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バトルオブフラワーズ⑬〜不自由を愛せなかった女の話

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #オブリビオン・フォーミュラ #ドン・フリーダム

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●ただいまよりドンの演説を始めます
 システム・フラワーズの最深部。
 一糸纏わぬ姿の女が、何かの機材を操作する。
 惑星全域同時放送システムの立ち上げ完了。
 さて。

「惑星に住む次世代人類の皆様、そして猟兵の皆様、はじめましてですわ」
 女、ドン・フリーダムが語る。

 自分こそが、今のキマイラフューチャーの根幹を支えるシステム・フラワーズを作り上げた事。
 そのシステム・フラワーズは、不完全なものである事。
 自分はただ、皆が自由に欲望を追える世界を作りたいだけである事。
 我慢しなくていい、欲望は止めなくていい。

「オール・フォー・フリーダム! 自由こそが、この世の全てなのです!」

●不自由の中を進む
「皆様、お集りいただきありがとうございます。世界コードネーム:キマイラフューチャーにて、オブリビオンの出現が確認されました」
 シスター服に身を包んだグリモア猟兵が、自分の呼びかけに応じてグリモアベースに集った猟兵達へ語りだす。

「多くを語る必要はないでしょう。この世界のオブリビオン・フォーミュラ、ドン・フリーダムを倒せば、この戦争は我々の勝利です」
 ドン・フリーダムの姿をグリモアから映し出しながら、彼女は説明を続ける。

 ドン・フリーダムの力、それはすなわち、これまで猟兵が越えてきた三幹部の力だ。
 エイプモンキーの創造、ラビットバニーの無敵、そして、ウインドゼファーの颶風。
 これまでの怪人達を同時に相手するような強敵、それがドン・フリーダムである。

「とはいえ、その力の根源は部下達なのでしょうか。三幹部を倒した今、彼女の戦力にも弱体化が発生しているようですね」
 それでもなお、これまで以上の強敵であることは間違いない。
 しかし。

「――まあ、皆様なら大丈夫でしょう、いけるいける」
 やけに軽い口調で、彼女が笑う。
 欲の為か、力持つ者の責任か、あるいはまったく別の願いか。
 ここに居る猟兵の殆どは、ドン・フリーダムと違い、何かの不自由に縛られた者達だ。

「その不自由から逃げない皆様が、アレに負ける道理も無し。最終決戦、吉報をおまちしておりますね」
 そう微笑んだグリモア猟兵の背後で、グリモアが一際強く輝く。
 キマイラフューチャーを救う為の戦い、その最後の舞台へ、猟兵達が足を踏み入れる。


北辰
 OPの閲覧ありがとうございます。
 最終決戦でございます、北辰です。

====================
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 加えて、ドン・フリーダムは使用する能力値別に違う対処が必要です。これらに対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

 POW:絶対無敵バリアを展開します。エモいものを見せれば無効化できます(エモいの基準はラビットバニーと同じ)。
 SPD:風で足場を崩してきます。
 WIZ:猟兵のユーベルコードの弱点を見抜き、確実に反撃するマシンを作り出してきます。 その反撃マシンに反撃する方法を考えなければいけません。

 これらの能力はそれぞれ「ラビットバニー」「ウインドゼファー」「エイプモンキー」と同じですが、ドン・フリーダムは彼ら以上の実力者です。
====================

 オブリビオン・フォーミュラ、ドン・フリーダムとの戦いです。
 彼女がいる限り、オブリビオンは現れ続け、キマイラフューチャーはやがて停止するでしょう。
 また、彼女の語る完全なるコンコンコンが実現すれば、大混乱は免れません。

 キマイラフューチャーを救う為の、猟兵様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『ドン・フリーダム』

POW   :    赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    マニアックマシン
対象のユーベルコードに対し【敵の死角から反撃するマシン】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:由依あきら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

幽草・くらら
私のUCは創造した絵画の実体化、絵を描くというプロセスによって発動する以上絵を描けなくしてしまえばいい。
インクの湧いてくる絵筆を奪うなり無力化されれば発動自体が不可能になってしまいますし、それを狙ってくるはずです。

ですけど、私にはもう一つこの身に流れる天然のインクがあります……血です。
指を思いっきり噛んで流れる血で宙に真っ赤な槍を描いて、「硬度」を増しながら実体化して射出。
迫る攻撃は同じく「硬度」を増した真っ赤な壁を描いて防御、これを繰り返します。
私が貧血と疲労でぶっ倒れるのが先か有効打を与えるのが先か、消耗戦です……!



●ブラッドアート
「おやまあ……システム・フラワーズの完成はまだかかりますわよ?」
 修理の手を止め、ドン・フリーダムが振り返る。
 システム・フラワーズ最深部、花が咲き乱れるその場所にたどり着いた最初の猟兵、幽草・くらら(現代のウィッチ・クラフター・f18256)が、オブリビオン・フォーミュラたるドン・フリーダムの圧力に僅かにたじろぐ。
 彼女の部下、三幹部達に立ち向かう時も、勇気を振り絞って怯えながら戦った彼女だ。
 少しボタンのかけ違いがあれば、猟兵なんて危険な立場にもなっていない筈の、臆病な、普通の少女であるくらら。
 だが、その彼女は、今この場に立ち、キマイラフューチャー最大のオブリビオンへと相対する。

「それでも、キマイラフューチャーを守らなくちゃいけないんですッ!」
「わたくしかて、皆様の自由を守りたいだけなのに……わからん人達やなぁ」
 くららが巨大な絵筆を構えれば、ドン・フリーダムも自身のユーベルコード、エイプモンキーの力を引き出す。
 想像から創造されるマシンが、くららの背後から現れ、起動する。

「くぅっ……! やはり、絵筆を狙ってきますか」
「そらそやろ、貴女のユーベルコードは絵画の実体化。なら、絵を描くための画材を取り上げれば、それで何にもできないでしょう?」
 なまったり、丁寧になったり。
 どこかふざけた調子で話すドン・フリーダムの脇に、くららから瞬く間に絵筆を盗み出した小型ロボットが降り立ち、見せつけるように絵筆を掲げる。
 くららの操るユーベルコード、【絵画物質化法(ペイント・マテリアライゼーション)】は、彼女の描いた絵に命を吹き込む力。
 前提として、絵を描くことができなければ戦いようが無い。

 逆に言えば。
 絵さえ描けるのならば、彼女は命すら生み出す魔女となる。

「ふむ……中々どうして、根性はあるみたいやん」
 親指の腹を噛み切り、くららの赤い血が流れる。
 こんなものじゃ足りない、流れた血でナイフを描く彼女が、そのままそれを自身の手へ突き立てる!
 当然、彼女の傷からは血が派手に噴き出す。
 さあ、インクは確保できた。ならば、後は描けばいいだけだ。
 作り出されるのは深紅の武具。
 血の槍と、血の盾を空中に展開した彼女が、出血で青白くなり始めた顔をドン・フリーダムへ向け、笑う。

「さあ、限界まで『硬度』を高めた槍と盾……貴女にこれが突き刺さるのが先か、私が倒れるのが先か、消耗戦です……!」
 くららの宣言と共に、赤い槍が飛翔する。
 速度自体は速くない。
 けれど、命を吹き込まれた槍は一度躱されたくらいで動きを止める事は無いし、折ってしまおうにも、硬度重視のコレはそう簡単に壊れるものでもないだろう。
 槍を描き続けるくららを叩くか?
 いや、それには盾が邪魔だし、ロボットも、血を盗むのは流石に無理だ。
 とはいえ。

「こんな槍と盾作って、既に失神寸前やろ。いくらなんでも無茶がすぎますわ」
 エイプモンキーとドン・フリーダムの違い。
 その一つに、身体能力の高さがある。
 ユーベルコードの装置抜きでも、相手が自滅するまで、回避を続けるなど、そこまで難しい事でもない。
 躱して躱して、ふらつく猟兵に笑いかけてやれば。
 ほら、相手は膝をつき、崩れ落ちる。
 こうなれば、もはや如何様にも片付けられ……?

 腹が、熱い。
 見れば、わき腹に突き刺さる、紅い赤いナイフ。

「……ああ、命を吹き込むんやもんねぇ。術者が倒れても元気なわけか」
 同じく、動き続ける盾が、主を乗せて戦線を離脱する。
 あるいは、血の武具に宿るのは、くらら自身の執念か。
 どちらにしろ痛み分け。
 少しだけ、仮面の下の顔をしかめつつ、オブリビオンは、今なお此方に向かう槍を迎撃するために、その拳を握りしめた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

七那原・望
赤べこキャノンは【第六感】と【野生の勘】で【見切り】、風の魔法で追い風を作ることで加速しながら回避します。
同時に【Laminas pro vobis】を発動し、攻撃力を重点的に強化しつつ、攻撃と回避の精度も上げます。

(以下エモポイント)
あなたはきっと、優しい人だったのですね。
みんなが自由に欲しいものを得られるように、なんて。

わたしもありますよ。
大好きな人や失った人達と過ごす日常が欲しいです。

でも、そんな世界ではわたしは理由もわからず殺されて、全て失うかもしれないですね。

今のわたしの強さはどうですか?もし強く感じるなら、それはわたしの願いの強さ。

それでも駄目なのです。だって世界は残酷なのだから。



●強い子
「さて次は……また、えらい可愛らしいのが来たなぁ。飴あげましょうか、お嬢ちゃん?」
 軽く血を流しながら猟兵の置き土産を排除したドン・フリーダムが新たな猟兵の気配に気づき、顔を上げる。
 そして下げる。

 そこに居たのは、幼い少女。
 赤い花と白く大きな翼はオラトリオの証。幼い顔に不釣り合いな目隠しが、手に持った大鎌が、少女が見た目通りの無力な存在では無い事を示す。
 少女――七那原・望(封印されし果実・f04836)の、戦場には不釣り合いな小さな姿を見たオブリビオンが、優し気な口調でお菓子を差し出す。
 その声色に、望を小ばかにするような印象はない。
 彼女は、心から小さな望を気遣っているのだろう。その相手が、己を討つ為に現れた猟兵であると気づいていながら。

「……きっと」
「うん?」
 少なくとも、ドン・フリーダムの方から仕掛けてくる事は無い。
 そう判断した望が、幼い心が感じたことを、そのまま口にする。

「あなたはきっと、優しい人だったのですね。みんなが自由に欲しいものを得られるように、なんて」
「おお? 急に褒められると照れますやん。まあ、わたくし、ちょうてんさいですから? 自分ひとりが自由になるのも皆で自由になるのも、わたくしなら手間変わりませんし」
 それなら、皆が自由になる世界の方がええやろってね。

 望の言葉に、少し嬉しそうにオブリビオンが答える。
 彼女が語る言葉に、嘘は無いのだろう。
 彼女はシステム・フラワーズを通して皆に自由を与える為、欲望を解き放つ為に行動し、それが世界の為になると信じて疑わない。

 望にも、欲しいものはある。
 大好きな人達と、かつて失った人達と過ごす日常が手に入るというのなら、欲しいに決まっている。
 でも。

「でも、そんな世界ではわたしは理由もわからず殺されて、全て失うかもしれないですね」
「……まあ、そういう欲望もありますわなぁ」
 誰もが欲望のままに世界を歪めるのなら。
 きっとその中には、人を傷つける欲望もあるのだろう。
 人の抱く願いが、必ずしも優しいものだけではないと、小さな彼女は知っている。
 それすらも肯定するドン・フリーダムを、認めるわけにはいかないのだ。

 【Laminas pro vobis】、赤く輝く水晶より生みだされた彼女の装備は、それ自体がユーベルコードだ。
 大鎌を構え、戦闘の体勢に入った望へ、ドン・フリーダムが無言でバリアを張り、赤べこキャノンを構える。
 その顔の仮面が無ければ、残念そうに目を伏せるオブリビオンの表情も見て取れたことだろう。
 地面を蹴る望が、高速で駆けていく。
 存外に速い。大きく広げた背中の翼が、追い風を捉え、上手く加速している。
 先ほどまでここは無風だった。これも、望の仕業だろう。
 加えて、そもそも小柄な望は、射撃武器で狙うには難しい相手だ。
 キャノンの砲撃を躱されながらも、ドン・フリーダムは冷静に分析を重ねる。
 予想外の実力ではあるが、此方にはバリアもある。コレがある限り、負けは無い。

 オブリビオンに肉薄した望が鎌を振るう。
 それは当然バリアに受け止められるものの、予想を超える力強さに驚くのはドン・フリーダムだ。
 モンキーと同じ能力も持つ彼女は、望のユーベルコードの性質に対してもある程度の推測は出来ている。
 これは、彼女自身の願いの強さを反映する力。

「……分からんなぁ。お嬢ちゃん、結構な欲望持ってるやろ。わたくしの修理が終われば、それも叶えてやれるんやで?」
「そうかもしれませんね、こんな施設を作れるあなたなら。でも、駄目なのです」
 バリアに阻まれる望の大鎌が更に力を増す。
 二人を隔てる障壁に、少しずつだが、ひび割れが入り始める。

 あるいは、ドン・フリーダムだからこそ。
 望がこれだけの力を発揮するのに、どれほど強い願いが必要か。
 そして、その願いを超えて自分に立ち向かうのに、どれだけの意思の強さが必要か分かってしまう彼女だからこそ、その貴さを理解してしまう。

「あなたを認めるわけにはいかない。だって、世界は残酷なのだから」
「なるほど――強い子ですこと」
 賞賛と共に、バリアが砕け散る。
 その勢いのままに自分に迫る刃を、何故かドン・フリーダムは避けようとはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンノット・リアルハート
【メタルハート・ベーゼン】に【騎乗】、バリアが解除されるまで【逃げ足】で相手から離れつつ【空中戦】で赤べこキャノンを回避して【時間稼ぎ】

そしてバリアを解除させるためにユーベルコードを発動、その由来を説明します
オブリビオンを生み出すフォーミュラーである貴女なら、この歌声に聞き覚えがあるでしょう
これは私の宿敵であるエニス……アンマリス・リアルハートの歌声
あの子は故郷のために怪人となっても歌い続けた、それが今誰かの故郷を守るために私に歌を貸してくれている
その気高さと決意を込めた歌声、存分に聞きなさい!

そう言いながら【スナイパー】で狙いを付けながらバリアが解除されるのを見計らい、槍を投擲します



●姉妹の歌を
 響くエンジンの重低音。
 銀に煌めくそのボディ。
 あれはなんですかと人々に問えば、大抵はスペースシップワールド辺りの改造バイクと答えるのではなかろうか。

 いいえ、これは箒です。
 メタリックな外見に魔改造されていようが、これは箒なのです。
 そんな空飛ぶ箒に跨りながら、アンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)はドン・フリーダムの赤べこキャノンから放たれる砲撃を躱していく。
 接敵からここまでは予定通り。
 予想と違うのは。

「むーん、当たらへん。アンマリスちゃんは剣を振り回して接近戦とかしてたけど、君はまたタイプが違うみたいやねぇ」
 説明しなければと思っていた彼女とその宿敵の因縁が、あっさりドン・フリーダムの口から出てきた点だろうか。

 アンノットはある亡国の王女……その複製体である。
 亡国というからには、当然アンノットのオリジナルを含めて、国の民、彼女の家族に至るまで、既に骸の海の住民だ。
 そんな背景を持つ彼女は、このシステム・フラワーズを巡る戦いの中で、オブリビオンとして還ってきていた『妹』と遭遇し、これを討っていた。
 複製体とオブリビオン。
 共にかつて生きていた時とは異なる在り方に歪んでしまっていたとしても、奇跡的な再開を果たした姉妹の歌ならば、ドン・フリーダムの心にも響く、と思っていたのだが。

「うんうん、アンマリスちゃんが骸の海から還らなくなって、どうしたのかなーとか思ってたんやけど。こういう事やったんやね、よかったわぁ!」
 フォーミュラならば多少は、自分が生んだオブリビオンに関する知識もあるのではと踏んでいたのは事実。だが、それにしたってこれは予想以上。
 どうにも、ドン・フリーダムはこちらの事情に結構詳しいらしい。
 かつて銀河で戦ったオブリビオン・フォーミュラはもう少し尊大な相手であったが、奴はまたタイプが違うようだ。
 どうしよう、今更妹の歌を響かせたとして、相手の心を動かすことができるだろうか。

 そんな不安など、アンノットには一切なかった。

「知っているなら話は早い。怪人と成り果ててなお故郷を想い続けたあの子の、今でも誰かの故郷の為に私に力を貸してくれるあの子の歌! 存分に聞きなさい!」
 彼女が構える、身の丈以上の巨大な槍から放たれるのは、花の舞うこの戦場すべてに響くような音の奔流。
 いや、激しくも気高さと決意が込められたその音は、女性の歌声だ。
 アンノットが扱うユーベルコードの一つ、【黒衣の姫よ、歌と共に悪意を払え(デイドリーム・マリスブレイカー)】。
 その歌こそは、彼女の妹が今なお誰かの為に歌う越界の歌声。
 目の前の女がそれを知ろうが知るまいが、この歌は必ずその心にまで響く。
 理屈ではなく、家族として、アンノットはそれを心から信じているのだ。

「……かなわんわ。骸の海からわざわざ歌う妹も、それを信じ切ってる姉ちゃんも」
 半ば呆れたような、どこか賞賛するような声色でドン・フリーダムが語れば、それと同時に彼女の身を包むバリアも消え去る。

 それを確認したアンノットの槍に、暗い影が現れ纏われる。
 そうだ、アンノットを助けてくれるのはアンマリスだけではない。
 アンノットと、槍の影――今なお彼女に力を貸す、王国の守護竜の視線が交錯する。
 放たれた槍は、真っすぐ、ゆるぎない軌道を描き。
 ドン・フリーダムの、赤べこキャノンを抱える腕を、確かに貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レトロ・ブラウン
ヤぁやァ、コんにチは。オンボロなテレビウム、レトロです。
……記憶も朧ナ昔、「人間」と一緒ニいたヨうな、ソんな記憶があリまス。
そシてユーベルコード、【嘗て有った理想の残滓】。
誰にトってノ理想で、残滓と言うカらにはボクのモのではナいのだロうか?
頭をコンコンするト出てくル毎回形状の違うコレは、或いハ……生前のアナタの仕業だっタのでシょうカ?

其れハ其れとシて!
【不可思議流星群】!
1089個のミサイル!ソしてリモコン、ポチットナ!
「半数は滞空し、敵が足場を崩した際の足場となれ」!
「半数はボクの背後で爆発し、ボクを押し込め」!
いマ『蹴り』を付ケに行きマすよドン・フリーダム!覚悟!
【ダッシュ・踏みつけ】



●ノスタルジアを問い
 猟兵達とのいくつかの戦いを終え、ドン・フリーダムの身体にもいくらかの傷が残っている。
 けれども、彼女の体力はまだまだ十分、キマイラフューチャーのオブリビオンの根源、オブリビオン・フォーミュラの称号は伊達ではない。
 そんな彼女に新たに近づく、小さな影が一つ。

「ヤぁやァ、コんにチは。オンボロなテレビウム、レトロです」
「おや、ご丁寧に。ちょうてんさいのドン・フリーダムです。皆様の為、修理頑張らさせてもらとります」
 ぺこりとお辞儀を交わす猟兵とオブリビオン。
 レトロ・ブラウン(ダイヤルテレビウム・f07843)の丁寧な名乗りは、なんだか奇妙な光景を作っていた。

「ですので悪いんやけど……ちょっとだけ関係者以外、立ち入り禁止にさせてもらいますわ」
 もっともそれは少しの間だけ。
 ドン・フリーダムが引き起こした暴風が展開され、花の足場が削り取られ始める。
 当然、小さなレトロが耐えきれるようなものでは無い。
 花々と共に宙へ舞い上がるレトロ。
 しかし、そんな彼がコンコンコンと頭を叩けば。

「……おやまあ、成長期?」
「いエ、ソんな歳じャあ無いのデすケドね」
 ずしんと、重い音を立てて、再びレトロが花畑に降り立つ。
 その姿は、直前までとはうって変わった大きな姿。
 しっかりと大地を踏みしめる脚は、エイプモンキーのような太く丈夫な造り。
 胴体は、薄いピンクの塗装が施され、どこかの兎がエモいと写真を撮りそうな。
 全身のに開けられた噴気孔からは、暴風に耐えるための、同じく力強く、速い風の補助ホバー。

 【嘗て在った夢想の残滓(リアライズ・オールドデイズドリーム)】により呼び出された外骨格は、その名前に相応しい、旧人類達を思い出させるものだった。

「其れハ其れとシて!」
 暴風への抵抗力を得たレトロが更なる行動に出る。
 このまま耐え続けていても、いずれは足場を削り切られ落ちてしまうだろう。
 故に二つ目、【不可思議流星群(オーバーフロー・スターズ)】。
 呼び出した強化外骨格から展開されるマイクロミサイル、その数は脅威の1089。
 その滞空するミサイルを足場にして、レトロが空中へと逃れる。
 いいや、これは同時に攻撃の為の準備だ。
 ミサイルを直接撃ち込んだところで、風を纏う彼女には大したダメージは与えられないだろう。
 ならば。

「ミサイルよ! ボクの背後で爆発し、ボクを押し込め!」
 衝撃、爆風。
 痛みと共に射出されたレトロが、強化外骨格ごと、巨大な質量弾となってドン・フリーダムを襲う。
 速く、重いその蹴りが、風を纏うオブリビオンへと向かい――。

「――ちょっと聞きたいんやけど」
 荒れ狂う暴風。
 『二つ分の』ユーベルコードの風を纏う腕でレトロの蹴りを受け止めたドン・フリーダムが、その上でなお痛む身体に顔をしかめながら問う。

「キミ、なんでこんな事したんや? わたくしに迎撃の準備する時間与えるくらいなら、もっと別の方法取れたんとちゃう?」
 ある程度以上の『格』を持つオブリビオンは、複数のユーベルコードを扱う猟兵に対して、同じく複数のユーベルコードを持って迎え撃つだけの速度を持つ。
 事実、今のドン・フリーダムも、風のユーベルコードの再発動が間に合ったおかげで被害は軽減できた。
 問題は、相応の経験を積んでいるように見えるこのテレビウムが、それを知らなかったとは思えぬという事。

「……気にナったのデす」
「ん?」
 風と脚を拮抗させたまま、レトロが答える。
 レトロの記憶は朧気だ。
 昔の事と言えば、微かに『人間』と共に居たような、そんな記憶がある程度。
 自分のユーベルコードが、誰の理想か、何の残滓か、レトロは知らない。

「頭をコンコンと叩ケば出テくる、誰かノ夢。アナタならバ、何カ知ってイるかもと、そウ思ったノです」
 それを聞いたドン・フリーダムが一瞬だけ止まり、次の瞬間、ため息をつく。

「ああ、それは気になるやろなぁ……けれど、今は戦う者同士。いずれ、また」
「えエ、まタ」
 どこか優しい声が発せられ。
 ドン・フリーダムが撃ちだす暴風を利用し、レトロは花畑から撤退していった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

梅ヶ枝・喜介
この破廉恥な女怪が戦争の大将か

俺ァ学が無いから分からねぇけど、誰でも望むものが手に入るっつーの?
アレ、嫌いじゃねぇんだ
それがあれば戦で死ぬ農民だって減るだろ

でも俺ァそれ以上に今のこの世界が好きだ
そもそも戦ってモンがねぇ。誰でも満たされた面ァしてるし、諍い事があっても遊戯みてぇな遊びで決着をつけちまう
すげぇよこの世界

だから俺ァ今を変えようとするアンタを倒す

赤べこの火砲は被弾を覚悟して、気合いで武器受けしながら前進する!
俺はヤットウしか取り柄が無い!近寄らにゃ話にならん!

近寄ったなら手に馴染んだ木刀を大上段から振り下ろす!
無敵の盾なんぞ知るか!ずっと鍛えてきたんだ!
これだけはどんな壁にも負けねぇ!



●意思を掲げ、振り下ろせ
「おやまあ、また新しい猟兵さんですの。なんでも欲しい物が手に入るコンコンコン、そんなに気に食わへんのやろか」
 残念そうに語るドン・フリーダムを前に、梅ヶ枝・喜介(悩む若人・f18497)は真っすぐに敵を見据える。
 のは一瞬で、即座に目を逸らした。
 学の無い田舎者である彼も、女性の裸体を見るのが失礼だということは分かる。
 そこにこの敵だ、実に破廉恥ではないか。
 とはいえ、彼にも戦わねばならない理由はある。
 木刀を握り、目の前の敵を改めて真っすぐに見つめる。

「……正直、誰でも望むものが手に入るっつーのは嫌いじゃねぇよ」
 喜介は農民の生まれだ。
 そして、彼にとって農民とは、戦が起これば真っ先に奪われ、踏みにじられる弱者の名であった。
 争いとは、人と人が、何かを奪い合う為に起こるもの。
 ドン・フリーダムの手によってシステム・フラワーズが完成に至れば、そういった争いごとも無くなるのかもしれない。

「でも俺ァ、それ以上に今のこの世界が好きだ」
「へえ?」
 キマイラフューチャーには、争いが無い。
 街の人々は皆満たされた顔をしているし、諍いがあっても、遊戯のような楽しい方法で決着をつけ、その後はまた一緒に遊んでいる。
 喜介にとってこの世界の在り方は驚くべきもので、同時に好ましかった。
 きっと、この世界は今のままで、十分に素晴らしい場所なのだ。

「だから俺ァ、今を変えようとするアンタを倒す!」
 木刀を手に、喜介が駆ける。
 迎え撃つのは、ドン・フリーダムが操る赤べこキャノンの砲撃。
 次々に放たれ、花畑の花弁を散らせていくその激しい攻撃の嵐の中を、喜介はあえて一直線に駆け抜ける。
 鋼にも匹敵するほど、重く固い木刀で身体の急所は守るものの、それをすり抜け四肢を傷つける攻撃が、武器で受けてなお腕の骨を軋ませる衝撃が彼の身体を苛む。
 それでも、彼は愚直に走り抜ける。
 もとより、それ以外の活路など、喜介には無いのだから。

 無敵のバリアを張り、風を操り、それで足りなければ新たなマシンまで創り出す目の前の敵。
 対して喜介が頼れるのは、手に馴染む重い木刀と、それをひたすらに振り続けた鍛錬の日々のみ。
 それでいい。
 それだからいい。
 英雄になるのだと、何の変哲もない生まれの自分でも、人を、世界を動かす何かになれると証明するのだという、この気概があればそれでいい。
 この情熱は、この意思だけは。

「これだけは! どんな壁にも負けねぇ!!」
 叫びと共に、若人の木刀が振り上げられる。
 既に近距離も通り過ぎ、手を伸ばせば届きそうな至近距離。
 これまで一方的に撃たれてきたが、ここから先は自分の間合いだ。
 【火の構え(ジョウダンノカマエ)】から振り下ろされる渾身の一撃が、オブリビオンのバリアへと叩き込まれる。

 技術も何もあったものではない、愚直に過ぎる剣筋。
 それでも、数え切れぬほどに繰り返してきたその一撃は、ひたすら速く、重い。
 バリアに阻まれ、それでも力を込め続ける喜介。
 口から、何かが割れるような音がした。
 食いしばり続ける奥歯にヒビでも入ったか、いや、構うものか。
 此処は退けない。
 この世界を守るため、自分の、誇りと呼ぶには泥臭い、意地を貫き通す為。

 唐突に、何かを叩き割り、振り抜かれる己の刃。
 それが意味するものは、すなわち。

「まったく……馬鹿正直も、そこまで来たら勲章ものやね」
「おう、此処は俺の勝ちだ」
 バリアを砕いた喜介の木刀が、ドン・フリーダムの身体へと叩き込まれていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

仇死原・アンナ
あいつが騒乱の首魁か…!
あんな破廉恥な奴、倒すしかないじゃあないか!

他の同行者と共闘

エモい…?感情を揺さ振ればいいのか
なら地獄の炎を纏いつつ鉄塊剣を振るいながら[存在感と殺気]を放ちつつ
ゆっくり参上し[恫喝して恐怖を与えて]やろう

攻撃をしてきたら[ダッシュ、見切り、戦闘知識]で回避
避けれそうになければ鉄塊剣を盾にして[オーラ防御、武器受け]で防御

バリア解除後は[力溜め、鎧無視・属性攻撃、なぎ払い、怪力]を抱き合わせた【火車八つ裂きの刑】を振り放ってやろう…!

自由?自由か…貴様のその傲慢なまでに肥大した自由、もとい強欲な欲望を屠ってやろう!

アドリブ絡みOK



●恐れるべきもの
 ゆらりゆらり、と。
 花畑を歩む女が一人。
 普段の、どこかぼんやりとした眼差しはそこには無く。
 黒の鎧を、蒼い地獄の炎で染め上げたブレイズキャリバー、仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)は、冷酷な罪を焼き切る執行人としてドン・フリーダムの前に現れた。

「おやぁ、今度はまた、暑苦しいのが来よったなあ」
「…………」
 黙り込むアンナに対して、あれ? っと首を傾げるのはドン・フリーダム。
 今の自分の目の前には、何度も張りなおした絶対無敵バリアが。
 これまでの猟兵ならば、このバリアを超える為、何かしらエモいものを見せようとしてきた筈だ。
 けれど目の前の女猟兵は、ただ静かに、炎を纏い此方に歩んでくるのみ。
 何を企んでいるのだろうか。

 そう警戒するドン・フリーダムの背筋に、急に氷を刺し入れられたような怖気が。

「自由? 自由か……」
 暗い眼差しがオブリビオンを射貫き、冷たい、けれど確かな熱を孕んだ声が発せられる。

 なんて破廉恥な格好だろうか、斬らねばならない。
 此奴がこの世界を荒らしているのか、斬らねばならない。
 エモいとやらが、何を意味するのかはよく分からない。
 それでもどうせ、アンナのやる事など変わらないのだ。

「貴様のその傲慢なまでに肥大した自由、もとい強欲な欲望を屠ってやろう!」
 明確な殺気を纏う彼女の身体が、花畑を跳ねる。
 それまでの歩みから、身体のバネを活かした加速で一気にオブリビオンへと迫りくる。
 慌てて迎撃を試みるのはドン・フリーダム。
 手に持った赤べこキャノンを乱射し、アンナの進撃を食い止めにかかる。
 何も、これだけで仕留める必要はない。
 明らかに近接戦闘を得意とする相手に対して、いくらかの足止めができればそれでいいのだ。

「――小賢しい!」
 そんなドン・フリーダムの狙いを、アンナはまさしく一蹴する。
 鉄塊のごとき大剣を振るい、弾幕にできた人一人分の隙間を、背面跳びのような要領ですり抜けてみれば、そのままさらにドン・フリーダムへと迫るスピードを加速させる。
 その足を突き動かすのは、純粋なまでの殺意。
 そもそも、エモいだの、マニアックだの、そんなルールは彼女の戦場においてはただの不純物だ。
 アンナが剣を振る、敵は死ぬ。
 この戦場において重要なルールは、この一つだけ。

「くそっ、調子に乗るんじゃあ……!?」
 その、唯一絶対の殺意をぶつけられるドン・フリーダムの胸中に芽生えるのは、わずかな恐怖。
 それは、ちょうてんさいの頭脳に染み入り、思考の歯車をわずかに狂わせる。
 再び砲撃を叩き込もうとしたキャノンが、アンナの投げつけたサーベルにて串刺しに。
 拙い、この距離で、キャノンに拘ったのは明確な判断ミスだ。
 そう気づくオブリビオンの前には既に、燃え盛る大剣を振りかぶる執行人が迫り。

 渾身の力で振り抜かれる、【火車八つ裂きの刑】の炎を纏うその剣が、既に消えかけていたバリアごと、ドン・フリーダムの身体を深く切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

一・風香
あの格好……寒くないのでしょうか。

私は敵及び周囲の無機物に対しUCの『Ein Albtraum』を放ちましょう。
定石通りであれば、中った無機物を……私の支配下として操作できる『影』とできますが…
相殺されるのでしょうね。

この技は「無機物が無ければ意味を成しません」故に
そこを突かれると手も足も出ません。
困りましたね

このまま、攻撃を甘受するしか無いのでしょうか
……嗚呼、そういえば

わざわざ無機物から影を作らずとも、私の足元のものを使えば良いのでした。

そう言い、敵が私に接近し仕掛ける刹那、
装備の『影』を使い、私の足元から映える影状のオーラを身に纏い、それを操り敵に反撃を試みましょう。

では、参ります。



●死角
「うーん……流石にキツくなってきましたわ……」
 猟兵達との幾たびもの戦いを経て、ドン・フリーダムの身体にも多くの傷がついてきた。
 ふらつく頭を抑えながら、それでも彼女は攻め入る猟兵達を迎え撃つ。
 欲望は我慢しなくていい、皆が自由であるべきだ。
 ドン・フリーダムが最初に語ったその理想は、彼女にとって絶対に果たさねばならない。
 そのために、此処で倒れるわけにはいかないのだ。

「大分弱っているようですけれど……ええ、容赦はしません」
 花舞う戦場に現れた新たな猟兵、黒髪を揺らす軽装の少女、一・風香(霧時雨・f18002)は、そんなオブリビオンの様子も気にせず、己の武器を構える。
 戦いに余計な感情は必要ない。
 鍛錬による技量を持って、合理性と効率性を突き詰めていくことこそを重んじる彼女にとっては、弱るオブリビオンに油断なく畳みかけることも、猟兵としての大切な務めだ。
 とはいえども。

「ええ、ええ、結構。わたくしも、手加減されて負ける気はありませんもの……!」
「……情報通り、此方がされて嫌なことをしてくるというわけですか」
 ドン・フリーダムはこのキマイラフューチャーの頂点に君臨するオブリビオン・フォーミュラ。
 消耗していたとしても、その力は強大だ。
 どこからともなくリモコンを取り出した彼女がそれを風香へ向ければ、彼女の攻撃が始まる。
 風香の背後から何かがうごめく気配がすれば、次の瞬間、彼女が咄嗟に飛びのいた場所を、巨大な植物の蔓がたたきつける。
 すらりとした風香の胴よりもさらに太い蔓、植物と言えども、まともに喰らえば大怪我は免れないだろう。

「(足場の花……ではありませんね。周りの人工物が植物に変じているのですか)」
 襲い来る暴力をひらりひらりと躱しながら、風香が敵のユーベルコードの正体にあたりを付ける。
 彼女の考察通り、ドン・フリーダムが取り出したリモコンこそ、周囲の無機物を植物に変えて操る力。
 ――すなわち、風香から戦うための力を奪うものだ。

 風香のユーベルコード、【Ein Albtraum(サイショノアクム)】は、影を操り敵の精神へ攻撃する、使い勝手のいい強力なものだ。
 しかし、その影を作り出すために、材料となる無機物を必要とする弱点がある。
 今の状況のように、先にその無機物を奪われてしまえば、手も足も出なくなってしまうのだ。

 蔓自体は、そこまで速度があるものでも無い。
 風香の身のこなしならば、躱し続けることは十分に可能。
 それでは、駄目なのだ。
 風香は、このオブリビオンを討ちに来た。
 ならば、どうにかして敵に攻撃を加えねばならない。
 だけど、ユーベルコードは使えない、どうしたものか。

「いえ、よく考えれば状況はわかりやすい……では、参ります」
 ぽつりと呟いた風香の身体が、跳ねる。
 こちらに向かう蔓に蹴りを加える要領で足場にして、地面と平行に、真っすぐオブリビオンへと迫る。
 やけでも起こしたか、そう冷静に思考するドン・フリーダムが迎撃を行おうとして。
 その仮面の下の眼を、驚愕に見開く。

 なぎなたを構える風香の身体を、黒いオーラのような影が包む。
 馬鹿な、間違いなく相手のユーベルコードは封じたのだ。
 なら、あれはいったいなんだ?

 一瞬の混乱に生じた隙を、風香は見逃さない。
 影を纏うなぎなたが、オブリビオンの身体を、確かに切り裂いた。
 そうして攻撃を受ければ、ドン・フリーダムの思考も、事実へと追いつく。

「お前……ユーベルコード無しで突っ込んでくる猟兵がいるんか……!」
「はい、此処に」
 ユーベルコードが使えないのなら、使えないまま戦えばいい。
 もとより、長きにわたる修練によって猟兵に到った風香は、ユーベルコードの無い戦いもよく分かっている。
 それでもなお、勇気あるその攻撃は、確かにドン・フリーダムの意識の死角を突くものだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

真守・有栖
ついにあにまるのてっぺんを決める時が来たわね!

全力全開!真剣勝負!
あにまるに言葉は無用
己が獣とえもを示すのみ

――月喰

光刃が天を裂く
覗くは銀月
暴くは本性

月喰らう狼の本能が
無尽の欲望を喰らい尽くす、と


真守・有栖。……いざ、参る!

四肢と刃と己が意志
それだけ在れば何もいらぬと
中れど連ねど、己と覚悟で受け
威る一撃に狙いを定め

刃に込めるは“断”の決意

――光刃、裂閃

迸る極光にて、迫る砲弾ごと一閃
なおも止まらず
延びた斬光の軌跡を辿り、疾駆
追撃を阻む砲撃
裂帛の気合いと共に咆哮
射線を外すように狼へと転じて、さらに加速
月喰を咥えて、刃狼の牙と為し
四肢を以て駆け――瞬閃

光刃に連ねた白刃
渾身の斬撃にて、一切を断つ――!



●人に非ず獣に非ず、人であり獣であり
「ついにあにまるのてっぺんを決める時が来たわね!」
「はい?」
 気合十分の真守・有栖(月喰の巫女・f15177)が叫んだ言葉を、ドン・フリーダムが理解するのには数秒かかった。
 戦争も最終盤。この状況で、どうにも緩い雰囲気の猟兵が来たのだから、ドン・フリーダムの困惑ももっともだろう。
 ザ・ステージで有栖がしてしまった勘違い、この戦争にて、キマイラフューチャーのお山の大将が決まるという誤解は、とうとう誰にも正されることは無かった。
 才色兼狼たる可愛らしい彼女は、この最終決戦でも、完全にマイペースだ。

「まあ……ちょっとした休憩と思いましょ」
 若干呆れた声色で、ドン・フリーダムがバリアを展開する。
 ともすれば、迷い込んできた子供のようにも見える有栖は、オブリビオンにとって脅威ではない。
 適当に追い返して、また修理を続けよう。
 そんな事を考えながら、赤べこキャノンを構えるドン・フリーダムの前で。

 有栖の光刃がシステム・フラワーズの壁を彼方まで切り裂き。
 それが、彼女の本性を引きずり出す狼煙となった。

「うわっ、ビームソードかなんかかいな、また派手に斬ってくれて……」
 まったく、誰が直すと思ってるんだ。
 そう愚痴を漏らすドン・フリーダムが、外の明るさに気付く。
 フラワーズ内部では気づけないが、いつの間にか夜になっていた。
 今日は満月、鮮やかな銀の月光が、この花畑も怪しく照らす。

「覗くは銀月、暴くは本性」
 一瞬、誰が言ったのか分からなかった。
 此処にはドン・フリーダムと有栖しかいないのだから、有栖の言葉であるのは間違いないはずだ。
 それでも、その凛とした静かな声は、先ほどまでニコニコとはしゃいでいた少女と、どうにも結びつかない。

 あにまるのてっぺんを、などと言っていた先ほどまでの彼女に嘘はない。
 真実、彼女はこの戦争をそうと認識していただけだ。
 ただし、多くの人がそうであるように、有栖にも普段誰にも見せない顔があるだけで。

 彼女は人狼だった。
 狼の耳を持ち、病に侵された彼らには、もう一つ特徴的な要素を持つ。

「真守有栖……いざ、参る!」
 すなわち、月の光が照らしだす、獣としての本性だ。

 花が舞う。
 刀を構え駆け出した有栖が地を踏み込めば、力強い脚が花弁を散らし、より早くその身体を加速させる。
 慌てたオブリビオンの砲撃により、更に荒れ果てる戦場の中、傷を作る彼女がさらに駆ける。
 最短距離を進めば、当然その歩みはシンプルなものになる。
 ある程度の砲撃を斬り払ったところで、捌ききれない攻撃は、彼女の白い肌を、服を、髪を赤く汚していく。
 構うものか、敵を追う四肢と、敵を斬る刃、それを連れたこの意思さえあれば、他に必要なものなど無いのだから。

 光の斬撃が奔り、砲撃を斬り伏せる。
 既にあまたの傷を、痛みを受けたその身体はなおも駆け、ドン・フリーダムを、鋭く細められた眼差しが射貫く。
 次の瞬間、有栖の前に現れたのは壁だった。
 隙間なく撃ち込まれるその砲撃は、有栖の身体を容易に飲み込む。
 多少斬り払っても、できる隙間はわずかばかり。
 切り裂く光もむなしく、彼女の姿は暴威の嵐へと掻き消える。

 爆風、咆哮。
 次の瞬間、光を追うように飛び出す白い影。
 人で駄目なら、獣の通り道を抜ければよい。
 狼の姿へと変じた有栖が花園を駆け抜けて、とうとうドン・フリーダムへとたどり着く。
 その身体はとうにボロボロ。フォーミュラたるドン・フリーダムに対しての正面突破、無事で済むはずもない。

 それでも彼女は走り抜けた。
 四肢は動くぞ、刃は残った、身体がどれだけ傷つこうと、この“断”の決意は折れず揺らがず。
 声なき獣の眼光が、さあ斬るだけだと獲物を見据える。
 狼が咥えた光の刃は白刃に重なり、ひときわ輝く。
 月に狂う獣の、なお消せぬ意思が、月ごと敵を喰らおうと瞬く。

 その刀の軌跡が、オブリビオンの身体を真二つに別つ。
 嗚呼、これは駄目だ。
 ドン・フリーダムが、これ以上ない敗北の実感と共に、崩れ落ちる。
 骸の海に還るその刹那、力なく閉じようとする瞼を無理やり開けて見つめるのは、己のすべてを断ち切った猟兵の姿。

 人に戻ったその姿。
 荒々しくも美しい、人と獣を内に宿したその白い姿が振り返り。
 その、眠りにつく子供を見守るような眼差しと、先ほど自分を斬った剣豪の眼光。

 はて、どちらが彼女の真実なのか。
 その疑問だけを連れて消えたオブリビオンを見送った有栖を、花畑の静寂だけが包んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月31日


挿絵イラスト