<MHJ>金剛のオレイカルコス
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「おおい、火をつけてくれえ」
声に呼ばれ、はたはたと小さな翼を動かした仔竜は息を吸い込み腹を膨らませると、ぽっ、と小さな火を噴いた。それは忽ち枯れ枝を燃やし、爆ぜる音を辺りに響かせる。
「よしよし、いい子だ」
「きゅい~」
秘境ヒューエトス。
雨の名を抱くその一帯は、資源も豊富な恵みの場であった。故に訪れる者も多く、鍛冶師たる彼もまた、資源を求めてやってきたという訳だ。
傍らの仔竜は協力者。もとい、共に過ごす家族の一員。
彼の住まうノネット村では、魔獣ともちょうどいい距離感で付き合ってきた。その中でもこの仔竜たちは人懐っこく、共に過ごす事も多い。近年は、オブリビオンの影響を受けて人に害為すものもいるが……。
ともあれ、この仔竜は彼のおともと言う訳だ。
「そろそろ見えてくる頃か」
彼が目指す場所は鉱石が多く産出される山の麓。ノネット村の取り決めで独り占めする事は叶わぬが、そういう欲を持ち合わせた人間はもういない。平和が一番、というのが多くの思想だ。
一休みついた男は仔竜を引き連れ再び進む。
――と。
ズシン。
「ん?」
ドシン。
「おいおいおい……嘘だろ……?」
雨の森を抜けた先、目的地もあと一歩と言う所で男は腰を抜かしてそれを見た。見上げた。
全長何十メートルもあろうかという巨大な竜。ガツガツと村で分け合っている資源を遠慮なしに大口で噛み砕けば、さもジュースのように呑みこむ。なんとまあ、大食らいなことか。
あんぐりと口を開けた男が我に返る。悲鳴をあげる仔竜を抱え込むと、踵を返して走り出す。
コツン、と小さな石が転がった。男の靴先が小石を蹴って、音を鳴らす。
「――あ、」
降る影は巨大で。緩慢な動きで振り返った男が最期に見たものは、――。
●
「――と、まあ、そんな感じ。だから、先んじて狩ってきて」
事の顛末をさっくりと説明したイェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)は、ふあ、と大欠伸を零した。さも寝不足といった風だ。それもそのはず、とある猟兵との仕事帰り、完全オフの所を邪魔されたのだから仕方ない。まさか両者ともに昼寝中に似たような予知を見るだなんて。
舞台はアックス&ウィザーズにあるノネット村。近年は魔獣の活性化により環境が変化しつつあった。どうやらある魔獣が大量発生し、食物連鎖に影響が出たらしい。
生態系の変化は様々な影響を及ぼしていく。このドラゴンが安寧の地に訪れたのは、そのうちのひとつに他ならない。
「生きる為の食いもんが多い所に集まるのは、まあ、必然だよな」
今はまだ、大した影響はないらしい。だがそれも、いつまで続くかは分からない。そして予知に引っかかった以上、放ってはおけないのが猟兵である。
今回イェルクロルトが担当するのは件のドラゴン。オレイカルコスと呼ばれる合金竜。
簡単にいえば狩猟クエストだ。ドラゴンの餌となる、大量発生した魔獣の対処はもう一人がしてくれる為、そちらの心配は不要である。
「ねぐらは判ってる。ただ、道がややこいから、どっちか選んで行って」
ひとつ、ノネット村に共存する仔竜と共に森を抜ける。
ひとつ、村人が用意してくれる地図を頼りに森を抜ける。
仔竜は懐っこい犬みたいなものだが、悪戯っ子も多い。きちんと手綱を取っておかねば弄ばれる事だろう。扱いに困るようなら、地図の方が確実だ。
が、森の中はコンパスも利かぬ樹海である。雨の名を持つ通りに天候が傾きやすく、猟兵達が訪れる日は雨が降っている。地図頼りに行くには少々心もとない。道に迷わぬよう、工夫が必要となってくる。
仔竜たちは絶対感覚でも持っているのか、この森の中で迷う事はない。その点だけは優れている。
森では、ドラゴンの悪性に唆された同種の仔竜がうろついている。かつては共存していた仔竜も中にはいるが、敵対したとなれば遠慮はいらない。それはおともになる仔竜も理解しているようで、共食いにはなるが気にする様子はなさそうだ。
敵対する仔竜が現れた際には遠慮なしに狩って欲しい。もしくは、同じく唆して仲間としてしまうか。
「ああ、そうだ。終わったら市場があるから行ってきて」
ノネット村では『ラ・カージュ』と呼ばれる市場がある。名前の由来はさておき、この市場では様々な細工品が製作、販売されてはノネット村の大きな収入源となっている。
現状、魔獣が増えて外からの来客も減っている。活気だけでいえば、確実に尻すぼみ状態だ。このままでは魔獣に襲われる心配どころの話でもなくなってくる。
それを改善するまでが、今回の仕事だ。
「あんたらが狩るドラゴン、素材になるから持って帰ってきて」
魔獣が増えて狩猟にも行けない村人達は、収入源になる素材の枯渇にも苦しんでいる。道中、何かしら使えそうな物があれば集めてくるのも良いだろう。
『ラ・カージュ』では既製品が売られている他、自らの手で武器や防具、アクセサリーを作れる場所が提供されている。アクセサリーはかなり広義で、料理や書物等、いわゆる『猟兵のアクセサリー』が作れるようだ。初心者でも手取り足取り教えて貰えるため、持ち帰った素材で挑戦してみるのもいい。
「じゃ、後は宜しく」
ふわりと落ちる一輪の彼岸花がイェルクロルトの掌に吸い込まれれば、ぐしゃりと潰された。刹那、猟兵達の目の前が赤で染まる。
思えば随分スプラッタな転送法だ。視界いっぱいの赤が晴れた時、猟兵達は頬を濡らす雨で気付くだろう。
その先は、剣と魔法のハントでワンダーな世界だ。
驟雨
驟雨(しゅうう)と申します。
プレイング受付時間はマスターページにて告知いたします。
では、――ひと狩りいこうぜ!
=====QUEST START=====
このシナリオは七宝MS『<MHJ>秘境のイリス』とのリンクシナリオです。
●舞台
ノネット村
魔獣達と程よい距離感を保って暮らしていた村。大きな温泉が湧き出ていることで有名。
有事には冒険者がハンターとして雇われる事があるくらいで、生態系が崩れる前は平穏そのものであった。
ラ・カージュ
ノネット村で開催されるものづくり市場。
物を作るもよし、物を買うもよしのマーケットであり、やれることは多いだろう。
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●第一章『戯れる仔竜』
合金竜オレイカルコスのねぐらを目指します。
邪魔してくる仔竜たちは単純です。人間の言葉は喋れませんが、理解はできます。
金属類以外の素材をお求めの方はこの章で。採集メインOK。
勿論、悪事を働く悪い子たちなので、ぼこぼこに倒して頂いても構いません。
●第二章『合金竜オレイカルコス』
ボス戦です。詳細は第二章公開時に記載します。
●第三章『のんびり市場巡り!』
様々な店が並ぶ『ラ・カージュ』にて自由に過ごせる時間です。
市場内で出来そうなものは大体採用します。
お任せも可能です。一部指定頂いても構いません。驟雨の直感でチョイスします。
●補足
七宝MSの採集クエストは当シナリオの翌日に行われます。
時系列が異なる為、同時参加も可能です。
また、アイテムの自動発行はありません。ご自身のアイテム作りに活用して頂ければ幸いです。
●NPC同行
第三章のみ、イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)が同行します。ご用命頂ければ参陣しますが、何もなければ市場をうろちょろしています。
●ご注意
同行者がいる場合は名前とIDをご記載ください。名前は呼び名でも構いません。
プレイングの受付状況などはマスターページの自己紹介トップでお知らせしております。お手数ですが、「全部見る」を押してご確認ください。
第1章 集団戦
『戯れる仔竜』
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POW : じゃれつく
【爪 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 未熟なブレス
自身に【環境に適応した「属性」 】をまとい、高速移動と【その属性を纏わせた速いブレス】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 可能性の竜
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
イラスト:marou
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「きゅい~」「グィ~」「くるるる」
なんかそんな声が聞こえる。
「よしよし、いい子だ」
説明を既に受けていた村人達が猟兵の為にと準備してくれた仔竜たちがわっさといた。
大きさは柴犬程度か。抱えるとずっしりと重い。
ぺろんと舌を出した侭の仔竜。張り切って既に村人の手に負えない仔竜。眠そうにとろんとした眼差しを向ける仔竜。なんかそんな、たくさん。
森の中では似たような仔竜を見つける事もあるだろう。
彼等は皆一様に驚かしたり集めた素材を盗もうとしたり、様々だ。おこになると少し攻撃性が増す。が、基本的には単純である。
「あ! なんかいる!」
「きゅっ!?」
そして仔竜はどこかへ行った。
そんな程度の単純さ。お菓子をあげると言えば、うきうき気分でついてくるぐらい。
どういう方針で行くかは猟兵達に任せるとしよう。
仔竜を引き連れ旅立つか、村人から地図を貰い旅立つか。
旅の支度には村人達が総出で支援してくれる。食べ物に飲み水。雨退けの外套。素材採取用の道具。
ノネット村はものづくりの街だ。大体なんでもあるだろう。
準備を済ませたら旅立つ時。森では、どんな出逢いがあるだろうか。
シキ・ジルモント
◇◎
仔竜の力を借りて目的地を目指す
やんちゃが過ぎるのは困るが元気があるのは良い事か
出発前に携帯食料の袋から干し肉やドライフルーツを取り出して少し与え、役割を果たしてくれたらもっとやると約束
森ではお前が頼りだ、頼むぞ
念の為道中はユーベルコードの効果と併せて『聞き耳』を立てて警戒しておく
物のついでだ、道中発見した素材は村人へ提供する為採取して持ち帰る
需要がある素材の情報は予め村人から『情報収集』
素材を狙う仔竜は懐柔を試みる
おともの仔竜と同様に携帯食料を見せて少し与え、同行して他の邪魔する仔竜を追い払ってくれたらもうひとつやると『言いくるめ』て交渉
おともが1匹増えても問題ないだろう
…喧嘩はするなよ?
●
くるんと管巻くゼンマイ草。わっさりのさばるオオミズゴケ。
自然豊かなヒューエトスを進む道中、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はねだる仔竜にひと粒ドライフルーツを与えた。
「ぎぃ~♪」
「全く、見た目に寄らず大食らいだな、あんた」
出発前。
携帯食料の袋から干し肉を出した、途端に飛びついて来た仔竜を呆れながらもおともとした。ヤンチャが過ぎるのは困るが、元気があるのは良い事だ。
がじがじ肉を齧る仔竜に「役割を果たしてくれたらもっとやるぞ」と言ってみたら、それはもうきらきらと目を輝かせて鳴くもので。
少し進んでは頂戴、とねだる仔竜を何とか言いくるめつつ進んでいる。
名前は確か、グラと言ったか。成程、村でもこの調子なのだろう。
「森ではお前が頼りだ、頼むぞ」
「グィー!」
などと言いつつ、シキはぴんと耳を立てる。仔竜は道に迷わぬとはいえ、奇襲に対応できるかと言えばまた別問題。
時折止まってはぷつりと薬草となる草花を摘み、予め用意して貰った袋へ詰めた。見た目で判断しやすい物を教えて貰っていたのだ。
紐で腰に括りつけ、一歩を進む。
ぴこんと反応する狼の耳。
ひょい。ぴょーん。ずべしゃっ。
そんな感じの一連の流れ。
「きゅう……」
素材を狙ったらしい仔竜が勢いよく地面とこんにちはして目を回していた。例の悪戯仔竜だろう。
「あー……大丈夫か?」
まさか突っ込んでくるとは。きゅうきゅうとか細く鳴く仔竜の傍らにしゃがめば様子を窺い。
ぴょん、と驚きに跳ねた仔竜の頭突きを喉を逸らして躱しつつ。
ちらり。
「きゅっ!!」
ぷらぷら。
「きゅうう」
見せびらかした携帯食料に釘付けの仔竜。あまりに食い付きがすごいものだからくっと思わず笑みが出る。
素材を盗もうとしていた事など忘れて食料をかぶりつけば、ぺろり。
「あんたも来るならもうひとつやるぞ。他のを追い払うくらいは出来るだろう?」
「きゅ~!」
勿論、とでもいう様な挙手。はたはた揺れる尻尾と小さな翼は、それはもう上機嫌。
一方で。
「ギィ……」
ジトーっと見つめるは食いしん坊のグラ。あぐあぐと食べてもいないのに顎を鳴らしてアピール中。
そんなグラの前で、おともになった仔竜がどや顔。ふふん。
「ギィー!」「きゅうう!」
「……喧嘩はするなよ?」
やいのやいのし始める仔竜を前に、途方に暮れたようなシキの声が落ちた。なお、届いているかは定かではないのだが。
大成功
🔵🔵🔵
三千院・操
◎◎◎◎◎
へぇ、ものづくりの市場か~。面白そう!
金剛ってことはダイヤモンドだよね? 綺麗なものが作れそう!
よーし、張り切って狩りするぞ~!
よろしくね! ベビーちゃん(仔竜)!
レディ(『レディ・リリス』)とベビーちゃんを引き連れて行くよ!
道案内はベビーに任せて、レディとおれはついていく!
道の途中で敵対する子が出てきたらジャンクフードをあげて仲間にするよ!
もしくはレディに任せて仲間になってもらうよ!
一応交渉決裂した時用に【ひび割れた主神】の準備もして、と!
よーちちちち、こわくないよー、てきじゃないよー。
ほら! おいしいお肉! これあげるから仲間にならない?
●
「おっにくー、宝石ー、ダイヤモーンドー!」
「がううー、るるー」
るんるん気分で謎の鼻歌を歌うのは三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)だ。釣られて二匹の竜が各々好き勝手に声をあげている。
一匹はノネット村に棲む仔竜。ベビーちゃんの名前の通り、他の仔竜よりも一回り小さい。が、愛嬌のある顔によらず怪力だ。
もう一匹は操のドラゴンランスのレディ・リリスである。宝玉の様な青い瞳に、何にも染まらない潔白の鱗を持つ女帝。
凛とした立ち振る舞いのレディと、わんぱくで可愛らしいベビーの相性は良いらしく、道中よくじゃれ合う姿が目撃された。
「ものづくりの市場、面白そうだよなー。レディは欲しいものあるか?」
「がううー!」
なんて、応えるのはベビーちゃん。レディはやれやれなんて、呆れたような表情だ。
この子の好きなもので良いわよ、とでも言うかのように尻尾でベビーを押しやるが、勿論操にはドラゴンの言葉なんて分からない。
うんうん。ぴーん。
「うん、分かんないな!」
勘に頼ってみるものの、分かる筈もなく。まあいっか、と楽観的な結論へ。
そこへごそごそ、揺れる草むら。見れば翼を折り畳んだ仔竜がじいいいと操とレディとベビーを見ていた。
「お、こいつが噂の仔竜だな?」
よーちちちち。
お肉をぷらぷら。
「こわくないよー、てきじゃないよー」
しかし仔竜はじいいと見つめるばかり。
そこへすいっと降りる竜。きらきら光る氷結を率いた女王がふんすと目の前に降れば、野生の仔竜はぴゃっと尻尾を巻いて逃げ出した。
が。
「がるる」
「ぴゃーーっ!!」
その後ろにはベビーの姿。
二匹に挟まれおろおろしている仔竜に、はいとジャンクフードを差し出して。
「これあげるからさ、仲間にならない?」
なんて、お誘いすれば勢いよく操の胸へと飛び込んだ。びゃあびゃあ鳴くばかりで悪意はないのだろうが、割と体当たりが痛い。ちょっとだけダメージが入る。
そんなこんなで仲間を増やし珍道中。気が付けば、女帝がずらりと数匹、ナイト様を従えていたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
アズール・ネペンテス
のどかなところではあるがまぁ面倒事って大体いつだって起こるか。
…まぁ仔竜がいるくらいだが余程の事が無い限りはまぁ大丈夫だろうし餌づけでもしてみるか
という事で?UCを使い手持ちの食糧でも与えてみよう…単純らしいから飼いならせれば有用になりそうだけど食費が嵩みそうだ
まぁそんな感じで戯れつつも【情報収集】を使って情報はしっかり集めておいて備えておくとしますかね
(アドリブ歓迎
●
ちちち。小鳥が鳴く。
りりり。玉虫が鳴く。
田舎もかくや、広がる長閑な景色は癒しを齎す。
が、そんな所でもオブリビオンの魔の手は迫るというものだ。面倒事に際立った場所はない。どこだって起こりうる。
「……まぁ、仔竜がいるくらいだし、余程のことが無い限りは大丈夫か」
「きゅるるう〜」
「よしよし」
アズール・ネペンテス(お宝ハンター・f13453)は連れ添う仔竜の頭を撫でやり、インベントリから持ち出した干し肉を与える。
果たして仔竜は何を食べるのか。
エンカウントした仔竜はくるると喉を鳴らして道を塞いだ。単純らしいそいつを前に餌付けようと思いはすれど、生態はよくわからない。頭を傾けた所で答えが出てくる訳でもなし。
そんなこんなで持ち出した多々の食料。肉に魚に、菓子に白米に、なんだか色々入っていた。無限の名が付くだけあって相当な量だ。
「好きなものはあるか?」
「きゅ!」
まるで商店のように並べたアズールの前で仔竜は尻尾をたしたし、小さな手でこれと示す。
示し、すぐさまかぶりついた。邪悪――らしい仔竜の事である、待つつもりは毛頭なかったのだろう。
あぐあぐ、肉を丸かじり。
「一緒に来るなら、まだやるぞ」
「きゅうう〜」
そんなこんなで、仔竜はアズールの後ろをてちてち付いてきている。度々アズールの前に回り込んでは肉を要求しながら。
確かに単純。そしてぽっと噴出す炎に小回りのきく体、その絶対感覚は有用だ。
が。
「きゅうう〜」
「……またか?」
食費はバカにならなさそうだ。
仔竜はどうやらこの森に棲んで随分と長いらしく、歩き易い道を選んで進んでいく。オレイカルコスの名を出せば、意気揚々とどこかへ向けて小さな翼を動かした。
「おまえ、何か知ってる事ないか?」
「きゅ?」
村人からふんわりと情報は貰っているが、それ以上に近くにいる仔竜は詳しいだろう。ぴたりと立ち止まり、ふんふんと鼻を鳴らす仔竜。
はたはた再び飛び立てば、きゅううと喉を鳴らしてアズールを呼ぶ。
見ればぽかりと空いた空間がある。人工的に作られたとは見えぬ粗さだ。木々は半ばで折れ、――いや。
「これは、押し潰されたのか……?」
「きゅ〜……」
ぺんぺん、尻尾で地面を叩く。
察するに、オレイカルコスが尾を下ろし、森の一部を潰したのだろう。その威力、その強大さ。
長閑な時間に反して、どうやら強敵が待っていそうだ。
「おまえも戦ってくれるのか?」
「きゅ!」
ぴんと小さな手を伸ばし、ひとときの相棒はえへんと胸を張ったのであった。
大成功
🔵🔵🔵
レイブル・クライツァ
◎◇
…私が根本的に方向音痴な時点で、結果は見えていたかもしれないけれども
仔竜に道を案内してもらえるのは心強いから、是非って所ね。
(鳴き声が可愛過ぎてどの子と行こうかを迷う図)
(決めれなくてクッキーを差し出して様子窺い)こ、この手に留まって欲しいの。これでも良いかしら?(首傾け)
ついてきてくれた仔には、道中撫でたり休憩の際は膝に乗せたりとか出来れば、と。
襲ってくる仔竜には、彷徨の螺旋で呼び出した護人におしおきさせておいて
鉱石とか、染め物をするのに良さそうな植物の採取をしておきたいわ。
自然の恵みを頂く訳だから、無駄にならない様必要な物を厳選して
もし仔竜が良い物を知っていたら、案内してくれるかしら?
●
旅の途中、多分こちらだと向かった先は、朝に出発した街だった。
今度こそと出立したら、永遠と森の中を彷徨った。
そう、レイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)は根本的に方向音痴なのだ。
「あの子もこの子も……かわいぃ……」
そんなレイブルは今、仔竜がびゃあびゃあと鳴いて集まっている止まり木を前に固まっていた。
「きゅるる〜」「グィ〜」「がーぅ」
十人十色、もとい十匹十色。
どれもこれも可愛すぎて選べない。迷う。悩む。選べない。
けれど一匹選ばなくては。みんな連れて行きたい所だが、数には限りがあるというもの。おともがいなくなる猟兵が出てはいけない、と辛うじて理性が訴えた。
「こ、この手に留まって欲しいの」
決めきれない。ならば選んでもらおう。
そっと近付いて差し出す一枚。赤い果実がぷるんと輝く、サクサクのラズベリークッキーだ。
仔竜にも食べ物の好みがある。
ちらり。ちらり。ちらり。ぷい。
向けられた視線は多々あれど、逸らされた視線も数多い。
その中で一匹の仔竜がこれでもかとばかりにぴょいんと身体を反らせて飛びついた。
「ぴゅい〜!」
「ふふ、クッキーはお好き?」
首傾げ問い掛けてみれば、他よりふわふわな翼を揺らした仔竜が高く喉を鳴らした。
そんなこんなで森の路。
鉱石や染物用の植物の在り方を訪ねたレイブルは、森の中に広がる花畑の一角に座っていた。ひとやすみ。
道中では沢山の素材に巡り会えた。その中でも特に気になったものだけ摘んで持ち帰る。限りある資源なのだから、慎重に選ばなくては。
膝の上でうとうと微睡む仔竜を撫で、レイブルは花畑をぼんやり眺めた。
鮮やかな赤。仔竜はこの色が好きなのだろうか。クッキーにくっ付いていたラズベリーと同じ色。染料にもなる花のようだ。
こんな平和な時間を過ごしていてもいいものか悩みつつ。
「綺麗ね」
今少し、時間に甘えることにしよう。
そんな中。
頭を叩かれ目を回す仔竜が一匹。
呼び出しておいた護人がやれやれと肩を竦め、レイブルの知らぬところでぽこんとおしおきしていたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
シャルファ・ルイエ
貸していただいた食べ物と飲み水と素材採取用の道具を持って、雨よけの外套を着て、仔竜と一緒に出発です。
村のお手伝いが出来るのも嬉しいですけど、こういうのって何だかちょっとわくわくしますね。
仔竜ならお友達になれるかもしれませんし、今日はウィルは杖じゃなくて竜の姿で連れて行きます。
『動物と話す』で仔竜の子に進む方向や素材になりそうなものを教えて貰いながら進んで、『第六感』で気を付けて探してみますね。
見つけたら道具を使って採集です。
邪魔する仔竜に会う様なら、手持ちの食べ物をちょっと分けてあげて、全部終わったら美味しいものをご馳走するので一緒に行きませんか?って誘ってみます。
お手伝いへの報酬は大事です。
●
食べ物に飲み水。素材採取用の道具。それに雨が降っているから、しっかりと雨退けの外套を羽織って。
それから、お隣。
「よろしくおねがいしますね、キィさん」
「んきゅい~」
雨のしずくをこれでもかと顔にはっつけたキィという名の仔竜が鳴く。身体は水に似て青く、小さな翼もふるりと振るわせれば水捌けも良く、どうにも暮らし慣れている。
村のお手伝いが出来るのも嬉しいけれど。
「ウィル」
はたり、白い小竜がシャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)の足元で様子を窺い。
ふんふんと鼻を鳴らした仔竜が遠慮なくウィルへ近づいていく。
どんな会話をしているのか。そもそも話が通じているのか。どちらも分からないけれど。
「きゅい~!」
なんだか楽しそうにしているものだから、わくわく心も弾むよう。
「あ、あー……」
「! んきゅ!」
「欲しいものがあるのですが、手伝って貰えますか?」
その返事は、きゅうきゅうと鳴くばかりだけれど。動物と話すちょっとしたコツを掴めば、仄かに言いたい事が伝わってくる。
こっち!
鳴いた仔竜の声と似た、そんな声を聞いた気がした。
仔竜と小竜。
二匹は最初こそ距離あれど、進む道で共に食べ物を齧ろうものならその距離もぐっと縮まっていた。
同じ釜の飯を食うとかいうけれど。案外、単純なのかもしれない。あるいはウィルがキィに合わせてやっているのか。
無邪気に跳ねるキィは村の人々がよく集める素材を見つけてはダイブして、綺麗なはずの青い鱗を泥まみれにしてはしゃいでいた。それでもちゃあんと役目は果たしている。
くい、と引かれる袖。
見ればウィルが知らぬ仔竜に悪戯を仕掛けられていたようで、白い鱗に泥をかぶっていた。
「あーあ……。こら、悪戯は駄目ですよ」
そう言いながら、ちらり。
「るるう!」
見せる干し肉は大抵の仔竜の大好物。
「反省してます?」
「る~」
ころん、お腹を見せて降参のポーズ。
そうまでするならばあげぬのも可哀想というもので。
水のブレスでウィルの汚れを取ってあげているキィの戯れを横目に見ながら、シャルファはにこりと企み事。
「全部終わったら美味しいものをご馳走するので一緒に行きませんか?」
「るるる!」
ぺちぺち。跳ねる尻尾は賛同の証。旅は道連れ世は情け。また一匹増えた旅路が始まる。
大成功
🔵🔵🔵
ヴォルフガング・ディーツェ
【SPD】
竜と共存する村か…凄いねえ、絵本のような光景だ
【調律・墓標守の黒犬】で道中に備えよう
善良な竜達…三頭位に協力して貰って森を抜けよう
悪いんだけど協力して…痛い痛い、耳尻尾に興味津々なのは分かったから!(引っ張る竜達をグリグリ撫でながら引き離して)
折角だから綺麗な花も探しながら歩こう、今の季節はどんなのが咲いているかな
そしてちびちゃん達、好きな方に行かなーい、木の実に気を惹かれない!取ってきてあげるから!ね!
…テオ、君に乗せるから遊んであげて。この為に呼んだの?みたいな顔しない。
戦闘になったら、こちら側に戻れそうな子はオレやテオの尻尾で【誘惑】
無理な鞭の【属性攻撃】や【範囲攻撃】で撃破
●
「竜と共存する村、かあ」
凄いねえ、と素直な感想を零すヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)の手前。
「んなあー」「がうー」「きゅう~」
三匹の子豚、――いや、三匹の仔竜がちょこんと座って待っていた。
さてその六つの瞳はきらきらと輝き、ヴォルフガングのとある二点をじいいいと穴が空かんばかりに見つめている。
ひやり。
嫌な予感がする。
「悪いんだけど、協力して――……って、痛い痛い!」
「がうー!」
「ああもう、興味津々なのは分かったから!」
じゃれる猫よろしくぴょいんと跳ねた仔竜たち。一匹は尻尾へ。もう一匹は届かず肩にぶら下がり。三匹目は見事ヴォルフガングの片耳にひっついた。
ぐいーっと引っ張られる耳。尻尾はまだ軽傷で済むが耳は、痛い。結構痛い。いや大分痛い。
肩の仔竜は顎の乗っけて落ち着いている。服に爪を立ててはいるが、危険度はまだ中くらい。それよりも先に耳にひっついた仔竜をぐりぐり撫でやり引き離すのが先決だ。
小脇にずぼっと手を突っ込み引っぺがせば、びろりと伸びた黒い仔竜。つぶらな眼差しと交差し、怒るに怒れない心地になる。
はあ。
先が思いやられる。
道中では雨降る道をどろんこになりながら仔竜たちは駆けまわる。一応目的は伝えてあるが、どことなく不安になるのも仕方がない。
が、まあ、順調に進んではいる。
傍らに呼び出した黒犬を従え、ヴォルフガングは幾度目か分からぬ溜息を零した。もう引き剥がすのも疲れたのか、尻尾をお気に入り認定した仔竜をずりずり引き摺って。
綺麗な花を探しつつ、秘境と呼ばれるヒューエトスの景色を楽しむ。水の雫をお洒落に飾り咲く花々は見たこともない形をしていた。
鮮やかで。艶やかで。小さな花が集まった紫陽花のような花もあれば、たった一輪大きな花弁を地に横たえる花もある。
いつもなら、ゆったりそれを楽しむのだが。
「こーら、好きな方に行かなーい、木の実に気を惹かれない!」
愛でる横で四方八方に散る仔竜に声をかけ。枝にぶら下がりびいびいと鳴き声もとい泣き声をあげる仔竜を回収し。黒犬の機霊テオの上へと乗せれば、ほっと一息。
――つく間があると思ったか?
「ああ、また! そんなに欲しいなら取ってきてあげるから! ね!」
乗せた途端に飛び立つ仔竜を再び小脇に抱え回収。
心なしかテオからの眼差しが冷たい。見れば「この為に呼んだの?」と言わんがばかりの、それはもう分かりやすい顔をしていた。そんな目で見るな。
集めに集めてテオの上。番号、いち、に、さん、し、ご。
……おや?
番号、いち、に、さん、し、ご。
間違いではない。
「るる~」
「グィー」
増えている。
「なんてこった……」
どうにももふもふしている仔竜につられ、戦う前から勝っていたらしい。
なお、尻尾にはまだ連れて来た仔竜がくっついていた。
大成功
🔵🔵🔵
皐月・灯
【花雫と同行】
……花雫を一人で森の中に放りだすってのは危なっかしいからな。
細工物にそこまで興味はねーけど……まあ、折角だし。
そこのお前、オレと行くか?
そうか、いい子だ。心配すんな、お前はオレが守ってやる。
……なんだよ花雫? ……ああ、そうだな。
魔力となじみの良い素材を探すぞ。
大樹の若芽と……羽根が落ちてねーかな。
魔獣の住む森に棲む鳥の羽根なら頑丈そうだし。
緑が濃い……樹海ってのは本当だな。
オレ達の道行きはこいつら頼りだ。はぐれんなよ?
……と、お出迎えだぜ。
ドラゴンに唆された仔竜か……やれやれ。
花雫、大人しくさせるだけでいいからな。
あとはオレが【医術】で手当てしてやる。
……ほら、これで大丈夫だ。
霄・花雫
【灯くんと】
ふふー、宝玉蝶で細工物作る為の素材探しのつもりっ
灯くんに何か作りたいなってこっそり思ってる
あたしの初めての友達に、いつも遊んでくれてありがとってしたいの
仔竜ちゃん、一緒に来てくれる?
あとで一緒におやつ食べようねぇ
灯くん灯くん見て見てっ、この子すっごいかわいい!
んー……風の力とか溜め込みやすい素材が欲しいなあ
金属と宝石と一緒に加工出来る水晶とか蔦とか葉っぱとか探してみよーっと
よろしくね、仔竜ちゃん
わー、すっごい綺麗
ファンタジックな植物も多いねぇ
えっ。わ、わ、何かいっぱい仔竜出て来た!
あ、そっかこの子たち悪い子の方?
ダメだよー、ほらお菓子あげるよー
それでもダメならお灸据えてあげる!
●
「危なっかしいからなあ」
「なあにー?」
ぽつりと零したぼやきに反応した霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)を前に、皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)はなんでもないと切って払う。
首を傾げる花雫。
ふらふらと手を振る灯。
そこへ助け舟が如くに現れる仔竜。
すぐさま花雫の興味はそちらに逸れて、はたはた飛んでいく仔竜の後を追いかけて行った。
そういうところだぞ。なんて、思われながら。
「仔竜ちゃん、一緒に来てくれる?」
「きゅい~」
花雫が追いかけた仔竜はくるりと反転、花雫の声に応えるように喉を鳴らす。ぷかぷかと浮かべた水の珠はなんだか不思議だが、雨の森に棲む仔竜ならではの魔法だろうか。
「あとで一緒におやつ食べようねぇ」
おやつ。
まんまるおめめは更にまんまるく。ぱたたと小さな翼を揺らし。花雫の前でくるりと回る。くるくる。身体いっぱい使って嬉しい嬉しいと言っている。
そんな仔竜の姿はどこから見ても愛らしくて。
「灯くん灯くん見て見てっ」
「ん? ……なんだよ花雫?」
未だ相方を募集中な灯を呼び寄せはしゃぐ花雫。あたしこの子にするとばかりにぎゅっと抱き寄せれば、仔竜もはたはた尾を揺らす。
「この子すっごいかわいい!」
「ああ、そうだな」
何やら一人と一匹で作戦会議に入る背中を置いておいて、灯はぶらぶら村を歩く。たくさん集まっている仔竜から選ぶのもいいが。
ぽつんと、隅っこで空を見上げる仔竜。
見れば翼が他の仔に比べて未発達でいびつな形をしていた。
「そこのお前、オレと行くか?」
「ギィ……」
ぱちぱち、瞬く。
おそるおそる、近付いて。
「いい子だ。心配すんな、お前はオレが守ってやる」
小さな手をすっぽり包み込む手のひらで躱す握手は約束の。
引っ込み思案な仔竜を引き連れ戻ってみれば、花雫はもう準備万端だ。
秘境ヒューエトス。
灯の探し物も、花雫の探し物も、きっとどこかにあるだろう。その道標となるのは二匹の仔竜。
一匹は花雫に懐き、空泳ぐ魚のように自由に飛ぶ。
一匹は灯の前を歩き、草花を掻き分け地面を歩く。
見渡す限りの不可思議な光景。差し込む光に誘われるように密集する花々に、枝分かれした先で全く違う花を咲かせる木々。
息を吸えば、澄んだ空気が行き渡る。
辺り一面の緑。樹海の異名に相応しく、故に迷子になればそのまま養分となるだろう。
「はぐれんなよ?」
「わかってるよー!」
心配事には目を光らせて、灯は慎重に進んでいく。一方の花雫も警戒はすれど、好奇心の方が強そうだ。
ぱっ、と世界が輝いた。
それは森の中にぽっかりと空いた不思議な空間。自由気ままに枝葉を伸ばす木々が作り上げた円形の舞台。
「わー、すっごい綺麗」
「きゅい!」
くるり、仔竜が回ればふわりと浮いて。風が蟠るこの空間は一際風属性の力が強いようだった。
「これ、使えるかなあ」
「どうだろうな。とりあえず、持っていけば?」
「そうする!」
と、一歩踏み出した所で。
「「「ぎゃうううー!!」」」
「えっ。わ、わあ、何かいっぱい仔竜出て来た!」
ぽーん、とまるでポップコーンが弾けるように、蔦を千切って飛び出る仔竜。が、三匹。
「こいつがドラゴンに唆された仔竜か……」
やれやれなんて肩を竦めて。灯がすぐさま攻撃に移らないのは、この仔竜たちの悪行が驚かせるだけという子供っぽさを目の当たりにしたからだろうか。
「花雫、大人しくさせるだけでいいからな」
「うん、りょーかい!」
すっと懐に手を差し入れて、臨戦態勢。わるいこ仔竜もぴこりと反応して警戒する。
出て来たのは、――お菓子。
「ダメだよー、ほらお菓子あげるよー」
どう見ても、お菓子。
「ぎゃう~!」
ちょろい仔竜が二匹釣られる。残った一匹はあからさまに狼狽えて、それでもなおお菓子には釣られず頑張っていた。
ちらりちらり。ぶんぶん。ちらり。ぎゃおー!
自棄になった仔竜が爪を振るうが、あまり戦い慣れていないのだろう。ぶんっと大きく空振りし、花雫のおしおきがぽかり。
「ぎゃうう~!!」
一部始終を眺めていた灯が大変大きなため息を吐いた気がした。
「ほら、こっち来い。大丈夫だ」
「ぎゅう…」
額にでっかいたんこぶを作った仔竜をあやしつつ、無事素材と共におともをゲット。
どうやら森に棲んで長い子たちらしく、探し物を伝えればあっちだこっちだと騒ぎだす。こんなに広い森だ。時折影を落とす怪鳥の羽根もどこかに落ちている事だろう。
騒がしい仔竜に囲まれ、灯が先に進んでいく。
その後ろで、花雫が集めた素材を検分していた。初めての友達に贈るプレゼント。そのための素材なのだから、ちゃんとしたものを用意しないと。
「花雫、置いていくぞ?」
「わ、待ってー!」
そんなこんなで二人の旅路。出迎える森はあたたかく、同時に、嵐の前の静けさにも似ていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
かわいい…。
ん、聞いてはいたけど、この村はドラゴン共一緒に暮らしてるんだね…。
こういう場所がもっと増えてくれると良いな…。
仔竜達とメイド人形の3人を連れて出発…。仔竜達に持ってきたお菓子や焼いたお肉をあげたり撫でたりしながら行くよ…。
道中で他に出会う子がいたら、その子にもお菓子やお肉をあげて無用な戦いは避け、その子達に薬草や有用な素材が在る場所を尋ねたりしてみるよ…。
みんな、採取手伝ってね…。
「りょうかい~」
「かい~」
「あいあい~」
「きゅる~」
「きゅ~」
「きゅい~」
…あれ?出発時より竜が増えてる…。
※アドリブ、絡み等歓迎
●
「かわいい……」
雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)の開口一番が、それだ。
グリモア猟兵からの話で聞いていた通り、目の前に広がる村はそこかしこに友好的な魔獣が見て取れた。
その代表格がこの仔竜と言う訳だ。
ドラゴンと共に過ごし、ドラゴンと共に死ぬ。
そういう一生を過ごした人間もきっと中にはいるのだろう。
「こういう場所がもっと増えてくれると良いな……」
世界のどこかには、まだ似たようなところがあるのかもしれない。それでも、やっぱり少数で。
全員が全員、手を取り合って生きていける世の中じゃないことは璃奈も分かってはいる。
けれど、やっぱり。
ふるふるとかぶりを振って、璃奈は一匹の仔竜を抱っこする。
「今日は宜しくね……」
「ぴゅい~!」
感情をあまり上手に表現できない璃奈とは反対に、尻尾をはたはた、おめめをキラキラ輝かせて応える仔竜はあまりに饒舌。
と言っても、ここにいる仔竜たちは皆が皆そんな感じなのだが。
色々璃奈のお手伝いをしてくれる三人のメイド、ランとリンとレンも連れて、いざ出発。
の、前に。
「……一緒に、行く?」
「くるるっ」
立ち塞がったのは、悪戯仔竜ではなく村の子一匹。どうやら一緒に冒険に行きたいらしく、璃奈にせがみに来たようだ。
断る理由はどこにもない。ほんのりもふもふした仔竜と、つるりとした鱗が綺麗な仔竜を連れて旅に出る。
道中、仔竜たちにお菓子やお肉をあげてみれば、璃奈の好感度はぐぐんとアップ。口の周りを汚した仔竜をそっとリンが拭いてやる。
雨の日だからとどろんこになる仔竜たちに対して、今度はランとレンがタオルを持ちだしてスタンバイ。
更には美味しいお肉の匂いに釣られた仔竜が現れ、璃奈はその子たちにも分けてやる。
戦わなくてもいいのなら、戦う必要はどこにもない。一緒に暮らせる所が増えればと願う璃奈らしい理由だ。
薬草の在処を尋ねれば、素直な返事が待っている。
使えそうな素材の在処を尋ねれば、こっちと導く仔竜がいる。
「みんな、採取手伝ってね……」
「りょうかい~」
「かい~」
「あいあい~」
「きゅる~」
「きゅ~」
「きゅい~」
……あれ?
振り返った璃奈は、気付けば増えてる仔竜の数にぱちくり瞬く。それもそのはず、お肉を貰った仔竜たちは大体ついてきているのだから。
首を傾げ、反対に傾げ、それでも変わらない景色。
「ぴゅい~」
最初に声をかけた仔竜が、なんだか嬉しそうに鳴いた。
大成功
🔵🔵🔵
依世・凪波
◇◎
仔竜だ!ちっさい!!
お前ら俺達のお供してくれんだっ?
ちっさいのに結構重いんだな~!
俺まだまだ準備が必要なんだ
そんで色んな道具欲しいんだよな
なんかいい素材あったら教えてくれな?
仔竜をわしゃわしゃ撫で
いいのあったらご褒美やるから
頑張ろうなー
用意して貰った外套を着て村の人に森の素材の事を『情報収集』し
葉っぱの傘を仔竜に差しかけ森を進む
前に俺もこうやって入れて貰ったんだ
あっ、俺から盗もうとするなんていい度胸だな!?
素材を盗られそうになったら『盗み』返す
悪い仔竜はお菓子で『誘惑』
甘いのやるから手伝って欲しい
な?
手伝ってくれる奴がもし怪我をしてたら【慈雨の唄】で治してやる
どーせだったら仲良くしようなっ
●
「ちっさい!!!」
それが、依世・凪波(ギンギツネの妖狐少年・f14773)の最初の感想だった。
齢十四のぎんぎつねが腕に抱いた仔竜は大人しく、それでもまん丸の瞳を凪波に向けて興味を示していた。
足元では別の仔竜が興味津々に凪波を見上げている。村人以外の人間を見る事はそうないことなのだ。猫をも殺す好奇心に釣られてしまったとて仕方のない事だった。
「ちっさいのに結構重いんだな~!」
そんな仔竜たちはさておき、こちらもこちらで興奮している様子。魔獣と共存し、仔竜と共に出掛けるだなんて初めての経験だ。
「お前ら、俺達のお供してくれんだっ?」
「きゅい~!」「ぐるる」
凪波の声に応えて鳴く仔竜たち。すっかり打ち解ければ会話も弾むというもので。
「俺、まだまだ準備が必要なんだ」
それに応えて、仔竜がずりずりと採取用の道具を運んでくる。
「なんかいい素材あったら教えてくれな?」
それに応えて、仔竜はあっちだこっちだと裾を引っ張り凪波を導いた。
どうやら懐っこいだけでなく、世話焼きさんが揃い踏みのようだ。
村人から借りた外套を羽織り、教えて貰った素材を仔竜頼りに探していく。
ぱたぱたと葉を伝い落ちてくる雫は雨と違って大粒で、ぴしゃりと肌を打てば大分冷たく感じられた。
それを防ぐ、葉っぱの傘。
「お前らは雨、平気なんかな?」
「きゅ~」
仔竜に差しかけてみても、隙あらばぴょんと飛び出して雨に濡れる。もう傘を差しても関係ない程にびしょぬれだ。仔竜たちは元気百倍。
が、葉っぱの傘は気に入ったようで。
「ぎゃうー」
「わ、わっ、分かったってばー!」
持つ手をぐいっと引っ張って、びしょ濡れのまま傘の下に入りに来る。ご満悦な表情を見れば、仕方ないなあなんて思ったり。
前に自分もこうやって入れて貰ったなあ、なんて思いはすれど、ここまでではなかったような。
その時、くいっとまた引っ張られる感覚。
けれど目の前には二匹の仔竜。となれば、犯人は別にいる。
「あっ、俺から盗もうとするなんていい度胸だな!?」
「るるうっ」
蛇の様な体躯をくるりと巻いて逃げ出す仔竜。それをすれ違いざまに盗み返して、ふふんとドヤ顔の凪波。巻き付けていたキラキラした石が取り返されたと気付けば仔竜も思わず驚きのかお。
「盗むんだったらこっちにしとけよ?」
「る!」
ちらり、見せたのはあまーいお菓子。凪波も好きなお気に入り。
「それに、どーせだったら仲良くしようなっ」
「るー!」
はい、と掌の上に載せたまま差し出してみれば、仔竜は手ずからお菓子を頬張る。もっと頂戴、とねだる仔竜をなんとか宥めて前へ、と――。
「ん?」
「がうう……」「きゅ!」
ちょーだい。
凪波の前に手を差し出して立ち塞がったのは、村から連れて来た二匹だった。
大成功
🔵🔵🔵
五百雀・斗真
仔竜が案内をしてくれるだなんて夢みたいだ
嗚呼…どの子もかわいくて頭を抱える
とはいえ早くしないと迷惑かかっちゃうよね
頭を撫でたりして一番懐いてくれた仔竜を連れていこう
道案内、よろしね
※どんな仔竜かMSさんにお任せしたいです
森の中でおともとはぐれたら危険だし
【影の追跡者の召喚】でおともの仔竜を見失わないようにする
仔竜がお腹をすかせてたらお弁当のおかずをあげたいな
>戯れる仔竜たち
悪戯されたら、うわわ…ってなるけれど
ドラゴンの悪性に唆された仔竜だと聞いてるので
攻撃は一切しないで様子見
お腹がすいてるかもしれないからお弁当をそっと置いて
こっちに敵意がないことを伝えてみる
仲良くなれたらいいな
※アドリブ歓迎
●
きゅうきゅうと鳴き声を上げて別の仔竜の尾を引っ張る仔竜が一匹。引っ張られてびゃああと赤子よろしく泣き声をあげる仔竜が一匹。
そんな喧噪を他所に、近くですやすやお昼寝タイムの仔竜も一匹。いや二匹。
そこから少し離れて村人からおやつを貰う仔竜がたくさん。口の周りに残りかすをくっ付けてご満悦。
「嗚呼……」
どの子も可愛い。
頭を抱えた五百雀・斗真(人間のUDCエージェント・f15207)は、そこから一匹選ぶなんて出来ずに立ち往生。戯れられるのは勿論の事、案内までしてくれるというのだから夢のようだ。これっていわゆるデートなのでは? デートだよな?
ぷしゅうと熱暴走しそうな脳を冷ます雨が今は有難い、ような。
ぶんぶんかぶりを振っては歩み出す。こうなったら当たって砕けろだ!
少し離れた所に集まる仔竜たちの集団がひとつ。皆楽しそうな顔をしていて、それだけで斗真も満腹になる。
が、ここから先に進まねば、本来の目的を果たせない。
「きゅー」
「んきゅ?」「ぴゃうー」「るる……」
短い足で斗真を示した仔竜が鳴くや否や、つぶらな瞳がくるりと斗真を見つけて見つめた。
ウッ。
じーっと見つめる仔竜のささやかな圧を押しのけて、頭を撫でれば仔竜たちもきゃいきゃい燥ぐ。どうやら遊んでくれると理解したのか、斗真はあっという間に仔竜に囲まれていた。
それから、数十分。
「道案内、よろしくね」
「んきゅい~!」
最後まで撫でてーとうろうろしていた仔竜を選び背を撫でてみる。黒いつるんとした鱗は艶やかで、子供ながらも確りと硬い。頭の二角は生え変わったばかりなのだろうか。ちょんと小さい三角が乗っかっていた。
そんな可愛らしい仔竜でも牙と爪は一人前。
保険としてシャドウチェイサーを召喚しつつ、斗真は仔竜を連れていざ出発。
――だったのだが。
村を一歩出た所で、立ち塞がるのは一匹の仔竜。翼は傷付き、お世辞にも綺麗とは言い辛い。
もしかして、唆されて旅立った仔竜だろうか。
「えーと、……君、どうしたの?」
返事はない。ないが、じーっと瞳を向けられている。
どうしたらいいかと悩んで数秒。とりあえず出来る事から始めよう。
そうして取り出したのはお弁当。攻撃するつもりが無い事を示すには手っ取り早い。
「なあ、君、一緒に来ないか?」
仔竜も攻撃してくる様子がないのだから、きっと仲良くなれると確信して。
「んきゅー」
とてとて近付いた仔竜がお弁当を一口摘まむ。食べ物だと気付いた仔竜がぱちくり瞬き、倣って一口頬張って。
「お腹すいてたのかな」
気付けばお弁当は空っぽに。村から連れ出した仔竜のお隣、いたずら仔竜がじいいと斗真を見上げていた。
「ぎぃー」
斗真の問いかけのお返事は、増えたお供が答えだろう。
大成功
🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
私も、そんなに森っていうものに詳しいわけじゃないし…
見知らぬ森なら、尚更。
なら、力を借りて進んだほうが、いいに決まってるよね?
あんまり好き勝手されても困るし…
かといって、力で脅して、萎縮されたりも困るし。
…気に、誘惑の力を乗せて…仔竜の一匹に、吹き当てて。
ねぇ、いい子にして。私に力を貸してくれないかな?
助けてくれたら…私のために働いてくれたら。嬉しいなぁ、なんて。ふふふ。
道中で、邪魔する子たちがいるなら、容赦はしないよ。
ユーベルコード…山茶火。
距離がある間に、掴んで、焼き尽くす。
戦り合うなら、跡形も残さず。学習させない。
この世は、弱肉強食。さて、あなた達は、私よりも強い?弱い?
【アドリブ歓迎】
●
パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は考える。
森。秘境と呼ばれるヒューエトス。
森と言えば木々が生い茂る場所というぐらいの知識であり。見知らぬ森なら、尚更。
それも、仔竜と暮らす村という、パームの知らぬ世界の傍らにあるのだから更にドンである。
それなら――。
「力を借りて進んだほうが、いいに決まってるよね?」
「ぴゅい?」
パームの見下ろす先にはきゅるんとした赤い瞳の仔竜が座っていた。小さな翼をはたはた揺らし、ふんわり毛先の尻尾を揺らす。
ちょこんと座っている限りは悪戯っこの気配はないが、森に入ればまた別なのだろう。
あんまり好き勝手されても困る。
かといって、力で脅して、萎縮されたりも困る。
「ううん。となったら、やっぱりこれよね」
んー、と悩んだ指先を唇に当て、投げキッスの要領でふっと魔を乗せた気を飛ばす。
これぞ誘惑の境地。
「ねぇ、いい子にして」
どこかパームの声にも妖艶な響きが込められる。
「私に力を貸してくれないかな?」
ふわりと飾るいくつもの尻尾は根元から先まで確りと手入れされ、見る者全てを魅了する。その毛に触れてみれば最早夢心地だろう。
片目を閉じて、ウインクぱちり。きゅん。
「ぴゅ、ぴゅるう……」
ふるふると身体を震わせた仔竜が何かに耐えるようにぎゅっと目をつぶった。
もう少し。あと少し。
「助けてくれたら……私のために働いてくれたら。嬉しいなぁ、なんて」
ふふふと嫋やかに笑うパーム。
声に誘われ、ずきゅーんと胸を射抜かれた仔竜はくらくらと頭を揺らし。
「ぴゅいっ!」
それはもう元気よく騎士様希望を出したとか。
進む先、雨の降る中でも山茶花の焔はよく燃える。
仔竜の案内を受けつつも、危険を全て回避する事は不可能だ。いたずらっこ達は訪れる人々を驚かし、時に盗みを働く事を生き甲斐にしている子も多い。
不自然に揺れた枝の葉。不自然な風の流れ。
そういったものに機敏に反応してみせれば、パームは炎の腕で掴みこんで焼き尽くした。
知恵を持たせて帰らせるような事はしない。この先に待ち受ける竜がどんなものかもわからないのだから、情報を持たせてはいけないのだ。
戦り合うならば、跡形も残さずに。この世は弱肉強食で、寄り添いあう輪から抜け出したのは仔竜の方だ。
案内役の仔竜もまたブレスを吐いてパームの手伝いに奔走する。少し良い所を見せればちらちらとパームを窺って。
仕方ないわね、なんて。
時折ご褒美に撫でやれば、それはもう嬉しそうに尾を振るのであった。
そこへ立ち塞がる仔竜。どうやら火の気を感じて群れでやってきたらしい。
「――さて」
ほんの僅か、仔竜と戯れる時間は終わり。隣の子もきっとその眼差しを鋭くする。
「あなた達は、私よりも強い? 弱い?」
咲き誇る桃色が、秘境の袂で輝いた。
大成功
🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
◎◇
小さい小さい竜がココにいる?
賢い君、賢い君、竜を仲間にして行こう。ダメ?ダメ?
アァ……面倒は俺が見る。心配しないでくれ。
賢い君のアカイイトをゆらゆらゆらして小さい竜と遊ぶ。
あーそーぼー。
コレは楽しい遊びをたーくさん知っている
だから遊ぼう
アァ……遊んだら案内をしてくれないカ?
生憎菓子は持ち合わせていないンで、そうだなァ……。
コノ肉のおまけつき。ジャーキーっていうらしい。
あまりにも悪戯がすぎるなら賢い君が怒ってしまう
小さいヤツを倒すのはコレの趣味じゃあ無いンだ。
サァ、小さいお前はどんなヤツなんだろうネェ……。
●
小さい小さい竜がココにいる?
答えはイエスだ。
「きゅうー」
「るる……」
「ぎゃううー!」
三者三様、似たような外見でも全く違う性質を持った仔竜たちが集まっている。
痕の残る指でそうと辰砂をなぞれば、埋め込まれた昏い宝石が呼応する。
「賢い君、賢い君」
呼びかけには応えない。血を要する拷問具なれば、深と静けさを保っている。
それでもなお、声は届いているはずだけれど。
「竜を仲間にして行こう。ダメ? ダメ?」
繰り返し問いかけてみても静かなまま。拒否の意思表示なのかもしれないが、エンジ・カラカ(六月・f06959)はなおも賢い君へと呼びかけて。
わずかに考える間が過ぎる。
そして思い当たる、懸念。
「アァ……面倒は俺が見る。心配しないでくれ」
手にかかる重みが、少し軽減した気がした。
エンジが見つけたのは自身の髪色にも似た艶やかな黒鱗の仔竜。その瞳は赤く光り、血の色にも見える。きっと色素の薄い瞳なのだろう。奥の血液が透けて見えているのだ。
その仔竜の手前にふらりと垂らされるアカイイト。
仔竜はそれに反応してぴんと尻尾を跳ねさせた。どうやら他の子と違ってあまり鳴かない種らしい。
「あーそーぼー」
猫じゃらしよろしく揺らしたイトへと仔竜が釣られる。単純ながらも効果的。
それから暫く遊びやり。
コレは楽しい遊びをたーくさん知っているものだから。仔竜の興味は絶えないだろう。
だから、遊ぼう。
遊んで、遊んで、遊び尽して。そうして一緒に旅立とう。
「アァ……どうか案内をしてくれないカ?」
エンジの問いかけに、仔竜が初めて小さく鳴いた。
さて生憎とエンジは菓子を持ち合わせてはいない。村人に言えば分けて貰えただろうが、出発した後ではもう遅い。
その代わりと言っては何だが、持ち合わせがあるのはひとかけの肉。ジャーキーというらしい。
あまりに悪戯が過ぎるようなら、これで宥める算段で。そうしたらきっと賢い君が怒らずに済む。
小さいヤツを倒すのはコレの趣味じゃあ無いンだ。
漆黒の仔竜の案内を受けながら、エンジは森の路を往く。道中にある妙な縁は、エンジの旅路を遮るだろう。
サァ、小さいお前はどんなヤツなんだろうネェ……。
金色の瞳が滑る先、不自然に草木が揺れて真白な仔竜の頭がひょこりと見えた。
大成功
🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
狩猟。何か心踊る響きがあるなァ。
さて、竜の扱いには慣れている。道案内を頼むぞ、仔竜よ。
遊ぶなとは言わないが、はしゃぐなよ蛇竜。お前、一応大人だろ。
森の仔竜と遭遇したとして、あまり戦うというのはなァ。
……飴玉でもやろうかな。
そらそら食え。もっと食いたければついて来ても良いぞ。
……何だったかな、こんな話を聞いたことがあるような。きびだんごで。確か桃――。
ともかく、どうしても襲ってくるならば、槍に変えた蛇竜で応戦だ。
なるべくなら追い払うくらいでやめておきたいな。
だからはしゃぐなよ蛇竜。そいつら、槍とかにはならないから。
●
「狩猟。狩猟なあ」
その響きは、どこか心を擽るよう。
太古より人々は狩猟を行い生きて来た。生きる為に狩りを行い、日々を充実させるために狩りをした。
その心は今なお受け継がれていて当然である。心躍る響きに感じられるのも必然だろう。
さて。
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は訪れてすぐに手を伸ばした仔竜に大層懐かれていた。竜の扱いを心得ているからだろうか、あやす手先はツボを突く。
「道案内を頼むぞ、仔竜よ」
「きゅるっ」
蛇竜とはまた違った形の仔竜は前足をびしっと持ちあげて敬礼にも似た反応をする。はたはた揺れる翼に、少し短めの尾を振って。
隣にはニルズヘッグの連れがいた。こちらもこちらでそわそわ仔竜の様子を窺っている。
一応、大人で。仔竜よりも随分と年上の筈で。
さりとて同族との邂逅は気も昂るというものだ。
「……遊ぶなとは言わないが、あんまりはしゃぐなよ蛇竜」
そっと釘を刺されるも、赤い瞳を右に左に揺らして偉い子と悪い子の狭間。
そんな主従のやりとりを不思議そうに眺めた仔竜が一鳴きすると、ずんずん遠慮もなく森の中へと飛び立った。睨みあいもそこそこに、一人と一匹は後を追う。
森は奇妙な静けさを保っていた。神秘的といえばいいだろうか。肌に刺さる空気は清らかに澄み、深呼吸をすれば身体が浄化されるような心地になる。時折吹き荒ぶ風の魔力の影響ではあろうが、どこか身体が軽く感じられた。
道中はいたって平和だ。今のところは。
仔竜の道案内は順調だが、時折蛇竜のちょっかいも入ってころころと遊びだす。互いにどろんこになってしまうものだからニルズヘッグの眼差しもどこか呆れたものになる。
暫しきゃっきゃと遊んだ後は仔竜のブレスできれいきれい。再開する旅路。
そして苦難はやってきた。
「るるるうっ!」
ぽーん、と。跳ねたわるいこ仔竜は尻尾で案内役の仔竜へと攻撃を仕掛ける。それに反応したのは蛇竜だ。自分の番だと言いたげに、同じく尻尾をぶんぶん回す。そのやりとりは、ニルズヘッグには遊びにしか見えぬのだが。
そんな戯れを傍目にごそごそ、荷物を探り目当てを見つける。
差し出した掌。その上に乗っかるまるい飴。
「るる! るー!」
「そらそら食え。もっと食いたければついて来ても良いぞ」
……何だったかな。こんな話を聞いたことがあるような。あれは確か。
奇しくも丁度、おともは三匹。例えるならばそう、猿と、犬と、雉のような。
「きゅる!」
仔竜の声ではっと鬼ヶ島から帰ってくるニルズヘッグ。
見ればころころと飴玉を転がす仔竜に向かって蛇竜が目を輝かせてアタックしているところだった。
「だからはしゃぐなよ蛇竜。そいつら、槍とかにはならないから」
一瞬、蛇の身体がぴーんと一直線になったような。
ぷるぷる震えショックを受ける蛇竜に、ニルズヘッグはやれやれと肩を竦めた。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・カイト
【兄妹】
◎
兄さまとデート嬉しいです
え、違う?違わないですよね?
愛しあう2人が共に外出する、これは立派なデートですよ?
(反論されても全て自分に都合よく解釈)
兄さまがオレのために料理まで!?
大好き兄さま、愛してます!
オレも兄さまのためにアクセ作りますからね~
道案内の仔竜くんにも、オレ達の兄妹愛を見せつけてあげましょう!
で、オレと兄さまのデートを邪魔する悪い仔竜くんは、サクッとやっちゃいましょう
なぎなたを手に威圧
大丈夫、キミ達の死は無駄にしないから
殺気を放って恐怖を与え威圧
敵が怯んだところを、なぎなたで狩る
兄さまと息を合わせて
倒した仔竜くんからは素材を採取
皮とか牙とか、採れそうなものは持っていこう
杜鬼・クロウ
【兄妹】
◎
ダメだコイツ全く話通じねェよ
「チビ竜狩りか、精が出るぜ…テメェと一緒じゃなけりゃ更になァ!(溜息)
デートじゃねェっつってンだろうがクソ!
愛?うっわ気色悪…一人でヤってろバーカ。俺を巻き込むな。
ドラゴンの肉料理でナニ作っかな(スルー」
濡れた髪弄り都度地図や風向きを確認し迷子防止(第六感
カイトが濡れて寒そうなら外套投げる
前衛
肩に背負った玄夜叉を握り先制攻撃
目配り一切無しだが阿吽の呼吸
仔竜の肉の旨味が多い希少部位狙い
【トリニティ・エンハンス】使用
攻撃力重視
敵の攻撃は武器受け・カウンター
足下注意
背後から剥ぐ
属性攻撃・2回攻撃で大剣に炎宿し灼熱の刃で斬る
鱗など素材を大量採取する時は幾何か感謝を
●
兄さまとデート嬉しいです。
え、違う? 違わないですよね?
愛し合う二人が共に外出する。これはりっぱなデートですよ?
兄さまがオレのために料理まで!?
大好き兄さま、愛してます!
オレも兄さまのためにアクセ作りますからね~!
「――ダメだコイツ、全く話通じねェ」
怒涛の杜鬼・カイト(アイビー・f12063)の言葉の嵐に、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が一言一言否定の言葉を挟んだはずではあるのだが。
あるのだが……全く聞く耳を持たないカイト。
精が出るぜと言いたいところなのだが、隣にカイトの姿がある事でやや半減する。いや、半減どころの話ではない。
殊更デカイ溜息が出た。
クロウが「デートじゃねェっつってンだろうがクソ」だなんて口汚く否定したって、「愛? うっわ気色悪……一人でヤってろバーカ」と直球で巻き込むなと伝えたって、カイトはどこ吹く風だ。
挙句スルーして「ドラゴンの肉料理でナニ作っかな」と独り言ちれば、何故かそれには反応する。しかもカイトの都合のいいように解釈して。
既にクロウの胃がキリキリと痛む心地がした。成程これが人間の言うストレスとかいうやつか。理解したくもない境地をまたひとつ知った気がする。
一方でカイトは道案内を担う仔竜を抱き上げたかいたかーい。オレたちの兄妹愛を見せ付けてあげましょうだなんてヤる気充分。
「ちゃんと見ててね仔竜くん!」
「るる~?」
「ソイツの言う事、聞かなくてもいいぞ」
「る~」
言葉を話せぬ仔竜でも、ほんのり二人の間を邪魔してはいけない事を察した。存在するラブ故にではない。身の安全故に、だ。
さくさくと緑色濃い草を踏み、カイトとクロウは森の小道を進んでいく。幾度となく人が通れば道というのは出来るもの。
かつて村人達が素材採取の為に通っていた道なのだろう。
今ではすっかり見る影もなく、雑草に覆われ、他と比べて微かに歩きやすい程度だが。
濡れた髪を弄りながら、クロウは都度肌を撫でる風の向きや、予備に借りた地図を見る。仔竜がいれば迷う事はない筈だが、万が一だ。こんな樹海にカイトと二人取り残されるのはごめんである。
しかし、まあ、こんな態度を取っていても兄ということか。
にこにこと機嫌良く進むカイトがひっそり腕をさすったのを見逃さず、溜息と共に外套を投げつけた。
「兄さま……!」
「目がうるさい」
きらきらと光の粒が飛んでくるようだ。
――と。
「るるっ!」
仔竜が警戒の声をあげる。カイトとクロウはそれまでの雰囲気を即座に締め、各々の得物を構えた。
どこから、来るか。
「――、」
ぴり、と肌を刺す空気。カイトの放った殺気は訪れた何者かの動きを鈍らせた。がさりと一層大きく揺れた草むらへ向けて、クロウが黒き大剣を振るう。
一ミリの遅延もない。まるでこうある事が決められていたかのように、二人の呼吸はぴたりと揃う。
目配りなど、しない。声かけなど、しない。
これは、必然なのだ。
クロウの剣先は何かを捉える。しかし、浅い。飛び出したのはやや大き目の仔竜だ。牙を剥けたその赤い口内に、更に燃え滾る炎獄が見える。
炎、――ならば、丁度良い。
カイトが一歩前へ出れば、仔竜の瞳はそちらへ揺れる。吐き出された地獄は地面を舐め、木々を燃やすが肉の焦げたにおいはない。
放ったなぎなたが刻む道。散らした炎は仔竜の属性を離れ、大気に溶け込む塵となる。
そこをクロウが駆け抜けた。刀身にルーンが施された大剣玄夜叉は炎との親和性が高い。自ら宿した灼熱に、仔竜が吐いた炎を乗せて。
「じゃあな」
「ギッ」
短い悲鳴。絶つ命。
クロウの剣は確かに仔竜を斬り裂いて、焔の中に骸を落とした。
増援はない。他の仔竜の姿もない。
「兄さまに喜んでもらうために、貰っていくね」
動かぬ仔竜は自然の恵み。ひとかけらの損失もないよう、鱗の這う皮を剥いで、良質な牙を採取する。養分にならぬ部位も、捨て置かれるより使われた方が良いだろう。
ざくざくと分割されていく仔竜の肉から血を抜いて、袋に詰めて素材とする。希少な部位もしっかり獲った。
「行くか」
「兄さまとならどこまでも!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
◎
これが仔竜!初めてみたのだ
竜騎士の竜とはまた違うのだな
かわいい、ちょっと抱っこして…
いだだだ!な、何をするのだ!?
甘噛みだから大丈夫?愛情表現?過激すぎるぞ!
わわ、前髪を食うな!助けてくれー!
うう…こんなにやんちゃでは先が思いやられるぞ…
とりあえず、仔竜を引き連れ採取開始
言うこと聞かないときはお菓子で釣ったり遊んでやったり
なんだか採取が進んでいないような気がするのだ…
野良仔竜がイタズラしに来たときは【第六感】で察知・阻止
【優しさ】と【動物と話す】、そしてお菓子で交流を図る
仲が深まったと感じたら、一緒に行かないかと持ちかける
(べろべろ舐められ)わっ、あはは、くすぐったいぞ!
でも涎でベタベタだ…
●
右を見ても左を見ても仔竜の姿。
これがノネット村の常であり、魔獣やドラゴンが存在しない日などなかった。
「わああ〜! これが仔竜! 初めてみたのだ」
思わず声をあげたヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)の手前、仔竜が一匹不思議そうにヴァーリャを見上げた。
竜騎士が繰るドラゴンランスは、眼前にちょこんと座る仔竜のような形をとる。彼らもまた謎に包まれた存在ではあるが、ここらにいる仔竜とは性質がまた違うのだろう。
ゆえに、初めてだ。生のドラゴン。
「かわいい、ちょっと抱っこして……」
手を伸ばし、抱え上げる。本日のおともにとオススメされた真白の仔竜。
きっとたいそう可愛らしくて懐こくて……。
「い、だだだ! な、何をするのだ!?」
がぶり。
「ははは、ねえちゃんと会えて嬉しい〜って言ってるんだべ」
「ほ、ほんとう!?」
「分からんけども」
過激すぎる。そして甘噛みだから大丈夫などという境地はとっくに過ぎ、愛情とは何かと哲学が始まりそうになる。
平常心、平常心。
むしゃむしゃ。
「わわ、前髪を食うな! 助けてくれー!」
……まだまだ先は長そう。
こんなにやんちゃで先が思いやられると、ヴァーリャはひそりと溜息をつく。知ってか知らずか、仔竜はそんなヴァーリャの頭をその短い手でぽんぽんと撫でるのであった。原因は君ですよ。
そんこんなで珍道中。
深い緑に覆われた森は様々な自然に溢れている。アクセサリーを作ろうと思ったなら、輝石が集まるところまで。料理を作ろうと思ったら、七草にも似た植物が蔓延るところまで。
仔竜の案内を受けてヴァーリャも採取の旅に出るが、仔竜はといえばまだまだ遊び足りぬ様子で時折ヴァーリャの足元で寛いだ。
ぷしゅうとやる気の電池が切れる度にお菓子で釣り、遊んでやるヴァーリャ。
「なんだか採取が進んでいないような気がするのだ……」
はい、その通りです。
「きゅ?」
仔竜はきゅるんとした目を向けるだけ。
がっくりと肩を落とすヴァーリャの元へ、更なる台風が巻き起こる。そう、イタズラ仔竜のお出ましだ。
「ぎゃううっうー!」
「えいっ」
半ばヤケ気味に訪れた仔竜の口へとお菓子を突っ込み。モグモグと反射で咀嚼する仔竜へ今度は遊びを持ちかけて。
気がつけばすっかり一人と二匹は打ち解け合う。それもこれも、話がふんわり通じるおかげでもあった。してほしいこと、やりたいことがヴァーリャには伝わってくるのだから。
「ちび、俺と一緒に行かないか?」
「ぎゃうー」
すっかりヴァーリャの膝の上で落ち着いた仔竜へお誘いひとつ。返事は悩む間も無く了承の意が届いた。こんなにサクッと決めてよいものかと逆に不安になる。
ころころと寝転がる仔竜。その体を起こし、にゅっと伸びあがれば頬にざらざらとした何かが触れる。
べろり。
「あはは、くすぐったいぞ!」
きっと友愛の印。犬がそうするように、仔竜もまた同じく示して。
「でも涎でベタベタだ」
嬉しいやら困るやら。最終目的地に向かう前に、次の目的地は泉を探すことにしよう。
一人と二匹。賑やかな旅はまだまだ続く。
大成功
🔵🔵🔵
エルト・ドーントレス
連携・アドリブ歓迎
POW選択
モンスターハントと聞いて。
あ、仕事なのはちゃんとわかってるからきっちりやるよ。
でも手に入れた素材でどんなものができるのか考えると、やっぱりわくわくするよね。
仔竜を連れてくけど、いい関係を作れるようにスキンシップを取っておく。
ご機嫌になる塩梅を見極めながらナデナデぐりぐり。
こうやって遊びながら性格を見極め主導権を握る。
戦闘では相手を取り押さえるために接近戦を仕掛ける。
UC守護擬精を発動してエアクッションを作り攻撃を受け止め、あとは冷気なり電撃なりワイヤーで縛り上げるなりで捕獲。
竜の本能を刺激されて気が昂ってるらしいけど、果たしていつまでそれが持つかなぁ。(わきわき
●
モンスターハントと聞いて。
ザッとその地へ足を下ろしたエルト・ドーントレス(灰色猟兵・f14009)。今は無き故郷とはまた違う風が吹いていた。
目の前に広がる光景は、エルトの心を弾ませる。仕事なのは理解しているが、それ以上にわくわくする心が大きいというもの。
今回の重要コンテンツはオレイカルコスの討伐だ。それさえ成し遂げてしまえばほとんど成功と言っても過言ではない。
しかし、今回はそれだけに留まらず、やれることも多様にある。
ものづくりの街、ノネット村。狩猟の付き物、獲物の皮や肉など、手に入れた素材でどんなものが作れるのかと夢想すれば、逸る気持ちは抑えきれない。
仕事はビシッとバシッとこなしつつ、そちらの方も楽しむとしよう。
「よろしくなあ」
「んきゅう〜」
旅の道連れ、仔竜の頭を撫でやればふりふり尻尾を振って上機嫌。
単純だと言われていた通り、軽く頭を撫でてやれば万事なんかうまくいきそうな気がした。
ナデナデぐりぐり。
んきゅい〜!
構ってあげる度にご機嫌度と共に好感度もアップしていく。
それでもエルトは与え過ぎず少なさ過ぎずのラインを見極め、仔竜の手綱をしっかり握った。遊び過ぎて進まないのは本末転倒すぎるのだ。
主導権を握りつつ、エルトはこの仔竜についての理解度を高めていた。
時折轟と吹く風に怯え、時折強まる雨に喜ぶ。食べ物はなんでも食べるし、道中見つけたきのみなんかも構わず口に放っていたぐらいの食いしん坊。
知れば知るほどに二人のタッグは洗練されていく。
と、そこへ邪魔する仔竜が一匹。
「んきゅう〜!」
鳴き声の響きこそ同じなれど、もう随分と関わり続けたエルトにはその差異もありありと聞き分けられた。
案内役の仔竜がいたずらっこの前に躍り出る。遊びのお誘いか、戦いに行ったか、そこらへんはまだ分からぬがさして重要でもない。
突然詰められた距離に怯む仔竜。
その一瞬を逃さず、守護擬精て様々な属性の力を強めればエアクッションを作り上げる。
咄嗟に放たれた反撃の炎弾は、クッションに阻まれ溶け落ちた。再び火の玉を放つまでにはラグがある。
そこを狙って繰り出す電撃。しびびびび。
「きゅうっ」
ぴこーんと体を強張らせて動けぬ間に、エルトは最後の仕上げとワイヤーで搦めとる。
すっかり手足も出ずに転がる仔竜。それを見つめるもう一匹。
「竜の本能が刺激されて気が昂ぶってるらしいけど……」
仔竜が見つめるに合わせ、その隣で捕らえた仔竜を見下ろして。
ずもももも。
転がる仔竜からしてみれば、圧倒的な圧と共に見下ろす影がふたつある。悲鳴のようなか細い鳴き声があげるが、直ぐにそれも掻き消して、なおも気丈に睨みつけてはびちびち暴れた。
「果たしていつまでそれが持つかなぁ」
ギブアップするなら今のうちですよ、なんて。
剣呑な雰囲気を背に、エルトはわきわきと指を動かすのであった。
――後には、笑い疲れてぐったりした仔竜がいたのだとか。
大成功
🔵🔵🔵
静海・終
◇◎
ルトの転送どうにかなりませんかねえ…赤に酔いそうです…
などと愚痴は置いてモノづくり、面白うでございますね
仔竜とドラゴンランスの涙も連れて森へと向かいましょう
涙がべっとり引っ付いているのを気にせず
おとも仔竜とコミュニケーション
お触りして良いなら撫でたりしつつ
おやつのジャーキーで機嫌を取り案内をお願いしますね
この子も愛らしいですねえ…
涙に頬をべちべちされつつ可愛いなあと仔竜の尻尾をつつく
悪戯っ仔が出てくればおやつを与えて
一緒に行かないかとナンパ
言う事を聞いてくれなければ残念ですが追い払うのみ
少し脅かすかおやつをちょっと遠くに投げてく
あとなんだか機嫌のよろしくない涙にもおやつをあげておきましょう
●
くらくらと目の前が揺れるような感覚。ちかちか光るあかいいろ。
「もう少し、どうにかなりませんかねえ……」
既知の猟兵へと文句を垂れるも、件の人間はここにない。ぶつくさとぶつける宛もなくケチをつけ、静海・終(剥れた鱗・f00289)は曇り空の下で伸びをした。
同じ光景を見ていたのであろう、終のおとももぷるぷると身体を震わせている。
「涙、――……おや?」
名を呼んだドラゴンランスの涙はすぐさまべっとりと終の足にひっついた。雨模様の下でくっつけばどうなるか。終の下半身がべしゃべしゃだ。
幾度か名前を呼んだとしても変わりない。首を傾げる主の足にひっつき虫だ。
しかしこれに構ってばかりもいられない。何せ出発した猟兵は既に多く、仔竜の数も減ってきている。
何としてでも仔竜を連れて出掛けねば。地図で行けるとはいえ、こんな恵まれたチャンスに仔竜と戯れないとは勿体無い。
ずりずり涙で重たい片足を引き摺りながら、終は一匹の仔竜と出会う。
「ぎゃうー」
「よーしよしよし」
とろんと目尻を下げた終は、それはもう某博士宜しく愛でまくる。お触りオーケー大歓迎な仔竜だったらしく、気を良くすれば猫のようにお腹を見せて寝転んだ。丁寧に、かつ大胆に。終の手は止まらない。
「この子も愛らしいですねえ……」
しゃがみこんだ終の眼差しは仔竜に釘付け。そこをべちんと叩く小さなおてて。首がちょっとゴキっといった。やや痛い。いや結構痛い。
涙だ。頬をべちべちと叩いている。
――が。
「愛らしいですねえ……とても……」
終はつんつく仔竜の尻尾をつつくばかり。これには涙もぷっくりご立腹のご様子で。じとりと主を誑かす仔竜をねめつけ、喉を鳴らして威嚇する。
悲しいかな、それは逆効果なのだが。
「ぎゅう……」
驚いた仔竜が終の足にしがみつく。両手ならぬ、両足に仔竜。
流石の終も「重たいですねえ」とどこか遠い目をしていた。
さてこの魚、村の仔竜に留まらず大層な手癖の悪さであった。
「どうです? 一緒に行きませんか?」
「ぴゅるっ」
鳥のような翼を持った悪戯っ子とエンカウントすれば、王子様よろしくプロポーズ。その手にあるのは指輪ではなくおやつだが。
あぐあぐ頬張る仔竜をゲットし、終は更にドラゴンハーレムの渦中にいた。
ついでとばかりに機嫌のよろしくないような涙へもおやつを差し出してみるが、むっすりとした表情は変わらない。
奪い取るようにして、それでもちゃんとおやつを貰う涙を前に、終は鈍く首を傾げるばかりであった。
ちゃんと責任は取りましょう。
大成功
🔵🔵🔵
ユハナ・ハルヴァリ
◎
こ、りゅう。
可愛いですね
一緒に歌を、歌ってくれる子がいたら
ついて来てくれると、嬉しいです
お名前は何て、いうんですか?
森をてくてく歩きながら、ふわりと歌を奏でて
こどもの竜を見かけたなら
一緒に行きましょう、と声を掛ける
おやつを持ち歩く癖がないので、そうですね
甘い果実を採りながら、進みましょうか
みんなで分けて食べると、おいしいですね
雨の日は、音が賑やかです
迷わないで進めるなんて、えらいですね
僕は滑らないように、進まないと
君たちは飛べるから、大丈夫……だよね?
小剣を作ろうと思ってて……合金竜の素材の他には、何がいいかな
柄に使えそうなもの。木とかがいいかなあ
氷を生む葉に焔の立つ樹
ここには、あるかな
●
こ、りゅう。こりゅう。
「……可愛いですね」
「きゅいっ」
しゃがむユハナの手前、切株に乗った仔竜が長い首を伸ばしてくるくると喉を鳴らした。ソプラノにも似た音程の鳴き声は美しく、聞く者を惚れ惚れとさせる。
どうやら仔竜たちの間でも大人気のようで、小さな切株はステージのようにも見えた。
すでに疎らに散っている中、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)は歌姫の前でちょこんと見つめる。仔竜の方もユハナに興味があるのか、まんまるな目を向けては可愛らしく鳴いてみせた。
きっと歌が好きなのだろう。
右へ左へ揺れた瞳は仔竜へ留まり。肺一杯に息を吸う。
ら、ら、ら。
仔竜の知る歌ではないだろう。遥か遠い世界に国に生きる人々の間で、全く同じ歌が伝わる事は珍しい。
けれど。
「きゅう~!」
仔竜はメロディに合わせて高らかに歌う。はたはたと小さな翼を揺らし、体全体で歌を奏でる。
この子だ、と。ユハナがそう思うのに、これ以上の理由はなかった。
「お名前は何て、いうんですか?」
「きゅー」
「……きゅー」
ぽたぽたと雨のしずくが葉を叩く。森全体が楽器になって、ユハナと仔竜の耳を楽しませた。
結局、名前は村人から教えて貰った。プリマと呼ばれているらしい。
ぷつりと道中見つけた果実を集めながら、ユハナは仔竜と揃って歌を歌う。一人と一匹だけではない、ヒューエトスが奏でる音楽も含めたコーラスだ。
「迷わないで進めるなんて、えらいですね」
「きゅ~!」
歌の合間に声をかけてみれば、仔竜はご機嫌に声に応える。いくつか質問を投げるうち、これは明るい方の答えで、これは悪い方の答えなんだなと感じられるようになった。
それもこれも、仔竜が上手に感情を声に載せられるからだろう。
歌声に釣られたか、はたまた差し出した果実が目当てか、いつの間にかユハナの後ろには仔竜の列が出来ていた。いち、に、さん。
はたはた、歌いながら飛んでいた仔竜がふと止まる。
「大丈夫、かな」
「きゅい~」
声のトーンは下がり気味。楽しくてはしゃいで、遠足の帰り道のバスで眠くなってしまう子供のよう。ぽすりとユハナの頭の上に落ち着いた。
探し物は森の中。きっとどこかにあるだろうけれど、今は未だ。踏んだ葉には霜が降り、ぱきりと小さな音を立てた。
大成功
🔵🔵🔵
都槻・綾
f11024/花世さん
◎
雨具や食料(現地でしか味わえない物が!食べたい!)等の支度を頂戴し
仔竜を連れて
お名前は…みどりさん?
道先案内お願いしますねぇ
仔竜の頭を撫でつつ
動物と話す技術で会話可能か試みる
触れた時の温もりや所作から意思疎通も容易いだろうか
休憩時
花型の干菓子(落雁)を仔竜へ
花世さんもどうぞ、と彼女の口へも放り込む
嬉しそうな二人の様子がそっくりで
笑みを噛み殺したのは内緒
根源が倒れれば元の気性に戻るかもしれず
屠るのは極力避けたいところ
先制攻撃、高速詠唱の馨遙にて
柔い春の心地に包み込み、誘眠
零れた鱗を花世さんの掌へ
一緒に覗き込む仔竜も
歓喜に震える花世さんも
やっぱりよく似ている――愛らしき稚さ
境・花世
綾(f01786)と
◎
道案内は夜の森色した鱗の仔
円らな眸がかわいくて、
構い過ぎたら嫌がられてしまい
綾、いいな
なつかれてていいな……
戯れるふたりをしょんぼり眺めるも、
きみの指からお菓子を食めば
甘い幸せに頬はふくふく緩む
悪い仔たちと遭遇したら、
“侵葬”の馨で彼らの動きを止め
早業でいっぱい撫でにいく
じゃなくて、鱗を少し貰いたいんだ
気付けば隣で援護してくれる綾に、
背中を安心して預けてる
あのね、きみと来たかったんだよと
笑って切り抜けたなら
光を透かして煌く鱗が掌に
わあ、宝石みたいだ
気付けばみどりちゃん(仮名)が傍にいて
きれいだねえと話りかければ
揺れる尻尾のお返事
綾、今ようやく心が通じ……っ(ぶわわ)
●
何か、ありますか。
村人が用意してくれたありふれた食べ物を前に、開口一番、都槻・綾(夜宵の森・f01786)はこの村ならではの食料を訪ねていた。
折角来たのだから、現地でしか味わえないものがいい。
それに対してちょっと待ってろと村人が持ち出したのはまあるい木の実の容れ物だ。クルミにも似た材質だが、大きさはその数倍もある。
「これは?」
「中にミルク煮が入っててなあ。この殻は保温になるんだ」
軽く叩けばコンコンと木のような音が鳴る。繰り抜かれた蓋を少し開けてみると、ごろっとした肉と野菜が入っていた。シチューが近いだろうか。
森で獲れた四足の獣の霜降り肉。村で育てた新緑の菜っ葉。雪のような真白のカブに、しゃくしゃくと噛み応えのある野菜の茎。蕩ける白を染める、ちりばめられた黒は香辛料だろうか。食欲をそそる一品だ。
これは、これは。
思わずこくりと唾を飲む。
しっかり二人分を確保して、綾は仔竜を遠目に見つめる境・花世(*葬・f11024)と合流した。
「どの子にしたいか、決まりました?」
「ううん、もうちょっと……」
村の仔竜を見つめては、その可愛らしさに胸を打たれる。
歌が上手な仔竜。少し体が大きくてやんちゃな仔竜。かけっこが大得意な仔竜。いろいろだ。
「よし、この仔にしよう!」
そうとなれば早速近付き、こんにちは。
案内役に選ばれたのは、夜の帳が落ちた森に棲む仔竜。その色で染めた鱗が輝いて、雨の雫すらも際立たせるアクセサリーになる。
なにより、円らな眸が可愛くて。
――気が付けば、その仔竜は綾の元に旅立っていた。
「綾、いいな。なつかれてて、いいな……」
行き場のない両手が虚空を彷徨う。原因は判っている。構い過ぎて嫌がられたのだ。犬のような感じだと聞いてはいたが、性格もまるきり犬に似ているとは限らない。
そんな花世を傍目に、綾は気の毒そうな視線を向けつつも近付いて来た、もとい逃げ延びて来た仔竜と戯れる。
「お名前は……みどりさん? 道先案内お願いしますねぇ」
潤滑なコミュニケーションは綾の持つ技術のお陰。きゅいきゅいと鳴く仔竜の声を花世は聞き取れない。いくらコミュ力があっても、言葉は判らないのだ。
雨降る森は多彩な色を持つ。太陽を欲しがる花は花弁を閉じて、まあるい膨らみを持った実になった。対照的に、雨の恵みを得んとばかりに花開くものも存在する。
自由に枝伸ばす木々は所々にくぼみがあり、雨水をこれでもかとため込んだ。腐らぬ気丈さは、幾星霜もこの地に根付く為の適応だろう。
その中でも、ぽかりと開いた空間がある。木々もそこだけは緑の屋根を外し、空を映しこんで地に光を齎した。
あまりに悲痛に鳴くものだから、ほんの少し休憩を。どうやら空腹らしい。
花形の干菓子を仔竜へと渡した綾を見やる、薄紅の。
「花世さんもどうぞ」
その端正な唇がいいなあと紡ぐ前に、綾は落雁を押し込んだ。
見るからにしょんぼりとした空気は、甘い幸せに溶かされて、頬もふくふくと弛むよう。
一人と一匹。今は距離あれど、食べる姿はそっくりで。綾はひそりと笑みを噛み殺す。
流れる時間はゆったりと。しかして時は止まってくれない。
二人は何かが近付く気配を感じ取る。仔竜は未だ落雁を齧っているものだから、綾はそうっと邪魔にならぬ所へ運んで。
飛び出したのは、茜色が眩しい仔竜だ。曇天の中でも木漏れ日降るこの場所に用事があったのだろう。
「ぴゅいい~!」
知らぬ人間がいれば警戒する。花世も綾もそれは十二分に承知だ。
す、と浅く息を吸い。花世は薄紅の花弁を放って馨で満たす。鋭い眼差し。指先は仔竜を狙い、雨の中で華麗に舞う。
――わしゃわしゃわしゃわしゃ。
多分、見えていた者がいたならそう表現しただろう。なんだかものすごい勢いで撫でていたと。
二度笑みを噛み殺し、綾は夢へのぼる道を開く。柔い春の心地に包み込み、誘うは遥かなる眠り。
気付けば、花世の隣に綾はいた。寄り添うように、影のように、綾は花世のしたい事を援護する。
ああ、これだから。
あのね、きみと来たかったんだよ。
背に籠るぬくもりは、ただきみだから預けてる。
きらりと、雲間の光が差し込んだ。
零れた鱗は数知れず。それでも中から特別綺麗な模様を描く一枚を、綾はそうと花世の掌へと灯す。
「宝石みたいだ」
思わず零れた言葉。ふわりと、傍らから覗きこむ夜色の仔竜。
息を飲み、驚かさぬよう意識して。
「きれいだねえ」
満月の瞳を向ける仔竜へ語り掛ければ、ふらふらと尻尾が揺れて花世に触れた。
二度息を飲む。
「綾、今ようやく心が通じ……っ!」
そこまで言って声を止める。あんまり大声を出してはまた逆戻りだと気付いて慌てて喉を詰まらせた。
そんな花世の傍らで見守る綾は目尻を下げる。
一緒に覗きこむ仔竜も。歓喜に震える花世も。
やっぱりよく似ている――愛らしき稚さ。
まだまだ旅は終わらない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クレム・クラウベル
◇◎
道中は仔竜を連れて進む
比較的おとなしめの個体を供に
道中のことも踏まえて竜に与える食料は多めに持ち込む
干し肉に甘いほうが好みだった場合に備えてクッキー等の菓子もいくらか
食いつき良い方で機嫌取りをしよう
やるべきことはある、とは言え急を要する程は切迫してもいない
暫くシビアな仕事続きだったのを思えば良い息抜き、か
雨降る森の景色も少しばかり楽しみつつ
……そういえば仔竜は濡れても平気なのだろうか
屋根が欲しそうなら外套に入れる隙間をあけてやる
道中遭遇した仔竜は食料で懐柔
肉でも菓子でも好きな方をやる。邪魔をしなければそれで良い
悪い取引じゃないだろう?
やり合わず済むなら僥倖、食べ物で釣りつつ先へ進もう
●
雫が撓ませる葉道を進み、曇天ながらも煌きで満ちる森を往く。秘境ヒューエトス。時に激しい雷雨が起こる事もあるこの森は、今日は穏やかな顔を見せていた。
やるべきことは、ある。
ようやく芽を出したばかりの木々の枝を目でなぞり、クレム・クラウベル(paidir・f03413)は仔竜を連れてゆったりとその旅路を進んでいた。
やるべきことはある、とは言え、急を要するほどは切迫してもいない。件のドラゴンが現れるまではまだ時間があるようだ。
「思えば、良い息抜き、か」
暫くシビアな仕事続きだ。心を摩耗する依頼はクレムの精神を否応なく蝕んできた。時に血を吐く様な思いをし、時に嫌な決断を迫られて来たのだから。
雨降る森はそうそう縁のない代物だ。おとなしめの仔竜を選んだ事も幸いして、道中はいたって平和である。
「きゅー」
「……ん、どうした?」
くいくいと外套の裾を引っ張る仔竜を見下ろせば、じいいと見つめる双眸がひとつ。生憎と、仔竜の言葉は判らない。
「きゅー」
あぐあぐ、仔竜は顎を動かした。
「ああ、腹が空いたか?」
「きゅ!」
勘に頼って干し肉を与えてみれば、仔竜は嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振った。まるで犬だ。多めに持ち込んだ食料はまだまだ余裕がありそうで、少し休憩を取ることにした。
小さめに千切って、差し出して。
受け取る手が、ふたつ。
「……ん?」
連れ出した仔竜は一匹。渡した干し肉は、ふたつ。
「ぴゅい~」
さも当然という顔で、干し肉を齧る見慣れた仔竜の隣に陣取る見知らぬ仔竜。
ぱちぱちと瞬きを何度かしてみるが、その数が変わる事は無い。
「あー……お前も、来るか?」
「ぴゅいっ」
肉でも菓子でも良いけれど。増える事はそれほど気にしない。邪魔をしなければ、クレムにとってはそれで良いのであった。
やり合わずに済むのならこれでいこう。
食料がなくなるのが先か、仔竜の案内が終わるのが先か、微妙なラインになりつつあるが。
「そういえば、お前たちは濡れても平気なのか?」
ふっと疑問に思った事を尋ねつつ、もうひとかけら肉を渡して。
「きゅーっ」「ぴゅい~」
大丈夫、とでも言いたげな返事がふたつ。けれど食べてる最中は雨宿りしたい心地にもなるのか、ぷるぷるっと身体を震わせ水滴を飛ばす。
ふわり、何処からともなく吹いた風。
ふわり、風に揺られて膨らむ外套。
ぴーん。
これはいい場所を見つけたとばかりに、休憩中、クレムは仔竜の棲み処になるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
御剣・誉
◇◎
さぁ、狩りに行くぜ!
うん?オマエも一緒に行きたいか?
しょうがないなー連れて行ってやろう!
(仔竜をお供に森へ
ほーこういう森とかは縁遠い生活だからなー
楽しくアスレチック気分でひょいひょいっと森を抜けて行けば
ふと目につくキノコたち
あ、キノコめーっけ!(キノコぶちぶち
これ食えるのかな…(じぃっと見つめ
うーん…とりあえず持てるだけ持っていくか
あ!あっちにもキノコあんじゃん!
なぁ、仔竜…うーん名前欲しいな
それじゃ『エリンギ』でいいや
エリンギー、オマエもキノコ採ってこいよ!
一緒に取ったらいっぱい採れるだろ?
え?木の実があった?
ふむふむ
これは…食えるのか?
よくわからんが持って帰るかー
あれ?狩りしてなくね?
●
「さぁ、狩りに行くぜ!」
そんな意気込みと共に足を踏み出しノネット村。御剣・誉(異世界渡り・f11407)はやる気に満ちていた。思う存分狩りをしてやろう、という気持ちで。
そんな誉が出会ったのは一匹の仔竜。人懐っこい性格に、物怖じしないタイプらしく、訪れた猟兵ひとりひとりの所へ突撃してはふんふんと鼻を突き出した。
そうして辿り着いた最後のひとり。
「うん? オマエも一緒に行きたいか?」
「ぎゃうー!」
「そうかそうか、しょうがないなー連れて行ってやろう!」
えへんと胸張る誉の足元、仔竜はえいえいおーと小さな腕を振り上げて。こちらも大層やる気に満ちていた。
さて森へと繰りだせば、見慣れぬ光景が広がっている。普段は随分と縁遠い世界なものだから、何だか気分は遠足に近い。
誉の鼻歌に合わせ、仔竜もふんふんと喉を鳴らす。
広場にあるような入り組んだアスレチックを攻略するかの如く、わくわくした気持ちは膨らむばかり。仔竜の案内役というファンタジックな要素も混ざって、本日の誉は上機嫌もいいところだ。
ふ、と。
傍目に見かけたその場所は、色とりどり、形とりどりのキノコの楽園。
「あ、キノコ!」
「ぎゃう?」
あれあれ、と誉が示して寄り道すれば、道案内は小休憩。仔竜も揃ってキノコ鑑賞会に乗り出した。
「これ、食えるのかな……」
じー。
「ぎゃう……」
じーー。
「うーん……とりあえず持てるだけ持っていくか」
ぴこん!
どちらもキノコ知識は持ち合わせていないらしく、安全かどうかの答えは出ない。出ない、が。ぷちぷちと根元から折って素材袋の中へ。
「あ! あっちにもキノコあんじゃん!」
行こうぜ、と声をかけようとした誉がふと気づく。
仔竜と呼ぶよりも、名前が欲しい。
「なぁ、仔竜。オマエ、名前は?」
「ぎゃうー」
「――って分かる訳ないか。それじゃ『エリンギ』でいいや」
「ぎゃう!?」
とりあえず、エリンギでない事だけは確かである。
「エリンギー、オマエもキノコ採ってこいよ!」
「ぎ、うー、ぎゃうー!」
何度か声を詰まらせながら、仔竜はがっくり肩を落とした。が、それに気づく誉ではなく、むしろ今はキノコに夢中だ。まあるく平たい赤いキノコ。果たしてこいつは食べられるのだろうか。
道中は採取に乗り出して、寄り道時間の方が長く感じられるほど。
いやあ、大量、大量。
「――あれ? 狩りしてなくね?」
はい、そうです。完全にエンジョイしてました。
大成功
🔵🔵🔵
ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と
ハンターなのか、そうかそうか。
元気に仔竜と歩く様子は、なんとも可愛らしいが……
なんだこれは、お散歩か。
確かに、森の中で動き回る事に関してはリリヤの方が長けている。
少々危なっかしいが、ずんずん進むのを後ろから見守ろう。
あー、手出しも無用だそうだから、見守ろう。
ううん、うーん……
本人は真面目なつもりだろうから、笑いはしないが……
これは一度、きちんと得物の扱い方を教えてやらねばならないな。
戦わずに済ませる事は良い事だな。
でもあれは、村を出る前に道中で食べるのを楽しみにしていた物では?
……そうだな、先を急ぐか
リリヤ・ベル
◎
【ユーゴさま(f10891)】と
ユーゴさま、ユーゴさま。
狩りです。狩りなのです。
今日のわたくしは、はんたーなのですよ。
意気投合した仔竜と一緒にゆきましょう。
森であれば、わたくしの出番ですとも。
おともの仔竜と連れ立って、ずんずん先へゆきましょう。
わるい仔竜とだってたたかえるのですよ。
手出しは無用、むよ、む、……少々おまちを。
ひょろひょろした棒を、おおまじめにぶんぶん振る。
たぶんおともの方がつよい。
ふところからおやつを取り出して、わるい仔竜の気を惹くようにピャッと遠くに放って転進。
戦術的撤退ですもの。
むえきなたたかいをしないのが、つよいのです。
おともの仔竜にもおやつをあげつつ、先を急ぎましょう。
●
狩りです。狩りなのです。
「今日のわたくしは、はんたーなのですよ」
ふんすと気合を入れるのはリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)だ。狼の性質を持つ彼女がハンターと言えば、ハンターなのだろう。確かにそれだけ見れば捕食者側なのだが。
「ハンターなのか、そうかそうか」
応えるユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)が前を往くリリヤと仔竜の歩む姿を眺めるが、どうにもそんな気配など感じられない。随分とまあ、愛らしい。
なんだこれは、お散歩か。
意気投合した水色の仔竜と進む足は、どこかスキップにも似て浮付いた調子で運ばれた。ハンターという響きにも疑問符が付くというものだ。
まあ、良いとしよう。
森であれば、リリヤの方が慣れている。どちらがより適性が高いかと言えば、ユーゴよりリリヤの方であろう。少々危なっかしかろうが、事実は事実だ。
今日のユーゴは見守り役。リリヤがよいと言うまでその立場。
おともの仔竜と連れ立って、リリヤは胸を張っては先へ行く。
曰く、わるい仔竜とだって戦えるのだそうで。
早速その宣言を確かめるかの如くに現れる、わるいこ仔竜。
「手出しは無用ですよ」
「あー、そうか。分かった」
きゅっと両手を握りしめ、リリヤは一人立ち向かう。そうしてぽこんと頭を叩き、たた――。
「むよ、む、……少々おまちを」
その前に、イメージトレーニングである。ひょろひょろした棒を大真面目にぶんぶんと振る。いち、に、さん。ぶん、ぶん、ぶん。ユーゴであれば、その間にひとひねり出来ただろうが口出しはしない。
しない、が。唸り声は口の端から漏れた。こめかみを抑えて事態を見守る。
ぶん、ぶん、ぶん。息を吸って、吐いて、もう一回。
そうこうしている間に、仔竜でさえもきっとひとひねり出来ただろうが、空気の読める仔竜はユーゴの隣に佇んでいた。その眼差しはあたたかい。
本人はいたって真面目なつもりなのだろう。だからこそ一笑に付すことも出来ずユーゴはただ成り行きを見守る。帰ったら、きちんと得物の扱い方を教えてやろうと思いながら。
「ぎゃうー!」
「む、むむむ……」
わるいこ仔竜も堪忍袋の緒が切れて、――いや、よくここまで待ってくれたものだという話なのだが、リリヤに鋭い爪を向けて飛びかかる。
そんなリリヤの手には、棒――ではなくおやつが握りしめられていた。
転進。
えいっ。ぴゅーん。ぎゃうー!
綺麗な弧を描いて飛んでいったおやつを追い、仔竜は似たような弧を描いて追いかける。そのままがさがさと草むらを揺らし、仔竜の姿は見えなくなった。
無事、戦闘を終える。
そう、これは戦術的撤退。
「むえきなたたかいをしないのが、つよいのです」
「ああ、戦わずに済ませる事は良い事だな」
しかしあれは、村を出る前に楽しみにとっておいたおやつだった気もするが。
心なしかリリヤの翠の瞳が陰っているように見える。くーんと尻尾を垂らし、耳をぺたりと畳んだ犬の姿が重なって見えて、ユーゴはぶんぶんと首を振った。
ごそごそリリヤは懐から追加のおやつを取り出して、おともの仔竜へも同じく差し出す。楽しみにしていたものかどうかなど仔竜には分かる筈もなく、ぶんぶんと尻尾を振っておやつにありついた。
「先を、急ぎましょう」
次こそはこの棒を追い払ってやるのですから。
そんな気概に満ちた声。
「……そうだな、先を急ぐか」
この先、何度戦術的撤退するか、ユーゴはひそりと予想を立てるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『合金竜オレイカルコス』
|
POW : 合金武装の尾
単純で重い【合金によって武器化された尾】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 例え、屍になろうとも金属は死なず
自身が戦闘で瀕死になると【完全合金製のドラゴン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 合金錬成武具の吐息
【合金で錬成した大量の武器によるブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:クロジ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ガングラン・ガーフィールド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ズシン、と秘境ヒューエトスを揺るがすほどの地震が起きた。
それはなにも超常現象でも、自然現象でもない。とあるドラゴンの訪れを告げる合図だった。
合金竜オレイカルコス。
その身体はいくつもの鉱石と宝石で出来ており、きらきらと陽の光を反射しては輝いた。角から尻尾の先に至るまで、どこもかしこも鉱石で出来ている。
ダイヤモンド。プラチナ。ゴールド。エメラルド。その他色々。
口にしてきた鉱石の数だけ、オレイカルコスの身体には様々な種の鉱石の棘が生えていた。その瞳はエメラルドにも似て鮮やかに光る。
どんな原理で動いているのかは分からぬが、どうやら隅から隅まで合金だ。内臓も恐らくは鉱石に侵され、表皮に生えるそれとはまた違った耀きを持っている事だろう。
素材として見るなら、充分。
だが、そう簡単に獲らせてくれないのも確か。
「グルゥウアアアアアア!!!!!」
ひとつ咆哮すれば、森全体を揺らして恐怖で包み込む。今は鉱山の餌を喰らってはいるが、大食らいのオレイカルコスの事だ。食い潰した後は村へと向かって侵攻していくことだろう。
硬い鱗。鋭い牙。
鈍重な動きであることだけが、幸いか。
どのように戦い、どのように捌くか。全て、猟兵に託された。
静海・終
◇◎
おやあ、宝の山が動いてお出でにございますねえ
それでは悲劇は殺して、壊しましょう
おともの仔竜には安全な場所に、共にくるなら無理をしないように撫で
さて、と不機嫌な涙を抱きあげる
私の相棒は貴方なんですから貴方がいないとダメなんですよ
嫉妬する可愛い相棒にでれでれしながら頬を無理矢理すり寄せる
一緒にきましょう、ね
硬い身体を穿つならばやはり柔らかい場所を、と言いますが
何処も彼処も硬そうでございますねえ、口の中も硬そうとくれば
柔らかな鉱石のある辺りを抉りましょう
樹か何かに登り背に跳び乗り琥珀の刺を探し出せばそれを狙って貫き
他は硬くともここは比較的柔らかいでしょう?食いしん坊
しっかり狩らせていただきますよ
レイブル・クライツァ
◎◇
来たわね素材の塊(ごほん)…失礼。素直に本音が出てしまっていたわ。
ごきげんよう、巨大な竜。
仔竜は避難させておいて…寒色系の鉱石狩りをしていくわよ
とはいえ、動かれると手元が狂って困るから脚を狩ってしまいたいわ。
巫覡載霊の舞で、繋ぎ目を何度も何度も強打してポロっと取るわね。
綺麗に採掘するなら、動かないに越したことはないものね?
その次は口元に大鎌を刺したままにして、動かないようにしてしまいましょう。
痛覚で暴れるようなら、頭か心臓が有る辺りを巫覡載霊の舞で裂きましょうか。
体液が付着している状態なら、早めに拭き取って綺麗にしておかないといけないわね。
色と大きさとで分別して、他の方の分もお手伝いするわ
シキ・ジルモント
◇◎
SPD
食べ物が尽きる前に見つかって一安心だ
新たにおともになった仔竜は、仮に「ライ」と呼ぶ事にする
グラとライが逃げずに戦うなら少し見直す
手の掛かるチビどもかと思ったが案外根性があるな
改めて協力を頼み危険が迫れば優先して守る
仲間として力を借りるんだ、当然だろう
銃口にエンチャントアタッチメントを装着
銃弾に炎の魔力を付与した『属性攻撃』で攻める
頑丈そうだが、これならどうだ?
牙や爪をピンポイントでユーベルコードで狙撃して部位の破壊を狙う(『スナイパー』)
攻撃に使い体を支える部位だ、破壊すれば有利になる
破壊部位は付け根辺りを狙って根元から折り傷を少なく残す
破壊した部位はグラとライに素材として回収を頼む
●
森を抜け、猟兵達は目の当たりにする。どれだけ身体が大きい人間が来ようとも、誰もが首を痛めるような大きさのドラゴンだ。
合金竜オレイカルコス。
「来たわね素材の塊――ごほん。失礼。素直に本音が出てしまっていたわね」
仔竜を足元に引き連れたレイブルがじっとドラゴンを見つめる。眼前のオレイカルコスは未だ猟兵の来訪に気付いていないのか、あるいは気にしてはいないのか、ガツガツと鉱石を頬張っていた。
「おやあ、宝の山が動いてお出でにございますねえ」
言い直したレイブルと打って変わって、終は素直に声にする。この男、正直である。
「それでは悲劇は殺して、壊しましょう」
「そうだな。食べ物が尽きる前に見つかって一安心だ」
腕組をして見上げるシキの足元では、もう何度目かの食料にありつく仔竜グラの姿があった。新たに増えた一匹にはライという名を与え、今この時までついて来ている。こちらはもうお腹いっぱいの様子でけぷりと一息吐いた。これから戦いが始まろうとしてるというのになんと呑気な事か。
ちらりと二匹を見やり、オレイカルコスを見る。
「きゅう~!」
「ギィ」
シキが一歩を踏み出せば、グラとライもおやつタイムを脱して切り替えて。
てっきり案内だけで逃げるものと思ってはいたが、どうやら一緒に戦ってくれるつもりようだ。その姿は少し意外で、シキはほんのり見直した。手の掛かるチビどもかと思ったが、案外根性があるらしい。
仔竜にも得手不得手というものがある。
シキの連れた仔竜たちが戦いに備える横で、レイブルはそうっと安全な所へ仔竜を導いた。ぷるぷると震える仔竜はぴゅいぴゅいと鳴いてはレイブルの心配をしていたが、大丈夫と声をかければ大人しく木陰に収まった。
終が初めに連れた仔竜はレイブルの案内役の傍へと収まる。代わりに、森の中で出会った仔竜たちはやる気満々だ。鳴く度に口の端からブレスが零れる。
「無理はなさらぬように」
「ああ。危険だと思ったら逃げて良い」
改めて協力を頼めば、仔竜たちはそれぞれ高々に鳴く。やる気十分。
さて、と終は不機嫌な自身のドラゴンランス、涙を抱き上げ額を撫でやる。涙は相変わらずのふくれっ面だ。
「私の相棒は貴方なんですから、貴方がいないとダメなんですよ」
ここで唐突なデレがくる。
「一緒にきましょう、ね」
仔竜たちに振り撒いたライクに嫉妬する可愛い相棒。その一挙一動に辛抱堪らなくなって頬を無理やりすり寄せた。
「それでは。――ごきげんよう、巨大な竜。その身体、貰っていくわ」
狙いは冷えた鉱石色。レイブルの金色の瞳がオレイカルコスの身体を検分していく。
『グゥルルウアアアアアァアア!!!!!』
明確な殺意を敏感に感じ取ったオレイカルコスが咆哮する。巨体を動かし、翡翠色の瞳に猟兵の姿を映しこんだ。
●
硬い身体を穿つならば、やはり柔らかい場所を。
「ふむ。とは言え、何処も彼処も硬そうでございますねえ」
ぐぱりと開いた赤い口内を一瞥し、終は身軽に噛みつきを躱す。あんなものに齧られれば、人の躰などひとたまりもない。
ランスに変えた涙を手に、終は駆けだした。ドラゴンを狩るのは竜騎士の仕事。その識質眼は他のどんなジョブに比べても追随を許さない。
「頑丈そうだが、これならどうだ?」
弾かれた通常弾を見やり、シキは銃口にエンチャントアタッチメントを装着する。銃弾が通用しないのは想定済みだった。
機械の駆動音。狼の耳に届く、モスキート音にも似た高い周波数。手にした銃に込められるは、炎の魔力だ。雨降る中とはいえ、魔力で作り上げた焔は消える事を知らない。
冴え渡る一発。しかし、その身体をややに穿とうとも致命傷には至らない。やはり何か工夫が必要か。
「動かないようにしてしまいましょう」
きっと、その方が素材が採りやすい。もはや既に剥ぎ取る事へと思考が傾いているレイブルであった。
ふわりと風に乗るように足を運べば、レイブルの身体を薄らと光のヴェールが包見込む。
それに、あんまり動かれると手元が狂って困ってしまう。致命傷にならないから、と最もな理由を付けてはいるが。
一言二言交わした言葉から、終はなんとなくその本意を察していた。素材として使うなら、綺麗な方が良い。狙いが外れて傷が増えては堪らない。そして、それには終も同意であった。
鉱石にも、硬い物と柔らかい物がある。
例えば滑石であれば簡単に傷を付けられる。この鉱石で覆われた表皮は槍や薙刀、銃弾で容易く傷付ける事が出来るだろう。
反対に、カーボナードと呼ばれる鉱石は何物も貫く矛を以てしても貫く事は難しいだろう。むやみやたらに表面に傷をつけるだけになってしまう。
オレイカルコスにダメージが与えられ、かつ、動きを止められる部位。
「脚、ですかね」
「ええ」
二人の見解は一致した。
「それなら俺は気を惹こう。その方が狙い易くもなるだろう」
「では頼みますねえ」
散開。シキが仔竜を連れてオレイカルコスの正面へと身を投げる。リボルバーに空弾を装填すれば空砲を響かせ合金竜の気を惹き付けた。
『グルゥウウ!!』
「そうだ、こちらに来い」
狙いは牙。そして、身体を支える爪。前足であれば十分に遮られずに狙える場所。
どうしたって弱点は存在して、そのひとつに指先があげられる。人間とて同じだ。多くの神経が集まるその場所は、どんなに鉱石でカバーしても無影響とはいかないだろう。
全弾を打ち出した後は空薬莢を捨て次弾を装填する。こちらは威力を極力まであげたバースト弾だ。炎の魔力が込めやすい細工もあり、着弾と同時に炸裂する。
シキの青い双眸が細められた。
オレイカルコスの緑の双眸が見開かれた。
『グルァアアアアア!!!!!!』
シキの眼前が赤に染まる。オレイカルコスの口が迫る。
――ここだ。
息を止める。引き金を引く。たったそれだけの作業に、極限まで集中力を高めて立ち向かう。一瞬でも遅れれば、僅かでもずれれば、シキの命は容易く呑みこまれる事だろう。
頭を叩く衝撃。花火が目の前で炸裂したかのように腹の底まで響かせる銃声。
シキの頬に生温かい血が降りかかる。銃弾は歯肉を抉り、鋭い牙の根元を綺麗に両断した。
『ガァアアアアア!!!!』
雄叫び。その声は衝撃波にも似てシキの身体を吹き飛ばす。開かれた口は閉ざされる事なく、血を振りまいて咆哮をあげた。
ぐらりと、オレイカルコスの身体が傾く。飛ばされるままに身体を転がしたシキはそのまま前線から離脱した。粘る必要はない。巨体に潰されてしまっては無事に帰れるとも限らないのだ。
それに、役目はもう果たした。
空に人影が二つ。地面に影を落とす、二人の猟兵。
軽やかな足取りで針葉樹の天辺まで登り詰めた終は、その巨体までの距離を測って空へと跳ねた。海を泳ぐ魚のように空を泳ぐ。曇天を掻き分け、ドラゴンランスを構えれば、急降下。
「私の目は誤魔化せませんよ、食いしん坊。他は硬くとも、ここは柔らかいでしょう?」
刺突。槍が出せる最適解にして最大火力。
煌めく琥珀が赤い瞳に混ざり、太陽の煌きへと変わる。尾の付け根。身体の隅々に信号を届ける骨髄を抱く要。
それは針穴に糸を通すような正確さで穿たれた。唯一、ほんの少し、表出する弱点。
『グルゥウウウアアア!!!』
「やあ、どうやら効いているようですねえ」
鉱石の肌を貫いた穂先を捻り、終は暴れるオレイカルコスの背に食らいつく。吹き飛ばされては元も子もない。どころか、叩き付けられてしまえば自身が危うい。
「しっかり狩らせていただきますよ」
行動を阻害するように隙を見ては更に穂先を押し込んで、オレイカルコスの神経系にダメージを与える。誰しも激痛で思考は止まるというものだ。
終焉を齎す一槍。その布石は、既に。
風を斬ってレイブルが跳ねた。のたうち回る巨体に潰されぬように跳ねながら、死角へ潜りこみ薙刀を振るう。終のように高々と跳ねるには技量が足りない。だが、それでもやれることはある。
繋ぎ目。ドールたるレイブルはその切れ目をよく理解していた。一見人肌と同じく艶やかな肌を持つレイブルだが、関節部の意識はある。
正確無比に同じ箇所を斬り続けたレイブルは、ぽろぽろと落ちる水晶の欠片に時折気を逸らされつつも剣舞を披露する。誰も見ていない舞台でも、華麗に、嫋やかに。
後ろ足さえも再起不能にしてしまえば、レイブルは正面へと素早く回る。それを成功させるのは、終の槍とシキの銃弾が与える断続的な痛みのお陰だ。
「遠慮は、いらないでしょう?」
血に濡れた下顎に、大鎌を突き刺す。
出来るだけ傷は最小限に、聴覚を研ぎ澄ませば、聞こえるオレイカルコスの心音を頼りにレイブルは脚を伝って上へ回る。
手袋越しに触れる肌。ほんの少し鼓動する胴。
「もう少し、後ろですよ」
「……そうね。そうみたい」
それでは、さようなら。
●
おともの仔竜たちがびゃあびゃあとそれぞれ声をあげる。
シキがグラとライに頼んでおいた事は無事成し遂げられていたようで、オレイカルコスの巨体が潰す前に回収されていた。
よしよしとそれぞれ頭を撫でてみるも、その顔は満足の端にひとかけらの不満が籠る。察したシキが食料を取りだせば、なんとまあ分かりやすい事か。呆れたように肩を竦めつつ、それぞれに餌付けする。
拾い上げた巨竜の牙。自らの身体程もあろうかという巨大な骨。
「これは解体に苦労しそうだな」
「ですねえ」
ぷるぷると身体を震わせた涙は少々血生臭い見た目をしていた。武器なのだから血に濡れるのは当たり前ではあるのだが。
その身体を拭いてやりつつ、終はオレイカルコスを見る。持って帰って来いだなんて言われたが、その方法すらこちらにまかせっきりだ。溜息が出る。
「ふふ、でもやりがいがありそうね」
血と体液で汚れるドラゴンを前にレイブルは早速作業に取り掛かる。幸い、既に雨が流してくれている。血すらも素材になるかしら、と少し悩みつつ。
既に採れた部分を色と大きさで分別して、全員に行き渡るように整理していく。
――と。
『ルル……グル……』
身動きもとれず、後はもう朽ちるだけのオレイカルコスが低く唸った。
例え、屍になろうとも、金属は死なず。
昏く緑の瞳が灯った。背が自ずと裂け、猟兵達の解体の手間を減らす。
減らす、が。
「これはこれは……なんとも……」
「でかいな」
「素材の塊がもうひとつ、ね」
三人の眼前で、新たな巨竜――今度こそ完全なる合金で出来たオレイカルコスが召喚された。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
◇◎
おぉおお!!
こんなにデカい敵なら、倒しがいはあるのはもちろん、剥ぎ取り甲斐もあるというものだ!
ちびたちは安全な場所まで一旦下がらせ
危ない目に遭わせては村の人も悲しむだろうからな
飼い主(仮)の勇姿、きちんと見ておくのだぞ!
合金製になったのか……
斬ったとしても硬くて通用しなさそうだ
『血統覚醒』で自分の腕力を大幅に強化し
《スノードーム》で斬るのではなく突いて攻撃
【2回攻撃】で確実に敵の身体にヒビを入れる
自分の突き攻撃や仲間の攻撃により、身体にヒビが増えてきたと感じたら
ヒビのある場所を狙い、《メチェーリ》をハンマー代わりに
高く【ジャンプ】し、【怪力】を使って思いっきり振り下ろし砕いてやるぞ!
エルト・ドーントレス
◇◎
POW選択
標的のお出ましか。
予想以上のお宝の山みたいだけど、仕留めてからの話だね。
じゃ、狩りを始めますか。
俺は距離をとって援護射撃に徹するかな。
頭を執拗に攻撃して注意を引きつけ、近接組が動きやすくしよう。
レッキスの機動性なら大振りな攻撃を躱すのは余裕。
ダッシュ、ジャンプ、空中戦を駆使して逆に翻弄してやるさ。
仔竜は振り落とされないようにしっかり掴まってなよ。
ま、相手もされるがままってわけないし、大技を妨害するためにUC守護擬精を状態異常重視で発動。
霰と暴風で敵の周辺に擬似雷雲を作って、増幅した雷で麻痺させてやる。
見るからに電気が流れやすそうだしね。
さーて、いったいどんな素材が手に入るかなぁ。
●
金剛のオレイカルコス。
先ほどまで咆哮をあげていた巨体は地に倒れ、新たな、今度こそ完全なる合金製のドラゴンが軋む音を立てながら、はらはらと鉱石の欠片を零しながら雄叫びをあげた。
『グルウウウアアアアァァアア!!!!』
びり、と猟兵達の身体に衝撃が走る。質量を持った音が直接体にダメージを与えてくる。
一度、二度、三度。
繰り返し吼えるオレイカルコス。不気味な脈動と共に合金の肉の内側から鉱石がせり出してくる。透明に輝くクリスタル。黒く光るコルーサ鉱。奔るヒビすらも美しい血の色のカーネリアン。まるで蝶々の翅のようにも見えるブルーラブラドライト。
オレイカルコスが体内に溜め続けた鉱石が表出していく。
「なるほど、予想以上のお宝の山みたいだな」
見上げるエルトはオレイカルコスが抱く色とりどりの宝石を眺めながらぽつりと独り言ちた。
これを全て手に入れて売り物に出来たら、村ひとつ軽く復興できるくらいの金銀財宝にはなるだろう。入手する過程で出た屑石すら、ものづくりの街では有効活用されるはず。
けれど。どれもこれも、"仕留めてから"の話だ。
「おぉおお……!!」
その隣でヴァーリャは感動と共にきらきらと目を輝かせていた。
「こんなにデカい敵なら、倒しがいはあるのはもちろん、剥ぎ取り甲斐もあるというものだ!」
ぐっと握りしめた拳。夢見る先は、既に討伐を終えた時の事へ。どうやって解体しようか、どうやって活用しようか、考える事は山ほどある。
と、その前に。
よいしょとちびたちを安全な場所へと下がらせる。危ない目に遭わせては、きっと村の人も哀しむから。
「きゅーっ」
「心配してくれるのか? でも大丈夫だ! 飼い主(仮)の勇姿、きちんと見ておくのだぞ!」
「ぎゃうー!」
わいわいと叫ぶ仔竜たちは両手をぶんぶん、応援の姿勢。これにはヴァーリャもにっこり。やる気十分である。
「じゃ、狩りを始めますか」
準備が整った様子のヴァーリャを見やり、エルトも戦闘準備に入る。エルトを案内した仔竜は懐へと潜りこみ、外套の中でがっしりしがみついていた。
エルトの役割は、支援。敵の注意を引きつけつつ、懐に潜りこむ猟兵がいるならば動きやすいようにオレイカルコスの動きをコントロールする。
狙いは頭だ。例え攻撃が通らずとも狙い続ける事は注意を引く事に繋がる。目の前に羽虫が飛んでいたら気になる人間と同じだ。
駆け出すヴァーリャ。その背でエルトは守護疑精を展開する。背後には資源潤沢な森と仔竜たちがいるのだ。被害を抑える為にもこの大盾は必要となってくるだろう。
ついでに霰と暴風を指先で操り布石とする。すぐさま発動できるものではないが、じわりじわりと時間をかけて形成すればいい。何も、刹那で勝負が決まるものでもない。
風が騒ぐ。轟と振られた尾は金剛の一撃。大地を容易く削り、先端が触れた木々を紙の様に千切り、地平線すれすれを薙いでいく。
疑似雷雲の形成を一旦ストップしつつ、エルトは回避に注力した。あの尾に一度でも触れてしまえば最後、大地に叩き付けられてドボンだ。
幸いにも敵は鈍重。一撃は重いが、当たらなければどうと言う事は無い。
「さあ、来い。俺が相手してやろう」
それは口先だけの挑発ではあるのだが。
『ルルウゥウアアア!!!!』
激高するオレイカルコスは横たわる自身"だったもの"の死骸を踏みつけ砕き、その巨体を震わせる。合金製のドラゴンが残っているとはいえ、ちょっぴり勿体無い気持ちにもなった。
動く度にぱらぱらと落ちる鉱石の破片。手を翳してその破片が目に入るのを防ぐヴァーリャは今、オレイカルコスの腹の下へと潜りこんでいた。
「おぉ、全部、合金製になったのか……」
間近に見て、実感する。柔らかな皮膚は見つからず、どこもかしこも鉱石で覆われていた。潜りこむ際に関節部を見てみたが、どうやら動かす度に削れ、のちに出来た隙間は新たな鉱石を生やす事で補っているようだ。
斬ったとしても硬くて通用しないだろう。その一瞬の隙間に差し込んだとしても怪しいものだ。
ならば。
ぱちりと、瞬くその一瞬。ヴァーリャの瞳は真紅に染まり、身体の奥底から沸き立つ熱がヴァーリャの身体を焼いていく。
嗚呼、血が。血が。血が喚く。血が騒ぐ。
「よおし、勝負だ!」
それでもなおヴァーリャはヴァーリャであった。底から燻る熱と衝動すらも支配下において、勇猛果敢に攻め立てる。
鉱石の破片に混じり、霜が降る。はらはらと、雪の結晶が辺りを満たす。
まるでスノードームの景色をそのまま現世に落とし込んだかのように、ヴァーリャの周りは雪の世界へと導かれた。砕けた破片すらも雪の屑に変えて、ヴァーリャは得意げに氷の剣を振るう。刻まれたルーンが仄かに青い光を灯した。
この剣は、斬るためにあり。しかして、それだけでもなし。
ダイヤモンドは、鉱石随一に硬さを誇る。しかしそれは、モース硬度で示される硬さの話だ。ひっかいた時の傷の付きにくさと、割れにくい硬さは別物。
同じ事だ。斬るのではなく、叩く。剣先で突くように叩き付ける。
狙いは肩口。大顎を避け潜りこんだヴァーリャはオレイカルコスの死角にいた。灯台下暗し。そして、エルトの援護のお陰で自由に動ける。
同じ個所へ、何度も剣戟を繰り返す。二回セットで駆け引きしながら、潰されぬように転進しながら、幾度目か。
「! 入った!」
ピシ、と嫌な音が鳴る。それはヴァーリャにとって朗報。
さあ、ここからが仕上げだ。
ばち、とヴァーリャの眼前に雷撃が奔る。メチェーリへと持ち帰る間に修復されるその刹那を、エルトがカバーする。
「さーて、いったいどんな素材が手に入るかなぁ」
にやりともせずに言う声には、どこか楽し気な気配が混ぜられた。露出した箇所に見える、その鋼色。エルトには覚えがある。
いい風が吹いている。穏やかとは程遠い、暴風が吹いている。雷雲はその中に多量の電撃を含み、ぱちぱちと爆ぜていた。
一筋、雷撃が触れる。導線は繋がれた。
『ッ、アアァ、グルアァアアアアア!!!!!!!!!!』
叫ぶ、叫ぶ。体内を駆け抜ける雷は自ずと増幅されてオレイカルコスの中を駆け巡る。麻痺というには強すぎる電撃。巨体はがたがたと揺れ、その動きを滞らせた。
「俺の実力、見せてやるぞ!」
振りかぶる。ガジェットの応用で作られたチェーンソーの遠心力に導かれ、ヴァーリャがやや身体を傾けた。自分を中心に力をかけて、思い切り跳ねた。乗算される重力。星の力もわがものにして、ヴァーリャはメチェーリを振り下ろす。
高く耳を劈く、音がした。
きらきらと飛び散る破片はダイヤモンドダストのように輝いて。オレイカルコスの肩口に大穴が開けられた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アズール・ネペンテス
でけぇな…そんでメッチャクチャ堅そうだなおい
こんだけデカいと解体のしがいもありそうだし結構な値段で売れるんじゃね?
とりあえず【挑発】してこっちに敵意を持ってもらうとして
そのあとはUCと【見切り】【残像】で防御手段を確保してボウガンで攻撃だな
(アドリブ歓迎
依世・凪波
◎◇
きらきらな塊!!
強そうだけど俺にも素材手に入れられるかなぁ…
手持ちのダガーと鉤縄を見て溜息
けどやってみないとわかんないよな!
仔竜達も手伝ってくれるのか?ありがとー!
でも出来るだけ危ないめにはあわせたくないから危険があれば『かばう』
動きを『野性の勘』で『見切り』ながら鉤縄を絡めダガーで攻撃
うぅっ、やっぱあいつ硬いなぁ…
衝撃に手が痺れ
わっ!?ありがと、俺のが助けられちゃったな
仔竜にくわえられ攻撃から逃げる
予備ダガーを鉱石の値に『投擲』
んーと金属ってのは熱に弱いんだっけ?
狐火【フォックスファイア】で尻尾のあたりを狙い炙ってみる
熔けたり鉱石がとれたりしないかなって
もし熔けたら冷えた後で回収したいな
ユハナ・ハルヴァリ
◎
おともの竜たちには下がっていてもらって
危ないですから、ね。
長杖を解いて構築する貴石の花を周りに散らす
そのからだと、どちらが堅いでしょう。
とはいえ体格差は歴然なので、巧く立ち回りましょう
身軽さならば勝てるでしょうか
視線を散らすように跳んでは駆けて
関節部分や眼、顎なんかを狙って花弁を放つ
全身合金、となると……骨もでしょうか。
継ぎ目、あるかな……
咆哮なんかで口を開けたら、其処へ矢のように花弁を突っ込んでみましょう
食べても、おいしくないですよ。
短剣の出番があるならば
爪や牙を、落としておきましょう
少しはみんなが、危なくなくなるでしょうか
ちゃんと拾っておきますね
赤い石、あるかな?
●
オレイカルコスの雄叫びに混じり、ぽつりと小さな溜息が零された。
現状、猟兵達の優位に見える。ただし見える、というだけで長期戦になればまた違ってくるかもしれない。大穴が穿たれた肩をじわりじわりと鉱石が埋めていくのを見やれば、あまり余裕ぶった顔をしてはいられないだろう。
「強そうだけど、俺にも素材手に入れられるかなぁ……」
剣戟の音、高く鳴る銃声、風切る魔法の唸り。
それらすべてを聞きながら、凪波は両手に持ったダガーと鉤縄をぎゅっと握りしめる。
きらきらな塊が、地を踏みしめ咆哮している。
素材を手に入れるだけならば、木陰に隠れて他の猟兵達が圧倒する様を見ていれば良い。これだけの質量があれば取り分はある。
けれど。
それで、良いのか?
力のこもった手元は更にきつく握りしめられ、起こる震えを抑えてくれる。きっと顔をあげた凪波は肺一杯に息を吸った。
「やってみないと、わかんないよな!」
それは、決意。
「ぎゃうっ」「きゅ~!」
「ん、手伝ってくれるのか? ありがとー!」
一方で、ユハナは連れ添った歌姫を下がらせる。いやいやと首を振ってはいたが、戦い慣れていない様子は森の小路で見て取れた。
「危ないですから、ね」
「きゅう……」
しょんぼりと尻尾を垂らして仔竜は木陰に収まる。よしよし、とその頭を撫でやって。
「終わったらまた歌ってくれますか?」
問いかけと共に、素材袋を傍らに差し出す。君に持っていて欲しいと言外に語る。
「きゅ!」
「はい、約束ですね」
ぴらぴらと翼を揺らす仔竜を背に置いて、ユハナはオレイカルコスに向き直る。ふわりと、長杖がほどけて花びらを散らした。
きらきらと煌く貴石の花が風に乗っていくつか攫われていく。その先で、オレイカルコスから零れた鉱石を斬り裂いた。
「そのからだと、どちらが堅いでしょう」
身軽さで言えばこちらが一枚上。体格差で言えばあちらが一枚上。有利不利は判ってる。だから、その上でこちらが有利な戦場を選び、戦う。
「全く、でけぇな……そんでメッチャクチャ堅そうだなおい」
同じような感想を抱くアズール。
馬鹿正直に斬った張ったをしたところで勝てる戦いでもないだろう。その愚鈍さをアドバンテージにして如何に運ぶかが重要となってくる。
既に討伐された元々のオレイカルコス含め、完全合金製のオレイカルコスまでも討伐して持ち帰るとなると、きっと丸一日かかるだろう。
それでも、屑石ではない鉱石の塊なれば時間を消費する価値はある。
「これだけデカいと解体のしがいがあるってもんだな」
一体いくらになるのだろうか。この世界の金銭感覚は把握していないが、二束三文程度で収まる筈もないことはアズールにも判る。金銀財宝にも等しい素材の山だ。
さて。
どう戦うか。猟兵達は一進一退の攻防を繰り返している。唯一穿たれた肩口の大穴は、傷口が凍り付いて蘇生するのを阻害されていた。
完全な球とて、傷が入れば決壊する。この傷を契機とせずになんとしよう。
「じゃ、行くとすっか」
矢を板ばねに番え、クロスボウをオレイカルコスへと向ける。
言葉での挑発は無意味だろう。この巨体の耳に届かせるという意味でもそうだが、一歩動く度に地鳴りが起こるのだ。阻害する音が多すぎる。
となれば、やるのは決まってくる。
照準はオレイカルコスの瞳。緑に輝くその双眸を狙われれば無視し続ける事も出来ないだろう。
「鬼さんこちら、ってな」
放たれた矢は金剛のオレイカルコスの表皮を破るには至らない。鉱石を貫通するほどの威力は一発に込められない。
これからが勝負だ。
オレイカルコスの瞳がアズールを見据えた瞬間、溢れ出るオーラ。一撃の負傷が重たいのならば、敵意を力に変えれば良い。
「そうだ、こっちに来いオレイカルコス!」
『ガァアアアア!!!!!』
そこへ飛び込む小さな影。
耳を劈く高い音。
思わずぴんと張った耳が次にはくたりと曲げられた。
「うぅっ、やっぱあいつ硬いなぁ……」
ダガーと鉱石が擦れる音は存外嫌な音を立てるもので。手に走った痺れをぷらぷらと追い払い、凪波は眉根を顰めた。狙いが逸れているうちにと駆け出してはみたが、やはり一筋縄ではいかない。
そうこうしている内に降ってくる尻尾の一撃。目を見開いた凪波は咄嗟に腕を前に掲げてみるが、当たったらひとたまりもないのは目に見えていた。
衝撃に備える。
けれど、来ない。
「――?」
代わりに訪れる浮遊感。
「ぎゃう~」
仔竜だ。共に攻撃に転じ、共に逃げ回っていた仔竜たちが凪波の危険を感じ助けに現れていた。はたはたと二匹揃って小さな翼を動かし飛んでいる。残る一匹は誘導係をしているようだ。
「ありがと、俺のが助けられちゃったな」
返ってくるのは上機嫌そうな仔竜の声。一旦戦線を離脱し、凪波は取るべき一手を模索する。
と、と、と。
軽快な足取りで地を蹴りユハナは氷雪に舞う。貴石の雪花を散らし、鉱石と鉱石の継ぎ目を狙って花弁を放つ。
全身合金。恐らくは、内臓も、骨も、あらゆるものが。もはや生物とは言えぬ存在に堕ちている可能性は高い。
「そう、ですね。では、こうしてみるのはいかがでしょうか」
風斬る音。何物にも拒めない花がユハナの指先から咲き誇り、ぷかりと浮いた。花弁を数枚重ね合わせればシクラメンにも似た形を取る。
出来るだけ、風の抵抗は少なく。出来るだけ、放つ花びらは多く。
「食べても、おいしくないですよ」
蜜の代わりに溶けるのは、きっと自分の蕩けた鉱石の血。
「でも、あげます。全部飲みこんでくださいね」
『ルルゥ……』
咽喉を震わせる。じ、と見つめたユハナはタイミングを合わせて貴石の花々を射出した。時速にして数キロメートル。異物をドラゴンに認識させる前に。
『グルウゥウアアアア!!!!!!』
ブレスを吐くために開かれた口。煌めくその口内に、ユハナの放った花弁が突き刺さる。
収縮した瞳孔が事の次第を物語る。誰しも内側から削られては生きた心地はしないだろう。
がちりと閉ざされた口が再び開かれ、ブレスの代わりに口の端から砕かれた鉱石が血のように零された。
その口へ、今度こそ矢が突き刺さる。正真正銘、ボウガンから放たれた矢だ。しかし普通のそれではない。
「休む暇はないぜ」
アズールが放った矢は既に昂る戦闘意思に比例して強烈な弾丸と化していた。高硬度の鉱石すらも抉る一矢は喉を突き抜け背を破る。
激痛に背を逸らせたオレイカルコスはがむしゃらに尾を振り地を踏みしめた。巨体が暴れれば、それだけで災害になる。
地鳴りで不安定になる足場を踏みしめアズールがオレイカルコスの手を、尾を、躱して攻め立てる。
無理はしない。装着者の少女に多大な負担を作る訳にはいかない。が、無茶はしないとは言っていない。
躱すときは見切りに徹して防ぎ、時にあえて傷を作らせる。その度に高まる腹の底の熱を感じた。こうする事で更なる力が内に沸き起こる。結果的に、終戦への近道になる。
また一層強まったオーラを矢に込め、アズールは暴れる胴体を遠慮なく穿っていった。
「んーと、金属ってのは熱に弱いんだっけ?」
「るー?」
「って、お前らに聞いても分かんないか」
「きゅ……」
見るからにしょんもりする仔竜の頭を慌てて凪波が撫でてやる。
一先ず、やれることをやってみよう。自分に出来る範囲で、思い付いたことを。
ぽ、と小さな炎が浮いた。それは次々と生み出され、凪波の周りでぽやりと浮かぶ。狐火だ。指の先に更に拡張された感覚を器用に繰って一つの巨大な炎とする。
タイミングは、合わせて。
熔けてしまえ。その後のことは、その時に考える。冷えて固まったならきっと使えるようになるはずだから。
「やっちゃえ!」
狐火を放つに合わせ、炎の属性を宿した仔竜たちがくぱりと口を開く。
小さくたって、立派なドラゴン。噴き出される炎は青く、その熱量は計り知れない。凪波の炎と合わせて放たれた炎獄はオレイカルコスの背を焼いた。
熱。貴石が炎の余波を受け赤熱する。
「眩暈が、しますね」
いつもよりも輝く貴石。きらきらと空間を彩るその花びらは見詰めるユハナの瞳を赤く染め上げる。
仕上げだ。
全ての花びらを収束させる。厄介なその尾を、斬り落としてあげましょう。
アズールの矢。ユハナの花弁。二種の刃に斬り裂かれ。
『グル、ウウゥアアアアア!!!!!』
大地を抉り、木々をへし折った尾の根元がぱくりと口を開く。斬り落とす半ば。辛うじて胴体に繋げる鉱石が光を受けてちかちかと赤く輝いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユーゴ・アッシュフィールド
◎
【リリヤ(f10892)】と
身体のすべてが合金製か?
もはや無茶苦茶だな。
一体どういう仕組みで動いているんだ。
とにかく戦うぞ。
リリヤ、悪いが棒は手放せ。
流石にこいつが相手では許可できない。
仔竜、お前も共に戦うなら死ぬなよ。
金属の塊を斬る、か。
鎧を纏った人を斬るのとは、些か違いすぎる。
斬れないという事も無いとは思うが
ここは効率がいい方法を選ぼう。
仲間達の攻撃によって疲労が蓄積した箇所を攻め、破壊もしくは切断する。
素材として使えるよう、なるべく綺麗な形で斬るよう気を付けよう。
少し離れた場所から聞こえるリリヤの声が助かる。
これならば余裕を持って敵の攻撃を回避できる。
さぁ、踏ん張りどころだ。
リリヤ・ベル
◎
【ユーゴさま(f10891)】と
わ。わ。……すごい。おおきい。固そうです。
おともの仔はだいじょうぶですか。
無理をせず、こわかったら隠れていてくださいましね。
ちゃんといっしょにかえりましょう。
はい、ユーゴさま。
わたくしはかしこいので、ちゃんとできることをするのです。
攻撃に巻き込まれないよう距離をとりながら、
ひかりを招いて穿ちましょう。
なるべく細く、おおきな傷をつけないよう気をつけましょう。
石の隙間を狙い、ユーゴさまや皆様の助けになるように。
離れる分、合金竜の動きには注意いたしましょう。
尻尾を振り回すところや、ブレスの範囲など、
見て取れる攻撃の予兆はお声を掛けて。
がんばって切り崩しましょう、ね。
●
一体どういう仕組みなのだろうか。
猟兵達が開いた切り口からは新たな鉱石が零れるばかり。血の代わりに落ちた鉱石は熱せられでもしたか液体のように見えるが、まさかあれが血だとでも言うのか。
「身体のすべてが合金製か? もはや無茶苦茶だな」
「……すごい。おおきい。固そうです」
見上げるユーゴとリリヤは揃ってオレイカルコスのブレスを躱して全貌を見渡せる場所にいた。
おともの仔竜はぴいぴいと悲鳴のような威嚇のような声をあげている。宥めたリリヤは隠れてもよいのですよと木陰を示すが、離れる素振りは見えない。
「とにかく戦うぞ。リリヤ、悪いが棒は手放せ」
「はい、ユーゴさま」
駄々をこねるでもなく、リリヤはユーゴに従う。分かっているのだ。この棒を使って戦う事は、"できること"の範囲を逸していると。
「仔竜、お前も共に戦うなら死ぬなよ」
「ぴゅいっ」
「ちゃんといっしょにかえりましょう」
皆が揃って帰らなければ意味がない。
相対するオレイカルコスの瞳が向けられた。深い緑色の双眸がぎらりとユーゴを睨み付け、咆哮が放たれる。
ただの雄叫び。それでさえ、体中を抑えつけるようなプレッシャーを放ってくる。
「……金属の塊を斬る、か」
鎧を纏った人間とどちらが楽かなど明瞭である。
片や加工済み――つまり、すでに斬る事が出来ると証明されているものであり、片や猟兵が連携してようやく傷付けることが出来ているものである。
しかもこの巨体だ。一歩踏み出すというワンアクションでさえ猟兵達のバランスを崩させる悪質な攻撃になりかねない。隙を見せればどうなるかなど、想像するに易い。
剣を構える。危険な賭けに出るよりは、効率が良く安全な方法を取る方が良い。
「ユーゴさま」
「ああ」
ふたりは踏み出す。ユーゴは前方へ、リリヤは後方へ。二人の間を振り下ろされた尻尾が埋めた。
駆けだし、ユーゴは背面へ回る。修復されかけている尾の付け根を狙うのが一番効率が良い方法だろう。蓄積したダメージ、そして硬質な体に付けられた傷痕を更に抉る。
振り回される尻尾は凶悪だ。斬り落としてしまえば攻撃手段が減ると共に、――これ以上、細かな傷が増える事もない。
「貴重な素材だからな。なるべく綺麗な形の方がいいだろう?」
どうせ解体する時には尾の付け根から落とすのだ。生きているうちにやってしまっても問題はなかろう。
懐に潜りこみ、オレイカルコスの足元を駆けるユーゴを見つめる小さな人影。
時折足の影になり消えるその背中を見失わぬよう気を付けながら、天駆ける星をその手で導く。ひかりを。その世をあまねく数多のひかりを。
鉱石で出来たドラゴンとて、一種類の塊ではない。鉱石と鉱石のツギハギ……つまり、その二種類の隔たりがある筈だ。
リリヤはその線を狙う。ペン先にも似て細い線を、正確に穿つ。
単一の平面を傷つけられるよりも、隔たりを傷つけられた方がダメージは大きいのだろう。リリヤのひかりがぶつかる度に低い唸り声をあげ、オレイカルコスの反撃が為される。
半ば千切れた尻尾が、身体を捻るのに合わせて振り回された。
体内でため込んだ鉱石の群れが、オレイカルコスの咆哮に合わせて吐き出された。
ブレスに合わせた咆哮はリリヤの身体をスタンさせる。動きを止められる前に安地へと駆け込む事は集中力を要し、疲労と共に短く息を吐いた。
「がんばって切り崩しましょう、ね」
と、と跳ねたリリヤがユーゴの背を見据える。零された鉱石の破片が突き刺さる前に警告の声をその背に届けた。
一度ならず、何度でも。
リリヤは自身が避けるに合わせ、攻撃の予兆をユーゴに伝え続けていた。真下に居ては見えぬ予兆も、リリヤが伝える事で余裕を持って回避できる。
時にその警告を仔竜が汲み取りユーゴのフォローに入っていく。砕け降る鉱石を、仔竜は風のブレスに載せて吹き飛ばし、視界を明瞭にしてくれた。
「さぁ、踏ん張りどころだ」
ユーゴの呟きはオレイカルコスの咆哮に潰され届かない。
けれど。
「――はい、ゆきましょう。わたくしはかしこいので、わかるのですよ」
呼吸は合う。跳ねたユーゴの頭上で、リリヤの導くひかりが煌いた。
「その尾、絶ち斬る!」
ひかりが差し、風が絶つ。
『グルゥウウウアアア!!!!!!』
秘境に響く重い音。身じろいだオレイカルコスは身体を捻ってユーゴを吹き飛ばすために尾を振るう。
――が。
ぐるりと回った所で、バランスを崩し合金竜は地に伏せる。その顔面の隣には、切り離された自身の尾が転がっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
皐月・灯
【花雫と同行】
◎
来やがったか。
随分と肥え太った竜だぜ……色んな素材が詰まってやがる。
魔術師の目から見ても、随分と魅力的だが……まずは叩き伏せるところからだ。
火力っつっても、有効に打ち込まねーことには……って。
ったく、返事も聞かずに飛び出しやがって。
しょーがねーな、迷ってられねー!
ヤツの体組成に金属が含まれるなら、】雷撃は通しやすいんじゃねーか?
【全力魔法】を発動するぞ。
花雫に気を取られてる隙に接近。
迎撃に当たらねーように【見切り】で回避し、
その足元に【スライディング】で滑り込んだら、
胴体中心めがけて【属性攻撃】で《轟ク雷眼》を叩き込む。
――最大電圧だ。目を閉じてろ!
霄・花雫
【灯くんと】
◎
うっわ、脱皮しちゃった……。
すっごいなぁ、生きてる素材の山って感じ……宝玉蝶と合わせたら良い装飾品になりそうじゃない?
あーでも、素材の塊は塊だけど、硬そう……あたしの攻撃通るかなぁ。
うん、灯くんの火力なら行けるよね、きっと。
んじゃ、あたしは灯くんの撃ち込みやすい隙を作るのがお仕事ってコトで!
【誘惑、挑発、パフォーマンス】で敵の目を引いてあたしに引き付けるよ。灯くんの大技が目に入んないくらい誘惑しちゃうからねー。
【野生の勘、見切り、第六感、空中戦】で避けて逃げ回りながら怒らせて、隙があれば【毒使い、全力魔法】で少しでも弱らせる。
灯くんあとはお願いっ!
●
脱皮しちゃったあ、と零したのがつい数刻前。
尾を切り落とされたオレイカルコスは、それはもう大暴れである。帰る巣もないドラゴンは、とりあえずハンターたちを仕留める事にしたようで。
『グゥルルル……』
「すごい、げきおこってこういう事だよね?」
「あー、うん。そうだな」
もはや形振り構わずといった風だ。
先刻まで齧っていた鉱山の山すら鉱石の身体で削り取ってボロボロに破壊していく。動く気配があれば、緑の瞳がその後を追いかけて腕を振り下ろし、時に武器のブレスを吐き出した。
「すっごいなぁ、生きてる素材の山って感じ……宝玉蝶と合わせたら良い装飾品になりそうじゃない?」
「だな。随分と肥え太った竜だぜ……色んな素材が詰まってやがる。魔術師の目から見ても、随分と魅力的だが……っと」
影が降る。刹那、空気が重く感じられて二人の居場所に足が落ちた。一踏みで大地を鳴らし、地割れを起こす一撃だ。まともに踏まれては身体が持たない。
とはいえ、愚鈍さは抜けていない。
「素材の塊は塊だけど、硬そう……あたしの攻撃通るかなぁ」
うんうん唸る花雫。攻略法を模索する灯。
ぱちりと二人の視線が交わって。
「うん、灯くんの火力なら行けるよね、きっと」
「火力っつっても、有効に打ち込まねーことには……って」
ぴょーん、と飛び立つ熱帯魚。
空を泳ぐように駆けるその姿は何にも囚われず自由に遊ぶ。
「んじゃ、あたしは灯くんの撃ち込みやすい隙を作るのがお仕事ってコトで!」
くるりと跳ねた花雫が言い置いて、灯をひとり置き去りにした。
「ったく、返事も聞かずに飛び出しやがって。しょーがねーな、迷ってられねー!」
有効に打ちこまない事には。つまり、裏を返せば、隙を作りだせばダメージを与えられる。
確信とまではいかなかったが、花雫がフォローに入ると言うのならやらない訳にはいかない。それも百パーセントで成功させてみせる。
さて有効打となりそうなものはと考えた時に、参考になるのは経過だ。既に放たれた魔法は複数。氷、炎、ひかり……。
やはり、金属の部類が含まれているようならばこれだろう。
雷撃。
「アザレア・プロトコル3番――」
詠唱せずとも発動させられる術式を、あえて口にする事で威力をあげる。体、心、全てがその技一極に集中する。
全力を懸けるのだ。回避に気を遣る暇もない。
が、灯は決して一人じゃない。
「ほらほらっ、竜さんこちら!」
たん、たん、と軽く手が鳴らされる。轟音の中にあってそれは微かな音に過ぎない。
花雫によって齎されたものでなければ、だが。
『グルルゥ……ガァアアア!!!』
「うん、おいで。あたしはココだよ」
身につけた技術を用い効果を増幅する。ふわりと空舞う花雫は、惹きつける魅力は真逆の性質ではあるが、夜の蝶にも似て誘惑の馨を振りまいた。誰しも空に輝く太陽を望む。誰しも闇を晴らす月を望む。
花雫は今、曇天を切り裂く太陽と成る。
全てはオレイカルコスの目を欺くため。ブレスを考慮し灯から離れるように奔る花雫は身軽に踊る。
跳んで、避けて、飛んで、回って、躱して、舞って。
振り撒く香に毒を混ぜ、動きをややに鈍らせる花雫はひかりを見つけた。知らず口の端が笑みに揺れる。
「――灯くん、あとはお願いっ!」
花雫が声を届けた先に、もう灯はいなかった。
駆け出した灯を迎え撃つはたった一打。振り下ろされる前足を更に加速する事で置き去りにして、灯はさも電磁加速砲のように懐へと滑り込む。
狙うは中心。体の重心を狙い、灯はきつく拳を握りしめた。
「――最大電圧だ。目を閉じてろ!」
ぱち、と小さな静電気が走った。
青白い色をしたそれが、全ての始まりだった。
拳が触れる。術式が展開される。そうして、奔る、轟雷。
『ガッ、ァ、』
収縮された瞳孔がチカチカと点滅し。
『――ォオオルゥアァアアアアア!!!!!』
眩い光が巨体を包み込んだかと思えば、視界を強烈に焼いていく。瞼の奥にすら届くその轟雷は金属を伝いオレイカルコスの全身へと行き渡る。
焦げた臭いが充満した。振り切るほどの電圧に耐え切れなかった金属が発する、嫌な臭いだ。
余りの衝撃にオレイカルコスの巨体が傾いた。
「げ」
迫る胴が灯に危機感を覚えさせる。すぐさま反転、地面を滑り脱した灯の後ろで、巨竜が地面に激突した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
都槻・綾
f11024/花世さん
仔竜の頭を撫でて安堵を与え
霄を示す
宝物を護って下さいね
小さな勇者さん
花世さんからの問い掛けには
ふわり咲って
――えぇ
美しいひかりは好きですよ
答えを聞くや否やの軽やかな跳躍に
遅れを取らぬ高速詠唱、二回攻撃による七縛符で敵の技を封じる
彼女が何事にも邪魔されず
活き活きと存分に輝けるよう陰ながら援護を
花世さんこそが綺麗な煌きなのだ、と
芽吹きを呼ぶ春の化身が
数多の宝石や鉱石の上でも艶やかに爛漫に咲く様に
眩し気に双眸を細める
よろめく様子を見て取れば
落下地まで駆けて抱き留め
ご活躍見事でした、と賛辞を贈ろう
彼女の掌を
差し出された石ごと
己の掌で包み込む
ありがとうございます――誠、美しきひかり
境・花世
綾(f01786)と
◎
轟く唸り声に駆け出す前に
みどりちゃんを空に逃がそう
掌の鱗は大切に咥えさせて
綾、ひかる石はすき?
返事を聞けば悪戯っぽく笑って
それじゃあきみにとってきてあげる
自信はあんまりないけど――なんて嘘、
言うや否や偽葬で強化した早業ダッシュ
軽やかに跳んで、鉱石の躰を駆け登ろう
背や頭の僅かな隙間に燔祭を捲いて
内側から芽吹かせて亀裂を広げ
っと、と、と、
帰りのことあんまり考えてなかった!
振り落とされる刹那に敵を蹴り、
少しでも離れて跳びながら
それでも覚悟した落下の衝撃が小さかったのは
あたたかで優しい腕が抱き留めてくれたから
……ありがと綾、見て、夜の森の色だよ
あの仔とおんなじ煌き、きみにあげる
●
ふわりと、空へ。翼を一杯に広げた仔竜が小さく鳴く。
「宝物を護って下さいね、小さな勇者さん」
仔竜の頭を撫でた綾が安心させるように柔和な音で声をかけ唇に笑みを乗せる。
促す綾の瞳に頷き、花世は手のひらに載せた鱗を差し出した。この耀きが失われぬように。数刻前の思い出の形を失わぬように。二人は、小さくて頼もしい勇者に捧げる。
飛び立つ仔竜の背を見送り、視線も交わさず二人はオレイカルコスを見た。
「綾、ひかる石はすき?」
雨雫に濡れきらきらと輝く鉱石の一角。今はまだ手に入らぬその宝の石を花世はじいと見つめていた。
咲く気配。
「――えぇ」
花が綻ぶように、綾が咲う。戦場に似合わぬ穏やかさを抱いて。
「美しいひかりは好きですよ」
「それじゃあ、きみにとってきてあげる」
此方もまた大輪が咲き、花世は軽やかな一歩を踏み出す。悪戯を仕掛ける前の子供の様に、浮足立った足は地から離れた。
「自信はあんまりないけど――」
――なんて、嘘。
足元が薄紅に色付いて。花世の足跡に牡丹が散る。
既に遠いその姿。綾の翠の瞳に、ふわりと一弁紅が咲いた。
風が花びらを運ぶにも似て、花世は硬い道を往く。通る道には花の種が零された。かつりと落ちて、芽吹く花。そのどれもが鉱石と鉱石を繋ぐ隙間に潜り静かに根付いた。
さあさ花を披かせて。絢爛豪華に咲き誇れ。散るその間際まで、煌いて。
舞う花世を見る目があった。
煌きを、春の化身を、静かに見守る目があった。
ああ、彼女こそが、綺麗な煌きなのだ。
数多の鉱石の上で、光を含む宝石の上で、なおも艶やかに爛漫に咲くその姿。綾は眩し気に双眸を細め、暫し春をその瞳に映しこむ。新緑に灯る一輪の花は、どんな時も美しかった。
花世が何事にも邪魔されず、存分にその花を咲かせられるように放った七縛符はオレイカルコスの動きを封じた。陰ながら花世を飾り立てるステージを支える。
『グルゥウウウ……』
低く重たい唸り声。
喉元が赤熱し、その口内にブレスの源を灯した。ぶるりと身体が痙攣し、薄紅に彩られた舞台がややに崩れゆく。亀裂が多重に入った身体から鉱石の破片が零れ落ちた。
「っと、と、と、――帰りのことあんまり考えてなかった!」
振り落とされる――刹那、花世が霄に踊る。
少しでも離れて跳びながら、着地の衝撃に備え覚悟する。痺れて動けぬようならば、一旦戦線を離脱した方が――いや。
「ご活躍見事でした」
衝撃は、軽い。未だ浮く感覚は、花世のすぐそばで聞こえた声が齎すものだとすぐに気付けた。
あたたかで、優しい。
よろめく姿を見止めた綾が地を駆け花を受け止めたのだ。散るにはまだ、早いから。
「……ありがと綾、見て」
あたたかさの残る肌を指先でなぞり、花世は綾をじと見上げる。拳を作った片手をひとつずつ開けば、手のひらの上には煌めく石ひとつ。
「夜の森の色だよ。あの仔とおんなじ煌き、きみにあげる」
告げた通り。約束通り。花世は始めからこの石を狙い駆けたのだ。
そんな花世の掌を、差し出された石ごと包む手のひら。花世のものよりも大きく、角ばっている、綾の掌。
「ありがとうございます」
――嗚呼、誠、美しきひかり。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
◎◇
この子達の為にも、みんなが平和に暮らすあの村を脅かさせはしない…。
みんなは下がって…絶対に守るから…!
攻撃を【見切り、第六感】で回避。敵の動きを【見切り】、【ダッシュ】で接近。竜殺しの力を持つバルムンクによる【呪詛と衝撃波】を纏った【鎧無視、鎧砕き、早業、力溜め】による一撃で装甲を無視し、破壊する剛剣で攻撃を加えていくよ…。
回避しきれない攻撃はアンサラーの【呪詛、オーラ防御、カウンター、武器受け】により反射…。
最後はバルムンクで砕いた部位に自身の切り札、【ultimate】を放ち、終焉の魔力で撃ち滅ぼすよ…!
ん、終わったね…。それじゃ、みんな、素材の回収、手伝ってね…。
※アドリブ等歓迎
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
よォし、狩りだ狩りだ!
行くぞ蛇竜。仔竜に尊敬されたければ見せてやれ、お前の強さという奴を!
仔竜どもには後ろから見ていてもらおうか。
アレを見て戦いたいというのなら、止めはせんが……。
さて、合金とあらば脆いところもある。
耐火性もモノによる――と、本で読んだきりで詳しい知識はないが。
ともかく、鈍重なその体に槍を当てて、呼び出した竜の炎で焼いてやろうか。
融解するのはもったいないが、どうせ加工するときは熱を使うのであろう?
融けたところは、責任持って私が回収しよう。
残りは……皆が選んだ後で決めるか。
赤いのとか、透明な奴を中心に。
余り物には福がある、だっけか?
あやかっていこう。少し違う気もするが。
静海・終
◇◎
おやまあ、これはまた景気がよろしく素材が増えましたねえ
第二形態だなんてわくわくするじゃないですか!
先程より強靭となっていましょうか?
けれどもやる事は同じ、弱い部分を攻める崩す
知恵ある者はそういう小賢しさで生きるものでございます
けれど2度目ともなると警戒されてしまいますかね
私に怒っておいでであれば私が囮となりましょう
攻撃しどころはやはり柔らかな部分、2度倒れてもらいましょう
取り分が多くなった分、不景気だった村が潤うというものでございます
…持って帰るのは大変そうなので安全を確認して村人も呼ぶか
できればテレポートなんて使える人のお力も借りたいですねえ?
クレム・クラウベル
◇◎
成る程、素材の山……ね
動きこそ鈍いが、その分の重みはあるだろう
一撃一撃を確り見切り回避を
仔竜は大丈夫そうなら好きにさせておく
怖がるようなら懐にでも収まっていてもらおう
硬さ自慢の相手はあまり得手ではないが
脆い箇所や他の猟兵が負わせた傷を狙い撃ち抜く等
着実にダメージを重ねる
幸い素早い的でもないなら狙い撃つのも楽な方だ
時には周囲と同時に同じ箇所を攻撃等も試み装甲を破壊する
目や口内辺りが他の部位より脆そうならそこも狙う
……しかし、こうも硬いと倒した後で捌くのも苦労しそうだな
討伐を終えたら目ぼしい鉱物を探す
青いシラーの目立つ月長石やオパール等あれば素材として頂戴する
五百雀・斗真
WIZ
うわ、すごい地震…
おともの仔竜といたずら仔竜は大丈夫かな
地面が揺れるから、飛んでいた方が…と思ったけれど
いたずら仔竜は翼が傷ついてるし、飛ぶ続けるのは辛いかもしれないね
…よし、二匹をぎゅっと抱きしめて
後ろの方へ隠れて避難してねと伝えた後、戦いに向かおう
UDCの大田さんに守りをお願いして
【グラフィティスプラッシュ】でオレイカルコスを攻撃
戦いながら地面に戦闘力を上げる足場を作り
できるだけ大きなダメージを与えられるよう頑張る
無差別攻撃がきそうになったら
二匹の方へ攻撃がいかないよう立ち回る
足場が崩れてる所に着地しかけた場合は
大田さんに触手を伸ばしてもらい、どこかにぶら下がりたい
※アドリブ歓迎
御剣・誉
◇◎
いやー思ったよりもキノコいっぱい採れたな!
エリンギも頑張った(イイコイイコなでなで
うん?なんかエリンギが言ってるような…
あ、わかった!大丈夫、村に帰ったら
ちゃんとオマエの分のキノコも分けてやるから!な!
おぉ、すげーキッラキラの竜だ
なんかいっぱい鉱石採れそうじゃね?
エリンギも手伝いよろしくな!
【PRINCE of SWORD】で斬れそうなところを狙って攻撃
この尻尾の攻撃、邪魔だなー
うわっ、エリンギ近づきすぎると危ないぞ!
やっぱり尻尾を集中的に狙って斬り落とそうっと
尻尾斬っちゃえば攻撃手段一つなくなるしな!
敵を倒したら時間の許す限り採掘に励む
エリンギ、いっぱい持って帰るぞ!
どんな石が採れるかな
●
薄紅を纏い、地に伏す金剛のオレイカルコス。
双眸に灯る緑は昏く瞬きエメラルドの輝きに曇りを見せる。既に全身に数多の傷が刻まれ、武器の一つである尾は絶たれた。
しかして、戦意は失われず。
しかして、なおも吼え猛る。
『――ゥルゥウウアアアアアア!!!!!』
溶けだす金属。融点の低いそれらを煮え滾る汚泥に変えてオレイカルコスは吐き出した。しかしまあ、沸点の低いと言いながらも吐き出すブレスは高温も良いところだ。それよりも高い融点を持つ合金だけで身体を支える事が出来ているが故の無謀。決死の一撃。
追い詰められている。
――獣とは、その時が一番滾るのだ。
●
オレイカルコスの咆哮を目前にして、仔竜たちはすっかり腰が引けた様子だった。ドラゴンに唆されて悪行をしていたらしいが、逆らえずにいた可能性も無きにしも非ずに見える。戦いたいと言い出す様な者はなかった。
対して、仁王立ちで見上げるニルズヘッグ。その傍らには蛇竜が控えていた。臆する様子はどこにもない。
「行くぞ蛇竜。仔竜に尊敬されたければ見せてやれ、お前の強さという奴を!」
呼びかけに応えると共に、蛇竜は一陣の風を纏う。くるりと周り、力を宿して。
降る一槍は黒き牙。ニルズヘッグの袂で奮う気高き槍。
「よォし、狩りだ狩りだ!」
勇み立ち、跳ねる。槍を繰るその手は正確に。竜狩る者の獰猛な双眸が、金剛の竜を貫いた。
さて、合金とあらば脆い所もある。
耐火性もモノによる――と、本で読んだきりの知識を思い出す。眼前のオレイカルコスのブレスが如何ほどのものかは分からぬが、どうやら相当に高温でなければ熔けそうにない。
ない、が。
ともあれ物は試しだ。
「融解しきる前に仕留めねば勿体無いな」
竜の炎で焼く気満々のニルズヘッグではあったが、すでに熔けつつある身体を眺めひとつ相槌を零す。
炎の調整は出来ただろうか。ただ業火に飲む込む事は得意だが、そうとなれば鉱石も宝石も溶けて混ざってしまう。
狙うは原形をとどめつつも、動きを停止させる程度の、炎。
「全て融けてくれるなよ。まあ、その時は私が貰ってやるがな」
接近。黒い長槍を手にしたニルズヘッグが穂先をオレイカルコスへ向ける。どの部位でも良い。掠るだけでも良い。一撃が入るだけで、ニルズヘッグの炎は燃え盛る。
緑の双眸を振り切った先、ぶっとい足へと向かって跳ねた。
「では、往こうか。見るが良い!」
槍が僅かに鉱石を穿つ。硬い反動は強く、ニルズヘッグの身体に痺れが走る。が、構わない。
炎だ。青白い炎がオレイカルコスを包み込んだ。盛る炎の中で、じわりじわりと鉱石が熔け落ちていくのが窺えた。
●
「おやまあ、第二形態と思ってはいましたが、また少し雰囲気変わりました?」
「そんな呑気なもんでもないだろう」
ブレスを避けて駆ける二人が声を交わす。行く先々でよく姿を見かける同士なれば、おのずと互いの戦い方の癖は判ってくるというもの。
一度交戦済みの終はやれやれと肩を竦めて再び涙を槍へと変えた。腕にしがみついていた涙はするりと終の手に収まり、頼もしい相棒と成る。
その隣で追撃を避けたクレムが着地と同時に加速する。着いてすぐに仔竜の様子を見てみたが、どうやら臆して動けぬようには見えなかった。好きにさせておくのが良いのだろうと判断して以降、時折その姿を探しつつ銀弾を込める。
仔竜たちは懸命にブレスを吐き、属性の力を操って加勢しているようだ。効果のほどはあまり期待出来なさそうではあるが。
「先程より強靭となっていましょうか?」
「だろうな。動きこそ鈍いが、何分手負いだ。気を付けるに越したことはない」
「ですねえ」
ドン、とまた地面が揺れる。地震が断続的に起きているようなもので、オレイカルコスが起こさずともくらりと陸酔いのような症状に襲われた。
バランスを崩して膝をつくクレム。幸いオレイカルコスの視線は別へと向いている。
「成程、素材の山……ね」
尻尾が断たれたその姿。見上げた巨竜は、確かに山のように見えた。
「切り崩していくのは大変そうだが、やりようはあるな」
猟兵達が与えた傷跡は攻撃の際のヒントになる。銃口を斜に構えて走り出し、クレムは傷痕目掛けてシルバーバレットを撃ち出した。
硬さ自慢の相手に対して、正面切ってマウントを取りに行くなど馬鹿のする事だ。そこまで愚かでもなく、クレムは自らの手を確りと把握している。
着実な一歩を。大打撃を与えるようなワンアクションではなく少しずつ積み上げていく。覆水盆に返らず。ぷつりと破綻するその時まで、銀の弾丸を撃ち込み続けよう。
『ルル……』
「流石に、見逃してはくれませんか」
一度ならず二度までも。自らを狩ろうとする人間を見て、オレイカルコスが昂らずにいられるはずもなかった。脆い部分を探そうとて、巨竜の視線はついて回る。小賢しい真似をするにも、警戒されてはしようがない。
それならそれで、やれることをするまでだ。
「クレム、私が気を引きますゆえ。よろしくお願いしますね」
「食われるなよ」
「嫌な事を言いますねえ」
剥き出しの牙を見やって終が眉間に皺を寄せた。食われる想像をしただけでも痛い。
二手に分かれ、走り出す。
終が懐に潜りこむには少々苦難が多そうだ。手にした槍を指先で撫でながら、一歩、二歩、思考する。後でしこたま文句を付けられそうな気もするが、今はこれしかとる手がない。
ぐ、と握りこむ手に力が込められた。踏み出した足で地面を抉り、支点として身体を捻る。
「頼みましたよ、涙」
武器の状態で返事はないだろう。それでもなお声をかけ、終は、――槍を思い切りぶん投げた。
描く放物線はオレイカルコスの顔面を目指す。容易く避けられるスピードではないが、懸念はひとつ。丸呑みだ。
「……世話の焼ける」
空薬莢を地に転がし、新たに装填された弾が六発。ぶれる手元を矯正するため一旦足を止めたクレムが、口を開いたオレイカルコスの側面からとある一点だけを狙う。
瞳だ。正面からでは狙い辛いそこも、意識が終へと向けられている今なら容易く狙える。
槍が、巨竜に呑まれる前に。
『――ッ、グゥ、ルウゥアアアアア!!!!!』
オレイカルコスの右眼が弾けた。喉を逸らせた巨竜は槍への対処も忘れ、もがき吼える。次いで齎されるものが何かなど、考える必要もない。爆ぜた炎がドラゴンの形を取り、巨竜の身体へ食らいついた。
刻んだ楔は確かにオレイカルコスの身を蝕んでいく。
●
「いやー思ったよりもキノコいっぱい採れたな! エリンギも頑張った!」
イイコイイコと誉が仔竜(命名エリンギ)を撫でてやれば仔竜もくるくると喉を鳴らす。
鳴らす、が。
「ぎゃう……」
「うん?」
撫でる手にご満悦の時間も短く不満そうな顔になる。てしてしと尻尾を叩き、もう一鳴き何かを訴えるように吼えた。
「うーん……? あ、わかった!」
「ぎゃう!」
「大丈夫、村に帰ったらちゃんとオマエの分のキノコも分けてやるから! な!」
「……」
もはや返す言葉もない。
――と、言うのがハイライト。どこか死んだ目をしたエリンギは諦めの表情だ。
「すげーキッラキラの竜だよなあ。なんかいっぱい鉱石採れそうじゃね? エリンギも手伝いよろしくな!」
「ぎゃう……」
そんなこんなで一人と一匹は駆けだしていく。目指せ、剥ぎ取りタイム!
狙いとあらば尻尾、ではあったのだが。先遣した猟兵達も同様の考えのようで手間が省けた。千切れた尾を飛び越えて、攻撃手段の減ったオレイカルコスの懐へと滑り込む。
とはいえ、正面切ってかかるのは得策ではない。出来るだけ背面に周り、脊髄の辺りを狙って剣を振るった。腹の下へと潜りこめば、ぱらぱらと振ってくる鉱石の雨がうつくしい。
ドラゴン退治なんて、物語の出来事のよう。
誉は斬りやすい場所を知らず見極め剣を振るう。巨大な足の位置に気を付けながら、時に離脱し距離を測った。
「うわっ、エリンギ近付きすぎると危ないぞ!」
そんな駆け引きが単純明快な仔竜に出来る筈もなく。警告空しく、ぶわわーとブレスを吐くエリンギ目掛けてオレイカルコスの足が振るわれる。あ、と声に出した時にはもう遅い。
が、流石に魔獣。流石にドラゴン。てんてんと地を蹴鞠のように跳ねたかと思えば、勢いよく飛び上がり。
「ぎゃううー!」
誉の元へと大層元気に泣きつくのであった。
●
「うわ、すごい地震……」
やや後方。森にほど近い場所で斗真は眉根を寄せる。眼前にいるとはいえ、着地と同時に足が浮いたような感覚になるのは相当だ。完全に合金製となったドラゴンの重量がいかなものか身を以て感じる。
足元では仔竜たちがじ、とオレイカルコスを見つめていた。これだけの地鳴りであれば飛んでいた方が楽ではあるだろう。――が。
「……よし」
いたずら仔竜は翼が傷付き長時間飛ぶのは辛いかもしれない。おともの助けがあったとしても、だ。それならば安全な所に居て貰った方が良いだろう。
「僕は大丈夫だから。隠れていてね」
「ぎぃ」「んきゅ!」
ぎゅっと抱きしめそれぞれ撫でる。二匹ともよいこらしく、手をあげて斗真を見送った。
連れ添う仔竜は、恐らく随一。誰よりも多く仔竜を連れた璃奈がぎゅっと拳を握る。
「この子達の為にも、みんなが平和に暮らすあの村を脅かさせはしない……」
魔獣と、ドラゴンと、共生するノネット村。争いが起こる訳でもなく、種族の違ういきものたちが互いを認め生きる世界。
壊してはいけない。壊させてはいけない。
きっとここから広がっていく世界がある筈だから。
「みんなは下がって……絶対に守るから……!」
オレイカルコスはもう限界だ。傍から見てもそれは明瞭で、だからこそ今攻め立てる時だと理解できる。
「大田さん」
斗真がぽつりと名を呼べば、ずろりと現れる触手。薄墨色のUDCだ。ぐなりとうねり斗真の周りを薄墨が覆う。護りは大田さんにお願いしよう。スプレーを片手に、斗真はオレイカルコスへの路を作り上げていく。
攻撃するだけでなく、足場も作れるこの塗料。断続的に降る雨にも負けぬ特殊なスプレーは、一振りで眩い虹を描いた。
駆ける足が虹を踏む度、斗真の身体の奥底から力が沸いてくる。出来るだけ仔竜の方へと攻撃が向かぬように奔りながら、斗真は塗料を巨竜の身体に吹き付けた。
見た目だけで言えば、何の変哲もないものだろう。これといって警戒される事も無く、ただ単に思い描く色を出せる特殊性だけに目が向けられる。
――それが、間違いなのだが。
『グゥルウアアアア!!!!!!』
踏み出した足が塗料を踏む。刹那、力が抜けたようにオレイカルコスの巨体が傾いた。体のいたるところに付けられた色が、ドラゴンの身体を蝕んでいく。力を奪い去り、無力の塊へと追いやっていく。
弱ってしまえばこちらのもの。
巨竜の動きを見切り、軌道を見極め避けた璃奈が胴を狙って剣を振るう。魔剣バルムンク。竜殺しの加護を得たこの剣であれば、オレイカルコスの装甲もそこらの竜と変わりない。多少硬い程度の、取るに足らない硬度。
呪詛を纏わせたバルムンクは凄まじい切れ味を所有する。断面に傷など残さず、綺麗に真っ二つにしてくれることだろう。
それは、ドラゴンたるオレイカルコスも感じ取ったのか。自らの種を殺した魔剣を前に、愚鈍ながらも回避を試みる動きを見せた。どんな攻撃にも動じなかった、あのオレイカルコスが、だ。
しかし、素早さに勝てる筈もない。体積の広さ、巨体さが、仇となる。
「みんなの為に、ここで終わらせるね……」
触れた、刹那。オレイカルコスの足が両断され、うちに宿る呪詛が鉱石の身体を食っていく。這う呪いは完全に合金製だろうがなんだろうが関係ない。退魔の力を持たぬ竜に、なせる術など存在しなかった。
●
畳みかける。再びオレイカルコスが誕生しないとは言えないのだ。息の根を止め、今度こそ機能を停止させる。
クレムの穿った弾丸はオレイカルコスの身体を軋ませた。もうまともに歩く事も侭ならず、じわじわと死へのカウントダウンを進めていく。
斗真のフィールドに入ったが最後、断続的に続くダメージが巨竜の精神を蝕んでいく。
無事に槍を回収した終も周りに合わせてドラゴンを繰る。苛烈な炎にも似た竜が巨竜の上を舐め広がった。
猛る炎。具合を掴んだニルズヘッグが口の端を釣り上げた。
「ふははは! このニルズヘッグ様に使われる事、光栄に思うが良い!」
「わたしに……力を……!」
終焉を齎すその属性。あらゆる剣をひとつに束ね、璃奈が追い打ちをかける。
「よっし、これで最後!」
その気になればなんだって出来る。だから、――この一太刀で終わらせることだって、出来る。
おとぎ話はめでたしめでたしで終わるべきなのだ。そしてこの物語も、ここで終わるべきものだから。
誉の振るった剣はオレイカルコスの首を捉える。何物も貫通させぬその身体は、数多の攻撃により脆く朽ちかけていた。甲高い音が鳴る。金属同士が擦れる音が鳴る。
誉の剣は止まるところを知らなかった。肉を包丁で断つように、剣は鉱石の身体を切り裂いて。
ごとり、と。オレイカルコスの頭が地に墜ちた。
●
「ん、終わったね……」
そこにあるのは、もはや素材の山だった。猟兵達がぐるりと取り囲んでなお大きい山だ。
仔竜たちがわらわらと姿を見せて、それぞれのあるじの元へと飛んでいく。共に戦った仔竜たちは傷こそあれど、皆元気な様子で楽しそうに鳴いていた。
「エリンギ、いっぱい持って帰るぞ!」
「ぎゃうー!」
ひょっこりと顔を見せたエリンギも、今ばかりは名への不満も忘れて大はしゃぎ。誉と揃ってキンコンカンコン採掘に励む。ルビーにカーネリアン、トパーズにサファイア。それからエメラルドとアズライト。鉱石の他、見つけた宝石は数知れず、両の手に載せてはその輝きに見惚れるばかり。
「取り分が多くなった分、不景気だった村が潤うというものでございます」
うんうんとひとり頷いて、終が満足げにオレイカルコスの表皮を撫でる。ごつごつとした肌触りは、最初に現れた巨竜とはまた違う感触だ。
しかし、まあ、持って帰る事を考えるとやや憂鬱にもなる。出来ればグリモア猟兵の力でも借りたいところだが、猫の手というのはそう簡単に差し伸べられないものであり。
村人を呼ぶのが良いだろう。あらかた済ませたら、呼んでくる事にした。
ふう、と一息吐いてクレムが腰を落ち着ける。目的であった青いシラーの目立つ月長石は見つかったものの、オパールらしき宝石は未だない。ひとつ見つけただけでも幸運と言うべきか。
というのもやはり、その量だ。全てを見て回るには多く、そもそも捌くのすらまだ追いついていない。
いずれ見つかるだろう。が、今はもう少し、この宝物探しを楽しむとしよう。
ガリガリと、ニルズヘッグが地面に固着した塊を削る。安全を確認した仔竜たちも傍らに集まり、やいのやいのと騒いでいた。
量が量だけに、欲張ったとしてもありそうだ。ニルズヘッグは溶けた部分の回収を終え、赤い色に釣られていく。透明なクリスタルが目に入れば、それも。
「余り物には福がある、だっけか?」
遠い東方ではそんな語りが存在する。
「あやかっていくか。なあ蛇竜よ」
見れば仔竜たちにちやほやされている姿を見付け、ニルズヘッグは軽く肩を竦めるのであった。
終わってしまえば平和なもので。解体されていく合金竜オレイカルコスは、村の恵みとなるだろう。
今少し、猟兵達は身体を休めて。それから――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『のんびり市場巡り!』
|
POW : 食べ物や装備のお店へ!
SPD : アクセサリーや道具のお店へ!
WIZ : 書物や骨董品のお店へ!
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
猟兵達にはノネット村から無償で宿を提供されていた。望めば住民の家に一泊ホームステイのような形で触れる事もあっただろう。ノネット村は皆大らかで、のんびりし過ぎているという程にのんびりしている。これも魔獣と暮らす人々ならではの気風だった。
オレイカルコスの身体が村へと運び込まれると、村人たちは歓喜の声をあげて喜んだ。
討伐に向かった人々へと謝礼を捧げ、早速素材のとりわけに移った。
一概に鉱石と言っても種類がある。そして、金属と宝石にもまた細かな組み分けが為されている。
その全てを把握している者が長となり、村へ流入する資源を解析して仕入れる事で、このものづくりの村ノネットは生計を為して来た。
「ああ、違う違う。それはこっち」
「おおい村長、これはどこに置けばいいんだ」
「ちょいと待っておくれ」
猟兵達にはあたたかいスープと羊乳チーズ、それから魔猪と魔熊の肉が振る舞われた。クセはあるが、現地ではご馳走とされている。
ざわざわと、騒がしい一夜が過ぎていく。
――翌日。
空に虹がかかっていた。
オレイカルコスを招いた原因となっていた鮟鱇、そしてこちらも招かれた蝶々は別働部隊が散らしてくれたようだ。あるいは、自ら赴き散らした者もあるだろう。
穏やかな時間が過ぎる中、村のあちらこちらに特設のテントが建てられていく。
『ラ・カージュ』の開幕だ。
テントの中へと足を運べば、右手側に商品が並べられた台が所狭しと置かれている。どれも職人が手ずから仕上げた一品で、ユーベルコードでの取り扱いでもそう簡単に綻ぶことはないだろう。
左手側には作業スペースが設けられた。ものづくりの村は他者にも広く開かれており、その技術を惜しむことなく伝えている。一朝一夕で身に就く様な技術ではないと自負しているからだろう。今日はその一端に触れてもらおうという訳だ。
テントの種類は数知れず、それぞれ職人たちが看板を掲げて待ち構えた。
ひとつ、前を通れば空腹を擽る良い香りが漂って。ひとたびテントの中へと誘われれば、容易く抜ける事は出来ない。
ひとつ、並べ立てられる装備は数多に渡り、なんならオーダーメイドまで受け付けて。満足する一品に出会えること間違いなしだ。
ひとつ、煌めく宝石に飾られた精巧なアクセサリーで彩られて。その見た目もさることながら、実用性に劣る事は無い。
ひとつ、この村に長く伝わる伝統や秘密が綴られた書で休まるスペースが設けられ。現地の人間から解説を聞きながら学ぶことも出来るだろう。
望めば、きっと手に入る。
連れ添った仔竜と共に回るでも、一人静かに耽るでも、仲間と共に歩むでも、どんな時間を過ごしても構わない。
夕暮れに染まるノネット村で、猟兵達は開かれた市場へと繰り出した。
三千院・操
◎◎◎◎◎
おおー! これがラ・カージュかー!
よしよし……それじゃぁ早速色々見て回っちゃうぞー!
行こ! レディとベビーちゃん達!
新しいアイテム作ってもらうんだー!
武器とか装飾品とかのテントを見て回って良さげなものを探すよ!
もしもピンと来るものがなさげだったらオーダーメイドしちゃお!
ダイヤモンドのアイテムって1回持ってみたかったんだよねー!
だってすげーキラキラしてるし!
ベビーちゃん達はちゃんと着いてきてる?
ちゃんとレディの言うこと聞いて、はぐれないようにしてね!
●
「おおー! これがラ・カージュかー!」
わあっと操の口から歓声が上がる。この村に長く続く市場に込められた名を覚えているものは少ないな、ラ・カージュと聞けば賑やかな一日の始まりを示していた。
「よしよし……それじゃぁ早速色々見て回っちゃうぞー!」
行こ! と振り返って声をかけた先にはレディとベビーちゃん達がぞろっと列を作って待っていた。きゅーとかくるるとかグィーとかなんだか好き勝手に声をあげている。
これから巡るはお宝の山。新しい出会いのにおいがそこかしこから漂ってくる。
思わず握りしめた拳。吊り上がった唇はワクワクに胸を躍らせた操の感情を素直に表していた。底から湧き出る際限のない興味。足は自ずと前へと進められた。
目指すは、新しいアイテム。そう、自分にぴったりの、おニューの品だ。
最初に足を踏み入れたのは装飾品店。UDCアースにある同等の店に負けぬぐらいの品ぞろえと緻密さにルビーのような操の瞳も宝玉に負けずきらきら輝く。
「なあ、これ何で出来てるんだ?」
「ああそれは黒曜石だよ。削るのに一苦労でね、中々ない一品だよ」
ニヤリ、村人が口の端をあげる。まじまじと見つめた操の手には、ごつい漆黒の塊があった。そこに金細工を巻き付けてチェーンを伸ばしたネックレス。
黒曜石の形は無骨だが、どの角度で見ても光を食らって艶やかに照り返す様は成程職人芸か。
「じゃあこっちは?」
「そっちはオークの体内石さ。奴ら、稀に身体ン中で宝石を作るんだぜ」
「へええ!」
操の口からすげえという素直は感想が漏れる。気を良くした村人はあれこれと秘蔵品まで出してきてどうだいと商売魂を見せつつ声をかけた。
どれもこれも、欲しくなる。でももっと、こう、……言葉には出来ない、ピンとくる感覚を期待してしまう。
このテントでは一旦保留して、次は武具屋へと訪れた。
カーンカーンと高い音が鳴る。赤熱した金属がじわりじわりと形を変えていく姿はただ見つめているだけでも楽しかった。
操の興味は無尽蔵で、どうにも行く先々で気に入られる。それもそうだ、作り手としては食い付いてくれる客にはついついサービスしてしまうというもの。
気が付けば夢中になりすぎて、はっと後ろを振り返った時には仔竜たちの群れはどこか遠く。やべ、と顔を顰めた瞬間、レディが操に向けて美しい青玉の瞳を向けた。全く逸れてしまった訳ではないようだ。
「ベビーちゃん達はちゃんと着いてきてる?」
いち、に、さん、……。出席を取るように数えた操は全員いる事を確認してほっと一息。レディの言う事を聞いてはぐれないようにと言い添えるが、一番逸れてしまいそうなのは操であったとか。
さてテントを彷徨い歩いた操が辿り着いた先は一番最初に訪れた装飾品店。
「なあなあ、ダイヤモンドのやつってあるかな?」
「あるぜえ、それも一級品がな」
「やった、一回持ってみたかったんだよねー!」
快活な村人が摘まんだ手のひらの上には何十カラットもありそうなダイヤモンドがごろりと転がる。
「さあ、アンタの希望を聞こうじゃないか! なんだってこのオッサンが作ってやるよ!」
職人魂を剥き出しにした村人を前に、操も彼に似た笑みを見せた。嗚呼、どんなものが出来るのか。今からこんなにも楽しみだ!
大成功
🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
話には聞いていたが、すごい祭りだな。
無事に開催出来て何よりだ!
行くぞ竜ども!
……蛇竜、仔竜が気に入ったのは分かるが、調子に乗ってそこらの物を壊すなよ。
折角だし、自分で何か作ってみるか。
あまりアクセサリーの類を付ける方ではないが――。
……耳飾りにするか。
上手いこと、星っぽくなれば良いんだが。
蛇竜には首飾りかな。
私と揃いにするか。星型の、小さい奴が似合うよな。
重たくないのを作れって?……頑張るよ。
ここまでの礼だ。仔竜どもにも、小さい王冠を一つずつ。
気に入ったら一緒に来ても良いぞ。ふはは、なんてな!
●
青い草原を踏んだニルズヘッグの前に行き渡る景色は、それはもう瞭然として壮観であり、待ち受ける数々の娯楽を想像しては心を満たした。
「話には聞いていたが、すごい祭りだな」
今日の為に着飾った童が駆け、ひとつのテントへと吸い込まれていく。香ばしい匂いを漂わせるそこは料理が振る舞われているらしい。
ビアを傾け盛大な乾杯の音がそこかしこで鳴り響く。硝子のぶつかる音と共に、威勢よく男たちがアルコールを飲み干せば景気の良い歓声が沸き起こる。
笑顔だ。何処を見ても歓喜に溢れるその風景を見れば、無事に開催出来た事を心から喜べる。
「行くぞ竜ども!」
ニルズヘッグの掛け声に応える人ならざる声がちらほらと。しかし一向に姿を見せるでもなく、声に応えるでもない一匹が気にかかる。
振り返り、見た。
「……蛇竜、仔竜が気に入ったのは分かるが、調子に乗ってそこらの物を壊すなよ」
蜂蜜の様に甘い金色が眇められる。声には呆れが込められたが、ふんぞり返ってハナタカしている蛇竜が気にした様子はない。
幸い、まだ何も壊していないようだ。
目の届く範囲で自由にさせつつ、ニルズヘッグは白に煤がくすむテントへと足を運んだ。そこには陽の光を内に含んだ宝石の類が並べられ、一段奥にアクセサリーがこれでもかと詰められていた。
「おうニィチャン、いらっしゃい」
齢二十も過ぎた男にそう声をかける主を見やれば、成程確かにニルズヘッグすら若者の部類に扱うであろう無精ひげの男が立っている。
特別な日の、特別な出来事。
アクセサリーの類を身に着ける事の少ないニルズヘッグがこのテントに訪れたのも、そんな特別のひとつだったのかもしれない。
一言二言会話を交わし、手に入れた鉱石を見せれば、足りない品だけニルズヘッグの元へと届けられる。
何にしようかと悩む数秒。ふと目についた対の飾り。
削り刀の使い方を教わり削っていく。形は既に心に決めていた。
ひとつめは、不格好な五芒星。ふたつめは、長さを調節していた内に小さくなりすぎた星屑。
いつの間にやってきたか、蛇竜と仔竜たちがニルズヘッグの傍らでじいと手元を見つめていた。
やりづらい。大変、やりづらい。
なんとかうまく削り上げた星を金具に括りつけて指先で摘まみあげた。少々重いか。まだまだ改善の余地はありそうだが、形にはなっている。
次はと手にかけた鉱石の上に重ねられる黒い鱗。ぱたりと揺れる蛇竜の尾。
「重たくないのを作れって? ……頑張るよ」
まるで以心伝心だ。
がりがりと粗削りに凡その形を整えて一息。その間に、削る練習にと使ったいくつかの作品を手に取った。
上から見やればシンプルな輪だ。少し傾ければ、うねっている波形が見える。
「そら、ここまでの礼だ」
小さい王冠を一つずつ。きょとりと丸い瞳を瞬かせた仔竜が王冠を見上げようとして、王冠はずりずりと後ろへと流れていった。
ことりと落ちるお手製のクラウン。それを今度は見えるように仔竜の前へと置いてやれば、仔竜たちの宝玉の様な瞳が更に輝きを増した。
「気に入ったら一緒に来ても良いぞ。ふはは、なんてな!」
「るる!」
ニルズヘッグの言葉に反応したのは仔竜だけでなく。どこか茶目っ気たっぷりの赤い瞳が、きらり。
仔竜たちは単純だ。単純で、冗談など分からず、言葉のままに受け取るのだ。だから。
「きゅるっ」
嬉しそうに鳴くその仔竜の声に応える手があれば、彼らはきっと広い世界と出会うだろう。
大成功
🔵🔵🔵
エルト・ドーントレス
◇◎
POW選択
仔竜をつれて新アイテムを手に入れに。
合金竜の素材を使ってるとすると、重くて頑丈そうなのができそうだなぁ。
俺、山刀が欲しいんだよ。
猟兵になってから野外活動が多くて、それ用の道具を用意したかったし。
銃があるから武器として使うつもりないし、扱いやすくて頑丈ならオッケー。
なんか良さそうなのある?
(物色中)
落ち着いたら腹が減ってきたし、何か肉料理でも買ってくるかなぁ。
ああ、ちゃんとおまえ(仔竜)の分も用意するから。
…違う?
ひょっとして俺についてきたいとか?
まー、食い扶持が一匹分増えるくらいどうってことないけど、それなら名前を決めないとなぁ。
時間はあるしゆっくり考えようか。(頭を撫でて
●
仔竜を連れたエルトが向かう先では金属同士がぶつかりあう派手な音が響いていた。それは耳を塞いでも劈くようで、独特の音程を持っている。
カーン、カーン、カーン。
顔を覗かせたエルトの前で、赤熱した延べ棒が金槌に打たれ姿を変えていく。分厚い手袋を嵌めた女がエルトに姿に気付いて、一瞬手を止めた。
「ちょっとまってね。もうちょっと叩きたいんだ」
「構わない。見てっても良いか?」
「勿論!」
それからまた、鳴り響く。その音量に慣れれば一定の感覚で刻まれる鍛冶の音は心地良く感じられた。
腕は確かなのだろう。既に仕立て上げられた合金竜素材のものも並べられ、テントの中には所狭しと武器が敷き詰められていた。そのどれもが一級品と呼べる代物だ。
試しに出来立てのナイフをひとつ持ってみれば、予想通りにずしりと重たい感触が手のひらの上にある。試し切り用にと用意された木の盾へと閃かせてみれば、大した反動もなく刃は通った。
これは、期待できる。
いつの間にか聞こえなくなった鍛冶の音に気が付けば、女は丁度手袋を捨ててエルトの方へと歩いてくるところだった。
「俺、山刀が欲しいんだよね。なんか良さそうなのある?」
「ああ、それだったら丁度良いや。もうちょい時間を貰うけど、研磨すれば使えるやつがあるよ」
猟兵になってから野外活動が多く、それ用の道具を用意したいと思っていたのだ。武器だけで言えば銃がある。スナイパー技術と併せればこれ以上の武器はない。
用途と理由を述べれば女は何やら考え込む。
「いやなに、折角ならきちんと調整したいだろう? アタシに任せときな!」
バシバシと男顔負けに背を叩いた女はそのままエルトをテントの外へと追い出した。きょとんと呆けた顔をしているうちに、一刻後においでと女はさっさとテントの中へと引っ込んでいく。
まあ、調整してくれるというのなら心配はないだろう。
待ち時間は別の所に、――ぐうう。
「……んきゅう」
二つ重なる腹の音。くいと引っ張る仔竜の頭を撫でやって、エルトは旨そうな匂いに導かれ草原を歩く。
「ちゃんとおまえの分も用意するから」
「んきゅい~!」
それでもなお、仔竜は何やら言いたげに裾を引っ張り訴えている。
「……ん、違う? ひょっとして俺についてきたいとか?」
まさかそんなわけないかあ。
「きゅいっ」
こくこくと、それはもう首がもげそうな勢いで仔竜が頷いていた。アタリもアタリ、大当たりである。
撫でてというように頭を押し付けてくる仔竜の頭を撫でながら、エルトの視線は宙を泳ぐ。
一緒についてくるとなると、色々と、考える事が出来るのだ。
「まー、食い扶持が一匹分増えるくらいどうってことないけど」
問題はまた別にある。
けれど、それもきっと些細な問題。いや、贅沢でいて、大事な悩みではあるけれど。
穏やかな風が凪いで往く。一人と一匹に与えられた時間はまだまだ長い。
「それなら、名前を決めないとなぁ」
ゆったりと落ち着いたエルトの声と。
「きゅい~」
歌うように鳴いた仔竜の声を、春の訪れを告げる風が攫っていった。
大成功
🔵🔵🔵
シャルファ・ルイエ
お誘いした時に美味しいものをご馳走するって約束しましたものね。
キィさんも沢山お手伝いしてくださいましたし。
ウィルとキィさん、名前の知らない仔竜の子と一緒に、まずは美味しいもの巡りです!
ええと、それじゃあどこから回りましょうか。
色々美味しい匂いがしてますけど、あなた達はどこが良いですか?
あっ待ってくださいばらばらに動くんじゃなくて一緒で!迷子になったら御馳走できませんから!
回る途中で、一緒に来たあなたもこの村でお手伝いをすれば、きっとこれからも美味しいものを食べられますよって誘ってみましょうか。
それならこの子がうっかり退治されることも無くなるでしょうし……。良い村だって、思いますから。
●
「これだけ色々あると、どこから見て回るか迷ってしまいますね……」
きょろきょろと視線を巡らせるシャルファ。その視線の先には数々のテントが並べられ、入り口では威勢の良い声が猟兵や村人を招いていた。
キィと森で出会った仔竜もぽてぽてと後をついて来ている。キィにとってはこの市場も特段珍しいものではないが、野良仔竜にとっては目を瞠るものもあるのだろう。どこか興奮した様子ではたはたと尻尾を揺らして板。
ぺちん、とその尻尾がシャルファの足に当たる。
小さな衝撃に見下ろしたシャルファ。何かにぶつかった事に気付いて見上げた仔竜。その視線がぱちりと交わり、シャルファはあっと声をあげた。
「そうです、お誘いした時に美味しいものをご馳走するって約束しましたものね」
「んきゅい~!」
そうだそうだと言わんがばかりに鳴く仔竜。どうやらしっかり覚えていたらしく、小さな頭でシャルファの背を押した。些細な力ではあるが、大人しく押される事にする。
ウィルとキィと、それから仔竜と。三匹のお供を連れて、今度は美味しいものを探す冒険の始まりである。
「ええと、それじゃあどこから回りましょうか」
足を向けた、その先から。ふうわり、漂う甘い匂い。
料理のテントは固まっているらしく、そちらへと足を運べば色々な匂いが混ざり合う。どれもこれも美味しそうで、シャルファのお腹でもくうと小さな虫が鳴いた。
樹木の蜜から作ったお菓子。花の蜜を垂らした紅茶。そんなお茶会の空気に満ちた甘い空間。
ぐつぐつ一週間煮込んでほろほろ崩れる魔狼の肉入りスープに、村で採れた新鮮な野菜をこれでもかと使ったサラダ。家庭の味が振る舞われるテント。
ああ、選べない。
それなら、選んでもらおう。
「あなた達はどこが良いですか?」
その答えは、三者三様に示された。
これがいいと示すウィルはシャルファの足元でじっとテントを見詰めている。穴が空いてしまいそうなほど。
キィはキィで好き勝手に飛び回る。食いしん坊に選ぶのは難しいらしく、あっちこっちと右往左往。
そんな中仔竜はすたこらさっさとひとつのテントへ向かっていく。美味しそうな肉の焼ける匂いがしていた。
「あっあっ」
待って、と声をかける前にその姿が村人に紛れて見えなくなっていく。
「待ってください、ばらばらに動くんじゃなくて一緒で! 迷子になったらご馳走できませんから!」
慌てた声をあげたシャルファは傍らのウィルを小脇に抱え、まずはキィの回収に向かう。はたはたと飛び回っていたキィは楽しそうな声をあげて回収されていった。最後に仔竜の元へ向かって、ようやく一息。
とりあえずここから入ろう。幸い、眼前には肉の塊がぐるぐると回っていてウィルたちの視線を独り占めしてくれた。
両手に肉串。食べ終えた串は串入れに。渡された編み籠にはふんわりフルーツケーキがいくつか種類に分けられて入っていた。その隅にはチョコレートも見える。
もふもふと口いっぱいに頬張る仔竜たちを見守りながらの一時。
「あなたもこの村でお手伝いすれば、きっとこれからも美味しいものを食べられますよ」
「るるう?」
こてりと首を傾げ、仔竜はキィを見る。シャルファの言葉にキィは得意げに胸を張って頷いた。村に住まう仔竜が言うのだから、きっと間違いないのだろう。
ふんすと張り切る仔竜を見やり、シャルファはふと笑みを零す。この村は、良い村だから。きっと良い未来が待っている筈。
いつかまた訪れることがあれば、二匹揃って迎えてくれることをひそりと願う。
大成功
🔵🔵🔵
アズール・ネペンテス
【選択:POW】
市場をというなら俺も店を開くぜ…依り代の故郷の名産品の小麦(巷で評判な)で作ったパンを提供し知名度を上げておきたいしそして金稼ぎのチャンスなら稼ぐ。
ついでにいろいろ意見も聞きたいしな…【情報収集】も使いつつ店を切り盛りさせてもらおう
(アドリブ歓迎
●
人だかりが出来ていた。その多くは村人で、口々にその店の評判を零してはまた別の村人が訪れる。
物珍しさゆえか。ざわざわと騒がしい中心にいたのはアズールその人だ。
買い物にお誂え向きのものづくり市場。その中で、アズールはあえて店を開くという選択肢をとった。
確かに、人は来るだろう。他文化に触れたことのない人々の前で振る舞うアズールの商品は村人たちの目を惹いた。
これはどこで作られたのか。どうやって作ったのか。材料はこの村でも作れるのか。そんな好奇心に満ちた質問がアズールひとりにあちらこちらからぶつけられる。
勿論、古来存在した聖徳太子のような耳を持ち合わせている訳もなく、アズールは逸る村人たちを宥めてひとつひとつ丁寧に答えていく。
アズールが振る舞うのは、パンだ。ただのパンではない、ヒーローマスクであるアズールの依り代の少女の故郷の名産品を使ったパンだ。
「嬢ちゃん、これ貰ってっていいか?」
「俺も明日の昼飯にすっかなあ。鉱山往く道すがら食べれるもんで美味いのが欲しかったんだよ」
そんな声がちらほらあがる。
勿論、アズールが提供するパンは一級品だ。それこそ、巷で有名な小麦を使ったのだから、味は保証される。
これは金稼ぎのチャンスである。そして、知名度を上げるチャンスでもある。
ものづくりの村は果てしなく実力主義のところもある。精巧で緻密な商品は人気が出て、粗雑な品は消えていく。そうした切磋琢磨の中で生き抜いてきた村人たちが一目置くとなると相当の価値になるだろう。
「お、盛況だねえ」
そこへ現れた一人の男。見るからにコックの恰好をしており、店を出したいと掛け合ったアズールに場所の一角を貸してくれた優男だ。
「おかげさまで。助かるぜ」
「なあに、こちとら村ごと助けてもらったんだ。容易い御用さ」
「良かったらあんたもどうだ? 味は保証するぞ」
そうして一切れ差し出して。
「そりゃあいい。丁度メシが欲しかった」
休憩中らしき男はむんずと掴むと、思い切りよくかぶりつく。外はさくさく中はしっとり。焼きたてのパンに比べて作り置きのパンはどこかうまみも落ちるが、それでもなおアズールのパンはうまいと唸らせるものであった。
「これはあれだな、イールピールと合わせてやれば……」
「イールピール?」
「ああ、あんたは知らないか。この村の特産品だぜ。後でやるよ」
柑橘の類に属するイールの砂糖漬け。流石は料理人か、こうすればいいああすればいいと、一工夫の案がぽろぽろと出てくる。
利用してやらぬ手はない。アズールは猫の手も借りるつもりであれやこれやと聞き募るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◇◎
仔竜のグラとライを引き続き連れ歩く
ラ・カージュでは装備品を探してみる
せっかくの機会だ、合金竜の素材を使った品を入手したい
あの竜の牙がどんな品になるのか興味もある
手に入れるのはなんとなく惹かれた物でもいいし、グラとライが反応した物を選ぶのもありかもしれない
こいつらが食べ物以外に反応するのは珍しいからな(入手する装備品お任せ)
帰る前に、助かったと仔竜達に一言礼を
携帯食料は残り少ないが欲しがるなら渡す
仕事の報酬だ。結局最後まで付き合わせてしまったからな
こらまて、まだあるから取り合うな
仔竜達が住処に帰るなら、元気でなと声をかけて別れる
…もし、帰る場所がなかったら?
その時は、そうだな…一緒に来るか?
●
ラ・カージュ。奇しくも同じ響きを持った全く別物の檻に訪れた事もあるシキは、さわさわと肌撫でる風に目を細めて息を吐く。
あそこはこうまで軽やかでなく、晴れやかな場所でもなかったが。世界が違えば、物も違うという訳だ。
仔竜のグラとライを引き連れて、シキはぶらりぶらりとテントを渡り歩いていく。
ちょくちょく食べ物があるテントへと向かおうとするグラの首根っこを掴み、取っ組み合いを始める二匹の首根っこを引っ掴み。全く、最初から最後まで自由な二匹だ。
それでもちゃんと装備品のテントの中へと入ればあれだこれだと武器や防具を物色している。物珍しさもあるだろうが、何やらテント内を探検する姿は微笑ましくも見えた。
「さて、俺も探すか。あの竜の牙がどんな品に変わるのか、興味もあるしな」
自ら狩ったものの装備品など、そうそう手にする機会もないだろう。それも、狩るところから作るところまで身近に感じられる場所で。
折角の機会なのだ、合金竜が素材となった品を探してみるのも良いだろう。渡り歩いたテントにはそれぞれごっそりとオレイカルコス産の鉱石が詰まれていて、どこもかしこも作りたての装備品を看板に掲げていた。
そのうちのひとつに、シキは辿り着く。
それを独創的と評するべきか、脳死的と評するべきか、頭を悩ませた。確かにこれはオレイカルコスの牙だ。グラたちが運んだものとはまた別の牙だったことを、喜ぶべきか。
それは、牙の根元を削り、穴を開けて持ち手をふたつ付けただけの、多分打撃武器だった。いや、刺突武器かもしれない。
「……独特な、センスだな」
苦し紛れに零れた言葉。作った張本人らしい年老いた男がガッツポーズを取っていた。いや、ヨシッではないのだが。実用性は皆無に等しい。話題性はトップをとれるかもしれないが。
そんな物と出会いつつ。
「ぎぃ~」
「ん、どうした」
グラとライが、とある品の前で落ち着いている。属性を駆使する二匹にとって、魔法の親和性の高さは何か感じるものがあるのだろう。
店主の話によると、埋め込まれた二つの宝石が使い手の魔法を増幅させてくれるらしい。その宝石は、奇しくもグラとライの瞳の色をしていた。
かくして、シキの手には宝石が対となっている携帯ナイフが握られていた。
「助かった」
「ギィ」
「きゅう~」
宝石が有効に使われる事はないかもしれない。それでも、ナイフとしての機能が十全なれば、充分武器として使えるものだ。
何かと食料を欲しがったグラは相も変わらずもちもちと食料を頬張っている。まさか村に来てまで携帯食料を要求されるとは思わなかった。仕事の報酬と言う事にしておこう。相も変わらず、二匹は取り合いを始めたのだが。
ドラゴン討伐も済んだ。市場巡りも済んだ。別れの時は、近い。
「元気でな」
グラとライの頭をそれぞれ撫でやって、シキは口元に笑みを作る。悪く無いひとときだった。たまにはこうして交流するのも良い。
グラはどうやら村に懇意にしている人がいるらしく、ぶんぶんと勢いよく手を振っては去っていった。遠くでぺこりと細身の女性がお辞儀した。
「……」
「……んきゅう」
残ったのは、ライ。どこかに行く素振りもなく、じいいとシキを見上げていた。森で暮らしていた一匹の仔竜。群れをつくるでもなく、たった一匹で立ち向かってきた仔竜。
「あー……そうか。そうだな」
一度目を逸らし、頭を掻いたシキは、再びライを見て首を傾ぐ。
「ライ、一緒に来るか?」
「きゅ!」
その声は、どこか嬉しそうに響いた。
大成功
🔵🔵🔵
依世・凪波
◇◎
SPD重視なアイテム希望/名前設定素材お任せ
武器屋のカウンターで相談する
俺のダガーもうちょっと攻撃力と耐性強くしたいんだ!
合金竜退治で刃が脆くなったダガーを出し
でも重いのとかでっかい武器だと使うのも持つのも大変だなって
どーいうのにしたらいいかなぁ?
あと他にも出来たら武器の飾りも欲しいなーって思って
完成したら嬉しそうに掲げて喜び店の人にありがとーとお礼
仔竜にも見せて自慢する
村の子は待ってる人いるだろうから返してあげなきゃだけど
森であった子だったらどうかなぁ?
離れるのが惜しくて帰るのを引き伸ばし
別れたくないなぁ…と仔竜を見つめ
俺と、一緒に来てくれないかな…?
ぎゅうと抱きしめ少しうるっと
ダメ…?
●
「なあなあおっちゃん」
「あー? おお、おまえさん、あのデカいドラゴンやっつけてくれた冒険者か」
凪波が声をかけた鍛冶屋のおっさんがファッファッファッと声をあげて笑う。随分と大らかな性格のドワーフらしく、その身体に見合わぬ巨大なハンマーを担いで凪波の前で胸を張った。おっちゃん、と初めから呼んだのは、どう見てもおっさん臭が漂っているからである。
凪波が訪れたのは武器屋だ。看板からして強そうな雰囲気を醸し出していたからには、そこへ足を運ぶのは当然のことであった。
一緒に来ていた仔竜たちは戦いの疲れが残っているのか凪波の足元でうとうとしている。その間に完成させちゃおうという算段であった。
「俺のダガー、もうちょっと攻撃力と耐性を強くしたいんだ!」
そう言って差し出したのはオレイカルコスと対峙した時に振るったダガー。しかし、今や開幕の時の輝きはなく、金属を削った衝撃から刃毀れが起きていた。
「ほーう、こりゃいい代物だな。磨いてやりゃあまた使えるようになりそうだ」
――が。
「おまえさんが持つにゃ、ちと脆いかもしれんな」
識質眼は確かなのだろう。武器屋のおっさんはニヤリと白い歯を髭の間から覗かせて不敵に笑った。
「でも重いのとかでっかい武器だと使うのも持つのも大変でさー」
「そうさなあ、おまえさんの体躯じゃ潰れちまいそうだ」
それこそおれのハンマーなんか持った暁にはぺちゃんこだ、なんて冗談交じりに男が笑う。しかしその言葉も真実なのだろう。
ズシン、と音を立ててハンマーが放られる。地面に亀裂が入り、凪波はぎょっと目を瞠った。
がさがさと何やら漁り始めるドワーフの背に向けて、凪波はあれこれ注文をつけてみる。こういう時は希望を言った方が良いと誰かが言っていた。
取り回しやすく、持ち運びやすく、無骨とまではいかないダガー。
「それと武器の飾りも、」
「ほれ、これなんかどうだ?」
凪波の言葉を遮って、ドン、とカウンターに乗せられたのは紫色の鉱石が中央に嵌められた十字のダガー。刃の側だけ少し長いが、随分と特徴的な形をしていた。
「イクシオン。村に伝わる雨と雷の神様の名前を貰った短剣さ」
「これを、俺に……?」
「おまえさんは恩人だからな」
嵌められた宝石はトルマリン。名に相応しいダガーだ。
「飾りの方は鞘と合わせて作ってやるよ。ちと時間がかかるから待っとれ」
そうして店主はさっさと作業に取り掛かる。職人らしく、一旦集中するとこちらのことは置いてけぼりだ。
ひとまずありがとーとお礼をひとつ。それからゆさゆさ眠たげな仔竜たちを揺さぶって。
「なあなあ見てくれ、カッコいいなこれ」
「ぎゃうーっ」
「へへ、新しい相棒だなっ」
追加の飾りと鞘が出来上がるまで、凪波は仔竜たちと最後の触れ合いを楽しむ。村からついて来てくれた子たちは満足すると、それぞれぶんぶんと手を振って村人の中へと紛れていった。
ぽつりと残る森の仔竜。
「るー?」
「あんたも、帰っちゃうのか……?」
声に滲む寂寞の音。仔竜はぱちぱちと瞬きして、凪波へ向けて声をあげた。
まるで抗議するように。何かを訴えかけるように。そうして、ぴょんと胸へと飛び込んだ。
「わ、あ、あ……もしかして、一緒に来てくれるのか……?」
ぎゅっと抱きしめ、うるうると涙で滲む瞳で見つめてみれば、仔竜はぺちぺちと尻尾ではたきながら一層高い声で鳴く。
まるで、そう、――ぼくがいないとダメなんだから、とでも言いたげに。
大成功
🔵🔵🔵
レイブル・クライツァ
◎
仔竜と一緒に見て回れるなら、頭の上か肩にでも乗せて(飛びたそうなら横にでも)一緒に
オーダーメイドも良いのだけども、手作り出来ると聞いたらこう…
記念の物を作りたくなるのは性分よね(材料とにらめっこしつつ)
職人の方に話を聞きながら、簡素な物にチャレンジしてみるわ
(一緒に居る仔竜をじーっと見)
大人しい子だから、手首辺りにつけれそうなのだけれども
角とか尻尾の方が良いのかしら?と相談してみたり
仔竜に気になってる色の鉱石が有るか確認しながら、ペンダントかブレスレット(アンクレット)辺りで作成を。
鉱石を整えるのは苦戦すると思うけれども
編んで合わせていくのは得意よ?
対になる色で、自分の分もお揃いで作り記念に
●
ずるずるとヴェールと共に頭からずり落ちていく仔竜が一匹。慌ててレイブルがその身体を支えてあげれば仔竜から嬉しそうな声が上がった。よじよじとレイブルの頭をよじ登って、やや前傾に落ち着く。ぺそりと尻尾がレイブルの後頭部の曲線をなぞった。
慎重に歩き出してみれば、仔竜は上手に尻尾と翼でバランスをとる。数歩も進めばもうすっかり居心地良さそうに目を細めた。
案内してくれた仔竜と共に、レイブルは市場を彷徨い歩く。オーダーメイドで作れるという話も聞いたが、それ以上に手作りという響きに心擽られた。
いつだったか作ったマカロンもレイブルの手作りだ。その時は、バレンタインが近かったっけ。
作れる場が用意されるなら、挑戦してみるのがレイブル・クライツァというひとだ。
いま、レイブルは装飾品テントのひとつにいた。ぺたりと敷物の上に座りこんで持ち帰った鉱石をばらばらと広げてみる。
「嬢ちゃん、作るもんは決まったかい?」
「ええ、と。まだ、悩んでいて……」
「はははっ、何分一生もんだからな。存分に悩むと良い!」
気概の良いおっちゃんはガハハと楽し気に笑う。その横に伸びる村の仔竜はどうやら村人の家族らしい。尻尾の先にしゃらりと銀の細工が飾られていた。
よいしょ、と頭の上の仔竜を降ろして。きゅるんと丸い瞳がなあにと言いたげにレイブルを見る。
じー。
じーーー。
「ううん、手首……それとも、尻尾とか角の方が良いのかしら?」
「ぴゅい?」
使う鉱石はすぐ決められた。レッドベリル。直方体のような鉱石の塊はネックレスのアクセントに丁度良さそうな一品だ。
レイブルの真っ直ぐな視線を浴びて仔竜はむずむずと身体を揺らす。はっと気づいたレイブルはそっと仔竜を敷物の上に下ろして。
「あなたに似合うアクセサリーが作りたいのだけれど」
「ぴゅい!」
真摯に相談してみれば、小さなおててをあげてアピールした。
「手首……ブレスレット?」
「ぴゅい~」
「じゃあ、それにしましょう」
はたはた、仔竜の翼が揺れる。身体いっぱいで感情を表現する仔竜はなんだか楽しそうだ。
「ふふ、編んで合わせていくのは得意なの。私に任せてちょうだい」
その言葉の通り、やり方を目の前で見せて貰えばレイブルの手つきは滞りなく銀細工を組み上げていく。粗雑に扱っても千切れないようにしっかりとつなぎ目を補強して。
鉱石の部分だけはひとつふたつ粗悪品が出来てしまったが、これすらも思い出になりそうだ。
レイブルが作り上げたのは、ふたつ。
ひとつは仔竜の手首を飾る小さな銀輪。ちりばめられた赤は仔竜のお気に入りの色。
もうひとつは、自分の手首を飾る銀輪。対になる色で編み上げられたブレスレットには今日の想い出をたっぷり込める。
「お疲れさん! これはあんたにオマケだよ」
そう言って村人が差し出したのは、小さな袋。看板と同じ刺繍が入った袋には、レイブルが削った不格好な鉱石がふたつ入っていた。
「ぴゅいっ」
「ふふ、そうね。お守りみたい」
てち、と手を重ねた仔竜にふうわり笑いかけて、レイブルは静かに目を閉じた。この穏やかな日々が、どうか続きますように。
大成功
🔵🔵🔵
静海・終
投げた事が余程ご立腹だったらしい涙を抱えながら市場へ
おともともう一匹は足にしがみ付いている重いですね…
とりあえずはご機嫌とりに涙の為のアクセサリーでも探してみましょう
賑やかで良いですねえ、活気はいくらあっても良いものです
おや、っとふらふらしている見知った尻尾を捕まえる
少しぐらい運ぶの手伝ってくださいました?
なんて、くすくす笑いながら
ルト、この子に似合う飾り、何かありませんかね
涙を眼前に差し出すとにぃーと鳴き声をあげる
ご機嫌取りにはプレゼントでございますよ
いつの間にかルトの足に引っ越しをしている2匹を見下ろし
あやあ、モテモテでございますね
可笑しくしながらのんびりと市場を楽しみましょう
●
「涙~機嫌なおしてくださいませ~」
そんな涙声にも似た情けない声がした。終だ。
八の字に眉を下げた終の腕の中にはぶっすりと不機嫌そうな顔をした海竜が、目も合わせずにたしたし尻尾で不満を示している。鮮やかな蒼も今は曇り気味だ。
「涙~!」
終のヘタレた声が青空に響く。そんな終の足はずりずりと重く市場を進んでいく。
精神的な重さではない。いや、確かに涙がおこなので重たくはなるのだが。今は物理的な重さだ。おともともう一匹ががっしりと足にしがみついているのだから。器用に小さい尻を足の甲に乗せて座っていた。
賑やかな市場を進んでいく。活気はいくらあっても良いものだ。この穏やかで温かな陽気につられてどうにかご機嫌になってくれたらよいのだが。
ひとまず、むくれたお姫様のアクセサリーを探しに行くとしよう。
ふらふらふわふわ、騒がしい声に釣られてあちらこちら。涙を撫でる手は変わらず。そうしていくつかテントを過ぎた先で、見慣れた尻尾を見付けた。イェルクロルトだ。
いつだったか触れた尻尾はもっふもふでそれはもう抱き枕に採用しそうな程だったが、こうしてまじまじと見ると、――うん、寝心地が良さそうである。
「ルト、少しぐらい運ぶの手伝ってくださいました?」
「……あ?」
うわあ、不機嫌そう。眠そうな眼がくるりと終を見据えれば、ああ、と合点したような声を出した。
「あー、ああ、うん」
これは手伝っていない返事だ。
「全く、量が多くて大変だったんですよ? どこかの誰かが使える転移があればもっと楽だったと思うのですけど~」
ぺたん、と灰色の耳が折れた。蜂蜜色の瞳がついと逸らされる。
全く、目と耳は口ほどにものを言うのだから。
「まあそんなことだと思ってました。ルト、この子に似合う飾り、何かありませんかね」
勿論、応えるのは当然の義務でございますよ、なんて言い添えて冗談交じりに咎めてみせれば赤毛の人狼は肩を竦めた。
ずずいと差し出された涙はぱちぱちと瞳を瞬かせ。
「にぃー」
何やら訴えるように鳴き声をあげる。
「ご機嫌取りにはプレゼントでございますよ」
「それ、おれが選ぶもんじゃないだろ」
「まあまあ」
ずずいっと更に近付けてみせた時、ふと足の軽さに気付いて視線を落と――す、途中で。いつの間にか引っ越し済みの二匹がイェルクロルトの足にくっついていた。そのせいもあってか、イェルクロルトがその場から動く様子はない。
「おやあ、モテモテでございますねえ」
「……別に」
などという人狼はまんざらでもなさそうだ。揺れる尻尾が隠せていない。
くすくす笑いを零して終は涙の頭を指先で撫でる。
「ご一緒にどうです? 私とルトの仲でしょう?」
「どんな仲だよ」
悪態を吐くイェルクロルトと、慣れた様子の終。一匹増えた仲間を連れて、宝物探しは続いていく。
大成功
🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
▲◎
くろいくろい、真っ黒な君。
それからしろいしろい、真っ白な君。
アァ……真逆の君たち。もしかして兄弟?姉妹?それともただの友達?
コレは賢いヤツが好きだお前たちは賢い?
アァ……そうだなァ……コレは宝石がほしい。真っ赤な真っ赤な宝石。
賢い君のデザートになるンだ。
お前たちもデザートはほしいだろう。
後で食べよう食べよう。どんなモノが好きなンだろうなァ……。
アァ……身につけるモノじゃないンだ。賢い君は着飾らない。
もっと食べやすい宝石。掌におさまるくらいの。
コレくらい。覚えたカ?
じゃあもう少し探しに行こう。楽しい楽しい食事探しの続きダ。
●
くろいくろい、真っ黒な君。
しろいしろい、真っ白な君。
光ある所に闇があるように。陽の差す所に影があるように。まるで対のように見える二匹の仔竜。
エンジの問いかけに、仔竜たちは見つめ合って首を傾げた。完全に他人と言うには近しくて、けれどお互いに面識はない。
いうなれば生き別れのきょうだいのような、不思議な距離感が二匹にあった。
市場の隅でエンジは仔竜の前に屈み、撓めた目を向け薄らと笑みを描く。
「コレは賢いヤツが好きだ」
賢い君。賢い君。エンジがそう呼ぶコレは、今は静かにエンジの傍に寄り添っている。
「お前たちは賢い?」
じ、と見つめる金色の瞳には真意など映らない。ただ言葉の通りに問いかけて、仔竜たちの答えを待った。
答えは、沈黙。
半月を見る赤い瞳は決して晒される事もなく、エンジをじいと見つめ返す。一方の白き仔竜も、その青い瞳を向けて様子を窺った。
賢いか。その質問に対して、軽率に頷くような愚かさは持ち合わせていないようだ。
エンジの唇が満足そうな弧を描いて言葉を吐き出す。
「アァ……そうだなァ……コレは宝石がほしい。真っ赤な真っ赤な宝石」
賢い君は宝石を好む。鮮やかな血にも似た真っ赤な宝石を特に。どんな生き物も狂ってしまう、甘くて魅力的なデザートがそれだ。
――さて。忘れてはならないのは、ここは市場の一角で。料理を振る舞うテントも近くに在る訳で。
ふうわり香る、仔竜にとってのデザートの匂い。ベリーのように甘酸っぱくて、どこか香ばしいパイの匂い。その単語を聞いた時、仔竜はふらりとその匂いに気を取られた。
ぱちくり、エンジが半月を瞬かせる。それから仕方ないなァだなんて肩を竦めて。
後で食べよう食べよう。でもその前に、ひとつだけテスト。
「コレは着飾らない。お前たちがデザートをほしいように、コレも宝石がほしいンだ」
掌におさまるくらいの。そう、ちょうど、コレくらい。
エンジが掌を広げ、それから親指と人差し指をくっ付けて輪を作る。指の輪ごしに仔竜を見やれば、まじまじとエンジの手を見つめる二匹の姿が輪の中に見えた。
「覚えたカ?」
あまり鳴かぬ二匹は小さな返事をする。
それじゃあ、探しに行こう。楽しい楽しい食事探しへ。
「美味しいは独りよりも多い方がいいからなァ……」
痕の残る薬指を唇で食み、胡乱な眸を覗かせたエンジが進み行く仔竜の後ろでぽつりと零した。
嗚呼今日は、賑やかな食卓になりそうだ。
大成功
🔵🔵🔵
御剣・誉
おい、エリンギも一緒に行こうぜ!
オレさー、新しい剣が欲しいんだよな
形とか全然拘りないんだけど
せっかくいっぱい鉱石採ったから記念に使いたいかなーってくらい
ま、そんなわけで
なぁおっさん、オレに合う剣見繕ってくれよ!
おぉ…やべ、カッコイイじゃないか
どうだ、エリンギ?似合うだろ?
この剣って名前あんの?
せっかくだし名前つけてくれよ、おっさん!
時間あるし、ふらっとアクセサリーの市へ
剣の装飾に使った宝石を使って首輪作りたいんだけど
ん?首飾りじゃねーよ、首輪
皮ベルト使って器用に首輪を作り
ほい
エリンギ、オマエにやるよ
付き合ってくれてありがとな
(お礼の首輪つけつつ
…オマエ、うちに来るか?
衣食住は保証するぞ
どうだ?
●
「オレさー、新しい剣が欲しいんだよな」
「ぎゃうー?」
「形とか全然拘りないんだけど」
エリンギと名前を付けた仔竜を引き連れ、誉はテントの並ぶ草原を進んでいく。戦いの気配も遠くへ去れば、残りはお楽しみだけ。
エリンギを話し相手にした誉が向かった先は鍛冶師のテントだ。金属を叩く音があちらこちらから響き、眼前には新たな武器が生まれる瞬間が広がっていた。
「おう、ニィチャンいらっしゃい!」
「お邪魔するぜおっさん。ちょっと見てくぜー」
「ガハハ、どれもこれも自慢の一品だ。それにアンタ、あの竜を斃した冒険者だろう? 素材があるなら作ってやるよ!」
ほほう。
きらりと誉の目が光る。そんなに言うならば、お願いしてしまうのも吝かではないというものだ。
まずは売り物として用意された剣を検める。いくら気前が良くても使える品でなければ意味がない。
――が。どうやら杞憂のようだ。揃えられた武器はどれもこれもが一級品で、猟兵でさえも十全に扱える機能を備えているのが見てとれた。これは大丈夫だと、柄に手をかけた瞬間にピンと感じた。
「うん、おっさん。オレに見合う剣を見繕ってくれよ!」
よいしょ、と持ち込んだ鉱石を広げて託す。手伝ってくれたエリンギがふうと一息ついた。これがどんなふうに化けるのか、楽しみだ。
そうして数刻。ノネット村に伝わる技術や外の世界で積んだ鍛冶の技能をこれでもかとぎゅぎゅっと詰め込んだ剣が打たれた。
「ちょうど最近細工を始めてなあ。もっと無骨なもんが好きなら別のを作るぞ」
そう言いながら差し出したのは、赤い鉱石が薔薇の形を描く荊の剣。細身の両刃直剣で、持ち手部分には繊細な荊の彫刻が施されていた。
「おぉ……やべ、カッコイイじゃないか。どうだ、エリンギ? 似合うだろ?」
「ぎゃうー!」
きりっとして構えたその姿は、まさしく王子様そのもののよう。
「なあなあ、この剣って名前あんの? せっかくだし名前つけてくれよ、おっさん!」
「そうだなあ」
ふむうと考え込むおっさん。
期待の眼差して見つめる誉。
似たようなポーズで見上げるエリンギ。
「ラヴィアンローズ――なんてな」
人差し指を立てて得意げに言ったおっさんは、へへへと照れくさそうに鼻の下を掻いた。
一期一会はまだ溢れている。早速剣を腰に引っ提げた誉は次なるテントの入り口をくぐった。剣の装飾に使った宝石と同じものを手にして。
「これで首輪が作りたいんだけど」
「首輪……首飾りでしょうか?」
「ん? いや首飾りじゃねーよ、首輪!」
応対したお姉さんがきょとんと丸い目を見せる。そして誉を見、エリンギを見、また誉を見た所でひとり勝手に合点がいったようで鞣された革をいくつか差し出した。
ちょちょいのちょいで、誉が首輪を作りあげる。
作り方? 慣れない環境? そんなもの、キリッとすれば何とかなる。キリッ。
そしてキリッとした結果生まれた首輪を無造作にエリンギの目の前に持ってきた。
「ほい」
「ぎゅー?」
「エリンギ、オマエにやるよ。付き合ってくれてありがとな」
「ぎゃうー!」
エリンギはぱったぱたと尻尾を揺らして機嫌よく高く鳴く。嫌がる様子は見られないのでそそくさと首輪をつけてやれば、ふふんと胸を張ってキリッとした。キリッ。
「……」
そんな様子を見た誉が一瞬考え込む。ぽんと頭を撫でれば、どこか真剣な表情を見せて。
「オマエ、うちに来るか?」
衣食住の保証あり。三時のおやつと昼寝付き。
「どうだ?」
問いかけに、エリンギはぴょんと飛び跳ねて誉の胸に飛び込んだとか。
大成功
🔵🔵🔵
クレム・クラウベル
◇◎
素材は潤沢にあるとはいえ、細かな加工は己の手にはあまる
質の良さそうな石を職人に預け耳飾りの制作を依頼
完成を待つ間は仔竜を連れて市を回る
途中で拾ったもう一匹もまだ帰らないらしく
……餌代が掛かるな
仔竜が反応したソーセージの盛り合わせを二匹分買い与えて
市を回る途中、見慣れた赤毛を見掛ければ
ルト、と一度名を呼びその横顔へ果実を一つ放る
気付いてなくても当たる程鈍くはないだろう
何の果実だか知らないが
店で売られていたものだから食べて問題ないだろう
折角だからな、此処らしいものも味わうといい
……ん、お前らも食うか
興味示す仔竜にも果実を分けてやり
仔とは言え竜だな、よく食べるものだ
ルトももう一つ、いるか?
●
素材は潤沢にあるとはいえ、細かな加工は己の手に余る。
屑石で挑戦するならまだしも、これは貴重な使える素材なのだ。餅は餅屋に任せるとして、別のことに勤しむ日にしても良いだろう。
識質眼があるかと言われれば微妙な所だが、良し悪しぐらいはクレムの目で見ても分かる。その内いくつか良さそうなものを寄り合ったテントの職人に預けた。
依頼は耳飾りだ。鉱石を検める職人は、これはいいもんが出来ますよと張り切った様子を見せた。
見ていくかとの声を断り、クレムは仔竜を連れて市を巡る。春の訪れを告げる柔らかな風に背を押され、進む足は軽やかだ。
それはそうと、村に戻れば連れて行った一匹だけかと思っていたのだが。
ちらり。
るんるん。
……はあ。
「餌代が掛かるな……」
森で遭遇したもう一匹がさも当然というようにクレムの後をついてきていた。もはやうちのこですよ顔である。どや。
そしてなにやら欲しいものを見つけたのか、ぴゅいっと高い声を上げて無遠慮にクレムの裾を引っ張った。
流石のクレムも戸惑う。戸惑い、村の仔竜を見下ろしてみれば、こちらもまた困惑した顔を見せている。あっ、誘ったわけじゃなかったんですね。随分と図太い神経をお持ちのようで。
「あー……、お前も食うか?」
「きゅー!」
ぐいぐいとねだる森の仔竜を一旦なかったことにして、クレムは屈んで村の仔竜と向き合った。返事はイエスである。
ちなみにこの間もずっと、森の仔竜はピュイピュイ鳴いてはおもちゃ売り場でぐずる子供のように暴れていた。すっかりクレムのコートにシワがつく。
そんなこんなで二匹分。ソーセージの盛り合わせがででんと増えた。クレムの財布の中身は減った。
しかしまあ、出会うもの全てが新鮮で、とくに食べ物は眼を見張るものがある。財布の紐が緩んでしまうのも仕方がないもいうもの。
あとどれくらい使えるかを計算しながら歩く道中、クレムはふと見慣れた赤毛を見つける。切り株に腰掛けたままぼーっとしているその背中へと進む先を変えれば、一言、彼の名前を呼んだ。
「ルト」
ついでとばかりにその横顔へと真っ赤な果実を放ってやれば、イェルクロルトはクレムを見るでもなくぱしりと片手で果実を受け取った。
「……なんだ、アンタか」
「つい見かけてな。休憩中か?」
「そんなとこ」
受け取った果実をじろじろ見つめるイェルクロルトへ怪しいものではないと伝えてみるが、男は変わらず訝しげな顔を見せている。
仕方がないので自分も同じものをまず一口。見た目は林檎に似ていたが、広がる風味はどちらかといえば檸檬に似ている。噛めば噛むほどに甘さに変わり、飲み込む頃には酸っぱさなど消えていた。
「なかなか変わった味だな。折角だ、お前も此処らしいものも味わうといい」
「んー……」
歯切れの悪い返事とともにすんと鼻を鳴らしてようやく。ガリ、と牙を立てる音。
反応を伺っていれば、また袖口を引かれて意識が逸れる。見れば先ほどソーセージの盛り合わせにありついていた仔竜たちが羨ましそうにじいいいいと見つめていた。
「……食いしん坊め。仔とは言え竜ということか」
幸い紙袋いっぱいに買ってある。ひとつずつ渡してみれば、小さな口をいっぱいいっぱいに広げて二匹揃って丸かじりした。がぶり。
とかなんとかやっていれば、今度は隣からブロックでも齧ったかのような音がする。案の定、イェルクロルトが種を齧っていた。
「……ルト、もうひとついるか?タネは食うものじゃないぞ」
「ん、……そうなの」
じゃあいる、と、指先についた果汁を舐めとり人狼の男はおかわりを求めた。
晴天の下、よくわからぬが旨い果実を齧り、のんびりと時間を過ごす。たまにはこんな日があっても良いのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
◇◎
わあ……活気があって賑やかなのだ!
ちびたちも市場は好きか?
もう悪戯はするんじゃないぞ?
アクセサリーの店を見てみる
といっても俺はバリバリ前線で動くから、あんまりアクセサリーとか着けないしな…
チョーカーとかならあんまり邪魔にならないかな?
あっ、こらお前たち!悪戯するなってさっき言ったのに…あ(仔竜たちが悪戯で咥えたアクセサリーを見て)
おっ、おじさん!これください!
…思わず衝動買いを…うう…!
俺が買ったのは、氷のように綺麗な石が付いた、雪の結晶のブレスレット
でもこれも、君たちが導いてくれたのかと思うと…
不思議と感慨深い気持ちになるな?
じゃあ次は美味いものでも食べにいこうか!
ちびたちも食べるぞ!
●
「わああ……」
広がる景色。視界いっぱいを埋める青い草木にぽつぽつと立つ白いベルテント。物語の中に存在するような遊牧民族を彷彿とさせる光景に、ヴァーリャは思わずため息を零す。
「活気があって賑やかなのだ! ちびたち、冒険にしにいくぞ!」
「きゅ!」
ヴァーリャの隣には、そわそわと身体を揺らす仔竜たち。問いかけるまでもなくワクワクを身体いっぱいに表現するものだから、きっとこういう空気が好きなのだろう。
もう悪戯はするんじゃないぞと念押ししてみるが、悪戯仔竜は聞く耳も持たず飛び出した。慌ててヴァーリャが後を追う。
あっちこっちに飛び回る仔竜の背を追いひとつのテント。どうやら入り口から見えたキラキラの輝きに釣られて飛び込んだらしい。
アクセサリーのお店だ。右側に飾られた既製品のブレスレットやアンクレット、耳飾り等の精巧さたるや目を瞠るものがある。一方の左側も、四方に区切られた鉱石箱が虹色の輝きを燈して存在をアピールしていた。
「うーん、でも俺はアクセサリーすぐ壊しちゃいそうだな……」
ふらふら釣られて巨大なダイヤが嵌る指輪をじいいと見つめてみるが、決断までには至らない。
何か、そう、邪魔にならないようなもので……。そうだ。
「チョーカーとかあるかな――って」
店主のおじさんへと視線を向けた、ところで連れてきた仔竜が視界を過る。キラッと輝く光は仔竜の抱く瞳とはまた違う色をしていて、ヴァーリャはあっと声をあげた。
「こら、お前たち! 悪戯するなってさっき言ったのに……あっ」
二度同じ声を出し、ヴァーリャはむんずと仔竜を捕まえる。それからそのままあっけらかんと笑うおじさんの方へ九十度。
「おじさん! これください!」
そうして仔竜ごと差し出した。ぎゃうー?
テントを後にするヴァーリャ一行。行きと違うのは、右手首を飾るブレスレットだ。氷のように綺麗な石が仄かに陽の光を含んできらきら光る。まるで、雪の結晶だ。晴れた冬空に煌めく小さな貴石。
思わず衝動買いしてしまった。けれど、これも仔竜たちが導いてくれたのかと思うと、じんわりと胸の内に温かなものが広がっていく。
「お前たちが選んでくれたプレゼントだったりしてな?」
冗談交じりにてへへとはにかめば、口々に声をあげる仔竜たち。その声が何を伝えたいのかは分からないが、もしかしたら――。
不思議と目尻が熱くなる。それを誤魔化すように、ようしと快活に拳を突き上げた。
「じゃあ次は美味いものでも食べにいこうか! ちびたちも食べるぞ!」
「きゅー!」
「ぎゃうー!」
見たままを真似て仔竜たちも小さな手を突き上げる。一人と二匹の冒険は、もう少し続くのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ユーゴ・アッシュフィールド
◎
【リリヤ(f10892)】と
おともの仔竜も、ともに。
ここの職人は猟兵の技に耐えうる物が作れるとのことだ。
装飾品を作るのは良いな。
俺は、そうだな。
武具を考えてみるか。
(真顔で言いながら、並べられたかけらの横に魔熊の肉を置いて仔竜を惑わす)
良い金属も手に入った事だ。
俺は剣を打ち直してもらおう。
長らく手入れせずに使ってしまったからな。
リリヤには、宝石と金属を使ったナイフを作って貰おう。
手に馴染むように作っておけば、棒を振り回すより随分と訓練になる。
仔竜は……お前は何が嬉しいのだろうな。
とりあえず腹いっぱい食わせてやる。
また会いに来よう。
あの疲れた顔のグリモア猟兵に頼めば転送してもらえるだろう。
リリヤ・ベル
◎
【ユーゴさま(f10891)】と
おともの仔竜とも、ごいっしょに。
ユーゴさま、ユーゴさま。
身に付けるものをつくってみたいです。
きらきらがたくさん。なやみます。
ユーゴさまには、あざやかな緑色の石を。
おともの仔は、何色がすきですか。
赤に青に黄に緑。かけらを並べて見せましょう。
……もーっ、もーっ! ユーゴさま、邪魔をしないでくださいまし。
職人さんに、戦闘の邪魔にならない飾りのつくりかたをうかがいましょう。
ちいさなものなら、わたくしにもつくれるでしょうか。
選んだ石で、ユーゴさまにひとつ。おともの仔にひとつ。わたくしの分も。
冒険の記念なのですよ。
お別れは、ちょっとだけさみしい。
……ちょっとだけですよ。
●
猟兵の事は知らぬ者達。ちょっと強い冒険者という認識を持つだけの彼等が、極めに極めた技量を以て猟兵が操るに耐え得る性能に至れたのは、ひとえに奇跡とも呼べるだろう。
一握りだけが至れる境地。その境界を越えた先にいる者達がこうも集まっている村は珍しかった。
「ユーゴさま、ユーゴさま。身に付けるものをつくってみたいです」
「そうだな。リリヤはそれが良い」
ぶんぶんと振り回した小枝ではもう心許無いだろう。この先も続く生の旅路なれば、銀の匙は必要だ。命を取りこぼさぬ為に。
さて、得た鉱石は大量だ。オレイカルコスのあの巨体から等分に取り分けたとて、小山はユーゴとリリヤの遥か上まで積み上げられた。
その中から選び抜く。きらきらがたくさんで悩んでしまうが、うんうんと唸っている間にも日は傾いていく。市場が終わりを迎える前に決めなくては。
リリヤが摘まんだ石は、鮮やかな碧。陽の当たる角度では藍にも見える緑色。真っ先に選んだのは、ユーゴの分だ。
それから次に仔竜の分。
「おともの仔は、何色がすきですか」
「にいー?」
赤。青。黄。緑。より取り見取りの中から気になった鉱石を取り上げて、一直線に並べてみせる。
「この中からひとつ、――」
「に!」
選んだそれは、ユーゴが追加で置いた魔熊の肉。いつの間に。
そして仔竜は迷わずそれを選んだ。選んでしまった。色と聞いてるのに食欲に負けたのだ。
「……もーっ、もーっ! ユーゴさま、邪魔をしないでくださいまし」
「いやあこうまで引っかかるとは思ってなくてな? ……悪い」
じーと見つめるリリヤの圧に負けて、ユーゴはそっと顔を逸らしてばつの悪そうな。
仔竜はそんな二人を見て首を傾げるのであった。もごもご口が動いているのはきっと気のせいと言う事にしよう。
次なる目標は、目的に見合った職人を見付ける事。幸い、雑多になんでも扱うテントは市場の手前の方にあり、そう時間を取られずに辿り着いた。
「剣を打ち直して貰いたいんだが、頼めるか?」
「おお、名誉な事だね。俺に任せときな」
ごとりとカウンターの上に自前の剣を置いて見せれば、若い店主は軽い口調で手入れを請け負う。ユーゴよりも若く見えるその男に若干不安も覚えるが、どうやら教えを乞う弟子もちらほらといる事から一任しても良さそうだと判断した。
ノネット村はものづくりの村だ。通ってきたテントを見たが、さっと見ても年功序列ではなく実力主義であろう事は見て取れた。彼もまた、己の腕でのし上がってきたのだろう。
軽薄な態度に似合わず、剣を扱う手つきは丁寧で。無骨で凹凸だらけの掌は、職人として歩んだ歳月を物語る。
こちらは任せておくとしよう。
「話は良いか? ひとつ、作ってもらいたい物があるのだが」
「おう、任せとき。どんなもんをご要望だい?」
ユーゴは惜しむことなく条件を付ける。妥協すべき物ではないのだ。最良を求めていくべきである。
店主は研磨を進めながら、ユーゴに対して出た疑問をぶつけていった。後ほど、リリヤの持ちやすい形状を調べるという。ナイフが出来上がるのは、少し先になるだろう。
一方のリリヤは若い女性の世話になっていた。こちらもこちらで幾人か弟子を侍らせている。時折似た顔の子供が訪れる事から、肝っ玉母ちゃんなのだろう。
「ちいさなものなら、わたくしにもつくれるでしょうか」
「大丈夫大丈夫! あたしがアンタの頃にはもう自前のヤスリでごりごり削ってたもんよ!」
バシバシと猟兵にも負けず劣らずの力でリリヤを励ます女主人。リリヤの小さな身体がぐらぐら揺れた。あ、結構痛い。
気を取り直して。それならば、と選んだ石を女へ見せた。緑と、白と、青。
冒険の記念なのですよ、とリリヤが言えば、女はにまりと笑みを見せた。
「それじゃあ、うんとイイのを作ってみようか」
銀の鎖を編み込んで。絡める色は瞳にも似てきらきら輝く。思い出は少しずつ薄れていくけれど、物はいつか壊れてしまうけれど、確かに刻み残しておきたいと思うのは、我儘だろうか。
手首を飾るブレスレット。そこへリリヤは願いと祈りを込めた。
数刻後。
お腹いっぱいになった仔竜は休むユーゴの足に寄りかかってすぴすぴと寝息を立てていた。
リリヤはその傍でユーゴから受け取った煌びやかでいて実直なナイフを抱える。何度も何度も握った柄のうち、確りと馴染む形を取り入れられていた。リリヤだけの、リリヤが持つべきささやかな牙。
暮れる日はオレンジに輝いて、端に訪れる宵は別れの兆しを齎した。
お別れは、ちょっとだけさみしい。
想いは言葉となり零れ、ユーゴの瞳が細められた。呼ばれる名でリリヤははっと顔をあげ、強がりの言葉で寂寥を覆い隠す。
「また会いに来よう」
これが今生の別れではないのだ。この場所を知るグリモア猟兵にでも頼んでみれば、きっとまた訪れる事も出来るだろう。
だから、さよならだけじゃない。
「またね」
眠る仔竜の背を撫でて。また会う日まで、お元気で。
繋ぐ銀輪が絆の証だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユハナ・ハルヴァリ
歌姫さんと一緒
もうちょっと、付き合ってくれますか?
見慣れない景色に右往左往
わあ、きれい、かっこいい、あれなんだろう…
あちこち覗き見るうちに、見つける赤髪
ルト。お疲れさまでした
解体、任せちゃったけど、大丈夫でしたか?
それなら、よかったです
一緒に遊びましょうと袖引いて
蝶々も鮟鱇も、森の奥に追っておいたので
暫くは、大丈夫でしょう
見て回る中、気になったのはやっぱり合金竜の素材
作るものは、決まってないんですけど
うーん。
(ルトのピアス見てぴこーんとする長耳)
ピアス、あけようかなあ。僕も。
青いのと、赤いの、一つずつ。作ってください
なんか…きれいなかんじの
説明って、むずかしい
歌姫にはお礼のリボンを首に
またね。
●
眠って起きて歌を歌って、最後の日を惜しむように歌姫はユハナのそばを片時も離れなかった。
見慣れぬ景色の案内人。きょろきょろと視線を巡らし惑う先には常に仔竜の姿があった。
「きれい、かっこいい、あれなんだろう……」
答える声は、ユハナには理解出来ない言葉だけれど。その一生懸命な姿に心奪われる。
だから、ユハナも歌で答えて。奏でる音で心を通わす。例え意味が通じなくても、歌はどこだって共通の言語の一つなのだ。そのニュアンスで、メロディーで、アップダウンで、伝えられるものはたくさんある。
ふらふら彷徨い歩くうちに、ユハナは見慣れた赤髪を見つけた。朱殷覗く灰色の耳がぴこりと跳ねる。
「ルト。お疲れさまでした」
「ん、アンタも。おつかれ」
すでに誰かが訪れていたのか、あるいはこの狼も楽しんでいるのか、傍らには赤い果実が転がっていた。足元には二匹の仔竜が眠たげに船を漕いでいる。
イェルクロルトが腰掛ける切り株に隣同士で座れば、背中にもふりと尾が当たる。そのまま押し出されるかと思ったが、イェルクロルトにその気はなさそうだ。
腰を落ち着けたユハナは膝の上に仔竜を乗っけて頭を撫でた。くるくると歌姫は喉を鳴らしたユハナに甘える。
「解体、任せちゃったけど、大丈夫でしたか?」
そう、翌日に別の予知を控えていたユハナはバタバタと一歩お先に帰路についていたのだった。グリモア猟兵って大変。
「ん」
たった一音、肯定の意。
「それなら、よかったです」
そんなイェルクロルトの返事は慣れたもの。
ひとつふたつ秒針が進み、僅かな沈黙を破ってそうだとユハナが立ち上がる。はたはた歌姫は飛び立ち、ユハナの頭の上へと落ち着いた。
「一緒に遊びましょう、ルト。満喫しないと勿体無いですよ」
「……仕方ないな」
くいと袖引き立ち上がらせる。面倒臭そうな顔をしながらも、結局は付き合ってくれることを知っていた。
道すがら、話は今日の仕事の事になる。きらきらと輝く虹色の蝶々。実は結構美味な可愛らしくもお茶目な鮟鱇。
「森の奥に追っておいたので、暫くは、大丈夫でしょう」
「そうか」
良かった、と。声には出さぬが、仔竜と音でコミニュケーションを取っていたユハナには、含まれた言葉が感じられた。
二人はひとつのテントの中で立ち止まる。
「うーん……作るものは、決まってないんですけど。やっぱり記念に欲しいなあ」
「適当に貰ってけば」
「そうは言いますけど、ルト、」
そこでふと、イェルクロルトを見上げたユハナの耳がピコンと跳ねる。耳は口ほどにものを言う。表情に乏しい少年の耳がぴこぴこした。
「ピアス」
「……ピアス?」
ユハナが見たのは、灰色狼の耳にぶら下がるいくつものピアス。黒と白に塗られたピアスの数々を見やり、ユハナも自分の耳を触る。
「あけようかなあ、僕も。決めました。ピアスにします」
そうと決まれば早速天守へ頼み込む。青いのと赤いの、対でひとつ。頼んだ事のない物故に、うまく表現もできずなんかきれいな感じとかいう曖昧な注文をつけた。説明って難しい。
お披露目は、いつの日か。
ユハナの手のひらに収まる一対ふたつのピアスはきらきらと陽の光を受けて輝いた。雫の形を取るそれは、雨の名を持つ森を思い出させてくれるだろう。
さよならの時が来た。
「またね」
おんなじ雫が添えられたリボンを首へと飾り立て、ユハナは歌姫との別れを惜しむ。
また会う日までさよならだ。いつかステージできっと、歌うきみを見に来るよ。
大成功
🔵🔵🔵
明日知・理
◎
【四・さゆり(f00775)】と。
魔獣の肉って…悪くないな。
旨い串焼きを片手にさゆりと並んで歩く。
行儀は少々悪いが、祭りならば多少は多目に見てもらえるだろう。
…ん、食う。
さゆりもほら、こっち食え。
そう言って串焼きを交換こ。
◇
さゆりに袖を引かれて振り返る。
そこではおばあさんが糸を編んでいた。
さゆりはすっかり気に入ったようで、俺の分まで頼んでいる。
…かく言う俺も欲しかったから問題はないが。
イイ女にそうまで言われて悪い気はしねえな。
…そうだな、
なら、俺は…青色がいい、かな。
◇
並ぶ二色とご機嫌なさゆりを見て、まあこんな日も悪くないと、そっと笑みをこぼした。
四・さゆり
◎
【明日知・理(f13813)】と一緒よ
魔獣の肉って‥‥悪くないわね。
いい香りの串焼きを片手に、
マコと並んでお出かけよ。
ちょっとお行儀が悪いけれど、
それも市場の醍醐味と聞いたわ。
マコ、たべる?
ふふ、交換こ。
これもおいしい。
ーーー
あら、なあにこれ。
みて、マコ。
おばあさんがパタパタ、糸を編んでるわ、
魔法みたいね、
あっという間に腕輪になったの。
みさんが、と言うの。そう、
‥‥。
‥‥。
‥‥。
ねえ、マダム。
わたし達にも編んでちょうだい。
わたしは、赤色がいいわ。
あと、この男にも。
ふふ、何色がいいかしらね、
イイ男に映える色がいいわ。
ーーー
マダムの指先の魔法で編まれた輪っかふたつ。
ゆらゆら並んで、かわいいの。
●
じゅうじゅう。
蒼天の下燃え盛る炎に炙られたのは、熊だ。一見してそれと分かるほど精通しているわけでもないが、人三人分ぐらいありそうな大きさはそうそう他の生き物にはないだろう。
「魔獣の肉って……」
既にこんがり焼けた部分をごとりと削り落とし、さらにサイコロに切り分けていく。形は不恰好になっても一口大の大きさになっていればいい。
ざく、ざく、と切り離される肉の前で明日知・理(花影・f13813)はじいいと串焼きが出来上がっていく過程を見ていた。その隣にはさゆりの姿もある。
「悪くないな」
「悪くないわね」
刻むあんちゃんに声を掛けられたふたりは、音を揃えて問い掛けに答える。外からの人間は、魔獣を食べる事に拒絶反応を起こすこともあるのだ。
「そうかそうかあ。よおし、出来上がりだ。持ってけドロボー!」
「あら、ドロボーではないわよ。失礼しちゃう」
むすりとさゆりがムクれつつ、それでも差し出された串焼きは素直に手に入れた。
本日のメニューは魔熊と魔猪の串焼き。間にはこのノネット村で取れた新鮮緑の野菜が挟まっている。
理はさゆりとは別の肉の串焼きをもらい、早速とばかりに噛り付いた。ジュワッと口の中で広がる肉汁は溢れんばかりで、慌てて少し喉を反らせる。クセのある味わいの肉だが、タレのコクと絡まって独特の風味を更にプラスさせていた。肉質はやや硬いほうだろうか。しかし噛み切れない程ではなく、少しワイルドにがぶりと食い千切るのが正解だろう。
さゆりの串焼きは理のものよりかはあっさりめ。タレではなく岩塩で味をつけたものだから、舌の上にはしょっぱさが残る。肉のクセはこちらも強く、故に塩は掛けすぎなぐらいが丁度いい。これが成人ならば、ぐびっと透き通った黄金の麦をお供にしたくなるものだ。
お行儀の悪さは目を瞑り。けれどこうして歩き食べるのも市場の醍醐味。
「マコ、たべる?」
「……ん、食う」
一切れ二切れ食べ進み、気になるのは隣のこと。さゆりがあーんと差し出せば、理はやや屈んではくりと一口。
「さゆりもほら、こっち食え」
「ふふ、ええ、交換こね」
どこに入っているのか、さゆりは既に色々食べた後の筈なのだが。遠慮はなく、理の串焼きもすっかり胃に収めて。
ぶらぶら進む食べ歩き道中。
ごちそうさまと両手を合わせるにはまだまだ足りず、ふたりは次なるテントを目指して青草を踏む。
ふ、と。
カラカラ。パタパタ。
「あら、なあにこれ」
穏やかな風の下、テントも立てずに敷物を広げただけのそこにいたのは齢八十は超えたおばあさん。
「みて、マコ。魔法みたい」
くいと久し振りに食べ物以外を手にしたさゆりが理の袖を引っ張った。
理も釣られて見やれば、ちょこんと膝を折り座るおばあさんが器用に糸を編んでいる。三色違う色を編み込んで、ひし形の模様が連なる腕輪が出来上がる。
手法を知らなければ、まるで魔法のようにも見えただろう。実際、さゆりの灰色の瞳は雨上がりの曇り空に差し込む虹のようにきらきらと輝いた。
「ねえ、マダム。これは何」
「ミサンガよ。願いを込めて、首につけるの」
こうやってね、とおばあさんは嗄れた手首を見せてみる。成る程どうやら首がつく部位に巻きつけて飾るものらしい。
「みさんが。みさんが、と言うの。そう、」
降る沈黙。
待つ理がちらりとさゆりを見やれば、顎に指先を当てたまま固まるさゆりの姿がある。
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
「ねえ、マダム」
先の呼び掛けと同じ調子で声を上げ。
「わたし達にも編んでちょうだい。わたしは、赤色がいいわ」
「ふふ、お安い御用よ」
わたし達。と、言うからには理の分も入っている。どうやらすっかりさゆりのお気に入りになったようだ。かくいう理も欲しかったので問題はない。
「そちらの殿方は何色にしましょうか」
「ふふ、何色がいいかしらね、イイ男に映える色がいいわ」
ぱちくり、理が瞬いて。
「イイ女にそうまで言われて悪い気はしねえな」
「あらあらまあまあ」
編む手を止めて、おばあさんが楽しそうに目を細める。お似合いね、なんて言う口には他意はなく。美男美女の組み合わせをただただ褒めた。
さて忘れてはならない本題の色。
「……そうだな、なら、俺は……青色がいい、かな」
選んだ指先は、深い海の色をしていた。
マダムの指先の魔法で編まれた輪っかふたつ。ゆらゆら並んで、かわいいの。
並ぶ二色とご機嫌なさゆり。時折空に手のひらを透かせては、その手首を飾るミサンガを見て満足そうに笑みを乗せた。
隣を往く理の手首にも青が連なる。ふたつのミサンガのベースの色は違えど、編み込まれた白がふたつを繋ぐ。いつか過去になる今日を、鮮やかに残す思い出の色。
まあこんな日も悪くない。空に透かせるさゆりの隣で、理はそっと笑みをこぼした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
(道中で仔竜達が増えてぞろぞろと一大集団化してる)
メイドの3人や仔竜のみんなと一緒に過ごすよ…。
みんなで屋台のお肉買って一緒に食べたり、この子達にもつけられるアクセサリーとかみんなで見て回って買ってあげたり、一匹ずつ丁寧にブラッシングしてお手入れしたり撫でたりふんわり抱き締めたり…。
みんなでのんびりと平和な時間を過ごすよ…。
やっぱりこの村は良いね…。みんな仲良く平和で…。
あ、そうだ…。誰かラン達みたいに一緒に来てくれる子、いないかな…?
わたしの家族になってくれると嬉しいな…。
(着いてきてくれる子に、多分、そのままでも大丈夫だと思うけど他の世界の適応の為に【共に歩む奇跡】を使用)
※アドリブ等歓迎
●
まるで一家族と言っても過言ではない数の仔竜がぞろぞろと連なっていた。いや、家族というより幼稚園か。道中でまみえた仔竜は大体後をついてくるものだから、増え続ける一方だ。
それには気にした風もなく、むしろ歓迎だとばかりに璃奈は増えた仔竜たちとメイドと一緒に残りの時間を過ごしていく。
美味しい匂いにつられれば、ででんと大きな猪の肉をまるごと買って分け合ったり。甘いものが好きな仔たちには木の蜜で出来たお菓子をあげたり。
腹を満たせば今度は賑わいが気になって、小物を扱うテントに赴きわいわいはしゃぐ。仔竜にもそれぞれ好き嫌いがあるらしく、あっちこっちに飛び回るからもう大変。メイドたちが手分けしたおいたをしないように目を光らせてはくれたが、それでもどっと疲労が出る。
結局、一匹一匹お気に入りのアクセサリーを買ってあげた。言い値で報酬をもらえるとは言え、高価な買い物がたくさんだ。懐にひやりと冷たい風が吹く。
それでも、璃奈に後悔はなかった。
「やっぱり、この村は良いね……」
「きゅー?」
次はぼく、とぐりぐり頭を押し付けた仔竜が不思議そうに首を傾げた。
璃奈はいま、市場の隅に敷物を広げ仔竜たちの手入れをしている。村に住む仔達はどこか綺麗好きではあったが、森にいた仔達はまた別だ。
ふわもこさんはブラッシングで整えて、つるつるさんは乾いた布で軽く擦って汚れを落とす。
ついでに撫でるのくらいは許されるだろう。終わった暁にはぎゅっと抱きしめ別れを惜しむ。
仔竜たちには、今日初めて会った相手もいるだろう。そんな中で、皆一様に楽しげに声をあげ、殺意が伴うような喧嘩は起こらない。
皆仲良く、平和な時間。
「あ、そうだ……」
最後の一匹のお手入れを終え、買ってあげた首飾りを通してあげれば璃奈は仔竜達を見回した。
「誰かラン達みたいに一緒に来てくれる子、いないかな……?」
璃奈のメイド達は、かつて璃奈が赴いた依頼で出会った子達だ。事件が解決した後も、共に時を過ごすことを許容し今がある。
だから、という訳ではないけれど。
この子達の中にも、もしかしたら。
「わたしの家族になってくれると嬉しいな……」
どうかな、と問いかける璃奈。
騒がしかった時間は一転、しんと静かな時間が訪れる。仔竜たちは顔を見合わせ、なにやら神妙な面持ちだ。
二つ返事で答えられるような問いかけではない。頷けば、この村から、そしてこの世界から離れることになるのだ。
村に居着いていた仔竜はほんの少しだけ寂しそうな声をあげた。恩あれど、それはこの村に対しても持っている。ついていくとすぐに応えることはなかった。
対して、森の仔竜たちの反応はバラバラだ。
「きゅー!」
ぴょんぴょんと手を上げてアピールする仔竜もいれば。
「る、る?」
そこにはなにが待っているのかと説明を求める仔竜もいる。
決して皆が否定的ではなく、新たな冒険の気配を察知して、再び場は盛り上がる。
準備ができたらこれに触れてねと言えば、真っ先に二匹ほど飛び出して。ごちんと派手に頭をぶつけたとか。
大成功
🔵🔵🔵
霄・花雫
【灯くんと】
◎
折角捕ったんだもん、鮟鱇どっかで調理して貰おー
灯くん頑張ってくれたし、野草も採ったからきっとおいしくなるよー
あ、キミも来る?
森歩きからくっついて来た仔竜ちゃんが、尾鰭を追ってちょこちょこついて来るのがすっごくかわいい
キミ、このまんまうちの子になれば良いのになあ……
お店のヒトに鮟鱇と野草を預けて、調理待ち
ほ、ほら、鮟鱇もう解体済みだし!原型じゃないから怖くないよ大丈夫!
どんな味するのかなー
おいしいと良いなー
あ、キミにもあげるからねー
楽しいねぇ、灯くん
また依頼見付けて一緒に遊ぼうねぇ
え、えへ、次は言ってから引っ張るー……あっ、違う、えっと、引っ張るって言うか手繋ぐの好きなんだもん……
皐月・灯
【花雫と同行】
◎
鮟鱇も宝玉蝶も散らしたし、これで一通り片付いたか。
……獲れたのを捨てるのは勿体ねーからな。
持ち込みありの店があるかもしれねーし、探してみるか。
行くぞ。
すっかりなつかれたみてーだな、そいつに。
本当に連れて帰ったらどうだ?
オレと違って、お前なら世話できんじゃねーのか。
見つけた店に鮟鱇を調理してくれるように頼む。
オレは料理とか一切できねーからな。全部任せるぜ。
調理風景はちょっと興味あるが……ふうん、そうやって捌くのか。
……花雫、待て。まだ切り身だぞ。
慌ただしかったけどな、どっかの誰かは危なっかしいしよ。
……まあ、この料理で手打ちにしてやるさ。
……けど、次は腕引っ張る前に言えよな。
●
賑やかな市場の開幕だ。花雫と灯はこの時間を迎える前にも猟兵としての一仕事を終え、新たなものを手に入れていた。
そう、それは鮟鱇。
オレイカルコスを招いた一因である鮟鱇は適度に間引かれ、その身体を食材として確保されていた。
「……獲れたのを捨てるのは勿体ねーからな」
「ね。折角捕ったんだもん、どっかで調理してもらお」
ついでに採取した野草も一緒に合わせてみれば、きっとおいしいものが出来上がるはず。
彼方此方から漂ってくる美味しい匂いは、すでに出来上がりの料理からだ。勿論、食べればなくなるものだから、各テントでは今もなお調理中の所は多い。
食材は既に調達済みなのだろう。それでもなお、持ち込みを歓迎してくれるテントを探さなくては。
「行くぞ、花雫」
「うんっ」
「きゅい~」
返事がひとつ多かった。
顔を見合わせた二人が振り返ると、そこには道中一緒に探検した仔竜の姿が。花雫によく懐いていて、どうやら尾鰭がお気に入りのよう。
一日経った今でもうろうろと花雫の周りで様子を窺っている。
「キミも来る?」
よいしょと抱き上げてみれば。
「きゅ~!」
嬉しそうな声が返ってきた。
あ~かわいい! そう花雫の顔が物語る。顔に書いてあるとはまさにこのことだ。
「キミ、このまんまうちの子になれば良いのになあ……」
「本当に連れて帰ったらどうだ? すっかりなつかれたみてーだしな」
そういえば、そんな猟兵をちらほら見かける。仔竜にアクセサリーをプレゼントしている姿もあった。
「オレと違って、お前なら世話できんじゃねーのか」
灯もぶっきら棒に後押しすれば、迷いに迷った花雫はどうかななんてお誘いして。
「きゅいっ」
肝心の仔竜はというと、はたはた尾を揺らし、拒む様子はどこにもない。なんなら帰るその時まで尾鰭を追っかけるつもりだったらしく、ぐりぐりと頭を寄せて高い調子でもう一鳴き。
これからは、――これからも、二人と一匹の冒険だ。
持ち込みOKのテントを探す旅路の果てに、快く受け入れてくれる一店に辿り着いた。若い店主は鮟鱇の肉と聞くと、それはもう瞳をきらきらと輝かせて是非と言い募るほどだ。
ついでに薬草も預け、料理が出来上がるのを待つ。どうやら持ち込みしたお陰か、お代はかからないらしい。随分太っ腹な店主だ。
鮟鱇の肉と言いつつも、鮟鱇は一応この村を脅かした魔獣であった。ささやかな花雫の心配は杞憂のようで、怖がる人間はどこにもいない。
「鮟鱇って初めて食べるかも。どんな味がするのかなー」
待ち時間は暇を持て余す。
花雫はふらふら尾を揺らして仔竜の遊び相手を務めていた。隣で、灯は興味津々に調理風景を眺めている。
料理とかは一切合切できない手合いだが、その光景は見覚えがある。鮟鱇というだけに、そこらの魚と捌き方は似通っていた。
「待ってる間腹が空くだろ? ちょちょっと刺身作るから味見してみるといい」
刺身。
そんな食べ方も出来るのか、と目を剥く灯の前に差し出されたのはごろっとした生の鮟鱇肉。
これを? そのまま? 食べる……?
「……花雫、待て」
「あっ、おいしい!」
「ま、……そうか……」
灯の静止空しくもぐもぐと目尻を下げて味わう花雫。ひょいともう一つ摘まんでみれば、今度は仔竜に差し出して。
物怖じしないところは流石というか、なんというか。目を離せない由縁ではあるのだが。
そうこうしているうちに出来上がるのは鮟鱇の唐揚げ。持ち込んだ肉はまだまだあるらしく、薄くスライスして塩を揉みこんだハムと野草のサラダだったり、葉ものの野菜でごとりとした塊を巻いたロールキャベツ風の主食だったり、鮟鱇肉のフルコースがどんどん出来上がっていく。
中にはちょっと冒険した、ピリ辛調味料と合わせたこぶし大の肉料理もあった。中に色々と詰め込んであるらしく、ロシアンルーレットの様相をしている。存在感がすごい。
はぐっと花雫が口いっぱいに頬張れば、ジュワっと肉汁が溢れ、食べたことのない旨みが舌の上で踊った。
灯もこれには驚きの顔。想像よりも一回り美味しい。シェフのアレンジも利いていて、ぺろっと食べてしまいそうだ。
「楽しいねぇ、灯くん」
「慌ただしかったけどな、どっかの誰かは危なかっしいしよ」
「あーっ、またそういう事言う!」
もぐもぐ、楽しい夕餉にありつきながら花雫と灯はいつものやりとり。
今日はそこに仔竜も混じって、賑やかさにちょっとした花が添えられた。
「次は言ってから引っ張るもん。……あっ、違う、えっと」
「……何?」
「引っ張るって言うか、手繋ぐの好きなんだもん……」
しゅんと耳を下げた花雫がいじけるようにぽつりと零す。それを見た灯ははたはた瞬き、溜息と共に肩を竦めた。妹に甘い兄のようだ。実年齢は逆だけれど。
「まあ、この料理で手打ちにしてやるさ」
「本当?」
「ああ。……けど、次は腕引っ張る前に言えよな」
別に、嫌って訳でもないのだから。素直じゃない灯が直接口にすることはないけれど。
「えへへ、じゃあまた一緒に遊ぼうね」
ゆびきりげんまん、また明日。こうやって、未来を紡いでいくのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
明るくて、賑やかで、活気があって…ちょっと、うるさくて。
ふふふ。お祭りの空気。みんなが楽しんでる空間。いいものだよね。
世界が違っても、こういう所は、みんな同じなんだね。
●SPD
当然といえば当然だけど…デザインは、この世界らしいものが多いよね。
…そうだ。吟遊詩人。それっぽいもの。帽子とか?楽器とか?
あの時はありあわせだったけど、この世界で作ってるものを使えば、きっと、もっと説得力が増すよね。
ふふふ。何か良さげなもの、あるかなぁ。らしさももちろんだけど、綺麗なものだといいなぁ。
※補足
とあるA&Wの依頼で吟遊詩人として振る舞って以来、この世界での身分はそれでいこう、と軽く考えています
【アドリブ歓迎】
●
ぴんと立ったパームの耳に届くのは、ふわふわと浮足立ったような人々の声。事実、市場開催の活気は村人達ならず猟兵の心にも光を齎し、村一帯がすべて温かな陽気を内包していた。
明るくて、賑やかで、活気があって。それからちょっと、うるさくて。
「ふふふ。お祭りの空気。みんなが楽しそう」
どこの世界に行ったって、お祭りとは明るい笑顔が集う場所になっていた。日頃の不安や心配事から一時解放されて、なんだったらちょっとやってみたことのない事にも挑戦してみる。
友人同士で遊んだり、恋人同士で花火を見たり。一人だって、身軽さは随一なのだからやりたいものをやりたい放題。誰が、どんな時でも、前を向ける時間なのだ。
世界が違っても、こういう所は、みんな同じ。
パームは気の向くまま興味の向くまま立ち並ぶテントを覗きこんでは品物を眺め次へ行く。似たような人は多いらしく、転々と渡り歩いたとて、同じ顔の村人とばったり出会う事は多々あった。なんとなく、親近感。
「当然といえば当然だけど……やっぱり、向こうのものとは全然違うよね」
パームが普段身に着けているのは、どちらかと言えば和の分類になるだろう。
一方で、ノネット村に売られているものは、洋に近い。
例えば花をモチーフにしたアクセサリーならば、桜や梅ではなく、アネモネやジャスミンが取り入れられている。紐の編み方ひとつとってもまた雰囲気が違って感じられるのだから、ものづくりとは奥が深い。
ひとつふたつ、テントを巡り。パームはようやくピンと来た品物を手に取った。クルミや羽根で飾られた、つば広の帽子だ。
かつて寒空の夜闇にソプラノの歌声を届かせたパームは、周囲のもの全てを楽器に仕立て上げ広く響かせる詩を紡いだ。あの時の妖竜は元気だろうか。巡る記憶の波にふと口元も緩む。
パームは、度々この世界では吟遊詩人であった。奏でる歌で勇気づけ、戦場に立つ者達の心を奮い立たせる。今は自称だとしても、初めは皆無名から始まるものだ。いつかきっと、鴇羽衣の吟遊詩人として伝わる日も来るだろう。
だから、まずは形から。この世界で作っているものを使ってみれば、もっと説得力も増していく。
「ふふふ。何か良さげなもの、あるかなぁ」
「お嬢ちゃん、探し物かい? あたしゃここらのものはようく知ってるからね。何だったら力になるわよ?」
弾む心と沸き立つ想いは口から溢れ、それを聞く者がパームに声をかけた。口に出ていたとは思わず、あっと手にした帽子で口元を隠すがもう遅い。見れば店主らしきおばさんが人の良い笑顔でパームを見ていた。
らしさを目指していくならば、聞いてしまうのが早いだろうか。直接的な表現は避け、探し物をふんわりと伝えてみれば相応しいものがあると言う。
それから数分。女主人が差し出したのは、小さなドームの飾りが付いた透明なオカリナだ。ドームの中には木の実や花が入れられて、小さな箱庭になっている。
「あたしの自信作さね。これも何かの縁だ、持っていきなお嬢ちゃん」
「ふふ、良いの? とっても綺麗……ありがとう」
帽子のおまけにオカリナひとつ。紡いだ縁は、感謝と共に詩に編み込んで奏でるとしよう。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
【兄妹】
◎
芸術品や技術の宝庫だなァ
この村の伝統や秘密の書は興味あっから買っとくか
誘惑?いつするンだ馬鹿
テメェの冗談に聞こえねェし
俺は狩った肉を料理出来る場所探すぜ
あまり人目につかねェ調理場の奥とか
作り慣れてねェが第六感と村人に聞き調理開始(鼻歌混じり
仔竜の肉の希少部位を適度な温度で焼きステーキに
味付けはシンプル
茸と何かの卵、食べれる草、肉を混ぜ皿に入れて焼く(キッシュ
残りの肉は衣つけて揚げる
マスタードを塗り野菜入れてパンで挟む
ぁア?別にテメェの為に作ったワケじゃねェ勘違いすンな
俺が食いたくてだ
まァ食わせてヤ…る気が失せたが今回は特別だクソ(肉サンドをカイトの口へ捻じ込む
美味いのは当然
味見したし
杜鬼・カイト
【兄妹】
◎
離れがたいですけれど、アクセ作りが終わるまでしばしお別れです
「オレがいないからって、他の人を誘惑しちゃだめですよっ!」
ビシッと指差し、恐怖を与えr…なーんて、可愛い妹のちょっとしたジョークですよ?(にっこり)
兄さまと別れてアクセ作り
手に入れていた素材以外にも、使えるものは使いたい
瑠璃石がワンポイントの皮ひもの腕輪を作成
もう一つ、柘榴石の腕輪も
意気揚々と兄さまと合流
「兄さまがオレのために作った料理、嬉しい!」
食べさせてくださいと言わんばかりに口を開け待機
「美味しい!」
オレからも兄さまに瑠璃石の腕輪をプレゼント
えへ、オレの柘榴石の腕輪とお揃い
兄さま、ずーっと一緒ですよ?
●
ものづくりの村はそれこそ価値ある芸術品や技術の宝庫と言っても過言ではない。
加えてノネット村は保守的ではなく、広く技術を伝えようとしているのだから前進的だ。腐る技術は無価値になる。それをよくよく知っているのだ。
一番奥のテントには、クロウの興味をそそる品々が揃えられているという。市場での野暮用を済ませた後はそのテントに篭ってみるのもいいだろう。なんならものづくりの技術を盗んでいこうではないか。
「オレがいないからって、他の人を誘惑しちゃだめですよっ!」
ビシッと人差し指を立ててにっこり笑顔でカイトが言う。わざわざクロウの進もうとする先に回り込んで言うのだから面倒この上ない。
「誘惑? ンなもんいつすんンだ馬鹿」
「うふふ本気にしました? なーんて、可愛い妹のジョークですよ、ジョーク」
などと言うが、クロウの背に走ったヒヤリとした感覚は紛れもなく本物だ。本能を刺激する感情を呼び起こしてまで言うジョークがあってたまるか。
「テメェのは冗談に聞こえねェし」
ふんと鼻を鳴らしてカイトを進路上から押し退ければ、クロウはさっさと目的の場所へと足を運ぶ。
次こそはカイトも邪魔しなかった。こちらはこちらでやりたいことがあるらしい。
クロウが向かった先は調理場だ。
既にシェフが手掛けた料理が並ぶが、自らの手で作りたいと申し出れば快く場所を譲り受ける。村人たちもどうやら他処から来た料理人の腕前が気になるようだ。
そんな人目を避けに避けつつ一番奥へ。未だ見る目はあるが、先よりは気にもならない程度。
今日の食材は初めての物だ。かつ作り慣れてもいない。が、ここには沢山の料理人が滞在しており、借りられる手はいくつもある。旨い物が出来ること間違いなしだ。
村人たちには聴き慣れないリズムで鼻歌を歌いながら、クロウは早速フライパンを熱していく。獲った仔竜の仕込みは昨夜のうちに済ませておいたのだ。今から焼くは、数十グラムしかない希少部位。味付けはシンプルに、焦がさぬよう気をつけながらステーキに。香草での香り付けを済ませれば、食欲そそる匂いが辺り一帯に充満した。
それから茸とこぶし大の魔鳥の卵、カイコガイに似た形をした野草に肉を混ぜてキッシュにする。こうすることで余すことなく肉を使い切る算段だ。
それだけではなく、挽いた肉に衣をつけて揚げ物も。こちらはマスタードを塗って野菜とともにパンでサンド。お好みで焦がしソースもかけてやればまた一層コクも増すだろう。
一方その頃、カイトは後ろ髪ひかれる思いで足を重たくしながらも、アクセサリーの店にいた。手に入れた素材は数あれど、見たことのない輝石や鞣し革もあちこちに見られる。
「これ、どんな素材使ってるんです?」
「んー? ああ、それはワニだね。あの森に流れる川の奥の方にデッカいのが棲んでるのさ」
店主らしき女主人にあれやこれやと質問しながら質の良い品を揃えていく。使えるものは全部使うのだ。今から作るものは、一生物になるはずだから。
麻袋をごそごそ探り、カイトは鉱石を取り出した。合金竜から得られた素材は昨日のうちに検分して、カイトにとって最高級のものを厳選してある。
瑠璃石がひとつ、手のひらに。それからもひとつ、柘榴石。
あまり派手にならず、しかし安物のにおいは感じさせず、上品な鞣し革を使ってものづくり。この二つの石が、それぞれの腕輪の主役になるのだ。
あんな別れ方をしておきながら、兄妹というのは通じ合うもの。いや、カイトの愛情ゆえの嗅覚だったかもしれないが。
意気揚々と完成したアクセサリーを持ち込んだカイトは、クロウの手元を覗き込んできらきらと瞳を輝かせた。
「兄さまがオレのために作った料理、嬉しい!」
この妹、見習いたいぐらいポジティブシンキングである。
「ぁア? 別にテメェの為に作ったワケじゃねェ勘違いすンな。俺が食いたくて、だ」
この兄、見事なまでにツンギレである。
そんなクロウの言いように堪える様子もなく、カイトは雛鳥のようにあーんと口を開けて待機していた。
クロウはカイトの姿を視界に留めて、見るからにうげえという顔になる。まァ食わせてヤるかという言葉の途中で沈黙が入り。
「ヤ……る気が失せたが今回は特別だクソ」
出来上がってアツアツジューシーな肉サンドをカイトの口へねじ込んだ。冷めるまで待つ? ンなコトするか。
しかしカイトはそれにも挫けずモグモグ味わって咀嚼する。口にするまでもなく表情が美味しいと言っていた。
「……美味しい!」
口にも出た。
クロウはクロウで、それを当然のように受け取る。なんたって味見済み。旨いのは確認済みなのだから。
さて貰ってばかりでは立つ瀬もない。折角作ったお揃いの品を渡さずして終われるものか。
「オレからも兄さまにプレゼントがあるんですよ?」
「まるで俺がテメェの為に作ってたみてェに言うンじゃねェ」
「じゃじゃーん!」
「聞け」
まあこんなものいつも通り。
カイトがクロウへ差し出したのは瑠璃石の腕輪。オレが付けてあげますよーなんて半ば強引に腕輪をはめて、こつりと自分の腕輪と合わせる。
ふたつでひとつ。二人で一人。
「えへ、オレとお揃いです」
それからにっこりカイトは笑って。
「兄さま、ずーっと一緒ですよ」
ぴりりと背中を刺激する、言霊を最愛の兄へと残した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五百雀・斗真
WIZ
いたずら仔竜の傷が心配なので
前日に【やすらぎの唄】で治療し
次の日になったら仔竜のお世話をしてる村の人に会いに行ってみる
村の人に訊きたいのは…仔竜を連れて帰るのは可能ですか?という事で
可能なら二匹ともすっっっごく大好きなので、二匹とも…と思ったけれど
おともの子は元々村の仔竜だし、友達がいたら別れが辛いかもしれないし
いたずら仔竜も別の世界に行くのをどう思うかも気掛かりなので
二匹の気持ちもちゃんと確認したい
もし連れて帰るのは無理だと言われたら
召喚か何かで呼び出すのは大丈夫でしょうか…?と訊き
大丈夫なら召喚に役立ちそうな道具か何かをお店で探したい
どちらも無理な場合は二匹を抱きしめてお別れします
◎
●
オレイカルコスに受けた傷もすっかり治り、いたずら仔竜は斗真によくよく懐いたようだった。
斗真の奏でたやすらぎの唄は仔竜のお気に入りになったらしく、市場が開かれるまでの間に何度か強請ってはくうくうと喉を鳴らした。怪我をすれば歌ってくれるのかと悪知恵を働かせた仔竜に、斗真は振り回されてばかりだ。
ひとまずいたずら仔竜は腕の中。それはそれで満足そうな仔竜を抱え、斗真は今日もまた村に住み着いていた仔竜の案内を受ける。行き先は、仔竜がよく世話になっている村人の元だ。
どうやらくだんの村人は市場の一角で店を出していたようで、仔竜がはたはたと尻尾を揺らしながら近付いていくと一旦店のことは後にして仔竜を抱え上げた。
「おかえり。アンタがあのデカい竜をとっちめてくれたヤツかい?」
うちの子が世話になったねえとほのぼの告げるのはふくよかな男だ。周りには他の仔竜もいて、帰宅した仔竜を取り囲んではきゃいきゃいすぐに遊び出す。
そんな様子を見た斗真は、難しいだろうかと口を噤んだ。ここを離れて旅立つという事は、即ち別れを意味するからだ。
逡巡する斗真を見て、男は朗らかに話を促す。来たからには何か用事だろうと言いたげに。
「その、仔竜を連れて帰るのは可能ですか?」
ようやくと口にした言葉は直球だ。あれやこれやと言う余裕もなく、ちらりと男を伺って。
男は男で予想済みだったのか、ガハハとそれはもう景気良く笑ったのであった。
「構わんさ。後はその仔次第だねえ。ウチはな、来る者拒まず去る者追わずってヤツさ」
ほれ、と仔竜の輪の中から共に過ごした仔竜がクレーンのように持ち上げられる。びろりと伸びた仔竜の姿は、走る緊張感に似合わずに、斗真はふっと笑みを零した。
「僕と一緒に来てくれる?」
「んきゅ!」
仔竜の答えは明瞭だった。
冒険好きな仔竜たち。新たな出会いがあるとなれば、きっと迷わず飛び込むのだろう。
けれども今日は、友達と。斗真もそれは思っていたようで、腕にいたずらっ子を抱えたまま戯れる仔竜たちをそうっと見守る。店主の男も快く受け入れてくれ、斗真の為に夕飯を振る舞った。
村の仔竜の次は、君の声。いたずら仔竜を見下ろせば、じいと見つめる瞳と出会った。斗真が何か言い出す前に、仔竜は小さく喉を鳴らして鼻を擦り寄せる。
きっと、斗真が悩む前から、仔竜の答えは決まっていたのだろう。
「なぁアンタ、明日にゃもう帰るんだろう?」
「ああ、はい。そうですね……」
ずっとここにいるわけにもいかない。素直にそう答えると、店主の男はなにやら斗真に差し出した。
三種類のブレスレット。アクセサリー作りに特化したこの男は、店仕事の間を縫ってそれぞれにあった腕輪を作り上げていた。
「餞別さ。ま、たまにはうちに顔だしてくれ。これっきりってのも寂しいからな」
「――はい」
魔獣達と生きるノネット村。この村には、誰もが羨む種族を超えた絆が確かに存在していた。
大成功
🔵🔵🔵
都槻・綾
f11024/花世さん
仔竜のみどりさんと
◎
宝石箱の如く
何処も彼処も煌いているから
天幕を廻る足取りは
葉に弾ける雨滴みたいに軽い
――あぁ
斯様に書が沢山
眼差しが一際耀いた先には
数多の本の山
抑えきれない希求心に吸い寄せられて手に取る数々
題名や装丁に至るまでを慈しみ、指先でなぞる
傍らで首を傾げる竜の仔へ微笑んで
文字や意味を詠うように読み聞かせれば
愛らしき一鳴
きっと礼に違いない
みどりさんの頭を撫でたところで
花世さんからの訴えに瞳を瞬く
対抗心だろうか
仔竜と仲が良い事へのやきもちだろうか
何れにしろ可愛くて
楽し気に肩を揺らし
…良いですよ、どれを読みましょうか
胸を弾ませ
双眸を耀かせて
さぁ今度は
書の旅へと出掛けよう
境・花世
綾(f01786)と
◎
懐いた仔竜を肩に乗せて、
人混みに逸れないように
きみと手を繋いで天幕を巡ろう
どれも魅惑的で跳ねる足取り
だけど綾の一番はきっと書物だ
予想通り耀く眸に密かに笑って
隣で一緒に背表紙を辿る
やがて耳を擽るのは、
不思議に満ちた世界の
謎を紐解く鮮やかな冒険譚
滑らかで心地良いきみの声は、だけど、
わたしのためじゃなかったみたい
……みどりちゃんはいいな
綾に読んでもらえて、いいなあ
唇尖らせてねだる花色の眸は
きみのいらえにぱっと咲いて
いそいそと茜の王国の物語を選び取る
貰った鱗とおんなじ彩した装丁は
きっとふたりと一匹を、
胸躍る冒険へ連れてってくれるから
あ、あと、大事なこと
撫でるのも忘れないで、ね?
●
紡いだ絆が嘘ではないと語るよに、仔竜は花世の肩に落ち着いては古時計のように尾を揺らす。
何処も彼処も宝石箱のように煌めいて、咲く笑顔は天幕の袂に光を招いた。
嗚呼、平穏に満ちている。金剛の竜が壊し潰し蹂躙する未来などなかったのだ。
綾の足取りは軽やかだ。青々とした葉に灯る小さな雫が弾けて隣へ跳ねるように、数多の天幕を転々と辿っていった。
花世も花世で魅惑的な誘いに足が進む。宝石煌めくアクセサリー。鉱石生み出すいのちの守護物。心身満たす料理の数々。どれもこれもに興味と意欲を唆られた。
けれど、一番は。
「――あぁ、斯様に書が沢山」
綾の緑が一際耀いた先には数え切れぬ本の山。
抑え切れぬ希求心に吸い寄せられ、綾が手に取る深緑の装丁には、ラ・カージュ創立譚が綴られる。この一角は村の成り立ちや経緯を綴った物が多いのだろう。少し外れればこの世界独特の童話や逸話が綴られる。
綾がしとりと背表紙をなぞる。細められた瞳には優しい光が内包され、辿る指先には慈しみが込められた。全てを余すことなく堪能している。
ここまで全て、花世の予想通り。綾の邪魔をするでもなく、隣で背表紙を辿りながら口元を緩めた。
いつの間に離れたか、興味を隠さず本を手にする姿に興味を持ったか、仔竜が綾の隣に立っていた。あまりに夢中になるものだから、面白いものでもあるのかと仔竜が鳴いて訴え首を傾げる。
仔竜も本は好きなのだろうか。
目に付いた一冊を引き抜けば、仔竜と視線を合わせて綾が詠う。それは、とある冒険者の物語。不思議に満ちた世界の謎を紐解く冒険譚。初めは掃いて捨てるほどいる冒険者の一人だった主人公が、とある少女と出逢い運命の歯車が狂っていく――。
「その時、少女が言いました。ああ、どうか、わたくしのことは忘れてください――」
滑らかで、心地の良い声が物語を綴り行く。
ストーリーがクライマックスを迎え、ハッピーエンドを告げる頃、聞き入っていた仔竜が一鳴き愛らしく。ありがとうと告げるよに、くるくる喉を鳴らして綾へと甘えた。
その声に振り向いた花世は、ちょっとした勘違いを自覚した。聞き入っていた声が向かう先は、自分ではなくみどりちゃん。
「……みどりちゃんは、いいな」
ぽつり、溢れる本音。じっと見つめる薄紅は、件の仔竜を撫でやる綾の意識に届いた。本をなぞった指先で、今度は仔竜の頭をなぞった綾がはたりと瞬いて。
それが対抗心なのか、やきもちなのかは分からない。けれどやっぱり絢爛に咲く春の君が可愛くて、くつくつ肩を揺らして楽し気に。
「……良いですよ、どれを読みましょうか」
尖り蕾を描いた唇が、その言の葉で綻んだ。花色の眸はさやかに咲き、手に取る一冊を綾へと差し出す。
選び取るは茜の王国の物語。貰った鱗とおんなじ彩写す装丁は、きっとふたりと一匹を胸躍る冒険へ連れていってくれる筈。
さあ、胸を弾ませ眸を輝らし、いざいざ行かん書の旅路。
けれど忘れてはならぬ大事なこと。
ちろりと伺う花色が、綾の指先をじと見つめる。
みどりちゃんは、いいな。
読んでもらえて、――撫でてもらえて。
勿論良いですよと言ったなら、旅が終わった暁には撫でること。
大事なことも、お忘れなく。ね?
●
かつては罪人に与えられた就労の一環で始まったこのラ・カージュ。物々しい名前は原初を思えば得心ものだ。
どのような道を辿って今に至るかは書の中に。今や村を代表する市場となり、ノネット村を支えてきた。
さあ、終わりの時までもう少し。日が沈み、市場が終わるまでの時間、猟兵たちは各々自由に過ごすことだろう。
ある者は仔竜を連れ、ある者は別れを告げ、このノネット村を去っていく。
けれど、これは始まりだ。いつの日かまた、呼ばれるまで――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵