帝都櫻大戰㉔~真白を切り裂く
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イザナミは、霞む意識の中に揺らいでいる。
第六の猟兵たちは不可能を可能にした。彼らは多くの世界を守りぬいた。
けれど、己自身、彼らにとっての脅威のままだ。
「儂に、新世界を望む『意志』を寄越すのだ」
……それが何を意味するか、わかっているのに、もう抗うことが出来ない。
愛しき命の価値を、抗弁することさえ。
世界が創られる。白い花に、溶ける。沈んでいく。
消えたも同然であるのに。ほんとうに消えることすら、出来ない、……。
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天地に美しい櫻の白花が溢れる、侵略新世界『サクラタルタロス』。
そこは死の静寂に満ちて、美しい花の下に無数の冥府の蛆獣が蠢き、命ある者を蝕み、牙を剥く世界だ。
「それが、エンシェント・レヰス『イザナミ』と融合した幻朧帝イティハーサが、イザナミの意志を利用して創造した侵略新世界よ」
グリモアベースで、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)が告げる。
「サクラタルタロスの内部は、静止した『死の静寂』に満ちている。命ある者は、この空間に居るだけで急速に生命力を消耗することになるわ」
しかし、その上で、幻朧帝イティハーサを討ち、この世界を壊さなければならない。
さもなくば、他の36世界に牙を剥くのは、想像に難くない。
「方法は大きくふたつ。ひとつは、消耗しきってしまう前に、幻朧帝に渾身の一撃を与えて撤退する」
まさに一回勝負。自分の手札を吟味し、戦術を練りに練る。
とはいえ、猟兵の戦場は大抵が一回勝負だ。ある意味ではいつも通りのことを、精一杯すれば良いとも言える。
「もうひとつは、融合で取り込まれたイザナミに働きかけること。あなたたちの『命の輝き』を示すことが出来れば、それに反応したイザナミに引っ張られて、幻朧帝を怯ませることが出来る」
幻朧帝が怯むということは、『死の静寂』が少しの間止まるということだ。
イザナミが不可能と思っていた世界への侵攻を食い止めた『第六の猟兵』の輝きならば、彼女の意識を呼び起こせるだろう。
「どちらを取るかは、皆に任せるわ。特に後者は我ながらふわっとしてるから……前者を頑張った結果、輝きを見せることになるかもしれないし」
これだ、と思うことを全力でやって貰うのがいいだろう、と、コルネリアは続ける。
イザナミとの融合を遂げた結果、かの世界の幻朧帝イティハーサはオブリビオンを超越する『骸の海そのもの』と化している。
「世界相手に語りかけてる辺り、生命は眼中にないと言わんばかりよね」
けれども、死の世界ではっきり異物となれるものこそ、生命だ。
向こうは特に意図したわけではないかもしれないが。
「生命の特権として、あの横っ面、全力でひっぱたいてやって頂戴」
実にいい笑顔で、コルネリアはそう言い切った。
越行通
こんにちは。越行通です。
「帝都櫻大戰」のシナリオ、三本目をお送りします。
OP通り、サクラタルタロスに満ちる『死の静寂』は、命ある者はこの空間にいるだけで急速に生命力を消耗させます。
無数の冥府の蛆獣も存在していますが、こちらのシナリオでは『死の静寂』への対抗がメインになります。
このシナリオのプレイングボーナスは、以下になります。
『プレイングボーナス……生命力が尽きる前に一撃を与え、離脱する/自身の「命の輝き」をイザナミに示す。』
ざっくり言うと、攻撃によるガチ勝負か、気合によるガチ勝負かという感じです。
どちらか片方でも、両方でも、お好きなように。
どうか、それぞれ猟兵さんらしさを思いっきりぶつけて下さい。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『イティハーサ・イザナミ』
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POW : 天矢『サクラタルタロス』
【射た矢が突き刺さった地点】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【冥府の蛆獣による寄生】の状態異常を与える【真白き死桜花の嵐】を放つ。
SPD : 神鷹『サクラタルタロス』
【神鷹の羽ばたきと共に白い花弁】を噴出し、吸引した全員を【冥府の蛆獣】化し、レベル秒間操る。使用者が製作した【世界の住人たる証】を装備した者は無効。
WIZ : 骸眼『サクラタルタロス』
レベルm半径内を【生命を拒む世界】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【死をもたらすための力】が強化され、【生を長引かせようとする力】が弱体化される。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エリー・マイヤー
世界を創造するもの、ですか。
過去にあるものをこねくり回して、成形しているだけでしょうに。
よくも恥ずかしげもなく名乗れたものです。
まぁ、何にせよ倒すので、どうでもいいことですね。
どうせ短期決戦なので、アルジャーノンしましょうか。
強化された念動力で、矢を逸らし、蛆獣を退け、敵に肉薄。
そのまま念動力で敵を包み込み、全力で捻って曲げて拉げさせます。
死をもたらす力。
それに抗する術を、私は持ちません。
故に私は、ただ敵に死をもたらすためだけに、この力を揮う。
それが、誰かの生を永らえさせる結果に繋がるのなら。
私のこの造り物の命は、そのために使います。
それで、イザナミさん。
アナタの命は、何のために使うんです?
●
「世界を創造するもの、ですか」
戦場に向かうにあたって、エリー・マイヤー(被造物・f29376)が敵に下した評価は冷淡だった。
「過去にあるものをこねくり回して、成形しているだけでしょうに。よくも恥ずかしげもなく名乗れたものです」
何しろ本人が自分からそう言っている。
あのような大々的な宣言など、良くも悪くも、恥があれば出来ないだろう。
とはいえ、それ以上思考を割く余地もないので、エリーはすっぱりと思考を切り替える。
「まぁ、何にせよ倒すので、どうでもいいことですね。どうせ短期決戦なので、アルジャーノンしましょうか」
腕時計に視線を落とし、カウントを開始。
かの世界へ転移した瞬間から、エリーの思考活動は意識無意識問わず加速する。秒も無駄にしないために、タイミングを計って。
転移の感覚と同時に、能力は発動した。
痛いほどの静寂の中を、白い花弁が舞う。
即座にイザナミと融合したイティハーサを意識して念動力を編み、飛来する天矢の軌跡を逸らし、蛆獣の群れを見えない力で圧して、意識を世界中に拡大する。
位置調整の必要がない分、すべての念動力をイティハーサ・イザナミの周辺に広げ、世界のあらゆる理を捻じ伏せていく。
「死をもたらす力。それに抗する術を、私は持ちません」
念動力を操るエリーを、生命を拒む世界が苛んでいた。
死の静寂とは別に、エリーの生命活動を少しでも削ろうとする力。それに晒されながら、全力の演算を止めることなく、静かにエリーは告げる。
「故に私は、ただ敵に死をもたらすためだけに、この力を揮う」
言葉通り、エリーの生命活動自体が脅かされても、エリーの念動力自体へは、その力は届いていない。
周囲を包んだ念動力が、ぎりぎりと締め上げる流れに動いた。
アルジャーノンエフェクトによって、彼女の脳は、この世界、この空間に満ちるすべてを克明に把握し、彼女自身の答えをどうしようもなく補強する。
――死は、誰が扱おうと死である。
ならば自分、エリー・マイヤーは、死に繋がる力をどう扱い、どう生きるのか。
「それが、誰かの生を永らえさせる結果に繋がるのなら。私のこの造り物の命は、そのために使います」
『――三十六世界は、実に哀れでおろかだ』
イティハーサが、初めて、口を開く。
呼吸をしていないのか、声は変わらない。ただ、エリーの手ごたえが、かのものの状態を知っている。
『汝のような第六猟兵の存在で、辛うじて繋がるだけのものを、捨てられぬ』
エリーは、それを歯牙にもかけない。
誰かの死は、誰かの生。
今回、エリーの力にとってのその順番が巡ってきたのが、イティハーサ・イザナミであったというだけのこと。
念動力に込めた力が、イティハーサ・イザナミをゆっくりと、確実に、意図通りに曲げてゆく。
両手の延長のように。伸ばした念動力で、包み、捉え、捻り、曲げた。全力を込めたその果てで、ようやく相手を拉げさせながら。
「それで、イザナミさん」
――アナタの命は、何のために使うんです?
答えを聞くことは、叶わなかった。
だが。大きく広く伸ばした念動力の端に、確かに感じた震えから、言葉が届いたことを確信していた。
大成功
🔵🔵🔵
円谷・澄江
…覚悟決めて行くしかないねえ。
周囲全てが敵の新世界、カチコミかけるに不足はないさ。
…幻朧帝に完全な滅びを与え侵略阻止する為に気合い入れて行くよ!
クニークルス搭乗。
転移後即UC起動、強化された念動力で花弁を弾き飛ばしながら幻朧帝との距離を詰めていくよ。
兎翼を広げ念動力でフルブースト、襲いかかる攻撃は電探で感知して見切り、空に櫻の木の枝に足場にしながら飛んで駆けて躱すか空間の断裂でぶった切りながら前進!
一撃分の生命力が残ってれば良し、死に囲まれようが抗い抜くのが命ってもんだ。
幻朧帝間合いに捉えたら念動力で相手抑え込みつつ空間の断裂を放射、最後に全力でビーム・ドスぶっ刺し離脱!
※アドリブ絡み等お任せ
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「……覚悟決めて行くしかないねえ」
事前に伝えられる限りの情報を聞き、いかに危険かを理解したうえで、円谷・澄江(血華咲かせて・f38642)は愛用のサイキックキャバリアに搭乗する。
「周囲全てが敵の新世界、カチコミかけるに不足はないさ。……幻朧帝に完全な滅びを与え、侵略阻止する為に気合い入れて行くよ!」
世界を渡り、通り抜けたその瞬間、ユーベルコードを起動。澄江の全身から強烈な念動力が放出される。
その力は一心同体となったキャバリア、クニークルスの隅々にまで行き渡り、背中に光輝く兎翼が広がった。
元々の情報戦能力にフルブーストがかかる。神鷹の羽ばたきをミリ単位で算出し、強化した念動力で効率的に花弁を弾き飛ばして、一気に距離を詰めてゆく。
勿論、世界はその存在そのものを許さず、空気が、無数の花弁が、地を這うものたちが牙を剥く。
――周囲全てが敵。僅かな枝の隙間からすら、敵意の牙が閃く。
そんな世界を、宣言通りに駆け抜ける。
イティハーサ・イザナミの周辺で蠢く冥府の蛆獣、本体から放たれる弓矢を光学音波熱源あらゆる要素を電探感知し、回避。紙一重の攻防を制して、進み続ける。
『世界の異物として、潰れるが良い』
そんな声ごと、足止めしようとする蛆獣と花弁を空間の断裂でぶった切る。
そんな声すら、聴覚に入れて処理する暇も惜しいとばかりに。
念動力を制御する為に必要なあらゆるものが、確実に磨り減っていく。
酸素、血液の巡り、神経、筋肉。
それらの減少値と、目標までの距離と到達秒数のカウントを刻みながら、澄江は一度も速度を落とさない。
「一撃分の生命力が残ってれば良し、死に囲まれようが抗い抜くのが命ってもんだ」
念動の手を、伸ばす。
イメージするのは、得物を握る手と反対の手。掴み、抑えて、重みに耐え、渾身の一撃を、全力で叩き込む――
「往生せいや、このロクデナシが!!」
咆哮と共に、放てるだけの空間の断裂を放射。
目の前に散る破片の中心に、更に追い撃つように、突進の勢い加速重力すべてを載せて、ビーム・ドスの一撃を突き立てる。
『猟兵――』
声が、止まっていた。
いまの一撃で、声を出せなくなったのだと理解したときには、クニークルスの機体で相手を蹴るように跳躍し、空間から離脱を果たしていた。
ビーム・ドスの痕から、血は流れなかった。
――ただ、その孔以外何もなくなっていた。ふさがっていく様子もなく、他の部分との繋がりもなく、本当に、何も。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
生来の神殺しであるダンピールの私が励ますのもおかしな話ですが…
そのままでよいのですか女神
あなたの祈りは、願いは、そんな醜悪な愚者に蹂躙される程度のものですか
真なる希望の力が無限であることさえも忘れたのですか
その目は涙を浮かべるためだけのものではありません
未来を見るためのもののはず
オーラを纏わせ強化した鎖を範囲攻撃で舞わせ
衝撃波を起こして花嵐を跳ね返します
その花嵐自体を逆用し闇に紛れるように陽動と為して早業で接近
イティハーサに僅かなスキができれば見切りと心眼・第六感を駆使し
UCを発動です
蒙昧なる老骨、我が牙の洗礼を受けなさい
その腐った魂さえも打ち砕く命の牙の一撃をね
そして目覚めるのです、女神よ
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狂い咲く櫻の中、全身に絡みつく世界の拒絶を感じながらも、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)はたったひとつから目を離さなかった。
世界の源。融合され、力尽きたようにそこに在るだけの女神。
「生来の神殺しであるダンピールの私が励ますのもおかしな話ですが……」
心から、言葉が浮かんでくる。
「そのままでよいのですか女神」
その言葉を抱いて、魅夜は呪いと絆の鎖に己の力を這わせた。
『呪われてあれ、第六の猟兵』
天から一条の矢が放たれ、地を穿ち、真白き死桜花の嵐を巻き起こす。
呪いの白い花の嵐の中で、金属の音が高く響く。
ある場所では鈴の音のように、ある場所では軋んだ牢の扉のように、音が重なり、世界の中を鎖が舞い、そうして巻き起こす衝撃波が花の嵐を押し返す。
大きなふたつの流れを、幻朧帝イティハーサの空の眼窩と赤い瞳が見下ろしている。
『死と敗北で、三十六世界に、諦めることを教えてやるがいい』
嵐を巻き起こした魅夜は、嵐の中心からはとうに離脱していた。
花と鎖の激突が、白一色だった世界に影を生み出す。その中を縫うように進み、イティハーサ・イザナミの傍近くへと接近する。
必要なのはこの距離。腕よりも近く、接近する必要があった。
近すぎて、イティハーサからは見えていない。それを確認して、魅夜は口を開いた。
「蒙昧なる老骨、我が牙の洗礼を受けなさい。その腐った魂さえも打ち砕く命の牙の一撃をね」
『――!?』
イティハーサの認識は、間に合わない。
魅夜の突き立てた牙がその肉体を貫き、同化した魂をも貫いて砕き壊し、魅夜の意思を届ける。
――あなたの祈りは、願いは、そんな醜悪な愚者に蹂躙される程度のものですか。
死の世界にあって、未だに願いを抱く女神が、言葉を思い出しつつあった。
――真なる希望の力が無限であることさえも忘れたのですか。
その言葉に感じられる重みが、未来へと重ねた時間をゆっくりと注ぐ。
――その目は涙を浮かべるためだけのものではありません。未来を見るためのもののはず。
涙を浮かべていたことを、今更のように思い出す。目の存在を思い出す。己自身を、思い出す。
「そして目覚めるのです、女神よ」
魂を揺さぶる一撃。
ことばを享け、イティハーサの魂の悲鳴に弾かれて、目を開いた。
未来を。そこに生きるべき存在を、その目で、見る。
世界に満ちる静寂と死が、繰り返すまばたきと共に、綻びてゆく――
大成功
🔵🔵🔵
儀水・芽亜
『サクラタルタロス』、何ともおどろおどろしい。|冥府《ハーデース》の底の底だと言わんばかりですね。
では私は、そこに差し込む一条の光となりましょう。
伊達に「ブームの仕掛け人」ではありませんので!
「結界術」に乗せた「オーラ防御」「環境耐性」「狂気耐性」「呪詛耐性」で自我を維持。
さあ、ライブの始まりです。皆さん、しっかり聴いてください!
竪琴を「楽器演奏」して生命賛歌を「範囲攻撃」で「歌唱」。生命あるものを「鼓舞」する“生命使い”の必勝の歌です。メガリス破壊効果が無くとも、心を揺さぶってみせますよ。
勝者も敗者も全て過去。私達は歴史を抱えて輝かしい未来へと進みます。
幻朧帝、あなたにその邪魔はさせません。
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血の赤ではなく、死の白。無数の蛆獣を足元に見下ろす死桜花。
「『サクラタルタロス』、何ともおどろおどろしい。|冥府《ハーデース》の底の底だと言わんばかりですね。」
世界に踏み込んだ瞬間の光景に、儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)はそこに名前どおりの冥府を見た。
だが、端々まで満ちる死の静寂が、猟兵たちの働きかけで揺らいでいる。――イティハーサが動揺し、女神が目を見開いて世界を見ている。
サクラタルタロス。女神の意思を引きずり出された、禍々しき世界を。
「では私は、そこに差し込む一条の光となりましょう。伊達に「ブームの仕掛け人」ではありませんので!」
仕掛け人はタイミングが命。
そして今こそ、生命の輝きをイザナミに届け、イティハーサの手足を封じる、絶好のタイミングだ。
何重にも防御のすべを重ね、耐えて、耐えた反動のように声を跳ね上げる。
爪弾いた弦の音が静寂の空間を揺らす。
「さあ、ライブの始まりです。皆さん、しっかり聴いてください!」
首にかけたデバイスの補助を受け、芽亜は歌い始める。
地上に満ちる生命の輝きを讃え、生命あるものを鼓舞する歌。生命使いたちを支え続け、彼らの必勝を助けた歌。共に歴史を歩んだ歌を。
――通常より、効果が鈍い。
メガリスの破壊効果がないことだけではない。イティハーサ・イザナミを中心とした世界が、生命を長引かせることを拒んでいる。
一方、芽亜を蝕む代償は、加速している。それが意味することは、明らかだった。
だが。それでも、と、声を張り上げることにこそ、真価はあった。
「メガリス破壊効果が無くとも、心を揺さぶってみせますよ」
女神へ届けとばかりに、更に声を振り絞る。
ずっと、共に歩いてきた歌。女神だけを見つめて歌えば、その目から溢れる雫が増すごとに、芽亜にかかる妨害が緩んでいく。
死の静寂を破り、侵略新世界の踏破に来たる猟兵たちの助けになれと、高らかに歌い続ける。
「――勝者も敗者も全て過去。私達は歴史を抱えて輝かしい未来へと進みます」
曲と曲の継ぎ目。演奏を続けながら、決意でもってその合間を縫う。
「幻朧帝、あなたにその邪魔はさせません」
間奏をつまびく指が震えても、その音にこめた力を弱められても。完全に消すことだけは絶対にさせない。
『いかに希望を歌おうと、エンシェント・レヰス! 汝はここから出られはしない!』
「――……」
イザナミの返答はない。
だが、イティハーサの声に滲む動揺が、いまこの世界に起こりつつある変化を、物語っていた。
大成功
🔵🔵🔵
出水宮・カガリ
ひとの、世界の数だけ、命に違いはあれど。
閉じる側にとっては、それら全て。「閉じる対象」以上の意味を持たない。
全ての命は、|扉《て》の内に。
百年建っていた門として。その一点のみは、わからないではない。
だが、やはり。ちがう。
少なくとも、いざなみの|楽園《エリュシオン》を。いざなみの意志をねじ曲げ叶えた|奈落《タルタロス》で、広げるのは。
【泉門変生】……広がる嵐を、壁の内に収める。
封印術、全力魔法、限界突破、霊的防護に禁呪を重ね、カウンターも仕込もう。
いざなみ。きみの面影を残す世界に。徒に命を蝕ませはしない。
黄泉は、|泉門《よみど》の内に。
……点せ、篝火を(属性攻撃、全力魔法)
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死の静寂に満ちている筈の空間が僅かに波打っていることを、出水宮・カガリ(死都の城門・f04556)は敏感に感じ取っていた。
「ひとの、世界の数だけ、命に違いはあれど。閉じる側にとっては、それら全て。『閉じる対象』以上の意味を持たない」
そう語るカガリは、ひとがたの輪郭を持っている。
けれど、その本質は境。見ようによっては、蓋とも意味づけられる。
「全ての命は、|扉《て》の内に」
静寂の掌中に、安らぎのあらんことを。
「百年建っていた門として。その一点のみは、わからないではない」
静かにそう結んで、イティハーサ・イザナミを仰ぎ見る。
「だが、やはり。ちがう」
イザナミの目から、溢れる涙。花の白は生命の許容から拒絶へと変わり、安らかな大地には蛆獣が蠢く。
「少なくとも、いざなみの|楽園《エリュシオン》を。いざなみの意志をねじ曲げ叶えた|奈落《タルタロス》で、広げるのは」
イティハーサが、自分の周囲を弓矢で狙っている。
それを真っ直ぐに見据えながら、カガリは自分の身を一度解いた。
瞳が、柘榴のそれへと変わる。
金の長い髪がふわりと舞い、先から解けて、カガリというひとがたから、黄金の城壁へと変化してゆく。
真白き死桜花の嵐が、城壁を打つ。それに伴う蛆獣の寄生を、城壁と化したカガリは、ただ、阻む。
輝ける城壁の色は、さきほどまでひとのかたちをしていたカガリの、髪の色だ。
『世界を収める城壁に成りたいならば、汝を砕いて取り込んでやろうぞ!』
蛆獣の試みを、幾重も重ねた加護と禁忌で押し返す。
荒ぶる嵐を包むように、壁の内に収めきる。城壁がいかに軋もうと、この門だけは開くまいと、かたくかたく結びながら。
嵐を感じ、同時に|世界《タルタロス》の空気を感じ、イザナミとイティハーサが世界を巡って揺れているのを感じ取る。
――いざなみ。
――きみの面影を残す世界に。徒に命を蝕ませはしない。
この花の白が、慰撫と愛惜に還ることはなくても。
――黄泉は、|泉門《よみど》の内に。
――……点せ、篝火を。
城壁の内側、花の嵐、死の静寂を維持する最後の力が、篝火にくべられる。
死の花を、炎が燃やしてゆく。……まるで、命を燃やしてゆくように。
『――ああ』
使える術を全力で行使した果て。カガリは確かに、悲しみ以外に揺れるその声を聴いた。
大成功
🔵🔵🔵
木元・明莉
偉そうな事言いながら
世界を創る為に他人を苗床とする
…迷惑なじいさんが過ぎる
命無き世界
発展も衰退も無いこれが「世界」とは笑わせる
喜びも楽しみも、哀しみもあらゆる感情が存在せず、自分からも感情が急激に剥がれ落ちる感覚がする
ふざけるな
命削られようが俺の感情は誰にも奪わせない
感情とは生命そのもの
イザナミ、貴女もそうだろ?
消えないのならまだそこに感情がある筈
俺の命の輝きが分かるなら、俺にも貴女の輝きを示してくれ
イザナミの位置が分かれば残りの生命力差し出してでもダッシュで突撃
白い花弁は纏めてUC【天還銀嵐】で蹴散らそう
…雨がイザナミも癒せたらいいんだけどな
イザナミに憑いた幻朧帝だけを大刀「激震」で叩き斬る
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「偉そうな事言いながら、世界を創る為に他人を苗床とする。……迷惑なじいさんが過ぎる」
木元・明莉(蒼蓮華・f43993)が降り立ったとき、世界には、拒絶を切り裂く幾重もの軌跡が刻まれていた。
開口一番、さしあたって言いたいことをぶつけ、サクラタルタロスという世界を睥睨する。
「命無き世界。発展も衰退も無いこれが『世界』とは笑わせる」
猟兵たちの活躍で、死の静寂の効果は目減りしているのだろう。
それでも、うつくしい筈の花の色が何処か白々しく空しく、その下に蠢く蛆獣に、『本性』という言葉を連想して、感情がすっと醒めてゆく。
この花は、拒絶のためだけに咲いて、実を結ばない。
あの獣は、幻朧帝の手足の更に延長だ。白い花弁を浴びた、その末路でしかない。
イザナミの世界から形を借りて出来たのが、これだという。
ここには、喜びも楽しみも、哀しみも、生まれる余地がない。
明莉の胸中からも、そうしたものが急激に剥がれ、遠のいてゆく感覚がする。
「ふざけるな」
剥がれた心の内に在った種火が、燃え上がる。
「命削られようが俺の感情は誰にも奪わせない」
残された怒りが、明莉の中で燃え上がり、駆り立てる。
頭に上ってゆく血液、早まる鼓動、握った掌の熱さを意識する。……ここに、生きている。
「感情とは生命そのもの。イザナミ、貴女もそうだろ?」
虚空へと呼びかける。世界の何処にいても、届くはずだと信じる。
「俺の命の輝きが分かるなら、俺にも貴女の輝きを示してくれ」
――どれだけ利用されても。この世界の意思は、貴女のものなのだから。
空を見上げ、銀の恵みを求める。
死の静寂を破って、銀の雨が降り注ぐ。降り注ぐ雷によって、辺り一面が虹色に輝く中を、明莉は走り出す。
銀の雨を呼んだ瞬間、確かに聞こえた声へと向かって。
虹色の雷を伴うようにして走る明莉のみちゆきは、神鷹の羽ばたきを弾き返し、白い花弁を吹き散らす。
走って、走って、走り続けて。優しい雨と激しい虹色が渦巻く所を、見る。
イザナミが、こちらを見ている。涙溢れる目には、悲しみ以外のものがある。
イティハーサとその神鷹が、こちらを見る。白い花弁を吹き飛ばし、最後の一歩を跳躍で詰めながら、明莉は激震を振るう。
『第六の猟兵よ! 時間稼ぎに加担する者よ!』
閃く銀の刃が、イティハーサを、イザナミに憑依した存在だけを、切り裂いてゆく。
『忘れるな! これから先、最早生命が証明出来るのは、もう役目は無いのだということを……!』
『――いいえ』
断つ感触と共に、老人の声が濁り、もうひとつの声が明瞭になってゆく。
『妾が言祝ぎます。彼らが焼き付けた輝きと、この涙に誓って』
明莉が、刀を振りぬく。
世界が一度大きく揺れ、止まり、五感の全てが、急速に遠ざかる。
「イザナミ……!」
死の花弁が溶けるように消え、世界が凹凸を無くしてゆく中で、涙を零しながら、イザナミは微笑んでいた。
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『ありがとう、六番目の猟兵たち』
雨の一滴が染みるように、なくなる寸前の世界に、声が落ちる。
『数多の輝きが、妾の目を覚まし、この世界をも照らしてくれた』
猟兵たちが重ねてきた軌跡を示すように、イザナミの頬を、涙が滑る。
もうとても遠いのに、誰もが、その涙はあたたかいのだろうと感じていた。
『どうか、これが永いお別れになりますように』
さようなら。
どこまでも、どこへでも、望むままに。おゆきなさい。
大成功
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