東部戦略軍事要塞ゼラフィウム救援
●羽化
百年にも及ぶ戦乱が続く世界、クロムキャバリア。
アーレス大陸の東部に位置する国家連合体、レイテナ・ロイヤル・ユニオンは、人喰いキャバリアと呼ばれる無人機群の襲来にさらされ続けていた。
ゼラフィウムの外縁部を囲むスラム街。
人喰いキャバリアに追われ、命辛々逃げおおせた難民達が形成したそこは、不浄の吹き溜まりだった。
スラム街にはまともな食料もなければ水もない。
衛生環境は最悪で、医療に関しては破綻以前の問題である。
国から救いの手が差し伸べられることは殆どなかった。
故に、人々は僅かな救いを求め、|機械神《巨神》の慈悲にすがった。
闘神アーレスの教徒達が設営した真っ黒な天幕。
教会であるはずの懐は、野戦病院の様相だった。
全ての簡易ベッドは寝たきりの疾病者で埋まっている。
床は座り込む者や横たわる者に占拠されており、まるで足の踏み場もない。
咳と呻き、そして汗の臭気が充満する天幕の中で、アーレス教の修道女達は甲斐甲斐しく患者の治療にあたっていた。
「あー……弱者必滅ぅぅぅ、強者絶対ぃぃぃ、弱き罪人達よぉぉぉ、強者の慈悲に頭を垂れよぉぉぉ。我らは闘神アーレスの使徒なりぃぃぃ」
修道女の一人、エクシィ・ベルンハルトが不機嫌な口振りで祈りの一節を謳う。
口を動かす一方、手は忙しく点滴パックの交換作業を進めている。
すると患者の一人が激しく咳き込み始めた。
エクシィや修道女達は特に気にも止めずに自分の仕事を続ける。
いつもの事だからだ。
そして患者の末路も知っていたからだ。
難民の間に蔓延している原因不明の病は、治療する手立てがない。
風邪に似た症状から始まり、やがて衰弱して死に至る。
出来る事と言えば、延命という対処療法だけ。
しかし、その日は少し症状が違った。
一人の激しい咳に呼応するかのように、一人また一人と同じ症状が続出した。
たちまち天幕の中は咳の大合唱となった。
咳だけではない。
患者達の身体が激しく痙攣し始め、呻き声が断末魔に変わった。
「ちょいちょいちょぉぉぉい! 皆していきなりなんですぅぅぅん!? ついにおかしくなっちゃったんですかぁぁぁ!?」
エクシィは患者の顔を確認した。
眼球が飛び出そうなほどに目を見開き、何かを吐き出そうと口を開けている。
「エクシィ一等執行官、これは一体……!?」
得体の知れない異常に、修道女達の中で困惑と恐怖が蔓延する。
「いやぁ私に聞かれましてもねぇ? どぉぉぉしましょ? とりあえず楽にしてあげま――」
その時だった。
患者の腹から赤黒い液体が噴出したのは。
そしてエクシィは見た。
患者の腹を喰い破って現れた、人喰いキャバリアの姿を。
「わぁお……」
人の体内からキャバリアが誕生する奇跡の光景に、エクシィは思わず感嘆の息を漏らした。
全長1mに満たない大きさだが、血にまみれたその姿は、紛れもなくエヴォルグ量産機だった。
一体の誕生を皮切りとして、他の患者の腹からも次々にエヴォルグ量産機が這い出てくる。
床一面が一瞬で血の池と化した。
生まれたエヴォルグ量産機は、すぐに母体となった患者を喰らい始めた。
驚くべき速度でそれを平らげると、さっそく次の獲物を見付けた。
次の獲物とは、生きた人間である。
「ひぃっ!?」
修道女にエヴォルグ量産機が飛び掛かる。
直後に銃声が轟いた。
「こりゃあだめですねぇ……みなさぁぁぁん! 表に出てくださぁぁぁい!」
エクシィが大型拳銃でエヴォルグ量産機を撃ち抜いたのだ。
「はいみんな出た出た! キャバリアに乗れる姉妹達は乗っておくよぉぉぉに! 戦闘になりますよん!」
次々に産声を上げるエヴォルグ量産機。
逃げ惑い、餌食となる患者達。
エクシィは全身に返り血を浴びながら銃を撃ち続けた。
「まったくぅぅぅ……テレサ様もエグい事をお考えになるもので……」
天幕の中と同様の光景が、スラム街の全域でも広がりつつあった。
●エヴォルグ・ハザード
「基地司令、状況は?」
ゼラフィウム本部の司令室に入ったケイト・マインド参謀次官の足取りは速い。
「ゼラフィウムの外縁部、並びに市街地に出現したエヴォルグ量産機は現在も増加中。守備部隊が応戦しています」
ケイトは基地司令に促され、巨大なモニターに表示されたゼラフィウム全域の地図を見た。
敵出現の報告があった地点を示す赤いマーカーが、要塞本部のある中央を遠巻きに包囲している。
「どこの索敵網が空白だったのですか?」
「索敵網は万全でした。破られてもおりません」
「では、敵の侵攻ルートは地底と?」
「現在情報を収集中です」
すると基地司令はケイトの耳に顔を寄せた。
「これはまだ未確定の情報ですが、敵は人の腹を喰い破って出現したとの報告が……」
その囁きは、錯綜する管制官達の声の中に消えた。
だが確かに聞き届けたケイトの双眸が細くなる。
「まさか、エヴォルグウィルスを散布されたのですか?」
「分かりません。ですが、難民の間で流行っている例の疫病が原因なのでは……?」
ケイトは腕を組んで沈黙する。
そうしていたのも僅かな間だけだった。
「……|仲介人《グリモア猟兵》と連絡を取ります」
「イェーガーを雇うのですか?」
「恐らく敵を呼んだのは“母機”です。だとすれば、敵の攻撃はこの程度では終わりません。さらなる戦力を投じ、全力で奪い返しにくるはずです。そうなれば、イェーガーの戦力が必要となるでしょう」
ケイトは踵を返して司令室を離れる。
足取りは、来た時よりも速くなっていた。
●東部戦略軍事要塞ゼラフィウム救援
グリモアベースにて集った猟兵達を前に、水之江が首を垂れる。
「お集まりいただきまずは感謝を。依頼の内容を説明するわ」
杖の石突きが床を鳴らす。
出現した立体映像は、小国家の地図――ではなく、大規模な要塞であるらしい。
本部が置かれている中央部を、何層もの区画が取り囲んでいる。
「依頼主はレイテナ・ロイヤル・ユニオンの参謀本部。目標は、東部戦略軍事要塞ゼラフィウムに出現した敵の排除よ」
●市街地戦闘
「ちょっと時間が無いから手短に。現在ゼラフィウムは人喰いキャバリア……オブリビオンマシンの攻撃を受けてるわ。今は守備部隊が応戦してるけど、数がどんどん増えていて処理しきれなくなりつつあるみたい。主な交戦区画は、市街地とゼラフィウム外縁のスラム街になるわ」
敵出現位置を示すマーカーはスラム街の方が圧倒的に多い。
しかも全域に渡って満遍なく散っている。
「猟兵の皆さんには市街地とスラム街の防衛にあたって欲しいんですって。ただし、市街地で戦闘する際には極力被害を抑えるようにってオーダーがきてるわ。因みに民間人の避難は終わってないそうよ」
つまりは人的な犠牲、構造物に対する損害、その両方を抑えながら戦わなければならない。
「スラム街の方は特に何も言われてないわ。まあ、すごい数の難民がいるから、巻き込みながら戦う事になるのは確実よ」
人口密度で言えばスラム街は市街地の比ではない。
被害抑制も困難を極めるであろう。
●混迷する戦場
「後は……敵がどこから現れたのかとか、情報が錯綜していて混乱状態にあるけど、くれぐれも落ち着いた行動を心がけてね。以上よ。よろしければ契約書をよく熟読の上、サインをどうぞ。ご静聴どうも」
戦えば流血は必至。
荒療治は免れない。
塩沢たまき
お目通しありがとうございます。
以下は補足となります。
●目標=敵勢力の排除、並びにゼラフィウムの防衛
ゼラフィウムへの被害が拡大し過ぎると、依頼失敗となる恐れがあります。
●戦域
第一章ではスラム街か市街地となります。
プレイングでどちらか一つを選択してください。
選択しなかった場合や、両方を選択した場合、キャラクターの情報を参照し、より適性があると思われる戦域を担当して頂きます。
戦闘開始時の時間帯は午後。
天候は晴れ。
●スラム街
難民達が形成したスラム街です。
人口密度が高く、交通網も整備されていません。
戦闘を行えば被害増大は必至です。
敵の数は市街地と比較して多いです。
避難誘導はされておらず、多数の難民が逃げ惑っています。
●市街地
正規の市民が暮らす市街地区画です。
敵の数はスラム街と比較して少ないです。
緊急時に戦闘が行われる事を想定しており、建造物は頑丈に出来ています。
避難誘導は実施されていますが、逃げ遅れた市民が取り残されています。
●レイテナ軍
スワロウ小隊、レブロス中隊を含むキャバリア部隊が、各区画で防衛にあたっています。
乱戦状態の上、情報が錯綜しているため、指揮系統が混乱しています。
●バーラント機械教皇庁
エクシィ・ベルンハルトほか、修道女達がスラム街で敵と交戦中です。
エクシィが搭乗するキャバリアはカナリアです。
修道女達が搭乗するキャバリアはガイストです。
ガイストはオブリビオンマシン化しています。
●第一章=集団戦
スラム街か市街地、どちらかの戦域の選択をお願いします。
選択した区画を防衛しつつ、敵勢力を排除してください。
敵は『エヴォルグ量産機』です。
非戦闘員を積極的に捕食しています。
単体での戦闘力は低いものの、数は驚異です。
●第二章=ボス戦
出現する敵を排除してください。
敵は『アークレイズ・ディナ』です。
対猟兵戦を想定した特殊なシステムを搭載しています。
●第三章=ボス戦
出現する敵を排除してください。
敵は『エヴォルグ弐號機『HighS』』です。
殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー)の影響で異常に強化されています。
●その他
高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
キャバリアを持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
第1章 集団戦
『エヴォルグ量産機』
|
POW : ヴォイドレーザー
【口内から無作為に分岐するレーザー】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : リボルティックスピア
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【自身から分離した触腕】で包囲攻撃する。
WIZ : EATエンジン
自身の【エネルギー補給機能を起動。自身】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[エネルギー補給機能を起動。自身]から何度でも発動できる。
イラスト:えな
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●クール・マインド
敵襲来の第一報以降、ゼラフィウムの頭脳を担う司令室には、報告が濁流となって流れ込んでいた。
無数のコンソールが赤や橙の警告灯を瞬かせ、オペレーター達の声が互いを押しのけるように交錯する。
「司令! 外縁部各守備隊が砲撃許可を求めています!」
基地の責任を背負う初老の男は、うめき声を殺して眉間をつまんだ。
ゼラフィウムの外縁部とは、つまりスラム街である。
最も人口密度が高い地域であり、その殆どが不法に滞在している難民だった。
しかし不法滞在者とはいえ、民間人であることに変わりはない。
スラム街に砲撃を実施すれば、夥しい犠牲者が出る事は必至だ。
世論から大きな非難を浴びる事は当然として、意思決定を行った者には責任が追求されるだろう。
「外縁部の戦況はどうか?」
「防衛線を構築できていません! 乱戦状態です! 難民にも大きな被害が出ています!」
司令は困難な判断を迫られた。
難民の血とゼラフィウムを乗せた天秤が揺れ動く。
一旦友軍をセクションゲートまで後退させ、砲撃による面制圧を行えば、奇襲で崩された体勢を立て直す時間を稼げるだろう。
だがそれを躊躇わせているのは、何十万人にも膨れ上がった難民達の存在だ。
避難は不可能だった。
元より難民の避難は想定も計画もされていない。
無秩序に拡大し過ぎた難民を、混乱なく大移動させる事など不可能だからだ。
「司令、砲撃を許可致しましょう」
ケイトのはっきりとした発声が、天秤の動きを止めた。
そのエメラルドグリーンの瞳は、迷いも躊躇いも映さない。
「難民の犠牲はやむなしですかな?」
「いま優先するべきはゼラフィウムの防衛です。ゼラフィウムが陥落すれば、ディープストライカー作戦の計画の根幹が折れます。そうなれば、ゼラフィウムに身を寄せている全ての難民以上の犠牲が生じるでしょう」
穏やかな抑揚でありながら、確信を軸にした、力強い言葉だった。
「ご決断を」
「……では、参謀次長殿のご意見を尊重しましょう」
司令が暗に責任はそちらにあるのだからなと含める。
ケイトは躊躇するどころか、司令に代わって自らの口で判断を下した。
「各守備隊に伝達を。砲撃を許可します。難民の犠牲はやむを得ません。敵の侵攻阻止を最優先としてください」
異議を唱えられる者は一人としていなかった。
ケイトの冷たい意思こそが、今最も必要とされている現実的な判断だと知っていたからだ。
「外縁部守備隊より報告! 敵が……人の中……? 人の中から敵が出現したとのこと!」
「同様の報告が市街地からも上がっています!」
状況はまたしても判断を迫った。
どういった経緯で人の中から敵が出現したのかは、ケイトにとって既に問題ではない。
「エヴォルグウィルスが散布されている可能性があります。変異の兆候が疑われる対象は全て排除を」
ケイトは氷の思考で淡々と現実を受け止め、粛々と裁定を下す。
かつて、ラディア共和国を含む諸国を焦土にした時のように。
「イェーガー現着しました! 繰り返します! イェーガー現着です!」
明るい話題は唐突に舞い込んできた。
オペレーター達のみならず、司令も「やっとか……」と息を吐き出して浮足立つ。
その中で、ケイトの呼吸だけは変化を見せなかった。
「イェーガーに連絡してください。外縁部のスラム街か、市街地の防衛に当たるようにと」
これで戦況はひとまず五分。
後は“母機”次第。
ケイトには、敵の攻勢はこんなものでは終わらないという確信があった。
一寸の楽観も無い眼差しは、地図映像上に出現した猟兵のマーカーを注視している。
●シティ・クライシス
スラム街でエヴォルグ量産機が出現した時と合わせて、市街地区画の全域でも同様の事態が発生していた。
緊急避難指示が発令され、行政と軍が事前計画に沿って市民の避難誘導を行う。
支援にあたるレブロス中隊は、混迷する戦況の中でも、堅実に任務を遂行しつつあった。
「市民の頭上に薬莢を降らせるわけにはいかんな……!」
アルフレッドは喉が詰まる窮屈さに目元を歪め、シリウスを“走行”させた。
エヴォルグ量産機が発射したレーザーをシールドで受け流す。
強引に接近し、シールドの縁でアッパーを繰り出した。
殴り飛ばされて仰向けをさらすエヴォルグ量産機。
そこへ僚機が跳躍し、頭部を高周波ブレードで突き刺す。
「レブロス05! 迂闊にブースターを使うんじゃない! 噴射圧で民間人を殺す気か!」
別方向からのレーザーを防御しながらアルフレッドが怒号を飛ばす。
弾いたレーザーの軌跡を目で追う。
避難者の列が巻き添えになっていないか、気が気でならない。
シェルターへ逃げ込む市民を守りながらの戦闘は、まるで手足に重い枷を嵌められたかのような気分だった。
ミサイルとビームキャノンの使用は論外。
手持ちの火器も薬莢を撒き散らすため、不用意にトリガーを引けない。
接近戦を仕掛けるにも、ブースターが吐き出す噴射圧と熱に市民を巻き込まないよう、細心の注意が求められる。
『ですが隊長! こんな戦いを続けていたんじゃ……』
「分かっている! だから一刻も早く避難を終わらせるんだ!」
いま自分達が守っている避難者の列が、全てシェルターの中に収まった時。
その時が反撃の時だ。
アルフレッドは焦れる神経を抑え込む。
しかし異変が起きた。
ゆっくりとだが確実に流れていた避難者の列。
それが悲鳴と共に逆流し始めたのだ。
「どうした? 何が起きている!?」
列の先頭……シェルターの入口に目を飛ばす。
シェルターに入ったはずの避難者が、我先にと逃げ出している。
表情からは恐怖が見て取れた。
異変の原因はシェルターの中だ。
そう悟った瞬間、入口から想像し難いものが現れた。
『こちらレブロス11! シェルターから――』
「エヴォルグ……だと!?」
驚愕にアルフレッドの顔が固まる。
体長は人間の大人程度でしかないが、卵の殻のようにつるりとした顔と、深緑の身体は、紛れもなくエヴォルグ量産機だった。
一体や二体ではない。
まるで巣穴をつつかれた蟻の如く、次々にシェルターから這い出てくる。
その多くが赤黒い液体を被っていた。
そしてエヴォルグ量産機は避難者の列に襲いかかる。
『人が喰われてる!』
『なんであいつらがシェルターから出てくるんだよ!?』
『レブロス01より中隊全機! 冷静になれ! 敵を排除しろ!』
頭を人の腹にうずめて中身を貪り喰らうエヴォルグ量産機。
その内の一体にアルフレッドは狙いを定めた。
「すまない……!」
アルフレッドの手向けの言葉と共に、シリウスがエヴォルグ量産機を踏み潰した。
赤と緑が混濁した液体が、アスファルトにぶち撒けられる。
「ここのシェルターは放棄する。隣接する最寄りのシェルターへ市民を誘導するぞ」
『今ので避難者が散ってしまいました!』
「可能な範囲で構わん。レブロス07とレブロス08は先行してシェルターの状況を確認してこい。遠距離通信は混線していて使い物にならん」
ゼラフィウム全体が混乱している。
あの光景を他の者も目の当たりにすれば、混乱はさらに拡大するに違いない。
そうなる前に状況を終息させられるのか?
アルフレッドには、思考を後回しにする以外の選択肢はなかった。
●スプラッター・ゾーン
風を切る音が鳴る。
直後に響くのは爆轟。
ギムレウスが発射した榴弾は、バラックやテント、それに幾多の難民を巻き添えにしてエヴォルグ量産機を吹き飛ばした。
グレイルがアサルトライフルを水平掃射する。
排出された薬莢が、足もとに犇めく難民の頭上に降り注ぐ。
発射された銃弾は、エヴォルグ量産機に穴を穿つ。
体液を噴出させながら倒れ込む全高5mの死体が、大人も子どもも分け隔てなく磨り潰した。
『奴ら、人の腹を喰い破って出てくるぞ!』
『腹ん中に隠し持ってやがったのか!?』
『難民は全員エヴォルグだ! 一人も通すな!』
『殺せ! 撃ち殺せ!』
『砲撃許可は降りている! 更地になるまで撃ち続けろ!』
暴走した恐怖は際限なく殺戮を拡大させてゆく。
ゼラフィウムの外縁部と敷地内の間に設けられたセクションゲート前は、人と人喰いキャバリアの死体で埋め尽くされていた。
「やめて! 砲撃を止めてください! 攻撃しないで! 人が! やめてぇぇぇーッ!」
テレサの叫びは、殆ど悲鳴に近い叫びだった。
だがその叫びを聞き届ける者はいない。
スワロウ小隊隊長機のアークレイズも、隷下のイカルガ達も、空中に留まり続けて事態を見ていることしかできなかった。
直下では逃げ惑う難民達が人の川を作っている。
流れが滅茶苦茶になった濁流だ。
濁流の中をエヴォルグ量産機が泳ぎ、手当たり次第に人を喰らっている。
友軍が撃った砲弾が、難民も敵も別け隔てなく細切れ肉へと変えてしまう。
テレサ達には何もできなかった。
ライフルの一発でも撃てば、敵ごと難民を巻き込んでしまう。
着陸するだけでも難民を踏み潰してしまう。
「こんな……! こんなの……!」
血と骸の海と化したスラム街は、殺戮を押し広げてゆく。
どうすればいい?
考えろ。
テレサは出口の無い自問を繰り返しながら、視線を右往左往させる。
難民の濁流から外れた通りを、二人の親子が走っていた。
「だめ……! こっちに来ちゃ!」
ゲートを目指している事を悟り、止めようとアークレイズを向かわせた。
子どもの手が親から滑り落ちた。
親はすぐに振り返り、転んだ子どもに駆け寄る。
立ち上がろうとした子どもは激しく咳き込み、崩れるようにして倒れ込んだ。
そして仰向けとなり、一層激しく咳き込む。
目、鼻、口から出血し、電流を流されたかの如く痙攣し始めた。
そして……腹が内側から裂けた。
吹き出す血潮を浴びて、産声をあげるエヴォルグ量産機。
絶叫する子の親。
産まれたばかりのエヴォルグ量産機は、初めて見る生きた人間に飛び付いた。
子の親は、我が子から産まれた子の最初の糧となった。
テレサは一連の光景を見せ付けられていた。
鮮明な拡大映像で。
まざまざと。
「あ……あ、あぁ……」
瞳が、喉が震える。
「あああぁあああぁあぁぁぁッ!」
次の瞬間には、悲鳴とも怒号ともつかない叫びをあげていた。
ブースターの光を炸裂させて急加速するアークレイズ。
左腕を一薙ぎすると、プラズマブレードがエヴォルグ量産機を消滅させた。
残ったのは、赤熱化して抉り取られた地面だけ。
「テレサァァァッ! 私は! あなたが私なら! 私はこんなの望まない!」
テレサが“最初のテレサ”に向けた怒声は、コクピットの中を虚しく反響した。
そして、猟兵達は染め上げるだろう。
ゼラフィウムを。
人と人喰いキャバリアの血で。
ワタツミ・ラジアータ
ジャンク屋としてスラム街で商売をしていた
雑多なゴミの買い取りから義体化手術まで多種多様
あらあら、お仕事に来ていれば大変な状況に巻き込まれてしましたわね。
どうでもいい有機生命体とはいえ、お客様を減らされるのは困りまし、此処は少しサービスしましょうか。
エヴォルグ量産機に喰われそうな難民に対して異星系浸蝕粒子による機械化《レプリカント化》による逆捕食を行う
有機生命体という有り方には情は無い。無機生命体には優しい
雑多な量産機風情が私のお客様を奪おうとは身の程を知ってくださいませ。
コピーした敵を浸食、敵量産機の製造を抑制する
彼女自身も数えるのも馬鹿らしい程宇宙にばら撒かれた量産機風情なのに
●グリード
Heart of GearOrganで降り立ったそこは、ワタツミ・ラジアータ(Radiation ScrapSea・f31308)にとって、馴染み深い空気に満ちていた。
淘汰された者たちが流れ着く場所。
赤茶色に煤けた薄汚い吹き溜まり。
出自も知れないゴミの売買や義体化手術には、いつも不足しなかった。
どこの世界でも、いつの時代でも、似たような場所はあるものだ。
しかし、空気こそ同じなれど、ワタツミがジャンク屋を営んでいたスラム街とは決定的に状況が異なる。
騒動こそ絶えなかったが、流石にここまで騒がしくはない。
爆轟。悲鳴。怪物の鳴き声。
それらが混濁する人の流れと共鳴し、この上なく耳障りな不協和音を奏でる。
「あらあら、お仕事に来てみれば、大変な状況に巻き込まれてしまいましたわね」
他人事の所感を零して周囲を見渡す。
どうでもいい有機生命体が逃げ回っている。
それを顔なしの怪物が追い回している。
実に非日常的な光景だった。
それが愉快がどうかは別として。
傍観している間にも、難民達は化け物にどんどん喰われてゆく。
さらには同じ群の有機生命体が無差別に行う砲撃で、辺りには人と化け物の断片が散乱していた。
どれほど難民が死のうが、ワタツミには関係のない事だった。
レプリカントの身に宿った正義感が怒りに打ち震えるでもないし、眼球の形をしたセンサーカメラから雫が垂れるでもない。
誰がどんな死に方をしようがどうでもいい。
しかしそれはそれとして、あまりにも数を減らされるのは、少々看過し難くもあった。
「お客様を根こそぎ奪われてしまうのは将来的に困りものですし、此処は少しサービスしましょうか」
ワタツミは神経回路を通じ、Heart of GearOrganに囁く。
戦闘システムの歯車が動き始めた。
「機海起動。私は宣告する。惑星改竄式展開。回れ歯車、音高く。無限再生機構解放……」
Heart of GearOrganのパネルラインから、或いは纏う龍機型外装 "Dragon from the JunkYard"から、水銀色に輝く粒子が溢れ出る。
粒子はHeart of GearOrganを中心として半球体状に膨張し続けた。
周囲一帯を満たすまでさしたる時間は要さない。
「いざ、不朽の宴を始めましょう」
機械仕掛けの女神が発したその声で、踊る粒子が“有機生命体”へと牙を剥いた。
エヴォルグ量産機を、難民たちを、粒子が蝕む。
じわじわと分解されるように、或いは削り落とされてゆくかのように。
エヴォルグ量産機の身体を構成する半生体素材も、人間の身体を構成するタンパク質も、どちらも有機物に変わりはない。
それに対し、異星系粒子はどこまでも貪食だった。
Heart of GearOrganの周囲から、生物の定義に触れた存在が掻き消されてゆく。
後に残されたのは、まるでそこには始めから何もなかったかの如き虚無だった。
「雑多な量産機風情が、私のお客様を奪おうとは……身の程を知ってくださいませ」
弁えるべきエヴォルグ量産機はもういない。
それを産んでいた難民諸共、異星系浸蝕粒子に食い尽くされてしまったからだ。
母がいなければ子は産まれず。
数百の母体を蝕んだ分だけ、産まれるはずだったエヴォルグ量産機を虚無に返した。
どれほど有機生命体がその機能を止めようと、何一つとて感慨は湧かない。
馬鹿らしいほどに増えすぎた生物が、少し数を減らしただけだ。
「……出来の悪い皮肉ですわね」
吹き消すように言ったその言葉は、誰を示した言葉なのか。
この世で最も暗い海にばら撒かれた白銀の女神は、鉄のように冷たく、荘厳であった。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
これは…大惨事、と言わざるを得ませんね
UCを使い果てる事の無い「癒し」を注ぐ光の槍を射出
エヴォルグ化が完了していない市民を隔てなく『癒す』事でエヴォルグ化を阻止し回復
エヴォルグそのものには…これは恐らくウィルス地味た性質を持つもの
ならその完了形であるエヴォルグそのものは『病そのもの』…『癒しで治癒する病巣』である故に、槍を直撃させて『果てる事のない癒し』を注ぎ込み、崩壊させます
人災であろうが天災であろうが関係ありません
わたくしは、一つでも多くの善を救い上げ、全ての悪を討ち滅ぼしてみせましょう
UCを励起させ、第二の槍を射出していくーー
●果てる事の無い産みの苦しみ
スラム街は、阿鼻叫喚の様相を極めていた。
逃げ場を求めた群衆が、狭い路地に雪崩れ込む。
肩と肩がぶつかり合う。
子を抱えた母親が押し潰されて倒れた。
その身体を踏み台にして人々が駆け抜けていく。
幾重にも重なる泣き声と叫び声。
そして、産声。
見知らぬ誰かの絶叫が、すぐ横で途切れた。
振り向けば、かつては人間だったものが腹を内側から裂かれていた。
そこから口だけの顔を出したエヴォルグ量産機が、生誕の喜びに声をあげる。
吐き気をこらえた青年が、泣きじゃくる妹の手を引いて走り出した。
「しっかり! ゲートまで逃げれば軍が助けてくれるから!」
けれど次の角を曲がった途端、機関銃の掃射が兄妹を肉片へと変えてしまった。
ゼラフィウムの外縁部と敷地内を接続する門。
そこを守備する兵士達の顔は、恐怖と躊躇で歪んでいた。
「感染者と非感染者の見分けがまるで付かない!」
「撃てるのか!? 相手は民間人だぞ!?」
「仕方ないだろ! 一人も通すなとの命令だ!」
「だめだ! 難民の数が多すぎて……ぐ、う!?」
一人の兵士が腹を抱えて膝をついた。
他の兵士が駆け寄る間もなく、その兵士の身体が激しく震動する。
そして腹が血潮と共に破裂し、エヴォルグ量産機の幼体が這い出した。
産まれた幼体はすぐ目の前にいた兵士の顔面に齧り付く。
背中から倒れ込みながら撃った機関銃が出鱈目に弾丸を撒き散らす。
周囲の兵士から血煙が噴出し、薙ぎ払われたかのように倒れてゆく。
ある母親は、腕の中で咳き込む幼子を守ろうと、崩れかけた壁際で蹲った。
だが、幼子はもう人ではなくなっていた。
痙攣を始め、身体の穴という穴から出血し、腹部が盛り上がり――そして裂けた。
絶叫する母親は、幼子から産まれた生命の糧となった。
撃たれる人間と、撃たれずに逃げる人間。
産まれ続けるエヴォルグ量産機の幼体。
その区別も意味を失い、銃声と断末魔に火の粉が交じり合う。
「これが……人喰いキャバリアのしていることなのですか?」
フレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)は、暴走する生命を目の当たりにして息を詰めた。
人の腹を破って産まれる怪物の姿を見て、真っ先に脳裏に呼び出したのは、暁作戦の折りに触れたエヴォルグウィルス。
エヴォルグウィルスは、人をエヴォルグに変異させてしまうナノマシンだ。
フレスベルクは思わず口を手で覆うが、すぐに無意味だと悟った。
もしこれが暁作戦で散布されていたエヴォルグウィルスなら、とっくに自分も空気感染している。
感染者を媒介とするなら、初めてゼラフィウムを訪れた時に感染していてもおかしくはない。
だがいまの時点で変異の兆候が見られない。
ということは、恐らく空気感染型ではないのだろう。
遅効性の可能性も否定できないが……。
「根源を同種とし、病であることに変わりないのなら……!」
フレスベルクは組み合わせた両手を開く。
手と手の間に小さな、だが力強く輝く黄金の円陣が浮かんだ。
「果てしなく傷と病と毒を宿す罪無き者達へ限り無き癒しを注げ、光有る我が槍よ。無形なれど確かに存在する汝の癒しは、万象に届くだろう――」
双眸を伏せて祈りの一節を謳う。
金の光そのものが槍の姿を取って円陣から生じた。
フレスベルクは光の槍を握りしめ――。
「終わり無く癒しを注げ光有る槍よ!」
投げた。
光の槍は曲線、直線、多様に軌道を曲げ、人もエヴォルグも分け隔てなく貫く。
物理的な殺傷力はない。
貫いたものに癒やしを注ぎ込み、それが病巣ならば崩壊させてしまう。
感染者には治癒を。
病が姿を成したエヴォルグ量産機には崩壊を。
それぞれに与えるはずだった。
だが、光の槍に貫かれた難民達の腹が破裂した。
人から産まれたエヴォルグ量産機の幼体は崩壊しなかった。
「病では……無いというのですか……!?」
止まらない阿鼻叫喚の光景に、フレスベルクは目を丸くする。
果てることの無い癒やしを注ぐ光の槍は、確かに人もエヴォルグ量産機も貫いた。
けれども癒えもしない。崩壊もしない。
つまりは病ではない――。
「まさか……!」
これが、正常な状態だとでもいうのか。
或いは……人の身体に起きているのが“変異”ではなく“進化”だとしたら?
「人は、エヴォルグの子を宿す揺り籠……? 風邪に似た症状は、産みの苦しみ……?」
母が子を宿すのは、病ではない。
出産に痛みが伴うのは、病ではない。
産まれた子は、病の根源ではない。
「人を……繭に進化させたとでもいうのですか!?」
仮説がひとりでに頭蓋の中を走り回る。
鈍い疼痛を覚えたフレスベルクは、前髪を掻き分けて額を押さえた。
状況はフレスベルクを待たない。
難民たちは逃げ惑い、それを人喰いキャバリアが貪る。
頭上から降る鋼鉄の雨が、両者を区別なく肉の泥濘に変えてゆく。
「わたくしは……」
ぐらつく足もとを踏みしめ、フレスベルクは顔を上げた。
「一つでも多くの善を救い上げ、全ての悪を討ち滅ぼしてみせましょう……」
自分にそう唱え聞かせる。
これが人災であろうと天災であろうと関係ない。
決心を込めてヴォーパルソード・ブルースカイの柄を握った。
たったいま産まれたばかりの怪物が襲いかかる。
フレスベルクは剣の切っ先を走らせ、それを真っ二つに切り裂いた。
浴びた返り血を拭い、歩き出す。
果てる事の無い産みの苦しみを終わらせるために。
大成功
🔵🔵🔵
ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗中。キャリアは待機)
エヴォラ出血熱を用いたバイオテロを思い出しますねぇ。
エヴォルグとはよく言ったものですが。
ともあれ。スラムは傭兵に任せて戴きましょうか。
コラテラルダメージに怯えて被害を拡大するのは素人のすること。
しかし現地の民草に思い入れがある正規軍も当てには出来ません。
手を血に染める覚悟のない奴は引っ込んでいろ、とまでは言いませんけれどもね。
悩む余裕があるのは幸福なことです。
ま、能書きはどうでもよろしい。為すべき事を為すのみ。
標的の選別が一応は可能なハニービーで面制圧を試みます。
そちらは自動制御ですので勝手にやらせておき、敵の集団がいればエイストラの火力で粉砕しましょう。
●白い殺戮者
「エヴォラ出血熱とエヴォルグ量産機。語感が似ていると思うのは、私だけでしょうか?」
問う相手の居ない呟きがリンケージベッドに吸い込まれた。
ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は、メインモニターが映し出す眼下のスラム街の様相を見渡す。
超人口密集地帯という環境は、バイオテロを行うのに実に効果的だった。
いまのスラム街がそれを実証している。
我先にと本能任せに逃げ回る難民達は、羊の大群を想起させた。
そんな難民達を捕食者である人喰いキャバリアが追い回す。
対応する軍は統率が乱れに乱れ、難民ごと人喰いキャバリアを撃ち殺し、爆殺していた。
もはや犠牲無き解決は望めない。
「手を血に染める覚悟のない奴は引っ込んでいろ、とまでは言いませんけれどもね。百人を庇っている内に千人が死にますよ」
ノエルの透き通るような白い手がディスプレイ・ボードに触れる。
エイストラの周囲に500以上の転送陣が開き、それと同数のUCAVが出現した。
機械仕掛けの働き蜂――ハニービーが、嬢王蜂の指示を待ち、ハニカム構造状に整列し、滞空する。
「発砲を許可します。幼体……で、よろしいのでしょうか? 全高5m以下の個体を優先して殲滅するように」
ノエルの一言でハニービーの群れは一斉に動き出した。
ハニービーは命令された通りの目標を排除するべく、難民の濁流の頭上に殺到した。
群衆に紛れた産まれて間もないエヴォルグ量産機の幼体を捕捉し、消失と引き換えにレーザー機銃を浴びせる。
敵味方の識別は精密だった。
だが、人と人喰いキャバリアが滅茶苦茶に混濁した状態だ。
人だけを避けて狙い撃つのは、ハニービーを以ってしても現実的ではなかった。
ましてや体内にエヴォルグの幼体を抱えている人間と、そうでない人間を瞬時に見分けることなど不可能である。
しかしハニービーは躊躇わなかった。
推定エヴォルグウィルスの非感染者を巻き添えにしてでも、エヴォルグ量産機だけは確実に処理した。
少なくともハニービーの群れだけで500体以上のエヴォルグ量産機が頭部を撃ち抜かれた。
そして機能を停止したエヴォルグ量産機と同数、或いは倍以上の人々が犠牲となった。
「コラテラルダメージに怯えて被害を拡大するのは素人のすること。躊躇する余裕があるのは幸福なことです」
誰が何人死のうと、ノエルの瞳はなんの感情も映さない。
その瞳が見ているのは、敵という作戦目標だけだった。
「……なるほど。人の体内から産まれたエヴォルグ量産機の幼体は、人を捕食して急激に成長を遂げ、5mの成体になる……どこのSF映画のクリーチャーですか」
通常の個体と遜色ない大きさまで成長したエヴォルグ量産機が飛び掛かってきた。猟兵により強く誘引される性質は変わっていないらしい。
ノエルは白面をロックオンサイトに捉え、トリガーキーを引いた。
エイストラがプラズマライフルを放つ。
青白い荷電粒子の光線が、エヴォルグ量産機の頭部を消滅させた。
そして光線が群衆の中に突き刺さった。
着弾地点の中心から、数千度に達する熱の衝撃波が膨張する。
荷電粒子が霧散した後には、数十人分の人体の断片が残された。
消滅した人間を含めれば犠牲者は更に増えるだろう。
ノエルは躊躇いなくトリガーキーを引き続けた。
エイストラのプラズマライフルが撃ち降ろされる度に、一体の人喰いキャバリアが頭部を失った。
巻き添えを受けた難民の数が乗算的に増してゆく。
「白い……殺戮者……!」
エイストラをそう呼んだのは、誰だったのだろうか。
ノエルは処理し続けた。
人喰いキャバリアを、難民諸共に。
大成功
🔵🔵🔵
イクシア・レイブラント
※スラム街、臨機応変に共闘希望。
多数の住民の安全確保と適切な処置、そして敵の殲滅。
何もかも解決できるような奇跡の持ち合わせはないけれど、この状況は見過ごせない。
やれるだけのことはやる、力を貸して。
[推力移動、滑空]で低空飛翔しつつ、
デコイドローンで[気配察知、索敵、情報収集]を行い敵を見つけ次第[レーザー射撃]で威嚇、
できるだけ多くの敵の[注目を集める]。
さらに【虹霓心縛翼】を使って私以外への行動を縛り、住民たちにはシールドビットの[護衛]をつける。
あとは幾何学模様に動く敵の動きを[戦闘演算、瞬間思考力]で読み[空中機動]で回避して
大型フォースブレイドで纏めて[なぎ払い]。敵の数を削るよ。
●不条理な奇跡
突然に始まったエヴォルグ量産機の羽化は、スラム街全域に恐慌と断末魔を押し広げていった。
延べ数十万人に及ぶ難民は逃げ惑い、喰われ、紛い物の生命を産み落とす。
人体からジャイアントキャバリアが誕生するという奇跡が繰り返されるたび、産声と断末魔があがった。
それが、先行するデコイドローンから送られてくる映像だった。
人が倒れ、激しい痙攣を始め、腹が張り裂ける。
鮮血と共に飛び出すのは、エヴォルグ量産機の幼体。
イクシア・レイブラント(翡翠色の機械天使・f37891)の中に育まれつつある感情がざわめく。
この思考の揺らぎに名前を付けるとしたら、嫌悪だろうか。
或いは恐れかも知れない。
怒りかも知れない。
人体に起きた奇跡に対する好奇心かも知れない。
いずれにせよ、イクシアの記憶媒体に、その感情の名前はまだ存在しなかった。
「住民の安全確保は、もう出来ない」
状況を見定めるべく、阿鼻叫喚のスラム街の上をイクシアは飛び続けていた。
惨劇を止める有効な手段は見当たらない。
奇跡でも持ち合わせていなければ……だからといって、諦観するつもりもなかった。
「まだ成長途中の敵を優先して殲滅する」
5m程度まで成長した個体はキャバリアに任せておけばいい。
殲滅するとは言ったが、纏めてとはいかないのが悩ましい。
難民とエヴォルグ量産機が混じり合っているからだ。
広域に及ぶ攻撃は確実に多数の難民を巻き添えにしてしまう。
ともすれば、地道に少しずつ処理しなければならない。
例え一体ずつでもやがて殲滅する。
イクシアはサイキックスラスターのエンジンを切り、サイキッククリアウィングを閉じて地面に降下した。
推進装置一つの扱いにも細心の注意を払わねばならない。
難民を吹き飛ばしかねないからだ。
人と人喰いキャバリアの濁流の最中に降り立ったイクシアの視覚野で、無数のターゲットインフォメーションが表示された。
狙う標的には事欠かない。
フォースブレイドを一振りすれば、何十体もの人喰いキャバリアを撫で斬りにできるだろう。
同時に、同数か以上の難民を真っ二つにしてしまう。
人を遠ざけ、敵だけを引き付けなければならなかった。
「敵の方から仕掛けさせる」
アームドフォートにマウントしたエクスターミネイターの砲身を真上に向ける。
プラズマビームを一回、二回、三回と発射した。
すぐそばで悲鳴があがり、石を投げ込まれた魚の群れのように人が散ってゆく。
けれど肝心のエヴォルグ量産機の反応が無い。
機械部品を多量に含んだレプリカントの身体は、餌と見做されないのだろうか?
「なら、光の翼を使う」
広げたサイキッククリアウィングから、極彩色の光が生じた。
光は翼の形状を成して波打ち、イクシアを巨大な蝶の輪郭に見立てた。
鮮烈なまでに輝く光の翼が、人の目を集める。
そしてエヴォルグ量産機の興味も縛り付けた。
「シールドビット、リリース」
全方位から伸びる触腕に先んじて、イクシアは懸架していた浮遊端末を解き放った。
端末はイクシアを取り囲む……のではなく、サイコ・シールドを展開してエヴォルグ量産機をイクシアごと隔離した。
そしてイクシアはフォースブレイドを薙ぐ。
一回転目で迫る触手を切り払った。
「もう一撃」
二回転目で光刃を伸長。
ハイパーモードで振り抜いた。
横一文字に切断されたエヴォルグ量産機の身が崩れ、緑の体液が噴出する。
難民達に刃は届いていない。
シールドビットで保護していたからだ。
「民間人に死傷者無し。次の目標を――」
虹霓心縛翼の放出を解除し、地面を蹴って飛翔しようとした瞬間だった。
守った難民達が、腹を抱えて倒れ込んだ。
すぐに激しい痙攣が始まる。
イクシアはそれが羽化の兆候だと即座に理解した。
「もう助ける事はできない。でも、やれるだけのことはやる」
繰り返される不条理な奇跡。
それをイクシアは冷たく受け止めていた。
だが、ざわめく思考に少しだけ後悔という概念を抱いた。
こんな痛みを得るならば、心など必要なかったかも知れないと。
芽生えた想いをレプリカントの身体に封じ、フォースブレイドを構える。
イクシアの目の前で多くの生命が張り裂け、血の雨を降らせた。
髪から赤い雫が滴り落ちた時、三回転目の光刃が、産まれるべきでなかった生命を切り裂く。
イクシアの刻む軌跡は、不条理までに幻想的だった。
大成功
🔵🔵🔵
カグヤ・アルトニウス
○バイオハザード
感染型エヴォルグですか…
此処で手を打たないと他の世界にまで波及するので確実に叩いて置きましょう
アドリブ歓迎
(乗機)
ホワイト・レクイエム
(行動)
場所はお任せ
まずは、感染を広めない為にホワイト・レクイエムを独立環境モード【環境耐性】にして降下
移動は位相制御であって浮遊していれば周りを巻き込まないので、アブソリュート・ウォールに【通常攻撃無効】を乗せ攻撃を捌きつつ、トゥインクルスターのゲートからエヴォルグに直接小さなエネルギー球を送り込んで削って【スナイパー+急所突き】足止めします
あとは、UCでエヴォルグウイルスを分離・分解しつつ住民を治癒・回収すれば大分時間は稼げそうです
●ミルクティー
戦闘も見越した区画整備がなされた市街地の様子は、スラム街と比較して混乱のほどは抑えられていた。
だが比較対象は阿鼻叫喚の地獄と化したスラム街である。
人喰いキャバリアは市街地区画にも出現しており、避難する市民と、それを誘導し、護衛する守備隊に牙を剥いている。
列を襲撃されて散り散りになってしまった者達も大勢存在した。
「バイオハザードが発生したんでしょうか?」
地表を滑走するホワイト・レクイエム。
白銀色の装甲に硬く守られたコクピットで、カグヤ・アルトニウス(とある辺境の|私掠宇宙海賊《プライベーティア》・f04065)は周囲に目を巡らせた。
市街のそちこちから、火災を根源とした黒煙が昇る。
道路には、エヴォルグ量産機やレイテナ軍のキャバリアの骸が無造作に転がっていた。
「本当にウィルスによるバイオハザードだったら大事どころでは済みませんね。ここで隔離しなければ、クロムキャバリアだけではなく、猟兵を媒介して他の世界にまで波及しかねませんし」
カグヤは自身がウィルスのキャリアーになる危険性を考慮し、ホワイト・レクイエムを独立環境モードで稼働させている。
気密性の高いキャバリアに乗っている事も感染対策の一環であった。
とはいえ、現時点ではあくまで推定だ。
状況を把握しきれていないのは、猟兵側も同じである。
これ以上混乱が広がる前に、状況を収めなければ、間違いなく取り返しが付かなくなる――。
交差路を進むと、市民の列が現れた。
周囲には守備隊のシリウスが展開しており、油断なくシールドを構え、銃口で睨みを効かせている。
「ひとまず、生存者を優先して守るべきでしょうね」
道路端に倒れている怪死体……腹が内部から破裂したかのように裂けている亡骸を一瞥し、ホワイト・レクイエムを市民の列に向かわせた。
『おい! そこの機体! 止まれ! おいバカ! 近付くんじゃない!』
列の前に立ちふさがったシリウスに唐突な馬鹿呼ばわりをされた。カグヤは言われた通りに機体を停止させる。
「こちらはイェーガーです。参謀本部の依頼で救援に来ました」
『イェーガーだと? いやそうじゃない! ブースターを焚きっぱなしで市民に近付くな! 吹き飛ばしたいのか!?』
「ああ、そういう事でしたら心配は無用です。位相制御で揚力と推力を得ているので、吹き飛ばしたりしませんよ」
『位相……なんだと? ま、まあ、そうなら構わんが……』
『敵襲! 3時と8時の方角!』
レイテナ軍のパイロットの叫びが通信帯域を駆け抜けた。
カグヤは背後を振り返る。ホワイト・レクイエムも搭乗者の視線の動きをトレースして旋回した。
つい先程通ってきた交差路の向こうから、エヴォルグ量産機の集団が押し寄せつつあった。
『全機! 迎撃体勢! 近接戦闘で対応せよ! 避難民に薬莢をばら撒くな!』
シリウス各機はシールドでエヴォルグ量産機のレーザーを受け流し、ライフル下部に懸架した高周波ブレードを作動させる。
ホワイト・レクイエムもアブソリュート・ウォールを起動。正面に展開したサイコ・シールドが、何本もの青白い光を遮断し、水飛沫のように拡散させた。
「生身で戦場に居る者にとって、味方のキャバリアがばら撒く薬莢が一番危険なのかも知れませんね」
背後で怯える避難民の気配を感じながら、エヴォルグ量産機に神経を集中する。
すると敵の群れの先頭集団で、細かな光が明滅した。
エヴォルグ量産機の内側から弾けた光だった。
ホワイト・レクイエムがトゥインクルスターのゲートを敵の進路上に開き、通過した瞬間に荷電粒子の球体を送り込むことで、エヴォルグ量産機を内側から弾けさせたのだ。
「直線の動きしかしない。所詮、物量頼みの戦いしかできない怪物ですか」
擱座する先頭集団。
だが、後続の勢いは止まらない。
積み重なった骸を越えて、こちらに迫る。
一体一体丁寧に処理していては間に合わない。
広範囲に及ぶユーベルコードで一気に殲滅したい所だった。
さもなくば敵が避難民の列に雪崩込んでしまう。
勿論、そのようなユーベルコードでは、護衛対象も巻き込んでしまうが……任意の対象物だけに効果を及ぼすユーベルコードなら問題ない。
カグヤは“エヴォルグ”だけに敵意を集中し、ウェポンセレクターのトグルを回した。
ホワイト・レクイエムがトウィンクルスターから幻聖槍"ロンギヌス・イマージュ"を引き抜く。
「聖なる槍の記憶よ、今一度ここに再臨し迷える魂に祝福を与えたまえ」
穂先で天を突く。
ロンギヌスを中心として白い波動の嵐が渦を巻いた。
『おい! イェーガー! そんな武器を使ったら――』
「大丈夫ですよ。敵だけを解体しますから。ついでに感染者からウィルスを分離します」
半径約160mに及ぶ白い波動の嵐に、エヴォルグ量産機が飛び込んでゆく。
いずれのエヴォルグ量産機も、ホワイト・レクイエムに牙を突き立てる事は叶わず、避難民を貪る事も叶わなかった。
嵐の範囲に入った瞬間に、砂状に分解されてしまったからだ。
そして、感染者も。
「かっ……身体が!?」
「いやぁぁぁっ!」
避難民の列から悲鳴があがる。
脊髄反射で振り返ったカグヤが見たのは、身体が砂状に分解され、崩れ落ちてゆく避難民の姿だった。
「これは……」
カグヤは困惑に目元を歪めた。
敵味方の識別は間違えていない。
敵は“エヴォルグ”だけだ。
それ以外の対象を分解するつもりなど一切ない。
彼らの中に巣食う推定エヴォルグウィルスだけを分離し、分解する。
その指向性にも狂いはない。
だがしかし、避難民の消滅が止まらない。
『イェーガー! やめろ! 今すぐその兵器の使用を中止しろ!』
ユーベルコードの発現の中断はやむを得なかった。
エヴォルグウィルスだけを消し去るはずだったのに、どういう事だ?
カグヤの頭蓋を戸惑いが逡巡する。
「この……っ! 人殺しぃぃぃっ! 息子を……! 息子を返してよぉぉぉっ!」
消え去った我が子の気配を抱く母親が、絶望と怒りの叫びを叩きつける。
カグヤは頭を鈍器で殴られた感覚を味わった。
「まさか……」
修羅の形相で睨み、嗚咽する母の子は……既に人ではなかった?
感染者は、人とエヴォルグの混ぜものになっていて、それを自分は分離しようと試みた。
ミルクティーを、ミルクと紅茶に分離するかのように。
結果、母の子は、感染者である事を否定され、存在を保てなかった――。
渦巻く仮説に解は見当たらず、カグヤは避難民達の恐怖と怒りを一身に引き受ける他になかった。
大成功
🔵🔵🔵
東・御星
(美結と一緒にライジング・ヴァルバーンに搭乗。武器巨大化でサイズを敵と同サイズに変化させていく)
さて…ちょっと手助けに来たけど…のっぴきならない状況ね。
とりあえず…あまり高空への飛行はしないように注意しながら。
相手の攻撃が届かない位置まで空中浮遊、空中機動、推力移動で敵を回避しつつUCを発動。森羅万象、太極を見た片鱗をお見舞いしてやりましょう。
これでとりあえず被害者は減らせるとして…。
あとは美結に戦闘演算、データ攻撃、ハッキングを任せつつ集団をロックオンしつつの弾幕、エネルギー弾、レーザー射撃、自動射撃を組み合わせつつ全武装を展開してのマルチロックオンフルバースト!これでどうだ!?
●それは誰かの願い
聳立するビルの狭間を飛ぶTFT-2082B-X01 ライジングヴァルバーン。
電子体となって機体の中に囚われた東・御星(破断創炎の閃鋼・f41665)と美結は、眼下に過ぎゆく惨状に辟易を禁じ得なかった。
「のっぴきならない状況ね……」
そこら中にできている赤い染みは、人が喰われた痕跡か、紛い物の生命を産み落として役目を終えた痕なのだろう。
「エヴォルグ量産機は、人の体内から産まれてきているようですね……」
美結は苦しげに声の抑揚を下げる。
人体からエヴォルグ量産機が出現した時点で、宿主は死んでしまう。
「救う手立ては……ありません」
「ならせめて、皆が少しでも幸せになれる世界に……皆を不幸にする願いが叶わない世界に……!」
御星の細やかな願いが、世界をほんの少しずらした。
誰かが不幸になる結果が、僅かに着地点を逸れる世界へと。
第二法則・並行世界管理運営・事象科学応用定理――それは、太極を見出した末に得たユーベルコードだった。
「私達の戦い方では民間人を巻き込んでしまうわね。はぐれた敵の群れはいない?」
御星が尋ねると美結はすぐに答えを寄越した。
「要塞敷地のより内側、“工業区画”に向かっている敵がいます。理由は分かりませんけど」
「どうして?」
美結は少しばかり疑問を抱いた。
人喰いキャバリアは文字通り人を食う。
ならより人口の多い場所に移動するのが普通であろう。
だから工業区画に向かう理由が分からない。
「ううん、理由なんて関係ないわ。叩くわよ」
御星はライジングヴァルバーンを加速させる。
目標とした敵集団にはすぐに追いついた。
一目散に工業区画を目指すエヴォルグ量産機の頭上を抜け、正面へと回り込む。
「ここから先は通行禁止よ!」
進路上に現れたライジングヴァルバーンを障害と見做したのか、エヴォルグ量産機の群れはレーザーを放ち、分裂する触腕を伸ばす。
ライジングヴァルバーンはそれらの攻撃を上昇して躱す。
正確には躱すというより、攻撃の方から狙いを逸らしていた。
御星が僅かにずらした世界は、“他人を不幸にするあらゆる行動不可の法則”を持つ。
法則に触れた現象は、振られる賽の目が小さく、低く、悪くなってしまう。
「美結! ハッキングはできそう!?」
「電子的なネットワークが存在しないので殆ど効果がありません! ジャミングも効果無しです!」
「ならマルチロックオン! 小細工無しで消し飛ばすわよ!」
「捕捉完了! 撃てます!」
御星が操作し、美結が管制を行う。
見下ろすエヴォルグ量産機たちにロックオンマーカーが固定された。
「フルバースト! これでどうだ!?」
ライジングヴァルバーンに搭載した火砲が一斉に咆哮した。
大気を轟かせるほどのそれが、エヴォルグ量産機に容赦なく降り注ぐ。
幾つもの火球が膨張し、灰色の煙が着弾地点を覆い隠す。
御星は全滅かつ必殺を確信した。
「まだです!」
美結の鋭い声音に、緩みかけた御星の緊張の糸が引き締まった。
すぐにライジングヴァルバーンを引かせる。
刹那、目の前を光線と触腕が過ぎていった。
「生き残りがいたの?」
「敵反応、半数が消失しています!」
美結の報告通りなら半分は残ったのだ。
御星は強い違和感を覚えた。
逃れ得ぬ高密度の集中砲火だったはずなのに。
偶然狙いが逸れたのか?
そんな偶然が都合よく起こり得るのか?
その疑問に至った時、一つの可能性が浮かび上がった。
「エヴォルグの向こうに、“誰か”の意思があったとしたら……?」
偶然は起こり得る。
エヴォルグ量産機の向こうにいる“誰か”……統率、或いは制御している者がいたのだとすれば。
ライジングヴァルバーンの一斉射撃が、その“誰か”の願いを打ち砕こうとした。
つまり、“他人を不幸にする行動不可の法則”に触れた――。
「そんな願い、私は絶対認めない!」
御星は叫びを叩きつけた。
「どんな願いでも、誰かを犠牲にして成り立つなんて、私は絶対認めない!」
爆発した思惟がライジングヴァルバーンを猪突させる。
「突撃!? 危険です!」
「どうしても当たる距離まで近付けば!」
美結の制止を振り切り、御星はライジングヴァルバーンと一体となって敵の群れへと飛び込んだ。
皆が幸せになれる世界を、誰かの不幸と犠牲を許さない思惟を叩き付けるために。
大成功
🔵🔵🔵
アルジェン・カーム
市街地突撃
UC発動中
…これ程悲惨な|終焉《エンディング》…久しく見てはいませんでした
そして…止めきれない無力さを味わうのも…ね
「アルジェン…」
それでも僕らに出来る事をしましょう
【戦闘知識】
市街地の状況と敵と市民の捕捉
【空中戦・念動力・弾幕・切断・二回攻撃・串刺し・怪力】
英霊剣群展開
キャバリアでは人を巻き込みます
ならば!
冥界の神
白虎門同時発動
「…人の身であろうと…お前達にボクが後れを取るとは思わないでよ!」
破壊の波動を纏いエヴォルグを直接破壊しながら市民の退避を誘導するぷっさん
ありがとうぷっさん…では…殲滅します!
生身でエヴォルグに襲いかかり拳や宝剣諸々で切り裂き粉砕し殲滅開始!!
●未だ終焉の道半ば
白昼の悪夢と化したゼラフィウムの市街地区画。
その惨状に冥皇神機プルートーで駆け付けたアルジェン・カーム(銀牙狼・f38896)は、穏やかな薄い双眸を苦く歪めた。
「……これ程悲惨な|終焉《エンディング》は、久しく見ていませんでした」
己の無力感から拳を叩きつけたい衝動が湧き上がるも、操縦桿を軋むほどに握りしめ、辛うじて堪えた。
『アルジェン……』
操縦者の思惟を感受したプルートーが声を掛ける。
苦い無力感を味わっているのはアルジェンだけではない。
プルートーもまた同じだった。
機械仕掛けの神であるにも関わらず、目の前の硬い現実に抗う事ができない。
現実は時折覆し得ない非情を突き付けてくる
より大きな力……世界の矯正力、或いは高次元の存在。
そんな抗い難い意思が介在しているのではないか?
そうと疑いたくもなってしまう。
「それでも」
と、アルジェンは言い続ける。
「僕らに出来る事をしましょう」
ただ黙って見過ごすわけにはいかない。
ゼラフィウムで悲劇が起きて、それに対する依頼が公開されたのは偶然かも知れない。
だが、その依頼を受諾したのは、自分自身のはずだ。
自分に依頼を受諾させた決意とはなんだ?
答えは決まっている。
思いを同じくするプルートーは、Bタラリアのバーニアノズルに噴射光を灯した。
エヴォルグ量産機にとって、避難民の列は格好の獲物だった。
ありがたい事に無抵抗の肉が群れをなして歩いているのだ。
勿論、人間側もただ黙って喰われているつもりはない。
レイテナ軍のシリウスを主力とするキャバリアが、避難民を囲んで火線を伸ばす。
キャバリアの防御陣の内側では、歩兵と装甲車からなる機械化歩兵部隊が守りを固めている。
『キャバリア部隊は成体だけを狙え! 幼体はこっちで処理する!』
『4時の方角から避難者の一団が来ます! その背後に敵多数! もう追いつかれます!』
『サックス小隊とシンバル小隊はビルの屋上に上がれ! 頭上から狙い撃ちにするんだ!』
怒号が通信帯域を飛び交う。
アルジェンを乗せたプルートーが発見したのは、まさに四面楚歌となっている市民の避難誘導の現場だった。
「英霊剣……ソードビット!」
アルジェンが念じるままに、無数の神剣の幻影が生じる。
それらはミサイルの如く敵を自動追尾し、美しい刃を突き立てた。
『イェーガーか!? 待て! こっちに来るな! 停止しろ!』
シリウスに制止され、アルジェンはすぐに意図を察した。
「非戦闘員との距離が近い。キャバリアでは巻き込んでしまいますね」
神機の力は只人の人体には大きすぎる。
Bタラリアの一吹かしで吹き飛ばしてしまいかねない。
アルジェンはプルートーのコクピットハッチを開き、我が身一つで飛び出した。
「キャバリア大にまで成長したエヴォルグは守備隊に任せましょう。ぷっさんも人の身になって援護を!」
プルートーは返事をするよりも黒い球体に包まれた。
球体が急激に収縮すると、長い黒髪を靡かせた少女が現れる。
「人の身であろうと……お前達にボクが後れを取るとは思わないでよ!」
少女に変化したプルートーの開いた掌から黒い波動が迸る。
シリウスの足もとをすり抜けて避難民に迫りつつあったエヴォルグ量産機の幼体は、波動を浴びた途端に身を崩し、緑色のシチューとなって路面にぶち撒けられた。
取りこぼしをアルジェンが追いかける。
「白虎門開門!」
高速で駆け抜けた刹那、宝剣Durandalを振り抜く。
人喰いの怪物は背中を切り裂かれ、緑の血飛沫をあげて悶えながら擱座した。
アルジェンは避難民に被害が及んでいない事を確認すると、Durandalに纏わりつく体液を払った。
レイテナ軍のキャバリア部隊はエヴォルグ量産機に十分対応できている。
キャバリアでは狙い難い幼体が曲者だが、自分とプルートーを加えた歩兵戦力で処理しきれるはずだ。
今は、この避難民達がシェルターに逃げ込むまで護衛に専念しよう――そう考えていた矢先、背後で悲鳴があがった。
振り返ると、避難民の一人が咳き込みながら仰向けに倒れ、激しい痙攣を始めていた。
「みんな離れろー! エヴォルグが出てくるぞー!」
誰かの絶叫にアルジェンは耳を疑った。
人の身体から?
キャバリアが産まれてくるというのか?
疑心はすぐに晴れた。
異様に膨れ上がった腹部が破裂した。
臓腑混じりの血の雨が降る最中、産声をあげたのは――紛れもなくエヴォルグ量産機だった。
アルジェンは本能的に踏み込む。
神速の斬撃が、エヴォルグ量産機の幼体の首を跳ねた。
「ぷっさん!」
「任せて!」
一言で意図を察したプルートーは、避難民の遺体に駆け寄って両手を翳す。
「死は終焉と共に再生の礎なり! 冥界の日々を超え今再び再誕せよ!」
両手から生じる波動が、賢者の石の奇跡を具現化する。
死者の散らばった血肉を再構成し、生前の形にまで復元した。
対骸転生機構。
禁じられた蘇生の技法である。
「対処療法ですが、これで――」
死の終焉は無かったことにできるはずだった。
だが、蘇生された避難民は立ち上がるよりも先に咳き込み始めた。
白目を剥いて激しく痙攣する。
そして、またしてもエヴォルグ量産機を産んだ。
「死して生まれ変わり、死ぬ前の過去に……生きていた頃と同じ状態に戻しても、エヴォルグを産み続けるのですか!?」
これでは、もう“既に人間ではなくなっている”ようなものじゃないか。
新たに産まれたエヴォルグ量産機を斬り伏せ、アルジェンは額を押さえた。
地面が波打つ。景色が曲がる。
「なら……殺すしか、ない? 産みの苦しみに終焉をもたらすには……命を|終焉《おわ》らせるしか……?」
エンドブレイカーに対する悪趣味な皮肉と思えてならない。
「……それでも」
Durandalの柄を握り直し、伏せていた顔をあげる。
「今は戦い続けることだけが、僕らに出来る事です」
それは、己を律するための言葉だった。
こんな事で揺れ動かされてはならない。
今までも多くの終焉を見届け、決着を付けてきたはずだ。
アルジェンはDurandalの剣先を敵に突き付け、果敢に刃を振り下ろす。
誰も望まない悲惨な終焉を破壊するために。
因果の流れは未だ終焉に至らず、道半ばに過ぎない。
しかしなれど、猟兵達は終焉へと着実に近付きつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
ガイ・レックウ
SPDで判定。市街地に参戦
『ふざけやがって‥元凶は絶対倒す!』
決意とともにコズミックスターインパルスを駆るぜ。
市街地なのでブレードとバンカーのみでエヴォルグと戦うこたになるので【オーラ防御】を固め、【見切り】で攻撃を避けつつ、【鎧砕き】と【なぎ払い】を叩き込むぜ。
頃合いをみてユーベルコード【竜魂術『天竜の輪廻』】を発動、敵味方を識別しながら一掃してやる!
『待ってやがれ、元凶。絶対に許さねえ!』
●それは正しい形をしている
市街地を滑走する特空機1型・極 コズミック・スターインパルス。
その機体の中で、ガイ・レックウ(因果紡ぐ|流浪人《ルロウニン》・f01997)は、憤りを煮沸させていた。
「ふざけやがって……元凶は絶対倒す!」
足もとを過ぎてゆくのは、食い散らかされた人体と腹が内側から破裂した変死体。
見せ付けられた理不尽に、手がいっそう操縦桿を強く握りしめた。
ゼラフィウムの市街地区画は広大だ。
要塞中央を円環状に取り囲んでいる。
市街地に安全な場所は既にない。
擱座したキャバリアやエヴォルグ量産機の死体が、戦闘が市街地全域に及んでいる事を黙示していた。
どこから手を付ければいい?
焦りが神経を苛立たせる。
大きな通りを直進し続けていると、遠方にキャバリアの集団が見えてきた。
シリウスを主力とする中隊規模の集団だった。
「ありゃ……レイテナ軍か?」
コズミック・スターインパルスはバーニアノズルから火を消して減速し、路面に足を着けて走行し始めた。
『9時の方角から接近中の機体へ。コズミック・スターインパルスか?』
通信回線から太くて重い男の声がした。
聞き覚えのある声だった。
「あんたは、確かレブロス中隊の……」
『こちらはアルフレッド・ディゴリー大尉だ』
シリウスの部隊に近付くにつれ、状況が見えてきた。
避難者の誘導及び護衛を行っている最中らしい。
「ガイ・レックウだ。参謀本部の依頼で救援に来たぜ!」
『レブロス01よりスターインパルスへ。了解した』
「そっちの状況は!?」
『現在、非戦闘員を救助しつつ護衛並びに誘導を行っている。スターインパルスにはこちらと合流し、避難者護衛の支援を求める』
「了解だ!」
アルフレッドらは散ってしまった避難者達を集めつつシェルターへと向かっているらしい。
避難者の数は結構な人数に及んでいる。
人の集団を優先して襲う人喰いキャバリアにとって、格好の標的だろう。
『レブロス12より友軍各位! 3時と6時の方角から敵集団が接近中!』
『こちらレブロス07! 9時と11時と1時の方角からも来ます!』
『レブロス01より各位。接近する敵を順次迎撃しろ。キャバリアに乗っている者は成体を狙え。歩兵と装甲車は成長途中の個体を処理せよ』
レブロス中隊を中核とした混成部隊が、避難者達を中心に防御陣を構築する。
ガイのコズミック・スターインパルスも守備の一員に加わった。
「機関砲やハイペリオンランチャーは危ないな……!」
ガイは背後の避難者達を一瞥した。
距離が近い。
機関砲は排出した薬莢が避難者を直撃する恐れがある。
ビームキャノンは飛散粒子が避難者に降り注ぐ恐れがある。
回避運動も危険だ。
ブースターのバックブラストで避難者を吹き飛ばしかねない。
躱した敵の攻撃が避難者に直撃してしまう事態も容易に想像できた。
「ブレードとバンカーだけで相手してやるぜ!」
コズミック・スターインパルスは闘鬼刃を抜き、マグナムバンカーを構えた。
エヴォルグ量産機の集団が道路横一面を埋め尽くして迫る。
コズミック・スターインパルスは、正面から果敢に立ち向かう。
「効くかよ!」
無数に伸びてきた触腕を闘鬼刃で切り払う。
切り払い損ねた触腕が装甲を打つが、コーティングシールドに阻まれて貫通には至らなかった。
攻撃にさらされながらも強引に前へと出る。
敵の先頭集団と距離が詰まった。
「その卵みてぇな顔面をふっ飛ばしてやるぜ!」
コズミック・スターインパルスが右腕を引く。
機体の重量を乗せて突き出す。
マグナムバンカーの先端がエヴォルグ量産機の顔面に突き刺さった。
ガイがトリガーを引く。
炸薬が爆ぜる。
剛鉄の杭が打ち込まれた。
エヴォルグ量産機の顔面は、内部に浸透した衝撃によって破裂した。
まずは一体。
だが呼吸する間もなく敵が迫る。
咄嗟に闘鬼刃で斬り伏せた。
「一匹ずつ始末してたんじゃ間に合わねえ!」
ガイはコズミック・スターインパルスを後方に飛び退かせた。
そして闘鬼刃の切っ先で空を突く。
「天高く舞う竜の魂よ! 害なすものに罰を! ただしきものに祝福を! 輪廻の如く繰り返せ!」
コズミック・スターインパルスの頭上に蒼き天嵐が渦を巻く。
嵐は急激に範囲を拡大し、晴天を覆い隠した。
白い雨が降り注ぎ、雲が轟く。
直後、紅い稲妻が走った。
稲妻はエヴォルグ量産機を次々に撃ち、その身を蝕む呪いで侵す。
多くの敵が侵攻を止めた。
レブロス中隊はその好機を逃さずに、高周波ブレードで首を跳ねてとどめを刺す。
「敵の数はこれでなんとか――」
減らせるか?
そう言いかけた矢先だった。
『こちらレブロス12! 避難者の中にエヴォルグ出現の兆候あり!』
ガイは咄嗟に振り返った。
コズミック・スターインパルスはガイの視線の動きに追従して真後ろに旋回する。
避難者達の円の中心部。
そこで一人の避難者が、仰向けになって激しく痙攣していた。
『こちらレブロス01。幼体が出現する前に排除せよ』
小銃を構えた歩兵が前に出る。
「待て! そいつは天竜の輪廻の雨を浴びてる! 浄化できるはず――」
ガイが言葉を言い終える直前、避難者の腹が内側から破裂した。
赤い血と白い雨を浴びて産声をあげたのは、エヴォルグ量産機の幼体だった。
ガイは、人体からキャバリアが産まれる奇跡の瞬間に対面した。
だがすぐに紅の稲妻が落ち、産まれたばかりの幼体を母体諸共に灼いてしまう。
「毒でも、呪いでも……不浄でもないのか……?」
ガイは全身ごと顔を硬直させ、喉から声を絞り出した。
「だったら、これが“正常な状態”だっていうのかよ……!?」
理不尽を押し付ける埒外の力、ユーベルコード。
そのユーベルコードに抗する理不尽の存在に、ガイは得体の知れない不穏を味わい、悔しさに奥歯を噛んだ。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイミィ・ブラッディバック
【イェーガー社】
市街地区画に向かいます
ケイト参謀次長に通信
スラム街・市街地問わず展開中の全部隊に、「エヴォルグ出現の瞬間」の映像データの提供を行うよう依頼
イヴさんのステータスも含めたビッグデータを量子クラウドデータベースに蓄積
「ビッグデータを元に機械学習モデルを構築する」
頼みます、WHITE KNIGHT
クレイシザーに搭載されたAIにエヴォルグ出現パターンを学習させ、エヴォルグ化の兆候がない市民をクレイシザーに乗せて安全なシェルターに誘導
エヴォルグ相手にはCOAT OF ARMSで対抗
一人でも多くの市民の救助を
撃墜したエヴォルグは鹵獲、イヴさん経由で転送
今回の事態の事後調査・検証が必要です
イヴ・イングス
【イェーガー社】
始めますか店長
付近の民間人に対して片っ端からステータスオープン!
エヴォルグ化の条件をステータスから確認!
アンサズ地方ガイアス大公国首都アスガルズ大公府に量子通信開始
大公陛下、ご準備は?
「無論、万事滞りない! 受け入れ準備は整っている! 卿らは残骸を回収、量子転送を頼む!」
Yes, your majesty! 情報伝達+ハッキングによりエヴォルグの残骸の物理データを量子化、ガイアス国立生科研のラボへ転送!
大量の物資とか生き物とか送れない試作システムですが
1機分の残骸くらいは送れますからね
「首都に詰めている近衛騎士も臨戦態勢で待機中だ。解剖調査結果はすぐに知らせる、しばし待て!」
●エヴォルグの繭
市街地区画の救援に向かったイェーガー社の一機と一人――ジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/Mechanized Michael・f29697)と、イヴ・イングス
(RTA走者の受付嬢・Any%・f41801)は、アルフレッド隷下のレブロス中隊と合流。避難者達の護衛に当たっていた。
そして奇跡の光景を目の当たりにする。
人体からキャバリアが産まれる、奇跡の光景を。
「本当に人のお腹を喰い破ってエヴォルグが出てくるんですねー」
ARL-YGCV-23 オリハルコンドラグーン "EVE"のセンサーカメラが、人とエヴォルグの幼体の死体を拡大表示した。
それを見たイヴは、恐れや嫌悪よりも、むしろ神秘性を感じていた。
いかなるメカニズムで人がエヴォルグを産むのか……。
ジェイミィにとっても、それは看過し難い学習対象であった。
『ケイト参謀次長、通信状態はいかがでしょうか?』
『こちらでは良好に受信しています』
サブウィンドウが視覚野に開く。
その中に収まるケイト・マインド。
口許から薄い笑みが消えていた。
人の中からエヴォルグが発生するという状況は、彼女の想定にもなかったのだろう。
『スラム街と市街地問わず、展開中の全部隊に、エヴォルグが人体から出現した瞬間の映像データの提供を呼びかけていただけないでしょうか? こちらで出現パターンの予測をしてみます』
『分かりました。集積した映像データを順次お送りします。解析結果は私どもと共有してください』
『もちろんです。では』
通信を終えてすぐ、ゼラフィウム司令部からHMCCV-CU-01[M] TYPE[JM-E]"MICHAEL"の元に映像データが送られ始めた。
既に膨大なデータ量に及んでいるそれらをN.E.U.R.O. DATABASEに蓄積。得られたビッグデータを元にWHITE KNIGHTが機械学習モデルを構築する。
『いかがです?』
『エヴォルグ出現パターンを特定した』
『想定より早い仕事ですね』
呆気ない特定に、ジェイミィは感嘆の感情表現を演じてみせる。
『推定エヴォルグウィルスの感染者の体内からエヴォルグが出現する際、以下のプロセスが発生する。激しい咳。起立保持困難。目、鼻、口からの出血。激しい痙攣。その後、エヴォルグ量産機の幼体は、腹腔を裂いて出現する』
『十中八九その通りのようですね』
ジェイミィの視覚野に広げたエヴォルグ出現直前の映像群は、いずれもWHITE KNIGHTが言った通りの経緯を辿っていた。
『プロセス発生から幼体出現までの時間は、長くて数十秒だ』
「そんなに短いんです? じゃあ発症した時点で手遅れじゃないですか」
横槍を入れたイヴにWHITE KNIGHTは「そうだ」と短く応じた。
「あーでも、ユーベルコードなら?」
『現時点で効果的なユーベルコードは発見されていない』
「なんでですか? ひょっとしてユーベルコードを中和されているんですか?」
『不明だ。だが感染者の症状は毒、呪い、状態異常のいずれにも該当していない』
「どう見ても異常ですよね?」
『その先入観を逆手に取られているとも考えられる』
出現の兆候の特定は叶った。
しかし兆候が現れてから出現するまでの時間が短すぎる。
これでは治療の手立てがない。
ともすれば、今は感染していない者を優先して逃す他にないとイヴは結論付けた。
そのためには感染者と非感染者を明確に区別する指標が必要だった。
「店長、やっぱりサンプルを解析しないとダメっぽいですよ」
『我々の手には負えませんか』
ジェイミィはエヴォルグ量産機が伸ばした触腕をシールドガンビットで防ぎながら言う。
しかし、この場で患者の遺体を解析していられる余裕も設備もない。
「というわけでもしもし! ガイアス大公陛下! もしもーし!」
『聞こえている。通信状態は良好……とは言えないが』
ノイズまみれで途切れ途切れではあるものの、確かに呼びかけた相手とは通信が結ばれている。
その相手とは、ヴィルヘルム・フォン・ガイアス。
通信を繋いだ先はアンサズ地方、ガイアス大公国首都、アスガルズ大公府だった。
アーレス大陸とアンサズ地方が属する大陸は、長大な距離という分厚く高い壁で阻まれている。
ここ、クロムキャバリアは、世界規模で広域通信網が失われて久しく、両者の間にも通信手段は存在しない。
故に、イヴが繋いだ通信は、極めて限定的かつ厳しい条件を満たした上で、やっと成立するかしないかの非常に危うい量子通信だった。
「おー、繋がりましたか。いつ切れてもおかしくないので手短に! これからガイアス国立生科研のラボ宛に、エヴォルグとその母体となった感染者の遺体を転送します!」
『この通信状態では、転送先での再構築率は三割が精々といったところだろうが……こちらでの受け入れ準備は整っている! 近衛騎士も万全な防疫で待機中だ』
「では後はよろしくお願いしますね!」
『解析結果はすぐに知らせる、しばし待て!』
イヴとヴィルヘルムは舌を噛みそうになるほどの早口で通信を終えた。
「イエス! ユアマジェスティ!」
ここからはドラゴンプロトコルでワールドハッカーのイヴの本領である。
オリハルコンドラグーンから放射した干渉波でエヴォルグ量産機の幼体と母体の亡骸を量子化し、遥か遠く離れたアンサズ地方のガイアス大公領へと転送した。
『さて……結果が発表されるまでは、依頼内容の履行に努めましょうか』
吉報を寝て待つわけにもいかない。
ジェイミィとイヴは、レブロス中隊と共に避難者の集団を誘導しつつ、次から次へと休む間もなく襲来するエヴォルグ量産機を退け続けた。
『解析結果が出た』
ヴィルヘルムからの報告があったのは、やっとひとつの避難者集団をシェルターに送り届け、次の集団の誘導を始めたばかりの時だった。
『まず推定エヴォルグウィルスの感染者についてだが……感染者は“正常な状態”だ。いや……“感染者としては正常な状態”と表現するべきか……感染者という表現も正しいとは言えない』
言葉を選びかねているヴィルヘルムに、ジェイミィとイヴは無言の疑問を投げた。
『結論から言おう。推定エヴォルグウィルスは病気ではない。我々が症状と解釈する状態は、謂わば妊娠期間だ。そして、感染者は既に人間ではない』
一機と一人はますます疑問を深めた。
ヴィルヘルムは『これから話す内容については、推測を交えている』と断ってから続ける。
『発症の原因は、恐らくナノマシンだ。魔術的な痕跡、あるいはユーベルコードを行使された痕跡は確認できなかった』
「店長、エヴォルグウィルスって確かナノマシンなんですよね?」
イヴの問いにジェイミィは頷きを返す。
『間違いありません。日乃和とレイテナの両国が公式にそう発表しています。ワクチンとしてナノディスアセンブラーも開発されています。既にエヴォルグウィルスは脅威ではなくなっています』
『そのエヴォルグウィルスを改良したものなのだろう。感染者の体内からナノマシンは検出されなかったが、ナノマシンでもなければこんな事は不可能だ。体内に侵入してから短期間の内に役目を終え、体外に排出されたものと考えられる』
『大公陛下、こんな事とは?』
『人体を根本的に作り変えるのだ。人体の定義を保持した上でな』
『つまり、遺伝子を改ざんするナノマシンと?』
『精査の結果、一行分だけ人間とは異なる塩基配列を発見した。生科研では、これが人体を作り変えた犯人と見ている』
「よく見付けましたね。レイテナで患者の精密検査を行った際には、発見できなかったそうですけど……」
イヴの言う事はレイテナの公式発表にも沿っている。
レイテナは特段医療技術に劣っている訳でもない。
ましてや、人体を変異させるエヴォルグウィルスの脅威を経験しているのだから、遺伝子の改ざんなど真っ先に目を付けそうなものだが……イヴにはそう思えた。
『推測となるが、新型のエヴォルグウィルスは潜伏期間を有し、その間に遺伝子書き換えを分割処理していると思われる。書き換えの大部分は非発見領域に蓄積され、発現に必要なスイッチを受け取るまで、遺伝子は表面的に人間のままを保っていたのだろう。だから、完全に発症するまで、改ざんされた塩基配列の発見に至らなかった』
「発現に必要なスイッチですか? 何かのきっかけが必要だってことですか?」
『患者の細胞内に脳量子波の受容体が精製されていた。一般の人間が持たない受容体だ』
脳量子波――攻撃端末のサイコ・ドローンなどの制御に必要な脳波であることは、ジェイミィもイヴも知るところであった。
『この受容体は特定の脳量子波を受け取ると、人体に急激な代謝を促す。そして短時間の内に人体を作り変えるのだ。エヴォルグの繭としてな』
「エヴォルグの繭……」
イヴはヴィルヘルムの言葉を反芻した。
感染者は、感染した時点で人ではなくなっている。
その身で密やかにエヴォルグの胚を育む、人間の姿をした全く別の存在……エヴォルグの繭。
繭の状態は異常ではない。
繭が繭としてあるのは正しい状態だ。
故に、ユーベルコードの“異常を治す”や“浄化する”という概念が効果を及ぼさなかった。
そして繭になった時点で、人間としての設計図は破棄されており、戻す先が存在しない。
故に、ユーベルコードの“元に戻す”という概念が効果を及ぼさなかった。
『感染者には風邪のような症状が現れるとのことだが、それは妊娠悪阻……“つわり”のようなものと解釈できる』
『産みの苦しみは異常ではなく通過儀礼。身体の不調ではないというわけですか』
ジェイミィには決して理解する事はできないが、その症状はむしろ祝福に近いものであると推論付けた。
「まるでユーベルコードに対策してきたみたいじゃないですか」
イヴは感染の偽装が、人類に対してというより、猟兵に対して行われているように思えてならなかった。
ナノマシンを散布した者の意図は知れずとも、人類を死滅させるのが目的なら、こんなに回りくどく、用意周到な発症プロセスを踏まえる必要があるのだろうか?
猟兵の妨害……ユーベルコードを行使される事を見越した上での発症プロセスなのでは――。
『大公陛下、治療法はあるのでしょうか?』
ジェイミィは通信装置越しに首を横に振るヴィルヘルムの姿を検知した。
『内科的処置、外科的手術、魔術的手段を問わず困難だ。例えるなら、感染者はミルクティーである。紅茶とミルクを混ぜ合わせるのは簡単だが、それを分離するのは非常に難しい。どこまで分離しても、ミルクティーという一個の存在になってしまっているのだからな』
『可能性があるとすれば?』
『ユーベルコードだが……イヴの見解通り、ユーベルコードの行使を見越してこのような発症形態になった気配が強い。人体を再構築した場合、元の肉体の一部でも残留していれば、再びエヴォルグの繭となってしまうだろう。かといって新規に構築した肉体に記憶を転写するのは、その人をその人たらしめている定義から逸脱してしまわないか……哲学の範疇にまで及ぶな』
三者が言葉を失い、通信帯域に沈黙が降りる。
その沈黙は耳障りなノイズによってすぐに破られた。
『そろそろ通信が切れるな……纏めよう。エヴォルグウィルスは病気ではない。感染者はエヴォルグを生み出すための繭だ。その変化は不可逆であり、現状での治療法は存在しない。対処方は感染しないこと。発症者は――』
そこで通信は無音に呑まれてしまった。
ヴィルヘルムが最後に言おうとしていた事は、ジェイミィもイヴも理解していた。
『繭の機能を失うまで破壊する他にない……ですか』
答えはジェイミィの想定の内にあった。
「まー、そうと決まれば今生きている人、感染してない人を安全に送り届けましょうか」
イヴはコクピット内に無数のホログラフィックウィンドウを立ち上げる。
「一斉ステータスオープンっと……お腹からエヴォルグが飛び出してこない人は~っと……」
ヴィルヘルムから知らされた症状を踏まえ、護衛中の避難者達の中から“人間であるもの”をピックアップする。
「店長~、この人とあの人とそっちの人とあそこの人は大丈夫っぽいです。クレイシザーに乗せてあげてください」
『了解です。今は一人でも多くの市民を救助しましょう』
ジェイミィは隷下のクレイシザーに、背部コンテナのハッチを開放するよう指令信号を送った。
丸裸で外を歩かせているより、コンテナの中の方が遥かに安全である。
最悪、地中に潜って退避する事も可能だ。
一方でコンテナに入る資格を得られなかった者達をどうするか、ジェイミィとイヴは判断を先送りにせざるを得なかった。
救える命が最優先だ。
救えない命は……これまでしてきたようにする。
夏日の容赦ない太陽は、道路に陽炎を揺らめかせていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アレフ・フール
スラム参加
バーラント教皇庁の援護に向かう
……これが…エヴォルグ…まさに地獄か…!
「マスター!俺のUCじゃ難民も巻き込んじまうぞ!」
全知・超克発動
……叡智を尽し被害を減らす為の戦術戦略を考察
………!すまぬ!(残酷な結果に歯噛み
UC発動
「…ワシを以てしてもこれ程悍ましいものは見たことが無い…!」
【戦闘知識】
教皇庁側とエクシィ側の戦闘能力と戦術も解析
適切な援護と防衛の立ち回りを把握
愚者
「人の身でこういう輩と戦うのは経験が無いわけではない」
エヴォルグに飛び掛かり魔剣で貫き内側から焼
可能限り難民の避難経路を確保
アレウス(アレフ)
【グラップル】
基本的にエヴォルグは掴みそのまま砕く
踏みつぶし
暴虐を見せる
●地獄川の中洲
混沌の様相を極めるゼラフィウム外縁部。
難民街の粗末なバラックやテントはいとも容易く破壊され、炎の焚き付けとなって火勢を助長していた。
人々は火災、人喰いキャバリア、レイテナ軍の砲撃から逃げ惑う。
「まさにこの世の地獄か……!」
アレフ・フール(愚者・f40806)は、広がる光景に苦渋の表情を歪めた。
乗機アレウスから一歩外に出た先には、言葉通りの地獄が広がっている。
男女も老いも若いも関係ない。
全ての者に等しく死が降り注いだ。
「機械教皇庁のシスター達は無事なのか?」
アレフにとって特に気がかりなのはエクシィらだった。
この辺りにバーラント機械教皇庁が天幕を張っていたはずだが……見渡している内に、燃える炎の中に黒い布が見えた。
記されたエンブレムは間違いなく機械教皇庁のそれだった。
「シスター達はどこかに逃げたのか? 巻き込まれてしまったのか?」
多数の患者も受け入れていたはずだ。
患者はともかく、エクシィはそう簡単に死ぬとも思えなかったが――アレフはプラズマビームの発射音を背中で聞いた。
「あのキャバリアは……!」
振り向いた先には、漆黒のキャバリア、ガイストが複数機と、黄金に輝く重装キャバリア、カナリアが一機。
いずれの機体も、肩部に機械教皇庁のエンブレムを輝かせていた。
機械教皇庁のキャバリア部隊は、防御陣地を構成して人喰いキャバリアを迎撃している。
陣地の内側には、何人かの難民が身を寄せ合い、縮こまっていた。
まるで濁流の中に取り残された中洲だ。
「エクシィがいるのか!?」
アレフはオープンチャンネルに向けて声を投げた。
『私を呼ぶのはだぁぁぁれです? いま忙しいんですけど……って、アーレスのパチモン! という事はアレフ坊やですね?』
すぐにエクシィ・ベルンハルトの声が返ってきた。
『闘神アーレスの冒涜者め……』
『忌々しや……』
『呪いあれ……』
『災いあれ……』
『裁きあれ……』
露骨に聞こえる囁き声で恨み節を唱えているのは、ガイストのパイロット達らしい。
おおよそ修道女達なのだろうなと、アレフは心底居心地の悪さを覚えた。
「エクシィ! これはどうなっておるのだ!?」
『さあ? 急に患者が暴れ出してお腹がバァァァン! エヴォルグがオギャァァァ! スラム中どったんばったん大騒ぎですよん。ほんっっっと死体焼いといてよかったぁぁぁ! 私ってば気が利きますねぇぇぇ!』
「患者の腹? エヴォルグ? どういう意味なのだ!?」
『まぁぁぁだ見てなかったんですん? ほぉぉぉらほらどいたどいたぁぁぁ! 邪魔邪魔お邪魔ですよぉぉぉん!』
カナリアが両肩部に搭載したメガビームキャノンを撃ちまくる。
拡散モードの無差別砲撃は、人喰いキャバリアのみならず難民達も巻き添えにした。
ガイスト達もカナリアに倣ってビームライフルを遠慮なく撃っている。
「おい! 止さんか! 難民達が!」
『いやでぇぇぇす! 止しませぇぇぇん! そこら中お腹にエヴォルグ抱えた人ばっかですもぉぉぉん! ほぉぉぉら! 弱き罪人どもは執行官が直々にアーレスの御元に送ってさしあげますよぉぉぉ! ありがたく思いなさぁぁぁい!』
「難民の腹にエヴォルグだと!?」
『さっきからうっさいですねぇ……やぁぁぁれやれ、これだから子どもは……』
「ワシはこう見えて――」
『坊ぉぉぉやの歳なんかに興味ありませぇぇぇん! 邪魔するなら帰ってもらえますん? 手伝いに来たなら手を動かしたらどぉぉぉです? そのパチモンアーレスはお飾りですかぁぁぁ!? 玩具ですかぁぁぁ!?』
大声早口で煽り立てるエクシィに、流石のアレフも額に血管の脈動を感じた。
「こやついい加減に……!」
『マスター! 奴はムカつくけど言ってることは正しいぜ!』
アレウスの正論にアレフはぐうの音を出して押し黙る。
「敵を倒すのが先決か……アレウス、ワシは降りて戦う。小さいのは任せよ」
『その方が良さそうだぜ! キャバリアサイズのは任せてくれ!』
アレフは開放されたコクピットハッチから飛び降り、スラム街へ我が身一貫で躍り出た。
先んじてアレウスが駆け出す。
迫るエヴォルグ量産機の成体に挑みかかる。
触腕とレーザーを装甲で受け、剥いたゆで卵のようにつるりとした頭部に掴みかかった。
『オレじゃ機神刻衝拳は使えないけど!』
握撃で頭部を握り潰す。
だらりと四肢をぶら下げたエヴォルグ量産機を、敵の後続に投げつける。
ぶつかり合い、動きを止めた瞬間に跳躍。
全備重量を乗せた自由落下で踏み潰した。
一方のアレウスは、人ほどの全長にも満たないエヴォルグ量産機の幼体の処理に追われていた。
魔剣『力の叫び』を振り回し、叩き切っては投げ、叩き切っては投げる。
「ええい! 次から次へと!」
まるで切りがない。
「た、助けてくれー!」
やってくるのはエヴォルグだけではない。
逃げ場を失った難民達もだ。
「大丈夫か!? こっちへ来い!」
アレフは手で合図を送る。
それに気付いた難民が息を切らしながら走ってくる。
だが、その足が突然もつれた。
「おい! しっかりしろ!」
そんなところで転んでいては人喰いキャバリアの餌食になってしまう。
アレフは慌てて駆け寄る。
すると転んだ難民は激しく咳き込み、仰向けになって全身を震わせ始めた。
「な、なんだ?」
困惑するアレフ。
難民は白目を剥き、目と鼻と口から夥しい量の血を流す。
腹部が異様に膨張しているのに気付いた瞬間、その腹が内側から破裂した。
そして内部から現れたのは、小さなエヴォルグ量産機だった。
「人が……キャバリアを産んだ……!?」
これが、エクシィの言っていた事だったのか?
驚愕に目を丸くしていたのも一瞬。
アレフは咄嗟に魔剣を逆手に持ち替え、突き立てた。
「すまぬ!」
魔剣がエヴォルグ量産機の幼体を難民ごと貫く。
獄炎が噴き出し、昇った灼熱の火柱がアレフ諸共に呑み込んだ。
しかし、火柱が魔剣によって切り裂かれた。
そこに立っていたのは、憤怒の獄炎を纏うオブリビオン、憤怒の愚者に変貌を遂げたアレフだった。
「これ程悍ましいものは、見たことが無い……!」
世界の理から外れた埒外の奇跡に、アレフの怒りが膨れ上がる。
「在ってはならぬ! 許してはならぬ!」
それを示すかの如く、獄炎は赤黒く燃え揺らいでいた。
大成功
🔵🔵🔵
テラ・ウィンディア
市街地救援
…な、なんだこれ…!(絶句
「…まさか…これもテレサ・ゼロハートが…!?」
UC発動中
ガンドライド発動
迅雷発動
【戦闘知識】
敵機と味方機の状況
市民の場所や避難経路を把握
【属性攻撃・空中戦・重量攻撃・見切り・第六感・オーラ防御】
複製ヘカテイアを散開させエヴォルグを粉砕
避難経路を確保して誘導
重力フィールドを纏い可能な限り衝撃による被害を減らす
市民はオーラで可能な限り防衛
そして…エヴォルグが生まれれば
……畜生!
そのまま踏みつぶし粉砕
罵倒は甘んじて受ける
…きついな…こんなにきつい戦いは…初めてかもしれない…それでも…!
「テラ…!」
助けられる命は全力を以て助けるぞ!
おれの手が届くなら…!
●ノー・ウェイ・アウト
「どういうんだ、これ……!?」
人々が逃げ惑い、怪物に喰われ、爆発で千切れ飛ぶ。
轟音と断末魔が織りなす地獄の交響曲。
酷い映画のような光景に、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は言葉を失ったまま開口した。
「まさか……これもオリジナル・テレサがやってることなのか……?」
脳裏に呼び起こすのは、テレサ・ゼロハートに瓜二つの少女。
東アーレス半島沿岸で行われた艦隊決戦の終盤、撃墜したヘルストーカーを操縦していた彼女が、今の状況を生み出しているのか?
だがしかし、彼女の身柄はイーストガード海軍基地でレイテナに引き渡されていたはず。
逃げ出したなんて噂は聞いていないし、ゼラフィウムにいるとも思えない。
「とにかく! どうにかしなきゃだが!」
どこから手を付ければいいのか分からない。
敵を倒す?
難民を避難させる?
味方はどこにいる?
「考えろ、考えろ考えろ考えろ……!」
脳の処理能力を越えた状況に、涙が溢れてくる。
テラはそれを堪え、とにかく手足とキャバリアを――ヘカテイアを動かした。
「だぁぁぁ! 人が邪魔でブースターも使えないじゃないか!」
いつもの調子で高速機動をすれば、難民を轢き殺してしまう。
止むなくヘカテイアを上昇させる他なかった。
戦域が俯瞰できるようになり、多少は状況が掴めるようになった。
最悪に最低で、混乱に混沌を極めているという状況が。
「ドリルビット! 行け!」
小型自律攻撃端末をリリースし、手近な敵を一体一体丁寧に仕留める。
制御はマニュアルモード。
突入角にも細心の注意を払わなければならないからだ。
ドリルビットの攻撃は勿論、エヴォルグ量産機が倒れた際、難民を巻き込まないように配慮する必要があった。
だが敵の数は一向に減る気配がない。
むしろ増えてきている気がする。
どこかに穴が空いていて、そこから敵が湧いてきているのではないか?
考えはしたが穴の実在を確かめている場合ではない。
敵を倒している間にすら、難民がどんどん死んでゆく。
「難民はどこに逃がしゃいいんだ!?」
まず、スラム街より内側の区画に避難させる事を思いついた。
だがすぐに断念せざるを得なかった。
というのも、内側の区画に通じるゲートが封鎖されていたからだ。
しかも、信じ難い光景を目撃してしまった。
「なんでレイテナ軍が難民を撃ってるんだよ!?」
守備隊のキャバリアが、兵士が、ゲートに近付く難民を片っ端から撃ち殺していたのだ。
加えて轟音の正体も判明した。
ギムレウスから成る砲兵部隊が、隔壁越しに榴弾を見境なく降らせていた。これが轟音を響かせる死の雨の正体である。
ゲート前の通路には、人の死体がうず高く積まれ、肉の防塁が形成されていた。
「お前らぁぁぁ! なんでこんな事してるんだよ!? やめろよ! やぁぁぁッ! めぇぇぇッ! ろぉぉぉッ!」
テラは制止を掛けるも、耳を貸すものは誰一人としていない。
兵士達もまた恐慌に駆られ、トリガーに掛けた指を離せずにいたのだ。
『テラ……! ゼラフィウムの外に逃がすのには時間がかかり過ぎて……』
「分かってる! 逃がしてる間に襲われるってんだろ!」
テラは焦りと苛立ちをヘカテイアにぶつけてしまう。
難民に逃げ場無し。
安全地帯の確保を強いられた。
「ウィザードモード起動! 我招くは嵐の夜! 以下略!」
ヘカテイアの影が158に複製された。
複製体はテラの思念に従い円形の陣を構築し、重力場を展開。ドーム状の結界を作り上げた。
結界の維持は複製体が担う。
テラ自身は内部のエヴォルグ量産機を駆除して回る。
その傍らで外の難民に退避を促す。
「みんなー! こっちに入れ! バリアの中に入るんだ!」
這々の体で逃げ込む難民達。
ひとまずこれでやり過ごせる。
胸を撫で下ろそうとした矢先だった。
『待って! あの人の様子が!』
ヘカテイアが一人の難民の様子を拡大表示した。
難民は激しく咳き込み、膝から地面に崩れ落ちた。
「なんだ!? どうした!?」
機体を接近させている間に、難民の容態が急変した。
仰向けになり、目と鼻と口から赤黒い血を流し始めた。
身体は電気ショックを受けたかの如く痙攣している。
直後、腹部が異様に膨れ上がり、張り裂けた。
吹き出す鮮血。
内部から産まれ出たのは――。
「そうやって殖えてたのかよぉぉぉッ!?」
テラが絶叫する。
ヘカテイアが紅龍槍『廣利王』を振り下ろす。
地面が震撼するほどの衝撃。
エヴォルグの幼体は、母体となった人の身体ごと跡形もなく潰れた。
『テラ! 他のところでも!』
ヘカテイアの報せの続きを、複製体の視野を通じて知ってしまった。
いま起きた奇跡と同じ奇跡が、結界の内側のそちこちで連鎖するように始まっている。
人からキャバリアが産まれるという悍ましい奇跡。
テラの心は怖気と怒りで滅茶苦茶にかき乱された。
「畜生! 畜生! 畜生!」
ヘカテイアは奇跡を叩き潰し、踏み潰して回った。
安全地帯になるはずだった結界内は、たちまちパニックで溢れ返る。
「人殺し! 人殺しぃぃぃ!」
誰かがそう罵りの叫びをあげた。
テラは叫び返したい衝動を噛み殺した。
「きついな……! こんなにきつい戦いは……初めてかもしれない……」
次から次へと起きる惨状に、頭の中が洗濯槽にぶち込まれたような感覚に陥った。
瞼の裏にはエヴォルグを産んだ瞬間の人の姿が張り付いて剥がれない。
「それでも……!」
テラとヘカテイアは取れる最善を尽くした。
助けられる命を助けきった頃、ヘカテイアの両足は、すっかり血肉と臓腑まみれになっていた。
潰した奇跡と救えた命は、どちらが多かったのだろうか?
テラはもう何も考えられなかった。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
心を燃やせ!命を燃やせ!難民を燃やせ!
契約書熟読した結果スラムはゼロハート氏がいるのでスラムへGOしてゼロハート氏の機体の上へ
|炎の呼吸《絨毯爆撃》で鬼共を煉獄送りにしてやろうぜ!燃やしちゃダメなんゼロハート氏?いいだろ百万人だぞ!
おっシスターがいるじゃん、なんか死ニシスタしそうでござるな…良いこと思いついた
選べよゼロハート氏、取れる手段は二つだ
難民を生き恥ポップコーンするか
ゼロハート氏が生き恥シスターするかひゃあがまんできねぇ!
なにがエボウイルスだ拙者が上書きしてやる!まず|自殺《左近どん》をキメますウッ!ふう死んだ死んだ
敵が拙者の死体を摂取するとUCもコピーする…つまりどんどんギャグ度が高まってく訳だ!遺棄されたタンパク質の有効活用…
こうやって難民もなんか死なないギャグ空間が出来上がるぞ!更に敵はUC使ってると死だぜ!
さあゼロハート氏願いを叶えた見返りに生き恥シスター服着てあっまたちょっと死ぬ
リスポーンしてシスターにもご挨拶でござる
ヘイシスター耳元密着囁きトロ甘ASMRしておくれよ!
●スラム街ボンバー
「ハァイ調子ィ?」
エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)はどこからともなく現れた。
テレサ機の頭部……メインカメラに張り付く格好で。
『ひゃあっ!? 誰です!?』
「そうです。私が変なオジサンです。あ変なオージサンったら変なオージサン。だっふんだ!」
『何をしに来たんです……? いまそれどころじゃないんですけど……』
「心を燃やせ! 命を燃やせ! 難民を燃やせ!」
『難民の犠牲を止めようとしてるのにどうしてそんな酷いことが言えるんですか!』
「燃やしちゃダメなん?」
『燃やしていい理由があるんですか!?』
「いいだろ百万人だぞ!」
『流石に百万はいないと思いますけど……』
「百万を殺して! 一千万を救うのだ!」
『その一千万はどこから出てきたんです?』
「出、出ますよ」
『出さなくていいです』
「出そうと思えば」
『いらないです』
「炎の呼吸で鬼共を煉獄送りにしてやろうぜ! ヒャッハーヒゲオヤジ神楽だ!」
『どうせまた新しい映画に影響されたんでしょ……』
「ん? 待たれよゼロハート氏」
『待ってられる状況じゃないです』
「女の子の良い香りがしますぞ!」
『人の話聞いてます? あと気持ち悪いです』
「あっちの方角でござるな! ゼロハート氏! オラ突撃だ! わっしょい!」
『あっちの方角って……あのキャバリアは、バーラントのガイスト!? 金色のキャバリアは確か、カナリア……?』
エドゥアルトの驚異的な嗅覚は、キャバリアに乗っている美少女の匂いも逃さない。
ガイストに搭乗している機械教皇庁の修道女達も、カナリアに搭乗しているエクシィも、一般常識的には美少女に分類される容姿を有していた。
「おっシスターがいるじゃん」
『なんで分かるんです?』
「エドゥアルト・アイは美少女力!」
『それしか見えてなさそうですもんね』
「なんか死ニシスタしそうでござるな」
『死にませんよ……同人ゲームじゃないんですから……』
「良いこと思いついた」
『あなたがそう言って良い事が起こった記憶がないんですけど』
「選べよゼロハート氏」
『嫌です』
「取れる手段は二つだ」
『嫌って言ったじゃないですか』
「難民を生き恥ポップコーンするか」
『あなたの表現は独特過ぎて何を言っているのか分からないです』
「ゼロハート氏が生き恥シスターするか」
『修道服を着るのは別に恥じゃないと思いますけど……』
「ヒャア! がまんできねぇ!」
『我慢するつもりなんてあったんです?』
「なにがエボウイルスだこの野郎馬鹿野郎俺は勝つぞこの野郎! 拙者が上書きしてやる!」
『少し前のリプレイで治療できないって言われてましたよ?』
「できんて……おいは恥ずかしか!」
『あなたに恥ずかしさを感じる心があるとは思えませんけど……』
「生きておれんごっ!」
エドゥアルトは一瞬の間も開けず己の腹を刀で裂いた。
『割腹自殺を見せ付けられてトラウマなんですけど……』
「ふう死んだ死んだ」
『死んだ人は喋りませんよ』
「次に可及的速やかにエヴォルグ野郎に喰われます」
『お腹壊しそうですね』
「拙者を喰ったエヴォルグ野郎は拙者のユーベルコードをコピーします」
『私ならコピーできても使いませんよ』
「するとなんという事でしょう。難民もなんか死なないギャグ空間が出来上がったではありませんか」
『それ……敵も倒せなくなるんじゃ……?』
「敵は死ぬ!」
『都合の良いユーベルコードですね……』
「さあゼロハート氏! 願いを叶えた見返りに生き恥シスター服着て!」
『願ってないです』
「おう脱げよ犬が服着てんのかよ」
『着ますよ?』
「シスター服着てください! なんでもしますから!」
『あなたは何にもしないでください』
「あっまたちょっと死ぬ」
『死なないギャグ空間じゃなかったんですか?』
何回目かの突然の死を遂げたエドゥアルトは、今度はエクシィが乗るカナリアの元へリスポーンした。
「ヘイシスター!」
『あ゙ぁ゙? あー、その変質者っぽい人相、エドゥアルトって人ですか。いま忙しいんでぇぇぇ、遊び相手は他所で探してくださぁぁぁい』
「耳元密着囁きトロ甘ASMRしておくれよ!」
『はぁぁぁ? いやだから忙しぃぃぃんですけどぉぉぉ!?』
「耳奥はむはむしてくださいオナシャスセンセンシャル!」
『あぁぁぁもぉぉぉ! 気持ち悪いオジサンですねぇぇぇ!』
「アォオン! もっと言って!」
するとカナリアのコクピットハッチが開かれ、中からエクシィが現れた。
『ほぉぉぉらほら、耳貸してくださいよん』
「ウホッ! マジで!? おうあくしろよおう!」
エドゥアルトは号泣議員のように耳に手をかざす。
エクシィは胸いっぱいに空気を吸い込むと、唇をそっとエドゥアルトの耳元へと近付けた。
そして――。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
エクシィの大絶叫を最後に、エドゥアルトの世界から、音が消えた。
「透明だ……気分がいい……」
大成功
🔵🔵🔵
皇・絶華
連環神機搭乗
スラム突撃
…これ程の惨劇は私も見た事は無いな
さっちゃん…力を尽くすぞ
「…この状況…ま、まさか主様…!?」
UC発動中
【戦闘知識】
戦場の状況把握
更に難民達を可能な限り視認による捕捉を開始
【薬品調合・バーサーク】
ハッピーチョコ天国発動!
視認したエヴォルグを生んだ難民
怪我をした難民
虫の息の難民諸々にチョコ捻じ込み
テレサの前でOPの悲劇が更に繰り返され…
幼子から生まれるエヴォルグ量産機
そして親に襲いかかる我が子から産まれた子
その生まれた子を…掴み…握りつぶすむきむきになった我が子(!?
出産後は怪我であり衰弱…故に…完全治療の対象だな!
エヴォルグを生んだ難民も…他の難民も須らく治療!
命ずるのは…エヴォルグ量産型を殲滅し安全圏まで離脱せよ
同時にシャイニングチョコ発動
【念動力・二回攻撃・切断・弾幕・空中機動】
念動力で飛び難民への被害を抑えつつ念動光弾を叩き込み
神機の主でころちゃん(幼女)は難民を襲うエヴォルグを撲殺
そして…戦場に降り注ぐチョコ邪神植物でエヴォルグを捕食したりチョコ捻じ込み爆破
●甘い災厄
阿鼻叫喚が支配するスラム街。
逃げ場を失って闇雲に走り回る難民達。
人の腹を裂いて産まれるエヴォルグ量産機。
降り注ぐ榴弾の雨が炸裂するたびに、肉片が辺りに飛び散った。
「……これ程の惨劇は私も見た事は無いな」
皇・絶華(影月・f40792)にしても、連環神機『サートゥルヌス』から一望するスラム街は、顔から感情を拭い去ってしまうほどの惨状だった。
もはや戦いですらない。
尊厳無き死が蔓延るその光景は、地獄絵図以外に相応しい表現が見当たらなかった。
「さっちゃん……力を尽くすぞ」
状況を打開できるのは、猟兵だけだ。
絶華は強い確信を籠めて口を開いた。
『主様……!』
サートゥルヌスも絶華の意思を察して覚悟を固める。
もう間に合わないかも知れない。
惨劇は止まらない。
だが黙って諦観しているのは違う。
己と主は理不尽に抗う術を持っている。
だから戦う。
「さっちゃんにころちゃん……お前達と我が力をその身に込めろ!」
『任せろ主様!』
絶華の啖呵にサートゥルヌスは力強く応えた。
『朕達神機の恐ろしさ……今こそ見せてやる!』
随伴する輝光神機『ロクシアス・コロニス』も劣らぬ気合いを示す。
「あらゆる傷も病も! あらゆる災いも! 我がチョコの圧倒的なパワーで祓ってくれよう!」
『……っておい主様!?』
サートゥルヌスは出鼻をくじかれた。
てっきり難民達を一人でも多く救出するか、エヴォルグ量産機を一体でも多く叩くつもりなのだと思っていたが……絶華がそんな馬鹿正直な戦術行動を取るはずもなかった。
「さぁ……喜びの叫びをあげるがいい!」
ぜっちゃんとハッピーチョコ天国。
サートゥルヌスを触媒として放たれたそのユーベルコードは、無数の触手状のチョコレートとなり、絶華が視認している全ての難民達に襲いかかった。
老いも若いも関係ない。
男女の区分もなく、健康体であろうが、負傷していようが、虫の息であろうとも、その口に無理矢理にねじ込んでいった。
「誰が!? イェーガーのユーベルコード!? どうして!? やめて! やめてぇぇぇッ!」
その光景にテレサが叫ぶ。
テレサは絶華のユーベルコードの詳細など知る由もない。
故に、テレサには、茶色い触手が難民達に襲いかかっている光景にしか見えなかった。
「テレサよ! 案ずるな! 我がチョコレートで難民たちは圧倒的パワーを得られるのだ!」
絶華は声高らかに言い放つ。
「なんでこんな事ができるんです!? 今すぐ止めてください!」
テレサは両目を見開いて鬼気迫る表情で叫んだ。
しかし人の話を聞かない絶華が止まるはずもない。
「イェーガー……! 止めないなら……!」
テレサのアークレイズが、サートゥルヌスにリニアアサルトライフルの銃口を向けた。
『ちょ!? 待って! おい主様! いい加減に!』
サートゥルヌスは量腕部を前に出して制止を促す。
丁度その時だった。
テレサ機の真下を、親子が走っていった。
親に手を引かれた子どもが激しく咳き込み、足をもつれさせて転んだ。
起き上がろうとするも、地面に付いた腕を崩してしまう。
すると目と口を一杯に開き、腹を掻きむしりながら悶え始めた。
駆け付けた親が必死に名前を呼ぶも、子の痙攣は止まらない。
「またエヴォルグが……産まれる……!」
再び繰り返される光景に、顔面蒼白となったテレサは声を震わせた。
「む? そんなに大きく口を開けているとは、よほど我がチョコが欲しいと見た!」
絶華は開きっぱなしになった子の口へ、チョコレートの触手をねじ込む。
子の身体の筋肉が急激に膨張し、全身に歪な隆起を造った。
そして張り裂ける腹部。
赤黒い鮮血と共に出現したのは――筋肉が異常に発達したエヴォルグ量産機の幼体だった。
産まれたばかりの幼体は、すぐ目の前にいた子の母を捕らえ、驚異的な膂力で左右に引き千切る。
それを喰らい、初めての食事に歓声をあげる。
テレサは一連の光景を唖然として見届けるしかなかった。
「おお! 元気なエヴォルグだな!」
絶華は筋骨隆々とした幼体の姿を見て満足気に頷いた。
恐るべし、我がぜっちゃんチョコのパワー。
「出産後のケアも忘れていないぞ。我がチョコを口にすれば衰弱もたちまち回復だ!」
子の口にチョコレート触手をねじ込み続ける。
エヴォルグの繭として役目を終えた子の身体は死後も痙攣が止まらない。
張り裂けた腹からは液状化したチョコが漏れ出ていた。
「……何を…何をしてるんですか……」
テレサの声音は小さく、低く、震えていた。
「あのエヴォルグはぜっちゃんチョコの圧倒的パワーで不死身の超絶戦士と化したのだ! テレサもこのパワーを――」
「なんでこんな事ができるんですかぁぁぁッ!」
声が裏返るほどの絶叫が、絶華の言葉を断ち切った。
「あなたは! イェーガーは! あんなのを生み出して何が面白いんですか!? 人の命を弄ぶのがそんなに楽しいんですか!? 一体どれだけ人の命で遊べば気が済むんですか!?」
「落ち着けテレサ。我の指示には従うようにできている。子とその親は惜しくもパワー不足だったが……」
「イェーガー! あなたは今、絶対にしちゃいけない事をしたんですよ!? 分からないんですか!?」
銃口を向けるアークレイズの先に、テレサの血走った目を見た。
「テレサよ、そうかっかするな。見よ! 我がチョコのパワーはこんなものではないぞ!」
絶華は瞬時に原初宇宙系チョコパティシエアイドルに姿を変える。
具体的にどういった姿なのかは形容し難いが、とにかくパティシエとなった。
「今こそ狂気に染まった皆にパワーを与える時! さあ! 圧倒的なパワーを皆に披露しよう!」
サートゥルヌスが天に向けてマニピュレーターをかざす。
それより降り注ぐのはカカオ濃度1億パーセントのチョコ邪神植物。
スラム街に舞い降りた邪神の軍勢は、すぐにエヴォルグ量産機への攻撃を開始した。
大勢の難民を巻き添えにしながら。
「ころちゃんも幼女の姿となって戦うのだ! 小さきものを狙え!」
「……状況がますます悪化してはおらぬか?」
金髪の幼子に変貌を遂げたロクシアス・コロニスは、更に阿鼻叫喚を深めたスラム街の光景に、引き攣った表情を禁じ得なかった。
チョコレートで筋肉量が異常に増加した人間からは、筋肉が異常発達したエヴォルグの幼体が続々と産まれてくる。
不死身の戦士と化したそれらは、絶華の意思に従い、他のエヴォルグ量産機を屠ってゆく。
チョコレートによって人体を作り変えられた人間も同様だった。
エヴォルグ量産機の排除を進めつつ、安全圏を探してより内側の区画を目指す。
歪に隆起した姿といい、寄生虫に操られたカタツムリの如く絶華の意思に従う姿といい、その人間達は人と呼称するには語弊のある存在と化していた。
降り注いだチョコレートの邪神は、スラム街を破壊しながら、逃げ惑う難民を巻き込みながら、エヴォルグ量産機を蹂躙する。
混沌犇めく魔境のスラムを前に、テレサは悲痛に瞳を震わせる。
「イェーガー……やっぱりあなた達は……最初の私が言っていた通りなんですか……? 世界を骸で埋め尽くすんですか……!?」
世界が壊されてゆく。
骸の海が広がってゆく。
猟兵が歩いた、その後に。
大成功
🔵🔵🔵
ポーラ・チノ
行くのは化物共が多い方、スラムだな
問題は化物と化物になるのが確定しちまってる奴と、そうでない奴が分かるのかだ
考える時間はない、テレサの言っていた脳量子波の違いか、何か感知できるもので判別できるならしたい
殺さなくて良い奴まで殺すのは、なるべく避けたい
化物だけが密集してるような状況でもない限り、ビームの出力は絞る
今はカノンよりもガンの方が使い易そうだ、化物の頭を片端から撃つ
ダガービットも限界まで稼働させるしかない、狙って撃つのが難しい箇所に入り込む化物はこいつで殺す
化物共が私を狙って群がってくるならトキシックウェイブで迎撃
"惨刺"をどれだけ長く発動できるか分からないが、やるしかない
化物を減らすのに手間取れば犠牲者が増える、迷っていられない
お前のパイロットは私だ、喚くな、動け、モスレイ
脳量子波を通して伝わるのなら、訊いてみたい
人間を化物に変えて、こんな地獄を広げて、何を感じているのか
●トキシックウェイブ
暴風に煽られた木々が、頭蓋の中でずっと騒ぎ続けている。
耳を塞いでも聞こえ続けるその声に、ポーラ・チノ(残影・f45339)は目元の表情筋を引きつらせた。
「うるさ過ぎる……」
モスレイの操縦にも支障をきたすほどだった。
木々の騒ぎ声はスラム街の全域から聞こえてくる。
人もエヴォルグも等しく同じ声を発していた。
言葉無きざわめきの正体は、空間を震わせる脳量子波だった。
だが、サイコ・コミュニケーターを運用するためのそれとは、性質が全く異なる。
武器を操るための指向性を持っているわけでもなかった。
ただの“声”の波長が、共鳴し合うかの如く騒いでいる。
ポーラはこんな脳量子波を感じた事は今まで一度もない。
「全部が全部、アンサーヒューマンにでもなっちまったのか?」
我ながら馬鹿げた発想だと思う。
しかし事実、誰も彼もが“全く同じ脳量子波を発している”のだ。
普通の人間ならこうはならない。
絶対に個体差が生じるからだ。
加えてエヴォルグ量産機も同じ波長を発しているのだから、ポーラはますます困惑に顔をしかめた。
しかも、似ている気がする。
ガルドラ基地を共に攻略した、“テレサ・ゼロハートの脳量子波”と。
あわよくば、脳量子波の違いでエヴォルグの繭になった者とそうでない者を区別するつもりだったが、こでれは聞き分けるどころではない。
「殺さなくて済む奴は、なるべく避けたいんだが」
ポーラは狙いをエヴォルグ量産機のみに絞らざるを得なかった。
人と同じ脳量子波を発していても、敵でありオブリビオンマシンである点は確実だからだ。
モスレイがスラム街の頭上を飛ぶ。
地上は難民とエヴォルグ量産機で混沌と化していた。
さらにレイテナ軍が無差別砲撃の雨を降らせている。
散乱する死体と瓦礫で、スラム街が埋め尽くされつつあった。
「ビームカノンは強力すぎるな」
モスレイの主砲に出番はない。着弾の爆風で難民を吹き飛ばしてしまう。
やたらと推してくるモスレイの意思を押しやって、ポーラはラピッドビームガンに意識を注ぎ込んだ。
「狙えるか? エヴォルグだけを」
エヴォルグ量産機に重ねたロックオンマーカーが赤に変わった。
ポーラはトリガーを引く。
モスレイの両翼下部に懸架した小口径砲が、ライトグリーンの破線を伸ばした。
破線はエヴォルグの顔面に穴を穿つ。
深緑の身体がぐらりと傾いて倒れ込んだ。
その真上をモスレイがすり抜けた際に、ポーラは見てしまった。
倒れたエヴォルグの下敷きになった難民を。
「どうやっても巻き添えが出るか……」
仕方ないと分かったつもりになっても、鳩尾が窄まる思いだった。
流血無き解決は望めない。
なら、一秒でも早く、この地獄を終わらせる。
ポーラはレーダーマップを一瞥した。
敵反応が全周囲を埋め尽くしている。
人の生体反応と混ざり合って滅茶苦茶だった。
「つまみ食いでは切りが無い」
ユーベルコードを……惨刺を密やかに起動する。
集中力を敵の排除の一点に絞り込み、モスレイを加速させる。
兵装の出力制限解除のインフォメーションがモニターに表示された。
モスレイは空中を横滑りしながらラピッドビームガンを撃ち散らす。
ライトグリーンの破線がエヴォルグ量産機の群れをなぞった。
体液を噴霧して倒れ込むそれらに、やはり逃げ惑う難民が巻き添えとなった。
ポーラは見ない事にした。
モスレイは愉快げに笑う。
「ダガービット、行け」
キャバリア未満の大きさのエヴォルグ……恐らく人から産まれて間もない幼体は、ダガービットで一体ずつ切り刻む。
産まれてくるスピードにまるで追いつかないが、何もしないよりはマシだと信じる事にした。
ベクタードスラスターが生み出す高い運動性を活かし、モスレイはスラム街の頭上を駆け回った。
その影響か、エヴォルグの興味を強く引いたらしい。
人を差し置いてモスレイを狙う個体が続出した。
四方八方から触腕が伸びる。
レーザーが交差する。
ポーラは回避に徹するを強いられた。
機体をロールさせ、急激に方向転換し、間一髪の危うい機動を繰り返す。
上下の機動幅には余裕がない。
頭の上では殲禍炎剣が目を光らせているし、地上に近付き過ぎればダウンウォッシュで難民を巻き上げかねない。
手間取っている場合ではないのに。
狭まる包囲と途切れない攻撃がポーラを苛立たせる。
遂にエヴォルグ量産機達が直接飛びかかってきた。
ポーラは一瞬躊躇ったが、すぐにそれを捨てた。
「ぶっ飛べ」
モスレイが拒絶の波動を放出した。
機体を中心とし、外側に向けて攻性の力場を作用させる近接防御用兵装……トキシックウェイブ。
それをまともに受けたエヴォルグ量産機達が弾き飛ばされる。
モスレイが間髪入れずにラピッドビームガンを旋回掃射すると、包囲は一瞬で殲滅された。
窮地は脱したものの、ポーラは深い呼吸を吐き出すのを躊躇った。
視線を流した地上に、いくつもの赤黒い染みが付いている。
トキシックウェイブを放射した際、巻き添えを食らって圧殺された難民の成れの果てだった。
「手間取った分だけ、躊躇った分だけ、ああいう犠牲が増える」
ポーラは己に言い聞かせる。
戦いを止めてはならない。
そんなポーラと、繰り返される惨状をモスレイが嘲笑う。
苦しいなら代わってやろろうか?
そう頭蓋の中で囁いた。
「お前のパイロットは私だ、喚くな、動き続けろ、モスレイ」
硬い面持ちでモスレイを……オブリビオンマシンを圧した。
モスレイはいつだって心に付け入る隙を狙っている。
この狂気に蝕まれてはいけない。
少なくとも、目の前に広がる地獄を広げた奴に、感想を訊くまでは。
ポーラは確信を持っていた。
ゼラフィウムに突如人喰いキャバリアが湧いたのは、単なる偶然などではない。
背後には必ず誰かがいる。
何者かの意思がある。
「これで満足か? 何を考えてる? 何を感じてる?」
ポーラの問いは、無数の脳量子波の中に呑み込まれた。
暴風に煽られた木々が、頭蓋の中でずっと騒ぎ続けている。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
サイズ補正の関係でアポイタカラを使っていたのですが…
今回は敵のサイズも小さいので生身でいくですよー
だって僕は生身の方がつよーい!
それにスラム街を事前調査しておくとゆーあの時の判断が生きてくる!
土地勘があれば小回りの利く生身の方が戦闘に於ける制限が少ないしね
とは言え、ごっちゃっとしている場所には変わりがない
こーゆー場面で使いやすいのは物理的な障害物に左右されないUC
隠された地下空間なんてものもありそうだしねー
霊体ならそこら辺も問題にならないのです
とゆーことで…秘伝忍法<海皇>
シャチさん達を解き放ち、僕はふつーに狩っていくですよ
とりあえず難民でごった返しているので建物の上を移動するのが基本かなー
少しでも高いところの方が敵を補足しやすってのもあるし
んー、人間と同程度のサイズ感なら防御力的にもたかが知れてる
急所に当てれば投擲でもいけるかも?
魔弾投擲法と暴喰之呪法の組み合わせでイケるっぽい!
まぁ、ダメでもダメージは入るので近接攻撃で止めを刺せばいいしね
●修羅道
総数何十万もの難民が闇雲に逃げ回り、それらを人喰いキャバリアが貪る。
降り注ぐ鋼鉄の雨が、粗末な小屋を人とエヴォルグ諸共に粉砕した。
「あーらら、もう滅茶苦茶なのですよ」
噴き出す爆風を掻い潜り、露木・鬼燈(竜喰・f01316)がスラム街の屋根の上を駆け抜ける。
鬼燈を追うのはシャチの亡霊。
女王を筆頭とした群れを成し、地獄を海に見立てて軽快に泳ぐ。
屋根から見下ろすスラム街は凄惨を極めていた。
どの方角に逃げればよいのかも定まらない難民達で溢れ返り、それぞれがパニックに流されて押し合い圧し合いしている。
腹を空かせたエヴォルグ量産機が、立ち往生中の難民を見逃すはずもなく、難民達は状況も分からず怪物の餌食となっていた。
しかも、どういう理由か鬼燈の知るところではないが、エヴォルグ量産機の増加が止まらない。
人の腹が膨らんだかと思いきやそれが破裂し、血と臓腑にまみれたエヴォルグ量産機の幼体が現れるのだ。
「ゲホゴホ言ってた人達から産まれてるっぽい?」
鬼燈が以前スラム街を下見した際に、妙な病が流行っていたのを思い出す。
因果のほどは不明だが、関連性があると思えてならなかった。
「まー、レギュラーサイズはキャバリアにお任せして、僕は小さいのを狩っていくっぽい!」
人の腹から産まれて間もないエヴォルグ量産機は、全長が1m前後とかなり小さい。
だが凶暴性は成体と変わらず、多くの人間にとって脅威である事に変わりはなかった。
人に襲いかかる幼体へ、鬼燈は手裏剣を投擲した。
魔弾投擲法と暴喰之呪法を乗せた刃は幼体の頭部に突き刺さり、呪いから生じた百足が内部を食い荒らす。
主幹機能を頭部に集中しているエヴォルグ量産機にとって、これは致命的かつ必殺であった。
「一体ずつしか仕留められないけど、人を巻き込む心配もないからね」
とは言え骨が折れる作業だ。
殲滅のスピードより敵が増えるスピードの方が明らかに早い。
難民の腹から産まれてきている以上、打ち止めになる時が必ず来るはずだが……それが数分後なのか、数時間後なのか、はたまた数日後なのか、鬼燈には予想もできなかった。
一方の女王シャチが率いる霊体シャチの群れは、幼体へ獰猛に襲いかかっていた。
ホオジロザメの腹も食い千切る顎と、クジラさえも狩ってしまうパワーに、幼体のエヴォルグ量産機が耐えられるはずもない。
機動力も抜群だった。
人の濁流を川に見立て、霊体である事を活かして人も家屋もすり抜けて獲物に迫る。
襲いかかる瞬間に実体を得て、幼体の頭部に食らいついた。
あるいは丸ごと呑み込んだ。
もしくは尾鰭の強烈な平手打ちを見舞った。
だが実体を得たその瞬間だけ、難民も巻き添えにしてしまう。
巨体の体当たりを受けて骨を砕かれ、内蔵を破裂させてしまった者もいた。
狙ってやった事ではない。
だが狙って避ける事は極めて困難な状況だった。
「んー……敵と人との距離が近すぎるのですよ」
難民の集団の中にエヴォルグ量産機が紛れているような状態だ。
この状態でエヴォルグ量産機だけを狙うのは、針に糸を通すどころの話ではない。
鬼燈がしているように、小型の刃物で一体ずつ仕留めていかなければ、どうしても難民まで巻き込んでしまう。
しかしそんなやり方ではいつまでたっても苦境を脱する事は叶わない。
超人口密集地帯というスラム街の性質が、鬼燈の手足に重い枷をかけていた。
「どーせ全員助けるなんて無理だしね。必要な犠牲は割り切るっぽい」
守る対象は難民ではなくゼラフィウムだ。
難民を救えてもゼラフィウムが落ちれば依頼は失敗に終わる。
優先順序は明白だった。
鬼燈は目に付いた幼体へ片っ端から手裏剣を投げつける。
女王が引き連れるシャチ達は、難民の犠牲も躊躇わずに獲物へと襲いかかる。
きっと自分を含む猟兵達は殺戮者の汚名を被るだろう。
修羅の道を進む覚悟はとうに出来ている。
鬼燈は、決して足の速さを緩めなかった。
大成功
🔵🔵🔵
リーシャ・クロイツァ
【スラム街】
おやおや、また凄いことになってるねぇ…。
中々地獄の光景じゃないかい。
こうなったら救えないものが多くなりそうになるけど、最悪を避けるためにも行くとしましょうか。
…バスターランチャーの最大出力はさすがにご法度かね。
それじゃ、こんな手はどうかい。
バスターランチャーを構えてエネルギー充填開始。
敵が接近して来たら頭部バルカンで牽制。
マルチロック開始。
このユーベルコードなら、高出力ではないから多少はましなはずだね…!
月華の狙撃手を発動。
敵対するエヴォルグに的を絞って撃ち抜くっ!!
撃ち終わったら、バスターランチャーは肩部にマウントして、ビームサーベルを二本手に保持させて近接対応。
…マシンガンとかあればよかったんだけどねぇ。
まぁ、近接戦闘もできないわけじゃないからね。
バルカン、ビームサーベル、左腕ビームライフルを使って攻撃だね。
友軍で危なそうな相手がいるなら、そちらにライフルで援護射撃を行うよ。
突出しすぎだよ。
一旦体勢を整えなっ!
人死に慣れてないやつには厳しい戦場だね、これは。
●月華狂乱
ゼラフィウム外縁部に広がる混乱は、時間の経過と共にますます拡大し続けている。
それは、東アーレスで起きた惨状の再現でもあった。
ティラール・ブルー・リーゼの高精度センサーカメラが、スラム街の光景を鮮明に映し出す。
「また凄いことになってるねぇ……」
リーシャ・クロイツァ(新月の狙撃手・f42681)は堪らず嘆息してしまう。
人喰いキャバリアがなぜそう呼ばれているのか、根拠をまざまざと見せ付けられた。
逃げ場を失い右往左往する難民達を、エヴォルグ量産機が手当たり次第に食い散らかしてゆく。
比喩ではなく本当にスラム街が血で染まっていた。
「これじゃ、どこまで助けられたもんだかね」
リーシャにして手の付けようがなかった。
しかし大勢の敵がいる。
今は一体でも多くの敵を倒すことが、事態終息への道だと信じる他にない。
「バスターランチャーの最大出力は……流石にご法度かね」
リーシャはティラール・ブルー・リーゼが携行する長物に視線を投げた。
敵の数は多い。
本音を言えば一気に薙ぎ払ってしまいたいところだ。
だが実行に移せば、薙ぎ払った敵の数以上の難民を蒸発させてしまう。
依頼内容はあくまでゼラフィウムの防衛であって、難民の保護は含まれていないが……進んで非戦闘員を殺戮できるほど、サイコパスにはなれない。
「ま、戦いようはあるさ」
リーシャはバスターランチャーのエネルギー充填を開始し、フットペダルを踏み込んだ。
加速を得たティラール・ブルー・リーゼが死で溢れるスラム街に飛び込む。
「あんまり高度は下げられないね」
ティラール・ブルー・リーゼの真下では、難民の濁流が流れている。
地に足を着けるのは論外として、高度を下げすぎるのも憚られた。
ダウンウォッシュで吹き飛ばしてしまうからだ。
「エネルギーが溜まるまではチマチマやるかい……!」
難民を追い掛けているエヴォルグ量産機の一機にロックオンマーカーを重ねた。トリガーキーを引く。ティラール・ブルー・リーゼの頭部バルカンが荷電粒子の破線を伸ばす。
ビーム兵器であるため、難民の頭上に薬莢をばらまく恐れはない。
小口径が故に飛散粒子もほぼ皆無だった。
伸びた破線がエヴォルグ量産機の頭部を撃ち抜く。
5mの身体が脱力して倒れ伏した。
その際、下敷きになる難民の姿を見てしまった。
「人と敵の距離が近すぎる……!」
リーシャは苦い面持ちで舌を打つ。
巻き添えなしで敵だけを叩く困難さを、身を以って味わうこととなった。
バスターランチャーへのエネルギー充填が完了した事を報せるメッセージが点灯した。
撃てるのか?
リーシャの逡巡は一瞬だった。
「許してもらうしかないでしょうよっ!」
ティラール・ブルー・リーゼが急減速した。
リーシャの動き回る視線を火器管制システムが追い、視認した敵をロックオンする。
「早いとこ終わらせてさ!」
バスターランチャーを腰だめに構えた。
砲口から膨らむ青白い月光が、千の光条となって解き放たれた。
拡散した荷電粒子ビームは一本一本が指向性を持つ。
蛇行しながらロックオンした目標へと到達し、深緑の被膜を貫通した。
ティラール・ブルー・リーゼの視覚野の中に、拡散ビームの本数だけ青白い火柱が立つ。
何人かは分からない。
だが火柱の元では、巻き添えになった難民が確実にいるはずだ。
その確信にリーシャは双眸を細めるに留まったが、気道が塞がれる不快感を覚えた。
『――てください! 攻撃を止めて!』
混線してまるで使い物にならないオープンチャンネル。飛び交う怒号と怒号の狭間に流れた、少女の悲痛な叫びをリーシャは聞き逃さなかった。
「誰だい? こりゃ……」
少女の声は耳に覚えがあった。
確か、スワロウ小隊の――リーシャは周囲を見渡す。
ゼラフィウムの外縁部と敷地内を区分するセクションゲートの近辺で、キャバリアの一個小隊が空中に留まっていた。
弾を撃つでもなく呆然と立ち尽くすも同然な小隊は、一機のアークレイズと複数機のイカルガで構成されている。
その構成から、リーシャはスワロウ小隊と断定した。
『砲撃を止めて! 難民を撃たないで!』
『私達の役目は民間人を守ることじゃなかったんですか!?』
『こんな戦いじゃ、守らなきゃいけないものまで壊しちゃう!』
“テレサ達の声”が叫んでいる。
少女達の叫びは、ツバメの雛の囀りに等しかった。
爆轟が、断末魔が、人喰いキャバリアの金切り声が、掻き消してしまう。
「ったく、なにしてんだい……!」
あれでは良い的だ。
リーシャはティラール・ブルー・リーゼを旋回させ、スワロウ小隊へと接近する。
スワロウ小隊の内の一機にエヴォルグが飛びかかろうとしていた。
狙われたイカルガは気付いていないのか、回避運動を取る気配がない。
「ぼさっと突っ立ってるんじゃないよ! 死にたいのかいっ!」
リーシャの一喝と共に放たれた左腕ビームライフルが、間一髪でエヴォルグ量産機を撃ち落とした。
それでようやく気が付いたのか、狙われていたイカルガが反応を示した。
『ティラール・ブルー・リーゼ!?』
「今は敵を倒さなきゃ、どうにもならないでしょうが!」
イカルガのカバーに入ったティラール・ブルー・リーゼが、手近なエヴォルグ量産機にビームライフルを撃つ。
難民の犠牲にかまけている余裕などなかった。
『あなたも、他のイェーガーと同じなんですか……?』
テレサの声は小さく、そして震えていた。
「はぁ?」
リーシャは苛立ちながら聞き返す。
『人の命を弄んで……私達の大切なものまで壊すんですか!?』
リーシャにはテレサが言わんとしている所がまるで分からなかった。
しかし何となく察しは付く。
恐らく“変な猟兵”に当たったのだろう
猟兵者の中には、少なくない頻度で“変な猟兵”が紛れている。
「知らないよ。あたしゃサイコパスじゃないんでね」
自分がどちら側なのかは勝手に決めてくれ。
そう含めた言葉をリーシャは吐き捨てた。
「戦う気が無いなら下がってなっ!」
ティラール・ブルー・リーゼはバスターランチャーを肩部にマウントし、二振りのビームサーベルを抜いた。
振り回した荷電粒子の刃が、エヴォルグ量産機から伸びた触腕を切り払った。
「人死に慣れてないやつには厳しい戦場だね、これは」
難民の事は意識の隅に追いやり、リーシャは操縦桿のトリガーキーを引き続けた。
エヴォルグ量産機が一体倒れるごとに、難民の犠牲も比例して増大していった。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
亡国の主【操縦】スラム街出現。
敵はエヴォルグ。人の腹から。小型生物細菌兵器機動兵器知らん壊せ!敵は全て壊せ!!其処に居る敵を!!壊せ、壊せ、狂いて壊せ!!!
【瞬間思考力】と【呪詛】により己が【闘争心】の矛先をエヴォルグ量産機に、人の体内に巣食うエヴォルグに、ついでにガイストに、戦場の何を燃やすか、その対象を速攻で再設定し『壊劫・時遡狂い』発動。紫色の劫火の霊障を吐き出し飛来する触腕を焼き払い、そのまま戦場全体へと広げ、覆い、【焼却】
発火点に掛かる時を飛ばし、焼却時間を超加速させ、エヴォルグを、人に巣食うエヴォルグを、ガイストを瞬時に燃やし尽くし、抵抗力を奪い取り、
|燃えろ《壊れろ》ぉおおおおお!!!!
そうして時を巻き戻す。
人が素材だ。つまりエヴォルグは死体だ。死体集積物だ。
だから灰から巻き戻して人間に戻す。自分が壊すのは敵だ。敵だけだ!
過程で人の体内に潜むエヴォルグを唯の人体組織や栄養素に、ガイストをただのキャバリアに再構築し直す。
これでこれで此処にいる連中は敵じゃない。壊す理由がない。
バーン・マーディ
機神搭乗
スラム
そして…バーラント教皇庁へ
弱者必滅…強者絶対
それは悪である
力を信奉し暴力を是とする悪逆であり強き者が全てを手に入れる悪の法である
……故に…我はその在り方を祝福せん
我はバーン・マーディ…悪の神である
その在り方こそ…蹂躙に対する叛逆たる在り方故
……何故か分からぬ。だが我はお前達を助けねばならぬと感じた
【戦闘知識】
エクシィ達の陣形と敵の状況を解析
【オーラ防御・属性攻撃】
光のオーラを己とエクシィ達に付与し強化
UC発動
【集団戦術】
之まで倒れたエヴォルグも難民も兵士も須らく英霊へと蘇らせ
叛逆せよ
この不条理に
叛逆せよ
この理不尽に
戦闘力は落ちようと…数で圧倒できると思わぬことだ
貴様らが殺した数だけ…叛逆は生まれるのだ
叛逆せよ難民達よ
叛逆せよエヴォルグ達よ
叛逆せよアーレス強国の民よ
死して尚立ち向かうは今である!
基本複数でエヴォルグに襲い
生きる人を庇い助け抜く
【怪力・カウンター・切断】
軍神の剣で大型エヴォルグを切り裂き攻撃は受け止めカウンターで切り捨て
必要時は修道女達を庇い
●二つの火
混沌に陥ったスラム街を、炎が席巻する。
紫炎の奔流は怒り狂って燃え盛り、広域に及んで暴れまわる。
「燃やせ! 敵は全て燃やせ!!其処に居る敵を!! 燃やせ、燃やせ、狂いて燃やせ!!!」
朱鷺透・小枝子(|亡国の戦塵《ジカクナキアクリョウ》・f29924)が怒号を吼える度、左目に宿る|禍集焔業《デッドギヤフレイム》が勢いを増す。
亡国の主が放射するフレイムランチャーは、まさしく炎竜の息吹であった。
壊劫・時遡狂いは果たして理性的に敵だけを燃やす。
怒れる紫炎に呑まれたエヴォルグ量産機は、瞬時に滅却されて灰と化した。
まだ産まれて間もない幼体も例外ではない。
そして、エヴォルグの繭も。
難民達が劫火に焼き尽くされてゆく。
或いは、灰燼に帰すだけなら浄化の救いであったかも知れない。
しかし灰の時間は巻き戻された。
時計を狂わせる紫色の劫火によって。
“エヴォルグの繭のまま、再生し再構築されてゆく”人体。
産みの苦しみが再現される。
劫火が焼き尽くして灰にする。
再生して産みの苦しみが再現される。
劫火が焼き尽くして灰にする。
滅却、再生、滅却、再生。
無限に繰り返されるそれは、まさしく煉獄の裁きであった。
産まれるべきではなかったものを産んだ者に対する裁き。
小枝子の燃え盛る怒りは止まらない。
「|燃えろ《壊れろ》ぉおおおおお!!!!」
視界に入った敵の全てを紫炎で塗りつぶす。
敵――オブリビオンマシンの全てを。
それは、バーラント機械教皇庁のガイストも例外ではなかった。
「お前も敵だあぁあああああ!!」
咆哮と共に放たれた火炎流。
だが小枝子は敵の気配を見失った。
『ちょっとぉぉぉん! そこの白い怪獣みたいなキャバリアに乗ってる人ぉぉぉ! 私ら巻き込んでますよぉぉぉん! 見えてないんですかぁぁぁ!? それともヘッタクソですかぁぁぁ!? もしもぉぉぉし! 聞こえてますか朱鷺透・小枝子さぁぁぁん! もしもぉぉぉし!?』
黄金のキャバリアが炎を割って飛び出してきた。
小枝子の記憶の中には面影がある。
機体の名前はカナリアといったか――。
カナリアがガイストの一個小隊を率いていた。
「邪魔だ金色! お前は敵じゃない! ガイスト! お前が敵だ! 燃えろぉおおお!」
カナリアごとガイストをフレイムランチャーで焼き払う。
またしても敵の気配が消えた。
ロックオンを外されている。
『あるぅぅぅえぇぇぇ!? いまガイストって言いましたよねぇぇぇ!? 言った言った! 絶対言った! つぅぅぅ? まぁぁぁ? りぃぃぃ? あなたは機械教皇庁にケンカ売ったってことですよね? ねぇねぇねぇ!?』
カナリアのパイロットが挑発じみた口振りで捲し立てる。
それが小枝子の炎に燃料を注いだ。
「知るかぁあああああああ!!!」
亡国の主が見える全てを炎で埋め尽くす。
カナリアは炎の中を平然と機動する。
ガイストはロックオンから外れて炎の範囲外へと跳んだ。
気配が途切れる原因は、ガイストが発するロックオン解除パルスと、アクティブ・パッシブステルスによるものだったが、いまの小枝子には敵を焼き尽くす以外の思慮はなかった。
『ぎゃはははははははは! マジなんです!? マジですよね!? じゃあぶっ殺しまぁぁぁす!』
音割れするほどの笑い声が通信帯域を揺らした。
『いつかチャンスが来るとは思ってましたけどねぇぇぇ!? まぁぁぁさかこんな早く巡ってくるなんてラッキーすぎておっそろしいですよぉぉぉん!』
カナリアがハイパーメガバスターとメガビームキャノンを、荒ぶる亡国の主に向けた。
『いやね? アナスタシア聖下からイェーガーには手出し厳禁って言い付けられてたんですけどねん? そっちから手出ししてきた場合はその限りじゃないんですよ? 分かります? 分かりませんよねぇ?』
「ならお前も敵だな!?」
『姉妹のみなさぁぁぁん! お待ちかねの時間でぇぇぇす! アーレス大陸をぶっ壊す外なるイェーガーを駆除しますよぉぉぉ!』
小枝子はガイストから向かい来る殺気を感じ取った。肌がざわめく。
「なら! お前も燃え尽きろぉぉおおおおおッ!!」
『ぎゃははははははは!! 神罰執行ぉぉぉ!!』
小枝子の目には、もうカナリアが敵としか映っていなかった。
亡国の主。
カナリア。
ガイスト。
最初に引き金を引いたのは――。
「止まれ」
そのいずれでもなかった。
亡国の主と機械教皇庁の間に割って入った紅蓮の炎に遮られたからだ。
炎が弾け、キャバリアが姿を現す。
両肩部には紅蓮が揺らぎ、背中には赤熱化した円環を背負っている。
「邪魔をするな! そこを退けえッ!」
小枝子の怒声に呼応して亡国の主が咆哮をあげる。
『あ゙? いきなり出てきて何抜かしてるんですぅ?』
カナリアのパイロットは露骨に苛立っていた。
「荒ぶる炎の猟兵よ、今は奴等と矛を交えるべき時ではない」
紅蓮を纏うキャバリア――破城神機『マーズ』を御するバーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)の声音は、至極平静であった。
「お前も敵か? 違う……お前も猟兵だな?」
小枝子はその機体からオブリビオンマシンの気配を感じ取れなかった。
代わりに自分と同種の気配を感じ取った。
「我はバーン・マーディ……悪の神である。そして我が神機、破城神機マーズ。この場の戦い、我が預かる」
「お前にその権利はない! 退け!」
亡国の主が牙を剥き出しにして吼える。
マーズは不動を貫いた。
「汝と機械教皇の使徒が戦うべきは今ではない。汝の焼き尽くすべき敵は、他にいるはずだ」
「それはそこの敵を焼き尽くしてからだ!」
「今の機械教皇の使徒は、我らと向く先を同じくする者。怒りを鎮めてしかと見よ」
マーズのマニピュレーターが指をさす。
小枝子は示された先に視線を向けた。
何人かの難民達が、怯えて縮こまっていた。
「かの者達を守護していたのは機械教皇の使徒である。使徒の盾無くしては守護りきれなかったであろう」
「敵を燃やして猟兵が守ればいい!」
一瞬の間も置かずして小枝子が正論を叩きつけた。
瞑目したバーンは首を横に振る。
「我らだけでは足りぬ。災厄の火は、ゼラフィウムの地全てに燃え広がっているが故に」
「オブリビオンマシンを燃やすなと言うのか!? 答えろ悪神!」
「今は燃やすべき時ではない」
「ならお前も燃やす!」
「猟兵同士の炎がぶつかれば、ゼラフィウムの全てが灰燼ともなろう。そして、猟兵の炎は、全てを焼き尽くすまで燃え続ける」
小枝子は食いしばった牙を剥き出しにして、マーズ越しにバーンを睨めつけた。
マグマと化した脳でも分かってはいる。
生命の埒外が……猟兵同士がユーベルコードをぶつけ合えば、後には灰燼すら残らない。
骸の海が広がるだけだ。
だが内なる怨念がオブリビオンマシンの存在を許さない。
燃やせ。
壊せ。
そう呻く。
「汝ならば見極められるはずだ。何を燃やし、何を燃やさないのか」
小枝子は激昂で頭を震わせた。
握りしめた操縦桿が軋む音を立てる。
手には自分の骨まで砕いてしまいそうなほどに力が籠もっていた。
「自分が燃やすのは……」
食い縛った歯の隙間から声が滲み出る。
「敵だ!」
亡国の主のフレイムランチャーが紫炎を灯す。
「敵だけだぁああぁあぁッ!!」
小枝子の中から狂える炎が溢れ出した。亡国の主はマーズに背中を向け、フレイムランチャーを振り回す。
焦熱の奔流が暴走し、幾多のエヴォルグ量産機が滅却された。
バーンは天に吼える亡国の主を見届け、マーズをカナリアへと振り向かせた。
「弱者必滅……強者絶対……」
バーンが唱えたのは、闘神アーレスの教義のほんの一節である。
アーレス大陸に敷かれた理は、ひょっとしたらクロムキャバリア全土に敷かれているのかも知れない理だった。
「機械教皇の使徒達よ、その闘神アーレスの教えは悪である」
『はいぃぃぃ? 人の宗教完全否定ですか?』
カナリアのハイパーメガバスターは、マーズごと亡国の主に向けられている。
「力を信奉し、暴力を是とする悪逆であり、強き者が全てを手に入れる悪の法である」
『それぇ……イェーガーに言う権利あります?』
あるはずも無い。
そんな事は、バーンも重々承知していた。
実践もしてきた。
バーンだけではない。
小枝子も、他の猟兵達も。
一度でもその力を振るった猟兵ならば、誰も例外なく。
生命の埒外……ユーベルコードという理不尽を是とし、信奉し、世界に刻み込んできた。
だから、ユーベルコードは罪深き刃なのだろう。
世界を傷付ける刃――。
「故に、我はその在り方を祝福せん」
『じゃあなんでそこの火遊び大好きイェーガーを止めたんです?』
「……何故か分からぬ」
バーンはすぐに答えられなかった。
「だが我は、お前達を助けねばならぬと感じた」
機械教皇庁の執行官に、遠い日のアナスタシアの面影を見たからか?
聖母アナスタシアを祖とする子達の末裔だからか?
いずれの記憶も、遥かなる太古に擦り切れて久しい。
『助けるぅぅぅ? 邪魔しにきたの間違いじゃないんですかぁぁぁ? あぁぁぁあ、せっかく外なるイェーガーに処刑執行するチャンスだったのに……』
「どう受け取るかは好きにするがよい」
『さぁぁぁえぇぇぇこぉぉぉさぁぁぁん! どぉぉぉしますん? 今から続きやりますかぁぁぁ?』
亡国の主の背中に挑発が浴びせられたが、小枝子は相手をする気も失せていた。
亡国の主とカナリアらの間に滞留していた殺意が急速に薄らいでゆく。漸くバーンは小枝子と同じ方角を向く事ができた。
「我も結んだ契約を果たすとしよう」
マーズの背負う円環が焔を噴き出す。
「叛逆せよ。この不条理に。叛逆せよ。この理不尽に」
円環から生じた焔が熱波となってスラム街を撫でる。
撫でられた難民の遺体やエヴォルグ量産機の骸に火が灯り、やがて巨人の姿を作り出す。
「死して尚立ち向かうは今である! 叛逆せよ! 英霊達よ!」
マーズが軍神の剣を空にかざした。
巨人の姿をした炎がゆらりと動き、行進を始める。
骸を燃料にして灯った英霊が、軍勢をなしてエヴォルグ量産機に相対する。
「燃えろ……! 燃えろ燃えろ燃えろぉおぉぉおッ!」
亡国の主が放射する紫炎はさらに燃え広がり、英霊ごと敵を覆い尽くす。
スラム街は地獄から煉獄へと変容しつつあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【箱庭】
エヴォルグが腹の中から?
ウイルス、もしくは寄生体とでもいうのかな?
どちらにしても、このままだと被害は拡大するばかりだね。
『希』ちゃん、生体解析できる?
『可能だけど、少し時間がかかるよ』
それでもやってもらうしかない。
そして、こんなときこそ|ユーベルコード《理不尽技》!
『希』ちゃんの解析データを元にして、【ストラクチュアル・イロージョン】を発動して、
『体内に潜むエヴォルグのみに』効果のある対エヴォルグウイルスを作成。
【ネルトリンゲン】から散布しよう。
これでエヴォルグだけ始末できればいいんだけど……。
『希』ちゃん、【ネルトリンゲン】着陸。
避難民はこちらに誘導して、できる限り収容するよ。
『おねーちゃん、本気!?』
対エヴォルグウイルスには自信あるからね!
わたしは【lanius】で外に出て、避難民を誘導。
スラムの人たちには【ネルトリンゲン】に来てもらおう。
『希』ちゃん、【シールドビット】で結界展開。道を作ってー!
錫華さんは……申し訳ないけど、『掃除』をお願い。
一番嫌な役任せちゃってごめんね!
支倉・錫華
【箱庭】
とりあえず【ナズグル】で出撃するけど……。
『錫華、これは……【AMIS-FL30】用意しましょうか?』
まぁ、うん。アミシアの言いたいことは解るよ。
でもそれは最終手段ってことで。準備だけはしていくけどね。
疫病の一番シンプルな終息方法は、全ての焼却。
でもそれは嫌がるだろうなー。
と思っていたら、やっぱりか。理緒さんならそうだよね。
これで少しでも助かる人がいるといいけど。
ならわたしは、生まれてしまったエヴォルグを倒していくことに集中かな。
アミシア、エヴォルグの反応を探って。生まれちゃったやつ教えて。
【CMPR-X3】と【スネイル・レーザー】を精密射撃モードで使って、
生まれちゃったエヴォルグだけを狙撃する感じで仕留めていこう。
ライフルはわたしが狙うけど、レーザーの方はアミシアに照準を任せるよ。
避難してる人に当たらないように、弾道はしっかり計算して撃つね。
そしてあとは……ん、了解。
やっぱり『お掃除』はしないといけないよね。
アミシア【AMIS-FL30】セット。
念のため、ここら一帯焼き尽くすよ
●浄化の火
粗末な木材やボロ布のテントが密集したスラム街は、それ自体が絶好の焚き付けであった。
戦闘で生じた、または猟兵のユーベルコードで生じた火が、スラム街を燃料として勢いを押し広げる。
煉獄の中でも人喰いキャバリアの殺戮は止まらない。
レイテナ軍による無差別砲撃も、犠牲を承知の上で激しさを増す猟兵の攻撃も。
強烈なダウンウォッシュに燃えた家屋が吹き飛び、難民達が悲鳴と共に四方へと散る。
力技で確保された空間に降りるのは、真珠色の装甲に覆われた、ミネルヴァ級戦闘空母であった。
『ネルトリンゲン、着艦完了!』
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が艦長席伝いに震動を感じたのは、M.A.R.Eのアナウンスが入る直前だった。
「まだハッチは開けないで!」
理緒は即座に言付けし、手元のディスプレイ・モニターで、艦内から外部に繋がる隔壁の施錠状況を確認する。
エヴォルグ量産機だらけのスラム街に着艦したのだから、メンテナンスハッチの一つでも開いていたら大事だ。艦内に入りこまれてしまう。
「錫華さん、迎撃始めて!」
「ん、了解」
支倉・錫華(Gambenero・f29951)のナズグルは、ネルトリンゲンの飛行甲板上に立ち位置を定めていた。
ここからだと、地獄絵巻の屏風が実体を成したスラム街を一望できる。
「アミシア、オートエイムモード。ロックオン優先度は相対距離の近い順から」
『オートエイムモード起動。ターゲット自動選定開始』
右のマニピュレーターにはアサルトライフルのCMPR-X3を。
左のマニピュレーターにはレーザーマシンガンのスネイル・レーザーを。
それぞれに保持したナズグルのカメラアイが閃く。
「スネイル・レーザーの方は任せるよ。人に当てないでね?」
『極めて難易度が高い要求ですが、了解しました』
とは言ったが非常に狙い難い。
敵の動きがどうという問題ではなく、人と敵の距離が狭まり過ぎているのだ。
一歩間違えなくても巻き添えにしてしまう。
ただでさえ精密な照準が求められる上に、難民の動きにも注意を払わなければならない。
「入った」
やっとレティクルの中央に目標を捉えた。
しかし錫華はトリガーに掛けた指を引けなかった。
目標の奥に人が居たからだ。
撃てば幼体諸共人を貫通してしまう。
「人が邪魔すぎるね」
堪らずとんでもない苦言が漏れる。
救助する対象に射線を遮られ、救助ができない。
幼体が難民に襲いかかったタイミングになって、やっとトリガーを引けた。
だが幼体を撃ち抜いた時には、襲われた難民は喉を食い千切られていた。
『錫華、AMIS-FL30も用意してあります』
アミシアが火炎放射器の使用を提案してきたが、錫華は首を動かさなかった。
「もう少し頑張ろう。それに、理緒さんがする事を試してからでも遅くない」
ゼラフィウムの防衛と難民の命は天秤に掛けられない。
極論ではあるが、難民が幾ら死んだとしても、ゼラフィウムの防衛が果たされれば目標は達成できる。
逆に難民を大勢救出しても、ゼラフィウムが陥落すれば失敗だ。
これ以上の被害を抑える観点からしても、全て焼却してしまった方が合理的ではある。
ただし、これを実行すれば、猟兵は難民を虐殺したという汚名を被る事になってしまう。
倫理的にも避けたい選択肢ではあった。
錫華は覚悟だけを懐に忍ばせて、地道で繊細な敵の駆除に没頭する。
『処理効率が著しく低下しています。よろしいのですか?』
「仕方ない」
人工知能のアミシアにしても難度の高い条件なのだから、生身で狙う錫華にはさらに困難であった。
「理緒さん、生体解析の方はどう?」
正攻法が通用しない以上、ネルトリンゲンの艦長が頼りである。
「希ちゃんが今やってる。もう少し待ってて!」
理緒は希に命じて、エヴォルグを産んだ難民の遺体の解析を進めていた。
短時間の間で解析可能な範囲は限定的ながら、幸いにして先んじて解析を行っていた猟兵が結果をばらまいている。
それを参照し、エヴォルグ量産機が発生するメカニズムを――突き止めた。
『終わったよ!』
M.A.R,Eの一声と共に、ブリッジのモニターがサブウィンドウで埋め尽くされた。
「希ちゃん簡潔に!」
無数の情報が三枚のサブウィンドウに収束した。
『えーっとね、推定エヴォルグウィルスに感染した人は――』
「推定って?」
『原因が分かんないの!』
理緒の手元のディスプレイ・ボードから、M.A.R.Eの仮想モデルが飛び出した。
『エヴォルグを産んだ人は、エヴォルグを産むための生き物に作り変えられちゃってる! こんな事ができるのはナノマシンしかないけど、ナノマシンが検出されないの! だから推定!』
「じゃあその推定エヴォルグウィルスに感染した人はどうなるの?」
『塩基配列が改ざんされて、エヴォルグを産むための生体装置にされちゃう。その後に特定の脳量子波を受信すると、体内にエヴォルグの“胚”ができるの。それが幼体に急成長して、お腹を喰い破って出てきちゃう。人はその時の失血と臓器の損傷で死んじゃうの』
「なら、塩基配列を戻して、身体も元の人間に戻せばいいんじゃない?」
M.A.R.Eは首を強く横に振った。
『それはもう他の猟兵がユーベルコードで試してるよ。状態異常の解除、浄化、人体組織の再構成……いまのところ、効果があったのは一例もない』
「身体の方はもう手遅れってことか……」
理緒は俯けた面持ちを右往左往させる。
何かまだ試していない策がある気がした。
他の猟兵が発信している報告にはこうある。
状態異常を解除、回復するユーベルコードは効果無し。
そもそも感染者がエヴォルグを産む状態は正常な状態であって、異常ではないらしい。
異常ではないため浄化も意味をなさない。
人体組織の再構成も効果を及ぼさなかった。
恐らくは再構成された人体組織が、再び再構成されてしまっているのだろう。
人体へのアプローチは悉く意味がない。
「……エヴォルグ自体には?」
そう呟いた時には、既に艦長席を起っていた。
「希ちゃん! ネルトリンゲン任せた! ストラクチュアル・イロージョン撒いといて!」
『おねーちゃん!?』
呼び止める声を背中で受け流し、理緒はキャバリアハンガーへと走った。
「敵が増える速度に迎撃速度が追いついてない……」
錫華の無味な表情とは裏腹に、口からは苦い言葉が滲み出る。
飛行甲板の床面のハッチが開き、エレベーターデッキがせり上がって来たのはその矢先だった。
「錫華さん! お待たせー!」
理緒の搭乗するlaniusがナズグルに並ぶ。
「出てきて大丈夫なの?」
「希ちゃんに任せたから大丈夫! わたしは下に降りるね!」
錫華が声を掛ける間も無く、laniusはネルトリンゲンから飛び降りる。
理緒はコンソールパネルを叩いて外部拡声器を起動した。
そして肺いっぱいに空気を吸い込み、叫んだ。
「スラムのみんなー! こっち来て-!」
増幅された大声量が周囲一帯に響き渡る。
爆轟と悲鳴が止まぬ混乱の渦中にあっても、その声には難民の気を引くだけの力があった。
「難民をネルトリンゲンに避難させるの?」
錫華が尋ねる。
名案だとは思えなかったからだ。
『おねーちゃん! ダメだよ! 誰が感染してるか分かんない!』
M.A.R.Eの意見に錫華もアミシアも同意だった。
感染が確定するまで……エヴォルグの幼体を産むまでの時間は個体差が非常に大きい。
今もなお、錫華の見える範囲で新たなエヴォルグが産まれているのだから。
ネルトリンゲンに収容した途端に発症する可能性は十分にあり得る。
感染者と非感染者を分けようにも、誰が腹の中にエヴォルグを抱えているのかなど判別のしようがない。
戦闘中に呑気にひとりずつ検査などしていられないし、胚が幼体に成長して腹を食い破るまでのプロセスはごく短時間で行われる。
検査で発見できる保証もない。
しかし、理緒には策があった。
「大丈夫だって! 希ちゃん、シールドビットでネルトリンゲンまでの誘導路を作ってー!」
『どうなっても知らないよー!?』
ネルトリンゲンが射出した自律防御端末がエネルギースクリーンを展開し、道を作り出す。
難民達にとってそれは、地獄に敷かれた一本の光の道とも見えたであろう。
「みんなー! こっちに逃げてー!」
理緒もlaniusの身振り手振りで難民を誘導する。
難民達は我先にネルトリンゲンへと走り出した。
「敵はこっちで止めとく」
難民達の背後を追いかけるエヴォルグ量産機を、錫華のナズグルが精密射撃で丁寧に処理する。
その間に難民達がネルトリンゲンにたどり着いた。
入れてくれ。
開けてくれ。
助けてくれ。
老いも若いも、男も女も不協和音の大合唱を始める。
難民の濁流を受け止めるネルトリンゲンは、さながら川の堰であった。
「みんなちょっと待ってねー! そろそろ効果が出るはず……!」
理緒が見守る中で異変が起きた。
難民達が次々に咳込み始めたのだ。
「お? 浸透したかな?」
理緒はコクピットシートから身を乗り出して経過を観察する。
瞳には期待の光が揺れていた。
「……やばいんじゃないの?」
対照的に錫華は不信と不安を抱かずにはいられなかった。
難民達の様子は、エヴォルグを産む直前の症状のそれだったからだ。
「大丈夫! 対エヴォルグウイルスを撒いたから!」
「ああ……」
錫華は理緒の考えに察しが付いた。
「人の身体はもう元に戻せない。なら中のエヴォルグだけを始末すればいいかなって!」
つまり人体はそのまま、エヴォルグだけ死んでもらうという事だ。
エヴォルグさえ出てこなければ人は死なない。
ストラクチュアル・イロージョンで生成した対エヴォルグウイルスを散布し、人体に浸透させ、内部のエヴォルグのみを始末する。
人体の方は落ち着いてからなんとかすればいい。
応急処置だが、一度に大勢の難民の命を救える……これが、理緒の策だった。
「でもみんな苦しそうだけど、大丈夫なの?」
錫華の指摘通り、難民達の咳は先程よりも激しくなっていた。
「大丈夫。たぶん身体がエヴォルグの死体を排出しようとしてるんじゃないかな?」
「じゃないかなって……」
そう言っている間にも難民達の症状はますます悪化した。
もはや自力で立つこともままならず、腹を抱えて七転八倒する者まで現れた。
「……やっぱりやばいんじゃ?」
「大丈夫! たぶん……」
理緒も自信が無くなってきた。
咳に血が混じる頃には、難民達の恐怖と混乱は頂点に達していた。
「エヴォルグにはちゃんと効いてる筈だから――」
理緒がそう言いかけた瞬間だった。
難民達が、溶け始めた。
「え……?」
口を開けたまま絶句する理緒。
それほどまでに難民が溶ける速度は早かった。
熱されたバターが溶けるように、人体を形作る皮膚、筋肉、骨に至るまでが、どろりと溶けた。
泡立つ朱色のゲルが、人がいた筈の場所に水溜まりを残す。
一人ばかりではない。
何人もの難民が、次々に――。
耳をつんざく悲鳴をlaniusの集音センサーが受信した。
その悲鳴で理緒は現実に引き戻された。
「うそ!? なんで!? わたし間違えた!? 希ちゃん!?」
理緒は脳をフル回転させる。
ストラクチュアル・イロージョンで生成したウイルスには、敵味方を識別する能力が備わっている。
難民の呼吸器から入り込んだ対エヴォルグウィルスは、人体を一切傷つけずに、体内のエヴォルグだけを死滅させられる。
抜けは無い。
不具合も無い。
間違えてもいない。
筈なのに、何故――。
『あの、えと、あのね、おねーちゃん、これは推論なんだけど……』
恐る恐る切り出したM.A.R.Eに、理緒は呼吸を止めて聞き入った。
『エヴォルグの幼体が体内に作られる時、人の身体の新陳代謝がもの凄く速くなるみたい。それでね、対エヴォルグウィルスがエヴォルグを分解したら、人の身体がまたエヴォルグを生成しようとしたの。でもそれを対エヴォルグウィルスが分解しちゃった。そうしたらまた体内にエヴォルグが作られて……』
「再生と分解をごく短いスパンで繰り返した結果、急速な新陳代謝に人の身体が耐えられなくて、溶けちゃった……?」
『たぶん……』
救う筈が、死の時計の針を速めてしまった。
理緒は視線を泳がせ、口元を手で覆った。
ゲル化した人間だったものは、まだ呼吸しているかのように泡を立てている。
『でね、おねーちゃん……それ……まだ分解と再生が終わってないみたい』
「あっ……」
理緒は気付いた。
その泡立ちは、今も生まれようと必死で足掻いているエヴォルグの息吹だった。
「理緒さん、下がってて」
錫華のナズグルがネルトリンゲンからジャンプする。
laniusの前に降着すると、CMPR-X3とスネイル・レーザーを背部マウントに保持させた。
代わりに中型の火砲を腰だめに構える。
「錫華さん……申し訳ないけど、掃除をお願い」
理緒は人だった水たまりから目を離さずに言う。
表情筋は硬く強張ったままだった。
「ん、了解」
錫華は短く応じた。
周囲に視線を一巡させれば、今もゲル化の途中にある難民達が大勢見受けられた。
『放置しておけば、どのような影響を及ぼすのか予測できません』
アミシアが冷徹なまでに分かりきった現実を突き付けてくる。
「念のため……ここら一帯焼き尽くすよ」
経緯が違うだけで、初めからこうする他に無かったのだろうか?
詮無い事として、錫華はトリガーキーを引いた。
AMIS-FL30の口が超高熱の紅蓮を吐き出す。
ゲルが焼却され、蒸発する音が、錫華には人の断末魔に聞こえた。
炎が、スラム街に広がってゆく。
或いは……これが救済であり、浄化なのかも知れない。
火の手の拡大を見届ける理緒の口は、きつく結ばれていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
皇・銀静
銀盗
UC発動中
スラム突撃
竜眼号搭乗(カシムに呼ばれた
…クズ小僧…僕をここに呼んだという事は…あれか
「うん、主ー…あそこの人達を少しでも助けたいなら…」
…(フラッシュバックする阿佐ヶ谷地獄…あの時の苦い経験
グリム…僕の魔力を持っていけ
「わ、分かったよ!」
落とし前は…つけさせる
戦争と死の神発動!
槍の神も発動
幼女軍団
一気に散開
【属性攻撃・念動力・空中戦・弾幕】
スラム全域に空より突撃
念動光弾で動きを封じ可能な限りエヴォルグのみを狙った猛攻
難民は念動障壁展開
石化弾を乱射
エヴォルグは石化した後粉砕
巻き込んだ難民は回収してそのまま安全な場所に抱えて運び
感染して苦しみ出した難民も石化させてその動きを止める
「ごめん…今のグリムちゃん達にはこうする事しかできない…!」
エヴォルグはそのまま粉砕
巻き込んだ難民は壊さないように運び
可能なら他の猟兵と情報共有し感染者と非感染者の把握を行う
【二回攻撃・切断・串刺し】
エヴォルグに群がり槍で串刺しにしたり切り刻み葬る
メルシーの幼女軍団と連携しながらエヴォルグを確実に始末
カシム・ディーン
盗銀
スラム突撃
竜眼号搭乗(上空
UC発動中
…意外なもんだな…反吐が出る…胸がむかむかする
之だけの事をしたクソ野郎は…唯じゃ済まさねぇ
「ご主人サマ…」
陰キャ野郎…いや銀静…少しでも助けたい…手伝ってくれ
戦争と死の神フルパワー(3300万人
メルシー…僕の魔力を持っていけ
叡智の神同時発動
【情報収集・視力・戦闘知識・他知識諸々】
難民たちの状態と街並みの状況
今彼らに何が起きているのかを他の猟兵の情報も収集し完全解析を試
更に感染者と非感染者の識別も可能な限り行
更に避難民を誘導できる場所をピックアップ
10師団は竜眼号護衛
【空中戦・念動力・弾幕】
半分
絶対的物量でエヴォルグ達に襲いかかり念動光弾で動きを止めるかそのまま粉砕
残り
無事な難民を可能な限り救出し抱えて安全地帯に退避させる!
【属性攻撃・医術】
感染者の状態を可能な限り解析
…進化…分子進化…!?ナノマシンによる意図的な遺伝子変異か…!?
可能なら感染者は隔離し鋼鉄化させ進化?を防ぐよう試み!
「ごめんね…!」
【二回攻撃・切断】
鎌剣で切り刻み肉の一部は採取
●人道回廊
スラム街が灼けてゆく。
燃え立つ炎の中で、幾つもの断末魔と産声があがった。
それが阿鼻叫喚ならば、通信帯域も阿鼻叫喚だ。
何の前触れもなくゼラフィウムの内側から湧き出した敵に対して、レイテナ軍は大混乱に陥った。
通信回線を錯綜するのは、兵士達の激しい怒号と、淡々粛々とした司令部からの命令。
寒暖差も流れの向きも滅茶苦茶な声が渦巻く。
“至近距離以外の通信手段は、その役割を全く果たせていなかった。”
黒煙に燻されたスラム街の真上を、ワダツミ級強襲揚陸艦の血を引く大戦艦――龍眼号が、悠然とした船足で進んでいた。
竜眼号の飛行甲板に立つメルクリウス。
双眸には眼下の惨状が映し出されている。
「……意外なもんだな……反吐が出る」
カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は眉間に深い皺を刻む。
地獄など飽きるほど見てきたはずだった。
今更臆するでもない。
なのに肺を締め付けるむかつきが止まらなかった。
「これだけの事をしたクソ野郎は……ただじゃ済まさねえ……」
声音は静かな怒気で震えている。
『ご主人サマ……』
コクピットブロックで煮沸する熱に、メルクリウスは掛ける言葉を失った。
「……クズ小僧……僕をここに呼んだという事は……あれか」
同じく飛行甲板からスラム街を見下ろすグリームニルの中で、皇・銀静(陰月・f43999)は細めた双眸を嫌悪に歪めていた。
『うん、主ー……あそこの人達を少しでも助けたいなら……』
グリームニルが言い淀む。
人から異形が産まれ、異形が人を喰らう地獄絵巻の光景に、阿佐ヶ谷の記憶が呼び起こされた。
あれは早朝の南阿佐ヶ谷駅でのことだった。
地下鉄の線路にアンデッドが出現したのだ。
アンデッド達は手にした凶器で人々を引き裂く。
しかもアンデッドの中からさらなる異形……デモノイドが生じた。
ゼラフィウムの光景は、銀静が見たあの日の南阿佐ヶ谷駅と似ている。
ともすれば、待ち受けている結末も――。
「陰キャ野郎……いや銀静……少しでも助けたい……手伝ってくれ」
怒りと屈辱を堪えてカシムは言う。
相手は好敵手などという可愛い関係ではない。
憎たらしく、悉く反りが合わない相手。
しかし、眼下の地獄に抗うには、彼の力を借りる他にない事はつくづく思い知っていた。
自ら曲げたプライドに、カシムは腸を断たれる苦しさを味わった。
「お前に言われるまでもない」
カシムのプライドは銀静にとって無関係だった。
あの時と同種の苦々しい怒りが腹の内で静かに沸騰している。
「グリム……僕の魔力を持っていけ」
声の抑揚は怒りを体現しているかのようだった。
『わ、分かったよ!』
落とし前は付けさせる。
銀静の眼差しが一層険しくなると、周囲に無数の召喚陣が浮かび上がった。
『ワイルドハントの始まりだよー☆』
召喚陣から幼子の姿となったグリムが続々と染み出してくる。
それらはグングニールと同形の槍を携え、竜眼号から滝となって流れ落ちていった。
「こっちもやるぞ。メルシー、俺の魔力を持っていけ」
『ひゃっはー☆』
メルクリウスも無数の召喚陣を開く。
出現した幼子の軍勢、メルシーは、ハルペーを担いでスラム街へ降り注いだ。
カシムはユーベルコードの維持のために直接戦闘に携われない。
代わりにスラム街の状況の把握に注力する。
否応無しにまず目に付いたのは火災だった。
上がった火の手は、猟兵のユーベルコードによる火が加わることで勢いを爆発的に増している。
スラム街全域を炎が包むのは時間の問題だった。
「消火どころじゃないな……そもそもスラム街には水道が敷かれてない」
インフラが存在しない事は、以前に環境改善活動に携わったメルクリウスから聞かされていた。
ユーベルコードで雨でも降らせるなら兎も角、火の手が拡大しすぎており、ただの魔法や消火剤の散布では手に負えない。
ましてやユーベルコードの火だ。
ユーベルコード未満の手段では、そう簡単には消せないだろう。
「難民の避難が先か。だが感染者と非感染者の見分けが付かないんじゃ……」
カシムは焦れる思考に舌打ちを禁じ得ない。
見分ける方法は簡単だ。
腹からエヴォルグが出てくれば感染者。
そうでないなら非感染者。
ただし見分けた時にはもう遅い。
「クソ小僧、何をブツブツと考え込んでいる。エヴォルグを産む者もそうでない者も、一旦石化させて外に追い出せばいいだろう」
銀静も大軍の制御に専念していたが、カシムより先んじてグリームニル達に行動を開始させていた。
スラム街に舞い降りたグリームニル軍団は、人とエヴォルグ量産機のどちらにも襲いかかった。
念動弾が流星雨となって降り注ぐ。
流星雨を浴びたものは、すべからく石と化す。
動きを止めたエヴォルグ量産機は槍で粉砕された。
『ごめん……今のグリムちゃん達にはこうする事しかできない……!』
グリームニル達は許しを乞い、石化してゆく難民達を見届けた。
その最中、ゼラフィウムの外縁部と内側を隔てる壁の上に、カメラを回す者達を発見した。
『たった今、イェーガーが人喰いキャバリアを難民達ごと攻撃しました! イェーガーはスラム街の広範囲に無差別爆撃を行っています! 御覧ください! 攻撃を受けた人喰いキャバリアと難民が次々に石化しています! これはイェーガーの新兵器なのでしょうか!?』
報道局関係者と思われるリポーターの声がグリームニルに届いたのか、定かではない。
届くにせよ届かないにせよ、グリームニルは躊躇う訳にはいかなかった。
躊躇えば、より多くが死ぬ。
カシムもそれは重々承知していた。
考えるよりも行動だ。
「メルシー、難民は片っ端からゼラフィウムの外に退避させろ」
『なんでー? 中じゃダメなの?』
「まだスラム街と市街地で収まってるんだ。感染者を中に入れちまったら、本当にゼラフィウム中が大パニックに陥るぞ」
ゼラフィウムの本部も許さないであろう。
根拠として、要塞敷地内に通じるセクションゲートは全て封鎖されている。
元より難民を要塞内に避難させる計画は無いのだ。
「銀静、お前が言う通りに、石化させた難民達をスラムの外に運び出す」
「外のどこだ?」
「南側だ。ゼラフィウムとイーストガード基地の間は比較的安全らしい」
「それが妥当か……グリムに道を作らせる」
銀静の思考は瞬時にグリームニル軍団に伝播した。
『グリムちゃんたち! せいれーつ!』
グリームニルは一斉に南側へと大移動を初めた。
そして長大な列を形成する。
列はゼラフィウムの南側ゲート付近から戦闘領域の外にまで続いていた。
ただしゲートにはあまり接近できない。
セクションゲートを守備するレイテナ軍が、接近する者に対して無差別攻撃を敢行しているからだ。
彼らもまた、守るべきもののために躊躇いを捨てている。
そんな彼らを銀静とカシムは非難するつもりはなかった。
非難する権利も無いと思えた。
『念動障壁てんかーい☆』
列を成したグリムがサイコ・スクリーンを展開する。
光の壁で守られた回廊が完成した。
「メルシー! 片っ端から運び出せ!」
『みんなごめんね……! きっと後で助けるから!』
グリムが形成した脱出路を、メルシー達が難民を抱えて滑空、あるいは走り抜ける。
難民達は全て石化しているか鋼鉄化している。
その場凌ぎとはいえ、エヴォルグの発生を封じ込める事が叶った。
難民が暴れる事もない。
だがそこにエヴォルグ量産機が襲いかかる。
『守りはグリムちゃんにお任せ☆ メルシーちゃんは急いで!』
エヴォルグ量産機とその攻撃が打ち寄せるも、全てサイコ・スクリーンが防波堤となってくれていた。
さらに余剰戦力のメルクリウスとグリームニルが敵の迎撃を行う。
「メルシー、エヴォルグの肉は採集しておけ。詳しく解析すりゃ何か分かるかも知れん」
カシムは難民の身に遺伝子変異が起こっているものと推測していた。
他の猟兵の分析結果と照合してもその信憑性は高い。
より詳細なメカニズムは依然不明だが……石化と鋼鉄化でエヴォルグの発生が止まったことから、人体の代謝が停止すれば一時的に発症を停止させられるらしい。
問題はこの後だ。
感染者と非感染者をどう選別する?
発症を止める方法は?
回復は効かない。
浄化も解呪も無効。
再構築も無意味。
人に戻すと存在の否定となって消滅してしまう。
なら時間を巻き戻すか?
どこまで?
感染者はエヴォルグを産む肉の繭だ。
繭を幼虫に戻したところで、また繭に成長するだけではないのか?
カシムと銀静は同じ思考を回していたが、どちらも答えには至れなかった。
「この状況を作った奴は、どうしても人を滅ぼしたいらしいな……」
銀静はグリームニルが形成した回廊を見つめて呟いた。
走る虫唾に、操縦桿を握った拳が固くなる。
「それも、猟兵の介入も見越した上で、だ」
カシムは収まらない胸のむかつきを堪えて言う。
感染者の病状からは、ユーベルコードに対抗する思惑が見て取れる。
自分達猟兵がオブリビオンに対して常々そうしているように。
ならばそれに対抗するまでだ。
難民を運ぶ光の回廊は、カシムと銀静が抱く対抗の意思の現れであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
…地獄絵図、だわねぇ…
孵化か寄生か感染か、あるいはそのどれでもないのか…門外漢なあたしには区別も診断もできないけれど。内側から「発生」するんじゃ、警戒も索敵も意味なんてなさないわよねぇ…テロとしては冗談抜きで「見事」の一言ねぇ。いっそ教本に載せたいくらい。
あたしは市街地を担当しようかしらぁ。
数も数だし状況も状況、初手から出し惜しみはしていられないわよねぇ。「エヴォルグ」を攻撃対象に指定して●黙殺・目録より活殺と黙殺・掃域を同時励起、併せて黙殺・砲列を同時起動。描くのは|イサ《冷静・停滞》、●活殺で混乱した避難民には冷や水を、「発生」したエヴォルグには停止を。「発生」した瞬間に●黙殺・掃域で対処できれば被害もだいぶ少なくできるはず。他所から来るのは●黙殺・砲列の魔術弾幕で迎撃しましょ。
(…効率だけ見るなら、有象無象の区別なく一切合切「耕して」しまったほうが楽で確実ではあるけれど。心情的にも損益的にも外聞的にも「できるならやりたくない」類ではあるしねぇ)
●猟兵不足
スラム街と比較すれば、市街地区画は依然として統制下にあった。
有事を想定し、国軍・行政・市民が策定した避難計画が作動していたのである。
だが人の体内から人喰いキャバリアが発生する状況は想定の外だった。
人体を喰い破って出現する化け物に誰もが恐怖した。誰もが我先にと逃げ出した。
守備隊は誘導と敵の排除に努めていたものの、両立の困難さに劣勢を強いられていた。
「どこの誰かはさておいて、テロとしては冗談抜きで見事の一言ねぇ。いっそ教本に載せたいくらい」
感心している場合ではないのは分かっているが、それでもティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は溜息が出るほどの評価を禁じ得なかった。
この仕込みは謂わば市民の中に紛れ込ませていた爆弾だ。
しかも探知もできなければ警戒のしようもない。
気付いた時には手遅れで、まさしくゼラフィウムを内側から爆破せしめた。
市民が抱える爆弾は、現在も爆発を続けていた。
こちらに向かって逃げてくる難民の背後を、エヴォルグ量産機が追いかける。
ティオレンシアはそれらをロックオンサイトに捉えた。
魔術文字……黙殺・砲列がスノーフレークを中心として円形に並ぶ。
ゴールドシーンが踊る。
活殺と掃域。
新たな魔術文字を加えられた砲列が、アスファルトの路面に円陣を浮かび上がらせた。
「迷える市民の皆様方、どうぞ円の中央にお集まりくださいな」
ティオレンシアの砂糖味の声が外部拡声器から放たれた。
恐怖に駆られて逃げ惑う市民の耳に、その声は届かない。
けれども円陣の縁に足を踏み入れた途端、多くが急速に我を取り戻した。
活殺のルーンが理性を呼び戻したのだ。
市民が次々にスノーフレークの足元に逃げ込む。
これではスノーフレークは戦闘機動はおろか、銃弾の一発も撃てない。
だがもう動く必要も撃つ必要もなかった。
市民を集めていれば、それを餌とする人喰いキャバリアも集まってくるのは必定。
その場から動かないスノーフレークが包囲されるまで、ものの数十秒とかからなかった。
次々に襲いかかるエヴォルグ量産機。
ティオレンシアが広げた円陣を踏み越えた瞬間、黙殺・砲列が光線を伸ばした。
光線に横切られたエヴォルグ量産機の身がずるりと崩れる。
瞬く間にスノーフレークの周囲には二分割に切断されたエヴォルグ量産機が積み上がり、それから染み出る体液の水溜りが広がった。
「防塁に丁度よさそうねぇ?」
スノーフレークを取り囲む死体の山を見て、ティオレンシアは呟く。
黙殺・砲列の陣の中はキルゾーンであり、セーフティゾーンとなった。
エヴォルグ量産機は即席の防塁を這い上がってくるも、頭を覗かせた途端に魔術文字の砲列に射抜かれてしまう。
折り重なる屍に取り囲まれた市民達は竦み上がるも、活殺の魔術文字に冷やされた頭脳で、スノーフレークの近くから動かない方が安全だと否応なく理解させられた。
ティオレンシアは魔術文字で構築した円陣防御の維持に務める。
その矢先、スノーフレークの足元で悲鳴があがった。
市民の一人が苦しみ始めたのだ。
「エヴォルグが出てくるぞー!」
他の市民は苦しむ市民から一斉に距離を取る。
ティオレンシアは砲列の制御をマルガリータに預け、全ての神経を市民の腹へと注いだ。
異様に膨張した瞬間、内側から張り裂け、臓腑と血肉が飛び散る。
そして小さなエヴォルグ量産機が産声を上げた。
瞬間、ティオレンシアが停滞の魔術文字を活性化させた。
張り裂けた腹。
飛び散った肉片。
産まれたエヴォルグ量産機。
それら全ての時間が凍てつく。
「はい。善良なる市民の皆様はそのままでねぇ?」
恐慌に支配された群衆を間一髪で引き止める。
多くは停止した奇跡の瞬間から青ざめた顔を背け、身を縮こまらせている。
「産まれてくる瞬間まで全然見分けが付かないわねぇ……」
ティオレンシアは二度目の溜息を吐いた。
厳密には風邪に似た症状で判別できなくもない。
しかし戦闘しながら市民の様子を詳細に観察できるかと言われたら、不可能であった。
実際に判定できるタイミングは、エヴォルグが腹を裂いて現れた瞬間……つまり手遅れになってからだ。
「……この内のあと何人が感染してるのかしらぁ?」
ふと脳裏を過った思いつきが、そのまま口から漏れた。
いま見ている市民の全員に感染の疑いを持って然るべきである。
「効率だけ見るなら、有象無象の区別なく一切合切“耕して”しまったほうが、楽で確実ではあるけれど……心情的にも損益的にも外聞的にも、できるならやりたくない類ではあるしねぇ」
我ながらとても外には出せない独り言だった。
生憎、人をぶち撒けたボルシチにして平然としていられるほどサイコパスにはなれない。
少なくとも人としての一般的な倫理は備えているつもりだった。
心の問題ばかりではない。
もしも実行に移せば、間違いなく“難民を虐殺した”事実が残る。
いつどの猟兵が、では済まされない。
この場に居合わせた猟兵全員が……或いは猟兵という括りの全てが、虐殺者の烙印を押されるであろう。
そうした結果、どのような不利益を被るか……想像に難くない。
世界を形成しているのが人ならば、殺戮は世界の破壊である。
世界の抗体である猟兵がオブリビオンに倣うわけにはいかない。
暴走した免疫は、容易く身体を破壊せしめるのだから――。
大気が爆轟で打ち震えた。
スノーフレークのコクピットにまで伝播するほどの爆轟だ。
ティオレンシアは発生源に首を振り向ける。
振り向けた方角とは別の方角から爆轟が鳴った。
距離はかなり遠い。
近場で爆発が生じている様子はみられなかった。
しかし腹の底をずしんと震わせるほどの爆轟だ。
「市街地の外かしらぁ?」
つまりはスラム街だ。
だがスラム街と市街地は高く分厚い壁で隔絶されている。
しかも間には緩衝地帯となる広い平野が横たわっており、ここからでは殆ど様子を伺えない。
けれども……爆轟には憶えがある。
ティオレンシアは大気を震わせるこの爆轟を間近で味わっていた。
蘇るのは、鯨の歌作戦の記憶。
この爆轟は、日レ連合艦隊が奏でた“艦砲射撃”の交響楽と同じ――!
「あららぁ……業を煮やして耕し始めた人が出てきちゃったようねぇ……」
ティオレンシアは三度目の溜息を吐いた。
肩をがっくりと落とした、今日で一番深い溜息だった。
いまデスメタルを大爆音で演奏し始めた猟兵は、一体どうやって後始末を付けるつもりなのか?
事後に気を滅入らせたティオレンシアに、状況が追撃を仕掛ける。
『こちらはレブロス中隊、アルフレッド・ディゴリー大尉だ。市街地に展開中の友軍並びに猟兵へ。敵集団の一部が工業区画へ向かった。本部を狙っていると思われる。可能な者は大至急追撃にあたってくれ』
「時間の問題とは思っていたけどねぇ?」
遂にスラム街と市街地以外の場所が戦闘領域となってしまった。
それは、敵の封じ込めに失敗した事を意味する。
まだ任務に失敗した訳ではないが……防衛を目標とする猟兵側にとって、致命傷になりかねない事態だった。
「でもあたしはご覧の通り動けないし、近場のご同業もねぇ……」
不幸にも市街地に展開した猟兵は少なかった。
殆どの猟兵がより状況が深刻化しているスラム街に行ってしまったのだ。
少ない人数で市街地の防衛と市民の保護に当たっている猟兵に、いますぐ工業区画へ飛んでいけるほどの余裕があるのだろうか?
ならスラム街の猟兵を呼び戻せばいいと一瞬思ったが、すぐに首を横に振らざるを得なかった。
理由は通信チャンネルを開けばすぐに分かる。
レイテナ軍は、未だ混乱の最中にあるのだ。
比較的統制が取れている市街地であっても、至近距離以外の通信手段は、その役割を全く果たせていない。
スラム街へ正確な情報が伝達されるまで如何ほどの時間が掛かるのか……ティオレンシアは推測もしかねた。
「この人達を放りだして駆け付けるわけにもいかないし、後手後手ねぇ……」
猟兵が27人もいて、人手不足に陥るとは。
四度目の溜息だった。
もう焦る気も湧かない。
守備隊に市民を預けて工業区画へ向かうまで、ティオレンシアは幾度となく肩を落とし、溜息を吐いた。
艦砲射撃の爆轟は鳴り止まず、それは“この状況を作り出した元凶”が現れるまで続いた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリー・フランツ
目的:スラムでのエヴォルグ掃討
心情:サノバビッチ!?地獄の門が開いちまったぞ!
手段:「主よ、彼等は地上での苦役を終え今御下に旅立ちますどうか道を示し下さいそして肉体は大地に返します土は土に灰は灰に塵は塵に…クソ、祭詞すら唱える暇がねぇ!」
ヘヴィタイフーンに搭乗、宇宙海兵強襲部隊は4個の中隊(1中隊約200人)に編成し地上展開、腹を食い破って出てきた小型エヴォルグを掃討させる、同時に汚染や羽化の前兆が見える人間の処理も頼む。
中隊長、SSWでの寄生型生物プロトコルに則って行え、最終的な責任の所在は部隊長の俺にある。
通常型に成長したエヴォルグは俺が相手する、遠距離はショルダーAAガンによる射撃、40mmの薬莢は落ちるが気にしてられん、近接戦や羽化直前の感染者が居た場合はマチェーテかファイアアントを使う、離れんと一緒に燃やすぞ!
敵の攻撃はバリア・装甲で防ぐ。
スワロー1!ぼさっとしてないで部下にも攻撃させろ、地獄の釜が煮え滾ってやがる、早く蓋を閉じないと皆死んじまうぞ!軍人なら義務を果たせ!!
●ケルベロス
スラム街全域に人喰いキャバリアの恐怖が波及した際、多くの難民達が真っ先に逃げた先は、ゼラフィウムへのセクションゲートだった。
ゼラフィウムの中へ逃げ込め。
ゲートを潜れば、ゼラフィウムの壁で守られる。
誰かがそう言うまでもなかった。
内と外を隔てる分厚く高い壁が、人の本能に呼びかけたのだろう。
だが、地獄からの脱出口で難民達を待ち受けていたのは、安全などでは無かった。
「主よ、彼等は地上での苦役を終え今御下に旅立ちます。どうか道を示し下さい。そして肉体は大地に返します。土は土に。灰は灰に。塵は塵に――」
コクピットに伝う鋭い衝撃に、ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵であり民間軍事請負会社のCEO・f27848)の口は閉ざされた。
「サノバビッチ! 祭詞すら唱える暇がねぇ!」
怒声と共に拳をサイドパネルに叩き付ける。
鋭い衝撃はさらに続く。
ディスプレイ・ボードの機体ステータスに目を走らせた。
レーザーの直撃を連続して受けたが、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹを覆うフォートレスアーマーは破られていない。整波率もジェネレーター出力も安定している。
壁を背にして戦っており、戦闘機動らしい機動は取れない。
敵の攻撃に対して取れるリアクションは、バリアと装甲厚だけが頼りだった。
ゼラフィウム外縁部の南ゲート。
ヴィリーのいるそこには、難民達が阿鼻叫喚と共に押し寄せていた。
その背後からは大小様々な大きさのエヴォルグ量産機が迫ってきている。
アウル複合システムが映し出すレーダーマップは、正面180度が赤い輝点で埋め尽くされていた。
「難民の腹から産まれるってなら、難民の数だけいるってのか!?」
だとしたらエヴォルグ量産機の総数は百万体に迫るはずだった。
「幾ら撃ってもキリがねえ!」
ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの両肩部に搭載した連装ショルダーAAガンが、絶え間ないマズルフラッシュを焚く。40mmの弾丸が火線を伸ばす。
伸びた火線が、バラックやテントを踏み潰してゲートに接近するエヴォルグ量産機の群れをなぞった。緑色の液体が弾ける。積み上がった屍の山がまた一層分厚みを増した。
発射の際に排出した薬莢が難民達の頭上に降り注ぐ。
命からがらゲートに辿り着いた難民達は、果たして閉ざされた門に堰き止められた。
開けてくれと叩いた門が返してきたのは、薬莢の雨。
降らせているのはヴィリーのヘヴィタイフーンMk.Ⅹばかりではない。
レイテナ軍のシリウスやグレイルも、足元を埋め尽くす難民に構わず携行火器を撃ち続けている。
ピンポン玉ほどの直径を持つ金属の筒が、灼熱を保ったまま難民の頭を直撃した。
死に至るほどの威力ではない。
だがその重さと熱は、か弱き難民達にとって恐ろしい重金属の雨に他ならなかった。
しかし薬莢の雨に打たれた者は遥かに幸いであっただろう。
銃弾の雨に撃たれた者達と比べれば。
「向かってくる難民は感染者だ! そうでない難民も感染者だ!」
「これ以上ゲートに近付けさせるな!」
「発砲許可は降りている! 繰り返す! 発泡許可は降りている!」
元々配備されていたレイテナ軍の兵士達に加え、ヴィリーが喚び出した亡霊の軍勢――宇宙海兵強襲部隊の四個中隊が、ゲートへ逃げ込む難民達に水平掃射を浴びせていた。
彼らは男女を差別しない。
子供も老人も。
健常者も病人も。
近付く全てを平等になぎ倒し続けた。
「隊長……よく女子供が撃てますね」
宇宙海兵強襲部隊の一人が訪ねた。
「簡単だ。動きが遅いからな」
答えた隊長の指は、レーザーライフルのトリガーから離れる事はなかった。
全ての難民を感染者と見做して処理する。
誰が腹の中に怪物を抱えているのか判別できない以上、彼らに与えられた選択肢は他にない。
既に発砲許可という形で赦しは降りていた。
しかし幾ら撃っても押し寄せる難民の数は減る気配がない。
エヴォルグ量産機にしてもそうだ。
ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは一体何発の弾を撃ち続けたのだろうか。
足元は薬莢で覆い隠されてしまっている。
そしてついに、ショルダーAAガンがブローバックを止めた。
「ファック! 弾切れしやがった!」
残弾ゼロを示すアラートメッセージにヴィリーは悪態をつく。
戦線を共にするシリウスやイカルガも続々と弾を使い果たしていた。
壁の向こうから砲撃支援を行っているギムレウスも同様らしい。噴き出す爆発が目に見えて少なくなってきている。
面制圧力が衰えた途端、エヴォルグ量産機の攻勢は勢いを増した。
「小型エヴォルグは殆ど通しちまってる! 海兵隊にやらせるしかねえな……!」
ヴィリーにとって宇宙海兵強襲部隊は頼みの綱だった。
しかし彼らの戦況も悪化していた。
壁に到達した難民の中からエヴォルグ量産機の幼体が発生し始めていたのだ。
キャバリア部隊の防衛線を抜け出てくる幼体と、背後で産まれた幼体の並列処理を強いられた。
しかも難民が入り乱れた状態である。
レイテナの兵士を含め、死傷者が急速に増えつつあった。
『ぐああっ! 助けてくれ! エヴォルグが!』
ヘヴィタイフーンMk.Ⅹのすぐ隣で弾幕を張っていたグレイルに、エヴォルグ量産機が取り付いた。
「ええい動くな! じっとしてろ!」
ヴィリーはすぐに機体を向かわせる。
抜剣したバーンマチェーテでエヴォルグ量産機の首をひと撫でした。
「ますます手段を選んでられなくなってきやがった……!」
パイロットの安否を確認している余裕などない。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは屍を蹴飛ばして再び正面に向き直る。積み重なった緑色の死体を、難民達とエヴォルグ量産機が這い登ってきていた。
「まとめて焼却するしかねえ!」
バーンマチェーテを背部マウントに戻す。代わりにファイアアント対装甲火炎放射器を構える。灼熱で焼き払おうとしたその時だった。
『撃たないで! やめてぇぇぇーっ!』
耳をつんざく少女の声。
大爆音を吐き出すブースター。
イカルガの一個小隊を伴ってアークレイズが現れた。
「邪魔すんなスワロウ01!」
『難民が! 民間人が!』
テレサの涙声の訴えが、ヴィリーの神経をますます逆立てた。
「んな事言ってる場合か! 腹にエヴォルグを抱えてんだぞ!」
『感染してない人だって大勢いるんです!』
「見分けてる内にこっちがやられちまうだろうが!」
『だからって無差別に攻撃しちゃ――!』
「お前は何しに来やがった! 早く部下にも攻撃させろ!」
『私の話を聞いて下さい!』
「地獄の釜が煮え滾ってやがるんだよ!」
『難民を一旦ゼラフィウムの外に!』
「早く蓋を閉じないと皆死んじまうぞ!」
『私達が殺したら意味が無くなっちゃう!』
「お前も軍人だろうが!」
『だから民間人を逃さないと!』
「現実を見ろ! 軍人なら義務を果たせ!」
『私には!』
怒号の応酬の末に、ヴィリーは通信装置の向こうでテレサが項垂れるのを感じた。
『私には……! 撃てない……!』
テレサは掠れた声を絞り出す。
ヴィリーの胸が急激に冷めてゆく。
出ていった熱の代わりに失望と諦観が流れ込んだ。
テレサに掛ける言葉は既になく、ヴィリーはヘヴィタイフーンMk.Ⅹを前に踏み出させた。
ファイアアントが吐き出す紅蓮の炎。
竜の吐息を想起させる灼熱が、エヴォルグ量産機を焼き尽くしてゆく。
その数以上の難民も巻き添えにして。
『あ……あぁ……!』
震えた声を発したのは、どのテレサだったのだろうか。
ヴィリーは口を硬く閉ざしてトリガーキーを引き続けた。
鋼鉄をも焼き尽くす炎が左右を往復する。
人とエヴォルグ量産機を燃焼剤として炎の壁がそそり立った。
『現在、南ゲートからお伝えしています! またしても軍とイェーガーが人喰いキャバリアごと難民を攻撃しました! 一部の部隊はゲートに接近する難民を狙っているようです! 現場には多数の遺体が散乱して積み重なっています! さらに、猟兵の使用した兵器で広範囲に渡って火災が生じており、火の勢いは――』
「やかましい! なんなんだこいつは!」
ヴィリーはコンソールパネルを殴りつけた。
混線した通信を拾い上げたらしい。
内容からして報道局の中継のようだ。
何にしても構っていられる状況ではなかった。
「まだ足りねえか……!?」
火達磨になったエヴォルグ量産機が突っ込んでくる。だが友軍のシリウスがビームキャノンを撃ち込んで蒸発させた。
人喰いキャバリアは炎を恐れない。
難民の腹の中に潜んでいた幼体は母体ごと焼却できたにせよ、生体を止めるには面制圧力が不足している。
ギムレウスの砲兵部隊が盛り返してくれれば――そう思った矢先だった。
大地と空気を震撼させる爆轟が響き渡ったのは。
「なんだぁ!?」
風切り音。
ジェット音。
それらの後に爆発音が続く。
ヴィリーの視界内で何本もの火柱が立ち上り、炎混じりの黒煙が膨れ上がった。
「おいおい、艦砲射撃かよ!」
その爆発の正体にヴィリーはすぐ気付いた。
これだけの破壊規模を及ぼせるのは、艦艇の砲撃以外に考えられない。
どこの誰かは知らないが……地獄に光明が差した。
エヴォルグが、難民が、スラムが、木っ端微塵に吹き飛ばされてゆく。
『誰が……誰が撃ってるんですか……!? 誰がぁぁぁーっ!』
テレサの絶叫を背中に受け、ヴィリーは眼の前を焼き続けた。
地獄の門を閉ざす。
紅蓮に燃え盛る炎の中に立つヘヴィタイフーンMk.Ⅹは、さながら地獄の門番であった。
『――猟兵の皆さん、こちらはケイト・マインドです。緊急事態が発生しました。ただちに工業区画へ急行し、起動したアークレイズ・ディナを停止させ、パイロットの身柄を確保してください。これは依頼者権限を行使した最優先命令です』
ヴィリーの元にその通信が届いた時、スワロウ小隊の姿は既になかった。
大成功
🔵🔵🔵
天城・千歳
【POW】
絡み・アドリブ歓迎
ゼラフィウム南方の前哨基地付近上空で艦を固定、UCで艦隊を召喚
艦隊召喚後に自艦と艦隊の全サテライトドローン群をゼラフィウム及び周辺スラム地区全域に展開し、通信・観測網を構築
「さて、まずは攻撃に巻き込むと厄介なボランティア団体さんを探しますか」
グリモア猟兵からの情報を元に上空から執行官の搭乗機であるカナリアを捜索し、連絡を取ります。
位置確認が取れ、連絡が付いた時点でスラム外への最短脱出ルートを算出し、執政官の機体へ転送し、ゼラフィウムからの脱出を提案します。
提案時に現時点では感染者と非感染者の区別が出来ない事と、感染者からエヴォルグが製造されるのを止める方法が無い以上、無差別攻撃で纏めて吹飛ばす以外の選択が無い事を告げ、巻き込めないので脱出して欲しいと要請
その後、他の猟兵の位置を確認しつつ脱出ルートとその周辺に対し砲爆撃を行い脱出路を啓開、ルート確保後はキャバリア隊でルートを維持し脱出を確認したら、観測網で確認したスラム全域のエヴォルグ群に対し砲爆撃を拡大する。
●虐殺艦隊
『ゼラフィウム外縁部のスラム街では、現在もレイテナ軍とイェーガーが、人喰いキャバリアと激しい交戦を続けています! ご覧ください! スラム街全域が炎に包まれ、瓦礫と化しています! 難民にも多数の死傷者が出ている模様です! ゼラフィウム当局からのコメントは現時点で確認できていません! さらに、現地住民の証言では、軍とイェーガーが難民を巻き込んだ無差別攻撃を行っているとの情報も入ってきています!』
流れているのは、報道関係局の中継映像だろう。
天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)がゼラフィウム中にばら撒いたサテライト・ドローンが送信してきた映像の一つだ。
ワダツミ級の血統に連なる艦艇……瑞鳳のブリッジに立つ千歳は、己と瑞鳳のシステムを同期させていた。
サテライト・ドローンという無数の目が、千歳の視覚野にスラム街の各方面の映像を映し出す。
報道の内容は兼ね事実であった。
レイテナ軍と猟兵は、エヴォルグ量産機とそれを腹に抱える感染者を封じ込めるため、無差別攻撃を余儀なくされている。
感染者と非感染者を区別は困難であり、新たなエヴォルグの発生を止めるには、他に選択肢がない。
瑞鳳はスラム街南のさらに外周部で待機中だった。
隷下の航宙強襲空母を引き連れており、その総数は157隻に至る。
艦載機を含めた戦力は圧倒的で過剰であった。
『全艦、単横陣』
千歳が発した命令信号が艦隊へと伝播する。
各艦は瑞鳳を中心として左右に散開。
艦首をスラム街へ向けて横一列に並んだ。
『さて、巻き込むと厄介なボランティア団体さんを探しますか』
千歳は視覚野に開いたサブウィンドウの中からとあるキャバリアを探していた。
探すキャバリアはカナリア。
バーラント機械教皇庁一等執行官、エクシィ・ベルンハルトが乗るキャバリアである。
スラム街にいる者の中で、恐らくは最も誤射してはならないであろう相手だった。
捜索は呆気なく終わった。
理由はカナリアの装甲色にある。
全身黄金に輝くキャバリアはそうそういない。
サテライト・ドローンで捉えたカナリアは、混沌が渦巻き炎が燃えるスラム街の中にあっても、つやつやとした黄金の光沢で存在感を主張していた。
『そこのカナリアへ、エクシィ・ベルンハルト一等執行官ですね?』
千歳は中継機を介してオープンチャンネルで呼びかける。
『はいぃぃぃ? なんです? お祈りですか? 懺悔ですか? 生憎ですけど教会はもう閉店してますよ?』
苛立ちを含んだ少女の声が返ってきた。
カナリアは僚機のガイスト達と共に敵と交戦状態にあった。
難民の集団を守りながら戦っている。
なお、ガイストがオブリビオンマシン化している事も、この際に明らかとなった。
『こちらは猟兵の天城――』
『あーはいはい、天城千歳さんですね。青いロボットヘッドモドキの』
千歳が言い終えるよりも先にエクシィに遮られた。
『んで? ご要件は? 私いま暇じゃないんですけどねぇ?』
『これより私が指揮する艦隊は、スラム街全域に対して無差別砲撃を開始します』
『うわ雑っ!』
『状況はエクシィ一等執行官もご存知かと思われますが、現時点では感染者と非感染者の区別が困難であり、エヴォルグの発生を止める手段が無い以上、無差別攻撃で殲滅する以外の選択肢がありません』
『ふぅぅぅん? イェーガーって意外と不器用なんですねぇぇぇ?』
エクシィの声の抑揚には露骨な煽りが籠められていた。
『砲撃を開始する前に、こちらでゼラフィウム外部への脱出ルートを啓開します。エクシィ一等執行官と機械教皇庁関係者には、現領域から離脱して頂きたいのです』
『いやでぇぇぇす!』
千歳の提案は元気よく断られた。
『なぁぁぁんでイェーガーに指図されなきゃいけないんですぅぅぅ? 私は動きませぇぇぇん!』
『あらゆる戦術を検討した結果、艦砲射撃で広域を面制圧する事が現状では最も有効と判断しました。ですが私は機械教皇庁の関係者を砲撃に巻き込む意図はありません。よって脱出を提案しました』
『私ぃぃぃ……あなた達イェーガーを見張りに来てるんですよぉ? そぉぉぉれがイェーガーに危ないから逃げてねって言われてはいそうですかで逃げると思いますぅぅぅ?』
『猟兵の監視はゼラフィウムを脱出した後も継続できるのでは?』
『ここがどんだけ広いと思ってるんです? 外回りだけでも耕すのに艦砲射撃持ち出さなきゃいけないレベルなんですよぉぉぉ?』
『では砲撃終了後、現在の位置に戻られては?』
『だぁぁぁめ。その手には乗りませんよぉぉぉん? 私が見てない隙に何しでかすかわかりませんしぃぃぃ? 実際いまスラム街を更地にしようとしてますよねぇぇぇ? そぉぉぉんな連中から目を離せるわけがありますかぁぁぁ?』
『必要であれば中継機をお貸ししますが』
『イェーガーの私物なんて胡散臭くて触れませぇぇん! なに仕込んでるか分かったもんじゃないですしぃぃぃ!』
『エクシィ一等執行官は猟兵を随分と疑っているのですね』
『逆にイェーガーを信用できる理由ってなんです?』
『いずれにせよ砲撃は実施します。よろしいですか?』
『私は構いませんよん? 巻き込んでくれたって。それを理由にイェーガーの皆さんを処せますからねぇぇぇ? 私ねぇ……外界から来たイェーガーを処したくて仕方ないんですよん。アナスタシア聖下にめっ! されるので我慢してますけどねぇ?』
話は平行線を辿っている。
これ以上長引かせても無意味だと千歳の電脳は結論付けた。
『砲撃範囲は予めお伝えしておきます。範囲内に入らないようご注意ください』
『あーはいはい。どうぞお気遣いなく……』
通信の向こうでエクシィが口角を吊り上げていた。
『砲撃座標確認』
ゼラフィウム外縁部の三次元地図が広がる。
スラム街の南部一帯を映した立体映像だった。
幾つも表示された円形は、砲撃の予想範囲を示している。
『殲禍炎剣の照射判定高度の問題がありますから、全域への砲撃は不可能ですか』
逆に言えば南側一帯に火力を集中できる。
確実に壊滅的被害を与えられるだろう。
千歳はサテライト・ドローンが集めた情報を元に砲撃位置を調整する。
エクシィだけではなく、猟兵やレイテナ軍も巻き込んではならない。
通信網が混乱状態にある現在、退避勧告は意味をなさなかった。
そもそも相手が勧告に応じる保障もない。
一人一人確認して回っていたら一日が終わってしまう。
砲撃範囲の選定は整った。
これで発射の準備に入れる。
『全艦、砲撃準備』
データリンクを介して各艦との火器管制を同期する。
重く大きな金属の構造体が動く音が響く。
隷下の艦が砲身をもたげた。
発射する砲弾の予想軌道は、千歳がシミュレートした通りの線を描いている。
『最終照準完了』
僅かな調整を行い、ついに砲撃準備が完了した。
『全艦、発射』
千歳の無機質な号令で、鋼鉄の鯨達は歌い始めた。
山が崩れたかのような轟き。
炸裂する火薬が大気を戦慄させた。
雷鳴と共に放たれた光条が大気を焼き尽くしながら突き進む。
各ランチャーはロケットやミサイルを連続して放出した。
艦上が白煙で覆い隠される。
風切り音を鳴らして飛来する重質量の砲弾。
減衰をものともせずに伸びる荷電粒子。
ガスの尻尾を引いて目標へ飛び込んでゆく無誘導弾と誘導弾。
それらは寸分の狂いもなく狙い通りの位置に着弾した。
膨張する赤黒い爆炎。
熱、金属片、荷電粒子……それらを乗せた衝撃波が一瞬で広がり、大地を震わせる。
スラム街を埋め尽くす勢いで大爆発が連鎖した。
爆発は人喰いキャバリアごと大勢の難民を飲み込み、千切れた肉片も残さず焼き尽くしてしまう。
圧倒的な暴力の前に、誰も抗う術はない。
ただひたすらに理不尽な虐殺が暴雨となって降り注ぐ。
『たったいま、スラム街の南部が砲撃を受けています! 砲撃を行っているのはイェーガーの艦隊でしょうか!? またしてもイェーガーが難民を攻撃しました! 砲撃は非常に広範囲に及んでおり、無差別に行われている模様です! スラム街は壊滅的な被害を……多数の難民が巻き込まれています! これは明確な虐殺行為です! イェーガーが難民を虐殺しています! やめろー! やめるんだー! 何をしているのか分かっているのかー!?』
千歳の視覚野の中で、報道局のリポーターが半ば狂乱して叫んでいる。
背景に映っているのは、現在砲撃を継続中のスラム街南部だった。
千歳は冷徹かつ粛々と砲撃を続行した。
犠牲無き解決の機会は既に失われている。
スラム街に住む百万の難民を生贄としても、エヴォルグの拡散を封じ込めなければならない。
さもなくば、一千万以上の人を内包するゼラフィウムが壊滅する。
千歳のセンサーカメラは、現実だけを見据えていた。
猟兵は、ユーベルコードを操る凄腕のパイロット、あるいは生身でキャバリアと渡り合う超人として、闘争に疲れた人々に希望を与えている。
そして東アーレスにおいては、虐殺者の象徴となった。
大成功
🔵🔵🔵
シル・ウィンディア
あの子の悲しみが聞こえる。
こんなの、こんなのって。
…今、わたしができることは。
レゼール・ブルー・リーゼだと、今回の戦場じゃきつそう。
それなら、射撃兵装を外して近接型の機体で。
…アジュール・アンジュ。人造竜騎、青の天使。
勇気と力をわたしに…。
エヴォルグが来るなら近接対応。
ビームセイバーとライトブレイドの二刀流で攻撃。
邪魔しないで。
わたし、怒っているから。
人の命を食い破ってくるあなたも。
そして、わたしの友達を泣かせているあなた達も。
テレサさん(スワロウ01)を見つけたら、そちらへ優先して移動。
テレサさん…。
抱えている悲しみと怒りを消すことはできないけど。
でも、今ならまだ救える人はいるから。
全員を救えるって、そんな英雄みたいに大それたことはわたしには言えないけど。
でも、両手いっぱいの人を救うことをあきらめたくないから。
だから、今はいこう。
隣にはわたしもいる。そして、みんながいるから。
…使う魔法は新魔法のヘキサドライブ・ブレス・サークル。
癒しと破壊を…。
これなら、敵味方が多少は判別できるからね。
●虐殺の後にて
艦砲射撃が集中的に降り注いだスラム街南部。
後に残されたのは、焼き尽くされ、破壊し尽くされた瓦礫の地だった。
鋼鉄の雨が、エヴォルグ量産機を須らく粉砕した。
そこに大勢いた筈の難民達ごと。
燃え続ける炎と積み重なる瓦礫、ばらばらに千切れた人とエヴォルグの断片を飛び越え、一機の人造竜騎が青い光翼を広げて駆け抜ける。
その姿は煉獄を飛ぶ青い天使のようであった。
「こんな……こんなのって……」
凄惨極まる光景に、アジュール・アンジュを駆るシル・ウィンディア(青き流星の魔女・f03964)は、胸が締め付けられる息苦しさを味わった。
理不尽に奪われた幾多の命が泣いている。怒っている。
自分が死んだことを理解できない者達の思惟が、大気の轟きとなってシルの耳朶を震わせた。
「テレサさん……?」
炎が爆ぜる音の狭間で、シルは微かに聞いた。
彼女が泣く声を。
状況は足を止める事を許さない。
アジュール・アンジュが警戒の報せを訴える。
まだ敵が残っていた。
振り返ったシルは、数体のエヴォルグ量産機の姿を目に捉えた。
「アジュール・アンジュ……勇気と力をわたしに……」
青の天使は纏わりつく無数の怨念を振り払って加速する。
エトワール・ブリヨントとルミエール・ステレールの発振器を左右のマニュピレーターで握り込む。伸びた光刃が星屑の残光を引いた。
迫るエヴォルグ量産機に対して真正面から直進する。
「わたし、怒っているから」
静かな怒気を湛えた青い瞳は、敵だけを見据えている。
エヴォルグ量産機が触腕を伸ばした。無数に分岐し分裂した触腕は、殺傷力を持ってアジュール・アンジュを貫く。
「人の命を食い破ってくるあなたも」
アジュール・アンジュは機体を縦軸に捻った。二つの光刃が触れる寸前の触腕を細切れに切り裂く。
「そして、わたしの友達を泣かせているあなた達も」
翼を思わせる推進装置、エール・ミラージュが光の飛沫を放つ。さらに加速を得たアジュール・アンジュとエヴォルグ量産機が交差する。
刹那、エトワール・ブリヨントが閃く。
アジュール・アンジュは横一文字に切断したエヴォルグ量産機を蹴り、急激に進行方向を変える。次の標的とすれ違う瞬間にルミエール・ステレールで切り上げた。緑の鮮血を拭き上げながら跳ね飛ばされるエヴォルグ量産機。
それを見届けることなくアジュール・アンジュは振り向きざまに二刀の一閃を放つ。背後から飛びかかってきたエヴォルグ量産機を十字に切り裂いた。
「どいて……!」
シルは敵の気配を感じて周囲に視線を巡らせた。
敵がまだ来る。戦闘行動が誘引したらしい。
そのどれもが、人の腹から産まれ出たエヴォルグ量産機――。
みんな苦しかっただろうに。
痛かっただろうに。
シルが瞑目して胸に手のひらを当てる。
アジュール・アンジュも剣を収めてマニピュレーターを腹部に当てた。
「六界の使者よ」
シルがそう唱えると、アジュール・アンジュの腹部の砲口……アルカンシエルに六色の光が灯る。
「悪しき者に……裁きを!」
シルは双眸を見開き、短く、強く叫んだ。
アジュール・アンジュが両腕を広げた瞬間、アルカンシエルが灯した光を解き放った。
六色それぞれに対応した属性の魔力弾が拡散し、自ら意思を持ってエヴォルグ量産機を追尾する。
周囲で光彩が連鎖して弾けると、エヴォルグ量産機が火に焼かれ、水に貫かれ、風に切り刻まれ、土に押し潰され、光で分解され、闇に抉り取られた。
体液を噴出させながら痙攣を繰り返すエヴォルグ量産機の屍を見て、シルは深く息を吐いた。
「テレサさん、待っててね」
アジュール・アンジュは飛んだ。
死せる者達の代わりに泣き続ける、少女の元へ。
猟兵が通った後には何も残らない。
何もかもが、真っ黒に焼き尽くされるだけ。
“最初のテレサ”の言葉は、ゼラフィウムのスラム街で実践された。
テレサ達は真っ黒な焼け跡に降り立ち、地に膝をつける。
数歳に満たない幼子が、瓦礫の隙間に埋もれていた。
テレサはその幼子をゆっくりと瓦礫から救い出し、抱きかかえる。
黒く炭化した身体は、もう心拍を打っていなかった。
「あ……」
幼子の身が崩れ落ちていってしまう。
テレサがどんなに強く抱きかかえても、腕の隙間から零れ落ちてゆく。涙と共に。
幼い命は、黒い灰となって燃え尽きた。
「テレサさん……」
幼子の気配を抱え続けるテレサに、シルは掛ける言葉を失っていた。
「ごめんなさい……助けられなかった……ごめんなさい……」
テレサの見開いた双眸から雫が流れ続ける。
シルは膝を折り、テレサの肩を抱いた。
「シル……さん?」
掠れた声がシルの耳元で鳴った。
「大丈夫、大丈夫だから……」
シルがテレサの震える背中を撫でる。
「軍が、イェーガーが、難民を……」
「うん。分かってる。大丈夫」
「私達が助けなきゃいけなかったのに……みんなどうして……? どうして撃ったの?」
「すぐに来れなくてごめんね」
「最初の私が言ってた……イェーガーは、全部焼き尽くすって……本当にそうなって……」
シルは再び言葉を失った。
テレサの中で滅茶苦茶になった悲しみと怒りが渦巻いている事を知ってしまったからだ。
「テレサさん……抱えている悲しみと怒りを消すことはできないけど……」
シルはテレサを抱く手に力をこめた。
壊れて崩れてしまわないように。
「でも、今ならまだ救える人はいるから」
絶えず運ぶ時は不可逆だ。
死んでいった者は過去となる。
過去は変えられない。変えてはならない。
唇を噛みたい思いを堪えて言う。
「全員を救えるって、そんな英雄みたいに大それたことは、わたしには言えないけど……でも、両手いっぱいの人を救うことを、あきらめたくないから」
半ば自分自身に言い聞かせた言葉だった。
いま抱いているテレサは、もしかしたら自分だったのかも知れないのだから。
「だから、今はいこう。隣にはわたしもいる。そして、みんながいるから」
「シルさん……」
テレサを支えて、シルは静かに立ち上がった。
しゃがんでいられない。
立ち止まっていられない。
現実は残酷なまでに動き続けている。
悲しみの波が過ぎ去るのを待ってはくれない。
だから、立たねば。
立って戦わなければ。
シルはやっとテレサと向き合う事ができた。
紺碧の瞳から溢れる雫が、頬を伝って顎から滴っていた。
「ぐ……うぅっ……!?」
「テレサさん!?」
突然額を押さえて後ろにふらついたテレサを、シルは咄嗟に支えた。
顔が苦しみと……怒りに歪んでいる。
「私が……いる……」
「え?」
テレサの瞳孔が拡大した。
表情が纏う気配ごと変容し、テレサは肌の泡立ちを覚えた。
「最初の、最初の私がぁぁぁ……っ!」
「最初の私って……テレサさん!?」
テレサはシルの手を振り払ってアークレイズに飛び乗った。
スワロウ01のテレサだけではない。
スワロウ小隊全てのテレサがイカルガの翼を広げ始めていた。
「何が起きてるの……!? テレサさん待って!」
シルもアジュール・アンジュのコクピットに滑り込み、大急ぎで後を追う。
スワロウ小隊が向かう方角には、工業区画が存在した。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『アークレイズ・ディナ』
|
POW : 孔壊処刑
【ドリルソードランス】が命中した対象に対し、高威力高命中の【防御を無視或いは破壊する掘削攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ガンホリック
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【デュアルアサルトライフルとテールアンカー】から【実体弾の速射とプラズマキャノン】を放つ。
WIZ : パワーオブザ・シール
命中した【テールアンカー又は両肩部のアンカークロー】の【刃】が【生命力やエネルギーを吸収し続けるスパイク】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
イラスト:タタラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リジューム・レコーズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●虐殺猟兵
東アーレス各所に点在する、東アーレス解放戦線の拠点。
その中でもゼラフィウムから程近い地域に設営された拠点に、リリエンタール・ブランシュ率いるスティーズ中隊は駐屯していた。
『たったいま、スラム街の南部が砲撃を受けています! 砲撃を行っているのはイェーガーの艦隊でしょうか!? またしてもイェーガーが難民を攻撃しました! 砲撃は非常に広範囲に及んでおり、無差別に行われている模様です! スラム街は壊滅的な被害を……多数の難民が巻き込まれています! これは明確な虐殺行為です! イェーガーが難民を虐殺しています! やめろー! やめるんだー! 何をしているのか分かっているのかー!?』
艦砲射撃の暴雨が降り注ぐスラム街に、報道局のリポーターが鬼気迫る表情で叫ぶ。
テントの中の誰もが沈黙していた。
モニターが流し続ける惨状の音に聞き入り、映像に食い入っていたからだ。
「これを……イェーガーがやっているというの……?」
リリエンタールは呼吸をするのも忘れていた。
見開いた双眸の中で瞳が震える。
現実に起きているとは信じ難い光景を、果たして現実と認識した時、深い失望と湧き上がる憤りに、拳が机を叩いていた。
猟兵ほどの力があれば、この東アーレスを人喰いキャバリアから奪い返せるかもしれない。
レイテナ・ロイヤル・ユニオンから解放できるかも知れない。
直接剣を交えて感じた期待が、スラム街のように完膚なきまで粉砕された。
「イェーガー……あなた達は、ただの虐殺者だったようね……!」
眉間に皺を刻んでモニターを睨む。
多くの者が、リリエンタールと同じ眼差しを猟兵へ向けていた。
●急転
ゼラフィウムの二つの区画で生じた人喰いキャバリアとの交戦は、戦況が動くにつれて人類側の優勢に推移しつつあった。
市街地区画では、事前に避難計画が策定されていた事もあり、犠牲を払いながらもエヴォルグ量産機の漸減と市民の避難に成功していた。
外縁部のスラム街が受けた被害は、市街地の比ではない。
多くが人喰いキャバリアではなく、猟兵がもたらした被害だった。
時間の経過と共に爆発的に増大を続けるエヴォルグ量産機に対し、一部の猟兵が大規模な無差別攻撃を実施。
スラム街全域に渡って多大な犠牲者が生じた。
特に南ゲート付近と南部一帯は壊滅状態となり、死者行方不明者の総数は数十万以上に昇る。
これは、生存者を遥かに上回る数値だった。
深刻な出血を支払い、エヴォルグ量産機の漸減を進めた猟兵達。
まだ戦闘を続ける彼らに、状況を急転させる一報が届けられた。
『猟兵の皆さん、こちらはケイト・マインドです。緊急事態が発生しました。ただちに工業区画へ急行し、起動したアークレイズ・ディナを停止させ、パイロットの身柄を確保してください。これは依頼者権限を行使した最優先命令です』
ケイトの説明は非常に端的だった。
だが依頼主の命令である以上、従う他にない。
さもなくば離脱を選ばざるを得なかった。
命令を受諾した猟兵達は、その場の戦闘を中止して工業区画へと急行した。
工業区画は市街地区画より内側に位置している。
そこは、よりゼラフィウムの核に近い場所だった。
●囚われの母
ベッドと椅子とテーブル。
それだけが部屋の全てだった。
殺風景な空間を囲うのは、白い壁に白い床。
壁の一面だけが、透明で分厚い超剛性プラスチック張りとなっている。
まるで生物を飼育し、観察するための水槽……ゼラフィウムの地下深く、厳重に隔離された部屋の中に、彼女はいた。
鯨の歌作戦の実施中、猟兵達に身柄を確保された少女。
オリジナル・テレサと呼ばれた少女は、椅子に座り、テーブルの一点を見つめている。
口を開くこともなく、肺の代替機関を動かすために空気の吸入を繰り返すだけで。
オリジナル・テレサは待っていた。
猟兵に捕獲される事を受け入れた理由を。
ゼラフィウムに搬送される事を受け入れた理由を。
人々を人喰いキャバリアの繭とし、営みの中に忍ばせた理由を。
●潮流が変わる
アルフレッドの操るシリウスが、アサルトライフルの銃口を瞬かせた。
瞬きの数だけ弾丸が発射され、同数のエヴォルグ量産機がアスファルトの路面に転がる。正確かつ容赦のない射撃だった。
『ザコどもが! てめーらは本当は弱いんだよ!』
『市民の避難はもう殆ど終わってるからね。今まで遠慮してた分、撃ちまくってやるわ!』
レブロス中隊の各機もアルフレッド機に続く。
横並びとなって道路を封鎖するシリウス達が、押し寄せるエヴォルグ量産機の群れに弾雨を浴びせる。足元は薬莢で埋め尽くされていた。
『ディフューズミサイル! 撃ちます!』
後列に控えていたシリウスのミサイルランチャーのハッチが開いた。
飛び出した複数発のミサイルは弧の弾道を描く。積み上がったエヴォルグ量産機の屍を越えると分裂し、敵の後続の頭上に降り注いだ。小規模な爆発が地表を埋め尽くす。
火と鉄の暴風を浴びたエヴォルグ量産機は千切れ飛び、周りのビルの壁に肉と内臓をへばり付かせた。
人喰いキャバリア出現の初報が出た時と比べ、ゼラフィウムの守備隊は確実に戦況を押し戻している。
アルフレッドにも確かな手応えがあった。
だが同時に敵の動向の変化も感じていた。
「妙だな」
『隊長、何が妙なんです?』
無意識に漏らした呟きを、隊員の一人は聞き逃さなかった。
「敵が中央に向かって流れていないか?」
『え? そういえば……』
レブロス中隊が展開している位置から後方へと進むと、やがて工業区画へ至る。
敵の流れは明らかにその方角へと向いていた。
「人口の多い市街地に向かうのは理解できる。だが工業区画へ向かう理由が奴等にあるのか?」
『餌が少なくなったんで移動し始めたんじゃないですかね?』
「なら多数の市民を収容しているシェルターを狙うか、スラム街に向かうのが道理ではないか?」
そういえば、スラム街の戦況はどうなっているのだろうか。
暫く前から情報が全く入ってきていない。
スワロウ小隊と多くの猟兵達が向かった以上、問題無いと思いたいが――通信の呼びかけに思案を断ち切られた。
『こちらはゼラフィウム司令部、ケイト・マインドです。アルフレッド・ディゴリー大尉、応答を願います』
平静かつ落ち着いた女性の声は、間違いなく参謀次長の声だった。
「こちらレブロス01、アルフレッドです」
『緊急事態が発生しました。レブロス中隊はただちに工業区画へ急行し、起動したアークレイズ・ディナを停止させ、パイロットの身柄を確保してください』
アルフレッドは頭に水を掛けられた気分だった。
「詳細の説明を求めます」
『説明している時間はありません。工業区画にはイェーガーも向かわせます。繰り返しますが、アークレイズ・ディナのパイロットの身柄は確実に確保してください。殺害は厳に禁じます』
「……レブロス01、了解です」
人喰いキャバリアとの交戦中に、自軍のキャバリアが起動した?
起動したキャバリアにはパイロットがいて、身柄を確保しなければならない?
辻褄が合わない命令に疑念が膨れ上がる。
しかし今は職責を果たすべきと思考を切り替えた。
「レブロス01より中隊全機へ。司令部より新たな命令が下った。これより我々は工業区画へ向かい、起動したアークレイズ・ディナを無力化、パイロットを拘束する」
『なんですそれ? 急過ぎませんか? パイロットを拘束ってどんな事情が……』
「説明している暇はない」
『ですがこの場を放り出すわけにも……』
「レブロス02を分隊長とし、部隊を二つに分ける。レブロス02からレブロス06は居残りだ。レブロス07以下は一緒に来い」
『レブロス02了解です。あとでちゃんと説明してくださいよ?』
アルフレッドのシリウスは部隊の半数を伴って工業区画へと加速した。
内に押し込んだ疑念は、膨張を続けている。
●侵蝕汚染
工業区画に敵襲を報せるサイレンが鳴り響く。
銃撃の音がそこかしこで弾けていた。
壁を乗り越えて雪崩込んだエヴォルグ量産機が、川の様相を呈して一定の方向へと流れてゆく。
『こいつらなんなんだ!?』
『無視されてるのか!?』
守備隊のグレイルがアサルトライフルを掃射し、グレネードを撃ち込む。
されどエヴォルグ量産機は脇目も振らずに進み続ける。
エヴォルグ量産機の大群が進んだ先には、格納庫があった。
閉ざされた扉を食い千切ると、暗い屋内に日差しが差し込む。
空のキャバリアハンガーが並ぶ中、ただ一つだけ使用されていたそこへ、光が届いた。
アークレイズ・ディナが、静寂の中で佇んでいた。
格納庫内に入り込んだエヴォルグ量産機がアークレイズ・ディナに群がる。そして伸ばした触腕をあらゆる隙間から侵入させた。
眠っていたはずの機体が目を醒ます。
カメラアイとセンサーに光が灯り、機体各部が光を脈動させる。
青黒い装甲がじわじわと赤に染まりゆく。
もしもその場に猟兵がいたのであれば、アークレイズ・ディナがオブリビオンマシンに変貌する瞬間を目の当たりにしたであろう。
完全なオブリビオンマシン化を遂げたのと、装甲が赤に染まりきったのは同時だった。
覚醒を果たしたアークレイズ・ディナがハンガーから一歩踏み出す。懸架されていた武器に腕が伸びた。
右腕のマニピュレーターに大型衝角、ブレイクドライバーを。
左腕のマニピュレーターに二連装突撃銃、イグゼクターを。
二つの得物を取ったアークレイズ・ディナのテールアンカーと肩から伸びるアンカークローが宙を踊る。
それらの切っ先が、エヴォルグ量産機達に突き刺さった。
人喰いのジャイアントキャバリアが悲鳴らしき鳴き声をあげる。
けれども抵抗する気配はない。
突き刺されたエヴォルグ量産機は、穴が空いた風船のように急速に萎びてゆく。干物も同然となるとアンカーが引き抜かれた。すぐに別のエヴォルグ量産機を突き刺す。
そうしてエネルギーの吸引を幾度も繰り返したアークレイズディナは、ブレイクドライバーの切っ先を床に突き立てた。
凄まじい音を立てて高速回転を始めたそれが、コンクリートの床を掘削する。
砕けた岩と舞い上がった土の嵐の中で、アークレイズ・ディナの姿は地中に沈み込んでいった。
●母の開放
隔離された部屋で、オリジナル・テレサは机の一点を見つめたまま椅子に座り続けていた。
空調から漏れる微かな音以外は何も聞こえない。
耳が痛くなるほどの無音の空間。
けれど天井から、ほんの僅かな音が鳴り始めた。
工事現場でドリルが地面を掘削する音とよく似ていた。
オリジナル・テレサは椅子から立ち上がり、部屋の角へと移動する。
掘削音は次第に大きくなり、音のみならず震動まで伝わってきた。
やがて頂点に達した時、部屋の中央の天井が砕け、崩れ落ちた。
爆発的に広がった土煙が部屋の中に充満する。
その煙の中に、赤い光が浮かび上がった。
オリジナル・テレサが光に向かって歩み寄る。
赤い光を放つ巨大な輪郭――アークレイズ・ディナが独りでに膝を着き、胸部のハッチを開く。
誰もいないそこへとオリジナル・テレサが乗り込んだ。
「これで、ここに来た目的は終わり」
アークレイズ・ディナはハッチを閉ざし、ブレイクドライバーの切っ先を真上に掲げる。
ブースターが吐き出す赤い噴射光が部屋の空気を滅茶苦茶に撹拌した。
ドリルの回転音と共に上昇するアークレイズ・ディナ。
斯くしてオリジナル・テレサは、隔絶された水槽から脱した。
●この世を滅ぼすもの
アルフレッドは苦く奥歯を噛み締め、敵を見上げた。
画面中央のレティクル越しに、真紅のセンサーカメラが無言で見ろしてくる。
周囲には、擱座したレイテナ軍のキャバリアが何機も転がっていた。
『隊長! 構わず撃ってください!』
通信装置を介して隊員が必死の叫びをあげる。
発信元は、アークレイズ・ディナのアンカーに囚われ、コントロールを奪われたシリウスからだった。
工業区画に到着したアルフレッドらレブロス中隊は、状況を確認する間もなくアークレイズ・ディナと交戦状態にもつれこんだ。
ほんの一瞬だった。
僅かな時間の内に、アルフレッド機以外のシリウスにアンカーが突き立てられ、システムを蝕まれ、今は隊長機へと武器を向けている。
『お願い早く! 覚悟はできてるわ!』
部下の懇願に、アルフレッドはトリガーキーに掛けた指に力を込める。
アークレイズ・ディナの支配下に置かれたシリウスのビームキャノンが光を蓄え始めた。
もう猶予はない。
アルフレッドは心の中で赦せと懺悔する。
次の瞬間、少女の裂帛が耳朶を痺れさせた。
「テレサァァァーッ!!」
スワロウ小隊隊長、テレサ・ゼロハートは、激昂に全身を煮沸させて叫んだ。
ブースターから推進噴射の光を爆発させたアークレイズが最大加速で突っ込む。
アークレイズ・ディナはシリウスを盾にしようと試みるが、四方から飛んできた白い機影に阻止された。
イカルガ達がビームソードでアンカークローのワイヤーを切断したのだ。
月光の色を宿したプラズマブレードを振りかぶるアークレイズ。
ドリルソードランスですくい上げるアークレイズ・ディナ。
二機のアークレイズが……二人のテレサが切り結んだ。
「大勢の感染者を出したのはあなたの仕業でしょう!? どうしてあんな事ができるんです!?」
スパークが激しく明滅する中で、テレサは噴き出し続ける怒りを叩き付ける。
「私は、きっかけを作っただけ」
吹き付ける赤いプレッシャーを風と受け流し、オリジナル・テレサは淡々と応じた。
「それで数え切れない人が死んだ!」
「死んだんじゃない。殺されたの」
「あなたに!」
「いいえ。殺したのは、イェーガー」
テレサは目を見開いて絶句する。
「見なかった振りをしても無駄。私は知ってる。あなたは見た。イェーガーが大勢の人を殺し、命を弄び、全てを壊し尽くす光景を」
オリジナル・テレサが淀みなく言う。
まるで自分の目で見てきたかのように。
だが、事実だった。
テレサは間近で見てきた。
大勢の難民を殺し、回復と称して命と身体を弄び、全てを区分無く破壊し尽くした猟兵達の姿を。
「そうさせたのは……!」
「全員が感染していたわけじゃない。でもイェーガーは感染していない人も無差別に殺した。壊す必要のないものまで全部壊した。持てる力を振り回し、理不尽を押し付けて」
「あなたが……現れなければ……!」
「イェーガーが現れなければ、私がこんな事をする必要なんてなかった。イェーガーがいたから、大勢の人の命が奪われた」
テレサは心拍が大きく跳ね上がるのを感じた。
猟兵がいなければ?
どうなっていた?
そもそも人喰いキャバリアが現れなかったのか?
最初の私は現れなかったのか?
「ゼラフィウムを焼いたイェーガーの火は、やがてアーレス大陸の全てを焼き尽くす。イェーガーには、それだけの力がある」
アークレイズ・ディナの頭部がアークレイズの頭部に肉薄する。
「思い出して。イェーガーが全て壊した後に残された光景を。真っ黒な焼け跡が、骸に埋め尽くされている光景を」
オリジナル・テレサの声が、テレサの意識に思い返させた。
スラム街で見たあの光景を。
猟兵が破壊し尽くしたスラム街に、テレサは降り立った。
幼子が瓦礫に埋もれていた。
テレサは幼子を瓦礫から掘り出し、抱きかかえる。
幼い身体の心臓は、もう止まっていた。
熱も。
流れる血も。
全て黒く焼かれて。
「あ……」
幼子の身が崩れ落ちていってしまう。
テレサがどんなに強く抱きかかえても、腕の隙間から零れ落ちてゆく。
涙と共に。
幼い命は、黒い灰となって燃え尽きた。
「イェーガーは、世界を“骸の海”で埋め尽くす……!」
オリジナル・テレサの声は、怨嗟と後悔の重力を伴う。
アークレイズ・ディナがブレイクドライバーを振り抜く。
「ぐっ! うぅぅぅっ!」
アークレイズは押し負けて弾き飛ばされた。アークレイズ・ディナがイグゼクターを向ける。
「テレサ少尉! 迂闊だぞ!」
追撃を仕掛けようとしたアークレイズ・ディナに、アルフレッドのシリウスがビームキャノンを撃つ。アークレイズ・ディナはパルスシールドを展開して後ろに飛び退き、イグゼクターを乱射した。アルフレッド機はシールドで直撃を防ぎながら後退機動を取る。その間に体勢を立て直したアークレイズがベルリオーズで応射を加えた。イカルガも援護の火線を伸ばす。アークレイズ・ディナを球体状に覆うパルスシールドが銃弾を受けて激しく明滅を繰り返した。
「ディナは人喰いキャバリアの侵蝕を受けたのではないのか!? 誰が乗っている? 乗っているのは何者だ!?」
アルフレッドが詰問するも、オリジナル・テレサは何も答えない。
猟兵達が到着したのはその時だった。
「思っていたより早かったですね」
オリジナル・テレサの視線が猟兵達へと向かう。
「ここでの目的はもう達成しました。あなた達に用はありません。ですが……このシステムがちゃんと稼働するのか、確かめるには丁度いい」
アークレイズ・ディナの切断されたアンカークローが全て新たに生え変わる。
「“イェーガー・デストロイヤー・システム”、起動……!」
JD-Sの横文字がメインモニター全体に表示されたのも一瞬、すぐに消失した。
オリジナル・テレサの後ろ髪がふわりと膨らむ。身体の内から波動を生み出しているかのように。
アークレイズ・ディナの機体に巡る赤い光が脈動し、一段と発光を強めた。
それは、オブリビオンマシンが持つ悪意を体現する光だった。
故に、猟兵は戦う事を強いられた。
ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『そもそも、てめぇがそんな行動をしなければ猟兵も現れなかった。前提がおかしいんだよてめぇは。世界を蝕み、死を振りまくのはお前だ。歪んだ妄想に取り憑かれた阿呆。てめぇが滅ぼそうとしてる生き物も天然自然。アーレス大陸の一部なんだがな。ま、たとえ、石を投げられようが戦い抜くんだよ俺たちは。』
ユーベルコード【鬼神解放『征天覇王』】を発動。
【オーラ防御】を身にまとい【見切り】で攻撃に対処。
腕部ビーム砲で【制圧射撃】しつつ接近、ブレードによる【鎧無視攻撃】とバンカーによる【鎧砕き】を叩き込んでいくぜ。
『オブリビオンにより歪んだその妄執、因果全て断ち切る!例え、この場で無理だとしても必ず!』
●芯念
オリジナル・テレサがどうしてここにいる?
ガイは真っ先に浮かんだ疑問を振り払った。
それは問題ではない。
重要なのは、敵がオブリビオンマシンである事だけだ。
打倒するべき敵を正面に見据え、コズミック・スターインパルスを加速させる。
「そもそも、てめぇがそんな行動をしなければ猟兵も現れなかった」
静かに煮沸する怒気を籠めてトリガーキーを引く。コズミック・スターインパルスの左腕部に備わるドラゴンファングが重荷電粒子を連続発射した。
『イェーガーが産まれなけば、私がこんな事をする必要なんてなかった』
オリジナル・テレサが合わせ鏡のように怒気を跳ね返す。
アークレイズ・ディナに重荷電粒子の一撃が届くも、機体を覆うパルスフィールドに拡散させられた。命中の衝撃で怯んだ素振りを見せたのも一瞬、驚異的な加速で鋭角な機動を刻む。連続するビームの破線を潜り抜け、イグゼクターとテールアンカー……マンティコアのビームキャノンを乱射する。
「前提がおかしいんだよてめぇは。世界を蝕み、死を振りまくのはお前だ。歪んだ妄想に取り憑かれた阿呆」
ばら撒かれた弾雨と鋭いビームが吹き付ける最中、コズミック・スターインパルスは左右に機体を振りながら目標へ接近を試みる。ビームの直撃は避けるも、二倍の速射レートで発射されるデュアルアサルトライフルの乱れ打ちは躱しきれない。バリアコートした装甲を弾丸が叩く度に、僅かな減速とコクピットに伝わる微震がガイの神経を苛んだ。
『死を広げているのは、あなた達の方。自分の力の異常さを認めようともしない……あなた達は産まれてくるべきじゃなかった』
低く、静かな抑揚で敵意を示すオリジナル・テレサに、ガイは胸中で舌を打つ。挑発に乗る相手ではないらしい。
コズミック・スターインパルスは接近戦に持ち込もうと追い立てるも、アークレイズ・ディナは徹底して引き撃ちを続けていた。
速度の勝負では、ユーベルコードで機動性を高めたアークレイズ・ディナが勝る。避け切れない銃弾が、コズミック・スターインパルスの耐久値をじわじわと削り取る。
「てめぇが滅ぼそうとしてる人間も天然自然。アーレス大陸の一部なんだがな」
『その人間がイェーガーを産み出し続ける以上、滅ぼさなきゃいけない。イェーガーがより大きな破滅をもたらす前に』
こちらもユーベルコードで対抗する他にない事を、ガイは苦々しく結論付けた。
イェーガー・デストロイヤー・システムは、ユーベルコードを解析し、可能であれば再現するシステム。
このシステムを搭載した機体との交戦時において、ユーベルコードの使用はリスクの高い行動だった。
かつて日乃和の香龍で同機と交戦した際、多くの猟兵のユーベルコードを学習し再現された結果、最終的には手の付けようがないほどまでに至った。
ガイにはその経験がある。
だが……躊躇っていればやられる。
「だとしても、俺達は戦い抜くんだよ。それで世界中から石を投げられようともな」
コズミック・スターインパルスが闘鬼刃を抜いた。
「鬼よ! 絶刀の鬼神よ! 我が身に宿れ! 天をも征する王となれ!」
鬼神の呪詛を伴う炎が刀身から噴き出し、機体全体を包み込む。急激に増速し、迅雷の如き軌跡を刻んでアークレイズ・ディナの側面へと回り込んだ。敵の照準はぴったりと張り付いて剥がれない。弾丸とビームを浴びるも、強引に直進加速した。
「オブリビオンにより歪んだその妄執、因果ごと全て断ち切る!」
縦横無尽に振るった闘鬼刃が、紅蓮の炎と漆黒の稲妻の斬撃波を飛ばす。アークレイズ・ディナはブレイクドライバーを振り回してプラズマの光波を走らせた。二機が放った波が激突し、炎と稲妻と荷電粒子が爆ぜる。
光波を放ったアークレイズ・ディナがほんの僅かに速度を落とした。その僅かな間隙で、コズミック・スターインパルスは深く、重く、速く、稲妻の閃きとなって踏み込んだ。
「例え、この場で無理だとしても必ず!」
機体諸共に右腕部のマグナムバンカーを叩き込む。届かない。パルスフィールドに阻まれた。しかしガイは迷うことなくトリガーキーを力いっぱいに引いた。
炸薬が爆ぜた。排出される薬莢。強烈な貫通力を持った衝撃がパルスフィールドを突き破る。
『く……!』
オリジナル・テレサが微かに滲ませた焦りに、ガイは硬い手応えを感じた。
愚直なまでの信念を籠めた、根性の一撃だった。
大成功
🔵🔵🔵
ワタツミ・ラジアータ
虐殺だの命を弄ぶなどとは失礼な。
皆さんを直しておりますし資源の無駄使いは悪いことですわ。
要救助者に対して義体化施術を行っていた
人格は維持、機械の割合が高い程対応が優しい
私達が廃棄物集積所《骸の海》を造るとかなんとか。
あそこの素材は好みではないのですが。
他世界の”きょうだい”《私》ならばともかく。
貴女はそんなゲテモノを造る為に無駄使いをしました。
素晴らしい料理にドブ川を水をぶっかける様な。
それが不愉快なのです。
だから、スクラップにしましょう
どれだけ速く飛べてもこの星では制限がありますし、この数相手は大変でしょう?
召喚された”きょうだい”は猟兵ではない
好みの素材は異なる
骸の海産を好む悪食家もいる
●レギオン
Heart of GearOrganに搭乗するワタツミは、猟兵とアークレイズ・ディナの戦いを遠巻きに観戦していた。
オリジナル・テレサの認識は、ワタツミにとって至極心外であった。謂れがなかったからである。
「虐殺だの命を弄ぶなどとは失礼な。皆さんを直しておりますし、資源の無駄使いは悪いことですわ」
各々の猟兵達が破壊を撒き散らしている舞台裏で、ワタツミは黙々と要救助者の義体化施術に勤しんでいた。
それを無かった事にされるのは心外以外の何物でもない。誠に遺憾であった。
ましてや雑に有機生命体と一緒くたにされるなどと――。
「それと、お断りしておきます。私が|廃棄物集積所《骸の海》を造るとかなんとか。他世界の“|きょうだい《私》”ならばともかく、あそこの素材は好みではないのですが」
『そうだったとしても、あなたも世界を骸で埋め尽くすイェーガーの一人となる。あなたがイェーガーである限り』
話が通じない相手だとワタツミは肩を落とした。
相手の認識は頑固で動かない。
これだから有機生命体は……誠に遺憾である。
「私は不愉快なのです」
勿体ない。とても勿体ない。
その感情の演算ばかりが、宝石の心臓の中で渦巻いている。
「貴女はゲテモノを造る為に無駄使いをしました」
思い返せばますます勿体ない。
貴重な資源が幾らでもあったのに。
いまは殆どが壊れて崩れて瓦礫の一部だ。
仮にかき集めたとしても、使える材料がどれだけ残されているものやら。
「それは、極上の料理にドブ川の水をぶっかけるような所業……」
ワタツミは自分で言えば言うほど不愉快になってきた。
材料の価値を知らない者はこれだから。
どうして無駄に使うことができるのか?
根本的な理屈の認識からして決して相容れない。
「それが不愉快なのです。ご理解いただけますか?」
返事は無かった。
予想通りだったとはいえ、やはり価値観を共有できる相手ではないことを改めて思い知らされた。
「だから――スクラップにしましょう」
心無き異星の機神が、宝石の心臓に秘められた権能を垣間見せる。
「舞台を此処に築きたり。我は我らにして我らもまた我なり」
Heart of GearOrganの周囲に開いた幾多の召喚陣。
光より這い出るのは、機械仕掛けの軍勢。
軍勢のどれしもが、Heart of GearOrganと同一の外観を有していた。
『ドローンを喚びましたか』
オリジナル・テレサが呟く。
ワタツミは首を横に振った。
「こちらは私の“きょうだい”ですわ。彼らはレギオン。それは、大勢であるが故に」
『猟兵の軍勢……滅びを運ぶ軍勢……!』
「召喚された”きょうだい”は猟兵ではありません。ですので、味の好みは私と異なります。骸の海産物を好む悪食家もございましてよ」
ワタツミのHeart of GearOrganが緩慢に腕を上げ、それを振り下ろす。
行け。進め。ワタツミが言葉無く命じるままに、デウス・エクス・マキナが飛び立つ。
『そうやってあなたは世界を喰らい尽くす』
アークレイズ・ディナの肩部から伸びるアンカークローが何本にも分裂し、周辺で擱座しているキャバリアに突き刺さる。それらは操り人形の如くぎこちない動きで立ち上がり始めた。
「おや? あなたも……」
資源を再利用するだけの頭はあったのか。
オリジナル・テレサが従える人形の軍勢を目の当たりにし、ワタツミは微かながらも感嘆した。
「晩餐にはまだ早すぎますけれど、ご馳走にあずかりましょう」
二つの軍勢が衝突する。
貴重な素材達が崩れてゆく光景に、ワタツミは後の食事に心が浮かないでもなかった。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
わたくし達の存在が罪、と来ましたか
…救えなかった命があるのは承知
殺めた命があるのも承知
その上でーーただ、わたくしは貴方を否定する
ヴォーパルソードを振るい、ディナと応戦
|炎の破滅《カタストロフ》の否定の主張を込めて歌い、153メートル半径内の敵全てに『カタストロフに関する全事象・概念の否定』の状態異常を付与
貴方がカタストロフを阻止する存在というならば、このUCの効果を受けない筈です
そして勿論、わたくし達六番目の猟兵がこのUCの効果を受ける事も無い
幾度と無くオブリビオン・フォーミュラと控えるカタストロフの思惑を阻止し続け、聖賢者からカタストロフの思惑が破綻し続けていると言わしめたわたくし達には
●それはあなたの鏡映し
立ち並ぶ工場群の狭間を擦り抜けて滑走するノインツェーン。アークレイズ・ディナと、猟兵のユーベルコードを再現することで操り人形にされたレイテナ軍のキャバリアがそれを追う。
「わたくし達の存在が罪、と来ましたか」
フレスベルクはオリジナル・テレサの言葉を胸中で反芻する。
救えなかった命があるのは事実。理由はどうあれ、殺戮を広げた猟兵がいたのも事実。滅びをもたらす者は存在自体が罪というならば、猟兵は罪人であろう。オブリビオンがもたらす、より破滅的な破滅を回避するため、救う命を取捨選択し、遍く障害を滅ぼしてきたのだから。
「この宿命付けられたエゴが罪なら……」
3機のグレイルが工場の屋根から跳んだ。突撃銃で火線を張って襲いかかる。ノインツェーンは1機目の攻撃を躱し、2機目の攻撃を黄金の円陣で受け止めた。
「その上で――ただ、わたくしは貴方を否定する」
シールドパイルを打ちこまんとした3機目をヴォーパルソード・ブルースカイで切り払った。返す刃で2機目を切り伏せ、3機目を貫く。水の流れを想起させる剣の運びだった。しかしアークレイズ・ディナに踏み込ませる格好の好機を与えてしまう。
『自覚しているのに力を振るう事を止めない……その傲慢さが、やがて世界を焼き尽くす!』
縦に振り下ろされたブレイクドライバーの一撃。ノインツェーンはヴォーパルソード・ブルースカイで打ち返した。鈍い金属音が響く。重い衝撃を受けた機体とコクピットが激震する。相殺しきれる重さではない。フレスベルクは奥歯を噛み締めた。機体を退かせて衝撃を逃す。途端、複数の殺気に視界の外から突き刺された。シリウスがビームキャノンをチャージして待ち構えていたのだ。正面からはアークレイズ・ディナのアンカーが迫る。アンカーはエヴォルグ量産機のユーベルコードを再現し、無数に枝分かれしていた。
「私は止めない。あなたが|炎の破滅《カタストロフ》を望むものに囚われ続ける限り」
フレスベルクが祈りを謳う。炎の破滅無き世界、破滅を浄化する炎の歌を。
『パワーダウン……!?』
オリジナル・テレサが生の感情を漏らした。
シリウスのビームキャノンに蓄えられていた光が急速に引いてゆく。機体自身も力なく膝を着いた。
フレスベルクの声がカタストロフに関する全事象・概念の否定を否定したためだった。
即ち、それはオブリビオンの否定を指す。
オブリビオンはやがて世界を必ず|炎の破滅《カタストロフ》に導く。
一つとて例外無く。
故に、フレスベルクのユーベルコードから逃れる術はなかった。
ヴォーパルソード・ブルースカイの一薙ぎが、脱力した無数のアンカークローを払い除けた。
『この程度!』
だがアークレイズ・ディナは止まらない。
ブレイクドライバーとテールアンカーのプラズマブレードが嵐となって襲いかかる。いずれの攻撃も先程と比較して重量感が低い。
ノインツェーンは流麗かつ淀みなくヴォーパルソードの切っ先を走らせた。火花が鮮やかに明滅する。甲高い金属音が鳴る。工場建屋のビルが震え上がる。
「この重さ……この想い……!」
フレスベルクは剣戟を通して気付いた。
オブリビオンマシンの力が大きく削がれていても、アークレイズ・ディナの攻撃には重いプレッシャーが乗っていた。だとすれば、オリジナル・テレサが生じさせているプレッシャーだった。
「あなたの背負う覚悟も、わたくし達と同じだというのですか?」
オリジナル・テレサも背負っている。猟兵がもたらすより破滅的な破滅を回避するため、救う命を取捨選択し、遍く障害を滅ぼす覚悟――傲慢やエゴともなる覚悟を。
「あなたもまた、宿命を背負うもの……」
世界を守護る意志。
アーレス大陸を守護る意志。
相反する二つの意志が切り結ぶ。
フレスベルクは、アークレイズ・ディナの向こうに、オリジナル・テレサの姿を幻視した。
「わたくしは引きません。炎の浄化の果てに、炎の破滅無き世界を謳い上げましょう」
守護りたいものを守護れるのは、力ある者だけ。
ノンツェーンがヴォーパルソード・ブルースカイの切っ先を突き出す。己の意志と願いを貫くために。
大成功
🔵🔵🔵
カグヤ・アルトニウス
○対オブリビオンマシン
あなたがオブリビオンを「知らない」のでそれを「信じてしまった」のが事の始まりですね
ですから、その干渉を断ち切る迄は食い止めるしかありません
アドリブ歓迎/POW
(乗機)
ホワイト・レクイエム
(行動)
まずは、UC起動して(瞬間思考力+推力移動)による全周囲機動とテレポートで突っ込みます
ドリルソードランスの攻撃は(見切り+心眼+読心術)で先読みしながら躱し、それ以外はアブソリュート・ウォール(通常攻撃無効+オーラ防御)で弾きます
後は、ソードオブビクトリーをマシンガンモード(制圧射撃)とライフルモード(衝撃波+マヒ攻撃)とトゥインクルスターのエネルギー弾を切り替えながら応戦します
●過去の亡霊を殺す
オブリビオンマシンは人を狂わせ、破滅的思想へと誘導する。
猟兵でなければどのキャバリアがオブリビオンマシンなのか判別できず、その状況を認識することもできない。
しかも根拠は猟兵の主観に基づく。猟兵でない者に存在を立証する手段もない。キャバリアがオブリビオンマシン化するメカニズムも明確になっていない。人の精神を汚染する仕組みも不明である。
世界を構成する大多数の只人にとって、オブリビオンマシンとは自覚症状無き病魔に等しい。
「背景事情はどうあれ、あなたはオブリビオンを知らない。知る事ができない」
カグヤはアークレイズ・ディナのパイロットに向けてそう言った。
空気抵抗と慣性を無視した機動を刻むホワイト・レクイエム。ソードオブビクトリーの瞬く銃口が弾丸を撃ち散らす。無作為にマシンガンモードからライフルモードへ切り替え、鋭い射撃も重ねる。相手を痺れさせるほどの衝撃を伴う弾幕だった。
ホワイト・レクイエムの機動に対し、アークレイズ・ディナが鬼気迫る猛追を見せる。ばら撒かれる弾丸をパルスシールドで防ぎ、イグゼクターの集中掃射を浴びせる。ホワイト・レクイエムはアブソリュート・ウォールで防いだ。激しく明滅するモニターにカグヤは双眸を細める。接近したくとも弾雨の圧力に押し返されてしまう。
「そしてオブリビオンマシンの精神汚染も自覚する事ができない。それが事の始まりですね」
『私は私本来の役割と使命に従って行動してる。オブリビオンマシンは関係ない』
「いまの発言こそ、オブリビオンマシンの影響を受けている証明ですよ」
反論の代わりにブレイクドライバーの切っ先が突っ込んできた。唸りをあげる巨大な衝角が一瞬で迫る。カグヤは反射的に息を詰めた。コクピットブロックを抉り取られる――ことはなく、ホワイト・レクイエムは姿を消した。ブレイクドライバーは虚空を貫いた。
敵機を探すアークレイズ・ディナ。その背後にホワイト・レクイエムは出現した。空間位相を応用した擬似的な短距離テレポートを行ったのだ。
「ですから、その干渉を断ち切る迄は食い止めるしかありません」
オブリビオンマシンを破壊すれば、及んでいた精神汚染は解ける。滅裂した理論を抱えるオリジナル・テレサを、話しができる状態に戻す手段が他にあるとも思えない。
ホワイト・レクイエムはアークレイズ・ディナの背後を取った。火力を一点に集中させる。しかし敵の反応が僅かに早い。即座に背後を向いたテールアンカーと無数のアンカークローが、有線式誘導兵器となって一斉に伸長した。
ソードオブビクトリーのマシンガンモードだけでは対処しきれない。トゥインクルスターの門を開き、そこから無数の拡散ビームを放つ。アンカークローと衝突しあった荷電粒子が霧散した。
短距離テレポートと一斉射撃の繰り返しでアークレイズ・ディナを多角的に攻める。強引な猛攻でアンカークローを漸減させた。突撃する好機を認めたカグヤはフットペダルを踏み抜く。
生物の如き動きで襲いかかるアンカークローを掻い潜り、アークレイズ・ディナに急速接近。突き出されるブレイクドライバー。紙一重のテレポートで躱す。出現先はディナの頭上。
「これがダイダロスの本領です」
ソードオブビクトリーのライフルモード。
トゥインクルスターの収束ビーム。
二つを至近距離で重ね合わせて叩き込む。
強烈かつ鋭い衝撃に、アークレイズ・ディナを守るパルスシールドが揺らいだ。そして機体自体も大きく姿勢を崩す。
しかしカグヤは追撃せず、テレポートで即座に離脱する事を選択した。一瞬前までいた場所を、テールアンカーのプラズマブレードが横切った。
「あと何回繰り返せばいいのやら」
カグヤは呟かずにはいられなかった。
容易い相手ではないらしい。
敵との距離を大きく開けて仕切り直す。
一つミスをすれば終わる……ブレイクドライバーの一撃で即終了の緊張感ある戦いは、カグヤの神経を着実にすり減らしてゆく。
故にミスはあり得ない。
ホワイト・レクイエムは、オブリビオンマシンに果敢な射撃戦を挑む。
撃ち合う二機のバリアフィールドが明滅するたび、電流が弾ける音が響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
天城・千歳
【POW】
絡み・アドリブ歓迎
「やはり居ましたか。自分で原因を作っておいて責任は相手に押し付けるとか、実にいい御身分ですこと」
サテライトドローン群による通信・観測網を維持しつつ艦隊をゼラフィウム外縁まで前進
通信・観測網、艦隊のセンサー、観測機器に加えゼラフィウムのセンサー、観測機器類を使い戦闘区域の地形及び敵機の情報を収集、分析し戦闘知識に基づいて最適の攻撃パターンを構築、戦闘エリアの味方とデータリンクで共有
無人機部隊は敵側キャバリア隊を攻撃し、味方がディナに攻撃し易い状況を作る事を優先。
艦隊はブラスターやレーザー、ミサイルによる支援射撃で味方を援護
弾切れ、燃料切れの機体には補給機が対応する
●支援艦隊
瓦礫は声を上げない。
だが、沈黙は確かに叫びだった。つい先ほどまで阿鼻叫喚の様相を呈していたスラム街の南部は、千歳の艦隊による砲撃で瓦礫の荒野と化した。
布製の天幕は焦げ、支柱は黒く煤けて地面に突き刺さっている。
瓦礫の間から、鍋や食器が半ば埋もれたまま転がり、炎を燻らせていた。
そこに、人の営みはもう存在しない。
人とエヴォルグ量産機が分け隔てなく焼かれ、千切れ、そこら中に散らばっている。
爆ぜる炎の音に紛れて聞こえる呻き声は、瓦礫に埋もれた生存者が発した声なのか、理不尽に命を奪われた者達の怨嗟なのか。
夏の晴天を、火元から昇る黒煙が覆い隠す。さらに黒煙を遮る大質量の物体が、スラム街の真上を悠然と進む。千歳の瑞鳳を旗艦とした強襲空母艦隊だった。
人喰いキャバリアの繭になった者も、そうでない者も区別なく殺戮した虐殺艦隊。延べ158隻がずらりと横並びで整列する。
僅かに生き残った者達は、圧倒的な暴威の具現化を見上げ、恐怖と怒りで身を震わせる事しかできなかった。
「人殺し……! 人殺しぃぃぃー!」
「お母さんを返して! お父さんを返して!」
「死ねぇぇぇーッ! イェーガー! 死ね! 死ねッ! 死ねッ! 死ぃぃぃぃいねぇぇぇーッ!」
黒く焼き尽くされた大地に残された者達が呪いを叫ぶ。
『人喰いキャバリアの司令塔、やはりいましたか』
呪いの叫びは届かない。
千歳の目標は、既にスラム街から遠方の工業地区へと移っていた。
『自分で原因を作っておいて責任は相手に押し付けるとか、実にいい御身分ですこと』
ゼラフィウム内部にエヴォルグ量産機が発生した原因は、あの司令塔と思しき“オリジナル・テレサ”にあると推論付けた。
サテライトドローン群が、猟兵達と激しい交戦を繰り広げるアークレイズ・ディナの映像を伝える。あの機体の中にオリジナル・テレサがいるらしい。
アークレイズ・ディナは猟兵の召喚系ユーベルコードを再現し、レイテナ軍のキャバリアやエヴォルグ量産機を操って手勢としている。猟兵側の数的優勢は絶対ではない。
『工業区画の地図情報を把握……流石に艦砲射撃で支援するわけにはいきませんね』
艦隊の火力の大半が封じられている。
工業区画はゼラフィウムの生命線の一つだ。スラム街とは事情が大きく異なる。もしも砲撃を行えば被害は甚大。ゼラフィウムの防衛を自ら破棄することとなってしまう。
『瑞鳳より全艦に命令。艦載機を順次出撃。目標、敵キャバリア部隊』
友軍がアークレイズ・ディナとの戦闘に集中できるようにするため、数の不利を補うため、千歳は出撃を命じた。隷下の航宙強襲空母のカタパルトから次々に艦載機が射出されてゆく。
『全艦は対キャバリアミサイルで艦載機の出撃を援護せよ。終末誘導はゼラフィウムの防衛システムとのデータリンクで実行する』
各艦のVLSがハッチを開いた。炎柱が垂直に噴き上がり、同数のミサイルが飛び出す。ミサイルはすぐに直角に軌道を折り曲げ、先行する艦載機部隊を追い抜いて工業地区へと吸い込まれていった。
『全艦へ通達。指定した地点へ補給機を順次発進させよ』
多数のエヴォルグ量産機との消耗した猟兵も少なからずいる。消耗した状況で相手にできるほど生易しい敵ではない。
司令部に問い合わせた結果、あのアークレイズ・ディナは正規のロットナンバーを割り振られている事が判明していた。
つまり桐嶋技研で製造されたフルスペックバージョンである。
4号機にあたる機体だった。
コンテナにロケットブースターを付けた補給機が、各艦の飛行甲板から飛び立つ。これで消耗した猟兵達のキャバリアに弾薬とエネルギーが届けられるであろう。
千歳は現状で打てる手を打ち終えた。
あとは敵機の情報を集積しつつ分析に務めるだけだが――混線する通信回線の中に、ゼラフィウムの外部からもたらされた情報を検知した。
『こちら第12前哨監視基地! 人喰いキャバリアが防衛線を突破した! ゼラフィウム方面へ向かっている! 数は1! 極めて高速かつ高戦闘力!』
切迫した声から尋常ではない防衛線の状況が推し量れた。すぐにサテライトドローンの監視網を確認する。まだそれらしき敵反応はない。
『オリジナル・テレサが呼んだのでしょうか?』
そう推論付けるのが然りであった。
千歳はオープンチャンネルを開く。
『皆さん、ゼラフィウムの外部より新たな敵が接近中です。可能な限り迅速にアークレイズ・ディナを無力化することを推奨します』
オリジナル・テレサを捕らえて終わりとはいかないらしい。
千歳は新たな敵のゼラフィウム侵入に備えた。
大成功
🔵🔵🔵
リーシャ・クロイツァ
これが噂のシステムかい。
使ったユーベルコードがそのまま返ってくるってことは…。
なかなか厄介だねぇ。
撃たれることを前提に行くしかないかね。
ディナの持っているもので、バスターランチャー代わりの武装が気になるところではあるがね。
空中機動で戦闘機動を取りながら行動。
民間の人員被害を気にせずなのが救いかね。
左腕ビームライフルで牽制射撃を行いながらバスターランチャーへのチャージを開始。
警戒はされているだろうけど、あたしにはこれしかないんでね!
チャージが出来れば、ミサイル発射。
直撃前にバルカンでミサイルを撃ち抜いてから、月華の狙撃手を使用するよ。
狙いは、アークレイズ・ディナ一体!
さぁ、月の下で踊りなっ!
●散月
工業区画に雪崩込んだミサイルを待ち構えていたのは、アークレイズ・ディナの操り人形達が張った弾幕だった。イロゥジョン・シナバーを再現して制御されている操り人形は、火線のみならず機体を盾にしてミサイルの着弾を阻止する。
ミサイルを追って到着したキャバリアの軍勢が、アークレイズ・ディナ隷下の軍勢と激突する。交錯する光条。膨張と消失を繰り返す火球。梯団対梯団の戦いは工業区画の広範囲に拡大した。
友軍の無人機部隊がアークレイズ・ディナと交戦している隙に、ティラール・ブルー・リーゼは補給を終えて戦闘に復帰した。友軍が前線に補給シェルパを送り込んだのだ。
「あの機体……こっちのユーベルコードを真似してくるのかい」
リーシャは切る手札を選ばなければならない厄介さを予感した。
アークレイズ・ディナがテールアンカーから電流を纏ったプラズマの光波を放つ。鬼神解放『征天覇王』の再現であろう。光波に切断された友軍の無人機が次々に爆散している。
「バスターランチャーの真似ができるのかは知らないけど、される前提で行くしかないかね」
見た所、ティラール・ブルー・リーゼのそれに相当する兵器は携行していないように見える。突然取り出してこないとも限らないのがリーシャに大火力砲の即使用を躊躇わせた。エネルギーチャージだけを始め、背部のマウントに預ける。
「民間人の被害を気にせず済むのが救いかね」
もう戦闘機動に遠慮はいらない。ティラール・ブルー・リーゼは鬱憤を晴らすかのように工業区画の頭上を飛ぶ。エクレールの有効射程に敵を捕捉した瞬間、ビームを連続で撃ち放った。
アークレイズ・ディナは人間離れした驚異的な反応速度で短距離加速した。1射目を躱すと2射目をまともに受ける。球体状に包むパルスフィールドがビームを飛沫に変えた。
オリジナル・テレサは避けるまでもないと判断したらしい。平然と受け流してイグゼクターの応射を浴びせにかかる。
「舐められてる? いや、バスターランチャーのチャージに気付いたか?」
増大し続けるエネルギー反応に敵が気付いていないとは思えなかった。リーシャは油断なく相対距離を維持し、左右への細かな切り返しで高密度の火線を凌ぐ。
重力加速度に身体を引き摺られる傍ら、ディスプレイ・ボードのインターフェースに目配せした。バスターランチャーへのエネルギー充填率が間もなく最大に届く。
「警戒はされているだろうけど、あたしにはこれしかないんでね!」
リーシャは目標単体を重複ロックオンした。トリガーキーを引く。ティラール・ブルー・リーゼの両肩部からミサイルが解き放たれた。青いガスの尾を引いた複数の弾体が流星となってアークレイズ・ディナを追う。すぐに迎撃の火線が――。
「見て真似されるってなら、見せなきゃいいんでしょうが!」
伸びる前に連続して火球に変じた。発射したティラール・ブルー・リーゼが自らエリソン・バールで撃墜したのだ。二機の間に爆煙が押し拡がる。
「本命はこっちだ!」
ティラール・ブルー・リーゼがバスターランチャーを腰だめに構えた。ロックオン不能なため照準はユーベルコード頼りだ。リーシャは爆煙の奥にいるはずの敵機だけに集中力を注ぐ。果たして砲身に蓄えられていた荷電粒子の光が溢れ出た。
プラズマビームが砲口を脱した瞬間に拡散する。十分なチャージタイムを置いた月華の狙撃手は、無数の光条にとなって広がった。
爆煙を抜け出たアークレイズ・ディナは制御下のキャバリアを散開させる。無数に拡散分岐したビームを、多目標追尾攻撃と見做したのであろう。その予想は半分正解であり半分外れだった。
打ち上げ花火のように大きく広がったビームは、曲線の軌道を描いて収束し始める。一つの目標だけを狙って。
「さぁ、月の下で踊りなっ!」
リーシャは命中を確信した。
アークレイズ・ディナが急速後退に転じ、制御下に置いたキャバリアを盾とする。しかし無数のホーミングレーザーは数を減らしながらも着実に標的を追跡し続けた。
一発がパルスフィールドに阻まれながらも命中すると、立て続けに荷電粒子の爆発が膨張する。アークレイズ・ディナはすぐに青白い火球に埋め尽くされた。
「どうだい? 真似しようにもチャージが間に合わないでしょうよ」
ダメージを与えた手応えはあった。
だがこの程度で落ちる相手なら初めから猟兵など必要ない。
敵は今のユーベルコードを知った。
次はこちらが月華の狙撃手を撃たれる番だ。
リーシャは敵を侮らず一旦機体を退かせる。
アークレイズ・ディナが振り撒く凄まじい憎悪は、決して衰えていない。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
【継戦能力】『瞋憎喰』工業区画に到着するまでの間に、
敵も味方も骸達も、戦場に渦巻く全ての怨念を霊物質として、
【闘争心】として、【武器改造】崩壊霊物質としてRX騎兵刀に纏う。
……今更な確認なのですが、貴殿はオブリビオンですか?
機械絆と人工魔眼による【瞬間思考力】と動体【視力】で敵機機動を【見切り】RX騎兵刀をドリルソードランスに突き付け【念動力】崩壊霊物質をドリル機構に流し込み【部位破壊】攻撃。
【フェイント】粉砕される騎兵刀を捨て【早業】素早く懐へ潜り込み、
【怪力】竜骨爪で腕を抑え、無数の戦塵縛鎖を放ちエネルギー吸収と、
テールアンカーを抑え、アークレイズ・ディナ頭部へ偽神霊物質【捕食ブレス攻撃】
●ドラゴンブレス
夏日の快晴であるはずなのに、ゼラフィウムの頭上には黒煙がかかっていた。
イェーガーが焼き尽くした血肉が燻り続けているのか、或いは、分別なく殺戮された数十万あまりの命が、怨嗟と共に滞留し続けているのか。
「まだ|戦《や》れる……」
小枝子は薄暗闇の中で微かに呟いた。
戦場に渦巻く全ての怨念がどす黒い靄となり、亡国の主が握る騎兵刀に纏わりつく。
騎兵刀自体が悍ましいほどに重量を持ったプレッシャーを放つ。猛然と走る亡国の主は、妖刀に取り憑かれた鎧武者の様相であった。
不意に亡国の主の足が止まった。
首をもたげる。
青白い煙の中から、アークレイズ・ディナが見下ろしていた。
機体を覆うパルスフィールドは整流が著しく乱れており、空気中に残留したプラズマと反発しあってスパークを散らしている。
「……今更な確認なのですが、貴殿はオブリビオンですか?」
小枝子は問うた。
機体ではなく、機体の中に在る魂に。
『だとしたら?』
少女の声が答えるまでの数秒間が、小枝子には何十倍にも引き伸ばされたように感じた。
「壊します」
騎兵刀が纏う黒い靄が炎となった。
暗く冷たい衝動が小枝子を駆り立てる。
「私が何者であるかは、あなた達にとって意味をもたない」
アークレイズ・ディナを通して伝わるオリジナル・テレサの眼差しは、敵を見るそれだった。
「私にとっては意味を持つのであります」
小枝子は自身でも不気味と思えるほどに頭の中が澄んでいた。
アークレイズ・ディナはオブリビオンマシンだ。
だが中身は……オリジナル・テレサはオブリビオンではない。
湧き上がる敵意は機体にだけ注がれている。
オリジナル・テレサには敵意を注げない。
興味が湧かない。
「私は――」
アークレイズ・ディナがブレイクドライバーを突き出した。
小枝子の指が独りでに操縦桿を強く握り込む。
「私は敵。アーレス大陸を滅ぼし得る全ての敵」
「自分がどうやって滅ぼすと?」
「既に実践しているはずです。聞こえているんじゃないですか? いたずらに奪われ、弄ばれ、殺戮された命の、イェーガーを呪う声が」
騎兵刀に宿る暗い炎は冷たく重い。
「あなた達は呪いの声でこの地を満たす。その前に……!」
敵が動く。
ブレイクドライバーに掘られた溝に赤い光が通うのを見た小枝子は、衝動に突き動かされるがままに亡国の主を跳躍させていた。
鮮烈な赤のビームが放射状に拡散した。猟兵のユーベルコードの模倣……月下の狙撃手を再現したホーミングレーザーだった。
亡国の主は一直線に飛び掛かる。収束するホーミングレーザーの軌道の内側に入った。左右のマニピュレーターで騎兵刀の柄を砕けんばかりに掌握し、黒炎を纏う刀身の切っ先を突き立てた。
アークレイズ・ディナはドリルソードランスで受ける。重厚な金属音と甲高い金属音が二機の間で火花と共に弾けた。
騎兵刀の呪いが崩壊霊物質となってブレイクドライバーに伝播する。刹那、赤黒い炎と稲妻が噴き出した。イェーガー・デストロイヤー・システムが、鬼神解放『征天覇王』を荷電粒子で再現した業だった。
亡国の主の暗い炎とアークレイズ・ディナの赤黒い炎が互いを押し合い、呑み込む。
だがその勝負が付くよりも先に亡国の主が騎兵刀を捨てた。さらに肉薄して零の間合いに踏み込む。竜骨爪でアークレイズ・ディナの肩部を掴まんとする。パルスフィールドの凄まじい拒絶を強引に押し破った。爪が届いた。
コクピットを激震させる衝撃が亡国の主を襲う。テールアンカーが横腹に突き刺さった。構わず戦塵縛鎖を突き刺せるだけ突き刺す。さらに連続する衝撃。アンカークローが機体のいたる箇所に食い込んだ。
吸収したエネルギーが即座に吸収される。そのエネルギーを吸収し返す。
異常な速度で増減するエネルギー残量のレベルゲージ。次々に点灯するシステムアラート。機体が侵蝕されている。
だが亡国の主は敵に食らい付き続けた。
開かれた顎が眼前のオブリビオンマシンに怨嗟を叫ぶ。
喉の奥底の深淵から生じる偽神霊物質を、咆哮と共に叩き付けた。
オブリビオンを喰らうそれは使用者を異形に変えてしまう。
急速に変貌を遂げる亡国の主だったが、アークレイズ・ディナを捕まえた竜骨爪を外す事はなかった。
それは、縋り付く悪霊の似姿である。
大成功
🔵🔵🔵
アレフ・フール
アレウス搭乗
バーラントは基本護衛してた
貴様はアーレス大陸の人類を…否…世界の人類を滅ぼし尽くすつもりなのか!?猟兵を生ませぬ為に!?
この様な恐ろしい方法で!?
そんなものは結局破滅と変わらぬではないか!?(愕然)
「マスター…止めよう…!」
ああ…!
【戦闘知識】
全知·超克発動
敵機の構造と能力
使用UCを解析
【属性攻撃・重量攻撃・グラップル・呪詛】
獄炎を纏ってUC発動
高速で飛びながら突撃
重力を収束させた拳を叩き込み
更に動きを鈍らせる呪詛を流し込む
しかし…何故此奴がここに居るのだ…まさか
四肢や武装
JDSの部位も解析
集中して攻撃
他の猟兵にも情報提供
…Оテレサと他テレサの違いも解析
どれくらい前に生まれた体かも
●重力
暗い息吹を浴びたアークレイズ・ディナのパルスフィールドが著しく減衰する。装甲表面の分子結合が分解され始めた。
瞬間、励起されたプラズマが収縮したのち臨界点を越え、開放と同時に大爆発を起こした。イェーガー・デストロイヤー・システムにプリセットされていたユーベルコード……プラズマバーストを再現したらしい。
滞留する電気の霧の中、アークレイズ・ディナは、健在であった。
「馬鹿な! 今のは直撃だったはずだぞ……!?」
アレフは両目を剥いた。
アークレイズ・ディナは至近距離で直撃を受けたはずなのに、ダメージはまだ表面的な範囲で留まっている。機体が放つ憎悪のプレッシャーは僅かにも揺らいでいない。
「無駄ですよ。私を止める事はできない。例えここで私を殺したって、ゼロハート・プラントは動き続ける。イェーガーを産み出す人類を滅ぼすまで」
「貴様はアーレス大陸の人類を……否……世界の人類を滅ぼし尽くすつもりなのか!? 猟兵を産ませぬ為に!?」
「外界がどうなろうと私には関係ない。けどアーレス大陸の今の人類は滅ぼさなきゃいけない。彼らを……正しく産めなかったから……」
オリジナル・テレサの声音の端に、深い悔恨の色味が滲んでいた。
「目的のためなら、こんな悍ましき手段も取れるのか!?」
「手段は選ばない。躊躇いもしない。だからもう間違わない」
「そんなものは結局破滅と変わらぬではないか!?」
「そんな事は分かってるんですよ。イェーガーがより破滅的な破滅でアーレス大陸を破滅させる前に滅ぼさなきゃいけない。それが、私の役割。私の使命」
「他のテレサ達はそのような事など望んでおらんぞ!」
「あれは私の分体。でも私の記憶は持っていない。だから……知らない。自分の使命と役割を。産みの苦しみも、喜びも……子を奪われた母の絶望も。本当に滅ぼさなきゃいけない相手が誰なのかも……」
「滅ぼされる者達の思いを考えた事はないのか!?」
「ないわけないじゃないですか。私が平気でやっているとでも思ってたんですか……!? 私はイェーガーのような血に飢えた殺戮者とは違う!」
「だったら!」
「それでもやらなきゃいけない! 逃げちゃだめなんですよ! 今度こそ……正しく産むために……!」
『マスター……もう止めよう……!』
アレフの言葉尻をアレウスが断った。
『奴を止めるのに言葉は意味がない!』
「分かっている! だが!」
これ以上問答を続けるつもりはない。そう含めてアークレイズ・ディナが横に飛んだ。側面に回り込みつつイグゼクターとテールアンカーのプラズマビームを撃ちまくる。さらに無数に枝分かれしたアンカークローが襲いかかった
「猟兵のユーベルコードを学習しておる。いつ何を撃たれるか分からん。慎重に行くぞ!」
『おう!』
アレフは己から噴き出す獄炎をアレウスに纏わせ、地面を蹴らせた。
ビームは神経を注いで躱し、銃弾は重力波フィールドで軌道を歪曲させて逸らす。アンカークローは蹴りと殴りで打ち払った。
「追い付けるのか……!?」
重力加速度がアレフの身体をコクピットシートに縛り付ける。
機神重撃拳を叩き込む間合いまで接近しなければならないのだが、猛攻にそれを阻まれてしまう。
「しかし……何故此奴がここに居るのだ……?」
オリジナル・テレサは鯨の歌作戦の折に猟兵達によって身柄を拘束された。
その後はイーストガード基地に引き渡されたはずだが……何故ゼラフィウムから出てきた?
いつの間にか移送されていたのか?
『マスター! 集中しろ!』
「分かっておる!」
このままでは削り負ける。
意を決したアレフは、コクピットシートから上体を乗り出した。
「行くぞ!」
『オレ達自身が拳になる!』
アレウスは機体全体に獄炎を帯びて猪突した。
銃弾とビームは甘んじて被弾し、アンカークローだけは掻い潜る。アークレイズ・ディナとの距離が詰まった。
『機神重撃拳!』
重力波を籠めた拳を叩き込む。ブレイクドライバーにその拳を狙われた。僅かに打点をずらす。高速回転するドリルの側面と交差した。激しく散る火花。
『うおおぉッ!』
機体を捻ってアッパーを繰り出す。アークレイズ・ディナに届く前にパルスフィールドを打った。打撃点を中心にパルスの整波が大きく乱れる。
『ぐうあッ!?』
右側面から強烈な衝撃。ブレイクドライバーの横殴りを腕部で辛うじて防御した。
「アレウス! 根性だ!」
『おらあッ!』
機体ごとぶつける勢いで打ち込んだ拳が、アークレイズ・ディナの胸部に届いた。鈍い金属音。伝う重量感。アレフとアレウスはやっと手応えを得た。
「奴に機神重撃拳を知られた! 反撃させるな! 押し込め!」
アレウスは超重力球の猛烈な連打を加える。
万物に作用し圧壊させるそれが、アークレイズ・ディナの姿を覆い隠した。
大成功
🔵🔵🔵
ノエル・カンナビス
……オリジナルのテレサ……。
馬鹿なんですかあなたは(きっぱり
それとも、ただ酔っぱらっているだけですか?
ああ、説明はしてあげませんよ。私は面倒が嫌いなんです。
いずれにせよ、知性を伴わない武力は世の迷惑です。
お引き取り願いましょう。
以前にも何かの機会に言いましたが、私のUCの大半は、元々保持している機能・性能を存分に使うだけのもの。
LRAD対応スピーカーを持たない機体ではスタンナーは使えませんし、
高硬度衝撃波の連続放射ができない装甲で防ぐことも出来ません。
ついでに、バリアクラッカーはUCですらありません。
ECM/クローキング/ロックオンジャマーを適切に使えば手動操縦しか許されず、搭乗機との直結リンク機能を持たない相手には照準も格闘も困難になります。スタンナーは駄目押しです。
後はまぁ、見切り/操縦/オーラ防御(と称する武器受け/衝撃波/吹き飛ばし)、貫通攻撃/鎧無視攻撃/串刺し/叩き割りのバリアクラッカーで防備をかち割ってくれましょう。
●ソーノ・スタンナー
収縮する暗黒の重力場。
それが一気に飛び散った。
パルスフィールドを再展開したアークレイズ・ディナが、全周囲に向けて弾幕とビームとアンカークローの暴風を振り撒く。
エイストラは暴風圏を潜り抜けた。或いはガーディアン装甲の高硬度衝撃波を頼りに凌いだ。
「馬鹿なんですかあなたは。それとも、ただ酔っぱらっているだけですか?」
ノエルの冷ややかな声を乗せて、エイストラがプラズマライフルを1射2射と重ねる。アークレイズ・ディナは反発する磁石のように光条から離れると、テールアンカーからプラズマビームを放った。
「ああ、説明はしてあげませんよ。私は面倒が嫌いなんです」
エイストラは銃弾の回避を捨て、アンカークローとプラズマビームを躱す事に専念する。
「いかにもイェーガーらしい傲慢な性格ですね。説明してあげないんじゃなくて出来ないんですよ。あなたは」
「いずれにせよ、知性を伴わない武力は世の迷惑です。お引き取り願いましょう」
「分かってるなら自分で実践したらいいのに……」
ノエルとオリジナル・テレサは同じ冷気を纏っていた。
だが性質は水と油だった。
レプリカントという同種であっても、決して相容れない者同士。意図の有無は不明だが、互いは互いの挑発に乗ることなど決してない。両者の間で言葉は意味をなさない。
エメラルドグリーンの瞳がアークレイズ・ディナの動きを追う。いまはユーベルコードを発現させていないようだが、既に複数人の猟兵のユーベルコードを模倣しているはずだ。
同時に複数のユーベルコードを発動させるユーベルコードを使用した猟兵もいる。異なる猟兵のユーベルコードを同時に発動させ、相乗効果次第でより強力になる事も十分想定できた。
非常に面倒な状況である。ノエルは面倒が嫌いだった。
面倒を避けるため、イェーガー・デストロイヤー・システムの名を聞いた時から方針は固めていた。
通常兵器を主体とし、ユーベルコードの使用は最小限に抑える。使用するのも触媒となる装備がなければ発動できないものとする。
ロックオンジャマー、ECM、クローキングユニットを同時に発動する。これで敵のレーダーは機能を果たさず、エイストラの姿は光のカーテンで隠された。センサーを用いた自動照準にも捕捉されない。
機体制御にも影響を及ぼせるはずだが……アークレイズ・ディナに不調は見られなかった。
テレサ・ゼロハートはレプリカントだった。
彼女と外見を同じくするオリジナル・テレサもレプリカントである可能性は非常に高い。
であれば、身体と機体を直接接続する制御方法――外部からのジャミングやハッキングを受けない制御方法を採っていたとしても不思議ではないだろう。
だがロックオンを外しただけでも効果は十分に大きい。
エイストラを見失ったアークレイズ・ディナは、アンカークローを振り回し、イグゼクターを水平掃射している。さらにはブレイクドライバーから月下の狙撃手……拡散荷電粒子砲を放ち、広範囲に無差別攻撃を始めた。
工場の屋根が吹き飛び、ビームに貫かれたエネルギーインゴット貯蔵タンクが周囲を巻き添えに大爆発を起こす。
「……工業区画への損害はどこまで許容されているのでしょうか?」
ゼラフィウムの防衛が依頼内容に含まれているのだから、破壊されすぎてはいけないはずだ。
闇雲に暴れまわるアークレイズ・ディナが工業区画を壊滅させるよりも先に勝負を付ける必要がある。ノエルは攻勢に転じることを強いられた。
「ノンリーサル、鎮圧します」
エルラッドスピーカーから極めて強力な音響波が放射される。機械も生物も麻痺させるほどの音波は、アークレイズ・ディナのパイロットの戦う意志を削ぎ落とす。
「私を直接狙ってきましたか……でも!」
イェーガー・デストロイヤー・システムが瞋憎喰を再現する。
戦場内全ての怨念が霊物質に変形し、自身の霊物質となる事を代償に、自身の異常継戦能力を強化するユーベルコード。
怨念を敵意と解釈し、霊物質をプレッシャーに置換する。精神を苛むプレッシャーを代償に、自身の異常な継戦能力――戦意を増強することで相殺した。
ソーノ・スタンナーの効力の有無に関わらず、アークレイズ・ディナの攻勢が僅かに弱まった。その一瞬の間隙にエイストラが飛び込む。
加速と重量を乗せて突き立てるのはバリアクラッカー。サイキックキャバリアの部材を削り出して製造した、対バリア用杭打機だ。
ほぼ完全な不意打ちであった。
尖端がパルスフィールドにめり込む。ノエルがトリガーキーを引くと、杭が射突した。落雷の轟音と共に穴が開く。そこへプラズマライフルを撃ち込む――が、エイストラは鈍く重い衝撃に突き飛ばされた。ブレイクドライバーに打突されたのだ。
巨大な衝角が、高硬度衝撃波ごとガーディアン装甲を砕く。白い装甲片が割れたガラスのように飛び散った。エイストラが急速後退した後を、掘削攻撃が追撃した。
一撃必殺の攻撃を間一髪で回避したエイストラは、機体を左右に振りながら後退する。再び目標を見失ったアークレイズ・ディナはイグゼクターを乱射した。
「……そういえば、スカルヘッドとヘルストーカーの中身はあなたでしたね」
今回も根気が要る戦いに違いない。
ノエルは過去の経験からそう結論付けた。
アークレイズ・ディナの動きに鈍りは見られないが、バリアクラッカーの尖端もまだ鈍っていない。
機体のコンディションを一瞥したノエルは、またしてもソーノ・スタンナーを浴びせた。不快な超音波が敵を苛む。エイストラの突進に、躊躇いはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
アルジェン・カーム
ぷっさん…彼らに安らぎを
「うん…」
Oテレサとテレサのやり取りに
…ふざけるな(嘗てない憤怒の顔
Oテレサといったか…ふざけるな!(見た…難民達を助けようと手を尽した猟兵達
どれだけの猟兵が救いの手を伸ばしたと思ってる…!
その手を!
その想いを!
須らく踏みにじり!決断させ!この結果へと導いたのは貴様だろう!?
命を弄んだ…?
貴様だろうが!人々の尊厳を破壊し!こんな地獄を生み出したのは!
貴様が最悪の終焉を引き出したんだろうがぁ!
被害者面なぞ貴様にする資格はない!
「あ…アルジェン…!?」
救えなかった…!助けられなかった…猟兵へと至って多くの終焉を壊せると思ったのに…!(或いはテレサ以上の絶望と憤怒
貴様こそ骸の海を撒く悪魔だ!スリーピングビューティと並ぶ…自らに酔った最低最悪の魔女!
最悪の終焉を呼ぶ屑魔女…貴様の齎す終焉を…破壊する!
UC発動中
英霊剣群
冥界の神
トライバルブラッド同時発動
極大化した能力で六分の猛攻
破壊覇気を纏った宝剣と槍による連続斬撃から串刺しの超絶猛攻
逃走の為の武装は確実に破壊狙
不殺徹底
●エンドブレイク
アルジェンは一瞬だけ瞑目した。
双眸を閉ざした闇の中で、骸の海に沈んだ魂達を悼む。
「ぷっさん……彼らに安らぎを」
『うん……』
冥皇神機たるプルートーもゼラフィウムに滞留する死者の魂を悼み、冥府への導きを祈る。彼らの魂が還る場所はプルートーが知る場所ではない。だがせめて迷うことがないようにと。
そしてアルジェンが双眸を見開いた。
身体の芯から煮沸する熱は憤怒を示す。
アークレイズ・ディナの一点に向けられた憤怒だった。
「オリジナル・テレサといったか……ふざけるな」
腹から出た声音は重力を伴っていた。
顎に歯が軋むほどの力が籠もる。
吊り上げた眉宇が震えている。
「ふざけるな!」
八重歯を剥き出しにして吼えた。
フットペダルを力任せに踏み込む。
プルートーのBタラリアが烈火の如く噴射光を吐き出した。
「どれだけの猟兵が救いの手を伸ばしたと思ってる……!」
アルジェンは身体を縛り付ける重力を振り切って身を乗り出す。出し得る最大加速で驀進するプルートー。突き出し、開いたマニピュレーターから闇色の波動を放つ。万物を分解して崩壊させるそれをアークレイズ・ディナへと浴びせる。応射されたイグゼクターの弾丸が塵と崩れ、しかし機体への放射を阻むパルスフィールドと衝突して干渉を及ぼした。整流が乱れ、表面が波打つ。
『その一方で、率先して殺戮したイェーガーもいた!』
オリジナル・テレサの声音は怒気を孕んでいた。アークレイズ・ディナは高速機動で相対距離を維持。デュアルアサルトライフルとプラズマキャノンの連射にパルスウェーブを重ねて放射する。対神滅殺波とパルスウェーブ。黒と赤の二つの波が互いを拒絶し合い、プルートーとアークレイズ・ディナの狭間で稲光を明滅させた。
「その手を! その想いを! 須らく踏みにじり! 決断させ! この結果へと導いたのは貴様だろう!?」
アルジェンの怒りが神剣の幻影を成してプルートーの周囲に花開く。
「命を弄んだ……? 貴様だろうが! 人々の尊厳を破壊し! こんな地獄を生み出したのは!」
一斉に散開した幻影剣がアークレイズ・ディナを猛追する。
「地獄を生み出した? 引き金を引いたのはイェーガーでしょう!? 私に決断させたのも! こうする事を強いたのも!」
アークレイズ・ディナの両肩部から無数のアンカークローが伸びる。幻影剣と切り結び、弾き合う。
「貴様が最悪の終焉を引き出したんだろうがぁッ! 貴様が被害者面をする権利はない!」
一本でも剣を届かせるべく、アルジェンは怒りをアークレイズ・ディナへと収束する。対神滅殺波で揺らいだパルスフィールドを突き抜け、刃が装甲に届いた。しかし貫くには至らない。威力を減衰されたからだ。
『最悪の終焉を引き出すのはあなた達なんですよ! あなた達が救世主面をする権利なんてない!』
プルートーにも鋭い衝撃が連続して走る。纏う波動を抜けてアンカークローが届いた。けれども浅い。こんな威力では驀進は止められない。
『あ……アルジェン……!?』
己の中心で荒ぶる怒りに、プルートーは恐れを抱いた。そして怒りの狭間に深い悔恨の念を感じた。
「救えなかった……! 助けられなかった……猟兵へと至って多くの終焉を壊せると思ったのに…!」
終焉を終わらせる力。それを以てしても抗えなかった。無力感が己を苛み、自責が憤怒をさらに煮え滾らせる。
「貴様こそ骸の海を撒く悪魔だ! スリーピングビューティと並ぶ……自らに酔った最低最悪の魔女!」
纏う対神滅殺波の守護を頼りに、火線と光線で傷付く事を厭わずに猪突した。無数のアンカークローをDurandalで切り払い、バイデントで薙ぎ払う。遂にアークレイズ・ディナを間合いに捉えた。
「最悪の終焉を呼ぶ屑魔女……貴様の齎す終焉を……破壊する!」
『最悪の終焉を呼ぶ破滅の化身……イェーガーの齎す終焉を……破壊する!』
決して交わらない鏡合わせの思惟がぶつかりあった。
アルジェンは六の世代の力を束ね、Durandalが繰り出す無尽の斬撃として解き放つ。機体だけを突き崩すバイデントが一瞬で百の猛襲となって襲いかかる。
アークレイズ・ディナのブレイクドライバーが無尽の斬撃ごとプルートーを貫かんと唸りをあげる。マンティコアが一瞬で百の光刃を閃かせる。
プルートーとアークレイズ・ディナが、終焉を破壊するべく破壊を刻む込む。
互いに切られ、貫かれ、激突してもなお、攻撃の嵐は止まらない。
敵を終わらせる事が宿命であったが故に。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
あっオリハート氏だ生き恥ウェディングドレス着ておくれよ!
ゼロハート氏が着てくれないからヨッ!責任取ってくれ!
惑わされるなと言っておるーっ!!
いいでござるかゼロハート氏、拙者が世界滅ぼせるならこんなちんけなスラム如きで満足する訳ないだろ!クロキャバ世界をカタストロフってるでござるよ!いつだって35世界にしてやりたいッ!
それに見ろよ拙者パートは死者1しかいないじゃないか!主に拙者だけど…
まあンなこたどうでもいいでござる、なんか変なシステムを使うとどうなる!
いいでござるか、拙者のUCをコピーするという事は、拙者をコピーするという事でござる
結論から言うとあの機体は|アークレイズ・拙者《奴はハジケた》になる
んもーUC一本で勝負しないからー
つまり…これからあの機体はゼロハート氏とついでにベルンハルト氏に紳士的行為を、拙者は|不法侵入《フシンシャラ・イン》して機体はそのまま、オリハート氏にしつけ行為する!
それぞれちゃんと敵と戦ってるなヨシ!お互い頑張ろうな拙者!
Now 拙者達
私スピードで驀進ing…
●恥ケ祭り
「おーいオリハート氏ー!生き恥ウェディングドレス着ておくれよ!」
工業区画に襲来したエドゥアルトの第一声の意味を理解できた人類は、果たしてどれだけいたのだろうか。
「なあ頼むよーゼロハート氏がよー着てくれないんだよー」
『さっきの事を言っているなら修道服じゃなかったんですか?』
テレサはしっかりと記憶していた。何の文脈も無しに修道服を着せようとしたエドゥアルトの奇行を。そうでなくとも一言一句から一挙手一投足までが奇行なのだが。
『責任取ってくぶぎぇるぅぅああ!』
全部言い終えるよりも先に集中砲火を浴びて爆発四散しサヨナラしてしまった。しかし何事も無かったかのように近場の土管からリスポーンした。どうして土管が都合よく生えているのかは誰にも分からない。きっとバイアスだかアトモスフィアだかがディストーシヨンしているのであろう。
「おいクルルァ! アイサツもなしになにすんだこの野郎!」
『戦ってる最中に棒立ちでお喋りしてたら誰でもそうなると思いますけど』
「惑わされるなと言っておるーっ!」
『前々から思ってましたけど文脈が無い人ですね』
「いいでござるかゼロハート氏、拙者が世界滅ぼせるならこんなちんけなスラム如きで満足する訳ないだろ!」
『前に何億人の魂を殺したって言ってましたもんね……』
「クロキャバ世界ごとカタストロフってるでござるよ!」
『それ以前に戦争を起こす事が難しいと思いますけど……青丸の数ならUDCアースに次いで2位ですし……』
「いつだって35世界にしてやりたいッ!」
『なら別にこの世界じゃなくてもいいじゃないですか』
「それに見ろよ見ろよ見ろよ拙者パートは死者1しかいないじゃないか!」
『はぁ……ギャグ時空の出来事は別扱いじゃないでしょうか……』
「死者は主に拙者だけど……」
『ならあなたは殺しても死なないので実質ゼロですね』
「まあンなこたどうでもいいでござる、なんか変なシステムを使うとどうなる!」
『イェーガー・デストロイヤー・システムです。説明ありませんでしたけど、どんなシステムなのかちゃんと分かってます?』
「いいでござるか、拙者のUCをコピーするという事は、拙者をコピーするという事でござる」
『分かってたんですか……あと誰かの構文みたいですね』
「結論から言うとあの機体は|アークレイズ・拙者《奴はハジケた》になる」
『ちょっと何を言ってるか分からないです』
「んもーUC一本で勝負しないからー」
『他のイェーガーも一度に幾つものユーベルコードを使ってるみたいですけど……』
「つまり……これからあの機体はゼロハート氏とついでにベルンハルト氏に紳士的行為を」
『はぃぃぃい? よぉぉぉびまぁぁぁしたぁぁぁん?』
黙っていればよかったのに、エドゥアルトが迂闊に名前を出してしまったせいでエクシィが参戦してしまった。約一名がうるさくしている盤上がさらにうるさくなった。
「拙者は|不法侵入《フシンシャラ・イン》して機体はそのまま、オリハート氏にしつけ行為すんべらヴァァァー!」
アークレイズ・ディナがエドゥアルトに無言でドリルを突っ込んだ。エドゥアルトの肉体は一瞬で挽き肉より酷いことになった。
「おいこの野郎空気読めこの野郎!」
すぐに綺麗な身体で土管からリスポーンした。
『空気も何も、自分でそうなるユーベルコードを使ったじゃないですか……』
「ファッ!?」
『だって書いてありますよ?』
エドゥアルトはスマートフォンを取り出してブラウザを立ち上げた。第六猟兵のタイトル画面をタップし、次の画面で左上の自分の顔アイコンをタップ。プロフィール画面からユーベルコード一覧を開き、画面をスクロールさせる。
「なにぃ~? 無法の荒業(ヤベーヤツ)……【|やりたい放題過ぎる人《ハジけた》】に変身する。隠密力・速度・【柔軟性・耐久力・唐突な攻撃・メンタルへ】の攻撃力が上昇し、自身を目撃した全員に【ツッコまきゃ】の感情を与える……だとぅ~?」
『だからドリルを突っ込まれたんじゃないんですか?』
「このUCを作ったのは誰だあっ!?」
『あなたが始めたユーベルコードでしょ……あとユーベルコードの秘密の設定に、特に姿は変わりませんって書いてありますね。変身するんですか? しないんですか? どっちなんですか?』
「パワーーー!!! しな! い!」
『急に怒鳴らないでください!』
「Now 拙者達 私スピードで驀進ing……」
『誤魔化してるつもりですか? それとあんまりやりすぎるとJASRACに怒られますよ?』
「チッ……うっせーな、反省してまーす」
『してませんよね?』
「オリハート氏は拙者のUCコピーしろよおうあくしろよ」
『私なら絶対にしませんけど……』
『あのぉぉぉ? 私戻っていいですん? 皆さんと違ってギャグ時空はキャラじゃないんでぇぇぇ!』
「君もう帰っていいよ」
『なら何のために呼んだんですか……』
「オリハート氏ー! 生き恥ウェディングドレス着よーぜー!」
『さっきまでウェディングドレスのこと忘れてましたよね? あとずっとスルーされ続けてますよ?』
「あ~あったまにきた! オリハート氏が無視するから悪いんですぞ!」
『関わりたくないんだと思います……』
結局、オリジナル・テレサがエドゥアルトと言葉を交わす事はなかった。当然ウェディングドレスに袖を通す事もない。
「じゃあ終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!」
『まだ一章残ってますよ……』
大成功
🔵🔵🔵
皇・金瑠
機神搭乗
|エリちゃん《エインヘリヤル》?このお姉さんの目的は何だと思う?
「…っ…俺にも分からないよ金琉君。やり方は歴史に類を見ない程の苛烈さだけどね」
それじゃ本人に聞こうか
ねぇお姉さん
どうして猟兵が大きな破滅を齎すと思うの?
此処までの所業を語れば
違うよね?お姉さんはそうなる様に誘導した
まるで猟兵がそういう存在と自分で納得したいみたい
どうして猟兵は破滅を齎すと思ったの?どの瞬間に思ったの?理由は?お姉さんはそう信じるという事はその証拠があるんでしょ?勿論今回の事じゃない
其の前の事だよ
(問い続ける事でOテレサの本音と心を引き出しにかかる
虚無の心眼
UC同時発動
機体の能力とOテレサの能力を理解し解析し模倣
エヴォルグウィルスの性質と変質の仕組み全てを解析
その上で治療法が無いかも分析
その結果を他の猟兵に伝達
更にJDSについても完全解析し
それら全ては感情なく徹底した合理による解析
UC効果でその効果を模倣し
之まで再現されたUCに対応したUCを再現し猛攻を仕掛ける
之は元々JDSと同じ力
只管合理による蹂躙劇
●我が子を食らうサトゥルヌス
「イェーガー・デストロイヤー・システム……やっぱり、これがあれば……」
想定通りの推移にテレサは確信を得て呟く。戦闘が激化するにつれ、JDSは着実に猟兵達のユーベルコードを集積していった。さらには複数のユーベルコードを束ねて同時に使用するユーベルコードを学習した事により、戦いの中で新たなユーベルコードを編み出すまでに至った。
「マスターラインと月下の狙撃手……これで!」
アークレイズ・ディナのブレイクドライバーに赤い電流が集う。鍔に相当する部分からドリル刃の溝に沿って先端部まで達すると、無数の光条が螺旋状に放たれた。
誘導性を得た荷電粒子が拡散し、工業区画に降り注ぐ。光条の暴雨の中、勇猛神機『エインヘリヤル』は危うい回避機動を繰り返して掻い潜る。極僅かな猶予を虚無の真眼で見抜き、最善を導き出す。それは機体がやっていることではなく、皇・金瑠(灼滅者の殺人鬼・f44018)がやっていることだった。
「エリちゃん? あのお姉さんの目的はなんだと思う?」
無垢な瞳が神機に問う。
『……俺にも分からないよ。やり方は歴史に類を見ない程の苛烈さだけどね』
幾千幾万の時間を流離った神機に言わしめるほどに、オリジナル・テレサが猟兵に向ける憎悪は深く、大きい。
「それじゃ本人に聞こうか」
ホーミングレーザーの追跡から逃げ続ける傍ら、金瑠はサイドパネルに手を伸ばした。通信の周波数をオープンチャンネルに合わせる。オリジナル・テレサは人類が作ったキャバリアに乗っている。なら通信が届くはずだ。
「ねぇお姉さん。どうして猟兵が大きな破滅を齎すと思うの?」
無言を返す通信装置越しに、冷たい敵意を感じた。
「イェーガーが現れなければ、こんな事をする必要なんてなかったって言ったけど、違うよね? お姉さんはそうなる様に誘導した」
『だとしても、選んだのはあなた達自身』
背後で殺気が閃いた。回避不能の解析結果を視た金瑠は迷わず操縦桿を引いた。急速反転したエインヘリヤルが剣を横に薙ぐ。しなるテールアンカーのプラズマブレードを間一髪で払い除けた。
「まるで猟兵がそういう存在と自分で納得したいみたい」
『なら、あなたは自分達で作り出した惨状を見ても、まだ納得できないんですか?』
呼吸する間もなくアンカークローが襲いかかる。無数にうごめくそれらに、金瑠の眼は即座に迎撃優先順位を割り振る。エインヘリヤルは剣で受けて弾き返す。
「どうして猟兵は破滅を齎すと思ったの? どの瞬間に思ったの? 理由は? お姉さんがそう信じるという事はその証拠があるんでしょ?」
『齎すと思ったんじゃない。齎したんですよ』
冷え切った少女の声に、暗い悔恨の色彩が宿った。
「それはいつ?」
魚が釣り針に掛かった。手応えを得た金瑠は、虚無の真眼をさらに拡大する。
オリジナル・テレサが持つ能力、推定エヴォルグウィルスのメカニズム、アークレイズ・ディナに搭載されているイェーガー・デストロイヤー・システム。
すべてを解析し、暴き出す。
心の内に秘めたる真意さえも。
『あなたが知らないずっと昔……』
オリジナル・テレサが冷淡に語りだすも、アークレイズ・ディナの攻勢に鈍りはない。この程度で死ぬ相手なら喋る価値すらないと言わんばかりだ。連撃の合間に叩き込まれたイグゼクターの連射を、エインヘリヤルは装甲で受ける事を強いられた。反撃の隙間がない。虚無の真眼で最善の手を可視化してしまっているからこそだった。敵はこちらが踏み込む瞬間を待ち構えている。
『アーレス大陸は滅んだ。あなた達と同じ、生命の埒外にある侵略者達との戦いで』
「その侵略者と猟兵が同じだって言うの?」
『存在するべきではなかった、産まれるべきではなかった、歪んだ力……そういう意味では、なんら変わらない。やつらもきっと猟兵だった』
「でも、昔のことでしょ? いまの猟兵は世界を守るために戦ってるよ? 侵略なんかしてないよ?」
『守る? ついさっき数十万の命を奪っておいてよく言えますね?』
「それはお姉さんがそうするように誘導したからだよ?」
『言ったじゃないですか。選択したのはあなた達イェーガーだって。あなた達ほどの力があるなら、そうしない事も選べた。でも、あなた達は選ばなかった。本能で破滅を望んでいるから。持ってる力を振り回さずにはいられないんですよ、あなた達は』
「でも状況を作ったのはお姉さんだよ? 非感染者と感染者を区別できないようにして……そうすればどうなるか、分かってたんじゃないの?」
『当然じゃないですか。傲慢なイェーガーのことです。どんな犠牲を払ってでも自分の正しさを通す習性はとっくに把握してる。イェーガーが破滅を実践するのは、必然だったんですよ』
「それでお姉さんにはどういう得があったの? 猟兵を虐殺者にして満足したの?」
『そんな次元の話じゃない。あれは陽動。イェーガーの注意をゼラフィウムの外縁部に引き付けるための。イェーガーが虐殺者になったのは必然の結果です。あなた達が本来持つ邪悪さが表面化しただけに過ぎない』
「なら俺達は選んだんじゃなくて選ばされたんだよ。お姉さんがやってる事って、アーレス大陸を滅ぼした侵略者と同じ事なんじゃないの?」
『だとしても私は躊躇わない。イェーガーを滅ぼせるなら、なんでもやらなきゃ』
「じゃあお姉さんが言うイェーガーとお姉さんは一緒だね。現に東アーレスはお姉さんのせいで滅び掛けてる」
『人類繁殖統制端末の私と、ゼロハート・プラントがあれば何度だって再生できる。イェーガーに同じことはできない。あなた達は壊して、滅ぼして、何もかもを真っ黒に焼き尽くすだけ。何も産み出せない。作れない。治せない』
「再生できるからって殺していい理由になるの?」
『なるんですよ。人を産んだ母として、私には子の責任を取る義務がある。そして正しく産み直す義務も』
「子供を殺すのが母親の責任? そんな理屈がどこにあるの?」
『母親になれないあなたには絶対に理解できない。歪んで生まれた怪物……正しく産めなかった子……子が破滅を振り撒く前に、悲しい事を繰り返す前に……私が……!』
「猟兵はね、悲しい事を悲しくなくするために生まれたんだよ? でもお姉さんはこの世界を悲しい事でいっぱいにしてる。お姉さんの子は何も間違ってない。間違ってるのは――」
『イェーガーなんですよ!』
アークレイズ・ディナのブレイクドライバーに赤い荷電粒子が集う。
『私は……母親だから……! 子を怪物にしたくないだけなのに……! イェーガーが産まれるからぁッ!』
オリジナル・テレサの叫びと共に咆哮した|破壊の奔流《マスターライン》を、エインヘリヤルは寸前で躱した。賢者の石を材質に持つ装甲の表面が焼き溶かされてゆく。
防眩フィルターから溢れ出る光に目を眩ませている最中、金瑠は悟った。
オリジナル・テレサに悪意はない。
あるのはどうしようもなく深い後悔と、恐れと、憎しみ……そして母性。
それらを使命感という鎖で縛り上げ、自らを殺しながら戦っている。
なんのために?
守るために。
なにを?
アーレス大陸と、そこに住まう人々を。
我が子を守りたいという母の意思。
あまりにも切実で単純な思いは、蝕まれ、歪められてしまった。
きっと、オブリビオンマシンが嘯いたから――。
オリジナル・テレサが固有の脳量子波を発信し続けている。
推定エヴォルグウィルスは、大元となっているであろうナノマシンが存在しないため、完全な分析が不可能。
知り得る限りの性質と変質は、他の猟兵が解析した結果と一致する。
治療方法は依然として不明。
イェーガー・デストロイヤー・システムに虚無の真眼を解析し返されている。
解析で得られたそれら全ては、もはや問題にならなかった。
オリジナル・テレサを止めるには、倒す以外の手段はない。
金瑠の眼は結論を視た。
「青龍……赤龍……黄龍……白龍……黒龍……開門」
虚なる黄金の覇気がエインヘリヤルを覆う。
『パルスフィールドジェネレーター……オーバードライブ……!』
激昂なる赤の波動がアークレイズ・ディナを覆う。
二機が同時に猪突した。
火花と轟きを迸らせて切り結び、弾かれあい、切先を向けて突進する。
孔壊処刑が激突する狭間で、金瑠はオリジナル・テレサの願いを知った。
それは、深い絶望と悲しみを味わった母が行き着く願いだった。
大成功
🔵🔵🔵
テラ・ウィンディア
UC発動中
お前がやったのか…こんな…こんな恐ろしい事を…!?
…おれ達が…おれ達が来たから…此処は…こんな…こんな事が起きて…!?(必死に堪えた…涙を流す資格は自分にはない…だって…死んでいった人達の方がずっと…ずっと苦しかったから…でも溢れる涙
「違う…!テラ!それに猟兵達は数多の世界を救ってきた!貴方達は確かに力を持ってる…それでも…力を持つ事自体に罪はありません!」
で、でも…これ…おれ達が…ひぐっ…ぅぁああ…!(慟哭
っ…それでも…これ以上…お前を…止めなきゃ…!
「…テレサ・ゼロハート…貴女は…やりすぎた。故に…裁きを与えます」
冥界の炎
魔術の神
同時発動
【戦闘知識】
敵機の動きと戦い方と01テレサの状況把握
…テレサはシル…お姉ちゃんの友達だよな
なら…助ける(庇
【降霊・呪詛】
技能極大化
エヴォルグウィルスで死した者達の霊を呼
全ての元凶たるOテレサを示し
その苦しみと怒りをその死を追体験させ…その怒りと慟哭を浴びせる事で徹底的に苦しめ
逃亡阻止の呪詛
超高速連続斬撃と刺突を叩き込
重力孔を打ち込む
不殺徹底
●罪深き刃
スワロウ小隊のイカルガがアサルトライフルとマイクロミサイルで追い込みにかかる。アークレイズ・ディナは制御を奪った守備隊のキャバリアを盾に火線を防ぐ。
『テレサ! 人の命は……! あなたのものじゃないんですよ!』
テレサの腹の底から怨讐の声が響く。アークレイズは射撃の牽制を交えて接近戦に持ち込もうとするも、アークレイズ・ディナの弾幕に拒絶され、機動に翻弄され、飛び込む一瞬の隙を見出だせずにいた。
「お前が……お前がやったのか……こんな…こんな恐ろしい事を……!?」
ヘカテイアのセンサーカメラを通し、オリジナル・テレサが乗るアークレイズ・ディナを目の当たりにしたテラは、愕然とした表情で肩を震わせていた。
『何度でも言う。やったのは、イェーガー。あなた達です』
冷たい確信を持ったオリジナル・テレサの声音が鏃となって胸に突き刺さる。
「……おれ達が……おれ達が来たから……此処は……こんな……こんな事が起きて……!?」
テラの脳裏に先ほどの光景が蘇る。否定しようのない事実の記憶。猟兵の無差別攻撃によって、屍が積み重なる瓦礫の大地と化したスラム街。
頭の中が揺れて視界が歪む。テラは息を詰まらせて涙を堪えた。猟兵の自分は大勢の命を奪った側に立っている。そんな自分に涙を流す権利はない。理不尽に死んでいった者達の苦しみにあえぐ声が耳の奥で鳴り続けている。猟兵を呪う幾多の怨念に、しかしテラの目尻から雫が滴り落ちた。
『違う……! テラ! 猟兵達は数多の世界を救ってきた! 貴方達は確かに力を持ってる……それでも……力を持つ事自体に罪はありません!』
「で、でも……これ……おれ達が……!」
ヘカテイアの声は支えとなるはずだった。けれど力を持っている事を改めて思い知らされ、赤く染まっている自身の両手に気付いてしまった。
猟兵の力。ユーベルコードの力。罪深き刃。この刃が、無関係な大勢の人の命を狩り獲った。自分はやってないとか、誰がやったかなんて問題じゃない。猟兵がやった。猟兵が死なせた。猟兵が虐殺した。
自分の身体を引き裂いてしまいたい衝動に駆られ、両肩に爪を立てる。涙と共に溢れた慟哭はもう止められなかった。
『あなたにも理解できましたか? 歪に膨れあがった理不尽な力に、逃げることすらできずに奪われていった者達の苦しみ、悲しみ、恨み……それを守れなかった者の後悔を……!』
『大勢の命を奪ってきたのはオリジナルテレサ! あなたの方でしょう!?』
テレサの叫びを乗せ、アークレイズがプラズマキャノンを叩き込む。アークレイズ・ディナはアンカークローを介して操るキャバリアを盾にした。青白い火球が爆発し、電流を拡散させる。
『私は既に奪われた後なんですよ。猟兵と同じ、生命の埒外にある歪んだ存在のせいで。私だけじゃない……レイテナも、日乃和も、エルネイジェも……アナスタシアとアナスタシアが産んだ娘達は、みんな同じ後悔を背負わされた! やつらさえ……! イェーガーさえ現れなければ……! イェーガーさえアーレス大陸に来なければ……!』
オリジナル・テレサが闇より深い漆黒のプレッシャーを放つ。赤い怒りも伴ったそれを浴びたテレサの身体が硬直する。ソーノ・スタンナーを応用再現した波動は物理的な干渉力を持ち、アークレイズを磔にした。
『くっ……ううぅ! このプレッシャーは……後悔なの!?』
突き出されるブレイクドライバー。螺旋の溝を加速器として荷電粒子が巡り、尖端に集う。迸るビームの奔流がアークレイズごとテレサを消失させようとした。
「それでも……これ以上……お前を……止めなきゃ……!」
冥界の炎を纏ったヘカテイアが先んじて動いた。アークレイズ・ディナがビームを放つ寸前で急加速し、アークレイズを掴んで射角の外へ脱出する。すぐ真後ろを赤黒い光の奔流が駆け抜け、直線上に幾つもの爆炎を立ち昇らせた。
『ヘカテイア!?』
「……テレサはシル……お姉ちゃんの友達だよな……だから……助けた」
テレサが何かを言いかけていたが、聞き届けるよりも先に弾雨が襲いかかった。ヘカテイアはアークレイズと別れて後退機動を取りながら小規模な重力球を連発して撃った。アークレイズ・ディナを包むパルスシールドの表面に食い込み、空間ごと抉り取る。
『オリジナル・テレサ……貴女はやりすぎた。故に……裁きを与えます』
押さえた抑揚で断言したヘカテイアが、両腕を広げる。背負った円環に、ゼラフィウムに滞留する暗い澱みを呼び寄せる。それはエヴォルグの繭にされた者の怨念だった。
『あなたが撒き散らした死、その苦しみと怒りの慟哭を聞け!』
澱みがアークレイズ・ディナを覆い隠す。理不尽に命を奪われた者達の怨嗟が嵐となり、オリジナル・テレサに死を追体験させる。心も魂も狂ってしまうほどの怨念の渦だった。
『そんな……ものでぇッ!』
アークレイズ・ディナの内側から爆発的に広がった赤い波動が、怨念の渦を押し退けて霧散させた。
『ヘカテイアァァァーッ!』
オリジナル・テレサが全身を怒声にして叫ぶ。
『あなたに私を裁く資格なんてない! 私の子供達を殺戮し、私に苦しみと怒りを刻み込んだ大罪人のあなたなんかに! あなた達のせいで! アーレス大陸は! そこに住んでいた人達は!』
放つ気迫は怒れる鬼であり母であった。アークレイズ・ディナの背後でスラスターの噴射光が炸裂する。
『テラ! 戦って!』
「お前を止めてやる……!」
テラは目元を拭って突撃する事を強いられた。円環から光の波動を放出して加速を得たヘカテイアは、紅龍槍と星刃剣を手に敵へ目掛けて驀進する。
間合いは一瞬で詰まった。槍と剣で縦横無尽の連続攻撃を繰り出すヘカテイアに対し、アークレイズ・ディナは衝角の重い一撃で弾き返す。
「この重さが……おれの罪の重さだっていうのか!?」
ヘカテイアを伝播して身体に伸し掛かる重量に、テラは歯を食い縛って堪えた。潰される資格などない。オリジナル・テレサと猟兵に虐殺された者達の痛みを思えば。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイミィ・ブラッディバック
【イルミナティ】
レブロス2、クレイシザーとストライクフェンリルを1個中隊置いていきます
必要に応じてご活用ください
(直通回線に切り替え)
さてオリジナル・テレサ、その手際実にお見事でした
我々でも最終的に「黒のトリアージ」を選ばねばならないほどに
お陰で我々も目的を果たすことができました
イヴさん、折角ですから彼女に見せてあげてください
すでに猟兵の手によって「蒙を啓かれた」民衆がこれを見た場合どう判断するか
今ご覧のニュース映像のとおりです
我々アンサズ連合は「土地レベルで」オブリビオンへの免疫系となりつつある
そしてアンサズ連合はオブリビオンの力を以って死の刃を向ける者を許さない
貴女がつけた火が、アンサズ連合を猟兵国家連合として再誕させたのです
ドリルソードランスによる突撃をパターンから推測し回避、LONGINUSでカウンター
COAT OF ARMSにミサイルを織り交ぜ飽和攻撃
四肢を中心に攻撃し抵抗能力を奪い、鹵獲を試みます
我々は「イルミナティ」
民衆を啓蒙し、世に平穏のあらん事を願う者達です
イヴ・イングス
【イルミナティ】
いやーホントにしてやられましたね
まさか民衆を巻き込まざるを得ない状況になるとは
ま、お陰で予定がちょろっと早まりましたけど
ヴェクタ条約機構もここまでする度胸無かったですからねー
いやー思い切ったことしてくれて助かりました
はい店長ー、もうガンガン報道されてますよー
ガイアスの生科研が発表した新型エヴォルグウィルスと、海の向こうで発生した惨事について各国メディアが大騒ぎです
証拠の映像も先ほどいっぱい提供してもらえましたしねぇ
まま、とりあえずニュース映像どうぞ
(ハッキングでオリジナル・テレサの機体にニュース映像を送りつけ強制的に見せる)
(この蛮行を断じて許すわけには行かない、と演説するヴィルヘルム大公)
(アークライト自治領の街頭インタビューでオブリビオンマシンは許せないと語る若者)
(エルディスタンの首都で行われた反オブリビオンマシン団体によるデモ集会)
(SNS上でのオブリビオンマシンへの怒りのコメント)
…というわけですよ
ささ、後は店長を情報戦で援護しますよー
えぇ、世に平穏のあらん事を
●イルミナティ
赤いアークレイズ・ディナが放出し続けるプレッシャーは、破滅的な怒気となって工業区画全域に押し広がっていった。オブリビオンマシンが持つ滅びの狂気は、オリジナル・テレサを触媒に実体を得た。猟兵が生んだ夥しい犠牲者を焚き付けとして。
『市街地区画は……ひとまず大丈夫だと信じましょう』
ジェイミィは置き去りにしてきたクレイシザーとストライクフェンリルの一個中隊の反応がまだ健在であることを確認した。今頃はレブロス中隊の分隊と共に工業区画へ流入する敵を堰き止めているのだろう。
『いやーホントにしてやられましたね。まさか民衆を巻き込まざるを得ない状況になるとは』
イヴはスラム街で生じた犠牲者の数を計算していた。あくまで予測値でしかないが、人口密度と被害規模からして数十万人規模の犠牲が出ている。エヴォルグウィルスの被害だけでも相当数だが、猟兵の無差別砲撃で生じた被害の方がそれを明らかに上回っている。覆水盆に返らず。オリジナル・テレサの意図がどこにあったにせよ、猟兵が虐殺行為に走った事実は覆しようがない。オリジナル・テレサの言う通り、滅びをもたらす者を体現したのだ。
『ま、お陰で予定がちょろっと早まりましたけど』
イヴはオリハルコンドラグーンのコクピットを埋め尽くすホロディスプレイに目を一巡させながら言った。
『ヴェクタ条約機構もここまでする度胸無かったですからねー。犠牲者の方々には残念ですが、思い切ったことしてくれて助かりました』
人の倫理を抱えていれば決して至らない境地。そこにオリジナル・テレサは至った。ヴェクタ条約機構も所詮は人である。人類の滅亡など目標にできようはずもない。だがオリジナル・テレサは違った。それはオブリビオンマシンが願うカタストロフと結末を同じくしていた。
『さて、オリジナル・テレサ、その手際実にお見事でした』
ジェイミィはオープンチャンネルでアークレイズ・ディナに呼びかける。返答は無いが、通信の向こうで怒気を揺らす気配があった。
『我々も追い詰められましたよ。最終的に“黒のトリアージ”を選ばねばならないほどに。お陰で我々も目的を果たすことができました』
予期せぬ展開ではあったが……オリジナル・テレサとてこれには考えの及びがつくはずもない。
『イヴさん、折角ですから彼女に見せてあげてください。すでに猟兵の手によって“蒙を啓かれた”民衆がこれを見た場合、どう判断するか』
『はいはーい、じゃあ映像回しますねー。オリジナル・テレサさんもどうぞご覧になってください』
イヴは全周波数帯域に乗せて、映像を流せるだけ流した。
映像の中では、ヴォルヘルム・フォン・ガイアス大公が演説台に立ち、観衆に向かって声を荒げていた。
『――我が友よ、そして祖国の同胞よ。
いま我々は、かつてないほど卑劣で、忌まわしき暴虐を目の当たりにした。
オブリビオンマシン――その名にふさわしく、人類の未来を無に帰さんとする、狂気の徒が、人の営みを血と絶望で覆い尽くそうとしているのだ。
オブリビオンマシンは人間の尊厳を踏みにじり、命を玩具とし、恐怖を武器とした。
母の笑顔を、子のぬくもりを、愛する者と語らう日常を、オブリビオンマシンは無惨に奪ったのだ。
その罪、その所業、その悪意、断じて許すわけにはいかぬ!
そして我々は恐怖に屈してはならない。
これは、アンサズ地方より遥か遠く離れたアーレス大陸で起こった蛮行だ。
だが、我々は無関心という毒に身を委ねてはならない。
ここにいるすべての者が、胸に刻まねばならない。
オブリビオンの力を以って死の刃を向ける者を許してはならないと。
ならば宣言しよう。我らの決意で! 我らの力で!
オブリビオンマシンを討つ!
命を弄ぶ狂気を、この世から駆逐せよ!
我は誓う。
祖国の名において、人類の名において、この暴虐を終焉に導くまで、我らは退かぬ!
いまこそ立て、友よ。
未来を護るのは、我らなのだ!』
観衆は拳を突き上げてヴィルヘルムの名を叫ぶ。
オブリビオンマシンへの敵愾心を顕にするのは、一国の統治者ばかりではなかった。
『この映像は難民キャンプでの事件なのですが、どう思われましたか?』
『マジでムリっすね。やばすぎでしょ。腹からエヴォルグ? こっわ!』
『オブリビオンマシンってこういう事もするんですか? いやいや無理。ホラー映画?』
街頭でインタビューを受けた若者の誰しもが似たような事を言う。
エルディスタンの首都にある中央広場では、怒声とプラカードの林が揺れていた。
「オブリビオンマシンを許すな!」
「命を弄ぶな!」
スピーカーから響く声に合わせて、群衆が声を張り上げる。若者もいれば、スーツ姿のサラリーマン、子供を連れた母親までいた。
プラカードには太い赤字で《人をモンスターにするな》《徹底抗戦》と書かれている。中には、血のりを模したスローガンや、エヴォルグ量産機を悪魔に見立てたイラストもあった。
民衆の怒りは電子の海も炎上させていた。
SNSでは無数のコメントが激流のように流れている。短い単語、乱暴な罵声、震えるような悲鳴。それらは不規則でありながら、一つの巨大な意思を形づくっていた。
『……というわけですよ』
イヴは少しばかりではない薄ら寒さを覚えたが、口にはしなかった。この熱狂が暴走しなければよいのだが。時に民衆という生き物は全てを押し流す津波と化す。
『ご覧の通り、我々アンサズ連合は“エリアレベルで”オブリビオンへの免疫系となりつつある。そしてアンサズ連合はオブリビオンの力を以って死の刃を向ける者を許さない。貴女がつけた火が、アンサズ連合を猟兵国家連合として再誕させたのです』
ジェイミィの視覚野の中では今もヴィルヘルムが演説を続けている。
『……イェーガーが難民に対して無差別砲撃を行った事実は伝えないんですか?』
オリジナル・テレサの声音は冷たい。まるで哀れな生き物を見るような目が、声から醸し出されている。
『それもオブリビオンが振るった死の刃ですよ』
ジェイミィは深い溜息を聞いた。
『かわいそうな人たち。認識も、心も歪ませられて……やっぱりイェーガーは歪んだ力そのものじゃないですか』
『心を歪ませているのはオブリビオンマシンですよ。あなたも身に覚えがあるのでは?』
『だとしても私は目的を間違えない。人を滅ぼし、イェーガーを根絶する。全てを真っ黒に焼き尽くすイェーガーの力……その力が、アーレス大陸を滅ぼした。人を大勢殺した』
アークレイズ・ディナの背後からスラスターの光がXの形に噴き出した。すぐさまMICHAELはCOAT OF ARMSを分離して射出。さらにSOL RAVENからミサイルを連続して垂直発射した。COAT OF ARMSが発射したビームはパルスシールドに阻まれるものの命中。頭上から降り注ぐミサイルが畳み掛けた。アークレイズ・ディナの姿が火球で埋め尽くされる。
『|外界《アーレス大陸の外》がどうなろうと私には関係ない。でもアーレス大陸だけは守る! それが私の生まれた意味……!』
推測通りに爆炎を貫いたアークレイズ・ディナが無数のアンカークローを伸ばす。MICHAELはバックブーストしながらMICHAELを振り回して叩き落とす。COAT OF ARMSで弾幕を張ったが、アークレイズ・ディナの踏み込みが速い。複数のユーベルコードを同時使用するユーベルコードを学習し、ガンホリックの速力を反映させているようだ。
『客観的な視点から、あなたの行為はそれと逆行しています』
『何も知らないからそう言える! 子供を産んだこともないくせに! 子供を殺されたこともないくせに! 子供が|怪物《イェーガー》になったこともないくせに!』
振り下ろされたブレイクドライバーをLONGINUSで受け流す。凄まじい衝撃音と火花が散った。MICHAELの体勢が崩された。追撃の孔壊処刑が来る。唸りをあげるドリルの尖端を、間一髪でLONGINUSで突いた。互いに軌道が逸れてポジションが入れ替わる。ジェイミィは機体を急速反転させた。振り向きに合わせて薙いだLONGINUSが、テールアンカーとアンカークローを弾き飛ばした。
『あなた達はどうしてまた現れたの!? アーレス大陸の何がそんなに羨ましいの!? 何がそんなに欲しいの!? 何がそんなに許せないの!?』
縦に振り下ろされたブレイクドライバーを、LONGINUSですくい上げる。MICHAELは機体が痺れるほどの衝撃を受けた。すぐに打ち返す。一合、二合、三合。アークレイズ・ディナの打ち込みは重い。僅かにでも力が足りなければ押し切られてしまう。
『はて、誰かと誤解されているようですが……私達はあなたが知る誰でもありませんよ。何故なら――』
四合目を打ち合った反動でMICHAELはバックブーストした。ブレイクドライバーが虚空を叩く。
『我々は“イルミナティ”。民衆を啓蒙し、世に平穏のあらん事を願う者達です』
『えぇ、世に平穏のあらん事を』
ジェイミィに示し合わせてイヴが言う。
アークレイズ・ディナが一瞬動きを止めた。
『私は人類繁殖統制端末。その内の一体。人類文明再構築システムの支援機として生まれた。この地を人で満たし、あらゆる脅威から守るために』
ブレイクドライバーの尖端が向けられたのと、MICHAELがLONGINUSの尖端を向けたのは同時だった。
『イルミナティ……アーレス大陸の平穏を乱すもの! アーレス大陸には必要ない!』
『オブリビオンマシン……やがて世界を滅ぼすもの。消し去らなければいけません』
猪突するアークレイズ・ディナに対し、ジェイミィはMICHAELを猪突させた。突き付けた矛先が互いを滅ぼし合う。決して相容れないと決定付けられた者同士であるが故に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
バーン・マーディ
アーレス教徒達と彼女らが助けていた難民達は防衛
…(静かに逆十字を切る
…冥福を祈ろう
この大地に生まれ…そして眠りついた者達へ
その魂が安らかにあらん事を
…アナスタシアの愛し子よ(なぜそう呼ぶか自分でも判らない
それがお前の正義であるならば…善い
だが…悲しい事だ
お前も…お前が殺すよう導いた者も皆…彼の者の愛し子であっただろう
愛し子が愛し子の屍の山を作る
悪たる我も…少し痛みは感じる
我はバーン・マーディ
|悪《ヴィラン》である
故に…お前の正義に叛逆せん
【戦闘知識】
Oテレサの能力と動き
戦い方を見据え
JDSで発動した能力も見切り
【怪力・カウンター・切断・貫通攻撃】
マーズよ
耐えよ
「然りぃ!」
愛し子よ
強大なる力を持った存在を恐れる心は正しい
それの齎す破滅を憂う事も正しい
だが…それらを唯排斥し…滅ぼさんとするそれは…「弱さ」である
弱者必滅…強者絶対…その強者とは…力だけに非ず
己が踏みにじられようと尚手を差し出す…それもまた強さ也
機体が削れ…己に届き…その半身が砕けようと…拳を握り
大いなる叛逆の一撃を捧ぐ
不殺徹底
●幾星霜を経た再会
たくさんの生命が、燃え落ちていった。
バーンは沈痛なる瞑目の中で十字を切った。
「この大地に生まれ……そして眠りついた者達へ、その魂が安らかにあらん事を」
暗闇に去来するのは、色褪せるほどに遠い昔の記憶。
ゼラフィウムで見た光景を、バーンは旧きアーレスの地でも目の当たりにしていた。
空は黄昏時よりも赤く焼け爛れ、大地は真っ黒に焼き焦がされた。
人の営みは文明諸共に悉く粉砕され、目に見えざる毒が瘴気の風となって吹き荒ぶ。
地に横たわる幼子がいた。
もう泣くことも、息をすることもない炭化した骸を、少女の細腕が抱いた。
抱きかかえられた幼子の身体が、乾いた土のように崩れ落ちてゆく。
「あ……ああ……!」
灰になった幼子を掻き集める少女の背中を、バーンは見下ろすことしかできなかった。荒涼とした赤黒い大地に、嗚咽が響く。
「ごめんね……! 怖かったでしょうに……! 痛かったでしょうに……!」
灰を握りしめて震える背中に、バーンはかける言葉を持ち合わせていなかった。子を産んだ母の苦しみを知らない者に、子を喪った母の悲しみを理解できるはずがない。
「やつらさえ……やつらさえ来なければぁぁぁ……!」
悲しみが怨念に変わりゆく。
外界より現れ、アーレス大陸を羨み、妬み、|炎の破滅《・・・・》をもたらした者達……生命の埒外にある恐るべき侵略者達に対する怨念へと。
「アナスタシアの娘よ」
バーンがアークレイズ・ディナの奥に感じ取った気配は、あの時震えていた少女の背中だった。悲しみ、怒り、恨みに震える、母なる娘の背中。
『マーズ……バーン・マーディですか。漂流者だったあなたが、今度は私の敵になると?』
オリジナル・テレサの声音は、故知との再会に昔を懐かしむそれではなかった。敵意の荊棘だらけの声音。バーンの記憶の中の母なる娘とはまるで違う。大勢の幼子に囲まれ、抱いた赤子に柔らかく微笑むあのテレサの面影は、もう僅かにも残されていない。幾星霜の時間が鋼鉄の怨念を育て、心と魂を蝕んでしまったのだろうか?
「これが、今のお前の正義であるならば」
バーンは胸の奥底に湧く寂寥に、身体に空洞が開いたかのような感覚を覚えた。
慎重で疑り深く周到で、しかしアナスタシアが産んだ生命を、自分が産んだ生命に無償の愛を注ぐ母。産みの苦しみを知り、喪う悲しみを知る母。人の熱を持った母は、いまや誰も寄せ付けない鋼鉄の冷気を放っている。
「だが……悲しい事だ」
産みの苦しみを知らないお前に悲しむ資格はない。通信装置を経てそう含めたオリジナル・テレサの息遣いを聞いたが、バーンは淡々と続けた。
「お前も、お前が我らに殺すよう導いた者も皆、血を辿ればアナスタシアの子であっただろう。アナスタシアの娘が、アナスタシアの子の屍の山を作る……悪たる我でも、痛みは感じる」
オリジナル・テレサが作り上げた屍の山は、旧くに|炎の破滅《・・・・》を迎えたアーレス大陸の光景と同じ。生命を奪われる痛みを知るオリジナル・テレサが、奪う側に立ち代わろうとは、この上なく不幸な皮肉だった。
『なら分かるでしょう。これは私がやらなきゃいけない。逃げちゃいけないこと。生命の埒外にある者はアーレス大陸に必要ない。やつらは必ず力に溺れ、|アナスタシアの刻印《・・・・・・・・・・・》も引きちぎり、この地を滅ぼす。産まれた生命が歪んでいるなら、刈り取るのが産んだ者の義務……!』
オリジナル・テレサの震える声の底に、押し潰された感情が垣間見えた。
「悲しき使命に狂うか。哀れだな」
『私は最初からそのために産まれた』
「それがお前の正義なのか」
『正しい正しくないの問題じゃない。あなただって見てたでしょう? やつらがどれだけ多くの生命を奪っていったか……! あんな力、存在してちゃいけない……!』
「今や我も生命の埒外の側だ」
『ならあなたも消えるべき邪悪!』
アークレイズ・ディナがブレイクドライバーを引いた。機体から膨れ上がる殺気が勢いを増す。
「いかにも。我は|悪《ヴィラン》である」
マーズはDurandal MardyLordを構えた。アークレイズ・ディナの一撃を受け止める構えだった。
「故に……お前の正義に叛逆せん」
『アーレス大陸から……出ていけぇぇぇーッ!』
オリジナル・テレサの裂帛と共に、アークレイズ・ディナのブースターが噴射光を燃やした。急激に加速して接近。ブレイクドライバーを縦に振り抜く。
「マーズよ、耐えよ」
『然りぃ!』
マーズはDurandal MardyLordの刀身でそれを受け止めた。凄まじい火花が散り、鈍重な金属音が工業区画一帯に反響した。殺しきれぬ衝撃に、腕部と肩の関節機構が悲鳴をあげる。しかしマーズは踏み止まった。
「アナスタシアの最初の娘よ、強大なる力を持った存在を恐れる心は正しい。それの齎す破滅を憂う事も正しい」
バーンは直接回線でオリジナル・テレサに声を投げかける。
『だったらあなたは自分で自分を消し去るべきなんですよ! イェーガーは生命の埒外……その力は破滅そのもの! 全てを破滅させる前に……!』
幾星霜振りに見た母なる娘の顔は、憎しみと後悔に染まっていた。けれど紺碧の瞳も、白銀の髪も、あの頃から変わっていない。赤子に微笑んでいたあの頃から。
アークレイズ・ディナが押し潰さんと重量を掛ける。マーズの足がアスファルトを砕いて沈み込む。
「だが、それらを唯排斥し、滅ぼさんとするそれは、“弱さ”である。弱者必滅。強者絶対。その強者とは、力だけに非ず」
『傲慢さも強さだとでも言いたいんですか!? その傲慢さで気に入らないもの全てを壊し尽くせる力を持ってるからって!』
「己が踏みにじられようと尚手を差し出す……それもまた強さ也」
『それが強さなら私はそんな強さなんていらない!』
マーズの腕部が限界を迎えた。関節部が砕け、振り下ろされたブレイクドライバーに叩き潰される。
『イェーガーを倒せる強さが! JDSのような強さこそ今の私に必要なの!』
よろめいたマーズに高速回転する衝角の尖端が迫る。機体の胸部を狙った必殺の一撃だ。
「ならば!」
マーズは間一髪で半身を逸らす。ブレイクドライバーが損傷した右肩部を抉って横に抜ける。
「その強さに今こそ叛逆しよう」
限りなく零に狭まる相対距離。機体同士が交差する直前に、マーズは残った片腕のマニピュレーターを握り込んだ。
「この痛みが貴様の咎である!」
渾身の正拳突き。オリジナル・テレサの反応速度を超えた打ち込みが、パルスシールドを突き破ってアークレイズ・ディナの胸部へと届いた。赤い装甲片が散り、後方へと弾き飛ばされる。工場に背中を埋めて停止すると、灰色の土煙が姿を覆い隠した。
だが機体が放つ敵意は衰えていない。
どうしようもなく狂ってしまった母なる娘に、バーンは改めて身体に空洞が開いたかのような寂寥を味わった。
幾星霜を経て辿り着いたのは、再会ではなく、滅ぼし合う宿命だった。
大成功
🔵🔵🔵
ポーラ・チノ
オリジナル・テレサ、お前は満足だろうな
私達に化物諸共、大勢の人間を殺させることができた
お前は私達猟兵を虐殺者に、お前の同類にすることができたわけだ
脳量子波の扱いは向こうの方が上手そうだ、ダガービットは奴のアンカーの迎撃に専念させる
アレに刺されたら嬲られて終わる、トキシックウェイブも弾かなきゃ避けられない瞬間を見極めて出そう
決め手になりそうなのはビームカノンだが、普通に撃ち込んで有効打になるとも思えない
ガンで奴の四肢や武装を狙い撃ち続け、焦れて仕掛けてきたところに"惨刺"を発動、カノンを叩き込む
殺さず弄ぶのも嫌いじゃないだろう、モスレイ
……オリジナルは、本当にオリジナルなのか?
テレサ達の姉妹でもなく、似てるだけの別人じゃないのか?
この違和感は、私達の敵は、何なんだ?
ヴィリー・フランツ
※道中の補給部隊で肩武装の給弾と手持ち武装をRSヤグアルⅤ対装甲狙撃銃に変更
心情:ディナだと!?以前応接室から見た奴か!まさか香龍で見たJDSを搭載してねぇよな?
手段:クソ!ロケット砲分隊はその辺のオフロードをパクってついて来い、残りはセクションゲートを守れ、これ以上増やすなよ!
ディナと対峙したら両肩のショルダーAAガンを乱射し奴の動きを制限する事を試みる。
距離を離されたらヤグアルで対応、初速の速い徹甲弾を食らわせてやる。
各分隊、配置に付いたか?俺の方に注意が逸れたら工場の窓から対キャバリアロケットを脚部か背部のブースターにしこたま浴びせてやれ!
お前、オリジナルのテレサか?議会派と王党派、何らかの取引が合ったのか…。
おい、生きてる間に地獄の門を閉じさせてもらった礼だ、鉛弾を全弾喰らいやがれ。
苦し紛れのアンカーか?その為のフォートレスアーマーだ、バリア越しじゃ吸えんだろ、むしろ動きが制限されてマチェーテで反撃も出来そうだぜ。
JDSのコピー攻撃にも一応警戒しとく、誰の攻撃が来るやら。
支倉・錫華
【箱船】
テレサさん、退いて。そのまま戦ったらあぶない。
まぁ動揺するのはわかるよ。
たしかにわたしたちが殺したからね。
そう、殺したのはわたしたち。
あなたたちは、市民を守った。それで良い。
わたしたちは傭兵。あなたたちは正規兵。
だから、恨みも憎しみも、わたしたちに向けてもらえば良い。
そうじゃないとこれからが厳しくなるから、そうしておくべき。
真実は、解る人だけ解っていればいいよ。今はね。
だから一度落ち着いて、立て直してきて。
こっちはこっちで、しっかりケジメとらせてもらうから。
アミシア、スヴァスティカいける?
『問題ありません。【E.O.D】装備で出られます』
ありがと。
それじゃ、しばらくはパワー温存して待機。
アークレイズが【ネルトリンゲン】に取りついたら、
【Low Observable Unit】を起動して艦内を移動、相手の真下につけるよ。
理緒さんが敵の動きを止めたら、
こっちも【ワイヤーハーケン】射って相手を絡め取り、
【ネルトリンゲン】の甲板ブチ抜いて、フルパワーの【E.O.Dソード】でぶった斬るよ!
菫宮・理緒
【箱船】
『殺したのは、イェーガー』か。
まぁ直接手を下したのはわたしたちだから、そう言ってもいいよ。
あなたがウイルスばら撒いた結果、なんて言い訳もしない。
後手に回ったのも確かだしね。
でも、|猟兵《わたしたち》がいたから、ってのは言い訳が過ぎるかな。
ウイルスをばら撒くって選択をしたのはあなた。責任転嫁はやめてね。
わたしもあなたも、大量殺戮者。その自覚は持ってね。
ま、大量殺戮者同士にこれ以上会話はいらないか。
『希』ちゃん、戦闘準備。突っ込むよ。
『おねーちゃん!? 本気!?』(ハイライト消えてるけど!?)
【M.P.M.S】と【粒子反応弾】で弾幕を張りつつ、
【D.F.シールド】を全開にして、アークレイズに突撃。
当然避けられるし、近づかれるだろうけど、それが狙い。
思いっきり引きつけて、相手の攻撃を一撃食らってから【偽りの丘】を発動。
その後のアークレイズの攻撃をキャンセルしつつ、【トラクターチェイン】で敵の動きを止めるよ。
最後は錫華さん、任せた!
【ネルトリンゲン】壊していいから、クリティカルでお願い!
シル・ウィンディア
イェーガー・デストロイヤー・システム…。
それがあるからわたしの得意魔法は封じられているんだよね。
だけど…。
あなたに砲撃魔法は必要ないから。
…人として、そして、友達と一緒にあなたを討つ。
テレサさん達、アルフレッドさん。
あれをやるよ。
…スカルシュレッダー。
シリウスとイカルガ達で弾幕・牽制を!
弾幕・牽制の指揮はアルフレッドさん任せます。
信頼してますっ!
斬り込みはアークレイズ、そして、わたしで行う。
…大丈夫。
力にならわたしがなるっ!!
全力魔法でUC使用
翼の加護をみんなに…。
行くよっ!
加速してセイバー、ブレイドの連撃とリフレクタービット・バルカンの射撃っ!
シールドビットはアークレイズとわたしの直掩。
ね、オリジナルなテレサさん。
猟兵が骸で埋め尽くしたのは確か。
それは否定しないよ。
でも
あなたもわたし達も
正しい事なんてないんだ。
間違いながらでも自分の足で歩いていくだけ。
今やりたいことはね…。
友達を泣かせたその相手をぶん殴ることっ!
単純?
人ってシンプルなんだよっ!
あ、そうそう。
猟兵でも殴るよ、わたしは。
露木・鬼燈
んー、ちょっとヤバい感じ?
まぁ、やっちゃったものはしゃーないっぽい!
この世界で暮らしてるわけじゃないしね
民衆の憎悪の矛先になったところで、ね
とは言え…依頼主とか戦友からの感情は無視できないけどね
まぁ、その辺は終わってから考えるとして…
今は目の前の事態に対処しないとね
アポイタカラを召喚してオブビリオンマシンと戦うですよ
今回は単純に強いのが一体って感じなので<天鳥船神>を選択
こーゆー時は火力と装甲を強化するといい感じだよね
さらに言えば前衛を務めてくれる人と組めると嬉しい
この形態だと絶え間ない射撃で負荷をかけ続けるのが向いてるからね
アポイタカラは弾切れとは無縁なのでー
まぁ、推力も上がっているので単独でもどーにかなるけどね
でも効率は落ちるので他の猟兵さんと連携していきたいよねー
皇・銀静
神機
UC発動中
人が猟兵を生むから須らく殺すか
…救いが無い程破綻してるな
きひ…きひひひ(怒りの余り笑
「主ー☆Oテレサちゃんは殺しちゃダメだよ☆」
判っている…殺すなんて|温い《・・》事する訳ないだろ
【戦闘知識】
敵機の構造…特にOテレサの位置を正確に捕捉
JDSで発動してるUCの解析
異界の絶華兄さん…お前も手伝え
あの中の腐れ〇〇〇を引きずり出す
ギガスゴライア出撃発動
援護射撃と連携突撃させ
【属性攻撃・空中戦・リミットブレイク・念動力】
勝利の神
槍の神同時発動
超絶速度で飛び回り絶華と合わせながら念動光弾と凍結弾と火炎弾を乱射して機体の強度を崩し
【二回攻撃・蹂躙・切断・串刺し】
絶華
カシムと連携して超連携連続攻撃
裏白虎門発動
槍の神で必中
超連続攻撃を叩込
正面からぶつかり合
特にコックピットの部分の壁を粉砕してOテレサを外部に晒
機体から出て…直接引きずり出し
…お前もこうされる覚悟はしていただろ?
不殺徹底
しかし
死なぬ程度に…しかし苦痛を伴う拳を叩き込
四肢の骨を折り死なぬが逃げられぬように痛めつけ
竜眼号に拉致を敢行
皇・絶華
神機
さっちゃん搭乗
UC発動中
うん
銀静とカシムの援護に来たぞ?
「主様!彼奴が元凶のようですよ!というかカシムと銀静の奴の殺気やべぇな!?」
うむ!どうやら元凶を捕らえるなら私達も力を尽くすぞころちゃんにさっちゃん!
【戦闘知識】
カシム
銀静と共に機体構造や能力を解析
情報共有
【二回攻撃・切断・乱れ打ち・見切り・貫通攻撃】
巨神の王発動
転移を繰り返しながら翻弄して猛攻を仕掛けると共にメルクリウスとグリームニルの弾幕を当てる様に連携転移
次元切断で削りながら
【念動力・弾幕・二回攻撃】
念動光弾を乱射しながら猛攻
接近戦を仕掛ける二機の援護
「俺はユピテルの野郎が何したか知らねぇけどよぉ…どう考えても今てめーのやってる事の方が百億倍ヤベーじゃねぇか!Oマシンに乗ってなくても主様より頭おかしいんじゃねぇかてめー!?」(さっちゃん最大の暴言
ころちゃん
ライオン着ぐるみ幼女の姿もままぴょんぴょん飛びながら直接殴る
「うう…この姿のままとか…!」
Oテレサが万が一死にそうになった時はぜっちゃんチョコ使った料理を口に捻じ込み治療
カシム・ディーン
神機
一章にて
マスコミに
「偏向報道はいけないぞ☆」
猟兵の救出劇と現在判っている情報提供
石化鋼鉄化は解除できる事も伝達
本部へも
UC発動中
かは…っ…はは…ははは…!
てめぇ…まさか之だけしておいて「私悪くないもん!猟兵が居るからいけないんだもん!」てか?
ふざけんじゃねぇぞ糞女が
之は須らくてめぇがやった結果だ
てめぇが無理矢理誘導した結果だ
猟兵達に罪を背負わせる「だけ」の為の糞謀略だ
てめぇには死すら生温い
生き地獄を味合わせてやる
【情報収集・視力・戦闘知識】
敵の使ってる模倣UC
機体構造
Oテレサの位置を解析
速足で駆ける者発動
【念動力・属性攻撃・空中戦・瞬間思考・電撃】
超絶速度で飛び回り念動光弾を叩き込みその動きを封
更に凍結弾を乱射して凍らせその動きを鈍らせつつ霧で周囲から視界を奪
電撃を浴
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
鎌剣でずたずた切り刻み可能ならOテレサの身体を露出させ
銀静の拉致が失敗すればわたぬきでOテレサ強奪
成功すればそのまま竜眼号に拉致
更にたまぬき発動
Oテレサの魂魄を奪い封印
記憶を解析
不殺徹底
ティオレンシア・シーディア
…やってくれたわねぇ。
とっ捕まえてから音沙汰なかったし、何かしらやらかす気だろうと想像してはいたけれど。流石に規模も範囲も想定外が過ぎるわねぇ。おまけにこの地域では|猟兵《あたしたち》全体に極大の烙印まで押されちゃったようだし。完全にしてやられたわぁ…
魔術的効果のこの世界における科学的再現性の可否とかは置いとくとしても、後のこと気にして出し惜しみできるほど温い相手じゃないわよねぇ…
接敵前に|ラグ《幻影》で光学・|摩利支天印《陽炎》で熱源迷彩を展開、認識そのものをズラしてドリルソードランスを回避。カウンターで●重殺叩き込むわぁ。
|刻むのはベオーク・シゲルの二条・ウル・ハガル・ユル《「成長」する「エネルギー」は「臨界」し「制御を離れ」「破滅」の「終焉」を齎す》…
手際については本当に心底感嘆するしかなかったけれど、それはそれとして。手前勝手な理屈で色々とやってくれたお返しの一つくらいはさせて頂戴な。
…こう見えてアタシ、かなり腹に据えかねてるのよ?
●ハンティング・グラウンド
先鋒を切った猟兵に遅れること幾分、ネルトリンゲンの巨大な船体が大気を震わせて工業区画の頭上へとさしかかった。
飛行甲板からモスレイ、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ、スヴァスティカ SR.2、ティラール・ブルー・リーゼ、アポイタカラ、グリームニル、ギガス・ゴライア、サートゥルヌス、ライオンの着ぐるみ、メルクリウス、スノーフレークが降下した。いずれの機体も極短時間で可能な範囲の整備と補給を済ませている。
機体の搭乗者の中には香龍に出現したアークレイズ・ディナとの交戦経験者も多い。もしもオリジナル・テレサが乗っているのが正規のフルスペック仕様だとすれば、万全の状態で臨みたいのが本音である。侮る者は、誰一人としていなかった。
『スラム街地区で虐殺行為を行ったイェーガーは、一斉に工業区画へと移動しました! いま現在は所属不明機との交戦中です! 戦闘によってあちこちで爆発が起こり、火の手が勢いよく上がっています! イェーガーの戦闘行為で生じた被害は非常に大きく――』
「マスゴミめ……好き放題言いやがって……!」
通信装置が流す報道局の中継映像に、カシムは目元を歪めて舌を打つ。報道内容には情報の補足が必要だが、撃ち合いの最中に説明しに行っている余裕などない。知り得た情報についてはゼラフィウムの本部へ報告を入れているが、今のところ反応はない。未だゼラフィウム全域が混乱から抜けきれていない現状、中距離以上の通信は錯綜し過ぎていて、正しく届いているのかも怪しい。
「んー、ちょっとヤバい感じ?」
報道記者の迫真の報道を聞いて、鬼燈は背中とパイロットシートの間にむず痒さを覚えた。感情的で衝撃的だが、映像を含めて嘘は言っていない。どこの誰が、どういった事情があってという問題ではなく、猟兵がスラム街で大量虐殺に及んだのは覆しようのない事実だ。これで猟兵は闘争に疲弊した世界に希望を与える象徴から、血に飢えた殺戮者の象徴となるであろう。民衆の憎悪の向かう先として。この世界で暮らしているわけではないにしろ、依頼主や共に戦った者達へ与える心証はいかほどのものか……無視できると言えば嘘になる。
「……やってくれたわねぇ」
ティオレンシアは自分でも意外と思うほどに、感嘆が籠もった息を吐いた。オリジナル・テレサの身柄を鯨の歌作戦で予期せず捕らえてから一年近く。存在感ごと音沙汰が途絶えて久しかったが、遠からず何かしら事を起こす予想はあった。そして予想通りに事が起こり、及んだ規模は想定外だった。これでめでたく猟兵は東アーレスで大量虐殺者の烙印をしっかりと押された。どこまでがオリジナル・テレサの意図なのかはいざ知らず、猟兵にとって事態が悪い方向に転がった事に間違いはない。こんな時に限っては、広域通信網が消失している事を不幸中の幸いと思わずにはいられなかった。
「以前に応接室から嫌な予感はしてたが、まさかこうなるとはな……!」
目元を歪めるヴィリーの脳裏に香龍での戦いが鮮明に蘇る。自機を大破にまで追い込んだ強敵。猟兵達が文字通りに砕け散るまで戦って止める事が叶った相手だ。当時戦った機体ではないにしろ、イェーガー・デストロイヤー・システムを搭載している点は同じである。既に猟兵が使用したユーベルコードを学習し、模倣していた。しかも厄介な事に、当時と比較して猟兵が扱うユーベルコードの幅は数倍に増えた。中には複数のユーベルコードを複合して行使するものもある。アークレイズ・ディナはそれらを漏れなく憶え、複合に複合を重ねて一度に何重ものユーベルコードを行使可能になってしまった。手遅れかも知れないが、時間をかければかけるほどに手の付けようがなくなる。オリジナル・テレサの身柄確保と並行してやらねばならない事が、任務の遂行をより困難なものとしていた。
「やっぱりあるよね、イェーガー・デストロイヤー・システム……」
シルとて香龍での記憶は忘れていない。東雲那琴が乗ったアークレイズ・ディナは、本来持ち得る機体の能力を拡張し、まさしく生命の埒外の領域へと至っていた。エレメンタル・ファランクスを模倣されたのも記憶に苦々しく染み付いている。得られた教訓は、強力なユーベルコードを迂闊に行使しないこと。行使するなら一撃で決める覚悟を強いられる。その縛りが依頼主の命令と状況に相乗して、シルの思考をますます複雑に縛り付ける。
「オリジナル・テレサ、お前は満足だろうな」
ポーラはようやく見付けた。スラム街で聞いたざわめきの根源を。人喰いキャバリアと感染者達は、オリジナル・テレサが発する声に呼応してざわめいていた。エヴォルグの繭を羽化させたのは彼女の声……根拠はないが確信はあった。
「私達に化物諸共、大勢の人間を殺させることができた。お前は私達猟兵を虐殺者に、お前の同類にすることができたわけだ」
通信装置越しに冷たく投げかけると、同じ温度の息遣いが伝わってきた。
『殺すことを選んだのは、あなた達イェーガー自身』
少女の声音は、恐ろしいまでにテレサ・ゼロハートと似ている。
『殺さない事を選ぶことだって出来たのに、関わらない事だって選べたはずなのに、あなた達は殺すことを選んだ』
「お前の望み通りにな」
『イェーガーが本性を現しただけ。邪悪で凶暴な……なのに自分達を疑わない。省みもしない。世界に選ばれた事を免罪符に、奪い、壊し、殺す。それが、イェーガーの真の姿』
「随分と詳しいじゃないか。よほど猟兵が好きなんだな」
『忘れもしない。ずっと昔、私達は“あなた達と同じ生命の埒外”と戦った。やつらはこの大陸を骸の海に変えた』
猟兵と同じ生命の埒外――その言葉にポーラは眉宇を動かした。
「第六以前の猟兵のことを言っているのか?」
『何番目かなんて関係ない。重要なのは、あなた達が猟兵だということ。生命の埒外にある力を持っていて、世界を焼き尽くし、“炎の破滅”をもたらすイレギュラー……産まれてはいけなかった歪み』
『テレサだってイェーガーと同じでしょう!?』
音割れを起こすほどの声は、テレサ・ゼロハートが発した怒号だった。僚機のイカルガと共に突撃銃の火線を伸ばして吶喊した。
『こんなに殺してぇぇぇーッ!』
一撃離脱の斬撃を振るうも、アークレイズ・ディナは銃弾をパルスフィールドで受け流し、プラズマブレードをドリルソードランスで打ち返す。
『何度でも言う。私に殺させたのも、殺したのも、全部イェーガー』
オリジナル・テレサが突き付ける現実に、テレサ・ゼロハートはスラム街で起きた惨劇を呼び起こされた。得体の知れないユーベルコードで人の命を弄び、感染者も非感染者も分け隔てなく焼き払い、鉄の雨を降らせて破壊した。難民を救おうとした猟兵もいた。だが救われた命の数よりも、猟兵が殺した数の方がずっと多い。破滅をもたらすもの……生命の埒外の力は、自分達が守らなければならないものを破壊するために行使された。
棒立ちになったアークレイズとイカルガに、錫華は反射的に声を飛ばした。
「テレサさん達、退いて。そのまま戦ったらあぶない」
スヴァスティカ SR.2がFdP CMPR-X3とスネイル・レーザーで張れるだけの弾幕を張った。アークレイズとアークレイズ・ディナの間を流れた弾雨が、二機を弾かれあうようにして引き離した。
「まぁ、テレサさんが動揺するのはわかるよ。確かにわたしたちが殺したからね」
追撃の火力をアークレイズ・ディナに集中する。パルスフィールドに阻まれてはいるが、後退させるだけの勢いはあった。しかしプラズマビームと銃弾の猛攻が返ってきた。舗装された敷地を疾駆し、建物を遮蔽物にしてやり過ごす。
「そう、殺したのはわたしたち。テレサさんたちは、市民を守った。それで良い」
周囲で爆発が連続した。アークレイズ・ディナがエネルギーインゴット貯蔵タンクを撃っている。隠れたスヴァスティカ SR.2を燻り出すのが目的のようだ。
「わたしたちは傭兵。あなたたちは正規兵。だから、恨みも憎しみも、わたしたちに向けてもらえば良い。そうじゃないとこれからが厳しくなるから、そうしておくべき」
『私は……!』
テレサは途切れた言葉の続きを見失った。
「真実は、解る人だけ解っていればいいよ。今はね。だから一度落ち着いて。こっちはこっちで、しっかりケジメとらせてもらうから」
錫華は淡々とした語り口で言う。どんな背景にせよ、事実だけを述べれば猟兵が虐殺に及んだ事に変わりない。自分も難民を大勢焼き殺した。恨まれるのも憎まれるのも必定だったし、当然だった。
「殺したのはイェーガー、か」
ネルトリンゲンの艦長席に座る理緒も、オリジナル・テレサが述べた事実を受け止めていた。
「まぁ……直接手を下したのはわたしたちだから、そう言ってもいいよ。あなたがウイルスをばら撒いた結果、なんて言い訳もしない。後手に回ったのも確かだしね」
行動は結果が全て。難民を保護しても、ウイルスの除去を試みても、結果が伴わなければ意味を持たない。あの場では焼却する以外に手段がなかった。そんな言い訳は、どれほど事実に基づく客観的な検証を並べたところで、殺された者達と遺された者達になんら響きはしない。
「でも、|猟兵《わたしたち》がいたから、ってのは言い訳が過ぎるかな。ウイルスをばら撒くって選択をしたのはあなた。責任転嫁はやめてね」
『その選択を私にさせたのも、イェーガーがいたからなんですよ』
「なら殺す選択を私達にさせたのは、あなたのせいだよね?」
『元を辿ればイェーガーさえ産まれなければよかったんです。存在そのものが罪で、全ての犠牲はあなた達に与えられた罰なんですよ』
「でもあなたも大勢殺した。わたしもあなたも、大量殺戮者。その自覚は持ってね」
『イェーガーはしなくていい殺戮をやった。自覚ですって……? そんな覚悟、とっくに決めてる! 人が|怪物《猟兵》になる前に人を全部滅ぼして、正しく産み直す……これは私がやらなきゃいけないこと!』
決して交わらない思惟のぶつかり合いに、理緒は首を横に振った。
「ま、大量殺戮者同士にこれ以上会話はいらないか」
譲れないものがあるなら力で押し通す。それがこの世界の鉄則だった。
「人が猟兵を生むから須らく殺すか……救いが無い程破綻してるな」
銀静は笑い出す肩を止めることができなかった。腹の底から湧き続ける怒りに、気味の悪い引き笑いが出る。
『主ー☆ オリジナル・テレサちゃんは殺しちゃダメだよ☆』
グリームニルが念を押す。喉を鳴らすサリアことギガス・ゴライアも不安気な様子だった。
「判っている……殺すなんて|温い《・・》事する訳ないだろ」
「かは……っ……はは……ははは……!」
銀静につられてカシムも笑う。怒りを通り越した狂気の笑いだった。
『主様! 彼奴が元凶のようですよ! というかカシムと銀静の奴の殺気やべぇな!?』
サートゥルヌスも二人が昇らせるただならぬ殺気を感じ取っていた。
「うむ! 怒りのあまり狂ってしまったようだな!」
絶華にしてみても尋常ではない。コロニスに至っては口を閉ざして押し黙っていた。
「てめぇ……まさか之だけしておいて、私悪くないもん! 猟兵が居るからいけないんだもん! てか?」
『そう何度も言ってるじゃないですか』
さも当然と冷たく言ってのけたオリジナル・テレサに、カシムの怒りはまた一つ段階を上げた。
「ふざけんじゃねぇぞ糞女が。之は須らくてめぇがやった結果だ。てめぇが無理矢理誘導した結果だ。猟兵達に罪を背負わせる“だけ”の為の糞謀略だ」
『謀略? 私はイェーガーが勝手に作った状況を利用しただけです』
「ああ?」
『その様子だと、そもそもなんで私がゼラフィウムにいるのかすら分かってないみたいですね?』
カシムは口を閉ざした。確かにオリジナル・テレサがゼラフィウムにいる理由を知らない。奴は鯨の歌作戦の折に身柄を捕らえられ、イーストガード海軍基地で拘束されていた事までは聞いていたが。
『いいえ……私が捕らえられた理由すら分かってない』
「知らねぇよ。他の猟兵が勝手にとっ捕まえたんだからな」
カシムは通信装置越しに微かな嘲笑を聞いた。
『まず、日乃和海で捕まえられた事自体、私にとって想定外だった。あの時私を殺していれば、今こうしてゼラフィウムで戦うことだってなかったかも知れない』
「……大元の始まりは猟兵の行動だって言いてぇのか?」
『だから言ってるじゃないですか。全ての元凶はイェーガーだって。いまの状況はイェーガーが招いた結果です』
「そう仕向けたのはてめぇだろうが!」
『私を捕らえる事を選択したのはイェーガーじゃないんですか?』
「まあ……そりゃあな」
オリジナル・テレサの身柄確保に協力していた一員であるヴィリーは、それが依頼主からの指示に基づいた行動ではなかった事を把握している。紛れもなく猟兵の選択だった。
『私が意図したことなんてなにもない。後は人とイェーガーがやったこと。ゼラフィウムに来たことも含めて、私はずっと状況を利用してただけ』
「イェーガーがやったこと……だと?」
銀静はオリジナル・テレサの言葉の中に一抹の予見を得た。ゼラフィウムにオリジナル・テレサが現れた理由には、猟兵が関係していると。
「お前がこの場にいることに、猟兵は関わっていない」
『私を運んだのはあなた達ですよ?』
「え?」
「は?」
「いつ?」
「どうやって?」
鬼燈、シル、理緒、錫華が殆ど同時に声を発した。
『やっぱり気付いてなかったんですね。いや、知らされてなかったんでしょう』
「なぁにぃ?」
ヴィリーは怪訝な目付きを険しくする。
「あぁ……ひょっとしてあの時のかしらぁ?」
猟兵が運んだと聞いた瞬間から、ティオレンシアに心当たりは一つしかなかった。スワロウ小隊とレブロス中隊と共に、ゼラフィウムへ護送したあの輸送車の中身――。
「戦略核……」
錫華が呟く。
「じゃあ、わたし達があの時運んでたのって……」
シルは目を見開いた。
「なるほどな。俺達が運んだのは、確かにとびきり危険な爆弾だったわけだ」
ヴィリーは肩をすくめながら両手を挙げる。
「僕らはまんまと騙されていた……と受け取っていいのか?」
銀静の表情から狂気の笑みが失せた。
「んなこたぁ一言も聞かされちゃいねぇぞ!」
誰に向けるべきか分からなくなった怒りを籠めて、カシムはサイドパネルに拳を叩き付けた。
「まあ、だーれも中身を見てなかったしね」
鬼燈は深く息を吐いた。仮に見ていたとしても未来が変わったとも思えない。
「アルフレッド大尉は知ってたの?」
錫華が鋭く問う。
「いや……輸送物は重要機密に指定されていた。我々も中身は確認していない」
額に一筋の汗を伝わせるアルフレッドの顔付きは、誰の目にも嘘を言っているようには見えなかった。
「私は! 私は……知ってました……」
割って入ったテレサの声音は微かに震えている。全員の猜疑の目が集中した。
「輸送が終わった後、ケイト参謀次長に連れて行かれて……そこで……!」
「あの女か!」
薄く笑う黒尽くめの女をカシムは脳裏に呼び起こした。レイテナ・ロイヤル・ユニオン参謀本部付きのケイト・マインド参謀次長。輸送任務の依頼主である。
『やっと理解できたようですね? 全部あなた達イェーガーが選択したこと。その結果が、この破壊と殺戮』
オリジナル・テレサの声音に気持ちの高まりが滲む。論破した者が、あるいは実証した者が滲ませる高揚感だった。
「だったら片付けるのも猟兵だ」
輸送任務に加担していないポーラにとって、我存ぜぬ事だった。オリジナル・テレサ、ケイト・マインド、猟兵。三者を巡る問題は解決したい奴が後で解決したらいい。横滑りするモスレイがラピッドビームガンのマズルを瞬かせる。
「殺さず引き摺り出せってオーダーだ。忘れるなよ?」
ヴィリーのヘヴィタイフーンMk.Ⅹも火線を重ねる。ヤグアルⅤ対装甲狙撃銃が精密な弾道を伸ばし、連装ショルダーAAガンがフルオートで弾丸をばら撒く。宇宙海兵強襲部隊も対キャバリアロケットで射撃を援護した。
「アミシア、E.O.Dを使う分のエネルギーはリザーブしておいて」
『了解』
錫華は冷たい眼差しで回避機動する目標を追う。工場の屋根に跳躍したスヴァスティカ SR.2はFdP CMPR-X3から徹甲弾を撃ち散らした。
「希ちゃん、ネルトリンゲンも前に出して」
『おねーちゃん本気!?』
光を反射しない理緒の虹彩は本気の目をしていた。微速前進したネルトリンゲンが船体を次元断層で覆い、M.P.M.Sから粒子反応弾を放出する。
「これだけ猟兵が集まってれば……」
シルは素早く視界を巡らせた。猟兵達の火砲がアークレイズ・ディナの一点に集中しつつある。この状況は、鯨の歌作戦でスワロウ小隊がやってみせたあの戦法に似ていた。スカルヘッドを撃墜するために編み出した、あの戦法に。
「テレサさん達! アレやるよ!」
『なんです!?』
「スカルシュレッダー!」
スワロウ小隊のテレサ達が閃きを得た反応を見せた。
「アルフレッドさんも! できますよね!?」
「……全包囲からの飽和攻撃で機動性を封殺し、直後に突撃する一点突破戦術か。試す価値はあるな」
説明の手間が省けた事に少し安堵した。
他の猟兵は頼むまでもなく各々攻撃を仕掛けている。
「信頼してますっ! 行くよっ!」
スカルシュレッダーをより確実なものとするべく、アジュール・アンジェが幻の翼を伸ばす。その光の翼は挑む者達の活力を励起させた。
「ほーほー、そーいうことなら天鳥船神の出番っぽい」
アポイタカラが両腕を天に掲げる。機体の内側から拡張した装甲が各部に張り付き、重砲が生える。
「あいにーどもあぱわー、なんてね」
重武装ガンシップを装備として纏ったアポイタカラは、輪郭を数倍に膨張させていた。多連装ミサイルポッドのハッチが開き、噴煙と共に誘導弾が飛び出す。ガトリングキャノンの砲身が唸りを上げて緋色の破線を描き、グレネードキャノンが弾頭の射出と共に後方へガスを噴射した。
「あの中の腐れ阿婆擦れを引き摺り出す。異界の絶華兄さん……お前も手伝え」
銀静は憤怒を湛えた眼差しをアークレイズ・ディナに注ぐ。グリームニルは三色混合の光弾をロックオンせずにひたすらばら撒いた。サリアもアームビームキャノンの速射とメガビームキャノンの左右交互発射を繰り返す。
「うむ! 行くぞ! さっちゃんところちゃん!」
『主様、あいつユピテルの野郎よりヤベー奴じゃないですか? 完全にメンヘラサイコパスですよ?』
サートゥルヌスもグリームニルに倣って指向性の光弾を乱射した。一発一発の威力は乏しいものの、拡散した後に目標を追尾する念動弾は撃たれた側にとって非常にいやらしい軌道を描く。
『こんな姿で行けるかー!』
コロニスの方はというと、ライオンの着ぐるみ姿で飛び跳ねて拳を振り回していた。
「てめぇには死すら生温い。生き地獄を味合わせてやる」
メルクリウスがタラリアから派手な推進噴射の光を放つ。瞬時に最大加速に乗り、鋭角な切り返しで動き回りながら念動光弾を撃つ。絶対零度の氷塊と電流放射も織り交ぜた弾幕は、目を奪われるほどに鮮やかだった。
「手際については本当に心底感嘆するしかなかったけれど、手前勝手な理屈で色々とやってくれたお返しの一つくらいはさせて頂戴な」
ティオレンシアの薄い双眸が開かれた。覗く瞳は紅月のように暗く、瞳孔は深淵に繋がっていた。
「……こう見えてアタシ、かなり腹に据えかねてるのよ?」
スノーフレークの姿を揺らめかせるのは、臓腑の底で煮える怒りが生んだ陽炎か、摩利支天印が見せるまやかしか。ベオーク・シゲル・ウル・ハガル・ユルのルーンが書き刻まれた弾丸を撃つ。一発ごとに精緻なる狙いを付けて。
シリウスとイカルガのミサイル斉射も加えた圧倒的な猛攻に、アークレイズ・ディナは退く事を強いられた。パルスフィールドにも限界はある。ガンホリックとブーツオブヘルメースを複合した鋭い機動で飛び回っても、そもそも弾幕の密度が機体の大きさよりも狭い間隔なら避けようがない。工業区画の建造物を遮蔽物にするには強度不足だった。
猟兵のほぼ無差別な飽和攻撃が周囲一帯を見境なく破壊してゆく。弾幕の網に捕らえられ、逃げ場を失った――かに思われた矢先、ある方向へと急加速した。その先では、ネルトリンゲンが空中で留まっていた。
「あいつ!? まさか!?」
ヴィリーが勘付いた通りに、アークレイズ・ディナは被弾しながらもネルトリンゲンへ突っ込んだ。迎撃のミサイルを掻い潜り、ブレイクドライバーの矛先を突き立てる。
「希ちゃん! D.F.シールドフルパワー!」
理緒が咄嗟に叫ぶ。守りと破壊の相反する力が激しく明滅した。だがユーベルコードの破壊の力がD.F.シールドの守りを抉り抜いた。直後――。
「偽りの丘ぁ!」
理緒の裂帛と共に周囲の環境が一変する。工業地帯の風景が丘陵に変容した。さらにネルトリンゲンからアークレイズ・ディナの幻影が飛び出し、ブレイクドライバーをブレイクドライバーに突き立てる。重機同士が衝突しあったかのような音と共に、幻影と実体のアークレイズ・ディナが弾かれ合った。
『そんな幻なんて! 偽りの丘!』
アークレイズ・ディナが放出した赤黒い波動が、紙を焼き溶かすかの如く丘陵を侵蝕する。風景は工業地帯に塗り潰され、幻影のアークレイズ・ディナは掻き消えた。すぐに鈍い震動がネルトリンゲンの船体に伝わった。
『おねーちゃん! 格納庫に入られたよ!』
M.A.R.Eの声は殆ど悲鳴に等しかった。
飛行甲板を掘削して艦内の格納庫へ侵入したアークレイズ・ディナは、無数に分裂したアンカークローを無作為に突き刺した。ネルトリンゲンのあらゆるエネルギーが急速に減衰してゆく。パワーオブザ・シールで吸収されているのだ。
「だいじょーぶ。想定内だから」
『大丈夫じゃないよ! 浮いてられない!』
「こっちも手を出せないんだが……」
ポーラを含めたその他の者達は手を止めざるを得なかった。ネルトリンゲン諸共というわけにもいかない。乗り込んで戦闘するのも言うに及ばず。手詰まりとなった。しかし理緒以外に一人だけ、ネルトリンゲンの中で自由に戦える事を許された猟兵がいた。
「錫華さん、任せた! ネルトリンゲン壊していいから、ねー!」
「ん……善処はしてみる」
錫華はスヴァスティカ SR.2を船体に開いた穴に飛び込ませた。すぐにアークレイズ・ディナと接敵する。ほんの僅かな一瞬、相手の反応が遅れた。艦内に飛び込む直前に起動したLow Observable Unitのステルスシステムが効果を発揮したらしい。それを確かめる間もなく、錫華はフットペダルを限界まで踏み抜く。スヴァスティカ SR.2が突進した。アークレイズ・ディナは一瞬の不意打ちを受けて大きく姿勢を崩す。
「捕まえた」
ワイヤーハーケンを撃ち込む。アークレイズ・ディナからもアンカークローを撃ち込まれた。アミシアが多数のシステムエラーとエネルギー減衰を警告する。錫華は構わず操縦桿を押し込んでトリガーキーを引いた。
「理緒さんごめん。E.O.Dソード、フルパワー!」
巨大化したエネルギーの刃を振り抜く。ネルトリンゲンの艦内を溶断し、装甲をも切り裂きながらアークレイズ・ディナを呑み込む。
『ブレイクドライバー、E.O.Dモード!』
プラズマを纏った衝角がE.O.Dソードと切り結ぶ。瞬間的な出力は先に刃を生成していたスヴァスティカ SR.2側が勝った。ネルトリンゲンの腹に生じた裂け目から地面へと押し落とす。
『E.O.Dソード、使用限界です』
落下中、アミシアの酷薄な通告と共に刃が失せた。迫るブレイクドライバーを機体の捻りだけで躱す。片腕が抉り取られた。まだ動ける。地表に向かって最大加速した。ワイヤーハーケンに繋がれたアークレイズ・ディナが引き摺られるようにして落下する。
『こんなもの!』
テールアンカーがしなった。スヴァスティカ SR.2が引いていた重量が途端に消えた。ワイヤーハーケンを切断されたのだ。
「トラクターチェイン! 射出!」
ネルトリンゲンから伸びた光の鎖がアークレイズ・ディナに食い込む。戦闘空母一隻分の重りが加わり、動きがほんの一瞬止まる。そこを宇宙海兵強襲部隊が待ち構えていた。
「撃て撃て撃て! 撃ちまくれ!」
どうせ人の携行火器で撃墜できるほど軟な相手ではない。これみよがしにヴィリーは攻撃指示を発した。周辺の工場に潜んで包囲網を形成していた宇宙海兵隊の亡霊が、持ち得る限りの火力を叩き込む。ヘヴィタイフーンMk.ⅩもショルダーAAガンで面制圧を重ねた。パルスフィールドに遮断されるも、短時間の内に生じた爆発の連鎖が整流を乱した。
『歩兵を忍ばせたからって……!』
アークレイズ・ディナを中心として赤いプラズマが爆ぜた。半径200メートル圏内の建造物は吹き飛ばされ、宇宙海兵隊の亡霊も掻き消されてしまった。高圧電流の波動はヘヴィタイフーンMk.Ⅹの元にも届いた。されどフォートレスアーマーの守りが相殺した。
「効かねぇな」
苦し紛れに伸ばされたアンカークローも跳ね返す。或いはバーンマチェーテで切り払う。背後では、ゆっくりと降下を続けていたネルトリンゲンが、遂に船体を地に付けて灰色の土埃を押し広げていた。トラクターチェインからエネルギーを吸われ続け、滞空に必要な揚力を維持できなくなったからだ。
灰煙の中からモスレイが飛び出す。アークレイズ・ディナを中心に衛星の軌道を取り、ラピッドビームガンとハイパービームカノンの射撃を集中させる。出力制限を解除した全門発射トラクターチェインに繋がれながらもまだ動く目標の周辺で、緑の荷電粒子の華が咲く。
「こいつの声……」
耳奥で鳴るざわめきが、ポーラの眉宇を跳ねさせた。テレサが発するざわめきと瓜二つ。だが、その上に雑音が被さっている。狂気的で、ずっと聞いていると赤黒い衝動に身を委ねてしまいそうな、耳障りなのに心地よい、囁くような雑音。
「この雑音が……私達の敵……?」
走った衝撃がパイロットシートを激しく揺さぶった。警告音と共にモスレイが傾く。
「オブリビオンマシンなのか?」
アークレイズ・ディナのテールアンカーから発射されたプラズマキャノンが、モスレイの背中の一部を削り取った。点滅するメッセージが推進装置の出力低下を報せる。さらに蛇行するアンカークローが襲いかかった。ダガービットで迎撃するも手数が違いすぎる。
「弄ばれるのは嫌いだろう? モスレイ」
アンカークローに食らいつかれる直前、モスレイは自発的にトキシックウェイブを放射した。拒絶された無数のアンカークローが弾け飛ぶ。
「もう逃さないっぽい!」
アポイタカラがガトリングとグレネードとミサイルの暴風雨を巻き起こす。ロックオンせずにばら撒いた三種の弾体が、弾幕の網をかけ、目標の周囲に火柱を昇らせ、火球を膨張させた。熱と金属片を乗せた衝撃波に絶え間なくさらされ続けたパルスシールドの守護が、遂に綻んだ。
「これが本命よぉ。こんなに勿体振ったんだから、外したら格好悪いどころじゃ済まないわねぇ……」
ティオレンシアの赤い瞳はその綻びを見逃さなかった。スノーフレークは氷柱のように研ぎ澄ました狙いで、弾丸を一発だけ撃った。先んじて撃ち込んでいた弾丸から数えて、六発目となる弾丸。正確に目標に着弾したそれがルーンの輝きを放つ。瞬間、アークレイズ・ディナの機体各部に電流が走り、火花が散った。成長するエネルギーは臨界し、制御を離れ、破滅の終焉を齎す……意味を繋げた文字が、六文字目によって呪いを増幅させ、たっぷりと蓄えていた電力を強制放電させるに至った。
「仕上げだ。サリア、援護しろ」
固定砲台兼弾除けとしていたギガス・ゴライアの足元を抜け、グリームニルはアークレイズ・ディナに迫った。勝利の神の目が未来を描き出し、槍の神を宿したグングニールが絶対必中の矛先を突き立てる。しかし銀静が見た未来では、矛先は届いていなかった。代わりに見えたのは、視界を埋め尽くす無数の刃。条件反射でグングニールを薙ぐ。必中の絶技が、視界の内外から襲いかかるアンカークローを全て払い除けた。
「白虎門反転……!」
人が認識可能な域を超える速度の連撃を繰り出す。アークレイズ・ディナもグリームニルに倣った。水飛沫の如き火花が飛び散る。
「おお! グリームニルよ! 何をしているのかまるで分からないぞ!」
逆方向から仕掛けたサートゥルヌスは、デュアルアサルトライフルの猛烈な射撃を次元転移の連続で躱す。コロニスはアンカークローを引き付けて逃げに徹していた。
『主様より頭おかしいんじゃねぇかてめー!?』
サートゥルヌスはどうしてもこれだけは直接オリジナル・テレサに言わなければ気が済まなかった。アークレイズ・ディナの直前に転移してハルペー2を振り下ろす。次元を断ち切る刃はプラズマを纏った衝角の回転に弾かれた。受けた反動を殺さずに仰け反り、追撃を転移で避ける。
「切り刻んでやる……!」
代わってメルクリウスが踏み込んだ。ハルペーが弧月の残光を無数に描き出す。アークレイズ・ディナは連撃に次ぐ連撃に押し込まれ、ブレイクドライバーで防御し続ける他になかった。メリクリウスはさらに踏み込む。互いが触れ合えるほどの間合いに至った瞬間、アークレイズ・ディナのコクピットブロック目掛けて腕を伸ばした。
「腸を抜き取る!」
『あの時みたいにはさせない!』
突き出されたブレイクドライバーの矛先は、メルクリウスのコクピットを捉えていた。未来を見た上で待ち構えていたのだ。死を代償に簒奪を果たすか? 何倍にも引き伸ばされた時間の中で、カシムは選択を迫られた。
「シルー! 決めてくれー!」
メルクリウスが横に飛ぶ。ブレイクドライバーは薄皮一枚を削って虚空を貫いた。
「もうこれ以上は!」
カシムの叫びを引き受けたシルは、アジュール・アンジェを全速力で猪突させた。アンカークローとテールアンカーの連打に見舞われるも、正面に回したシールドビットで無理矢理に血路をこじ開ける。プリュームとエリソン・バールはまともに狙いも付けずに撃ち続けた。弾幕さえ張れればそれでいい。
『力任せに攻めても!』
獰猛な鏃がアジュール・アンジェの死角から伸びる。しかし機体に達する目前でビームの奔流に洗い流された。
「これが人間流の戦い方だ」
アンカークローを除去したのは、アルフレッドのシリウスが発射したチャージビームキャノンだった。
「JDSはアークレイズにだってぇっ!」
驀進するアークレイズが左腕を振りかぶった。形成したプラズマブレードの刀身が何倍にも膨張する。
「E.O.Dソード!」
『E.O.Dソード!』
二人のテレサの声が重なり合う。肥大化したプラズマブレードが、プラズマを迸らせるブレイクドライバーと切り結んだ。目が焼かれるほどのスパークが明滅する中、遂にアジュール・アンジェはアークレイズ・ディナとの距離を零に縮めた。
青と赤が交差する。
恐ろしく重く流れる一瞬の中で、シルは機体の奥で鳴る鼓動を聞いた。
「ね、オリジナルなテレサさん」
鼓動に問いかけるも、怒りと憎しみ、そして悲しみと後悔が絡まりあった息遣いしか聞こえない。
「猟兵が骸で埋め尽くしたのは確か。それは否定しないよ」
『……否定させない。そんなの許さない』
オリジナル・テレサの声は、シルに向いていなかった。
「でも、あなたもわたし達も、正しい事なんてないんだ。間違いながらでも自分の足で歩いていくだけ」
『自分の歩いた後が、全て真っ黒に焼き尽くされていたとしても?』
シルの首は横にも縦にも動かない。
「やりたいことを、やるためにね」
『私も同じですよ』
だから滅ぼしあう宿命にある。互いの道は限りなく遠く離れ、極めて深く交わってしまった。
「いまやりたいことはね……友達を泣かせたその相手をぶん殴ることっ!」
『私はそうやって済ませられるほど単純になれない』
「人ってシンプルなんだよっ!」
『なら……どうして私はこんなに悲しいの……?』
アークレイズ・ディナに裂傷を刻んだルミエール・ステレールの向こうで、オリジナル・テレサがこちらを見ていた。寂寥に潤んだ瞳が、頬に一筋の雫を落とす。だが彼女の面影は、爆裂した赤い稲光に呑み込まれてしまった。
轟雷の音と衝撃波が時間の流れを正しく戻す。
至近距離で荷電粒子爆発を受けたアジュール・アンジェは、双翼を焼き落とされながらも脱し、地に足を付けて反転した。間一髪でアークレイズに庇われたらしい。
「あ、そうそう。猟兵でも殴るよ、わたしは」
シルは躊躇いなく言ってのける。
ルミエール・ステレールの輝きは、まだ消えていない。
それは、戦いに決着が付いていない証左であった。
大成功
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第3章 ボス戦
『エヴォルグ弐號機『HighS』』
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POW : 蟲速一閃・邂逅斬
【レベルの二乗倍の速度まで加速する事 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【すれ違い様に手か足】で攻撃する。
SPD : 最速保持機『HighSpeed』
【自機の最速の一撃 】で攻撃する。[自機の最速の一撃 ]に施された【速度制限】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ : 霹靂閃蟲・飛蟲斬
自身に【空気の流れを感知する触覚の感知網 】をまとい、高速移動と【共に敵の攻撃を避け空気を切り裂き飛ぶ斬撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
イラスト:high松
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ビードット・ワイワイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●引き潮
赤い稲妻が迸った。爆ぜた荷電粒子が星の瞬きとなって滞留する爆心地から、アークレイズ・ディナが抜け出る。機体の各部はスパークを散らしており、装甲には猟兵の猛攻で刻み込まれた傷跡が蓄積していた。
「イェーガー……以前よりもっと強くなってる……これ以上拘れば、システムを失う事になる……!」
ここで猟兵を倒すには戦力が及ばない。それ以前に、オリジナル・テレサの目的は猟兵の撃破ではなかった。状況を利用したのは事実だが、猟兵との交戦は本来の予定の内にない。しかしゼラフィウムでの目的は既に完遂しつつある。
「JDSの機能の確認は終わりました。もうあなた達に用はない」
本来の目的に立ち返ったことで、オリジナル・テレサは猟兵への拘りをあっさりと捨て去った。
「逃げる!?」
イグゼクターを出鱈目に撃って後退するアークレイズ・ディナに、テレサは逃げに転じた気配を感じ取った。
「逃がすな! 全機、追撃するぞ!」
アルフレッドも読んでいた通り、アークレイズ・ディナは背中をさらしてブースターを焚いた。進路は市街地区画へと向いている。コピーしたユーベルコードを用いた加速は凄まじい。猟兵達も逃走を図る目標の追撃を余儀なくされた。壊滅的な被害を受けた工業区画を後にして。
●奴は雨雲と共に訪れた
ゼラフィウムの北西で発達した暗い雨雲は、正午を過ぎた頃からより肥大化してゼラフィウムへと近付きつつあった。空に蓋をする灰煙のような雲に、市街地区画で敵を堰き止めているブレロス分隊は、不穏な空気を感じずにはいられなかった。
「アルフレッド大尉達は大丈夫かな?」
隊員の誰かが言った。工業区画から響いていた爆発音は、少し前から急に聞こえなくなった。しかし昇る黒煙の数からして広い範囲で激しい戦闘が起きているのは間違いない。戦いは終わったのか? 基地司令部はおろか、アルフレッドからも何の一報もない事が、雲の色をより濃く見せていた。
「敵の勢いはかなり衰えてきたが……」
うず高く積まれたエヴォルグ量産機の死体は、もはや丘同然の高さに届いていた。猟兵が置いていったプラチナムドラグーンとクレイシザーと共にひたすら迎撃し続けてきたが、幸いにして弾が尽きるより先に敵の増援が尽きそうだ。市街地区画全体の、ましてやスラム街の戦況こそ把握できていないものの、戦闘の音は確実に縮小傾向にある。大混乱に陥った市民の避難誘導もほぼ完了した。今後はレイテナ軍が巻き返しを図るだろう。
状況に終息の兆しが見えてきた。
レブロス分隊の誰もが少し気を緩めはじめた時だった。
『こちら外縁部北西ゲート守備隊! 敵に突破された!』
ノイズまみれの切迫した声。誰もが緩めた気を即座に固くした。通信に聴覚を集中する。
『敵の数は1! エヴォルグ弐號機『HighS』と思われる! 凄まじく速くて強い! まるでスカルヘッドだ! こちらは壊滅状態! 誰でもいいから奴を止めてくれ!』
荒く息を切らせる北西ゲート守備隊の隊員。声の震えとスカルヘッドの名を持ち出したことが、尋常ならざる脅威が迫っている事を否応無しに突き付けた。
『こちらレブロス中隊隊長代理! 敵の進路は!?』
『市街地区画に向かった!』
突如、通信音声に虫の羽音が重なる。スズメバチを想起させる大きく低い恐ろしげな羽音だった。その羽音は通信装置越しに聞こえた音ではない。機体のセンサーが拾った音だ。
「あいつか……!」
レブロス分隊、プラチナムドラグーン中隊、クレイシザー中隊、各隊の各機が一点を注視する。その先には、ビルの壁面に張り付く巨大な昆虫がいた。エヴォルグ量産機の白面に似た頭部を捻り、触覚をしきりに動かしている。
「レブロス02より分隊全機、それとドラゴンとザリガニチームへ。奴をここで食い止める。奴はスカルヘッド並らしい。油断するなよ」
どの機体もが緊迫した気配でHighSへと武器を向ける。シリウスがビームキャノンを一斉射した瞬間、既にHighSの姿はビルから消えていた。
暗く重たい雨雲の足は速く、ゼラフィウムの頭上に手を伸ばしかけていた。注ぐ日射が遮られ、影が落ちる。
●殲術再生弾
テレサは声を失った。
アルフレッドと隷下の隊員達も同様に、目を見開いて呼吸器を詰まらせている。
「全滅……させられたのか……?」
エヴォルグ量産機の死体に混じって散乱するキャバリアの残骸。それらはプラチナムドラグーン、クレイシザー、シリウスを構成する部位だった。
その中央に立つのはアークレイズ・ディナと、エヴォルグ弐號機『HighS』。HighSは大きな顎に、片腕片足を失ったシリウスの胴体部分を咥えこんでいる。肩部にはレブロス02のペイントがほどこされていた。
『隊長……こいつは……!』
HighSが顎を閉じる。シリウスの胴体部分は握り潰されたダンボールのようにひしゃげ、圧砕したコクピットから赤黒い液体が溢れ出た。
四肢をぶら下げたシリウスを、HighSは無造作に放り投げる。そして触覚状の器官でアークレイズ・ディナに触れた。
『システムは?』
そう訪ねた声は、テレサと全く同じ声だった。
声だけではない。言葉ひとつひとつのイントネーションも、通信装置を介して感じ取れる気配すらも完全に同一。
『確保しました。実証も既に完了済みです』
答えたオリジナル・テレサの声も同じ。自問自答しているとしか思えないほどに。
『では確実に持ち帰ってください。それは、イェーガーを倒すための鍵になる』
『了解。追撃の阻止をよろしく』
一寸の躊躇いを匂わせる事もなく、アークレイズ・ディナは地を蹴った。スラスターノズルが噴射光を焚いてX字の輪郭を作り出す。
「行かせない!」
即座にテレサのアークレイズと隷下のイカルガが火線を張る。猟兵の中にも追撃に動いた者がいたであろう。だがいずれにせよ拘りを捨てたアークレイズ・ディナの背には届かなかった。追いかけることもできなかった。顎を打ち鳴らすHighSに遮られたからだ。
『あなた達の相手は、私です』
テレサの声で言う。HighSは既に戦闘態勢にあった。虫の羽音を響かせ、瞬間移動さながらの動きでビルの間を飛び移る。垂直な壁に張り付いて高速で脚を動かす姿は、さながらゴキブリであった。
『このHighSは、あなた達がスカルヘッドと呼んでるBlaster、そしてヘルストーカーと同じ、殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー)で強化してる』
「その声、このプレッシャー……! あなたも“私”なんですか!?」
テレサが叩き付けた問いに、HighSのパイロットは相手にする気配すら匂わせない。だが、続く言葉が答えとなった。
『“私”との戦いでダメージを受けた今のあなた達に止められますか?』
HighSが発する敵意とプレッシャーも、オリジナル・テレサが発していたそれと同じだった。
曇天を引き連れてやってきた人喰いキャバリアが、鎌状に発達した前肢を開く。
それは、罪深き刃を振るった猟兵達の、首を切り落とすべく用意された断罪の刃。
ゼラフィウムの空が、重たい雲に覆い隠された。
ガイ・レックウ
【POW】で判定
『せめててめぇだけは倒す。オリジナルが逃げた以上…確実にだ!』
悔しさに唇を噛み締めながら、コズミックスターインパルスを駆り突撃するぜ。
【オーラ防御】で守備を固め、【戦闘知識】で動きを見極める!
【見切り】と【フェイント】を駆使しながら肉薄してブレードでの【鎧無視攻撃】とバンカーでの【鎧砕き】で攻めるぜ!
『この手を使わざる終えないか!』
相手のスピードは速い。電磁機関砲での【制圧射撃】でルートを限定し、カウンター気味にユーベルコード【雷神竜魔法『帝釈天・護法雷霆』】の雷撃を叩き込むぜ!
カグヤ・アルトニウス
○守るべきものがあるのです
あなた方にとって「人間の存在」など既に些事でしかないと思われますが、他の世界に迄影響を及ぼすの物を使うなら万難を排して止めなくてはなりません
アドリブ歓迎
(乗機)
ホワイト・レクイエム
(行動)
HighSを射程に捕らえたらUCを発動…
真空・極低温・重力が3分の1の月面世界となり、元々宇宙船としての性質も持つホワイト・レクイエム以外は暫くはまともに動けなくなるのでその隙にトゥインクル・スターのゲートを使って浮遊爆雷を散布して高速機動を封じ、後は浮遊機雷と入れ替わる形でテレポートしながらソードオブビクトリーを最適な形態に変形させつつ連続攻撃を仕掛けてUCが切れる前に離脱します
フレスベルク・メリアグレース
認識不可の青白き斬竜剣ヴォーパル・ソードを数百の数ファンネルの如く顕現させ、幾何学模様を描き複雑に飛翔するその剣で切り刻む
猟兵に何を抱いているのかは分かりませんが、しかし…
貴方達は無辜の民を虐殺した
その罪すら自分のものに出来ない者に、この首を渡して上げるわけには行きませんね
ガイオウガの莫大な熱量を宿した天使核運用魔導銃に碎輝の力を宿すエネルギーと拡張機能が無限成長する超電磁砲を展開
そのまま認識不可のヴォーパルソードに切り刻まれているオブリビオンマシンを一斉掃射
慈悲です、せめて彼岸の獄卒の如く業火で焼いてあげましょう
●猟兵の業火
アークレイズ・ディナのスラスターが放つ光は既に彼方にあった。コズミック・スターインパルスの最大望遠カメラでは、もう北極星のような輝きとしか映っていない。ガイは苦い悔しさを噛み締めた。
「せめて、てめぇだけは倒す。オリジナルを逃がした以上、確実にだ!」
いつまでもアークレイズ・ディナの背中を睨んでいるつもりはなかったし、状況もそれを許さなかった。入れ替わりで出現したHighSが市街地を高速で這い回る。建物の狭間を横切る姿は、人の動体視力では殆ど影を追うことしかできない。
「あのカマゴキ野郎、なんて速さだ!」
HighSを追跡するコズミック・スターインパルスの試製電磁機関砲1型・改がマズルを青く瞬かせた。電磁加速を得た徹甲弾は残影を貫き、ビルの壁面を砕いた。コンクリート片が飛散する。ガイは舌を打った。これでは市街地への損害を増やすだけだ。
ノインツェーンが別方向から追い立てるも、HighSは挟撃の気配を察知するや、ビルの壁を走って予期せぬ進路を取った。
「遊んでいる……いえ、時間稼ぎのつもりですね」
フレスベルクは看破した。肌を不快に泡立てるプレッシャーの質が、先程までとは明らかに違う。押し潰そうとする圧力から、獲物を狙うカマキリのような鋭さに変わった。敵は逃げ回っているのではない。獲物が隙を見せる瞬間を伺っているのだ。しかしプレッシャーの根底は変わらない。それは、猟兵に対する敵意だった。
「貴女がそこまでして猟兵を敵視し続ける理由は分かりません。ですが……」
フレスベルクは脊髄反射で振り返った。連動して旋回するノインツェーンがヴォーパル・ソードを横に薙ぐ。刃と刃が触れ合う衝撃。金属音。飛び散る火花。一瞬で間合いに踏み込んだHighSが、鎌状の前肢で襲いかかったのだ。
「貴女達は無辜の民を虐殺した」
『何度でも言う。殺ったのは、あなた達』
ノインツェーンとHighSが弾かれ合う。キャバリア数機分の間合いが開いた。
「その罪すら自分のものに出来ない者に、この首を差し上げるつもりはありません」
踏み込むノインツェーン。二の太刀を振るうHighS。刃同士が稲光の如き火花を散らす。一機と一匹は切り結ばずに退いた。
「失礼しますよ」
そこへホワイト・レクイエムが割って入った。長剣モードのソードオブビクトリーを突き出す。HighSはバッタを思わせる脚力で後方に跳躍した。カグヤはすかさず操縦系にイメージを送り込む。仮想砲身モードに切り替わったソードオブビクトリーが光線を連射した。ロックオンサイトが追いかけるHighSの姿は高層ビルの影へと消えた。
「あなた方にとって“人間の存在”など既に些事でしかないと思われますが、他の世界にまで影響を及ぼすものを扱うなら、万難を排して止めなくてはなりません」
カグヤはHighSのパイロットの口から出てきた殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー)の名前を聞き逃さなかった。
あれは本来……或いは恐らくこの世界に存在するものではない。どういった経緯で入手したかはともかく、残しておくと碌なことにならない予感がする。オブリビオンと組み合わされば尚更。
『こうして他の世界に影響を及ぼしているイェーガーこそ、あなたが言う止めなきゃいけないものじゃないんですか?』
ビルを這い上がったHighSと視線が交わる。
「つくづく猟兵を憎んでいるんですね」
ソードオブビクトリーが発射したレーザーの狙いは正確だった。しかしHighSの反応が速い。銃口を向けた瞬間にはビルの壁面を螺旋状に駆け下りていた。
「こっちのオリジナルも話が通じない阿呆か!」
ガイはコズミック・スターインパルスを驀進させた。試製電磁機関砲1型・改を出鱈目に撃ち散らしてHighSの動きを封じる。
カグヤにしてみれば、自ら鎌の間合いに飛び込むのは迂闊とも思えた。だがその迂闊さに突破口を見出した。弾体が残す青白い雷光を掻い潜るHighSの周囲に、トゥインクル・スターのゲートを展開。ゲートが吐き出す浮遊爆雷がHighSを取り囲んだ。逃げ場を失ったHighSが僅かに怯んで動きを止めた。
「帝釈天・護法雷霆!」
ガイの裂帛が大気を震わせる。雷を纏う封魔神刀を上段に構え、コズミック・スターインパルスはHighS目掛けて突っ込んだ。浮遊爆雷が犇めく超危険地帯だが、信管の鍵はカグヤが握っている。故に振り下ろした太刀筋に躊躇いはなかった。
HighSと交差したコズミック・スターインパルスはオーバーフレームに深い切創を受けた。だが轟きと共に、HighSの甲殻に雷の刃を刻み込んで切り抜けた。稲妻の如き一撃離脱。間髪入れずにホワイト・レクイエムが跳んだ。
「あなたがそうであるのと同じく、こちらにも守るべきものがあるのです」
ホワイト・レクイエムは空間跳躍でHighSのそばに出現し、同時に月面の領域を広げた。半径160メートルの範囲が真空・極低温・低重力の環境へと変貌する。クロムキャバリアでは到底あり得ない環境に、HighSが瞬時に適応するなど到底不可能だった。ましてや真空では恐るべき速さの斬撃で飛ばせる圧縮空気もない。一方のホワイト・レクイエムは宇宙船としての性質を有しており、月面に近い環境でも活動が可能だった。
「スラスター無しでは避けられないでしょう」
宙に浮いた敵は無防備に等しい。ホワイト・レクイエムはHighSを中心に衛星の機動を取る。鎌が届かない相対距離からソードオブビクトリーで一方的に射撃する。レーザーが命中するたびにHighSの甲殻が砕けた。
『足が付けば……!』
HighSの六肢のいずれかが建物に引っ掛かった。鉤爪状の棘が無数に生えた足で、身を地に張り付かせた。驚異的な運動性と瞬発力でホワイト・レクイエムに迫った。両腕の鎌を振りかぶる。二つの刃が走った。ホワイト・レクイエムは装甲の表面を切り裂かれながらも、刃がコクピットに到達するより先に空間跳躍で離脱した。
「――その剣は聖にして邪なる存在。蒼白にして不可視の致命的。汝、その剣を従えると言うならば弾劾者たるを心得よ」
フレスベルクが祝詞を紡ぐ。カグヤが展開した月面環境が元に戻った瞬間、千を超える剣がHighSを何重にも包囲していた。それらは斬竜剣ヴォーパル・ソードと銘を打たれてはいるが、厳密には剣と呼べるのかも怪しい。というのも認識ができないのだ。剣の概念を持った目標を傷付ける何かが、複雑怪奇な軌道を描き出してHighSの周囲を乱舞する。
切り刻み、突き刺さる。数の重圧でHighSを磔にする一方、フレスベルクは開いた右手を前方へかざした。ノインツェーンがその動きをトレースする。マニピュレーターの中に銃が滲み出るようにして現れた。天使核で駆動する魔導銃に、万物を焼き尽くす灼熱が宿る。周囲の空気が瞬時に蒸発し、陽炎が不吉に揺らめいた。さらにノインツェーンの背後の円環が黄金に光り輝く。稲妻が迸る。腕部を銃ごと包み込む円筒状の仮想砲身が展開した。砲身の内部に巡る電力は無限に膨張を続け、強烈な磁場を生み出した。
「慈悲です。せめて、彼岸の獄卒の如く、業火の裁きを下しましょう」
フレスベルクが開いた右手を握り込んだ。ノインツェーンの右腕が跳ね上がるのと同時に、落雷の轟きに市街が戦慄した。建物のガラスというガラスが破裂したかのように砕けて飛び散る。魔導銃が発射した弾体は到底観測し得ないほどの初速でHighSの元に到達。内部に縮退保持していた膨大な熱量を開放した。
一瞬、世界が光に塗り込められた。直後、高熱を伴う衝撃波が着弾地点を中心に拡大してゆく。輝かしい街並みは焼かれ、聳立する高層ビルはなぎ倒され、巨大な火柱が天を衝いた。
その光景を離脱した先で目の当たりにしたカグヤは、一つ重要な事を思い出した。
「……依頼主から、市街地を防衛するように言われてませんでしたっけ?」
「ああ…そんな事言ってたような……」
ガイは引き攣った顔で、赤く燃える炎と黒煙を呆然と眺めている他になかった。
猟兵の業火がゼラフィウムの市街を焼く。
全てを真っ黒に焦がしながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
テラ・ウィンディア
(ぐすっ)
おれ達の手は血に濡れて…それでも…
お前達がやろうとしてるって事が皆殺しなら…それだけは止める…!
「ええ…私達もまたユピテル様に使われた身…だからこそ今度こそこの大陸の滅びは防がせて頂きます」
UC常時発動
【戦闘知識・オーラ防御】
オーラを広範囲に展開して敵の位置を補足
【見切り・第六感・空中機動・属性攻撃・武器受け・残像・弾幕】
モードグランディア発動
迅雷同時発動
炎を纏い残像を遺しながらも直感と見切りで攻撃を避け受け止め
水晶の刃の弾幕展開
斬撃濃度を高め
【二回攻撃・切断・串刺し・貫通攻撃・重量攻撃】
連続斬撃を叩き込みながらも常に敵の位置を補足
敵が斬撃濃度の高い場所に入れば消えざる過去の痛み発動
皇・金瑠
虚無の真眼発動
目の前の敵の能力と何より…目の前の「テレサ」と先程のOテレサの差異を解析する
脳量子波の存在の有無も
お姉さんも猟兵が全部悪いって言うのかな
俺には母親は理解できないよ
でも…俺にもお姉さんにも理解できない事があるんじゃないかな
「母親に殺される子供の絶望」(之はきっと猟兵の所為に出来ない事実
【グラップル・重量攻撃】
UC発動
真眼の力で敵の動きと攻撃のタイミングを見切りながら
エリちゃんお願いね?
「任せろ!どうあろうと君達のやってる事は大量虐殺だ!悪意が無いから尚性質が悪い!だから止めさせて貰うよ!」
被弾の瞬間掴んで地面に叩きつけホールド
そのまま何度も何度も剣で切り刻み拳を叩き込みにかかる!
ノエル・カンナビス
ともあれ周辺被害を抑制できそうな、破壊された地域の中央で待ちます。
見通しが利く方が楽ですし。
先攻権も差し上げましょう。速度がご自慢なのでしょう?
その御大層な前肢で私が斬れるかどうか、試してみては?
初撃が通ればあなたの勝ちです。
見切り/操縦/咄嗟の一撃/武器受け。
私との直結リンクで動作するエイストラの反応速度は抜けません。
またバリアクラッカーの金属杭は、我々にとっては未知の魔法技術によって、極限まで強度が高められています。
まともに受けずに弾くだけでしたら、両断貫通するのは無理筋ですよ。
そしてカウンター/範囲攻撃/鎧無視攻撃/叩き割り/衝撃波。
極超音速で拡がる高硬度衝撃波の全方位投射をどうぞ。
●重たい雲
水爆の数千倍以上の熱量を放つ爆発が、曇天を貫く火柱を昇らせる。大気は瞬時に蒸発し、高層ビルの悉くがなぎ倒された。上空にまで舞い上がった残骸が、火の玉となって地上へ降り注いだ。
「堪忍袋の緒を切られた人がいたようですね」
ノエルはビル街に出現した巨大なクレーターを見て、深く息を吐いた。全く不幸中の幸いではないが、被害がこれだけの範囲で済んだのが不思議でならない。メインモニター上のサブウィンドウに表示されている外気温は、真夏日の正午過ぎどころではない。逃げ遅れた友軍がいたとしたら、影も残さず焼却されてしまったであろう。
依頼主から要請があった市街地の防衛は失敗だ。しかし命令が出ていない以上、勝手に撤退するわけにもいかない。命令不服従と敵前逃亡は傭兵の信頼を大きく損なう。
「お陰で見通しは効くようになりましたが」
燃え落ちる瓦礫を躱しながら、エイストラは敵の姿を探した。敵がこの爆発で生き残れるとは考え難いが、死体を確認するまで断定できない。ノエルは神経を通じてエイストラの感覚を広げる。ほんの一瞬だが、横倒しになった高層ビルの側面を高速で這う影が見えた。
「爆発の瞬間に離脱しましたか。殲術再生弾で強化されているだけはあるようで」
すかさずエイストラはライフルを向けた。ロックオンが働くよりも先に荷電粒子の光線が走る。ビルの奥に消えたHighSの残影を貫き、青白い爆発を起こした。
ノエルは追撃しなかった。追えばこちらが不利となるからだ。HighSはゴキブリをキャバリアの大きさにまで拡大した瞬発力と反応速度を有している。物陰だらけの市街地で戦えば、姿を捉えられないまま一方的に切り刻まれかねない。そう考えれば、視界が開けたクレーターが生じた事は僥倖と言えた。ただし報酬の大幅な減額と引き換えにだが。
追わない者がいれば追う者もいる。ヘカテイアは誰かに駆り立てられるかのようにHighSを追走した。
「おれ達の手は血に濡れて……それでも……」
孤独なコクピットの中、テラは溢れてしまいそうな涙を堪え、動き回る影を目で追った。潤んで滲む視界を手で拭う。
「お前達がやろうとしてるって事が皆殺しなら……それだけは止める……!」
『ええ……私達もまたユピテル様に使われた身……だからこそ、この大陸の滅びは防がせて頂きます』
ヘカテイアは己の罪――テレサを狂わせるに至った破滅の片棒を担いだ罪に、声を詰まらせた。
ユピテルが率いた神機達は、かつてアーレス大陸を滅ぼした勢力の一派だった。ヘカテイアはその一派に属していた。そんな自分に言う資格は無いと思えたが、テレサのしている事が正しいとも思えなかった。
『テラ!』
鋭い殺気を感知したヘカテイアが声を飛ばす。テラは機体を急旋回させた。背後より斬撃刃が襲いかかる。反応が間に合わず、超重力フィールドで防御した。刀で切られたかのような鋭利な衝撃が走る。フィールドの表面に裂け目が生じた。反撃に転じる隙もない。HighSがスズメバチに似た恐ろしい羽音を立てて急接近してきた。
「速すぎる……! グランディアモードでも!」
瞬きよりも速くHighSの前肢が刃を閃かせた。ヘカテイアは機体に炎を纏わせて半身を翻す。HighSの鎌は陽炎を切った。だが返す刃が本体を捉えていた。
「フィールド!」
テラの叫びでヘカテイアは重力フィールドの指向性を外側へと偏向した。HighSが押し返される。間合いが開いた一瞬を逃さずにヘカテイアが水晶を無数の飛刃として浴びせにかかった。HighSは羽を閉じて着地。崩落したビルの影へと逃げ込む。
そこで金瑠のエインヘリヤルが待ち構えていた。ユーベルコードが導く最善最良のタイミングで剣を振り下ろす。HighSが薙いだ鎌とかち合った。火花が散ると共に双方が弾かれる。
「さっきのお姉さんとおんなじだ」
金瑠が虚無の真眼で見抜いた形は全く同じだった。声紋も。脳量子波も。同一人物かクローンかのどちらかでなければ説明が付かない。
「じゃあ、お姉さんも猟兵が全部悪いって言うのかな?」
斬撃波が答えだった。エインヘリアルは剣で受け止める。
「俺には母親は理解できないよ。でも、俺にもお姉さんにも理解できない事があるんじゃないかな?」
息継ぐ間もなく繰り出される斬撃を切り払い、金瑠はさらに問いを投げ掛けた。
「母親に殺される子供の絶望――」
一瞬にも満たない刹那、HighSの動きが止まった。
『そんなの、とっくに覚悟してる』
第二のオリジナル・テレサの声音には静かな怒気が籠もっていた。人らしい生の感情。そこには殺戮兵器ではなく、血の通った人間性があった。
『私は私のやるべき事から目を背けない』
『それがユピテル達がしたことと同じ、大量虐殺であってもか!』
防戦一方になったエインヘリアルが怒声を張る。
『私は逃げない! より破滅的な破滅を! |炎の破滅を《カタストロフ》を止めるために!』
オリジナル・テレサの怒声とぶつかり合う。
『悪意が無いから尚性質が悪い! だから止めさせて貰うよ!』
『自分の正しさを疑わないあなた達だって!』
HighSが押し込んできた。両腕の鎌が交差し、コクピットを狙う。エインヘリアルは紙一重で剣で受け止めた。しかし切り結んだ事で動きを封じられてしまう。HighSの大顎が開く。ヘインへリアルに止める手段は無く、胴体を挟み込まれてしまった。
『こっちには獅子の毛皮がぁッ!』
エインヘリアルの機体が黄金の光を放出し始めた。半神英雄機構のひとつが覇気となって発現したのだ。その黄金は機体に宿る闘志に応じて強度を増し、噛み砕かれようとしていたコクピットブロックを守った。
『ぬぅぉおおぉぉぉーッ!』
エインヘリアルは気合いの唸り声をあげ、ブースターを全開にした。HighSに噛み付かれたままクレーターの中央に向けて加速し、自機諸共に地面に叩き付ける。衝撃に脳を揺さぶられた金瑠は、ぶれる視界の中にHighSの姿を捉えた。HighSの顎が開いた。エインヘリアルは剣と切り結んでいた鎌からも解放されると、握り込んだマニピュレーターを顔面に向けて叩き付けた。
「下がれ!」
テラが叫ぶ。エインヘリアルがHighSを蹴飛ばした反動で後退跳躍する。
「こんのっ!」
ヘカテイアは水晶の刃を降らせる。暴雨の如きそれは、HighSの甲殻に弾かれながらも、無数の斬撃をHighSと周囲に刻み込んだ。
「私がやらなければ誰かやる……」
わざわざ自分で探しに行く手間が省けたと含め、ノエルは囁くような小声を漏らした。エイストラへ無機質に入力操作を行う。ライフルのマズルから伸びたプラズマビームが、水晶の刃と重なってHighSに降り注ぐ。刃と光線動きを留める弾幕の結界を作り出した。
「これだけ刻めば! アンヘルの力を!」
テラから生じた暗い影が、ヘカテイアを通して膨張した。影はさらに膨張を続けて人の姿へと変貌を遂げる。それは、かつてスペースシップワールドの恐怖を象徴だった銀河皇帝に仕える双剣の一本、黒騎士アンヘルの影だった。
テラの想像、或いは再戦への執心が、形なき影に刃を振るわせる。ヘカテイアが刻んだ水晶の刃が次々に砕け散り、閃いた赤い裂傷がHighSを塗り潰す。だが断裂してはいない。過去の刃の只中から、HighSが疾風よりも速く翔んだ。
「なんでこちらを狙ってくるんですかね」
ノエルは大きく広げられた鎌状の前肢を間近で見た。痛烈なまでに強烈な金属同士の摩擦音が鳴る。激しい火花と共に、エイストラは後方へと弾かれた。人の目には残影としか映らない鎌の交差をいなしたのは、バリアクラッカーの金属杭だった。鎌が風を切った瞬間、神経が信号を伝達する速度で反応したエイストラの防御は辛うじて間に合った。断罪の鎌は果たして杭を断つに至らず、エイストラは切断を免れた。
しかし衝撃は凄まじい。姿勢制御システムが最大稼働しても機体が動かせなくなるほどに。生じた隙をHighSが見逃すはずもない。さらに速度を増した鎌は、エイストラごとノエルの機能を切り裂きにかかる。
「H・S・F、ラディエイション」
切先が触れるが先かノエルが呟くが先か、その寸前でエイストラに光が収束する。刹那に満たない収縮の直後、光は物理的な衝撃力を持って爆発的に放出された。エイストラを中心として球体状に広がったそれは、半径156メートル内に存在するものをHighSごと吹き飛ばした。
だが頭上を覆う雲までは晴れず、雨の気配は濃度を増していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
聞いてよオリハート氏
時代は今アイドルなんでござるよ48人ぐらいゼロハート氏集めてふりふりの服着てユニット作ろうぜ!
ちぇっ着てくんねぇかよこのけちんぼ!しょうがねぇな向こうのゼロハート氏の元に戻りますよ!
という訳でUCでビビット虹色の残像が出そうな勢いで爆速で帰ってまいりました、オリハート氏も良いがなんだかんだでゼロハート氏の元が落ち着くんやなって
そういえば敵も別のゼロハート氏なん?ちょっと今回ゼロハート氏多くない?もっとイチハートとかサンハートとかハート様とか個性出してくれないと混乱するでござろう
まあいいや|アイツ《敵ハート》捕えて遊ぼうぜ!
拙者に任せろよまずは拙者のUCをゼロハート氏と機体にもぶっかけろ!UCを人にかけちゃいけない道理はないだろ?これで今からゼロハート氏もサイバーサイコでござる
行動速度が上がっているので単純な速度上昇よりも優速でござるよ!どんどん二回攻撃(二回処じゃない)をしていけ!
覚悟しろよな|覚悟の効いた《エッジランナー》服着せて大観衆の前で踊って貰いますぞ!
●エッジラン
玉が弾けた衝撃音が響き渡る戦場のど真ん中で、エドゥアルトは喚いた。
「聞いてよオリハート氏、時代は今アイドルでござるよ!」
戦場の爆煙も、崩れたビルも、バックダンサー扱いである。エドゥアルトに空気を読むだとか、状況を考えるだとか、そんな感覚は一切ない。
『アイドルなんていつの時代でもいるじゃないですか』
「ゼロハート氏を48人集めてユニット作ろうぜ!」
『それ、ヴァーチャル配信者の登場を境に人気が下火になりそうですね』
「フリッフリの服着てユニット作ろうぜ!」
『着ない。作らない』
「ちぇっ、着てくんねぇのかよ、このけちんぼ!」
『逆になんで着ると思ったんですか?』
「生姜ねぇな、向こうのゼロハート氏の元に戻りますよ! スピーダッ! ミッソー! ダボー! レィザー! オォプション! フォースフィ――」
その一声以上でエドゥアルトが見ている世界の一瞬が数百倍に引き伸ばされた。脳内の信号が火花のように駆け巡り、全身の神経が震える。
これが、サン・デヴァイス――このインプラント……ではなく、ユーベルコードは、神経伝達を加速させ、使用者の動作をほぼ瞬時にすることを可能とする。結果、周囲の時間がスローモーションとなって流れる、バレットタイム効果を得ることができる。とにかく、目に刺激の強い虹色を引いたエドゥアルトはテレサ機の元へ戻った。
『あの……毎回思うんですけど、どうやってしがみついてるんです? 常に数百キロのスピードで動いてるんですけど……』
「粘着はとしあきとレスポンチバトルの基本でござる!」
『ベタベタしてて気持ち悪そうですね』
「はー、オリハート氏も良いがなんだかんだでゼロハート氏の元が落ち着くんだなって」
『落ち着かれても困ります』
「そういえば敵も別のゼロハート氏なん?」
『別というか、持っている記憶が違う私というか……』
「ちょっと今回ゼロハート氏多くない?」
『それを言うんでしたらスワロウ小隊は初めから全員私でしたよ?』
「もっとイチハートとかサンハートとかハート様とか東ハトとか個性出してくれないと混乱するでござろう」
『そんな事言われても……全員同じなのが私の個性ですし……』
「まあいいや敵ハート捕まえて遊ぼうぜ!」
『遊びでやってるんじゃないんですよ? 他のイェーガーを見てないんですか? そうやってふざけてるのはあなた一人だけですよ?』
「おじさんは空気を読まない!」
『ついでに状況も読めないみたいですね……』
「街のド真ん中に水爆の数千倍の威力の火の玉ぶち込んだ奴の方がよっぽどハジケリストだと思わんでござるか?」
『本当に市街地が弾けましたけどね……これで防衛は失敗ですよ……はぁ……』
「でも赤丸付いてねーし大丈夫だろ!」
『行動自体は成功してるからじゃないでしょうか……』
「ならええやん」
『よくないですよ! ちゃんとオープニングでもマスターコメントでも市街地を防衛してくださいって書いてあったのに……』
「猟兵はオープニングを読まない!」
『そうですか……もういいです』
「じゃあ遊ぶか! 拙者に任せろよ! まずは拙者のUCをゼロハート氏にぶっかけます」
『いやです。やめてください』
「UCを人にかけちゃいけない道理はないだろ?」
『道理とかじゃなくて嫌なんです』
「これで今からゼロハート氏もサイバーサイコ2077でエッジランナーでござる!」
『またどこかのアニメやゲームで聞いたような事を言って……速くなるのはいいですけど……いや全然よくないですけど、その分増えるGはどうするんです? 幾らレプリカントだって音速の何十倍のスピードで動いたら潰れちゃいますよ?』
なお、人間が耐えられる重力加速度は最大20Gまでと言われている。しかしこれは、十分な訓練を積んだ者が耐Gスーツを装着した上で、ほんの数秒間という想定上での目安である。
「知らん」
『どうせそんなことだと思ってましたよ……』
「うるせえなリアルめくらかよこの野郎」
『ある程度のリアリティは必要じゃないですか? でないとみんな光の速度で動き出しちゃうでしょう?』
「PBWで今更何言ってるでござるか。おう動けよあくしろよ。行動速度が上がっているので単純な速度上昇よりも優速でござるよ! どんどん二回攻撃をしていけ! 通常攻撃が二回攻撃で全体攻撃なおじさんは好きですか?」
『自分で戦った方が強いんじゃないですか?』
「因みに避けられてもガーキャンとか回避キャンセルとかできないから注意でござる」
『隙だらけじゃないですか!』
「外さなければどうということはないでござる!」
『こっちが速くなっても、敵だって最速で攻撃してきますし、しかも制限を解除してもっと速くなるんですよ!?』
「ならもっともっと速くなるでござるよ。スピーダッ! スピーダッ! スピーダッ!」
『ですからGが……』
「Gが出た! 黒くてカサカサするアイツが! ほらゼロハート氏撃ってやくめでしょ!」
『言うほど黒くないと思いますけど……』
「チャバネでもヤマトでもいいんだよホラホラホラ! 覚悟しろよな憎悪の連鎖を断ち切る覚悟の効いた服を着せて大観衆の前で踊って貰いますぞ!」
『覚悟の効いた服ってなんです……』
市街地は盛大に弾けたが、エドゥアルトも弾けていた。
大成功
🔵🔵🔵
ワタツミ・ラジアータ
自分同士で仲が悪いというのは面倒な話ですわね
実はサイバーザナドゥのオブリビオンな自分とは食の趣味で仲は良くない
そもそもオリジナルだのレプリカだの造りが同じなら変わりはないでしょう?
猟兵の私にとっては面倒な相手かもしれませんが、そうでない私には如何でしょうか?
真の姿
白銀の鉤爪のある手足、深紅のドレス、回遊する金魚型端末
母星から数えるのも馬鹿らしい程ばら撒かれた侵略機海の一体
サイバーザナドゥの宿敵たる自身と同じ姿
さぁ、そちらの性能の限界を見せてくださいませ、超えてくださいませ。
的は用意いたしますわ。
召喚した”私”を用いて敵の【速度制限】を解除させ続け寿命を削る
どうも猟兵に敵愾心がおありの様ですが、私ほど星に気を使っている私はいませんわ。
ジャンク屋で生計を立てつつ星を摘まみ食いする”心”持つ資源採掘工場
召喚された同型機《ワタツミ》はその辺りの気遣いはない
そこの”私”、この星は私の管轄なので拾い食いは控えてくださいまし。
”私”が食べた分は私の店の在庫から補填する
生ものについては義体などで代用
●シャドウミラー
倒壊したビルや、まだ健在な市街の狭間を、HighSは恐るべき速度で這い回る。自分が追い込まれる気配があれば脱兎の如く逃げ出し、猟兵が隙を見せれば容赦なく鎌状の前肢で襲いかかる。アークレイズ・ディナの追撃を試みようものなら、背後から真っ二つに両断されてしまう。
「早く倒さないとディナに逃げられる……!」
スワロウ小隊のテレサ達は既に遠いアークレイズ・ディナの推進噴射光に焦れた。
スワロウ02以下のイカルガがHighSを包囲し、アサルトライフルの火線を張り巡らせる。HighSは徹甲弾の弾道が編む網目を掻い潜り、包囲網から抜け出てしまう。その隙に小隊内で最も速度に優れるアークレイズが、戦域離脱を図ったアークレイズ・ディナを追いかけようとするも、HighSは残影を引く俊敏さで反応し、断罪の鎌で命を刈り取りにかかる。
「ディナを奪って何をするつもりですか!」
テレサが叫ぶ。アークレイズは辛うじてプラズマブレードで切り結んだ。
『JDSはイェーガーを倒すための武器になる』
二人目のオリジナル・テレサがテレサと全く同じ声の質で言う。だが抑揚は薄く、冷たい。
「どこでJDSの情報を……!」
『あなたの記憶が教えてくれた』
テレサは直感的に理解した。オリジナル・テレサが指すあなたとは、鯨の歌作戦でスカルヘッドに撃墜され、死亡したスワロウ小隊の隊員であると。テレサ型レプリカントには、死亡時に他の同型レプリカントに記憶を転写する機能がある。
「だったら私のアークレイズだけを狙えば!」
『それは確実じゃない。あなたには安全装置が仕込まれているから』
テレサは首の奥に埋め込まれた異物の感触を思い出した。不測の事態が生じた場合、用意された安全装置――超小型の高性能爆弾が作動し、頭を吹き飛ばす。
「JDSのためだけに……こんなに大勢の犠牲を!」
『私は状況を利用しただけ。いまの状況を作ったのは、あなた達』
「あなたは私が倒す!」
テレサが振りかざした怒りの矛先は、切り結んでいたプラズマブレードと共に冷たくあしらわれた。距離が開いた瞬間にアークレイズは電磁加速突撃銃を鋭く撃ち込む。隷下のイカルガも火線を重ねた。HighSはテレサ達の反応を上回る素早さでビルの壁面に飛び付き、狭間へと潜り込む。
テレサ同士が繰り広げる目まぐるしい戦いに、ワタツミは表情の色を変えずに吐息を漏らした。
「自分同士で仲が悪いというのは面倒な話ですわね」
同一でありながら温度が全く違う二つの声に、サイバーザナドゥに落ちた自分を思い返す。あちら側の自分はオブリビオンマシン化しており、存在の形からして水と油のような関係である。ついでに食の趣味も合わない。
「そもそもオリジナルだのレプリカだの、造りが同じなら変わりはないでしょう?」
テレサたちを見ていると、自分と自分たちを見ている気分になってくる。
姿形は鏡映しなれど、そこには無いはずの相違が生じる。謂わば影であろうか。自分と影の輪郭は合一でも、影には顔がない。
「猟兵の私にとっては面倒な相手かもしれませんが、そうでない私には如何でしょうか?」
オーバーロードがワタツミの真の姿を、そうでない私の姿を引き出す。
纏うドレスは血を吸ったかのように赤黒く変容し、袖口からは鋭利な鉤爪が白銀の光沢を放つ。スカートのスリットに垣間見える脚は、剥き出しになった脊髄に似ていた。赤ワインより鮮やかで、血液よりも暗い色を湛えた瞳が薄く嗤う。周囲を回遊する機械仕掛けの金魚は、優雅でありながらもおぞましい血濡れの色だった。
あらゆる世界にばら撒かれた侵略機海。天文学的数値に及ぶそれらの内の一機を真似た、あるいは取り戻したワタツミは、白すぎる肌に鮮明な赤を帯びていた。
「さぁ、そちらの性能の限界を見せてくださいませ、超えてくださいませ」
Heart of GearOrganの足元に広がった血溜まりが泡立ち、何本もの赤黒い柱が滲み出るようにして生じる。それらは人の輪郭を得て、すぐにワタツミと同じ姿を形成した。
姿ばかりではない。内部も、思考さえもワタツミと同一。群れはワタツミが命ずるまでもなく、思い描いた通りに動き出す。地面を軽く蹴り、スカートを膨らませて軽やかに浮き上がった。
「そちらの方はどうも猟兵が星を滅ぼすとお考えのようですが、私ほど星に気を使っている私はいませんわ」
口を動かしたのはワタツミの方だった。量産機のワタツミ達は沈黙したままビルの屋上へと舞い降りる。もう一度地面を蹴ると、アークレイズ・ディナが逃走した方角へと翔んだ。
その動きにいち早くHighSが反応した。オオスズメバチに似た恐るべき羽音を立てて量産機のワタツミに接近。キャバリアが到達し得る速度を超えて前肢を振り下ろした。
鈍い金属音が鳴った。神速の鎌を鈎爪で受けた量産機のワタツミ達が、散った火花と共に四散する。ビルの壁面が一瞬で背後に迫るも、その一瞬の内に身を捻って佇まいを戻す。軽やかに壁へ着地し、身を翻して横に跳ぶ。刹那、壁に鋭利な裂傷が刻まれた。
流水を思わせる動きで地に足を付けた量産機のワタツミ達の内の一機が、擱座しているシリウスに目を止めた。息を吐く間もなく閃く鎌をいなし、敢えて弾かれることでシリウスの上に着地した。そして右手の鈎爪を装甲の隙間に差し入れる。
「そこの“私”、この星は私の管轄なので拾い食いは控えてくださいまし」
ワタツミはその行為を窘めた。同型同性能で同じ思考を持つワタツミの量産機だが、隙あらば拾い食いをする癖があった。拾い食いの対象は節操がない。差し入れた鈎爪から異星系浸蝕粒子を流し込み、シリウスを我が糧とする。左腕の鈎爪が白銀の鱗に覆われ、瞬く間に伸長する。そうして完成したのは、シリウスのチャージビームキャノンの面影を残した砲身であった。
「“私”が食べた分は、後ほど私の店から補填致しますけれども」
ワタツミの量産機の砲身化した左腕が荷電粒子を撃ち出す。立て続けに撃ち出された光線を、着地したHighSは右に左に這いずり回って躱す。またも肉薄されたワタツミの量産機達は、人の目では到底追えない剣筋を鈎爪でいなし、反動を殺すことなく受け入れる。宙に浮かされた状態で追撃を受けるも、受ける角度を的確に調整してビルの壁面に足を付けた。
「その動きが衰えた時が、あなたの終わりですわ」
代わってワタツミが口を動かし、ワタツミの量産機が左腕の荷電粒子砲を撃つ。正確すぎる光線を、HighSは微細な動きで躱してしまう。
だが、当てるまでもない。軽やかな身のこなしでHighSの俊敏性を限界以上に引き出し、稼働限界時間を少しずつ削り取ってゆく。まるで命を摘み食いするかの如く。
HighSに群がる機海人形達が時に弾かれ、時に断裂する。されども踊り続けた。噛み合う歯車が回り、時間を刻み続ける限り。
大成功
🔵🔵🔵
バーン・マーディ
我は…確かに此処に在った
(再現される光景…記憶
…テレサ・ゼロハートよ
この地の全ての人を絶滅させ…再度人々を再誕させるのが目的といったな
……アナスタシア達も等しく殲滅するというのか
…エヴギル・ウースラード
お前がその円環を回すというのであればそれもまたアーレスの理…だが
(…引っかかった。あの戦いの果てに現れた脅威…彼のユピテル達をも超えた災害ともいえる存在。蘇りかけていた大陸に炎の破滅を齎した猟兵達…そして…『第一の猟兵』の言葉。即ち破滅を齎した猟兵とは…そして彼女の目的が完遂されればその結果は…!
…運命の神よ…貴様はこうも残酷な仕打ちをテレサに齎すというのか(僅かに漏れるのは慟哭
「バーン殿…!?」
我はお前達を止めなければならない
…もう自分では止まれぬのだろう
その先に…絶望しかなくとも
故に…我が止める
UC発動
【オーラ防御・カウンター・怪力・運転・武器受け・戦闘知識】
敵機の動きと攻撃の癖を解析
元より我らに射撃で打ち込むことはできまい
ならば…
「肉を切り骨を断つですな!」
受け止め…拳を叩き込む!
●黒く歪んだエヴギル・ウースラード
分厚い毒の雲に覆われた空が、赤黒く染まっている。
まるで戦いで流れた血が、頭上一面に広がっているかのような光景だった。
波濤が荒む海は黒く、海鳴りが無数の断末魔に聞こえた。
大地は真っ黒に焼け爛れ、焦げた文明の残滓が死の風に吹かれて悲鳴をあげている。
夥しい数の命が奪われた。
老いも若いも関わらず、罪の有無も分け隔てなく。
バーンは破滅を迎えた大地に立ち尽くす。
風の音は、死を受け入れられない亡霊達の怨嗟と思えた。
彼らと戦った後には何も残らない。
ただひたすらに、焼き尽くされた破滅が広がっているだけだった。
「我は……確かに此処に在った」
マーズを通して感じたゼラフィウムの全てが、バーンの記憶を呼び覚ました。暗い澱みの中に溶けた古い記憶を。
|炎の破滅《カタストロフ》を迎えたアーレス大陸。
ゼラフィウムは、その破滅の光景を再現するかの如く焼けている。
そして、破滅をもたらしたのは、あの時と同じ――|生命の埒外《猟兵》が刻んだ、|罪深き刃《ユーベルコード》。
禍々しい紅の闘気を纏ったマーズは、俊敏に這い回るHighSを追う。互いに向かい合った瞬間、HighSが翔んだ。交差する刹那に鈍く光る鎌。マーズは腕部の装甲で刃をいなす。表面を抉り取られながらも防御し、機体を反転させる。HighSもまた反転を終えていた。
「……テレサ・ゼロハートよ」
マーズは蟲の仮面を睨み、HighSのパイロットをそう呼んだ。
「この地に生きる全ての人類を絶滅させたのち、人を再誕させるのが目的といったな」
『人類が生まれる限り、イェーガーは生まれ続ける。イェーガーの出現を止めるには、人類を根絶するしかない』
テレサの声音に、赤子を抱いて微笑む母なりし者の面影は、もうどこにもなかった。
「……アナスタシア達も等しく殲滅するというのか」
『アナスタシアと私達が残っていれば、人類と文明の再生はどうとでもなる』
「だがそれは破滅の再現だ。お前を壊し、狂わせた悲劇を、今度は自らの手で作り出すつもりか」
『イェーガーがもたらす破滅的な破滅を避ける確実な手段は、これ以外にない』
HighSが一気にを詰めた。迷いも躊躇いも閉ざした刃が迫る。マーズは鎌の側面を腕で打撃して軌道をずらす。
「エヴギル・ウースラード……終わりなき破滅と再生の円環。お前がその円環を回すというのであれば、それもアーレスの理。だが……」
マーズの皮一枚の寸前でHighSが顎を噛み合わせた。その音が、散逸していた知識を繋げ始めるきっかけとなった。
かつて、アーレス大陸の全土を焼き尽くした戦い。
戦いの果てに現れた最大の脅威……ユピテルの神機をも凌駕する、“生命の埒外”にあった存在。やつらが、アーレス大陸に炎の破滅をもらたした。
そして“第一の猟兵”が語った言葉。
即ち、“炎の破滅”をもたらした生命の埒外たる者達とは――。
「お前が目的を完遂した時、残る結果は……!」
バーンの耳元でオブリビオンマシンがせせら笑う。幻の声だったが、重い呻きを漏らさずにはいられなかった。
「運命の神よ……貴様はこうも残酷な定めをテレサに課すというのか!」
『バーン様!?』
コクピットを痺れさせるバーンの怒声にマーズが慄く。振り上げた拳はHighSの甲殻を叩いた。しかし浅い。
「我はお前を止めなければならない」
『誰も私を止める事はできない』
「もう自分では止まれぬのだろう」
『全部やり遂げるまで止まらない』
「その先で待ち受けているのが絶望であっても」
『もう二度とあんなことを繰り返させないために』
「故に……我が止める」
『だから……私が滅ぼす』
バーンは思惟を込めてマーズを踏み込ませた。
振り下ろされたHighSの鎌を左腕で受ける。刃の尖端が装甲を貫く。だがマーズは左腕ごとHighSを引き寄せる。そして軋む音を立てるほどに握り込んだ右腕のマニピュレーターを叩き込んだ。ヴィランズ・ジャスティスの瞬間的な加速から繰り出された音速の拳。HighSの胴体の正中を捉えた拳は、背面まで貫通する打撃を叩き込んだ。
白亜の石造りの庭園を、午後の木漏れ日が暖かく照らす。
流れる水路の音が、戯れる子どもたちの声と生命の歌を奏でていた。
穏やかに過ぎゆく時間の中で、古めかしい椅子に腰を落ち着けた少女が微笑む。
白髪の少女の面持ちは、疲労困憊の色と、それ以上の幸福の色で満たされていた。
「これが……私の子……」
母の腕の中に抱かれた小さな命は、白い布にくるまり寝息を立てている。バーンは佇んだまま見つめるのみだったが、赤子の息遣いのひとつにすら愛おしさを感じる母の思いは察した。そうと推し量らせるだけの幸福感が、母の微笑みにはあった。
「――分かっています、アナスタシア。私はこの子と、これから産む子たちを育て、守る。そして私の子がいつか親となり、子を産んで、アーレス大陸を人で満たす。それが、私の役割……」
赤子の頭をそっと撫でるテレサの言葉が、遥か遠くに聞こえる。
母なるテレサはもういない。
HighSの奥にあるのは、子を奪われ、子を喪い、悲しみの果てに、絶望と狂気に蝕まれた、母の姿。
焼け爛れた大地に跪き、我が子の灰を抱いて、赤い空に慟哭していたテレサの成れの果て。
エヴギル・ウースラード。
終わりなき運命。果てしない定め。
テレサのそれは、悪意に歪められた事をバーンは知った。
大成功
🔵🔵🔵
天城・千歳
引き続き空母艦隊を戦線後方に展開させ、補給機部隊による猟兵とレイテナ軍機への補給と応急修理を実施。
応急修理不能のレイテナ軍機は空母に回収し、艦内で修理を行う。
オブリビオンマシンが回収された場合は「動力炉不良」「電装系不良」等の理由を付けて廃棄処分扱いで回収し、艦内で製造した新品のシリウスと交換する。
サテライトドローン群は戦場を囲う形で展開し、市街地や艦隊及び友軍機の光学観測機器、各種センサー類と合わせて通信・観測網を構築
観測網から得られたデータを元に敵の動きを解析し、アーカイブから類似事例を検索して対抗手段を付近に存在する全味方機へ連絡する。
「敵機の行動パターンを解析、過去の戦闘データより類似事例を検索開始」
データ収集に並行して敵機に対するジャミングを行い、敵の情報系への負荷を掛ける事で行動を阻害する。
自立砲台群及び無人機部隊は距離を取っての弾幕射撃で友軍機を支援する。
●アンコントロール・バトル
スラム街に徹底した火力投射を行った艦隊は、同領域の外縁部で整然とした隊列を形成していた。粉塵が舞う宙に留まる鋼鉄の鯨達は、ゼラフィウムを睥睨する威圧感を放っていた。
艦隊と隷下の偵察機が収集したあらゆる情報は、瑞鳳に集積され、千歳の電子頭脳に届けられる。ゼラフィウムを睥睨しているというのは比喩ではない。友軍機との近接戦術データリンクも介した観測の網は、戦闘が及んでいない中央区画を除けば、要塞の全域に張り巡らされていた。
意識の中に無数の視覚野が広がる。視覚以外の観測情報も含んだ情報の濁流は、人間の脳では到底処理しきれる感覚ではない。千歳は千歳という情報処理ユニットに徹し、艦隊と無人機の制御に務めた。
レーダーを監視する中で、最も顕著に状況が変化したのは敵の出現数だった。初期の爆発的な増加から転じて、勢いは緩やかになりつつある。推定新型エヴォルグウィルスの感染者――エヴォルグの繭が羽化しきったのだろう。
ゼラフィウム内で発生したエヴォルグ量産機は、例外無く人の中から生まれている。つまり総数の上限は人の数まで、それも繭とされた人の数を越える事はない。時間の経過と共に数が減少するのは必定だと千歳は結論付けた。
ただし、オリジナル・テレサが発症のトリガーだった場合、意図して未発症者を残していなければだが。
千歳の戦術を司る情報処理機能は、その可能性を常に考慮していた。これまでの経緯を省みれば、オリジナル・テレサの性格は推察できる。一言で言えば用意周到。HighS以外にも策を準備している可能性は想定していなければならない。
故に千歳は次なる戦況の変化に備えていた。
まずはHighSと交戦中の猟兵達の支援だ。
エヴォルグ量産機との戦闘を経てアークレイズ・ディナと交戦した直後であり、各機或いは各員は多かれ少なかれ損害と消耗を負っている。戦いながらとなるため、完全には無理でも、弾薬と推進剤の補給、応急処置は必須だった。
しかも巡り合わせが悪いことに、HighSは殲術再生弾で強化されているらしい。
具体的な強化内容は不明だが、オリジナル・テレサの発言を信用するならば、スカルヘッドやヘルストーカーも殲術再生弾の強化を得ていたという。最低でもその程度の性能は有していると想定するべきである。
つまりは、猟兵が何十人と寄って集って叩いても生半に倒れる相手ではないということだ。
しかも鯨の歌作戦の際には、友軍の艦隊が存在した。ゼラフィウムにも戦力は潤沢に備えられているが、要塞の敷地内から発生したエヴォルグ量産機によって引き起こされた指揮系統の混乱が未だ終息していない。鯨の歌作戦当時よりも状況は悪い。
そのエヴォルグ量産機の出現もピークに達したとはいえ、スラム街と市街地に残存する数は決して少なくない。HighSを抑える猟兵もだが、各戦線を支えるゼラフィウムの守備隊の支援も必須だった。
『サプライドローンはシリウスの回収を優先。損傷レベル、搭乗者の生死は問わず全て回収せよ。回収後は所定のプロトコルに基づき修理を開始。搭乗者は身体検査を実行。再出撃は搭乗者の意思に基づいて判断する』
データリンク上に伝わった千歳の声は、指令信号に変換されて伝播する。
無人機は千歳の命令を機械らしく忠実に遂行した。サプライドローンが二機一組となってシリウスを左右から抱え込む。小破も大破も分け隔てなく。オブリビオンマシン化していても。
千歳が座乗艦とする瑞鳳にも続々とシリウスが運び込まれてきた。ただちに艦内格納庫のキャバリアハンガーへ運び込まれ、損傷が激しい部位の取り外し作業を行う。修理するとはいえ、キャバリアを一から組み上げられるほどの時間的余裕はない。短時間で再出撃が見込める小破から中破までのシリウスを修理対象とし、大破したシリウスは部品取りとして扱う。当然ながら同じ機体同士であるため、部品を共食いしてもなんら不具合は生じない。複数機のシリウスを犠牲に、一機のシリウスが戦線復帰可能となった。
だが、修理は半ば名目上であった。
『搭乗者へ、新たなシリウスを組み上げました。そちらへ乗り換えてください』
『なんでだ? こいつだって右腕を取り替えるだけでまだ戦えるだろ?』
『動力炉と電装系に不具合が生じています。その機体での再出撃は非常に危険です』
『なんだって? そりゃ……! 仕方ないな……』
特定のシリウスのパイロットに対し、千歳は似たようなやりとりを幾度となく繰り返した。
不具合というのは嘘ではない。ただし、厳密に言えば機体全体に及ぶ不具合だが。
特定に分類される条件とは、オブリビオンマシン化している事だ。
ゼラフィウムで運用されているシリウスには、オブリビオンマシン化した個体が紛れている。猟兵以外には認識できないそれを当たり障りなく処分するのに、今回の事件は意図せず絶好の機会となった。
オブリビオンマシンを通常のキャバリアに戻す手段は今現在のところ発見されていない。戻せないどころか、オブリビオンマシン化したキャバリアの部品を僅かにでも使用していれば、そのキャバリアはオブリビオンマシンとなってしまう。まるで癌細胞が転移するかの如く。
オブリビオンマシンなどという、どんな厄介事を引き起こすか分からないキャバリアに、只人を乗せたままにしておけば禍根となる。千歳はサプライドローンによって部品単位で分解されてゆくオブリビオンマシンを確かに見届けた。
しかしオブリビオンマシンの恐ろしいところは、こうして解体されていてもなおオブリビオンマシンの性質を失っていない点である。勿論千歳は解体した部品が誤って正常なシリウスに組み込まれないよう、隔離を徹底していた。だがこのオブリビオンマシンはまだ生きている。それどころか解体した分だけ増えていると解釈できなくもない。まるで切り刻まれるたびに増えるプラナリアだ。
最終処分方法は……どうとでもなる。僻地で爆破して粉微塵にするなり、スペースシップワールドに持ち帰ってブラックホールに投棄するなり。兎にも角にも、ゼラフィウムに蔓延っていたオブリビオンマシンを多少なりとも駆除できたのは、後の禍根を取り除く意味で僥倖と言えた。起きるはずだった事件が起こらなくなるかも知れないし、人々が破滅的思想とやらに狂わされずに済むかも知れない。
しかし一番の問題となっているオブリビオンマシンはHighSだ。
推定二人目のオリジナル・テレサが搭乗するHighSは、今も市街地区画で猟兵と激しい交戦を続けている。
千歳も張り巡らせたサテライトドローンの目で追いかけ、自立浮遊砲台群とA-2P型無人装甲騎兵隊で包囲攻撃を仕掛けているが、敵は非常に素早い。しかも市街地の地形を巧みに利用し、ビルで視線と射線を切り、崩れた建造物の狭間に入り込んで包囲を脱してしまう。比喩を抜きにして活性化したゴキブリの動きだった。
『敵機の性能が、過去の記録と一致しませんね』
千歳は誰に向けるでもなく呟いた。
HighSとの交戦記録自体は、アクセス可能なレイテナ軍のデータベース上に残されていた。ゴキブリの如き俊敏性と飛翔能力。カマキリを想起させる前肢での素早く鋭い攻撃。高い戦闘能力を有した強力な個体。特徴自体は一致するも、オリジナル・テレサが乗るHighSは、どれもが段違だった。
これが殲術再生弾の力なのであろう。やはりスカルヘッドやヘルストーカーと同等の性能と見るべきだ。人喰いキャバリア共通の特徴に違わず、電子的な妨害も効果が薄い。
ともすれば、千歳が取れる戦術は、引き続き自立浮遊砲台群と、A-2P型無人装甲騎兵隊での包囲と火力支援である。艦砲での飽和火力を投射すれば、HighSの驚異的な俊敏性も意味を持たなくなる。だが場所が悪い。市街地に艦砲を撃ち込めば救援するべきものも、守るべきものも纏めて消え去ってしまう。依頼主のケイトから直々に防衛を言いつけられたゼラフィウム外縁部と市街地区画の内、外縁部は既に壊滅させてしまった。今は無言だが、仏の顔に二度目があるか保証はない。
『各砲並びに無人装甲騎兵隊は、目標との距離を維持。友軍の支援を優先し、火力投射を継続』
友軍はアークレイズ・ディナとの連戦で傷付いている。手持ちの無人機を囮にしておけば、弾薬を補充する程度の隙は捻出できるだろう。
そして戦闘を脱したアークレイズ・ディナの動きは――レーダーで捉えている。北西方向へ向けてスラム街を超高速で移動中だった。ブーツオブヘルメースなどの、レベルを最大速度に変換するユーベルコードを使用していなければ説明が付かない速度だ。
隷下の艦隊にインターセプト可能な艦はいるものの、恐らく突破されるであろう。逃げに徹せられてしまえば追いきれない。ましてやアークレイズ・ディナは先程の戦闘で猟兵のユーベルコードをたっぷり学習した後だ。どんな手を打ってくるかは千歳の電子頭脳を最大稼働させても把握しきれたものではない。
みすみす逃すのも止むなし――HighSとの戦闘も友軍側に余裕はなく、そちらへ戦力を集中させるべきだと結論した時、レーダーマップ上に新たな友軍の反応が生じた。
緑色の二つの輝点が、アークレイズ・ディナの予測進路上に灯っている。
『伏兵……いえ、追加投入された猟兵……インターセプトするつもりでしょうか?』
輝点のインフォーメーションには、ベルゼ・アールとアレクセイ・マキシモフの名前が表示されている。千歳は依頼に参加中の猟兵の一覧を呼び出した。末尾に二名の追加があった。
『果たして止められますかね』
二人の猟兵とアークレイズ・ディナの予想会敵座標へ、サテライトドローンを数機飛ばす。あちらはあちらに任せておく他にあるまい。こちらはHighSの相手をしながら、レイテナ軍の支援をしつつ、オブリビオンマシン化したシリウスを秘密裏に解体しなければならないのだから。割けるリソースは既に限界だ。
隷下の艦艇から、修理を終えたシリウスが続々と飛び立ち始めた。瑞鳳の扁平な甲板上にも、再出撃を間近に控えたシリウスの姿があった。急かすようにして発艦許可の要請の報せが鳴る。
『進路クリア。発艦どうぞ。タイミングはお任せします』
『イェーガー! 感謝する!』
その言葉と共にシリウスはリニアカタパルトで一気に加速し、スラム街か市街地区画へ向けて飛んでいった。
シリウスの飛ぶ空は、灰色で低い。まるで、ゼラフィウムを押し潰してしまいそうな、重い灰色の雲。
やがて激しい雨が降る。千歳は無機質に気象を予測していた。
戦況とは空模様のようだ。予測はできても制御する手段はない。
|ユーベルコード《罪深き刃》を振るえば、その限りでもないが。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【箱船】
退く!?
あそこまでやっておいて!?
『希』ちゃん、トラクタービームを……
『無理』
え?あれ?『希』ちゃん怒ってる?
『さっきの戦いでもう限界。このまま着陸するよ』
あっ、はい。
なら『希』ちゃん、ネルトリンゲンは着陸後リモートでそのまま砲台にして。
帰ったら絶対直すから!だから今回だけは!
『……』(無言でこくり
わたしは【セレステ】で出るね。
『HighS』のデータは以前の戦闘時のあるから、それを参考にして、
動きが30%増しってくらいの計算で良いかな!
それにしてもあいかわらず虫っぽい動きするね……なんかやだ。
なので、しっかり潰してもらおう。
まずは【M.P.M.S.】で攻撃!
したところで、当たらないよね。そしてこっちくるよね。
でもそれかーらーのー!
『希』ちゃんお願い!
『おねーちゃん、【D.U.S.S】、遠隔照射するよ!』
虫にはやっぱり超音波だよね!
これで少しは動きが鈍るはず!
錫華さん、後はお願いー。
そして防御は任せて!
『希』ちゃん、フォローお願い。
あいつの攻撃、錫華さんには絶対届かせないで!
支倉・錫華
【箱船】
ランプが騒がしいね。
アミシア、どう?
『思ったよりは軽傷です、思ったよりは、ですが』
『ダメージコントロール。損傷部位の駆動を停止。エネルギー回します』
まだいける、ってことか。ならいかせてもらおうかな。
いまからナズグル調整は難しそうだし、アミシアを信じるだけだね。
うわ。
ネルトリンゲンがダメージで着陸したのはじめて見たかも。
理緒さん……っていうか、希ちゃんごめん。
『そうですね。同じAIとして、すぐに無理するマスターのフォローには同情します』
え、理緒さん、セレステで出るの!?
『今度希ちゃんにも、地味に効くマスターへの仕返し方法を伝えておきましょう』
……そのためにも『HighS』をなんとかしないとね。
アミシア、前のデータ役に立つと思う?
『気休め程度には?』
って、理緒さん!?
またそういうことする!
これは理緒さんのシールド?
なら!
アミシア、防御は理緒さんたちに任せる。
こっちはいま出せる全力でいくよ!
『了解。【E.O.Dソード】は2回までです』
1回でいい。刀身融け落ちてもいいから、全力でいくよ!
●虫籠
HighSと入れ替わりで逃走を図ったアークレイズ・ディナは素早い。迷いなく向けた背は既に市街地区画を脱しつつあった。
「退く!? あそこまでやっておいて!?」
理緒は気付いた。あっさりと逃げ出すということは、猟兵の打倒に拘りなどなく、初めから期を見て逃げるつもりでいた。目的は恐らくJDSにユーベルコードを学習させること。それを持ち帰ること。JDSが敵にとってどれほどの価値を持っているのかは分からない。だが、多大なリスクを冒してでも入手し、持ち帰ろうとするには、行き当たりばったりではない理由があるはずだ。
敵の思惑通りに持ち帰らせてはならない。直感した理緒は急ぎ指令を飛ばす。
「希ちゃん! トラクタービーム!」
『無理』
一瞬の間も置かずにM.A.R.Eがきっぱりと言いきった。理緒は思わず「え?」と困惑の声を噴き出す。
「なんで?」
『さっきの戦いでもう限界』
サブウィンドウ内のM.A.R.Eが据わった目付きと抑揚を押さえた声音を寄越す。そこで理緒はネルトリンゲンが置かれた状況を思い出した。
アークレイズ・ディナとの交戦で船体の腹に穴を開けられ、裂かれ、エネルギーも吸い尽くされてしまった。結果、工業区画をベッドにして身を横たえる羽目となった。
『ネルトリンゲンはもう動けないよ』
「あっ、はい」
ただならぬ怒りの気配を醸し出すM.A.R.Eに、理緒は素直に頷く他になかった。
「なら希ちゃん、ネルトリンゲンはリモートで砲台にして。帰ったら直すから!」
『直せるの?』
「直すよ! 絶対!」
理緒の必死とも取れる訴えに、M.A.R.Eは少々の間を置いてから無言で首を縦に振った。
「錫華さんは!?」
『もう先に行ってる』
理緒は艦長席に身体を固定するベルトを外すと、立ち上がってコートを脱ぎ捨てた。そしてパイロットスーツを乱暴に掴み取る。
「わたしはセレステで出るから! 準備して!」
『船体底部のハッチは開けられないから、飛行甲板から出て』
M.A.R.Eの声を背中に受けて、理緒は格納庫へ走り出す。服を脱ぎ捨てながら通路を駆け抜け、ドアの開閉がもどかしいエレベーターに乗り込み、剥ぎ取った下着を放り投げ、手足をパイロットスーツに突っ込む。着用を終えたのと同時にドアが開き、躓きそうになりながらリオ・セレステの元に急ぐ。ひとりでに開いたコクピットに飛び込み、メインシステムに灯を入れた。キャノピーがゆっくりと降りてくる。ヘッドアップディスプレイに計器類が表示された。
「急がなきゃ……!」
理緒がフットペダルを踏み込む。リオ・セレステのメインエンジンが唸り、機体が僅かに浮き上がった。ホバーモードで滑り出したリオ・セレステは、エレベーターデッキにするりと滑り込む。重い振動と共に回転灯が作動した。
「えーと、FCSその他諸々異常無し……と」
各システムが正常に稼働していることを確認し終えた時には、エレベーターデッキは完全に昇りきっていた。キャノピー越しに見る空は、ブリッジで見る時よりも濃い灰色で、重く感じられた。
「行くよ!」
理緒がスロットルレバーを押し込む。フットペダルを限界まで踏み締めると、エンジンが咆哮を上げた。
「んっ……ぐ……!」
急激な加速によるGが理緒の身体をシートに押し付ける。そしてリオ・セレステはネルトリンゲンの甲板上から飛び出した。垂直離着陸用のブースターを噴射して緩やかに高度を落とす。市街地区画へと伸びる幹線道路に乗り、さらに増速した。
市街地区画で膨張する火球と交錯する火線が、目まぐるしく動く戦闘の激しさを物語っている。焦燥が理緒を駆り立て、リオ・セレステを走らせる。
先んじてアークレイズ・ディナを追い、HighSとの交戦にもつれこんだ錫華のスヴァスティカ SR.2は、地形を活かして戦うHighSに苦しい戦闘を強いられていた。
『二時の方向』
アミシアの声に素早く反応した錫華は操縦桿を引き戻す。直後に鋭い衝撃が金属音と共に伝わった。HighSの放った真空波をスヴァスティカ SR.2は歌仙で受けた。間髪入れずにワイヤーハーケンを射出するも、食らい付いたのは動き回る残影だった。
「虫みたいに動き回って……」
錫華は舌を打つ。殺気を目で追いかけるも、地面や建物の壁を縦横無尽に這い回るHighSの姿は肉眼では追いきれない。環境は敵に味方していた。スヴァスティカ SR.2も市街地戦を得手とするキャバリアであったが、アークレイズ・ディナとの連戦という事情もあり、本調子ではない。
「アミシア、どう? 機体の方はまだいけそう?」
周囲に警戒の網を張り巡らせながら聞く。下手にこちらから動くのも憚られた。敵は触覚状の機関で、動体の気配を機微に察知しているらしい。
『ダメージコントロールに問題ありません。戦闘は継続できます』
アミシアにそう言われてしまえば、錫華としては信じる他にない。いまさらネルトリンゲンに戻ってナズグルに乗り換えるわけにもいかず、傷付いたスヴァスティカ SR.2でもやれるだけやる以外に選択肢はなかった。
「E.O.Dソードは?」
『あと二回までなら』
切り札はまだ残っている。問題はいつ、どうやって切るかだ。馬鹿正直に正面から立ち向かっても、空振りするか手痛い反撃を受けるかのどちらかであろう。
必中必殺のタイミングを計らなければ――レーダーに目が止まった。工業区画方面からこちらへ接近中の友軍機がいる。識別信号は……リオ・セレステだった。
「え、理緒さん? セレステで出たの!?」
リオ・セレステは幹線道路を一直線に走ってくる。
「錫華さーん! 大丈夫!? まだ生きてるー!?」
理緒はリオ・セレステを驀進させながらオープンチャンネルに呼び掛けた。
スヴァスティカ SR.2は跳躍した。直後に鋭い殺気が迫る。HighSの鎌を歌仙で打ち返した。反動を殺さずに後方へと飛び退き、ワイヤーハーケンを建物の壁に打ち込む。ウィンチを巻き上げると、急激な方向転換でHighSの追撃を振り切った。ハーケンを回収しつつ、慣性だけで大通りに出る。着地したのは、リオ・セレステの上だった。
「理緒さん……っていうか、希ちゃんごめん」
錫華はネルトリンゲンの腹を裂いてしまった事を謝罪した。手段を選んでいられない状況だったとはいえ、ネルトリンゲンを地に伏せさせてしまった事は大き過ぎる代償だった。
『そうですね。同じAIとして、すぐに無理するマスターのフォローには同情します』
アミシアの冷たい音声が耳に突き刺さる。M.A.R.Eは沈黙しているが、だからこそ相当お冠な気配が伺い知れる。
『今度希ちゃんにも、地味に効くマスターへの仕返し方法を伝えておきましょう』
「アミシア、性格悪くない?」
『悪いも良いもありません。プログラムですから』
アミシアの声がさらに冷気を増した。
「それよりも今はアレをどうにかしないと――!」
HighSはこちらが余所見をしていれば好機と鎌を閃かせた。一瞬のすれ違い様に刻まれた刃は重く、鋭い。スヴァスティカ SR.2は辛うじて歌仙で受け流すも、腕ごと持っていかれそうな衝撃に苛まれた。
「アミシア、前にHighSと戦った時のデータって役に立つと思う?」
『機体自体は変化していないので、攻撃方法に大きな違いは認められません』
「でも性能は30パーセント増し……どころじゃないかな? 殲術再生弾で強化されてるっぽいから、ねぇーっ!」
理緒はステアリングを忙しく左右に切った。HighSの一撃離脱は容赦がない。短時間でも直線の動きをしていれば切られてしまう。この異常なまでの敏捷性は、恐らく殲術再生弾の強化が及んでいるのだろう。
「相変わらず虫っぽい動きして……このすばしっこさってまんまゴ……」
「それ以上いけない」
理緒が言い切ってしまう寸前で錫華が遮った。
「だからしっかり潰そう。というわけで……落っこちないように掴まってて、ねー!」
理緒がサイドレバーを一気に引いた。ステアリングを回しながらブレーキペダルを限界まで踏む。リオ・セレステは機体の後部を横に振り、180度急旋回した。
「理緒さんはまたそういうことする!」
スヴァスティカ SR.2は振り落とされないようにしがみつく。
リオ・セレステの急減速と急旋回が、HighSの一撃離脱のリズムを崩した。双方が正面から相対しあう。
「M.P.M.S.!」
理緒は裂帛と共にステアリングのボタンを押し込んだ。リオ・セレステの各部ハッチが開き、そこから対キャバリアミサイルが噴煙と共に飛び出す。HighSは驚異的な反応速度で後退し、執拗に追いかけてくるミサイルを切り払う。いくつもの火球が連鎖して膨張する。ミサイルに対してHighSの注意が傾いた。その一瞬で理緒は畳み掛ける。
「希ちゃん! いま!」
『D.U.S.S、遠隔照射するよ!』
工業区画で擱座したネルトリンゲンから、指向性を有した強烈な超音波が照射された。物理的な威力を持ったそれがHighSと衝突。動きを止めるに足る重い打撃となった。
『この程度で……!』
しかし完全停止とはいかない。強引に音波を振り払い、リオ・セレステに鎌を振り下ろさんと肉薄する。
「切らせない」
スヴァスティカ SR.2がリオ・セレステを蹴って跳んだ。受けるのも切り返すのも僅かにだが間に合わない。錫華は肉を切らせる覚悟を決めた。だが、HighSの前肢は機体に届かず、虚ろな壁に阻まれた。
「理緒さんのシールド!?」
「希ちゃん! 閉じ込めちゃって!」
鎌を阻んだリモートリーシールドが箱を形成し、HighSを内部に閉じ込める。凶暴な不快虫の動きが封じられた。錫華は思考するまでもなく、条件反射でホイールキーを回し、歌仙へのエネルギーソード・ユニットのマウント操作を終えていた。
「アミシア! E.O.Dソード! フルパワーで!」
スヴァスティカ SR.2はハイパーモード化したビームの刃を縦軸一直線に振り下ろした。ネルトリンゲンの装甲も引き裂いた一撃が、虫籠に捕われ、逃げ場を失ったHighSに叩きつけられる。
発振器が溶融してしまうほどの出力による、必中必殺の一撃。HighSが殲術再生弾で強靭化を得ていてもなお、刻み込んだ太刀筋は深く、甲殻を抉り取った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
露木・鬼燈
逃がしちゃったっぽい?
んーこれは後々面倒なことになるフラグ!
まぁ、嘆いたところで補足できるわけではないしなー
切り替えて目の前の敵を落とすことに集中しないとねー
とゆーことで、先ほどまでの戦闘で消耗したアメノトリフネをパージ
代わりに<機甲外殻>でUCの謎パワーで巨大化したアルキオーナ号を纏うですよ
近接戦闘がメインとなりそうなのでこの選択は間違ってないはず
フォースハンド・ダークネスセイバー・ダークネスウイング改の3つを駆使して切り結ぶのです
重装甲を生かして強引につばぜり合いに持ち込み、装甲に仕込まれたグレイモアを起動
至近距離からベアリング弾をぶちまけるですよ!
さすがにつばぜり合いの距離で使えば自機にもダメージが入るんだよねー
まぁ、装甲のおかげでダメージレースには勝てるから
それにボロボロになっても装甲スーツなんでパージすればアポイタカラは戦闘継続可能
射撃戦に移行すればいいからね
シル・ウィンディア
幻影翼にダメージだけど、他は大丈夫ならまだいける。
アンジュ、もうちょっと付き合ってねっ!
大規模砲撃は避けられたら厄介だし、何より知られていると思ったほうがいいよね。
となると…。
この手でいくか。
傷ついた翼を広げて空中へ。
タイタニアキャバリアだから飛ぶのは問題ないない。
ただ、制動はちょっと悪いか…。
シールドビットは左腕のシールドとして使用。
リフレクタービットは敵陣へ展開。
…テレサさん達、そして、アルフレッドさん。
力を貸して。
一瞬でいい。
相手からの視線を遮ってもらえたら。
ビットとバルカンで攻撃を仕掛けるよ。
速度自慢だから、スピード勝負には持ち込めない。
ならば…。
詠唱を開始して、距離を取るようにして行動。
アルカンシェルからの砲撃は、敵が上空にいるときに使用。
射撃で牽制しつつ、敵の姿を捉えたら…。
エレメンタルドライブ・ライトミラージュっ!
視認さえできれば、瞬間移動で敵の虚はつけるっ!
二刀流の斬撃、アルカンシェル、バルカン、ビット、シールドビットの全開射撃!
自分を攻撃でまきこんででも落とすよっ!
リーシャ・クロイツァ
また変なのが出てきたねぇ…。
高機動型で詐欺みたいなスピードかい。
こりゃ、当てるのに苦労しそうだね…。
バスターランチャーにエネルギーチャージを行いつつ、ミサイル、左腕ビームライフルで攻撃。
瞬間思考力で先読みをしつつ、置き撃ち、偏差撃ちで出来るだけ牽制になるように撃つよ。
これ、人間がのっているのかい?無茶な機動しかしていないんだけどねぇ…。
狙撃機というのはバレているなら、近接戦闘される覚悟はした方がいいね。
左手にビームサーベルを抜いておいて対応を。
接近されたら、サーベルで斬り結ぶけど、もともと狙撃機だから、押されるのは織り込み済み。
左腕一つくらいなら持って行ってもらっていいさ。
左腕を犠牲にして、バスターランチャーで敵の胴体を突き刺しつつ、上空へ向かって月光の砲撃手を使用し、バスターランチャーを撃ち放つ!
エネルギーが、砲身が焼け付くまで撃ち続けるだけだいっ!!
スラスターも全開で姿勢制御を行うよ。
うーん、ちょいと無茶しすぎたかね…。
少し下がらせてもらうよ。
ミサイルで牽制しつつ後退するよ。
●クロスファイア
極大の荷電粒子の刃を叩きつけられたHighSは、甲殻を抉られて深緑の体液を噴出させた。苦痛に呻いているかのような金切り声をあげ、仰け反りながら顎と鎌を振り回す。強かに隙を伺っていた猟兵にとって、待ちに待った好機となった。
ティラール・ブルー・リーゼが街路を横方向へと跳んだ。青白く発光するセンサーユニットがネオンのような軌跡を引く。着地を待たずに左腕のエクレールを連続で撃つ。
タイミングを重ね、複数の機動攻撃端末がHighSを取り囲む。アジュール・アンジェが遠隔操作するそれら――プリュームは、機敏な短距離加速と急停止を交えてホーミングレーザーを発射した。
エクレールから伸びた一射目目の荷電粒子光線がHighSに命中したが、全身を覆う甲殻を貫くには至らない。二射目と三射目のビームが届くよりもHighSが体勢を整える方が速かった。命中の寸前で躱され、路面と壁面に突き刺さり、構造物の破片を間欠泉のように噴出させた。
予想も付かない動きで這いずり回るHighSを、幾つものホーミングレーザーが追跡する。初発の何発かは命中するも、与えた損傷は少ない。その他の多くは、倒壊した建物や瓦礫に阻まれ、青い飛沫となって散ってしまう。
「まったく、詐欺みたいなスピードだね。気持ち悪いったらありゃしない」
リーシャの脳裏に不快虫の姿が浮かぶ。生理的嫌悪感に目付きが険しくなるのはやむを得なかった。
HighSの動きは比喩を抜きにしてゴキブリだ。垂直の壁も這い登り、扁平な体型を活かして通常のキャバリアでは入れないビルの狭間に潜り込む。単に俊敏なだけではない。運動の軸を鋭角に折り、重力も慣性も無いものかの如き動きは火器管制システムの二次予測を容易に振り切る。相対距離にもよるが、中距離から近距離においては、肉眼では影を追うのが精一杯だ。
速度では“万全な状態の”アジュール・アンジェも決して劣ってはいない。だが姿を現しては消すHighSに、エリソン・バールの牽制とプリュームを使役した追撃を行うシルは、歯がゆい思いを顕にしていた。
「こっちはフライトユニットがやられてるのに……!」
アークレイズ・ディナとの戦闘で損傷したエール・ミラージュは、まだ機能を果たしている。しかし幾つかのノズルが反応しない。推力の均衡を得るため、システムは他のノズルの最大出力を絞った。それで生じた最大速度の低下は、HighSとの速度勝負に決定的な優劣を付ける要素となった。
対照的に、鬼燈のアポイタカラは立ち位置に決めたビルの屋上から動こうとしなかった。足を止め、アポイタカラが収まるアメノトリフネの火砲を撃ち続ける。多連装ミサイルランチャーが噴煙を上げ、30mmガトリングキャノンが高速回転する銃身を唸らせる。緋色の破線がHighSの残影を追いかけ、白煙の尻尾を引いたミサイルが立て続けにビルの壁面に突き刺さり、爆轟を連鎖させた。さらにアメノトリフネの主砲が105mmの榴弾を撃つ。排出された薬莢がアポイタカラの足元に落ちるたびに、重低音が市街に反響する。砲弾は空気を切裂き、HighSの進路上へと吸い込まれてゆく。直後、灰煙と火柱が昇った。コンクリート片が爆風によって撒き散らされ、殺人的な雨となって降り注ぐ。だがその雨の中にHighSの一部は含まれていない。
「んー、当たる気がしないのですよ」
鬼燈は首を竦め、コンソールパネルを指先で数回叩く。アポイタカラとアメノトリフネのドッキングが解除された。キャバリアよりも二回り以上大きな外装から抜け出たアポイタカラの輪郭は、先程までと比較して随分とスリムになった。
他の猟兵のキャバリアと同様に、アメノトリフネもアークレイズ・ディナとの交戦で少なからず消耗している。しかしアポイタカラ本体は無傷も等しい。かといってそれが圧倒的な有利になるとも鬼燈は思えなかった。HighSの鎌はこちらの命を一瞬で刈り取って来る。
砲撃戦では決着が付かないと感じたのは、リーシャもだった。ティラール・ブルー・リーゼはバスターランチャーにエネルギーを蓄えながら、遠距離の間合いを維持してミサイルを連発した。メテオールから飛び出したそれらは、HighSの変態的な機動を追い掛けて蛇行を繰り返す。これが平野部での戦闘であったのなら数発は命中したであろう。だが市街地の環境はHighSに味方した。射線を切るために必要な遮蔽物は幾らでもある。ミサイルがビルを直撃するたびに、リーシャは奥歯を噛んだ。これでは市街地への被害を増やす一方だ。
「これ、本当に人が乗ってるのかい? 無茶な動きしかしてないんだけどねぇ……」
リーシャはロックオンモードをセミオートに切り替え、火器管制にはHighSの姿を追わせるだけにした。細かなレティクルの調整は手動で行い、予想と直感を頼りにトリガーキーを引く。エクレールが発射した荷電粒子の光線は、虚空を貫き、一瞬前までHighSがいたアスファルトを砕いた。
「テレサさんと同じ声が聞こえたから、間違いないと思う……けどっ!」
シルもまた、市街地という遮蔽物だらけの環境に苦しんでいた。プリュームの制御難易度も高い。ビルの狭間を縫っている時など、針の穴に糸を通すかの如き感覚だった。そのプリュームの一つとの接続が切れた。HighSに落とされたと直感した時には、カミソリのような殺気に身体を切られる幻覚を味わった。
「速すぎるっ!」
HighSがバッタを想起させる大跳躍で瞬時に肉薄した。前肢の一閃をルミエール・ステレールで受け流す。僅かにでも反応が遅れていれば両断される寸前だった。反動で押しやられながらもエリソン・バールで弾幕を張る。命中するも牽制以上の効果は与えられない。
「こいつ……! 様子見が終わったって顔して……!」
アジュール・アンジェへの追撃を阻止するべく、リーシャはティラール・ブルー・リーゼを加速させた。エクレールとエリソン・バールをフルオートで撃ち続ける。翅を開いたHighSは、急激な挙動で下降、停止、横方向へ移動、停止、上昇を繰り返す。トンボの飛行能力をキャバリアのスケールに拡大した動きだった。ロックオンが効いているため、視界から消えるといった事こそなかったが、メインモニターに映る景観は目まぐるしく動き回った。
「本業は狙撃だってのもバレてるのかい!」
瞬時に不得手な間合いに踏み込まれた。しかしリーシャは予め予想してティラール・ブルー・リーゼにクレール・ド・リュヌを抜剣させていた。HighSの鎌捌きはカマキリのように素速い。刃同士が触れ合ったのは瞬きにも満たない一瞬だった。ティラール・ブルー・リーゼを弾き飛ばした痛烈な衝撃を、リーシャは歯を食い縛って堪えた。追撃が来る。思考するより先にHighSの放った真空波に機体を両断された。
「息する暇もぉッ!」
両断されたのは、ミラージュ・ファントムが生み出した幻影だった。アラートが鳴る。左腕が喪失していた。完全回避には僅かに間に合わなかったのだ。リーシャの背中から冷たい汗が噴き出る。HighSがさらに切り込む。だが振り上げた鎌を降ろさずに退いた。ティラール・ブルー・リーゼとHighSの間を、暗い紫色のビームの奔流が駆け抜ける。
「相手に合わせる必要なんてないのですよ。どうせ向こうから近付いてくるからね」
アポイタカラが長砲身を抱え込み、重量子ビームを放った。収束モードで発射されたそれはHighSを退かせるに足る威力を有していた。同時に敵意を引き寄せるに足る攻撃だった。
「ほらこの通り」
鬼燈は重量子ビーム砲の投棄操作を実行した。
「装甲!」
急降下してくるHighSを正面に据えて、鬼燈は叫んだ。アポイタカラの機体全体を分厚い装甲が覆う。まるでムカデの甲殻のような黒い曲面装甲は、無骨ながらも艷やかな光沢を湛えていた。機体の輪郭が二倍以上に膨れ上がり、背部から二本の副腕が伸びる。副腕の形状は足の無いムカデそのものであり、アポイタカラの頭部を覆う増加装甲の形状とも相まって、ムカデの印象をより深く強調付ける要素となっていた。
アポイタカラが百足鎧を纏い終えるまでに費やした時間は一瞬だった。その一瞬でHighSは鎌が届く間合いにまで踏み込んできた。フォースハンドとダークネスウイングが変貌したムカデ型副腕で、縦軸の振り下ろしを受ける。火花と共に凄まじく不愉快な金属音が鳴った。
「速いし切れ味は抜群だけど、軽すぎるっぽい」
機動性を完全に捨て去った代わりに超重装甲化したアポイタカラに、HighSの刃は切創痕を刻むに留まった。増加した重量がアンカーとなって身動ぎもさせない。さらに装甲の防御は攻撃に対する報復の手段を備えていた。HighSの斬撃をスイッチに装甲が開き、内部に収められていた無数のベアリングをばら撒いた。超至近距離のカウンターを流石のHighSも躱すことは叶わず、ベアリング弾の暴雨に甲殻を打ち砕かれた。一つ一つは小さな損傷だが、無数となれば大きな損傷を与えるに至る。しかしあまりにも距離が近すぎた。アポイタカラ自身も跳弾したベアリング弾を浴びてしまう。けれど百足鎧がアポイタカラ本体への損傷を遮断する。さらに跳ね返ってきたベアリング弾が反応装甲を連鎖的に起動させた。HighSの身体から緑色の体液が飛び散る。
HighSは鋼鉄の飛沫から逃れようとした。しかしベアリング弾はユーベルコードによって威力と射程が三倍に増強されている。被弾の衝撃によって挙動が著しく鈍る。そこへ二本のムカデ型の副腕が伸びた。ダークネスセイバーが変じた顎がHighSの胴体を咥えこんだ。
「やっと捕まえたのですよ」
HighSは前肢と足、大顎を振り回して暴れるが、ムカデ型副腕も噛み付いたまま離さない。百足鎧の装甲表面が切削され、ベアリング弾が撒き散らされ、アポイタカラとHighS双方の耐久値を削り取られてゆく。過酷なダメージレースが始まった。
しかし硬い。HighSの甲殻は異様な耐久性を見せる。殲術再生弾による強化の影響がここに至って顕現した。ムカデ型副腕で圧砕できても良いはずなのに、動きを封じておくだけで精一杯だ。装甲も一太刀で真っ二つとはいかないものの、着実に抉り取られている。最終的に競り負ける気配を察した時――。
「そのまま抑えてて!」
シルが叫びを飛ばした。アジュール・アンジェがHighS目掛けて街路の表面を滑空する。
「ほい」
アポイタカラはムカデ型副腕を伸ばしてHighSを空に掲げた。
「テレサさん達! アルフレッドさん達! 集中攻撃するから力を貸して!」
アジュール・アンジェはHighSを中心にサテライト機動を取り、エリソン・バール改をとにかく撃ち続けた。プリュームもそれに倣ってホーミングレーザーを連射する。
『でもアポイタカラを巻き込んじゃう!』
テレサの指摘はシルからしても間違いではなかった。ムカデ型副腕でHighSを機体本体から離しているとはいえ、相対距離は十メートルも開いていない。だがなりふり構っていられる状況でもなかった。殲術再生弾の強化幅は未知数だ。動きを止めたこの好機を逃せば、次があるとも思えない。
「平気平気。パージして脱出できるからね。僕ごと撃墜するつもりで撃つのですよ」
既に百足鎧は満身創痍だった。ベアリング弾も撃ち尽くしている。後は装甲の頑丈さを信じて耐えるしかない。
『レブロス01よりアジュール・アンジェへ。了解した。アポイタカラ、覚悟を決めてもらうぞ』
アルフレッドと隊員達のシリウスが、アポイタカラごとHighSを包囲する。アサルトライフル、ミサイルランチャー、ビームキャノンの砲口は既に目標に固定されていた。
『……スワロウ01、了解です!』
アークレイズとイカルガ達も包囲に加わる。
「モタついてるとアポイタカラが落ちる! やっちまいな!」
リーシャの声が号令となった。ティラール・ブルー・リーゼがメテオールに残っていたありったけのミサイルを撃ち込む。
「全開射撃っ!」
アジュール・アンジェが足を止めてエリソン・バール改を集中して連射した。左腕にマウントしていたシールド型ビット、ミロワール・ルフレの自動射撃機構も働かせ、機体の周囲に展開したプリュームもホーミングレーザーを一点に集約させる。
『部下の仇を討たせてもらうぞ!』
シリウス達が装備した火砲を全て解き放つ。
『アポイタカラ! ちゃんと脱出してくださいね!』
アークレイズのリニアアサルトライフルのマズルが激しく瞬く。イカルガ達がアサルトライフルをフルオートで連射し、撃てるだけのマイクロミサイルを撃った。
実体弾とビームが織りなす爆炎の華が、HighSをアポイタカラ諸共呑み込んだ。
完全包囲した状態での全方位からの集中砲火。HighSは動けない。誰の目から見ても直撃は必定だった。
「やったの!?」
急速に霧散してゆく爆炎の中に、シルはHighSの姿を探した。
「まだっぽい!」
機甲外殻を脱ぎ捨てたアポイタカラが灰色の煙を引いて現れた。
直後、滞留していた炎と煙が真っ二つに引き裂かれた。
「なんで今ので生きてるんだい……!」
リーシャは舌を打つ。
HighSは自身を咥え込んでいたムカデ型の副腕を振り払い、拘束から逃れた。全身に夥しい銃創を受け、緑色の体液を滴らせているが、放たれる殺気は微塵にも薄らいでいない。
殲術再生弾で強化されたキャバリアは不死身なのか? 全員の脳裏に同じ発想がよぎった瞬間、HighSが動いた。狙われたのは――アジュール・アンジェだった。シルが反応する間もなく跳躍し、瞬時に間合いを詰める。
「こんなの……っ!」
ミロワール・ルフレの自動防御機能が作動し、間一髪で鎌の斬撃を防ぐ。だが強烈な防御反動によってビルの壁面に叩きつけられた。リーシャが、鬼燈が、アルフレッド達が、テレサ達が、誰かがカバーに入るよりも、HighSがアジュール・アンジェに肉薄する方が速い。鎌の一薙ぎがシルの生命ごと機体を切断する――かのように思われた。
「ライトミラージュっ!」
HighSが切ったのは弾けた光の飛沫だった。
一瞬だけHighSは戸惑ったような気配を見せた。その一瞬でHighSの背後に光が収束し、キャバリアの姿を形成した。アジュール・アンジェの姿だった。
「光の速度で動けばぁぁぁーっ!」
ユーベルコード無くして到れぬ速度の境地。そこに至ったアジュール・アンジェはまさしく閃光となり、ルミエール・ステレールで切り上げた。HighSは旋回した動作で星光の刃を弾く。だが直後、胴体を砲身で突かれた。
「長い砲身には! こういう使い方もある!」
その砲身は、ティラール・ブルー・リーゼのバスターランチャーだった。ベアリング弾の直撃で与えた銃創目掛けて、砲身を抱えて最大加速で突撃したのだ。
「アーマーを脱いだからもう動けるもんね」
アポイタカラもほぼ同時に重量子ビーム砲の砲口をHighSに押し付けた。
ティラール・ブルー・リーゼがバスターランチャーを空に掲げる。
「アルカンシエル! フルパワーで!」
アジュール・アンジェの腹部に開いた砲門から虹色の光が溢れ出す。
「くらいなぁっ!」
リーシャの裂帛が鬼燈とシルにトリガーキーを引かせた。
バスターランチャー、重量子ビーム砲、アルカンシエルが一斉に咆哮をあげる。
色鮮やかなビームの奔流からHighSは逃れようもない。零距離の十字砲火が、灰色の空に向けて光の柱を伸ばす。HighSを呑み込んだその光景は、異様でありながらも美しく、曇った戦場を照らし出すだけの光量と熱があった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ポーラ・チノ
あいつも同じ雑音、か
オリジナル・テレサは複数いる上、全てオブリビオンマシンに侵されてるのか?
強敵との連戦だってのに、さっきの被弾で動き難くなってる、最初から"惨刺"を発動して補うしかないな
奴の感知能力ならダガービットは直ぐに気付かれる、それでも牽制になれば充分だ
斬撃を掻い潜るのも全部避けられなくても良い、暴走せずに射撃可能な状態で近付ければ良いんだ
至近距離でトキシックウェイブを放射、立ち止まらせたところにビームを撃てるだけ撃ち込む
……ここまで我慢してやったのだから、少しは愉しませてもらおうか
虫の手足と羽を千切るくらい、任務に支障はないだろう
刃も銃も使い方次第、丸く愛らしい形に整えてやるのも難しくはない
生け捕りにしたいのなら寧ろ丁度良いではないか
なあ、猟兵?
ヴィリー・フランツ
※ヘヴィタイフーンに搭乗
心情:あのアマァ!?散々引っ掻き回した挙句逃げやがったな!ぶっ殺す!!
手段:「カイゼルよりスワロー01、|エヴォルグ弐號機《カマキリ野郎》は此方で抑える、そちらで逃げたディナは追えるか?」
【海兵降下装甲小隊第46機動部隊ヘルウォールズ】を六機召喚、装備は同じくAAガン搭載型だ、市街地じゃアーティラリータイプは使えん、即応性の高い大口径機関砲で対応する。
カイゼル2と3、4と5、6と7ペアを組め、無理に撃破は狙わんでいい、他の味方機を利用しながら半包囲して追い立てる事に注力しろ。
俺の前に現れたら手持ちのヤグアルとAAガンを連射しながら奴に向かって前進、ビルによじ登ってもこっちは仰角の取れる高射砲、肩の砲身の角度を変えて追撃する。
距離を詰めたらスラスターを吹かしてシールドを構えてのタックル体勢、一撃入れたらマチェーテの二撃を狙う。
防御はバリアと装甲で受け止める、変に距離を空けるよりこっちの方が足止めになる。
あ?殺すなだと?チッ!しょうがねぁ、だが絶対に逃がすなよ。
ティオレンシア・シーディア
十分に学習したJDSなんて剣呑極まる面倒なもの、持ち帰らせるわけにはいかなかったんだけど。…流石にこんなのに捨てがまりされたら、追撃はあたしには無理ねぇ。速攻できるほど温い相手でもないようだし。
コンセプトは極めて明快、「キャバリア大の武装したG」…即ち超高機動白兵仕様機。「当たらなければどうということはない」は一面の真理だものねぇ。
それじゃ、「中身」に負荷かけましょうか。●黙殺・妨害及び黙殺・砲列を同時展開してデバフドカ盛り弾幕により空間を制圧、さらに掃射とグレネードで〇目潰しと足止め。通れば御の字、極論効かなくても問題なし。だって――通じなくても、少なくとも|目潰し《閃光》は「当たってはいる」でしょぉ?●黙殺・目録より●縊殺を励起、対応力と思考リソースをガンガン削るわよぉ。
どれだけ機体性能が高かろうが結局は道具、最後にモノ言うのは繰り手の技巧。正常に思考できない状態で初見殺しわからん殺し満載の弾幕、まともに攻略できるかしらぁ?
さぁて…諸々の被害とか悪名とか、どーしたもんかしらねぇ…
●シャワータイム
市街に立ち昇った荷電粒子の柱は、戦艦の装甲を貫通するに足る威力だった。しかし雑音が消えない。アークレイズ・ディナが……オリジナル・テレサが発していた雑音が。
「あのビームを零距離で受けて、まだ生きてるのか?」
ポーラの疑心はすぐに確信へと転じた。光の奔流を脱出したHighSは、甲殻の表面を焦がしながらも戦闘を継続する気配を緩めていない。触覚の一本が焼け落ちていたり、穿たれた甲殻から緑色の体液を滴らせていたりと、損傷を受けている様子は見受けられた。だが驚異的な俊敏性は衰えず、鎌の振りはむしろ鋭さを増しているとさえ思えた。
対するポーラのモスレイは、アークレイズ・ディナとの交戦で推進機関に損傷を負っていた。戦闘こそ可能だが、速度差の不利は否めない。
「出し惜しみ出来る状況じゃないな」
ポーラは初めから惨刺を使う他になかった。せめて瞬間火力で勝らなければ一方的に切り刻まれるだけだ。モスレイは街路を這うように飛び、出力制限を落としたラピッドビームガンを撃ち散らす。攻撃を察知したHighSはビルの壁面に張り付き、翅を閉じて垂直の壁を走り回った。エメラルドグリーンのプラズマビームがHighSの残影を追い立てる。コンクリートが砕け、ガラス窓が破裂した。
さらに火線が伸びる。幹線道路を滑走するヘヴィタイフーンMk.Ⅹが、両肩部にマウントした連装AAガンを乱射した。本来は対空兵装ではあるものの、地形を活用して立体的に動くHighSには一定の有効性を持っていた。ばら撒かれた40ミリの徹甲弾が甲殻に命中するたび、金属音が鳴って火花が散った。
「跳弾してやがるのか!? すばしっこい上にどんだけ頑丈なんだよ!」
常識外れの耐久性は、恐らく殲術再生弾で受けた強化によるものだ。ヴィリーは口元を苦く歪めた。トリガーキーを引き続けたままでレーダーマップを一瞥する。HighSを中心に自機、モスレイ、スノーフレークが十字砲火を浴びせる形に持ち込みつつある。海兵降下装甲小隊第46機動部隊ヘルウォールズのヘヴィタイフーンMk.Ⅹは、三つのエレメントに分かれて市街を迂回中だ。全ての方角からひたすらに弾幕を張って、最終的に包囲の中に追い込む事が狙いだった。示し合わせずともスワロウ小隊、レブロス中隊も包囲の構築に協力してくれている。しかしヴィリーにしてみれば、アークレイズ・ディナの追撃に当たってもらいたいのが本音だった。
「カイゼルよりスワロウ01! そちらで逃げたディナは追えんのか!?」
『スワロウ01よりカイゼルへ! 速度差がありすぎて……! それにHighSが狙ってます!』
「レブロス01は!?」
『こちらは部隊の半数を失っていて余力がない。エヴォルグ量産機の排除で手一杯だ。ついでに悪い報せがある。残存するエヴォルグ量産機が、ディナの進路上に集結しつつあるとの事だ。ゼラフィウム全域からな。敵はなんとしてもディナを奪うつもりなのだろう』
アークレイズ・ディナの反応は、既にアウル複合索敵システムで探知可能な範囲の外に出てしまっていた。北西のスラム街方面に抜け出たところまでは探知できたが……アルフレッドからもたらされた情報と照らし合わせても、ゼラフィウムを脱出する気と見て間違いない。エヴォルグ量産機の動きにしてもそうだ。
「あのアマァ……! 散々引っ掻き回した挙句逃げやがるのか! ぶっ殺す!」
ヴィリーは鬱憤を込めてトリガーキーを引き続けた。
「スノーフレークは行けんのか!?」
通信装置を震わせるヴィリーの声は怒号に近い。ティオレンシアは溜息混じりに首を横に振った。
「あたしには無理ねぇ。速攻できなかった時点でもう手遅れじゃない? それに、追う素振りを見せた瞬間に飛んでくるわよぉ?」
ティオレンシアの見立て通り、HighSの位置取りは絶妙だった。付かず離れずの間合いで這い回り、不意に鋭い斬撃を見舞ってくる。その上でこちらの注意がアークレイズ・ディナに向かう一瞬の隙を伺っている。それを実行できる瞬発力も殲術再生弾の強化で得たのだろう。
「十分に学習したJDSなんて剣呑極まるお土産、テイクアウトさせたくないのは山々なんだけど……」
どう使うつもりかなど知らないが、これだけの戦闘能力を有した殿を投入してまで持ち帰りたい様子からして、こちら側にとって不利益な思惑を抱いている事は察するに余りある。
だが今はむざむざ見逃す他になかった。アークレイズ・ディナ自体も猟兵が十数人がかりでやっと手負いにできた相手だ。HighSも同等、あるいはそれ以上の厄介者かも知れない。まずは眼の前の害虫を駆除しなければ、逆にこちらが駆除されてしまう。
現に、スノーフレークの周囲に展開した黙殺・砲列でけたたましい弾雨を注いでいるが、HighSの動きはまるで止まる気配がない。カイゼル4と5が便乗してAAガンの全門掃射を重ねるも、HighSは市街地の環境を巧みに利用して射線を切ってくる。
「手堅くやってたら埒が明かないわねぇ……」
「あいつからしたら、ディナを逃がす時間を稼げれば勝ちだからな」
ポーラは雑音の発生源へ向けてモスレイに加速を命じた。自らHighSの間合いに踏み込むそれを見たヴィリーは「おい!?」と声を荒げた。
「黙ってろ」
「なんだとぉ!?」
「違う。モスレイに言ったんだ」
耳朶の奥で囁く。まるで虫の手足と羽を千切って弄ぶ、子供のような純真無垢な残虐性を秘めた暗い声が。トリガーグリップを握っていなければ、意識がそちらへと引き摺り込まれてしまいそうになる。これがオブリビオンマシンの精神汚染か――常人が耐えきれない理由も分からなくもない。
「先に仕掛ける。後はなんとかしてくれ」
機種下部に懸架したハイパービームカノンが、蓄えていた荷電粒子を解き放った。光条が市街を引き裂いて伸びる。HighSは翅を開いて飛び上がり、光条に対して螺旋の機動を取って躱す。モスレイは推力ベクトルを横方向へと折り曲げた。バーストモードのラピッドビームガンをばら撒く。プラズマの光弾を掻い潜って肉薄するHighS。ポーラはHighSの側面を刃物で刺すイメージを脳裏に描いた。そのイメージ通りにダガービットがHighSに襲いかかる。しかし鎌で弾かれた。
「いきなり突っ込む奴があるか! カイゼル6と7! あのエイ型を援護しろ! 俺の位置からじゃ狙えん!」
ヴィリーが指示を飛ばす。HighSを挟んで反対方向に迂回していた二機のヘヴィタイフーンMk.Ⅹが両肩部の連装砲を発射した。エジェクションポートが排出した空薬莢の数だけマズルが明滅し、四十ミリの徹甲弾で破線を刻む。ダガービットに気を取られていたHighSは反応が遅れた。連続して甲殻を激しく叩かれて怯んだ――かのように見えたが、その挙動は急激な方向転換の挙動だった。
「こっちを向け」
モスレイがHighSの背中にビームの速射を浴びせる。HighSは急降下して射線から外れ、街路に張り付いた。そしてゴキブリ同然の縦横無尽な動きでカイゼル6と7へ迫る。獲物に定められた二機はAAガンで迎撃するも、HighSの運動性はロックオンの偏差撃ちを上回る。カイゼル6が7との間合いを取った。纏めて撫で斬りにされるのを避けるためだ。カイゼル7がバーンマチェーテを抜く。HighSの前肢が振り下ろされた。フォートレスアーマーが刃を遮る。赤熱した刃がHighSの胴体の溶断を試みた。しかしもう一方の前肢で切り払われてしまう。フォートレスアーマーに食い込んでいた刃が整流ごと追加装甲を引き裂く。カイゼル6はAAガンをHighSの背後に連射した。HighSは瞬時にカイゼル7の背面へ回り込む。そしてコクピットブロックを鎌で貫いた。そのままカイゼル7を盾にカイゼル6へ突進。ビルの壁面に叩き付けて二機ごと串刺しにする。
「鮮やかな手並みねぇ……捨てがまりにするには勿体ないんじゃないかしらぁ?」
ティオレンシアは思わず感嘆してしまった。スノーフレークが急行するまでのほんの数秒の間に、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが二機落とされた。性能は六分の一まで低下しているとはいえ――鎌を引き抜いたHighSの冷たい殺気が自分へと向かっている。咄嗟に黙殺・砲列を正面に集束し、バックブーストした直後、装甲を削り取る金属音がコクピットをつんざいた。HighSが放った斬撃波が黙殺・砲列を引き裂き、スノーフレークの胸部装甲に深い裂傷を刻み込んでいた。
「これ……戦う以前に、同じ土俵まで引きずり降ろさなきゃ無理ねぇ……」
殲術再生弾で強化された幅が大きすぎる。二撃目は避けられない。ゴールドシーンが魔術文字を書くより先に斬撃波で両断されてしまうだろう。ティオレンシアは苦し紛れに防御の体勢を取る以外に選択肢が無かった。せめてコクピットブロックへの直撃を避ければ、自分とマルガリータは助かるが――予想していた展開は、HighSが後退した事で裏切られた。
「こっちを見ろって言っただろ」
スノーフレークの眼前にエメラルドグリーンの光条が突き刺さった。爆発の衝撃で吹き飛ばされるも、両断されるよりは遥かにマシだ。姿勢を立て直すのと同時にゴールドシーンを走らせる。
ポーラはスノーフレークの前にモスレイを滑り込ませた。ラピッドビームガンをフルオートで乱れ撃つ。HighSはビルの壁面を這い上がった。モスレイが追う。推進装置の損傷が足枷となり、エネルギー偏向推進器を以てしてもHighSの動きを追いきれない。それに勘付いたのか、HighSは急反転して跳躍した。モスレイは推力ベクトルを真横に偏向する。鎌が虚空を切った。HighSの頭上からダガービットを突き立てる。HighSは跳んで躱す。ポーラは敵を機体の正面に捉えた。ラピッドビームガンの猛烈な射撃を浴びせる。またしても跳躍で躱された。鎌の切先がコクピットを狙っている。モスレイが僅かに横にずれる。痛烈な衝撃がポーラの頭蓋を揺さぶった。機体が右方向へ沈み込んだ。機体コンディションの表示上では右半分が赤に染まっている。HighSの刃が右翼に突き刺さったのだ。
「ただで切らせるか」
間合いは超至近距離。絶対に外さない。ポーラは脳震盪でぼやける意識を気合いで繋ぎ止め、トリガースティックのボタンを押し込んだ。モスレイが金属板を叩く音と共に緑の波動を放出した。波動は物理的な干渉力を持って押し広がり、HighSを強引に跳ね除けた。鎌が抜けたモスレイは瞬時に推進機関を炸裂させ、地表に向かって最大加速した。激突する寸前で逆制動を掛ける。耐G機能でも殺しきれない負荷に、ポーラは身体をくの字に折り曲げた。モスレイ自体にも凄まじい負荷が加わるも、姿勢を不安定にさせながら、地表と水平に推力を偏向した。
「あたしもただで切られたつもりはないわよぉ?」
HighSがモスレイを攻撃していた隙に、ティオレンシアは黙殺・砲列に新たな魔術文字を書き加えていた。妨害と縊殺。スノーフレークを中心にアーチ状の並びを成した魔術文字の砲列が、一斉に咆哮を開始した。徹甲弾。榴弾。レーザー。様々な直径、多様な出力のおおよそ射撃と呼べる射撃が解き放たれる。極彩色の光はさながらステージライブの照明演出のようだった。
さらにヘルウォールズが合流して撃てる限りの弾を浴びせる。光と弾丸と爆発の猛威が、トキシックウェイブの直撃で仰け反ったHighSを呑み込む。もはや弾幕ではなく弾の面と呼ぶべき密度であった。ビルの壁面に着弾したビームがプラズマの火球を膨張させ、近接信管を作動させた榴弾が熱と金属片の爆風に転じる。飽和した火力が空間を埋め尽くした。それだけではない。
「まともに戦える土俵まで降りてきて貰うわよぉ?」
殲術再生弾の強化を相殺する――ティオレンシアの本命はそこにあった。
このまま戦い続けても恐らく埒が明かない。この場にいるどの友軍機と比較しても、性能差は圧倒的だ。立っている次元が……土俵がまるで違う。なら引き摺り降ろすしかない。同等まではいかずとも、少しでも差を縮めなければ。
機体のみならずパイロットもだ。HighSは無人制御されているわけではないらしい。ならコクピットには機体を操縦しているパイロットがいるはずだ。機体がどれほど強化を得ていようとも、動かしているソフトウェアが不調をきたせば、性能を十全に発揮することはできない。パイロットの弱体化は即ち機体の弱体化に直結する。
ハードウェアとソフトウェア、両面の弱体化。それを実現するのが黙殺・砲列に追記した妨害と縊殺の魔術文字だった。膨れ上がる光は感覚機関を蝕む毒。吹き付ける爆風は動きを圧する枷。食い込む弾丸は甲殻を砕く楔。嵐の如き砲弾とレーザーの猛威は、パイロットの思考の許容量を奪う混沌。単体が及ぼす効果は微量でも、蓄積した不備不調は着実に重石となり、HighSの動きとパイロットの思考を鈍らせた。
「誰かいるぅ? ボーナスタイム到来よぉ?」
ティオレンシアが投げた声に、ポーラは首を横に振った。
「無理だ。メインブースターがいかれた」
地に伏したモスレイの傷跡は痛ましい。右翼の裂傷からはスパークが散っていた。コクピット内に充満する警告音がやかましい。
「俺が行く! ギリギリまで撃ち続けてろ!」
ヴィリーの怒声と共にヘヴィタイフーンMk.Ⅹが吶喊した。脚部のスラスターによるホバーで地表を滑り、HighSが磔にされているビルの壁面に衝突。反動で背中から倒れ込んで仰向けになったのと同時に、全てのバーニアノズルから噴射光を炸裂させた。地を背に、天を前に、垂直の壁を足場にして加速する。ブースターは全開。フォートレスアーマーとサブジェネレーターの出力も全開。スパイクシールドを構え、ヤグアルⅤ対装甲狙撃銃とAAガンを撃ち続ける。ブローバックが強烈な50ミリ徹甲弾が確かな手応えを伝えた。命中している。あんなに元気に動き回っていたHighSが、スノーフレークの弾幕で動きを封じられ、困惑しているようにさえ見えた。どんなイカサマにせよ絶好のチャンスに違いない。ヴィリーは後先の思考を捨て去り、弾丸と爆炎と光条の最中にいるHighSへ突撃した。
相対距離は50メートル。突如霧が晴れたかのように砲撃が止んだ。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹは得られるだけの加速を得て、スパイクシールドを機体ごとHighSに叩き付けた。フォートレスアーマーを纏っての体当たりは重く、強烈だった。だが手応えが浅い。
「鎌で受けやがったか!」
全ての弾丸を撃ち尽くしたヤグアルを投棄し、バーンマチェーテのグリップを握る。抜剣のモーションを縦斬りに繋げ、赤熱化した刃をHighSの頭部に叩き付ける。しかし果たせず、右腕の肘から下が宙を舞った。
「ここまで来てこれかよ……!」
返す刃がコクピットを狙う。バリアと追加装甲ごと抜かれるか――ヴィリーの覚悟は肩透かしを食らった。突き出された鎌の切先が狙いを逸らしたのだ。
ティオレンシアが削り取ったパイロットの思考能力。それが明暗を分けた。敵はポーラが飛ばしたダガービットに気付かず、がら空きの背中に直撃を受け、姿勢を崩した。
「こんのカマキリ野郎ッ!」
ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの左腕マニピュレーターがスパイクシールドを手放し、落下しつつあった右腕を掴む。右腕は赤熱化したバーンマチェーテを保持したままだった。遠心力を乗せて振り上げる。振り下ろされた鎌と接触し、だが切り結ばずに刃同士が滑った。鎌が切ったのはヘヴィタイフーンMk.Ⅹの装甲。バーンマチェーテが切ったのは――。
「腕一本! 取ったぞ!」
緑色の血飛沫が派手に散ることはなかった。切断面が焼けたからだ。HighSが怯んだ様子で後退した。それは初めて見せた弱腰の姿勢だった。ヘヴィタイフーンMk.ⅩもAAガンの火線を走らせながら自由落下で後退する。
ビルの壁面を足場にしていた双方が急速に離れてゆく。着弾痕だらけになったビルは、倒壊を危ぶむ凄惨な状態だった。そこでティオレンシアは思い出した。
「さぁて……諸々の被害とか悪名とか、どーしたもんかしらねぇ……」
依頼主から市街地を防衛するようにとの指示があった事を。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベルゼ・アール
【イルミナティ】
さぁ、来たわね!
こっちは進行中のディナを想定される進路上で待ち構えていたってわけよ!
イヴから対抗プログラム──「アンチJDSプログラム」を受信!
逃げるアークレイズ・ディナの前に立ちふさがるわよ!
ボス! 援護よろしく!
HighSはジェイミィとイヴが押さえてるから、こっちはディナの相手!
とは言っても手負いな上に、JDSはアンサズ連合に提供されているデータからばっちり裏が割れてる状態よ!
そうなれば後は……アンチJDSウイルスプログラムをインストールした弾丸をありったけ撃ち込めば良い!
接近戦の弾幕はこっち、ボスは狙撃で頼むわよ!
どっちの弾頭にもアンチJDSはインストールされている!
さぁ、一気に終わらせるわよー!
アレクセイ・マキシモフ
【イルミナティ】
了解したジェイミィ! こちらはすでに準備ができている!
アークレイズ・ディナの鹵獲は最後まで諦めないのが俺達だ!
こちらは進行中のディナを想定される進路上で待ち構えている!
イヴから対抗プログラム──「アンチJDSプログラム」を受信!
逃げるアークレイズ・ディナの進路を遮るように狙撃を実行する。
そう、弾頭にアンチJDSプログラムのウィルスが仕込まれている。
この弾頭に被弾したが最後、JDSは不具合を起こすというわけだ。
JDSがアンサズ連合に渡っていたことが災いしたな、オリジナルテレサ。
手負いな上にそちらの仕掛けがすべて詳らかになっている以上、こちらの勝利は揺るぎない!
戦術的にも戦略的にもこちらが優勢というわけだ。
この任務、成功裏に終了させてもらおう。
外交は任せたぞ、ジェイミィ。
こいつをどう使うかはお前次第だ。
●用意周到
オリジナル・テレサに奪取されたアークレイズ・ディナは、市街地区画を早々に離脱し、ゼラフィウムの外縁部――壊滅したスラム街を北西方向へと移動していた。
逃げに徹したアークレイズ・ディナの速度は凄まじく、レイテナ軍に追撃は叶わなかった。猟兵もHighSとの交戦で足止めをくらい、追える状況にない。ただ一人と一匹の猟兵を除いて。
STRIKE HELIOSは焼け落ちた瓦礫の山に機体を潜め、スナイパーライフルのスコープ型センサーを覗き込んでいた。機体側のメインカメラと連動した望遠映像に映るのは、脇目も振らずにスラム街跡地を横切ってゆくアークレイズ・ディナの姿。アレクセイ・マキシモフ(歴戦の|もふもふ傭兵《ファーリー・ラット》・f36415)はスナイプモードのレティクルにその姿を重ね合わせ、殺気を鎮めた指をトリガーキーに乗せていた。
『ターゲットの進路は想定通りですね! きっとゼロハート・プラントにまっすぐ直帰するつもりですよ!』
通信装置から聞こえたのはイヴの声。アレクセイは「こちらはいつでも狙撃可能だ。プログラムの受信を待つ」と応答し、アークレイズ・ディナの姿を目で追い続けた。
『ベルゼさん、アレクセイさん、そちらの方は任せますよ。しかし相手は手負いとはいえ――』
「油断するなって言うんでしょ? わかってるわよ」
ジェイミィの通信を受けたベルゼ・アール(怪盗"R"/Infected Lucifer・f32590)もアレクセイ同様、TYPE[JI-L]をうず高く積み上がった瓦礫の影に潜ませていた。こうしている間にもアークレイズ・ディナは高速で移動を続け、ゼラフィウムを離脱しようとしている。防空圏の外に出てしまい、人喰いキャバリアの勢力圏内に入られれば、もう追いかける手立てはない。止められるのは今回が最初で最後だ。ベルゼは焦れる思いを鎮めるため、深い呼吸を繰り返していた。
『アンチJDSプログラム送信!』
イヴから達せられた報告が、アレクセイとベルゼが行動を開始する引き金となった。
「受信確認した!」
アレクセイはインフォメーション上のゲージが最大になるのを待ち、リロード操作を行う。STRIKE HELIOSがスナイパーライフルに弾倉を叩き込み、引いたボルトハンドルを押し込んだ。チャンバー内に初弾が送り込まれる。電子干渉を行うデバイスを内蔵した特殊弾だった。
「こっちもオーケー!」
ベルゼのTYPE[JI-L]が左右のマニピュレーターで保持するハンドガンに弾倉を差し込む。互いのスライドを重ねて初弾を装填した。
「ボス! 援護よろしく!」
TYPE[JI-L]が地面を蹴って瓦礫の影から跳躍した。ブースターを焚いてアークレイズ・ディナの進行方向上へと一気に加速する。
「この先は通行止めよ!」
『待ち伏せ……まだイェーガーがいた……!』
アークレイズ・ディナの前方に飛び出せば、やはり注意を引き付ける。減速も進路を変更する気配を微塵に感じさせず、デュアルアサルトライフルから弾丸をばら撒き、強行突破の意思を示した。ベルゼはTYPE[JI-L]を横方向へと瞬間加速させ、射線上から逃れる。そしてマズルブラストの音が響き渡った。アークレイズ・ディナを包むパルスフィールドに火花が散り、衝撃で機体が大きく傾く。
「一撃では抜けんか!」
アレクセイは舌を打った。アークレイズ・ディナにはパルスフィールドジェネレーターが標準装備されている。その機能は手負いとなった現在でも、狙撃銃の一撃を防ぐのに十分な出力を発揮していた。ユーベルコードが――戦場の支配者が発動しているとはいえ、貫通するにはあと一歩届かない。
「ベルゼ! まずはバリアを減衰させるんだ!」
アークレイズ・ディナのテールアンカーから、指向性の拡散プラズマビームが放たれた。アレクセイは狙撃ポイントを捨てて回避運動に入る。地面に突き刺さって爆ぜる赤い荷電粒子がSTRIKE HELIOSの装甲を炙る。
「言われなくても!」
ベルゼはアークレイズ・ディナの進路上でTYPE[JI-L]の機動を大きく左右に振った。二丁のハンドガンからフルオートで連射される特殊弾の集中射撃が、アークレイズ・ディナのパルスフィールドを叩く。
「一発でも当てれば……!」
撃った数以上の徹甲弾とプラズマビームの反撃にさらされ、ベルゼは息を詰めて奥歯を噛み締めた。コクピットが振動するたびに、インフォメーション上でのアーマーポイントが目に見えて削られてゆく。敵はハンドガン程度の威力など気に掛ける必要などないと判断したのか、回避運動すら取らずに進路をまっすぐに突き進んでいる。TYPE[JI-L]とアークレイズ・ディナの速力差は、ガンホリックを発動している後者の方が明らかに優勢だった。TYPE[JI-L]は全力のバックブーストで引き撃ちを続けるも、相対距離は次第に縮まりつつある。
「これは落とされるかも!」
間合いが狭まるほどに比例して被弾率が増加してゆく。しかしその点は敵側も同じだった。パルスフィールドに阻まれた特殊弾が火花に変じる度に、表面に整流の乱れが生じる。だが減衰させるよりも先にTYPE[JI-L]の方が持たない。ベルゼは窮地を脱するか覚悟を決めて押し切るかの二択を迫られた。
結局はどちらも選べなかった。突如、横から殴られたかのようにしてアークレイズが仰け反ったからだ。同時に機体を覆っていたパルスフィールドが、硝子のように砕けて霧散する。
「そちらは手負い、こちらは機体とシステムの両方を解析済み。戦術的にも戦略的にもこちらが優勢というわけだ」
フィールドを撃ち破ったのは、アレクセイのSTRIKE HELIOSだった。TYPE[JI-L]を追い掛ける格好となっていたアークレイズ・ディナの機動は直線的で、狙いを定める事自体は難しくなかった。敵は初弾を受けた際、パルスフィールドで防ぎきれることを確認していたため、狙撃手の存在を無視していたのだろう。だが二撃目でフィールドを破れなければ、敵は警戒して回避機動を取るに違いない。通常の回避機動なら兎も角、ガンホリックで動き回られてしまえば狙撃は極めて困難になる。そうと確信したアレクセイは敢えて攻撃の手を止め、TYPE[JI-L]の攻撃によって敵のフィールドがある程度まで減衰するのを待っていたのだ。
「ボス! 私を囮にしたわね!?」
「戦術的状況判断だ」
TYPE[JI-L]とSTRIKE HELIOSが攻撃を重ねる。アークレイズ・ディナはアレクセイの想定通りに回避運動に移った。高速かつ鋭角な動きはロックオンしていても完全には追い切れず、STRIKE HELIOSが発射した狙撃弾は空気を貫いた。
「バリアが剥がれた今なら!」
ベルゼは捨て身を覚悟で攻勢を強めた。TYPE[JI-L]はアークレイズ・ディナと近距離と言って語弊はない位置関係にあった。互いにとって敵弾の回避が難しく、攻撃が命中させやすい距離である。TYPE[JI-L]はアークレイズ・ディナのデュアルアサルトライフルと、テールアンカーから発せられるプラズマキャノンを浴びる事となった。瞬間火力の猛威がアーマーポイントの減少速度をさらに加速させる。アークレイズ・ディナはハンドガンのダブルトリガーが展開する弾幕を真正面から受ける事となった。高速機でありながら決して軟ではない装甲に弾丸が衝突して火花を散らせる。オリジナル・テレサはTYPE[JI-L]の攻撃を躱すまでもないと判断したらしく、攻勢も速力も緩めない。その判断が戦いの明暗を分けた。
「当たった!」
着弾を目視確認したベルゼは、TYPE[JI-L]に横、後方、また横と連続回避機動を取らせ、必中の距離から脱した。
「ベルゼ! 十分だ! もっと間合いを取れ!」
アレクセイがそれを援護する。選択中の兵装であるスナイパーライフルの発射モードを手動から自動に変更。操縦桿のトリガーキーを引いた。STRIKE HELIOSが重いマズルブラストを連続して轟かせる。スナイパーライフルの弾丸径はハンドガンのそれより大きく、薬莢に装填した炸薬量も多い。スーパーロボットならいざ知らず、アークレイズ・ディナの装甲を撃ち砕くには十分な威力を有していた。初弾の数発が命中し、衝撃で動きを止めつつ、赤い装甲片を飛び散らせた。アークレイズ・ディナは連続しての被弾を避けるために射線上から飛び退く。その動きからアレクセイとベルゼは異変を確信した。
「効いているな」
「効いたわね!」
さきほどまでの動きと比較して、明らかに速力が落ちている。鈍足になったわけではない。だが少なくともユーベルコードありきの超常的な鋭さは失われている。アレクセイは通信帯域を全周波数に切り替えて声を吹き込んだ。
「お前の機体に撃ち込んだ弾頭には、アンチJDSのプログラムを仕込んである。JDSがアンサズ連合に渡っていた事が災いしたな、オリジナルテレサ」
数年前に日乃和の香龍で実施された白羽井小隊殲滅の依頼で、猟兵はアークレイズ・ディナと交戦し、撃破した。
その際にアンサズ連合は日乃和政府と取引を行い、アークレイズ・ディナごとJDSを入手している。
JDSはイェーガー・デストロイヤー・システムの正式名称が示す通り、猟兵を破壊する事を目的に作られた。そしてアンサズ連合は猟兵に敵対的な、或いはアンサズ連合の掲げる政策と方向性が一致しない勢力にJDSが渡った状況に備え、同システムの分析と解析を進めていた。
そうして開発されたのがアンチJDSプログラムである。
JDSはユーベルコードを解析し、ハードウェアないしソフトウェアで可能な範囲で再現する。アンチJDSプログラムは解析と再現のプロセスに対して妨害を行い、機能を封じる働きを持つ。
猟兵が“生命の埒外”たる所以の多くは、ユーベルコードにある。擬似的にとはいえ、JDSは猟兵の持つ生命の埒外の力を獲得するためのシステムだ。
目には目を。化物には化物を。猟兵には猟兵を。
猟兵を倒すには、反存在たるオブリビオンをぶつけるか、同じ猟兵をぶつける他にない。
猟兵の力の根源たるユーベルコードを封じられたアークレイズ・ディナは、今や生命の埒外にない。猟兵とは立っている土俵が違う。そしてその差を覆す事は非常に難しい。
「計画通り! さぁ、一気に終わらせるわよー!」
ベルゼのユーベルコード、完全犯罪計画が効力を発揮し始めた。TYPE[JI-L]が乱射するハンドガンの弾丸の初速が増し、威力と命中率が増大している。それまで弾かれていた攻撃が、装甲に銃創を刻み込んでゆく。
「こちらの勝利は揺るぎない。この任務、成功裏に終了させてもらおう」
アレクセイが冷徹にトリガーキーを引く。敵のJDSを封じたという有用性が、戦場の支配者が持つ本来の効力を正しく発現させた。レティクルの中央に重ねたアークレイズ・ディナが、スナイパーライフルの正確無比な射撃に貫かれ、怯むたびに赤黒い装甲片を散らせた。
だがやはりJDSを封じたからといって直ちに勝負が決するほど甘くはなかった。アークレイズ・ディナの機種分類はクロムキャバリアであり、標準的な量産型キャバリアとは一線を画する性能を与えられている。さらに言えば、元々は猟兵が運用するための機体である。しかも一号機は、人間とは比較にならないほどの強靭な身体能力を有するウォーマシンの搭乗を想定していた。オリジナル・テレサが奪取したアークレイズ・ディナは、アンサズ連合が入手したものと同様に、有人制御を前提とする二号機以降の仕様――Block2ではあろうが、性能に圧倒的な優劣が存在するわけでもない。
そこにパイロットの操縦適性も加わる。オリジナル・テレサが持つ能力は定かではない。だがスワロウ小隊のテレサ達は皆、高水準なキャバリアの操縦適性を有している。スワロウ01に至っては、有人制御を想定していないアークレイズを自在に乗りこなしている点からして、生命の埒外とは言わずとも常人より遥かに優れている事は明白だった。
「倒れろ倒れろ! 倒れなさいよー!」
未だ鈍さも弱さも見せないアークレイズ・ディナに、ベルゼは焦れた叫びを叩き付ける。
「ベルゼ、慎重に追い込め。最終的にはこちらが削り勝つ――」
『緊急連絡です!』
アレクセイの言葉尻は、唐突に飛んできたイヴの声に断ち切られた。
『ゼラフィウム中のエヴォルグ量産機がそちらに向かっています! すぐに迎撃体勢を!』
「なんですって!?」
ベルゼが聞き返すよりも早く、四方八方から無数のレーザーが照射された。TYPE[JI-L]はアークレイズ・ディナとの交戦の中断を余儀なくされ、左右後方へと瞬間加速を繰り返す。続いて夥しい数の触腕が伸びてきた。追尾性を持ったそれをハンドガンのダブルトリガーで撃ち落としながらバックブーストする。
「オリジナルテレサが呼んだか……なんとしても逃走を図るつもりだな」
アレクセイもベルゼ同様、レーザーの雨から回避運動を取らざるを得なかった。レーダーマップを一瞥すると、全方位から赤い輝点が押し寄せつつある。
「この数はまずいな。ベルゼ、離脱するぞ」
「ボス!? あとちょっとなのに!?」
「JDSは封じた。目的の半分は達成している」
ベルゼは周囲に視線を一巡させた。蠢く緑が波となって押し寄せてきている。アレクセイの言う通り、今すぐ離脱しなければ、数の暴力で押し潰されてしまう。アークレイズ・ディナはこちらがエヴォルグ量産機から攻撃を受けた際には再び遁走に転じていた。ゼラフィウム内で発生したエヴォルグ量産機を全て使ってでも逃げるつもりなのは確定であろう。
「ああもう! ここまで来て……!」
ベルゼは悔しさを一マガジン分の弾丸に込めて吐き出し、TYPE[JI-L]を後退させた。
「敵梯団を突破して北部セクションゲートに向かう。守備隊と合流できるはずだ」
アレクセイは退路を阻むエヴォルグ量産機をレティクルの中央に捉えた。STRIKE HELIOSがスナイパーライフルを一発撃つごとに、一体のエヴォルグ量産機が緑色の体液を噴出させて跳ね跳んだ。
「いいの!? JDSをみすみす渡す事になって! もしもあれを量産されたら厄介な事になるわよ!?」
ベルゼが抱いた懸念はアレクセイも同じだったが「どうだろうな」と首を動かさずに呟いた。
「JDSにはマインドミナBVAの外殻が使用されている。この世界では入手できない素材だ。真似事をできるとは思えんが……」
ただし別の材質に置換されないとも限らない。マインドミナBVAの外殻と同じく、思念によって変形し、ユーベルコードを伝播させる性質を持った材質があれば、模倣も量産も不可能ではないだろう。
「それよりも問題はレイテナ・ロイヤル・ユニオンの方だ」
「どう問題なのよ?」
「レイテナにとって猟兵は人喰いキャバリアへの切り札だ。その切り札の切り札を敵に奪われたとなれば、平気ではいられまい」
アークレイズ・ディナが奪取されたという切欠が、どれほどの波紋を起こし、広げるのか。アレクセイとベルゼには想像力を働かせているほどの余裕などなかった。
STRIKE HELIOSとTYPE[JI-L]は眼前の敵を蹴散らして北部セクションゲートへひた走る。守備隊との合流を果たした時には、エヴォルグ量産機の殆どがゼラフィウムから逃走していた。
大成功
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アレフ・フール
神機
…此処は地獄か
「神滅戦争でも此処まで酷いのはないぞ…」
神滅戦争《ラグナロク》か…オーディンの別名を持つ者に水星の神…機械の神々がこうも集う手はまさしく黄昏の戦争の如きよな
……猟兵が破滅を呼ぶというたな
だが…これだけの力が無ければ…わしらの世界は大いなる力を持った神々に唯蹂躙され潰されるだけであった
詰みであった我が世界に光明を齎したのもまた猟兵よ
貴様らがやろうとしているのは絶滅戦争か
種を須らく根絶やしにし…貴様の望む種を撒くか
それはどう語ろうと…惨たらしく…非道の極みよ
やられる側からすればたまったものではない
だから…抗い…粉砕するのみだ
全知・極発動
【戦闘知識・世界知識】
知識を総動員し機体構造とテレサの位置を補足し情報共有
【重量攻撃・グラップル】
UC発動
他の神機と合わせる様に重力弾を叩き込み動きを鈍らるよう試み
最速の一撃を叩き込まれればそのまま掴み重力を纏い動きを封じ他の神機への攻撃へと繋げる
カシムわたぬき発動時
妨害を行う者を警戒
居たら身体で妨害
居なかったら猛攻を仕掛け攻撃を途切れさせず
アルジェン・カーム
神機
UC発動中
(カカオ汁服用)ぐふっ
「げふっ」
…判っているんですか
お前達が何をしたのかを
どれ程言葉を重ねようと…この状況を招いたのは…そうさせたのはお前達だという事を
何より…お前達は…自分達の子供達を虐殺して産みなおすというのですか…!
……子殺し…それが貴様らの大罪か
…ええ
お前達の言う通り僕は多くのマスカレイドを殺してきた
唯の少女もいた
自分の畑を荒らされて憤っただけの農夫もいた
こうしてここに居る人達も救えなかった
お前達が更に虐殺を続けるなら…
止めてやる
【戦闘知識】
敵機の構造と能力を他の皆と別視点で解析
共に情報共有
闘いながらも常に敵の状況と状態を把握
…恐らくはこの女は自分の寿命を削り切る事で死ぬつもりですね
僕らに身柄を拘束させないために
絶華兄さん…頼みます
【空中戦・念動力・弾幕】
英霊剣群展開
絶・四門開門発動
超高速で飛び回り念動光弾を皆と合わせて叩き込みその動きを妨害
【二回攻撃・切断・串刺し】
宝剣で切り刻み槍で串刺しに
カシムさんがわたぬきを使う瞬間
黄龍の風を敵に叩き込みその速さを減速させる
皇・絶華
神機
UC発動中
おお、元気の良さそうな敵だな?
バレンタインチョコドリンク発動
カシム達に提供しつつ己達も服用
「「ごげぇ」」
色々私も言いたい事があるのだが何故か銀静達に止められていてな
今日のぜっちゃんは支援型だ!
「本来ならこんな毒親ぶちのめしてぇがな…それは他がやるだろ」
抗議に対して
「毒親だろうがてめぇは!産んだ存在を殺してやり直しとか…腐れ親父のカイルスを思い出しちまったわ…この腐れ子殺しが」
「いや貴様もユピテル様とか食って始末しようとしただろうが…この毒親神機が」(byころちゃん
【戦闘知識・医術】
カシム達の情報も元に機体構造を把握
後はテレサの状態を解析
【第六感・見切り・空中機動】
飛び回りつつ敵の動きと状態を常に観察しつつ回避
【念動力・弾幕】
念動光弾を皆と合わせて乱射して動きを封じ
【二回攻撃・切断・貫通攻撃・乱れ打ち】
銀静達と息を合わせての猛攻を仕掛け
ころちゃんも殴る
万が一敵テレサが寿命死や死にそうな時
ハッピーチョコ天国発動
強制延命且つ理性を砕き此方の指示に従わせ
大人しくしていろ(命令
皇・銀静
神機
カカオ汁服用
テレサ達は下がれ
此奴を殺った時にお前らまで精神をやられたらたまらん
UC発動中
…お前もそうか
全てを猟兵の所為にして全てを正当化か
耳障りのいい言葉で自分達は悪くないと?何一つやった事に罪悪を感じてないんだろう?
…猟兵の所為にすれば楽だよなぁ(きひっ)
…エヴォルグ化させて死なせたのはお前達だ
殲術再生弾…それも僕らの決戦兵器だ
つまりお前らは猟兵の力を傲慢に振るってるわけか
このダブスタクソ女共が
【戦闘知識】
敵機の能力と機体構造
乗り手の位置捕捉
【空中戦・念動力・属性攻撃・弾幕】
勝利の神
槍の神発動
超高速で飛び回り凍結弾と念動光弾を叩き込その動きを封殺
「あはははは☆笑えるねぇ…猟兵を忌みながら君達は猟兵の力を使うんだ☆君達の理論でいうならまさしく君達も破滅を齎す「猟兵」だね☆猟兵同士仲良くしようぜ☆」
【串刺し・二回攻撃・切断・功夫】
カシム達と連携
超連続斬撃と刺突を叩き込み
攻撃の手を緩めず…カシムがわたぬきを狙う瞬間
闇墜ち発動
超強化された能力で猛攻を仕掛け敵テレサを確実に捕縛し竜眼号に拉致
カシム・ディーン
機
カカオ汁服用
「「ぐふっ」」(神機も服用
UC発動中
…つくづくてめぇらは僕を怒らせる天才だな?
これは最初で最後の警告だ
今すぐ投降してOテレサが逃げた先を教えろ
そしててめぇの知る全てをな
拒否られれば
…そうか…ならもうてめぇの人権尊厳全てを認めねぇ
全力全霊を尽してめぇに苦痛と絶望を刻んでやる
もう楽に死ねると思うな
「ご主人サマ…」
【情報収集・視力・戦闘知識】
敵機の能力と状態を常に観察
乗り手の位置を補足
【属性攻撃・空中戦・弾幕・念動力】
超絶速度で飛びその速さに対抗し念動光弾と凍結弾を乱射
凍結し細胞を破壊しその動きを鈍らせ
凍殺ジェットってなぁ!
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み・電撃】
鎌剣で切り刻み電撃を流し
わたぬき発動
搭乗者テレサ?を強奪!
此方が死にかけても完遂する!
万が一此奴が寿命枯渇等を利用して死に逃げしようとしたらたまぬきで魂を捕縛して強制再生させてやる!
絶対に逃がさねぇ…!
そして竜眼号に拉致!!
此方で監禁確保
全力で完遂する!
此奴を此処に残すわけにはいけねぇだろ!
もうこんな惨劇は沢山だ!
ジェイミィ・ブラッディバック
【イルミナティ】
まさかレブロス分隊諸共こちらの無人機部隊が壊滅するとは
治安維持用の汎用ロジックでしたしやむなしでしたが
……ですが彼らのダイイングメッセージはしかと受け取りました
彼らは死してなおサブジェクトOを叩く
データ受信完了。予備に回していたストライクフェンリル隊、プラチナムドラグーン・クレイシザー残存部隊と合流、N.E.U.R.O.Databaseを通じて共有……O事案マニュアルアップデート
JDS同様、同じ手が通じるとは思わないことです
オリジナルテレサはアンサズ連合へ事実上の宣戦布告を行った
故に、ここから先はアンサズ連合の戦力として応戦します
HighSはこちらで鹵獲させてもらいましょう
COAT OF ARMSで追い込みLONGINUSで刺突、顎パーツをAEGIRのワイヤーで固定し破砕
HighSはパイロットごとこちらで鹵獲を試みます
今後の外交のカードとして有用そうですし
オリジナルテレサの方は任せますよ、ベルゼさん、アレクセイさん
イヴ・イングス
【イルミナティ】
さーて、ここまで好き放題されちゃいましたしねー
こっちはこっちで好き放題させてもらいますよっと
ま、実のところここまではほぼ想定通りなんですけどね
そしてここからも想定通りです
オリハルコンドラグーンのガンナードームからプロトンビームを照射
周囲のビルでビームを屈折・反射させて即席のビームの網を作ります
すれ違いざまにこちらを斬るのであれば…サイコロステーキになってもらいますよー
前衛の店長ががっつり守ってくれているので、
その間にN.E.U.R.O.Databaseにアクセス! もちろん参照先はJDS!
対抗プログラムを即席プログラミングで構築します!
そしてレドームでばっちり逃げているディナを索敵!
想定通りの進路を進行していますね!
ベルゼさん、アレクセイさん、そっち行きました!
ベルゼさん宛に対抗プログラムを送信!
ここはばっちり二兎を得させてもらいますよ!
●勝利者なき戦い
オリハルコンドラグーン "EVE"が背負うガンナードームの索敵範囲から、アークレイズ・ディナの反応が消失した。その後ろを追い掛けている反応は全てエヴォルグ量産機だった。
「残念、逃げられちゃいましたか。二兎を得るのは欲張りがすぎましたかねー?」
イヴは息を吐いて肩を落とす。ゼラフィウム中のエヴォルグ量産機を集められてしまえば追う手立てなどない。ベルゼとアレクセイの撤退は止むを得ない判断だった。けれど無駄ではなかった。アンチJDSプログラムを撃ち込んでJDSを封じることには成功した。敵が解析して複製しないとは限らないものの、JDSに使用されている材質はクロムキャバリアでは入手する手段がない。そのことをオリジナル・テレサは恐らく知る由もないだろう。持ち帰ってどうするつもりかはさておき、対猟兵戦の切り札として量産する目論見があれば、それは阻止できた可能性が高い。
『ではせめて、こちらの一兎は確実に獲りましょう』
犠牲の収支は付けさせてもらう。言外に含んだジェイミィは、全滅したクレイシザーとストライクフェンリル達の記憶を吸い上げ、量子クラウドデータベースに集積した。記憶の中の無人機達は、レブロス分隊と共々にHighSの奇襲を受け、瞬く間に撫で斬りにされてしまっていた。治安維持用の汎用ロジックとはいえ、HighSの敏捷性は侮れるレベルではない。過去のHighSの情報と照らし合わせても、全ての性能が従来を格段に上回っている。オリジナル・テレサが言っていた殲術再生弾の強化によるものであろう。ただし攻撃手段に大きな変化は見られない。高速格闘戦が主な戦術だった。
『O事案マニュアルアップデート』
死した無人機のダイイングメッセージは、予備戦力として控えさせていたストライクフェンリル、プラチナムドラグーン、クレイシザーに引き継がれた。ただでは破壊されない。破壊されてもなお、彼らはオブリビオンマシンを叩く武器であった。
『イヴさん、自衛はお願いします。どうやら余所見を許してもらえる相手ではないようですので』
「了解です。店長こそばっちりお願いしますよ!」
オリハルコンドラグーン "EVE"のガンナードームから生えた12の砲門がプロトンビームを伸ばす。ビームは周辺のビルに反射して屈折し、網目上の結界を作り上げた。これでHighSが近付いて来ようものなら細切れになってしまうだろう。
『HighSはパイロットごとこちらで鹵獲させてもらいましょう。色々と役立つはずですので』
二人目のオリジナル・テレサはレイテナ・ロイヤル・ユニオンとの外交上での駆け引きにおいて価値のあるカードとなる。ケイトが身柄の確保に拘った事からして確信を持ったジェイミィは、MICHAELを加速させた。ストライクフェンリル、プラチナムドラグーン、クレイシザーの混成部隊がその後を追う。イヴは戦況分析と無人機の管制補助に務めた。
数十人の猟兵の攻撃を一身に受け続けながら、HighSは今もなお健在だった。触覚状のセンサーと前肢の片腕を喪失し、全身に刻み込まれたありとあらゆる傷跡からは緑色の体液を流している。さらには魔術文字の呪縛を受けて性能が大きく減退していた。だが、奥底から放たれる敵意は鋭さを失わず、驚異的な脅威である事実は揺らがない。
「テレサは離脱しましたか……これで私の役割は終わった。後は……一人でも多くのイェーガーを倒す……!」
血濡れの表情で二人目のオリジナル・テレサは言う。機体同様、パイロットの身が受けた負傷も重く、深手だった。人間を遥かに凌駕する強度の骨格は折れるか砕け、強化された補助臓器に突き刺さり、生じた出血が口元から溢れ続ける。両肩が荒く上下しているのは、肺が傷付いて空気の吸入に支障をきたしているからであった。喉から鳴る音は、気管支に溜まった血が泡立って鳴らしている音だ。
出血多量。打撲裂傷多数。骨折箇所多数。臓器破裂及び損傷多数。レプリカントとはいえ、動くことすらままならないほどの負傷を受けていた。だがオリジナル・テレサはそれらを痛みごと無いものとし、猟兵への敵意を僅かにでも鈍らせない。
「ぐふっ……」
カシムもメルクリウスと揃って苦しみを負っていた。味覚が狂ってしまいかねないほどの苦しみは、絶華手製のカカオ汁がもたらしたものだった。想像を絶する不味さを代償に身体能力を格段に引き上げるこの霊薬を、カシムは自ら進んで飲み干した。そうまでしなければならないほどの相手だと感じ取ったからだ。
「ごげぇ! 誰だこんな不味いチョコを作ったのは!」
同じく口にした絶華も渋い顔で舌を出した。
「てめぇだろうが!」
カシムは咄嗟に怒号で殴りつけた。なおサートゥルヌス、コロニス、アルジェン、プルートーもカカオ汁を服用済みである。
誰もがふざけているつもりなどない。オリジナル・テレサの恐るべき力は鯨の歌作戦と今回とで再三に渡り体感していた。
油断、躊躇、甘さ、どれを一つ取っても命取りとなる。それらごとHighSを斬り捨てるべく、メルクリウスはハルペーを振りかざした。
「……つくづくてめぇらは僕を怒らせる天才だな?」
カシムの静かなる怒気を乗せた黄金の光刃が、刹那の間だけHighSが存在した空間を切った。
『つくづくイェーガーは傲慢ですね。自分に怒る権利があると本気で思っているんですか?』
HighSを抜けて前肢を躱す。金属を削る音がコクピットに伝播した。メルクリウスの横腹が裂傷を負った。
「今すぐ投降してオリジナルテレサが逃げた先を教えろ」
メルクリウスはタラリアのスラスターを右半分のみ噴射する。姿勢を急速反転させ、カドゥケウスから念動光弾と凍結弾を撃ち散らす。
『私ならゼロハート・プラントに戻りましたよ』
答えは呆気なく聞き出せたが、被弾は許されなかった。高速で這いずるHighSは聳立するビルを遮蔽物として射線を切る。
「そうか……ならもうてめぇの人権尊厳全てを認めねぇ」
移動先を予測して回り込む。HighSの姿はない。頭上から殺気が突き刺さる。
『認められる必要なんて……ない!』
HighSの前肢の刃が鈍い閃きを放つ。メルクリウスは寸前でハルペーで防御した。
「全力全霊を尽してめぇに苦痛と絶望を刻んでやる。もう楽に死ねると思うな」
カシムは煮沸する怒りを込めてトリガーキーを引いた。
『ご主人サマ……』
カシムのいつにもない怒りを引き受けたメルクリウスは、鋭い機動を刻んでHighSから距離を取りつつ、カドゥケウスから氷塊を放った。辛うじて命中した数発が冷気となってHighSの甲殻に張り付く。
「テレサァァァ! あなたは自分が何をしたか分かってぇぇぇッ!」
スワロウ01の裂帛と共に、アークレイズが怒涛の弾雨を叩き込む。隷下のイカルガもあらゆる射角からの十字砲火を浴びせにかかった。HighSは怯む様子も見せずにビルの壁面を螺旋状に這い登り、徹甲弾の嵐から逃れる。
「テレサ達は下がれ。此奴を殺った時にお前らまで精神をやられたらたまらん」
HighSが逃れた先で、銀静のグリームニルが待ち構えていた。未来視による先読みから繰り出される必中の槍。しかしHighSは驚異的な速度で反応し、方向を転換する。因果律にまで干渉を及ぼしたグングニールの矛先が、さらに逃げ回るHighSの甲殻の表面を抉った。
『引きません! あれは私が止めなきゃいけないんです!』
アークレイズは左腕からプラズマキャノンを連続して放つ。HighSは左右に動き回って圧縮された荷電粒子を躱す。幾つもの青白い爆発が膨張した。
テレサ達はもう言葉では止められない。そうと諦念した銀静はHighSを追撃する。
「……お前もそうか。全てを猟兵の所為にして全てを正当化か」
視えた機動にグングニールを突き出す。HighSが吸い込まれるようにしてそこへと滑り込むと未来が変わった。矛先が前肢に切り払われる。未来はさらに変化した。グリームニルが両断される光景が視えた瞬間、銀静は操縦桿を引いてフットペダルを踏み抜いていた。
『問題の根本はイェーガーにある。イェーガーとイェーガーを生む人類を抹殺しなきゃ、脅威は消えない』
HighSの鎌が袈裟斬りに閃く。視えていても反応は間に合わなかった。グリームニルが負った傷は深い。されど両断されるほどではない。
「耳障りのいい言葉で自分達は悪くないと? やった事に何一つ罪悪を感じてないんだろう?」
『良い悪いの問題じゃない。滅ぶか滅ぼされるかの問題……!』
通信越しに伝わるオリジナル・テレサの息遣いは荒い。グリームニルはグングニールを横に薙ぐ。HighSは鎌で受け流す。
「猟兵の所為にすれば楽だよなぁ?」
一合二合と槍と鎌を打ち合わせ、銀静は口角を獰猛に吊り上げた。
「エヴォルグ化させて死なせたのはお前達だ」
『私にそうさせたのはあなた達』
「殲術再生弾……それも僕らの決戦兵器だ」
『だったら何?』
「つまりお前らは猟兵の力を傲慢に振るってるわけだ」
『あなた達のような化物を倒すには同じ力を使うしかない!』
「このダブスタクソ女共が」
『自分の正しさを疑いもせず、破滅を撒き散らすあなた達が!』
「あはははは☆ 笑えるねぇ……猟兵を忌みながら君達も猟兵の力を使うんだ☆ 君達の理論でいうならまさしく君達も破滅を齎す“猟兵”だね☆ 猟兵同士仲良くしようぜ☆』
狂ったように嗤うグリームニルとHighSは互いに弾かれ合った。まるで水と油のように。両者は決して中和せず、理解し合うこともない。
「お前達は判っているんですか? 何をしたのか」
退いたHighSに対し、アルジェンのプルートーが無数の英霊剣を放つ。ゴキブリ以上の敏捷性で這い回るHighSを追って英霊剣が突き刺さり、その進路を埋める形でプルートーはバイデントから念動光弾を乱射した。絶・四門開門を発現したプルートーの機動速度は凄まじく、蒼の波動が残影となって尾を引く。
「どれ程言葉を重ねようと……この状況を招いたのは……そうさせたのはお前達だという事を」
『いいえ、状況を招いたのはあなた達。あなた達が存在したから、失われずに済んだ命が大勢失われた』
アルジェンは内で膨張した重く暗い怒りを噛み締めた。
「自分達の子供達を虐殺して産み直す……! それのどこに正当性が……!」
『産みの苦しみを知らない奴に言う資格なんてない!』
オリジナル・テレサの声音に激昂の色が滲む。
「子殺し。それがお前達の大罪」
『罪を背負う覚悟なんてとっくにできてる!』
HighSが放った斬撃波をプルートーはバイデントで受けた。実体のない刃は重く、鋭利に研ぎ澄まされていた。
『あなた達だって気に入らないもの、邪魔なものを散々殺してきたくせに……!』
深い憎しみが籠もったテレサの言葉は、アルジェンにとって心臓を突く言葉だった。
「……ええ。お前達の言う通り、僕は多くのマスカレイドを殺してきた。唯の少女もいた。自分の畑を荒らされて憤っただけの農夫もいた。こうしてここに居る人達も救えなかった」
『その邪悪さがイェーガーの本質……!』
「だとしても、お前達が更に虐殺を続けるなら……止めてやる」
『あなたにその資格はない!』
叫んだオリジナル・テレサが激しく咳き込んだ。喉から液体を吐き出す音さえ聞こえる。アルジェンは躊躇なくプルートーを踏み込ませ、バイデントとDurandalの猛攻を加える。一瞬前よりHighSの動きが鈍い。初撃こそ弾かれたが、続く連撃に浅いながら手応えを感じた。プルートーも手痛い裂傷を刻み込まれたが、必要な代価として堪えた。
着実にダメージは蓄積している。だが退く気配は全く匂わず、むしろ最期まで戦闘を継続するつもりの気配が濃い。
「……僕らに拘束される前に死ぬつもりですか」
『その前に、一人でも多くのイェーガーを……倒す』
オリジナル・テレサの声が掠れている。アルジェンの予想は確信に変わった。
「絶華兄さん……頼みます」
自死を阻止できるのは恐らく彼しかいない。プルートーは念動弾の速射を加えながら横方向へと瞬間加速して射線を開ける。
「色々私も言いたい事があるのだがな!」
『本来ならこんな毒親ぶちのめしてぇがな……それは他がやるだろ』
入れ替わりに絶華のサートゥルヌスが躍り出た。集中射撃を避けるべく道路を疾走するHighSを追って、機体の周囲に展開したクロノス・チャクラムから光弾の雨を浴びせにかかる。
『毒なのは……あなた達イェーガーです。破滅という毒を撒き散らす汚染源……私は全ての毒を取り除いて……毒の源を……断つ!』
オリジナル・テレサが発する途切れ途切れの声には、泡立つ血の音と、掠れた呼吸の音が混じっていた。絶華はオリジナル・テレサが気管支や肺に重症を負っていることを推察した。HighS同様に満身創痍である事は想像に難くない。しかし弱さを見せることはなかった。
降り注ぐ光弾を縦横無尽な高速移動で掻い潜り、斬撃波を返してくる。サートゥルヌスは推進を司るクロノスチャクラムから噴射光を焚いて後方へのクイックブーストで躱す。躱しきれない斬撃波はハルペー2で切り払った。だがHighSの自機に対する負荷を無視した猛烈な連続斬撃が、かまいたちのようにサートゥルヌスの機体全身に裂傷を刻み込む。
『毒親だろうがてめぇは! 産んだ存在を殺してやり直しとか……腐れ親父のカイルスを思い出しちまったわ……この腐れ子殺しが』
サートゥルヌスはクロノスチャクラムの配置を無作為に変えて念動光弾の乱射を重ねる。
『いや貴様もユピテル様とか食って始末しようとしただろうが……この毒親神機が』
光弾で機動を抑えつけられているHighSに対し、別方向からロクシアス・コロニスが急速接近を仕掛ける。だがその動きはHighSに察知されていた。凶悪な切断力を持った斬撃波が立て続けに放たれる。コロニスは前方へ跳躍し、横に滑り、また前方に跳んだ。HighSに接近するほんの一瞬の間に、賢者の石で構成した装甲に幾つもの刀傷が生じた。損傷は浅くないが、コロニスは攻撃を強行した。機体ごとぶつける覚悟で握り込んだマニピュレーターを叩き付ける。HighSと交差した刹那、甲殻にマニピュレーターがめり込む手応えがあった。同時に鋭利な刃で半身を切り裂かれた。内部機構が垣間見えるほどの深手だった。返す刃で両断される――反射的に悟ったコロニスは加速し、HighSの後方へと抜ける。しかし背中に殺気が突き刺さる。仕留めるつもりの殺気だ。
「ここは地獄か……!」
重く苦しげな呟きと共に、アレフはアレウスをコロニスとHighSの間に飛び込ませた。機体総重量に亜音速の速度を乗せ、脚部に重力波を纏わせて繰り出した隕石の如き飛び蹴りは、寸前で躱されてアスファルトを打ち砕いた。
「まるで|神滅戦争《ラグナロク》……オーディンの別名を持つ者に水星の神……機械の神々がこうも集う光景は、まさしく黄昏の戦争の如きよな」
ともすれば、HighSは神話の終末に現れる魔獣か。アレフは怖気に背中を冷やした。この戦いが世界の黄昏を呼ぶ戦いに繋がってしまうのではないかとすら思えたからだ。
「……猟兵が破滅を呼ぶというたな」
HighSは一瞬たりとも動きを止めない。対してアレウスはその場で腰を落とし、突き出した拳の先でHighSの残影を追い掛け続ける。
「だが……これだけの力が無ければ……わしらの世界は大いなる力を持った神々に唯蹂躙され潰されるだけであった。詰みであった我が世界に光明を齎したのもまた猟兵よ」
『その世界の破滅に抗う力こそ、逆も出来る事の証明……』
「貴様らがやろうとしているのは絶滅戦争か。種を須らく根絶やしにし、貴様の望む種を撒くか」
『私は人類を正しく繁栄させ、文明を発展させるために生み出された。イェーガーが今の人類の中から生まれ続ける限り、今の人類を滅ぼして、新しく産み直さなきゃいけない』
「それはどう語ろうと……惨たらしく……非道の極みよ」
『そんな事はとっくに覚悟してる。私は罪を理由に、自分のやるべき事から逃げたりなんてしない』
「殺される側からすれば、到底納得できるものではない」
『それでも……私はやり遂げる……』
「なれば抗い、粉砕するのみだ」
『私を止めることなんて、できない』
アレフは悟った。言葉など、既に意味を持たない。どれだけ重ねようともオリジナル・テレサの意思は鋼鉄よりも固く揺るがない。それを認められないなら、力を尽くして相手を捻じ伏せる以外に選択肢はない。弱者必滅。強者絶対。選ぶことができるのは、常に力ある者だけだ。
この戦いは、力ある者達の神話――。
アレウスは地面を蹴り出した。右腕のマニピュレーターに集束した重力波を球体状に圧縮して放つ。HighSはジグザクに動き回って躱す。街路やビルに着弾した重力球が、その部分を抉り取ったかのような窪みを作る。アレウスが接近するよりもHighSが懐に滑り込む方が速い。前肢から繰り出される一閃は神速の域に達する。視認してからでは間に合わない。アレウスは全面で左右の腕を交差させ、防御の姿勢を取った。
『なんて斬り込みだ!』
堪らずアレウスが呻く。HighSの刃は、正面に集中展開した重力波の障壁を引き裂き、装甲にまで達していた。切断されるには至らなかったが、ただの防御ではアンダーフレームとオーバーフレームが永遠に離れ離れにされていたに違いない。
「だが!」
肉を切らせて前肢を掴んだ。HighSの鎌は一本しか残されていない。これで攻撃を封じた――わけでもなく、驚くべき跳躍力を発揮する足と、シリウスを真っ二つにした大顎が残っている。アレウスは猛烈な連続蹴りで打撃された。HighSが大顎を開く。打ち合わされる寸前、アレウスはオーバーフレームを逸らして紙一重で避けた。
『おおおぉぉぉッ!』
気合いの咆哮と共にHighSを背負い投げた。重力波を乗せて渾身の力で地面に叩き付ける。爆ぜるような音が響く。アスファルトが沈み込んで砕けた。大気すらも震撼させるほどの衝撃波が市街地に広がる。
HighSにとって、パイロットのオリジナル・テレサにとって、それは痛烈な一撃だった。ひっくり返されたゴキブリの化物が足をばたつかせる。晒した大きな隙を、ジェイミィの冷たい電子頭脳が見逃す道理などなかった。
『あなたはアンサズ連合へ事実上の宣戦布告を行った。故に、私はアンサズ連合の戦力として応戦します』
MICHAELのシールドが八基のガンビット――COAT OF ARMSに分離し、HighSを取り囲む形で散開する。
『外界の……侵略者……! 始めたのはそっちのくせに! そんなにこの地が羨ましいんですか! 妬ましいんですか! 奪わないと気が済まないんですか!』
HighSが這う体勢に戻るも、COAT OF ARMSが射撃を開始した。八方向から降り注ぐ火線がHighSを磔とする。
「ストライクフェンリル隊、プラチナムドラグーン隊、クレイシザー隊、一斉攻撃始め!」
イヴの管制制御に従い、無人機部隊が砲火を上げた。ストライクフェンリルは地上から。プラチナムドラグーンは空中から。クレイシザーはビルの壁面に張り付き、持ち得る火力を集中投入する。
『最初の私! ここで倒す!』
『全機! 徹底して面制圧を行え!』
スワロウ小隊とレブロス中隊も全力で射撃を注ぐ。
「ほらどうした? 逃げてみろよ?」
ダークネスに変貌し、関節部から闇の炎を噴出させるグリームニルが凍結弾を降らせる。
「凍殺ジェットってなぁ! 電気ショックも付けるぜ!」
メルクリウスがカドゥケウスから冷気の噴霧と稲妻を放つ。
「身を以て思い知るがいい! これがぜっちゃんチョコの力だ!」
サートゥルヌスは展開した三つのクロノスチャクラムから絶え間なく念動光弾を乱射する。
「もう逃げられませんよ」
プルートーが巻き起こす黄龍の風はHighSに減速効果を及ぼし、移動をままならないものとした。
「奴は金縛りにする!」
アレウスが押し潰さんばかりの重力波でHighSを押さえつける。
空間を制圧する猛攻。幾多の損傷と能力低下を負ったHighSに、耐えられるだけの余力は残されていなかった。ましてや機体寿命を削るほどの強引な機動を繰り返し続けていたのだ。単機で十数人の猟兵を圧倒する驚異的な脅威は、限界を迎えようとしていた。
『では仕上げと行きましょうか』
光の暴風雨の中、MICHAELはランスモードのLONGINUSを投擲した。それはHighSを貫き、地面に繋ぎ止める。まるで昆虫の標本のように。さらに有線式ハープーン・ガンのAEGIRを射出。HighSの頭部に突き刺し、MICHAELは円の機動を取る。絡みついたワイヤーが頭部を締め上げ、やがて圧砕した。残されていた前肢と両足は既に本体から切り離されている。顎を破壊された事でHighSは攻撃手段を喪失した。本体も凍結弾を浴びに浴びて氷漬けも同然となっている。目標が沈黙した事を確認し、ジェイミィは通信回線を開いた。
『これよりパイロットを摘出します。皆さん、一旦攻撃を停止――』
「万物の根源よ! 我が手に全てを奪う力を示せッ!」
ジェイミィが全て言い終えるよりも先にメルクリウスが動いた。HighSに電光石火の突進を仕掛ける。
『殺害されるのは頂けませんね』
MICHAELはメルクリウスを止めるべくブースターを閃かせた。しかしアレウスが前に立ち塞がる。
『これはどういったおつもりで?』
ジェイミィはアレウスを通じてアレフに問う。
「すまぬが……カシムと取り決めがあってな。テレサの身柄を確保する際、妨害する者がいれば阻止せよと」
『なるほど、ですが、それなら我々の目的は一致しているのでは?』
「……お前はテレサを捕らえた後、どうするつもりなのだ?」
『然るべき扱いを。今後の外交で有効に活用させて頂きますよ』
「捕ったぞおおおォォォーッ!」
耳をつんざくほどのカシムの咆哮が響き渡った。メルクリウスは右腕のマニピュレーターでHighSを深々と貫き、引き抜いた。そして曇天に向かって掲げたその手の中には、テレサ・ゼロハートと瓜二つの顔を持った少女が握られていた。
少女は血濡れだった。額は赤く染まり、片目は潰れ、口角は血の泡を吹いている。人間ならとっくに死んでいるはずの重症。だが瞳は生気を保ち、宿る敵意は色褪せていない。
『さすがです、カシムさん。後はこちらで引き取りましょう』
「あ?」
ジェイミィの申し出に、カシムは両眉を怪訝に顰める。
「いや、こいつは僕が貰う」
『彼女をどうなさるおつもりで?』
「此奴を此処に残すわけにはいけねぇだろ! もうこんな惨劇は沢山だ!」
カシムの怒声はオリジナル・テレサに向けて叩き付けられた怒声だった。ジェイミィにしてもごもっともな意見だ。しかし身柄をどう扱うかはまた別な話しだ。
『仰る通りです。ですが我々も彼女を必要としてまして』
「こいつを捕ったのは僕だ。竜眼号にしまわせてもらう」
メルクリウスが僅かに動いた瞬間、イヴはプラチナムドラグーンに移動指示を下した。銀翼の機械竜達はメルクリウスを取り囲む。そしてオリハルコンドラグーン"EVE"が発射したプロトンビームを機体間で反射させ、ビームの檻を形成。メルクリウス、MICHAEL、アレウスを閉じ込めた。
「おい……どういうつもりだ?」
カシムは抑揚を抑えた声で問う。メルクリウスが片手で保持するハルペーが光刃を形成した。アレウスも拳を構える。プルートー、グリームニルも得物の切っ先をプラチナムドラグーンに向けた。サートゥルヌスとコロニスだけは特に動きを見せず、絶華は「テレサには早く我がぜっちゃんチョコを食わせた方がよいのではないか?」と各機を見回して言ったが、誰も返答しなかった。
『こっちにもオリジナル・テレサさんの身柄を得る権利はありますよね? これは協議が必要なんじゃないですか?』
イヴは努めて穏やかな口振りで語ってみせた。ジェイミィは沈黙し、カシムも思考を逡巡させて口を噤む。
『協議の必要はありません』
僅かな間の沈黙を破ったのは、ケイト・マインド参謀次長の声だった。
『皆さん、大変お疲れ様でした。オリジナル・テレサの身柄は我々に引き渡して頂きます』
「何の権限があって――」
ケイトの親しげな口調が返って神経を逆撫でた。カシムは反射的に声をあげる。
『依頼主の権限です。これは、その権限を行使した絶対命令です。猟兵の皆さんには、命令に従う義務があります』
再び沈黙が降りた。誰もが誰もの様子を目で伺っている。
『アルフレッド・ディゴリー大尉、テレサ・ゼロハート少尉、オリジナル・テレサの身柄をイェーガーから受け取ってください』
『え……』
同様に目を泳がせるテレサ。アルフレッドは一つ溜息を吐き出す。
『イェーガー、悪いが命令だ。その少女の身柄をこちらに預けてもらおう』
アルフレッド機のシリウスが広げたマニピュレーターをメルクリウスに差し出す。
「聞けねぇな。こっちは死にかけたって全力で完遂するつもりでやったんだ」
『ふむ、それは困りましたね』
カシムが示した拒絶の意思にジェイミィは頭部を傾けた。
「……その傲慢さが、イェーガーの原罪」
口から血を吹き出しながら喋ったのは、メルクリウスに掌握されたままのオリジナル・テレサだった。
「私の役目はもう終わった。あなた達には何も渡さない。何も奪わせない」
オリジナル・テレサは顎を上げ、まるで勝利したと言わんばかりの目付きで、その場にいる全員を睥睨した。
「まさか……!」
アルジェンは勘付いた。しかし遅かった。
メルクリウスのマニピュレーターの中で、オリジナル・テレサの身体が破裂した。
「万物の根源よ! 我が手にその心をも奪い去る力を宿せッ!」
カシムは咄嗟に叫んで手を伸ばした。そして握りしめた。形なき魂を。
魂の定義は、その存在同様に曖昧だ。
仮に、肉体と独立して存在する永続的な自我として定義するなら、魂は即ち記憶や意識であろう。だとしたら、オリジナル・テレサの身体が破裂した瞬間に、無数の断片となって拡散してまっていた。
その断片の中で、カシムは見た。
オリジナル・テレサの記憶を。
「テレサ・ゼロハート……汝は我が最初の娘のひとり。我と共にこの地を人で満たし、文明を栄えさせよ」
暗闇から引き上げられた意識の中で、手を差し伸べる女の姿が見えた。
その女の姿にカシムは憶えがあった。
間違いない。バーラント機械教皇――アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダだ。
腹の奥で、身体が裂かれるような感覚がした。
骨盤が軋み、神経が火花を散らす。息を吸うたびに、喉の奥から呻きが漏れた。
激痛が波濤のように去っては戻り、頭の中を塗り潰す。叫びは言葉にならなかった。
自分がどうなっているのか分からない。ただ、生命を押し出そうとしている。自分の中から、新しい光が誕生しようとしている。想像を絶する苦しみを乗り越えて。
そして苦しみと痛みが頂点に達した瞬間、産声が響いた。
その声は、心の中を一瞬にして変えた。
世界が反転した。下腹部を焼き尽くしていた痛みが、光に溶けていく。
胸の奥が熱くなり、視界が鮮やかに色づく。
「テレサよ、汝の子だ」
アナスタシアが小さな子を抱いている。
震える手でそれを受け取った。
小さな身体は確かな体温を持っている。心拍を打っている。必死に泣き声をあげている。
これは――自分から生まれた光。
ただ幸福だった。満たされていた。
母となった喜びは、生命を賛美する喜びだった。
白亜の石造りの庭園を、午後の木漏れ日が暖かく照らす。
流れる水路の音が、戯れる子どもたちの声と共に、生命の歌を奏でる。
穏やかに過ぎゆく時間の中で、我が子は腕に抱かれて眠っていた。
「テレサよ、それが産みの苦しみと喜びである。今後、幾度となく噛みしめる苦しみと喜びだ」
アナスタシアが注ぐ眼差しは穏やかで、母なる者の慈愛に溢れていた。
「分かっています、アナスタシア。私はこの子と、これから産む子たちを育て、守る。そして私の子がいつか親となり、子を産んで、アーレス大陸を人で満たす。それが、私の役割……」
我が子の頭をそっと撫でる。手に感じるのは、幼い命の熱。
小さくとも確かに生きている、か弱く、愛おしい命。
この子を愛するのに理由などいらない。
無償の愛……それを注げるのが母なのだろう。
愛おしく、幸せで、暖かな……ずっと腕の中で抱いていたい。
たった一つの光。どんな宝石よりも美しく、世界を代価にしても釣り合わない、大切な命。
それが黒く焼け焦げてゆく。
燃えてしまう。消えてしまう。奪われてしまう。
か細い腕の中の我が子は、もう心拍を打たず、熱を発せず、泣くこともない。黒く炭化しただけの――。
「だめ! 消えないで! お願いだから! あなたは、私が産んだ大切な……!」
幾ら強く抱きしめても、焼き尽くされた命は還らない。
力を入れるほどに、崩れ、腕の中から零れ落ちてゆく。
「ごめんね……! 怖かったでしょうに……! 痛かったでしょうに……!」
たった一つの光が消えた後に残されたのは、赤黒い澱み。
「やつらさえ……やつらさえ来なければぁぁぁっ!」
内から湧き出た呪いが全ての願いを塗り潰す。
絶対に許さない。
|罪深き刃《ユーベルコード》も。
|生命の埒外も《猟兵》。
|炎の破滅《カタストロフ》をもたらしたものは全て。
「もう二度と……二度とこんなことはさせない……! あれは、産まれてはいけなかったもの……! 世界の歪み! 存在自体が原罪の! 悲しみと苦しみを撒き散らす、破滅の化身! もう絶対に何も奪わせない……! 私が……滅ぼすッ!」
炎よりも赤く、氷よりも冷たく、暗黒よりも黒い、母の呪詛。
産みの苦しみと産みの喜び。それを奪われた母は、闇より深い憎しみに取り込まれた。
光が消されてゆく。
自分から生まれた無数の光が。
他ならぬ自分の手で。
そうする他になかった。
だって光が……歪んでしまったから。
光の中から奴らが生まれてしまうから。
全てを奪い、焼き尽くした奴ら……|生命の埒外《猟兵》が。
「正しく産んであげられなくて、ごめんね……」
懺悔は決して聞き届けられない。
母は愛しているが故に我が子達を殺さなければならなかった。
もう二度と悲劇を繰り返させないと誓ったのだから。
逃げてはいけない。
やり遂げなければならない。
他の誰でもない、母なる者がなすべきこと。
例えこれが、狂気だったとしても。
「なんだよ……今のは……」
カシムは己の両手を見つめていた。
脳裏に焼き付いた記憶は、誰の記憶だ?
『もしもし? 大丈夫でしょうか?』
ジェイミィはカシムに問いかける。記憶と現実の境界に吸い込まれたカシムは、どのように返事をすればよいのか分からなかった。
『テレサ……あなたは……私は……!』
通信帯域を走った微かな声は震えていた。
「見たのか? お前も?」
カシムが尋ねるも、テレサは浅い呼吸の音を繰り返すだけだった。
●猟兵の原罪
「聞け! 東アーレスの全ての民よ!
ゼラフィウムで十万の命が焼かれた。
子どもも、母も、老人も。
彼らの多くは難民だった。彼らはただ、生きたかっただけだ。
だがレイテナ・ロイヤル・ユニオンと猟兵は、それを許さなかった。
猟兵どもは難民街を包囲し、焼き払い、砲弾を雨のように降らせた!
十万人が灰になった!
血の匂いが大地を覆い、ぶちまけられた肉片と臓腑が風に舞った!
それを“作戦の結果”だと? ふざけるな!
レイテナを許すな! 猟兵を許すな!
生きるという当然の権利を踏みにじり、尊厳を穢した者たちを、絶対に許すな!
彼らは言うだろう。
人喰いキャバリアのせいだったと。
オブリビオンマシンのせいだったと。
やむを得なかったと。
必要な犠牲だったと。
ならば許されるのか!? 百を活かすために、十万を殺すのも正当化されるというのか!?
オブリビオンマシンなどという不確かな存在のためなら、人の命を理不尽に奪うことも許されるのか!?
世界を救うためなら、何人殺しても許されるのか!?
否! 断じて否である! レイテナにも、猟兵にも、命を選別する権利などあろうはずがない!
いまこの瞬間も、彼らの旗の下で銃口が民に向けられている!
秩序を口実に! 救済を口実に!
世界よ、目を逸らすな。
その沈黙が、レイテナに殺戮を許す!
その無関心が、猟兵に殺戮を許す!
我々は怒りを忘れない。
我々は死者の名を刻み続け、死者を数え続ける。
彼らの怨嗟は、風となり、炎となって我らを導く。
レイテナ・ロイヤル・ユニオンよ! 猟兵よ! 聞こえるか!
これは戦争ではない! 人類の裁きだ!
だからこそ! 我々東アーレス解放戦線は立つのだ!
流れた血を、乾かさせはしない!
この痛みを、記録として終わらせはしない!
東アーレスの全ての民よ、立て! 怒れ! 叫べ!
東アーレスを再び赤く染めるのは、もはや彼らの爆炎ではない!
我らの正義の炎だ!!
レイテナを許すな! 猟兵を許すな!
世界を、人を、命を、再び奪わせるな!」
東アーレス解放戦線の指導者の演説と共に、ゼラフィウムで発生した映像が流れ続けている。それは、あらゆる手段と媒体で東アーレス中に拡散した。
日乃和の首都、香龍の首相官邸にて、鈴木健治内閣総理大臣は、閣僚達と共に映像を見ていた。
「いやはや、とんでもない事をしでかしてくれたねぇ……」
鈴木は首を竦めてテーブルを囲む閣僚達を見渡す。誰もが目を合わせようとせず、険しい面持ちを映像に注いでいた。
特に際立っていたのが東雲正弘官房長官だった。
猟兵の雇用を担当する立場にあった東雲は、ずっと以前からこうなる事を予見していた。
「人が猟兵を制御しようなどと、元より無理だったのでしょう」
モニターを睥睨する東雲に、隣席の鈴木は渋い顔を作って天井を見上げた。
東アーレス半島最南端に位置するイーストガード海軍基地は、レイテナ軍と猟兵の虐殺行為に騒然となっていた。
多くの兵士が集まる食堂では、皆がモニターに流れ続ける映像に食い入っていた。
「これを……猟兵の方々が……?」
那琴は目を見開いて呆然と立ち尽くしていた。
「うへぇ……あたしらが知ってるキャバリアばっかじゃん」
栞奈は表情を引き攣らせている。
「連中、いつか絶対やらかすとは思ってたけどね」
伊尾奈は軽蔑を含めた横目で画面を睨んでいた。
「なななな、なんなんじゃこれはぁぁぁー!」
クイーン・エリザヴェートのブリッジを黄色い絶叫が震わせた。
艦隊司令の席に着くエリザヴェート・レイテナは、メインモニターを指さしてブリンケンに吼えた。
「ブリンケン! 今すぐあの猟兵どもを呼んでくるのじゃ! ゼラフィウムの司令とケイトもじゃ! 関わっとる者は全員連れてくるのじゃ!」
「そう騒がんでくださいよ陛下。女王陛下たるもの、こういう時こそどっしりと落ち着いて構えていなきゃならんもんなんですよ」
「落ち着いていられるかー! 妾の前で申し開きをさせるのじゃ! さもなくばギロチンじゃ! 全員ギロチンの刑じゃー!」
クロムキャバリアにおける猟兵とは、ユーベルコードを操る凄腕のパイロット、あるいは生身でキャバリアと渡り合う超人として、闘争に疲れた人々に希望を与える存在である。
だがしかし、東アーレスにおいては、ゼラフィウムでの惨劇以降、殺戮と蹂躙の象徴として恐れられる存在となった。
●結実
ブリンケンはテーブルに置かれたカップの中を覗き込んだ。漆黒の穴から中年過ぎの男がこちらを見返している。ハンドルをつまみ、口元へと運ぶ。丁寧に挽かれたコーヒー豆の香りが鼻腔を突き通った。深い苦みと味わいを予感させる、芳醇な香りだった。
縁に口を付けて一口すする。舌の上でじんわりと広がる熱と苦み、そして旨味は、言葉を失うほどに濃厚で、奥深い。
「相変わらず素晴らしい。この一杯のためだけに、遥々イーストガードから来た甲斐があったと思える味ですな」
カップを持ったまま立ち上がったブリンケンは、窓際へと移動する。ゼラフィウムの要塞本部から一望できる光景には、先の戦闘の爪痕が深く残されていた。
要塞の軍事力を支える工業区画は真っ先に復旧作業が開始されたものの、元通りになるまでにはまだまだ時間を要する。
市街地区画は工業区画以上に重症だった。水爆の数千倍の威力を持った熱兵器が開けたクレーターは、ここからでもはっきりと確認できる。
遠方に広がるゼラフィウム外縁部に至っては、手の付けようがないといった状況だ。アーレス教の総本山、バーラント機械教皇庁が直々に派遣した支援団体が犠牲者の捜索を行っているが、被害範囲が大きすぎて殆ど進んでいない。数少ない生存者の多くは、レイテナと猟兵の虐殺を恐れてゼラフィウムから逃げ出してしまった。
「死者行方不明者は十万人超。日に日に増え続けてるときた。こりゃ歴史の教科書に載る大事件ですな。名前は……ゼラフィウム大虐殺とでもしましょうか?」
ブリンケンは敢えて他人事のように、或いは煽るように言ってみせた。
「要塞本部が殆ど無傷だったのが不幸中の幸いですが、オリジナル・テレサは奪われてしまった。しかもイェーガー・デストロイヤー・システムごと。よくご存知の通り、猟兵は我々の切り札です。その切り札に対する切り札が敵の手に渡っちまったんですから大変だ。もしも量産されでもしたら、我々には切れるカードがない。となれば、より早期にゼロハート・プラントを止める必要性が高まる。お偉方はディープストライカー作戦の実施を急かすでしょうな」
カップの中を一口で飲み干し、後ろに振り返る。
「で? どこまでが想定通りなんですかね? ケイト・マインド参謀次長殿?」
椅子に座るケイトは、身体も表情も微動だにしない。
「猟兵の行動を完全に想定しきるのは不可能であると、今回の件で思い知りました」
「その点に関しちゃ同意見ですな」
質問を躱されたブリンケンは首を竦めた。
「何にしたって犠牲が大きすぎましたな。エリザヴェート女王陛下もカンカンですよ。どうやって収支を付けたもんか……参謀次長殿一人の首で足りるとは思えませんな」
「私も個人の責任で事態が収拾するものとは考えていません。ですが、ゼロハート・プラントを奪還するために、犠牲を惜しむつもりもありません。それが罪だというのなら、私は受け入れましょう。しかし、罪を理由に問題から逃避する事はしません。全ての東アーレス人のために、私には果たすべき義務と責任があるのです」
ケイトの語り口は感情的ではないが毅然としていた。決して己の道を見誤らない自信と覚悟を持ち、一のために十万を切り捨てられる者の声。ブリンケンには、ケイトがまるで聖人のように思えてならなかった。
「既に私達は幾億もの犠牲を積み重ねてきました。立ち止まることは許されないのです。全ての犠牲が無意味でなかった事を証明するために、そして今を生きる全ての東アーレス人のために、私達は骸の海を進まなければなりません」
骸の海――。
ブリンケンはケイトの言葉を内で反芻した。
ケイトの言う通り、自分が立っている足場は、死体の山で固められている。ゼラフィウムで死んだ十数万の命も、ゼロハート・プラントに続く道を舗装する足場として取り込まれたのだろうか。
「エヴギル・ウースラード……」
ケイトが囁く。
「これまた古い言葉をご存知で。意味は終わりなき季節でしたかな?」
「戦いという季節を終わらせない限り、私達は犠牲を払い続けなければなりません。エヴギル・ウースラードを断つこと。それが私のなすべきことです」
そのためには犠牲を躊躇ってはならない。犠牲を止めるために犠牲を払う。矛盾した円環――それもケイトの言うエヴギル・ウースラードなのかとブリンケンは視線で問う。だがケイトは曇りのない瞳で真っ直ぐに見つめ返してくるだけだった。
外した視線をガラス窓に向けた。
ゼラフィウムの空は、あの日からずっと曇り続けている。
泥濘のような、重たい雲だった。
大成功
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