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帝都櫻大戰⑯〜夢じゃない、キミもオレも

作者：ツヅキ

　サイバーザナドゥのサイバースペースを侵食する骸の海は未だにあふれ続けている。神王サンサーラは確信していた。
「骸の海の拡大を阻む術はない」と。
　だが、意を唱えるものがいた。
「果たしてそうかな？」
「何者だ」
「俺は碎輝！　山本親分が俺をここへ呼んだ理由が今わかったぜ。悪いが俺は、世界最弱の『お前を止められる男』なんだ。いっちょやってやるぜ！」

「まさか、『無限に成長する』という特性を持つ碎輝をここでぶつけるとはな……」
　無数の幻朧桜と共にサイバーザナドゥのサイバースペース内部に降臨したエンシェント・レヰス『神王サンサーラ』の目的は、｜現実《リアル》をも含めたサイバーザナドゥ世界全ての破壊。
「サイバースペース内部に存在する遅効性の思考破壊プログラム『ヤマラージャ・アイビー』を起点とする骸の海の侵食は留まるところを知らないかのようだ」
　強大なオブリビオンである神王サンサーラだが、それゆえに『完全に無傷の状態』でな限りこの世界への顕現を維持することができないらしい。
「サンサーラは『骸の海を無限に広げる』という規格外かつ制御不能のユーべルコードを持っており、ただそこにいるだけでいずれ世界の悉くを破壊するだろう。だが、事と次第によっては唯一彼と対等に渡り合える者がキャンピーくんの力で送り込まれて来た」

　それが幽世の竜神親分、名を『碎輝』。
「戦い始めこそ極めて弱いものの、『無限に成長する』という特性のおかげで戦いが長引けば長引くほどに飛躍的に強くなっていく。そう、『碎輝』が無限に広がる骸の海に対抗できるくらい成長しきるまで彼を守り抜くことができれば、その時こそサンサーラを撃退するチャンスが訪れるはずだ」

第1章 ボス戦 『神王サンサーラ』

POW   :    サンサーラディーヴァ 自身の【眼前】を【広大無辺の仏国土】化して攻撃し、ダメージと【神王サンサーラへの到達不能】の状態異常を与える。 SPD   :    サンサーラノヴァ 【かざした両掌の間】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【五感封じ】の状態異常を与える【神王光】を放つ。 WIZ   :    強制転生光 レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1ｍ以内の全てを消滅させる【サンサーラの光】を放つ。発動後は中止不能。 イラスト：ぽんち 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　メニスの華奢な両肩がぶるっと震えた。
　神王サンサーラの強さが骸の海を通じて伝わる。強過ぎるがあまりに完全でなければならないという条件をつけられるほどの存在への戦慄はあれど、しかし、メニスの綺麗な緑色の瞳は決して諦めてはいなかった。
「よろしくな、メニス！」
「碎輝さん！　ボクが時間稼ぎをすればいいんだよね。これを使って」
「これは！？　……サンキュ。どうか俺を信じてほしい。お前が耐えてくれた分、必ずや強くなってみせる！」
「うん、ボクも頑張るよ……！」
　サンサーラの光は故郷の優しい木漏れ日とは全く違う、とても強制的で支配的な輝き方をしている。
　こんなものに負けたくない。
　一見してそうは見えないこの木の枝は魔法の触媒として非凡な性質を持っている。メニスはそれを振った。
　弾の形に圧縮されたエネルギーが光を相殺する。波のように押し寄せる骸の海を巻き込んで吹き荒れるのは爽やかな春風のような翠色の旋風だった。
（お願い、かえって）
　これ以上、骸の海が広がるのを止めたい。
　転移を拒否する海の抗いを風は徐々にゆっくりと押し返す。碎輝はあらかじめ渡しておいたカメレオンのマントで周囲の景色に溶け込み、息をひそめて時を待った。
「何を狙っている？」
　違和感にサンサーラが気が付いた時には既にかなりの時間が経過している。
「これだよ！」
　メニスの旋風が波を割るように押し返してサンサーラの元へ迸った。
「無意味」
　骸の海はさらにあふれ、風を押し戻そうとする。
　だが、それを稲妻が散らした。
「！？」
　僅かに目をみはるサンサーラの前にマントを脱いだ碎輝が現れた。
「メニス、今なら届くはず！」
「いって……！」
　木の枝を握る力を込め、サンサーラ目がけてとびきりの旋風を叩き込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　この刃の存在する意味をご存じか。
　功に非ず、幸に在りき。
　その根源に哀しきを抱きながら紡がれながらも、夕凪と共に歩むことを宿命づけられた妖刀は『さいわい』が為に哀しみを断つ刃なればこそ。
「守るが為、私はこの刃を振るいましょう。ゆえにあなたの野望はここで断ちます。『涙切』の名において、世界に｜破壊《カタストロフィ》は引き起こさせません」
　例え五感を奪われ、何も感じられない暗澹に落とされようとも怯えはしない。｜ここ《・・》に私はいる。心眼と第六感を頼りにして探り出す、サンサーラの輪郭、気配、動き……そして光。
「――そこですね」
　よもや、とサンサーラは驚いただろう。
　何も見えないはずが、何も感じられない筈が。
　夕凪は破邪を宿した『涙切』の刃の腹で光を反射するように受け流し、戦いを共にする碎輝の身を護ったのである。
　それだけにとどまらず、刃を中心に渦巻く旋風が広がり続ける骸の海を押しとどめ、ゆっくりと押し返しつつさえあった。
「サンサーラ、あなたの広大無辺に広がった仏国土で、もっとも尊い命とは何でしたか」
　守りに徹する夕凪の前に雪の精霊が現れた。
「……もっとも、と問うか」
「ええ。あらゆる命を奪うことを厭うた貴方には、命に優劣を付けることなど出来ないということは承知の上です」
「さようか……」
　サンサーラは観念したように目を伏せる。
「一本取られたな。好きにするがよい」
　刹那、氷雪の刃がサンサーラを襲った。
「碎輝さま、いまのうちに」
「任せろ！」
　いまや碎輝は当初の数倍、いや数十倍以上もの強さに成長しつつある。夕凪は頷き、妖精に攻撃を続けさせた。
　これでサンサーラは以前のようには動けないはず。
　碎輝へ攻撃する余裕など与えるものか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「碎輝さんと一緒に戦う、かぁ……」
「なんだ、どうした？」
「ううん、ちょっとね恩返しをしたくなったんだ」
　澪の言う碎輝への恩というのは、実はとても些細なことだった。病弱で、心臓が少し弱くて、そのせいで無理のない程度に運動しても普通の子のようには難しい。
　多少のスタミナが付いたとしても、筋肉なんて夢のまた夢。それが時々少しだけ、コンプレックスじゃなかったとは言えない。
　……まぁ、可愛がられるのは嫌いじゃないんだけど。
　碎輝は言ってくれたのだ。
　かっこいい、って。
　それが凄く嬉しかったから。
　だから、これはその恩返しなんだよ。
「僕がサンサーラの気を引いて、碎輝さんを守るよ！」
「澪！　感謝するぜ！」
　空へ飛翔した澪はオーラを纏い翼をはばたかせた。
　――紅の鎌がサイバースペースを埋め尽くす。ただし魔力の出力は絞った状態で効率よく増殖させ、操らなければ。
　これは敵を倒すためじゃなくて、あくまで時間を稼ぐための戦いだから。最小限、最低限を常に続けて消される度に補って。
　光を反射する紅は怒りと敵意を孕んだ美しき刃の鎌鼬。まるで壁のように澪と碎輝を守るために出しては消され、また出して……魔力消費が少ないとはいえ、長引きすぎれは疲弊は免れない。
　だけど、碎輝への感謝の想いが澪に気力を注いでくれる。
　彼を守るという目的のためなら、いくらだって力を振り絞れるから。
「ふふ……」
　僕にこんな根性があったんだなぁ、なんて。
「カッコイイの形はさ、色々あるんだもんね。これが、今の僕の精一杯のカッコイイだよ……！」

大成功 🔵​🔵​🔵​

「あれが神王サンサーラか！　見せ付けてやろうぜ碎輝！」
「おう、清導！」
「昨日よりも今日！　今日よりも明日！　過去だけじゃく未来も無限だってことをな！」
　清導は碎輝と共にサイバーザナドゥのサイバースペースを埋め尽くす骸の海と相対していた。なんて光景だろうか。これが現実にまで侵食し出したら事態の収集なんてつきやしない。
　煌々と燃え盛る光焔――虚に支配された世界で、清導の姿は一筋の光明のように輝いていた。そこに救いがある、未来がある。
「無限に強くなれれば無限の海は突破できんだな？」
「もちろんだ！」
「わかった！」
　力強く、清導は頷いた。
「なら！　オレだって成してみせよう！　なにせ！　ヒーローだからな！」
「！？　この黄金のオーラは……！！」
　碎輝は自分の両手を眺めた。
　正義の意思が燃え立たせる清導のオーラが碎輝に力を与え、成長するまで耐えきるために強化したのだ。
「助かる！！」
「さあ、乗り越えるぞ碎輝！！」
　敵がどれだけの国土を拡げ、到達不能だと言い張ろうとも。攻撃を与えられようとも、黄金のオーラに守られたふたりはそれに抗った。
「うおおっ！！」
　清導は吼え、碎輝を庇いながら耐え続ける。
　立ち塞がる壁が不可能に等しければ等しいほどに、意思の力は爆発する。それはサンサーラにとっては誤算であったに違いない。最初から完璧な存在にはそんなものは不要だからだ。人は不完全だからこそ、意思の力で乗り越えようと足掻くことができるのだ。
「これなら突破出来そうだ！　決めるぞ碎輝！」
「ああ、いくぜ！！」
　無限に強くなり続ける中で、さらに駄目押しの限界突破――！！
　熱く熱く、まだ熱く！
　全てを貫く炎となれ……！！
「超必殺！　スーパーブレイズキック！！」
　碎輝と共に繰り出す蹴りが骸の海を裂き、その先に待つサンサーラへの道を切り拓いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　まさか、こんな再会になるとは思ってもみなかった。
　瞬は少々驚き、それから碎輝の身を案じる。
「相変わらず無茶しますね」
　行く末を案じる瞬に、碎輝は笑顔で答えた。
「だーいじょうぶだって！　俺は最弱だけど根性だけはあるからさ！」
「ふふ、本当に変わりませんね」
　頷き、瞬は星羅を見た。
「どうしました、星羅？」
「いえ、凄いなと思いまして」
　星羅は素直に感心する。
「最弱なのに成長する……それが、碎輝殿なのですよね。御身が心配なのは確かですが、貴方の覚悟に応えたいと思いました」
「守ってもらえるか？」
「はい、若き竜神」
「存分に戦えるように手助けさせていただきますよ。では、星羅。準備はできていますね？」
「いつでもどうぞ！」
　瞬にかけてもらったオーラ防御と結界術を見て、碎輝は「おー！」と嬉しそうに笑った。
「これならいけそうだ！」
　サンサーラの光は存在そのものを抹消してしまう、恐ろしいそれだ。瞬は同じものを自分にも施してそれに耐えた。一瞬、瞬の姿が消えたかのように見えたのは残像である。本物はこの通り、ぴんぴんしている。
「おいきなさい」
　一方、星羅は高速で詠唱を紡いだオーラ防御を付与した１００羽もの白詐欺を碎輝に貸し与えた。
「この子らが貴方を守ってくれるでしょう」
「可愛いな」
「あと２０羽まで追加できます。攻撃にまわる余裕ができるまで、数が残っているとよいのですが……」
　なにしろサンサーラの光は強力だ。
　凌ぐだけでもかなりの体力を削られていく。瞬の凍てついた青白の炎が二つの盾となって陰陽のように重なり合いながらその身を護った。
「これはどっちが先に倒れるかですね」
「自信のほどは？」
　碎輝の問いに瞬は不敵に笑う。
「負けませんよ、碎輝行ってください！！」
「ああ！！」
　防御から攻撃へ切り替わった途端、星羅は残るありったけの鳥と誘導弾を雨霰のようにサンサーラへと差し向けた。
　成長した碎輝の雷が骸の海を割り、瞬の炎と星羅の鳥を通すための道を空ける。届け、と祈った。
「まさか？」
　サンサーラの息が微かに止まる。
　炎は目から光を奪い、四肢を痺れさせた。その僅かな一瞬に飛び込んでくる鳥たちが、その嘴がサンサーラに傷をつけることに成功したのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「碎輝親分、乗って！」
　颯爽と戦場に現れた八重は｜魔法の竹箒《バスターブルーム・ホウキング》に跨っている。碎輝はその柄を掴み、自分の体を箒の上に引き上げた。
「すげえな、骸の海の上を飛んでる！」
「走るよりは速度が出るでしょ？」
　八重は箒の操縦に全神経を集中し、毎秒襲い来る滅殺の光を躱すことだけを考えた。一発たりとも喰らったらジ・エンド……神経をすり減らすアクロバットにも碎輝は振り落とされずにしっかりと掴まっている。
　上、左、下――｜空中《ここ》なら、地上よりも躱すスペースが多いのは幸いだ。八重は立体的な動きでサンサーラの滅光を躱し続けた。
（――まだ？）
　碎輝を急かしたくなる気持ちをぐっと堪え、目の前の攻撃に集中する。永遠に続くかと思われたその時は、ある時、唐突に終わりを告げた。
「よくやってくれたな、八重。俺は一生、お前の頑張りを忘れないぜ」
　とん、と肩に碎輝の暖かな手を感じた直後、ふわっと箒の後ろが軽くなった。成長を遂げた碎輝が攻撃に転じるのと同時に八重も地上へ降りて砲撃モードに切り替えた｜竹箒《ホウキング》を構える。
　オーラバリアを展開、骸の海は来ない。
　碎輝がうまくやってくれたのだ。
　いつしか着物の襟や袖に装飾の増えた魔法巫女装束を纏い、毅然とした瞳でサンサーラを見据える。
「いまだ、八重！」
「覚悟完了一発必中☆てーっ！！」
　ただ一度だけ放たれる必殺のオーラ砲が迸った。
「見事」
　サンサーラを呑み込み、桜色の爆発が散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年09月18日