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God never knows

#UDCアース

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#UDCアース


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 ――かみさまに、会いに行きませんか。
 それは友達の友達の噂話から、或いはネットの掲示板から――はたまた、SNSのちょっとした呟きから、ぽろりと顔を覗かせる秘密の合言葉だった。
 ――かみさまは、あなたの望んだ姿で現れて、あなたを無条件に愛し、受け入れてくれます。
 それは、どうしようもない生きづらさを抱えて日々を過ごすものにとっては、酷く魅力的な誘いだった。もう二度と会えない筈の誰かの姿で、自分を受け入れてくれるのなら――それが、かみさまだろうが何であろうが、構うものかと。
 ――かみさまを呼び出す、秘密の儀式を一緒に行いましょう。人の足が絶え、廃墟となった場所に皆で集まって、かみさまを出迎えるのです。
 そう、その代償など些細なことだ。ちっぽけな自分のいのちひとつで、無上の悦びに包まれてこの世界とお別れできるのなら。
 ――ひとりなら、怖いかもしれません。でも、かみさまに会いたいと願う仲間が一緒です。誰かと一緒にいのちを断つことが、かみさま、あなたをこの世界に降臨させる祈りに代わるのです。
 そうだよね、たったひとり惨めに命を絶つよりは、最期のときを誰かと一緒に迎えたいよね。じゃあ、今度の儀式に参加してみようかな。
 半信半疑、ちょっとした好奇心もあった。それでも『死』へ向かう背中を、そっと押して貰ったような気がして、死への恐怖はやがて期待へと変わる。
 ――ああ、かみさまかみさまかみさまかみさま。いのちを、わたし達の未来をあなたに捧げます。

 生きづらい世界でもあるのだろう、とシーヴァルド・リンドブロム(廻蛇の瞳・f01209)は、何とも言えない表情で溜息を吐いた。事件を予知したのは、UDCアース――太古から蘇った邪神と、その眷属が蔓延る狂気の世界だ。
 一見、平穏で満ち足りたようにも見えて――その実、ひとびとの中には、行き場のない想いを抱えて葛藤し、漠然とした不安を抱いて日々を過ごすものも居る。
「……そうしたひとびとの心につけ込んで、邪神復活儀式が行われているようなのだ。皆には今回、この事件の解決に動いて貰いたい」
 ――かみさまに、会いに行きませんか。そんな、奇妙な儀式めいた噂が、或る地方都市で流行の兆しを見せているのだと言う。
「あなたを無条件に愛してくれる、素晴らしい存在である『かみさま』をこの世界へ一緒に呼びましょう、と。一見、交霊術のような誘いだが、実際は……一緒に自殺をしましょうと、まあそう言う類の誘いらしい」
 己のいのちを代償に、最期に『かみさま』から無上の愛を受け取り、幸福に満たされて逝きませんか――そんな『かみさまに会う儀式』は、ひとびとの噂話やインターネットに、或る日ふっと噂に上る。
「どうやら儀式は、真夜中……廃墟となった場所で行われているらしい。過去の足取りを辿るか、聞き込みなどで『儀式』の詳細を調べるか、調査の詳細は皆に任せる」
 ――もしくは。この『儀式』に参加するひとに接触し、力づくで止めるのもありだろう。UDC組織のバックアップもあり、該当する者へは特に問題なく会える筈だ。どうやら都市部の高校に在籍している、生徒数名がインターネットの書き込みに反応して、儀式へ参加することを表明しているらしい。
「かみさま、か……望む姿で、無条件に愛し、受け入れる存在。縋るものにとって、邪神か善神かなど些細なことなのかも知れないが」
 それでも、放置しておけば大規模な災害に繋がり、死を望まぬものも死ぬことになるから――どうか宜しく頼むと呟いて、シーヴァルドは狂気が潜む世界へと、猟兵たちの転送を始めたのだった。


柚烏
 柚烏と申します。今回は初めてとなる、UDCアースの依頼になります。オープニングの雰囲気からも察せられますが、暗い感じのじめっとした心情ものになります。どうしようもない、やるせなさのようなものが、全体的に漂うかと思います。

 第1章では、邪神復活の儀式について調査を行い、集まった情報を元に、儀式場へと向かいます。そして第2章ではボスを守る配下を倒し、第3章がボスとの決戦となります。

●第1章開始時に分かっていること
 邪神は『かみさま』と呼ばれており、廃墟で行われると言う『秘密の儀式』で召喚されようとしている。
『秘密の儀式』とは集団自殺を行うと言うもので、人づての噂やインターネットなどで、志願者を募っている。
 事件の舞台である地方都市の、高校生数名が儀式への参加を決めているらしい(接触は問題なく可能)

●プレイング受付につきまして
 お手数かけますが、マスターページやツイッターで告知を行いますので、そちらを一度ご確認の上、送って頂けますと助かります。此方のスケジュールの都合などで、新しい章に進んだ場合でも、プレイング受付までにお時間を頂く場合があります。

 第1章のプレイング受付は『3月27日 朝8:30~』に受け付けたいと思います。
 ゆっくりめのペースで運営していく予定です。じっくりPCさんの心情などの描写をしていけたらなあ、と思っております。鬱々とした雰囲気が苦手でなければ、どうぞよろしくお願いします。
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第1章 冒険 『危険な流行』

POW   :    儀式等を行おうとしている人々を力尽くで止める

SPD   :    過去に儀式等が行われた場所へと赴き情報を調べる

WIZ   :    聞き込みやインターネット検索により流行の発生源を探る

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

花菱・真紀
WIZ
「かみさま」に会うための「秘密の儀式」か…内容は集団自殺…ネットの中ではありふれた話かもしれないけど俺は死ぬのは怖いし誰かが死ぬのも怖い。だから知ってしまったなら止めたい。
念入りに【情報収集】何か聞き出さなきゃいけない場合は【コミュ力】で交渉してみる。さらに荒い手段を使うなら【ハッキング】だな。オカルトサイトも調べてみるけど今回は自殺掲示板も見ておいた方がいいだろうな。
「かみさま」は神様でも邪神だし…でも儀式をする人には正しく「かみさま」なんだろうな…。生きるのは苦しい時もあるそして何も楽しめなくなった時に絶望する…あれ?俺なんでこんなこと「知って」るんだ?
でも、今は止めないといけない。


藤・稔
供物はあたし♡って?それもハーレムモノ。カ、ハ、ハ。馬鹿馬鹿しくて堪らない。

オカルトとか自殺サイトとか、#かみさま タグとか洗ってみましょう。何ならおれが死にたがりの真似しても構わない。捨て垢作って発信。
『死にたい #死にたい #自殺 #助けてかみさま #命に救いを』
嗚呼打ち込むだけで死にたくなってくる。かみさま見つけたら手酷くぶち壊す。

この世にはかみさまなんざ居ねえんです。あるのは人間の悪意だけ。
死んだらもう治らねえし戻れねえのに、よくもまあそんな片道切符欲しがる。
死にたがりよりは、おれはまともだ。

『愛されたい #死にたい』
『私も連れて行って #かみさま』

……接触してきた奴から、情報収集だ。


雲烟・叶
なるほど、カミサマ。
いやですねぇ、そんなもんで救われるなら誰も困りやしねぇでしょうに。

とりあえず、インターネット経由で探してみますかねぇ。
問題の高校生達のアカウントを割り出して、死にたい、自殺、救い、などの単語で検索してみましょうか。
その会話に接触しているアカウントをまた遡って、と地道ですねぇこれ。
ま、ゆっくりやりますか。
他に同じようなインターネット方面から攻めるお人が居りゃあ、情報共有しても良いですしね。

高校生達のアカウントの割り出しが難しそうであれば、全体からハッシュタグなどの検索を掛けましょう。
神様、救済、集団、死にたい、解放、とか、引っ掛かりそうな単語はその辺ですかねぇ。



 ――かみさまに、会いに行きませんか。
 そんな言葉で始まる秘密の儀式への誘いが、密やかにひとびとの噂に顔を覗かせて――おいでおいでと、妖しげに手招いている。
「……供物はあたし♡ って? それもハーレムモノ。カ、ハ、ハ」
 インターネットでの情報収集を試みる、藤・稔(あこがれ・f16177)の低く掠れた笑い声が、虚ろに木霊していくけれど。やがてそれも不意に途切れ、どうしようもない溜息へと変わっていった。
「……馬鹿馬鹿しくて堪らない」
「うん、『かみさま』に会うための『秘密の儀式』か……。その内容は、集団自殺」
 一方の花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)は、ネットの中ではありふれた話かもしれないけど――と呟きながら、軽快にキーボードを叩いてオカルトサイトへとアクセスしていく。
「なるほど、カミサマ。……いやですねぇ、そんなもんで救われるなら誰も困りやしねぇでしょうに」
 纏う紫煙をヴェールのように揺らして微笑むのは、雲烟・叶(呪物・f07442)。銀の瞳をうっとりと細める彼に染み付いているのは、呪詛と怨嗟と隠し切れない血のにおい。
「ははは、死にたがりの真似した捨て垢作ったら、釣れる釣れる……笑えないわコレ」
 それでも、その混沌とした雰囲気に却って親しみを覚えるのか――稔はゆっくりと深呼吸をして、蒸気を纏う己の身体に張り付いたシャツを、ぱたぱたと仰がせていた。
『死にたい #死にたい #自殺 #助けてかみさま #命に救いを』
 ――そんなハッシュタグをつけて発信した、稔のアカウントへ寄せられた反応は、その大半が面白半分の煽りだった。
 だったらさっさと死ねよ、自殺動画のアップよろ――無責任に死を煽る『誰か』に対し、嗚呼と稔はモニター越しに澱んだ視線を向ける。
(「……打ち込むだけで死にたくなってきてますよ、おれは」)
 何でこんなことやっているんだ、と言う自己嫌悪が首をもたげてきたので、かみさまを見つけたら手酷くぶち壊すことを稔は改めて決意して。叶の方も、似たような単語で検索をかけているようだが――彼は、儀式に参加するらしい高校生のアカウントを辿っていくことにしたようだ。
「ふむ、SNSでは特に『自殺』を仄めかすような発言はしていないようですが……」
 ――一見すると、ごく普通の少年少女が、淡々とした日常を呟いているような感じだった。しかし一、二週間ほど前から、ある人物とメッセージのやり取りをしていたような痕跡が窺える。
「ちょっとした悩みを、親身になって聞いて貰って……やがて心を許していく内に『かみさまを呼ぶ儀式』への誘いを受けた、こんな所でしょうか」
 多感な年頃の少年少女は、何かの拍子で不意に死へ引きずられることもあるが――この高校生たちに接触したものは、巧みな言葉で『かみさま』へ傾倒するよう、上手く誘導していったように見えた。
「それから……接触しているアカウントをまた遡って、と。地道ですねぇこれ」
 ま、ゆっくりやりますか――呟く叶の指先が、タブレット端末の一点でふと停止する。その人物のアカウント名は『かみさまの代理人』、直球すぎるだろうと稔の唸る声が聞こえた。
「……この世にはかみさまなんざ居ねえんです。あるのは人間の悪意だけ」
「でも、例えそれが現実だったとしても……俺は死ぬのは怖いし、誰かが死ぬのも怖い」
 そう呟いた真紀は、強引にハッキングを行い辿り着いた自殺掲示板を前にして、静かに眼鏡を押し上げる。死、死、死、死――これほどまでに死を望み、共に逝く相手を求めるこの世界を知ってしまったのなら、止めたいと思った。
「この近所で、集団自殺を募っていたスレッド……削除されたものもあるけれど、実際に儀式が行われた場所と一致しますね」
 スレッドを立てたのは『かみさまの代理人』――となれば、これは邪神復活儀式と見て間違いはないだろう。『かみさま』は神様でも邪神に属するもので、けれど儀式をする人には正しく『かみさま』で。
 それでも、何かに縋らなければならなかったひとを、真紀はただ弱かったのだと貶すことは、どうしても出来なかった。
(「生きるのは、苦しい時もある。そして何も楽しめなくなった時に絶望する……あれ? 俺はなんでこんなこと『知って』るんだ?」)
 ――何か、自分の知らない記憶が脳裏を過ぎったような気がして、慌ててかぶりを振る真紀。そんな中、稔は『かみさまの代理人』のアカウントへ接触を図るべく、メッセージを送信していた。
『愛されたい #死にたい』
『私も連れて行って #かみさま』
(「死んだらもう治らねえし、戻れねえのに……よくもまあ、そんな片道切符を欲しがる」)
 ――ああ、そうだ。死にたがりよりは、おれはまともだ。その筈だ。黄昏色の髪をくしゃりを掻き上げた稔のスマートフォンが、その直後メッセージの受信を通知する。

『送信者:かみさまの代理人』
『件名:かみさまに、会いに行きませんか』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

千頭・定
【POW】
それではお仕事の…下準備を始めますっ
私も制服に着替えて、参加される高校生な先輩方にお会いしてお話を聞きましょう!

かみさまにお会いするんですか?
高校は楽しいところじゃないのでしょうか…?

[コミュ力]でお話を、相槌を打ちながら聞き続けます。
私のような中学生に言えることなどないのですが…お悩みも最もです。
たくさん悩まれた苦労も伺えますよう…。

本当にかみさまに…お会いしたいですか?
………生き続けて欲しいとは思います。
お会いしたいなら…止めませんよう。

それでも行く場合は…最後に握手を…
[毒使い]でマヒする程度の毒をかけます。
強制送還です!!

せっかくの命はお大事にっ!


(アドリブ連携歓迎)


リグ・アシュリーズ
高校生説得+儀式場の場所聞き出し

「かみさまに会う件で」とメール。
待ち合わせし「キミたちだよね?」と軽い感じで接触。

行こうって思ったきっかけ、聞いていい?
まずは譲歩。生き辛さとかには共感を示すけど、止めに来たことも明かす。

ほんとに神様がいるのならね、行いや命を条件にしたりしないと思うの。
ただそこにいる、あるがままの存在を認めるのが神様で、
見返りを求めるのは誰か、悪い人の意思が働いてるんじゃないかな。

諦めないなら、嘘で揺さぶる。
実はね、この件で裏のバイトを募集してるのを見かけたの、と。
やばい情報だから詳細は伏せるけど、とも。

だからね。
大事なその命。もっと大事なコトのために、末長く使ってやんなよ。



 春の陽射しと言うには些か肌寒い空の下、千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)は校門の前で、じっと生徒たちの下校の様子を眺めていた。
(「お仕事の下準備もばっちりです。……上手くお話を聞けるといいのですが」)
 ――此処は『儀式』に参加する生徒の通う高校で、制服に着替えた定は、上手く風景にも溶け込んでいる。それでも現役の女子中学生である彼女にとっては、年上の先輩方が集まる場所と言うことで、ちょっぴり緊張もする訳で。
「まぁ、気楽に行こうよ。細かいことは、UDCの方で上手くやってくれてるんだよね?」
「はい、そのようですが……」
 と、そんな定の緊張をほぐすように、さばさばした調子で声を掛けたのはリグ・アシュリーズ(人狼の黒騎士・f10093)。UDCのエージェントでもある定がこくりと頷くのを認めると、リグは好奇心を湛えた亜麻色の瞳を輝かせて、辺りの風景に見入っている。
 ――ふらりと気儘に、自分の足で何処までも進んでいけるような。そんなリグの佇まいに、馴染み深い戦場のにおいを感じた定であったが、校門から目当ての生徒がやって来たのを確認すると、一緒に頷いて歩き出す。
「……えっと、キミだよね?」
「あ、はい……その、『かみさま』に会う件で話が聞きたいって」
 軽い感じで声を掛けたリグに頷いた生徒は、真面目そうな感じの女子高校生だった。自分たちも儀式に興味があって、詳しい話を聞きたい――そう前置きしてから、リグは女子生徒に、何気ない風を装って尋ねる。
「行こうって思ったきっかけ、聞いていい?」
「……これと言ったきっかけは、無いです。色々なことに疲れて、どうでも良いって思えて、全部投げ出したいなあって。そんな時に、儀式のことを教えて貰ったんです」
「あの、それでかみさまにお会いするんですか? 高校は楽しいところじゃないのでしょうか……?」
 思わず、と言った様子でそろそろと口を挟んだ定へ、女子生徒は疲れたように溜息を吐いて告げた。
「……疲れるところ、かな。クラスでの人間関係とか、進路のこととか。あちこちに気を遣って、当たり障りのない受け答えをして……色々気を張っているわりに、周囲は私のことなんか、どうでもいいって思っているところなんて、特に」
 ――真面目に生きることに疲れて、馬鹿らしくなった。一見すると、ごく普通の女子高校生に見える彼女も、生き辛さの果てに死を選ぼうとしているのか。
「うう、私のような中学生に言えることなどないのですが……お悩みも尤もです。たくさん悩まれた苦労も伺えますよう……」
「そっか……その気持ちは分からなくもないけど、実は私たちは君を止めに来たんだよ」
 相槌を打ちながら、聞き役に徹する定――そしてリグは共感を示しつつも、自分たちの目的を女子生徒に明かす。その身を強ばらせる少女と真っ直ぐに向き合って、リグは己の想いを伝えようと、真剣に言葉を紡いだ。
「ほんとに神様がいるのならね、行いや命を条件にしたりしないと思うの」
「……お説教ですか」
「違う、これはあくまで私の考え。……ただそこにいる、あるがままの存在を認めるのが神様で、見返りを求めるのは誰か、悪い人の意思が働いてるんじゃないかな、って」
 本当に、かみさまが居るとすれば――いのちを代償に捧げなくても、あなたを愛し受け入れてくれる筈だと。其処に介入して、少女の祈りを悪用するものが存在する可能性を、リグは示唆する。
「例えば……この件で、裏のバイトを募集しているとか、やばい情報もちょっと聞いてるから」
 良いように利用されるなんて、それこそ馬鹿らしいでしょう、と。ちょっぴり嘘も交えて揺さぶりをかけてみたが、まあ悪人の意思が介入していることは間違っていないだろう。
「本当にかみさまに……お会いしたいですか? ……生き続けて欲しいと、私は思います」
 そうして、潤んだまなざしで訴える定の姿を一瞥した女子生徒は「ああもう!」と髪を掻きむしって、ぶんぶんと頭を振った。
「……本当、馬鹿らしく、なりましたよ。そう言えば昔、部活でお節介な先輩や後輩が居たことを、……今更だけど、思い出して」
 ほんの少し涙ぐんだ女子生徒は、スマートフォンを操作して、『かみさまに、会いに行きませんか』と書かれたメールを完全に削除して二人に頷く。
「これで良いんでしょう? ……お節介な他人って、久々に見ました」
「困ってる人は1秒で助けに行く、が私の信条だからね」
 せっかくの命はお大事に、とぶんぶん手を振っている定が、強硬手段を取ること無く済んだのは内緒にしておいて。その多くが短命であると言う人狼の少女は、去り際にそっと、女子生徒に向けて言葉を掛けた。
「――だからね。大事なその命。もっと大事なコトのために、末長く使ってやんなよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ラモート・レーパー
「人というのは身勝手でご都合主義で……だから僕が興味を持ったわけでもあるんだけど」
現状把握してる儀式の参加者の一人に接触して儀式の日時を聞いておこう。当日には参加者全員に僕のユーベルコードで動けなくなってもらおうかな。僕のユーベルコードの性質上対象を把握していれば同じ世界にいれば地球の裏側からでも動きを止められるはずだよ。発動中は僕は姿を猟兵からも隠すけど


御形・菘
人心の弱みに付け込むやり口、実に見事であると思うのう
しかしそれはそれとして、UDCアースの邪神どもはつくづく妾の活動方針とは相容れんな
もしも妾のファンがそんな湿気た儀式をやろうとしたら、ド派手にサプライズ乱入して徹カラ会にでも突入させてやるぞ?

妾は儀式の参加者を一人一人止めていこうか
対象を尾行し、周囲に人気の無い瞬間を狙うぞ
相手の身体に尻尾をぐるりと巻き付け、左手で頭を鷲掴み
顔を舐めつつ、少々殺気を込めて脅してやれば、一般人で耐えられる者はそうはおらんよ

はっはっは、無上の悦びなど嘘っぱちよ
こうして、死にたいと思う人間の魂を、美味しく喰らう邪神はおるがな!
儀式の噂の真実は、こんなものであるぞ?


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
神様なァ。
いるなら一目会いたいものだ。私を呪った言い訳くらいは聞いてやろう。
ま、冗談はともかく。
当人が望もうが望むまいが、救える命は救う主義だ。仕事と行こう。

ともかく、噂とあらば人から聞くのが一番だ。
そういうのが好きそうな、そこらの男子学生にでも接触しようか。
オカルト記事のライターだとでも言っておけば、それなりに信憑性はあろう。
……オカルト系に信憑性と言うのも、おかしな話だが。
最近流行りの「かみさま」についてのインタビュー。
バイト代くらいはやろうじゃないか。

信じることも願うことも縋ることも、私は必要だと思うよ。
だが、神様ってのは――そう都合良く、いないよなァ。



「……神様なァ。いるなら一目会いたいものだ」
 私を呪った言い訳くらいは聞いてやろう――そんな、冗談とも本気ともつかぬ呟きを零して、嘗て『忌み子』と呼ばれたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は、件の高校へと足を運んでいた。
「だがしかし。人心の弱みに付け込むやり口、実に見事であると思うのう」
 一方、校舎の茂みからこそりと顔を覗かせているのは、爬虫類を掛け合わせたキマイラである御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)で。蛇の尾をくねらせ、ちろりと紅い舌を這わす異形の美女は――直後、ふんと鼻を鳴らして黄昏の空を睨む。
「……が、それはそれとして。この世界の邪神どもは、つくづく妾の活動方針とは相容れんな」
 もしも妾のファンがそんな湿気た儀式をやろうとしたら、ド派手にサプライズ乱入して、徹カラ会にでも突入させてやる――それが、蛇神にして邪神を名乗る菘のポリシーなのだ。
「そう、従わぬ者は直々に叩きのめす! そして行動は徹底してカメラ映え優先で!」
「……ふむ。何故だか貴様には、妙な親近感を覚えてしまうのだが」
 ――それは多分、尊大そうに見えつつ意外と面倒見が良かったり。悪役めいた言動をしていても、根っこの部分が非常に前向きで、自分の信念を曲げないところがあるからなのだろう。
(「ああ、当人が望もうが望むまいが、救える命は救う主義だ。……仕事と行こう」)
 噂とあらば、人から聞くのが一番――そう判断したニルズヘッグは、そう言う類の噂が好きそうな男子学生に接触するべく、早速声を掛ける。
「……へー、オカルト記事のライターさん? あんまりそんな感じしないけど」
「ふん、見た目で判断出来るようでは、この仕事は務まらぬのだよ……で、だ。最近流行りの『かみさま』についてのインタビュー、バイト代くらいはやろうじゃないか」
 オカルト話に信憑性と言うのもおかしな話だが――バイト代と聞いて目の色を変えた男子学生は、『かみさま』についての噂をぽつぽつと挙げていく。
 ――救いを求めるひと。死んで楽になりたいと願うひと。そんなひとの声を聞き届け、ある日『かみさまの代理人』が儀式の誘いを持ち掛けてくる。
 直接声を掛けたり、メールやSNSを通してだったり、接触は色々なパターンがあるらしいが――『かみさまの代理人』は親身になって相談に乗ってくれるので、最後には皆喜んで『かみさま』に会いに行くのだ、と。
「あー……うちの学年でも声を掛けられたって奴、居たって聞いたけど。あ、あいつ」
 其処で男子生徒が、校門をそろそろと通り抜けていく生徒のひとりを指さした。ぱっと見、ごく普通の――ちょっと冴えない感じの男子高校生。後ろめたいことがあるのか、彼は人目を避けるようにして、ひと気の無い裏道を選んで小走りに駆けていく。
(「よし……好都合だ」)
 ――早速、菘が生徒を尾行し、儀式参加の阻止へと動いた。路地裏に辿り着いたところで、蛇の尾をぐるりと巻き付け――そのまま男子生徒の顔をぐわっと鷲掴みにする。
「はっはっは、無上の悦びなど嘘っぱちよ。こうして、死にたいと思う人間の魂を、美味しく喰らう邪神はおるがな!」
「……え、うわぁ!? 違う! お前なんか『かみさま』じゃない!」
 しかし、意外なことに男子生徒は脅しに抵抗し、無我夢中で菘の拘束から逃れようと暴れ出した。自分のいのちを『かみさま』に捧げると決め、死ぬことを一度は受け入れているのだ――その覚悟をへし折るのなら、此方もそれなりの覚悟を見せる必要があるのかも知れない。
「ああ、人というのは身勝手でご都合主義で……だから僕が興味を持ったわけでもあるんだけど」
 ――と。その時、路地裏にくすくすと、無邪気な少女の声が木霊した。薄闇から染み出るように姿を現したラモート・レーパー(生きた概念・f03606)は、ただひとと触れ合いたいのだと言って手を伸ばし――童女には似つかわしくない、色彩の無い相貌に笑みを浮かべる。
「ね、あなたが向かおうとしている、儀式の日取りについて教えてくれないかな?」
 常にあなたのそばにいるよ。そんな言葉を戯れに紡いだラモートの傍から直後、鱗片のようなものが飛来して男子生徒の身体に吸い込まれた。
「あ、ああ……」
 ――命あるモノの恐れに触れた生徒は、得体の知れない恐怖に突き動かされ、身動きが取れなくなって。やがてラモートの命じるままに、儀式の日取りをぽつぽつと口にしたのだった。
(「……当日に何かあったら、同じようにして動けなくなって貰うとして」)
 そのまま、ゆらりと幽鬼のようにラモートは姿を消していき――それをただ黙って見送る男子生徒へ向けて、溜息交じりの菘の声が投げかけられる。
「儀式の噂の真実は、こんなものであるぞ?」
 ――信じることも願うことも縋ることも、私は必要だと思うよ。蒼白のまま固まっている少年へ、ニルズヘッグの声は届いただろうか。
「だが、神様ってのは――そう都合良く、いないよなァ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

マリス・ステラ
サカガミ(f02636)と参加します
知り合いと協力歓迎です

【WIZ】聞き込み調査をします

「過去に儀式が行われたというのはここですか?」

サカガミの案内で赴いた場所で彼に尋ねる
現地調査をするという彼と共に『破魔』の力宿る『視力』で観察
私の『存在感』が、関係者を『おびき寄せ』るかもしれません
白いコートの私と黒い衣装と髪のサカガミは目立つ組み合わせと思います

「何か手掛かりはありましたか?」

接触者が合われるなら彼と一緒に話を聞きましょう
彼の発言にはさり気なく『援護射撃』

「かみさまにお会いしたいと思っています」

『祈り』の所作をしてみせる
『第六感』を働かせて儀式の痕跡から次の儀式場を辿れるならそうしましょう


無銘・サカガミ
【マリス・ステラ(f03202)と協力して参加します】

「かみさま」、か…まったく、俺の琴線に見事に触れやがる。
まずは情報を集めよう。過去に儀式が行われたとされる場所に行く。
今回に関しては、不得手な他者との協力も躊躇う気はない。
彼女が聞き込みをしている間に、こちらは痕跡から手がかりになりそうなものを探し出す。

「こちらも、まだめぼしいものは。もっと確かな証拠が残っていれば…」

もし接触者が現れたなら対話を試みる。
…まあ、話し合いも得意ではないから、彼女と力を合わせて、できる限りの情報を聞き出そう。

「かみさまとやらに興味があってな。是非一度お目にかかりたいと思っていたんだ。」


東雲・咲夜
🌸お知り合いさんとの絡み・アレンジ歓迎です

…神様に人柱や贄、命を引替えにするんは
確かに古より存在しとりますけど…
そちらの類で一般の方にお応えしはる神様は
危険な存在が多い気が…
それ以前に自ら命を経つやなんて
まだなんとか生きていける道があるはずや

以前に儀式が行われた場所へ赴きましょか
…ここで沢山の命が失われたんやろか
せめて、安らかに…

おいでませ、白雪ちゃん
ちぃとばかし手伝っておくれやす
狐さんはお鼻が利くでしょう
うちも神様への『祈り』『第六感』で
何か儀式内容の手掛かりになりそうなものを…

廃墟なら周囲に鳥さんや猫さんがいるやも
『動物と話し』てみまひょか
ここらで不穏なものを見たり聞いたりしはりました?



『かみさま』か――無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)の吐き出した言葉は、憎悪や呪詛と言った負の感情を突き抜けて、ただ凍えるまでの空虚を纏っていた。
(「……まったく、俺の琴線に見事に触れやがる」)
 ――けれど感傷に浸る暇は無く、今は儀式の情報を集めるのが第一だ。過去に儀式が行われたとされる廃ビルへ向かったサカガミは、冷たいコンクリートの壁向こう――瓦礫の積もった一室で、静かに祈りを捧げている先客を見つけて息を呑んだ。
「……ここで沢山の命が失われたんやろか。せめて、安らかに……」
 粉々に砕け散った硝子窓から吹き込む風が、祈る東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)の髪を揺らす様は、まるで桜の花びらが舞い込んできたかのよう。恐らくは彼女も調査を行っているのだろう、と判断したサカガミは、協力してことに当たるべく一歩を踏み出した。
「……神様に人柱や贄、命を引替えにするんは、確かに古より存在しとりますけど……。そちらの類で一般の方にお応えしはる神様は、危険な存在が多い気が……」
「だろう、な……特に己を『神』と称する存在には、ろくな物が居ない」
 がらんとした空間――ふたりが見つめる先には、壁一面に赤黒い液体で、歪な影法師のような何かが描かれている。その近くの床には、固まってこびりついた血の痕のようなもの。――今にも、鉄錆のにおいが漂ってきそうなそれを見た咲夜は、瞳を潤ませて唇を噛んでいた。
「……儀式の痕跡か。この壁の絵が『かみさま』とやらなのか?」
「自ら命を経つやなんて……まだなんとか、生きていける道があるはずや」
 この場所で生命を断った者が分かるような、確かな証拠が残っていれば――そんな思いで儀式跡を探すサカガミだったが、そんな断片すらも『かみさま』に捧げられてしまったのだろうか。
「……おいでませ、白雪ちゃん。ちぃとばかし手伝っておくれやす」
 一方の咲夜は神使である白狐を召喚し、彼女とふたりで霊的な痕跡を辿ってみることにしたようだ。
「何か手掛かりはありましたか?」
 と、其処にふわりとした足取りで姿を見せたのは、サカガミと一緒に現地調査を進めていたマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)だった。彼女の姿を認めたサカガミは、決定的なものは未だ、と呟きかぶりを振る。
「こちらも、まだめぼしいものは」
「……かみさまにお会いしたいと思っています、と持ち掛けるつもりでしたが」
 関係者、或いは接触者が現れないかと、付近の様子を窺っていたマリスだったが――受け身に回るよりは、或る程度は此方の方から、アプローチを模索するべきだったのかも知れない。そちらの方は空振りに終わったが、儀式跡を見たマリスの第六感は、此処に何かがあるのだと確かに告げていた。
「これは……?」
「あ、うちの白狐ちゃんと見つけたものなんやけど」
 ――瓦礫の隙間から顔を覗かせる小さな手帳を見つけた咲夜が、頁をぱらぱらと捲りながら頷く。もしかしたら、儀式に参加した誰かの持ち物だったのだろうか――日記のように所々へ文字と血が滲むそれを眺めていたふたりだったが、眺めていくにつれて何ともやるせない表情へと変わっていった。
「……遺書、のようなものでしょうか」
 恐らく、書いた人物は未だ若い女性だったのだろう。付き合っていた男性との子どもを妊娠したのを機に、別れ話を切り出され――身ごもったことを家族には伝えられず、かと言ってひとり生んで育てるには、経済的にも年齢的にも色々と無理があった、とある。
『ごめんね、ごめんね。あなたは何も悪くないのに。あたしはお母さんなんて、そんな大層な存在じゃない』
『堕ろせって言われたけど、こわいよ。でも周りに隠して産むのも無理。どっちにしたってあなたは死んじゃう』
『……かみさまの話を聞いた。どうせ死ぬなら、一緒に逝こうか、と思う』
『生きているうちに、あなたの顔を見ることは出来ないけど、かみさま。叶うのならどうか、あたしの子どもの姿を最期に見せて下さい』
『ごめんね、許してね。ごめんねごめんねごめん』
『かみさまたすけて、かみさまかみさまかみさまかみ』

 ――そして。呪いのような祈りは、次の儀式場へと繋がる標となる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

如月・螢
さあ、話をしよう(コミュ力+言いくるめ)

無償の愛に望む者との一時の逢瀬、ね
キミ達の未来を”かみさま”に捧げて
それで? キミ達は幸福だとナゼ解る?

確かに嘆く気持ちは解るよ、Oh
だがね、キミ達の嘆きは本当に解消されると…
本当に心の底から思ってるのかい

いや、違う
本当は何かが、オカシイ、コワい
そう思うも周りに流され、同調し、受け入れ
悲しみを忘れようとしているだけじゃないか?

それに知ってるかい
人はね、人に忘れられた時が――本当に死ぬ時なんだそうだ

このままだと――
甘い誘惑に唆され”かみさま”を名乗るモノに
キミ達の本当に大切な人を殺させる手伝いをするんだぞ

もう一度、キミ達に問おう
このまま続けるかい?


雨乃森・依音
わかるぜ
神様に縋りたくなる気持ち
俺だって同じこと言われたら……でも今は、

止めなくちゃ、な

儀式に参加予定の学生に接触
俺も興味あるから教えてくんね?と詳細を聞く
でもさ、お前はなんで死にてぇの?
神様に会うったって、最後は皆で死ぬわけだろ?
……悪ぃ、興味あるっての嘘なんだ
裏切り者だと思ったか?
でも俺も毎日死にたいと思ってた
今だって、死ねない理由探しの日々だ

率直に言う
行くの思い留まってくんね?
死ねない理由なら俺がやる
ライブのチケットを渡す
俺の歌はお前らみたいな奴らのためにある
なんなら今、お前のために歌ってやってもいい
ギター掻き鳴らして、どん底の絶望から見出す一筋の希望を歌を

――他の曲は今度、生きてな


イア・エエングラ
たとえば。もしも。叶わぬことが、叶うなら
かみさまへ、お願いしても、良いかしら
でもきっと、きみは、笑いもしないね

死んでしまうのにお話は残るの、不思議な心地ね
ぜひ僕も、と直接お話お聞かせ、願えるかしら
調べてみたって良いのだけれど
文字のお話、得意でないのよう
かみさまにお願いする方が、どんな方かも、気になるものね
お話はじっと聞いていましょう、若い方が多いのかなあ
自分ひとつを引き換えて、あなたは何を願うだろ
わかるとも、わからないとも、曖昧なまま
直近の予定があるのなら、お伺いしてみたいねえ
願いの在処に覚えはあるもの縋る心地に添おうとも

――ねえ、かみさま
僕はなにひとつ信じてはいないけれど



(「たとえば。もしも。叶わぬことが、叶うなら。かみさまへ、お願いしても、良いかしら」)
 ――今にも雨が降り出しそうな空の下で、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は、たんたぁんと、雨音のようなステップを踏む。
(「……でもきっと、きみは、笑いもしないね」)
 まるで雨を呼ぶように――重く垂れこめた灰色の雲がすべてを吐き出して、淀んだ大気を洗い流してくれるように。
(「……『かみさまを呼ぶ儀式』と言ったかしら。死んでしまうのにお話は残るの、不思議な心地ね」)
 不確かな噂話、けれども何処か魅力的で、他人につい話したくなるもの――都市伝説、なんて呼ばれているらしいと、イアは調査で知ったことを思い返しつつ。文字のお話、得意でないのようと微笑んだ彼は、直接お話を聞かせて貰うべく高校へと足を運んでいた。
「かみさまにお願いする方が、どんな方かも、気になるものね……ぜひ、僕も」
 ――たん、たたん。コンクリートの階段を登って、辿り着いたのは校舎の屋上。錆の浮いた手すりに寄りかかって、向き合うのは『儀式』に向かう女子生徒と――何処か挑むようなまなざしの、如月・螢(透明な心・f00180)だった。
「さあ、話をしよう。……無償の愛に望む者との一時の逢瀬、ね」
「あは、おねーさんロマンチックだね」
 螢との対話に応じている女子生徒は、大して深刻そうな様子を見せる風でも無く、友達とふざけ合うような態度で、へらっと笑っている。
 今どきの『普通』の女子高生――学校に行きつつ、遊んだりお洒落をしたり、他愛のない話で笑い合えるような、そんな子だった。
「キミ達の未来を『かみさま』に捧げて、それで? キミ達は幸福だとナゼ解る?」
「んー……分かんないよ、別に。ってーか、幸福って何だろうねって、生きてても全然分かんないから。『かみさま』に会って分かるなら、それでもいいかなって」
 螢と話す少女の様子は、あくまでも軽い――しかしそれ故、裡に抱えている虚無は深いもので、到底見た目で推し量れるものでは無いのかも知れなかった。
「今もね、ここから飛び降りてもいいかなーとか、思うんだけど。地面に叩きつけられた死体とか、片付けるの大変そうだし。グロい、とか言って気分悪くなるヒトとか出そうだし」
 ――生きることへの執着の薄さ。ただ惰性のように日々を過ごしているけれど、別にそれがいつ断ち切られても良いのだと、思っているような。
(「Oh……嘆いている、のとは違うのかも知れないね……」)
 それは自分の存在意義を知って、器物が魂を得たヤドリガミである螢とは、余りにも違う生き方だった。生きる世界が違うのだと言えばそれまでだろうが、でも――目の前の少女は未だ、生きることもひっくるめて、色々なことを知る前に死を選ぼうとしているのだと、螢には思えたのだ。
「だがね、キミの嘆きはそれで本当に解消されると……本当に心の底から思ってるのかい」
 ――『かみさま』に生命を捧げ、無上の幸福を手に入れる。それはとても、簡単な解決方法。それでも「いや、違う」と、「本当は何かが、オカシイ、コワい」と思う心も、存在しているのではないか、と螢は言う。
「……そう思うも周りに流され、同調し、受け入れて。悲しみを忘れようとしているだけじゃないか?」
「ってか勝手に、あたしの気持ちを決めつけて欲しくないんですけど?」
 女子生徒の表情が強ばり、その口調に確かな感情が滲む。不快な態度が露わになったのは、螢の言葉に何か思うところがあったからだろう。
(「わかるぜ、神様に縋りたくなる気持ち。俺だって同じこと言われたら……でも今は、」)
 そんなふたりのやり取りを、聞き役に徹してじっと見守っていたイアの横を、靴音高く横切っていったのは雨乃森・依音(紫雨・f00642)だった。
(「止めなくちゃ、な」)
 俺も興味があるから、と気さくな様子で接触をした依音だったが――その紫陽花色の瞳は今、雨の気配を感じて鮮やかに揺れている。
「……悪ぃ、興味あるっての嘘なんだ。裏切り者だと思ったか? でもさ、お前はなんで死にてぇの? 神様に会うったって、最後は皆で死ぬわけだろ?」
「……『皆で死ぬ』ってのが、何かいいかなって。孤独死とかあるじゃん。ああいう死に方はやだなって、ニュースとか見て思うしさ」
 ――それに、そう。死への切っ掛けなんて些細なことだと、少女は言った。例えば雨が降りそうだから、そんな何気ない理由だって、一歩を踏み出す切っ掛けにはなる。
「率直に言う。行くの思い留まってくんね?」
 だから、依音は言葉を取り繕うことをせずに、真っ直ぐに自分の想いを伝えた。俺も毎日死にたいと思っていたし、今だって、死ねない理由探しの日々だ――そう前置きした後で依音は、女子生徒にライブのチケットを握らせる。
「……死ねない理由なら俺がやる。俺の歌はお前らみたいな奴らのためにある。なんなら今、お前のために歌ってやってもいい」
 そう言ってギターを掻き鳴らす依音は、日常に降り掛かる悲哀や苦悩――それらを雨に譬え、胸を刺し抉る声を響かせて歌い始めた。
 哀惜は歪むギターで掻き消して、激情を歌に乗せて。ぽつりぽつりと空から零れる雨のしずくが、やがて横殴りの豪雨に変わろうと――彼は、どん底の絶望から見出す、一筋の希望を歌にして進んでいく。
「……知ってるかい。人はね、人に忘れられた時が――本当に死ぬ時なんだそうだ」
 このままだと――甘い誘惑に唆され『かみさま』を名乗るモノに、キミ達の本当に大切な人を殺させる手伝いをするんだぞ。そんな、透明な心を持った螢と。
「自分ひとつを引き換えて、あなたは何を願うだろ。わかるとも、わからないとも、曖昧なまま。でも」
 直近の予定があるのなら、お伺いしてみたいねえ――願いの在処に覚えはあるもの、縋る心地に添おうとも。ありのままを受け入れ、そっと寄り添うように声を掛けるイアと。
(「――ねえ、かみさま。僕はなにひとつ信じてはいないけれど」)
 ふたりの想いも混じり合って紡がれる歌は、雨の中――たったひとりの少女に向けて、次々に降り注いでいった。
「――他の曲は今度、生きてな」
「あは、約束……かあ。じゃあ、死ねないよね。まだ」
 ――些細なことで死ぬのを決意したのなら。生きようと思った切っ掛けだって、些細なもので良い。
 女子生徒の掌で揺れるチケットも、そんな切っ掛けのひとつになったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バレーナ・クレールドリュンヌ
【無意識/心情】
死は、神様にとっては贄でしかないわ。
求められるから、それに応じてその命を対価にもらうの。

/……?
今、わたし何か言ったかしら?

【SPD】
UCで協力者を呼び出す。

「おいでなさい、昏い思いの澱の底へ」

【調査】

過去の儀式場で情報を探すわ。
そう簡単に集団で死ねると思う?
大抵は怖く、惜しいと思うものがいるもの、自分の身を激痛と辛苦の刃で刻む事は簡単ではないわ。

大量の死を望むなら、そこに紛れるのは自殺志願者に扮した、狡猾で享楽的な殺人鬼。
逃げる人間を追い殺す猟犬は、殺す事は知っていても隠すことまで器用に出来るかしらね?

相手の正体、数、次の儀式場、手がかりを見つけるように、調査をしましょう。


芥辺・有
かみさまか。随分と都合のいい存在だ。
……ああ、でも。何かに縋りたいような気持ちは少しばかり。理解できるのが、嫌になるね。

過去に似たような集団自殺があったなら、調べたら出てくるかな。
廃墟で行われたもの、儀式である可能性が高そうなものがあったなら、その集団自殺の現場に赴いてみよう。

辿り着いたなら、廃墟の外や中をぐるりと歩き回りながら情報収集を。
痕跡なり、道具なり。何でもいいけど儀式に繋がるようなものがないかつぶさに見て回る。

……人がどう自殺したんだか調べるってのも、ぞっとしないけどね。


海月・びいどろ
かみさまに、会いに
あいたいヒトに、逢うために
愛されたいが、為に

逢いたいヒトも、愛も
よくわからないでいるけれど
…ボクは、そんなヒトたちに
あいたいと思った、から

海月たちを呼び出して、迷彩をまとわせたら
キミたちは、こっそりと
情報収集を、お願いするね

ボクは中学校の制服を着て
過去の儀式の場所を調べて
辺りを見て回ろう

何か手掛かり、かみさまの信仰の跡とか
目印だとか、ないかな

もし参加者や関係者
噂を知るヒトが見つかったら
コミュ力で言いくるめてみるよ

噂を聞いて、ここに来たの
…この海月のぬいぐるみを、作ってくれたヒトに
かみさまに、あいたくて
いっしょに連れて行って欲しいって
お願いしてみよう



(「かみさまに、会いに。あいたいヒトに、逢うために。……愛されたいが、為に」)
 ――そんな想いが募った末に、自ら死を選んだひとびとが居る。雨上がりの、何処か湿った土のにおいを吸い込みながら、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)が向かったのは、過去に儀式が行われた廃墟だ。
(「逢いたいヒトも、愛も。まだ、よくわからないでいるけれど。……ボクは、そんなヒトたちにあいたいと思った、から」)
 枯草が寂しげに揺れる跡地に聳えるのは、経営難で潰れたとされる水族館――嘗ては、青く光る水槽の中で沢山の魚たちが泳いでいたのだろう。しかし今、硝子越しに見えるのは、埃の積もった空っぽの世界だった。
「キミたちは、こっそりと情報を集めてきてね」
 中学校の制服を着て近くの学生に扮したびいどろは、迷彩を纏わせた海月たちを辺りに向かわせ、何か手がかりが無いかと探りを入れる。
「かみさまの信仰の跡とか、目印だとか……ないかな」
 ぽつり呟く声と、虚ろに響く靴音――魚の居ない水族館はまるで、巨大な柩を思わせて。生命の気配が絶え、淀んだ死が静かに漂うその場所で、びいどろの耳が気怠げな声を拾い上げた。
「かみさまか。随分と都合のいい存在だ。……ああ、でも。何かに縋りたいような気持ちは、少しばかり」
 ――理解できるのが、嫌になるね。皮肉めいた様子でそう呟いた芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は、正面の巨大水槽の硝子を、そっと指でなぞりながら溜息を吐く。
「……それが、かみさま?」
「かな。まるで子どもの落書きだ」
 その水槽の一面に描かれていたのは、赤黒い液体をぶちまけたような、歪な影絵だった。多分、塗料は血か何かだったのだろう――見れば、近くの通路のあちこちにも、血飛沫の跡のようなものが飛び散っている。
「……人がどう自殺したんだか調べるってのも、ぞっとしないけどね」
「けれど、そう簡単に集団で死ねると思う?」
 と――そんな有の呟きに、ふっと人魚のこえが応じた。廃墟を揺蕩うように、色彩無き尾鰭を揺らすバレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)は、海の翠を宿した瞳で辺りの血痕を見つめつつ――何処か諦観したような口ぶりで、ぽつりと零す。
「……大抵は怖く、惜しいと思うものがいるもの。自分の身を激痛と辛苦の刃で刻む事は、簡単ではないわ」
 確かに、集団自殺をするとして、どうやって行ったのかと言う疑問はあった。何か儀式に使った道具なりが、存在するのでは――そう思っていた有は、此処で流された血の多さに益々その考えを強めていく。
「この血の量からして、かなりの外傷を負っただろうけど……普通のひとに、ここ迄のことが行えるかな?」
「ええ、そうね。大量の死を望むなら、そこに紛れるのは自殺志願者に扮した、狡猾で享楽的な殺人鬼」
 けれど、逃げる人間を追い殺す猟犬は、殺す事は知っていても隠すことまで器用に出来るかしら――囁きと同時に死霊術を行使したバレーナは、屍隷の従者を呼び出すと、辺りに満ちる死の気配を辿っていった。
「おいでなさい、昏い思いの澱の底へ――」
 ――直後、微かに残っていた呪詛が反応したのだろうか。一行の脳裏に一瞬、過去の光景が過ぎる。
 真夜中に廃墟の水族館へ集まったひとびと――その内のひとりの肉体が突如爆ぜ、血の絵具で水槽へ『かみさま』の姿を描く。虚を突かれた彼らの前に、次々に邪神の眷属と思しき異形が現れ、襲い掛かる。瘴気を生み出し、精神を汚染し、血肉を喰らう。――最期に『かみさま』に会えたのかは、分からぬままに。
「……死は、神様にとっては贄でしかないわ。求められるから、それに応じてその命を対価にもらうの」
 悪夢のような光景が過ぎ去ると同時に、バレーナは吐息と共に言の葉を吐き出したが――ややあってから、不思議そうに瞬きをして首を傾げた。
「……? 今、わたし何か言ったかしら?」
 ――ともあれ、相手の正体と大体の数は判明したのだ。嗚呼、待ち受けるもののおぞましさを目の当たりにしても、有は絶望などせず、ただ生きて前へ進んでいく。自分の名に込められた願い――或いは呪いを抱きながら。
「……、……?」
 そうして、手掛かりを得た一行が水族館を後にしようとした時。入口の近くに、誰かがぽつんと佇んでいることにびいどろは気付いた。
「噂を聞いて、ここに来たの。……この海月のぬいぐるみを、作ってくれたヒトに。かみさまに、あいたくて」
 言葉を促すような、優しそうなまなざしに見つめられて、びいどろが目的を告げると。その誰かは――まだ幼さを残した少女は、慈しむようにお腹に手を当てながら『かみさまに、会いに行きたいの?』と微笑んだ。
「うん、連れて行って欲しい」
 ――じゃあ、いらっしゃいな。そう言って少女は、儀式が行われる日付と場所を、そっとびいどろに教えたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
儀式に参加する生徒に接触
死にたいような体を装っていきます

救えない、救われない、必要とされない
そんな世界に疲れているのです
だから私も…連れて行って頂けませんか

私は知らないことが多すぎる

どれほどの参加者が居るのか
死に方は統一されているのか
必要なものはあるのか
『かみさま』とは何なのか

知っていることを教えて頂けませんか?
粗方話を聞けたら催眠術で眠らせます

ごめんなさい
私はまだ救うことを諦めていないので
貴方と御一緒出来ないし
逝かせてあげられません
今は全て忘れて眠って下さい

何かに縋らなければならないほど
疲弊しているのですね
…理解できないわけではありません
心につけ込むような存在が
はたしてかみさまなのでしょうか


雨糸・咲
いんたーねっと、というのはよくわからないので
儀式への参加を表明しているという人たちに話を聞いてみましょうか

私は年齢的にも近いですし、
小柄で威圧感も無いので彼らも話し易いのでは、と
コミュ力や情報収集が役に立つでしょうか

存在も実態も不確かな「かみさま」にも縋りたいというのは
きっと、生きづらさを感じているからなのでしょうね
…私も、少し似た気持ちを持っているので
他人事と思えないのです
(望まれて生まれてきたわけではないから…)

「かみさま」が不確かなら
これから先に待っているかも知れない現の幸せもまた、同じく
それでも
未来の可能性に賭けても悪くないんじゃないかしらって
私はそう思っていますよ

※アドリブ、絡み歓迎


三嶋・友
愛してくれる神様、ね
…私はそういうの無条件で信じられる程純粋じゃないから
甘い言葉はまず疑ってかかっちゃう方なんだけどさ
そんな怪しい言葉にもすがりたくなる心につけこむような真似は気に入らないよね

私も死にたい一人として高校生達に接触してみようかな
…私だって気持ちは分からない訳じゃないんだ
私には無条件に愛してくれる母さんがいるけど
未来への漠然とした不安、満たされない承認欲求
誰だって抱えてる
重い事情のある子もいるかもね

彼らの事は否定せず、同意と共感を
其々の事情を聞き出しつつ儀式に同行
儀式が邪神を呼ぶ為に必要なものなら、黒幕が見届けに来る確率は高い筈
蝶を忍ばせて周囲も探りつつ、儀式はギリギリで止めるよ!



 ――不安定な空模様は、ここ数日続いていた。ふっと陽が射したかと思えば、いつの間にか雲が立ち込めて雨が降る。移ろい易い春の天気は、恐らく多感な少年少女のこころと似ている。
(「……ですが、きっと。永遠に続く嵐の夜に、取り残されたのだと思っている子も、居るのでしょう」)
 待ち合わせ場所の公園にふらり現れた、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)はベンチに座って、白衣の裾を整えつつ待ち人を探していた。
「いんたーねっと、というのはよくわからないので……直接会って話を聞けたら、と思って」
「いや、ネットは超便利だよ! ゲームとかハマると時間があっと言う間に過ぎちゃうしね」
 蜜の近くに居るのは、たおやかに咲く一輪の花のような雨糸・咲(希旻・f01982)と、ゆらゆらと翅を広げて自由に舞う蝶の如き三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)の二人組だ。
 ――どうやらネットに不慣れな咲を見て、その素晴らしさを伝えたいと、友の心に火が点いたらしい。こんな風にちょっとしたことで、笑い合ったり出来る――それは、とても素晴らしいことなのだろうけど。それ以上に生きる辛さがあって、死へ引きずられるひとびとが、この世界には沢山居るのだろうか。
「……ああ、スイマセン。待たせて」
「ああ、いえ。お気遣いなく」
 そんな、思考の海に沈みかけた蜜の元へ、その時ぶっきらぼうな声が掛けられて。咄嗟に首を振って顔を上げれば、男子高校生がベンチの傍で所在無さげに立ち尽くしていた。
「急にお呼び建てして申し訳ありません。……ですが。救えない、救われない、必要とされない……私も、そんな世界に疲れているのです」
 だから私も、連れて行って頂けませんか――死にたいような体で男子生徒に乞う蜜は、その不健康そうな顔立ちも相まって、酷く追い詰められた雰囲気を醸し出している。
「ああ、今ネットとかでも、噂になってるしな……」
「ええ、ですが私には……知らないことが多すぎる」
 溜息を吐き、神経質そうに言葉を重ねていく蜜の様子に、少年も『死にたいもの』特有の空気を感じ取ったらしい。どれほどの参加者が居るのか、死に方は統一されているのか、必要なものはあるのか――卑屈でいて、けれど生真面目に指折り疑問を挙げていく蜜に、男子生徒も彼なりに誠意を見せようと、ぽつぽつ答えを返していった。
「……オレは、街で声を掛けられて参加を持ち掛けられたんだけど。『かみさまの代理人』とか名乗った、オレとあんま歳の変わらなそうな女の子が、色々教えてくれて」
 ――人数は特に決まってないけれど、『かみさま』に心から会いたいと願う仲間が集まって『儀式』を行うこと。その『儀式』を通して『かみさま』に会い、幸福感に包まれたまま、眠るように死ねること。
「たぶん、クスリとか使うのかな……よく分からないけど。で、別に自殺用の刃物とかロープとか、そんなものは要らないって」
「……では『かみさま』とは何なのでしょうか」
「さあ、『かみさま』って言うくらいだから、本当に『かみさま』なんじゃないの。ニンゲンを救ってくれるような、偉大な存在ってヤツ」
 そんな――酷く淡々とした、蜜と男子生徒の会話を聞いていた咲たちは、何とも言えない表情になって顔を見合わせた。
(「存在も実態も不確かな『かみさま』にも縋りたいというのは、きっと……生きづらさを感じているからなのでしょう、が」)
(「愛してくれる神様、ね……私はそういうの、無条件で信じられる程純粋じゃないから、甘い言葉はまず疑ってかかっちゃう方なんだけどさ」)
 ――けれど、そんな怪しい言葉に縋りたくなる心へつけこむような、卑劣な真似は気に入らないと、友は言う。
「ごめん、ちょっと……いいかな。私達にも話を聞かせてくれない? ……私だって気持ちは分からない訳じゃないからさ」
 そう言って、意を決して男子生徒の元へ近づいた友は、死にたいと思うひとりになったつもりで、ゆっくりと口を開いた。
「その、私には無条件に愛してくれる母さんがいるけど……未来への漠然とした不安、満たされない承認欲求とか。誰だって抱えてるから、さ」
「そっか……お前の母さんは、愛してくれるのか」
 が――其処で男子生徒が浮かべたのは、酷く寂しげで憧憬と羨望が入り混じった表情。オレのとこは、愛してくれなかったと苦しげに言葉を吐き出す彼は――両親が不仲で、今は離婚だなんだと揉めている真っ最中なのだと、友を見て自嘲気味に笑う。
「家に帰れば喧嘩、罵り合いをずっと聞かされて、こっちにまで飛び火してくるし。今も、子どもをどっちが引き取る……否、どっちも引き取りたくないって押し付け合ってる」
 重い事情のある子もいるかも、と危惧していた友は――彼もまたそんなひとりだったことを、其処で知った。家を出て一人で生活出来たら良かったけれど、男子生徒には小学生の弟も居て。自分が出て行けば弟が両親の諍いの矢面に立たされるから、逃げ出す訳には行かないのだと言う。
「だから、儀式には弟も連れて行こうかって。『かみさま』には、せめて仲の良かった頃の両親と最期に合わせてくれれば、それでいい」
 ――だって、もう。これ以上自分の親の、醜い姿を目にしたくはなかったから。彼の想いを否定せず、同意と共感を持って相槌を打つ友は、その下できつく拳を握りしめていた。
「……気休めにしか、聞こえないのかも知れませんが。それでも、私には他人事と思えないのです」
 そんな中で咲は、秘めた思いをそっと、花が綻ぶように紡いでいく。望まれて生まれてきたわけではないから、と――言葉少なに告げる彼女は、少し似た気持ちを持っているのだと続けて、それでも生きることを諦めないで欲しいと訴えた。
「……『かみさま』が不確かなら、これから先に待っているかも知れない現の幸せもまた、同じく」
 だから、未来の可能性に賭けても悪くないんじゃないかしら――卒業して自立し、親の庇護から離れることが出来れば、また状況も変わって来るかも知れないと。
「……ええ、ごめんなさい。私もまだ、救うことを諦めていないので。貴方と御一緒出来ないし、逝かせてあげられません」
 そして、死ぬことに同意していた蜜もまた、本来の目的をはっきりと口にした後で――少年に催眠術をかけて眠らせる。今は全て忘れて、全てが終わるまで眠っていて下さいと呟きながら。
「しかし……何かに縋らなければならないほど、疲弊しているのですね」
 理解できないわけではない、が――心につけ込むような存在が、はたしてかみさまなのでしょうか。昏い罪悪感を滲ませた蜜の声が、斑模様の空に溶けていく中で友は誓う。
(「儀式が邪神を呼ぶ為に必要なものなら、黒幕が見届けに来る確率は高い筈……」)
 儀式はギリギリで止める――呟きと同時に、ほのかに光り輝く幻影の蝶が、黄昏に染まる街並みに飛び立っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

十朱・幸也
【WIZ】

神様なんざ信じねぇタチだけどな
クソッタレにも限度があるだろうが、ふざけんじゃねぇ
……神様の皮を被ったクソ野郎、絶対にブッ潰す

地方都市に着いたら、何処かインターネットが使える場所を探すぜ
無さそうなら落ちつけそうな公園のベンチとかで、スマホを使う

こういう噂ってのは表向きより、アングラな方が信憑性高かったりするしな
裏サイト、或いは恐怖ネタ集めてそうな専門サイトを中心に
【情報収集】【第六感】で噂の出処を調べる

今回の噂が話題になってる掲示板にレスするのも有りか?
食い付きそうなターゲットを演じてみるか、上手く行くかはわかんねェけど
『噂って本当ですか?亡くなった母に、もう一度会いたいんです』
『』


静海・終
かみさま
信じればきっとそこに居るのでしょう、そう言ったものは
しかし悲劇を引き起こすものなら存在を許すわけにはいきません
悲劇は殺して、壊しましょう

まずは情報を集めましょうか
高校生が多く居そうな飲食店やらの場所で
噂が入ってこないか聞きながら情報端末でも噂を探す
死にたい、や、かみさま、儀式
SNSサイトにそれらしい単語を入れて探りましょう
…かみさまに縋らなければならないほど
彼らは何を望んでいるのでございましょうか
死んでまで愛されたかった?かみさまに?
…望む姿で現れるというならかみさまにではなく
それに愛されたかったはずではなかったのでございましょうか
どうしたって、人の心は、とても脆いものでございますね


空廼・柩
WIZ
常に死と隣合わせの生き辛い世界…まあ否定はしないよ
人間、何かに縋りたくなるのは当たり前さ
…とはいえ縋るべき相手はもっと考えろとは思うけれど

先ずは秘密の儀式についてネットで調べてみる
特に場所について詳細を知りたいけれど…
こういうのは実際メッセージを送信しないと分らないものかな
ならば捨てアドレスを使用して接触を試みる
…序に書き込みやメールから辿って『かみさまの代理人』についてUDC組織に調べてもらいたい
一体誰がこんな事をしているのか、黒幕を調べておく必要がありそう
…それに、儀式に参加する振りをして廃墟に着けば警戒も与えないだろうし
その場にいた方がリスクは高かろうと参加者の救助には手っ取り早い



 常に死と隣合わせの、生き辛い世界――それに否定はしない、と空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は蒼き色彩を宿す瞳で空を仰ぐ。
(「人間、何かに縋りたくなるのは当たり前さ。……とはいえ、縋るべき相手はもっと考えろとは思うけれど」)
 さて、先ずはその縋る先である『秘密の儀式』とやらを、詳しく知る必要がありそうだが。特に場所についての情報を知ろうと柩がネットで調べてみれば、儀式の主催者と連絡を取る必要があるようだった。
「やっぱり、こういうのは実際メッセージを送信しないと分らないものかな」
 ――となれば、捨てアドレスを使用して接触を試みるしかあるまい。相手は『かみさまの代理人』、これについても情報が得られないかと、合間に柩はUDC組織に調査を依頼しておくことにする。さて、どうなるか。
(「神様なんざ信じねぇタチだけどな……だが、クソッタレにも限度があるだろうが」)
 ふざけんじゃねぇ――と吐き捨てた十朱・幸也(鏡映し・f13277)は、インターネットが使える場所を求めて近くのネットカフェへと足を運んだ。
(「……神様の皮を被ったクソ野郎、絶対にブッ潰す」)
 スーツのネクタイを微かに緩めて、モニターと向き合う幸也も既に、猫を被るのを止めている。そう、この怒りはソシャゲのガチャで爆死した時と同じ位――いや、それよりも大きいと言うことにしておこう。
(「……かみさま。信じればきっとそこに居るのでしょう、そう言ったものは」)
 一方で、静海・終(剥れた鱗・f00289)も情報を集めるべく、高校生が居そうな店に向かい――結果、カフェで噂に耳を澄ませつつ、情報端末と向き合っていた。
(「かみさまに……縋りたかったのでしょう、でも」)
 ――それが悲劇を引き起こすものならば、存在を許す訳にはいかない。己の全てが、悲劇を壊せとひっきりなしに訴え続けていて、この衝動が何処から来るものなのか、終にも分からないままだけれど。
(「悲劇は殺して、壊しましょう」)
 SNSサイトを開いた終は、『かみさま』の件に繋がりそうなキーワード、「死にたい」「かみさま」「儀式」などの単語を入れて検索をかけていく。
 しかし、膨大な情報が氾濫するネットの世界においては、得られる情報の精度を分析し、取捨選択していく必要も出てくる。ずらずらと並ぶ自殺願望、カルト宗教、はたまた冗談交じりの呟き等々――果たして何を指針に絞り込み、接触を図るかとなれば、終の笑みも引き攣ってきそうだった。
「彼らは、何を望んでいるのでございましょうか。死んでまで愛されたかった? かみさまに?」
 望む姿で現れるというなら『かみさま』にではなく、それに愛されたかったのではなかったのか――しかし、自ら死を選ぶほど追い詰められた人間に、そんな理屈っぽい問いかけが意味を成すかと言えば、怪しいものだ。
(「……どうしたって、人の心は、とても脆いものでございますね」)
 ――だから、終はただそう結論せざるを得なくて。その向かい側では幸也が、アングラなサイトを巡って情報収集を続けていた。
「こういう噂ってのは表向きより、こっちの方が信憑性高かったりするしな……」
 裏サイト、そして『閲覧注意』の文字が仰々しい、恐怖ネタを蒐集している専門サイトを中心に噂の出処を調べるが、どうにもはっきりとした噂の大本には辿り着けない。意図的に情報が操作されているような、厭な気配を感じつつ、幸也が最後に行きついたのは自殺志願者を募る掲示板だった。
「……『かみさまの代理人』、これか。食い付きそうなターゲットを演じてみるか」
 上手く行くかは分からないが、此方からアプローチをすれば何か反応はあるだろう。キーボートを軽快に鳴らしつつ、幸也は代理人の立てたスレッドに書き込みを行った。
『噂って本当ですか? 亡くなった母に、もう一度会いたいんです』
『本当に、会いたいですか。いのちと引き替えにしてまで? あなたは死にたい、母に会いたい、どちらの想いが強いのですか?』
 ――ふと、幸也のキーを叩く手が止まる。その逡巡を見越したように、次の瞬間、新たな書き込みが加わっていた。
『――嘘つき』
 一体誰がこのようなことをしているのか、黒幕を調べておく必要がある。それに、儀式に参加する振りが出来れば、相手に警戒も与えない筈――そう思っていた柩だったが、此方の探りを入れる様子は既に、相手に十分な警戒心を抱かせるまでになっていたようだ。
『……『かみさまの代理人』に関する情報は、ネットからは完全に削除されていました』
 組織からの報告を受けた柩がメールを確認すると、『かみさまの代理人』の連絡先には繋がらなくなっていて。そんな中で、文字化けした不明なメールが一通、受信フォルダの中にぽつんと置かれていた。
『――ゆるさない』

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

明日知・理
【WIZ】
「…そんなに、死にたいのか」
夕暮れの教室、儀式に参加する高校生の誰かが一人のときに接触、静かに問う
「これから死ぬのなら、お前をそこまで追い詰めた怨みも悩みもせめて此処に置いていけ。俺が覚えておいてやる」
話してくれたのなら、時折相槌を打ちつつ。
話し終わったのなら目を見て優しく微笑んで
「…よく頑張ったな」
自分の命をどう使おうが自由だ。だから止めはしない
が、
そこまで頑張ってただ死ぬのは勿体ねえなと思ったから
「死ぬ前に、一日。自分への褒美に好きな事を存分にやるのはどうだ?」
そんな提案をしつつ然り気無く情報源を探る。

(死にたいのに、
このかみさまには逢わせてやれない。
…悪いな。)

アドリブ歓迎


ティア・レインフィール
信じる神様は人それぞれ違うもので
何を信じ、拠り所にするかは皆違っても良いと思うのです
……なんて、こんな事を考える私は修道女失格でしょうか

儀式参加を予定している高校生の一人と
儀式に興味がある者として接触

【コミュ力】や【情報収集】で
どうして儀式に参加しようと思ったのか
相手の方の気持ちに寄り添ってお話を聞き
次の儀式は何処で行う予定なのか確認
最後に、儀式参加を思い止まるよう説得

神は、ただ見守っていてくださるだけ
人にとって都合の良い奇跡を与える存在ではありません
……ですが同時に、何かの対価として命を奪う事もありません

だからこそ、私は目の前で苦しむあなたに手を伸ばしたいと思います
あなたの涙が乾くまで、傍に


クレム・クラウベル
都合の良い“かみさま”など居やしないのに
捧げて死んでも良いと思える程の生きづらさは己が理解するには遠い
……物は満ちても心は満ちず、というところか

聞き込みやネット情報元に過去に儀式が行われた場所を複数箇所調査
共通点や気になる点がないか調べよう
建物や立地に共通する部分がないか、儀式の痕跡が残ってないか等
邪神関係の儀式となれば、陣や文字の類等も残されているかもしれない
手掛かりは後ほど共有できるよう、メモに書き写し+スマホのカメラ機能で写真を保存

興味本位で覗き込むに留まったものは良いが
少なからず儀式が実行されたものも既にあるのだろう
「一緒に、かみさまに会えるなら怖くない」
……俺にはとてもそう思えないな



(「信じる神様は人それぞれ違うもので……何を信じ、拠り所にするかは、皆違っても良いと私は思うのです」)
 ――校舎の廊下、等間隔に設けられた窓から射し込む夕陽の中を、ティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)は粛々とした足取りで進んでいく。
(「……なんて、こんな事を考える私は修道女失格でしょうか」)
 黒の修道服に身を包み、ヴェールをふわりと舞わせる彼女が向かうのは、空き教室のひとつ。告解部屋に赴くかのような、ティアの佇まいからも分かるように――其処で待つのは、悩みを抱え『儀式』に参加することを決めた、この高校の女子生徒だった。
「すみません、儀式についてのお話を伺いに。……どうして儀式に参加しようと思ったのか、訊いても宜しいですか」
 黄昏に染まる教室の一角で、適当な椅子と机に座り向かい合って。酷く怯えた様子で俯く女子生徒に、軽く会釈をした明日知・理(花影・f13813)は、彼女が上履きを履いていないことに気づいて、不器用に視線をずらした。
「あ、すみません……上履き、捨てられて。いつものことなので、大丈夫です」
「あ、いや……こっちこそ、悪ぃ」
 ――いじめ、なのだとその原因に思い至った理は、ぶっきらぼうな口調でただ、それだけしか言うことが出来ない。気の利いた言葉が直ぐに出てくる性分では無いし、下手な気休めなど、相手にも失礼だと思ったからだ。
「……で、そんなに、死にたいのか」
 だから前置きも無しで本題へ――静かな問いかけは夕暮れの教室に、不思議と馴染んでいた。
「これから死ぬのなら、お前をそこまで追い詰めた怨みも悩みもせめて此処に置いていけ」
 俺が覚えておいてやる――そう言って、話を聞く姿勢に入った理に頷き、ティアも先ずは相手の持ちに寄り添って話を聞こうと、優しく頷いて先を促す。ありがとうと儚げに微笑んだ女子生徒は、己が今まで溜め込んでいたであろう――悩み、苦しんだ数々の想いを、膿を吐き出すようにして言葉にしていった。
「報いだと、思っています。今の状況は、ぜんぶ」
 ――嘗て。中学生の頃、少女のクラスでいじめが流行っていたのだと言う。標的になったのは、少女と似たようなタイプの大人しい女の子。特別仲が良かった訳ではないが、かと言っていじめに加担する気持ちも無かった少女は、ただ関わり合いにならないようにしていたのだと言う。
「……自分もいじめられるのが、怖かったんです。見ない振りをして、その結果、その子は自殺しました」
 後悔もあった。でも、自分に何が出来たのかと言う想いもあった。そして――高校に進学して、自分がいじめられる側になって、ようやく分かった。
「助けてって、クラスの皆に縋りたくても……皆、目を逸らして、私なんか居ないように振る舞って。悪意と無関心が取り巻く中で、あの子はこんな孤独と絶望を味わっていたんだって、初めて気づかされたんです」
 誰かひとりが率先していじめを行う訳では無く、クラスの中で生贄をひとり選んで、皆でじわじわと追い込んでいく――そんな現実。皆がやってる、自分だけじゃない。そんな連帯意識は、いじめへの罪悪感など簡単に掻き消してしまうのだろう、と。
「きっと、いじめている人は、何年か経つとこんなことをしてたなんて忘れて、何食わぬ顔をして生きていくんでしょう。……でも、私は。いじめられた傷を一生負い続けて、怯えながら生きていくしかない」
 恨み言を言うのも馬鹿らしくなって、罪の意識の無いものに、自分の手を汚すこと覚悟で復讐をするのも――もっと馬鹿らしい。
「……なら、私の命は、あの子の為に捧げたい。『かみさま』に会って、あの子に謝って、私も一緒に死ぬからって、伝え……」
 ――そこからはもう、言葉にならなかった。涙をぼろぼろと零してしゃっくり上げる少女へ、相槌を打って話を聞いていた理は――その目を見て優しく微笑んで、ただ一言を告げた。
「……よく頑張ったな」
 自分の命をどう使おうが自由だ。他人がとやかく言えるものでも無い――だから止めはしないが、ぽりぽりと頭を掻きつつ理は、偽りのない己の気持ちを伝える。
「でも、そこまで頑張って、ただ死ぬのは勿体ねえなと思ったから……なぁ」
 ――死ぬ前に、一日。自分への褒美に好きな事を存分にやるのはどうだ? まさかそんな提案をされるとは思わなかった女子学生は、死へ向けて加速していた心をふっと揺さぶられ――其処へティアが涙を拭おうと、ハンカチを差し出しつつ訴えた。
「神は、ただ見守っていてくださるだけ。人にとって、都合の良い奇跡を与える存在ではありません」
 ですが同時に、何かの対価として命を奪う事もありません、と――神では無いティアは、故に少女の苦しみを分かち合うように、優しくその肩を抱きしめる。
「だからこそ、私は目の前で苦しむあなたに手を伸ばしたいと思います。……あなたの涙が乾くまで、傍に」
 ――ただ静かに、自分の想いを聴いてくれるひと。黙って受け止めてくれるひと。ただそれだけで、心の重荷は随分と楽になるものだ。泣きはらした顔で、でもちょっぴり晴れやかな様子になった女子生徒と、校門前で別れた理たちは、彼女から教えて貰った儀式の日取りを改めて確認する。
 儀式は今日の深夜、日付が変わる頃に開始。場所は――女子生徒が通っていた、既に廃校となった中学校。自殺した彼女の同級生が在籍していた教室が、儀式の舞台だった。
(「死にたいのに、このかみさまには逢わせてやれない。……悪いな」)

 ――都合の良い『かみさま』など居やしないのに。捧げて死んでも良いと思える程の、生きづらさ――それを己が理解するには、余りにも遠いのだとクレム・クラウベル(paidir・f03413)は思う。
(「……物は満ちても心は満ちず、というところか」)
 常闇の世界とは違うこの世界は、一見華やかで光輝いて見えるからこそ、生まれる影も深く濃いものになるのだろう。今までの調査で判明した情報を、改めて確認していくクレムは、スマホの画面に映る歪な影絵を見て眉根を寄せた。
(「廃墟に、死を望み『かみさま』に会いたいと願う人間を集める」)
(「儀式の開始は、真夜中の日付が変わる頃。『かみさま』を呼ぶ為、血を使って『かみさま』と思しき絵を描く」)
(「参加者のひとりに、邪神……『かみさま』の配下が紛れ込んでいる」)
(「恐らくはそれが『かみさまの代理人』を名乗る存在。そいつが正体を現し、仲間を呼んでひとを喰らう。これが生贄になっているのだろう」)
 ――発見された幾つかの儀式跡の様子を見るに、『かみさま』の復活はそう遠くはない筈。『一緒に、かみさまに会えるなら怖くない』――そう頷いて、一緒に逝こうと微笑んだひとびとが、確かに居たのだ。
 しかし――きつく銀十字を握りしめたクレムは、血を吐くような声で呟いた。
「……俺にはとてもそう思えないな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『棄テラレシ可能性』

POW   :    未来捕食
戦闘中に食べた【敵対者の血肉】の量と質に応じて【醜怪な姿へと成長を遂げ】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    現在汚染
【周辺同位体の寿命】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【恐怖と絶望に塗れた腐敗性瘴気】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ   :    過去顕現
【悍ましさや痛(悼)ましさ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【対象の喪った存在の幻影】から、高命中力の【憎悪を感染させる精神波】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――やがて陽は沈み、夜の帳が静かに下りて。いよいよ『かみさま』に会う儀式が、廃校となった中学校で行われようとしていた。
 儀式へ参加しようとしていたひとびとを止め、代わりに猟兵たちが教室に足を踏み入れると――其処には、まだ幼さを残した少女がひとり、幸福に包まれた表情のまま一行を迎え入れたのだ。
「ようこそ、私が『かみさまの代理人』……。今宵この地に、『かみさま』が完全に姿を現すでしょう」
 ――あなた達が儀式を邪魔しようと動くのなら、纏めて生贄に加えるまで。生命を、未来の可能性を捧げ、骸の海より神は蘇るのだからと、そう言って。
「……この身体はかつて、可能性を宿していました」
 腹部に手を当てて囁く少女の声は、子守歌のように暗い教室に響き渡り――いつしか闇の彼方からは、おぎゃあおぎゃあと、赤子の泣き声が聞こえてくる。
「成長さえ出来ていれば、数多の可能性を得られた筈の生命……それが『私たち』だから」
 直後――少女の肉体が爆ぜ、血の絵具が黒板にべったりと貼り付いて歪な絵を、影法師のような『かみさま』の姿を描いた。
『ごめんね、許してね。ごめんねごめんねごめん』
 瞬く間に汚染されていく空間から、次々と現れたのは邪神の眷属である異形の群れ。それは血塗れの海馬のような、或いは未成熟な胎児のような姿をして、猟兵たちに襲い掛かって来る。
『かみさまたすけて、かみさまかみさまかみさまかみ』
 過去の残滓は、完成した生命の世界を見て何を思うのか。『棄テラレシ可能性』――それは廃棄された細胞か、或いは堕胎された胎児か、或いは、ただ生まれてくることが出来なかった、いのち、そのものか。
『胎児よ、胎児よ、何故踊る――』
 ――そして棄テラレシ可能性は、己の成長を許さなかった未来へ牙を剥く。
無銘・サカガミ
【マリス・ステラ(f03202)と東雲・咲夜(f00865)と共闘】

………ああ。実に気分が悪い。
こんな光景見せられて、気分がよくなるやつなどいまい。
まあ、俺も同じようなものか。
里の一切を滅ぼされ、生き残った唯一人の俺。それも、「神」が起こした惨劇だ。
「かみさま」に縋る者と「神」を憎む俺。皮肉めいたものを感じるな。

それはそれとして、今は目の前の敵をどうにかするか。
「俺を気にする必要はない。さっさと片付けるとしようか。」

敵が瘴気を放つなら、こちらも正面から受けてたとう。
「見せてやるよ…俺の、『神』がくれた呪いってやつをな!」
支援は二人に任せて、ただ敵を斬ることに専念する。


マリス・ステラ
サカガミ(f02636)と咲夜(f00865)と連携

【WIZ】他の猟兵とも協力

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと、星が煌めく『カウンター』

「サカガミ、あなたはひとりではありません」

『破魔』の力が宿る弓で『援護射撃』

重傷に限定して【不思議な星】
緊急時は複数同時に使用

過去顕現の力が私を蝕む
気がつけば目の前に"彼"がいる
憎悪を浴びると星辰の片目から涙が伝う
生きていて欲しかった
生きてくれたなら憎悪くらい喜んで受け入れるのに

「……ありがとう」

彼は幻だ
死者は何も思わないし、何も語りかけない
それでも再び会えたことに、私は感謝を述べて弓を射た


東雲・咲夜
サカガミくん(f02636)マリスちゃん(f03202)と

飛び散る血肉、亡者たちの叫び
凄惨さに悲鳴を上げ涙が浮かび

嗚呼、しっかりせな…!
うちはこの悲劇を止めに来たんや

恐れを振り払うよう高らかに
『破魔』を籠めた『歌唱』で
この空間の禍々しさを祓います
御霊は天に、哀しみは空へ
全ての魂の安寧を『祈り』――

マリスちゃんもサカガミくんも
うちの大切なお友達や
憎しみになんて染めさせまへん
悲しみや苦しみの陰には
僅かでも希望や幸せが在るんです

桜色の温かな光で二人を『かばう・オーラ防御』
【玉兎】のちからも借りて
『属性攻撃・スナイパー』で水の矢を形成
眼らしき円を狙ってみます
せや、うちは、うちらは、ひとりやあらへん…!



 嘗ての学び舎――其処へ眠る思い出を塗り潰すように、黒板にべったりとした血で『かみさま』の姿が描かれて。禍々しい儀式を完成させようと姿を現したのは、邪神の眷属である『棄テラレシ可能性』の群れだった。
「ひ、っ……! あ……、あぁ」
 飛び散った血肉と、赤子が泣くような亡者たちの叫び――儀式場を彩る凄惨な光景に、東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)の喉から、引き攣った悲鳴が零れる。
 この場所を突き止めるまでに、彼女たちが得た手掛かり――自殺者の遺した遺書の文字が、目まぐるしく脳裏を駆け巡っていた。『母』になれなかった少女は、産んであげられなくてごめん、と己に宿った生命にひたすら謝り続けて、最期に『かみさま』に縋ろうとしていて。
(「そんな子達を、この存在が……。嗚呼、しっかりせな……!」)
 知らず知らず藍の双眸を濡らす涙を、千早の袖で拭おうとする咲夜。一方で、無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)は、神の名の元に生み出された冒涜的な光景を目にして、その硬質な美貌を僅かに歪めていた。
(「……ああ。実に気分が悪い。尤も、こんな光景を見せられて、気分が良くなる奴などいまいが」)
 ――そう、サカガミも嘗て『神』を名乗るものが起こした惨劇に巻き込まれたことがある。里の一切を滅ぼされた結果、唯一人生き残った彼は幸運だったのか、それとも不運だったのか。
(「『かみさま』に縋る者と『神』を憎む俺。……皮肉めいたものを感じるな」)
 それはそれとして、今は目の前の敵をどうするか――次々に姿を現す眷属を目にしたサカガミの元へ、その時りぃんと星が転がるような涼やかな声が届く。
「――主よ、憐れみたまえ」
 短い祈りの言葉を唱えると同時、声の主であるマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)の、星辰の輝きを秘めた片目に光が灯った。生まれながらの聖なる存在である彼女は、体内から放つ光を星の守りへと変えて、不浄の存在に立ち向かう。
(「そう……うちはこの悲劇を止めに来たんや」)
 そんな凛々しいマリスの姿に勇気を貰った咲夜も、恐れを振り払うよう高らかに、清冽な歌声を響かせて儀式場にわだかまる邪気を祓っていった。
(「御霊は天に、哀しみは空へ。全ての魂の安寧を、うちは『祈り』――」)
 ――そして命在るものに等しく寄り添おうと、咲夜は清浄なる神々の力を借りて、桜花舞うように守護の力を張り巡らせる。
「……俺を気にする必要はない。さっさと片付けるとしようか」
 それは敵のまき散らす瘴気による汚染に、真っ向から立ち向かうサカガミを庇っていくが――彼は己の身に降り積もる穢れなど意に介さないとばかりに、怨念の宿った刀で以って敵群を斬ることに専念していた。
「いいえ、サカガミ……あなたはひとりではありません」
 ――けれど。身を削って戦おうとするサカガミを援護するように、破魔の力を宿したマリスの弓が、流星の尾を引いた矢を放つ。
「そうや、マリスちゃんもサカガミくんも、うちの大切なお友達や……」
 過去顕現の力による、精神汚染――傷ましい幻影に苛まれる咲夜もそれを必死に振り払い、皆を憎しみになんて染めさせはしないと、水の矢を形成していって。
「悲しみや苦しみの陰には、僅かでも希望や幸せが在るんです。……せやから」
 そんな咲夜の肩の上には、ちいさな白兎がちょこんと乗っかっており、つぶらな瞳で彼女を応援していた。――ひとりじゃないよ。辛いときには、ぼくが傍に居るから。そんな無言の祈りが、確かな力を与えてくれる。
「せや……うちは、うちらは、ひとりやあらへん……!」
 花と戯れる、風と水の神霊の加護を受けて――放たれた矢は、狙い過たず『棄テラレシ可能性』の真円の瞳を射抜いていた。それと同時、過去顕現による汚染に苛まれていたマリスの片目から、つぅと一筋の涙が伝う。
(「生きていて欲しかった。生きてくれたなら、憎悪くらい喜んで受け入れるのに」)
 目の前に現れた『彼』の幻影は、マリスにしか見えていない。わかっていた、彼は幻であり――死者は何も思わないし、何も語りかけないのだと言うことを。それでも――。
「……ありがとう」
 再び会えたことに感謝を述べて、マリスの弓が幻影ごと標的を貫いた。そうしてふたりの支援の元、サカガミは過去の残滓へ向けて、八百万の呪いを解き放って対抗する。
「見せてやるよ……俺の、『神』がくれた呪いってやつをな!」
 ――呪詛に対しては、更なる呪詛を。白磁の肌を生々しく伝う紋様が鮮やかな血のような輝きを放つと、吹き荒れる呪詛の嵐は、可能性の一欠片も残さず過去へと葬り去っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御形・菘
お主らの執念、とても素晴らしいぞ
ならば此処こそが一世一代の見せ場よ!
妾の動画の視聴者は、百万どころか一千万、いや一億を超える!(誇張あり)
せめて、お主らが確かに存在したという証を存分に記録へ刻み、皆の記憶に永遠に残るがよい!

高らかに腕を上げ、指を鳴らし、高らかに鳴り響けファンファーレ!
味方の炎は即消すからな
運良く生まれ落ち、世界に恵まれ生き延びた側の異形がここにおるぞ?
さあ来い! 妾の左腕でボッコボコにしてやろう!

はっはっは、瘴気なんぞ気合で我慢よ
ファンの熱烈な歓迎と思えば、敵陣ド真ん中に居座るのは楽しいぞ
そして妾の役割は囮役よ
皆の衆が各自、何を思うかは知らんが、作った隙を逃すはずはあるまい?


リグ・アシュリーズ
さて。さっきは命大事にって言ったけど。
――あなたは違うよね。

机を蹴り一気に肉薄、そのまま黒剣で斬りつける。
斬撃に生命力吸収を織り交ぜつつ、
窓側に追いやりすぎて逃げられないよう注意して戦うよ。

可能性って響きはいいけどね。
命は不可逆。嘆いても戻らないものなの。
もし気持ち的に戦い辛そうな人がいたら、攻撃いくらか肩代わりしつつ、お声がけを。
「手をゆるめちゃダメ!」
誰にだって、戻ってきて欲しい人はいる。
でもその人が生贄と引き換えに返ってきたって、私は喜べない。
「もしもとか生きてたらとか、そんなたらればで語ってるヒトに――」
大上段に振りかぶり、ぶっさす。
「命、奪われてたまるもんですか! 生命、なめんな!」


千頭・定
私と変わらないような女の子でしたのに…
赤ん坊が……こういうは恋愛小説でみたことがあります。
さすがに胎児が襲ってくることはありませんでしたが。
運が悪かったんですね。でもUDCなので…慈悲はありませんっ

―それでは、お仕事を開始します。

武器は鋼糸です。
[先制攻撃]と[ロープワーク]で敵を捕縛します。
その後[怪力]で捕縛した敵を振り回して、近くの敵や床に叩きつけます。
敵のUCには[敵を盾にする]で対応。

ボロボロになったら、新しい盾を捕縛しますよう!


(アドリブ連携歓迎ですよう)



 ――悪夢の夜は未だ始まったばかり。鉄錆のようなにおいを辺りに漂わせながら、尚も襲い掛かる眷属たちを前にして、千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)は先程目にした少女の姿を思い出していた。
「私と、変わらないような女の子でしたのに……」
 けれど、子を身籠った末に自ら死を選んで――その骸までも利用されて。赤ん坊がどうこう、と言う話は恋愛小説で見たこともあったし、あり得ない話ではないのだろうと定は思っていたけれど。
「……でも流石に、胎児が襲ってくることはありませんでしたが」
 ――運が、悪かったのだ。しかし、其処にUDCの存在が絡んでいるのならば、慈悲を与える訳にはいかない。エージェントであり傭兵として研鑽を積んできた定は、瞬時に気持ちを切り替えて鋼糸を構えた。
「――それでは、お仕事を開始します」
「ははははは、お主らの執念、とても素晴らしいぞ――ならば此処こそが、一世一代の見せ場よ!」
 一方で、おぞましき『棄テラレシ可能性』の群れに対しても、微塵も臆すること無く口上を述べるのは、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)だ。蛇にして邪――神としての威容を湛え、漆黒の複翼をばさりと羽ばたかせる菘は、己の信者もとい動画視聴者へ向けて、最高に映像映えする構図で見得を切った。
「ちなみに妾の動画の視聴者は、百万どころか一千万……いや一億を超える!」
 ――若干誇張が入っているが、問題ない。きっと将来的には、その位は余裕で行く筈だと頷いた菘は、高らかに腕を上げ――ぱちんと指を鳴らして、ファンファーレを響かせる。
「だからせめて、お主らが確かに存在したという証を存分に記録へ刻み、皆の記憶に永遠に残るがよい!」
 直後――眷属の一体が紅蓮の炎に包まれ、奇妙な情動に突き動かされるかのように、菘の姿を凝視した。己の身を焼く炎など意に介さぬと言った様子で、ただただ彼女から目を離したくない――『見よ、この人だ』、その呪縛に囚われた存在に向かって、菘は満足げに笑みを浮かべる。
「ほら……運良く生まれ落ち、世界に恵まれ生き延びた側の異形が、ここにおるぞ?」
 捕食を行おうと群がって来る異形を、左腕に纏った五行玻璃殿で薙ぎ払う菘――その活き活きとした表情を見たリグ・アシュリーズ(人狼の黒騎士・f10093)は、問題無さそうだと頷いて、黒剣の切っ先を敵群へと向けた。
「さて。あの子たちには命大事にって言ったけど。――あなたは違うよね」
 儀式に参加しようとしていた、少年少女たち――この世界に蔓延する生き辛さに悩んでいた彼らへ、もっと大事なコトのために、その命を末長く使ってあげてと、リグは声を掛けていたのだ。
「可能性って響きはいいけどね。命は不可逆」
 だぁん、とけたたましい音を立てて机を蹴った彼女は、一気に標的へ肉薄すると、異端の血を啜る呪われた刃をその赤黒い肉体へ向けて振り下ろした。
「……嘆いても戻らないものなの」
「その肉体、利用させてもらいますよう!」
 そして定は、辺りに飛び散る血飛沫にも顔色ひとつ変えず、手近な敵に狙いを定めると、鋼糸を巻き付けてその身動きを封じていく。細く輝く絡新婦の糸に囚われた敵は、定の発揮する怪力によって翻弄され――そのまま武器として、或いは敵の攻撃を受ける盾として、ぼろぼろになるまで酷使されていった。
「こんな可能性なら、無かった方がまし……だなんて思わないでくださいね」
「はっはっは……ファンの熱烈な歓迎と思えば、敵陣ド真ん中に居座るのは楽しいぞ!」
 更に、その存在感を如何なく発揮する菘は、立ち込める瘴気を気合で乗り切りつつ、敵の注意を一手に引き付けている。彼女が囮になろうとしていることは、明らかであり――作ってくれたその隙を逃すことなど、リグには出来なかった。
(「手をゆるめちゃダメだ」)
 ――誰にだって、戻ってきて欲しい人はいる。でも、その人が生贄と引き換えに返ってきたって、自分は喜べないと思うから。
「もしもとか生きてたらとか、そんなたらればで語ってるヒトに――」
 漆黒の旋風を纏うリグは咆哮すると同時、大上段に振りかぶった黒剣を『棄テラレシ可能性』目掛けてぶっ刺していた。
「命、奪われてたまるもんですか! 生命、なめんな!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

冴木・蜜
産まれられなかったのか
堕胎されたのか
……生きたかっただろうに

いいでしょう
私の体を喰らえばいい
私に食いつくのならば拒みません
他の猟兵に牙を剥くなら
身を捻じ込んで庇いましょう

醜悪?…いいえ
どんな形であれ
生きようと賢明にもがいたものは愛おしい
だからこそ
貴方までもが未来を奪う存在と成り果てる必要はない

食らいついた胎児を離さず抱きしめ
融けた己の毒腕で
彼らを優しく抱き締めて
攻撃力重視の捨て身の『毒血』
喰われた肉体さえも使って
痛みすら感じる暇も無いように
その命を融かします

母に抱かれることも許されなかった貴方に
代わりとはなりませんが
せめて苦しまずに
眠る様に逝けますように


如月・螢
酷い事を…
いや、産み出してしまったのは人の業か
これを産み出した全てがそうとは言えない
でも、少なからず…人の身勝手で捨てられ
――未来を無くなったのは確かだ

キミも未来を失くし嘆くモノなんだね
中にはキミを望む者も居ただろう
その人も憎み泣き喚き全てを壊してしまうのかい?

そうか、そうか
本当に赤子と変わらないんだな
あやすのも先に産まれ落ちた者の役目だ

あわれむ、と言うのかな…この気持ちは
キミが教えてくれた想い、今は――捨てよう

女王の心臓を目立たないように展開し
シルクで包み込むように純白の焔で覆う
さあ、お眠り――

残りの子等も還そう
槍を握りフェイントを挟み傷口をえぐる
危ないようなら下がり援護射撃といこうか


雨糸・咲
向かってくるものは、まさに異形
けれど、その姿はどこか哀しい
ひょっとしたら誰かに望まれて
それでもいのちとして形を成しえなかったのだろうか、と
だとしたら、あまりにも――

…ごめんなさいね

詫びる言葉が漏れ出たのは、
望まれずとも生を得た自分に小さな罪の意識を感じたから

見切り、第六感で攻撃を極力回避
避け切れない場合はオーラ防御
漂う瘴気を濯ぐべく、雪白華で清めの花弁を降らせます

得られなかったものを持っている相手は憎いでしょうが
そこに浸ってしまえば、自分が汚れてしまうだけ
どうか…
どうか、これ以上は、

白刃煌めく小太刀を手にした椿の精を喚び
なぎ払いで赤い異形を幽冥へと送りましょう

※アドリブ、絡み歓迎です



 向かってくるものは、まさに異形と呼ぶに相応しい存在であり――けれど、その姿がどこか哀しいと思ってしまうのは、彼らが『棄テラレシ可能性』と名付けられた故か。
(「ひょっとしたら誰かに望まれて、それでもいのちとして形を成しえなかった……」)
 そんな可能性に思い至った雨糸・咲(希旻・f01982)は、胡桃色の瞳に映した姿かたちから、せめて目を逸らすまいとまなじりを決する。
(「だとしたら、あまりにも――」)
 ――酷い事を、と漏れ出た声は、如月・螢(透明な心・f00180)のものだった。産まれなかった筈の存在を産み出してしまったのは、人の業――これを産み出した全てが、そうとは言えないと分かっている。でも。
(「少なからず……人の身勝手で捨てられ――未来が無くなったのは確かなんだ」)
 闇夜の中でもきらきらと輝く金の髪を揺らして、螢がゆっくりと一歩を踏み出す中で。冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は病んだような吐息を吐き出し、己の身を苛む罪悪感と戦っていた。
「産まれられなかったのか。堕胎されたのか。……生きたかっただろうに」
 ただ、救いたかったと言う呟きは、蜜が嘗て抱いていた無垢なる願い。けれどそれも、たった一匙の悪意が混ざることで毒へと変じ――望まずとも、誰かの生命を奪う結果に繋がった。
「……いいでしょう。ならば、私の体を喰らえばいい。私に食いつくのならば拒みません」
 言の葉と同時、蜜の唇からは粘り気のあるタールが零れ落ち、教室の床に染みを作っていって。無防備な彼の姿を、格好の獲物だと思ったのか――『棄テラレシ可能性』たちは次々と、まるで母の胸に縋るかのように飛びついて、蜜の肉体を捕食していく。
「蜜、さん……!」
 身体を張って自分たちを庇う蜜を護るべく、清めの花びらを降らせようとする咲だったが――蜜はただ黙ってかぶりを振り、彼らの未来捕食を受け入れる意志を示した。
「醜悪? ……いいえ。どんな形であれ、生きようと懸命にもがいたものは愛おしい」
 ――だからこそ、貴方たちまでもが未来を奪う存在と成り果てる必要はない、と。食らいついた胎児を離さずに、蜜は融けかけた己の腕で優しく抱きしめる。
「母に抱かれることも許されなかった貴方に、……代わりとはなりませんが」
 ぐずぐずに崩れ落ちていく血肉は、既に人間への擬態が解かれて、液状生命体本来のものに変わっていた。更に、その肉体を構成する液体は――致死性の毒蜜、ギフトの名を持つ力を生んで、捕食者の命を融かしていく。
「……せめて苦しまずに、眠る様に逝けますように」
 貪るもの達が次々に力尽き、骸の海へと還っていく中で「ごめんなさいね」と、咲は詫びる言葉を口にしていた。
(「私は、望まれずとも生を得てしまったから」)
 其処に小さな罪の意識を感じることなんて無いと、同じヤドリガミである螢なら言っただろう。でも自分は、喪失を抱えたまま生きていくことを、とうに受け入れたのだ。
「得られなかったものを持っている相手は、憎いでしょうが……そこに浸ってしまえば、自分が汚れてしまうだけ」
 ――だから、どうか。どうかこれ以上は。清一重の祈りと共に、顕現するのは椿の精。白刃煌めく小太刀を手にした雪白の娘がひらりと舞うと、月光を宿した刃が赤き異形を纏めて薙ぎ払い、幽冥へと送り返していく。
「……ああ、キミも未来を失くし嘆くモノなんだね」
 未だ足掻くものへは、螢の繰り出す竜槍が迫り――彼らは赤子のような鳴き声を上げて、抵抗を続けていくけれど。
「中にはキミを望む者も居ただろう。その人も憎み、泣き喚き……全てを壊してしまうのかい?」
 ――そんな真摯な彼女の問いかけも、異形の子らは理解した様子も無く、ただ暴れ続けるのみだった。その様子を見た螢は「そうか、そうか」と納得したように頷き、すこし寂しそうに瞳を伏せる。
「本当に赤子と変わらないんだな。……なら、あやすのも先に産まれ落ちた者の役目だ」
 嗚呼、この気持ちは、あわれむ、と言うのだろうか――螢が展開させたのは、純白の焔で覆った女王の心臓。シルクで包み込むような白炎から現れた王冠は、強欲の炎を溢れさせ、『棄テラレシ可能性』を熱く抱擁して離さない。
(「キミが教えてくれた想い、今は――捨てよう」)
 ――さあ、お眠り。どんな夢をみるかは、キミ達の自由だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
『胎児』の姿か…やりずらいな。
産まれてこれなかった子に何も罪はないし
産んであげられなかった母親にだってきっと

でも、今生きてる人の命を摘み取ることほど罪な事はないだろう?

【クイックドロウ】【先制攻撃】で先手を取る。【援護射撃】【スナイパー】【戦闘知識】で確実な命中を。
UC【バトルキャラクターズ】を召喚三体召喚
以下。自身と同じ行動をさせる。

過去顕現の影響で姉の幻影を見るも理解できず頭痛を引き起こす。

なんで、みんな姉ちゃんが死んだって言うんだ?…なんで?
『本当の私のこと忘れちゃだめだよ、真紀』
姉ちゃん?

アドリブ連携歓迎。


ラモート・レーパー
「ごちゃごちゃうるさいなー。死人が今に口を出さないでくれるかな?それとも喰って地獄に送ってあげようか?」
【ウィル・オー・ウィスプ】の空間に【ナイトハウンズ】と【間引きの厄災】を入れておく。
ラモート自体は【死の概念】で体が構成されているため、幻影を見ずに対応できる。
空間内で残った敵の肉片はそのまま口の中肉片送り込んで食道の先の地獄に送る


芥辺・有
……可能性か。
成長していれば。生きていれば。……まあ、いくらでもあるんだろ、そんな話。
ただ生憎と、過去の可能性のために未来の可能性ってやつをそう易々と奪わせるわけにもいかないからね……。

遠くの奴らは銃で撃ち抜き、近づくものは杭を穿って串刺しにしよう。
考えるよりなお速く動くように。第六感で感じ取った、食らえば危ないと感じる攻撃だけを見切り避けよう。
傷を負うこと自体は厭わず。
むしろ都合がいい。傷を負ったならそれを利用して列列椿を使用する。
胎児めいた奴らを視線でなぞって。目で追うものすべてに、無数の赤い杭を突き刺していく。


三嶋・友
こういうのはどうしたってやりきれないよね
でも、どれだけの事情、悲しみがあったとしても
その憎しみが向けられるべきは未来の全てじゃない
私に出来るのは、せめて海へ返す事だけ

数が多いし、宝石で攻撃魔力を強化
全力の風刃を連続で広範囲に畳みかけるように放っていく

…ごめんね
私結構幸せに生きてきたからさ
他の猟兵さん達みたいな重い過去とか背負ってないんだよ
大きすぎる喪失なんて、まだ経験していない

こんな剣二本と一緒に置き去りにされてた怪しい子供拾って
全力で愛してくれるとか、ホントどうかしてるよねー、うちの母さん
…憎しみなんかには負けないよ
私には、ささやかだけれど温かに積み重ねられてきた日常の想い出があるから!



「今生きてる人の命を摘み取ることほど、罪な事はない……そうだろう?」
 集団自殺を持ちかける存在とは、未来を断たれた『棄テラレシ可能性』たち――成程、都市伝説としては上手くオチがついているのかも知れない、などと花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)は思う。
(「しかし『胎児』の姿か……やり辛いな」)
 ――黒いフレームの眼鏡を押し上げつつ、護身用の拳銃を構えると同時に、引き金をひいて。腐敗した瘴気が蔓延するその前に、真紀はゲームキャラクターを具現化させて、更なる射撃で畳み掛けていった。
(「それでも、産まれてこれなかった子に何も罪はないし……産んであげられなかった母親にだって、きっと」)
 ああ――真夜中の校舎に、やるせない三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)の吐息が、ゆっくりと吸い込まれていく。こういうのは、どうしたってやりきれないと呟く友だったが――魔力を込めた宝石を取り出す指先は滑らかで、微塵の躊躇いも其処には無かった。
(「でも……どれだけの事情、悲しみがあったとしても。その憎しみが向けられるべきは、未来の全てじゃない」)
 相手の辛さと、憎しみを抱く理由については理解出来る。でも、それを認められるかは別だ――そして友は、未来に牙を剥く存在を野放しになど出来なかった。
(「……私に出来るのは、せめて海へ返す事だけ」)
 ――解き放つのは、全力の風刃。魔力強化されたそれが広範囲に展開されると、次々に眷属の肉体を抉っては辺りに血煙を漂わせていく。
「……可能性か」
 霧散していく亡骸を見つめ、何処か皮肉気に呟いたのは芥辺・有(ストレイキャット・f00133)。尚もふらふらと、此方へ向かって飛び掛かって来る一体に狙いを定めた直後――黒色の精霊銃から放たれた弾丸が、その頭部を撃ち抜いた。
「成長していれば。生きていれば。……まあ、いくらでもあるんだろ、そんな話」
 ――ひと一人の生命など、ほんの些細な切っ掛けで左右されるものだ。嘗ての有がそうで、彼女の場合は『拾ワレシ可能性』とでも名付けるべきか。
「ああ、ごちゃごちゃうるさいなー。死人が今に口を出さないでくれるかな?」
 一方のラモート・レーパー(生きた概念・f03606)は、感傷になど浸っている暇は無いとばかりに顔を歪めて、その繊手が生み出す『地獄の門』――其処へ忍ばせた地獄の猟犬たちを、一気に解き放った。
「それとも喰って地獄に送ってあげようか? 咎人を追い回し、血肉を喰らうモノ達よ……集え!」
 ――人知れず行われる真夜中の狩りは、異形の肉片を辺りに散らしていくが、それすらも全て地獄に呑み込ませようとラモートは動く。
「……ぁ、ぐッ……?!」
 しかし過去顕現の力は、そんな彼女にも容赦なく襲い掛かり――幻影など意に介さないつもりだったラモートも、精神波の感染によって膝を付くことになった。
(「……なんで、みんな姉ちゃんが死んだって言うんだ? ……なんで?」)
 そして真紀もまた、過去顕現の影響による幻影に苛まれ、酷い頭痛を訴えつつもかぶりを振る。
『本当の私のこと忘れちゃだめだよ、真紀』
 ――姉ちゃん? 理解できない、認めたくないと頭の何処かが警鐘を鳴らしていた。そうして真紀の瞳が憎悪に染まりかけた時、彼に肉薄しようとした一体が、黒色の杭によって串刺しにされる。
「生憎と、過去の可能性のために未来の可能性ってやつを、そう易々と奪わせるわけにもいかないからね……」
 夜が滴り落ちてきたかのような黒を穿ったのは、気怠い様子の有だった。しかし、考えるよりなお速く――第六感を頼りに、致命傷のみを見切って避ける彼女は、傷を負うこと自体を厭わずに駆け続ける。
(「……むしろ都合がいい」)
 ――傷を負ったなら、それを利用するまでだ。自身の流した血を代償に生み出すのは、深紅にぎらつく無数の杭。胎児めいた異形の姿を視線でなぞれば、目で追うものすべてに、列列椿の赤杭が血の華を咲かせていった。
「……ごめんね、私結構幸せに生きてきたからさ。他の猟兵さん達みたいな、重い過去とか背負ってないんだよ」
 大きすぎる喪失なんて、まだ経験していないのだと呟く友は、握りしめた長剣に目を落として自嘲気味に笑う。
「こんな剣二本と一緒に、置き去りにされてた怪しい子供拾って全力で愛してくれるとか……ホントどうかしてるよねー、うちの母さん」
 ――無条件に愛してくれるひとが自分には居るから、憎しみなんかには負けないと、少女は言って。直後吹き荒れる風刃が、その輝きを増した。
「私には、ささやかだけれど温かに積み重ねられてきた日常の想い出があるから! だから、未来を奪わせる訳には、いかないんだよ……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【稔のお嬢さんと】

可笑しなことを仰いますねぇ、棄てられたなら元から存在しないものですよ
過ぎ去った物事の「可能性」なんて何処にもありゃしねぇ、あるのはいつだって「現実」だけ
たらればを語りたければ骸の海でやってくださいよ

おや、自分にとっちゃ負の感情は力なんですよ、お生憎さま
豊富な負を撒き散らす良い餌(稔)も居ることですし、喰わねぇ手はねぇでしょう?

蠱によって自身を強化し、【呪詛、生命力吸収】で存在の一片まで奪いましょうか
【誘惑、恐怖を与える】で敵を誘き寄せたら、【カウンター】
人を呪わば穴二つと言いますが、今更呪詛のひとつやふたつ加わっても大差ありませんよ

もう戻せませんよ
はいはい、ごちそうさまでした


藤・稔
叶】

カ、ハ。神様を呼ぶのに地獄が要り用か?

(可能性だの成長だの
過去自分が利用されて切り捨ててきた言葉を使われちゃ
不愉快にもなる)

それを嘆くなよ。苛立つだろ。棄てられた側は、黙って、破棄者を見上げていろ。

おれの身体の大半はガジェットだ。切り捨て、継ぎ接いで、始まりの形を無理矢理キープするガラクタだ。
侵食される恐怖よりも疾く、ギアを加速する。絶望に喰われるよりも濃く、外敵への嫌悪と悪意を剥き出しに。
ギャンビットの加速も合わせ、一体一体迅速丁寧に属性弾で焼いてやる。せめて良い悲鳴聴かせろよ。テメエの可能性、おれが何億回でも棄ててやる

叶ーーソレはおれが喰い物だって言いたいんですか。悪食め。ゲロ吐け。



 儀式を遂行しようと襲い掛かって来るのは、『棄テラレシ可能性』なる存在の群れ。これは可笑しなことを仰いますねぇ、と――優美な笑みを湛える雲烟・叶(呪物・f07442)の瞳が、次の瞬間凍てついた光を宿す。
「……棄てられたなら、元から存在しないものですよ」
 ――過ぎ去った物事の『可能性』なんて何処にもありはしなくて、いつだって『現実』だけが目の前に横たわっている。薬草の香りと紫煙を幾ら纏おうとも、完全に世界と己を切り離すことは出来ないのだと、叶は身を以て知っていたから。
「たらればを語りたければ、骸の海でやってくださいよ」
「カ、ハ。神様を呼ぶのに地獄が要り用か?」
 その隣では藤・稔(あこがれ・f16177)が、霧の如き蒸気をしゅうしゅうと吹き出して、魔導蒸気機械――ガジェットの具合を確かめていた。
(「嗚呼、可能性だの成長だのと……大概にしろ」)
 そんな低く唸るような稔の声に、呪詛めいたものを感じたのか。長い銀糸の髪を揺らして、叶が小首を傾げる。
「おや、稔のお嬢さんはご機嫌斜めのようで」
「……過去に自分が利用されて、切り捨ててきた言葉を使われちゃ、不愉快にもなるでしょうよ」
 実験体として手荒く扱われた末に、稔は己の肉体を取り戻そうと足掻き、蒸気機械の力を借りた。そして現在――己の身体は切り捨てて継ぎ接いで、その始まりの形を無理矢理キープするガラクタなのだと、彼女は嘯く。
「なぁ、それを嘆くなよ。苛立つだろ。棄てられた側は、黙って、破棄者を見上げていろ」
 腐敗性の瘴気を撒き散らす異形の群れへ、稔はそう吐き捨ててギアを加速させていった。侵食される恐怖よりも疾く、絶望に喰われるよりも濃く――外敵への嫌悪と悪意を剥き出しにして。
「……せめて良い悲鳴聴かせろよ。テメエの可能性、おれが何億回でも棄ててやる」
 ――上着を脱ぎ捨てて身軽になった稔の、掌の上に突き出した刃が属性を帯びて煌めく。お前の大事なものを寄越せと、甘く囁く。
「おや、自分にとっちゃ負の感情は力なんですよ、お生憎さま」
 一方で叶は、捕食を行おうと襲い掛かる異形と対峙し、負の感情を糧に己の呪詛を育んでいった。より凶悪なものへと変質したその力を纏い、穢れし刻印は赤くあかくその色を変えて――獲物の生命力を、存在の一片まで奪おうと牙を剥く。
「おっと、豊富な負を撒き散らす良い餌も居ることですし、喰わねぇ手はねぇでしょう?」
「叶……ソレは、おれが喰い物だって言いたいんですか」
 身近に居て、敵意を剥き出しにする餌――もとい稔がじっとりとした目で睨みつけるが、叶はどこ吹く風と言った様子だ。そう、人を呪わば穴二つなんて言葉もあるが、今更呪詛のひとつやふたつ加わった所で大差は無い。
「この悪食め。ゲロ吐け」
「もう戻せませんよ。……はいはい、ごちそうさまでした」
 ――そんなふたりのやり取りが終わった時、辺りには既に、可能性の欠片さえも見当たらなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

バレーナ・クレールドリュンヌ
●アドリブ&絡みOKです。

【WIZ】

【心情】
わたしは決してあなた達を憐れまない。

わたしは見棄てられた白皙の人魚、
あなた達を憐れだというのなら、わたし自身のあったかもしれない可能性という幻影に跪いて縋りつく事になるのだから。

【戦闘】
『歌唱』の力で、棄テラレシ可能性を突き動かす呪詛そのものを止める為に、鎮魂の歌を歌いましょう。(UC)
喪った存在の幻影は、かつてわたしが未熟な死霊術で作り出した仮初の鏡合わせの人魚……それでも、今のわたしには喪った憎悪よりも、生きて出逢った親愛なる人達の姿が心にあるわ。
だから、その姿が心にある限り、声を、歌を届け続けましょう。
それが、わたしがこの世界に生きている証。


海月・びいどろ
かみさまにしか、たすけて、って
……言えなかったんだね


夜の帳に灯りを点すように
ぼんやりとひかる海月たちを喚び出して
ひとりひとり、抱きとめてみるよ

一箇所に引き付けて、時間稼ぎに
それとも、いっしょに踊る?

ボクも、会えなかったから
幻影すらも見ることは
出来ないかもしれない、けれど

おかあさんの、おなかの中は
海の音が、するんだって
きっと、キミたちのかえる場所も
おんなじ音がすると思うの

欲しかった歌とは違っても
すこしくらいなら、ボクもうたえるよ
くらがりを照らす、おほしさまの歌

海月のぬいぐるみの手を、ひらりと振って
さようなら、こどもたち

同じようには往けない、…けど
金色の第二ボタンをキミたちへ
この鼓動を、連れてって


イア・エエングラ
裾汚すのは嫌だから、そっと裾引き翻し
やあかわいらし、かみさま、だこと
よくよく泣いたね、かわいそに

泣いても何にも、戻らない
その声はきっと、届かない
僕のかみさまは、見えるかしら
鏡の向こうによくにたきみは、
確かに僕のかみさまだったけれど
そっと目を伏せきみを呼ぼうか
リザレクト・オブリビオンで手繰るのは
僕に応える、きみではない誰かの骸

ねえだって、きみは逢いには、こないでしょう
僕の騎士様に散らしてもらお
蛇の子がきっと喰らうでしょう
僕から離れず、いておいで
跳ねる色は盾で防いで
響く声さえかき消して
一緒に逝くなら、さみしくなかろ
おやすみなさい、きっと次は春においで



 ――ゆらゆら、ゆらゆらと。海の中を、或いは羊水を揺蕩うように『棄テラレシ可能性』たちは踊り、痛ましい過去を顕現させる。
「かみさまにしか、たすけて、って……言えなかったんだね」
 廃校となった教室はまるで、忘れ去られた水槽のよう。夜の帳に灯りを点すようにぽつり、ぽつり――ぼんやりとひかる海月たちを喚び出す海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は、ひとりひとり彼らを抱きとめようとするかのように、そっと細い手を伸ばしていた。
「やあかわいらし、かみさま、だこと。よくよく泣いたね、かわいそに」
 裾汚すのは嫌だからと、そっと裾を引き翻すイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)が、そっと目を伏せて過去の幻影と向き合う中で。バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)は滑らかな白き尾鰭を揺らし、淡々とした口ぶりで――しかし其処に確固たる意志を滲ませて、うたうように言の葉を紡ぐ。
「……わたしは決して、あなた達を憐れまない」
 落とし子たちの虚ろなまなざしを跳ね除け、バレーナは喪った存在――鏡合わせの如き人魚の幻影を受け止め、憎悪の感染に抗っていた。
「わたしは見棄てられた白皙の人魚……。あなた達を憐れだというのなら」
 ――直後、嘗て未熟な死霊術が創り出した、仮初の存在が弾けて泡となって消えて。呪詛そのものを止める為、バレーナの鎮魂の歌が、波間を揺蕩うように優しく辺りに響き渡る。
「……わたし自身の、あったかもしれない可能性という幻影に跪いて、縋りつく事になるのだから」
 それでも、今の自分には喪った憎悪よりも、生きて出逢った親愛なる人達の姿が心にあるから――甘やかな人魚の歌声は、魂に安寧を齎す波紋を生み『棄テラレシ可能性』たちを、抗いがたい安らぎで包み込んでいった。
(「だから、その姿が心にある限り……声を、歌を届け続けましょう」)
 ――それが、わたしがこの世界に生きている証だから。そんなバレーナの歌声に揺られるようにして、びいどろは硝子海月を操り――異形の子らを一箇所に引き付けてから、いっしょに踊ろうかと囁く。
「おかあさんの、おなかの中は……海の音が、するんだって」
 きっと、キミたちのかえる場所も、おんなじ音がすると思うのだと――続けたびいどろの、海色硝子の瞳に映る幻影は、彼が喪った存在を象っていた筈だ。
(「……ボクも、会えなかったから」)
 ――この海月のぬいぐるみを、作ってくれたヒトに、あいたくて。一緒に連れて行って欲しいと乞うたことを、びいどろは思い出す。
(「泣いても何にも、戻らない。……その声はきっと、届かない」)
 だとしたら僕のかみさまは、見えるかしら、と。微睡むイアが鏡の向こうに見たものは、確かに僕のかみさまだったのだと呟いて、そっと虚空に指を這わせた。
(「ねえだって……きみは逢いには、こないでしょう」)
 手繰り寄せるのは、死霊術で喚び出した亡者たち――それはイアに応える、『きみ』ではない誰かの骸だ。
「さあ、僕から離れず、いておいで」
 ――跳ねる色は盾で防いで、響く声さえかき消して。死霊騎士が『可能性』を散らしていく中、蛇竜の子はその欠片さえ残さずに一気に喰らっていく。
(「……欲しかった歌とは違っても。すこしくらいなら、ボクもうたえるよ」)
 バレーナの鎮魂歌に重ねるようにして、びいどろが紡ぐのは――くらがりを照らす、おほしさまの歌。一つくらいはと願い、星の夜に覚えた歌。
「一緒に逝くなら、さみしくなかろ……おやすみなさい」
 まるで星を目指して泳いでいくように、異形の群れが安らぎに満ちた様子で骸の海へと還っていく――そんな光景を目にしたイアは、次は春においでと手を振って。
「さようなら、こどもたち。ボクは同じようには往けない、……けど」
 そして海月のぬいぐるみの手を、ひらりと振って見送るびいどろは、金色の第二ボタンを取り出して虚空へと解き放った。
「どうか……この鼓動を、連れてって」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日知・理
…悪いな。
お前らの望みは――叶えてやれそうにない。

▼戦闘
…『生きたかった』と泣く彼らを前に、刀の柄に触れる手が止まる。迷いと惑いが生じる。
だが、それも刹那。

体力の低い者を優先的にかばう。
攻撃は出来る限り得物で武器受け、受け流す。

此方が発動するユーベルコードは『氷雨』。
範囲攻撃や暗殺技術を駆使し、身を省みぬ捨て身の一撃にて、"胎児"たちを輪廻に送る。

(…俺が、この世界に生まれてくるより、
お前らが生まれてきたほうが、
この世界は、きっと…幸せだった。)

(彼らを屠ったこの刀が、いやに重く感じる。)

アドリブ歓迎


静海・終
縋るモノがいないものは何に縋るのか
神というものか
悲劇は殺して、壊しましょう

腕を獅子に変え
ただ目の前にあるモノを可能な限り食い尽くす
私は貴方達を食べましょう
その可能性を喰らい私の可能性の糧に変えましょう
貴方達を救う為にではきっとない、ただ、そうしたかった
持った可能性を意味があったと変換させたかった
そんな傲慢で一方的な救いというのも憚られる
神がいるのならきっと何よりも平等で何よりも公平に
人の営みを見守るだけのもの
救ってもくれなければ堕としたりもしてはいない
人の願いが介入し意のままに動く神など神ではない
悲劇の可能性は何であろうと摘まねばなりません
なのに、これを、酷く憐れんでしまう事を許してください


雨乃森・依音
くそっ…やりきれねぇ
こんな胸クソ悪いことは早く終わらせねぇと

お前は…父さん…?
どうして…どうして死んだんだ
お前が死んでからあの女――母さんはおかしくなった
酒浸りになって俺に暴力振るって他に男作って家にも帰らなくなって…
――お前が俺たちのことを、置いていなくなるから
だから母さんは俺のことを捨てたんだ!
全部、全部ぜんぶ!お前のせいなんだ!

――ソテル
こいつをぶっ殺して、俺を“救ってくれ”
頼むよ、救世主
俺の、神様



――は、
なん、で…
俺は、なんてこと口走って…
父さんは、何も悪くなんか…ああ!くそ!
二度と憎しみの矛先を間違えるんじゃねぇ!
俺が唯一憎むのは、あの女――あいつだけで十分だ


…父さん、ごめんなさい



『生きたかった』『生きたかった』『生きたかった』――廃墟に木霊する泣き声は、そう彼らに訴え続けているかのようだった。
「くそっ……やりきれねぇ。こんな胸クソ悪いことは、早く終わらせねぇと」
 腐敗の瘴気を吐き出す『棄テラレシ可能性』へ向け、雨乃森・依音(紫雨・f00642)の悲痛な声が放たれる中で、明日知・理(花影・f13813)は刀の柄に触れる手を微かに震わせていた。
 ――手が、止まる。生じたのは迷いと惑い。けれどそれも、刹那のこと。
「……悪いな」
 ただ一言、それだけを口にして、理の妖刀が闇色を纏う。瞬時に気配を断った彼は、培った暗殺技術を駆使して一気に距離を詰め――降りしきる氷雨の如く、その刃を奔らせた。
(「お前らの望みは――叶えてやれそうにない」)
 ぱっと辺りを染める深紅の雨の元へ、続くようにして飛び出したのは静海・終(剥れた鱗・f00289)。その腕が瞬く間に獅子の頭に変じると、彼は目の前にあるモノを全て、可能な限り喰い尽くそうと襲い掛かる。
「縋るモノがいないものは、何に縋るのか。神というものか」
 口元に優美な笑みを湛えたまま、終は現在を汚染しようとする異形へ牙を突き立てた。悲劇は殺して、壊しましょう――絶えず己を駆り立てる、その衝動の赴くままに。
「……私は貴方達を食べましょう。その可能性を喰らい、私の可能性の糧に変えましょう」
 貴方達を救う為にでは、きっとない――ただ、そうしたかったのだと終は言った。悲劇を壊したいのだと言う想いには、理由も意味も存在しないのだけれど。
(「ただ……持った可能性を、意味があったと変換させたかった。そんな傲慢で一方的な救いと言うのも、憚られるでしょう」)
 嗚呼、もし神が居るのならば。きっと、何よりも平等で――何よりも公平に、人の営みを見守るだけの存在の筈だ。
「……そう、救ってもくれなければ堕としたりもしてはいない。人の願いが介入し、意のままに動く神など神ではない」
 ――その時、深紅の輝きに揺れる終の瞳が捉えたのは、顕現した過去に苛まれる依音の姿だった。少女と見紛うような美貌を苦悶のいろに染めて、彼はひたすらに慟哭している。
(「お前は……父さん……? どうして……どうして死んだんだ」)
 ああ、ああ――お前が死んでからあの女はおかしくなったんだと、依音の声音は絶望を深めていって。酒浸りになって、俺に暴力を振るって、他に男を作って家にも帰らなくなって――それはお前が、俺たちのことを置いていなくなったからだと、紫陽花色の瞳が憎悪にぎらついた。
「だからあの女は、母さんは俺のことを捨てたんだ! 全部、全部ぜんぶ! お前のせいなんだ!」
「……ッ!」
 ――我を失い暴走しかける依音の元、押し寄せる瘴気の渦を剣閃で断ち切ったのは理。彼もまた癒えない傷を抱え、この世界で足掻き続けているのだろうと――溜息を吐いた理は、依音を庇いつつ捨て身の反撃を狙う。
(「……俺が、この世界に生まれてくるより、お前らが生まれてきたほうが、この世界は、きっと……幸せだった」)
 体内に異形のUDCを宿し、生きる為には他者の血を啜らねばならない――理が抱えるのは、生きることへの罪悪感。その身を省みぬ一撃を放つのも、胎児たちを屠った刀がいやに重く感じるのも、その感情ゆえのことか。
「悲劇の可能性は、何であろうと摘まねばなりません。なのに、これを、酷く憐れんでしまう事を許してください」
 ――そんな中で告解めいた、厳かな終の声が真夜中の教室に響き渡り、ぐしゃぐしゃに貌を歪めた依音は『ソテル』と己の神の名を叫ぶ。
「こいつをぶっ殺して、俺を『救ってくれ』……頼むよ、救世主。俺の、神様」
 救ってよ、救ってよ――その悲愴な声に呼応して現れたのは、てるてる坊主の如き姿をした異形だった。ずるりと這いずる触手が落とし子を握り潰し、そして強引に捕食を続けていく傍ら、正気を取り戻した依音は己の口元を手で覆う。
「――は、なん、で……俺は、なんてこと口走って……父さんは、何も悪くなんか……ああ! くそ!」
 憎しみの矛先を間違えたと、きつく唇を噛み締める彼は、自分が唯一憎むのは、あの女――あいつだけで十分だと吐き捨てて、天を仰いだ。
「……父さん、ごめんなさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
そういう事、ですか
……神よ、どうかお見守りください

【祈り】を捧げ【破魔】の力を込めた
【シンフォニック・キュア】による聖歌を【歌唱】し
皆様の苦痛を和らげます

私の瞳に映る幻影は、亡きお母様
私と同じ色彩を持った、美しい人
悲しげに微笑むその姿と、憎悪の精神波に心は揺れて

静かに、けれど忘れないよう秘めている
全てのヴァンパイアと、そしてあの人を必ず滅ぼすという殺意と、使命感と

知らない、いえ気付かない振りをしている筈の
もう一つ、滅ぼすべきものがあるのではないかという想い
――だって、お母様を殺したのは、ヴァンパイアではなく――

耳飾りの青石を強く掴んで
浮かびかけた考えを振り払うように
高らかに神の愛を歌いましょう


クレム・クラウベル
終えた命が巻き戻ることなど許されない
例えどの様な形で潰えたとて、そこにどれ程の嘆きがあろうとて
それは有り得るべき事象ではない
世界にとってのイレギュラーでしかないのだから
だから、許されない。その在り方は

不浄には破魔を。祈りの火で瘴気ごと焼き祓う
『かみさま』など、いてもいなくても
どうせ助けてなどくれない
今この瞬間がそうであるように
……縋るだけ無駄だ、躯の海へ還れ
死者は死者へ、灰へ

ちらつく幻影に目を向けるのは一瞬だけ
命は不可逆だ。戻らない。戻ることも願わない
一雫の銀でその頭を撃ち貫いて
願うなら次を願うべきだ
巡る先にもう一度。生まれ変わる日を祈る
それならば或いは、“神様”も許してくれるだろう



 ――そういう事、ですか、と。儀式場に現れた異形の群れを見つめながら、ティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)は静かに祈りを捧げる。
「……神よ、どうかお見守りください」
 静謐なティアの声が聖句を紡いだあとで――破魔の力を乗せた聖歌は月光のようにゆらめいて、皆の苦痛と汚染を淡雪のように溶かしていった。
「……終えた命が、巻き戻ることなど許されない」
 一方のクレム・クラウベル(paidir・f03413)の声は、凍てついた炎を思わせる苛烈さを滲ませていて。例えどの様な形で潰えたとて、そこにどれ程の嘆きがあろうとて――それは有り得るべき事象ではないと。淡々と断罪を行う彼の姿もまた、聖職者の側面を表しているのだろう。
「お前達は、世界にとってのイレギュラーでしかないのだから――だから、許されない。その在り方は」
 ――不浄を滅する破魔の力が、祈りの火に宿って瘴気を焼き、祓う。祈祷文から生じた白き炎は、異端を呑み込んで灯火となるも、『棄テラレシ可能性』が放った過去顕現の力は、ふたりに痛ましい幻影を見せていた。
(「……ああ、お母様」)
 ティアの儚げな美貌が、悲哀を一層濃くして不安に揺れる中――その瞳に映る亡き存在は、彼女と同じ色彩を持った美しいひとは、ただ悲しげに微笑んでいる。それがティアの秘めた憎悪を揺り動かして、殺意を抱かせていくのだ。
(「忘れない……全てのヴァンパイアと、そしてあの人を必ず滅ぼすこと」)
 けれど、使命感にも似た想いの裏には、ティアが知らない――否、気付かない振りをしている筈の感情が燻っていた。
(「違う、私には……もう一つ、滅ぼすべきものがある」)
 だって、お母様を殺したのは、ヴァンパイアではなく――藍色の瞳が昏い翳を帯びたその時、白刃の如きクレムの言の葉が、惑いを斬り裂いて夜を震わせる。
「『かみさま』など、いてもいなくても、どうせ助けてなどくれない。今この瞬間がそうであるように」
 ――ちらつく幻影に、クレムが目を向けたのはほんの一瞬だけ。其処に何が映されていたのかは、彼にしか知り得ないことだ。だが。
「命は不可逆だ。戻らない。戻ることも願わない」
 自分に言い聞かせるようにそう呟いた彼は、浄化の祈りを込めた一雫の銀を放ち、異形の頭を撃ち抜いた。縋るだけ無駄だ、躯の海へ還れ――死者は死者へ、灰へ。それはクレムが見出した、彼らに与えられる救いのかたちであったのかも知れない。
「……願うなら次を願うべきだ。巡る先にもう一度。生まれ変わる日を祈る」
 銃声が次々に廃墟に木霊していく中で、ティアも己の迷いを振り払うようにして耳飾りの青石を強く掴み――高らかに神の愛を歌っていった。
 ――やがて、月が与う銀の一滴が全てを穿つと、辺りに満ちる瘴気は急速に薄れていく。
「それならば或いは、『神様』も許してくれるだろう――」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『かみさま』

POW   :    ここにいようよ
全身を【対象にとって最も傷つけたくないものの姿】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    やくそくしよう
【指切りげんまん。絡める小指】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ   :    きみがだいすきだ
【対象が望む『理想のかみさま』の姿と思想を】【己に投影する。対象が神に望むあらゆる感情】【を受信し、敵愾心を失わせる数多の言葉】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メドラ・メメポルドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『棄テラレシ可能性』の群れを、すべて狩り尽くした後――廃校となった教室に、言いようのない気配が満ちる。
『きみがだいすきだ』
 ――それは、誰かが望む理想の姿をしていた。
『ここにいようよ』
 ――それは、誰かが最も傷つけたくないものの姿をしていた。
『やくそくしよう』
 ――それは『かみさま』、誰かが望む偶像であり、概念でもあった。
 かみさまは、あなたの望んだ姿で現れて、あなたを無条件に愛し、受け入れてくれる。そんな甘い言葉で幾多の命を捧げられた存在は、しかし最後の儀式が失敗に終わった為に、不完全な状態で顕現した。
『あなたのすべてを、うけいれてあげるから』
 ――だから、ねえ。誰かが信仰し、或いは依存した存在の姿を模した彼は、優しい聲で死毒を注ぎ込む。あなたのいのちを、未来を頂戴、と。

 それは彼にして彼女、老人にして赤子――対峙したものは『かみさま』へ、己の望む姿を見出すことだろう。
 けれど、何者でもない時、それは歪な影法師の姿をして。くすくすと――無垢な子供の声で笑うのだ。
リグ・アシュリーズ
先ほどと同じく、黒剣の斬撃主体で戦うよ。
時々生命力吸収で消耗への備えも。
精神攻撃がお得意みたいだけど、ここにいる皆はきっと平気だよね。
連携をとってガンガン攻めるのみ。

もし私の前で敵の姿が変わるなら、それはきっとおぼろげな狼の影。
呪いが進んで戻れなくなった、在りし日の――。
「……甘い夢、みたい」
少しだけ微笑み――そのまま剣で切り裂く。

「ごめんね。死んだはずの人見たら迷わず斬れって言われてるの」
神に見放された地では、ありえない奇跡こそ敵だった。
だって、過去から蘇るってそういうことだから。

黒い風を纏い、最大限の力で斬り下ろす。
どんな姿でも私は猟兵。あなたはオブリビオン。
忘却の彼方、骸の海に沈んでて。


バレーナ・クレールドリュンヌ
●アドリブ&絡みOK

【WIZ】

『理想のかみさま』
わたしを受け入れてくれた親愛なる人、エリシャ(f02565)

【相克】
理想のエリシャ、それはきっとわたしに甘く囁き、わたしを愛するでしょうね、まるでお人形さんのように。でも、それは逆。わたしだけを見てくれる、わたしの色しか愛さない人形。
本当のエリシャはわたしの知らない色を見せてくれる。
だから、わたしが知り、望むだけのエリシャはうわべだけの虚構よ。

幻影をUCで破壊して解除したらはじめましょう。

「仮初とはいえ、わたしにエリシャの姿をしたものを攻撃させたわね?眠るように死ねるなんて思わない事ね」

血蠍の騎士を前面に、海月令嬢を回復と援護に展開して斃すわ。


芥辺・有
対峙した「かみさま」は己を拾った男の姿に見える。
……望んだ姿というのなら、そうだろう。
ああ、けど。吐く言葉は随分と有り得ないことを言ったもんだね。
あれが命を寄越せと言ったのなら、とっくに差し出してただろうさ。
けど。あの男は、言わないから。望まないから。だから今私はここにいる。
……かみさまなど、もういないのさ。

シガレットケースから煙草をひとつ取り出して。
それを吸うと共に呼び出すのは厳つ霊。
尾で打ち据え毒牙を突き立てるように命じよう。
私も白蛇の動きに紛れてかみさまの死角や不意を狙い、攻撃する。
その傍へ寄ったなら、捨て身の一撃で思いっきり蹴り飛ばす。
そのまま畳み掛けるように杭で串刺しにしてやろう。



 ざあざあと、波の音のような――或いは、古い映画のノイズのようなものを過ぎらせて『かみさま』の姿が歪んでいく。誰かが愛し、望む姿へと。決して傷つけることが出来ぬ、優しく残酷な姿を纏って。
(「……私が望んだ姿というのなら、そうだろう」)
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)にとってそれは、嘗て彼女を拾った男の姿に見えた。黄金色の双眸に映る彼は、あの頃と変わらぬままの姿で――有に向けて、一緒に行こうと手を差し伸べ、笑う。
(「ああ……けど。吐く言葉は随分と、有り得ないことを言ったもんだね」)
 ――有の理想を投影し、有が望む言葉を何処までも優しく紡いでくれる、男。そんな『かみさま』の見せる刹那のまぼろしは、バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)のこころも揺さぶっていた。
(「桜の、……花。儚くも鮮やかで、夜闇に狂い咲くような」)
 ――それは、遠い異郷に流れ着いた人魚の娘を受け入れてくれた、羅刹の娘。色を無くしたバレーナをうつくしいと言ってくれた、親愛なる大和撫子の姿だった。
『あなたが好きよ、ずっと一緒に居ましょうね』
『もうお前を置いて行きはしない、ひとりにはさせない』
 紡がれる数多の言葉は、きみがだいすきなのだと言う想いに満ちて、徐々にふたりの敵愾心を失わせていこうとするが――ああ、と乙女たちは甘い幻想を振り切るように、かぶりを振る。
「本当に、理想通り。まるでお人形さんのように、わたしに甘く囁き、わたしを愛する……でも、それは逆なのよ」
 バレーナだけを見てくれる、彼女の色しか愛さない人形――『かみさま』の投影させる理想の姿はしかし、バレーナの大切なひとの在り方とは、正反対のものだ。
「本当の彼女は、わたしの知らない色を見せてくれる……だから、わたしが知り、望むだけの彼女はうわべだけの虚構なのよ」
 ――自分の想像など及ばない、色鮮やかな世界を見せてくれる存在故に、自身の思念から再現することなど不可能なのだと、バレーナは毅然と告げて。一方で有は、何処か寂しげな表情で、もう戻れない過去を悼むように微笑んだ。
「あれが命を寄越せと言ったのなら、とっくに差し出してただろうさ。……けど」
 あの男は、言わないから。望まないから――だから今、自分はここにいるのだと有は言う。シガレットケースから煙草をひとつ取り出して、大人になった嘗ての少女は優しい過去と決別する。
「……かみさまなど、もういないのさ」
 ふぅと紫煙を吐き出し、呼び出すのは巨大な白蛇――厳つ霊。雷を纏う尾で打ち据え、鋭い毒牙を突き立てるように命じつつ、有は白蛇の猛攻に紛れて『かみさま』の死角へと回り込んだ。
(「うん、此処に居る皆は……平気だったみたいだね」)
 精神攻撃を跳ね除け、幻影を掻き消したバレーナ達に頷くリグ・アシュリーズ(人狼の黒騎士・f10093)は、無骨なくろがねの剣を振りかざし、重量を伴った斬撃で一気に畳み掛けていく。
「なら、連携を取ってガンガン攻めるのみ……!」
「ええ……仮初とはいえ、わたしに彼女の姿をしたものを攻撃させたわね?」
 眠るように死ねるなんて、思わない事ね――魔性の美貌を残酷な笑みで彩る、バレーナが呼び出すのは蛇神の眷属。槍持つ血蠍騎士は前線でリグと共に戦い、更に治癒の水を操る海月令嬢が援護を行って『かみさま』に対抗していく。
(「……お前には何でも有る、か。分かってるよ」)
 ――だから今は、生きるからと。贈られた名前を胸に刻みつつ、有は捨て身の一撃で思いっきり敵を蹴り飛ばし、更に黒色の杭を操り追撃を決めていった。
「ああ……姿を、変えたんだね」
 と――生命を啜るリグの刃の向こうで、『かみさま』が彼女にとって、最も傷つけたくないものの姿を取る。それは、リグが半ば予期していた――おぼろげな狼の影をしていて。その姿は、呪いが進んで戻れなくなった在りし日の――。
『ここにいようよ』
「……甘い夢、みたい」
 そう言って少しだけ微笑んだリグは、まぼろしを慈しむように見つめた後――躊躇うこと無く、そのまま剣で一気に斬り裂いていた。
「ごめんね。……死んだはずの人見たら、迷わず斬れって言われてるの」
 ――神に見放された地では、ありえない奇跡こそ敵だったから。過去から蘇るって、そういうことだから。その割り切りの良さは、傭兵の生業ゆえのことか――それとも、己が身を以て体験したがゆえのことか。
「どんな姿でも私は猟兵。あなたはオブリビオン――」
 黒き風がリグを包む鎧となり、灰色の髪を尾のように靡かせながら――彼女は鉄塊の如き黒剣を、最大限の力で『かみさま』目掛けて振り下ろした。
「だから、忘却の彼方……骸の海に沈んでて」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
艶やかな蛸足の男
私が何度罪悪感の底に沈んでも
その優美な脚で引き揚げるあの人が
私の憧れで、私が依存している
最も傷つけたくないものなのでしょう



ああなんて優しい聲でしょう
なんて甘いゆめまぼろしでしょう
貴方なら私の罪も赦して下さるのでしょうね

でもね
多くを殺し過ぎた私は
罪を赦されてはいけないのです
そして
彼は案外意地悪でして
そんな甘い言葉は吐かないのです

だから貴方は偽物 偽物のかみさま
たとえ姿が同じでも
貴方は私の理想になり得ない

それでもあくまで私を受け入れるというなら
貴方のありのままの姿で
毒蜜(わたし)を受け入れてください

体内の毒を限界まで濃縮
私はただ触れるだけでいい
ねぇかみさま 私に触れてくれますよね


雨糸・咲
初めに見たのは自分と瓜二つの少女

…あぁ、そうですね

あなたなら許してくれる
若くして愛する人の元を去らねばならなかった自分と同じ姿で生きる私に
後ろめたさを感じることは無いと微笑んで

私の「本物」
永遠に届かない光

揺らぐ間に姿を変えたかみさまは背の高い初老の男性
彼女を愛した、私の最後の…

――主さま、

幻影だと知っても涙が零れる

間に合わなくて、
何もできなくてごめんなさい

謝す言葉は口にしないけれど
嘗て何より願ったからこそ
その笑顔で偽物だと確信できる

白菊の花弁を喚んだのは
二人の思い出の花だから、せめてもと

踏み止まれたのは
微笑む主さまの瞳が、本物より淡い…
この身を現世に繋ぎ止める、優しい青磁の色だったから、かも


静海・終
それは、いつもの様に笑って
それは、いつもの様に手を差し伸べて


幼い頃自分の手を引きながら目の前で身を投げた
目の前で引きちぎれたその人がまた笑っている
貴方は、何度も、何度も、
私が弱いばかりに心に巣食った貴方を消せずに
また貴方を呼び戻してしまう
生きたいと、言ってほしかった
死にたくないではなく、生きたいと
戻らないそこに、戻れないそこに
もう泣いてあげられない、だから僕は殺すしかないんだ
何度だって現れた、貴方を
僕の心に居てもいいから、僕の心で眠っていて

差し伸べられた手を取らず
ただ少し微笑みながらかみさまをころす
蒼槍は迷わない、何度だって訣別する
いつか本当に私の中で眠りにつくその日まで
そこではない終りを探す



 ――ここにいようよ。その聲は天上から降り注ぐあたたかな光のようで、じぃんと痺れるような幸福感が胸に満ちていく。
(「ああ、なんて優しい聲でしょう」)
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)にとっての『かみさま』は、艶やかな蛸脚を持つ男の姿をしていて。その優美な脚は、幾度となく蜜が罪悪感の底に沈んでも――その度に引き揚げ、水面に揺れる光の元へと導いてくれた。
(「なんて甘い、ゆめまぼろしでしょう」)
 ――蜜の憧れであり依存している、最も傷つけたくないもの。うつくしき異形である彼ならばきっと、自分の罪も赦してくれるのだろうと、信じられる。
(「貴方は」)
 そして救いを求めて伸ばされる指先は、静海・終(剥れた鱗・f00289)の理想が投影された存在と重なって――それはいつもの様に笑って、いつもの様に終へ向けて、優しく手を差し伸べてくれていた。
(「何度も、何度も、」)
 そうして手を引きながら、幼い終の目の前で身を投げたひと。そのひとが、自分の目の前で引きちぎれたそのひとが――あの時のまま、また笑っている。
 すみませんと微かに呟く終は、自分が上手く笑えているのか分からずに、ただ吐息を零してかぶりを振った。ああ――自分が弱いばかりに心に巣食った貴方を消せず、こうしてまた呼び戻してしまうのだと。
(「それでも……生きたいと、言ってほしかった」)
 ――死にたくないではなく、生きたいと。終の切なる祈りが廃墟に響く中で、雨糸・咲(希旻・f01982)が『かみさま』に見出したのは、自分と瓜二つの少女の姿だった。
(「……あぁ、そうですね。あなたなら許してくれる」)
 それは、咲の抱く理想。若くして愛する人の元を去らねばならなかった、自分と同じ姿で生きる『私』にならば、後ろめたさを感じることは無いから。儚げに微笑む咲の目の前で、その『本物』は――永遠に届かない光は揺らぐ間に姿を変えて、彼女が心から望む存在となって目の前に立っていた。それは背の高い初老の男性で、『彼女』を愛した、『私』の最後の――。
「――主さま、」
 幻影なのだと分かっていても、涙が溢れて止まらなかった。
「間に合わなくて、何もできなくてごめんなさい……」
 心を軋ませる罪の意識。赦されたい、受け入れて欲しいと言う願いを『かみさま』は叶えてくれる。だいすきだ、と無条件に愛してくれる。でも――否、だからこそ、彼らは甘い幻想に浸ることが出来なかったのだ。
(「だって……嘗て私は、何よりも願ったから」)
 ――その笑顔で、偽物だと確信出来るのだと咲は言った。
(「戻らないそこに、……戻れないそこに」)
 既に過ぎ去ったことだから、と終は言った。もう泣いてあげられない――だから僕は、殺すしかないのだと、きっぱりと告げて。
(「何度だって現れた、貴方――僕の心に居てもいいから、どうか僕の心で眠っていて」)
 差し伸べられた手を取らずに、ただ終は少しだけ微笑んで『かみさま』を殺すべく蒼槍を構える。その切っ先に迷いは無く、何度だって決別をする為に――咲の喚んだ白菊の花びらが辺りに吹き荒れる中で、終もまた海竜を召喚し、悲劇を砕こうと立ち向かっていった。
(「いつか本当に、私の中で眠りにつくその日まで……そこではない終りを探す為に」)
(「……これは、二人の思い出の花」)
 ――無数の花びらが舞う様子を見て、咲は想う。自分が踏み止まれたのは、微笑む主の瞳が本物より淡い――この身を現世に繋ぎ止める、優しい青磁の色だったからかも知れない、と。
「そう……多くを殺し過ぎた私は、罪を赦されてはいけないのです」
 そして、一方の蜜はと言えば。彼は案外意地悪でして、そんな甘い言葉は吐かないのですよ――そう言って貴方は偽物なのだと断じて、こほりとタールを吐き出した。
「たとえ姿が同じでも、貴方は私の理想になり得ない。それでもあくまで、私を受け入れるというなら……貴方のありのままの姿で、毒蜜を……わたしを受け入れてください」
 ――きっとあのひとならば、罪を数えて嗤ってみせろと言った筈だから。そうして体内の毒を限界まで濃縮した蜜は、致死性を宿したその手で、ただ相手に触れるだけでいい。
「……ねぇかみさま。私に触れてくれますよね?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

御形・菘
妾はどのような悪でも、在り方を否まず認めるようにしておる
が、お主は唾棄すべき最低であるな

ふん、見える姿が幼い頃の妾か
なるほど、不気味だと忌み嫌われた部位を全て理想の姿形に置き換えたら、このような見目になるか

だが二十年、いや十五年は遅かったな
私はもう自分の居場所を作った、作り上げた!
無条件の愛なんてもの、私は理解できない
過去はいくらでもくれてやるが、未来は絶対に渡さない!

攻撃回数を重視、皆からも姿が隠れるくらいの勢いで、ありったけの流星を叩き込み続ける
そのまま何も残さず消えてしまえ!


この戦いの動画は、永久に封印するしかあるまいて
視聴者が期待する映像では、……いや、妾が見せたい雄姿ではないからな


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
死霊術師に過去の幻影を見せようとはな。
愚か者め――私の『かみさま』は、とうの昔に死んだのだ。

ありったけの『呪詛』を【死の橋】に乗せて叩き込む。
一撃目が外れたとして、二撃目の威力が増すだけのこと。
目に映る私の「理想の神」はただ一人。
金色の髪に紫の瞳の片割れだ。
――そうであるからこそ、容赦はしない。
必要とあらば、【慟哭】を使って、私のあらゆる想いさえ呪詛に変えて戦おう。

一つ教えてやろう。
――私の愛した神は、私の全てを否定した。
私の望む、私を肯定する言葉を吐くあいつは、あいつではないのだ。
騙される所以がないのだよ。なァ、かみさまとやら。


花菱・真紀
『かみさま』か…。
ははっ俺にとっての『かみさま』は姉ちゃんって訳か。
確かに傷付けたくない存在だけど。
姉ちゃんはさ間違ったことをしたら怒ってくれたんだよ…お前が間違った存在なのは分かってる…だからいくら姉ちゃんの姿をしててもそれは間違えない。
『ほぼ』無敵ってことは無敵じゃない。
それに賭けるしかないけれど。
【クイックドロウ】【先制攻撃】
ヘッドショットだ…!
【時間稼ぎ】でいいそれが出来るならば。
UC【匿名の悪意】も放つ…!

俺は間違ってない、だろ?姉ちゃん?

アドリブ連携歓迎。



 どのような悪でも、在り方を否まず認めるようにしている――それが、己を『邪神』であると定めた御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)の信念だった。
「……が、お主は唾棄すべき最低であるな」
 理想の姿、愛すべきものの姿を取って心に入り込んでくる『かみさま』、その良心につけ込むような『悪』の在り方は、菘の怒りに火を点けたのだ。――取り敢えず爽快感が無く、視聴者の受けも悪そうだし。
(「ふん、見える姿が幼い頃の妾か……」)
 成程、不気味だと忌み嫌われた部位を全て、理想の姿形に置き換えたら――このような見目になるかも知れない。だが、と爬虫類の特徴を掛け合わせたキマイラである彼女は、口の端を上げて不敵に笑った。
「二十年……いや十五年は遅かったな。私はもう自分の居場所を作った、作り上げたのだ!」
 ――無条件の愛なんてものは、理解出来ない。したくもない。色々な世界を渡り歩き、好き勝手にやっている奴らを『邪神様』自身が叩きのめす。それが菘の作り上げた、自分の居場所だった。
「過去はいくらでもくれてやるが、未来は絶対に渡さない! ……無辜の民の嘆きを聞いて、妾が直々に引導を渡してやろう!」
 幼い頃の自分と決別し、菘が『かみさま』の幻影を振り払った時――ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)も『理想のかみさま』と対峙し、敵愾心を奪う甘い言葉の数々と戦っていた。
(「……死霊術師に、過去の幻影を見せようとはな」)
 喪ったものとは懐かしくも、忌むべきものであり――それ故に、扱う術師にとっても極めて危険を伴う禁呪である。だがニルズヘッグは、その身に纏う呪詛を飼い慣らし、死の鎌を振るって咆哮した。
「愚か者め――私の『かみさま』は、とうの昔に死んだのだ」
 ありったけの情念と怨嗟が廃墟に渦巻いて、ギャラルブルの呪いは此の地に眠る怨恨までをも呼び覚ましていく。そんなニルズヘッグの瞳に映る、彼の『理想のかみさま』はただ一人――それは、金色の髪に紫の瞳をした彼自身の片割れだった。
 ――そうであるからこそ、容赦はしない。あらゆる想いさえも、呪詛に変えて戦おうとするニルズヘッグの近くで、花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)も彼にとっての『かみさま』と向き合っていた。
「ははっ、俺にとっての『かみさま』は姉ちゃんって訳か。……確かに傷付けたくない存在だけど」
 優しく微笑む真紀の姉は、小指を差し出し「やくそくしよう」と囁いてくる。ああ、懐かしい――と真紀は思うが、姉は今も生きている筈なのに、何故こうも胸が痛むのかと首を傾げた。
「でも、分かってるんだ。姉ちゃんはさ、俺が間違ったことをしたら怒ってくれたんだよ」
 ――全てを受け入れてくれるひとじゃないから、お前が間違った存在なのは分かってる。だから、いくら姉ちゃんの姿をしててもそれは間違えないから、と。俯く顔を上げ、毅然としたまなざしで『かみさま』を見つめた真紀は、素早く自動拳銃を構えると――その頭部目掛けて銃弾を叩き込んだ。
「……俺は間違ってない、だろ? 姉ちゃん?」
「一つ教えてやろう。――私の愛した神は、私の全てを否定した」
 故に、私の望む――私を肯定する言葉を吐くあいつは、あいつではないのだ。残酷な現実を自ら口にしたニルズヘッグもまた、心地良い幻影を呪詛で塗りつぶして『かみさま』を追い詰めていく。
「騙される所以がないのだよ。なァ、かみさまとやら」
 ――ああ、無尽の流星群が、ほしのなみだが降り注いで、虚ろな影法師を塵へ還してと願いを唱えた。そうだ、そのまま何も残さずに消えてしまえ! 星を呼ぶ菘は、首輪に模したカメラを指先で弄りつつ、ぽつりと呟く。
「この戦いの動画は、永久に封印するしかあるまいて。視聴者が期待する映像では、……いや、妾が見せたい雄姿ではないからな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日知・理
(単独希望
アドリブ歓迎)

(嫌な汗が背を伝う
鼓動は重い)
『おにいちゃん』
(もう二度と会えない筈の"その子"は、眼前にいる)

俺はある孤児院の長兄役だった
血の繋がらない俺をその子は慕ってくれて
『お兄ちゃん』とついてきて
里子として引き取られるその日も泣いて
だが俺はその手を離した
それがその子の幸せだと思ったから

その子が
オブリビオンの
供物になるなど
知らなかった

『しにたくない』
『いっしょにいて』
『おにいちゃん』

あの時手を離さなければ

俺のせいでその子は死んだ
俺が
殺したんだ

そしてまた、俺は
その子を
――殺す

数多の迷いと絶望の果てに
『buddy』を発動


(また
俺は
この子を
殺した

自分の内側で
何かが
壊れる音がした)



 思えば、儀式と言う話を聞いた時から、予感があったのかも知れない。明日知・理(花影・f13813)の背を嫌な汗が伝い、重い鼓動は鈍い痛みを伴って――目を逸らすな、と訴える様に過去の光景を蘇らせる。
『おにいちゃん』
 ――ああ、理を呼ぶ声も、あの日のままだ。彼にとっての『かみさま』が、もう二度と会えない筈の『その子』が今、眼の前に居た。
(「血の繋がらない俺を、あの子は慕ってくれた」)
 昔々、或る孤児院の長兄代わりだった理を、『お兄ちゃん』と呼んで後をついてきた子。里子として引き取られる日も泣いていたけれど、理はその手を離したのだ。
(「……それがその子の幸せだと思ったから。でも」)
 ――知るわけが、なかったんだ。その子がオブリビオンの、供物になるなんて。
『しにたくない』『いっしょにいて』『おにいちゃん』
 ああ、あの子が手を伸ばしている。ここにいようよと自分に笑いかけている。そうだ、あの時手を離さなければ、ずっと一緒に居られたんだ。
(「俺のせいでその子は死んだ。俺が……殺したんだ」)
 数多の迷いと絶望の果てに、理は不器用に伸ばされた手を取って。やがて――ぎこちない笑みを浮かべた彼の相貌に、一筋の雫が伝う。
(「そしてまた、俺は」)
 ――理と融合したUDCが蠢き、鮮血を求めて暴れ出したのは、その直後のこと。
(「この子を――殺す」)
 ぐしゃりと嫌な音を立てて、何かが潰れる音がした。辺りに飛び散ったものは生温かく、理の貌を濡らした何かは、鉄錆の味がして――それで、全てを理解する。
(「また、俺は。この子を、殺した」)
『かみさまかみさま』『たすけて』『……ひとごろし』
 ――自分の内側で。何かが、壊れる音がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリス・ステラ
サカガミ(f02636)と咲夜(f00865)と連携

【WIZ】他の猟兵とも協力

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと、星が煌めく『カウンター』

「"それ"は幻です。二人とも惑わされないで」

弓で『援護射撃』
響く弦音は『破魔』の力を宿して幻を打ち破る
私に視える"かみさま"はオブリビオンの姿そのもの
神は全てを赦し受け入れてくれても、決して代償を求める事はない

「灰は灰に、塵は塵に」

オブリビオンは愛をもって骸の海に還します

重傷に限定して【不思議な星】
緊急時は複数同時に使用

倒れ込むサカガミを抱きとめて、

「よく頑張りましたね」

優しくねぎらいます


無銘・サカガミ
マリス(f03202)と咲夜(f00865)と連携
あれは…母様?ううん、流行病でもっと痩せ細かった。
では父様?ううん、もっと大きかった。
じゃあ…ううん、それ以前に

ーーボクニタイセツナヒトハイタノカ?ーー

瞬間、目の前の「かみさま」に斬りかかる。
戸惑っているであろう咲夜の目を覚ますように。

「…やはり、神は神でしかないか。」

八百万の呪いを全力解放。後のことは考えん、このかみさまとやらをぶった斬らねば気が済まんもんでな!

「神に逆らうと書いて『逆神』。」「俺の前で神を名乗ったのがお前の敗因だ!」

呪いを使いすぎれば反動で倒れるかもしれない。が…まあいいだろう…。どうせ、呪いじゃ…死ねない…身、だか…ら…


東雲・咲夜
サカガミくん(f02636)マリスちゃん(f03202)と

これが「かみさま」?
あの瞳に意思や救いは微塵も感じひん
ふたりとも気ぃつけて

《神籠》を開き
水神様をお喚びしましょう
こないな禍々しさとは正反対の
どこまでも澄んだ清らな神様

うちの心を投影した「かみさま」の姿は
……と、燈華くん…?
ちゃう…あれは違うってわかっとるのに
攻撃の手が…

心に響く聲は
欲しがりで、ひとつに絞れない狡いうちさえ
受け入れてくれはる甘言

せやけどほんまに聴きたいんは
うちの願った言葉やあらへん
傷ついてもいい
欲しいのは、あのひとの心の言葉なの

ふたりの攻撃に重ね桜の風刃で『援護射撃』
苦しみを利用する神様やなんて
物の怪や悪魔と変わりまへん



「……これが『かみさま』?」
 幾多の刃と術を受けてもなお、邪神は未だ己の存在を留めていた。儀式場に描かれていた、血に塗れた姿そのままに――その惨劇の痕を思い出し、東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)の藍眸が微かに潤む、けれど。
「あの瞳に、意思や救いは微塵も感じひん。……ふたりとも、気ぃつけて」
 子どもの落書きめいた『かみさま』の姿を睨めつけると、咲夜は神籠の扇を開いて水神――高龗神を呼んだ。彼の一柱は、彼女が対峙する禍々しき邪神とは真逆の、どこまでも澄んだ清らな水龍であり。
「主よ、憐れみたまえ――」
 祈りの聖句を口ずさむ、マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)はそんな咲夜に頷き、星辰の光を灯した瞳で矢を番える。しかし、その直後に『かみさま』は彼女たちの思念を投影し、望む理想の姿をとってその心を揺さぶっていった。
「……あ、れ……?」
 ――まさか、何で此処に居るのと。咲夜が紡いだ誰かの名は、力無く廃墟に吸い込まれていく。そうして、ふにゃっとした笑顔を浮かべる『彼』は――欲しがりで、ひとつに絞ることの出来ない、狡い自分さえも受け入れてくれるように、甘い言葉を囁いて手を差し伸べてくれるのだ。
(「ちゃう……あれは違うってわかっとるのに、攻撃の手が……」)
 ――他の誰かが一番だって、構わないよ。僕はずっと咲夜ちゃん一筋だから。ずっとずっと、想い続けているからねっ。
(「あれは……母様?」)
 そして、一方で無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)もまた、おぼろげな輪郭を取る『かみさま』の姿を見極めようと、翡翠の瞳を細めていた。
(「ううん、流行病でもっと痩せ細っていた。……では、父様?」)
 ううん、もっと大きかった筈だとサカガミはかぶりを振る。じゃあ、じゃあ――空転を続ける思考で、必死に大切な存在を思い浮かべようとするが、其処で彼は気付いた。気付いてしまった。ううん、それ以前に――。
『ボクニタイセツナヒトハイタノカ?』
 瞬間、サカガミは怨念を纏った妖刀を抜き放ち、目の前の『かみさま』目掛けて斬りかかっていた。瞬きひとつの後、それは影法師のような本来の姿へと戻っており――荒い息を吐きつつ、彼は傍らで呆然と佇んでいる咲夜へと声を掛ける。
「……やはり、神は神でしかないか」
 ――戸惑っているであろう、彼女の目を覚ますように放たれた言葉は、同時に自身へ言い聞かせるものでもあった。せや、と貌を上げた咲夜に最早迷いは見えず、何時しか辺りには桜の風刃が吹き荒れる。
「ほんまに聴きたいんは、うちの願った言葉やあらへん……傷ついてもいい。欲しいのは、あのひとの心の言葉なの」
「ええ、『それ』は幻です。惑わされる訳には、いきません」
 ――響く弦の音は、マリスが破魔の力を宿した星屑の弓のもの。幻を打ち破った、彼女に視える『かみさま』とはオブリビオンの姿そのものであり――愛を以って戦うその身体からは、煌めく星の光が溢れて疲弊した仲間たちを癒していった。
「……神は全てを赦し受け入れてくれても、決して代償を求める事はないのです」
「そうや、苦しみを利用する神様やなんて……物の怪や悪魔と変わりまへん……!」
 祈りを込めたマリスと咲夜の援護を受けて、サカガミは八百万の呪いを全力解放し、『かみさま』へと刃を突き立てる。後のことなど考えずに、只この『かみさま』とやらをぶった斬らねば、彼の気が済まなかったから。
「神に逆らうと書いて『逆神』……俺の前で神を名乗ったのが、お前の敗因だ!」
 ――灰は灰に、塵は塵に。星が瞬くようなマリスの声が響き渡る中、複呪混成で限界まで強化されたサカガミの一撃が邪神を貫いた。
「よく……頑張りましたね」
 しかし、自身への反動もまた大きなものだ――気絶するように倒れ込む寸前で、抱き留めてくれたマリスが労いの言葉を口にすると、サカガミは消え入るような声でこれだけを返す。
「問題、ない……。どうせ、呪いじゃ……死ねない……身、だか……ら……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【稔と】

(笑って手を差し伸べる、嘗て兄と慕った妖狐。己の呪いに蝕まれ、狂い、この手で初めて殺した男)

まあ、昔の話なんでどうでも良いんですけれどね
一体何十年前だと思ってんですか

それより、ですねぇ……
全く、幼気な生娘みたいじゃねぇですか、稔のお嬢さん
憐れんで欲しいんです?
持てる者からの同情はお嫌でしょうに

溜息が纏う紫煙を掻き消した
煙の境界がなければ、この身は煮え滾る呪詛の坩堝だ
その手で稔の首を鷲掴む
少しだけ力を込め【呪詛】を与えよう
憎悪を、悪意を、汚泥を思い起こさせるように
……呪われろ
夢は夢と去り、残るのは現実だけですよ

目、覚めました?
さあ、お仕事ですよ
くだらねぇ感傷に浸ってる暇なんぞねぇでしょう


藤・稔
叶】

(不足のない美しいおんなに見える)

は、

(背が伸び、年相応で、何も奪われず取り返す必要も無かった場合の自分であるともわかる)

やめろよ

(多少の理想ーー「あこがれ」は反映されているだろう
自分が見目麗しいなんて思わない)

(けどその姿に愛されてしまったら)

やめろ
やだ
嘯くな
愛するな

(持てる者への怒りを思い出せよ
「おれ」まで奪われるなよ)


呪って
痛みをくれ
あたしに怨嗟をくれ

(貰う呪詛を、この身体は拒絶しない
脳に汚濁めいた感情が響く)

声帯がバグって
早送りとノイズが混じる不快な声で唸る
神様なんざ居ないって
人間の悪意しかないって
身を以て知ってるよ
見せびらかすなよ
その目を、髪を、声を、お前の大事なものを寄越せよ



 ――藤・稔(あこがれ・f16177)にとってのそれは、不足のない美しいおんなに見えた。
(「……は、」)
 笑い飛ばそうとして、上手く息が継げないことに気がついて、引き攣れた声がひゅうと漏れる。酸素を求めて足掻く稔はやがて、それが自分の姿であると分かった。
 背が伸び、年相応で、何も奪われず――取り返す必要も無かった場合の、自分。
(「やめろよ」)
 多少の理想――『あこがれ』は反映されているだろう。自分が見目麗しいなんて思わなかったし、けれどその姿に愛されてしまったら、今の自分はどうなる。
(「やめろ。やだ。嘯くな。……愛するな」)
 ――持てる者への怒りを思い出せよ、と自分を叱咤する。『おれ』まで奪われるなよ、と稔は慟哭する。
『やくそくしよう』
 絡める小指は、白くほっそりとした女らしい指をしていた。脂にも蒸気にも、埃にすら塗れておらず――けれど、今の稔も愛してくれる、受け入れてくれる存在『かみさま』――。
(「……叶。呪って」)
 心臓に刃を突き立てて泣き喚くような女の叫びを、雲烟・叶(呪物・f07442)はその時、確かに聞いた。彼の目の前に投影された存在は、嘗て兄と慕っていた妖狐であったが――紫煙をふうと吹き付けて、叶は当時と変わらぬ美貌を、つまらなさそうに顰める。
「まあ、昔の話なんでどうでも良いんですけれどね。……一体何十年前だと思ってんですか」
 幾ら笑って手を差し伸べられようと、己のしたことを思えば、笑いもこみ上げてくると言うもの。己の呪いに阻まれ、狂い――この手で初めて殺した男だ。いや、そんな感傷を何十年も引きずっていたのだと、改めて思い知らされたことの方が滑稽なのか。
「それより、ですねぇ……。全く、幼気な生娘みたいじゃねぇですか、稔のお嬢さん」
「痛みをくれ。あたしに怨嗟をくれ」
「憐れんで欲しいんです? 持てる者からの同情はお嫌でしょうに」
 溜息が纏う紫煙を掻き消し、煙の境界を払った叶は稔と向き合い――直後、躊躇うこと無く彼女の首を鷲掴みにした。そうして、煮え滾る呪詛の坩堝と化したその身体に少しだけ力を込めて、指先から呪詛を送り込む。
「……夢は夢と去り、残るのは現実だけですよ」
 ――そう。憎悪を、悪意を、汚泥を思い起こさせるように。呪われろ、と煙の如き声が吸い込まれていく中で、稔の身体は貰う呪詛を拒絶せず、ただ静かに受け入れていった。
「……ぁ、ぐ、ああぁ……」
 脳に汚濁めいた感情が、わんわんと鳴り響く中で。ひとを模した稔の声帯がバグを生み、早送りとノイズが混じる不快な声が、産声のような唸りとなって吐き出されていく。
「……目、覚めました? さあ、お仕事ですよ」
 くだらねぇ感傷に浸ってる暇なんぞねぇでしょう――そう呟き、再び紫煙を纏う叶にゆるゆると頷きつつ、稔は掌の刃を構えて『かみさま』と向き合った。
「ああ、神様なんざ居ないって。人間の悪意しかないって、身を以て知ってるよ」
 ――見せびらかすなよ。混じりけのない存在を睨めつけて、稔の仕込んだ刃が荒れ狂い、獲物を解体するようにして次々に襲い掛かる。
「その目を、髪を、声を――お前の大事なものを寄越せよ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三嶋・友
『かみさま』、ね
なるほど、そーいう事する訳だ
…ホント悪趣味

私の目に見える『かみさま』は確かに大好きな『母さん』の姿で
囁きかけてくる声も確かに母さんのもの

だけど
どれだけ上辺を繕ったって、あんたは私の母さんじゃない
母さんは何があったって、私のいのちを、未来を奪おうとなんてしない
…お前なんかが、母さんを騙るなッ!!

大切な母さんの姿を、皆の大切なものを、冒涜した罪は重いよ
私の母さんは健在だけど、もう会えない人の姿だったなら、どれだけ…!
その姿を取り続けたいのならどうぞご自由に
その分私の怒りは増していくだけだから…!

宝石で攻撃魔力を最大強化
余計な小細工は要らない
全力の激光雷斬で真っ二つにしてあげるよッ!


雨乃森・依音
――ははっ
なんだよ、今度はあの女の姿してきやがったか
ああ、ああ…
確かにそっくりだ
俺と同じ白猫の耳と尻尾
天使なんて柄じゃねぇ穢れない白い翼に長い髪
どんなに中身が醜く変わり果てようと
そこだけは皮肉なことに真っ白なままだった

――母さん

昔はそんなに優しい顔もできたんだよな
そんな顔忘れちまってた
ああ、夢みたいだ

だけど、だからこそ



――こいつは偽物だ



ソテル、お願いだ
こいつを叩き潰して跡形もなく喰らい尽くしてくれ
悪いな、今の俺の神様はこいつなんだ
俺を絶望の淵から救ってくれたのはこいつなんだ
お前なんてもういらねぇ
今すぐ俺の前から消えろ
存在をかき消すようにギターを掻き鳴らして歌って


俺の復讐心を否定する奴は許さねぇ


千頭・定
邪神さま………■■■■■さまです?
眼前のかみさまは……私に寄生してるUDCの本体に見えますよう。
ちゃんと食べ尽くしたから私と一緒にいるはずなのに。

きちんと確かめましょう!

武器はナイフです。
[暗殺]をするようにかみさまの背後に回り、切りつけて攻撃。
大きく[捨て身の一撃]で身体の一部を抉ります。

こんなに脆いのは…私の、可哀そうな邪神さまじゃありません。

あなたは、私たちの敵ですよう。

『聞け■■■■■の声を!』
UCを発動。
背中から遠慮なく巨大な触手を出しますよう。
追い打ちで、私の邪神さまの触手で[串刺し]攻撃してやります。


(アドリブ等大歓迎ですよう)


イア・エエングラ
かみさまの話を聞かせてくれたのはきみだったから
僕の知るかみさまは、あなたの姿に、なるのなあ
きみの恋した、しろい手の、かみさま
夜色の髪したうつくしい娘は記憶と違わず
記憶に因るのならば違える筈もないけれど

ひとつふたつと爆ぜた青い火を
お傍に寄らぬよう招きましょう
祈るように胸元に銀の短剣だけ抱いて
銀閃に紛れて、凍てる火の裡に、誥紫の手を呼ぼう
どうぞ、逃げずにいらしてね
微笑んでかける言葉はほんとう、だけど

呼ぶならそうっと手を伸べて
そうなあ、僕も、だいすきよ
だから真直ぐ切り裂いてさよならいたしましょ
凍てる温度の底へ埋めた色など知らぬふりで
――ずっと、ずっと、だいきらい



 ――ははっ、と廃教室に響くのは、雨乃森・依音(紫雨・f00642)の乾いた笑い声。胸を刺し、抉るその美声は今、悲哀と苦悩混じりの雫となってぽつりぽつりと嵐の訪れを告げていた。
「……なんだよ、今度はあの女の姿してきやがったか。ああ、ああ……確かにそっくりだ」
 依音が望む、理想の『かみさま』――それは、彼と同じ白猫の耳と尾を持つ、キマイラの女性の姿をしていて。天使なんて柄じゃないのに、穢れなき白翼に長い髪を靡かせる――それだけは、どんなに中身が醜く変わり果てようと、皮肉なまでに真っ白のままだった。
(「――母さん」)
 ああ、昔はそんなに優しい顔もできたんだよな。そんな顔なんてもう、忘れちまってた――余りにも遠すぎる思い出に依音が浸っている中で、三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)の瞳にもまた、『かみさま』が投影した理想の姿が映っているようだった。
「なるほど、そーいう事する訳だ。……ホント悪趣味」
 吐き捨てた友が見ている『かみさま』は、確かに大好きな『母さん』の姿をしていて、囁きかけてくる言葉もまた確かに彼女のもの。だけど、否――だから、どれだけ上辺を取り繕ろうとも、却って現実味が無くなるのだと友は理解した。
「あんたは私の母さんじゃない……母さんは何があったって、私のいのちを、未来を奪おうとなんてしない。……お前なんかが、母さんを騙るなッ!!」
 赤の瞳に炎のような怒りを宿して、友は紅蓮に染まる水晶の剣に魔力を注ぎ込んでいく。大切な母さんの姿を、皆の大切なものを、冒涜した罪は重いから。
「私の母さんは健在だけど、もう会えない人の姿だったなら、どれだけ……!」
(「ああ、夢みたいだ」)
 ――もう、会えない人。確かにそうだと、依音はその友の言葉に頷いた。分かっている、もう優しかった母は何処にも居ないのだと。
(「だけど、だからこそ。――こいつは偽物だ」)
 ――ああ、かみさまか。ゆっくりと首を巡らせながら、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は嘗て自分に、かみさまの話を聞かせてくれたひとのことを思い出す。
「……僕の知るかみさまは、あなたの姿に、なるのなあ」
 きみの恋した、しろい手の、かみさまは。夜色の髪した、うつくしい娘――それはイアの記憶と違わず、否、記憶に因るのならば違える筈もないかしら、と呟いてふふと微笑んだ。
「なら、どうぞ……逃げずにいらしてね」
 傍に寄らぬようにと招く青い火が、ひとつふたつと爆ぜていくけれど。『かみさま』に掛けた言葉も、イアの偽らぬ想いだ。そうして祈るように、胸元に抱く銀の短剣が煌めく中で、影より這い出るのは誥紫の手。
「邪神さま………■■■■■さまです?」
 イアの喚んだ死霊の腕に拘束されている『かみさま』は、千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)の目には自身に寄生するUDC――白痴の神様の本体に見えた。それは、ぐるぐるの宇宙から触手だけを覗かせる、恥ずかしがり屋の可哀い邪神様。その真の名を、定の舌では上手く発音出来なかったけれど。
「ちゃんと食べ尽くしたから、私と一緒にいるはずなのに。……きちんと確かめましょう!」
 しかし、彼女は真面目な様子で頷き、銘無き刃を手に『かみさま』に忍び寄ると――身体の一部を解体するようにして、一気にその傷口を抉り取った。
「ああ、こんなに脆いのは……私の、可哀そうな邪神さまじゃありません」
 ――のっぺりとした影を斬りつけるような、手応えの無さ。その様子に顔を顰めた定は俯きつつも、あなたは私たちの敵ですようときっぱり宣言する。
「なら、遠慮することはないですね。……聞け、■■■■■の声を!」
「その姿を取り続けたいのなら、どうぞご自由に。その分私の怒りは増していくだけだから……!」
 定の背中から飛び出した邪神の触手が『かみさま』を串刺しにするべく襲い掛かるのと同時、宝石で魔力強化をした友は余計な小細工無しで、全力の激光雷斬を叩き込んだ。
「ソテル、お願いだ……こいつを叩き潰して、跡形もなく喰らい尽くしてくれ」
 ――悪いな、今の俺の神様はこいつなんだ。そう言って依音の喚んだUDCが更に触手で締め上げ、獲物を捕食していく。俺を絶望の淵から救ってくれたのは、こいつだからと――『かみさま』の存在をかき消すように、ギターを掻き鳴らす依音は、降りしきる絶望の雨の中に一筋の光を齎そうと必死に歌い続けた。
(「お前なんてもういらねぇ、今すぐ俺の前から消えろ。……俺の復讐心を否定する奴は許さねぇ」)
 そうなあ――囁き、夜の裾退くイアは、そうっと手を伸べて瀕死の『かみさま』へ微笑む。
「僕も、だいすきよ」
 だから。真直ぐ切り裂いてさよならいたしましょ。握りしめた銀の短剣に、秘めた想いは切れ切れに――けれど、心臓目掛けて突き立てたイアの刃は、氷晶のように冷ややかだった。
(「――ずっと、ずっと、だいきらい」)
 凍てる温度の底へ埋めた色など、知らぬふりで。ほんとうの言葉は、海の底に沈めておこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

十朱・幸也
【SPD】

漸く会えたなァ、カミサマとやら
……俺の望む奴なんざわかり切ってんだろうが

其れはきっと、病死したおふくろの姿をしていると思う
病に伏せても笑顔を忘れず、千薙を友として大事にしていた
……そんな優しいおふくろは、俺が怖がりな事も知っているんだろうな

ああ、おふくろ
前も指切りってしたよな、千薙と友達になってあげてほしいって
……だから、二度目の約束は無しだ
他人の大事なおふくろの姿で好き勝手ほざいてんじゃねぇよ

即座に戦姫を発動
千薙……此れ以上、おふくろを汚させないでくれ
病を受け入れて笑った、あの人の姿を……此れ以上否定させるな、相棒
胸が軋む様な音を立てたのは気のせいだ、アレはおふくろじゃねぇんだから


石狩・和人
【POW行動】
母さん……?母さんなのか…?

……でもごめん。
俺は、母さんが亡くなる瞬間を…この目で見てるから。
幻影だって言うのもわかるんだ。
俺は猟兵だから、母さんの姿をしたお前が敵だってことも分かる……!
だから…だから俺は、貴女を斃すッ!

(2回攻撃、属性攻撃、なぎ払い、第六感、残像技能使用)

食らえ!…瞬迅・猛狐炎陣閃ッ!!!

さよなら、母さん……。

※恐らく、和人本人には人間の母親に見えていると思われます。
いつも笑顔を絶やさない、にっこり笑顔が特徴的な優しい女性。
容姿に関するアドリブはMS様にお任せします。


※共闘・改変歓迎です



「漸く会えたなァ、カミサマとやら。……尤も、俺の望む奴なんざわかり切ってんだろうが」
 冷たい靴音を響かせて、十朱・幸也(鏡映し・f13277)は廃墟で尚も蠢く『かみさま』の元へと近づいていく。直後、歪な黒のかたまりがぐにゃりと歪み始め――それは見るものの理想を投影した、大切な存在の姿を模して愛を囁くのだ。
「母さん……? 母さんなのか……?」
 そんな幸也の隣では、石狩・和人(急尾の猛狐・f06901)が焦茶色の毛をぶわりと逆立てて、碧玉の瞳を見開いていた。きっと和人は、その呟き通りに己の母親の姿を目にしているのだろう――人間の母親だった、と聞いている。いつも笑顔を絶やさない、優しそうなひとだったとも。
(「……俺の望むのは、ああ、やっぱりか」)
 そして――深紅の瞳を開いた幸也の目の前に佇んでいたのは、病死した筈の母親だった。病に伏せっていても笑顔を忘れず、和人形を友達だと言って大事にしていた母。
(「……そんな優しいおふくろは、俺が怖がりな事も知っているんだろうな」)
 ――そっと差し出された小指は、約束の指切りの合図。前にもこうして約束を交わしたことを思い出した幸也は、ああ、と言葉にならない声を上げて俯く。
「千薙と友達になってあげてほしいって、あの時は言ったよな」
 千の敵をも薙ぎ払う、そんな逸話が名の元となった絡繰人形――千薙。母が大切にしていたそれは今、幸也の手の中にあって。だから約束は違えていないのだと言うように、彼は毅然とした態度で、差し出された手を跳ねのけた。
「……だから、二度目の約束は無しだ。他人の大事なおふくろの姿で、好き勝手ほざいてんじゃねぇよ」
 その身に蓄積された怨嗟を纏う絡繰人形を、幸也は己の手足のように自在に操る。そうして、薙刀を手にした千薙が辺りを薙ぎ払っていく中で――和人もまた、愛する母親の幻影と決別をしていた。
「……ごめん。俺は、母さんが亡くなる瞬間を……この目で見てるから」
 ――目の前の母が、幻影だと言うのは分かる。猟兵である自分は、母さんの姿をした存在が敵だと言うことも理解している。
「だから……だから俺は、貴女を斃すッ!」
 それでも――ここにいようよと誘う声は抗いがたく、最も傷つけたくないひとへ振り下ろされる和人の刃は、その肉体を斬り裂く迄には至らなかった。
「千薙……此れ以上、おふくろを汚させないでくれ」
 しかし、戦姫を操り必死に戦う幸也の姿が、和人の勇気を奮い立たせてくれる。胸が軋むような音を立てるのを感じつつも、あれはおふくろじゃないと叫ぶ幸也に頷き――和人も、ありったけの想いを込めて咆哮を轟かせた。
「病を受け入れて笑った、あの人の姿を……此れ以上否定させるな、相棒……!」
「そうだ、俺はもう振り返らない! この刃は……護る為にあるんだ!!」
 千薙が繰り出す衝撃波に、炎を纏った和人の居合が重なって――彼らが愛した『かみさま』の幻影は、劫火の中へと消えていく。
(「さよなら、母さん……」)
 ――其々が抱いた、微かな感傷を道連れにして。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

如月・螢
なるほど…
これがあの子達が望んだ“かみさま”か
確かに、コレは……惹かれてしまうな

Hi,嬉しいよ
偽物と解っていても外見だけ望んだキミに会えた
ああ、何度も何度も夢に見たキミに
だが、喜びと共に怒りも覚えた

あの子はそんな風に笑わない
あの子はそんな風な声色で話さない
あの子は――私を知らないんだ

だから、甘い悪夢を終わらそう

槍に展開させたUCの炎を纏わせ
フェイント掛けつつ静かに擽る激動を槍に込める(串刺し)
乱暴に槍を引き抜く(傷口をえぐる)

Umm...でも、キミに一つ感謝しなきゃな
私の中にこんな憎む感情があったとは思わなかった
教えてくれて、有難う
そして――さよならだ

燃えカスも残らない程に強欲の焔で包み告げる


クレム・クラウベル
……ああ、そういえば父はそんな顔だっただろうか
幾分薄れた記憶は鮮明な像を結びはしない
幻に揺らげるほど純でいられる時期はとうに過ぎた
“神様”が助けてなどくれなかったから
今更だ
こんなもの、今更だ

惑わす神などやはり邪神に過ぎない
破魔をもって打ち砕こう
邪なるものを祓うなら本業。
騙くらかして喰らった血肉は美味かったか?
あぁ、反吐が出るな
祈りでは飽き足らず
贄を求めるかみさまなど。代償の必要なかみさまなど
どこを壊せば消えるだろう、塵も残らぬほど砕いてしまおうか
それで足りぬなら劫火に焚べてやる

ほら
やっぱり“かみさま”なんて居なかったじゃないか
かみさまがくれる救いなど、なかったじゃないか


ティア・レインフィール
……私を無条件で愛し、受け入れてくれる存在
それはきっとお母様ですけど
お母様はもう居ない
愛するものを守る為に命を落とし
そして、偽りのお母様も先程私が
神殺しが、殺してしまった
だから、その『かみさま』は現れない

私が信じる神の姿なんて、想像した事も無い
教会に在る像も、神を模したものはありませんから
だから、目の前に見えるのは一つの十字架
常に身に着けた、信仰の証

……私の信じる神の名の下に、断罪しましょう
【祈り】を捧げ【破魔】の力を込めて
【シンフォニック・キュア】による聖歌を【歌唱】

そして神を騙る影を浄化する為
光の【属性攻撃】を行います
――哀れな魂に、救いがありますように



「なるほど……これが、あの子達が望んだ『かみさま』か」
 何度となく相手を受け入れ、愛そうと手を伸ばし――その度に、拒絶の刃でその身を抉られていった『かみさま』は。それでも、これが己の在り様だとでも言うように、如月・螢(透明な心・f00180)の目の前で姿を変えていく。
「確かに、コレは……惹かれてしまうな」
 Hi,嬉しいよ――金色の瞳を細めて、柔らかなまなざしで螢が見つめる先には、彼女にしか知り得ない大切な存在が立っていた。偽物と解っていても、外見だけ望んだキミに会えた。
(「……ああ、何度も何度も夢に見たキミに」)
(「……そういえば、父はそんな顔だっただろうか」)
 一方の、クレム・クラウベル(paidir・f03413)の瞳に映るのは、幾分薄れた記憶で形作られた不鮮明な像。幻に揺らげるほど、純でいられる時期はとうに過ぎた――なのに、非情になれと置き去りにしようとした心が、懐かしさと喜びに震えている。
(「だが、『神様』が助けてなどくれなかったから、今更だ」)
 ――惑わす神など、邪神に過ぎない。そう頭では理解しているのに。けもののにおいを思い出せ。あの赤い景色を、己に刻まれた傷跡を忘れるな。
(「……こんなもの、今更だ」)
(「……私を無条件で愛し、受け入れてくれる存在。それはきっと」)
 祈りの形に手を組んだティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)は、「お母様」とかそけき声を響かせて、そのまま顔を覆う。
(「けれど、お母様はもう居ない。……愛するものを守る為に命を落とし、そして」)
 ――偽りのお母様も、先程私が。――神殺しが、殺してしまったから。だから、その『かみさま』は現れないのだと、ティアは確信していた。
 己が信じる神の姿なんて、想像した事も無い。教会に在る像も、神を模したものは無かったから――故に、彼女の目の前に現れたのは、ひとつの十字架だった。
(「常に身に着けた、信仰の証……私の信じる神の名の下に、断罪しましょう」)
 ――けれど、紡ぐ浄化の歌声は、信仰の証を断罪することなど、どうしても出来なくて。神を騙るものなのだと理解している筈なのに、ティアの聖歌はただ虚ろに響き渡り――お前こそが母親を殺した大罪人なのだと、無情にも訴えて来る。
「……邪なるものを祓うなら、此方も本業だ。騙くらかして喰らった血肉は美味かったか?」
 その時、凍てついた銀の如きクレムの声が、悪しきを祓う破魔の力となって『かみさま』の幻影を掻き消した。続く銃声は一雫の銀――それが雨と化し降り注いでいく中で、螢もまた心地良いまぼろしに別れを告げる。
「あの子はそんな風に笑わない。あの子はそんな風な声色で話さない」
 ――喜びと共に、覚えたのは怒り。螢の持つ大切な思い出を覗かれて、好き勝手に弄ばれた気がしたから。
「あの子は――私を知らないんだ」
 春を謳うように、握りしめた竜槍に宿るのは純白の炎。軽やかな跳躍で標的を惑わしつつ、螢は静かに擽る激動をその切っ先に込めた。甘い悪夢を終わらせる為、女王の王冠から流れる炎を引き連れて。
「Umm……でも、キミに一つ感謝しなきゃな。私の中に、こんな憎む感情があったとは思わなかった」
 教えてくれて、有難う――人形のような美貌を揺らがせること無く、螢はそのまま乱暴に、串刺しにした槍を一気に引き抜いていた。
「……あぁ、反吐が出るな。祈りでは飽き足らず、贄を求めるかみさまなど。代償の必要なかみさまなど」
 ――どこを壊せば消えるだろう、塵も残らぬほど砕いてしまおうか。それで足りぬなら劫火に焚べてやる。冷然とクレムがそう告げる中、螢も燃え滓が残らない程に焼き尽くしてやろうと、強欲の炎で『かみさま』を包み込んでいく。
「そして――さよならだ」
「ほら、やっぱり『かみさま』なんて居なかったじゃないか」
 ――哀れな魂に、救いがありますように。光溢れるティアの歌で浄化されていく邪神に向かって、クレムは微かに口の端を上げ、ぽつりと呟いた。
「……かみさまがくれる救いなど、なかったじゃないか」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

海月・びいどろ
ボクの“かみさま”は
創ったキミに、なるのかな


姿を見たことも、触れたことも
話したことも、ないものだから
さっきのこどもたちと
ボクも、変わらないね

データの中にあるキミは
子供みたいな大人だった
全ての自由を許していた
善と悪も、分けられずに

――ひと所には、とどまれない
キミは、悠々自適なヒトだった

――やくそくは、できないけど
すぐに破って、嘘を吐くからね

――キミのことが、
なのに、本当のことも言えない


……ボクもだよ
反対言葉、みたい

だって、ボクのデータは
キミから出来ているんだもの
困った顔をして、微笑うかな

あの日の全てが、ほろびたあとにも
今なら、すべてに手が届く
どろりと硝子が溶けたなら
熱と一緒に

かみさまに、さよなら



(「ボクの『かみさま』は」)
 ――ゆらゆらと海の底を漂うように移ろう思考はまるで、夢の続きを見ているかのよう。ぼろぼろになって千切れ、虚空に消えかけていく『かみさま』へ、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)はそっと手を伸ばす。
(「創ったキミに、なるのかな」)
 けれどその存在は姿を見たことも、触れたことも――話したことも、ないものだから。さっきのこどもたちとボクも変わらないねと、びいどろは呟いて海月たちを呼んだ。
(「データの中にあるキミは、子供みたいな大人だった」)
 ――ああ、きっと無邪気なかみさまのように。
(「全ての自由を許していた。善と悪も、分けられずに」)
 ――全てを愛し、受け入れる。其処に善悪の区別など存在しない。
『――ひと所には、とどまれない』
 そうだね、ここにいようなんて言う筈がない。キミは、悠々自適なヒトだった。
『――やくそくは、できないけど』
 やくそくは無理だ。すぐに破って、嘘を吐くからね。
『――キミのことが、』
 だいすき? なのに、本当のことも言えない。……ボクもだよ。反対言葉、みたい。
(「だって、ボクのデータは、キミから出来ているんだもの」)
 そう言ったら――困った顔をして、微笑うかな。ボクの知らない、ボクの『かみさま』。あの日の全てが、ほろびたあとにも――今なら、すべてに手が届くよと言って、びいどろの身体がどろりと溶けた硝子に変わる。
(「――システムを移行します。こころも、からだも、溶けてしまって」)
 炉心溶融に伴う熱に身を任せて、人を模した実験体の子どもは、そっと『かみさま』にさよならを告げた。ああ、ヒトとの境目ははっきりとしていて、分かり合えないと線を引き続けてきたけれど――。

「ねえ『かみさま』、ボクはキミのことなど何も知らなかったよ」
 ――だからきっとキミも、何も知らず何も分からないまま。
 ――骸の海へと沈んでいくんだね。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月16日
宿敵 『かみさま』 を撃破!


挿絵イラスト