さで驚いたようにザザは目を丸くし。
「間に合ったならそれで良いさ。しかし……その“ニャメ”はどうしたんだい?」
 いち早くいつもと違う刻器の様子にビリウットは目を向けた。
「これは、そのぅ……ニャメが急に“次の段階に進む”~とかって変なこと言い出したから、ぽんって、ちょっとだけね? 軽~く叩いたら、ヒビが入っちゃって……」
『へえ、良かったじゃないかい』
 矛に変じた戈子がからからと笑い声を上げた。わけもわからず、炎火は首を傾げてしまう。
「それってどんなん――ああっ!?」
 ぱきん、と。“ニャメの重斧”から音が乾いた音が聞こえた。亀裂が見る間に拡大していく。焦った炎火がこれ以上亀裂を広げまいとその小さなフェアリーの身体で抱きつくように重斧を抑えようとするが、その進行は留まるどころか加速していく。
 “ニャメの重斧”はその赤い宝石でできた斧頭を甲高い音と共に砕け散らせ――
「……中から、綺麗なニャメが出てきた……」
 ビーフブラッドのような赤色が、見事なピジョンブラッドの姿となって、そのフォルムもスリムになって新生していた。
『クロノスウェポンにも“階梯”があるのさ。永い年月、膨大な経験。蓄積されたそれらによって、クロノスウェポンは“階梯”を登って行く。――まさか“ニャメ”がこんなところで登るだなんて、夢にも思わなかったけれどね』
 永く生きてると、何が起きるかわからないものだと戈子は愉快そうに呟く。
「じゃ、じゃあ、あーしもしかしておっちゃんに怒られない……?」
「いや、遅参と無断の単独行動があるからそれは普通に始末書書かされるんじゃないかな」
「あーん! 始末書やだー!!」
「おい泣くこたねェだろ。叱られる時は付いててやっから……」
「それよりも。まずは目の前の敵ですね」
 冷静に指摘するビリウット。涙目になる炎火。なだめすかすハゼル。敵を見据えるレンの言葉で、ナンバーズたちの視線が邪神の男へ向かう。

「貴様らの正義、しかと我が耳に聞き留めた。さあ、邪悪と正義、どちらが勝り、どちらが敗れるか。今ここで決しようではないか!」

「よし、行こう。新しいニャメ! ――でぇぇええい!」
 炎火が戦いの火蓋を切って落とす。力任せ、勢い任せで階梯を登り新生したニャメを投擲する。
「バロウズ! 形態変化“ペネトレイト・セントリー”! 刻器神撃――!」
 バロウズを自動銃座にして射撃支援を受けながら、矛と化した戈子を握りビリウットは接近戦を挑む。
「命を焼べろ、プロメテウスッ!」
 握りも定かではないながらも、輝きに後押しされながらありったけの勇気を振り絞ってザザは剣を振るう。
「刻器身撃ッ! 俺様のために死に晒せぇ――っ!」
 怒りのままに上げる叫び声と共に、両腕を変化させた刃でラグは肉迫する。
「刻器真撃。――テメェの重力なンざ効かせやしねェよ」
 ウロボロスから放った毒の瘴気を自由自在に操って、ハゼルは敵の放つ超重力に対抗する。
「周りをよく見て、自分のなすべきことを把握して――援護します、刻器身撃!」
 懐中時計に与えられた助言の通りに、レンはつぶさに把握した状況に合わせて敵へと迫り、味方の攻撃が当てやすいように陽動を担う。

 怪物が、ヴィランが、ナンバーズが、神が。入り乱れ、彼らの持つ全てがぶつかり合っていく。
 戦いは終わらない。悪のある限り。武器が必要とされる限り――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
正義を問うとは
随分と人間臭いやつだ


天楼で捕らえる
対象は邪神及びその行使するユーベルコードの効果
目標外へは無干渉な不可視の迷宮故、高速詠唱を駆使し多重展開
目標消去までの時間を加速する
同時にオーラで覆った自身の体内にも蓄積し続け、破壊して離脱を試みるなら即解放し再度捕縛して逃さない

迷宮の出口は全て術者である自身に設定
故に己を討たぬ限り出口から抜けることは不可能

直に狙われれば動きに集中し見切って回避を
被弾すれば消失の攻撃吸収と自動反撃、天楼の再展開で対処

どうしても聞きたくば答えようか
正しさとは自分にしか通用しない概念
汎ゆる価値観はそれを良しとする主観を基に構築される
故に正義とは常に、己自身に他ならん



 邪神、という存在はアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)とて別の世界でも幾度か対峙した経験があった。
 だが、今回急に招集された先で出会ったこの邪神の男は、彼をして随分と「人間臭い」と評さざるを得なかった。
「次は……貴様か。では貴様の正義を問おう」
 現れたアルトリウスへと、邪神の男は邪気を向ける。青白い炎で焼き払わんとするが、それをすり抜け纏わり付いて来た。
「呪的束縛……いや、概念的な精神汚染の一種か」
 原理によって邪気を解析する。精神汚染にも種類がある。最も多いのは、特定の物質を投与することによって脳の働き、あるいは心理的な動きを特定の方向へと誘導するものだ。それだけであれば薬物の投与などによる対抗策はいくらでもある。だが、この邪気は概念的なものだと判明した。つまり、これは脳や心理の動きを誘導するものではなく、「元からそうであったかのように一時的に書き換える」アプローチなのだ。猟兵ゆえに汚染されきらず、思考を掻き乱されてしまうだけに留まるのはまだ幸いだが、防御手段が「汚染され始める前に払い除ける」しかないのが厄介である。そしてその最たる手段が、邪神の男が言う「正義を示すこと」だ。
「どうしても聞きたいようだな。だが、俺は正義など持ち合わせてはいない」
「正義なくして邪悪に挑む、と?」
「否。正義ならばある。他者と違い、持っていないというだけだ」
 一見して支離滅裂で、矛盾したようにも聞こえる言葉。しかしそれを聞いた邪神の男はそれを理解したのか愉快そうに笑う。
「と言うと?」
「正しさとは主観的な概念、言わば自分にしか通用しないものだ。およそあらゆる価値観は、それを是とする局所的な複数の主観を基盤とする」
「まったくその通りだな。だが、それがどうして正義を持たず、正義があることになる?」
 簡単なことだ、とアルトリウスは言う。
「正しさを判断する者は各々の主観であるならば、正義とは常に己自身に他ならん」
 言葉と共に、青白い燐光が宿って邪気が霧散する。
 それを見た邪神の男は哄笑した。猟兵たちの攻撃によって傷付き、ダメージを負いながらも、それを感じさせぬような呵々大笑をしてみせる。
「では、自身を正義だと思えば我もまた正義だと?」
「そうだ。だが、貴様は事実として邪悪を司り、邪悪を自認している」
「正義を掲げず、自然とそうあるものであるとする……。成程面白い」
「御託はもう良いだろう」
 時間稼ぎは充分だ。
 戦場が青白い原理の光によって包まれる。地を裂き現れたのは、これもまた青白い幾何学模様に彩られた迷宮の壁だった。
 ユーベルコード【天桜】――任意の対象を捉え、自壊させる原理を宿した迷宮。敵を囚え、迷路の内部でゆっくりと消化する巨大な怪物の胃袋の如き技である。
「……多重展開したとて、やはり神は神。存在の密度が高すぎるか」
 自壊の速度はそう速くはない。ゆえにアルトリウスはこの迷宮を時間をかけてでも多重に展開することによって、その自壊速度を向上させたのだが、存在としての密度が濃い者は加速させてなお短時間での自壊には至らない。
 破壊音。
 それなり以上の強度を誇るはずの壁が破壊され、邪神の男が現れる。
「面白い余興だ。しかし、些か手段が迂遠に過ぎるな」
 邪神の男が手を一振りすれば、アルトリウスとの間に怪物やヴィランたちが現れた。
「出口を目指すでもなく、俺を直接狙いに来るか」
「無論だとも。やはり邪悪と正義の戦いとは、正面切っての戦いでなくてはならぬ」
「度し難い」
 渋面こそしないものの、アルトリウスは原理の青白い光を展開していく。それほどの力を有しておきながら、なぜ戦いにヒロイック性を求めるのか。原理の端末たる彼には理解が及ばぬ感性だった。
 怪物とヴィランたちが一斉に襲いかかった。
 迷宮の出口はアルトリウス自身。術者たるアルトリウスを倒すことによってこの迷宮は崩壊する。
 敵を自壊させ切るか。それともアルトリウスが倒れるか。
 青白い空間の中で、ただ戦いの音が鳴り響く――。

成功 🔵​🔵​🔴​

狭筵・桜人


正義?やだなぁ簡単なことですよ。
だってあなた、ご丁寧に悪を名乗ってくれるんですから。
悪(あなた)を倒すのが私の正義――ってことでどうです?

……なあんて。実はあなたに恨みとかないんですけど。
それでも、さっき前金貰っちゃったんですよねえ。
だから今は正義のヒーローの味方です。一食分だけね。

エレクトロレギオンを展開。
召喚された取り巻きは任されます。
人間のヴィランが混ざっていれば殺さないように。

味方猟兵のサポートに従事。砲撃で道を切り開きます。
雑魚の数が多ければ【一斉発射】。弾幕を張って【時間稼ぎ】です。
私は【見切り】で回避と演算に集中。

正義の三ヶ条――任せた・頼んだ・あとよろしく!
助け合いですねえ。



 迷宮の崩壊と共に、邪神の男は恍惚とした表情で呟いた。
「素晴らしいな。正義とは」
 十を超える猟兵たちの攻撃によって、確実に彼のリソースを削られ、ダメージを蓄積されていた。幾度も己の召喚した配下を掃討され、自身もまた多くの負傷を負っていた。
 邪神の男の形勢は、はっきり言って悪い。猟兵たちへ致命打を与えられず、かと言って後続も断つこともできていない。このままでは押し切られてしまう――そんな状況であるにも関わらず、邪悪の表情には焦りは微塵もない。むしろ、この状況を楽しむかのような笑みすらその口元には刻まれていた。
「正義は良い。我が邪悪をより引き立てる」
 正義が光とするならば邪悪とは闇。人は光あるところに闇があると言うが、実際は闇あるところへ光が差しているに過ぎない。彼にとって、光とは闇をより際立たせるためのエッセンスに過ぎない。際立たせるために猟兵たちの持つ正義を問い、宣言させて来たのだ。
「さあ、我が邪悪はまだ駆逐されてはおらんぞ。より強大な正義を示すが良い」
 カーテンコールへ向けて、まるで役者たちが並ぶかのようにヴィランと怪物たちが新たに召喚されて行く。戦場の泥濘を、クレーターを、戦いの跡を覆い隠すかのように、足元に邪気が広がる。
 展開された黒い邪気の中、男が一人歩み寄って来た。やれやれと言わんばかりに肩を竦めながら戦場へ歩み出るのは、狭筵・桜人(不実の標・f15055)である。
「困るんですよね、追い詰められてるなら追い詰められてるなりのリアクションしててくれなきゃ」
「我は楽しんでいるのだよ、この正義と邪悪の激しいぶつかり合いを。その渦中にあってどうして顔を曇らせることができようか」
「うっわ、完全に言ってることがバトルマニアとかウォーモンガーとかのそれじゃないですか」
 勘弁して下さいよ、と桜人は溜息をつく。彼は纏わり付く邪気を気味悪そうに足をパタパタとやりながら払おうとするが、邪気は纏わり付き続ける。
「さあ、邪気に囚われる前に問おう。――貴様の正義とはなんだ?」
 邪神の男の言葉に応じたかのように、邪気が桜人の足を這い上がり始める。
 邪気を払うことを諦めたように、足元へ向けていた視線を上げて、桜人は邪神の男を見遣る。
「正義? やだなぁ、示さなくたってわかるじゃないですか」
 おどけたような軽い口調で、注目を集めるかのように大袈裟な動作で。彼は顔に笑みを貼りつかせる。

                               アナタ
「あなたがご丁寧に悪を名乗ってくれてるわけですし。ここは一つ、 悪 を倒すのが私の正義――ってことでどうです?」

「……つまらぬ冗談はよせ。心にもないことを言ったところでただ時間を無駄にするだけだ」

 みたいですね、と依然として腰ほどまで這い上がって来た邪気を見下ろして、桜人は溜息をつく。
「――いえ、まあ。実はあなたに恨みとかそういうのはないんですけど」
 でもまあ。
 呟きながら彼が伏せた瞼の裏に思い起こすのは、英雄祭の中で兄弟ヒーローのテットに奢られたフランクフルトだ。
「さっき前金貰っちゃったんですよねえ」
 助けるかどうかは報酬次第――そう言ったのは桜人自身だ。
 彼の正義とはすなわち報酬のやり取りだ。“前金”を受け取ってしまった以上は、働かなくてはならないだろう。
「だから今は正義のヒーロー……の、味方です。一食分だけね」
 纏わり付いていた邪気が蜘蛛の子を散らすようにぱぁ、と離れて行く。ようやく解放されたとばかりに溜息一つ。桜人は機械兵器たちを召還して展開していく。
「さて、それでは取り巻きは任されます。――怪物退治と洒落込みましょうか」
 一斉射撃。けたたましい小火器の音が幾重にも重なって、機械兵器たちが取り巻きのヴィランと怪物たちを一斉に攻撃を始める。
「さあ、鬼さんこちら銃声の鳴る方へ――とは言ってもこっちに攻撃して来ますよねっ!」
 術者である桜人を狙って怪物が襲いかかるが、来るとわかっていれば避けられない道理は無い。彼は絶えず周囲の状況を把握しながら回避しつつ、機械兵器たちをコントロールしていく。邪神の男へ続く突破口を作るため、彼は取り巻きを一手に引き受けたのだ。
「これぞ私の正義の三ヶ条――任せた! 頼んだ! あとよろしく! 雑魚を相手にする代わりにボスの相手を託す。助け合いですねえ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヌル・リリファ

人形(道具)にはぜんもあくもなく。
ただマスターののぞみをかなえるためにうごくだけ。マスターがのぞむならひとをたすけて、マスターがのぞむならひとをほろぼす。

あえていうのなら。そうして、マスターにしたがうことが、人形がしたがうべきただしい道理。

それだけ。

UCを起動して、攻撃力を強化。
ルーンソードをもってちかづく。

相手のカウンターは、【見切り】で被害をおさえつつ、まにあえばシールドを展開。【盾受け】ではじく。
無理でも、わたしは人間と急所の位置はちがうから。一撃かえすくらいできるとおもう。
(口にはださない少女の弱点は頭や首だが、そちらへの攻撃には【オーラ防御】が自動で発動)

ふせげたら、そのままきる。



 張り巡らされた邪気の中。銃声と怒声の響く戦場の中。
 光り輝く魔術刻印の施された剣を持つ少女が進み出る。
「さて、怪物退治も見物だが――邪神討伐に挑む者がよもやこんな少女だとはな」
「人形の外装と性能はかんけいない」
 精緻な彫刻の施された剣、ルーンソードを構えるのはヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)だ。彼女は無表情のまま言葉を続ける。
「人形は任務をすいこうするだけ」
「邪悪の化身たる我に、正義なくして挑もうと?」
 男の言葉を合図とするかのように、ヌルの足元に邪気がわだかまる。次第に、彼女の歩む歩調も邪気に阻害されて緩やかな物に変わって行った。

 ドウグ
「人形にぜんもあくもない」

 邪気によって足を止まらせながらも、彼女はしかし剣を構え続けるのをやめない。
「ただマスターののぞみをかなえるためにうごくだけ。マスターがのぞむならひとをたすけて、マスターがのぞむならひとをほろぼす」
「己の価値観を持ち合わせず、他者にその全てを委ねるか」
「それが人形のあるべき姿だから。そうして、マスターにしたがうことこそが、わたしたち人形の持つ正しい道理だから。――それだけ」
 刃に輝きを帯びたルーンソードが振るわれて、邪気を切り裂く。刃の魔術刻印が赤熱したかのように赤く染まり、かと思えば海のような青へと変じ、風に揺られる新緑を思わせる緑を湛える。
「道具には道具なりの正義がある、ということか。いやこれは愉快なものだ」
 邪気を弾いたヌルを見て、邪神の男は肩を揺らす。まるで珍しい見世物を見て喜んでいるかのようだった。
「かかって来るが良い。人形の刃がどこまで通用するか見てやろう」
「――わたしはけんの達人じゃないけれど」
 ルーンソードを一瞥する。彼はそれで良いと言った。未熟であっても、使いこなせるのはヌルだけだと。だからこそ、自分は大切に扱われていたと。
「けれど、わたしはこのけんの、いちばんのつかいてだから」
 だから通用させて見せる。
 それを実証せんとするかのようにヌルは剣を握り締め、邪神の男へと目掛けて肉迫していく。
「我に接近戦を挑むとはな」
 剣を振り被るその瞬間。機先を制するように邪神の男が踏み込みと同時に掌底を放つ。
 アイギス。ヌルが名前を呼ぶと、ブレスレットが呼応してシールドを前面に展開した。掌底の衝撃を宙に浮くシールドが受け止めて、衝撃の音が響き渡ると同時に大きく震える。
「けんじゅつだけじゃ、ないから」
 防ぎ切れたならば、最早阻むものは何も無い。
 咄嗟に右腕を防御に回す邪神の男へ、そのままルーンソードの刃を振り抜いた。
「このけんが、そうおしえてくれた。――わたしは、わたしなりのたたかいかたで、たたかう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

雷陣・通

正義を問うか?
神様っていうのはどうしてそう、言葉を使って人を惑わすかな?
けどな、ここは引けねえ
引くわけには行かない
俺は猟兵だが、その前に空手家だ
競技空手ではあるが、矛を止める武の文字は持っている
だからこそ、この言葉を返してやる
「雷陣・通、治に居て乱を鎮める武を以って、汝が問いに答え、そして打ち倒さん」
『稲妻舞空術』にて上昇
重力?
計算済みだ、お前がそれで抑え込んでくる可能性もな
2mでいい、浮いた高さから相手の重力を刀に乗せる
ウルトラサンダーボルト雷神丸!
力を貸してくれ!
こいつに一太刀を叩き込むため!
カウンターにこっちのカウンターを先制攻撃で合わせて
先の先を取って潰す!
『――雷刃!』


十河・アラジ
ボクにとっての正義は、善であること
善とは正しく生きることで、つまりはボク自信の役目を果たすことだ

ボクの役目は誰かを助け、誰かを守ること
だから今、お前たちと戦って皆を助けなくちゃいけないんだ
それがボクの正義さ

◆戦闘
相手は強敵、きっとボクの攻撃程度じゃ大したダメージは望めないだろう
だったらボクは「邪なる者への枷」を使って皆の攻撃のサポートをしよう

そして、中距離長距離が重力で妨げられるなら挑むのは接近戦だ
他の人の攻撃に上手くタイミングを合わせればカウンターの邪魔も出来るかもしれない
それでボクに攻撃が向かうなら、それでいい
【捨て身の一撃】を食らわせる覚悟でいけば、少しは可能性が上がるはずだから


ヴィクティム・ウィンターミュート


俺の正義だァ?ンなもん単純明快だぜ
勝った奴が絶対の正義だ
どんなヒロイズムを振りかざそうが、綺麗な理想を掲げようがな
勝たなきゃ何にもなりゃしねぇ
テメェが勝てばテメェが正義だ
だが負ければ、テメェの全ては否定される

──そして生憎だが
テメェじゃ俺達には勝てない。つまり、俺達が正義なのは揺るがない

使って来いよ、重力の力を
【見切り】を併用して発動予知
【早業】でUCを差し込み
奴のUCを【カウンター】する

…テメェが勝つ運命だったとしても
俺が盤上を「反転」させてやる

俺にはヒロイズムなんか無い
正義の味方?端役がそんなもんになるわけねーだろ?
──だけど、負けたらお終いだ
俺は必ず勝つ
だから敢えて言うぜ
この俺が正義だ



 漂う邪気の中に、光が差した。
「――来たか、光が」
 光は少年の形をしていた。十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)だ。
「そこまでだ。邪神の思い通りになんてさせない」
「随分と威勢の良いことだ」
 足元の邪気を掻き分けるように進み出るアラジ。邪神の男は彼を見て嘲笑を浮かべる。邪悪は不倶戴天の敵たる善なる存在に対して敏感だ。それゆえに、男はアラジの身のこなしや視線の配り方などからその力量の程を見抜いたのだろう。
「それが匹夫の勇とならなければ良いが」
「……ああ、確かにボクは戦闘は不得手だ」
 手にしていた白い十字架のような剣を地面に突き立てる。邪気に覆い隠されていたぬかるみへと、“赦しの剣”はその剣先を沈める。
「けれど、ボクにも誰かを助けたいと思う気持ちがある」
「ならば善なる存在よ、汝が正義をここに示すが良い」
 邪神の男の表情が嘲笑から、何が飛び出て来るのか期待するようなものへと変わる。アラジはそれを真っ向から睨め付けながら、自分の額へ――生まれながらにして刻まれた、聖者としての使命の証へと手を伸ばした。
「ボクにとっての正義は、善であること。そして、善とは正しく生きること」
 生きることは、正しくあるということ。
 正しいことは善である。
 善とはすなわち生きることなり。
 それはアラジの生き様にして、座右の銘。
「正しく生きるということは、己の役目を果たすこと。――そして、ボクの役目は誰かを助け、守ること」
 助けたいから、戦うのだ。助けなければならないから、戦うのだ。
 守りたいから、立ち向かうのだ。守らなければならないから、立ち向かうのだ。
 実力のあるなしなど関係なく、そうしたいと思った。そうしなければならなかった。
 アラジから発せられる光量が次第に強まっていく。邪気が押し出されるように逃げていく。
「――それがボクの正義だ!」
 宣言と共に、アラジの発する聖なる光が収斂した。額の聖痕から現れた聖なる光輪。手に取ったそれを、アラジは投げ放つ。
 盾は間に合わない。既に最後のリソースを費やした怪物とヴィランたちは他の猟兵との戦闘を行っている。超重力の槌でもって迎撃するが、聖なる光輪は重力の束縛を意に介さずに突き進む。バチ、と弾けるような音と共に、光輪は邪神の手足を束縛した。
「ほう、我を封じるか」
 愉快そうな表情で、愉快そうな声音で、邪神の男は笑みを浮かべる。その笑みは余裕と言い換えても良いだろう。召喚した怪物もヴィランも使えず、驚異的な身体能力も封じられた。だが、まだ彼の超重力を操る力が残っている。
「――マグノリア、力を貸して」
 呟き、念じ。次の瞬間には、聖者の身体は黒い呪鎧に包まれていた。
 中距離戦、長距離戦では重力に押し潰される。だから不慣れながらも、彼は打って出た。敵の四肢を封じている今、接近戦を挑む必要があった。
 ぬかるみから赦しの剣を引き抜くと同時に、彼は邪気の中を駆ける。邪気が波打ち、泥が散る。それにも構わず、アラジは剣を振るう。
「だが、甘いな」
 捨て身の一撃を放つには遠すぎる。距離を詰めるには時間をかけ過ぎている。
 それは邪神の男に封じ込めるための超重力を使わせるには充分な時間を与えてしまっていた。


 ――そして、与えてしまった時間については邪神の男にもまた同様に言えることだった。
「光あるところに影が差す。――邪悪を気取るのも良いが、小悪党の存在も忘れちゃいけねえよ」
 周囲一帯に襲いかかるはずの超重力。何もかもを地に叩きつけるはずのそれは、いつの間にかに“反転”していた。
「俺の正義は単純明快。――勝った奴が絶対の正義だ」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。彼は邪神の男が放つ超重力を解析することで、その発動タイミングに合わせてユーベルコードを“反転”させるウイルスを邪気の中に紛れ込ませていた。

     ヒロイズム
「どんな英雄主義を振りかざそうが、どんなにおキレイな理想を掲げようが、勝たなきゃなんにもなりゃしねえ。一切合切否定されちまう」

 ヴィクティムの吐き捨てるような言葉の先にいるのは、邪神の男か、あるいは――過去の己自身か。
 勝敗が即ち善悪となる。
 彼にとってそれは紛れもない事実だった。そこにヒロイズムなど必要なかった。
 敗北の味は身に沁みて知っている。泥を啜るよりも惨めで、いっそ己を殺したくなるほどの悔悟が襲う。
 強者こそが正義だ。弱者は虐げても構わない悪だ。
 少なくとも、彼の生きていた暴力と理不尽の支配するストリートではそれが法だった。
 だからこそ、彼は勝ち続けるのだ。勝って、勝って、勝ち続ける。まるで勝利という炎を燃やし続けて、凍えた身体を慰めるかのように。
 他の猟兵たちやヒーローたちのような正義の味方に、自分がなれるとは到底思えなかった。それは、祭りを眺めていて再確認したことだった。
 彼の正義の見方は過酷な環境の中で、いつしか歪んでしまっていた。
 それでも――その歪んだ見方でさえも、彼にとっては燃え続ける勝利という炎へくべる薪の一つに過ぎなかった。

     セイギ           クタバレ
「俺たちの勝ちは揺らがない。テメェは負けろ」

 邪気に紛れた“反転”のウイルスが作動し、超重力が反重力へと変わる。
 アラジの身体が軽くなって、跳躍と同時に猛烈なスピードで邪神の男へと迫る。

「貴様らの正義、しかと示して貰った!」

 邪神の男は邪悪を集中させて、左腕の光輪だけを砕くとそれをアラジへと向ける。迎撃の一手。捨て身の一撃を放つアラジにそれは避けられない。
 だが、それで良い。
 左腕に鎧を貫かれながら――アラジはその身そのものを邪神の男を束縛する枷としていた。
「あとは、任せました……!」
 アラジの言葉の先には戦いの幕を引く一撃を託した相手がいた。

 雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)だ。
「――雷陣・通。治に居て乱を鎮める武を以って、汝が問いに答え、そして打ち倒さん」
 彼の抜き放った日本刀が聖者の光を反射して邪気を打ち払う。
 通は猟兵だ。だが、猟兵である前に空手家だ。
 彼の体得したフルコンタクト空手“紫電会”は競技空手ではあるものの、それでも“武”――即ち“戈を止める”理念を有していた。
 だからこそ、抜かれた戈を止めねばならない。
 相手がいかに邪神であろうと、いかなる強敵であろうとも。
 引けない戦いだった。引くわけにはいかなかった。
 ここで引いたら、空手を教えてくれた父親に合わせる顔がなくなってしまうから。
 ここで引いたら、空手そのものへ顔向けできなくなってしまうだろうから。
「ウルトラサンダーボルト雷神丸、力を貸してくれ!」
 日本刀を手に、彼は反重力の中で跳躍するような一歩で距離を詰める。
「こいつに、この一太刀を叩き込む――ッ!」
 肉迫。紫電纏いし刃を振り下ろす。
 自己犠牲の枷によって体術を封じられ。勝利への渇望によって超重力を封じられ。召喚した怪物もヴィランの取り巻きたちも、一飯の恩義を返すために引き剥がされ。
 受けた負傷はおびただしく。削れたリソースは数知れず。

 ――滅びし都市に眠る民の安寧を守ること。
 ――積み重なって価値を生み出す時間の概念。
 ――生きられるはずだった命を、救いを求める人を救うこと。
 ――他人を救い、自分もまた救うこと。
 ――定められた正義から、義務から逃れないこと。
 ――親の生きた世界を守ること。
 ――苦難に打ち克ち、成長し続けること。
 ――己の信ずる者に従うこと。
 ――後進たちが正義が憚られることなく掲げられるように見守ること。
 ――苦難と脅威へ、己もまた立ち向かうこと。
 ――武器は使いこなせる者が正しいこと。
 ――自らの犯した過ちを省みること。
 ――己自身が正義だとする定義。
 ――受け取った報酬へ報いること。
 ――道具として、その使い手に従うこと。

 様々な正義の味方が、様々な正義の見方で邪神へと挑んできた。己の信ずる正義を掲げて。あるいは、目の前の邪悪を許さぬその一心で。

ライトニングエッジ
「 雷刃 ――ッ!」

 そして今。この世の邪悪は通の稲妻の如き斬撃によって討ち果たされる。

 ――そうだ、やりゃあできんじゃねえか。

 どこからか、祭りの中で聞いたあの乱暴な声が聞こえて来るかのようだった。

「――見事だ、正義たちよ」

 刀によって身を斬り裂かれ、纏った紫電によって身を焼かれながらも――邪神の男は笑っていた。
 邪悪を謳っていた邪神の男は散りゆく紫電の中で黒い塵と化して――この世から再び去って行くのだった。
 キン、と金属の軽い音が鳴らして、背中の鞘へと日本刀を収める。乱を治めた武は、鞘の中へと収まるのが道理であるがゆえに。

 ――こうして、邪悪は正義によって討ち果たされた。

 何人もの正義の味方が集まった。
 いくつもの正義の見方が存在した。

 これはきっと、「正義が邪悪を駆逐した」というだけの話ではないだろう。
 敢えて表題を付けるとしたら、そう――

 これは「正義のミカタ」の話だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月04日
宿敵 『邪神の男』 を撃破!


挿絵イラスト