8
帝都櫻大戰⑦〜落泪

#サクラミラージュ #帝都櫻大戰 #第一戦線

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#帝都櫻大戰
🔒
#第一戦線


0




 女は、ふと顔を上げた。
 どうしてここにいるのか。思い出そうとしても思い出せなかったからだ。
 ただ……、
「……」
 ぎり、と唇を噛む。
 女の目から、涙が零れ落ちる。
「……、……!」
 口をついて出た絶叫は、何の音にもならない。
 すでに言葉は枯れ果てた。嘆きも苦しみも届かないことは思い知った。
 ただ胸を衝く衝動がある。殺さねばならぬと何かが叫ぶ、
 目は泪を湛えるかわりに毒を湛え、流れ落ちる髪の毛は伸びて刃となった。叫び声は空気とともに鋭く人を裂く刃となる。
「……」
 最早救いは必要ない。
 ただ、闘いがそこにあるのみだ。

「千代田区に、世界最大の幻朧桜が咲き誇る城郭というのがあるんだって」
 千代田区ってどこなんだろうねって、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)はかすかに目を眇めた。手に持っているのは書物……旅行ガイドのようなものだろう。覗き込めば、「「不死の帝」が御座し、幻朧桜に祈りを捧げ続けている」と、その書物には記載されているのがわかるだろう。
「……でも中身の方は、実際とは違うみたいだ。城郭は幻朧帝イティハーサを封じ込める為の巨大な封印碑で、今は幻朧帝の力があって帝城の内部からも影朧が溢れ出してるらしい」
 だから、とリュカは話を続ける。今回はその溢れ出した影朧を倒す闘いであると。
「問題点がある。帝城から溢れる影朧は肉体の一部が「渾沌化」っていう状態になっているんだ。異形化している、と思うとわかりやすいね。それが、本体とは別に攻撃を繰り出してくる」
 多分パターンは計れないかな、とリュカが言った。
「とにかくぐちゃぐちゃで色んな変なことをしてくるから、臨機応変に戦うことを前提に考えた方がいいと思う」
 ヒントとも言えぬただの所感を述べ、リュカは手にしていた書物を閉じ、
「楽な相手じゃない。……気を付けていってきて」
 そう話を締めくくった。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
状況は大体リュカの言った通り。
臨機応変に対応していただけたらと思います。

=============================
プレイングボーナス……渾沌化した影朧の繰り出す「予測不能の攻撃」に対処する。
=============================

私自身のスケジュールが変則的なので、ゆっくり書けそうな方を【一人ずつ】描写していこうと思います。全員描写は目指しておりません。先着順ではありません。
🔵が成功数に達し次第終了となりますが、終了となるまではお気持ちお変わりなければ再度投げてくださっても大丈夫です。

また、断章はありません。オープニングが公開され次第、いつでもプレイングを頂けたらと思います。

以上になります。
それでは、良い一日を。
263




第1章 ボス戦 『血まみれ女学生』

POW   :    乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD   :    血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:綿串

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

西条・霧華
「例え倒すしかないのだとしても…、せめてあなたが『あなた』として終われる様に…」

全力を尽くします
それが私の、守護者の【覚悟】ですから…

【斬撃波】で牽制しつつ、纏う【残像】と【フェイント】で眩惑
その勢いのまま【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『君影之華』

敵の攻撃は高めた【集中力】と【視力】を以て【見切り】、【残像】と【フェイント】を交え回避
避け切れなければ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます

そちらが予測不可能な動きをするなら、私も予測困難な動きで立ち回ります
それに予測不能とは言え、攻撃を当てる瞬間までは誤魔化せません

避けても受けても【居合】による【カウンター】を狙います



 西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)が駆けるとひょう、と啼くように風の切る音がする。
 桜の花びらがその風に巻き込まれて流れていく。その翻弄されて散って行く花弁の一つ一つに、霧華が思いをはせることはなかった。
「……!」
「く……っ!」
 何故なら目の前、血の涙を流す女が霧華を捉える。見られた、と思った瞬間風圧のようなものが霧華を押し返した。
 とっさに霧華は愛刀籠釣瓶妙法村正の鯉口を切る。抜刀と同時に放たれた衝撃波が、女の視線の圧力と真っ向から喰いあった。
「……!!」
「例え倒すしかないのだとしても……、せめてあなたが『あなた』として終われる様に……っ」
 相殺される圧力。第二撃が放たれる前に霧華は姿勢を低くする。スライディングの要領で地面すれすれを滑り込み、霧華は女への距離を一気に詰めた。
 女は声をあげたようだった。その声は言葉にならなかった。言葉にならない悲鳴を上げたのではない。その声は異形と変化して、一斉に刃となって霧華へ襲い掛かる。
「声すらも奪われましたか……」
 可哀想だ。そのような言葉を飲み込んで、霧華は正面の敵を見据える。
 本当に可愛そうかなんて、霧華にはわからない。望んで怨念を纏うものもいれば、平穏を望んでいたのに怨念を纏わざるを得なかったものもいる。
 残像を伴いつつ移動することで霧華は攻撃を逸らすけれども、そのすべてを逸らせることは出来ない。否、回避に専念することは出来るだろう。……けれど、霧華は覚悟を決めていた。
「この身が鬻ぐは所詮殺人剣……。ですが、『殺す』ものを選ぶ事はできます」
 目を眇め、狙いを定める。
 女が視線を再び向ける。それと同時に無数の髪の毛が鞭のようにしなって襲い掛かる。
「……」
 肌を撃つそれを受ける。今度は避けない。避けずにそのまま女の前へと肉薄する。もう一度。霧華は鞘に納められていた件に手を置く。
「……私は」
 したたか打たれた体が痛みを訴え血を滲ませる。それでも霧華は女へと視線を外さない。
 苦しみと、嘆きと、憎しみと……。そんなあらゆるものを孕んで、そして逃げ場がなくなってしまったような目を。
「私なりの方法で、あなたを助けたいと思うのです」
 私には、これしかできないから。
 それは己への言い訳のようでいて、どこか真摯な祈りのようであった。
 抜刀と同時に刀を振る。何度も敵を屠ったその軌道は、今度も確かに女の足を薙ぎ払った。
「……!」
 声なき声で悲鳴を上げる女に怯むことなく、霧華は剣を収め再び構えをとる。
 必ず、救って見せると。その決意と共に再び霧華は相手へ向き直った……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
こんな事さえなかったら鎮まっていたろうに…

焼き付いた憤怒と慟哭が少女の形の暴威になったなら
話し掛けても声は届かない

猟兵として出来るのは
彼女をもう一度瞑らせる事だけだ
この手で、必ず

防御技能を強く全励起の上
ヘリオンスフィア詠唱

この力は俺が憧れた聖光の具現
相棒に贈られた記憶の錫杖だけを手に
光で以って終わらせる者として
彼女のもとへ向かう

遠くなら俺には攻撃がほとんど通らない
殺したければ俺を至近から攻撃する他ない

光はさながら誘蛾灯
そして指呼の間になれば
聖光で灼きながら全力攻撃を
貫かれ血を吐いても絶対に引かず
光に還す

「泪…止めてあげられなくてごめんな」
届かなくても意味が無くても
せめてこれだけは伝え送り出そう



 彼女が、声をあげたのが分かった。
 しかし声は目に見えぬ刃となり、周囲にまき散らされ、猟兵も、建物も構わず斬り裂くその狂気を葛城・時人(光望護花・f35294)は見た。
「こんな事さえなかったら鎮まっていたろうに……」
 もはや自分たちが認識されているのかどうかも不明だった。女はただ、悲しみと憎しみを訴え、それをただ放出しているだけのように見える。
「……ああ」
 これはただの少女の形をした暴威。話し掛けても声は届かない。
 なるべくならば理解したくなかったことだけれども、理解しないわけにもいかない。
 時人は玉枝の杖に音色を奏でる錫杖を構えた。小環と銀鎖がついているもので、握ると時人に昔を思い出させる。
「……この手で、必ず」
 救うとは言えなかった。
「もう一度……瞑らせる」
 ただその決意を胸に、時人もその憎しみの暴風雨の中に飛び込んだ。
「……!」
 女がこちらを、見た。視点の合わない目、心がなくなったような顔。けれども確かに強烈な「見た」という意思を感じる。
「……聖なる光の導きに従い、領域を展開する」
 怯まず、時人は女と目を合わせて走る。聖なる光が時人を包み込む。善の体現者とも言われるその身が、真っ向から暗闇を迎え撃つ。
「……! …………!!」
 叫んでいる。呼んでいる。同時に刃が走る時人を近寄らせまいとするかのように一斉に降り注ぐ。錫杖を握りこむ。……避けはしない。全弾、時人は体に防御結界を纏い受け止めた……!
「……っ!!」
「っと……!」
 瞬間、足元が弾けた。時人の足元に出現した木の根のようなものが、時人の足を掴もうとする。防御しても足は止められる。すんでのところでそれは錫杖を振り下ろし時人はそれを強く殴った。
 引きちぎられる木の根は女の足に通じていたのか、同時に足が裂け血が流れている。
 その痛々しい光景を、時人は正面から受け止めた。
「……この力は俺が憧れた聖光の具現だ」
 自然と唇から、そんな言葉が漏れていた。
「光で以って終わらせる者……終わらせることしかできない。けれど……!」
 女が動く。らちが明かない状況に接近してくる。それは光を求めているように、時人には見えた。時人は錫杖を握りこむ。

 ……一見、時人の防御は完璧に見える。
 けれども、彼自身どうにもならないと自覚する、最大の欠点がそこにはあった……。

 目の前に女の顔がある。
 冗談みたいにその像自身が醜く歪んでいた。
 女の爪が時人に振り下ろされる。先ほどまであんなにも堅牢だったその守りは、いとも簡単に引き裂かれ時人の光を血で染めた。
 ……そう、彼の絶対防御はこの錫杖が届かない範囲でのみで。
 時人が攻撃するならば、錫杖の範囲内に敵を入れるのならば、
 彼もまた、その攻撃を受け止めなければいけないのだ。
「……っ、たた……」
 それでもそれはわかっていてやっていたことだ。血で染まりながらも、時人は錫杖を握りしめる。
「泪……止めてあげられなくてごめんな」
 それでも。
 彼は怯むことなく、光の錫杖を女に向かって振り下ろした。
 どうかどうか光あれと。祈るような声とともに……。
 女の絶叫はやはり刃となって聞こえないけれど……、
 時人はそこに、救われる何かがあると信じた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
『』は裏声でメボンゴの台詞

なにか辛いことがあったんだね…
もっと早く会えたら良かったのに
そしたらお話しできたかもしれない
でも過去は変えられないからせめて早めの終幕を

オーラ防御を使用し私とメボンゴを守りつつUC二回攻撃
時々光属性付与した衝撃波(メボンゴから出る)も追加
『ライトニングメボンゴ波ー!』
メボンゴと私を繋ぐ繰糸にも光属性付与して上手く使えないかな?

混沌化って厄介だね
早業、軽業で回避を試みる
オーラ防御を破られたら再度張り直す
少しくらいの怪我なら想定内
致命傷じゃなければ戦える!
多少の怪我は我慢するよ
だって女の子が辛そうなんだもん
絶対笑顔のほうが似合うのに
『早く解放してあげよう!』
だね!



 戦場に立ち、目線を合わせる。
「メボンゴ!」
『参上!』
 ……あまりに、昏い。ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)はそう思った瞬間、己の相棒であり白兎の絡繰り人形であるメボンゴを手繰り寄せていた。
 桜舞う戦場で血まみれの女が立っている。それは彼女自身の傷から流れるものか、それとも猟兵たちの返り血か。……はたまた最初から、その血の涙が落としていったものなのかはわからない。しかしながらジュジュは己とメボンゴに、即座に結界を張る。オーラ状のそれはぴったりと二人を包み込んだ。
「……!」
 同時に、悲鳴のような金切り声のような何かを女は発したように見えた。……ように見えた、というのは、女が口を動かしたその瞬間、無数の刃がジュジュたちに向かって降り注いだからだ。
 女の声は最早聞こえない。それを悼む気持ちはあれ、亡くした声を探すことをジュジュはしない。「過去は変えられないからせめて早めの終幕を」その思いで持って、降り注ぐ刃を躱しながら前へと進んだ。
(もっと早く会えたら良かったのに。そしたらお話しできたかもしれない……)
 ひらりひらりと、見えない刃を躱すたびにメボンゴの白いドレスが躍る。黒子のようにその動きに沿わせてダンスを踊りながらも、ジュジュはそんなことを考える。こうなってしまう前に、何かできる事があったなら。髪が蛇のように動きジュジュにかみつこうとする。それを即座にメボンゴで祓い、同時にオーラの防御で衝撃から守る。
 一呼吸。その穴のように暗い目を見て、ジュジュはそんな思いを最後に意識を切り替える。
 ……メボンゴは、こんな時でも辛さを見せない。
 言い聞かせるまでもなく、そう思った瞬間自然とジュジュの体は動いた。

『ライトニングメボンゴ波ー!』
 女が目の前に迫ると同時に、メボンゴもまた攻撃に移る。放たれた衝撃波は光の属性を伴っていた。
『明るくなぁれ!』
 その見えているのかもわからぬ目にまで光が届くようにと。強い思いを込めて衝撃波が女を撃つ。
「……!」
 声なんて聞こえない。けれどもきっと、悲鳴を上げている。
 ぎちぎちと不気味なまでに伸びた爪が凪ぐ。メボンゴの耳を掠り、ジュジュの額を浅く咲く。……オーラの守りがなければ頭が割れていたかもしれない。
『平気!』
 けれども即座にメボンゴが声をあげ、ジュジュは冷静に結界を張りなおす。操る絡繰り糸も光り輝き、爪の攻撃を力を持って受け止めその勢いを逸らした。
「……致命傷じゃなければ戦える!」
 恐くないわけではない。けれども戦うのだ。二人はそんな風にずっと戦っていた。いつものように、ジュジュはためらわず足を踏み込む。
 ……一撃でいい。勿論倒せればもっといいけれども、一撃でも与えられたら……、
「……だって女の子が辛そうなんだもん。絶対笑顔のほうが似合うのに」
『早く解放してあげよう!』
 ただ、切実な。裏表のない誠実な優しさで持ってジュジュはそう呟き、メボンゴは胸を張った。
「……だね!」
 奮い立たせるように、ジュジュは絡繰り糸を手繰る。顔を上げた女と目が合った。
「……あ」
 声は、聞こえなかった。ただ、
「ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョンを!」
 無数の白薔薇の花びらが光り輝く。衝撃波とともに放たれた光に、
「明るい……」
 そのどこかに、ジュジュのものでも、メボンゴのものでもない。聞いたことのない少女の声が聞こえた気がして。
 ジュジュは、絡繰り糸が続くその指をぎゅっと握りしめたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
その苦しみを救えないと云うのなら
言えぬ絶叫と衝動の全てをぶつけて下さいませ
受けとめますわ

真夜中を彩るわたくしのドレス、綺麗でしょう
貴女の毒を、刃を弾く程に
星雲彩のオーラも防護に纏い踊りましょう
黒剣で切り込みますわ

不躾な混沌だこと。わたくし達の戦いを邪魔するなんて
でも本体とは別に手段が有るのは此方も同じ
異変を見切り、広げた翼で身を護って攻撃を受けとめますわ
器用でしょう?

少し力技になりますけれども
大剣の薙ぎ払いによる風で体勢を崩させ、毒の涙を払いましょう
貴女の眼に似合わぬものは要りませんわ
さあ、晴れた目で御覧になって
わたくしは星夜。貴女が眠る、最期の夜

苦しまぬよう、一閃で仕留めますわ
おやすみなさい



 オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)はぱちり、と瞬きを一つ。
 その夜のような瞳で、目の前に立つ女の姿を見やった。
 声はすでに音にならず、傷つき苦しそうに息を吐いてなお、別の生き物のように蠢く長い髪。
 既に女に意思は必要なく、ただその苦しみだけが利用されている。
「……その苦しみを救えないと云うのなら」
 だから。オリオは静かに星空の剣を握りこんだ。
「わたくしが……受け止めますわ」
 すべて、すべて。
 その苦しみも、その痛みも。すべて抱きしめよう。
 オリオの思いが女に通じたのかはわからない。
 既に目が見えているのか。耳が聞こえているのか。それすらも怪しいその女は、それでも確かにオリオの方を見た。
 ただ、向けられる強烈な意識。恨み、苦しみ、そんな色すらなくしてしまったそれに、オリオはゆっくりと微笑んで、
「……真夜中を彩るわたくしのドレス、綺麗でしょう?」
 そうして、彼女もまた女へと向かって飛翔を始めた。

「……!」
 声にならない絶叫と共に刃が放たれた。
 こちらに来るなとでもいうように、出鱈目に振り回された腕のように戦場を走り回る不可視の刃に、オリオは構わず黒剣を手に視線を正面に向ける。
 ざんっ、という鋭い音とともに、腕に、足に、胴体に、衝撃が走る。刃がオリオを撃つのだ。
「そんなこと、わたくしが構うとでも……?」
 しかしながら、その衝撃による痛みはあれど、彼女に傷を与えるには及ばない。
 彼女を守る星空のドレスが、その鎧となってその刃を受け止めているからだ。
「……!」
 ならばと。髪がうねる。意思を持つ蛇のように、オリオの翼を巻き上げてもぎ取ろうと動く。
「……ええ。それは判断としては正しいわ。けれど……」
 不躾な混沌だこと。とオリオは口の中でつぶやいて不敵に笑った。その足止めについ、とオリオは視線を動かす。夜空の翼はオリオとはまた別の動き、オリオとは別の反応速度でその翼をはばたかせる。
「本体とは別に手段が有るのはわたくしも同じ。……この子がそんな、柔い子に見えて?」
 髪の毛を払うように落とし、そして自らの意志で巣食うように巻き込む。その間にもオリオは目の前に伸びた髪を掴む。撤退は許さない。そのまま飛行していた勢いを利用するように地を蹴って、一気に距離を詰めた。
「……器用でしょう? わたくし、力技以外でもちょっと自信がありますの」
 まあ、最後に使うのは少しの力技ですけれど。なんてそこまではいわずに、オリオは剣を握りこんだ。
 そして目の前の女を見た。
「……」
 その姿が、オリオにはほんの少し可哀想で。
「……」
 けれどもその姿は、オリオにとってそれ以上に辛そうで。
「わたくしは星夜」
 女には見えているだろうか。他の猟兵たちがもっていた、彼女への優しさを。そして、その光を。
「貴方が眠る、最期の夜」
 たとえ見えていなくとも、感じていてほしいと思った。そして、
「……どうか苦しまないように。この星空があなたへ見えますように」
 願いとともに、オリオの夜空の剣の一閃は、女の胸を掻き切った。涙のように降る毒も、叫ぶように降る刃も。すべてを受けながら降りぬかれた一閃であった。
 女の刃は……声はもう、聞こえなかった。
 緩やかに、衝撃で崩れ落ちる女に、
「おやすみなさい」
 オリオは手を伸ばして、見開いたその瞼を閉じさせたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
溢れ出す影朧達に
城郭破壊される前に、ですね

女学生姿の影朧の
見える範囲の髪、爪、の攻撃は
残像残すフェイント織り交ぜた動きで狙いをずらし
間合いや、攻撃の機と…相手の本体能力も見切りで応変に対応
混沌化、なら
自身にも制御も予測もつかないのだろう

視線や所作だけには集中しすぎず
六感で違和感あれば踏み込みすぎないよう注意
念の為守護の結界を自身と瓜江にかけ
意識外から術を受けても威力軽減狙い

攻撃は破魔の力降ろした刀での薙ぎ払いと
瓜江の扇から放つ浄化を込めた風魔法…を使うが

こちらの攻撃で
涙の量や声なき慟哭が増すようなら…
踏み込み
流れた血に、破魔の力込め作った刃で急所狙う

己を失い暴れる様は、苦しく見える
もう、ここで



 終わった、と冴島・類(公孫樹・f13398)は思った。自分の出番はなかったなと。
 猟兵たちの攻撃で女は倒れる。その死に顔はどこか安らかなようにも見えた。崩れ落ちる体はさらさらとその姿を消そうとしている。
 それはそれで悪いことではない。それなら……。
 類はそう思った。そう思って、視界の端にその姿をとどめ……、
「あ……」
 髪が。
 長い髪が、蠢いた、気がした。
「いけない!」
 言葉と同時に動き出していた。女の髪がのたうつ。それは女の意志に反するように蛇のように。砂のように崩れ落ちていく足が変形する。砂は鉛のような毒のような粒となり、一瞬で周囲に飛び散った。
「瓜江!」
 叫んで前に出る。女の真正面、散弾銃のように飛び散った毒の鉛棚を、とっさに瓜江の扇で対処した。浄化の力を込めた風魔法で、ある程度緩和できないかと試みる。
「――!」
 思わず、息をのんだのは、殺しきれなかった弾丸が類の手足にのめり込んだから。
「っ」
 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。即座に身を潜め攻撃を躱す。鋭い爪が類のいた場所を掠め、その風でざわりと類の髪が動いた。
「混沌化……!」
 女はいうなれば死んでいた。確実に。最後の瞬間はほんの少し穏やかなようにも見えた。
 なのにその最早形のない足が女を立たせ、髪が意思のない体を操っている。
「……」
 自身で制御できないどころか、死してなお。
 ぎりりと類は瓜江を操る絡繰り糸の指貫を握りこむ。
 応えるように瓜江が滑った。女の目の前、その攻撃を抑えるように突進する。
「……終わらせます。今、すぐに!」
 城郭を破壊される前に。そしてそれ以上に、
「君がそれ以上、苦しくないように……!」
 返答はなかった。至近距離まで迫る瓜江に腕が振るわれる。たおやかな女の手は一瞬で異形の剛腕となり、その鋭い爪が瓜江を破壊しようとする。
 声は聞こえない。あの苦悶の叫びは彼女の心だったから。もうここに心はない。
 冷静に観察する。ならばもっと踏み込める。瓜江で攻撃をいなしながら、類は冷静に考える。威力を軽減するため瓜江と己に守護の結界を施し、あくまで己は瓜江のサポートに徹する。
「……」
 女の、いや、女だった何かの方も、脅威は瓜江であり、類は瓜江を操るものだと認識したようだ。髪の動きが変わる。瓜江を牽制しながら類の方を何とか倒せないか探っている。だから類は一歩踏み出した。
 女の目から毒が落ちる。それは最早涙なのか、女の血なのかもわからなかった。だが、それは確かに毒の弾丸となり類を襲う。
「……今」
 だからその一瞬、類はさらに踏み込んだ。弾丸が類の腕を、足を、貫く。大丈夫、急所は結界で守っている。だから……、
「もう、ここで」
 破魔の力をやどらせた短刀が、女の胸に深々と突き刺さった。銀杏色の組紐飾りが揺れる。相手の痛みを、己へと移す。そんな願いを込めた短刀。
 流れ込んでくるのは、痛み、痛み、痛み。そして苦しみ、悲しみ。恨み。……大丈夫、全部うつす。だからどうか、
「今度こそ、お休み」
 安らかな、眠りを。

 類がそう願った瞬間、女の姿が消失した。それと同時に、類のその痛みも消えた。
「あ……」
 最初から、なかったように。
 ただ桜が散る中で。苦しいばかりだった彼女の存在は……消えていったのであった。

 それが、彼女にとっての安らぎであればいいのにと。
 類は静かに、桜の向こう側に祈りをささげたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月14日


挿絵イラスト