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【サポート優先】そこは元々わたしの居場所

作者：一縷野望

　これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです（通常参加者を採用する場合もあります）。

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「学校って、一定の秩序を教え込むには丁度良い施設だねぇ」
　一応は學徒兵の身分も有する比良坂・彷（天上随花・f32708）は、紫煙を吐いてこう続ける。
「舞台はアポカリプスヘルのとある学校校舎の廃墟。かつての学生や教師、その他職員が拠点ベースにして生活してるよ」
　彼らは屈強なる精神の持ち主だ。学び舎の設備を利用して寝起きをまかない、バリケードを築く。他の拠点に全く引けを取らないどころか、有志による「授業」や「研究発表」を行うことで知識と技術を高め合う凄腕の奪還者集団である。
「予知に掛かったってことはつまり、その生活が壊されるってこと――」
　必死に抵抗するが、力及ばず死に果てる。
　その結末をねじくって生存者を増やすのが猟兵の仕事である。
「少女型ホムンクルスの亡霊が各所に現れる。１カ所１体と侮るなかれ、無数の『妹たち』を召喚しやがる」
　妹を憂い、しかし想像上の妹を手駒にして嗾ける。
　煙草を躙り長い長い息を吐く。
「どうもね、この学校は元々はホムンクルスの研究所兼製造工場だったようなのよ。もしかしたら元々ここに憑いてたのかもね」
　それが今になって出て来たのは、具現化させた黒幕がいそうだと彷は付け加える。
「校舎にいるのは生徒が５０名、教師を含む職員が２５名……だいたいだから誤差はあるよ。彼らは校内の作りを熟知してる。庇いながら上手く戦ってね」
　ホムンクルスの亡霊はつくり変える前しか知らないので、アドバンテージはこちらにあるのが幸いだ。

第1章 集団戦 『廃棄11pa型』

POW   :    わたしは、こう戦える 無敵の【戦闘用ホムンクルス】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。 SPD   :    ここに近づいては駄目 【ナイフ】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。 WIZ   :    みんなで、まもろう 自身が【怒り】を感じると、レベル×1体の【色違いの瞳もつホムンクルスの幼い姉妹】が召喚される。色違いの瞳もつホムンクルスの幼い姉妹は怒りを与えた対象を追跡し、攻撃する。 イラスト：mura 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

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　転送直後の向・存（葭萌の幽鬼・f34837）が聞いたのは絹を裂くような悲鳴だ。
『だめ、だめ、だめ、だめ、だめ』
『いやっ、あぅっ！　あぁあ！　あぅ！』
　血の気の失せたホムンクルスの亡霊に羽交い締めにされて、女生徒がずっとナイフでの斬りつけを浴びている。
　傷は、浅い。
　だが、執拗。
　肩甲骨の辺りを刺しては一文字、延々と浅い切り傷を増やしていく。じわりと滲む血はじょじょに服を朱く染め、応ずるように少女の唇は白く乾いていく。
「いただきますよぉ～」
　存の口ぶりはいつも通りゆったりしているが、その手さばきは鋭い。あっさりと亡霊から女生徒を盗み取ると、わざと敵に背を向け盾になる。
　ちゃくっ、ちゃくっ、ちゃくっ……。
　ナイフが存の背に刺さり出す、瑞々しさにやや欠け纏わり付く水音を聞きながら、女生徒に手早く包帯を巻く。
「もう大丈夫ですよぉ～。すぐに救護ルームにいきましょぉ～……っと、その前に、お片付けしないとですねぇ～」
　わざとナイフ側に倒れかかり手首を掴んでねじ上げる。肉を抉り胸から切っ先を生やしながらも存は微笑みを絶やさない。
「よっと！」
　後ろ手にホムンクルスの腕をもぎ取って肘鉄で喉笛をつく。亡霊は倒れる音すらたてずに消え失せる。
「それじゃあ案内をお願いしますねぇ～」
　見るからに致命傷の存を前に、女生徒は瞳を皿のようにした後でおずおず頷き歩き出す。その足取りがしっかりしていたので、存はほっと胸を撫で下ろすのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

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「学生で戦闘員ですか……銀誓館となんだか重なりますね」
　ここにも「死と隣り合わせの青春」がある。
　鈴乃宮・影華（暗がりにて咲く影の華・f35699）は、既に『普通』から逸脱したこの世界に憂いを抱く。だが、世界の根底からひっくり返し、無辜の民を危険より遠ざけるのは余りに手が余る。
「いいえ、この学び舎で研鑽を積む日々こそが、皆さんの日常なのですね」
　わらわらわら。
　色のないツインテールの少女の群れが教室に収りきらず溢れかえる。
『でていけ！　でていけー！』
『ばけものめ！』
　教室の机をつみあげ作ったバリケードの奥より、椅子やチョークを投げつけて応戦する学生達に、影華は惜しみない拍手を送る。
　ぱちぱちぱちぱち。
　巫山戯ているのではない、そうやって空間が叩かれるたびに、生徒達はこの校舎の中で比較的安全な場所――『棲処』にワープされているのだ。
　獲物の発する『怒り』が消失した。
　そして影華の心に『怒り』はない。
　故にホムンクルスの姉妹達は動きを止める。
「さようなら」
　銀色の楽器ケースが火を噴いたかと思うと、少女らは１人残らず灼き尽くされる。

成功 🔵​🔵​🔴​

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『だめ、だめ、だめ、だめ、だめ』
　無機質にナイフを振うホムンクルスを前にして、男女生徒と女教師が震えている。
『やだ、なにコイツ……キモ』
『どけよ！　ぐあっ、痛えぞちくしょお！』
『……駄目よ、落ち着いて。別の道を探しましょう』
　階段に活路を見出すも、上階には別のホムンクルスのツインテールが翻っている。
　――シュッ！
　風切り音の直後、上階のホムンクルスが動きを止めた。血飛沫が踊り場に繊細な模様を描くも、すぐにハイヒールの踵に踏みにじられる。
「！　動かないで。すぐに助けるわ」
　政木・朱鞠（狐龍の姫忍・f00521）だ。血に染まる荊野鎖をホムンクルスの首に巻き付けて、一足飛びで生徒の間に割り込んだ。
「上階は安全だけど、私がガードするわ。こいつも片付けるから待って……ねッ」
　背後に説明しながら、猿轡と手枷を淀みない手つきでかけて自由を奪う。
「……血を見るのが恐いなら目隠しお願い」
　おずおず頷く女教師が女生徒の目を覆い、男子生徒も抱き寄せた。直後、朱鞠の手元で肉が弾ける感触。
　霊体ながらも血肉を散らしホムンクルスを消し飛んだ。
「もう大丈夫よ。さぁ、案内してくれる？」
　ふうっと一息、わざと明るい調子で朱鞠は振り返り笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　廃棄11pa型ホムンクルスは戦闘用である。
　アポカリプスヘルを生きぬくたくましさはあれど、一般学生と教師などものの数ではない。
　机で作ったバリケードだが、突破されるのはもはや時間の問題だ。
『ここは先生に任せて逃げなさい！　はやくっ』
　若い女教師は、研究資料を生徒に押しつけバリケードの最前線へ。
『あとで必ず行くわ、約束……ふぐっ！』
　バリケードを突き壊しかけたナイフが胸に突き刺さる。胸にパッと薔薇が咲いたように血液が噴き出した。生徒達は彼女の死を悟り、ただただ震えるしかない。

「――大丈夫、間に合ったからね」

　唇からも大量の黒紅の液体を吐き出して、口端を持ちあげる笑い方は生真面目な教師とは違う。
　女教師の輪郭が滲んだかと思うと、クローネ・マックローネ（｜闇《ダークネス》と｜神《デウスエクス》を従える者・f05148）が剥がれるように現れる。
「……ッと、危ない」
　膝を折る女教師を、数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）のがっしりとした腕が支える。足はカブのシートをがっしり捉えている。
「おい、クローネさんも大丈夫か？」
　先ほどまでタンデムしていた仲間を気遣うと、ひらりと手がゆれた。
「あら不思議★これっくらいの傷なら、なかったことのように治せちゃうよ★」
　掌から溢れた昏い光がクローネを包み込む。言葉に嘘はなく、人ならば致死の傷が縁から塞がりだしている。痛覚すら騙し肉体の新陳代謝をデタラメに高速回転すればご覧の通りだ。
「みんなの護衛ばっちこい♪もうすぐケロリと治るから」
「ＯＫわかった。じゃあさ、道あけてよ」
　未だ気絶する女教師を生徒に託し、多喜はアクセルを吹かす。
「安全第一で行くけど離れてなぁ！　……どぉりゃああーー！」
　ぎゅるりと勢い余ってのウィリーも慣れたこと。じゃじゃ馬"JD-Overed"はゴンッと前輪でバリケードを叩き潰すと、そのまま前方にはね飛ばした。
『来た』
『ねえさま』
『よけて』
『死なせない』
　ナイフを振り回す『姉』を庇うように無機質な瞳が一瞬で数を増やした。だが華奢な身は多喜に害を及ぼす前に、バリケードの残骸に急所を抉られ消滅していく。
「流石、本体が残ったか。さぁ１対１で勝負だっ！」
　爆走するカブのシートに立ち上がり、すれ違い様の首狩りラリアット。ぐしゃりと壁にめり込んで息絶える。
「……ってて。おわっ、けっこー血が出てるな」
　勢い余って自身も壁に激突した多喜は振り返りサムズアップ。顔面血だらけなのを見て、女生徒が慌てて包帯を取り出した。
「こんなん撫でときゃ治るさ」
「猟兵は頑丈ですからね★お片付けお疲れ様、ベースに移動しよ♪」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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　アポカリプスヘルに暮らす以上、死とは隣り合わせは免れない。それでも、覚悟が出来ているかというとそれはまた別の話だ。
『来るなぁ！　来るなぁああ！！』
　棒きれを手に必死に追い払おうとするポニーテールの少女。背には良く似た少年を庇っている。
「んにゃあ……これはよくないのにゃあ、とっても辛いのにゃあ」
　茶色いおみみをきゅうっとひっぱりミーヤ・ロロルド（にゃんにゃん元気っ娘・f13185）は頭を縮こまらせる。だが既に少年少女の盾になっている。
「そうにゃって怖がりにゃがら、しっかりちゃっかり二人を庇っちゃってるにゃんて……ヒーロームーブにゃ！」
　アイクル・エフジェイコペン（クロスオーバー三代目・f36327）はむいーっと唇を尖らせる。
　なんだろうか、猫というキャラがモノホンにもってかれた絶望感が半端ない。しかも人を護るムーブとか、もう、なんか……。
「ふにゃあ！　それもこれもぜーんぶおみゃえが悪いのにゃ！」
　ここはＹＡ★ＴＳＵ★Ａ★ＴＡ★ＲＩ　にゃ！
　そう決めたら話ははやい。ナイフを虚ろに振り回すツインテールホムンクルスの元へ、アイクルはふしゃーっと飛び込んでいく。
「ぶっこ……ろがすにゃあああーーー！」
　足首掴んでびったんびったん！　もひとつオマケの高速びったん連打だー。
　……克明に描写するととてもえぐくなるので、ここはそっとスルーさせて欲しい。
「はぁい。恐い恐いはぁ、ないない。あまーいお菓子で元気チャージにゃん♪」
　今にも泣き出しそうな幼い少年にてのひらサイズの苺チョコをころり。涙を浮かべた瞳がパチパチするのに、ミーヤはにっこり。
「おいしいにゃん。あ、お姉さんもどうぞにゃーん♥」
　お口にもひとつぽいっと放り込む。遊んでいるわけではない、ミーヤのこれは立派な戦闘行動だ。
「アイクルさーん、あげるにゃーん」
「は？！　手作りスイーツ、だとぉ？！　女子力まで高いにゃあ？！」
　パクッとお口でチョコレートをキャッチ★あまあまになったなら、おや？　ホムンクルスの動きがめちゃくちゃ遅くなったぞ？！
「お前、雑魚にゃあ？　やっちまうのにゃーー！」
　アイクルの速度は変わっていないのだが、ホムンクルスはのたのたと抵抗不能状態でびったんびったんされている。
『なんだよ、とろくなったぞあいつ』
『だね』
　チョコレートをあむあむする姉弟も不思議そうにしている。そこへミーヤがパチンとウインクする。
「お菓子のパーティ、不参加の子は足が遅くなっちゃうにゃん♪」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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『11pa型』』などと無機質な番号をつけられているが、彼女にも相応の物語があったのだと信じたい。
　そのように夜鳥・藍（宙の瞳・f32891）が思うのが、影朧からの転生であったとうっすらであれ知っているからか。
『ここに近づいては駄目』
「ここに近づいては駄目です」
　ナイフを振うホムンクルスと藍の声がほぼほぼかぶる。同じ意図を有していたはずなのに、藍は生徒達を背に庇い、ホムンクルスは追い払うという体で殺しにきている。
　淡々とナイフを振り下ろす動きは、藍からはすぐに見切れる。
「――」
　だから瞼をおろし集中。一見すると無防備であるが、その実、体中に目があるようなもの。スイッと身をゆすり、単調なナイフは全て躱す。
「参ります――」
　そうしてあたらぬ盾と振る舞い続けるつもりはない、集中から結び出された一閃は手首を飛ばし、続けて喉笛を斬り裂く。
　圧倒的な剣技に目を見張る生徒達へ、藍は頬をゆるめて微笑みかける。
「もう大丈夫です。拠点までも護衛いたしますよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

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「わぁ、学校なんて懐かしいですねぇ」
　谷保・まどか（バルバロス委員長・f34934）は豹のビキニに包まれた豊かな胸をゆっさゆっささせて銃痕や引っ掻き傷のある廊下を歩く。
　眼鏡越しの瞳には、拉致されてから遠く離れた「学校生活」への憧憬が滲むのだ。
「ここは普通の学生生活からは程遠いと聞きましたけれど、学校は学校です。護らないと……はっ！」
　背後からぺたりと冷たい掌がまどかの頬を撫でさする。まさに白と黒のコントラストが美しい。
「ちぇすとーー！」
　ぐんにゃり。
　たわわの肉が全身から移動してつま先へ。巨大なる踵おとしでツインテール少女の頭頂を叩き割る。
　ぐしゃっと首を捻らせて投げ出された躰は、廊下を穿ち壁を傾がせる。
『だいじょうぶ。それでは倒せない……』
　そっと影より現れた本体が囁くと、首が曲ったままで立ち上がる。
「ひぃ！　……じゃなくてですねぇ……」
　バーバリアンモードでとことんまで戦うのも勿論ありだ、けれども先ほどの衝撃で崩れそうな床から後ずさる生徒達がいる。彼女らを助けるのが先決である。
「よいしょっと。はぁい助けに来ましたよー。ベースまで案内してくださーい」
　ぴょーいっと崩れた穴を飛び越えて女生徒達の元へ。まどかは大きな背中で庇い明るく促した。
　人命救護、これが第一義である。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　少女が二人、必死に走り逃げている。
　勝手知ったる校舎内、だが、痩せたホムンクルスは時にワープをして追い縋る。
　少女らは非常に心優しい。だからか、仲間が待つ教室も、大人達が作戦を立てるベースも、どこへも逃げ込んではいけないと自身を追い詰めてしまう。
　選択肢が潰えた先は袋小路、わかっていても逃げるしかない。
　――いきなり目の前が石壁で遮られる。
『ヒッ！』
『ど、どうなってるの！』
　ついに悲鳴が溢れそうになったのを、もう一人が必死に口をおおって止める。
　冷や汗をかいた頬の先、金色の髪をつり下げた見たこともない怪物が、のそりのそりと歩いて行くではないか！！　それも１体ではなくて、無数にいる。
　ガタガタと抱き合って震える肩を、あたたかな掌が更に上から包み込む。
「大丈夫だよ。あいつらは、二人にはなぁんにも悪いことはしないからね」
　アウル・トールフォレスト（高き森の怪物・f16860）の囁きは川のせせらぎのように心地良い。
　瑞々しい緑からは縁遠いアポカリプスヘルにて、二人はおひさまに照らされた木々を見る。
「さぁ、もっとこっちへおいでよ。わたしが抱っこしていてあげるよ。それで１０数えたら、怖いものもこの迷路もなくなるよ」
　豊かな双丘に少女達を押しつけて、甘えるようにうっとりするのを慈しむ。
　――遠くでは、ホムンクルスが怪物達に腕をへし折られて骸の海に還される。石壁は微かな骨の折れ肉が弾ける音などあっさりと遮ってしまうのだ。
　約束の通りに、１０数えたら終わった。
　少女達はアウルに送られて無事にベースに戻るのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

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「ふむ、空気が淀みきっておるのじゃ」
　御形・菘（邪神様のお通りだ・f12350）がのたくる尾に埃が纏いつく。このような場所で暮らす民草の鬱屈を思うと、非常に心が痛む。
「だねー、重たくって毎日が灰色ＤＡＹＳって感じだよ。よくないよ、よくなーい」
　キャスケットを押さえ首をふる神崎・伽耶（トラブルシーカー・ギリギリス・f12535）も、すっかりと隣の蛇神様と打ち解けている。いまも話していたのも、如何にすれば動画映えでいいねが増やせるかのアイデアあれこれだ。
　とはいえ、二人は手練れの猟兵だ。常に周囲へビリビリとした警戒を張り巡らせている。
「なんかね、今回の敵さんだけど、増えるらしいよ」
「ほう、大量の敵をバッタバッタと薙ぎ払うのはウケが良い」
「あとー、想像は無限大っというか、強いって思ったら強いのがでてくるんだって」
「ならば心を」
　菘は、ググッと拳を握りしめて、パキンッと鈍色のなにかを砕く。
「へし折ってやれば良いのじゃ！」
　ナイフだ。
　目の前に、ナイフを突き出していたツインテールの痩せた少女が、いる。11pa型だ。
「あやや」
「ふっ」
『――みんな、きて』
　か細い悲鳴めいた呼びかけ、まばたきのちょっとで床から壁から窓から、なにより虚空から少女にそっくりの『妹達』が湧き出てきた。
　伽耶と菘の前にも後ろにも少女の海が満ちた。もう最初にナイフを取られた子がどこにいるかもわからない。
「じゃーあ、行ってきまーす」
　片手でキャスケットを押さえて宙返り。少女の山をぴょいっと跳ねて、見つけた吹き抜けは４階以上の高さがある。
「ラッキー、よいしょっと！　わぁん……」
　わたわたっと落ちかけた所を必死に空気階段を駆け上る。伽耶の帽子からは自撮り棒がはえていて、菘がちゃっかりモニタリング中。
「ふははっ！　よぉやるよぉやる！　あっぱれじゃ！」
　ぐりんっと盛んに宙返りする風景はジェットコースターの迫力に勝るとも劣らない、手に汗握る興奮だ。別視点で伽耶がどんどん昇っていく様は、第三者視点からもバッチリ撮影中、抜かりはない。
　――そんな菘だが、入れ替わり立ち替わり現れる少女に、ザックザックとそこいら中を突き刺されている。柔肌も、かたい蛇の尾も、もはや肉が裂けぱくりと中身が見えている。すわっ！　絶対絶命か！！
「！！　やだ！　待って待って、菘ちゃん大丈夫なのーー？！」
　吹きあがるキャスケットを捕まえて、伽耶が目を丸くして｜落ちてくる《・・・・・》！
「んー？　いかんいかん、このままではお主に見せ場をかっさらわれるのぅ……ふんっぬっ！」
　禍々しいオーラが血と共に穴という穴から溢れ出し、ナイフを絡め取って腕ごと砕く。周囲からあがるか細い悲鳴がかゆい。
「さぁ、さぁさぁさぁ、妾はこれでケロリと無傷よ。ほうれ、またまた掛かってくるがよい」
　１００回死ぬ程刺したのに……。
　ぴぃと、雛鳥めいた声が方々から上がり、明らかに怯え後ずさる。おろおろおろおろ、親を求めて見た先には最初の｜ホムンクルス《姉》がいた。
『……え、え、うううぅ』
　姉の心にある『完璧に強い妹』の像は今や粉々に砕けている。
　そこにだ、そこにだよ！
「どぉおおぉおおんーーーー！」
　伽耶の伊達と酔狂を掛け合わせた落下ダメージがドン！
　姉を抱き込み床板を粉々するだけでは飽き足らず、波動砲の如く群がる妹達を足元から巻き込み錐揉みに陥れるのだ。
「ふっ……」
　錐揉みでぷるぷる震える妹達を、さながら大津波の巨大なる尻尾が薙ぎ払う。
「此度のＭＶＰはそなたと妾じゃ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第2章 ボス戦 『名無しの解剖医』

POW   :    キミの血は何色ですか？ 対象への質問と共に、【解剖器セット】から【スカルペル】を召喚する。満足な答えを得るまで、スカルペルは対象を【鋭利な刃】で攻撃する。 SPD   :    痛くしないから安心してくださいね。 【注射器】から【即効性の麻酔薬】を放ち、【麻痺】により対象の動きを一時的に封じる。 WIZ   :    まだ知りたいから死にたくないの。 【縫合針】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。 イラスト：白狼印けい 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

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　チラチラと蛍光灯がまたたく最奥の一室にて、藍髪を切りそろえた白衣の男がモニタを見て厭気露わに肩を竦める。
『ああ、まったく！　台無しですよ！』
　守護に特化したベースでは解剖医はすっかりお役御免。救護室にて手当にまわってはいたが……猫を被るのは余りに退屈。
　やりたいことは人間を殺してバラし、可能性を見出すこと。この崇高さを誰も理解しないことがなにより不快であった。
『11pa型は孤独により珍しい能力を発現した――このベースの人間の生命エネルギーで定着及び同能力の大量生産もあり得たというのに……猟兵めが』
　シュッとなにかが解剖医の頬を掠めたかと思うと、蛍光灯が砕けて散った。いきなり訪れた暗闇に戸惑っていると、ぞぶり、と肉の割れる音ともに腹から刃が生えてくる。
『……ッかはっ！』
「舞台の説明はありがたく聞いておこう。味方の中にこのような敵がいるとはな、まさに獅子身中の虫か」
　風雷堂・顕吉（｜吸血鬼《ヴァンパイア》｜狩人《ハンター》・f03119）の登場である。
『ハッ！　元より強い力を持つ猟兵に、我々無力な者の気持ちなどわかるものか』
　解剖医は落ち着いた手つきで注射器の針を顕吉の首筋に刺す。
「ほう……これは麻酔薬、かな？」
『あなたたちのようなバケモノに効くように技術の粋を懲らした特別品ですよ。フフフ、猟兵の躰には興味があったので……ぎゃああッ！』
　闇に融け込む蝙蝠たちが解剖医の肌を食い破る。オブリビオンではあるが、人間らしさも存分に残してしまっている男は情けない悲鳴をあげて床をころがった。
　そこに赤い薔薇の花びらが降る。握り潰し血に塗れた指を閃かせ、顕吉は赤い眼で睥睨する。
「おいおい、肌と花弁の感触すら見分けられないとは、本当にお前は医者なのか？」
　小さな穴のあく花弁は、麻酔の水にて瑞々しく光る。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　既に古賀・茉莉（人間の殺人鬼・f33080）は解剖用のベッドに横たえられている。
「恐怖もデータとしては有用なので、意識は残しておきたかったのですが……猟兵相手にはそうも言ってられませんからね」
　白くすべすべな腹をなであげて銀のメスを刺す。たっぷりと麻酔の全身に沁みた茉莉は、くはぁと唇を震わせた後に、煩悶で眉を顰めた。
　だが解剖医は、肉を掻き、内臓を暴く、その最大のご馳走に夢中だ。
「ふむ、ふむふむ……案外内臓は人間と変らないのですね」
　ずるりと引き出した芋虫のような臓器に触れて目を凝らす。それだけならば学術の使徒であるというだけに見えるから不思議だ。
「それではどこまでやれば心臓が止まるのか……ッ！」
　メスは心臓できなく黒き星の刻印を突き刺す。目を剥く解剖医は、脇腹に強い痛みを感じてよろけた。
　くわっと開いた少女の双眸には闇の光がぎらついた。
「随分……と、好き勝手、してくれた……ねっ。お返しだよ」
　寝台から跳ね上がるは少女の殺人鬼。あまくゆるいカールのツインテールを靡かせて、中身が減った軽い躰で剣技を舞いあげる。
　それより九回、医務室ではオブリビオンの悲鳴が響き渡る。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　解剖医が指を弾くと、周囲にふんわりとスカルペルの群れが舞い踊る。
『その醜き風貌にて生きるのは辛くはありませんか？　整形は専門外ですが請け負いますよ、いかがでしょう』
　ふっふっふ、と嘲り笑い。スカルペルは不破・静武（人間の非モテの味方・f37639）のアバタだらけの顔面に突き刺さらんとする。
「イケメンで勉強ができて医者だと～！！　リア充めぇ！」
　静武の雄叫びで身体がいつものように爆ぜあがる。するとどうだ！　スカルペルはあえなく熱で溶かされてぐんにゃりと身を折り床におちるではないか！
『くっ、質問に答えない限りはスカルペルは尽きることありませんよ？！』
　歯がみする解剖医が出せども出せどもメスは燃えて落ちる。
「というか、消毒すらしてないだとぉ！　キモヲタにはそれがお似合いだとかいい気になりやがってええええ！　もお怒った！　直接爆発しろーー！」
　話を聞かないので質問は成立しません！　ただ膨れあがる炎を解剖医はどうすることもできずあえなく巻き込まれて爆発するしかないのでした！

成功 🔵​🔵​🔴​

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　注射器を持ち解剖医は歯がみする。
『ちぃっ、これじゃあ手出しができないではないですか！』
　水心子・真峰（ヤドリガミの剣豪・f05970）はラピスラズリの色合い宿す柄、己の分身ををあらん限り招聘し砦と化した。
「ふむ、君は怪しげな薬物を使う不届きものと見て、このような砦を築いたのだが……」
　するりと一振りを抜き砦を背にして立った。
「それは私の目が曇っておったようだ、心より謝罪致す。君はその薬物を注入することこそが、正当なる技なのだな」
『はははっ！　でてきましたね！　口上を述べている内にこうですよ！』
　腕を伸ばし真峰の柔肌に針をつきさそうと試みるが、そばに刺さる一振りが浮遊しあえなく弾かれる。
　瞠目し浮き足立った所へ踏み込み正面からの一刀両断。注射器を持つ手首を撫で斬り、さらに掬い上げ。
「君が話を聞かぬのならば、こちらも黙って待つ道理はないな」
　悲鳴をたたき伏せるように更に追撃、床に解剖医の血液がびしゃりと跳ねる。

成功 🔵​🔵​🔴​

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『ぐ……あぁぁ、胃がやけるぅ』
　解剖医は初っぱなからピンチであった。顔色は七色、下がはみ出て白目で悶絶。
「キノノ、キノ！　つちのこキノコでゆーらゆらー」
　ヒットアンドアウェイがバッチリきまり、るんたるんたと生えて踊っているキノ・コバルトリュフ（｜キノコつむり《🍄🍄🍄🍄🍄》の星霊術士・f39074）
「キノキノ、大丈夫？」
　だがなまじっか人型の敵なものだから心配げに覗き込んでしまう。
『ぐっ、同情しないでいただきたい！』
　解剖医は震える指でつまむ針で胃の辺りをかっさばきつぷつぷと刺している。公開手術にキノはおーつと瞳を見開いた。
「シメジ？！　すごい！　これがお医者さんの超技術」
『ああああ、これでー、中毒原因は除去！　さぁ、行きますよ！　……あ゛』
「キーノッ！　足の速さなら負けないよ！」
　ぺちん★
　キノの菌糸がヒット！　そうしてまた解剖医の顔が真っ青から紫のグラデーション。ガックリと四つん這い、キリキリ痛む胃を押さえ、呻き声をあげるオブジェに成り果てる。
　――食中毒には気をつけよう。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　食中毒の後の追い打ちにへこたれ気味である。
『くっ、次から次から猟兵が……こんなところにいられるか！』
　解剖医は鞄に必要なものを詰め込むと床板をあける。こんなこともあろうかと、外に抜け道のある部屋に陣取っていたのだ。
　洞窟めいた冷えた道を進む。
　調整したホムンクルスの残骸が無造作に転がっていて歩きづらい。自分以外の研究者が捨てたものだ。その倫理観のなさに毒づきながら、解剖医は石畳の階段をあがる。非常口のフリをした鉄扉を開けば、焼却炉そばに出た。
　すると、どこか綺麗なだけであとは素っ頓狂な声に出迎えられる。
「は！　こんな所にもお客様が来て下さるなんて！　おめでとうございます！　お客様は栄えある１人目のお客様ですわー！」
　明日・がある（レジンのくつ・f42044）は、焼却炉の影から、ずびしっと綺麗なレジンの玉を差し出した。朝焼けの色に移り変わるグラデーションが美しい自信作だ。きっと欲しくなる筈。
『……はぁ、なんですかね、これは』
「ぴぃぃ？！」
　ジト目で蔑まれたがあるはひよこめいた声で啼くとくるりんと両手を広げてまわる。セーフティゾーンから出てしまったが、解剖医が攻撃してこないので、案外ユーベルコードは成功したのかもしれない。
「はぁいはぁい♪そのくるくるが可愛いのでぇ、あなたをおっきくしてみんなにみてもらいましょうねえ♥」
　桃色の髪を揺らし、ミーガン・クイン（規格外の魔女・f36759）は煙管にて優雅に魔方陣を描く。
「へ？　おっきくってな……ぴゃあああ……！　わたくしレジンとフェルトとかぎ針編みしか能がありませんわ〜〜〜！！！！！　勘弁してくださいまし〜〜〜〜！？」
　ミーガンが虚空で輝く魔方陣をぴんっと弾くと、があるの身体に吸い込まれていく。直後、ふわふわ髪がぶわっと林化した。
『へえ、これはこれは……俄然あなたに興味が湧きました』
　解剖医はメスを取り出すとすらりとトランプのように開いて翳する
『解剖させてください。その巨大化の秘密を知りたい』
「おつきあいさせてください、みたいに言われても困ります～」
　わんわんと反響する声に、ミーガンは既にやりきった気持ちでふーっと額の汗を拭いた。今日もいい巨大化を浴びた、よし。
『私もなんとか巨大化すればいいのですね。ふふふ、驚異の肉体改造をご覧あれ』
　解剖医は自分の腕に注射針を突き刺す。するとなんということでしょう？！　があると同じ大きさに膨れあがったではないか！
『さぁ、解剖させていただきますよ』
　そんな怪獣大決戦の絵面を呈してきた所に、鈍色の空の彼方がきらっきらっと輝いた。
　どぉーーーーん！！！！！
　容赦のない隕石が解剖医とがあるの付近にめちゃくちゃに降り注ぐ。
「あ～れ～」
　よかった、があるの悲鳴は元気そうだ。
「あら、恐いわぁ」
　ミーガンは焼却炉にぺちんと触れてインスタントに巨大化するとその影に隠れて難を逃れた。
　一番に被害を喰らったのはもちろん解剖医である。スカルペルも巨大化しているとはいえ、地面をどっかんどっかんとクレーターだらけにしていく隕石にはもはやただの爪楊枝だ。
　解剖医の身体が元の大きさに戻り、クレーターにちっぽけに埋まる。その傍に荘厳なる黒髪を靡かせてひとりの姫がおりたった。そう、その姿はまさにかぐや姫だ。
「ふぅ……小さき者にはあてづらいので、丁度良かったです」
　エメラルドグリーンの輝きをまといし天体を背に、カグヤ・モンデンキント（天体娘・f31348）ははんなりと微笑む。
「今回は広範囲な攻撃が役に立ちました」
　これもいわゆるひとつのコンビネーションアタックであろう、きっと。
　

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●
　裏庭の一角が爆発した。斥候に出ていた生徒らがあわや巻き込まれる！　とはならない、猟兵の中には裏方に特化している者達もいる。
　なにより、保護対象の命を第一にと考える猟兵が殆どだ。先ほど、あの派手な爆発を演じた彼女らとてその気持ちは同じ。
「はいはい、あんしんしてあんしんして。おっきいからかえってよけやすいんだよ」
　肉体強化が解除されて萎む解剖医だが、ばらまくスカルペルはまだ巨大なまんま。ネッド・アロナックス（ガムゴム人の冒険商人・f41694）の言う通り、優雅にして巨大な白くらげがぽんぽこぽんこぽこと現れて、生徒らの盾となり切っ先を弾くのだ。
「ほらほら、あとは正義のヒーローにお任せして、あのふわふわっとしたのにみんなついてけよな～」
　リカルド・マスケラス（希望の｜仮面《マスカレイド》・f12160）は、チャラい口調に相反する手際の良さで、はぐれた学生を集めて白くらげの元へと送り込むのだ。
「あんぜんなばしょにおとどけだよ。みんなのってのって」
　解剖医がこちらに気づいたので、ネッドは怪我人や怯えている者から優先的にゆきソリにのせて脱出スタンバイ！
『イズナくん』
『俺っちは残る、大丈夫だ！　猟兵の兄ちゃん、オレが助太刀するぜ！』
　そう勇ましく言うのは年の頃は１４歳の少年だ。訓練はしているのだろう、小銃とナイフの装備も様になっている。
『あいつ、オレのダチに大けがさせやがったんだ。礼をしてやりてえ』
「その意気やよし！　助太刀してやるっすよ」
　ニィっと笑い狐面を外すリカルド、笑ったのは面だった。少年に狐面を被せると、リカルドだった者はすぅっと気配を消した。
『ははぁ、新しい人造人間の素材と攫った子の友人ですか。いいでしょう、あなたも一緒にして新たな命の誕生と致しましょう！』
　そう意気揚々と射出されるスカルペルだが、全て弾丸にて砕かれた。
『トォ！』
　精密にして正確、白に赤いラインのヒーロースーツを纏った少年は、信じられぬ高さを跳躍すると、解剖医に踵落としを喰らわせる。
『残念だなァ！　ダチは既に助けてある。だがその口ぶりだと他にも攫ったなぁ？！　揺るさん！』
　無敵のヒーロータイムで畳みかければ、解剖医は命乞いと共に監禁場所をゲロするのである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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　ベース内に逃れてきた解剖医はぐいっと腕を引かれる。
「そちらは既に猟兵の手が回ってます、こちらです」
『キミは……？』
　疑わしげな声に応えるのは嘗ての下っ端研究員の名である。暗がりでは、ピンクの髪でやけにスタイルの良い女であるぐらいしかわからない。
「この猟兵が現れる予知を知ったのが遅く後手にまわりました。しかし猟兵の勢力は把握済です」
　岩を打つ音と囁き声。女は猟兵の元で職員として潜入していたと宣う。
　実際に、彼女が選ばなかった道先では、粉塵爆弾の如く物が砕け刃向かってきたり、岩が不自然に転げ落ちたりが続いた。
『私が既に骸の海のモノだと知って手を貸すんですか？』
「はい、諜報が私の仕事で……ッ！　危なぁい！　ぎゃあああああ！！！」
　ドンッと解剖医を突き飛ばした女は蒼い炎にまかれてしまう。火はすぐに消えたが、倒れ伏した女はぴくりとも動かなくなった。
「おや、まさか人間の仲間がいるとは夢にも思いませんでした」
　煙草を掲げたエリー・マイヤー（被造物・f29376）が、コツリコツリと岩場の影より現れる。
『ふっ、ふふふ……キミは大した力を持たない、やれることは見た目だけが炎での妨害工作と聞いていますよ』
　解剖鞄をぶちまけ無数のスカルペルを招聘する。エリーは落ち着いて全てを燃やし尽くした。
『ほぉら、やはり。キミに私を傷つける力はな……ッ！』
　意気揚々と鞄を広げる手首に、ツッと細い切れ目がついたかと思うと、ぼとり、と堕ちた。
「やだぁ、こぉんなに簡単に引っかかるとは思わなかったなぁ～★」
　諜報員は仮の姿、サエ・キルフィバオム（突撃！社会の裏事情特派員・f01091）は、張り巡らした鋼糸をクンッと引き寄せて、解剖医の胴体や胸にも傷を穿つ。
「エリーさん、爆発ナイスフォロー！」
「サイコキネシスでの威圧は私の得意とする手のひとつですから」
　煙草でさすのは解剖医の指先だ。灯る蒼い火は瞬く間に男を食らいつくしていく。
「その火ですけど、私が『消そっかなー』とならないとずっと燃え続けますから」
『なっ……』
「血で消えないんだぁ、それはやり放題ＯＫってことだね★」
　サエはニヤニヤ笑いで更に鋼糸を走らせる――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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「あらあら可哀想に……騙し討ちをされたのね」
　アリス・セカンドカラー（不可思議な腐敗の｜混沌魔術師《ケイオト》艶魔少女・f05202）は、転がる解剖医の血塗れな頭をつーっとなぞる。
「あなたの願いを叶えてあげるわ」
『……ッ、自分の面倒は自分で見ます』
　引き出した注射器を、愛らしい踵が踏みしめる。
「だめよ。あなたはアリスのオモチャなんだから。あら、あなたって思ったより可愛らしい顔をしているのね」
　男の娘にいじくって弄びたいな――そんな欲望に支配されそうになるが、生憎と「彼の願いを叶える」ユーベルコードを起動してしまっている。
「知りたいの、そう。快楽の園で尽き果てるのもいいと思うんだけど。しょうがないわね」
　脳味噌をさした指を引き、血と脳髄に塗れたそれを少女はぺろりと舐め取った。
「残念ね。何を知りたいか、が曖昧すぎて、失敗しちゃったわ」
　さすれば、脳味噌を暴かれグチャグチャにされたダメージだけが解剖医には残るのだ。
「あなた、本当は願いなんてないでしょ？」
　疑念を刻めばユーベルコードの力は濁る筈。少女は笑い声をたてながら、その場をスキップで離れていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

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「情報が入りマシた。どうやら解剖医は実験用にベースの生徒を攫って監禁していたようデスね」
　試作機・庚（｜盾いらず《フォートレス》・f30104）は仲間からの通信を今回の相方へと告げる。
「オブリビオンを倒せばみんな解放されマス。敵と真っ向対峙するのが正しいかとは思うのデスが……」
「憂いは絶っておきたい、そうだろ？」
　諏訪野・啓太郎（さすらいのライダー・f20403）はの姿は闇に紛れて見えない。黒ずくめのライダースーツは隠遁の効果も高いのだ。
「はい」
　ハッピーエンドを目指したいのは自分の拘りだ。けれどもし、オブリビオンが彼らを人質にして籠城したら？
「ただでさえ恐い思いをしていマス。もうこれ以上はさせたくないデス」
「わかった。俺が派手にやって惹きつける。だから庚もうまくやれ」
　それだけ言うと、啓太郎は腕に足首につけたスーパークラッシャーより、己のサイキックエネルギーを一斉に放出した。最初からクライマックス、出し惜しみはしない。
『くっ！　猟兵めええ！』
　相殺を狙い解剖医の腕からスカルペルが滑り出る。
「それを待っていマシたよ！」
　メスが啓太郎を害する前に、庚はつかみとり解剖医の目を薙ぎ払う。
『ぐあっ、目がぁ！』
　更には握りしめていた注射器も全て叩き壊してスカルペルも塵に変えた。
「ここはお任せしマス」
「おう、行け！」
　再び啓太郎より放たれる一斉射撃をかいくぐり、庚は監禁場所へと走り込む。遠くなる爆発音に仲間の無事を祈って、走る走る。
　奥まった場所の鉄扉を壊して開く。中には、目隠しされ自由を奪われた生徒達が転がされている。
「猟兵デス！　助けに来マシたよ！」
「助けに来たにゃ～！」
　底抜けに明るい声と共にズサーッと走り込んできたのは、ミーヤ・ロロルド（にゃんにゃん元気っ娘・f13185）である。
　ほっと頬を緩める庚は、人質達の縄を解いていく。
「おいっし～ご飯とあったか～いスープをご用意して待ってるにゃん！」
　よだれよだれ、ミーヤは想像の中のあったかご飯にすっかり虜だ。
「にゃん！　こ、今回は、みにゃさん優先なのにゃ！　そんなわけで、安全っに移動するのにゃーん」
　ここで、ガジェットタイムでございま～す！
　パチンと指を弾くと、現れましたのは通路ギリギリの幅までの載積量重視の移動台車である。パンとかマンガ肉がついてるが、食べられない！
「乗って乗ってにゃん。移動するにゃんよ～」
「はい。あちらで啓太郎さんが惹きつけてれてマス」
「わかったのにゃ～」
　ギリッとアクセルを踏み込んで出発進行！　前方には丁度啓太郎のサイキックを受けて吹っ飛ぶ解剖医の姿あり。
『そやつらをひとりでも……』
「ふっとばすのにゃ～」
　物★理
　台車ではね飛ばした所へ啓太郎が馬乗りとなり零距離射撃で動きを止める。その壁をぎゅるりと抜けて、台車はほかほかご飯の元へと走り行く。
「強引デスね」
「にゃぁ～？」
　ことりと首を傾げるミーヤにサムズアップ。
「いえ、この賑やかさはハッピーエンドっぽくて最高デスね♪」


　

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●
　古い教室に解剖医を誘い込んで迎え撃つのは鋏と三角定規だ。
「まぁ、これはとても珍しい武器をお使いですのねぇ」
「鋏をそうも飾るのは初めてみたねえ」
　納花・ピンチン（ブギーモンスターの勇者・f31878）と鳶沢・成美（三角定規の除霊建築士・f03142）は互いの武器に感想を伝えて同じ結論に達する。
　――けど、学校ではどっちも必要だから！
「アタシ、今回はとっても怒っていますのよ」
　純白の布をふりふり、先に出たのはピンチンだ。
「このヒト、学生さんを攫って閉じ込めていたんですって！　怪我をした子もいたそうですの」
　ちゃっきんちゃっきんと合わせてならせば勇者の剣は殺意を連れる。
「しっかりと！　お仕置きを受けて、いただきますわぁ！」
　ふわっと教卓に駆け上がり、頭上からの振り下ろし。
『ぐわっ』
　防御と掲げたメスごと光で粉々に潰し、解剖医の額がぱっくりと開いて柘榴のような傷を晒す。飛び散る血飛沫が、刺繍を汚す間もなく、ピンチンは飛び退り黒板を床にして立つ。
「まだまだ、これで済むと思わないことですわよ！　囚われた子たちの痛みをお返ししますわ！」
　分けた鋏の勇者の側を突き刺して、それを軸にくるりと反転。しゅるりと伸びた触手でもって成美の元へとぶん投げた。
「はいはーい、いらっしゃーい」
　盾と翳されたメスは横薙ぎの三角定規で全てブチ払った。一番鋭角な先が唇の上に裂傷を浴びせる。
『まだまだ私のメスは無尽蔵ですよ』
「なら全てチャイするまで！」
　平べったい方に持ち替えて黒板へと押しつける。ピンチンがざくざくと斬るのを待ってから、引いた三角定規を両手で持って額に一撃！
『ギャンっ！』
　ビクビクと痙攣するのを蹴り上げて、自分で弾を撃つ練習のように三角定規でホームラン！　べちゃっと落ちて動かなくなったのを確認する。
「ささ、今の内にここより人払いしてしまいましょう」
「そうだな。もしもこいつが生きてるなら、まだまだ追加もくるだろうしなぁ」
　それが猟兵と言うものだ。　
　

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●
　解剖医は焦っていた。
　このベースは元は学校であり、狭い廊下に同じような教室が並んでいる。だがどこに何があるかは熟知している。
　一旦自分の根城に戻り態勢を建て直そうと考えているのに、行けども行けども同じ廊下が続く。
『……ッ！　さては猟兵の仕業ですね。いいでしょう。ならば頭脳の強化です』
　解剖医は注射器を取り出すと自分のこめかみに針を突き立てる。ぶくりと血管が浮き上がり、唇からは雄叫びが溢れた。
「よぉ、頭でっかち。脳味噌で見ようったって見えねえよ」
　からかうような声と同時に銃声が響く。頭脳強化に耽る解剖医の喉を銀弾が貫いていった。
「ツキは親切ですね。ノクスの術の種明かしをわざわざしてさしあげるとは」
　どこからともなく現れた品行方正なる紳士は、更にトリガーを引き解剖医を穴だらけにする。
　そう、ここはシン・クレスケンス（真理を探求する眼・f09866）の使役、瑠璃空の翼を持ちしノクスの術の中。
「安心してください。たったひとつの出口を探せば元の世界に戻れますよ」
　それまで生きていればの話ですが、とシンは柔らかく締めくくり弾倉をカシャリと押し込み即座に引き金を引く。

成功 🔵​🔵​🔴​

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「どうも、銀誓館の方から助っ人に来ました」
「僕もだよ、こんばんは」
　粛々と頭を垂れる鈴乃宮・影華（暗がりにて咲く影の華・f35699）の制服に、マロン・ビネガー（くりかぼちゃ・f37213）は懐かしさを感じるも、すぐに礼儀正しくお辞儀した。
「――｜起動《イグニッション》！」
　隣からの視線を気にせずマイペースにカードを掲げる。影華の身を光が包んだかと思ったら、同時に校内が変貌する。
『……んっ、なっ、なんですか、このッ、医学を冒涜するような漫画は』
　頭を覆って膝を突く解剖医に対し、影華はふふんっと鼻を鳴らす。
「どうぞ、心ゆくまでゆるりとご鑑賞下さい。この漫画迷路はあなたが作りあげております」
「んー？　どういうことかな？」
　コミックマスターの力かなーと翡翠の瞳を瞬かせて、マロンは漫画を興味深げに眺めている。ちなみにこちらはノーダメージ、むしろ続きが気になるまである。
「ねえ、この後ヒロインくんはどうなるの？　続きは？」
「さぁ」
「さぁって……」
　むむーと唇を尖らせるマロンへ、影華は肩を竦めてみせる。
「敵に塩を送る訳にはいきませんから」
「それはそうだね。ごめんね」
　さっくりと謝ると、マロンはさてどの技を使おうかと小首を傾げる。天候操作を好むのだが、流石にここに雨を降らせるのは後ろめたい。
（「普通の雨だとびくともしないだろうけど、僕の能力の雨や雪はどうかわかんない
しなぁ」）
　迷宮の能力は残っても、この作品に綾を付けるのは避けたい所。
　ぶつぶつと呪詛を呟きながら頭に注射針を刺し、それでもなえ漫画から目を離せぬ解剖医へ、マロンははいっとふわふわの綿飴をさしだした。
『あぁ？　なんですかこれは』
「頭が疲れた時は甘い物だよ。ほーら、どうぞ、めしあがれー」
　バチンバチンと雷で弾ける綿に、解剖医は警戒し仰け反った。まどろっこしいなとマロンはぐいっと押しつける。
　バヅンッ！　解剖医の頭部が甘い雷で見事に弾ける。焦げた香りはちょっとだけカラメル寄り。
「案外えげつないことをしますね」
「そうかな？」
　そうかも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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「チェストー！」
　がががががががががががががっ！　耳を劈く散弾銃。バルタン・ノーヴェ（雇われバトルサイボーグメイド・f30809）が景気よくぶっ放す弾道に併走しゆくのは、政木・朱鞠（狐龍の姫忍・f00521）だ。
　朱鞠の額からは一筋の血がしたたる。
「ありゃ？！　もしかしてワタシ、うっかりと当ててしまいマシタかー？！」
「大丈夫よ、バルタンさんの弾丸は掠めもしてないわ」
　突き出された注射針はつま先で蹴り折った。そのまま宙返りで仕切り直し。
『ふん、聡いですね』
「痛みで力を起動しようと思ったんだけど、その禍々しい薬を入れられるわけにはいかないわ……ハァ！」
　そのまま即座に突進、肘打ちから裏拳、まるでゲームの乱舞技の如く絶え間ない攻撃を叩きつける。
「ホムンクルスのあの子たちをいいように操って高みの見物ってわけ？　あなたみたいな男、本当に反吐が出るわ！」
　朱鞠を止めようと麻酔針を振りかざすが、もはや圧でへし折られるのみ。
『ちぃッ！』
　弾丸をばらまき続けるバルタンをちらと見たのに、朱鞠は荊野鎖をじゃりと鳴らす。
「あの子達の無念を喰らいなさい」
　叩きつければ荊は即座に男を喰った。苦悶で顔を歪めるインテリだが、吹き飛ばされる先を見て哄笑する。
『ふふふふ！　愚かな……私の狙いはあの射撃手ですよ。さぁ、死になさい』
　解剖器具を詰めた鞄を蹴飛ばせば、中が開いてスカルペルの群れが溢れ出した。仲間を窮地に陥れた朱鞠は焦るかというと、眉目秀麗な容に不敵な笑みを浮かべるのみ。
「……ふふ、愚かなのはどちらかしら？」
　バルタンの居た場所だが、今は煙に塗れてなにも見えない。
「六式武装展開、煙の番！」
　闊達なる声だけが響く。煙に吸われたスカルペルは、直後、粉々にくだけて虚空を飾る。
『なっ！！』
　煙が晴れて現れたのは、あれだ、はさみだけでっかいカニみたいなバルタンだ。華奢な体躯のメイドさんが、左手だけ異様にでっかいパイルバンカーを装着している。
　荊で叩きつけられた解剖医が身を捩るも、遅い。
「さぁ、参りマス！　どっせーい！！！」
　ゴウンッ！！　ごごごごーん！！！
　解剖医だったものに杭がぶっささる。支援射撃だけしているかと思ったか？　ところがどっこい、バルタンは前衛での殴り合もバッチリなのだ！

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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「……っと、そろそろ終わるころかな？　｜みんな《猟兵達》の時間稼ぎには感謝だね★」
　家庭科室を中心にした一帯にて、クローネ・マックローネ（｜闇《ダークネス》は｜神《デウスエクス》を従える者・f05148）と召喚したキラキラなお友達★の手を借りて、ベースキャンプの物理的な修復を手がけていた。
　大量に発生したホムンクルスによる校舎の破壊も実は甚大であった。建物の補修は時間がかかる。だが時間さえあれば、クローネちゃんのキラキラなお友達は砦を築くのは大の得意なのである！
『あぁ、こんなことまでしていただいてなんとお礼を言えばいいか……ありがとうございます』
　先ほど救出した女教師が代表して深々と頭をさげる。
『校舎の修復もやらないとなーって頭を抱えていたんですよね、実は』
　テキパキと瓦礫を避けて遮蔽を築く。退路も確りと確保して、地図まで作ってくれる手厚さに感謝に耐えない。
「ううん、こういうのも得意だからね★　……おっと、折角作ったのに壊されるのはたまらないね」
「大丈夫です。私が行きます」
　怪我人の手当を終えたシホ・エーデルワイス（捧げるもの・f03442）が立ち上がる。あたたかなスープの湯気に満ちたここに荒事を持ち込ませるのは言語道断だ。
「ですのでクローネさんは引き続きベースキャンプの構築と護衛をお願いします」
「了解ー★気をつけてね」
　シホは儚くも芯のある微笑みを残し床を蹴った。
　――オブリビオンへ終焉の弾丸を。弔いは誰の元にも等しくもたらされるのだから。

●
『ああ、ああ……駄目だ、補給し命をつながねば……』
　からからに乾いた喉でオブリビオンの解剖医はふらりと壁を伝い歩く。もう足に力が入らない。
「食が身体を支えるって考えは賛成だけど、あなたは本当に食べられるの？」
　植田・茉莉（エスパーのエクソシスト・f43968）は、闇よりすっと浮かび上がり姿を見せた。なにも構えず漠然と佇んでいるように見えるが、少女からは驚く程に隙が感じられない。
『何を……』
「食あたり」
　短く言い切って、茉莉は一枚のカードをぴらりと翳す。
「『死神』だと思った？　あれさ、不吉に見えて『やりなおし』とか『リセット』って良い意味もあるの。だから、あなたにぴったりなのはこのカードでしょ」
　雷にて折られる塔は、正位置だろうが逆位置だろうがどうしたって救いの意味を語らない。
『どこまでも愚弄するか、猟兵』
　バチンッと解剖鞄の口が開き、夥しい数のスカルペルが溢れ出す。
『その巫山戯た唇からきりひらいて、全てを曝け出してやりましょう』
　生き物のように滑りあがるスカルペルが、キィンと澄んだ音で弾かれて落ちる。
「――その力！　封じます！」
　ピアとトリップ、白銀と漆黒の双銃を構えたシホが凜と言い募る。
『はん！　高々ひとつを撃ち落としたからと言って図に乗る物ではありませんよ』
　吐き捨てる声に対しシホが項垂れると、四肢を戒める鎖が顕現する。
「それらは人を癒やし救う銀の刃です。本来の役目を外れたものへもたらされるのは、罰」
　画然と言い切る嘗ての罪人は、無数のスカルペルを容易く鎖で締めあげる。
「この歪みし力は私が封じます」
　ひくりと顔を歪める解剖医へ、茉莉は首を傾けて「どうする？」と問いかける。それはまるで「今日の夕飯はどこのファミレスに行く？」という気軽さを醸し出している。
　オブリビオンの死なぞ、茉莉には些事ということ。日常を脅かし大切な人を奪う存在は息をするように消すべきだ。
「塔の札を覆すには……」
『諦めないことだ。小娘、私を安く見積もりすぎましたね』
　留め金の音が何処かで響いたかと思うと、腕を滑り隠されていた注射器が現れる。その時、既に解剖医は茉莉の首筋のすぐそばにいる。
「やっぱり、石にしがみついてでも意地汚く生き残ろうとするタイプだった」
　首筋と針の間に噛まされたのは使い込まれた銃身だ。流れるように構え、即座に引き金を引く。
　カンッ！　高い音で嘶き解剖医の眉間に弾丸が突き刺さる。それは痛みよりも気怠さが先に立つ。
『……んなっ……にを、した』
「……死に時位、安らかに眠りたくない？」
　優しい台詞を呟きながら、ガンナイフで額を滑らせ延髄を突く。ガクンッとした痙攣も何処か緩慢だ。
　夢の、中。
　麻痺する、獲物の勝ち筋を、奪う。
「恐いユーベルコードだよね。だから、返すよ」
　茉莉はあらん限りの弾丸を麻酔に染めて叩き込む。べしゃりと倒れ舌をはみ出させた解剖医は、もはやどのような抵抗もできやしない。
「――どうか安らかな眠りを」
　鎖を解いたシホが二重奏を奏でるのにあわせ、茉莉は三つ目のハモりを入れる。
「おやすみ。この学校はね、精一杯に足掻き生きる人の居場所なの。数々の命を弄び、人であることをやめたあなたの居場所じゃあない」
　タァン……。
　最期の歌声にあわせ、医者であった男の身体が骸の海へと還っていった――。

〆

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2025年03月19日