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鏡花水月

#カクリヨファンタズム #戦後

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#カクリヨファンタズム
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#戦後


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●水鏡
 星々瞬く夜空に浮かぶ、大きな月。
 月に一度の美しき満月は、あまりにも大きく煌々と世界を照らしている。
 下を見れば揺らめく水面。夜空の闇を映したそれは、満月をも映し出す。
 手を伸ばせば届きそう――そんな錯覚に伸ばしてみれば水面は歪み月が乱れる。
 けれど、その月を掬い上げれば――其処には、『何か』があるだろう。

●鏡花水月
 美しい月が浮かぶ、カクリヨファンタズムのとある地域。
 淡く照らす筈の月は煌々と白く輝き、世界を淡く染め上がる。
「其の地にて、どうやらお祭りが開かれるようですの」
 杠葉・花凛(華蝶・f14592)は猟兵へとそう紡ぐ。
 ススキ野原にて、妖怪達により開かれるのは月に一度の満月の日を祝う宴。ススキがぽっかりと空いた空間にて、並ぶのは様々な屋台。林檎飴や綿あめ、焼きそばやお好み焼きと云った一般的な屋台は大体並ぶ。映えを意識された七色の綿あめは、吊るされた提灯の光を浴びると星屑のようにキラキラ輝く不思議な品。
 また、屋台の広がるススキ野原の端には、泉がある。夜間故に水中は見えぬ程漆黒に染まるが、星と月が輝く鏡のような美しさ。――けれどそれは、映し出された幻。
「皆様、鏡花水月と云う言葉をご存知ですか? ええ、正にこの泉がそうなのです」
 水面に映る星や月に触れることは出来ない。けれども――映る月を掬えば、何も無い筈の掌には『何か』が宿ると言われている。
 それは花かもしれない。宝石かもしれない。カクリヨファンタズムらしい、忘れ去った懐かしい何かかもしれない。――人によって変わるそれは、一様に月から生まれ出る。
 それは、満月の一夜だけの摩訶不思議な出来事。

 勿論、猟兵が赴くからにはただ祭りを楽しむだけでは無い。この祭りに惹かれたのか、オブリビオンが現れる。
「彼は猫の姿をしております。――カクリヨファンタズムですから、骸魂と離す事が出来れば救うことが出来ますわ」
 正体はすねこすりの骸魂が猫又を飲み込んだもの。
 通常よりも丸っぽいフォルムの身体はふわふわで、とても気持ちが良い。皆人懐っこいようで、猟兵達を見つければ自ら近付いてそのふわふわの身体を足にすりすりとこすりつけてくる。悪戯好きの子はもふっと体当たりをしてくるかもしれないが、さほどダメージは無いようだ。けれども掴まるのは嫌なようで、抱き上げようとするとするりと逃げる。
 何せすねこすりの骸魂、足元にこすりつけるのが本能のよう。本当は触れられる前にこすりつけて通り抜ける筈なのだが、オビリビオン化した影響か撫でるくらいなら大丈夫。
「さほど戦闘力はございません。ですが、あまりに増えるとお祭りに影響もございますし、飲まれてしまった妖怪を助け出して下さいませ」
 弱い子なので軽くぽかっとすれば無事倒すことは出来る。けれど可愛らしいので、倒すのは気が引ける者もいるだろう。――そんな猟兵へ、もう一つ方法がある。
「抱き上げると逃げてしまう……ですから、逆に抱き上げてしまえば諦めるようですの」
 負けを認めたという事だろうか。人間に抱き上げられればその時点で倒した事となり妖怪を助けることが出来る。――ただ、手を伸ばせばするりとその丸みながら見事に逃げるようなので、なかなか骨は折れるだろう。
「方法は皆様にお任せ致しますわ。無事に倒すことが出来れば、宜しいですから」
 話に合わぬ優雅な笑みで花凛は締めの言葉を零す。

 鈴虫の鳴き声の元で開かれる秋の宴。
 瞬く星々と照らす月の元、手にする幻は何だろう。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『カクリヨファンタズム』でのお話をお届け致します。

●シナリオの流れ
 ・1章 冒険(蓮華と月の池)
 ・2章 集団戦(ねこまたすねこすり)

●1章について
 ススキ野原での満月の宴。
 林檎飴や綿あめ等、お祭りにありそうな屋台なら大体あります。
 ススキ野原の外れの方。人気の少ない場に大きな泉があります。
 蓮の葉と花が浮かぶそこには星と月が映り込んでいて、その月を掬おうとすると月では無く『何か』が掬えるとの言い伝えがあります。
 花や宝石、その他色々。掬った掌に乗るサイズでしたらご自由に。(生き物はNG)
 雰囲気としてはOPや断章を参考にして下さい。

●2章について
 ちょっと丸めなもふもふ猫。大きさは大体抱えられる位。模様は様々。
 皆懐っこく、足元にすりすりしたりもふもふアタックをする強敵です。
 軽くぽかっとするか、抱き上げると倒すことが出来ます。

●装い
 1章のみ参照。特に指定が無ければ言及は致しません。
 浴衣コンテストの装いの場合は、記載頂ければ拝見致します。色や模様は記載頂けると助かります。(○○年浴衣等分かるように。文章の流れによっては反映出来ない可能性がありますので、ご了承のうえお願いします。リプレイ返却までステータスで該当イラストを活性化しておいて頂けますと、探しやすくて助かります)

●その他
 ・全体的に心情やお遊びシナリオです。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『蓮華と月の池』

POW   :    勢いのままに通っていく

SPD   :    周囲を探りながら通る

WIZ   :    敢えてゆっくり進んでいく

イラスト:ひお

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●秋の月夜
 虫の鳴き声の響く秋の夜長、大きな月が煌々と世界を照らしている。
 秋風が肌を撫でるけれど、その冷ややかさを掻き消すように妖怪達による屋台の熱気がその身を包み込んだ。
 ふわりと漂う香りはどれも美味しそうで、お腹を刺激する香り。
 夏の暑さのひと段落した、秋の夜長だからこそ落ち着いて楽しむことが出来るだろう。

 ――屋台から少し離れた場。
 幾つもの真白の蓮が水面に浮かぶその泉は、夜故に漆黒に包まれている。
 空に輝く星と月が映り込む其処へと、手を伸ばしたら何が起きるだろう。
 そっと水面に指先が触れれば、熱帯びた身体にひやりと冷たい感覚が伝わり、大きなまん丸のお月様はその姿を歪ませる。
 鏡花水月。
 お月様は大きすぎて、その手に収める事は出来ないけれど。
 『何か』大切なものが、アナタの掌に宿るだろう。
榎木・陽桜
【桜葵】

(はしゃぐ葵さんにくすくすとし)
はいです、やりましょう♪
射的も輪投げも、水風船も楽しいのですっ

七色の綿あめ、キラキラとしてとても綺麗ですよ
葵さん、よかったら一口どうぞなのです

(少し背伸びし手にした綿あめを差し出して
お返しにと差し出された姫リンゴ飴を、ぱくりとして)

うふふ、いいと思いますよ?
普段見れない葵さん見れるのは嬉しいのです♪

(鏡花水月で掬い上げた小柄を
不安そうに握りしめる葵さんの手に、
安心させるように自分の手を重ね、笑みを向け)

では、あたしも
(水面の月を掬った両手に生まれるは月色に輝くスプーン)

これは、ティーメジャースプーンですね
先日のティーカップと一緒にお店で使えるかもですよ?


榎木・葵
【桜葵】
並ぶ屋台に年甲斐もなくはしゃいで
射的やりましょう!
輪投げもいいですね
ひとしきり遊んで一休み

七色の綿あめをそっと口に含んで
甘くて美味しいです
こちらもどうぞ
お返しにと姫リンゴ飴を差し出して

すみませんはしゃいでしまって
僕は子供の頃は修行ばかりで
こういうお祭りに縁がなくて

鏡花水月
触れることのできない何かに触れられる日
探す半身の手がかりを求めて掬いあげてみれば
黒い鞘に収まった小柄が

これは何を意味するのでしょう
分からないまま不安と一緒に握り締め
握ってくれる手の温かさに心がほぐれて
あなたにはいつも助けられますね
僕ももっと強くならなければ

素敵なメジャースプーンですね
宿に帰ったらこれでお茶を淹れましょう




「射的やりましょう! 輪投げもいいですね」
 妖怪達の出店する数多の屋台に、榎木・葵(影狩人・f44015)は年甲斐も無くはしゃぎ気味。長身の恋人である彼のその姿に、榎木・陽桜(ねがいうた・f44147)はくすくすと微笑ましそうに小さな笑い声を零す。
「はいです、やりましょう♪ 射的も輪投げも、水風船も楽しいのですっ」
 この年齢になればそういった屋台を楽しむ事もあまり無いだろう。だからこそ思い切りはしゃぐ彼と共に回れば、些細な事も楽しいと感じるもの。
 戦利品片手に、もう片方の手には提灯明かりにキラキラと輝く大きな七色綿あめ。そのキラキラを藍色の瞳に映せば陽桜は「わあ……」と感嘆の吐息を零す。一口含めばじゅわりと素朴な甘さが口に広がって、儚く溶けていく。
「葵さん、よかったら一口どうぞなのです」
 陽桜は少し背伸びをして、葵へと綿あめを差し出した。――平均的な彼女だけれど、普通よりも長身な彼との差は背伸びでも埋まらない。それでも差を縮めてくれる彼女に笑みを落とし、葵はそっと屈むと綿あめを一口。
「甘くて美味しいです、こちらもどうぞ」
 彼が差し出したのは小さな姫林檎。艶々と輝く飴と共にシャクリと陽桜が齧れば、林檎の甘酸っぱさと飴の優しい甘さが口に広がった。
「すみませんはしゃいでしまって。僕は子供の頃は修行ばかりで、こういうお祭りに縁がなくて」
 姫林檎を片手に、少しだけ恥ずかしそうに葵は紡ぐ。そう、普通ならば幼い頃に経験する事も、彼は経験してこなかった。だからこそ、少年のような心地になってしまうのだ。けれども彼女の手前、今になって少しだけ恥ずかしさが勝ってしまったのだ。
 そんな彼の姿とその言葉に――。
「うふふ、いいと思いますよ?」
 陽桜はくすりと笑みを零すと、素直に肯定の言葉を返す。
 だって――普段見れない葵を見れることが、嬉しいから。

 そのまま二人はお祭りを堪能した後、休憩として人気の無い泉へとやってきた。
 ざわりと吹く風にススキが揺れる。煌々と世界を照らす大きな月と、漆黒の空を映す鏡のような静かな水面。その神秘的な光景に葵は一つ息を吐くと――そのまま大きな手で、水面に映る月を掬ってみせた。
 ひやりとした心地が指先に伝わったかと思えば、その掌に乗るのは黒い鞘に収まった小柄。それが、探す半身の手掛かりを求めて掬いあげたモノ。
「これは何を意味するのでしょう」
 少し不安さを宿した瞳を瞬き、きゅっと小柄を握り締める葵。そんな彼の姿を見て、陽桜は何も言わず、己の小さな手をそっと彼の手へと重ねた。
 その温もりに顔を上げ、傍らを見れば陽桜は優しく微笑んでいる。その温かな微笑みと体温に心が解けていくのがよく分かる。ふうっと溜息を零し、葵は小さく笑った。
「あなたにはいつも助けられますね。僕ももっと強くならなければ」
 年上として、男として――そんな決意を宿し紡ぐ彼の瞳は、もう先程の不安は消えた真っ直ぐな黒い色。その様子に安心したのか、陽桜は彼の手から自身の手を離すと。
「では、あたしも」
 先程の彼と同じように、自身もそうっと水面の月を掬いあげた。キラリ、小さな掌に輝く色は月のよう。けれども月では無いそれは――。
「これは、ティーメジャースプーンですね」
 ぱちぱちと瞳を瞬き、月明かりに掲げればキラリとお揃いの月色に輝く。
「素敵なメジャースプーンですね。宿に帰ったらこれでお茶を淹れましょう」
「先日のティーカップと一緒にお店で使えるかもですよ?」
 その輝きに眩しそうに瞳を細めた葵が零せば、陽桜はよく合う品を思い出し微笑んだ。
 香り立つお茶と共に、あの喫茶で――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【雷炎の絆】で参加

やれやれ、色々問題は残ったが、アタシたちの家のあるところはなんとかなったか。そうだね、大分働いたのでこうしてゆっくり律と満月の一夜をすごすのもいい。月といえば瞬と朔兎か。あの子たちの為にもまだまだがんばらねば。

意外と律は良く食べるしね。焼きそばと綿飴。案外おとなしめだね。ああ、泉の方に目がいくか。

泉に映る星に奏と星羅に、月に瞬と朔兎を感じて手を伸ばすと真珠が一粒。真珠、ね。まあ、駆け落ちで結婚し、生まれた娘は家庭を持った。なんか感慨深いねえ。律は・・・ルビーか。どっちも手放さないようにしたいよね。

このススキ野原の風景も守らなければいけないね。そうだろ、律?


真宮・律
【雷炎の絆】で参加

まあ、ただでさえ厄介な世界だったしな。俺たちの家のある世界は今後考えていけばいい。ススキの中の満月の祭りか。星と月のうつる泉か。子供達の輝きを一度に見られていいじゃないか。ああ、もちろん焼きそばや綿飴をいただいてからな。

泉から掬いあげればルビー。ああ、勇気と情熱の戦士の石か。俺の人生そのものだ。戦地育ちから妻と会い、娘をもうけて一度死に数奇な運命で今も戦場にたってる。今は4人の子供の親だ。まだ小さい子達もいるからっまだ戦いは終わらないな。

このススキの風景はうしなわれつつある日常といっていい。せめてこの風景は、守らないとな。




 さわり――数多のススキが風に揺れる。
「やれやれ、色々問題は残ったが、アタシたちの家のあるところはなんとかなったか」
 ふうっと一つ溜息と共に、真宮・響(赫灼の炎・f00434)は言葉を零した。
「まあ、ただでさえ厄介な世界だったしな」
 彼女の言葉に真宮・律(黄昏の雷鳴・f38364)は頷きを返す。戦いの事を想い、今の平穏なひと時を想い。自然と、その口許には笑みが咲く。
 ――俺たちの家のある世界は今後考えていけばいい。
 そっと零される律のその言葉に、響は彼へと視線を向けた。視線が交わえば自然と響の口許にも笑みが零れ、先程の彼と同じように頷く。
「ススキの中の満月の祭りか。星と月のうつる泉か。子供達の輝きを一度に見られていいじゃないか」
「そうだね、大分働いたのでこうしてゆっくり律と満月の一夜をすごすのもいい」
 輝く月へと律が視線を上げれば、響も倣うように視線を上げた。煌々と照らす月はあまりにも大きく、世界を優しく照らしている。
(「あの子たちの為にもまだまだがんばらねば」)
 月と云えば――と考え、響は決意するようにその手を強く握った。改めてそう想えるのも、こうして美しき月の下に居るからだろう。
 そのまま二人は妖怪達の開く屋台を巡り――そして、人気の無い泉へとやって来る。
 月と星が映る鏡のような水面。その映る偽物の月を掬えば――その伝承を確かめるように、まず手を伸ばしたのは響だった。ひやりと冷たい心地を感じながら、想うは愛しき人達。恐れる事無く水面の月を掬い上げた彼女の掌に輝くのは――。
「真珠、ね」
 純白に輝く、小さな丸い純粋なる宝石だった。
 その煌めきを見て、彼女は想う。――駆け落ちで結婚し、生まれた娘は家庭を持った。
「なんか感慨深いねえ」
 懐かしむかのように瞳を細め、煌めく小さな宝石を見つめていれば。すぐ傍らで、律が真っ赤なルビーを月から掬い上げていた。
「……ルビーか。どっちも手放さないようにしたいよね」
 真白からの赤は目に焼き付くかのように色濃く眩しい。微笑みながら響がそう紡げば、律は静かに頷いた。
「ああ、勇気と情熱の戦士の石か。俺の人生そのものだ」
 戦地育ちから妻と会い、娘をもうけて一度死に、数奇な運命で今も戦場に立っている。
 そんな彼も、今は四人の子供の親。
「まだ小さい子達もいるから。まだ戦いは終わらないな」
 きゅっとルビーを握り締める姿は、強い意志が宿る様を表すかのよう。そんな彼の姿を見守りながら、響は静かに微笑んだ。
 さわり、秋風が吹き二人の肌を撫でる。ススキの揺れる音が響く。
「このススキ野原の風景も守らなければいけないね。そうだろ、律?」
「このススキの風景はうしなわれつつある日常といっていい。せめてこの風景は、守らないとな」
 平和を、日常を――この手で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
エルネストさん(f00066)と
浴衣は昨年のものを

去年の暮れから、色々ありましたが
折角のお月見と言っても、彼の人狼病を失念しておりました
私のぽかっとも洒落にならない気はしますがそれはそれ
共に、宴を楽しみましょう
今宵は使徒でなく、人としての私ですから

鏡花水月、試してみましょう
水に映る月を掬う、神秘的な経験ですが
はて、これは…鍵?
どうも私の聖祓器と似て、色々と姿を変えるようですが
これはエルネストさんに
貴方にも、楽園の加護のありますよう

…って、えぇ!?
いえ、その、突然のそれは私とて、照れてしまいます…!!
え、えぇと、エルネストさんもお似合いですよ…!?


エルネスト・ポラリス
【ナターシャ・フォーサイス(f03983)と】

……頭痛い
満月だもんなぁ今日。本来なら狼化して暴れまわってる時間ですよ私
まあ、故郷の月でなく、薬をガブ飲みした状態ならタチの悪い風邪程度で済むでしょう
もし暴れだしたら後ろからぽかっと気絶させてくださいね、ナターシャさん

さて、すねこすりを待つ間、暇です
鏡花水月とやらを実践してみましょうか……おや?
(掬ったのは銀に輝く髪飾り。明らかに女性ものだ)
……なるほど、当人が使えるものだけとは聞いてませんでしたしね

…………えい
(ナターシャの髪に勝手につける)
おお、やはりその銀の髪と白い浴衣に映えますねぇ。お美しいです
(熱っぽさで頭が回らぬゆえの大胆行動であった)




 ――……頭痛い。
 ガンガンと響く頭痛に眉をしかめながら、エルネスト・ポラリス(たとえ月すら錆びはてるとも・f00066)は頭に手をやる。それで頭痛が消える訳では無いが、幾分か楽な気がするのは気休めだろうか。
(「満月だもんなぁ今日……」)
 煌々と世界を照らす大きな満月。人狼である彼は、本来ならば狼化して暴れ回っている時間である。しかし今、頭痛だけで済んでいるのは故郷の月では無い事と、薬を飲んでいる為質の悪い風邪位の症状で済んでいる。
 そんな頭を抱え座り込む彼の様子を、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は心配そうに覗き込んだ。
 去年の暮れから、色々とあったが――。
(「折角のお月見と言っても、彼の人狼病を失念しておりました」)
 真白の浴衣が月明かりに煌めく中、彼女はどうしようかと戸惑うように満月を見上げる。秋の夜長には人々が月を見上げる風習がある地もあるけれど、彼にとってはそれどころでは無いだろうか。
「もし暴れだしたら後ろからぽかっと気絶させてくださいね、ナターシャさん」
「私のぽかっとも洒落にならない気はしますが……」
 どうしようかと悩んでいると、不意に掛けられる声にナターシャは少しだけ驚いたように視線を月から落とした後、言葉を零す。
 けれども、それはそれと云う事にしておこう。
「共に、宴を楽しみましょう」
 ――何せ今宵は、使徒でなく人としての私だから。
 敵が現れるまでの間、祭りの喧騒よりも人気の少ない泉のほうが幾分かマシだろうか。涼やかな秋風が肌を撫で、ススキが風に揺れさわさわと微かな音色を奏でる中、月と星を映す泉の前へと彼等は足を運んだ。
 まるで鏡のようなそれは、不思議な事が起こるという。
「鏡花水月、試してみましょう」
 そっと前へと進み出て、ナターシャは恐れる事無く水面へと手を伸ばす。白の浴衣の袂が濡れぬようにと気を付けながら、映る月を掬うように――神秘的だと思いながら掬い上げたその掌には、月では無く。
「はて、これは……鍵?」
 小さな鍵が、輝いていた。
 それはナターシャの聖祓器と似て、色々と形を変えるよう。不思議そうに想いながら眺めた後、彼女は顔を上げると――。
「これはエルネストさんに。貴方にも、楽園の加護のありますよう」
 柔く微笑みながら、そっと彼の手へとその鍵を握らせた。
 その輝きを受け取った後、エルネストもまた水面の月を見遣る。本物の満月では無く、水鏡に映るそれは偽物である。だから、だろうか。こんなにもしっかり月の姿を見ることが出来るのは。それならば、と彼女に倣い彼も月へと手を伸ばす。
「……おや?」
 ひやりと指先に触れる冷たさを心地良く想いながら、掬い上げたものを見て彼は不思議そうな声を上げる。――だって、掬ったものは銀に輝く髪飾りで。美しい細工のそれは見るからに女性もの。
「……なるほど、当人が使えるものだけとは聞いてませんでしたしね」
 確かめるように提灯の明かりに照らせばキラリと輝く。
 その髪飾りへと視線を落とし、ナターシャに視線を向けたかと思えば――。
「…………えい」
「?」
 不意に彼が近付いたかと思えば、ナターシャの銀の髪へと触れた。不思議そうに瞳を瞬き彼を見れば、エルネストは微笑みながら唇を開いた。
「おお、やはりその銀の髪と白い浴衣に映えますねぇ。お美しいです」
「……って、えぇ!? いえ、その、突然のそれは私とて、照れてしまいます……!!」
 彼の眼差しに添い己の髪に触れてみれば、先程までは無かった飾りが。その感覚に、ナターシャは彼が自身の髪に髪飾りを飾ってくれた事に気付いた。
「え、えぇと、エルネストさんもお似合いですよ……!?」
 彼の熱っぽさで頭が回らぬ故の行動に、彼女は心臓を逸らせながら言葉を漏らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スィーニュ・ノクトスピカ
【夜汽車】

お祭りって楽しいね、ベル!
射的も楽しかった。ほら、お気に入りの狐お面も買えたしさ!
祭りの美味で膨れたお腹を擦りながら満足気にキミに笑いかけるよ
不思議な泉?いいね、行ってみよう!
ベルと一緒に弾むような足取りで

わぁ…
辿り着いた泉に感嘆の声をもらす

見上げれば満天の星空に満月
揺蕩う水面へ視線を巡らせればそこは星の海のようで
言葉も忘れて見蕩れてしまうよ

わ、ベル!
キミはどんな星を捕まえたんだい?
はは!太陽の欠片のような
キミみたいな綺麗な宝石だね

早速ぼくも
えい!
ぼくのは真っ黒な宝石だ…みて
月に翳すと淡く光る!
ね?綺麗
向けられた太陽のような笑顔につられるように笑顔を浮かべる

ベルが昼ならぼくは夜かな?


ベル・プリンシパル
【夜汽車】

お面に射的、美味しい食べ物
色んな屋台があって楽しかったね、スィーニュ!
そういえば、向こうに不思議な泉があるってここに来る前に聞いたよね
今度はそっちに行ってみよっか!

満天の星空に浮かぶ満月と、それを映し出す泉
空にも地にも星が散りばめられて、まるで夜空の中に浮かんでいるみたい
その光景に暫く見惚れちゃって

ほとりにしゃがんで、えいっと両手を泉に差し入れる
掬い上げた手の中には赤オレンジの小さな宝石
お日様みたいな石がお月様から生まれたね、なんて笑って

わぁ、スィーニュも宝石だ!
月の光を受けて輝く…まるで小さなお月様だね
とっても綺麗!
それに…ふふ。二人で昼と夜になるなんて、なんだか素敵な気がしない?




「お祭りって楽しいね、ベル!」
 妖怪達の披露する数多の屋台を満喫し、仄かに頬を染めながら満足そうな笑みでスィーニュ・ノクトスピカ(ラシェリールの告解・f41460)はそう紡ぐ。
 射的で得た景品を手に、夜空のような紫銀の髪にはお気に入りの狐面を飾っている。数多の屋台ご飯を楽しみ膨れたお腹に手を当てながら、笑う彼女へとベル・プリンシパル(いつか空へ届いて・f33954)も同意の頷きを返した。
「色んな屋台があって楽しかったね、スィーニュ!」
 ふうっと、満足そうに息を零すベル。ざわりと風が吹けばススキが揺れ、風の流れについ視線を上げた先――暗い暗い奥に待つ、不思議な泉の話を思い出す。
「そういえば、向こうに不思議な泉があるってここに来る前に聞いたよね」
「不思議な泉? いいね、行ってみよう!」
 面白そう、行ってみよう。顔を見合わせ笑い合い、軽い足取りで闇の中を進む二人。ゆらゆら揺れる提灯がしっかり足取りを示してくれているけれど、屋台が遠くなればそれだけ光も届かず世界は秋の夜に染まりゆく。
 そんな月と星明かりに包まれた世界に、二人を待つのは――。
「わぁ……」
 満点の星空と大きな満月。
 それらを映し出す泉はどこまでも澄み、視線を巡らせれば鏡のように星空を映し出す。
 それはまるで星の海のように見えて――スィーニュはつい、言葉も忘れ見惚れてしまう。ただゆっくりと、呼吸をすることだけしか出来ない。その呼吸だって、この景色の邪魔をしないようにと無意識に息を潜めてしまう程。
(「まるで夜空の中に浮かんでいるみたい」)
 彼女の傍らで、ベルもまた言葉を忘れ瞳を瞬きその光景に釘付けになっていた。
 空にも、地にも星が散りばめられた此の地はなんと美しく幻想的なことだろう。吸い込まれそうなその泉に一歩、一歩と足が向いてしまったのは何故だろう。引き寄せられるように近付き、ほとりにしゃがみ込むと彼はそうっと両手を水面に伸ばす。
 ちゃぷり。
 微かな水音すら響いた気がするほどの静寂。
 煌々と照る水面の満月はベルの手により歪み、その形を残せなくなる。そのまま月を掬うかのように小さな手を持ち上げてみれば――その掌には、赤オレンジの小さな宝石が。
「はは! 太陽の欠片のような、キミみたいな綺麗な宝石だね」
 恐れずに動いた彼の様子を見守っていたスィーニュは、その掌の煌めきを眩しそうに瞳に映し言葉を零す。――彼の捕まえる星が、どんなものか気になっていたのは心から。彼女の言葉に瞳を瞬き、そっと瞳の辺りまで掌を掲げ、提灯に煌めく宝石を見つめるベル。
「お日様みたいな石がお月様から生まれたね」
 真っ赤な瞳のようにキラキラ輝く、温かなお日様色。
 彼の弾むような声色とその笑顔にぴったりな色合いは、正に彼が掬ったから生まれたのだろう。不思議な出来事にスィーニュは微笑み――今度は自分が、と思い切って月を掬うように水面へと手を伸ばした。
 ちゃぷりと響く水音の後、掬い上げたその細い掌に乗っていたのは。
「わぁ、スィーニュも宝石だ!」
「ぼくのは真っ黒な宝石だ……」
 夜闇にも負けぬ、神秘的な漆黒の石。
 不思議そうに想いながら掬い上げ、覗き込むように掲げてみれば――その漆黒はキラリと、仄かに光った。
 その煌めきにスィーニュは瞳を見開く。淡い淡い光なのに、夜のせいか目が眩むよう。
「……みて。月に翳すと淡く光る!」
 そう、それは月の光を浴びて輝く、不思議な石。その煌めきを瞳に映し、ベルは小さく息を零した。
「月の光を受けて輝く……まるで小さなお月様だね」
 それは感嘆の吐息なのだろう。キラキラと優しく光るその石は掌に乗るお月様。優しいその輝きは、漆黒の石から生まれることでより神秘性が増すのだろう。綺麗だと、どちらからともなく紡ぎ二人は顔を見合わせ微笑み合った。
「それに……ふふ。二人で昼と夜になるなんて、なんだか素敵な気がしない」
 赤オレンジと淡く輝く漆黒と。
 二色を並べてみればそれはまるで時間の変化を表すよう。掬い上げたその偶然を嬉しそうにベルが語れば、スィーニュも本当だと笑みを零す。
「ベルが昼ならぼくは夜かな?」
 キラリ、キラリと輝く宝石。
 熱を、夜を吸い込んだその石は――今日の日の記憶として永久に煌めくだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】去年(2023年)の浴衣(白ヴァージョン)

おやおや、ススキですか
秋ですねぇ
金色の世界、僕の瞳の色ですか?
ありがとうねぇ
僕はルーシーちゃんの髪の色に見えます
お揃いですねと微笑んで
彼女と手を繋いで
きらきら七色綿飴?虹が光ってるみたいですね
一口、ん、美味しい
じゃ僕のブドウ飴を一つどうぞ?
林檎飴も良かったのですが、ブドウの方が一緒に食べやすいので
おやおやと笑って
彼女のお口にブドウ飴を

お月様を写す泉
月が浮かんでいるようですねぇ
ルーシーちゃんが掬っているのを傍で見守り
星型の蒼花?僕の好きな桔梗の花に似てますね
おや、月の傍に
素敵なお伽話ですね
では、僕も…
そっと手を入れて掬う
丸い月の様な黄色い宝石?ふふっ、これは何の石でしょうか?お月様みたいですね

ルーシーちゃん、その花とこの宝石を交換しませんか?
月と星、実際にはお伽話の様になれませんが
君を傍に居てくれる様な気がします

いつでも傍に君を照らせる様に


ルーシー・ブルーベル
【月光】今年の浴衣

視界全部がススキ、金色ね!
ゆぇパパの瞳の色にも似てる気がする
ルーシーの髪にも?うれしいわ
片手はパパと繋いで
もう片手には七色のワタアメ!
みてみて、灯りに照らされてキラキラしてるの
パパも一緒に頂きましょう?
林檎飴は頂いた事あるけれど、ブドウ飴は初めてかも
一緒に食べるために選んでくれた事がうれしくて
あーん!なんて口を開けておねだりを

ここが泉?お月様が良く見えるわ
お水が真っ黒な分、月がハッキリ映ってきれいね
泉に手を差し入れて掬うと、蒼い星形の花
本当、キキョウに似てる!
…わたしね
水にうつるお月様を見て
本当に掬う事が出来たらどんなにいいか
それが叶わないなら
星になってお月様の側にずっと居られたら、…って思った事があるの
ふふー、お伽話みたいな願いでしょう

…さ、次はパパの番!
何を掬うのか、ドキドキ見守るわ
それは宝石?きれいな色ね…!

ルーシーのこのお花と?勿論いいわ
えへへー、わたしもこの月石のお陰でパパをもっと近くに感じられそう!
お伽話が本当になったみたい

ずっとパパの側で咲いていられる様に




 さわり――冷ややかさを帯びた秋風が吹けば、ススキが揺れる。
「視界全部がススキ、金色ね!」
 視界いっぱいに広がる金色の海に、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は青い瞳をキラキラと輝かせた。じっと傍らの父を見て、その瞳を見ればくすりと笑う。
「ゆぇパパの瞳の色にも似てる気がする」
 大好きな、いつもルーシーを真っ直ぐに見てくれる優しい金色。そんな色に埋め尽くされた世界は、何故だか心が温かくなるのだ。そんな嬉しそうな娘の姿と先程の言葉に、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は瞳を瞬いた後嬉しそうに笑む。
「ありがとうねぇ。僕はルーシーちゃんの髪の色に見えます」
「ルーシーの髪にも?」
 さわさわと風が吹けば、夕暮れ色の浴衣に映える長い金の髪。
 それは揺れるススキと同じように見えて、光を浴びて輝く様もまた同じ。じっと自身の髪が流れる様を見つめるルーシーに向けて、「お揃いですね」と微笑めば彼女は嬉しそうに笑って、繋いだその手をきゅっと握る。
 そしてもう片方の手には――輝く七色。
「みてみて、灯りに照らされてキラキラしてるの。パパも一緒に頂きましょう?」
 照らされる提灯や屋台の光を浴びてキラキラ輝くそれは、空に掛かる虹色とお星様。ルーシーの浴衣と合わされば、この場だけで一日の空が凝縮されたかのよう。そんな偶然にユェーは微笑んで、煌めきに虹が光っているみたいだと紡ぎ。小さな彼女が目一杯伸ばしてくれる腕の先、虹の欠片を一口。
 優しく素朴な甘みの奥、煌めきはほんの少しの弾けるソーダの香り。虹を意識したのであろうその心地に、ユェーは驚きほんの少し瞳を見開く。
「ん、美味しい。じゃ僕のブドウ飴を一つどうぞ?」
 差し出されたのは、艶々と宝石のようなまん丸。飴を絡めた葡萄は正に旬の果実だけれど、串に刺さるその姿は初めてで。ルーシーは不思議そうにぱちぱちと瞳を瞬いた。
「林檎飴は頂いた事あるけれど、ブドウ飴は初めてかも」
「林檎飴も良かったのですが、ブドウの方が一緒に食べやすいので」
 彼女の言葉に、定番な林檎飴も考えたと素直にユェーは紡ぐ。けれども、ルーシーを想い手元の紫を選んでくれたことが嬉しくて、幸せで――胸がきゅっとする心地のままルーシーは、繋いだ手を揺らすとおねだりするようにあーん、と口を開ける。
 そんな彼女の甘える様を前に、勿論嫌な気持ちなどしない。
 「おやおや」と零すけれど、ユェーの口許には笑みが咲く。そのままそうっと、傷付けないようにと彼はルーシーの口へと葡萄飴を運んでくれた。
 パキリ、飴が砕ける音と共に。口に広がる芳醇な葡萄の香りが、秋を運ぶ。

 白の軍服と浴衣の裾がひらりと揺れる。
 屋台から離れれば明かりが少なくなる。迷わぬようにと提灯は吊るされているが、先程の喧騒から離れた為か何処か寂しく感じるから不思議なもの。
 きゅっと手は繋いだまま。ユェーの纏う『白』が月と星明かりに煌めきほっとする。
 熱気に火照った身体を秋風が冷やす中、二人が辿り着いたのは泉。
 漆黒に染まるそこは風が吹いても鏡のように静かで。空に瞬くお星様も、お月様をも照らし煌々と輝くよう。
「ここが泉? お月様が良く見えるわ」
 そっと覗き込めば、そこにはルーシーの姿も映り込む。
 闇に染まり真っ暗だからこそ、お月様の形もハッキリ映る。本当には無いものとして語られる鏡花水月と云う言葉を、正に表している情景だった。
「月が浮かんでいるようですねぇ」
 少女の言葉にユェーは頷きつつ、じいっと水面を見つめるルーシーを見守った。彼女はそのまましゃがみ込むと、映り込むお月様に向けて小さな手を伸ばす。
 ぱしゃり。
 微かな筈なのに、妙に水音が大きく響いた気がする。
 袂が濡れぬようにとユェーが押さえる中、ルーシーが月を掬いあげ宿ったのは――。
「星型の蒼花? 僕の好きな桔梗の花に似てますね」
 星型の、蒼い花。
 その花を見てユェーはどこか嬉しそうな色でそう紡ぐ。彼の言葉にルーシーは本当だ! と嬉しそうにお月様へとその花を掲げた。
 彼女の纏う浴衣に飾った、黄色のお星様のような花にも似ている気がする。
 たった一輪。お月様から生まれた、蒼い花。
「……わたしね」
 その花を青の左目に映しながら、彼女はそっと唇を開く。
 ――水にうつるお月様を見て。
 ――本当に掬う事が出来たらどんなにいいか。
 ――それが叶わないなら。
 ――星になってお月様の側にずっと居られたら、……って思った事があるの。
「……――ふふー、お伽話みたいな願いでしょう」
 じっと花を見つめていたその視線を移し、ユェーを見上げ彼女はいつもの無邪気な笑みを零す。その言葉と笑顔に、ユェーはそっと頭を撫でると素敵なお伽話だと笑った。
 大好きな大きな手に包まれて、ルーシーはくすぐったそう笑った後。
「……さ、次はパパの番!」
 どうぞ、と泉の前を譲るように少しだけ身体をどける少女。彼女の言葉とその行動に従い、ユェーも水面に映るお月様へと手を伸ばす。
 水に触れれば、指先に伝わる冷ややかさ。これを冷たいと想うようになったのは、秋の訪れを実感する。そのまま彼が掬い上げたのは――丸い、黄色い石。
「ふふっ、これは何の石でしょうか? お月様みたいですね」
 淡い黄色は提灯の明かりにキラキラと輝き、宝石のよう。チカリと光った煌めきにルーシーは眩しそうに瞳を閉じた後、改めてじっと見つめ綺麗な色と零した。
 彼の掌で輝くお月様を、じっと見つめるルーシー。
 そんな娘の姿を見て――。
「ルーシーちゃん、その花とこの宝石を交換しませんか?」
 彼はそんな提案を零した。
 月と星、実際はお伽話のようにはなれないけれど。
 君が、傍に居てくれるような気がするから――。
 何時もの優しい微笑みで、そう紡ぐユェー。その言葉に、その笑顔に。自身の花と父の宝石を交互に見た後、ルーシーは嬉しそうに笑うと。
「ルーシーのこのお花と? 勿論いいわ。えへへー、わたしもこの月石のお陰でパパをもっと近くに感じられそう!」
 勿論、と迷う事無く頷きを返す。
 だって――お伽話が、本当になったみたいだから。
 蒼い花と黄色い宝石。
 大切なものを交換して、自身の掌で咲く色はどこか特別に感じるから不思議なもの。
 互いにじっと見つめながら、幸せそうに微笑む姿はどこか似ていて。

 ――ずっとパパの側で咲いていられる様に。
 ――いつでも傍に君を照らせる様に。

 言葉にせずとも、願う心も何時だって一緒。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ねこまたすねこすり』

POW   :    すねこすりあたっく
【もふもふの毛並みをすり寄せる】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ねこまたすねこすり仲間】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    いつまでもすねこすり
攻撃が命中した対象に【気持ちいいふかふかな毛皮でこすられる感触】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する心地よい感触】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    きもちいいすねこすり
【すねこすり】を披露した指定の全対象に【もっとふかふかやすりすりを味わいたい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。

イラスト:たますけ。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●すりねこすりすり
 屋台を楽しみ、鏡花水月の不思議に触れ。
 秋の夜長を楽しんでいれば、突然猟兵の足元を抜けるふわふわが。
 温もりとふわふわが一瞬だけ触れれば誰だって驚くもの。けれども、猟兵達はその正体を知っている。彼等が向き合わなければいけない、オブリビオンであると。
『にゃー』
『にゃんにゃー』
『にゃーにゃー』
 あちらこちらから聞こえる鳴き声は、まさしくねこまたすねこすりのもの。よく見ればあちらこちら、ススキの中や屋台の下に隠れてるものや全く隠れていないものと、一体何匹いるのか分からない程のまん丸猫達が集まっていた。
 ある者は黒猫。ある者はサバトラ。ある者は三毛。
 模様は様々だけれど、皆二又の尾を持つ姿は正に化け猫。じいっと猟兵達の様子を伺って、いつその身を足に擦り付けようかと様子をうかがっている様子。

 さあ、彼等を対処するのが猟兵としての努め。
 模様が違うのと同じように、性格だって個性豊か。すばしっこい子もいればのんびり屋さんもいるだろう。彼等とどう対峙し、そして救い出すかは猟兵次第。
 彼等は今か今かと、もふもふボディを揺らしている。
スィーニュ・ノクトスピカ
【夜汽車】

わ、わ……か、かわいい!!
口を塞いだベルと同じことをして、声を顰めるよ
見たかい?ベル……この…愛らしい生き物たちを!
瞳をきらきら
耳と背の翼をパタパタさせる
可愛らしい猫ちゃんたちだね!
うん……!がんばって捕まえようか
…ついでにもふもふしてしまうのは…仕方ないことだよ

よーし!
おいで!レオ!
獅子座の戯を使って呼び出した、ぼくの相棒のレオにも手伝って貰おう
箒を猫じゃらしのように素早く動かして、猫たちの気をひいてみる
ふふん
ベルに褒められると嬉しいな
ベルはススキを?それも名案だね

わ!ベルの翼に!助けるぞ!
こら、猫ちゃん…ベルの翼には──わー!ぼくの翼にも!
もふもふに塗れて、笑顔だってあふれちゃう


ベル・プリンシパル
【夜汽車】

か、可愛い〜!
って、思わず大きな声を出しそうに
驚かせちゃいけないと慌てて手で口を塞いで、まんまる猫達の姿を見てつい表情を緩めちゃう
一緒に頑張って猫達をもふもふ…じゃなくて捕まえようね、スィーニュ!

わ、箒を猫じゃらし代わりに使って油断させるんだね!
スィーニュってば賢い!
じゃあ俺は…代わりに出来そうな物は持ってないから、手折らせてもらったススキを猫じゃらし代わりに!
…あれ?なんだか背後に沢山の気配…
猫達はススキよりも俺の翼の方に興味津々みたい
確かに触り心地には自信あるけど、さすがにちょっと困るかなぁ!た、助けて〜!
一緒に猫まみれになって笑みを浮かべながら、翼に夢中な猫達を抱き上げよう!




 あっちに、こっちに。こちらの様子を伺うまん丸のもふもふ達。
「わ、わ……か、」
 ――かわいい!!
 そう声を零しそうになったが、スィーニュ・ノクトスピカは慌てて自身の口許を両手で覆い声を潜めた。ちらりと横を見ればベル・プリンシパルも同じようで、スィーニュと同じように口許を塞いでいる。
 だって、大きな声を出したら彼等を驚かせてしまうかもしれないから。
 視線が合えばこくりと頷き合う二人。
 そんな二人の心配なんて気付いていないのか、猫達は二又のふわふわ尻尾をふりふりしながら、今か今かとこちらの様子を伺ったまま。
「見たかい? ベル……この……愛らしい生き物たちを!」
 そろりと口許から手を外し、ひそひそ声でスィーニュは紡ぐ。両瞳はほんものの星空のようにキラキラと輝き、耳と背の星雁の翼も興奮にかパタパタと動いている。彼女の言葉に、ベルはうんうんと、何度も頷いて見せた。
 そろり。少しだけこちらとの距離を縮める真っ白の子と目が合えば、ぴゅっと素早く隠れてしまう。そんな猫の様子に、ついベルは表情を緩めた。
「一緒に頑張って猫達をもふもふ……じゃなくて捕まえようね、スィーニュ!」
「うん……! がんばって捕まえようか」
 決意を露わに、両手をぎゅっと握り締めながらベルが紡げば、スィーニュと瞳を合わせ互いに頷き合う。頑張ろう、と彼等は互いに声を掛け合う。
 ――……ついでにもふもふしてしまうのは……仕方ないことだよ。
 そっとスィーニュが添えた言葉は二人の心を表した言葉。

「よーし! おいで! レオ!」
 そっと細い指先で星座を描いた後、呼び声に応えるかのように現れたのは白獅子の仔。揃いの星花を飾った彼は「きゃう」と鳴くと地に落りたつ。
 青い瞳を瞬いて、辺りをきょろきょろ見回し猫達を捉える。けれど直ぐに追い掛けることはせず、レオはじっとスィーニュの指示を待った。
 レオはすねこすりと同じ猫科。大きさも近い気がするので、彼等も怖がらない筈。小さな獅子の相棒だけでなく、スィーニュが手にしたのは白銀の穂に星花を飾る魔女箒。それをさっと、スィーニュは素早く動かしてみせれば、明らかに猫達が反応した。
 幾度か動かし続ければ、まずは一匹目の黒い子が箒目掛けて飛んでくる。一匹が出てくれば三毛に縞にと次々と飛び出て、その短い手を箒にじゃれつかせる。レオも辺りを走り周り、猫達が逃げないようにと様子を伺っている。
「わ、箒を猫じゃらし代わりに使って油断させるんだね! スィーニュってば賢い!」
 彼女のその姿と猫の様子に、尊敬するように瞳を見開き輝かせるベル。
 自分はどうしようかと、何も無い両手を幾度か握り――顔を上げた時、風に揺れる金色のススキ野原が赤い瞳に映った。これだ、と思いベルはススキを一本拝借すると、まだ隠れている猫達に向けふりふりと揺らす。
「ベルはススキを? それも名案だね」
 褒めて貰えたことが嬉しくも気恥ずかしく感じながら、彼の行動にスィーニュは素直に賛辞の言葉を送った。自身の箒の動きは止めずに、次々と増える猫達を相手しながらベルの様子を見ていれば、彼の手元に釣られてまた別の仔達が次々と現れる。
 じゃれつく彼等を油断させるよう、ススキを揺らし続けるベル。けれども――。
「……あれ? なんだか背後に沢山の気配……」
 はたと気付き瞳を瞬く。そろり後ろを振り返ってみれば――彼の腰から生える真っ白な翼に惹かれた子が、揺れる翼にじゃれついていた。それも、ススキに寄ってくる子よりも沢山で。何時の間にとベルは驚き小さな声を上げる。
「確かに触り心地には自信あるけど、さすがにちょっと困るかなぁ! た、助けて~!」
 ちょんちょん、と小さな手でじゃれつく子達。一匹二匹ならまだしも、囲まれてしまっては身動きが取れない。しかもまだ増えそうな様子に、ベルはススキを持った手を上に挙げてスィーニュへと助けを求めた。その声に反応し、彼女はベルの元へと駈けつける。
「こら、猫ちゃん……ベルの翼には──わー! ぼくの翼にも!」
『にゃー』
『にゃんにゃんっ』
 翼から猫を離そうと腕を伸ばすスィーニュ。レオも一緒に「きゃうきゃう」と鳴きながら猫達を離そうとしてくれるが、彼等は既に止まらない。むしろ増えたもふもふ翼に狙いを定めるように、今度はスィーニュの翼にもじゃれだした。
 夢中でじゃれつくもふもふ達。どんどん増えるその柔らかさと可愛らしい声に、二人は少しだけ困ったような眼差しで瞳を交わすと、へにゃりと口許を緩めた。
 こんな光景、なかなか無い事だから――もう少し翼を堪能させてあげた後、猫を助けてあげようと彼等は想った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【雷炎の絆】と参加

おやおや、もふもふ大好きな奏がみたら捕まえるどころかそのまま群れにダイブしそうな事が起こっている。でもこのままだと妖怪が全員ダメになってしまう。可愛さは罪、だね。よし、なんとかしないと。

何気に心地よさ抜群なので抱き上げる前に自分がダウンしないように被弾を減らす為に【残像】【迷彩】【見切り】を使い、有効かどうか不明だが【回復力】も使う。

真紅の騎士団発動!!ああ、物量で捕獲作戦だ!!実は奏が小さい頃はおてんばでいつの間にかいなくなってたので捕獲には慣れてる!!朔兎もこんな元気な子だし。

捕まえた!!さあ、いたずらがすぎたね。おとなしくお家に帰りな。抱っこして撫でる。


真宮・律
【雷炎の絆】で参加

確かに、もふもふ大好きな奏なら任務そっちのけで群れにダイブするだろうな。楽しい雰囲気に惹かれて彷徨いでたってことか。可愛いんだが、祭りを邪魔させる訳にはいかないな。

何気に数が多くて攻撃が多く被弾すると抱き上げる前に俺がダウンしかねないので【残像】【迷彩】【心眼】でひょいひょいさけながら火雷の意志発動!!さあ、ちょっとオーラが物騒だが、痛い事はしないからな!1なんか幼い頃の奏や朔兎を追っかけているようだ。

捕まえたぞ!!あ、オーラが熱いなら解除するな。まあ、混ざりたい気持ちは良くわかるんだが、やんちゃがすぎたな。膝とか肩や頭に乗せておとなしくさせる。




 もふもふの仔達がこちらの様子を伺っているのが見える。
「おやおや、もふもふ大好きな奏がみたら、捕まえるどころかそのまま群れにダイブしそうな事が起こっている」
 真宮・響の彼等への感想は、愛しい娘のことだった。嬉しそうに猫へと向かっていく娘の姿が目に浮かぶようで、ついつい口許に笑みが零れてしまう。
 彼女のその言葉に、猫を見て、彼女を思い出し。真宮・律も小さく笑い同意を示す。
「確かに、もふもふ大好きな奏なら任務そっちのけで群れにダイブするだろうな」
 その姿も見てみたかったけれども、今は残念ながら娘はいない。二人でどうにかしなければいけないと、彼等は瞳を交わす。
「楽しい雰囲気に惹かれて彷徨いでたってことか」
「でもこのままだと妖怪が全員ダメになってしまう」
 祭りに惹かれた事事態に罪は無い。特に、彼等はただ驚かせるだけでそれ以上の危害等加えないというのだから。けれども、やはり骸魂に囚われてしまったオブリビオンである事に変わりはない。放っておけば全てが危機に陥ると、猟兵として知っているからこそやらねばならぬ事がある。
「可愛いんだが、祭りを邪魔させる訳にはいかないな」
「可愛さは罪、だね。よし、なんとかしないと」
 彼等が言葉を交わしている間、様子を伺っていた猫達だが、不意にふわりとした感覚が足を通り抜ける。ぞわりとするような、心地良いようなそれこそがすねこすり。
 少し身構えた後、響は今度は逃さないと――自身に強化を与えながら呪文を唱え、数多の騎士を召喚した。
 次々と現れる武装した真紅の鎧の騎士。
「ああ、物量で捕獲作戦だ!!」
 やる気に満ちた声色が、この場に響く。
 そんな彼女が思い出すのは、昔の記憶。――もう何年前だか分からないけれど、やはり愛しい娘の事。小さな頃はお転婆だった彼女は、いつの間にかいなくなる事も多くて。心配して探し回る事も多かったから、事前に捕獲する事にも慣れているのだ。
 随分前のことだけれど、きっと感覚は響の中に残っている筈。
 そんな彼女の様子を見守りながら、律も己を強化する雷の炎のオーラを纏わせ自身を強化する。その眩さに、近付いていた猫は少し後ずさりを。
『にゃっ』
『にゃにゃにゃ』
「さあ、ちょっとオーラが物騒だが、痛い事はしないからな!!」
 律もまた子供達の幼い頃を思い出しながら、猫をじっと見る。彼等はこちらの様子を伺いながら、騎士やオーラに怯むことなく果敢に近付いてくる。するりと間をかいくぐり、響や律の足へとするりとそのもふもふの身体をすりつけるのは見事なもの。伊達に妖怪として記録されている訳では無い。
 けれども、こちらも負けてばかりではない。しっかりと狙いを定め、飛び込む彼を。
「捕まえた!!」
「捕まえたぞ!!」
 二人同時に、上がる声。
 しっかり両手に抱きかかえられた、黒と白のまん丸猫。
「まあ、混ざりたい気持ちは良くわかるんだが、やんちゃがすぎたな」
「さあ、いたずらがすぎたね。おとなしくお家に帰りな」
 そっと撫でてやりながら紡げば、彼等は観念したように尾を下げる。
 彼等のふわふわを堪能していれば、気付けば姿は消えてしまった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギュスターヴ・ベルトラン
ぼくは猫の集まりというものが好きなんだ
住む所なくて廃墟住みとかしてた時は、猫たちが居るか居ないかというのは死活問題で…
…悲しい過去思い出すの止めて、猫を抱っこする事に注力しよっか

影業のカラスを肩に止まらせ視界を共有し、どこから来るか探…三毛猫くんがぼくの足元にもういた
最初からずっといたけど?って顔してる
でも好都合だから、抱っこを…抱っこ、させてくれない!すごい逃げる!

カラス、追い込み漁だよ!反対側から追い立てて!
そんなイヤそうな顔しないでよ…飴ちゃんあげるか、ら…飴に釣られてまた三毛猫くんが来た
飴ちゃんで、抱っこさせてくれるの?
そっか、ありがとうね

わー、柔らか毛並みで暖かい…すごい幸せだー…




 ――ぼくは猫の集まりというものが好きなんだ。
 そっと口許に笑みを浮かべながら、ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)はそう想う。
 住む所が無く、廃墟等にその身を置いていた時には、猫が居るか居ないかは大きな指標だった。彼にとっては死活問題で、だからこそ猫が集う様には惹かれてしまう。
 過去を想う彼の眼差しはどこか遠くを見るように。けれど一つ瞳を瞬くと、大きな月と、黄金に輝くススキ野原をその瞳に映す。小さく首を振り、『今』を彼は再確認。
 闇の中――けれども大きな月と提灯の灯りはギュスターヴの足元に影を作る。その影へ向け意識を向けると、ずずっと伸びたかと思えば人影はカラスの形へと変わり、羽ばたいた後ギュスターヴの肩へと止まった。
 影業のカラスと共に辺りを見回し、猫を探そうかと思った時――。
 するり。
 足元に何か温かく柔らかな感覚を感じ、ギュスターヴは視線を下ろす。するとそこにはいつの間にやら三毛猫が居て、じっと彼を見上げていた。
 円らな瞳はギュスターヴをじっと見て、すんっと澄ました顔は「最初からずっといたけど?」と言っているようで、まん丸ボディで二又であろうと何とも猫らしい姿。
 少し驚いたようにギュスターヴは瞳を見開き、けれども好都合と口許に笑みを浮かべ、手を伸ばしたけれど――するり、と微かに指先を掠りまん丸ボディは抜けていく。
「抱っこを……抱っこ、させてくれない! すごい逃げる!」
 腕を伸ばせばするりと掠るだけ。けれど遠くには逃げず、じっとギュスターヴを振り返し様子を伺い、また腕を伸ばせばするりと逃げる。そんな絶妙な距離感は、ねこすりとしての本能なのか、それとも彼をからかっているのか。
 二又の尾がふりふり揺れる。ご機嫌らしいけれど、ギュスターヴも負けていられない。
「カラス、追い込み漁だよ! 反対側から追い立てて!」
 肩に止まるカラスへと声を掛けるけれど――彼はふいっと顔を背けた。
「そんなイヤそうな顔しないでよ……飴ちゃんあげるか、ら……」
 カラスへと説得しようとポケットから出した飴玉。キラリと光るそれに興味を持ったのか、絶妙な距離をとっていた三毛猫がギュスターヴの足元へ近付くと、長い裾をくいくいっと引く。そんな彼にぱちりと瞳を瞬き、彼は屈むと飴玉を差し出した。
「飴ちゃんで、抱っこさせてくれるの?」
『にゃぁー』
 ご機嫌な様子でするりと身体を寄せる三毛猫。ありがとうとお礼を述べ、ギュスターヴが両腕を伸ばせば――ふかり、夜なのにお日様の香りがするふわふわ毛並み。
 ごろごろと響く心地良い音色の中。
 幸せだとギュスターヴは心から想った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
エルネストさん(f00066)と

普段なら過去より蘇りし哀れな魂を…と言いたいところですが
どうあっても可愛らしいのですよね
やる事は変わりないですが、ちょっとだけ…いいですよね?

されど彼等もまた素早いもの
どうにか動きを
いや向かってきますね?
なるほど、エルネストさんの力ですか
では私は結界術で周囲に結界を張り、徐々に狭めて捕えましょう
天使達も呼びはしますが、ちょっと手伝って頂くだけですので

狭くなりすぎたら…もふもふの楽園のようですが
私の顔も、つい緩んでしまいます
ふふ、たまにはこんな顔もするんですよ?
にしても本当に柔らかくて、これは幸せですね…


エルネスト・ポラリス
【ナターシャ・フォーサイス(f03983)と】

さて本番です
どうしましょうかねこのもふもふ共
逃げるというのが意外と厄介な気もします
まあ……こうしてみましょうか
(UCのメダルを地面にばら撒く)

これでね、逃げ回るもふもふを追いこんでメダルを踏ませるって訳です
見てください、メダルが張り付いたもふ共の凛々しい顔。ぽふぽふこっちに体当たりしてきますよ、全然痛くない

後は、我々に群がるようになったこの子達をナターシャさんの結界で更に閉じ込めてからゆっくり抱っこしてあげましょう
……ナターシャさん貴女、そういう顔するんですね
真面目な聖者さんって印象が強かったから結構ビックリです




 するり、と次々と温かなもふもふが足元を抜けていく。
 一瞬だけ触れるその柔らかさに、ナターシャ・フォーサイスは思わず頬を緩めた。
(「普段なら過去より蘇りし哀れな魂を……と言いたいところですが」)
 きゅっと胸元で手を握り、今が戦いの場である事を考える。けれども場は緊迫したものでは無く、対象だってただの可愛いまん丸猫。触れる柔らかさに脅威など感じず、どうあっても可愛らしいと心から想う。
 ――やる事は変わりないですが、ちょっとだけ……いいですよね?
 猟兵としての責務を考えながらも、ナターシャは足にすりすりと擦り寄る猫へと触れようと手を伸ばすが――話の通りするりと見事に抜けていく。今回の任務の為にも、そしてもふもふの為にも、どうしようかと悩んでいると。
「どうにか動きを――いや向かってきますね?」
 何度か猫が通り抜けた後、気付けば数匹の猫がこちら目掛けて真っ直ぐに向かってくる。それは足元を狙っていた今までの軌道とは少し違う、真っ直ぐに。
 不思議に想い、何となくちらりと傍らを見れば――エルネスト・ポラリスが、足元に蚩尤の描かれたメダルを撒いていた。
 視線に気付き、顔を上げナターシャを見るエルネストを。一枚のメダルを彼女に見せながら、笑みを浮かべた。
「これでね、逃げ回るもふもふを追いこんでメダルを踏ませるって訳です」
 逃げると云う習性はとても厄介で、そう簡単には捕まえさせて貰えない。だから考え、エルネストは想ったのだ。――それならば、向かってくるようにすれば良いのでは、と。
 そして彼が撒いた蚩尤のメダルの持つ効力は、貼り付いた対象が『過剰な勇気が湧き、攻撃しかできなくなる』と云うもの。通り抜けた隙にこのメダルが貼り付けば、彼等は攻撃しか出来なくなる。つまりこちらに向かってくるという事。
「見てください、メダルが張り付いたもふ共の凛々しい顔。ぽふぽふこっちに体当たりしてきますよ、全然痛くない」
 月夜の宴から、この瞬間を待っていた。ぽふぽふとまん丸もふもふの身体で体当たりをしてくる猫達に囲まれて、心底嬉しそうに笑いながらエルネストは受け止める。
「なるほど、エルネストさんの力ですか」
 そんな彼の姿を見ながら、そしてナターシャにもぽふぽふと体当たりをする猫の温もりを感じながら。感心したように彼女は零すと、それならばと自分も術を使う。辺りに結界を張り狭めていけば、徐々に彼等は追い詰められる筈。ついでに天使の眷属を呼び、傷付ける事では無く追い詰める手助けをして貰おう。
 じりじりと行き場の無くなる猫。
 けれどメダルの効力のせいか彼等は気にした様子は無く、ただがむしゃらに二人に体当たりを仕掛けてくる。ぽふん、ぽふんと触れる柔らかさは徐々に数が増えていき。逃げる場も無くなった彼等はただ二人に群がるよう。
 こうなればもう逃げられまい。向かってくる一匹をそっと腕に抱き締めれば、ふわりと柔らかな感覚が心地良く――ナターシャは思わず、頬を緩めてしまった。
 同じように猫を抱き上げながら、彼女のその姿にエルネストは息を呑む。
「……ナターシャさん貴女、そういう顔するんですね」
 零れた言葉は驚きを露わにしている。何時だって、真面目な聖者と云う印象が強かった為、年頃の女の子のような、気を抜いた表情があまりにも予想外だったのだ。
 彼の言葉に、ナターシャはくすりと小さな笑みを零すと。
「ふふ、たまにはこんな顔もするんですよ?」
 ぎゅっと腕の中の猫を抱き締めて、その心地を堪能しながら彼女は少し悪戯に紡ぐ。
 にゃぁ、と響く心地良い鳴き声の元。
 一匹一匹抱き上げて、彼等を救い出してあげよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎木・葵
【桜葵】
実はこんなものを持ってきました
ラバーの猫用ブラシです
もふもふさせていだだけるのです
何かお返ししなければ

石に座れば早速膝の上に乗ってくるすねこすりをそっとブラッシング
まず優しく撫でてからブラシを入れて
毛玉は念入りにほぐしましょう
ぴかぴかになった猫をそっと下せば我も我もと寄ってきて
順番です、順番

そおっと近寄る陽桜さんに冗談めかして微笑んで
仕方がない子ですね
いらっしゃい私の可愛い子猫さん
ぴとっとくっつく肩を抱き寄せて
こめかみを寄せて柔らかい髪を手櫛でそっと梳いて
あまおとを拗ねさせてしまいますね
耳元でそっと囁いて

月が綺麗ですね

月を見上げて告げた心からの言葉の返事に
ふと口元を緩めて

幾久しく


榎木・陽桜
【桜葵】
葵さん、もふもふ猫さんですよ!

…あんまりすりすりされちゃうと、
後であまおと(霊犬)が拗ねちゃうかも
(すり寄ってきた三毛をそっと撫でつつふと見やり)

葵さん、猫さんにモテモテなのです
(あんまりモテモテだとちょっと妬けてしまうから
思い立てばそっと近づき、)

あたしも、ちょっとだけ猫さんになってもいいです?
(猫達をぽかっとするのは気が引ける
ふわふわをそっと撫でつつ抱き上げつつ
猫達に混ざりぴとっと肩をくっつければ、)

…にゃぅ
(抱き寄せられ、手櫛と耳に触れる囁きの感触に溢れたのは猫のような声)

…意地悪
(恥ずかしさに頬を赤らめるも
紡がれた想いには微笑み)

これからもずっと、一緒に見てくれますか?




 まん丸猫が二又をふりふりと振り、此方の様子を伺ったと思えば向かってくる。
 するりと足元を抜けふわふわを擦り付けたかと思えば、すり抜けたと同時柔らかな尾が最後に足を撫でていく。その心地があまりにも気持ち良く、頬を緩めながら――。
「葵さん、もふもふ猫さんですよ!」
 キラキラと瞳を輝かせながら、榎木・陽桜は傍らの榎木・葵へと声を掛ける。彼の足元にも幾度と猫が身体を擦り付けている為、彼女の言葉には素直に同意を示した。
「……あんまりすりすりされちゃうと、後であまおとが拗ねちゃうかも」
 どうかな、と相棒の霊犬を想い少し不安そうに微笑む陽桜。けれどもこれは猟兵としての務めでもあるから――すりすりと身体を擦り付ける猫へと手を伸ばしてみれば、するりとその身体は避けられてしまった。そのまん丸のボディでどうやっているのか、猫らしい謎が詰まっている様子。
 遠くへ逃げはしない。けれど捕まえられずにどうしようかと考えていると……。
「実はこんなものを持ってきました」
 葵がそう言って取り出したのは、猫用のラバーブラシ。もふもふして貰えるお礼にと想い用意したのだが、逃げる習性のある彼等にさてどうやって使おうか――と考えた時、くいっと彼に足元が引かれた。
 視線を落としてみれば、一匹の黒猫が葵の足元を短い手でくいくい引いている。その視線はどうやらブラシに釘付けて、早く早くと期待しているよう。彼の様子に葵と陽桜は顔を見合わせると、くすりと笑みを零した。
 葵が石の上に座れば猫はぴょんっとその膝の上へと飛び乗ってくる。二又の尻尾を立てながらじっと大人しくする彼へと、そうっとブラシを掛けてやれば――ごろごろと嬉しそうに喉を鳴らし出した。
 触れる毛並みはふわふわで、動物特有の温かさ。そこに敵らしさは感じず、ただ優しく優しく、葵は毛並みを梳かしていく。出来上がった毛玉は痛くないように念入りに解してやればぴかぴかになったすねこすりが一匹。
 満足そうな表情の仔がその場に座り、葵の身体へとその身を寄せる。気付けば他にも猫が集まってきて、我先にと葵の膝に乗ろうとする。
「順番です、順番」
 くすくすと笑いながら葵が零せば、その様子をじっと見つめる陽桜がぽつり。
「葵さん、猫さんにモテモテなのです」
 ほんの少しだけ頬を膨らませているのは無意識に。――いくら猫と云えど、このもやもやはほんの少しのヤキモチだろう。そっと彼の元へと近付いて、彼の横へと座ると。
「あたしも、ちょっとだけ猫さんになってもいいです?」
 じっと彼の黒い瞳を見つめて、小首を傾げて陽桜は問い掛けた。
 すっかり懐いてしまったブラッシング済みの仔が膝の上に乗ってくる。その子をきゅっと抱き締めつつ撫でてやりながら、彼女はすすっと彼との距離を詰め肩をくっつけた。
 彼女のその行動に冗談めかして微笑む葵。
「仕方がない子ですね。いらっしゃい私の可愛い子猫さん」
 ブラシを置いて、彼女へ紡ぐと共に触れた肩を抱き寄せる。そのまま互いのこめかみを寄せたかと思うと、柔らかなピンク色の髪を手櫛でそっと梳いた。
「あまおとを拗ねさせてしまいますね」
「……にゃぅ」
 縮まる距離と、彼の手が髪に触れる感覚と、そっと耳元で囁かれた言葉。その全てが陽桜の心臓を跳ねさせて、顔を赤くしながらつい彼女は猫のような声を漏らしてしまう。
 そんな彼女の反応が可愛らしく、微笑みながら葵は空を見る。
「月が綺麗ですね」
 それは、彼の心からの言葉。
「……意地悪」
 その意味を理解して、恥ずかしさに頬を赤らめる陽桜。けれども、その言葉に応えたいとも思うのだ。
「これからもずっと、一緒に見てくれますか?」
 彼の温もりの中、照れに混じる嬉しさに笑みを零しながら陽桜が問い掛ければ。彼もまた笑みを返しその耳元で言葉を紡ぐ。

 ――幾久しく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

ルーシーちゃん、どうしましたか?
足に?
ふわふわまんまるな物体がそこにある
一瞬綿毛?と思ったが
にゃという鳴き声に
おや、猫のようですね
えぇ、まん丸ホルムとふわふわ感は黒雛に似てます
とても可愛らしいですね
黒雛は『僕の方が可愛い!』と言いそうですが

ルーシーちゃんがなでなでしようとすると逃げる
追いかけるとさらに逃げる
小さい子の追いかけっこは見ていて癒されますね
ふわりと足元をスリスリする子
そっと優しく撫でてるとゴロゴロ
抱っこしようとすると逃げていく
ルーシーちゃん足元に擦り寄る子は少し撫でる事が出来ますよ
ふふっ、お上手です
良かったですね

なるほど、少し叩くと消えるのですか
ルーシーちゃんは叩くのイヤそうですが
ではルーシーちゃん、猫たちを追いかけたりと囮になってください

嘘喰
無数の喰華、地獄の手は伸びていき
優しく捕まえて
さて、捕まえた猫をそっと抱きかかえると消えていく
抱っこ出来ますよ?

猫達が消えていくのは淋しいですが
ふわふわを抱っこ出来るのはやはり癒されますね

帰ったら黒雛をもふもふなでなでしましょうか


ルーシー・ブルーベル
【月光】

ひゃっ??
パ、パパ!今、足にふわっとあったかなものが!?
う?これはネコさんかしら
わあ…ふわふわでまん丸
黒ヒナさんといい勝負かも
かわいいね!パパ
ふふ、確かに言いそう

おいで、撫でてあげる…あ!逃げちゃう
追いかけても逃げてはチラっと此方を振り向き
また逃げては此方をチラっと
むむ、これはもしや揶揄われているかしら
パパ頑張りましょう!
絶対にあのもふもふさん達をギュッとするんだから!

ふう、ふう
全然抱っこできない
あらら?パパが猫さんを撫でてる
なるほど、足元に来るのを待っているといいのね
暫くジッと待っていると足にふわっとした感触
驚かさないように手を伸ばせばふわふわほかほか
見てパパ!ルーシーも触れたわ!

そうね…出来れば叩きたくはないの
オトリ、お任せあれよ
『大きなお友だち』!
ヌイグルミのライオンを召喚して
のんびり寝転がってもらいましょう
猫さんが興味を持ったり
一緒にゴロリとするのを待って
パパやった!捕まえられたね

そうと抱っこして撫で
遊んでくれてありがとう
消えるのを見送る

ふふ…そうね
黒ヒナさんに会いたいな




 するり、と露出した足を撫でる柔らかな心地。
「ひゃっ??」
「ルーシーちゃん、どうしましたか?」
 不意に訪れたそれに、ルーシー・ブルーベルはびくりと肩を強張らせ思わず悲鳴を上げた。傍らの娘のその声に、朧・ユェーは危機を察知しすぐさま声を掛ける。
「パ、パパ! 今、足にふわっとあったかなものが!?」
 きゅっと、助けを求めるかのように彼の裾を握りルーシーがそう紡げば、ユェーは彼女が指差す足元をじっと見遣る。暗い夜闇の中、提灯明かりに仄かに照らされたそこには、真っ白のまん丸ふわふわが。
(「綿毛?」)
 あまりの白さにそう想い小首を傾げるユェー。けれども直ぐに聞こえた『にゃ』と云う声に、その正体が猫だと気付きルーシーへと声を掛ける。正体が分かれば何てことは無い存在。ルーシーはほっと安堵の息を零した後、じっと見上げる猫と視線を交わした。
「わあ……ふわふわでまん丸。黒ヒナさんといい勝負かも」
「えぇ、まん丸フォルムとふわふわ感は黒雛に似てます。とても可愛らしいですね。黒雛は『僕の方が可愛い!』と言いそうですが」
 かわいいね! とルーシーが紡げば、ユェーも素直に頷きながら――何時も彼の頭に乗る小さなまん丸の黒雛の事を思い出しくすくすと笑う。確かに、彼なら言いそうだ。実際にまん丸なツバメに対して『僕の方が可愛いよ!』とアピールしたこともあったから、その光景が目に浮かぶようでルーシーも笑みを零してしまう。
 残念ながら、今日はその黒雛はお留守番。
 ならば目の前のこの子を愛でようか。二又の尾をぴんと立て、じいっとこちらを見る真っ白のまん丸へとルーシーは手を伸ばした。
「おいで、撫でてあげる……あ! 逃げちゃう」
 そっと伸ばした指先が一瞬だけ柔らかな毛に触れたけれど、猫らしい身のこなしでしゅるりと逃げる。ちょこっと離れてはこちらをじっと見てくるから、ルーシーはまた手を伸ばし、逃げられて、伸ばし――幾度か繰り返したところで、ルーシーは気付いた。
「むむ、これはもしや揶揄われているかしら」
 眉を寄せ、ほんの少し唇を尖らせる少女。確かに捕まえにくいとは聞いていたけれど、遊ばれているような気もする。身体に触れそうで触れられない、指先だけの温もりだけでなく、去り際に尾でルーシーの手を撫でていくのもまたわざとらしい。
『にゃぁー』
 もっとやる? とでも言いたげに鳴く真っ白なねこすり。そんな視線を向けられれば、むむむっとルーシーはムキになり。
「パパ頑張りましょう! 絶対にあのもふもふさん達をギュッとするんだから!」
 ぎゅっと両手を握り締め、ルーシーは零す。気付けば辺りには様々な色の猫達が集まってきているが、どの子に手を伸ばしてもするりと逃げられてしまう。
 そろりと近付いたり、負けない早さで近付いたり、フェイントをしたり――様々な手段を試すルーシーの姿を見守るユェーの眼差しは、とても穏やかなもの。
(「小さい子の追いかけっこは見ていて癒されますね」)
 彼女が懸命なのは分かるけれど、その姿に心がほっこりとしてしまうのだ。――そんな、どこか嬉しそうな彼の足元へ。気付けば三毛の子がすりすりと。
「おや」
 にゃあ、と鳴きユェーを見上げるその子へと、手を伸ばしてみれば大人しく撫でられる。大きな手で撫でられたことが嬉しいのか、ごろごろと喉を鳴らす様は随分とリラックスしているようで。それならと持ち上げようとしたが――しゅるり、逃げられる。
 サバトラに赤茶に、様々なすりねこ達が寄って来てすりすりと。その子等を撫でてやれば、遠くから娘の声が聞こえてきた。
「あらら? パパが猫さんを撫でてる」
 ふう、ふうと追い掛けっこに息を荒げながら。全然追いつけずに抱き上げられずにいるルーシーは、その場でじっとしているのに猫を撫でているユェーの姿に不思議そうだった。どうして? と問い掛ける彼女へと、ユェーはくすりと笑い。
「ルーシーちゃん、足元に擦り寄る子は少し撫でる事が出来ますよ」
「なるほど、足元に来るのを待っているといいのね」
 彼のアドバイスに頷き、今度はじっと大人しく待つ。遊ぶように辺りを駆けていた猫達はルーシーが追い掛けてこない事に不思議そうに小首を傾げた後、するりとその足へと自らのふわふわの身体を擦り付けた。
『んにゃ』
 嬉しそうに鳴きながら、ふわりと触れる心地は気持ちが良い。追いかけっこを繰り返しても警戒などしないその様子も可愛らしく、ルーシーがほにゃりと頬を緩めながら恐る恐る、ユェーの言った通り手を伸ばせば――ふかり、しっかりと掌に伝わるふわふわ。
「見てパパ! ルーシーも触れたわ!」
「ふふっ、お上手です。良かったですね」
 振り返り、瞳を煌めかせながら報告をする娘の姿が微笑ましくて。まるで自分の事のように嬉しそうに微笑みながらユェーは紡ぐ。
 次々と足へと擦り寄る子達を、撫でる事は出来ても抱き上げる事は出来ない。叩けば消えてしまい無事に任務を終えられるけれども――やっぱり、それは可哀想だと思うのだ。
「ではルーシーちゃん、猫たちを追いかけたりと囮になってください」
 暫し考え、ユェーは閃きルーシーへと提案する。その言葉に不思議そうに瞳を一つ瞬いて、けれども彼が言う事ならばと大きく頷きを返した。
「オトリ、お任せあれよ。『大きなお友だち』!」
 呪文を唱えると同時、現れたのは三メートルほどの大きなライオン……のぬいぐるみ。ごろりと寝転がったライオンの上にルーシーが乗り、暫し待っていれば。興味を惹かれたねこすり達が集まってくる。
 まずはライオンの周りをうろうろと。その身体をすりすり擦り付けて、特に危険が無い事を確認すると――彼等はぴょんっとまん丸の身体で飛び乗って来た。ルーシーの周りに集まりながら彼等はそのふかふかを確かめるように前足をぽふぽふしたり、ごろんと寝転がったりと思い思いにくつろぎだした。
 その様子を見守っていたユェーは今がチャンスだと、眼鏡の奥の瞳を細める。そのまま呪文を唱えると、無数の地獄の手が伸びていき、ぬいぐるみの上でくつろぐ猫を捕まえていく。彼等は一瞬驚いたように声を上げたが、その手が優しいものであると気付けばみるみる大人しくなっていく。
「パパやった! 捕まえられたね」
 ぬいぐるみの上から下を覗き込み、ユェーと視線を交わし嬉しそうに笑うルーシー。そのままぴょんっと地に降りると、捕まえたその手から受け取るように猫を抱き締めた。
「遊んでくれてありがとう」
「ふわふわを抱っこ出来るのはやはり癒されますね」
 二人の腕の猫は嬉しそうな鳴き声の後、何も無かったかのように消えていく。
 その温もりを忘れぬように、次々と猫を抱いても終わりはある。最後の一匹を抱いてあげるよう、ユェーがそっとルーシーの背を押せば――彼女は小さな両手を伸ばし青み掛かった灰色の子を抱き締めた。
『にゃぁー』
 嬉しそうな声が耳に届く。
 その瞬間、何事も無かったかのように消えていく最後の子。腕の中に残る温もりは、秋の夜風が撫で消していくようで――寂しげな色の瞳を、ルーシーは浮かぶ月へと向けた。
「帰ったら黒雛をもふもふなでなでしましょうか」
 寂しげな娘の頭を撫でながら、そっとユェーは言葉を紡ぐ。彼の温もりに、優しい言葉に微笑んで、少女はこくりと頷いた。
「ふふ……そうね。黒ヒナさんに会いたいな」
 消えた温もりも、彼が埋めてくれるだろう。
 ――ぴぃ!
 今は聞こえない筈の声が、直ぐ傍で聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年10月14日


挿絵イラスト