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バトルオブフラワーズ⑫〜地獄より

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ドラゴンテイマー

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「……まずはじめに言っておくが、この戦いに戦略上の意味はまったくない」
 グリモア猟兵、ムルへルベル・アーキロギアははっきりと告げた。
「その上でなお挑むという者だけが、ワガハイの予知に耳を傾けてほしい。
 ……然り、ドラゴンテイマー。此度の戦の影の立役者、謎めいた男のことである」
 多くの猟兵が"予兆"に見出した存在。それが今回の目標だと云うのだ。
 しばらく間をおいたあと、残った猟兵たちを見渡し、賢者は頷いた。
「よかろう。では、ワガハイの話を聞いてくれ」

 ドラゴンテイマーは、どうやら猟兵たちと積極的に戦うつもりはないらしい。
 奴はシステム・フラワーズ中枢部を離れ、独りで佇んでいるのだという。
「この戦争は、ドン・フリーダムを滅ぼしさえすれば終わる。彼奴は言わば"おまけ"だ。
 しかし、そもそもの発端が彼奴である以上、見逃したくないという者も多かろう?」
 ここに残った猟兵たちはそうであると判断した上で、ムルへルベルは続ける。

「とはいえ相手は強敵だ。戦闘においては間違いなく先手を打たれる。確実に、だ。
 いかにして敵の攻撃を凌ぎ、倒すか……彼奴の手管はその手がかりとなるはずである」
 "赤き剣の右腕"、そして"黒龍ダイゴルウス"の『群れ』。これが敵の武器。
 おそらく極めて強大であろうドラゴンの群れは、それ自体が脅威と言える。
「あの奔放なオブリビオン・フォーミュラに与するような相手だ。腹の底が知れぬ。
 彼奴が何を狙い、知るのかは皆目見当がつかぬし、此度の戦いではわからぬだろう」
 それでも戦うと決めたならば、送り出す。それがグリモア猟兵の仕事。

 しかしなお、ムルへルベルはわずかに身を震わせて呟いた。
「あの男の昏い瞳、まるで地獄そのものであるかのようだ……。
 "汝ら此処に踏み入る者、一切の希望を棄てよ"などとは、決して言いたくはないな」
 ぱたり。浮かぬ面持ちのままに本を閉じる。
「挑むのならば、せめて無事に帰れ。ワガハイはそれを願っている」
 当て所なき戦いが、始まる。


唐揚げ
 唐揚げです。
 以下は恒例の文章となります。

 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

 はい。そんなわけでドラゴンテイマーとの戦いです。
 バトル・オヴ・フラワーズ攻略上、この戦力は無視しても問題ありません。
 加えて、ドラゴンテイマーは『これまでの誰よりも強敵』です。
 難易度は同じ『難しい』ですが、三幹部よりも少しだけ判定をきつくします。
 その上で挑まれるという方、ぜひともお待ちしています。ご武運を。
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第1章 ボス戦 『ドラゴンテイマー』

POW   :    クリムゾンキャリバー
【赤き剣の右腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【黒竜ダイウルゴスの群れ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ギガンティックダイウルゴス
レベル×1体の、【逆鱗】に1と刻印された戦闘用【大型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    文明侵略(フロンティア・ライン)
自身からレベルm半径内の無機物を【黒竜ダイウルゴスの群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●From hell
 その男について、わかっていることはほとんど皆無と言っていい。
 だが花々咲き誇るヒトなき場に佇む姿は、まさに形を得た地獄のようであった。
「……もはや、私の仕事は"持ち帰る"のみだが」
 虚(うろ)の如き双眸が、あらぬほうを見やる。近づく死闘を察したかのように。
「グリモアを得し『奴ら』が、私を放っておくとも思えんな」
 響く声音もまた同様に。
 どこからか、恐るべき黒龍の唸り声がいくつも響いた。
天道・あや
おっさんが黒幕の一人?違う、でもどっちにしろ此処で倒す!キマフュの、皆の夢や未来への道はあたしが照らすから!!

無機物を竜に?なら…あたしがする事は一つ、何時も通り歌を歌うのみ!
【見切り、激痛耐性、ダッシュ、スライディング】
群れの動きを見極めてつつ群れの隙間とかをダッシュでおっさんに接近!途中竜の攻撃とかを食らうかもしれないけどスライディングとかで避けながら走るのみ!…それでも攻撃は当たるかもしれない、でもあたしはその程度じゃ止められない!!そして接近したらおっさんの攻撃をよけて【サンダー!ミュージック!】【歌唱、鎧砕き】!これがあたしの、未来への想い!!



●1人目の巡礼者:天道・あや
 グリモアによる転移が終わり、あやは軽やかに着地した。
 ……そして、ぶるりと身を震わせる。なんだ、この妙な感覚は?
「寒い……?」
 いや。システム・フラワーズの内部は適温だ、体調もすこぶる良い。
 だのに鳥肌が立つほどに寒気がし、総身が震えるのをこらえきれなかった。
(違う、これって)
 あやが自ら答えに辿り着いた時、その"理由"がやってきた。
「お前が一人目か」
 あやは改めて確信した。これは気温がどうとかの問題ではない。
 眼の前の男。ドラゴンテイマー。奴のプレッシャーによる震えなのだと。

 しかしあやは天真爛漫で、ひたむきなほどに前向きな少女だった。
 ぶんぶんと頭を振り、自らの両手で頬を張って気持ちを入れ替える。
「そうだよ。あたしは天道」
「名前などどうでもいい」
「……天道・あや! おっさん、あんたが黒幕のひとり?」
 ドラゴンテイマーのペースに乗せられるべからず。あやは言い放った。
 だが彼奴がうっそりと睨み返すのを見、突きつけた指が再び震えそうになる。
「……ううん、違う、どっちにしろここで倒すんだから!」
 ぐっと拳を握りしめ、決断的に言い切ってみせる。
「この世界の、みんなの夢や未来への道は、あたしが照らすから!」
「そうか」
 花々が舞い散る。ドラゴンテイマーは激昂するも嘲笑うこともなく、言った。
「では死ぬがいい」
 その瞬間、大地そのものがあやに牙を剥いた。

 システム・フラワーズは見渡す限り、花々の咲き誇る空間である。
 だがその本質は、キマイラ・フューチャーの超科学力で構成された施設。
 つまり天然自然のものではない。であれば彼奴の支配下にある。
「な」
 あやは呆然とした。大地のあちこちから"立ち上がる"黒き龍の群れ!
 ひとつひとつが並のオブリビオンに匹敵しかねぬほどの、恐るべき重圧。
 それが群れである。範囲はどれほどだ、50か、100か。あるいは。
「……あたしは、逃げない。いつも通りにやるだけっ!!」
 叫び、あやは疾走する。龍どもが咆哮し、これを追った。
 システム・フラワーズは、その本質こそ間違ったものであった。
 だがこれでも、旧人類の遺したモノであり、この世界を構成する竜骨と言える。
 つまり文明の要。それがたやすく龍の群れに変じるさまは、まさしく。
("文明侵略"って、こういうことなの!?)
 そう形容するに足る、圧倒的暴威である。

 あやの当惑が動転を生んだか。あるいは根本的な能力差か。
 少なくとも、彼女の意気は敵の威風をはねのけて余りあった。
 群れの動きに注視し、可能な限り本体をめがけて進む判断も、正しかった。
 ただ……"正解である"というだけで、片付けられないことも世の中にはある。
 間の悪さ。あるいは絶対的な違い。得てして才気はそれによって摘まれる。
 世に於いて、それは"現実"と呼ばれるものだ。
「が……っ!?」
 たとえ龍の一撃を受けたとて、止められない。止まらない。そう決めていた。
 信じていた。思っていた。これまではそうだった。
 それでも、なお。どれほどあがき、望み、食い下がったとしても。
「届かぬものはある。諦めるがいい」
 龍が群がる。牙が、爪が、尾が、あやの五体を切り裂き、抉り、打ち据えた。
 視界が霞む。黒に呑まれる。まるで地獄。ここが地獄。望みなどもはや。

「厭だ」
 たとえ現実がそうだとしても――否、だからこそあやは希う。
 どれほど可能性が低くとも、星星の海で目当ての輝きを探すに等しくとも。
 海原に砂粒を見出し、砂漠に水の一滴を探すような難行だとしても。
「あたしは、絶対、止まりたくないッッッ!!!」
 ヒトは焦がれて、願う。その名を"希望"と云った。
「あぁあああああああっ!!」
 吠える。龍どもの咆哮よりもなお気高く、雄々しく、そしていたいけに。
 それはあがきだった。ねじ伏せられかけた弱者の、祈りめいた悪あがき。
 だが希望とはそういうものだ。災厄の箱の底に遺ったもの、唯一つの輝き。
 それ自体に力はない。それを願い、あがき、立ち上がるから意味がある!
「負、け、て、た、ま、る、かぁああああっ!!」
 奔った! 痛みすらも果てたありさまで、あやは、なおも!
「――ほう」
 ドラゴンテイマーはここで初めて、"あやを見た"。
 再び総身が震え……震える? 知ったことか、震えたいなら勝手にしろ!
 あやは己の脳裏を総て戦意で塗り替える。届かせる、絶対に、この音楽(いかり)を!
「見下してんじゃ、ないっ!!」
 レガリアスが応えた。大気を蹴り、あやは跳躍。蹴撃を放つ。
 しなやかな脚の一撃とその咆哮は、まさに稲妻めいた速度と雷鳴を伴う。
 ドラゴンテイマーの片眉がぴくりと動く。そして爪先が、この男の、頬を、

「……見くびるのは危険なようだな」
 静寂。ドラゴンテイマーは、頬に生まれた一筋の傷を拭う。
 然り、傷である。鋭利な刃物めいて裂かれた傷を、拭った。
 龍どもがぐる、と唸った。ドラゴンテイマーはそれを一瞥で無機へと還す。
 倒れ伏すのは、見るも無惨な少女独り。抗い続けた果ての巡礼者の姿。
「……天道・あやと云ったか。ひとまずは憶えておくとしよう」
 言って、男は去る。その所以は何故か。あるいは目的などないのか。

 ただひとり。意地を貫いた少女だけが、そこに残された。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

美国・翠華
貴方…ほんとにキマイラフューチャーの人?
【アドリブ歓迎】
私の攻撃は軽業を使って回避するつもりだけど
もしかしたらそれでも攻撃を先読みしそうね…
だったら…UDCを宿すマフラーに
私の首を無理やり引っ張ってでも行動を回避させるしかないわね…

後はナイフで右腕の攻撃を軽業で回避してみるわ
もしかしたら追撃もナイフが受けそうね

…少なくともこれで致命傷を回避さえすれば
ユーベルコードを発動可能になるはず…
ナイフが無事ならそれも交えて
UDCと波状攻撃を仕掛けに行くつもりよ。



●2人目の巡礼者:美国・翠華
 アンディファインド・クリーチャー。外世界より来たるモノ。狂気の顕現。
 それをヒトの尺度で理解することは能わず、ゆえにそれらは邪神と呼ばれた。
 神とはすなわち、ヒトを超越したモノである。天地万物に宿りし化身。
 ヒトでは抗いようのない、どうか許したまえと希い伏して奉るモノ。
 であれば、狂気そのものを邪なる神と呼ばうのは、いかにも"らしい"。

 かつて少女は生死の境を彷徨った。偶然(あるいは運命)と気まぐれによって、
 永遠に戻ることの出来ぬ不可逆の変化によって、喪われた生を生き存えた。
 神とその眷属と定義されたモノによって"生かされる"有り様は、まさに、
 まつろわぬものを崇め、ただ伏して祈り続ける哀れな者と云うに相応しい。
 そして今この時、翠華は再び、あの忘れられぬ日を幾度目かに追想していた。
 それほどの重圧であった。絶望が、地獄がそこにいたのだから。
「……あなた……ほんとにキマイラフューチャーの人?」
「私が答えたとして、それでお前の行動が変わるとは思えんな」
 半ば呆けたように溢れた問いかけに、意外にも男は答えてみせる。
 ……もっとも、問い返すような言葉を、答えと言っていいのかは微妙なところだ。
 翠華とて、ただ言葉で問うたところで答えが得られるとは思っていない。
 ではなぜそんな問いかけが溢れたのか。無意識に、としか言いようがあるまい。

 蛇に睨まれた蛙。
 その形容は半ば正しく、しかし間違っていた。
 翠華は恐怖していた。だがそれで終わらせるつもりがないのも確かだった。
 苦痛を求めるUDCの蠕動が、彼女の手足を動かしていた。それも、ある。
 だがそれだけではない。彼女は挑むことだけはやめていなかった。
 諦めては、いなかった。ならばやつことはひとつだ。
「そうね……ええ、そう。私は、あなたを倒しに来たんだから!」
 己を鼓舞するかのように翠華は叫び、身を落として力強く地を蹴った。
 相対距離は約10メートル。化身忍者たるその身ならば一息で飛び込める。
 身軽さを生かして飛び回り、赤き剣の右腕による斬撃を回避する。
 敵は無慈悲だ。であれば一撃でこちらの命を刈り取りに来るはず。
 いまなお責め苛まれる彼女だからこそ、苦痛を受ける側の思考が出来る。
 狙いは頸、あるいは胴体だ。横薙ぎ。回避軌道は上か下かの二択。
(最悪、UDCに私の首を無理やり引っ張らせてでも……!)
 生かされる屍ゆえの捨て鉢な思考。それは敵の虚を突けるはずだろう。
 そして返す刃で己が突く。呪われた短刀が血を求めてかたりと呻いた。

 そこで翠華は、はたと気付いた。
(え?)
 自分が斃れていることに。見上げるのははてなき天井。
(……え?)
 思い出したかのように、かっと強烈な熱が肚に生まれた。否、これは。
(斬られたの)
 自認とともに、熱が痛みを伴う。恐ろしいことに同時に寒気を覚える。
 血が抜けているのだ。"いのち"が喪われていく感覚を彼女はよく知るゆえにわかる。
 つまり翠華は倒れ伏していた。はらわたまで届く斬撃を腹部に受けて。
 無邪気に咲き誇る花々を、しとどに溢れる鮮血が染め上げる。
「ごほっ」
 ぞっとするような量の血。いくら味わっても苦痛に慣れることなどない。
 ひゅうひゅうと喉が鳴る。喪われていく力を込めて頭を上げた。
 敵が右腕を払う。血がぴぴっ、と地面に溢れる。虚の如き瞳が見返す。
「まだ生きていたか」
 やつはそう言った。その背後から闇が立ち上がった。
「か、は」
 龍である。一匹ではない。ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ……ああ。霞む。
 獲物を見出した浅ましき鴉めいて、頭上を埋め尽くす群れは如何ばかりか。
(私、死ぬのね)
 翠華の手がぱたりと地面に落ちた。そして呪われた刃を手放そうとした。

 けれども、そうはならなかった。
 翠華の手は逆に、白くなるほどに強く、力強く柄を握っている。
(私、何をしてるの)
 翠華は困惑した。UDCが体を操っているのか、とも思った。
 否である。彼女は自分自身の意思で、ナイフを握りしめていたのだ。
(どうして)
 身動ぎする。はらわたがねじれて意識が白く染まり、飛んだ。
 そして痛みで覚醒する。自分が立ち上がろうとしていることを知覚した。
(私、なんで。自分で立ち上がろうとしているの)
 不可解だった。生かされる屍にとってはありえない話である。
 この場でなおも不屈を選ぶとしたら、それはUDCの悪意によるものだ。
 彼奴は諦めを許さない。苦しめ、あがけと囁き、強要する。
(私――)
「げほっ」
 ぼたたた、と血が跳ねる。立ち上がっていた。よろめく。
「…………」
「げ、ほっ、ごほ。かはっ」
 二度三度咳き込み、血を吐いて、青褪めた相貌で敵を見返した。
 敵を。男でも、死神でも、地獄でもない。敵を。ドラゴンテイマーを!!
「……わたし、に」
 ひゅうひゅうと喉が鳴る。命乞いか? 否。
「わたし、に。協力……して……」
 内側で"何か"が身動ぎした。それは邪悪な嗤笑を……浮かべて、沈黙した。
 嗤笑はなかった。嘲笑も。それはまるで言葉を呑んだというべき静謐。
「少しだけ、自由を……あげる、から……」
 邪神は応えない。翠華は再び呼びかける。
「力を……貸して……貸し、て……貸し、な、さい……っ」
 そして不気味な現象。流れた血が、こぼれたはらわたもろとも体内に戻る。
 逆回し映像じみた光景。バターのように斬られた傷が溶解し癒着した。
「…………」
 ドラゴンテイマーは無言。龍どもがぱちぱちと無数の目で娘を見やる。
「殺せ」
 号令。一気呵成に龍の群れが、翠華めがけ飛びかかった。

 ……だが!
「ぐ、ぅうううっ」
 翠華は血のしずくを口端からこぼしながら疾駆する。
 ごぼごぼと血管のなかで呪われた血が煮え滾り、歪な活力を与える。
 呪われた刃からは涙めいた血がぼたぼたと垂れた。あるいは涎のように。
「あぁああっ!!」
 悲鳴ともつかぬ雄叫び。ナイフを振るう。龍が吠えて噛み付く。
 狙いなどなく刃を振るう。肉を、肌を貫いてあちこちから闇の刃が生えた。
「あ、あ、あぁああああっ!!」
 竜巻のように身をよじり、自在の骸布と闇の刃で龍を抉る。
 目指す先はひとつ。敵を。あの男を。この刃で! 仕留めて!

 ――仕留めて、どうする。
(知らない。知ったことじゃない)
 それは死に際の捨て鉢か。忘我に至って加虐の本性が現れたか。
 あるいはそれもUDCのもたらしたものか。わからない。どうでもいい。
 ただこの男に届かせたい。そう思った。それを希望した。ただただ願った。
 あと30センチ。正しくは28センチと5ミリ。届きかけた刃を振るう。
「が……っ」
 振るおうとして、龍に裂かれた。噛みつかれた。男は不動。
 刃そのものが不満げに唸る。剣風だけが彼奴の頬をわずかに裂いたのみ。
 飛び散った血がじゅうじゅうとその身を腐敗し苛む。そして回復していく。
「たかが操り人形と見えたが、意外なこともあるものだ」
 おそらくそれは、ドラゴンテイマーなりの称賛だったのだろう。
 再び赤い右腕が振るわれた。今度こそ、翠華の意識は完全に断ち切られた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

矢来・夕立
威力偵察ですね。承知しました。
《見切り》やすい、回避しやすい軌道へ攻撃を誘発します。
具体的な手法…《だまし討ち》を空打ちかな。
「相討ち狙い」だと思わせることができないでしょうか。
ウソなんですけどね。
白兵戦を仕掛けにいく「フリ」です。
手前で止まって受けるなり避けるなりします。

これもウソでして、リアクションしたところから更に踏み込んで白兵戦に挑むわけですが。

【神業・絶刀】。今のオレに出せる全力です。本気の《だまし討ち》。
負傷は、…するでしょうね。強くないワケがないので。
他人が見れば意味のない傷ですけど、オレにとっては無意味ではない。
傷は経験の証明で、経験はいずれ自分の武器になりますから。



●3人目の巡礼者:矢来・夕立
 はじめから勝算などない。勝つつもりも、ない。
 少なくとも勝利の定義を『敵の完全撃破』とするなら、間違いなくそうなる。
 夕立の目的は威力偵察。敵の情報――戦力的な意味で――を少しでも引き出すこと。
 有り体に言えば捨て石である。だが、誰かが命令したわけでもない。
 グリモア猟兵が願ったわけでもない。インセンティブがあるわけでも、ない。
 では。なぜか。誰かが問うたなら彼はこう答えるだろう。
 義務。義憤。使命。必要性。その他諸々、理由はいくらでも。
 それらしい台詞を並べたあと、表情を変えぬままこう締めくくるのだ。
『――ま、ウソなんですけどね』
 と。

「参りましたね」
 やはり表情を変えぬまま、夕立は思案げに呟いた。
 彼の前にはいま、見上げるほどに巨大な龍が、一体。
 然り、一体である。最初は五十……ともすれば百は居たかもしれない。
 だが一体になった。つまり集合したのだ。これが夕立にとってなお苦境だった。
 数を頼みに襲いかかってくるならば、敵を影としてやり過ごせる。
 同時討ちのために撹乱したり、やりようはいくらでもあっただろう。
 一体というのがまずい。あのユーベルコードはおそらく、類似のものから見て、
 集合すればそれだけ個体の戦闘力が高まるのだ。逆鱗に刻まれた数字を見たくない。
「こちらの手の内はお見通し、ですか。商売上がったりですね」
 赤い瞳がじろりと地獄を見据え、空言をつぶやいて出方を伺う。
 男は無言。取り付く島もないこの様子が、なおさらに厄介だった。

 夕立は嘘つきである。大抵の台詞のあとに"ウソですよ"とつけるからだ。
 実際にそれが本音だったとしても云う。ウソであったならやはり、当然云う。
 けして己の狙いや真意を悟らせることなく、かと思えば大胆にぶら下げる。
 そうして敵や相手の手管を引き出し、それとなく隙を誘い、かすめとる。
 いかにも忍らしい搦め手。虚実を転換する口八丁手八丁だ。
 此度も同様。だが少なくとも、言葉による搦め手は一切通用しない。
(……本当に困りましたね)
 だからもはや、彼はウソを言っていなかった。
 困った、参った。下手をするとここで死ぬかもしれない。
 あまりにもはっきりとした死の気配は、却ってその現実味を薄れさせる。
(ならいっそ、正面勝負でも挑みますか)
 などと心のなかでひとりごち、喉を鳴らした。表情は変わらない。
(ああ、なんだ)
 その音を聞いた時、出した当人が驚いて、自分に呆れる。
(――オレ、笑えるんですね。下手だけど)
 不思議と余計な力が抜けた。夕立は、もうそこで動くことにした。

 ドラゴンテイマーは、もはや夕立を見てすらいなかった。
 何かを待っているのかはたまた目的でもあるのか、気もそぞろ。
 ゆえに夕立の挑発に引きつけられたのは、その背後にそびえる龍である。
 巨大だ。全長はどれほどあるのか、翼長は馬鹿げているだろう。
 威圧感が現実味と彼我のサイズ差を忘れさせてしまう。
 まるで世界そのもの――文明を裡に秘めていると言われても信じそうなほど、
 神話の巨人めいた威容であった。夕立は円を描くように走る。龍を見据える。
 こちらに相手が意識を割いていないなら、夕立が意識を割く理由もない。
 敵として見られていないのだろう。結構だ、対処せずに済んで楽なのだし。
「オレはザコ以下ですか。腹が立ちますね」
 ドラゴンテイマーはやはり無反応。代わりに黒龍がごうっ、と吼えた。
 夕立はびくりと身をすくめたように見せかける。龍の爪がぴくりと動く。
 ……出し抜けな静寂。ひとつ目の誘い出しは見切られた。敵は動かない。
「来ないんですか? ならこっちから行きますよ」
 ふっ、と夕立の姿が消えた。巧妙な視線誘導によるミスディレクション。
 だがそれも搦め手。龍が察知することなどはわかりきっている。
 死角を取った上で逆鱗を断つ騙し討ち。払われた尾を飛び躱し、駆け上る。
 本物の刃に変えた手裏剣型の式紙を五つ。背中を駆け上りざまに突き刺す。
 龍が身を捩り、夕立を吹き飛ばそうとする。手裏剣はこのための足場だ。
「逆鱗、頂きますよ」
 駆け上る。そして急所を切り裂く――龍はそう捉えた。
 ゆえに喉元をぐわしとかきむしるように、爪でひっかいた。
「すいません、それウソなんですよ」
 夕立は跳んでいた。急所へ駆け上ることはせずに、あえて下へ。
 相打ち狙いの騙し討ち、と見せかけた上で龍のリアクションを誘ったのだ。

 黒龍が吠える。ならばどう来るという、人間よ。我を謀るかとばかりに。
 夕立はぎらりと睨め返した。刀の形をした龍槍を早業で鞘走らせる。
 此れを以て鱗を裂く――という虚像を、殺意によって放射した。
 すなわち二つ目の搦め手。避けてからのカウンターと見せかけたのだ。
 龍の筋肉が鋼じみて固まり、防御姿勢を取る。好機。
(オレのこと、本当に最初から眼中にないんですね)
 赤い瞳が見据えるのはドラゴンテイマーだ。最初から狙いはこちら。
 数瞬だけ、龍は動きが遅れるだろう。それでいい、あの男を殺《ト》る。
 威力偵察である。完全撃破など夢のまた夢、捨て石となる腹でいた。
 だがあの無関心。無反応。己を敵とすらみなさない平然。あれは。
「――癪に障るんですよ」
 己にこんな声が出せるのかという、煮え滾るような声だった。
 がむしゃらに振るわれた龍の爪を蹴り、忍が矢の如くに男を目指す。
 そのさまは空蝉の如し。カゲめいて舞い、不可知の刃にて討つべし。
「ッ」
 そう決めていた。だが夕立は、条件反射的にそれを棄却した。
 男が、こちらを見ていた。その虚の如き双眸に射竦められた瞬間に。
 抜き放つは"雷花"。刀匠『永海』一派、永海・鉄観の作。朱混じりの脇差。
 しゅ、と鋭く短く呼気を吐く。調息、練気、着地、そして瞬歩へ。
 不可知などなし得ぬ。男の瞳は影すらもたやすく見破るのだろう。
 ならば。己はただ挑むのみ。修羅(いくさがみ)の如くに真っ直ぐに!
「――終いです」
「だろうな」
 男の口が動いた。不思議とそれは思考の速度で伝わる音。
「お前が、"おしまい"だ」

 交錯。

 龍が吼えた。獲物をかすめ取られた不満げな唸り声だった。
 ドラゴンテイマーは、赤い右腕を払い、こびりついた血を拭う。
 一瞬の交錯。勝敗は明らか。立っているのは男であり、斃れたのが忍だ。
 ……明らか? いかにも、それはたしかだろう。
 勝利の定義を、『どちらが立っているか』とするならば、だが。
「……何?」
 ドラゴンテイマーは訝しんだ。己の脇腹に手をやった。
 ぬるりとした感触。指先を汚す、赤黒い血。眉が顰められ少年を見やる。
「どうしたんですか」
 血を零しながら、やはり無表情で、ふらりと立ち上がる一振りのカタナ。
 せめてお前を見下ろしてやる、とばかりに、形だけは尊大に背を反らし。
「"おしまい"じゃなかったんですか。あなた、ウソつきですか」
 生きている。いのちがある。よろけるさまはいかにもか細いが。
 それでもただ一瞬の死の舞踏、彼は耐え抜き、そして、勝利した。
 傷を受けた。当然だ、相手は強敵。無傷で帰るつもりなどなかった。
 そうではない。傷を、与えたのだ。ドラゴンテイマーは。
「……私を、斬るとはな。だが」
「無意味じゃないですよ」
 神業的な一撃。己の全力に全力を重ね、それでようやくの一太刀。
 これが今の限界。届かない。だが無為ではない、だから夕立の"勝ち"だ。
「傷(それ)は、オレが残した証明です。そして」
 夕立は、血染めの片手で頬をつまんで皮肉げな笑みを"作って"みせた。
「あなたを倒す誰かにとっての、希望になるんですよ」
 いかにもウソつきらしい、空々しい捨て台詞だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

神酒坂・恭二郎
「さてさて。奈落の底を見た目をしてなさるな、竜使いの旦那」

情報がまるでない。
黒竜とは何かも分らない。
途方もない強敵だとだけ分かる。
こっちに来て正解だった。

「神酒坂恭二郎。参る」

知らず笑みを浮かべ脇構え。
間合いなど無いと同じ相手だ。
勝機は一瞬にしかない。

赤の一閃に諸手の切り上げを合せる。【覚悟、見切り、激痛耐性】
奴には始動の一撃だが、こちらは諸手の渾身だ。
それでも初撃は不可避だが、最後まで剣を粘らせ千金の一瞬を稼ぐ。

「疾ッ!!」

本命は前蹴り。
超圧縮した風桜子を乗せて放つ隠し技。
奴の二段目に一瞬でも早くねじ込めるかの勝負だ。
【二回攻撃、早業、クイックドロウ、カウンター、封印を解く、捨て身の一撃】



●4人目の巡礼者:神酒坂・恭二郎
 そもそも、彼奴は何をしてドラゴンテイマー……龍の使い手と名乗るのか?
 その名は明らかになっているが、黒龍ダイウルゴスとはなんなのか?
 クリムゾンキャリバーとは? 侵略樹とは? なぜグリモアを知っている?
 ……ドラゴンテイマーに関してわかることは、あまりにも少ない。
 そもそも奴は、この世界の住人なのか。それすらも怪しいだろう。
 だがこの場に集った猟兵たちにとって、なによりも重要なことがひとつある。
(……ありゃア、話に聞いていた以上だねえ)
 転移した直後からびりびりと肌を痺れさせるような重圧に揉まれていた恭二郎。
 その原因――すなわち、ドラゴンテイマーを直視して、冷や汗がひとつ。
 口元に浮かべた笑みは戦意高揚というよりも、気丈というべきか。
(途方もない強敵、ってえやつだ。銀河帝国攻略戦を思い出す)

 然り。
 ドラゴンテイマーは、秘めた謎以上に……強い。
 これまでの三幹部は、決して弱い存在ではなかった。
 個々の能力は無論のこと、基礎的な戦闘能力や判断力、意志力。
 ありとあらゆる面で、尋常のオブリビオンを遥かに超えていた。間違いない。
 だがなお、ドラゴンテイマーは格上だ。恭二郎はそれを直感的に理解した。
 認めざるを得なかった、というのが正しいところだ。彼にも矜持がある。
 これまで相対し、討ち滅ぼしてきた過去の化身たちへの敬意がある。
 殺し合った相手に対してリスペクトとはやや奇妙にも感じられるが、
 いやむしろ『だからこそ』その死合を重んじる――剣客たちはそうする。
 名乗りの作法や死化粧の作法とは、そうした奇妙な礼儀によって生まれたもの。

 ゆえに恭二郎は、かの強敵を前にして、あえて正面から挑んだ。
 もっとも彼は隠密行動を得意としていない。
 仮に気配を遮断して不意打ちを挑んでいたとしても失敗していただろう。
「さてさて……奈落の底を見たような目をしてなさるな、龍使いの旦那?」
「…………」
 脇腹に斬撃痕を刻みつけたドラゴンテイマーが、恭二郎を振り返る。
 恭二郎はその視線や身動ぎから、隙や相手の思考を垣間見ようとした。
 ……視えぬ。僅かでもそちらに意識を割けば、次の瞬間首を刎ねられる。
 そんな確信めいた危機感があり、それ以上に男の地獄めいた虚無が濃いからだ。
「次から次へと。戦う相手を間違えているのではないか?」
「いいや、そんなこたないさ」
 以外にも軽口を叩いたドラゴンテイマーに対し、恭二郎はニヤリと笑う。
 互いに余裕を見せているように見えるが、恭二郎のほうは全神経を張っている。
 対して敵の自然体ぶりときたらどうだ。彼我の戦力差は傍目にも明らか。

 ではなぜ、彼はここに来たのか。なぜ、いまなお好機を探ろうとするのか。
 グリモア猟兵は云った。この戦いに、戦略的な価値は存在しないと。
 短期的に見ればそうだろう。長期的に見れば彼にもわかるまい。
 ではその未曾有の可能性に賭けたのか――と言えば、実のところコレも違う。
「ああ。やっぱり、"こっちに来て正解だった"ねえ」
「……お前からは、私から情報を引き出そうという意識を感じられない。
 なにか私個人に対して、思うところがあるようにも見えんな。さて……」
 値踏みするように、ドラゴンテイマーが恭二郎を上から下に見やる。
「何を求める、猟兵よ」
「言葉にするってのぁ無粋だろ?」
 恭二郎は、笑みを浮かべたまま脇構えをとった。それが意味するところは一つ。
 情報だとか、長期的な戦略価値だとか、そんなものが欲しくて来たのではない。
 恭二郎は――スペース剣豪は、ここに、戦いに来たのだ。

 ……彼我の相対距離、およそ5メートル弱。達人ならば必殺の間合いである。
 ましてや超常の風桜子(ふぉーす)を頼りに剣を振るう恭二郎にしてみれば、
 この間合は実質的な即死圏内に等しい。剣を使わずとも殺《ト》れる。
 そんな悠長はこの期に及んで云っていられないが。
 であれば、この間合が敵にとっても必殺であることは必定である。
「どうしたい、お前さんの技量なら、先の先を取るなんざ朝飯前だろうに」
 じとりとした殺意のなか、恭二郎はあえて挑発をしてみせた。
 然り。恭二郎がいかに先んじたところで敵は後の先を得るだろう。
 極意がどうとかの話ではない。たとえるなら、獣と虫の差である。

 いかに羽ばたくのが速いからと言って、羽虫が虎より疾く動けるか?
 いかに地を素早く這いずるからといって、蛇の捕食を蚯蚓がかわせるか?

 そういう次元の話だ。恭二郎も承知の上で立っている。構えている。
「…………」
 ドラゴンテイマーはもはや無言。その静寂はなにゆえか。
 彼奴に刻まれた脇腹から血が垂れ、ぴちょん。と花びらを汚した――その時!
(おいおい)
 恭二郎は心のなかで思わずそう呻いた。それは思考の速度……否、
 視覚から脳へ電気信号が伝わるより疾き、いわば魂の速度である。
 スペース剣聖たるもの、目でものを見ない。耳で音を聞きはしない。
 かつて彼の師はそう言った。剣の道を究めた時、剣聖は風桜子で全てを識ると。
(これがその境地ってかい、お師匠様)
 恭二郎は未だ至らぬ身――いや、自ら剣聖の境地を諦め、剣豪を選んだ者。
 であるにもかかわらず彼が魂の境地に至ったのは、言わずもがな。
(つまりこれぁ、俺が死ぬってことか? 冗談がきついねえ)
 死の間際に世界がもたらした、いわば冥土の土産である。
 ドラゴンテイマーは右腕を動かす。恭二郎はそれを識りながら動けない。
 禍々しいクリムゾンキャリバーの刃が、彼の首を狙って構えられ、動く。
 恭二郎はただそれを……いや。その現象には恭二郎自身も驚いた。
(なんてこった)
 動いている。思い描いたように――それよりも美しく、完璧な受太刀。
 現実においては、恭二郎の視神経はまだ脳に電気信号を伝えたばかりだ。
 脳下垂体が四肢に運動命令を送るのは、現実においてわずかコンマゼロ秒後。
 では彼を動かしているものはなにか。……風桜子である。
 恭二郎の魂の駆動を聴いた風桜子が、内外から剣豪の身体を動かしているのだ。
(先生、あんたこんな感じで動いてたのか? 道理で剣が通らねえわけだ)
 他人事めいて苦笑しながら、恭二郎はこの千載一遇をありがたく思う。
 感謝する。誰に? ……師に、姉弟子に、多くの仲間に、そして、この敵に。

「噴ッッ!!」

 肺に取り込まれた呼吸がすべて飛び出すような激烈な怒声。
 全身の筋肉がぎゅっと緊張し、風桜子をそのひとつひとつに取り込み固着。
 不動の彫像と化した恭二郎は、石のように硬く、されど布めいてしなやかに、
 振るわれた赤き一撃を受けた。諸手の斬り上げ、刃が撃ち合う。
 ドラゴンテイマーの柳眉がぴくりと動いた。よほど不可解だったか。
 激甚たる衝撃が恭二郎の心身を震わせる。
 全力を込めた受太刀でこれ。敵が初撃でなく本気で剣を振るったなら、
 はたしてどうなっていたのか? ……考えは無用だ。このまま踏み込……。

「ぐ、っ」
 ――めない。恭二郎は、己が大地の裂け目に呑まれたように思った。
 錯覚だ。彼を圧する剛力の正体は、言わずもがなドラゴンテイマーのそれ。
「私の剣を受け止めるとは。見くびっていたようだ」
 ぎりぎりと、ドラゴンテイマーの双眸が恭二郎を睨めつける。
「だがこのまま押し切り、殺す。ダイウルゴスを使うまでもない。死ね」
「…………ッッッ」
 鍔迫り合い。否、これはもはや圧壊する鉄くずじみた一方的な……!
(ふざけるな)
 奥歯が砕けかける音を聞きながら、どっと脂汗を吹き出す恭二郎。
(ふざけるな!)
 心の裡で吼える。風桜子が応える。そして身体が動いた。満身の膂力!

「疾――ッ!!」

 利き足を振り上げた。迅雷めいた速度の、すさまじき前蹴りである。
 その爪先には、可視化されるほどに凝縮された風桜子の力の渦がある。
 銀河絶招・天渦星(あめのうずぼし)。掌ではなく脚によって放たれる掌法!
 一撃が、入った! 抉られた脇腹を爪先がぐりぐりとさらに深く押し開き、
 体内に叩き込まれた風桜子が、解き放たれる。爆ぜた!

 だが恭二郎自身が、それを目のあたりにすることはなかった。
「ぬうっ」
 呻くドラゴンテイマー、しかし右腕に込めた膂力は抜かれることなく、
 体幹を崩した恭二郎をねじり切るように袈裟懸けにばっさりと切り裂いて、
 どこからともなく恐るべき黒龍の群れを解き放ったからである。
 風桜子が爆ぜる。蹈鞴を踏むドラゴンテイマーと入れ替わりに、黒龍の群れ!
「殺せ……ッ」
 恭二郎もまたたたらを踏んだ。龍の牙がさらに一歩押し出す。
 踏みとどまる。龍の爪が幾重にも彼を切り刻む。さらに二歩、三歩、四歩……。
「殺せ!」
 ドラゴンテイマーは再度吼えた。剣豪は黒に呑まれて姿を消す。
 内なる風桜子をこらえるドラゴンテイマー。だが彼を束の間激させたのは、
 他ならぬ恭二郎の目。己を見据え、にやりと笑うその双眸の、輝き。

 この強敵を必ずや討ってみせるという、未来への希望に満ちた瞳。
 それは、あらゆる意味でこの地獄にとっての、仇敵にして天敵たる光なのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ギド・スプートニク
人は追い詰められねば力を発揮できぬ
窮鼠となってようやく貴公らに太刀打ちできる
それが現実やも知れぬが

相手が自分を上回るなど常

現に見せられたではないか
我らの刃が届く事を

なれば私は積み重ねよう

この場では貴公を殺し得ない
違うな
この場で貴公を一度くらい殺せぬようでは
世界など救えるものかよ

支配する力も身体能力も奴の方が遙かに上
であれば頼れるものはこの身一つ

竜どもは一体一体律儀に屠る
無視したいところだが
こちらの力が上回る間に各個撃破

奴に一太刀与える体力
それだけ残ればいい



温存など考えるな
力が無くば限界を超えて引き摺り出せ

仲間が奪った体力
暴いた動き

全て無駄にはせず

そして仲間の与えた傷跡に我が全身全霊を叩き込む



●5人目の巡礼者:ギド・スプートニク
 突如として、システム・フラワーズの足場が激しく鳴動し凹凸に抉れた。
 今まさに"スペース剣豪"神酒坂・恭二郎を滅ぼそうとしていた黒龍の群れは、
 この予期せぬ大地の変化によって、絶死の爪と牙を外すに至る。
 それからは一瞬だ。足場はふわりと浮き上がって重体の猟兵を救い出し、
 追わんとした黒龍はせり上がる足場や巻き付く蔦によって一時的に拘束される。
「我が魔眼の前で、これ以上の狼藉は許さぬ」
 大地の鳴動が収まる――これ以上"領域"を維持するのは危険だからだ。
 負荷の問題ではない。敵に先手を打たれ、代わりに"彼"が死ぬことになるゆえ。

 "彼"。入れ替わる形で姿を見せたのは、黒衣のダンピールであった。
 見た目はその肌の血色の良さも相まって、高く見ても20代後半というところ。
 しかして吸血鬼の血脈に連なりしモノの閲した年齢は、五十余年に及ぶ。
 宵闇の貴族の誇りと自負を宿す碧眼――金色から戻りつつある――は勇ましく、
 無言の裡に纏う威風はまさに為政者、支配者、人の上に立つ者のそれ。

 "意志無き者の王:支配領域(アルカードグラムゲイズ・レルム)"。

 いましがた猟兵の窮地を救ったのは、魔眼使いたるギドの持つ術式だ。
 無機物を支配下に置くこの力、ギドは敵めがけて使うつもりは一切なかった。
 同胞の危機に際し、命を脅かす覚悟で解き放った、決死の策である。
 これは戦闘に入るための準備行動ですらない――もしそのつもりでいたならば、
 ギドの殺気は龍の群れに気取られ、為す術なく切り裂かれていたことだろう。
 傷を負ったものを救い、この身をその場に晒した。ここからが彼の戦場だ。

「我らが首領ではなく貴公を狙うことが、そこまで不可解か」
 ギドは紫色の瘴気を纏うドラゴンテイマーに対し、逆に問いかけた。
 一人二人ならばまだしも、これで五人目。つまりは全力である。
 猟兵たちは、本気でこの謎めいた強敵を討ち滅ぼすつもりでいるのだ。
 ドラゴンテイマーが訝しむのも無理はない……ギドはそう考えていた。
 事実、対峙する――打ち込まれた内的ダメージから復帰した――彼奴は、
 ギドの介入とその姿を見てわずかに眉を動かし、思案の仕草を見せている。
「お前たちの出方を見ておきたかった。それは確かだ」
 ドラゴンテイマーは隠然たる表情で見返しながら、淡々と答えた。
「だがお前の言葉通り、不可解にも思う。ここまで戦力を注ぐ理由はあるまい」
「然り。それを承知の上で、私はここに来た。礎の一欠片となるため」
 ……ギドは、はじめからドラゴンテイマーの討滅を諦めている。
 より正しく言うならば、その可能性を棄却している、というべきか。
 後ろ向きなものでも、前のめりな捨て身でもない。冷静な戦術的判断だ。
 しかしそれも、そもそもここへ来なければ取らなくてよかった行動である。
 論理的にも合理的にも、ギドの選択と行動に意義は感じられない。それは事実。

「――人は」
 ドラゴンテイマーと睨めつける無数の黒龍どもに対し、ギドは云う。
「追い詰められねば、力を発揮できぬ。どの世界の者たちも、我らも同様。
 窮鼠となって、ようやく貴公らに太刀打ちできる……それが現実」
 では自ら背水の陣を選ぶためにここへ来たのか。
 首魁たるドン・フリーダムへの戦力を割いてまで。いよいよ不可解。
「"やもしれぬが"」
 束の間、碧眼に金色の瞳が瞬いた。
「その程度のこと、相手が自分を上回るなど、我らにとっては常のこと。
 現に貴公は見、そしてその身で感じたのであろう。我らの刃が届くことを」
「…………」
「ゆえにだ」
 ギドは誇りもせず、驕りもせず、ただ粛々と言葉を続けた。
「無駄で、不完全で、愚かしく、非合理的で、そして非論理的であったとしても。
 届くならば我らは挑む。そして掴み取る……貴公らが滅ぼそうとする、未来を」
 この選択に合理性も論理的価値もないかもしれない。いや、ないのだろう。
 だが、それが"戦わない"ことを選ぶ理由にはならないのだ。
 ギドがそうであるように。これまで斃れた者たちがそうであるように。
「なれば私もまた積み重ねよう。全身全霊を以て、貴公を滅ぼす一手を担おう」
「……私を、殺せると? お前たちが?」
「違う」
 最後の言葉は、ひそやかで穏やかで、なんの力もない響きだった。
 しかしその声音に込められた想い。言葉を紡ぐ表情を支える、気高さと意 思。
 その重さ、大きさ、硬さたるや。まるでそれは、敬虔な乙女の祈りめいていた。
「"貴公を一度くらい殺せぬ"ようでは、世界など救えるものかよ」
 ――だから戦う。
 この男に、全ての過去の化身どもに、骸の海に、いや。
 世界の規矩に証明してみせるのだ。
 猟兵(われら)には、戦う力と未来を護る意思があるのだと。出来るのだと。
 それこそ、まさに全てを可能にする、それ自体には何の力もない輝き。
 すなわち、希望そのものに他ならない。

 剣杖がしなった。一瞬の抜き打ちにて弾いたのは、無粋な龍の爪である。
「下がれ」
 ぐるるる、と不快げに唸る中型個体群がドラゴンテイマーの言葉に従う。
 代わりに紫のガスから滲み出るように現れたのは……おお、おお!
「その威容――なるほど」
 一体、また一体と無限じみて現れた、数字を刻印されし巨竜の群れ。
 ギガンティックダイウルゴス。ギドは視認した瞬間には地を蹴っていた。
「跡形もなく滅ぼせ。適任の仕事だろう」
 巨竜どもが吼えた。ギドはこの好機を逃さぬ。合体融合前に数を減らすべし!
「させぬ」
「出来んよ。お前はここで滅ぶのだ」
「否――!」
 剣杖がしなった。なんたる激甚たる、鋭き斬撃か!
 水銀めいて揺らめく、そして素早き刃は、龍の初動を見抜きこれを討つ。
 逆鱗が砕けて切り裂かれる。戦闘不能を見て取ったギドは次の個体へ移る!
(奴に一太刀与える体力さえ残っていれば――)
 ふたつ。ギドの動きは、おそらくこれまででもっとも冴え渡っていた。
 五体が軽やかなるは、間違いなく死線を前にした極度緊張ゆえだろう。
 ギドという男が持つ潜在能力が、この一瞬を生き次の一瞬に繋ぐために、
 惜しみなく引き出され、龍の鱗を砕いて駆け抜けさせているのだ。

 だがギドは思った。"一太刀与えられれば"などでは、足りぬ。
 足りぬのだ。龍の体力、威容、彼我の相対距離――諸条件のどれも、
 しかしそれ以上に。浅薄なリスクマネジメントなど何の証明にもならぬと!
(この身に、否、この魂、この血、我が存在が宿せし総てを)
 どくん、と心臓が拍動した。うなじを焦がした危機感覚に従い跳躍。
 直後、大地を恐るべき爪が抉る。腕に着地ざま、剣杖が逆鱗を一撃粉砕破壊。
 ぎちぎちと犬歯が軋む。双眸は瞳孔の分け目が判別できぬほどに金に輝き、
 眼窩からは滝のように鮮血が溢れ出た。散りゆく飛沫は鱗粉めいて煌く。
 どくん! 心臓が破れるほどに脈動する。ギドは耳と鼻から血を噴き出した!
(足りぬ)
 口の端からすらも血が溢れる。高まりすぎた血の魔性に耐えきれず、
 筋組織と骨がぎちぎちと呻く。奥歯を噛みしめる――流れる血の痛みなど!
(足りぬ!)
 どくん――もはや、いまのギドは高貴なる者には程遠いありさま。
 流れた端から輝きに消える血を目や口から吐き出し、こめかみには青筋が浮かぶ。
 ぎりぎりと内なる衝動に抗うように噛み締められた歯の隙間からは、
 優雅な身のこなしとは対称的に過ぎる獣の吐息がしゅうしゅうと漏れた。
 この変貌に比例するかのようにギドの身体能力と反射神経は劇的に超強化。
 少なからぬ後遺症はあり得るかもしれない。だがまだだ。まだ。まだ足りぬ。
(我が身がどれほど下賤に堕ちようと、この魂まではくれてやらん――)
 誇りと信念にすがりながら血の力と己の可能性を引き出し続けるギド。
 討ち滅ぼした龍はいくつだ。過去を振り返るなど後手も後手。前を見よ。
 敵に一太刀を届かせるために。走れ。高貴なる赤を燃やして!

 ……だが、それでもまだ足りない。今のギドでは、足りなかった。
 では彼を届かせたのはなにか? それは、高貴なる者が誰よりよく知る。
 "それ"があるからこそ、ギドは心臓を爆ぜるほどに酷使して血を覚醒させた。
 不可逆的な吸血鬼への堕落をもリスクとし、三種の血を目覚めさせた。
 数字で示すならば『1』にもならぬもの。
 さりとて『0』――無ではなきもの。目に視えず、聞こえず、しかし在るもの。
 すなわち。
「仲間たちの礎を以て! 貴様を滅するための一手と成さんッ!」
 これまで斃れた猟兵たちの、意地と希望が開いた道筋。傷口。過程!
「ぐ、ッ!」
 剣杖が、三度ドラゴンテイマーの傷口を抉った。
 ……届いた。いよいよ血が噴き出したそれは、内臓に達したか!
「がは」
 ドラゴンテイマーは血を吐く。そのことに彼自身が瞠目した。
 ギドは白く――あるいは赤く――灼けゆく意識を御し、龍を滅ぼしながら思う。
 己という礎を踏みし者が、彼奴に滅びをもたらすその瞬間の幻影を。

成功 🔵​🔵​🔴​

アダムルス・アダマンティン
竜使い(ドラゴンテイマー)、などと。傲慢な名を名乗るものだな
あるいは竜神がこれを聞いたならば、怒り狂いもしただろうが
残念ながら奴はいない。ならば俺が殺る他あるまい

封印を解き、トールの創槌を担う
それによって鉄鎖網を操り、奴の右腕から庇わせる盾にする
黒竜どもが彼方へと飛ぶ鉄鎖網へと突撃を行うことが意図だ

竜使いの実力の程、見せて貰うぞ
竜を放った直後の今、奴の純粋な体術での一撃を受けようとも激痛を堪え、捨て身の一撃を見舞わん
刻器、真撃――!



●6柱目の巡礼者:アダムルス・アダマンティン
 かつて彼は無敵であった。
 その瞳は天と地と海、そしてその彼方を一度に睥睨し、総てを識った。
 水の一滴、空を流れる雲の一粒、木々をそよぐ風の在り処と行き先を識った。
 それが神である。
 ヒトならぬもの、ヒトの尺度では測れぬまつろわぬもの。生命の発明者。
 時の摩耗から心と身体を解き放ち、不老にして不死たるイモータル。
 厳密に言えば今もそうである――少なくとも不老不死については。

 だが、かつてのそれとはあまりにも様変わりしてしまった。
 かつてアダムルスは君臨者であった。
 炉に燃える赤き炎と、鍛えられし鉄、そして鉄を冷やす水の支配者であった。
 無垢なる愛子らは金槌を掲げ、神たるその身に無事と明朗たる技術を祈り、
 打ち鳴らされる鉄の音と、燃え上がる炎が火の粉を散らす音が彼の恩寵だった。

 鍛冶師はその身に『我に無二たる技を与えたもう』と日毎に伏して乞い、
 騎士たちは『我が護りは不壊、我が剣は鋭利にして無双たれ』と、
 戦のたびに盾を打ち鳴らし、目覚ましき武具のさらなる活躍を願った。
 邪悪なる者どもがこれによって討たれたとき、唇から漏れる呻きは呪いだった。
 おのれ、なんと忌まわしき刃。かの神の鉄と火の加護、永劫喪われよと。
 彼の名のもとに鍛えられた武具は強大であり、ゆえに敵対者はそれを呪う。
 鋼が錆びて腐り落ち、たちどころに割れて砕けよと無力にあがいた。
 邪悪なる神の御名が唱えられたこともあった。しかして彼の権能はなお強大。
 血と死の呪いが彼の武具を、あるいは炉、はたまた工匠を襲ったとて、
 けして金槌の音と炉の灯火は絶えることがなかった。

 時代は変わった。いまやその名を識る者はほとんどいない。
 過去もまた同様――なぜなら、当人が黙して語らず、語られるに任せるゆえ。
 しかしていま、彼は……アダムルスは、はるけき過去を懐(おも)った。
 不老不死なれども不滅には非ず、共に生み出した世を去りし者らを懐った。
 獰猛で知られる龍の神がいた。かの者がいまここに在ったならばどう感じたか。
 きっと陽炎じみた業火を燃やし、大地を煮え立たせながら吼えただろう。
『我をして龍使いを驕るなど不遜の限り! 愚昧の極みである!!』
 ……吐き出した声音は天を轟き、雷となって地を灼き砕いたことだろう。

 だがもはやそれは亡い。アダムルスは瞑目し頭を振った。
 されどこの身は此処にある。ただ独り残された――あるいは遺った――己が。
(ならば、俺が殺《ト》るほかにあるまい)
 雌伏の時は終わった。否、もうそんなものはとうに過ぎている。
 神代が終わり魔法使いが俗世を離れ、争いが世界を荒廃させ悪が乱れた。
 そして定命の者どもは限りあるものを奪い合い、やがて危うく均衡したように。
 何もかも過ぎ去った。アダムルスの足を止めたのはつまり郷愁である。
 過去の化身を滅ぼすのにノスタルジィは必要ない。否定し、切り捨てるべし。
(――だが、それならば我が身はどうなるというのだ)
 誰も知らぬ問いかけは心の裡に生まれ、虚空めいた深層へ消えていく。
 熾火めいて揺らめく力強き双眸が視るのは、討つべき敵と抗う者の姿だ。
 赤き血を宿せし男が崩折れたとき、神は現在(たたかい)に帰還した。

 ドラゴンテイマーの虚じみた双眸が、じろりと彼方を見た。
 其処に炎があった。あるいは巌が。その名をアダムルスと云う。
「そこまでだ」
 恐るべき神なる槌を担ぎ、泰然自若ですらある歩みとともに神は託ける。
「ここからは、俺が貴様らの相手となる。来るがいい」
 猟兵をして恐怖させ圧倒する強敵を前に、そのふるまいはいかにも不遜だ。
 かつて文字通り神なりしその身に、往時の権能は一分ほどにも遺っていない。
 その身はその他多くの猟兵と実質的に同じであり、実力の多寡があるのみ。
 いわんや、強大なりし刻器とて、この地獄の如き敵を相手にどこまで通じるか。
 何もかもが未知――否、そう云うには対手のプレッシャーはあまりに強大。
 五分五分とのたまうのは希望的観測が過ぎる。それはあの能天気娘の仕事だ。
 あるいはやかましい青二才の短針か……いずれにせよ、アダムルスは。
「"我に遺されし数字は『Ⅰ』"」
 一歩一歩を踏み出しながら、朗々たる声が響く。金床を叩く槌めいて。
「"我が鍛えしは『未来』"」
 黒き双眸、それは裡なる炎を宿す、静かなれど鉄をも融かす炭の色。
「"我が振るいし刻器は『創造』を冠するトールの創槌"」
 めきめきと音を立て、神の担ぎしⅠの刻器が夜の姿を取り戻す!
「我が名はアダムルス。龍使いの僭称者を測るものだ……!!」
 煮え滾る声音は、大地の精髄たるマグマのように力強く恐ろしい。
 恐れはない。臆しはしない。前に敵があり、ここに己がいるのならば!

 大地を砕き割るかのような力強き歩みに対し、ドラゴンテイマーは。
 口の端から溢れた血を拭い、脇腹に刻まれた傷を抑えながら眉根を顰める。
 両者の戦意がぶつかりあい、狭間の大気がゼラチンめいて凝った。
「よかろう。ならばその身を以て知れ」
 血塗られた左手が、禍々しきクリムゾンキャリバーを撫ぜる。
 動脈血よりもなお赤黒き刀身が不穏に軋み、次の瞬間に彼奴は眼前に!
 だがアダムルスも見事。このとき、彼はすでに刻器の力を引き出していた。
 創造と破壊を司る大槌が生み出したのは、さながら船を牽くような鉄鎖である。
 正しくは、その強靭な鉄鎖によって編み上げられた恐るべき鎖網……だ。
 じゃらじゃらと耳をつんざく鋼の音とともに、鉄鎖が魔剣を迎え撃つ。
 だが! いかに創造の力が一瞬とて、そして生まれたものが強靭とて!
 クリムゾンキャリバーはこれに防がれこそしたものの、得られたのは一瞬。
「ぬう、んッ」
 ドラゴンテイマーが傷口から血を噴き出しながら瞠目し力を込めれば、
 網はたやすく切り裂かれがらがらと砕けながら役目を終えてしまった!
 黒龍どもがいななく。獲物を引き裂き抉り貪るときが来たのだと!
 だが見よ。黒龍どもが鉄鎖網に群がったとき、アダムルスは……いない!?

 然り。これこそがアダムルスの狙いであった。
 黒龍どもは、赤き魔剣の命中した対象へと群がる。間隙なき二段攻撃。
 その選択対象には当然ながらブレがある。しかし此度は"功を奏した"。
 網という形状が、身を屈めて地を蹴ったアダムルスを隠したこともあろう。
 龍の殺到のわずかコンマゼロゼロ秒前に、彼はそこを脱していたのだ!
 しかし無傷ではない。剣風と押し切られた刃がその肉を抉っている。
 上腕動脈を切り裂いた傷口から、煮え滾るような熱血が噴き出した。
 アダムルスは意に介さない。むしろこれが目くらましになればいいとばかりに、
 さらに筋肉を緊張させ、ぶしゅうっ!! と流血の水圧を増すほどだ。
 いかに神が不老不死とて、今の彼らの身体は物理法則に支配されている。
 血が喪われればその身は揺らぎ、戦いはおろか立つことも叶わぬだろう。
 しかして、この好機。逃せばあとはない、間隙は敵も同じなのだ!
「なるほど――」
 ドラゴンテイマーの脚がしなる。太さから言えばアダムルスの半分ほどか。
 だがその爪先が脇腹を貫いたとき、アダムルスは臓器の爆ぜる音を効いた。
「……ッッ」
 ごぼ、と、子供の頭ほどはあろうかという血が塊となって口蓋へ。
 吐き捨てる。罅割れたような渋面にふつふつと脂汗が吹き出す。肋の砕ける音。
 耐える。奥歯がばきりと砕けた。されどアダムルスの脳裏は冷えている!
「刻器――」
 それは、ドラゴンテイマーが手負いであるからだ。
 これまでの戦いで彼奴の脇腹に深い深い傷がえぐられているからこそ、
 迎え撃つ一撃はアダムルスにとって耐えきれる程度の重さに保たれた。
 ならば、やれる。我が身は懐の裡にあり、刻器はここにあり。ならば。
 たとえ権能がなくとも、時が全てを持ち去ったとしても。今己はここにいる!
「……真撃ッッ!!!」
 大地が揺らいだ。天が吼えた。解き放たれしは創造と破壊の刹那!
 槌が触れる大気を能力によって崩壊せしめ、摩擦係数なき真空の間隙を縫う。
 振るわれる一撃は物理法則から解き放たれ、その威力を侭に伝えることだろう。
 おそらくは。――アダムルスがその結果を目の当たりにすることはない。
 閃光じみた速度の二撃目が、彼に深手を負わせ、彼自身の一撃が負荷をかけた。
 そしてなによりも……。

 槌が彼奴の身を叩いた瞬間、鉄山を雷が砕いたかのような怒涛が爆ぜた。
 その衝撃が、敵も味方も何もかもを吹き飛ばし、白く灼いたからである。

成功 🔵​🔵​🔴​

天道・あや
止まれない…そうだ、あたしはまだ止まれない、皆を…皆の夢や未来を照らしたいから……だからっ!ここで立ち止まる訳にはいかない!

悔しいけどあたしじゃ、あのドラゴンの群れの攻撃は耐えられないし、越えられないし…抜けない!でもだからといって引き下がれない!…やることはさっきと変わらない、あたしの全力をぶつけるのみ…!……真の姿解放!!


【ダッシュ、見切り、激痛耐性、グラップル、挑発】
【レガリアス】をフル稼働させてダッシュして接近!そしたら相手の右腕の剣の攻撃を見極めながら避ける!それ以外の攻撃も避けるけど避ける優先は右腕!他は耐える!そしてチャンスが来たら右腕を掴んで振れないようにしてUC発動!


バレーナ・クレールドリュンヌ
●アドリブ&絡みOK

【WIZ】

【侵せし者】
文明侵略……まるで世界そのものを冒す病……わたしの泡沫夢幻領域は恐らく……。

【戦】
世界を文明侵略していく……!
大地が花が全てが黒き竜に変わる絶望感、自分の身も呑み込まれる恐怖に耐えるのは【歌】そしてそれを乗り越える【覚悟と勇気】、えぇ……わたしにこれを耐えられるだけの力はないかもしれない。
けれど、わたしの魂に刻まれた、遠い遠い海のお母さんが教えてくれた、『命の歌-ヒエロス・ガモス-』で、操られた大地や花に生命を、黒き無機物の竜の枷から、命の水で解き放つ(命ある有機物へ)、命の属性をその雨に宿し、命ある者に祝福を、死の淵から出る者には怒涛の流葬を。


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……へえ、アンタの狙いは「グリモア」そのものかい。
悪いね、アタシはグリモアを持たない。
いわゆるひとつの鉄砲玉さ。
だけどな、その弾丸……
竜をも殺す、ミスリルの弾丸かもな!

どうせ黒竜の群れには相対するんだ、
『マヒ攻撃』『属性攻撃』の『範囲攻撃』を
撒き散らして『騎乗』『操縦』で逃げを打つ。

そうやって集団の動きを鈍らせつつ、
段々と『おびき寄せ』て竜使いを孤立させるよう動く。
この隙を他の連中が狙ってくれたならそれでよし、
それで無ければ『ダッシュ』でギアを上げつつ大旋回。
最後はカブをPSY・コントローラーで自動走行させて
そちらに竜を『おびき寄せ』、
奴に【暁を拓く脚】をぶち込む!


ヴォルフラム・ヴンダー
――爪には爪、牙には牙を
地獄には、絶望よりなお昏い悪夢をくれてやる


他猟兵と敵の戦いを観察
敵の動きの型を見極める

『文明侵略』の挙動を確認しだい
【夜想の魔獣】で、漆黒の巨大な四足獣に変身
※紅眼。この形態では人語を話さない


無機物が黒竜へ変じきる前にヤツらの間合いへ
「殺気」で怯ませ、竜どもの脚や首を狙い機動力を奪う
爪や牙で「串刺し」にする

敵からの攻撃は「カウンター」「残像」「見切り」で対応
多少の傷は、獣化の攻撃軽減と「激痛耐性」で耐える
随時、「吸血」「生命力吸収」で体力の維持も行う


もしも他の猟兵で、一太刀届かず倒れる命運の者があれば
敵からの攻撃を俺が「かばい」受けることにより
その者に攻撃の機を与える



●3人の巡礼者
 バレーナ・クレールドリュンヌ。
 数宮・多喜。
 ヴォルフラム・ヴンダー。
 これら三人の、勇敢にして無謀なる者たちの名を記しておくべきだろう。
 彼らもまた、これまでの猟兵と同じように、かの地獄じみた男に挑んだ。
 何の意味もない、無益で、何を得られるかもわからない無駄な戦い。
 されど無視するにはあまりにも邪悪で、不穏で、なにより不吉な強敵。
 勝ち目は薄い。彼奴はその謎以上に強大でかつ底知れぬゆえに。
 その身が無事で帰れるとは、いかな夢見がちな子供とて言いはすまい。
 それでいいと彼らは思った。理由はそれぞれの心の裡を覗くほかないだろう。

 たとえばバレーナは、かつて世界を――ひいては己の身体を呪っていた。
 彩りなき白皙の肌と鱗は、バレーナにとって戒めであり重みだった。
 あの透明な戯夜曼に切り取られた水槽……狭き世界から解き放たれても、
 本質は何も変わらぬ。ただ、これから変化していくその兆しがあった。
 だから彼女は、"世界を守りたい"だなんて高尚なお題目を掲げはしない。
 邪悪な者への義憤など、余計笑い話だ。そんな"出来た"観念は持っていない。
 ただ見逃せなかった。命を賭して挑む価値があると見出した――それだけだ。

 では、多喜はどうだろうか。
 彼女は反対に、義憤にかられ強きを挫き弱きを救う、まさに義侠の徒だった。
 女だてらに何をしているのか、などと笑われたことは一度や二度ではない。
 後ろ指をさされ、嘲笑され、莫迦な女だと聞こえるように囁かれたこともある。
 しかし彼女は諦めなかった。
 旅の目的である友――オブリビオンとなって再生したモノ――を看取っても、
 彼女はけして歩みを止めず……むしろより強く駆けて、ここまで来た。
 ならばここが旅の終わりか。骨を埋めると決めた鉄火場か。……否。
 きっと彼女はこう云うだろう。"これからも走るからこそ戦うのさ"と。

 ならば、ヴォルフラムは?
 眼光鋭き孤高の男、夜闇に支配されし絶望境を生き延びた男。
 過去の化身から世界を守り、滅びの未来を否定する……大それた話だ。
 絵空事じみたその大目的を、ヴォルフラムはむしろ自ら語る。
 そのための力を貸してくれと乞いもする。不思議な、男であった。
 裏を返せば、彼は世界の理不尽と邪悪なる仇敵どもを、それだけ憎んでいる。
 彼奴らのもたらす滅びをよしとせず、世界を愛しているのだ。
 爪には爪。牙には牙。
 ならば、地獄には絶望よりもなお昏き悪夢を。
 滅びには滅びを以て報いるべし。彼奴の狙い・目的など関係はない。
 そのためならば――命も、惜しくはないのだから。

 地獄を巡りし者は三人。されど此度の破滅を語るに当たり、もうひとり。
 此度の最期を語るに、もうひとり……名を呼ばねばならない者がいる。
 しかしそれはひとまず置こう。まずは彼らの戦いを垣間見るとしよう。
 今この時はまだ、少女は敗北と絶望の闇に倒れ伏していたのだから。

●白き滅びの地にて
 そこは本当にシステム・フラワーズの内部なのか、疑わしい有り様だった。
 まるで巨大な隕石が落下し、すべてを吹き飛ばしたような状況である。
 咲き誇る花々も何もかも、灼けて落ちてガラス状の大地が宙を映すのみ。
「……なるほど」
 その只中、片膝を突く、紫色の瘴気に覆われた異形がひとり。
 然り、異形である。ヒトの姿をすれど、背負いし羽はヒトのものに非ず。
 ましてやその眼光、何もかもを呑み込む暗黒の重力場じみた双眸。
 右腕は禍々しき魔剣の刃を隠しもせず、身を覆うのもまた光なき黒衣。
 すなわちドラゴンテイマー。おそらくは真の名を持つであろう謎めいたモノ。
 超越者のごとき、神秘的で恐ろしき重圧を放つモノ。戦乱と侵略を招いたモノ。
 地獄。世界そのものに仇なすそれは、まさに地獄と呼ぶに相応しい。
「これが、グリモアを手に入れた奴らの力……か」
 いまや、彼奴は全身に、ぶすぶすとプラズマ熱を纏っていた。
 脇腹の傷は見える限りでもっともひどく、血がしとどに溢れ続けている。
 細かい裂傷や擦過傷を数えれば、それこそ枚挙に暇がないだろう。
 出方を見ると嘯くには、あまりにも重すぎる負傷。もはや十分である。
「…………」
 されど、ドラゴンテイマーはその場から離れ隠れるような真似はしない。
 なにゆえか。彼奴が"持ち帰る"と云ったモノに関係があるのか。
 あるいは、未だ猟兵の力量を測るのに満足していないのか――やはり、謎。
 しかして、ドラゴンテイマーが身を隠さなかったのにはもう一つ理由がある。

「……へえ、まだ生きてんのかい。そんなにグリモアが欲しいのかね?」
 ざしゃり。炭化した花々を踏みしめて現れたのは、多喜。
「おっと、悪いね。アタシはグリモアを持ってない。ま、いわゆる鉄砲玉さ。
 ……知ってるかい、鉄砲玉。世界によっちゃ伝わらないかもだからねえ」
 無言を貫くドラゴンテイマーに対し、多喜は気さくに言ってみせる。
 敵の負傷程度を見、彼我の戦力差を皮膚感覚で察し、それでいてなお。
「……つくづく、猟兵というものは」
「馬鹿らしいかい。けど嘗めちゃいけないよ」
 不敵に笑っていた多喜は、きっと眦を決して彼方の地獄を睨んだ。
「もしかすると、アタシは龍をも殺すミスリルの弾丸かもしれないんだからね」
「…………」
 ドラゴンテイマーは無言。代わりとばかりに猛々しき龍の咆哮!
 然り。この白き崩壊を逃げ延びた、召喚された黒龍の群れの残党である。
 これらは空高くからいななき、多喜めがけ急滑空してその牙を……!

 振るい下ろそうと、した。おそらくは、そのはずだ。
 されど手負いのその身はばっさりと両断され、勢いそのまま地に落ちた。
 ずずん……!! ざりざりざり!! と、地面を削って巨体が転がっていく。
「使い手(テイマー)を名乗る割には、下僕どもの躾はなっていないな」
 ざす、と大地に着地したのは、厳しい黒鎧と両手剣を背負った偉丈夫である。
 青褪めた肌と落ち窪んだ瞳、そして色の抜けた灰髪は死人めいていた。
 されどぎらつかせた殺気は戦士のそれ。黒騎士ヴォルフラム。
「おっと、助けられちまったかい? 悪いねぇ!」
「問題ない。ともに戦う仲間を護るのは当然だ」
 ヴォルフラムは多喜の軽口にうっそりと応え、黒剣でびょうと大気を薙いだ。
 彼は龍の不意打ちをさらに不意打ちして断ち切るとともに、
 落下しながらのドラゴンテイマーへの強襲を一瞬思案した。
 愚行である。おそらくそれを選んでいたらば、即座に死んでいただろう。
 あくまで観察と守勢を決め込んでいたのは、彼が一流の猟兵たる証左と言える。
 これで二対一。……二対一? だからなんだというのだ?
 龍の群れがいる――いや、そういう話ではない。それ以前の問題だ。
(底知れぬ)
 地獄とは無限だという。広大無限な荒野で罪人が無限の責め苦を味わうのだと。
 対する男は、まさにその人智を超えた焦熱の地獄そのものに思えた。

 多喜とヴォルフラムは視線をかわし、言葉なく頷きあった。
 一方のドラゴンテイマーは、傷口をかばっていた左手をゆっくりと掲げる。
 どこからともなく、黒龍の唸り声。……頭上、鳥葬めいて回遊する巨影複数。
 そして一同が踏みしめた大地が鳴動する――恐るべき破滅の前触れだ。
「よかろう」
 ドラゴンテイマーは言った。敵がいて、己に挑もうとしている。
 ならば、よかろう。――ならば、殺す。ただそれだけだと示していた。
 掲げた左手が降ろされる。無謀な命知らず二人に、破滅が雪崩を打った。

「なに、あれ……」
 バレーナが、その言葉をこぼすのは実に三度目のことである。
 一度目は転移直後。充満した、ドラゴンテイマーの重圧を感じたとき。
 二度目は白き破滅。アダムルスのもたらした破壊を遠くで視たとき。
 三度目は黒き地獄だった。そうとしか形容できない異常現象が起きていた。
 天が。地が。花も地も壁も何もかもが黒く変じ、起き上がり、荒ぶった。
 文明侵略(フロンティアライン)。
 無機物を支配し謎めいた黒龍へ変じせしめるこのユーベルコード、
 遠間から目の当たりにしたバレーナは、その範囲と結果に戦慄した。
 どれほどいるというのだ。黒龍ダイウルゴス。10や20では効かないだろう。
 100か。200か。それが輪をかけて、おそらくはヤツを包囲している。
 すなわち、ドラゴンテイマーと相対しているであろうだれかを。
「まるで……この世界そのものを冒している病のよう……!」
 全細胞が悲鳴を上げていた。あそこに行ってはならない、と。
 行けば死ぬ。黒龍の濁流に、為す術もなく飲まされて引き裂かれるだろう。
 泡沫夢幻の領域? そんなものは"文字通り"だ。泡沫めいて、夢幻と消ゆ。
「……え?」
 だがその時、バレーナは風に乗って瘴気とは別のものを感じた。
 それは、歌だ。誰かの、素朴で、彼女が口ずさむものとは全く異なる歌。
「リル? いえ、これは――」
 わからない。ただ、そう、その歌声を聴いたとき、彼女は。
「……行かなきゃ」
 そう思った。彼女の聴いた歌と、それに応えるように心の裡から溢れた歌が、
 臆しかけた彼女を奮い立たせた。病みかけた世界の背中を叩き、立たせたのだ。
(わたしに、あれを耐えられるだけの力はないでしょう。けれど――)
 震える心がもたらす旋律は、ひどく暖かく安らかで、懐かしい。
 どこかの誰かの歌声が、彼女も忘れた、しかし消え得ぬ歌を呼び起こした。
「お母さん――わたしに、わたしたちに、力を貸して」
 遠い遠い忘却の彼方、海原を泳ぐ白昼夢めいたいつかの光景。
 零した声はやがて己を鼓舞する旋律に変わり、バレーナは極点へ急いだ。
 極点。グラウンド・ゼロ――侵略破滅の只中、台風の目たる戦場へ。

●巡礼者だった者
 ――勝てなかった。
 意地を貫いただけマシだと、弱い自分が心の奥底で囁いてくれる。
 ああ、なんて暖かくて、やさしくて、くそったれな弱音なんだろう。
 負けは負けだ。あたしは負けた。打ちのめされて、一矢報いてそれで終わり。
 頬をちょんと切り裂いただけのことなんて、一矢報いたと言えるだろうか?
 言えるかもしれない。ただ、いまは。このときだけは、それは嫌だった。
(厭だ)
 いいじゃない、生きているのだからと、弱い自分が言い聞かせる。
(厭だ!)
 己に逆らって声なき声で叫び、彼女は安寧の闇に背中を向けた。
 駆け出す。地を蹴るためのシューズは"此処"にはないけれど。
(あたしは、まだ――まだやれる。やりたい、やらなきゃいけないんだ!)
 調子万全と云うにはあまりにも冷たくて、寒くて、凍えそうだけど。
(あたしは……ッ!!)
 少女は叫んだ。叫びは歌となり、遠雷のようにどこかへ木霊した。
 駆ける。心の裡、弱き己が生み出した闇の中を駆ける。思考の速度で。
 やがてその姿はぐんぐんと早まり、伸びた色の線へと変わった。
 するうち、少女の姿は、常よりもずっと大人びたものに変わっていく。
(あたしには、届けたい歌があるんだからっ!!)
 最後の一歩で闇を蹴ったとき、少女は――いや、彼女は。
「行かなきゃ」
 目を開き、意思の力で立ち上がり、黒き破滅を目指して進んだ。
 叫ぶ声は、誰かの心を震わせる勇気の歌となった。

●地獄にて
 時間はややまき戻る。
「そらそら、アタシはここだよッ!」
 グオオオオンッ!! と、猛々しきエンジン音。
 そびえ立つような巨竜の群れに対し、多喜は徹底的な陽動を選んだ。
 その狭間を勇敢に駆け抜けたかと思えば、振るわれる爪と尾を避けて、
 まるでもてあそぶかのように空を舞って彼方へ逃げてみせる。
 ならばと龍が翼をはためかせて先手を打てば、狙いすました急カープ。
 黒獣どもは苛立っていた。苛立ちが、ダイウルゴスどもの爪と牙を鈍らせた。
「なんだい、でかいのは図体ばかりかい? 他愛もないねえ!」
 念動力を電磁波めいたマヒ波動に変換収束、衝撃としてなびかせる。
 スピードによって増幅されたそれは轟音とともに龍どもを打ち据えて痺れさす。
「きりがないぞ」
「わかってんだよンなこたぁ!」
 タンデム――というよりは後部座席に起立した――ヴォルフラムの言葉に、
 多喜は苛立ち混じりに吼え返した。エンジン音と龍の咆哮がやけにうるさい。
 ヴォルフラムはけして敵に攻め込まず、しかし多喜を見殺しにすることなく、
 致命的に迫った龍を迎撃すること、そしてその動きを観察することのみに集中し、
 必要最低限の剣戟でもって攻撃を捌き、防いでいた。
 劣勢である。そもそもからして敵が強大なのだから当然と言えよう。

(いつだ。奴はいつ痺れを切らす。そう遠くないはずだ)
 五感を張り巡らせて黒龍どもの動きを見ながら、ヴォルフラムは焦る。
 ドラゴンテイマーは無言、不動。追いかけっこに興じるこちらを見やるのみ。
 だが敵も深手を負っている。このジレンマが続けば続くほど、必ず動く。
 そう信じるしかない。でなければ自分たちはこのまま圧殺されるだけだ。
(貴様らはそういうモノだ。そうせずにはいられないのだろう)
 故郷の世界をもてあそぶ、邪悪なる吸血鬼どもの姿を思い浮かべる。
 オブリビオンとは、ただの過去ではない。言わばそれは残骸だ。
 骸の海が吐き出す無限の堆積物は、やがて世界を埋め尽くし時流を妨げる。
 彼はそれを知っている。他ならぬ故郷がその黄昏を迎えたのだから。
(さあ、来るがいい。俺はそれを狩る。貴様らに絶望をくれてやる)
 じりじりと、血が心身を内側から焦がすような錯覚。
 倒したいから待ち望むのか、それとも暴れたいから待っているのか。
 あの鬼どものように。……否だ。少なくともいまはまだ、否だ。
(来い。貴様らを狩るため、俺は獣となろう。来い――!)
 ふと、その灰色瞳とドラゴンテイマーの双眸が、視線が交錯した。
 ……それが彼奴に、何らかの変化をもたらしたか。
 ここで時間軸は、バレーナのそれとほぼ合流する。すなわち。
「侵略せよ。お前たちの好きにやれ」
 文明侵略が、始まったのだ……!!

「げえっ、新手かい!? くそっ、せっかく孤立させようとしてんのに」
「数宮」
「あぁ? なんだい色男! アンタ、もうアタシのこたいいからアイツを」
「ああ。俺が征く。狩りの時間だ」
 ヴォルフラムが跳んだ。がくん、と機体がバランスを崩しかかる。
 急制動でハンドルを取り戻した多喜が見送った男の背中は、ヒトの……否。
「……アイツ、莫迦だね!」
 魔獣のそれ。夜の闇を怖れるヒトが戯画化したかのような漆黒の四足獣。
 虚空をなびいた双眸は血の如き赤。唸り声は雷めいて恐ろしい。
 だが多喜が苛立ったのはその姿ではなく、第六感で感じ取ったものだ。
 あるいはサイキッカーゆえか、彼女はヴォルフラムの思念を察知した。
「行けとは言ったけど、死ねとまではいってないだろうがッ!」
 彼は、己の身を厭わずに敵を狩るつもりだ。
 必要とあれば躊躇なく盾となる。その覚悟を、キャッチしたのである。

「来たか」
「GRRRRRRッ!!」
 獣と龍使いが交錯した。魔獣――つまりヴォルフラムは無言。
 正しくは人語の発声が不可能である。半ば、本能に理性を明け渡している。
 巨竜を惹きつける多喜の大旋回を背景に、魔獣は落ちながらの爪を振り下ろした。
 ドラゴンテイマーは動かない。盾になるかのように、変じかけた龍が阻む「
「私を孤立させようというつもりだろうが、無駄だ」
「GRRRRWWWWLLL!!」
「ダイウルゴスはお前よりも獰猛だ――見るがいい」
 ヴォルフラムは爪と牙で地をかきむしり、龍の"出がかり"を滅ぼしていく。
 それでも限界はある。文明侵略の範囲はとてつもないほどに広いのだ!
「GRRRRRRッ!!」
 人語失いし獣は、されど立ち上がった龍の喉笛を噛み切り次々に抹殺。
 応報の爪牙を残像でかいくぐり、傷を受けたとしても本能でこれを抑制する。
 斃れた龍の流す血は、靄めいて揺らぎその傷口を塞ぐ触媒となった。
「AAAAARRRRGGGGGHHHH!!!」
 まさに狂戦士、血を血で洗い、その血を啜ってなお荒れ狂う暴風だ。
 されど風で龍は払えぬ。風で闇は払えぬ。風で地獄は滅ぼせぬ。
 徐々に、徐々にだがヴォルフラムは劣勢に立たされる。傷が増えていく。
 彼はそれを厭わない。厭うための思考を手放したし、最初からそのつもりだ。
 この獲物を狩るために、己の心臓をチップとしたのだから!

 文明侵略の毒は、無情にもさらにシステムを侵食していく。
 地が、花が、何もかもが支配され恐るべく黒き龍へと変じ荒れ狂う。
 もはやそれは無限だ。無限を0に還すことはできない。つまりは詰みだ。
 ――詰みのはずだ。ドラゴンテイマーはそう思っていた。
「……何?」
 しかし見よ。新たに変じようとしていた、龍どもの姿を見よ。
 それはもがき、苦しみ、まるで泡立ち溶けていくかのようにほどけていく。
 崩折れた骸からは急速に花々が萌え出て、芽吹き、蔓が黒体を覆っていった。
 罅割れた大地は互いに繋ぎ合わされ、新たな花がつぼみを咲かせる。
 斃れかけた獣が、ぶるぶると頸を震わせ、ぱちぱちと紅眼をまたたかせた。
 追いつかなくなりかけていた代謝が、禍々しき活力とは別の力が溢れてきた。
 傷は暖かな安らぎと共に癒やされ、幾許かの理性を与えもする。
 獣は、龍どもは、そしてドラゴンテイマーは、その理由を聴いた。知った。
「天も地も、ヒトもヒトでなきものも、光も闇も、何もかも」
 それは歌だ。たゆたう海のように穏やかな、荒れ狂う波間のように雄々しい歌。
「すべては同じ、混沌の水に呑まれる。そして混沌の水は、混ざり合って一つへ」
 歌声が海を生んだ。無から瀑布めいて海原が溢れ、花々をみずみずしく潤す。
 龍どもは水に触れた端から、苦しみ、悶え、溶け崩れていく!
「お母さん――見て。これが、わたしの紡ぐ、奇跡の世界……!」
 命の歌(ヒエロス・ガモス)。もはやこの地に、奪われるべき文明はない。
 支配される無機物などない。すべては瑞々しき混沌の水に命を与えられた。
「もうあなたにこれ以上、文明(せかい)を冒させはしない……!!」
 バレーナの緑色の瞳が、決然とドラゴンテイマーを睨む!
「――あの女を、殺せ」
「させるかッ!」
 地獄が号令を下した。されど鋼を駆る女はこれを許さぬ!
 狙いがそれた瞬間を見計らい、彼女は高らかに愛機を蹴立てたのだ!
「カウントなんてのは一瞬でゼロになるもんだ、いまが勝負どこだろ!!」
 繰り出した後ろ回し蹴りの軌跡が、燃えるような念動力を炸裂させる!
「ここからだ。終わりじゃない、ここからが戦いの本領なんだからねぇ!」
 多喜は飛び石めいて龍の頭を、背中を蹴り、巨龍どもを討ち滅ぼす。
 バレーナのもとへ向かわせはしない。それが今の己の役目だと!
「おのれ――」
「GRRRRRRRッ!!」
 魔獣が吼えた! ドラゴンテイマーに食らいつき動きを阻もうとする!
 彼奴も当然これを迎え撃つ。しかし応報の魔剣は仕留めるには足りない。
 バレーナめがけ踏み出そうとしたところインタラプトされたがゆえ。
 ぞっとするような血が混沌の水に滴る。獣はよろめくが止まらぬ。
 だが牙が届くかは一合打ちあってわかった。けして届かないと。
 ならばどうする。どうすればいい? 誰が彼奴を討ち滅ぼすのだ!?

「――ぁ、あ、あ、あ、あ」
 遠くから。鋭き稲妻じみた咆哮が、猛烈に風を切って響いてきた。
 なおも歌い、龍どもとその骸を洗い流すバレーナが、艶やかに笑う。
「来たわ」
 振り返ることはなく。だが彼女はたしかに聞き届けたのだから。
「わたしにあなたを滅ぼす力はないでしょう。わたしたちだけでは届かない」
「あれは」
「――けど、歌は届かせられるのよ。どこまででも、誰にでも!」
 混沌の水を蹴立てて走る姿。常よりも一回りは伸びた背丈と凛々しき相貌!
 ドラゴンテイマーは瞠目した。斃れ、心折れたはずの女がなぜここに?
 なぜ再び立ち上がるここにいる。何故! 何故だ!?
「あぁあああああああああッッ!!」
 レガリアスが大気を飲む。叫べば叫ぶほどに加速は高まる!
 天道・あや! 一人目の巡礼者にして斃れたもの、意地を貫いたもの!
 されど彼女は! 心折れることなく、止まることなく、立ち上がった。
 立ち上がったのだ。そしてここへ来た。世界へ響かせる歌を叫びながら!
「あたしはッ!! 絶対に――止まったり、しないッッッ!!」
 混沌が呼び水となった。阻むべき龍は暁をもたらす輝きが抑えている。
 そしてあやは来た。双眸が見据えるのは仇敵ひとり! 赤い刃が振るわれ――否!
「GRRWWLLLッ!!」
「何――」
 夜想の魔獣だ! 彼はその身を呈して、刃を! 受けた!?
「ヴォルフラム!!」
「ダメよ、まだ斃れないで! あなたにはやれることがあるわ!」
 多喜が叫ぶ。バレーナが歌い呼びかける。混沌の水が傷口を塞ぐ。
 さらに招来された龍どもがヴォルフラムを襲う。然り、まだ斃れられぬ。
(狩りは、ここからだ……!!)
 獣が荒れ狂った! 襲いかかる龍を引き裂き食いちぎり、吠えたける!
 ここだ。ここが潮目だ。ここに刹那がある。それを縫い刻む矢がある。ならば!
「GGGGRRRRRRッ!!」
「獣が……!」
 がっきとクリムゾンキャリバーを噛み締めた魔獣を、ドラゴンテイマーは睨んだ。
 地獄とは無限である。だがこの瞬間、ここに在りしそれは地獄そのものではない。
 ゆえに彼奴にも底がある。視えた。あやはただ敵だけを見ている!
「あたしの歌を」
 相対距離10メートル。5メートル。跳躍! 獣を振り払った仇敵へ!
 蹴り足が右腕付け根を叩きねじ伏せる!
「この世界に――未来まで! 届かせてみせる!」
「お前は――」
「だから! ……あんたは、ここで、滅びろ――ッッ!!」
 鬨の声。そして、残る片足が、全膂力を込めて最後の一撃を叩き込む。
 ほとばしった轟音はまさに、システムを越え世界にまで、否。
 世界の間に横たわりし骸の海にすら届くほどの、大音声である!

 歌声はどこまでも響いていく。この未来はけして奪わせないと。
 過去の残骸。悪意あるものども。次なる敵の魂にまで刻み込むように。
 それはまさしく、いかなる闇にも払えぬ、希望の輝きそのものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 かくて地獄を形にしたかの如き男は滅んだ。
 されどその滅びは礎のひとつ。彼奴は過去の化身なれば。
 終わらせるには足りぬ。足りたとして終わるかもわからぬ。
 それでもなお、無為なはずの戦いに挑む者たちはいる。
 彼らの繰り広げた戦いと、流した血がある。
 それは無意味ではない。未来へ繋がる、希望にほかならないのだから。
シーザー・ゴールドマン
【POW】
やあ、初めまして。発端である君が傍観しているだけというのは頂けないね。
ドン・フリーダム達、怪人とは出自が違う様だが……君は何を求めてこの戦いを起こしたのかね?
敵POWUC対策
赤き剣の右腕の動きを見切り(第六感×見切り)、命中する寸前にオーラセイバーを投擲して、それに命中させる。
《ウルクの黎明》を発動。
デコイとしたオーラセイバーに黒竜ダイウルゴスの群れが殺到している僅かな隙を突いてを飛翔能力を駆使(空中戦)してドラゴンテイマーに接近。
オーラセイバーを再び発現して接近戦(各種戦闘技能活用)を挑みます。



●10人目の巡礼者:シーザー・ゴールドマン
 ……ドラゴンテイマーは、うっそりと眼を開いた。
「……なるほど」
 何の変化もない己の身体と四肢を見、しかし彼は瞑想的に呟き、頷く。
 骸の海よりオブリビオンが立ち返るのは一瞬のことである。
 ましてやドラゴンテイマーほどの強大な存在となれば、なおのことだ。
 何人もの猟兵が死力を尽くして挑み、礎となってようやくのひとり。
 だがそれも、現時間軸で滅びたものが失せたならば、即座に次が現れる。
 無限じみた過去の残骸。忘却の彼方より世界を侵略するモノ。
 この宇宙そのものの堆積物にして廃棄物。それがオブリビオンなのだから。

「やあ」
 そんなドラゴンテイマーに、鷹揚な挨拶の声がかかった。
 じろりと、虚無を凝らしたかのような双眸が、声もなくそちらを見やる。
 いつそこにいたのか、190cmの偉丈夫が、薄紅色の唇をゆるやかに笑ませていた。
「はじめまして。君がドラゴンテイマー……そうだね?」
「…………」
 ドラゴンテイマーは無言。
 なぜならば、オブリビオンはひと目見てそれを知る。
 存在の天敵。過去の化身に対する、世界に愛されし未来の守護者。
 すなわち、猟兵。声をかけた男……シーザーは、他ならぬ猟兵なのだから。

 だが重圧と殺気を前にして、少なくとも表向きシーザーは普段どおり。
 もしやすればその内側で恐怖に抗い続けているのかもしれないが、
 謎めいた金色の瞳とあるかなしかの笑みから、余人が真意を探ることはできまい。
「この戦争の発端は君だというのに、傍観者を気取るだけ、というのはいただけないね」
「それは語弊がある。システム・フラワーズを侵略したのは私ではない」
「たしかに。だが君の言い回しも、それはそれで真実ではあるまい」
「…………」
 少ない言葉のやりとりから、ドラゴンテイマーは何かを探ろうとしている。
 それは彼奴が予兆で口にしていた、グリモアに繋がるなにか……なのか。
「ドン・フリーダムやその配下である三幹部……そして彼ら怪人と、君は違う」
 そして、相手の思考、情報、思惑を探ろうとしているのはこちらも同じだ。
 シーザーはドラゴンテイマーの声音やわずかな仕草の全てに注意を払う。
 無論、会話にかまけて気を抜けば、次の瞬間には首が飛ぶだろう。
 強敵相手に語らい、かつ腹の底を探るというのは、並大抵のことではない。
「怪人ではない、まったく出自の違うオブリビオン……実に興味深いね。
 君は一体何者だ? そもそも、何を求めてこの戦いを起こさせたのかね?」
 ドラゴンテイマーは……ふん、と鼻を鳴らした。
「愚問だな。私が答えると思ってはいまい」
「ははは。それはどうかな、実際に聞いてみないとわからないものだろう?」
「それこそ愚かしいな」
 端的に切って捨てるような返答に、シーザーは肩をすくめてみせる。
 だが、やはり笑みは変わらず。……彼はこの瞬間を、心から楽しんでいるからだ。

 シーザーにとって、愉快かどうかは何にも勝る。
 すべては彼の愉しみのため。死闘も、喜劇も、悲劇も、何もかもだ。
 無論、世界を無為に帰すようなオブリビオンの行いは短絡的であるし、
 人々の営みが損なわれれば、シーザーが好むような可能性すら奪われてしまう。
 だからこそシーザーは世界の仇敵と戦い、今も此処にいる。
 ……不遜である。ドラゴンテイマーが表立って苛立つようなことはないが。
「私を、愉しみの道具にするとはな」
「不快かね? ならば謝るが――まあ、わかるだろう?」
 シーザーは両掌を上向けて、おどけたような仕草をした。
「やめるつもりもないがね」
 あからさまな挑発。ドラゴンテイマーは不動――否。動いたのは彼奴からだ。
 間合いを詰めた踏み込みすら視えぬほどの超速、シーザーに回避は許されない。
 クリムゾンキャリバーの剣閃に合わせてオーラセイバーを投擲するが……!
「――ほう」
 ばっさりと断たれたオーラセイバー、そして剣風に裂かれたシーザーの胸部。
 赤黒いオーラの守りを一撃で断ち切る。これが禍々しき魔剣の力か!
「これは楽しみがいがあるな……!」
「殺せ」
 黒き破滅の群れ――ダイウルゴスの群れが咆哮で応えた。
 砕けたオーラセイバーを爪と牙でずたずたにかきむしり、双眸がシーザーを狙う。
 しかしこの一瞬があれば、シーザーにとっては十分な間隙と言えた。
 素早く跳躍して上空へ、頭上アドバンテージを確保し再びオーラを再展開!
 それは赤黒ではなく真紅。輝きすら纏った、凝縮された黎明の如き燦然だ!
「私も早々ただでやられるわけにはいかんのでね!」
 そしてほぼ垂直に滑空! 龍の群れを突き放し、ドラゴンテイマーめがけ!
 再顕現させたオーラセイバーを振るう。クリムゾンキャリバーがこれを迎え撃つ。
「私は、お前が私を楽しみの道具と見做そうが構わん」
「ほう? てっきり激憤するものかと思ったが!」
 シーザーはすさまじい速度でオーラ加速を行い、連撃を叩き込む。
 ドラゴンテイマーの表情は不変。右腕一本でこれを凌いでいるのだ。
「――お前は、私には勝てんからだ」
「ほう」
 ぎらりとシーザーの金眼が輝いた。後方からはダイウルゴスどもの咆哮!
 もはや待ったなし。シーザーはオーラを限界まで振り絞り刺突の一撃を放つ!
「"その様子"では、私の命までは取れんな」
「さて、なんのことやら!」
 左腕で捌く形で心臓めがけた刺突をいなしたドラゴンテイマー。
 クロスカウンターめいた赤き剣がシーザーの脇腹を再び切り裂く!
 互いに奥底に秘めたものは謎。地獄めいた男は己を解き放ってみよと嘯く。
 シーザーはただ、その言葉を聞き流し可能な限りに撃ち込むのみだ。
「それでは"楽しくない"のでね!」
「――好きにするがいい」
 赤い輝きが戦線を離脱するまでの間、ラリーじみた攻防は空を飛び交った。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「ドラゴンの血って飲んだことないから、是非しっかりいっぱい飲みたいねぇ。」

黒竜の動きを【見切り】、攻撃は悪魔の見えざる手に奇剣と血飲み子を持たせて【武器受け】。僕は深紅での拘束でも狙っとこう。
一瞬でも動きを止められたら【吸血】。吸い尽くしてしっかり味わおう。
いっぱいいるから、ドリンクバーみたいだなぁ。

敵さんの初手を防げたら、暴食蝙蝠を使用。
更に牙を増やしてドラゴンの血を味わい尽くそう。

ドラゴンテイマーの血は吸えたらで良いや。

「ドラゴンバーとドリンクバーって似てない?」
1匹でも多く吸えるように頑張ろうっと。



●11人目の巡礼者:須藤・莉亜
 巨大なる腐触の龍を使役する莉亜といえど、此度の敵は"違う"とわかる。
 黒龍ダイウルゴス。単体でも強大なこと激しく、それが群れをなしているのだ。
 ドラゴンテイマー――つまり龍を従える者という名称も、伊達ではない。
 転移が終わったとき、莉亜はその意味を言葉でなく五感で理解した。
 空の彼方を飛び交う赤い輝きと、莉亜にまで響くいくつもの剣閃のぶつかりあい。
 そしてそれを追う、黒い鴉じみた群れ。"あれ"がそうなのだ。
「うへえ、マジ?」
 気怠げなダンピールは、常のように背中を丸めて顔を顰ませた。
 わけてもこの遠間で感じる重圧と威容、これが何より厄介なのだ。
 紫煙によってぼんやりと夢心地にある莉亜ならばいざしらず、
 感受性が高く気弱な者ならば、プレッシャーだけで戦意喪失しかねない。
「……ま、めったに飲めないドラゴンの血を飲める機会だしね」
 大鎌を担ぎ呟いた言葉は、はたして本心かあるいは嘯いたものか。
 いずれにせよ、莉亜は輝き――あれはドラゴンテイマーと戦う猟兵のものだ――の向かう先を目指し、各種武装を展開しながらゆらりと地を蹴った。
「せっかくたくさんいるんだから、たっぷりしっかり呑みたいねぇ」
 口元に、三日月めいたゆるい笑みを浮かべながら。

 ……だが実際のところ、莉亜の見通しは甘かったと言わざるを得ない。
 "数が多い"などという話ではない。彼が見たのは群れのごく一部なのだ。
 そしてドラゴンテイマーの恐ろしいところは、群れを従えることだけでなく、
「……新手か」
 無機物=人工構造物たるシステム・フラワーズを支配下に置き、
 事実上範囲内ではほぼ無限に黒龍を生み出し続けられることにあるのだから。
「え、ウッソ」
「殺せ」
 指示は端的。黒き龍は大気を震わせる恐るべき咆哮をもって莉亜を迎え撃つ。
 さしもの莉亜も驚愕を見せたのち、眉根を顰めて舌打ちせざるを得なかった。
 不可視の両腕が武装を携えて、さっそく振るわれた牙を防ぎ、これをいなす。
 莉亜はドラゴンテイマーへの突撃を思案――そして棄却。
 UDCアースにある、洗車機だ。飛び込めば龍の暴威に削られて死ぬ。
 そして一瞬でも守勢に回れば、とたんに龍は次から次へと出現し群れをなす。
 じゃらりと真紅の鎖を鳴らし鞭めいてしならせて投擲。鋼が龍を縛る。
 じたばたと悶える黒龍に飛びつき、大きく口を開けて鱗にかじりつく。
 呪われた血が脈動し、犬歯から吸い上げられる……だがまずい!
「んぐんぐ……っとと!!」
 甘露を味わっていた莉亜は、すぐさま龍の身体を蹴らざるを得なかった。
 群れである。一体に対処したところで殺到する数は二や三では利かない。
 振るわれる攻撃そのものは悪魔の見えざる手によって今の所防げているが、
 裏を返せばダイウルゴスの群れに対処するので精一杯ということである。
「……ん? これ僕、もしかして後手後手じゃない?」
 気がついた時には、周囲を黒龍の群れが覆っていた。

 ……とはいえ、莉亜の行動は正しい。まず黒龍を叩くのは妙手だ。
 群れの攻撃に対処しなければ、牙と爪と尾が彼を打ち据えて引き裂いただろう。
 事実、いまの莉亜はなんとかほぼ無傷で済んでいる。これは僥倖だ。
 一体また一体とダイウルゴスは拘束され、血を吸われて滅んでもいる。
(んー、参ったな)
 迫りくる攻撃を恐るべき速度と判断能力で防御しながら、莉亜は思う。
 龍の動きは視えてきた。全滅とはいかないが、やり過ごすことは出来るだろう。
 それは、出来ている。……だがそこまでだ。そもそもの問題、目標は。
(あっちも当然、それはわかってるよねえ)
 然り。不動のまま、無表情で莉亜の戦いを眺めているドラゴンテイマー。
 いわば本体とでもいうべき術者を叩かぬ限り、群れの完全撃滅は不可能。
 莉亜は猛攻が途切れた一瞬を狙い、自らの身体を無数の蝙蝠に変化させるが、
 意識を黒龍に先すぎていたためか、わずかに届かず断念せざるを得なくなる。
『ああ、もう。うざったいなあ』
 はじめはよりどりみどりのごちそうに視えていた黒龍どもも、
 こうなると無視できぬ壁、邪魔くさい障壁であり恐るべき敵対者となる。
 三幹部をも超える強敵を前にして、わずかに届かぬまま歯噛みさせられるとは。
『翻弄されるのは好きじゃないんだよね、僕』
 きいきいと蝙蝠共のさえずりが、超自然的な響きで莉亜の声音となる。
 たちこめる霧は黒龍の眼を欺き、そこにコウモリが群がり血を啜る。
 ようやく数を減らしたかと思えば、すでに新手が大地から立ち上がっている。
『おかわり自由のドラゴンバーはありがたいけどさぁ』
 蝙蝠の5や10が引き裂かれたとしても、血を啜れば元通りだ。
 ……元通りでは、ある。そこから一歩、敵に攻め込むための兆しが見えない。
 つかめない、というべきか。間隙はある、なおさらにこそばゆい。

 ……莉亜が黒龍を相手に堂々巡りの戦いを続けたのは、ゆうに5分。
 無数の蝙蝠に変じた莉亜が血の吸う限り不死身だとすれば、対手の龍も同じく。
 すぐそこまで手――この場合は牙だが――が届きかけ、しかし遠のいてしまう。
 その一歩にも満たないわずかな空白を埋めるものは、なんだというのだ?
「……好きなだけ遊んでいるがいい」
『あ、おいこら! 待て!!』
 蝙蝠たちの金切り声に、踵を返したドラゴンテイマーが応じることはない。
 僅かな空白は、埋められぬままに謎めいた男が歩み離れていくことで広がる。
 埋めるためには何が要る。何が。実力か、あるいは別の術式か。
 ……莉亜は考え続けた。あるいはもしかすると意図的に眼を逸らしていたか。
 彼はいつも気怠げに、紫煙を纏ってへらへらと笑いながら語り合い、戦う。
 だが内側に秘められた衝動を解き放てば、待っているのは自滅だ。
 リスクを背負ったならば、あるいは……考えても詮無きことである。
 少なくとも、黒龍の群れが釘付けにはなった。
 結果として、莉亜の行動がドラゴンテイマーを足止めしたことはたしか。
 彼奴が見せた間隙は、次に続く猟兵が掴むべき緒となるはずだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ビードット・ワイワイ
見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり
覗き見るならば場所を選び、前線に立つは即ち覚悟
死を覚悟してないのなら何しにここに?その決断は即ち傲慢
傲慢こそは破滅の一つ。汝の破滅はここにあり

敵が数多の竜を持ち強力な存在になるならばこちらも数で攻めようか
1296体の小型の我を半数を竜に突撃させ陽動にし【おびき寄せ】
残り半数をテイマーに。少しばかりの小型の我に【迷彩】を施し
【物を隠す】様に【目立たない】よう変えよう

数と巨大な我で【挑発】すれば少数の我は目立たぬであろう
数で竜とテイマーを引き付け、テイマー自身には我が格闘戦
少数は【トンネル堀り】て地中より【暗殺】
数も我も囮にし傷が付こうと汝を倒すことに専念しよう



●12体目の巡礼者:ビードット・ワイワイ
 破滅を招来せねばならない。
 そのためには、"破滅すべき現在"がなければならない。
 破滅とは何か。ただその有り様を損ない、壊れることが破滅だろうか?
 否である――他方の客観的観念はさておき、演算機Kadathはそう規定した。
 破滅とはすなわち、破壊し滅ぼされる『現在』が破滅と程遠ければ遠いほどよい。
 死など、虚無など夢のまた夢、誰もが満ち足りて笑顔で過ごせるような幸福が。
 幸福なくして破滅なし。ならば破滅のために幸福をもたらすべし。
 もたらせないのであれば、守らねばならぬ。
 破滅させるべき世界を脅かす者がいるなら、これも同様。

 一見すれば矛盾と狂気の塊に在る論理こそが、ビードットを駆動させる。
 届くはずのない目的への、緩慢で矮小だが確実な一歩を歩ませる。
 はたしてその破滅はいつ来るのか。
 破滅のための幸福はいつ実現するのか。
 誰も知らぬ。ビードットにも見通せぬ。それは太陽の滅びめいた遠い先の話。
 来るかどうかわからない、来たとしても誰もいないであろう"いつか"のこと。
 されどビードットは進む。破滅をもたらすために敵を討つ。
 たとえそれが恐るべき地獄であろうとなかろうと、ビードットは戦うのだ。

 莉亜によって"文明侵略"の術式が封じ込められている間のこと。
 群れの殆どをけしかけたドラゴンテイマーの前に、新手がやってきた。
「見たり見たり見たり。汝の破滅を見たり」
「……破滅だと?」
「此処は戦場なり。結末を覗き見掠め取る者の在るべき場所に非ず。
 すなわち我らが此処へやってくる。我らが此処へやってきた」
 ぐるぐるとカメラアイがあらぬほうを見やる。壊れた機械めいた動作。
 ドラゴンテイマーは訝しみも、これを嘲りもしない。
「戦場に在りし者、これすべて死の危険あり。然らば覚悟が必要なり。
 汝、死を覚悟せざるならば何しに此処に? その決断、すなわち傲慢なり」
 無言のままのドラゴンテイマーに対し、ビードットはまくしたてる。
「傲慢こそは破滅のひとつ。汝の破滅はここにあり。我が破滅を招来せり」
「とどのつまり、私を滅ぼしに来たということか」
 再びカメラアイが鳴動する。底知れぬ狂った機械であった。
 ドラゴンテイマーをしても、斯様なウォーマシンがなぜこちらと戦うのか、
 そう簡単に結論付けることは出来なかっただろう。無理からぬもの。
 たしかなことはふたつ。"傲慢こそは破滅"、その理屈は正しいこと。
 そしてもうひとつは――ビードットに、後退の文字は決してない、ということだ。

 狂気としか思えぬたわ言の端々に、確定的な殺意と戦意が漲っている。
 当然だろう、ビードットは破滅を招来するもの。いつか世界を破滅させるもの。
 存続せねばならぬ『現在』を脅かすものは、同じく破滅させるまでのこと。
 たとえいまその目的と由来が明らかならずとも、強敵であろうと、だ。
「私を阻むというならば相応の相手はするとしよう」
 ドラゴンテイマーは左手を掲げる。ズズン、ズシン……!!
 降り来たるは無数の巨竜。その数は50、いやともすれば100をすら……!
「食い殺せ。欠片も残すな」
 システム・フラワーズの大気が、邪悪なる巨竜の音叉によって歪む。
 花々が一気に吹き散り枯れ果てた。ダイウルゴスの群れがビードットを襲う!
「数多の龍を持ちし強力なる存在、その力もまた破滅の兆しなり。
 古来より強大な力を持つ獣、自らの力によって自ら破滅するものなれば」
 ではどうする、ドラゴンの爪や角を以上伸長させるというのか。
 過去に絶滅した動物などの尺度が、この恐るべき黒龍どもに通じるわけはない。
 ビードットにそんな進化論的選択肢はない。より単純な理屈だ。
「実行仮想破滅(アクセス・イマジナリールーイン)、ロード。ロード。ロード」
 見よ。ビードットの背部コンテナがガコンと開いた途端、中から現れたのは!

「見たり見たり見たり」
「見たり見たり見たり」
「見たり見たり見たり」

 ……ビードットだ! ただし本体よりも非常に小さいミニチュアサイズだが!
 その数、およそ1296! 質量を無視した召喚、まさにユーベルコードの極致!
「己を複製することにより生まれる一人だけの軍勢、これもまた破滅。
 されど此度においては心配無用、我こそが根源的破滅招来者なれば」
「汝の破滅はここにあり」
「汝の破滅はここにあり」
「汝の破滅はここにあり」
 半数、すなわち648体が、まず前衛を担う巨竜の群れに整列突撃!
 当然、強大なる黒龍どもはこの矮小なる弱敵を見下し一気に蹂躙する。
 しかし陽動だ。残る半数近い分身体は、ドラゴンテイマーをめがけて進軍する!
「数には数で……か。くだらんな」
「然り然り然り。群れを従え傍観者を気取りし汝、まさにくだらなき者なり。
 目的あらば命を賭すべし。龍の威容とて我と我らを退かせるには至らぬなり」
 とはいえ、所詮は20cm程度のミニチュアサイズ。一撃で数十が吹き飛ぶ。
 648体の分身体はあっという間に蹴散らされ、ドラゴンテイマーめがけた半数も、
 追いすがる巨竜の群れによって次々と引き裂かれ列を乱す……!
「たかが小物を揃えたところで、私には届かん」
「ならば我自ら挑むなり。覚悟なき汝に敗ける道理なし」
 不遜! ビードットはアームを展開しながらバーニア噴射で地獄へ挑む!
 白兵戦で勝ち目があるはずがない! ビードットよ、血迷ったか!?

 否。これもまた、ビードットが仕掛けた二段構えの策である。
 648体のビードットは、巨竜の陽動を引き受け一瞬で蹴散らされた。
 残る半数……"近く"も同様。ドラゴンテイマーへの接近は敵わない。
 近く。然り、ドラゴンテイマーへ進軍したのは残存機体全てでは、ない。
 あまりにも数が多すぎる上に、ビードットの不遜な挑発が龍の目を曇らせた。
 いわんや、ドラゴンテイマーをや。その狙いに気づくことなど……!
「戯れに付き合うのもここまでだ」
「戯れ? 否なり。繰り返そう、此処は戦場なり。然らば――」
 その時、ドラゴンテイマーは何か妙な感じの正体に気付いた。
 だがその時にはもう遅い。ビードットめがけ巨竜が襲いかかったその時、
 すでに布石は届いていた。地中の穴。迷彩を解除し姿を見せる少数精鋭……!
「……伏兵挟撃暗殺工作、これ戦場の花形なり。これぞ数多の破滅の一つなり」
「ぬう……!?」
 隠密行動に従事していた少数精鋭暗殺部隊が背後から襲いかかったのだ!
 同時に、巨竜の群れの牙と爪がビードットを抉る。ボディが火花をあげ爆ぜる!
「味な真似を……引き裂いて殺せ」
「否。我いまだ健在なり、なれば汝破滅するまで我戦えり」
 不遜。黒龍ダイウルゴスの巨大なる大咆哮がビードットに畏怖を強いる。
 だが鋼は恐れぬ。全ては破滅をもたらすため、破滅の前の幸福のために。
「汝、戦場に立つに値せず」
「ほざくがいい……!」
 覚悟なき傍観者を、戦いのフィールドに引きずり下ろすため、足掻き続けるのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒城・魅夜
失くしたおもちゃを欲しがって泣く幼児。
……ふふ、それはあなたのことであり、私のことでもあります。
ならばこそ、あなたを私は越えねばなりません。

範囲攻撃・ロープワークを使って周囲の花片を舞い散らせ、我が身を覆う花吹雪を作り出します。
ただ目を欺くだけとでも?
早業で投擲でスナイパーで。
私の持てるすべての技量を使った時、花片は一瞬だけ、その速度と角度により、無数の刃となるでしょう。
刹那の間、僅かにでも巨龍を怯ませられれば、見切り・第六感・残像で潜り抜け、覚悟と共にあなたへと肉薄します。

ええ、既に瀕死。……だから良い。
この傷口から吹き上げる血の霧が微かにでもあなたに触れたなら。
そう、それだけで良いのです。



●13人目の巡礼者:黒城・魅夜
 ドラゴンテイマーにとっても、この戦いにあまり大きな意味はない。
 彼個人の――おそらくはドン・フリーダムすらもその本質は知らぬだろう――目的は、猟兵との交戦を必要としない。
 それがなんであるかが明かされるのは、今はまだ先のことだろう。
 ゆえにドラゴンテイマーは、猟兵に自ら襲いかかるようなことはないのだ。
 つまるところ、ビードットとその写し身の絶え間ない波状攻撃を前に、
 ドラゴンテイマーはダイウルゴスの群れをけしかけての撤退を選んだ。

 だが、戦闘領域を離れたドラゴンテイマーを、影めいて付け狙う女がいる。
 彼奴も強敵、かの咎人殺し……つまり魅夜の接近には当然に気づく。
「次から次へと、ドン・フリーダムだけでは飽き足らず私までもか」
 影法師が立ち上がるように姿を見せた魅夜に対し、ドラゴンテイマーは云う。
 そこに苛立ちはない。戦ったところで、己が圧倒的有利だと奴は知っている。
 よしんば滅ぼされたところで、それは本質的な彼奴の破滅とは言えぬのだから。
「……欲しがりなのは、あなたのほうではないですか?」
「私が?」
「ええ。だってあなたは、グリモアを求めているのでしょう?」
 ……ドラゴンテイマーは無表情である。肯定も否定も見せはしない。
 隠し通すというよりも、いちいち反応するまでもない、とでも言いたげだ。
 ドラゴンテイマーにとって、グリモアは己が手に入れて当然であるらしい。
「失くしたおもちゃをほしがって、泣いて駄々をこねる幼児のよう」
 魅夜はさらりと棘のある皮肉を与えながら、艶やかに微笑む。
 それは自嘲の笑み。皮肉は、自分自身にとってのアイロニーでもあるから。
「この乱痴気騒ぎが児戯じみたものであることは、同意しよう」
 しかして意外にも、ドラゴンテイマーは魅夜の言葉に部分的に肯定してみせた。
「だが、私がこの事態を画策したわけではない。私は"与えた"までだ」
 ドラゴンテイマーの双眸の虚無が、暗黒を深めたように思える。
「"児戯じみた乱痴気騒ぎ"で世界を滅ぼす。だからこそあの女は価値がある。
 ある意味ではこの私よりも、お前たちのほうが理解しているのではないか」
 ドン・フリーダムの理屈はなんともシンプルで、そして幼稚だ。
 欲望を解き放つ。自由とは欲望を貪り求め続けることである。
 まるでわがまま放題の子供が、情緒もなく大人になったような屁理屈。
 ……それがこの星を一度は滅ぼし、そしていま真っ二つにした。
 破滅から蘇った怪人どもが、どれほど強力か。戦った魅夜こそがよく知る。

 ……しばしの沈黙。やがて魅夜は、表情を変えぬままに言った。
「ええ。能力と見合わぬ幼児のような自我、これほど厄介なことはありません」
 無限めいた悪夢と、その苦痛を耐えきってしまう程度には。
 世界を越えて破滅を退け、いるかどうかもわからぬモノを追い求めるほどには。
 希望とは、その輝きを垣間見た者にとって救いにも災いにもなる。
「"ならばこそ"、私はあなたを越えねばなりません。いま、ここで」
「ほう」
「……逃しません。けして。絶対に」
 それは、ヒトの祈りを享けて咎人を殺す悪夢の滴にしては、らしからぬ言葉。
 エゴや俗世から己を別物と定義し、常に一歩距離を置くのが、魅夜の在り方だ。
 そうでなければならない。自分自身が求めるのはあくまで"希望"。
 それを追い求めるからこそ、自分は黒城・魅夜という名の女でいられるのだ。
 一瞬でもすがるべきものを違えれば、その瞬間虚無が彼女を呑む。
 喪われた記憶、過去という名の虚無が。……それでも、この男だけは。

 魅夜は歪んだエゴイズムを、今このとき己が戦うための礎として定義する。
 彼我の戦力差は膨大。正攻法では傷一つつけられないだろう。
 ドラゴンテイマーはもはや何も言わない。ただ目の動きで群れに指示した。
 見上げるような巨大な黒龍が数十体、少なくとも五十以上が一気に現れる。
 魅夜は即座に百と八本の鎖を振るって結界を張り巡らせ、花片を舞い散らせる。
 おびただしい花吹雪は、鎖と鎖を伝い飛び回る女を隠す目眩ましと化した。
「無駄だな」
 ドラゴンテイマーには見えている。いわんや、ダイウルゴスをや。
 視界を覆う邪魔な花吹雪を吐息と尾で薙ぎ払い、魅夜を狙い包囲する。
 たかが花びら。目眩ましになど……いや、違う。魅夜の動きは決断的だ。
 鎖が砕かれ爪と牙で肉をえぐられ骨を砕かれようが決して止まらない。
 逃げるための花吹雪ではないのか? なにかの触媒だとでも?
 術式に一瞬でも意識を割けば、それこそが本当の終わりだ。魅夜は死ぬ。
(ただ目を欺くだけと、見くびっているがいいでしょう)
 もとより感じぬ苦痛を、思考の全てを目的意識で塗り替えてごまかし、
 魅夜は跳ぶ。
 鎖を張る。
 撃ち落とされ、花びらを散らしながらまた跳ぶ。
 何度でも何度でも。己が持ち得る技量の全てを使って。
 歪みねじれた意志力の全てを振るい、挫けかけたならばそれをねじ伏せる。
 挫けることなどありえない。自分は"あの方"に必ず再会するのだから。
 魅夜自身は己をそう定義する。身体がストを起こしたならば無理に動かす。
 筋肉が断裂する。はらわたが溢れかけ、もはや全身は鮮血にまみれていた。
 だが途方もない足掻きのはてに、求めた一瞬は訪れた。

「何?」
 ドラゴンテイマーは今度こそ訝しんだ。
 ダイウルゴスの群れが、何か一斉に攻撃を食らったからだ。
 不可視の魔力か? 否、ドラゴンテイマーが感知出来ぬはずはない。
 魅夜にもその兆しはなかった。舞っているのは目障りな花吹雪だけ――。

 たとえ薄く柔らかな花片とて、極限の速度を以て振るえば刃となる。
 それは龍の鱗を裂くにはあまりにもいじましく、裂けたとて傷は小さかろう。
 一瞬。
 最初からそれを目論んで、集中していなければ捉えられないほどの一瞬。
 ドラゴンの群れは怯んだ。魅夜の待っていたものが訪れた。
「――……!!」
 魅夜が駆けた。その身を覆うは、禍々しき鮮血の濃霧。
 向かう先は後ろ? 否。龍の群れの只中? それも否。
「狙いは――私か」
 然り。ドラゴンテイマーをめがけて魅夜という矢が飛ぶ。だが!

 無謀に過ぎる特攻は、禍々しき魔剣の斬撃によって容易く迎撃される。
 もはや魅夜の体に、傷を帯びていない場所などない。鮮血が吹き出す。
「命を賭して私に攻撃を届かせようとしたか」
「――い、い、え」
 ほぼほぼと煮え立つような、あぶく混じりの声がした。
「"わたし、は、あなた、を、傷つけない――"」
「……?」
「喰ら、い、尽く、せ――」
 ドラゴンテイマーが片眉を吊り上げ、わずかに瞠目する。
 飛び散った血が霧となって彼奴を取り囲む。そして霧の内部には!
「……汚濁、の魂……ッ!!」
 霧中の獲物をけして逃さぬ、花開くかのような鎖の結界が生まれるのだ。
 血に霞みし世界に祝福を捧げよ硝子の心臓(ミスティック・ミスティーク)!
 死を飛び越えたかのような凄絶な有り様によって可能となるこの好機!
 ドラゴンテイマーは羽ばたき逃れるより早く……呪いの鋼が、その身を抉った!!

成功 🔵​🔵​🔴​

夏目・晴夜
このハレルヤが気に入らない。挑む理由としては十分過ぎますね

事前に妖刀は糸か何かで手に固定しておきます
両手ぐちゃぐちゃでしたし、手を滑らす訳にはいきませんので

戦場では常に「喰う幸福」の高速移動を使用
大型ダイウルゴスには、直接的な斬撃や衝撃波での【カウンター】で【目潰し】
その際に生じる僅かな隙を縫い、一気に距離を詰めていきます

こんな化け物どもを倒そうとするのは時間と寿命の無駄使いです
それに私が倒したいのは化け物どもの脳たる御方だけですから

貫きたいのは心臓で、食い破りたいのは喉笛
そのいずれもが難しければ、狙うは脚や足首です
全力で【串刺し】にして【傷口をえぐり】、
肉ごと機動力を削ぎ落として差し上げます



●14人目の巡礼者:夏目・晴夜
 気に入らない。
 晴夜がこの戦略的価値のない戦いに参加した理由は、たったそれだけだ。
 これまでにない強敵相手に、命を賭ける理由としてはあまりにもシンプル。
 ……だが決して、"軽い"とは言えないだろう。
 もし晴夜を前にして(まさに文字通り)軽々しくのたまう輩がいれば、
 その愚か者を晴夜は心からの笑顔で嘲り、見下し、侮蔑したはずである。
 この世で誰よりも何よりも、自分自身こそが価値観の中心なのだから。
 晴夜が気に入らないと言ったら、それはもう戦う理由になる。
 少なくとも彼にとっては、そうなのだ。

 しかし転移を終えた彼の姿は、それを踏まえてもいささか凄まじすぎる。
 両手は最低限の応急処置のみが施された、ズタズタの痛ましい有り様だ。
 明らかに外科的処置を必要とする状態で、とてもではないが精密動作は不可能。
 ゆえに、晴夜は愛するニッキーくん(言わずもがなこれもほぼ全壊状態)を連れてくることが出来なかった。
 利き手で無理やり"悪食"を握りしめ、包帯でぐるぐる巻きにしている。
 いっそ、腕を切り落として義手にしたほうがマシかもしれない。
 そういうレベルの有り様で、晴夜は死地に立っているのだ。
 そして周囲を見渡した晴夜は、ひく、と鼻を鳴らした。
 ――血の匂いだ。それも複数。おそらくいくつかは先遣の猟兵の者。
 ではひときわ禍々しく、この世のものならぬ臭いを放つものがおそらく……。
(あちらですね)
 晴夜は無表情のまま、躊躇することなく花畑に足を踏み出した。
 辺り一帯を濡れた布のようにずっしりと覆う、重圧を五感で浴びながら。

 ……ドラゴンテイマーは、深手を負っていた。
 全身のあちこちに、鞭で打たれたか内側から爆ぜたような杙創を帯びている。
 これは魅夜のユーベルコードによる、鋼の鎖で肉をえぐられた結果だ。
 晴夜がそれを知る由はないし、知ったところでどうという男でもないが。
(不意打ちは……ああ、無理ですね)
 晴夜は搦め手をあっさりと棄却し、気配を消さぬまま敵の前へ姿を現す。
 おそらく晴夜がそう結論付けるより前に、あちらはその存在に気付いていただろう。
 "気づかれたという事実に気づける"ほどの殺気が放射されていたからだ。
「…………」
「私が云うのもなんですが、ずいぶん手ひどくやられたものですね」
 かたや、全身のあちこちに鎖や鋼によるダメージを受けたオブリビオン。
 かたや、前戦の負傷が治るのを待たず、応急処置だけで参戦した猟兵。
 ともに手負い。負傷程度は同等……だが根本的な実力差は埋めがたいか。
「お前の相手をするつもりはない」
「残念ですが、このハレルヤがあなたを殺したいんですよ」
 ドラゴンテイマーはわずかにだが呆れあるいはうんざりした様子で嘆息し、
 短く舌打ちした上で乱雑に左手を薙いだ。直後、びりびりと響き渡る龍の声。
「ええ、それでいいです。話が早いのが一番ですから」
 そんな晴夜の軽口を遮るかのごとく、ふたりを巨大な影が暗く覆った。
 見上げるまでもない。黒龍の群れが、獲物を刈り取りに現れたのだ。

 ズシンッ!!
 即座に距離を詰めようとした晴夜の眼前に、まず一体目が着地する。
 さらに背後に二体目。左右やや後方に三体目、四体目。包囲されたか。
「邪魔ですよ」
 晴夜は厭うことすらせずに吐き捨て、大地を蹴って直線接近軌道を放棄。
 コンマゼロ秒後、彼が踏み出そうとしていた大地が龍の爪で抉れて爆ぜた。
 バックフリップ。回避のためとはいえ、ドラゴンテイマーから距離を取るのは、
 晴夜にとっては非常に業腹である。傷口が開き血が滲む。
「どうせならお互い食い合って死んでくれませんかね」
 などという愚痴を、いちいちダイウルゴスが聞き入れるはずもない。
 ドラゴンテイマーの気配が遠のく。晴夜は巨竜の足元を稲妻めいて走り、
 これをくぐり抜け敵を追おうとする――五体目。待ち構えたような尾の薙ぎ払い。
「ッ」
 晴夜はこれを獣じみた反射神経で回避。ぐるぐると回転しながら尾に着地し、
 ほとんど狼そのままの四つ足で鱗を蹴立てて頭部を狙いに行く。
 小虫の這いずるこそばゆさに、五体目の龍が不服げに唸り、身を捩る。
「邪魔だって言ってるんですが、こうしないとわかんないです?」
 跳躍。爪による引き剥がしを裂けた上で、炯々たる眼窩を十字に裂く。
 滂沱の血涙と苦悶――龍がもんどり打つ時には晴夜は頭を蹴って先へ。
 ドラゴンテイマーとの相対距離、約150メートル。六、七、八体目の巨竜出現。
 わずかに反応が遅れた。直撃こそ避けたが、晴夜のすぐそばを牙が抉る。
 飛び散った土塊がショットガンじみた速度で、彼の全身を叩き吹き飛ばす。
「邪魔なんですよ、ほんとに!」
 ごろごろと地面を転がり、待ち構えていた八体目のストンプをかろうじて回避。
 衝撃を利用して跳躍回転、動作中に薙いだ刃が衝撃波で七体目の目を潰す。
 視界の端、九、十、十一体目の龍が進路を塞ぐのが見えている。
 おそらくすくなくともあと五十か六十。晴夜の目算ではその倍は居かねない。
 あと何秒でたどり着ける。
 あと何手躱せばいい。
 あと何度斬り裂けば縫えるのか。
(寿命の無駄ですね。さっさと片付けましょう)
 晴夜は懸念に一秒以上思考を割くことはない。敵についてもまた同様だ。
 見据えるのは彼奴の背中。地獄じみた男の、紫色の瘴気と心の臓腑。
 少年のひたむきさを嘲笑うかのように、さらに十体の龍が空から舞い降りた。

 ……ドラゴンテイマーは、足を止めた。
 止めざるを得なかった。目の前に、敵が先回りしていたからだ。
「まだ生きているのか」
 うっそりとした声。答えるべき少年の、傲慢な敬語は一言も返ってこない。
 いまの晴夜は、立っているどころか生きているのが不思議なレベルだ。
 裂傷はおよそ全身を朱に染め、手足はへし折れ、呼吸もか細く不規則。
 だが辿り着いた。晴夜は風となり、餓狼の如き双眸で敵を睨めつける。
 何がそこまでそうさせる。気に入らない、とはそこまでのことなのか。
 誰も問えまい。彼の凄絶な姿を見たのなら。
 誰も理解できまい。喉笛を噛みちぎろうとする彼の姿を見たとしても。
「狗め」
『狗で結構ですよ』
 おそらく晴夜はそう返した。現実にはひゅうひゅうという唸り声だが。
『狗以下の御方に何を言われようが、これっぽっちも悔しくないですね」
 斬撃。呪われた剣風は刃が触れずともその傷を腐らせ呪う。
 脚。足首。串刺しを狙った切っ先は地面を三度掘り四度反撃を受けた。
 届いたのは二度。満身創痍を通り越した死線の価値にはそぐうか否か。
 それはこの先の戦いが決めること――男が亡びたときにわかることだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

レン・ランフォード
貴方が何を企んでいるかは知りませんがここで潰します

大型である以上攻撃してくる数は実際は少ない筈
此方に向かってくる一匹にあえて接近、一撃をいなし「見切り・武器受け」
その体を駆け上がります「ジャンプ・騎乗・ダッシュ・クライミング」
「第六感・野生の勘」を総動員しつつ登る竜の動きに対応
召喚者に向かい童子切を放つに最適な距離に近づきます
飛び道具なら登っている「敵を盾に」
それ毎潰しにかかるなら潰しに来た敵に乗り移ります「空中戦」
滑ったら手裏剣を「投擲」し足場に、ダメージは「激痛耐性」で凌ぎます

巻き込める位置に至れば「早業」でUC起動、体を回し周囲の竜毎「薙ぎ払い」ます
「範囲攻撃・2回攻撃」



●15人目の巡礼者:レン・ランフォード
 何を企んでいるのかは知らない。目的、理由、その存在の本質、正体。
 何もかもが不明、倒し続けたとして本当に滅びるのかどうかも疑問が残る。
 関係がない。彼奴は敵だ。陰謀を企ててその手段を(おそらくは)首魁に提供し、
 多くの戦乱をばらまいてこの世界を――この星を危機に陥れた。
 戦いは終わる。じきに、ドン・フリーダムは猟兵の前に倒れることだろう。
 仲間たちへの信頼がある。猟兵という個・集団への自負と客観的評価が。
 ではどうする。あの男をみすみす見逃し、目的とやらを遂げさせるか?
 ……否。断じて否だ。化身忍者として、猟兵として、いや。
(ここで潰します。必ず、何があろうとも)
(ああ、やってやろうじゃねェか。逃しゃしねえ)
(…………)
 "蓮"も、"錬"も、そして"れん"も。
 その点に於いて、議論する余地もなく意思統一がなされた。

 そしてレンが戦場に辿り着くよりわずかに先に、ひとりの少年が敵を襲った。
 両腕がろくに使えない状態で、餓狼めいて龍をかき分け首魁を追った狼が。
「――……」
(おい蓮、ちょっと待て! お前何考えてやがる!)
 彼女の精神に住まうもう一人の人格、"錬"が思考速度の判断にケチを付けた。
 然り。"蓮"は、その状況を目の当たりにして高速で判断を下したのだ。
 ドラゴンテイマーを彼の追うに任せ、龍どもを一体でも多く屠るべし、と。
(誰かがやらないといけない。なら私たちが)
(俺は同意した憶えはねェぞ! 殺しに来たのはトカゲじゃねえだろ!)
(でも)
 錬が舌打ちする。こういうとき、"れん"が口を挟むことはない。
(……勝手にしろ。俺は助けねェ。やりたきゃお前で勝手にやれ)
(ありがとう、錬)
(痛みで気絶したら俺が変わる。そこからは俺の好きにする、いいな)
(わかった)
 ニューロン速度での対話が終わった。現実の時間が蓮を出迎える。
 迫りくる巨竜――手負いのそれらは目の前で融合合体を始めた!
「!!」
 たとえ数が多かろうと、巨大であれば一度に相手する数は少ないはず。
 ――という、レンの判断は、実際のところ正しい。
 問題はこのダイウルゴスどもが、数を減らすもう一つの方法を持つことだ。
 個体同士の融合。それによる戦闘能力の合算強化。数を棄て個の強さを得る。
 レンにとって誤算だったのは、龍どもがただの獣よりも遥かに小賢しく、
 そしてその数が十や二十では利かぬほどに大量に存在したことだろう。

「かは……ッ!!」
 視界が白く明滅し、脳裏から錬の喚き声が頭蓋をガンガンと揺らす。
 さっさと代われだとか、そらみたことかとか、そんなことを叫んでいるのだろう。
(大丈夫、まだやれるから)
 現実では重傷を負っていようと、意識の対話ではどうとでも言える。
 文句を喚く錬の意識を主人格権限で一時的にねじ伏せ、ノイズをシャットアウト。
 遅れて現状を理解する。巨竜の尾で全身を叩かれ地面をバウンドしたのだ。
(まだやれる。――やらなきゃ、いけない!)
 ストを起こした全身を強引に動かし、三回目のバウンドで受け身を取り着地。
 続く爪を軽やかな回転跳躍で回避し、ごつごつした黒い体を駆け上る。
(れんがやる)
(ありがとう)
 一瞬だけ身体動作を"れん"に任せ、蓮は先程の誤算を反芻する。
 何が被弾をもたらした。油断か。あるいは敵の搦め手か?
 答えはよりシンプルで絶望的。"合体した敵の能力が想定を越えている"だ。
 主導権が蓮に戻る。巨竜は放たれた手裏剣を煩わしげに掌で受けていた。
(れん、ドラゴンテイマーは?)
(まだあっち――ううん、きた。けりがついたのかな)
 あの少年は斃れたか。戦線を離脱したか。レンに確かめようはない。
 確かなのは、ここにドラゴンテイマーが加われば後がないということだ。
 それまでにケリをつけるか、隙を生ませてこちらからドラゴンテイマーを叩く。
 蓮は躊躇する。巨竜の体力がこちらの想定を越えているならば殺しきれるか?
 その逡巡が、再び敵の爪をまともに喰らう隙を生み……!

「バカ野郎ッ!!」
 別人めいた野卑な口調で吼えたレンは、空中で身を捩り爪を回避。
(だから言っただろうが! 戦闘中にボケっとしてんじゃねえ!!)
(ごめん、でも)
(うるせェ! ここからは俺が好きにやるッ)
 錬が強制的に身体制御権を奪ったのだ。
 彼女らの人格的な順位は連が上位にあるが、こうした無理は出来なくもない。
 無論よからぬ影響を生む。レンの眼窩からごぽりと血が涙めいて溢れた。
 錬は痛覚を蓮に押し付け(蓮はこれを拒めたが粛々を受け入れた)、走る。
 ドラゴンテイマーが来る。間合いに踏み込まれるまであと三秒ほどか。
(やるしかねェ。ここで同時になます切りにする)
(…………)
(はずしたら、しぬよ?)
(やるしかねェ。……やるしかねェぞ、蓮!!)
 ユーベルコードの制限を取り払うのは、蓮の管轄だ。これは絶対上位にある。
 逡巡――否、それがこの状況をもたらした。強敵への殺意と覚悟が不足したか。
 原因究明は後でも出来る。足りなかったならば今、腹を決めればよい!
(わかった)
「それでいいんだよそれでェ!!」
 掌の裡で光が胎動する。極短時間のみ使用可能な強力な光線式斬撃兵装。
 銘を童子切。鬼を斬らば龍など何するものぞ、もろともに切り裂いてくれよう!
「行くぜ科学の結晶――まとめてぶった斬れろォッ!!」
 ドラゴンテイマーが身動ぎするのが見えた。斬撃光条が視界を灼く――!!

「……窮鼠猫を噛むとは、よく言ったものだ」
 斜めにえぐられた地面から数十センチ後方、片腕を抑えた男が呻く。
 両足の傷口はじゅくじゅくと膿んでいる。呪詛が回避を遅れさせた。
 左腕は半ばほどまで断ち切られ、その傷跡は灼けて不可逆に抉れていた。
 ずずん……と、真っ二つに両断されたダイウルゴスが彼方で倒れる。
 やや遅れ、逆しまに落下していく少女の姿。とどめを刺すには遠すぎる。
「私がここまで、追い詰められるとは」
 ドラゴンテイマーは、グリモアを手に入れた者たちの力量を再定義した。
 ――見くびっていては己が狩られる、まさに猟兵という名に相応しい天敵だと。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

何だろう……この感じ
覚悟を決めるべき、なんだろうね

竜の群れの攻め立てには【武器受け】で凌ぐ
なんて数なの!?
ふたりがかりでの防戦なんて、このままじゃ

……ヨハン、今回は私に君の背中を護らせて
この群れは一匹残らず足止めしてみせる
君はあいつを!――行って、早く!

空気中の水分を凍らせ、鋭い氷の刃を無数に生成
四方八方に飛び交わせて全ての竜に足止め
羽に当たることを祈って

群れをよく見て、穿ち漏らしのないように、
またヨハンを傷付けることだけは絶対にないように……!
制御はやっぱり難しい
何度も意識を手放しかけるし、呑まれそうにもなるけれど
彼があいつを叩くまでは意識を繋ぐ


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

半端な敵ではないと知っている
相対し身が竦むのなら、己を叱責する他ない
こんなところで躓いては、並び立てる日など来ないのだと

蠢闇黒に呪詛を絡め、全力魔法
敵の動きに合わせて攻守を切替、竜の群れを凌ぐ
一刃、当てられればそのまま呪い沈めてみせる
細い糸を幾重にも絡めるかのように、
柔な闇を作り上げる

背を合わせ死角を減らし、少しでも負傷のないよう
勝機を探る

無機物に返させるのなら、一手でも、奴に
虚の双眸が気に食わない

背を押す声を後に、託して

【蠢く混沌】
逸らさずに見てやろう
邪魔をするものも、行く道を阻むものも
その先にいる者も

今の俺に出来ることをする
退いてたまるかよ



●16、17人目の巡礼者:オルハ・オランシュ、ヨハン・グレイン
 "地獄のような男"という表現、聞いただけでははっきりとわからなかった。
 地獄のように恐ろしい敵なのか、あるいは地獄のように激憤する敵なのか。
 はたまた文字通り、地獄――ブレイズキャリバーたちのそれ――を使う敵なのか。
 ……実際に戦場に降り立ったとき、オルハとヨハンは一瞬で理解した。
 こびりつくような重圧。意識より先に肉体が滞在を拒むほどの根源的恐怖。
 まさにそれは、生者が恐れ忌み嫌う、伝説に於ける地獄そのものだ。
 この気配は――こんな殺意を振りまく輩が、世界にいていいはずがない。
「……覚悟を決めるべき、なんだろうね」
「ええ」
 交わす言葉は少ない。そしてそれも、すぐに途切れて終わった。
 満身創痍、されど弱ったとはとても思えない敵が、目の前に現れたのだから。

 これまで戦った幹部怪人が、弱かったなどとは口が裂けても言うまい。
 どこかふざけたような輩もいたが、だからといって嘗めていたかといえば否。
 威圧感も戦闘能力も、固有能力も何もかもが強大で唯一無二だった。
 ――だが、この男は。ドラゴンテイマー。謎めいた陰謀者。龍の男。
 この男は……月次な言葉ではあるが……"格が違う"。
 これがこうだから、という話ではない。そもそもの存在格が桁違いなのだ。
 底知れぬ威圧感は、むしろ傷を負ってその度合を増したようにすら思えた。
「……お前たちは、何を求めて私を狙いに来た」
 出し抜けに、ドラゴンテイマーのほうが口を開いた。
 単に興が乗ったのか、あるいは言葉で玩弄し隙を生もうというのか。
 いつもの可能性を脳裏で咀嚼・棄却しながら、ヨハンは睨み返す。
 頬肉を奥歯で噛み、感じた不安と恐怖を表に出さないよう必死にこらえた。
 オルハはどうだろうか。ちらりと垣間見ることすら恐ろしい。敵が前にいる。
 どうか彼女は心安らかであってくれと願い、ヨハンは沈着を強いる。
「意外ですね。てっきり問答無用で襲いかかってくるかと思いましたが」
「私はお前たちと戦うつもりはない。仕掛けてきたのはお前たちのほうだ」
「……見解の相違ですね。そもそも事を起こしたのは、あなた――あんたのほうだ」
 半端ではない。だが、それでどうした。それがどうした。
 ここで身をすくませ、怯えて震えているようでは、並び立つなど夢のまた夢。
 臆しかけた己を叱責し、ヨハンは眉根と両足に力を込めて強く睨め返す。
 強がりならば慣れている。凡夫たる己の、幸い秀でた長所のひとつだ。

 ぎょろりと、虚(うろ)のごとき双眸がオルハのほうを見据えた。
 反射的にびくりと肩を震わせるオルハ、だが頭を振って顔を引き締める。
「何」
「お前たちは私を恐れている」
「…………」
 いちいち強がりで混ぜっ返す余裕もない。
「だのにお前たちは、私を……この戦争で倒す必要のない敵を滅ぼしに来た。
 純粋に不思議だ。万が一、ドン・フリーダムを逃したらどうするというのだ?」
 嘲りや見下すような気配はない。言葉は少なくともすべて真実だろう。
 いかにも、ここでドラゴンテイマーを叩く意味は、まったく存在しない。
 ……あるいはこの行動が意味を持つこともあるかもしれないが、それは先の話。
 キマイラフューチャーを救うことに、この男を倒す必要性は皆無だ。
「みんなそれはわかってるよ。私たちだってそう」
「では、なぜ」
「……そんな理屈の話じゃない。倒さなきゃいけないと思ったから、だから」
 だから? だから、命を賭して、あたら死にに首を差し出しに来たのか。
 この戦いに何の意味がある。ここで死闘を繰り広げて勝算はあるか?
 勝ったとして何が変わる。彼奴は再びここへ現れ、そしてまた佇むのだろう。
 次の猟兵たちが彼奴に挑み、そしてまた誰かが斃れてもしかすると、
「オルハさん」
「っ」
 びくっと肩を震わせて、オルハはヨハンの方を見た。
 ……こんなに穏やかな瞳を見せるのだと、場に不似合いに少女は思った。
 そのぐらい藍色の瞳は穏やかで、静かで、いっそ透き通るようで。
「御託はいりません。俺たちは、やれることやればいいんです」
「……!」
 頭でっかちな少年らしくない言葉に、オルハはこくんと頷く。
「そうだね。うん、そうだ」
 問答は無用。緊張と自問自答が無限めいた虚無に彼女を落としかけた。
 思考停止と揶揄する者もいるだろう。だが迷いは戦いに必要ない。
「ドラゴンテイマー。私たちは戦う、そして倒す。ただそれだけ」
「……ひたむきさは、時に愚か者をも超えるか」
 男は頭を振った。直後、大地が前触れもなく抉れ、立ち上がった。

 ……それから起きたことを説明するには、かなりの時間を必要とする。
 ゆえに、直後に発生した事象のみを簡潔に追っていくとしよう。

 まず、ドラゴンテイマーは"文明侵略"を行った。
 システム・フラワーズは支配下に置かれ、黒龍ダイウルゴスが生成された。
 事実上の無限。オルハとヨハンは慣れたコンビネーションでこれを迎撃する。

 迎撃、した。だが数は一向に減ることなく、少ない勝機は彼方へ消えていく。
 かいくぐるなど不可能。ましてや、殲滅し踏み越えることも出来はしない。
 その時、背中合わせに鉾を振るう少女が言った。
「……ヨハン」
 覚悟した声だった。
「今度は、私に君の背中を守らせて」
 ヨハンは問い返そうとして……"今度"という言葉を、反芻し、呻いた。
 いつかの暗黒の世界での戦い。己が我侭を通したときのことを。
 雨の音。美しくもおぞましい歌声。嗤笑する吸血鬼の闇。悪意。
「こいつらは私が足止めするから」
 彼女は捨て身だ。あの力を解き放つつもりでいるのだ。
 ……僥倖なのは、あの時と違って自己犠牲的な響きは鳴りを潜めていたこと。
 生き延びる。共に生き延びて、敵を倒す。その決意が感じられたことか。
「行って、ヨハン。……早く!」
 ヨハンは頷いて駆け出した。オルハは振り仰ぐこともなくそれを感じた。
 そして魔力を解き放つ。パキパキと音を立てて、咆哮に震える大気が凍った。
 生まれるは氷柱めいた凍てつく刃。それらはきりきりかちかちと暴れ狂う。
「……ダメっ」
 後ろに少年がいる。彼だけは。彼にだけは絶対に当ててはならない。
 そうすると決めた。たとえこの力がどれだけ呪わしく、忌まわしいとしても。
 決めたならば、やる。やらねばならない。願うのではなくオルハは戦う!
 どうか。祈りの言葉では事象は従わない。唱えるべき口訣は。
「――"穿て"!!」
 氷の軍勢はそれに従った。オルハはバックファイアで意識を手放しかけた。
 明滅する意識を掴み、荒れ狂う諸力をねじ伏せて味方につける。
 龍どもは磔にされ、あるいは串刺しにされ、、もしくはえぐられ裂かれた。
 なおも襲い来る者が居た。避ける事もできず切り裂かれ轢き潰されかけた。
 それでも耐える。耐えて戦う。彼が終わらせてくれると信じて。

「私を滅ぼしに来たか。仲間を捨て石に」
 周囲の地形を一体また一体と黒の龍に変えながら、超然と虚無が云う。
 藍色の瞳は揺らぎかけ、唇を血が出るほどに噛み締め、ぎっと睨みつけた。
 虚のごとき双眸。気に食わない。己が卑小だと映し返されているようで。
 この男が地獄そのものなら、己が必死に見つめ続けた闇はなんだ。
 意地にすがりついて得た力は。矜持にしてきたものはなんだというのだ。
「俺はあんたを認めない」
 いいや違う。意味がある。意味を得てきた。あるはず……なけらばならない。
 これまでを受け入れるために。これからを進むために。ここで生きるために。
 凡夫の少年は強がりが得意だった。だから彼は恐怖を飲み込み踏みとどまった。
 視線がぶつかり合い、ゼラチンめいて両者の間の大気を凝り固まらせる。
「俺は、あんたを……あんたのすべてを、否定してやる」
 ドラゴンテイマーは何も言わない。黒龍どもが吼えた。
「邪魔だ、沈め」
 後ろで少女が戦っている。自分を信じてくれている。ならば。
「邪魔だ。沈めッ!!」
 目から涙のように血があふれる。立ちふさがる龍どもを否定し闇で呑む。
 一歩。一手。近づく。傷を受ける。止まらない。下がらない。
「退いてたまるか」
 届かせる。
「退いてたまるかよ」
 この男に。敵に。届かせ、倒す。――倒す!!
「俺は、絶対に、退かない……ッ!!」
 龍が襲いかかってきた。ヨハンはそちらを見ない。敵だけを見る。
 闇が少年のもとを離れ、雪崩を討ってドラゴンテイマーへ襲いかかる。
 彼奴はとびのこうとした。呪われ、膿んだ傷口がそれを阻んだ。
 灼かれ、抉られた傷口がそれを留めた。そして影から黒闇が生まれた。
「莫迦な」
「――沈め。あんたは、此処に居ちゃいけない」
 虚無が見返した。ヨハンが目をそらすことはもうなかった。
 龍の爪が再び彼の体を抉りかけ――術者が闇に呑まれたとき、龍どもも消えた。
 ヨハンもオルハも、その場に膝を突いてうなだれるように崩れ落ちる。
 ただ、静寂だけが、全てを包んで勝利を伝えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 その戦いに意味がないならば、勝利とは何を指すのだろうか。
 敵が滅びれば勝ちか。であれば戦いはまた続く。地獄は再び蘇る。
 ……当て所なき戦いは続く。だからこそ生命は美しいのかもしれない。
神元・眞白
【SPD/割りと自由に】
なんだか寂しそう。簡単に挨拶してみよう。
駄目だったらそれまでだけど、少しは情報をもらっておかないと。
竜の力、これからの勉強に。

先に動いてくるし方法も大味。それなら私と符雨は引き付け役に。
逃げる様に方向のフェイントもかけて狙いを絞らせない様。
あとは度胸と応用力で。
逆鱗目掛けて仕掛けて逆に怒らせよう。よく逆鱗に触れるって聞くし。
場が荒れる中で飛威にテイマーさんを狙ってもらう事に。飛威、途中まで目立たない様に。

2人で引き付けるのも限度がある、って思わせるから魅医に頑張ってもらわないと。
流血ならカモフラージュになるかも?



●18人目の巡礼者:神元・眞白
 黒き龍の群れが吼える。わけてもその巨体は見上げるほどに大きい。
 それが十、二十……五十はいるか。ほとんどは空を回遊し獲物を睨め下ろす。
 絶望的な戦力差。しかして眞白と二体の戦術器……飛威と符雨は戦う。
 戦わねばならない。おそらく彼奴の陰謀はより深淵な目的を有している。
(せめて、何か情報が得られればよかったのに)
 眞白は無表情のまま、心の中で口惜しんだ。当然の落胆と言える。
 しかし多少のカマかけで目的を洗いざらい喋るような相手が、
 あの奔放な怪人を意のままに突き動かさせるようなことはまず出来ないだろう。
 単独の戦闘力においては、これまで出会ったいかなるオブリビオンよりも上。
「私も符雨も、人形でよかった」
 これは心からの言葉だ。ミレナリィドールに疲労の概念は程遠い。
 ふたりがどれほど逃げ回ったとしても、息を切らせることはない。
 あるとすれば物理的に脚がへし折れてもげるような事態だが……。
 その点に於いて、疲労が破砕をもたらすことはなかった。

 疲労は、なかった。たしかにそれは事実である。
 眞白は、そして眞白に従う二体――正しくは魅医も含めて三体――の戦術器は、
 懸命に懸命に逃げ回り、陽動し、龍どもを引きつけて状況をかき回した。
 逆鱗を狙った攻撃はダイウルゴスの怒りをうまいこと引き出したし、
 出たとこ勝負の応用も、プランに縛られない戦い方としては正解である。
 ただ、どれほど努力を重ねても得られない結果というものはある。
 世に於いてそれは無謀と呼ばれる。此度の戦いはまさにその一語に尽きた。
「符雨!」
 眞白が名を呼んだ瞬間、符雨は瞠目しそして黒に呑まれた。
 龍の一撃である。戦術器が破砕しバラバラに砕け散るのが見えた。
「どうしよう」
 直しようは、ある。自分の能力ならば戦術器は治せる、が……。
「いつまで逃げ回るつもりだ」」
「!!」
 ドラゴンテイマー。出現とともに黒龍どもが追いかけっこを中断する。
 眞白は……ドラゴンテイマーを……正しくは彼が持つモノを……凝視した。
「飛威」
「それがこのガラクタの名か」
 壊れていた。それは飛威であったものの首であった。
 放り捨てられた戦術器の残骸を、眞白は目で追い、そして敵を睨みつけた。
 虚の如き双眸が見返した。眞白は言語化出来ぬ謎めいた感覚に打ちひしがれた。
「あなた、なんなの」
「何、とは?」
「……あなたは、違う。ただのオブリビオンじゃない」
 底知れぬ闇。地獄の如き深淵、紫色の瘴気、底知れぬ威圧感……。
 何もかもが眞白の想像と、理解と、そして彼女らの実力を越えていた。
 人形一体に闇討ちを任せた程度で討てるような相手ではない。
 死力に死力を尽くしてようやく一手。戦術器には重すぎたのだ。
「生憎だが、これ以上お前にかかずらう時間が惜しい」
「……!」
 実質的な処刑宣告。とどめは自らの手で下そうということか。
 赤い刃が鈍く輝く。眞白は……眞白は!
「魅医、ふたりのことをお願い」
 あろうことか跳んだ。ドラゴンテイマーのほうへ、徒手空拳で!
「ほう」
 当然のように斬撃がこれを迎え撃つ。眞白の半身がざっくりと裂かれ、
 しかし勢いは止まることなく、彼女は一瞬だけ"妖"たる己の力を引き出した。
 指先がドラゴンテイマーに触れる。そして活力を吸収――意識が闇に落ちた。

 そののち、眞白は倒れ伏した状態で目を覚ますことになる。
 かろうじて核が無事のまま、最低限の応急処置を施された戦術器たち。
 バラバラの一歩手前まで破壊された己の体と、倒れ伏す魅医に囲まれる形で。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

月宮・ユイ
なんでしょう、この神々しくも重苦しい気配は
明らかに怪人の持つ欲とは違いますね
戦争の裏にいる、おそらく外部からの干渉者…嫌な感じです。

[ステラ+ケイオス]槍剣[コスモス]飛行付与の外套
”催眠術”意識変換戦闘形態。余計な思考は除き痛みを只の信号に
”第六感”含め知覚強化
常時”情報収集。学習力基に早業”で行動最適化
”念動力”纏い”オーラ防御”強化と行動補佐
<捕食者>散らす余裕はない
”呪詛”練り込みつつ更なる圧縮行い捕食強化、身と武器に纏う形。
敵は王たる一にして群、これ程の群さえ前哨
逆鱗…最も硬い弱点。厳しくも群抜く為穿つ他ない。
此の者はここで討つべき存在だ
傷つき喰らい戦い抜く、私本来の機能を今ここに



●19人目の巡礼者:月宮・ユイ
 ドラゴンテイマーは、どう贔屓目に見ても"奴ら"――怪人とは別物だ。
 見た目や能力の話ではない。ユイが確信したのはただ一点の理由にある。

 欲望。
 怪人を怪人たらしめるモノ。旧人類が亡びた所以、そして取り憑かれたもの。
 彼らは――あろうことかあの強大な三幹部すら――皆、追い求める欲望を持つ。
 それが怪人を異形たらしめる。そのためならば奴らはなんでもするだろう。
 世界を滅ぼすことも。かつて起こした滅亡を再び引き起こすことも。
 それがオブリビオン。過去の化身。宇宙の残骸にして相容れぬ仇敵なのだから。
 翻って、ドラゴンテイマーという存在について考えてみる。
 彼奴のグリモアに対する執着――それは欲望と云うには程遠い。
 超然たる気配は、歪みタガの外れたドン・フリーダムとはまた別のもの。
 であれば、叩く。その正体がなんであれ、ここで逃していい異物ではないはず。
(嫌な感じです。けれど、何より問題なのは――)
 転移が終わり、ユイは目を開いた。最大の問題はただ一つ。
 解決する方法はわかっている。結果が得られるかはユイ次第ではあるが。
(……私は、"私"であることを止めましょう)
 戻れるかどうかもわからぬ、本来の"機能"に立ち返るリスクと引き換えに。

 神々しさと、息苦しいまでの重圧というものは矛盾しない。
 ようはそれだけ、この世の存在からかけ離れているということなのだから。
 ユイが感じたのはまさにそうした次元の違うプレッシャーであった。
 何がここまでの強大さをもたらす。それほどの能力があるというのか。
 オブリビオンとしての存在格? 純粋な術者、戦闘者としての力量か?
 わからない。五里霧中を突き進むような戦いではある。それでも戦場に来た。
 もはや退けないし、ユイには退くつもりもなかった。進むべきは前だ。
 そして彼女が殺意の中心に来たとき、彼奴は猟兵にトドメを刺そうとしていた。
 倒れ伏す人形の淑女。ユイは本人が思っていたよりずっと早く、判断を迫られた。
 ――僅かな逡巡がある。己の機能を取り戻すことに対して。
 おそらくは戻れる。はず、だ。何もユイという人格が消えるわけではない。
 ……わけで、はない。それでも、彼方と此方を飛び越えるのは、当然恐ろしい。
 それほどの覚悟と捨て身をもってして、ようやく一太刀届くか否か。
 死への恐怖。滅びへの恐怖。……ねじ伏せるには、彼女は朧に過ぎた。
(共鳴接続正常、保管庫へ接続、知覚・処理能力強化)
 ゆえにユイは、その方法を外部――それも彼女の兵装だが――に求めた。
 自己催眠による意識変換。ヒトたる思考を削ぎ落とした無痛戦闘状態。
(戦闘形態へのメンタルシフト。痛覚信号制御、全カット)
 五感、第六感、以ての感覚器強化。世界が強すぎるほどに像を増す。
(演算能力、処理順位変更。周辺情報収集率200%、戦闘行動最適化)
 すべては敵を滅ぼすために。戦うための兵器へと成り下がる。
(念動力、オーラ発動器官生成、強化。エネルギーバリア出力120%)
 五体も、心も、目も耳も心臓も何もかも。ただ殺すために。
(携帯決定、能力制御・強化圧縮――成形)
 瞳を開く。槍剣を手に取る。もはや月宮・ユイという女は姿を消した。
 "捕喰∞連星"。喪われたはずの捕食兵器がここに再臨する。
「敵性体発見。戦力差計測……」
「己の身も心も兵器として研ぎ澄まさせるとは。愚かな」
「――捕食行動開始」
 そして、ヒトでなしが一陣の矢となってドラゴンテイマーを狙った。

 戦うために、ヒトのような心は不要だ。そんなものはいらない。
 相手が強敵であるならば、届かせるためには無駄を削ぎ落とさなければならない。
 その論理はある意味で正しく、しかしどこかで間違っている。
 事実、捕食機構を解き放ったユイの戦闘力はすさまじいものであったし、
 立ちはだかる巨大黒龍を一撃で屠り、その存在を根源的に喰らう攻撃は強烈だった。
 だがそこに迷いはない。痛みもなければ、逡巡もなく揺らぎもない。
 いかなるダメージを受けようと捕食によって再生し、突き進むのはまさに無敵。
 ……だがそれだけだ。敵を倒せる"だけ"の、ただの兵器だ。
 ユイの介入が人形の少女を救ったことは事実。龍を次々に食らったのも事実。
「届かんな」
「届かせる。私はお前を滅ぼす。お前はここで討つ。討たねばならない」
 龍が立ちふさがる。これを切り裂き、呪い、抉り捕食して糧とする。
 龍が立ちふさがる。薙ぎ払い、引きちぎり、喰らう。傷を癒やす力とする。
 一歩進む。近づいているはずだ。敵は数を減らして自分は前に進んでいる。
 なのになぜだ。どうして、ドラゴンテイマーとの距離が縮まらない。
「倒す」
「それでは届かん」
「私は、お前を――倒す!」
 そのための性能がある。いくら傷つこうと喰らい続ける覚悟がある。
 逆鱗を穿ち、龍を屠り、喰らい、進む。なのになぜ。この間隙は。少しも。
「お前の判断は合理的だ」
 龍という無限めいた壁の向こう、知ったような顔で地獄が云う。
「だがそれでは覆せない。いや――"不合理で覆してしまう者どもがいる"」
「ッ」
 その一言は、ドラゴンテイマーの声音には妙な実感があった。
 だからユイも、斬り捨てたはずの思考ノイズが蘇り、理解してしまった。
 非合理的な行動を選び、到底論理的でない選択肢を取り、不利を承知で立ち向かい。
 命を救うために命を投げ出し、敵を倒すために斃れるまで戦う矛盾をこなして。
 それで不思議と戦いに勝つ者たち。それは、誰であろう、仲間たちではないか。
 だからこそ勝てたのだ。そのノイズこそが必要なものだったのだ。
 圧倒的不利を覆すためには、揺らぎがなければ越えられない。
 矛盾である。矛盾だからこそ、道理を無理で貫く未知があった。
 それが希望であり、可能性であり、未来であり――ユイが、ユイとして識ったもの。
 守ろうと思ったもの。手に入れたいと思ったもの。では今は。
「私は」
「お前の思考はよく理解できる」
 ドラゴンテイマーの声は、いっそ穏やかですらあった。
「ゆえにもう一度言おう。――お前では、私に届かない」
 捕食者は王の言葉を覆そうとした。そのために己の機能を振るった。
 振るって、振るって、振るい続け――。

 止まらぬ脚が止まり、癒えるはずの傷が癒えぬままになるほどの死線。
 現れた龍を全て食らってなおも立っていたとき、そこに王はいなかった。
「……私は……ッ」
 流すべき涙も、噛みしめるべき苦悶も、無駄と断ぜられて消えていく。
 兵器としてはあまりにも幼く弱々しい少女は、ただ頭を振るほかなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鬼灯・ほのか
まあまあ、こんなところでなにしてはるん?随分と今までみたこの世界のオブリビオンとは雰囲気違ごうとるなぁ。もしかして今回の――いや、どうでもええね。それより旦那はん強いやろ?暇ならうちと一本、どないやろか。

うちは最初は兎に角敵の攻撃を避けるか受けることに集中、「見切り」「第六感」で回避して「カウンター」で黒龍に攻撃できたら試してみよか。後は「残像」で攪乱、気休めかもしれんけど「目立たない」で残像の方に相手の意識を集中させたいどすなぁ。避け切れない攻撃は「武器受け」で防御。
ある程度相手の技が観察出来たらうちのユーベルコードで攻撃を無効化しつつ相手ごと攻撃出来たらええどすな。




 ドラゴンテイマーは、近づく気配に気付いている。
 しかし逃げたり身を隠すような真似はしない。必要がないからだ。
 猟兵。オブリビオンの天敵、世界に愛されし者、未来の守護者。
 ……グリモアを今持つ者ども。その出方を伺いたいという気持ちはあった。
 だが。こうまでして己を滅ぼすために挑んでくるのは、その執念は、
 ドラゴンテイマーにとって不可解であり、不合理であり、ゆえに納得があった。
(奴らもまた、そうして不条理をもたらす者どもということか)
 心の裡でひとりごち、そして近づいてくる気配を見やる。
 そこに、酒気を色香めいて纏う、艶やかな羅刹が立っていた。

●20人目の巡礼者:鬼灯・ほのか
「まあまあ、こんなところでなにしてはるん?」
 酔いが抜けきっていないような、夢遊病者めいた足取りである。
 しかし不思議と、ほのかの一挙一動にはこれっぽっちの隙も存在しない。
「いままで見たこの世界の怪人はんらとは、またずいぶんと雰囲気違うとるなあ」
「…………」
「もしかして今回の――いや、どうでもええね」
 ドラゴンテイマーは、ほのかの口ぶりと視線や仕草をつぶさに観察する。
 そのふるまいは心からのものか。こちらの腹を探ろうとする気配があるか。
 ……口ぶりを裏腹に、ほのかがドラゴンテイマーを誰何する意図はない。
「戯言には飽いたか」
「ふふ。なあんでもお見通しなんやねぇ」
 くすりと微笑むさまは、あどけなくも年頃より大人びて見える。
 酒に蕩けた頭でも、この男がいかなる実力者なのかはようくわかっている。
 もしも酒の魔性を借りていなければ、臆していたか。いや。
「うちなぁ、あんたのことが気になるんよ。なあ、龍使いの旦那はん?」
 虚のごとき双眸がほのかを見やる。女はにこりと笑い返す。
 金色の瞳は、地獄めいた男の目を見ているようで見ていない。
 だがじりじりと、焦がすように熱く熾火めいて燃え上がるものがあった。
 情欲――に、近い。リビドーという意味ではほとんど同じだろう。
「……あんたはん、強いやろ。それもとんでもなく」
 ドラゴンテイマーの言葉を待つことなく、ほのかは云う。
「せやからね、うち、旦那はんと一本死合ってみたいんよ。ええやろ?
 どうせ暇なんやし、うちみたいな相手、見逃すはずもないんやから――」
 然り。それは、強敵との死合を求める、人でなしの熱であった。
 強き相手と立ち合い、殺す。斬る。その殺戮に対する高揚と期待。
 売女の淫蕩のほうが、人道にそぐうぶんだけまだマシであろう。
 人斬りとは、斯様にどうしようもない外道の連中である。
 ――だからこそ、その熱に耽溺するのは、どうしようもなく心地よいのだ。

 とはいえ、ドラゴンテイマーがそうした数寄物かは別の話である。
 ほのかもそれはわかっている。この男は風雅を愛でるような手合いではないと。
「……で? どないしはる?」
「くだらん」
 ドラゴンテイマーは端的に切って捨て、踵を返し歩き始めた。
 敵に背を向けるという行為、あまりにも不遜で、そして無礼だ。
 ほのかの口から笑みが――消えない。相も変わらず笑ったまま。
 こちらは敵としてみなされてすらいないという。いいだろう。それもまたよし。
 ならばその背中に斬りかかり、驕り高ぶった首を刎ねてしまおうか。
 ――などという児戯じみた思考は、浮かびすらしない。一切の隙がないからだ。
「私はお前のような戦闘狂ではない。殺し合いを自らするつもりもない」
「いけずやねえ。ならどないしはるん? うち、諦めんよ?」
 虚無めいた双眸が、肩越しにほのかを振り返る。
「では死ね。求めるならば越えてみせろ」
 言葉はそれだけ。再び歩みだすドラゴンテイマーには追いつけない。
 そうはさせないと、黒龍の群れが無機より変じて立ちはだかるからだ……!

 吠えたけるダイウルゴスを相手に、ほのかは無造作に一歩を踏み出した。
 数はいくつだ。五十からあとは、酔いに蕩けた羅刹には酷である。
 来るならば、斬る。龍を斬るというのもなかなかに風情があると言えよう。
「さあ、おいでな?」
 龍どもが吼えた。不遜なり、挑むのは貴様であるとばかりに。
 事実としてその通りだ。数も、力も、ほのかは龍にはるかに劣る。
 ではなぜ彼女は蕩けている。いっそ恐怖が勝って狂ったと。
 ある意味では正しい――しかしてほのかはいまだ理性を宿している。
 "死んでも構わない"という放蕩的な考えが、そもそもの根底にあるからだ。
 開き直りは強い。ほのかは迫りくる牙を見切って躱し、応報の一閃を見舞った。
 龍の腕が叩き切られる。踏み出す。狙いすましたようなテイルスウィープ。
 これを濡れた絹めいてするりと跳んで避けて、抜刀。尾を断ち切る。
「あは」
 三、四、五、六……敵が。敵が、次々に現れて、立ちはだかる。
 躱す。受け流し、防ぐ。いなす。切り払う。迎え撃つ。惑わす。潜り抜ける。
 ただ前へ。前へ。龍どもは手強いが、目的はそちらではない。
「ああ、あはは」
 爪が切り裂く。
「あはは。あっはははは」
 牙が抉る。
「あっははははぁ――!」
 尾に打ち据えられる。まだだ。前へ。前へ……!

 ドラゴンテイマーは、無造作に振り返りざま魔刃を横薙ぎに振るった。
 撃音。これを防ぎ弾いたのは、光が瞬くような速度の居合であった。
「ああ、ああ、残念。さすがに剣で剣は斬れへんねぇ――」
 疾――がぎん。斃れかかるような仕草からの居合、受太刀は敵の番。
 ほのかはくすくす笑う。全身を朱に染め無惨な有り様で。
 ドラゴンテイマーは、再び群れを喚び出してこの女を……否。
「旦那はんは斬れへんかったけど」
 金色の瞳が満月めいてまあるく、男を見上げた。
「その技、"届いた"みたいやねぇ。うちの剣でも斬れるなら――」
 いいかけたほのかの目が、大きく見開かれた。
「私はいずれ滅ぼされる、か。その証明の代価が"これ"だ」
 こふ、と呼気を吐き出すと共に、迸る鮮血。
 艶やかな白い腹を貫く魔刃。急速に喪われていく熱。
「いずれ相見えよう。お前が死ななければな」
 ずるり、と、はらわたを貫いた刃が引き抜かれた。ほのかは崩れ落ちる。
 見下ろす双眸は虚無的。やがて再び、振り返ることなく歩き去る。
 ほのかは何かを呟いた。忍び寄る死の気配を前にしてなお蕩けた声音か。
 あるいは死を拒む悪あがきか。いずれにしても男が聞くことはない。

 命は繋がった。彼女が死ぬことは、少なくともいまはなかった。
 ただ、穿たれた傷と痛みと熱が、はらわたに残り続けることとなる。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鎧坂・灯理
ふ、ふふふ。『怖い』と思ったのは久し振りだな。
懐かしい、昔はいつも、すべてが怖かった。
はは……さて。
〝覚悟〟を決めるか。

【WIZ】
バイクにまたがり〝念動力〟で浮かせ、花=竜の上空へ。
瞬間加速で近づき、壊されたら蹴飛ばして降りる。
狙撃で培った動体視力を活かし、竜を踏みつけて剣鉈を構えて近づこうとする。

当然届かない。
現実なんてそんなものだ。
まともに視線すら向けられまいまま戦いは終わる――

訳があるか。
伏せたままハッキング、バニーの様に竜ごと周囲の地面を崩す。
一瞬の隙にUCを使い奴を撃つが、まあ届かん。
私は再び地を舐めるが、さすがにとどめを刺しに来るだろ?

その足の先。
さっきUCを撃った場所だ。



●21人目の巡礼者:鎧坂・灯理
 ドラゴンテイマーはいまだ――ほぼ――無傷であった。
 当然だろう。彼奴は三幹部をすら凌駕するほどの強敵なのだから。
 圧倒的に差のある猟兵が挑んだところで、一矢報いるだけ上出来である。

 ……などというおためごかしを、物分りの良い奴らは云うのだろう。
 ふざけるな。笑わせるな。灯理は、脳裏によぎった顔なき愚者どもを嘲った。
 そんなことのためにここに来たのではない。
 そんなことのために、いままで戦ってきたのではない。
 勝つためだ。
 敵を殺し、化物共を滅ぼして、世界を守り、殺して殺して殺すために。
 そのために力があり、技術を得て、いかなる危険をもくぐり抜けてきた。
(私はコンテストをやりたいわけじゃないんだ)
 顔なき愚者は、"よく頑張った"とねぎらうわかったような奴らは、己の弱さだ。
 いいじゃないか、挑戦することに意味がある、お前はよくやったと。
 灯理の心の中の弱い部分が、そうして己を己で慰めようとするのだ。

(ふざけるな)
 だから灯理は、己(それ)をせせら笑う。愚者の形をした弱さを嘲る。
 ああ、怖いとも。この恐怖という感情、思い出したのはいつぶりか。
 胃液がこみ上げる苦い味とともに、忌々しい過去の記憶が蘇る。
 誰も頼れはしなかった。子供も大人も、老若男女誰もが敵だった。
 ――もしかしたら、心から自分を心配してくれた誰かも居たかもしれない。
 識ったことか。すべて終わったこと、過ぎ去った道程であり郷愁だ。
 どうせそのありえそうな記憶も、ノスタルジィが生み出した幻影だろう。
「ふ、ふふふ、ははは」
 妙におかしく感じられて、愛機にまたがりながら灯理は笑った。
 気が狂ったか? ああ、そうであったならあるいはマシかもしれない。
 ただ冷静だ。自分でも驚くほどに、この重圧の中で心は研ぎ澄まされている。
 今の己は、これまででいつのときよりも鋭い思念を放てるだろう。
 五感は冴え渡り、捉えきれぬ風すらも視て音を聞くだろう。
「それでも、届かんな」
 確信があった。辺りを満たす重圧を浴びた時点でそう心から思った。
 だから灯理は笑う。皮肉げに、不敵に、鮫のようにぎしりと口を歪ませる。
「さて」
 スロットルを開く。エンジン=己の心にオイル=負けん気を注ぎ、キックスタート。
「"覚悟"を決めるか」
 見据える先に陽炎めいて歪む、異形の男の姿があった。
 女はまるで買い物行くような気軽さで、自殺じみた明日なき爆走に飛び込んだ。

 めきめきと音を立て、花々が咲き誇る大地がそのまま龍となる。
 黒く変色しながら見た目は鮮やかな地面が、強靭なダイウルゴスになる様は、
 その数と大きさも相まって、もはや現実感を喪失するほどに雄々しい。
「それほどの力があって、わざわざ私たちを拒まない。敗ける気がないのだな」
 スロットルをさらに開く。エンジンが悲鳴を上げて加速する。
「忌々しい。驕り高ぶった糞野郎め、反吐が出る」
 ぱちぱちと火花が散るようなイメージ。何度も訓練したサイキック能力。
 龍どもが吼えた。額の先に火花を集中させる――ああ、よく見える。
 ニトロターボじみた瞬間加速、そして念動力による斜め上への浮上。
 地面なき空を滑るように相棒は走り、振るわれる爪と尾をかいくぐった。
 ぐんぐんと上昇する灯理と愛機を、龍どもはばさばさと羽ばたき追ってくる。
 頭上は取った。動体視力がスコープめいてカシャカシャと遠景をズームする。
 男がいる。防御も考えず、棒立ちじみて佇みこちらを見上げている。
 虚無的な双眸と目が合う。ぶるり、と意思に因らず体が震えた。
「ふざけるな」
 ひきつる笑みをこらえながらさらにアクセルを吹かす。機首は真下。
 龍どもが来る。いいだろう。引きずり落としてみろトカゲ共。
 睨めつけるように敵を見据える。虚無的な双眸が淡々と見返す。
「ふざけるな!」
 叫んだ。その叫びすらもエグゾーストに呑まれていく。
 加速が動体視力を越えた。龍の爪と牙がウォッシャーめいて出迎え――KRAASH!!

 ……炎に呑まれた黒き龍どもが、彼方で苦悶していた。
 ほうぼうの体で飛び降りた灯理は、立ち上がろうとして腹部の痛みに呻く。
 肋骨が折れたか。よく見ると、利き腕と反対の腕も変な方向に曲がっている。
 改造単車は……まあ、回収できれば修理は可能だろう。高くつくが。
「ふざけるなよ……」
 剣鉈を手に、死人じみてよろめきながら灯理は歩く。
 龍どもが集まってきたのを感じる。識ったことか、狙いは最初からひとつ。
「なあ、貴様、どうしてそんな顔で私を睨む?」
 虚じみた双眸がただ見返す。
「私が無様ならば笑え。無謀ならば嘲るがいい。身の程知らずならば憤れ」
 剣鉈を構える力もない。引きずりながら、よたよたと血の筋を描く。
「私は"笑うほどの価値もない"か。ん? 聞こえているなら何か言ってみろ」
 ドラゴンテイマーは無言。背後に龍の咆哮が複数。
「お高く止まっているんじゃない、化物風情が……ッ!!」
 ドラゴンテイマーは無言……いや。
「――哀れだな」
 灯理は走った。少なくとも、彼女は走ろうとした。
 だが現実には、追いついた黒き龍に引き倒され、無惨にも引き裂かれた。
 ドラゴンテイマーはただそれを見る。灯理はもはや動かない。
 死んだか。男がそう呟きかけたとき、ごこん――と地面が"崩れ"た。
 それはドラゴンテイマーの足場すらも。体幹が崩れる。女が顔を上げる!
「死――」
 声は続かない。新手の龍がぞぶりと爪を突き刺したからだ。
 ごぷ、と大量の血を吐き、隠し持っていた可変銃器が袖からこぼれ落ちる。

 ……静寂。龍どもはドラゴンテイマーの様子を伺った。
「二手三手と、よくもまあ考えたものだ」
 銃弾は、ドラゴンテイマーからはまるで遠く、灯理のすぐ近くを抉っていた。
 硝煙をあげる弾痕を一瞥し、ドラゴンテイマーは右腕を振るいながら歩み寄る。
「ダイウルゴスは強大だが些か確実性に欠ける。所詮は"最弱"だ」
 つまり、とどめは己の手で下してこそ意味がある。
 ざす、ざすと死神が近寄る。そして魔刃が、いよいよ心臓をめがけ……。

 ――めがけて、しかし振り下ろされる前に、爆炎が飲み込んだ。
 ドーム状の炎はおよそ十メートルほどの範囲を飲み込み、龍をも灼いた。
 しかして、爆心地にほど近いはずの灯理は(爆発に限れば)無傷である。
「……だから、言った、だろうが……」
 ドラゴンテイマーは居ない。ダイウルゴスももはや一体もいない。
 灯理だけが、瀕死の女だけがそこにいる。女は傷を圧して体を起こした。
 男が居た場所には大量の血痕。見やり、愉快げに喉を鳴らす。
「ふざけているから、油断する。ここは――戦場だぞ」
 常在戦場(わがてき、たゆることなし)。
 攻撃と敵のみを害する罠。そして己の強化。三段構えのトリック。
 いい気味だ。地雷を踏んだ瞬間の顔を見てやりたかった。ざまあみろ。
「げほっ」
 立ち上がる力ももはやない。命は、命は繋がっている。
 ならばそれでいい。灯理は、深く太く、大きく息を吐いた。
「……くそったれめ」
 それは、何に対しての――誰に対しての台詞だったのか。
 焼け野原に、女がひとり、仰向けになって斃れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミハエラ・ジェシンスカ
あの男からはドクター・オロチと同じものを感じる
このまま捨て置くのは危険という事だ

可能な限り赤き剣の直撃は避ける
攻撃を【見切り】周辺の障害物ないし黒龍を【念動力】で引き寄せる事で【地形の利用】【敵を盾にする】
いざとなれば2基のセイバードローンで【武器受け】を行い黒龍どもへの囮とする

並行して攻撃しつつ赤き剣の直撃を貰った時はそれを好機に変える
自身を覆うフォールンオーラを【念動力】としてそのまま絡め取り
同時に【悪心回路】を起動
黒龍どもが群がってくる前に【カウンター】【捨て身の一撃】を叩き込む


それすらも捌かれたなら……そこに隙を見い出せる筈だ
温存した隠し腕(アイテム)で追撃【だまし討ち】【2回攻撃】



●22人目の巡礼者:ミハエラ・ジェシンスカ
 ドクター・オロチという邪悪がいた。
 この世界とは異なる星の海、スペースシップワールド。
 つまりミハエラというウォーマシンが製造された場所。生まれ故郷。
 銀河帝国に与していた――然り、彼奴は廷臣ではなく技術者だ――謎の存在。
 ただのオブリビオンならぬ謎めいた言葉を残して消えたモノ。
 此度のドラゴンテイマーが、彼奴と似た気配を持つのは自明の理だろう。

 であれば、ミハエラがこれを見逃す理由は一切ない。
 このまま捨て置けば、必ずや禍根を遺す。そもそも滅ぼせるかどうか。
 邪剣使いをしてそこまで警戒させる底知れなさが、ドラゴンテイマーにはある。
 堕落しようが、ミハエラは戦士である。正道を知るから左道を振るえる。
 では奴はどうだ。あれは戦士でもなければ、道を外れたモノでもない。
(断じて捨て置けぬ。なんとしてでも討つしかない)
 そもために必要な機能(もの)は、なんでも用いよう。
 なぜならば我こそは邪剣使い。正道ならぬ外道の剣理を手繰るもの。
 ……邪剣が真の邪悪を討つことは出来ない。たとえそれを理解していたとしても。

 だがミハエラにとって僥倖だったのは、敵が負傷していたことだ。
 私立探偵の身を挺した罠が功を奏し、ドラゴンテイマーは深手を負っていた。
(奴め、足元を掬われたか)
 では今ならば楽に殺《ト》れるか――いや、それは荷が勝つ。
 あちこちに火傷と創傷を受けたドラゴンテイマーは、力を減じていない。
 むしろ警戒が深まったぶん、ミハエラにとっては手強いやもしれぬ。
(好機には変わらん。ここで殺す)
 258cmの巨体が翻り、ずしんっ!! と大地を揺らして着地した。
 邪剣使いがあえて姿を晒す――素人ならば矛盾に思うだろう。
 だが逆だ。
 たとえばマジシャンは、ミスディレクションという技術を用いる。
 手八丁口八丁で観客の視線を集め、本当のトリックを意識から外すというものだ。
 あえて姿を晒し、正面から挑むことで、本懐の邪剣から目を滑らせる。
 そういう手口をミハエラは好むし、前提となる技量も彼女は備えていた。
 もっとも、この強敵を前にそれが常通り作用するかは怪しいが。

「……そこを退け」
「断る。私は貴様を討ちに来たのだ」
 ブオン、と電磁音を立てて、フォールンセイバーが赤黒い刀身を生み出す。
 二刀流。さらに、あえて隠し玉の一つのセイバードローンを白日に晒す。
 合わせて四刀流。ここに隠し腕を含めるのがミハエラの邪剣の基本である。
「通りたいならば、実力で道を開くがいい。貴様も剣士なのだろう」
「…………」
 赤い魔刃が、びょう、と焦げた大気を薙ぎ、不穏な剣風をもたらした。
 どこかから響き渡る黒龍の唸り声。両者は身じろぎせず相対する。
 傷が重いドラゴンテイマーは、そう長く辛抱すまい。
 どのみち先制攻撃が来るならば、あえて後手に回るのも有効だろう。
 ミハエラは仕掛けない――そしてたっぷり数十秒睨み合った直後!
「!!」
 気がついたときには、ドラゴンテイマーは間合いの内側にいた。疾い。
 しかし全神経を研ぎ澄まさせていたミハエラならば、かろうじて対応出来る。
 身を引きながら鋏めいてフォールンセイバーをクロスさせ、刃を受ける。
 そして受け流す。二流の相手ならばここで流れを取られ体幹を崩す。
 ドラゴンテイマーは、その前に当然のように刃を引いた。
 かと思った次の瞬間には、続けざまの刺突が繰り出されている!
(この深手で、なおも私を凌駕する速度だと)
 赤黒い光刃がかろうじて受ける。絡め取――ろうとした時には引いている。
 ミハエラがつんのめりかかる。フェイントだ。敵の出掛かりを潰す誘い水。
 ドラゴンテイマーはかからない。ミハエラは即座にバク宙を打つ。
 刃が吼えた。横薙ぎ。さらに疾風怒濤の刺突が瞬き一つの間に来る!
「甘い……!」
 両者の間に、爆風で吹き飛ばされた土塊が割って入り、盾となった。
 ドラゴンテイマーはこれを串刺しにせざるを得ない。即座に振って捨てる。
「来い。ダイウルゴスどもよ」
 上空を回遊していた龍の群れが数体降りてきた。数の利で押し切る構えか。
 一流の剣士同士の立ち合いに割って入れば、むしろそちらが死ぬ。
 龍が雪崩を打つのは、ドラゴンテイマーが一撃を突き刺した瞬間だろう。
(あと四……いや五手。そこで間隙が生まれると見た)
 がぎん!! 一手。強烈な打ち込みにミハエラの巨体が揺らぐ。
(狙いは頭部か!)
 ビュン――! 抉るような斬り上げ、二手!
 黒龍が背後を取ろうとしている。ミハエラはセイバードローンを制御。
 これを囮に龍の茶々入れを拒んだ。意識を正面へ、刃が胸部中央めがけ!
(残り、二手――)
 クロスさせた刃で打ち下ろす。敵は羽ばたき数十センチだけ浮上。
 即座に開放した刃を落下しながら振り下ろす。搦め手にも程がある兜割り。
 だが、搦め手ならばミハエラの十八番だ。四度刃が撃ち合う。
(あと一手。さあ、どう来る。そこで私は悪心回路を解き放とう)
 そして捨て身の一撃。悪の心に染まったミハエラに躊躇はない。
 よしんばそれを防がれたとして、フォールンオーラが刃を絡め取る。
(さあ、来い)
 布石は整った。龍が殺到するより先に首を取れる。
 他愛もない。謎めいた敵など、手の内が割れれば所詮この程度――。

(いや)
 ミハエラは我に返った。あまりにも状況が出来すぎている。
 もし。もしも"ここまで凌ぎ切るのが敵の策通り"だとしたら。
 疑心は確信に至った。敵はこれまでの二倍近い速度と威力で剣を打ち込んだ。
 防ぐ――防ぎきれぬ。鎖骨に当たるボディが赤い刃で断たれ胸部までめり込んだ。
「かはっ」
「死ね……!」
 龍どもが高揚に吼える。処刑の時である!

「――安心した」
 ノイズ混じりの電子音声で、ミハエラは言った。
「貴様にも油断はあるか。それでしくじったばかりであろうにな……!!」
 両目が赤黒く輝く。ドラゴンテイマーは退く。退かせぬ!
「受け取れ、これが私の邪剣だ……!!」
 己を鞘として刃を止めたミハエラ、回路起動と同時に隠し腕を解き放つ。
 セイバードローンはとうに戻っている。腹部を狙った横薙ぎ交叉。
「ぐ、ッ……」
 うめき声と手応え。ミハエラは笑う。己の太刀が届いたのだから。
 ああ、黒き災いどもが、龍共が獲物(わし)めがけてやってくる。
『邪剣使いの最期には、いかにも似合いか――』
 ミハエラはこれを受け入れようとした。だがそうは問屋が卸さない。
 悪党に満足した死など許されない。彼女が望むにせよ、望まざるにせよ。
 次なる闖入者が、結果的にその命を救うこととなる。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

御伽・柳
おそらく、勝てない
わかります、俺では力量不足だ
それでも一手刺すことが出来ればいいんだ、ただそれだけで

先制をされるのは分かってる、だから致命傷だけは【見切り】と【ダッシュ】で避けます
四肢をもがれる覚悟はできてる、そうなっても【激痛耐性】で耐えます

俺は届かない、俺だけでは何もできない
……UDC、知を食らうもの、そしてその眷属たち
【範囲攻撃】の【痃癖】で片っ端から、竜をこちらの支配下に置きます
俺の目が届かない奴もいるでしょう、何せ数が多すぎる
それでも、それなら喰らい合え
その主導権、奪い取ってやる

人並み外れた身体能力も魔術の才も俺にはない
けれど耐えることだけならできるから
届かせます、一撃を



●23人目の巡礼者:御伽・柳
 なぜそうしたのか、と誰かに問われたとして。
 それが敵であれ味方であれ、満足させられる答えを返せる気がしなかった。
 この戦い――つまりドラゴンテイマーを叩くという無意味な戦いに参加したこともそうだし、
 ウォーマシンの女(ミハエラ・ジェンシスカという名を彼は知らない)がとどめを刺されそうになった時、
 その瞬間を目の当たりにしていた柳は、ほぼ反射的に攻撃を繰り出していた。
 無論、ドラゴンテイマー本体ではない。そんなことしたら命がない。
 あるいは彼が才気に溢れた魔術師であり、分家はおろか本家のそれも、
 さらに伝えられてすらいない禁断の知識の数々を習得していたなら、
 人智の及ばぬ魔法で恐ろしい敵の刃を阻み、華麗に救い出していたかもしれない。
 けれども柳はそこまで無敵のフィクションめいた呪文を知らなかったし、
 もっと言えば肝心の才能に枯渇していた。かつても……そしてそう、今も。
 求めた。飢えた。だから狂気を受け入れて手を伸ばそうとした。
 まだ。まだ届かない。いつもいつもそうだ。それだけは今も同じだ。

 ――ともあれ。
 初歩的な魔術の属性攻撃によって、ドラゴンテイマーの周囲にいた龍の注意を引いた柳。
 攻撃を――黒龍の側からしてみればそれはひっかきにも満たないものだが――受けた個体を中心に、ダイウルゴスの群れが次々に柳に気づく。
 龍どもが唸る。吼える。どのみち命知らずな行動なのは確かだった。
(やばい)
 やっておいてそう思った柳だが、意外なことに彼は命を拾った。
「待て」
 他ならぬドラゴンテイマーが、黒龍の群れに待ったをかけたのだ。

 彼奴はミハエラの肉体から刃を引き抜き、かろうじて生きていた女を振り払い、
 倒れるに任せて踵を返した。つまり、柳を……闖入者の方を見た。
 ダイウルゴスの群れが、不服と不満にぐるぐると唸りざわめきをどよもす。
 柳は心臓が早鐘を打つのを感じた。どうして敵は即座に襲ってこない。
 チャンスなのか。いまのうちに逃げ……いや、攻撃するべきなのか?
「おそらく私は、この問いかけをすでに何度もしている」
 紫色のガスめいた瘴気を纏うドラゴンテイマーは、出し抜けに言った。
 そして虚無的な双眸で柳を睨めつけながら、続けざまに問いかけたのだ。
 イヤフォンをして心を守ろうが関係ない、男の声は不思議とよく通る。
「猟兵よ。戦略的価値のない私を狙い、そしていま茶々を入れたのはなぜだ」
「なぜ、ッて……」
 柳は鼻白んだ。敵の、しかもドラゴンテイマーから問われるとは。
 むしろ彼奴の謎のヴェールを剥がすため、問いたかったのはこちらのほうだ。
 それで答えが得られるとも思っていないので、問答の選択肢は頭から消していた。
 そこへ逆に問いかけられたとあっては、柳が答えに窮したのも当然である。
「お前たちの選択と行動は、何もかもが不合理で不条理だ。
 それがいま、私をこうして負傷させ、追い詰めつつある。興味深い」
「…………」
「どのみち殺す。答えようが答えまいが構わん」

 断定的殺意に打たれながらも、柳は頭を振って答えた。
「たしかに、俺はあなたに勝てない。ああ、間違いなく力量不足だ」
 それは答えというよりは、半ば独白めいていた。
「俺にあなたを上回るような呪文はないし、あったとして扱う技量と魔力がない。
 丁々発止の撃ち合いをこなすような、身体能力だってありゃしない――」
 他でもない敵にそれを言うという屈辱、自然と拳に力がこもる。
 柳はしかし、一種の達観めいたものに至り、憤りも自嘲もせずに語った。
「それでも」
「…………」
「――それでも、一手。あなたを、いや、あんたを刺すことが出来れば」
 それでいい。ただ、それだけで十分なのだと。青年は云う。
 具体性と合理性に欠けた、曖昧模糊で実に主観的な台詞であった。
 ……やっぱり思った通り、満足させられるような答えは返せないらしい。
「そうか」
 やはり嘲りも見下すような気配もなく、淡々とドラゴンテイマーは言った。
 理解できない――ということが、改めて理解できたのだろう。それで十分とばかりに、
「待たせたな。では死ね」
 振りかぶられたままの処刑斧を下ろした。つまり号令を下した。
 龍どもが一斉に咆哮し、さらに悪いことにそれは数を増やしたのだ。

 そこからの行動は一瞬だった。
 現実時間に於いてもほとんど十数秒のことであったし、
 柳の主観時間で見ればさらに短く、しかし奇妙に長く感じられた。
 まず柳は全速力で駆け出した。心臓が爆発しそうなほどに全力でダッシュ。
 文明侵略。無機物を支配・変異せしめるこのユーベルコードは無敵である。
 まともに相手をすれば抗いようがない。となれば全力で近づくしかない。
 遠くの彼方からドラゴンもろとも敵を焼き尽くすような魔術は彼にはない。
 だからパニック映画の哀れな一般人めいて、息を切らせて走るだけ。
 当然、ダイウルゴスの群れはこれをあざ笑い、立ちはだかり、襲いかかる。
 爪が重機めいた速度と勢いで振り下ろされ、大地もろとも柳を脅かす。
 触れずともその余波は肌を裂き、抉れた大地の飛礫が体を叩いた。
「ぐ……ッ!!」
 だが駆ける。肩から骨の砕ける嫌な音がして、頭から血がだくだく流れて、
 足の感覚が失せて転びそうになっても、止まることはしない。
 幸い、我慢することに関しては多少得意だ。だから歯噛みして耐える。
 奥歯が砕ける音がした。保険は効くのか、とか適当なことを思った。
 走る。走ったとして、やはり届かない。ドラゴンテイマーは彼方にいる。
 尾が振るわれた。前転して回避した。起きてみると右腕がなかった。
 止まらない。走る。燃えるような痛みが逆にありがたい。

 龍どもはその無様な小物の足掻きを、超然と見下ろし嘲笑った。
 愚かなり。定命の者よ、所詮お前には何は出来ぬのだとばかりに。
 小さき者は見返した。見返して――見返して? 見返した。見返している。
 それを通じて、何かが。何か恐るべきものが龍の中に入り込んだ。
 疑問はやがて消え、一体の龍が狂ったように吼えて、暴れた。
 脳髄に直接響き渡る狂気のうめき声。知を喰らうものと眷属の呼び声。
 龍の群れに僅かな混乱が生まれた。混乱はやがて波濤となった。

「ダイウルゴスを侵略しただと」
 ドラゴンテイマーは即座にその答えに至り、わずかに瞠目した。
 無論、すべてではない。だが一部であれ、驚嘆すべき事態である。
 逆に侵略を受けるという事実。ドラゴンテイマーが感じたものはなにか。
「なるほど」
 瞑想的に男は呟き、そしてこちらへ駆けてくる青年を見た。
 青年の視線を受けた。視線を通じて這いずってくる者どもを見た。
「が、ッ!?」
 のけぞったのは柳のほうである。まるで見えないなにかに絡め取られたかのように、
 目と鼻から血が溢れ、がくんと頭を振ってのけぞり、崩れ落ちた。
 邪神と眷属が混乱している。いや、憤っているのか。制御が。
「や、め」
「痛みはこらえられようと"これ"は効くか」
 ドラゴンテイマーは謎めいて言った。悟られているのか。"これら"を。
「そのまま狂い死ね。お前には似合いだ」
 振り下ろされる刃はない。やがて龍の群れも、男も姿を消す。
 普段の数千倍の狂気と内なる痛みにのたうち回りながら、柳は脳裏で思う。
 これは届いたと言えるのか。己は斃れ、敵は健在で歩み去った。
 傷の一つももたらせたわけではない。やっぱり手は届かなかった。
「あ、が、があああ……ッ!!」
 同時に思う。届いたのだと。この攻撃はたしかに彼奴に疵をもたらした。
 龍を支配せし男の、その矜持と自意識に対する罅めいた一撃を。
 引き換えの恐怖と狂気に、青年はむせび泣いて苦しみながらただ耐える。
 一矢報いた。その事実を寄す処に、希望としてすがりついて耐え続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧枯・デスチーム
【2m半のガジェットブラザーに乗り込み行動。アドリブ協力歓迎】
「ハイリスクな相手だぜブラザー!」
『リターンは期待できそうですね、ガージ?』

SPD
召喚は攻撃まで1アクション挟む。MAXは即発動だから後出しでも間に合う可能性は高い。
それに範囲爆発攻撃に轟音閃光付き、五感があるなら倒せなくても隙は作れるハズだ。
【操縦、ダッシュ】でドラゴンテイマーに近づき、【怪力、グラップル】で拘束し、コックピットからパイルバンカー銃剣で【鎧無視攻撃、捨て身の一撃、零距離射撃】を食らわせる。
相手の攻撃は【第六感、盾受け、激痛耐性】で耐える。
相手に一発かましたらもう一度MAXを使って離脱する。奇襲は即効性が命だぜ。


ノストラ・カーポ
※アドリブ・連携歓迎

中々可愛らしいトカゲじゃないか。どうせ死ぬんだ、一つ俺にくれよ。
それとも全員仲良く死ぬのが好みか?
【オーラ防御】を行うと、【呪詛】による【範囲攻撃】をダイウルゴスの群れに向けて放ち、その攻撃から逃れて向かってきた者には【衝撃波】を弾丸に付与した【Onore】と【Rispetto】、【Omertà】を使った【ロープワーク】で迎撃。倒したダイウルゴスからは【生命力吸収】をして回復を行う。

WIZUCを防いだ後は銃による攻撃でテイマーの意識をこちらに向けさせ【念動力】で【Compagno】を動かし、死角から攻撃を加えてから【指定UC】を使いプラズマの竜巻を引き起こして攻撃を行う。


リア・ファル
SPD
アドリブ歓迎

ボクの感覚が、キミを放置するのは危険だと告げている
挑ませてもらうよ

ヌァザもイルダーナも今回は装備していない
「ハッキング」でフラワーズを操作して、
「地形の利用」をして大型ダイウルゴスの攻撃を妨害
「マヒ攻撃」の弾丸をセブンカラーズで撃ち込みつつ「時間稼ぎ」
アンカーの「ロープワーク」も駆使して防戦を展開
危ない一撃はファイアワークスで「盾受け」

キミは強い。だが挑んで諦めるほど
ボクはヤワじゃない!
自分を「鼓舞」して狙いの一撃に繋げる
UC【今を生きる誰かの明日のために】を使う
ヌァザもイルダーナも母艦に戻して接続済み、
虚数空間の向こうから、上空に接続点をこじ開けて、
多元干渉波動主砲を放つ!


ヘスティア・イクテュス
海賊としてはおまけも貪欲に…ってね?
後の憂いになりそうな芽はここで


当たらなければ!
ティターニアを全開!空を飛んで距離を取ってこちらの有利な位置へ
ホログラム【残像】、ダミーバルーン、スモークミサイルを用いて
相手の接近を拒ませてもらうわ

卑怯とは言わせないわよ?


ミスティルテインの設定は命中を重視
威力は低いけど…狙うは敵の動きに合わせて撃つことで行動の阻害
重い一撃は別の猟兵さんにお願いするわ

おまけの援護にマイクロミサイルの一斉発射は如何かしら?



●4人の巡礼者と、龍使いに起きたことの顛末
 此度の破滅と戦いの結果を語るためには、多くの事象に触れる必要がある。
 四人の猟兵たちは、なにか示し合わせていたわけではない。
 それぞれが出たとこ勝負でそれぞれの最大の効果を発揮しようと動き、
 連鎖――あるいは同期――したことで、混乱と不思議な連携をもたらした。
 互いに知り合う仲の者もいたし、見たこともない間柄も居た。
 ただ目的は一致していた。彼らが戦えたのはひとえにそのためだろう。

 まずはじめに、霧枯・デスチームという猟兵がいる。
 見た目は可愛らしいケットシーだが、その来歴と現状はハードである。
 数えきれない死線をくぐらされ、今回もそれが一つ増えただけ。
 デスチームはそう割り切っていた。実際に奇襲を行う間際までは。

 ゴシュウ! と蒸気を噴き出し、2メートルはある巨大人型ガジェットが駆動する。
 Big Brother No.9――通称B29。デスチームの愛機であり相棒。
『目標確認。単独行動中のようです、情報通り。チャンスですね、ガージ?』
 人工精霊AI"ブラザー"が、(自称)紳士的口調で呼びかける。
『……ガージ?』
「あ? ああ――そうだナ。こいつはハイリスクな相手だぜ、ブラザー!」
『ええ。リターンは期待できそうです』
 わずかな間があった。デスチームらしくない言いよどむ間が。
 言葉にできるはずはあるまい。彼の矜持、スタイルにもそぐわない。
 カメラ越しに目標――ドラゴンテイマーを視認した瞬間、ブルっちまったなど。
 だからいつもどおりの軽口でごまかして、それで臆する心を克服した。
 敵は手負い。単独、一方のこちらは最大戦速で接近している。
 ブラザーの調子もすこぶるいい。懸念する要素はなにもないのだと。
「回転動力炉出力最大だ! かますぜブラザー!」
『了解ですガージ。蒸気機関駆動率120%――警告』
 ブラザーが端的にコーションを出した。だが出すまでもなかった。
 デスチームは今度こそ毛が逆立つのをこらえきれなかった。
 虚の如き瞳が、カメラ越しに彼と相棒をはっきり目視していたからだ。

 だが傭兵と愛機にとって、非常に幸運な出来事がひとつ起きた。
 つまりここで新たに登場するのが、二人目の猟兵――ヘスティア・イクテュス。
 白き妖精の羽ティターニアを気高くフルバーストし、空を駆ける青き流星。
「そこまでよ!」
 と、宇宙海賊は言った。ようはドラゴンテイマーを牽制した。
 虚の如き双眸がそちらを見やる。これがデスチームの即座の破滅を救った。
「団員のピンチに颯爽と登場してこその船長、そう思わない!?」
「――目障りな」
 ドラゴンテイマーは状況判断を強いられた。だが焦りや苛立ちはない。
 ただ煩わしさがある。状況に優先順位をもたらすことへのわずらわしさが。
 まずギガンティックダイウルゴスにより、巨竜の群れを召喚した。
 左手をかざして、召喚したそれらをデスチームの側へとけしかける。
 直後、気化爆発によるものと思しき閃光と轟音、そして衝撃波。
 龍どもはたじろいだ。ドラゴンテイマーは意に介さず、空へと羽ばたいた。
 ……この時デスチームが何をしていたか、感じていたかはいまはさておこう。
 ともあれドラゴンテイマーは、自らヘスティアを殺すことにした。
 そこでヘスティアの誤算が明らかとなった。だが無理もない。
(嘘でしょ――疾い!?)
 ホログラム、ダミーバルーン、さらにミサイルによる煙幕。フレア。
 電子・物理的な隠蔽と撹乱をもってしても、彼奴の目はごまかしきれず、
 そしてそれ以上に、ドラゴンテイマー自身は異常なまでに敏捷だった。
 背中の羽でぞっとするほどの速度を生み出し、有利な位置取りを模索するヘスティアに肉薄。
 ミスティルティンによる迎撃より早く、魔刃がその身をばっさりと切り裂いた。

 ……然り、ヘスティアはその身にクリムゾンキャリバーを受けた。
 斬撃は袈裟懸けの太刀筋を刻み、ジェットパックを破壊せしめ少女を地へと。
 だが、襲いかかるはずの黒龍の群れが殺到することはなかった。
 なぜか。理由は三つある。
 ひとつは、その役目を担うべき龍の一部が、デスチームを襲っていたこと。
 二つ目は、その他の龍も含めた多くが、気化爆発余波にたじろいだこと。
 そして三つ目は――ほぼ同時に起きた、大地の鳴動と妨害にあった。
 地面が……正しくはシステム・フラワーズ全体が、大きく音を立てて揺れた。
 一瞬の、しかし誰もの意識の外からもたらされた妨害である。
 これがダイウルゴスどもの足並みを乱した。ドラゴンテイマーは別だが。
 滞空していた恐るべき地獄は、虚無的な双眸でその発生源を睨めおろした。
 少女がひとり。不可思議なリボルバーの銃口をこちらに向けている。
 BLAM――ガギン!! 放たれたマグナム弾は当然のように切り払われた。
「言葉を重ねるようで悪いけど、"そこまで"だよ」
 不思議と声は届いた。バーチャルキャラクターの少女の声は。
 リア・ファル。機動戦艦ティル・ナ・ノーグのヒューマンインタフェース。
 ヘスティアのことは知らぬ仲ではない。介入しない選択肢はありえなかった。
 BLAM! 再度の射撃、これもやはりクリムゾンキャリバーに切り払われる。
「これ以上キミを好きにはさせない、当然放置もしない。危険だからだ!」
「ならば死ね」
 巨竜の咆哮が追従した。衝撃・閃光・そしてハッキングの三重の足止めも、
 群れそのものを完全に無力化するには至らない。さらなる追加召喚。
 リアはしかし、襲い来るダイウルゴスにあえて最低限の牽制射撃を行い、
 アンカーの目標をドラゴンテイマー自身に設定し射出した。
 ここでヤツをフリーにすれば、ヘスティアを殺しに行くとわかったからだ。
 落ちていく彼女を受け止めたかった。そのための愛機がいまはない。
「ボクはキミに挑む、って言ってるんだ!!」
「チッ」
 ドラゴンテイマーは無視して飛翔しようとする。アンカーがこれを阻む。
 小型ブースターによる多角的軌道で妨害――魔刃に断ち切られ爆散した。
(十分だ)
 リアはすでに跳んでいる。空間固定されたアンカーへロープを伝い駆ける。
 巨竜がワイヤーもろともリアを断裁しようとする。ファイアワークス展開。
「あ、ぐぅううっ!!」
 無茶がある。龍の爪なのだ。複合シールドで受けきれるものではない。
 宙空でバウンドするように舞う。受けながらもセブンカラーズで牽制射撃。
 BLAM! BLAM! 狙いはダイウルゴスとドラゴンテイマーに半分ずつ。
「あくまでも私を阻むか」
「このくらいでやられるほど、ボクは、ヤワじゃない……っ!!」
 状況が交錯し拮抗した。ここで、最後の誤算が訪れることとなる。

「なあ、おい、あれか? ひとりで死ぬのはお寂しいタイプか」
 出し抜けな声。ドラゴンテイマーは弾かれるようにそちらを見た。
 人形。人形と思しき、なんとも奇怪な風体の男がそこにいた。
 冒険家……あるいは無法者、はたまたトラベラーめいた薄汚れた旅装に、
 いくつもの入り混じった文明を感じさせる呪術的なアクセサリの数々。
 腰には剣呑極まる大口径拳銃を提げ、片手には鈍く輝く銀の鞭。
 頭部には龍の骨格を模したドミノマスク。何もかもがちぐはぐだ。
 それが却って、その人形が放つ威圧感と畏れを増幅させていた。
「次から次へと可愛いペットを喚び出してよ。爬虫類がお好きなアレか?
 なんでもいい、とっとと死んでくれ。いい加減飽きてきたんだ」
 BLAMN! 粗野な語り口の合間に差し込まれた突然の砲声。
 クリムゾンキャリバーが水銀めいた速度で切り払う。想定通りの対応。
 だが続けざま――つまり死角に潜ませた精霊までもが斬られたのは想定外か。
 無法者――ノストラ・カーポの双眸が剣呑に輝いた。虚無的な視線と交錯する。

 ……時間はわずか数十秒前に巻き戻る。
 実のところ、ノストラが状況に介入したのはさきほどが初めてではない。
 事象としてはリアが姿を現す前、つまりヘスティアが斬られた直後。
 デスチームとB29のM.A.X(マジック・エアー・エクスプロージョン)が、
 魔力気化爆発によってダイウルゴスの群れを怯ませた、まさにその時である。
「よっしゃ! さあ行くぜブラザー、船長にお返ししなきゃナ!」
『よい心がけですガージ。目標ドラゴンテイマー、ブースト最大出力』
 ゴシュウウッ!! 蒸気を噴き出し鋼の躯体が揺らぐ大地を駆け抜ける。
「うまくねえなあ」
「へ?」
「うまくねえよ。面倒くせえ」
 デスチームが素っ頓狂な声を出したのも無理はない。
 なぜならいつのまにか、男……つまりノストラが、B29の肩の上にいたからだ。
 帽子を片手で抑えながら、なにやらぶつぶつとつぶやいている。
「ちょ、あんた誰だよ!? 土足禁止だぞ!」
『裸足でも私のボディを足蹴にするのは止めていただきたいのですが』
「うるせぇな。それよかお前、あれじゃ足んねえぞ」
「は――あぁ!?」
 ノストラの言葉の意味は、センサーの大量警告で即座に理解できた。

 新手! 怯ませた一群とは別のダイウルゴスの群れが出現したのだ!
「そらみろ」
 文明侵略。無機物支配によるさらなる大量召喚。
「仕方ねえな、好き勝手やるとするか」
「あ、おいあんた!」
「まああいつぶっ殺すためだ、道は開けてやる」
 徹頭徹尾会話が噛み合わない状態で、ノストラは一方的に云う。
 そして――BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! すさまじい射撃!
 リロードという概念を海に棄ててきたかのようなマズルフラッシュ!
 生まれかけたダイウルゴスの"出がかり"を弾丸が叩き潰し、
 衝撃から復帰した個体を、放射された呪詛が腐らせて押し留めた。
「さっさと行け。お前も好き放題やりゃいい」
 速度がふたりを引き離した。デスチームは困惑に困惑を重ねていたが、
 そんな状況でないことは彼にもわかっている。奇襲攻撃を完遂せねばならない!
「まったくクソみたいな状況だナ! おいら頭おかしくなりそうだ!」
『ですがチャンスですよガージ。ドラゴンテイマーが足止めされています』
「ああ、ああ。わかってるよ、船長とあの女の子に感謝だ畜生め!」
『いまの失礼な方については?』
「クリーニング代を出してくれたら考えるよ!」
 蒸気を後に引き、デスチームと愛機がドラゴンテイマーへ疾走する。
 ではノストラは? 銀の杖を鞭めいて扱い、龍の間から間を跳んでいた。
 何も身を挺してデスチームを送り出したわけではない。そんな性質ではない。
「そうだ、好きにやれ。俺が好きにできるからな」
 彼らが暴れてくれれば、龍の目はそちらに集まる。
 つまり体のいい囮である。狙い通りにダイウルゴスはあちらへ殺到。
「んじゃ、ぶっ殺すか」
 追いすがる少数個体を弾丸と呪詛で退け、ノストラはドラゴンテイマーへ急いだ……。

 ――時間軸が再び、ノストラと敵の視線交錯に辿り着く!
「おいおっさん! 人のことデコイに使ってんじゃねーよ!!」
 ゴシュウ! 緊迫を切り裂いて飛び込んできたのはデスチームである!
 ドラゴンテイマーは、猛烈に接近してくる巨体に意識を向けざるを得ない。
 一方でノストラは無視。体内で魔術式を練り上げ解き放った!
「ちょ、こんなとこで竜巻起こすって何考えてるの!?」
 リアは仰天した。然り、ノストラが生んだのはプラズマの竜巻だ。
 敵も味方も意に介さない、あまりにも傍若無人な無差別攻撃である!
「躊躇してて殺せるかよあれが! どのみち躊躇なんざしねえがな!」
「……ッ!」
 ノストラの怒声はある意味で正しい。相手は強敵なのだ。
 己の体がどうだとか、味方がどうだとか考えていては後手も後手。
 互いが互いに影響を退けることを信じ、やれることをやる他にない。
 事実、竜巻に巻き込まれかけたデスチームはこれを急制動で辛くも回避。
 同じようにプラズマを避けようとしたドラゴンテイマーに白兵戦を持ち込んだ!
「……やるしか……」
「そうよ、やるしかない!」
「ヘスティアさん!」
 リアの声は快哉めいていた。海賊少女は頷いて無事をアピールしてみせる。
 ……傷跡は深く無惨なものだが、それでも彼女は死んでいない。
 死んでいないならば、やれる。いまこそ一泡吹かせるときだ!
「わたしが隙を生むわ、嘗められっぱなしで海賊やってらんないもの!」
「――わかった! うん、ボクらもいこう!」
 電磁竜巻が荒ぶるいまこの瞬間が好機。死線であり鉄火場だ。

「そこよッ!」
 言葉通り、ヘスティアがミスティルテインによる牽制射撃を行う。
 命中率を重視した射撃は、まさにいまデスチームの機体を抉ろうとしていた刃を打ち、一瞬だけの隙を生んだ。
「チ――」
「捕まえたぜうらなり野郎!!」
 ゴウウン――B29のマニピュレータがドラゴンテイマーを拘束!
 コクピットハッチが開き、デスチームがゲテモノ銃剣を手に飛び出した!
 パイルバンカーが炸裂。ドラゴンテイマーはこれを防がざるを得ない。
 つまりがら空きだ。逃れようにもノストラの竜巻がこれを阻む。
「そら、さっさと死ねよ。邪魔だからよ」
 ドラゴンテイマーは何かを言おうとした。そこにマイクロミサイルの着弾。
 龍共がインタラプトをかけようとする。動けるのはリアのみ……!
 わずかな逡巡があった。ここで仕留めそこねたらどうなるという迷いが。
 全てが水泡に帰す。ともすれば味方を巻き込みかねない。
 いや。だからこそ効果がある。やるのだ。やらねばならない。
「――アカシックドライブ解放、光子波動エンジンフルドライブ!」
 虚数空間接続、次元を越える空間門が、上空にこじ開けられた!
「ハッハァ!」
 ノストラが笑った。派手な花火が落ちてくるとわかったからだ。
「そうよ、やっちゃいなさい! あ、デスチームはうまく避けて!」
「無茶云うよナ船長は!(『もちろんやってみせますがね』)」
 ドラゴンテイマーが拘束を脱する。デスチームが緊急離脱する。
 ドラゴンテイマーは。リアを、瞠目し睨みつけた!
 やろう。今を生きる誰かの、明日のために。
「多元干渉波動主砲(クラウソナス)――明日を切り拓けッ!!」
 そして、次元を越えた恐るべき超破壊力が光の柱となって降り注いだ。
 ドラゴンテイマーを、黒龍を、竜巻もろとも光が呑み込む。

 あるいは彼奴は断末魔を残したかもしれない。もしくは捨て台詞を。
 それが猟兵たちに届くことはない。全ては光に包まれた。
 そして滅びが訪れた。あとに残るのは、焼け野原と猟兵たちだけ。
「――海賊を嘗めるからこうなるのよ」
 気絶を意思の力で辛抱するヘスティアが、スカッとした面持ちで笑う。
 サムズ・アップするデスチーム。顔を見合わせてほころぶリア。
 手を叩いて破滅を楽しんだかと思えば、ノストラはもういない。
 つまりは、彼らが勝利したのだ――恐るべき強敵に!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

パーム・アンテルシオ
敵の武器は…竜の群れ。意思を持った、生き物。
それなら、私にできる対抗策は…
お願いすること、かな。

尾に纏った気に、誘惑の力を乗せて。
霧のように、周りに振りまいて。
竜の群れにお願いするんだ。
「私を攻撃しないで」って。

あなたは、その子たちを愛してる?
あなたは、その子たちを、ただの道具として見てはいない?

大丈夫、言葉で答える必要はないよ。
あなたの中に、愛があるか。
その子たちが、あなたを、本当に慕っているか。
それはきっと、この先にわかる。

跳梁跋狐。
これは、今、この場にいる生き物に、私の味方をしてもらう力。
それじゃあ…みんなにお願い。
私の味方になって…あの人を攻撃して。

さぁ…どうなるかな?

【アドリブ歓迎】



●28人目の巡礼者:パーム・アンテルシオ
 黒龍ダイウルゴス。不思議だが、その名を聞くだに妙な恐ろしさがある。
 実際に転移されて戦場に来てみれば、いよいよ畏怖は現実のものとなった。
 一体一体が並のオブリビオンに匹敵、ともすれば凌駕しかねぬ暴威。
 それが五十、いや百――数えるのも億劫になるほどに。
(これだけの力があって、それでまだ何を求めるというの)
 パームは心の裡で呟いた。そして今度こそ、体の震えを抑えられなかった。
 ……"わからない"のだ。何を目的に、どうやって、何をしたのか。
 未知とは原初の恐怖である。ドラゴンテイマーは何者なのだ?
 想像がつかない。ただ、それがどうしようもなく恐ろしかった。

 しかし、臆していては勝てるものも勝てなくなってしまう。
 だからパームは努めて気持ちを切り替え、"尾"の存在に心を凝らした。
 やがて虚無じみた、形を得た地獄が目の前に現れたとしても、それはやめない。
 九つの魂の存在が、今日ばかりはいつもより近くに感じられる。
「――……子供か」
「そうだよ。見逃してくれる? ……なんてね」
 不思議と、ドラゴンテイマーと相対するパームに恐れは一切ない。
 それとわかっている恐怖に対し、彼女が臆し取り乱すことは滅多にないのだ。
 山を越えれば肝が据わる。彼女はそういう手合いであるらしかった。
 ぐるぐると、いつもの龍どもの唸り声が、遠雷めいて聞こえてくる。
「私に、お前たちと戦う理由はない」
 言外の慈悲である。さっさと消えれば無視する、と言っているのだ。
 なんと寛大な――裏を返せば傲慢な台詞。それに足る力があるとはいえ。
「……冷たいね。私、へそを曲げちゃうかも。ふふふ」
 あるかなしかの笑み。桃色の髪がどこからかそよぐ風に揺らいだ。
 パームの周囲には、不思議と甘い香のような匂いが漂っているように思えた。

 ……いや、事実、それは霧めいてかすかに周囲を満たしつつある。
 ドラゴンテイマーがどよもす紫色のガスと、それは対極のものに思えた。
「ねえ、あなたは、あの龍たちを愛してる?」
 謳うように、九つの尾を揺らしながらパームが問いかける。
「なんだと?」
「あなたは、あの龍たちを――あの子たちを、ただの道具として見ていない?」
 ドラゴンテイマーは無言……いや、言葉を失っているというべきか。
 龍どもの唸り声が近づいてくる。包囲は徐々に狭まりつつある。
 しかして……黒龍ダイウルゴスが、パームに襲いかかることはない。
 薄い桃色の霧、すなわち誘惑の魔力を込めた気が、周囲を、龍を呑み込む。
「あなたの中に愛があるなら。あの子たちが、あなたを本当に慕っているなら。
 ……私の声は、きっと届かないだろうね。歌も、聞こえないんじゃないかな」
 だがそれが生き物で、一瞬でもパームの声に耳を傾けたならば。
 たちまち心をとろかせ、魅了し、歌声で操ることが出来るだろう。
 跳梁跋狐(ちょうりょうばっこ)。それがユーベルコードの名。
 旋律はパームと魅了されたモノたちを強化し、そして守りとなり剣となる。
 無数の龍を従えるドラゴンテイマーに対しては、強力な武器と言えよう。
「ねえ、みんな」
 周囲は黒龍に囲まれていた。パームはそれを歌いながら見返す。
「私の味方になって。あの人を――あなたたちを苦しめる人を、倒して」
 声はひそやかに、しかし不思議とよく通るように。
 パームの魅了は並のものではない。ともすれば神獣すら魅了する。
 まさに妖しの歌声。抗える者は仙界にすらそうはいないだろう。
 だから少女は微笑んだ。微笑んで、歌い、あどけない眼差しを振りまいて――。

「――く」
 パームは弾かれたように声の主を見た。
 ドラゴンテイマー。虚無めいた無表情の男。……が、口元を歪めて。
「く、く」
 左手で目元を抑え、
「くく――はっは。は、ははははははは!!」
 笑っていた。堰を切ったように、天を仰いで爆笑していた。
 この男についてわからないことは多い。ほとんど全てと言っていい。
 だがパームにもわかる。この哄笑は、"らしくないもの"だと。
「何、が」
「愛と来たか!!」
 愉快で愉快でたまらないという声音だった。
「誰が誰を愛していると? 私が? これらを? ダイウルゴスを!
 ふ、く、くく……は、は! そうか、私は見くびっていたらしい――」
 いまだに笑いがこらえきれぬ口元を手で隠しながら、ドラゴンテイマーは云う。
「お前たちは、ずいぶんとジョークのセンスがあるようだ。
 よもやこの私をここまで笑わせるとは。いや、なんとも敵わんな」
 ……パームは凍りついたように動かない。動けないというべきか。
 何かがおかしい。何か――そうだ、ダイウルゴスどもは? 魅了は。
「効いたとでも思うかね」
「ッ」
 不安げに周囲を見やる少女に、ドラゴンテイマーは穏やかな声で言う。
「お前のその力が、奴らを魅了したと? 愛されていない哀れな者どもを」
 ……黒龍の群れは、無言。不動。命令に従う様子も、その逆もない。
 そもそも何らかの反応を見せてすらいない。つまり。
「聞こえ、て……な、い?」
「哀れなものだ」
「っ、ひ」
 少女は一転して、怯えた声音で恐る恐る地獄めいた男を見上げた。
 パームは、予期した危険には強い。だがそのぶん、不測の事態には。
「だがその無知と無謀が、あるいは予期せぬ結果をもたらしもするか。
 実にいい教訓となった。私はお前のことを、よくよく憶えておくとしよう」
 龍どもは。動かない。命令に従いも、それを嘲笑うことすらない。
 ただ見下ろすなか、赤い魔刃がパームをめがけ振りかぶられる。
「やめ――」
「残念だが」
 すとん、と、男の表情から笑みが落ちた。
「私は、お前の歌になど惑わされない」
 そして刃が落ちた。避けることなど不可能だった。

 ――パームの魅了の力は、強大だ。神なる獣すら酔いしれさせるだろう。
 だが彼女はふたつ思い違いをしていた。けして誹れぬ間違いを。
 ひとつ。ドラゴンテイマーの武器は黒龍ダイウルゴスだけではない。
 赤い魔刃。クリムゾンキャリバー。右腕を覆う恐るべき剣。
 たとえ龍の群れを従えたとて、これを覆す方法がなくば元の木阿弥である。
 そしてもうひとつ。ある意味ではそれこそが彼女にとって残酷なことだが。

 愛や信頼だけが、人と獣とを結ぶ絆ではない。
 そんな言葉ではくくれぬ、何かもっとおぞましい、名状しがたいモノ。
 ゆえにこそ、彼奴らは地獄じみた、得体の知れない敵なのだ。

失敗 🔴​🔴​🔴​



 少女を切り伏せた地獄は、復活を果たした男は、やはりただ静寂の中に佇む。
「私を滅ぼそうというのか、猟兵。グリモアを持つ者どもよ」
 ――理解できぬ。その一語に尽きる。
「だが、その不合理こそが……」
 謎めく男を紫の瘴気が包む。骸の海から再び来た闇を、滅ぼさねばならぬ。
月舘・夜彦
今は意味は無いとしても
だが、その先が軈て「何か」に繋がるとしたら
奴から感じる力は只者では無いからこそ胸がザワつくのだ
僅かでも力が如何なるものか、此の目で見極めなくてはならぬ

攻撃を躱す術は私には無い
ならば、抜刀術『八重辻』にて捌き斬る
全てを受け切れないのは承知
一撃でも多く……斬り返す

より速く、より強く、より多くの刃を以て斬り付けろ
痛みを捨てよ、肉は裂け、身は焼かれようとも腕を下ろすな
向かう牙と爪は触れる刹那、逸らす隙を見逃してはならぬ

八重が百重、千重となろうとも、此の刃を振るえる限り手は放さぬ
……高が一閃、然れど一閃
それがいつか、人の可能性に繋がるのかもしれない
私は、その可能性を信じる



●29人目の巡礼者:月舘・夜彦
 敵は強大、かつその目的は不明。自ら戦わない以上当座の障害でもない。
 グリモア猟兵をして"意味のない"と言わしめる戦いに、あえて――いや。
("意味がないから"こそ、"只者ではないから"こそ、だ)
 ゆえにこそ。
 それほどの力を持つ男が、なぜこんな争乱をしでかした。
 それほどの策謀を巡らせて、なぜひとり傍観者を気取っている。
 そのことを思うたび、夜彦は仮初の胸に言いようの知れないざわめきを感じた。
 いまは意味がないかもしれない。だがこの先もそうとは限らない。
 もしかしたら、はるか先、"やがて"『何か』に繋がるとしたのなら。
 ここで動かなかったことが、禍根として立ち上がってくるとしたら……。
(その目的、正体、そして力――たとえわずかだろうと、この目で見極めねば)
 ゆえにこそ。
 剣豪の形と技を得た物神は、かりそめの命をあっさりと擲つのだ。
 あるのはただ、恐怖ではなく前に進む意思だけだ。

 そして転移を抜け、夜彦は戦場――システム・フラワーズに立った。
 幹部級オブリビオンと、彼は直接の交戦経験はない。
 システム内部に降り立つのはこれが初めてだ。周囲には咲き誇る花々。
「まるで桃源郷の如し――いや、それにしては物々しすぎる」
 景色は美しい。咲き誇る花びらはまさに桃源郷、極楽のそれ。
 その本質がドン・フリーダムの言葉通り、無限の欲望を埋めるためであるなら、
 なんと皮肉なことだろう。だがシステムそのものに善悪はあるまい。
 問題は、この花園にじっとりと重く横たわる――あるいは覆いかぶさる――重圧だ。
(面妖な)
 口に出すことなく眉根を顰める。屍を晒す古戦場に似たおぞましさがある。
 同時に、今まさに万軍が争い合う恐るべき鉄火場めいてもいた。
 あまりにも強大な気配。その出処を探り当てるのはそう難しいことではない。
「では、征くとしましょうか――」
 愛刀・夜禱を腰に佩き、油断なき足取りで剣豪たる物霊はそぞろ歩く。
 やがて、その身は地獄めいた強敵と相対することとなろう。

 ……紫色の瘴気は、明らかに不穏な気配を放っていた。
 わけても恐るべきは、あの目だ。虚をたたえたかのような昏い瞳。
(いかに骸の海の化身とて、ああも禍々しい眼差しを見せるものなのか)
 得体が知れない、という表現以外に、適切な語彙が見当たらない。
 ヤドリガミとして長命を経た夜彦をして、それが現状であった。
「なるほど……噂通り、只者ではないようだ」
 竜胆の侍が常から見せる泰然自若とした穏やかさは、声音にはない。
 宿敵に見据えるような、研ぎ澄まされた刃めいた剣呑な警戒と敵意がある。
「剣客か。あいにく私は、お前たちのように座興を愛でる趣味はない」
「座興? ……我が剣を、興の類と誹るか」
 ぴくりと、夜彦の柳眉が揺れる。だが努めて精神を平易に保つ。
 臆してはならぬが、激してもならぬ。心の振れ幅はすなわち間隙だ。
 水面のように平たく、ひそやかに、対手の一挙一動に集中すべし。
「だがいかにも、私は剣客。所詮、万軍の攻撃を躱す術など、私にはない」
 彼我の最大の戦力差は、なによりも数にこそある。
 黒竜が雪崩を打って襲いかかれば、もはやそれで終わりだろう。
 もっともただ群れをけしかけるだけなら、夜彦とてやりようはある。
 捨て身で敵を斬る。ゆえに彼奴が無為な召喚をすることはない。
「ただ捌き、全てを斬り捨てるのみ」
「大した自信だ。私にとってはどうでもいいが」
 無造作に、ドラゴンテイマーが一歩を踏み出した。そして二歩。
「その驕慢をひとつ打ち砕いてやるとしよう」
 赤黒い魔刃が鈍く煌めく。剣豪のこめかみを汗が一筋伝った。

 ドラゴンテイマーの歩みは、無造作に見えてしかし隙がない。
 一瞬でも正中線がぶれて隙を見せれば、そこを断ち切る構えでいた。
 だが、そんな甘えは許されない。夜彦は接近を受け入れざるを得ない。
 ……いや、みずから選んだ修羅場だ。超えると決めた苦境である。
(意味はある。いずれヒトは、仲間たちはそれを見出す)
 ならば戦う。ヒトの可能性を信じる、ヒトならざるものとして。
 その大義に殉じることこそ、器物として生まれた我が身の本懐なれば!
「その重苦しい義務感と共に、死ね」
「断る。全て返してくれようッ!」
 クリムゾンキャリバーが揺らいだ。否、錯視。すでに刃は振るわれている!

 がきん!!

 刃と刃が鳴り合い、剣戟を弾いた。ドラゴンテイマーは顔を顰める。
 夜彦から攻めることはない。出来ないのだ。そんな予後には移れない。
 "八重辻"。全神経を敵手のそれに集中させ、全てを切り返す後の先の太刀。
 不動を強いるリスクと引き換えに、あらゆる攻撃を斬り払う抜刀術である。
「小賢しい」
「ならば斬って棄ててみせよ!」
 ふたつ。みっつ。よっつ。いつつ、むっつ!
 赤刃が打ち込む。夜彦はそれを徹底的に弾く。防ぐ。しかし。
「殺せ」
 いかに八重を刻もうと、斬り返そうと、それは限界のある無敵だ。
 わずかな間隙を縫って刃が、剣風が夜彦の体を浅く裂く。
 そもそも不動であるならば、ただ号令をかけてくびり殺せばよい!
「この男を、引き裂いて殺せ」
 ドラゴンテイマーは命じた。黒龍どもあ嬉々として従った。
 黒き破滅が殺到する。しかして夜彦はなおも不動。
 爪が来る。神速の抜刀にてこれを切り返す。
 尾が振るわれる。大地を薙ぎ払うそれをやはり切り返す。
 牙。翼。手。脚。何もかもを切り返す。
 前後左右、包囲した龍の攻撃をことごとく退ける。尽くを!
「ぬ、ぬううううう……!!」
 無謀だ。いかに彼が一流の剣豪であろうと限界はある。
 敵は無数。振るわれる攻撃は無数。やがて痛みがその身を蝕んでいく。
 肉は裂け、骨に届き、痛みは苦しみとなり苦しみが弱音を生む。
 もういいだろう。もう十分働いた。もう倒れるべきだと。
「否――!」
 裡なる己を切って捨て、より疾く、より強き刃を夜彦は振るい続ける。
 もはや斬撃はいくつに達したか。八重を越え百を超え、千を越えたか。
 無限にすら思える、まさに地獄の如き辛抱。辛抱、辛抱……そして!

 見えたり。必然の果てに来たる、霹靂の如き間隙!
「疾ッ!」
「ぬうッ」
 ドラゴンテイマーがたたらを踏んだ。受太刀からの瞬時の袈裟懸け!
 入った。剣閃に遅れて吹き出す鮮血、よろめく敵。夜彦はぎらりと目を輝かせる!
「……殺せ!」
「殺してみよ。私の刃はお前に届いた。今この瞬間」
 迫りくる龍共を睥睨しながら、ヒトならぬ者は云う。
「ならばヒトは、仲間たちはお前を滅ぼし、いつかのやがてに繋ぐだろう。
 それこそが希望だ。私は、その可能性を信じる。そのために剣を振るう!」
 倒れるならば、その身を礎として未来を護るべし。
 恐れはない。彼は、もしかするとそのために生じたのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔴​

清川・シャル
何事も根っこから断つのが大事です
という事でそれ相応の攻撃を受けてもらいましょう
一応猟兵ですしお仕事しましょうね

【P】
攻撃への対処。
耐えます。出来るだけ…!
オーラ防御、盾防御
高速詠唱を使い氷の魔法で盾を重ねて、激痛耐性で凌ぎます

攻撃に耐えながら敵の頭上にAmanecerを呼び出し、全力魔法、衝撃波、属性攻撃で超音波での聴覚攻撃
スピーカーから熱光線を光速で発射、串刺し、目潰し、スナイパー、一斉発射で視覚攻撃

同時にぐーちゃん零でUC
2回攻撃、吹き飛ばし、マヒ攻撃、毒使い

発射後即近接、近距離は修羅櫻で斬撃
隙を作る為にそーちゃんを投げ


攻撃には
見切り、カウンター、第六感で対応です



●30人目の巡礼者:清川・シャル
 禍根を断つ、という表現は、実際言い得て妙だろう。
 どんな物事であれ、根元をばっさりと断たねば終わりは見えない。
 正体がわからなかろうが強敵であろうが同じ話だ。
 なにより、猟兵であるならば、オブリビオンを見逃す理由はない。
 優先順位の問題はあるが――ようは、まあ、それだけだ。

 シンプルで軽々しくも思えるが、逆にだからこそ命を賭すに足る。
 少なくとも、シャルは(他人から見れば)それだけの理由で戦える少女だった。
 そうして敵を、ついにはラビットバニーをすら打倒してきたのだ。
 さらに遡れば、あの銀河皇帝にすら一矢報いた。つまりは腕利きである。
 若干12歳の少女としては、破格の戦闘能力と言える。

 ――が。
「く……!」
 瞬時に間合いを詰めたドラゴンテイマーに対し、即座に対応したのは見事。
 魔力を凝り固めて大気中の水分を凍らせ、分厚い積層盾を構築したのも素晴らしい。
 当然、これでクリムゾンキャリバーを防ぎ切るつもりはなかった。
 ようは勢いを減じればいいのだ。あとは耐える、ただそれだけだ。
 ここに来た理由と同じように、戦いもシンプルに。スマートにこなせばいい。
 だがシャルは、らしからぬ歯噛みをこらえきれなかった。
 なぜか。――その理由は一瞬あとに、本人がその身で理解することになる。
「甘いな」
「あぐっ!?」
 重い斬撃が、氷の盾をバターめいて容易く叩き斬り、シャルをも抉った。
 深い。骨に達したと思しき斬撃が、ぞっとするような量の血を吹き出す。
 燃えるような痛みは耐えられる。これまでもそうしてきた。同じだ。
 たとえ敵が強大であろうと、痛みは己が感じるものでしかなく、
 であればあとは意志力の問題だ。だから耐えられる。
 耐えられは、する。……耐えて、それで? それでどうする?
(敵の、頭の上! 召喚術式を――っ)
 シャルは激痛をこらえながら手をかざし、"Amanecer"を召喚した。
 そこから超音波を放ち、聴覚を揺るがして敵を脅かそうというわけだ。
 一瞬でも怯んだならば、さらにスピーカーから熱光線が襲いかかる。
 二段三段構えの攻撃。まず聴覚を、次いで視覚を潰す。これで布石が整う。

 だがシャルは見落としていた。単純だが致命的な見落としであった。
「――殺せ」
「!!」
 敵はドラゴンテイマーだけではない。耐えればいい攻撃は斬撃だけではない。
 召喚は成功した。大気を揺るがす超音波が一気にほとばしった。
 だがその時、シャル自身は、無数の黒龍に群がられることとなる。
「あ」
 そして地獄が訪れた。

 ……シャルは腕利きである。まさに歴戦の猟兵と言っていいだろう。
 魔刃の一撃を受けてなお攻撃の布石を立てる、意志力は小さな体に反して強靭だ。
 だから耐えられる。……耐えられて、"しまう"。
 ダイウルゴスが小さな少女に群がり、好き勝手に爪を振るう。
 つんざく聴覚攻撃によって苦しむ龍もいる。だが全てではない。
 であれば、無事な龍が彼女を抉り、あるいは噛みつきすらもする。
「ぐ、ぅううう……っ!!」
 意識が灼けかかる痛み。耐える。まだ布石は終わっていないのだから。
 群れが殺到するならば、熱光線で視界を灼いて散らしてしまえばいい。
 そして続けざまに、ユーベルコード"爆竜戦華"で全てを薙ぎ払う。
 四段構え。道を開いたならばドラゴンテイマーを、白兵戦で討つ。
 五段構え。いかにもすさまじい連撃だろう、敵は為す術もないはずだ。
(来る! 後ろから――新手? まだいるの!?)
 第六感を研ぎ澄ませ、痛みで麻痺しかかる感覚で群れを把握する。
 数はいくつだ。五十か、それよりも上か。いつ尽きる。
 攻撃を繋がねばならない。そのためには耐えて凌がねばならない。
 ……いつまで? いつ"その時"は訪れる?
 龍は無数に現れる。群れは次々に現れてシャルの全身を抉る。切り刻む。
 攻撃を繋がねば。だが耐えねば。いや、避けて間隙を。ああ。ああ。
「終わりだな」
 ドラゴンテイマーはもはや少女を振り返ることはなかった。
 そして黒い暴威にシャルは呑まれていく。呑まれて引き裂かれて……いや!
(嫌。厭だ。やだ!)
 少女は叫んだ。それだけは厭だ。ここで斃れてなるものか。
 気は待つものではない。ならば自ら好機を生み出す他になし!
 手段にこだわっていては後手も後手。動け。一矢報いるためには!
「勝手に――終わっただなんて、思わないでもらえますかっ!!」
「ほう」
 どうっ!! と、爆裂的波動が黒龍を退かせた。
 あらゆる武装を即時召喚し構えたシャル。その砲口が今度こそ全方位を狙う。
 強敵を相手に四手五手を見据えた行動など、繋げるのはまさに至難の業。
 であればこの一撃に全てを込める。魂の叫びを咆哮のように!
「戦場に響きし、我が声を――聴けぇっ!!」
 音波、熱線、物理的投擲と高速回転による徹底的な燼滅破壊!
 見えるもの全てを吹き飛ばす、無差別的な前のめりの飽和攻撃!
 黒龍はもはや近づけない。ドラゴンテイマーの身体を熱光線が灼いた。
「見ましたか! もう一発――」
 高揚した戦意に反し、身体が糸の切れた人形めいて崩れ落ちる。
 限界だ。もはや動けない。だが敵が攻めてくることもない。危険だからだ。
「……これだから、追い詰められた者の爆発力は恐ろしい」
「待って! 待ちなさい! 私は、まだ……!!」
 ドラゴンテイマーは瘴気を纏い姿を消す。シャルは追おうとした。
 動かぬ脚に唇を噛んで呻いて、やがて痛みをこらえきれず意識は闇に落ちた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

神代・優花里
事の発端をただ見逃す?そうは問屋が卸さないって話よね。ここで倒す。私には、私たち猟兵にはそれができるはず。

相手の先制攻撃の対処法はいたってシンプル。初撃をかわせばいい。相手も本気で当てに来るでしょうけどね。
フェイントに残影を重ねて的を絞らせない動きをしつつ、第六感を駆使して初撃を回避しましょう。
それでもまだ足りないかもしれない、それだけの相手。
もし初撃を当てられた場合カウンターで相打ちを狙いましょう。

私が使うのは命中率を重視した我流【三相】。
フェイント、二回攻撃を利用して攻撃回数を重視したと装う。
欲張らない、確実な攻撃を与えて次へと繋げましょう。

(アドリブ歓迎)



●31人目の巡礼者:神代・優花里
 目的はおろか、正体すらも定かならぬ強敵を、ここで滅ぼす。
 大言壮語と言ってもいい。ともすれば、子供の屁理屈じみた誇大妄想である。
 しかしだ。世界を越え、あらゆる法則から解き放たれた奇跡の力を使い、
 宇宙の根源たる骸の海と、そこから生まれる過去の残骸に無限の戦いを挑む。
 それが猟兵。世界に寵愛された者、あらゆるルールを逸脱した生命。
 ……そんな猟兵が、尋常の物差しで測られなければならないとは、妙な話だ。
 "普通"だとか"常識的"といった言葉で、生命の超越者を測ることはできない。
 ならばむしろ、大言壮語こそがいっそ猟兵に相応しいのかもしれない。

 ……と、優花里が考えているかどうかはともかく。
 神も仏も斬ってみせる、と豪語するあたり、彼女もそう遠いわけではない。
 恐怖をねじ伏せ、圧倒的戦力差を物ともせずに突き進むことが出来る。
 そんな強さを持っていることは、おそらく誰の目にも明らかだった。

 とはいえ、実際に戦場に足を下ろしてみれば、やはり実感というものがある。
 瀑布のように重たく横たわった重圧。先遣の猟兵たちが残したのであろう、
 おびただしい血痕や焼け野原じみた戦闘の痕跡、健在の敵の気配……。
(そりゃそうよね、事の発端なんだから小物なわけがない。でもこれは)
 解せない。幹部をもはるかに凌駕する強敵が、なぜ傍観を続ける。
 ドン・フリーダムに与するならば、あれと組んで待ち構えればいい話だ。
 よしんば第三勢力として、怪人勢力と敵対する存在であったとしよう。
 それこそ不可解。彼奴の戦闘力ならこんな大事を起こす必要はないはず。
(それだけヤバい目的がある。なら、見逃すってのは問屋が卸さないよね)
 叩かねばならない。疑念は優花里の決意を高めただけだ。
 そして、龍の唸り声と共に、その当事者が優花里と相対した。

 隙がない。絶対先制とはかくあるものか。これが、強大な敵なのか。
 ……実のところ、優花里はこれがほとんど初陣と云っていい。
 猟兵同士の模擬戦や、此度の戦乱における有象無象との交戦経験はある。
 無論それ以前の、剣士としての鍛錬も含めれば、けして素人ではない。
 しかし鉄火場には鉄火場の独特の空気がある。なにより敵は、恐ろしく強い。
「……あなた、一体なんなの」
 冷や汗をこぼしながら、唖然とした様子で優花里は云う。
 虚の如き双眸がじとりと見返した時、少女は射竦められたような錯覚に陥った。
「そんなものを提げていながら、言葉で答えを得ようというのか」
「……別に、答えてくれるなんて思ってない」
 憮然とした面持ちで言い返す。年頃の少女らしい口ぶりだが、
 内心は拗ねているというよりも得体の知れなさに臆しかけていた。
 過去の鍛錬を思い返し、心を強く持つ。精神修練がこのような形で役立つとは。
(敵の攻撃は二段構え。最初に剣、次に群れをけしかけてくる)
 再三再四説明を受けた敵ユーベルコードの段階を、脳裏で反芻する。
 クリムゾンキャリバー。
 それ自体が強靭な魔剣は、喰らえば黒龍の雪崩を向けるしるべとなる。
 隙を見計らったダイウルゴスどもは、たちまち優花里を引き裂くだろう。
 ……おそらく、死ぬ。喰らえば最後、優花里に逃れるような技量はない。
 ではどうする。残念ながら優花里の剣術は、受けに秀でてはいない。
(……やっぱり、避けるしかない。食らったら相打ちを狙うしか)
 二択だ。
 避けて殺すか、受けてともに死ぬか。
 ……17歳の少女が選ぶには、あまりにも酷薄な二択。
 誰かを呪うことも出来ない。自ら選んだ死線なのだから。

 きりきりと、張り詰めた緊張は大気を軋ませているかのようだ。
 陽炎をどよもすほどの対手の殺気は、いよいよその姿を巨大にすら錯覚させる。
 相対距離がおぼつかない。意識を集中すればするほど余裕を失うかのようだ。
(敵に囚われる、べからず。泰然自若と構え、無念無想に至るべし……)
 嫌気が差したこともある秘伝書の美辞麗句は、なるほどこういう時に使うものか。
 文字を読んだところで技は覚えられない。長ったらしい文章の塊だ。
 だがそれを読経めいて脳裏で思い返すと、不思議と心が休まるのである。
(……剣術の秘奥とやらも、蓋を開けてみるとあっけないな)
 もっと大悟するかのように、パラダイムシフトがあるのかと思っていた。
 こんな状況なのに、思わず苦笑が溢れる。頼れるのは結局己のみなのだ。
(考えるのはやめ。"やる"。出来なければそこで終わり。それだけね)
 シンプルな思考は結果として、彼女の精神を救った。大きな取り柄と言える。
 冷や汗が頬を伝う。相対距離はおよそ5メートル弱。踏み込み一度で足りる間合い。
 そして汗が顎へと達し、ぴちょん――と、花びらに跳ねた。
 優花里はほとんど無意識に動いていた。獅子吼を鞘走らせる。斬撃――!

 ……抜き放たれると思われたのは、フェイントに過ぎない。
 踏み込みはその重さに反して意外なほどに軽く、優花里は横っ飛びに。
 敵は動かない。見切られている。だが足を止めればそこを狙われる。
(動くしか。徹底的に!)
 死角を取りに行くと見せ、やはりこれもフェイント。舞うようにすり足移動。
 二度三度と斬撃予兆をばらまいた上で、殺気を放射し敵の意を釣る。
 こうして死線に踏み込んでみれば、その心は驚くほどに冷え切っていた。
(どうせ痛みなんてないんでしょう。それに、やれる。だから大丈夫)
 根拠があるのかと言われれば、はっきり言葉にできるものはない。
 彼女は猟兵として未だ新米だが、ゆえに無知の知めいたものを識っている。
 時として、その無謀と蛮勇が若者を救う――見よ! 残影が二つ重なった!
(ここね――ここだ。ここしかない!)
 踏み込み。拍子をやや外して今度こそ抜刀、横薙ぎを振るう。
 敵の狙いは喉元への刺突と見た。理由はない、完全な直感だ。
 身を低く屈めて、懐に潜り込んだ上で巻き上げを放ち胴体を裂く算段。
 そして――敵の右腕が霞んだ。刺突! 優花里は瞠目し目を細める!
「もらった……ッ!?」
 優花里は再び両目を見開いた。ここにないはずの刃が、脇腹を貫いていた。

(やられた)
 虚無的な瞳が絡み合う。フェイントだ。刺突は見せかけだった。
 本命は斜め下への突きおろし。軌道を読んだ上での迎撃――まんまとかかった。
「こふっ」
 内臓がやられたか、血を吐く優花里。……ここまでは敵の想定通りだ。
 龍どもが身じろぎした。だがここで、今度はドラゴンテイマーが驚愕した!
「な――」
「せ、やぁあっ!!」
 優花里は、あろうことか! 自ら一歩踏み込んで刺突を放ったのだ!
 なんたる無茶! 臓物はさらに裂かれ、おびただしい血が口から噴き出す!
 いわば相打ち狙いの覚悟の上でのカウンター。巻き上げからの刺突移行。
 刹那において、己の命すら秤に載せて一撃を取りに行く。これぞ。
「我流、"三相"っていうのよ……かふっ」
 ドラゴンテイマーは……優花里の身体を蹴り飛ばし、たたらを踏んだ。
 胸部中央。わずかに心臓から逸らせたのは彼奴の機転ゆえか。
「私に、一太刀を浴びせる……か、これは……」
 男もまた滂沱の血を吐き出す。龍どもがざわめく。視線が黙らせた。
 殺すか。殺さねばならない。この才気、ほうっておくには危険すぎる。だが。
「……この疵、忘れはすまい。今の身が滅びたとしてもな……!」
 不服げに呻きながらドラゴンテイマーは群れとともに退く。一矢報いた。
「ざまあ、みなさい……次の誰かが、あなた、を……が、は」
 優花里の意識は途切れた。だがそこに苦痛や不安はない。
 あの澄ました顔が絶望に歪む、その確信と希望の兆しを感じていたからだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
挑む意味の無い『影の立役者』ですか。
それはそれは…お逢いしたくなるってもんです。

無数なら巨体の下暗しを狙い、少数なら“見切り”に注力。
避ける際は右へ、右へ。
恰も無意識の如く、真には予想を定める為。
取り得る手を、明らかな隙を、敵味方の可能性を絞りに絞り、
ただ一手に繋げる為のUC――伍式。

あの男…否、あの竜さえ、人の手には余るもの。
勘ですが。
そんなゾッとしないもの、一兵でしかない己に、倒せる等と驕れない。
ない無いナイ尽くしでとんでもない相手…
でも、確信ならありますよ。
皆さんになら繋げられる。

届く間合いに入れればいい。
操る鋼糸、狙うのは剣なる右腕、その接合部。
その剣、大事そうだなって。
やはり勘ですが



●32人目の巡礼者:クロト・ラトキエ
 ラビットバニー、2回。
 ウィンドゼファー、1回。
 さらにこのあとの時間軸において、クロトはドン・フリーダムをすら1度。
 この世界を侵略せしめた強大なオブリビオンを、討滅あるいはその礎となった。
 だからこそわかる。"幹部級怪人よりも強大だ"という、言葉の意味が。
 当の敵――つまりドラゴンテイマーは、意外なことに手負いであった。
 刀傷がふたつ、熱線と思しき焼灼がひとつ。相当の死線だったはずだろう。
(よくやってくれました、皆さん)
 斃れた仲間たちのことを思い、クロトは心の中で瞑想的に労りを送る。
 黙祷? 縁起でもない。そもそも、猟兵がこのぐらいで死ぬものか。
 ……たしかにそれを危惧せねばならぬほど、彼奴のオーラは厖大ではあるが。
(挑む価値のない"影の立役者"。ええ、やっぱりお逢いして正解でしたね)
 機を探る……いや、もはや彼奴はこちらの接近に気付いているであろう。
(――絶対に倒さなければならない、その想いが確信になりましたよ)
 ゆえにクロトもまた、死線に己の身を惜しみなく曝け出す。
 全ては、謎めいた邪悪に一矢報いる、その礎となるために。

「……ダイウルゴス、来い」
 そしてクロトの予測どおり、彼が目視する前から存在を察していた敵、
 ドラゴンテイマーは、胸の杙創を抑えながら唸り混じりに召喚式を起動した。
 ずしん、ずしん、ずしん!! 降り来たる無数の巨躯! 黒龍の群れ!
 これ以上の負傷は荷が勝つ。ドラゴンテイマーは追い詰められていた。
(忌々しい。だが、ここで出方を見ておいて正解ではあった)
 謎めいた深謀遠慮の行く末はどこか。いまはさておくべきだろう。
 虚無的な瞳があたりを睨む。敵はいる。一体どこから来るのか――。
 いや。それよりもこの巨竜の群れを『どう運用するか』が重要だ。
 敵は飽和攻撃で攻めてくるか。あるいは隠密行動でこちらを狙うか。
 前者ならば多数で、後者ならば少数で隠れる場所を削ぎ落とすべし。
 ……そもそもこの戦術的二択が、ドラゴンテイマーにはらしからぬものである。
 呼び、差し向ける。おおよその敵はこれで決着がつくゆえに。
「……展開しろ。決して通すな」
 ドラゴンテイマーは前者を選んだ。一矢報いた少女の意気が響いたか。
 だがその選択が、まさにクロトにとっては青天の霹靂となる。
『これはこれは、わざわざ最適な場所を用意してくれるだなんて』
「!!」
 どこからか声がした。上か? 否――これは。
「下かッ!」
「おっと、見つかってしまいましたか?」
 巨竜の股下に潜り込んでいたクロトがあっさりとおどけてみせる。
 頭上の龍が小さく跳ね、巨体でクロトを捻り潰そうとする。遅い!
「そう簡単に、アリのようにはいきませんよ?」
「殺せ……!!」
 クロトは徹底的に、半ば条件反射めいて左右に反復し猛攻を避ける。
 数は圧倒的。おそらく百に上るだろう。だがクロトにとってはひとつだ。

 伍式(フュンフ)。

 それこそ無限めいて存在する"可能性"を、無限から"1"へと固定する術式。
 されどそれはあくまで予想。ユーベルコードは因果律すら覆すだろう。
 絶対ではない。だがクロトはこれを絶対と定め、己の命を預ける。
 そうでなければならない。0と1の揺らぎを掴み取るのは己自身の意思と技!
「ちょこまかと……ッ」
「――しんどそうですね?」
 レンズ越しに、クロトは鷹めいて目を細めて敵の負傷程度を見て取った。
 おそらく己も含めて、あと2――いや、三手。三手で敵は地金を晒すだろう。
 ではどうすれば後続が繋がるか。可能性を狭めるには如何にして戦うか。
 鋼糸を手繰る。狙うべきはどこだ。足か。首か。耳か、鼻か。
「――その右腕」
 どれでもない。クロトが見据えたのは赤黒き魔刃。クリムゾンキャリバー。
「ずいぶんと大事そうですね……ッ!!」
 回避行動の直後に糸を放つ。不可視のそれが右腕付け根に……絡んだ!
「戴くとしましょうか!」
「そうはいかんな……ッ」
 ドラゴンテイマーは、糸が引き絞られる前に躊躇なく左手でそれを掴んだ。
 肉が抉れて骨に到達する。ぎりぎりと引き絞られる糸、競り合う力!
「悪あがきを……!」
「それはこちらの台詞というものだ、猟兵め。天敵どもめ」
 互いの額に脂汗が滲む。クロトの両手からも血が滲み、奥歯が罅割れる。
 そして――おお。拮抗を破ったのは巨竜の横槍。クロトは……クロトは!
「――私としては、らしくないんですがね」
 薄く笑い、あえて振り下ろされた爪を受けた。満身の力を込めながら。
 糸が断ち切られる。すさまじい砂埃がその姿を覆い隠す。
「ぐう、う」
 ドラゴンテイマーは片膝を突いた。右腕付け根からはおびただしい出血。
 切断は、免れた。だが肉は四割近くを抉られ、血を噴き出している。
「……猟兵……!!」
 地獄の底から響くような声音。いよいよ、敵は追い詰められつつある。

成功 🔵​🔵​🔴​

皐月・灯
……ただもんじゃねーな、この野郎。
だが、てめーのやり方は気に食わねー……放っとくわけにゃいかねー。

《断切ル迅翼》で勝負をかける。

当然、あの右腕は厄介だ。
幾対もの翼だって飾りじゃねーだろ。
剣の右腕を当てようと、ヤツが何を仕掛けてきてもおかしくねー。
……だが少なくとも、ヤツは自分から、オレの間合いに入ってくる!

交錯する一瞬をものにする。
「右腕」の軌道を【見切り】、【カウンター】での切断を狙う。
【全力魔法】を発動しとくのも忘れねーぜ。

……確かにてめーは強いがな。
それだけだ。
こそこそしてるてめーよか、ゼファーの方がまだ速かったぜ!

ヤツの余裕を叩っ斬れ──オレのアザレア・プロトコル!



●33人目の巡礼者:皐月・灯
 ドラゴンテイマーは弱敵ではない。見くびる輩はみな斃れた。
 では警戒していれば勝てるのか。否である。その予測を超えるのが強者なのだ。
 この戦場以外で、あの男と戦い斃れた猟兵はどれほどいるのだろうか。
 百か。二百か。それで結果を掴み取れるとは限らない。当て所なき戦い。

 無意味だ。無謀だ。無駄だ。そして、無理だ。無茶だ。
 聞き飽きた類の文句である。愚か者が好む鳴き声のひとつだ。
 灯は心からそう思う。そうのたまう奴らほど、自分では何もしないのだ。
 でなくば己はどうしてあんな無惨な過去を過ごした。
 なぜ誰も救ってくれなかった。どうして誰も――否。否、これは余計だ。
「糞ッ」
 らしからぬ思考に至ったのは、充満する重圧がためだろうか。
 灯自身が思っている以上に、ドラゴンテイマーへの恐れが強いのか?
 だとすればそれこそ"くそったれ"だ。敵にビビるような鍛え方はしていない。
「しっかりしろよ、オレ……考え事してる場合じゃねーぞ」
 フードを剥いでガリガリと頭をかく。らしくない苛立ちが募る。
 実のところ、それはやや屈折した少年なりの、本能的なサインであった。
 弱みを見せられないまま猟兵として一人前になったからこその攻撃的衝動。
 事実、恐怖はある。ともすれば震えが起きかねない。認めよう。
 だがそのとおりに臆して何の意味がある。
 ましてや、苛立ちに変換して当たり散らしても無駄もいいところだ。
「…………」
 灯は瞑目し、調息をした。深く深く息を吐き、長く長く息を吐く。
 雑念を棄て、自らの五体を廻る魔力の息遣いを感じる。
 そして魔力回路を通じ、世界と接続し諸力を汲み上げる。魔術拳士の極意の一。
「……やるしかねーんだ」
 目を開けた時、もはやそこに怒りも恐れも、揺らぎは存在しなかった。
 地獄など、とっくに見てきた。命を拾い損ねたことも数知れない。
 ――生きるために戦う。生きるために、死ぬような場所に赴くのだ。
 風を超える暴風を捉えた。ならば次は龍を操る龍を捉えて、仕留めてやろう。
 知らずうちにアミュレットを握りしめていた。少年はもはや迷わない。

 クリムゾンキャリバー。灯の焦点はただその一点に絞られている。
 ダイウルゴスの群れも脅威ではあるが、彼の闘法では対処しきれまい。
 一点集中。雷よりも疾く駆け、冬のように冷たく研ぎ澄まされた一撃を。
 らしくもなくよぎった過去の記憶を、沈めずにあえて脳裏で弄ぶ。
 荒んだ過去。ただ一人生き残った記憶。苦いものがこみ上げる。
 そこから憎悪と敵意、何者にも負けぬという逆境精神のみを汲み上げる。
 黒炎で己の心と身体を炙るかのような、ともすれば自暴自棄なスイッチング。
 だが、遥かに良い。戦いへの躊躇と恐れが鈍って消えていく。
(……居た)
 ドラゴンテイマー。負傷は相当だ、灯はもはや逡巡しない。
 殺気を放射しながら、隙だらけの足取りで無造作に前に出て近づく。
 両者の相対距離、およそ15メートル。互いに足を止めた。

「……ただもんじゃねーな、てめー」
 浴びせられた殺気と敵意は可視化されるかのように色濃い。
 反射的に敵の隙を探り、いかにして飛び込むかのイマジナリを思い描く。
 直線。迎撃のクリムゾンキャリバーで胴体を両断されて死ぬ。
 死角を取ってからの不意打ち。回り込もうとした先で縦に断ち割られよう。
 では頭上――最悪手だ。おそらくそのまま地上に戻れずバラバラになる。
(ヤツは自分からオレの間合いに来る。いや、そうさせなきゃならねー)
 でなくば、死ぬ。ウィンドゼファーを破ったカウンターに賭けるしかない。
「退け」
「やだね。オレはそういう上から目線の野郎が大嫌いなんだ」
 若者らしい野卑な口調で言い返しながら、灯は魔力回路の励起を促進した。
 今となっては、この心臓を突き刺すような殺気すらも心地いい。
 呼吸から取り込んだ微弱な魔力は、煮え滾るような灯の黒い殺意と混ざる。
 これはきっと、まともな戦い方ではないのだろう。
 長期的に見れば自罰的、自虐的に過ぎる、破滅的な戦い方なのだろう。
(いいさ。オレはそれでいい。今までもそうしてきた)
 そして憎悪と怒りの炎を――いや。
(……本当に、それでいいのか?)
 これまでの戦い方。それまでのやり方で、この男に勝てるのか。
 おそらくは、勝てない。ならばどうする。一矢報いるためには。
(けどオレには、なにもないオレにはこれしか)

『貴方かっこいいわよ、アカリ!』
『そんなふーに意地はってるうちは灯くんもまだまだ子供だねっ!』
『まぁ任せろよ。筋書きは俺たちの勝ちさ。俺の脚本は揺るがないんだぜ?』
『私がちゃんと、お前におかえりって言えるように、一緒に帰ろう』
『あたしね、灯くんが初めての友達だから、その――』

「……やめた」
「……?」
 ドラゴンテイマーにわずかに訝しむような気配。当然だろう。
 だが灯は頭を振り、やおらフードを剥がしてリラックスし、云う。
「やめだ。あれこれ考えんのは、やめた。てめーは気に食わねー。だから潰す。
 正体とか、目的とか、知るかよ。……かかってこいよ、インケンヤロー」
 ちょいちょいと指で招く。あからさまな挑発である。
 ドラゴンテイマーが乗るはずは……だが不可解にも彼奴は動いた。
 いや当然だ。奴は"そうせねばならない"のだ。負傷がその理由である。
 灯を相手ににらみ合いを続ければ、それだけ相手が不利になる。
 であれば一撃で殺す。そのための力がやつにはある。
 黒龍は確実性を上げるためのオプション。とどめは己がくだせばよい。

 一方で灯の精神は、オーバーフローしたかのように凪いでいた。
 怒りも、悲しみも、憎悪も、郷愁もなにもない。ただ敵だけが見える。
(理由とかんなもん、知らねー。やりてーからやる、そんだけだ)
 それだけでいい。命を賭ける理由も、そんなもので十分だ。
 間合いが詰まる。主観時間が鈍化することはない――緊張がないからだ。
 しかして彼の五感は敵の動きをつぶさに感じ取っている。間合いが……!
「死ね……!」
「――てめーよ」
 刃が振るわれた。だが灯は死んでいなかった。
「遅すぎるぜ」
 代わりに、灯のはるか後方、どさり、と右腕が転がる音がした。

 何が起きたのか。これもやはりシンプルな結果だ。
 敵が打ち込んだ。灯は魔力を込めた拳で、その付け根を叩いた。
 《断切ル迅翼(フレスヴェルグ・ドライブ》。アザレア・プロコトル"4"。
 無造作に。自然に。なぜならあの風の王よりはよほど遅いゆえに。
「こそこそしてるてめーよか、ゼファーのほうがまだ速かったぜ」
「……ば、かな……!?」
「たしかにてめーは強い。だが"それだけ”だ。ならオレは負けねえ」
 双眸が輝く。リレイした魔力が再び彼の拳に宿る!
「余裕は消えたか? だったら首も叩っ斬ってやる――」
 この力はそのために。この技は、そのために!
「オレの、アザレア・プロトコルでなッ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
侵略する如く迫る竜の群に、先手を許すことだけは織り込んでおく
掻い潜ろう

「地面を穿つ蹴り脚」、「同時に衝撃波を炸裂」しその反動に乗る
『2回攻撃』を使う歩法
先制攻撃に対する為に用いるのは、己が出来るその最速の機動
なんとしてでも、潜り抜ける

攻撃を食らうだろう
幾度も打たれるだろう
しかし、その全ての撃力を魔力として貯蔵
疾き風をそうして穿ったように
今度は、それをあの竜使いにぶつける

あの時は、百%に満たない出力、伝導率だった
今度は違う


――壊鍵、過剰装填
撃殺式、起動


右腕の物理強度を最重点強化
そこに設計限界の七〇〇パーセントの『衝撃』を装填

ただ一打。
これこそが、
――ドラゴンテイマー。お前を穿つための魔剣だ



●34本目の魔剣:壥・灰色
 何もかもが支配され、天地が揺らぎ変貌していた。
 それはさながら、怒れる神が不完全なる世界を滅ぼすかのように。
 花が。大地が。壁が、何もかもが黒く変色し、龍となって起き上がり、咆哮す。
 圧倒的である。もはや逃れられるものなど、誰もいないのではないか。
 ダイウルゴスの数は数え切れぬ。ともすれば3桁、いや4桁にすら。
「――あそこか」
 されどその暴風じみた龍の巣へ、まっすぐにめがける灰色の輝きがあった。
 爆ぜた大地を蹴りながら、弾丸を超えて光めいた速度で大気を切り裂く孤影。
 衝撃に比例して、蹴り下ろすたびに大地は抉れて砕ける。
 そのクレーターじみた凹面すらも黒龍に変じ、少年を追いかける。
 前には龍の巣。背後からは追手となる龍どもの気配。
 ダイウルゴス。並のオブリビオンすら凌駕しうる獰猛なる龍。使いのしもべ。
 灰色は意に介さない。一瞥すらせずに、足で地面を蹴り跳ぶ。
 ドウ――炸裂した土をも微塵に吹き飛ばす、衝撃波が大気を揺るがせた。
 その残滓が、追手となる龍どもを怯ませ、引き離していく。

 では前にわだかまる黒き闇、破滅の卵、龍の巣の者らはどうか。
 当然怖れることはない。むしろ獲物の到来を歓喜すらしていた。
 吼えて、唸り、翼をはためかせ空を地を埋め尽くして灰色を迎え入れる。
 愛しき我が子を、温かい我が家に迎え入れる親のように。
 現世の苦しみに疲れ果てた、哀れな弱者を招き入れる死神のように。
 いっそ、その波濤は歓迎のようですらあり、暴力がライスシャワーめいて降った。
 爪。
 牙。
 尾。
 翼。
 腕。
 足。
 巨体そのもの。

 抉られる。
 吹き飛ばされる。
 噛み砕かれる。
 弾き飛ばされる。
 薙ぎ払われる。
 押しつぶされる。
 叩きのめされる。

 そのたびに灰色は大地をバウンドし、あるいは跳ねすらせずにめり込んだ。
 そして次の瞬間には立ち上がり、表情を変えぬままにまた跳躍する。
 前へ。無理矢理に避けられたとしても、次の瞬間には倍の速度で倍の距離を。
 与えられた疵の全ては彼の体内に魔力として貯蔵され、全身を駆け巡る。
 おびただしい出血。筋組織が抉れて外向きに開放され、風になびく。
 意に介さない。むしろ好都合とばかりに、魔力をプールしやはり跳ぶ。
 前へ。向かう先は巣の最奥、このカタストロフのグラウンド・ゼロ。
 そこにやつがいる。それがこの術式の絶対法則だからだ。
 領域は今も拡大している。半径はどれほどだ。意に介さない。
 前へ。中心へ。円の中心、文明侵略のはじまりたる場所へ。跳ぶ。走る!

 そして極点たる中心部では、全身を朱に染めた男がふたりいた。
 かたやドラゴンテイマー。この破滅を生み出した、謎めいた地獄そのもの。
 かたや皐月・灯。彼奴の右腕を切断し、ここまで追い詰めた少年。
 然り。もはや魔刃はドラゴンテイマーの身体を離れ大地に転がる。
 灯ひとりがそれを為したか。無論、否である。
 挑んだ者たちが居た。
 刃をもって千の暴威を退け、一太刀を浴びせた剣士がいた。
 意地を貫いて龍も敵をも薙ぎ払い、その疵を灼いた少女がいた。
 鋼の糸をもって己の身を厭うことなく、深い傷を抉った優男がいた。
 それだけではない。誰が欠けてもこの状況はありえなかっただろう。
 そしてドラゴンテイマーは、さながら開放された大地の怒りめいて、
 文明侵略の力でもって何もかもを覆そうとしたのである。
 ――つまり、あと一撃。存在核を砕く一撃があれば、彼奴は滅びる。
 であればもはや、まっすぐに跳ぶ灰色の輝きが迷うことはない。
「――壊鍵、過剰装填(オーバーロード)」
 "撃殺式(カルネージ)"起動。ほとばしっていた緑の魔力が逆に収束する。
 全ての余力を右腕一本に。物理強度を強化。鋼など比肩にならぬほど。
 ……そもそも、灰色という魔剣には、リミッターが存在している。
 当然だ。どれほど強力な兵器とて、自壊しては意味がない。
 何もかもを吹き飛ばす爆弾ならばいいだろう。だが魔剣は違う。
 効率よく、継続的に、計算の範囲内で運用されるべき武装だったのだから。

 ではその限界の中で、敵に勝てるか。
 これまでのあらゆる強敵をも凌駕する相手に、勝てるのだろうか。
 否。断じて否。限界を超え、死力を尽くし、足掻きにあがいてようやく五分。
 だが、必然を積み上げて結末に至るなど、魔剣にとっては後手も後手。
 であれば答えは単純だ。『己を厭わず敵を破壊する』――それだけでいい。
 そのためならば、腕も、脚も、いわんや己の身体をや。何ほどのものか。
 しかして、衝撃を叩き込む焦点だけは壊れてはならない。
 ではそれを保護する。『自壊を前提に局部を防護する』という逆転発想。
 タガの外れた魔剣論理。ゆえに無敵必殺、否、"撃"殺。血肉を以て血肉を産め。
 滅びを以て滅びを生むべし。ただ一撃。ただ一打。すべてはこのために。
 最後のステップを踏みしめる。腰部から膝、足首、爪先へ衝撃伝導。
 地を蹴る。灰色、瞬間時速2000キロを突破。その姿は音をも超える。
 ラビットバニー。ウィンドゼファー。越えた敵を糧にこの一撃へ辿り着いた。
 多くの猟兵が斃れ、礎となり、この一瞬を生み出す糧となった。
「――なんだ、あれは」
 ドラゴンテイマーは呆けたように呟いた。
「わかんねーのか?」
 倒れそうな灯が云った。
「てめーの死神が、来たんだよ」

 衝撃装填。設計理論上の耐衝撃負荷限界比、およそ700%オーバー。
 ヒトの身体はそのような衝撃に耐えられない。であれば同時を捻じ曲げて耐える。
 龍に抉られたこの身は耐えられるか。さあ。知ったことではない。
「穿つ」
 ドラゴンテイマーは、おそらく防御姿勢を取ろうとした。
 龍が間に割って入ろうとした。遅い。あまりにも遅い。

 魔剣到達。
 かくて破滅の槌が降ろされた。衝撃浸透……!

 右腕は無事、だが伝達衝撃が肩甲骨周辺から爆ぜて解放粉砕骨折。
 背中から噴き出した熱血すらも、クォークに散って霧めいて消えるほどの衝撃。
 大気が押し出される――天を揺るがす轟音!!

 余波が、花々を吹き飛ばし生まれた黒龍をすべて消し飛ばした。
 爆心地。たまらずふっとばされた灯が、ほうぼうの体でクレーターを這う。
「……めちゃくちゃじゃねーか、これ」
 男が立っていた。右腕だけが不思議なほど無事な、真っ赤な男が。
 亡びはもはやない。地獄はもはやない。いかに地獄とて、闇とて。
「――これが、"魔剣"だ」
 未来をも捨て去った一撃の前には、塵に還り滅びるのみ。

成功 🔵​🔵​🔴​



 瘴気が。凝る。
夕凪・悠那
溢れ出る裏ボス感
でも見逃すって選択肢はないでしょ
タダで帰したらロクな事にならないのはわかり切ってるんだよ

先制攻撃は『仮想具現化』で実体化させた機怪鳥に乗って潜り抜ける
小さい標的だから少しは捕らえ難いはずだ
ドラゴンの攻撃範囲・配置・挙動を[見切り]、死角は[第六感]に頼って、乗機を[操縦]して[空中戦]で切り抜ける
一先ずは[属性/範囲攻撃/衝撃波]のチャフ擬きで目を潰して[時間稼ぎ]

本命への道が空いたら速攻で叩き込む
属性充填して威力マシマシにした[誘導弾]ミサイル、たっぷり食らえ!
まあ正面から撃っても当たらないだろうけど――
[早業]の座標指定、【座標改竄】でミサイルを転移させる
ちょっと油断したね



●34人目の巡礼者:夕凪・悠那
 おおよそのゲームにおいて、裏ボスの類はだいたい黒幕か真の邪悪である。
 この手のは古今東西いくらでも例がある。
 さもアチーブメントでございといった顔をしておいて、
 実際は裏ボスを倒し(しかも大抵やりこみクリアした上で)て初めて、
 やっと本当の意味でストーリーがハッピーエンドと迎えたりする。
 バトルゲーマーたるもの常識だ。であれば、悠那が闘う理由には十分。

「タダで帰したらろくなことにならないってのはわかりきってるんだよ!」
 電脳魔術プログラム"仮想具現化"で現実化させた機怪鳥に乗り、悠那は叫んだ。
「やるしかないよ、やるしかないけどさあ! これチートすぎるでしょ!」
 少女は再び吼えた。ヤケだ。立ちはだかるザコがあまりに多すぎるからだ!
 ギガンティックダイウルゴス。ただでさえ巨大な黒龍の多数召喚。
 嘗めていたと言わざるを得まい。数は明らかに三桁に到達している!
「ヘリコプターじゃなくてよかった、絶対落ちてるよこれ……」
 ゲーマーあるあるのジャーゴンでぞっと背筋を震わせつつ、頬を張って冷静に。
 幸い、小さい的ならば巨体を撹乱できるという悠那の見立てはあたっていた。
 ただ数があまりにも予測を超えている。ここからは腕の見せ所だ。
「発狂地帯かってーの……!」
 一瞥でドラゴンの攻撃範囲、配置、そして挙動を可能な限り見切り、
 予測された死角を縫うように、時には股下をくぐるようにしてきりきり舞いに。
 ダイウルゴスとて、小さき者がすいすい進むのは大変に業腹である。
 進めば進むほど、後ろから聞こえてくる咆哮と羽音が増えるのだ!
「絶対見ない、絶対見ないぞ……!」
 操縦に全神経を集中させながら、目眩まし代わりのチャフを撒いて速度上昇!

 そして見えた。悠然と佇む孤影――ドラゴンテイマー!
(やばい。思った以上なの、誰よりコイツじゃないか)
 ぞっと底冷えするような重圧。いまさらながらに強敵たる所以を理解する。
 だがここで少しでも速度を落としたり、万が一にでもコースを変えたなら、
 たちまち龍どもは機体もろとも悠那を引き裂きばらばらにするだろう。
 止まれない。ミサイルを装填、照準を敵に合わせ――!
「…………」
(嘘でしょ)
 見られた。こちらの攻撃を予測しているというのか?
 だがボタンは押された。電脳ミサイルが発射され……噫。予測どおり。
 一発目は無惨にもクリムゾンキャリバーに叩き切られ、空中で爆散。
 だが悠那は。なぜだ、笑みを浮かべている!?
「――ちょっと油断したね?」
 直後! 二発目のミサイルがワイヤフレーム状に変質消失し、
 ドラゴンテイマーの背後、超・超低空に再出現した!
「!!」
「フォックスツー、フォックスツー! なんてね!」
 グオオオウ――KA-BOOOOOM!!
 着弾。成果を確認する余裕はない。
 悠那は即座に反転し、龍の追撃を逃れて戦域を離脱。
 これが、次なる戦いの、華々しい文字通りの嚆矢となった。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイ・アイオライト
恐ろしく強い覇気…強者のオーラってやつかしらね。
それでも、あたしたちは猟兵。明らかにヤバそうなことをしてるっていうなら、絶対に倒さないと…!

『赤き剣の右腕』…つまりそれは『剣』なのよね?
あたしの武器『浸蕀のソードブレイカー』は、手に持って剣を折る武器じゃないのよ。侵食する影が敵、もしくは剣そのものを破壊する。

片手に持ったソードブレイカーで武器受け、影の侵食で剣を破壊と同時にソードブレイカーをはるか遠くへ投げ捨てる(『命中した対象』対策)

自身の部位が破壊されて狼狽えているところに『魔刀・篠突ク雨』の【斬影ノ型・閃煌】よ。
その隙、光を超える斬撃を以て一瞬で断ち切る―――!!



●35人目の巡礼者:レイ・アイオライト
 ……爆炎がかき消え、焼け焦げた爆心地に再び紫色の瘴気が渦巻いた。
 ドラゴンテイマーが忌々しげに飛び去る戦闘機を睨みつけたのと、
 そんな彼奴の前にレイが姿を見せたのは、ほぼ同時のことだ。
「あら、さっそく一撃見舞われてるのね。いい気味だわ」
「……次から次へと。私にかかずらうとは余裕のあることだ」
 棘のある眼差しと声音に対し、レイは本能的に気圧されかかる。
 なんたる覇気。底知れぬ闇めいた圧力は、まさに地獄と形容すべき迫力。だが。
「……強者のオーラってやつかしらね。それでもあたしたちは戦うわよ」
「無駄なことを」
「それはアンタが決めることじゃない。そうでしょう? 仇敵(オブリビオン)。
 ……アンタたちが悪さをやらかしてるなら、戦う。それが猟兵だもの」
 必ず倒す。その決意は命を賭けた、文字通り決死の覚悟である。
 だがレイには秘策があった。焦点を絞る先は右腕の魔刃……!

 そして忠告されていたように、先制攻撃はドラゴンテイマーが握る。
 圧倒的戦力差による絶対先制。覆しようのない戦力差は絶望的ですらある。
「御託は十分だ。死ね」
 魔剣クリムゾンキャリバー。おそらくなにか恐るべき秘密があるはずだ。
 それを解き放っていないのかどうかはさておき、放置できる武器ではない。
(でも"剣"であるなら、あたしにはやりようがある)
 禍々しい気配を放つソードブレイカーで、この恐るべき斬撃をレイは受けた。
 しかして膂力は予測以上。受太刀ごと砕くような万力じみた鍔迫り!
「くっ、ぅ、ううう……なんて圧力、なのよ……ッ!!」
 ぎりぎりという拮抗は一瞬、押し込められ二の腕に刃がぐりぐりと抉りこまれる。
 肉を徐々に徐々に裂いて骨にすら到達しようという、拷問じみた剣圧だ!
「――ねえ、これがただの短剣だと思ったの?」
 然り。レイの握る"浸蕀のソードブレイカー"は、ただの剣ではない。
 それは影を伝って、敵あるいは敵の振るう剣そのものを破壊する。
 呪いの術式を込めた影が、蔦めいて立ち上がり右腕に……絡みつく!

「何」
「隙ありねっ!!」
 叫びざまに素早くソードブレイカーを放り投げ、光をも断つ魔刀の居合を放つ。
 斬影ノ型・閃煌。抜き放った瞬間すら見えぬ、まさに光断一閃。
「ぐ……ッ!!」
「耐えた? なんてタフなの……!」
 胸部をばっくりと裂かれ、しかしドラゴンテイマーはなお健在。
 右腕は影の圧力に軋みあちこちが罅割れているが、破壊には至らない!
「……けど、届かせたわよ。これで二度ね」
 屈辱と歯痒さはある。だが龍どもの唸り声がレイを正気づかせた。
 群れの殺到を避けるように、電光めいた速度で彼女は影へと消える。
 黒龍どもは、韋駄天めいた敵手の速度に不服げに唸りを上げるのみ……!

成功 🔵​🔵​🔴​

レナータ・バルダーヌ
暗躍者こそ捨て置けぬと思い来ましたけれど、その瞳、尚のこと見逃すわけにはいかないようです。
地獄なら既に踏み入った身、怖れはありません。

いつも通り、敵の攻撃を念動力の【オーラで防御】しつつ、【痛みに耐え】て反撃の機を窺います。
ですが、召喚に加えて無機物の変換、これほどの数で押されてはさすがに耐え切れないかもしれません。

『死に迫るほどの肉体的苦痛』と『身体が動かない状態』の2つの条件が揃うと、わたしの力は自身の制御を離れ暴走を始めます。
意識を保ったまま、溢れ出る力の一部が縛鎖となって自縄自縛し、【A.C.ネメシスブレイズ】【A.D.アーマー】が発動します。
(※真の姿ではありません)



●36人目の巡礼者:レナータ・バルダーヌ
 地獄。そんなものは踏み越えたあと。
 なぜならばレナータは、ブレイズキャリバー。
 燃え盛る地獄をその身に秘めた戦士にして、傷ついたオラトリオゆえに。
 恐れはない。ただ、ここで敵を逃してはならないという焦燥と決意がある。
 転移を終えて実際に戦場に立ったとしても、その信念は揺らぎはしなかった。
 圧倒的殺意の中心を睨む。刀傷を抑えて呻くドラゴンテイマーの姿あり!

 直後、駆け出したレナータを迎え撃つかのように、周囲の空気が変質した。
 そして大地が、何もかもが支配され、文明が侵略され黒龍に変貌する。
「これが、フロンティアライン……!!」
 次々と現れる黒龍の数と威容、畏敬めいた念に打たれるのは一瞬のこと。
 即座に思考を切り替え、なおも疾くまっすぐに敵めがけて駆けるのみだ。
 ありったけの魔力をオーラとして膜めいて全身を覆い、防御とする。
 これを貫く牙あるいは爪のダメージは、意志力でねじ伏せるのみ。
 だとしても。その数、そして一体一体の戦闘力たるや!
「これほどの群れを制御できるなんて……っ!!」
 レナータはそれでもなお、敵めがけて走ろうとした。
 だがそのひたむきさをねじ伏せるように、龍が殺到し彼女を引き裂いた。

 ……それで終わった。ドラゴンテイマーは一瞬そう思った。
 だが現実はそうならなかった。むしろさらなる闘気が彼の脳裏をどよもす!
「何だ――?」
 弾かれたように振り仰ぐ。小山めいてわだかまる龍の黒き群れを睨む。
 なにか。龍どもの奥、斃れたはずの猟兵が何かを引き起こしている。
 ――否。正しくは、引き起こしたのは誰であろうダイウルゴスの群れ自身。
 であれば、これを召喚したドラゴンテイマーこそがその首魁であろう。
「ダメ……! 力が、身体が、勝手に……!!」
 レナータは呻いた。圧倒的苦痛のなか、彼女には気絶すら許されない。
 オート・カウンター・ネメシスブレイズ。
 応報の女神の名を持つこのユーベルコードは、術者であるレナータが害意にさらされ、
 そして筆舌に尽くしがたい痛みを受けることで発動し、彼女を暴走させる。
「あぁあああああっ!!」
 悲鳴じみた咆哮。龍どもを吹き飛ばし、縛鎖を振り乱しながらオラトリオが舞う!
 応報をなすべし。この苦痛、この悲しみの応報を!
 ドラゴンテイマーは瞠目した。縛鎖が襲いかかり、その疵を戒め応報する……!

苦戦 🔵​🔴​🔴​

柊・明日真
【アドリブ歓迎】
ろくにこっちを視てないってのにこの重圧…一歩間違えりゃ即死だな。
さて、どうしたもんかね。

ヤバそうなのはあの右腕か、あれを喰らうのはまずい。

安全策取って出し抜ける相手じゃあないな…
思考は無駄、小細工も無駄、意識は奴の右腕に全集中、ぶん殴るのも後だ。
奴の斬撃の瞬間、【見切り、野生の勘、怪力】で白刃取りを狙う。
他のもん全部捨てても決められるか怪しいところだが…これくらいしなけりゃ勝ち目はないな。

剣を止めたら《イグニションスマッシュ》【捨て身の一撃】全力でぶん殴る。
一撃入れられれば御の字だ。あとはぶっ倒れても構わねえ!



●37人目の巡礼者:柊・明日真
 右腕に対するクリティカルな攻撃。電子ミサイルによる不意打ち着弾。
 そして痛みと害意を糧に荒れ狂う、暴風めいたオラトリオの縛鎖。
 これらを立て続けに受けたドラゴンテイマーは、すでにかなりの負傷を受けていた。
 ……しかして、ダメージが猟兵の有利を招くかと言えば、厳しいところだ。
 そもそもの戦力差が圧倒的であり、過去のいかなる敵をも凌駕する力量は、
 多少のダメージの多寡によって勝率を左右しうるとは言いがたい。
 では無駄なのか。猟兵は、ただ挑んで斃れ続けるしかないのか?
 ……言うまでもなく、それは否。たとえ個々が小さな罅だったとしても。
 いずれ罅は亀裂となり、すべては結実し一点を突破するための破砕点となる。
 ゆえに打ち込み続けるしかないのだ。希望があると信じて、ただまっすぐに。

 ――まっすぐに。ひたむきに。一心不乱に。
 そういった単純作業――というと語弊があるが――に関して、
 明日真という男はこの上なく秀でていた。有り体に言えば単純バカである。
 だが待て、決してその響きと俗的な響きだけで、彼を笑い物にしてはならない。
 たしかに明日真は、あれこれと搦め手を狙うようなタイプではない。
 難しいことを考える前にぶちのめすという、いかにもパワフルな男だ。
 だが、一念岩をも通す。ましてや彼は刻印魔術の使い手なのである。
 こと戦いにおいて、明日真の状況判断が間違ったケースはほとんど存在しない。

(ろくにこっちを視ちゃねえってのに、この重圧――)
 負傷を押し、戦域を離脱して流離うドラゴンテイマーが彼方に見える。
 おそらく、彼奴も明日真の存在には気付いている。だがこちらを見る様子はない。
 ……敵としてみなされていない。あるいは、面倒を避けようというつもりか。
(お高く止まりやがって。けど、一歩間違えりゃ、即死だな)
 その増上慢が増上慢と呼べぬ程度に、敵は強い。
 どうする。どのようにして攻める。見過ごすような選択肢はない。
 すでに三人の猟兵が、彼奴に挑んで斃れ、あるいは離脱している。
 おそらく己が討つことはできない。だが座して待つわけにもいかない。
 そんな悠長な選択肢を選ぶなら、そもそも明日真はここにいないのだ。
「……――よし」
 膝を叩いた明日真は、あぐら姿勢から立ち上がり肩を鳴らした。
 なにか妙手が浮かんだか? ……否。手詰まりだと確信しただけだ。
「"なら、まっすぐやるしかねえな"」
 彼はそういう男だ。死ぬかもしれない強敵相手に正面から挑むという。
 思考も、小細工も、いわんや慣れない不意打ちなど悪手も悪手。無駄と斬り捨てる。
 攻撃すらも後に置き、狙いはたったひとつ。
「――行くぜ」
 橙色の瞳が、燃え上がるように束の間瞬いた。
 明日真とドラゴンテイマーの接敵は、それから数十秒後のこととなる。

「先に言っておくが、私はお前たちに自ら敵対するつもりはない」
「そうかよ。それでハイそうですかって帰るわきゃねえだろうが」
 空には龍の群れが回遊し、明日真の隙を付け狙っている。
 ドラゴンテイマーの号令一つで、彼奴らは雪崩を打って落ちてくるだろう。
「関係ねえんだよ。てめえをぶちのめして、倒す。そんだけだ」
 ……あろうことか、明日真は徒手空拳。死中に活を見出すとでも?
 ドラゴンテイマーは頭を振った。猟兵とはどうしてこうなのか。
 だがそのまっすぐさ、無謀こそが侮れぬものであることを識っている。
 であれば。
「警告はした」
 ドラゴンテイマーが一歩、一歩と重圧を放ちながら間合いを縮める。
 明日真は不動。ヘタに動けばおそらくそこを断ち切られおしまいだ。
 全身からどっと脂汗が噴き出す。意識を集中させると、闇が訪れた。
 彼奴の赤い刃意外、何も見えない。刻まれた罅、そして刃が水銀めいて――!

「……おぉ、らァッ!!」
「何……!?」
 一撃で首を刎ねる。避けたところで胴体を断ち切り終わり。
 ドラゴンテイマーはそう睨んでいた。明日真もそう思っていた。
 だが現実はそうはならなかった。見よ! 明日真は刃を両手で止めている!
「ぬう……ッ」
「ぐ、ぬぬぬぬ……!!」
 押し込もうとするドラゴンテイマーと、明日真の膂力が拮抗する。
 そこでドラゴンテイマーは理解した。なぜこんな不可思議なことになったのか。
(あの女の、影か)
 然り。レイという女がもたらした、影による剣の破砕。
 破砕そのものは見込めずとも、染み込んだ影が魔刃を衰えさせているのだ!
「おのれ、」
「――なあんてなあッ!!」
 ドラゴンテイマーは押し込もうとした。明日真はそこで手を離した。
 拮抗を予期していたドラゴンテイマーは体幹を崩す。――好機である!
「こんな戦争起こしといて、タダで済むと思ってんじゃ――ねぇっ!!」
「がは……!!」
 鳩尾に叩き込まれる拳。さらに魔力が爆裂し、彼奴を吹き飛ばす!
 超・接近距離でのみ可能となる一撃。イグニッションスマッシュ!
 反射的に空の龍どもが落ちてくる。明日真は迎え撃つように群れを睨みあげた。
「とっととかかってきやがれ、残らずぶちのめしてやる!!」
 そうすればそのぶん、次の誰かが戦える。希望がつながる。
 おそらく自分は倒れるだろう。それでもこの手応えと、彼奴のあの顔がある。
「全員、何度でもぶちぬいてやらぁ!!」
 それがある限り、斃れてもまた立ち上がり、戦える。
 明日真はそういう男なのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

三咲・織愛
何を企んでいるのかは分かりませんが、
姿を見ていながら何もせずにはいられません
これはただの私の意地です

<覚悟>と<祈り>を胸に、
己の心を奮い立たせましょう
負けたくない、何があっても
挫けることが一番の恐怖なのだから

確と見据え、敵の攻撃の動作を見ます
体重移動や予備動作、そこから繰り出される攻撃予測、
それでも固定観念に囚われぬよう柔軟に動いて
右腕の剣は<怪力>で槍を振るい、<見切って>、<武器受け>からの受け流しを狙います

凌いでみせる……!
【打ち砕く拳】が、一撃でも届くよう

それでも、赤き剣に身を裂かれたなら
出来る限りを見切って、せめてもの一投、槍投げを。



●38人目の巡礼者:三咲・織愛
 目の前に敵へと至る道があり、その先に身構えることなく当の敵がいる。
 ならば突き進まずしてどうするのか。叩かずしてどうするのか。
 猪突猛進、当てずっぽうの見境なしと言わば言え。敵はそこにいる。
 ならば戦う。そして倒す。いかなる陰謀があろうと、なかろうと。
 ……織愛の思考はある意味でシンプルである。それは時に最適解でもある。
 たとえば明らかに格上の敵に挑むときであるとか、恐怖を克服する時であるとか。
 意地、そして覚悟。世界に我を張るための、幼くも忘れてはならぬ力。
 鉄火場で最後に勝敗を決するものはそういった精神的なものであり……。
 そうしたものにかけて、織愛は人並み外れている自負があった。

 とはいえ、ドラゴンテイマーに挑む織愛は、傍目からはあまりにも無謀に映る。
 なにせ携えるのは槍ひとつである。
 ノクティス。星々輝く夜空めいた色合いの、しなやかでたくましき龍の槍。
 たった一振り。されどこの一振りがあればよい。
 重圧に抗うように決然とした織愛の双眸は、言外にそう示している。
 一方のドラゴンテイマーを見よ。その姿、地獄めいて恐ろしく両目は暗然と。
 虚無めいた眼には、しかして猟兵への並々ならぬ警戒と憎悪が揺らいでいる。
 然り。今の彼奴は深手だ。
 恐怖の刺突、斬撃、あるいは右腕の痛々しい罅割れと出血。
 腹部はいまもじゅうじゅうと煙を立ち昇らせるほどに熱く焼け焦げている。
 この疵を刻み込むために、すでに何人もの猟兵が挑み、斃れている。
 おそらく自分もそうなるだろう。織愛は言葉なくして直感し――覚悟した。
「あなたが何を企んでいるのかはわかりません。問うつもりも」
 かつての義父に仕込まれた槍術の構えを取りながら、織愛は云う。
「ただまっすぐに挑み、打ち貫く。次に続く誰かにとっての可能性を繋ぐ。
 私はそのために、あなたの前に斃れます。……死ぬつもりもないですから」
「どいつもこいつも、随分と仲間とやらを信用しているものだ」
 頭上には、獲物を狙うハゲタカめいて邪悪な黒龍たちが羽ばたいていた。
 手を出してくる様子はない。隙を見せた瞬間までは。
「矜持。信念。意地。負けん気……理解できん。狂気とすら言っていいだろう。
 お前が――お前たちがやっていることは、紛れもなく狂った行いだ」
「世界を侵略し滅ぼそうとする、あなたたちオブリビオンに言われたくありません!」
 穏やかな少女らしからぬ、たおやかで雄々しい怒声が大気をびりびり震わせた。
 未来の守護者と過去の化身。その道が相容れることは決してない。

 ……舌鋒鋭くぶつけあいながら、織愛は全神経を尖らせていた。
 隙を見せず、かつ敵の間隙を探り、襲い来るであろう先制攻撃に対処する。
 そして、一撃を叩き込む。ただそれだけの、それゆえに困難な戦い。
 初めてではない。同じような無理難題はこの世界でもう何度も体験した。
 エイプモンキー。
 ラビットバニー。
 そしてウィンドゼファー。
 三幹部は強敵。いずれもを打ち倒してきて、しかしなおこの男は上を行く。
(私にやれるでしょうか――ノクティス。お願い。力を貸してね)
 槍に変じた相棒の名を呼び、ぐっとすがるように柄を強く握る。
 多くの人々を思った。それが、織愛の全身に活力を与えた。

 ……残念ながら、敵の一挙一動を見極め柔軟に対応するという織愛の策は、
 そのプラン単体で見れば十全に発揮できたとは言えなかった。
 彼女の想定を超えるほどにドラゴンテイマーは(負傷してなお)疾く、重く、
 猟兵たちによる各部――特にクリムゾンキャリバーへの――損壊を踏まえても、
 相対してから目の当たりにしているようでは、後手に過ぎた。
 ならばなぜいま、彼女は打ち込むドラゴンテイマーの連撃をしのげている。
 兆しすらも捉えるのが難しい赤い魔刃を、ことごとく槍で打ち返しているのか?

 それは、いまこの瞬間、織愛が己の潜在能力を引き出しているからだ。
 猟兵とは生命の慮外、世界の恩寵によって奇跡を操る者である。
 莫大な戦力差と極限の状況が、却って万の鍛錬を超えることもある。
 それが、若者をさらに強大な戦士へと成長させる"1"となる。
 少なくとも此度はそうであった。織愛はいまこの瞬間に少しずつ成長し、
 ドラゴンテイマーの攻撃を凌げる己に近づいている。行使しているのだ。
「チィ……! なぜだ、なぜこのような……ッ」
 ドラゴンテイマーは歯噛みした。不可解である。
 この少女が己の攻撃に対応できぬことは、彼奴自身が確信していた。
 現実がその予測を越えている。織愛は食らいつくように攻撃を受け、いなす!
「わからないですか。――ええ、わからないでしょうね」
 幾合目かの撃ち合い。拮抗し――怪力が、惜しかった!
「ぬうッ」
「勝つまでは決して負けない、そして勝利とは私一人のものではない。これが!」
 織愛はしなやかに体重移動し、片手を柄から離して握りしめる。
 放つのはただの素拳。されどその堅固は金剛石よりもなお硬く。
「猟兵(わたしたち)の、戦い方なのですっ!!」
 拳が空を裂いた、そして再びドラゴンテイマーの鳩尾を貫いた!!
「が、はァッ!!」
「く……ッ!」
 なおも悪あがきする赤い魔刃と、咆哮とともに降ってきた龍の群れ。
 この威容を前に織愛は己の放った威力を殺しきれず、ごろごろと地面を転がる。
 だが届いた。あと一手、あれを滅ぼすにはあと一手あればいい。
「私はここまで……あとは、お願いしますねっ」
 次に続く誰かに、祈るように。少女は、莞爾と笑って意地を託した。

成功 🔵​🔵​🔴​

納・正純
竜の使い手が相手とは……良いね。まだそいつは撃ったことがない
ヴァーリャ(f01757)、お前の氷を見せてくれ。大物食いといこう

※共通
ヴァーリャのUCの射程外で戦闘開始
無数の竜が召喚されヴァーリャがUCを発動したのに合わせ、攻撃をすり抜けた竜を優先して射撃
狙いは敵の竜が合体する前に数を減らすこと
だが、それは布石だ
本当の狙いは、敵に『竜を合体させた方が良い』と思わせること
竜が合体したらUC発動 狙いは竜の口の中
竜を狙撃で止めた後は接近し、全ての武装を用いてヴァーリャと同時攻撃を放つ


竜退治には十分なモンが揃ってる。『氷』と『魔弾』。
合体して狙いが一つになったその時を待ってたぜ
――さあ、一発勝負だ


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
正純(f01867)、まかせてくれ!
竜だろうが何だろうが、凍ってしまえば同じだ!

無数の竜が召喚されれば、こちらへ向かうよう誘導
襲いかかってきた瞬間、『霜の翁の怒り』で多数の竜を殲滅

数を減らすことができたなら、敵はきっと合体をして更に強化してくるだろう
けれどそれこそが狙い
合体した竜に、自分へヘイトがくるよう氷の【属性攻撃】をしかける
正純のUCが当たりやすいように

正純がUCで竜を撃ち抜き動きを止めることができたら
一気にドラゴンテイマーへ距離を詰め、正純と息を合わせ同時攻撃
【属性攻撃】で強化された氷のスケートブレードの蹴りを見舞う

正純、合わせてくれ!
強い敵であるからこそ、俺たちの氷と魔弾が光るのだ!




「相手は龍の使い手、か。おまけにすさまじく強いときた」
「なあに、俺たちなら問題ない! 正純は怖いのか?」
「怖い? ――ナンセンスだな。ただ興味深いだけさ」
「キョウミブカイ?」
「ああ。ただでさえ強大なドラゴンを使役する者なんざ、まだ撃ったことがない。
 だから悪くない、いやむしろ……いいね。考えれば考えるほど燃えてくる」
「ドラゴンなら俺も戦ったことがある! だから俺も、ワクワクするな!」
「そうこなくちゃな。ヴァーリャ、お前の氷をひとつ見せてくれ」
「まかせてくれ!」
「オーケイ。それじゃあ大物食いと行こうか――」
 戦場が、乾いた男と氷をまとう少女を出迎えた。
 横たわる重圧は、彼らが体感したいかなる戦場のそれをも越えていた。

●巡礼者ふたり:納・正純とヴァーリャ・スネシュコヴァ
 "識る"。
 未知は暗闇と同じだ。そして人類は、太古から暗闇を恐れ抗い続けてきた。
 裏を返せば、何かを識るということは見通せぬ闇に挑むことも同じ。
 正純という男は、その無謀な戦いに己の半生を捧げてきた。おそらくこれからも。
 挑まざるを得なかった、と言い換えてもいい。
 無謀な若者を出迎えたのは、裏切りの絶望。そして無味乾燥な彩りなき日々。
 絶望すらも尽き果てるような三年の雌伏を経ていまがある。
 感謝だの憧憬だの、何かをありがたがるような穏やかな感情はない。
 望み、覗き、盗み、掠め取って、ハイエナめいて貪り、浴びてきた。
 盗人(シーフ)。ああ、いい響きだ。己を表現するに最適な単語と言っていい。
 正純がその薄汚れた人生を誇示することはない。だが悪びれることもない。
 限りなき欲望を満たそうとする、という意味では、彼はむしろ"あちら側"――。
 討つべき怪人、オブリビオン、敵のそれのほうが近いのかもしれないのだが。

 一方のヴァーリャは、多くのものを"識らない"。
 16歳の少女にしてはずいぶん活発でわんぱくな性格もそのためだろう。
 物事、知識、誰かにとっての当たり前は彼女にとっての非常識であり……。
 それ以上に、何よりもヴァーリャは己を識らなかった。
 己の過去を識らない。であれば、何も識らないも同然であろう。
 悲しいとは思わない。生きるため、そして戦うための知識と技術はあったし、
 学園での日々といま彼女を取り巻く多くの仲間たちは、賑やかで楽しい。
 過去の空白などが気にならないぐらい、現在と未来は彩りに満ちている。
 ともすればそれはひどく危うい姿でもある。ヴァーリャは大して気にしない。
 此度においても同じ。いかな敵が相手だろうと天真爛漫に笑って挑む。
 ヴァーリャは何も識らない。だが何も識らないことを知っている。
 無知の知、というやつだ。そして彼女が『大丈夫だ』と豪語する最大の理由は。
 隣に、信頼に足る兄貴分があり、共に戦えるからこそだろう。

 とはいえ、正純とヴァーリャは肩を並べて実戦に出たことはない。
 つまり此度が初めてであり、いわばぶっつけ本番でもあった。
 三幹部をも超える強敵に相対するには、いささか無謀が過ぎようもの。
 結構。足りないぶんは互いの技量とコンビネーションで凌駕するのみ。
 それが出来るという自負と、相手へのリスペクトがあった。
 それらを踏まえてなお、対峙する敵はなおも強大で、恐ろしいのだが。

「がはっ!!」
 どんっ、ごろごろ! と、ヴァーリャが地面をバウンドし転がる。
 脇腹から肩口にかけて、痛々しい爪痕が逆袈裟に刻まれていた。
 当然、ダイウルゴスによって刻まれたものだ。これでも"かすり傷"である。
「くそっ、思ったより手強いぞ! けど負けないからな!」
 ヴァーリャは速度を殺さぬままに立ち上がり、続く二、三体目の攻撃を回避。
 出血を凍らせることで止めながら、地面を凍らせて滑り、敵を撹乱する。
「さあ、さあ、来い! 俺はここだぞ! まだ死んでないぞ、どうする!」
 ならば殺す。黒き邪竜どもはそのように吼えて殺到した。
 然り。いまヴァーリャは、恐るべきダイウルゴスの群れと単独で相対している!
 龍であろうがなんであろうが凍ってしまえば同じ。それは正しい。
 しかし『迫り来る群れを如何にして倒すか』、そもそもその初撃をどう超えるか。
 その点に於いて、ヴァーリャの策はやや後手に回りすぎたと云うべきだろう。
 ゆえに彼女は地面を滑る。滑り、避けて、攻撃の機会を探る。
(正純ならタイミングを読んでくれるはずだ、賭けるしかないな!)
 この状況を俯瞰しているであろう、兄貴分のことを思いながら。

「――……いや、まだいけそうだな」
 一方、ヴァーリャがダイウルゴスを引きつけた地点から100メートル以上先。
 愛銃"L.E.A.K."を構えていた正純は、インタラプトを思案し棄却した。
 ヴァーリャは一撃を受けたがまだ生きている。まだ戦えている。
 であれば任せる。助けに入る必要はない――そうすればすべてがご破談だ。
 冷たいというべきだろうか。戦略上は仕方のない判断である。
 何も見捨てようというわけではない。彼女の能力の評価あってのもの。
(ヴァーリャならやれる。俺はただ、それを読んで合わせるだけだ)
 莫大な演算能力を以て魔弾論理を組み上げる射手は、淡々と状況判断した。
 彼が龍に襲われることなくスナイプするための当然のコストだ。
 もしも妹分が倒れるなら、その責任は誰よりも己にある。
 ……だから、信じる。信じて、構えて、その時が来るのを待つ。

 そして、その時はすぐに訪れた。黒龍どもが一斉に咆哮したのだ。
「いつまでじゃれている。さっさと皆殺しにしろ」
 深手を負ったドラゴンテイマーが、苛立ち混じりに指示を下した。
 たちまちダイウルゴスは、黒き波濤となってヴァーリャへ襲いかかる!
(いまだ!)
(――今だな)
 判断はほぼ同時。見て動いてからでは遅いからだ。
 ゆえにどちらかが遅れれば、やはりそれで終わり。此度は繋がった。
「全部、凍ってしまえ――!!」
 霜の翁の怒り(グニェーヴ・ジェドマロース)が龍を圧倒する。
 一瞬にして花々は霜を這って凍りつき、龍の爪も尾も、翼すらも同じようになった。
 全ての龍を取り込めたわけではない。当然これも織り込み済みである。
 ゆえに正純が続くのだ。このように精密な射撃によって!
 BLAMN――BLAMN! ひとつ、ふたつ、みっつ。たじろいだ龍の逆鱗が爆ぜる!
「チッ。……融合しろ、数ではなく質で潰せ!」
 ドラゴンテイマーは、敵がこのまま波状攻撃を仕掛けると読んで指示した。
 ダイウルゴスが逆らうことはない。攻撃を逃れた個体がばさばさと集まり、
 一体また一体と融合合体していく。加速度的に高まる重圧!
「はは! そうだぞ、それでいい! 正純ッ!」
 高らかな少女の声が、冷ややかな霜を越えて届いた。
 ヴァーリャが足を止めるかと言えば否。むしろここからが本番だ。
「さて、それでは俺も頑張るぞ! かかってこい、ドラゴンめ!」
 冷気のドームを維持しながら、その凍ったスケートリンクを滑り、走る。
 巨大な龍の足元を八の字を描くようにして駆け抜け、魔力を飛ばす。
 氷柱めいて凍りついた水分が強靭な鱗を苛む――砕くには至らない。
 しかしそれでいい。合体した単体の巨竜は、怒りをにじませて彼女を睨む。
 そして咆哮――これだ。これこそが待ち望んでいた好機!

 その時、すでに正純は全速力で駆け出していた。
 このまま後方で座して待つのは彼のスタイルではないし、
 このあとの仕上げに間に合わなくなる。ゆえに、走る。
「せっかくの舞踏会に遅れたんじゃ、ここまで来たかいがない――!」
 言いながら、あろうことか疾走しながらの長距離射撃に挑むのだ。
 無謀である。いかに彼がなうてのブラスターガンナーだからとはいえ、
 龍の口蓋を全力疾走しながら狙うなど、正気の沙汰ではない!
 まさにそれは戯曲に謳われるような、悪魔の魔弾じみた不可思議の奇跡。

 ――だが、厖大な弾道計算は、以て『敵の撃滅』という解を定める。
 定めることが出来る。そのために知識を得て技術を磨いてきたのだから。
 BLAMN――弾丸が放たれた。照準のぶれ、風速、敵の動き、妨害。
 すべてを織り込んだ一射は、狙いすましたように龍の頭蓋を貫いた。

「何……!?」
「油断大敵だぞ、ドラゴンテイマーッ!」
 その時にはすでに少女が目の前にいた。ドラゴンテイマーはこれを魔刃で受ける!
 スケートブレードによるしなやかな回し蹴り。刃が撃ち合う!
「ダイウルゴスを滅ぼし私を攻める算段か……」
 ならばまずこの女を殺す。刃を心臓めがけて振るう。
 だがその時、KRAK――赤い魔刃が、音もなく砕けて散った。
 これまでの戦いによる罅割れ、そしてヴァーリャの冷気と衝撃。
 それらが積み重なり、この魔剣を叩き割るに至ったのだ!
「なんだと」
「正純! 合わせてくれ!!」
 ドラゴンテイマーは逃れようとした。その両足が凍りついている!
 そして。射手は、持てる武器すべてを構え撃つ算段を構築し終えていた。
「龍退治に必要なモンが何か、知ってるかい」
「俺の氷と!」
「俺の魔弾――その二つがここにある」
 粗野な兄と明朗な妹が笑った。振るう力は互いのそれ。
「あとは答えを出すだけだ。ようは、いつでも一発勝負なの……さッ!」
 BLAMN! BLAMBLAM――BRATATATATATA!!
「お前は強い! 強いからこそ、俺たちの力も光るのだッ!」
「おのれ、猟兵……ッ!!」
 SMASH!! ヴァーリャの蹴りが、弾丸とともにその苦悶を切り裂いた。
 そして全身が凍りついたドラゴンテイマーは、スイスチーズめいて穿たれ……。
 罅割れ、驚愕の表情と共に砕け、風に乗って骸の海へと還っていく――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 ――そして、寄せては返す波のように。
 それは、幾度目かの再来を果たす。
月凪・ハルマ
……ああ、なるほど。こいつはヤバい
俺達が倒してきた幹部より、はるかに

―【覚悟】が、必要な相手だ

◆SPD

【瞬身】発動と同時に【武器改造】。手裏剣に爆破機能を付与

強化された【残像】【見切り】、そして【忍び足】を使い
ダイウルゴスとドラゴンテイマー、両者の攻撃を躱しつつ、
改造した手裏剣で、可能であれば両者を同時に巻き込むように攻撃
(【早業】【範囲攻撃】【投擲】)
その内のいくつかは【暗殺】技能で急所狙い
尤も、これで決められるとは思ってない

機を見て接近『一定以上の衝撃を受けると大爆発』する様に
改造してある旋棍で打ち込むか、【武器受け】する

自爆特攻とか柄じゃないけど、今の俺じゃ
こうでもしないと届かないからな



●41人目の巡礼者:月凪・ハルマ
 ハルマは、運のいいことに――いや、この場合は悪いというべきか、
 彼奴が骸の海から復活を果たした、まさにその瞬間に出くわすこととなった。
 ドラゴンテイマー。その目的も正体も定かならぬ、紫の瘴気を纏うもの。
 撃破からの再生がほとんど一瞬で果たされるとはいえ、タイミングが悪い。
 ゆえにハルマは、虚を突かれる形で、この恐るべき重圧を浴びることとなった。

(――ああ、なるほど)
 そして理解した。グリモア猟兵の警告、これまで斃れた猟兵たちの戦い。
 敵の強さ。己との差。そして、ここに立ち、挑むということがもたらす結果。
(こいつは"ヤバい")
 三幹部がいかに強大であったかは、ハルマは身を以て知っている。
 エイプモンキーと二度。ラビットバニーとウィンドゼファーは一回ずつ。
 実際に相対し、戦い、滅ぼすために奮闘したからだ。
 ゆえに、わかる。これまでの敵の誰よりも強大であるという事実。
 底冷えするような虚無的な戦意に打たれ、ハルマは束の間忘我した。
 だがその脅威が、一周回ってハルマに警戒ともうひとつの必須要因をもたらすに至る。
 強敵と戦い、己の身を賭して打倒のための礎となるための必須材料。
 すなわち。
(――覚悟して、戦うとするか)
 己の命を散らしてもよいという、不退転の覚悟である。

 一方、ドラゴンテイマーはハルマのほうを視もしなかった。
 ただ気配で猟兵、天敵、過去の破壊者の存在を察知し、端的に言った。
「ダイウルゴスよ、来い。我が敵を滅ぼし、殺せ」
 邪竜の咆哮がこれに応えた。そして空から巨大なる漆黒が来た。
 ずしん、ずしん!! 大地を揺らす巨大なるもの、数は五十以上!
「警戒するまでもないって? 嘗めてくれるなよッ!」
 ハルマは己を強いて軽口を叩き、即座に軽気功めいた瞬身の術式に突入する。
 見える。ダイウルゴスの狙い、視線、爪と尾の行先が。
 ならばそれを避けるように走り、飛べばいい。あとに結果がついてくる。
 残像を刻むほどの速度で地を蹴立て、股下をくぐり数メートルを跳ぶ。
 わけても神業的なのは、回避動作と同時に無数の手裏剣を擲っていたこと。
 爆破機能が付与されたこれらは、鱗に刺さると共に爆裂して龍をたじろがせた。

 だが立ち回るうち、ハルマはわずかに訝しんだ。
(――ドラゴンテイマーはどこだ?)
 居ない。当の目標が。ダイウルゴスに任せて姿を消したか?
 否。根拠があるわけではないがそれは絶対に違うと全身の細胞が叫んでいる。
 気を配れ。集中しろ。もっと深く。広く。けして五感を絶やすな。
 足を止めてはならない。走れ。そして敵の虚を――!
「すばしっこい男だ」
「!!」
 背後。振り向こうとしたハルマの鳩尾に強烈な膝蹴り。
「が……ッ!!」
 血を吐き出す。内臓と肋骨に甚大なダメージが入ったことを理解する。
 ボールめいて弾み、地面を転がる。そこへ龍と竜使いが同時に来る!
「させるか……ッ!!」
 反撃の旋棍。蒸気を引く打撃は虚空を切るに至る。避けられた。
 応報のストンプが、抉られたばかりの鳩尾を無慈悲に踏みつけ痛めつける。
「ここまでだ。早速だが死んでもらおう」
 龍どもが、獲物の殺戮とごちそうの気配に頭上で騒いでいる。
「――"こういう"の、ガラじゃないんだけどな」
「……?」
 しかして不敵に笑うハルマ。ドラゴンテイマーがその意図を理解するより先に、
「けど、こうでもしないと、俺じゃあんたに届かない、だろ?」
 謎めいた言葉。意図を察するより先にとどめを刺そうとする。
 だが振り下ろした魔刃は、ガジェットと撃ち合い――旋棍が、爆ぜた!
「貴様!」
「覚悟してるからさこっちは、付き合ってくれよッ!!」
 そして爆炎が両者を飲み込み、龍どもをも灼いた。
 少年の覚悟が、彼奴の虚を突いて一矢報いた瞬間である!

成功 🔵​🔵​🔴​

マナセ・ブランチフラワー
【nostalgia】の皆さんと

攻撃、迎撃の役割分担をある程度しており、僕は攻撃メインで動きます
でも、ただ守って貰うだけもあれですし
【第六感】を使用し、敵の攻撃の隙を探っていけたらと

【エレメンタル・ファンタジア】は炎の竜巻
敵を焼きつつ、炎でこちらの姿を捉えにくくすることも目的に
【全力魔法】を乗せて、派手にいきましょうか

いざとなれば敵の攻撃を引き受け、【激痛耐性】【覚悟】で耐えられるだけ耐えます
その間に仲間の刃が、あなたに届くことでしょう

……恐怖がないと言えば嘘ですけど
皆さんが居るから、僕は立っていられます
地獄の先へも、きっと手が伸ばせると。そう信じていますから


リヴェンティア・モーヴェマーレ
【nostalgia】の皆さんと一緒に

▼アドリブ大歓迎!
もりもりのモリ大ジョブです
仲間との連携大事

▼本日の主役動物
イチくん(防御特化な闇属性のフェレットを模した黒剣)

▼【WIZ】
秘密基地部隊出陣ですネ!

防御重視援護型な立ち回りを目指しマス
先制攻撃にはオーラ防御を展開し盾受けも入れて最小限に食い止めつつ、しっかりと相手の攻撃も見ておきますネ
多少の攻撃なら激痛耐性で凌ぎましょ
仲間にも攻撃が当たらないように配慮しつつ立ち回り、受け切ったらリースさんの攻撃の相殺を援護でス!
U Cの性能も上がってるはずです!

仕上げは男性陣にドドンとお任せズバーッとやってくだサイ!
私もスナイパーで援護射撃撃ち込みマスよ!


シオン・ミウル
【nostalgia】

……あんまり好きじゃないなあ、あの人
笑ってられそうにないね
それでも、どんな時でも笑っててやるけど

『全力魔法』で風の防壁を練り上げるよ
巡る風の流れで竜の攻撃の軌道をずらす
全部防げるなんて最初から思っていないからさ
受け流すことを最優先に、破られても何度でも、
『激痛耐性』で耐えられるまでTaktを振り続けよう
詰められても致命傷だけは避ける
みんなの手が届いていない敵を狙おう
不意打ちなんて間違ってもされないように

先制攻撃を耐えられたら、すぐに【春風】を紡ぐ
攻撃は任せるからさ
疲れるのを厭いはしない
自分は後回しでいいや


ネロ・バロック
【nostalgia】のメンツで参加、アドリブ歓迎

初撃の防御はリーゼ・ティア・シオンに任せるつもりだ
と言っても防ぎきれない場合は「見切り」と「残像」を使って
攻撃の直撃を防いでやるぜ
自分で言うのも何だが俺の攻撃は割と単純なんで
予め知っていたら避けやすいんじゃねェかな

初撃の迎撃に成功したらいよいよ攻撃だ
ダイウルゴスの攻撃を「見切り」と「残像」でかいくぐって接近
「二回攻撃」の初撃、「鎧砕き」でまずおっさんの防具を魔剣で傷つけた後に
魔剣の二の太刀で「捨て身の一撃」「生命力吸収」から唯我独尊斬りをぶっこんでやる!
マナセ達とコンビネーションも狙いつつな
皆が作ってくれたチャンスは絶対にものにしてみせる


リースリット・ミラ
【nostalgia】
リヴェンティアさんがオーラ防御で敵の攻撃を凌いでくれている間にリースはその攻撃を学習力で学びながらミレナリオ・リフレクションで敵のユーベルコードの相殺を狙っていきますね。

こちらはチームプレーですし、守り切れれば勝機はあるのでリースは相殺に全力を尽くしますが、万が一相殺しきれずに仲間の誰かがピンチになった場合はリースの身を盾にしてでも守り切ります。
その結果リースが倒れたとしても仲間が無事ならそれはリースの勝利ですし。

あと…。黒猫のミラにはリースに構わず【nostalgia】のみなさんのサポートに徹するよう伝えておきますね。




 何か御大層なお題目があるわけでも、もってまわった使命があるわけでもない。
 なんとなく、あるいは偶然から知り合った仲間同士、好き勝手につるむ。
 これといった目的も、掲げて目指すべき夢や目標があるわけでも、ない。
 若さというモラトリアムの中だからこそ許される、緩やかな連帯と放蕩。
 それを嫌うような者は滅多にいない。渦中にいる者ほど、その刹那さを忘れがちだが。

 ともあれ、その五人は皆、若く未熟で、だからこそエネルギーに満ちていた。
 だから遥かに格上の相手にも徒党を組んで挑んだし、勝てると踏んでもいた。
 若さは美徳だ。年老いて枯れた者にはない、可能性という無限の扉がある。
 若さは愚かだ。何も識らず恐れないがゆえに、致命的な誤りを犯してしまう。
 五人。大樹の秘密基地を根城に、世界から世界を駆ける若者ども。
 リヴェンティア・モーヴェマーレ。
 ネロ・バロック。
 シオン・ミウル。
 マナセ・ブランチフラワー。
 リースリット・ミラ。
 此度の決戦において、彼らはそのどちらであっただろうか?
 輝ける瑞々しさに溢れた、美しくも刹那的な若者か。
 溢れるエネルギーの行き先を間違えてしまった、愚かで未熟な青二才か。
 どちらでもある。それが彼らを危機に陥れ、しかして勝機を掴む緒となった。
 確かなことは一つ。
 彼らは無謀な戦いを挑んだということだ。

●巡礼者の奮闘、あるいは向こう見ずな愚か者の顛末
 彼らの到来に対し、ドラゴンテイマーは何の反応も示さなかった。
 ただあちこちに火傷を負っている様子から、すでに交戦はあったようだ。
 虚無的な双眸を五人に向けることもなく、しかし一言つぶやくのみ。
「ダイウルゴスよ、起きろ。敵を殺せ」
 ただそれだけ。ただそれだけで、彼奴を中心に文明が侵略された。

「防壁を練り上げるよ! 手はず通り、まずはみんな俺の後ろに!」
 次々に花々を、大地を侵略して顕現する黒龍の群れ。
 それを前に、シオンは勇ましくも一歩前に出て風の魔力を練り上げた。
 分厚い疾風の防壁が凝り固まる。だが、所詮はいじましき努力だ。
(あんまり好きじゃないな、あの人……こりゃ笑ってられそうもない)
 ならば、屈するか。この張り詰めた暴威に膝を突いて恭順するか?
 ふざけた話だ。そんなつもりなら最初からここにやってきてはいない。
 自分たちで決めて、誰に強制されるでもなく己の意思で挑み、そして戦うのだ。
(相手がどれだけ強くたって、関係ない。いつも通り笑っててやる)
 強がりと言わば言え。シオンは己を曲げることなく不敵に笑ってみせる。
 後ろに悪友と仲間たちの息遣いがある。それを感じる限りは戦える。

「私も一緒に守りを固める気持ち! 絶対に攻撃は通さないデス!」
 そんなシオンの隣に立ったリヴェンティアが、己の魔力をオーラとして凝らす。
 肩の上では、一見可愛らしいフェレットが同様に彼女の守りを固めていた。
「イチくん、ありがとデスよ。ここが私たちの頑張りどころでスからネ……!」
 小動物の姿をした黒剣の助力に感謝し、微笑みながらも眦を決する。
 いかに普段は天真爛漫、お気楽なリヴェンティアにもわかる。敵は強い。
 それこそ想像を絶するほど――三幹部では比肩しかねるほどに、恐ろしく。
 いかに言葉で聞いていたとしても、こうして相対して初めて分かることもある。
 だがもはや退けないし、シオン同様に退いてやるお行儀の良さもない。
 護る。どれほどの痛みを浴びようが、仲間たちを龍の暴威から守らねばならぬ。
 指先の震えを、リヴェンティアは努めて意識しないようにした。

「……リースたちは、とんでもないところへ来てしまったんですね」
 そしてもうひとり。令嬢めいた衣装の少女、リースリットが淡々と言う。
 人形めいた――事実彼女はミレナリィドールだ――無表情。声音も平坦で平易。
 されど。ドラゴンテイマーの異常なまでの濃密な瘴気と戦闘能力は歴然。
 いかに感情の発露が乏しいからといって、リースリットは無感情なわけではない。
『リース、力が入りすぎですわ。勝てる戦いも勝てなくなるわよ?』
 肩に乗る黒猫――ミラが、しとやかな口調で言い、相棒をからかう。
 リースリットの緊張を察し、それをほぐそうという彼女なりの気遣いだ。
 心強いと思う。背中に、そして共に並んだ仲間たちがいればなおさらのこと。
 勝てる、という確信はない。だが負けたくないという気持ちがある。
 そしてこの五人でなら、なんとかできるという希望と、決意もあった。

「ケッ、お高く留まりやがって!」
 野卑かつ傲然としたネロにとって、男の様子はいかにも気に食わないだろう。
 言いながら唾を吐き捨て、名無しの魔剣を構えて挑むように敵を見据える。
 いかにも不遜。だがその実、内心には得体の知れない敵への畏れがあった。
 無論、ネロ本人はそれを認めまい。もっと根源的、本能的なものだ。
 いわば、意思とは別に身体がストを起こそうとしている、というべきか。
(ビビってんじゃねェぞ、ンな場合じゃねェだろ)
 ともすれば震えを起こしかけるナメた己の体に意識の蹴りを入れ、見据える。
 己の役目はある意味で最も重要だ。臆していて何が出来るというのか。
「――怖いですね」
 そんなネロと対称的に、マナセは正直に今の気持ちを吐露した。
 怖くない、などと言えば嘘になる。特には認めるのも肝要だ。
 特に、これから命を預け合うべき仲間たちとの間では、なおさらに。
「けどまあ、みなさんが居ますから。大丈夫、僕は立っていられますよ」
 いつもどおりの尊大さを取り戻せば胸を張って言い、魔杖に魔力を込める。
 彼の役目はネロ同様に、敵を刈り取るべき攻撃役。花形であり作戦の要。
 己の心にある戦意をかき集め、薪として殺意の炎を燃やす。
 高まるそれに呼応するかのように、精霊たちが反応し陽炎が揺らめいた。
 せいぜい"派手に"やってやるとしよう。あのふざけた輩に目に物見せるため。
 仲間たちの意思を届かせるため。死を覚悟してでも挑んでみせる。

 そんな五人の若者の前で、ついに百以上の黒龍が生まれ、空を地を埋め尽くした。
 一体一体がオブリビオンの平均に達し、あるいは超えすらするほどの暴威。
 黒龍ダイウルゴス。それが見渡す限り無数に、群れをなして咆哮する。
「――行け」
 ドラゴンテイマーはただそれだけ命じた。黒龍の群れは黒き破滅となった。
 迫りくる死と燼滅の軍勢。五人はあえて、こちらから駆け出し挑みかかる!
「秘密基地部隊の意地と底力、見せてあげまスッ!」
「それ正式名なの? もうちょっとかっこいいのがいいなあ」
 意気込むリヴェンティアに軽口を返しながら、シオンはタクトを振るった。
 先触れとなる数体の龍の爪が、猛烈な突風の防壁にそらされ大地を抉る。
 風が裂ける。その間隙を押し潰すかのように、第二波の龍がなだれ込んでくる!
「次、来ます……!」
「気張れよシオン、こっちは任せるしかねェんだ!」
 静かに警告を飛ばすリース、そして攻撃の機会を探り構えたままのネロ。
「竜巻を起こすにはもう少し引きつけないと……頼みます!」
 マナセの声も重なり、それらがシオンの背中を支える力となった。
「はいはい、やるだけやらせてもらいますよっと!」
 次の暴威が来る! 風をたぐり、集め、恐るべき爪を逸らしていなす。
 風が避ける。第三波――さらに、背後に回った龍が数体襲いかかる!
「イチくん、お願いするデス!」
 フェレットが高く鳴き、黒剣の姿を取り戻してリヴェンティアの手に。
 人形少女は正面の敵をシオンに任せ、背後からの奇襲を剣で迎え撃つ。
 ガギン!! すさまじい衝撃に地を削りながら後退するリヴェンティア!
 重い。受けきれるか? 思案の間にも別個体の攻撃が迫ってくるのだ!
「が、くう……っ!!」
 避けきれず一撃を浴びた。鋭利な爪の先端がリヴェンティアの肩を切り裂く。
 噴き出す血の量は、敵の動きを観察し備えていたリースリットを慄かせた。
「リヴェンティアさん……っ」
『気を抜いたらダメですわ、リース! 仕事はまだ先!』
 黒猫のミラがリースリットに檄を飛ばす。
 いつまでだ。いつまで耐えればいい? いつこの"初撃"は終わる?

「おい、なんとかならねェのかマナセ!!」
「潮時ですかね、近づいてきたドラゴンを焼き尽くしますッ!」
 ネロの叫びに、マナセは集中させた魔力を炎の竜巻として解き放った。
 敵を呑み込む灼熱は渦を巻いて燃え上がり、龍どもを責めさいなむ!
「俺たちを巻き込んだりしないでよ? ぞっとしない……ッッ!!」
 あくまで平時通りに軽口を続けようとしたシオンが、たたらを踏んだ。
 一撃が入ったのだ。リヴェンティア同様に疵が血を噴き出した。
「シオン!!」
「――ミラ、皆さんのことをよろしくです」
『リース? ああもう、仕方ないですわね!』
 もはや居ても立ってもいられず、リースリットは退いたシオンの代わりに前に出る。
 追い打ちを仕掛けようとしていた龍の一撃が、ざっくりと体を引き裂こうとする。
 この一撃は相殺に成功。返した衝撃力が愚かな黒龍に応報する。
 だが二撃目! 続く尾の薙ぎ払いを殺しきれず、華奢な体が吹き飛んだ!
「リースさん! 大丈夫デス!?」
「こちらは……こうなったら僕の番ですかね!」
 さらに攻め込んでくる黒龍に対し、再び入れ替わりでマナセが立ちはだかる。
 薙ぎ払うような一撃。直撃を受けつつも、覚悟が少年を踏みとどまらせた。
 炎が制御を外れかけ、半ば暴走状態で渦巻く。これが逆に功を奏した。
 龍どもは一瞬だけ猛攻を躊躇する。……間隙が、生まれた!
「よォし!! もういい加減我慢は終わりだ、ぶった斬って――」
「……ネロさん! 危ないデスっ!!」
 飛び出しかけたネロ。そこでリヴェンティアは察知した。
 黒龍に紛れ、すぐそこまできていた敵の姿に――!

 この時、誰もが状況を察知しながら即座に動くことはできなかった。
 シオンは度重なる負傷を圧して風の防壁を張り続けていたし、
 マナセはリースリットへの追撃をかばい、リースリットは大きな負傷。
 ネロは攻撃に意識がそれ、不意を打った斬撃に対処しきれない。
 つまり、己がやるしかない。リヴェンティアには少なからぬ躊躇があった。
 だが、やらねばならない。ならばやる。黒剣が魔刃と同じ赤を帯びた!
「させまセンっ!!」
 がぎ、ぎ――ぎゃぎんっ!! クリムゾンキャリバーを反らす少女の反撃!
 然り、ネロへの一撃は防いだ。だがそこを黒龍どもが見逃すはずもない。
 牙が、爪が! リヴェンティアを抉り、引きちぎる! 絶叫……!!
『そこまでですわ、この不埒者っ!!』
 そこへ陰からミラが飛び出し、不遜な龍どもをかきむしり後退させる。
 致命傷は避けられた。炎の竜巻が暴走状態に入りさらに荒れ狂う!
「てめえ……クソ野郎がッ!!」
「生きのいいガキだ」
 怒りをにじませたネロの睨みを受け流し、ドラゴンテイマーは二の太刀を振るう。
 ここでリースが動いた。リヴェンティアの太刀筋を真似るように!
「何」
「させません。リースはみなさんと一緒に勝ちます。勝って、生き残ります……!」
 不遜な人形を、ドラゴンテイマーは引き裂こうとした。
 だが、燃え上がる炎の竜巻と、身を挺したマナセがこれを阻む。
 なぜ動ける。その答えは吹きすさぶ春風にある!
「これ、疲れるんだよね――攻撃は任せるからさ、いい加減頼むよ」
 己を後回しに癒やしの魔力を振りまくシオンが、仲間たちに笑いかける。
 消えそうな笑み。それが却って、四人を奮い立たせた!
「地獄の先へと、必ず手を伸ばします。ドラゴンテイマー、あなたを倒して!」
「このくらいへっちゃらデス! ドドンとズバーッとあってくだサイ!!」
 炎が、そして援護射撃がドラゴンテイマーを僅かに退ける。
 ネロが目を見開き、そして努めて野卑に笑った。睨み見据えるは敵のみ!
「よくもやってくれたよなァ? ツケを払ってもらうぜ」
 勇ましき踏み込み! まず一撃目がクリムゾンキャリバーを弾き守りを外す!
 名無しの魔剣がびょうと大気を薙いだ。敵もかくや、反撃の掌打!
 腹部を抉られ、ネロは滝のように血を吐いた。しかしてその剣は止まらず。
「皆が作ってくれたチャンスだ、このぐらいで退いてられッかよ……!!」
「小僧ッ!」
「爆ぜやがれ、骸の海の彼方までなァ!!」
 弐の太刀。すさまじき重さを備えた斬撃が、ドラゴンテイマーの体を抉る。
 五人が死力を尽くし、命を振り絞って得た末の間隙。背水の斬撃。
 捨て身の攻撃は剣風をもって大地を立ち割り、そして!
「愚か、な……だが、これで私が滅ぶと、いうのか……!」
「それなら――愚かなのは、あなたのほうですね」
 半壊したリースリットの言葉に、ドラゴンテイマーが目を見開く。
 言葉は続かない。破砕する大地に呑まれ、強敵は滅び消え去ったのだから!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



 文明侵略は終わらない。それはまるで晴れぬ闇のように。
ゼイル・パックルード
……あんたのほうが楽しめそうだな。あぁ、俺は戦争自体はどうでもいいしな、楽しめればそれでいいんだ。

【第六感】を研ぎ澄まさせ、【見切り】に集中する。
あの腕を嵌めてるような剣の形状、小振りしても動き自体は多少大きくなるはず。
こっちは小回りの利くダガーと脇差の二つで【武器受け】する。吹き飛ばされようが何されようが剣の攻撃を喰らわないように。防御しながら牽制しつつそうしながらじりじり後ろに下がっていく。
相手が焦れるか、俺が疲れるか、ともかく相手が攻めてきたら【ダッシュ】し【咄嗟のの一撃】で【烈破灼光撃】を叩き込む。

初手が防ぎきれなかったら、間合いを離さず【カウンター】狙って行くしかないな。



●47人目の巡礼者:ゼイル・パックルード
 義憤。義理。使命。意地。あるいはマクロな未来的視点。
 そのどれもない。どれもどうでもいい。いやそもそも、この戦いそのものが。
「…………」
 再生を果たしたドラゴンテイマーは、虚無的な目をそちらに向けた。
 然り。そこには、地獄を形にしたような男とある意味で似たような青年の姿。
 銀髪に金色の瞳。その裡に揺らめく炎はまさに地獄の炎。ブレイズキャリバー。
「あんたのほうが楽しめそうだと思って来たんだが……正解だったな」
「楽しむ? ……私と戦うことが目的だとでも?」
「ああ、そうさ。意外かい?」
 ドラゴンテイマーに対し、ゼイルは野卑かつ不遜に笑ってみせる。
 それは明るく、しかしどこか虚無的……そう、敵対者とよく似ていた。
「この世界の行末なんぞ、俺にはどうでもいいんだ。ただ楽しめれば」
 金色の瞳が細まる。
「殺し合えりゃ、それでいいんだ」
 ぱちり、と、地獄の炎が火の粉を散らした。
 もはや言葉はいらない。互いに地獄を宿し、あるいは形とした者同士。
 理由もない。どちらともなく、間合いに踏み込み姿を消した。

 敵の魔剣は恐ろしいが、形状的に動きが大ぶりになることは否めない。
 戦闘者ゆえのゼイルの見立ては正しかった。それが尋常の使い手ならば。
「ぐ……ッ!!」
 ガギンッ!! 裂帛たる撃音が響き、ゼイルは苦悶して一歩退く。
 そこをドラゴンテイマーが二歩詰める。そして二倍の剣戟を繰り出す。
 ゼイルは脂汗をかきながら、その挙動を第六感的に読み取り、かろうじて見切る。
 わかる。己も地獄を宿し、地獄を好む者であるがゆえに。
 そのまま鏡写しとはいかないが、対手の狙いが、刃の行き先がわかる。
 二刀流で徹底的にこれを受け、前蹴りや膝を受けても即座に後退する。
 なんとしてでも刃の直撃を受けないように。易くない難行だ。
「威勢の良さはどうした。猟兵よ」
「おいおい、俺を猟兵だなんて呼ばないでくれ、よッ!!」
 ガギン!! 汗が散る。それが燃えて消える。
「俺は俺だ。戦いたくてここにいる。あんたみたいな強者とな」
「度し難い」
「よく言われるぜ――自分でもそう思う」
 ガギン!! ギギ、ギャリ、ギキキキ……ッ。
 ゼイルは野太く息を吐く。おそらくあと二、三度が受太刀の限度だろう。
 敵がそれを見逃すはずはない。必ず攻めてくる。そこを突くしかない。
「あんたもそうだろ――いや、答えはどっちだっていいさ」
「…………」
「地獄みたいな男だってんなら、俺が地獄を味わわせるだけだからなッ!!」
「――愚かな男だ」
 相対距離が離れた。次の瞬間、敵は目の前に!
 ゼイルはいよいよ笑みを深める。自らも一歩踏み込んだ。
 刃は避けられまい。だが好機である。練り上げた地獄の炎をここへ。
「死ぬがいい」
「試してみたいね、お代は払っておくぜッ!!」
 斬撃。
 地獄の拳。
 互いの命を狙った無慈悲にして捨て身の一撃はそれぞれの体を抉り切り裂き、
 かたや炎を受けて燃えながら、かたやすさまじい量の血を吐いて後退する。
 入った。あの一撃は重い。苦痛に膝を突きながらゼイルは笑う。
「まだだろ。まだ足りない……地獄ってのは、こんなものじゃあないだろ」
 ただ熱を求める。己すらも焼き尽くす、どうしようもない炎を。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
これ程強大な敵が存在していたとは…いや
逆境など何度も見てきた
仲間と力を合わせ、数を当てるのだ
故に私も…ただ一撃を当てる事のみに集中する!

当たる事を前提に少しでも軽減させるべく
『見切り』で軌道を読み
『怪力』『吹き飛ばし』で自らを敵の射線からずらし
幾ら負傷しようと『激痛体制』で耐え、次の瞬間【皇竜炎陣】を発動!
理性は吹っ飛ぶが敵はただ一人
目の前のコイツを砕けばいい
それさえ忘れなければ問題ない!

『属性攻撃』炎に身を包み
危機感焦燥感、怒りを乗せて食らい引き裂く
コイツを生かせばまた世界に危機が訪れる
今倒さなければ取り返しのつかない後悔が訪れるかもしれない
犠牲が出てからでは…命が失われてからでは遅いのだ!



●48人目の巡礼者:ユーリ・ヴォルフ
 ……ドラゴンテイマーは、あちこちのやけどを負っていた。
 ただの火傷ではない。地獄の炎による、けして回復できぬ焦げ跡である。
「グリモアを手にしたもの、我が天敵……十把一絡げには出来んか」
 疵の重さにドラゴンテイマーはわずかに呻く。顔をしかめて痛みに耐える。
 恐ろしい男だった。だが近づく気配が彼に安寧を許さない。
「……出てこい。相手になってやろう」
 虚無的な双眸は、あえて挑戦者を誰何しこちらから睨みつけた。
 そして、先の地獄とは、また別の炎を宿す守護者が現れた。

 ドラゴニアン――龍の炎を宿すものとして、敵に思うことはある。
 だがそれ以上に。この場でこの邪悪を逃してはならないとユーリは確信していた。
 そして強大さに対し、これまでの逆境を思い出し、奮起するのだ。
 この世界での戦い。三幹部。エイプモンキー、ラビットバニー、ウィンドゼファー。
 いや、この世界に限った話ではない。
 たとえば銀河皇帝――スペースシップワールドのはじまりのオブリビオン。
 そして戦争の残党たる、オブリビオンらしからぬ敗残兵。
 デストロイトリガーに支配された防衛者ども。強大な邪竜。他にも多くの。
 何度も挑み、そして越えてきた。その点で言えば此度も同じだ。
「私は倒れるだろう。だが死にはしない、それは今日でも、貴様によってでもない。
 死に、滅びるのは貴様の方だ。ドラゴンテイマー。私ではない誰かの手によって」
 燃え上がる覚悟が、双眸を束の間輝かせた。
「ならば私は、仲間たちと同じように、ただ一撃を当て未来を切り開くのみ!」
「その思い上がりを、叩き潰してやる。そのほうが面倒が少ないのでな」
「……ほざけッ!!」
 踏み込む。ユーリに剣を避けていなすという発想はない。
 殺意の軌道を予測し、大剣レーヴァテインを魔刃に合わせる。
 ぎゃきき――火花を散らす双刃、わずかにずれる軌道、そしてユーリの身!
「躱したか。だが無駄だ」
「がは……いいや、無駄では、ない!」
 空から、背後から、高揚した黒龍どもの鳴き声が響いてくる。
 骨にまで達した疵の痛みを、その傷自体を飲み込み焼き尽くすかのように、
 ユーリの内側から炎が噴き出し、やがてその姿は煌々と燃え上がる闘気に!
(怒りを解き放て。此度は俺ひとり、敵もひとり。目の前のコイツを、砕く!!)
 忘我に至りてなお敵のことは見逃さず、怒れる龍が吠えたける。
 皇竜炎陣(バーサクモード)。理性を代償に敵を必殺する捨て身の構え。
「GRRRRッ!!」
 獣じみた咆哮とともに、闘気の牙が、燃え盛る暴龍が黒龍の逆鱗を噛み砕いた!
「ほう」
「逃スカッ!!」
 傍観者を気取るのはここまでだ。ドラゴンテイマーよ。
 その名の通り、躾けられるならば我を躾けてみよと。炎が! 燃え上がる!!

 理性を失ったいま、ユーリをユーリたらしめるのは一人の少女への思い。
 ひいてはこの世界の、全ての世界に生きる善き人々への思い。
 この男を放っておけば、取り返しのつかない事態が訪れるかもしれない。
 後悔は死んでからすればいい。であれば命を賭して悔いを焼き尽くす。
 己以外の命が――あの子の命が喪われてからでは、遅いのだ!
『焼キ尽クシテヤル、オブリビオンッ!!』
「龍が私に逆らうか、身の程を知れ――!』
 黒龍どもが、暴龍を止めることはできない。
 闘気の炎と、地獄じみた虚無とがぶつかり合い、虚空を照らした――!

成功 🔵​🔵​🔴​

ルエリラ・ルエラ
戦略上意味がなくても少なくとも私はスッキリするし、見逃すっていう選択肢はないよね。

とにかく最初は逃げ回るよ。
私の『逃げ足』ならいけるはず。『野生の勘』や『第六感』をフルに働かせて、[私の戦闘服]で障壁を張って『見切り』ながら[ワイヤーフック]や[私のブーツ]を使ってとにかく回避に徹するよ。
なんとか凌いだら、【フィーア】を撃ち込む。相手が単体だろうが複数だろうが問題なし。矢の雨で気が逸れたり、一面土煙が酷くなるからそこを狙う。
視界が悪くなったところを『迷彩』効果のある[私のマント]で『目立たない』よう全力で『ダッシュ』して突破。悠々としてる本体にゴボウによる一太刀を浴びせ一気に仕留める。



●49人目の巡礼者:ルエリラ・ルエラ
 遥か彼方で、炎の暴龍というべき巨大な影と、陰が争い合っていた。
 それは食い合う龍と龍の戦いに思え……やがてそれも、終わった。
「まあ、そりゃ当然、こっちにも気付いているよね」
 その瞬間、いくつもの巨大な黒い影が生まれ、こちらにぐんぐん近づいてくる。
 想定通り。座していた狩人は、腰を上げて踵を返し、駆け出した。

 敵はこちらの隠密行動を、容易く見切る。
 アーチャーであるルエリラはそう結論づけ、あえて敵が罠にかかるのを待った。
 己を釣り餌として、気配を放射してドラゴンテイマーを誘ったのだ。
 そして猟兵を退けた彼奴は、己に代わりダイウルゴスの群れをけしかけた。
 ここまではいい。あとは徹底的に逃げ回り、本人が出てくるのを待つ。
 奴は焦れている。これまでの他の顕現ならば別であろうが、
 "いまの"ドラゴンテイマーならば、必ずルエリラにとどめを刺しに来る。
 狩人は獣を殺す。ゆえに龍であろうが、その行動には余地がある。
 ……曖昧な記憶のどこかに、そんな経験があった。だから体が動いた。

 とはいえ、迫り来る巨大な影は無数であり、ルエリラはひとり。
 いかに障壁を張って勘を研ぎ澄ませて回避しようと、限界はある。
 ワイヤーフックも何もかも損なわれ尽きた時、しかして願いは叶った。
 ドラゴンテイマー。深手だ。獲物の最期を確かめに、やはり来た。
(……たしかにこの戦いに、戦略上の意味はないんだろうさ)
 ボロボロの風体で斃れかけながら、ルエリらは心の中で思う。
(それでも少なくとも、コイツを倒せば私はスッキリするし、なんかありそうだし。
 見逃すっていう選択肢はない。誰が命令したわけでもない――)
 きっと、眦を決する。
「私が決めたことだから――フィーア!」
 そして弓弦を張り、矢を放った! 狙いは敵ではない、空である!
「何?」
 空中で炸裂した矢は、さながら流星雨めいて辺り一帯へ降り注いだ!
「もらった――!」
 迷彩を利用した捨て身の突撃。そして一太刀を浴びせ、
「……?」
 浴びせようとした。だが。己の体に、抉るような太刀筋。
「見上げたものだ。あれほど逃げ回ってなお諦めていなかったか」
 クリムゾンキャリバー。男と違いその刃は些かも損なわれていない。
 ルエリラは、目を見開いて敵を見上げる。プランに傷はなかった。
 ……彼女の動きも目覚ましいものだった。ただ。
「お前たちは危険だ。ここで殺す」
 ただ、ドラゴンテイマーが、遥かに格上だっただけの話だ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

才堂・紅葉
「素敵なおじ様ね。一踊りお付き合いしませんか?」

連戦で半壊状態の【蒸気王(アイテム)】の肩から問う。
返事は期待しないが、何故か【礼儀作法】を尽くさねばならぬ気がした。

静かな一時を終え修羅に入る。
召喚された大型の群れに、ブースターを噴かして最大出力で突貫。
分厚い腕で【逆鱗】を打撃し竜の男を目指す。

「有難う、蒸気王」
大破の限界でコアを分離。
大型を足場に【蒸気バイク】で突貫。
詠唱弾で【逆鱗】を狙いつつ、竜の男を目指す。

限界でバイクを乗り捨て、後は生身だ。
【気合い、激痛耐性、ダッシュ、ジャンプ】

「近くで見ると男前ですね」
血塗れで微笑み、男の頬に手を当て。
頸、肩、背、腰を瞬間で破壊する複合関節技で挑む。



●50人目の巡礼者:才堂・紅葉
 しかして、ルエリラに致命的一撃が振り下ろされることはなかった。
 クリムゾンキャリバーが振り上げられたその時、ドラゴンテイマーの手は止まった。
 止めるものがいた。あえて、黒龍の群れの前に姿を現した者が。
「その介錯、待ったをかけさせてもらいます」
「…………」
 じろりと、虚無めいた双眸が、声の主――すなわち紅葉を睨みつけた。
「ああ、こうしてみると思ったより素敵なおじ様ですね。
 どうですか。そんなとどめよりも、私と一曲踊りに付き合っては?」
 バチバチと、紅葉の踏みしめる足元で、蒸気王が火花を散らしていた。
 返事は期待していない。半ば戯れのようなものだ。
「くだらん。殺せ、ダイウルゴス」
「――待ったをかけると、言いました!」
 大型のダイウルゴスの群れが吼える。無視して紅葉は突き進んだ!
 逆鱗を砕く腕――だがこれは爪にねじ切られ破砕爆裂する。
 舌打ち。紅葉は想定よりも疾く乗機を棄てざるを得ない。
 試験用蒸気バイクがコクピットから飛び出し、紅葉は跳躍してこれに着地。
 猛然と蒸気エンジンを吹かし、ダイウルゴスを足場に走る、走る、走る!

 だがそれでもなお、マシンと紅葉を無慈悲な爪と尾と牙が襲った。
 ボロボロの有り様で、しかし紅葉は食い下がるようにスロットルをひねる。
 あそこで倒れるエルフのアーチャー。ルエリラ。見知った顔。
 止めなくてはならない。殺させてはならない。決して!!
「何があろうと……!!」
 エンジン部に引火。紅葉はマシンを蹴り棄て跳躍。
 それこそ踊るように空中で身をひねり、爪を避けてさらに蹴立てる。
 ドラゴンテイマーとの相対距離10メートル。重力制御システム起動――!

 弾丸めいて飛び出した紅葉は、血まみれのまま頬を撫でるように手を伸ばした。
 ハイペリア重殺術・墜天・崩し。この男を相手に完全な技は不可能。
 迎撃の刃に掌を重ね、鞭めいて絡め取りながら腕を極めにかかる。
「チッ」
「破壊するわ。その腕を」
 みしりと骨が軋む音を聞いた。ドラゴンテイマーは眉根を顰める。
 このままでは腕をもっていかれる、であれば方法は一つしかない。
「ダイウルゴス――」
 龍どもが頭を向けた。
「"何もかも、吹きとばせ"」
 黒龍どもは指示に従う。爪・牙・尾・翼、龍の暴威が。大地を抉った。
「その女の命はくれてやる――お前たちが生き延びられるならばな」
 大地が破砕し崩れていく。足場が崩落すれば関節技は手放さざるを得ない。
 落ちていく紅葉と敵の視線が交錯した。そして、もう見返すことはなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

非在・究子
【WIZ】
う、裏ボスって、やつか。
そ、そんなの……い、挑むに決まってる、だろ?
『現実』を、侵略するのは、お前だけじゃないんだ、ぞ?

ま、まわりの、無機物を、ドラゴンの群れに、変える、力、か。
な、なら、アタシは、自分の武器と防具を、対竜属性の、ドラゴンキラーとドラゴンアーマーに変化させて、ストックの『ボム』(※アイテム)の無敵も、駆使して、初撃をしのいで、ドラゴンテイマーに、突撃、する、ぞ。

攻撃を、外しても、周囲の地形を、UCの効果で、【ハッキング】して、『無機物』の特性を消して、『データ』であるアタシに有利な、『ゲームの世界』に変えて、相手のUCを妨害しながら、ドラゴンキラーを叩き込む、ぞ。



●51人目の巡礼者:非在・究子
 究子――ゲーム世界から現実化したバーチャルキャラクター――にとって、
 この世界=現実は『クソゲー』だ。リア充爆発しろとかそういう意味でもだし、
 彼女は現実を、ひいては戦いの全てをゲームとして捉えている。ゲーム脳である。

 やや語弊があるが、さておき。
 いずれにしても、『現実(クソゲー)』を攻略(じんせい)する究子は、
 文明を侵略し己のものとするドラゴンテイマーに密かな対抗心を燃やしていた。
 それはアタシのお株だ。ずるいぞ。侵略(ハック)はアタシのものだ。
 ……とか、内心では考えていたかもしれない。なんにしても。
 たしかなことはひとつ。究子はいつだってシリアスで、本気だ。
 たかがゲーム。それでも彼女が生まれて、アイデンティティとするものなのだから。

 そして、文明が侵略され、黒き破滅=ダイウルゴスの群れが生まれる。
 数はゆうに百。とてもではないが猟兵ひとりが滅ぼせるものではない。
 では究子はどうしたか。そりゃ、ゲームを攻略するときはまずアイテムを装備する。
 武器と防具は、装備しなければ使えない。ゲーマーあるあるだ。
「く、『現実(クソゲー)』を侵略(ハック)するのは、お、お前だけじゃないんだ、ぞ!」
 彼女が装備したのは、小さな体に似つかわしからぬカタールめいた刃と鎧。
 ドラゴンキラー、そしてドラゴンアーマー。どこかのゲームから引っ張り出した、
 龍殺しの概念が付与された電脳装備。さらに星型のアミュレットを投げつける!
 星のお守りは砕けた瞬間に綺羅星のような輝き=エフェクトを当たりに撒き散らし、
 これを受けた究子はチカチカと非現実的に輝く、というわけだ。
「む、無敵効果、って、やつ、だ!」
 なんともふざけた話だが、究子のユーベルコードはそういうものだ。
 そして走る。ダイウルゴスの攻撃は弾く。そういうゲーム効果なのだから。

「この世界の輩とは、どうしてこうなのだろうな」
「み、見下ろしてると、あ、足元、掬われるぞっ!!」
「――ふざけているようにしか見えん」
 だがその驕りは禁物。究子は恐れることなくドラゴンキラーを突き出した!
 当然避けられる。しかしその刃は、イコール究子のハッキングツールだ。
 現実そのものをハッキングすることで、周囲はドット模様のゲーム世界に。
「何?」
「お、お前。な、何、観客のつもり、し、してるんだ」
 龍殺しの刃を突き出す。無敵時間が終わり、龍どもがじわじわと究子を包囲する。
 この有利な空間でどこまでやれる。おそらく倒れることになるだろう。だが。
「お、お前はソロプレイでもな、あ、アタシたちは協力プレイだ!
 ざ、残機無限だからってエンジョイしてると、げ、ゲームオーバーだからな!」
 プレイヤー=猟兵が力を合わせれば、いつかは撃破=クリアに辿り着く。
 ならば己は攻略チャートの一部になろう。残機が減るのは慣れている。

 究子はいつだってゲームに本気だ。
 クリアしたときの喜びが、その魂を震わせる限りはずっと。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
この力量差の前には、小細工など何の意味も成さんだろう
だが引く事等出来はせん

剣怒重来を使用
見切りと第六感、戦闘知識を駆使して致命傷だけは避ける様に努め
激痛耐性とオーラ防御、覚悟で耐えて攻撃力の増強を図り
範囲攻撃となぎ払いで出来るだけ多くを巻き込み道を作るよう試みる
刃を振るうべき腕すら残らず砕けようと屈しはせん
怪力・鎧砕き、己が膂力と乗せられる力の全てを加え
負の要因悉くを覚悟で捻じ伏せ、刹那の隙とて見逃さず
喰らい付いてでも一刀届かせてくれよう

……お前の目的が何か等どうでもいい
私の刃は護る為に在る
未来を奪い脅かすものを見過ごす心算は無い
如何な苦境に陥ろうとも、この身が動く限りは抗ってくれる



●52人目の巡礼者:鷲生・嵯泉
 文明侵略(フロンティアライン)。
 聞くだに禍々しく邪悪めいたこの名の真の意味はいまだわからない。
 なぜならばその使い手であるドラゴンテイマー自身が、何もかも謎だからだ。
 目的。正体。本当にこの世界のオブリビオンなのかどうか。
 もし仮にこの世界のモノでないならば、それはつまり"例外"であることになる。
 ならばそのオリジナルは。計画の意味。侵略の意味するところ。
 男は右目を閉じ、それらの雑念を振り払うように頭を振った。
 目の前に、今まさに侵略される文明の残滓があるのだから。

 黒龍ダイウルゴスが唸る。それは獲物を前にした警戒の唸り声。
 ある個体は吼える。それは獲物を前にして、歓喜と嗜虐の咆哮。
 どちらであれ同じ。挑みかかってくる獲物(てき)を殺すだけである。
 ではそれに対し、嵯泉はどうしたか――剣豪たる身、搦め手は不得手。
 ましてや龍の目をかいくぐって隠密するなど、夢のまた夢。ならば。
「潰えはせん。貴様らの爪牙、糧と変えてくれよう」
 ただそう言って、愛刀・秋水を手に悠然ですら足取りで……飛び込んだのだ!

 無謀。そんなことは嵯泉自身が誰よりよくわかっている。
 されどこの身、いまは傷つけば傷つくほどその歩みを早めん。
 ましてや隻眼なれど一流の剣豪たる身、龍の攻撃の起こりを見るは容易く、
 避けられずとも致命傷を受けぬよう立ち回ることはかろうじてできた。
 痛みはねじ伏せる。殺意が凝り、靄めいて彼の周囲に立ち込める。
 気である。一撃ごとに強まる足の力で大地を蹴立てて、走る。
 見えた。群れの彼方、あちこちに傷を負った首魁の姿!
「一刀、届かせてくれよう――!」
 そうはさせじと、黒龍ダイウルゴスの群れがわっと嵯泉に襲いかかった。
 切り裂かれ、抉られ、ついばまれ、ついには片腕をもぎ取られてなお。
「……言ったはずだ、潰えはしないと……!!」
 修羅のような男は、巌のような信念で、ただ大地を踏みしめ、駆けた。

 虚の如き双眸が、ザクロめいた色の隻眼を見返す。
 満身創痍。龍から生命を収奪する手間すら惜しんで得た好機である。
 すさまじき闘気と執念。それは地獄じみた男をしてたじろがせるに余りある。
 まさに"剣怒"重来。食らいつくかのように歯茎を見せる怒相にて!
「ぬんッ!!」
「ぐ、お……!?」
 捨て身の斬撃、たしかに袈裟懸けに叩き込まれた。ばっ、と大量の血が飛沫く!
「お前の目的が何かなど、どうでもいい」
 二撃目。これをクリムゾンキャリバーがかろうじて迎え撃つ。
 隻眼と虚無、男は鍔迫り合いをし額をぶつけて睨み合った。
「私の刃は護るためにある。この世界を、未来を、人々をだ」
「そのために、命を賭して無為な戦いにあたら散るか。愚かな」
「散るつもりなどない。未来を奪い脅かす者に、私の命は奪えん」
 拮抗――ドラゴンテイマーが圧しかかる。だが!
「如何な苦境に陥ろうと、この身が動く限り……抗い続けてくれる!!」
 凄絶。そして彼は、その言葉を自ら示してみせた。
 三度切り刻まれ、全身を爪牙で抉られてなお。己は、二の太刀を叩き込んだのだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アルバート・クィリスハール
【万嶺殿】
ラスボスっていうか隠しボスじゃない?

【SPD】
使うのは【天網恢々疎にして失せず】。他者に与えたダメージをすべて返す技。
今回だけでもたくさん、たくさん与えてきただろう?
ああ、素直に化けていてやるよ。場に紛れるような色の小鳥にね。
馬鹿狐とイルがズタボロになって、斃れるのを黙って見ていてやる。

好きなだけソイツら痛めつけろよ。
その分全部、俺がテメエに返してやっからよォ!!
合体だぁ?すれば?その分ダメージも集中すんだろ。
くたばれ、クソヤロウ。


荒・烏鵠
【万嶺殿】@WIZ
さーさ、ラスボスだァ気張っていくぜィ!
やってみたかったコトがあってね。なーに遊ぶワケじゃねェ。

今回の作戦だ。
転送されてすぐ、オレが【九羽狐】を使い、あっちゃんを鳥に変え、オレはあっちゃんに化ける。いーちゃんが力づくで道を作り、オレは借りた槍を持ってオッサンに捨て身で全力突貫。
必ず『オッサンから』攻撃を貰う。
その間に封印解いて風に戻ったシナトの協力であっちゃんは全体を見渡せる上空へ。
オレがオッサンにやられると同時に術が解け、戻ったあっちゃんがユベコを使う。

なーに死ななきゃ負けじゃねェ。ダメージ入れられちゃオレらの勝ちよ。
何企んでんだか知らねーが、化かし合いじゃァ負けねーよ。


イリーツァ・ウーツェ
【万嶺殿】【POW】
どちらでもいいさ。敵は敵だ。

私の役目はシンプルだ。
【竜威解放・大砕界】で無理矢理にでも道を作る。
膂力体力には自信がある、すぐに潰れることはなかろう。
できる限り多くの竜を潰し。
同時に、できる限り多くの竜から攻撃を貰う。
そうすれば、策がなったときの成果が増える。
私は“盾の竜”。
死の一歩……否。死の数ミリ手前まで、倒れず立ち続ける。
なにがあろうと、烏鵠を奴に届かせる。
犬ですら飼い主を噛むのだ。
竜が竜使いを陥れようが、おかしいことはあるまいよ。




「さーさ、ラスボスだァ気張っていくぜィ!」
「ラスボスっていうか、隠しボスじゃない?」
「どちらでもいいさ、敵は敵だ」
「まァな! ……さて、さっそくだが、やってみたかったコトがあってね」
「……こんな状況で遊ぶわけはないと思ってるけどさぁ」
「私に策を練ることは出来ん。烏鵠、お前の提案に乗ろう」
「いーちゃん即決すぎんだろ! まァ聞けよ、まずはだな……。……」

●3体の人でなし:あるいは、人外と人外の戦いの顛末
 地獄がそこにいた。
 刀傷、あるいは多くの杙創・裂傷・火傷を負った、深手の龍使い。
 一方で、これに挑みかかるのはふたりの戦士である。
 その傍ら……いや、やや遠方には、花々と同じ色合いの小鳥が舞っていた。
「イル、道を切り開くのは任せるよ!」
「ああ。私は"盾の竜"、あの程度の群れなど相手にならん」
 アルバート・クィリスハール。そしてイリーツァ・ウーツェ。
 文明侵略によって生まれた無数の黒龍ダイウルゴスめがけ、突き進む。
 策などない。真正面から、ただドラゴンテイマーを目指して一心不乱に。
 当然、黒龍の群れがこれに反応し、まず前衛を務めるイリーツァを裂いた。
 ドラゴンテイマーは視線を向けることがない。ただ、佇んでいる。
「ぬう……ッ!!」
 大地をも抉る強靭な龍の爪を受け、他ならぬ龍であるイリーツァはしかし退かぬ。
 ぞっとするような量を噴き出しながら、魔杖を手放し徒手空拳にて。
「もはや枷はない。押し通るッ!!」
 吼えた怒声は龍のそれをも上回りかねぬほどに、猛々しい。
 体力膂力に任せた突進は、まるで山を運ぶ巨人神のように堂々としていた。
 目についた黒龍を殴り、引き裂き、あるいは足蹴にして逆鱗を砕く。
 そしてイリーツァが一体倒すまでに、三、あるいは五体がその体を裂く。
「倒れるなんて心配してないけどさ、その分はたっぷり支払ってもらうよッ!!」
 そして、生まれた間隙を、"坤交の槍"を構えたアルバートが羽ばたき突き進む。
 しかしイリーツァがどれほど命をギリギリまで危険に晒そうと、所詮は一人。
 防ぐにせよ殺すにせよ、ダイウルゴスの全てを倒せはしない。
 つまり捨て身の突撃を仕掛けたアルバートもまた、あちこちを切り裂かれる。
「このぐらいで止められるわけ、ないだろ!!」
 全身を朱に染めてなおアルバートは力強く羽ばたき、そしてついに首魁のもとへ!
 しかしアルバートよ、いくらなんでも相手を見誤っているぞ!
 彼奴には魔刃クリムゾンキャリバーがある! いかに捨て身の突撃と言えど無策では……!

「がっ!?」
 そして思ったとおりに、アルバートはばっさりと袈裟懸けに斬られた。
 こちらもいよいよ致命的にすら思える量の血を噴き出し、どしゃりと地面に倒れる。
 ドラゴンテイマーは悠然と、アルバートに歩み寄る。
 その遠方では、ダイウルゴスが生意気な龍に群がり爪や牙で弄んでいた。
「が、かは……っ」
「勇ましいものだ。だが私には届かんな」
「かは、は、ハ、そうでもね」
「――お前の仲間が、控えているからか?」
「…………」
 血を吐くアルバート……否、その姿が一瞬にして変じ――"戻った"。
 ドラゴンテイマーは不動。そこに驚愕や訝しみは一切ない。
 そしてアルバートであったはずの男は、似ても似つかぬ妖狐の優男である。
 荒・烏鵠。変化の術を能くする、化け上手の古狐。
「……オイオイ」
「あれがお前の仲間か」
 虚無的な瞳が、ちらりと上空を見た。
 ダイウルゴス。巨大な影が、イリーツァ同様に"群がっている"。
 考えるまでもない。その中心点に居るのは、"アルバート"だ。
 そう。最初に場に溶け込むように舞っていた小鳥、あれこそが本物。
 互いを变化させることで入れ替わる。十三術式:九羽狐(くわぎつね)。

「……何時から理解って、やがった」
「初めからだ」
 烏鵠は瞠目した。空と彼方から、肉を抉り咀嚼する音が聞こえてくる。
「てっきり頭上から不意打ちでも仕掛けてくるのかと思ったが、他愛もない」
 見破られていた。ドラゴンテイマーはその上で付き合ったというのか。
 そしていま。クリムゾンキャリバーを受けた烏鵠にも黒龍が近づいてくる。
「理解しているはずだろう。私と戦う価値はお前たちにはない。
 これが"無為な戦い"の末路だ。それを噛み締めながら、死んでいくがいい」
 烏鵠は、ドラゴンテイマーの言葉に目を見開き……見開いて、口を開いた。
「――ハ! ハ、ハ! ハ……ケ、ケッケッケ!」
 ドラゴンテイマーはいよいよ訝しむ。痛みと絶望で気でも狂ったか?
「あァーあ! アンタ流石だな! あァ、見破られてたんじゃァしょうがねェ。
 けどよオッサン――アンタ、いくらなんでもラスボス"らしすぎる"んじゃね?」
 ……カートゥーンの悪役ほど、勝利を確信したときに御高説を垂れたがる。
 此度も同じ。ドラゴンテイマーは猟兵への敵意ゆえ、あえて策に乗った。
 そしてこれを叩き潰し、絶望を与えた上で殺そうと画策したのだ。
 "それが、間違いだった"。
 彼奴はもっと警戒するべきだった。『なぜそんな迂遠なことをするのか』と。

 はるか頭上。巨竜に抉られる中、変化の解けたアルバートが、呻く。
「クソヤロウ」
 はらわたを抉られる。くだらない。肉を食まれる。どうでもいい。
 見下しやがって。オブリビオン風情が。過去の残骸が、宇宙のゴミが!
 見下すのはこちらだ。ああ、そうとも。空から見下ろすこの絶景たるや。
 勝ち誇ったところを撃ち落とすのがお前の好みならば、倣ってやろう。
 こちらの手の内を読んで勝ったつもりになっている、あのクソ忌々しい男。
 アルバートはまだ死んでいない。イリーツァもだ。"ならばそれでいい"。
 然り。烏鵠の描いた策は、だからこそふたりが命を賭けるに値した。
「コッチに乗った時点で、終わりなんだよ……ッ!!」
 本当ならばこの手でヤツを引き裂いてやりたい。文字通りはらわたが煮えくり返る。
 だができない。なぜなら彼は、朋友たちが抉られるのを黙ってみていたから。
 そして己もいま襲われている。だからなんだ。"余計に効果覿面"だ。
「俺の仲間をズタボロにしやがって」
 睨みつける。滴るような憎悪。虚無が見返す。
「いきがりやがって」
 龍が心の臓腑をえぐり出そうと牙を剥き出す。アルバートは男を睨む。
「ふたつ教えてやるよ。"悪いこたしちゃいけない"。そして」
 そして。
「――"殺してもいねえのに、勝ち誇るヤツは死ぬ"。くたばれ、クソヤロウ」
 因果応報が、解き放たれた。

「がぼっ」
 びちゃびちゃと、斃れた烏鵠の体に汚らしい血が降り掛かった。
「うえッ、ばっちィ!」
「が、は! かは……なん、だ、これは……!?」
「あァーあ。案の定気付いてねェでやんの」
 烏鵠は肩をすくめてみせる。
「何企んでんだか知らねーが、真正面からの立ち回りじゃ勝てなくてもよォ。
 ――こちとら化けて化かして慣れてんだ、化かしあいじゃァ負けねーよ」
 アルバートのユーベルコード、天網恢々疎にして失せず(レクス・タリオニス)。
 天の御遣いとも呼ばれるオラトリオの神秘を以て、因果応報をもたらす業。
 対称が過去に誰かに与えた苦痛と傷を再現するという、悪業応報の術である。
 ドラゴンテイマーはどれほどの苦痛を与えた。傷は?
 少なくともこの世界。猟兵との戦いはもはや幾度に渡るか。
「が、が、は……な」
 このために捨て身をした。このためにふたりは傷を帯びた。
 アルバートのぶんも上乗せされているが、まあこの際だ。胸がすく。
 黒龍共が抉れて引きちぎれて消えていく。満身創痍のイリーツァが現れる。
「……終わったか」
「おゥ。ご覧のとーり」
 イリーツァは空を見上げ、力尽きて落ちてきたアルバートを受け止めた。
 滝のような血を吐き出し、ドラゴンテイマーは何かを言おうとする。
「――ンじゃァな? オッサン」
 最期に聞いたのは、己はおろか仲間の命すら担保に二重の賭けをした狐の声だった。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



 地獄は尽きない。
ルーナ・ユーディコット
いつか戦うかもしれない相手なら、今この機を見逃す事はないよね
次戦う時に繋げるために、私の“今”を賭けて挑む

先制攻撃にはコートを身代わりにする事で対応を狙う
敵の攻撃に合わせ、自分を陰に隠すようにコートを脱ぎ捨てて、そのまま敵がコートに攻撃して私に攻撃を当てる機会を逸することをお祈りすることになるけど
コートが少しでも長く目くらましの役割を果たせるよう、月桂樹にも動いてほしい
攻撃が身を掠める場合は、激痛耐性で凌いで……傷を厭わずあの男に突っ込む

後は命を賭ける覚悟を決めて、孤狼【彗星】を発動して、捨て身の一撃を叩き込む
恐怖も痛みも咆哮で掻き消して、戦う理由で心を縛り、
私は強いと信じて、全霊の一撃を!



●56人目の巡礼者:ルーナ・ユーディコット
 この男との因縁は、ここで終わらない。
 戦争に勝つにせよ敗けるにせよ、あるいはヤツを逃すにせよ逃さないにせよ。
 "ドラゴンテイマーとは、いつかまた戦うことになる"。
 何か根拠があるわけではない。状況証拠からの推論と言っていい。
 しかして、ルーナには奇妙な確信があった。そうに違いないと。
 だからこそ、今倒す。それで男との因縁が途絶えるならそれはよし。
 そうでなければ、この戦いは必ず"いつか"につながる糧になるはずだ。
 ゆえに己の"今"を賭けて挑む。ルーナの、今(いのち)を。

 しかし戦場に立ち、巨竜が現れ、それでもなお恐怖をねじ伏せて挑み。
 搦め手をもって敵の最初の攻撃を凌ぎ、突き進んでも、ドラゴンテイマーの前に辿り着いても。
「……く……ぅ」
「まだ立っているとは。大した覚悟とやらだな」
 ルーナは満身創痍である。あちらには吹き飛ばされた小龍が斃れていた。
 然り。召喚されるダイウルゴスは、十や二十などでは効かぬ数である。
 これをくぐり抜けようと思うならば、一度の目眩ましで叶うはずはない。
 ただ彼女が浅慮であったとは言い切れない。尋常の相手ならば、
 あるいはオブリビオンであったとしても並の相手ならば、それで片がつく。
 彼女は疾風怒濤の勢いで戦場を駆け抜け、その一撃を見舞っただろう。
 人狼ゆえの韋駄天で刃を抜き、孤狼の名に相応しい一撃を与えただろう。
 されどそうはならなかった。だから彼女は龍についばまれ切り裂かれた。
 全身を朱に染め、なおもドラゴンテイマーを目指し突き進んだのは見事。
 ……だがそれまでだ。立っているだけでも驚嘆に値するとはいえ。
「は、ぁ――ア、ァアアアアアッ!!」
 いかに飢えた狼のように気高く咆哮し、心を縛ろうと。
「アアァアアあああぁっ!!」
 己の強さを信じ、踏み込んだとしても!

「――ぁ」
 届かない。刃は届かず、龍の爪がその背中を引き裂いた。
 勢いそのままにどさりと斃れ、ごろごろと地面を転がる。
「その疾さ、ひたむきさ。獣に相応しいまっすぐな殺意は誇るべきものだろう」
 言葉と裏腹に、虚無的な瞳がルーナを見下ろした。
「だがそこまでだ。お前に私は殺せない」
「…………ッッ」
 そして意識は闇に落ちた。
 彗星は強く輝く。そしてすぐに消えて、宇宙の闇に散っていく。
 駆け抜けたルーナのそのさまは、まさにほうき星のようだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

斬崎・霞架
ええ、戦争には我々が勝ちますよ
…ですが僕はそれ以上に、あの強さに興味がある

【WIZ】

まずはなるべく距離を取り、相手の攻撃範囲を見極めます
距離があっても油断は一切出来ませんが
動きを【見切り】、【オーラ防御】と【武器受け】で防ぎましょう
僕は超長距離からの攻撃を得手としている訳ではありませんからね
…一気に、その懐まで飛び込む

範囲外ギリギリで【力を溜め】ます
身体が軋もうが関係ない、もっと、もっと、もっと…ッ
ただ疾く、ただ剛く…ッ

“希望を棄てよ”ですか。元よりそんな甘いもので
アレを斃せるとは思っていませんよ
…それでも、挑む
相手が何であろうとも、越えて“自分”を証明しなければならないッ

――瞬刻【雷音】



●57人目の巡礼者:斬崎・霞架
 戦争は勝つ。大勢は決した、たとえいかにドン・フリーダムが強敵でも。
 三幹部を討ち果たした猟兵たちは、勢いそのままにこれを討ち滅ぼすだろう。
 信じている――というよりは、まあ諸々を鑑みた客観的な結論だ。
 ゆえに心配はない。懸念があるとすればむしろあの男の方である。
 戦争は勝つ。キマイラフューチャーの天変地異は収まり世界は平和になる。
 それで? その乱痴気騒ぎの中、あの男はまんまと逃げおおせると?
(そうはいかない……というのはもっともらしい理由ですかね)
 霞架は声もなくつぶやいて、己の欲求に苦笑した。
 彼の興味は目的だとか彼奴の正体などではない。
 黒龍の群れを従え、地獄じみたと形容されるその強さ。
 それを確かめ、味わう――そして、乗り越える。ただそれだけだ。

 そして居合を得意とする霞架が出した結論は、シンプルなもの。
『間合いの外から、一瞬で踏み込み斬撃を放つ』。
 そもそも居合とは、膝を突き合わせて座した状態から敵を不意打ちするもの。
 あるいは突然の不意打ちに対し、シングルアクションで応戦するためのもの。
 武術として昇華されたそれは、猟兵たる霞架の手にかかれば、
 瞬殺無音、かつ尋常の剣術ではありえぬ間合いを一瞬で駆け抜けるものとなる。
 届かぬ間合いから、防げぬ速度で来たる刃。敵にしてみれば悪夢そのものだ。
 ゆえに、対手の射程を見極め、この外側から一気に踏み込む。
 筋は通っている。事実、霞架はそれを満たせば彼奴を一刀に伏すことだろう。

 満たせれば、だが。

(一体どれほどの範囲に作用しているというのです……!?)
 文明侵略が始まった時、霞架は即座に敵から距離を取り駆け出した。
 このユーベルコードは、円形範囲に伸びていくことで全ての無機物を支配する。
 同じような術式を持つ猟兵は多い。おおよそ範囲はメートル半径で示される。
 現状の最前線を仕る一流の猟兵ならば、どれほど長くても半径40メートル。
 つまり直径80メートルが限度。オブリビオンは個体で言えば猟兵よりも強力、
 ならば仮に二倍と見積もっても半径80メートル――直径160メートルほどか。
(まだ広がる……!?)
 然り。ドラゴンテイマーの支配領域は霞架の予測を遥かに超えていた。
 そして距離を取ろうとする霞架を、生まれでた黒龍が追いすがり道を塞ぐ。
 仮にこのあとに範囲の外に出れたとして、もう半径は100メートルを越えている。
 ……詰みだ。そのような超・長距離を踏み込む剣技など存在しない。
(やるしかないですね)
 即座に踵を返し、腰を落として満身の力を込める。
 地を蹴った。地面が爆発し、彼をひとつの弾丸として中心部へ押し戻す!
「――ほう」
 虚無めいた瞳が霞架を見返した。驚嘆。感心。地獄じみた重圧。
 希望を棄てろ? そんな甘いものでアレを倒せるはずはない。
 必要なのは剛(つよ)く、疾く、音をも超える瞬刻雷音の一太刀――!

「……かはっ」
 交錯が終わった。霞架は己が斃れていることを自覚した。
 刃はどうだ。ドラゴンテイマーの肩口に、かすり傷程度の抉れがひとつ。
「よもや戻ってくるとは思っていなかった。逃げていたのではないのだな」
「…………ッッ」
 見下されている。ドラゴンテイマーの言葉に抗おうとする。
 立てない。四肢に大穴が開いていた。牙か、爪によるものか。
「私に一太刀を浴びせるとは見事だ。やはり、お前たちは油断ならぬ敵か。
 いずれ私がグリモアを再び手に入れるため……やりようを考えねばなるまい」
 彼奴は"次"を見据えている。霞架は立ち上がろうとする。
 叶わないまま、花びらが忌々しいほど暖かく彼の体と意識を受け止めた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ヌル・リリファ
◆アドリブ、連携歓迎

関係ない。オブリビオンは滅ぼす。

演算装置から【戦闘知識】の補助をうけ、サイキックによる【衝撃波】【オーラ防御】、【見切り】【盾受け】を駆使、致命傷だけ対処。
それでもたりなければ【生命力吸収】。

ちかづけたら、UCで攻撃力を強化、【属性攻撃】を載せ、ルーンソードできる。

それでもとどかないなら。
ちににせた液体をながして油断させ剣を【念動力】で操作、背後から【カウンター】

……人間なら、とまったかもしれないけど。生憎、わたしは人形なんだ。

たとえ剣をとるてをきりおとされても殺してみせる。

(こういうことはしないようにしたかったけど
マスターの敵、殺さないとわたしはだめだから。ごめんなさい)



●58体目の巡礼者:ヌル・リリファ
 オブリビオンは滅ぼす。殺す。見逃さず、例外なく、絶対に。
 敵の目的がどうとか、戦略的価値がどうとか、識らない。関係ない。
 それが人形の役目。それが猟兵の仕事。それが兵器の義務。
 それが――本当に?
(ほんとうだよ)
 本当に? ただそれだけで、戦うと? 無謀な強敵相手に? 無為な戦いを?
(うるさい)
 意味なんてないのに。意味がないことをするなんて、それこそ出来損ないなのに。
(ちがう)
 なんだこのノイズは。こんなものは必要ない。これは兵器にはありえない。
 正体不明の己の声を振り切るように、ヌルは思考をシャットアウトした。
 それが、彼女が戻れる最後のポイントだったのだが。

 サークレット型の演算デバイスが限界以上の性能を発揮し、ヌルをサポートする。
 あわせて蓄積した念動力――サイキックエナジーが、四肢に満ち満ちた。
 炎。水。風。
 三種の魔力を駆動回路に流し込み、リレイさせ、己の炉を回す。
 限界まで。限界以上に。負荷警告など無視して徹底的に。
「…………」
(いた。殺す)
 虚無的な双眸がヌルを――識らない。関係ない。敵の仔細などどうでもいい。
 目視したからには殺す。ヌルは躊躇なく地を蹴って接近を試みる。
 龍が襲いかかることはない。ならばヌルはサイキックエナジーを己の五体へ。
 噴射。加速力を得て、コンマゼロゼロ秒でも疾く接近し、斬る。
 殺す。絶対に殺す。オブリビオンは殺さねばならない。例外はない。
 それが兵器の役目。それを果たしていれば己は技術と価値を証明出来るのだ。
 だから殺す。殺さねばならない。敵を見逃す兵器など出来損ない以下のガラクタだ。
 だから殺す。そこに理由や信念は関係ない。ただそうするから、そうする。
 研ぎ澄まされた殺意は冷たくプラスティックめいていた。鋭利な様は刃のよう。
 ならばこの刃にて敵を斬り、殺す。そのためならば、この身は。

(ごめんなさい)
 凪いだ海のような青年の相貌が、言葉が浮かんだ。
(こういうことは、しないようにしたかったけど)
 届かない言葉。無為な謝罪。いかにも人間的な、哀れな人形の懺悔。
(マスターの敵、殺さないと、わたしはだめだから)
 だから。
(――ごめんなさい)
 代わりに敵は討つ。己の役目は果たす。果たさねばならない。
 これで果たせないなら、何の意味がある? なんの意味、が――。

「呆れたものだ」
 何の意味が。あった。この無謀な捨て身に。
 ブーストされた反射神経をも凌駕する斬撃。念動力操作による不意打ちも届かず。
「これが人形らしさか? 理解しがたい。まあ、どうでもいいが」
 斃れてしまったら。刃を届かせることすらできないなら。
 何の意味がある。何の意味が、この行動に、わたしに、これじゃ。
 これじゃ――何もかも。何の意味もない、ただの。
「無為を噛み締め、滅びるがいい」
 ――ただの、失敗作(がらくた)ではないか。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

千桜・エリシャ
嗚呼…これが強者の圧
これほどの昂り、感じたことがあったかしら
素敵…

あなたの御首が、欲しい

ねぇ
こっちを見て
たかが女の相手
あなたなら造作も無いでしょう?
だから少しだけ
私の戯れに付き合って下さいまし

黒竜の群れは見切りと花時雨を開いてのオーラ防御でなんとか耐えてみましょう
けれどね、あなたが戦力を増やすほど
それは私の武器にもなりますの

傾世桜花――私の花弁が届く範囲の黒竜を魅了してカウンター
さあ、主人に反旗を翻しなさい
あなたはそれを迎え撃つか
あるいはUCを解除するか――

どちらにしてもそれが私の狙い
一瞬でも隙が生じれば好機とみて
黒竜の群れの混乱に隠れるように肉薄
呪詛載せた刃で首を斬り落として差し上げましょう



●59人目の巡礼者:千桜・エリシャ
 見知った顔が斃れて、これから死のうとしていた。
 いや。彼女は人形だから、彼女の言に任せるなら『壊れる』のか。
 それは――それはいくら彼女でも、羅刹でも、受け入れられないものだ。
 二の次ではある。もっと狂おしく求めて止まぬものがある。
 ただ彼女は熱に狂ってはいたが、さりとて人の心を棄ててもいなかった。
「ああ。ねえ、どうかお待ちになって、素敵な御方」
 それに、"こうする"のは、もともと考えていたこと。でなければ甲斐がないから。
 つまりこれは、彼女を助けるために身を曝け出す、というよりは。
「――そんなことより、私と遊びませんこと?」
 男を誘う、情婦の如き甘えのようなものだった。

 そして、ドラゴンテイマーは人形に振り下ろしかけた刃を止める。
 さもありなん。現れた女の剣圧。隙を見せれば容赦しないと語っていたからだ。
 しかして女――つまりエリシャは、うっとりと、艶然と微笑んでいて。
「この小娘の命が惜しい、というわけではなさそうだな」
「いいえ? ヌルさんは大事な大事な、かわいい御方。好きにはさせませんわ」
 けれど、と、潤いを帯びた唇が妖しく揺れた。
「それよりも、私、欲しくて欲しくてたまらないものがありますの」
 ドラゴンテイマーは無言。
「――あなたの、御首が。欲しい」
 辛抱がたまらないと、そう言いたげな悩ましげな声である。
 ここが鉄火場でなければ、あるいはそれはまさに夜鷹のそれめいている。
 卑しく、妖しく、艶やかで、だがしかし――恐ろしい。ぞっとするほどに。
「ねえ」
 ドラゴンテイマーは無言。
「こっちを見て。私と遊びましょう。たかが女ひとり、同じ女ひとりですわ」
 ヌルを救いたくないかと言えば、否。彼女は見知った相手だ。気になる存在だ。
 助けられるなら助けてあげたいし、無事は何よりである。
 だがそれよりも。ああ。この重圧。殺意。ああ。ああ、ああ!
「どのみち相手にするならば、まだ無事の私のほうがいいでしょう?
 だから少しだけ――少しだけ。私の戯れに、付き合ってくださいまし」
 男を斬りたくて、伐りたくて、切りたくて仕方ない。だから斬ることにした。

 だがドラゴンテイマーは剣客ではない。
 ましてやエリシャのように、死合を楽しむタチでもない。
「くだらん。ダイウルゴスよ、殺せ」
 文明を侵略して黒き破滅を生み出し、それをけしかけた。
 エリシャはそれをすらうっとり微笑んだまま受け入れる。龍どもを見やる。
 和傘を開き、胡蝶と桜をあとに引いてふわりと爪を、尾を、牙を避ける。
 避けきれぬ。いかに羅刹の、修羅の見切りも数の利は覆し難い。
 肌を裂かれ、肉が削げ、朱が染まりついには骨が砕けて――しかし。

「蕩けて、溺れて、夢の涯」
 上等な和服を半分ほど血に染めたすさまじい有様で、女は謳う。
 するとその瞬間、振り下ろされかけた爪がびたりと止まった。
「……何?」
「さあ。主人に、反旗を翻しなさい」
 ――ダイウルゴスの双眸が! エリシャからドラゴンテイマーへ!
 まさに傾国の美女めいた笑み。魅了の花びらが、龍の意識を奪ったというのか!
 ……しかして、同じように魅了を試みた桃色の妖狐がいる。
 ダイウルゴスは一瞬こそ爪を向けかけたが、ぴしりと金縛りにあったかのように、
 攻めるでもなくしかし振り払うでもなく、不動を保っていた。
「あら。あら――」
「チッ」
 舌打ち。こうなるとドラゴンテイマーの命令ももはや受け入れない。
 反逆は成らず。されど従順も成らず。であれば黒龍はただの案山子も同然。
 それらは即座に無機物へと還る。――どのみち、エリシャの掌の上だ。

 女は男の目の前にいた。刃を鞘走らせ――否、もはや後ろに。
 神速の居合。ぶしゅう、と血が線を引く。かざした左腕の骨が見えた。
「残念。でも嬉しいですわ。まだじらしてくださるのね?」
 御首は、手に入れにくいならにくいほど"いい"。楽しみが増える。
 そう言いたげに振り返るエリシャを、ドラゴンテイマーが睨み返す。
「ならまだまだ踊りましょう。ええ、ええ、飽きるまで、あなたの首が落ちるまで」
 きゅうと釣り上がった口元は、まるで三日月めいていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

俺と同じ技を使うか
竜を使役するものとして捨て置けぬ相手だ

敵の攻撃に対し【流星蒼槍】を発動
だがこれは【金月藤門】のフェイント+残像による「ふり」だ

赤き剣撃をカガリが庇い、カガリに黒竜が群がったら真に【流星蒼槍】を成就
UCを発動し黒竜を手放したドラゴンテイマーを狙う

【金月藤門】と【黒華軍靴】を駆使し意表を突いて【碧血竜槍】を槍投げて初撃
UCで追撃しつつ【魔槍雷帝】も電撃の槍として使うぞ

カガリにとって俺は大勢居る友の一人でも俺にとっては半身、生涯をかけた無二の友
カガリが俺を庇って彼が砕けるのなら、俺の命も敵諸共散らすまでと心得ている
だから俺はカガリを信じて敵を討つまで


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

…まる、アレが「何」に見える
…あのようなモノ、どこへも逃がしてはいけない

まるに対して振るわれる赤き剣を、割って入って【鉄門扉の盾】で受ける
(ダッシュ・オーラ防御・【不落の傷跡】【隔絶の錠前】)
カガリは、その侵略を拒絶する
その痛みを、拒絶する(激痛耐性)
拒絶で足りぬなら、『世界』を『隔絶』する
何人たりとも、施錠された門より後ろへは通さん!

初撃を受けた後は【籠絡の鉄柵】を変形して周囲を囲い【駕砲城壁】を
ドラゴンの群れの攻撃に対応する
ドラゴンがまるに向かうなら、鉄柵に乗ってまるの元で城壁を維持する

死ぬつもりで挑めば、アレは「殺す」だけだ
こちらが「殺す」つもりで臨まねば!



●ふたりの巡礼者:マレーク・グランシャールと出水宮・カガリ
 転移を終えて"それ"を視た時、まずカガリが反応した。
 ……マレークは、おそらく初めて『それ』を視たことだろう。
「カガリ。……震えている、のか」
 然り。マレークにとって無二の友、生涯を賭した相棒、いわば半身。
 互いに誓約をかけあった相手であり、だからこそマレークは眉根を顰めた。
 城門の化身、堅牢さにかけて彼の識る中で最たる、このヤドリガミが。
「……まる」
 いまだ震える片腕をもう一方の手で強く握りしめながら、カガリは云う。
「アレが、"何"に見える」
「…………」
 あれ。左腕をはじめあちこちに刀傷を帯びた、しかし恐るべき男。
 地獄の如き――そうとしか言いようのない、恐るべき、敵。
 ドラゴンテイマー。黒き龍を従える。底知れぬ、謎めいた深謀遠慮の立役者。
「あのようなモノ、どこへも逃がしてはいけない」
「カガリ」
「……やるぞ、まる。やらなければいけない」
「……ああ」
 ここで退く選択肢はない。だが見返す半身の紫眼を、マレークはしかと受け止めた。
 恐怖はある。重圧がある。だがそれでふたりが臆することは決してない。
 むしろ却って覚悟は深まり、この命を賭けるという決意が……否。
「死ぬつもりで、などとは言っていられないな」
「そうだ。それでこそまるだ。それでは、アレは"殺すだけ"だ」
 ふたりの視線が離れる。見据える先は、形を得た暗黒。
「――こちらが、"殺す"つもりで臨まねば」
「応。ならば、必殺の誓いを立てるまで」
 びょう、と風が吹きすさぶ。
 そして、互いの必殺圏がぶつかり合い、大気をゼラチンめいて凝らせた。

「なかなか"やる"ようだな」
 一方で、二人の力量を端的に認めたのもドラゴンテイマーである。
 そこに感嘆や畏敬、あるいは強者然とした見下すような気配はない。
 強さを認め、言葉にした。究極的客観の声音である。
「いいだろう。お前たちがこの無益な戦いをあくまで続けるならば。
 私はそれを相手し、お前たちに無為の行く果てを教えてやるまでだ」
「……無益かどうか、それはお前が測ることではない」
 応えたマレークの左手、金月藤門がほのかに光を放つ。
「空言は滅びたその身に返るぞ。控えるべきだな」
「――ほざけ」
 問答は無用。恐るべき速度でドラゴンテイマーは間合いを詰める!
 マレーク、そしてカガリのふたりの達人をして、瞬間的にしか見えぬほどだ!
「――ッ!!」
 金月藤門が強く光を放つ。マレークによる脇腹狙いの貫手。
 だがドラゴンテイマーには見えている。ゆえに対処は悠然として行われた。
 魔刃の根元で迫りくる貫手を払い、先手の魔剣を逆袈裟に叩き込む。
 完璧な動きである。彼我の戦力差は圧倒的ゆえ可能な絶対先制。
 ――だがそこでドラゴンテイマーは訝しんだ。
 来るはずの貫手がない。……フェイント! かすめたのは残像だ!
「小賢しい」
「その侵略!!」
 振るわれかけた魔剣、これを割って入ったカガリの盾が受ける!
 まさに電光石火の連携、半身たる二人だからこそ!
「その刃――カガリは、お前の一切を! 拒絶する!!」
「足掻きながら死ねッ!!」
 しかして不壊不落の門、閉ざされど身を挺したカガリは無事ではない!
 煌めいたと見えた赤黒の刃は、代わりにカガリの身をざっくりと切り裂いた!
 黒龍どもがけたたましく吼える! 蚕食の時間であると!

 ――だがそこで、ドラゴンテイマーは理解した。
 カガリの真意。盾は"カガリを護るためのもの"ではない。
 その拒絶、世界をも隔絶する守りは彼自身のためではない。
「ここは通さぬ」
 ラヴェンダーめいた瞳がきらめく。その後ろにも同じ輝き。
「龍も、地獄も、誰であれ。何人たりとも!!」
 炯々たる双眸。決意の滲む力に血が涙めいて溢れた!
「城門(カガリ)より後ろへは、通さんッ!!」
 ならばと黒龍が群がる。カガリは避けない。そのためにここにいる。
 そのためにこの身はある。そのために人となりて今ここへきた。
 絶対に通さぬ。我が半身たる男には、何があろうと、龍も刃も何もかも。
 龍が群がる。抉ろうとした牙は、爪は光の弾丸となりその身を灼いた。
 されどカガリとて無傷ではない。しかれども彼は、けして退かぬ!
「退け」
「ふざけるな」
 燃え上がるような瞳。その背後から、来る。もうひとりの半身が。
「消えろ」
「断る。カガリは"そのため"のものだ。もはやカガリは刃を振るわない、けれど」
 跳躍。マレークを襲う龍はいない。"そもそも襲えない"のだ。
 彼が居るのはカガリの背後(となり)であり、それを護ると決めたならば。
 閉ざされた城門は何人たりとも通さない。決して通すことはない!
「――お前を滅ぼす半身(もの)を、護ることはできる」
 ドラゴンテイマーは空を見上げる。煌めく電撃の槍! 尾を引く様は流星めいて!
「――星を穿て、蒼き稲妻よここに」
 ばち、ばちり、ばちばちばち――バチバチバチバチ!!
「碧眼の双頭竜よ、堕ちろ――!」
 かくて、蒼き槍は流星となって降り注いだ。
 カガリの拒絶は何人をも通さない。されどかの刃はカガリの半身のもの。
 落ち来る流星は、カガリでもその友でもなく、敵を穿ち殺すためのもの。
 死なばもろとも、だけでは足りない。
 殺さねばならない。滅ぼさねばならない。
 ――その決意と覚悟と、そして二心同体たる連携が。
「バカな――!!」
「滅びの時だ、龍使いよ」
 ――大地を砕く恐るべき破滅と共に、邪悪を討ち滅ぼした!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 グリモアを。我が手にあるべきものを。再び。
蒼焔・赫煌
いいねいいね!
カッコいいとも!
こういうバトルも正義の味方っぽいからさ!

たくさんいるなら駆け抜けるしかないさ、最初から最高速度の全速力だよ!
ドラゴンに張り付くくらいに近づいてびゅーんさ!
あれだけの大きさと数なら僅かな隙もあるはずさ!
避けるのは無理でも【見切り】ながら足を動かせるくらいの傷に抑える!
無傷でなんて思っちゃいない、【捨て身の一撃】の【覚悟】さ!

一度速さを見せたら、そこから本番
蹴りからの炎の放射を全力で!
その勢いを利用して更に加速!
無理矢理の加速でで体がどうなっても気にするもんか
ほんの一瞬を駆けられればそれでいい!

命を燃やして、焦がして!
とっどけー!

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】



●62人目の巡礼者:蒼焔・赫煌
 炎が、大気を焦がしてぐるぐると廻(まわ)る。なおも燃え上がる。
 ただの炎ではない。それは車輪の形をし、少女の足元を覆う超常の炎である。
 火足九道カシャ。少女自身の命を燃やして咲き誇る、風よりも疾き炎。
 向かう先にはなにがいる。なにがある。――龍がいる。
 黒き破滅。そびえ立つ巨竜。その数は十や二十では済まぬほどに。
 ダイウルゴス。恐るべき魔竜。群れをなし、獲物を蚕食する邪悪の顕現。
 その奥。再生を果たした地獄めいた男が、赫煌を見返していた。
 少女は、赫煌はどうするか。その眼差しに慄くか? 臆し、引き返すか。
 ――恐怖はある。だがそれだけではない。より強く燃え上がるものがある。
「立ちはだかるザコモンスターに、奥に君臨するボス敵かぁ!
 いいねいいね、カッコいいとも! こういうバトルも――」
 クラウチングスタート。炎が逆巻き赫煌を疾風の如き韋駄天とする。
 最高速度。徐々に加速するなど後手も後手、命を燃やして全速力に至る。
「……正義の味方っぽいからさァ!!」
 "熱に焦がれよ、我が命"。
 命を犠牲にした超・超高速移動を可能とする術式。
 されどその軌道が一直線ならば、龍にも迎え撃ちようがある。
 ましてや敵は巨大、振るう爪は大地もろとも炎を、少女を抉る!!
「がっは――アハハ! アッハハハハハ!!」
 すさまじい量の血が噴き出す。閾値を超えた痛みに赫煌は高らかに笑う。
 そして、走る。地を"蹴り"、炎を! 噴き出す!!

 噴射は命を削る。そもそも抉られる傷はそれ自体が致命的だ。
 だが足は動く。構わない。音を超えた衝撃で鼓膜が破けて血が噴き出した。
(気にするもんか)
 さらに蹴る。周囲の景色はもはや色のある線となりやがて黒へ。
 爪が待っている。見透かした尾が向かえ入れる。大地を転がる。大地を蹴る。
 燃え上がる。命を薪とした炎が。ならば疾く走れる。全力で、どこまでも!
「命を燃やして! 焦がして!!」
 なんたることか。なんたる前のめりか。何たる無謀か!
 斃れ、吹き飛ばされ、それでもなお赫煌は再び挑む! 蹴り立つ!
 幾度目かのトライ、足だけは動く。動くならば、やれる!
「――届かせる! と・ど・けぇえええええええッッ!!」
 ゴオオオオウッ!!
 エグゾーストめいた轟音! 炎はもはや大地を焼き尽くすほど!
 龍の牙も爪も何もかもを越え、光の一歩手前にすら達した少女が――。
「……お前は」
「キミは! ボクの蹴りを――避けられない」
 速度を威力となし、勝ち誇る悪党(オブリビオン)を足蹴にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

詩蒲・リクロウ
リクロウという少年は、元来臆病でありながら心優しい性格の持ち主である。
恐ろしく強大な敵を前にすれば足が竦む。
それでも、攻撃される誰かが居たとすれば思考よりも先に身体が先に動き庇ってしまう。

その優しすぎる性根は命取りになるのだろう。
自身が一番理解している。
それでも、身体が勝手に動いてしまう。
傷つく誰かを見逃すなと魂が叫ぶ。

例え、その自身が力尽きようと。

UC【チキンハート・シャウト】
UC【デッドマン・スタンディング】
UC【グラウンドクラッシャー】

リクロウ少年の力は、「後の後」於いて十全に発揮される
力尽きたその後にこそ本領
窮地にて死を凌駕し足掻き続ける

それこそがリクロウ少年の夢想した英雄(ネガイ)だ



●63人目の巡礼者:詩蒲・リクロウ
 心優しい――悪い言い方をすれば、それは臆病者ということでもある。
 虫も殺せぬ、という語彙が、優しさを示す形容詞になるのが良い証拠だ。
 リクロウという少年はまさにそれで、けれどそれはたしかな善性でもあった。
 ただ、オブリビオンという大悪に挑む戦士としては、大きな欠点である。
 それを補う仲間たちがいる。悪ふざけして、あらゆる敵をからかう奴らが。
 ……今、リクロウをからかうそんな気のいい悪友どもは、ここにいない。
 一人だ。リクロウは、一人で、自らの意思で、挑んだのだ。

 敵は強い。
 目的はわからず、それでいてこれまでの何よりも、誰よりも。
 隙を見せれば殺されるだろう。誰かが守ってくれるとしても、
 守ろうとした誰かが殺されてしまうかもしれない。
 ……それはある。とてつもなく恐ろしい。泣きたいほどだ。逃げたい。

 けれどもだ。
 ここでやつが、逃げ出して、"企み"とやらが成就して。
 自分の目的のために、星1つを犠牲にしようとするような、悪辣な男が。
 何をする。世界平和でも願うか。世界の皆よ幸せに、などと?
 ふざけた話だ。オブリビオンだ。過去の化身なのだ。であれば来るのは破滅だ。
 だから。ここで退けない。無意味だと、無益だと、無謀だと言われても。
 これまでの、"これから傷つくであろう誰か"、見逃せないのだ。

 敵は怖い。逃げたい。戦いたくなんてない。見て見ぬふりをしたい。
 ――それでも、"誰か"を、自分と同じ弱くて力のない"誰か"のことは。
 どんなに目を閉じて耳を塞いでも、魂(こころ)が見逃すはずはなかった。

 ……つまりはその自意識と決意こそが、何よりの"対策"だった。
 恐れをねじ伏せて突き進もうとする意思は、攻撃"それ自体を恐れる"リクロウにとって、『それでも』と挑む理由になり得る。
 挑んだ。そして斃れた。当然だ、"挑んだ時点でおしまい"なのだから。
 挑んだ時点で成功と言っていい。大局的に見ればそれは失敗だが。
 そのぐらいに、彼は無様で臆病で――"優しい"のだ。

「死ぬがいい」
(厭だ)
「お前の戦いに意味はなかった」
(違う)
 刃が己をめがけ振り上げられる。あれは一瞬のあと首を刎ねるだろう。
 厭だ。それは厭だ。それは――ここで終わるのは、絶対に。
「僕には、まだ、やるべきことが――オ、ォオ、オオオオオッ!!」
 シャーマンズゴーストは吼えた。立ち上がり、獰猛なその力を開放した。
 おお、見よ。何たる禍々しさ、何たる名状しがたさ。
 死せるとも、いまはまだ止まるな。お前は挑むことに成功したのだ。
 ならばあとは――真の意味で倒れるまで、抗い続けるのみ!!
「なんだと」
「オォオオオオオオッ!!」
 勇ましいとは言いがたい、狂戦士じみた有り様である。
 だがそれは。たしかに、優しい少年の夢想した、英雄(ネガイ)の姿だった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

セレナリーゼ・レギンレイヴ
アストお姉ちゃんと(f00658)

ここで止めねば確実にどこかで被害が出る
地獄のような相手ですが、私は一人ではありません
希望が潰えても祈り続けましょう

夥しい量の黒竜の群れがこちらへと向かってくるのなら
私にできるのは前に立つ姉を【鼓舞】し
竜の咢を避け、防護を【祈り】、受けきること
【呪詛】で動きを弱め、致命傷を避けること
無傷で相対するのは無理でしょう
万全には程遠いでしょう

ですが、
前に立つ姉が耐えている後ろで
膝をつくわけにはいきません

竜の群れが弱まれば書の力を解放
刻器のPM形態、メタトロンの聖典
一瞬の顕現でも構わない
ただそれでも、届かせたい祈りがあるんです
どうかこの光が地獄を照らす道標となりますように


アストリーゼ・レギンレイヴ
【セレナリーゼ(f16525)と】

地獄の瘴気にも似た、うすら寒い気配
一筋縄ではいかぬと理解できる

けれど、世界を脅かす忘却の徒であると云うのなら
それを滅することこそがあたしの使命
……行くわ

妹の声を、その祈りを背に受け
黒剣『月闇』を構え、前を見据える
オーラ防御を前面に厚く展開し
初撃を真正面から武器で受け止める

僅かな隙を縫い《漆黒の夜》を纏って
迫りくる竜の猛攻を、その暴威を
全て、この身で受け止めるわ

セレナが痛みを負うても戦うと云うなら
その祈りを守るのがあたしの使命
幾度打たれようとも倒れはしない
この覚悟だけは折らせはしない

……心配しないで
祈りは届くわ
貴女の祈りの傍には、あたしの想いがともにあるのだから




 姉妹がいる。悲劇に見舞われ、住むべき故郷を失った、血縁なき姉妹が。
 ……寄す処とすべき血は喪われた。それは忌まわしい記憶であり、残骸だ。
 彼女らは己の血を厭う。その身に流れるもの、もたらしたものを忌む。
 されど厭世に陥ることはない。絶望に見舞われるたび、彼女らは立ち上がった。
 なぜか? ……そこに、忘却の闇が、過去の化身がいるからだ。
 それを討つための力があり、護るための闇があり、己がここにいるならば。
 無益だろうが、無為だろうが、無謀だろうが、挑む。
 挑んで、滅ぼす。たとえ相手が地獄の如き強敵であろうとも。
「なんてうすら寒い気配なのかしら」
「……ここで止めねば、いつかどこか、確実に被害が、出る」
「ええ。一筋縄ではいかないでしょう、けれど」
「希望が潰えたとしても、祈り続けます」
「忘却の彼方から来るものを滅することが、あたしの使命」
「姉さん……アスト、お姉ちゃん」
「――行くわ」
「はい。……一緒に、行きましょう」

●ふたりの巡礼者:セレナリーゼ・レギンレイヴとアストリーゼ・レギンレイヴ
 龍が。世界を――システム・フラワーズという内的世界を、脅かしていた。
 この星を、この世界の根を走る、超大型文明機械。
 キマイラたちを生かしてあげる、その根本は間違っていた遺物。
 けれどもいま、これは間違いなくこの星の根幹にあって、
 この愉快でどこか気の抜けた文明を護る、大事な――大事な、大地なのだ。

 ゆえに黒龍はそれを蝕む。侵し、略奪し、己の苗床に変える。
 彼奴がそれを行う。ドラゴンテイマー。虚無めいた気配を持つ恐るべき男。
 紫色の瘴気は、さながら無限地獄から煮え立つ太古の亡者の怨嗟めいて。
 恐ろしい。恐怖がある。どれほど意思で抗おうと根本的畏怖がある。
 "だから進む"。恐ろしさはつまり、彼奴の世界に対する脅威のほど。
 "ならば討つ"。討たねばならぬ。そのための力がここにあるのだから。
 この血(いのち)に、意味を持たせるためにも。
「まるで世界の終わりね」
「はい。いつか、ダークセイヴァーもああなるのかもしれませんね」
「――けれど、それはありえない。"もしも(if)"の話よ」
「……ええ!」
 姉妹は語り合い、互いに微笑みすらして視線を混じらせ、頷きあった。
 そして一歩。踏み出すのはアストリーゼ、揺らめくは死よりも冥き闇。
 携えるは黒剣。月闇の銘(な)を持つそれは、敵にとっては死神の鎌。
 忘却の闇に"死(Death)をもたらすもの(Bringer)"でもある。
 揺らめく闇のみを友として従者として、迫り来る龍に、真正面から挑む。

 そして妹、セレナリーゼは。
 刻器『ミトロンの書』を捧げ持ち、ひざまずき、目を閉じ、うなだれる。
 ――祈りだ。弱者に許された最後の抵抗、それ自体は何も産まぬ悪あがき。
 どうか。奉る。抵抗と呼ぶにはあまりにもかそけき、哀れですらある行為。
 だが。それでもなお己の身を顧みることなく、ただただ祈りを捧げるならば。
 その姿は、妹を護ると決めた姉にとっての何よりの鼓舞となり。
 書がもたらす輝きは、龍の顎(あぎと)を退ける守りとなり。
 ついには、その牙と尾をわずかに弱める呪詛とすらなろう。
 敵が来る。アストリーゼは闇を纏い、光を背にこれを受ける。
 刃が軋んだ。地を滑り踏みとどまる。続けざまの爪。闇を突き抜け身がえぐれる。
「ミトロンの書よ」
 背中に光を、暖かな妹の声を、祈りを感じる。
 だからアストリーゼはヒアを突くことなく、刃を振るい、龍を処刑。
 続けざまの攻撃を再び受け止め、裂かれながら、歩く。
 殉教者のように。未来に生まれる犠牲者の悲鳴に導かれるように。
 おお、なんと気高き背中か。されどその姿を英雄と呼ばうことなかれ。
 すべては、暗影に沈んだ過去(エピローグ)、その残骸を討つために。
「行くわ」
「はい」
「――共に」
「ええ、共に。傷も、痛みも、一緒です」
 爪はついに闇を越え、祈り子をすら害する。血が飛沫をあげる。
 膝を上げ、セレナリーゼが歩き出す。そのさまはやはり殉教者めいて。
 ……龍は、恐れた。ふたりのひたむきな歩みを、その輝きを。
 邪悪なるものどもは、それゆえに清浄なるものを忌む。
 けして折れぬものを忌む。一瞬後に憤激が暴威となるだろう。
 だが。
「今ね」
「はい」
「切り開く」
「――この身を、捧げます!」
 その"一瞬"を切り開くことこそ、乙女たちの強さであり願いなのだ!

 その瞬間、遥か彼方にいたはずのドラゴンテイマーは視た。
 天をも貫くような光芒。黒を凌ぐ白、突き立つ燃える光焔の柱を。
「何?」
 そして迎え撃った。緩やかに、されど決然と歩み――否、踏み込んできた、
 影を伴とする、ぼろぼろの有り様の夜闇の剣士を。暗黒纏う影を。
「辿り着いたわよ、ドラゴンテイマー。お前の元へ」
「愚かな。仲間を見殺しにしたのか」
「――莫迦はお前のほうだわ」
 冷たい瞳。
「心配なんてしていない。あの子の祈りは必ず届く」
「神などいない」
「ええ、いないわ。けれどあたしはここにいる」
 斬撃。重い。そして疾い。激烈なる二撃目! 受けきれず傷を負う!
 たたらを踏む。闇が一歩を詰める。さらなる一撃! 魂を喰らうかの如き!

 そして見よ。龍どもを滅ぼす光を見よ。御使いの喇叭を聴け。
「姉さん――お姉ちゃん、どうか、どうか!」
 力なき者は祈る。祈りは何も産まない、弱者のただの悪あがき。だが。
「どうか――!」
(心配しないで)
 進む前に、姉が見せた笑顔が蘇る。
(あなたの祈りの傍には、あたしの想いがともにあるのだから)
 そして光をあとに、漆黒の夜は突き進む。敵を討つために。
 刃は止まらぬ。風より疾く、大地をも切り裂くほどに重く魔刃をきしませる。
 愛すべき家族の想いを伴として、暗黒の騎士は一気呵成に攻め続ける……!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
※ロクと
(ザザッ)
モンスターハントは嫌いではないが。

――君が冗談を言うのも珍しい。
そうだとも。

――では、ミッションを開始する。いつも通り、君とともに。

(ザザッ)
龍を前に二人で。
相手は易しくはない、とうに知っている。
連携は崩され寸断されるだろう――むしろ、それを狙う。
ロクへ矛先が向く。それを撃ち墜とそうとする――フリで熱線銃を"力溜め"しつつ。

――その程度で相棒が死なないと信じている。

故に。
お前を討つのは本機の役目だ。

ロクのUCで本機を"敵の後ろ"へと転移。
熱線を早業で更に速度向上・零距離射撃とスナイパー、外しはしない。

ロクが作ったこの隙に全力を懸ける――

――ああ、狩りにいこう。また二人で。


ロク・ザイオン
※ジャックと

…ほら。
ドラゴン狩り。
獲り放題で、おおきい。
好きだろ。

…冗談、珍しい?
そうかも、ね。

病は灼く。
…ととさまが御覧にならずとも。
これはおれの、仕事だから。

(二人で並び立つ。揃って戦えば竜は一纏りになるだろうか。
連携を崩され分断されたように見せる。
竜の視線を惹きつけ、全力で躱す。
キミが信じてくれているから)

ジャック――飛べ!

(「R.R.Call」。助けを求めればジャックは現れる。
それはおれの側でなくていい。1156m以内のどこかであればいい。
ドラゴンテイマーの背後に、ジャックを喚ぶ)

…さっき。キミに庇わせたこと
不甲斐ないと思ってるんだよ。

今度、竜狩りに行こう。
ちゃんと食べられるやつ。




 ざりざり。
「獲り放題で、おおきい」
『――ロク?』
 ざり、ざりざり。
「……ほら、ドラゴン狩り。ジャック、好きだろ」
『――モンスターハントは嫌いではないが』
 ざり、ざり。
「…………」
『――君が冗談を云うのも珍しい』
 ……ざり。
「そうかも、ね」
『――そうだとも』
 ざざっ。
「でも、やることはおなじだ」
『――ああ』
 ざざ、ざりざり。
「病は、灼く。それがおれの、仕事だから」
『――では、いつも通りに。君とミッションを開始しよう』
 ざりざり。ざりざりザザザザ、ザ、ザ――!

●ふたりの巡礼者:ジャガーノート・ジャックとロク・ザイオン
 光と暗黒、相反し相剋する力を持つ姉妹によって、波状攻撃を受けた地獄の男。
 ドラゴンテイマー。かろうじて戦線を退いた男の前に、並び立つ赤と黒あり。
「……ダイウルゴス、来い」
 傷を押さえながら呻くようにドラゴンテイマーが言えば、黒龍が応える。
 見上げるほどに巨大な巨龍。その数およそ、ざっと100以上。
 すさまじい咆哮が音叉めいて共鳴し、大気を、ふたりの鼓膜と装甲を震わせる。
「……っ」
 ロクはびくりと身を竦ませ、ぐるる、と唸りながら毛を逆立たせた。
 ジャガーノートは不動。こういう時こそ、身に纏った装甲が役に立つ。
『――やはり、易くない敵か』
 だが、その程度のことは知っている。覚悟など何度だってしてきた。
 たとえ相手が、これまでの敵を凌駕するほどだとしても――否、だからこそ。
「来るぞ、ジャック」
『――ああ。ならば我らが行くとしよう』
 そしてふたりは挑む。破滅そのものを形にしたような、黒龍の群れへ!

 まず、黒鎧と化したジャガーノートが、腰部マウントされたキャノン砲を放出した。
 ビーム、実弾、あるいは煙幕や榴弾。即時生成される多彩弾頭による弾幕。
 その程度でダイウルゴスは揺るがない。だが足並みを止めることはできる。
 弾幕はやや上方へ。死角となる足元を、獣じみた姿勢のロクが駆け抜けるのだ。
「ジャック、道をあける!」
 そして股下を駆け抜ける瞬間、ロクは口に銜えた烙印刀を一瞬だけ振るう。
 狙いは腱である。ダイウルゴスは為す術もなく体勢を崩し、戦線が崩壊する!
『――了解。全力で接近する』
 ジャガーノートは弾幕展開を中断し、後部にバーニアを生成、全力噴射。
 残像すら生み出す速度で空中を駆け、ロクと対になる軌道を描き、翔ぶ。
 赤と黒。ふたつの色ある風が龍を翻弄し、縫うように花畑を舞うのだ。
 完璧な連携。これまでふたりで駆け抜けた戦場などいくつあるのか。
 竜退治など飽きはしない。敵が無数だろうとそれを繰り返すだけ。

「何をしているダイウルゴス、一度に相手をしようとするからそうなる」
 巨龍どものはるか後方、ドラゴンテイマーはあくまで虚無的に云う。
「地を這う虫から殺せ。獣一匹に遅れをとるな」
 ダイウルゴスどもは唸った。不服、あるいは苛立ちを示す咆哮。
 だが彼奴らは所詮、ドラゴンテイマーが召喚した被造物に過ぎない。
 ゆえに黒龍はその意に従い、途端に暴嵐じみて爪と尾を振るい二人を撹乱した!
「……っ!!」
『――ロク!』
 連携が乱れた。交錯し合流するはずのポイントを攻撃で潰される。
 とっさにコース変更した両者は、そのまま回避行動を強いられる。
 再度の弾幕によって目眩ましをしようとするが、空中軌道ではそれも難しい。
 ダイウルゴスの群れは大地ごとロクを抉るように爪を振るい、獣を阻む。
 然り、まずはこの目障りな地を這う獣――否、虫から殺すべし。
 龍どもはばさりと翼をはためかせて空を舞う。当然だ、龍なのだから。
 こうなればもはや腱を断ち切るどころではない。あとは蹂躙の開始である。
『――ロク、こらえてくれ。すぐに本機が支援を』
「させるな。ダイウルゴス、そのガラクタを釘付けにしろ」
 龍の双眸が一気にジャックを睨んだ。弾幕の出がかりを潰される。
 ジャガーノートはロクへの援護射撃を行えない。虫めいて飛ばざるを得ない。
「こっちだ! 相手は、おれだ! おれは生きてるぞ!!」
「耳に障る聲だ。さっさと黙らせろ、ダイウルゴス!」
 ざりざりと罅割れた声音が、やがて苦悶に変わるのはそう遠いことではなかった。

 龍は多く、巨大で、なによりも彼らが狩ってきた者より賢しらだった。
 全力で回避を続けたロクは、その軌跡と行き先を爪と尾によって潰され、
 ついに鞭めいて打ち据えられ、地面を転がり、さらに抉られる。
 致命傷を避けただけでも彼女は一流であり、かつ負傷を押して最動したのも見事。
 しかし倒れるたびに傷は広がり、髪は動脈血の赤で汚れた。
『――…………ッ』
 ジャガーノートは撃たない。撃てないのだ。龍がそれをさせぬ。
 もはやふたりが進むことはできない。ぐるぐると攻撃を避け続けるのみ。
 そしてやがて体力が尽き、ふたり共に蚕食の贄となるのだろう。
(――ととさま)
 生死の境目、忘我に近づくロクは、過去を回想した。
 いと高き御方。禄を下賜くださりし父君。"森"の支配者。
 人よ人たれとおっしゃられた方。閨のあるじ。もはやここには亡く。
(ととさま。おれは働きました。働いております。おっしゃられる通りに)
 人らしく。人となるために。獣たる己を克服するために獣じみて。
 されど御身は見ておられぬ。卑しき我が身の働きを、省みてくださらなかった。
 ととさまも、あねごも。祈り懺悔しようと、断罪の雷霆すらくだらなかった。
(なぜですか。なぜ。おれをご覧になってはくださらないのですか。
 おれがよき人でないから。おれが獣だから。……人とは、なんなのですか)
 届かぬ煩悶は、傷を受け意識が朦朧とするたびに残響する。
 わからない。わからないから、やはり同じことを続けるしかないのだ。
 森番は愚かである。愚かだと己も知っているが、真なる意味での無知の知ではない。
 何が愚かかを知らぬ、その意味で哀れで、愚かで、無様であった。
 だが時として、それは正しくもある。少なくとも戦いにおいては。
(ならば、おれはおれの出来ることをやろう。病を灼こう。
 おれは人間だから。いままでそうしてきたように、これからもそうしよう)
 ――それが、かつての少年/怪物と同じ結論であることに、獣は気づかない。
 少年は己を怪物たれと願った。怪物たるために、盲目的に鎧をまとった。
 獣も同様である。人でなければならいのだから、盲目的に義務をこなす。
 だが此度この状況でそれは正しい。討つべき敵がそこにいるのだから。
 獣にとって幸いなのは、信ずるに足る仲間がいたことだろう。

 そして時が来た。ロクが斃れ、龍の目が一気に集まる。
 ジャガーノートは――撃たない。なぜだ? ロクを見捨てたと?
「ジャック!!」
 罅割れた声が叫んだ。手には託された救援要請装置がひとつ。
 どうやらいちいち叫ばなくてもいいらしい。ボタンを押せばそれで事足りる。
 まるでゲームのように。獣はそれをまじないめいて受け止め受け入れた。
「――飛べ!!」
『――了解した』
 かちり。ボタンを押せばそれで終わる。"救援要請"がもたらされる。
 ジャガーノートを、怪物を喚ばう魔法のスイッチ。だが彼はそこにいる。
 では黒鎧はどこへ行く? 有効半径1156メートル。移動は一瞬。
『――つまり、ドラゴンテイマーよ』
 背後から声がした。狙いすました銃口を向けた必殺の状態で。
『――お前を討つのが、本機の役目だ』
「……陽動かッ!!」
 ZAP! ZAPZAPZAPZAPZZZZZZAAAAAAAPPPPPP!!
 クイックドロウ。チャージした熱線は一瞬にして敵を、空間を突き抜けた。
 その時にはジャガーノートも吹き飛んでいた。腹部に焼け焦げるような斬撃痕。
 あまりにも疾い反撃。だが避けることはしない。当てるためにだ。
 相棒は斃れ、転がりながらも駆け続けた。ならば己もこの程度は覚悟している。
 魔刃の太刀筋は鎧を突き抜け"彼"にすら届いていた。かつてなら狼狽えたろう。
 だが。もはや退かぬ。トリガを引くと決めたのだからそうする。そうした。
 灼ける痛みも、相棒のためならば――いまは、耐えられた。

「小賢しい、獣どもが……ッ」
『――獣などではない。僕は』
 ZAP。
『――人間だ』
 ……ZAP!

 そして静寂が訪れた。地獄は晴れ、黒き破滅もみな消えた。
「……大丈夫か、ジャック」
『――問題ない……いや、大丈夫。そっちこそ』
 ロクは全身ボロボロだったが、そもそも自分を省みることすらなかったようで。
『だいじょうぶ』と応えつつも、相棒が無事だったことに笑みをほころばせた。
「今度、竜狩りに行こう」
『狩ったばかりなのに?』
「……つぎは、ちゃんと食べられるやつがいい」
 ロクにとって、この程度の傷はなんてことはなかった。
 相棒にかばわせてしまった。その不甲斐なさを埋められる気がしたから。
『……ははっ』
 鎧のカメラアイが明滅した。
『うん、狩りに行こう。また、ふたりで』
 少女が手を伸ばす。少年はその手を取って、また立ち上がった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 良きにつけ悪しきにつけ、行動は結果を生む。
バルドヴィーノ・バティスタ
初めにやれることとしちゃワイヤーで竜を足場にした<空中戦>に
<第六感>と<逃げ足>頼りに攻撃を潜り抜けるくらいのモンだが…

数字が足されて強くなるんならどんどん足されて馬鹿デケェ数にはなるこたあっても
数えられるって枠は越えられねェはずだ、
ならいける、形がある相手からならいくらでも逃げ切れる。
…<催眠術>じみた自己暗示だ?合ってるよ、けど意味なくたって走るしかねェんだよ…!

隙…ンなモノあるかも分からねェが避ける合間に<早業>とUCで罠を設置、光と音を撒き散らす罠を出来るだけ多く仕掛けて一斉に炸裂させる。
一つじゃ弱くても一気にやれば竜と主の目眩ましにゃなる、それに紛れてあの陰険男に<だまし討ち>だな



●68人目の巡礼者:バルドヴィーノ・バティスタ
 名うての脱獄王をして、今回の"牢獄"を解くのは骨が折れると見えた。
 いやそもそも、これはただの牢と違う。一度囚われればおそらく二度と逃れられぬ。
 つまり龍の暴威とはそれだけ強大で、そのためには逃げ続けなければならない。
 足を止めれば死ぬ。だが足を止めずに逃げ続けることは至難。詰みである。
 ……なぜそんな無理難題に、バルドヴィーノは挑んだのだろう。
 いかに場当たり的なその日暮らしの三下とて、命の勘定ぐらいは出来る。
 君子危うきに近寄らずという言葉もある。この戦いに見返りはほぼないのだ。
 戦略上の意味も。ましてや、敵に積年の恨みがあるわけでもない。
 誰かから頼まれたわけでも、ない。無い無い尽くしの無益な挑戦だ。
(だからこそさ)
 恐怖と覚悟が閾値を超えて、いっそ笑いながら賭博狂は呟いた。
(何の意味もねェしリターンもねェ、そのほうが面白い賭けッてモンもある)
 おそらくそれは、バルドヴィーノなりの照れ隠しなのだろう。
 さもなくば、彼が本当にどうしようもないスリル中毒かのどちらかだ。

 然り。その実、軽口大言壮語、不敵な笑みもすべて己のための暗示でしかない。
 来てみてわかった。再生を果たしたあの地獄を目にした時から震えが止まらない。
「やべェやべェやべェやべェ!! やべェって!!」
 ずずん!! ガリガリガリ!! すぐ後ろを龍の爪が引き裂き抉る。
 飛び散る土塊を避けながら、ワイヤーを足場に空を飛ぶ。
 逃れる。逃れなければならぬ。一度でも囚われたらそこで終わりだ。
 命。命はある。そして敵も形があり、無数に見えても限りはある。
 無様に、技量的美しさも何もなく、ただただ転がり飛び虫めいて逃げ回る。
 失笑ものの醜態である。脂汗と冷や汗がミックスされた余裕のない表情は、
 まるで哀れな道化師めいて青白く、全身の毛が恐怖と戦慄に震えていた。
 意味はない。この戦いに価値も何もない。
(だからこそ! 走って逃げ回らなきゃならねェんだろうが!!)
 そんな戦いで命を落としたら、それこそ無為に終わってしまうではないか。
 幸い、こんなクズみたいな己でも、逃げ足だけなら誰にも負けない。
 だから走る。走って、龍の眼を引いて、少しでも奴らを釘付けにする。
 そして一撃を届かせたなら。――それは、誰かのなにかに繋がるんじゃないか?
「それってよォ、オレにしちゃ随分価値あることだよなァ!?」
 だから走る。莫迦みたいな鉄火場に身を置いて、法外な賭けにディールする。
 命を賭けろ。命で駆けろ。命に懸けろ。届かせるために!

「いつまで遊んでいる、ダイウルゴス。さっさと殺せ」
 虚無的な声が響いた。龍どもは雪崩を打ってバルドヴィーノに殺到する。
 獲物の逃げ回りにしびれを切らした一斉攻撃。もはや逃れる場所はどこにもない。
 全方位から龍が来て、恐るべき爪や牙が一瞬あとにする。
「――それを待ってたンだよ」
 弱虫男は己を強いて不敵に笑った。そしてばらまいた布石を起動する。
 BANG――! スタングレネードめいた閃光と音が、オーケストラめいて一斉に!
 レプリカクラフト。粗雑な偽物を作る、男らしい小狡いユーベルコード。
 ただし、仕掛け罠を用いたときだけ、それはひどく精巧になる。
 他人を陥れるものだけ精巧とは、いよいよみみっちくて彼らしい。
 だが笑っている場合じゃない。時としてそれは強者の足元を揺るがすのだ。
 たとえばいまのように。バルドヴィーノは地獄めがけて跳んだ!
「よォ陰険男、高みの見物ご苦労サン! 少しはオレと遊ぼうぜッ!!」
「――小物が」
「言ってろうらなり野郎ッ!!」
 ZANK――剣閃はふたつ、否、三つ。
「がはっ」
 ふたつはドラゴンテイマーのもの。バルドヴィーノの胴体をバツ字に裂いた。
 格好つけた男は無様に転がり、血を吐いて燃えるような痛みにのたうった。
「…………何?」
 では残るひとつは? ……ドラゴンテイマーの背中を見るがいい。
 抉るような太刀筋ひとつ。為したのはバルドヴィーノが持つ長ドスだ。
「ばァか、正面勝負なンざ挑むかよ」
 氷面鏡・鏡片。思念が純粋であるほど切れ味を増す妖刀の残骸。
 正面対決など御免だ。だから"わざと受けて後ろから斬った"。
 ドラゴンテイマーの体は、骨にまで達するほどの傷をまともに受けた。
「気に入らねえンだよ、てめえは」
 血だらけの負け犬は笑った。だがそのざまは、餓狼のように気高く雄々しい。

成功 🔵​🔵​🔴​

仁科・恭介
※アドリブ等歓迎
【学習力】をフル活用し周囲の状況を把握する
【覚悟】を決め心乱さぬように自分へ言い聞かせる
【失せ物探し】で右腕以外も注意し【ダッシュ】と【残像】でいつでも動けるように警戒しながら近接を狙う

蟻達を限界まで湧き出させ続ける
蟻達を絡み合わせ層をなして防御
ボール状にした蟻達を【投擲】
考えられるものは全て使おう
だが、本命は【目立たない】ように一部の蟻を地下に展開し、捕食させながら溜めこみ、テイマーに向けて進軍させること
相手が群れならこっちも群れだ
読まれていることも頭に入れて再度【覚悟】を決める

蟻を嫌がって飛んだら全力の飛翔で刺突し直接蟻を展開
小さき者達が捕食した全ての命に感謝するために



●69人目の巡礼者:仁科・恭介
 突如として、足元に無数の蟻が湧いた。
「何だ、これは?」
 いままさに猟兵にトドメを刺そうとしていたドラゴンテイマーは訝しんだ。
 蟻。システム・フラワーズには無数の花々が咲き誇るが、虫などいない。
 ではこれはなんだ。たかが蟻。されどその数は、あきらかに異常……。
「私だよ、ドラゴンテイマー」
 声がした。そして擲たれたのは……やはり蟻だ。球状に固まる蟻の群れ!
 当然、その程度の目眩ましはクリムゾンキャリバーによって断ち切られる。
 ではそれをなした男は。ダンピールらしい血色の悪い肌のあの男。
「たかが虫ごときに目くじらを立てるか。強者らしくない」
「……妙なユーベルコードを使う猟兵もいたものだ」
 恭介は内心で湧き上がる恐怖を覚悟によって押し殺し、心を平静に保つ。
 いかにも、この無限めいて湧き出る蟻はすべて恭介が生み出したものだ。
 "知恵の実(パラダイス・ロスト)"。数を圧倒する数。何もかもを蚕食する群れ。
 それは蟻というよりも、聖書におけるアバドン――蝗の群れめいて。
「あなたが群れで来るのなら、私は無慈悲で応えるのみだ」
 蟻は無限に湧き出る。大地を、花を、何もかもを喰らい強大となる。
 だが恭介が、その群れの牙を敵に届かせることはできなかった。
 投げようと、這わせようと、魔刃はこれを大地もろとも薙ぎ払う。
 空からは龍の群れの咆哮。刃が届いたその時を狙い回遊している。

 地を這う虫に、龍を屠ることなど出来はしない。
 だがそれは尋常の話だ。此度は尋常の戦場ではない。
 猟兵、そしてオブリビオンが用いる力もまた、常識では測り知らざるもの。
 ユーベルコード。奇跡の力は、こうした神話めいた軍勢すら……!
「あなたが文明を侵略するならば、私と私の蟻たちはそれを喰らい阻もう。
 あなたが群れを呼ぶならば、私は群れをなしてそれを喰らい飲み込もう」
 恭介は群れを従えて悠然と進む。レギオンの指揮官めいて。
 地中には大地そのものを喰らい、密かに足元を狙う蟻の群れ。
「……お前はひとつ思い違いをしている」
「ほう?」
「私がダイウルゴスどもを従えるのは、あれらが強力だからではない」
 その時、迅風一閃。ドラゴンテイマーの姿がかき消えた。
 恭介は即座に蟻を盾めいて積層展開――だが、軍隊アリの強化が追いつかない。
「そのほうが、手間が省けるからだ」
 斬撃。重く、疾く、極度集中してようやく見切れるほどの剣戟。
 あるいは彼が、はじめから防御のためにそれを従えていたなら。
 接敵したドラゴンテイマーによる斬撃は、かろうじて防げていたやもしれぬ。
 だがそうはならなかった。致命傷こそ防げたものの、刃は恭介を深く抉る。
 同時に地中から軍隊アリの群れが飛び出し、ドラゴンテイマーの脚に絡みつく。
 牙が抉る。一つ一つは小さけれども無数の裂傷、敵は舌打ち。
 翼をはためかせすさまじい速度で飛び、これらを振り払った。
 結果として、倒れ込む恭介への追い打ちはならない。血を吐き膝をつく恭介。
「……あなたも、一つ学ぶべきだな……虫ごときと、見下すべきではないと……!」
 蟻はなおも湧き出る。本来来るべき龍の群れの追い打ちを拒絶するほどに。
 群れは群れを以てこれを拒み、退けた。だが刃までは防げない。
 ゆえに決着は、深手を負って恭介が崩折れる結果となり、終わった。
「――憶えておくとしよう、私が滅ぶまでは」
 飛び去るドラゴンテイマーの表情は、この上なく苦々しいものだったが。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ヴァン・ロワ
アドリブ歓迎
地獄に慣れてるからって、地獄を見たい訳じゃないからねぇ~
まあ、死なない程度でやってやるさ

うわ~でっか俺様大ピンチってか~?
召喚されたドラゴンを見ながらヘラっと笑う
試しに毒を仕込んだモール・フルールを投擲
そのでかい図体じゃまあ即効いたりはしないよな
ハハ、マジでピンチじゃん
軽い調子で言いながら目を細め
見切ってギリギリを避けたように見せかけて連続で影を移動
とにかく動かして毒がまわるように

とうとう踏み潰されるその瞬間
別の影へ渡ろうか
アンタの影へな、ドラゴンテイマー
背後から毒を塗ったクロス・クロで二回攻撃
強敵って言うならまあそれ以降はかわされるだろうけど
小さな生き物の小さな爪痕に苦しみやがれ



●70人目の巡礼者:ヴァン・ロワ
 狗の分際で、と喚き散らされたことは何度もある。
 そういうヤツだから、飼い犬に手を噛まれるのだとわかっちゃいない。
 そもそも飼われた覚えがない。手を貸してやっただけ、それだけだ。
 傭兵としてあちこちを渡り歩くヴァンに、これと定めた場所はなく、
 ゆえに彼の"正義"は時と場合と場所と主によって様変わりした。
 自由といえば聞こえはいい。実際のところは札付きの狂犬扱いだ。
 こちらはただ、心の赴くままに生きているだけだというのに。
 此度の戦いに馳せ参じたのも同じようなもの。なんとなくと言えばその程度。
 これまでもそうやってきた。そうして生き延びてこれたのだから。

 だがヴァンは知るべきだった。いや、今回こそがその機会なのか。
 世界には、笑って潜り抜けられぬ死地があるということを。

 ズシン、ズシン、ズシンーーッ!!
 落ちてくる。見上げるほどに巨大な黒龍ダイウルゴスが。群れをなして。
 十、二十、五十……その数はヴァンが予期していたよりずっと多い。
「うわ~でっか、俺様大ピンチってか~?」
 へらへらと笑いながら、尊大な言葉遣いで人狼の傭兵は肩をすくめてみせる。
 ともすれば放蕩者としか言いようのない、緊張感のない面持ちである。
 地獄なら何度も潜り抜けてきた。そのたびにこうしてあえて笑いふざけるのだ。
 そうすれば頭がじんわりと痺れて、恐怖心も麻痺して平静でいられる。
 おそらくまともではないのだろう。まともでない生き方をするには必要な知識。
「なあ、アンタらって喋れたりすんの?」
 黒龍の群れは咆哮す。びりびりと肌が震えてヴァンはおどけた。
「問答無用かよ」
 そして跳ぶ! 狼の牙の一たる、モール・フルールを投擲し龍の鱗を貫く!
 突き刺さったそれは体内で膨張炸裂し、強力な毒を龍の体内に流し込む。
 ……静寂。そして咆哮。即座に効いた気配は当然ない。
「そのでかい図体じゃ効いたりしないよな、ハハ! マジでピンチじゃん!」
 他人事みたいに笑って、再び別個体へ投擲しながらヴァンは走った。

 しかして彼がなぜこれまで生きてこれたのか。そこには当然理由がある。
 たしかにヴァンは身軽だ。だが傭兵を生き汚い狗たらしめたのは、
 彼が用いるユーベルコードに理由がある。名を"影渡り"。
 視認できる距離の影から影へと飛び渡る、まさに忍めいた絶地の業。
 いかに龍が強大で無数であろうと、却ってそれはヴァンの逃げ場を増やすだけ。
 見切り、あえてギリギリを攻めながら、次から次へと影を飛び渡る。
 このままギリギリまで逃げ回り、毒が回るのを待って――。
「ダイウルゴス、融合しろ」
(――オイオイ)
 影の中でヴァンは苦笑した。ドラゴンテイマーのその指示に。
 黒龍どもは羽ばたき集い、次々に融合合体して数を減らしていく。
 数が減れば、それだけ逃げ込むための影は減る。強靭さも増す。
 毒が回るように稼いだ時間は、嘲笑うかのように引き伸ばされていった。
(仕方ねえか、俺様こういう賭けは好きじゃねえんだけどな)
 さりとてヴァンも名うての傭兵。腹をくくるのもまた一瞬。
 龍の影からドラゴンテイマーの背後に渡り、峨嵋刺クロス・クロを振るう!
「――が」
「愛想笑いで私をだまくらかせると思ったか? 狗め」
 斬られた。反撃の瞬間さえ見えぬほどの斬撃、太刀筋が逆袈裟に胸を抉る。
 滂沱の血。ヴァンの想像以上に、男自身が強大であったがゆえに。

 ――が。
「が、は……ハ、ハハハ!」
「何?」
 ドラゴンテイマーは訝しみ、そして瞠目した。
 振るった右腕。肩口にいつのまにか突き刺さる狼の牙に!
 すなわち、クロス・クロ。敵がそうなら傭兵もまた、その技は俊敏華麗。
 振るった刃は一度なれども、牙は二度襲いかかる。そして獲物に食らいつく。
「ぬう……ッ」
 よろめく。先端部に仕込まれた黒い毒、ルーガ・ルーの血液が男を蝕む。
「お高く留まりやがって」
 血を吐きながら狗は笑う。地獄なら何度も潜り抜けてきた。
 確かに此度の敵は強大だ。だからなんだ? 一矢報いて何が悪い。
 狗と小物と見下すなら好きにしろ。
「その小さな生き物の、小さな爪痕に苦しみやがれ」
 ぎらりと虚無が睨み返す。ヴァンは余計に嘲りの笑みを見せた。
「そうやって見下して、いつかアンタは死ぬんだぜ」
 それは、生き延びてきた人狼ゆえの、予言めいた確信である。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

館野・敬輔
【SPD】

ドラゴンテイマー、何のためにここに来た?
…この問いが無意味だとはわかっているさ

戦闘用大型ダイウルゴスの召喚は止められない
ならば、極力真っ向勝負を避けてドラゴンテイマーに肉薄だ

「先制攻撃、視力、暗視、地形の利用」でダイウルゴスの少ない空間を把握し
「ダッシュ」で一気に駆け抜ける

ダイウルゴスに接敵したら【魂魄解放】発動
一気に隙間を駆け抜けドラゴンテイマーに接敵
黒剣で「2回攻撃、範囲攻撃、怪力、生命力吸収、マヒ攻撃、鎧砕き」を乗せた斬撃+衝撃波攻撃

防御は「見切り、オーラ防御、武器受け、激痛耐性」で
黒剣でがっちり受け止め、耐える

ひとつだけ問う
お前が再びグリモアを手にする、とはどういう意味だ?



●71人目の巡礼者:館野・敬輔
「ドラゴンテイマー、お前は何のためにここに来た?」
「……私が、その問いに正直に答えると思っているのか」
 対峙した矢先、敬輔は端的な口調でそう問うていた。そして答えも予想通り。
 青年は頭を振り、敵を睨みつけながら嘆息して短く答える。
「わかっているさ。この問いが、答えの得られない無意味なものだということは」
「無駄な戦いに、無駄な問い。貴様らは不合理性の塊だな」
「……いいや。お前が問いに答えるつもりがなかったとしても」
 敬輔は黒剣の切っ先を敵に突きつけ、決然とした面持ちで言う。
「この戦いには意味がある。現にお前は、追い詰められつつある」
 然り。ドラゴンテイマーの息は荒く、血色はやや悪い。毒のせいだ。
 さらに敬輔は、彼奴が脚と背中に深手を負っていることも察していた。
「私を滅ぼしたところで、この戦いの趨勢に影響はない」
「たしかにそうだろう。けれど、お前の企みは防げるはず」
 ちゃきり。峰を返された黒剣が剣呑な音を立てる。
「……答えないならば構わない。だがもうひとつだけ問うておく。
 お前が"再びグリモアを手に入れる"とは……どういう意味だ?」
「……お前たちは」
 ドラゴンテイマーが目を細めた。虚無めいた双眸に宿る色の正体は知れない。
「グリモアを、よく操れている」
「…………」
「だが、それがグリモアのすべてではない。そう言っておこう」
「やはり、核心を答えるつもりはなし、か」
 もはや問答は無用とばかりに、巨大な龍の影がいくつも降ってきた。
 咆哮。一気に戦場の緊張が最高潮に達する。
「当然だ。お前はここで死ぬのだから」
「断る、俺は生き延びる――お前を倒して!」
 そして敬輔は駆け出す。戦いが始まった!

 ダイウルゴスの数は無限めいて底知れない。そして巨大さは折り紙付き。
 戦いあぐねれば、あちらは融合強化して個の力でこちらを叩き潰してくるだろう。
(真っ向勝負は避けるしかない、倒すべきはドラゴンテイマー!)
 ゆえに敬輔は全力で戦場を駆け抜け、龍の間隙を探し疾走した。
 黒剣がカタカタと唸り、かつてその刃が食らった魂を開放しようとする。
 だが一瞬疾く、目ざとい龍の爪が大地を抉り敬輔を吹き飛ばした!
「ぐっ!!」
 散弾じみた土塊に体を打たれて地面を転がりながら、敬輔は魂魄解放。
 じわりと赤黒いオーラがその身を包み、直後彼はすさまじい速度を手に入れる。
 もはやダイウルゴスがその身を追うことはできない。間隙を縫う一陣の風!
「ドラゴンテイマー! その首、貰い受けるッ!」
「――お前では、私には届かん」
「ほざけッ!!」
 裂帛の気合とともに突き出される刺突。クリムゾンキャリバーが受けた!
 だが敬輔もそれは想定済み。満身の膂力を込めてぐるりと回転。
 大地もろとも、鎧すら砕く強烈な横斬撃へと移行する――!

 ――ガギンッ!!

 すさまじい衝撃とともに、両者の姿が大きく離れた。
 ドラゴンテイマー。衝撃波を喰らい、ざりざりと両足で地を削りながら停止。
 胸部やや下には、剣閃によって抉られた真一文字の傷が血を流している。
「かはっ!!」
 そして敬輔。敵の反撃をまともに喰らい、鎧をたやすく裂く刃傷を受け転倒。
 ごろごろと地を転がり、剣を突き立て立ち上がろうとするが、叶わない。
「……届かせてみせたか。敵ながら見上げた根性だ」
「ま、だだ……!!」
「だが、ここまでだ。お前にこれ以上かかずらっては荷が勝つ」
 龍が、そして龍使いがばさりとはばたき、空へ羽ばたいて姿を消した。
「まだだ、まだ……ッ!!」
 敬輔はそれを見上げることしかできない。がつん、と地を殴る。
 痛み分け。その結末は、青年に苦い後味を残す形となった……。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
【アサルト】

状況開始だぜ
本筋に影響の無い隠しボスだろうと、手は抜かねえ
非の打ち所の無い完璧な勝ちを盗りに行こうや

まずは奴の先制攻撃対処
UCで発動予知、ウィルス攻撃…は、布石だ。召喚そのものは「反転しない」
召喚を確認したら【ハッキング】で自己サイバネをオーバーロード
身体能力を極限まで強化して
【ダッシュ、早業、見切り、フェイント、ジャンプ】で動き回り、大量のダイウルゴスの攻撃を避けて回り、2人に情報を共有
攻撃回避の一助になるよう立ち回る

ダイウルゴスの数を減らしながら戦い…
奴が「合体」を切った瞬間
『反転』が発動 合体するほど『弱くなる』効果にひっくり返す

盤面が掌握できねえのなら
ひっくり返すまでだ!


鳴宮・匡
◆アサルト


紛れもない、強敵だと肌で理解する

身を切るならここか、
――いや

生きるって、あいつと約束した
こいつらを守るとも決めた
……投げるには、まだ早いか

よく視ろ
どのように竜たちを動かすか
何を狙って相手が動くか
意識におさめた全てを【見切り】、咀嚼、演算
ヴィクティムの指示と併せて回避

反撃の隙を作るのは任せ
「視る」ことに集中

あれが何であろうと、どうでもいい
オブリビオンである以上、過去には滅びの因果がある

「ある」ものは視えるものだ
――そして
視えるものは、殺せるものだ

竜の包囲が薄くなり
敵への射線が通った刹那
【終の魔弾】を叩き込む

俺にできるのは殺すことだけだ
だからこそ、
立ち塞がる者は何であっても殺してみせる


ネグル・ギュネス
【アサルト】で参加
【アドリブ歓迎】

地獄か
ならば其れを渡りて切り拓いてこそ、光はある

いざ、尋常に勝負


先制攻撃は、【勝利導く黄金の眼】で未来予測し、最適な回避先、或いは阻害先を見極める

【残像】と【迷彩】で撹乱しながら、【ダッシュ】で動き回る
召喚のタイミングで刃を振るい、【衝撃波】で阻害、或いは【破魔】の【属性攻撃】の弾丸を、竜やテイマーに放ち、邪魔をして、徹底的に引っ掻き回してやる

邪魔か?
褒め言葉だよクソッタレが!

敵攻撃を回避、或いは二本の刀で【武器受け】で凌ぎながら、竜を切り、仲間を守り続けよう
二人の策に賭けるのが私の役目!
其れが叶うならば、身体がぼろぼろになろうが、左腕一本ぐらいはくれてやる!




「……地獄、か」
「云うだけはあるな。ようは隠しボスってやつだろ? 手は抜かねえさ」
「なんだよその表現。でも、そうだな――あれは、強敵だ」
「だが、それを渡りて切り開いてこそ、光明は生まれるもの」
「ああ。ひとつ、非の打ち所のない完璧な勝ちを盗りにいこうや、チューマ」
「……そうだな。油断はしないさ、いつも通り……"やる"だけだ」

●三人の巡礼者:あるいは、向こう見ずな若者どもの顛末
 黒騎士アンヘル。
 ドクター・オロチ。
 マニアック怪人エイプモンキー。
 カワイイ怪人ラビットバニー。
 スピード怪人ウィンドゼファー。
 三人がスクラムを組み倒してきた強敵は、その他にも数知れない。
 だから察した。そして、それぞれの経てきたこれまでゆえに、やはり理解する。
 ヴィクティム・ウィンターミュートは、名うてのランナーであるゆえ。
 鳴宮・匡には、敵の一挙一動を見て聴いて感じ取る鋭敏な五感があるゆえ。
 ネグル・ギュネスには、未来予知を可能とする黄金の瞳があるゆえ。

 敵は強い。
 紛れもなく、これまで相対した中での最強。超越者。
 そしておそらく、まだ"先がある"。これは彼奴にとっての前哨戦……。
 否、あちらに戦うつもりがないという意味では、それですらないのか。
 無意味な戦い。戦略になんら影響することのない、無為な挑戦。無謀。
 だからどうした。先の見えない戦いなど何度だってしてきた。
 ならば今回もそうするだけだ。命をテーブルの上に置き、寸前で掠め取る。
 フェアな勝負なんてありゃしない。だったらこちらも"相応"にやるだけだ。
 命は守り、敵の命を掠め取る。無事に帰り、仲間たちと勝利を喜ぶ。
 向こう見ずな挑戦。肩を並べる仲間がいるから、不敵に笑って挑めるのだ。

「状況開始だ野郎ども! 俺の予測指示に――」
「ヴィクティム、下がれ。私が行く!」
 そしてまず最初の誤算。
 Arseneの予知、そしてネグルの未来予測が"遅れた"。敵に先手を打たれた。
「――疾いな」
「Shit(クソ)ッ! いきなり格の違い見せてきやがるな!」
 冷静な匡の言葉、吐き捨てるヴィクティム。次々に現れる龍の群れ。
 最悪の場合に備えてバックステップを踏んだ二人と入れ替わり、ネグルが進む。
 然り、これが絶対先制。いかなる挙動をも先んずる、存在格差ゆえの法則。
 されどまだ彼らは無事だ。動揺し足並みが乱れていれば死んでいたが。
 冷静に状況判断し、ヴィクティムは敵の"これから"を計測・予知しウィルスをバラ撒く。
 巨龍は次々に現れる。十、二十、五十、百……ハッカーは再び舌打ちした。
「多すぎる。オイチューマ、どうすんだこれ?」
「やるしかない。――それに、どれだけいても、頭は一人だ」
 匡はいつも通り平易に言って、瞳の奥に蒼を宿ししかと敵を見据えた。
 龍の数。大きさ。動き。被害程度の範囲。攻撃のリーチ。速度。
 そしてドラゴンテイマーが、いかにこれを動かし何をさせるのか。
「ダイウルゴス、奴らを殺せ」
「させんッ!!」
 ドラゴンテイマーの声をネグルが遮り、迅雷めいた速度で桜花幻影を振るう。
 ギャギャギャギャギャ!! SRファントムのタイヤが花畑を切り裂く!
 煩わしい小虫を大地もろとも引き裂こうと振るわれる爪を、かろうじて回避!
 猛烈なスリップによる風圧は衝撃波となり、巨龍を退かせそこに弾丸を叩き込む。
 ギャギン!! ドラゴンテイマーに向けた牽制はあっけなく切り払われた。
「先手は取られたが、ここから先はそうは行かん!」
「――潰せ」
 龍の狙いが一気にネグルに向けられた。彼はぞくりと背筋を冷やす。
 鋼の冷たさに慣れたはずの生身が、感じたことのない恐怖と死の気配に怯えた。
(この程度で臆していられるか!)
 奮い立つ心の熱を半身と鋼に流し込み、ネグルはスロットルをひねる。
 クオオン――高らかになるエンジン音、白煙の奥に黄金の光が垣間見えた。
 大地をがりがりと削り取る強烈なテイルスウィープを車体ごとジャンプ回避!
 着地地点めがけて振り下ろされた爪を左脚で拒絶。インディアンエア!
 ガコン! 再び重力と花道がネグルと幻霊を受け止めタイヤに刻まれる。
「さあ来い、私が相手になってやる!」
「チッ。その男は放置しろ、ダイウルゴス! 来い!!」
 ネグルは目を見開いた。さらに巨龍が降り立つ。数はもはや二百――。

「そう来るのはさすがにわかってるぜ!」
 ゆえにヴィクティムは備えていた。全身の義肢がキュウウ、と駆動音を立てる。
 直後一陣の排熱蒸気を残し、色付きの風じみた速度で影を走るカウボーイ!
 ヒラドリウスを装着。シュリュッセルフィデルVer.2が集音した情報を、
 即座に電脳視界に立体映像として投影。敵の予測行動軌跡が描き出される。
 匡が装着したNV-07の視覚情報も即時反映され、潜るべき間隙を見出すのだ。
「匡! 9時45、4時32!」
「了解」
 音なき銃弾を指示方向へブラインドショット――HIT。龍が一体沈黙。
 併せて右斜め背後から狙いを定めた爪を前転跳躍回避、立ち上がりざまに射撃。
 足を止めずにくるくるとステップを踏み、死神の刃を抛ち三体目を逆鱗破壊!
 ヴィクティムの指示だけに頼っていては後手に回る。匡自身の視覚も重視。
 それで初めて対等――否、まだ彼らは首魁にたどり着けていないのだ。
(身を切るなら、ここか)
 流れ込む情報を冷静に咀嚼演算しながら、匡は淡々と思う。
 ここか。ここが、己の命を賭けて礎となるべき場所か?
『駄目だ、独りはな、駄目なんだ。視野も考えも、独りのものしかなくなる』
「…………」
『何度負けても、何度這い蹲っても、生きてりゃ敗北じゃねぇ。生きていけば――』
「……――」
『……匡さんも、いのち。大事にしなよ』
(――いや。投げるには、まだ早い)
 交わした約束がある。守ると決めた者たちがいる。ならば。
(俺は、生き延びる。こいつらと一緒に。そうだろ――相棒)
 見据えた先。金色の光が、風よりも疾く駆け抜け龍を屠る。

 BLAM! BLAMBLAMBLAM! ガキ、ギンッ!!
 放つ弾丸は、龍を穿ちしかし龍使いには届かない。だが、煩わしい。
 然り、煩わしい。この男。疾走する幻、銀と金の光を纏う男。
「邪魔な」
「褒め言葉だよ、クソッタレが!」
 ドラゴンテイマーの言葉に吼え返し、ネグルはなおもあがく。
 未来予測。敵はそれを軽々と乗り越え、彼の進路を塞ぎ退路を抉る。
 かすめた土のかけらは、じょじょに頬を裂き肩を切っていた。
 そこへ、ヴィクティムからの通信。ネグルは一瞬、目を見開いた。
『やれるか』
『愚問だな、私を誰だと思っている――そうだろう、チューマ?』
 慣れたスラングをやり返してやれば、苦笑めいた気配がした。
 通信は終わる。覚悟を終えるのには1秒も必要ない。ネグルは!
「ドラゴンテイマー――いざ、尋常に! 勝負ッ!!」
 あろうことかダイウルゴスではなく本体めがけ、矢のごとく疾走した!
 立ちふさがる龍を切り裂く。さらに群れがネグルを追う!
 ぐんぐんと近づく両者の距離――虚無の瞳が、金色を見返した。
(死ね)
(やってみせるがいい)
 言葉なき対話。ネグルは吼え返し、笑ったまま疾走。交錯。
 ――斬撃。ネグルは着地しそこね、スピンしてがりがりと転倒する。
「が……ッ!!」
 左腕。肩の付け根から切り裂かれ、バチバチと火花が爆ぜオイルが吹き出た。
 いかに鋼のそれとて痛みはある。痛覚抑制が効かぬほどの鋭い斬撃。
 立ち上がろうとする。龍が殺到し、爪で抉り抑え込む!
「殺せ」
「いいや、貴様に俺は殺せん――"俺にかかずらった時点で、終わりだ"」
 ニヤリと笑うネグル。ドラゴンテイマーはしかし沈着なまま。
「愚かな。ダイウルゴスの目はその程度で欺けん」
 然り。今しがたネグルに殺到した黒龍はあくまで群れの一部。
 匡、そしてヴィクティムは、いまだ多数の龍に苛まれている。
 だが、業腹だ。二度と囮など考えられぬように叩き潰すべきか。
 風めいて走るハッカーが、着実に数を減らしつつあるゆえ。
「ダイウルゴス、融合しろ。まとめてひねりつぶせ」
「言ったはずだ!!」
 爪に抉られながら、ネグルは血を吐いて叫ぶ。
「貴様の、運命は! 視えている――我が目にも、友の目にもな!!」
 ドラゴンテイマーは訝しもうとした。
 そこへ、魔弾が訪れた。

 わずか3秒前。一瞬の間に全てが起きた。
 ダイウルゴスの融合合体。多を一とすることで強大なる個を生む儀式。
 だがこれこそが狙い。ネグルの捨て身、そして負傷もすべて布石。
 引きつけられるかどうかは賭け。無謀なそれに乗れとハッカーは言った。
 ネグルは逡巡なく受け入れた。片腕を犠牲に彼奴の刃を受けることで。
「盤面掌握ができねえのなら――"ひっくり返す"までだ」
 笑う亡霊。瞬間、浸透した電脳ウィルスが全てを反転させる。
 強大なる黒龍。群れが一に集った時、生まれるのは強大なる個。
 ――否。龍とは孤ゆえに強く、群れて生まれるのは個ではなく"仔"である。
 反転術式。アタックプログラム・リバース。
 運命をひっくり返す搦め手。生まれたのは最弱なるはじまりの龍。
「あぁ、だが悪いな魔剣使い(フェティシュ・マン)」
 ドラゴンには手を出すな。それがストリートの掟。ならばその頭を殺す。
「――お前の敗北は、覆らねえよ」

 そしてその時、すでにトリガは引かれていた。
 作戦は思考の速度で伝わる。匡もまたネグルの捨て身を了承した。
 ただの捨て身ならば遺憾に思う。だがこれは"前に進むための投資"だ。
 嘗て己がそうであったように。されど嘗てとは違うように。
 平然と受け入れるのではなく、その重みと覚悟を知った上で己も賭ける。
 なんたる苦痛。心臓が早鐘を打ち胃が裏返るようなストレス。
 押し込む。凪の海は揺らがない。揺らがないと己を定義し、受け入れる。
 必要なものは信頼。もはや彼が迷うことはない。
(俺に出来るのは殺すことだけだ)
 過去の化身、宇宙の残骸。たとえその"今の死"が無益だとしても。
 過去ならば滅びの因果がある。かつて死に、絶えたという過去がある。
 ゆえに彼奴らは無限。ゆえに彼奴らは世界を冒す。ならば。
(立ち塞がるものは殺す。龍でも、地獄でも、視えるものは、殺せるのさ)
「――終わりだ、涯(は)てまで送ってやるよ」
 蒼い瞳は敵を見ない。見据えるのはその先にある敵の破滅のみ。
 そして魔弾が放たれた。しかしてそれは敵を貫く弾丸にあらず。
 すなわち。因果をさかのぼり、過去在りし破滅を再びもたらすもの。
 ゆえに魔弾。魔弾とは異形の論理で組み立てられる、必然の破滅である。
 かの銃使いがそうであるように。海原が映し出すものも、また必然。

 …………静寂。
 振り下ろされかけた爪はない。大地を薙ぐ尾もない。
 ただ。額を穿たれたドラゴンテイマーが、驚愕と共に呻いた。
「何故だ、我が大願は……のか……」
 謎めいて呻く。その瞳に映るものは過去。
「……石……よ……の、元……へ……」
 どさりと仰向けに斃れた男が、塵めいて崩れて消えていく。
 龍はもはやない。重圧も殺意も、もはや。
「――状況終了だ」
 ハッカーの声が、ようやく銃士と剣士に野太い安堵のため息をもたらした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 いずれわかる。お前たちにも、すべてが。
フェルト・フィルファーデン
アナタ、どこか異質ね?なんだか、この世界らしくないような……
ふふっ……だからといって見逃すつもりは無いけどね。


盾受けで身を守りつつ身を隠し先制攻撃でUCを使用。第六感野生の勘で躱しフェイントをかけ同士討ちを狙うわ。
それでも避けられなければ激痛耐性で耐えカウンターからのスナイパーで目を狙い視界を塞ぐわ。

「ええ、わたしは囮。その間にワタシが花の足場の下を潜り龍の使役者に奇襲をかけるの」

『でも、きっとアナタは気付いているのでしょう?でもギリギリまで手は出さない。龍を使役する強者であるが故にね。……その一瞬の隙をわたしが狙う!』

「2回攻撃の鎧無視攻撃で射抜くわ。さあ、アナタはどちらを止めるのかしら?」



●75人目の巡礼者:フェルト・フィルファーデン
 異質。
 フェルトはキマイラフューチャーに詳しくない。
 この戦争が彼女にとってはじめての界渡りであるがゆえに。
 それでもわかる。この男は――異質だ。ひどく、違和感がある。
「アナタ、本当にこの世界の人なのかしら? なんだかとても"らしくない"わ」
「…………」
 再生を果たしたドラゴンテイマーは、謎めいた瞳で見返すのみ。
 肯定も否定もない。フェルトはくすくす、と妖精らしくおしゃまに笑う。
「ええ、どちらでもいい。どちらであれ、見逃すつもりはないもの」
 ゆえに挑む。その挑戦に応じるかのように現れる巨大な龍の影、無数。
 フェルトはフェアリーである。ゆえにその身は人より遥かに小さい。
 そこへ見上げるような龍が無数にたちはだかるとあれば、いよいよ矮小に極まる。
 龍どもも、この小さき者を憐憫と嘲りを込めて見下ろしていた。
「とても大きな龍たちね! なんて立派なのかしら!」
 プラチナブロンドの姫は謳うように言って、くすくす笑う。
 妖精らしく。小悪魔めいて――こちらもまた、見下すように。
「群れて意気がる蜥蜴であるのが、とっても残念だわ」
 咆哮が怒りを撒き散らす。戦いが始まった。

 それから起きたのは、ドラゴンどもにとっても不可思議なことだった。
「お願いね? ワタシ」
『ええ、わかったわ、わたし」
 妖精の姫が、二人に増えたのだ。姿も、背格好も、従える騎士たちも同じ。
 実のところ、それはそっくりに造られた絡繰人形である。
 だが鏡合わせめいた二体の妖精は、それぞれが行動し微笑み龍を撹乱する!
 騎士どもが盾で姫を守り、返す刀――否、槍で龍の目を抉る。
 敵の数は無数。されどその間隙を駆け抜ける姫はふたり、気高き勇気は無限。
 ならば龍がこれを屠れるはずはなく、フェルト"たち"は使い手へと肉薄する。
 ――そしてふと、人形が姿を消した。ミスディレクション。
 視線誘導と龍を使った隠密により、潜り抜けるようにして背後を取ったのだ。
 本体のフェルトは笑わない。敵が気付いている――ということに気付いている。
 当然だ。ドラゴンテイマーは強敵。これまでの誰よりも。
(ええ、そうでしょう。アナタは気づく。そう思っていたわ)
(けれどワタシだけじゃない。"わたし"もアナタに迫っているのよ)
「さあ、アナタはどちらを止めるのかしらっ!?」
 騎士たちがその身を挺して龍どもを阻み、姫は雄々しく羽ばたき疾駆する。
 絡繰じかけの影もまた! ドラゴンテイマーは、虚の如き双眸でフェルトを――。

 ふたりのフェルトを、『同時に』切り裂いた。

「『かは……っ!?』」
 然り、同時である。ほぼ同時、それほどの剣速で断ち切った。
 だがフェルトたちは、やはり同時に残る騎士たちを放ち敵を襲わせる。
 ドラゴンテイマーとて、攻撃後の隙は殺せない。弾いた槍の切っ先が脇腹を裂く。
「……ふん。かりそめでも私に届かせられるとは」
 血を噴き出す傷口を左手で抑えながら、ドラゴンテイマーは姫を睨みつけた。
 ――負けてやるもんですか。その傷がアナタを倒す礎になる。
 とびっきりの怒りと憎悪を込めて、白金髪の姫は敵を睨め返した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シズル・ゴッズフォート
【アドリブ歓迎】

貴殿が如何な理由で騒乱の片棒を担いだかは存じませんが、故郷が焼かれるのを見過ごすなぞ騎士の名折れ
止めさせて頂く……!

初撃は楯と剣を以て【盾/武器受け】で止めてみせましょう
続く竜の群れは同じように受けます
が、防御姿勢に支障が出ない範囲で竜の目や口内を狙って剣を突き込み、楯で殴り倒して被害を少しでも減らせるよう努めましょう
【シールドバッシュ、カウンター、激痛耐性、野生の勘】

(身の裡で戦場の酔気に咽び笑う獣さえ、今だけは無意識に身を委ね力と変えて)
【怪力】

無敵城塞は確かに諸刃の剣
ですが、受ける瞬間のみの瞬時発露ならばやりようはあります

届かぬまでも。勝てぬまでも。せめて一太刀……!



●76人目の巡礼者:シズル・ゴッズフォート
 キマイラであるシズルにとって、この世界そのものが故郷に等しい。
 ゆえにこそ、という気持ちはある。だがそれ以上に、騎士として、猟兵として。
 この謎めいた男の企みや、正体についての懸念はあれど、なによりも。
「……貴殿が、如何な理由でこの争乱の片棒を担いだかは存じません」
 敵の前に姿を表した女騎士は、燃え上がるほどの怒りを込めて男を睨めつけた。
 ドラゴンテイマー。虚無じみた双眸はただそれを見返している。
 なんと地獄めいた瞳だろう。心弱きものは呑まれそうなほどに恐ろしく昏い。
「ですがこれ以上、故郷が乱され灼かれるのを、見過ごすことはできない」
「ならば、あの女を止めるがいい。私の仕事はあれとは別だ」
 然り。キマイラフューチャーの平和を護るというのなら、ドン・フリーダムこそ。
 あのオブリビオン・フォーミュラを倒してこそ、守るべきものは守られる。
「……ええ。ですから私の行いは、騎士の正道には反するのでしょう」
 それでも、とシズルは言葉を継いだ。
「己の目的を果たして姿を消す邪悪を、見て見ぬふりすることなど、それこそ名折れ。
 貴殿を放置すれば、故郷に及ばずより大きな災厄が訪れると、予感がするのです」
「…………」
「ゆえに」
 がん! 大盾が地面に突き立てられる!
「止めさせていただく、その陰謀!」
 叫ぶ姿は、雄々しくも華々しく!

 そして女は、自身の信念の発露たる盾を構え、片手には剣を携え挑んだ。
 無謀である。敵はこれまでで最も強大、正体も定かならぬ者なのだ。
 だがシズルは退かない。誓った正義と、貫くと決めた信念がある。
 ……それを裏切り、いますぐ獣となり暴れよと、身の裡で何かが云う。
 なにか? 否、それは己だ。獣としての己、戦場に酔いしれる下賤な獣。
 されど撃滅の闘士として野放図に駆ければ、待つのは即座の破滅である。
(護剣の廉士であってはこの剣は届かず、されど血に酔えば身は裂かれよう)
 すなわち。理性を以て盾を構え、本能を以て剣(つめ)を振るうべし。
 普段ならば到達しえぬ均衡調和、無意識の緊張がひとときこれをもたらす。
 ドラゴンテイマーは不動――否、起こりすら読めぬ速度で間合いを詰めた。
「その蛮勇を抱えたまま、死ね」
 袈裟懸けの斬撃。盾ごとシズルを切り裂くような恐るべき一撃!
 ――ガギン!! 受けた盾が……押し切られる。シズルの肩を抉る刃!
「ぬ……!?」
 そこでドラゴンテイマーが瞠目した。ねじ切るはずの刃が通らぬ。
「たしかに私では……わたし、では……」
 ふつふつと脂汗を珠のようににじませながら、しゅうしゅうと獣じみた呼気。
 しかして人の双眸で睨め上げながら、シズルは叫ぶ。
「届かせられずとも! 勝てぬまでもッ!!」
「ぬうッ」
 押し返した! 襲わんとした龍どもすら射竦める怒声!
「せめて一太刀――仕るッ!!」
 ざん――!! 捨て身の浴びせ斬り、これが龍の使いをざっくりと裂く!
 ドラゴンテイマーがたたらを踏む。獣の力と騎士の誓いが、暴威を乗り越えたのだ!
 龍共が雄叫びを上げ女に殺到する。それを決然と睨み、シズルは言った。
「私は死なない、この信念を貫き果てるまでは!!」

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・ひかる
絶望的な物量と戦闘力。
体がすくみ手が震える。きっと、勝てない。
でも……絶対に心だけは折れてやらないっ。
諦めなければ、まだ負けてないんだからっ!
(めっちゃ涙目&震え声になりつつ自身を【鼓舞】)

・先制対策
草木の精霊さんにお願いして、花の足場を操作。
わたし自身を繭のように包み込み全方位防御、繭は周辺の花の足場をどんどん吸収して分厚く。
平行して毒を生成させ、繭を攻撃した竜を一網打尽……とはいかなくとも、多少なり弱らせるよ。

・反撃
繭の中で【転身・精霊寵姫】発動。
タイミングを見て飛び出し、地表に向け闇精霊さんの超重力弾を射出。
動きを制限したら、水と氷と風精霊さんの全力の「猛吹雪」で全部纏めて攻撃するよっ!



●77人目の巡礼者:荒谷・ひかる
 恐怖がある。当然だ。恐れなくして敵と相対すればそれこそ狂気そのもの。
 彼奴――ドラゴンテイマーは、強大である。技量や膂力の問題ではない。
 根本的な存在格。過去の顕現たるオブリビオンとしての重圧が桁違いなのだ。
 生命の慮外たる猟兵とて――否、ある意味同種たる猟兵ならばこそ。
 その意味、重み。己と敵の戦力差は知れ、絶望がその心身を支配する。
 身体がすくみ、手が震える。己は――きっと、いや間違いなく勝てない。
 少なくとも、この身が彼奴を滅ぼすことはできない。確実に。
 だが、そこへつなげることなら出来る。
 ウィンドゼファー、あるいはラビットバニーと相対したときのように。
 彼奴らを倒したがゆえになおのことその戦力差を体感してしまうのが不幸だが、
 それを打ち倒した経験が彼女を踏みとどまらせる。禍福は糾える縄の如し。
(諦めなければ、負けてない。絶対に、心だけは折れてやらないっ!!)
 涙を浮かべながら、少しつづ近づいてくる孤影を、震えて睨みつける。
 だが彼奴を中心に文明侵略が起きた時、今度こそひかるは悲鳴を漏らした。

 文明侵略。それはこの造らえた楽園を全て支配し黒龍へと変える。
 果ては視えない。その支配領域がどれほどなのかは対峙していては測れぬ。
 ゆえにひかるは視えない精霊たちに乞い奉り、どうかその力をと願った。
 草木は応えた。蹂躙されようとする者たち――つまり花々が応じた。
 めきめきと音を立てて伸びた草木が、繭めいてひかるの身を包む。
 隙間なき堅牢なる防御。のたうつ蔓はその周囲に蔓延り同化していく。
 かと思えば一見甘露に見える樹液が噴き出し、これを抉ろうとした龍を冒す。
 毒である。龍はこの意外な反撃に思った以上にうろたえて退いた。
 群れの暴威を得ればそれは怒りに代わり繭を襲ったが、それでも数秒の間隙。
 つまり初撃はしのげた。ならばひかるにもやりようはある!
(お願い、精霊さんたち。わたしに、力を貸して――もっと、もっと!)
 草木が、光が、闇が、諸力の精霊たちがその声に答える。
 かの邪悪を許してはならぬ。世界そのものがひかるを言祝ぎ恩寵をもたらす!

 そして見よ。花々の繭を割って、華々しく空を舞いし乙女の姿。
 "精霊寵姫"への転身精巧。いまやその身は諸精霊に愛されし少女の姿。
 命を代償として支払うこの強力な術式は、空を舞い元素の魔法を振るわせる!
「闇の精霊さん、黒龍を縛り付ける力をわたしにっ!」
 暗黒を凝り固めたような重力の飛礫が、地表を抉り龍を縛り付けた。
 ドラゴンテイマーは無事。だがそこに隙がある!
「なんだ? その姿は――」
「そこ! 水よ、氷よ、風の精霊さんたちよ! 何をも呑み込む、吹雪をっ!!」
 龍を、そして使い手を呑み込む猛吹雪が辺り一帯を飲み込んだ!
 咆哮もやがて途絶える。ひかるは安堵し――びくりと身をすくませた。
(生きてる、まだ! ――ううん、でも)
 ぱきぱきと凍りついた大気を氷柱とし、解き放つ。
「わたしは、わたしたちは! あなたなんかに、絶対負けないっ!!」
 ダメ押しの氷弾。吹雪を切り裂き現れた男を貫き、縫い止めるのだ!
 精霊たちの声に従い、ひかるはもはや振り返ることなく飛び去る。
「あとは、猟兵さんたちに任せる……わたし、出来ることは、やれたよね?」
 答える声はない。けれども彼女自身が心で理解していた。
 諦めなければ負けない。その言葉の通り、己は勝利へのしるべとなったのだと。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルベル・ノウフィル
wiz
何かよくわかりませんがお持ち帰りは阻止させていただきます!

事前に大量の彩花を準備して参戦
全行動早業を活かす
◆防
オーラ防御を纏わせた彩花を念動力で操り竜にぶつけていく
同時に自身はトンネル掘りで戦場に地下トンネルを作りサッと避難したりこっちにいると思わせて別の出口から出たりと出入り活用
自身が攻撃を受ける際は夕闇にオーラ防御を集中して被ダメを減らすようにする

◆反撃
気合、覚悟、捨て身の一撃
自身はアイテム墨染で斬りつけ同時にUCで援軍を造る

UC写夭
自身からレベルm半径内の無機物を【元ドラゴンスレイヤーの死霊の群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る

嘗ての英雄達よ、今一度立ち上がれ!



●78人目の巡礼者:ルベル・ノウフィル
 舞い散るは花びら――否、それらはすべて霊符である。
 "彩花"。華々しき名と裏腹に、込められたものは呪詛怨念だ。
 されどそれは生者を憎むものにあらず。死者を憎む死者の念。
 すなわち。死して滅びてなお、現世生者を脅かし侵略せんとする者ども。
 オブリビオン。過去の化身、未来の破壊者。骸の海より来たる虚無。
 正しき死者たちの憎悪は、歪んだ世界敵対者たちを滅ぼす刃となるのだ!

「彩花よ、飛んで斬り裂けッ!」
 ルベルは素早く霊符を抛ち、念動力でこれを操る。
 彼方で生まれしは、文明侵略によって変貌誕生せし黒龍の群れ。
 すなわちダイウルゴス。ドラゴンテイマーと同じくおそらくは過去の残骸。
 起源定かならぬ龍の群れは、しかしてそれゆえに霊符の呪いを避けられぬ。
 張り付き、あるいは切り裂かれたことで、龍どもは雄叫びを上げて苦しむのだ。
 ではルベル本人は? 当然、霊符を避けて彼を叩こうとする者はいる。
 だが殺到した黒龍どもは、あるべき場所に少年がいないことを訝しんだ。
「こっちですよ!」
 かと思えば別の場所に少年はあり、再び霊符を放って敵を責めさいなむ。
 おのれ、小癪な犬畜生め。怒りをもって薙ぎ払われる巨大な尾。
「どこに目をつけているんですか? こちらです!」
 また別の場所に! まるで瞬間移動だ、一体どれほどの疾さを有するのか?
「愚か者どもが。地下だ、地面を砕け!」
(――さすがに長続きはしませんか!)
 龍どもは一斉に、満身の力を込めて地面を抉り、あるいは踏みつけた。
 KRAAAASH……ルベルが密かに気付いたトンネルは崩落埋没する。
 地面が揺らぐ。だが己に攻撃が来ないなら、すなわちこれ間隙である!

 そうと決めたならば、振動する大地を蹴ってルベルは敵をめがけた。
 すなわちドラゴンテイマー。正体も明らかならぬ地獄じみた強敵。
「あなたが何なのかはよくわかりませんが、"お持ち帰り"は阻止させていただきます!」
「お前には不可能だな」
「大口を叩いていると後悔することに――なりますよッ!」
 黒刀・墨染による斬撃。これはクリムゾンキャリバーに阻まれ弾かれる。
 しなやかな跳躍でくるくると反発衝撃をいなしたルベル、着地。
 龍どもが背後からやってくる。だが彼はそこで叫んだ!
「嘗ての英霊たちよ! 今一度、立ち上がれッ!!」
「何……!?」
 すると見よ! 彩花によって滅ぼされた、かつて龍であった無機物が。
 それぞれ装い異なる戦士となって立ち上がる。アレは一体!?
「この世界にかつて在った龍殺しの英霊たちです。
 ええ、それは現実のものではない。しかし彼らは人々の心に遺った」
 然り。キマイラフューチャーで愛された多くのゲーム、あるいはカルチャー。
 フィクションであるはずの物語に名を刻みし龍殺しの英霊が、いま、ここに!
「あなたが文明を侵略するならば、僕はあなたのその驕慢を侵略しましょう。
 龍使いよ、ドラゴンスレイヤーを前に、あなたは立っていられますか!?」
「チッ、かりそめの木偶を並べて何が出来る……!」
 揺らめくような化身たちは、それぞれが正しき死者たちの想念を備えている。
 造られた黒龍どもが、それに抗えようはずもなし!
「――あなたを、討つことが。追い詰めることが、できます!」
 再び墨染を振るう。龍殺したちが殺到する。一撃が……入った!!
「ぐっ!」
 写夭の技ここに成れり。龍とはいつか討たれるものゆえ!
 この刃が命を刈り取ることはできまい。だがそれに近づくことなら!
「言ったはずです、驕慢を打ち砕くと!」
「小僧風情が……!」
 憎悪の瞳を決然と睨み返す。少年の瞳に恐れは――ない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴラディラウス・アルデバラン
その剣は一体となっているのか、それとも

攻撃を見切り、回避
避けれずとも我が剣や体術により右腕の攻撃だけは当たらぬ様注意
無論右腕以外の動きやフェイント、予備動作等にも充分に気を配る
これまでの戦闘経験や第六感をも駆使

彼奴は人型だが、動きや内部構造も人体と同じであろうか
それならば、間接などの稼働範囲、死角に急所も熟知している
知識や経験が活きれば良いが

攻撃を受けども痛みなど耐えてきってみせよう
肉を切らせて骨を断つ。剣を喰らえば我が身の炎が融かすだろうか
融けずとも問題はない。得物又は身体の何処かを鷲掴んで、動きを封じ隙を作るか
或は相討ち狙いで我が剣を沈み込ませてやろう

我が剣の冴えにて、ドラゴンも対抗しよう



●79人目の巡礼者:ヴラディラウス・アルデバラン
 かくて龍殺しの軍勢に終われ、羽ばたき逃れたドラゴンテイマー。
 その前に現れたるは、吸血鬼の血を引きし青褪めた肌の武人であった。
「その身、ドラゴンテイマーと見受ける。私が何者かはわかろう」
「……猟兵か」
「然り。貴様のその生命、我が剣にて刈り取らせていただく!」
 朗々たる名乗り。ヴラディラウスは愛剣イスティルを手に地を駆ける。
 敵は手負い、それも勢いを減じられている。龍の群れが辿り着くまで一瞬の隙。
 ならばここを叩くべし。一対一の戦いならば騎士の領分ゆえ!
「そこを退けッ!」
「押し通るならばその刃によって為すがいい!」
 すさまじき速度の踏み込み! 敵の力量にヴラディラウスは瞠目する!
(なんたる疾さ。だが所詮は、私と同じ人型。ならばやりようはある)
 関節駆動、視線移動、敵が狙うであろう己の急所の防御と身のこなし。
 渡り歩いた戦場と、死線の数がヴラディラウスの身切りを支える。
 降り来る刃を、恐るべき重みを持った斬撃を――受けた。ざりざりと地を滑り、
 しかして! ヴラディラウスはその一撃を……耐えた。凌いだ!

 ドラゴンテイマーは渋面を浮かべ、さらに速度と威力を上げて斬りかかる。
 ヴラディラウスはそのたびに苦悶し、氷めいた肌に冷や汗が伝った。
(一瞬でも気を抜けば刈り取られよう。いかにしてこれほどの技を……!)
 彼奴の正体、そして目的。定かならぬ陰謀はこの重みをさらに越えよう。
 敵が強大であるとわかったならば、それゆえに退けぬ理由が増えていくのだ。
 女だてらと侮るなかれ。ヴラディラウスは戦いこそが本分たる戦士。
 受太刀が骨を軋ませようとも、恐怖と痛みをこらえて踏みとどまるのだ。
 そして視えた。間隙――されど放てば敵の切っ先は己の身を。否。
「我が剣の冴え、屠龍にも届かせんッ!!」
「ぐ……ッ!?」
 交錯、そして到達。氷の刃は彼奴の脇腹を深く抉り、裂いた!
 ぱきぱきと傷口が凍りつき、低温の灼熱を以て邪悪を苛む。
 されど太刀を受けたのはヴラディラウスも同じく。さしもの女騎士とて、
 耐えきれず二歩よろめく。追い打ちをさせぬは裡にて蘇る地獄の炎。
「私を、こうまで、退けるとは……!」
「嘗めてくれるなよ、ドラゴンテイマー」
 ぎらりと、整った双眸が鋭く敵を睨みつけた。
 彼奴は脂汗をにじませ、歯噛みしながらばさりと羽ばたき遠のく。
「その命脈、遠からず尽きると知れ。死の運命は汝を絡め取ったり!」
 答える声はない。だがヴラディラウスにははっきりとわかる。
 もはや、彼奴が滅びるのはあと一太刀にて十分だと。

成功 🔵​🔵​🔴​

叢雲・源次
【OX】

その地獄のような瞳を見た瞬間、心臓に宿る地獄が、そしてこの身体に残された生体部分が生存本能に従い警告を発しているような感覚を憶える
どうするクロウ、復帰して早々俺達は死ぬかもしれん…撤退するのならば今のうちだ

ああ、それこそ「是非もあるまい」…仕掛けるとしよう、俺とお前で

クロウが先に往き囮となった
託されたならば覚悟を決める…俺が持ち得る戦術を全て用いる
最大戦速で踏み込み電磁抜刀の構えを取った残像でフェイント
すり抜けるように、攻撃はウォールデバイスで一瞬でも逸らせればいい、もう一歩

左手による逆手抜刀、峰に右手を押し当て更に加速

ラビットバニー戦では隻腕故に不完全だった

今が、これが真なる無明抜刀


杜鬼・クロウ
【OX】
アドリブ◎

「おまけ」ねェ
本気のヤツがどれ程のモンか(想像すると悪寒で顔が引き攣り
ハ、鈍った体にゃ丁度イイ運動だろうがよ!
怖気づいてンのか?(源次へ挑発

…お前も前回のバニー女ン時、まだ限界超えてねェだろ
時が来るまで
俺がお前の鞘になる(俺の目の前でまたあンな怪我させねェ

何があっても
前だけ見てろ(死ぬ気は無い

唇の銀の鎖引き千切り玄夜叉に当て【無彩録の奔流】使用
竜の群れに突っ込み属性攻撃・2回攻撃・鎧無視攻撃で紅蓮の焔渦起こす
纏めて地へ叩きつける
敵の攻撃は見切り・第六感で回避

必ず俺に当ててくると読んでたぜ敵さんよォ(皮肉
活路は、抉じ開ける
彼に応える為に

奇襲の奇襲でテイマーの心臓狙う(フェイント




 怒り、屈辱、そして憎悪。なによりも果てなき策謀の闇。
 それらを虚無じみた瞳に映しながら、地獄の如き男がどさりと地に落ちる。
 ひそやかに翼を畳み、立ち上がるさまを紫色の瘴気が帳めいて覆った。
「猟兵……グリモアを持つ者ども。ここまで、私を、追い詰めるとは」
 脂汗が滲む。穿たれた傷は重く、この身はおそらくじきに滅びよう。
 だが諦めぬ。然り――グリモアにはまだ"先"がある。
 奴らはうまく操れている。だが"それだけではない"ゆえに。
「必ず、私は再び……手にする。手にしなければならぬ」
 此度の戦いも奴らの勝利で終わるか。それはいい。それでも構わぬ。
 だが猟兵の力量は想定外だった。この身をこうまで執拗に狙うとは。
 奴らは何も知るまい。無意味無謀と知ってなおも挑む。
 そのひたむきさ、意地こそが奴らの……忌々しさが募る。
「……新手か」
 呻き混じりに彼方を見やる。そこに二人の男がいた。

●地獄を終わらせる者たち:叢雲・源次と杜鬼・クロウ
 その瞳を――地獄のような双眸を見て、見返した瞬間、源次は感じた。
 己の心の臓腑に宿る地獄の焔が、そして僅かに残された生身の部位が。
 それらを構成する細胞の一つ一つが、跳ねて、そして、叫んだ。
 "逃げろ" "死にたくない" "ヤツには勝てない"。
 それは警告というよりも、一種の確信めいた虫の知らせ。
 否――あるいは、捕食者に狙われた獲物が、最後に感じる絶望か。
「どうする、クロウ」
 傍らに男を見やる。美丈夫もまた――引きつった笑みで見返した。
 彼も想像したのだ。あの男、形を得た地獄の如き男の"本領"を。
 然り。戦士としての技量と、経験と、ヤドリガミたるその身が確信している。
 ヤツは、何かをまだ隠している。此度の戦いはまさにあれにとっての"想定内"。
 これまでの敵を凌駕する実力の、まだ先がある――絶望的な予感。
 脳裏で思い描いたそれは、相対した重圧も相まって真実味を増す。
 悪寒と武者震いがぞくりと背筋を駆け抜け、そこで源次の死線に気付いた。
「ハ――鈍った身体にゃ、ちょうどイイ運動だろうがよ!」
「復帰して早々だが」
 源次がちらりと敵を見やる。彼方から邪竜の咆哮。
「俺たちは死ぬかもしれん。撤退するならば今のうちだ」
「……怖気づいてンのか?」
 異色の双眸が睨み返した。男たちは束の間無言。
「……お前、あのバニー女ン時、まだ限界を越えてねェだろ」
「ああ」
「ならそれでいい。あとは"時が来る"まで、俺がお前の鞘になってやる」
 あのような無茶を、もはや肩を並べる戦友にさせはすまい。
 ぶっきらぼうながら、それはヤドリガミたる己としての最大の献身。誓い。
 この身すべてを糧として、お前の捧げ、好機を作ってみせようというのだ。
 ……源次がその言葉の意味を、反芻するかのように押し黙った。
「何があっても、前だけ見てろ」
「……"是非もなし"。ならば仕掛けるとしよう、俺とお前で」
「ああ。俺とお前でだ」
 言葉は終わり。敵も平静を取り戻し、再び殺気を放射する。
 不意を打てたならばそうするべきでは、と、この場に余人がいたならば云うかもしれない。
 否である。どちらかが不用意に仕掛ければ、その粗忽者は死んでいた。
 死合における奇妙な礼儀とは、そういった合理性のもとに自然と組み上がるもの。
 互いに相手への敬意があるわけではない。そうするのが適切なのだ。
 ふたりにとっても、深手を負ったドラゴンテイマーにとっても。

 ……だがもはや、語らうときはない。必要も、つもりもない。
 するとクロウはやおら、下唇を彩る銀の鎖を、ぶちりと引きちぎった。
 愛剣・玄夜叉にそれをあてがう。銀が解(ほど)け、黒魔の刃を彩る。
「神羅万象の根源たる、玄冬に集う呪いよ。秘められし力を分け与え給え……」
 邪竜の咆哮。好機狙う龍の群れ来たれり。クロウは一歩を踏み出す。
「さァ……一ノ太刀、仕るぜェッ!」
 破滅と、地獄の刃がそれを出迎えた。
「お前たちを見逃すつもりはない。共に死ね……!」
「吼えるじゃねェか、だったらやってみやがれッ!!」
 ガギン!! 黒魔剣と恐るべき赤き魔刃が打ち合い、互いに弾かれる。
 間隙を縫うように襲いかかる龍の群れ、されど魔剣はそれをも通さぬ!
 魔刃クリムゾンキャリバー。その刃が己の身を抉った時、そこが終わりとなろう。
 龍はハゲタカめいて殺到し、おそらくクロウの五体を抉り殺すだろう。
 一撃を受ければそれで終わり。龍の群れを紅蓮の焔渦が脅かすとも、
 これを払い滅ぼすには至らない。ドラゴンテイマーがそれをさせぬ。
「チィ……!!」
「蛮勇はその死を以て支払ってもらう」
「上等だ、殺せるモンなら殺してみな!」
 刃が撃ち合う。龍が襲いかかり、焔がこれを退ける。飛び散る脂汗。
 矢継ぎ早に危険を告げる第六感は、あまりにも警鐘を鳴らすゆえ当てにならない。
 されどクロウは死なぬ――そこへ、遅れて来たる電磁の刃があるゆえに。

 踏み込みは一瞬。鞘をレールとして抜き放たれしは電磁抜刀。
 紫電を纏いし鋼は、以て龍鱗をもバターめいて切り裂く恐ろしの刃となる。
 されど、ドラゴンテイマーはこれすら見切った。走りし剣を魔刃で受ける!
「防ぐか。是非も無し」
「否。是は私、非はお前たちだ!」
 赤い斬影――そうはさせじと黒魔剣が割り込み、かろうじてコレを弾く。
 でなくば源次はこれを受け、肉も鋼もついばまれて死んでいただろう。
 死線に死線、次々来たる危険を潜り抜け、あるいは飛び抜ける絶死の戦場。
(是非もなし――ただ、友を信じ駆け抜けるのみ)
 ゆえに源次は抜刀し、瞑想的な立ち回りでドラゴンテイマーを撹乱する。
 フェイントに次ぐフェイント。間隙を縫う刃は残像にて回避。
 ドラゴンテイマーは苛立つ。この連携を崩さねば突破はできぬ。
 龍をけしかけるか? 否、文明侵略も巨龍も後手に回るのみ。
 ならば己を以て切り裂く他になし。標的は――言わずもがな、この男。
「クロウ!」
「わかってンよ――さあ、勝負しようやドラゴンテイマー!」
 虚無が走った。これまでの三倍近い速度の剣閃! 一度に六つ!
 クロウはこれを受ける。受ける。受ける! 受ける!!
 だが五度目、ついに守りを抜けた刃が――おお、彼の腹部を! 抉った!!
「終わりだ」
 うっそりとした声で地獄が云う。龍どもが歓喜にいななく。
「ああ、テメエがな」
 黒魔剣が心臓を相打ち狙いで刺そうとした。ドラゴンテイマーはこれを読んでいた。
 だが。その直後に来たる刃までは読めなかった。

「何?」
「幹部には隻手ゆえ不完全だったが」
 押し付けられた刃。両腕ならば放てる。これぞ真の魔剣。
「容易く見切れると思うな――これぞ、"無明抜刀"なり」
 そして刃が走り――地獄は、その首を刎ね飛ばされた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月28日


挿絵イラスト