シャングリラ☆クライシス㉒〜いつかうたわれたうた
●楽園の夢
ソレは“厄災”だった。
すべての世界を滅びへと導く厄災――骸の海とその|受肉体《オブリビオン》にとってさえ、災いと呼ばれるモノ。36ある世界を、あまねく生命を、こころあるものすべてを呪う者たちにさえ厭われたナニカ。
そうして厄災は厄災であるが故か、『永遠祭壇』に封じられていた。
『m'aider』
ソレはいま追い詰められていた。
世界を|創造する《作り直す》者。その役目を担う|イティハーサ《歴史》が死んでしまったから。
希望に満ちた|未来《予知》。彷徨い乞うた放浪する託宣者のこえも、もう聞こえなくなったから。
「過去に起きたことのすべてを忘れ、未来に起きることのすべてを知ることも出来なくなったなら、ひとは自らが進むべき道を知るすべもなく、破滅してしまう。だれもが灯り一つも持たないのならば、その無明に、無秩序に、ひとは容易く呑まれ混沌の中に消えていってしまう……」
『m'aider』
ソレは震える。ソレは恐れていた。
「嫌だ。わたしは、愛したものたちが指針を失い、歪んでゆく様を」
見たくない。もう見たくない。
いつか骸に堕とされたことよりも。わたしが|光《いのち》をなくしたことよりも。
愛した者達が歪み、大切だった世界が壊され、喪われていくいのちを識ってしまうのは、辛いから。
だから、ソレは或る願いを抱き続けていた。
「お願い。変わらないで。どうかみんな変わらないで。昔のままでいて。わたしが――」
わたしが好きだったあなた達が変わり果ててしまうのを、見たくなんてないから、と。
『m'aider』
ソレは、確かめるように“あなた”に問う。
わかりきったその答えを確かめるように。
「……ねえ、時が過ぎる事、変わりゆく事、老いてゆく事に、価値などなかったでしょう?」
ソレは、どうしてか泣いているようにも見えた。
過ぎ去った時間とは、過去とはそのようなモノだということなんて、分かっているけれど。
でも、壊さないで。どうか壊してしまわないで。
それはわたしには大事だったの。大切だったの。
「だから……ねえ、還りましょう。世界の時間を全て止めて……完全と永遠と安寧を、取り戻しましょう」
ソレは|失われた楽園《在りし日》への回帰を謳い。
そうして三度の『m'aider』を繰り返し響かせるソレは、確かに、だれかの“助け”を必要としていた。
●依頼
「霊神。グラン・グリモアさん。彼女は……」
彼方に嘆くものがあれば、此方にはその嘆きに引き寄せられてしまうものもある。グリモア猟兵のリア・アストロロジー(M2-|Astrology《星読》・f35069)もまたそういったモノの一つだった。
壊れた世界、アポカリプスヘル。僅かに生き残った人々を救う救世主として、或いはいつか現れる救世主の礎となるべく、禁忌を冒したひとの手によって造られた生命。その『願いが叶う日』を待つ為には時間が必要だったから。その為にと形作られ、滅びから逃れる為に滅びへと捧げられたイケニエ。少女はそうして消費された数多の犠牲の中、運よく生き延びることが出来た生き残りに過ぎないのだ。
「……とても、かなしい気持ちで、いっぱいで」
過ちからはじまり生み出されたいのちはひとの『悲しみ』を拾う為の力を与えられ、ひとの抱く悲しみの多くを背負うことを義務付けられていた。人よりも多く、人よりも広く。ずっと遠くまで。
しかし、或いは過ちから生まれたのかもしれないその力が、だから正しくないなんてことはないのだと、少女はすでに知っていた。世界には、咎人の子はすべて咎人なのだと叫ぶ声もあろうけれど。
怒りがそこに糺すべき何かがあることを教えるのなら、悲しみはそこに救うべき何かがあることを教えてくれる。誰も本当の意味で誰かを救うことなんてできないのかもしれない。けれど、誰かの助けを必要とする者は居て。差し伸べられたその手に救いを見出す者がいることも、また紛れもない事実で。
「皆さんから見れば、世界を滅ぼそうとする彼女は“正しく”はないのかもしれません。でも、過去に――いつかの“未来”に絶望を受け取ったことでこうなってしまったのだとしたら。わたしは……、」
言いかけて、言いよどむ。
その先の感情は、リア自身にもうまく言葉にすることが出来ないモノだったかもしれない。
「……ひとは、存在は、きっと在るだけで互いに影響を与え合っています。望むと望まざるに関わらず。良い影響も、悪い影響も。骸の海がどうして生命を憎むようになったのかは、わたし達にはまだ分からないけれど……それでも過去のすべてがいまを憎んでなんかいないこと、その世界の|規約《強制力》に抗い、応援してくれている存在があることも、わたし達はもう知っていますよね」
人は言うだろう。過去は変えられない。だから未来こそが大事なのだと。
けれど未来を謳い楽園を望みながら、その歩みは足元に咲く健気な花を踏みにじりソレに気付きもしない。そんな無明の地獄を彷徨う亡者の如き所業もまた、人の宿業というモノだったかもしれなくて。
「過ぎ去った時間は、もう生きてはいないのかもしれません。けれど、その“続き”であるわたし達は、その過去を知って……少なくとも、何かの意味を与えることは、できるんじゃないでしょうか」
そう、問いかけて。
フラスコから生まれた子どもは、向かうべきグラン・グリモアとの戦場について語った。
そこは骸の海で満たされた空間。絶望ばかりで塗り潰された世界には、あなたを応援してくれるサイリウムの灯り一つも届かない。そしてまた、如何なるパフォーマンスもサイリウム――観客席に召喚されたこの世界の住人達の元に届かないのだという。
理由は不明ではあるが非常に強大なオブリビオンが存在する世界で、その応援が与えてくれる力を得られぬままに強大な『グラン・グリモア』と戦うのは、まさに自殺行為と呼べるだろう。
「だから……その場所で、絶望に沈んだステージの只中で、皆さんはまずあるモノを探さなければいけません」
骸の海で満ちたステージ。
そこはかつての|シャングリラ《理想郷》だった。過ぎ去りし日々に埋もれ、喪われた魔法が眠る『魔法のシャングリラ』。
もしもその『失われた魔法』を甦らせることが出来たなら、骸の海を晴らしサイリウム達にあなたの姿を、パフォーマンスを届けることが出来るかもしれない。それは彼らの心に何かしらの影響をもたらすのだろう。彼らから返ってくるサイリウムの輝きもまた、あなたに力を与えてくれるのだろう。
「そうして、その『失われた魔法』の力を引き出すには、“歌”が必要みたいです。だから……」
なぜそのような仕組みとされていたのかは分からないけれど。
骸の海の只中にあってさえ搔き消えてしまうことのない、骸をも震わせ奏でられるその歌声だけが絶望の海の片隅で眠る『魔法』を甦らせることが出来るという事実があり。
「どうか歌ってください。いつか歌われたかもしれない歌を。いつかまた歌われるかもしれない歌を」
過去と現在を、そして未来とを結ぶ、その歌声を響かせるのだ。
無意味で無価値な残骸に。
在りし日に願われた願いの結晶に。
世界の行く末に怯え、あたたかな光を必要としている|サイリウム《この世界の人々》へ。
――そうして、いまでも喪われた楽園の夢を見る、悲しき『霊神』へ。
常闇ノ海月
お久しぶりです。最近、実質ほぼ骸の海と化しちゃってる常闇ノ海月です。
今回の戦争は見送る予定でしたが霊神ちゃん応援のために一本だけ出してみます。
いっしょうけんめいがんばって、くらい世界、こわい世界をほろぼしてやります!
●プレイング
断章投稿予定です。
霊神ちゃんがぶっぱして来る『禁呪』やその影響についての描写等がありますので、確認後にお願いします。
それ以外は期間は特に設けず、最少人数で書けそうなモノだけ採用させていただきます。
●プレイングボーナス
骸の海の中から「失われた魔法」を歌の力で引き出し、操る。
●歌について
著作権に抵触しなければ描写可能です。
オリジナルでも、方向性だけ指定していただいてお任せでも。
●魔法について
同上。
「〇〇の魔法」とか、簡単にでも指定していただけると採用しやすいです。
霊神ちゃんを笑わせられたら実質勝ちみたいなモンなので、ネタ路線に走るのもアリなんじゃないかな。
●他
今回は戦闘面については特に指定しなくても良いです。
それはそれとして、皆さんが相応しいと思ったユーベルコードや技能の使用はもちろん歓迎いたします。
それでは「こんな事が、できるのですね……!」さんもがんばってることだし、もっと「こんな事が、できるのですね……!」と言わせられるような、希望に溢れたプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『霊神『グラン・グリモア』』
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POW : グラングリモア・メモワール
【指先】で触れた対象と同じ戦闘能力を持ち、対象にだけ見える【記憶の化身】を召喚し、1分間対象を襲わせる。
SPD : グラングリモア・ホワイトタイド
レベルm半径内に【骸の海】を放ち、全ての味方を癒し、それ以外の全員にダメージ。
WIZ : グラングリモア・スティルアライブ
【骸の海に沈んだ「過去」】から、対象の【過去を失いたくない】という願いを叶える【オブリビオン】を創造する。[オブリビオン]をうまく使わないと願いは叶わない。
イラスト:稲咲
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Repeat
究極のステージ「永遠祭壇」。そこは骸の海に満ちた世界。
穢れた海に溺れ、呼吸することさえもままならない、生命を拒む世界。穢れとは気枯れに通じ、与えられる苦しみ、奪われる熱と同時に共鳴するようにして裡から湧き上がる負の感情がその心身を蝕んでいく。
強き者であればオブリビオンとして甦り、再びその力を縦に振るうことが出来るのだとしても、未だ骸の海に属することなき六番目の猟兵にとってその場所は死地でしかなかった。
(|叫び《scream》)
真っ暗な空間には緑色の、亡者のような存在が溢れて、渦を巻いている。
耳をふさいでも止むことのない声。気が触れそうになっても、気を失うことさえ赦さずに、いつまでも木霊する。めいめいに好き勝手に叫んでは、不協和音の大合唱をあなたの脳裏に無理やり詰め込んでくる。
(|叫び《scream》)
たすけてくれ。さばいてくれ。ゆるしてくれ。ころしてくれ。くれ。くれ。くれ。くれ――!!
その洪水のようにあふれる声は正常な思考を阻害し蝕んでいく。
骸の海によって、呼吸を繰り返すたびに臓腑は腐り落ちていく。
(|叫び《scream》)
絶えず魂を苛んでいた苦しみが、ふと和らいだ。
霊神が――『グラン・グリモア』が何かをしたのだろう。彼女は何処か憐れむような目であなたを見ていた。そして、悲しそうにこう呟いた。
「どうして? どうしてわかってくれないの……」
価値なんてないと、意味なんてないと言ったのに。
失くなってしまえと。消えてしまえばいいのだと。
……変わらなければよかった。
皆が変わらなければ。ずっと幸せなままだった。
「そっか。きっと忘れてしまったんだね。なら……」
思い出させてあげるね、と。
霊神はあなたを安心させるように、薄く微笑んだ。
けれど、それは見ているのもつらくなるような、痛々しい笑みに映ったかもしれない。
そうして、彼女はある“禁呪”を行使した。
禁じられた魔法。
禁じられた理由があったはずのそれは、しかし現実には禁じられてなどいなかった。
人が人であろうとして願い定めた戒めは、あらゆる道徳と規範は、意味を持たなかった。
前に進むために。望む未来を掴むために。禁を冒す者たちは後を絶たず、けれど平和と対話を望む穏やかな者たちはいつだって強硬な手段に出ることを躊躇ってしまうから。
「力をあげる。すべてを変えられる力を……すべてを」
その禁呪はなるべくしてなった|未来《過去》の、その再現だったかもしれない。
「すべてを――変えてしまった、力を」
骸の海の干渉を、絶望を跳ね除けて、力が湧いてくる。全能感が湧き上がってくる。
同時に、齎された力はある感情をあなたに与えるだろう。
支配したい。
君臨したい。
我が望みは支配であり君臨である、と。
もっと|正義《暴力》を! もっと|平和《支配》を! |生命の繁栄《自己の肥大化》を!
霊神に感じていた哀れみも、苦しみを和らげてくれた時に感じた親しみも、朝露の如く消えていく。
望めば望むほどに強くなれる力。
神の如き力がこの身に宿ったのだ。
選ばれた存在。
あの強大な霊神を殺すことも。その権能の全てを奪い尽くすことさえもいずれは可能になるだろう。
(|叫び《scream》)
「大丈夫。わたしは、大丈夫……。忘れることがないのなら、もう二度と思い出すこともないから」
決して満ち足りぬ餓鬼の如き衝動に突き動かされて、地獄の風景を編んでいくだろう獣達を前に。
死霊たちは一層激しく声を張り上げていたけれど、霊神は震えていたけれど。
……だから? それがなんだというのだろう。
尽きせぬ|衝動《欲望》が滾々と湧いてくる。
己は強い。だが、まだだ。餌が必要だ。もっと強くなるために。養分がいる。絶望の彼方を見通す目が、骸の海を貫いてその存在を教えてくれる。この永遠祭壇を取り巻く、幾百万の星々のように輝く獲物たちの姿が良く見える。
あの光を奪い、喰らい、満たされる度に魂は歓喜するだろう。
――そうだ。うばおう! そうしてすべてを平らげた暁には『歓喜の歌』を歌おう!
抗いがたい悦びと共に内側から語りかける声。
その声に応える度に、あなたは変わっていくだろう。禁呪がもたらした変容。骸の海に蝕まれていた肉体は以前よりも強靭に、爪は鋭く、牙は太く、皮膚は固く、思考はより明晰になっていくだろう。
あなたはその声に応えることができる。或いは最強の存在となって、単独で霊神を屠ることさえも出来るだろう。
霊神の何かを諦めた目があなたを見ている。
それはきっと弱肉強食における弱者の目だ。
輝かしい未来を目指す為、その踏み台にしても良い、養分となるに相応しい、無価値な残骸の目が――、
『m'aider』
『m'aider』
『m'aider』
……哭いて、いる。
七那原・望
【アニマ・ディーヴァ】
こんな禁呪をかけておいて、そんな目でわたし達を見るのです?
衝動を抑え込むのは慣れてます。だから大丈夫。
いくつもの空を超えて積み重ねた愛と罪があって
始まりのあの日から少しはオトナになれたかな
もうなにも見たくないと俯く日もあったけれど
あなたがわたしに光をくれたから
きっと笑って歩いてゆける
光溢れるせかいを一緒に行こうどこまでも
明日もきっと晴れるから
I wish Eternity with you……♪
La LaLaLa LaLaLaLaLa……♪
蘇ったのは愛の魔法。
拒まれなければ心を愛で満たす。
それだけの魔法。
それだけで醜い衝動は消える。
あなたにも届けばいい。
次はミュー様です。
ミュー・ティフィア
【アニマ・ディーヴァ】
衝動の先に待っているのはきっと悲しい結末。
それは嫌だ。その気持ちで衝動に蓋をして。
ありがとう望。次は私が!
いくつもの空を超えて繋いだ絆があった
どれほど暗く荒れ果てた道でも歩んでゆける
この絆(あい)があれば
悲しみに俯いて明日に絶望したとしても
決して貴方は1人じゃないから
忘れないで
いつか悲しみの夜が明けたらもう一度この手を繋ごう
約束だよ
明日は誰にもわからないから
一緒に行こう
Ah……歌いながら……
いつまでも……
歌いながら……La la la……♪
蘇った絆の魔法は心を通じ合わせる魔法。
あなたの絶望も私達の希望もみんなで分かち合って、そうしたら今度はみんな一緒に楽しく歌いましょう!
●愛と絆と
霊神『グラン・グリモア』。
いま、猟兵達の眼前には人々の心に骸の海を植え付け、時に狂気に走らせていたその元凶がいて。
「こんな禁呪をかけておいて……そんな目でわたし達を見るのです?」
理不尽な仕打ちに腹の底から怒りが湧きあがる。
紫がかった銀髪にアネモネを咲かせるオラトリオの少女。七那原・望(比翼の果実・f04836)は、衝動を抑え込むのには慣れていた。耐えるのは得意。だから自分は大丈夫だ、と。
だが、霊神の行使する禁呪と骸の海の影響下にあるということは、思っていた以上に生易しくはなかったようで。
(|scream《悲鳴》!)
(|scream《哀切》!)
(|scream《慟哭》!)
狂いそうな|騒音《ノイズ》の洪水に思考がうまくまとまらない。
抗う理性は絡めとられ、暴れ狂う感情の奔流に呑み込まれていく。
「うるさい。うるさい。うるさいですね……」
早く。早くこの暗い淵から押し寄せる呼び声を打ち砕き、黙らせないといけない。さもなくば何もかも……自分すらも作り変えられ、アレと同じになってしまうだろう。だから、早く壊さないといけない。そうすれば楽になれる。
そう、此処には救える者などいない。
彼らはそういう風には出来ていない。
究極のアイドルステージ『永遠祭壇』。
響くのは繰り返し繰り返される『絶望のうた』で。|観客《オーディエンス》はもはやむせび泣くだけの未来なき亡者であり、これより上演される演目はそれに相応しい残虐ショウであるべきなのだ。
(だったら……)
望の瞳が剣呑な色を帯びて爛々と燃え上がる。
抱え持っているには重すぎる破壊への欲求が高まっていく。黒い感情。醜い衝動。強制的に思考を弄くり回されているような不快感。……でも、それもこれも全部コイツが! コイツがこんな風にやったから! ……そうだ。我慢することなんてない。ぶつければいい。お望み通りに叩きつけてやれば。きっとスッキリするだろう。
だったら、そのキメラみたいなぶさいくな躰に生えたみすぼらしい羽を捥いで、バラバラに千切り捨てて――
「望」
柔らかな声がふと耳朶をうつ。
突き上げる衝動に囚われそうになっていた意識、怒りを宥め溶かすようなミュー・ティフィア(絆の歌姫・f07712)の優しそうなこえ。
衝動の先に待っているのはきっと悲しい結末だから。それは嫌だ、とその気持ちで衝動に蓋をして。
必死に抗っているのだろうエルフの少女の顔色とて蒼白で、今はとてもアイドルらしいパフォーマンスを魅せるどころではなかったけれど。
「……ミュー様。でも、こいつが」
「大丈夫。私は大丈夫だから……」
幼子に言い聞かせるように繰り返し。少女は少女を安心させるように手を取り、そっとハグをした。
そうすることで、いつの間にか自分の躰が冷えきり、固く強張っていたことに気づいて。触れた手から伝わってくる温度に、二人の心拍は段々とゆっくりと落ち着いていく。
「ありがとう望。私は……私達は、きっと大丈夫だから……」
「そう……ですね。わたしも、ミュー様を悲しませるようなことなんて、したくないのです」
|望《わたし》が居て、|ミュー《あなた》が居て。
そこには時と共に刻まれ、育まれた絆があったから。
骸の海に汚されて。大切なモノを傷つけられて。
……このままでは、もっと大切なナニカを失うのかもしれない。
そんな|可能性《未来》に怯えていた瞳に、あたたかな温度を持った光が再び取り戻されていく。
§
永遠祭壇に溢れかえる骸の海。ただ生きていること、呼吸さえもままならぬ、生命を拒む空間。
オーディエンスは歌どころじゃない、冷たい骸――泣き叫び、喚き散らす亡者の魂。
(ものすごいアウェイ、ですけど……)
結んでいた手をほどき、真っ暗で冷たいステージの中、少女は喉を震わせ歌い始めた。
『――いくつもの空を超えて』
それは翼持つ少女が自らが羽搏き歩んだ道。
『積み重ねた愛と罪があって……』
|愛唱・希望の果実《ユニゾン・オブ・ホープ》。無数のIF――あった|かもしれない《・・・・・・》√を辿った望自身の歌声が、幾重にも重なっていく。
『始まりのあの日から、少しはオトナになれたかな。もうなにも見たくないと俯く日もあったけれど』
紡がれた歴史、与えられた時間の全てが輝いていたかというと、それは違っただろうけれど。
『あなたがわたしに光をくれたから』
歌声は温かく、やわらかで、望が脳裏に思い浮かべた誰かへの真っすぐな信頼に溢れていて。
『きっと笑って歩いてゆける』
望はどこまでも自由に、のびやかに、歌声を響かせていった。
『光溢れるせかいを 一緒に行こう どこまでも』
だれかの願いが叶うように、そっとその背中を押すように。
もうなにも見たくないと俯く日から抜け出せないあなたへ。
もう、きっと一人きりでは歩き出せなくなった誰かさんへ。
このこえが届きますように。
『明日もきっと晴れるから I wish Eternity with you……♪』
このうたが、あなたの力になりますように。
祈りを込めて、歌うそのうたに。
(――ああ……どうか、どうか願わくば……、)
互いを阻む障壁。
繰り返される歴史、折り重なる絶望に押しつぶされ、埋もれていたいつかの|魔法《願い》が。
太古の時代に願われた願いが、無窮の眠りから目を覚ます。
『La LaLaLa LaLaLaLaLa……♪』
響くモノの無かった世界。
全てを鎖す暗闇に、愛の欠片が中空を舞う。
蘇ったのは愛の魔法。
(拒まれなければ……もしも受け取ってくれるなら。心は愛で満たされるから)
ただそれだけの魔法。
(ただそれだけで……醜い衝動は消えて……)
――断絶に、一条の光が差した。
§
「……あなたは。いまも。ここで」
この愛があなたにも届けばいい。
そう、願ってしまったから。
望の瞳に映る景色は先ほどとはどこか違って、愛で彩られたそこは、けれど深い悲しみで満ちていた。
どこまでも行ける自由な翼。世界に光を取り戻し、成長した望。
けれど、少女はかつて囚われていた。かごの中の小鳥みたいに。
そして、“彼女”は――、
「囚われたままなのですね。封じられているから……」
自由がどこにでも行ける可能性であるなら、支配とはどこにもいかせない束縛を指すのだろう。
いつまでも変わらない、変われない霊神は、その呪いの具現のようでもあった。
繰り返し繰り返す絶望の渦中で、彼女の時間は止まったままだから。
霊神は自らを過去から復元してしまうから、消えることさえも叶わない。
そんな無明の淵で、|世界《悲劇》の終焉を待ち続けるだけの呪いと化した存在へ。
「わたし一人じゃ足りないのなら、もっともっと……次はミュー様です」
「ええ、次は私が!」
バトンタッチし、次を託す。
応えたのは歌姫の絆。歌で結ばれた縁、『絆の歌姫』ミュー・ティフィア。
『いくつもの空を超えて……』
望と同じ歌い出しから始まる詩に、彼女自身の有り様と願いを乗せて。
『繋いだ絆があった どれほど暗く荒れ果てた道でも歩んでゆける……』
エルフの少女は|絆歌・歌姫の言霊《ソング・オブ・ボンド》を歌う。
因果無視の力を宿す歌声。
無秩序に荒れ狂う骸の海へ、複雑に編まれた光と闇の波が打ち寄せる。
『この|絆《あい》があれば』
自らを照らしてくれた一筋の愛に、嬉しそうに微笑んで。
か細くとも儚くとも、光に照らし出されたピンク色は美しい色彩を放って闇間を燐光で照らす。
『悲しみに俯いて 明日に絶望したとしても 決して貴方は1人じゃないから』
だけど……果たして、この声は届くだろうか?
絶望は絶えず囁く。
意味がないことかもしれない。
死期が近い病人の苦痛を取り除くこと。
死に怯える者の手を握ってあげること。
未練を残して死にゆく者に、後は任せてと言って安心させてあげることは。
全て意味がない。
やめておけ。もう死んでいるのだから。
どうせもうすぐ死ぬのだから。いつか死んで|塵《廃棄物》になるのだから。
そして、その無意味さこそが|お前たち《・・・・》の辿り着く末路であり正体なのだから!
がなり立てるような怒声が脳裏に響く。綺麗ごとはもう飽きた。なんてくだらない歌だ、と。
『……忘れないで』
抗うように、魂を振り絞って歌声を響かせる。
永遠に、延々とこんな声ばかりを聴き、聴かせ続けられ、聴かせてきたのだろう。唱和する絶望のうたが聞こえる。狂った時間間隔の中、終わりだけを乞う意志に塗り潰されてしまった、そんな彼ら彼女らの心の奥へと。
『いつか悲しみの夜が明けたら……』
今はまだ届かないのかもしれない。
一方がどれだけ願っても、受け取ってもらえなければ思いというモノは届かないから。
一と一の間にあるもの。絆とはそういうモノだから。
『もう一度この手を繋ごう 約束だよ』
でも、この場所はとても寒いから。
だからこそ、今、この思いを届けたかった。そうしなければいけないと思った。
『明日は誰にもわからないから 一緒に行こう』
伝えたい、伝えなければいけない。受け取る者などひとりもいないかもしれない。
受け取ったところで、いずれ色褪せ、捨てられるだけの価値の無いモノかもしれない。
(でも、もしも届きさえしないのなら、そこに一つもないのなら……)
どれだけ望んだって手に入らないから。
一緒に行こう、とミューは歌う。
あたたかな声が、透き通ったうたが骸を震わせて、その波が遠く広がっていく。
高らかに響くその歌と呼応するようにして、骸の海の深淵から浮上したのは『絆の魔法』だ。
ソレは心を通じ合わせることができる魔法。
(……あなたの絶望も私達の希望もみんなで分かち合って)
孤独。断絶。理解できないこと。
同じ種族、同じ国、生きた人と人であってすら、分かり合えないことばかり。
ならば既に生命の枠から除かれ、骸の海に封じられた彼女達と通じ合える道理などないのかもしれない。
だから。叶わない願いがあったから――生まれたのは“祈り”で。
(そうしたら……今度はみんな一緒に楽しく歌いましょう!)
未だ可能性でしかない、聞き届けられていないままの、されどこんなにもあたたかな|願い《未来》を。
『Ah……歌いながら……』
進んでいくこと。
進み続けるということ。
『いつまでも……』
いつしか霊達のがなり声は消えていて、歌姫のステージを静けさが包んでいた。
心を通じ合わせるということは、良く聴くということでもあったから。
『歌いながら……La la la……♪』
歌い終えた余韻に浸るステージの上。
鎖された暗黒、混沌の狭間に光が瞬くのが見えた。
深淵から、暗い淵の底から、魂を振り絞るようにして届けられたこえが聞こえた。
「わたしは……ここでいい。ここがいい。」
『m'aider』
それは、いつか遠い昔に引き裂かれてしまった“|絆《愛》”だったのかもしれない。
「……そうすれば、これ以上はもう傷つけてしまうことも」
『m'aider』
眠れない、終われないままに、助けを呼ばう誰かの|叫び《scream》。
「傷つくことも、醜い本性を曝け出すことも、ないのだから……」
『m'aider』
それは誰のために歌われた歌か。
――『m'aider』が、今もまだ鳴り響いている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
嶺・シイナ
歌「いたいのとんでけ」
癒しの魔法が使いたかった
あの人は「いたいのとんでけ」って
僕の傷に、心に触れた
癒そうとしてくれた
イティハーサ
あれと戦ったとき僕は
何度でもやり直せること
取り返しがつくことを否定した
グリモワール
あれと戦ったとき僕は
死に改竄される未来を
回避しなかった
鮫剣で斬りつけ、傷口をえぐり、広げて
【不全循環】
魂人の能力より発動条件が緩いそれで
霊神の傷と自分の記憶を取り替えていく
僕がお前の傷を代わってあげる
消えた二人のことも代わってあげる
お前が幸せになるまで
何度でもやり直してやるよ
ずっと願っていたのは
僕以外が幸せになる世界
お前も幸せにならなきゃ
グラン・グリモア
歪むから、祈りたくなんてなかった
●痛みと
「……いたいのとんでけ」
苦しみに触れて、自然と口をついたのはそんな一節。
呟いたのは藍色の髪の一房が白い蛇となっている怪奇人間、嶺・シイナ(怪奇人間の文豪・f44464)。
「あの人は『いたいのとんでけ』って。僕の傷に、心に触れた。癒そうとしてくれた……」
そうすれば、それだけで痛みなんて忘れられたから。
癒しの魔法が使い|たかった《・・・・》。あの人みたいに。そうしたら心は軽くなるのだから。
けれど、世界とはいつだって取り返しのつかないことで溢れている。
シイナの大事な人は、シイナを置いて行ってしまったから。彼女の真似をしてみても、なぜだか痛みはちっとも和らいだりはしてくれなくて。ただただ虚しくて。浮き彫りになった|欠落《寂しさ》の分、いつか味わった苦しみの分だけ、より痛みが増しただけで。
「……大丈夫。『世界』が壊れた時のために、わたしは全ての『過去』を仕舞ってある。『永遠祭壇』の外にあるもの全て、わたしの『過去』と取り替えてあげる」
霊神はシイナをどこか憐れみの籠った眼で見て、淡々とそう言った。反転した白と赤。黒く変色していく赤。仮面のようにのっぺりとした表情の霊神が何を考えてそんなことを言っているのか、シイナには分からなかったが。
「……イティハーサ。あれと戦ったとき僕は」
桜の花びらが舞い、桜散る世界の記憶。
霊神はかの世界の破壊を目論んだイティハーサの名を口にしていたが……生命など不要と断じたあの嫌われ者の老人は、彼女の縁者だったのだろうか。或いは36の世界すべてを滅ぼそうとしていたのは、『楽園』への回帰を望む彼女の願いの為でもあったのだろうか。
「何度でもやり直せること、取り返しがつくことを否定した」
永遠の祭壇。永遠に嘆き続けるだけのたましいの叫び。
もしもこんなモノが生命の辿り着くべき結末だというなら。それを厭うた故の凶行だったというのなら。彼が36の世界全てを侵略し滅ぼしつくした後、訪れたのは案外平穏な世界だったのかもしれない。
でも、いまさらその選択をやり直すつもりもなかった。
(だって、それはきっと……)
満たされながら、しかしただ一つの“意志”を奪われた自由意志なき者達が演じる予定調和の世界で。
それは誰かの嘆きを慰める為だけに設えられたいつかの時間の焼き直し再生でしかなかっただろう。
「だけど、いのちは変わってしまう。いつしか醜く歪んでいく。あなた達も」
「そうかもしれない。グリモワール。あれと戦ったとき、僕は死に改竄される未来を回避しなかった」
「避けるべき未来を。どうして?」
「どうして? どうしてだろうな。ただ、僕には選べなかった未来が、過去があって……」
その時に負った傷は今でも痛むけれど……だからこそ、いまでも探しているのかもしれない。
痛みを伴いながら、血を吐きながら、みっともなく生にしがみつきながらでも――
「それでも。探しているからだ。まだ、探している。ずっとずっと、僕は……探しているからだ!」
得物を構え、高ぶる感情のままにシイナは霊神に襲い掛かった。常の彼女はそれほどとびぬけて戦闘に向いた猟兵というわけでもなかったから、或いはその攻撃は霊神のような強力な敵には届かなかったかもしれない。
だが、今は無限ともいえる力とそれに付随するかのような破壊への衝動が内側から湧いて、文筆こそ主戦場たる文豪に無敵の狂戦士の如き戦闘力を与えていたから。
「……っ」
シイナは愛用の鮫剣――鮫の牙のような無数の刃が生えた呪いの剣で斬りつけ、食い込んだ牙で引っかけるように傷口をえぐり、広げる。霊神――外見は痩せた少女でしかないその華奢な躰を壊し、幽鬼の如き白い器を傷つけ衣を赤黒い液体で穢していく。
彼女は見ただろう。能面のような霊神の貌が俄かに、苦し気に歪む。だがそれは刻まれた傷によってではなくて。
「これは祈り、これは祈り、これは祈り、これは祈り、これは祈り、これは祈り——」
――歪んでいく。
シイナの裡に残るかつて幸福だった筈の記憶が、直視しがたい悍ましい|トラウマ《心的外傷》へと変異してゆく。それと引き換えるようにして、シイナの手によって刻まれた霊神の傷は癒えていく、けれど。
「……嫌だ。嫌だ。やめて。お願いやめて」
「否だ。やめない。僕がお前の傷を代わってあげる。消えた二人のことも代わってあげる」
ソレは『|不全循環《カエラズノヤマヰ》』。
死を赦されず、霊魂となっても仮初の躰に縛られ苦しみ続けることを義務付けられた者達。心臓を持たず、透明な肉体に刻まれた『緋き苦痛の刻印』によって永らえる魂人達が行使する権能の派生。
命を失って尚『生きる為』にとその幸福な過去を犠牲に捧げ、永劫に苦しみ続ける彼らのその権能の模倣を以て、シイナは霊神の傷と自分の記憶を取り替えたのだ。
「いらない。代わりなんて。変わらないで。あなたのままでいて。昔のままでいて。わたしが――」
「でも、望んでいるのだろう? だからこんな魔法をかけた!」
変わっていくこと。
醜く歪んでゆくこと。
それは霊神にとって忌むべき|トラウマ《心的外傷》の再現だったかもしれない。
「好きだったあなた達のままでいて。変わらないで。もう、何処にもいかないで。ずっと此処にいて」
「……それは、|できない《・・・・》んだよ」
吐き気を催すほど悲惨な記憶に、胸の中のやわらかで温かかった筈のナニカが塗り替えられていく。
気でも違えたようなシイナの、自罰的な自傷行為。ダメージは巻き戻る。変わり果てていくのはシイナ自身の、幸福だったはずの記憶だけ。だが、それで霊神は苦しんでいた。忘れることがなく、故にもう二度と思い出すこともなかった筈の|心的外傷《トラウマ》を抉られて。それをやめてと懇願する。
「お前が幸せになるまで。何度でもやり直してやるよ」
「いやだ。いやだ。いやだ……」
記憶は歪められる。
現実は改変される。
多くの痛みと涙の果てにやっと見つけたと思った答えさえも、そこでは容易く奪われてしまう。
そんな世界で、この|思い《意志》だけは確かで。
「お前も幸せにならなきゃ……グラン・グリモア」
――ずっと願っていたのは“僕以外”が幸せになる世界。
そうして猟兵は自らを喰らい、喰らい合うウロボロスの如き様相を見せながら飽くことなく霊神を刻み、刻まれたトラウマに苛まれ、拠って霊神を苛み続ける。
(|scream《裁いてくれ》!)
永劫回帰。
亡霊達もソレを祝福してくれていた。
(|scream《赦してくれ》!)
其はとこしえの苦悩の果て。
剥き身の霊魂が最後に還る場所。
(|scream《殺してくれ》!)
――とこしえの、|平穏《絶望》。
「嗚呼……クソッ」
何度でも何度でも、飽き足らずに吐き気ばかりが込み上げる。もう呼吸さえ、生きていくことさえも満足に出来やしない世界で、文豪はふと考える。思考そのものが文豪を文豪たらしめる故に、考える。霊神の幸せって、なんだっけ? だれかが救いを求めているのは、この『m'aider』が響く理由は、何故だったっけ……。
「やめて。やめて。もうやめて。もう見たくないの。おねがいだから。もう……」
だれかが哭いている。泣き止むことなく、泣いている。もしもあの人だったら……あの人だったら? そう、ひどく叩くんだ。足で蹴ったりもする。鬱陶しいから黙れって。鬼のような顔をして。でも、わるいのはぼくだ。こんなにも醜い形をしていたから。不本意に押し付けられた面倒ごと。あの人にとっては、ぼくなんて、いなければよくて……。
「……歪むから……、」
いきができない。どうしようもなく視界が滲んでいく。
全身を覆っていく蛇のうろこ。爬虫類じみた縦長の瞳孔。裂けた口からチロチロと覗く赤い舌。
残酷なまでに|醜《美し》く歪んでいく己を自覚しながら、シイナにはもはやソレを止める術もありはしない。
「祈りたくなんて、なかった」
……いたいのいたいの、とんでけ。
遠い昔、いつかだれかがそう言ってくれたはずの声が、遠くから幻みたいに響いて、消えていった。
成功
🔵🔵🔴
カンナハ・アスモダイ
WIZ
※アドリブ連携等歓迎
……そうね
独りなら
きっと「そうなる」未来も有り得たのかもしれない
でも、私たちは一人じゃない
支え合える
皆がいるから
だから
過去の足跡を
一歩一歩踏み締めて
カミサマだって知らない
明るい未来を形作っていけるって、
そう私は信じてる
歌います、世界中の|契約者《ファン》に、目の前の神様に届くように
アカペラで感情を強く込めるように強弱やトーン、表情やジェスチャーの一つ一つに力を、想いを込めて<歌唱><パフォーマンス>を披露する
暗い闇の中にも、<希望の力>は残されてるよって、<励まし>、<鼓舞>するように
|笑顔の魔法《とびきりのえがお》を煌めかせて、歌うわ
この想い、あなたに届け!
●咲く|花《えがお》と
急がば回れとか。
塞翁が馬だとか。
そんな言葉を有り難がりながら、一方でひとはインスタントに結果ばかりを欲しがるけれど。三体問題しかり。カオス理論しかり。因果の理なんて、そのちっぽけな脳髄ですべてほどける訳もないのに。
どうしてわかってくれないの、と|彼方《霊神》が言って。
どうかわかって欲しいのだと|此方《猟兵》が答えても……それが一体何になるというのだろうか?
両者の間に横たわるのは根深い断絶であり、埋められない距離であり、決定的な隔たりであった。
「……思った以上に最悪なステージ。そして、あの子の|魔法《禁呪》は……差し詰め『心の闇を暴く魔法』ってところかしら。本当、皮肉が効いているったら」
ピンクのツインテールは壇上で跳ね踊ることなく、しょんぼりと垂れさがったまま。カンナハ・アスモダイ(悪魔法少女★あすも☆デウス・f29830)――古代から連綿と続く魔法使いたる『マジカル☆アイドル』が呻く。
この世界に存在する|神格者《アイドル》がオブリビオンを鎮めるための力。それがいま相似性をもって猟兵に牙を剥いているモノの正体で。誰にでも存在しうる可能性を。絶望を。目を背け、隠したがる傷を、克服しがたい人間のサガを増幅させ、骸の海へと引きずり込む為の闇の力だった。
「私には、|契約者《ファン》の皆が待ってるっていうのに……なんで……」
脳裏にこびりついて離れないのは、嫌悪する残酷な悪魔の影。その罪業は、受け継いだ血はカンナハにも流れているのだという事実。コンディションはかつてないほどに最悪で、アイドルとして、だからこそ、このままでは満足なパフォーマンスが出来る状態ではなかった。
(|scream《思いは届かない》!)
(|scream《きっと届かない》!)
(|scream《絶対に届かない》!)
幾百万の悲鳴が奏でる不協和音。
よく聞こえよく聞き分ける耳にとっては不快としか言いようのない、悲鳴の濁流。
獣じみた絶叫。断末魔。失われていくモノへの嘆きと慟哭。
(|scream《殺してくれ》!)
(|scream《殺してくれ》!)
(|scream《殺してくれ》!)
それでもカンナハはその声に必死で抗う。
到底、黙って聞いてなどいられなかった。
「その頼みは聞けないわ。だって私は……」
笑わせたいのだ。
親が、生まれた場所がどうだとか。このステージはこんな場所だからとか。それが世界の|規約《ルール》だからとか。だから|仕方ない《・・・・》のだとか。そんなつまらないことは、この際どうだっていい。
「私が、そう決めたのよ。私の|契約者《ファン》は全員……死んでも守ってあげるって!」
彼ら彼女らの無意識は、今はどうしているだろうか。不安で、寂しくて、こわくて、こわくて。或いは終わりを望む者も居てしまうのかもしれない。ひとは一人きりではそれほど強くもないから。でも、だからこそ「悪魔法少女★あすも☆デウス」は歌うのだ。か弱くて儚いいのち達の元へ、自分なりの『癒し』と『エール』を送るために。
……否。違う。あれらは餌だ。喰らおう。私が強者となり、輝く為の養分に過ぎないのだから。飢餓感と衝動がソレを貪るようにと繰り返し語りかけてくる。自らの裡に生まれた闇に呑まれかけながら、悪魔は歌った。掠れる声、震える指先、歌詞は頭から飛んで、言葉に詰まる。笑ってしまうくらいにひどいパフォーマンス。
「………」
それでも。
歌声は虚無を揺らし響いた。そうしてその儚く不安定な揺らぎの中で、カンナハは確かに見た。
遠く遠く、幻みたいに瞬く光。
青の、赤色の、緑の、黄色の、ピンクの――色とりどりの光。
それはサイリウムの姿でこの場所に連れてこられたこの世界の人々の無意識で。
「…………………みんな……ッ!」
そこには彼女のファン達の姿が、確かにあったのだ。
悪戦苦闘のステージに立つ彼女を応援するように、小さくとも懸命にその光を届けようとしてくれている。
「……そうね。独りなら、きっと「そうなる」未来も有り得たのかもしれない……」
あたたかな雫が自然と頬を濡らす。
遠く遠くに灯った光はすぐにまた骸の海に遮られて見えなくなってしまったけれど、見えなければ無いのと同じだなんて、そんなことはない。だって彼らは叫んでいた。ここにいるよ、ここにいるよ……って。勇気づけるように。
「でも、私たちは一人じゃない……支え合える、皆がいるから……」
一人きりではどうしようもないことでも。一人きりでは正しく生きられないだれかが居たとしても。
たくさんの涙で濡れるしかない筈の世界を、未来を、少しずつでも変えてゆける。それを証明してくれた仲間達がいて――応援してくれるファンの皆がいてくれることを、カンナハは知っているから。
「だから。過去の足跡を一歩一歩踏み締めて」
息を整え、息を大きく吸い込む。
流れ込んだ骸の海が喉を、肺を蝕んでも、胸に灯った消せない炎の熱はそれを和らげてくれたから。
「カミサマだって知らない、明るい未来を形作っていけるって、そう私は信じてる!」
悪魔は歌う。
世界中の|契約者《ファン》に、目の前の神様に届くように。
§
「みんなー! 今日は、来てくれてありがとう――ずっと見ててね。後悔なんて、一生させてあげないから!」
光を、生命を否み喰らうステージの只中で、少女は歌った。
|悪魔法少女★あすも☆デウス・ON☆STAGE《アスモデウス・オン・ステージ》の権能はオーディエンスの感情をより一層強く揺さぶる。アカペラで、ファン達のその感情の波に合わせて時に力強く、時に繊細に。表情、体を大きく使ったジェスチャーに指先の仕草一つとして手を抜かないパフォーマンス。そこに籠められた想いを、ファン達とも一体になって、|ライブ《LIVE》全てを使って表現する。
(暗い闇の中にも、希望の力は残されてるよ……)
そう励まし、鼓舞するように。
歌声を、生きたいのちの放つ輝きを骸の海に響かせていく。
今は亡き過去の誰かが託した魔法、いつの日にか願われた亡者の願いをも拾い上げて。
助けてあげて。
裁いてあげて。
赦してあげて。
――死なせて|あげて《・・・》。
それは、過去の誰かにとっては大事なモノだったのだ。
グラン・グリモアを愛していた誰かも、確かにここにいたのだ。
そしてたとえ、もはやそうすることでしか彼女を真の意味で|救う《・・》術はないのだとしても。
「この想い、あなたに届け!」
|笑顔の魔法《とびきりのえがお》を煌めかせて、歌う。
暗闇に灯った無数のサイリウム達は、その歌をただ静かに聞いてくれていた。
アイドルがステージに立って歌うとき、観客たちは耳を傾け聴いてくれる。
亡霊達も、もう以前のように好き勝手に騒いではいなかった。
そうして、アイドルが歌い終わればステージには静寂が戻る。
まるでそれ自体が一つの生命であるかのような一体感。
一緒に作り上げた瞬間の、その余韻の中。
(……ああ……ありがとう……)
カンナハは骸の海に叫び声を響かせていた霊達が、解けて消えていくのを見た。
ようやく終わることが出来たいのちの、本当の終わり――そして、新しいはじまり。
限りある生命のその最後に触れて。
いつか再び笑顔が咲くことを、ファンになってくれた誰かの、その旅路のさいわいを願いながら。
「ねぇ、見てよカミサマ」
「………」
「とってもとっても、きれいだったでしょ」
霊神はのっぺりとした能面のような表情に、血の涙を流すような跡を残して、ただ沈黙していた。
「……知ってる? 解釈は色々あるけどさ。ある女が好奇心で開けちゃった箱から溢れた不和と争い。ありとあらゆる『厄災』のお話。そのなかでもとびきりの、最悪の厄災だけは箱の中に残っちゃったんだって」
ソレが、時に『|希望《厄災》』と呼ばれるモノの正体が何であるかは未だ意見の割れる所ではあるけれど。
「アタシは信じてる……信じられるから。そうね。もしかしたら、カミサマにはこの気持ち。まだ……ほんのちょびっとだけ届かなかったかもしれないけれど……」
煌めく光のシャワーが降り注ぐステージの上で、霊神を振り返り、少女は笑顔を咲かせながら宣言する。
「次はもーーーっと最高のパフォーマンスで、絶対に私の|虜《ファン》にしてみせるんだから!」
思わず昇天しちゃうくらいにね、と。
そう言って笑うカンナハに、霊神は、
「そう。でも……わたしは。もう、」
きっと好きだから、と。
そう小さく呟いて、何処かへと消えていった光の余韻を嚙みしめるかのように、静かに佇んでいたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
●哀歌
——主よ、私たちをあなたのもとへと帰らせてください。そうすれば、私たちは帰ることができます。
——私たちの日々を新しくしてください。かつての日のように、私たちを、あの温かな場所へ帰らせてください。
——それとも……あなたは私たちを完全に見捨てられたのですか。
——帰りたいと願う私たちの声を、激しい怒りの中に、永遠に閉じ込めてしまわれるのですか……。
サン・ダイヤモンド
僕はね、何も知らなった
生きる術も、愛も、自分が何者なのかも
だけどね、彼が与えてくれたの
辛い事も悲しい事もあったけど
彼となら、どこまでも一緒にいきたいと思うんだ
力があればいつかの滅びも打ち壊せるのかもしれないけれど
裡なる魂の力を借り、白虹の光の加護を纏う
声には応えず、穏やかに
君(霊神)への想いを歌おう【UC】
命は巡り姿形を変えてゆく
失われた過去達も
今は誰かの血に肉に記憶に宿り続いてゆく
君と僕は、多分違う
だけど間違いなんてない
君の想いは君のもの、優しい君の
魂の数だけ想いがある
形無き想いが誰かを動かす事もあるだろう
良い事も悪い事もあって、失敗だってするだろう
だけどそうやって未来は紡がれてゆく
諦めない、一生懸命な「あなた達」を応援してあげて
そして少しだけ、幸運を祈ってあげて
いつか僕も君の傍へゆくだろう
だけど今は、僕が君の想いを未来へ連れてゆく
歌い紡ごう
君が愛したものを、君の事を
ねえ、だから見せて
もっと聞かせて
僕はずっとずっと覚えているよ
それが僕達にできる事
『優しい魔法』が君の心を照らしますように
カタリナ・エスペランサ
『約束の歌』/描写お任せ
今更、絶望で私は殺せない
そして……希望で私は騙せない
だって、無駄だと知っている
自らの選択を否定し、都合よく歪める事など。
そんな弱さを、私自身が赦さない
私は元より強いから
強くなる為に貪るような真似は必要無い
私は強いから
過去の領分を超えて狼藉を働くオブリビオンなんか知った事ではないけれど……
苦しんでいる誰かの為なら。
否定する為の怒りではなく、その闇を照らす光を歌ってもいい
UC【紛い物】
不変なんて末路こそ変わり果てた、見るに堪えない骸そのものよ
行き止まりに答えは無い
歩みを止めてしまえば、もう見つける事も出来ない
だから歌いましょう
終焉の劫火も、罪の雷も、その先を拓く灯として
何も恐れる事は無い
たとえ忘れられようと、続く現在と未来が過去を無かった事になどさせない
何も恐れる事は無い
結ばれた縁は過去になろうと、決して貴方たちを独りにしない
導と出会うまで、見失い再び気付くまで、もし惑う時は……
私を導にすればいい
私は未来なのだから
幾度、日が沈もうとも
――それでも、必ず夜明けは訪れる
●合縁奇縁
その出会いは、相性で言えば最悪だったかもしれない。触れてはいけないトラウマ、過去に埋もれた不発弾、地雷を全力で踏み抜いてしまうような巡り合わせ。ある意味では運命的なまでにぴったりと噛みあい、故に、互いにとって激しい衝撃と苦痛を伴うモノだったかもしれない。
しかし、誰も、予めソレを知ることはできなかった。
未来とは、得てしてそういうモノだったから。
「今更、絶望で私は殺せない。そして……希望で私は騙せない」
この骸の海の只中でさえ、どこか涼し気な仮面を被るカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手・f21100)は、やはり仮面のような表情に紅涙の痕が刻まれた霊神——『グラン・グリモア』へと告げる。
「だって、無駄だと知っている。自らの選択を否定し、都合よく歪める事など。そんな弱さを、私自身が赦さない」
疑問が湧いたかもしれない。弱さを糾弾するような口上に、思うところもあったかもしれない。けれど、グラン・グリモアは、それをただ黙って聞いていた。
嘆きも、怒りも、悲しみも、憎悪さえも、どのような亡霊の叫び声も、彼女はそうやって聞き続けてきたのだから。
(優しい子……だったんだろうね)
仲間の猟兵と、対峙する霊神を少し離れて見守りながら、真白の髪と翼持つサン・ダイヤモンド(黒陽・f01974)は独り想う。汚れた真白の……どこかサン自身にも似た印象を与える少女は、まるでこの祭壇に捧げられたイケニエのようでもあった。絶望へと捧げる|オーケストラ《不協和音》を奏でる、世界と名付けられた楽団の為に存在する、調律者。
ならば、たとえその両耳をふさぎたくとも、彼女には、そんなこと許されている筈もないのだろう。
「私は元より強いから。強くなる為に貪るような真似は必要無い。私は強いから」
「………」
救いを、許しを、裁きを求める声。くれ、くれ、くれ――と、永劫の苦痛に摩耗した死霊達は、もはや自分のことだけ、その苦しみだけしか見えていない。それは仕方のないことかもしれない、けれど。
「……過去の領分を超えて狼藉を働くオブリビオンなんか知った事ではないけれど」
苦しんでいる誰かの為なら……否定する為の怒りではなく、その闇を照らす光を歌ってもいい。
目の前の少女が宿敵たる猟兵へ向けているのが敵対心からくる怒りや憎悪ではないことは、カタリナほどの戦士でなくとも、それこそまだわずかな言葉しか知らないような幼児でも気づけたろう。
カタリナは、だから——『約束』を歌った。
彼女がまだ猟兵ではなく、『世界』に選ばれておらず、か弱い、力無き少女だったころに憧れた、古びた一冊の本……その物語の中の、高潔な騎士たち。
守るべきを守り、討つべきを討ち、救われるべきものを救うために戦う、力強く、頼もしき勇姿。
如何なる理不尽にも決して屈することなく、自らを高める努力を怠ることのない、理想の体現者。
それは日常を、生きていくという事を蝕む闇を払うための光であり、希望そのものだった。
とこしえの夜を終わらせてくれる、あたたかな夜明けの日。
かつて奪われ、鎖された深い闇の奥で、震えるいのちが求めずにはいられなかった|いつか《未来》の夢。
――それがこの『聖域』でどのような反応を引き起こしてしまうのか、骸へと堕ちた|グリモア《過去》が|カタリナ《未来》のことを知らないように、彼女もまたこの時には知らなかったのだ。
未来とは、しかし、得てしてそういうモノであった。
●影の記録
「「「………」」」
死霊たちの悲鳴であれほど騒がしかった『永遠祭壇』に、不意に沈黙の帳が落ちた。
痛いほどの静寂が満ち満ちて、既に動かぬ時間の残骸でさえ、凍てついてしまうようだった。
その静寂のただ中で、カタリナは自らに向けられる視線を感じた。刺し貫く針のように鋭い敵意ではない。けれど、彼女が何を言ったのかまるで理解できていないような、そのくせ、一片の偽りも許さないような、彼女が何者であるかを見定めようとするような、無数の亡霊たちが向けてくる無数の視線。
——人が人であろうとして願い定めた戒めは、あらゆる道徳と規範は、意味を持たなかった。
——前に進むために。望む未来を掴むために。禁を冒す者たちは後を絶たず、けれど平和と対話を望む穏やかな者たちはいつだって強硬な手段に出ることを躊躇ってしまうから。
なるべくしてこうなってしまったその『|過去《未来》』の残骸達は、必死になって、血眼になって、そのような『誓い』を——果たされなかった『約束』を捧げようとする者を、見極めようとしていたのかもしれない。
そうしたところで、今更、もう、何ができるでもないだろうに。
「……かつて」
そうして紅涙の痕を刻む少女の、蚊の鳴くような囁きが、シンと静まり返る骸の海に零れて溶けた。
いつか必ず訪れるという明日を、希望を、約束を歌った歌。
その眩い輝きが照らしだしたモノが、そこにあった。
「かつては、あの子たちも、そう言って……」
ひどく悲し気なこえだった。正しく、悲しみとはこういったモノを指すのだろう、か細く震える、今にも消えてしまいそうな不安定な音韻。
その声は、カタリナを責めているわけではないのだろう。ただ、確かなことは、彼女が照らそうとした光によって、目の前にいる少女の心が耐えられないほどに軋み、痛んでいるのだという事実だけ。
「何も……何も恐れる事は無い」
けれど、カタリナには、そしてその身の裡に宿るもう一人の|彼女《魔神》には、彼らの悲しみのその正体が分からない。分かるはずもない。世界も、生きた時間さえも違う、所詮は他人同士でしかないのだから。
だから、
「終焉の劫火も、罪の雷も、その先を拓く灯として——」
「「「——|(絶叫)《scream》!!!!!!」」」
みなまで言わせず、境界線の彼方側の存在、亡霊たちが沈黙を破った。
バラバラだったはずの痛みが、叫びが、一斉に、同じベクトルを目指してカタリナに向けられる。
憤怒。憎悪。そして絶望。
ありとあらゆる敵意を煮詰め固めた絶望が、彼女という異物をこの世界から排除しようとしていた。
「——ッ!! 何故わからない! 不変なんて末路こそ変わり果てた、見るに堪えない骸そのもので」
行き止まりに答えは無い。
歩みを止めてしまえば、もう見つける事も出来ない。
そんな、疑う余地のない『|正論《光》』を掲げ、カタリナはその指向性をもって押し寄せる『骸の海』へと立ち向かう。忌まわしき紛い物の聖域(ダムネーション・ユートピア)。かつて『叛逆の暁』と呼ばれた魔神の権能が天より降りて、骸の海の奥底で光り輝く巨大な聖域を構築する。
「私は……強いから……」
『哀れな』
そうして彼女が退けた『悪しき闇』に属する者たちは、呪詛を残して消えてゆく。
聖域を蝕む闇は尽きることなく、闇が濃くなるほどに、カタリナは息苦しさを覚えた。
地上を焼き払う炎の熱を感じた。
黒煙に覆われた空が、昏かった。
失われてゆく故郷、愛した者の亡骸——浮かんでは消えていくモノたちの影が、口々に彼女へと尋ねる。
『紛い物の勇者よ』
『完全なる|生命《孤独》よ』
『神になり替わろうとした、愚か者よ』
——其処に答えは、あったのか? と。
(……違う。この者らは……『私』を見て言っているのでは、ない……?)
しかし、降りかかる火の粉は払わねばならない。魔神はその強大な力を振るい、彼ら彼女らを屠り、その『聖域』へと逆襲をかけた。静謐な森の奥、佇む老木達の、静脈のように伸びる根を踏み分け奥へと進む。硬くひび割れた樹皮の隙間には深い緑の苔がむしていて、ふれた指先からはその湿り気や感触が鮮明に伝わってくる。
巨木たちが作り出す天蓋は、陽光を幾重にも濾過し、地上に届く頃には、光はまるで水底に届く淡い祈りのように変質していた。そこは風さえもが息を潜める、いにしえの木々による巨大な大聖堂だった。
けれどその日、神聖不可侵であったはずの聖域は血で汚れ、断末魔の絶叫と、争い合う怒号が鳴り響いていた。
『さあ、繰り返すがいい。愚者よ!』
かつてその聖域を守るために命を燃やし尽くしたのであろう、屍の騎士たちが、カタリナに言った。
「……人違いよ」
『否。同じだ。何度繰り返したとて』
まるで初めからそう定められていたかのように、カタリナは彼らを切り捨て、さらに進んだ。
戦士達が死に絶えた聖域の最深部。
むせ返るような濃い血の匂い、口の中のぬめりとした液体から、鉄錆びた鮮血の味がして。
真っ白な少女に覆いかぶさり、うごめく獣達がみえた。
守るべきであったモノを、引き裂いた『光』をめいめいに貪り喰らう、醜いケダモノたちの姿。
『同じだ。お前達とて』
老い、衰え、敗れた老騎士の亡霊が、耳元で絶望を囁く。
生きる為にとした「正しい」はずだった選択が、別の命を否定することを。
光であれと唄い、さもなくば敵か、弱者として切り棄てていく命の選別を。
変化には痛みを伴うことを。仕方ないと切り棄てられた側の者達の痛みを。
この瞬間に流れ過ぎた一秒でさえも、一秒前の「未来」であることを。
そうして、お前の目の前で「今」、泣いている者が居るのだという事実を。
——お前は、どう受け取る?
——否。受け取りはしない。認めることはない。その苦しみに耐えることが出来ないから。目を背ければ、自分たちだけは|違う《正しき光》のだと驕り、切り捨てて、壊して、いっそ無かったことにしてしまえば楽だから。
――不変を憎み、しかし自らの掲げたソレだけが不変不滅であるかのように振舞う、矛盾の騎士よ。お前が本当に守ろうとしているのは、お前自身にほかならぬ。
——……|お前《わたし》たちは、弱いから。
それは、かつて完全へと至った|光《生命》の影で消費され、嘆きと悲鳴、怨嗟の声をあげるだけの存在へと成り下がった|光《いのち》からの、『強すぎる光』であることを目指す危うさを問いただすような、問いかけだった。
●Embrace
「やめて。やめて。もうやめて……」
骸の少女が上げた声に、再び痛いほどの沈黙が帰る。
しかし、小鳥たちがくつろぎ歌う美しいこえも、平和な精霊の声も、そこではもう響くことはない。
「……未来。僕たちの言う、その未来には」
光と、過去の残骸。
ぶつかり合い、対消滅して、尚も光は闇を排撃し、闇は光を蝕んでいく――その光景を、ただ静かに見守っていたサンが、そっと呟いた。
「罪を犯した者は、戦えない者は、もう動けないと疲れ果ててしまった者の居場所は……あるのかな?」
力を尽くし、しかし敗れた者たちはどうしたっているのだろう。そうして疲れ果てた者たちにとって、未来こそが善であると強制することは、動けなくなった、今まさに息を引き取る間際の奴隷へ鞭を打つような、そうして死んでいった者に「あいつは弱かった」とつばを吐くような、無慈悲な搾取であったかもしれない。
「……僕はね、何も知らなかった。生きる術も、愛も、自分が何者なのかも。だけどね」
まだ何も知らず何も持たなかった自分と、それから過ごした日々の記憶。
脳裏に浮かぶのは“彼”の面影。
どこまでも暗く、冷たい、こんなにも荒涼とし、枯れ果ててしまった砂漠のような世界であってさえ。
(今、僕がこんな風に穏やかな気持ちのままでいられるのは、きっと……)
満たされているからなんだろうね、と。
胸の奥で揺れている、春の日の木漏れ日に似た、やわらかな光の正体を確かめる。
(……君と、会えたから)
サンの中にあるのは、彼と出会い、そうしてサンがこれまで生きて歩んできた世界の影絵。そこには光があって、それから寄り添う影があって。新緑も、吹く風も、差し込む光も、その全てが心地よく調和し、一つの素晴らしい音楽を奏でているような――煌めいた、美しい世界。
「彼がね、与えてくれたの。そこには、辛い事も悲しい事もあったけど……」
真白のキマイラは、誰に何を押し付けるでもなく、ただその事実を語り紡いでいく。
それはサンだけが知る、サンだけの世界。こうして語ったとしても、きっと伝わらないことの方が多いのだろう。でも、やさしい彼女は、きっとそれを少なくとも頭から否定せず、最後まで聞いてはくれるのだろうから。
「僕は……彼となら、どこまでも一緒にいきたいと思うんだ」
「……知らなくて……良い。もう、行かなくて良い……あなたたちは、きっと間違えるから……」
「そう、かもしれないね」
返ってきたのは、ひどく悲しげな声。絶望を知り、絶望に呑まれた少女の震えるたましいの声。
サンは、今度はその声を遮ることなく聞いてあげた。
「君と僕は、多分違う。皆、違う。だけど……間違いなんてない」
「違う。あなたたちは間違う。わたしも。みんな間違う。こんなにも……」
赤い赤い、いのちの色をした液体が、霊神の眼窩から零れ流れ落ちていく。
「あたたかな愛を持ったひとたちでさえ。いずれは歪んでいく。忘れ、衰え、醜く変わってしまう……」
「………」
「わたしは。……わたしはそれを……」
どうやったって溢れだしてしまうのだろう、止まないソレを、止めてあげることが出来ないというのは分かっていたけれど。それでもサンは、今自分に出来ることは、分かっていた。
「糺せなかった? それとも、どれだけ頑張っても、その綻びを繕うことができなかった……?」
目を背けるでもなく、適当な慰めの言葉で居心地の悪さを誤魔化すでもなく、サンはそう尋ねた。
愛は|一つ《同質》になることではないけれど、きっと互いの違いを埋めようとする努力からはじまるから。
「力があれば、いつかの滅びも、打ち壊せるのかもしれないけれど……」
「……無理だよ」
「……そっか」
確信的なまでに即答し、首を振る霊神。
彼女が何を体験してきたのかは分からないけれど、確かに、『死後に更なる力』を得て神と成った者でさえ猟兵たちの『力』の前に敗北し、滅びを与えられたのだ。力は、ただより強い力の前に屈するしかない。そして、力それそのものはそれを行使する者が正義か悪かを保証してもくれない。
(君は、きっと優しくて……優しすぎたのかもしれないね。だけど、世界には色んな『ひと』がいて……)
見えているモノも、何もかもが違う、利益さえ相反する違った個体。
それでも、サンはこの時、彼女の世界がどんなものだったのか、知りたいと思ってしまったのだ。
——命は巡り、姿形を変えてゆく。
——失われた過去達も。
——今は誰かの血に肉に記憶に宿り続いてゆく。
そうして、サンの唇から零れたのは、光の歌(ヒカリノウタ)。
——君の想いは君のもの、優しい君の。
——魂の数だけ想いがある。
誰かにとっては、『過去』とは苦難の象徴であり、理不尽な地獄に引き戻される恐怖だったかもしれない。
誰かにとっては、『未来』とは絶望そのものであり、搾取され、苛まれ続ける地獄の象徴だったかもしれない。
(けれど、僕たちは……それを)
辛い記憶を、傷を抱える者同士で分かち合えること、共に進むことの可能性も、『彼』はサンに教えてくれた。
「……力だけじゃない。形無き想いこそが誰かを動かす事もあるだろう。良い事も悪い事もあって、失敗だってするだろう。だけどそうやって未来は紡がれてゆくんだよ」
「……あなた達は、また、|それ《失敗》を繰り返すの?」
「あるいは……そうかもしれない。失敗したくないから。繰り返してはいけないことを、繰り返さないために。だから頑張って、頑張って……余計に遠回りしてしまう事だって、あるかもしれない……でもね。それでも……」
深い深い場所、絶望の海の底に沈んで、もう二度とは浮上することのないのかもしれない、少女の諦観へ。
「諦めない、一生懸命な「あなた達」を応援してあげて……なんて、今の君には難しいのかもしれないけど」
それが愛おしいのだという気持ちだけは、きっと今でも変わらないままで居る骸へ。その部分ならば分かり合えるかもしれない、優しいこころを抱えたままの、なれの果ての少女へと。サンは、穏やかに告げた。
「少しだけでいいんだ、失敗するから、閉じ込めようとするんじゃなくて……幸運を、祈ってあげて」
§
「神は、私を……私たちを見捨てたわ。どれだけ祈っても、救わなかった。だから、だから私は……」
同じ苦しみ、同質の傷を持つのだろう少女の容を、刃で刻み、この骸の海に還すことは、彼女にとってそう難しいことではなかったかもしれない。けれど、その姿は、かつて無力だったころの自分の断片のようでもあって。
故に、理想を掲げるたましいは葛藤する。
私も……私もまた、切り捨てるしかないのだろうか?
自分を見捨てた、救わぬ神々のように。
あるいは、この身を不要と断じ、呪い、世界から放逐した神のように。
そうして、私が失望した者たちと同じことしか、出来ないのだろうか?
「……もう」
そんな|カタリナ《叛逆の暁》へ、少女の影が近づいて。
「もう、がんばらなくていいよ。光にならなくていい……」
まるで愛しいものを庇おうとするようにして、そっと腕を伸ばした。
そうして、痩せた体、ボロボロの翼で、遠慮がちに抱きしめようとする。
「……あなたは」
「とても苦しくて。でも、誰も助けてくれなかったから」
あまりに敵意を感じなかったものだから、女はただ呆気にとられながら、少女を見つめていた。
そこにあったのはただ一人と一人の、向かい合う、震える|いのち《こころ》だった。
「だから、あなたは、そうするしかなかった」
冷たくて、何の役にも立たない骸が、太陽の如き光を包み込んで。
「……もう、だいじょうぶだよ」
「ああ……」
そうして初めて、気づく。
彼女は、どうしようもなく冷え切って、そして震えていた。
そうして、震えてるのはきっと、寒さのせいだけではなくて。
(……あなたは、あなたも……|私《未来》が怖いのね……)
彼女にとっては「かつての|未来《過去》」こそが耐えがたく恐ろしいもので。
その震える、小さく細い躰が相手を温めるにはあまりに冷たく、不十分であることを、彼女は分かってそうしているのだろうか? ……否。きっともうそんなことさえ分からないままなのだろう。それでも、彼女にはもう、それしか差し出せるものがない。温められないけれど、共に震えることはできる。そうして絶望を分け合うことは、それでも、絶望の化身となってしまった彼女なりの優しさだったのかもしれない。
「きっと、ぜんぶ上手くいくから……もう、おねむりなさい?」
この少女が守ろうとしているのは「停滞」ではなく、きっと「戦い疲れた者が、尊厳を持って眠れる場所」なのだろう。彼女は、安楽のゆりかごを守り続けたいだけ。愛した者たちが存在したということの意味を、その苦しみも、それが悲劇だったとしても、ソレを見たくない誰かの都合で踏み躙られたくないだけ。
今、目の前で泣いている者の存在を「必要な犠牲」として切り捨て、自分たちの快適さだけを追求するような傲慢さではなくて。泥濘の中を汚れ傷つきながら歩く者の傷に寄り添い、あるいは、進めなくなった者の尊厳を最後まで守り抜くこと——疲れ果ててもう動けなくなった者たちを、その役目を終えて打ち捨てられた者たちを、休ませてあげたいだけなのだと。
「どうしても、進むより、もう休ませたくてしようがないみたいだ。でも、だから……それなら……」
どうやったって、進もうとする足を引くような少女の言動。
サンは、どこか困ったような、泣きだしたいのをこらえているような表情を浮かべて、言った。
「……もう、眠らせてあげないとね。あの子も」
●|無垢《むくろ》へ
「壊すことより、抱きしめることの方が、ずっとこわくて……難しかったでしょう」
「………」
サンが尋ねても、グラン・グリモアはもう何も答えなかった。
カタリナに、宿敵たる猟兵にもたれかかるようにして、ただじっと大人しくして動かない。その場所が安全であるかもまだわからず、戸惑っているような、受け入れられたことに、切り刻まれ、貪り食われる未来が訪れなかったことに、どこか不自然と居心地の悪さを感じているような。
ただ、愛されたかっただけの子ども。
居場所が欲しかっただけの愚者たち。
飴と鞭ではないけれど、全く違う二人の猟兵の手によって解けた難解なパズルは、本当は幼児でも解けるほどに単純な形をしていた。
「君が骸に掛け続けようとしたその優しさは、今度は僕たちが、この世界の名もなき影に掛け続けよう。……だから、君はもう、彼らのためだけに震えなくていい」
それから、サンはそう言って、淡い光のヴェールを少女へと纏わせた。
それは春の木漏れ日を紡いで編んだような、温かな毛布。光と影と、風と緑とが調和して、心地よい温度に世界との境目をなくしていくような、どこまでも平和で、のどかで、穏やかな時間の感触。
「………あたた、かい……」
戸惑う未来の腕の中、毛布の下で、少女の細い肩から力が抜ける。そうして、サンが目にしたのは、生まれてはじめて「もう、自分が護らなくていい」と悟った者の、あまりにも無防備な寝顔だった。
サンがそうしてあげることで、彼女はようやく、ただ世界にとって破壊するべきオブジェクトではなく『毛布にくるまれ、埋葬される権利を持つ。一人の疲れ果てた子ども』に戻ることが出来たのだ。
「いつか……いつかは僕も君の傍へゆくのかもしれない。だけど今は、僕が君の想いを未来へ連れてゆく。歌い紡ごう……君が愛したものを、君の事を」
最後には老いて衰え、死にゆくのだとしても。
ひとはその骸を花で飾るし、別れを偲ぶ。
それは、そうされるべき大切な存在であるというメッセージであり、その役目をやり遂げた生命への、残された者なりの報い——敬意の現れだった。
「ねえ、だから見せて。もっと聞かせて」
僕はずっとずっと覚えているよ……それが僕達にできる事。
——『優しい魔法』が君の心を照らしますように。
§
それは在りし日、もう誰の記憶にも残っていない忘れられた過去に、この『聖域』でなされた神聖な儀式だった。
まだ体に合っていない甲冑をまとい、持て余し気味の無骨な戦槌を携え、守るための力を求めた騎士見習いの少年が、少し高い緊張した声でグリモアへ誓う。
『——我は、誓おう』
……その誓いが、いつしかわたしを、そうしていつかは彼自身を滅ぼす呪いになると知っていても。
あの瞬間、あの子が抱いた願いだけは、誰にも汚せない本物だったのだと、わたしは覚えているから。
……ずっと、ここに、仕舞ってあるから。
だから、大丈夫……。
§
「……たとえ忘れられようと、続く現在と未来が過去を無かった事になどさせない」
両頬に刻まれていた、どれだけの年月が流れたかもしれぬ紅涙の痕が、やわらかな指でそっとぬぐわれたように、解けて溶けていく。そうして両の瞼を閉じた少女の顔は、重い荷物をようやく下ろした旅人のような、あるいは長い雨が上がったあとの水面のように静かで、あどけないものだった。
「結ばれた縁は過去になろうと、決して貴方たちを独りにしないわ」
遠慮がちに、ややぎこちない手つきでその輪郭を確かめるように撫ぜた、カタリナの腕の中。
「大好き……」
どんな夢を見ているのか、少女がそう零して。
彼女の頬に落ちる光の粒が、風に揺れて、まるで彼女が小さく微笑んでいるかのように見えた。刻まれた悲哀は影を潜め、ただ陽だまりの中でまどろむ幼子のような、安心しきった、柔らかな輪郭だけがそこにあった。
きっとそこは、罪を犯した罪人たちでさえも、最後には帰れる場所。
かつての楽園の、現実にはもう何の意味も持たない残骸だとしても。
夢を見て待ち続ける少女はその場所で、そうして少しの時間だけ、再び微睡むことが出来たのだろう。
「……やっぱり、神なんて嫌いよ」
そう呟いたその時のカタリナの表情は、彼女自身には確かめることのできないものだった。
ただ、その顔を見たサンは、小さく頷いて、寄り添う彼女たちを優しい瞳のままに見守っていた。
「……君もまた、この子を傷つけたかったわけではないのだろう?」
疲れ果ててしまった、もう動くことのない骸に、そっと毛布を掛けてあげること。
それが、そんなことが、少女が亡霊たちに、この世界をかつて生きた|いのち《こころ》たちにしてあげたかったことで。
同時に、してほしかったこと。
——けれど、いまも……悠久の時を経ても、許されないままでいること。
骸の海で満たされていた『永遠祭壇』が、まるでグリモアベースの、不安定に揺らぎ移り変わる世界の風景のように、その景色を変え始めていた。
なぁ~ん、なぁ~ん、と。どこからかのんきそうな動物の鳴き声が聞こえる。
精霊術士たるサンは、それが大地の精霊の声であると気付けたかもしれない。
慈しみから始まった物語。
優しい精霊たちが集まってきて、地上には星々の光が、神々の祝福が降り注ぐ。
そうして世界の隅っこで、宇宙の真ん中で生まれて——はじめて出会った「生命」を愛しいと思ったこと。
……帰りたい、帰りたい、帰りたい。
そんな、もう永遠に叶わないのかもしれない願いを抱いたまま、静かな夜が彼女たちを包んでいた。
眠る幼子の傍らでは、底抜けに呑気で優しい精霊たちの鳴き声が、どこまでも平和に響き渡る。
人間が、そして神々がどれほど凄惨な争いや選別を繰り返そうとも。
大地は、精霊は、ただそこに在り、そしてただそこに在る者たちを無条件に受け入れていた——。
成功
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