猟兵を風呂に沈めてにゃんにゃんする
数宮・多喜
キャップと霧枯さんがまた風呂に入ってないって……?
よろしいならば洗浄だ!
けれども歴戦のケットシー二人(二匹?)は只者じゃないからね、変化球でいこうじゃないか。
【超感覚探知】や【超感覚網】のテレパスで艇内のケットシーふたりの位置探査と同時に捕獲チーム間の連絡を取って間接的に追い詰めながら、
https://tw6.jp/gallery/?id=122892
このツナギ姿でブラザーの説得と機体全体の洗浄にかかるよ。
ここぞという時のパフォーマンスを完璧にしとくなら、必要だろ?
大丈夫、コクピットシートも完璧にクリーニングしてみせるさ!
一仕事終えてまだ浴場が開いてたらアタシも風呂に入るかねぇ……もちろん水着着用でだよ。
エドゥアルト・ルーデル
いざ猫を洗うまさにその時!
――無慈悲な洗濯者のエントリーだ!
ドーモエルバッキー=サン、デスチーム=サン、エドゥアルトでござる
それは迷彩服にぶ厚いレインズボン、両手にはこれはぶ厚いゴム手袋のフル装備、ツキジめいた出で立ちだった
待ち受けるのは粗野な髭男による暴力的なまでに容赦ない洗濯!哀れな|キャッツ《ネコチャン》達に襲い掛かるサプライズエドゥアルト理論!ジッサイオタッシャである
レン・ランフォード
【芋煮艇】
アドリブ・絡みご自由に
我らが芋煮艇のキャプテン・エルバッキ―と仲間の霧枯さんなんですが
控えめにいって汚れているんですが、自発的にお風呂に入ろうとしないんですよ
のでみんなで結託してお風呂に入れることにしました
まずお話でも…あ、逃げた!「追え!」
狼の数珠丸太郎と追跡しつつ
プラン1
UC、転嫁・空蝉による強制転移で捕まえる
対象が見えて指させるなら実現符で実体化した錬が私をハリセンで攻撃する事で条件達成
対象と位置交換し対象が私の代わりにハリセン受けて怯んだ所を同じく実体化したれんが捕まえます
対霧枯さん用プラン2
格納庫のブラザーさんに裏切りを打診します
汚れた体で乗って欲しくはないですよね?
対キャップ用プラン3
UC.妖硬貨でキャプテンの好みらしい団員のギザ歯の幼女に変身
ちゅーるをもって油断を誘って捕まえます
まぁ前に使ってた手ですがいけますかね?
捕まえたら引き渡し、私も汗かいたのでお風呂に
水着(47012)に着替えてですけどね。
二人が洗われてるのをのんびり眺めます。
風呂上りは牛乳飲みたいですねー
九条・春
毛玉を風呂に沈めるノベルをお願いします!
毛玉の風呂付を担当させてもらおう!
白い襦袢、白い頭巾に髪を纏めて、色気のかけらもない洗濯戦闘体勢じゃ!
洗浄終わりの濡れ毛玉を温めるために風呂に浸けてやろう
始めこそ暴れるじゃろうが大丈夫、風呂が嫌いな動物などおらんからな、じっくりとお湯に使って温まればすぐに大人しく……
もしも暴れるならそっと抱きしめ、いや思い切り捕まえて100数えるまで出ることを許さんぞ!
大人しくしておるなら手荒なことはせん。
どうじゃ、気持ちいいもんじゃろう。これで毎日……とは言わんが、数日に一度は入ることにしような? なんならわしも付き合うからのー? と青い顔してそうな毛玉に語りかけよう
他の箇所にも人手が足りない、自由に動かせる人員がほしいという場合好きに使ってもらって構いません
よろしくおねがいします!
甘甘・ききん
何一つ考えたくねぇ任せてぇ。連休気分でだらだらしている餅状フォックスことわたくし甘甘ききんは、とりあえず以下のように動くと書いてはみたけど全体的にアドリブお任せで構わないフォックスである。
休みてぇ温泉住みてぇ浸かりてぇ。斯様な名句で知られるお風呂大好きフォックスことわたくし甘甘ききんは、お風呂が大好きなフォックスである。そんなわたしには許せないものが二つある。わたしへの冤罪と、洗ってねぇ猫だ。だが飼い主に許可をとらずに勝手に洗うわけにもいくまい。育ちのよいわたしはいつだってそう、丁寧に書をしたためます。
拝啓ブラザー様。お宅のデスチー油でべっとべとやん!なんとか致せ~。致さないならこっちで致す。
芋煮女子一同より
ふぅ、やれることはやった。きちんと主語も大きくした。書はしばしば歴史を動かしてきました。きっとこの書も数百年後に教科書に載ることでしょう。なおキャッツは飼い主不明なので無許可で洗ってもよいものとする。あとはまたたびでも焚きしめておけば、ふにゃふにゃになった二人を他のイモーガーがこう、ねっ。というわけで焚くべ焚くべ、またたび焚くべ。(ボウッ)スンッ……スンスンスンッ……ほぅ、これは……なかなか……上物ですな……スンッ……効くぅ~。
UC(適当に使ったり使わなかったりしてください):
https://tw6.jp/garage/gravity/show?gravity_id=143751
無責任支援動物(ハタフルアニマル)
自身の【周囲は運良く戦いに巻き込まれない安全地帯】になり、【対象は大変縁起のよいわたしに応援される】事で回避率が10倍になり、レベル×5km/hの飛翔能力を得る。
要約:なんかわちゃわちゃしたことが始まりそうだったので、争え……もっと争え……しにきました。何もしないのもあれなのでまたたびでも焚いて応援しておきます。みなさんにはより激しく争ってほしいです。以上、かわいいきつねでした。
霧枯・デスチーム
グループ【芋煮艇】
お風呂嫌いキャッツを風呂に沈める依頼です
アドリブ、他PCとの絡み、描写指定大歓迎です。
■心情
はぁ?風呂?なんで?ヤだよ。 ガジェット乗りのデスチームは硝煙と機械油の臭いが染みついたナイス猫だぜ。
それにちゃんと舐めて綺麗にしてるし…ふがふがしたら度し難い香りがするかもだけどナ。
…え、マジでやんノ? ブラザー緊急事態だ! 『ワックスがけ中です』 このクソッタレスーパーガジェットめ! おいらは絶対に風呂なんか入んねーからナー!
捕獲
以前風呂に入ったのが何時になるのか覚えてないレベルの風呂嫌いケットシーだから全力で抵抗するぜ。嫌いな理由?熱いし面倒じゃん。お芋の面々に洗われたらウッカリ処されそうだし。
ガジェットのブラザーに協力を仰ぎますが裏切ります。『コクピットもクリーニングしておきますね、ガージ』
キャップと協力して逃げようとしたり他イモーガーに助けを求めたり威嚇したり猫パンチしたりします。無駄なあがきです。
洗浄
短い手足でじたばたもがきつつ、オア゛ーッとかニャーン…とか情けない雄鳴き声を上げながら命乞いします。
以前風呂入ったのがいつか覚えてないレベルで硝煙と機械油汚れと猫臭の染みついた身体はさぞ洗い甲斐があるでしょう
浸かる
宇宙猫状態で無力な猫の悲哀を噛み締めています。
もっちりシャルトリューなケットシーなので濡れたらほっそりボディに。
風呂上り
全てを諦めてされるがままです
終わる頃には産まれ変わったかの様にモチモチふっさふさに。
「ありがとネ…でも、もうおふろはこりごりだよぉー」
ニニニナ・ロイガー
アドリブ歓迎
誰と組ませてもOKです
ねこちゃん達にシャンプーすると聞いて駆け付けたっす。
ビーストマスターたるこのアタシのねこかわいがり力、しかと見せつけてやるっす。
さて、濡れてもいい服に着替えましてと…
アタシはシャンプーを流し終えてずぶ濡れになったねこちゃん達を、タオルでわしゃわしゃする係っすね。
お~、嫌だったのに我慢してシャンプーできて偉いっすね~
ほ~ら、毛並みもツヤツヤになってるっすよ~
よ~しよし、いい子いい子~
って感じで、猫なで声でねこちゃん達を褒め称えて慰めつつ、タオルで水分をふき取るっす。
頭から尻尾まで、余すところなく丹念にわしゃわしゃするっす。
ついでに、かゆいところがあればかいてあげるっすよ。
ハンニバル・エルバッキー
グループ【芋煮艇】
基本的な口調さえ守られていれば何をしても不思議じゃないアドリブOK猫です。
その口調すらたまになんか崩れます。
エキゾチックショートヘアという猫種は目やにが多く涙やけの起きやすい種族とされています。
顔周りは特に汚いでしょう。
「風呂って言うからトルコ風呂の事かと思ったらマジの風呂なんぬうう!!」
逃走
ユーベルコード【猫は液体vol.2】を使用し「変異させる必要もなく」猫の特性を得ることで隙間に入る、掴むとぬるりと抜けていくなどトリッキーな猫の行動パターンで全身全霊の逃亡を謀ります。
洗浄
洗われると毛で膨らんで見えているだけで意外と細身であることが判明します。
この世の終わりのような瞳孔の開ききった瞳で団員たちを睨むでしょう。
風呂に沈められたら霧枯くん共々宇宙猫状態です。
風呂上がり
最後の嫌がらせに微振動して団員に水を浴びせます。
ケツにドライヤーを当ててこようとする者が居る気がするので当てられたら何でもいいので豆知識を吐いておいてください。
●ことの始まり
フォックスはソファーの上でだらけていた。
ほかほかの餅のように、溶けたチーズのように、そしてクッションのように力なく。
餅状フォックスはだらけながら考えていた。『洗ってねえ猫が許せない』と。
餅状フォックスはお風呂大好きフォックスでもある。
ノミひとつない快適な肌が好きだ。毛皮に香る石鹸の香りが好きだ。生きるための苦労の何割かは健康のために清潔を保つ手間であるからして、何一つ考えたくねぇ任せてぇフォックスにとって衛生環境はとても重要なのである。
何故そんな事を考えたかというと、つい先刻にだらけている最中に諸々の熟成スメルが舞い込んだからだ。
あゝこれは洗ってない。グルーミングをした上でなお長い年月で蓄積された微生物の分解物、そして毛皮自体に染み込んだスメルだ。連休気分でだらけているところにこのような薫りが漂えばストレス値も天を衝くというもの。
(休みてぇ温泉住みてぇ浸かりてぇ。斯様な名句で知られるお風呂大好きフォックスことわたくし甘甘ききんは、お風呂が大好きなフォックスである。そんなわたしには許せないものが二つある。わたしへの冤罪と、洗ってねぇ猫だ)
冤罪に関しては日頃の行いが悪い気がするがそれはそれ。ききんはソファーにだらけた姿勢を崩さないまま眉をひそめて考える。
(とはいえ勝手に洗うのも良くはないだろう。保護者もとい飼い主に了承をとるべきであろうし、猫にも猫自身の権利がある。何より育ちがよい私は自ら暴力に訴えたくないのだ。というか争いを見るのはともかくむやみに敵を作りたくねぇ)
そんなわけでききんは丁寧に書をしたためた。
ひとつはターゲットと親密な相手へ。もうひとつは動いてくれそうな女子一同へ。あとはこれを読んだ各々が勝手に動いてくれることだろう。
育ちのよい甘甘ききんは自らは手を染めぬ。ただただ、周りを動かすのみ――つまりはこの書の結末が大きな騒動になったとしても、周りが勝手に実行しただけでききんは冤罪のはずである。
ダラダラしたいお風呂大好きフォックスは久々の労働を終えるや再びソファーの上で餅になった。
(ふぅ、やれることはやった。きちんと主語も大きくした。書はしばしば歴史を動かしてきました。きっとこの書が動かした顛末も数百年後に教科書に載ることでしょう)
あとはこうして待っていれば快適なダラダラ環境が戻ってくることだろう。
●小柄な猫の逃亡
「ぬああぁぁぁぁぁぁぁっ!! 風呂って言うからトルコ風呂の事かと思ったらマジの風呂なんぬうう!!」
通称『芋煮艦』に絶叫が響きわたる。続けて聞こえてきたのは「追え!」「逃がすな!」という追跡者の声だ。
追跡者はキリカ、錬、ヴィヴの三名。逃げるのはケットシーのハンニバル。キャップあるいはキャッツの愛称でお馴染みのハンニバルは猫そのものの機動力で彼女らの腕をすり抜けて小柄な体格で|ダクト《通気口》へ入っていった。
「すごく必死な様子で逃げていきましたね……忍者でも目で追うのがやっとな動きでしたよ……」
「余程風呂が嫌いなんだろうな……」
その逃げ方に|レン《蓮と錬》は立ち尽くし、キリカは情報の確かさを確信する。
「ハンニバル団長が長らく風呂に入っていないという情報は確かだということか」
「それとは関係なく目ヤニがすごいし時々臭ってたけどね……。というか今もまさにダクトのホコリを全身の毛が絡め取ってるんじゃないか?」
ヴィヴが埃まみれの懸念をつたえれば蓮はあちゃあという顔になる。
「|お二人とも《・・・・・》控えめにいって汚れていたのに、キャプテンの方はますます汚れてしまうということですね……。ただでさえ自発的にお風呂に入ろうとしないのに……」
「|あっちの方《・・・・・》はうまく行ってるのだろうか」
そんな話をしているとキリカが口を開く。
「ふたりとも、団長の居場所がわかったぞ。向こうも気になるが、我々は我々の仕事に注力するとしよう。最初のプランAが失敗した以上、ここからは実力行使のプランBだ」
キリカはこの場に居ない誰かと連絡を取っていた様だ。
目標の現在位置を共有すると、三人はハンニバルの逃走先へと向かっていく。
全ては、風呂に入らない猫を洗うために……!
●仕組まれた裏切り
一方ここは芋煮艦の格納庫。
ケットシーの霧枯はいきなり相棒のガジェット『ブラザー』に裏切られていた。
いかなる窮地も相棒とともに乗り越えてきたのだ。今回も乗り越えられると信じたのに、多喜とリサに大人しく洗われていた。緊急事態だと訴えるのに『ワックスがけ中です』と拒否する姿はどう見ても裏切りである。
「追い詰めました!」
「ふふふ、観念するんだよ!」
「ブラザーに搭乗できないようデスね。年貢の納め時というやつデス」
霧枯を追って格納庫に立ち入ったのは兵庫、ルエリラ、庚の三名。
ここで多喜が「どうやらブラザーを洗うタイミングが悪かったみたいだ。悪いねぇ」と言うが十中八九、一枚噛んでいる。加えてリサが「ただメンテと掃除をするだけだから安心して任せてくれ!」と若干不穏な事を言うのも気を散らされる。
「霧枯さんお風呂に入ってもらいます!」
「はぁ? 風呂? なんで? ヤだよ」
兵庫の宣言に霧枯は即答した。
「ブラザーに頼れない以上、状況はだいぶ不利だと思うんデスがとても強気デスね……」
「ガジェット乗りのデスチームは硝煙と機械油の匂いが染み付いたナイス猫だぜ。それにちゃんと|舐めて綺麗に《グルーミング》してるし……ふがふがしたら度し難い香りがするかもだけどナ」
それこそまさに長い年月で蓄積された微生物の分解物と油に染みついた香り。グルーミングをした上でなお蓄積して毛皮自体に染み込んだ負の芳香である。
霧枯の宣言にブラザーを洗浄していた二人からマジトーンのマジレスが返ってきた。
「多少は自覚があるなら洗浄したほうが良いんじゃないかな……? 言っちゃなんだけどブラザーのほうもけっこう強烈なことになってるし……」
「主な原因が汗じゃないぶん真夏の同人ショップやカードゲームショップに比べればマシではあるけどさ……。しかし体臭にも清潔感は大事だと思うよ……」
そして|ブラザー《裏切り者》からも追撃が飛んでくる。
『臭いと女子に嫌われますよ。実際に苦情の手紙が匿名で届きました。このままコクピットもクリーニングしておきますね、ガージ』
「このクソッタレスーパーガジェットめ!!!!!」
霧枯は裏切者へと罵倒を吐き捨てて、この身一つで逃亡を再開するのであった。
●霧枯の窮地
「ってか黒影さんがこういうのを手伝ってるのは意外だぜ! さてはクリコロで買収されてるナ???」
「いいえ違います! 捕まえたらせんせーが作ってくれるんですよ!!!」
「せんせーが風呂過激派かぁ!! いやでもなら話が早いや。オイラがクリコロを思う存分奢ってご馳走するから見逃してくれ! ナ?」
逃げながら霧枯は兵庫の説得を試みていた。いま霧枯を追いかけるメンバーで一番買収しやすそうなのが兵庫だからだ。
「思う存分……それはどのくらいですか!?」
「おっ食いついてきたナ? どの世界のクリコロがたらふく喰いたい? オイラに任せときナ!! ちょっとだけ! ちょーっとだけ手心を加えてくれるだけでいいから!」
さてこのまま味方に引き込めるかと思いきや、やはりそううまくはいかなかった。
「あっ、せんせー違うんです! 決して約束を破る訳ではなくちょっとだけ話を聞いてみたかったというか……」
兵庫の頭のなかにいる教導虫の『センセ―』が兵庫を叱ったようだ。彼女がお目付け役としている限り完全な買収は出来ないだろう。……だがこれで兵庫の足が止まった。お説教が終わるまで彼の追撃は無くなるはずだ。
続けて霧枯は残る追跡者を泣き落としにかかった。
「庚もーん! 後生だから見逃してくれよ~!」
「いえでもお風呂入ってないんデスよね……? キャップと霧枯さんが風呂に入っていないと、匿名の手紙で情報が届きまして……。同じように手紙を受け取ったメンバーで話し合った結果やっぱり汚れてるね? ってなったのでまずはお風呂に入っていいただかないと……」
「手紙出したやつ誰だよぉ!? ちくしょう隙がねぇナ! ルエっちはどう? オイラそんなに臭うかなぁ!?」
「うーん、そっちは割とどうでもいいんだよねー」
「どうでも良いんだ!? じゃ、じゃあオイラを助けて!」
「えー、でもさー。逃げる猫をみんなで追いかけてみんなでお風呂に沈めるのってお祭りみたいで面白そうだよね?」
「そっちは愉快目的かよ!? ちくしょう遊びで猫を風呂に沈めようとすんじゃねぇ!」
「それじゃーいくよー。いけー、芋煮! 熱々の中身がかかったら一時的に動けなくなるだけだから安心していいよ」
「艦内でユーべルコードかよぉぉぉっ!?」
「あっソレ行動制限系デスね。でしたら私もその芋煮を利用しマス」
迫り来る無数の芋煮を霧枯が必死に避けていると、庚が推力を吹かして加速し追いついてくる。
霧枯はその腕もなんとか回避するも、庚が芋煮をかぶると事態はますます悪化した。――芋煮ビットと|箱の中の猫は「生きている」《バックワード・コーゼイション》の二つのユーベルコードの組み合わせで熱々の芋煮が四方に反射したのだ!
●ひとときの安寧
「マジかよぉぉぉぉっ!!?」
霧枯・デスチーム早くも万事休すか――。だが彼は百戦錬磨の面白適当生存体、こういうピンチにはちょっとした幸運が起こりやすい特質を持っている。
突如、艦内の廊下に警報が鳴り響いた……。そして「あっヤベ」とルエリラが呟く間に廊下の隔壁が素早く下りていく。
<<この区画をむやみに汚さないでください――汚した者たちには罰として速やかな現状復旧、つまり清掃を行っていただきます>>
――芋煮まみれになった廊下の有様に、艦の支援AIがブチ切れたのだ。
「オイラは汚してないからノーカンだナ! チャンスだぜ!!!!」
霧枯は降りる隔壁の隙間から脱出すると、追っ手の二人を振り切る事に成功した。
……さてこちらは格納庫。
霧枯の相棒のブラザーを洗浄していた多喜にテレパスの連絡が入る。
「キャップが|ダクト《通気口》に? あー……ちょっと位置を探査してみるわ。悪いけど少し待っててくれるかい?」
通話の相手はキリカだろう。このように捕獲するメンバーは多喜のテレパスを中心とした連絡網が敷かれている。リサは多喜へ地図を渡した。
「地図は要るかい?」
「ああ、サンキュー」
「艦の中が変わってなきゃこれが最新のはずだけど……」
「うーん、……ここだな。聞こえるかい? キリカさん。キャップの行き先だけど座標99-77のあたりの部屋だ」
そのときリサの口から思わず「あっ」と声が漏れる。
「ん? リサさんどうかしたのかい? まさかこの部屋に何か私物が……」
「あー……いやまあ、そこはちょっとコレクション置き場になっていて……。気分で部屋に飾るモノを変えたりしてて、残りをそこに保管してたんだ。まぁ、レアものは艦に持ち込んでないしまた買い直せばいいから気にしないでいいよ……」
「ああ……わかったよ。伝えとく……、でも本当にいいのかい?」
「……今さらどうにもならないし、それに買い直せばいいから……」
「おっと、また連絡だ。はぁ!? 廊下の掃除でしばらく動けないって!? あ、黒影クンが無事なのか。それじゃアタシから霧枯さんの場所伝えとくから、掃除頑張んな……」
場所は変わってここは閉ざされた暗い部屋。
暗くて停滞した空気。明らかに普段は使われていない部屋である。
暗闇に慣れた目をこらせばモノが所狭しと置かれており、棚も多くて上下の移動を助けてくれる地形になっている。
逃走のし易さ、隠れ易さ、いずれも身を隠すのに向いてると言えるだろう。
ひとけがなく暗い部屋を探して|ダクト《通気口》を逃走していた猫は、この部屋を見つけると隠れるのにちょうど良いと飛び降りた。
部屋の外にも気配はなく静まり返っているため、誰かが近づけばすぐに分かるだろう。
近くに誰も居ないのなら好都合と、猫は目についたクッションに八つ当たりを開始した。160cmくらいの縦長のクッションに爪をたててバリバリと引き裂けば中から飛び出した綿に牙を立てて噛み千切り、頭をぶんぶん振っていく。
飛び散る綿。周囲の音は布の裂ける僅かな音と呼吸音のみで静かに物事は進行していく……。そしてひと通り暴れると、猫はひょいと棚を飛び移って上に登っていった。それは追跡者からいつでも逃げられる高所で身体を休めるためである。
飛び移っていく最中に何かが当たって落下したが気にしない。何故なら大事なものならしっかりケースに入れるべきだから。そして何より、今はあの理不尽な追跡者たちが諦めるまで逃げ切ることが重要なのだから。
基本的にイエネコは濡れるのを嫌う。濡れるのが嫌だ……その一心でこの猫は隠れていた。水に浸かるのは個人の自由だが、それを強制してくるのは許せない。そう猫は思うのだった。
●ハンニバルの捕獲
目的の部屋につくやキリカは即座に扉を開け放つ。そして開けた直後に|ダクト《通気口》の封鎖を行った。
キリカがユーべルコードによる操り糸でを|ダクト《通気口》を塞ぐと蓮とヴィヴが部屋に素早く入る。それを確認するとキリカはドア側の入り口も操り糸でぴったりと塞ぐのだった。
「……逃げられてはいないはずだが……」
そう言ってキリカが部屋の明かりをつけると、目の前には無残な姿の抱き枕やアクリルスタンドが転がっていた……。
「「うわぁ……」」
それがこの物置き部屋を見たヴィヴと蓮の第一声である。
「まさに猫が暴れた部屋って感じだ」
「確かにここにキャプテンがいた事は間違いなさそうですね……」
そう言って蓮は実現符で別人格の錬とれんを実体化させる。そして実体化を終えると、蓮は錬とれん、そしてキリカに耳栓を配っていった。同時にヴィヴはギターとマイクを準備する。
「これだけモノが多いと探し出すのも大変だからね。密室での大音量に耐えきれず出てきたところを捕獲……これで逃走劇も終わるハズだ」
音量以外にも耐えがたい要素がヴィヴの歌にはあるのだがそこはあえて言及すまい。
そして逃げ道を塞いだうえで歌う準備を始めるヴィヴの姿を見るや、ハンニバルの目が見開かれて全身の毛が逆立った。
「やめるんぬぅぅぅぅぅっっっ!!!!」
「それでは、伝説の始まりだーっ!!」
ライブ会場に|ロック《異様》なロックが鳴り響く――。
そのとき棚の上に積まれたダンボールが飛び散った。
四散したダンボールからはメイド服やバニー服などのコスプレ衣装が飛び散って、それらを目くらましにして猫が液体の様なしなやかさでぬるりと隙間を跳んでいく。
音の拷問とも言えるソレを止めるため、ハンニバルはスピーカーのケーブルを狙って光線銃を撃った。だがそれを察知したキリカが射線上に素早く入り、身を挺してヴィヴのライブを守ろうとする。光線銃はヴィヴのユーベルコードで弱体化していたが、このジグザグレーザーはキリカの全身を痺れさせてマヒの効果を与えた。
キリカは痺れを受けて片膝をつく。そして――。
「つーかまえたー」
――宙を舞う衣装と入れ替わったれんが、ハンニバルをぎゅっと抱えて捕獲した。
「転嫁・空蝉、成功だねー」
「無事に、……捕まえられたようだな。よかった……」
「マヒ大丈夫ですか!? いま秘伝の薬丸を出しますので……」
「さすがキャップ、強敵だったな……。というかヒモみたいなビキニがあるんだけどリサくんはこういうのを着るのか……? それとも誰かに着せる用なのか……?」
そんなやりとりをする最中も、ハンニバルはれんの腕の中で手足をばたつかせて威嚇を繰り返している。このままでは護送の間にも逃げられかねない。
「フシャーーーーー!!!」
「わっ……。逃がさない様にちゃんと掴んでおかなきゃ……」
「このままじゃ運ぶのも大変だな……どうする? 蓮」
「そうですね……一応こういうのも用意していたのですが……」
「ああ、そういやソレがあったか」
錬は蓮からちゅーるを受け取るとハンニバルの鼻元へ持っていった。するとハンニバルの瞳孔がカッと開いてちゅーるにスンスンと鼻を近づける。
「フーッ、フーッ!」
「よしよし、これで風呂までは連れていけそうだな……」
「もうひとつ対策しておこうか……」
さらにれんが妖硬貨でギザ歯の幼女に変身すると、ようやくハンニバルは大人しくなった。理性がまだ飛んでいる様だがそれは複数の効果……風呂への怒りとヴィヴの歌のダメージとちゅーるとギザ歯女子の効果がせめぎ合って思考がパンクしているためだろう。
「……! ……!!」
「それではハンニバル団長を連れて行くとしよう」
こうして、ちゅーるとギザ歯女子に挟まれてフリーズ気味なハンニバルを連れて三人は風呂場へ向かっていくのだった。
●最後のトラップ
「さあ今度こそ追い詰めましたよ! 観念してください!」
「くそーっ!! いい加減しつこいぜ!」
霧枯は、兵庫に追いかけられて艦内を逃げ続けていた。追っ手を二人撒いた霧枯であったが一休みできたのも束の間で直ぐに追いついた兵庫に見つかってしまったのだ。
ガジェットが無ければガジェット乗りはその能力を発揮するのが難しい――ブラザーに裏切られて孤立したいま、霧枯は窮地に追い詰められている。
「マジで誰だよ!! 匿名の手紙っての出したやつ!!」
「匿名なのでわかりませんね!」
「ちなみにその手紙まだ持ってんの?」
「手紙に『確認したらシュレッダーにかけて捨てる様に』と書かれていたので細切りにして捨ててしまいました!!」
「そっかぁ! ちゃんと仕返し警戒してんナぁそれ書いたやつ!!!」
「そこです!」
「うおっと!!」
兵庫も追いかけながら時々ユーべルコードで肉体を蜂蜜色の奔流体に変えて腕を伸ばしていくが霧枯も簡単には捕まらない。
この追いかけっこは庚とルエリラが掃除から解放されるまで続くか、片方の体力が切れるまで続くかと思われた――だがその時、ひとつの部屋でもくもくと怪しげな煙が立ち込めてゆく……。
その煙は、特定されそうな空気を察したお風呂大好きフォックスによるもの!
フォックスはこれ以上情報を抜かれる前にとっとと二人を風呂にぶち込んで有耶無耶にしようと考えたのだ。
そしてこの煙は猫によく効く|またたび《・・・・》である。
「焚くべ焚くべ、またたび焚くべ。スンスンスンッ……ほぅ、これは……なかなか……上物ですな……スンッ……効くぅ~」
(こうしておけばあとは追跡してる他のイモーガーがこう、ねっ。わたくしはちょっとまたたびを嗅ぎたかっただけで他意は一切無いし起きている事も一切知らない善意のフォックス)
こうして煙をもくもくさせたききんは、艦の支援AIが火元に気づいて怒る前にすばやく火を消すと、部屋に煙だけを残して退散していった。
●霧枯の捕獲
(「黒影! この先に誰かが待機してるみたいよ!」)
(わかりましたせんせー! ではせんせーは芋煮艇の設備を利用して本物そっくりの立体映像を逃走先に表示して罠をしかけてください!)
(「はいはーい、んじゃこの誰かの場所に飛び込む様に……っと。準備できたわ!」)
兵庫は走る脚に力をこめた。あと少しで捕まえられる――その事がご褒美のクリームコロッケへの期待を高めて力を与えてくれる。もはや逃げる霧枯がクリームコロッケにすら見える。
「うおぉぉぉぉ!!!」
「うわわっまだ加速できるのかよぉ!!」
霧枯は廊下にある植木鉢やロッカーを倒しながら角を曲がっていった。
対する兵庫も逃すまいと障害物を飛び越える。けれどその動きには疲労がみられて精彩を欠いている。
「っと、もうスタミナ切れみたいだナ! 動きが鈍くなってきてるぜ! それじゃオイラはお先に!」
(「うまく騙せたわね! 後はこのまま油断して罠にかかってもらえれば……」)
(そうですね、センセ―。あとは見失わない程度の速度で……)
とはいえ兵庫のスタミナは実はあとすこしで切れてしまう。まだあと少し無理ができるとはいえ長くはもたないのだ。しかし兵庫はクリームコロッケを食べたいという一心で根性を奮い立たせてペースを保つ。
(「うーんクリコロがかかるとここまで本気になるとは、さすがのアタシも予想外だわ」)
――そして、とうとう罠のポイントまで霧枯を追い詰めた。
霧枯が逃げてゆく先に誰かが先回りしていた。
その誰かは、庚とルエリラの様に見える。
「うげっ、もう掃除終わったのかよ!」
しかし後ろには兵庫が追ってきているため引き返す事もできない。そのため霧枯は横の空いている部屋へと飛び込んでいった。
「よし、いったん鍵を……なんだぁこの煙……って、やべっ!!」
飛び込んだ先に充満していたのは|またたび《・・・・》の煙だ。これは先ほど善意のフォックスが炊いていた煙である。
その煙に気付いた霧枯はすぐに口元を抑えて身を低くする。いくらか吸ってしまったが、完全酔った訳ではないので逃げるのに支障は無いだろう……。
(とはいえ、思考が鈍りそうなのは不味いナー。さて……ここからどうするか)
そう考えを巡らせていると蜂蜜色の奔流体がぬるりと霧枯を絡め捕った。……それはなんと、扉を貫通して生えているではないか。
「んナっ……!? 扉は締まってる筈だぜ!?」
「それは立体映像です! ちなみにさっきの庚さんとルエリラさんも立体映像です!!」
吸い込んでしまった|またたび《・・・・》に焦った事も相まって、霧枯は扉の違和感に気付けなかったのだ。
「ところでこの部屋に誰かもうひとり居た筈なのですが……」
「ってことはまたたびはそいつの仕業かよぉ……」
「誰だったのでしょうね? センセ―」
(「おかしいわねぇ……? 何処にいったのかしら」)
こうして、小さな謎を残しつつ二人目も捕獲されたのだった。
●コクピットの洗浄
「お、ようやく二人とも捕まったみたいだ」
そう言うと、多喜はガジェットのブラザーへぬるま湯をかけて泡を流す。
リサは水と火の魔法でぬるま湯をつぎ足しながら、返答をした。
「そりゃよかった。医学の観点からも清潔さは保って欲しいからね。さて……表面はこれで良さそうだ。そろそろ内部のコックピットも掃除していくとしよう」
「ああ、むしろここからが本題ってとこさね。さぁてどの洗剤が効くかねぇ」
多喜が取り出したのはUDCアースでも市販されている車内清掃用の洗剤の数々。実は装甲の洗浄もUDCアース産のバイク用中性洗剤が使われており、それをリサがユーべルコードで増やして量を確保していたのだ。
整備と洗浄は多喜の知見を活かして進めつつ、化学薬品とお湯の補充をリサがサポートすることで今回のブラザーの洗浄は成り立っている。
「頑固な汚れやしつこい匂いがあれば専用の洗剤を調合してみるよ。成分さえわかれば全部複製できるから、薬品の類なら任せてくれ」
「そんときゃ頼らせてもらうさ。さてブラザーさん、コクピットを開けさせてもらうよ」
多喜は閉ざされた扉を開く。そこは霧枯曰く硝煙と機械油の匂いが染み付いた空間だ……さらに座席のシートには毛皮に染みついた生物の油が酸化した匂いも加わっていることだろう。
その開け放たれたコクピットから漂う匂いは二人にある場所を連想させた。
「まるで整備場の喫煙室だね……タバコと火薬の違いこそあれど煙と油で淀んでいる感じが共通してる……」
「ま、綺麗にすることに変わりはないさ。さーて隅々まで綺麗にすっかあ!」
まずは装甲同様にぬるま湯と中性洗剤で拭いていく。ひと通り拭いたら洗剤を変えて頑固な油汚れへの対応だ。そして細かい隙間は再び魔法の出番、風やお湯をコントロールして汚れだけを水と熱で剥離させ、汚れを外に捨てていった。
「流石に座席や壁に染みついた臭いは拭くだけじゃどうしようもないか……」
「それじゃあオゾン脱臭を試してみよう。化学式で表せるものなら何でも|作れるの《錬金術》が私の強みだからね、任せてくれたまえ。あと高濃度のオゾンは危険だから一旦コクピットの外へ」
多喜が出たのを確認するとリサはユーべルコードで酸素元素を結合させたオゾン気体を作りだした。そして生成したオゾンを風魔法でコクピット内に満遍なく吹き付けてゆく。あとは酸素原子が様々な物質と結合して除菌と脱臭を行ってくれるだろう……。
「……なあ、リサさん。もしかしてオゾンを吸わないように頭だけ保護してこれを使えばキャップたちを風呂に入れなくても良かったんじゃ……」
「脱臭はできるけど表面のゴミや汚れは取れないし……」
「ああ……そりゃそうか。いずれにせよ二人には風呂に入って貰わないといけなかったってワケか……」
こうして霧枯の相棒『ブラザー』はいち早く清潔になっていった。
……そこにはもう硝煙と機械油の匂いはなく。フローラルなシャボンの香りがコクピットを包んでいる。
●地獄への入り口
……捕獲された霧枯は脱衣場に吊るされていた。
いま彼は、全身をグルグル巻きにされた上で風呂場の脱衣所に吊るされて兵庫に見張られている状態だ。
「もうすこしでみんなの準備ができます! もうちょっと待っててください!」
「待つも何も今のオイラにゃ選択肢がないんだぜ。こりゃ邪神かなにかに捧げられる生贄の気分だナー……」
扉ががらりと開けば白い襦袢と頭巾を身に付けた春が入って来た。彼女は小柄な身体でハンニバルを抱えており、そのまま風呂場へと入っていく。
「おーよしよし、良い子じゃからこのまま大人しくしておるんじゃよー」
そう言いながらとてとてと入っていくのだが抱えられるハンニバルは心ここに在らずといった様子で脳がパンクしたままである……ヴィヴの歌による脳のダメージがまだ残っている様だ。
「oh……キャップに一体何があったんだ……」
唖然とする霧枯を他所に、ツナギに胴付き長靴といった恰好のキリカが春を追って脱衣場に入っていく。すると間もなくバシャっとお湯をかけられる音がして、ンナ゛ァァォー!!!! と猫の叫び声がこだまするのだった……。
「次はオイラの番か……憂鬱になってくるぜ……」
そうボヤいているとレンとヴィヴが水着姿で更衣室に入って来た。このときレンは実現符でそれぞれの別人格を実体化させており、蓮と錬とれんの三人がいる状態だ。
「お待たせしました」
「そんじゃ風呂はいろうぜ」
「お風呂だー」
吊るされていた霧枯は連とれんによって一度床に降ろされて、逃げ出さないようにと抑えられつつ縄を解かれると再び背後から持ち上げられた。このまま風呂場に連れ込まれるのは明らかだ……。
しかし、どう見ても多勢に無勢で逃げられそうにない。霧枯はお湯を拒否すべく、ナァ-ッ!!! と声を張りあげて手足をバタバタさせるが現実は非情だ。霧枯は抵抗空しく風呂場へと連れ込まれてしまった……。
風呂場へ連れ込まれるとあとはよろしくーと霧枯は泡の山へと手渡される。
どうやら蓮たちとヴィヴが水着に着替えたのは猫を洗うためではない様で……彼女たちは捕獲の追いかけっこでかいた汗を洗い場で流している。
……では誰が霧枯を洗うのだろう?
ハンニバルは離れた場所で春とキリカに洗われているが、そちらの手が空いている様子はない。では霧枯を洗うのは……?
……泡の山からは毛深く逞しい腕が生えていた。霧枯はいま、その腕にがっしりと捕まれている。
「ドーモデスチーム=サン、エドゥアルトでござる」
腕の主はエドゥアルト。彼は泡の山からヌゥと顔を出すと髭面を歪ませた笑顔を霧枯に向けた。そして、補助のために兵庫が駆け寄って来るのも見えた。
つまり霧枯を洗い、全身をまさぐるのは女子ではなく野郎どもである。
――そこには一切の慈悲もなく、この事実に気が付くと霧枯の表情はみるみるとしなびていくのだった。
●おふろ嬉しいにゃん♪
さて猫は一説には毛づくろいで毛ごと汚れを飲み込んで後に毛ごと吐き出すことで清潔さを保つと言われている。
そのためこまめにブラッシングをすると風呂の代わりにもなるのだが……とはいえ日々の毛づくろいではカバーしきれない汚れもある。
そういった毛づくろいやブラッシングで対応しきれない汚れが蓄積して匂いとなるわけで、加えてノミを始めとした寄生虫も毛づくろいで対処しきれないとあればシャンプーが完全に不要という訳でもない。
主な汚れのターゲットは埃と土、そして皮脂、加えて尻周り。そしてノミ退治となるだろう。
「そろそろ目やにも十分ふやけたかのう。顔を拭ってやろう、大人しくするんじゃぞ」
春は布でハンニバルの顔をやさしく拭っていく。
対するハンニバルは水を含んだ毛がべったりはりついて普段は毛で隠れていた細い体が現れていた。顔だけ殆ど濡れておらず毛がふっくらしているため、顔だけパンパンに腫れている様にも見える。
そして目元を拭われながらも開ききった目は怒りを訴えていた。
顔を拭えば次は身体だ。春が背後からしっかり抑え込むと、キリカが前に座ってシャンプーとブラシでハンニバルの身体を洗ってゆく。もちろんシャンプーは猫用のものだ。
「シャンプー剤を塗ったブラシでこう洗えば……洗えば……洗っても泡立たんな!」
ごしごしブラシを動かしているのだが、積み重なった毛の油が即洗剤と混ざり合って泡が発生していない。
このときのキリカの姿は胴まで包む長靴でしっかり防水した姿。加えてつなぎを下に着ているため見た目は業者のお姉さんといった風貌だ。なのでここだけ動物園のお仕事のような絵面になっている。
そして、その最中ハンニバルはずっと周りの団員たちを無感情で睨みつけていた。
一方で、霧枯はエドゥアルトと兵庫の二人に洗われていた。
「おーヨシヨシヨシヨシヨシ!! ネコチャンかわいいでござるねぇ~~~!」
「頭のてっぺんからつま先まで丁寧に優しく徹底的に洗いまくります!!!」
「オア゛ーーーーーッ!!!1」
兵庫の繊細なシャンプーブラシ使いとエドゥアルトの粗野で暴力的なぶ厚いゴム手袋での洗濯が交互に霧枯の全身をこすってゆく!!
しかも両者とも徹底的に容赦なくと宣言したとおり耳の付け根から関節の隅々、そして肉球の先まで全身を隙間なくわしゃわしゃブラシと指が這いまわっていくのだった。
このされるがままの状況はまるで縄張り争いのマウント合戦に敗れたかの如くであり、霧枯は無力な猫の悲哀を心に刻み付けてゆく……。
「ネコチャンきれいきれいしましょうねぇ~~~!! おーヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ! ネコチャンカワイイカワイイカワイイ」
「やっと泡立ってきました! このまま毛の隙間まで汚れを落としていきますよ!」
「オア゛ア゛ア゛ーーーーーッ!!!!!!! オア゛……ッ、……ニャーン」
鳴き声の変化がガラガラと尊厳が崩れる様子を物語る……。
やがて声は静かになり、その頃には霧枯の目からハイライトが完全に消えていた。
その当時の様子をエドゥアルト氏は後にこう語る……。
「いざ猫を洗うまさにその時、無慈悲な洗濯者のエントリー!! 風呂場で彼を待ち受けるのは粗野な髭男による暴力的なまでに容赦ない洗濯でござった……。哀れな|キャッツ《ネコチャン》達に襲い掛かるサプライズエドゥアルト理論! あれはジッサイオタッシャでござったな……」
●水着いいよね……
「じゃーん。セクシーな私が水着で登場だよー」
「やっと掃除終わりましたね……それでは私たちも洗ったら湯船で休むデスよ」
「オーケー。おっ、二人ともわしゃわしゃ洗われてるねー」
ルエリラと庚が風呂場に合流した。
廊下に飛び散った芋煮を片付け終えた二人は水着姿に着替えており、そのまま洗い場で体を洗うと湯船に向かう。そこにはすでにヴィヴと蓮、そして錬とれんが水着で湯船に入っていた。
「キャッツたちの捕獲お疲れー」
「おつかれー」
「お疲れさまです」
「二人ともお疲れさまだ。掃除は終わったのかい?」
「まあねー」
「あまり貢献できず申し訳ないデス……」
「えーあいさんが見てるときは無茶できませんからね……」
「まあまあ、結果的に上手くいったから大丈夫だよー。ふぅ。あったかーい、湯船はやっぱり最高だね」
ぐっと背伸びをしたり、湯船のへりにもたれかかったり、仰向けになって浮力に身をゆだねたりと、彼女たちは思い思いにリラックスしている。
そこで庚はふと洗われている側が気になった。
「キャップたち意外と大人しいデスね……?」
「捕まえるまでは大変だったんだけどね……」
「でも隙あらば逃げ出しそうな気がする」
「デスチーの方は目が死んでる……」
「そういえば、猫って本当に濡れると細くなるんだね……。知ってはいたけど実際に見ると普段の印象との違いに改めて驚かされるよ」
「それだけ毛がふわふわしてるってことだな」
「まあ毛づくろいで基本そんなにベタベタしないはずデスからね……。彼らはその上でなお蓄積された色々が問題だったわけデスから……」
「このお風呂のあとは、毛の手触りがとても良くなってそう……」
「確かにモフモフしてそうだ」
しばらくすると、そこにガジェットのブラザーを洗っていた二人も加わった。
「よっ、捕獲お疲れ。こっちもブラザーのクリーニング完了したよ」
「バッチリ脱臭もしてきたよ。一先ずはゆっくり休むかぁ……」
多喜とリサも水着着用で汗と油を洗い流した上で、湯船に浸かって疲れを癒す。
「これでブラザーさんは良い匂いになったんデスね」
「おつおつ」
「ところで庚さんは体型が可変だと聞いたけどちょっと平らになってみてくれるかな」
「どういうことデス……?」
「忍者が三人に増えてでっかいアピールしてるからね……」
「ああ、そうか……。私にリサくんにルエリラくんに……」
「あー……」
そこに霧枯を洗うエドゥアルトの独り言がぽつりと響く。
「|戦闘力《上下の差》……たったの5か……ゴミめ……」
「エド屋上へいこうか……久々に……キレてしまったよ」
「キャッツたちを洗い終わったら模擬戦かな? そういえばリサくん、キャッツを捕まえるときあの部屋でほぼ紐のマイクロビキニを見つけたのけれど、あれは誰かに着せる用だったりするのかい……?」
「へっ? ソレはだいぶ奥に仕舞っていたはずなのだけれど……いやまぁ、UDCアースの文化で面白そうなの見つけたらとりあえず買ってたんだけど、アレもその中のひとつでぇ……ちょっとショタっ子やロリっ子に着せてみたいなとは思ったけど……」
「ショタって男の子デスよね……?」
「ちょっとリサさん……」
「まだやってないよ!? 機会も無いし!」
「機会があったら着せるんだ……」
「むしろ男の人が着るのがメインでしょ? それ貸してよ。あとでエドに着せるから」
するとふたたびエドゥアルトが霧枯を洗いながら声を張り上げる。
「むしろ平たい族の魅力のためにおぬしらが着るべきでござる! やくめでしょ!!」
こうしてごしごし洗われていく猫二匹を背景に、癒しの時間が和やかに過ぎていくのだった。
●おふろ気持ちいいにゃん♪
毛の隙間という隙間まで泡と水が入り込み、肉球の隙間をブラシの先が撫でてゆく……。泡は汚れを絡めとり、水と共に流れ落ちて毛皮や体表を綺麗にしていった。
後に残るのは濡れ細った身体。張り付く毛はその水分で体温を奪うだろうが、幸いなことにここは風呂だ。温かいお湯にこそ風呂の真価がある。
「洗浄も終わったことじゃし、その濡れ毛玉を温めてやろう」
そう言うや春はハンニバルを持ち上げて湯船まで運んでいった。
持ち上げられるときにぶるぶると身体を振わせ、水を飛び散らして抵抗されるが春は臆せずしっかりホールドして隙がない。ハンニバルは続けてじたばたともがき、ぬぁぁぁぁ……と唸って抵抗を続けたのだが、抵抗虚しくそのまま湯船に漬けられてしまうのだった……。
「ほれ暴れるでない。ほら温かいじゃろ? ここには怖いものなぞなーんにもないからのう。安心せい」
春はそう語りかけてぎゅっと抱きしめる。するとようやく湯船の猫は大人しくなった。
続けて霧枯も湯船に入れられたがこちらは洗われる最中の無力感で心を折られているので始めから大人しい。すっかりしおしおになっており、濡れぼそったほっそりボディも相俟って哀愁を帯びていた。
「では拙者は満足したのでこれにてお先に失礼!」
そう言い残したエドゥアルトは霧枯をヴィヴに預けて逃げる様に去っていく。
兵庫もご褒美のクリコロを求めて風呂場を飛び出せば、残るのは水着女子たちと二匹の猫のみ……健全ながらもちょこっと色気のある混浴空間がそこにはあった。
けれど囲まれた二匹はその光景に何かを思う余裕もなく、抵抗空しく水浸しにされたことで心が死んでいる。
虚空を見つめて目が点になる姿は、まさしく宇宙猫。
その姿を見てキリカは、二人がいったい何を見て何を考えているのかと、ついじっと見てしまうのだった。
……霧枯は無力な猫の悲哀を噛み締めていた。そしてハンニバルは瞳孔の開ききった瞳でこの世の終わりのような強張った表情をし、時おり周りのメンバーを睨んでいる。
同じネコであり風呂嫌いでありながら、二人はそれぞれ個性的な反応を示していた。
●銀河の果てまで
湯船に漬けられる二匹の脳裏に徐々に電波ソングが浮かんでくる。
それは別の事を考えて苦難をやり過ごす人生のライフハック……多くの困難に立ち向かってきた歴戦の戦士が極限の環境で発揮する業だと言われている。
そのメロディも様々で、古くはミコミコナー、新しきはシャケシャケナー。
この苦難を乗り越えるべく二人は銀河の果てに思いを馳せ、浮かぶメロディとMV映像に心をゆだねて時間が過ぎるのを待っていた。
|This《ディス》・風呂――それは濁流という困難にあらがうサーモンランである。
「うおっ……なんかキャップたちすげぇ顔してないか……? とくにキャップは時々睨んできてる気がするんだけど……」
二人の様子に気が付いた多喜が驚きの声を上げた。それにつられてリサが考察を述べてゆく。
「なるほど……。ネコ科にも水浴びを好む種類は多いのだけれど、その中でもイエネコを含むネコ科ネコ属は濡れるのを嫌うらしい。そして彼らはケットシーの中でもよりイエネコに近い個体っぽいから、それで濡れるのがとても嫌なんじゃないかな……?」
「猫って雨も嫌がるって聞くよね」
「霧枯さんのほうは兵庫さんとヒゲにもみくちゃにされた影響も加わって悲しみに満ちていマスね……」
彼らの状況をよくよく見ると、ふつふつと罪悪感が湧いてしまう。
「まあ……でも、流石に臭ってたし、いつかは洗わなきゃいけなかったと思うよ……」
多喜は心中を察しつつも、そう締めくくるのだった。
この入浴で彼らの汚れと臭いが根本から取り除かれた事に変わりはない。
これで汚れを毛ごと飲み込んでしまう毛づくろいのリスクも減るはずだ……。
清潔になった身体は生まれ変わったかのように、さんさんと眩く明日の健康を照らす。それはスペースシップワールドをスイと旅する宇宙艇では大事なことだろう。
●同じ時期に流行ったネタってだいたいくっつくよね
100まで数えて十分に温まったらお風呂は終わり。
春が手を離すとハンニバルは最後の嫌がらせとばかりにぐっしょり濡れた全身を全力で震わせた。シャワーの様な強い勢いで水滴が飛び散って、周囲をびしょ濡れにしていく。
「ひゃあ!? こ、こら、暴れるでない」
制止する春を振り切ってハンニバルはそのまま脱衣所へと逃げ出した。
「ふぅ……、やっと終わったんぬ。帰りにパブにフィレオフィッシュ食べに行くんぬ」
このときハンニバルは新たな刺客に抱きかかえられた――自由を得たのもつかの間、エミリィがハンニバルを捕まえたのだ。
「はい、ご注文はポテトですね!」
「違ぇんぬ! フィレオフィッシュなんぬ!! というか離すんぬ! ぬをどうするつもりなんぬ!?」
「ポテト追加ですね! ポテト二つ入りましたー!!!」
暴れるハンニバルの首根っこを捕まえたままエミリィは笑顔でドライヤーを取り出した。そして突如解説を開始する。
「ぬ。昔ケツにドライヤーを当てる猫の画像がSNSでバズったんぬ。そのミームが何時の間にか猫のケツにドライヤーをあてると豆知識を吐くネタと化したんぬ」
「な……何を言っているんぬ……?」
突如始まった解説。その内容にハンニバルは嫌な予感を感じてゆく。その予感はすぐに確信へと変わり――。
「やるんぬ!? 今、ここで!?」
「濡れてるかどうかは関係ねぇわたくしは今このチャンスを活かしてケツドライヤーをしたい。そのために待ち伏せていたのです。今宵のドライヤーは血に飢えておるわ!!」
――ドライヤーのスイッチが入れられた。
カチッ、ブォオオオオオオオオ――。
「ねぇ知ってる? 招き猫の発祥の地の猫の名前は」
「あっそっちではなく」
「ぬ。毒虫にも色々いるけれど悪臭を放つのがみんなもよく知るカメムシ。時として悪臭で捕食者を殺してしまうこともあるんぬ」
「それは過去の模擬戦の時に聞きました。次!」
ブォオオオオオオオオ――。
「ぬ。ビタミンは水溶性が多くて水に溶けやすいんぬ。なので茹でたり焼いたりすると栄養が逃げやすく、蒸したり鍋にすると栄養が残りやすいんぬ」
「かじできないわたくしに料理知識を与えるとは誘ってますね? 希望通りこのあと作って差し上げましょう」
ブォオオオオオオ――。
「ぬ。ルビーとサファイアは実は同じ石なんぬ。元は無色透明なんぬが鉄やチタンが混ざるとサファイアに、クロムが混ざるとルビーになるんぬ」
「良い感じゃん! このままガンガンいこうぜ!」
ブォオオオオ――。
「ぬ。カエルは異物を飲み込むと胃袋ごと吐き出すんぬ。裏返して表に出して胃袋ごと中身を外に出してから体内に再収納するんぬ」
「好調だなキャッツ!!」
ブォオオ――。
●ミッションからの生還
湯船から引き揚げられた霧枯の身体には濡れた毛が張り付いていた。
もっちりシャルトリューなケットシーも水に濡れればこのようにほっそりボディになってしまうのだ……。
そんな濡れ猫をやさしくタオルが包み込む。
「お~、嫌だったのに我慢してシャンプーできて偉いっすね~」
ニニニナはずぶ濡れの霧枯を受け取ると、やさしく素早く毛皮の水分を拭き取っていく。ねこちゃん達にシャンプーすると聞いて駆け付けただけあってニニニナの手際は手慣れており、明らかに動物のケアの経験者だ。
(ビーストマスターたるこのアタシのねこかわいがり力、しかと見せつけてやるっす)
タオルで全身を包むとまずは毛を両手で掬いタオルで挟み上げて主な水を吸ってゆく。そして表面の水分をとったら続いて毛の奥に指を入れて、タオルと共にわしゃわしゃと残る水気を吸い取っていくのだ。
「ほ~ら、毛並みもツヤツヤになってるっすよ~。よ~しよし、いい子いい子~」
背中と胸を拭いたら次は腹、そして最後に足や尻尾。特に尻尾はデリケートなので軽くぽんぽんと挟んで水分を抜いていく。
水分が一通り拭き終われば次はブラッシングだ。
わしゃわしゃと拭いてまばらとなり、毛が隙間だらけになったままでは毛皮はちゃんと機能しない。毛を綺麗に梳いて整えることでこそ毛皮の機能は完成する。
こうしてびしょ濡れだった霧枯の毛皮はふわふわを取り戻していった……。
するとそれに併せて霧枯の意識も徐々に戻ってゆく。冷たくじっとりした肌にいつもの温かい感触が戻れば、閉ざした心が徐々に開かれて目のハイライトが戻ってゆく。
水分が一通り拭き取られたあとのブラッシングも心地よく、猫用のブラシが毛先を通るたびに先ほどの地獄で傷ついた心が癒されていた。
「痒いところあるっすか? あればかいてあげるっすよ」
「大丈夫……」
「ほんとうにがんばったっすね。ほら毛も綺麗になってるっすよ」
「ありがとネ……でも、もうおふろはこりごりだよぉー」
歴戦の戦場を蓄積させた臭いを失い、尊厳もずたずたに破壊されて霧枯は弱っていた。
もうここには硝煙と機械油の臭いが染みついたナイス猫はいない。いるのはモチモチふっさふさのかわいらしいケットシーである……。
(この毛並み最高っすねぇ~。激務で疲れた心に染みるっす~)
ニニニナは徹底的に霧枯の毛皮のケアを行ってゆく。それはUDC職員としての激務の疲れを癒すかのようであり、毛並みを整えたらそのまま猫ほぐしへと移行していった。
毛並みを堪能するかのように、体温を堪能するかのように、だがしっかりと筋肉をほぐすようにニニニナの指が霧枯の身体を揉んでいく。
「ああーこりゃ最高だナ……おふろはこりごりだけど、こっちのマッサージはまた頼みたいぜ」
「喜んでもらえてうれしいっすよ。こちらこそ、こんなのでよければまたマッサージするっす」
地獄から生還したら一転して天国へ。一度は死にかけた霧枯だったが、こうして無事に心を取り戻す事ができたのだった。
●引き金を引いたのは……
一方では延々とドライヤーの熱風をケツに当てられて、もう一方では癒しのリラクゼーションが行われる……。
そんな風呂の脱衣所で、霧枯は解決するべき問題をふと思い出していた。
それは今回の騒動がどうも意図的に起こされたことらしいということ。
この騒動に参加した者はいずれも匿名の手紙を受け取っており、その内容に背中を押されて行動をしているのだ。あの相棒の『ブラザー』までもがその手紙で裏切っている。
もっとも、根本的な原因は毛皮の臭いなので遅かれ早かれこうなっていたかもしれないが……その手紙を出した人物が今回の引き金を引いたことに変わりはない。
「……そういやあんたも匿名の手紙ってやつをもらったのか?」
「この件に関わってる面子はだいたい貰ってると思うっすよ」
「ちなみにだけど……誰がかいたかわかるかナ……?」
「さぁ……筆跡鑑定したらわかりそうっすけど現物処分しちゃったっすからね……」
霧枯は考えた。この件を引き起こした|邪智《じゃち》|暴虐《ぼうぎゃく》の黒幕を除かなければ、近い将来に同じことが起こるだろう。
「……そういやこれまで会ったメンバーからは特にまたたびの匂いしなかったナ?」
霧枯は逃走劇の途中にあった小さな謎を思い出していた。結局あのまたたびを炊いたのは誰だったのか……? あのときは兵庫が唯一、煙の充満する部屋に近づいていたが直に突っ込んだわけではないので臭いはほとんどついていない。そしてあのまたたびを炊いた人物は兵庫のせんせーも把握していない謎の味方勢力……。今のところは例の手紙を出した本人である可能性が高い。
そして、このまたたびの煙が仕掛けられたあと霧枯はすぐ風呂の脱衣所に吊るされている。そのとき風呂から出た者が居なかったことも考えると、またたびを炊いた犯人はまだ風呂に入れてないと考えられる。
恐らく犯人は、ほとぼりが冷めるまで隠れてからしれっと風呂に入り証拠を消すのだろう……。
であれば、皆が帰ったあとまたたびの匂いがする者がやって来たらそいつが犯人だと言える。
「どこのどいつか知らないけれど、風呂に無理矢理入れさせられた借りはきっちり返させてもらうからナ……」
霧枯は近くでドライヤーを当てられ続けているハンニバルへ協力を要請した。
「なぁなぁキャップ、ちょっと協力して欲しいことがあるんだけど。もしかするとオイラたちを風呂に沈めるように扇動したやつが分かったかもしんない」
「ぬ……!!!」
このときお風呂大好きフォックスに因果応報が訪れる未来が確定した。
果たしてこの容疑は冤罪なのか否か。それは後のききんの奮闘によって決まるだろう。
書が動かした顛末がききんに返るまで、あと十数分――。
●これが書が動かした顛末
「いやー、気持ちよかったデスね」
「直前に追いかけっこで汗を流したからね」
「確かに、ひと仕事終えた後のひとっ風呂は最高だからねぇ」
風呂の脱衣所から湯上り女子たちが次々と出ていく。
彼女らは服装こそ普段のものに戻っているが、十分に温まり血行の良くなった肌艶が色っぽさを強調させていた……。
熱る身体を少しでも涼ませるべく髪を上げる者もおり、普段は隠れて見えないうなじや肩が露わになっている。加えて視線をあまり意識しない者は着こなしがはだける場合もあり、服の裾を仰ぐならばまさに眼福と言えよう。
この後は冷たいフルーツ牛乳やカフェオレを一気に飲むもよし。ソファーに身を沈めて湯船で力の抜けた四肢を休めるも良し。アロマオイルを焚いて香りに包まれるも良し。
風呂で汚れと余計なにおいを洗い流しているため周りに体臭をどう思われるかという懸念も減り、風呂上りは最高のリラックスタイムだ。
そして余分なにおいを洗い流されたのはハンニバルと霧枯も同様である。そして臭いが消えただけでなく、二人とも体毛から余分な油が消え去って毛並みはふっさふさなのだ。
「せっかく綺麗になったんだしさ、ちょっと毛皮をふかふかさせてよー」
「私もちょっと興味あるな……二人とも構わないかな?」
ルエリラとヴィヴはハンニバルと霧枯を撫でまわそうと声をかけたのだが、しかし霧枯たちにはまだやる事があった。
「悪ぃな、ちょっとオイラたちに外せない用事ができちまったんだ」
「風呂場の排水溝の抜け毛をちょっと捨てて来るんぬ。すぐ戻るから先に休んでて欲しいんぬ」
そう言い残して二人は風呂場へと消えていった。
目的は、今回無理に風呂に入る事になった原因をまずは捕まえること……。獣臭さをはじめとする様々な臭いの消えた二人が本気で気配を消して隠れれば簡単には見つからないだろう。
そしてその容疑者はまたたびの臭いをぷんぷんさせながら、臭いという最後の証拠を消すためにやって来るはずである。
…………。
そして、しばらくすると周りをきょろきょろと用心深く伺う一匹の狐が現れた。
「みんな帰ったかな……? スンッ……スンッ……くぁ~やっぱ効くぅ~。でもこのままではあまりに目立って人前に出られないからねっ。決して証拠を消したいなどではなく純粋に臭いのが礼儀としてよくないから……ねっ」
お風呂大好きフォックスはお風呂が大好きなので早くこの臭いを洗い流したいのだ。
ききんは狐の姿でひっそりこっそりと進み、誰にも見つからず風呂場の脱衣所まで辿り着いた。
「みんなリラックスして休んでおられる。つまりは今が一番みんなが油断してる時間ってことだ。だって湯上りの脱力感と気持ち良さには誰だって抗えねぇ」
そして……。
「しかしこれで洗ってねぇ猫はなんとかなった。いやぁ良かった良かった」
果たしてこれは油断か罪の意識か。ききんは言い訳がましく自白めいたことを呟きながらするりと脱衣所に入っていくのだった。
――そこに二匹の猫が待ち伏せているとも知らずに。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴