テレビウム・ロック! ~秘鑰顕現、解除せよ。
「キマイラフューチャーに住むテレビウム達のお顔に、突然、鍵のマークが浮かび上がる奇妙な現象が起きているのは知ってる?」
不安気に語尾を持ち上げるニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)に対し、こっくりと首肯を添える猟兵達。
大体の事は知っているという彼等に幾許か安堵の表情を浮かべた彼女は、然し声音は固くした儘、詳細を切り出した。
「鍵の映像を映すのは、全てのテレビウムという訳ではなくて、市井の一般テレビウムだったり、グリモア猟兵だったり……彼等に共通項を見出すのは難しいわ」
鍵を映すテレビウムに共通した特徴は見られない。
それはつまり、対象を細かに調べて法則等を探る事にあまり意味はなく、それより重要な――彼等の命を守る行動が必要になるとニコリネは言う。
「唯一共通するのは、鍵の浮かんだテレビウムが狙われるという事。何処からともなくオブリビオンが出現して、彼等に襲い掛かって来るの」
猟兵の皆には、これらオブリビオンを撃退しつつ、鍵が浮かび上がる謎を解き明かして欲しい――。
真剣な表情で頼み込むニコリネに対し、何人かの猟兵が力強い是を返すと、彼女はホッとした様に説明を続けた。
「私が予知したのは、肩をいからせて歩くクマ型テレビウムが、鳥型オブリビオンの群れに襲われる光景……先ずはこの惨景を止めてくれるかしら」
場所はキマイラフューチャーの旧人類が作り上げた電気街、スクランブル交差点だった道路が戦場となる。
オブリビオンの数は凄まじいが、猟兵が負けるとは思っていないニコリネは言を続けて、
「このテレビウムを守る事に成功すれば、彼の画面に映る鍵が、都市の何処かを指し示す筈……皆は敵の追撃を振り払いながら、何とかその場所に向かってね」
敵の追撃は執拗で、群れを率いるボスを倒さない限りテレビウムの安全は無い。
そして、その首魁を倒したなら、新たなる現象が事件の真相に近付けてくれるだろう――というのがニコリネの見解。
彼女はそこまで言うと、花型のグリモアを召喚し、
「キマイラフューチャーにテレポートします。脅威に晒されたテレビウムを助けて、この謎の事件を解決しに行きましょう!」
準備はいい? と白磁の繊手を差し伸べた。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ユーカリ)こあらと申します。
キマイラフューチャー在住のテレビウム達の画面に、突如「鍵のような映像」が浮かび上がる謎の現象が起きています。原因の追求が求められる中、オブリビオンが鍵の浮かんだテレビウムを狙って来るので、これらを撃退しつつ、事件の真相に迫って下さい。
●敵の情報と戦闘の流れ
第1章(集団戦)『アキクサさま』
先ずはテレビウムを襲撃にきたオブリビオンの群れを撃退して下さい。
敵は、もふもふ桃色のアキクサインコ型オブリビオン。暖かい場所が大好きで、ヒーターを前にすると羽を広げて暖を取りに行くようです。
第2章(集団戦)『紫御殿』
テレビウムの画面に映る鍵が、都市の何処かを指し示す筈です。
執拗な敵の追撃を振り払いつつ、鍵に示された地点を目指して下さい。
敵は、被っている仮面が本体の「ござる」口調くノ一。実は本物の忍者に強い憧れを抱いているエセ忍者。そして忍ばない。
第3章(ボス戦)『餅巾着侍』
目的地に到着すると、テレビウムが突然光り出します。光が収まるまで15分程。
その間この場から動けないので、追いかけてきた敵のボスと戦って下さい。
ボスは、少し間の抜けたような我流の剣術で猟兵達を翻弄する餅巾着頭の侍怪人で、古式ゆかしい日本の文化を好んでいたのか、時代がかった口調で名乗りを上げたりするようです。
●執筆スケジュール
4月22日(月)8:31~執筆を開始し、30日(火)迄に完結する予定で運営します。
各章に移行する毎に相談期間を設けますので、お仲間さまとお誘い合わせの上、プレイングを送信する事が出来ます。2章以降のスケジュールにつきましては、お手数ですが雑記をご確認願います。
スケジュールを優先する為、参加人数によってはプレイングをお返しする場合もございます。(先着順ではありません)
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
グループでのご参加は【グループ名】をご記載願います。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 集団戦
『アキクサさま』
|
POW : ぽかぽかの風
【召喚したヒーターの熱風】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : どっちが本物?
【もう一羽のアキクサさま】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 究極の平和主義
全身を【スーパーもふもふモード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
イラスト:橡こりす
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
受信レベル、異常なし。
液晶画面にチラつき無し。
「今日も元気クマー!」
クイックイッと肩をいからせてスクランブル交差点に進入したクマ型テレビウム『ブラウン』は、その画面に8Kスーパーハイヴィジョン放送を流しつつ、流れる音楽にノッていた。
『チチッ』
『ピピッ』
最初は音楽の一部と思った。
然し其が音楽でないとは、己が画面がPVから『鍵』の映像を映して変わらないと気付いてからだ。
『チィチィ』
『ピィィ、ピィ!』
まさかと思いつつ、ノイズを疑った。
然し其がノイズでないとは、ふと顎を、画面を持ち上げた時に分かった。
『ピロピロピロ~』
『チチチチチッ』
鳥だ、と思った時には遅かった。
見れば天蓋は鳥の囀りに反響し、穹の青は大量の桃色に塗り替えられ、もこもことした塊となって落ちてくる。
「クーマー!!」
助けて、押し潰されちゃう!
ブラウンは画面で感情を表せぬ代わり、肩を愈々いからせ、我が身に迫るピンチを訴えた。
八津崎・くくり
アドリブ絡み歓迎
状況に応じて得物をぶん回しながら登場だ
そこまでだ、と言わせてもらおう
大丈夫かなテレビウム君、何やらいかつい見た目だが、敵もさるもの、ここは私達に任せておきたまえ!
両手のクッキングツールは今日も血に飢えている
ちなみに私も飢えているから覚悟したまえよ桜餅みたいな鳥達
なぎはらって、串刺しにして、できるだけ速やかに数を減らして差し上げよう
悪いが私はかわいいよりも美味しそうを優先する性質でね
有効なら髪に擬態したUDCで噛み付きもする
もふもふしたりヒーターで攻撃したり、中々ふてぶてしい敵だな
だが、あまり舐めたことをしているようだと――
両手で同時に攻撃してUC発動
――ねえ、食べてしまうわよ?
リダン・ムグルエギ
今のうちに逃げましょ、そこの…えっと、クマくん?
他の人が守った所で保護したいわね
…いざとなればアタシがゴートリックフォースの高速移動を活かして回避させようと試みるわ
事件発生から2日
「事前準備担当」の本領を発揮するには十分な準備期間ね
キマフュには背景のように各所に広告塔が沢山あるの…さ、アタシの作品…「CM」の公開よ!
無数の「鍵の浮かんだテレビウム」に見える等身大広告を出すわ
催眠術とアートの腕を生かしたモデリングで実物っぽく見せかけ、3D表示型広告を優先して借りるの
本物っぽい無数の鍵テレビウム出現を前にわたわたもふもふ混乱するといいわ!
ま、時間稼ぎにしかならないでしょうけど十分よ
攻撃は任せたわ!
鞍馬・景正
何事かはさておき、危急に晒されている者がいるなら傍観などありえぬ話。
及ばずながら力になりましょう。
◆戦闘
現場に到着次第、鍵の浮かんだテレビウム殿を【かばう】べく行動。
救けに参った猟兵だと告げ、安心して頂きましょう。
その後は身を盾にしつつ弓を構え、近寄る鳥たちを【霰】にて射止めて参りましょう。
【2回攻撃】で立て続けに射掛け、近接されれば【怪力】を乗せた抜刀で【なぎ払い】等して桃色の奔湍を食い止めていくとしましょう。
防戦だけではなく、斬り込む猟兵がいれば【援護射撃】も承ります。
せめてもう一月か二月ほど前ならこの熱風も有難かったやも知れませぬが、今の季節には汗ばむというものなれば――御免。
御形・菘
はっはっは、妾の統べる世界での狼藉、その心意気や実に良し!
存っ分にもてなしてやるぞ!
突発生配信ではまだ視聴者も少なかろう
まずはド派手に烽火を上げるとしようか!
右手を高く掲げ、指を鳴らして、さあ交差点を埋め尽くすほどに降るがよい、流星よ!
攻撃回数に全振りで蹂躙してくれよう!
もちろん、仲間に当たらんようにその周囲は避けるがな
さて、目くらましをしておるうちに、ブラウンには脇に避難してもらおう
お主ら、なかなか美味しそうで可愛らしいの~
妾は哺乳類だとか鳥と相性が悪くて、威嚇かガチ逃げされるのだがな……何故であろうか?
それでも接近戦を挑むのならば、妾が拳で歓迎しよう
もこもこに囲まれるのは絵的にグッド!
シノ・グラジオラス
テレビウムに群がる桃色のもこもこインコ…これだけだと危機感皆無だな
でも可愛い数ではなさそうなんで、シッカリとお帰り願おうか
SPD選択(アドリブ絡み等は歓迎
テレビウムを狙われた時は『ダッシュ』で割り込んで『かばう』って、
『コミュ力』で警戒されないように声掛けでもしとく
突然の事で怖いだろうが、シッカリ守るから遠くには逃げないでくれよ?
『先制攻撃』で『2回攻撃』の『吹き飛ばし』てテレビウムからは離れてもらおうか
増援が来たら【襲咲き】で燎牙を鎌に変えて『範囲攻撃』と『気絶攻撃』も込み
どっちが本物か分からないなら、どっちも寝といてくれよ
敵からの攻撃は『見切り』からの『武器受け』と『カウンター』で対応
愛久山・清綱
一体、何が起きているのだろう?
故郷の仲間たちは、無事だろうか。
同じ目に遭っていなければいいのだが……
だが、今は彼の安全確保が先だ。
■闘
助けに来たぞ、ブラウン殿。
不埒な鳥どもは、この俺が蹴散らしてみせよう。
先ずは獣の【殺気】を放って鳥たちに【恐怖を与え】、
『捕食者』が現れたことを知らせてやる。
敵は俺と同じ獣。【野生の勘】でその攻撃を【見切り】つつ
かわし、敵の集団へ【ダッシュ】だ。
敵の攻撃をいなしたら密集しているところに近づき、
【怪力】を込めた【剣刃一閃】で【範囲攻撃】、大量撃破を狙おう。
仮に分裂されたらどちらも倒してしまえばいいのだろう?
……少々浅慮な考えだが。
戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と参加
なるほど…
猟兵の活動が行き渡っていない界域ですから(CF世界の🔴数は下から3位なので…)
オブリビオン・フォーミュラの暗躍を抑止し切れていない、ということであれば。異変はその影響かもしれません
世界が悲鳴を上げているのか。もっと別の要素が働いているのかは分かりませんが
テレビウムくん方の『鍵』がこの世界の謎を解き明かすキーになるはずで
それがオブリビオン達には都合が悪いのでしょうね
◆
救助活動、庇うでブラウンくんと敵の間にダッシュして攻撃を武器受け
カウンターに転じて三角飛びで大ジャンプ
空中戦から踏みつけ、気絶攻撃で敵の群れを制圧します
見た目で戦意を奪うの卑怯だと思います!
パウル・ブラフマン
【SPD】
ニコちゃんのお願いだもん、俄然頑張っちゃうよね♪
UC発動!
愛機Glanzに【騎乗】してスクランブル交差点に突入。
ブラウンさんを視認したら【ダッシュ】で接近。
こんにちはー!エイリアンツアーズでっす☆
助けに来たよ、さぁ捕まって!
可能ならブラウンさんを後部座席にエスコート。
無理そうであれば、俵担ぎしてその場から退避を試みるね。
バランスが崩れるんじゃないかって?
御冗談!オレの【運転】&【操縦】テクを魅せてあげるよ。
FMXの如く【地形の利用】を念頭にして
アキクサさま達を巻いちゃうぞ!
これでどうだっ!
ぽかぽかあったかい【誘導弾】をKrakeから射出して囮に使うね。
※相乗り&アドリブ&絡み大歓迎!
月夜・玲
【戒道・蔵乃祐 f09466】
戒道さんと同行
テレビウムに鍵の映像…テレビウム・ロックかあ
なんだろうねこれ
まあ兎も角、行動行動
とりあえずあのテレビウムを助けないとね!
謎の探究の為にも、まず手掛かりを見つけなくちゃ!
…個人的には8Kスーパーハイヴィジョン気になる
でも惨状…?惨状とはいったい…
もふもふもこもこに埋もれるのはちょっと気持ち良さそうな…
ってダメダメ真面目にやらなきゃ
●戦闘
空の記憶、Blue Birdの2振りを選択抜剣
【高速演算】を使用して衝撃波で攻撃!
『2回攻撃』で偽物のアキクサ様を含めて複数『なぎ払い』
目に付いた敵を遠距離から攻撃だ!
テレビウム君はちょっと離れておいて!
あと名前教えて!
須臾。
視界が暗くなり、恐怖に身を竦める。
「クマー!」
楽天的なブラウンも、流石に己が節電モードに移行したとは思うまい。
これはきっと、上空より迫るもふもふの群れに影を呑まれ、超高画質の液晶を割られた後にブラックアウトする――テレビウム的な終末が到来したのだと絶望した。
その時である。
「――そこまでだ、と言わせてもらおう」
鳥の鳴き声でない、紳士的な声音が頭上より降り、ブラウンが顔を上げる。
見れば我が身に影を差したのは、数名の猟兵で――迫り来る鳥の群れに冴撃を衝き入れ、押し返しているではないか!
「大丈夫かなテレビウム君。ここは私達に任せておきたまえ!」
「! 猟兵クマー!」
其は動画で幾度と流した、ぼくらのカッコいいヒーロー。
テーブルナイフ『喰』とフォーク『逸』、グルメツールを左右の手に携える八津崎・くくり(虫食む心音・f13839)も、その一人だ。
己に内包するUDCの声帯を借りた彼女は凛然と、
「クラウとソラスは今日も血に飢えている。ちなみに私も飢えているから覚悟したまえよ、桜餅みたいな鳥達」
『ピピピィッ!』
『ピルルルッ』
片鋸刃に薙ぎ払い、或いは複又の鋩に串刺し、漸近する躯体から順に喰ろうていく。
身を盾にして割り入った鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)と愛久山・清綱(もののふ混合童子・f16956)は、吹き荒ぶ熱風に肌膚を灼きながら、肩越しにブラウンを見て、
「ご安心召されよ。我等は貴殿を救けに参った猟兵」
「俺達が来たからには、不埒な鳥どもは全て蹴散らしてくれる」
片や冷艶と、片や豪胆と。
蓋し互いに懇篤滲む声を揃え、彼の無事を確かめる。
「何事かは扨措き、危急に晒されている者がいるなら傍観などありえぬ話。及ばずながら力になりましょう」
水の滴る様な声でそう言った景正は、抜刀一閃、瑠璃色の瞳に迫る桃色の奔湍を薙ぎ払い、
「俺と同じ獣なら、『捕食者』が現れたとは野性の勘で気取るだろう」
ぶわり鏖殺の気を迸らせた清綱は、穹を裂いて迫る風切羽を半身に躱すと、【剣刃一閃】――渾身の一撃を以て羽搏きを乱す。
『ピィピィピィ!』
『ピェェエッ!』
凄まじい衝撃が疾り、蒼穹に満つ桃色が波打つ。
「し、渋いクマー!」
へちゃりと道路に腰を落としたブラウンは、いや、多分に腰を抜かしたのだろう。
迫り来るもふもふ、ふかふかの嵐に守壁と差し入ったシノ・グラジオラス(火燼・f04537)も戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)も、衝撃を代わるや反撃を繰り出し、天地を轟かせるのだから堪らない。
「突然の事で怖いだろうが、シッカリ守るから遠くには逃げないでくれよ?」
「んンンンッ、かっこいいクマー!」
傍を離れるな、と黒いフードの翳から玲瓏の瞳が注がれれば、がっつりハートは掴まれよう。
シノの大剣『燎牙』は水平に一閃、衝撃波に群れを薙ぐや、返す刀にもう一閃、双翼を傾けた『アキクサさま』らを猛然と吹き飛ばし、驚異の景を間近に見たブラウンが息を呑む。
この間、蔵乃祐は【三角飛び】――蒼穹を蹴ること参拾肆、桃色の狂濤を眼下に敷くや、研鑽を極めた『金剛身』が再び大地を踏むまで、敵群の邪気を踏みつけ昏倒させた。
『チィチィッ!』
『ピロロロロ……』
荒法師は可愛い悲鳴を上げて悶える邪翼を鋭眼に組み敷き、
「この世界の謎を解き明かすキーになり得る、テレビウムくん方の『鍵』……オブリビオン達には都合が悪いのでしょう」
『ピーピー!』
「…………」
『チュンチュン!』
「……見た目で戦意を奪うの卑怯だと思います!」
くわっ。
オブリビオンとはいえ無垢なる瞳に胸を締められた、刹那、弓張月を描いた衝撃波が間もなく襲い掛かる敵群を薙ぎ払う。
「I.S.T起動。サポートモード、敵行動予測開始」
――月夜・玲(頂の探究者・f01605)だ。
可愛らしくも悪しき翼邪の次なる挙動を予覚した彼女は、四振りの模造神器より『空の記憶』と『Blue Bird』を選択・抜剣し、【もう一羽のアキクサさま】が像を成す直前を強襲する。
『ピャー!』
『チチチッ! チチッ!』
連続して放たれた二波が敵列を勦討すれば、そこに救出対象を視認した玲は声を張って、
「テレビウム君はちょっと離れておいて! あと名前教えて!」
「クマー! マイ・ネーム・イズ・ブラ――」
――だが、然し。
『ピョエー!』
更なる桃色のもふもふが、彼の姿を隠さんと滑空し――ここにリダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)が射線を割る。
「今のうちに逃げましょ、……えっと、クマくん?」
「アイム・ブラウン! クマー!」
「ブラウンくん」
返す言は逞しい、と手を差し伸べたリダンは、【ゴートリック・フォース】による高速移動で桃色のもふもふを擦り抜けながら、ブラウンの液晶画面に映し出された『鍵』を目に掠める。
「事件発生から二日……『事前準備担当』の本領を発揮するには、十分な期間よ」
然う。
戦わずして勝つ戦術に長ける彼女に、二日も与えたのが敵の失策であったろう。
リダンはスクランブル交差点を走りつつ周囲を見渡して、
「キマフュには各所に広告塔が沢山あって、この電気街もそう……さ、アタシの作品……『CM』の公開よ!」
間もなく顕現する「鍵の浮かんだテレビウム」――に見える等身大広告に妙々、口角を持ち上げる。
彼女の【トレンドメーカー・GOATia】は、催眠術とアートの腕を生かしたモデリングでより実物らしく見せかけ、これを3D表示型広告に投影したなら、ブラウンを狙う筈の敵群は大いに混乱しよう。
一を追うより百を追うは難しく――『アキクサさま』の群れは、己が本物と思う『鍵』を追って分断され、肝心のブラウンの逃走を許してしまった。
「ま、時間稼ぎにしかならないでしょうけど、十分よ」
全き十分。
敵数が圧倒的に上回る会敵劈頭、迅速を求められる初動に時間を作れたのは頗る剴切。
リダンは俄に混乱した戦場に声を置いて疾り、
「攻撃は任せたわ!」
と、揃い踏んだ精鋭に戦闘を託す。
『ピーィ! ピーィ!』
『ピャァイ!』
その混乱の渦中に豪快な笑声を差し入れたのは、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)。
「はっはっは、妾の統べる世界での狼藉、その心意気や実に良し! 存っ分にもてなしてやるぞ!」
我が庭で好き勝手する度胸を認めはしつつ、庭を荒らされて憤らぬ主は居まいと柳眉を蹴立てる。
威圧感マシマシに縁取られた眦は、御供の自律式撮影用ドローン『天地通眼』に流眄を注いで、
「唯、突発生配信ではまだ視聴者も少なかろう。まずはド派手に烽火を上げるとしようか!」
と、邪神オーラを迸らせた右腕を高く掲げ、指を鳴らし、幾筋と尾を引く流星群を喚んだ。
「さあ、交差点を埋め尽くすほどに降るがよい、流星よ! 悉く蹂躙してくれよう!」
毎日修練した甲斐あって、【ほしのなみだ】(スター・ティア)は眩い光を瞬かせながら、火球と墜下して桃色の邪翼を撃ち堕とす。
凡そ菘は出し惜しむ吝嗇(けち)はせず、幾筋も星を降らせる大盤振る舞いにて、裂帛の悲鳴を叫ばせた。
『ピューイ! ピューイ!』
『ピピピピィッッ!』
それにしても翼邪は、姿も鳴き声も、挙措さえ愛らしい。
特に冴撃を躱すも尻餅をつき、己が失態をウインクで誤魔化した時などは、あざとさを感じつつも和んでしまおう。
其が彼等の戦術かは分からないが、実際、卵でなく骸の海より生まれし『アキクサさま』は、これまで多くの猟兵の胸をキュンとさせていた。
扨て、此度は如何だろう――。
「悪いが私はかわいいよりも美味しそうを優先する性質でね」
くくりはフードファイターなれば、如何に美味しく調理して喰らうかに傾注し、その健啖は己が髪に擬態したUDC『認識番号:64-91』の暴食を呼び起こす。
赤黒い其は極上の獲物に牙を立て、咀嚼し、
『ピィィイイッ!!』
『チチチチッッ!』
ぷるぷると震えた桃色らは、身を寄せ合って「かごめかごめ」をすると、一羽が一羽を喚び、輪は倍と大きくなって桃色を増した。
『ピーィ?』
『ピーィ?』
どっちが本物? ねぇどっち?
ことり、もふもふに埋もれた首を傾げ、はたはたと飛び回る『アキクサさま』。
「桃色のもこもこインコが輪になって増えて……これだけだと危機感皆無だな」
シノは数を増しても緊張感の無い敵影に歎息を溢しつつ、わらわらもふもふと膨れ上がる桃色を前に義気凛然と正対する。
陣風が戦いだか、シノの闘気が溢れたか――風に流れたフードが艶帯びた赤茶の髪を暴き、戦闘時のみ着用する漆黒の眼帯を擽る。
揺れる髪の間から覗いたタンザナイトの瞳は煌々と、
「でも可愛い数ではなさそうなんで、シッカリとお帰り願おうか」
喚ぶは【襲咲き】(ボースハイト)――主の呪われた血を吸って大鎌と変容した『燎牙』は、漆黒に煌く冴刃を翻し、広範囲の敵影に弧形の斬撃を疾走らせた。
『キュイイィィ!』
『ピャァァアッッ!』
サルタイア(斜十字)を描く様に一閃、二閃。
邪翼の突貫を躱しつつ衝撃波を重ねたシノは、裂帛の悲鳴が蒼穹を突き抜ける中、テノールを置いて、
「どっちが本物か分からないなら、どっちも寝といてくれよ」
、と――。
奇しくも其が最後に聴く聲となったか、もふもふ達は気を失って横断歩道の白線に沈んだ。
『ピロロロロッ』
『チチッ、チチッ』
次々と仲間がアルファルト路に転がり、幾許か囀りも心許なく聴こえる。
多分に彼等は寂しがり屋で、暖を取る仲間が減れば減るほどヒーターを召喚し、戦ぐ熱風に瞳を細めて安堵を得ているのだ。
時に、敵群に斬り込む戦友を剛弓『虎落笛』の連射に援護していた景正は、渦を巻く熱風に『黒羅紗陣羽織』を煽られると、その暑さに思わず窃笑して、
「せめてもう一月か二月ほど前なら、この熱風も有難かったやも知れませぬが、今の季節には汗ばむというものなれば――御免」
肘笠雨でも降らば涼めようかと、射るは【霰】(アラレ)――五人張りの剛弓を引き絞った白磁の指は、風を鳴らすや無数の鏃を雨と注いだ。
「矢並み繕う籠手の上――たばしる霰が如く」
其は何と風雅に篠を突くことか。
『ピピピピィィッ!』
『ピロロロッ!!』
鳥囀をも静める夕立ちを連れた玲瓏は、桃色の翼邪が矢に射抜かれ、ほた、ほたと地に落ちるまでを長い睫に追って、
「――少しは止みましたかな」
と、言を添える。
馨香を漂わせるほどの聲が静寂に染み、戦場の熱気を冷やす様だった。
痛撃を浴びつつも、『鍵』を探すもふもふの群れ。
テレビウムが映し出す『鍵』にオブリビオンが群る謎の現象は、目下、キマイラフューチャーで同時多発的に起きているのだが、この世界で一体、何が起きようとしているのか――清綱も不安が過る。
(「故郷の仲間たちは、無事だろうか。同じ目に遭っていなければいいのだが……」)
誰の為でもなく刀を振るう彼だが、仲間に害が及ぶのは、自身が傷負うより耐え難く――その優しさは胸奥に深く根付いている。
「――いや、今はブラウン殿の安全確保が最優先」
彼を護り抜く事が、ひいては他の同胞を護る事にも繋がると信じる清綱は、決して剣筋を鈍らせず、猛禽の双翼に戦場を駆るが、一部のテレビウム達が導く真相とは如何なるものかと――懸念が過るのは至極当然。
なれば剛拳に翼邪を叩き落としながら言つ蔵乃祐の聲は、啼鳥の中でもよく聴こえたろう。
「成る程、キマイラフューチャーは猟兵の活動が行き渡っていない界域ですから、オブリビオン・フォーミュラの暗躍を抑止し切れていない、ということであれば――異変はその影響かもしれません」
彼と先の戦争――銀河帝国戦で轡を並べた玲は、近接して戦う戦友を遠巻きに援護しながら言を足して、
「テレビウムに『鍵』の映像……テレビウム・ロックかあ。なんだろうねこれ」
顔面の液晶に映像を映す妖精種族は、何と繋がる故に干渉を受けているのか――。
ブラウンの8K対応した液晶画面は、肉眼で見ても何ら遜色ない色彩で『鍵』を浮かび上がらせているが、彼は何を『ロック』されたのか――探究者の興味が募る。
「――世界が悲鳴を上げているのか。もっと別の要素が働いているのかは分かりませんが……」
「とりあえず、ブラ……君を助けないとね! 謎の探究の為にも、まず手掛かりを見つけなくちゃ!」
テレビウムを守り、ロックを解除すれば、世界の構造が見えるかもしれない。
まるでベールに覆われた真実を手繰る様に暴く様に、蔵乃祐と玲の連携が次々ともふもふを撃ち堕としていく。
『ピャアアァァ!』
『ピピピピピッ!』
然し『アキクサさま』も負けてばかりでは居られない。
桃色の翼邪はぎゅうぎゅうと「おしくらまんじゅう」をする裡、分身を作って増え、満ち――半径1,600mというスクランブル交差点を優に包む範囲を縦横無尽に飛び交う。
『ピィー!』
『チチッッ!』
サッ、ササッ。
集まっては増え、増えては離散を繰り返す桃色の揺籃は予想以上に素早い。
彼等は拳撃刃撃を空中で躱しながら、愛らしく囀っては猟兵を翻弄した。
「――中々ふてぶてしい敵だな」
見目に反して手強い、と漆黒の双眸を絞ったくくりは、然し桜脣の端を持ち上げて靨笑し、
「だが、あまり舐めたことをしているようだと――」
『ピイ!』
瞬刻、紳士の声帯を手離し、両手のグルメツールで敵を捉える。
次に聴こえた鈴振るような肉声は、美しくも残酷であったろう。
「――ねえ、食べてしまうわよ?」
彼女は敵躯を激痛に射止めるや、【とても行儀の良い暴れ方】(テリブルテーブルマナー)――共存するUDCによる捕食攻撃を以て肉を裂き、骨を断って、血を啜った。
彼女がどれほど美味しく頂戴したかは、垂涎を手の甲に隠した菘が示そう。
「お主ら、なかなか美味しそうで可愛らしいの~」
『ピピピッ』
「妾は哺乳類だとか鳥と相性が悪くて、威嚇かガチ逃げされるのだが……何故かの~?」
『チチッ!』
ちろり、丫(ふたまた)の舌を出して漸近する菘。
本能か、或いは過去の記憶がそうさせたか、『アキクサさま』も例に漏れず身を強張らせ、一斉に【究極の平和主義】――スーパーもふもふモードで身を護る。
『ピ……ッ……』
全く動かぬもふもふがみっちり、もっふり、猟兵を囲む。
このユーベルコードは数を多くしてこそ効力を増し、機動に優れた猟兵を足止め、挙措を奪い……そして優しい肌触りに包み込む。
「絵的にグッド! ……だが手応えがユルい!」
菘は桃色の群れに剛拳を突き入れ、また鋭爪に羽毛を引き裂くも、「ザシュッ!」とか「ズァッ!」とかいう筈の音は全て「もふっ!」「ふかっ!」と柔かくなる。
「もふもふもこもこに埋もれるのはちょっと気持ち良さそうな……あっ、こっちに来た」
『ピルルルル……』
「わっ。ふっかふか! もっこもこ!」
距離を隔てて援護していた玲の位置まで押し寄せた『アキクサさま』は、勇敢にも彼女の模造神器ごともふもふに包んで反撃を封じる。
「気持ち良い……ダメダメ、真面目にやらなきゃ。……でも気持ち良い!」
其は二度寝を誘う枕のような極上の誘惑。
各々が別なる『アキクサさま』を呼び出し、併せてモードチェンジしたのだろう。相当な数を駆逐した筈がまた増えたとは、ブラウンを連れて逃げていたリダンが気付き、
「この量、アースで言う新宿のスクランブル交差点どころじゃないわ……」
「もっふもふクマー!」
二人がこの儘もふもふの海に呑まれんとした、その時――スクランブル交差点に艶やかな蒼き光線が差し込んだ。
「隙間がなさそうな所に――捻じ込む! 伊達に旅行会社で運転手してないっしょ!」
ギャギャギャッ、とスリックタイヤをアスファルトに切り付けて現れたのは、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。
愛機『Glanz』に騎乗して桃色の逍遥に割り入った彼は、後輪を滑らせて二人の眼前に停まり、後部座席を親指に示しながら気さくに挨拶する。
「こんにちはー! エイリアンツアーズでっす☆」
「!! 宇宙バイククマー!」
「助けに来たよ、さぁ乗って!」
胸に響くバイクの重低音と、優しい声。
促される儘、シートに腰を落としたブラウンは、再び唸りを上げたエンジンが穹を衝き、微動だにせずにいた『アキクサさま』を揺り動かす瞬間を視る。
『ピピピィ!』
『チィチィ!』
其はまるで電線に止まっていた雀が、大音量に驚いて一斉に飛び立つ様な――。
スクランブル交差点に満ちた桜色が一気に飛び立ち、幾重にも羽撃きを重ねる中、白銀のバイクが疾走する。
「追って来るクマー! やっつけられちゃうクマー!」
ブラウンが思わず叫ぶが、ハンドルを握ったパウルは愛嬌のある靨笑を返し、
「御冗談! オレのドラテクを魅せてあげるよ」
路面をモノにした彼は翼を駆るより速くアスファルトを走りながら、『Krake』よりぽかぽか温かな誘導弾を撃ち出して注意を逸らす。
「ニコちゃんのお願いだもん、俄然頑張っちゃうよね♪」
友達(マブダチ)が「惨事を止めて」と言ったのだ。
なればエンジンも頭脳も、射撃もフルスロットル。
「これでどうだっ!」
『ピヨ~♪』
『ピュルピュル~』
標的を追う為の翼を、暖を取る為に広げては、『アキクサさま』はその場に留まろう。
敵の弱点を衝いて追従を巻き、後続を千切ったパウルは、其の儘ブラウンを乗せて駆け抜ける――。
救出対象が戦線を脱し、取り敢えずの安堵を示したのは清綱。
「ブラウン殿が戦場を離れたか。ならば存分に蹴散らせる」
彼は愈々『捕食者』たるオーラを溢れさせ、誘導弾の熱に集まるもふもふの群れを、凄まじい剣圧に薙ぎ払った。
『ピャアー!』
『ピィィイイッッ!!』
斬撃は波状を成して広範囲に及ぶが、『アキクサさま』と『分れたアキクサさま』、どちらをいずれか倒したかは、夥しい量の羽毛が舞って判明らない。
然し清綱は随分と減った敵影に漸う口角を持ち上げ、
「少々浅慮な考えだが……畢竟、どちらも倒してしまえばいいのだろう?」
不敵に、小気味よく――次いで語尾を持ち上げた。
成功
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第2章 集団戦
『紫御殿』
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POW : 仮面合身の術でござる!
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【男子がカッコいいと思うもの】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD : 仮面手裏剣の術でござる!
【懐】から【自動追尾する真っ白な仮面】を放ち、【相手の視界を塞ぐこと】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 仮面狼群の術でござる!
【仮面を被った狼の群れを召喚、爪や牙】が命中した対象を切断する。
イラスト:りょうま
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
オブリビオンに襲われたスクランブル交差点を抜け、猟兵と共に電気街を駆け抜けるブラウン。
戦場に残った猟兵も、残るもふもふを掃討したなら、予め決めておいた集合地点――旧家電量販店の裏路地で合流を果たすだろう。
「……怖かったクマー!」
過去形で話したブラウンは、これで助かったと思ったろう。
だが自身の液晶に映った儘の『鍵』が何を示すかは、未だ解決しておらず、
「……クマー?」
然も。
何やら今度はより詳細な画像を浮かび上がらせ、見る者に示唆を与えるのだから分からない。
「これは……地図クマー!」
画面に映された鍵は、地図上の或る地点を示している。
キマイラフューチャー在住の者なら、ブラウンでなくともピンと来たか――其処は多くのキマイラがSNSでコンコンコン・スポットを共有する『巨大アミューズメント施設』で、憩いの場であるアスレチックエリアに、ちょうど鍵がある。
「ここはイカした連中の人気スポットクマー!」
自身もボルダリング用のクライミングウォールで遊んだ事があるというブラウン。
続々と猟兵が合流を果たせば、彼は愈々テンション高めに件の施設を語らんとするが、残念ながら彼の話をじっくり聞く時間は――無い。
何故なら、新たな追手――くのいち型オブリビオンが、高層ビルの屋上伝いに此方へと向かってきており、偏に『鍵』を映し出すブラウンを狙って手裏剣を投げてくるのだ。
「クマー!!」
助けて、暗殺されちゃう!
ブラウンは画面で感情を表せぬ代わり、今度は短い両手をブンブンと振り回して、我が身に迫るピンチを訴えた。
御形・菘
妾には思い当たる節は無いが、あの施設に何かあったかのう?
ちなみに妾のお勧めは超巨大ジャングルジムであるぞ! てっぺんに立つのが最高よ!(カメラ目線)
さて次はくのいちか、良いビジュアルのキャラと連戦できて妾は満足でござる!
指を鳴らして呼ぶのは、高らかに鳴り響け! ファンファーレ!
敵以外の炎は即消すぞ
さあ来い、ここを通りたくば、まずは妾の首を落とすことよ!
ファンファーレは時々鳴らすぞ
忍ばず攻めてはくるが、万が一伏兵が居て、ガチ暗殺を仕掛けてくる可能性はあるのでな
炙り出すため常に警戒しておくとしよう
はっはっは、デカいロボとは最高であるな
超カッコ良いでござる! そして妾がボッコボコにしてくれよう!
愛久山・清綱
おお、でかしたブラウン殿。
これで解決の糸口が見えてきたな。
と思ったらまた新手か。よし、ここは一気に打ち破るべし。
それと、施設の存在を今知ったことは黙っておこう……
■闘
戦闘に入ったら、【殺気】を放って【恐怖を与え】牽制する。
手出しはさせないという意思を、明確に伝えるべし。
優先すべきなのは勿論ブラウン殿の身の安全。
敵の攻撃を常に【野生の勘】で予測し、もし彼が攻撃されそうに
なったら【武器受け】を用いて護る。
好機が来たら、【残像】を用いた【ダッシュ】で敵の集団に接近し、刀を抜いて攻撃力重視の【夜見】を【範囲攻撃】で放つ。
少しでも頭数を減らせるよう尽力せねばな。
※アドリブ・連携歓迎です。
シノ・グラジオラス
ブラウン、アンタは俺らが守るって言っただろ?戦うのは俺の役目だ
だから道案内は任せた。先導頼りにしてるよ
ブラウンの後ろを併走し、目的地を目指す
攻撃からは『かばう』、必要あれば『怪力』で抱えようか
『視力』『聞き耳』で周囲を警戒
敵は『地形の利用』で撒きたいが、無理なら迎撃するか
戦闘はPOW選択
俺も男なんで車の変形ロボとかドリルがカッコいいのは分かる
分かるが生身相手は卑怯でカッコ悪いだろうが!出直してこい!
と言うか、もう忍者関係なくね?
【紅喰い】を発動して攻撃力重視に加えて『鎧無視攻撃』『2回攻撃』で迎え撃つ
攻撃は『カウンター』でいなし、
ダメージは『見切り』『武器受け』と『生命力吸収』でフォロー
戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と参加
白昼堂々と襲ってくるとは良い度胸してますね
侍帝の忍者も多くは汚れ仕事を生業としますが、正攻法…自信の現れかな?
世界知識、戦闘知識で判定
あのクノイチ集団…
どうやら体は民間人の様です
本体はヒーローマスクかな?
甘言に惑わされてごっこ遊びのつもりなのか、無理矢理に身体の自由を奪われているのか
このままではブラウンくんが危ないですし、彼女達も殺テレビウム犯になってしまいます
どちらも助けなければ!
◆
『毘紐天動輪』で戦輪を投擲
なぎ払いの範囲攻撃で狼に応戦
隙を見切りスナイパー、クイックドロウ、早業、優しさで仮面に咄嗟の一撃を放つ
極力傷付けないように被害者を解放し、医術で手当てします
月夜・玲
【戒道・蔵乃祐 f09466】
戒道さんと同行
白昼堂々、忍ばない忍者とはいったい…!
まあブラウンくんを暗殺?させる訳にはいかないからね
とりあえず次の目的地は決まったし、後は追っ手を振り切って行くだけ
忍者の正体は兎も角、また数が多いのは厄介だね
でも今度は遠慮なくイケそうだし、バッチリピンチ救っちゃうよ!
●戦闘
両剣にガジェットからエネルギーを供給!
『忍び足』で敵集団に接近
先ずは片方の剣で牽制も兼ねて【エナジー開放】を発動!
なるべく多くの敵を巻き込んで広域攻撃だよ
これで怯んだ敵に対して、更にもう片方の剣で『2回攻撃』の【エナジー開放】!
こっちが本命!痺れて貰うよ!
飛んでくる仮面は『なぎ払い』切り払う!
鞍馬・景正
この世界にも乱波がいるとは――。
役目熱心かと感心はするがどこかおかしくありませぬか。
◆戦闘
兎も角も引き続きブラウン殿の護衛。
手裏剣は刀で打ち払い、そのまま迎え撃つと致しましょう。
如何なる術の遣い手かは分からぬが、それを披露される前に【早業】で斬り捨てるのみ。
縦しんば巨大な絡繰りに変化したとしても、正々堂々とお相手……。
なんと、家電量販店から「うぇあらぶるこんぴゅーたー」と合体して……?
ごーぐる型もにたーに、片腕にきーぼーどを着用……!?
くっ、初めて見る機器もあるというのに何故か心が擽られるッ。
しかしそれはそれとして【怪力】を乗せて【鎧砕き】の打ちで破壊させて頂く。
忍びよ、卑怯とは言うまいな。
八津崎・くくり
暗殺阻止とは面白い事になったね
どうやら相手に忍ぶ気はないようだけれども
ブラウン君はより足の速い仲間に任せて、私はくのいちの迎撃と行こうか
ベランダやら外の手すりやらをUDCに噛み付かせて、自分を引っ張り上げてビルの上へ
さあさあ、順番に捌いてさしあげよう!
クッキングツールを手にUCを使用。どっちが速いが比べてみようじゃないか!
ビルからビルへは跳躍で渡るよ
パルクールというやつさ、気持ちの良い風だね!
狼や手裏剣で攻撃されたら、見切ってUDCの口で受け止められるように戦おう
巨大ロボだって両手の武器で解体してやろうとも!
ああ、でも、さっきから食べてばかりでちょっと体が重い気がするな…?
パウル・ブラフマン
【WIZ】
Glanzに【騎乗】した状態で引き続き移動するよ!
ブラウンくんに同乗して貰うのが安心かな…?
他の移動手段(ブラウンくん乗車可)の
猟兵仲間がいたら護衛&【援護射撃】に回るね♪
よっしゃ、皆が気合い入るように
オレも一曲カマしときますか!
UC発動!
少しハスキーな声で【歌唱】するのは
最近キマイラフューチャーの歌ってみた系動画で人気な
猟兵達へのサンキューソング。
無邪気なありがとうって胸に沁みるよね。
敵の攻撃は【野生の勘】を駆使して【見切り】つつ
避ける際は【地形の利用】を意識。
敵に前後方から挟まれたら
壁面を走ってすり抜けるようにするね!
コッチの壁昇りも愉しいっしょ♪
※絡み&相乗り&アドリブ大歓迎!
刻下。
殺気帯びた女の声が、ビルを抜ける東風を断つ。
『桃色様がやられたからには、我等の出番にござる!』
『お命頂戴仕る!』
忍法、仮面手裏剣の術――ッ!
忍装束の懐より白い仮面を取り出し、ブラウンの顔面目掛けて投げ放つは、くのいち集団『紫御殿』。
「クマー!」
あわや場所を示した液晶が仮面に封じられるという時、景正(f02972)が射線を遮る。
彼は咄嗟に『濤景一文字』を抜き、軌跡を断つや破片と分れる仮面手裏剣を瞳に追って、
「――この世界にも乱波がいるとは」
既に人類が淘汰されたサイバーパンク都市で、くのいちを見るとは彼も驚いたろう。
然も彼女達は、忍ぶどころか喊声を発して大挙襲来し、
「白昼堂々と襲ってくるとは良い度胸してますね」
「忍ばない忍者とは、いったい……!」
蔵乃祐(f09466)が『大連珠』に威力を増した拳を振り被れば、玲(f01605)は模造神器『空の記憶』の剣鋩を差し出し――冴撃に穿たれた仮面は、からん、と乾いた音をアスファルト路に転がす。
時間差で飛び込む追撃には、くくり(f13839)が『喰』と『逸』の切先に軌道を逸らすと同時、シノ(f04537)が『燎牙』を振り下ろし、鋭く両断された仮面がブラウンの視界を横切る。
二人は武器を構えた儘、流眄にブラウンの無傷を確認して、
「暗殺阻止とは面白い事になったね。と言いつつ、相手に忍ぶ気はないようだけれども」
「ほえぇ……死んじゃうかと思ったクマー!」
「ブラウン、アンタは俺らが守るって言っただろ? 戦うのは俺の役目だ」
「ほあー! かっこいいクマー!」
猟兵の強さに感動する間もない。
「地図に示された場所を知っているとは、でかしたブラウン殿」
「道案内は任せた。先導頼りにしてるよ」
「! がってんクマー!」
盾と踏み出た清綱(f16956)に褒められ、シノに重要な役目を任されたブラウンは、我もまた脅威と立ち向かう身と勇気凛々、
「こっちクマー!」
と、もさもさの指に方向を示して見せる。
彼等は裏路地で合流を果たしたばかりだが、今も続々と迫る敵影を視認した一同は、ここに留まる理由もなく――。
「ブラウン君はスゴ腕のドライバー君に任せて、私達はくのいちの迎撃と行こうか」
「りょーかい! ブラウンくん、このままケツ(後部座席)に乗っててくれる?」
「クマー! クマー!」
くくりとパウル(f04694)、それぞれに力強い頷きを返したブラウンは、宇宙バイク『Glanz』に跨ってキリリ。その愛らしい凛然に笑顔をうつしたパウルは、アクセル全開、【サウンド・オブ・パワー】を発動した。
「よっしゃ、皆が気合い入るようにオレも一曲カマしときますか!」
清濁相い滲むハスキーボイスが歌い上げるは、目下、キマイラフューチャーの「歌ってみた系動画」で人気を博す、猟兵達へのサンキューソング。
「無邪気なありがとうって胸に沁みるよね」
「力が湧いてくるクマー!」
共感を得た者すべてに雄渾を与える歌声は、猟兵とブラウンの心を強く強く――目的地まで運ばんとする。
そうして強靭を得た皆々は、ブラウンを乗せたバイクの左右に護衛と据わり、或いは追撃を掃うべく後衛に付いて、地図に示された『巨大アミューズメント施設』に向かって駆け出す。
時にブラウンはパウルにしがみつきながら、件の施設についてマメ知識を披露し、
「ホールドをコンコンコンすると、とろ~り甘~いハチミツが出てくるクマー!」
「キマイラフューチャーって、他の世界にはない不思議なシステムがあるよね」
其処には「NINJA-GAESHI」(忍者返し)という人工岩遺構があり、ハチミツを出すホールドも、適切なコンコンコン・タイミングもSNSで共有されている、と矢継ぎ早に語る。
「ブラウン殿はハチミツ好きと」
「おいしいクマー!」
敵の仮面手裏剣を怪腕に振り払いつつ、「成る程」と相槌を打つ清綱は、当該の施設の存在を今知ったことは黙っておく。
同じ惑星の住民ながら、清綱がイカした連中ではないのか、SNSに疎いのか――いや、「思い当たる節が無い」とは菘(f12350)も声を添えて、
「ふむ、あの施設に何かあったかのう?」
自動追尾する白の仮面を尻尾に叩(はた)き落しながら、ふむりと思案する。
蓋し彼女の所感は尤もで、都市全体がリゾート化したキマイラフューチャーに於いて、件の娯楽施設が他と比べて殊に目立った特徴があるとは言えず――「場所」に意味を見出す事は難しい。
唯、ブラウンの他にも場所を知っている者が居れば心強く、
「妾のお勧めは超巨大ジャングルジムであるぞ! てっぺんに立つのが最高よ!」
「ひゃあ! あの超高層まで登るなんて凄いクマー!」
現下ライブ配信中の『天地通眼』にカメラ目線で寄る菘に、感歎を添えて画面の余白を埋めるブラウンも、ノリノリで疾走する。
『行かせないでござる! 逃がさないでござる!』
『運転手を殺るでござるよっ!』
その菘と、ブラウンを乗せたパウルのバイクが先頭と見たくのいち集団は、白い仮面を投げつけて足止めんとするが、そんな事をくくりが許す筈がない。
「さあさあ、順番に捌いてさしあげよう!」
『ッ! なんだその移動の仕方はっ……新しい忍術でござるか!?』
然う。
くのいち達が吃驚した通り、ベランダや外の手摺にUDC『認識番号:64-91』を噛み付かせ、自分を引っ張り上げる形でビル上に移ったくくりは、颯爽と建屋を跳び渡って来るのだから格好良い。
『くっ……だが我等は忍装束を纏う分、お主より早く走れるのでござるよ!!』
「だったら、どっちが速いが比べてみようじゃないか!」
言うや彼女は【空腹は最強のスパイス】(ハングリー・ハングリー・ハングリー)を発動し、くのいちが懐に手を入れるより速くその手を串刺し、仮面手裏剣を砕く。
『ズゥ、ッ!』
一方、別なる個体が運転手パウルを狙えば、後ろ背に殺気に触れた彼は大胆かつ細やかなハンドル捌きで手裏剣を躱し、
『むむっ、なれば手裏剣をマキビシにして車輪を壊すでござる!』
「おっと!」
白い仮面が進路を塞ぐように投げられれば、彼は道のみが走行路に非ずとハンドルを切り、壁面にタイヤを擦り付けながら路地を疾走した。
「ふぁあ~っ! 壁を走ってるクマー!」
「コッチの壁昇りも愉しいっしょ♪」
目的地に着く前にアクティビティを楽しもうとは!
小気味よい咲みを湛えて追撃を躱すパウルに、ブラウンが必死でしがみつく。
『なんと! 敵も忍者であったか!』
『ならば容赦せぬ!』
未だ手応えを得られぬくのいち集団は、歯噛みを仮面に隠して印を結び、声を荒げて呪文を唱える。
『今こそ全滅の天命が下されたでござる!』
『汝らが星、堕つ時にござればニンニン!』
忍法、仮面狼群の術――!
「クマー!!」
人ならざる息遣いに思わず振り返ったブラウンは、仮面を被った狼の群れが追いかけてくる景に恐怖の声を上げる。
『グルルルッ!』
『ガルァァアア!!』
サムライエンパイア出身の景正と蔵乃祐は、呪術法力には驚かぬものの、彼女達の攻め方に違和感が拭えない。
「役目熱心かと感心はすれども。どこかおかしくありませぬか」
「侍帝の忍者も多くは汚れ仕事を生業としますが、正攻法……自信の現れかな?」
共に語尾を持ち上げる二人。エセ忍者が居るとは知るまいか。
とはいえ、為すべきは一つ。
景正は我が前に邪術は認めぬと、手の甲に『竜胆紋』を暴くや羅刹の力を解放し、
「――鞍馬の名にかけて、貴様らを斬る」
閃くは【鞍切】(クラキリ)、頭蓋を両断して尚も削がれぬ勢いは鞍を斬ると――怒濤の斬撃が狼の仮面ごと躯を真っ二つにする。
『ギャギャァア!!』
『ゲァァアア!』
仲間の骸を蹴って後続の狼が前進すれば、蔵乃祐は印契を結んで戦輪を操り、
「法輪駆動。即ちクンダーラ・ヴァルティン(kundala vartin)」
狼の群れに放たれた【毘紐天動輪】は、鋭角に侵入するや先鋒を薙ぎ払い、崩れる同胞の躯に脚を取られた後続が次々に転げた。
地に獣が転輾てば、上空より迫るくのいちには玲が応戦して、
「まあブラウンくんを暗殺? させる訳にはいかないからね。仮面忍者だろうと仮面狼だろうと、追っ手を振り切って行くだけ」
I.S.T――System[Imitation sacred treasure]よりエネルギーを供給した『空の記憶』は、音を殺して敵集団に接近するや【エナジー開放】――高威力広範囲にエネルギーを放射し、
『ズァッ! 痛いでござる!』
『グ、ァッ……しかしッ我慢でござる! ニン耐でござる!』
蓋し灼眼は敵が怯んだ瞬間を見逃しはせず、『Blue Bird』が第二の解放(バースト)に戦線を乱す――!
「こっちが本命! 痺れて貰うよ!」
『イャア嗚呼ァァアア!!』
痛撃に打ち払われた者は二度と追えまい。
くのいちが続々と脱落する中、菘は尚も追従する執拗に金瞳を細めて、
「もふもふ鳥の次はくのいちか。良いビジュアルのキャラと連戦できて、妾は満足でござる!」
そんな語尾を使う邪神だったか――直ぐにも動画にコメントが走るが、彼女は左右より挟撃に走る敵影にこそ目を遣ると、穹に向けて指を鳴らした。
「さあ来い、ここを通りたくば、まずは妾の首を落とすことよ!」
何処からともなく響き渡るファンファーレは、【見よ、この人だ】(エッケ・ホモ)――降り注ぐ炎は、菘から目を離したくないという情動を呼び起こし、万一の伏兵をも暴き出さんと惹き付ける。
『うおおっ、敵将の首級を挙げるでござる!』
『拙者の心が功名に燃えるでござるよ!』
然してブラウンの『鍵』を狙い続けた執心が菘に繋がれた処で、之を好機と捉えた清綱が一気に敵群へ踏み込んだ。
「いかなる新手が寄越されようと、打ち破る――それだけだ」
時は須臾。
『その首、もらったでござる!』
『ちぇすとにござるー!』
仮面手裏剣を握ったくのいちが二人、零距離で刃を突き立てるが、裂いたのは残像。
力強く羽搏いた猛禽の双翼は上空を翔ると、彼女達の頭上で『今刀』を抜き、凄惨たる斬撃を振り下ろす。
「秘伝……夜見」
受け継ぎし秘剣【夜見】は、一振りで魂を断ち斬る妙技。
白の仮面が割られ、大きく仰け反って素顔を晒したくのいち達は、意識を失って屋根に倒れた。
観察に優れた蔵乃祐は、この瞬間を見逃さず、
「あのクノイチ集団……どうやら体は民間人の様です」
本体はヒーローマスクかな? と、割れた仮面を見遣る。
時に敵数の多さに一呼吸を置いた玲が振り向いて、
「これだけの人数が仮面と心を通わせてしまったってこと?」
「甘言に惑わされてごっこ遊びのつもりなのか、無理矢理に身体の自由を奪われているのか――とまれ、この儘ではブラウンくんが危ないですし、彼女達も殺テレビウム犯になってしまいます」
「さつてれびうむはん」
語の持つ強さに瞠目した彼女は、間もなく視界を過るくのいち達に鋭剣の切先を差し向けると、再びエネルギーを解放し、熾烈な鈍麻に組み敷いた。
「ブラウンくんのピンチも、彼女達の忍者趣味も。バッチリ救っちゃうよ!」
『ああああ嗚呼!!』
『んギャー!!』
印を結ぶ事も叶わず、躯を硬直させるくのいち達。
然ればこの瞬間に蔵乃祐は怪腕を差し入れて仮面を剥ぎ、見えぬ傀儡の糸を千切った後は、昏倒する少女らを優しく抱き留める。
この間にも爪牙を迫り出す仮面狼群には、シノとくくりが左右より挟撃して、
「あまり吠えるな。弱く見える」
「私には美味しそうとしか」
短く言を交した二人は、片や『夜幕』を翻して躍するや悪食『燎牙』に血を啜らせ、片や迫り来る猛牙をUDC『認識番号:64-91』の口に受け止めるや、カウンターに『喰』と『逸』を衝き入れて肉を屠る――妙々たる連携を見せる。
『ギャギャァアッ!』
『グルァァアッッ!』
くのいちは仮面を剥され、邪狼が駆逐されれば追手の数も目に見えて減るが、質量として逆に「増えた」瞬間は、皆々が一様に瞠目した事だろう。
『むむっ、こうなれば合体しかないでござる!』
『精神統一ッ! 臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前――ッ!』
忍法、仮面合身の術――!!
くのいちは九字の印を結ぶと、周囲の無機物を集めて精神を合一し、三メートル超のロボへとトランスフォームしていく。
普段、見上げる機会に乏しい長身の景正は、細顎を持ち上げながらも腰を落として身構え、
「縦しんば巨大な絡繰りに変化したとしても、正々堂々とお相手……」
駆け抜け様に無機物を掠め、組み込んでは変形する――奇妙な術に警戒しつつ、視線は愈々釘付けられる。
「なんと、家電量販店から『うぇあらぶるこんぴゅーたー』と合体して……? ごーぐる型もにたーに、片腕にきーぼーどを着用……!?」
がしょんがしょん、と響く謎の機械音。
ふしゅー! と噴き出る謎の気送音。
大きな鉄塊を引き締める硬質なボディライン。
あらゆる要素が男子たる景正に根付く「かっけぇ!」という気持ちを揺り動かしていく。
「くっ、初めて見る機器もあるというのに、何故か心が擽られるッ」
「合体と変形は浪漫クマー!」
其は思わずブラウンも振り返る、かっこいい巨大ロボ。
クマ型テレビウムにも慥かにある少年の心が身を乗り出させるが、然し清綱は「危ない」と手に制してロボに正対し、
「優先すべきは常にブラウン殿の身の安全。巨大化しようが、手出しはさせない」
瞬刻、目線の上から轟、と迫る鉄拳に【夜見】を合わせる。
正邪の相剋が波動となって胸を圧す中、逆の手がブラウンを掴まんと近付けば、ここに盾と踏み出た菘は豪快に哄笑して、
「はっはっは、デカいロボとは最高であるな。超カッコ良いでござる!」
実に佳い。
実にボコり甲斐のある。
「妾がボッコボコにしてくれよう!」
これは動画が映えようと、鉄拳に鋭爪を咬み合せ、熾烈な角逐を紫電と閃かせた。
『負ケタクナイデゴザル! 負ケタクナイデゴザルッ!』
凄まじい衝撃を間に、機械の合成音を借りて叫ぶ仮面合身ロボ。
ビルからビルへ、パルクールで跳び渡っていたくくりは、心地良い風を抜けながらロボと並走しつつ、鋭い流眄を注ぐ。
「路地を抜けるには大きすぎるだろう。いい具合に解体してやろうとも!」
好戦的、いや健啖の笑みが零れるや、手にしたクッキングツールが手早く敏捷く鉄塊を分解に掛かる――! ……のだが、くのいちと狼の群れを悉く「料理」した彼女は、流石に空腹とはいかず、
「ああ、でも、さっきから食べてばかりでちょっと体が重い気がするな……?」
もう少し速度が欲しいと思った、その時。
シノが手数を増やして援護した。
「俺も男なんで車の変形ロボとかドリルがカッコいいのは分かる。――分かるが、生身相手は卑怯でカッコ悪いだろうが! 出直してこい!」
『カッコ悪……ショックデゴザル!』
冷静な語調から声を大に、馨るテノールが精悍を帯びゆく――その息を呑む変化は【紅喰い】(ゾネンフィンスターニス)。狼と化したシノは、全身を巡る呪われた血に攻撃力を増強し、悪魔の如き鋭い爪でロボの躯体を切り裂いた。
『牙牙牙ッ! ココデ負ケレバ里ノ恥! 耐エルデゴザルッ、ニンニン!!』
「里……と言うか、もう忍者関係なくね?」
終焉の到来を告ぐ爪撃と共に聲を置いて疾るシノ。
巨大ロボの視界には、彼の代わりに景正の雄渾漲る姿が映り、
「忍びよ、卑怯とは言うまいな」
『――ッ……ッッ!』
美しくも冷徹なる声を聞いたのが最期。
我が【鞍切】は鐵を斬る――と、刹那を殺して閃いた刀は、唯まっすぐに、斬撃を疾走らせ――訣別を告げた。
『愚ァァアアッ、無念……――!!』
「やったークマー! 暗殺部隊を返り討ちにしたクマー!」
バンザイして喜んだブラウンの声が勝利宣言となったろう。
斯くして新手の執拗な追従を振り払い、電気街を駆け抜けた猟兵達は、軈て『鍵』に示された場所――『巨大アミューズメント施設』へと至った。
大成功
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第3章 ボス戦
『餅巾着侍』
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POW : 御澱流・田楽刺し
【長巻を用いた鋭い刺突攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【煮え滾る味噌だれ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 御澱流・チカラモチ
自身の肉体を【つきたての餅めいた形質】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ : ちくわと鉄アレイ
【伝説的なニンジャマスター】の霊を召喚する。これは【食べると体力を回復出来るちくわ】や【当たるとダメージを受ける鉄アレイ】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:marou
👑7
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ハヤト・ヘミング」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ここクマー! ここにハチミツ・スポットがあるクマー!」
巨大アミューズメント施設内、アスレチックエリアに至ったブラウンは嬉々としてクライミングウォールに向かうが、周囲を見渡した猟兵は幾分か肩透かしを喰らっていた。
無理もない。
其処は何の変哲もない場所で、特別なエネルギーや外観的特徴を見出すのは難しく、今も『鍵』を浮かべるブラウンとの因果関係を調べる事に然程意味は無いように思えた。
「クマー?」
その時である。
ブラウンが壁面に打ち込まれたホールドにとてとてと近付いた瞬間、顔面の液晶部分が眩く光り出した。
「今度は何が起きてるクマー!!」
度重なる異変にオロオロ慌てるブラウン。
猟兵達もまたその光量に驚いたのだが、急事は重なるとは言ったもの。
「クーマー!!」
ブラウンの悲鳴に振り返れば、そこには餅巾着頭に着流しを着た侍風の怪人が既に抜刀し、凄まじい殺気を放って近付いてくるではないか――!
「SAMURAIクマー! 斬り捨てられちゃうクマー!」
桃色もふもふ、くのいち、そして、侍。
狙われ続けたブラウンは「これが最期」とばかり、大の字に倒れて手足をバタバタとさせた。
リダン・ムグルエギ
えぇ、来ると思ってたわ
ブラウン君も
怪人も
電気街で地図を見た直後
アタシは防衛放棄して移動に専念
真っ先に施設に駆け付け周囲を捜索してたの
アタシはここで仕掛けるわ
怪人への先制攻撃を!
「アナタには見えない?
アタシが鍵の浮かんだテレビウムに、ね
可能ならブラウン君の施設到着前に
敵の視覚を誘導して安全を確保する
それが今回のデザイン
逃げ足や防具堅さには自信があるし
伸びる手に注意して施設の外へ誘導するよう逃げる事で
敵を本命の場所から遠ざけ
さらに可能なら動画を撮影しアップする事で猟兵に場所を知らせるの
施設外で猟兵達と合流できれば
ブラウン君の安全は確保できる
アタシが倒れても、勝ちよ
さて、ロックの中身は何かしら…
戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と参加
◆鼓舞
立て続けに命を狙う刺客の襲撃
この世界で穏やかに生きていれば有り得ない事件です
何故自分だけがこんな理不尽な目に遭うのか、と
自暴自棄になってしまう気持ちも分からなくはない
ですが
君が『鍵』を映すモニターに選ばれたのにはきっと。君でなければ出来ない事があるからだと僕は思うのです
君と家族とお友達が、仲良く楽しく暮らすこの世界を守るために
君の『鍵』に秘められた力を僕は信じます
だから決して、自分自身を諦めないで!
◆
味噌だれは激痛・火炎耐性で堪え
オーラ防御、武器受けと見切りで受け流した長巻を怪力とグラップルで掴んで反撃
『灰燼煉獄衝』を胴に撃ち込み、衝撃波を体内で爆発させます
月夜・玲
【戒道さん f09466】と同行
此処まで来たらあと少しだよ!
ブラウン君頑張って、なんか色々凄い事になってるけど私たちが絶対守るから!
絶対斬り捨てさせたりはしないから!
この剣に掛けて!
●戦闘
【I.S.T.起動】を発動
剣を変更
《RE》IncarnationとKey of Chaosを抜剣し、他のガジェットを全てパージ
『忍び足』と身軽になった体で餅巾着侍に速攻で近寄って、鋭い斬撃でアタック!
手数で勝負とばかりに、『2回攻撃』を活用しての連続斬撃!
っていうかこれ斬ったら剣に餅ついちゃいそうだなあ
ちょっと嫌な感じ…
でもこれが最後だから、頑張っちゃう
ブラウン君を安心させるようなカッコいい活躍みせちゃうよ!
八津崎・くくり
何と言う事だろう
ハチミツにも興味があったが、私は君にも俄然興味が湧いて来たよ侍君
めっちゃ美味しそうじゃないかね
もとい、ブラウン君には近づかせないよ!
引き続きクッキングツールを二刀流の武器として戦闘
これを使って餅巾着に負けるわけにはいかない
いざ勝負
長巻を切り払ったり相討ち覚悟で串刺し狙ったり
相手の搦め手にはこちらもUDCの口で対応
幸い美味しそうな攻撃が多いからね、喜んで食いつこう
あっつぅ!?
でも美味しい!
素材の生きの良さが違うよ!
ちくわも味噌だれも神がかった味だ!
皆に伝わるかなこの感動が!?(UC発動)
追撃のタイミングにもUDCを
がぶっといこう
…ごちそうさま
はちみつもたべたいわ。ハニートースト…
鞍馬・景正
さむらい。
――あれが、ですか?
まさか私もこの世界の住民からはああ見えているのでしょうか。
だとすれば少し、震える。
◆戦闘
されど只者ではない事は気配からも伝わります。
武士として尋常にお相手致そう。
気を碧潭の如く静めるまま、敵の構えと重心の位置から狙いを【見切り】に。
刺突にて奈辺を穿つ心算かを読み取り、繰り出される瞬間にこちらも踏み込んで回避しながら間境を超えての【乗打推参】を披露致しましょう。
【怪力】を込めた打撃と前蹴の【2回攻撃】で打擲し、怯んだ隙に脇差の【早業】で首……餅……? を刈らせて頂く。
◆戦闘後
無事撃退すれば、流石にもう刺客は現れますまい。
最後に何が起こるか、見届けさせて頂きましょう。
御形・菘
不意討ちご苦労! まあその程度の殺気では、妾が庇う動きは止まらんがな
しかしその出で立ち、まさか侍の特殊職RONINとやらか?
人気者間違いなしのビジュアルであるな!
最後に使うは当然これ、ちゃんと動画の全体構成を考えておるよ
三度指を鳴らせば、スクリーン! カモン!
元気かのう皆の衆? 突発ではあるが告知は頑張った、視聴者数も上々であろう
クライマックスを皆で盛り上げようではないか!
そしてニンジャマスターを呼ぶとは、お主実に分かっておる!
真面目に動画配信者にならんか?
とまあ敵の意識を引きつつ、位置取りは常にこっそりブラウンと敵の間に立つようにしておくよ
無理に突破するつもりなら、組み付いてでも止めてやるわ
シノ・グラジオラス
参るのは分かるがブラウン、あともう少しだ
言ってるだろ?守ってやるって。と『鼓舞』
ご丁寧にどうも。名乗りを上げられたのなら、返すのが筋だろ。名乗り返しておこう
あと、俺らを無視して無抵抗の相手を狙うとは、そんなに俺らが怖いか?などと
『挑発』して、敵の殺意と攻撃からブラウンを『かばう』
攻撃、特に初撃は『見切り』『野生の勘』で回避し、隙を見て『カウンター』
味噌だれは念の為『火炎耐性』、他は『激痛耐性』で耐える
可能な限り相手の動きを見てから対応するようにし、『2回攻撃』と『吹き飛ばし』で距離を離させる
機を見て命中率を重視した【紅喰い】で敵を削る
侍を退けられたら、ここまで頑張ったブラウンに一声かけとこうか
愛久山・清綱
ブラウン殿、あれは「侍」に非ず。血に飢えた人斬だ。
いや、説明しているヒマなどない。
ブラウン殿のためにも、一刻も早く終わらせねば。
■闘
とはいえ、やはりブラウン殿を護らなければなるまい。
もし彼が攻撃されそうになったら、割って入ろう。
特に素破(忍者)が現れたら、更に警戒せねばな。
敵の攻撃は【武器受け】で流し、そこから【カウンター】の太刀。
回避できそうな時は、【残像】を用いて後ろへ【ダッシュ】。
好機が来たら【真牙】で頭部を爬虫類に変化させ、
その美味そうな頭を喰らってやろう。
仕掛ける際は【フェイント】を用いて刀で切りかかるフリをし、
【怪力】全開の【グラップル】で捕らえ、がぶり。
※アドリブ・連携歓迎です。
パウル・ブラフマン
【SPD】
なーるほど。
『コンコンスポット』に纏わる何かに異変が生じてるワケだ。
気になるけど今はクマ命優先。
Glanzには遮蔽物代わりになって貰い
ブラウンくんを【かばう】ようにしてオレも敵と相対。
マイク握り締めUC発動!
吟じてやるぜSAMRAI、Bring the beat!
御命頂戴?てかU Must DIE
頑なに語るな 手持ちの浄化論(カタルシス)
伸びた餅と論 頭にゃ収まらねぇ
モチロン 胸にも響かねぇ
コンコンしてやる☆knock you out!
【パフォーマンス】全開で囮役も兼ねるね。
死角からのデカい一撃は皆に任せた!
無事に片付いたら
オレも噂のハチミツ、舐めてみたいなぁ♪
※アドリブ&絡み歓迎!
『我は土鍋国随一の剣士、油袋餅乃介。御澱流の奥義に至りし唯一人の男よ』
凄まじいオーラだった。
全身より烟り立つ気迫は陽炎の如く、ぶわりと肌膚に触れる殺気は昆布と削り鰹の芳醇を漂わせ――湯気さえ旨味を漂わせる出汁の馨に、会敵劈頭、くくり(f13839)は「何と言う事だろう」と驚愕の声を漏らした。
「ハチミツにも興味があったが、私は君にも俄然興味が湧いて来たよ侍君」
垂涎を禁じ得ぬ口元を手の甲に隠し、瞳は鋭く餅乃介の餅巾着頭を見る。
ジューシー感溢るる巾着袋に、嗚呼、と嘆声は擦り抜け、
「めっちゃ美味しそうじゃないかね」
と、両手のクッキングツールを健啖に研ぎ澄ます。
くくりが昂揚を得る傍ら、逆に憮然としたのは景正(f02972)。
「さむらい。――あれが、ですか?」
あれ、と言うあたりに彼の思いが滲んだろう。
代々驍名を馳せた武家の系譜を継ぎ、正剣を遵守する景正としては、味噌だれの風味匂やかな餅巾着頭の怪人を侍とは認めたくないし、加えて――。
「まさか私もこの世界の住民からはああ見えているのでしょうか。だとすれば少し、震える」
と、別なる意味で総毛立つ。
傍らの菘(f12350)は、キレのある麗笑を湛えながら餅乃介の風体を眺め、
「その出で立ち、まさか侍の特殊職RONINとやらか? 人気者間違いなしのビジュアルであるな!」
生放送を見ている者達も喜ぶだろう、とカメラを回し続ける『天地通眼』に流眄を注ぐ。
その間、シノ(f04537)は『Tuareg』に世界を減らした瞳で鋭く餅乃介を射て、
「ご丁寧にどうも。名乗りを上げられたのなら、名乗り返すのが筋だろうな」
と、幾千の言葉にも勝る『燎牙』を見せて己が身分を暴く。
漆黒の身に碧き呪紋を赫(かがよ)わせる大剣は、集団戦を制した証に多量の血を啜って炯々煌々――相手として不足は無い。
餅乃介は鏖殺の気を放つや、憩いの場に殺伐の風を吹かせ、
『御澱流は、蓋を開ける度に死を覚悟させる。己が火に炙られ、出汁に煮込まれ、箸でつつかれる地獄を想像させるのだ』
ひとたび土鍋を出れば、娑婆は死界にて――と時代がかった口上は、これまで幾人が黄泉路の手向けとしたろうか、見目に反して唯ならぬとは、歴戦の猟兵なら自ずと知れる。
「SAMURAIにまでお命狙われたらもう無理クマー!」
ジタバタともがいていたブラウンは、ごろり、大好きな芝生の上に四つん這いになって、柔らかな草の間に絶望を叫ぶ。
時に玲(f01605)と蔵乃祐(f09466)は彼を優しく助け起こし、
「ブラウン君、しっかり! なんか色々凄い事になってるけど、此処まで来たらあと少しだよ!」
「だって、だって!」
「立て続けに命を狙う刺客の襲撃。この世界で穏やかに生きていれば有り得ない事件です。何故自分だけがこんな理不尽な目に遭うのか、と自暴自棄になってしまう気持ちも分からなくはない」
「うええぇええ……クマぁぁぁあああん!!」
「よしよし」
身体にくっついた草を払ってやりながら、慰め、励ます――二人の優しさに触れたブラウンは、感情をぶつけるように頭を擦り付け、わんわんと泣き出した。
『……聞けばまだ年端も行かぬ子供の声。命を摘むは非情だが、修羅にならねば生きられぬのが刀を持ちたる者の宿命にて――御免』
ツ、と足半の鼻緒を踏み締めて近付く異形の怪人。
最後の刺客たる彼が手にした長巻野太刀は、霊気を――いや湯気を立ち上らせて愈々冴えるが、然しその鋭峰がブラウンに向かう事は無い。
『恨むなら骸の海を潜って来るが佳い。宿縁に絆されれば再び見(まみ)える事も在ろうぞ』
と言いつつ餅乃介は、己が爪先がブラウンとは別なる処を向いているとは自覚しようか――息をするにも苦しい邪の気迫は、クライミングウォールでなく、超高層ジャングルジムの方へと注がれている。
其処に立つはリダン(f03694)。
「えぇ、来ると思ってたわ。ブラウン君も――アナタも」
稀覯なる緑の銀河を鏤めた瞳は、先に仕掛けた【ゴートリック・フォース】が彼の視覚を支配する――思い描いた通りのデザインの仕上がりに細んで、
「アナタにはもう見えている――アタシが『鍵の浮かんだテレビウム』に、ね」
と、繊指に挟んだ『冥底/酩酊の葉巻』を軽く持ち上げて見せた。
知らぬ餅乃介はリダンに語ろう、
『此れは鍵を巡る戦なれば、刀を振るうは侍の務めにて。其処な筐体には恨みも面識もないが、斬らねばならぬ』
ブラウンに起きた第三の変化を知らぬ彼は、現下、画面を眩く光らせる本人より、未だ『鍵』を映した儘のリダンを標的と睨める。
なれば暗示のトリガーとなる紫煙はいつ嗅いだか。
リダンはタネを明かすほど親切ではないが、一縷の迷いなく襲い掛かる弾性攻撃が、時間に応じて強く掛かる暗示の初動の速さを如実に示していた。
『赦せ、鍵を持つ者よ。先に泥梨へ往くが佳い』
「ッ、随分と掛かってくれてる……クマー」
御澱流体術【チカラモチ】を間際で躱すも、その搗きたてアツアツの熱気に、暗示を織り込んだセルフメイドの一部を灼かれるリダン。
逃げ足や守りの堅さには自信があるとはいえ、敵の戦闘力は凄まじく――今はブラウンを巻き込まぬよう離れるのが精一杯。
「ブラウン殿を守り抜くのが此度の任務。その気概、聢と受け取った」
寿命(いのち)を削って暗示を掛け、自らに惹き付けるリダンに覚悟を見た清綱は、己もまた我が身を盾と差し出すに躊躇わず。
「攻撃が常にリダン殿に繋がれているなら、割り入るも容易い」
爪先を蹴って射線を遮った清綱は、長巻の刃先を『今刀』に受け流し、手首を返すや返報の一太刀をくれてやる。
『ふむ、佳い筋だ。何処の流れを汲む剣ぞ』
鋭い剣戟が両者を間に紫電と閃き、衝撃が烈しく波打って芝生を駆ける。
然ればパウル(f04694)は愛騎『Glanz』の後輪を振って盾となり、
「今はクマ命優先、ブラウンくんは大事に隠して――吟じてやるぜSAMRAI、Bring the beat!」
自身はハンドマイク『Herz』を手に、超絶技巧RAP【Lyrical murderer】(リリカルマダラー)を捲し立てる!
御命頂戴? てかU Must DIE
頑なに語るな 手持ちの浄化論(カタルシス)
伸びた餅と論 頭にゃ収まらねぇ
モチロン 胸にも響かねぇ
コンコンしてやる☆ knock you out!
「ホリックなリリック! メロウなフロウ! イカしたライムタイムクマー!」
クイッ、クイッ、と思わず身体にリズムを刻んでしまうブラウン。
小柄な彼が宇宙バイクの蔭に潜めば、ゴキゲンに踊っているとも気付かぬだろう。
『奇術か。なれば拙者も秘術を以てお相手致そう』
餅乃介は裂帛の気合を発するや、伝説的なニンジャマスター『JINZO』を召喚し、とっても美味しいチクワの乱舞、折に凄く痛い鉄アレイを投げて、戦場を渾沌とさせた。
「見た目はおでん、振るう剣も我流ではあれ。只者ではない事は気配からも伝わります」
正統派の剣豪たる景正に斯く言わしめるとは、油袋餅乃介も一廉の者。
殺伐の風が吹き荒び、チクワと鉄アレイが飛び交う中、両者は足指で土を掴みながら円を描いて、
『腕比べと参ろうか』
「武士として尋常にお相手致そう」
『いざ、勝負――!』
餅乃介は全身を巡る出汁を煮え滾らせ、景正は気を碧潭の如く静める儘――刃を交える。
景正は、長巻を構える餅乃介の重心から彼の狙いを予覚し、
『我が味噌だれは御江戸の火事より熱いぞ!』
「――胴か」
胃袋を攻めんと切っ先が繰り出る、刹那――己もまた踏み込んで回避しながら、一足で間境を超える。
『――ッッ!!』
餅乃介は弾指の間、【乗打推参】(コグソク・コシノマワリ)の妙々たる早業に息を呑んだろう。
眼前の麗人の何処に剛力があると言うのか、鬼神の怪腕が打撃を繰り出すや脚は脇腹を強襲し、神速の連続攻撃に体幹を崩した矢先、無銘の脇差が餅乃介の首に迫る――!
「御首級、首……いや、餅……? 刈らせて頂く」
『ズァアア嗚呼ッ!!』
其が首なら確実に芝生に転がっていたろう斬撃が斬ったのは、油揚げの巾着。
ジュワッと滴る出汁が太刀筋を幾分か和らげたか、餅乃介は『餅巾着侍』から『餅侍』となって激痛を叫ぶ。
蹈鞴を踏みつつ己が不覚を戒めた餅乃介は、今の隙を埋めるべく、直ぐさまニンジャマスター『JINZO』を前進させ、
『ッッ先生、お願いします!』
刻下、硝煙弾雨ならぬチクワと鉄アレイの嵐が戦場に吹き荒れるが、パウルはブラウンが巻き込まれぬよう超高速不断ラップに迎撃・相殺する。
「だっ大丈夫クマー?」
ブラウンが身を小さくしながら声を掛ければ、防禦シールドを展開していた『Faust』は時を掠めてサムズアップし、
「平気、平気」
肩を揺するリズムで鉄アレイを躱しつつ、海色の左眼をウインクしてみせる。
「ここが無事に片付いたら、ブラウンくんイチオシのハチミツ、舐めてみたいなぁ」
其はブラウンも、彼の好物を出現させるホールドも傷付けはしないという決意であり約束だろう。
「!! クマー!」
パウルの言に希望を得たブラウンは、ぎゅ、と拳を握って英雄達を応援した。
尚も止まらぬチクワ乱舞、時々鉄アレイというボーナスステージには、菘が愈々笑みを深めて、
「ニンジャマスターを呼ぶとは、お主実に分かっておる! 真面目に動画配信者にならんか?」
『武士は食わねど高楊枝。どれだけ動画再生数が伸びてチャンネル登録数も増えて広告収入が入ろうとも、其を生業に命を繋ぐ身に非ず』
「その割によく知っておるな」
と、言は餅乃介の意識を惹きつつ、身はこっそりブラウンと彼との間の位置をキープして、最終局面を迎えるに相応しいユーベルコードを発動した。
「スクリーン! カモン!」
三度指を鳴らして顕現させるは、【喝采よ、妾に降り注げ】(エール・スクリーンズ)。
突如、穹に現れた無数のディスプレイには、彼女のライブ配信を見ていた視聴者のコメントが賑々しく走り、
――邪神さんリア凸おつ。なんスか目の前のおでん。
――またお前か。
――最初から見てる俺は勝利の予感しかない。
動画の全体構成としては申し分なし、菘は首元の『星囀謳歌』に声を張る。
「元気かのう皆の衆? 突発ではあるが視聴者数も上々にて、クライマックスまで盛り上げようではないか!」
すれば視聴者も要領を得たようにテキストの弾幕を張り、その応援は菘を最強無敵の邪神と成らしめる。
そうして菘が声援に強化を得た同刻、フードファイターたるくくりは敵の美味に戦闘力を増していた。
「食べると体力を回復出来るチクワか。喜んで食いつこう!」
クッキングツールを二刀流の武器としてチクワの乱舞に躍り出たくくりは、『逸』の鋒にチクワを突き刺すや『喰』の刃に裂き、美しいカットを施した上でぺろり、美味を噛み締める。
「あっつぅ!? でも美味しい! 素材の生きの良さが違うよ!」
ハフハフ、桜脣より湯気を零しながら感想を述べるくくり。
瞳を輝かせてチクワを頬張る彼女は、付け入る隙があるように見えたか――瞬間、餅乃介が【田楽刺し】を衝き入れるが、その刺突はUDC『認識番号:64-91』の口が阻んで通さない。
『!! ……然し煮え滾る味噌だれまでは躱せまい!』
「おおっと、チクワに次いで味噌だれも神がかった味だ! 皆に伝わるかなこの感動が!?」
美味を表現し、感動を伝えるのは中々に難しいが、くくりが挑戦するは【晩餐快感】(ナニコレチョーオイシー)――彼女の食レポに共感した者は、まるで自身も栄養を得た様に戦闘力を増強する。
折にチクワに紛れて鉄アレイも飛んでくるのだが、くくりと共存するUDCは大きな口に噛み砕いて、
「がぶっといっとこう」
がきり。ごきり。
彼は紳士だったかと疑うくらいの大食らいで、鉄塊を屠ってみせた。
『むむむ。貴様等も中々の曲者……危うく煮汁が冷やされる』
餅乃介は妙技を魅せる猟兵らを好敵手と認め、ほっかり湯気立つ感嘆の息を吐く。
真白の煙が立ち昇った後には、凄味を増した餅巾着が無構えで立っており、
『御澱流の極意は粘り腰。杵で鍛えし餅は、袋に入りて熱を秘め、紐を解けば変幻自在の武器となる――!』
「――俺が出る」
須臾。
不穏な殺気に逸速く感応したシノが、短く言を置いて爪先を弾く。
その予覚も、直ぐさま狼と化した戦闘勘も全き剴切だった。
『御澱流奥義、味噌だれ力餅――!!』
躰は餅の如く伸縮性と弾力性を帯び、一気延伸するや全身に潜らせた味噌だれごと突貫する――その姿は宛ら火球。
速い、と舌打つ間もなかろうか、【紅喰い】(ゾネンフィンスターニス)にて疾風と駆けたシノは、衝突の波動がブラウンに及ばぬよう、命中率を重視して鋭爪を振りかぶる。
「――スコルはソール(太陽)を追い、呑み込むってな」
『ぬぅぅぅうううんっ!!』
速度と軌跡を読み切った狼爪は、見事に灼熱の塊を捕えて。
煮え滾る味噌だれがシノの爪を灼くが、痛撃を掻き消すように咆吼したシノは、更に爪を深く、深く突き入れて餅を削った。
「クマーッ!」
見上げたブラウンが思わず叫んだのは、鋭爪を繰り出したシノの前脚が焼け爛れ、赤黒い血を滴らせているのが見えたからだろう。
音もなく着地したシノは、声を震わせるブラウンに静かに言ちて、
「ブラウン、あともう少しだ。言っただろ? 守ってやるって」
彼が安心するまで何度でも言ってやろう。
シノは痛撃を奥歯に噛み殺し、牙を見せて笑った。
「ふぇぇええっ……皆も強くてカッコいいけど、SAMURAIは極悪非道クマー! 皆が傷ついちゃうクマー!」
ぷるぷる。
宇宙バイクの蔭からひょっこり、こっそり顔を出したブラウンは、これまでの集団戦とは様相を異にする熾烈な闘争に身を震わせる。
「ボクのせいで皆が傷ついちゃうのは悲しいクマー! 『鍵』なんか、『鍵』なんかクマー!」
やめてと心は叫ぶが、異形の怪人は戦場狭しと血雨を降らせて。
この時、迫る長巻の穂先を脇に挟んで食い止めた蔵乃祐は、眼前に迫る餅乃介を睨めるよりブラウンに声を掛け、
「君が『鍵』を映すモニターに選ばれたのにはきっと。君でなければ出来ない事があるからだと僕は思うのです」
「ボクでなければ……?」
特段の発生要因を見出せぬ謎の現象。
然し終ぞ洞察の眼を離さなかった蔵乃祐は、ブラウンにこそ託された役儀があると語気を強くして、
「君と家族とお友達が、仲良く楽しく暮らすこの世界を守るために――君の『鍵』に秘められた力を、僕は信じます」
次いで降り掛かる味噌だれの熱さを耐えながら、長巻を掴み、折って、反撃の拳を胴に撃ち込む!
「だから決して、自分自身を諦めないで!」
『刀身三尺を素手で手折るとは貴様……――ッズ痛アァ!!』
気焔衝天、【灰燼煉獄衝】(エクステンド・オーバードライブ)――!
胴に沈んだ発勁は、荒ぶる雷となって体内を疾走り、骨肉を砕くや五臓六腑を捻転させる。
『んぉぉおお嗚嗚ををを!!』
堪らず餅乃介は餅と身を変えて退くが、これは玲が逃さない。
優れた弾力性と伸縮性を持つ餅乃介を追うは、既にI.S.T.を起動して得た絶影の機動――更に『《RE》Incarnation』と『Key of Chaos』以外のガジェットを全てパージした彼女は超加速し、凝縮した時の中でふと、言ちた。
「いま斬ったら剣に餅ついちゃいそうだなあ……ちょっと嫌な感じ」
付けばベッタリ、乾けばカピカピになる餅は、できれば遠慮したい処。
然しブラウンの命、事件の真相、『鍵』が握る世界の秘密が勝利の先にあるなら、気儘な彼女も向かう道はひとつ――。
「これが最後だから、頑張っちゃう」
凜然を眉宇に漂わせた佳人は、二振りの剣を振り被るや疾風迅雷の連撃を繰り出し、背進する餅の塊を無数の刃に斬り刻む。
『愚アァァアア!!』
「ブラウン君を絶対斬り捨てさせたりはしない! この剣に掛けて!」
命を護るだけじゃない。
彼を心から安心させたい。
強い決意は冴刃となって幾重にも翻り、餅乃介を終焉に追い詰めるか――いや、凶邪は逃走の先で起死回生の反撃に転じる。
『――捕えたァ!』
リダンをブラウンと思って狙い続けていた餅乃介は、損耗が見え始めた彼女を遂に捕捉し、その体躯を延伸すること弐拾尺、粘性のある塊に絡め取る。
「――ぁ、っ!」
『我が餅はひとたび触れれば決して離れず!!』
荒々しい語調がリダンの尻尾を掴み、そのまま押し倒すが、芝生の上に転んだ彼女は背越しに艶笑を注いで言った。
「……ッッ、アタシが倒れても、勝ちよ」
餅乃介は慥か『戦』と言ったか。
なれば此度の戦は、ブラウンを守り切った我等の勝利だ。
『むむっ』
脱力して暗示が解けたか、餅乃介が見下ろしたのは小気味良い艶笑を浮かべるリダンで、ふと穹を仰いだ先には、【真牙】――龍を思わせる爬虫類に頭部を変えた清綱が、太陽を背に躍していた。
「ブラウン殿、此奴は『侍』に非ず。血に飢えた人斬、悪に染まった怪人」
剣の道を誤った狂邪に、ブラウン殿は斬らせぬ――。
眼下に悪塊を組み敷いた清綱は、直ぐにも長巻を投げてくる餅乃介の戦上手を認めはしつつ、その鋒先を鱗一枚に裂かせて視界の端に見送ると、重力を乗算して急降下した。
猛禽の翼は速く疾く、鋭爪は獲物だけを適確に鷲掴みにして。
終焉を告ぐ言は勢いに反して淡々と――。
「その美味そうな頭を喰らってやろう」
『……ッぐ――あ嗚呼ッ!!』
怪腕はモチモチの餅頭を掴んで離さず、怒れる龍は大きく口を開けて牙を剥くと、がぶり――首級を屠った。
「……ごちそうさま」
ふう、と満足気に吐息するくくり。
美味で満たされたお腹を擦り、此度の勝利を噛み締める。
「……流石にもう刺客は現れますまい」
元の通りの穏やかな東風に撫でられ、景正が優艶の声で言えばブラウンも安心しよう。
宇宙バイクの蔭からピョコリ姿を現した彼は、先ずは皆の無事を見て、
「ブラウン、ここまでよく頑張った」
「クマーッ!」
「よしよし」
シノがその頭を、液晶画面を撫でてやろうと手を伸ばした時だった。
眩く発光していた画面が明度を落としたかと思うと、漸う光は収まり――そこに映っていた『鍵』は消え、元の顔が表示される。
「ロックが解除されたようね」
リダンが吃驚に満つ液晶表示を見ると、ブラウンもやっと自覚して喜ぶ。
「ビックリした表情もできてる……嬉しいクマー!」
「良かったな、ブラウン殿」
中々可愛い顔をしている、とは清綱の落ち着いた声。
「あぁ怖かったクマー! 皆のおかげで助かったクマー!!」
クイッ、クイッと肩をいからせて小躍りするブラウン。
持ち前の癖が出たなら安心だと、皆々が笑顔を零した――その時、彼等の頭上に音声が響いた。
――システム・フラワーズより緊急救援要請。
――全自動物資供給機構『システム・フラワーズ』に、侵入者あり。
――テレビウム・ロックの解除数が多ければ多いほど、開放されるメンテナンスルートは増加する。至急の救援を請う。
「周囲の建造物が……喋った……?」
玲が緋瞳を瞠って周囲を見渡す。
彼女の言う通り、その声は建造物そのものから発せられたように聞えたのだ。
傍らの蔵乃祐は顎に指を遣って思案し、
「これは僕達猟兵に対しての救援要請でしょうか……今、侵入者があったと」
「なにやら『システム・フラワーズ』とか言っておったのー」
キマイラフューチャーの出身たる菘も、聞き慣れぬ言葉だという表情で佳声を添える。
この時パウルは、それがこの惑星ならではの謎システムだと合点して、
「なーるほど。『コンコンスポット』に纏わる何かに異変が生じてるワケだ」
「……クマー?」
キョトンと小首を傾げるブラウンを見るに、存在するのが当たり前になっているシステムが「何者か」に干渉を受けたのだと推察する。
では、その「何者」とは――。
ブラウンの画面に浮かんだ『鍵』は解除した猟兵だったが、まだ解けていない謎がこの先に、近い未来に待ち受けていると――勝利を得て尚、凜然は研ぎ澄まされるばかりだった。
大成功
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