18
散り別る双花~きみが幸せで在る様に

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●それは、ある双子の話
 ウェービィなプラチナブロンドに色素の薄いアイスブルーの瞳。齢は十六、瓜二つの美しい双子の少女。
 活発に動き回り、時に妹を振り回しながらも楽しませる姉のキキ。
 少しだけ引っ込み思案な、けれども思慮深い妹のモーラ。
 そっくりな服を着て、そっくりな顔をして、けれど性格だけは正反対。
 喧嘩をすることもあった。けれど辛苦の中を、互いに助け合って生きてきた。それこそ生まれてからずっと――否、生まれる前、胎の中からずっと。
 それは過酷なこの世界には過ぎた僥倖だったもしれぬ。
 だから取り立てに来たのだろうか、その幸いを。
 運命の神か、或いは、悪魔が。

●一人
 酷い雨の日だった。

 前日から続く雨に濡れて、モーラが熱を出して床に臥した。
 単なる風邪と侮ってはならない。些細な症状を放置して重篤化した例など幾らでもある。
 キキとモーラの母は、風邪を拗らせて肺を病み、命を落とした。父は出稼ぎに出て、月に一度しか戻らない。頼る寄る辺が何も無い中、キキはいつも妹がしていたように火を熾し、見様見真似で炊事を始めた。
 炊事は、いつもモーラの仕事だった。キキは野良仕事や力仕事を。モーラは炊事、掃除や造花を作っての内職などを、二人で取り決め受け持ってきたのだ。
 慣れぬ作業に四苦八苦としながら、ようやくパン粥を作り終え、キキはひとまず安堵して皿を取りに戸棚に向かい、濡れた床に足を滑らせ、よろめいた先へ手を衝く。
「あッ、」
 拍子に窓際の植木鉢が転げ落ちて、鈍い音を立てて砕けた。
 モーラが欠かさず世話をしてきた鉢。慌てて屈み込むが、割れた鉢が元に戻ることはない。
「何してるの、キキ」
 背中から掛けられた声に、キキは肩を震わせ、恐る恐ると振り向いた。視線の先には熱で上気した頬をしたモーラの姿。
「あ、はは、ごめん、モーラ。あの、ちょっとうっかり、足を滑らせちゃって」
「大事に」
 弁解を紡ぐキキの声を、切り裂くようにモーラは切り込む。
「大事にしてたのに。キキはいっつもそう、私の好きなものをそうやって、壊しちゃう」
 熱を帯び、揺らぐモーラの瞳。声に恨みの色を聞いて取り、キキの頬に朱が差した。――割ってしまったことは謝らなくてはならないけれど、元を正してみればそれだって、床に伏した妹のために始めた、不慣れな炊事が原因ではないか。
「私だってわざと割った訳じゃないわ! 謝ってるのに、何よその言い方!」
「うっかりだとか、わざとじゃないだとか、それだけで許されてれば楽よね! 後始末を誰がしてるか、知ってる? 全部私よ? 嫌になるわ!」
「あんたねぇっ!」
 互いに冷静な状態ではない内に始まった争いは、すぐに喧喧囂囂の言い合いに発展した。身を刻むような罵言の応酬が精神を磨り減らせる。最後はモーラが自分の部屋に駆け戻ることで、争いは一時、止まった。

 ――なによ、なによ!
 知らない! 私に妹なんていませんでした!
 もうそれでいいわよ! 一人だって生きていけるわ!

 キキは音高く椅子に座り、初めは憎々しげにモーラの部屋の戸を睨んでいた。
 けれども、怒りは燃やす材料がなければ持続しない。一時間もすれば、パン粥が冷めるのと一緒に怒りも冷めてしまう。
 ――生まれてからずっと共にいたのだ。恨みにくべる思いなど、すぐに尽き。助けられたこと、一人でなくてよかったと思うことばかりが思い起こされる。
「……」
 キキはのろのろと席を立って、鉢植えの欠片を拾い集めた。――何か接ぐ方法はないだろうかと考えながら、割れた欠片を机の上に敷いた紙の上に纏めていく。
 欠片を集め終え、土を掃き集めようとした折のことだ。不意に荒々しく戸が鳴った。
 ドアが軋む。尋常ではない大音。
「な、何? ちょっと、何よ! そんなに叩かなくても聞こえて――」
 慌てて誰何の声を上げるキキの前で、玄関のドアが錠ごと壊れ、倒れた。
 外は豪雨。降りしきる雨の中を歩き来たろうに、踏み込んできた女は少しも濡れていない。魔的な美貌と相俟って、それはとても、異質なものに見えた。
「口の利き方がなっていないわね。お前」
「領主、さま」
 進み出たのは、この一帯を治める女領主だった。彼女の名は恐怖と共に知れ渡っている。
 ――リリアーナ・ヒル。誰が呼んだか、“少女喰らい”。月に一度見初めた少女を屋敷に召し上げると言われ――連れ去られれば最後、帰る者も、爾後の行方が知れた者もないと聞く。
「いい匂いがしたから立ち寄らせて貰ったわ。あなた、好みの顔よ。今月の贄はまず一人、あなたに決めたわ」
 勝ち気なキキでさえ、宣言を前に一切の意思を喪った。……ああ。どれだけ暴れようとも、どれだけ叫ぼうとも、この人は自分を連れて行くだろう。不興を買えばこの場で殺されてしまうことだってあり得る。
 一人だったら、そうしたかも知れない。領主がどれだけ偉かろうが、自分の身を自分以外にどうこうされるのは真っ平だ。けれど、
「ねえ、お前、一人なの? もう一ついい匂いがした気がしたのだけれど」
 領主は艶然と笑い、問う。
 ――けれど。ここでそうしたとしたら、次に狙われるのは誰か。
 解りきったことだろう。

 だから、キキは選んだ。

「――いいえ、領主様。この家には、私一人きり。父は稼ぎに出、独りの身にございます」
 ――心からのごめんなさいは言えず仕舞いだけれど、最後くらいは姉らしいことがしたかったのだ。

●架け橋となれ
「この後、この娘は弄ばれて、狂って壊れていく自我に耐えきれず自死を選ぶ。妹もまた、……別の事件に巻き込まれて囚われるそうだ。ダークセイヴァーだしね。そういうこともある。そういうこともあるけど、」
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は苛立ち紛れに手に持った立体パズル状のグリモアを回す。
「許せるかどうかは話が別だ。きみたちに、この娘の――ひいては、今までこの領主に囚われた少女らの救助を頼みたい。中にはリリアーナ・ヒルの寵愛の前に、身も心も化生と化してしまった娘もいるだろう。……きみたちをまず迎え撃つのは、そうした少女達だ。彼女らには眠りを与える他ないだろうけれど、それでも、助けられる命がまだそこにある」
 言葉少なに述べ、灰色は立体パズルを揃えた。
 現地へと至る“門”が開く。
「正門からの正面強襲を提案する。敵の尖兵を屋外戦闘で排除後、屋内戦闘で敵首魁『リリアーナ・ヒル』を撃破してくれ。詳しいことはこの資料に記述がある」
 資料をテーブルに置き、深く呼吸をして灰色は“門”を維持する。
「情報を読み込み終えた者から順次転送を開始する。……妹の方に関しては別のグリモア猟兵がカバーしてくれるみたいだ。ここに集まってくれた皆は姉の件にだけ集中してくれていい」
 自身の持った資料を机に置くと、灰髪の少年は拳を握り固めた。
「――このままこの二人が永遠にお別れなんて、おれは、いやだ。力を貸して欲しい。頼むよ」
 絞り出すような声で、灰色は切願するのであった。



 お世話になっております。煙です。
 今作は蔦MS様とのリンクシナリオとなります。
 蔦MS様のシナリオもろとも、よろしくお願い致します。

●はじめに
 前述の通り、このシナリオは、蔦MS様が運営するシナリオ『散り別る双花~きみと共に在るために』とのリンクシナリオとなります。
 シナリオ進行中、蔦MS様と届いたプレイングの共有や参加者様の擦り合わせは行いませんが、両シナリオへ同時参加しますと時系列的辻褄が合わなくなるため、参加は一方に絞って頂けますと幸甚です。
 また、蔦MS様の運営されるシナリオに参加されている方であっても、当シナリオに参加されていないキャラクター様のお名前はリプレイに描写出来ませんのでご了承ください。

●構成
 以下の構成でお送りします。
 第一章:集団戦 VS『黒い薔薇の娘たち』
 第二章:ボス戦 VS『リリアーナ・ヒル』
 第三章:村への帰還(非戦闘パート)
 第三章は救った少女らと共に、村へ帰還していただくパートです。リリアーナ・ヒルをどのように制するかによって、救える少女の数や、キキの安否が変動すると思われます。
 どんな結末になるかは、二本のシナリオの結果次第、皆様の行動一つに掛かっております。
 互いを想い、手を放そうとした姉と繋ぎ止めようとした妹。二人を嘲笑い踏み躙るオブリビオンに、猟兵はなにを思い、なにを吼え、いかに戦うのか。
 全力で描き抜きたいと思います。
 このシナリオは姉のキキにスポットしています。もし無事に助けることができたのなら、彼女と対話をしてみるのもまた、良いかも知れません。

●その他
 プレイングの受付開始は、以下のスレッドで告知します。
『https://tw6.jp/club/thread?thread_id=6634』
 今回の描写範囲は『無理なく(一日に三~五名様のお返し)』となります。プレイングの着順による優先等はありませんので、お手数に思わなければ、受付中の限りはお待ちしております。
 また、今回は灰色は皆様の案内に注力するため、今作第三章および蔦MS様のシナリオには登場いたしません。また、サモン・ザクラ氏においても蔦MS様側で奮戦中のため、登場されないことご承知置き下さい。

 それでは、皆様の渾身のプレイングをお待ちしております。
339




第1章 集団戦 『黒い薔薇の娘たち』

POW   :    ジャックの傲り
戦闘中に食べた【血と肉】の量と質に応じて【吸血鬼の闇の力が暴走し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    クイーンの嘆き
自身に【死者の怨念】をまとい、高速移動と【呪いで錬成した黒い槍】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    キングの裁き
対象のユーベルコードを防御すると、それを【書物に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●領主館、正面
 グリモア猟兵の案内に従い“門”を潜った猟兵たちが飛び出したのは、領主館の真正面。
 この世のものとは思えぬほど赤き薔薇が咲き乱れる庭園の狭間に石畳が延び、遠く、領主の館が見える。
 館のホールに直接飛ばせばいいと思った数人の猟兵が、次の瞬間、その転送位置に納得したように顔を顰めた。
 声が、聞こえる。

 ――あら、誰かが来たわ。
 ――誰かしら。無粋な足音ね。
 ――嗚呼、嫌ね、厭ね、汚らわしい。
 ――知っているわ。これは、猟犬の匂いよ。

 黒いゴシック・ドレスに身を包んだ数多の少女たちが、バラ園の狭間から進み出る。
 ホールに直接飛んだとすれば、この少女らが後方から詰めかけ挟撃に遭うだろう。
 少女らは、どろりと淀んだ目を光らせて、猟兵たちに群がる。

 ――腕をもいで、足をもいで、目玉をくりぬいて。
 ――リリ様に捧げましょう。寵愛をいただきましょう。
 ――きっと、お喜びになるわ。
 ――だいじょうぶ。たくさんいるから、みんなで分け合いましょうね。

 少女らは可憐な顔のまま、猟奇的な言葉を発し、戦闘態勢をとる。
 これがリリアーナ・ヒルに拐かされた者たちの末路だというのだろうか。
 彼女らは救えぬ、とグリモア猟兵は言った。ならばここにて撃滅し、死後の安寧に沈めてやる他あるまい。
 猟兵たちは武器を構え、戦闘を開始する!
蘭・七結

もしも。
あねさまが、同じ立場だったのなら
あねさまも、同じ選択をするのかしら
ええ、きっと。あねさまなら、
ナユだって、あねさまを護るわ
攫われた少女に、黒薔薇の姉を重ね
固く結ばれた、姉妹の絆
このようなカタチで、散らせたりしない

甘い蜜に酔いしれた娘たち
その寵愛は、まるで毒ね
手にするは『彼岸』と『此岸』の双刀
彼女たちを極力傷付けないよう峰打ち
王の裁きは、降る前に舞い踊るように見切って

目には目を、毒には毒を
寵愛という毒に侵された魂
そのココロに、ほんの僅かでも届くのなら
〝明けぬ黎明〟
ねえ。ナユの声が、聞こえるかしら
応えるのなら、手を伸ばしなさい
ナユが、その甘い闇から引き抜いてあげる
目を覚ましてちょうだい



●救済は無く
 ――もしも、あねさまが同じ立場だったのなら、あねさまも同じ選択をするのかしら。
 蘭・七結(恋一華・f00421)は物思う。
 仮に追い詰められ、自分の身を差し出すことでしか、妹を救えなくなったとしたなら――姉はどうするだろうか。
 答えは明白だった。きっと護ってくれるだろう。仮に自分がキキの立場に置かれたとて、同じ事をする。
 固く結ばれた姉妹の絆を、尊いと思った。七結は進み出て、『彼岸』と『此岸』の二刀を抜く。
 ――このようなカタチで、散らせはしない。
「その寵愛は、まるで毒ね」
 黒薔薇の少女らは、七結らを取り囲むようにそこかしこから現れる。総数は最早数え切れない。
 黒い怨念を身に纏い、少女らは濁った瞳を笑みに歪めた。第一陣が襲い来る。
 前方、敵数三。少女らの周囲に呪いが凝り、無数の槍として結実する。
 七結は彼岸と此岸の刃を返し、峰を敵に向けて踏み出した。
 篠突く雨のように降り注ぐ黒い槍の嵐を二刀にて弾き、舞うが如くに駆け抜ける。火花を散らしながら敵に寄せ、薙ぎ払いの二刀で敵三体を打ち据えた。
 斬撃が入ったならば身を深々と裂かれ死んでいたであろう少女らが、「かは、」と息を詰め踏鞴を踏む。刹那、七結は羽織った着物の袖を打ち振り、仕込んだ香水瓶より『明けぬ黎明』の香を振りまいた。
 目には目を、毒には毒を。寵愛という毒に侵された魂――そのココロに、ほんの僅かでも聲が届くのなら。引き戻してみせる。
「ねえ。ナユの声が、聞こえるかしら。応えるのなら、手を伸ばしなさい。ナユが、その甘い闇から引き抜いてあげる」
「う、――」
「……、アっ、」
 動きを止めた少女らの瞳の焦点がぶれ、戸惑うような声が漏れる。催眠と忘却を司る毒の香――それにより七結は、支配から少女らを解放しようとしたのだ。
 ――しかし。
“あら。忘れてしまうのね。私の愛を”
「――!」
「リリ、様、」
「決して、そのような……!」
 洗脳と催眠の狭間で譫言のように声を発す少女らの胸に、
“いいわ。あなた達には、少し飽いたところだったの。暇をあげるわね”
 無数の黒い槍が生えた。
 声も無く、少女らは口を喘ぐように動かし、頽れる。――少女らは彼女ら自身が生んだ黒き槍により自死したかに見えたが――その裏で誰が糸を引いているかなど、自明だ。
 倒れた少女らが、黒き塵に変わって消えていく。
「なんて、惨い」
 玩具のように弄ばれ、思い通りにならなくなれば捨てられるその身は、既に化生。――死して骸を残すことすら叶わず、正気に戻れど掌の上。
 七結は消えていく塵を前に、二刀を強く握りしめた。唇を噛みしめ、彼女は前を向き直る。
 ――救えぬ命は、確かにある。ならばそれを踏み越え、救える命を救いに行かねば。

成功 🔵​🔵​🔴​

シェヌハ・ドラウナム
これは救えぬ者でいいんだな?

目の前の少女らを指差して、確認。
道理も知らぬ痴れ者とはよく言われたが。なるほど、私はどうやら無情な者でもあるらしいな。
領主とやらの犠牲者と相対しても何の感慨もない。
情を忘れているのか。元より欠けているのか。

無造作に杖を構え、対峙。
躊躇いなく杖を振りかぶり、薔薇園ごと粉砕する打撃を叩き込む。
血肉を得て暴走する相手にはあえて身を晒して【捨て身の一撃】で反撃。

誰に祈り、何を願えばいい?
この場に望むものがない私には分からないが、

力を貸して欲しいと頼まれた。
起こる未来を否と、願った者がいた。

祈りを捧げよ、か。
他人の願いに応えてみるのも悪くない。それを辿っていけば、何れは。



●願いに添う者
「つまり、これは『救えぬ者』でいいんだな?」
 それに真っ先に適応し、確認の言葉を呟いたのはシェヌハ・ドラウナム(波痴・f15408)だった。
 周囲の猟兵に於いても、それに頷くことはしないにせよ、消極的に肯定せざるを得ない要素が揃いすぎている。否定の声が上がらぬ事に頷くと、シェヌハは魔杖を無造作に構えた。
「なら、推し通る。そこを退け」
 犠牲者の成れの果てとも言える少女らに、しかしシェヌハは冷淡であった。抱く感慨も情動も無い。自分は情をどこに忘れてきたのか、端から持って生まれてこなかったのか――考えても詮無いことが頭をよぎる。
 躊躇いなくシェヌハは魔導杖を構え、敵へと踏み込んだ。
 少女が嬌声を上げ笑いながらそれに応じた。繰り出される呪いの槍、十数条を回旋した杖で弾き散らし、もう一歩踏み込む。構えらしい構えも無いところから、速力と腕力のみでシェヌハは杖を振った。
 単純で重い一撃に殴り飛ばされ、黒薔薇の少女が一人、猪突を受けたように拉げて吹き飛ぶ。ほぼ即死のその身体を受け止めた後方の二人が、
「ああ、可哀想!」
「可哀想! もうリリ様と会えないのね!」
「血を貰ってあげる!」
「私の中に溶けて、またリリ様と会いましょう?」
 僅かの延命も考えることなく、死に体の少女に食らいつき、血を飲み、肉を喰らう。止める間もない。喰らわれた少女はすぐに塵に還り、爛々と目を輝かす二個体が残る。
 その悍ましい光景を見ても、シェヌハが表情を変えることはない。杖を構え直して、敵が攻撃態勢を取る前に前進する。
「その腕を頂戴、」
「その脚を頂戴!」
 眼を赤々と燃やして駆け来る少女らに、
「どちらも御免だ。替えがなくてな」
 シェヌハは言い捨て、杖での片手突きを繰り出した。一体の喉を潰す。
 即死には至らない。即座に杖を掴み、動きを封じようとする少女に付き合わず、シェヌハは即座に杖を手放して背のバトルアックスを抜く。身体を回し、速力と刃の重さで続く一体を上半身と下半身に轢断し、杖を喰らわせた個体へそのまま電瞬の前進。閃く三日月めいた斧の刃が、少女の首を刎ね飛ばした。
 ――祈りを捧げよ、汝が汝で在る為に。ただ唯一記憶にある言葉を反芻する。
 誰に祈り、何を願えばいいか、シェヌハは知らぬ。彼女には望みがない。……しかし、彼女は力を貸して欲しいと頼まれた。起こる未来を否と、願った者がいた。

 どうせ己に望みと祈りが無いのなら、他人の願いに応えてみるのも悪くない。
 
 それを辿っていけば、何れは――何かに至る日も来るだろう。
 透徹とした瞳を続く敵手に向け、シェヌハは杖を手繰り拾って構え直した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユキ・パンザマスト
あー……お砂糖、スパイス、素敵な何かでしたっけ?
見たところ、ちょいとスパイス効きすぎかもしれねえっすけどね。

……冗談飛ばしてねえと、眉間に皺寄りそうだ。
思うところは幾らかあれど、
(あんたらも、望まずして、血肉喰らう化け物になったってんならさ)
ユキが一咬みで楽にしてやりますよ。

動かれるよりも早く、先制攻撃!
只咢による捨て身の一撃と生命力吸収で、娘どもをなぎ払いましょう。
薙ぎの衝撃波跡からは白椿が咲き、枝葉が穿ち、締め上げて、マヒ同然の効力を与えるでしょうさ。
呪いの槍が来るとしても、元よりこちとら呪われ子、呪詛耐性ならありますんでねえ!



●呪い仔は黒薔薇を摘む
 包囲しようと迫る少女らと、散開しようとした猟兵ら。コーヒーとミルクが混ざり合うように、二勢力は瞬く間に入り交じり、乱戦の様相を呈する。
 数は圧倒的に黒薔薇の少女らが上だ。しかし、精鋭の猟兵らを単純な数だけで制圧できるようなら、この世界はとうに過去に――オブリビオンに食われ尽くして、消滅しているであろう。
 ユキ・パンザマスト(禍ツ時・f02035)もまた戦場に参じ、戦線を支えている。
「あー……お砂糖、スパイス、素敵な何かでしたっけ? 見たところ、ちょいとスパイス効きすぎかもしれねえっすけどね」
 冗談めかして言う彼女を狙う、空中に閃く無数に黒い槍。バックステップからのバック転、次々と地面に突き立つ黒槍を見て、ユキはハッ、と息を漏らすように笑う。
「ったく、冗談飛ばしてないと眉間に皺寄りそうだ」
 思うところはいくつもある。望まずして血肉を喰らう化け物になった少女らの境遇であるとか――それと自分がいかほどに違うかであるとか――そういう、考えても仕方のないいろいろなことが頭をよぎる。
 牙を剥き、襲いかかる少女の体を、足下に投影した実体ホログラムの椿の枝葉で絡め止めて、ユキは右手の五指をぐわりと開いた。
 めきき、と音を立てて右手が形取るは、最早何者であったかすら定かではない、名状しがたき獣の頭骨。――『只咢』。
「せめてユキが一咬みで楽にしてやりますよ」
 撃ち出された弾丸のごとくユキは跳ね、あぎとと化した右手で黒薔薇の少女の喉笛を食い千切った。一撃である。逝き先に惑うこともあるまい。
 ざあ、と塵と化す少女を尻目に、ユキは尚も前進。右腕、名状しがたき怪物の頭骨を盾に、黒の呪槍を弾きながら暴れ回る。
 数本が体に突き立とうとも、ユキは不敵に笑うばかりだ。
「元よりこちとら呪われ仔、この上呪おうってならこの千倍は欲しいもんですねえ!」
 羽虫を払うがごとく右腕を振り、衝撃波を放つ。体に突き立った槍がへし折れ抜け飛ぶ。
 ユキはひととしての形を残した左手を、手のひらを上に向けて天を扇ぐように振った。彼女が発した衝撃波が薙いだ芝より、実体ホログラムの白椿が伸びる。伸びた枝葉が少女らの足を、腕を絡め、締め上げる。
 動けずにもがく少女達の目には、しかし焦燥でも恐怖でもなく、法悦と恍惚ばかりがある。締め上げられ動きを封ぜられても、彼女らは『リリアーナ・ヒル』のために戦っているのだ。
 気に入らねぇ、とユキは呟き、今ひとたび只咢のあぎとをガチンと噛み合わせた。
「目がもう覚めねえってなら、そのまま眠らせてやります。嗚呼――本当に、悪い夢だ」
 ユキは爆ぜるが如くに飛び、少女らの頸を狙い右腕を振りかざした。

 ――黒薔薇の少女らの、血の薔薇が狂い咲く。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
献身は慈愛と言えよう。
だが、それを受けるものがそれを喜ぶとは限らない。

――この様な事を当事者のいない前で言っても仕方ないな。では――

(ザザッ)
此よりミッションを開始する。

(ザザッ)
SPDを選択。

迫る敵の槍は本機の拡散した電磁虚像による分身とステルス機能による欺瞞で回避。UC『"砂嵐"』の応用だ。
(目立たない+迷彩+フェイント+残像)

そのまま肉薄。(ダッシュ)
腕部砲化完了、
『Napalm Knuckle』作動。
焼夷弾を直接敵に叩き込み、或いは敵に投擲し起爆。敵を複数巻添えにし焼却。
(グラップル+零距離射撃+投擲+範囲攻撃)

救えぬなら、殺す他ない。許せとはいわない。
――殲滅を開始する。
(ザザッ)



●鉄火、黒薔薇を捲く
 献身とは慈愛だ。
 だが、必ずしもその慈愛を、受ける対象が喜ぶとは限らない。よかれと思ってしたことが、必ず相手のためになるかと言えばそうでもない。
 ――想うが故に。或いは想うがからこそ。
 その献身が、捧ぐ者の身を削るのならばなおのこと。
 説法だ。言うべき相手もここにはいない。それに――自分がすべきは、もっと別のことだ。
 染みついた硝煙とマシンオイルの匂い。アクチュエータの稼働音。ノイズの走る通信音声。

 彼は何者か。
 ――彼は、“怪物”だ。

 ザッ、
『作戦目標了解。現刻よりミッションを開始する』

 ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)は地面を蹴り、バーニアを小刻みに点火、ショートダッシュを繰り返しながら前進する。
「機械の兵隊さんよ、きちんと刺さるかしら!」
「いいえいいえ、それより血潮はあるのかしら!」
『……確かめてみるといい。出来るものなら』
 ジャガーノートは右腕部を砲へと変形しながら端的に応じる。少女らは嘲笑と嬌声を上げ、呪詛の槍を空中に召喚。ジャガーノート目掛け連続で射出する。
 呪槍は過たずジャガーノートの体を貫き――しかし、すり抜けた。ジャガーノートは止まらない。否――
 それは、虚像だ。
「当たらない……?」
「不思議、不思議! 何が起きて――」
 いるの、とまで少女は声を発せなかった。何かが腹にめり込んだかのように彼女はくの字に体を折る。
 ハム音とオゾン臭。少女の正面に突如として、ジャガーノートが姿を現した。ダミーホログラムに自身の挙動を投影。その上でステルス迷彩による視覚欺瞞により己の姿を隠し、敵に接近したのだ。
 少女の腹にめり込んだのは、ジャガーノートの、砲身と化した右腕であった。
『Right arm cannonize complete. 『Napalm Knuckle』 on.』
 ナパーム・ナックル。右腕装填式広範囲焼夷榴弾。密着状態から射出された焼夷弾がその推進力で少女を吹っ飛ばした。
 七メートルほどすっ飛んで空中で起爆。榴弾と共に飛んだ少女は当然の如く五体四散。それに止まらず、周囲にいた少女らを爆炎が襲う。
 紅蓮の炎が薔薇園を捲き、赤々と燃え上がらせた。それを背景に、ジャガーノートは右腕の砲に焼夷弾を再装填する。
『救えぬなら、殺す他ない。許せとは言わない。抗うならそうしろ。本機はそれに、火力を以て応ずる』
 ジャガーノートはただ、淡々と言った。
 慈悲も、手心も、何もない。
 次のターゲットをロックオン。ナパーム・ナックルの残弾は十分。
 では、
『――殲滅を開始する』

成功 🔵​🔵​🔴​

赫・絲
貴女達は帰りたかった? それとも、此処が幸せ?
どちらにしろ、貴女達の墓は此処だよ。
選ばせてあげられなくて、申し訳ないけど。

後ろから襲われるのは困るけど、
急がないといけないし【先制攻撃】でがんがん行くよ
正面突破に必要な最低限を千斬って駆け抜ける

向かい来る者も後ろから迫るものも全て、両手から放つ鋼糸の檻に閉じ込める
身体の一部でも捕えられたなら、それで構わない
【全力魔法】で増幅させ、【属性攻撃】で糸に流した炎で四方八方焼き尽くす
仕留め損ねは【2回攻撃】で糸を巻き取る力で引き千斬る

貴女達にとっては理不尽の上塗りだろうけど、今、助けてあげられる人しか助けられないんだ。
恨んで構わないよ、ごめんね。



●薔薇束ねるは緋色の糸
 屋敷の入口に取り付こうと駆ける赫・絲(赤い糸・f00433)の前に、やはり数体の黒薔薇の少女達が立ち塞がった。
 少女らは皆一様に悦服の表情を浮かべ、黒き槍を宙に喚ぶ。その様に、絲は無表情に問いかける。
「貴女達は帰りたかった? それとも、此処が幸せ?」
 温度のない声での問いかけに、少女らは皆一様な笑みを浮かべ、口々に答える。
「幸せに決まっているわ」
「寒くてひもじい村の暮らしなんて、もう考えなくていいし」
「リリ様がいるんだもの!」
「ねえ、あなたも綺麗な顔をしているのね」
「一緒にリリ様のところに行きましょう?」
 数人の少女が絲に的を絞った。絲は構えをとることもなく、少女らの言葉を聞く。最後まで聞き終えて、横に首を振りながら右手を上げた。
「一緒には行けないし、行かない。私は貴女達を送りに来たんだから」
 ああ――行き先を選ばせてあげることも叶わないけれど、魔性に堕し、かつての暮らしをすべて忘却してしまっているのなら――仮初めの正当性が、ほんの少しだけ、胸を軽くしてくれる。
「ごめんね。この悪縁――此処で断ち切るよ」
 絲は両手を広げ、グローブに仕込んだ鋼糸を伸ばす。ダークセイヴァーの月光に濡れ、指の先で鋼糸が不規則に煌めいた。結界の如く、糸の光が絲を囲む。
「そう」
「残念ね――」
「じゃあ、血を、頂戴!」
「もっと綺麗になれるだろうから!」
 少女らは、リリアーナ・ヒルの人形。より美に秀でた者がよりよく愛される。美を求め、完全な自分を求め他者を喰らうようになったその有様は、最早ただの屍食鬼以外の何物でもない。
 少女らは闇を固め槍を成し、真正面から絲に向けて一斉射を放つ。
 絲は即座に手を閃かせ、空中に網を織りなした。目を絞れば、槍は盾に阻まれたが如く空中で止まる。槍の速力を殺した次の瞬間、絲は網を編む結び目をきゅるりと返し、宙を掻き裂くように諸手を振るう。
 網が解け、檻となった。絲を取り囲む八体ばかりの少女らは飛び退いて逃れようとするが遅い。
 体の片端さえ捉えれば、もう、逃がさない。
「赫奕の緋に染まれ」
 焔の精霊『灰桜』との契約に拠りて、燃え盛る紅蓮の炎が鋼糸を伝う。
 絲は全力の魔力を注ぎ、焔の勢いを煽る。彼女が展開した鋼糸の檻は、瞬く間に捉えたものを灼き尽くす緋色の結界へと姿を変えた。
 焼け引き攣れる肌、悲鳴の合唱に、絲はただ目を閉じる。
「貴女達にとっては理不尽の上塗りだろうけど、今、助けてあげられる人しか助けられないんだ」
 腕を閉じるよう、絲は全力で鋼糸を絞った。
 灼熱の糸が少女らに食い込み、その体を一撃の下に焼断する。
「……恨んで構わないよ、ごめんね」

 ――黒薔薇の終。
 塵と化した少女らは絲の焔に煽られて、愁うが如く宙に散華した。

成功 🔵​🔵​🔴​

リコリス・シュピーゲル

同行者:枯井戸・マックス(f03382)
※呼び方は「マスター」

彼女たちの殲滅も仕事の1つ
マスター、手を挙げたくないとおっしゃるなら、汚れ仕事に慣れた私にお任せくださいな
かわりに素敵な眠りにつける1曲をお願いしますね

『属性攻撃』と『範囲攻撃』でより多くの敵の足元を凍らせて動きを封じますわ
マスターの後方から【死を謳う氷雨】で氷の弾丸を召喚
『スナイパー』の正確さで撃ち抜きますわ
もし相手が私の技を借用してくるのなら、『見切り』で回避しつつ氷の弾丸による『カウンター』を狙っていきます

氷のベッドは整えてあります
だから、歌に微睡んでおやすみなさい?
また、来世で逢いましょう


枯井戸・マックス
◎同行者:リコリス・シュピーゲル(f01271)

オブリビオン以外の女の子には手を挙げないのが俺の流儀だ。
それは君達相手でも同じだぜ、お嬢さん方。
……君達を救えなかった無力を許してくれよ。

◇POW
少女の身の上に悲壮を寄せつつジャスティスペインを発動。
耐久力を高めて少女達の攻撃を一身に集める。
十分に集まったらリコリスと前衛を交代し、後衛に下がったマックスはオリジナル武装・ラリホーンサックスを召喚し構える。
そして【眠りの属性攻撃、催眠術、生命力吸収、パフォーマンス】を乗せた鎮魂歌を演奏し、少女達を決して覚めることのない深き眠りへと誘う。

「俺の我儘に付き合わせて悪いなリコ嬢ちゃん。後は頼んだぜ」



●氷彩エレジー
「やれやれ、まったく、気の進まない話だね」
 右を向いても左を向いても、見目麗しい少女のオンパレードだ。
 枯井戸・マックス(強欲な喫茶店主・f03382)は慨嘆げに溜息をつき、ストラップで下げたサックスの導管に手首を置く。
「女の子には手を上げないってのが信条なんだが……オブリビオン相手じゃ話が別だ。残念だが、君達も例外じゃないんだぜ、綺麗なお嬢さん方」
「綺麗ですって!」
「褒めて下さるのね。じゃあ、見物料を戴ける?」
「血を! 熱い血潮を!」
「「「もっと、美しく咲けるように!」」」
 マックスはサングラスのブリッジに指で触れ、そっと位置を直す。軽口も、冗談めかした物腰も、その時だけはなりを潜めた。
「……救えなかった無力を許してくれよ。見物料代わりに、――せめて慰めになるように。一曲、君達に捧げよう」
 パキパキと音を立て闇が凝り、少女らの周りに黒の槍が結実する。
 サックスを持ち上げるマックス目掛け、四人の少女らが一斉に槍を放った。マックスは避けようともせず、槍を真っ向から睨む。
 ――槍がいくつも、マックスの身体を穿つ。槍に籠もる呪詛が手足から力を奪っていく。どうしてヒトとしての生を手放さなければならなかったのか。なぜ自分なのか。どうして、どうして、どうして――ドス黒い怨嗟が、錐のような鋭い穂先になってマックスに突き刺さる。
 マックスは表情を努めて変えぬまま、その怨嗟に寄り添う。手脚が腐り、壊死しかねぬ呪いに晒されながら、決して声を荒げることなく。
「……そうだな。辛かったよな。その笑顔だって――元の君達が、心から浮かべたものじゃあ、きっとない」
 敢えて攻撃に身を晒す彼の身体が、燐光を帯びる。『ジャスティス・ペイン』による身体能力の向上、ひいては耐久性の向上。自らの危機により、彼は自らの能力を押し上げる。――過たず送れるように、最上の一曲を捧げられるように。
「不思議、不思議!」
「どうして倒れないのかしら!」
「ねえ、もっともっと血を流して、美味しそうな血を、たぁくさん!」
 少女らはかしましく口にすると、先程に倍する数の槍を喚び、遠慮会釈なしにマックス目掛け射出する。全て当たればマックスの身体が剣山さながらになるような数だ。
「優しすぎますよ、マスター」
 あわやそのまま串刺しかと思われた瞬間、怜悧な声が割り込んだ。
 呪槍と同数、或いはそれ以上の数の氷の弾丸が吹き荒れる。槍に着弾する氷の弾丸は、命中と同時にインパクトと氷の魔力で勢いを減殺し、槍を悉く弾き散らす。突如戦いだ氷の狂風は、当然ながら自然に発したものではない。
 氷の魔力弾は槍のみならず、少女らの足下へ着弾し、その脚を氷で地面に縫い止める役目も果たしている。効率的で、効果的な攻撃である。
「……そんなに手を挙げたくないとおっしゃるなら、汚れ仕事に慣れた私にお任せくださいな」
 放ったのは、リコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)であった。殺しも諜報活動も手慣れたもの、彼女にとってはそれは日常に近いものだ。瞬時に発生した氷の弾幕が語るとおり、彼女もまた高い能力を持つ猟兵である。
 ――しかし、横に進み出たリコリスを制するように、マックスは手を出して彼女の進路を遮った。
 リコリスは強い。殲滅してみせるだろう、少女らを。圧倒し、蹂躙し、塵に還してみせるだろう。
 彼女らの殲滅もまた仕事の一つ。その大前提を忘れてはいない。しかしマックスは言ったのだ。たった一言の口約束ではあったけれど。
「悪い、リコ嬢ちゃん。――一曲捧げるって約束したんだ。ちょっとだけ待ってくれ。ほんの少しでいい」
「……身体をそんな穴だらけにして言うこととは思えませんね」
 リコリスはマックスの言葉に小さく嘆息するが、それに否やを唱えることもない。
「――では、伴奏しますわ。メロディをどうぞ。素敵な眠りにつけるような――極上の一曲をお願いしますね」
 竜槍『フラム』を廻し、マックスを護るように進み出、構えを取るリコリス。その周囲にまたも氷の弾丸が浮く。
 再三放たれる呪詛の槍を、雹弾と竜槍にて叩き落としマックスへの攻撃を阻む。その後ろで、マックスは己の愛器――『ラリホーンサックス』に強く息を吹き込んだ。
 奏でるは、少女らを覚めぬ眠りに誘う鎮魂歌。
 ただ、何一つの苦痛も無く眠れと願い、マックスは指を動かして息を送り込む。ダークセイヴァーの静寂の闇を切り裂くサックスのメロディが、少女らの動きを鈍らせる。
「……素敵な――、でも、悲しい曲」
 唐突に緩む敵の攻勢に、リコリスは眼を細めて囁いた。
 悲しみに添うマックスが奏でた曲は、少女らそのものを悼むかのようだった。優しい男だ――解っていたことだが。ラリホーンサックスに籠もる魔力が、少女らの意識を奪っていく。
「……後は頼むぜ、リコ嬢ちゃん」
「お任せを」
 リコリスは最早頽れかける五人の少女に視線を絞った。
 竜槍を、狙いを定めるように彼女らに差し向けた。死を謳う氷雨をいくつもいくつも練り合わせ、きっかり五本、鋭く光る氷柱の槍を練り上げる。
「氷のベッドは整えてあります」
 先程からの雹弾の猛撃で凍えた地は、きっと彼女らの美しいドレスを汚すまい。
 リコリスは、優しい声で言った。
「だから、歌に微睡んでおやすみなさい? ――また、来世で逢いましょう」
 射出。
 五本の氷の槍が過たず少女らの胸の中心を貫き、地面に縫い止め――
 苦悶の声すら上げさせることなく、その命を奪い去った。
 黒き塵と化し、少女らは無に還る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
「ええ、ええ。此れは誠に――」
――なんとも、いけ好かない。

淡い笑み敷く口許と、相反して冷めた瞳で。
見切りは怠らず、けれど一打を喰らうならそれも反撃の機と取って。
早業でもってくるりと、少女の頸へ鋼糸を這わせ。
UCトリニティ・エンハンス、炎の魔力で攻撃力を足し。
一度で足らぬなら2回攻撃。
その脈を断ちたく。

貴女方は何を思い、何を望み、如何生きたのか。
知る由は無い。知ってどうすることも。
眠らせる、なんてのは所詮自己満足に過ぎないのでしょう。
……それでも。或いは、そう思うが故に。
己は、生きる者を、生きられる者を選ぶ。

手が届くものがあるのなら、一足でも早く
――疾く。



●君を知らずとも、その雫だけは
 人形のように整った顔で、少女らは笑う。小鳥のような囀り声で、けれども残酷な言葉を紡ぐ。
「あら、碧い、綺麗な瞳!」
「素敵ね、きっと月に透かしたらもっと綺麗よ!」
「ねえ、頂戴? いいでしょう?」
 投げかけられる言葉に、男は淡く笑みを浮かべた。
「ええ、ええ。此れは誠に――」

 ――なんとも、いけ好かない。
 
 笑みは、口元だけだ。
 目は笑ってはいない。少女らをただの殺戮機構として作り替えた、その向こう側の存在を睨むかのようだ。
「おいでなさい。或いは僕の首を落とせたのなら、瞳など好きにしたらいい」
 眼を細めて嘯くのは、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)である。好青年然とした整った面に、目だけ笑っていない笑みを乗せて、鋼糸のグローブを填め直す。五指より鋼の糸を回せる特別製のグローブだ。
 構えを取るクロトを見て三人の少女らが笑った。地面を蹴り、爪を振りかざし青年へと襲いかかる。
「あは、そうしたら、すぐにもらってしまうわ!」
「首をもいで、腕と脚をもぐところをしっかり見て貰いましょう、間近から!」
「リリ様のまねっこなのよ! ラタもそうして殺して貰ったのよ!」
 ラタ。その名前を知らぬ。或いは、彼女の生前の友人か何かだろうか。
 ――ただ、笑いながらそう発した、いつか人間だったモノが、名残の如く瞳から涙を零したことだけは忘れまい。落涙は人間性の残滓。その雫が意味する、朧気なものをクロトは感じ取る。
 襲い来る三人の少女。繰り出される爪を避ける。クロトは身を屈めながら少女らの間を縫うように抜けた。空中にひゅるりと伸ばした鋼糸が黒薔薇の少女らの首を捉え、みり、と肉と骨を軋ませる。
 鋼糸をロックする。びん、と張る鋼糸の感触を一度確かめ、刹那の間も置かずクロトは『トリニティ・エンハンス』を起動した。鋼の糸を炎の魔力が覆い、その熱量を一瞬で先端まで伝わせる。
「熱、」
「ッ……」
「――!!」
 彼女らが如何にして生き、何を思い、何を望んだのか、クロトは知らない。知る由もないし、知ってどうすることも出来はしない。せめて安楽に眠らせるなどと言ったところで、それすら自己満足に過ぎまいとクロトは思う。
 ――だからこそ、そう思うが故に。
 この先に生きる者が、まだ生きられる者がいるのなら、彼はそれを選ぶ。
「きっと天には、僕の瞳などより綺麗な物が五万とありますよ」
 一度弛ませた糸を、勢いを乗せて、殴り飛ばすように引いた。
 食い込んだ糸が、三人の『少女だったもの』を切り裂き、斬首。炎熱で胴と首を灼き尽くして塵とした。
 クロトは、突き出した手の勢いのままに館目掛けて駆ける。
 手が届くものがあるのなら、一足でも早く――疾く。

成功 🔵​🔵​🔴​

月隠・望月
わたしには上の兄弟がいる。ので、わかる。姉が死ねば、妹はとても悲しむ、と。
キキ殿を助けに行く理由としてはそれで十分だ、と主張する。

このヒトたちは救えない、なら早く倒して進もう。
最初に【式鬼・鴉】を召喚して上空に、飛ばす。あれとは五感を共有している、ので上から敵の様子を把握できる。敵の不意打ちを防ぐのに役立つ、はず。必要時には、他の猟兵に声をかけて情報を共有。

近くの敵は《無銘刀》で<なぎ払い>、遠くの敵は《霊子小型拳銃・壱式》で<誘導弾>を放ち攻撃。なるべく手数を増やして、敵を早く倒すよう努め、よう(<早業><2回攻撃>)
また可能な限り急所を狙い、敵は一撃で倒したい。せめてもの情け、というやつ。



●追憶
 ――兄がいた。
 いる、ではない。
 いた。
 自分のことを、いつも大事に大事にしてくれた。世話を焼いてくれた。戦闘に関しては天賦の才があった自分の、至らぬ所を補ってくれたひとがいた。
 家族から注がれる無償の愛の優しさと、その大きさを知っている。
 だから、解る。姉が死ねば、妹はとても悲しむ。
 万に一つもないと信じて探しているけれど、兄がもうこの世にいないと想像したときの悲しみ――
 それは現実と薄皮一枚のところで、いつも自分の心を焦がしている。
「――なら、助けなければ」
 月隠・望月(天賦の環・f04188)は無表情に、決然とした色を乗せて呟く。
 妹の涙を止め、今一度、二人で同じ飯を食って貰うため。理由など、それ以上に必要だろうか。
 望月は無銘の刀を逆手抜刀。右手に刀を、刀印を組むかのように構えた左手の内側に『霊子小型拳銃・壱式』を携え、腰を落とし低く構える。
「あら、可愛らしい娘」
「リリ様がお喜びになるかも!」
「そうね、なら、顔は潰さずお持ちしましょうね――」
 口々に言葉を発する少女らは、泥のような重く鈍い笑みを浮かべて望月に迫る。
 その周囲に呪槍が凝って、まさに放たれるその間際、望月は膝をぐっと撓めた。
「救えないならば、早く倒して進むまで」
 ばさ、ばささささっ!
 突如響くのは羽音だ。
 黒の羽根を舞い散らしながら、突如として無数の鴉が羽撃き、空へと舞い跳ぶ。攻撃でも何でもなく、突如起こった鴉の羽音に少女らが意識を奪われた瞬間、望月は逆手に持った刀の輝きを引き摺るように駆けた。
 跳ね、殴りつけるように一人目の首を撫で切りにする。頸骨節を縫い神経まで断ち切れば充分。刀を撫ぜるように抜き去りながら、間近に迫った次の少女の眼窩に、霊子銃の撃鉄を起こして弾丸を叩き込む。望月の霊力を形とした銃弾が、頭骨内で跳弾して少女の脳髄をメチャクチャに掻き回す。頽れるその背中を蹴り飛ばし、刀の血を振り飛ばしながら望月は身体を廻した。牙の如く、逆手の刀を打ち払うように突き出し、三体目の心臓を貫く。
 羽音で注意を奪い、手近な三体を一瞬で葬るは唯一無二の忍の技だ。
 遠間の敵目掛け構えを取り直す望月の後ろで、絶技を叩き込まれた少女らが同時に黒塵と化す。
 上空に辿り着き、視覚情報を共有し出す鴉。得た情報を元に、望月は次の敵に的を絞る。彼女の身体に月を象ったような羅刹紋が、ぼんやりとした輝きと共に浮かび上がった。「退いて、もらう」
 ――一撃で眠らせ、先に進もう。
 それが、せめてもの情けと言うやつだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
どうしてこんなことが出来るの?
なんでそんなことが言えるの?
誰かを傷付けて、弄んで喜ぶだなんて、マリアにはわからないわ。
誰だって痛いのは嫌でしょう?
苦しいのは嫌でしょう?
誰かにそういう思いをさせて、なんであなた達は楽しめるの……?

どれだけ傷つけようとしても、オーラ防御で守り切る。
それが叶わずどれだけ傷付けられても、血も肉も念動力で引き離して口にさせない
全開のサイコキネシスで、動きを止める。
血の流れを、心臓の鼓動を、神経の伝達を全て止めて、終わらせるわ。

ごめんなさい、マリアにはあなた達のことが全然わからない
だから、マリアにはあなた達は救えない、救わない
せめて苦しくないように、おやすみなさい



●愛は人を殺すのか
「殺しましょう、殺しましょう!」
「女の子は手足を潰して、リリ様に差し出しましょう!」
「大丈夫、きっと綺麗に『直して』もらえるわ」
「そして貴女たちも、きっとリリ様に夢中になるのよ!」
 少女らは可憐な声で、恋する乙女のように頬を染めて語る。
 どうして、こんなことが出来るのか。
 なぜ、そんなことが言えるのか。
 アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)には理解が出来ない。誰かを傷つけ、痛めつけ、弄ぶことをよしとして楽しむなど、人の所業とは到底思えなかった。
「誰だって、痛いのは――苦しいのは、嫌でしょう? 誰かにそういう思いをさせて、何で貴女たちは楽しめるの……?」
「簡単よ、リリ様がそれを望んでいるのだもの!」
「私たちは、リリ様を喜ばせたいだけ!」
 少女らは口々に歪んだ恋心を歌い上げながら、爪を振りかざして襲い来る。アヴァロマリアは体にオーラを巡らせ纏い、構えをとった。その体が燐光を帯びる。
 わからない。愛のためなら、誰かを傷つけても構わないというのか。よしんば、それが認められたとして、愉悦を伴う愛玩のために一人の少女を拐かし、妹との絆を引き裂くことが認められていいのか。
「わからないわ。マリアには。あなた達の言っていることが、全然わからない」
「わからなくていいのよ」
「最初はみんなそう――」
 爪が振り下ろされる。アヴァロマリアはオーラにより硬化された体で爪を受け止める。
「大丈夫。リリ様が教えてくれるわ!」
「……ごめんなさい。それは、お断りするわ」
 宙に像を結ぶ黒き槍。アヴァロマリア目掛け連射される槍を、彼女はやはり硬化した体で受け、弾き――防ぎ切れず刻まれる裂傷を狙う少女らの唇を、念動力によって阻む。
「きゃんっ」
 黒薔薇の少女の頤が見えぬ手に押されたように突き返される。
 敵、四体。マリアは集中力を高める。
「あなた達のこと、救いたかった。……でも、できないわ。わからないの。きっと、『リリ様』に訊いても。――だから、マリアにはあなた達は救えない。……救わない」
 アヴァロマリアの銀髪が、風もないのにふわりと舞う。ぴん、と空気が張り詰め、少女らがまるで氷の中に囚われたように動きを止めた。
 言葉紡ぐことすら叶わない。アヴァロマリアの『サイコキネシス』が、彼女らの動きを止めたのだ。
 停止したのは単純な動きだけではない。心臓の律動を、血流を、肺の動き、神経電位の伝達までも、凍えさせる。
「――もう何も見ずに、感じずに。せめて苦しくないように、おやすみなさい」

成功 🔵​🔵​🔴​

ネグル・ギュネス
救いの無い話は、私は嫌いだ
まして幸福を踏み躙ろうとする類を、許しはせん!

我が名は黒き太陽
貴様ら絶望を灼く者の名だ!

左手に持つ銃から、雷の【属性攻撃弾丸】を撒き散らしながら、右手の刀で敵を切り裂く!
【衝撃波】を放つ一閃と、弾丸を撒きながら、【残像】を残すスピードで駆け回り、飛び回り、叩き潰す!

機械の身体だ、齧られても味はすまい
蹴飛ばし、斬る

ユーベルコード【剣刃一閃】
我が愛刀、桜花幻影

哀悼の鈴の音を鳴らしながら、貴様を涅槃に送ってやる

嗚呼、貴様らは救えぬ
手遅れだ。
だから。


せめて、来世は理不尽な死を迎えぬように、看取ってやろう
許してとは、言わん

代わりに、あのクソッタレを斬る怒りは、背負って行ってやる



●迅雷
 宇宙バイク『SR・ファントム』のエンジンが唸る。鉄馬の咆哮が夜を切り裂いた。
 救いの無い話は、嫌いだ。
 ましてこの絶望まみれの世界で、ささやかな幸福を支えに生きている人々を踏み躙ろうとするなど、捨て置けぬ。
 鉄馬の騎手は正面、数十メートルの位置に立ち塞がる四体と会敵。正面から放たれた槍の嵐を車体をバンクさせ回避。
 ならばとばかりに襲い来る、左右を埋める一斉射。放たれる一瞬前にバイクのシートを蹴って、槍衾を飛び越える。
 少女らは見仰ぐ。月をバックに宙を舞う男の姿を。
 空中。抜刀。
 りいん、
 刀の柄で鈴が揺れた。
 刹那の間に、宙を蹴り下る如く男は落下。怜悧な音色と裏腹の、苛烈な斬撃を繰り出した。
 一人の少女が肩口から反対の腰までをざっくりと裂かれ、二つになって血を飛沫かせるのを尻目に、男は吠えた。
「我が名は黒き太陽。貴様ら絶望を灼く者の名だ!」
 ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)である!
「ああ、リリ様の嫌いな男がいるわ!」
「すぐに駆除してしまわないと!」
 一人の少女の死を、周りの少女らは気にも留めずに呪槍を編む。
 ネグルは応ずる言葉も無く、ソリッドブラスターαを左手に引き抜きトリガーを絞った。雷鳴じみた銃声と共に雷弾が吐き出され、空中に呪槍が固まる前に弾き散らす。雷弾は本物の雷さながらに、複数の槍の間をジグザグに通電し、一発で複数本の槍を破壊する。
 弾丸は七発。すべてを撃ち落とすことは叶わぬ。しかし、一瞬意識を奪えれば良い。
 弾ける呪槍に少女らが目を見開いた瞬間にはネグルは踏み込んでいる。残像を曳く迅駛の前進。
 薙ぐは愛刀、桜花幻影。一閃のち刃を返してさらに一合。二つの首が胴と離れ飛ぶ。

 ちりり、
 葬送るはあえかな、哀悼の鈴の音。

 さらにもう一人の胸を貫き通す。
「あぐッ、ううう、うう!」
 少女は呻きながら、突き刺されるままにネグルに縋るように迫った。牙をむき、そのまま噛み付くが――
「味はすまいよ。機械仕掛けの体ではな」
 ネグルは機械の左腕を盾とし、吸血を防いで少女を蹴り飛ばす。
 即座にその胸の穴をソリッドブラスターの雷光で射貫いた。悲鳴をあげ絶命する少女。
「嗚呼、貴様らは救えぬ。手遅れだ。……せめて、来世は理不尽な死を迎えぬように、看取ってやろう」
 塵と化していく少女達の亡骸。一瞬でネグルが屠った数は四。それに倍する数が、薔薇園から進み出る。
「許してとは、言わん。その代わりとも言えないが」
 ソリッドブラスターを再装填。ネグルは刀の切っ先を少女らに向け、決然と――
「今の貴様らが忘れた――いつか抱いていた苦しみを。悲しみを。あのクソッタレを斬る怒りを――私が背負って行ってやる」
 そう、宣言した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メドラ・メメポルド
大事なひとと離れ離れも、ごめんなさいが言えないのも、かなしいわ。
だから、ええ、お手伝いしましょう。
メドが、導いてあげましょう。

【WIZ:あなたを誘う花の夢】
くらげの腕を毒で満たして、
花に変えたら散りばめましょう。
あなたたちへの毒は、ふたつ。
ひとつはやる気をなくす、なまけものになる毒。
ひとつはからだの動きを縛る、しびれる毒。
どの花びらにどっちの毒が、なんてわからないわ。
でもたくさんばらまけば、どっちも効くはずよね。

さあ、身を委ねて。
もう戦わなくていいの、眠ればいいわ。
眠るその首を誰かが切り落としても、
気付かないままおいきなさいな。
真似っこしたってだめよ。
メド、毒は効かないもの。



●おいでなさい、うみのそこへ
 自分にとって大事な人との永久の別れ。謝罪も告げられないままの離別。幼い八歳の少女さえ、それが辛く悲しいものだと知っている。
 こぼれる涙を甘露とするもの達が跋扈するこのダークセイヴァーに、次に降り立ったのは、メドラ・メメポルド(フロウ・f00731)であった。切迫したグリモア猟兵の声が記憶に新しい。
 ――だから、ええ、お手伝いしましょう。メドが、導いてあげましょう。
「あら、小さくて可愛らしい子!」
「綺麗な目ね、連れて帰ったらリリ様もお喜びになるかしら!」
 勝手を呟く少女らの前で、メドラは髪に混じり伸びる触腕に意識を集中した。彼女は海月の特徴を有するキマイラ。その触腕には様々な毒が通う。メドラはその体内で種々の毒を合成し、敵を毒殺、捕食、或いは無力化することを得手とする猟兵だ。
「メドは連れて帰られるためにここに来たわけじゃないのよ。連れて帰るためにここに来たの」
「帰りたがる子なんていないわ」
「いても、すぐにいなくなるわ!」
 即座に二人の少女が尖った爪を古い、メドラに襲いかかる。メドラは触腕を伸ばし、横合いの立木を掴んで体を引き寄せることで回避。続く黒い槍の連射を、撓らせた触腕で打ち落とす。
 ――少女らの言葉の意味。それは、服従せねば、恭順せねば、すぐに生きてもいられなくなるということに他なるまい。メドラは無表情の眉をきゅっと寄せ、小さく、だが確かな感情表現をする。
「あなたたちのすきなひとは、ひどいひとね」
 メドラは毒を装填した触腕を変形させる。先端から、触腕は崩れるようにさらさらと解けて風に渦を巻いた。七彩鮮やかな花弁として、毒の触腕が宙に舞う。
「すきなひとの言うことのまま、人をいじめることしかできなくなってしまったのね。――もう、だいじょうぶよ。メドの毒をあげるわ」
 反論などする間も与えず、メドラはさらに触腕に毒を込め、続けて花弁を生成する。
 花に込められた毒は二つ。精神に作用しその働きを鎮め、鈍磨させる抑制系の毒。もう一つは運動神経に作用し行動そのものを封じる麻痺毒。
 この二つの毒のカクテルをして、ユーベルコード『あなたを誘う花の夢』と呼称する。傷つける意図などないかに見える鮮やかな花弁が、少女らに触れた瞬間、じゅわりと液化して膚に染み入る。
「は、っ」
「これ……は、」
 即効性の毒だ。受ければ体も心も眠る、夢の名を冠する毒。メドラは子守唄を歌うように言った。
「さあ、身を委ねて。もう戦わなくていいの、眠ればいいわ。眠るその首を誰かが切り落としても、気付かないままおいきなさいな」
 眠りの花嵐の真ん中で、囁く海月。
 深い海に囚われるが如く、幾人もの少女が崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル

後から後から、放っておけば後味の悪い結末になるような出来事しかないのかしらね、ここは。
……いえ、そうね、そういう場所だった。……なら、やるしかないでしょう。


今宵歌うは、「眷属のための葬送曲 第1番」。
戦闘が続き、場が温まってきた所で、それを奏でましょう。
戦闘不能になった「黒い薔薇の乙女たち」を、逆に私の眷属として使役し……同士討ちをさせましょう。


救えない、と言ったわね。
ええ、そうなのでしょうね。だったら……最期は、吸血鬼に魅入られた眷属としてでなく。
新たな犠牲者を出さないための戦いを、せめて手助けして頂戴。
……これは眷属への「命令」ではなくてよ。……それすらも苦痛ならば、そのまま自壊なさい。



●せめて、最期は人として
「後から後から、放っておけば後味の悪い結末になるような出来事しかないのかしらね、ここは」
 この間も村を一つ救ったばかりだというのに、常闇の世界には、語るも憚られるほどに悲劇が溢れている。
「……いえ、そうね、そういう場所だったわ」
 己の生まれた地ながらに、つくづく呪われているものだ。
 ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は戦場の中央で周囲に目を走らせる。敵は、肉体を維持できなくなるほどのダメージを受けると自然、黒き塵と化し霧散するようだ。
 しかし猟兵の全てが直接的な打破・撃破を選んだわけではない。敵を眠らせる、或いは戦意を削ぐことで行動を封じた猟兵もいる。――メドラのようにだ。毒により戦意と身体の機能を奪われた状態。それに目を付け、ミーユイは深く息を吸い、臥したる黒薔薇たちに聞こえるよう声を張る。
 今宵歌うは『眷属のための葬送曲 第1番』。
 ミーユイ・ロッソカステルが息を吸えば、その瞬間そこはステージに変わる。
 あの淡い月の光が、スポットライトに思えるほどだ。

 目覚めよ 我が子よ
 我が同胞よ 
 汝の御霊 気高くあらん

 それは心の支配ではなく、魂の同調。死したる者、或いは目を覚まさぬ者の魂に己のそれを介入させ、手脚の如く使役する歌。
「救えないと言ったわね。――ええ、きっと、そうなのでしょうね」
 ミーユイもまた、リリアーナの邪法によって少女らが自死を選ぶところを目の当たりにした。或いは救う手立てがどこかにあるのかも知れない。けれどそれを見つけるには長い時間を要するだろう。或いは存在すらせぬかも知れぬ。その上、敵は待ってはくれない。どうあっても、助けることは叶わない。
 ミーユイは歌声で、少女らの魂に寄り添う。
 ――だったら、最後は吸血鬼に魅入られた眷属としてではなく、新たな犠牲者を出さないための戦いを手伝ってくれないかしら。
 ミーユイは声に魂を込め、臥したる少女らの心の奥底へと訴える。
 ――あなた達を救うことは出来ない。けれど、あなた達の力が、きっと誰かを救うわ。これは命令ではなく――私の願い。

 応えて。
 まだ、あなた達にひとの部分が残っているのなら。

 ……歌が終わる。少女達が、ゆらりと立ち上がった。
 言葉すら紡げぬ。リリアーナの呪縛を束の間、ミーユイが上書きしたただそれだけの状態。
 ――それでも彼女らは、手を挙げ、淀んだ笑みを浮かべて迫る同胞らに向き直る。
「……いい子達ね。行きましょう」
 ミーユイは再び喉を広げ、張り詰めた声で歌い上げる。『魔物 第2番』。
 それは鼓舞の歌。立ち上がり、残る僅かな時間の過ごし方を決めた少女らへの、勇壮たる葬送歌であった。
 激突。黒の槍が乱れ飛ぶ。黒薔薇と黒薔薇が、火花を散らして交わった。

成功 🔵​🔵​🔴​

水沢・北斗
まったく……出る前にいやな情報くれますよね。
アレが元々は人だったと思うとちょっとやりにくいんですよね……。
……だってほら、私『傷をつけずに無力化』とかとても苦手なんで。

まーどのみち救えないってハナシですし、せめて極力傷が目立たないようにやりましょうか?出来るだけですけど(初弾を薬室に送り込みつつ)

*主武器には銃を使用
魔力伝達開始――添付術式は貫通、誘導。
狙うは心臓、一撃で貫通させれば損傷は最小限のはず!

基本的には距離を保って銃撃、相手も飛び道具はありそうなのでそれには注意。
これでも結構身軽なんですよ。簡単には当てられないですよ?

戦闘後に遺体が残るなら最低限整えてあげる。


アレクシス・アルトマイア

ええ、ええ。
お任せください。
私が。私達が、彼女を、彼女たちを救いましょう。

私、急いでいるのです。歓待はありがたいですが…
効率重視に、お相手させて頂きます。

ああ……貴方達も、助けられたら、どんなに良いでしょう。

ごめんなさい、貴方達までは、間に合いませんでした。
だから……おやすみなさい。

【従者の独立幇助】での一閃ならば、もしも改心の目があるなら、命を奪わずに済むかも知れません。
……それでも救えないのなら、一思いに。

最大の効率で、救えるものだけを、出来る限り救う。
……それが正しいと。それが最も取るべき道だと分かっているから。
救えない者を前にしたって、
迷うことなど、ありません。



●それは慈悲なき黒刃のように
「まったく、出る前にいやな情報くれますよね。アレが元々は人だったと思うと……指が迷いそうになる」
 遠距離。ボルトオープンの位置で止めたライフルに、クリップで繋がれた実包を押し込む。
 彼女は銃のヤドリガミ。元より殺すために生まれた器物に、『傷を付けずに無力化』なんていう曲芸を期待されても困る。手加減は苦手だ。
「どのみち救えないってハナシですし、その分ちょっと気は楽ですけどね。……ま、せめて極力傷が目立たないように撃ちましょうか。出来るだけ、ですけど」
 ボルトハンドルを前進させ、初弾をチェンバーに突っ込みながら、少女は――水沢・北斗(ヤドリガミのアーチャー・f05072)は独り言ちた。彼女は遠距離への転送を希望した猟兵の一人である。
『狙って』『飛ばして』『当てる』。北斗はただその三つの機能に特化した猟兵だ。中~遠距離を射程により支配するのが彼女の得手である。銃だろうと弓だろうと投石だろうとそれは成立し、得物すらも選ばない。
 新緑色の前髪を指で捏ね回し、ピンと弾くと、北斗は伏射姿勢を取ってアイアンサイトを覗き込む。
 魔力伝達開始。術式添付、貫通、誘導。初速を高め、貫通性能を上げ、照準補正のための誘導術式を付与し、狙うはただ一箇所、心臓だ。一撃で射貫けば、他の部位を傷つけることもあるまい。
 北斗はストックに頬を付け、照門を覗き込む。
 サイトの向こう側。二〇〇メートルの向こうでは、この瞬間も猟兵らと黒薔薇の少女たちが激戦を繰り広げていた。

『ええ、ええ。お任せ下さい。私が。私たちが、彼女たちを救いましょう』

 グリモア猟兵にそう告げたのが十数分前のこと。
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)を無量の槍が襲う。身を翻して避け、避けきれないものをフィア&スクリームによる連射で弾き、彼女は駆ける。
「私、急いでいるのです。歓待はありがたいですが――貴方達のご主人様に用がありまして」
「つれないことを言わないで。ねえ、その目隠しの下をお見せになって?」
「きっと素敵な瞳なのでしょう? リリ様にお伝えしないといけないわ」
 接近してくる対象が二人。それに加えて周囲から多量の槍による連続攻撃が襲う。敵の手数が多い。アレクシスが担当した区画に寄せた敵の数は、他よりも多かった。
 爪による攻撃を掻い潜り、飛び下がったところに槍衾が押し寄せる。黒い槍が掠め、アレクシスの玉肌に裂傷を刻む。必然、攻撃は後手に回る。
「お喋りは止しましょう。効率重視に、お相手させて戴きます」
 アレクシスは声のトーンを落とす。
 七結が少女らを助けようとしたのを見た。結果も見た。少女らの自死。よしんば救えたとて、その身体は既に血肉に狂う化生のもの。……振るうべき刃は、救う為の刃よりも、終わらせるための刃であると、薄々気付いていた。
 最大の効率で、救えるものだけを、できる限り救う。この無慈悲な世界においてのみではない。いつだって――どこでだって、それが最善の道だと解っている。
 アレクシスは納めた拳銃――フィアの代わりに、黒刃を引き抜いた。光を吸うナイフの刃を構えるアレクシスに、少女らは無邪気に笑って襲いかかる。
 ――迷うことなど、……ないのに。
「ああ」
 間に合わなかった。もっと早く、助けに来られたなら。
 ごめんなさい。ごめんなさい。貴方達も助けられたら、どんなによかったでしょう。
 眼を晒さぬままに、アレクシスは悔いるようにナイフを握り締める。
 爪が振り下ろされる。アレクシスは攻撃を流すべくナイフを翳し――
 ぱっ、と少女の襟元に、赤い華が咲くのを間近で見た。次いで、遠雷の如く銃声が届く。
 ――アレクシスにはすぐに解った。狙撃だ。しかも、高初速の小銃弾を用いたもの。

 初弾命中。北斗はボルトハンドルを後退させ薬莢を排出すると、即座に二の矢を放った。二〇〇メートル先の、人間にはあり得ない速度で動く敵、その心臓に誤射もなく銃弾を的確に送り込む能力。神業と呼ばれて然るべき技量。
 貫通術式と誘導術式は十全に機能した。その二つを併せ、更に魔力を乗せた銃弾を放つ。高初速の銃弾は魔術による弾道修正を経て、致命の魔弾となり少女の胸を穿つ。二体目、ナイスキル。
「もう、戻れないなら……せめて綺麗に送ってあげましょう」
 北斗は静かに呟く。覗いたサイトの向こう側で、射貫かれた少女が黒い塵芥となって空気に溶けた。
「それが、私たちが、彼女たちに最後に出来ることだと思いますよ」
 照準器に切り取られた二〇〇メートル先の景色を、北斗は見つめる。ナイフを手に、一時は動きを止めた銀髪の女を。
 声も、音も、届くわけもない。しかしそれでも北斗は後押しするようにボルトハンドルを操作し、三発目の銃弾を装填した。
 エイム。ファイア。
 無限遠の彼方で、また一人、ゴシックドレスの少女が射貫かれて黒塵に帰す。

 後方からの狙撃、援護。三射目の銃声。叱咤するような響きに聞こえて、アレクシスは「はい」と呟いた。その姿が、空気に溶けるように掻き消える。
 呼吸の間隙、注意点の狭間を縫い通し、アレクシスは短距離を空間跳躍。少女一人の背後に再出現し、その延髄に滑らかにナイフの切っ先をねじ込む。
 声すら漏らさせぬ、完全なる死。蒸発するように塵に変わる少女を見ながら、アレクシスは確かめるように呟いた。
「――ええ。迷うことなど、ありません」
 今はただ、この黒刃のように在ろう。
 まだ助けられるあの娘に手を伸べるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

遙々・ハルカ


いやぁ、いいんだけどね別に
オレら人型相手向きじゃん?
適材適所?
ま、トヲヤくんのおねだりは珍しいから
どっちかってーと壊れた後より、壊れる様のが興味あるっちゃあるんだけど

オレは銃苦手だしナイフ使うか
人が戦ってる横からちょいと不意打ちフェイントだまし討ち
戦闘知識活用で常に暗殺急所狙い
地味だけど堅実っしょ

オレは助けに来たヒーローじゃねェけど
大丈夫
こいつで首を掻っ切れば苦しまず一瞬でイケるよ
噎ぶほどの香、いい夢くらいは見られるかもだろ

逆に不意討たれちゃう場合は
汚泥汚辱のアンガロス、天使ちゃんに助けてもらおう
あーあー、大人しくしてねェからよ
こいつは美人も人外も人も全部平等に
自分と同じ汚泥にしちゃうんだぜ


有栖川・夏介

私に救える命があるのなら、力になりたいと思います。
……しかし今目の前にいる彼女たちは、既に堕ちている。
こうなってしまっては、もう……。
せめて最期は眠るように、屠りましょう。
「サヨナラの時間です」
処刑人の俺には、やはりこういう仕事が似合っているらしい。

「処刑人の剣」を構えて少女たちの前に立つ。
攻撃は【戦闘知識】や【第六感】を駆使して【見切り】で回避。
基本は1対1になるように動き、もしも囲まれたり背後をとられそうになったら、UC【何でもない今日に】で周りの敵に一斉攻撃し、態勢を整えます。

タイミングを読んで間合いを詰めたら、ためらわずに少女の首をはねます。
「おやすみなさい」
……良い夢を



●断罪と泥濘
 救える命は、全て救いたいと。力になりたいと願っていた。

「次から次へ、沢山来るのね」
「私たちとどちらが多いのかしら?」
 ゴシックドレスの少女達は歌うように言う。彼女らは、元は人間だったという。有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は知っている。最早少女らは、人間の見た目をした化生なのだということを。血を喰らい、肉を喰らい、死せば骸も残さず黒塵に帰す定めなのだということを。
 ――救えない。既にその身は魔性に堕ちた。こうなってしまっては、手の施しようもない。
 ならばせめて、最期には覚めぬ眠りを与えよう。夏介は、ポイント――切っ先のない奇妙な形の剣を抜く。知識のあるものが見れば、すぐに解ったはずだ。
 それは、処刑人の剣。エクスキューショナーズソード。突く必要性がない――ただ、人の首を落とすための剣だ。
「サヨナラの時間です。――やはり俺には、こういう仕事が似合っているらしい」
 彼は、夏介は、処刑人である。代々連綿と処刑を生業とする家に生まれ、今日まで数多の死に触れてきた。その瞳は鮮血の如く赤く光る。
「やあだ、その剣、罪人殺しの剣じゃなくて?」
「私たち、何も悪いことをしていないのに」
「ただリリ様を愛しているだけなのに!」
「その愛のために、何人を殺したというのです」
 夏介は剣を構え、踏み込んだ。一体目に首狙いの斬撃。少女は身を沈めて回避、即座に伸び上がるようにして爪を振るってくる。左に身体を捌き回避する夏介を数本の呪槍が狙う。剣を閃かせ、弾きながら後退する夏介に追いすがる二人の少女。
 夏介は袖を打ち振り、仕込んだ飛針を放つ。飛び道具など持たぬかに見えた夏介からの不意打ちに、少女らは踏鞴を踏み、腕で顔と首を覆って防御姿勢を取る。
「――はァい、その隙もーらい!」
 針が突き立ち呻く少女らを、横合いから飛び出した猟兵――少年が襲った。
 武器はたった一本のナイフ。行き詰まり、どん詰まりを意味する黒刃。艶消しの刃はダークセイヴァーの闇によく溶ける。
 一人目の少女が構えを取る前に、空いた右脇から心臓を突き破るコースでの刺突。刃はぬるりと柄まで埋まった。肋骨の間を抜けて肺と心臓を破壊。悲鳴の一つすら残せず黒い塵に変わって散る少女を後目に、少年は羚羊のように跳ねた。逆手に持ち替えたナイフでもう一人の首を切り裂くと、ブレーキを掛けて止まる。くるる、と指先でナイフを器用にロール、グリップを止めて血振り。その背で、少女の首から血が噴き上がる。
「一瞬でイケるだろ、自分の血の匂いはどうだい?」
 喉を押さえ、口を動かす少女。気道まで切り裂かれたのか、血液の泡立つ音しか発せぬ。膝から崩れ落ち、地面に臥した。蒸発するが如く塵と消える。
「返事も出来ねーか。喉切っちゃったしなあ」
 ひょいと肩を竦める、軽薄なその猟兵は名を遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)という。
「悪ィね、横取りしちゃった?」
 飄々とした調子で問いかけるハルカに、夏介はあくまで冷静に答えた。
「……いえ。対多数は避けようと思っていました。ですので助かります。――あの数は流石に骨が折れる」
「げ」
 夏介の注ぐ視線の先、少女らが十人あまり、数を揃えて襲い来る。
「牽制します。一気に攻めましょう」
「了ー解」
 ずらり――
 夏介が抜くのは暗器の群。嘗て彼が処刑した罪人の、『お茶会』の為に誂えられた殺しの道具、一式である。その数は先程の一投の比ではない。
 宙に呪槍を生成しつつ襲い来る少女ら目掛け、夏介は連続して腕を振るった。驟雨の如く荒れる針の雨。
 少女らが防御姿勢を取ったその隙に、夏介とハルカは全く同じタイミングで猛進した。
「あーあ、こいつらみたいな壊れた後の連中より、壊れていく過程に興味があんだけどなァ。――ま、いーや」
 ぺろり、と赤い舌で唇をなぞるハルカ。速度を上げ、夏介の前進に先んじる。
「オレは助けに来たヒーローって訳じゃねェからさ。優しくはできねェよ、ごめんな?」
 ハルカは旋風の如く駆け抜けた。ナイフを振るい、一体一体片付けながら、自分へ向けて唸り飛ぶ槍を潜るように回避、飛び退り、狙いから逃れる。
「天使ちゃん、やっちゃって」
 着地しながらの首を掻き切るジェスチャー。
 ハルカの求めに応じたのは、汚泥が御使いの姿を真似たような――天使と言うには醜悪な飼霊、『汚泥汚辱のアンガロス』である。ずるりと地面から這い出たアンガロスは主の求めに応じて少女らに飛びかかった。
「醜いわ!」
「穢らわしいわ、お掃除しなくっちゃ!」
 少女らが放つ槍が、アンガロスに幾つも突き刺さる。――その瞬間、呪槍はどろりと汚泥に変わって崩れ落ちる。
「な……!?」
「ははッ、逃げるんなら早いうちの方がいいぜ。――なんせそいつは――」
 俊敏に迫ったアンガロスが一人の少女に汚泥に崩れる指先を伸ばす。肩を掴み、ドレスを泥で汚しながら抱擁、
「あ、あ、アアアッ」
 悲鳴。すぐに止む。発せもしなくなったからだ。瞬く間に、一人の少女が汚泥と化して地面の染みになった。
「美人も人外も人も全部平等に、自分と同じ汚泥にしちゃうからさァ!」
 アンガロスを突っ込ませ、戦線を構築しながらそのあとを追いハルカもまたナイフを翻して駆ける。
 浮き足立つ少女らの間に、もう一人。陣風の如く疾る夏介が、処刑人の剣を閃かせた。
 首が舞い飛ぶ。塵に変わる。赤い瞳を瞬いて、夏介は悼むように、ただ後悔は無く、一言だけで少女らを葬送る。
「――おやすみなさい。良い夢を」
 二人の猟兵が奔るあとには、一人の生き残りとてない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

テスアギ・ミナイ
例え手を放したって、また帰ってくる結末があってもいい。
覚悟の別れが今生の別れになる物語は見飽きましたので。

立ち塞がる少女たちを見つめます。
きっと私、年は同じくらいです。
きれいな夢を見て、難しい事を考えて、優しくあれと言われるような年齢。
なのにあなたたちはもう、欲しがるばかりのおばかさんになってしまった。
見ていられません。きれいなドレスも泣いてしまう。

ハイカナコさん、
この人たちを折って重ねて脚を断って
黒薔薇の花束を作って遊びましょう。
咲きも枯れもせず水を求め続けるより、
手折られる方がいっそ幸せだと思うのです。



●黒薔薇を摘む
 例え、一度手を放したとしても、また帰ってくる結末があってもいい。
 覚悟の別れが今生の別れになる物語はとっくに見飽きた。こんな世界でも、こんな世界だからこそ、少しくらいはハッピーエンドを望んでもいいだろう。
 テスアギ・ミナイ(Irraq・f04159)はロングボウに矢を番え、迫る少女らを睥睨した。数、三。
「綺麗な瞳をしているのね」
「その眼鏡はなあに、すてきね!」
「一緒に行きましょう? リリ様に紹介してあげるわ!」
 テスアギと同じほどの年齢の少女らだ。招来に抱く夢が沢山あったことだろう。難しい現実について、考え、戦うことを覚えた頃だったかも知れない。そして厳しい現実と戦いながらも、人に優しくあれと教えられ、きっとそのように育っていった筈の少女達。
 今やその目は淀み、ただ与えられる寵愛に対する欲に染まりきっている。
「あなたたちはもう、欲しがるばかりのおばかさんになってしまったのですね。――見ていられません。きれいなドレスも泣いてしまう」
「まあ! お莫迦さんだなんて、失礼ね!」
「口が悪い子は、リリ様に愛されないのよ」
「ここでその口を縫い止めてあげましょうね!」
 少女らは生成した呪槍を手に取り、軽やかに舞う如くテスアギに目掛けて飛びかかった。
 テスアギは飛び退きざまに、背の矢筒から抜いた三本の矢を一手に番えて放つ。同時の三射が少女らの脚に吸い込まれ、その侵攻を一瞬だけ留める。
「ハイカナコさん、この人たちを折って重ねて脚を断って――黒薔薇の花束を作って遊びましょう」
 少女らを黒薔薇に喩え、テスアギは怜悧な美貌もそのままに烈しい言葉を紡ぐ。応じて現れるは目隠しをしたシャーマンの霊、『ハイカナコ』。
 ハイカナコが遠間から少女らを打つように手を振れば、虚空より迸った落雷がその身体を打つ。
「きゃああああああっ!」
 上がる悲鳴。しかして加えてやるような手心もない。
 テスアギは今度は一本の矢を番え、ハイカナコが雷を連ねるその後ろから、その激しい攻撃に飲まれる少女らを狙い澄ます。
 ――ああ、もう、彼女らはずっとあのままだ。
 あの在り方は、怠惰な造花のようなもの。咲きも枯れもせず水を求め続けるより、手折られる方がいっそ幸せだろう。

 だからテスアギは薔薇を摘む。蒼の瞳で狙いを澄ませ。
 手を離す。空気を引き裂き飛んだ鏃が、一人の少女の悲鳴を止めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎

一直線に突っ込んで、殴り飛ばして、救うべくを救う
――実に結構。単純明快で分かりやすくて助かる

「私が支援する。お前たちは存分に暴れてこい」

ユーベルコード起動、“軍隊個人”発動承認
各24挺複製。手持ち含めて全100挺による「援護射撃」を開始する
いくらでも速くなるがいい
いくらでも群れてくるがいい
我が弾丸は悉くを逃がさない

ガトリングは面で相手の出鼻をくじけ
マスケットは点で出足を砕け
リボルバーは接近戦になった場合の近接防御
『ギャラルホルン』は防御を固めた敵を丸ごと打ち砕け


悪いが貴様らに付き合ってる暇は左程ないのでな
数で圧倒させてもらうぞ


ヴィクティム・ウィンターミュート


おーおー、こりゃまた見目麗しいゾーニーズだこって。まともな人間のままだったら、旦那の一人でも捕まえてたんだろうが……。
元人間のフリークスだからって、容赦なんかしねーよ。気づいてるか?もうとっくに…俺のキル・レンジに入ってるぜ。

ユーベルコードで味方を使って殲滅作戦を仕掛ける。射程内の出来る限りを一気に潰したいところだ。
【挑発】でリリアーナを侮辱しながら、味方の集中攻撃ができるキルゾーンへ【誘き寄せ】る。飛んでくる攻撃は【ダッシュ】【見切り】【早業】で回避し、常に動き続ける。
キルゾーンに入った瞬間、合図。一斉攻撃さ。

美しい薔薇にはホット・エルズィが良く映える。黒薔薇ども。綺麗に、散りやがれ。



●バレット・ストーム・フィーチャリング・ウィンターミュート
 オーケイ。俺がファイアレーンを作ってやるよ。
 あんたがオーケストラ、俺が指揮者だ。お膳立ては任せておきな。
 簡単さ、合図を出す。タイミングを合わせて、指示通りに演ってくれりゃいい。
 フューミゲイションと洒落込もうぜ、チューマ。

「おーおー、こりゃまた見目麗しいゾーニーズだこって。まともな人間のままだったら、旦那の一人でも捕まえてたんだろうが……。――ハッ! 女捕まえて食うのが趣味のババアに引っかかっちまうとは、イッツ・ホース! 俺があんたらの親なら今頃血管切れてフラットラインだ」
 少女らが立て続けに現れる薔薇園の一角で、身体を晒して大声で、リリアーナを、引いては少女らを罵倒する声がする。ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の声だ。
「汚い言葉……!」
「酷いことばかり言うのね、八つ裂きにしてやろうかしら!」
「リリ様を侮辱したわよ、」
「許さない……! 殺してやるわ!」
「おーおー、やれるもんならやってみやがれ、売女の方がまだマシなアバズレの胸に吸い付いてるような奴らが、俺を殺れるってんならだけどな!」
「言わせておけば……!」
「小男のくせに!」
「背は!! 関係!! ねぇだろ!!」
 反射的にキレかけるもヴィクティムは咳払い、グッと堪えて生体ナイフを抜く。UDCを混ぜ合わせ作り上げられた有機的なフォルムのナイフを鮮やかな手さばきでロールさせ、グリップを受け止めた。
「俺のことはどーーーだっていいんだよ。なんならテメェらのこともどうだっていい。俺が言いてえのは、テメェらの親玉はクズでクソでワックド、テノリオ気取りのヘンタイ野郎だって事だ。引っかけられたテメェらには同情してやりたいくらいだぜ、神様にコム入れてマシに生まれ変われるように頼んどいてやろうか?」
「「「「「殺す!!!!!」」」」」」
 四方八方から黒の槍が降り注いだ。ヴィクティムはケラケラ笑いながら『エンハンサー』二種を起動。身体能力と認識速度を強化し、槍の一本一本を認識の上で身を躱し、後退する。
 下がる。下がる。追いかける少女らを嘲笑いながら。
『ウィンターミュート』、オン。『アイスブレイカー』、リンク。
 敵の全ての動きを分析、統合、リアルタイムに伝送する。
「元人間のフリークスだからって、容赦なんかしねーよ。気づいてるか? もうとっくに……お前らは、俺のキル・レンジに入ってるぜ」
 転送先は――超高度演算機能搭載多機能携帯端末『ヘルメス・ブレイバーVer.2』。

「なるほど」
 合図と言うから、どうするのかと思えば。手に持った携帯端末に、推奨する火器、弾道、弾丸密度、タイミングが事細かに表示される。
「子供かと思えば、どうしてなかなか――優秀なものだ」
 レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は、ヴィクティムから受け取ったスマートフォンに表示された情報の全てを読み込むと、傍らに侍る大型バイクの計器盤に立てかけ、両手を打ち振って構えを取る。
「いいだろう。お前の策に乗ってやる。派手に暴れてくれるのだろう? ――ならば私も、持ち得る全火力を以てそれに応えようじゃないか」
 一気呵成に突っ込んで、銃弾で榴弾で散弾で砲弾で全ての敵を薙ぎ倒し、要救助者の全てを救う! 実に結構、単純明快で分かりやすい話だ!
「――では作戦を……否、戦争を始めよう。私こそ個にして軍。ジャック・レギオン……発動承認」
 レナは高らかに謳い、ユーベルコードを起動する。彼女の周囲に、一瞬にして小隊規模の数の銃火器が複製される。リボルバー・メイヴ、マスケット・ウィリアム、シージガン・ギャラルホルン、ガトリング・ヘクター。それらがそれぞれ二四挺複製され、一瞬にして大隊に匹敵する火力を現出する。
 レナの視線の先、薔薇園の藪を突き破ってヴィクティムが転がり出た。それを追い、藪を跳び越え少女らが飛び出す。
 スマートフォンにレッドアラートがポップ!

 Geek
『殺せ!』

「いいだろう――」
 ああ、幾らでも速くなるがいい。幾らでも群れてくるがいい。
 ヘクターが耳を聾する銃弾の嵐を放ち、ヴィクティムに追いすがる少女らの軌道を遮る。ヘクターの弾幕を掻い潜る少女達は流石の速度を備えていると言えたが、しかしヘクターによる射撃は実の所経路誘導に過ぎない。ヴィクティムが転送してくる情報に従いヘクターを放てば、敵はレーンに並んだ如く決まった経路を辿る。
 ファイアレーン。その言葉の通りだ。
 レナは不敵に笑うと、腕を振り上げ、
「我が弾丸は、貴様ら一切を鏖殺する!」
 ヴィクティムが伏せるのを見た瞬間、振り下ろした。
 轟音! ギャラルホルンが一斉に火を噴き、ヘクターにより分かたれた『ファイアレーン』を走る少女らへ熱く燃えた炸裂散弾を撒き散らした。クレイモアも斯くやという散弾が真正面から、二四挺という物量を持って襲いかかり――悉くを撃ち抜いて黒き塵へと還元する。叫び声の一つすら上げさせることはない。
「無茶するぜ、巻き込まれて死ぬかと思った」
「殺しても死ななさそうだよ、お前は」
 埃を払いながら立ち上がるヴィクティムに、レナは肩を竦める。
 ヴィクティムは、笑った。
「そいつはどうも。――見渡しが良くなっちまったな。思った通り美しい薔薇にはホット・エルズィが良く映える――あばよ、黒薔薇ども」
 散った黒薔薇達に最後の言葉を。一セントにも満たない感傷を声に籠めて捨て、ヴィクティムはレナと共に再び走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
救いの道が一つなら
選ぶのに躊躇いはしない

少女達の牙を早業で躱して駆け、
仲間の斃した骸を飛び越え、
館目指して一直線に進み

黒薔薇たちに囲まれたなら
旋風の脚を静かに止める

痛ましいとか可哀想とか
そんなんじゃない
ただ、……ただ、せめて、
うつくしいもので送ってあげたかっただけだ

――“花葬”

闇を切り裂くように扇を翻したなら
春はひかりへと千切れて舞って、
手向けのように降り注ぐだろう
花盛る季節を喪った乙女たちへ

大丈夫だよ、もうだいじょうぶ
静かにお休みと囁いた声は
散りゆく薔薇に届いたろうか

花はいつか枯れるだろう
彩はいずれ褪せるだろう
でも、ねえ、こんな無粋な摘み方は、

これ以上、一人たりとも、させやしない





●嵐荒れ、薔薇は花葬に
 猟兵達はその技の全てを用いて彼女らに応じた。弾丸が、剣閃が、打撃が、熱線が、火砲が唸りを上げ、そこかしこで黒塵と化した少女らの骸が乱れ飛ぶ。
 最早、黒薔薇の少女らは救えぬ。それは解りきっていた。故に境・花世(*葬・f11024)が駆ける足取りに迷いはない。
「お姉さん、足を止めて」
「ね、痛くしないから――」
 少女らの声は煮詰めた蜜のようだ。とろりと蕩けて毒のように甘い。
 襲い来る槍を、残像を曳く体捌きで避け、食いかかる牙さえ掻い潜り、花世は真っ直ぐに館を目指す。
 この少女らの全滅は任務成功条件に含まれてはいない。旋風めいた走りで無駄な戦闘を回避して屋敷を目指す花世であったが、程なくして足を止めざるを得なくなる。
 正面。少女らが並んで、宙に槍を浮かべ壁を作る。迂闊に跳び越えようとすれば、あの槍衾が行く手を阻むだろう。
「やっと足を止めてくれたのね」
「息が切れてしまうわ。話を聞いてくださる?」
「ね、リリ様ってとっても素晴らしいのよ。皆を平等に、深く愛してくださるの!」
 後ろ。戦闘を回避してきた少女らが、追い上げてきて花世の後ろを固める。取り囲まれた。
 ――ああ。やるしかない。
 痛ましいとか、可哀想とか、そんな理由で戦いを回避してきた訳ではない。
 ただ急ぎ、キキ達を助けてやりたかった? それもある。
 ……ただ……ただ、せめて、うつくしいもので葬送ってあげたかっただけ。
 花世は扇『杪春』を広げる。ぱん、と音を立てて広がる扇を口元に添え、少女らの言葉に耳も貸さずに翻した。扇は光に包まれて、端から散る如く薄紅の牡丹のはなびらへと分解されていく。
 それは花世が与えられる最後の手向け。花盛る季節を喪った、哀れな乙女達へ。
 春一番が吹き荒れた。刃の如く光る、けれど儚き牡丹のはなびらが、渦を巻いて花世を取り巻く少女らに注いだ。槍を放ち、花世を狙う者もいたが、『花葬』の刃風に捲かれれば攻撃をしている余裕はすぐに無くなる。花弁から身を護ろうとし、しかして叶わず花嵐に捲かれて裂かれ、果てていく。
「大丈夫だよ。もうだいじょうぶ。静かに、お休み」
 放たれた反撃から身を躱しつつ、花世は誓う。
 花盛りの少女らを手折って玩具とした、あの夜の女王を許すまじと。
 ――ああ、花はいつか枯れるだろう。彩はいずれ褪せるだろう。
 ――でも、ねえ、こんな無粋な摘み方は、

 これ以上、一人たりとも、させやしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
兄弟なんていたことないから、気持ちを理解することは出来ないけど。
……大切な奴がまだ生きているのなら。むざむざ見殺しにすることはないだろうよ。

……だから。助けられない奴らなら、倒すだけだろう。

少女らの只中に向かって駆ける。
攻撃を食らおうが、致命傷でなければ。動ければ。何の問題もない。
食らえば不味いと感じる攻撃だけを見切り捌く。

杭の鎖を少女の首に、手首に絡めて。引き寄せてそのまま杭を突き刺すなり、弾丸を打ち込むなり。あるいは敵を盾にするようにして、同士討ちなんて手もあるか。

ああ、それと。避けきらなかった攻撃で血を流していれば丁度良い。
目で追った視界に入るもの全てに杭を穿つように、列列椿を放つよ。





●緋閃、春嵐
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)には兄弟がいない。だから共感してやることは出来ない。
 けれど思う。大事な人がまだ生きているのなら。助けられるのなら、手を伸べてやろうと。むざむざ見殺しにすることもあるまい。
 そして、
「――助けられない奴らは、倒すだけだ」
 薔薇園はナパームによる炎、炸裂散弾による広範囲砲撃を経て、既に廃墟の様相だ。美しく咲き誇る赤は見る影も無かったが、今だその狭間から隠れていた黒薔薇の少女らが現れる。
 有は影を固めたが如きブーツにより地を蹴り飛ばし、躍り込むように少女らへ向けて駆けた。右手に黒杭『愛無』。モノトーンで纏めた衣服に誂えたような武装を翳す。
 少女らはきゃらきゃらと笑いながら呪槍を練り上げて放った。有は厳密に全てを回避しようとはしない。愛無で弾き、脚やバイタルの集中した胸、腹、首、顔面のみを護って突撃する。肩口や腕に槍が突き刺さるが、意にも介さない。
「そんな遠くにいないでさ、こっちに来なよ」
 有は愛無の柄から伸びる鎖を唐突に投げ放った。生きているかのようにうねり飛んだ鎖の先端、楔の如き分銅が一人の黒の少女の首を捉える。
「きゃっ?!」
 巻き付き、鎖が軋んで絡んだ手応えを伝えてくるなり、芥は膂力の限りを尽くして少女の身体を引いた。その勢いを借りて突っ込み、体勢を崩す少女の胸を愛無で打ち貫く。
「か――は、ぁ、」
「恨んでいいよ。お休み」
 続け様に撃ち放たれる呪詛の槍を、死に体の少女を持ち上げて盾にして防ぐ。
 重い音がして少女の身体に槍が十数本と突き立ち、声なき声を上げ彼女は爆ぜるように塵と化した。
 槍の連射も、仮に喰らったところで致命傷でなければ動き続けることが出来る。有は己がそこまでダメージを喰らっていいのか、冷静に分析していた。
 間を空けず、再度前進。致命傷に繋がる最低限の槍だけを回避し、敵二体の間に滑り込む。振り下ろされる爪を杭で受け止め、手首を振って撓らせた鎖の分銅で、後ろの少女の頬を打つ。
「……っこの!」
 怒りに腕を振り、大振りの一撃を繰り出す背後の気配。正面、相対している敵の腕を受け止める杭から力を抜き、透かす。
 同時に身体を捌けば、背後の敵が振り下ろす爪の先には――
「っきゃああ?!」
 血飛沫。演ぜられる同士討ちに広がる動揺。その隙を突くように、有は腕に絡んだ自分の血を宙に振り飛ばす。
「狂い咲け、『列列椿』」
 詠唱一つ、振り飛ばされた血の雫は宙で膨れて無数の赤き杭と化す。視線でなぞるように少女らを視界に捉え、有は愛無の切っ先を振り下ろした。
 乱れ飛ぶ列列椿、黒薔薇を貫く赤い楔。飛び交う悲鳴と苦鳴の間を有は駆ける。
「これだけあれば、死出の土産には足りるだろうさ」
 足りないのなら――もう一打。黒杭一閃、くれてやる。

成功 🔵​🔵​🔴​

リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

……ユーゴさま、ユーゴさま。
なにも言えないまま会えなくなってしまうのは、かなしいです。
はい。かならずや。

立ち塞がるひとたちのありようも、こころに痛い。
それでも、ユーゴさまが進むなら。
わたくしもいっしょにゆくのです。

はぐれないよう追いかけて、
ユーゴさまが気付かないところから攻撃をされないように。
せなかをおまもりいたします、ね。

斬られても尚うごくもの、
他から来た新手には、
わたくしもひかりを招いて、攻撃を。
もし防がれたら、お空にも気をつけましょう。

ここで止まることは、できません。
通してくださいましね。

やすらかなおわりを。
ひげきのしゅうえんを。
――おやすみなさい。


ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

ああ、そうだな。
別れと呼ぶには、あまりに悲しいものだ。
必ず、助け出そう。

コレが攫われた女たちの成れの果てか。
なるほど、なんとも惨い事をする。
更に、救おうとすれば自死、か。
年頃の女を斬るのは忍びないが、躊躇わず往こう。

溜息混じりに抜刀し、歩を進めよう。
向かってくる少女は斬って捨てる。

確かに少女達には力も速さもある。
その特異な黒槍の威力も、目を見張るものがある。
だが、それを扱う技量も連携も拙い。
それでは、俺達には届かない。

……すまないな。
これ以上、お前たちのような存在が生まれないよう
俺達が片を付けてきてやる。

だから、どうか安らかに眠ってくれ。



●聖光と騎士
「……ユーゴさま、ユーゴさま」
 旅装の袖を引く、小さな手。視線を落とせば、リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)が悲しげな表情で彼のことを見上げていた。眼を細め、続きを促すように視線を重ねる。
「なにも言えないまま会えなくなってしまうのは……かなしいです」
 キキとモーラ、といっただろうか。さよならも言えずに離れ離れになり、姉のキキは最早死までが予知されているという。リリヤが悲しげな顔をする理由もわかろうというものだ。
「ああ、そうだな。……そうとも。別れと呼ぶには、あまりに悲しいものだ」
 ユーゴと呼ばれた男――ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)は、剣の柄に片手を置き、リリ屋を勇気づけるように頷いた。
「必ず、助け出そう」
「はい。かならずや」
 リリヤは茶の髪を揺らして嬉しそうに頷いた。
 歩き出す二人の歩調は、慣れた調子で一定に収斂する。それはこれより戦場に赴くときでさえ変わることはない。

「コレが、攫われた女達の成れの果てか」
「成れの果て、とは失礼ではなくて?」
「わたしたちは生まれ変わったのよ。リリ様の寵愛によって」
「そこの可愛らしいお嬢さんも一緒においでなさい? 愛を教えてくれるわ、リリ様がね」
 リリヤが視線に、痛ましげに――そう、恐れるように、ではなく、悍ましい言葉を口にする少女らを悼むように――唇を噛む。その一歩前にユーゴは進み出た。
「――なるほど。なんとも惨いことをする」
 洗脳と調教の果てのこの言動。それを解き救おうとすれば自死を選ぶように作り替えられてしまった化生。最早、救えぬ。
 溜息一つ。
「年頃の女を斬る趣味はない。阻まぬのなら捨て置こう。しかし――」
 ユーゴはルーンソードを引き抜く。今なお延焼し、揺らめく薔薇園の炎を照り返して煌めく剣。
「俺達の道を阻むのなら、最早躊躇うまい」
「随分と偉そうな口を利くのね!」
「その青い瞳をえぐり出して、花瓶の底に飾ってやるわ!」
 少女らは宙に固めた槍を取り、人ならぬ速さで踏み込んでくる。
 ユーゴは大股に一歩を踏み出した。まず襲い来るのは敵二体。呪いの槍を持っている。先行するのが一人、その後ろからもう一人。
 ユーゴは剣を差し出すように前に伸ばし、撫でるように一人目の槍の切っ先を身体の外側に向けいなす。崩れるバランス。――思った通り、力はあるが、体幹の使い方がなっていない。肉体の性能に、技量が追いついていないのだ。
 体勢を崩したところを、いなした剣の刃を返し、もう一歩逆脚で踏み込みながら首を薙いだ。血が飛沫をあげ、視界を塞ぐ。間髪入れず首から血を吹く少女を蹴り飛ばし、後ろを走る少女にぶつけ、動きを封じてユーゴはショートジャンプ。身体を捲くように刃を引き、落ちる体重と腰の回転を籠めて振り抜く。一体目の少女が塵と散る。二人目の少女が目を見開く。刃が奔った。肩から腰までが斜めに裂かれ、二つの肉塊となって少女がまた一人果てる。
「薄汚い成りをして、よく剣など振るうものね」
「皆! 囲んで“槍”を!」
 力もある。速さもある。状況に対処する頭もあり、主武装として扱う『槍』――宙に闇を固めたが如く現出する黒の呪槍もまた、目を瞠るべきものだ。
 ――しかし。それだけでは、俺達には届かない。
 ユーゴは確信に似た思いを抱く。
 それを裏付けるように、すぐ後ろでふわりとした燐光が漏れた。
 人狼の少女――リリヤだ。彼女は小さな指を指揮するように振り、舞うように宙を示して躍らせた。ダークセイヴァーの暗天を裂き、白き光が空より注ぐ。『ジャッジメント・クルセイド』だ。清浄なる天の光、下された裁きが、少女らが宙へ固めた槍へ降り注ぐ。
 呪槍が光に炙られ、まるでチョコレートのように捻れて折れていく。
 武器を喪い、慌てて槍を練り直す少女らに再びの光を浴びせ、その肌を、槍を焼き散らしながら、リリアは思う。
 ――どうして、こんなことができるのだろう。人々を苦しめ、圧政を敷き、少女らを拐かして永久の愛を誓わせ――このような捻れた在り方を強要して。
 黒薔薇の少女達は、まさにその第一の犠牲者だ。リリヤは、悲しげな表情を決然とした色に染め、ユーゴの背で謳うように言う。
「ユーゴさまのせなかは、わたくしがおまもりします。――ユーゴさまの進むさきに、いつもわたくしはいっしょにゆくのですから。ここで止まることは、できません。通してくださいましね」
「そういうことだ。――これ以上、お前達のような存在が生まれないよう、俺達が片を付けてきてやる。――だから」
 ユーゴは、膝を撓め。
「だから、どうか安らかに眠ってくれ」
 ユーゴは踏み出した。驀進、同時に一体を剣で貫き通し、身体を蹴り刃を抜いては左右の少女の首を薙ぐ。その隙を狙う敵を、リリヤの光が逃さない。文字通り光の速度で天より降り注ぐ裁きが、少女らの身体を貫いて焼く。
「ユーゴさま!」
「!」
 リリヤが声を張った瞬間、左右からユーゴを襲う二体の少女。ユーゴはそれを前に転がるように避け、それとほぼ全く同期して、リリヤが天より放った光が柱となって少女らに墜ち降り、その熱量と聖なる力で灼き尽くした。けたたましい悲鳴が響き、やがて消える。
「やすらかなおわりを。ひげきのしゅうえんを。――おやすみなさい」
 祈るようなリリヤの声が闇を揺らす。
 確かに少女らには力も速度も、威力もある。
 しかし、時かけて育んだこの連携を打ち破るには決して及ぶまい。
「離れるなよ、リリヤ」
「はい、ユーゴさま」
 また新たな敵勢が寄せてくる。それを前に、二人は構えを改めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン


救える命と救えない命、か。
闇に呑まれた者は闇の中で眠るしかない。
俺はその最期を与えてやろう。

指輪から闇を解き這わせ、
一人ずつ引きずり出して行きましょうか。
僅かでも正気に戻る方がいいのか、
暗い蜜に囚われたままがいいのか、
答えは俺には見つけられない。

ただ、疾く安寧を。
蠢く混沌で防ぐ暇も苦痛も与えぬよう、一瞬で終わらせる。
せめて塵と消える最期の瞬間まで視つめていよう。

――ゆっくり、おやすみ。
死に救済などないのだから、
与えた結末に正義もない。
それくらいは知っている。



●死に沈む
 一度泥濘の如き闇に呑まれれば、二度とは浮き上がることは叶わない。
 陽光に焦がれながらも、沈んだ闇の中で生きるしかない。
 ――ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)はうっそりと視線を上げ、少女らを見つめた。
「あら、華奢な男の子」
「飾り立てたら、リリ様の椅子ぐらいにはなるかしら?」
「私のお洋服、着せたら似合うかも!」
 華やいだ声ではしゃぐ少女らに、しかしヨハンはただただ静かな、無温の目を向ける。
「――お喋りをするつもりはない。最期を与えてやろう。せめてお前達が、逝き先に迷うことのないように」
 左目を隠すように、顔の高さまで挙げた右手。ひゅるりと打ち振れば、銀の指輪に嵌まった闇が目を覚ます。指輪に挿げられた黒石『蠢闇黒』から形持つ闇が迸り、鞭のように撓って伸びる。
 ヨハンが腕を差し向ければ、蠢闇黒の闇は闇空にまるでレーザーのように複数の線を描いて少女らへ唸り飛んだ。黒薔薇の少女らは嘲笑うようにそれを回避、即座に空中に呪槍を召喚する。
「生意気なことを言うのね!」
「ねえ、ねえ、リリ様に献上する前に私たちで玩具にしましょう!」
「可愛らしい顔をしているもの!」
 少女らは包囲網を形成、五体ばかりでヨハンを囲み一斉に呪槍を解き放つ。降り注ぐ呪槍を前に、ヨハンは左手に嵌めた紅石の指輪『焔喚紅』に唇を落とした。
 闇を統べる言葉にて告げる。
「焼き祓え」
 左手を薙ぐように一閃すれば、焔喚紅より怨嗟の黒炎が爆ぜ散り、集中した槍を焔に巻いて焼いた。ただ一瞬だけの防御、第一陣の槍を凌いだヨハンに続く第二陣、数多の呪槍が歩先を向けた瞬間、ヨハンは蠢闇黒のある右手を、何かを潰すように握り、拳を作る。
 幾つも、肉を刃が貫く、重い音が響いた。
「あっ……?」
「え、」
「――……、は」
「言っただろう。最期を与えてやろう、と」
 伸びた蠢闇黒の闇鞭は彼女らへの直接攻撃のためではない。それと見せかけ、彼女らの影に潜り込み、ヨハンの魔力を伝えるパスの役割を担ったに過ぎない。
 彼女ら自身の影から生み出された業影の刃が死角より伸び、その胸を、喉を、貫いて裂いたのだ。苦痛は、その一撃、一瞬のみ。それを以て葬る。
「僅かでも正気に戻る方がいいのか、暗い蜜に囚われたままがいいのか――俺には解らない。だからせめて、最期まで視送ってやる」
 ヨハンは、僅かだけ眉を下げた。
 死は、死でしかない。救済も正義もそこにはない。知っている。
 ――それでも、俺にはこうすることしか出来ないから。
「ゆっくり、おやすみ」
 ヨハンを取り巻いた五人の少女は、影に貫かれた部分から爆ぜるように、黒塵と化して風に溶けた。
 少年はその残滓が、風に溶けるまでそこに立ち尽くしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アレクシス・ミラ


一人は攫われ、一人は残された
…12年前を思い出す。友は攫われ、僕は残された方だった
本当なら、モーラさんや他に攫われた少女達を待つ者が救いに行きたかったと思う…あの時の僕だってそうだった
僕達は彼らの代行者だ
これ以上、皆の心を折らせはしない。奪わせやしない
戦おう。この運命を変えてみせる!

ここは一気に駆け抜けるか
敵の注意は僕が引きつけよう。光「属性攻撃」の「衝撃波」を当てる
味方に攻撃が行きそうなら「オーラ防御」で「かばう」
敵の攻撃は【絶望の福音】で避け、「カウンター」狙いの一閃
全て躱してみせる

今戦ってる敵も元は攫われた少女だった
眠らせるしか方法がないのは口惜しい
…せめて、魂は光に導かれる事を祈って



●払暁の星
 十二年前のことを思い出す。
 それは、まだ彼が幼く、未熟だった頃のこと。攫われていく友を、どうすることも出来なかった――助けたくて、助けたくて、仕方がなかったのに、追いすがることさえ出来なかった。
 ここにはいないモーラを思う。どれほど、自分を護って身を差し出した姉を案じたことだろう、助けたかったことだろう。当時の自分の無念に照らせば、その思いが並ならぬものだったことは簡単に想像できる。
 ――そして今。
 彼の手には、強靱で武骨な一本の剣がある。身を覆う、堅牢なプレート・メイルがある。
 十二年の歳月が、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)を人々を救う暁の星へと変えた。無力にして善良なる人々の代行者、聖騎士である。
「――これ以上皆の心を折らせはしない、奪わせやしない。この運命を……変えてみせる!」
 アレクシスはバスタードソードを抜剣、腰撓めに構えて突撃する。
「嫌ね、野卑な男!」
「リリ様のところに行かせはしないわ!」
 練り上げた呪槍を武器に、二人の少女が行く手を阻む。
「邪魔をしないでくれ!」
 アレクシスは剣先にオーラを籠め、射程外から振るう。剣先から光の衝撃波が迸り、地面を削りながら少女へ迫った。一発目は回避されたが、返す刀の二発目が一人の少女を捉える。悲鳴を上げ吹き飛ぶ少女をよそに、アレクシスはもう一体と接敵。大上段から振り降ろしを放つ。
 槍とバスタードソードが軋り合い、火花を散らす。
 アレクシスは目を見開き、少女を睨んだ。彼の目には、十秒先の未来が映る。
 ――このあと、突き放しから距離を開き、膝を撓めての突撃が来る。右に捌いてよければ、振り向きざまに石突きでの薙ぎ払い。狙いは脚。軽く跳んで避ければ隙が出来る。
 見えた未来のうち、回避行動は二つ。見た未来をそのままなぞるように繰り出される攻撃を、アレクシスは的確に捌き、避け、薙ぎ払いを空打って体勢を崩す少女に踏み込んで、バスタードソードを突き出した。
 肉を貫く重い音。戦慄くように震えた少女の唇から、こぷ、と血が溢れる。
「――すまない。救えなくて」
 きっと、謝罪など欲しくはないだろう。けれどアレクシスは言わずにはいられなかった。
 こうして道行きを阻む敵も、元は拐かされ、リリアーナに虐げられた少女だったはずなのだ。救えるものなら救いたかった。けれど眠らせるしか方法がないことは、グリモア猟兵の言葉通りであるばかりか、他の猟兵が実証済みだ。
 剣を抜く。頽れた少女は直ぐに塵芥と帰す。
「その魂に安息があらんことを。光に導かれて在れ」
 十字を切り、アレクシスはまだ遠い館を睨む。彼は再び、走り出した。
 まだ、助けられる命をその手で救うために。

成功 🔵​🔵​🔴​

アーノルド・ステイサム


…人間をやめさせられたか
本当に世界は広い
どんな頭してりゃあ、こんな悪趣味思い付くんだろうな

あいにく俺はこの身体だ
お前らに食わせる血肉なんざ持ち合わせちゃいない
食えるものなら食ってみろ

装甲の上に対物フィールドを展開しつつ出力を強化
斧による【怪力】で薙ぎ倒し、叩き潰していく

基本的には一撃必殺
それで足りるというより
今際の際に正気に戻っても、残酷な現実を目にするだけだ
ならせめて、魔物は魔物のまま
速やかに送ってやる

どうせ仕事だ、やることは変わらねぇさ
…胸糞は悪いがな
もういい、話すな。楽になれ。

ことが済めば簡易な祈りを
遺体はあとで弔わせてもらう
邪気が消えれば、ただの人間の身体だ

待ってろよ、クソ親玉



●ウォーマシン・ウォークライ
「人間をやめさせられ、血肉を喰らう化物にされ、こうして侵入者を殺す走狗にされ。それが全て『愛』によるものだと」
 ざらついてエコーの掛かった重い声が響いた。声の発生点は随分と高い。それもそのはず、声を発した男は三メートル近い巨体。甲冑めいた頭部にはモノアイが嵌まっていた。青いモノアイが自身に向かってくる少女らを見詰めている。
「本当に、世界は広いな。どんな頭をしてりゃあ、こんな悪趣味を思いつくんだか」
「大きな人! 沢山血が詰まっているのかしら!」
「ひどい胴間声ね、美味しくないかも知れないわ!」
 口々に華やいだ口調で言いながら、飛びかかる少女達。牙を剥いてその腕に食いつく彼女らだったが、彼女らを迎えたのは溢れる血潮では無く、軋るような金属の固さであった。
「?!」
「あいにく俺はこの身体だ。お前らに食わせる血肉なんざ持ち合わせちゃいない。食えるものなら食ってみろ」
 そう。彼は機人、ウォーマシンだ。
 アーノルド・ステイサム(天使の分け前・f01961)はざらついたマシンボイスで言うと、すぐさま対物フィールドを展開する。自身の表面装甲上を補強する形で展開されるバリアが、彼に取り付いた少女二人をその斥力で宙に弾き、浮かせる。
「きゃっ……?!」
 悲鳴をあげて宙に飛ばされる少女達。縋るものもなく浮いたその身体を、青いレンズが無機質に捉える。アーノルドは右手に提げた鉄塊の切っ先をを、手首のスナップで跳ね上げる。
 ラインナンバーDCX179-8888-003。その機人の装備品として鋳造された、ただの武骨なバトル・アックス。アーノルドは膂力だけで鉄塊をバックスイングし、宙に浮いた二人の少女を薙いだ。
 アーノルドの膂力とバトルアックスの重量が積算されれば、それはフルアクセルのトラックを凌駕する撃力となる。鉄塊を震わせ響かせるほどの激突のインパクト。人体が二つ粉々になり、空中で黒い塵となって散華する。
 ――そうだ。今際の際に正気に戻ろうとも、戻れぬ現実に涙するだけ。バッカスでさえも、その憂いを忘れさせることは出来やしない。
 ならば一撃で弔え。今この瞬間だけは、ただの戦闘機械であった頃に戻って。
 アーノルドはずしゃり、と地を踏み、向かってくる少女らに向けて踏み出す。
 華やいだ声ではしゃぎ、黒の槍を幾つもアーノルドへ向けて放つ少女ら――
「もういい。話すな。――楽になれ。今、送ってやる」
 機人は巨体を撓め、それこそ装甲車の如く前進した。槍が対物フィールドと火花を散らし、鉄斧が唸り、少女らの骸が飛び散る。
 アーノルドは青のレンズで、彼方に見える屋敷の入口を望遠する。

 ――待ってろよ、クソ親玉。
 今夜のうちに手前の頭に、この斧を叩き込んでやる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
人形遊びがお好みかい?
足を捥いで手を捥いで、ごっこ遊びのご機嫌取り
んなことしたってもう、救われやしねェのに

ならばさっさとその糸を
絡む連鎖を断ってやんのが、慈悲だろうさ
シャシュカの一本携えて
切り込むんならこれでも十分だけど

レディと踊るのに手を空けんのは無粋でしょ
錬成カミヤドリで呼び出して
数の限りとさァ踊ろうか
疾れ、疾く、ワルツなんかじゃまだ遅い
リードしてあげるから掛かっておいで
覚悟きめたら飛び込んで捨て身の一撃だろうと薙ぎ払え
此処で諦めて泣く子に比べりゃ、痛みの一つも感じない

お嬢さんが覚悟決めたんだ
怖かっただろうに泣きもせずに
そんなら、――助けてやりたいさ



●今宵、月下に舞い
 走る少女ら、その数も、響く華やぐような笑いも、しじまに紛れる程に少なく。
 猟兵達が尽くした力は、決して無駄では無かったと、ようやく知れるその頃に。
 なおも虚ろの愛のため、走る薔薇達、そのさきに。立ち塞がるは男が一人。
「ああ、そりゃそうさ、年頃だもんなお嬢さん方。人形遊びがお好みかい?」
 赤い瞳に金の髪。特徴的な短律の、韻を踏むよな話し口。
 戯れた態度は真か偽か、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)の声跳ねる。
「足を捥いで手を捥いで、ごっこ遊びのご機嫌取り。んなことしたってもう、救われやしねェのに」
「リリ様を愛しているのよ、私たち!」
「この気持ちを嘘だなんて、ひどいひと!」
 駆け来る駆け来る、数人の乙女。
 ああ、ああ、そうとも、そうだろうとも。
 そうやって、信じ込まされ『そう』なった。
 ユルグはとっくに識っている。最初に話を聞いた折。弄られ壊れた少女らのこと。――ならばさっさとその糸を、絡む連鎖を悪縁を、断ってやるのが慈悲だろう。
 さあ、すらり抜くのは闇を裂く銀、緩く優美な反りしたシャシュカ。切り込むだけならそれでも充分、けれど今宵はこの娘らを、送る踊りを踊らにゃならぬ。
 麗しの、花の盛りの黒薔薇と、今から踊るというのにさ、手を空けないのは無粋だろう? ひょいとシャシュカを宙へ投げ、ユルグは意念を只凝らす。
 走るは錬成、カミヤドリ。ユルグの素性と同じモノ、闇に煌めく鋭いやいばが、暗天裂くよに宙に座す。数の限りと呼び出した、二〇あまりの閃刃さ。投げ上げた刃もそれに居並び、浮かぶ切っ先二十三。ユルグと共に笑うかに見え、
「さァ踊ろうか、お嬢さん方」
 とおんと足音高く踏み、男は風が如く舞う。
 一足飛びに少女らのもと、参じた男は手を取って。少女の身体を振って回す。
 疾れ、疾く、ワルツなんかじゃまだ遅い。リードするよにくるりと回り、呆気に取られた顔を見る。
 瞬く間、尖る眦、手に立つ爪に、飛沫く赤さえ意に介さずに。ユルグはあえかに笑みを零すと、舞う閃刃を周りに注ぎ。
 今ただ舞うは、死の舞踏。
 驟雨の如く降った刃が、踊る薔薇らの身体を穿つ。
「お嬢さんが覚悟決めたんだ。怖かったろうに泣きもせず。そんなら、――助けてやりたいさ」
 ユルグは謳う。ダンス・パートナーが、塵に変わって舞う中で。

 ――道が開ける。
 屋敷まで、あと僅か。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『少女愛好家『リリアーナ・ヒル』』

POW   :    トドメを刺した子には私からの寵愛を授けるわ
【大勢の短剣を持つ主人に心酔する娘達の突撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【殺到する娘たちの追撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    私を守護する忠実で有能なペット達よ
全身を【大盾を持った少女達に指示し護る為の陣形 】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ   :    ギャラリーは多い方が良いでしょう?
戦闘力のない【身動きのできない、拘束されている少女達】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【少女達の悲観や絶望の感情】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はキア・レイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●宝石は嗚咽を零す
 館の入口に、鋼鉄製のバトル・アックスが叩き込まれた。
 板チョコのように折れて吹き飛んだドアがエントランスの絨毯を捲れ上がらせ、けたたましい音を立てて転がる。
 踏み込むのは猟兵達。作戦に参加したその人数、既に三〇人に迫る。
「……全く、騒々しいこと。私のコレクションを散々壊してくれたようね、お前達。万死に値するわ」
 声は階上から降ってきた。
 エントランス、正面の階段の上。
 リリアーナ・ヒルが己の肖像画の前に立っている。
 そして――なんたることか。
「誰か……来たの?」
「助けて……助けて、私、まだ死にたくない」
「出してえ……ここから出してよぅ……」
 館のそこかしこからすすり泣く声が聞こえる。階段の下に埋め込まれたものあり、壁一面に設えられたものあり、天井からシャンデリアと共に吊されるものあり――襤褸を纏わされた少女らが囚われる、檻、檻、檻。
 屋敷の異常性に気付いた猟兵達を前に、リリアーナ・ヒルは高らかに笑った。
「目の色が変わったわね。歓迎したくも無いけれど、ようこそ、私の『宝石箱』へ。男と年増は皆殺しにして、――そうね、年若い女だけは、悔いて愛を誓うと言うのならば、檻の中で生かしてあげなくもなくてよ」
 ぱちん、と指を鳴らすリリアーナ。黒薔薇の少女達が、階上、階下を問わずドアを開け雪崩れ込んでくる。リリアーナは事前に与えられた資料の通り、心酔する少女らを使って攻撃及び防御を行うようだ。無論、当人にも高度な戦闘能力があろう事は想像に難くない。
 籠から、揺り篭の如き宙の檻から、嗚咽が漏れてリリアーナの笑いと混じる。
 キキもまた、恐らくはそのどこかに囚われているのだろう。猟兵達は瞬時に察するが、特定して救うまでには至らない。
 猟兵達とて歴戦の強者だ。状況の難しさを理解している。
 無策で檻を開けば、解放された少女らは一目散に駆け、屋敷から逃げようとするだろう。そうなれば逃走途中に戦闘に巻き込まれ死ぬか、傷ついた黒薔薇が彼女らを喰らい血肉とするか……いい結末は見えない。無事に解放するつもりならば、一計を案じる必要がある。
 かといって、このまま捨て置くのも考え物だ。射撃武器を持つ猟兵達は思案げに己の得物を見つめる。この屋内で己の得物を放てば、いつその流れ弾が少女らを害するか解らない。慎重な使用が求められることを、肌で感じ取る。
「難しい顔なんてしなくてもいいのよ、猟兵。黙って身を委ねればいいのだから。何も難しいことはないわ」
 リリアーナは手を広げ、花道を歩く舞台女優のように階段を下る。
「生きて帰れるとは思わない事ね。始めましょう、溺れる夜を」

 一筋縄では行かぬ難局だ。しかし、猟兵達は救う為にここに来た。今さら退く選択肢はない!
 武器を取り、戦闘を開始せよ!

>>>>>>Mission updated.<<<<<<
【Summary】
◆作戦達成目標
 リリアーナ・ヒルの撃破

◆作戦推奨目標
 存命の少女達の救出

◆敵対象
 リリアーナ・ヒル×1
 及び、その手脚となる『黒薔薇の少女たち』、多数

◆敵詳細
“少女喰らい”リリアーナ・ヒル。
 この近辺の一帯を取り仕切る領主にしてオブリビオン。
 うら若き少女を好み、隷属・服従・洗脳を経てで少女らを化生として再誕させ、彼女らと睦み放埒と淫蕩の日々を送る怪物。
 この個体は主立った全ての攻撃・防御を、奴隷である『黒薔薇の少女たち』を使用して行う。本体も吸血鬼としての怪力と爪牙を備えるため、近接格闘の際は注意されたし。
 このため、猟兵達は攻撃・防御に用いられる少女らの安否を気遣う必要はない。
 ただし、後述の通り、『ギャラリー』はまだ生きている人間であるため、その点は留意のこと。

◆戦場詳細
 リリアーナ・ヒルの屋敷、『宝石箱』。
 壁及び階段下が全て檻となっている他、空中に吊られた檻もあり、その全てに『まだ人間として存命な』乙女らが囚われている。
 彼女らの悲観や絶望はそのままリリアーナ・ヒルの力として転化されるため、『宝石箱』内での戦闘が続くことは猟兵達にとって不利である。
 迂闊な有射程攻撃、及び範囲攻撃は彼女らを巻き込むことに繋がるため、無血での事態収拾を目指すならば注意が必要。

◆補遺
 正面戦闘のみで事態を解決するとすれば、犠牲を払うことになるだろう。
 全てを救うとするのなら、何らかの策を講じる必要がある。
 一人では困難でも、猟兵達は一人ではない。
 各員の健闘を祈念する。
蘭・七結

散り果てた灰を、そっと掬って
彼女たちは、最期に何を感じていたのかしら
気紛れに廃された命の末路
散りゆくその刹那、
彼女たちの瞳は、微かに揺れていたわ

あなたにとって、ヒトとは何かしら
捕食の対象、都合のいい玩具
それとも――…

盲目的な恋慕
その結末を、よく知っている
醒めぬ夢ならば。ナユが果てへと誘いましょう
連ねた指輪に口付けを交わし
その名を、呼んで。
〝かみさまの言うとおり〟

あかい羽織をひらめかせ
周囲の檻を意識しつつ、衝撃を見切り
早業で狙うは、黒薔薇の娘たち

瞞しの愛なんて、いらない
呪詛と共に、灰と化した嘆きを乗せて
断罪降す黒鍵で2回攻撃
あなたには安楽も、楽園という果てもない
せめて、美しく散ってちょうだい


ミーユイ・ロッソカステル

…………クズめ。

言葉少なに、敵意を露わにして。


………とは言ったものの。どう動くべきかしら
『宝石箱』……あいつにとって、という意味のこんな呼称、使いたくもないけれど。
ここに捕らわれている者たちは、実質……この戦いにおける人質のようなものだわ。
……なら、そこからなんとかしなければ。

選んだUCは「恋路の迷宮 第1番」
高らかに歌唱しましょう。
共感した者を癒すこの歌の題材は、恋物語。……幸いにも、捕らわれているのは乙女ばかり。
こんな家畜小屋で終わりたくは、ないでしょう?
絶望に負けず、悪夢のような現実という迷宮を抜け出す希望を抱いて頂戴。
……あなたたちの絶望は、あいつの糧となってしまうのだから。


アーノルド・ステイサム


…屋敷の趣味まで最悪だな

あの高慢なサド女を叩き潰したいのは山々だが
周りの娘を放っとく訳にもいかねぇ
メインで殴るのは他の猟兵に任せた
娘たちの安全確保につく

檻の近くにいる『黒薔薇』どもを仕留めにかかる
火器の使用は控え、近接で確実に
娘たちを喰らって回復する可能性があるなら
まずはその懸念を潰す
檻を開けようとしてるヤツがいればそいつが最優先だ
最も効率の良い移動方法を電子妖精に計算させ
脚部出力を最大に 機動性を向上させて一気に近付く
図体はでかいがウスノロって訳じゃねぇんだよ

――おい
こっちを見ろ

負の感情が親玉の強化に繋がるなら
娘たちを励ますのも忘れない
絶対に家に帰してやる
悪いが、もう少しだけ我慢してくれ



●恋路の迷宮に、灯を点せ
「…………クズめ」
 嫌悪も露わに呟くのはミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)。
 言葉少なに、彼女は敵意を剥き出しとして、宝石のような金の瞳を光らせる。
「反吐が出る。その勝手も今この時までよ」
「吼えたわね、小娘。あなたに何が出来て? けれどその尖った眦も好いわね、屈服させ甲斐があるわ」
 階段を降り来たリリアーナの周囲をぴったりと黒薔薇の少女たちが固めた。その内の数人と口吻を交わしてみせる余裕まである。
 顔をしかめるミーユイの左右に、二人の猟兵が進み出た。
 入口のドアを吹っ飛ばした機人と、塵に掠れた指先をした、美しい少女。
 アーノルド・ステイサム(天使の分け前・f01961)、そして蘭・七結(恋一華・f00421)だ。アーノルドは斧の背で肩を叩きながら、一望した屋敷の風景に感想を零す。
「こいつは驚いた。外でそいつらを見たときから最悪だと思ってたが、その更に下を行ったぞ、お前。どうしたらこんなに趣味を悪くできるのか、一度お聞かせ願いたいもんだ」
「言葉を選びなさい我楽多。一度は許すけれど二度目は無いわよ」
 不快げに片眉を聳やかすリリアーナを、七結は悲しみとも、哀れみともつかぬ目で見つめる。
 ああ、死んでしまった少女たち。七結が放った香によって、僅かの間だけ正気を取り戻した――その直後に、この高慢なオブリビオンの手によって生を奪われた、哀れな少女たち。
 その痕から指先に掬った黒塵が、今だ染みつくように七結の指先を黒く染めている。黒い黒い只の塵に成り果ててしまった彼女たちは、今際の際に一体何を感じていたのだろう。
 まだ生きたいと願っただろうか。揺れる瞳が、瞼の裏に焼き付いて今だ鮮やかにそこにある。
「あなたにとって、ヒトとは何かしら。捕食の対象、都合のいい玩具? それとも――」
「その全てよ。私に愛を注ぎ、私が愛を注ぐものよ。私だけが愛で、私だけを愛し、私が生かし、私を生かすもの! これが愛で無くてなにかしら?」
「――あんなにも、簡単に殺すのに?」
「? そのために沢山、愛を持つのでしょう?」
 リリアーナは首を傾げて七結に微笑んだ。吸血種と、人間の絶対的な隔たり。ダンピールという出自を持つ七結やミーユイでも理解ができない言葉。愛と食欲と娯楽が同列に並んでいる。
「お喋りはその辺にしとけ。イカれ女に付き合ってやることはねえ。やるぞ。頼む、ミーユイ」
 アーノルドが、リリアーナの狂気を断ち切るように言った。巨大な鉄斧を軽々と敵へ振り向けながら機人は嘯く。
「……任せて頂戴」
 思うところがある様子のミーユイも、しかし今は作戦を優先した。彼女が息を吸い込むその前に、七結もまた護るように進み出て、一本の黒き剣を抜く。それを皮切りに他の猟兵らもまた、各々の武器を構える。
「ああ、怖い、怖い。ほうら、お前達。無粋な侵入者共よ。私たちの愛を邪魔する、蛮人共よ。いつも通りになさい。どうしたらいいのか、わかるわね?」
 武器を光らせる猟兵らを前に、リリアーナが謳った。
 黒薔薇の少女たちは、リリアーナの間近にいることで昂ぶるようにその頬を上気させている。彼女らは煌びやかなソプラノで言った。
「手脚をもいで!」「喉を潰して!」「希うまで痛めつけ!」「従う娘には無上の愛を!」「他の全てに残酷な死を!」
 歌い上げる残虐な言葉に、周囲を濃密な絶望の空気が包む。檻の少女らの、諦念と諦観が醸す重い空気だ。
 恐らくは、嘗てもこうして踏み込んだもの達がいたのだ。
 余裕綽々のリリアーナの態度からも明らかだ。この程度のトラブルは想定のうちだと言わんばかりの態度。――そしてきっと、その時も黒薔薇たちは歌い、リリアーナは命じたのだ。
「よく出来ました。では、『そう』なさい」
 黒薔薇の少女たちが、弾けるように殺到した。

 最前衛を張ったのはアーノルドであった。その恵まれた体躯、三メートル近い鋼のボディは、武器を振るわずともそれそのものが鉄塊、凶器である。
「あの高慢なサド女を叩き潰したいのは山々だが――まずは数を削らんことにはな」
 アーノルドは周囲に油断なく気を配っている。大量に現れた黒薔薇の少女らだが、積極的に檻の中の少女を喰らおうとはしていない。
 檻の中にいる少女たちは、言うなればリリアーナの所有物。それに手を付けることはよほどの場合を措いて無いと見て良さそうである。檻を開けようとしているものはなく、電子妖精からの計算結果も同様だ。
 つまり、目の前の敵を全力で阻めば、それでよい。
「メインディッシュは他の連中に任せる」
「ええ」
 アーノルドの言葉に七結が頷き、巨体の影に隠れるように続く。正面に向け、二人は駆けた。
 押し寄せる黒薔薇の少女らは、最早人の波と言ってもいい。それに対しアーノルドは脚部出力を強化、パワーゲインをマックスに、床板をメキメキと踏み割りながら加速した。
「図体がデカけりゃウスノロだってのはな、思い込みだぜ」
 高速の踏み込み。黒薔薇たちが槍を空中に固める前に、アーノルドの斧が先頭三名を射程内に収める。
 鋼鉄の塊が空を斬り裂く、低いが鋭い音がした。アーノルドの速力と膂力、そして斧の重量が重なれば、砕けぬものなどこの世にあるまい。抵抗すら許さずに、先頭の三名が拉げ千切れ飛びばらばらになって、端から黒塵となって消える。
 その影から飛び出した七結が、連ねた指輪に口づけを落とした。刹那、その瞳が猩々緋に染まり、
「――お出でください、『かみさま』。……ああ、醒めぬ夢ならば。ナユが果てへと誘いましょう」
 降りる。彼女の、『かみさま』が。鮮烈なる緋色の瞳が曳光し、圧倒的な速さで七結は前進した。あかいあかい羽織が風に靡きばたたと音を零す、その羽音まで置き去りに七結は奔った。
 黒鍵が唸る。断罪を降す刃音。飄、と吹き荒れた音の後に、からだを二つに分かたれた数名の黒薔薇が、ずれた断面より黒塵と化して爆ぜる。
 黒薔薇たちは今度こそ呪詛の槍を固め、七結とアーノルド目掛け射出した。
 踏み出したアーノルドがバリアを展開し、後方をカバーする盾となる。火花を散らし、バリアを貫通した槍が装甲を削るが、それを意にも介さない。
「おい。こっちを見ろ。助けが来たぞ。俺達が、必ずお前らを家に帰してやる」
 アーノルドは低く、よく響く声で檻の中の少女らへ宛てた。
 合わせるように、七結がその影から弾けるように飛び出し、更に数名を黒鍵にて切り裂く。
「ええ――そうよ。瞞しの愛なんて、いらない。散らすわ、ここで。戻れぬ人は塵と化せども――きっと、あなたたちは助けるから」
 二人の猟兵が前線を支える中、ミーユイが腕を打ち振り、翼の如く広げた。

 焦がれるほどに苦いのだ
 痺れるほどに甘いのだ
 破滅を超えて希望へ進め
 命短し恋せよ乙女よ

 歌が聞こえる。
 エントランスに朗々と響くのは、歌姫が奏でる無二の歌。
『宝石箱』を揺るがすのは、熱く燃える、胸を焦がす、甘く切ない恋の歌。
 そうとも、強制される恋慕など、糞食らえだ! 恋とは、愛とは、強いられて絞り出すものなどではない!
 ――こんな家畜小屋で終わりたくはないでしょう?
 ミーユイは、歌を通じて語りかける。恋心はいつだって、少女らの心を熱く燃やす。
 その炎が、絶望を、悪夢を灼き尽くすのだ。
 残してきた幼馴染。結婚を約束した朴訥な青年。いつか現れる筈だった王子様。空想も現実も関係ない! ここで絶望に塗れて死ねば、その続きを見ることは叶わない。
 ならば!
「あと少しだけ、我慢してくれ」
「ナユたちが、必ず護ってあげる」
 ――心泣くならば悲恋に燻り、猛るのならば渇愛に燃えろ!

 三名の猟兵がそれぞれに示す、希望、未来の形。
 それが、その場に満ちた絶望の空気を――確かに、強く揺るがした。
 力持つ歌声が、少女らに生きる希望をもたらす。
 恋せず死ねるかという、向こう見ずな――熱い感情を呼び覚ます!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

メドラ・メメポルド
メド、今日はね、ごはんのために来たんじゃないのよ。
ごめんなさいも、だいすきも、言い足りないだれかのために、来たの。


【POW:ブラッド・ガイスト】
【存在感、時間稼ぎ、誘惑、手を繋ぐ、グラップル】

でも邪魔するのでしょう?
どいてくれないのでしょう?
なら、いつも通りよ。
月を赤く、血で染めて。
わたしは、あなたたちを食べるわ、お姉さん。
にがさない、はなさない。
わたしの身体すべてを使って、いただきます。

閉じ込められたひとを逃がすために動きたいひともいるでしょう?
わたしが囮になってあげるわ。
引き付けてるうちに、おいきなさい。

今のわたしなら、金属だっておいしいものよ。
余裕があったら、檻もどんどん食べてあげるね。


ジャガーノート・ジャック


(ザザッ)
ターゲットを視認。
目標:被害を最小に抑えた上でのターゲット討伐。

(ザザッ)
敵妨害による友軍の支援を担う。
SPDを選択。

電脳体を拡散――電磁ノイズ"砂嵐"を散布、戦闘区域全体に展開。
本機はその中を隠れるように、或いは映したデコイに紛れ潜伏する。
(迷彩+残像+フェイント)

このノイズはユーベルコードに対するジャミング波であり
解析した対象を複製する機能も有する。

敵への少女達の絶望や悲観をシャットアウトする他
ジャミングにより少女達の行動阻害を狙う。

――Copy(複製)。
少女達の事は事前の戦闘で十分解析済だ。
敵を守る為に集う少女の中、
刺客の如く敵を狙う複製と追撃要員を紛れ込ませよう。
(ザザッ)


ユキ・パンザマスト
なら、ユキが惹き付けようじゃあないですか。

これでも年若い女、年端もいかない少女、ですもので。なあんて。
最前線に躍り出て、誘惑と催眠術でリリアーナや黒薔薇の注意を惹く。
攻撃は野生の勘で躱せ。
当たるならば激痛耐性と捨て身の生命力吸収で凌げ。
はは、気の強そうな小娘をねじ伏せるのは、お好みで?

さあ、今のうちっすわ。
他の人達は捕まってる女の子達をよろしくお願いしますよ。
ユキですか? 生憎、しぶとい成りでしてねえ。
(たとえ一度は斃れるとしても、先ほど黒薔薇を喰ったから、)
(新しい身体を賄える。)
朽ちねえ花としての役割、きっちり勤めさせていただきますよ。



●二輪の花は砂嵐に舞う
 ミーユイの歌をバックに、猟兵達は多方面で戦闘を開始する。エントランスは瞬く間に繚乱と咲く黒薔薇たちと猟兵らのダンスホールと化した。
『作戦目標を再確認する。全猟兵は一般市民の被害を僅少化の上、ターゲット『リリアーナ・ヒル』の討伐に当たる。認識に齟齬は?』
「ないっすよ!」
「ないわ」
 猟兵らは特徴的な外見を備えることが多かったが、その一角を担った猟兵らはその中でも異彩を放っていた。黒豹めいた機動装甲を纏う男。瞳に猫、狼の牙、蝙蝠羽と蜥蜴の尾骨を継ぎ接ぎにしたような少女。淡い色彩の、白髪に淡緑の瞳をした少女。
 姿形も性別もバラバラな三人が、ただ一つの目標のために団結する。
『本機はこれよりユーベルコードを発動、敵の行動を妨害の上、遊軍の支援を行う。武運を、ユキ、メドラ』
「了解! そんじゃあ一丁、派手に惹き付けようじゃあないですか!」
「わかったわ。それじゃ、たくさん、たくさん食べるわね」
 ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)が進み出るその後ろで、ユキ・パンザマスト(禍ツ時・f02035)とメドラ・メメポルド(フロウ・f00731)が構えをとる。
「あはは、ははは! 踊りましょう、踊りましょう!」
「手足がもげてしまうまで、くるくる、くるくる廻りましょう!」
 黒薔薇の少女らが駆けてくる。
 いくつもの呪槍が空中に編み出され、ほぼ同時に放たれた。飛びくる槍をすべて視界に収め、ジャガーノートは装甲を展開し、『電脳体』を拡散する。広がる電脳体が呪槍を、ひいては黒薔薇の少女らを包み込む。
『構造解析。既撃破敵対象とのユーベルコード・パターンマッチングを開始。損失情報を補填――完了。電磁ノイズを展開する――Copy, O.K.』
 戦場の一角に蔓延した電磁ノイズが、幾つもの虚像と残像を発生させた。ジャガーノートの虚像、そして黒薔薇の少女らの複製がその場に大量に発生する。
「あっちにも、こっちにも、機械の兵隊さん!」
「こっちにあなたが、ここに私が!」
「不思議、不思議ね!」
 少女らは虚像のジャガーノートを槍で穿つが、当然ながらそれは空を切る。直後に、ノイズで出来た黒薔薇の少女――『複製体』が、攻撃を繰り出した少女を同じ呪槍で突き刺した。
「え――?」
 何が起きたのかわからないという顔をしながら倒れる少女。味方の形をした者から攻撃を受ければ、それも至極当然の反応だろう。
 敵のパターン解析を行った上で、電磁ノイズにより複製する――ジャガーノートのユーベルコード、“砂嵐”である。
『十二時方向に道を空ける。今なら、そこが最も敵の耳目を集めるだろう』
「わかりました!」
「わかったわ」
 ユキとメドラが駆けだした。ジャガーノートが放つ『複製体』が暴れ、宣言通りに黒薔薇の少女らの壁に穴を空ける。
 この三人が担当したのは、囮として一体でも多くの敵を引き寄せ、リリアーナの戦力を削ぐ役回りだ。
「これでも年若い女、年端もいかない少女、ですもので――お眼鏡に叶わないもんですかねえ? なあんて!」
 喩え叶ったところで御免だったが、冗談めかしてユキは言いながら、メドラと共に敵のただ中を駆ける。
「可愛らしい女の子が二人もいるわ!」
「おとなしくさせて、捕まえましょ!」
「――今日はね、ごはんのために来たんじゃないのよ。ごめんなさいも、だいすきも、言い足りないだれかのために、来たの。だから、むだな時間は過ごせないわ」
 メドラは足を止め、訥々と言う。言葉に構わず目の前を阻む二人組の少女を、無表情に睨む。
「でも、そうよね。そうやって邪魔するのでしょう。どいてくれないのでしょう。なら――いつもどおりにするしかないわ」
 淡緑の瞳が妖しく光った。肩の青い月型の聖痕が、まるで血で染まったように赤く変色し、輝く。ずろり、とメドラの髪――否、触腕がその先端を補食する獣の顎の如く開く。
「わたしは、あなたたちを食べるわ。お姉さん」
 ――それはまるで、開けてはいけない扉を開けてしまったときのような威圧感。メドラ・メメポルドは八歳の、非力で小さな少女に見えるが、一皮めくれば何もかもを喰らい尽くす暴食機構である。
「ッ、」
 黒薔薇の少女が引きつった息を吐いた瞬間、メドラの触腕が伸びた。蛇のごとき俊敏さで放たれた触腕が先端を開き、黒薔薇の少女に食らいつく。
 甲高い悲鳴。回避のため飛び退く二人目をあざ笑うように、メドラの触腕は果てを知らぬが如く伸びその体を食む。
 流し込まれる神経毒が一瞬で少女らから言語を奪った。譫言をあげる声すらすぐに、消える。
「いただきます」
 動きを奪えば後は一瞬だ。いかなる原理によるものか、腕ほどしか太さの無いはずの触腕に、ぢゅるり、と少女らが吸い込まれた。痙攣する手の震えが断末魔の代わり。
 メドラの無表情は動かぬ。彼女が一歩踏み出すと、恐れるように黒薔薇の少女らが蹈鞴を踏んだ。
「一度とげをさしたら、もうにがさないし、はなさないから。わたしのぜんぶで、お姉さんたちをみんな食べてしまうわね」
 声に少しでも抑揚があれば、それは童女が誰かを脅かすような可愛らしい文句だったかもしれない。しかしメドラは全く平坦な語調で言った。
 誇張も、虚飾も、そこには無い。
「ほらほら、どうしました? ねじ伏せて手足をもいで献上するんじゃないんです? それとも気の強そうな小娘はお嫌いですかねえ!」
 メドラが恐れと戦きを撒き散らし、作った隙に飛び込むように、ユキが切り込んだ。その腕を名状しがたき獣の頭骨へと変じ、手近な一体の腕を食い千切り蹴り飛ばす。
「ああああああっ!?」
「すいませんねえ、食い意地が張っててさあ!」
 笑う声は悪びれた様子も無い。繰り出される複数の呪槍を体を捌いて回避、極力ゼロ距離での戦闘を行うことで槍を誤射させる狙いで戦う。
 小柄な体を羚羊の如く跳ねさせ、ユキは次なる敵手の首に、獣顎と化した右手で食い付いた。
「――、!!!」
 絶叫さえも喉に開いた穴から血泡となって抜けていく。絶命に向かう黒薔薇を介錯すべく右手に力を込めた瞬間、ユキが見たのは周囲から一気にに放たれる黒槍の嵐であった。
「これは、」
 ――勘が告げる。回避が間に合わない。明らかに、今ユキに咬まれ死にゆく個体を犠牲にする前提の攻撃。ユキが食い付こうと飛び込んだときから用意していなければ、このタイミングで攻撃が降り注ぐことはあり得ない。せめて敵を盾にしようと吊り上げるが、最初の数発が背中に突き刺さった時点で瀕死の黒薔薇は黒塵と散った。
「ぐ……っ!」
 降り注ぎ、ユキを串刺しにする無数の槍。胸を、足を、腕を、腹を、首を、無数の呪槍が貫いた。ユキの唇から血が迸り、床をびしゃりと赤く汚す。
 がく、と膝をつくユキ。夥しい出血が手足を伝い床に血溜まりを作る。
『動けるか? 後退を推奨する』
 決して荒げられることのないノイズ混じりの声も、今は切迫したかの如く響いた。ジャガーノートはさらなる追撃の槍を防ぐべく数体の『複製体』を差し向け敵を牽制するが、うずくまったユキの傷は深く、一刻の猶予もないかに見える。
「ユキさん」
 尚も降り注ぐ槍。ジャガーノートの支援のみではだけでは防ぎ切れないそれをメドラがカバーし、数本の槍を触腕で吸ったところで――異変は起きた。
「はああ、ああ……」
 声。ユキのもの。喉に槍が刺さっているはずなのに?
 弾かれた様に振り返るメドラの前で、ユキの――いや、『今までユキだったもの』の表皮が割れるように剥がれ落ち、まるで脱皮するように無傷の『新しいユキ』が姿を現す。
 暴食した黒薔薇の少女達の肉を使い、傷ついた己自身さえも糧としての自己再生、否、再誕――これぞ、ユーベルコード『八百椿』。
「生憎、しぶとい成りでしてねえ。……大丈夫ですよ、まだまだいける」
「……驚いたわ」
『同感だ』
 メドラとジャガーノートが声を合わせる中、当のユキはさっぱりしたもの。ゆらり立ち上がり、にいっと笑い、
「さあさ、ユキらの役目はこれからが本番! 朽ちねえ誘蛾の花としての役割、きっちり勤めさせていただきますよ!」
 再び腕を獣に変じ、構えを改める!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

月隠・望月
愛を誓う? 愛は家族に向けるもの、オブリビオンに誓うものでは、ない。

銃と投擲武器は使えない、ね。けど、問題ない。《無銘刀》で【剣刃一閃】斬り捨てるまで。
敵の配下は数が多い。囚われている人を巻き込まない位置であれば、<怪力>で<なぎ払い>敵首領への道を拓こう。
狙いを絞られないよう動きつつ(<残像>)、敵の攻撃は可能な限り<見切り>、回避。

また《陰陽呪符》を使って<オーラ防御>の壁を檻の周りに展開。囚われている人を守る。強い守りではない、けど無いよりはまし。
悲観や絶望が敵の力になる、ならわたしは囚われている人たちを力づけよう。
わたしたちは、あなたたちを救いに来た。リリアーナ・ヒルを倒しに来た、と。



●護るための牙
「愛を誓う? ――愛とは家族に向けるもの。オブリビオンに誓うものでは、ない」
 月隠・望月(天賦の環・f04188)は傲然と言い放つと、無銘の刀を逆手抜刀。左手で刀印を組み腰低く構える。
 この状況下だ。迂闊な遠距離攻撃は行えない。――だが関係ない。飛び道具が使えないとあらば、この刀一本を頼みに、剣刃一閃斬り捨てるまでである。
 飛びかかってくる黒薔薇の少女を、峰を肘に沿わせるように構えた無銘刀の一撃で斬首。黒塵と化す少女の骸を突き破るように前進。槍が放たれようとも刀で弾き、直進する。
 彼女の目指すところはただ一つ。己が身体を一陣の刃風とし、リリアーナ・ヒルへ至る道を作る。ただそれだけでいい。首領への道を拓くのまでが、自分の仕事だと割り切っている。
「リリ様に寵愛を許されると、お言葉をいただいたのに――」
「傲慢よ。傲慢よ、あなた。許されないわ」
 黒薔薇の少女らが呪わしげに言葉を吐き、幾つもの黒い呪槍を練り上げて手に取った。屍食鬼として得た膂力で呪槍を取り回し、望月目掛け襲いかかってくる。
 繰り出される槍の切っ先を刀を廻して弾き飛ばす。火花を散らして受け流し、くるりと順手に持ち替えて槍の穂先を斬り飛ばし、もう一歩踏み込んで心臓を刺し貫く。
 断末魔めいて痙攣する身体を蹴り飛ばして次の一人にブチ当てる。踏鞴を踏んだところへ飄風の如く踏み込んで銀光一閃、敵の首を刎ね飛ばす。
「この……ッ!」
 三位一体の攻撃を繰り出してきたうちの最後の一人が、空中にやけっぱちな数の短呪槍を召喚し、望月の方向へ盲撃ちする。
 ――残像を残しそれを掻い潜ることは容易だ。しかし、望月はそうしない。打ち振った腕から『陰陽呪符』をばらりと撒き、それに強い呪力を籠める。呪符はまるで生きているかのように空中を舞い、数枚ずつ固まって壁を成した。言うなれば、瞬間的に編んだ即席の呪障壁だ。
 ――後方へ逸らせば、壁の折にいる少女らが傷つく可能性がある。
 それすら悟って完全な防御を見せ、望月は雷光の如く駆けた。一瞬で間を詰め、右手の刀を振りかぶり――それに反応してガードを上げた少女の、その反対の胸へ左手を繰り出す。
 肉を穿つ重い音。目を見開いた黒薔薇の少女が、よろり、と後退する。見下ろす胸から黒い刃。苦無が生えていた。
 仰向けに倒れ塵屑と化す黒薔薇の少女をよそに、望月は今一度刀を構え直す。
 ――ああ、今し方護った少女らに。この戦場に絶望の眼差しを注ぐ少女らに。
 伝わるだろうか。伝わっていたらいい。
 わたしたちは、あなたたちを救いに来たのだ。もうこれ以上、一人も傷つけられないように。
 リリアーナ・ヒルを倒しに来たのだ、と。

「――御命、頂戴」
 刀印を切る。望月は黒薔薇の波の奥に見えるリリアーナへ目掛け、再び遮二無二突撃した。

成功 🔵​🔵​🔴​

テスアギ・ミナイ


キキさん以外にもこんなに…
宝石箱という例えはとても素敵です。
けれど、この皆さんは輝けるのですか。
リリアーナさんはまるで宝石の持ち主みたいに振る舞ってますが、
ちゃんとしてないです。
この蠢く子らを黒く染めてしまったのだから。

ひとに直接触れるのは得意ではなくて
射撃ばかりの私がお役に立てるとしたならば
……イガルク。追いかける男の子を使います。
彼を象徴する100の腕が、足を掴んで凍らせます。
それが一瞬でも、動けない対象を射るなどダーツより簡単。

私は妹、キキさんの心は分からないけれど
命を賭してくれたって、
それでもやっぱりありがとうと言って笑い合う日を待ってしまうんです。
だから帰りましょう。帰ってきて。



●きっとこの手で、あなたを救うから
「宝石箱という喩えは確かにとても素敵です。――けれど、この皆さんは輝けるのですか」
 テスアギ・ミナイ(Irraq・f04159)の言葉は透徹に、矢の如く真っ直ぐ響いた。
 憔悴し、今にも死んでしまいそうに窶れている者もいる。ああやってボロボロにされて、彼女らは果たしてまた輝けるのか。否だ、とテスアギは思う。
「リリアーナさんはまるで宝石の持ち主みたいに振る舞ってますが、ちゃんとしてないです。この蠢く子らを黒く染めてしまったのだから」
 黒薔薇の少女たち。闇色のゴシックドレスを纏い、テスアギの言うように夜のそこを蠢く妖花たち。リリアーナに言葉は届かなかったが、聞きとがめた少女らが彼女に向けて迫る。
「リリ様は私たちに愛をくれたわ!」
「こんな頑健な身体をくれたわ!」
「血さえ飲めば、ずうっとずうっとリリ様と一緒にいられるのよ!」
 陶酔した少女らの言葉は最早病的な信仰に塗れていた。テスアギは溜息をつきながら、腕を翻す。彼女の得手は弓を用いた射撃だったが、この状態の室内では下準備なくして放つのは危険だ。
「イガルク、いとしい子らよ。気のすむまでおいきなさい」
 テスアギが腕を差し向けるなり、ひょう、と冷たい風が吹いた。
 透き通った腕が幾本も、幾本も伸び、走る少女らの脚を捕まえる。腕が触れた部分から凍り付き、少女らは脚を取られてつんのめった。
 テスアギの狙いはそれだ。イガルクの単体では、一瞬で少女らを凍えさせ殺すことは困難だろうが、脚が凍え僅かなりとも動きが止まった瞬間を射るのならば、弓の名手たる彼女には手慰みにダーツを投げるほどに容易なことである。
 矢筒から矢を引き抜き、一本を番え狙いを定める。引き絞る弓弦の軋む音、風を切る矢の音が幾つも連なり、矢嵐となってイガルクに掴まった少女らを襲う。
 頭に、胸に、矢を受けて弾ける如く黒塵へと帰る少女たちを見ながら、テスアギは新たなる『イガルク』を召喚しながら沈思する。
 テスアギは妹だ。上に兄がいる。だから、上のきょうだいが――キキが、何を考えているか、何を思ったかは解らない。
 ――護るために命を賭してくれた思いの重さよりも、何気ないことにありがとうと言い合って、二人で過ごす日常を思い、待ってしまう。お別れなんて、考えたくもない。
「帰りましょう、キキさん。――あなたを、救います」
 だから、帰ってきて。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネグル・ギュネス

救いを求める声が聞こえる
助けを呼ぶ声が
───なれば、やることは一つ

私に任せろ
何せ、宇宙を一つ救って来たんだ
この程度、紅茶を淹れるより楽さ

捕らえられた女性たちを励ますべく、優しく声をかける

ユーベルコード:勝利導く黄金の眼をを発動
この領域の現在、未来を掌握する

【残像】を利用した目眩しで敵を翻弄
単体で隙を見せた未来を掌握、光の【属性攻撃】で射撃
弾丸はゴム弾だが、さて悪意ある闇に、精霊の光はいかがかな?
少女達を壁にしようとする瞬間、角度、攻撃のタイミング
全て、透けて見える

そら私ばかりに気を取られていたら、他が隙だらけだぞ?
とブラフ、或いは仲間との連携を交えて攻める

我らは、絶望を祓う者也

その首、頂く!


境・花世
枯れ落ちた黒薔薇を迷いなく越え
女王の喉元目指して駆けて、駆けて

何もかもは救えやしない
だけどこの指が届く未来だけは
――それがわたし達の、仕事だ

女王の攻撃は常に注視
生ける乙女に流れ弾が当たらぬよう、
いざとなれば己が身で受けて庇う

傷だらけになったってこわくない
何があっても守られるのだと、
乙女達が希望を抱いてくれるなら

共に往く猟兵たちと連携し
互いを進み、進ませて、
出来る限り至近距離まで近付き
相打つ覚悟で花びらを腑に撃ち込もう

きれいな花が見たいならどうぞ、
おまえ自身が咲いておいで
さぞかし鮮やかな血の色に違いないと
笑ってみせることは出来るだろうか
この指は届くだろうか

未来に――花盛りの、やがて訪れる春に




ティオレンシア・シーディア


ちょっとこの状況は想定外ねぇ。
あたしは誤射なんてしないけど…弾かれて逸れたらまずいわよねぇ。
ま、やりようはあるんだけど。

クレインクィンで小型の爆弾を撃ち出すわぁ。
クロスボウって矢を撃ち出すだけじゃないのよぉ。
射出方向は「頭上」。
充填してあるのは聖水に塩に銀粉…どれも人間には効かないけど、吸血鬼なら特効よねぇ。上から降らせて〇範囲攻撃するわぁ。
決定打にはならないでしょうけど、〇援護射撃くらいにはなるかしらぁ?
隙があれば銀の弾丸装填して●封殺で〇破魔〇属性攻撃撃ち込むわねぇ。

生憎だけど。あなたみたいな下品な女は願い下げねぇ。
生まれなおしておとといおいでなさいな。
…これでも、かなり怒ってるのよぉ?



●ファースト・アタック
 まずは前哨戦。ミーユイが少女らの絶望を削ぎ敵戦力を抑え、近接戦闘もしくは敵を無力化する手段を備えた猟兵達が黒薔薇の少女らの数を減らし、リリアーナまでの道を拓く。しかる後に行われる第一次攻撃――その役割を負ったのは、その三名の猟兵であった。
 他の猟兵の援護を受けながら、黒薔薇の少女らの壁を突破する。

 ちりり、りりり。
 鈴の音が聞こえる。

 それがどこであろうと、化生に襲われるサムライエンパイアの片田舎であろうと、苦難に喘ぐ宇宙の果ての民の元だろうと、ダークセイヴァーで非道の下苦しむ少女らの元であろうと。
 救いを求める声を聞いたなら。助けを求める声が聞こえたのなら!
 黒い太陽は、いつだってそこに現れる。
「もう大丈夫だ。私に任せろ――何せ、宇宙を一つ救ってきたんだ。この程度、紅茶を淹れるより楽さ」
 太刀を片手に謳うように言うのは、ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)である! 凜と立つその長身の影に、檻の中から縋るような視線が幾つも向く。
 勇気づけるように頷くと、ネグルはリリアーナに金色に光る双眸を向けた。
「見たぞ、聞いたぞ、貴様の所業。この場でその首をいただく」
「偉そうに言うのね。ここまで駆け来たことだけは褒めてあげるけれど」
 ワイングラスに満たした血を舐めながら、リリアーナは指を鳴らす。背後のドアから、なおも黒薔薇の少女らが増援として来る。
「偉そうに、か。貴様こそ、血吸い虫風情が領主面して偉くなったつもりだったか?」
「……口の利き方から教育し直さないといけないようね!」
「必要ないさ――すぐに、お前は口を利けなくなるからな!」
 金に染まったネグルの目には、未来が映る。彼がリリアーナに差し向けると同時に、ひょう、と重い風切り音がして、何かが空中に飛んだ。
 黒薔薇の少女らの視線がそれを追いかけて跳ねる。宙に浮かんだのは――矢。その尖端には爆弾が結わえ付けられている。
 破裂音がして、それは少女らとリリアーナの真上で弾けた。銀色の雨が降り注ぐ。
 一発二発ではない。次から次へと爆弾が飛び、爆ぜる。撒き散らされる銀色の雨の正体は――
「忌まわしい……! そのような物を私の家に持ち込むなんて、よほど死にたいようね」
 聖水、聖別された塩、そして銀粉の混合物。降り落ちる銀の雨は黒薔薇の少女らの肌を、髪を焼く。リリアーナには顕著な影響は無いように見えるが、即座に爪を下から上へ煽るように振るい、起こした風で雨から逃れるように動いた。――防御動作を取った以上、全くの無効というわけではあるまい。射手は、それを見ていつも通りに笑った。
「ちょっとこの状況は想定外だったけど、やりようはあるのよ」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)である。彼女は銃の名手であり、弾丸を外しての誤射などあり得ないと自負していたが、仮に弾丸が弾かれたとすればその行き先についてまでは保証できない。故に取った手立てがそれであった。即ち、クロスボウ――『クレインクィン』と爆弾付きボルトを用いた範囲攻撃である。
 ティオレンシアの狙い通り、敵は浮き足立ち、一瞬だけ統制が乱れる。黒薔薇の少女らには明確なダメージも残る。それを受け、最後の一人が直走った。
「何もかもは救えやしないけれど――だけど、この指が届く未来だけは救ってみせる。これがわたし達の、仕事だ」
 境・花世(*葬・f11024)である。今までのいつよりも速く駆け抜ける女は、身体にまるでドレスのように咲き乱る八重の牡丹の花を纏いて驀進する。これこそ、ユーベルコード『紅葬』。狂い咲いた八重の牡丹は花世の血を啜り真っ赤に咲いて、彼女の速力を増幅すると同時に無双の武器となる。
 傷つきながらも道を遮ろうとする黒薔薇の少女を目掛け手を翳せば、花世の血を啜り染まった花弁が刃の如く煌めいて放たれた。
 花風は、刃鳴風。
 紅い牡丹の花弁を孕んだ飄風は、一瞬で五名あまりの少女らの身体を抵抗なく引き裂いて、悲鳴さえも呑み込んで荒れる。枯れ落ちる黒薔薇を踏み越え、リリアーナ目掛け迫る。
 呪槍が放たれ、肩を腕を脚を穿つ。傷ついたそこから、また紅い牡丹が芽吹き、花開く。傷を負っても、まるで意に介さない。花世は言い聞かせるように呟く。
「大丈夫。わたしは、倒れない。だから、怖くないんだよ」
 檻に囚われた乙女に、僅かなりとも希望をと、祈る花世は決して痛みも恐れも口に上らせぬ。
「そうだ――私達は負けない。君達の“未来”を護るためここに来たのだから!」
 ネグルが歌う。ソリッドブラスターαをドロウ。腰撓めに連射する。銃口から放たれるのは弱装薬のゴム弾。――しかし弾丸が帯びるのは聖なる光の加護である。これならば、仮に弾丸が逸れたところで人が致命的な傷を負うことはない。――そして、
「ぐ……! 玩具のマスケットもどきがッ!」
 リリアーナや配下の少女ら、即ちアンデッドに対しては高い効力を発揮する!
 少女を盾にして銃弾を防いだその直後、ネグルが跳弾させながらの二射でガードを縫った。銃弾を防いだ手に赤黒い孔が穿たれる。――確かなダメージを負わせることが出来ている!
「今すぐ縊ってあげるわ……殺しなさい、私のかわいい黒薔薇たち!」
「おやおや。私ばかりに気を取られていていいのか? ――我らは絶望を祓う物也! その首、頂くぞ!」
 吼えたネグルの声を追うように、いつの間にか攻め上げたのはティオレンシアだ。花世の後ろを進み、彼女が囲まれ攻撃を浴びた瞬間、その影から飛び出したのだ。電光石火の三連射。この近距離で外すなど有り得ない。彼女の右手で光るカスタムリボルバー『オブシディアン』が、ほぼ一つに聞こえる三つの銃声を放った。
 三人を撃ち倒し、舞う黒塵を突き破って矢の如く駆け、更に三射。ネグルが崩した敵の防御を更に銃弾で抉る。リリアーナ・ヒルの肩口から鮮血が飛び散る。
「羽虫が、よくもここまで群れる――!」
「随分な言い草ねぇ。生憎だけれど、愛を誓う相手はこれでもよく選んでるつもりなのよぉ」
 ゆったりとした口調とは裏腹、ティオレンシアは最早常人では目に負えぬ速度でオブシディアンのシリンダーを弾き出し廃莢。床に薬莢が鈴なりの音を立てる前に、スピードローダーで六発の銃弾をリロードする。
 その速さは、リリアーナの表情を僅かな驚きで動かすほどだ。
「あなたみたいな下品な女は願い下げねぇ。生まれなおしておとといおいでなさいな――これでも、かなり怒ってるのよぉ?」
 雷轟。
 オブシディアンのシリンダーが一瞬で一周し、六発の銃弾が護りに入った手を貫き、二射目以降が手の射入口を針穴を通すように抜いて、リリアーナの胸を撃ち貫いた。
 電瞬の六連射を追いかけるように、傷だらけの花世が走る。最早その動きは、己の防御など捨て去ったかのようだ。
 確かに体中に咲いた牡丹は花世の血を吸い上げ、鋭利な刃となるが、それは己の命を燃やして咲かせる徒花。それを誰にも告げぬまま、ティオレンシアが穿った隙目掛け花世は突き抜ける。追いすがる黒薔薇を牡丹の花弁で咲き殺し、枯れ落ちる骸に目も向けず!
「きれいな花が見たいならどうぞ、おまえ自身が咲いておいで。……ほら、その血の色。わたしから見ても、とってもきれいだ」
 ならばこそ、もっと咲け。
 ギリギリまで近づく。リボルバー着弾のノックバックから復位したリリアーナが爪を繰り出す。凄まじく速い。右肩口を骨の見えるほど抉られ、血が飛沫く――
 しかし花世もそれだけには終わらない。左手を突き出し、全身の牡丹の花に命じた。吐息さえ届きそうな間近で、彼女は確かに一つ笑った。
 リリアーナが目を見開く。花世の指が届く。今ならば、その命にさえ触れている!
「これが餞だ。咲いて、裂いて、狂い舞え!」
 吼えて叫んだ声に応じて、刃と化した乱れ花が再三吹き荒れた。
 花弁が旋風に捲かれた如く舞い、花世の言葉の通りに渦を成してリリアーナを切り刻む――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●優しい微睡みを
 花世の攻撃に捲かれ、全身をズタズタに裂かれて血を噴き上げるリリアーナだったが、その表情に焦りの色はない。犬に手を噛まれた、とでも言うかのような怒りの表情を浮かべ、女は飛び退いて、新たに呼び出した少女らを侍らせる。
 血は赤い霧となり昇華し、黒薔薇の少女たちに纏い付いた。血を肌から吸った黒薔薇の少女らが、瞳を赤色に染めて恍惚とする。
「ああ、――ああ、」
「リリ様の血、血……!」
「私にもお恵みを!」
「欲しければあの煩い駄犬共を黙らせなさい、愚かで可愛い黒薔薇共。……全く、躾がなっていないわね。ドレスが破れたじゃないの」
 傷が巻き戻るように治癒し、その肌に艶が戻る。圧倒的な速度での自己再生。
 檻の中から憂うような溜息が聞こえる。彼女らへ生きろと届けられた歌でさえ拭いきれぬほどに、少女らの絶望が膨らむ。
 しかし、
「――大丈夫だよ。怖がらないで」
 如何に濃い絶望であろうとも。明けぬ夜などきっと無い。
メア・ソゥムヌュクスス
眠らせるのだけが、私の力じゃ、無いんだよー?
リリアーナさん、いい夢は見れたー?だけど、もう終わり、だよ。

相手の強化を阻害するよー
UC【終ノ夢】、安息物質【ソゥムヌュクスス】を眠気抑えめにパンデミックさせて囚われた少女達を落ち着かせるよー。
ついでに、【優しい】子守【歌】に【催眠術】も乗せちゃおう。

落ち着いていれば、避難とかもやりやすいだろうしねー。
ふわふわと、少しは眠たくなるかも、だけどー。

もし、攻撃されたら、【生まれながらの光】で自分を癒やしつつ、攻撃してきた娘をみんな抱き締めて、UCで眠らせるよ。

ごめんね、私の血は全部、これ(ソゥムヌュクスス)だから、おやすみなさい。良い、夢を。



 ネグルたちの攻撃が、敵の実力を測る試金石となった。猟兵達は瞬時に悟る。あれほど強力な攻撃でも再生されてしまうとあれば、環境を変える他ない。この『宝石箱』は、ミーユイの歌を以てしても今だ相手に有利な環境だ。
「未だ寝ぼけてるのかなー? 勝ちが決まってるみたいな顔をしてるけど――リリアーナさん、それは夢だよ。もう終わり。私たちがここに来たからね」
 進み出るのは�メア・ソゥムヌュクスス(夢見の羊・f00334)。ちりりり、りりりり……揺れるハンドベルが眠りの音色を奏でる。それと共にふわりと立ち上るは『ソゥムヌュクスス』。メアが発する香、声、吐息、体液の全てに含まれる、眠気と安らぎを誘う安息物質だ。
 少女らを落ち着かせ、安息させればそこに絶望は無くなる、という策である。
「さあ、落ち着いて、よい子たち。何も怖がることはないよ。今に私たちが、怖い悪夢も何もかもやっつけて、皆をこの夜から救ってあげるから」
 メアの声が少女らの絶望を拭う。メアがユーベルコード『終ノ空』を発露させれば、周囲に吹くのは『眠りの風』。ソゥムヌュクススを孕んだ風が辺りにゆるりとそよいで、少女らに届く。
 風に乗せるようにメアは歌った。それは魔導学院の図書館で仕入れた、どことも知れぬ世界の子守唄。眠りに落ちてしまわぬ程度にソゥムヌュクススの濃度を調整しつつ、少女らを落ち着かせるメアに、不快げにリリアーナが眉を聳やかす。
「目障りね。あの女から殺しなさい。持ってこなくていいわ、血肉はみいんな殺した娘にあげるわよ」
「「「「「はい、リリ様!」」」」」
 ネグルたちが奮戦するが、それでも数体は阻めずにその後ろに抜ける。
 メアはりりん、とハンドベルを揺らしながら飛び退き、なおも安息物質を撒き続ける。
 黒薔薇の少女らはその速度を上回る勢いで、黒い槍を振り上げ、メア目掛けて突き出した。
 微睡みの刃を逆手に抜き、二本までは弾くが数本が躱しきれずに右腕と左太股を穿つ。
「ッ、」
 苦痛に息を詰めるが、メアは槍が更に深く刺さるのにも構わず前に進み、呪槍を持つ二人の少女を抱き竦めた。
「なっ、」
「に、」
 声を震わせた少女らの耳元で囁く。
「もう、眠ってもいいんだよ。大丈夫。夢すら見ないほど、深く」
 ソゥムヌュクススを、間近の彼女らのみを巻き込む範囲だけ、最大出力で放出する。
「あ――」
 糸の切れた操り人形の如く倒れ伏す少女たち。その身体を横たえつつ、メアは己の身体を聖者としての光で癒しながらなおも周囲へ安息物質を散布する。
「お願いねー、皆」
 ――言うなれば、ここからが作戦の第二フェーズだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン


気に入らないな。
奴にとっては虫ケラに過ぎないのだろう。
玩具であり盾であり、己が城に鎮座するための壁。
歪な宝石箱から引きずりだして腸をぶち撒けさせてやろう。

強化をされると厄介なので、
その阻止を第一に行動しましょうか。

檻に囚われた少女の数を減らす。
そのために尽力する。

救出に動く人が他にいるなら、
その人達の手の届かぬ範囲を狙いましょう。
吊るされた檻や、埋め込まれた檻、
闇を這わせ、作られた影で手を差し伸べる。

必ず救ってみせると約束しましょう。
【揺り籠】へ招いて。出来る限りを微睡みの中へ。

攻撃は己の身を護る最低限にとどめ、
決めた役割を果たそう。



●微睡みの闇
 前進して黒薔薇の少女らを倒す猟兵ら、そして今なおリリアーナを抑えている猟兵ら。その二勢力の活躍が、『宝石箱』の堅牢なガードに罅を入れる。
 更にメアの歌だ。檻の内側の少女らの、絶望によるパニック状態の緩和。ここまでの全てが、避難活動に於ける下地であった。
 最初に動いたのは闇色の少年――ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)。
「機と見た――救います、あの娘たちを」
 娘を救出する役回りを負うと決めていた猟兵らは、その判断に従うように動き出す。
 ――気に入らない。奴にとっては、この場全ての少女らが虫ケラにしか過ぎないのだろう。玩具であり、盾であり、奴隷であり、己が価値を確かめるための贄にして、己が城を成すための城壁。この『宝石箱』は、まさしく女の城だった。
 ヨハンは藍色の、まるで夜空のような瞳を刃じみて尖らせる。
「リリアーナ・ヒル。貴様をこの歪な宝石箱から引きずり出して――腸をぶち撒けさせてやる」
 ヨハンは決意を込めて呟く。呪槍を撃ち込んでくる数体の少女らを『蠢闇黒』から伸ばした『闇の蔦』で絡め取り、そこにすかさず『焔喚紅』から迸る黒炎を伝わらせて焼き滅ぼす。地面を蹴り、蠢闇黒の闇の蔦で宙に吊られた檻を捉え、巻き上げるようにして飛び上がる。檻の上に立つと、ヨハンは集中を凝らした。
 目を閉じ、深く呼吸。蠢闇黒から、形惑うように闇の霧がふわりふわりと浮かび――ゆっくりとヨハンが瞳を開くと共に、それは小さな影の掌を成す。
 それは、救う為の掌。
 確かに人救い、人助けなど柄ではない。それはつい先頃の吸血姫殺しの時もそうだったが――けれど、無惨に理不尽に美しい花が踏み荒らされるのを――好き勝手に君臨する暴君が権力を思うままに振るうのを傍観して看過する程でもない。
「往け、『揺り籠』」
 ヨハンが命を降すと同時に、蠢闇黒から幾つもの闇の小さな手が伸びた。それは、ほかの者では策を凝らさねば救いきれない、宙吊りの檻の中へ悉く伸び、少女らへと伸べられる。
「っひ……!?」
「な、なに、なにこれぇっ」
『落ち着いて』
『揺り籠』を伝い、少女らの戸惑いが伝わる。だからヨハンは、蠢闇黒に口付けるようにして己の声を伝えた。闇の掌が、少女らへ少年の声を届ける。
『必ず救ってみせると約束します。だから、今はこの中へ。――大丈夫。もうこれ以上、貴女たちを傷つけさせない』
 映像が見えるわけではない。けれど、少女らから伝わってくる恐れの声はそれで止まった。すぐに、『揺り籠』に触れる少女らが出てくる。『揺り篭』は名の通り、傷を癒し眠りに誘う、ユーベルコードで編まれた空間への入口だ。
 ヨハンは優しい闇の中へ少女らを迎え入れ、檻から解き放っていく。
「今は、闇の中で微睡んでください。――覚める頃には全て終わっているから」
 呟くヨハンの眼下で、救出作戦はいよいよ本格的に進行しつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユルグ・オルド

はん? 可愛いコにしか興味ないってか
気が合うねェ
――俺もアンタみてぇなババァは趣味じゃあない
安い挑発にノってくれるとは思ってないが
気をひきたいのは取り巻きのお嬢さん方だ

王手をかけんのに邪魔だってんなら
いくらかこっちへ気を向けよう
お嬢さん方より先に枯れる花なんかより、
若い男と遊ばない?
分かっちゃいるけどあんまフられてっと傷つくわァ
止まない軽口と気取られないよに立ち位置を調整しよう
檻の方へと攻撃の向かねェように
俺も存外悪食で、嘯きながら刃を撫でて
ブラッド・ガイストで醒ましたらさァ、
惚れた女のために散るんなら本望だろ
遊ぼうか
――怖いなら目ェ瞑ってな
もう少し待っててくれと、檻の中までは、届くかね



●つるぎまい
「可愛いコにしか興味ないってのは俺もよく解るよ、そこンところは気が合うねェ。――ま、助かるぜ、俺も年増のババアは趣味じゃあねえもんでさ」
 リリアーナを揶揄するように言うのはユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)。壁際から屋敷のエントランスを一望してみれば、何人が囚われているのかすら最早曖昧な数の檻が見て取れる。
「愛多いのを否定はしねェが、愛で方がなっちゃいねェや」
 ユルグは己の本体であるシャシュカを抜き、ひゅひゅんと空を裂いて構えを取る。壁の檻際、救出を行うメンバーのために、檻の際に布陣した敵を狙う。
「さァ、こっちに来なよ、お嬢さん方。火遊びの仕方、識りたくねェかい?」
 ユルグは正面から迫る三名の黒薔薇の少女に飄々とした調子で語りかけ、立ち位置を調整。万一にも壁の檻に被害を出してはならない。と思うからこその細かい動きだ。軽口からは想像の出来ぬ程、彼は周囲の状況を考えて行動している。
「若い男と遊ばなくっちゃあ、解らんことも沢山あるぜ」
「いいわ、そんなの」
「解らなくたってリリ様さえいればいいのよ、私たちには!」
「それが愛! それが全てよ!」
 ――ああ、その愛の元を、俺達がこれから狩るというのに!
「解っちゃいたけど、そうまではっきりフられっと傷つくわァ」
 ユルグはへらりと笑いながら、シャシュカの背をつつと撫でた。まるで女の背をそうするように。彼に刻まれた身体の刻印より、するると伸びた血がシャシュカの刀身に纏い付き、朱く染め上げ、刀身の刃の先へ更に鋭い刃を作る。
「愛、全てか。よく言った。――じゃあさ、お嬢さん方。惚れた女のために散るんなら、そいつは本望ってヤツだよな。遊ぼうか」
 救えぬ黒薔薇の少女らに、哀切の目を向けるも一瞬。戯けた調子で男は謳う。
「ちょっとばかり風が荒れるからさ――怖いなら、少しだけ目ェ瞑っててな。もう少しだけ、待っててくれよ」
 檻の中に向けた笑みは、優しく慈しむように。
 血を帯びた片刃の長剣をひゅんと振るい、ユルグは弾けるように駆けた。
 しぃっ、と息を吐きながら、繰り出される槍の一閃を剣先で弾いてのけ、斬り上げ、身を返しての斬り下ろし。瞬く間に二人を切り伏せて真っ直ぐの突き、優美なシャシュカが少女の身体の中心を貫く。
 黒塵へと還る黒薔薇の少女を踏み越え、殺到するように集まってくる少女らに身を晒しつつ、彼女らに手を差し向ける。
 檻を背にする格好だ。このまま敵に攻撃を放たせれば背後が危ういが――
 逆に言うのなら、こちらは撃ち放題。放たれる前に、皆裂き貫いてしまえばいい。
「踊ろうか! 最後のダンスだ!」
 宙に浮かべた己の複製を放ち、刃雨を荒れ吹かせながら、ユルグは己の血にぬらりと光るシャシュカを閃かせて突撃した。

成功 🔵​🔵​🔴​

有栖川・夏介

生存者は生かす、敵は処刑する。ただ、それだけのこと。
シンプルにいきましょう。

戦闘中でもなるべくリリアーナには【目立たない】ように、生存者を解放・救出。
障害になる黒薔薇の少女たちは「懐の匕首」で仕留めます。

「ギャラリー」の少女たちがパニックになるようであれば【気絶攻撃】でしばし眠ってもらいます。
【医術】の知識で、痛みなく速やかに。悲鳴をあげる暇もなく。
……このために勉強したわけではないんですけどね。
少女たちは『宝石箱』から運びだすか、あるいは別の安全な場所へ

リリアーナに先に気づかれては流石にやりづらいので、そうなったら彼女を一気に仕留めるまでです。
少女たちへの攻撃は身を挺して【かばう】



●救いはここに
 ユルグが少女らの檻の前で、迫る敵をシャシュカで穿ち撃ち倒すその傍らで、檻を解放して回る男の影が一つある。
 広いエントランスの壁際、地に影すら落とさぬような速度で駆けるその男は、有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)。彼の持つ処刑人の剣が、檻の扉に備わる錠前を一刀のもとに断ち落とす。
「さあ、すぐに檻から出て。歩けますか?」
 檻戸を開き、内側に囚われていた少女らに語りかける声は理性的だ。ミーユイの鼓舞が、メアによる安らぎが、そしてユルグが戦う光景が勇気を与えていたのだろう。希望を瞳に宿し、少女らは夏介の声に応じて、檻から我先にと飛び出していく。
「あら、どこへ行くのかしら!」
「あなたたちの命は全てリリ様のもの、勝手にするのは許さないわ!」
 黒薔薇の少女たちが、華やいだ声を上げる。きゃらきゃらと黄色い声色をしているのに、その声は少女らの足を竦ませるほどに毒々しい。
『逃げれば、殺すぞ』。そう言っているのだ。夏介は声音からそれを聞き取り、うんざりしたように目端を尖らせた。
 地面を蹴り、距離を詰める。逃げる少女らばかりを見ていた黒薔薇たちへ肉薄し、柄に血の染みついた匕首を抜く。
 懐剣は白木の鞘からしゅらり、と音を立て滑らかに抜け、シャンデリアの照明を照り返して煌めいた。
「人の生き死にを決められるとでも思うのですか。――あんなに重いモノを。恣に出来るとでも」
 死刑執行人の家柄に生まれた。人を殺して糧を得ると言うのなら、傭兵と大差ないと自分でも思う。
 ……ああ、父が人の頸に刃を添えるときのことを、こんな時に思い出す。やめてくれと哀願する罪人。振り上げられる、切っ先の無い刃。
 振り下ろされたなら。転がる首。
「こんなことのために勉強したわけではないんですけどね――」
 夏介はひゅるり、と匕首の切っ先を敵に向け、走る。
 貫く、撫で斬る、人体の急所と弱い部分を弁えた夏介が振るう刃は的確に黒薔薇の少女らを貫き、その喉を裂き、殺していく。
 逃げ出す少女らを狙って放たれる呪槍を、間に割り込み処刑人の剣で阻みながら、夏介は言った。
「もう、これ以上は殺させない。――彼女らを害したいなら私から殺すべきでしょう。生かしておけば、幾らだって貴女たちの邪魔をするだろうから」
 黒薔薇たちの注意を自分に引きつけて、逃げ出す檻の少女らを支援する。
 医者を夢見て、志した日もあった。けれど――いつか、そうはなれないと――己の心を殺してそれを諦めた。
 ――確かに医者にはなれなかったけれど、救える者は救いたい。心の内に燃える思いを込めるように、夏介は切っ先の無い刃をひゅんと振り、敵の群れへと挑発する如く嘯いて見せた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アレクシス・アルトマイア

救いを求める人々が
この手で救える人々がいる
でしたら
どんなに困難だとしても
その希望に応えてみせましょう

囚われた乙女たちを無事に救うことを最優先に動きます。
乙女たちへ届き得るあらゆる攻撃を
彼女たちを貪ろうとする全ての悪意を
降りかかる偶然を。不幸を。
不躾なそれらをすべて【従者の礼儀指導】で撃ち払います

もはや悲嘆も絶望も。
私達の前では
する必要がないのだと教えて差し上げます。

私達が居るから、
もう大丈夫なのだと

乙女たちを励まして
【従者の独立幇助】で
その心を縛る呪縛を打ち払い、癒しましょう

もう少しだけ
私達を信じて待っていて

安全を確保し終えた上で
もう一手が必要なら
【閨への囁き】をその耳元に。



●その刃は救う為に
 助けられなかった。
 外の黒薔薇の少女たちは、予めグリモア猟兵が言っていたとおりに――きっと、相対した時点で死する運命にあったのだ。それは変えられぬ事。決まっていた結末。致し方ないこと。
 ――けれど。今この場で、檻の中で恐れとメアが振りまいた安息の間で揺れ動く少女たちは、確かに救える――まだ生きている命。
 なら、助けなくては。
 救いを求める人々がいる。助けて、という声を聞いた。今なら届く。この手で救える。それならば、いかなる労苦を支払おうとも、どんなに困難だとしても、その希望に応えてみせよう。
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は、黒い短剣を引き抜く。ロウという名をした短剣だ。それが文字通りの秩序を招くよう、囚われた少女らの解放を願いながらに、アレクシスは跳ねる。
 彼女が担うのはユルグと同じく、檻の少女らを解放せんとするヨハンら救出班の援護だ。
 黒薔薇の少女の行動を、アレクシスは的確に把握している。彼女らは積極的には檻の少女たちを殺そうとはしないが、檻から逃れて外に出た少女たちを狙って攻撃することには躊躇がない。それはつまり、主の所有権を外れた少女らには躊躇なく攻撃を加えることを意味する。
 夏介が解き放つ少女らの檻の周りが、アレクシスの主戦場となる。
「ああ、逃げるのね!」
「リリ様の愛に背を向けるのね?」
「じゃあ殺さなくちゃ! 啜りましょう、血も、魂も! そうして地獄に落としてあげる!」
「――させません」
 檻から逃れ、壊れたエントランスのドアから逃れようと走る少女らに降り注ぐ黒の呪槍。それを阻む如く黒刃が舞い飛んだ。アレクシスが放った、『従者の礼儀指導』である。機関銃の如く放たれる刃の嵐は、一本の槍も残さずに貫き、切り裂き、打ち払う。
「もう、悲嘆も、絶望も、要りません。――さあ、走って」
 アレクシスは両手に扇のように黒のナイフを広げ、歌うように言った。
「大丈夫。どれだけあなた達に不幸が降り注いでも。どれだけの悪意があなた達を貫こうとしても。私が、私達が、それをさせない」
 再びの槍の掃射が少女らを貫こうとしても、アレクシスが放つ刃の群れはその悉くを撃ち落とす。走り逃げる少女らを護る位置に、空を縮めたように瞬間的に移動しながら、アレクシスは手を翻した。

 ――刃は両の手に手挟んだモノのみならず。
 彼女の周りに、虚空から滲み出たように黒刃が浮き、エッジを光らせる。

「いまに全ての檻を開けます。もう少しだけ……私達を信じて、待っていて」
 勇気づける言葉と共に、アレクシスは刃を放つ。
 あらゆる不幸と悲しみから、乙女らを護る猛き黒刃を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四・さゆり

「きたない、宝石箱ね。」

同胞の開いた道を進みましょう。
遅れたけれど、やることは変わらないわ。許せないものは、潰してやるだけ。

気色悪いのよお前。

ーーー

「泣くのなら、隅に居なさい。死にたいやつだけ、いらっしゃい?」

面倒だけど、推奨、なら救出対象に一応声をかけておきましょう。
それと、この挑発で向かってくる単細胞は殺していいわ。

わたしの傘は血を吸って強くなるの。信仰が捨てられないのなら、末路は糧よ。

気色悪い女にはわざわざ寄る必要も無いわね、他の猟兵が体を張るでしょ。

わたしは、あかい、傘の雨をふらせましょう。
援護、してあげる。
この子達は全てわたしの意思で動く暴力よ。弱者に突き刺すなんてヘマはしないわ。



●涙雨、時々、傘
 檻の中に囚われた少女たちは、今でこそミーユイやメアの歌と安息物質のおかげでかりそめの落ち着きを保っているが、先程までホールを満たしていたのは絶望と悲嘆だった。生きた人間をまるで獣をそうするように檻に放り込み、おそらくは愛を誓うまでそのまま解放することなく人間としての尊厳を削り続ける。
 人間性を剥奪し、人を効率よく壊すための機構。宝石箱が聞いて呆れる。
「きたない、宝石箱ね」
 幼い声で罵る、赤い傘の少女。先行した猟兵が敵を薙ぎ倒し行く後ろを悠然と進むのは、四・さゆり(夜探し・f00775)。ホールで散兵として動く少女らが、逃げ出す檻の少女らに狙いを定め出すのを悟り、彼女もまたその鎮圧に当たった。
「気色悪いのよ、お前。やること、なすこと、いちいち」
 リリアーナを罵る声は届かないが、たっぷりの侮蔑を籠めて呟く。くるんと赤い傘を回して、手近な黒薔薇を一人指した。
「死にたいやつだけいらっしゃい。わたしの傘は血を吸って強くなる。傘に染みて、只の赤になりたいものから、わたしの前に出てくるのね。死にたくないなら、隅で蹲って泣いているがいいわ」
 幼い見た目に似合わぬ強烈な言句を発し、さゆりは黒薔薇の少女らと対する。
「物騒なことを言うのね」
「そんなことを言わないで、仲良くしましょう?」
「リリ様の愛を識れば、きっとあなたもそんなこと、思わなくなるわ」
「冗談でしょう。気持ち悪いのはそのにやついた顔だけにして頂戴」
 甘ったるい猫なで声で迫る三名の黒薔薇。さゆりは右手を払うように打ち振り、ユーベルコードを発動する。『漫ろ雨』。さゆりを中心として、赤い傘が幾つも幾つも複製され――一瞬では数えきれぬほどの数が居並ぶ。総勢二〇にのぼる、鋭い切っ先の赤い傘。
「その信仰を捨てられないのなら、末路は糧よ」
 最終警告。少女らはそれに、呪槍を編むことで応えた。
 放たれる黒の槍の嵐。雨合羽の裾をひらんと翻し、飛び下がってさゆりは赤い傘を前に振る。二〇からなる赤傘の群れが、切っ先鋭く宙を飛んだ。槍と正面から当たり――真っ向砕いて、押し通る。
 目を見開く三人の少女の全身を、あかい傘の雨が貫いて、まるでピン留めの標本のように床に縫い付ける。赤い傘はその全てがさゆりの意思によって動く暴力装置。誤射など有り得ぬ。
 赤い血を吸い、傘はその赤みをいや増すかに見えた。黒塵と化す少女らに目もくれず、さゆりは新手に向き直り、傘を再度宙に浮かせる。
「お祈りをすませてからいらっしゃい。わたし、あまり手加減は得意じゃないの」
 その可憐な外見に似合わぬ暴力性を見せながら、さゆりは淡々と嘯いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラビット・ビット

ビットくんは囚われのとか好きですけど
最後にはハッピーエンドがいいのです
このお話は面白くありません!断固として拒否します!

ろくろうさんの『操縦』をオート戦闘に切り替えて
ビットくんと反対側で暴れてもらいましょう
電気の『属性攻撃』でピカー!ですよろくろうさん!
その上でビットくんは『迷彩』で『目立たなく』して女の子を助けます
『鍵開け』したら
なけなしの『コミュ力』で安心さたいですね

僕は拐われた女の子が王子さまや戦士に助けられるような優しい話が好きなんですよ
だからね、あそこにいる強い人たちが君たちを助けてくれるまで
この中で待っててください
【無限の図書館】にご案内
中にある本は好きに読んでくれていいですよ!


アルトリウス・セレスタイト


ふむ。今までは前に出なかった分、気取られにくいかもしれん
では悪巧みするか

臘月で分体を喚び行動開始
ひっそりと目立たぬように
本体分体ともに必要に応じて透化で姿を消し行動
以後分体が行動不能又は消失なら適宜再召喚

他の味方の交戦に紛れて要救助者を回廊で安全な場へ転送
分体を送り、リリアーナの目が向いていないところから順次
気付いていない物への抵抗の意志はないだろう

戦場のほうが危険なら数体を支援に回らせる
魔眼・封絶で配下の少女衆やリリアーナを拘束
或いは魔眼・停滞で攻撃を阻害

なろべく見つからぬよう務めるが、本体を気取られたら分体の誘引能力で身を守りつつ継続



●エスケイプ・フロム・ジュエルボックス
 紅やさゆり、アレクシス、ユルグらが檻前に陣取る敵を排除すると同時に、檻を解放して回る猟兵達が増える。ラビット・ビット(中の人等いない!・f14052)とアルトリウス・セレスタイト(原理の刻印・f01410)も救出を第一目標とした猟兵である。。
「たしかにビットくんは囚われのお姫様とかそういうの好きですけど! そういうのはハッピーエンドが前提なのです!」
「ほう」
「最後に王子様が来るわけでもなくおばさんに無理矢理奪われて~とかって全然面白くありません!」
「そうか」
「ゆえに断固として拒否します!」
「そういうものか」
 ラビットの言葉を暖簾に腕押し状態で受け流すアルトリウス。調子狂うなあ、と顔に書いてあるラビット。しかし、複数の黒薔薇が迫って来るのを見た瞬間に取る行動は全く同様だった。
「ろくろうさん! ここは任せました!」
「写せ、『臘月』」
 ラビットは己に伴い走る、二メートルほどもあるガジェット人形『ろくろうさん』をけしかけ、アルトリウスはユーベルコードにより己の分身を、この場の制圧に足る分――四体召喚。ラビットとアルトリウスは視線を一度だけ交わらせ、左右に弾けるように散開した。担当する壁をアイコンタクト一つで決め、即座に行動に移す。
「淀め」
 分体はアルトリウスと全く同様の声で呟く。それと同時に黒薔薇の少女ら、数名がぴたりと動きを止める。表情が驚愕に染まる。
 それは封絶の魔眼。存在を圧し、原理にて敵を縛ることで停止させるもの。持続時間は決して長くなかったが、捉えられればユーベルコードすら封じ、一切の行動を許さず無防備な時間を作り出すことが出来る。これは連携戦闘時には大きなアドバンテージだ。
 そこに襲いかかるのはラビットのガジェット人形、『ろくろうさん』(二メートルある、でかい)だ。
 ラビットがオートバトルモードに設定したガジェット人形はその両手をスパークさせた。オーダーは電気による属性攻撃。
 バチバチと火花を上げるスタンガンのような両手で、動きを封ぜられた黒薔薇の少女らを殴り倒す。封絶の魔眼が悲鳴すら封じ、暴れ回るろくろうさんは瞬く間に四体の黒薔薇の少女を蹴散らして両拳をぐいんと突き上げる。勝利ポーズ。
「次が来るぞ」「構えろ」
 アルトリウスの分体が口々に警告する。さきほどに倍する数の黒薔薇の少女を前に、再び分体は魔眼を光らせ、ろくろうさんが拳のスパークを強めた。

「そこそこ、巧く回っているようだ」
 アルトリウスは即座に己の姿をユーベルコードにより透化し、戦場の喧噪の中に身を隠していた。分体は――透化しない方がよいと判断。暴れ続け、敵を誘引して貰うには姿を現していた方がよい。
 分体は彼自身ではない。複数の事態に応じて戦術的な判断を任せるのは難しい。封絶による敵の行動阻害のみを命じ、不用意な火力発揮は慎ませてある。
「……あとは、救って回るのみか」
 アルトリウスにとっては面倒なことに、分体全てにリアルタイムでの指示を行うことが困難である以上、少女らとのコミュニケーションが必須である救出活動には臘月による分体を使用することが困難だ。
「仕方あるまい」
 アルトリウスは手近な檻に取り付き、透化を解いて姿を現す。
「こちらだ。今、道を拓く。……出してやる、来い」
 アルトリウスは檻の内に手を伸べ、蒼白い燐光を発する粒子をきらきらと浮かべた。
「触れるがいい。あとは、目を閉じて待っていろ。全てが終われば呼んでやる、俺を思い出して進めば、俺のいる場所に出るだろう」
 蒼白い燐光は『回廊』の光。アルトリウスが作り出した異空間への入口だ。
 回廊は入った者の記憶に応じ、どこへでも道を拓くが――仮に己が嘗て住まった村に帰ったとして、そこがもう滅びている可能性もある。故に用心し、アルトリウスは言葉を選んだ。
 ぼうっとした瞳を瞬かせた少女らが、縋るように青色の粒子に寄り、次々に異空間へ消えていく。最後の一人が消えるのと同時に、アルトリウスも再び透化。その場より姿を消した。

「えーっとですねえ! 助けに来ました! ビットくんです!」
 取り付いた檻の前で頓狂な自己紹介。少女らの目が丸くなる。
 ラビットはそれにも構わず錠前に針金を突っ込み、カチャカチャと弄り回して解錠を開始。
「僕はね、悪い魔法使いに拐われた女の子が、沢山の苦難を経験するけれど、最後には王子さまや戦士に助けられるような――そういう、優しいお話が好きなんですよ。こんな狭くて寒くて、居心地の悪い檻の中で、出して貰うには望まぬ愛を捧げるって誓うしかないだなんて、そんなのは嫌なんです」
 錠前の撥条の跳ねる音。小さな手で、か、きん! と音を立てて錠を開き、檻戸を開いて中へ。
「だからね、あそこにいる強い人たちが君たちを助けてくれるまで、この中で待っててください。終わったらきっと呼びに行きますから」

 ラビットはにっこり笑って、小さな本のような外見のガジェットを開き、少女らに差し出した。
「この、中……?」
「そう、この中。お手を拝借」
 目を瞬いた一人の少女が、おずおずとラビットのガジェットに触れる。しゅるり、と一瞬で少女の姿が消え、異空間へ転送される。行き先は――同人誌を大量に格納した『無限の図書館』だ。
「あ、あとから行く皆さん、今行った娘に教えてあげてくださいね。中にある本は好きに読んでくれていいですよ、って!」
 ウインク一つ、ラビットはさあさあ、と少女らを急かしながら、救助を続ける。

 戦場の一角で起きる、密やかな救出劇。あとには、空になった檻のみが残る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朧・紅

朧のみで行動
紅は深層で、もし自分たちに似たことが起きたら、という思いに心痛め双子の救出を願う

俺は殺し愛いがしてェんだ。人助けなんざ興味ねぇ…が紅が泣くと煩ェ!
助けりャイいんだろッたく

壁際に防壁を築くように複数枚ギロチン刃を打ち込んで道を作ッてやんよ
危ねェ箇所ぐれぇはそれで凌げんだろ
乗り越える奴ァ刃に着いたロープで絡め取り阻害
俺の血に濡れた拷問具はこの手を離れても意のままに動くゼ
それでも足りなきゃ鬱憤乗せて殴る蹴る
有効そうなら各所で避難完了まで続けるかねェ…めんでぇ
メンタルケア?俺に出来ると思うな

なにやってんだ俺ァ。ア゛ー、なんとかヒルを一発どっか殺ぎ落としてェ



●血を求む断頭刃
「ア゛ー……ッたく、面倒くせェ」
 朧・紅(朧と紅・f01176)は気怠そうに頭を掻き、ギロチンの刃をロープで繋いだもの――としか表現できない何かを振り回し、戦場を漫ろ歩く。
 大体、人助けの類は自分の仕事ではない。殺人鬼が人を助けるなどお笑いぐさだ。しかし看過すれば紅――朧と対を成すもう一つの人格だ――が悲しみ、泣く。
 紅は朧とは違い、キキとモーラの境遇に胸を痛めている。助けなければ、と感じている。巻き込まれる側としてはいい迷惑だ。
(俺は殺し愛がしてェんだ。人助けなんざ心底興味がねェってのに)
 同じ身体の中で泣かれると煩くて叶わない。まさかこの身体から逃げ出せるわけもなく、致し方無しに朧はギロチンの刃を結わえたロープを手に取る。
「……どうせならなんとかヒルを一発殺ぎ落としたかったぜ。あの高慢ちきな鼻っ柱とかをよ」
 ぼやきながら、朧は地面を蹴る。標的を見つけたのだ。
 壁際を伝い逃げる、檻から逃げ出した少女らが数名。それに加速して追いすがる黒薔薇の少女が四名。放っておけばすぐにでも、放たれた呪槍が逃げる少女らを貫いて仕舞いだろう。
 心の内側で助けてあげて、と騒ぐ声。
「あー煩ェ煩ェ! 黙ってろ! 助けりャイいんだろ、ッたく!」
 朧はすぐさまギロチンの刃を複製、投射。逃げる少女たちと追う黒薔薇らを隔てるように、地面と壁に刃が突き立つ。黒薔薇の少女らの視線が動き、横合いから迫る朧を向いた。
「邪魔をしないで?」
「その子達はね、リリ様の愛を拒むというのよ」
「きちんと、教え直してあげないと――」
「愛だとかなんだとか、知ったこッちゃねェんだよこっちは。纏めてブッ散れ、クソども!!」
 聞く耳持たないとはまさにこのことだ。朧は残った刃を念波で操作し、黒薔薇ら目掛けて放つ。それを回避し呪槍を編み出す少女らに、朧は歪んだ笑みを見せた。
「危ねェのが刃先だけだとは思わねェ方がいいぜ」
 行き過ぎた筈のギロチンに繋がれたロープがまるで生きる蛇の如くにのたうち、黒薔薇の少女らの首を絡め取る!そのまま刃が壁に突き立てばインスタントな絞首刑だ。四人中二人を首を絡めて宙吊りに、一人を手に持ったギロチンの刃で斬首。
 最後の一人から放たれた呪槍を潜り抜け、朧は振りかぶった拳を敵の顔面に叩き込む。
「あぐッ、」
 吹っ飛び檻に叩きつけられる少女の首根っこを掴み、
「一発でくたばってくれるなよ。今俺ァストレスが溜まってんだ」
 なおも殴打、殴打、殴打!
 肉を撃つ重い音と嗚咽が連なり――やがて朧は、動かなくなった黒薔薇を放り出した。縊死した上の二体諸共に黒塵と化すのを感慨もなく眺め、朧は重たげな溜息をついた。
「面倒くせェ……」
 今夜の内に、あと何度同じ言葉を発することになるやら。
 ギロチンの複製を再召喚しながら、朧は次の獲物を求めて戦場を見回した。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイラ・エインズワース

鳴宮・匡サン(f01612)と

悪趣味で醜悪な夢
命を弄んで未来を摘み取る
そんなの愛だなんて認めたくないカラ
ココで止めよう

広域攻撃に長けた私の魔術は、こういう状況ダト不利だカラ
できるコトをやってくヨ
ありがト、鳴宮サン

本体たる角灯から人魂をそれぞれの檻の中へ
【優しさ】をもって言葉を届けて
やりたいコトあったデショ?
その未来を守りたいノ
私たちが必ず守るカラ、どうか、その子に触れて
こっちに攻撃がきたら人の部分を盾にして受け止めるヨ
大丈夫、誰一人死なせないカラ
私を信じてと伝えるヨ
痛くても本体が無事なら平気
一人でも多く逃がすために時間を稼ぐヨ
鳴宮サンも庇うカラ
こっちの方が“安い”デショ?

アドリブ・絡み歓迎


鳴宮・匡

◆レイラ(f00284)と

できること、したいことをすればいい
……安心しな、しっかり支えてやるからさ

レイラと、彼女が救出している少女たちを守るように位置を取る

アサルトライフルを用いた制圧射撃で
リリアーナ、及び少女たちの足を止める
檻の少女へ流れ弾が向かないよう細心の注意を払って
制圧射撃は足元を狙うに限定
ある程度の距離まで近づかれた場合はナイフで応戦

多少の負傷は、今日のところは許容する
いつもならごめんだけど、向こうが傷つくよりはましだ
必要なら、……ああ、柄じゃないが、庇うのも視野に入れる

こっちのことは気にしなくていい
レイラがいないとこいつら、助けられないだろ
いいから、自分のすべきことに集中してくれ



●幻燈に、未来を写して
 救出作戦は佳境に差し掛かっていた。リリアーナもまた、猟兵らが少女らの救出に手を裂いていることを察していたが、前線では未だネグル達がしぶとく遅滞戦闘を続け、さゆり達が救出を妨害しようとする黒薔薇たちを駆逐し、生まれた隙を使ってヨハンらが檻から少女たちを救って回っている。
 誰一人が欠けても、そこまでスムーズな避難行動は望めなかっただろう。
 ――そして、最後にもう二人。少女らを助けるために走る猟兵がいた。

 悪趣味で、醜悪な夢。命を弄び、未来を摘み取る。閉じ込め、心を殺し、強要して、屈服させる。リリアーナ・ヒルは、そのプロセスを愛だと呼んだ。
 レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)はそれを理解出来ない。理解したくもない。認めたくない。
「ここで止めヨウ、鳴宮サン」
「ああ」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、いつもと同じ穏やかな――凪いだ笑みで、レイラにいらえた。
「お前にできること、したいことをすればいい。……安心しな、隣にいるよ。しっかり支えてやるからさ」
「ン、アリガト、ネ」
 周りの猟兵が優先して助けたのは、主に壁際、そして空中に吊られた檻の中にいる少女らだ。苛烈な戦闘が起きている階段下の檻にいる少女らはまだ救助できていない。
 レイラと匡が目指すのは、そこだ。匡が火力によりサポートしつつの救助。幾多の戦場を共にした、互いの呼吸を理解しているからこそ成せる業。
 二人の認識は一つだ。
 ならば、あとは時間との闘いである。

 RF-738Cがマズルファイアを吐き散らした。けたたましい破裂音と共にフラッシュを焚いたように銃火が咲く。数人の黒薔薇の少女が脚を穿たれその場に倒れ伏す。
「レイラ、頼む!」
「了解ダヨ。鳴宮サン、無茶しないデネ」
 檻の方へ駆け寄るレイラを守るように立ちながら、彼女からは見えぬ位置で匡は苦笑する。
 ――今日ばかりは通さなきゃならない無理もありそうだぜ、これは。
 この戦場では、迂闊に射線を上に持っていけない。跳弾が未だ檻に残る少女らを襲う可能性があるからだ。つまり、現在の匡は本来持った能力の全てを十全には扱えない状態にある。
 匡は今自分が使用できる武装・火力を再評価する。
 床板がさして頑丈な建材でなかったのは僥倖だ。足下に対する牽制射撃程度なら問題ない。外れても地面にめり込むだけだからだ。とはいえあまり着弾点を遠くにしすぎれば反射角が広がり、跳弾の可能性が生まれる。多用は避けるべきだろう。充分な反射角を取れば、銃弾とは水面ですら跳ねるものだ。
「さぁ、来いよ。お前らの相手はこの俺だ」
 匡の目の奥で蒼白い燐光が揺れる。敵行動予測を立て、アサルトライフルのマガジンを再装填する。セレクターはとっくにフルオートだ。トリガーを引き、指切りバースト。的確に少女らの膝を破壊しながら、放たれる呪槍はナイフで払い除け、転がり様、膝立射撃。また一人の少女が頽れる。

 銃火が幾つも幾つも咲いた。レイラは遅滞戦闘を繰り広げる匡を信頼し、戦闘の現場には一瞥もくれずに――檻に取り付くと、角灯に紫色の炎を点す。
 襤褸を纏って痩せこけた、生気のない少女たちの顔を、優しい幻燈が照らしあげる。
 ぼうとした彼女らの瞳を、一つ一つ覗き込むようにしながら、レイラは言葉を選んで語り出した。
「ネ、思い出して。みんな、やりたいコトあったでしょ」
 訥々と連ねる。火の灯った角灯から、優しい光を宿した人魂が幾つも浮かび上がる。檻の目を抜け、人魂はふわふわと檻の中に進む。
「私たちは、その未来を守りたいノ。そのためにここに来たノ。あの恐ろしい、リリアーナ・ヒルも――きっと私たちがやっつける。私たちが必ず守るカラ――どうか、その子に触れて」
 レイラは真剣な目で、少女らに言う。
「助かるの……?」
「私たち、まだ、生きていていいの……?」
 ようやく理解が追いついたかのように、少女らがおずおずと、人魂に手を伸ばす。
「当然ダヨ!」
 勇気づけるように笑って、レイラは今一度人魂を示した。
「その奥にあるのは、夢見た景色。温かいエインズワースの屋敷の幻燈。――誰も傷つかず、怯えなくていい場所だヨ。その中で、少しの間だけ待っていてネ」
「ありがとう、……ありがとうっ」
 レイラの邪気のない表情が奏功してか、少女らは我先にと人魂に縋り、次々と檻の内側から転送されていく。『再演・郷愁の館』――人魂に触れた対象を、レイラが編んだ異空間の洋館に収容するユーベルコードだ。
 無事に少女らの転送を開始して息をつくレイラだったが、不意に視界に翳りを覚え、反射的に振り仰ぐ。
「ああ、悪い人! リリ様の宝物を盗んでいるのね!」
 作り物めいた綺麗な顔に、これまた作り物めいた笑みを乗せ。手にした呪槍を振りかざし、黒薔薇の少女が襲いかかる! レイラは反射的に角灯を庇い、人としての身体を盾として攻撃の前に晒すが――
「レイラ!」
 男の声がした。
 駆けてきた匡が、突き下ろされる槍を身を挺して受けた。肩口に突き刺さる槍。
「鳴宮サン?!」
 レイラの驚愕の声をよそに、歯を食いしばりながら匡はハンドガンを抜き、黒薔薇の額目掛け三連射。外しようのない位置から撃ち込まれた銃弾がまた一人、黒薔薇を冥府に送る。
「こっちのことは気にしなくていい――いいから、そいつらを早く送ってやってくれ。それは、お前じゃないとできないことだろ」
「でも、鳴宮サン、血が出て」
「こんなのは――どうって事ない。お前が血を流すより、きっと痛くないから」
 匡は止血処理もそこそこに、取り落としたナイフを拾う。グリップを何度か確かめる動きに淀みはない。深い傷ではないのだろう。
「……続けてくれ。今みたいなヘマはもうしない」
 声は冷静だった。そう出られると、レイラに言える言葉はもう、ない。
「――わかっタ」
 敵を睨む匡の表情は、レイラからは窺えない。
 その背中が酷く遠くに見えて――レイラは、密やかに唇を噛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

檻の中へ届けと、凛と。
貴女方は必ず助かります、と。
ちょーっとお見苦しい所を見せてしまうかもしれませんが、心配せずお待ちくださいね?

僕のお仲間は強いんですから。

UCトリニティ・エンハンス、風の魔力を防御力に。
戦闘知識も視力も全開、娘達の間を縫う流れを読み、或いは見切りつつの前進を試み。
地上が駄目ならフック付きロープをシャンデリア等に掛け、首魁へ肉薄。
到達点ほど傷負うリスクも高いでしょうが…
まぁ、覚悟の上。

狙うはただ一手。

鋼糸を躍らせ首を狙う――
とはフェイント。態勢を僅か傾がせるだけで良い。
傭兵が徒手では闘えないなんて思いました?
腕を取り、出口側へ思い切り投げ飛ばす。

すみません。後は、頼みます。


赫・絲


お前の舞台でなど、誰が踊ってやるものか
その舞台から、引き摺り下ろしてあげる

本当は檻の中の子達に戦闘の様なんて見せたくないけど
彼女達の命には代えがたい
信じられないかもしれない、それでも必ず助けに戻るから待っていて

告げて【先制攻撃】、真っ直ぐにリリアーナ狙い
妨害する少女達は、
雷を【全力魔法、属性攻撃】で最大まで増幅させた鋼糸で進路上のみ蹴散らす
目的はこの中でリリアーナを打ち倒すことじゃない
屋敷の外へと引き摺り出すこと
一瞬の隙も見誤らない
しっかり【見切り】、一本でも糸に捕えたなら【2回攻撃】で追加の糸を
雁字搦めにして離さず、糸を巻き取る勢いを乗せて壊れたドアへ向かってその身体を放り投げる


ヴィクティム・ウィンターミュート


ようやく会えたぜ…性悪ババア。ぞろぞろ女を引き連れて、介護が必要なくらい老いたか?自分じゃ何もできねー癖に、態度だけはでけえ。
かかってこいよ。寂しい寂しい要介護ババア。

こいつの土俵で戦い続けるのはまずい。UCを発動。召喚されるプログラムは短距離転移。グリモアを参考に、任意地点に転移できるものを創ろうとして出来た…失敗作。
距離は短く、飛ばすには触れなきゃならない。グリモアとは口が裂けても言えないが…場所を強制的に移すなら、最適だ。

転移的は庭園。口汚い【挑発】をしまくってヘイトを買い、自分に【誘き寄せ】て、本人が殴りに来るように仕向ける。【早業】と【見切り】で紙一重の回避。すかさず触れて、飛ばす


リコリス・シュピーゲル

同行者:枯井戸・マックス(f03382)
※呼び方は「マスター」

ずいぶんと素敵な「宝石」をここまで集めましたこと
ある意味感心しますわ
最も、宝石を纏うあなたが美しいとは思いませんが

マスターと合体後、まずは下準備
『属性攻撃』で冷気を放ち、床をつるつるに凍らせますわ
それが終わりましたらリリアーナ、場合によっては盾の少女も巻き込んで【咎力封じ】を発動します
『スナイパー』でギャラリーへの影響を最小限に抑え、『2回攻撃』でより封じ込める機会を作りますわ
あとは全力で外に押し出してしまいましょう

さぁ、野蛮なことはお外で致しましょうね?
可憐な彼女たちに見せたらせっかくの輝きが曇ってしまいますもの


枯井戸・マックス

同行者:リコリス・シュピーゲル(f01271)
「外道め……行くぜ、嬢ちゃん」
悲惨極まる城内に静かに怒りを燃やす。
そして言葉少なにリコリスの後ろに立ち、肩に手を添える。
「来たれ、アクエリアス」

リコリスの水瓶座の属性を辿り、両肩に巨大な水瓶型の水流砲を備えた青い全身鎧を召喚し彼女に纏わせる。
最後に本体である仮面をリコリスの顔に装着し合体完了。

合体後は即座に床に水流を撒き、黒薔薇をいなす為のリコリスの氷攻撃の補助を行う。
「ハイヒールが仇になったな。歩く事も儘ならないだろ?」

その後にリリアーナに【捨て身の一撃】で密着。
二人分の【属性攻撃・衝撃波・鎧無視攻撃】を載せた全力水流放射で城外に吹き飛ばす。



●セカンド・アタック
 敵の戦力を測るために、一番見なければいけないポイントは何か。
 古ッちいカートゥーンみたいに、片眼鏡に「戦闘力」みたいなものが映し出されりゃ、話が早かったんだけどな。ここはシビアでシリアスなダークセイヴァー。現実はマンガみたいに行きやしない。
 ――それに、だからこそ、俺みたいなデータシーフの仕事は尽きないのさ。
 リアクションアナライズ
 敵  反  応  分  析。攻撃に対する反応速度の変化、攻撃を受けた後の回復までの速度の変化。表情の変化も重要だ。アイスブレイカーにサンプリングした結果を入力し、それをウィンターミュートで再計算する。
 データを集めに集め続けた。檻の解放が進めば進むほど、敵の回復速度は鈍くなり、攻撃を食らう回数も増えた。……しかし、このまま全ての檻を解放するまで粘るのは微妙だ。前衛の損耗が激しい上、徐々に檻周りの防御が固くなってきている。敵が本腰を入れて防御に掛かっているように見える。
 奥のドアからは、相変わらず、何体出てくるんだか解らない黒薔薇共。
 ここまで勢いで推してきた状況はゆらゆら揺れて、どっちつかずの天秤になってやがる。
「Hoi, チューマ。ちょいと賭けだが、いいアイデアがある。ここらで一つカマさねえか」
 ――俺は、……ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、それが三度の飯より好きなんだ。埋め込んだサイバーデッキと度胸と知恵と一匙のユーモアで、状況を笑っちまうくらい華麗にひっくり返すのさ。
「賭け、ですか。確かに――そろそろ、リスクの一つも犯さなければ埒があかない様相ですね」
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が糸で絡めた黒薔薇をまた一人切り裂き、鋼糸を巻き上げながら応える。その横に、敵の攻撃をガードして飛び下がった赫・絲(赤い糸・f00433)が滑り込んだ。
「イイんじゃない。私は乗るよ。いい加減、あの鼻っ柱をへし折ってやりたかった所なんだ」
「じゃあ、俺達も乗せて貰おうじゃないか。なあ、嬢ちゃん」
「ええ――いい加減、この屋敷の空気も吸い飽きましたしね。妙手があるなら、お手伝いしますわ」
 枯井戸・マックス(強欲な喫茶店主・f03382)とリコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)が更に後ろから進み出て応じる。
 俺は笑った。この五人なら、申し分ない。
「助かるぜ。なら、即席チーム結成と行こう。なぁに、やって欲しいこと自体は単純さ。――まずは……」
 俺は四人に作戦を説明した。その間も黒い槍が飛んできて、大層忙しかったんだがね。

「無茶苦茶な話ですわね」
「そうだな。でもまぁ、無茶の通し時かもだぜ」
 マックスはいつもは飄々としている顔を、今はきりりと引き締め、リコリスの肩に手を置いて呟く。
「あの外道を叩き潰す。行くぜ、嬢ちゃん」
 肩越しにマックスの表情を見上げていたリコリスも、肩に置かれた手の強さから敵に対する怒りを感じ取る。
「ええ――あなたがそう望むなら。参りましょう、マスター」
 リコリスの返事にマックスは微かに笑うと、フレッシュゴーレムを放棄し、仮面のみの姿となって飛んだ。
 枯井戸・マックスはしがない喫茶店のマスターにして、ヒーローマスクだ。その本体は青く不吉な輝きを放つ古びた仮面である。
『来たれ、アクエリアス!』
 マックスはリコリスの十二星座――水瓶座の属性を辿り、それに合わせた全身鎧を構築する。流水を思わせる優美なフォルム、両肩に巨大な水瓶型の水流砲を備えた青い全身鎧だ。
 鎧は空中でパーツ単位に分解され、瞬く間にリコリスの身体を覆っていく。全てのパーツがリコリスを鎧った次の瞬間、マックスがリコリスの額を守るように重なった。十二星座の力を術者に宿す――これがマックスのユーベルコード、『ゾディアックアーマー』である。
『ハイヒールが仇になったな。歩く事も儘ならないだろ?』
 マックスは言うなり、肩の水流砲より大量の水を吐出。リリアーナがいる方向に水流を作り出し、その動きを阻害する。マックスの言葉通り、あまりの水流の速度に、黒薔薇の少女らがよろめいたり、水の中に倒れたりし出す。
「ハッ……水だけで何を偉そうに、この程度で私の脚を止められるとでも?」
 さりとて、リリアーナとて恐るべきオブリビオンだ。彼女はびくともせずに水流を蹴立てて歩く。なんなら支障なく駆ける程度のことはしてみせるだろう。
 ……しかし、この攻撃はここで終わりではない。
「――凍らせます!」
「!」
 リコリスだ。合図の一声を上げ、竜槍『フラム』を地面に突き立て、魔力によって冷気を紡ぎ出して槍から地面に伝える。
 次の瞬間、水流砲より溢れる水が氷河となって一体を凍り付かせた。猟兵らは辛うじてその範囲攻撃より逃れるが、多くの黒薔薇の少女らはその限りにない。足を取られ、凍えた地面に縫い付けられる者が多発する。
 ――大規模な範囲攻撃が出来るのも、多数の檻を他の猟兵が解放してくれたおかげだ。密かな感謝を捧げながらも、リコリスの視線は辛うじて氷河と化す地面を跳び避けたリリアーナを追っている。
 水流砲の後部を展開、リコリスは姿勢を低めて後部から水を吐出した。まるでブースターの如く水を吐き、凍えた地面をジェットスキーの如く滑ってリリアーナの方へ接近する。
「ずいぶんと素敵な『宝石』をここまで集めましたこと――ある意味感心しますわ。尤も、宝石を纏うあなたが美しいとは思いませんが」
「言ってくれるじゃない……!」
 氷の上を滑り、リコリスは竜槍を取り回して迫る。水の吐出方向を変えることで、リコリスは鋭いターンを自在に行いながら華麗にリリアーナを攻め立てる。
 ヴィクティムの指示を思い出しながら、リコリスは嵐の如き突きを繰り出す。リリアーナもまたそれを魔力で強化した爪によって受け捌き、反撃を繰り出してくる。凍った足場の上で戦っているとは思えぬ安定性だ。
「人間風情が、嘗めるな!」
「……ッ!」
 鋭く突き出された爪の一撃を槍で受ける。あまりの圧力に後ろに押されて、氷を踵で削りながら滑ろうとも、リコリスの瞳から――彼女の額を覆うマックスの目から、光が失せることは決してない。
『……まず一つ』
「なっ……!?」
 マックスの声。リリアーナが声を跳ねさせたのは、拘束ロープが彼女の手首に巻き付いていたためだ。攻撃を受ける一瞬にそれを絡めていたのだ。焦りを見抜いたかのように、リコリスは再び後方へ水を吐出し、氷の上を駆け抜ける。
「二つ――」
『……三つ!』
 翻り、絡みつくは手枷、口枷。これは咎人殺しの基本技能、『咎力封じ』!
 女吸血鬼が口枷の下で何事かを喘ぐように言った瞬間には、その胴に竜槍が叩き込まれている。僅かな間でもユーベルコードを封じることが出来れば――リリアーナは黒薔薇の少女らを呼び寄せることも出来なくなるはず!
「捕まえましたわ。――私とマスターの合力、ご覧遊ばせ」
『いい仕事だぜ、嬢ちゃん。さあ――吼えろ、アクエリアス! ブッ飛ばせ!』
 マックスが叫ぶと同時に、水流砲が唸りを上げた。全力の水流が至近距離からリリアーナに炸裂し、その身体を宙高く吹き飛ばす――!

「驚きました――まさかあの短時間で、ああまで完璧にオーダーを熟すとは。これは、負けてはいられませんね」
「そうだね。私も、頼まれ事はきっちり果たしたい方だから――やってやろう、クロトさん」
「ええ」
 続くのは絲とクロトだ。二人は共に糸使い。その鋼糸を宙の檻やシャンデリアに放ち、絡めて縮めることで空を飛ぶ。吹き飛ぶリリアーナは、今や完全に孤立した状態だ。背の翼を翻し、姿勢制御をするように羽撃いている。
 ――態勢が整う前に、畳みかける!
 クロトは糸を縮めリリアーナ目掛け迫る。彼の身体を覆うのは風の魔力だ。『トリニティ・エンハンス』による属性魔術。風を纏うことで防御力を、そして速力を向上し、放たれた矢の如く迫る。
「僕は貴女の所業を許せない。リリアーナ・ヒル。檻の中の彼女たちは、必ず救い出します。――そして貴女も、ここで討つ!」
 リリアーナの能力を封じていた猿轡が、彼女の牙に耐えかねたように千切れる。
「くはっ、……大言壮語も大概になさいな、優男! もう一度言ってご覧なさい、穢らわしい雑種の分際で……!」
 リリアーナは羽撃き、空中で姿勢を整えるとダンスのように優美なスピン。スカートを翻しての、旋刃が如き蹴りを放つ。
 クロトは左手の糸を操作、巻き上げ速度を変えて紙一重で蹴りを回避、すぐさま返礼の蹴りを繰り出した。がきん、と金属めいた音。リリアーナが細腕に似つかわしくない耐久力でガードしたのだ。
 しかし、それで構わない。元より蹴りはブラフのようなもの。クロトはガントレットを跳ね上げてリリアーナの顔面に向ける。
「戦場傭兵は、生きるために色々な工夫をするものなんですよ。例えばこんな風にね」
 くぐもった射撃音が数発。リリアーナが喉に穿たれた孔から、迸る血に噎ぶ。
 クロトの籠手に仕込まれた、圧搾空気式短矢射出器『Tief im Wald』が牙を剥いたのだ。空気を使うために、火薬の匂いも、炸裂音もほとんどない。暗殺に向く仕込み武器だ。
 人間相手ならば今ので致命傷だろうが、相手は吸血姫。当然、その一撃だけで倒せるとは思っていない。予想通りの腕を振り回しての反撃を喰らう前に、クロトは壁面の檻に糸を放ち、巻き上げて後退する。
 檻に着地。足場を選ばぬ様はまるで蜘蛛のようだ。檻の中に未だ残されていた少女が怯えた目を向けてくるのに、済みません、と謝罪を一言。それからにこやかに笑い、クロトは言う。
「騒がしくして申し訳ありません。もう少しだけご辛抱を。――大丈夫、必ず助けます。僕のお仲間は、強いんですから」
 クロトが見仰ぐ向こうで、続いて絲がリリアーナ目掛けて打ち掛かった。

「何が『宝石箱』だ。お前の舞台でなど、誰が踊ってやるものか。……その舞台から、引き摺り下ろしてあげる!」
 翼で羽撃き滞空するリリアーナを目掛けて絲は真っ直ぐに突っ込んだ。大鋏状の大剣『鈍』を振り上げ、リリアーナ目掛けて真っ直ぐに振り下ろす。リリアーナの強化された膂力と爪がそれを真っ向から受け、弾いた。金属と金属がぶつかるような大音が響き渡り、空中に火花が散る。
「な……マ、ぃき……なぁッ!」
 クロトに撃ち貫かれた声帯の完治が遅い。最初に、全身に負った傷を一瞬で修復したようなあの回復速度が消えている。
 いける。
 絲は畳みかけるように、鈍のリングに手首を通し回旋、回る勢いをも乗せて一閃を繰り出す。払い除けるようにリリアーナが受けた。またも大音。連なる剣戟の度、高壁の檻に捕らえられた少女らが身体を震わせるのが視界の隅に映る。
 ――本当は檻の中の子達に戦闘の様なんて見せたくはない。この恐ろしい、薄暗い世界のことを知らずにいて欲しかった。けれど、命には代えがたい。絲は声を張る。
「救けるよ。いきなり現れて――信じられないかも知れないけど。必ず助けるから。あともう少しだけ、待っていて」
「世迷い言をよくもまあ、私の可愛い宝石達の前で垂れ流してくれるものね……!!」
 リリアーナが攻勢に転じる。翼をはためかせ、俊敏な動きで空中の絲に迫る。繰り出すは魔力で強化した爪での乱打。絲は鈍で受け、弾くが、双腕と一刀では手数が違う。至近距離に潜り込まれれば不利になるのは自明だ。
「大口を叩いてくれたじゃない、誰が何を救うって? お前のような劣等種が、この私に臆面もなく、よくも吐いてくれたわね! 決めたわ、お前はその目を抉りだして、靴を嘗めて哀願するまで調教してあげる!」
 大振りの爪の一撃が、絲の手から大剣を弾き飛ばす。がら空きになった絲の腹に、ぞぶりと、リリアーナが繰り出す爪が深々と食い込む。
「……ッ!」
 臓腑を無遠慮に掻き回すリリアーナの爪。苦悶に顔を歪めるも、けれど絲の口を衝いたのは、
「――それはそれは、幸せな夢だね。……でもそろそろ覚め時だよ。起こしてやるから、よく味わえ!」
 絲は右手を、何かを縊るようにぎりりと握った。
 鋼糸が巻き上げられ、真上から、唸り音を立てて刃が落ちる。
「――っが……!?」
 重い音がして、弾かれたはずの鈍がリリアーナの身体に突き刺さった。予め鋼糸を巻き付けておき、弾かれたと見せかけて突き刺す――予め練った彼女の策だ。
「クロトさん!」
 絲は敵の身体を蹴り飛ばし、血を散らしながら距離を離す。同時に鋼糸を散らすように放つ。
「心得ました!」
 絲の言葉にクロトが壁から跳ねた。圧搾空気が爆ぜる音がし、矢が五本新たにリリアーナの身体に孔を穿つ。
 どの傷から再生するか、惑ったその一瞬の隙だけでいい。
 クロトもまた鋼糸を放つ。絲とタイミングを合わせ、リリアーナの身体を雁字搦めに絡め取り――
「風よ!」
 風の魔術で姿勢を制御! アイコンタクトを交わし、絲とクロトは全く同時にリリアーナの身体を分銅の如く振り回し、
「飛ん、でけーーーーーっ!!!」
 絲の咆哮を合図に――雁字搦めになったリリアーナを、二人の猟兵がその膂力と魔力の限りを尽くし、眼下目掛けて投げ飛ばす!
「さあ――これにて注文通りですよ、ヴィクティム!」
 クロトが謳う。
 その先で、
「Gotcha!」
 ヴィクティム・ウィンターミュートがゴーグルを下ろす。

 作戦は三段階あった。第一に、リリアーナと取り巻きの隔離。第二に、隔離したリリアーナにダメージを与え、誘導。
 第三――最終段階。答えはヴィクティムの手の中にある。
「ようやく俺の前まで来やがったな、性悪ババア。ぞろぞろ女を引き連れて、介護が必要なくらい老いたかよ。寿命でくたばっちまう前に、俺達が引導を渡しに来たぜ!」
 ヴィクティムの手の中で光るのは、グリモアめいた――しかし、形状の安定しない紛い物。ヴィクティムがグリモアを模倣しようとサイバーデッキをこねくり回している内に偶発的に完成した、短距離転移用三次元プログラムである。
 転移距離は短く、対象を飛ばすには直接接触せねばならない。グリモアとは口が裂けても言えない紛いもの――しかし、場所を強制的に移すという目的一つのためならば、これに勝るものはない!
「飛ぶぜ! 他の連中に伝えてくれ!」
 バチバチとスパークを散らす三次元プログラムを握りしめ、絲とクロトに言い残すと、ヴィクティムは握り固めた拳を、落ち来るリリアーナの顔面に叩き込む――
 閃光!
 光が爆ぜ――ヴィクティムとリリアーナの身体は、短距離転移用プログラムの光に呑まれ、その場から消え失せる!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●プリーズ・ギブ・ミー・アンコンディショナル・ラヴ
 ――一瞬だが、前後の区別を失くしていた。
 リリアーナ・ヒルはひりつく頬と眩むような衝撃に、目を瞬く。
 気がつけば――ああ、一人だ。一人きり。
 自分の頬を張り飛ばした小憎たらしい小僧も、群れて自分を攻撃した猟兵達の姿も見えない。
 いかなる術か、周囲の景色は全く変貌していた。己が磨く原石を仕舞った檻も、磨き終えた宝石の黄色く華やぐ声も、気付けば無い。
 そこは、焼け焦げ、無惨に焦土と化した薔薇園の中央。
 リリアーナは呆然と周囲を見回した。そこにはいない。誰も。誰一人として。
 あんなにも愛したのに、あんなにも愛されたはずなのに。
 吹く風が、とうに熱などなくした吸血姫の肌を冷やす。冷たい血の通う自身の身体が、孤独の度に厭わしく思う。
 ――ああ、どうかどうか、暖めて。ここは寒いの、死んでしまいそうなほどに。ねえ、私が焦がれるあなた。

「きっと人としての死の間際に、あの娘達も同じことを思ったろうさ」

 リリアーナの前方で火が浮かび、風に紫煙の匂いが混じる。
 姿を現すのは一人の女だ。夜闇から進み出る、その口元に煙草の火が烟る。
 光学迷彩を用いて姿を消したヴィクティムが、ヴィクティムからのサインを受けたクロトらが、最後の猟兵達に敵の所在を連携したのだ。
 じゃらららら、らら、ら、りん。
 女は鎖杭を翻す。続く足音が複数。
「悪趣味のツケを払う時だ。――きっちり清算して逝くがいい」
 二十七名の猟兵が作り出した最大の好機に、六名の猟兵が飛び込んでいく!
芥辺・有
……随分悪趣味なことだ。
わかっちゃいたけどさ。

影人形を使用して、高速移動でリリアーナ・ヒルの元へ駆ける。
本人に当たらずともいい、奴の周りをくるくると動きながら蹴りを打ち込もう。ちょこまかと鬱陶しく。他の猟兵への視線を奪えるなら僥倖。
攻撃を受けそうなら奴の周りの少女を鎖で絡めとって、敵を盾にする。……奴と同じ手とは、笑わせるがね。

そうしてリリアーナ・ヒルの周りを攻撃しつつ動いたり、他の猟兵の攻撃の隙を見計らって、ひっそりと手袋に仕込まれた鋼糸を張り巡らせていく。狙うのは奴の動きを止めること。
動きを止めることができても、たとえ途中で見切られても。糸に炎を滑らせて、燃やしてやろうじゃないか。




アヴァロマリア・イーシュヴァリエ

※真の姿は宝石の翼を生やし、オーロラの輝きが身を包んでいる

許さないわ。これ以上、誰かを傷つけることも、弄ぶことも、絶対に。
マリアの光はあなたを逃さないし、あの子達を見捨てない。

UCを発動。光と化した身体は刃を受け付けないし、放つ光は誘導弾となって吸血鬼だけを確実に撃ち抜くわ。
あの子達を傷付けること無く、吸血鬼を恐れること無く戦う姿を見せれば、きっと絶望なんかしない。

あなたなんか怖くないって、必ず助かるんだって、あの子達に教えてあげる。
力の限り、命の限り。裁きの光を、救いの光を届けてあげる。

マリアは聖者、救いを求める人達を救うために、此処に居る。
だから、マリアはあなたを救わない―――『光あれ』


遙々・ハルカ


あーあー
ホラ見ろトヲヤ
面白いコトになっちゃってんぜ

》人格交代『トヲヤ』
》銀の眸

…よくもまあ
偏執的と言うべきか
しかし厄介だな
あの吸血鬼女を外に蹴り出せたら楽だったが

仕方あるまい、精々見せつけてやろう
大言壮語を吐くとどうなるかをだ
だまし討ち、フェイント、2回攻撃、戦闘知識、暗殺、山とある
刃物と身体が使えんと言った覚えはないし、その首を手折ることも容易い
クイックドロウ、零距離射撃――この距離なら流れ弾もなかろう
盾も十分にいるしな

さあもう一度
言ってみたらどうだ
俺たちを皆殺しにするのだろ

汚泥汚辱のアンガロス――お前に触れられるのを待っていた
自分が溶けるのは好みじゃあないか?
そうか
知らんよ、そんなことは


アレクシス・ミラ


何だ…この悍ましい光景は
絶望よりも深い闇…何て無慈悲で、残酷な…!
…っ怒るのも嘆くのも終わってからだ
僕達が諦めてしまっては、この運命は変えられない
夜明けは来ないままだ
彼女達の帰りを待つ者達の為にも、負ける訳には行かない
そうだろう…今、こことは違う場所で戦ってる我が友よ

出来ることを全力で
我が光を以って、皆を支えよう。回復は任せて欲しい
【生まれながらの光】で前線を中心に回復
疲労するので体力は温存…だが、自分の身くらいは何とか守れそうだ
剣による光「属性攻撃」と各個撃破。防御には「オーラ防御」と「見切り」で凌ぐ

檻の中の少女達へも「鼓舞」するように力強く言おう
君達を救ってみせる。そして…一緒に帰ろう!


ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

……ここが『宝石箱』か。
確かに美しい女性ばかりだな。

だが、皆の表情が暗いな。
これでは、どんな宝石も台無しではないか。
持ち主はよほど無能と見える。

なんとも戦い辛い場所だ。
足場は然したる問題にならないが、犠牲を出さずに勝利する事の難しさが問題だな。

とはいえ、俺が出来る事は剣を振るう事だけだ。
リリアーナに喰らい付き、奴の余裕を無くす事で他に意識が割けないように立ち回ろう。

黒薔薇の少女達の強さは、既に見切った。
こいつらを捌きながらリリアーナを攻める。
もちろん、相当な無茶をする必要はあるだろうがな。

ああ、もう大丈夫だ。
必ず、ここいる俺達がお前らを助け出す。


リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

光の当たらない宝石は、輝きませんのに。
あなたに誓う愛など、ありません。

思うように動きづらい状況なら、
ユーゴさまとわたくしは、その状況を覆す手助けを。

無理も無茶も、今は止めず見つめるまま。
うたを紡ごうとした唇を引き結んで。
敵が天井に檻のない場所まで誘導されたなら、ひかりを招き攻撃。
こちらに気を惹ければ、それだけ皆様は立ち回りやすくなりましょう。

檻の中の皆様を救おうとする方がいれば、
敵を向かわせないよう注意を。
行く手を塞いででも邪魔はさせません。
ちいさくとも猟兵なのですよ。
易々と越えられると思って頂いては、こまります。

だいじょうぶ。
かならずや、おたすけいたします。



「ッ……猟犬共!!」
「狗ころ呼ばわりは結構だが、それならその狗に噛み殺されるお前は何だ。哀れな狐か、狸か、鳥か?」
 鋼色の瞳をした男が進み出た。その外見は遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)のものだったが――言勢も声音も物腰も、何もかもが異なる。――彼は『トヲヤ』。ハルカの魂の同居人、もう一つの人格。
「お前の偏執狂ぶりには反吐が出る。己の領域に籠もっていた内はどうだったか知らんが――蹴り出した今なら、俺たちの刃はお前に届く。ここで終わりにしてやろう」
 いの一番に駆ける。少女らの絶望が満ちる室内は、まさにリリアーナのホームグラウンドだったが、外に出たとなれば話は別だ。
 事ここに及び、リリアーナの武器は己の爪牙しかない。彼女自身も強力な吸血鬼であるとは言え、常から見ればかなりの弱体化の筈だ。加えて、今や彼女に恐怖と畏怖を捧ぐ観客は存在しない……!
「最初に言ったな。俺たちを皆殺しにすると。もう一度言ってみたらどうだ?」
「減らず口を……!」
 吸血姫はすぐには援軍は見込めないと悟るや否や、その爪に朱い魔力を点した。それは血の色、ヴァンパイアとしての魔力の発露だ。爪を振り下ろすなり五爪の延長に衝撃波が走り、地面を削りながらトヲヤに迫る。
 トヲヤは斜め前に跳ね飛び、転がり様にショルダーホルスターからWalther8810をクイック・ドロウ。抜き放ちざまの三連射がリリアーナを襲う。
「くッ!」
 飛びのくリリアーナ。室内であれば受けた上で治癒を行うことで鼻で笑って受け流していたはずの銃弾さえ、今の彼女は避けざるを得ない。
 銃弾を辛うじて回避する彼女を嘲笑う、理解不能な声が響いた。笑っている、ことだけが解る――名状しがたき声。
「……喧しい。大人しくしろ」
 声をなだめるようにぼやくのは芥辺・有(ストレイキャット・f00133)だ。口元で、風に吹き曝された煙草の灰が崩れて散る。己のユーベルコードを発動し、彼女はリリアーナの背中を取ったのだ。
 有は不吉な、不自然に背の高い長躯の影を背に負い、溶けるように身に纏っている。それこそは『影人形』。影絵は有の血を喰らい、彼女に韋駄天の速度と、血を燃やし黒炎を発する能力を与える。
 有はその速度任せに、地面の土を抉り飛ばしながら踏み込んだ。リリアーナが回避行動を取る前にその脇腹を爪先の蹴りで穿つ。
「ぐ……うッ!」
 高速での格闘戦だ。リリアーナが爪で応戦するのを、有は鎖付きの黒杭『愛無』で押さえ込む。片手で鎖を持って振り回すことにより、攻撃の重さと次撃までの速度を両立する。瞬く間に七合を打ち重ね、リリアーナが体勢を崩した瞬間に速力を上げて吶喊、蹴り飛ばす。
「こ、っの、ちょこまかと……!!」
 執拗な有の攻撃に苛立ちを示すリリアーナ。有は涼しい顔で攻勢を維持する。リリアーナを中心にした旋回軌道を取り、全方位から杭による乱撃と蹴りでリリアーナの動きを封じる。
 有の速度は天井知らずに上がり、地を駆けるその脚はやがて地を離れ。まるで竜巻のように風を巻き、彼女は背の翼を羽撃いて飛び上がる。杭と打ち合うリリアーナの爪が、唐突に動きを止めた。
「――?!」
「最初に言ったとおりだよ。清算をしろ。責め苦を負わせた分は、責め苦で贖われるべきさ」
 有は旋回しての攻撃をしながら周囲に鋼糸を張り巡らせていた。舞い上がりながら糸を絞り上げれば、ぎちりとリリアーナの身体を鋼の糸が絡め取る。
 そこにトヲヤが駆けた。ハンドガンの銃口を真っ直ぐに差し向け、発砲、発砲発砲発砲発砲発砲! 着弾した部分がぼろりと腐り、風化するように崩れる。
「ぎ、ッああああああ?!」
「対神性殺傷侵食弾の味はどうだ? ――それに、もう一つ。お前にはこれをくれてやりたいと思っていた」
 トヲヤは指を鳴らす。足下の焦土がぬるりと泥濘み、崩れゆく翼持つ、ナニカの形を取って立ち上がる。
 ――マッド・マッド・アンガロス。トヲヤはそれを己が『指』と称する。
 トヲヤが手をリリアーナに差し向ければ、汚泥の翼はリリアーナに飛びついてその身体を抱擁する。
 濁った甲高い悲鳴が、一際高まった。リリアーナの身体の表層が、全てを泥と化すアンガロスの汚泥と混じり、蕩ける。突っ張るようにリリアーナの四肢が強張る。
「自分が溶けるのは好みじゃあないか?」
「わた、私、私は、ァ、――ただ、た、だ、愛、が――」
 譫言のような言葉。トヲヤは素気なく鼻を鳴らし、連なる声を撥ね除ける。
「――知らんよ、そんなことは」
 それに、有が声を重ねる。
「お前は殺した、その『愛』とやらで。私が見ただけで二百人規模だ。私が知らないところで、もっともっと死んでいるだろう。――別にその怒りを代弁しようってつもりはないけど、負債ぐらいは片付けて逝きなよ。私の炎を貸してやる」
 ――影人形が、ワイヤーを持つ有の手に黒炎を供給する。己の血を燃やすことにより発生する黒炎が燃え盛り、まるで生きているかのようにワイヤーを伝ってリリアーナの身体に巻き付いた。
 肉と泥の焦げる悪臭。絶叫は凄絶を極める。
「いぎ、ぎ、ギィイイいいイイいい……ッ!!!」
 いやいやをするようにリリアーナは身を捩る。死を間近にして尚冴える吸血鬼としての膂力が、熱で僅かに脆くなったワイヤーを千切り飛ばした。弾けるように後ろに跳び、血の蒸気を上げながら、泥に蕩けた部分を、焼け焦げた肉を、再生する。
「あ、ああ、あ、あ……!! 何を、何よ、私の!! 私の世界に踏み込んで!! ここは『宝石箱』よ! この私の、いとしい宝石を! 私を愛してくれる宝石達を収蔵して、私の愛で永遠の形にして保つための場所よ!! それを、土足で、踏み荒らして」

「黙れ!!」

 一喝。
 正義の光に燃える双眸が、真っ直ぐにリリアーナの目を射貫いた。
「絶望よりも深い闇に少女たちを捕らえ! 剰え愛を誓わねば殺し!! 身勝手で手前勝手な貴様の妄愛で、今まで一体何人を殺めた!! 無慈悲に、残酷に、未来ある少女らを殺しておいて――今更、何を逆上せあがる!!」
 アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)が、歯を食いしばらんばかりの怒りの声を吐く。怒りも嘆きも全てが終わってからと思っていたが、到底許せぬ言葉であった。
 被害者面をして、自己正当化をして、まるで今までしてきた放埒が、殺戮が、正当なことであるかのように振る舞うその浅ましさ。赤星の騎士は見逃せずに、声を荒げて貫くように叫ぶ。
 同じ空の下、双子の姉を救うために戦う、無二の友のことを思う。今、彼は何を思いいかに戦っているだろう。きっと、彼もこの理不尽を打破するために歌を、剣の限りを尽くしているはずだ。
 ――ここで負けるわけにはいかない。手負いとはいえ敵は強大。しかし僕らが屈すれば、少女らの夜明けは来ないままだ。僕もまた――我が友に恥じることのないように。囚われた少女らの払暁の光となりたい。

 たじろぐように下がるリリアーナの足取りを、眩い光が照らす。
「そうよ。許さないわ。これ以上、誰かを傷つけることも、弄ぶことも、絶対に。マリアの光はあなたを逃さないし、あの子達を見捨てない」
 纏うは宝石の翼。羽撃く度に絢爛な音を立てて光を散らす。中空から敵を見下ろすは、アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)。身体に帯びたオーロラの輝きが、光に乏しいダークセイヴァーの夜闇を七彩鮮やかに照らしあげた。
「偉、そうに、……駄犬が、私の何をも解らずに!! この孤独を! 果てなく続く一人きりの闇を! その冷たさを寒さを侘しさをォッ!!! 知らないくせにいぃぃぃイ!!」
 リリアーナの醜く焼け焦げた顔が癒える。身体から立ち上った血の蒸気が、最早形も模糊として曖昧な、誰でもない『少女』のカタチを織りなす。中空に響く声。
 ――リリ様、
 ……リリ様!
 お慕い申し上げておりますわ!
 おそろしい夢に遭われたのですね――
 私たちが、共に居ります!
 血霧で編まれた契りの少女ら。リリアーナ・ヒルの妄念が作り出した、自身を愛する偶像の群。
 吸血姫は、己の命を燃やし、『自分は愛されている』という幻想に閉じこもる。
 アヴァロマリアは、正しき光に己の身体を包みながら悲しげに眉を潜めた。
 アヴァロマリアはリリアーナ・ヒルが如何にしてこのように成ったのかを知らぬ。その過程に、悲しい離別が、或いは止むに止まれぬ事情があったのやも知れない、とも思う。
 喉を掻き裂き吐き出すような、悲しみと怨嗟の叫びは、その事情を感じさせて余りある。――しかし、それでも、
「マリアは聖者、救いを求める人達を救うために、此処に居る。だから、マリアはあなたを救わない――」
 ごめんなさいは言うまい。だって、あなたは数多くを害したのだ。
 ならば、裁かれるべきだ。ここで、潰えるべきだ。これは救いの光。檻の中で望まぬ愛に噎ぶ、少女らの慟哭を照らす光だ。
 アヴァロマリアは己の身体を光へと変える。オーロラの如き輝きが増し、極光と煌めく。
「殺して! 殺しなさい! 私のいとしい黒薔薇たち!」
 リリアーナの命令に、血で作られた人形達が、鋭い血液の短剣を手に駆けた。呪いを伴うその刃は、喰らえば光と化したアヴァロマリアとて無事で済むかどうか。
「行かせるものか!」
 しかしてその進路に、アレクシスが飛び込む。分厚い前腕の籠手にオーラを通わせ強化。戦闘の少女の短剣を、白き光を伴うプレート・メイルの守りにて逸らし、肩当てを体当たり気味に胴に叩きつけて吹き飛ばすなり、その光走る剣――『赤星』を振るう。
 友の『青星』と対成すその刃より、白光、翔る。光の衝撃波が剣先より刃となって飛び、四体の朱き『黒薔薇』を打ち据えた。圧されて地面を踵で削り、滑り下がる少女らの隙を穿つが如く、アレクシスは腕を上げる。
 ――アヴァロマリアへ降り注ぐ、聖なる光!
「帰すんだ。無事に――あの娘らを! 救ってみせる――共に帰ると誓ったんだ!」
 願わくばこの光が君の光に重なり、この闇を祓うようにと!
 アヴァロマリアは聖光を浴びた。輝きがいや増し、その身体は溢れる光を伴って宙に舞う。最早彼女は一個の恒星じみた煌めきを帯びていた。輝く腕を差し向け、
「――ええ。救う為の光。あの子達を救う為の光。連れて行くわ、聖なるひと。――『光あれ』」
 光と化したアヴァロマリアの手から、無数の光線が放たれた。
              レイ・ストーム
 常闇の世界を照らし切り裂く聖 光 裁 嵐。アレクシスとアヴァロマリアの全力を尽くした光の嵐が、血の霧で編まれた少女人形を声さえ上げさせず滅却する!

    ああ――ああ!
    私のいとしい貴女たち!
    消えてしまうの、私を置いて!
    ……愛が、愛が摩滅して!
    この心まで摺り切れてしまえば私は、
    いったい、

 爆撃にすら等しい光の雨。それが止み、もうもうと立ちこめる土風を駆け抜け、ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)とリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)が走る。
「貴様の『宝石箱』を見た。――ああ、確かに美しい女性ばかりだった。だが、お前は一度でもその顔を、表情を伺ったことがあったのか。昏く、痛みを耐えるような、或いは運命を憂うようなあの表情を」
 ユーゴは重い声で言いながら、頭を掻き毟るように抱えるリリアーナに迫る。
「それを!! それを変えるために手を尽くしたわ!! 私の血を上げた、幾度も褥を共にし愛を囁いた! 何人もそれで、私に愛を誓ってくれたのよ!! 見たでしょう、私の可愛い黒薔薇たちを!! 私を愛称で呼び慕うあのいとしいむすめたちを!!!」
「馬鹿げているというのだ。それが。宝石を曇らせ、その挙げ句、本来の輝きを壊して淀ませ、己と同じ『まがいもの』に堕した。これを無能と呼ばずして、何と呼ぶ」
 ユーゴは『灰殻』と称するルーンソードを抜剣。爪を振りかざしたリリアーナと斬り結ぶ。赤色の魔力を帯びたリリアーナの爪は鋼鉄に勝る強度だ。
 それを、刃筋を曲げず、真っ直ぐな――そして剛力を伴う剣で迎撃する。鉄と鉄とがぶつかり合うような大音を立て、剣と爪が弾け合う! 火花舞う剣風は豪速を伴い、足下の焦土がまるで震え上がるように舞い浮き、踊る!

「光の当たらない宝石は、輝きませんのに。暗がりにしまいこんで、いつしか輝きを忘れてしまったのですね。――あなたに誓う愛など、ありません」
 リリヤが鈴を転がすような声で言う。
 リリアーナは童女に射貫くような視線を這わせるもそれは一瞬。全霊を以て打ち込むユーゴの剣先は、僅かの油断すら許さぬ鋭さだ。
 リリヤは、死の剣舞を演ずるユーゴだけを見つめている。味方を鼓舞する、力を高める歌さえ今は紡がぬままで。無理も無茶も、今は止めず見つめるままだ。
 あの大きな背中を、追いかけて共に歩いてきた。その背と共にあるだけで、軽やかに、どこまでも歩いて行ける気がした。
 リリヤは胸元でぎゅっとちいさな手を握る。屋根も、雲も、頭上にない。
 無心に戦うあの剣を、ほんの少しだけでも後押し出来るだろうか。
 あの刃を照らす光になれるだろうか。
 ――もう大丈夫だ。俺達が来た。……必ず、助け出す。
 ユーゴが低い声でそう言ったことを、リリヤは忘れない。共に歩き、共に過ごし、どこかくたびれた足取りで、自分に歩調を合わせて歩いてくれる男が、口にしたその言葉を。
 だから自分は彼に殉じるのだ。彼の背中を守るのだ。
 リリヤは丸い爪の、幼い指先を伸べ、リリアーナをぴたりと指さす。
 ユーゴが言った言葉の強さを真似るように。今も宝石箱の中で喘ぐ少女たちへ届けと。

「――だいじょうぶ。かならずや、おたすけいたします」
 天が、少女に応えるように瞬いた。雷迅が如く墜ち奔るは天からの光。『ジャッジメント・クルセイド』の裁きの光!
 ダークセイヴァーの無明の闇を突き破り、一直線に落ち来た光がリリアーナの肩口を穿つ!
「ッづ、ァ……ッ!!」
 上がる呻き声、ユーゴがそれを機とばかりに前進。振り下ろされる剣を爪で払うリリアーナ。二人の一挙手一投足をリリヤは見逃さない。
 なおも、祈りと共に指で女を指し示す。天より降る光が、女を穿ち、焼き焦がす。
「ちいさくとも――わたくしもまた、猟兵なのですよ。――おわりにしましょう? せめて――あなたのさいごを看取りますから」
「私――私はァっ、まだ……!!」
 リリアーナはその時、初めて、妖艶な美貌をくしゃりと泣きそうに歪めた。
 それは愛に飢えた少女じみて。求むとも与えられなかった愛を、渇仰するような表情だった。
 リリヤは目を閉じ、最後の光を放つ。
 四閃、奔る光条が四肢を穿つ。ぐらり崩れる姿勢に、間を詰めたユーゴが板金鎧のショルダー・アーマーを体当たりめいて叩き込む。くぐもった声、息を詰めて女は宙に浮いた。

「――せめて来世に祈れ。ここにはもう、貴様を照らす愛はない」

 ユーゴは灰殻を一直線に突き出した。その長身から繰り出される、無双の剛力を伴う突き。空を引き裂き、まるで矢の如き響きを奏でながら、銀の刀身が闇に一条の閃を引く。 剣は過たずリリアーナの胸を貫き通す。泣き噎ぶような絶叫を上げ、リリアーナ・ヒルの身体が紫焔に包まれ燃え上がった。その五体が消えゆく叫びと共に燃え尽きるまで、四半秒と掛からない。
 ――ユーゴは大きく息を吐くと、剣を地面に投げ出すように突き刺して、草臥れた煙草を加えて燐寸で火を点けた。吐いた息の分だけ吸い上げ、たっぷりと紫煙を宙に浮かべる。
「飢えれば愛さえ人を殺すか。――因果なものだ、全くな」
 煙草の火を見つめながら男は嘯いた。
 ――気付けば、屋敷の喧噪も静まっている。
 ユーゴは剣を抜き、仲間達を促すように、館の灯に向かって歩き出した。

 ――猟兵達の活躍により、今ここに、歪んだ愛の全てが潰えたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『救われた者の明日の為に』

POW   :    体の鍛え方や力仕事のコツを教える

SPD   :    生活に必要な技術を教える

WIZ   :    心を豊かにしてくれる芸術や知識を教える

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ゴー・ホーム
 屋敷に着いて数刻。
 身を清めたあと、通されたのは闇の底のような寝室だった。
 暗がりに沈む豪奢な丁度の狭間にあるベッドの上。
 フレームに鎖で繋がれて、キキは心を殺していた。
 エントランスを通るときの、檻の中にいた少女らの姿が目に焼き付いて離れない。
 泣くものか、泣いてやるものか――気丈に思えども、ぎゅっと目を閉じれば思うのは家に残してきた妹のことばかりだ。

 ああ、もう、私は助からないのだろうか。
 あの檻の中に獲り籠められて、いつか死んでしまうのだろうか。
 モーラ、本当にもう会えないのかな。
 ――ごめんね。

 堪えたはずの落涙がシーツに弾けたとき、逆光を伴ってドアが開いた。
「遅れたな、済まない。……助けに来たぞ」
 呆然とするキキの前に、猟兵達が進み出た。
「よく、耐えたな」
 キキの瞳から溢れ出す涙が、別の意味を持った瞬間であった。

 ――鎖は解かれた。猟兵らの活躍が、確かに一つの命を救ったのだ。

 リリアーナ・ヒルの死後、黒薔薇の少女らは主の後を追うが如く紫色の焔に包まれて燃え尽きた。魂まで縛るそれは、愛か呪いか。何と称するかは人により答えの変わるところだろうが。
 猟兵達はその後もしばらくの時間を使い、『宝石箱』を捜索して、多数の少女らを助け出した。聞けば、少女らの出身は様々で、ここから近い村から遠い村まで様々だという。
 救われた少女らの中には、満足な食事を与えられなかったり、折檻を受けたせいで衰弱が激しい者もいる。差し当たり、移動に耐えるまで彼女らの体力を回復しする必要があるだろう、と判断される。
 幸いにして、領主館には馬車が複数あった。猟兵らはそれを用い、治療の後少女らを村へ護送することとした。
 己の役割を定め忙しく動き出す猟兵らの前で、おずおずと手が上がる。
「あの……、私、動けます。何かお手伝いできることはありますか?」
 声は、この案件が明るみに出るきっかけとなった、キキのものだった。
 ケガの治療や物の運搬くらいなら普段の暮らしで慣れていると彼女は言う。笑みの奥には――考えるよりも、今は動いていたいという思いが揺れて見えたが、人手が多いに越したことはあるまい。
 君達は成すべきことを淡々と熟しても、或いはキキに語りかけても――また、或いは、他の少女らに何かを施しても構わない。

>>>>>>Mission updated.<<<<<<
【Summary.】
◆作戦達成目標
 空腹・外傷により衰弱した少女らの治療完了

◆作戦領域詳細
 リリアーナ・ヒルの屋敷、『宝石箱』。
 趣味の悪い檻などが各所にあるが、一応炊事場は整っている。清潔な寝具なども部屋を漁れば出てくるだろう。
 食事を作るのに事欠くことはないし、屋敷の中にあるものは最早主なき物、自由に使って構うまい。
 また、倉庫には干し肉などの保存食、領民から召し上げた麦や野菜の塩漬けなどが備蓄されているようだ。猟兵の一人が調査した結果、それらに毒性はないとのことである。

◆キキについて
 今回の案件が明るみに出る発端となった年頃の美しい少女。
 ウェービィなプラチナブロンドに色素の薄いアイスブルーの瞳。年齢は十六。
 救われて以降、猟兵らに感謝を表明すると共に、進んで協力を申し出た。
 時折、思い悩むような横顔を見せている。一人のお喋りな猟兵が何気なく聞いたところ、「妹と喧嘩をしている」「妹と仲直りするためにはどうしたらいいか」「どうしてもなかなか素直になれない」との旨の発言がぽつぽつと得られている。
 思うところがある者は、言葉を掛けてみてもいいだろう。

◆補遺
 少女らは、自分たちを救った英雄である猟兵達に対して好意的である。
 POW/SPD/WIZの選択肢に依存せず、己が最善と思う行動/してみたいと思う行動を取ってよい。

◆プレイング受付開始時刻
 2019/03/26 8:30
アーノルド・ステイサム


治療…はあまり得意じゃないんだよな
応急処置は可能な範囲でやる
あとは身体を拭くための清潔な布と
沸かした湯を用意する 防寒用の毛布も
力仕事が必要なら手伝おう

それと飯だ
何より腹が膨れないと体力も湧いてこないだろう
俺にその感覚は分からんがね

飢えていたのならとにかく胃に優しいものを
肉も野菜も煮込みに煮込んで柔らかく
麦で雑炊 あとは根菜のスープとか…材料がありゃいいが
よそってひとりひとりに渡していく
ゆっくり食うといい 急いで食うと身体が驚く
おかわりも沢山あるから遠慮なく言えよ
(大鍋を素手で持って歩いている)(熱くない&重くない)

キキに進んで声は掛けない
悩んでいるのなら、その内答えは得られるだろうさ


芥辺・有
人の世話をする質でもないからね、さて。どうするか。

とりあえず部屋を漁りつつ、毛布やシーツなんかの、何かくるまれそうなものをいくつか用意して少女たちに渡すか。暖かくして休むのも回復へのひとつだろう。
不安や恐怖で落ち着かないような少女がいれば、……そうだな。何か温かい飲み物あたりでも用意して寄越そう。多少は気が紛れるかもしれない。

……この世界で安眠なんてのも、そうできやしないけど。今だけでも、多少なり安気に眠れたらいいんだけどね。





●乾杯は優しいスープで
「……これだけいると大仕事だな。おい、手の空いてるやつはいるか? 綺麗な布、沸かした湯、毛布、要るものがありすぎる」
「手伝うよ。間近で世話を焼くのは柄じゃないからね」
 アーノルド・ステイサム(天使の分け前・f01961)が問いかける声に、芥辺・有(ストレイキャット・f00133)が応ずる。
「助かる。俺も、治療とかは専門外でな。月並みには出来るが――」
「ああ。餅は餅屋ってところだね」
 周りを見れば、すでに外傷の治療に当たっている猟兵もいるようだ。自分の出来ることで力になるべきだろうと判断し、二人は階段を上り、部屋を巡り出す。
 主亡き屋敷は、それでも日頃から手入れだけはしっかりと成されていたのか、大立ち回りの影響範囲外においては綺麗なものだ。それこそ、目立った埃一つも落ちていない。些か派手好きの趣味は窺えるが、品を無くさない範囲の調度がそこかしこに光る。けれども、今の二人には関係のないことであった。
「とりあえず毛布とシーツ……後は?」
「タオルがあればそれもだ。リネンのものぐらいしかないだろうけどな。肌触りのいい服があればそいつも頂戴していこう」
「了解」
 有とアーノルドは言葉を交わしながらスムーズに動き、物品を山と抱えて一階に舞い戻る。
 大量の物資を下ろしつつ、アーノルドはよく響く声で再度問いかけた。
「この辺が役に立つだろう。二階の東ウィングは大体当たったが、他の部屋にもある筈だ」
 指示を受け、数名の猟兵が応じてそれぞれ違う方向へ散っていく。
 それを横目に伺いながら、有は少女らの様子を眺めた。未だ、目に光の戻らない――恐らくは、壊れる寸前まで追い詰められたのであろう少女らも少なくない。
 微かな、体の震えを見て取る。きっとそれは寒さによるものではないのだろうけれど――
 その震えを止めてやりたくなって。
「さて、身体を拭きたい娘もいるだろ。俺は湯を沸かす。厨房にいるから、何かあったら呼んでくれ」
「……私も行く。手伝うよ」
 有は普段浮かべる紫煙も今は食まぬまま、アーノルドに続いた。

 厨房は小綺麗に整頓されていた。キッチンナイフやカトラリーも常識的なものが備えられている。有が火を熾す間に、アーノルドが井戸を探し、水を汲んだ。
 有は薪を並べ、簡単な魔術で火を点ける。血を消費する黒炎ではない、ごく普通の炎が薪を包み、めらめらと燃えた。アーノルドが上に鍋を据えながら顎を掻く。
「こいつは助かる。……キッチンだとはわかるが、コンロも何もありゃしねえから入るなり困ってたところだ」
 アーノルドの出自はスペースシップワールド。とある宇宙船の片隅にある荒廃地区で一軒のバーを預かる身ではあったが、文明レベルが中世が精々といったダークセイヴァーの厨房には流石に馴染みがない。
「……あんたの背丈じゃ、動き回るのも大変そうだね、ここはさ。手伝いに来てよかったよ」
「大助かりだ。デカい身体が仕事の役に立った試しがねえ」
 大仰に肩を竦めるアーノルドに、有は目を瞬く。
「仕事?」
「ああ。バーを一軒回してる」
 マッシヴな体躯にざらつくマシンボイス、モノアイのレンズが闇に光る機人。その印象があまりに先立ち、有は流石に言葉を失うも、冗談めかすようにアーノルドが蝶ネクタイを抓んでみせる段になって、目を和ませた。
 口の端に引っかける程度の微かな笑みを浮かべ、燃える炎に目を落とす。
「そうか。見かけに依らないな。――じゃあ食べ物とか飲み物には詳しい?」
「まぁ、仕事柄な。メインは酒だが」
「それなら、私も手伝うから、あの娘らに温かいものを用意してやりたい。出来るか?」
 有は先程身体を震わせていた少女のことを思い出しながら、訥々と言った。
「温かい飲み物か何かがあれば、少しは気が紛れるかもしれない」
「思ったよりよく見てんだな。世話役は柄じゃないなんて言う割に」
「周りが見えるかどうかってのと、人に優しくいられるかどうかなんてのは別の話だよ」
 有は片目を閉じて、如何を問うように眉を聳やかす。
「……そういうもんかね。そういうことにしとこうか。ああ、出来るさ、出来るよ。じゃあ野菜を切るのを手伝ってくれ。そこのストッカーにタマネギや人参、ジャガイモ……みたいなものが入ってるから」
 アーノルドは材料をそらんじる。機人には些か狭い厨房で、有はアーノルドの指示に従いよく動いた。提案されたメニューは豚のジャーキーとホクホク根菜のスープ。材料は小さめに切り、よく煮る。二人で協力すれば、一時間と掛からない。
 出来上がったスープの大鍋を、作業の合間に運んだ熱湯の大鍋同様に素手で抱えるアーノルド。熱も重量も何のそのだ。
「お前は正しいよ。腹が膨れないと力が湧かないって言うからな。俺にはよく分からん感覚だがね」
 幾らでも、壊れるまで戦える戦闘マシンとしてデザインされた男は言う。
「それが分からないのにバーなんてしてるのか?」
 バッカス
「酒 の 神の啓示を受けたのさ」
 混ぜ返す有に軽口で応じ、アーノルドは優に先んじて歩き出した。
 スープの芳しい湯気が、機人と共にエントランスへ進んでいく。その後ろへ、有は椀とカトラリーを持って続く。

 ああ、この世界は、ダークセイヴァーは昏くて恐ろしいことばかりで。永劫に恐怖を取り去ることなど出来はしない。
 ――けれど、あのスープを飲んだものが、束の間優しい夢に落ちたらいい。
 そんなひとときがあることくらい許されるだろうと――
 有は、機人に並び立つように足を速めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


この様子じゃ、すぐには動かせないわねぇ。
ケガの応急処置くらいの知識ならあたしにもあるけど…そっちは専門の人に任せたほうがよさそうねぇ。

材料はある、設備も問題なし。
なら、何か食べるもの作ったほうがいいかしらぁ。
いきなりあまり重いものじゃ体が受け付けないだろうし、スープの類のほうがよさそうねぇ。
人数も多いしどんどん作るわよぉ。

女の子たちのケアもできたらいいわねぇ。
状況が状況だもの、「元凶は斃れた、元気出して」…なんて無責任なことは言えないわよねぇ。

…いいのよぉ、もう我慢しなくて。
泣いても、叫んでも。どんな心の内を表に出したって、咎めるような人はここにはいないわぁ。
…生きていてくれて、よかった。



●今はトリガーには触れずに
「この様子じゃ、すぐには動かせないわねぇ」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は周囲を伺い、少女らの様子を見た。解っていたことではあったが、怪我人も病人も五万といる。
「ケガの応急処置くらいの知識ならあたしにもあるけど……そっちは専門の人に任せたほうがよさそうねぇ」
 既に複数名の猟兵が治療に当たっている。治療は専門性の高い分野だ。医術の心得があるものや、快癒のためのユーベルコードを備えている猟兵らもいる。そちらに任せるのが無難と見て、ティオレンシアは自分に出来ることを少しばかり考え、厨房に向けて歩き出した。
 途中、倉庫の中も覗き、材料を改める。使えそうなものを集めて向かったキッチンでは、既に数名の猟兵が調理を開始していた。
「お邪魔するわねぇ」
「おう」
「ああ」
 先客二人は機人とオラトリオという取り合わせの二人組。忙しそうに材料を計量したり切ったりする彼らの横合いのスペースで、ティオレンシアも調理を開始した。
「そっちは何を作っているのぉ?」
「豚の干し肉と根菜のスープだ。あんたの方は?」
 返す機人にティオレンシアは紙袋から出した干物をひらつかせる。
「……鱈……だと思うんだけど、干物があったのよぉ。それで、スープでも作ろうかなと思ってたわぁ」
「こっちは肉、そっちは魚か、いいんじゃない」
 オラトリオが換気口の下で煙草を燻らせ、肯定する。
「やっぱり温かい食事をするのって、心が落ち着くからねぇ。皆、考えることは一緒だったかしらぁ」
 ティオレンシアも笑って応じつつ、着実に調理を進める。豆を塩ゆでし、干し鱈は水で洗って塩抜き。時間もない、調味料代わりに使用すると割り切る。程々で引き上げ、ブツ切りにし、油で炒める。
 茹でた豆ともども擂り粉木で潰し、味を見ながら湯でのばす。薄切りにした根菜類を中に入れ、味を見る。やや薄味のさらりとした感じに仕上げた。よい手際だ。彼女もまた飲食店経営者である。
「お先に出すわぁ。量が少ないから、フォローよろしくねぇ」
 それでも十数人分はありそうな鍋を両手に抱え、返事を背中に聴きながらティオレンシアはホールに舞い戻る。

 元凶は斃れた。元気を出して。
 それだけ言って去るのは、幾らなんだって残酷だ。彼女らは幾つも、失い、傷つき、泣いただろう。ティオレンシアはホールの真ん中で、皿にスープを盛って配り出す。
 受け取る少女らの中には、口にするなり涙を流してしまう者もいた。
「あら、塩辛かったかしらぁ」
「いえ……違、……すごく、優しい味がして……」
 ティオレンシアは歩み寄り、涙を流す少女の頭を撫でる。
「いいのよ、もう我慢しなくて。泣いても、叫んでも。どんな心の内を表に出したって、咎めるような人はここにはいないわ」
 ……生きていてくれて、よかった。
 戦闘の際に見せる苛烈な面とは裏腹の優しさ。
 涙を流す少女に寄り添い、ティオレンシアは彼女が泣き止むまで、そっと髪を梳っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ


【生まれながらの光】で治療した後は
干し肉や干し野菜、ハーブでスープを「料理」しよう
安心できるように、温かい物を作るよ

調理してる間、浮かない表情のキキさんを見かけ、声をかける
キキさんの言葉を黙って聞く
…そうか。それは帰りづらいな
不思議だよね
頭では分かっていても、本心とは真逆の言葉や態度が出てしまう
最後に残るのは大抵後悔だ
…僕には兄弟のように育った大切な幼馴染がいてね
喧嘩しては君のように悩んだ時もあったな
…大丈夫。君の想いは伝わるよ
スープを器に注いで渡す
君は妹思い女性だって事が伝わったから
…妹さんは君の帰りを待っているはずだ

僕と友は再会するのに12年掛かった
願わくば、君達の未来が光満ちますように



●未来への祈り
 アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)が向かったのもまた、厨房であった。
 数人の猟兵と目礼を交わしつつ、彼が作り出すのはハーブをふんだんに用いたスープだ。
 ベースはスライスして炒めた玉葱。干し肉と干し野菜の旨みにハーブを掛け合わせることで、肉の臭みや野菜のクセを丸め、味わいに変えていく。一通りの作業を終えたところで厨房の入口を振り返ると、プラチナブロンドが揺れるのが見えた。
「やあ、キキさん」
「あ――お疲れ、様です。猟兵様」
「アレクシスという。アレスと呼んで欲しい」
 男は穏やかな調子で声をかける。おいで、という風に招けば、彼女は素直にアレクシスの方へ足を向けた。その表情は沈思するように重く、努めて明るくあろうとはするがどうしても表情は固い。
「考え事でもあるのかい?」
「……私、そんなに解りやすく顔に出てますか?」
「ああ。僕でも解る程度には」
 長身の男はキッチンナイフを置き、エプロンで手を拭いながら笑った。
「しがない騎士の身ではあるけど、よければ君の力になりたい。話してみないか?」
「……助けて貰った身で、贅沢すぎる話です」
「いいのさ。甘えられるときはね、甘えておくべきだよ」
 アレクシスの言葉と笑顔に絆されたように、キキはポツポツと話し出す。
 鉢を割ってしまったこと。妹から受けた言葉。覚えた反発と、それほどに妹を、知らずの間に傷つけてきたのかという衝撃。迫る脅威。守らなきゃと思ったこと。いまも――あの喧嘩はきっと続いていて、漠とした不安が落とした影のようにつきまとうこと……
 アレクシスは言葉を差し挟まずにそれを最後まで聞いて――噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「……そうか。それは帰りづらいな」
 同意を示して頷く。
「不思議だよね。頭では分かっていても、本心とは真逆の言葉や態度が出てしまう。そんなことは思っていないのに――口に出せば止まらず、自分も相手も傷つく。最後に残るのは大抵後悔だ。……僕には兄弟のように育った大事な幼馴染がいてね。喧嘩しては君のように悩んだ時もあったな」
「猟兵様……アレス、さんでも、そうなんですか?」
「猟兵と言ったって、普通の人間と来歴は変わらないものだよ。……これを飲んでご覧」 アレクシスはスープを器に注いだ。優しい香気を伴う湯気が上がる。
 キキに手渡し、勇気づけるように言った。
「大丈夫。君の想いは伝わるよ。そうまで考えて苦しむ君は妹思いだ。……妹さんは君の帰りを待っているはずさ」
 スープを、一口。
 キキの口から、おいしい、と言葉がこぼれ落ちる。
「そう、でしょうか」
「そうだとも。……僕と友は一度別れたあと、再会するのに十二年掛かった。けれど、君達は帰れば直ぐに会える」
 ――疑うまい。遠い空の下、もう一つの作戦が成功したことを。
 あちらには、自らが信を置く黒歌鳥がいるのだから。
「……それは、とても幸せなことだよ。願わくば、君達の未来が光満ちますように」
 優しき赤星は、少女ら二人に佳き未来があるように祈る。
 きっと彼の友もまた、同じことを祈っているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
キキに手伝って貰った麦のスープは
ほかほかと優しい匂い
差し出しても食めない少女がいるのなら
毛布で包んでゆっくりと撫でてやり

一度絶望に拉げた心は
簡単に笑えやしないだろう

だけど、

雪に圧し潰されても
枝を切られ別の土に挿されても
花はもう一度ちゃんと咲くんだ
だからきみもだいじょうぶ、と笑えば
爛漫の牡丹が柔らかく揺れる

世界がどんなに暗く怖ろしくとも
きみが咲きたいと願うのならば、
わたし達は必ず助けに来るから

薄紅の頬で笑って、おめかしをして、
――とびきりの恋をする花に、おなり

じょうずに食めた子にはいいこ、と褒めて
また次の花の種へと水を注ぎにいこう
ひとつずつ芽吹いてゆくたびに
きっとこの世界に少しずつ、春が、来る





●添う、陽光のように
 湯気を上げる麦のスープ。
 塩抜きして、炒めた塩漬け野菜を煮出し、その栄養素を取りだして澄ませたもの。
 キキの発案で、中庭に飼われていた鳥たちの卵が溶き入れられたその鍋を運び、境・花世(*葬・f11024)は器に熱いスープを注いで木匙を添え、少女らに配っていく。
 少女らの中には、未だ立てず、一人では食事もおぼつかない者もいた。一通り配り終えればそうした少女らの元へ出向き、木匙でスープを掬ってふうふうと冷まし、食事を手伝ってやる。
 震え、食事どころではない者もいた。そうした少女らの哀切、拉げた心に寄り添うように、花世は彼女らを毛布で包んで抱きしめてやる。あやすように撫で、背中を叩く。まるで母のように。
「きみ達は、花だよ。これから大きく、美しく咲く花」
 女は優しい声で語る。
「一度絶望して――たくさん、たくさん傷ついた。簡単には笑えやしないだろう。だけどね、それでも、花は死んだりはしない。一度は枯れてしまうかも知れないけれど、けどまだ生きているんだよ」
 例え話だ。けれど、花世が本当に思っていること。
 温かいスープを傍らに置いて、腕の中の少女の髪を梳る。
「雪に圧し潰されても、枝を切られ別の土に挿されても――栄養と光があれば、花はもう一度ちゃんと咲くんだ。この世界がどんなに暗く怖ろしくとも、きみが咲きたいと願うのならば、わたし達は必ず助けに来るから。この光で、必ずきみたちを照らすから――だからね、だいじょうぶだよ」
「……あ……、ああ、」
 抱きしめる花世の腕は確かに、震える少女の身体を支えた。
 優しく、温かい、文字通りに陽光のように、花世の言葉が少女らに浸みる。腕の中の少女が声を震わせ涙を零すのにつられるように、周りの少女らもまたしゃくり上げ、嗚咽を零す。
 爛漫と右目に咲く八重牡丹を揺らし、花世は歌うように続けた。
「薄紅の頬で笑って、おめかしをして。素敵なひとと出会い、これから何度でも。――とびきりの恋をする花に、おなり」
「うん……うんっ」
 涙を流しながら頷き、嗚咽する少女。恐怖の震えは、いつしか薄れ。今は、花世の情に触れての嗚咽が彼女の身体を揺らす。
「スープ、食べられそう?」
 問いに返る頷きに、一つ笑って。
「いいこ。……たくさんお食べ。なくなったらまた注いであげるから」
 八重牡丹の女は、腕を解いて少女の傍らを立つ。
 周りには、まだたくさんの、芽吹くのを待つように震える乙女達。今は傷つき震えるばかりの花の種。
 ――また次の花の種へと水を注ぎにいこう。
 ひとつずつ芽吹いてゆくたびに、きっとこの世界に少しずつ――
 春が、来るから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア

炊き出しならお任せくださいっ
備蓄された食料を使ってまずは簡単で
お腹に優しい料理を作りましょう
その後は更に本格的に、豪華にぱーっと大胆に食材を使って、ごちそうを作ってしまいましょう

食材が足りなければしゅぱぱっと狩って来ます
狩りも料理も、皆さんと協力して行いましょう!

衰弱していた少女たちには、無理はしないように気をつけてあげながら、
希望者が居るならちょっとだけ手伝ってもらいましょうか。

美味しいと、言ってくれる
そんな貴女達を救えたことが
最も嬉しいことなのです

キキちゃんや他の子達に不安がないかとか、お話しましょう!
素直になれないなら
口で言えないなら…

ぎゅっと手を握ったり
そう言うことから始めましょう!



●従者、奔走す
 えっ、もうスープすごく作られてる?
 なるほど? おなかに優しいものはもう行き渡っていると?
 ふんふん、干し肉干し魚干し野菜、あとは麦のスープと。
 承知しました! では私、一肌脱ぎましょう!

 そしてまぁ、デキる従者ことアレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は、野山に混じりて山菜採りつつ、よろずの獣を狩りにけり。
 猪か豚か判然としない獣一匹と、兎を数匹。狩って速攻で内臓を抜き、沢で洗って持ち帰る。外にいた少女数人が仰天した調子でそれを眺めるのに、にこやかな笑みで応える。「今からごちそうを作ります! 少々お待ち下さいね!」
「あ、あの――お手伝い、出来ること、ありますか?」
 気圧されながらも少女たちが申し出るのに、アレクシスはにっこりと笑った。眼を隠しているのに、その表情は雄弁だ。
「ええもちろん! 沢山ありますよ! 一緒に作りましょう!」
 少女らを伴い、アレクシスはキッチンへ歩く。
「おお」
 スープを拵えていた青年が驚いたように、アレクシスが担いだ大量の獲物を見た。
「解体を手伝おうか?」
「助かります!」
 奇しくも自分と同じ名前だという青年に手伝ってもらい、獣と兎の皮を剥ぎ、手早く枝肉にしてしまいつつ、アレクシスは少女らに山菜の簡単な調理を頼んだ。切って水にさらし、塩ゆでする程度の簡便な調理だ。
 アレクシス自身は獣のロースを大きなダッチオーブンで丸焼きにしたり、脂の多い部位はタマネギやニンニク、蜂蜜と塩でよく煮込んだり、キッチンの隅にあった魚醤を油と合わせ、香辛料を沢山入れてクセを消し、香味が食欲をそそる焼肉を作ったり、ワインで兎を丸ごとこっくりと煮込んだり、よく洗った骨と香味野菜、端肉を煮て濃厚なスープを取り塩と胡椒で調味、小麦を練った麺を入れ、少女らが作った山菜の塩和えと焦がしにんにくを浮かべ……大量の食事を作り上げていく。
「はいっ、味見です!」
 小皿に取り分けた各種の料理を、手伝ってくれた少女らに振る舞う。
「あっ……これ、すごく美味しいです!」
「全然獣臭くない……」
「領主様が食べているごちそうって、こんな風なのかしら」
 口々に感想を述べる少女らを眩しそうに見て、アレクシスはにこにこと笑う。
「美味しいと言ってくれる貴女達を救えたのが、私にとっては最も嬉しいことです。……ね、お話をしましょう。この沢山のごちそうを皆で囲んで! 言葉に出来ないほど辛いことがあった娘がいたなら、その手を取って。皆で――少しでも笑えるように、団欒しましょう!」
 沢山の皿をトレイに乗せて、アレクシスは笑う。少女らも、誘われるように微笑った。
 出来たてのごちそうが、祝福するように湯気を上げる。
 ――さあ、皆で食べて大いに笑おう。きっと、そうできるくらいには間違いなく美味しいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡

◆レイラ(f00284)と

食事の用意を手伝いつつ
些か不機嫌なレイラの問いに応じる

なんでって、術の集中が乱れても困るだろ
痛くないわけじゃないんだろうしさ

……いいんだよ
俺はこういうの、慣れてるし

ほら、そんな場合じゃないだろ
食事配ってこようぜ

助けた少女と話すレイラを眺めやりながら思う

らしくない遮り方だった、けど
聞きたくなかったんだ
当然みたいに自分を擲って
それに疑問を持たない、彼女の言葉を
どうしてか、なんてわからないけど

……花を探すなら手伝うよ
花言葉、わかんねーけど
特徴さえ聞けばまあ、なんとか

レイラはきっと怒るだろうけど
傷ついたのは俺で、よかったんだ
もう、二度と、目の前で――

――いや
らしく、ないよな


レイラ・エインズワース

鳴宮・匡サン(f01612)と

もう、なんで庇ったのサ
私の体は本物じゃナイ
再生に時間はかかっても明らかに“安い”ノニ
……そダネ、今はあの子たちが先

簡単なサンドイッチを用意して配るヨ
お腹空いてるとやなこと考えるカラ

ふと、キキを見つけテ
悩んでるナラ、話を聞かせてほしいナ
伝えられなくて後悔するノ、もう痛いほどわかったはずだカラ
コレからは素直になれるといいネ

直接が恥ずかしいナラ、花に思いを込めてミテ
謝罪、もしくは親愛
怪盗サンそんな言葉の花を探して摘んできて
手に入れたソレは灯火で水を飛ばして乾かして
コレならしばらくもつはずだカラ

過去の遺物でも、誰かの先を照らせタラ
そしたらきっと嬉しいナ

アドリブ・絡み歓迎



●深海哀花
 厨房の一角に重い空気が漂っている。
 他の猟兵らが思わず視線を向けてはなんとしたものやらと顔を見合わす雰囲気だ。
 アレクシスが狩ってきた獣の端肉を細かく刻み、塩を加えてガシガシと捏ねながら、唇を尖らせるのはレイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)。
 その横で人参の皮を無心に剥き続ける鳴宮・匡(凪の海・f01612)。
 レイラのむくれ顔は、先の戦闘で匡が採った行動に根差している。
「なんで庇ったのサ。私の体は本物じゃナイ。再生に時間はかかっても明らかに“安い”ノニ」
「なんでって、術の集中が乱れても困るだろ。痛くないわけじゃないんだろうしさ」
 回答は端的なものだ。任務のために最善の行動を採った、というだけ。匡は皮を剥き終わった人参を、透けるほど薄く刻んでいく。
「いいんだよ。……俺はこういうの、慣れてるし。それより、今は飯を作るのが先だろ。あんだけの人数に配るなら、幾らあったって足りやしない」
 刻んだ人参に軽く塩。鶏卵と酢と油で作ったマヨネーズで和え、キャロットフィリングを作る。
「……そダネ、今はあの子たちが先」
 釈然としない表情を浮かべながらも、レイラはひとまず引き下がり、円状に整形したパティをフライパンで焼く。ジリジリと脂の焦げる芳しい匂いが上がる。
 焼ける肉を見下ろすレイラ。手元の木のボウルを木匙で掻き回し続ける匡。重ならない視線。
「あ、あの、何かお手伝いすること、ありますか?」
 或いは二人の間の空気を感じてのことか。厨房の手伝いをして回っていたキキが、レイラに声をかけてくる。
 振り向いたレイラは、いつも通りの淡い笑みを浮かべ、キキを迎える。
「ンーン。大丈夫だヨ。……っていうカ、お手伝いしたいのは、どっちかって言うト私の方カモ」
 ひょい、とフライパンを振ってパティをひっくり返しながら、レイラはキキに穏やかに語りかける。
「悩んでるナラ、話を聞かせてほしいナ。伝えられなくて後悔するノ、もう痛いほどわかったはずだカラ」
「……はい」
 レイラの言葉にキキは頷くが、下げた眉と迷うようにわななく口元。
 自分でも言葉を纏めきれないのか、少女は一言一言、選ぶように言葉を続ける。
「……でも、巧く言えないこととか、沢山あって――正直、まだぐるぐるしてるんです……素直に、なれるかどうか、解らなくて」
 キキの惑うような声に、ンン、と考え込むような声をあげ。
「直接、思いを伝えるのが恥ずかしいナラ、花に思いを込めてみるのもいいかもネ」
 レイラは傍らの男に目配せをちらりとひとつ。
「もう人参の世話はいいでショ、怪盗さん。白くて可愛い花弁に、黄色い花糸の花を探して摘んでキテ。マーガレットの花ヲ」
「……探してみる」
 匡は無茶振りにも構わず、ボウルを置くと裏口から足早に出て行く。その背中に少しだけ寂しげに目を向けたあと、レイラはキキに目を向け直した。
「きっと摘んできてくれるヨ、仲直りの花を。……鳴宮サンが戻ってきたら、枯れないように綺麗に乾かして、持たせてあげるネ」
「お気遣い頂いて、本当に……ありがとうございます」
「いいんダヨ。好きでやってることだモノ」
 焼き上がったパティを俎に移し、寝かせて肉汁を落ち着かせながら、レイラは笑った。あとはこれを切って、フィリングと一緒にパンに挟めばサンドイッチの出来上がりだ。
 ……今は彼女らに光を与えて照らそう。過去の遺物でも、そうできるならこの上ない。匡と自分の間の、微かな食い違いは……きっと、また時間が解決してくれると信じて。
 ――今は。祈るだけ。

 らしくない遮り方だった。そう思う。
 傷つくのは慣れているなんて言ったけれど、それはあくまで自分が、全力で戦いながら傷つくときの話だ。
 誰かを守って傷つくなんて非合理なことには慣れていない。
 ……聞きたくなかった。『安い』だとか『安くない』だとか。自分を『モノ』だと割り切って、当然みたいにその身体を切り売りするように擲って。
 モノだから。傷ついても直ぐに癒えるから。幻燈が割れない限りはどんな傷もないのと同じだと言って憚らず、それについて一切疑問を持たないような響きの――レイラの言葉を、聞いていられなかった。
 それがどうしてかなんて説明できない。説明できないけれど、とにかく嫌だったんだ。
 匡は、苛立ちと寂寞の間にいた。論理的で合理的なはずの彼の思考は、ダークセイヴァーの闇風の中で千々に乱れる。朧な月光の下を、彷徨うように行く。
 こんなことを言ったら彼女は怒るだろうけど、やっぱり傷ついたのは自分でよかったのだと匡は思う。
 もう、自分のために誰かが傷つくのは嫌だ。

 思い出すんだ。あのひとのことを。
 生きろと自分に言った。呪いみたいに、言いつけをたくさんして、死んでいったあのひとのことを。
 ――自分を守って死んだ、あのひとのことを。

 もう、二度と、目の前で――
 ああ、喪いたくないんだ。
 散々奪ってきた。そう、リリアーナ・ヒルにも言った。
 奪ったら、奪われるんだぜ、と。
 その帳尻が合うことを誰よりも恐れているのは、もしかしたら自分自身かも知れないのだ。

「――らしく、ないよな」
 匡は闇の内側で呟く。説明しがたいことをしたせいで、心の海は波立ってばかりだ。
 健気に咲く花の元に辿り着けるだろうか。青年は深海じみた月下を、藻掻くように歩いて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

赫・絲


料理ー……は、後でかいちゃんに知られたら呆れられるってレベルでできないし
治癒術はあんまり得意じゃないからなー

そうだ、寝具があるならきっと清潔なシーツも探せばあるよね
お腹いっぱいになって体力も回復しても、
ぼろぼろの服で帰ることになったらここでのコト思い出して辛くなるかもしれないし
彼女たちが着て帰れるような簡単な服を作っちゃおう
裁縫は得意だしね

余ったシーツをかき集めて一針一針手で縫い、簡単なワンピースを作れるだけ作る
余った布でリボンも作って、それを腰に結んだら完成

真っ白でシンプルだけど、ここを出て元の暮らしに戻ったなら、彼女達が好きな色に染めればいい
彼女達の人生は、そのぐらい自由な筈なのだから



●願い針
 アーノルドと有が言ったとおり、多数ある客室や居住用とみられる部屋の寝台には、清潔なシーツが多数敷かれている。
「これだけの部屋にシーツが敷かれてるなら……どこかにまとめてる部屋があるよね」
 リネン室に該当する設備がどこかに存在するはずだと当たりをつけ、赫・絲(赤い糸・f00433)は館内を散策する。
 バスルーム近くにシーツ類をまとめた部屋を発見すると、よーし、と腕まくりを一つ。
 絲は料理がさして得意ではない。治癒術も、自分の傷口をとりあえず繕って塞ぐくらいは出来たものの、未だ腹には爪がめり込んだあのときの痛みと不快感が残っている。
 自分のことだから頓着せずにいられるが、これを少女らに施して治療と称するのは憚られた。
「私は私にできるコトでお手伝いしよー」
 絲はシーツをかき集め、近くの部屋の寝台に陣取った。『ゆうれいおうじ』がプリントされたソーイングセットを取り出す。
 腹が満ち、体力が戻り、傷が消えて――けれど、身に纏った襤褸がここでの辛い記憶を思い起こさせてしまうとしたなら、絲はそれをこそ防ぎたかった。
 シーツを手頃なサイズで裁断し、首元になる部分に緩やかなカーブをつけた。裁断辺は折り返して一針一針、ほつれぬように縫い止める。裁縫は彼女の得技だ。その針運びには迷いも間違いもない。ミシンのような素早さで縫うべきところを縫い合わせ、腰元には端切れの布でリボン飾りをつけてやる。
 一定のペースで、心を込めて一針一針と縫い進める。特技と目すだけあり、縫い目の間隔は手縫いとは思えないほど均一でしっかりとしている。
 腰紐を設え、サイドを縫い合わせる際に縫い込み、着用者が体の線に合わせられるように配慮して、絲は願いを込めて糸を切った。
 この地との悪縁が、切れますように。
 出来上がるのは、真っ白でシンプルだけど、肌触りのいいワンピースだ。
 自分の体にあてがい、鏡に映して確認。腰紐の締め方で体格に合わせて調整も出来る。きっと、あの場の少女らには大体合う事だろう。
 純白のワンピースには飾りらしい飾りはない。それこそ、腰元につけられた、布を合わせただけのリボン飾りくらいのもの。けれど、それでいいのだ。
 ここを出て、彼女らが元の暮らしに戻ったとき、彼女らが好みの色に染めたらいい。自分が好きだと思える、自分らしい色に。
「そのぐらい自由なはずじゃない。人生ってさ」
 或いは、己が人生を縛られて諦めた彼女だからこそか。呟く想いは祈りに似ていた。
 絲は願う。彼女たちが、どうか、自分の人生を――誰に強制されることもなく過ごせますように、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テスアギ・ミナイ


キキさんと一緒に帰ることが出来るようで良かったです
ほかの人たちも
無事にすんだ後の空気が賑やかなのはいいですね

私に出来そうなことを少しずつ分けてもらって頑張ります
持ったり、運んだり、支えたり、それから、えっと…
…がんばります

大事な人へ
伝えなきゃいけない事はたくさんありますが
たくさんありすぎるのです
素直になるのも難しくて、
目を合わせることすら上手にできなくて
時間も体力も心も足りない

「だから、いつも通りに
『あなたがすき』と言ってあげればいいと思います」

それで妹は本当の意味で救われる気がします
私は兄に対してそんなことは思ってもいないので言いませんが

笑顔が戻ったら帰りましょう
問題なく、滞りなく



●その声で、伝えて
 人でごった返す――というほどではないが、ざわめくエントランスホールの間を、数人の猟兵が行き来している。彼らの仕事は物資の運搬や床の掃除、動けない少女を横たわらせるための寝具の設営などだ。
 野戦病院さながらの様相を成すそこを、テスアギ・ミナイ(Irraq・f04159)が軽やかに歩む。湯浴みとまでは行かずとも、アーノルドが運んでくれた、テスアギが二人は入りそうな寸胴鍋一杯の湯と大量のリネンタオルがあれば、少女らの身体を拭うことは出来る。
 背の高いポールハンガーを二本、それにカーテンを渡せば簡易的な衝立になる。エントランスの隅の方はたちまち、身体を拭く少女らの姿で溢れた。
 身を起こせない少女らは、別室に支えて連れて行き、そこで拭ってやる。重労働であったが、テスアギは一つの文句も零さない。
 ――だって、そこには活気があった。賑やかな空気に、テスアギは眼を細める。
 未だ呆然とした様子の少女らも少なくなかったけれど、汚れた身体を拭おうと思うのは、生きたいからだと思う。そのまま死のうと思うなら、汚れなど関係ない筈だ。
 幾人目かの、動けぬ少女の身体を拭い、エントランスホールの寝所に戻したまさにその折、テスアギの視線の先にプラチナブロンドが映り込んだ。
「キキさん」
 声をかけると、少女は空の盆を手にしたまま振り返る。
「はい、猟兵様。何でしょう?」
 揺れる眩しい白金の髪。アイスブルーの瞳がテスアギの姿を認める。
「用事と言うほどの用事はないのですが。……会えたので、お伝えしようかと」
 テスアギは息を吸う。ほんの少し――今頃同じ空の下、別のどこかで戦いを終えたであろう兄のことを思いながら。
「大事な人へ、伝えなきゃいけない事はたくさんありますが……たくさんありすぎるのです。素直になるのも難しくて、目を合わせることすら上手にできなくて、時間も体力も心も足りない」
 言葉を並べつつ、テスアギはキキに歩み寄る。その言は少なからずキキの内心とリンクするのか、キキは胸の内を当てられたような顔をした。
「だから、……いつも通りに、『あなたがすき』と言ってあげればいいと思います」
「……言えるでしょうか、私、さっき言われたみたいに素直じゃないから」
「大丈夫ですよ。キキさんは、妹さんを救おうとしたでしょう。あの勇気をもう一度だけ、出せばいい。それで妹は本当の意味で救われる気がします」
 美しい眼を細め、テスアギは微笑を作った。
「まあ、私は兄に対してそんなことは思ってもいないので言いませんが」
 付け加えた言葉は冗句かそれとも。キキは笑って、胸の布地をきゅっと握った。
「……ありがとうございます。上手に、伝えられるといいなあ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

月隠・望月

終わった。たくさんの人を助けられて、よかった。
黒薔薇のヒトたちは、骸の海で安らかに。

家事、は……今、練習中。今はまだ上手くできない。
わたしは、物資の運搬や、動けない人がいたら移動を手伝おう。
種族柄力はある、重いものでも運べる、よ。女の子くらいは、軽い。

キキ殿は、妹殿のことで悩んでいると聞いた。会ったら話を、してみたい。
キキ殿は、妹殿に会ってもどうすればよいか、わからない?
……これは私の予想、だが、妹殿はキキ殿に会えるだけで、とてもうれしい。特別な仲直りは必要ない、と考える。
それでも気になる、なら……たとえば、妹殿と一緒にご飯を食べる、のはどうだろうか。腹が膨れれば自然と素直になれる、かもね。



●そのままのきみで
 周囲を見回す。人でひしめくエントランス。
 ――たくさんの人を助けられて、よかった。
 救えなかった黒薔薇の少女たちもいたけれど、けれど生きている人は皆救うことが出来た。
 黒薔薇に対する黙祷を経て、感傷に浸るのも束の間。物資運搬の任を負い、月隠・望月(天賦の環・f04188)は少女とは思えない量の寝具を運んだり、動けぬ少女を運んだりと縦横無尽に活躍する。羅刹の剛力はなにも、殺陣を演ずるためだけのものだけではない。救い、人を慈しむためにだって使えるものだ。
 シーツを所定の場所で下ろしたおりに、幾度目かの配膳を終えたキキと目が合う。
 望月は目礼を一つ。キキがそれに倣うのを見て、会話に支障のない距離まで寄せる。
「キキ殿。話をしたいと思っていた。今、少しいい?」
「あ、はい、ちょうどスープも配り終えたので。何でしょう?」
「さっき、別の猟兵から聞いた。妹殿のことで悩んでいると」
「あ……耳が早いんですね、猟兵の皆さんって」
「仕事柄、そうかもしれない。……皆、キキ殿を心配している」
 私も、と望月は自身の胸に手を当て、続けた。
「キキ殿は、妹殿に会ってもどうすればよいか、わからない?」
「そう、ですね……」
 キキは考えるように唇を結ぶ。望月は急かすこともなく、キキの唇あたりに目を向け、沈黙を保った。
「鉢のこと、だけじゃなくて、私は別れる覚悟で領主様に身を差し出したから……今、モーラが何を思って、考えているのかわからなくて。だから、漠然と不安なんです。どんな顔をして帰ればいいのかも」
 わからない、とキキは首を振る。その顔には、名状しがたい感情が表れているように思えた。秀麗な眉が困ったように下がり、寄り。
 望月は少し考えてから、切り出す。
「これは私の予想、だが、妹殿はキキ殿に会えるだけで、とてもうれしい。特別な仲直りは必要ない、と考える。……私にも兄がいた。いまは、家を出てどこかにいる。捜しているんだ。……会えたら、うれしい。そう思う」
 望月は訥々と言葉を並べた。綺麗に装飾した言葉を述べるのは得意ではない。だから、事実を端的に告げる。
「猟兵様……」
「望月でいい。……それでも気にしすぎて、考え込んでしまうなら、妹殿とおいしいご飯を食べたらいいと思う。空腹だと、要らないことばかり考える。腹が膨れれば自然と素直になれる、かもよ」
 何かと世話を焼いてくれた兄のことを思い出しながら望月は言った。
「そう、ですね……いつもは、妹が食事を作ってくれるんですけど。きっとまだ、調子が良くないと思うから――帰ったら、何か暖かいものを作ろうと思います。皆さんが、作ってくれたみたいに」
 ありがとうございます、望月さん、と。
 少し無理矢理にではあるけれど、キキは笑って感謝を告げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結

必ず守ると、言ったでしょう
取り返すことが出来て、良かったわ
ナユが出来る、最善の行動
身体を温め、ココロを癒すハーブティーを入れましょう
少女たちの食事や治療は、得意な方にお願いを
たとえ、ほんの少しだとしても
傷付いたココロを、温めることが出来るのなら

――〝姉〟とは、つよいものね
暗い表情、美しいお顔が勿体ないわ
思い悩むことが、沢山あるのかもしれない
家に帰って、「おかえり」と「ただいま」をしましょう
ごめんなさいは、その後で

此処は悪しきが蔓延る、常夜の世界
どんなに暗い常闇でも、きっと――…
ふたりの輝きは、塗り潰されることはないでしょう
キキとモーラ。互いを想う、ふたりの絆
ああ。こんなにも尊くて、美しいわ



●真夜中のティー・ブレイク
「少し、話さない?」
 少女らに食事が行き渡り出す頃、配膳の手伝いをしている途中のキキに声をかける猟兵がいた。蘭・七結(恋一華・f00421)である。
「え、あ……」
 キキは突然の声に目を瞬く。隣にいた猟兵がその手から、スープの椀を載せた盆を鮮やかに奪い去る。
「ごゆっくり」
「ありがとう。行きましょ」
 当意即妙のコンビネーションが発揮されるのは戦場だけではないのであった。七結は「あわ、」とか「ひゃあ、」などと声を発するキキの手を引き、厨房へ向かって歩き出した。

「取り返すことが出来て、よかったわ。……必ず守ると言ったもの」
 少女らを、ひいてはキキを。
 キキの協力で見つけた茶器を使い、持参の茶葉でハーブティを淹れながら、七結は眼を細めてキキを見つめる。
 視線を受けて改めて、キキは頭を下げる。
「……本当に、ありがとうございました。なんて言ってお礼したらいいか……私、あげられるようなもの、何もなくて」
「いいのよ。お礼が欲しくてした事ではないもの」
 七結は慣れた手つきで、暖めた大きなガラスポットに湯を注ぐ。たとえほんの少しだとしても傷付いた心を温めることが出来るのならと、祈りを籠めて。
 心を落ち着けるレモンバームとオレンジピールの二種を用意しつつ、七結は続ける。
「――〝姉〟とは、つよいものね」
「えっ……」
「モーラを、救おうとしたのでしょう、キキ」
 落ち着いた口調に牡丹の花を思わせる嫋やかな美貌。内側まで見通すような紫水晶の目に、キキはもぞもぞと所在なさげに身体を揺らした。
「……はい。本当に全部、ご存じなんですね」
 また会える、という喜びと、鉢を割ってしまった罪悪感とが綯い交ぜになってか、キキの表情は精彩を欠く。
「ええ。……暗い表情をしないで。美しいお顔が勿体ないわ。確かに思い悩むことが、沢山あるのかもしれない」
 七結はオレンジピールのハーブティをカップに注いで、キキに渡す。
「難しいことは考えなくてもいいとナユは思うわ。家に帰って、『おかえり』と『ただいま』をしましょう。ごめんなさいは、その後で」
「……出来るでしょうか」
「きっと、大丈夫よ。それに、モーラもきっと仲直りをしたがっていると思うわ。ナユにもあねさまがいてね……」
 七結はオレンジピールの香りに乗せるように己の思い出を語り紡ぎながら、思う。張り詰めたキキの心が、その一杯でほんの少しでも解れればいいと。
 ここはダークセイヴァー。悪しきが蔓延る常夜の世界。
 けれど、どんなに昏い常闇でも――あれだけ互いを想い合う二人の絆、その輝きが塗り潰されることはないだろう。
 ――ああ。こんなにも尊くて、美しいのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リコリス・シュピーゲル

同行者:枯井戸・マックス(f03382)
※呼び方は「マスター」

【WIZ】
マスターがコーヒーを淹れるというのなら、私はそのお手伝いでも致しましょうか
苦いコーヒーは苦手でも、それを運ぶことくらいならお任せくださいませ
何やらお悩みのキキさんには、私秘蔵のマシュマロもつけて差し上げましょうね
マスター、私の分は砂糖もミルクもしっかりたっぷりでお願い致しますわよ?

キキさんは猟兵と違って逆らうだけの力はないはずなのに、妹さんを守るために動きました
それだけ想える人が近くにいるというのはすごく幸せなことです
想い人のために動けるということも素晴らしいこと
だから、大丈夫ですわ


枯井戸・マックス
◉同行者:リコリス・シュピーゲル(f01271)
「まずはお疲れさん。久しぶりに張り切り過ぎちまったよ。おっちゃんは向こうで休んでるかな」

ボロボロの依代の額部分に戻り、よっこいせと起き上がる。
そして城の階段に腰を下ろし茶色いスーツケースを開けると、珈琲のドリップセットを広げ始める。

「リコ嬢ちゃんは砂糖たっぷりだろ?
嬢ちゃん達も飲んでみな。ホントの珈琲、飲んだことないんだろ。なんならうまいコーヒーの淹れ方も教えてやるよ」

城の片隅で香ばしい香りをあげながら、ゆったりと時間を過ごす。

「皆まだ15かそこらだろ?世の中って奴にうんざりするにゃまだ早すぎるよ。ここから、もう一度生まれ直して生きてみようぜ?」



●心も温む、黒い魔法
 ――まずはお疲れさん。久しぶりに張り切り過ぎちまったよ。おっちゃんは向こうで休んでるかな。
 戦闘後、一聴すればものぐさに聞こえないこともない台詞を発して依代の額に戻ったヒーローマスク――枯井戸・マックス(強欲な喫茶店主・f03382)が、今どうしているかというと。
 中央階段の隅っこに腰を下ろし、ドリップセットを広げていた。
 彼はUDCアースの片隅にある「古物と珈琲の店タムタム」を預かる店主でもある。
 カリコリと音を立てながらマックスはミルで豆を挽く。ふわりと漂う芳香が、周囲の少女らの興味を引いた。
「リコ嬢ちゃんは砂糖たっぷりだろ?」
 問いかける先にはリコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)の姿がある。厨房からポットに入れた湯を運び、マックスの作業をサポートしていた。
「勿論。砂糖もミルクも、しっかりたっぷりでお願い致しますわ」
「へいへい」
「手伝ったぶん、最高の一杯を期待していますわよ」
「善処するさ」
 フィルターをドリッパーにセット。挽いた粉をフィルターに入れ、均し、ドリップケトルで全体を湿らすように湯を注ぐ。蒸らし終え、粉が湯を吸って膨らんだら、円を描くように湯を注いで抽出。下のコーヒーポットに落とす。
 単純に見えるが、淹れるものの技量や哲学の現れる行程だ。最初の一杯にはミルクと砂糖をたっぷり入れて、リコリスに渡す。自分にはブラックで。
「ん――悪くない」
 味見して、サングラスの内側で目を細める。香りに惹かれ集まってきた少女らを見て、マックスは気負わぬ調子で告げた。
「嬢ちゃん達も飲んでみな。この世界じゃちょっとばかり珍しいかもしれんが」
「いいんですか?」
「勿論ですわよ。食事がまだの方は済ませてからいらしてくださいね。ほんの少し、大人の味がしますから」
 リコリスが補足をしながら、カップにコーヒーを注ぎ分ける。コーヒーのカフェインは、空きっ腹には些か刺激が強い。いたずらっぽい注意を交えながら盆にカップを乗せていく。
「不思議な香り……焦げているのに、芳しいような」
「ひあぁ、真っ黒ですよう、これ。本当に飲めるんですかぁ……?」
「これは何というお茶なのですか?」
 集まってきた少女らは、リコリスからカップを受け取ってしげしげと液面を眺める。マックスはフィルターを交換し、珈琲粉を均しながら説明した。
「これはな、珈琲ってんだ。実は茶じゃないんだが……まぁ、細かいことはいいさ。その調子なら、飲んだことないんだろ。気に入ったら、うまいコーヒーの淹れ方も教えてやるよ」
 UDCアースの珈琲の飲用史を思い出せば、ダークセイヴァーにこの文化が存在しないとしても不思議ではない。
 リコリスが配る珈琲をすすった少女達が、初めての味わいに目を丸くする。
「苦くて……でもいやな苦みではなくて。酸味もありますのね」
「不思議な味……」
 数人の少女が気に入った風に、ちびちびと飲み進める横で、一人の少女が眉を下げた。
「うう、わたしはこれ、ちょっと苦手かもぉ」
「でしたら、こうしましょう」
 応じたのはリコリスだ。少女の手からコーヒーカップを取り、テーブルにとって返す。
 ミルクポットに入れたたっぷりのコーヒーミルクを少女のコーヒーの水面に注ぎ、そこにダメ押しのきび砂糖をこんもりと入れ、ティースプーンでよく混ぜれば、甘いミルクの香りで丸くなったコーヒーの芳香。
「はい。私のとおそろいです。きっと、苦いのが苦手でも飲めますよ」
 自分のカップを持ち上げてみせるリコリス。飲めば、暖かく甘く、舌も心も満たす香味。思わずこぼれるリコリスの笑みに、少女もまた恐る恐るカップに唇をつける。
「あっ……これ、すっごく好き!」
「でしょう? おかわりもありますからね。気軽に仰ってくださいませ。……キキさんは、どうされます?」
 リコリスは目敏く、集まった少女らの間にプラチナブロンドの影を見出す。唐突に名指しされるとは思っていなかったのか、キキは目を瞬かせてまごついた。
「あっと、えっと、私はその通りかかっただけで……」
「遠慮は要りませんよ。……それにさっきから動き詰めじゃありませんの? 厨房でも見た気がしますし、先程はあちらで治療の手伝いをされていた気もしますし」
「あはは……いえ、その、動いてないと、なんとなく落ち着かなくて。皆さんに言われたこと、色々考えてると、考え込みすぎちゃうというか。あんなに沢山言葉を貰ったのに、いまもまだ漠然とした不安が取れなくて――」
 訥々と語るキキの手元に、スッと差し出されるのはソーサーに乗った温かなカフェオレだ。ソーサーに、やわらかなマシュマロが二つ添えられている。
 差し出されたソーサーとカップを反射的に受け取るキキに、リコリスは上品に笑った。
「何やらお悩みのキキさんには、私秘蔵のマシュマロもつけて差し上げましょうね。――無理に、その不安を取ろうとしなくてもいいと思いますのよ、私」
 目を瞬くキキに、リコリスは続ける。
「ただ、事実だけは忘れずにいらしたらいいと思いますわ。キキさんは猟兵と違って逆らうだけの力はないはずなのに、妹さんを守るために動きました。妹さんを、助けたかったからでしょう?」
「……はい」
「それだけ想える人が近くにいるというのはすごく幸せなことです。想い人のために動けるということも素晴らしいこと。不安は直ぐには消えなくても……キキさんが採った行動と事実はこうして残っている。私が保証します。――だから、大丈夫ですわ」
「……ありがとう、ございます」
 キキがしみじみとカフェオレの水面に目を落とすのを見て、マックスは満足げに笑った。きっと彼女は大丈夫だろう。場を締めるように、男はゆっくりとした口調で語る。
「コーヒー一つとっても、色んな飲み方がある。この世にゃ嬢ちゃん達が知らねえ楽しいことが沢山あるぜ。皆まだ十五かそこらだろ? 世の中って奴にうんざりするにゃまだ早すぎるよ。ここから、もう一度生まれ直して生きてみようぜ」
 珈琲の湯気のように、言葉は少女らの胸の内に浸みていったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
ケガ人の治療、手伝います。
僕の医術など応急処置程度のものですが…
切傷、擦過傷、熱傷、骨折…
およそ戦場でみる類のものであれば、回復を図るくらいは出来ますから。
手当の道具があれば話は早いが、無いなら無いで、シーツを裂いて代わりを作るなり、とにかく衛生を保つなり、
やれる事はきっとごまんと。
未だ不安な娘さんも居るなら、大丈夫ですよ、と。
悪い夢は終わりです。逢いたい方は、いらっしゃいますか?
もうすぐ帰れますよ。楽しみにしていましょう?
等と。人好きのしそうな笑顔で、気持ちの方にも添いながら。

プラチナブロンドが目に入れば、気にはなりますが…
歳近い方のほうが話し易くもあるでしょう。
おじさんは、見守ってますね?


有栖川・夏介

少女たちを診察します。
病気に罹っている者がいないか診ようかと。
【医術】は人を殺めるためではなく、救うために使いたいです。

病気がちな方には、栄養のあるものを食べてもらわなくてはいけません。
病気治療の一番の方法は食事ですから。
食事をするということは、生きるということ。
みなさんで楽しく食事をしましょう。

キキへ
……俺は誰かに気持ちを伝えるのが得意ではないから、アドバイスというにはおこがましいのだが……。
まずは一緒に食事をしてみては?
2人一緒に同じ場所で、同じものを食べる。そこから始めてみてもいいのではないでしょうか?

……帰りましょう。あなたの居るべき場所へ



●その手はきみを救う為に
 医術の心得のある猟兵らは、少女らの診察に当たった。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)と有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)が先陣を切って、少女らの診察を提案したのである。
「助かります。私一人では手が足りないところでした」
 クロトが微笑んで述べる礼に、夏介は首を横に振る。
「この人数は一人で診るには骨が折れますからね。この医術を救う為に使えるなら、本望です」
 この医術は、殺すためにではなく救う為に使いたい。その内心までは出さず、夏介は診察器具をまとめた鞄を肩にかけ直す。
「ありがとうございます。……ではまず僕は、包帯の予備を用意しましょう。確か集めてもらったシーツがあるはずです。後は……消毒液ですね。度の強い酒くらいならどこかにあるでしょう。捜してきます」
「助かります。では、私は一足先に診察に入りましょう。……ひとまずは西側から回ります。症状が重篤な娘から診ていきますので」
「では僕は戻ってきたら東から担当しましょう。また後ほど」
 夏介に頷き、クロトは笑みを一つ残して厨房のある方向へ消えていく。
 残された夏介は不安げな少女らへ向き直る。その無表情が祟ったか、少々恐れられている節は否めなかったが、夏介は気にした風もなく――少女らの緊張を和らげるように、ゆっくりとした語調で語った。
「今から、皆さんを診ていきます。……大丈夫。痛いことはしません。私の訊くことに、素直に答えてください。……それが済んだら、食事にしましょう。病気治療の一番の方法は食事ですから、ね」
 ゆっくりと言い含めるように語ると、夏介は床に敷かれた寝具に横たわる少女の元まで歩く。まずは立てないほど衰弱している者が優先だ。ゆっくりと跪き、げっそりとこけた頬の少女の検温から開始する。
 その無表情は動かず、必要な処置を施していく手は、機械のように正確無比だったが――常より、ほんの少し労るように優しかったという。

 一方のクロトは、シーツを縦に裁断して包帯を作り、手早く纏めて、キッチンから拝借した火のつきそうな蒸留酒を取り分け小瓶に詰め消毒薬とする。代用品を早急に作り上げる程度、数々の戦場を渡り歩く傭兵として慣らした彼には造作もないことだ。
 多数の代用品を作り終えたあとは、半数を巡回中の夏介に託し、もう半分を持って少女らの間を縫って歩き出す。
 クロトと夏介が行う診療は、このあと、ユーベルコードによる治療を行える猟兵の協力を仰ぐ必要があるか、ないかの切り分けがメインだ。ガーゼと包帯で済む程度のケガであれば彼らを疲れさせる必要はないし、内科的な不調に関しては傷を復元する類のユーベルコードでは対応できないと聞いている。
 クロトは少女らに、極力肌を晒させぬよう配慮をしながら、始終にこやかな笑みを絶やさず問診と触診を進めていく。
 幾人目だったか。顔に引き攣れた傷痕が走った少女の番が来る。クロトはそれを痛ましく思いながらも、決して目を逸らさず健康状態を確認する。顔の傷以外、特に問題なし。
「失礼、お嬢さん、お名前は?」
「あ、……わたし、エマって言います」
 怖ず怖ずと名乗る少女に、クロトは一枚の赤いプレートを渡す。
 適当な板を切って作った木のプレートは、対応内容をある程度類別するためのチケットのようなものだ。原始的だが、こうした複数人の意図の絡む大規模な治療現場では、混乱を防ぐための手段として有用である。
「では、エマ。君はこのプレートを持って、あちらの方に回って下さい。僕の仲間が、きっと治してくれますから」
「え――」
 少女――エマは、今や塞がり、醜く盛り上がった肉の痕となった傷口に触れる。
 プレートを受け取って、クロトとそれを見比べるエマ――不意に、その瞳から涙が零れた。
「本当、ですか」
 声が震えている。ああ、この傷を受けたとき、彼女はいかほどに絶望したろう。美しい顔をずたずたにされ、いかほどに苦しく思ったろう。
「ええ。悪い夢は終わりです。……逢いたい方は、いらっしゃいますか?」
「……幼馴染みに、……ハンスに会いたいんです、でも、この顔じゃもうダメかもって、……私だって分かってくれないかもって」
「大丈夫。綺麗な顔で、もうすぐ帰れます。だからもう怖がらないで。安心していいんですよ――」
 泣きじゃくるエマに寄り添い、その涙が収まるまでクロトはそこにいた。
 視界の隅で――夏介が、キキの診察をしているのをちらりと見る。
 大丈夫。きっと自分が言うことはない。二人が話すのを見守ろう――と、目を和ませながら思うのであった。

「身体は健康そのもの、問題なし。あとは、メンタル面の話だけ。……俺は誰かに気持ちを伝えるのが得意ではないから、アドバイスというにはおこがましいのだが」
 一通りの診療を終えた後、夏介は言葉を選びつつキキに言う。
「は、はい」
 緊張がちに応じるキキに、夏介は至極真面目な顔で提案をする。
「まずは一緒に食事をしてみては? 二人一緒に同じ場所で、同じものを食べる。そこから始めてみてもいいのではないでしょうか?」
 食事をするということが、生きるということならば。
 食事を共にするとは、きっと一緒に生きていくということだと、夏介は思う。
「……ふふ」
 キキが微かな笑い声を漏らす。夏介が問うように首を傾げると、彼女はどこか照れたように笑った。
「いえ、皆さん、私とモーラのことをすごく心配して下さるから、……嬉しくて。さっき、望月さんという方も、同じことを言って下さっていたから。……ありがとうございます」
「構いませんよ。何かの助けになれるならば、嬉しく思います。……帰りましょう。あなたの居るべき場所へ」
「……はい」
 まだ全ての悩みが晴れたわけではないが、それでも受けた言葉は活力となりキキの中を巡る。きっと、夏介の言葉も一つの助けになるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン


暗雲ははれた。
それならば俺はもうここに用が無い。

立ち去ろうかと思っていましたが……、
痩せた少女らの姿を見れば足も止まって。
……仕方ないな。
簡単な手伝いくらいはしていきましょうか。

声を掛けるのは苦手だし、回復の術が使えるでも無し。
やれることと言えば、ざっと周囲の様子を見て
具合の悪そうな少女について他の人へ伝えるくらいですね。

――今回の件が明るみに出たのは、
双子の姉妹がキッカケだったか。
俺にも兄がいる。もし同じような状況に置かれたとしたら、
あの人も俺を庇うだろうな。

……無事でいてくれたらと願っている筈だ。
仲直りなんて心配せずとも出来るだろうから。
白金髪の彼女には、特に声を掛けぬまま。

見守ろう。



●見守るは影の如く
 右を見ても、左を見ても、忙しく行き交う猟兵ばかり。
 ようやく失意の底から救われた少女らを、救わんと動くもの達。
 ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は、最初、彼らに混ざらず帰るつもりでいた。元より回復術の心得はないし、人助けはガラではない。声をかけるも苦手、とくれば、出来ることの方が少ないだろう。
 けれども痩せこけ、目から光を失った少女らをみれば、何もせずに帰ることも憚られた。
「……仕方ないな」
 嘆息する。それは或いは、斜に構えながらも情を捨てきれない自分に対する溜息だったのかも知れない。ヨハンは『蠢闇黒』を掌を被せ、最小で解放する。手の間からこぼれ落ちるように、ごく細い闇の糸が垂れる。
『失礼』
 伸ばした糸を、少女らを診察して回る二人の猟兵に届けた。自らの声を伝わせる闇だ。
『目は、多い方がいいでしょう。急を要する娘がいれば、お伝えします』
 闇の糸を伝い、了承の声が帰ってくるのを確かめたあと、ヨハンは外套を翻して歩き出す。
 近距離に、自分の影を伸ばし、不自然な呼吸がないかを走査して回る。喘ぐような呼吸をしている者がいれば、その位置を闇伝いに医猟兵らに報じる。
 そうする裡に、少年は自分と同じく、囚われていた少女らを案じて奔走するプラチナブロンドの少女を目の端に留めた。キキだ。不器用ながらに、猟兵達の指示の元、自分に出来ることを健気にしている。
 出来ないことに、足掻くように。出来ることを、探すように。
 それは嘗ての自分の姿を見るようだった。自分に出来ないことをする、眩しい誰かに憧れるように、何が出来るかと考え続けて足掻くような。
 今回の件が明るみに出たのは、彼女ら、キキとモーラの姉妹がきっかけだったはずだ。キキは妹を、モーラを庇った。自分が死ぬか、妹諸共に死ぬかという状態で、自分の命を差し出して妹を守ろうとした。
 ヨハンには兄がいる。眩しい、自分に出来ぬ事を正しく、真っ当に成し遂げる兄だ。きっとあの人も、同じような状況になれば自分のことを庇ってくれるのだろうと思う。
(……それを考えたなら)
 妹は、姉が無事でいてくれたら、と願うだろう。
 仮に兄が自分を庇ったとしたら、そしてその安否が知れぬとしたら、無事を祈らぬ訳がない。
 モーラが、自身を助けてくれた、眩しい姉の姿を忘れるはずがあるまい。
 ――キキがする心配は、きっと全て杞憂に終わるだろう、とヨハンは考える。心配しなくたって仲直りできるに決まっている。
 そっとキキから視線を外して、ヨハンは前に向き直る。特別に掛ける言葉はない。――ただ、彼女のこれからに幸多からんことをと、一つ願っただけだ。

 闇揺は影を伸ばす。
 誰かの喘鳴を聞けば、それを癒し手に伝えるため。ただ、自分に出来ることをする。
 キキがそうであるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック


(ザザッ)
オブリビオン討伐完了を確認、臨戦態勢を解除。

――治療に関しては専門とはいえないが、多少のサポートはしよう。

(ザザッ)
時間遡及空間"Undo"展開。
被害者達の状態をここに来る前の"健康な状態"まで巻き戻し復元する。
拘留中に物理的な怪我等を負った者達の治療を請け負う事としたい。
物理的な快癒以外は門外漢だ、他の猟兵に任せる。

(ザザッ)
――人との関わりで悩むのであれば
本機から言えるのは1つだけだ。
失ってからでは遅い。
君が体験した様に、別れとは不意に訪れるかもしれないものだ。

――あの時、ああしていれば良かった。そうして悔いるのは存外辛い。
君が本機と同じような後悔を抱えない事を、本機は願う。



●怪物の追憶
 オブリビオンの脅威は去った。
 ここは屋敷の入口付近に設えられたスペース。
 臨戦態勢を解除すると、ようやく視界が通常に戻る。複雑な数値、各種距離算出結果、ロックオンマーカー、方位情報などが消えた視界の中、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)はざわめきの中を振り向いた。
 向き直るジャガーノートの前に並ぶのは、『負った傷が、治ってしまった者』……つまりは、消えぬ傷跡を抱えた少女らだ。顔に、手脚に、胸に、背に……その顔は一様に暗く、希望を失ったかに見える。
「こっちだよ! 赤プレート持ちの皆、押さないでゆっくりね!」
 キキが声を張り、少女らを案内していた。縦横無尽と働くキキだったが、今度はジャガーノートのサポートを行っている。
 整列する少女らの前で、特徴的なノイズを伴う話し声で、ジャガーノートは告げた。
『これより処置を行う。五名ずつだ。隣とは少し間を空け、楽に呼吸して待ってくれ』
 少女らの位置を調整し、キキを念のため己の横まで下がらせる。少女ら一人一人を別個に取り巻くように、ジャガーノートはユーベルコードを展開した。
 時間遡及空間“Undo”を構築。空間に収まった少女らの身体、その一つ一つに固有時間制御変数を定義し、巻き戻しを開始。
「……?!」
 空間の中で少女らが何事か発する言葉さえ、逆回しに聞こえる。ジャガーノートは少女らを見つめながら、それぞれの身体状況をスキャン。傷が消える状態まで時間を巻き戻し、傷痕を『なかったこと』にする。
 ジャガーノートがUndoを解けば、呆然とした様子で傷口をなぞる少女らが残される。戸惑いは、直ぐに喝采に変わった。抱き合い、安堵の涙を流しながらへたり込む少女らを見ながら、彼は一つ頷く。
「――魔法みたい」
『種も、仕掛けもある。決して魔法のように万能ではない。これを使っても、人の絆は直せない、死者も帰らない』
 呆然と言う傍らのキキに、男は呟くように言った。キキは弾かれたように、ジャガーノートの顔を見仰ぐ。黒豹は正面を見たまま続けた。
『――人との関わりで悩むのであれば、本機から言えるのは一つだけだ。――失ってからでは遅い。君が体験した様に、別れとは不意に訪れるかもしれないものだ』
「……はい」
 キキは、自分の身を襲った、ほんの数時間前のあの瞬間を思い起こしたように身を震わせる。ジャガーノートはその時になって初めて、キキへ真っ向から視線を向ける。
「あの時、ああしていれば良かった。そうして悔いるのは存外辛い。君が本機と同じような後悔を抱えない事を、本機は願う」
 キキの瞳が揺れる。
 聡い子だ。問い返そうとはしない。けれど目が訊いている。『いつか、誰かを喪ったのですか』と。ジャガーノートは、それに応えることはないまま、前を向き直った。
 鋼鉄の兵士の顔をして。
『次の五名、前へ』

 ――いつか君に会えたならこのことを話すよ。そのときにはどうか、教えて欲しい。
 ――僕は巧く出来ただろうか、ハル。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ

治療なら、マリアに任せて。
どんな傷も治してあげる。水や食事もたくさんあるなら、すぐ良くなるわ。

それと、キキお姉さんね。マリアには妹もお姉ちゃんも居ないから、姉妹喧嘩ってよくわからないけれど……妹さんを守るために、キキお姉さんが振り絞った勇気に比べたら、謝るのはずっと簡単じゃないかしら?
悲しいけど、この世界はそれが出来なくなっちゃうことが、きっととても多いから。
だから、キキお姉さんは、きちんと伝えてあげて。
これからも妹さんを支えるのはキキお姉さんで、キキお姉さんを支えるのは妹さんなんだから。
どうしても不安なら、マリアも一緒に行って手を握っててあげるわ。
だから、ね? きっと、大丈夫。



●きみを照らす光
 ジャガーノートがすでに癒えた傷の復元を担当する中、進行形で傷に苦しむ少女達――一様に黄色いプレートを持っている――は、アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)がその光で治療を施していく。
「大丈夫。治療ならマリアに任せて。どんな傷も治してあげる」
 アヴァロマリアは十歳の少女である。いかにも幼く見えるが、然りとて彼女は聖者であった。
『生まれながらの光』で、傷を負った少女達を照らす。傷が淡い光に包まれ、痕すら残さずに癒着し、或いは代謝して消えていく。
「わあ……すごい、痛くない!」
「ありがとうございます! 猟兵様!」
「いいえ。当然のことをしただけよ。だってマリアは聖者だもの」
 今この瞬間もユーベルコードの使用により疲労が襲うのに、それをおくびにも出さない。
 治療を繰り返し、黄色いプレートの列がおおよそ捌ける頃、椅子に腰掛けたアヴァロマリアに温かい茶のカップが差し出された。
「お疲れ様です、猟兵様」
 キキである。
「マリアと呼んで。様づけはなんだかくすぐったいわ、キキお姉さん」
「あ――じゃあ、ええと、お疲れ様、マリア」
 応えにアヴァロマリアはにっこりと笑うと、礼を一言、カップを受け取り一口すする。一息ついて、
「ちょうど良かった。一言、伝えたいなと思っていたの」
「……私に?」
 キキが指で自身を示し首をかしげるのに、アヴァロマリアはこくりと頷く。
「他のみんなからも色々、言われてるかもだけれど」
「あはは……皆、すごく心配してくれて。なんだか畏まっちゃう」
「心配しているのよ。みんな、一言かけたかったの。マリアもその一人よ」
 頬を掻くキキに、アヴァロマリアは微笑みを浮かべて続ける。
「マリアには妹もお姉ちゃんも居ないから、姉妹喧嘩ってよくわからないけれど……妹さんを守るために、キキお姉さんが振り絞った勇気に比べたら、謝るのはずっと簡単じゃないかしら? 悲しいけど、この世界はそれが出来なくなっちゃうことが、きっととても多いから」
 核心を突かれたという風に、キキは胸に手を当て、少しだけうつむく。
「……うん。さっき、あの黒い豹の兵隊さんにも、同じことを言われた。亡くしてからじゃ、何もかも遅いって」
「――ええ、その通りよ。この世界は、優しくないわよね。けど、まだキキお姉さんは何もなくしてないわ。だから、きちんと伝えてあげて。これからも妹さんを支えるのはキキお姉さんで、キキお姉さんを支えるのは妹さんなんだって」
 うつむき加減だったキキが、ゆっくりと顔を上げる。
「……そう、だよね。いつだって、私はモーラと一緒にいたんだ。これからだって、きっと」
「そうよ。……もし、どうしても不安なら、マリアも一緒に行って手を握っててあげるわ。だから、ね?」
「……ふふ、マリア、私よりずっと小さいのにお姉さんみたいな事を言うのね」
 ありがとう、とようやく明るく、キキは笑った。
「ふふ、だってマリアはあなたを助けるためにここに来たんですもの」
 きっと、大丈夫。
 何もかもうまくいくわと、アヴァロマリアは優しく笑い返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

遙々・ハルカ


》人格『ハルカ』


アイツ今引っ込んでんのウケる
人の身体使って助けるだけ助けて終わりとか
オレ何もすることねェし明日絶対筋肉痛だし


飴しかねーわ

飴玉配りお兄さんになる
一人一個
なくなったら終わり
あーこういうの、ここの奴らって二度と食えないのかもな

エート
なんつったっけ
キキ?
ああ、キミにもあげるよ
ふたつね
妹だっけ?いるんだろ?
オレさァ、きょうだいとか家族とかいないの
どんな感じ?大事にしたいものがあるって

へえ
全然わかんねェ~
わかんねェけど、でもさァ
ニンゲンて言葉だけじゃなく身体も持ってるから
ボディランゲージつーんだけど
その辺で伝えれば?
こう
抱き締めるとかいうヤツだよ
おやすみやお別れのキスもそう

じゃあね



●愛の形について
「もうマジウケるわ、なんでアイツ今さら引っ込んでんだよオイ」
 救われた少女らの間を縫うように歩きながら、遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)は呟く。
「たくよォ、人の身体使って助けるだけ助けて終わりとかさァ……オレ何もすることねェし明日絶対筋肉痛だし」
 彼には魂の同居人がいる。名を、『トヲヤ』。彼は敵を屠ったきり、主導権をハルカに渡して心の内側に引きこもった。
 少女らに掛ける優しい言葉の一つも出てこないのに。くれてやれる物なんて――と、ハルカは手持ちの荷物を改める。
「……あァ」
 一つだけあった。
 探ったボディバッグの中に、色とりどりの飴玉が。

「一人一個だかんね。なくなったらおしまいだよ」
 集まってくる少女らに飴玉を配る。少女らからしたら宝石のようにも見えたかも知れない。
 ――ああ、こーいうの、ここの奴らって二度と食えないのかもな。
 甘味に目を輝かせ集まる少女らを見れば、寂しさに似た感慨が湧く。
「はァい、売り切れ。渡せなかった子達はゴメンな」
 手持ちを配り終えると、ハルカは踵を返して歩き出す。受け取れなかった少女らの残念そうな顔は見ない振りをした。ないものは渡せないし、既に渡せるものは渡した。
 少し歩く内、ホールの隅で物思うように立ち尽くす白金髪の少女を見付ける。ハルカはポケットに手を突っ込んで探りながら、彼女に声をかけた。
「エート、なんつったっけ。キキ?」
「あ、はい!」
 顔を跳ね上げ応ずるキキに、ポケットから出した手を突きだした。
「コレ、キミにもあげるよ」
「えっ、あっ、ありがとうございます」
 キキが出した掌の上に、最後の飴玉を二つ落とす。
「二つね。妹だっけ? いるんだろ?」
「……はい、きっと……今も、家に」
 戸惑いがちに答えるキキに、ハルカはマイペースに続けた。
「オレさァ、きょうだいとか家族とかいないの。どんな感じ? 大事にしたいものがあるって」
 キキは目を丸くしたあと、悲しげに眉を落とすが――内面に立ち入ることのないような言葉を選んで、告げる。
「……自分の命を擲ってでも、助けてあげたいというか。いなくなられたら、自分が死んでしまうくらいに悲しいというか」
「へえー、全然わかんねェ~」
「ちょっと、抽象的過ぎるでしょうか」
 キキが眉を下げるのに、ハルカはヒラヒラと手を振った。
「多分なんて説明されてもわかんねェからいいよ。ンー、わかんねェけど、でもさァ」
 ハルカは言葉を飾ることをしない。けれどそこに嘘はなかった。
「なんか悩んでるみてェだけど。ニンゲンて言葉だけじゃなく、身体も持ってるから。ボディランゲージつーんだけど、その辺で伝えれば? こう――抱き締めるとかさ、おやすみやお別れのキスもそうだけど。大事な妹なんだろ。なら、出来ることは全部してやンなよ」
 言うなり、じゃあね、とキキの肩を叩き、ハルカはキキの傍らを歩み抜ける。

 後ろで頭を下げる気配がした。別に礼が欲しかったわけじゃないのに。
 ハルカは手を挙げ、ひらりと振った。そのまま、気の向く方へ歩いて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


さて、と…端役はアフターケアも大忙しだぜ。ジューヴどもの面倒を見るガラじゃねーけど…後で主役達に文句を言われるのも癪だし、ちょちょいとやってやっか…ついでに、キキの方もな。

ったく、ウダウダ悩んでんじゃねーよ。行動しなきゃ始まらない、言葉にしなきゃ伝わらないんだ。性悪ババア相手に、妹の存在を隠した胆力を思い出せ。そん時に比べれば、一言謝るくらい余裕だろ?
それにな、謝るってのは、許してもらう為の行為じゃねーんだ。
自分の罪悪感にケリつけるためのもんなんだよ。許してもらえないかも…なんて考えて足踏みする暇があるなら、行動しろ

あーあ、なんで端役がこんなこと言わなきゃ…
ジューヴどもをUCで治療してくるわ



●世話焼き怪盗と迷い子の決意
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、とにかく気配りの鬼である。本来的に彼は電脳魔術士であり、戦場に於いて他人のサポートをするのに慣れきっている、ということもあるのだろう。
 自らを端役と称する彼は、少女らに配膳をしたり、毛布を運んだりと、ホールをきりきり舞いと歩き回っていた。
「ジューヴどもの面倒を見るガラじゃねーんだけどな……ま、あとで文句言われるのも癪だし、ちょちょいとやってやっか」
 ハンドルを『Arsene』と字する彼は超一流のデータシーフだ。若年にして、その能力は猟兵の中でもかなりの上位に位置する。その腕前に掛かれば、ちいさなケガを抱え、治療が後回しになっている少女らのケガをデータ化して分解する程度造作もない。
「ありがとうございます、猟兵様……!」
「いいっての。畏まるなよ」
 感謝の言葉を払うように手を振り、ヴィクティムは直ぐに立ち上がって背を向ける。
 向き直った先に、今も動き続けるプラチナブロンドが揺れるのが見えた。キキだ。疲れるのにも構わず動き続けている。
 けれど猟兵達から受け取った言葉に、報いようとしているのか何なのか――考え込むような表情が消えることはない。
 不器用だ。正直で、真っ直ぐで。
「……ま、ついでにな」
 忙しそうに動き回るキキに足を向け、ヴィクティムは早足に進む。
「キキ」
 呼びかけは直截に。振り向く少女の間近に寄って、皺の寄ったその眉間に人差し指をトンと突く。
「あたっ」
 目をきゅっと瞑ってよろめくキキに、ヴィクティムはいつもの調子でまくし立てた。
「ったく、ウダウダ悩んでんじゃねーよ。行動しなきゃ始まらない、言葉にしなきゃ伝わらないんだ。性悪ババア相手に、妹の存在を隠した胆力を思い出せ。そん時に比べれば、一言謝るくらい余裕だろ?」
「えっあ、は、っはい」
 突如告げられた言葉に目を白黒させるキキに、言い聞かせるように続ける。
「それにな、謝るってのは、許してもらう為の行為じゃねーんだ。自分の罪悪感にケリつけるためのもんなんだよ。許してもらえないかも…なんて考えて足踏みする暇があるなら、行動しろ。お前も、妹も、生きてるなら……何度だってやり直せるからよ」
 言いたいことを並べ立て、ノックするようにキキの肩を手の甲で叩く。
 あたふたしつつも受け取った言葉を咀嚼し、キキはこくりと一つだけ頷いた。
「……ありがとうございます。私、……今日、たくさんのことを教わりましたから。頑張って、みますね」
「そーしてくれ。うまく行くように祈っといてやるよ」

 ――あーあ、なんで端役がこんなこと言わなきゃならねぇんだか。説教なんてそれこそガラじゃねえのにな。
 ヴィクティムは、まだ表情が冴えないにせよ、目の光を取り戻しつつあるキキに、世話が焼けるぜと笑みを投げ、人混みに紛れた。
 脇役の仕事は、まだまだ尽きねぇからな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト


ミーユイ・ロッソカステル(f00401)と

キキの元へ向かう途中、ミーユイに声を掛けられ
務まるか否かはまだ自己評価できん
ミーユイや、何処かのハッカーくらい気が回れば良いのだがな

素直になれないと悩んでいる、と聞き及んで尋ねるが
ずっとそれが思考に上る程度に拘る理由のある相手、なのだろう
そして。お前が直面した事態は、その妹にも平等に訪れるかも知れない
喪失は今この瞬間ですら起こりうると、そう実感できたはずだ

その事実は、お前の脚を絡め取るものを振り払う理由に、弱いか


ミーユイ・ロッソカステル

「アルトリウス・セレスタイト」と


キキの悩みを聞こうとするアルトリウスを見かけては

……愚直に言葉をかけるのは結構だけれど。あなたで相手が務まる?
……………でも、そうね。この男くらいに素直になれれば話は早いのでしょうけれど。そうもいかないのでしょう?

……例えば、いきなり謝るのではなく。楽しい話、大きな出来事の話……此度のことなんか、それこそ話題としてはいいんじゃない?
そういった話を振ってみて、ふと空気が柔らかくなったような、普通に話せているような感覚を覚えたなら。
きっと、伝えたかった言葉は紡げるわ。

……いきなり本題や、そのものにだけ触れる必要はないの
迂遠さも時として重要なのよ。……おわかり?



●虚と紅、而して優しく
 混雑したエントランスホール。左右を見回し、男はプラチナブロンドを探していた。
 ワーカホリックのように、縁もゆかりもない少女らの面倒を見続ける少女を探してのことだ。超然とした雰囲気を纏いキキを探すのは、アルトリウス・セレスタイト(原理の刻印・f01410)である。
 無表情に鉄面皮。感情がないかに見える少年は、しかして自分のやるべきことを自分の思いに基づいて執り行う程度には情動を持っている。
「捜し物でもあるのかしら、アルトリウス」
 不意に横から声が紡がれる。アルトリウスが向き直ると、そこに立っているのは桃から紅への鮮やかなグラデーションの髪をした麗人。ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)だ。
「言える事があるなら、言っておくのがよかろう」
 誰に、何を。
 そのあたりをすっ飛ばして答える少年に、ミーユイは額に指をやった。あまりに予想通りだ。
「やっぱり、キキを探しているのね」
 ミーユイの知る限り、アルトリウスは弁が立つ方ではない。……いや、むしろ言葉少なに意を発するせいで他者から誤解されがちな男だ。
「愚直に言葉を掛けるのは結構だけれど、あなたで相手が務まるかしら?」
「務まるか否かはまだ自己評価できん。お前や、何処ぞのハッカーくらい気が回ればいいのだがな」
 アルトリウスは顎に手をやる。さりとて、と彼は言葉を継いだ。
「言わねば、何も伝わるまい」
「……不器用な男(ひと)」
 ミーユイはすらりとした指先で横合いを指した。
 その指先の延長線上、かなり遠間に、今度はずれた毛布を直して回っているキキがいる。
「一緒に行ってあげる。その熱心さに免じてね」
 助かる、とばかり大きく頷くアルトリウスに、ミーユイは「仕様のないひと」とばかり、あきれ顔の――けれど好意的な笑みを浮かべるのだった。

「失礼、少しいいかしら?」
 キキの前に現れたのはどこぞの深窓の令嬢か、存在自体が朧気に光を孕むような、輝きを帯びた女性だった。桃色の髪が印象的な、金眼の女。
「はっ、はい!」
 相対すれば思わず背筋が伸びるような美貌に直立するキキの前に、うっそりと銀髪の男が進み出た。無表情。光を呑む藍色の瞳。息を呑むほどに背が高い。実際、キキは思わず一歩後退った。
「アルトリウス」
 制するような女の声に、男が半歩引く。
「……驚かすつもりはない。素直になれないと悩んでいる、と聞き及んで尋ねにきた」
 朴訥な言葉に、キキは幾度か目を瞬いた。
 猟兵らは、どうしてこんなにも自分によくしてくれるのだろう、とキキは思う。こんな、辺境の村娘のごく私的な事情に、こんなにも真摯に寄り添ってくれるのだろう。
 キキの思いをよそに、男――アルトリウスと呼ばれた――は声を続ける。
「ずっとそれが思考に上る程度に拘る理由のある相手、なのだろう。そして、お前が直面した事態は、その妹にも平等に訪れるかも知れない。喪失は今この瞬間ですら起こりうると、そう実感できたはずだ。――或いはこれも、既に言われたことかもしれないが」
 ――ああ、そうだ。あの、豹を模した甲冑の男にも言われたことだ。
 世界は思ったよりも危ういバランスで成り立っている。一歩進んだ先は奈落かも知れない。
 アルトリウスは、問うと言うよりは断じるような口調で続ける。
「その事実は、お前の脚を絡め取るものを振り払う理由に、弱いか」
 全てが喪われる恐怖よりも、素直になれないという思いが勝つのか、と男は言った。……ああ、そんなことはない、ないだろう。モーラと二度と会えないと思ったとき、自分は何を思っただろう。
 ごめんね、と。
 心の底から思ったのだ。もう一緒にいられなくてごめんね、鉢を割ってしまってごめんね……至らない姉でごめんね、と。
「でも、そうね。この男くらいに素直になれれば話は早いのでしょうけれど。そうもいかないのでしょう?」
 桃色髪の女性が、男の言葉を継いだ。
「難しく考えることはないの。……例えば、いきなり謝るのではなく。楽しい話、大きな出来事の話……此度のことなんか、それこそ話題としてはいいんじゃない? 楽しいかと言われれば微妙だけれど、貴女は今も生きているのだから」
 女は一歩キキに歩み寄り、手をゆっくりとすくい取った。ひやりと冷たい女の手を、キキは思わず温めるように握り返す。
「そういった話を振ってみて、ふと空気が柔らかくなったような、普通に話せているような感覚を覚えたなら。きっと、伝えたかった言葉は紡げるわ。恐れずにいなさいな。アルトリウスは脅かすように言ったけれど――何も言えずに喪われてしまうことを思えば、今さら素直になる程度造作もないだろう、と言いたかっただけなのよ」
 桃色の髪の女は、目をとろりと細めた。それは、優しい優しい笑みだった。
 見れば、男も一つ頷いている。きっと、その通りだと言うことなのだろう。
「……いきなり本題や、そのものにだけ触れる必要はないわ。迂遠さも時として重要なのよ。……おわかり?」
「――はい」
 ああ、こんな風に声をかけられるひとに、私もなれるだろうか。
 傷つき打ちひしがれた人へ、優しく寄り添えるような人に。
 緩く握り返してくる女の手を、キキは目頭を湿らす涙を覚えながら握った。
 絞り出すように、ありがとうございますと、二人に言う。

 彼らの思いに、自分は救われている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
◎適材適所ってコト、で
並べんのも運ぶのも、足りないもんがあんなら取ってこよ
あっちにこっちに行きながら
遠慮してる子がいるんなら声掛けて
間に合わなかった子もいるなかで
助かったんだから、これからも目一杯に咲き誇らなけりゃ
それにゃ栄養も休養も、我儘だってきっと大事だ
不安なこの傍らに、置くのはまあ
まあ作れる感じのミルクセーキと

全然、予想のつかないお仕舞って沢山あって
後悔したってきっと遅くってさ
……間に合わないことも全然あって
――ここまでは伝わなくてもいい話
すこしでも機会があんならさ、キキ
ちょいとつかえたもんなンて顔合わせりゃすぐ溢れちゃうさ
仲直り、出来っと良いね
笑って伝えよう、泣かずに頑張ってた、きみに



●或いは月のように、思いに添う刃
 ひょいひょい、と足取り軽く男は行く。荷物をたくさん抱えても、彼の足取りが鈍ることはない。少女らに食事や毛布を運んでやり、時に動けぬ少女を抱き上げて世話をしてやりながら、シャシュカは赤の瞳を細めて笑う。
「助けがいるなら言っておくれよ。折角救えた命さ。遠慮なんてしないで。また咲き誇る助けになりたい」
 ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は、秀麗な眉目を飄々とした笑みで染めて、少女らの間をくるくると世話して回る。時折注がれる熱い視線に、「ヤケドしそうだ」と片目を閉じて見せ、冗談に包んで、花を愛でるように。
 スープだけしか受け付けず、床に伏すまま食事を終える少女らには、盆にのっけた秘伝の一杯。
 しゃがみ込み、身を起こすのを助けて、カップをそっと手に取らせる。
 中庭で採れた鶏卵と、絞りたての牛のミルクとで作り上げたミルクセーキ。暖かで優しく甘い湯気。
「受け付けるなら、少しでも飲んでおきなよ。きっと元気になれるからさ」
「あ、ありがとう、ございます」
 頬を染めカップを手に持つ少女にカラッとした笑みを注いで、ユルグはその背からそっと手を離し、立ち上がる。
 首を巡らせば、銀髪の男と桃髪の女の二人組が、キキに声をかけ終え離れるところだった。
 さて、ま、それじゃあ一声掛けようか。
 ユルグは残り一カップのミルクセーキを載せた盆を五指で支えて、風に吹かれるような調子でキキの方へ歩く。
「人気者だね、キキ」
 かける声に振り向くキキは、目を赤くしていた。目元を擦り、瞬く。
「ッ、……皆さん、すごく優しくて、私なんかに、勿体なくって、」
「無理に喋んなくて大丈夫。ほら、これ。作ったからさ、飲みなよ」
 暖かなカップをキキに渡して、ユルグは少女のプラチナブロンドをそっと梳った。
「……全然、予想のつかないお仕舞って沢山あってね。後悔したってきっと遅くってさ。……間に合わないことも全然あって、そういうの、積み上げながら生きてんの。俺達」
 嘗て只のシャシュカとして、月下に光ったときも。今、こうして何かのカタチを模して、猟兵として生きてさえ。どんな風に生きても悔悟はなくならない。
 伝わらなくても構わない。自分が思うだけだ。
 ――でも、だからこそ。だからこそだよ、キキ。
 顔を合わせること、躊躇わないで。
「すこしでも機会があんならさ、キキ。ちょいとつかえたもんなンて顔合わせりゃすぐ溢れちゃうさ。仲直り、出来っと良いね」
 ただただ頷きながら、キキが零す嗚咽。ユルグはあやすように寄り添う。
 月の光のように優しい微笑みを、彼女のつむじに注いで。
「よく、泣かずに頑張ったね。偉いよ」
 大きな掌で、背を叩いてやろう。
 きっと、うまく行くよ。――大丈夫。

 俺のものだけじゃない。きみには、もうたくさんの言葉が注がれたはずだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラビット・ビット

ビットくんねぇ
愛を強要された女の子たちが今後愛に怯えないかが心配なんですよ~
本当ですよ本当!
そんな!オトモダチを増やしたい気持ちなんてちょっとしか5…8割くらいしか!
まあとにかくですね
心が疲れてる子たちのヒーリングケアですよ!
いい場所だってのは助けた子が
証明してくれる筈!

っというわけでこれから皆たちには自堕落な生活を送ってもらいます!
ちゃーんと自分の食料と寝具はもってくださいね!
治療が終わった女の子から図書館にご案内
布団の上でだらだらしながらビットくんの集めた最高のコレクションを読んでもらいましょう
BLGLNL何でもござれです
あ、年齢確認はちゃんとしますよ!
このまま馬車に乗れば快適な旅です!



●まさかまさかの同人奈落
 愛を強要されるなんてことがそもそも、現実にあっていいわけがない。
「そういうの許されるの二次元までだってビットくん思うんですよねぇ。愛に怯える少女を愛で癒す、みたいなの、ビットくん的には超オッケーベリグーなんですけど、現実だと解釈違いっていうか、そもそもそういうふうに怯えることになっちゃうような、そんな可哀相な体験してほしくないっていうか」
 早口でまくし立てるのはラビット・ビット(中の人等いない!・f14052)である。
「そう、純粋に心配なんです! 愛を強要され愛に怯えるなんてことがあってはいけないとそう思うだけなんですよ! なので色々な愛の形について思索を深めていただき、今後の人生の糧にしていただきたいようなところがなきにしもあらず的ななにか!」
「ホントの所は?」
「オトモダチを増やしたい気持ちが八割……ハッ!? 誘導尋問?!」
「丸出し過ぎるだろ……」
 横槍を入れた猟兵も思わず呆れた突っ込みを入れる有様。
 けれども少女らを想う気持ちはきちんとあるようなので、まあ少女たちがそれを良しとするのなら……と、止める猟兵は今のところいない。
「心が疲れてる子たちにはですね、ヒーリングケアあるのみです! いいところなのはさっきビットくんの図書館に来てくれた皆が証明してくれる筈!」
「「「「お任せ下さい、ビットくん!」」」」
「いぇーい!!」
 すっかりふくふくつやつやになった少女らが四名ばかり。いずれもラビットが見せた本に魅せられて道を踏み外した――否、ちょっと特殊なタイプの恋愛創作に目覚めた少女らである。沐浴、治療、食事、休息を経て、今再び少女らは図書館へ旅立とうとしているのであった。
「ふふふ……先程は救出されたてで刺激の強い作品は控えていましたが! 体力の整った皆たちにはこれからとっておきのビットくん・ベスト・セレクションを読んでもらいましょう! きっとお家に帰るまでにいくつも新しい性癖に目覚めること請け合いです!」
 それ目覚めさせていいヤツなのかお前。
「アッ、勿論年齢確認はちゃんとしますよ!」
 そういう問題じゃねえよお前。
「ビットくん、こっちの二人も興味あるらしいです!」
「バッチこーい!!」
 ラビットは楽しげに少女らを、手に持った本めいた外見のガジェットに吸い込んでいく。

 はっちゃけた言動をしつつ、ラビットは悲しみに暮れる少女らを無理に誘おうとはしなかった。
 取り戻せぬものを悼む最中だ。空元気で吹き飛ばそうと思える者、そうでない者が当然甲乙存在する。
 ――だから、夢を見たがる子たちを。
 この屋敷に残したモノなどもう何もないと、直ぐに飛び立てる娘たちだけを、彼は図書館に招き入れるのだ。

「ふふふ、さぁて、ビットくんこれくしょん第一弾からご案内しますよぉ……!」

 ……まあ、それはそれとして、来た少女らは容赦なくアレな路へ突き落とすのだが。
 本型ガジェットをカチカチ弄りながら、ラビットは若干悪い目つきでかなり悪い笑いを浮かべるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

わたくしも、ユーゴさまといっしょに。

……いえ。いいえ。
いのりは、いきているひとのものです。
もういないだれかを想い、わからないゆくさきを想い、そこにあかりを灯すために。
それができるのは、いきているわたくしたちだけですから。
ユーゴさまのいのりは、きっと、あの子たちの先行きを灯します。

遺品などもあれば、よいのですが。
同じ場所から来たひとがいらっしゃれば託して、
そうでなければわたくしたちが弔いましょう。
どうかしあわせがありますように。

……、ヴァンパイアに同情するこころなど、ありません。
――けれど。でも、ユーゴさま。
この先に、こころも餓えないせかいがあるとよいです、ね。


ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

生きている少女らは、他の者に任せても構わないだろう。
俺は黒薔薇の少女達の為に祈ろう。
意味の無い事かもしれないが、望まぬ隷属を強いられ最後には燃えて尽きた少女達が不憫でならないんだ。

そうか、そうだな。
迷いなく逝けるよう灯ってくれれば良いな。

墓のひとつでも作ってやろうかと思うが、戦士でもない彼女らの墓標に武器は使えない。
何か代わりになる物があればいいのだが。

生き残った少女の中に、仲の良い者が黒薔薇の少女となってしまった者が居たら、一緒に死後の幸福を祈ろうか。
人生は辛い事も多いが、決してそれだけじゃあない。
こんな世界だけど、希望を持って生きろよ。



●灰と釣鐘草の鎮魂歌
 飄、と、風が吹き渡っていく。

 遺品を、拾い集めていた。紫の焔に絡め取られて死んでいった少女ら。自分が斬った、貫いた少女らの遺品を。
 焼け焦げたブローチ、髪飾り、アンクレット、ブレスレット。煤けた指輪、炙られてトップの歪んだ、かつてチョーカーだったもの。

 ――黒薔薇の少女達の為に、祈ろう。
 
 生者のためにすることは、他の皆がし尽くしているだろう。だからせめて自分たちくらいは、死んでいったもの達のために祈ってもいいだろうと。ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)は、傍らの童女――リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)に言った。

 ――でしたら、あのひとたちが生きたあかしをさがしましょう。

 優しい少女は、かそけき声で応じたものだ。
 それから二人は、焼け焦げた薔薇園の内を、或いは屋敷に続く石畳の上の戦いの痕を、なぞるように歩き出したのだ。
「すまないな。リリヤ」
「なぜ、あやまるのですか?」
 手の先を土で汚しながら、また一つ、ユーゴは探し当てた遺品を麻袋に入れる。
「これは意味の無い事かもしれない。それに、お前を付き合わせていることへの詫びだ」
 男は目を閉じて呟く。或いはこれは只の、生者の自己満足なのではないかと。
 この祈りが届くことなど、もうないのではないかと。
 男は言葉を切って、ほんの少しだけ逡巡し。
 思いを、声へ乗せる。
「けれど、それでも、……俺は。望まぬ隷属を強いられ最後には燃えて尽きた少女達が不憫でならないんだ。意味などなくとも、……弔ってやりたい」
「……いえ。いいえ」
 聖職者たる少女は、ユーゴの言葉に首を振る。――それは彼の意念を否定するものではなく、彼の疑念を否定するものだ。
「もとより、いのりは、いきているひとのものです。もういないだれかを想い、わからないゆくさきを想い、そこにあかりを灯すために」
 リリヤは掬い上げる。黒い塵の中に沈んだ、宝石の埋め込まれたちいさなロザリオを。そっと、塵とともに、ユーゴが提げた麻袋の中へ納めて。
 見上げ、青年にあえかな笑みを向ける。
「それができるのは、いきているわたくしたちだけですから。ユーゴさまのいのりは、きっと、あの子たちの先行きを灯します」
「――そうか、そうだな。ああ――迷いなく逝けるよう灯ってくれれば良い」
 その優しさに救われるのは、これで幾度目だったろう。灰殻と称する剣のように、燃えて尽きるばかりの残り火。それが未だ絶えずにいるのは、少なからず、この優しさがあるからではないだろうか。
 ユーゴはその後も、リリヤと共に遺品を集めて回った。
 やがて、少女らの回復が報じられる頃に、二人並んで屋敷へと戻る。

「出発の前に――一ついいか」
 ホールに戻ったユーゴは、麻袋の中から一つ一つ取りだした遺品を、空いたスペースに並べる。
「もし、同じむらから来たひとのものがあったら……どうか、おもちください」
 リリヤがその意図を告げると、数は少ないが、数名の少女が進み出て、遺品を改め出す。一人はねじくれたトップのチョーカーを、もう一人はくすんだブレスレットを――といった調子で、一様に瞳に涙を堪えながら、遺品を拾い上げる。
 やはり大多数は心当たりのない、無縁の遺品となるようだ。しかし、それでも、数人が拾い上げ故人を偲べたのならば、充分すぎるだろう。
 ユーゴは、残った遺品を麻の袋に詰め直し、「墓を作る。祈りたい者は、ついてこい」と告げ、背を向けた。リリヤもまたその後ろに従い、庭に出る。遺品を受け取った少女らがもれなく続いた。
 リリヤが、壊れた柵から木を取り、麻紐で繋ぎ目を緻密に巻いて、木の十字架を作る。祈りを籠めてリリヤが作った十字架を墓標とし、その根元に麻袋を埋めた。
「どうかしあわせがありますように」
 リリヤが厳かに告げる。手を組み、そっと祈りを捧ぐその仕草を真似るように、少女らもまた手を組み、目を閉じる。
 その目の端々からこぼれ落ちる泪を見ながら、ユーゴもまた祈った。願わくば――塵と化し、天に還ったそのあとで。どうか、優しい世界で安息に出会えるようにと。
「人生は辛いことも多い。――亡くしてしまった者は還らない。けれど、決してそれだけじゃあない。もしまたいつか、絶望の淵に瀕したその時は、きっと参じてお前たちを守ってやる。……だから。こんな世界だけど、希望を持って生きろよ」
 ユーゴは、涙ながらに頷く少女らに背を向け、嗚咽を項に聞きながら、馬車に向けて歩く。馬の調子を見ておくためだ。
 小さく跳ねる足音が彼の横に、ひょいと並ぶ。
 誰のものかなど、もう問うまでもない。

「ユーゴさま」
「なんだ」
「――わたくしは、あのヴァンパイアに同情なんてできません」
「だろうな」
「……けれど」
「……」
「けれど、でも、ユーゴさま」
「ああ」
「――この先に、こころも飢えないせかいがあるとよいです、ね」
「そうだな」

 ユーゴは、よく馴れた馬の首筋を叩いてやりながら、目を伏せる。
 断末魔の叫びを上げたあの女吸血鬼が、最後に浮かべた寄る辺なき者の顔を思い出して。

「俺も、そう祈っているよ」

 ――そして、猟兵達は少女らを伴い馬車を走らせた。
 近い村から、遠い村まで。方々を巡って、少女らを送り届けていく。
 
 最後に残るのは、キキだけだ。
 彼女の住まう村に近づくにつれ、遠くに炎が見えてくる。
「――向こうも上手くいったか」
 一人の猟兵が呟いた。それは事実の確認をするようだった。
「……え? それは、どういう――」
 事情を飲み込めぬキキに、ふわあ、と横から欠伸が向く。
「後のことは直接聞きなさいな。言ったでしょう、大きな話から始めなさいと。行きなさい、キキ。彼女が待っているわ」
 沈みつつある月に眠そうに眼を細める猟兵の声。
「止めるぞ。――ああ、駆け来るな。迎えてやるといい」
 馬車を御していた猟兵が馬を止め、
「困ったら甘い物でも一緒に飲むんだよ、キキ。ミルクセーキの作り方、教えたろう?」
 キキの傍らにいた猟兵が、やんわりとその背を押した。
 押されるままに、と、とん、と馬車を降りた先。遠くに、走ってくる影が見える。
 それがもう散り別れ、二度と会えぬと思っていた半身のものだと悟った瞬間、キキは、顔をくしゃくしゃにして一度、ぎゅっと身を縮めた。
「ありがとう……、ありがとう、ございました……!!」
 嗚咽に突き上げられるような、礼を言うのが精一杯。

 遠くから、――ああ、自分と同じ顔をして、
「……キキ!!」
 泪に詰まりそうな声を上げ、駆けてくる妹の姿を見て、キキは蹴飛ばされたように駆けだした。
「モーラぁあっ!!!」
 溢れる泪は止められない。

 ねぇ、いま、私たち、すっごくくしゃくしゃに笑って、めちゃめちゃに泣いてるよ。
 モーラ。私、沢山、すごい人たちから言葉を貰ったんだ。
 この泪が止まったら、伝えたいことがいっぱいあるよ。教わった料理とか、貰ったドライフラワーとか、一緒に食べたい宝石みたいなキャンディとか、コーヒーっていう飲み物の味とか、たくさん。
 でもさ、今はさ。
 ……ただ、ぎゅってして、あんたのことを『ここにいる』って。
 確かめていてもいいよね。

 散り別れる筈の双花は、二つの灯りの真ん中で今再び一つになった。
 猟兵達はそれを照らすように、或いは互いを讃えるように、かかげた灯を高く上げる。

 ありがとう。
 ――双花共に在る未来は、君達の手で紡がれたものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月31日


挿絵イラスト