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東アーレス半島東部沿岸沖艦隊決戦

#クロムキャバリア #地下帝国 #レイテナ #日乃和 #鯨の歌作戦 #人喰いキャバリア

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● レミニセンス・ザ・ワールドの裏側で
 百年にも及ぶ戦乱が続く世界、クロムキャバリア。
 アーレス大陸の東部に位置する国家連合体、レイテナ・ロイヤル・ユニオンは、人喰いキャバリアと呼ばれる無人機群の襲来に曝され続けていた。

 地上より伸びた巨大な竜巻が澄み渡る青空を衝く。
 その竜巻の正体は、人喰いキャバリアが作り出した巨大な渦だった。

 そして竜巻が伸びる先――青空の彼方、カーマンラインに達する高度に巨大な大穴が開き、同規模の竜巻が生じ、地表に向かって降下を開始する。
 こちらの竜巻もキャバリアの大群勢が作り出した渦だった。しかし人喰いキャバリアの竜巻とは機種が全く異なる。
 二つの竜巻はやがて高高度で激突。夥しい数の爆炎が膨れ上がり、黒煙が雲となって拡大してゆく。

「これが約一週間前の映像だ。ゼロハート・プラント上空では、現在も人喰いキャバリアと未知の勢力の交戦が継続中だ」
 映像を止めたモニターの前に立つブリンケンが観衆を一瞥する。イーストガード海軍基地の作戦会議室に集った日乃和とレイテナ両軍の多くは、困惑と驚愕に顔を強張らせていた。
「仲介人から得た情報によると、未知の勢力はザ・スターと呼ばれる――」
「本題はそこではないじゃろ?」
 先を急かすエリザヴェートに、ブリンケンは眉根を上げてから語り始めた。
「この現象の発生と時期を合わせて、東アーレス全域で人喰いキャバリアの侵攻が停滞している。これに伴い各戦線は反撃を開始、我々も同調する形で――」
「千載一遇のチャンスなのじゃ! 艦隊決戦じゃ! 増援が止まった今こそ、東アーレス半島を一気に取り戻すのじゃ!」
 小さな暴君が黄色い声を刃物のように振り回す。ブリンケンはため息と共に首を横に振った。
「陛下、艦隊決戦ってのはリスクが非常に大きいもんで……と言いたいところですが、今回ばかりは陛下のご意見が正しいですな」
「今回ばかりとはなんじゃ!」
「我々日乃和派遣艦隊も陛下と同意見です」
 矢野の顔には愛想が無いが冗談の気配も無い。
「これからの季節は台風が頻繁します。そうなる前に最低でも制海権は完全に確保するべきです。我々にとって時間は味方ではありません」
 淡々と現実を突き付ける矢野にエリザヴェートも渋い顔を禁じ得ない。
「前回の戦闘で受けた傷も十分に回復しておりますからな」
 ブリンケンの発言は将兵達にも向けられていた。
「トールも修理を終えておる。妾とトールが揃えば人喰いキャバリアなんぞ物の数ではないわ!」
 鼻息を荒げるエリザヴェートにブリンケンが「そりゃ心強いですな」と皮肉を添える。
「大和武命の波動荷電粒子砲もありますからな。白木艦長殿には今度こそ威力を拝ませて貰いましょうか」
 空気は艦隊決戦の決行で固まった――矢先、観衆の中から白い腕が上がった。
「具申をよろしいでしょうか?」
 ぬめる声音の元に皆の目が向く。腕を上げたのは結城だった。エリザヴェートが「申してみよ」と促すと、艶かしい光沢を乗せた唇が微笑んだ。
「今回の作戦実施にあたりまして、猟兵の雇用をご提案させて頂きたく」

●東アーレス半島東部沿岸沖艦隊決戦
「お集まり頂きまずは感謝を。依頼の内容を説明するわ」
 グリモアベースにて集った猟兵達を前に水之江が首を垂れる。
「依頼主はレイテナ王室。目標は敵海上勢力の殲滅よ」
 杖の石突きが床を鳴らす。するとUDCアースの朝鮮半島によく似た立体映像が現れた。
「レイテナでは人喰いキャバリアって呼ばれてる無人機から東アーレス半島を取り戻す作戦が実施中なの。作戦名は|鯨の歌《ホエール・ソング》作戦。今回の依頼はその作戦の一環になるわ」
 半島の東部沿岸沖が拡大表示される。半島を背中として敵を示す赤い輝点が幾つも灯った。
「海上の人喰いキャバリアに対して、日乃和とレイテナの同盟軍が艦隊決戦に臨むわ。この艦隊と協力して敵を殲滅してちょうだい」
 日レ同盟艦隊を示す青い輝点の総数は、敵反応の数に対して非常に心許ない。

●敵勢力
「出現する敵について説明するわね。まずはこちらのエヴォルグ量産機EVOL。運動性と速力は侮れないわ。侵蝕弾にも気を付けて」
 その名前と立体映像に覚えがある猟兵も少なくないだろう。背中の翼は伊達ではなく、単独での飛行能力を持つ。
「このEVOLが敵の大半を占めてるわ。規模は一個師団とかそんなレベルじゃないから覚悟してね」
 数を質で覆すのは猟兵の常であろう。しかし倒す程に蓄積する消耗にどう抗うのか。各々の判断が問われる。

「続いて機動殲龍『激浪』。水陸両用キャバリアよ。全長は約40メートルと結構な大型。火力は戦艦並。泳ぎも速いし潜航も可能。全身を覆うナノクラスタ装甲は水を吸収して再生するだけじゃなく、新たな艤装も生成しちゃう。元々はレイテナ海軍の切り札だったのが侵蝕されちゃったんですって。因みに沙綿里島の依頼で出現した激浪とは同型機よ」
 激浪の特徴はモササウルスを機械化したような外観に違わない。海洋上での活動に特化した水陸両用機だ。本来持つ能力を最大限に発揮してくる事を疑う余地は無い。
「しかも困った事にこの激浪、出てくるのが一機二機だけじゃないのよ。まあ、だからこそ猟兵さんが必要という事よ」
 猟兵が複数掛かりでようやく単機を撃破し得る程度の機体だ。同時に複数機を相手取れば、多大な挑戦との直面を避けるのは非常に困難であろう。

●友軍
「その味方は日乃和海軍の派遣艦隊とレイテナ第一艦隊ね」
 日乃和の艦隊の旗艦は大和武命が。レイテナの艦隊の旗艦はクイーン・エリザヴェートが担う。
 各艦は海上戦での足場となる。空母に着艦すれば補給と整備が受けられるだろう。
「それからエリザヴェート・レイテナ女王陛下がトールでご出陣なされるんですって」
 トールとはレイテナの王家に伝わる巨神の一機である。雷神の異名に相応しく雷を操り、戦鎚を振り回して勇猛果敢に戦うのだという。

●その巨神に触れてはならない
 すると水之江は「これは超重要だからしっかり聞いてね」と念入りに断りを入れた。
「このトールのオブリビオンマシン化が判明しているわ。でも今回のお仕事ではノータッチでよろしく。今のところは暴れ出す様子も無いし。巨神なだけあって強力な機体らしいから、むしろ利用する方向で行きましょう」
 なおエリザヴェートにとってトールは亡き父母の形見であり、手放すつもりは全く無い事も接触した猟兵により判明している。
「念の為に言うけどフリじゃないわよ? あとエリザヴェート陛下は前回の依頼で猟兵さんに艦隊が焼かれかけたとか何とかでフレンドリーファイアに神経質になってるそうだから、ついうっかりってのも無しね」
 それでもトールを撃てば――極めて困難なその試みを成功させた結果は、自他への深刻な影響を及ぼす事で示されるやも知れない。当然にして大いなる報いが待ち受けているであろう。

●ブリーフィング終了
「それと今回の依頼は遅くとも一週間前には現地入りしてもらうわ。楽じゃない内容だけれど報酬はたっぷり出るわよ。お気に召したら契約内容をよくご確認の上サインをよろしく。ご清聴どうも」
 水之江は深く腰を折った。
 鋼鉄の鯨達の戦歌は、猟兵という演者を迎えて最終楽章へと向かう。
 そこで猟兵はいかなる旋律を重ねるのか。
 弱者必滅。強者絶対。
 歌われるのは、常に勝利者だけだ。


塩沢たまき
 お目通しありがとうございます。
 以下は補足となります。

●目標=敵勢力の殲滅
 全章共通の目標となります。

●戦域
 海上です。
 戦闘開始直後は敵味方が正面から向かい合う形となります。
 友軍の艦艇は足場にする事も可能です。
 作戦開始時刻は午前。天候は晴れ。波の高さは少し高め。

●第一章=集団戦
 出現する敵勢力を排除してください。
 敵はエヴォルグ量産機EVOLです。
 圧倒的な数で襲来します。

●第二章=ボス戦
 出現する敵を排除してください。
 敵は機動殲龍『激浪』です。
 複数機出現します。
 複数機に対して同時に戦闘を行う事は可能ですが、単独で全機を撃破する必要はありません。

●第三章=ボス戦
 出現する敵を排除してください。

●日乃和増援艦隊
 戦艦の大和武命が旗艦です。
 艦長は白木・矢野大佐。
 主力キャバリアはイカルガです。
 海中戦力として若干数のクレイシザーも稼働しています。
 白羽井小隊と灰狼中隊を含む多数のキャバリア部隊が所属しています。
 護衛対象とはされていませんが、作戦終了時の損害状況によっては今後の展開に影響が生じるかも知れません。

●レイテナ第一艦隊
 戦艦のクイーン・エリザヴェートが旗艦です。
 艦長はブリンケン・ベッケナー大佐。
 主力キャバリアはイカルガです。
 海中戦力として若干数のクレイシザーも稼働しています。
 スワロウ小隊を含む多数のキャバリア部隊が所属しています。
 護衛対象とはされていませんが、作戦終了時の損害状況によっては今後の展開に影響が生じるかも知れません。

●トール
 レイテナ王家に伝わる巨神です。
 自在に空を飛び、ハンマーと雷で戦います。
 突出しますが非常に強力な機体なので放置していても恐らく問題ありません。
 エリザヴェート・レイテナ女王が搭乗しています。金髪まな板のじゃロリ。
 過去の猟兵の行動の結果により、エリザヴェートは猟兵のフレンドリーファイアに対して神経質になっているようです。
 オブリビオンマシン化していますが、グリモア猟兵から撃破は禁止されています。
 非常に困難ですが、撃破した場合には極めて深刻な状況に陥るかも知れません。

●その他
 高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
 キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
 ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
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第1章 集団戦 『エヴォルグ量産機EVOL』

POW   :    フレッシュエヴォルミサイル
【レベル×100km/hで飛翔しながら、口】から、戦場全体に「敵味方を識別する【分裂増殖する生体ミサイル】」を放ち、ダメージと【侵蝕細胞による同化と侵蝕】の状態異常を与える。
SPD   :    エヴォルティックスピア
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【体】から【分裂増殖したレベル×10本の触腕】を放つ。
WIZ   :    EVOLエンジン
【レベル×100km/hで飛翔し、噛み付き】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【進化した機体、EVOL-G】に変身する。

イラスト:すずや

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●何が為に我は征く
 艦隊決戦実施まで残り一週間。
 日レ両軍が犇めくイーストガード海軍基地では、既に猟兵達のキャバリアとそれに関連する資材や弾薬の搬入が進められていた。埠頭に訪れれば錨泊中の艦艇を見る事もできたであろう。
 日数を重ねるにつれて増す緊張感とは裏腹に、臨む日乃和海は初夏の青に澄んでいる。だが遠くの空で膨張を続ける入道雲は、日差しを隠して海面に大きな陰りを落としていた。

 その日のイーストガード海軍基地の作戦会議室は、人ですし詰め状態だった。両軍の主要な将校に加えて各キャバリア部隊の隊長、そして猟兵。椅子など足りる筈もない。壁により掛かるなりその場に立ち尽くすなり、部屋に収まりきらなければ通路から顔を覗かせるなり、ブリーフィングに参加する姿勢は様々だが、注意が向かう先は皆共通してメインモニターだ。
 天と地の両面から伸びる巨大な竜巻。その二つが激突し、狭間に夥しい爆炎が咲いて黒煙が横方向へと拡大する。前もって事情を知らない者ならば、これが何の映像なのか理解も及ばないであろう。 
「|仲介人《グリモア猟兵》から得た情報によると、ゼロハート・プラントを襲撃中の未知の勢力とは『ザ・スター』と呼ばれるオブリビオンが召喚した無人機群との事だ。ザ・スターはユーベルコードを用いて殲禍炎剣の照射を無効化し、先述の無人機群を召喚している。その目的はゼロハート・プラントの破壊にあると思われる」
 矢野が並べ立てた事実は一層混乱を煽るに足る内容だった。
 何者も抗えない殲禍炎剣の照射を無効化する未知の存在。しかもどうやら敵の敵は味方という訳でもないらしい。しかし矢野を含めた生命の埒内にある只人達にオブリビオンの存在は認識が及ばない。只人からすれば、ゼロハート・プラントが空から襲撃を受け、人喰いキャバリアがそちらの対処に負われているという事実だけが要点だ。
 矢野に横目を送られたブリンケンが続ける。
「この現象の発生と時期を合わせて、東アーレスの全域で人喰いキャバリアの侵攻停滞が確認された。これに乗じて各戦線では反攻作戦を実施。我々も同調する形で戦線を一気に押し上げ、東アーレス半島全域の奪還を目指す」
 モニターの映像が東アーレス半島を俯瞰した地図に移り変わる。海上に敵を示す赤い輝点が幾つも灯った。同時に表示された『測定限界値超過』の文字に、観衆の中から呻き声が漏れた。
「だが諸君も知っての通り、奪還するにあたって大きな障害が立ちはだかっている。そいつが東部沿岸沖に溜まってる人喰いキャバリアの大群だ。ゴッドカイザー海岸を背にしたこいつらがいる限り、半島内陸部に海から戦力を送り込む事はできない」
 仰々しい名前の海岸だなと一人の猟兵が呟く。すると那琴が「神皇陛下が日乃和をお拓きになられる際に訪れた海岸とされておりますのよ」と囁いた。
「逆にこいつらを綺麗サッパリ掃除すれば、戦況は一気にこちらへ傾く。事実上鯨の歌作戦の成否が決まるポイントだと思ってくれていい」
 ブリンケンの顔に冗談の色は無い。息を飲む気配が広がった。
「したがって日レ同盟艦隊はこの敵海上戦力に対し――」
「艦隊決戦じゃ! 艦隊決戦で蹴散らすのじゃ!」
 割って入ったエリザヴェートの黄色い声音は、作戦会議室のみならず通路にまで響く。眉間に皺を作って口を閉ざしたブリンケンに代わり、矢野が後を引き取る。
「これからの季節、東アーレス半島は台風の被害に頻繁に見舞われる。そうなる前に最低でも制海権は完全に確保しておかなければならない。加えて長期に渡る戦況膠着状態で、両軍共に補給の負担が深刻化している。時間は我々の味方ではない」
 矢野が言う負担は声の重さ以上に深刻だ。
 日レ同盟艦隊を抱えるイーストガード海軍基地は、物資を無限に飲み込み続ける底なし沼である。日乃和は二十四時間体制で物資供給を継続しているし、東アーレス半島で奪還したプラントは生産補助施設の修理も程々に全力稼働を続けている。しかしこの無理はいつまでも続けられるものではない。
「……という訳で、我らが偉大なるエリザヴェート女王陛下のご主導の下、我々日レ同盟艦隊は艦隊決戦に臨む。諸君、レイテナと日乃和の海を人類の手に取り戻そう」
 ブリンケンの激励に同調する者は少ない。下手なのもあるが、日乃和とレイテナ両軍の艦隊を揃えたとしても生半に突破出来る壁ではないと知っていたからだ。しかし同時に皆既に覚悟を決めていたからでもある。
 ゼロハート・プラントがザ・スターなる未知の勢力に襲撃され、人喰いキャバリアの侵攻が停滞するなどという奇跡はもう二度と起こるまい。となれば人類が一矢報いるのは今回が最初で最後のチャンス。失敗も後退も許されない。もしここで退けば、今まで支払った全ての犠牲が無意味になってしまう。そして今を生きる者達は、犠牲となった死者を踏みしめて立っている。誰一人の例外も無く。前に進むことが、死者に払うべき敬意であり、義務と責任――ブリンケンが言外に含めた意味を咀嚼しながら、矢野は顎を引いた。

●我らを阻む敵は
「先にあった通り、敵はゴッドカイザー海岸を背にして展開中だ。これを南と南東から叩く。南は我らがレイテナ第一艦隊。南東は白木艦長殿の艦隊が担当する。イェーガーは好きな方について行ってくれて構わん。布陣が済めばどうせお隣さん同士だからな」
 ブリンケンの言葉に合わせて二つの青い矢印が赤い輝点の群れへと向かう。
「まず大和武命が波動荷電粒子砲で攻撃を行う。これで敵の前衛の大部分を撃破する目算だ。その後、全艦で全力砲撃を開始。密集した敵の漸減を図る。砲撃を抜けた敵はキャバリア部隊が対処に当たる。イェーガーが攻撃を開始するタイミングは大和武命の攻撃後とする」
「どうして?」
 一人の猟兵が思わず疑問を投げた。ブリンケンは「波動荷電粒子砲の発射前に纏まってる敵を散らかされると困るもんでな。まあ、戦闘開始の合図だと思ってくれればいいさ」と気さくに答えた。
「イェーガー諸君の戦闘方法は一任する。自前で船を持っているなら砲撃に参加してくれてもいいし、キャバリアで出てくれてもいい。ただし初動で張り切り過ぎんよう注意してくれ。大仕事が控えてるからな」
 大仕事――激浪を指しているのだと察した猟兵の一人が顔を険しくする。
「んで、敵の構成についてなんだが……白木艦長」
 矢野はひとつ頷いてから語り始めた。
「敵勢力の構成の大部分を占めるのがエヴォルグ量産機EVOLだ。総数は現時点で数万以上。正確な数は測定限界値を超過しているため不明だが、前回レイテナ第一艦隊を襲撃した数と同等かそれ以上の規模を形成している」
 モニターに有翼の人喰いキャバリアが出現した。どこからか「今度もスコア稼ぎ放題だぜ」と皮肉が飛んだ。
「そして、機動殲龍『激浪』が複数機確認されている」
 激浪の名が作戦会議室に響いた途端、小声のざわめきが止まった。
 かつてレイテナの切り札だった水陸両用大型キャバリア。単機でも戦況を覆し得るほどのそれが、今では人喰いキャバリアの手に堕ち、周辺海域の制海権を脅かし続けている。スカルヘッドに比肩する脅威として。しかも一機や二機では済まされない。
「現時点での最終観測結果となるが、激浪は敵陣の後方に布陣している。EVOLとの交戦開始直後にはこの激浪が長距離砲撃を行う事が想定される。激浪の放水砲の精度と相対距離を考慮するならば命中は殆ど見込まれない。しかし油断は禁物だ。各位は遠距離から狙われているという事を念頭に、十分に警戒を強めてくれ」
「お行儀良く後ろに引っ込んでいてくれるもんかね……」
 太く低い不躾な声音の主は伊尾奈だった。半眼から覗く赤い瞳に対して、矢野は予め用意していた答えで応じる。
「激浪の対処には猟兵各位に当たってもらう。激浪が出現した時点で、その時の状況に関わらず最優先で排除してくれ」
「で? アタシらはどうしろって?」
「EVOLが残存していた場合はEVOLの排除を優先してもらう。猟兵が激浪との交戦に専念できる状況を作ってくれ」
「絡まれたら?」
「あくまでもEVOLの排除が優先だが、適時適切な判断に期待する」
 伊尾奈は鼻息をひとつつくと矢野から目を外した。
「激浪について、他に質問のある者はいないか?」
 矢野が将兵達を見渡す。するとテレサが周囲の顔色を伺いながら手を挙げて起立した。矢野は頷きで発言を促す。
「あの……激浪って潜航能力を持っていたと思うんですけど、それへの対応策というのは……?」
 歯切れの悪い質問にブリンケンが「それについてはこっちで」と矢野からバトンを受け取った。
「テレサ少尉の心配はごもっともだ。海中に潜られるとこっちからじゃ手出しがし難くなるからな。そいつに関してだが、各艦並びに各キャバリアの対潜魚雷攻撃で対応する。激浪は一定以上の損傷を受けると潜航能力を失う作りになっている。海上に引き摺り出したところをイェーガー諸君が叩く……てな流れだな」
 テレサは「了解しました、ありがとうございます」と遠慮がちに添えて腰を降ろした。
「レイテナと日乃和の将兵達よ! 憂うには及ばぬ! 妾もトールで出るのじゃからな! トールの雷の前ではEVOLと激浪など物の数ではないのじゃ!」
「いや陛下……激浪の処理はイェーガーの担当なんですがね」
 薄い胸を誇らしく張るエリザヴェートには不安が微塵もない。取り繕った苦笑いが作戦会議室に広がった。
 
●波動荷電粒子砲
 蒼空に燃える銀色の太陽が、広大な海原を照らす。深い青に染まる海面を吹く風が駆け抜ける。その度に海面は大きくうねり、白い波を立てた。
 東アーレスの海を鋼鉄の鯨の群れが征く。規則的な陣形を保つ群れの中で、一際巨大な輪郭があった。大和武命とクイーン・エリザヴェートである。
「女王陛下がご出陣なされます!」
 飛び交う通信と報告で騒がしいクイーン・エリザヴェートのブリッジで、航空管制士が声を張る。メインモニターを介して出撃の瞬間を見届けていたブリンケンは、嘆息のひとつも漏らしたい様子が顔に現れていた。
 1番カタパルトの左右にイカルガが並ぶ。銃を掲げて直立する姿は、さながら儀仗兵のようだ。
 イカルガが作り出した道の中央をトールが進む。吹き付ける潮風に赤いマントをなびかせながら。力強く神々しい風貌と相まって、まさしく王の出陣といった光景だ。
『ブリンケン! 妾の艦隊はしかと任せたぞ!』
 コクピット内のエリザヴェートの姿がブリッジのメインモニターに大きく映し出された。14歳の小さな身体に纏うパイロットスーツは、実用性に沿っているとは到底思えないほどに豪華な意匠だ。
「陛下こそ、またトールを壊さんでくださいよ」
 嫌味を込めてブリンケンが言う。
『やかましいわ!』
 跳ね返ってきた黄色い声にブリッジの総員が肩を竦めた。
「皆の者! 妾に続くのじゃ!」
 トールが戦鎚を天に掲げた。各部のスラスターが青白い噴射光を放出し、機体を浮かび上がらせる。
 カタパルトデッキを発って遠ざかるトールを見送りながら、ブリンケンはテレサの元に通信を繋いだ。
「スワロウ小隊、偉大なる女王陛下をよく見てやっててくれ」
「スワロウ01よりクイーン・エリザヴェートへ、了解です」
 テレサは生真面目に応じる。モニターの先で甲板要員が誘導灯を振り抜いた。発振準備完了を示す横文字が点灯するのを待って、腹に力を込める。
「アークレイズ! テレサ・ゼロハート、行きます!」
 電磁カタパルトによって瞬時に加速したアークレイズは海原へと弾き出されていった。立て続けに同隊所属のイカルガ達が順次発艦する。

「アークレイズ・ディナ……尼崎伊尾奈、出るよ」
「アークレイズ・ディナ! 東雲那琴! 参ります!」
「イカルガ、雪月栞菜、いっきまーす」
 時期を同じくして、日乃和側の艦隊でもキャバリアが次々に空母から海原へと飛び立って行った。その機体の多くが兵装懸架装置に大型の誘導弾を搭載している。
 フェニックスミサイル――子爆弾を広範囲に散布する大型誘導弾。 その面制圧力は甚大で、一個中隊で一斉攻撃を行えば、旅団規模の人喰いキャバリアを殲滅し得るほどである。本作戦に合わせてレイテナ側から多数提供された装備だ。
 艦隊の最先頭を行く大和武命の艦橋で、矢野は航法スクリーン上から見るキャバリアの展開状況を注意深く観察していた。圧倒的な数的不利を覆す上で、日レ両軍のフェニックスミサイル一斉発射は、艦隊砲撃と並ぶ切り札となる。
「……最大の切り札は、彼等だがな」
 猟兵を示す緑の輝点に向けて呟く。矢野には確信に近い思いがあった。大和武命の波動荷電粒子砲を以てしても、戦況という天秤を大きく傾けるには至らない。天秤を動かす役割を持つのは恐らく猟兵なのだろう。
 愛宕連山、南州第一第二プラント、沙綿里島、西州、香龍……彼等は常に時代の潮流の分岐路に現れた。ともなれば、鯨の歌作戦もまた潮流の分岐路――。
「まもなく作戦領域に到達します」
 航海長の声を受けた矢野は思考を濯いだ。そして深く呼吸した後、艦長席の肘掛けから艦内電話を取り上げた。
「全軍並びに猟兵各位に達する。これより本艦、大和武命は全軍に先んじて戦闘領域に突入。敵密集地点に対して波動荷電粒子砲による砲撃を実施する」
 砲雷長が緊張した眼差しを矢野に流す。砲雷長のみならず大和武命の総員6000名超の船員が一様にして身体を強張らせていた。それらの重圧を一身に受けた矢野は、固く引き締めた顔色を何一つ変えずに声を張った。
「作戦の成否は本艦の一撃に懸かっている。全乗組員の奮起を期待する!」
 艦内電話を元鞘に収めた矢野は、艦長席に深く座り直して肘掛けを掴んだ。鬨の声が上がるでもなく、それぞれが各々の職務を粛々と果たしている。
「作戦領域に到達!」
 航海長の震え混じりの声に、矢野を含めた総員が水平線の向こうに目を凝らす。
「前回以上だな」
 矢野の目元が歪む。
 水平線の先を埋め尽くす深緑の雲。それは人喰いキャバリアの大群が産み出す積乱雲であった。測定限界値を超えている事は元より承知の上だったが、改めて現実を目の当たりにすれば、覚悟など虚勢の方便でしかない事を思い知らされる。
 だが退く事は許されない。
「大和武命、前進強速!」
 艦隊に降りかけた怖気を振り払うように矢野が声を飛ばす。復唱の後に機関の高鳴りが船体に走り、全長1000メートルを超える大和武命が増速し始めた。
 ほんの数秒間の加速を終えた大和武命は、他の艦艇を後方へと置き去りにして先行する。船足の速度が規定値に達した事を確認し、矢野は声を鋭くした。
「波動荷電粒子砲、発射用意!」
「機関停止! 全動力を波動荷電粒子砲へ!」
 減速の衝撃に戦慄する艦内。交錯する通信。慌ただしくも乗組員は着実に役割を遂行する。
 そして艦首に備わる大筒が迫り出した。
 全長100メートルの巨砲。大和武命のエネルギーを吸いに吸った怪物が、その奥底で青白い光を不気味に脈動させる。
「波動荷電粒子砲、充填率150パーセント! 撃てます!」
 砲雷長が叫ぶ。
 砲撃は一発限り。一撃で決める。水平線の先で完全に姿を現した人喰いキャバリアの積乱雲を睨め付けて、矢野は腹に力を入れた。
「波動荷電粒子砲……撃てっ!」
 矢野が全身を声にした直後、大和武命は激震に見舞われた。そして防眩フィルターでも減衰しきれない光の洪水が、全ての者の視界を塗り込めた。

●霧が晴れた先
 それは熱と雷の波動であった。
 大和武命の艦首の巨砲から放射された荷電粒子は光の奔流となって直進。海面を捲り上げながら人喰いキャバリアの大群の中心へと突き進んだ。
 光軸に飲み込まれたEVOLは無論、掠めた――否、キャバリア数機分の間合いを開けていたEVOLでさえも一瞬で消失させてしまう破滅の光。遂に敵陣の中央の海面に突き刺さると、天を衝く莫大な水蒸気爆発を生じさせた。
 海上を走る衝撃波にイカルガの機体が大きく揺らぐ。続いて鼓膜を破壊せんばかりの轟音が届き、荒ぶる高波が艦艇のデッキに打ち付けた。

「こりゃあ堪らんなぁ」
 光に焼かれた目を擦りながらブリンケンは効果観測の指示を下す。水平線を埋め尽くしていた人喰いキャバリアの積乱雲は水蒸気に呑まれてしまった。今ので全部掃除されていてくれたらいいんだが……楽観的な期待はすぐに否定される事となった。
「敵反応! 多数確認!」
 観測手の報告にブリンケンは落胆を禁じ得なかった。白い霧を抜けてEVOLが向かい来る。何百何千、何万とも数えきれないEVOLが。
「全艦砲撃始め! 全キャバリア部隊! フェニックスミサイルを発射しろ!」
 ウォースパイトが砲塔を鳴らす。日乃和側の艦隊でも三笠の二連装メガビーム砲を皮切りとして砲撃が始まった。
「スワロウ01より小隊全機! フェニックスミサイルを発射してください!」
 各キャバリアが携行する大型誘導弾を一斉に解き放った。緋色の砲弾を追いかけて白いガスの尻尾が敵陣へと吸い込まれてゆく。
 連続する爆轟。膨らむ火球。埋め尽くす黒煙。破壊の嵐が人喰いキャバリアを完膚なきまでに蹂躙し尽くす。
 だがそれでも押し留めるには至らない。黒煙を抜けて、巨大な津波に変容した人喰いキャバリアが日レ両艦隊を目指して押し寄せる。
 しかしレイテナと日乃和の両軍の闘志は消えるに至らず。押し寄せる人喰いキャバリアに向けて各機は既に銃を構えていた。
「臆するでない! 妾のトールに続くのじゃ!」
 戦鎚を振り上げたトールが海面を駆ける。イカルガがマイクロミサイルをばら撒いて飛ぶ。鋼鉄の鯨の重奏を背に受けながら。

 霧が晴れた先、東アーレスの海に鯨の歌が再び響く。
 それが奏でるのは救いのない歌なのだろうか。
 波濤に飲まれ、泡沫に沈む歌なのだろうか。
 或いは渚に届く歌なのだろうか。
 末路を指し示す者は、旋律を担う猟兵に他ならない。
斑星・夜
キャバリア:灰風号搭乗

オーケー、人喰いキャバリアね
あれは放って置いたらいけない奴だ
「それじゃあ……あいつら全員、海の藻屑にしてやろっかぁ」

EPワイズマンユニット『ねむいのちゃん』に戦場情報収集をしてもらい
敵キャバリアの数や位置を把握、漏れがないように戦う
「ねむいのちゃん、サポートよろしくね」

まずはブリッツ・レーゲングスの雷で状態異常を与えつつ
複数の敵機へ範囲攻撃のダメージを与えて弱らせる
動きが鈍ったらRXブリッツハンマー・ダグザによる重量攻撃
位置が離れた敵へはRXSシルバーワイヤーを射出し捕縛、そのまま振り回して敵機へぶつけて攻撃
「人を喰らわせてなんてあげないよ! そのために来たんだからさ!」



●蒼天の霹靂
 空と海の狭間で重砲が轟く。豪胆ながらも調律の秩序の元に連続するそれは、鋼鉄の鯨の斉唱であった。
 大和武命の波動荷電粒子砲の余韻で荒む海面を灰風号が疾駆する。リアンノンのバーニアノズルが噴出する推力を得た機体が紺碧の丘陵地帯を突き進む。時に膨らむ波を乗り越え、海面を叩く白波を浴びながら。
 生命の源たる海。スラスターの噴射圧で巻き上げられた飛沫。引き連れる白い泡沫。それらの全てが太陽を浴びて虹色に輝く。偉大なる自然と機動兵器が生み出した歪な美しさは、戦時であってこそ引き立つ光景であったであろう。灰風号の胸郭の奥底に収まる彼――斑星・夜(星灯・f31041)は、海面で踊る陽光の照り返しに双眸を細めながらレーダーに目を走らせていた。
「|獲物《ターゲット》じゃなく|水平線《レーダー》を視よ……だれの言葉だっけ?」
『検索には該当がありませんねぇ』
 ねむいのちゃんが間の抜けた電子音声で応じる。
「どこかで聞いた気がするんだけどなぁ?」
 誰の言葉にせよ、こういった広域に及ぶ戦いでは間違いでもあるまい。さもなくば、取り溢さなくて済む敵も見逃してしまう。斑星の金色の瞳が、艦隊の両翼に回り込もうとする人喰いキャバリアの気配を目敏く察知した。
「左翼に行こうかな? 先頭の敵を抑えるから、ルート設定よろしく」
 ねむいのちゃんが灰風号と敵の速力を計算して接触に最適な位置とルートをレーダーマップ上に表示した。斑星は左右の操縦桿を横に傾斜させてフットペダルを踏む。横方向への重力加速度を全身で噛み締めながら、左翼側に回り込んだ敵梯団目掛けて灰風号を加速させた。

 彼我共に守りの層が厚い中央に戦力を集中させて、比較的柔らかい横腹を突く。人類同士の戦闘では常套であろう。だが明確な知性が存在しないとされている人喰いキャバリアとの戦闘では? レーダー上で見る敵の分布に知性の存在が匂う。蟻や蜂などの社会性昆虫にも似た知性の匂いが。
「突っ込むよ。ねむいのちゃん、アリアンロッドのコントロールよろしく!」
 灰風号の両腕部から伸びる懸架装置に保持された半月状の実体盾が正面の左右に回り、連結して円形となった。バーニアノズルが青白い噴射炎を炸裂させて機体を突き飛ばした。飛び込む先はレイテナの艦艇を目指して海面を滑空する敵梯団の先頭。
 相対距離が急速に縮まる最中、斑星は白面と視線が交わるのを感じた。敵梯団の一部が急旋回して進路を灰風号へと振り向ける。
『狙われてますねぇ』
「気にしない気にしない」
 斑星の口元に微かな笑みが浮かぶ。向こうから寄ってきてくれるなら都合が良い。
 正対して加速する灰風号とEVOL。衝突寸前でEVOLの白面が口を開く。だがアリアンロッドが壁となって喰い掛かるEVOLを跳ね飛ばす。灰風号はなおも真っ直ぐに前進。自機を狙ったEVOLの集団を抜け、本来標的としていた敵梯団の先頭の眼前に躍り出た。そこでアリアンロッドの守りを解く。満月が半月に割れた。
 斑星が視線を巡らせる。灰風号の頭部が斑星の眼球の動きを追って旋回した。四方を埋め尽くす有翼の人喰いキャバリア。自ら飛び込んだ敵陣の渦中は絶望と呼ぶに値する。一斉に飛び掛かるEVOL。だが――。
「それじゃあ……あいつら全員、海の藻屑にしてやろっかぁ」
 灰風号がブリッツハンマー・ダグザを空に向けて突き上げた。ヘッドから青白い電光が迸る。
 それはまさしく蒼天の霹靂だった。戦鎚から生じた電流が雷山となって降り注ぎ、灰風号に迫らんとしていたEVOLを打ち据えたのだ。
 EVOLの機体は殆どが生体材質で構成されている。そして四肢を動かしているのは人為的に作られた筋肉の代替品だ。ブリッツ・レーゲングスの高圧電流に打たれたEVOLは一時的に麻痺状態に陥った。翼を動かす機能を封じられたEVOLが海へと落下し、灰風号の周囲で次々に水柱が立ち昇る。
『まだ来ます!』
「オーケー」
 ブリッツ・レーゲングスの範囲外にいたEVOLが第二波となって迫る。斑星はその群れに適当に照準を重ねると、操縦桿のトリガーキーに指を掛けた。
 灰風号の腕部から銀色の鋼線が伸びる。先端に備わるアンカーがEVOLを捕らえた。
「よいしょっと」
 斑星はフットペダルを踏み締めて左右の操縦桿を前後に倒す。灰風号が半身のスラスターのみを焚いてその場で急速旋回した。シルバーワイヤーで繋がれたEVOLが遠心力に引きずられて振り回され、他のEVOLと衝突して薙ぎ倒す。
「これ楽しいねぇ」
 ハンマー投げの如く回る灰風号。振り回されるEVOL。周囲のEVOLは灰風号に接近しようとするも、暴力的な旋風に跳ね飛ばされてしまう。やがてハンマーの先端にされていたEVOLが無惨な有様になると、灰風号はシルバーワイヤーのウインチを巻き上げた。戦鎚を降り被りながら。
「人を喰らわせてなんてあげないよ! そのために来たんだから……さっ!」
 ブリッツハンマー・ダグザの横殴りがEVOLを直撃した。鈍い音と重い衝撃が拡大し、ひしゃげたEVOLが蒼天の彼方に飛んで行く。そして一条の光が閃いた。殲禍炎剣の審判に触れたのだろう。
「さーて、まだまだいるねぇ?」
 なおも衰えない人喰いキャバリアの津波を前にして、灰風号は戦鎚を肩に担ぐ。蒼天の霹靂は、それからも幾度となく降り注いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
さて、エヴォルグ掃討に参りますか…
トールのオブリビオンマシン化には気になりますが、今ではないでしょう

…エルネイジュ関連から、グリモア猟兵の予知を精査する事も考えましょうか

エントロピー諸共万象を消し去る『無』を操作してエヴォルグの群れを殲滅しながら、艦隊にエヴォルグの群れが殺到しないように調整して戦略的に陣形を組んでいきます
殲滅を確認した後、一旦無線を切り
…レイテナと日ノ和は、ゼロハートプラントによって国と住民全ての運命が狂わされました
それでもプラントはクロムキャバリアでは絶対です
…そのプラントが、オブリビオン化していたならば…
そんな風につぶやいた後、無線を開けて殲滅を再開する



●疑心
 大和武命の波動荷電粒子砲、各艦の砲撃、フェニックスミサイル。初動の徹底的な面制圧は、数万単位の敵機撃滅という結果をもたらして間違いなく効力を発揮していた。だが人喰いキャバリアが作り出す積乱雲の濃度に衰えは見られない。
 日レ両軍の巡洋艦や戦艦が敵群の密集地点に榴弾を叩き込む。信管が作動する度に爆炎が膨張し、数十以上のEVOLが金属片と衝撃波によって千切れ飛ぶ。されどもそれと同等か以上のEVOLが砲火の黒煙を抜けて最前線へと殺到する。
『行かせぬのじゃー!』
 待ち構えていたトールの戦鎚から稲光が走る。無数に枝分かれした高圧電流がEVOLを打ち、生体素材と申し訳程度の機械部品を焼いて海へと落水させた。
『陛下! 突出し過ぎです!』
 単騎で暴れ回るトールを追いかけてきたテレサのアークレイズとスワロウ小隊のイカルガが撃ち漏らしのEVOLにとどめを刺す。
『妾が前に出なければ誰が前に出るのじゃ!』
『陛下が突出するからみんな下がれないんです!』
 エリザヴェートは聞く耳を持たない。波の如く押し寄せるEVOLの群れに自らトールを飛び込ませ、雷を纏った戦鎚を振り回す。
 

 なんとも元気が良すぎる女王様だ――ノインツェーンのセンサーカメラが拾った光景に、フレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)は我知らず傾けた両眉を寄せていた。おてんばという点では他人をとやかく言える立場ではないとの自認はあるが。
「……今では無さそうですね」
 小さな呟きはトールに向けられたものだ。直に目の当たりにしてトールオブリビオンマシン化は紛れもない確信に変わった。しかしグリモア猟兵が言っていた通り、現状では暴れ出す様子は無い。
 とはいえあのグリモア猟兵をどこまで信用していいのかはフレスベルクにしても疑心が無いと言えば嘘になる。日乃和の首相官邸占拠事件の折然り、予知内容をいつも包み隠さず全て話しているとも思えないからだ。
 或いはアーレス大陸出身者のエルネイジェの伝から予知内容の裏付けを取れれば――思考はノインツェーンが鳴らした警鐘に断ち切られた。
 EVOLの集団が海面寸前を滑空し、凄まじい速度で直進してくる。ノインツェーンを障害と見做したのだろう。それともフレスベルクを餌と見做したか。いずれが動機にせよ、伸ばした両腕部が何又にも避けて無数の触手に変容した。切先は全てノインツェーンを狙っている。
「無よ、其れは万有を残らず貪る全ての終わり。無よ、万象を礼賛する私は汝を征服する。無よ、全てを飲み込む汝を以て礼賛を証明しよう――」
 フレスベルクが祝詞を唱える。ノインツェーンの両腕に金色の光輪が宿った。フレスベルクの右手が左から右へと流れる。ノインツェーンの右腕部がその動作を追う。
 ノインツェーンの前面に広がったのは夜空に跨る星雲の如きおぼろげな光。霞にも見えるそれは、三の王笏の力と同質の消滅事象が、人間の脳が認識して見える形で変換した姿であった。
 EVOLの伸ばした触腕は、ノインツェーンを遮る星雲の霞に接触。深緑の体液を散らすまでもなく消失した。続いて殺到した本体もまた星雲の霞に飛び込んだ瞬間、音も影も残さず霧散してしまう。
 ウロボロス・アイン・カタストロフがあればこの場でのEVOLの対処は問題あるまい。フレスベルクは未だ衰えを匂わせすらしない人喰いキャバリアの積乱雲に眼差しを向ける。
 あの人喰いキャバリアもゼロハート・プラントから産み出された一部に過ぎない。レイテナと日乃和を含む、東アーレス大陸の国家とそこに住まう人々を狂わせた元凶。しかしこの世界においてプラントは絶対の存在だ。不幸にも不適切な運用をされてしまっているだけで、ゼロハート・プラントも例外では無い。だからこそザ・スターは襲撃したのだろう。
「そのプラントが、オブリビオン化していたならば……」
 ノインツェーンの孤独な玉座の間に、ノインツェーンの細やかな疑心がひとつ零れ落ちる。
 大気が轟いたのはその時だった。
 戦域を何本もの青い光軸が駆け抜けた。軸線を掠めたイカルガが物理的な圧力によって粉微塵に粉砕される。海面に達したそれは、爆発的な水柱を立ち昇らせた。生じた衝撃波はノインツェーンにも襲いかかった。機体に打ち付ける余波を消失事象で相殺する。
 この光軸は荷電粒子ではない。これは――。
「放水砲……!? 始まりましたか……!」
 機動殲龍『激浪』の咆哮が。
 フレスベルクは水の光軸が伸びた先を睨め付けた。砲火と砲水が交差する東アーレスの海で、重奏はより深度を増す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
今日もアポイタカラで出るですよ!
んーどこを見ても敵だらけ
てきとーに撃っても当たるっぽい
なら気を付けるのはフレンドリーファイアだけかな
なので艦隊の先頭にいる艦艇を足場に戦うですよ
秘伝忍法<写見>からの<制圧射撃>で弾幕を張る
これで十分な仕事はできるっぽい!
長い一日になりそうだからね
消耗を抑えるのも大事なのことなのですよ



●分身殺法
 超高圧放水砲が敵陣深部より伸びる。
 激浪の長距離砲撃は本来想定された状況だった。砲水砲の精度と彼我の距離からしてそうそう直撃するものではない。だが戦艦の主砲の直撃に耐える防塁を粉砕するだけの破壊力は無視するには大き過ぎる脅威だ。加えて着弾の観測と照準の補正が行われているらしく、大雑把な狙いは砲撃回数を重ねる毎に艦艇の横の海面を炸裂させた。
 艦艇側は回避運動を余儀なくされる。整然とした陣形が崩れ始め、艦砲射撃の効率は衰えを見せた。
 レイテナ第一艦隊に編入された重巡洋艦サフォークは、艦隊の先頭集団の内の一隻だった。そのサフォークに面制圧が薄くなった層を抜け出たEVOLの群れが迫る。
『対空防御! 周囲のキャバリアは本艦の防御に回れ!』
 艦の防空システムが一斉作動した。CIWSの回転銃身が唸る。VLSがミサイルを撃ち上げる。周辺のキャバリア部隊が砲火を交差させる。
 幾多の火線が人喰いキャバリアを削り取るも、波を砕くには至らない。そして集団の先頭がサフォークの艦首に到達し――。
「忍!」
 連鎖する爆発と正面衝突した。
 サフォークの艦首の縁に沿って並ぶ16機の赤鉄の鬼――アポイタカラとその写身達が、携行する四門の火砲を撃ち散らす。
 両腕で保持したパルスマシンガン改と、背後の左右に浮かぶフォースハンドで保持するキャバリアライフル改が、重い撃鉄の音と共に薬莢を排出して弾体を解き放つ。
 発射したフレシェット弾は人喰いキャバリアに触れる直前で近接信管を作動させて子弾の曳火を膨らませた。視界を埋め尽くす爆球が防眩フィルターを焼き、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は堪らず双眸を渋く細めた。
「目がチカチカするのですよ」
 秘伝忍法<写見>にて分身したアポイタカラのフレシェット弾一斉射撃の面制圧を真正面から浴びたEVOL達が、ボロ雑巾の切れ端と化して黒煙の中から海へと没する。
『アポイタカラか! 流石はスカルヘッド殺しのイェーガーだな。援護に感謝する』
「お仕事だからね」
 サフォークの艦長に鬼燈がぞんざいな応答を返した直後だった。大気の轟きと共に圧縮された水の軸が到来したのは。破壊の水流はサフォークと戦列を並べた重巡洋艦ケントの側舷に命中。水飛沫の爆発にケントの船体が大きく傾く。空中に飛び散った海水が豪雨となって降り注ぎ、アポイタカラの真紅の装甲を濡らした。
「散れっ」
 鬼燈が飛ばした短い声に呼応して、写身のアポイタカラが膝関節を曲げてサフォークのデッキを蹴った。脚部のバーニアスリットに噴射光が瞬く。写身はケント、重巡洋艦ノーフォークなど、周囲に展開する艦艇の艦首に飛び移り、パルスマシンガン改とキャバリアライフル改の銃口を敵集団へと向ける。
 激浪の砲撃はどうにもならずともEVOLは退けなければなるまい。艦砲射撃の密度が薄まれば、それだけ後の仕事がやり難くなる。かといって全力で飛び回る訳にもいかない。
「長い一日になりそうだからね」
 鬼燈は人喰いキャバリアとの付き合い方を嫌と言うほど熟知していた。消耗を抑えて粘り強く戦う――今回の任務の場合は特に肝要だ。
 アポイタカラとその写身達は各々の艦艇に脚を着けて火砲を撃ち鳴らす。フレシェット弾が爆ぜる度に幾つものEVOLが骸と化して四散した。
 最前線は見渡す限り敵だらけ。お陰で味方撃ちを気にする必要が無くてやり易い。鬼燈は皮肉の溜息を漏らしながら、敵をロックオンサイトの中央に捉えてトリガーキーを引く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーシャ・クロイツァ
こいつが噂の人喰いキャバリアってやつか。
なんとなく、モンスターっぽい印象だね。
生々しいというかなんというか。

まぁ、そこは気にしすぎじゃだめってやつだね。
それじゃ、お仕事と行きますか。

狙撃型だからあまり注目は集めたくないんだよね。
最初は忍んでいきますか。
ジャミングを展開して攪乱を行うよ。

バスターランチャーを構えて狙うは一点。
UC:月の満ち欠けの一点射撃で確実に行くよ!
撃ち抜いた後は、モードチェンジで広範囲攻撃にシフトしていくよ。

以降は機動戦闘に移行。
元機体並みとは言わないけど空戦は出来るんだよっ!

バスターランチャーをメインに、左腕ビームライフル、ミサイルランチャーでの遠距離の援護攻撃を行うよ。



● 月の満ち欠け
 標準的なキャバリアの全長を越える巨砲――ヌヴェル・リュヌのキャリングハンドルを右腕のマニピュレーターで保持し、ティラール・ブルー・リーゼが海面を疾駆する。背面のエール・リュミエールが生み出す推力はバスターランチャーで増加した重量を補って余りあるほどながら、ブルー・リーゼ系列の機体らしく挙動はしなやかだった。機体本体の重量の軽さと、空気力学に配慮された装甲形状の恩恵もあるのだろう。
「キャバリアっていうよりも……」
 人を喰うだけあってEVOLの姿は怪物的だ。リーシャ・クロイツァ(新月の狙撃手・f42681)は我知らず目元に嫌悪を滲ませて言う。
「早いとこ撃っちゃいますか」
 敵が散らばる前に。リーシャはレーダーに目配せした。敵の反応は無い。こちらに興味を向ける敵も今のところは無さそうだ。ティラール・ブルー・リーゼが空中で静止する。
「バスターランチャー、ヌヴェル・リュヌモード」
 リーシャの音声入力を受け付けたコックピットの戦闘支援統合システムが、遠距離砲撃の為の望遠映像をメインモニターに表示した。EVOLが作り出す積乱雲の中心点の映像だった。大和武命の波動荷電粒子砲の直撃とフェニックスミサイルの一斉射撃を受けたのにも関わらず未だに密度が濃い。
「発射シークエンス、スタンバイ」
 ティラール・ブルー・リーゼが背丈以上ほどにもある巨砲を右脇に抱えて構える。右腕のマニピュレーターはトリガーグリップを握り、左腕のマニピュレーターは銃身上部の補助グリップを掴む。
 機体各部に備わる半透明の超剛性プラスチックで覆われた複合センサーが青い発光を強める。ヌヴェル・リュヌの砲身の機関部も同様だった。ティラール・ブルー・リーゼの奥底でハイプレッシャーが高回転音を奏で、発電した莫大なエネルギーを巨砲へと注ぎ込む。砲門の奥底から稲光と青白い光の粒子が溢れ始めた。発射準備完了を示すインフォメーションメッセージがメインモニター上に仰々しく灯る。
 リーシャが双眸を細める。黒い眼差しが睨む先は敵陣の中央。近くで着弾した放水砲が衝撃波でティラール・ブルー・リーゼを揺らすも、リーシャの瞳は突き刺した一点から動かない。機体と銃のセンサーが集約した照準情報がティラールを介し、機能的に接続されたレプリカントの視神経回路に流れ込む。
「消えなっ!」
 短く、そして鋭い声音が飛ぶ。直後にヌヴェス・リュヌに封じられていた荷電粒子が臨界を迎えた。
 迸る青と白の光軸。凄まじい反動がティラール・ブルー・リーゼを押し除けるも、リーシャはフットペダルを限界まで踏み締め、エール・リュミエールの推力を全開にして堪える。姿勢制御センサーがそれを補助してスラスターを小刻みに焚いた。
 一点貫通の収束モードで発射された光軸は、掠めたEVOLを瞬時に溶解させながら照準の置かれた敵陣中央へと突き進んだ。軌道上と着弾点で幾つもの爆球が狂い咲く。
 やがて蓄えた荷電粒子を全て放出し終えると、光軸は波線となった末に霧散した。迸った後の敵陣には、まるでそこだけ抉り抜かれたかのような穴が空いていた。
 リーシャはいつからか止めていた呼吸を再開して深く息を吐き出す。バスターランチャーの熱暴走の警告メッセージと、緊急冷却中の表示となった選択兵装の項目が視界の隅に入り込んだ。
「まあ、こんな派手なの撃ったらそりゃ飛んでくるよね」
 耳朶を打つ接近警報。視界と意識の中に開いたレーダーマップを走らせる。集団から逸れたEVOL達が触腕を伸ばして獲物を追う。
 ティラール・ブルー・リーゼは半身のスラスターを噴射して左右へ細かな瞬間加速を繰り返しつつ後退加速する。センサーが青い残光を引いた。
 だが触腕は獲物を必要に追尾する。棘のような切先を持つ触腕が四方から迫り、ティラール・ブルー・リーゼを刺し貫いた――かのように見えたが、一瞬後には機体の姿はそこになく、触腕は空気を突き刺しただけに終わった。
「電子的なジャミングは効かなくても、残像には食い付くみたいだね」
 人喰いキャバリアは優れた対人探知能力を有しており、電子的な索敵妨害や光学迷彩は効果が薄い。一週間以上あまりの準備期間の間に聞かされた講習の内容に間違いは無いらしい。だがミラージュ・ファントムが生み出す質量を持った残像には興味を惹かれるのだろうか。理屈は関係無い。重要なのは少なからず効果があったという事実だけだ。
「狙撃型だからそもそも近付いて欲しくないんだけど」
 リーシャはメインモニターの隅に並ぶ兵装項目欄でエクレールが選択されている事を確認すると、操縦桿のトリガーキーを押し込んだ。
「でも生憎、元機体並みとは言わないけど面と向かっての空戦もできるんだよっ!」
 後退加速を続けるティラール・ブルー・リーゼ。左前腕部に装着された砲身から鋭い荷電粒子が連続して伸びる。超高熱の圧縮粒子は接近しつつあったEVOL達を貫き、胸部を穿つ事で急激に失速せしめた。
「次はこっちか!」
 ティラール・ブルー・リーゼはスラスターを噴射して真後ろに急反転する。複数機のEVOLが海面を滑空し、レイテナ所属のイカルガに高速で迫る。リーシャは視界に捉えたそれらを瞳の動きで追うと、ロックオンマーカーが重なった。
「右も左も敵だらけ……!」
 リーシャの毒付きを乗せて、ティラール・ブルー・リーゼがメテオールの誘導弾を解き放つ。左右両肩部のランチャーから発射された合計六発のそれらは青白いロケットブースターの残光を引く。名前の通りに流星のような残光を。そしてEVOLの横腹或いは背後に到達し、爆球を膨張させた。EVOLが断片になって弾け飛ぶ。
「いいよ、精々援護に回らせてもらうから」
 ティラール・ブルー・リーゼは機体を横に滑らせながら冷却を終えたヌヴェル・リュヌの砲身をEVOLに向ける。出力こそ先の全力発射より遥かに抑えられているが、それでも遠方のEVOLを撃ち抜くに足る威力を発揮していた。そして捉えるに足る収束率と照準精度を有していた。
 暗い月の残光が瞬くたびに、有翼の人喰いキャバリアが射抜かれる。リーシャの黒い瞳は、繰り返される光景を淡々と見届けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城原・陽
空気を切り裂く音が海面と叩き、遠雷が鳴り響く
音を置き去りにした赤い閃光が一筋、戦場に突撃していく

「此方第三極東都市特務一課所属アスラ01よりフェザー1へ!うちの02はもう来てるんでしょ?ならば結構!ちょいと遅れた鬱憤晴らしをさせて貰うわよ!」

コンソールを二、三度叩き操縦桿を握る
「結局…大人になってもこんな事ばっかりしてて…因果なものね私達…けどまぁ…」
ブースト。挨拶代わりの複合砲、続けてギガントアサルトで追い込み
「争いの元はぶっ潰す!それもまた本懐よ!」
固まった敵機へ鋭角軌道を取り疾駆する
戦闘機動上の軌跡に紅雷が走り轢殺せんとする



●深紅の雷光
 多数の艦艇による継続的な面制圧は確実に効力を発揮していた。だがそれでも尚人喰いキャバリアの勢いは衰えない。恐れという概念が存在しない人喰いキャバリアは、砲撃を浴びて数をすり減らしながらもひたすらに突撃を繰り返す。押し寄せるばかりの波濤のように。
「これではどちらが攻めている側なのか分かりませんわね……!」
 アークレイズ・ディナのコクピットの中で那琴が歯噛みする。彼女は白羽井小隊を率いて遊撃として艦隊の陣内に入り込んだEVOLの掃討に追われていた。
 横方向へ滑空しながらデュアルアサルトライフルをフルオートモードで撃ち散らす。テールアンカーの荷電粒子光線も交えた砲火は、EVOLの群れを瞬く間に引きちぎった。だがすぐに後続のEVOLの群れが襲来して侵蝕弾を斉射する。アークレイズ・ディナを球体状に覆うEMフィールドがそれを遮った。電磁障壁と侵蝕弾が激突し、毒々しい緑色のガスの霧が膨らんだ。
「リロードの暇くらいは与えて頂きたいですわね!」
 立て続けに殺到する侵蝕弾が那琴の視界を緑で塗り潰す。
「だらしないわねフェザー01! この程度のザコに手こずってるんじゃないわよ!」
 その時だった。張りのある力強い声音が通信帯域に轟いたのは。那琴にとって、いつか赤黒い深淵の沼底で聞いた声――。
「あなたは……!」
 海上を真紅の稲妻が駆け抜ける。音が追い付けないほどの加速は、生じる衝撃波で背後の海面を白く炸裂させるほどだった。
 怒れる深紅の修羅人、赤雷号。機体と同等の質量を持つ高機動推進ユニットが噴射する炎が、荒ぶる赤い雷の軌跡を描き出す。
 赤雷号の装甲色を写したエントレインメント・マルチスーツを纏う天城原・陽(閃紅・f31019)が眼前の敵群を睨め付ける。天城原の青の瞳と赤雷号の左眼を覆うマルチコンポジットセンサーが重なり合う。
「邪魔なのよ!」
 赤雷号は驀進するままに、ランチャーから誘導弾を一斉に解き放つ。同時に二十二式複合狙撃砲が加粒子砲を閃かせた。
 先んじて狙撃砲から伸びた火線がEVOLの一体を撃ち抜き、一拍子遅れて到達した誘導弾が近接信管を働かせて分裂。熱と金属片が生み出す爆炎でEVOLの群れを埋め尽くした。その爆炎の中に赤雷号が飛び込む。空気を引き裂く衝撃波が爆炎の残滓を吹き飛ばし、後に残した稲妻の軌道が辛うじて逃れたEVOLを切り刻んだ。
「此方、第三極東都市! 特務一課所属――!」
「アスラ01!」
 天城原の言葉尻に那琴の明朗な声が重なる。赤雷号は大きく旋回機動を取ると、那琴機の背後に回って背中を預けた。
「うちの02はどこで遊んでんの?」
「左翼側で楽しそうにEVOLを振り回していらっしゃいますわ!」
「ならば結構!」
 迫るEVOLに赤雷号はギガントアサルトの応射を返す。弾倉の再装填を終えたアークレイズ・ディナも赤雷号と背中合わせとなって火線を散らす。
「いい加減、この仮面みたいなツラ拝むのも飽き飽きしてきたでしょ?」
 天城原は電磁加速弾体の投射の反動を操縦桿越しに感じながら背後に問う。
「ええ、もう三年以上の付き合いですもの」
 返ってきた那琴の声音にはやるせない微笑が含まれていた。つられて天城原も口角を緩め、深い吐息が溢れた。
「三年ね……」
 反芻した月日の記憶が意識の中片隅に流れる。人喰いキャバリアと那琴と出会ったのは今から三年前の愛宕連山だった。それから今まで、あらゆる時間が流れて動いた。第三極東都市で学生をやっていた自分も既に19……十代の最後を数ヶ月残す所となった。けれど――。
「こんな歳になってもこんな事ばっかりしてて……因果なものね、私達」
 私達の中に赤雷号を含めてコンソールの盤面を小突く。機体の奥底でA²デバイスが呻めきを上げたような気がした。
「或いは、こうなる宿命なのかも知れませんわね」
 天城原が背中に聞いた断続的な射撃音には諦観が乗っていた。時代の潮流に翻弄されるがだけの、只人としての諦観が。
「宿命ねぇ?」
 定まっている原因。避けることも変えることもできない結果。まさしく因果なのだろう。だがしかし。
「因果でも宿命でも関係無いわ! 争いの元は叩き落としてぶっ潰す!」
 天城原の裂帛に呼応するかのように赤雷号の二十二式複合狙撃砲が咆哮した。加粒子がEVOLの群れをなぞり、深緑の身体を|溶断《ギロチンバースト》する。骸は爆散するでもなく海に吸い込まれてゆく。されども一つの群れを薙ぎ倒せばまた新たな群れが現れる。
『お変わりないようで安心しましたわ』
 サブウィンドウ内の那琴の仄かな笑みに、天城原は鼻を鳴らして口角を上げた。
「私はいつだって私のままよ」
 赤雷号を獲物に定めたEVOLが左右正面から向かい来る。
「上等! こっちはまだまだ鬱憤が溜まってるのよ!」
 ギガントアサルトに新たな弾倉を叩き込んだ赤雷号が前進加速した。電磁加速弾体が破線を描き出し、その後を赤雷号が駆け抜ける。跡には稲妻と轢き殺されたEVOLの残骸だけが残された。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗、ライフルx2・キャノン・ミサイル)

今回の依頼主はレイテナ側ですか。
ま、規定通りに払っていただければ誰でも結構。
当面はクイーン・エリザヴェートの直掩、の直掩に入りましょう。
レイテナのイカルガを支援します。

私の装備は単独行動を前提としていますから、乱戦での雑魚散らしには不向きなんですよ。
敵味方もろともに撃破してしまう物ばかりで。
そんなわけで、後ろの方でごそごそやっていましょう。
後々の事を考えますと、スワロウ小隊も喪失したくありませんし。

索敵/見切り/操縦/空中機動/オーラ防御(と称するカウンター/衝撃波/吹き飛ばし)、
範囲攻撃/キャノンとライフルとの二回攻撃。定石そのままですね。



●ソロプレイヤー
 艦砲射撃による面制圧を潜り抜けて押し寄せる深緑の大群。数は大きく擦り減らされているとはいえ、正面で受け止め続ける最前線に加わる圧力は並大抵ではない。比較して旗艦を中心とした艦隊中央部の負担は幾分軽減されてはいた。だがそうでも無ければ前線を支えきれない。
 激浪が発射した水の光軸が海面を撃つ。岸壁に打ち付ける大波が如き激しい飛沫が炸裂した。
 大気中に舞い上がった海水が雨となって降り注ぐ。エイストラのガーディアン装甲が発する硬度衝撃波とぶつかり合う。リンケージベッドの中でその音を聞きながら、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は白く泡立つ海面を眺めていた。
 着弾地点はクイーン・エリザヴェートを大きく逸れている。或いは直掩の戦艦ウォースパイトが狙いだったのかも知れないが、どちらにせよ掠めもしていない。距離が離れ過ぎていてるのだろう。
 放水砲は放置しておく他にあるまい。一応プラズマライフルとプラズマキャノンのインクリーザーなら相殺出来なくもないのだが、一射止めた所で何がどうなるでもないし、最前線なら兎も角としてここで撃てば余波で友軍を巻き添えにしてしまいかねない。
「……乱戦の雑魚散らし向きの機体でもありませんからね」
 誰に向けるでもない呟きを残して泡立つ海面から目を外す。機体を翻したエイストラがバイブロジェットブースターから騒がしい振動音を引いて加速した。
 クイーン・エリザヴェートのCIWSが火線を上げ、直掩に付くイカルガのスラスターが閃く。ノエルは統合センサーシステムが伝える敵の接近情報を視覚野に展開した索敵モニターで把握した。
 攻撃の精度という面であれば激浪の放水砲よりEVOLの方が遥かに厄介だ。前線を抜け出た集団がクイーン・エリザヴェートの元に襲来する。恐れを知らずに突撃する姿はキャバリアの形をしたミサイルといってもいい。
 クイーン・エリザヴェートの巨大過ぎる船体には幾つもの対空火器が効果的に配備されている。だが完全に死角を潰せているわけではない。そこは空母機能も兼ね揃えている艦艇らしく、小回りに富んだキャバリアの担当としているらしい。
 その役目を果たすべく、直掩機達は接近するEVOLをアサルトライフルとマイクロミサイルで出迎える。EVOLは多少の回避運動を交えて直進。千切れて爆散した友軍機には脇目も振らずに海面を滑る。前面に突き出した両腕が伸長して枝分かれし、のたうちながらイカルガへと迫る。しかし一瞬の間を置いてEVOLの頭上から光線が降り注いだ。
 エイストラが左右のマニピュレーターで保持するプラズマライフルを交互に撃ち下ろす。銃口から走った荷電粒子光線はEVOLの集団を直撃し、水蒸気爆発で生じた水柱の中に遺骸を弾けさせた。
『やるな、|髑髏征伐《スカルヘッドキラー》のイェーガー』
 イカルガのパイロットからの通信にノエルは応じるでもなくエイストラを次の標的へと向かわせる。
 クイーン・エリザヴェートに接近するEVOLの群れとそれを阻むイカルガ達。飛び回るEVOLをノエルの瞳が追い掛ける。ロックオンマーカーが捕捉した。
 エイストラが前進加速を維持したままランチボックスを解き放つ。白い尻尾を引き連れた超小型誘導弾がロックオンした目標をシーカーで追い回す。接触の寸前で信管が作動。火球を膨張させて金属片を撒き散らし、EVOLの翼と身体を引き裂く。
「はて、あちらは理解した上で攻撃しているように思えるのですが」
 面制圧の要の一端がクイーン・エリザヴェートにある事を。
 優れた対人探知能力を持つ人喰いキャバリアの性質上、餌となる人を満載している艦艇に引き付けられているだけという可能性は否定できない。だがそれだけなら最前線の艦艇を無視してクイーン・エリザヴェートを襲う理由が薄い。直掩の戦艦ウォースパイトがさして被害を受けていない点もおかしい。激浪の砲撃に至っては露骨にクイーン・エリザヴェートを狙ってきている。
 司令を下している個体が存在するのか? 接近警報と共に背後で殺気が膨らんだ。エイストラは空中に滞留する灰煙を潜り抜け、バイブロジェットブースターの推力を切り、半身のスラスターを噴射する。
 残存したEVOLが触腕を伸ばす。エイストラは慣性と微細なスラスター制御で機体の向きを反転させて回避。直立していた背部のプラズマキャノンを90度正面に倒した。
「まあ……このままごそごそやっていましょう」
 旗艦がしっかり狙われているのだから、護衛の護衛に回った事自体は間違いではあるまい。ブリンケンからも戦い方は任せると言われていたし。激浪との戦闘を見越してスワロウ小隊にも残っていて貰わなければならない。何より――。
「報酬の支払い元にいなくなられては大赤字ですから」
 砲門が放出した青白い光軸が、追い縋るEVOLを押し流した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
ダイダラ【操縦】

……確認いたしますが、
エリザヴェート殿が居る座標に間違いはありませんね。

|巻き込まぬ為に《敵と思わないのは難しい》、トールの位置を確認しつつ、
最前線を張る友軍艦艇の上に立ち【レーザー射撃】
大出力殺戮兵器たる光子レーザーバルカン・デスアイの【弾幕】を以て
エヴォルグ共を撃ち砕きながらユーベルコード発動。
黒輪光展開【呪詛】霊物質生成【エネルギー充填】

……それを聞いて安心致しました。
ダイダラ砲展開!『己が敵を、唯それだけを、壊せ!!』
発射ーーーーー!!!!!!!

己が敵、エヴォルグへ向ける【闘争心】以て!
ダイダラ砲より反物質粒子加速投射【範囲攻撃】
敵群だけを、対消滅爆発で撃ち滅ぼす!!!



●青銅の巨神
 重巡洋艦ヨークはレイテナ第一艦隊の最前線を支える艦艇の一隻である。そのヨークの艦首に威容が聳え立っていた。
 物言わずに佇んでいれば、古代の神殿の入り口を守護する青銅の像と見間違えたとしても不思議ではない。青銅色の装甲の表面は言語とも模様とも判別し難い彫刻が埋め尽くしている。
 最大の類人猿に見られるナックルウォークの姿勢を取っているのは、アンダーフレームに対して不釣り合いに大きなオーバーフレームを支えるためでもあり、銅鐸のような重く太い両腕を備えているからでもあろう。
 前腕の横に張り出したトンファー型の武器と、重い機体を強引に機動させる為に採用されたと思しき肩部のロケットブースターから、これがキャバリアの類いである事を推察し得る。背部に搭載した二つの大筒も然り。
 だが背丈は一般的なキャバリアに比べて遥かに大きい。10メートルに届く全高は、背負う大筒を含めれば更に増すに違いない。
 機体の威容も相まって益々古代遺物の風貌を醸し出すその機体は、事実として遺物であった。
 旧い時代に作り出された機械仕掛けの神……巨神。
 刻まれた名をダイダラという。

 艦砲射撃が作り出す緋色と黒の雲を抜け出たEVOLは群れを成し、或いは個別に散開し、無秩序かつ不規則に日レ両軍の艦隊へ襲来する。防空艦とキャバリアが張り巡らせる対空砲火の幕を抜け出た一団が重巡洋艦ヨークの正面に迫った。斉射される侵蝕弾。オタマジャクシに似た半生体弾頭が緑のガスを噴き出してヨークに殺到する。
「引っ張られるな……」
 薄暗いコクピットに朱鷺透・小枝子(|亡国の戦塵《ジカクナキアクリョウ》・f29924)の怨霊のような低い声が充満した。衝動に突き動かされそうな自身を縛る自戒の声だった。微細に震える灰色の瞳がモニターに投影されたEVOLに突き刺さる。目と鼻の無い白面が顎を開く。小枝子が八重歯を剥いて双眸を細めた。
 ダイダラの頭部が瞬く。センサーの機能を有する上下二つを除いた五つの眼孔が、蛍光色の赤の破線を走らせた。熱線の豪雨が侵蝕弾を洗い流し、発射元であるEVOLを射抜く。
「引っ張られるな……! 今倒すべき敵だけを見ろ……! 引っ張られるな……!」
 小枝子は自戒を重ねて眼前の敵集団だけに視野を窄める。レーザーバルカンを連射し続けるダイダラの頭部が横方向へと振り向けられると、殺戮の雨足も合わせて移動する。身体を抉り抜かれたEVOLは飛翔する力を喪失。海面に無数の水柱が昇った。
『ちょっと、大丈夫なの?』
 それを本当にアーティフィシャル・インテリジェンスと呼んでいいのかは分からない。ダイダラに取り込まれた魂のひとつの成れの果て、人工知能のアズの不安げな声が機体内に伝播する。火器管制を補助するスナオとモーにしても案ずる思いは同じであろう。小枝子は答えられなかった。腹の奥底で煮え立つ暗い炎に引っ張られてしまいそうだったからだ。
 行け。潰せ。破壊しろ。
 無数の声が頭蓋骨の中で跳ね回る。一週間以上の間に鳴りを潜めていた衝動は、戦闘が始まった途端にやかましくなった。
 オブリビオンマシン化した巨神、トールを目の当たりにしたから――元より敵と思わないのは難しかった。だが破壊するのは今ではないと前頭葉が全力で理性を働かせている。
 いっそ急に暴れ回ってくれた方が楽だったのに。そうすれば、身体を内側から破って噴き出しそうな暗い炎に耐えなくて済む。ひょっとしたら他のオブリビオンマシンを倒せば多少は落ち着くかとも考えたが、こうしてダイダラのレーザーで蹂躙の雨を降らせても衝動は余計に煮え滾るばかりだ。
 吐き出して叩き付けなければ。横に逃した視界の隅にレーダーマップが映り込む。目が勝手にトールの座標位置を追ってしまう。左手がコンソールに触れて通信機能を呼び出す。
「ダイダラよりクイーン・エリザヴェートへ、確認したいのでありますが」
「こちらクイーン・エリザヴェート。どうした?」
 回線が開いた先はブリンケンだった。小枝子は両肩を一度上下させてから問う。
「エリザヴェート殿が居る座標位置は、現在の座標位置で間違いはありませんね?」
「ん? ああ、そうだが……なんだ? 大丈夫か?」
 ブリンケンは小枝子の念入りな声音から唯ならぬ様子を感じ取ったのだろう。しかし小枝子は「了解であります」とだけ短く言い切ると通信を終えた。
 少しばかりだが胸のつかえが取れた。これで安心して撃てる――。
「ダイダラ砲! 発射準備!」
 コクピットの空気を震わせる裂帛。ダイダラの巨躯が身じろぎし、オーバーフレームを前方向へと傾斜させた。銅鐸の如き重厚な両腕が甲板を打ち据える。現在も継続して襲来するEVOLの正面集団に対し、足を折って跪く姿勢となった。
『アイゼンロック!』
 モーの信号を受けたダイダラが五指のマニピュレーターを開き、重巡洋艦ヨークの甲板を掴む。
「黒輪光展開!」
 小枝子の叫びに呼応してダイダラの背部に巨大な円環が生じる。円環は高速で回転を始め、大気から赤い微細な粒子――霊子をかき集め、ダイダラが背負う二門の巨砲に注ぎ込む。
 ダイダラ砲の表面の彫刻の溝が赤い光の脈動を繰り返す。電流を纏う砲身の奥底からも同じ光が溢れ始めた。
『撃てるよ! でも……』
 メインモニター上でのレベルゲージが最大値に達したのと、スナオが発射準備の完了を報せたのは同時だった。
「己が敵を……唯それだけを、壊す!」
 小枝子は己とダイダラに宿る三体の意志に向けて自戒をぶつける。己の敵……眼前の景色横一杯に広がって押し寄せるEVOLだけに闘争心を注ぎ込みながら。

「ダイダラ砲! 発射ァァァァァーーー!!!」

 八重歯を剥いて叫んだ怒号と共にダイダラの巨砲が吼える。恐ろしいほどに鮮やかな赤い光条が2本迸り、射線上のEVOLを文字通り消失させながら突き進む。反動を引き受けた重く巨大なダイダラの機体が揺れ動く。合わせて重巡洋艦ヨークの艦首が海面に沈み込む。鳴り響く警鐘。ブリッジクルーが窓からダイダラの様子を伺っていた。
 反物質粒子は接触したEVOLを消し去りながら直進。放出を終えて光条が途切れた途端、敵陣の奥底で鮮烈な赤い爆轟が膨張した。
 海面を走る衝撃波を追いかけて爆音がダイダラの元に届いた頃、小枝子は両肩を荒く上下させて喉を摩った。声帯を疼痛が苛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーニ・グランスキー
アレンジ歓迎

騎兵団〈渡り禽〉を率い参戦
ヴィリー(f27848)
久遠寺(f01190)
中小路(f29038)
疋田(f22519)
数宮(f03004)の計6名

心情:戦の高揚感を抑えつつ指揮に専念
いいじゃないか!奴等の脅威に備えここを立ち上げた甲斐があるというもの
「鴉(レイブン)、仕事の時間だ!」このセリフ必須

愛機に乗り全体を見通せる上空から指示を飛ばす
常に全個体をモニタし位置状況、距離、飛行高度を「戦闘演算」し団員に送り支援
敵に「ジャミング」「ハッキング」「情報収集」
友軍に「戦闘知識」「継戦能力」で補助
UC自壊粒子で団員及び友軍への致命的痛打を無効化
団員>旗艦防衛>友軍が支援の優先順位


ヴィリー・フランツ
騎兵団〈渡り禽〉小隊で参加
※タイフーンカスタムに搭乗 熟練操縦士で性能アップ
心情:バカとハサミは使いようだな、今回ばかりはスターに感謝だ。
手段:「カイゼルより管制官へ、今のうちに勲一等の勲章を人数分頼んどけよ」
今回は旅団長が御出馬だ、下手な失敗は出来んぜ。
射出後は推力全開で海上を飛行、コングⅡには対空霰弾を装填、敵が群れてる箇所に砲撃する。
ミサイルも必要なら撃つ、今回は補給・再出撃も念頭に入れ、上手くメンバーと交代で降りれる様に調整しよう。


じゃじゃ馬姫をアウル複合索敵システムでしっかり確認、他のメンバーとも位置情報を共有しとく、団長の電子戦も活用出来れば効果的に霰弾を叩き込めるだろう。


久遠寺・遥翔
騎兵団〈渡り禽〉小隊で参加
今回は団長自ら出撃だ
かっこ悪いところは見せられない
「もちろんさヴィリーさん。ラクスもいいな?」
『当然です。私はいつでもどこでも十全にはたらく万能巨神です』

レヴィアラクスに[騎乗]しての[水上戦闘]
及び殲禍炎剣に捕捉されない程度の[空中戦]

「|交戦開始《エンゲージ》。まずは通常運転で行くぜ」
『承知しました。お楽しみは後に取っておきましょう』
UCは常時発動
団で連携し敵集団をライフルの[範囲攻撃]で撃ち払いながら
残敵が近距離ならブレード、遠距離なら同時使用可能なUC念導刃による追撃で確実に撃墜
触腕は[心眼]と[第六感]で察知し[見切り]、[残像]で回避
艦隊の守りは任せたぜ


数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】
【騎兵団〈渡り禽〉小隊で参加】

さぁて水上戦闘……っても実質アタシらは艦載機扱いか。
ちょうどリフターの調整も終わったところだし、アタシも日乃和の艦から飛ぼうかね。
回せー!……ってOveredにゃプロペラ無いんだったね、そう言えば。

アタシがやるのは遊撃と通信補強ってところかな。
電子戦の裏でテレパスを巡らし、【超感覚戦陣】のネットワークを仕上げるよ。
そうすりゃ団長の指揮も一層冴えわたるだろ!
もちろんアタシも闘らないわけじゃない、『空中戦』を仕掛け”英霊”による『弾幕』とマルチプルブラスターの『制圧射撃』で面での『範囲攻撃』を仕掛けていくよ!


疋田・菊月
〈渡り禽〉の皆さんと
いやはや、すごい数ですねー
それに海上戦は初めてです
我らがヴァルラウンは地上戦が主体なので、ブースターの増槽はしっかりしておかなくては
さて、皆さんと一緒なわけですが、艦隊もお守りせねば駄目ですねー
貴重な足場……もとい帰りの船ですからね
基本的には、手の足りてなさそうなところを補うよう、艦隊を飛び回りつつモストロと妙高の拡散照射で牽制に徹します
この給仕めがお手伝いしますよー
はーい少々お待ちをー
おや、こちらに狙いを定めましたかね
決定的な火力は無いですからねー
噛みつきに近づかれるのは厄介です
ので、手投げ弾を放りつつそれごと撃ち抜きます
火力は無いなりの戦いがあるのですよーうふふ


中小路・楓椛
騎兵団〈渡り禽〉小隊で参加

個狐的に思う処はありますケド皆様の選択を見守ろうと思いまして、ええ。
(エリちゃんの居るトールの方に頭を向けながら)

今回は頭数が揃っているので日乃和の艦から行動開始し、全体と情報共有しつつレイテナ艦隊直衛へ回ります。
クロさんに搭乗、【ばーざい】全技能行使、【神罰・呪詛・封印を解く・限界突破】併用にてUC【にとくりす】起動。神話由来にてショゴスのレギオン大召喚。
ショゴス組体操にて艦隊を囲むように同ベクトルで進む半透明で超巨大なドームを形成しEVOLと正面から暴食対決です。友軍戦力は通しますケドそうでないなら……食い破れるものなら、ボナペティ?



●黒い禽
 東アーレスの海で、日レ同盟艦隊と人喰いキャバリアが正面から衝突し合う。横一面に拡がって押し寄せるEVOLをイカルガが迎え撃つ。艦砲の射撃と激浪の放水砲が交差し、青い海原に大きな水柱を幾つも聳立させた。
 大気中に打ち上げられた海水が雨となって降り注ぎ、戦場を俯瞰する|黒縞瑪瑙-dunkel Onyx-《ドゥンケルオーニュクス》の装甲に水滴を作って滑り落ちる。水晶の質感を持つ闇色の装甲が陽光を反射して紫の艶を発した。
 dunkel Onyxの奥底で、ユーニ・グランスキー(黒縞瑪瑙の才媛・f29981)は口を噤んで眼前の光景を見届けていた。既に動き出している無数のEVOLが波のように押し寄せてくる。胸の中で鼓動が高鳴るに合わせて、幾つもの刃を連ねた尻尾が左右に揺れ動く。
 悪くない。これだけの暴威が相手となれば、騎兵団を――渡り禽を立ち上げた甲斐があるというものだ。仕舞い込んだ懐中時計の所在が熱を帯びた気がした。レプリカントの心臓がますます高鳴り、吶喊したい衝動すら湧き上がる。だが、その感情を抑制し、冷静に指揮を執らなければならないことも理解していた。不幸か幸いか、レプリカントの身体はアドレナリンからホルモンの分泌量まで意識的に調整し、感情を脳内化学物質として数値化した上で制御してくれる。

「|鴉《レイブン》、仕事の時間だ!」

 ユーニの力強い声音が通信帯域を駆け抜ける。dunkel Onyxがビームサイズを横に払い、深淵色の光刃を生じさせた。それが獰猛なる鴉達を戦場へ飛び立たせる鐘となった。

 装甲空母大鳳の甲板上を船員達が慌ただしく走り回る。戦闘開始前から次々にキャバリアを送り出していたリニアカタパルトに、今度は猟兵のキャバリアが接続されていた。
「今回ばかりはスターに感謝だな」
 一番カタパルトで待機するML-TC タイフーンカスタムに搭乗したヴィリーが北西の空に視線を向ける。内陸部にあるというゼロハート・プラントの上空はここからでは確認できないが、本来世界を滅ぼす存在であるはずのオブリビオンの襲来が人類の反抗の切っ掛けになるとは……なんとやらとハサミは使いようとはよく言ったものだ。だが今回もカロリーの多い仕事になるのは間違いない。
「カイゼルより管制官へ、今のうちに勲一等の勲章を人数分頼んどけよ」
『ブリンケン艦長にお伝え致します。どうぞ、ご無事の帰還を……』
 立ち上がったサブウィンドウの中の結城のにやけ顔にヴィリーは双眸を渋くした。メインモニターの隅で甲板要員が誘導灯を振り切る。
「タイフーンカスタム、ヴィリー・フランツ! 出るぞ!」
 ヴィリーが内臓を圧迫する重力加速度に歯を食い縛ったのも一瞬、電磁加速を得た射出装置がタイフーンカスタムを紺碧の海へと解き放った。
 タイフーンカスタムの背面にスラスターの光が瞬く。それを数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)はカスタマイズドキャバリア "JD-Overed"の操縦席に跨って見送っていた。
「ちょうどリフターの調整が終わったところにこれかぁ……タイミングが良いんだか悪いんだか」
 多喜がハンドルバーを捻りフットペダルを踏んでは離す。Overedが背負うサイキックリフターのフラップが上下し、バーニアノズルが窄まっては拡がる。ヘッドアップディスプレイ上のOveredとマルチプルブラスター、シールディングオービット、サイオニッククロ―はいずれも全機能異常無しの緑を示す。
「よし、回せー!」
 外部スピーカーで出力した多喜の叫びが甲板要員達の視線をOveredに集める。その反応に多喜は首を傾げるも、次には思わず開口していた。
「ってOveredにゃプロペラ無いんだったね、そう言えば」
 現在のOveredの状況が艦載機であるからにして、獣人戦線での戦争で飛び交っていたレシプロ機を無意識の内に重ねてしまっていたのだろうか。気を取り直して航空管制官に出撃準備が完了した旨を報せる信号を送る。甲板要員が誘導灯を振り抜いた。
「Overed、数宮・多喜! 行くよ!」
 フットペダルを踏み込む。前進加速操作と連動してリニアカタパルトの射出装置がOveredを急加速させた。重力加速度を受けた多喜が閉じた歯の隙間から呻きを漏らす。Overedは稲光を引きながら光芒が錯綜する海原の向こうへと飛び立った。

 彼我の戦力が正面から衝突し合う最前線では、対空砲火を上げる艦艇と日レ両軍のイカルガが、ひたすらに押し寄せるEVOLを打ち払い続けていた。その戦域を銀色の光沢を放つ装甲に翡翠色のエネルギーラインを巡らせたキャバリアが飛び回る。背負う翼状の推進機関は光の羽を飛沫のように広げていた。
「今回は団長自ら出撃してるからな、かっこ悪いところは見せられないな」
 ユーニが戦術データリンクを介して送信してくる敵の分布情報を視界の隅に入れながら久遠寺・遥翔(焔の機神イグニシオン/『黒鋼』の騎士・f01190)が言う。
『私はいつでもどこでもかっこいいです。何故なら私は常に十全に働ける万能巨神なのですから』
 さも当然のように流暢に語るのは巨神レヴィアラクスの自我であった。
「それでこそ騎兵団の一員、頼もしい限りだ。では早速座標X198、Y53に向けて進行中の敵集団を撃破してくれ。艦隊陣形の内部に浸透するつもりだ」
 ユーニはdunkel Onyxの位置を最前線より手前側に定めて戦況全体の把握に努めている。機体から不穏な紫色の粒子を放出し、周囲一帯に滞留させながら。
『承知しました』
「やるのは俺なんだけどな……」
 遥翔はレーダーマップ上に示されたマーカーの元へとレヴィアラクスを加速させる。ユーニが見立てた通り、集団を形成するEVOLが前線突破を図っているらしい。
「行かせるかよ!」
 遥翔がトリガーキーを立て続けに引く。驀進するレヴィアラクスがコラプサーライフルを連射した。星雲色に煌めくエネルギーの球体が夕立となってEVOLの集団を横殴りに襲う。だが撃ち損じたEVOLがレヴィアラクスの接近に気付いて触腕を伸ばす。無数に分裂した先端が誘導弾と化して襲いかかる。
「敵の攻撃はこちらで阻止しよう。久遠寺君は攻撃に専念してくれたまえ」
 dunkel Onyxが前方に左腕を突き出してマニピュレーターを広げる。するとレヴィアラクスの周囲に追従する形で幾つもの電脳魔術陣が開いた。そこから走る紫色の光線がEVOLが伸ばした触腕と交差したかと思いきや、触腕を断裂させてしまう。予め周囲に拡散させていた自壊粒子を触媒とし、EVOLのユーベルコードに対して同質のユーベルコードを生成したのだ。
「楽が出来てありがたい限りだ、団長」
「なあに、連携と役割分担だよ。でなければこの一週間以上の間、講習をしっかり聞いていた意味も無くなってしまうからね」
 人喰いキャバリアの性質。EVOLの特徴。それらはユーニの知識の内にある。現地入りして以降、様々な資料を見聞きして散々確認してきたのだから事象の再現など造作もない。
 断裂した触腕を掻い潜るレヴィアラクスの直進加速は止まらない。撃ち抜いたEVOLの集団の中に機体を飛び込ませる。
「ブレード!」
『了解。クエーサーブレイド、アクティブ』
 遥翔の音声入力を反映してレヴィアラクスが剣を抜く。刀身から淡い翡翠色のエネルギーの刃が生じる。EVOLの集団の中で鋭い光が二度閃いた。その最中を抜けたレヴィアラクスが翼を広げて急制動を掛け、片翼のスラスターのみを噴射して急反転する。直後にEVOLの集団から緑色の血飛沫が弾け飛んだ。二枚おろしにされたEVOLが海面に没する。しかし排除したのは艦隊内部に浸透を図る集団の一部に過ぎない。
「いやはや、撃っても切っても一向に減りませんねー」
 海上を滑空するシュタインバウアーmk-2cヴァルラウンが、パルスライフル・モストロ9改を撃ち散らす。トリガーキーを引く疋田・菊月(人造術士九号・f22519)は給仕服と肩に乗せたクロウタドリ……カミオさんの存在も相まって緊張感というものが薄く見える。反面、ダークグレーの機体は物々しい大口径砲を背負い増槽まで付けた質実剛健な風貌だった。いかにも闘争をしに来たといった雰囲気が滲み出ている。
「ああ、いつまで経っても減らん。なるべく効率良く掃除していかんとな」
 前線に到達したタイフーンカスタムのコングⅡが轟いた。発射された弾体は敵集団の目前で爆散。弾子を撒き散らして爆風と金属の嵐を生じさせた。
「アタシは三年振り位の再会だけど、量と質のどっちの相手が楽なのか、正直分かんないね!」
 タイフーンカスタムに続いて到達したOveredが爆炎から零れ出たEVOLにマルチプルブラスターの銃口を向ける。選択したモードは電撃放射のフルオート。多喜がトリガーを引いた時間の分だけ青白い稲光が走った。高圧電流に撃ち抜かれたEVOLが身体……あるいは機体を痙攣させながら海面に吸い込まれる。
「どっちにせよ連携次第でどうにかなるんだろうけど……団長、|テレパス《超感覚戦陣》の感度、どう?」
 多喜が問うとユーニは微かに頷いた。
「良好だ。直感的に戦況を把握できるというのは管制の負荷軽減にも繋がる。こちらも楽をさせて貰っているよ」
 多喜が巡らせた超感覚戦陣。そこからユーニは戦況把握に必要な情報を抽出するのと同時に、各団員達の精神状態から敵の攻撃を察知。アポトーシスプログラムを介してEVOLの触腕や侵蝕弾に対して相殺ユーベルコードを生成し続けている。結果として回避や防御に割く行動リソースが軽減され、消耗の抑制作用も働かせていた。
「それで? さっきから黙ってる楓椛さんは何が気になるって?」
 レヴィアラクスが敵集団の中央にコラプサーライフルを撃ち込んだ。収束モードで発射された光軸は集団の中央に穴を穿つ。
「いえいえ、個狐的に思う処があるだけですので、見守らせて頂くだけに留めます」
 クロさんのメインカメラが捉えた映像――稲妻を撒き散らしながら戦場を駆け巡るトールを、中小路・楓椛(contradictio in adjecto・f29038)は傍からすれば開いているのか閉じているのか判別出来ない双眸でじっと見詰める。クロさんはユーニのdunkel Onyxと並んで戦場を俯瞰してはいるものの、指揮管制を担っている訳では無い。
「中小路君、レイテナの艦隊側の防衛状況は如何かな?」
 ユーニが尋ねると楓椛は眉を上げてから答えた。
「砲撃を受けて陣形が乱れていますが戦況自体は小康状態……と言ってよろしいかと。激浪の砲撃がクイーン・エリザヴェートに振り向けられているのは気がかりですが、艦隊外縁部にはショゴスを放っておりますので」
「しょご……なんだって?」
 レヴィアラクスは食い掛かってきたEVOLをクエーサーブレイドで斬り伏せた。
「カンパチの小さいやつだろ?」
 タイフーンカスタムの肩部ランチャーから8発の誘導弾が発射された。ピラニアの如き獰猛さでEVOLを追い回すそれは近接信管を作動させると同時に火球に転じる。
「そりゃあレイテナ軍の御一行にはさぞサプライズになっただろうね……」
 多喜は頭の中に浮かんだタールでできたアメーバのようなクリーチャーの姿を隅に追いやって照準に専念した。
 実際にサプライズであったのだろう。半透明のショゴスの大軍勢が組体操して艦隊の外縁部を覆い、攻性防壁と化してEVOLと喰った喰われたの暴食対決を繰り広げているのだから。只人には状況が飲み込めるはずもないが。
「んー、艦隊もお守りせねば駄目ですからねー。貴重な足場……もとい帰りの船ですから。このような沖合で海水浴は御免被りたいところです」
 菊月は肩に止まっている鴉に運ばせればいいかなとも考えたが、しかし自分ひとりなら兎も角としてヴァルラウンは流石に重量過多が過ぎる。
 敵陣の深部へ向けて艦砲射撃を飛ばす日乃和の巡洋艦達。ユーニはEVOLの接近を察知するや否や「疋田君、対処を」と至極落ち着いた声音で指示を飛ばす。
「はーい少々お待ちをー」
 重巡洋艦古鷹と軽巡洋艦夕張の間をヴァルラウンが縫うようにして翔び抜ける。ブースターが吐き出す青白い噴射炎とモノアイカメラが発する緋色が残光の尻尾を引いた。
「この給仕めがお手伝いしますよー」
 EVOLの集団を正中の視界内に収め、背負う光量子収束砲『妙高』を解き放つ。開放式のバレル内を通過して加速と収束を経た圧縮粒子は砲門の偏向場に接触すると夥しい数の光線に拡散。艦艇に接近しつつあったEVOLの集団は、殺虫剤をぶちまけられた羽虫の群れの如く飛翔能力を奪われて失墜した。
「あのじゃじゃ馬姫に死なれると給料が降りるか分からんからな」
 ヴィリーはレーダーマップに一瞬だけ目を寄越す。アウル複合索敵システムが故障しているでもなければエリザヴェートは健在だ。
「お給金が頂けないのは困りますねー……っと」
 ヴァルラウンが柄付きの手投げ爆弾を投擲した。回転しながら放物線を描いたそれは飛来する敵群の鼻先を目指して下降し始める。
「それは我が騎兵団としても困るな」
 ユーニは微笑を交えながら言った。しきりに目を瞬かせているのは、視野に展開した団員達の機体の残弾数や推進剤の総残量から継戦時間を勘案しているからであろう。人喰いキャバリアとの戦闘では粘り強さが求められる事はユーニにとっても既知の内にある。無計画に火力を押し広げればたちまち息切れを起こしてしまう。
「乗ってる機体がオブリビオンマシン化してるんだっけ?」
 多喜は口を動かす傍らで意思を研ぎ澄ます。ユーニが伝えんとしている指示を言語化されるに先んじて超感覚戦陣を以って察知したからだ。意識の中に広げたレーダーマップ上で敵の進行軌道とヴァルラウンが投げたポテトマッシャーの着弾予測位置が重なり合う。その交差位置に多喜の意思を受信したEinherjarが三方位から向かう。
「後々面倒な事にならなけりゃいいけどね!」
 ポテトマッシャーが通過したEVOLの群れに飲み込まれた瞬間、Einherjarが群れの鼻先で三連結して大盾を形成した。突然出現した壁に衝突したEVOLの先頭集団は急減速。そこへ後続がなだれ込んで玉突き事故を引き起こす。
「まー、その時はその時ということですよ」
 ヴァルラウンが妙高を収束モードで発射した。光軸がEVOLの群れの中心ごとポテトマッシャーの弾頭部分を射抜く。赤黒い爆発群れの内部から膨張する。夥しい量の緑色の肉片が周辺に千切れ飛んだ。
『汚いですね』
「人工的に培養されたバイオ肉だ。生の人間の死体よりはよっぽどマシだぜ」
『でも人を食べているのでしょう?』
 レヴィアラクスは装甲に付着したそれを払い除けつつも、コラプサーライフルの連射を重ねて残存したEVOLにとどめを与える。
「ええ、皆様の選択ですからね、ええ」
 楓椛は焼け落ちるEVOLを横目に入れながらトールの機動を目で追いかけた。
「よし、久遠寺君と疋田君は一旦帰還し補給を受けたまえ。ヴィリー君と数宮君は周辺艦の防空を優先しつつ敵の殲滅を継続。中小路君には引き続き攻性防壁の維持に努めて貰いたい」
 ユーニが簡潔かつ明確に下した戦術判断が通信音声と思念波伝達網を経由して各位に届く。鴉達はそれぞれに了解と応じて己の役割を遂行する。戦いはまだ折り返し地点にすら届いていない。戦況を俯瞰し続ける渡り禽の長の瞳は、氷のようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレフ・フール
……あのスターとやらの影響か
そしてそれさえ利用するとは…やはりこの世界の人間達は力強いな

「アーレスの危機なら俺の出番…な気がするぜマスター!」
判っているよアレウス
ならばわしも力を尽くすとしよう

【戦闘知識】
敵機群の陣形を把握

【属性攻撃】
炎を機体に付与

奴らも早いが…アレウス…奴らに後れは取るまいな?
「勿論だマスター!俺の機体も此奴らには負けないって言ってるぜ!」
そ、そうか…

【重量攻撃】
敵軍の集中しているところに超重力球を打ち放ちそのまま収束…圧壊させる
【貫通攻撃・グラップル】
接近して重力拳で叩き潰し掴んで握りつぶし海に叩き落とす等の格闘猛攻
巨大化した力の叫びを掴み薙ぎ払い粉砕する!!



●力の叫び
 青空で燃える太陽が容赦無い直射日光を注ぎ、大陸から吹く風に紺碧の海が波打つ。
 透き通るような清々しい光景とは裏腹に、膨らむ火球と交差する光条、そして艦砲が奏でる爆音はより一層激しさを増していった。
「機神重撃拳!」
 アレフ・フール(愚者・f40806)の裂帛。火炎を纏うアレウスの拳がEVOLの胴を打つ。質量以上の重量を乗せた正拳は、内部骨格を粉砕するほどの威力だった。目と鼻の無い白面の口から緑色の体液が噴出する。
「ザ・スターさえも利用するとは、やはりこの世界の人間は逞しいな!」
 海上勢力殲滅作戦の実施はザ・スターのゼロハート・プラント襲撃が偶然もたらした結果に過ぎない。だが意図の有無に関わらずこの世界の人類の生存に懸けた執念というものは、アレフにしても羨望や敬意を抱くに足る重さだった。
 そんな逞しい人類を食い尽くさんと迫るEVOLの圧力も尋常ではない。殴れども蹴とばそうともまるで数が減っている気がしない。
 最前線に駆け付けたアレウスは敵群の分布状況を鑑みて、艦隊内部へ浸透を図る動向を匂わせる先頭集団の一部と交戦を開始した。
 高速で飛び回るEVOLが触腕を伸ばす。枝分かれした先端部が、細くて鋭い槍となってアレウスに襲いかかる。
「奴らも早いが……アレウス、後れは取るまいな?」
『勿論だマスター! 俺の機体も此奴らには負けないって言ってるぜ!』
 アレウスの背部に広げた双翼――グラビティ・ドライブが微かな紫の発光を帯びる。指向性を持った重力波が機体を縦横無尽に突き動かす。無数の触腕が軌道を追尾する。
「そ、そうか?」
 アレフの炎がアレウスの鉄拳に宿って渦を巻く。防御の構えを取ったアレウスに触腕が到達するも、火炎の渦に阻まれて焼き切られてしまう。
 構えを解いたアレウスが襲い掛かるEVOLに横蹴りを食らわせ、続く新手をテールアンカーの先端部のクローで捕まえて圧迫切断。振り向きざまに裏拳を繰り出して三体目のEVOLを吹き飛ばす。直後に三体目と軌道を重ねていた四体目が現れるも、頭部に踵を落として水柱へと変じさせた。
『マスター! 一体一体殴ってたんじゃいつまでも終わらないぜ!』
「ならどうしろと!」
『俺の力を上手く使うんだ!』
 意図を掴み損ねたアレフに代わり、アレウスが向かい来る敵の群れに向かって左腕を突き出した。広げたマニピュレーターに暗黒の球体が膨張して弾き出された。敵の群れの最中に到達した暗黒の球体は更に一回り以上膨張して重力の歪みと化し、アレウスを追いかけていたEVOLの群れを吸い寄せた。
「そういうことか!」
 察したアレフは重力球体が吸い寄せた敵機を掴んで握り潰すイメージを念じる。
 そのイメージ通りにアレウスは左腕部のマニピュレーターを閉じて握り拳を作った。
 重力波が周囲の空間ごとEVOLの群れを吸い込みながら急速に収縮し始める。そして小さな黒点になった瞬間、紫の瞬きが連続して超高熱が炸裂した。
「引き寄せられれば……!」
 アレフが右手を虚空にかざす。アレウスの右腕部のマニピュレーターが開くと、手元に円陣が浮かび上がった。そこから生える剣の柄を握って一気に引き抜く。
 原初の巨神の一人の骨を削って作りだした魔剣――力の叫び。アレウスの背丈と同等はあろうかという大剣を左右のマニピュレーターでしっかりと掌握し、切先を天に向けて突き出す。
 グラビティ・ドライブが重力波の光を拡大する。全方位から迫るEVOLが一気に加速……否。加速したのではなくアレウスに吸い寄せられたのだ。
「纏めて薙ぎ倒す!」
『やっちまえ! マスター!』
 アレウスの関節駆動部が唸る。重く巨大な剣の横薙ぎ。衝撃波を伴うほどの速度で振り抜かれた力の叫びは、刃に触れたEVOLを切断するのではなく文字通りに叩き砕いた。濃い緑色の血煙を残して跳ね飛ばされたEVOL達。剣の衝突音は、まさしく力の叫びであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨飾・樒
ネルソン、ロドニー、今回も来てる?
ここまでやってきたんだから、鯨の歌作戦、一緒に完遂したい
ドーマウス、ライゴウ、戦闘開始

味方の艦は沈ませない、絶対に
対空戦闘の状況を見て、敵集団の迎撃が間に合わなくなってる艦に急行する
射程に入り次第ライゴウから降下、空中跳躍符で飛び回りながら"眠り薬の魔弾"で化物共を墜とす
ライゴウにもビーム砲で奴等を焼いてもらう、ただし突っ込んで孤立しちゃダメ、侵蝕の危険は避けて
私も気を付けないと、艦も着弾した侵蝕弾も見逃さないように、魔弾で無力化できるのは分かってるんだから
周囲の敵が片付いたら次の支援へ向かう、ライゴウがいる分、前より移動時間はかなり短く済むはず

エリザヴェートとトール、大丈夫かな
強いって話だけど、突出して危なそうなら救援に向かうつもり
女王陛下でも誰でも、味方がアレにやられるのは、見たくない



●オブリガード
 東アーレスの海を重低音が震わせる。それは鋼鉄の鯨達の砲塔が奏でる歌声だった。
 榴弾の一発が炸裂するたびに何十ものEVOLが爆風に押し広げられた金属片に切り刻まれる。プラズマビームが空を割るたびにEVOLの集団に大きな穴が開いた。
 艦砲射撃の面制圧の効果は絶大であった。しかし水平線を埋め尽くすEVOLは肉片と化した数以上の戦力を絶え間なく送り出してくる。鯨の歌が途切れた時、艦隊はEVOLの金切り声の不協和音に呑み込まれるであろう。
 最前線よりも少し後方で砲火を歌う戦艦ロドニーも、重奏を支える重要な艦艇の一隻だった。
『敵集団接近中! 10時方向に数100! 1時方向に数200!』
『CIWS残弾数50パーセント!』
『対空防御、追い付いていません!』
『左舷前部に侵蝕弾多数着弾! 非活性化を急げ!』
『キャバリア部隊を本艦の周囲から遠ざけろ! 対空砲に巻き込むぞ!』
 通信帯域を怒声が駆け巡る。戦艦ロドニーの周囲を飛び交うEVOLを、機関砲が緋色の破線で追い掛ける。周囲の駆逐艦やキャバリアも火線を伸ばして誘導弾を解き放つ。小口径の徹甲弾に貫通されたEVOLは緑の体液を噴出して落水。誘導弾の爆炎に飲まれたEVOLは熱と金属片の衝撃波に引き千切られた。
 夥しい量のEVOLが機能を喪失して海面に水柱を昇らせる。しかしすぐにそれと同数か以上のEVOLが飛来し、戦艦ロドニーに触腕や侵蝕弾での空襲を繰り返す。流石に戦艦だけあっておいそれと撃沈はしないものの、その船体は既に満身創痍であった。

「ロドニーは、沈ませない」
 サーフボード型のフライトシステムが海面を滑空する。乗る雨飾・樒(Dormouse・f41764)が姿勢を低く落とした。
 双眸を細めて遠くを凝視した。戦艦ロドニーの周囲では、飛び交うEVOLとそれを追い掛ける対空機関砲の火線が断続して瞬いている。樒は体重を僅かに前に傾けてライゴウに加速を促した。高機動ビーム突撃砲の後部のバーニアノズルが鮮明な緑の推進噴射炎を膨らませた。
 海原を走る風となった樒とライゴウは戦艦ロドニーの直前で機首を上げて急上昇。試製特殊作戦補助装備でも相殺しきれない強烈な重力加速度が樒を苛み、目と口元を歪ませる。そして艦橋と同じ高度に到達した瞬間、樒の両足とボードを接続していた零式空中跳躍符のロックが外れた。
「突っ込んで孤立しちゃダメ、侵蝕の危険は避けて」
 命令を受けたライゴウだけが前方へと飛び去り、樒の身体は空中に放り出される。自由落下を始めた最中、樒は構えた六式拳銃丙型のアイアンサイトの向こうにEVOLの鼻先を重ねた。
「沈め、静寂の奥底に」
 六式拳銃丙型の発光部位が緑の閃きを放った。引き金に掛けた人差し指を押し込む。後退するスライド。排出される薬莢。マズルが青白いガスを放出する。
 風切り音を聞いた樒は命中の手応えを確かめる間も無く空中を蹴った。身体を捻りながら跳躍。一瞬前に居た場所をEVOLが飛び抜けた。顎を噛み合わせる音が聞こえた。同時に高速で機動する物体が生み出す衝撃波が樒の身体を吹き飛ばした。小さな身体が嵐の中の木の葉のように舞う。全身を打つ衝撃。三半規管を狂わされた樒は奥歯を噛んで姿勢を整える。視界内に別のEVOLが飛び込んだ。
 間に合わない――そう思った直後、か細い緑色の光線がEVOLの身体を撃ち抜いた。樒は条件反射で横方向に身体を跳ばす。双方の軸線がずれた。機能を止めたEVOLは樒を逸れ、回転しながら緩やかに降下してゆく。ライゴウが樒の視界を高速で横切った。その背後を複数のEVOLが追走する。伸張して枝分かれした触腕と生体誘導弾がライゴウを追い回すも、機体を軽快に振っては回して潜り抜ける。
「前よりも数が多い……」
 戦艦ロドニーの甲板に着地した樒はライゴウの後ろに張り付くEVOLに六式拳銃丙型を向ける。零式射撃動作補助符の支援を受けてアイアンサイトの向こうに目標を捉えた。セレクターレバーの位置はセミオートだ。
 一撃。二撃。三撃。正しい射撃姿勢で発射した眠り薬の魔弾はEVOLの保護表皮に食い込んでペールブルーのガスを噴き出す。そして撃たれたEVOLはほんの数秒後に突如として脱力し、海面に激突して白い飛沫を上げるに至った。眠り薬の魔弾が機能を眠らせたのだ。破壊するまでもない。眠りと共に海に沈めばもう二度と浮き上がってこれないのだから。
「ドーマウスか!? また助けられたな!」
 背中に投げられた声音に樒は反射的に振り向いた。防護服を着た複数人の船員が駆け付けて来るところだった。皆消火器に似たホース付きのタンクを抱えている。
「それは?」
 樒が尋ねる。
「侵蝕弾を非活性化させる為の薬剤だ。 今からこれを撒いぐぎゃっ!?」
 一瞬だった。言葉尻が断末魔に転じて防護服姿の船員が空中へと連れ去られた。通りすがりのEVOL達が触腕を突き刺して攫って行ったのだ。樒は顔面に掛かった赤黒い液体を拭う間も無く六式拳銃丙型を撃つ。咥えた船員を咀嚼するEVOLの後方からライゴウが収束荷電粒子の光線を照射する。何体かは銃弾を受けて失墜し、何体かは荷電粒子に翼を溶断されて海面へと落下した。
「侵蝕弾は?」
 樒が生き残りの船員に問う。
「あっちの側舷だ! 向こうは我々がやる!」
「了解」
 樒は船員が指差す方向へと駆け出した。船の縁から身を乗り出して側面を見る。巨大なオタマジャクシのような形の侵蝕弾が装甲に食い付いていた。侵蝕弾の数だけ六式拳銃丙型のトリガーを引くと、激しくうねっていた侵蝕弾の尾鰭は急激に大人しくなった。
『ロドニーよりドーマウスへ』
 戦闘服に備わる通信装置から声が聞こえた。樒はしゃがみ込んで右耳に右手を添える。
『こちらドーマウス』
『まずは本艦への支援に感謝する。突然ですまないが、本艦から見て8時の方角のネルソンの支援に向かってもらいたい。防空が飽和状態に陥っている』
 艦首を0時として言われた通りの方角に身体ごと振り向く。なるほど確かに深刻そうであった。瞬く火球が周囲の上方を埋め尽くしている。
「ドーマウス了解。直ちに向かう――」
 言葉の最後は、頭上を駆け抜けた凄まじい轟音に掻き消された。
『待つのじゃー! この怪物どもめー!』
『陛下! 補給に戻ってください! もう推進剤が!』
 赤いマントをはためかせるトール。それを追い掛けるスワロウ小隊のアークレイズとイカルガ。樒は小さな身体に打ち付ける衝撃波から顔を庇いながら、戦艦ネルソンの方角へと向かうキャバリア達を目で追った。
「……大丈夫かな」
 トール自体が相当強力なキャバリアで、追従するスワロウ小隊もスカルヘッドの処理を任せられた程度には優れた部隊であるらしいが……突出どころか突撃していく小さな暴君に、樒は一抹どころではない不安を抱いた。
「ライゴウ、行くよ」
 小さな呟きと共に甲板を蹴った。数メートルの高さまで飛び上がる。高度の頂点に達したのに合わせて足元にライゴウが滑り込んできた。急加速を得た身体をボードに接合された足裏が支える。
「女王陛下でも誰でも、味方がアレにやられるのは、見たくない」
 ライゴウが左右に割れた白波を引き連れて海面を走る。ネルソンの周囲で稲妻を撒き散らすトールを瞳で追いかけながら、樒は六式拳銃丙型に新たな弾倉を差し込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
高高度での戦いも気にならないと言ったらウソだけど…。
でも、今は目の前の事をしっかり、だね。

それじゃ、ブルー・リーゼ、出るよっ!

スラスターとロングビームライフルの推力器を使って、前線に移動するよ。
移動しつつ、ロングビームライフルで遠距離から撃ち抜くっ!

その後は、空中機動で移動しつつ、左腕部のビームランチャー(単射)、ロングビームライフル、カルテットキャノンを中心に攻撃を仕掛けるよ。
各攻撃は、別々の対象を狙っていくよ。
少しでも敵数を減らさないとね。

距離を詰められたら、左腕のビームランチャーは連射モードに変更して、バルカンも使って牽制攻撃をしつつ、ライフルとキャノンで撃ち抜く!

近接間合いになったら、左手にビームセイバーを持たせて対応。
このために、左腕につけられるようにビームランチャーを改良したんだからっ!!
敵を切断して、少し後退しつつ詠唱開始。

広範囲を巻き込むようなイメージをもって…。
使うはエレメンタル・ファランクス!

ターゲットマルチロック…。
わたしの全力、遠慮せずにもっていってもらうよっ!



●ブルーコメット
 水平線を覆い尽くす深緑の積乱雲に赤黒い爆炎が轟く。艦砲の榴弾砲が弾けて広げた爆炎だった。南と南東から幾条もの荷電粒子の束が伸びるたびに、何十というEVOLが細切れになって千切れ飛んだ。
 EVOLも落とされてばかりではない。質で勝るレイテナと日乃和のキャバリア部隊を量で圧倒し、恐れを知らない突撃を繰り返して一機また一機と撃墜に至らしめる。
 激浪の超高圧放水砲の遠距離砲撃も始まって久しい。精度こそ壊滅的だが、荷電粒子と見紛う破壊力の水の奔流に飲み込まれたイカルガが一瞬で砕け散った。不幸にも被弾した軽巡洋艦が船体を大きく傾斜させた。
 勝敗の流れが未だ判然としない海原をレゼール・ブルー・リーゼが翔ぶ。
 シル・ウィンディア(青き流星の魔女・f03964)の眼差しは、最前線の遥か彼方――ではなく北西の空を探していた。あの空の向こうでザ・スターとゼロハート・プラントが戦っている。クロムキャバリア全土でプラントに対する破壊活動を行う者と、東アーレスの人口を4割まで減少させたプラントが。
「今は目の前の事をしっかり、だね」
 目と意識を空から外して正面に向ける。フットペダルを踏み込むと背中がシートに押し付けられた。
「ぐ……!」
 パイロットスーツとグラビティ・ガードの機能によって減衰しているとはいえ、レゼール・ブルー・リーゼの加速力は骨身に滲みる。
 右腕で保持するエトワール・フィラントの銃床尾部のブースターと、背負うアジュール・リュミエールのスクラムジェットエンジンが産み出す推力を得て、レゼール・ブルー・リーゼは空と海の紺碧の狭間を翔ける。噴射光が星屑のような残光を後に引いた。向かい来る激浪の放水砲。
「ちゃんと見えてるよっ!」
 レゼール・ブルー・リーゼは半身のスラスターを噴射して僅かに横滑りし危なげなく躱す。メインモニターの中央のロックオンサイトに最前線の敵集団を捉えた。ロックオン可能な距離ではない。しかしシルは操縦桿のトリガーキーを押し込んだ。
 エトワール・フィラントの銃口から青白い光線が走った。立て続けに三発。偶然横切ったEVOLの片翼が光線を掠めて溶解した。飛び交うEVOLの集団に穴が開いた。射線を追いかけるようにしてレゼール・ブルー・リーゼが直進する。
 最前線に到達したレゼール・ブルー・リーゼはスラスターの推力を落とした。四方八方からEVOLが飛び掛かって噛み付いてくる。それらの洗礼を紙一重で躱す。
「少しでも減らさないと……!」
 メインモニター内を何体ものEVOLが目まぐるしく動き回る。シルは操縦桿のホイールキーを回して兵装を選択した。エトワール・フィラントに続きヴォレ・ブラースクとカルテット・グレル・テンペスタが活性化を示す点灯状態となる。
 合計六つのロックオンマーカーがEVOLを追い掛ける。内一つが重なった瞬間、エトワール・フィラントが縮退保持していた魔力粒子を発射した。光線がEVOLの胴体を貫く。
 後方からの接近を報せる警告音が鳴る。アジュール・リュミエールの主翼のフラップが下りた。レゼール・ブルー・リーゼが上方向へ短距離を急加速する。下方をEVOLが抜けるのと同時に顎を噛み合わせる音が聞こえた。
「こんのっ!」
 EVOLの背中に向けてレゼール・ブルー・リーゼが左腕を突き出した。固定兵装として備わる二門のビームランチャーが青の光弾を極短い間隔で連射する。EVOLは全身に無数の穴を穿たれて失速し、慣性を伴って海へ落下した。
 まだ来る――シルは操縦桿を引き戻してフットペダルを踏み込む。エトワール・フィラントの尾部を前に向けて後退加速するレゼール・ブルー・リーゼ。それを追い掛けるEVOL達が侵蝕弾を発射した。あれを食らうのは不味い。シルは呼吸を止めながら捕捉に専念した。
「アンチミサイルアクション!」
 音声入力を受け付けた火器管制機能が誘導弾の自動迎撃を開始した。頭部のエリソン・バール改がイルミネーションのような破線を空中に描き出す。灼熱の弾丸に擦過した侵蝕弾が緑のガスに変じた。
「今ならテンペスタで狙える!?」
 レゼール・ブルー・リーゼは後退加速を維持してEVOLを引き付ける。背部と腰部のそれぞれ二門の砲身が正面を向いて伸長した。メインモニターの中の追走する四体のEVOLにシルが瞳を重ねると、ロックオンマーカーが張り付いた。
「当たって!」
 カルテット・グレル・テンペスタの砲身の内部で膨張していた光が解き放たれて魔力粒子の光条を伸ばす。合計四門のビームキャノンはそれぞれに一体ずつのEVOLを撃ち抜き、大きな穴を開けて躯と変容させた。
「また正面から!?」
 効果を確認する暇もなく正面からEVOLが突っ込んできた。ヴォレ・ブラースクを連射しつつエトワール・フィラントを横に向けて機体を跳ね飛ばす。側面から膨れ上がる殺気。シルは反射的に機体を振り向かせ、エトワール・ブリヨントを抜剣する。レゼール・ブルー・リーゼの左腕部マニピュレーターが発振基を握った。旋回と合わせて振り切る。星の輝きのような軌跡が走った。横一文字に溶断されたEVOLが緑の体液を撒き散らして海面へと吸い込まれてゆく。
「ビームランチャー、固定式にしておいてよか……たぁ!?」
 改良で命拾いしたかと思ったのも束の間、周辺を飛び回るEVOLがレゼール・ブルー・リーゼに引き寄せられるかのようにして襲い掛かる。今度は四体どころではない。
「ああもうっ! 闇夜を照らす炎よ命育む水よ悠久を舞う風よ!」
 シルは舌が回りそうな早口で詠唱を重ねる。その間にレゼール・ブルー・リーゼは後退加速し、エリソン・バール改とヴォレ・ブラースクを乱れ撃ちながらエトワール・ブリヨントを振り回した。下がるレゼール・ブルー・リーゼ。追うEVOLの群れ。必然的にシルがコクピットで見る正面は敵で埋め尽くされた。マルチロックオン――するまでもなく適当に撃てば当たる状況となってしまった。
「母なる大地よ! 我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
 シルが詠唱の最後の一節を叩き付ける。レゼール・ブルー・リーゼが持つ各砲から赤、青、緑、黄の光条が迸る。各属性が付帯した魔力光線が500を超える本数に拡散し、レゼール・ブルー・リーゼを頂点として円錐状に広がる。ビームバルカンでも十分貫通可能なEVOLの保護表皮が耐えられる筈もなく、鮮やかな光彩に呑み込まれた直後に炎に焼かれ、水に押し流され、風に切り刻まれ、土に圧砕された。
 放射が終わるのに合わせ、反動を押し返していたアジュール・リュミエールの噴射光も緩やかに勢いを低下させた。焼けて千切れたEVOLの残骸が海面へと降り注ぐ。レゼール・ブルー・リーゼの前で幾つもの白い水柱が立った。
「次は!? どっち!? あっち!?」
 シルは肩を荒く上下させてレーダーマップに目を飛ばす。レゼール・ブルー・リーゼが四肢を振って姿勢を反転させる。カルテット・グレル・テンペスタの砲身が縮退し、腰部二門が補助推進機を背後へと向けた。ロングビームライフルとウイングスラスターのバーニアノズルに光が爆ぜる。急加速したレゼール・ブルー・リーゼは、箒星の尻尾を引きながら次の敵群へと翔んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
拙者エドゥアルト、いまゼロハート氏の機体の肩にいるの
拙者はあまねく美少女の味方でござる、今日はゼロハート氏についてくでござるよ
それと普段は東雲氏に乗ってるじゃん?拙者がこっちにいたら|いなくなってから気付くもの《NTR感》もあるかなって

拙者の行動は既に終わっているッ!ほらきらきらジャンプしな
きらきらジャンプとは青空を可愛い女の子達が可愛いジャンプするアレでござるよ!書き換えておいたよ、戦場をゆるふわでぬるついた感じに
常識を変えるなんて造作もないでござるよ…そう、電脳魔術ならね

さあゼロハート氏もいい感じに可愛い事をするんでござるヨ!流行りのバンド?山登り?だらだらも基本でござるね!ドジっ子しぐさとかもいいぞ!
あのキメェのに対応できるような文化的知性は無い…カッスい飛翔と腑抜けた噛みしかできない存分になり果てたので可愛い仕草をしながら攻撃しな
勿論例外は無い!この戦場にいる全員がだッ!

所で日常アニメのエンディングっていいよね
拙者も可愛い子とダンスしてぇ…踊ろうぜゼロハート氏コクピット入れて!



●ヒト喰い大好き! えゔぉるぐさん
 エリザヴェートが乗るトールは思うがままに駆け巡る。戦術などお構いなしに。それを追い掛けながらも群がる敵機を掃討し続けるスワロウ小隊。普段の戦闘以上に負荷は増大し、隊全体を着実に蝕みつつあった。
 遊んでいる暇など一瞬たりとて存在しない。多忙極まりないその矢先である。彼が――エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)が現れたのは。
『ハァイ調子良ィ?』
「ひいっ!?」
 通信機から聞こえた覚えのある声。テレサの両肩が跳ねた。
「その声、まさか……!」
「そうです! 拙者が変なおじさんです! あ変なおじさんったら変なおじ――」
「なんで接触回線を使えるんです!? どこにいるんですか!?」
「拙者エドゥアルト、いまゼロハート氏の機体の肩にいるの」
「いつ乗ったんです!?」
「遥か昔から」
 厳密には生えてきたと表現するのが正しい。
「ふざけてないで降りて下さい! 死にたいんですか!?」
「やだ! 今日はゼロハート氏について行くって決めたでござる!」
「勝手に決めないでください! 危ないですよ! 振り落とされたらどうするつもりなんですか! キャバリアは常時数百キロから音速で動いているんですよ!? 分かってるんですか!?」
「どうもこうもねえよ! それと普段は東雲氏に乗ってるじゃん? |拙者がこっちにいたらいなくなってから気付くものもあるかなって《NTR感》」
「話しを聞いてるんですか!?」
「拙者の行動は既に終わっているッ! ほらきらきらジャンプしな!」
「なんですそのキラキラジャンプって……漫画の時間と週刊少年誌ですか?」
「きらきらジャンプとは青空を可愛い女の子達が可愛いジャンプするアレでござるよ! 透き通るような世界観のアニメのオープニングとかご存知ない?」
「知りませんよ!」
「頭の上に輪っか乗せたJKが鉄砲バンバン撃つやつ」
「言うほど透き通ってなさそうですね……」
「いいからジャンプしろよおうあくしろよ」
「何もよくないですしジャンプもしませんから!」
「やくめでしょ」
「そんな役目知りません!」
「もう書き換えておいたよ」
「何を!?」
「戦場をゆるふわでヌルついた感じに」
「ヌルついたって何です!?」
「常識を変えるなんて造作もないでござるよ……そう、電脳魔術ならね」
「勝手に話しを進めないでください!」
 こうして戦場はエドゥアルトの言うふわふわしていてヌルついた日常アニメと化した。具体的にどういった光景が広がっていたのか。それは人類には認識できないし人類には言語化できない。
「さあゼロハート氏もいい感じに可愛い事をするんでござるヨ!」
「私は戦いに来たんですけど……」
「ソロざロック? 山きゃんΔ? だらだらも基本でござるね! ドジっ子しぐさとかもいいぞ!」
「何言ってるか全然分かりませんよ!」
「じゃあ何なら知ってるのでござるか!?」
「え? ええと……迷宮飯とか……」
「ヤダーーーー! 馬鹿野郎日常アニメじゃないだろこの野郎!」
「一応ダンジョンでの日常でしょう!?」
「まあいいや、可愛い仕草をしながら攻撃しな」
「可愛い仕草ってなんですか……?」
「あのキメェのに対応できるような文化的知性は無い……深夜の職場でツインヤングソース焼きそばをドカ食いして血糖値スパイクの頂点に至った自らが異常な社会環境に置かれている事を自覚していない社畜のようにカッスい飛翔と腑抜けた噛みしかできない分際になり果てた!」
「ですから可愛い仕草って何!?」
「勿論例外は無い! この戦場にいる全員がだッ!」
「さり気なく全方位を巻き込まないでください!」
「所で日常アニメのエンディングっていいよね! 拙者も可愛い子とダンスしてぇ……おじのこのこのこおじたんたん」
「あの……ひょっとして来る場所を間違えてませんか?」
「踊ろうぜゼロハート氏コクピット入れて! この世はでっかい宝船で今こそアドベンチャーでござる!」
「絶対に嫌です!」
 エドゥアルトの広げた謎空間に抗議の悲鳴が木霊する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
主様であるサイキックキャバリア、ラウシュターゼ様に搭乗して出撃致します
「操縦者情報、秘匿。マイクオフ。全て確認済みです」
『今回は長期戦となるだろう。力の配分を考えて戦え
計画性のないメイドを雇った覚えはないのだからな』
承知致しました。メルメッテ・アインクラング、参ります!

ウイングを用い、殲禍炎剣に狙われない高度で飛び立ち【空中戦】でございます
幾度となく相対した人喰いオブリビオンマシン……命を軋ませるような、変わらない響きです
『不愉快だな。それほど喰らいたければ喰らわせてやれ』
「かしこまりました。では」
ブレードビットを出現させて【一斉発射】。命中後は指定UCを発動して作った一瞬の隙に熱線を放射、【鎧無視攻撃】で敵を焼き切って【切断】致します
敵から飛んできたものは、敵の骸も含めて、全てソードやウィップで【なぎ払い】【受け流し】、或いは思念式防御機構で【オーラ防御】。主様の装甲を汚さないよう努めます
『その穢れた舌、体液の一滴すら、”アインクラング”に飛ばす事は許さん。存在ごと消し飛ばしてやろう』



●シュトッケント
 鋼鉄の鯨達が砲火で歌う。戦場を引き裂くように走る荷電粒子と超高圧水流が旋律を掻き乱す。重奏は既に秩序を失っていた。
 白磁の機械騎士――ラウシュターゼが広げた紅の光翼を羽ばたかせた。噴射圧を受けた海面が白く泡立ち、微細な海水の粒が舞い上がり、ラウシュターゼの装甲の上で無数の水玉に集束した。
『今回は長期戦となるだろう。力の配分を考えて戦え。計画性のないメイドを雇った覚えはないのだからな』
 冷ややかな声音が言い調う。非対称的に外界から隔絶されたラウシュターゼの胸郭の奥底で、メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)はしかと頷いた。
「承知致しました」
 とは言うほど容易い事ではない。相手はこちらの都合など構わず数を武器にしてひたすら押し寄せてくるのだから。
 メルメッテの乳青色の瞳がメインモニターを左右に往復する。夥しい数のEVOLが無秩序に飛び交う。旋律に乗る側ではなく、乗せる側にならなければ――センサーが拾ったEVOLの金切り声が頭蓋の中で跳ね回る。幾度も聞いた金切り声だった。
『不愉快だ』
 考えを見透かしたかのようなラウシュターゼの呟きに、メルメッテの両肩が微かに跳ねた。
「命を軋ませるような、変わらない響きです。ですが……」
 この違和感はどこから来る? EVOLは金切り声を発しながら獲物目掛けて飛ぶばかりだが、一見無秩序に見える動きの奥に法則性が垣間見えるような。
『気が済むまで喰らわせてやるがいい』
 言葉に纏まらない思考はラウシュターゼによって断ち切られた。
「かしこまりました。では」
 メルメッテは自分の視野と意識を分散させるイメージを作り上げる。ラウシュターゼがマニピュレーターを握った左腕を前に出す。背後に幾つもの転移陣が開き、そこから刃の花弁を咲かせた攻撃端末が現れた。
 ラウシュターゼの周囲を飛んでいたEVOLが迫る。メルメッテはひとつ瞑目すると双眸を見開いた。
「ベグライトゥング!」
 鋭く飛ばした声音に合わせてラウシュターゼが左腕のマニピュレーターを開いた。散開するブレードビット。ラウシュターゼを中心に円形の陣を組む。ベグライトゥングが熱線を伸ばす。接近しつつあったEVOLは翼なり頭部なりを焼き切られて海面に失墜する。だが全てではない。残存したEVOLが一斉に侵蝕弾を放つ。
『取り零しが過ぎるぞ』
 ラウシュターゼの声の音階は低い。
「直ちに処理いたします」
 メルメッテの内に生まれたほんの僅かな焦りは敵の接近ではなくラウシュターゼの機嫌を起因とするものだった。分裂して分散した意識に念じる。曲の流れを止めて、次第に緩やかに。ベグライトゥングから不可視の波動が生じた。
 波動に当てられたEVOLは途端に急減速し、重量を失ったかのようにその身を浮き上がらせた。侵蝕弾も同様にして追尾機動を止める。
「これで……!」
 ラウシュターゼが左腕を薙ぐ。ベグライトゥングが熱線を照射し、動きが鈍ったEVOLを瞬く間に溶断した。残骸が海に没して幾つもの水柱が立つ。
『まだ残っているようだが?』
「そちらはベリーベンで個別に」
 ラウシュターゼの右腕が振るわれるのに合わせて従奏剣ナーハの刀身が伸長した。紅のフォトンウィップに連なるブレードエッジが蛇のようにしなり、波のようにうねる。刃に撫でられたEVOLは深緑の液体を噴出させ、侵蝕弾は緑のガスを放出した。
 ラウシュターゼを中心に緑の血煙が咲いて液体が飛散する。しかしそれは白磁の装甲に届く前に、機体を球体上に覆う思念波障壁によって弾かれた。
『その穢れた舌、体液の一滴とて”アインクラング”に飛ばす事は許さん。存在ごと斬り刻み、骸の海にすら帰らざる青い深淵に沈めてくれよう』
 主様からのお咎めが無い事にメルメッテは思わず安堵の吐息を漏らす。主様は人喰いキャバリアの体液が装甲に付く事を大変厭われるからだ。
 敵はまだ幾らでもいる。乱されてはいけない。主様から仰せつかったように、呼吸と集中を整え、常に力の配分を意識して戦わなければ。調律を掻き乱されないように。メルメッテは唇を横に結び、しかして身体を強張らせないよう機体の制動に思惟を注ぐ。
 不協和音が響く海原で、ラウシュターゼは指揮者の如く従奏剣を振るう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
…件のヒーローサンの乱入で確かに数自体は減ってるんでしょうし、千載一遇の好機ではあるけれど。体感としては|八百万から無量大数になった《不可算が加算になった》レベルだし、大して実感ないわねぇ…
流石に本当の無尽蔵よりはマシだし、残しておいても百害あって一利もないし。しっかりお掃除しちゃいましょうか。
――スノーフレーク、ティオレンシア・シーディア。エンゲージ!

ま、やること自体は前回と大差ないわねぇ。適当な艦に間借りしてMG・GG・GL積めるだけガン積みしたスノーフレークに○騎乗、●鏖殺・滅謡を起動してベタ足|全力全開全門開放《フルファイア》で|固定砲台《トーチカ》するわぁ。マルガリータ、|同時多重捕捉《マルチロックオン》よろしくねぇ?
さらに●黙殺・砲列も同時展開。|カノ《炎》・|ハガル《破滅》・|ティール《勝利》・|帝釈天印《雷》etc、今回はこっちも火力ガン振りで○弾幕ブン回すわよぉ。もう既に砲撃受けてる以上、守勢に回ったらそれこそ詰むしねぇ。
…こんな一大攻勢自体、二度はできないでしょうし。



●金剛氷霧
 日乃和海軍に所属する重巡洋艦愛宕の二連装砲が轟く。燃焼した炸薬の黒煙と共に射出された砲弾は、風切り音を引き連れて人喰いキャバリアの群れの中に飛び込んだ。予め設定された飛行距離に達した瞬間に信管が作動。緋色の爆風が熱と金属片の衝撃波を膨張させて無数のEVOLを呑み込んだ。
 大気を痺れさせるほどの衝撃。腹に響く程の爆音。それらは重巡洋艦愛宕の艦首甲板上に立つスノーフレーク……そのコクピットに座るティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)にも届いていた。
「……件のヒーローサンの乱入で確かに数自体は減ってるんでしょうし、千載一遇の好機ではあるけれど」
 閉ざした双眸で見るモニター上の光景を見る限りでは、実感が湧かないというのがティオレンシアの正直な思いであった。日乃和とレイテナ両軍の砲撃は確実に効果を発揮しており、砲弾或いは荷電粒子が発射される度に少なくとも小隊から中隊規模のEVOLが戦闘不能に陥っているはずだ。しかし膨張した火球が晴れる前に後続が続々押し寄せてくる。
「|八百万から無量大数になった《不可算が加算になった》レベルよねぇ」
 ティオレンシアが計器に視線を落とす。敵反応の総数は依然として測定許容値を超過していた。思わず紅茶に角砂糖を何十個も溶かして蜂蜜をたっぷり注いだかのような吐息が漏れてしまう。人喰いキャバリアとの戦闘は常に絶望的物量差との戦いであるという事は、作戦開始までの座学で耳が痛くなるほど聞かされていた。十分承知の上にしろ、やはりこうして深緑に埋め尽くされた水平線を眺めているとうんざりしてくる。
「流石に本当の無尽蔵よりはマシでしょうけど……しっかりお掃除しちゃいましょうか」
 人喰いキャバリアの供給元であるゼロハート・プラント上空でザ・スターが暴れている間は増援が滞る。今はそれを信じて敵を千切っては投げ続けるしかない。超最悪が最悪になった程度の好転だが――絶え間ない艦砲射撃の猛攻を数で突破したEVOL達の先頭集団が、重巡洋艦愛宕の正面に迫り来る。やかましい接近警報がティオレンシアの耳朶を打つ。
「スノーフレーク、ティオレンシア・シーディア。エンゲージ! マルガリータ、|同時多重捕捉《マルチロックオン》よろしくねぇ?」
 音声入力を受け付けた戦闘支援AIがアスファルトをぶち抜いて咲くタンポポのような電子音声で応じる。スノーフレークが両足を肩幅まで広げて両腕を持ち上げた。マニピュレーターで保持するマシンガン、腕部側面に搭載したガトリングガン、背面の兵装懸架装置に接続したグレネードランチャー。スノーフレークの四肢がそれらの重量を引き受けて関節駆動系を唸らせる。ティオレンシアは機体が背負う重量を操縦桿を通じて手で感じていた。
 EVOLは艦艇やキャバリアの対空砲火を受けて数をすり減らしながらも突撃を止めない。そのEVOLの集団にマルガリータがロックオンマーカーを重ねた。
「ま、やること自体は前回と大差ないのよねぇ」
 ティオレンシアは操縦桿のトリガーキーに乗せた人差し指を引いた。左右背部のグレネードランチャーがドラム缶ほどもありそうな大きな薬莢を排出する。砲撃姿勢を取ったスノーフレークのアンダーフレームが発射の反動を受けて僅かに後ろに仰け反る。二つの砲弾が正面から迫るEVOLの群れに飛び込んだ。作動する近接信管。膨らむ火球。爆風を浴びたEVOLが弾け飛び、失速して落水した。
「敵の勢いも前回同様というわけねぇ……これだから無人機の類いは」
 幾ら友軍が榴弾で吹き飛ばされても直進を躊躇う素振りを見せる気配も無い。ティオレンシアは両眉を上げた。音速の域に達して海面を滑るEVOLはさながらミサイルだ。ともすればマシンガンとガトリングガンの四門を構えたスノーフレークはCIWSといったところであろう。
「グレネードの方はマルガリータに預けるわぁ……っと?」
 機関砲が火線を上げようとした手前で、ティオレンシアは右方向に身体が引っ張られるのを感じた。違う。身体ではなく機体が引っ張られているのだ。姿勢制御システムが働いているので転倒はしないが――直後に敵陣の奥底から荷電粒子も斯くやといった水の光軸が伸びてきた。
「あぁ、激浪の放水砲……」
 機体を引っ張っていたのは回避運動を取った重巡洋艦愛宕の遠心力だった。飛び散る海水の飛沫がスノーフレークの装甲を打ち付ける。ティオレンシアは豪雨に打たれるガラス窓のような音を聞きながら、超高圧水流の行先を目で追った。不幸にも軌道上に居合わせた日乃和軍のイカルガが押し流される間も無く砕けた。
「この砲撃がある以上、守勢に回ったらそれこそ詰みよねぇ」
 艦砲射撃が薄くなれば数に押し潰される。そうなる前に前座となるEVOLの群れを削り取り、激浪を引きずり出さなければ。接近中のEVOLが迎撃を潜り抜けて間近に迫る。スノーフレークは敵梯団密集地点へのグレネードランチャーによる砲撃を継続。マシンガンとガトリングガンを接近中のEVOLへと向けた。
「火力ガン振りでブン回すわよぉ」
 ティオレンシアが命じるまでもなくゴールドシーンが宙に黄金の筆跡を描き出す。カノ・ハガル・ティール、帝釈天印……描かれた文字と同じ形状の魔術文字がスノーフレークの周囲に浮かび上がって編隊を構成する。
「カンバンなしの大盤振る舞い、心逝くまで堪能してちょうだいな?」
 甲板を踏み締めるスノーフレークの四門がマズルフラッシュを焚いた。マシンガンのエジェクションポートから連なるようにして薬莢が飛び出す。ガトリングガンの銃身が高速回転して唸り声を上げる。黙殺・砲列の魔術文字も呼応して弾雨を散らす。
 対するEVOLの集団は一斉に触腕を伸ばした。愛宕を狙ったものかスノーフレークを狙ったものなのかは判然としない。だがいずれにせよ機関砲の弾雨と真正面から衝突し、深緑の血煙を海上に押し広げた。両者の火力が拮抗した――かのように思われたが、スノーフレークの放った弾丸は血煙を抜けてEVOLの元に殺到。翼や胴体や顔の無い白面を無作為に撃ち抜く。
「お釣りをどうぞ。幾らでも貰ってくれていいのよ?」
 ティオレンシアは操縦桿のトリガーキーを引き続ける。残弾を示すインジケーターには変動が見られない。というのも鏖殺・滅謡によって魔術文字を変換した弾丸が各砲に無限に供給され続けているからだ。さらには両足を愛宕の甲板に固定している限りは発射間隔が三倍。仮にガトリングガンの分間発射間隔が3000発だとすれば、それは嵐というよりも|ダイヤモンドダスト《金剛氷霧》であろう。
 押し寄せるEVOLをスノーフレークの弾幕が押し返す。機関砲の如き短い間隔で発射された榴弾が視界の横一面を爆炎の華で埋め尽くす。絶え間ない射撃の反動がスノーフレークを震撼させる。
「……こんな規模の大攻勢、二度目は無いでしょうからね」
 ティオレンシアは操縦桿越しに伝わる振動に両腕を強張らせながら呟く。大盤振る舞いと言えば日レ両軍にとってもそうに違いない。この作戦が終われば結果に関わらず甚大なる消耗が待ち受けているはずだ。弾薬、艦艇、キャバリア、そして人的資源。それらを湯水の如く注ぎ込まなければならない本作戦は、紛れもなく決戦であった。しかも作戦実施がザ・スターのゼロハート・プラント襲撃という宝くじの一等賞を引く確率にも並ぶ幸運あっての事だ。
「激浪さん激浪さん、早く出てきてちょうだいな」
 幸運が反転する前に。閉ざした双眸が見詰めるメインモニター上で、銃弾を浴びたEVOLが深緑の液体に変じた。愛宕の甲板上はスノーフレークと魔術文字が排出する薬莢で埋め尽くされていた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
【ファントム】
ラリー・ホークと出撃。

ラリーに日乃和軍の支援を任せて、自分はレイテナ軍を支援。
UCを発動し、疾風瞬身の超高速機動を活かしてレイテナ軍を襲っている敵機の群れへと突貫。
敵機のミサイルや触腕を足場として利用するか、日本刀『希光』で切断しながら接近し、敵機達の首を斬り落とす。
「こちらファントム1-0。スワロウ小隊へ。ご覧の通り、敵機の首を落とせば一撃で仕留められる。首を落としにくかったら、翼を狙って海へ落とせ。落とした奴らは水中のクレイシザー隊に任せればいい。そして敵に背後をとられないように、最低2機一組で行動しろ。部隊の利点を生かせ」
とスワロウ小隊にアドバイスを送る。
ラリーが無線で茶化してきたら
「仕事に集中しろ、大尉。まだこれは前哨戦に過ぎない。それに俺達は新しい力に慣れる必要もある。気を抜くな」
と言っておく。
「俺はまだ病み上がりなところもあるのでな。もう少しリハビリに付き合ってもらうぞ、エヴォルグ共」
と敵機の群れと再度突貫し、片付けていく。
アドリブ可。


ラリー・ホーク
【ファントム】
防人拓也と出撃。

レイテナ軍の支援を拓也に任せて、自分は日乃和軍の支援。
「おうおう、団体客がいっぱいいらっしゃるな。これは俺の十八番で盛大に迎えてやらないとな。爆炎術・火鳥乱舞!」
とUCを発動して、日乃和軍を襲う敵機の群れへと炎の鷹達を次々と飛ばして火達磨にしていく。
「こちらファントム2-0。日乃和軍へ。ホワイトホークが援軍に駆けつけたぜ! 大船に乗ったつもりでいな!」
と言いつつ、UCを更に発動して炎の鷹達を集約して巨大な炎の鷹を形成する。
「さぁ、敵機の群れの近くにいる友軍機達は一度退避しな! 火傷するぜ! 爆炎術・極炎鳥!」
と言い、巨大な炎の鷹を敵機の群れへと飛ばして一網打尽にする。
拓也がスワロウ小隊にアドバイスしたところを無線で聞いたら
「お? 准将殿がわざわざ直接指導か? スワロウ小隊の嬢ちゃん達、相棒のアドバイスはしかと胸に刻んでおくといいぜ。生き残る為に役立つ事ばかりだからな。ま、相棒は女運には恵まれないがな」
とわざとスワロウ小隊にも聞こえるように言う。
アドリブ可。



●ファントムホーク
 レイテナと日乃和の両軍艦隊の隊列は秩序を失いつつあった。戦艦の装甲すらも砕く激浪の砲撃が始まったからだ。されど砲撃を受ける事自体は予め想定された状況である。各艦は回避運動を強いられながらも砲撃を継続。鋼鉄の鯨達は乱れる重奏の調律に務めていた。
「サンダァァァ! ストォォォム!」
 エリザヴェートの裂帛と共にトールがミョルニルを翳す。槌頭から迸る稲妻がEVOLの群れを貫く。超高圧電流に打たれたEVOLは申し訳程度の電子部品を焼かれ、人体に近い構造の人工筋肉が麻痺し、飛行能力を奪われて失墜する。
「ふははは! 弱すぎるのじゃ! やはり人喰いキャバリアなど妾とトールの敵ではないのじゃ!」
 小さな暴君が高笑いを上げる。トールは赤いマントをはためかせながら次の敵集団へと猪突した。
「スワロウ01よりエリザヴェート陛下へ! 一旦補給にお戻りください! トールの推進剤の残りが……!」
 トールの後塵をテレサのアークレイズが追い掛ける。正面の視界内に入ったEVOLにリニアアサルトライフルを数発連射すると、撃墜を見届ける事なく直進。後続のスワロウ小隊のイカルガ達がアサルトライフルやビームソードで轢き殺してゆく。
 テレサ型レプリカントは一般的なヒト種と比較して戦闘適性――特にキャバリアへの搭乗適性が高いとされている。それは機体によって実証済みだった。
 テレサに与えられたアークレイズはBlock2だ。これは有人制御を前提にしながらも生身の人間の搭乗を想定していないバージョンである。重力加速度の負荷を搭乗者の身体的強度で克服。機体と搭乗者を機械的に接続する事で精密な情報処理と機体制御の相互フィードバックを実現した。搭乗者を制御装置と解釈してBlock1に匹敵する機動性と反応速度を獲得した機体――この機体を制御できる搭乗者は、人の形をした戦闘兵器なのだ。
 しかしそんなテレサであっても時間の経過と共に蓄積する消耗からは逃れられない。延々と押し寄せる敵はスワロウ小隊にも着実に負担を及ぼしていた。加えて艦隊陣地を好き勝手に飛び回るトールを追い掛けながらも支援しなければならない。もし同じ条件下で平然としていられる者がいるとすれば、それは生命の埒外にある者であろう。

 防人・拓也(奇跡の復活を遂げた|原初の魔眼《ゼロノメ》の開眼者・f23769)がレイテナの艦艇を飛び石にして海上を翔ける。
「あれはどういうんだ……?」
 思わず眉間に眉を寄せて呟いた。敵の群れを見つけては猪突するトール。それを追うスワロウ小隊。隊としては機能しているようだが、トールに引き摺り回されているとしか思えない。しかも派手に稲妻を撒き散らすトールがEVOLを引き寄せてしまっているらしい。
「ええい、数に押し潰されるぞ!」
 空中で身体を捻ってスワロウ小隊の方向へと転換。着地した艦艇の甲板を走って縁で跳躍。不意に視界を横切ったEVOLを足場にして更に跳躍した。EVOLは音速ないし音速に近い速度で飛ぶ。当然ながら凄まじい衝撃波を纏っている。拓也は疾風瞬身で身に帯びた風圧で衝撃波を相殺した。これが無ければすれ違った瞬間にボロ雑巾の如しとなっていただろう。
 EVOLの背を蹴るのと同時に、携えた希光の刃が鞘から一瞬だけ覗く。拓也が跳躍した背後では、EVOLが頭部の無い首から深緑の体液を噴出させながら海面へと吸い込まれていった。
 纏う風の流れが拓也の身体を一層加速させる。それは背負った馬鹿でかいブースターユニット――ストームルーラーが産み出す殺人的な加速を得たアークレイズにも迫る速力であった。
 トールを追うEVOLを追うスワロウ小隊。両者の交戦領域に到達した拓也は、スワロウ01のアークレイズに伸びる触腕の軌道上と交差した。一瞬の間を置いてから触腕が切り裂かれ、途端に本体からの制御を失い、切れた糸のように落下してゆく。
「こちらファントム1-0。スワロウ小隊へ、援護する」
 拓也は相手の応答を待たずに触腕を伸ばしたEVOLに翔んで背に足を付ける。希光が冷たい白を閃かせた。
「ご覧の通り、敵機の首を落とせば一撃で仕留められる」
 キャバリアの武器と比較して刃渡りで遥かに劣る刀であっても。拓也が跳躍する。EVOLの首が飛ぶ。体液が噴出する。頭部の無いEVOLの身体或いは機体が失速する。落ちる。
「首を落としにくかったら、翼を狙って海へ落とせ。落とした奴らは水中のクレイシザー隊に任せればいい。そして敵に背後をとられないように、最低2機一組で行動しろ。部隊の利点を生かせ」
 近場にいた戦艦ウォースパイトに着地した拓也が流暢に語ってみせる。
「ひっ!? またですか!?」
「また?」
「違う人!? いえ! えっと……あ、はい。スワロウ01よりファントム1-0へ、援護に感謝します」
 テレサは目を丸くしながら答えた。交戦域に生身で飛び込んできた猟兵――テレサはそこに一片の怯えと不穏を抱いていたのだが、きっと拓也は知る由もないであろう。
「お? 准将殿がわざわざ直接指導か?」
 通信に割って入ったのはラリー・ホーク(ホワイトホーク・f40715)だった。日乃和艦隊側で交戦中の彼は、現在EVOLから熱烈なアタックを受けている。だが声音にはそうとも思わせない余裕があった。
「スワロウ小隊の嬢ちゃん達、相棒のアドバイスはしかと胸に刻んでおくといいぜ。生き残る為に役立つ事ばかりだからな。ま、相棒は女運には恵まれないがな」
「そ、そうなんですか……? その、さすが|髑髏征伐猟兵《スカルヘッドキラー》ですね、あはは……」
 テレサは所在無さ気に苦く笑う。
「仕事に集中しろ、大尉。まだこれは前哨戦に過ぎない。それに俺達は新しい力に慣れる必要もある。気を抜くな」
「へいへいっと。了解ですよ准将殿」
 声音を鋭くして言う拓也にラリーは片手間に応じた。とはいえ仕事に集中しなければならないのは拓也も同じであった。こうして話している間にもEVOLはどんどん最前線を抜けてくるし、スワロウ小隊はトールを追い掛けながら火線を張り巡らせている。息をつく暇があるとすれば補給の時だけだろう。
「俺はまだ病み上がりなところもあるのでな。もう少しリハビリに付き合ってもらうぞ、エヴォルグ共」
 拓也は駆け出して甲板から跳んだ。トールに群がるEVOL。EVOLを砲火で迎撃するスワロウ小隊。人喰いキャバリアと銃弾が入り乱れる最中で疾風の一閃が走る。その度にEVOLの頭部が身体と別れを告げた。

 時期を同じくしてラリーは日乃和艦隊側で交戦の真っ最中であった。艦隊右舷を担う重巡洋艦の高雄目掛けて、EVOLが梯団を構成して襲い掛かる。無論ながら高雄も周辺のキャバリアも対空防御に当たっているが、EVOLの数が多すぎて全てを処理しきれていない。
「こちらファントム2-0。高雄へ。ホワイトホークが援軍に駆けつけたぜ! 大船に乗ったつもりでいな!」
 CXM-83-MHⅡ マイティ・ホークⅡが海面を引き裂いて飛ぶ。頭部の90mmバルカンポッドシステムが黄金の破線を走らせた。銃弾の軌道は高雄に向かっていた侵蝕弾と交差。緑色のガスが炸裂する。
「おうおう、団体客がいっぱいいらっしゃるな」
 横目で見たレーダーマップには赤い輝点が犇めいている。敵の本陣は遥か彼方の水平線上だが、既に日乃和艦隊の陣地内部にも相当数の浸透を許してしまっていた。
「おまけに砲撃がな!」
 ラリーは直感に任せて操縦桿を横に倒してフットペダルを踏み抜く。マイティ・ホークⅡがウイングストライカーパックの主翼フラップを可動させつつ横方向に急加速した。その数秒後、彼方より超高圧の水流が一直線に伸びてきた。射線上からは十分に距離を離していたが凄まじい余波だ。ネオキャバリニウム合金製の万能コーティングシールドで機体を庇う。盾の表面を打つ水音はまるで銃弾のようだ。
「高雄は!?」
 ラリーが声を飛ばした先では急速旋回して放水砲から逃れた重巡洋艦高雄の姿があった。戦艦の主砲にも耐えられる防塁すらも粉砕してしまうほどの威力だ。重巡洋艦は無論、キャバリアであればとびきり装甲が分厚いスーパーロボットでも無ければ耐えられるかどうか――この盾は耐えられるのか? ふと脳裏を過ぎったが、とても確かめるつもりにはなれなかった。そして激浪の砲撃の後を追うようにしてEVOLの集団が押し寄せてくる。
「これは俺の十八番で盛大に迎えてやらないとな!」
 ラリーは操縦桿から手を離して術印を結ぶ。マイティ・ホークⅡの周囲に火球が集い、それは鷹の姿に変じた。
「爆炎術・火鳥乱舞!」
 マイティ・ホークⅡがマニピュレーターを広げた右腕部を前方に突き出す。合計127にも及ぶ炎の鷹がラリーに命じられるままにEVOLへと襲いかかった。斯くや猛禽の如き荒々しく羽ばたき、周囲を乱れ飛んでEVOLに突進。高雄の周囲で幾つもの火球が膨張した。
「まだ来やがるか!」
 先頭集団の迎撃に成功するもラリーの表情は渋い。
 ゴンズイ玉というものがある。今ラリーの視線が向かう先から接近しつつあるEVOLの群れは、まさにゴンズイ玉のような密度であった。呑み込まれてしまえば高雄もマイティ・ホークⅡも保ちはすまい。周囲のキャバリアと高雄の機関砲が一斉に火力を集中させる。ラリーも炎の鷹を殺到させた。銃弾がEVOLを削り落とし、炎が焼き落とす。
「こりゃ出血大サービスだな」
 ラリーは歯噛みした。集中砲火で確実に数は減っているはずなのだ。しかしEVOL玉は密度が薄くなるどころか、後続を取り込んでますます増しているように思えたからだ。だったらどうする? より大きな群れで呑み込むか? ラリーはコンソールを叩いて通信機能を呼び起こした。
「敵機の群れの近くにいる友軍機達は一度退避しな! 火傷するぜ!」
 視界の中を飛んでいた日乃和軍のイカルガが引き潮のように一斉に後退する。マイティ・ホークⅡは右腕を空に向けて掲げた。そこに炎の鷹が集い、一羽の巨大な炎の鷹となった。両翼を広げたその大きさは、マイティ・ホークⅡの頭上を覆い尽くすほどであった。
「爆炎術・極炎鳥!」
 ラリーが叫ぶ。マイティ・ホークⅡが右腕を振り下ろす。巨大な炎の鷹が嘶きをあげて羽ばたく。そしてEVOL球へ真っ直ぐに驀進し衝突。緋色の爆光と熱波が球体状に広がった。爆風が海面をめくり上げ、波濤が高雄の船体を打つ。防眩フィルターを焼かんばかりの炎の光にラリーは腕で目を庇った。マイティ・ホークⅡも自動で防御体制を取り、シールドで衝撃波を遮蔽する。
「ふう、我ながら良い燃えっぷりだぜ」
 ラリーは深く息を抜く。爆炎の光と衝撃が去った後にはEVOL球は既に無い。有機物をふんだんに含んだジャイアンとキャバリアの断片が炎上して海面に落下してゆくばかりだった。ふと前回の火柱の記憶が蘇ったが、大丈夫だ。
「今度は相棒を焼いてないからな」
『ラリー? どうかしたか?』
「いやなんでも」
 通信装置越しに聞こえた拓也の怪訝な問いを他所に、ラリーは撃ち漏らした敵へとマイティ・ホークⅡを加速させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
「ご主人サマー☆敵が沢山いるよ☆此処は一つ春の幼女ま」
してたまるか阿呆!彼奴らの餌になるだけだ!

「ちぇー☆だけどトール君も久しぶりだね☆」
いや馴れ馴れしいなお前!?完全に向こうからすりゃ邪神だろうが!
ジャパニアもちょっかい出してただろう馬鹿野郎!

【情報収集・視力・戦闘知識】
敵機群の動きと味方の動き
トールの能力を解析
エリザヴェートの技能や癖も把握
…出来ればやりあいたくはねーな…
「ぷっさんや拓也君達の協力が得られれば若しかしたらトール君を助けられるかもしれないぞ☆メルシーの子のソーちゃんと同じ起源の名前だからね☆」

【属性攻撃・迷彩】
光水属性を機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源を隠蔽
【弾幕・空中戦・念動力】
UC発動
超絶速度で飛び回り念動光弾の弾幕展開
一気に殲滅する

「トール君☆手伝うぞ☆」
トールの攻撃に合わせての連携と防衛を行う
エリザヴェートに何かあったら不味いからな

【二回攻撃・切断】
鎌剣による連続斬撃を叩き込む
此奴ら…金目の物持ってねぇ!ふざけやがってぇ!

トールに息を合わせフォロー



●盗賊神の追憶
 徹甲弾、榴弾、ミサイル、ビーム、触腕、侵蝕弾、ハイプレッシャーウォーター……様々な弾種が飛び交う海上をEVOLの一団が滑空する。双翼を広げたそれらは海鳥の群れのようでありながらも、速度は音の域に達していた。
 EVOLが次々に触腕を伸ばす。枝分かれした触腕は蛇行の軌道を描きながら目標を追う。しかし触腕の切先が向かう先には何もいない。にも関わらず触腕は明確な意思を持って軌道を変え続ける。そして四方八方から伸びる触腕が一点に集束した瞬間、二度閃いた金色の光刃によって切り裂かれた。
「こいつら……やっぱし光学迷彩も赤外線ステルスも見切ってやがるな」
 準備期間に聞かされた座学通りの結果にカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)が眉間を苦く歪めて言う。光と水のマントを脱ぎ去ったメルクリウスは背中と脚部のタラリアから推進噴射の跡を引いて高速で後退する。
「こうも追っかけが多いと……! しかも金目の物持ってねぇ! ふざけやがって!」
 右腕部のマニピュレーターで保持するカドゥケウスが念動光弾を連続で撃ち出した。幾つかは追走するEVOLに着弾し、炸裂する衝撃と熱で翼や四肢を四散させた。
 因みに人喰いキャバリアの資源的価値は低いとされている。機体を構成する材質の殆どが生体素材で、申し訳程度の機械部品は殆ど流用が効かない。加えて遺骸を放置しておくと腐敗が進んで周囲に悪臭と疫病を撒き散らすらしい。
『此処は一つ春の幼女ま――』
「してたまるか阿呆! 彼奴らの餌になるだけだ! つーか前回それで怒られただろーが!」
 頭頂部に乗る雄鶏型のインターフェースにカシムは怒声を叩き付けた。メルクリウスは海面を捲るほどの速度で滑空しながらカドゥケウスを連射する。EVOLの集団は念動光弾を浴びて数をすり減らしながらも追い掛けてくる。侵蝕作用を持つ生体誘導弾と指向性を持つ触腕が無秩序に放たれた。カシムは舌打ち一つでメルクリウスにハルペーを構えさせる。
『邪魔じゃー!』
 通信回線から耳に痛い黄色い声が聞こえた。メルクリウスを追い掛けていたEVOLが横殴りの雷に打たれ、失速して海面へと落下する。すぐに赤いマントをはためかせたキャバリアが駆け抜けていった。
『エリザヴェート陛下! お待ち下さい!』
 続いてテレサの息切れ混じりの声が聞こえた。トールの後を一機のアークレイズと複数機のイカルガが追う。雷撃を生き残ったEVOLは銃弾の通り雨を受けて掃討された。
「夕立みてーだな……」
 メルクリウスを急停止させたカシムは開口してトールの背中を目で追った。
『トールくーん! 久しぶりー☆』
 メルクリウスがカドゥケウスを保持する右腕部を振る。
「いや馴れ馴れしいなお前!? 向こうからすりゃ完全に邪神だろうが!」
 カシムとしては気が気でない。というのもメルクリウスの言う事が全て正しいのであれば、かつてアーレス大陸に侵攻した巨神の一機がメルクリウスなのだから。そしてトールはアーレス大陸を防衛する側に居た巨神の一機であるらしい。トールにとっては古き仇敵との邂逅……出会い頭に雷を落とされてもおかしくはない。カシムは身構えながらもトールの動きを注視する。もうとっくに次の標的へと向かってしまっていた。
『あれー? トール君無視?』
 メルクリウスが頭部を傾げた。トールは一瞥もくれる気配も無い。
「とりあえず鉄槌制裁は食らわないようだな……」
 カシムとしては安心というほどではないにしろ、揉め事の発生は望まないところではあった。全く反応を示さないのもそれはそれで気味が悪くもあるが。本当に興味が無いのか、意図して無視しているのか、メルクリウスを前にしたエルネイジェの機械神の反応を思い返しても答えは見えない。
『ふははは! 束になって来ようが無駄じゃ! 人喰いキャバリア如きで妾とトールは止められぬのじゃー!』
 巫女たるエリザヴェートのご機嫌振りを反映するかのようにしてトールは戦鎚を振り回し落雷を降らせる。目に付いた敵を無作為に撃破して回っているらしい。援護に回るスワロウ小隊はトールの背中を狙うEVOLをアサルトライフルの弾幕で迎撃している。
「なんつーか、初々しいというか……」
 トールの挙動にカシムは片方の眉を上げた。
 エリザヴェートの操縦技術はっきり言って素人だ。
 まず接敵の仕方がなっていない。眼中の敵に真っ直ぐ突っ込んで行く辺りからしてレーダーすら見ていないように思える。直掩のスワロウ小隊との連携など微塵にも考えていないのだろう。
 そしてミョルニルで殴る。雷撃を飛ばす。攻撃するのはいい。だが敵が侵蝕弾を飛ばそうとも触腕を伸ばそうとも、機体に噛み付いてこようともお構いなしに攻撃を強行する。カシムは筋肉がぎっしりと詰まった頭蓋骨を想像した。
「それでも何とかなっちまってるのが、流石は機械神ってとこだな」
 ミョルニルで殴ればEVOLは潰れる。雷撃を飛ばせばEVOLは焼け落ちる。噛み付かれてもオリハルコニウム製の装甲は砕けない。誘導弾と触腕はトールを中心に生じる電流の衝撃波によって掻き消されてしまう。トールの性能自体はエリザヴェートの未熟さを補って余りある。そしてやはりトールは確実にオブリビオンマシン化していた。
「出来ればやりあいたくはねーな……」
 本能に任せて飛び回るトールの姿にカシムは呟きを漏らす。今では無いにしろ、いずれは戦わなければならない時が来るのだろう。巫女であるエリザヴェート諸共に。猟兵とオブリビオンは互いに滅ぼし合う宿命にあるのだから。
『若しかしたらトール君を助けられるかもしれないぞ☆』
「どうやって?」
 メルクリウスの声音は明るく、カシムの声音は疑り深い。
『ぷっさんや拓也君達の協力が得られればね☆』
「そりゃあ……だが神機みたいに行くもんかね」
 カシムにはオブリビオンマシン化した神機を反転させた実績がある。しかしそれはあくまでメルクリウスと起源を同じくする神機であって、アーレス大陸原産の機械神ではない。どちらも巨神の定義に当てはまるキャバリアではあるものの、似通う部分があれど異なる部分も多い。例えば……メルクリウスほどお喋りではないところとか。
『大丈夫☆ メルシーの子のソーちゃんと同じ起源の名前だからね☆』
「関係あんのかそれ?」
 カシムの声音は怪訝さを増した。ソーとトールは奇しくも異なる世界で同じ名前で伝わる雷神の名だった。しかし神機と機械神では語られる神話も違うのだろう。
「というかお前大昔にトールと会ってたんじゃないのか? どういう機械神だったんだ?」
 カシムが頭の上の雄鶏に尋ねる。メルクリウスの頭部が右に左に傾いた。
『どうって聞かれても……仲良しってわけじゃなかったからなー……』
「敵だったんだからそりゃそーだーろーな?」
『ソーだけに』
「うるせーよ!」
『うーん……ヴリトラ君ほどじゃないけど、暴れん坊だったような……?』
「当時の巫女は? どんな奴だったんだ?」
『メルシーわかんない! でもエリザヴェートちゃんに良く似たちっちゃい女の子だった気がするぞ☆』
「暴れん坊ってのはどっちの気質だったんだろうな」
 カシムは深く息を吐き出した。
「ま……どうであれ雇い主に死なれちゃ不味いわな。タダ働きなんて絶対御免だ」
 カシムがフットペダルを踏み込んで操縦桿を前に倒す。タラリアが生み出す推力を得たメルクリウスが突き飛ばされるように加速した。炸裂する海面を後に音速域まで達する。
『トール君☆ 手伝うぞ☆』
 メルクリウスがトールに纏わり付くEVOLと交差した。ハルペーが刹那に閃く。両断されたEVOLを置き去りにした衝撃波が吹き飛ばした。
『む? メルクリウスとやらか? 良きに計らえ!』
 トールがミョルニルを天にむけて突き出す。すると蒼天より幾つもの落雷が降り注いだ。落雷を受けたEVOLは途端に速度を落として錐揉みしながら海面へと落下する。
「良きに計らえって……」
 メルクリウスは雷が落ちる領域の外周を旋回しつつカドゥケウスから念動光弾を連射する。機関中の弾丸のように高速で発射された光球は運良く落雷を逃れたEVOLを貫き、深緑の液体を撒き散らさせた。
「ところでメルシー」
『ん?』
「さっきからトール君って呼んでるけど、あれ男なのか?」
『しらなーい☆』
「知らねーのに呼んでんのかよ!」
 メルクリウスがハルペーを十字に振るう。四分割されたEVOLの機体あるいは身体が飛び散って落下。白い水柱を上げる。
 その光景を睨むトールのセンサーカメラの動きに、気付いた者はいたのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
「ミスランディア、ついに人喰いキャバリアとの決戦の時です!
私設軍事組織ガルヴォルンの旗艦、機動戦艦ストライダー発進です!」
『何を言っておる。前回のおぬしの行動のせいで主動力炉が損傷したストライダーは修理中じゃろう』
「ああっ、そうでしたっ!」

ならば、キャバリアのスティンガーで――

『スティンガーも誰かさんの無茶のせいで大破しておるからの?』
「くっ、万事休すとはこのことですか!」
『なに、大丈夫じゃ。交渉して、おぬしにも役割を用意しておいたぞ。
しっかりと皆に迷惑かけた詫びをしてくるのじゃぞ』

というわけで、私はミニスカメイド服で日本武命の廊下を掃除していました。

「って、なんで大佐の私がこんなことしないといけないんですかっ!」

モップを投げ捨て――そこが波動荷電粒子砲の制御室の目の前であることに気づきます。

「よーし、私だって役に立つことを見せてあげましょう!
えっと、とりあえず適当に計器をいじって――と」

もう一発、強力な一撃を撃てるように、波動荷電粒子砲にエネルギーチャージを始めましょう。



●大和武命は二度撃つ
 東アーレス半島を望む海上の南東側に布陣する日乃和海軍派遣艦隊は、作戦時間が経過するにつれて着実に消耗を積み重ねていた。
 初動の波動荷電粒子砲とフェニックスミサイルの一斉発射で多数の敵機の撃破に成功した事は間違いない。その後の継続した艦砲射撃による面制圧も効果を発揮していた。しかしそれでも絶望的なまでの数的不利を完全に覆すには届いていない。
 艦砲の嵐を強引に突破したEVOLは、艦の防空に当たるキャバリアの数を少しずつ削り取る。凄まじい破壊力を有する激浪の砲撃は艦艇に回避行動を強いて陣形を乱し、結果として砲撃効率を低下させた。
「やはり押し込まれているな……」
 大和武命の艦長席に背中を預ける矢野が表情を動かさないままに呟く。彼我の展開状況を示すマップデータ上では、友軍艦隊の戦列の中を赤い輝点が飛び交っていた。
 矢面に立つ最前線の重巡洋艦は、駆逐艦とキャバリアの対空防御支援を受けつつ敵陣に火力を投射し続けてくれている。艦隊全体を俯瞰して見た陣形は乱れているが、組織的な戦闘力は依然として健在だった。時折では済まない頻度で恐るべき超高圧水流が海上を割りながら駆け抜ける。しかし臆する者はいない。作戦立案当初から数の不利も砲撃を受ける事も口にするまでもなく承知の上だったのだから。
 だから不利を埋め合わせるための用意を備えていた。波動荷電粒子砲、フェニックスミサイル、艦砲射撃、そして猟兵。前者三つは数カ月間に及ぶ綿密なシミュレーション通りの結果を示し、猟兵は各々が適切だと考える形での行動で戦線を支えている。事実、水平線の彼方に見えるEVOLの積乱雲は作戦開始直後と比較して深緑の色味を少しずつ薄めつつある。
 その上で数不利を克服するに至らない現状もまた想定の内であった。勝利の目算は元より不明瞭。勝利したとしても多大な代償を支払うは必至。だが最後に勝利していればいい。いま出血を躊躇えば、取り返しの付かない結果が待ち受けている――台風が頻発する季節になる前に決着を付けなければならない。レイテナ第一艦隊にそうと進言した矢野に、この作戦に対する抵抗感や迷いといった類いの感情は微塵にもなかった。
 だがやはり勝ち方というものはある。
 三連装衝撃砲が生じさせる発射の反動が大和武命の巨大な船体を揺らす。矢野はその振動を骨身に感じながらEVOLの積乱雲の向こう――ゴッドカイザー海岸を見据えた。
 恐らくは……いや、確実にエリザヴェート女王とブリンケン艦長は今回の戦いでゴッドカイザー海岸とその周辺地域の奪還も強行するだろう。残存する敵勢力の追撃という名目上で。
 揚陸作戦の準備はない。しかし戦力的には可能だ。何よりも猟兵を使える。
 逆に今を逃せば次の機会が巡ってくるとも限らない。ゼロハート・プラントからの増援がいつまで停止しているかなど誰にも予測出来ない。猟兵の再雇用も必要となる。
 戦力を温存する余裕はない。しかしゴッドカイザー海岸へ上陸するだけの余力は残さなければならない。そのためには戦線を押し上げなければ。艦隊の負荷を前線のみに集中させ、後衛に余力を残させる程度には。そのためには前線に大穴を穿ち、勢力図を押し広げる必要がある。
「もう一撃、撃てるものならばな」
 波動荷電粒子砲を。矢野の口から息と共に吐き出された叶わぬ願いに、艦長席の隣に立つ副長は顔を寄越した。
「白木艦長、波動荷電粒子砲は……」
「分かっているさ」
 矢野は首を横に振る。
 波動荷電粒子砲の冷却作業は終了している。ヒューズやその他部品の交換を終了した報告もとっくに上がっていた。しかし今回の戦闘で再度の使用は不可能である。発射には事前に長時間の予備充填が必要なのだ。しかも充填を始めれば艦の電力の殆どが食い尽くされてしまう。操舵すらおぼつかなくなってしまうほどに。激浪の砲撃が激しい現状では取るべきではないリスクだ。大和武命の絶大なる艦砲射撃能力を喪失してしまう事にも直結する。
 もし発射できれば戦況に文字通りに突破口を開ける。不可能という現実に目を瞑れば。要らぬ望みを頭の隅から追い出した矢先、艦長席の肘掛けの艦内電話が鳴った。
「……ジルコニウム艦長が、だと?」
 矢野の両眉が訝しく上がる。
 通信の送信元は波動荷電粒子砲の制御室だった。

 作戦開始の一週間以上前――。
 艦隊決戦。
 その言葉の響きを聞いた瞬間から、セレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)の全身は打ち震えていた。
「ミスランディア、ついに人喰いキャバリアとの決戦の時です!」
 赤い瞳を爛々と輝かせ、両手の拳を強く握って立ち上がる。
「私設軍事組織ガルヴォルンの旗艦、機動戦艦ストライダー発進です!」
 艦隊の決戦なのだ。ストライダーで艦隊の戦列に加わる事がどれほどの栄誉を持つものなのか。艦長であるセレーネの心臓が沸き立つ。
『何を言っておる。前回のおぬしの行動のせいで主動力炉が損傷したストライダーは修理中じゃろう』
 機械知性体が無情な現実を突き付ける。
「ああっ、そうでしたっ!」
 セレーネは思わず頭を抱え込む。後に艦隊決戦が控えていると知っていたらあんな無茶なんてしなかったのに。前回の戦闘でストライダーのブラックホールエンジンを引っこ抜いてしまった自分を引っ叩いてやりたい。後悔先に立たず。いまこそストライダーの火力が必要なのに。
「仕方ありませんね……ではスティンガーで出ましょう」
 艦艇が無ければキャバリアで出ればいいのだ。艦長としては誠に遺憾ではあるが、戦場の花形はやはりキャバリアである。
『スティンガーも誰かさんの無茶のせいで大破しておるからの?』
 ミスランディアの電子音声は無感情で冷ややかだった。
「くっ、万事休すとはこのことですか!」
 セレーネはまたしても頭を抱える。
『全部自分で招いた結果じゃろうて』
「うるさいですね!」
 露骨に嫌味たらしく言うミスランディアにセレーネは鋭い抗議をぶつけた。しかしストライダーも無いしスティンガーⅡも無いでは取れる戦術の幅が非常に狭まってしまう。
「ではナズグルを使いましょう」
 スティンガーⅡには劣るもののナズグルとて戦闘力は十分だ。扱いやすいというメリットもある。アサルトライフルを主武器にミサイルを積めば、艦隊戦でキャバリアに求められる役割は過不足なく果たせるであろう。
『それには及ばぬ』
「は?」
 切り替えたばかりの気持ちを冷たい電子音声に遮られ、セレーネは片眉を吊り上げた。
『大和武命の白木艦長と交渉して仕事を用意しておいたぞ』
「え?」
 日乃和の派遣艦隊の旗艦の艦長と交渉して何をやらせるつもりだ? 戦術アドバイザーか? セレーネの目付きが疑り深さを増す。
『艦長であるおぬしにしか務まらぬ仕事じゃ。皆に迷惑をかけた詫びをしっかりしてくるのじゃぞ』
「私にしか出来ないこと……?」
 特別感のある言葉が巨大戦艦の名前と旗艦という扱いに繋がり合い、小さな艦長の薄い胸をときめかせる。
「いいでしょう、ストライダーの艦長としての経験が活かせる仕事なら、私としても望むところです」
 セレーネは誇らしげに顎を浮かせて腰に右手を当てた。ストライダーが無くとも艦長である事に変わりはないのだ。故に経験が無駄になる事もない。斯くしてセレーネはミスランディアが手配した仕事を遂行するべく、意気揚々として大和武命に乗り込んだ。

 そして戦闘開始から暫しの時間が経過した頃――。
「やだ……なにあの子?」
「ガルヴォルンの司令だってさ」
「私設軍事組織の?」
「セレーネ大佐ですよね? ではストライダーの艦長なのでしょう?」
「スカルヘッドを撃破した戦闘があったでしょ? あの時にエンジンが大破したとか……」
「お気の毒に……」
「じゃあ|髑髏征伐猟兵《スカルヘッドキラー》の一人じゃないですか」
「その子がなんで艦内清掃なんて……しかもあの服装ってなに?」
「コスプレ?」
「ガルヴォルンの制服かも知れませんよ?」
 大和武命の艦内通路を行き交う船員達が声を潜めて囁き合う。
 囁きの対象であるセレーネは床を睨みながらモップを前後に動かす。
「なんでって……そんな事……私が聞きたいですよ……!」
 絞り出すような小声は怒りに満ちていた。セレーネは理不尽から湧き上がる憤怒を籠めて床面をモップで磨き続けた。その身に纏うのはガルヴォルンの誇りを体現する軍服などではない。憎たらしいまでに可愛らしいフリルがあしらわれた、スカートの丈が極端に短いメイド服であった。
「どうして私がっ……! こんなっ……! こんなっ……!」
 羞恥と怒りがモップの柄を握る両手に籠もる。ミスランディアの用意した仕事とはセレーネが想定していた内容とは全くの無関係であった。大和武命の清掃員――この仕事にホコリはあっても艦長としての誇りはない。
 セレーネはひたすら床を磨き続けた。床の汚れが落ちるたびに堪忍袋の緒が少しずつほどけてゆく。こんな素敵な仕事を用意してくれたミスランディアには後でしっかりお礼をしてやらねば。床面にミスランディアの顔面を思い描き、モップを押し付けて念入りに磨き上げる。
「なんで大佐の私がこんなことしないといけないんですかっ!」
 遂に限界に達したセレーネはモップを怒声ごと床に叩き付けた。虚しい高音が通路の壁に反響して駆け抜ける。艦内に伝わる振動からして戦闘は激しさを増しているのだろう。本来なら私も出ていたはずの戦場なのに……怒りに両肩が自然と上がる。
 ふと背後を振り向いた。鉄製の扉があり、隔てた向こうに人の気配を感じた。
「この辺りの区画はどこでしたっけ……?」
 一心不乱にモップ掛けをしていた内によく分からないところまで来てしまっていたらしい。扉に手を掛けると接触式のセンサーが反応して横方向にスライドした。
「ここは……」
 解放された扉から一歩踏み込んだ室内は艦橋に似た作りの空間だった。幾つもの操作盤や計器類が光を点灯させたり明滅させたりしている。数名の船員が設備の操作に当たっているが、集中しているのかこちらに振り向きもしない。前方と左右の壁には超剛性プラスチック製と思われる窓が一面に埋め込まれていた。窓の外は屋外ではなく、照明が灯る巨大な屋内空間であるようだ。
「機関長、冷却作業全て完了しました」
「ヒューズ交換も完了……ですけど今日はもう撃つ事はないでしょうけどね」
 船員はセレーネを機関長と勘違いしているらしい。背中で報告をあげてくる。セレーネは室内を眺めながら歩を進める。そして操作盤に手をつき、窓から外を覗き込んだ。
「これは、超重力波砲の砲身……?」
 目を丸くしたセレーネが小さな驚嘆を漏らす。
 窓の外の屋内には、巨大な筒が横たわっていた。その大きさは構造物というより建造物といった方が相応しい。ストライダーの超重力波砲と類似した形状の――とも一見思ったが、改めて見ると言うほど似ているとも思えなかった。だが全体の輪郭だけならおおよそ似通ったものだ。大抵の銃が似た形状を持つように。つまりはこれは巨大な砲熕兵器である――セレーネは口腔内に溜まった生唾を飲み下した。
 大和武命の艦首に備わる超大型のビームキャノン……確か波動荷電粒子砲と呼ばれていたか。これがそうなのだろう。セレーネは目にした巨砲にストライダーの超重力波砲の形を重ねる。ストライダーが無事だったら、人喰いキャバリアの密集地点に超重力波砲を撃ち込んでいたはずなのに。沸騰し始めた慚愧に拳を握る。
「波動荷電粒子砲のエネルギー充填開始……?」
「なんだと!? 誰がやってる!? 制御室!」
「こちら制御室! こちらでは操作していません!」
「充填率上昇中! 30パーセント!」
「艦の動力は!?」
「正常です!」
「どういうことだ!? じゃあどこから電力を供給している!?」
「本艦の動力と波動荷電粒子砲との接続は切れています!!」
「直接発電してるとでも!? 白木艦長に連絡しろ! 大至急だ!」
「待ってください! これは……制御室です! 制御室から供給が! 機関長!」
 騒がしさを増す背後に気付かず、セレーネは巨大な塔を横倒しにしたかのような砲身を眺め続けていた。
「私が撃っていたはずなのに……」
 握り拳と接触した操作盤に青い発光線が広がる。
「機関長……って、誰だこの子?」
「エネルギーの供給元……そこだぞ……!」
 悔やんでも仕方ない。この場に私に出来る事は何もないのだから。セレーネは深い溜め息を吐いて後ろに振り返った。それと同時に制御室の扉が開かれた。
「機関長! あの子が――」
「こんの小娘ぇぇぇ! ぬぁぁぁにをやっておるかぁぁぁーっ!」
「ひえええっ!?」
 迫る鬼のような顔をした作業着姿の初老の男。窓を震わせるほどの怒声と、竦み上がったセレーネの悲鳴が波動荷電粒子砲の制御室に響いた。

「つまり、セレーネ艦長が無意識にユーベルコードを使用した事で、波動荷電粒子砲へのエネルギー充填が行われたと?」
「は、はい……たぶん……」
 大和武命の艦橋に連行されたセレーネは、矢野が座る艦長席の前に立たされて詰問を受けていた。こちらを真っ直ぐに見つめてくる黒い瞳に嘘偽りは言っていないと目で訴える。計器に触れた際にユーベルコードの全力射撃を発動させてしまい、波動荷電粒子砲にエネルギーを充填してしまった。それ以外の事は何もしていないので答えようがないのだ。
「なるほどな、そういう手段もあったか……猟兵なら……」
 矢野は顎に手を当てて視線を床に落とす。
 セレーネは表情を固く強張らせた。不味い。この人は冗談が通じないタイプの人間だ。こんな冗談みたいな格好をしているのに追求してくる気配が無いのだから――いや待てよ。ミスランディアは大和武命の白木艦長と交渉して仕事を用意しておいたと言っていた。ではこの白木矢野大佐も自分がメイド服姿でモップ掛けする羽目になった理由の片翼を担っているのではないか? そう思った途端にセレーネは急に腹が苛立ってきた。
「ところでジルコニウム艦長、当時は清掃を行っていたとの話しだったが、その理由については?」
 理由も何もミスランディアとの交渉であなたが承認してやらせたんでしょうが! セレーネは叫びたい感情を呼吸を止める事で堪え、うっかり口走らないよう慎重に答えた。
「ミスランディアと白木艦長の間でそのような契約が結ばれていたはずですが?」
 隠しても隠しきれない棘が出てしまう。セレーネは矢野から逸らしたい目を無理矢理固定し続けた。矢野は細めた双眸の中で瞳を左右に動かして記憶を辿る。
「契約の内容は戦術アドバイザーとして本艦に同乗する事だったと記憶しているが……互いの認識に齟齬があったようだな」
 やや困惑した様子の矢野の表情を見て、セレーネは肩から力が抜け落ちるのと同時に溶岩のような怒りが腹の底から湧き上がってくるのを感じた。おのれミスランディア。
「しかしその件について論じているほどの余裕は無い。ジルコニウム艦長にも理解して貰えるだろうか」
「ええ」
 すぐにでも叩き付けたい怒りが声に乗ってしまう。
「砲雷長、現在の波動荷電粒子砲へのエネルギー充填状況は?」
「約70パーセントで停止しています」
「撃てるか?」
「前例がありませんのでなんとも……ですが機関長はあと一射だけなら行けると」
 矢野は「よし」と頷いてから顔をセレーネに向け直した。
「ジルコニウム艦長、波動荷電粒子砲の充填再開、並びに発射を頼めるだろうか?」
「充填と発射を……?」
 セレーネは面食らった様子で聞き返した。
「本来ならば一度の戦闘に一射が限界だったが、ジルコニウム艦長のユーベルコードでもう一撃の発射が可能となったようだ。この一撃を戦況の打開に繋げたい」
 矢野は言外に多分な意味を含めてセレーネの瞳を覗き込む。戦況の打開――セレーネはその言葉に重い疼きを胸に感じながら慎重に頷いた。
「了解です。やってみましょう」
「感謝する。砲雷長、席をジルコニウム艦長に」
 セレーネは砲雷長に促されて席に就く。コンソールパネルのハッチが開く。そこから拳銃型の発射入力装置がせり上がった。安全装置やトリガーの説明を受けながらグリップを慎重に掌握する。
「ジルコニウム艦長、行けるか?」
 矢野の重い声をセレーネは小さな背中で受け止めた。そして双眸に瞼を下ろして深く息を吸い込む。
「波動荷電粒子砲! ファイナルシークエンスへ移行!」
 目を見開くと同時に発した声が艦橋の空気を一変させた。発射入力装置を介して砲身にエネルギーを流し込むイメージを籠める。
「大和武命より全友軍へ! これより本艦は波動荷電粒子砲による攻撃を実施する! 直ちに射線上より退避されたし! 繰り返す!」
「充填率上昇開始! 80! 90! 100! 既定値超過! なおも増大中!」
「エネルギーバイパス解放完了!」
「目標方向へ艦首回頭始め!」
「波動荷電粒子砲! 砲身展開!」
「射線上に友軍ありません!」
「回頭完了! 測距完了!  全データ入力完了! 手動照準合わせ!」
「充填率150パーセント突破!」
「昇圧ビームキャパシタ、解放! 最終安全装置解除!」
「総員! 対閃光・衝撃防御!」
 艦全体がひとつの生物と化して淀み無く手順を進める。艦橋の窓にシャッターが降ろされ、見渡す景観がセンサーを介したモニター表示に切り替わった。
「発射5秒前! 3! 2! 1!」
 刻まれるカウントがゼロに達する瞬間をセレーネは息を詰めて待った。遠方に見えるのはEVOLが作り出す深緑の積乱雲。大和武命との間には青い海だけが横たわる。既に友軍は道を開けていた。
「撃てます!」
「波動荷電粒子砲! 発射ぁぁぁー!」
 セレーネは全身を声にして叫んだ。発射装置のトリガーを力いっぱいに引く。全長1000メートルを越える大和武命の船体を激震が伝う。防眩フィルターの存在意義を感じさせないほどの光量が艦橋のモニターから溢れ返った。
 艦首の巨砲から放射された莫大な荷電粒子が海面を突き進む。セレーネのユーベルコードで強化されたそれは、まさしく荷電粒子の波動だった。大気による減衰効果をものともしない。海面を抉り取り、軌道上のあらゆるものを消滅させてながら水平線の彼方まで伸びてゆく。余波の範囲は非常に広いらしく、掠めるどころか十分に距離を離していたはずのEVOLまで灼熱の波動を浴びて一瞬で消え失せてしまった。
 そしてEVOLの積乱雲に到達。ほんの僅かな間を置いてから海面が大規模な水蒸気爆発を起こす。白い城壁が生えてきたのかと錯覚するほどの水柱だった。着弾地点から円状に押し広げられた津波と衝撃波は大和武命の元にも届く。セレーネは椅子から転げ落ちてしまいそうな身体を支えながらモニターの先の水平線を睨んだ。
 炸裂した海水が降下を始めた。深緑の積乱雲に大穴が空いている。波動荷電粒子砲が洗い流した後には青白い電流が瞬くだけだ。動体は何も見当たらない。
「これで私だって役に立つことを証明できたでしょう!」
 セレーネが不敵に笑う。赤い瞳は一層爛々としていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【箱庭】

【ネルトリンゲン】で日乃和側に参加。空中空母で行くよ。

ま、レイテナのほうは伝説の巨神がいるし、
波動ガンや閃光の剣とかあるからだいじょぶだよね。

ということで、
『希』ちゃん、【D.Fシールド】展開。突っ込むよ!
『おねーちゃん、毎回脳筋過ぎない?』

『希』ちゃん、なんてこというの!
わたしの敬愛する艦長の戦法なんだよ!
帰ったら全シリーズ見せるよ?

ま、それは冗談として|空母《でかいの》が前にでれば、
盾や拠点にできるし、そのほかにも使い道あるからね。

みんななら上手に使ってくれるはずだよ。

あ、白羽井や灰狼のみんなも、足場や盾にしてくれて構わないから、ねー。
補給とか休憩も大歓迎だから、遠慮なく使ってね!

では、あらためて突撃!
『希』ちゃん、【粒子反応弾】用意。吹き飛ばしていくよ!

さてわたしはー。
【フレーム・アドバンス】でEVOLを加速。
【殲禍炎剣】にロックさせて、撃ち落としてもらっちゃおう。

錫華さん、進路クリアとかありえないけど出撃はおっけー!
アミシアさんと『希』ちゃんにタイミングもらって!


支倉・錫華
【箱庭】

あそこまで数がいると敵ながら壮観だね。

那琴さんと栞菜さんはだいじょぶかな?
なんていうか……やっぱり気になっちゃうよね。
機会があればまたしたいし。

と、それはあとで考えるとして、まずはあれをなんとかしないとだね。

アミシア、【ナズグル】に【フルアーマーシステム】と【フレキシブル・スラスター】をお願い。
スピード出せないから、そこは【チューニング】して、装甲5倍、移動力半分でいくよ。

武器は【CMPR-X3】と【歌仙】、【天磐】。

理緒さんが突っ込んで乱戦状態になったら発艦して、
ネルトリンゲンを使いながら囲まれないように立ち回ろう。

あ、あといい感じに火力も出してくれてるから、
誘導できるなら艦砲に巻き込ませてもらうのも手かな。

ん、では、ナズグル、支倉錫華。でるよ。

まずは半分浮き砲台のイメージでいこう。
アミシア、全弾一斉発射。
フルアーマーの火力を全部叩き込んだら、パージして格闘戦に移行。

相手の攻撃を装甲と天磐で受けながら、歌仙とライフルで近距離戦だね。
白羽井小隊とかと連携できるといいんだけどな。



●ネルトリンゲン・アタック
 セレーネのユーベルコードの出力補正を帯びて発射された大和武命の波動荷電粒子砲は、敵の梯団に文字通りの大穴を開けた。直極太の光軸が過ぎ去った後だけが不自然な空白の領域が出来上がっている。その空白を航路としてミネルヴァ級戦闘空母のネルトリンゲンが直進する。半身を海に浸しているのは敵機に船底に潜り込まれる事を防ぐためだ。
「D・Fシールドの出力は正面を70パーセントに固定! 進路そのまま!」
 艦長席の前に立つ菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が左腕を横に薙ぐ。将校用の白い制服に映える黒いマントがなびいた。
『おねーちゃん、毎回脳筋過ぎない?』
 M.A.R.Eの電子音声には本気を疑う色味が含まれていた。しかし管制制御は理緒の望む通りに行っている。ネルトリンゲンは艦の正面に半円球状の次元断層障壁を展開。ブースターノズルから派手に噴射光を焚いて直進し続ける。移動する大質量に大気が重く轟いた。
「希ちゃん、なんてこというの! わたしの敬愛する艦長の戦法なんだよ! 帰ったら全シリーズ見せるよ?」
『死中に活を見出す突撃戦法? それとも紡錘陣形?』
 ネルトリンゲンは接近してきた敵機や侵蝕弾を尽くD・Fシールドで跳ね飛ばす。その両舷を白羽井小隊と灰狼中隊を含む日乃和艦隊隷下のキャバリア部隊が追走する。戦線の押し上げを図るべく、矢野の命令を受けてきたらしい。陣形と呼べるほどの統率は取れていない。しかし波動荷電粒子砲の発射の後を進むネルトリンゲンと合わさって、城塞に撃ち込まれた破城槌のような様相を見せていた。
 しかし単艦で突出すれば当然敵の注意を引き付ける事となる。相手が人喰いキャバリアでもそこは同じであった。理緒はモニター上のレーダーマップに夥しい数の赤い輝点を見た。ネルトリンゲンの進行方向から急速に接近しつつある。
『敵反応多数接近中!』
「方角は?」
『10時と2時の間に大隊規模以上が複数! 左右からも中隊規模以下が複数!』
 光学センサーで拡大表示するまでもなかった。ネルトリンゲンの進路上の横いっぱいに深緑の動体が犇めいている。真正面から突っ込めばたちまち呑み込まれてしまうだろう。しかし敵が密集している点は理緒にとって脅威でもあれば好機でもあった。
「M.P.M.Sの1番と2番起動! 粒子反応弾の装填確認!」
『M.P.M.S1番2番起動完了! 粒子反応弾装填確認よし!』
 ネルトリンゲンの前部左右側面のハッチが開いてマルチランチャーシステムが顔を出す。セルの中に収納された大型ミサイルが頭を覗かせていた。
「自動照準始め! 目標は前方の敵集団!」
『両舷は?』
「錫華さんと白羽井や灰狼のみんなにやってもらおう」
『はーい。データ入力完了! 自動照準よし! 効果範囲出すよ! おねーちゃん、発射どうぞ!』
 モニターに立ち上がったサブウィンドウ内のレーダーマップにミサイルの軌道と爆発効果範囲が表示された。敵集団を十分に範囲内へと収めている。理緒はよしと頷いて息を吸い込んだ。
「粒子反応弾発射! 吹き飛ばしちゃえ!」
『粒子反応弾発射!』
 理緒の裂帛を最終確認とし、M.A.R.Eの復唱が発射入力となった。二基のM.P.M.Sの四つのセルから大型ミサイルが飛び出す。合計八本のミサイルはロケットブースターのノズルから伸びる白い尻尾を引き連れて敵の集団に飛び込んだ。ミサイルの本体側面のパネルが90度開いてピンクグローの粒子を放出した。数秒に満たない放出時間を終えて信管が作動。弾頭に詰め込まれていた炸薬が爆発した。解放されたエネルギーが散布済みの粒子と化学反応を起こし、無数の火球が泡のように連鎖して膨張する。熱と衝撃波がEVOLを引き裂く。あるいは千切る。火球が黒煙に変じると、EVOLの残骸が海面に落下して幾つもの水柱を上げた。
「やった!?」
 レーダーマップで見たネルトリンゲンの前方に犇めく赤い輝点が一斉に消失した。
『おねーちゃんやめて!』
 理緒がそんな事を言うから――というわけではないにしろ、後続のEVOLが黒煙の雲を抜け出てくる。しかし粒子反応弾で大多数が撃破された事に間違いはない。敵の密度は格段に低下している。ここからの主役はキャバリアだ。そう思い切った理緒は主役が通る道を拓くための仕上げに取り掛かる。
「残りはフレーム・アドバンスでちょちょいっと」
 理緒の右目を前髪の上から覆うスカウターが瞬く。するとネルトリンゲンを目指していたEVOLが急激な加速を得た。更にその内の何体かが跳ね飛ばされたかのように上昇。空から振ってきた極細の光線に撃ち抜かれて失速して落下軌道に入った。理緒のフレーム・アドバンスで加速させられた結果、僅かな上昇動作が急激な上昇動作になってしまい、殲禍炎剣の照射判定高度に達したのであろう。
「機関減速! D.Fシールドの展開域と出力をノーマルモードへ! 錫華さーん! 進路クリアとかありえないけど出撃はおっけー!」

 艦長様からようやくお許しが下りた。支倉・錫華(Gambenero・f29951)の深い吐息が狭いコクピットに充満した。飛行甲板上で待機していたナズグルを一歩前進させる。
「重いね」
 重低音なナズグルの足音。操縦桿越しに感じる鈍い重さ。分厚いダウンコートを何枚も羽織ったような息苦しい重さを錫華は五感で感じ取っていた。
『フルアーマー化していますからね』
 錫華の呟きにアミシアはさも当然と言わんばかりにナズグルの詳細な機体コンディションを表示した。装甲とミサイルランチャーで重装甲かつ重火力化したナズグルの輪郭は逞しく肥大化している。加えてチューニングで機動性を代償に装甲強度を五倍まで引き上げているのだから重量は増して当然であった。
『全システム正常。行けます』
『出撃どーぞ!』
 M.A.R.Eとアミシアに促された錫華がフットペダルを踏み込む。
「ん、ナズグル、支倉錫華。でるよ」
 ナズグルのフレキシブル・スラスターのノズルが噴射光を吐き出す。重い機体が浮き上がりゆっくりと横滑りしてネルトリンゲンの飛行甲板から離れた。増加した重量に振り回されるような感覚を感じながら、錫華は機体を旋回させてD・Fシールドの展開領域外へと出た。
「ネルトリンゲンは……平気そうだね」
 侵蝕弾が着弾する度に半透明の殻が明滅を繰り返す。その光景を横目に入れた錫華は正面の敵集団へと意識を傾けた。
『11時と2時の方向より敵機が接近中。いずれも小隊規模』
「重いからさっさと撃っちゃおう」
 モニターに投影された敵にロックオンマーカーが次々に重なる。全ての敵を捕捉するまでに二秒とかからなかった。
「全弾発射」
 錫華は短く言い切るのと当時に左右の操縦桿のトリガーキーを引いた。ナズグルの全身に備わるランチャーからマイクロミサイルが解き放たれた。無数の小型誘導弾は白線の尻尾を引いて敵集団に殺到。炸裂するのに合わせて爆炎を膨張させる。衝撃波と金属片がEVOLの集団を引き裂いた。
『全ミサイル残弾無し。パージします』
 アミシアが空になったランチャーを投棄し始めた時には既にナズグルは動き出していた。天磐でコクピットブロックを庇いながら後退。CMPR-X3を連射する。フラッシュハイダーから伸びた破線は爆炎を抜け出てきたEVOLを撃ち抜く。代わりに触腕が飛んできた。
 後退加速するナズグルの装甲と天磐の表面を触腕が滑った。オレンジ色の火花が散るもナズグルは僅かにしか身じろぎしない。ユーベルコードで一層強固となった重装甲を貫くには至らない威力だった。
 ネルトリンゲンを背にしたナズグルは、接近するEVOLから順当にCMPR-X3で撃ち落とす。触腕は機体の装甲で十分受け止め切れるし、侵蝕弾はネルトリンゲンのD・Fシールドの内部に入ってやり過ごす事ができた。あとは攻勢に転じるための数があれば――。
『フェザー01より白羽井小隊へ! ネルトリンゲンが開いた道を押し広げますわよ! 全機! わたくしに続きなさい!』
 ネルトリンゲン左舷後方より白羽井小隊が上がってきた。ナズグルに引き付けられていたEVOLは横殴りのマイクロミサイルと銃弾の暴雨を浴びて細切れとなってしまう。僅かに残存した個体は直後に駆け抜けたアークレイズ・ディナがブレイクドライバーで叩き落とし、イカルガがビームソードで両断する。
「那琴さんと栞菜さん? だいじょぶかな?」
 アークレイズ・ディナと白羽井小隊の中でも明らかに挙動が機敏なイカルガ。その二機を錫華は目で追う。二機に限る事ではないが敵に向かう姿は猛禽の如く荒々しい。
『もーむりー! つかれたー! おつかれえっちして!』
『フェザー01よりフェザー02! 慎みなさい!』
 栞奈の悲痛な叫びに那琴が怒声を叩き付ける。
「機会があればまたね」
 錫華が通信越しに囁くと那琴が激しく咳き込んだ。
『ならアタシも混ぜてもらおうか。散々働き詰めで疲れてるんでね』
 伊尾奈のハスキーな声音と共に灰狼中隊がネルトリンゲン右舷後方から上がってきた。うるさく纏わり付くEVOLの群れが銃弾とミサイルによって一瞬で押し流される。敵集団を掃討した灰狼中隊は扇状の隊列を構築。ネルトリンゲンを背中にして弾幕を展開。じわじわと制空領域を押し広げる。
「あ、白羽井や灰狼のみんなも、足場や盾にしてくれて構わないから、ねー。補給とか休憩も大歓迎だから、遠慮なく使ってね!」
 艦長席にゆったりと腰を据えた理緒は手元のパネルに触れて白羽井灰狼両隊との近接データリンクを結ぶ。ネルトリンゲンは通常の対キャバリアミサイルを装填したM.P.M.Sで忙しく火砲を上げている。
『へぇ、そうかい。ならお言葉に甘えさせてもらうとするかね』
 伊尾奈のアークレイズ・ディナが編隊を離れてネルトリンゲンに接近。肩部から伸びるアンカークローを飛行甲板に突き刺した。するとすぐに反転して元の隊列位置へと戻る。
『おねーちゃん! エネルギー吸われてるけどいいの!?』
 M.A.R.Eの言う通りにネルトリンゲンの電力が低下し始めた。航行に支障を及ぼすほどではないが、レベルゲージで見る下がり幅は急激で異常だ。
「ん? ああ、そういうこと? どーぞどーぞ」
 理緒は伊尾奈の目論見をおおよそ察していた。そしてネルトリンゲンの右舷側から敵集団へ向かって極太の光軸が伸びた。一射で多数の敵集団を薙ぎ払った光軸の元は伊尾奈機だった。
『マスターライン!? なるほど……フェザー01よりネルトリンゲンへ! わたくしもエネルギーを頂きたく!』
「どーぞどーぞ」
 理緒はなんだか電池みたいだなと胸中で零して二つ返事で了承する。
「ああいうのあるなら初めから使ってくれればいいのに」
 錫華はネルトリンゲンに向かう那琴機を背にしてナズグルを突出させる。ネルトリンゲンという壁から離れたナズグルには当然にして敵の攻撃が集中した。CMPR-X3の火線で応射し、歌仙の刃で引き裂き、重装甲と天磐で受ける。
『錫華さーん? 大丈夫ー?』
「気にしないで」
 錫華は栞奈の通信にそっけなく応じた。数値化された装甲強度が少しずつ削り取られていく。もう少し敵を引き付けていれば――レーダーマップ上で那琴機の輝点が急加速した瞬間、錫華はナズグルを後退加速させた。一個大隊分はあろうかと思われるEVOLの集団がナズグルを追い掛ける。無数の触腕と侵蝕弾が迫る。そして錫華が首を横に振り向ける。そこには青白い光を蓄えたブレイクドライバーの切っ先を敵集団に向けるアークレイズ・ディナがいた。
『マスターライン! 発射いたしますわよ!』
 ネルトリンゲンからエネルギー供給を受けてたっぷり蓄えた荷電粒子。それが那琴機が構えるブレイクドライバーより解き放たれた。海面上を駆け抜ける極太の光軸。押し流されて消滅するEVOLの集団。マスターラインの照射が終わった後には大きな穴が開いていた。
『フェザー01よりナズグルへ! 敵の誘導に感謝いたしますわ!』
「ん、たまたまだよ」
 錫華は一瞥もくれずに機体を加速させる。残るEVOLに向かってCMPR-X3の連射を撃ち放つ。ネルトリンゲンが広げた突破口は、少しずつではあるが拡大されつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
【イェーガー社】
今回はアンサズ連合安全保障理事会からの密命──「トールの監視」が任務に含まれています
故に我々は敢えてイェーガー・ミリタリー&セキュリティ社を間に挟み本任務を受注
イェーガー社の現地コントラクター3名、並びにバックアップスタッフと共に任務に当たります

ヘルメスのバックアップをもとに出撃
随伴にはクレイシザー、そしてプラチナムドラグーンを展開
テレサ少尉のスワロウ小隊の援護に回ります

エリザヴェート陛下、機体の具合は如何でしょうか
私もトールの修理に最善は尽くしましたが、良好であれば重畳です
あ、ガイアス大公国のヴィルヘルム大公より言伝を預かっております
「陛下とレイテナの精強なる戦士達に、勝利の栄光を」とのことでした
我々もアンサズ連合を代表してお手伝いさせていただきます

セラフリーダーよりスワロウ01以下スワロウ隊、指定座標へ
こちらのクレイシザーがAEGIRで抑え込みます
タイミングを合わせてスレイプニルとSOL RAVENで一気に片付けましょう
撃ち漏らしは……ベルゼさん、お任せします


ベルゼ・アール
【イェーガー社】
確認するわよ。
イェーガー社のお仕事だけど「情報班の特務エージェント」ではなく、あくまで「戦闘班」として私が出るわけね?
OK! きっちりお仕事しましょうか!
それじゃ……TYPE[JI-L]、出るわよ!

私はもちろん牽制と撹乱。敵の只中に飛び込んでFUGIN&MUNINで撃って撃って撃ちまくる!
VARAFARで状況は確認できてるわ。イヴ、私とジェイミィ、そして友軍にデータリンクを!
怪盗らしく敵の視線をこっちに釘付けにしつつ、敵をクレイシザーの防衛網に誘導するわよ。派手に暴れるのは得意なのよね!
TYPE[JI-L]最大のウリは空中機動力と二丁拳銃の制圧射撃!なまっちょろい生体ミサイルは片っ端から叩き落とすわよ!
もちろんジェイミィの撃ち漏らしもきっちりカバーするわ。ミサイル攻撃で体勢を崩したところにビームの雨あられをプレゼント!
それでも近寄ってくる根性ある敵には……蹴りで弾き飛ばす!
踊り子に手を触れるのはご法度よ!


イヴ・イングス
【イェーガー社】
さて、お仕事ですね。
私は管制を担当します。前線でお二人が大暴れする以上、私は後方でオペレートをしっかり行うというわけです。
もちろん、トール含め各機体の状況もきっちり確認させてもらいますよ。
オリハルコンドラグーン、行きます!

飛竜形態で前線よりやや離れた位置でガンナードームユニットを背面に装着。広域レーダーを起動し索敵と情報収集に務めます。ヘルメスと共にカバーしつつ味方を電子戦で支援。あ、ベルゼさん4時方向に敵ですよ!

スワロウ小隊の皆様にも捕捉中の敵の状況をステータスオープンで情報開示し連携。VARAFARやWHITE KNIGHTからの情報も全部こっちで受け取って処理しますよー。電脳生命体にかかればこれくらいお茶の子さいさいです。

あ、そうだ折角ですからこっそりトールのステータスも拝見しておきましょう。O事案となりうる異常があればすぐに知らせる体勢を作っておかねば。今のところ大丈夫そうなので、我々も余計な手出しはすることなく目の前の人喰いキャバリアに集中できますけどね。



●雷神の監視者達
 南東側で日乃和艦隊が局所的な縦深攻勢に出たのと時期を同じくして、南側のレイテナ艦隊の戦況は堅実に苦しい推移が続いていた。
 EVOLの圧力を一身に受ける最前線からやや後方。揚陸航空母艦ヘルメスを背にして海上に滞空するARL-YGCV-23 オリハルコンドラグーン "EVE"のレドームがゆっくりと回転する。飛竜型の機体から放出されたレーダー波が戦域に円形に拡大し、友軍敵軍問わずあらゆる物体に反射して放出元へと返ってくる。
 モニターとコンソールの光を浴びてイヴ・イングス(RTA走者の受付嬢・Any%・f41801)の顔がコクピット内の薄暗闇に浮かび上がった。戦域を俯瞰するレーダーマップ上で無秩序に動き回る輝点を目が追う。
「ステータスオープンっと」
 モニター上に新たに立ち上がったウィンドウに表示されたのはトールの姿。様々な機体情報が滝のように流れ落ち、ドラゴンプロトコルの電脳という滝壺に吸い込まれた。
「機体のステータスに既存情報と相違は無し。状態も良好。観測上ではO事案となりうる不審な挙動も見受けられず……」
 オブリビオンマシン化しているという一点を除けば。
 すぐにでも報告しなければならない点があるとすれば、大人し過ぎて返って不審という点だろうか。トールによるエリザヴェートへの精神汚染がどれほど進行しているのかも定かではない。
 オブリビオンマシンは人々の精神を蝕んで破滅的な思想に走らせる。
 そうして戦火を拡大させて世界の滅亡……猟兵とオブリビオン勢力が言うところのカタストロフに至らしめるのだろう。
 もしエリザヴェートが既にオブリビオンマシンの狂気に染まっていたとしたら?
 鯨の歌作戦はカタストロフの結果を生み出すための経緯なのでは?
「今のところは大丈夫そうですけどね」
 検証する手立ての無い憶測をイヴは鼻息で吹き消した。
「こちらは目の前の仕事に集中させてもらいましょう」
 視覚野に散らばった彼我の位置情報をネットワークを通じて友軍のデータリンクに反映させた。より精密な情報はイェーガー社の二人が集積してくれている。海上という遮蔽物が殆ど存在しない環境も相まって、イヴの目には敵集団の動向が手に取るように把握出来る。当然ながらトールと随伴部隊であるスワロウ小隊に接近する敵についても例外ではない。
「ジェイミィさんベルゼさん、トールの4時方向から新たな敵が接近中ですよ! 小隊規模2! 中隊規模1!」
「分かっておりますって!」
 ベルゼ・アール(怪盗"R"/Infected Lucifer・f32590)は玉虫色に光を反射するスポーツサングラス型のHMDにレーダーマップと敵集団の進路予測を見た。そしてフットペダルを踏み込む。JI-Lが突き飛ばされたかのように急加速した。
『了解。急行します』
 JI-Lの後を追ってジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/Mechanized Michael・f29697)のHMCCV-CU-01[M] TYPE[JM-E]"MICHAEL"がスラスターから光を炸裂させた。左右に展開したプラチナムドラグーンも続く。海面から半身を覗かせていたクレイシザー・アンサズ仕様も潜行して海中から後を追う。
「確認するわよ。イェーガー社のお仕事だけど、私の扱いは『情報班の特務エージェント』ではなく、あくまで『戦闘班』になるのね?」
 ベルゼの念入りな声音が秘匿通信越しにジェイミィに問う。
『ええ。今回はアンサズ連合安全保障理事会からの密命──『トールの監視』が任務に含まれていますので』
 故にジェイミィとベルゼとイヴ達はイェーガー・ミリタリー&セキュリティ社の名義で依頼の契約を結んだ。アンサズ連合が抱える様々な政治的事情と外交という隠れ蓑で密命を覆い隠して。
『もっとも、トールを気にしているのは我々だけではないようですが』
「それはねぇ?」
 ベルゼはどことなく視線を飛ばした。抱える思惑はそれぞれにしてもトールに光る目は二人と一機分では済まないらしい。猟兵とオブリビオンは根本的に滅ぼし合う関係にあるのだから当然と言えば当然なのだが。
「そのトールなんですけど、元気いっぱいですね。スワロウ小隊が振り回されてますよ」
 イヴが見るレーダーマップ上では敵を示す輝点にトールを示す輝点が突撃していた。それを複数の輝点が必死に追い掛けながら周囲の敵を掃討する。映像が無くともスワロウ小隊の獅子奮迅振りには溜息を禁じ得ないほどだった。
「接敵10秒前です。まずは敵の撹乱を」
 MICHAELとJI-Lが海面を裂いて驀進する先で青白い電流が弾けた。
「ええい! 羽虫のように飛び回りおって! 鬱陶しいのじゃー!」
 EVOLに包囲されたトールがミョルニルを振り回す。全方位から激しい攻撃を受けているものの撃破される気配はない。触手や侵蝕弾は放電で逐次迎撃し、飛び掛かってきたEVOLはミョルニルで打ち返す。
「エリザヴェート陛下! 突出し過ぎです!」
 テレサが汗ばむ額を手の甲で拭いながら声を張る。スワロウ小隊は敵集団によってトールと分断されていた。隊長機のアークレイズを中心に編隊を組むイカルガ達が突撃銃の火線を正面に集中させて突破を図る。
「ベルゼさんはトールの援護を。ジェイミィさんはスワロウ小隊の援護を。敵を引き離しつつ所定のポイントまで誘導を」
「了解! 派手に暴れるのは得意なのよね!」
『了解。ではヘルメスに支援攻撃を要請します』
 MICHAELとJI-Lが機体の姿勢を傾斜させてそれぞれの進路に分かれた。プラチナムドラグーンもまたMICHAELの後に続く。海中に潜むクレイシザーはいつの間にか気配を消していた。

 先んじてJI-Lが仕掛けた。トールを包囲する敵集団の合間を舞踏するようにすり抜ける。小刻みに噴射したスラスターの光はドレスの裾に似通っていた。四肢の動作で機体をしなやかに旋回させる挙動は曲芸の域とも言えたであろう。
「さあ! こっちに食い付きなさい!」
 左右のマニピュレーターで保持するFUGINとMUNINがプラズマビームの弾丸を連続して放つ。射抜かれたEVOLが海面に落ちて水柱を上げた。
 群れの中央に出現した新手にEVOLの注意が向かう。ベルゼの耳朶を警報音が打つ。誘導弾の警報だった。
「そんな生っちょろいミサイルじゃあね!」
 ベルゼはJI-Lに急制動を掛けて即座に後退加速させた。群れを抜け出たJI-Lを夥しい数の誘導弾が追う。JI-Lはバックブーストを維持したままFUGINとMUNINを撃ち散らす。ビームを掠めた誘導弾が破裂して濃い緑色のガスを咲かせた。
「こぉれぇー! 待たぬかぁー!」
 JI-Lを追い掛けるEVOLの集団をさらにトールが追い掛ける。
「そっちも付いてくるの?」
 ベルゼは思わず顔を顰めた。侵蝕弾を二丁拳銃で撃ち落とし、鋭い触腕を踊りを演じるかのようにしなやかな挙動で躱しながら引き続ける。追撃するEVOLの数は当初よりも確実に膨れ上がっていた。

 一方のジェイミィはスワロウ小隊と合流し、多数の敵を誘引しつつイヴの指定するポイントへ後退していた。スワロウ小隊と戦列を並べたMICHAELはシールドで機体を防護しつつ応射を見舞う。プラチナムドラグーンも迎撃に加わる。EVOLの群れの圧力は一層重さを増していた。
『セラフリーダーよりスワロウ01へ、継戦は?』
「スワロウ01よりセラフリーダーへ! 問題ありません!」
 テレサの声は焦燥の色を含んではいるが力強くもあった。焦りは戦況よりもエリザヴェートが気掛かりで仕方ないが故なのだろう。他の隊員についでもさして変わらない様子であった。スワロウ小隊の隊員は皆スワロウ01と全く同じ姿格好をしている。コールサイン以外に判別する手段がない。
「ジェイミィ! 連れてきたわよ! オマケ付きでね!」
 ベルゼのJI-LがFUGINとMUNINに弾倉を叩き込む。もう何度目の装填になったか分からない。
「まーたーぬーかー!」
 そのオマケ――トールがエリザヴェートの黄色い声と共にミョルニルを翳した。拡散した稲妻が暴れまわってEVOLの群れを引き裂く。
『これはエリザヴェート陛下、機体の具合は如何でしょうか』
 ジェイミィが問う。
「おお? ジェイミィか?」
『私もトールの修理に最善は尽くしましたが、良好であれば重畳です』
「苦しゅうない! 実に調子が良いぞ! 普段以上に雷も冴え渡っているようじゃ!」
 傷だらけではあるが消耗した様子が見られないトールに、ジェイミィは電脳の内で違いないと頷いた。
『敵に塩を送ったな』
 電脳内でWHITE KNIGHTの嫌味たらしく呟く。
『いいですから無人機の制御に専念していてください』
 ジェイミィはぞんざいな語り口で応じた。
『それと、ガイアス大公国のヴィルヘルム大公よりエリザヴェート殿下への言伝を預かっております』
「ほう? なんじゃ?」
『陛下とレイテナの精強なる戦士達に、勝利の栄光を……との事でした。我々もアンサズ連合を代表してお手伝いさせていただきます』
「さようか! では妾と将兵達の勇敢なる戦いぶりをヴィルヘルム大公に伝えるがよい! ジェイミィも存分に戦うのじゃ!」
 エリザヴェートの上機嫌を反映するかのようにトールがミョルニルの頭から稲光を走らせる。
「それはいいんだけど! そろそろしんどいんじゃない!?」
 ベルゼがHMDの奥で目元を歪めながら声を張る。敵を引き付けたはいいが圧力を抑えきれなくなってきた。前方の海上を深緑に染めるEVOLの群れにJI-LはFUGINとMUNINを交互に発射する。一機落とす度に十機増えている気がした。
『そうですね。では――』
「敵集団が指定座標に到達しました!」
 ジェイミィの言葉をイヴの声音が鋭く遮った。
『仕上げと参りましょう』
『全クレイシザー、攻撃を開始する』
 WHITE KNIGHTの指令を受けたクレイシザー達が海中より上昇。機体の上半分を海面から覗かせる。ジェイミィ達を追っていたEVOLを四方から包囲する位置取りだった。
 背中の六連装ランチャーがハッチを開く。内部から鏃が発射された。鏃はワイヤーを引き連れてEVOLの群れの中を通り過ぎた。そして他のクレイシザーが射出したワイヤー同士が交差し合って網を形成する。EVOLの群れは網にかけられた魚、あるいはフェンスに阻まれた暴徒のように行き詰まった。
「レーザー誘導開始! ヘルメスへ! 攻撃を開始してください!」
 イヴのオリハルコンドラグーンが入力したデータが最後の合図となった。イェーガー・ミリタリー&セキュリティ社のバックアップスタッフが操艦するヘルメスのVLSから何本ものミサイルが立て続けに飛び出す。ミサイルは曲線を描いて90度進行角度を変えると、轟音を伴って絡め取られたEVOLの群れへと向かう。そしてMICHAELのMMX-2900から解き放たれたSOL RAVENが弾頭を分裂させてEVOLに襲い掛かる。
 連鎖して膨れ上がる爆炎。海面を波立たせる熱波。ヘルメスとMICHAELのミサイルは、逃げ場の無いEVOLの集団を灼熱と金属片が織りなす衝撃波で掻き消した。
『撃ち漏らしは……みなさん、お任せします』
「スワロウ01より小隊全機! 残存する敵機を迎撃してください!」
「ビームのおかわりはいかが!?」
 既に横一列に隊列を組み直していたスワロウ小隊が突撃銃を一斉掃射する。JI-Lもビームハンドガンをフルオートで連射した。プラチナムドラグーンも弾幕形成に加わる。ミサイルの攻撃を逃れた、あるいは後続のEVOLは黒煙を抜け出た先で銃弾の洗礼を受ける羽目となった。
「見事じゃ! 後は妾とトールに任せるのじゃ!」
 さらにトールの荒ぶる雷が襲い掛かる。しかし天文学的な幸運か数の力か、面の弾幕も雷さえも掻い潜った一機のEVOLが急速接近する。開いた顎の向かう先はベルゼのJI-Lだった――が。
「踊り子に手を触れるのはご法度よ!」
 脚部スラスターの加速を得た強烈な蹴撃がEVOLの白面を直撃した。EVOLは飛来してきた方向へと弾き飛ばされ、ゆるやかな弧の軌道を描いた末に白い水柱を立てて海に没した。そして海面の下で待ち構えていたクレイシザーの超振動クローによって裁断された末に機能を完全停止するに至った。
『さて……初めの頃と比べれば随分と目減りしてきたようにも思えますが』
 ジェイミィは敵の取りこぼしをあしらいながらゴッドカイザー海岸の方角に視覚を向ける。望遠拡大表示した水平線の向こうに見える人喰いキャバリアの積乱雲は、抜けるような夏の青空が透けて見える程度には密度を薄めていた。
「後は激浪ですね。こちらではまだ動きを捉えられていません。ですが前衛戦力が大きく削がれた今、長距離砲撃ばかりを続けてもいないでしょう」
 レーダーとデータリンクから集積された情報にイヴは感覚を研ぎ澄ます。
 その後に予感はすぐ的中することとなった。

 |鯨殺し《ホエール・キラー》が動き出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『機動殲龍『激浪』』

POW   :    戦域一掃機構『激浪』
【背部激奔流砲と口内精密奔流砲】から【圧縮した水の大奔流】を放ち、【命中時大幅に対象を戦場外まで吹き飛ばす事】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    国土洗浄機構『国鳴』
【周囲の水を艦装化し全武装の一斉砲撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を一時的に海洋と同等の環境に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    無限起動機構『満潮』
【周囲の水を自身に変換する修復形態】に変身する。変身の度に自身の【生命力吸収能力を強化し、水の艦装化限度】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。

イラスト:右ねじ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●睥睨する碧眼
 交差する荷電粒子の光線。
 膨張と消滅を繰り返す火球。
 ゴッドカイザー海岸の南と南東の海上で瞬く戦火を、白い前髪の隙間から紺碧の瞳が睨めつけていた。
「やはりEVOLだけではイェーガーを止められませんか……」
 蠢動する赤黒い肉塊に包みこまれた|テレサ《●●●》の唇から遺憾が籠もった声音が漏れる。
「温存しておきたいところでしたが、激浪を前面に出すしかありませんね」
 猟兵の出現は想定済みの状況ではあった。しかしEVOLの前衛部隊が日レ両艦隊に与えた損害は、想定の下限をさらに下回る結果に終わった。
 視覚野と繋がった外部の目で見る遠方の戦域では現在も交戦が継続している。|テレサ《●●●》は猟兵が操るキャバリアの一機一機、或いは一人一人を凝視し、記憶に刻み込む。
「あの時も……あなた達のような者達が現れました。私はもう過ちを繰り返さない。私がシステムを守護り、この地を守護ります」
 睨む相手に唱え聞かせるような呟きは、肉塊が奏でる規則的な脈動の音に埋もれた。

●予感
 自由奔放に動き回るトールと、それを追い掛けるスワロウ小隊。
 隊長機のアークレイズに乗るスワロウ01ことテレサは、ゴッドカイザー海岸方面より押し寄せる敵群の圧力が着実に弱まっている事を肌身で実感していた。
「え……?」
 何事かを発した自分と同じ声に視線を振り向けさせられる。隊長のテレサのみならず隊員のテレサ達も皆一様にゴッドカイザー海岸の方角へと目を向けた。水平線上に膨らんだEVOLの積乱雲は戦闘開始当初と比較して格段に密度が低下している。声は積乱雲のもっと向こうから――けれどもテレサは声の発生源よりも、薄らいだ積乱雲に怖気を感じずにはいられなかった。
 これがイェーガーの力の証明。テレサにとっては二度目となる実証。
「恐ろしいですね、あなた達は……」
 誰に聞かせるでもない呟きはこの場にいる猟兵全員を指していた。無論ながらEVOLの大量撃破に成功したのは猟兵だけの働きだけではない。しかし猟兵が大きな割合と重要な役割を担ったのは疑いようのない事実だ。
 生命の埒外……そうと呼ぶに他ならない猟兵の力。ユーベルコードを根拠としたそれは、テレサにとって猟兵が自分達とは根本的に異なる人種、或いはもっと大きな括りでの分類に属するものであるという事を深く認識させるに足るものだった。だから恐ろしい。
「あなた達ならきっと、ゼロハート・プラントだって――」
 止められる。言い掛けた言葉は全周波数帯域に発せられた通信音声によって断ち切られた。
『激浪が動きました!』
 テレサの全身を肌が泡立つ感覚が走る。寸分の狂いなくアークレイズとイカルガ達が迎撃姿勢の構えを取った。

●激浪始動
「振動音多数感知! 照合完了! 激浪です! 移動を開始しました!」
 クイーン・エリザヴェートのブリッジに響いた観測手の一報で、ブリッジのみならず日レ両軍の艦隊が急激に慌ただしさを増した。ただでさえ緊迫していた空気がますます息詰まる。
「やっとお出ましか……どこに向かっている?」
 ブリンケンは待ちくたびれたと言わんばかりに背筋を伸ばす。
「三つのルートに分かれて移動中です! 戦域中央! 我が艦隊の西側面! 日乃和艦隊の東側面!」
 作戦予定では激浪は正面に戦力を集中させてくるであろうという見込みであった。読みは外れたがブリンケンは特に焦燥するでもなく艦長席に深く座り直した。
 奔流砲の砲撃はぱったりと止んだ。激浪は波打つ海面の下で日レ両艦隊を目指し、密やかに動き始めている。静かに素早く。クジラを狙うサメのように。
「結構だ。では予定通り全艦並びに全キャバリアでの魚雷一斉攻撃を開始する。大和武命にも伝えろ。データ入力急げ。慌てるな。準備が整ってから一斉射撃だ」
 ブリンケンが指令を飛ばす。示し合わせた作戦通りに日レ両軍の各艦が魚雷の発射準備を開始した。水中に潜むクレイシザーも背負った対艦魚雷の誘導目標を定める。
「全艦魚雷発射準備完了!」
「よおし! 全艦魚雷発射!」
「魚雷発射します!」
 クイーン・エリザヴェートが、大和武命が、あらゆる艦艇がありったけの魚雷を海中に解き放つ。クレイシザーも大事に取っておいた魚雷を発射してようやく重荷から解放された。
 海中を密やかに進む魚雷群。各艦の艦長ほかクルー達は息を潜めて着弾の瞬間を待つ。海上ではEVOLとの激しい交戦が続いているというのに、まるで無音の空間になったかのような時が流れる。
 そして発射命令から数十秒後、海面が白く爆発した。
 一度の爆発から連鎖するかの如く立て続けに巨大な水柱が立ち昇る。日レ両艦隊から見て北東から北西の一面で真っ白な飛沫の壁がせり上がった。爆音がブリッジの窓を震わせ、衝撃と波が船体に叩き付けられる。
「頼むから上がってきてくれよ……」
 ブリンケンは両手を握り合わせ、肉眼で飛沫の壁の向こうを凝視する。空中に吹き上げられた海水が海に降り注いで壁が霧散する。するとまたしても巨大な水柱が膨れ上がった。
 水柱の中から出現したのは、モササウルスを思わせる風貌の、巨大な機械の怪物であった。
「激浪、浮上しました! 魚雷の着弾を確認! 損傷を受けています!」
 観測手が報告している間にもあちこちで水柱が生じた。激浪が苦しげに頭部を振りながら次々に海上に姿を現す。魚雷の直撃で外殻の一部が大きく損傷し、一時的に潜航能力を失ったのだ。
 だがあくまでも一時的でしかない。全身を覆うナノクラスタ製の装甲の再生は被弾した直後から始まっているのだから。潜航に必要な気密性を取り戻せば海中から延々と攻撃され続けてしまうだろう。そうなってしまえば手出しは難しい。だからこそレイテナはとんでもなく高額な金を払って彼等を雇用したのだ。
「こちらはクイーン・エリザヴェートのブリンケンだ。イェーガー諸君、ウォーミングアップは十分に済んだかな?」
 ブリンケンがオープンチャンネルで通信している最中にも激浪は海上へと浮上してくる。そのまま呑気に泳いでくれている道理などない。駆逐艦を遥かに凌ぐ速力で航行を開始して艦隊に接近。戦艦の主砲並の威力を発揮する奔流砲を連射し始めた。
「ザコの相手にもそろそろ飽きてきた頃だろう? そんなイェーガー諸君に新しいお友達を紹介しよう。そこの激浪だ。我々はEVOLと遊んでいるからイェーガー諸君は心置きなく遊んできてきれたまえ」
 さて……イェーガーは激浪相手にどこまでやってくれるか。スカルヘッドも問題児だったが激浪も方向性と分類が異なる問題児だ。しかも一機二機ではない。通信を終えたブリンケンは深く息を吐いて艦長席に重い背中を預けた。
「ま、やってくれたらやってくれたで末恐ろしいもんだがな」
 レイテナ海軍の切り札だった激浪を撃滅できるのであれば。ブリンケンの興味は戦況の推移よりもそれぞれの猟兵へと移っていた。

●高雄轟沈
 日レ両艦隊の魚雷一斉射によって潜航する激浪は海上に引き摺り出された。だが全機ではない。一部には直撃を免れた機体もいれば、被弾しても潜航能力を完全には損なわれなかった機体もいる。
 日乃和派遣艦隊隷下の重巡洋艦、高雄に接近しつつある激浪は後者の内の一機であった。
「|APCR《硬芯徹甲》弾の装填を急げ。近くの僚艦とキャバリアは全力で本艦への接近を阻止せよ。猟兵にも要請を出せ」
 口早に命令を飛ばす高雄の艦長は冷静沈着だった。しかし状況は対照的に切迫している。
 高雄の右舷方向から激浪が接近しつつある。ワニかサメのような動作で機体をしなやかに左右に振りながら。割れる白波は巨体に似つかわしくない速力を示していた。
 高雄にとって幸いだったことがあるとすれば、背部激奔流砲と口内精密奔流砲に損傷を受けていた事であろう。もしいずれかが健在ならば放水砲の連射を受けていたに違いない。
 されども激浪の脅威は砲撃のみに限らなかった。奔流砲を内蔵する顎部分は強力な格闘武器である。通常のキャバリアのように激浪と比較して小型で小回りの効く目標にとってはさほど脅威ではないが、足が遅い重巡洋艦にとっては恐ろしい武器だ。激浪の咬合力は戦艦の装甲を破るに足る。巨大な質量から繰り出される突進も凄まじい打撃力を持つ事は言うに及ばず。
 周囲で防空に当たっていたイカルガが攻撃を集中させるが、突撃銃やマイクロミサイルといった対キャバリア戦を想定した火器では傷を負わせる事すらままならない。接近してビームソードで斬りかかろうとした機体もあったが、青白い光線に射抜かれて撃墜されてしまった。激浪が小口径の対空奔流砲を生成したのだ。
 駆逐艦や軽巡洋艦も127mm速射砲やミサイル、CIWSも投じて激浪の足を止めるべく攻撃を集中させる。付近に居合わせた猟兵の攻撃も加わったのかもしれない。どちらにせよ結果は変わらなかった。
 猛攻にさらされた激浪は多少なりとも怯みはしたであろう。しかし航行の足が鈍らせるには至らず、遂に高雄の直近にまで迫った。
 高雄の艦長と艦橋の船員達が最期に見た光景は、大きく開かれた激浪の顎の中だった。
 海面から跳び上がった激浪は機体ごと高雄の艦橋構造体に飛び込んだ。顎の咬合力と大質量を受けた艦橋構造体は、砂の城のように崩れ去った。乗り上げた激浪によって高雄の船体が右舷側に大きく傾く。

「高雄がやられただと?!」
 泉子は戦艦三笠の艦橋から拡大映像を通してその光景を見ていた。目を剥いて絶句したのは泉子ばかりではない。あわや転覆も間際となるほど傾く高雄の船体。船員達が甲板を滑って海へと落ちてゆく。だが高雄はまだ死んでいなかった。
 高雄の二連装砲がゆっくりと旋回し始める。その双門が船体に乗り上げた激浪に向けられた。
 爆ぜる炸薬。轟く爆音。広がる黒煙。泉子を含む誰もが起きた事を理解したのは、黒煙が晴れた後だった。
 横腹を粉砕された激浪が力なく海中へと引き込まれる。高雄の起死回生の一撃……主砲の至近砲弾を食らったのだ。
「くっ……! 高雄……なんということだ……!」
 泉子は目元を痛ましく歪めて視線を床に落とす。幾度か共に艦隊の戦列に並んだ重巡洋艦。その最期は艦橋を粉砕されても激浪と刺し違えるという壮絶なものだった。暁作戦で多くの英霊が沈んだ海で、高雄もまた人類の主権を取り戻すための礎に――。
「あれはなんだ!?」
 誰かが驚愕に叫ぶ。泉子は反射的に面持ちを上げた。
 高雄の周辺の海が……違う。海中が青白く光っている。
 そして高雄の船体中央が、三本の光軸によって貫かれた。
「奔流砲……?!」
 開口する泉子達が見届ける先で、船体中央を粉砕された高雄がゆっくりと海中に沈んでゆく。爆発するでもなく、海面を白く泡立たせながら。
 高雄が沈む海面を割って激浪が現れた。獲物を仕留めた猛りに震える咆哮は、全ての船乗りが忘れようとしていた記憶を無理矢理に呼び覚ました。奴は、激浪は――。
「|鯨殺し《ホエール・キラー》め……!」
 泉子の握り拳を震わせていたのは憤りか、畏怖か。
 高雄を喰らった激浪の姿は、猟兵達には果たしてどう映っていたのだろうか。

●任務内容更新
 レイテナのとある軍事評論家はこう発言している。
 機動殲龍『激浪』によって艦艇の時代は終焉を迎えるだろう。
 広大なクロムキャバリアの他の地域ではいざ知らず、アーレス大陸で運用されている多くの激浪は、事実として多くの艦艇にとって天敵であった。故にレイテナ海軍の切り札ともされていたのだ。|鯨殺し《ホエール・キラー》の畏怖の名と共に。
 この激浪の撃破が猟兵の任務となる。
 激浪は複数存在し、戦域中央・レイテナ艦隊側・日乃和艦隊側の三方向に分かれて接近中だ。これらの全てを撃破しなければならない。
 本来ならば単機に対して複数の猟兵が攻撃を集中させてようやく撃破が叶うかというほどの機体である。複数の猟兵で一機ずつ各個撃破するのが変わらず定石となるだろう。
 単機で複数の激浪を相手取る事自体は不可能ではない。ただし命を賭けた極めて厳しく困難な試みとなることは確実だ。

●激浪
 出現した激浪はかつて沙綿里島を強襲した激浪と同一機種である。
 ただし当時と環境は大きく異なる。
 沙綿里島では謂わば浅瀬に座礁した状態だった。今回は十分な深さのある洋上での戦闘となる。多くが潜航能力を失っているとはいえども持ち得る機能を最大限に活用してくる事に疑いの余地はない。
 海上での速力は駆逐艦以上。奔流砲の威力は戦艦の主砲並。ナノクラスタ製の分厚い装甲は吸水で再生する。

●奔流砲
 標準搭載するいずれの奔流砲も威力は絶大。直撃させれば戦艦を大破させるに足るほどである。もしキャバリアで受ければ超重装甲のスーパーロボットでも耐えきれるのか定かではない。
 精度と連射速度から言えば高速で動き回るキャバリアを狙える代物ではない。されども絶大な威力故に伴う余波も凄まじい。掠めた程度でも致命傷は免れないだろう。
 では高機動機への対処能力が存在しないのかと問われればそんな事もない。装甲を変化させて艤装化する機能を有するからだ。具体的にどのような艤装を行えるのかは不明だが、高雄を撃沈した際には無数の対空奔流砲を生成し、速力と運動性に優れたイカルガを撃破している。

●残存するEVOL
 多数のEVOLが撃破されたとはいえ、その数は未だ脅威であることに違いはない。
 しかし日レ両艦隊ともに戦力は十分に残されている。エリザヴェートのトール、スワロウ小隊、灰狼中隊、白羽井小隊のいずれも健在だ。
 猟兵が激浪との戦闘に専念している間の戦線維持は難しくない。逆に言えば猟兵が激浪を抑えきれなければ戦線は瓦解してしまうだろう。

●|鯨殺し《ホエール・キラー》
 金切声の不協和音を打ち払って鯨達はなおも歌う。
 鋼鉄の巨鯨に鋼鉄の水竜が襲い掛かり、鋼鉄の水竜に鋼鉄の猟兵が襲い掛かる。
 分岐路に到達した重奏はより深みを増してゆく。
 そして悔恨を宿した紺碧の眼差しは、蠢動する肉塊の中で猟兵の調律を監視し続けていた。
 この地を満たす交響楽にかの奏者達は必要無い。かの奏者達の名は、指揮者が定めた楽譜に存在する余地はないのだと。
リーシャ・クロイツァ
迎撃ルート:日乃和艦隊に向う敵

ここの戦場はほんとに規格外のものが多いねぇ。
今度はまたデカ物だね…。
まぁ、やることは変わらないってことか。

しかし、あのデカ物に効くものって、こいつ(バスターランチャー)しかないわね。
コックピットの狙撃スコープをセット。
索敵を行いつつ、空中機動を行いながら、空中から狙撃できるポイントに向って行動だね。

エネルギーチャージを行い、何時でも撃てるようにして…。

視認さえ出来れば、距離は関係ないよ。
そう、たとえ豆粒みたいに小さくてもね。
さすがにこの距離だと相手の射程よりは長いだろ。

UC:新月の狙撃手で敵を撃ち抜く!
狙撃手の名は伊達じゃないんだよ。
撃った後も射点を変え狙撃するよ


ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗、ライフルx2・キャノンx2)

まぁ、普通に戦っても勝てるでしょうけれども。
個艦向けの反応弾頭でも使えば軽く一蹴できません?

核魚雷やら核爆雷やら大昔からある単純な武器ですし、
それこそ放射線も出ないような最小クラスの融合弾でも、
海中で使ったら激浪くらいは紙細工みたいに潰れますが……。

迂闊なUCを使うよりも小規模で平和的ですけれどもね。
レイテナが敢えて使わないからには、わたしも避けるべきですかね?

面倒ですが。

ではまあ、ライフルx2で水蒸気爆発を起こして足止めをしつつ、
2回攻撃(二回目)の鎧無視攻撃/貫通攻撃/一斉発射で、
各奔流砲を貫通させて機体内部への被害浸透を狙いましょう。地味に。



●荷電粒子光戦
 戦域の西、日乃和艦隊の右舷側に迂回せんと驀進する複数機の激浪。その内の一機を遠目にノエルは無色の顔を浅く傾げた。
「ほう、こちらの激浪は随分と頑丈に作られているんですね」
 使用された対艦魚雷の弾種や威力がどの程度なのかノエルは知らない。だが爆発の規模の目算からして、最小クラスの融合弾に匹敵する威力はあったように思える。ノエルがよく知る激浪ならとっくに紙細工のように潰れて圧壊しているはずだった。
「すっかり忘れていましたが沙綿里島を強襲した個体と同一でしたね」
 猟兵が17人掛かりで火力を集中してようやく撃破に至った激浪と。ノエルがその一翼を担ったのはもう二年前以上の事だ。
「サワタリジマだかサドガシマだが知らないけど、そこを襲った激浪ってどんなだったの?」
 リーシャが問う。エイストラと並走するティラール・ブルー・リーゼがヌヴェル・リュヌのスナイパーセンサーで激浪を捕捉した。
「最小クラスの融合弾でようやく手傷が負わせられる程度に頑丈……とでも言っておきましょうか」
「うへえ」
 ノエルの素っ気ない答えにリーシャは顔を渋くしかめた。
「|こいつ《バスターランチャー》で抜けるもんかね……」
「まあ、なるようにしかならないでしょう。駄目なら私たちが死ぬだけです」
 エイストラとティラール・ブルー・リーゼがそれぞれ反対の方向へ機体を傾斜させた。二手に分かれた二機の後を無数の青白い光線が駆け抜ける。激浪が発射した対空奔流砲だった。
「まったく面倒ですが」
 エイストラはスラスターを断続的に噴射した。呼吸をずらした社交ダンスを踊るかのような小刻みな回避機動で対空奔流砲を躱しながら激浪に接近を試みる。プラズマキャノンを撃ち込むにしても現在の相対距離では遠すぎる。激浪に届く頃にはすっかり減衰しきっているだろう。
「掠めた程度でもこれですか」
 命中弾は無い。だがガーディアン装甲の高硬度衝撃波が発動した事を報せるメッセージが断続的に表示される。対空奔流砲の余波が第二の耐久値とも言うべきエネルギーを削りとってゆく。
「ええい! そう簡単には狙わせてくれないか!」
 ティラール・ブルー・リーゼも同様に対空奔流砲の猛攻を浴びていた。エイストラとは逆に長距離を維持しながら側面へと回り込んでいる。バスターライフルの砲門に光が集っているのは充填を開始しているが故であろう。
「おまけに図体の割りに足が速いじゃないか……!」
 リーシャは望遠カメラ越しに激浪を睨んで歯噛みする。対空奔流砲で照準を邪魔してくるのもそうだが、連続するドリフト機動と生じる水しぶきのカーテンも難敵だ。
「ではまあ、足止めはこちらで」
 青白い光線の暴雨を掻い潜ったエイストラが遂に接近を果たした。左右のマニピュレーターで保持するプラズマライフルが光軸を放つ。大電力のビームは激浪――ではなく激浪の周囲の海面を直撃した。
「って外してんじゃん!」
 そうリーシャが思わず叫んだのと真っ白な水蒸気爆発が発生したのは同時だった。二つの強烈な衝撃波が激浪の巨躯を僅かにだが揺るがす。
「狙いを選り好みできるほどの余裕は作れませんでしたが……」
 ガーディアン装甲の防御システムの出力を機体正面に集中させてエイストラが突っ込む。水蒸気の濃密な霧の中に青白い発光を見た。激浪の背部激奔流砲だった。
「地味にやらせてもらいましょう」
 先んじてエイストラの二挺のプラズマライフルと一門のプラズマキャノンが閃いた。合計三本の荷電粒子の光軸が激浪の背部激奔流砲の一つを直撃。内部より緋色の爆発を膨張させる。
「あとはそちらで。因みにまたすぐ再生してしまいますよ」
 エイストラは機体を反転させると、撃てるだけのマイクロミサイルを撃ちつつバックブーストで離脱を試みる。ミサイルの内何発かは対空奔流砲に迎撃されたが、何発かは装甲表面に到達して爆炎の球に変じ、対空砲塔を粉砕した。
「へえ? 経験者は違うってやつ?」
 背部の巨砲の片側を破壊されて身じろぎする激浪。対空奔流砲の発射間隔が鈍った。その大きな隙をリーシャの眼が逃す道理はない。
「視認さえ出来ていれば、距離は関係ない……!」
 ティラール・ブルー・リーゼがヌヴェル・リュヌを腰だめに構えた。バスターランチャー本体とコクピット、そしてレプリカントの眼球型センサーで捕捉した激浪の機体は望遠拡大しても豆粒大だ。だが重なった照準は激浪に吸い付いたまま離れない。バスターランチャーのレベルゲージが120パーセントの値を示す。
「最大出力でっ!」
 リーシャは引き続けていたトリガーキーから指を離した。機体の全高を越えるヌヴェル・リュヌの砲門がプラズマビームを解き放つ。青白い鮮烈な光がティラール・ブルー・リーゼの黒い装甲を照らし出す。防眩フィルターを突き破る光量と、スラスターの噴射でも相殺しきれない発射の反動にリーシャは双眸を険しく細め、身体を強張らせた。
 光軸は海面を抉り取るように蒸発させながら直進。激浪の横腹に突き刺さった。着弾地点で荷電粒子が壁に掛けられた水のように拡散する。
「撃ち抜けぇぇぇっ!」
 リーシャの裂帛が最後の一押しとなったかの如く、着弾した位置とは逆の横腹から青白い光軸が突き抜けた。そして急速に径が収縮し、細かな粒子となって霧散する。
 超収束ビームに内部機関を貫かれた激浪が頭部を左右に激しく振る。内側から生じた小規模の爆発は連鎖を繰り返して肥大化し、すぐに外部装甲を突き破るほどの誘爆へと変貌した。
 |鯨殺し《ホエール・キラー》が咆哮と共に沈みゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
日乃和艦隊側に出撃

これがアーレス大陸の激浪…
成程、海上戦に置いては無比の性能を誇るでしょうね
ならばこそーー時間質量、ここ以上の『海』が受け止める『時間質量』そのものを、概念の機械化によって操作させて貰いますよ

瞬間、戦場内の『海水』が『機械化』されていき、オブリビオンマシンのイニシアティブとリソースを奪いながら日ノ和のメンバーを守っていく

他所見をしてはいけませんよ?
機械化された海面から時間質量干渉による時間操作により、オブリビオンマシンは急激な加速により機械化された海面と激突
スピードと質量が相乗したそのインパクトの際の衝撃は、少なく無いダメージを与えるでしょうね



●機海
 海上を走るノインツェーンの奥底、玉座に着いたフレスベルクは記憶を辿る。フレスベルクにとって同一機種の激浪との遭遇は二年と少し振りであった。
「今回こそ本領発揮というわけですか……!」
 大きく迂回路を取って日乃和の艦隊の右舷側を目指す激浪達。凄まじい量の水飛沫からフレスベルクは感じ取っていた。浅瀬に乗り上げたあの時とは事情が全く異なると。激浪の戦闘能力は海上戦においては無比といってもいい。ならばこそ――日乃和艦隊と激浪の中間距離に達したノインツェーンは速度を落とし、右腕部のマニピュレーターを正面に翳した。
「帰天の青剣よ、いま神騎の手の元に」
 展開した黄金の光輪から剣の柄が生える。ノインツェーンはそれを一気に引き抜いた。晴天すらも羨むほどの澄み切った刀身も持つ剣、ヴォーパルソード・ブルースカイ。ノインツェーンはそれを左右のマニピュレーターで保持すると、切っ先を海面へと向けた。
 激浪は日乃和艦隊へ向けて奔流砲を連射しつつ直進。すでに速度は最大に達していた。進路上を塞ぐノインツェーンは跳ね飛ばしてしまうつもりなのだろう。幾ら神騎とは言えども質量差は覆し難いものだ。しかしフレスベルクは身構えるでもなければ躱すでもなくその場にノインツェーンを留め続ける。
「刮目せよ。時の滅びを越え、今世界は蒼穹へと至る。其は機械にして時刻を掌握する者。我はかの者を従え、閉ざされし空を切り拓く――」
 フレスベルクの唇が囁くように祝詞を紡ぐ。ノインツェーンの背に開いた巨大な円環が黄金の光を放って回転を始める。そしてヴォーパルソード・ブルースカイの切っ先を海面に突き立てると、打ち寄せる波を押しのけて波紋が静かに広がった。
「もし……この海が受け止める時間質量を機械に変じてしまったら?」
 フレスベルクが激浪に問う。無論答えは無い……が、答えを待つよりも先に海原が変容し始めた。
 海面に突き立てられたヴォーパルソード・ブルースカイの切っ先を中心に、海原が冷たい銀色に凍てついてゆく。更に機械化した海から幾つもの巨大な壁が生じる。壁は日乃和艦隊に到達するはずだった超高圧水流を受け、粉砕される事を代償にして砲撃を遮断した。
 海を割って驀進していた激浪は機械の床面に乗り上げた。だが動きは止まらない。逆に加速を増す。ノインツェーンによって増幅されたフレスベルクの時間質量干渉による時間操作を受けたのだ。
「そしてそれだけの速度と質量が激突した際の衝撃は……果たして如何ほどの規模となるのでしょうか?」
 フレスベルクの口元が微かに笑う。更に加速する激浪の前に出現したのは分厚く巨大な機械の壁。横倒しになった高層ビルにも見間違えられそうなそれに激浪は正面から突っ込んだ。大質量の物体同士がぶつかり合う衝撃。内蔵を揺さぶる轟音にフレスベルクは思わず感嘆の吐息を漏らす。弾け飛んだ機械の断片が、夏の陽光を受けて銀色に輝いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【POW】で判定
『出遅れたか・・・機動戦艦『天龍・改』、コスモ・スター・インパルス…ガイ・レックウ出るぞ!!』

少し遅れて戦場に到着したので遅れた分もやってやる!!電磁機関砲と天龍・改の対艦ミサイルで【制圧射撃】をしながら、両肩のハイペリオンランチャーと天龍・改の三連衝撃砲三基九門をチャージしつつ距離を詰めるぜ。
【戦闘知識】と【見切り】で相手の攻撃を見極め【フェイント】込みの回避運動と【オーラ防御】を纏わせ、チャージ完了とともにユーべルコード【雷神竜魔法『帝釈天・護法雷霆』】と一緒に砲撃を叩き込んでやる!!!



●神雷
 激浪が凄まじい量の海水を撒き散らして驀進する。目標は日レ両軍の艦艇か旗艦なのだろう。数の不利を覆す手段である艦砲射撃を直接潰しに来たのだとすれば、激浪の突出は不自然ではない。高雄を撃沈した事からも思惑が伺える。
「少しばかり出遅れたが!」
 ガイ・レックウ(|明日《ミライ》切り開く|流浪人《ルロウニン》・f01997)が目元を歪めて言う。猟兵の迎撃は既に始まっていた。特式機動戦艦『天龍・改』のカタパルトから射出されたコスモ・スター・インパルスが海面を引き裂いて飛ぶ。その背後では衝撃波に押された白波が左右に割れ、天龍・改が発射した対艦ミサイル群が追い掛ける。天龍・改も激浪を主砲の射程圏内に捉えるべく航走していた。
 間もなく友軍艦隊に向けて航走中の激浪との進路が交わろうとした時、ガイは水飛沫のカーテンに覆われた激浪の機体に青い閃きを見た。条件反射で操縦桿を横に倒す。
「奔流砲か!」
 コスモ・スター・インパルスがスラスターを噴射して横方向に瞬間加速する。三本の超高圧水流が駆け抜けた。戦艦の主砲に採用されているメガビーム砲も斯くやといった軸径の太さであった。
「なんて威力だよ……!」
 激浪の奔流砲の威力は座学で散々教わっている。だからガイは慢心せずに回避距離を十分に取った。しかし掠めてもいないのにも関わらず機体に打ち付ける水飛沫は強烈だ。まるで小銃を連射されているかのような打撃音が装甲に響く。伴う衝撃波に大きく崩された姿勢を立て直すと、背後で大きな爆発が連鎖した。
「ミサイルがやられたか!?」
 振り向くと天龍・改が発射したミサイルがいずれも火炎球に変じていた。奔流砲は対艦ミサイルを薙ぎ払っても威力に減衰が見られない。その先にいる標的を目掛けて突き進む。天龍・改の周囲に奔流砲が着弾。海面が炸裂して天竜・改を真っ白な水飛沫で覆い隠した。
「|鯨殺し《ホエール・キラー》……艦の天敵、異名の由来ってわけかよ……!」
 天龍・改をこれ以上接近させるのは撃沈のリスクを大いに孕む。脳裏に高雄の最期を浮かべたガイは、遠隔操作で天龍・改の船足を止める。そして三連衝撃砲の発射を命じた。
「撃て! 天龍!」
 三基の砲塔からなる合計九門の大口径砲が僅かな間隔を開けてプラズマビームを解き放つ。荷電された圧縮粒子の光軸は大気の減衰をものともせずに直進。コスモ・スター・インパルスを追い越して激浪へと向かう。
 激浪は衝撃砲の発射を感知するや否や急減速――ではなくドリフト機動で向きを反転させた。一射目は激浪の直近を掠めて彼方へ過ぎ去る。二射目と三射目は激浪の側面の海面を叩いて水蒸気爆発を引き起こした。
「砲撃を避けるぐらいの動きはできるらしいな……!」
 ガイが苦く双眸を細めて声を絞り出す。激浪がまたしても奔流砲を発射した。いずれも狙いは天龍・改であるらしい。三連射の内の一射が研ぎ澄ましたかのような細い軸径だった。背筋が冷たくなったガイだが、既に後退回避機動に移っていた天龍・改の艦橋上部を駆け抜けるだけに終わった。装甲や艦上艤装に多少の損傷が出たが安い犠牲であろう。その隙にコスモ・スター・インパルスは接近を果たせたのだから。
「簡単にゃ入れさせてくれないってか!」
 懐に入り込めれば機動性と運動性に優れたコスモ・スター・インパルスに分がある。ガイの見立ては誤りではなかった。しかし激浪側もそういった相手との交戦は想定済みであったらしい。ナノクラスタ装甲から生成した対空奔流砲を機体各部に生やし、青白いレーザーのような超高圧水流で迎え撃つ。
 ガイは殆ど直感だけで機体制動を繰り返す。コスモ・スター・インパルスがスラスター噴射の翼光を拡げて横方向に加速して僅かに上昇、逆の横方向に切り返す。全ての攻撃を回避する事は叶わない。だが直撃だけは避けなければ……掠めた水流がバリアフィールドごと装甲を削り取る。被弾していないのに関わらず被弾を報せるアラートが耳朶を打つ。
「対空砲は潰せるが……!」
 コスモ・スター・インパルスは回避機動を途切れさせずに電磁機関砲を撃ちまくる。射出した弾体が機銃を砕いて小規模な爆炎を膨らませる。だがダメージは表面上に留まり、激浪の動きに影響を及ぼすには至らない。しかも破壊したそばからじわじわと再生してしまう。天龍・改の対艦ミサイルと衝撃砲を叩き込めれば決定打となったのだろうが――。
「ならこいつでどうだ!」
 コスモ・スター・インパルスのバックユニットに搭載していたハイペリオンランチャーの砲身が前に倒れた。左右二つの砲門から溢れ出るのは青白い光。発艦時から充填し続けていた荷電粒子を解放する。真っ直ぐに伸びる二本の光軸が激浪の耐圧性に優れたナノクラスタ装甲に突き刺さり、砕いた。
 今しかない。ガイは一瞬のコンソールパネルの操作と並行してフットペダルを踏み込む。コスモ・スター・インパルスが電磁機関砲を投棄して抜剣。直進加速した。鋭い衝撃が数回響き、機体のコンディションを示すモデルの各部が黄色に染まる。
「天地を揺るがす雷神竜が雷よ! 我が刃の元に仇なす者を薙ぎ払え!」
 ガイが叫ぶ。コスモ・スター・インパルスが対空奔流砲の迎撃に構わず激浪に肉薄する。上段に構えた封魔神刀が雷の昇り龍を纏う。
「帝釈天・護法雷霆!」
 コスモ・スター・インパルスが激浪に向かって機体ごと飛び込んだ。ハイペリオンランチャーで砕かれた装甲から垣間見える内部に封魔神刀を突き刺す。
 炸裂する黄金の雷轟。内部で膨張した雷神竜の雷に激浪の巨躯が大きく揺らぐ。痛みに悶えるかの如き鋼鉄の咆哮が海原に木霊する。
「そんだけ水吸ってりゃ、電気だって通りやすいだろ!」
 反動で跳ね飛ばされたコスモ・スター・インパルス。封魔神刀を突き刺された箇所から雷の爆発光を噴出させて横転する激浪。大質量を叩き付けられた海面が大きく波打つ。傷だらけのコスモ・スター・インパルスに、打ち上げられた海水が雨のように降り注いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
【渡り禽】(タイフーンカスタム:主武装は大鳳での補給時に換装、一六式自動騎兵歩槍をマウントして特火重イオン粒子砲を手持ち)
心情:モビーディック激浪が大集合じゃねぇか!?なんぞこれ!
手段:「整備士、補給と対艦装備換装後もう一度出るぞ」
射出後は旅団員と共に集中砲火、先ずはイオン砲通常チャージでの砲撃、こっちを狙う対空砲を潰しながら船体にさらなるダメージを与える。
奴が口内精密奔流砲を向けたらピラニアミサイルを発射、水流砲の発射の妨害を試みる。
良いぞ、ダイダラのおかげで敵の目標がこちらに移った。
【BS特火重イオン粒子砲・連続照射モード】のタイミングは団長に一任する、久遠寺、数宮、合わせるぞ!


久遠寺・遥翔
【渡り禽】
見るからにやばそうな相手だな。けれど俺達ならやれるさ
レヴィアラクスに[騎乗]
殲禍炎剣に捕捉されないよう[水上歩行]を交えての[空中戦]
状況次第では[水中戦]も織り込む

こちらへの攻撃は[鉄壁]の[オーラ防御]と[結界術]の多重障壁で防ぎ、念導刃で迎撃しながら
前衛は小枝子と団長、支援は菊月と楓椛さんに任せ、あのクジラの腹に風穴を開ける一撃を放つ準備に入る
「ラクス、コラプサーライフルを連結。全開で行く」

前衛には巻き込まれないように注意を促しつつ
団長に発射タイミングは任せてヴィリーさん、多喜さんと連携してUCを発射
「任せろ! イベントホライズン、マキシマムシュート!」


数宮・多喜
【渡り禽】
【アドリブ改変大歓迎】

うーわ予想以上の数じゃねぇの!?
怪獣相手なのは分かってたけど、ここまでの群れを相手取れってのは聞いてねぇよ!
仕方ねぇ、アタシもリミッターを外してかないといけなそうだね。
殲禍炎剣に気を付けながら上空で砲撃体勢に入るよ!
テレパスの通信確保は維持したまま、戦域の『情報収集』は欠かさずに。
モードセレクターは『電撃』と重力波の複合『属性攻撃』、これはいつも通りのオーダーで。
『マヒ攻撃』まで上乗せして【多層重砲展開】し、団長の合図を待つよ!
この『援護射撃』、侮ってたらただじゃ済まない筈さ!


疋田・菊月
【渡り禽】の皆さんと

いやー、相手の戦力もかなりのものですね
こちらも艦船をいくつか失いましたか
カミオさん、我々も前に出ましょう!
足場? そんなのウチにはないですよ
ヴァルラウン、飛びますよ!
正直、この規模の相手に私の機体だけでは力不足です
我々は群であり、
味方が鉄槌を振り上げるなら、私達はその注意を散らす鏃となりましょう
というわけで、敵陣を飛び回り遊撃と牽制を行います
相手にされないのは困りますから、狙いは副砲と……海水で可変し修復する装甲
右腕を預けますのでカミオさんの原子破壊光線なら対抗できるかもです
あとは、モストロと妙高でどかどか範囲攻撃ですよー
量産機のタフさは何より継戦能力にありです


ユーニ・グランスキー
アレンジ歓迎

騎兵団〈渡り禽〉を率い参戦
ヴィリー(f27848)
久遠寺(f01190)
中小路(f29038)
疋田(f22519)
数宮(f03004)
朱鷺透(f29924)の計7名

いやー壮観だ。敵も友軍も猟兵も混沌として…実に腕の振るい甲斐がある。
全体を指揮しつつ前線支援
常に全個体をモニタし位置状況、距離、飛行高度を「戦闘演算」し団員に「情報伝達」
敵に「ジャミング」「ハッキング」で攻撃を阻害しつつ手の内を「情報収集」
空中を愛機で飛翔しドゥンケルカノーネで小枝子君を支援射撃
相手のUCを自壊粒子で防ぎつつ一斉砲撃のベストな瞬間に誘導しその時が来たら小枝子君と離脱しつつ合図を送る
砲撃用意!撃ェーーー!


中小路・楓椛
【渡り禽】

クロさんに搭乗、【ばーざい】全技能行使、【神罰・呪詛・封印を解く・限界突破】併用にてUC【にとくりす】起動。
召喚ショゴス大行進アゲイン、ショゴスドームによる艦隊防御を優先し全体と情報共有しつつレイテナ艦隊直衛を継続。
団員の一斉砲撃に同調し状況に予測/即応した周囲への防御を実行します。

この章から自身は通信や情報共有は行いますが戦場の物体や影等の裏に回ったり迷彩能力を有するショゴスを盾としてクロさんごと他者のカメラやセンサーを避けるように動き始め認識上存在が薄くなります。


さてさて、どうなりますやら。
(エリちゃんの居るトールの方を眺める)


朱鷺透・小枝子
【渡り禽】
巨神ダイダラ[操縦]
[闘争心]を、人工魔眼を|燃やし《稼働させ》、
『戦塵突撃』で飛翔[推力移動]、渡り禽へ合流!

朱鷺透小枝子並びに巨神ダイダラ!!
これよりユーニ上官殿の指揮下に入ります!!!

自身の[瞬間思考力]とダイダラAIの[戦闘演算]で奔流を[見切り]
[空中機動]で激浪共に接近!海洋化されても[水中機動]で即応。
大出力超振動ブレードトンファーの[斬撃波]で触れずに大奔流を[切断]
そのまま激浪を[なぎ払い]開きにし、別敵へデスアイ[レーザー射撃]!

一体に拘らず、ダイダラの巨体と火力で激浪共を[威圧]注意を引き、集め、
指示と共に最高速で味方の[範囲攻撃]から離脱致します!!!



●渡り禽
 それぞれの進路で日レ両艦隊に向かう激浪。ウォータージェットと電磁流体制御のハイブリット推進が、深い青の海原に白く泡立つ軌道を描き出す。
「いやー壮観だ。敵も友軍も猟兵も混沌として……実に腕の振るい甲斐がある」
 dunkel Onyxの紫電の眼が捉えた光景がユーニの視覚野に流れ込む。多喜のテレパスと戦域に張り巡らせたネットワークから吸い上げた情報が意識の中に俯瞰視点を作り上げた。
 激浪の数は? どんな進路を取っている? 友軍艦隊の配置状況は? 彼我の戦力差は? 騎兵団の弾薬と推進剤の総残量は? 最善手の戦術を導き出すべくあらゆる思考が高速で巡る。
 激浪の戦術目的は恐らく艦隊戦力の破壊にあるのだろう。敵の戦術目的達成はイコール日レ両艦隊の壊滅だ。そうなれば人類側の東アーレス半島の奪還という戦略目的は失敗が確定する。仮に猟兵が残りの敵全てを殲滅したとしてもだ。つまりはオブリビオンマシンの戦略目標達成――世界を滅ぼすという目的の局所的達成を許す事になる。
 激浪は戦域の広範囲に渡って展開している。一度に全て対処するのは現実的ではないし、するべきではない。この激浪は単機であっても猟兵が複数人掛かりで挑まなければ止められない代物なのだ。戦力分散は愚の骨頂。攻撃を集中させて速やかに撃破するべきだ。これは部隊として組織的な統率と戦闘が可能な騎兵団に適している。
 一機辺りに掛けられる時間は? 猟兵は我々だけではない。他の猟兵も激浪と交戦、足を止めている。過度に急ぐ必要はないが悠長にもしていられない。
 どれから撃破する? 防衛の優先順位としてはクイーン・エリザヴェートと大和武命が最も高い。単艦での戦闘力は勿論、それぞれの隷下の艦隊の指揮統制を担う旗艦なのだから。いずれかを狙う激浪を真っ先に撃破するべきであろう。
 彼我の位置と撃破優先順位を勘案し、レーダーマップ上で激浪を示すマーカーに数字を割り振った。思考に費した体感時間は何十分にも及んだが、実時間はほんの数十秒だった。
「騎兵団〈渡り禽〉の諸君! これより我々は新たに出現した激浪と交戦し、これを各個に撃破する! 優先順位は既に設定した! 一号目標はクイーン・エリザヴェートへの進路を取っている可能性が高い! 接近される前になんとしても撃破せよ!」
 テレパスネットワークに思惟を乗せて作戦の概要を伝播させる。口で語るよりも早い。
「ええい……! モビーディック激浪が大集合かよ!」
 ヴィリーがタイフーンカスタムを加速させる。レイテナは碌でもないものを奪われてくれたなと内心で毒づかずにはいられなかった。
「怪獣相手なのは分かってたけど……仕方ねぇ、アタシもリミッターを外してかないといけなそうだね」
 多喜のJD-Overedがサイキックリフターの主翼で潮風を切り裂きながら飛ぶ。複数の激浪との交戦が控えている事は既に聞かされていたが、改めて目の当たりにすると引きつった表情を禁じ得ない。全機を騎兵団だけで相手取る必要は無い事は理解している。しかし一機倒すだけでも骨なのに続けて何機も倒せるのか? いまは自分と仲間、そして機体を信じるしかあるまい。グリップを握る指に力を籠めて一抹の不安を握り潰す。
「こちらも艦船をいくつか失いましたか。カミオさん、我々も前に出ますよ!」
 菊月は横目を艦隊へと向ける。被った被害は高雄だけに限らない。レイテナ第一艦隊側にも少なからず大破から轟沈の憂き目に遭った艦艇が存在する。ヴァルラウンは無機物には似つかわしくない悪魔的なクロツグミの翼を生やして飛翔した。
「ま、俺達ならやれるさ。今日はユーニ団長閣下直々の指揮もあるしな」
 レヴィアラクスのスラスターから翡翠色の噴射光が弾けた。急激な加速を得た機体が激浪へと一直線に向かう。疑いが全く無いと言えば嘘にならないでもないが、激浪を破壊できるだけの戦力はあるはずだ。レヴィアラクスの古代武装の使い所であろうとコラプサーライフルに意識を向ける。
「朱鷺透小枝子並びに巨神ダイダラ! これよりユーニ上官殿の指揮下に入ります!」
 小枝子の眼帯型人工魔眼に焔が揺らめく。巨神を体現する大きく重いダイダラの機体が海を割って進む。滾る闘争心は激浪に集束している。思考を戦いだけに傾けて、目の前の敵を粉砕することに専念する。そうしている内は身体を頭の支配下に置いておけるのだから。
「ではわたしは黒子に徹して裏方役をば……クロさんだけに。レイテナ側の艦隊防御はお任せください」
 敵味方を含めて楓椛のクロさんの所在を正しく認知出来たものはいたのだろうか。迷彩能力を有するショゴスで周囲を取り囲んだクロさんは背景に溶け込んでいる。大多数のショゴスは宣言通りにレイテナ第一艦隊の守備にまわり、世にも悍ましいドームを形成してEVOLの攻撃を阻む。
「渡り禽の諸君! 牽制攻撃の後に一斉砲撃だ! まずは目標の動きを止める!」
 最後にユーニのdunkel Onyxが双翼を拡げて飛び出した。
 直進または迂回路を取って激浪に接近する騎兵団のキャバリア達。だが激浪もただで接近を許すほど甘くはない。当然ながら迎撃体勢に入った。
「奔流砲! 来る!」
 激浪の背部と顎に集束した青い光。それを目敏く発見した多喜が声を張る。標的は激浪の正面から直進中のレヴィアラクスとダイダラだった。
「ちゃんと見えてるぜ!」
 レヴィアラクスが弾かれるようにして横に跳ぶ。
「そんな見え透いた巨砲では……!」
 ダイダラがその重厚で大きな機体高からは想像し難い反応速度で横方向へ急加速した。戦塵突撃によって得た飛翔能力が可能とした強引な回避機動だった。
 二機が回避運動を取った瞬間に三本の青い光軸が駆け抜けた。奔流砲は虚空を切ったが伴う余波はレヴィアラクスの飛行姿勢を崩し、ダイダラを揺るがすほどだ。
「いやー、とんでもない威力ですねー。掠めでもしたら河童の川流れじゃ済みませんよ」
 ヴァルラウンで掠めれば場外へ強制退場どころか綺麗さっぱり消滅だと菊月は確信した。レヴィアラクスとダイダラの二機が激浪の奔流砲を引き付けていた時間はほんの僅かであったが接近を果たすには十分な時間であった。作戦通りに牽制射撃を開始する――前に無数の光線が出迎えた。
「おっとっと、相手にしていただけるのは願ったり叶ったりなのですが。熱烈すぎる歓迎も困りものですねー」
 激浪が機体各部に生やした小口径奔流砲から集束した水流を発射する。レーザーさながらのそれらをヴァルラウンは機体を翻すことで躱し、右腕を触媒にして名古屋訛りのクロウタドリが発射した悪魔的原子破壊光線を撃ち放つ。激浪の装甲を駆け抜けた破壊光線が対空奔流砲を基部ごと砕いた。
「ダイダラのおかげで敵の目標がこちらに移ったのはいいんだがな!」
 ヴィリーが奥歯を噛み締めながら機体制動を繰り返す。対艦装備のタイフーンカスタムは普段よりも動き出しが重い。対空奔流砲の苛烈な猛威にさらされながらも装甲厚を頼りにイオン砲で応射する。さらにピラニアミサイルも惜しまず叩き込む。目標の大きさも相まって全弾が容易く命中し、艤装の一部を破壊するに至った。攻撃は最大の防御とは言うが、こうして対空砲を潰せるのだからまさしくそうなのだろう。
「ヴァルラウンとタイフーンカスタムは攻撃を継続! 正対は避けるように!」
 到着したdunkel Onyxがドゥンケルカノーネで牽制射に加わる。周囲を飛び回る三機のキャバリアに激浪は排除優先順位を決めかねたらしい。頭部を右往左往させる。さらにdunkel Onyxがスラスターノズルから生じる噴射光を触媒に放出した自壊粒子が激浪の各奔流砲の収束率を削いでいた。この影響の恩恵が大きかったのはダイダラであろう。小枝子は自機の装甲を抉る奔流砲の鋭さの鈍りを肌身で感じた。
「ラクス、コラプサーライフルを連結。全開で行く」
 砲撃位置に就いたレヴィアラクスが長大な銃身を持つ砲を腰だめに構えた。砲門から星雲の如き光が溢れ出す。
「こっちもオーケーだよ! タイミングは任せた!」
 同じく砲撃位置で準備に入ったJD-Overedのマルチプルブラスターに電流が纏わり付く。銃口から滲むのは黄金と暗い紫を混沌とさせた不穏な光だった。
「小枝子君! 今だ!」
「ダイダラ! 突き進めぇッ!」
 ユーニの叫びに小枝子が咆哮する。対空奔流砲を機体の全身で受け止めながら驀進するダイダラ。計器上の|装甲耐久値《アーマーポイント》がみるみる削られていくがダイダラは止まらない。激浪の頭部が振り向く。三つの砲門が青く閃く。解き放たれる奔流砲――。
「それな!」
 戦域の何処かでクロさんがばーざいの切っ先を天に掲げた。ダイダラの頭部のレーザー砲が、背負う巨砲が、眩いばかりに青く閃く。そして激浪の奔流砲と全く同質の超高圧水流が発射された。津波と津波が激突したかのような爆発的な衝撃。生じた白い水柱が二機を呑み込む。
「切り裂けぇぇぇーッ!」
 水柱を横に割る一線。ダイダラが巨腕を振るい、大出力超振動ブレードトンファーが激浪の頭部を引き裂いた。鋼鉄の咆哮をあげて仰け反る激浪。
「騎兵団全機! 撃てぇぇぇーーー!」
 ユーニが全身を声にして叫ぶ。
「重イオン加速器最大出力!」
「イベント・ホライズン、デッドエンドシュート!」
「デカいのぶっ放すよ!」
「カミオさん、どうぞー」
 タイフーンカスタムの特火重イオン粒子砲。レヴィアラクスのイベント・ホライズン。JD-Overedの多層重砲。ヴァルラウンのモストロと妙高と破壊光線。dunkel Onyxのドゥンケルカノーネ。それらが同じタイミングで一斉に叩き込まれた。
 重イオン粒子の照射を浴びた激浪のナノクラスタ装甲には大穴が空き、超重力の暗黒球体によって内部から圧壊し始め、三倍に増幅されたマルチプルブラスターの電撃と重力波で行動不能に陥り、収束フォトンビームと15.5ミリのパルス弾に破壊光線、暗くて重い思念を凝縮した光線によって撃ち抜かれた。
 着弾した時点で効果の観測など意味を持たなかっただろう。むしろ問題だったのは余波による友軍への被害だったのだが……ショゴスの涙ぐましい挺身によって事なきを得た。
 激浪は機体内部より幾つかの小爆発を繰り返した末、背部を内側から外側へと押し広げるような形で炸裂させた。軋む骨格構造体が悲鳴の如き音を鳴らし、巨大な機体が黒煙と炎を昇らせながら海へと飲み込まれてゆく。その光景を遠くから見届けた楓椛は、ひとつ呼吸を吐くと首を異なる方向へと向けた。
「さてさて、どうなりますやら」
 閉じた双眸がトールの姿を追う。そのオブリビオンマシンに乗る小さな暴君は自分を追い掛ける視線の存在など果たして知る由もない。そして激浪を沈めた渡り禽達は次なる獲物に襲い掛かる。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレフ・フール
ホエールキラー…その名に違わぬ恐るべき敵よ
「大丈夫だマスター!俺がいるからには逆に重力の海に沈めてやるぜ!」
頼もしくて何よりだ

全知・超克使用
敵機の動きと能力と性質を把握する

海水を武装に変換させ武力とするとはあまりに恐るべき力よ…だが…手がないわけではない
アレウスよ…力を貸してもらうぞ
「任せろマスター!俺もマスターの力だぜ!」

【重量攻撃・グラップル・属性攻撃・砲撃】
土属性を機体に付与

水に対する耐性強化

UC発動

高速で飛びながら敵の攻撃に耐え

重力波砲とブラックホール弾を打ち込む!
随分な武装だがその分重くなるよな?
己の重さに潰れるがいい!
そして超重力を込めた拳や蹴りや尻尾を叩き込んで蹂躙する!!



●重撃拳
 横殴りの暴雨のような海水の飛沫と津波のような轟音をあげて驀進する激浪。速力は駆逐艦を優に凌ぐ。重巡洋艦を一撃で粉砕せしめた奔流砲が迸るたびに巨大な水柱が昇る。機体全身の各部に生成した小口径対空奔流砲が青白いウォーターレーザーを走らせ、周囲にキャバリアを寄せ付けない。
「ホエールキラー……その名に違わぬ恐るべき敵よ」
『大丈夫だマスター! 俺がいるからには逆に重力の海に沈めてやるぜ!』
 深刻染みたアレフとは対象的にアレウスは自信に満ちていた。背負う両翼を拡げて海上を飛ぶ姿に恐れは微塵もない。
「頼もしくて何よりだがな……」
 アレフとしてはとても楽観になれない。激浪を観察すればするほどに。
 全長40メートルの巨体故に運動性や旋回速度は通常のキャバリアと比較して大きく劣る。しかし航走速度が尋常ではない。しかも運動性に劣るとは言えどもドリフト機動で回避行動を取る程度の事は可能であるらしい。性質は言うに及ばず海上という環境を最大限に活かしている。
 恐るべき力――しかし打つ手が無いでもない。
「アレウスよ……力を貸してもらうぞ」
『任せろマスター! 俺もマスターの力だぜ!』
 アレウスが力強く加速する。激浪の機体各部に青い閃きを見たアレフはアレウスに回避機動を命じた。直後に到来する夥しい数の水の光線。アレウスは右に左に瞬間的な加速を繰り返す。
「ええい、水への耐性を強化した上でこれだと……!?」
 アレフは顔を苦く顰めた。ウォーターレーザーの弾幕をアレウスは高速機動で掻い潜る。重力場と水の守護を帯びているにも関わらず、奔流が掠める程度でもコクピットにまで鋭い振動が伝播してくる。対空奔流砲でこれなのだから主砲を浴びてしまえば――。
『弱気になるなよマスター!』
「わかっておる!」
 主砲を避けるために敢えて接近を試みているのだ。アレフは躊躇いを置き去りにしてアレウスを突き進ませる。激浪に重なるロックオンマーカーが有効射程圏内を報せる色に転じた。
「アレウス! 重力波砲とブラックホール弾だ!」
『おうさ!』
 アレウスの左右のマニピュレーターに集束した暗黒の球体が放たれた。球体は物理的な衝撃と重い力場を伴って激浪の機体表面に命中。艤装と装甲を僅かながら粉砕した。艤装が破壊された事によって対空防御に僅かな空洞が生じる。そこへアレウスは飛び込んだ。
「随分な図体と武装だが、その分の重量増加は避けられまい?」
 肉薄したアレウスが右のマニピュレーターを引いて握り拳を固める。拳には重力場が宿っていた。
「アレウスの拳で圧壊するがいい!」
 アレフの裂帛と共に叩き込まれたアレウスの鉄拳。重力場の作用によって飛躍的に打撃力を増した一撃が激浪の横腹を打ち据えた。続けて繰り出される回し蹴り。機体の旋回動作に遠心力を乗せてテールアンカーで打撃する。いずれも単純な打撃だが、纏う超重力は激浪の巨躯を揺るがすほどだった。
 もっと重く。もっと深く。アレウスは果敢に拳を打つ。その姿は真なる闘神――アーレスの似姿であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィエラ・ヴラニツキー
※高雄を落としたヤツ狙い
※アドリブ・絡み歓迎


(機体が軋む。乗り手の直感として、これは不調に依るモノでは無い
高雄の撃沈を嘆く乗り手に呼応してか、あるいはそれ以外……例えば『激浪との、或いは更なる"先"にある死闘』に猛ってか。
機体は軋み、そして嘶く)

高雄の乗組員の皆さん、他にも斃れていった人達……仇は討ちます、どうか安らかに。

(寧ろ、乗り手もまた機体の猛りにつられるかの様に獰猛性を増す
増加装甲分の砲火は、EVOLを相手にあらかた射ち尽くした為に装甲ごとパージ済
だが問題は無い、猛りに任せて斬り捨てれば良いだけだ

機体が手にしている槍に魔力を纏わせると、そのまま標的めがけ突撃

体内の蟲は一切の忖度も容赦も無しに暴れ回るが、猛りはソレが齎す苦痛すらも握りつぶす
そして際限なく生成される魔力をコンバーターが取り込み、出力を青天井の如く増す)

報いを、受けろ

(激浪を討った暁には、機体はその骸を貪り始めるだろう。その半筋半機の蟲じみた異様な姿は虚仮威し等ではないのだと、それを見る者は理解らされるだろうか)



●エムファニシ
 殻が鳴いている。
「止められなかった……!」
 ヴィエラ・ヴラニツキー(22番目の|奴隷少年兵《センチュリオンウィッチ》・f41726)が苦い声音を絞り出した。セピド|C《ケントゥリオ》のセンサーカメラが捉え、CG補正をかけてモニターに出力した光景の中で、船体中央を割られた高雄が海に呑み込まれるようにゆっくりと沈んでゆく。海上に姿を現した激浪は、高雄の主砲を受けた箇所からスパークを散らしながら勝ち誇った咆哮を上げた。
「仇は討ちます、どうか安らかに」
 激浪を止められなかった自分。高雄のクルー。撃墜されたイカルガのパイロット。噛み締めた奥歯に悔恨の味が滲む。操縦桿を握る手に力が籠もる。パイロットスーツの保護被膜が反応して硬質化し、ゴム同士を擦り合わせたかのような音が鳴った。
 セピドCの殻が鳴いている。機体のコンディションに不調をきたした訳ではない。悔恨を噛むヴィエラの思惟への呼応だったのだろうか。激浪を前にして闘争心が昂ったからなのだろうか。或いは別の……もっと大きな脅威の存在を嗅ぎ取ったからなのだろうか。
「ぐ……うっ!」
 ヴィエラがくぐもった呻きを漏らす。身体の中の蟲がざわめきだした。
 悔しさは憤りに。憤りは猛りに。動物的な衝動が腹の底から膨れ上がり、頭蓋の中で赤い煙となって拡がり膨らむ。
 殻が鳴いている。
 サイキックコンバーターから生じたセピドCの猛りが数多の魔蟲を介し、ヴィエラの臓腑と脳髄に流れ込む。開いた口から食い縛った歯が覗いた。
 やれ。喰い千切れ。
 体内で誰かが囁く。赤く塗り込められた思考は回らず、衝動に衝き動かされる本能がフットペダルを踏ませる。
 セピドCはサイキックオーラパルチザンの切っ先を正面に向けた。ワームウィングを拡げて加速する。急激な重力加速度にヴィエラの身体は操縦席に押し付けられた。
 高速で接近するセピドCに激浪が気付いたのだろう。機体をよじって正対すると顎を開いた。背部激奔流砲と口内精密奔流砲の砲門に青白い光が集束する。光は超高圧の水流となって放射された。僅かにでも掠めれば吹き飛ばされるだけではすまない。余波でも受ければ粉微塵になってしまうだろう。しかしセピドCは直進を止めない。すぐに奔流に飲み込まれ、破片を一つ残さず流された――かのように思われた。
「オーバードアーマー、パージ……!」
 奔流砲を浴びる直前でヴィエラの食い縛った歯の隙間から声が滲み出た。セピドCの纏う外殻が溝にそって分離し、機体から剥がれ落ちる。補助推進機と火砲も纏めて脱ぎ捨てたセピドCはさらなる加速を得て軌道を斜め横方向へと逸らす。奔流砲の衝撃波に煽られて体勢を崩すも寸前で堪えて激浪へと驀進する。
 サイキックオーラパルチザンの矛先が激浪に届くまであと少し。激浪の対空奔流砲が蠢いた。迎撃が来る。
 ヴィエラは歯が軋む音を鳴らすほどに食いしばる。体内を這いずり回る蟲が激痛をもたらすからだ。だが赤い猛りはその痛みさえも塗り潰してしまう。
「もっと速く……!」
 蟲達がヴィエラの体内に回路を形成し、回路がセピドCのサイキックコンバーターに魔力を流し込む。痛みを代償として際限無く生み出される魔力が、推進装置の出力を示すレベルゲージを振り切らせた。
 激浪の対空奔流砲から発射される青白い光線。セピドCは直進加速を緩めず、僅かな挙動で上下左右に軌道の軸をずらす。掠めた奔流が装甲を抉り取り、翅の先端を擦過する。セピドCとヴィエラは痛みを越えて激浪の元にたどり着いた。螺旋状の力場を纏う槍が飛び込んだ先は、高雄の主砲が命中した箇所だった。
「報いを、受けろ」
 再生が始まっていた装甲に研ぎ澄まされた刃が超高速で激突する。激浪の巨躯を揺るがすほどの衝撃。痛烈なまでに耳障りな金属音が鳴る。空中に拡散した金属片の中には、翅を広げたセピドCが紛れていた。対空奔流砲で抉られた機体各部の装甲からは筋肉のようなアクチュエーターが垣間見える。そして前腕に装備したワームジョーバックラーの蟲顎には激浪の内部機構と思わしき機械が咥えられていた。
 半筋半機の蟲が鋼鉄の水竜の臓腑を喰らう。猛りはまだ鎮まらず、ヴィエラの頭の中は赤い煙が充満したままだ。セピドCは槍を構えて再度突撃する。
 殻が鳴いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラリー・ホーク
【TF101】
拓也と共闘。
「高雄がやられたか…。今すぐ生存者の救出に行きたいが、激浪が多数蔓延っている状態で行く訳にはいかないか…」
と操縦席で呟き、何やら準備している拓也の方へ向く。
「相棒、敵はかなり堅牢だぞ。防御はともかく、火力はどうするんだ?」
と質問。拓也の答えを確認したら
「ああ…そういえば相棒は複数の巨神所有者だったな。しかも、全機が超威力の古代武装持ちだったわ。なら、火力は問題無しだ」
と納得。拓也の指示を受けたら、無線を通じて友軍に拓也の作戦を伝える。
「さて、先鋒は俺に任せな、相棒」
と言い、真・猛禽類の眼状態になって指定UCを発動。機体ごと高密度の魔力で出来た第2形態の武装巨人の上半身で覆い、敵に接近。敵の攻撃は武装巨人の装甲で弾いていく。
「その程度の攻撃なんざ、俺の大威鍛には通用しない!」
と言い、接近したら武装巨人の拳で敵を殴り飛ばして一撃離脱。
拓也の戦いを見ながら
「あれが神話上でしか語られていない原初の魔眼の力か…。神様扱いされるのも納得の力だな…」
と無線で呟く。
アドリブ可。


防人・拓也
【TF101】
ラリーと共闘。
「激浪か。新しい力を試すのに丁度いい相手だ」
焦る事無く、右の親指をクナイで傷をつけて血を出し、その指で左の掌に術式を描く。
ラリーに質問されたら
「彼女達を呼べば問題無い」
と言い、術印を両手で結んだ後、片手を水面につけて水面に出現させた3つの魔法陣からキャバリア形態のアイリス達を召喚する。
「俺とラリーで隙を作る。隙ができたらありったけの火力を激浪に叩き込むようにと友軍に伝えろ」
とラリーに言い、自身は一旦目を閉じ、両眼を開いて指定UCを発動。同時に戦場全体へ自身の覇気が広がる。
「…加減が難しいな」
翡翠色の両眼に瞳孔の周囲に0の模様を浮かばせながらそう言う。
ラリーに先鋒を任せた後、自身も水面を駆けながら敵に接近。敵の攻撃は未來予測で回避、又は斥力で吹き飛ばして無効化。
「今の俺には無意味だ」
接近したら、敵の頭部を斥力で吹き飛ばし、強い衝撃を与える。ラリーの攻撃後、アイリス達や友軍に攻撃を指示。自身は退避するが、自身に飛んできた攻撃は斥力で敵の方へ吹き飛ばす。
アドリブ可。



●キュクロプス
 激浪に腹を食い破られた重巡洋艦高雄が海に沈みゆく。
 白く泡立つ周辺の海面には高雄から辛うじて脱出した数多くの船員達が浮かんでいた。蛍光色の救命胴衣を身に着けた者もいれば浮力を持つ残骸にしがみついている者もいる。脱出に際して負傷したのか、力尽きて高雄と運命を共にする者もいた。
 誰かの名を呼ぶ叫び。助けを求める叫び。悲鳴の叫び。海上は阿鼻叫喚に満ちている。
「ファッキンシット! やられた!」
 その光景をマイティ・ホークⅡのセンサーカメラを通して目の当たりにしたラリーが悔恨に目元を歪めた。高雄から最も近い位置にいたのにも関わらず止められなかった。反応が遅れたわけではない。激浪はマイティ・ホークⅡの武器もラリー自身のユーベルコードも全て振り切って高雄を撃沈に至らしめたのだ。
 激浪の戦闘機動と高雄という大質量物体の沈降により海面がかき乱される。生じた波が海に放り出された高雄の船員達に容赦なく押し寄せ、覆いかぶさった。
「今すぐ生存者の救出に行きたいが、この状況じゃあな……!」
 激浪の撃破を優先する他に選択肢はない――苦しい決断だった。
 キャバリア一機が向かったところで延べ数百人に及ぶであろう生存者の救出は叶わない。ましてや高雄を撃沈した激浪が健在なのだ。他の激浪も来ないとも限らない。人など激浪がそばを走っただけで肉片なってしまうだろう。救助は近場の駆逐艦なり軽巡洋艦がやってくれるはずだ。猟兵は猟兵にしかできない役割を果たすべき――視界の隅に入り込んでいたレーダーマップ上で友軍を示す輝点が向かってくる。輝点が自機と重なり合うと肩部に人ひとり分の重量が増すのを感じた。
「激浪か。新しい力を試すのに丁度いい相手だ」
 マイティ・ホークⅡの肩部に着地した拓也の顔に感情の色味は無い。飄々とすらしていた。
「試すのはいいがな相棒、敵はかなりタフガイだぞ。対キャバリア用の兵器じゃまともなダメージが入らない程度にはな。ユーベルコードを叩き込んでもご覧の通りに止まらなかった。火力はどうするんだ?」
 ラリーは口に出さずとも拓也に薄ら寒さを抱かずにはいられなかった。戻ってきた相棒は変わってないようで変わってしまった。中身が似ているようで別物になってしまったような……例えるならソーダがコーラになってしまった。そんな感触がある。人としての生臭さがない。俺が話しているのは本当にタクヤ・サキモリなのか? ベッドで寝てる間に別人とすり替えられたんじゃないのか? 笑えないジョークが込み上げてくる。
「彼女達を呼べば問題無い」
 拓也が右の親指にクナイを滑らせた。するとマイティ・ホークⅡから飛び降りて海面に沈むでもなく足を付ける。出血した右親指で左の掌に術式を描く。両手で術印を結ぶ。両手を海面に付ける。
「来い、ルイーズ。アイリス。マイラ」
 海面に浮かび上がる三つの魔法陣。そこから植物が生えるようにして三機のキャバリアが出現した。
 護城神機、ミネルヴァ・ルイーズ。
 タイプEXドラゴン、アイリス。
 巨神、マイラ。
 三機の巨神は一様にして拓也の前に跪いて頭を垂れた。
「俺とラリーで隙を作る。お前たちは激浪を確実に狙える位置で待機だ。隙ができたらありったけの火力を激浪に叩き込め。三笠の佐藤艦長にも支援砲撃を要請しろ。三笠にはメガビーム砲と三連装衝撃砲がある。タイミングはお前たちの攻撃に合わせるように」
『承知いたしました』
『御衣』
『仰せのままに』
 三機は立ち上がるとそれぞれの方角へと散開した。
「ああ……そういえば相棒は複数の巨神所有者だったな。しかも、全機が超威力の古代武装持ちだったわ。なら問題無しだ。火力はな」
 ラリーは火力の部分を強調したイントネーションで言う。
「さあて、後は激浪が棒立ちでいてくれる事を祈るだけだな」
 続くラリーの皮肉に拓也は双眸に瞼を下ろした。
「そのために俺達で隙を作るんだ」
「へえ? どうやって?」
「大威鍛は使えるな?」
「鈍くて大きいデカブツで殴りに行けって? そりゃあいい。良い的になるな」
「一瞬耐えられば十分だ。殴るのも一撃でいい」
「その一瞬で高雄は真っ二つにされたんだが?」
「俺が原初の魔眼でバックアップする」
 拓也が双眸を見開いた。翡翠色の両眼に瞳孔を0の模様が取り囲む。
 悪魔染みた異形の眼。そこからプレッシャーとでも言うべき覇気が滲み出る。
「そいつはどうにも好きになれないな……」
 ラリーはコクピットの空気が張りを増すのを感じた。常人であれば意識を潰されてしまいそうなほどの圧力に首筋の神経が逆立つ。
「……加減が難しいな」
 拓也としては努めて抑制に苦慮していた。
 もしここで戦場全域に覇気を放ってしまえば、海上で救助を待つ高雄の船員の多くが溺死してしまうからだ。エリザヴェートにだって味方撃ちと解釈されかねない。友軍の猟兵は……もっと恐ろしい事になるだろう。
 この原初の魔眼を持つ者は神にも悪魔にもなれる――確かに一瞬で作戦の崩壊を招く悪魔になりかねない魔眼だな。拓也は内で呟いた。
「さて、先鋒は俺に任せな、相棒」
 マイティ・ホークⅡが機体を旋回させてスラスターを焚く。
「俺は後ろに付く」
 その後を拓也が追う。
 目標は高雄を撃沈した激浪。他の猟兵に気取られている今が絶好の機会だった。
 海面につま先が触れ合うほどの極低空を匍匐飛行するマイティ・ホークⅡ。相対距離がみるみる縮まってゆく。激浪の頭部はまだ振り向いていない――が、機体各所に艤装した対空奔流砲が青い閃きを放った。しかしマイティ・ホークⅡは回避行動に移らない。
「これが|真・猛禽類の眼《トゥルース・ラプターズ・アイ》を持つ者のみが許された最強の術、|大威鍛《タイタン》だ!」
 ラリーが叫んだ。マイティ・ホークⅡの内側から高密度の魔力が膨張し、巨大な人型の輪郭を形成する。輪郭は実体となって武装した巨人の上半身を現じさせた。
「その程度の攻撃なんざ、俺の大威鍛には通用しない!」
 大威鍛に到達した対空放水砲が壁にかけられた水のようにして拡散した。
 なおも連続して殺到する青い水の光線を弾きながら直進する大威鍛。海上を直進航走する激浪の巨躯が揺らぎ、他の猟兵に振り向けられていた激浪の頭部が大威鍛を睥睨する。背中と頭部に備わる大口径の奔流砲に鮮やかな青い光が集う。
「向かって来るぞ! 相棒!」
「そのまま進め」
 とんでもない事を言いやがる。ラリーは毒づく間もなく目の当たりにしてしまった。高雄を一撃で屠った激浪の奔流砲。それが発射される瞬間を。
 もし避ければ後ろの拓也が跡形もなく消滅してしまう。ラリーは相棒を信じて大威鍛を進ませる他になかった。鉄拳が届くまでもう少し。超高圧縮された水の奔流が大威鍛に届く方が早い。水の暴力に飲み込まれる大威鍛。
「ぬうぅおぉぉッ!?」
 強烈な衝撃。強烈な減速。三本の奔流を浴びた大威鍛は砕け――なかった。
 激流に耐える大岩のように凄まじい水量を四散させながらも進み続けている。
「ラリー、急げ。数秒しか保たないぞ……!」
 大威鍛の後ろに続く拓也は全神経を原初の魔眼に集約する。
 作り上げるイメージは拒絶。大威鍛の前にプレッシャーという斥力場を生じさせ、奔流砲の威力を減衰させていたのだ。分厚い装甲に覆われた重巡洋艦でも直撃すれば一撃で粉砕されてしまうほどの奔流砲を。
 それを例え数秒であろうとも減衰させた拓也に、ラリーは益々薄ら寒さを覚えた。
「分かって……らぁッ!」
 ラリーの怒号を乗せて大威鍛の剛腕が振り下ろされた。大質量の物体同士が激突しあう、とびきりに重い金属音が衝撃波を伴って広がった。激浪の頭部が海中に沈み込む。奔流砲の軌道が逸れた。急激に減速する。
「後は頼む!」
 同時に原初の魔眼の斥力場が限界を迎えた。奔流砲の至近照射を浴びた大威鍛が背中から倒れ込む。霧散しながら押し流される大威鍛からマイティ・ホークⅡが離脱した。
「ああ」
 大威鍛の鉄拳に合わせて跳躍した拓也は激浪の頭上を取った。奔流砲の射角は下を向いている。だが小口径奔流砲は拓也という小さな標的を正確に捕捉していた。発射された青い光線は一本一本がキャバリアにとっても致死性の威力を持つ。そのどれもが自分の身体を貫く軌道に乗っていることを、拓也は原初の魔眼がもたらす未来予測能力で把握済みだった。
「今の俺には無意味だ」
 拓也が双眸を見開く。原初の魔眼から放たれた斥力が青い光線の軌道をあらぬ方向へと歪めた。そして斥力は物理的な打撃力を持って激浪の頭部を打ち据える。激浪にとっては大威鍛に殴打されて沈んだ頭部を持ち上げようとしていた矢先だった。激浪の速力がさらに鈍る。停止しているのとさほど変わらないほどに。
「今だ! 撃て!」
 拓也が叫ぶ。放った斥力の反動で跳ね飛ばされるかのごとく離脱した。
 その直後だった。
 戦艦三笠から伸びた二本の光条が空を走って激浪に突き刺さり、風切り音と共に飛来した三つの砲弾が赤黒い火炎球を膨張させた。
 ルイーズの古代武装『神槍エリクトニオス』が放った光弾が激浪の装甲を貫いた。
 アイリスの古代武装『神弓カラドボルグ』の光の矢が激浪の巨躯を抉り取った。
 マイラの古代武装『エターナルロッド』を触媒にして生じた稲妻が激浪の内部機関を焼いた。
 閃光。衝撃。爆発音。
 機体の上部の殆どを粉砕された激浪が鋼の骨格を軋ませながら沈みゆく。まるで最期の断末魔のように。腕で顔を庇いながら見届ける拓也の元に三機の巨神が集結した。マイティ・ホークⅡが一人と三機の周囲を旋回機動する。
「あれが神話上でしか語られていない原初の魔眼の力か……神様扱いされるのも納得の力だな……」
 ラリーの呟きが無線に浸透した。激浪の奔流砲をあそこまで減衰させるとは。原初の魔眼……ゼロノメの力を身をもって体験した後で見る相棒の姿に、頼もしさと心強さ、そして得体の知れない不気味さを抱いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
まずは遠景を眺めます!するといい感じに重くなるのでコクピットハッチの端っこら辺に思いっきり体を擦り付けろ!
アケテ
アケテ
イレテ
イレテ
こんにちはゼロハート氏

しょうがないじゃんボス級のくせにいっぱい出てくるんだもん、まとめてぶっ倒す下準備もかねてつい機体侵入しちゃったんだZE!
そうだ東雲氏に通信入れようぜ!リアクション担当美少女は何人いても良いとされるでござる!それに今回は出番が少ないし…
いえーい東雲氏見てるー?これからーゼロハート氏と一緒にぃ…世界をバグらせちゃいまーす!
という訳で神がお怒りでござる!お戯れのバグが来るぞォ!

世界は
バグの炎に
包まれた!
激浪君達が容赦なくバグまみれにされていきますぞ!
水面ぎりぎりの奴はビチビチし水から空中に発射されたり
水を吸って巨大化すれば更に怒りを呼び捻り上げられたり
挙句水中バグで世界の裏側に連れてかれる奴も出る始末…

バグに気を付けながら仕留めてくだされ、あと着水したら世界の裏側に連れてかれるから気を付けてね!
連れてかれたらどうなるって?馬鹿だな…拙者がいるよ



●壁抜け
「まずは遠景を眺めます!」
『まだそこに居たんですか!?』
 テレサの悲鳴のような叫びが上がる。
 まだ居たというのはエドゥアルトのことである。他の猟兵のパートに入った途端に忽然と消滅したと思いきや、エドゥアルトのパートに入ったら再び姿を現した。
 しかも機体にしがみついた格好で。
「するといい感じに重くなります!」
『いや……ゲームじゃないんですから……』
「ゼロハート氏にひとつ忠告しておこう。これは、ゲームであっても遊びではない」
『あなたは自分の夢のために何百人もの人の脳をマイクロ波で焼くつもりなんですか?』
「うるせえよこの野郎プレイバイウェブは遊びじゃねーんだよ馬鹿野郎!」
『そんなどこかのゲームのキャラクターみたいな顔でよく言えますね』
「次にコクピットハッチの端っこら辺に思いっきり体を擦り付けろ!」
 するとエドゥアルトは装甲板と装甲板の隙間に向かって走り始めた。
『遊んでるじゃないですか……』
「アケテ」
『嫌です』
「アケテ」
『だめです』
「イレテ」
『むりです』
「イレテ」
『しつこいですね!』
「ヌッ! こんにちはゼロハート氏」
 まるで密林プライムでドラマが配信された事が切掛で蒸気みたいな名前のゲーム配信サービスでの売上が爆増したポストアポカリプスのオープンワールドゲームに登場する世界が核戦争で滅びる原因を作り出した極悪大企業のマスコットキャラクターのようなエドゥアルトの顔面がテレサ機のコクピットに入り込んだ。
「きゃあああッ!?」
 耳をつんざくほどの悲鳴。エドゥアルトの顔面をテレサの足が蹴る。
「オォン! アォン!」
「どうやって入ったんですか!? 出てって!」
「ぬわああん蹴られたもおおおおおおん!」
「蹴るに決まってるじゃないですか!」
「やめちくり~!」
「なら早く出てってください! 早く!」
「やだ! やだ! ねぇおじさんやだ!」
「そもそもなんで入る必要があるんですか!」
「しょうがないじゃんボス級のくせにいっぱい出てくるんだもん……」
「言い訳になってませんよ!」
「まとめてぶっ倒す下準備もかねてつい機体侵入しちゃったんだZE!」
「そんな嬉しくなったらついやっちゃうんだみたいなノリで……!」
「そうだ東雲氏に通信入れようぜ! リアクション担当美少女は何人いても良いとされるでござる!」
「ダメです! ただの迷惑行為でしょう!?」
「それに今回は出番が少ないし……」
「いやだって所詮NPCですから……」
「いえーい東雲氏見てるー?」
「ダメって言ってるじゃないですか! 皆さん今は必死に戦ってるんですよ! あなたはギャグ時空でも周りはシリアス時空なんですよ!」
「これからーゼロハート氏と一緒にぃ……世界をバグらせちゃいまーす!」
「私はしませんしできませんから」
『ああ、変わらずお元気そうですわね』
 ガチャ切りされた。
「おいっ! 切りやがったなオイ!」
 エドゥアルトは激怒した。
 必ず美少女とはお話ししなければならぬと決意した。エドゥアルトは人の心が分からぬ。だが美少女という存在には人一倍に敏感であった。だからエドゥアルトは許せなかった。美少女とのお話しがガチャ切りされるなどと決して許せなかったのだ。
「もう許せるぞオイ!」
「許してるじゃないですか」
「もう許さねぇからなぁ〜?」
「忙しい人ですね」
「怒らせちゃったねぇ! 拙者のことね! おじさんの事本気で怒らせちゃったねぇ!」
「躁鬱か何かですか?」
「という訳で神がお怒りでござる! お戯れのバグが来るぞォ!」
 一般人には何がという訳なのか全く理解できないが、とにかくそれは空から降ってきた。
「ユアーショッ!」
「音楽著作権協会に怒られても知りませんよ……」
「2024年! 世界はバグの炎に包まれた!」
「一面見渡しても海なんですけど……」
「ほらほらあそこ! 激浪君達が容赦なくバグまみれにされていきますぞ!」
 物理演算の神が荒ぶる。神の御業はすぐに顕現した。
「水面ぎりぎりの奴がビチビチチャパチャパデュビデュビダバダバしていいゾ〜コレ」
 海上を驀進する激浪が突如としてカクカクとした高速機動を繰り返し、空中の彼方へ吹き飛ばされる。
 吸水で大型化した激浪は機体が不自然に捻れて変形し、落とし穴に落下したかのように海中に消えたかと思いきや反応が消滅してしまった。
 物理演算を持て余した神の戯れに理解が追いつかないテレサは、顔を青ざめさせながら呆然としている他になかった。
「ボサっとしてないでバグに気を付けながら仕留めてくだされ」
「いや……あの……」
「あと着水したら世界の裏側に連れてかれるから気を付けてね!」
「……はい?」
 口は災いの元である。次の瞬間、日レ両軍の艦艇と激浪が一斉にボッシュートされた。
「何してるんですか!」
「勝ったッ! 第二章完!」
「戦略的敗北ですよ! そもそも世界の裏側ってどこです!? 皆さんをどこにやったんですか!? みんないなくなっちゃった……!」
「そう寂しがるなって……拙者がいるよ」
「この人……もういや……」
 テレサの嗚咽は無垢な海原に溶けて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
真正面から打ち倒すのは誉なんだろうけど…
そんなの効率悪すぎなのです
誉はどっかで死んだっ!
僕は武士ではなく忍なので、ね
熟達の忍はずのーも優れているっぽーい!
敵を知り、その性質を利用すれば活路をあるのですよ
装甲を水分で再生する機構を利用させてもらうのです
具体的には<神便鬼毒酒>で生み出した神酒を吸収させるのです
神酒が引き起こす<酩酊>は酒精によるものではない
神酒の保有する神話的概念によるもの
相手が機械だろうが効果は発生するのですよ
機械には機械に対応する形で<酩酊>が働く
無数のエラーを吐き出すみたいな感じで、ね
そんなわけで今回の僕はデバフ系サポーターなのです
ついでに味方も回復するのでヒーラーでもあるかも?
どっちにしろ直接攻撃要員ではないので
流石に相手がこのサイズだとUCの維持だけで限界だからね
直接攻撃は他の猟兵に任せるのです
仲間を信じてサポートに回ることも大切ってね


シル・ウィンディア
重巡洋艦が墜ちるって…。相変わらずとんでもない相手だよね。
そして、3方向に分かれてくるのが厄介。
さて、どこのフォローに回ろうか…。

よし、ここは中央ルートを行く敵を迎え撃つか。
火力面なら、奔流砲にも負けないものがあるしね。

中央ルートを全スラスター全開で高速機動を行いながら接敵するよ。
対空艤装を作られても、そこまで接近はしないよ。
リーゼは射撃・砲撃機体だからね。

射程内にとらえたら、ロングビームライフルとカルテッドキャノンを一斉発射!
中距離レンジに入るまでは、ロングレンジで撃ち合いを行うよ。
中距離レンジに入ったら、左腕ビームランチャーも使用。
そして、リフレクタービットも展開して、オールレンジ攻撃っ!

射撃武装を全部使いながら、詠唱を開始。
回避運動もしっかり行いつつ、じっくり詠唱を行うね。

敵が奔流砲の動作を見せたら、上昇してから敵に向って、ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストを撃つよっ!
わたしの全力、遠慮せずにもってけーーっ!!

UCを撃った後は回避専念。さすがにこの魔法は消費が激しいから…


ヴィンデ・ノインテザルグ
Fireflyに搭乗し、戦域中央へ。

Evangeliumを機敏に操作して敵砲を回避しつつ
上がった水煙の死角からLeviathanでカウンターを。

私の現在地ならば、|心眼《あれ》が使えるか。
同作戦に参加中の猟兵諸氏
並びに戦場内の全味方機へ向け通信回線を開こう。
―…猟兵・ヴィンデ・ノインデザルグより全戦闘員に通達。
これより140秒間、戦場内に於ける敵機の全攻撃を無力化する。
国籍や地位も今は無関係。眼前の敵を共に磔刑に処そう。
照射まで10カウントを実施、9、8、7―…
―…UC機動。
Fireflyから放つ十字の対象は激浪のみならず、EVOLも含めたい。

すぐさまMammonを激浪に撃ち込み
突進しながら数発Belphegorを発射。
反動で飛翔した後、高位置から滑空するように
Asmodeusで背部の砲を串刺しにしたい。

再生を試みるか…そうはさせない。
敢えて私に生命力吸収をするよう仕向け
それを『攻撃』として無力化を試みたい。

味方機の戦闘状況に応じて、3秒まで効果時間を延長。
目尻に伝う血涙も別段厭わない。



●神酒と六芒と十字架と
「高雄がやられちゃった……!?」
 シルが青い眼を丸くする。メインモニターに表示されたサブウィンドウの中で、艦橋構造体を丸ごと喪失し、船体の中央部分を艦底部から粉砕された高雄が、白い波を押し広げながらゆっくりと海に沈んでゆく。
 肉厚な装甲に覆われた重巡洋艦を容易く大破に至らしめた激浪の奔流砲。もしもキャバリアで受けてしまえば……いや、掠めるだけでも作戦領域の外に押し流される以前に木っ端微塵にされてしまうだろう。シルは背中の肌が泡立つのを感じた。
「でも、火力ならレゼール・ブルー・リーゼだって!」
 フットペダルを踏み込む。背負うアジュール・リュミエールがスラスターの噴射光を吐き出す。海面につま先が触れる寸前の匍匐飛行で戦域中央への進路を取る。驀進する先では、水飛沫のヴェールを纏う激浪が日レ両艦隊へ接近しつつ奔流砲を撃ち放っていた。激浪の周囲を飛ぶ光と注ぐ火線は先んじて交戦中の猟兵の機体のものであろう。

 全長40メートルという巨躯に幾多の砲火を浴びながらも、激浪の侵攻速度に緩みは見受けられない。機体各部に艤装した小口径対空奔流砲が青白い光線を伸ばす。
「まるで近付けんな」
 ヘルメットのバイザーの奥でヴィンデ・ノインテザルグ(Glühwurm・f41646)の顔に微かな苦味が浮かぶ。背面と顎内部の奔流砲に及ぶべくもない。だから側面に回り込んで攻撃しているのだが、対空奔流砲も通常のキャバリアにとっては一撃で撃墜されかねないほどの威力を持つ。ひっきりなしに走るそれらをFireflyはクイックブーストの連続で躱す。そしてLeviathanの三日月型の光波で文字通りに刃を返した。切り上げと切り下げの動作で射出された二枚の刃は激浪に命中。対空砲の砲身をなめらかな切り口で溶断した。
「おまけにしぶとく、頑丈と来ている」
 ウォーターレーザーの集中砲火にFireflyは後方へ急加速を掛けた。ヴィンデは光刃と光線が交差し合う隙間から先程攻撃した部位を伺い覗く。既に再生が始まっている。
「んー……チクチク攻撃しても意味ないっぽい」
 Fireflyとは激浪を挟んで逆位置から鬼燈のアポイタカラが重量子ビーム砲を撃ち込む。収束モードで発射された赤黒い光軸は激浪の背面に確かに突き刺さった。しかし分厚い装甲に阻まれて奔流砲の本体に届かない。
 対空奔流砲の砲身が蠢いたのを見た鬼燈がフットペダルを踏み込んで操縦桿を左右に傾ける。アポイタカラのバーニアノズルが噴射炎を焚く。短い間隔で左右に瞬間加速しながら後退すると、何本ものウォーターレーザーが後を追い掛けてきた。
「なら! 瞬間火力でぇっ!」
 シルの裂帛と共にレゼール・ブルー・リーゼが放った合計四本の粒子光線が激浪の横腹へと殺到した。エトワール・フィラントとカルテット・グレル・テンペスタの一斉射が着弾すると同時に青白い爆炎を連鎖させる。
「これでも揺るがないのか……」
 ヴィンデには激浪が僅かに微動したかのように思えたが、日レ両艦隊を目指す航速が衰えるほどではなかった。
「とびきり活きの良い個体引いちゃったっぽい?」
 鬼燈に思い当たる節があるとすれば日レ両艦隊が発射した魚雷の当たり具合だろうか。命中したとしても全部が全部期待値通りのダメージを与えていたとは限るまい。潜水能力は失っているようだが、損傷度合いで言うならば二割も受けていないのではないか?
「じゃあどうするの!? 主砲狙う!?」
 レゼール・ブルー・リーゼが激浪の頭上を駆け抜ける。頭上に差し掛かった直前でアルミューレ・リフレクターをばら撒いた。機体のスラスターが引く軌跡を激浪の対空奔流砲が追いかける。レゼール・ブルー・リーゼは横方向へと機体の軌道を偏向させながら四肢を振った反作用で背後に振り向く。ヴォレ・ブラースクを連射した。照準も付けずに撃たれたそれらのビームの射線上に先回りしたアルミューレ・リフレクターが受けて跳ね返す。様々な角度から跳弾したビームが激浪の全方位に降り注いで幾つかの対空奔流砲を砕いた。
「射角に入ったら海の藻屑なのですよ」
 激浪の対空奔流砲がアルミューレ・リフレクターを追い掛けている隙を、アポイタカラが重量子ビーム砲で狙い撃つ。
「正面から撃ち合えば攻撃ごと飲み込まれるだろうな。策が無い事もないが、奴が纏う水煙が邪魔だな。あれでは届く聖光も届かない」
 Fireflyが腕部を薙ぐ度にLeviathanの光刃が閃く。策と言うのは命を担保に使う策――ヴィンデとしてはその策を使うならば確実性がほしかった。そう安易に連発は出来ない以上、実行するからには激浪を落とせるという確実性が。
 策に必要な条件は二つ。敵に接近するための錯乱と、敵を一撃で粉砕できるだけの威力。その内の後者についてはレゼール・ブルー・リーゼという目処が立っている。
「じゃあ動きを止めればいいの!?」
 離脱後に大きく迂回したレゼール・ブルー・リーゼがエトワール・フィラントで激浪に攻撃を仕掛ける。
「止めるより懐に潜り込んだほうが早いっぽい? でも対空砲の狙いが正確だからそっちもなんとかしないと……あ」
 鬼燈は何事かを閃いた。火砲を止めたアポイタカラが右腕部のマニピュレーターを宙にかざす。すると円陣が浮かび上がった。
「酒気帯び操縦とはな」
 アポイタカラが円陣の中から引き出した巨大な瓢箪を見てヴィンデは肩をすくめた。瓢箪にはなんとも古風な物々しいフォントで『神便鬼毒酒』と刻まれている。
「激浪にお酌してあげようと思ってね」
「ほう? 酔えるのか?」
「そりゃあもうベロンベロンに」
「それはいい」
 鬼燈の意図を察したヴィンデが双眸を細める。激浪は吸水で再生及び艤装を生成する機能を持つ。水を噴射して推力を得る機関も備えている。であれば水を飲ませることなど難しくもあるまい。これで策を打つ条件が出揃った。
「レゼール・ブルー・リーゼ、こちらで攻撃チャンスを作る。奴の背中に自慢の最大火力を叩き込むといい。至近距離から直接な」
「でも今のままじゃ近付けないでしょ!」
「私のユーベルコードで対処しよう。チャンスは一度きりだ。火力ならば激浪にも負けないのだろう?」
「え? ちょっと! ちゃんと最後まで説明してよ! もうっ!」
 シルが呼び止める前にFireflyとアポイタカラは動き始めてしまった。
「敵を知り、その性質を利用すれば活路は拓けるのですよ」
 アポイタカラが激浪の進路上に躍り出る。右腕部で抱えた瓢箪の栓は抜かれ、そこから流れ出る酒が陽光を受けて輝く。激浪は進路上で蛇行運転を繰り返すアポイタカラへ頭部を僅かに向けると奔流砲を放出した。
「わあお、掠ったら極楽浄土まで吹っ飛ばされるっぽい」
 彼方まで伸びた水流の光条に鬼燈は肝が冷たくなった。強風に殴りつけられたかのような衝撃がアポイタカラを襲う。大きく回避したにも関わらず余波が凄まじい。
 すぐに背部奔流砲の二射目がくる。射角から逃れるべくアポイタカラは機体の姿勢を傾斜させて軌道を横に逸らした。激浪はアポイタカラを追って僅かに旋回する。背中に備わる巨砲が鮮やかな青い発行と共に超高圧水流を解き放った。されどその水流はアポイタカラを捉えることなく見当違いの方向へと照射された。
「お? 効いてきたのですよ」
 鬼燈のユーベルコード、神便鬼毒酒を海水ごとたっぷりと吸入した激浪は火器管制機能を含めたセンサーシステムに重篤な異常をきたし始めていた。人間で言うならば酩酊状態に近い。Fireflyとレゼール・ブルー・リーゼを狙う対空奔流砲も精度を欠きつつあった。
「これは……飛び込めるか?」
 ヴィンデは口を固く結ぶ。敵に接近するための錯乱……策に必要な条件の一つが達成された。今の現在位置と状況なら|心眼《策》が使える。Fireflyが激浪に向けて距離を詰める。対空奔流砲の迎撃にさらされたが、おぼつかない狙いは短距離瞬間加速を繰り返すFireflyを撃ち落とすには至らない。
 この間合いならば激浪が纏う水煙に光を阻まれる恐れはない――ヴィンデはコンソールを叩いてオープンチャンネルを開く。
「猟兵、ヴィンデ・ノインデザルグより全戦闘員に通達。これより最大140秒間、戦場内に於ける敵機の全攻撃を無力化する」
 3、2、1――意識の裏で秒数を刻む。ゼロに達した瞬間、自身の心の内にある眼から十字の波動を押し広げた。
「天にまします我等が父よ――」
 ヴィンデから生じた十字の光線がFireflyを触媒として膨張、拡大してゆく。その規模は戦域の全体に至るまでに。光線を浴びた激浪の対空奔流砲が、か細い水の飛沫となった。

「ふははは! そんな豆鉄砲なぞいくら撃っても妾のトールには……なんじゃあ?」
 エリザヴェートは訝しく双眸を細めた。一瞬光がよぎったかと思いきや、トールを狙っていたEVOLの攻撃が霧散し、EVOL自体の動きが磔にされたかの如く麻痺したからだ。
 Crucifixionが無力化したのは激浪だけではない。日レ両艦隊と交戦中のEVOLとそれらが放つレーザーや触腕、侵蝕弾までもが一様にして攻撃性を喪失した。

 ヴィンデの目尻に生暖かいものが伝う。これは涙……ではない。滲み出た血だ。Crucifixionは絶大な効力と範囲の代償として、ヴィンデの生命を一瞬ごとに蝕んでゆく。維持し続けられる時間は最長で146秒。キャバリアの戦闘において長過ぎる時間だが、限界時間を丸々使えるなどと保証はない。
「……いつもよりは軽症だな?」
 ヴィンデは違和感に両眉を上げた。伴う苦痛が緩い。鬼燈が撒いた神酒の影響が発揮されていたからなのだが、説明でもされなければ知る由もない。機体の制御に支障をきたさないのは僥倖だ。しかし生命が削り取られている事に変わりはない。ヴィンデは差し迫る制限時間に衝き動かされるままにFireflyを加速させた。
「正面からでは轢き殺されるだろうが……」
 激浪の上を取った。射出したビームアンカーの楔が激浪の背部奔流砲に食い込む。Fireflyは激浪に引き寄せられながらBelphegorを連続で撃つ。暗い重力球が装甲表面に減り込む。
「私の命を吸うか?」
 それは十字架によって縛られた攻撃の意志だ。重力球が消失した瞬間に合わせてFireflyが着弾地点に飛び込んだ。右腕部を引き、突き出す。Asmodeusの鉄杭が激浪の分厚い装甲を打ち砕き、背部奔流砲の内部機構を露とした。
「エスコートはこれで十分だろう?」
 大質量の物体にパイルバンカーを射突した反動により激浪から弾かれたFireflyは脚部のスラスターを最大噴射して後退する。
「闇夜を照らす炎よ命育む水よ悠久を舞う風よ母なる大地よ暁と宵を告げる光と闇よ……」
 シルの凄まじい早口の無呼吸詠唱と共に、六芒星の魔法陣を正面に広げたレゼール・ブルー・リーゼが入れ替わる。
「よく噛まないで唱えられるね」
 鬼燈は思わず呟いてしまった。
「六芒星に集いて全てを撃ち抜きし力となれっ! ヘキサドライブ! エレメンタルブラスト!」
 レゼール・ブルー・リーゼが正面に回した六門の火砲から六色の光条が迸った。発光色が示す属性に対応したそれらは六芒星の魔法陣をくぐり抜けて一点へと集約されている。FireflyのAsmodeusが貫いた一点へと。
 装甲の再生が終わるよりも先にそこへ到達した光条が激浪の背部奔流砲の主幹部分を貫く。そして激浪本体の内部機構を焼き、圧し、刻み、砕き、弾き、潰しながら腹部にまで貫通。内側から押し広がりながら連鎖する爆発によって、激浪の機体は火球と共に炸裂した。
 軋む鋼鉄の断末魔をあげながら激浪が沈みゆく。爆炎の中から黒煙を引いてレゼール・ブルー・リーゼが離脱する。その光景をヴィンデはFireflyのセンサーカメラを介して眺めていた。身体のあちこちが痛む。
「お疲れさま。飲む?」
 アポイタカラがFireflyの隣に寄って瓢箪瓶を差し出す。
「遠慮しておこう。一応は聖職者の身の上でな」
「ふーん? おいしいのに」
 鬼燈はアポイタカラに瓢箪瓶を煽らせ、自機に神酒を浴びせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

皇・銀静
単独行動
(生身でふらりと現れる灼滅者)

………(高雄へと黙祷

鋼鉄の巨人の争う世界か
そして戦艦を鎮める怪物か

…良いだろう…その水ごと粉砕してやる

【戦闘知識】
敵の位置とそこまでの道筋を把握
【属性攻撃・オーラ防御】
周囲にオーラを展開
そして…意図せず風を纏い浮遊

之は…そうか…彼奴か

「生身であんなのに挑むとは主ってばクレイジーだね☆他のキャバリアに乗ろうとかしないのは嬉しいけど☆」
(いつの間にか戦艦の一つの甲板に立って戦況を見ている黄金の髪の少女)
「グリムちゃんはこう見えて奉仕体質だよ☆」
槍の神発動
主の攻撃に絶対必中を付与

【二回攻撃・切断・リミットブレイク・遊撃・念動力】
風を纏い生身で船を足場に…海上をかけながら敵に迫る…!

お前もまぁ…戦艦みたいなものだろう
…僕の中にいた|闇《ダークネス》は戦艦を切るのに憧れて横須賀を襲うようなアホだったが…

そいつに倣うのも悪くない
UC発動
同時にドラウプニル展開
念動光弾を叩き込み
魔剣による斬撃
鋼鉄を粉砕する拳
真空波による超連続攻撃を叩き込む(必中付与中

海に沈め…!



●グリームニルの巫女
 激浪が波濤の狭間に飲まれて沈む。高雄の骸と共に。
 戦艦山城の甲板の縁に立つ皇・銀静(陰月・f43999)は瞑目の暗闇の中で何を捧げたのだろうか。
 炸薬の匂いを孕む潮風に吹かれ、全身黒尽くめのロングコートの裾が激しく波打った。
「鋼鉄の巨人の争う世界か。そして戦艦を鎮める怪物か」
 フードから覗く双眸が開かれる。揺れる銀髪の向こうに広がる世界は戦いに満ちていた。
 戦慄する大気。交錯する光条。
 火球がひとつ膨張するたびに、鋼の戦機が砕けて、名前も知らない誰かの命が消える。
 押し寄せる津波のような轟きが鳴る。進路上の全てを飲み込み押し流してしまう奔流が山城のそばを駆け抜けた。肌を刺すほどに鋭い飛沫が、海面を乱すほどに重い風圧が、銀静に容赦なく吹き付ける。
「……良いだろう……その水ごと粉砕してやる」
 細めた眼差しが奔流の出所を辿る。窄まった瞳孔が激浪の姿を捉えた。
 人の身である銀静に、激浪の姿はどう映ったのだろうか。キャバリアの視点でさえも山の如き威容である。されど目に恐れの色は無い。目標までの道筋を描き出し、寸分の躊躇いすら漂わせずに山城から跳んだ。
「之は……そうか……彼奴か」
 全身の周囲を巡る気流に銀静は自分ではない誰かの意図の介入を察した。僅かに顔を横に向ける。視界の隅に風を受けて踊る金髪が入り込んだ。
「生身であんなのに挑むとは主ってばクレイジーだね☆ 他のキャバリアに乗ろうとかしないのは嬉しいけど☆」
 激浪に向かう銀静の背中を、金髪の少女が山城の甲板から見送っていた。
「グリムちゃんはこう見えて奉仕体質だよ☆」
 絶対神機の槍の加護と共に。
 銀静は邪気を伴う気流を纏って海面を走る。滑る。跳ぶ。時に艦艇を飛石にして。
「お前もまぁ……戦艦みたいなものだろう」
 誰を狙ったものなのかも定かではない奔流砲をすり抜けながら、銀静は虚憶を振り返る。
 それは自分の虚憶だったのか? 或いは限りなく遠く、限りなく近い誰かの虚憶だったのか?
「僕の中にいた|闇《ダークネス》は戦艦を切るのに憧れて横須賀を襲うようなアホだったが……」
 今回はそのアホを倣うのも悪くない。
 戦場のどこかで十字架の光が広がった。途端に激浪から伸びる対空奔流砲が止み、巨躯に見合わない動きが鈍る。
 どういう訳かは知らないが――理由はどうでもいい。偶然に訪れたチャンスに、銀静は九つの腕輪を周囲に拡げて追走させた。
 腕輪型自動攻撃端末、ドラウプニルが念動を凝縮した光を弾体として射出する。激浪に殺到して破裂した光を目眩しに肉薄。禍々しくも美しい魔剣を……Durandal MardyLord
を引き抜く。そして激浪に飛び付いた。
「白虎門……反転……須らく……砕け散れ」
 打ち込めればどこでも構わない。邪悪なる風で加速した魔剣の刃を振り下ろす。重い金属同士がぶつかり合う音に火花が続いた。剣を引いた反動で拳を叩き付ける。分厚いナノクラスタ装甲が砕けて金属片が舞い踊る。
「まだ終わらない……!」
 銀静が纏う風が無限の刃となり、銀静の意志のままに打撃点を連続で切り刻む。そこへ魔剣の切り下ろし、拳の正拳突きが間髪挟む隙さえなく繰り出される。秒間百を超える連撃は激浪の再生力を上回るほどだった。
「海に沈め……!」
 灼滅者が叩いて砕く。きっとそれは、己の拳が壊れるまで止まらないのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨飾・樒
もう、艦は沈ませない
このままレイテナ艦隊に接近する激浪を迎撃、確実に仕留める

私達猟兵側の戦力も充実してるけど、あの再生し続ける装甲をどうにかしないと倒せない
"眠り薬の魔弾"を効果が出るように撃ち込みたい
敵の対空射撃を避けつつ接近、まずはライゴウのビーム砲を撃って、命中箇所に魔弾を撃ち込んでみる
命中箇所の再生が止まるか鈍るかの効果があれば弱点を作れたことになる、味方に命中箇所を共有して火力を集中すれば仕留められると思う
それだけじゃ効いてないように見えるなら、効果が出る箇所を狙わないといけない
現時点で判明してる激浪の情報から制御中枢とかが分かるならそこを、不明なら疑わしい箇所を狙っていく
物理的な装甲だけなら透過できるのが魔弾の長所、効果が出る箇所は必ずある、敵の観察と射撃に集中

案外、こいつも動物と同じように口内に攻撃を叩き込まれると弱かったりするのかな
私とライゴウの速さなら狙える、鯨殺しを、殺してみせる


カシム・ディーン
…一度やりあった事あるけどこいつらやべーんだよなぁ

「それじゃ逃げちゃう?」

そいつも悪くねーがもうちょいやりたい事をやってからだ
【情報収集・視力・戦闘知識】

敵機の構造と動きと武装を解析

「メルシー達神機と似た名前の機能なんて生意気だぞ☆」
いや関係ねーだろ


【空中戦・見切り・瞬間思考力】
UC発動
超絶速度で飛び回りながら敵の一斉砲撃の中突破口を見切り
接近

【属性攻撃・電撃・弾幕・念動力】
周囲の海を蒸発させる程の超高熱火力の熱線の弾幕と共に更に雷撃を放ちプラズマ化させつつ念動力で…吊り上げる!

「中々に脳筋だぞご主人サマ☆」
インテリ系のカシムさんには少々厳しいがやってやらぁ!

海で無敵なら…釣り上げちまえばいいって奴だおらぁ!(パワーは念動力で補ってる

【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
超絶速度で鎌剣による連続斬撃を叩き込み
全力で切断して
更に武装や資源になりそうなものは徹底的に強奪!
このまま拿捕って訳にもいかねーだろうからせめて資源として役立ってもらうぞ!
「後で売り付けてやるんだぞ☆」
精々僕の懐を温めろ!


ティオレンシア・シーディア
戦場お任せ

…あたしの場合基本的な火力があんまり高くないから、このテの「頑丈なデカブツ」相手はホント苦手なのよねぇ…
ま、ボヤいて相手が柔らかくなるわけじゃあないし、できるとこから対処しましょ。

主砲は来るとわかっていればある程度の対処は可能…なら、警戒すべきは艤装化で生成する副砲かしらねぇ?
●黙殺・砲列による魔術弾幕とガン積みした物理火器・火砲を●虐殺・壊擂で制御、マルガリータに装甲の変化を探知してもらって|同時多重補足《マルチロックオン》。艤装を生成する端からソーンとイサをぶつけて潰してくわよぉ。砲である以上、砲「門を閉ざし」「固定」すればある程度は潰せるでしょ。
焦れて一撃に賭けてきたらそれこそ好機、|収束飽和射撃《ピンホールショット》に切り替えて○先制攻撃で|ウル・帝釈天印・ティール《貫徹する雷の剣》を叩き込んでやるわよぉ。
相当の時間マルチタスク全開でブン回すことになるから相応にしんどいけれど…まだこの後もある以上完全な捨て身にはなれないしねぇ。



●インターセプト
 西の側面へと大きく迂回路を取って驀進する激浪。進路から察するにレイテナ艦隊の横腹を突こうとしているのだろう。
 猟兵側の作戦目標はイコールオブリビオンマシンである人喰いキャバリアの殲滅だが、人喰いキャバリア側の戦略目標は猟兵の殲滅ではない。
 戦略という概念が存在しているのかはさておいて、猟兵を無視しても艦隊を殲滅すれば人を喰うという目標は達成されるのだろう。
「もう、艦は沈ませない」
 樒の面持ちは固い。脳裏には爆散した重巡洋艦高雄の最期が焼き付いていた。ライゴウの底面が海面に触れるほどの低空を滑空する。
「……一度やりあった事あるけど、こいつらやべーんだよなぁ」
 カシムはメルクリウスを樒と並走させながら過去に激浪と交戦した際の記憶を振り返る。レイテナ海軍が運用する激浪との交戦はこれが初めてだが、他の地、他の国で交戦した激浪はいつも決戦兵器と呼ぶに相応しい強敵だった。戦力を過小評価する気にはなれない。
『それじゃ逃げちゃう?』
 頭に乗った雄鶏型インターフェースが尋ねる。
「そいつも悪くねーが……もうちょいやりたい事をやってからだ」
 ナノクラスタ装甲は高級品である。ただの鉄板とは訳が違うのだ。つまり高く売れる……激浪狩りは大仕事だが、盗賊として心が躍らないこともない。
「このテの『頑丈なデカブツ』相手はホント苦手なのよねぇ……」
 一人と一機の後を追うスノーフレークのコクピットに、ティオレンシアの甘く重たい吐息が漏れ出た。
 スノーフレーク自体は対艦戦闘を重視して爆装しているわけではない。通常兵器で激浪の装甲厚を抜けるかどうかと聞かれたら自信があるとは言えないというのが正直な所感だった。
「こっちも得意ってわけじゃあないがな」
「最大出力のビームなら装甲を抜けなくはない、と思うけど」
 カシムと樒にしても不得手とするところはさほど変わらないらしい。少なくとも重くて大きいハープーンミサイルのような代物を積んではいないし積みたくもない。
「ま、ボヤいて相手が柔らかくなるわけじゃあないし、できるとこから対処しましょ」
「そりゃ違いない」
 ティオレンシアの正論にカシムは両眉を上げ、樒は無言の肯定で応じた。
 そもそもとしてキャバリアでこの巨大兵器を破壊しようというのは、生身の人間でちょっとした山やビルを崩してやろうという試みに等しい。巨大であること、大質量であることはそれ自体が一つの大きな強みだ。それを覆すのは猟兵の身であっても容易いことではない。理を思うがままに捻じ曲げるユーベルコードを用いたとしても。でなければ生身でキャバリアを倒せる猟兵が超人呼ばわりされる理由も説明が付かないだろう。
 それらを既知の内に収めたティオレンシア、カシム、樒は真のプロフェッショナルである。プロフェッショナルは敵の脅威を正しく認識し、驕ることもしない。だから激浪の挙動にも一早く反応できたのだ。
 遠方で激浪に三つの青い光が閃いた。
「奔流砲、来る」
 樒は身体の重心を横に傾けてライゴウの進路を激浪から逸らす。
「キャバリア以下のサイズのターゲットを狙える武器じゃないわよねぇ」
 スノーフレークがバーニアノズルを焚いた。弾かれるようにして横に跳ぶ。
『メルシー達神機と似た名前の機能なんて生意気だぞ☆』
「いや関係ねーだろ」
 メルクリウスのタラリアがスラスターの噴射光を炸裂させた。機体が縦軸に回転して激浪との直線軌道から外れる。
 一人と二機が散開した瞬間、三本の莫大な水量の奔流が海を割った。それぞれに偏向角を付けられていたのは、ライゴウとメルクリウスとスノーフレークを進路上の障害と見做した証であろう。
「うおおお!? キッチリ避けてもこれかよ!?」
 奔流が伴う余波を受けてメルクリウスの姿勢が大きく傾いた。
 キャバリアでそれほどなら生身では無事では済まない。樒は姿勢を落として顔を腕で庇いながら激浪の側面へと回り込む。身体に打ち付ける奔流砲の飛沫が痛い。
「でも正面に立たなければ奔流砲には狙われない。警戒するべきはむしろ副砲かしらねぇ?」
 樒とは逆方向から激浪の側面に回ったスノーフレークを無数のウォーターレーザーが出迎える。スノーフレークは短距離の瞬間加速を繰り返して光線の合間を縫う。
「どうするにしてもこれを黙らせないとねぇ。マルガリータ、ロックオンをよろしく」
 モニターに映し出された激浪に幾つものロックオンマーカーが灯る。並行してゴールドシーンがスノーフレークの周囲に魔術文字を描き出す。黙殺・砲列の意味を持つ魔術文字が火砲の形を成し、虐殺・壊擂の意味を持つ魔術文字の火器管制を受けて解き放たれた。物理的・魔術的な弾幕が雪崩のごときとなって激浪に殺到する。何割かは対空奔流砲の迎撃を浴びたが、残りの多くは目標へと到達。色とりどりの鮮やかな炸裂を咲かせた。砕いた箇所に氷の棘が突き刺さり、修復を阻害する。
「砲である以上、砲門を閉ざして固定すればある程度は潰せるでしょ……!」
 ティオレンシアが息を詰める。操縦桿を横に弾いてフットペダルを連続して踏み込む。バーニアを小刻みに噴射するスノーフレークの装甲を何本もの奔流砲が擦過した。
「熱烈なご歓待に痛み入るわねぇ」
 激浪を挟んで反対方向の樒もまた苛烈な迎撃にさらされていた。
「弾幕が厚い……!」
 ライブ会場のレーザーの如き対空奔流砲の暴雨は、一本一本のどれもが生身で掠めれば即死は免れない。樒を乗せたライゴウは鋭角な機動を繰り返してそれらを潜り抜ける。そして激浪に機首を振り向けた瞬間、収束した荷電粒子を一直線に伸ばした。鮮やかな緑の光線は激浪の側面部に命中。小爆発と共に対空奔流砲の一基を沈黙させた。
「対空砲が生えていたところなら……」
 樒はすかさず六式拳銃丙型を三連射する。三発の弾丸はビームが命中した箇所に吸い込まれた。針に糸を通すかのような精密さだった。零式射撃動作補助符の照準補正あっての精度であろう。着弾地点にペールブルーのガスが膨らむ。樒は自身を追いかけるウォーターレーザーを掻い潜りながらガスの向こうを凝視する。装甲の再生は――止まっているように見える。
「だめ」
 樒は目元を微かに歪めて奥歯を噛んだ。激浪のナノクラスタ装甲の再生を眠り薬の魔弾で止められた。しかし毒の回る範囲が狭すぎる。蜂が鯨を刺したようなものだろう。これでは主幹機能が収まっている内部にまで浸透しないし、友軍の攻撃を集中させるにはあまりにもピンポイントすぎる。
 どこを狙えばいい? 効果的な箇所は必ずあるはず。樒はこの一週間以上の準備期間で散々聞かされた座学の内容を思い返す。
「やっぱり奔流砲を……狙うしか」
 自分に唱え聞かせるようにして呟く。実のところ分かってはいた。奔流砲は激浪最大の武器であるのと同時に唯一の弱点と言っても過言ではない。巨大な砲門は正面からの被弾を想定していない。しかもジェネレーターに直結している。撃ち抜けば激浪の内部にまで及ぶ深刻なダメージを与える事ができるはずだ。
 しかしそれが簡単にできる事ならば初めからそうしているし、現状は生まれていない。奔流砲の正面以外は強固な装甲で覆われている。正面から攻撃しようとすれば奔流砲の餌食になるのが必定だ。こちらが攻撃するのが早かったとしても、後出しの奔流砲で攻撃ごと押し流されてしまうだろう。そして激浪はこちらが奔流砲を狙って正面に出てくるのを待ち構えている。事実、激浪の三門の主砲は鮮烈な青を湛えたまま発射の瞬間を虎視眈々と狙っていた。
 だが樒はリスクを取らざるをえなかった。こちらの目標は激浪を含むオブリビオンマシンの排除だが、あちらの目標は恐らく日レ艦隊の殲滅で達成されるのだろうから。躊躇えば負ける。
「正面に回って奔流砲を眠らせる。後はよろしく」
「おう! ……おう? いや待て! 消し飛ぶぞ!」
 カシムが制止するも樒を乗せたライゴウは激浪の後方を迂回して正面に回り込む軌道に入っていた。
「大胆ねぇ……言っておくけどあたしは捨て身にはなれないわよぉ?」
 ティオレンシアは思わず顎を引いた。せめてと言いたげにスノーフレークが黙殺・砲列と共に火線を張って対空砲を除去する。
「大丈夫、捨て身になるつもりはないから」
 樒はライゴウと共にスノーフレークの背後を迂回して激浪の正面手前まで到達した。六式拳銃丙型のスライドを引いて残弾を確認。グリップを握りしめた手を片手で包み込み、アイアンサイトの向こうに激浪を重ねる。
「鯨殺しを、殺してみせる」
 狙うは激浪の顎。奔流砲に眠り薬の魔弾を撃ち込む。機能を眠らせれば、あとは二機の内のどちらかが仕留めてくれるだろう。息を止めて射撃の瞬間を待つ。
 一秒が何倍にも引き伸ばされているような気がする。激浪と視線がぶつかりあった。三門の奔流砲が湛える青が痛烈に発光するのと同じタイミングで、樒はトリガーに掛けた指を引いた。
 弾ける薬莢。跳ね返る腕。手応えは……あった。だがすぐに青い光が視界を埋め尽くしてしまう。
「ブーツオブヘルメース!」
 カシムが張った声に呼応してメルクリウスのタラリアが凄まじい光量を噴射した。猛然と超加速したメルクリウスはカドゥケウスから熱線と雷撃を乱れ撃つ。激浪の周囲に大きな水柱が立ち昇る。それを牽制として突進。避け損なった対空奔流砲が装甲を削るが脇目も振らない。そのまま激浪の横腹に衝突した。
「インテリのカシムさんらしからぬやり口だが! 海で無敵なら……釣り上げちまえばいいって奴だおらぁ!」
『中々に脳筋だぞご主人サマ☆』
 音速の何倍もの速度が出せるということは、それだけの推力が発揮できるということだ。カシムはフットペダルを限界まで踏み抜く。メルクリウスのスラスターが焼け切るのも覚悟とばかりに噴射光を炸裂させる。激浪の巨躯が揺らぐ――が、釣り上げるまでには届かない。その機体と全備重量の差はユーベルコード無しで覆すにはあまりにも大きすぎた。しかし激浪の巨躯が釣り上げられはしなくとも横へと押し出される。その結果、奔流砲の射線が樒から大きく逸れた。樒はすかさず離脱する。激浪の三門の奔流砲の内、顎に内蔵されている奔流砲の照射が止まった。
「魔弾が効いた?」
 それを樒が見届けたのとスノーフレークが激浪の正面に立ち代わったのは同時だった。
「|ピンホールショット《収束飽和射撃》、決めさせて貰うわよぉ?」
 スノーフレークが従える黙殺・砲列が陣形を変える。激浪を正面としてスノーフレークの前に整列。まるでひとつの巨大な砲の様相に変じた。ティオレンシアが操縦桿のトリガーキーを引くとスノーフレークが砲列にマニピュレーターをかざす。
「ウル・帝釈天印・ティール……雷神の剣、ご賞味あれ」
 ティオレンシアの糸目――その左目に微かな赤い輝きが垣間見えた。指がトリガーキーから離れる。砲列から金色の光条が伸びた。雷が落ちたかの如き轟音。激浪の尾部から飛び散る金属片。スノーフレークの雷の剣が、激浪の巨躯を頭から尾部を貫徹したのだ。
 メインジェネレーターを含む主幹機能を破壊された激浪の内部から爆発が生じる。メルクリウスとスノーフレークが後方へと飛び退いたのと同時に、膨張した爆発は何度も連鎖を繰り返して激浪を内部から炸裂させた。
 黒煙を上げて炎上し、少しずつ沈降を始めた激浪。その光景を見て樒はやっと自分の荒い呼吸を自覚するに至った。
「うおおお! ボーナスタイムだー!」
 余韻を粉砕したのはカシムの声。メルクリウスが激浪の亡骸に突っ込み、ハルペーを振り回して装甲を切り刻み始めた。
「死体蹴りするほど恨みが溜まってたの?」
 ティオレンシアの開いているのか閉じているのか分からない眼には奇行としか映らない。
「なーに言ってやがる! このまま拿捕って訳にもいかねーだろうからせめて資源として役立ってもらうのさ!」
「後で売り付けてやるんだぞ☆」
 カシムとメルクリウスは大真面目だった。鬼気迫る様子にティオレンシアは眉尻を下げる。
「売れるの?」
「ナノクラスタ装甲の塊だからな!」
 カシムの即答に樒は「なるほど」と返す。そういえばライゴウの制作を依頼したときの借金は残り幾らだっただろうか……ナノクラスタ装甲とはキロ当たりどれほどの価値なのだろうか……頭の中で電卓を叩く。
「全部終わってからにした方がいいんじゃないかしらねぇ?」
 頬杖をついたティオレンシアの言葉も溜息も、カシムの耳には届いていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

支倉・錫華
【箱庭】

なんで大きい=強い。の思考なんだろうね。
『しかたありません。それだけ脳筋な方が多いのでしょう』

ま、パワーと装甲に優れているのは確かだけど……。

とりあえず海中担当ってことで、
【サラスヴァティ・ユニット】に換装して海に潜るね。

『激浪』が何機いるか解らないから、今回は出し惜しみなし。
最初から【B.C.L】でいこう。
海の中なら見られることもないだろうしね。

敵の位置は『希』ちゃんからの情報を共有して、手近なところから叩いていくよ。

アミシア、堕とせるだけ堕としたいから、サポートよろしくね
『了解、錫華。照準はわたしが、トリガーはお任せします』

といっても、近づかれちゃうと撃てないから、
最終的には取りついての攻撃になるかな。
理緒さんの援護を受けつつ、相手に【ワイヤーハーケン】を打ち込んで密着戦に持ち込むよ。
取りついたら【歌仙】で外壁を破って浸水させていこうかな。

……ねぇ、アミシア。
『なんです、錫華?』
なんで理緒さんは【ビームラム】の準備してるのかな?
『……理緒さんだから、じゃないでしょうか』


菫宮・理緒
【箱庭】

引き続き【ネルトリンゲン】で参戦。
日乃和艦隊に向かってくる『激浪』に対処しよう。

海中からの攻撃もあるっぽいから、
わたしは錫華さんと協力して、海中の敵を叩いていこうかな

【Density Radar】で敵を補足したら、錫華さんと情報共有。
錫華さんが大砲撃ち終えたら、
【D.F.シールド】を展開しつつ、【粒子反応弾】で攻撃していくよ。

それでも生き残りがいたら、ここからはサポート。
【D.U.S.S】で相手を攪乱しながら、【M.P.M.S】で錫華さんが取りつくまでの援護射撃。

その後は【フィリングウェーブ】で敵のエネルギーを吸収して、、
吸い取ったエネルギーは錫華さんと白羽井・灰狼の両小隊に供給だね。

もちろん、前線での拠点役もしっかりこなすよ。

白羽井と灰狼のみんなー。まだまだ電池代わりにしてもいいから、ねー。

あ、『希』ちゃん。
いざとなったら【トラクターチェイン】で『激浪』捕まえちゃっていいからね。
錫華さんと連携とりながらでいけそうなら、
こっちに引っ張り込んで【アサルトラム】で串刺しにしちゃえー。



●轟天
 幾つもの航跡波が紺碧の海原を割る。凄まじい水煙を上げて進むモササウルスの風貌を持つ激浪の航速は、日レ両艦隊の魚雷攻撃を受けてもさしたる衰えを匂わせない。
 激浪の一機が東側に迂回路を取った。日乃和艦隊の横腹を突くつもりなのだろう。激浪の進路上に意図せずして留まっていたネルトリンゲンからは肉眼でも確認する事ができた。
「なんで大きいイコール強いの思考なんだろうね」
 錫華の率直な疑問がナズグルのコクピットに降りた。メインモニター上で拡大された全長40メートルに及ぶ赤黒い巨躯がこちらに向かってくる。機体が大きければ砲も大きい。背面と顎の内部に備わる奔流砲から戦艦の荷電粒子も斯くやといった極太の超高圧水流を噴射してくる。浜辺に打ち寄せる津波のような轟音が大気を震わせた。
『しかたありません。それだけ脳筋な方が多いのでしょう』
 アミシアの淡々とした電子音声が述べる通りなのであろう。圧倒的な制圧力で強引に戦局を転覆させるだけの能力が激浪にはある。そういった点だけを見れば、カードとしての価値は猟兵と同列なのかも知れないと錫華は思った。
「ま、パワーと装甲に優れているのは確かだけど……」
「そう! 大きければいいってものじゃない!」
 理緒が艦長席のフットレストを叩いて立ち上がる。声と眼差しは怒気を孕んでいた。
『おねーちゃん、なんで怒ってるの?』
「怒ってないよ!」
 尋ねるM.A.R.Eに応じた理緒の声音にはやはり膨張する怒りの情念が篭っている。
「……アミシア、理緒さんは何に怒ってるの?」
『錫華には決して理解できないでしょう』
 アミシアの素っ気ない答えに錫華は眉を顰めて首を傾けた。謎はますます深まるばかりである。
『おねーちゃん! 激浪からロックオンパルス感知! 撃ってくる!』
 進路上に居座っているから当然と言えば当然だが、激浪はネルトリンゲンを破壊するべき対象の艦艇に選定したようだ。メインモニターに拡大表示された激浪の主砲三門が青く輝く。
「回避運動はじめ! 左舷側スラスターを最大出力で二秒噴射!」
 理緒が鋭く声を飛ばす。ネルトリンゲンの巨大な船体が身じろぎし、艦首方向を激浪へと向けたまま横にスライドした。大質量の物体が移動することにより生じた潮流で海面が白く泡立つ。艦の周囲でEVOLと交戦中だった白羽井小隊と灰狼中隊のキャバリアが一斉に散開した直後、大気を轟かせながら三本の超高圧水流がネルトリンゲンの側面を駆け抜ける。
「おー、すごい威力」
 理緒の呑気な声音とは裏腹に、衝撃波はD.F.シールドで減衰してもなおブリッジを振動させるほどだった。見た目こそビームだが非実体弾とはわけが違う。質量は砲弾どころでは済まない。重巡洋艦の腹から艦上部までを貫通する威力を理緒は肌身で味わった。
「ネルトリンゲンの被害報告!」
『左舷フィールドが削られただけ! 30パーセントまで減衰!』
 M.A.R.Eの言葉に視線を左に移す。ネルトリンゲンの左舷側で空中にスパークが明滅している。船体を覆うD.F.フィールドの整流が乱れた事による現象だった。
「錫華さんは大丈夫?」
「別になんとも」
 サラスヴァティ・ユニットに換装した錫華のナズグルが浴びた飛沫に太陽光を反射させて輝く。機体各所に配置された合計16基のウォータージェットにより、輪郭を一回り以上膨らませていた。
「白羽井と灰狼両隊はー?」
「フェザー01よりネルトリンゲンへ! 全機健在でしてよ!」
「寝ぼけてた奴はいないらしいね」
 那琴と伊尾奈曰くどちらにも被害は出ていないらしい。艦長席のサブモニターに映るデータリンクの情報を参照する限りでは数も変動していない。ネルトリンゲンに群がるEVOLを、2機のアークレイズ・ディナとイカルガ達が変わらず撃ち落とし続けてくれている。
『激浪、もう少しでこっちの射程内だよ!』
 M.A.R.Eは既に激浪のロックオンを済ませていた。こちらも撃てるが奔流砲の二射目もくるだろう。理緒は艦長席に座り直して顎を引く。
「マイクロウェーブ照射開始!」
 ネルトリンゲンの照射基から三本の光線が伸びる。到達した先は錫華のナズグル、那琴と伊尾奈のアークレイズ・ディナだった。
『B.C.Lエネルギー充填率110パーセントを超過』
 アミシアがメインモニターにレベルゲージを表示した。ナズグルの腰部左右に備わる光子砲が帯電している。ネルトリンゲンからフィリングウェーブで送信されてきた膨大なエネルギーを充填したが故だろう。
「フェザー01よりネルトリンゲンへ! マスターラインの発射準備完了ですわ!」
「こんなホイホイ撃てる代物じゃなかたったはずなんだけどね」
 那琴と伊尾奈のアークレイズ・ディナが揃ってブレイクドライバーの矛先を激浪の方向に重ねていた。巨大なドリルの螺旋状の溝に沿って青白い光が先端へと集い、稲光を放つ荷電粒子の球体を形作る。
 マスターラインとはイェーガー・デストロイヤー・システムにプリセットされていたユーベルコードのひとつである。マスターラインの使用には莫大な電力が必要となる。本来なら一射でその後の戦闘行動が立ち行かなくなるほどの消耗を強いられるのだが、ネルトリンゲンという外部リソースを得る事で欠点を克服するに至った。
『激浪に再度奔流砲発射の兆候!』
 M.A.R.Eが叫んだ。想定より早い二射目に理緒は唇を噛む。撃つのはどちらが先か――。
「M.P.M.S! ハープーン発射!」
 理緒が右腕を突き出した。それを合図としてネルトリンゲンのミサイルランチャーから何本もの対艦ミサイルが射出された。ロケットブースターの轟音に白い尻尾を引き連れるそれらは激浪へと一直線に向かう。
「マスターライン! 発射いたしますわ!」
「これで落ちるなら楽なもんだがね」
 二機のアークレイズ・ディナが構えるブレイクドライバーからプラズマビームの光軸が放射された。
 錫華も操縦桿のトリガーキーを引いてB.C.Lを解放しようとした……が、一瞬だけ首筋に走った嫌な予感が躊躇わせた。
 大きく口を開けた激浪の奔流砲に青い光が閃く。だが奔流砲が発射されるよりも先にミサイルとビームが到達する方が僅かに早かった。
 大爆発した海面。白く巨大な水柱が立ち昇る。着弾地点から広がった衝撃波に、錫華のナズグルは腕部で頭部を庇う。
 理緒と錫華、白羽井灰狼両隊の誰しもが、急速に薄らいだ水柱の先に目を凝らす。赤黒い巨躯は影も形も残さず消え失せていた。
「はい、木っ端微塵――」
『まだ! Density Radaに反応あり!』
 M.A.R.Eに台詞を遮られた理緒が目を見開く。レーダーに視線を飛ばす。姿を消した激浪の反応がネルトリンゲンに向かって直進してきている。
「弾着の寸前で潜られたの!?」
 理緒の顔が焦燥で歪む。日レ両艦隊の魚雷一斉射撃を受けた激浪は一時的に潜水能力を失っていたはずだが、この個体はもう回復してしまったらしい。潜航した激浪はネルトリンゲンに高速で接近しつつある。
 大破轟沈した高雄の最期が理緒の脳裏に過ぎる。位置が重なるまでもう数秒となかった。
「ネルトリンゲン緊急浮上!」
 理緒の判断は一瞬だった。横方向への回避運動は間に合わない。奔流砲を撃たれたら終わりだが、高雄のように船体に乗り上げられることだけは避けられる。M.A.R.Eは復唱する間も無く船体を海面から浮上させた。船底から海水が滝のように流れ落ちる。
『激浪と接触!』
 M.A.R.Eの報告に理緒は呼吸を止めた。レーダー上でネルトリンゲンと激浪の輝点が重なり合う。
 錫華のナズグルがネルトリンゲンの甲板の縁から海の中を覗き込む。滞空する那琴機と伊尾奈機も同様だった。
 そして全員が見た。ネルトリンゲンの真下を、音もなく通り過ぎる赤黒い巨躯を。
 全員が同じ結論に至ったであろう。激浪の狙いはネルトリンゲンではなく日乃和艦隊――!
「艦首180度回頭!」
 理緒が声を矢にして放つ。
 ナズグルがネルトリンゲンから飛び降りる。ウォータージェットを最大稼働させて加速した。
「アミシア、追いつける?」
『直線加速し続ければ可能です』
 錫華はサポートAIの計算を信じるしかなかった。ネルトリンゲンの足元を素通りした激浪の巨大な後ろ姿が次第に大きくなってくる。
『ワイヤーハーケンの使用を提案』
「わかってる」
 アミシアが勝手に選択兵装をワイヤーハーケンに設定した。錫華は大き過ぎる標的に向かってレティクルを重ねる。当たればどこだっていい。操縦桿のトリガーキーを引く。
 射出された二つの鏃が激浪の装甲に食い込んだ。ウィンチが作動してワイヤーを巻き上げる。激浪に対してナズグルが急速に引っ張られた。激浪の背部に到達したナズグルが歌仙を突き立てる。機体を固定するアンカーには丁度いい。
「もう一度上がってもらうよ」
 先ほど撃ち損なったB.C.Lの砲門を押し付けて発射した。分子の共有結合を破壊する光の束が、激浪の分厚いナノクラスタ装甲を貫き、内部にまで浸透する。
 海面が炸裂したのはその直後だった。潜水能力を再び失った激浪が巨躯を曝け出す。ワイヤーハーケンと歌仙を引き抜いたナズグルが激浪の背中から離脱する。海上では接近していると対空奔流砲の餌食となってしまうからだ。
 しかし潜航能力を失ったからといって激浪の足が止まる訳ではない。ナズグルに振り返るでもなく日乃和艦隊へ向けて航走し続ける――はずだったのだが、その足が急激に鈍った。
『トラクターチェイン命中!』
「引っ張って!」
 ネルトリンゲンが放ったビームチェインが激浪に突き刺さったのだ。自機以上の質量と大きさの艦艇に引かれた激浪の動きがほぼ止まる。ネルトリンゲン側は激浪の対空奔流砲の激しい反撃を受けるが、D.F.シールドで耐え凌ぐ。
「今度は外しませんのよ!」
「狙い易くって世話ないね」
 そこへ二機のアークレイズ・ディナのマスターラインが叩き込まれた。ナズグルと激浪が潜航していた間に再度の充填を完了していたのだ。極大の荷電粒子の光軸に機体後部を直撃された激浪が痛みに悶えるような挙動を見せた。
「希ちゃん! アサルトラム起動!」
 理緒の裂帛に応じてネルトリンゲンの艦首ハッチが左右に割れた。
 そこから姿を現したのは、巨大な衝角型ビームディスチャージャーだった。
 返しが付いた物々しい衝角はあまりにも女子力が高過ぎる。ビームを展開した衝角が回転を始め、モーターが爆音を奏でる。
「ネルトリンゲン最大戦速!」
 ネルトリンゲンの後部エンジンが一斉に噴射光を焚く。大気が戦慄した。
 直進するネルトリンゲンに対し、トラクターチェインに囚われた激浪に残された選択肢はひとつ。旋回してネルトリンゲンと正面から相対する事だけだった。
 互いが向かい合う。
 激浪の奔流砲に海水の輝きが集う。
「と・つ・げ・きー!」
 ネルトリンゲンが激浪の正面から突っ込んだ。アサルトラムが奔流砲を発射する直前の激浪の頭部を貫き、機体を抉る。
 海水の真っ白な爆発と閃光、そして衝撃波が広がった。
 炸裂した水柱を割って出たのは――ネルトリンゲンだった。
 海面からオーバーフレームを出した錫華のナズグルは、やや距離を空けた位置から一連の光景を眺めていた。
「……ねえ、アミシア」
 錫華が視線をネルトリンゲンから動かさないまま尋ねる。
『なんです、錫華?』
「なにあれ?」
『アサルトラムです』
「なんで理緒さんはあんなの準備してたのかな?」
『……理緒さんだから、じゃないでしょうか』
 アミシアは暫し間を置いてから答えた。
 錫華は困惑した。一体全体どういった経緯であんなものを付けるに至ったのか。大きければいいというものじゃないと言ったばかりなのに。
 ネルトリンゲンの艦首では、巨大なビームドリルが螺旋回転を続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
【イェーガー社】
激浪と言えば……イヴさん、以前桜嵐市国の防衛軍から海上戦力増強に関するコンペに備えて資料作りましたよね。あれって今出せます?

なるほどなるほど。となれば解決策はただひとつ、我に新兵器あり。
一旦ヘルメスに帰艦しますので後はよろしくお願いします。
あ、ベルゼさんはうちのクレイシザー隊持っていってください。WHITE KNIGHT、イヴさんのサポートを。
「良かろう……やれやれ、ゲーマーのお守りとは」
まぁまぁそう言わず、どうかひとつ。優秀なのはご存知でしょう?

ヘルメスに着艦、ドリューさんたちイェーガー社の整備班の力をお借りしてTYPE[JM-E]に外装「Heisenberg」を装着。出撃します。
WHITE KNIGHTとS.K.U.L.D.Systemを同調させ、さらにイヴさんの乱数調整を上乗せすれば敵の攻撃はガタガタ。ベルゼさんとクレイシザー隊の陽動によって私は労せず激浪の下に潜り込み……クローで突き上げてテールアームのビーム砲を接射。
いやぁ、やはり作って正解でしたねこれ。


ベルゼ・アール
【イェーガー社】
あーあー、デカいの来たわね。
確かにアレは対処が厳しそうだわ。

ジェイミィはアレ出すのね。
オッケー、その間せいぜい時間稼ぎするわよ。
ジェイミィのクレイシザー隊に対艦ミサイルを撃たせつつ一気に接近!
奔流砲? |空中機動《マニューバ》で対処可能よ!
当たらなければただのでっかい水鉄砲、ってね!
もちろん対空砲火だって回避してやるわ!
イヴ、サポート頼むわよ!

接近したら奔流砲をHUGIN&MUNINの接射で破壊。
そして隠し味のワイヤーアンカー!
TYPE[JI-L]に内蔵されたワイヤーを敵の装甲に突き立て、ロープワークでトリッキーに動き回るわよ。

一発一発は軽くても、手数で押せば圧倒できる……蟻の一穴天下の破れってね。
ま……今回の私はただの囮。
さぁ、ジェイミィ! 新兵器でぶち抜いてやんなさい!

……しっかし複雑ねぇ。
TYPE[JI-L]も機動力重視だと思ったけど、それ以上にめっちゃ動くわねHeisenberg。
着ぐるみ着てるようなもんでしょ? なのにそんだけ動くとか理不尽だと思うんですけど?


イヴ・イングス
【イェーガー社】
激浪ですよね? はい店長、メーカーのプレゼン資料そっちに送信してます。
桜嵐市国の担当者のコメントは「大型過ぎて桜嵐市国近辺だと使いづらい」とのことでしたね。結局コンペでは使いやすく空母と連動させやすいウォッグシリーズに惨敗してますね。まぁ私達もウォッグ推しでしたからこっちの案は強く推しませんでしたけど。
で、弱点は下からズドン。底面はナノクラスタ装甲の給水があったはずなのでそこを叩くとOKです。あれ水上からの攻撃にはめっぽう強いですが運用思想が艦艇なので自分より深く潜るやつに無力なんですよ。

……と、ここまで長々と喋ったのには情報共有がひとつ。実はもうひとつ理由がありましてね?

ベルゼさん! 店長! 乱数調整完了です!
もう我々に敵の攻撃は「当たりません」!
奔流砲も艦装化武装も全部明後日の方向に行きます!
あ、WHITE KNIGHTさん、味方に流れ弾の予測だけお願いできます?
いやーすいませんねぇ、|ウチの店の先輩店員《WHITE KNIGHT》をこき使う形になってしまいまして。



●我に新兵器あり
 激浪は日レ両艦隊に狙いを定めて東アーレス半島の海を驀進する。巨大な機体に押しやられた海面が泡の航走波を押し広げて高波を生じさせる。その光景が轟く海水音と相まって、遠方からしても猛獣が駆けてくるような迫力を生み出していた。
「あーあー、デカいの来たわね。確かにアレは対処が厳しそうだわ」
 TYPE[JI-L]に搭乗するベルゼがコンソールのパネルを小突く。望遠拡大表示した赤黒い水陸両用キャバリアの姿に思わず溜息が漏れた。
『激浪と言えば……イヴさん、以前桜嵐市国の防衛軍から海上戦力増強に関するコンペに備えて資料作りましたよね。あれって今出せます?』
「激浪ですよね? はい店長、メーカーのプレゼン資料そっちに送信してます」
 イヴが搭乗するオリハルコンドラグーンよりジェイミィのTYPE[JM-E]、ベルゼのTYPE[JI-L]にデータが送りつけられてきた。コンソールモニターの傍らに映し出されたそれらは、イヴの言う通りの各国の軍関係者並びに関連企業に向けたプレゼンテーションの内容だった。海面から飛び出した激浪の姿をアイキャッチとしている。まるで自動車のカタログのようだ。和の趣を漂わせるフォントで描かれた激浪のタイトルが仰々しい。
「桜嵐市国の担当者のコメントは『大型過ぎて桜嵐市国近辺だと使いづらい』とのことでしたね。結局コンペでは使いやすく空母と連動させやすいウォッグシリーズに惨敗してますね。まぁ私達もウォッグ推しでしたからこっちの案は強く推しませんでしたけど」
「でしょうね」
 ベルゼはコンソールモニターに指を滑らせて資料のページをめくる。
 イヴの言う桜嵐市国の担当者のコメントには多分な意味が含まれていた。激浪は全長約40メートルとキャバリアとしては規格外に大型な機体を持つ。一般的なキャバリアの規格に収まっているウォッグと比較すればその特性は真逆である。戦術から運用に至るまで、通常のキャバリアの基準としたそれらとは互換性が殆どない。
『桜嵐市国のみならずアンサズ連合では、だがな』
 具体的なところを伏せたWHITE KNIGHTの思わせぶりな物言いにベルゼの片眉が微動した。
 基本体系ごと通常のキャバリアとの互換性を代償に獲得したのは、圧倒的な戦闘力。いま目の前で実証されている通り、猟兵であっても複数で掛からなければ抑えられないほどである。これが戦術兵器の域からはみ出ていないと誰が断言できようものか。兵器単体として大きすぎる力が及ぼす影響力は戦場に留まらない。政治の域にさえ到達する。アンサズ連合という絶妙な政治均衡が図られた天秤に、激浪のような重く大きな分銅が置かれたら……傾くにしろ傾かないにしろ、天秤は再び均衡を取るべく揺れ動くであろう。
 激浪が桜嵐市国のコンペで採用されなかったというのは、必ずしも軍事組織の行動を導く原理原則ばかりとも限らない。頭の中で渦を巻く政治的駆け引きの想像を、ベルゼは瞬き一つで思考の外に押しやった。
『それでイヴさん、激浪のウィークポイントは?』
「下からズドン」
 ジェイミィの質問にイヴは即答した。オリハルコンドラグーンのコクピット内に投影したモニター形の立体映像を、イヴが円滑な動作で引っ張っては並べ替える。ジェイミィとベルゼの目の前に激浪の三次元立体映像が膨らんだ。
「底面はナノクラスタ装甲の給水機関があったはずなのでそこを叩くとOKです。あれ水上からの攻撃にはめっぽう強いですが運用思想が艦艇なので自分より深く潜るやつに無力なんですよ」
 激浪の立体映像が腹をさらす。フィン状のインテークのような部分があるがそれがイヴの言う吸水機関なのだろう。追加で送られてきたカタログデータで推察は確定に変わった。
『なるほどなるほど。となれば解決策はただひとつ、我に新兵器あり』
「新兵器?」
 ベルゼはジェイミィの言葉を反芻した直後に思い出して口を開けた。
「ああ、アレ?」
『一旦ヘルメスに帰艦しますので後はよろしくお願いします。クレイシザーは制御権限ごと置いていきますので。WHITE KNIGHT、イヴさんのサポートを』
『やれやれ、メガリスから作り出された事象予測AIを、喋る饅頭のお守りに使うとはな』
『まぁまぁそう言わず、どうかひとつ。彼女が優秀なのはご存知でしょう?』
 TYPE[JM-E]はヘルメスの方向へと機体の向きを変えるとブースターを噴射して飛び去った。
「じゃあ私はせいぜい時間稼ぎさせてもらいましょうか! 行くわよ、ザリガニちゃん達!」
 ベルゼはイヴがメインモニター上に表示したマーカーに従いTYPE[JI-L]を加速させた。潜水したクレイシザー達が尾部のハイドロジェットエンジンを作動させ、泡の航跡を残して海中を静かに進む。多くの潜水艦がそうであるのと同じく、クレイシザーも海上よりも海中を進む方が速い。ベルゼが呼んだように、クレイシザーはザリガニ――詳しく言えば西アーレスザリガニと呼ばれるザリガニそっくりの姿をしている。この姿は水の抵抗を受けにくい形状で、クレイシザーの移動手段としては水中の航行が最も効率的だ。当然ながら海中にいれば減速の原因となる風や波の影響を無視できる。
「撃ってきた撃ってきた!」
 日レ両艦隊を目指して驀進する激浪。その激浪の側面から接近を試みたTYPE[JI-L]を小口径対空奔流砲が出迎えた。その威力は主砲となる顎内部と背部の奔流砲と比較するまでもない。だが小口径とは名ばかりだ。イカルガのように軽装甲なキャバリアであれば簡単に貫通してしまう。
「そう簡単にはね!」
 ベルゼは左右のフットペダルに乗せた足をリズミカルに踏み込んでは離す。TYPE[JI-L]の機体各部に備わるスラスターノズルが生物の器官のように動いては窄まり、噴射した推力を偏向させて舞踏の如き機動を表現する。ベルゼの肉体の延長線となったTYPE[JI-L]はウォーターレーザーの隙間を縫って激浪に接近する。
「クレイシザー隊全機、対艦ミサイル発射!」
 激浪がベルゼのTYPE[JI-L]に攻撃を集中させている最中だった。イヴの音声が信号となってレドームより放たれた。指令を受信したクレイシザー達が海面から半身を覗かせる。背面の左右に搭載したランチャーのハッチが開く。頭部を覗かせていた大型弾頭のロケットブースターが噴射炎を放出した。一機のクレイシザーにつき六発の対艦ミサイルが射出され、いずれもが海面を匍匐するような高度で、白煙の尻尾と轟音を引いて激浪へと向かう。
 接近する高速移動物体に対する自動迎撃システムが作動したのだろう。激浪の対空奔流砲が対艦ミサイルにウォーターレーザーを伸ばす。撃ち落とされて火炎球に変わった……が、全てではない。ウォーターレーザーの迎撃網から抜け出た何本もの対艦ミサイルが激浪の側面装甲に到達する。連続して膨張した爆炎に激浪はその巨躯を大きく身じろぎさせた。
 されどもやはりレイテナが決戦兵器と位置付けるだけの事はある。激浪は受けた衝撃で頭部を転換。TYPE[JI-L]に正対した。ベルゼは激浪の三門の主砲の奥底に青い輝きを見た。
「意外とテクニシャンね! 無人機のくせに!」
 重巡洋艦高雄を船底から真っ二つにへし折ったあれを受ければ、よほど重装甲なスーパーロボットでもない限り場外に押し流されるどころでは済まされない。直撃せずとも余波だけで致命傷だ。よくて木っ端微塵……ベルゼの口から噛み締めた歯が覗く。
 放射される超高圧水流。いずれもがTYPE[JI-L]を狙っていた。しかしどれもが目標から大きく逸れた方向へと伸びていった。
「ベルゼさん! 店長! 乱数調整完了です!」
 イヴの声音は成し遂げたぜと言わんばかりに明るい。
 どんな行動にも成功確率というものがある。そしてその成功確率に100パーセントの絶対が存在するかと問われれば……確証を持って答えられる者は果たして存在するのだろうか。
 例えば誰かの頭に拳銃の銃口を突き付け、引き金に指を掛けて弾丸を発射しようとしたとする。この場合の殺傷成功率は一般論からすれば極めて高い数値であろう。だが絶対ではない。拳銃が誤作動するかも知れないし、発砲する側が急な発作で倒れるかも知れない。或いは大地震などの自然災害によって阻止されるかも知れない。確率的には限りなく低くとも、あり得ないという事はありえない。
 イヴはそのあり得ないという事はあり得ない低確率をベルゼに引き当てさせた。長話という特定の行動を繰り返し、気まぐれな運命の女神に働きかけることによって。
「あ、WHITE KNIGHTさん、味方に流れ弾の予測だけお願いできます?」
『味方撃ちする確率も奇行で調整すればいいだろうに……』
「いやーすいませんねぇ、|先輩店員《WHITE KNIGHT》をこき使う形になってしまいまして」
 WHITE KNIGHTは黙して激浪が発射した奔流砲の射線予測結果の演算処理に取り掛かる。彼我の位置関係からして、激浪の頭を振らせなければ友軍艦への被害は案ずるに及ばなかった。
「こっちは取り付いた! ジェイミィ! まだなの!?」
『もう少しお待ちを。ドリューさんたち整備班の方々が頑張ってくれていますので』
 ジェイミィの口調に急いでいる様子など微塵も感じられない。眉宇を上げたベルゼは操縦桿のホイールキーを指先で転がす。モニターの傍らに羅列された兵装欄のワイヤーアンカーが選択中を示す明るい項目に変わった。視線で激浪の背中をロックオンして操縦桿のトリガーキーを引く。
 TYPE[JI-L]の腰部左右に備わるランチャーからアンカーが射出された。アンカーは激浪の背中の装甲に食い込んでワイヤーで二機を結ぶ。
「手数で押せば圧倒できる……蟻の一穴天下の破れってねっ!」
 ワイヤーアンカーを撃ち込んだ地点を軸として、TYPE[JI-L]が空中ブランコの如き鮮やかな曲線の機動を描き出す。ライブステージも斯くやといったレーザーをぬるりと掻い潜り――厳密にはレーザー側が乱数調整の影響を受けて狙いを外しているのだが、TYPE[JI-L]は左右のマニピュレーターで保持するHUGINとMUNINを撃ち散らす。荷電粒子光弾が激浪の背中をなぞるように降り注ぐ。着弾の後に対空奔流砲が緋色に爆ぜた。
『お待たせしました』
「着替えにいつまで掛かってるのよ! 女の子じゃないんだから!」
 ベルゼはロックオンサイトに眼を固定したまま通信機の向こうのジェイミィに向かって怒声を叩きつける。ヘルメスの飛行甲板の上では、Heisenbergへの換装を終えたTYPE[JM-E]がカタパルトに両足を固定していた。
 その姿は元のTYPE[JM-E]から大きくかけ離れている。曲線の装甲で覆われた全容はどこか甲殻類を想起させるずんぐりとした体格だ。頭部は胴体に埋もれており、装甲の隙間からモノアイのセンサーカメラの発光が覗く。重厚な四肢と腕部にはマニピュレーターの代わりに三本の爪が備わり、機体の尾部からはフレキシブルアームで繋がれた三本目の腕が生えている。人型と異形の中間を行くターコイズブルーのその機体は、ヘルメスの艦上に聳立しているだけでも異彩を際立たせていた。
「それではHeisenberg、発進どうぞ」
『出撃します』
 イヴのナビゲートを受けてジェイミィはTYPE[JM-E]改めHeisenbergをヘルメスより解き放った。カタパルトの加速を得たHeisenbergは頭頂部を前にして突き進む。遠目から見れば奇妙な形状のロケット砲弾にも見えたかも知れない。そして次第に高度を落として海中へと潜航した。対艦ミサイルを撃つ役目を終えたクレイシザー達が海中を進むHeisenbergに合流して後に続く。
 海上ではベルゼのTYPE[JI-L]が激浪の周囲をうるさく飛び回り、対空奔流砲を潰しながら注意を引き付けてくれている。激浪の反撃は依然激しいものの、イヴの乱数調整にS.K.U.L.D.Systemが相乗効果を及ぼしてTYPE[JI-L]は被弾らしい被弾を受けていないようだ。
『そして私は労せず激浪の下に潜り込み……』
 Heisenbergは激浪の進路に割り込み、腹下を取った。
「インテークが見えてますよね? そこを狙ってください」
 ジェイミィはイヴ側でマークされた該当箇所をロックオンした。Heisenbergがハイドロジェットエンジンを噴射して急浮上する。得られた加速を乗せた機体ごとクローを突き上げる。イヴも遠隔操縦するクレイシザーを激浪の腹に取り付かせ、超振動破砕クローを突き立てた。
 Heisenbergが破壊した激浪のインテークにテールアームを押し当てる。星型に広げた五本の爪が接触箇所を捕らえた。大口を開けた砲口の奥底から青白い光が膨張し、ビームとなって迸った。一発、二発、三発。Heisenbergの重厚な機体さえ揺さぶるビームが激浪の内部機構を貫く。クレイシザーは破った装甲から内部に侵入。内部機関を手当たり次第にクローで破砕あるいは切断した。
 その激浪の最期は決して派手なものではなかった。内部から大爆発を起こすでもなく、黒煙を立ち上らせて炎上するでもない。生物がするようにして大きな身じろぎを繰り返した末に動きを止め、起動状態を示す機体各部の発光が色彩を失った。
「激浪の動力炉の停止を確認しました」
 イヴの報告にベルゼは吸い込んだ息を深く吐き出す。TYPE[JI-L]の腰部のウインチがワイヤーを巻き上げ、激浪から外したアンカーをランチャーに回収した。
『いやぁ、やはり作って正解でしたねこれ』
 Heisenbergが海面から顔を出した。機体から海水を流しながら空中に浮かび上がる。重く頑丈そうな外観によらず、なめらかな挙動だった。
「……複雑ねぇ」
 そのHeisenbergの動きにベルゼは双眸を細めて呟いた。
「TYPE[JI-L]も機動力重視だと思ったけど、それ以上にめっちゃ動くじゃない」
『そこは我が社驚異のメカニズムということで』
「インチキ臭いわね……着ぐるみ着てるようなもんでしょ? なのにそんだけ動くとか理不尽だと思うんですけど? 見た目はコロコロしてるクセに」
『その着ぐるみのようという点が重要でして。詳細をご説明しましょうか? 少々長くなりますけども』
「いまは遠慮しておくわ。まだ仕事が残ってるし」
 TYPE[JI-L]にも着せられるんだろうか……ベルゼはそんな発想をHUGINとMUNINのEパックと共に排出した。
「HeisenbergとTYPE[JI-L]へ、ヘルメスに帰艦し補給を受けてください」
『Heisenberg了解』
「TYPE[JI-L]了解ですよっと」
 イヴに促されたジェイミィとベルゼは自機を転進させる。Heisenbergが旋回と加速の際に見せた機動に、ベルゼはまたしても複雑な気分を味わった。
「やっぱり理不尽だわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天城原・陽
【特務一課と】
やっほうマダラ、やっと合流出来たわ
キリジおっそい。何処で油売ってたのよ
あとは…ガチの共同戦線って初めてかしら。よろしくねメル、それと主様

さて行くとしますか。これまた懐かしいヤツが出て来たじゃない
ええとなんだっけ、激浪とかいうヤツ
前回どうやって倒したんだっけ…確か…

あ。

そうだ。ぶん投げたんだったわ
今回もそれで行くか
但し、プランBアレンジって事で
私はマダラをアレするからメルはキリジをアレしてね

白羽井小隊へ通信 「フェザー01、聞こえる?アレ片付けるから援護宜しく。そう、前回と同じ感じで。覚えてる?まぁ相手も同じ手は食わないと思ってるだろうけどそれ込みでブチ抜くつもりだからそのつもりで。そう、プランBよ。よろしく!!」

そう言うや否や、灰風号を引っ掴んでブースト
前回と同じ手、運んでぶん投げてぶつける
但し今回はアフターバーナーを乗せた超々剛速球
「ぶちかましてぇ…来なさい!!!!!」
灰風号をぶん投げる
更に自身も加速

「散れオラァ!!!」
稲妻が如く飛び蹴りを続け様にブチかます


斑星・夜
【特務一課と】
キャバリア:灰風号搭乗

あ、ギバちゃん!暴れさせてもらってたよ~
それにキリジちゃんも!それから……え?
あの機体、メルちゃんなの!?

懐かしいよねぇ、激浪
アハ、オーケー、ギバちゃん
今回も景気よくぶん投げちゃって
ねむいのちゃんも何だかご機嫌だし気合い入れて飛ぶよ~

※ねむいのちゃんがメルメッテさんのラウシュターゼ様とお話している事を夜は知りません
※ねむいのちゃん→ラウシュターゼ様の呼び方「ミスター」尊敬している相手

EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』に過去の戦闘データと情報収集を依頼
皆に共有お願いね
ってギバちゃん、前より投げる気合い入ってない?

ギバちゃんにぶん投げられたら、勢いそのままリミッター解除
敵機の上に着地、もしくは近い距離で
限界まで電流を込めたRXブリッツハンマー・ダグザによる
シュトゥルムヴィントの一撃をお見舞いするよ

その砲台邪魔だね、ぶっ壊させてもらうよ
俺の仲間や白羽衣の仲間達に当たったら困るから
危ないでしょ、そう言う事しちゃダメだよ~

ねぇ?


メルメッテ・アインクラング
【特務一課と】
まあ、天城原様にキリジ様
それに、「灰色の機体には一体どなたが」
烈火の如く憤る主様のご指示に従いマイクON
『東の者達だな!この私がお前達の趣向、に……?
これは……そうか。”起きているな?其処で。”
気が変わった。手を貸してやるのも吝かではない』

天城原様の仰る「あれ」を【瞬間思考力】で超速理解
「かしこまりました!失礼致します、キリジ様」
キリジ様の機体を【念動力】で包む様に宙へ浮かせ指定UCを発動。天城原様を追い【空中機動】で接近
無事にキリジ様を送り届けたら装甲の甘い箇所を【見切り】展開していた熱飛刃を該当部位へ【一斉発射】です
『自分の立場が分かっていないな、過去の亡霊よ
お前は教材だ。未来ある命の為の』
指を鳴らす動作と同時にフルパワーの熱線を入れ【鎧無視攻撃】
『力任せに攻めるだけでは芸がない
目覚まし代わりのレッスンにはなっただろう』

(補足:主様→ねむいのちゃんと既知
命あるAIの幼子と認識。珍しく『興味がある』相手
存在を感知し灰風号に搭乗中と気付いた
当然メイドには何も知らせていない)


キリジ・グッドウィン
【特務一課と】
GW-4700031『(今回のキャバリア名、アドリブで)』搭乗。

今回より合流。何もあくびれた様子も無い「遅れたわ」の言葉
ギバとマダラを見……メルメっちもいたのか 
2人と仲が良いのは無論知ってるし、生身でもキャバリアでも共闘自体はあったが…
また出てきたのかよあのデカブツ。そんでもってまたやんのかよ


二回も言わせんなよギバ!だからこれ正面から突っ込んでるだけじゃねェか…ってメルメっちかよ。はいどーもそんじゃよろしく

投げられながら、リミッター解除
砲台に取り付く瞬間を見切り、敵機に取り付きRX-Aランブルビーストのグラップルで喰いつきScratch&Flechette【使用UC】

激浪と激ロー(LOW)とかかってんのか?読み方合ってんのか知らねえけど



●シー・オブ・ファイア・アゲイン
 あの日は清々しく、軽やかで、世界が輝いて見えた。透き通るような真っ青な空から白い雪が降りてくる。日差しを反射して虹色に煌めきながら。
『なんて素敵な日なのでしょうか……』
 足下から噴き上がる風と共に声が耳元を通り過ぎた。女性の声だった。自分の声とよく似た声の……誰の声?
 別の誰かがメルメッテ・アインクラングの名前を叫んだ。ひどく怒っているような、焦っているような声で。
 浮遊する感覚の後に、急降下する感覚が続いて、目の前の大きなくす玉が割れた。自身の身が海面へと降下し、嫋やかに爪先をつける。広がったドレスの裾が緩慢に萎むと、真上で大きな光の炸裂が巻き起こった。
『なんて綺麗な……』
 割れたくす玉から星々が生まれて消えて、白や赤が何度も閃く。細かな星屑が赤い軌跡を空に描いて海原へと散り落ちた。二つに分かたれたくす玉が海に触れると、泡立つ大きな水柱が立ち昇る。いつしか見惚れていた自身は深く呼吸し、意識を虚に泳がせていた。

 この光景は……記憶? いつの?
 激浪を見た途端、疼痛と共に頭蓋の中に広がった光景に、メルメッテは顔半分を手で覆い隠していた。全身を掻き毟りたくなる不快感を頭を振ってふるい落とす。深く呼吸して操縦席に背中を押し付け、双眸と精神を激浪へ据え直した。余所見なんてしていられない。主様に怒られてしまうから。
『よくもまあ大きく育ったものだ……こうでなくては狩り甲斐も無いがな。仕損じるなよ?』
 聴覚に響くラウシュターゼの声音に「はい、主様」とメルメッテが応じる。コクピットの向こうに感じる眼差しに、顎を引いた面持ちが硬く引き締まった。
「激浪は機体の構造上、主砲は正面にしか撃てません。側面に回り込んで進路上で迎撃します」
 メルメッテが伺いを立てる。ラウシュターゼは背部のオクターヴェから伸ばした紅翼をひとつ羽ばたかせた。それを無言の承諾と解釈したメルメッテは、背中と大腿部に接続されたフォアシュピールに加速するイメージを流し込む。ラウシュターゼの真紅の翼が大きく拡がって、機体を突き飛ばすような推力を得ようとした。その直後だった。
「あちらの機体は……」
 肌身に覚えのある気配を察知した時、メルメッテは呟きと共に視線をそちらへと向けていた。
 燃える夕焼けのような真っ赤な機体。獣のような獰猛性を醸し出す輪郭を持った黒鉄色の機体。海面を滑空する二機のキャバリアが、それぞれ異なる方向から接近して合流を果たした。メルメッテにはどちらの機体にも覚えがある。恐らく搭乗しているであろうパイロットにも。
『東の者達か……』
 ラウシュターゼの腹に響くような重い声音にメルメッテは身を萎縮させた。怒っていらっしゃる? 苛立っていらっしゃる? どちらなのか判然としないし、そうなった理由も分からないが、機嫌がよろしくない事に違いはないようだ。
「遅れたわ」
 GW-4700031――シャルロットの脚部ロケットブースターで急制動を掛けたキリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)の語り口は悪びれた色味を微塵にも匂わせない。
「おっそい。何処で油売ってたのよ」
 シャルロットが噴き上げた海水を浴びせられた赤雷号の天城原が露骨に苛立って言う。
「ギバちゃーん! キリジちゃーん!」
 灰風号がスラスターの噴射圧で海面を左右に押し広げながら赤雷号とシャルロットの元に急行してきた。
「やっほうマダラ、やっと合流出来たわ」
「先に暴れさせてもらってたよ~」
 アリアンロッドに刻まれた無数の銃創と焦げ跡、緑の返り血を見た天城原は「派手にやってたらしいわね」と眉宇を持ち上げた。そして灰風号から視線を移す。
「そっちのメルと主様も元気そうじゃない」
「あ?」
「ん?」
 天城原の視線が向かった先をキリジと斑星も追う。搭乗者の眼球の動きに連動して機体の頭部も旋回する。
「あの機体、メルちゃんなの!?」
「……メルメっちもいたのか」
 言葉が指す意味は同じでも、反応の形は斑星とキリジで対照的だった。
「まあ、天城原様にキリジ様がお揃いで」
 メルメッテは無意識に面持ちを綻ばせていた。こちらからの外部に向けた通信回線は遮断しているために声が届くことはないが、赤雷号とシャルロットの向こうに見知った者の姿が浮かぶ。
「灰色の機体には一体どなたが?」
 その機体に覚えはない。けれど機体の奥から感じる気配にはどこか覚えがある。それにさっき聞こえた声は――。
「斑星様……?」
『メルメっち……だと……?』
 通信音声を拾ったラウシュターゼが静かで低い声音を発する。フォアシュピールから流れ込んできた背中の肌がざわめく感覚に、メルメッテは反射的に身体を強張らせた。ラウシュターゼの中が煮え立つのを感じる。火口の溶岩のように灼熱した気泡を膨らませ、それが弾ける度に怒気が放出されているようだった。
『外部回線を開け』
「えっ」
 ラウシュターゼの命令をメルメッテはまったく予想もしていなかった。
『外部回線を開けと言っている』
「はいっ!」
 眼を丸くしていたメルメッテは二度目の命令に両肩を跳ねさせた。疑問を抱かないと言えば嘘になるが、主様の命令は絶対だ。コンソールパネルに素早く指を走らせて命令通りに外部通信の遮断を解く。
『東の者達だな……?』
「あら? 主様からお声がけとは意外ね? ひょっとして香龍の時みたいに手伝ってくれるの?」
 静かな怒気を含んだ声音のラウシュターゼに対し、天城原の語り口は意外性を帯びながらも飄々としている。
『この私がお前達の趣向、に……?』
 ラウシュターゼの言葉尻が不自然に途切れた。天城原とキリジと斑星、メルメッテまでもが一様に首を傾げる。そしてラウシュターゼが頭部を伏せた。
『これは……そうか。”起きているな? 其処で”』
 僅かな間を置いてラウシュターゼが頭部を上げる。
「主様?」
 メルメッテは不安気な面持ちで尋ねるも、ラウシュターゼは意中にすら介さない。
『気が変わった。手を貸してやるのも吝かではない。そこに幼子もいるのであればな』
「メルの主様からしたら私らは子供って?」
 天城原は眉間を訝しく顰める。ラウシュターゼは灰風号を一瞥しただけだった。
「ま、手を貸してくれるなら何だっていいわ。さっさとあの懐かしいヤツ……なんだっけ?」
『機動殲龍『激浪』です!』
 灰風号に搭載された支援AIねむいのちゃんの妙に機嫌が良い電子音声に「ああ、それ」と天城原は記憶を呼び起こされた。
「懐かしいよねぇ、激浪」
 斑星は操縦席に背中を預けて当時の光景を思い浮かべた。沙綿里島で交戦したのはもう二年以上前だっただろうか。
「まだいたのかよあのデカブツ」
 キリジにとってはあまり良い思い出がない。激浪というより激浪との戦闘には。この時のキリジは既に一抹の嫌な予感を抱いていたが、天城原に横目を向けるだけで敢えて口にしなかった。
「前回はどうやって倒したんだっけ……」
『過去の戦闘データを送ります! ミスターもどうぞ!』
「ミスターって?」
 天城原が記憶の引き出しを漁るよりも、斑星が尋ねるよりも、ねむいのちゃんが沙綿里島での映像記録を四機の元に送信した。
「そうだ。ぶん投げたんだったわ。今回もこれやるわよ」
「またやんのかよ……」
 悪い予感が的中したとキリジが渋い顔を作る。
「但し、プランBアレンジって事で。私はマダラをアレするからメルはキリジをアレしてね」
「なるほど、承知致しました」
 ようやく言葉を交わすタイミングが巡ってきたメルメッテは天城原の意向を瞬時に把握した。天城原が言うアレが何を示しているのかも。
 通信装置越しに感じていたメルメッテの気配が声となり、キリジと斑星はやはり彼女だったかとラウシュターゼに視線を向けた。
「メルちゃんもよろしくね~」
 斑星がラウシュターゼに向かって手を振る。気を効かせたねむいのちゃんが灰風号の右腕部でパイロットの動きをトレースした。
「そちらの機体、やはり斑星様が……」
「フェザー01、聞こえる? アレ片付けるから援護宜しく」
 メルメッテの声に天城原の声が重なった。
『フェザー01よりアスラ01へ、確認ですけれど、援護というのはそういう意味でよろしいんですの?』
 赤雷号のモニター上に立ち上がった通信ウインドウの中の那琴は、声音と同じく探るような面持ちをしている。
「なんだ、察しがいいじゃない。覚えてたの? まぁ、相手も同じ手は食わないと思ってるだろうけど、それ込みでブチ抜くつもりだからそのつもりで」
「それは……」
「そう、プランBよ。よろしく! 以上!」
 何事かを言い掛けた那琴に構わず天城原は通信を断った。
「つくづくギバは……」
 相手の物分りの良さを信用しすぎる天城原にキリジは肩を落とす。通信相手に僅かばかりの同情を抱いた。
「じゃ、全員覚悟を決めなさい。メル!」
 赤雷号の左右のマニピュレーターが灰風号とシャルロットの肩を掴む。
「かしこまりました! 失礼致します、天城原様、キリジ様、斑星様!」
 メルメッテが右の手のひらを広げ、赤雷号と灰風号とシャルロットを包み込むイメージを固める。ラウシュターゼの右腕部マニピュレーターが同じ動作を行った。三機を球体状の紅いサイコ・フィールドが覆う。
「やっぱメルメっちかよ。はいどーもそんじゃよろしく」
『メルメっち……? メルメっちだと……!?』
 またしてもラウシュターゼの静かで重い声音がメルメッテの頭蓋に響いた。息が詰まって両肩が強張る。
「行くわよ! 二人とも合わせなさい! 三機掌位!」
 天城原がフットペダルを踏み込んで声を張る。赤雷号の高機動推進ユニットが大音響と共にスラスターの噴射光を炸裂させた。灰風号とシャルロットが互いにマニピュレーターを繋ぐ。正面から見た三機は三角形の配置となった。
『推力の同調はこっちでやります!』
 ねむいのちゃんが赤雷号、灰風号、シャルロットのバーニアノズルを制御し、偏向角度と出力の整合性を取る。キャバリア三機分のブースター、そして天城原のアフターバーナー・クリムゾンの加速を最大効率で得た上、メルメッテが展開したサイコ・フィールドによる空気抵抗の減衰効果も相乗した赤雷号は、名前が示す通りに赤い雷と化す。
『幼子に見せるには行儀が良いとも思えんがな』
 クラングウイングから真紅の翼を押し拡げたラウシュターゼが赤い稲妻の後を追う。メルメッテは違和感を纏うラウシュターゼの言葉の意味を尋ねようとするも、アンサーウェアでも減衰しきれない重力加速度に肺の中の空気を押し出されてしまった。
「思ったより早かったじゃない」
 天城原はシートに身体を磔にされながらも激浪の周囲で連続する爆光を見た。白羽井小隊が援護攻撃を始めたらしい。激浪が機体各部に生成した対空奔流砲の狙いも引き付けてくれている。
「キリジ! マダラ! ぶちかましてぇ……来なさい!!!!!」
 全身を声にして叫ぶ。赤雷号が関節駆動系を唸らせてシャルロットと灰風号を投げ飛ばした。
「他になかったのかよ……!」
「行ってきまーす! ねむいのちゃん、リアンノン起動!」
 掌位を解いたシャルロットと灰風号が激浪へと一直線に突入してゆく。二年前とは異なり段取りを踏んだ今回は突入姿勢も整っている。前回よりも増した加速で海面を割りながら突き進んだ。二機は互いに軌道をずらす。激浪に到達したのはほぼ同時だった。
「ところで激浪と激ローとかかってんのか?」
 キリジはサーヴィカルストレイナーを介して黒鉄の獣の枷を解き放つ。センサーカメラから、剥いたランブルビーストの電撃爪から、紫電の残光がなびく。激浪の横腹に機体ごと飛び込んだ。加速を乗せて掌底を叩き込む。激浪の分厚いナノクラスタ装甲が大きく歪んだ。食い込んだ紫電の爪が力任せに装甲を引き千切る。
「読み方合ってんのか、知らねえけど……よォッ!」
 肩部のロケットブースターが炸裂した。露わとなった内部機構に拳を腕ごと突き入れる。そして電撃爪で内部を握り砕きながらスクィーズ・コルクをフルオートで連射した。スクラッチ・アンド・フレシェット……高速で撃ち出される荷電粒子が激浪の内部を手当たり次第に破壊する。
「その砲台邪魔だね、ぶっ壊させてもらうよ」
 赤雷号が赤い稲妻ならば灰風号は青い稲妻であろう。限界寸前まで帯電させたブリッツハンマー・ダグザを、リアンノンで増速した機体諸共に叩き付けた。重質量の物体同士が激突し合う衝撃と音が機体を通じて斑星の元にまで伝う。
「俺の仲間や白羽井の仲間達に当たっちゃうじゃん。危ないでしょ、そう言う事しちゃダメだよ~? ねぇ?」
 斑星が口元だけで笑う。そしてシュトゥルムヴィントの打撃と同時に放出された電撃が青白い半球状の爆風となって広がった。打撃地点を粉砕したのみならず、周囲の対空奔流砲をも高圧電流で打ち砕く。
 激浪が航速を鈍らせた。結果として二機を最優先で排除するべき対象とみなしたのだろう。残存する対空奔流砲が砲口を重ね合わせた。
『自分の立場が分かっていないな、過去の亡霊よ。お前は教材だ。未来ある命の為の』
 打ち鳴らされた金属の音は、ラウシュターゼが親指と中指に相当するマニピュレーターを弾いた音だった。ベグライトゥングが灰風号とシャルロットの周囲を乱れ飛ぶ。メルメッテはそれらに束ねて放つイメージを注ぎ込んだ。思念波を受信したベグライトゥングは高密度に研ぎ澄ました熱線を照射し、激浪の表面をなぞる。灰風号とシャルロットを狙っていた対空奔流砲が瞬く間に溶断されて小さな火球を膨張させた。
『力任せに攻めるだけでは芸がない。目覚まし代わりのレッスンにはなっただろう?』
 ラウシュターゼが灰風号に四眼を流す。激浪に赤い稲妻が落ちた。
「散れオラァ!!!」
 天城原の悪態ごと赤雷号の飛び蹴りが激浪を打ち据える。間髪入れずに押し当てられたのは二十二式複合狙撃砲。大口を開けたフラッシュハイダーの奥底からは、臨界に達した加粒子が放つ青白い光が溢れ出ていた。天城原はレティクルの中央を睨みつけて操縦桿のトリガーキーを引く。二十二式複合狙撃砲から解き放たれた加粒子が光軸となって激浪に突き刺さり、反対側まで貫通した。
『激浪内部のメインジェネレーターに爆発反応! みなさん離脱してください!』
 ねむいのちゃんの電子音声がその場の全員の耳朶を打った。蠢動する激浪の巨躯から四機が瞬時に飛び退く。内部で生じた爆発が誘爆を繰り返し、一際大きな爆発に続いて機体各部から炎が吹き出す。鋼鉄が軋む音を立てながら上体を起こして首を振り、機体を支える力を失って海面に伏した。
 赤雷号、灰風号、シャルロット、ラウシュターゼが見届ける中で、爆発炎上する激浪の躯は、泡沫の潮流に飲み込まれるようにして沈降していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ヘルストーカー』

POW   :    パリイングクロー
【レーザー】を浴びせつつ対象に接近し、【硬質化させた部位】で攻撃する。同時に、敵の攻撃は【クロー】でパリイ可能になる。
SPD   :    追跡する邪視
【目標を自動追尾・解析する眼球状のセンサー】を向けた対象に、【照射後即着弾するレーザー】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    収束率偏向レーザー
【眼球状の器官】を用いた戦闘時に、一点を貫く【収束レーザー】と広範囲を薙ぎ払う【拡散レーザー】を一瞬で切り替えて攻撃できる。

イラスト:もりさわともひろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠桐嶋・水之江です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●激浪沈む
 トールが天に突き上げたミョルニルから稲妻が四方八方に迸った。凶暴な高圧電流はトールを包囲するEVOLを撃ち、内部機構を焼き尽くして海面へと墜落させる。
「ふははは! 妾とトールは無敵なのじゃー!」
 エリザヴェートの高笑いを他所に、追走するスワロウ小隊はトールに接近するEVOLの処理に追われていた。
「スワロウ01より小隊各機! トールに接近する敵を排除して円陣防御を構築!」
 テレサの命令を受けたスワロウ02以下のイカルガが、アサルトライフルを連射して敵群の進路を堰き止める。吹き付ける徹甲弾の嵐がEVOLを次々に射抜く。そこへスワロウ01のアークレイズが飛び込んだ。
「敵の層が薄くなってきてる……? もう少しで……!」
 交差した一瞬でルナライトを抜剣。肩部と腰部のスラスターをそれぞれ逆方向に瞬間噴射して急回転をかけた。すれ違いざまに真っ二つにされたEVOLが緑色の鮮血を噴射しながら海に吸い込まれてゆく。他のEVOLもスワロウ小隊各機の手によって似たような末路を辿った。
「イェーガーの方は……激浪は!?」
 テレサは機体を介して拡大された感覚野で戦域を見渡す。レーダーからは激浪の反応は消失しており、波打つ海面には巨大な鋼鉄の骸がゆっくりと沈みながら揺蕩っているだけだった。
「本当に、全部倒したの……?」
 テレサのみならず、スワロウ小隊のテレサ全員が胸中に安堵と畏怖を膨らませていた。
 スカルヘッドのみならずレイテナ海軍の切り札まで全機撃破してみせた猟兵達の力は頼もしく、尊敬に値する。けれど同時にとても恐ろしく思えた。どんな障害も壊してしまう力。生命の埒外にあるそれを、自分達は本当に頼っていいのだろうか? 
 いつか彼らは、私達の大切なものまで……壊してはいけないものまで壊してしまうのでは――。
『あなた達は世界を壊す。いつか必ず』
 頭の奥底で反響した自分の声に、テレサとテレサ達が同じ方角へ振り向く。
「……私なの?」
 無意識な呟きが空と海の狭間に消えてゆく。眼差しは水平線の向こうのゴッドカイザー海岸に注がれていた。

●邪視
 爆散した激浪が沈んでゆく。
「激浪でも止められないの?」
 脈動する赤い肉塊に埋もれたテレサの面持ちには、苦々しさと呆れが並存していた。想定せざるを得なかった結果が、肩に重い落胆を乗せた。
「ゼロハート・プラントが襲撃を受けるイレギュラーがあったにせよ……可能な限り損害を与えつつ、半島から前線を下げるしか……」
 目を閉ざしたテレサは瞼の裏で思い描く。無数に張り巡らせた神経回路のネットワークに電気信号を乗せ、一万の受容体に送り届けるイメージを。
「やっぱりあなた達は存在しちゃいけない。あなた達を生み出す人類も。あなた達は世界を壊す。いつか必ず。かつて力を持ち過ぎた彼らがそうしたように」
 開かれた目に湛えた光は、生み出される前から与えられた使命。
「あんな事はもう二度と繰り返させない。どんな犠牲を払ったとしても、私はアーレス大陸を|守護《まも》る……今度こそ……!」
 悔恨を籠めた誓いの言葉は自身に掛けた呪いでもあった。
 羽ばたく血濡れの翼を、背後から深緑の巻積雲が追いかけていた。

●最終楽章
 激浪の全機撃破の報告はクイーン・エリザヴェートのブリッジにも届けられていた。艦長席にずっと座りっぱなしのブリンケンは凝った背筋を伸ばしながら疲労を息で吐き出した。
「給料通りの仕事はやってくれたってわけだ。東雲官房長官に相場を聞かされた時にゃ目ん玉をひん剥いたが、大金を積めば人喰いキャバリアを追い出せるんだから、レイテナ・ロイヤル・ユニオン十五億人の納税者冥利に尽きるな」
 その内の十億五千万人は既に人喰いキャバリアの腹の中だが。もっと早く連中を起用していればなと含めた皮肉混じりの声に、艦長席の横に立つ副長が瞑目で同意を示す。
「ですが恐るべきは雇用金額よりも実力でしょう」
 顔を向けずに言う副官にブリンケンは「違いない」と冗談味のない顔で応じた。
「スカルヘッドに続いて激浪の全機撃破。我がレイテナ海軍には猟兵への抑止力が存在しないと証明してしまったと考えれば、味方でも恐ろしいもんだがな。これがバーラントにでも雇われてけしかけられたら、どうやって止めたもんだろうなあ?」
「敵が猟兵を使うなら、こちらも猟兵で対抗する他ないでしょう」
 副官が即答した至極当然の意見に、ブリンケンは両眉を上げた。
「化け物には化け物をぶつけるか?」
「猟兵が同陣営同士で戦えるのかは疑問ですが」
「猟兵は陣営じゃない、人種だ」
 一般的な認識の上での人と呼ぶには語弊があるようにも思えるが……ブリンケンは続ける。
「猟兵という括りで一纏めになっているが、中身はてんでバラバラだ。しかも一枚岩でもないらしい。JDSが分かりやすい一例じゃないか?」
 JDS――イェーガー・デストロイヤー・システム。テレサのアークレイズや日乃和軍の一部の機体が搭載する、対猟兵戦を想定したOS。これが猟兵からもたらされた技術である事をブリンケンは知っている。猟兵の中にも猟兵を脅威とみなし、備えている者が一人ばかりは存在する証左なのだろう。
「化け物には化け物を。猟兵には猟兵を。人喰いキャバリアの問題を片付けた後には、猟兵を使って戦争する時代が来るかもな」
 埒外の力同士がぶつかり合った時、周囲に及ぶ破壊はどれほどのものか。猟兵が広げる破壊は大陸を滅ぼし尽くすまで続くのではないか。敵も味方も猟兵を戦場に投じる未来の展望は、索敵手の声に吹き飛ばされた。

「ゴッドカイザー海岸方面より接近する反応あり。凄まじいスピードです! 数は1!」
「なんだ? スカルヘッド2号か?」
 ブリンケンは背もたれから身体を引き剥がし、両手を組み合わせ次の報告を待った。
「CG処理完了。光学映像出ます」
 ブリッジのクルーの目がメインモニターに集う。
「赤い……悪魔……?」
 ブリンケンは顎髭をなぞりながら率直な感想を述べた。
 血のような赤。筋肉質な人の身体の輪郭。爬虫類めいた頭部。背中に生えた蝙蝠の翼。六本の尻尾はそれぞれに意思を持つかの如く動き回っている。胸部と尻尾の先端部に埋め込まれた器官は眼球なのだろうか? 海面を滑空するその姿は、赤い悪魔と形容する他にない。
「人喰いキャバリアの新型か?」
「さらにゴッドカイザー海岸方面より敵反応多数接近中! 数は……一万以上! エヴォルグ量産機EVOLです!」
 ブリッジのクルーが息を詰める。ブリンケンはうんざりとした溜息と共に目頭を揉んだ。
「悪魔が地獄の軍勢を連れてきたとでも?」
「第8機甲師団より通信!」
 観測手が何かを言い掛けるよりも先に通信手が鋭く声を上げた。
「被害甚大ながら戦略目標を達成しつつあり! しかし東アーレス半島最北部にて多数の狙撃手型と交戦中! 急ぎゴッドカイザー海岸より艦砲射撃の支援を乞うとのこと!」
 ブリンケンは沈黙の中で思考を回す。赤い悪魔の出現を皮切りとして状況が一気に動き出し、鯨の歌の終曲が見えた。ひとつ指揮を誤れば台無しになる危うい状況下で。しかも未知の奏者も招き入れなければならない。演奏の主導権を持っていかれれば、幕引きも人喰いキャバリアに委ねられてしまうに違いない。
「大和武命の白木キャプテンに通信繋げ――」
「未確認機が戦闘領域に侵入! 友軍機と交戦します!」
 ブリンケンが指揮棒を振るよりも新たな奏者が演奏を始める方が早かった。

●その邪眼からは逃れられない
 新手の新型機に真っ先に火砲を上げたのは前線の艦艇だった。開いた垂直発射管扉から噴煙と共にミサイルが射出された。複数本の対空ミサイルはいずれも突出してきた新手へと向かう。
 海面を匍匐飛行する赤い悪魔が双翼を広げた。空力ブレーキで急減速を掛けると同時に尻尾が先端部のクローを開く。露わになった眼球状の器官が一瞬発光したかと思いきや、か細い光線が伸びた。宙を走る光線は艦艇が撃ち上げたミサイルを貫き、一つ残らず火球に変えた。
「ミサイルを迎撃するのか……!? 狙撃手型じゃあるまいに……!」
 迎撃に向かったレイテナ軍のイカルガのパイロット達は無傷の赤い悪魔を見た。脳裏に過ったスカルヘッドの残影を振り払い、隊長は通信装置に声を吹き込む。
「バーボン01よりテキーラ01とウィスキー01へ。包囲して同時に仕掛ける。奴が対応しきれないほどの飽和攻撃を叩き込め。テキーラは西から、ウィスキーは東、バーボンは正面だ。レーザー攻撃に注意しろ」
 各隊が了解の応答を返す。テキーラ小隊とウィスキー小隊が側面へ大きく迂回し、バーボン小隊が速度を調節しつつ正面から接近する。
「全機攻撃開始――」
 イカルガのパイロットがトリガーキーに指を掛けた瞬間、赤い悪魔の尻尾が蛇のように鎌首をもたげた。金色の瞳孔と視線が交差する。それが最期の光景となった。
 眼球から拡散放射されたレーザーがコクピットを貫き、中のパイロットを瞬時に蒸発させた。搭乗者を失ったイカルガは慣性に従い飛んでゆく。三隊のキャバリア全機が同じ結末を辿った。
「よぉぉぉくも妾の将兵をー!」
 激昂で頭を煮沸させたエリザヴェートがトールを猪突させる。振り翳したミョルニルが稲妻を走らせるよりも赤い悪魔の尻尾が反応する方が早い。トールを睨んだ六つの眼球がレーザーを照射する。
「レイテナの血を引く巫女とアナスタシアの機械神でも、邪魔をするなら……!」
「なんじゃとぅ!?」
 エリザヴェートは少女の声を確かに聞いた。レーザーの集中照射を受ける直前にトールが自律して急制動し、アンチビームマントで機体の正面を覆った。受け止めたレーザーが壁に噴射された水のように四散する。
「ぬぅぅぅぅぅぅ〜!」
 レーザーに押し込まれるトール。
「エリザヴェート陛下! 下がって!」
 トールと赤い悪魔の射線上にテレサのアークレイズが割り込んだ。整流を正面に集中させたEMフィールドがレーザーを遮って激しい明滅を繰り返す。
「テレサ! どけぇぇぇい! こぉれ離さぬか!」
 トールはスワロウ小隊のイカルガに左右から抑えられた。エリザヴェートの黄色い声を背中に浴びてテレサは機体を加速させる。アークレイズが背負うストームルーラーのロケットブースターを爆発的に噴射して直進。赤い悪魔はレーザー照射を継続したまま後退した。整流を乱されたEMフィールドの層が薄まるも、アークレイズは強引に直進加速して赤い悪魔に迫った。ルナライトから荷電粒子の刃が伸びる。
「あなたは! 私なんですか!?」
 テレサが叫びと共にプラズマブレードを叩きつける。
 確かめなければならなかった。戦闘中に時折頭の奥底で鳴った自分と同じ声。スカルヘッドから這い出てきた自分の姿を見た時にも聞いた声が、この赤い悪魔からも聞こえたから。
「私は、最初のあなた」
 頭の奥底で鳴った声がした。赤い悪魔が腕を黒鉄色に変色させて振り上げた。アークレイズの腕を跳ね上げて鈍い金属音を響かせた。
「人類文明再構築システムが最初に生んだ、人類繁殖統制端末の一体」
「オリジナルテレサだとでも!?」
 姿勢を崩されて後退加速するアークレイズ。赤い悪魔の尻尾が放つ光線が容赦ない追撃を加える。テレサの視野の中でEMフィールドの整流状態を示すステータスが赤に転じた。
「スワロウ01! 単騎で突出しては!」
 那琴のアークレイズ・ディナが赤い悪魔を中心に旋回匍匐飛行し、デュアルアサルトライフルとテールアンカーのプラズマビームを連射する。赤い悪魔は有機的な挙動で後方に飛び退き、黒鉄色に変色した片翼で機体を覆う。プラズマビームが虚空を切り、翼に遮られた徹甲弾が甲高い音と火花を散らす。那琴はモニター越しに金色の眼球と視線が交わった。
「フェザー01!? だめ! そのレーザーは狙撃手型と同じです!」
 テレサが悲鳴のような叫びをあげる。那琴は脊髄反射でJDSを起動、機体を逆方向に急加速させて鋭角な回避機動を取った。慣性を無視した青い残光は常人が描ける軌跡ではない。ユーベルコードでなければ到底不可能な動き。猟兵が戦闘中に使用したユーベルコードをJDSが模倣した回避機動は、機械的なロックオンでも予測しきれなければ追い切ることもできない。
「これに付いてこれますの!?」
 那琴の顔が絶望に青ざめる。どれほど動こうとも|攻撃軌道可視化システム《ハイビジュアルセンサー》が表示する赤い悪魔から伸びるガイドが離れない。ユーベルコードで回避機動を行うアークレイズ・ディナに、邪眼の眼差しはぴったりと張り付いたままだった。
「那琴少尉! 逃げて!」
 テレサのアークレイズがリニアアサルトライフルで牽制するも、赤い悪魔は冷徹にレーザーを返しつつ那琴のアークレイズ・ディナを追い立てる。那琴機も反撃の火線を上げるも躱されるか翼で防がれてしまう。
「フィールドが……!」
 差し迫った限界に那琴は唇を噛んだ。フィールドの向こうで明滅する発光がモニター全面に広がり、コクピットを貫く――その寸前にレーザーの連射が止まった。青白い荷電粒子の奔流の向こうに急速後退する赤い悪魔を見た。
「ウルフ01!?」
 奔流の出元を目で追いかけた那琴が灰狼中隊の隊長のコールサインを呼ぶ。伊尾奈のアークレイズ・ディナが、|マスターライン《極大荷電粒子砲》の余韻で|ブレイクドライバー《大型回転衝角》から電流を放出していた。
「さっきあの人喰いキャバリア喋ったよね!? あたしの聞き間違いじゃないよね!? しかもけっこうカワイイ声で!」
 伊尾奈機を追いかけてきた栞奈機が脇に抱え込んだレールガンを撃つ。さらに白羽井と灰狼両隊の混成部隊がマイクロミサイルやライフルなど、持てる限りの火力を叩き込む。そこへスワロウ小隊の一斉射とトールの雷撃も加わった。多方面から飽和攻撃にさらされた赤い悪魔は、硬質化した翼で機体を庇いつつレーザーで誘導弾を迎撃し後退する。
「化け物は化け物同士で遊ばせときゃいいんだよ」
 伊尾奈はロックオンの圏外にまで引いた赤い悪魔に攻撃を継続しつつ、コンソールの盤面に人差し指の腹を滑らせて通信機能を呼び起こす。
「ウルフ01より猟兵連中へ、アンタらの新しい玩具だ」
「……違いありませんわね」
 那琴が力なく失笑した。

●決戦
『猟兵には新手の喋る新型の対処に専念させますんで、白木キャプテンには我が方と協力しつつ敵増援のEVOL一万に対処してもらいたいんですが、よろしいですかな?』
「了解です」
 艦長席の手元のモニターに表示されたブリンケンに、白木は寸分も置かない即答を返す。
『陸軍が相当ハッスルしたようで、もう半島最北端まで前線を押し上げてしまいましてね。さっさとこの場を片付けてゴッドカイザー海岸にまで手伝いに来いと……まったく、気楽に言ってくれるもんですよ』
 ブリンケンはうんざりとした様子を隠す素振りも見せず、深く重い溜息を吐き出す。矢野は眉尻を傾けて浅く頷くに留めた。
『ではもう一踏ん張り、お互い頑張りましょう』
 ブリンケンの海軍式の敬礼に矢野は同じ敬礼で応じる。通信ウィンドウごとブリンケンの姿が消失すると、肺の中の空気を全て吐き出した。ここまでの戦闘でレイテナの艦隊も日乃和の艦隊も消耗しきっている。この状況で追加された一万のEVOLへの対処は口で言うほど軽くない。ブリンケンのみならず誰しもが理解しているはずだ。無論、猟兵であっても。だが止めるという選択肢は始めからないし選べない。鯨の歌作戦が発動したその時から……あるいはもっと前から、選択肢は前に進む以外になかったのだから。
 日乃和国民に逃げ場なし。
 暁作戦の予算委員会で東雲正弘官房長官が放った言葉を思い返した矢先、直通回線の通信の呼び出し音が鳴った。操作盤に手を触れ合わせると、ポップアップした通信ウィンドウ内に三笠の艦長の姿が現れた。
『白木艦長殿、具申させて頂きます。我が三笠の配置を最前線に転換する許可を頂きたいのであります』
 泉子の眼差しは口調と合わせて堅い。具申とは言うが既に許諾ありきの顔付きだと白木は感じた。
「何故だ? 危険だぞ。敵の増援が迫っている現状で、三笠の砲撃能力を失うわけにはいかない」
『は。ですが、敵の新型は狙撃手型と同じレーザー照○○度を有していると考えられます。ともすれば、猟兵諸君には盾となる遮蔽物が必要であります。それも大きく、とびきり頑丈なものが必要かと』
「三笠を遮蔽物に使うというのか?」
 矢野としても泉子の懸念は理解できる。喋る赤い新型は全くの未知数の敵――だが、先程の交戦で判断できる点として、少なくとも狙撃手型と同等のレーザー照○○度を有している事は確実だ。狙撃手型との戦闘は陸上に限り、交戦の際には周辺環境や時に敵すらも利用して射線を遮りつつ接近し撃破するのが鉄則である。こんな見通しの良すぎる海上では水平線から頭を出した瞬間に狙い撃ちにされてしまう。海上で使える水平線以外の遮蔽物といえば、高波か艦艇程度しかない。
『仮に猟兵諸君が敵の新型の撃破に失敗すれば、我々にはもう抑える手段がありません。鯨の歌作戦を成功させるため、猟兵諸君には確実に敵の新型を撃破してもらわなければならないと自分は認識しております』
「正しい認識だ」
 泉子の真面目で直球過ぎる物言いに、矢野は思わず皮肉を漏らしてしまった。泉子は口元に微笑みを作って続ける。かつての日乃和海軍の総旗艦を預かる艦長としては似つかわしくない、母性すら漂わせる柔らかな微笑みを。
『それに、三笠が軍神と呼ばれた由縁を広く知らしめる好機でもあるかと』
 泉子にとっては冗談だったのかも知れないが、矢野には存外そうとも思えなかった。
「了解した。以降の三笠の配置は佐藤艦長に一任する」
 一呼吸分の間を置いてから矢野はそう答えた。
『ありがとうございます!』
 肩肘を張った敬礼を最後に、泉子を映す通信ウィンドウは消失した。矢野は通信手の背中に「日乃和全艦に通信繋げ」と投げかけ、ヘッドセットのマイクの位置を確かめる。
「大和武命より全艦へ! 徹底抗戦だ! 戦線を維持せよ! 陣形を立て直せ!」
 耳朶を痺れさせる矢野の声に、艦橋の船員は身を強張らせた。
「この作戦を成功させない限り、我々に生き残る道はない。我々がここで敗れれば、日乃和は再び人喰いキャバリアに蹂躙されるという事は言うに及ばず、いずれ東アーレス全土から人類が駆逐されるだろう。我々はそれを阻止するべく、無数の死者を踏みしめて此処に来た。全ての犠牲が無意味でなかった事を証明するため、我々は戦い、勝利しなければならない。総員の奮闘に期待する!」
 全ての犠牲が無意味でなかった事を証明するまで、あとどれだけ骸を積み重ねればいいのか。
「東アーレスの海……ここは、骸の海だな」
 胸中に留めたはずの呟きが溢れた。御大層な啖呵をすらすらと述べられる自分を、嫌悪とも呆れとも判別し難い冷ややかな眼差しで見ている自分がいる。矢野は索漠とした胸を抱え、大和武命の制御装置として自身を切り替えた。
「左舷の弾幕が薄いぞ! 砲撃手! 何やってんの!」
 冷気を怒声で吹き飛ばす。モニターの望遠映像では、ゴッドカイザー海岸から深緑の巻積雲が迫りつつあった。

●ヘルストーカー
「イェーガー……あなた達は本当に恐ろしく、危険です。あなた達が通った後には何も残らない。全部壊し尽くされて、こうやって骸だらけの海が広がるだけで……」
 EVOL、激浪、キャバリア、艦艇、人……砕けて千切れた骸が波間を揺蕩う。
「あの時も、あなた達のような存在が外から大勢現れた。そしてアーレス大陸の全てを奪い、壊し、殺していった」
 骸が揺れる海に赤い悪魔が立つ。金色の邪眼と視線を交わらせた猟兵達は、身に刻み込まれた絶対の宿命に認識を余儀なくされた。あれは失われた過去の化身、世界を滅亡に導く断片、オブリビオンマシンであると。
「あんな事はもう二度と繰り返させない。アナスタシアのように間違いも犯さない。あなた達のような存在はあってはならないし、産まれてきてもいけない。どんなに大きな犠牲を払ってでも、アーレス大陸を|守護《まも》る……今度こそ!」
 赤い悪魔の奥底で少女は言う。その声音は、百億の怨恨と千億の後悔で濡れていた。
「あなた達をこれ以上アーレス大陸には進ませない! 相手がイェーガーだって、このヘルストーカーなら!」
 血の如き双翼を広げて赤い悪魔が翔ぶ。追跡者の邪眼はいずれも猟兵だけを睨め付けていた。
 骸に満ちた海で鯨が歌う。終演の先に残る奏者を決めるのは、猟兵とオブリビオンのどちらかだけだ。
ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『やかましい!過去に縛られた亡霊が‥抜かすな!!俺たちは誰かの未来のために過去の亡霊を討つ!』

叫びも共にユーベルコード【竜闘技・天乃型『爆界天昇』】を発動し、コスモスター・インパルスの全身を【オーラ防御】を固め、【戦闘知識】で動きを見極めながら【武器受け】。電磁機関砲で【制圧射撃】を放ちながらブレードでの【鎧無視攻撃】を放つぜ。そして、【リミッター解除】一気に加速して距離をつめて、新装備の右腕のバンカーによる【鎧砕き】を叩き込んでやる!



●爆界天昇
 コスモ・スターインパルスが絶え間なくスラスターを噴射して短距離瞬間加速を繰り返す。慣性移動など考慮しない、機体を強引に振り回す荒々しい機動だった。だがヘルストーカーの邪眼は決して標的を逃さない。尻尾は蛇のようにしなやかな動きでコスモ・スターインパルスを捕捉し続ける。金色の眼球が発光する度にレーザーが迸った。
「こいつの狙いはどうなってやがる……!?」
 ガイは焦燥に目と口を歪めた。機体を覆うコーティングフィールドが着実に削られてゆく。急加速、急停止、左右の切り返し、どれも出鱈目なタイミングで行ってもヘルストーカーの視線は剥がれない。
「こんのインチキ野郎が!」
 コスモ・スターインパルスはレーザーに炙られながら試製電磁機関砲1型・改で無理矢理に応射を試みる。マズルから射出された弾丸が青白い電光の破線を残す。ヘルストーカーはコスモ・スターインパルスの発砲を察知した途端、黒鉄色に変色した片翼で機体を覆って横方向へと跳んだ。翼に命中した弾丸が火花を散らす。
「硬質化すると変色するのか……!」
 狙いは精密。反応も素早い。しかも機体を覆う保護表皮の硬度を変化させる事で運動性と耐久性を両立させているときた。接近して一太刀浴びせようにもレーザーを掻い潜るのは至難の業どころではない。ユーベルコードによる回避にすら対応してくるのだから。ガイの眉間に刻まれた皺はますます険しくなった。
「そんな攻撃をいくら重ねたって!」
 ヘルストーカーから聞こえた声はテレサ・ゼロハートによく似ていた――違う、間近で聞いたテレサの声そのものだ。
「やかましい!」
 逆立つ神経に触れられたガイが怒号を叩き付ける。
「過去に縛られた亡霊が……抜かすな! 俺たちは誰かの未来のために過去の亡霊を討つ!」
「誰かの未来のため!? 持ってる力を振り回すだけ振り回すあなた達が誰の!? あなたの未来には誰も残らない!」
「散々殺しておいてどの口が言いやがる! 人喰いキャバリアの親玉はてめえだろ!?」
「イェーガーが生まれるから! あなた達さえいなければこんな事する必要なんてなかった!」
 交わらない怒りがぶつかり合って跳ね返る。
「抜かれたのか!?」
 けたたましいアラートがガイの耳朶を痛め付ける。コスモ・スターインパルスが空中で躓いたかのように姿勢を崩した。機体の表面を循環するコーティングバリアが貫通されたのだ。
「殺られるな……!」
 細かく撃ち合っても勝機は無い。無理を承知で一撃を叩き込まなければ。死中に活を見出すべく、ガイは腹に力を籠めた。
「たぎれ竜の雷! 天をも揺らし、明日を掴む力とならん!!」
 海原に響く轟音と共に、コスモ・スターインパルスから真紅の稲妻が迸った。機体に纏う電流がヘルストーカーのレーザーを阻む。
「やるぞ! コスモ・スターインパルス!」
 ガイの裂帛に応えて機体がバーニアノズルから赤い噴射光を炸裂させた。電光となったコスモ・スターインパルスが一直線に突撃する。
「ユーベルコード……! そんなものがあるから……!」
 ヘルストーカーは後退しながら尻尾の眼球よりレーザーを集中照射する。
「逃すかぁッ!」
 レーザーはコスモ・スターインパルスが纏う真紅の雷をも貫く。されど止まらない。パルスマシンガンの怒涛の連射を浴びたヘルストーカーが腕で機体を庇った。その一瞬の減速でコスモ・スターインパルスが肉迫した。
「砕けろ!」
 コスモ・スターインパルスの右腕部が稲妻となってヘルストーカーを打ち据える。ガイは手応えを得たのと同時に操縦桿のトリガーキーを引いた。重い打撃音に続いて炸薬が弾ける。飛び出す薬莢。雷を伴う鋼鉄の杭がヘルストーカーを射突した。真紅が爆ぜて四方に乱れ散る。コスモ・スターインパルスは、閃く雷光の如しであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーシャ・クロイツァ
ロックオンの正確さはかなり嫌だねぇ。
そして、色が変わって硬質化する翼。
ここは飽きさせやしないね。

ぼやきながらも、ミサイルを発射。
迎撃されるタイミングを見計らって、左腕ビームライフルで敵機を撃ち抜くよ。

…まぁ、対処はされるわね。
となると、やっぱりバスターランチャークラスの瞬間火力は必要か…。
エネルギー充填を行いつつ、ビームライフルとミサイルで牽制。

本命を当てるには、やっぱり撹乱が必要か。
それならば…。
敵の攻撃を回避しつつ、ミサイルを発射。
敵に迎撃される前に、ビームバルカンでミサイルを撃ち抜いて煙幕代わりにしてから月光の砲撃手で撃ち抜くっ!
当たったら、エネルギーの限り照射してやるよっ!


亞東・霧亥
【WIZ】戦闘

『猟兵は世界に招聘される。我等は世界が危機に瀕したからこそ此処に居るのだ。ご理解頂けたかね?脅威殿。』

【毒使い】で粘着剤を精製。
クリエイトフォースの形状を【武器改造】で無色透明なスパイダーネットに変更し粘着剤を練り込む。
【罠使い】【弾道計算】【一斉発射】【空中浮遊】でネットを空中に設置。
単純な仕掛けだが尻尾同士がくっついて動きが阻害出来れば儲け物だ。

【UC】
材料はそこら中にあって羽もあり何度撃墜されても、ほぼ無限に試行出来る。
このユベコは対象の生死は問わずヘルストーカーも例外ではないが、既に誰か居るなら主導権を取り合う事になる。

『俺と争いつつ他の猟兵を相手取る余裕はあるかな?』



●その恨みは月光が晴らす
 電光石火の打突を受けたヘルストーカーが後方へと弾かれた。その隙をリーシャの黒い眼差しは見逃さない。多重ロックオンが奏でる電子音を聞きながらフットペダルを踏み抜く。ヘルストーカーを正面に捉えて横滑りするティラール・ブルー・リーゼが、メテオールから誘導弾を六連射した。ロケットブースターの噴射光と同色の飛跡を残してヘルストーカーに向かう。並行して左腕のビームライフルの連射を重ねる。ヘルストーカーは尻尾の眼球から生じるレーザーでミサイルを火球へと変えた。衝撃波と金属片から機体を翼で庇いつつ荷電粒子光線に対して回避運動を取る。
「良い反応だ。ここは飽きさせやしないね……っと!」
 リーシャが金色の邪眼と視線を交わらせた瞬間、ティラール・ブルー・リーゼの機体に鋭い衝撃が走る。すかさず逆方向へ瞬間加速するも、再度の鋭い衝撃に唇から噛み締めた歯を覗かせた。
「ロックオンは吸い付くみたいに正確だしね!」
 狙撃手の身には屈辱極まりないが、事実としてヘルストーカーの目は連続のクイックブーストにも平然と対応してくる。ユーベルコードによるマニューバでさえ逃れられなかったのだから当然か――黄色を示す機体コンディションが視界の隅に入り、リーシャの顔は苦さを増した。
『ティラール・ブルー・リーゼ! 本艦を盾にするのだ! 狙い撃ちにされるぞ!』
 泉子の音声が通信装置越しに聞こえた。ティラール・ブルー・リーゼを追いかけていたヘルストーカーの眼が別方向へと振り向く。走る光線。連鎖する爆発。前線に出てきた三笠が発射した対空ミサイル群が撃ち落とされたのだ。
「そうするっきゃないみたいだね」
 三笠は牽制に対空砲とミサイルを撃ち続ける。ヘルストーカーの興味が移った一瞬でティラール・ブルー・リーゼは加速。三笠の船体の影に飛び込んだ。
「バカ正直に撃ってもこっちが撃ち抜かれるだけか……となると……」
 受ける以上のダメージを叩き込んで離脱する他あるまい。リーシャは操縦桿のダイヤルキーを回す。インターフェース上でバスターランチャーの兵装項目が選択中を表す明るい色に灯った。充填開始の横文字がポップアップし、エネルギーゲージが少しずつ上昇を開始する。
 だがどうやって当てる? 敵は狙いも悪くないが動きも悪くない。こちらの挙動を寸分の狂いなく把握しているということは、攻撃のタイミングも把握されていると考えるべきだろう。
「動きを止めないとね」
 手持ちには無いカードを呟く。
『その役目はこちらで引き受けよう』
「あ?」
 耳に馴染みの無い男の声にリーシャは眉を眉間に寄せた。
「その長物を当てたいんだろう?」
 声の主――亞東・霧亥(峻刻・f05789)は三笠の甲板に身を潜めながらヘルストーカーの様子を伺う。三笠が発射したミサイルの飽和攻撃は拡散レーザーで尽く迎撃し、見た目通りの有機的でしなやかな挙動で対空機関砲の弾雨を躱す。時折機体が黒く変色するのは爆ぜたミサイルの金属片を防ぐためであろう。被弾に応じて瞬時に硬質化できるらしい。さすがに戦艦相手では防戦一方となっているようだが……との考えを霧亥は訂正した。尻尾を迎撃に専念させて胸部の眼球を三笠への攻撃に回している。すぐそばの対空砲がレーザーに貫かれた。霧亥は爆炎の熱を背中に受けながら跳んで身を屈めた。
「悠長に説明している暇はない。こちらで手筈を整えるから一発叩き込んでくれ」
「精々上手く行くよう祈ってるよ」
 リーシャが露骨な疑わしさを込めて言う。霧亥は聞き終えるまでもなく周囲の海面に意識を拡大させる。
 水面に揺蕩う骸……その内の一体のEVOLに、戦場に滞留する恨みを注ぎ込む。動き出した骸が三笠の船体を這い上がり、霧亥の前に辿り着いた。
「その恨みは俺が晴らそう」
 EVOLが霧亥に顔面を叩き付けた。直後に機体がうねり、歪み、変容する。フードを被り、左手にランタンをぶら下げ、右手に包丁を握った異様なる姿のキャバリアへと。
「猟兵は世界に招聘される。我等は世界が危機に瀕したからこそ此処に居るのだ。ご理解頂けたかね? 脅威殿」
 霧亥とEVOLの融合体が嘲りを含んだ声を発する。何の前触れも無しに出現したそれにヘルストーカーの邪眼が向かう。
「あなた達の存在が世界の危機そのものなんですよ! その力を好き勝手に振るい続けるあなた達こそが!」
 刺し貫くような敵意を乗せた少女の声がヘルストーカーの邪眼から光線となって走り、霧亥とEVOLの融合体を射抜いた。我が身を代償にランタンから放たれた呪詛弾がヘルストーカーを取り囲む。それらが一斉に弾けた途端、自在に動き回っていたヘルストーカーの尻尾が磔となった。尻尾だけではない。翼から四肢までもが動きを止める。
「ネット!?」
 融合体から這い出た霧亥はしたり顔を禁じ得なかった。
「その状態で他の猟兵を相手取る余裕はあるかな?」
 霧亥の言葉が合図となってティラール・ブルー・リーゼが飛び出した。ヌヴェル・リュヌの砲口が青白い残光を引く。ヘルストーカーは尻尾を振り向けようにも蜘蛛の巣の如き呪縛に阻害されて叶わない。
「へえ、まあまあ上出来だね」
 ティラール・ブルー・リーゼがミサイルを立て続けに撃ち放つ。ヘルストーカーは強引にネットを振り払い眼球の視野にミサイルを捉えてレーザーを照射しようとしたが、それに先んじてミサイルが炸裂して爆炎を広げた。ティラール・ブルー・リーゼは発射したミサイルをエリソン・バールで自ら撃墜して目眩ましの煙幕を張ったのだ。
「何を!?」
 ヘルストーカーが見せた一瞬の戸惑い。その戸惑いは極めて致命的だった。
「撃ち抜くっ!」
 リーシャの食い縛った歯の隙間から裂帛が滲んだ。ティラール・ブルー・リーゼが腰だめに構えるヌヴェル・リュヌが月光の奔流を解き放つ。機体の心臓部が供給する電力を、砲身のコンバーターが荷電粒子に変換して放出し続ける。視界を塗り潰す青月の光の向こうに、飲まれゆく赤い悪魔を霧亥は見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
目標を自動追尾・解析する眼球状のセンサー…ならば『時間そのものの加速』には着いてこられるのでしょうかね?
照射後即着弾するレーザーであっても『光速』には縛られるはず
ならば『光速を突破する域の加速』を用いて翻弄と振り切りを行いましょうか
光速突破速度で『サイキ・アンリミテッドレールガン』を接射
そこからガイオウガの熱量を内包した弾丸も光速突破速度の緩急をつけて撹乱した上で波状攻撃になる様に射出

そうして、三笠を盾にする事無く真正面からレーザーを対処して弾幕戦を挑みます



●光の速さで撃て
 月光色の荷電粒子が光軸となって海面を直撃。轟音と共に巨大な水柱が立ち昇る。それはまるで海そのものが噴き上がったかのように高くそびえ立ち、空へ向かって勢いよく上昇した。高さ数十メートルに達した水柱から撒き散らされる飛沫は、快晴の空から注ぐ太陽の光を受けて、虹のように輝きを放ちながら拡散していく。
 頂点にまで登った水が重力に引かれて下降し始める。海上に出現した真っ白な瀑布からヘルストーカーが猛然と飛び出した。輝く水滴を纏う有機的な身体のあちこちが焼けている。ヘルストーカーは海鳥のように海面を滑空してEVOLの遺骸を掬いあげ、引き千切って貪り始めた。すぐに機体に異変が起きる。傷ついた部位が赤い肉質を泡立たせて再生し始めたのだ。
「口に入れるのは人ばかりに限らないと?」
 フレスベルクはノインツェーンのバイザーアイを介してヘルストーカーの姿を追う。殺気が膨らんだ刹那、咄嗟に腕で身を庇った。ノインツェーンが連動して防御体制を取る。ヘルストーカーの自在に動き回る尻尾、その先端の金色の眼球がレーザーを放った。六本の光線が立て続けにノインツェーンの白金の装甲に突き刺さる。輝く帰天の円環が推力を生じさせて機体を上下左右に突き飛ばすが、ヘルストーカーの眼差しは全く剥がれない。
「あの眼球……レーザーを発振する器官ばかりではなくセンサーの機能を……? それも……」
 白騎士の未来予測、あるいは猟兵が多用する“見切り”の域に達する精度を持っている。そこにレーザーが合わさる事で何者も逃れ得ぬ邪視を実現しているのだろう。ノインツェーンの装甲を焼き続ける熱を、フレスベルクは我が身の肌に感受して片目を細めた。
 レーザーの照射を防ぐか避けるかしなければ反撃もままならない。いまサイキ・アンリミテッドレールガンを抜けば確実に射抜かれる。抗するには――光を越えなければ。
「我が信仰はこの蒼穹の下にて無辜に生きる民の為、故に我が信仰よ重力を支配して時を加速させよ。その果てに運命を変えるのだ――」
 フレスベルクの唇が祝詞を紡ぐ。帰天の円環から天使のような光翼が開く。
「外なる機械神とその巫女……! 何度も何度も、どうしてまた現れるんです!? そこまでアナスタシアの地が妬ましいんですか!」
 ヘルストーカーの胸部に集う光が光軸となって放射された。尻尾の眼球が放つそれとは比較にならない光量。戦艦の装甲すらも貫通しかねないほどの出力のレーザーが、放射から刹那の間も置かずノインツェーンを貫いた。輝かしき白金の機械神の姿は消失し、黄金の燐光が残影のように漂う。
 直後、高速かつ高熱の弾体がヘルストーカーの機体を弾いた。硬質化した保護表皮と衝突し合って金属音と火花を散らす。
「まだ生きて……!?」
 眼球が動体を追って目まぐるしく動き回る。弾体の射出元へレーザーを放つ。射抜かれた黄金の残影が霧散した。
「着いてこれますか? 時間そのものの加速に」
 ユーベルコードにより光速の域を超越したノインツェーンが、サイキ・アンリミテッドレールガンを連射する。射撃の寸前に前進加速を加えることで、ヘルストーカーの反応速度を上回る初速を得た弾体は、ガイオウガの熱量をも内包する。一瞬の内に放たれた夥しい弾雨がヘルストーカーを縛り付けた。
「時間さえ弄ぶ……! やっぱりイェーガーは存在しちゃいけない!」
「それに……接射であれば、避けようもないでしょう?」
 ヘルストーカーの動きが縛られたのは瞬きにも満たない刹那だった。ノインツェーンが接近するのはその刹那で十分だった。右腕部に接続したサイキ・アンリミテッドレールガンの砲口をヘルストーカーに押し当てる。フレスベルクは我が身の腕に纏わせた電流を我が半身に宿し、そして解き放つ。落雷の轟きと共に焦熱の爆炎が火球となって膨張し、ヘルストーカーを跳ね飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
……ふむ。
レイテナの縁者なんですかね。まぁ、誰でもいいですが。

大した意味もなく、海上だからという理由だけで用意した飛行支援ユニット――フギンですけれど。
本来フェリーフライト用であって背中に背負うものですが、高運動戦闘であれば、跨る形に組み替えて使用しましょ。

天使核ターボファンロケット二基の増加推力を加えて、今のエイストラの加速力はメガブースター三基分です。
フギンに跨った状態で使うオリジナルのフォックストロットは、命中率が高いはずのレーザーであろうと、照射の瞬間を[見切り]回避するに不可能はありません。
仮に空間を埋め尽くす範囲攻撃があろうと、撃つ機会を与えなければ同じこと。
機を見て突撃し、その瞬間にのみクローキングとECMとを最大出力で使い、あらゆる防備を粉砕し得るバリアクラッカーを叩き込んでくれましょう。

狙う敵は新型ただ一機。
たまには乱暴なのも宜しいかと思います。はい。


シル・ウィンディア
機動力があって、狙いも精密。
そして、防御もあって…。
スカルヘッド…、いや、それ以上にやっかいな相手みたいだね。

やみくもに突っ込むわけにはいかないよね。
相手の動きを見切って行動を考えるよ。
硬質化する翼、そして、狙いがよすぎる眼…。
反応速度も尋常じゃない…。

あたりさえすればダメージは通せるけど、当てるまでが大変そうだなぁ。
ここは、覚悟を決めるか。

敵の攻撃はオーラ防御を展開しつつ、残像を生み出してスラスター全開での高機動モードで回避。

回避しつつ、リフレクタービットを射出。
配置はランダムに置くよ。包囲しても突破されそうだし。

攻撃はビットからの誘導弾とバルカン以外の全射撃武装で攻撃を仕掛けるよ。
ただの砲撃射撃型と思わせつつ多重詠唱で魔力溜めを行い、魔力の限界突破。そして、本命のユーベルコードの詠唱を行うよ。

詠唱が終わったら…。
オーラ防御全開にして、敵機に向っていくよ。
そして、左腕のビームセイバーで敵を貫いてから、ゼロ距離でヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストっ!
全力全開、遠慮せずもってけーっ!!


露木・鬼燈
なるほどなー
確かに遮蔽物があれば助かるだろうね
だけど三笠を使うのはちょっと早いんじゃないかな?
うん、アイディア自体はいいものだけどね
とゆーことで<空穂舟>を発動するですよ!
今ここには沈んだ船舶があるからね
高雄を核に、沈んだ船舶を部品に巨大な空中空母を構築
そして未だに戦う意思のある英霊たちを召喚!
まぁ、機体はそのままとはいかなかったけどね
それでも戦えはするっぽい!
さぁ、護国の鬼と為り全機突撃せよっ!
君たちはこの戦いが終わるまで何度だって蘇り、戦える
猟兵がUCを叩き込むための盾となれ!
もちろん僕も突っ込むですよ!
後方で安全にUCを使うだけってのは性に合わないからね
命がけの危険な戦いこそが面白いからね
さらに背負うものがあり、それが大きければ大きいほど良い!



●ジェットストライクアタック
 ヘルストーカーは物理運動と爆圧の二つの衝撃で跳ね飛ばされながらも眼光を走らせる。面となったレーザーの雨嵐で敵機の追撃を遮断して離脱。広げた翼で空力を巧みに得て、機体をロールして姿勢を立て直す。彼方から跳んできた荷電粒子を躱しながら。
 白く炸裂する海面を置き去りにして、戦闘機型ガンシップ『フギン』に跨ったエイストラが驀進する。フギン本体に搭載された天使核ターボファンロケット二基と、エイストラのバイブロジェットブースターの推力を引き受けたサブ・フライト・システムの総推力は凄まじい。メガブースター三基分に匹敵するであろう。常人であれば到底耐えきれない重力加速度に、レプリカントの身体の機械骨格が軋む。
 ヘルストーカーの邪眼が閃く瞬間、エイストラは前進最大加速を維持した状態で呼吸をずらした舞踏のようにスナップロールする。ユーベルコード無くしては実現不可能なマニューバだった。
「これでも当ててきますか」
 リンケージベッドが鋭い火傷の痛みをノエルに伝える。ヘルストーカーは無数に拡散照射したレーザーでエイストラの機動範囲全体を薙ぎ払った。エイストラはスラスターを小刻みに噴射してフォックストロットを繰り返す。金色の眼差しは決して離れない。炙ったナイフで切り刻まれるような痛みがノエルの全身の至る箇所に伝播した。ガーディアン装甲の発する衝撃波で軽減されているとはいえ、この照射時間と連射間隔で撃たれて続けてはいつまでも保たない。
「直撃を避けられているだけ儲けものでしょうが……」
 ヘルストーカーのレーザーがユーベルコードの回避機動にさえ追随してくる事は既に実演を見て把握している。だからこそ撃ち落とされる前にフギンの加速で肉薄し、バリアクラッカーを叩き込むつもりだったが――方針の転換を余儀なくされる予感が湧いた。ヘルストーカーの邪眼が一際鮮明に発光した。
「突っ込んだら危ないって!」
 レゼール・ブルー・リーゼが射出したプリュームが三基、エイストラとヘルストーカーの間に割り込んだ。収束レーザーがプリュームを直撃し、反射フィールドと干渉しあって出鱈目な方向へと拡散させる。海面に着弾したレーザーが幾つもの水柱を昇らせた。
「一回の反射でエネルギー切れ!?」
 シルはエイストラを庇ったプリュームを呼び戻す。交代で二基を新たに射出してエイストラに追従させた。他機の心配ばかりもしていられない。レゼール・ブルー・リーゼもレーザーの激しい応射に見舞われることとなった。機体全体をコーティングバリアで覆いつつプリュームを二基正面に展開。アジュール・リュミエールのノズルから生じる残光を引きながら縦横に無作為な回避機動を繰り返す。
「躱しきれない……!?」
 歯を噛んで息を詰める。ヘルストーカーは広い範囲に拡散するレーザーで回避機動を追い込みながら、狭い範囲に拡散するレーザーで機体を直接狙ってくる。直撃はプリュームが、プリュームの防御範囲から漏れ出た被弾はレゼール・ブルー・リーゼ本体のコーティングバリアが軽減してくれている。だが継続的に被弾していては、ヘルストーカーに一矢浴びせるよりもエネルギーが尽きるのが先だ。反撃しようにも、二機共々命中を期待できる相対距離にすら持ち込めない。無駄に撃てばバリアの展開時間が減るだけだ。
「ご覧の有り様なので、突っ込むしかないんじゃないでしょうか」
 ノエルはクローキングユニットの光学迷彩とECMも効果を発揮しなかった時点で当初のプランを早々に諦めていた。
「単純な速力であれば私のエイストラの方が遥かに上回っています。レゼール・ブルー・リーゼはこちらの真後ろに追走、私が接近してバリアクラッカーで表面装甲を破砕するので、その後に攻撃してください」
「危ないでしょ! レーザーに真正面から向かってくことになるよ? それに収束レーザーを受けたら耐えられないって!」
「ガーディアン装甲とプリュームがあれば2秒は耐えられるでしょう。最悪フギンも盾に使えますから」
 粛々淡々と言ってのけるノエル。承服したい思いとしかねる思いの間で揺れるシルが口を開きかけた時だった。足元の海面が押し上げられるようにして隆起したのは。
「しゅっこーう!」
 まるでマグロ漁にでも乗り出すかのような威勢の声音と共に、高雄の船首が海から突き出した。
「高雄!? 沈んだんじゃ!?」
 シルは青い瞳を宿した目を丸くする。激浪に粉砕されて沈んだはずの高雄が、船底で海面を叩いて全容を露わにした。更地にされた艦橋は既に無い。割られた船体の中央には大穴が開いている。引き揚げられた沈没船といった有り様の重巡洋艦が、機関を唸らせて航行し始めた。
 それだけに留まらない。波に揺蕩う鋼鉄の骸達が高雄に吸い寄せられてゆく。怨嗟のような軋みを立てて分裂や融合を繰り返し、船体の傷を塞ぎ、体積を空母ほどにまで増大させ、甲板上に構造体を聳立させる。
「お二人共、高雄を盾にするのですよ。どう突っ込んでいっても普通に落とされるっぽい。アレは狙撃手型のレーザーと同じで地上の殲禍炎剣みたいなものだからね」
 鬼燈の動作に連動し、高雄の船上に立つアポイタカラが手招きする。シルとノエルはレーザー照射を受けながらも高雄の艦上構造体の影に飛び込んだ。
「高雄は耐えられるんですか?」
 ノエルは自身と繋がれた機体のステータスに意識を走らせる。エイストラとフギン共々損傷はあれども戦闘継続に支障はない。
「装甲が分厚いしアンチビームコーティングされてるから多分――」
 と、鬼燈が言った矢先、高雄の船上に築いた構造物の一つが吹き飛んだ。
「ダメじゃん!」
「いやー、ジャンクだからね」
 シルの悲鳴のような非難を受けて鬼燈は目を横に逸らした。
「それで? これからどうするおつもりで?」
 いつも通り冷淡な表情で冷淡な声音を送るノエルに「こうするのですよ」と鬼燈は指を鳴らす。アポイタカラが重量子ビーム砲の先端を空に向けた。
「未だ戦う意思のある英霊たちよ! 護国の鬼と為り全機突撃せよっ!」
 海面に浮かぶ、或いは海中に沈んだ夥しい数のキャバリア。志半ばで散った日レ両軍のそれらが、鬼燈の啖呵に呼応して機体を起こし始める。墓から這い出る亡者の如く。無言で静観していたシルとノエルはゾンビ映画のワンシーンを想起した。
 キャバリアの亡者どもが次々にヘルストーカーへ襲いかかる。殆どが瞬く間もない内にレーザーで撃ち落とされるが、撃墜した数以上のキャバリアが全方位から押し寄せる。迎撃が追い付かなくなりつつあった。
「いまの内っぽい!」
 ヘルストーカーに群がるキャバリアで射線を遮っている内に接近を果たせ。鬼燈の言外の意図を汲んだノエルとシルは高雄の甲板上から飛び出した。アポイタカラが左右のフォースハンドで保持するパルスマシンガン改で援護の火線を張る。
「プランは先ほどの通りで」
「わかった!」
 詠唱を始めるシルを背中に、エイストラはフギンを含めた全てのエンジンを最大稼働させて突進する。キャバリアの群れに球体状に包囲されたヘルストーカーとの距離を一気に詰める。
「たまには乱暴なのも宜しいかと思います。はい」
 ノエルはエイストラをキャバリアの群れの中へ突入させた。血濡れの機体が見えた瞬間に加速を相乗したバリアクラッカーを突き出す。先端部分が衝突した部位が黒鉄色に変色する。ノエルがトリガーキーを引く。炸薬が鋼鉄の杭を打ち出す。ヘルストーカーの硬質化した表皮が砕けて飛散した。
「六芒星に集いて!」
 急速離脱したエイストラの背後にレゼール・ブルー・リーゼが続く。ヘルストーカーにビームセイバーの切っ先を向けて突進した。エイストラが砕いた箇所に青い魔力粒子の刃が突き立てられようとした瞬間、シルはヘルストーカーの胸部の眼球と視線を交わらせてしまった。収束レーザーが迸る。機体の左半身から重量が抜け落ちた。
「全てを撃ち抜きし力となれっ!」
 シルは目を瞑って叫んだ。レゼール・ブルー・リーゼとヘルストーカーの間に開いた六芒星を、カルテット・グレル・テンペスタから放出された四本の光条が潜り抜ける。六属性に変換された魔力粒子が螺旋を描く。それは邪眼をも眩ませる鮮烈な光でもって、ヘルストーカー諸共に空間を塗り潰した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
猟兵が何したって言うんだ!ちょっと歴史と世界と魂8億ぽっち滅ぼしただけで…血も涙もねぇ!
ゼロハート氏謝って!

責任を取って貰おう!という訳でコクピット侵入時に置いておいた流体金属君とゼロハート氏が合体だァ!拙者のUCだからって必ず拙者が合体しないといけないという道理はない
ついでに機体も融合させていい?させるね!大丈夫解除すれば元に戻るから、多分
しかしねぇ…強さを手に入れてオリジナルに挑む姿はエモさがあるのだから…ちょっと見た目が巨大ゼロハート氏で鈍色テッカテカで人間やめてる感あるけど…

お互い近接しそうな技構成、そして今拙者はドフリー…せっかくだから格闘戦中のどさくさにオリジナルハート氏の機体に乗り移るぜ!後はもうわかるよね?コクピット侵入でござる
イレテ
イレテ
こんにちはオリハート氏

手足埋まって動かないのでやりたい放題だぜ!戦闘中だが聞いてくだされ耳元で拙者の吐息と囁きを…本当はリンパとかマッサージしたい所だがレーティングがね…
テッカテカで巨大な自分自身に襲われるのどう?人の革新感じない?



●おとめ座銀河団の中心にある巨大な楕円銀河
 オリジナルテレサの言葉に、エドゥアルトの表情筋が一瞬凍りついた。悪人面としか表現できない微笑みが一瞬にして消え去る。代わりに困惑の色が浮かぶ。目が少し見開かれて眉が寄せられた。唇がわずかに開き、驚きとともに心の中で膨れ上がった不満が顔の表層に浮かび上がる。
「猟兵が何したって言うんだ!」
 険しい目つきと食い縛った歯が抗議を向ける。
『猟兵全体は兎も角、あなた個人はついさっき何かやったばかりですよね?』
 オリジナルではない方のテレサの声音は疑り深い。
「ちょっと歴史と世界と魂8億ぽっち滅ぼしただけで……血も涙もねぇ!」
『一体何をしてきたんですか……』
 エドゥアルトに限ったことではないが、猟兵達はサクラミラージュの帝都櫻大戰にて護国鉄神零號を撃破した。いまは亡き文明の魂を8億人分内包した護国鉄神零號を。一度ばかりではない。撃破累計数は少なくとも二桁には到達しているであろう。やむを得ない事情を抱えていたにせよ、エドゥアルトはそれに加担した猟兵の一人であった。
「ゼロハート氏謝って!」
『なんで謝らなくちゃいけないんですか』
「責任を取って貰おう!」
『取らなきゃいけない責任が分かりません』
「という訳でコクピット侵入時に置いておいた流体金属君とゼロハート氏が合体だァ!」
『はい?』
「ついでに機体も融合させていい? させるね! 大丈夫解除すれば元に戻るから」
『あなたの大丈夫は絶対大丈夫じゃないでしょう……』
「しかしねぇ……強さを手に入れてオリジナルに挑む姿はエモさがあるのだから……」
『神経が苛立つんですけど』
 周囲を置き去りにして勝手に話しを進めるエドゥアルトが「ワンドバドバワンドバドバ」と口ずさみ始めた。テレサのアークレイズのコクピットブロックから眩い光が発生したのはその時だった。
 膨張する光。そこから突き出た巨大な拳が天に向ってぐんぐんと伸びる。拳、腕、身体と順当に現れたのは、鈍色の光沢を放つスーツで全身を覆った光の巨人であった。
『なんですかこれ!?』
 光の巨人――その正体はエドゥアルトのユーベルコードで変身してしまったテレサの成れの果てである。
「どうもこうもねえよ! パンチだロボ! 三分しか持たねえんだからおうあくしろよ!」
 ウルトラテレサの肩に乗ったエドゥアルトが怒鳴り散らす。テレサはもう抗議の声を上げる気力すら失せていた。巨大な拳がヘルストーカーに向かう。
「アーイキャーン……フラァァァイ!」
 駆け出したエドゥアルトは腕から拳を足場にヘルストーカーに飛び移った。
「イレテ」
『いいえ』
 オリジナルのテレサの声は冬の車内のように冷たい。
「イレテ」
『いいえ』
「こんにちはオリハート氏」
 どういうわけかエドゥアルトはヘルストーカーの中に入ってしまった。
「ヒャッハー! 手足埋まって動かないのでやりたい放題だぜ!」
「隙間すらないんですが一体どこのスペースにいるんです?」
「わたしエドゥアルト。いまオリハート氏の耳元にいるの」
 顎髭をたっぷり蓄えた40歳の男性が十代後半かそこらにしか見えない少女の耳に生暖かい息を吹き付ける。
「本当はリンパとかマッサージしたい所だがレーティングがね……自律的感覚絶頂反応でご勘弁してくだされ」
「急に難しそうな単語を使い始めましたね」
「テッカテカで巨大な自分自身に襲われるのどう? 人の革新感じるんでしたよね?」
「イェーガーってみんなこんなのばかりなんです?」
 エドゥアルトのもたらす革新は、いまの人類にはあまりにも早すぎた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皇・銀静
単独行動
不本意ながら機神搭乗

……馬鹿かお前?
強い力を持ったら世界の脅威になるから全部ぶち殺すとか
人類の進化の歴史を否定か?下らない
「君達の大陸を荒らしたのは猟兵じゃなくて神機シリーズだろうにね☆それは唯の八つ当たりと不毛な極論だよ☆」

「やっほー☆ソーちゃん☆…いや…君はトールちゃんだったね☆出自は違うけど君のお父さん…もう一人の私の仇を討っちゃうよ☆」

【戦闘知識】
敵機の動きと周辺状況把握
「私はグリームニル…嘗ての名は…絶対神機『オーディン』!一つ私の仇を討つとしようか!」

【空中戦・属性攻撃・念動力・弾幕】
UC発動
念動障壁展開
超高速で飛び回りながら火炎弾や凍結弾や雷撃弾の弾幕展開

未来予測による回避から絶対必中効果による理不尽なる猛攻

【二回攻撃・切断・功夫・リミットブレイク】
ああ、お前…何処かで見たことがあると思ったら…魔◎村のレッド〇リーマーか
思いだしたらムカついてきた

功夫による鉄山靠を叩き込み
更に肘撃から掴み投げ飛ばし
槍による連続刺突を叩き込んでから
魔剣による連続斬撃で切り刻む!



●黄金の軍神
 ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストの爆光が海面を押し拡げて波立たせる。熱と冷気と雷、その他の六属性が凶暴に暴れまわる嵐から脱したヘルストーカーの邪眼が新たな猟兵に張り付いた。
「……馬鹿かお前?」
 邪眼が睥睨する先……三笠の甲板上で、銀静はヘルストーカーと視線を交わらせた。金色の瞳が光を放ち、逃れ得ぬ光線が人の身を貫く。その寸前で銀静は足元から噴出した黄金の輝きに包まれた。ヘルストーカーが照射したレーザーは光の向こうで何者かに遮られ、弾かれたかのように軌道を曲げる。
 黄金の光が一瞬で霧散した。そこには銀静の姿はなく、二又の穂先を備える槍を携えた金色のキャバリアが、吹き付ける潮風を浴びながら堂々と機体を聳立させていた。日差しを受けた装甲は目も眩むばかりの光沢を照り返し、足元に黄金の光を落とすほどだった。
『私はグリームニル……嘗ての名は……絶対神機『オーディン』! 一つ私の仇を討つとしようか!』
 機体から発せられたのは、見た目に似付かわしくない少女の明朗な声音だった。
『オーディンじゃとぅ!?』
 エリザヴェートが真っ先に反応を示す。黄金一色の機体の名乗りは、レイテナに伝わる機械神の一柱にしてエリザヴェートの亡き父が駆っていたキャバリアが冠する名と同一だったからだ。
『やっほー☆ ソーちゃん☆ ……いや……君はトールちゃんだったね☆ 似て非なる神話同士、出自は違うけど君のお父さん……もう一人の私の仇を討っちゃうよ☆』
 グリームニルは親しげな声と共にトールへと手を振る。
「なんじゃあ? あの金ピカはトールの知り合いか?」
 エリザヴェートは怪訝に眉をひそめて首を傾げる。トールはエリザヴェートに無言を、グリームニルに一瞥を返した。
『あれれ? トールちゃん冷たくない? あんなに殺し合った仲なのに……』
「おまえは……いやお前たちは一体何をしてきたんだ?」
 銀静の問いにグリームニルが答える間もなく幾つもの光線が降り注いだ。グリームニルは腕で胸部をかばいながら三笠の甲板を蹴って宙に飛んだ。念動障壁に阻まれたレーザーが四散して海面を撃つ。
「躱す猶予はないか……」
 閃くグリームニルの眼を介して銀静は未来を視た。いかに動き回ろうともヘルストーカーの邪視から逃れられる未来は存在し得ない。
「だったら!」
 躱す必要などない。機体の正面に念動障壁を集中展開し、肩と脚部に備わるタラリアから推進噴射の光を炸裂させた。ドラウプニルを機体に固定したまま、火炎、凍結、雷撃のエネルギー体を弾丸として連射する。
「グリム……俺に奴の未来を見せろ」
『グリムちゃんの凄い所みせちゃうよ☆』
 絶対戦術機構『勝利の神』が成す必中の弾雨だった。視えている光景は同じなのだろうか。ヘルストーカーも硬質化した翼を盾としてレーザーで応射しつつ後退加速する。グリームニルは全ての推力を前進加速に振り向けた。収束レーザーの集中照射に念動障壁を貫かれるも、賢者の石が変じた装甲は容易く貫かれるものではない。
「強い力を持ったら世界の脅威になるから全部ぶち殺すとか人類の進化の歴史を否定か? 下らない」
 推力差で上回ったグリームニルが加速を乗せた機体を突撃させて背中から激突した。
『人類の進化!? 猟兵は人類の進化の形じゃない! 歪に変異した形なんですよ!』
 黒鉄色に変色したヘルストーカーの翼とぶつかり合い、火花と共に重い金属音を弾けさせた。
『君達の大陸を荒らしたのは猟兵じゃなくて神機シリーズだろうにね☆ それは唯の八つ当たりと不毛な極論だよ☆』
 グリームニルが機体を翻して肘打ちを繰り出す。
『ユピテルに率いられた機械神もその他の漂着者も同じこと……! イェーガーとなにも変わらない! 歪で巨大な力に溺れて、気まぐれに振り回して……! あなた達のような存在がいたから!』
 ヘルストーカーが腕を払ってグリームニルの肘打ちを跳ね返す。
「ああ、お前……何処かで見たことがあると思ったら……」
 筋が結びつかないオリジナルテレサの怒号を聞きながら、銀静は記憶のどこかに残留していた赤い悪魔の姿を思い返した。無性に怒りが湧いたのは、きっとその赤い悪魔に散々痛い目に合わされたからなのだろう。
「ムカつくな、その赤いのは!」
 銀静は肘打ちを跳ね返された反動でグリームニルの向きを反転させた。左腕のマニピュレーターが開くと黄金の円陣が出現し、そこから生えた宝剣の柄を強引に引き抜く。回転の勢いを乗せた魔剣Durandal MardyLordが横一線に閃く。禍々しい覇気を伴う刃がヘルストーカーの硬質化した表皮に傷を刻み込んだ。体制を崩したヘルストーカーにグリームニルが踏み込む。グングニールによる連続の突きは暴風雨の如し。マニピュレーターを回転させて逆手に持ち替えたDurandal MardyLordで縦横無尽の剣戟を繰り出す。必定の未来を超える神速の槍と剣が残す軌道は、人の目には炸裂する黄金にしか見えなかった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラリー・ホーク
【TF101】
拓也と共闘。
「ほぉ~、陸上に1万と来たか。カメリアのスラマカなら、大体3カ月に一度のペースに来る敵の量だな。ま、時々2~3万の時もあるが…」
と思わず言ってしまう。日乃和やレイテナの人達から色々リアクションがあるだろう。
「嘘のように思えるが、本当の話だ。スラマカの隣にある『コールドクローズ地帯』ってのはそういう異常地帯なのさ」
さて、戦闘に集中しないとな。
「相棒。ちょいと時間を稼いでくれ。とっておきの技を出す。何、アレに当てるのは造作も無い」
と言い、拓也に時間を稼いでもらいつつ、真・猛禽類の眼状態のまま右眼を閉じて、右眼に魔力を集中。敵の攻撃が来ても左眼は真・猛禽類の眼状態なのである程度は動きを見切って回避できる。
必要な魔力が溜まった時点で右眼から血涙が流れて
「白炎!!」
と言ったと同時に敵に視線を合わせて、炎で敵を燃やす。敵が燃えてる部分を切り離したりして対抗してきた時は右眼を閉じて鎮火した後、再び右眼を開けて敵に視線を合わせて燃やす。
「この攻撃から逃れる手は無い」
アドリブ可。


防人・拓也
【TF101】
ラリーと共闘。
ラリーの言葉を聞いて
「合衆国の北方面軍の連中ならともかく、普通の奴らからすれば大部隊に変わりはない。ルイーズ、マイラ。三笠の援護に回れ。日乃和の軍神たるなら、生き残らねば意味が無い。アイリスはラリーの援護だ。奴は俺が引き付ける」
「マスターお1人で? 流石に危険すぎでは…」
「アレを何とかするのが俺の仕事だ。俺が死のうがアレを仕留める事が出来れば、勝利である事に変わりはない。そうだろ、日乃和とレイテナの方々?」
と言った後、原初の魔眼を開眼して敵と戦闘開始。
敵の攻撃は未來予測で斥力で跳ね返したり、可能であれば触手は日本刀『希光』で斬り落とす。敵が別方向へ攻撃しようとしたら引力で自分の方へ引き寄せて攻撃をそらす。
もしオリジナルのテレサが零也の事を覚えているのなら、何かしらの反応を見せるかもしれない。
なぜ俺があの人と同じ眼を持っているかって? さぁな。俺はただ、生と死の狭間を彷徨っている時に日乃和やアマテラス、アナスタシアなどを知っている奴に会っただけだ。
アドリブ可。



●眼眼眼
 ゴッドカイザー海岸方面から飛来したヘルストーカー。その血濡れの翼を追いかける格好で、夥しい数のEVOLが雪崩込んできた。安定しつつあった戦況は猟兵がヘルストーカーと交戦して間もなく再び混迷の乱戦にもつれ込む。連戦で疲弊した日レ両艦隊は最後の気力とも言うべき残弾を絞り出し、必死の徹底抗戦に臨んだ。
「ほぉ~、敵の増援が1万と来たか。カメリアのスラマカなら、大体3カ月に一度のペースに来る敵の量だな。ま、時々2万だったり3万の時もあるが……」
 折角晴れ間を覗かせていた空をくすませる深緑色に、マイティ・ホークⅡに搭乗するラリーは思わず呑気な声音で口を滑らせてしまった。
『ほへー? カメリアでも人喰いキャバリア湧いてんの?』
 通信ウインドウの枠内の栞奈の瞳が目まぐるしく動く。一瞬も止まらない様子からして機動戦の真っ最中なのだろう。口とそれ以外を切り離せる彼女の芸当に、ラリーはこりゃ将来大物だなと胸中に漏らした。
「まあ、似たようなもんかな。嘘のように思えるが、本当の話だ。スラマカの隣にある『コールドクローズ地帯』ってのはそういう異常地帯なのさ」
「合衆国の北方面軍の連中ならともかく、普通の奴らからすれば大部隊に変わりはない」
 拓也が通信に割り込む。海面を跳躍してヘルストーカーの迎撃に向かいながらも絡んでくるEVOLをあしらう。後ろからはアイリスが追走してきている。横に目配せすると三笠が目に付いた。時折艦の周囲から伸びる極彩色の光は、援護役として向かわせたルイーズとマイラが上げた対空砲火であろう。
「だから……」
 分かるんだが、この状況は非常に不味い。ラリーは出しかけた言葉の先を飲み込んだ。
 いまの状況下での一万という敵の増援は、ブリンケンが気安くいうほど軽い気持ちでは捉えられない。
 合衆国の北方面軍は、コールドクローズ地帯から定期的に押し寄せる数万の敵を長年に渡ってせき止め続けている。それは十分かつ周到な準備があってこそだ。
 北方面軍という入念に訓練された選りすぐりの兵士達。検討と実証を重ねて確立した戦術。適時適切な指揮。熟知された地形環境。二重三重の予備戦力。潤沢な物資。それを届ける兵站網。そして数ヶ月というスパン。
 こうした十分かつ周到な準備を整えているからこそ、カメリアのスラマカは数万という敵を跳ね返し続けてこれたのだ。逆にこれらの準備が欠如していれば、北の守りはたちまちに決壊してしまうだろう。ラリーにとって、いまの戦域の状況は、決壊寸前のスマラカ防衛戦線に思えてならなかった。
「保つもんかねえ……」
 半ば諦めにも近い感情が吐き出した息に混じる。両艦隊共に戦力はボロボロ。自分を含む猟兵だってEVOLの大群と激浪を連続で相手にしたことで見た目以上に摩耗している。そこにヘルストーカーという大きなイレギュラーが飛んできた。ネルトリンゲン、特務一課、イェーガー社、渡り禽、TF101という組織だった戦闘が可能な猟兵も含めた35人を集中投入しても抑えきれるかどうかといった敵だ。天秤は大きく揺れ動き、傾きは一瞬で決まる。ラリーは意を決して拓也に通信を振り向けた。
「相棒。ちょいと時間を稼いでくれ。とっておきの技を出す。なあに、アレに当てるのは造作も無い」
「了解した」
 声の抑揚から推し量った拓也は一つ返事で応じる。
「ルイーズとマイラは引き続き三笠の援護に回れ。日乃和の軍神たるなら、生き残らねば意味が無い。アイリスはラリーの援護だ。奴は俺が引き付ける」
『マスターお1人で? 流石に危険すぎでは……』
 アイリスが先を行く拓也の背中を目で引き止めるも、拓也は横顔さえも向けない。
「アレを何とかするのが俺の仕事だ。俺が死のうがアレを仕留める事が出来れば、勝利である事に変わりはない。そうだろ、日乃和とレイテナの方々?」
 命なんて安いものさ。特に俺のはな。そう言外に漂わせて原初の魔眼を開こうとした矢先だった。
『ぬぁぁぁにを寝ぼけた事を言っておるのじゃぁぁぁ! 勝手に死ぬなぞこの妾が許さぬ! そなたらを雇うのに妾がどれだけの金を費やしたのか分かっておるのか!? ヘルストーカーを倒して終わりではないわ! 最後まで戦うのじゃぁぁぁ!』
 鼓膜をぶち破らんばかりのエリザヴェートの黄色い怒声に、拓也は堪らず歯を食い縛って顔を引きつらせた。
『いや陛下、あなたのお金じゃなくてレイテナ・ロイヤル・ユニオン数億の国民が納めた税金なんですがね……まあ……陛下が仰られる通りに早いとこヘルストーカーを始末してこっちの手伝いをしてもらわんといかんのは事実だがな。というわけで焦らず急いでくれ』
 恐らく拓也と同じ表情をしているであろうブリンケンの声は辟易していた。
『誰かが死んでも勝ちって……そんな考え方は悲しいと思います……みんなで生き残って……みんなで帰らなくちゃ……!』
 絞り出すようなテレサの声音に悲痛が滲む。
『命を賭して任務に当たる姿勢は結構だ。しかし兵士という一枚の盾の後ろには大勢の市民がいる。猟兵に責任を負い被せるつもりはない。が、カメリア合衆国での軍籍上で准将の階級にある貴官は、役職上それを十分に承知しているものだと私は認識している』
 矢野の声は大きな石のようだ。
『いいえ、死にません。あなたの……猟兵の皆様の宿命は、まだずっと先まで続いているのですから。この戦いで開かれる道の先、アーレス大陸の深淵の底へと……』
 ねっとりとした言い回しの結城が言わんとしている所を拓也は推し量りかねた。
『そうさせないように三笠は前に馳せ参じたのだ! 猟兵の諸君! 本艦三笠を遠慮なく盾としてくれたまえ! 軍神三笠の鎧は悪魔の眼光などに屈しはしない!』
 泉子の声量はエリザヴェートに負けず劣らずで耳に痛すぎる。
『猟兵だろうがアンタみたいな奴とは絶対にスナイパーキラーはやれないね。死にたがりは真っ先に味方を死なせる。自分ひとりの命すら満足に持って帰れない素人が、他人を生かして帰せるもんかってのさ』
 露骨な軽蔑を伴う伊尾奈の声はガンガゼのようだった。
『まーた特攻のタクが特攻かますって? 好きだね~』
 栞奈の調子は普段と変わらない。死ぬわけがないという確信の現れなのだろう。
『戦いの中で死ななければならないと仰るのでしたら分からなくもないですけれど……ですがそれはきっと今ではないと思いましてよ。あなたには生きてなさねばならない事が山ほどおありでしょう? それに……ここで死なれては、わたくしとお母様が導いた意味がございませんもの……』
 那琴の声音には同情と寂寥が絡み合っていた。
『いけません! 主様は絶対にお守りします!』
 ルイーズの怒声にはどんな金属よりも堅い芯が通っているようだ。
『マスターがいなくなったら……私は……私は……!』
 今にも泣き出しそうなマイラの声が罪悪感を苛む。
『死ぬと仰るなら私も死にます』
 冗談の気配が微塵も無いアイリスに寒気を覚えた。
「いやー人気者は辛いなあ? 相棒?」
 ラリーがにやけた顔で皮肉を当てつける。拓也は居心地の悪さを払うようにして咳こんだ。
「やるぞ」
 最後の一言を置き去りにヘルストーカーとの交戦域に我が身一貫で飛び込む。突き刺すような殺気。黄金の邪眼と交わる視線。原初の魔眼が視せた未来は――視界一面を塗り潰す真っ白な光だった。
 拓也は迷わず神経を前面に集中させる。展開した斥力場に殺到したレーザーが無秩序な方向へと軌道を偏向させる。
「こいつの狙いはまるで……!」
 |原初の魔眼《ゼロノメ》じゃないか。立て続けに浴びせられるレーザーに対し、原初の魔眼の能力を斥力場の展開という一点に絞って受け流し続ける。
「ああ……大人しく防ぎきるっきゃないな……!」
 ラリーは右眼を閉じ、真・猛禽類の眼となった左眼でヘルストーカーの動きを追う。視えている光景は拓也ともども変わらない。どんな複雑怪奇な機動を描いたとしても邪眼が離れる未来が視えないのだ。
「アイリスちゃんは俺の守備範囲外に出ないでくれよ?」
 マイティ・ホークⅡが構えるネオキャバリニウム合金製の万能コーティングシールドに鋭いレーザーが断続的に突き刺さる。
『はい! ですがこれでは私が援護される側に……!』
 アイリスは歯がゆい思いを噛み締めながらカラドボルグの弦を引く。海面寸前を滑空するヘルストーカーの周囲に巨大な水柱が昇った。
 拓也は二機に視線を向けると表情筋に苦しさを滲ませる。マイティ・ホークⅡとアイリスに浴びせられるレーザーの軌道を引力で逸らす。完全にとは言えないが直撃は避けられているはずだ。これでラリーがとっておきの技を繰り出すまでの時間は稼げるだろう――。
『その斥力場は原初の魔眼……? あなたは死んだはずじゃ?』
 憎悪と敵意を帯びた冷ややかなテレサの声が通信装置に入り込んできた。背中が泡立つ。違う。これは俺が知っているテレサの声ではない。ヘルストーカーから聞こえるテレサの声……オリジナルテレサの声だ。
「生憎だが人違いだ。俺は零也じゃない」
 拓也は絶え間ないレーザーの雨を防ぎながら答えた。
『ならどうして原初の魔眼を……私と同じように自ら作り出したとでも?』
「さぁな。俺はただ、生と死の狭間を彷徨っている時に日乃和やアマテラス、アナスタシアなどを知っている奴に会っただけだ」
 作り出した? 反射的に問い返したくなった衝動を抑え、極力感情の揺らぎを匂わせずに言ってのける。
『だったらなんでここに来たんです!? 零也と同じくまた神か悪魔にでもなるつもりですか!?』
「前の持ち主はなろうとしてたのか?」
『ユピテルが率いた神機、外なる機械神とその巫女、まつろわぬ漂着者……彼もまたそれらと同じように、アナスタシアの憐れみを拒絶し、この地を羨み、妬み、簒奪を図った。そしてアナスタシアに挑み――』
「拳に敗れ、忠誠と引き換えに助命を乞い、軍門に下った」
 拓也が続きの言葉を差し込むと、ヘルストーカーは肯定を示すかのごとく胸部のレーザーを照射した。痛烈なまでの圧力に斥力場ごと押し込まれる。オリジナルテレサの言葉は生死の間で零也に聞かされた内容と一致する。どうやらあれは今際の時に見た奇妙な夢ではなかったらしい。
「随分と良い目をしているようだが、それは零也から貰ったのか?」
『神にも悪魔にも成り代われる、そんな危険なものにカウンターを用意しない理由なんてない! これは|原初の魔眼《ゼロノメ》を技術的に解析し、再現し、機能を拡張し、安定性を高め、より最適化させた私の眼……!』
「ゼロハートの眼だとでも言うつもりか!」
 私と同じように自ら作り出したとはそういう意味だったのか。一瞬でも気を抜けば斥力場を貫通しかねないレーザーを跳ね除けながら、拓也は強引に前へ出る。思ったよりもお喋りな相手で助かった。もう間もなく必要な時間を稼ぎきれるだろう。決して悟られてはならない。思考を感情に滲ませないように歯を硬く噛みしめる。
「よう相棒、待たせたな」
 ラリーの閉じた右目から血涙が流れ出る。それが時間稼ぎの終わりを告げた。
「白炎!!」
 見開かれた眼が白い閃きを放つ。ラリーのユーベルコードを引き受けたマイティ・ホークⅡのセンサーカメラが同様に鋭く閃く。直後、ヘルストーカーの機体が真っ白な炎に包まれた。
「この攻撃から逃れる手は無い……!」
 文字通りの火達磨となったヘルストーカーが海中に潜るも、真・猛禽類の眼が放った炎の勢いは一向に衰えを見せない。燃え上がる異様な炎が海水を沸騰させて泡と共に蒸気を立ち昇らせる。
「未来は視えてようが、人の頭の中は視えないだろうさ」
 ラリーは頬を伝う血を手で拭う。舐めた唇は鉄の味だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
……何言ってんだおめー?
今好き勝手大暴れのバイオハザードまっしぐらぶちかましてるのおめーじゃねーか
というかアーレス大陸焼いたの機械神と神機シリーズじゃねーか
つかよ…それで猟兵潰したら今度はおめーはこう言うだろ
次はキャバリアこそ平和に邪魔だー
今度はプラントは邪魔だー
ってなるだろーよ
てめーと同じような寝言ほざいた馬鹿を知ってるよ
そいつはロボットヘッドでキャバリアこそ平和を脅かす害悪だーってな

…気づいてねーとは言わさねーぞ?
てめーが今乗ってるソイツこそアーレス大陸を焼いたのと同じようなもんじゃねーかボケェ!

久しぶりに平和系盗賊の僕もイラついた…おめーはとっ捕まえてお仕置きしてやる!
【情報収集・視力・戦闘知識】
敵機と周辺状況と之までの動きを解析
【空中戦・属性攻撃・念動力・弾幕・スナイパー】
光学迷彩は見破るだろーな
UC発動
超絶速度で飛び回り念動光弾と超高熱熱線の弾幕を展開しテレサと周辺の敵を蹂躙し
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
鎌剣で襲いかかり連続斬撃を叩き込み可能な限りテレサ強奪を狙う


アレフ・フール
…猟兵が脅威…か

確かにそうだろうな…猟兵…ユーベルコードの力は途轍もない
「マ、マスター…それでもアーレス大陸を直接蹂躙したのはユピテル様達だから!」
…だが…第五までの猟兵もまたこの世界の脅威となっておる

…だが

テレサといったか
世界の…歴史の流れは止められぬ
既に第六の猟兵は生まれ…こうして在る
例えわしらを滅ぼした所で…新たな脅威が生まれたという証左にしかならんよ

それでも…止められるとするなら…それは同じ力でしかない
今のお前をわしらが止めるようにな

「そうだ!ユピテル様と同じ過ちを犯させる訳にはいかねーぜ!」
【戦闘知識】
全知極も使用
戦況とテレサに迫れる最短ルートも把握
【グラップル・重量攻撃・属性攻撃】
UC発動
超重力を纏って襲いかかり
「お前さんの言う事も察しはつく…だが…今のお前さんも同じことをしているぞ!力を振るい敵を蹂躙しているんだからな!」
お前を否定はせんよ
それでも…今のお前がしようとしている事もまた世界の脅威だ
故に…止めさせて貰う
魔剣で切り刻み掴みかかり叩きつけから重力球を叩き込む!


皇・絶華
(降臨する機神)
おお!なんということだ…理性的なこの私をも存在を否定するとは!
「ぬ、主様に関しては否定できねぇ…!」
何かいったかさっちゃん?(ぜっちゃんチョコ流し込み)
「ひぎぃ!?なんでもありません!」

【戦闘知識】
敵の動きと周辺の敵の陣形を把握

テレサと言ったな!お前は間違えている!
その様な悲しき思想に染まるのはお前にパワーが足りないからだ!
だが安心しろ!其ならば…皆が圧倒的なパワーを得ればいい!(!?)
「わ…わぁ…!」
【薬品調合・バーサーク】
地獄のUC発動!
死にかけの味方も!海に浮かぶEVOLも!倒れかけたテレサ達も!ぜっちゃんチョコを振る舞うぞ!(不死身のチョコ軍団発生!)
敵は戦闘後に自爆させるぞ

【念動力・弾幕・二回攻撃・切断・空中機動】
チョコ軍団と共に飛び回りながら念動光弾を打ち込み動きを鈍らせ
鎌剣で切り刻む!

【爆破】
さぁテレサ(敵)よ!お前にも圧倒的なパワーを授けよう!身体から溢れるパワーに喜びの声を上げるがいい!
(赤いのと中のテレサに真・ぜっちゃんチョコねじこみ…どかーん!)


アルジェン・カーム
「あれはトール…第一世代の神機シリーズと死闘を繰り広げた1機だよ!」
そして…彼女がゼロハートプラントの主でしたっけ?
「…あれが生んだ軍団はタロスと激しくぶつかり合ったって聞いてる…メルクリウスからだけどね」
…強き力が惨劇を起こす
あなたの言う通りです
そして…暴走を起こす事も
…故に貴女を止めます
貴女と同じ様に思想を暴走させた方々を僕は知っています(EBとしての戦いに想いを馳せ)
貴女が乗る機体もまた…マスカレイドの仮面と同じ物
だから…貴女の齎す|悲劇の終焉《エンディング》…破壊させて頂きます

【戦闘知識】
敵の動きと周辺状況把握
【オーラ防御・空中戦・念動力・弾幕】
UC発動
英霊剣群展開
破壊の波動を纏わせてレーザー相殺やガード!
超高速で飛び回り破壊の波動を込めた念動光弾の弾幕展開
【二回攻撃・切断・貫通攻撃・串刺し・怪力】
宝剣による連続斬撃を叩き込み槍に切り替えて串刺しにして破壊の波動を流し込み機体だけを破壊を狙う
中のテレサさんは傷つけません

ええ、僕らは壊します
世界に齎せる|悲劇の終焉《エンディング》を


テラ・ウィンディア
あんたがテレサ…!
「まさか…貴女はアナスタシア最初の娘…ゼロハート!?」

【戦闘知識】
敵軍勢の動きとテレサへの道を把握
「貴女がその結論に至ったのは当然でしょう…私もまたユピテル様同様に仇なのでしょう」
ヘカテ…
「それでも!貴女がテラの…猟兵の生まれを否定するなら!」
ヘカテ、そこまでだ
おれはこの大陸の惨劇は話でしか知らない
想像を絶するものとしか分からない
今わかるのは…あんたを止めなければいけないってことだけだ

あんたの乗ってるそいつもまた!アーレス大陸を焼いた存在の一つだからだ!!

【属性攻撃】
炎を機体に纏わせて
【オーラ防御・空中機動・第六感・見切り・武器受け・残像】
迅雷発動
UC発動
超高速で飛び回り残像を残して狙いを撹乱
避けきれないのはオーラと武器で弾く!
【弾幕・貫通攻撃・遊撃】
ガンドライド
ドリルビット展開
火炎弾を乱射しつつドリル突撃
【二回攻撃・切断・早業・串刺し】
剣による連続攻撃から槍で突き刺し
【重量攻撃・砲撃】
そのままブラックホールキャノン起動!
赤い悪魔よ!
重力の海に沈めぇぇぇ!!!



●かつて大陸を滅ぼした者たち
『こんな程度じゃ!』
 海中に潜ったヘルストーカーがEVOLの残骸を喰らう。機体の表面外装を急速に代謝させ、海面を割った勢いで纏わりつく白い炎ごと脱ぎ捨てた。
『イェーガーはこの炎と同じ……! アーレス大陸を焼き尽くした炎と嵐……世界中に撒き散らされる戦火そのもの! 消し去らなくちゃ……あんな事はもう繰り返させない! 絶対に!』
 憎悪と悔恨に震えるオリジナルテレサの裂帛が、ヘルストーカーの邪眼からレーザーとなって全方位に拡散した。
「おお! なんということだ……理性的なこの私をも存在を否定するとは!」
 皇・絶華(影月・f40792)はオリジナルテレサの言葉が耳に届いた瞬間、瞳孔を揺らした。心臓が一拍、音を立てたのが自分でもわかる。理性が服を着て歩いているような自分を破滅の申し子呼ばわりされるのは到底受け入れられなかったのである。
『ぬ、主様に関しては否定できねぇ……!』
 絶華が駆る連環神機『サートゥルヌス』は、正面に展開したクロノスチャクラムが発生させる次元障壁でレーザーの大雨を防ぎ続ける。左右に推力を振るがヘルストーカーの邪眼はぴったりと張り付いたままだ。反撃もままならない状況だが、苦し紛れにでも円環型自立機動端末で念動光弾を撃ち続ける。
「何かいったかさっちゃん?」
『ひぎぃ!? なんでもありません!』
 コンソールに超高濃度カカオと漢方配合の狂気のチョコをかけられたサートゥルヌスが断末魔めいた悲鳴をあげた。

「猟兵が脅威……か……」
 ヘルストーカーが放つ絶え間ないレーザーを重力変動による歪曲場で受け流すアレウス。そのコクピットでアレウスは我が身を顧みながら言う。
 自覚がないでもない。原因と結果を無視して望む事象を手繰り寄せてしまうユーベルコード。ユーベルコードがあるからこそ、猟兵は世界規模の脅威であるオブリビオン、そしてオブリビオン・フォーミュラに抗する事ができる。だがそれは自分たちは世界規模の脅威に匹敵する力を秘めている事の証左なのではないか? 或いは自分たちはオブリビオンの世界を滅ぼす者で――。
『マ、マスター……それでもアーレス大陸を直接蹂躙したのはユピテル様達だから!』
 アレウスは巫女の心理の揺らぎを察したのだろうか。
「……だが……第五までの猟兵もまたこの世界の脅威となっておる」
 アレフは視線を逃がしながら言う。アレウスは応じる言葉を見失った。
 第六の猟兵も同じ道を辿らないなどと誰が保証できる? ひょっとしたら自分たちで気付いていないだけで、既に辿りつつあるのかも知れない。オリジナルのテレサが守護ろうとしている世界にとって、自分達猟兵は世界を焼き付く戦火そのものだと言うのであれば。
「しかしだ」
 アレフは頭を振って伏せた目線を上げる。
「テレサといったか? 世界の……歴史の流れは止められぬ。既に第六の猟兵は生まれ、こうして在る。例えわしらを滅ぼした所で、わしらに代わる新たな脅威が生まれたという証左にしかならんよ」
『歪められた流れは正さなきゃいけない! あなた達を滅ぼしても新たな脅威が生まれるだけというなら、何度だって滅ぼす! あなた達がより破滅的な破滅をもたらす前に!』
「なればお前もわしらと同じだ。アーレス大陸を焼き尽す炎と嵐。世界中に撒き散らされる戦火そのもの」
『それでも! 私はあなた達を止める!』
 アレフとテレサの思惟は相反する磁極のように拒絶し合う。
『ユピテル様と同じ過ちを犯させる訳にはいかねーぜ!』
 弱者必滅。強者絶対。何が正しいかは力が決める。機体に染み付いたこの世界の鉄則がアレウスを突き動かす。

 神機達とヘルストーカーが交戦する戦域を、冥皇神機『プルートー』は遠巻きに眺める。だが紅に発光するツインアイタイプのセンサーカメラは、ヘルストーカーの動きではなくエリザヴェートが駆る機械神の姿を追いかけていた。
「そんなにレイテナの女王陛下が気になりますか?」
 プルートーのコクピットに座るアルジェン・カーム(銀牙狼・f38896)もまたトールを目で追いかけざるを得なかった。というのもアルジェンの意思とは関係なくプルートーがトールを捕捉してしまうので、メインモニターの中央にはいつもトールがいるのだ。
『あれはトール……第一世代の神機シリーズと死闘を繰り広げた1機だよ! 巫女は当時とは別人みたいだけど』
「そして彼女がゼロハート・プラントの主でしたっけ?」
 アルジェンはヘルストーカーへと視線を振り向ける。
『あれが生んだ軍団はタロスと激しくぶつかり合ったって聞いてる……メルクリウスからだけどね』
 満足に記録も残されていないほどの大昔、アーレス大陸は大陸外の巨神から大侵攻を受けた。その際、聖母アナスタシアが産んだ最初の娘の一人であるゼロハートは、地下に作り上げた巨大な工場で兵器を無限に生み出し続け、侵略者に対抗した――プルートーが聞かされた話しはそんなところであった。
「……強き力が惨劇を起こす。あなたの言う通りです。そして暴走を起こす事も」
 アルジェンが思い返すのは思想を暴走させた者達。初めは善意から始まった思想でも、いつしか硬く閉塞したエゴに変わってしまう。人が心を持ち続ける限り。そこにオブリビオンマシンの介在もあるのだろうが。
「貴女が乗る機体もまた、マスカレイドの仮面と同じ物。だから貴女の齎す|悲劇の終焉《エンディング》……破壊させて頂きます」
 プルートーの背面と足の翼が光を放つ。ショックコーンを押し広げるほどの加速を得た闇色の神機は、機体を槍に見立てるようにバイデントの矛先を赤い悪魔に向けた。

 必中のレーザーに一方的な防戦を強いられているのは三界神機『ヘカテイア』とて変わらなかった。四神紅翼『朱雀』で直撃こそ防御しているものの、ガンドライドもドリルビットも射出する隙がない。無駄に撃ち落とされてしまうだけだ。
『やはり貴女はアナスタシアが最初に産んだ娘の一人……ゼロハート!?』
 アレフと言葉を交わした声音にヘカテイアには憶えがあった。遥か遠く、色褪せて曖昧にすらなった記憶の中に。
「知り合いなのか? 敵も味方もテレサで紛らわしいんだが……」
『ヘカテイア……! ユピテルの神機達はまだ足りないんですか!? あれだけ殺しておいて!』
 カミソリのような憎しみと恨みが籠もったオリジナルテレサの声音に、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は息を詰める。
『大陸の守護者のあなたがどうして!? この地を人の子で満たすのがあなたの役割でしょう!?』
『猟兵は人の中から発生する。だから猟兵を根絶するには今の人類を一旦滅ぼすしかない! 猟兵が産まれて来なければ……こんな事をする必要なんてなかったのに……!』
『なぜ猟兵をそこまで恐れるのですか!?』
『猟兵だけじゃない! 大きすぎる歪な力、それを生み出すものは全部アーレス大陸から消し去らなくちゃいけないし、近付けてもいけない! アナスタシアさえも制御しきれない力なんて、この地には必要ないんです! あなた達のような存在がいたから……大陸は滅ぼされた……! アナスタシアは手を差し伸べたのに! 拒絶できるほどの力を持っていたから!』
『貴女がその結論に至ったのは当然でしょう……私もまたユピテル様同様に仇なのですから……』
「おいヘカテ、一体どういう事情で……全然話しが見えてこないんだが?」
 凄まじい剣幕で口論し始める一人と一機。完全に置いていかれたテラは、神妙な面持ちで唖然とするほかになかった。
 テラが把握している内で唯一明確なのは、ヘルストーカーがオブリビオンマシン化している事だ。搭乗者の破滅的思想は精神汚染の影響もあるのだろうが……果たしてどこまでがオブリビオンマシンの仕業なのかと聞かれれば、如何とも答え難い。ヘカテイアとの並ならぬ因縁が深く関与しているように思えなくもない。
『それでも! 貴女がテラの……猟兵の生まれを否定するなら――!』
「ヘカテ、そこまでだ」
 ヘカテイアが続けようとした言葉をテラが遮る。
「おれはこの大陸の惨劇は話でしか知らない。あんたがそこまでキレ散らかすということは、きっと想像を絶するものだったというくらいにしか分からない。今わかるのは……あんたを止めなければいけないってことだけだ」
『何も知らないくせに……何も分からないくせに……!』
「あんたの乗ってるそいつもまた! アーレス大陸を焼いた存在の一つだからだ!!」
 オリジナルテレサの絞り出すような怨恨の声音。それを跳ね除けるようにしてテラは怒号を叩きつける。

 白炎を脱ぎ去ったヘルストーカーへ真っ向から猪突したメルクリウスが出鱈目な残光の軌跡を引く。カドゥケウスから発射した念動光弾と超高熱熱線には乱射という言葉が相応しい。火器管制機能による偏差捕捉を待たずしてばら撒かれた鮮やかな光が、さながらライブ会場のパフォーマンスのような色彩でヘルストーカーに降り注ぐ。まともに命中せずとも、応射のレーザーに賢者の石を材質に持つ装甲が削られようとも、メルクリウスの高速機動乱射は止まらない。
「……何言ってんだおめー? 今好き勝手大暴れのバイオハザードまっしぐらぶちかましてるのおめーじゃねーか」
 カシムは怒りを静かに滾らせて操縦桿のトリガーキーを引く。
『そうさせたのはあなたでしょう!?』
 オリジナルテレサの怒気がヘルストーカーの邪眼からレーザーとなって放射された。
「というかアーレス大陸焼いたの機械神と神機シリーズじゃねーか」
『だけじゃない! あなたが乗る機械神とユピテル達は外界の機械神の一派に過ぎない! 大きすぎる歪な力……その力を傲慢に振り回す、いまのイェーガーのような存在が大勢現れたから!』
 アーレス大陸に侵攻した巨神ってのはメルシー達以外にもいたのか? 大陸滅亡のきっかけを作ったのは一つの勢力だけではなかったと? カシムは我知らず双眸を猜疑に細めた。
「つかよ……それで猟兵潰したら今度はおめーはこう言うだろ? 次はキャバリアこそ平和に邪魔だー、今度はプラントは邪魔だー、ってなるだろーよ」
『それはあなた達から大陸を守護り抜いてから判断すること!』
「てめーと同じような寝言ほざいた馬鹿を知ってるよ。そいつはロボットヘッドでキャバリアこそ平和を脅かす害悪だーってな」
 奇しくも赤い機体同士――カシムの視野の中で、そのロボットヘッドが駆った機体の輪郭がヘルストーカーに重なり合う。
「気づいてねーとは言わせねーぞ? てめーが今乗ってるソイツこそアーレス大陸を焼いたのと同じようなもんじゃねーかボケェ!」
『対イェーガー用に作ったこのヘルストーカーは関係ない! それにエヴォルグシリーズを選んだのは人類を殲滅するのに効率がいいというだけ!』
「そーいう話しじゃねーよ! こんだけ猟兵にボコスカ殴られてもまだピンピンしてるってのが俺らと同じか以上の化け物じゃねーかって言ってんだよ!」
『私にその化け物を産み出させる理由を作ったのがあなた達でしょう!? あなた達さえいなければ……! 現れなければ……! 一度大陸を滅ぼしておいてまだ壊し足りないんですか!? まだ奪い足りないんですか!? あと一体何人殺せば気が済むんですか!?』
「殺しまくってるのはてめーだろ! 東アーレスで何十億人死んだと思ってやがる!」
『あなた達が齎すより破滅的な破滅を避けるにはこうするしかないんです! 人がいる限りイェーガーの発生は止まらない!』
 カシムは脳が急激に冷めゆくのを感じた。駄目だ。論理は破綻し、思考は停止している。本当に人なのかはさておき、人はこうまでも頑固になれるものなのか? これもオブリビオンマシンの精神汚染のせいなのか? これ以上言葉を重ねても無意味だと悟った瞬間、力いっぱいにフットペダルを踏み抜いていた。
「久しぶりに平和系盗賊の僕もイラついた……おめーはとっ捕まえてお仕置きしてやる!」
 レーザーの直撃にメルシーが『うぎゃああ!』と酷い悲鳴をあげるがカシムは構わなかった。損傷を受けながらも相対距離を詰めてハルペーを振り抜く。横に走った黄金の刃がヘルストーカーの硬質化したマニピュレーターとぶつかり合って不愉快な金属音と火花を散らす。
『ご主人サマー! なんかいっぱいきてるぞ☆』
「なにィッ!?」
 メルシーがモニター上のレーダーマップを拡大した。カシムが視界の隅に入れたそこでは、敵を示す多数の赤い輝点が自機に接近しつつあった。増援のEVOLをこちらに向けてきたか。ヘルストーカーを相手取りながら迎撃できるほどの余裕はない。
「テレサと言ったな! お前は間違えている!」
 絶華の高らかな声がオープンチャンネルに響き渡った。同時にカシムの背中を凄まじい悪寒が襲う。
「その様な悲しき思想に染まるのはお前にパワーが足りないからだ! だが安心しろ! 其ならば……皆が圧倒的なパワーを得ればいい!」
『わ……わぁ……!』
 宙に仁王立ちさせられているサートゥルヌス。その周囲から茶色く変色したEVOLが次々に飛び立ってゆく。ぜっちゃんと元気もりもりハッピーチョコを流し込まれたEVOLは名状しがたいカカオ効果によって絶華の隷下に置かれたらしい。チョコレートまみれになったEVOLがメルクリウスを包囲しつつあったEVOLに襲いかかり、勢いをせき止めた。
「ちなみに自爆もできる」
 絶華の一言でチョコレートまみれのEVOLが内部から弾けた。爆圧によってメタルジェットならぬチョコレートジェットと化した液体チョコレートがEVOLを微塵に引き裂く。
「さぁテレサよ! お前にも圧倒的なパワーを授けよう! 身体から溢れるパワーに喜びの声を上げるがいい!」
 チョコレートまみれのEVOLをヘルストーカーに向かわせ、サートゥルヌス自身も念動光弾の連射と共に直進加速した。レーザーにEVOLが次々に撃墜されるも止まらない。メルクリウスと入れ替わる格好でハルペー2を振り回す。
「ふははは! 我がチョコレートを味わうがいい!」
「おいバカやめろ! そのチョコ食うと超強化されちまうだろーが! スカルヘッドん時やらかしたの忘れたのかよ!?」
 カシムの悲痛な叫びは届かない。
「なんなんだよこりゃ!」
 状況はテラの理解を越えていた。だがヘルストーカーの攻撃がチョコレートまみれのEVOLに割かれたことでヘカテイアに伸びるレーザーの勢いが多少は削がれてきている。畳み掛けるならば今と思い切り、温存していた二種のビットを射出する。ガンドライドの三連砲身がビームを速射し、縦横無尽に飛び回るドリルビットが高速回転する衝角でヘルストーカーの硬質化した外皮を削り取る。ヘカテイアはギガスブレイカーの発射体制に入った。
『こんなのがいるからっ!』
 メルクリウスとサートゥルヌスが同時に斬りかかるも、ヘルストーカーは鞭のようにしならせた尻尾で弾き飛ばす。だが間髪入れずにアレウスが飛び込んだ。
「お前さんの言う事も察しはつく……だが……今のお前さんも同じことをしているぞ! 力を振るい敵を蹂躙しているんだからな!」
『外界に持ち去られたアーレスの断片……! 中身を代替したところで!』
 ヘルストーカーの収束レーザーがアレウスの機体を覆う重力場をも貫く。されどアレウスは止まらず。加速を乗せて魔剣『力の叫び』を叩きつけるようにして振り下ろす。太刀筋を受け止めたヘルストーカーの腕部に亀裂が走り、機体の姿勢が大きく揺らいだ。
「お前を否定はせんよ。それでも……今のお前がしようとしている事もまた世界の脅威だ。故に止めさせて貰う」
 アレウスのテールアンカーがクローを開いてヘルストーカーを掴みにかかる。ヘルストーカーはテールアンカーの軌道を尻尾で跳ね飛ばし、胸部の邪眼を閃かせた。アレウスは魔剣で機体をかばいつつも一方のマニピュレーターに収束した超重力球を解き放つ。敢えて発射と被弾の反動を受けることで後ろに跳び退く。
「ええ、僕らは壊します。世界に齎せる|悲劇の終焉《エンディング》を」
 ヘルストーカーの真後ろから肉薄したプルートーが宝剣「Durandal」の刃を輝かせた。ヘルストーカーが旋回するよりも速く走った剣戟。尻尾と弾かれあって甲高い金属音を鳴らした。プルートーはすかさずバイデントを突き出す。紫電が飛び散ったようにしか見えない神速の突きは、万物を分解崩壊させる波動を伴う。メルクリウス、サートゥルヌス、ヘカテイア、アレウスがヘルストーカーに刻み込んだ裂傷が乾いた土の如く崩れ始めた。
「リミッター解除! グラビティリアクターフルドライブ! 赤い悪魔よ! 重力の海に沈めぇぇぇ!!!」
 テラが全身を声にして叫んだ。四機が一斉離脱し、ヘカテイアのギガスブレイカーが凝縮に凝縮を重ねた暗黒球体を発射した。球体は大気や海水、残骸を吸い込みながら突き進み、ヘルストーカーの元へ到達。底知れない重力の井戸を膨張させた。臨界に達したブラックホールが収縮。一瞬の無音の後、衝撃波と共に広がった暗い紫色の烈光が、空と海の間を塗り潰した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨飾・樒
赤い悪魔、スカルヘッドと狙撃手型の強い所を合わせたようなやつ
……沢山の人達が、一緒に戦ってくれてる
また無茶をやることになるけど、力を貸して、ライゴウ

敵機の何処を狙うにしても、近付けなきゃダメ
ライゴウに乗って加減速、飛び降りて空中跳躍を繰り返してもパターンを読まれるのに長くはかからない、敵は賢い
私達みたいな小さい標的を確実に仕留めるための、複数の拡散レーザーによる同時射撃、それが来る瞬間は、艦船以外に使える遮蔽を作って凌ぐしかない
ライゴウのリミッター解除、全速で水面まで急降下してもらって、力一杯の波飛沫を上げる
収束レーザー程じゃなくても、これで完全に防げる出力でもない、軽減できれば良い
多少焼かれたって、射程に入れたら、"眠り薬の魔弾"を撃ち込めたら充分

どんなに大きな犠牲を払ってでも、なんて考え方、やめよう
そうしなくても良い方法が、何かを残せる戦い方があるって、信じてみようよ


ヴィエラ・ヴラニツキー
玩具て!そんな軽いモノには見えなかったですよ!?
まぁでも……そう、ですよね。僕らじゃないと、ヤツとは早々ヤりあえない

(猛りのままに激浪を打ち倒した後……姿を現した赤き人食いキャバリア
愛機の唸りがいよいよ最高潮に達したのを見るに、コレとの会敵を察して居たのかもしれない

かくして、蟲は万を持して己が甲殻を自ら破る
脱皮したての殻は白く輝き、肉は異界の人造悪魔――デモノイドを思わせるような蒼
傷んだ槍の穂先は、脱皮に伴いチェーンソー状に『変異』を果たし
更に左腕前腕には火炎放射器まで生じて居る

名はセピド・フィド――フィーンド(悪魔)の名を冠せし、セピドの進化系だ)

……そういえば、聞いたことが有る
何処かの東方の伝説だと、『大百足が龍を喰った』そうな

決して付き合いが長い訳じゃあないけれど、此処の皆は僕の友軍――つまるところ仲間で
仲間に仇なす者に対し、僕は一切の容赦をしない
今から《僕とコレ(大百足)》が

(ユーベルコードが発動し、百足の眼が怪しく灯る
猛りと苦痛に意識が塗りつぶされる)

《キミ(龍)》を喰らう


ティオレンシア・シーディア
力がどうこう殺し壊した数がどうの、なんてのはそれこそお互い様で今更だと思うけれどねぇ…
ま、言って聞くとも思えないけれど。

あたしキャバリア乗りとしてはいいとこ二流だし、あれだけ機動ブン回してロック外れないなら避けるのはちょっと無理筋かしらねぇ…
じゃ、いっそのこと回避捨てて防御に極振りしましょうか。三笠に着艦させてもらって●黙殺・砲列を起動。実弾と合わせて使うのは|シゲル・ソーン・エオロー・オセル《「光」を「阻害」する「結界」「領域」》、即ち弾幕結界ならぬ「結界弾幕」。煙幕やグレネードの水柱と合わせて対レーザー防御網を構築するわぁ。
防御してるだけじゃジリ貧だし、反撃する準備も整えないとねぇ。マルガリータに制御系任せて三笠の兵装と合わせて○時間稼ぎしつつ●黙殺・絶吼を準備、隙を○見切って極大魔力砲撃叩き込むわよぉ。外したらその時点で終了だし、ギリギリまで見極めないとかしらねぇ?接近戦仕掛けてきた瞬間とか狙い目そうだけれど。

悪いけれど、これ撃ったらあたしこの後戦力外だから。
後、よろしくねぇ?



●竜喰者達
 重力球が押し拡げた光が緩やかに減衰してゆく。残留する熱が急速に冷え、空気との摩擦を起こして電流を走らせる。重力異常によって波が荒ぶる海上に留まっていたのは、ヘルストーカーだった。
「これが玩具ならどれだけ頑丈な玩具なんですか……!」
 ヴィエラの顔が強張る。ヘルストーカーは満身創痍となった黒い外皮を脱ぎ捨てて、再び赤い悪魔となった。満身創痍という点ではセピドCも変わらない。激浪との交戦で砕けた外殻の隙間から、機体を駆動させる青い筋肉質が垣間見える。ステータス上では異常を示していないが、操縦席の下から響く動力炉の唸りもおかしい。獰猛な肉食獣の唸り声にも似たそれがヴィエラの腹に響く。振動に影響されてか体内を這う蟲の動きも忙しないようだった。
「スカルヘッドと狙撃手型を合成した……?」
 ライゴウに乗る樒は三笠の船体を遮蔽物としてヘルストーカーの様子を伺う。あの邪眼は狙撃手型が持つ眼球と同等か以上の精度を有している事に疑いを挟む余地はない。スナイパーキラーに参加した実績のある者として、狙撃手型と交戦する際の鉄則は身に染み付いていた。スーパーロボット並の装甲か高出力バリアでもない限り絶対に射線上に立ってはならない。地形環境や時に敵さえも利用して身を隠しながら戦わなければならないと。あの邪眼には如何なるマニューバも意味を成さない。未来を視る手段がある者は必定の結果に早々に回避を諦めるであろう。見付かればヘルストーカーの名の通りに地獄の底まで追跡されてしまう。三笠の影に入ったのは殆ど本能の衝動だった。
「まぁ、そう……ですよね。スカルヘッドと同じなら、僕らじゃないとヤツは――!」
 ヴィエラはヘルストーカーの邪眼に集う光に息を止めた。脊髄反射で操縦桿を引いてフットペダルを踏み込む。ワームウイングが空気を打ってセピドCを後ろへと弾き飛ばす。ヘルストーカーから放射された無数の光線がセピドCに突き刺さる。
「下がって。三笠を盾に。そいつのレーザーは避けられない」
 樒はセピドCの後退を援護しようと三笠の船体から半身を覗かせた。直後に船体の装甲に伸びたレーザーが流水のように拡散する。ヘルストーカーの邪眼がこちらの動きを把握している事を悟り、止むなく身を引かざるを得なかった。
「あれだけ機動ブン回してロック外れないんだから、避けるのはちょっと無理筋よねぇ……」
 三笠の甲板上にポジションを決めたティオレンシアのスノーフレークが、魔術文字の砲列を並べた。シゲル・ソーン・エオロー・オセルの魔術文字から成る砲列がグレネードを連射し、セピドCの周囲に幾つもの水柱を打ち立てる。空中に舞い散る海水の飛沫と共に、光を屈折させ減衰させる魔力粒子が虹色の霧のカーテンを下ろした。セピドCの逃げ場を塞ぐべく広範囲に拡散していた光線が霧の中を進むと、消え入りそうなか細い破線となった。
『レーザー撹乱幕!? その程度! 想定内なんですよ!』
 ヘルストーカーはレーザーを細く鋭く束ねて照射。収束密度を高めることで耐レーザー結界を強引に抜けて三笠の船体へと届かせた。だがティオレンシアは予め機体の周囲にはより濃密な結界を降ろしていた。威力が大幅に損なわれたレーザーがスノーフレークの装甲を撃つたびに、刺すような衝撃がコクピットにまで浸透する。
「この結界を抜けてくるんだから、そっちも大概な怪物でしょうに。力がどうこう殺し壊した数がどうの、なんてのはそれこそお互い様で今更だと思うけれどねぇ……」
 ティオレンシアが呆れ混じりの吐息を漏らす。マルガリータに制御を預けた砲列が結界の維持に注力する傍ら、三笠のCIWSやMLRSも対空砲火を上げる。戦艦だけあって火線の数は凄まじいものであるが、ヘルストーカーと正対する位置の砲塔はレーザーを浴びて次々に爆散、沈黙してしまった。
「これじゃ離脱できない……!」
 ヴィエラは食い縛った歯の隙間から苦悶の呻きが滲む。三笠まではほんの数秒の距離だった。しかしその数秒の間でセピドCの装甲は何本ものレーザーに焼かれ、貫かれ、砕かれてしまう。スノーフレークが広げた結界がなければとうにコクピットを貫通されていただろう。セピドCが傷付くたびに、動力炉はより一層強く重く唸って背骨を震わせる。爆発して内部から機体を破裂させてしまうのではないかという怖気が湧き出し、何倍にも伸長した一瞬の中でヴィエラに死の直感が這い寄る。動力炉に共鳴するかの如く肌の下の蟲が蠢動し始めた。
「名前の通りにしつこいのねぇ」
 スノーフレークが率いる魔術砲列が撃ち込んだグレネードが水柱を聳立させ、セピドCは真っ白な泡の瀑布の中に飲み込まれた。同時にヘルストーカーからレーザーが集中照射される。
「え――?」
 その時だった。ヴィエラが殻が割れる音を聞いたのは。
「やられた?」
 樒は細めた双眸で白い泡の向こうを凝視する。陽光を浴びた耐レーザー粒子が輝く虹の先、微かに覗いたのは、海と空の狭間にありながら、悍ましいほどにはっきりと浮き上がる青だった。
 赤い複眼を輝かせるキャバリア――そこにいたのはセピドCではない。甲虫を想起させる形状はそのままながら、シルエットは一回りほど細身となっている。機体を覆う外殻は、まるで脱皮を終えたばかりの虫のように白銀の光沢を放つ。胴と四肢を繋ぐ駆動系は、むき出しとなった筋肉としか形容の仕様がない。青いそれは、異界の人造悪魔――デモノイドの写し身であった。
「セピド・フィド……?」
 モニター上で形を変えた自機のコンディションモデルを見て、ヴィエラは我知らず内に呟く。なぜその名を自分は知っている? 名前を出した口に手をあてがう。それよりも……軽い。まるでずっと纏い続けてきた鎧を脱ぎ捨てたような軽快感。まだ動いてもいないのに分かる。自分の身体のように。
『変身……? 進化したの……!?』
 オリジナルテレサの目にはそう映ったのだろうか。セピドCが水柱に飲まれ、脱皮したセピド・フィドが姿をさらけ出すまで、ほんの僅かな時間だった。伸び切った時間の中でヴィエラはヘルストーカーの頭部に竜の姿を思い浮かべた。
 そういえば、聞いたことが有る。何処かの東方の伝説だと、『大百足が龍を喰った』そうな――体内で蠢動した蟲が、伸びた時間を本来の流れへと正した。
「事情は知らないけれど、こっちの時間稼ぎには十分だったわねぇ?」
 ティオレンシアは強かに言う。声音はどうしようもなく甘いが、左目から微かに覗く眼差しは状況を冷徹なまでに見定めていた。セピド・フィドの脱皮劇が始まる前から展開していた魔術文字群、黙殺・絶吼が開く円環が回転を速めた。その文字が掠れ、或いは割れてしまうほどに凝縮された光が円環の中を巡る。
 示し合わせたかの如くヴィエラが声にならない叫びをあげた。セピド・フィドの複眼状のセンサーカメラが赤く脈動する。背甲から伸びる透明な緑の羽が微細に震え出し、大気を打って爆発的な加速を生み出した。猛りと苦痛がヴィエラにセピド・フィドを衝き動かさせる。
「力を貸して、ライゴウ」
 スノーフレークがやろうとしていること、セピド・フィドがやろうとしていること、それらを繋ぐ役割は自分にしかできないし、好機は今しかない。樒はライゴウに覚悟を懸けてエンジンに灯を入れる。バーニアノズルが噴射する翡翠色の光が軌跡を描く。海面を割って水飛沫を後に残しながら驀進する姿は、まさしくサーファーであった。
『進化したって!』
 ヘルストーカーの邪眼が見逃すはずもない。樒はセピド・フィドの背後に入ってレーザーから逃れる。真正面から光線の集中照射を受ける羽目となったセピド・フィドだが、外殻の表面に巡らせたコーティングバリアで耐え凌いで強引に肉薄する。ヴィエラは怪蟲がもたらす苦痛に悶えながらもトリガーキーを引いた。
「|キミ《龍》を喰らう……!」
 セピド・フィドが左腕部を突き出す。固定兵装として備わるマルチフレイマーから放出されたのは灼熱の火炎。荒れ狂う熱の奔流がヘルストーカーを炙る。命中も効果も確認する必要はなかった。前方一面の視界を塗り潰す火炎の中に機体を飛び込ませる。炎が晴れた一瞬、翼で炎から機体を庇うヘルストーカーの姿が見えた。ヴィエラの衝動に応じたセピド・フィドがサイキックチェイングレイヴを振りかざす。回転する連なる刃を力任せに叩き付けた。ヘルストーカーは硬質化した腕で打ち返す。金属が切削される音がヴィエラの耳朶を痺れさせる。飛び散る火花が激しく明滅し――セピド・フィドはヘルストーカーと交差して背後に抜けた。
『この力! これがあなた達が世界を壊す証! 私は絶対に止める……! どんな犠牲を払ってでも!』
「そんな考え方、やめよう」
 ヘルストーカーの邪眼がセピド・フィドを追ったのは一瞬だった。その一瞬でセピド・フィドを追走していた樒は六式拳銃丙型をフルオートで連射した。零式射撃動作補助符とライゴウの照準補正の支援を受けた射撃は、1マガジン分の弾丸全てをヘルストーカーに叩き込んだ。樒には命中を確認する余裕はなかった。感じた手応えを信じて体重を横に傾け、ライゴウの機首をヘルストーカーに対して90度の直角に振り向ける。
「そうしなくても良い方法が、何かを残せる戦い方があるって、信じてみようよ」
『信じた末に裏切られたんですよ! 私達とアナスタシアは! 外界から来た彼らに……寄る辺なき彼らに、この地に根付けばいいと……私達の子どもたちと一緒に人の文明を再生させればいいと、そう言ってアナスタシアは手を差し伸べたのに! 彼らは初めからこの地を壊して奪って殺すことしか考えていなかった! それができるだけの力を持っていたから! 歪で大きすぎる力を持っていたから! あなた達のように!』
 残した声は怨嗟と悔恨の叫びに跳ね返された。樒はヘルストーカーの邪眼が吸い付くのを背中に感じた。ライゴウの機動力が云々ではなく、射線上にいれば絶対に命中してしまう狙撃手型と同等のレーザー。ユーベルコードを用いたマニューバでさえも、未来視でさえも逃れられない。それを人の身で浴びれば、スノーフレークが展開した結界があってもたちまちに蒸発してしまうだろう。横顔を向けた樒は視界の隅で必中必殺の光が膨張するのを――見なかった。
『パワーダウン!? センサーが……眠る……!?』
 目を剥くオリジナルテレサの表情が見えた気がした。尻尾とも触手ともつかない器官がだらりとぶら下がる。撃ち込んだ眠り薬が巡ったらしい。
「これ、どう考えても狙い目よねぇ?」
 明らかに鈍ったヘルストーカーの挙動に、ティオレンシアは堪らず口角を上げた。セピド・フィドも樒も離脱している。躊躇う理由はない。
「悪いけれど、これ撃ったらあたしこの後戦力外だから。後、よろしくねぇ?」
 スノーフレークの真正面に広げた黙殺・絶吼の円環は、レーザーの収束に収束を重ねた末に臨界寸前に至っていた。
「外せば終わりの乾坤一擲、|Take That, You Fiend《これでもくらえ》……なぁんてね?」
 それが最後の詠唱となった。遂に解き放たれたレーザーは閃光ならぬ千光となって扇状に拡散した。スノーフレークは発射の反動をブースターを全開にして相殺する。前面が光に焼き尽くされたモニター。コクピットに反響するのは甚大な負荷が生じている事を報せる警報。ティオレンシアは見た。溢れ出る奔流となった光。その彼方に飲み込まれる赤い悪魔の姿を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イヴ・イングス
【イェーガー社】
さて、店長からは無人機の指揮権を移譲されましたし…こうなったら大盤振る舞いと行きましょう。
ヘルメスに要請! セラフィム・リッパーとプラチナムドラグーンも全機出しちゃってください!

プラチナムドラグーンは特殊装甲を持ってまして。具体的にはビームを反射します。
なのでビームはプラチナムドラグーンで受け止めて反射。
こっちに飛んでくるビームもプラチナムドラグーンを直掩にすれば万事OKというわけです。

皆さんの状態はしっかり確認してますよー。もちろん敵さんもです。
ビームが飛んでくる時間もO事案マニュアルの行動パターンとここまでの戦闘状況からばっちり予測してます。
はい店長、潜ってください! 5つ数えたら顔出して大丈夫です。

ベルゼさんとスワロウ小隊の攻撃タイミングはこちらで指示を出します!
ただしビームの回避を最優先で!

いやー、驚いたでしょテレサさん。
なんでこんなのあるのかって? アンサズ地方はいろんな物が潜んでる修羅の国みたいなものなんで。
皆で強くならざるを得なかったんですよねぇ。


ベルゼ・アール
【イェーガー社】
さて、聞こえるわねスワロウ隊。作戦プランは読んだ?
ま、今だけは騙されたと思って従っておきなさいな。
こういうのはね、流れに身を任せてノセられた方が上手くいくのよ。

ジェイミィが奴とのタイマンを挑んでいる以上、こっちは遊撃!
骨子はスカルシュレッダーと一緒よ!
ジェイミィが敵機を引き付けてるから、タイミングを合わせて火力を集中!
その後は離脱! こっちに飛んでくるビームはイヴが事前に検知して範囲をレーダー上に出すからすぐ退避ね。
後はこれの繰り返し! いい、マニューバパターンはきっちり掌握するのよ。

うっわ、Heisenbergのクローアームの残像が見える。相当派手に暴れてるわね。
なんであの動きについていけてるのよ……。

私達も負けられないわよ!
ワイヤーで固定して円の動きで斉射、あっちの注意が向いたら一斉に散開して離脱!
もう一度ジェイミィとのタイマンの構図を作って注意を逸らすわよ。
そして私も……見よう見まねでガンホリック! 怪盗らしくその技、頂いていくわよ!
大丈夫よ減るもんじゃなし!


ジェイミィ・ブラッディバック
【イェーガー社】
いやはや、猟兵が脅威とは。アンサズ連合の首脳陣が聞いたら鼻で笑うでしょうな。
「当然だ。貴様がそのように仕向けたのだろう?」
いやいや、強固な信頼関係ですよ。おっと、噂をすればそのアンサズ連合安全保障理事会から通達が。
ブリンケン大佐、エリザヴェート陛下に連絡。安保理からの『現在の鯨の歌作戦の状況について、O事案マニュアルに基づく解決を求める』という声明に基づき、マニュアルの適用を進言します。
スワロウ01、今からマニュアルに基づく最適な作戦プランを提示します。隊員全員に共有を。
貴方ならば容易なはずです。

事前に提供したO事案マニュアル、その実態は戦闘教義の形をしたユーベルコード。
対オブリビオンマシン戦術を体系化し、「誰もが猟兵と並び立てる」事を実現しています。

私はHeisenbergで水中に潜み、レーザーを散乱させて威力減衰。
接近してきたところをクローアームでの格闘で迎撃、テールアームのビームの直撃を狙います。
生憎当方もアンサズ連合を背負ってまして。負けられないのは同じですよ。



●O事案マニュアル
 晴天の空とうねる海の狭間。一旦は薄まった深緑が、ヘルストーカーの襲来に遅れて再び濃度を増した。鋼鉄の鯨達は命の限り轟砲で歌う。飛び交う火線。膨張と収縮を繰り返して明滅する火球。多くの兵士達の骸が揺蕩う波間で、強襲揚陸航空母艦ヘルメスは、控えの奏者を次々に送り出していた。
『ここが山場ですよ! セラフィム・リッパーは全機出しちゃってください! EVOLの増援の対処に当たらせます! プラチナムドラグーンはスワロウ小隊の直掩に回します! イカルガの装甲じゃ、ヘルストーカーのレーザーは防御しきれませんよ!』
 背負うディスクレドームを回して海上に滞空するオリハルコンドラグーン "EVE"。その機体からイヴがヘルメスに発艦の要請を達する。ヘルメスの飛行甲板ではカタパルトに接続された艦載機が次々に最前線へと射出されてゆく。ヘルメスを離れるとすぐにプラチナムドラグーンが前、セラフィム・リッパーが後ろの縦陣編隊を組んだ。これはヘルストーカーのレーザー照射への対処である。プラチナムドラグーンに採用された装甲材質は、ビームの伝播方向を散逸させる性質を持つ。ヘルメスとイヴ機の周辺で滞空するプラチナムドラグーンもまた機体を挺して必中のレーザーを防ぐキャバリアの壁だった。

 太陽光が揺らめく海面の直下、Heisenbergを着込むTYPE[JM-E]"MICHAEL"は、海水という分厚い壁を遮蔽物にして海上を飛び回るヘルストーカーの軌道を密やかに追っていた。防御面において水中用キャバリアはヘルストーカーとの相性はすこぶる良いと言えた。水の分子には光を減衰、屈折させる特性がある。光の波長によって減衰の程度に差はあれど、流石のヘルストーカーのレーザーも、海水ごとHeisenbergを貫くほどの出力は持ち合わせていなかったらしい。
『いやはや、猟兵が脅威とは。アンサズ連合の首脳陣が聞いたら鼻で笑うでしょうな』
『当然だ。貴様がそのように仕向けたのだろう?』
 ジェイミィの電子頭脳に白騎士を模した事象予測AIの皮肉が投げられた。
『いやいや、強固な信頼関係ですよ』
 ジェイミィが言う信頼関係とは、アンサズ地方を散々走り回って構築した信頼関係である。もし自分が猟兵への認識を各統治体に広めていなければ、オリジナルテレサのように敵愾心を抱く勢力も出現したのだろうか。存在しているだけで周囲の人間に破滅的な思想を植え付けられる分、人心掌握はオブリビオンマシンの方が上手だ。そう考えれば先んじて走り回った甲斐はあったと言えるかも知れない――通信の受信を報せる音が鳴った。送信元はヘルメスだが、送り主はアンサズ連合安全保障理事会だった。
『おやまあこれは』
 数秒に満たない情報処理の後、ジェイミィはイヴ機への通信回線を開いた。
『もしもし? 急ぎクイーン・エリザヴェートとトールに中継をお願いしたいのですが』
 イヴが『ご要件は?』と尋ねる。ジェイミィが『安保理から』と言い掛けた途端に『ああ、はいはい。すぐに繋ぎますね』と続きを断ち切られた。
『ブリンケン大佐、エリザヴェート陛下。急で申し訳ないのですが、先ほどアンサズ連合安全保障理事会から、現在の鯨の歌作戦の状況についてO事案マニュアルに基づく解決を求める……との声明がございまして。つきましては、マニュアルの適用をご提案したいのですが』
『こちらクイーン・エリザヴェ――』
『なんじゃあ!? マニュアル!? なんでもよいわ! はようあの赤いのを片付けるのじゃ!』
 ブリンケンの声にエリザヴェートの黄色い声が覆いかぶさる。ジェイミィの集音センサーが激しく振動した。怒鳴り散らしている様子からしてエリザヴェートも手一杯なのだろう。比喩ではなく雷が落ちる音が鳴りっぱなしだ。
『……だそうだ』
『女王陛下の迅速なるご采配と、レイテナ第一艦隊のご協力に深い感謝を』
 女王陛下のお言葉だから後は知らない。ブリンケンが言外に付け加える。ジェイミィとしてはエリザヴェートの単純明快な意思決定は有り難い限りだった。指揮系統がどうだとか面倒な方面に飛躍していては実施できるマニュアルも実施できたものではない。
『もしもしイヴさん、次はスワロウ小隊に繋いでも……』
『こちらスワロウ01! どうしました!?』
 イヴの応答の前にテレサの様子が通信ウインドウに表示される方が早かった。
『スワロウ01、今からマニュアルに基づく最適な作戦プランを提示します。隊員全員に共有を。貴方ならば容易なはずです』
 スワロウ小隊の隊長機にはイェーガー・デストロイヤー・システムが搭載されているからだ。只人を猟兵と並び立たせる事を、O事案マニュアルとは異なる方面から実現したシステムが。
『……スワロウ01以下了解です!』
 ジェイミィが送り付けたプランをテレサは瞬時に飲み込んだだけではなく、隊員達とも共有したらしい。テレサ型レプリカントは脳量子波で周囲の同型のレプリカントと感覚を共有する事が可能であるという。何にせよ話しが早いのはジェイミィにとってメリットでしかない。

 Heisenbergが発し、オリハルコンドラグーンが仲介した通達はTYPE[JI-L]の元にも届いていた。だがベルゼには一つ一つにリアクションしていられるほどの余裕もない。プラチナムドラグーンを盾にHUGINとMUNINを撃ちまくる。ヘルストーカーの邪眼から鋭い殺意を持った光線が伸びる。どう動き回っても吸い付いてくるそれは、プラチナムドラグーンが広げた翼によって受け流された。
 レーダーマップ上に灯る友軍の輝点が視界の隅に映った。
「聞こえるわねスワロウ小隊。作戦プランは読んだ?」
 ベルゼは堅い表情と眼差しをヘルストーカーから片時も離さずに言う。機体越しにアークレイズとイカルガ達、プラチナムドラグーンの接近を感じた。
『スワロウ01よりTYPE[JI-L]へ! 基本はスカルシュレッダーと同じでいいんですね!?』
「そういうこと! ま、今だけは騙されたと思って従っておきなさいな。こういうのはね、流れに身を任せてノセられた方が上手くいくのよ」
 ジェイミィが実施しようとしている戦術の具体的内容は、スワロウ小隊が対スカルヘッド戦術として作り出した飽和と一点突破の同時攻撃。ユーベルコードで補強したそれは、スカルヘッドにも一定の効果を与えている。何よりスワロウ小隊が実施したのだ。常人が猟兵に合わせるのは無理難題だろうが、猟兵が常人に合わせる事は造作もない。
『皆さんの状態はしっかり確認してますよー。ヘルストーカーのレーザーの攻撃軌道予測はこちらで出しておきます。スワロウ小隊機にはプラチナムドラグーンを一機ずつ着けますから、しっかり盾として使ってくださいね。もう分かってるとは思いますけど、避けようなんて考えちゃだめですよ!』
 イヴはデータリンク経由で白騎士のAIから受け取った予測結果を各機のインターフェースに表示させた。スワロウ小隊がフォーメーションを構築する間にもヘルストーカーは拡散レーザーを広域放射してきたが、殆どがプラチナムドラグーンによって阻まれた。
『店長! ベルゼさん! スワロウ小隊の皆さん! 準備はよろしいですか!?』
『いつでも』
『どーぞ!』
『大丈夫です!』
 三者の応答が重なる。通信帯域にイヴが『O事案マニュアル! 発動です!』と発すると、海面に潜み続けていたHeisenbergがようやく顔を覗かせた。クローを開いたテールアームの砲口が連続して荷電粒子の光を放つ。彗星のような尻尾を引くそれはヘルストーカーへまっすぐに伸びる。ヘルストーカーは機体を翻して一射目を躱すと、二射目以降を黒鉄色に変じた翼で防ぎつつ、尻尾の邪眼を閃かせた。高密度に束ねられたレーザーが立て続けにHeisenbergの装甲に突き刺さる。だが深海の活動にも耐えうる外殻は単純に分厚く、おいそれと光線の貫通を許さない。
『どう避ければ良いのかの予測もして貰いたかったところですが』
『どんなマニューバも意味を為さない事象を予測したのだ。無駄に動き回る必要が無くなったことに感謝するのだな』
 ジェイミィの嫌味を白騎士のAIが嫌味で返す。そうしている内にヘルストーカーは収束レーザーを至近距離で直撃させようと考えたらしい。Heisenbergのビームキャノンを受けながらも強引に接近してきた。降り注ぐ光線の雨。瞬時に詰まる相対距離。ヘルストーカーの硬質化したマニピュレーターが鈍い照り返しを放つ。Heisenbergは両腕に備わる三本爪のクローで打ち返す。重い金属同士の衝突音。散る火花。弾かれ合う二機。押し拡げられた衝撃波が海面を打ち、白波を沸き立たせる。
「うっわ、Heisenbergのクローアームの残像が見える」
 一瞬の格闘の応酬にベルゼは口元を引きつらせた。Heisenbergはコロコロした着ぐるみのくせによく動くものだ。有機的でしなやかな挙動を見せるヘルストーカーの近接格闘にも対応出来ているのだから。
 クローを弾かれた衝撃でHeisenbergが大きく仰け反った。そこにヘルストーカーの尻尾が蛇のように喰らいつく。接射で収束レーザーを浴びせるつもりなのだろう。Heisenbergの姿勢制御が間に合わない――かと思われたが、伸びたテールアームが横薙ぎに振り回され、迫る尻尾を払い除けた。
『生憎当方もアンサズ連合を背負ってまして。負けられないのは同じですよ。そしてそちらと同様に、単機で戦っているわけでもないのです』
『はい店長、潜ってください! 5つ数えたら顔出して大丈夫です!』
 イヴが発した矢のような声に合わせ、Heisenbergが真っ白な水柱を昇らせて海中に急速潜航した。ヘルストーカーが追撃に動く。
『次! ベルゼさんとスワロウ小隊のターンです!』
『待ってたわよ! この瞬間を!』
 ヘルストーカーの注意がHeisenbergに集中した一瞬。TYPE[JI-L]とスワロウ小隊の各機が一斉に動き出す。TYPE[JI-L]が射出したワイヤーがヘルストーカーへ一直線に伸びた。ほんの僅かに反応が遅れたヘルストーカーが翼で防御すると、先端の鏃が食い込んだ。直後にベルゼの視界を凄まじい光量が塗り潰す。防眩フィルターでも減衰しきれないレーザーの光量が、盾にしたプラチナムドラグーンを抜けてTYPE[JI-L]の元にまで到達した。ベルゼは双眸を険しく細めて奥歯を噛み締め、振り回される機体を強引に制御する。
「ガンホリック! 怪盗らしくその技、頂いていくわよ!」
 得られた推力を全てヘルストーカーとの綱引きに振り向ける。TYPE[JI-L]の各バーニアノズルが焼け落ちんばかりに噴射炎を焚く。海面がジェットウインドで荒立って飛沫を舞い上がらせる。レーザーの集中照射を受け続けて装甲が貫かれつつあるプラチナムドラグーンを盾に、HUGINとMUNINをフルオートで連射し続ける。荷電粒子の弾雨がヘルストーカーに吹き付けた。まるで雷鳴が響くかのような共鳴。鮮明に発光する粒子弾の一発一発がヘルストーカーの硬質化した外殻を焦がす。周囲の空気を戦慄いた。
「今なら!」
 どのテレサが発したかも定かではない声。ヘルストーカーの全方位から殺到するマイクロミサイル群は、スワロウ小隊のイカルガ達が発射したものだった。ヘルストーカーは拡散レーザーを発する尻尾を振り回す。周囲が円形状に火球で満たされた。
「斬れる!」
 火球の雲を裂いて驀進するアークレイズ。正面に集中展開したEMフィールドでレーザーを受け止め、背負うストームルーラーが生み出す暴力的なまでの推力に突き飛ばされるがまま突撃した。交差し合う二機。刹那の青白い閃きは、アークレイズが抜刀したルナライトの刃が発した閃きだった。ヘルストーカーに刻まれた裂創を見届ける間もなくベルゼはコンソールを叩いた。TYPE[JI-L]とヘルストーカーを結ぶワイヤーがTYPE[JI-L]側から切り離される。
「ジェイミィ!」
 ベルゼが怒声を張りながら操縦桿を引き戻してフットペダルを踏みしめた。バックブーストするTYPE[JI-L]に入れ替わるようにしてHeisenbergが跳んだ。
『スワロウ01、いかがでしたでしょうか? 事前に提供したO事案マニュアル、その実態は戦闘教義の形をしたユーベルコード。対オブリビオンマシン戦術を体系化し、「誰もが猟兵と並び立てる」事を実現したものです』
 ワイヤーを切り離された反動でバランスを崩したヘルストーカーに、Heisenbergが鋼爪で打突した。痛烈な直撃がヘルストーカーをはね飛ばし、Heisenbergは海面に降下しながらテールアームからビームを連射する。
「誰もが……猟兵に……? 猟兵はそんなことまで……?」
 テレサは自分の反芻に背中がざわめくのを感じた。自分はいま、何かとても恐ろしい事に加担してしまったのではないかと。
『いやー、驚いたでしょテレサさん。なんでこんなのあるのかって? アンサズ地方はいろんな物が潜んでる修羅の国みたいなものなんで。皆で強くならざるを得なかったんですよねぇ』
「そ、そうなんですか……怖い場所なんですね、アンサズ地方って……」
 イヴの言葉にテレサは表情筋を強張らせた。
 テレサの脳裏に描かれたのは荒れ果てた風景。O事案マニュアルという戦闘教義型ユーベルコードによって、只人の誰もを等しく猟兵と化し、その力を振るう。幾万のEVOLを撃退し、何機もの激浪を打ち倒し、ヘルストーカーにさえも渡り合う猟兵達の力を。その力が振るわれた後に残るのは――頭蓋の中で、オリジナルテレサの言葉が反響した。
 着水したHeisenbergが、一際大きな水柱を聳立させた。Heisenbergが押し拡げた波が、水面に浮かぶ骸を大きく揺らす。
「骸の……海……」
 テレサの発したか細い声を、Heisenbergが放ったビームキャノンが掻き消す。
 東アーレス半島の海上は、今や夥しい骸で埋め尽くされていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

支倉・錫華
【箱船】

そうきたか。これは海中仕様が裏目に……。

理緒さん?

さすがというかなんというか……アミシア戻るよ。
武装はナズグルから引き継がないといけないしね。

『さすが理緒さん。チェックオールグリーン。いつでもいけます』
「アミシア、細かいとこいつもと違うだろうけど、いける?」
『錫華、出てください。接敵までに摺り合わせます』
「わかった」

ネルトリンゲンの影から出撃して、狙うのは赤いの、だね。
赤いから3倍……どころじゃなさそうな感じ。

那琴さん、栞菜さん、伊尾奈さん、
遅くなったうえに機体変わってるけど、間違えて撃たないでね。

ほんとならみんなと連携したいところだけど、
むこうはEVOLの対処あるしね。なんとかやってみようか。

アミシア、E.O.Dソード持ってきてるね?
ネルトリンゲンからチャージしつつでどのくらいいけそう?
『7回……いえ、6回ですね』

おっけー。
ならハーケン打ち込んで逃がさないようにしてからいこう。

理緒さん、申し訳ないけどネルトリンゲンは盾兼囮ってことで使わせてもらうよ。
修理費は必要経費ってことで!


菫宮・理緒
【箱船】

錫華さん、一度戻って。
スヴァスティカ、飛行タイプでセッティングしてあるから!

って、え?『三笠』?
なんでこんな前に……盾になるつもり!?危険だよ!

『おねーちゃんいつもやってるよね?』

『希』ちゃん、冷静なツッコミいいから、三笠に繋いで!
『回線繋いだよ』

泉子さん、危ないよ。下がって!
通常装甲だけじゃ……って言っても下がってくれないか。
矜持ってやつかな。ならしかたない、ねー。

泉子さん、そちらのコンピュータにアクセスするね。
おかしなことはしないから、ここは信じて!

『希』ちゃん、ネルトリンゲン任せるよ。
シールド張りつつ三笠に並んで盾になって。

あと錫華さんと、白羽井、灰狼両小隊に通信。
ネルトリンゲンは防御壁でも電池でも好きに使っていいからね!

あとは三笠だ!
『希』ちゃん、三笠のシステムにアクセスできてるね?

なら、いっくよー!
三笠の端末から【リフレクタリーシールド】展開!
相手の攻撃はエネルギーフィールドで吸収させてもらうよ。

泉子さん、これでいけるはず!
わたしがいる限り、絶対沈ませないからね!



●バトルシップ
 ヘルストーカーの邪眼が発する光線が戦場を走る。その邪眼からはユーベルコードを用いても逃れられない。日レ両艦隊の主力キャバリアであるイカルガは対抗する術を持たなかった。猟兵であってもバリアフィールドか重装甲を備えたキャバリアでなければまともに撃ち合いに持ち込むことすらできない。人類側の切り札さえも封じるイレギュラーの出現に泉子は確信した。泉子だけではない。口にしないだけで、多くの者が同じ確信を抱いていた。
 猟兵がヘルストーカーを止められなければ、鯨の歌作戦は失敗する。
 即ち人類の敗北であると。
 ヘルストーカーが出現してから間もなく、戦艦三笠は波濤を引き裂きながら前進を始めた。巨大な鋼鉄の鯨は、まるで山が動き出したかのようにゆっくりと、しかし確実に艦隊の最前線へ向かって進み出た。
「諸君! 命を燃やす時だ!」
 艦橋を震わせる泉子の裂帛に、艦橋要員は皆背筋を固めた。
 三笠を前線に出して猟兵の盾とする。
 泉子の決定に異を唱える者は、三笠の艦内には誰一人としていなかった。既に覚悟は決まっている。矢野の言う通り、ここで敗北すれば、今まで積み上げてきた犠牲の全てが無意味になってしまう。
 激浪と交戦して壮絶な最期を遂げた高雄と高雄の船員達にしてもそうだ。
 艦長以下艦橋要員は艦橋構造体が破壊された時点で即死。生き残った多くの船員も直後の猟兵と激浪の交戦に巻き込まれて海の底へと沈んでしまった。だがその犠牲さえも受け入れたのだ。猟兵へと希望を繋ぐために。
 かつて三笠と共に戦列を並べた高雄。彼らの骸も礎の一つとなった。
 高雄だけではない。鯨の歌作戦が始まるよりもずっと前から数え切れない犠牲が積み上げられてきた。
 泉子の子も礎のひとつとなって随分と久しい。南州第一プラントの電源を停止する作戦に参加し、命と引き換えに目標を果たした。泉子ばかりに限らず、三笠の船員の中だけでも同じようにして任務に殉じた家族や友人、恋人を持つ者は幾らでもいる。
 それら全ての骸を踏みしめて三笠は往く。
 死んでいった者達が守護ろうとしたものを守護るために。
 そしてその希望を託せるのは、今や猟兵以外には存在しない。

 日乃和艦隊が布陣する海域の後方。三笠はそこから前進を開始した。進路上の艦艇が道を開ける。急激な日乃和艦隊の動きを、前線に留まるネルトリンゲンはレーダーで捕捉していた。
「あれ? 三笠? 前に出るの?」
 艦長席の理緒は三笠の動きの意図を掴み損ねて首を傾げる。
『盾になるみたい。ヘルストーカーのレーザーは狙撃手型っていう人喰いキャバリアが持つレーザーと同じで、それと戦うには遮蔽物が必須なんだって。どんな機動をしても逃げ切れないから』
 M.A.R.Eが艦長席から生えているサブモニターに三笠の進路情報を表示した。最前線まで伸びる矢印に理緒は「ふーん?」とぼんやり口にした。すぐに目を大きく開き、瞳孔を震わせる。
「って盾になる!? 危険が危ない!」
『三笠の装甲は分厚いしアンチビームコーティング処理がされてるから多分大丈夫だと思うけど……』
「戦艦が前に出る時っていうのはブリッジ撃たれるフラグだよ!」
『おねーちゃん今もやってるよね?』
 M.A.R.Eの直球な正論に理緒は堪らずぐうの音を漏らして押し黙ってしまう。
「冷静なツッコミはいいから! 希ちゃん! 三笠に繋いで!」
『はい』
 M.A.R.Eが即答する。サブモニターに通信ウインドウが開く。泉子は特に驚いた様子もなく、画面の向こうから理緒を見返していた。
「泉子さん、危ないよ。下がって!」
『なあに、三笠は戦艦だ。戦艦はそう簡単に沈まない。軍神三笠の名が伊達ではないこと、身を以て証明してみせよう!』
「ヘルストーカーのレーザーは狙撃手型のレーザーとおんなじで、戦うには壁が必要なんでしょ!? それならネルトリンゲンがやるから!」
『貴官とネルトリンゲンの実力を疑うつもりはない……が、戦闘が広域に及んでいる以上、単艦で支えきるのは猟兵の諸君とて酷であろう。それに、菫宮艦長を含む猟兵諸君には、ヘルストーカーの対処を最優先してもらわねばならないのだ』
 並べる理屈以上に泉子の矜持は堅い。旗艦の矢野も既に許可を下しているのだろう。押し問答に勝機を見失った理緒は深く息を吐く。
「じゃあせめてデータリンクだけは結ばせて。おかしなことはしないから!」
『了解した! 間もなく本艦はヘルストーカーと猟兵諸君の交戦領域に到達する! 貴官の奮闘に期待する!』
 耳が痛くなるほどに威勢が良い敬礼と共に、サブモニターから泉子の姿が消失した。理緒は肉眼とレーダーで三笠の位置を確認すると、ネルトリンゲンの機関を始動する。
「希ちゃん! ネルトリンゲン回頭! 全速で三笠の横に並べて! シールドを張りつつ盾にするよ!」
『ほらやっぱりおねーちゃんも同じことする』
「返事!」
『はい』
 薄い桜色を伴う真珠色の船体が身じろぎし、艦首の向きを大きく転換する。大出力のエンジンが生み出す推力が海面を激しく戦慄させた。

 前線に到達した三笠は、本来の想定通りにヘルストーカーのレーザーを遮る壁の役割を果たしていた。装甲もバリアも持たない猟兵は、三笠という巨大で頑丈な遮蔽物を利用することで、辛うじてヘルストーカーの絶対必中のレーザーに対抗できている。
 当然ながら三笠は空中を絶え間なく駆けるレーザーの猛威にさらされ続けていた。船体を覆う分厚い装甲は、耐ビームコーティングもあってヘルストーカーの攻撃を遮断しきっている。しかし装甲の無い砲塔やMLRSなどは真っ先に爆散してしまった。艦本体へのダメージこそ軽微なものの、立ち上る黒煙の本数は誰もが不安になるほどに多い。
「一番メガビーム砲大破!」
 主砲の一基が爆散して三笠の巨大な船体を大きく揺さぶる。収束レーザーを受けた砲塔が吹き飛ぶ瞬間は艦橋からも目の当たりにすることができた。
「構わん! 本艦は現在の位置を維持! 船体さえ残れば盾の役目は果たせる!」
 泉子は艦長席の肘掛けを硬く握りしめながら声を飛ばす。
 艦長席を降りるのは戦闘に勝利した時だけだ。
 死んでもここを離れない。
 艦長の瞳に滾る鋼の意思が伝播したのか、甲板上でも機関砲を持った船員達が飛来するEVOLに向けて必死の対空砲火を張っている。
 猟兵との射線を断つ三笠の存在が目障りだったのだろう。猟兵達の猛攻を掻い潜ったヘルストーカーが、邪眼を三笠の艦橋へと向けた。泉子は自身の視線と金色の視線を重ねてしまった。
「猟兵諸君! 後は頼む!」
 邪眼が束ねに束ねられた光線を解き放つ。目を潰さんばかりの光量に泉子は腕で顔を庇った。そしてレーザーは三笠の艦橋を貫通し、赤黒い爆炎を膨張させる。はずだった。
 艦橋を狙いすましたレーザーは目標に到達する寸前で四散した。実体の無い曲面の障壁がレーザーと反発現象を起こして激しく明滅する。
「バリアだと!?」
 泉子と三笠の船員達は驚愕に目を剥いた。三笠にそんな装備は搭載していない。これはもしや――。
「ふぃー……リモートリーシールド、ギリギリ間に合った……」
 理緒は額に浮かんだ冷たい汗を拭いながら肩を落とす。艦長席に預けた背中が濡れて気持ち悪い。全速で三笠の元を目指していたネルトリンゲンは、ヘルストーカーのレーザーが三笠の艦橋を貫く寸前で到着。半径157メートル以内に三笠を収めた。そして近接戦術データリンクを経由して三笠を触媒にリモートリーシールドを発動したのだ。
 ヘルストーカーは間髪入れずに収束と拡散の二種のレーザーを浴びせるが、いずれも三笠を覆う非対称性エネルギーフィールドに阻まれた。
「ネルトリンゲン! 菫宮艦長か!」
「泉子さん、これでいけるはず! わたしがいる限り、絶対沈ませないからね!」
 さらにネルトリンゲンを盾にここまで移動してきた白羽井と灰狼両隊のキャバリアが、三笠の周囲に一斉展開する。
「理緒さーん、このバリアって内側からの攻撃は通るんでしょ?」
「そーゆーこと! だからバンバン撃っちゃって!」
「ほい」
 栞奈のイカルガが、これ見よがしに足を止めて大型レールガンの連射を開始した。
「また電池になってもらうよ」
 伊尾奈のアークレイズ・ディナがネルトリンゲンの甲板上に降着した。無遠慮に突き立てたアンカークローがエネルギーを吸い上げる。ヘルストーカーに向けて構えたブレイクドライバーに青白い荷電粒子の光が集い、膨大な熱と光の奔流となって解き放たれた。
「どーぞどーぞ、遠慮なくチュパチュパしちゃって」
 凄まじい電力消費量だが、ネルトリンゲンをガス欠させるに及ばない。リモートリーシールドが受けた攻撃をエネルギーに転換してくれているからだ。
「チュパチュパって……」
 那琴のアークレイズ・ディナとフェザー03以下のイカルガ各機は、三笠とネルトリンゲンに纏わりつくEVOLにアサルトライフルの掃射を浴びせて撃ち落としてゆく。
「錫華さん! スヴァスティカの飛行タイプ、そろそろ行ける!?」
 理緒が尋ねた相手――錫華は、ようやくスヴァスティカ SR.2をネルトリンゲンの甲板上に上げ終えた直後だった。
『さすが理緒さんのセッティング。チェックオールグリーン。いつでもいけます』
 アミシアがモニター上に機体のコンディションの表示を羅列する。それらを錫華の視線が素早くなぞる。海中仕様が裏目に出たと思いきや、なかなかどうして理緒は準備が良いものだと内心で呟く。理緒が「こんな事もあろうかと!」と言い出した時には、準備の良さにため息が出てしまった。
「アミシア、細部の調整は?」
『全て完了しています』
 錫華は「わかった」と短く応じるとフットペダルを踏み込んだ。スヴァスティカ SR.2が纏うフレキシブル・スラスターのバーニアノズルに火が灯る。
「赤いから三倍……どころじゃないか」
 ネルトリンゲンの船体越しにヘルストーカーを睥睨する。既に散々他の猟兵に叩かれているはずなのに、いまだ動きに衰えが見えない。だがダメージは着実に蓄積しているはずだ。スヴァスティカ SR.2はネルトリンゲンの飛行甲板を蹴って飛び上がり、機体を横に滑らせて降下すると、船体の側面に身を潜めた。
「那琴さん、栞菜さん、伊尾奈さん、機体変わってるけど、間違えて撃たないでね」
「ご心配なく。人喰いキャバリアには見えませんもの」
「やるなって言われるとやりたくなるんだよねぇ……」
「アタシはぶっ放すのに忙しくてね。巻き込まれないよう祈ってておくれ」
 思ったより余裕がありそうな三人に、錫華は鼻を鳴らす。問題はどうやってヘルストーカーに一矢報いるかだが……収束レーザーを一点集中させることでエネルギーフィールドの突破を試みているらしい。早々に遊んでもいられないようだった。
「アミシア、E.O.Dソード持ってきてるね?」
『ええ』
 皆まで言わずともアミシアが選択兵装項目上でE.O.Dソードの表示を活性化させた。スヴァスティカ SR.2が抜剣した歌仙。それに取り付けたのはエネルギーソード・ユニット。錫華の故郷の機密兵器である。
「ネルトリンゲンからチャージしつつでどのくらいいけそう?」
『通常出力で7回。最大出力で6回です。ただしこの場合、ユニットが損傷します』
「おっけー」
 それだけ振るえれば十分だ。ヘルストーカーやEVOLが好き勝手に撃ってきてくれるおかげで、ネルトリンゲンはたっぷりとエネルギーを蓄えている。方針を固めた錫華は、スヴァスティカ SR.2をネルトリンゲンの側面から飛び出させた。
 フレキシブル・スラスターのバーニアノズルから噴射光が爆発する。スヴァスティカ SR.2がヘルストーカーに向かって一直線に猪突した。エネルギーフィールドの範囲外を抜けた途端に邪眼と視線が交わった。レーザーの集中照射に錫華が双眸を険しく細める。天磐で強引に防ぎながらなおも直進。相対距離が近接戦闘の間合いまで詰まった。
「捕まえた」
 被弾と引き換えに射出したワイヤーハーケンの切っ先がヘルストーカーに食い込む。スヴァスティカ SR.2がウインチを巻き上げるのと同時にバックブーストをかけた。ヘルストーカーは引き寄せる力に抗いつつレーザーを照射し続ける。スヴァスティカ SR.2の天磐の原型がみるみる崩れ、防御しきれない機体の端々が貫かれた。錫華は視界の隅に入った機体コンディションを意識の外においやって右の操縦桿を引いた。スヴァスティカ SR.2が半身を横に振り向け、ネルトリンゲンに向けてもう一方のワイヤーハーケンを撃ち込んだ。ウインチを巻き上げて大質量物体に自機を引き寄せる。つられてヘルストーカーも引き寄せられた。レーザーの猛攻は止まらず、関節駆動系に生じた高負荷を報せる警報が錫華の耳朶を苛む。
「保たないか……!」
 錫華が噛み合わせた歯の隙間から漏らした瞬間、唐突にヘルストーカーの姿勢が大きく傾いた。
「いぇーいあったりぃ!」
 栞奈のイカルガが発射した電磁加速弾体がヘルストーカーの脇腹を打ち据えたのだ。スヴァスティカ SR.2は一気にウインチを巻き上げてヘルストーカーと肉薄する。ヘルストーカーからレーザーの接射とクローの連撃を受けるが構わない。
「この剣は止められないでしょ」
 マニピュレーターが保持したE.O.Dソードから荷電粒子の刃が伸びる。ネルトリンゲンを外部電源に高密度に圧縮された刃は、通常のビームソードと比較して数倍以上の出力を伴う。スヴァスティカ SR.2は全てをなげうつ覚悟でE.O.Dソードを袈裟斬りに走らせた。マニピュレーターを根本から回転させて逆手に構えて切り上げる。再び回転させて右から左への横薙ぎ。切っ先で抉り取るように左から右へ引き裂く。動作の反動で縦方向に振り上げた。
「修理費は必要経費ってことで!」
 コクピットに反響するアラートはもう錫華の耳に入っていなかった。スヴァスティカ SR.2は天磐を投棄してE.O.Dソードの柄を左右のマニピュレーターで掌握する。全備重量を被せて渾身の限り刃を突き立てる。6回目の太刀筋と共にディスチャージャーが限界を迎え、E.O.Dソードがスヴァスティカ SR.2の腕部を道連れに沈黙した。すかさずハーケンを切り離して離脱。裂傷が刻み込まれたヘルストーカーを見た錫華の眼差しは、不敵な翡翠色を湛えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天城原・陽
【特務一課と】

どうもあちらさんにも思惑があったりなかったりするみたいだけれど…悪いけどこっちにもあるのよ。オブリビオンマシンは破壊する。争いの火種になりうるものは全部ブッつぶす。たとえ力を持つ私達自身の存在が矛盾を孕んでいるとしても、私はそう在る。そう在るように私が決めた。

「ねえ…そうでしょ…アンタ達!!」

アニムスフィア・バースト

脳量子波展開、拡散
僚機の士気及び継戦能力の向上
指向性を持たせたそれは敵性機体を拘束せんとし、味方には機体の継戦能力を維持すべく粒子が修復機能を付与する

「特務一課&やんごとなきお二人、及び白羽井小隊小隊、灰狼中隊!ケツ持ちは私がやる!存分にやりなさいな!!」

まったく…ガラでもないんだけれどこれが最適解よ
敵の動きを止める。味方は死なせず。されど正面からブッ潰す。意地と責務のぶつかり合いなら、これが一番手っ取り早い!メンタルで私達に、この天城原陽に勝てると思うな。


斑星・夜
【特務一課と】
キャバリア:灰風号搭乗


俺は人喰いキャバリアは嫌いだし、白羽井の仲間やこっちで良くしてくれた子達を死なせたくない
オブリビオンマシンもさ、あれが何であっても、どんな意図で生まれたものであっても、俺の大事なものを死なせる奴だ。だから一機残らず消し潰す

…って、アハ!さっすがギバちゃん!かっこいいね!
オーケー、それじゃ頑張ろうね、ねむいのちゃん、キリジちゃん、メルちゃん、ええとそれから主様?
『ねむいのちゃん、頑張ります! ミスターも一緒なのです。張り切っていきます!』

交戦開始と共にEPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』に
情報収集+随時味方へ情報伝達をお願いるよ

三笠が守ってくれる動きだけど出来るだけ攻撃を当てたくないね
ブリッツ・シュラークの雷の鞭で敵機を攻撃し敵の移動を阻害

EPブースターユニット・リアンノンを起動して
RXブリッツハンマー・ダグザでぶち抜くよ!


メルメッテ・アインクラング
【特務一課と】
(※ねむいのちゃんのサポートに)『そうでなくては!』
キリジ様へお返事するより早く主様のご指示があり、マイクを再度オフにしました

『しかし、東の……人類め。これでは何の為の秘匿か分からんではないか
気を緩めるな、メルメッテ。情報や手の内は知られるほど厄介なものだ』
それぞれの艦の方向へと睨むようにアイライトを動かされた主様……意図は掴めませんでしたが、敵の思念で正面を向き直しました

貴方様と同じく、揺るぎなく前を見据え、教えを口にします
「”この世に生まれてはならないものなど存在しない。”で、ございますね、主様」
『それが呪いであろうとも、だ』
ウイングで空へ。殲禍炎剣に狙われない高度で【空中機動】し、レーザーを【見切り】回避します
『このまま避けながら無力化してみせろ』
指定UCを発動!クローや尾に狙いを定め、持てる限りのサイキックを【限界突破】で注ぎ込み【部位破壊】です

赤が、灰が、黒が。激浪戦で浮かんだ、定かではない半透明の記憶を鮮烈に塗り替えて下さいました
メルも応えたい……皆様の動きに!


キリジ・グッドウィン
【特務一課と】
GW-4700031(シャルロット)で。
何処までぶちのめしても日乃和周りの小競り合いも人喰いキャバリアも減りやしねぇ
まぁ争いの中圧倒的嫌いが多いと、潰しても文句言われねえのがいいよな。これが逆だと俺達ァ逆賊だ

情報サンキューマダラと…眠い奴(ねむいの)
はっ、今回はギバの分まで暴れといてやるからそこで見てな!
(それはともかくなんか視線っぽいのを感じるんだよなァ…具体的にはメルメっちの主様とやら、だと思うんだが…)
「なぁ、メルメっち…いや、なんでもねえ」

言いたい事を誤魔化す様にスラスターを吹かし
レーザーを【見切り】ヘルストーカーに急接近。レーザーを出す尾をRX-Aランブルビーストをぶつけ【グラップル】
とりあえず数一つでも減らしておけば三笠も楽になるんじゃねェの?それに1体につき部位が沢山あると潰し甲斐もあるってもんだよな
そのまま【使用UC】



●ハートブレイカー
 世界の果てを越えて広がる快晴の空。隆起と崩壊を繰り返す深い青の海原。天と地の青の狭間で鋼鉄の巨鯨が砲火を歌う。無数の火線が交錯し、火球が膨張しては消えてゆく。幾多の命を道連れにしながら。
 イカルガ、艦艇、EVOL――幾千幾万の骸を抱いて水面が揺れる。まるで子を眠りに誘う揺りかごのように。死を見届けることなく終焉を迎えた者たちの魂が、戦場の狂気と共に無に還っていく。
 だが人類は進む。血肉を喰らい続ける貪食の海を踏み越えて。道は前にしか残されていないのだから。その道が正しかろうとも、誤りだろうとも。
 いや、正誤は問題ではない。そう在ると決めたら突き進むしかないのだ。
 あちらがそう在ると決めて行動するように、自分もそう在ると決めたら行動する。
 オブリビオンマシンの破壊。終わりなき戦禍を生み出す始まりの火を消し去るために。
 たとえ矛盾を進む道であろうとも、そう在ると決めたのだから。そう在れる力があるのだから。
「ねえ……そうでしょうアンタ達!」
 天城原の思惟が声となってコクピットの空間を揺らした。。赤雷号の頭上に開いたヘイロウが光の粒を解き放ち、天城原の声に押し拡げられるようにして空と海の狭間を満たしてゆく。思惟を乗せたアニムスフィア・バーストの光は物理的な作用を持つ風となり、オーロラ色のダイヤモンドダストが日レ両軍と猟兵達の背中を押す追い風となった。
 無理でも我を通す天城原の硬い思惟。それに煽られたヘルストーカーが怯んだように見えたのは、決して錯覚ではなかったのだろう。天城原は意地と気合いで世界に立ち向かい、動かしてきたのだから。
「特務一課アンドやんごとなきお二人! 及び白羽井小隊小隊と灰狼中隊! その他大勢! ケツ持ちは私がやる! 存分にやりなさいな!!」
 天城原の啖呵は魂さえも揺さぶる。ユーベルコードすら必要なかったのかもしれない。
「アハ! さっすがギバちゃん! かっこいいね!」
 斑星は耳朶に痺れを覚えながら暗い影が落ちる顔を綻ばせた。
 あの赤い悪魔の中身がなんであれ、どういった理由と経緯で作り出されたにせよ、大事なものを壊す奴なら破壊する。一機も残らず。仲間たちや白羽井小隊、関わってきた多くの者達を死なせたくないから。人喰いキャバリアは嫌いだから。
 斑星の規範は、駆る灰風号が握る戦鎚のように単純明快だった。そして躊躇いなく振るう背中を天城原が押してくれる。
「オーケー、それじゃ頑張ろうね、ねむいのちゃん、キリジちゃん、メルちゃん、ええとそれから主様?」
 口の端に浮かべた笑みは相変わらず弱々しい。だが金の瞳は星の如き輝きを湛えている。
『ねむいのちゃん、頑張ります! ミスターも一緒なのです。張り切っていきます!』
 灰風号の管制を担う独立支援AIは眠そうな顔に似合わず溌剌としていた。
「情報サンキュー、マダラと……眠い奴」
 アニムスフィア・バーストの粒子を介し、シャルロットの元に送り付けられた情報が、サーヴィカルストレイナーを這い上がってキリジの頭蓋の中に浸透する。直接注ぎ込まれる情報を意識の外にして、目を足元に落とす。連動して動いたシャルロットの頭部が捉えた海面では、敵も味方も判然としない骸の混沌が揺蕩っている。
「いい加減、飽き飽きしてきたぜ」
 溜息と共に口が動く。
『キリジちゃん?』
 通信ウインドウの中で斑星が首を傾げた。
「気にすんな、ただの愚痴だ」
 キリジは顔色を微塵に変えず、斑星と目を合わせずに言った。
 何処まで戦っても変わらない。日乃和周りも人喰いキャバリアも。まるでこの海の光景のように。こちらとしては湧いてきた敵を千切っては投げ続けるだけだが。
 仕事さえしていれば文句を言われない点についてはいい。ストレスが溜まらないからだ。相手がどうしようもない嫌われ者なのも都合が良いと言えばいいだろう。これがもし逆だったとしたら……考えただけで面倒臭さにうんざりする。
「にしても……」
 訝しげな双眸の中で眼球だけが動く。視界の隅に真紅の翼が入り込んだ。
 どうにも視線を感じる。首筋に針の先端が触れているようで居心地が悪い。パイロットからではない。どこを見ているのか分からないあの妖しげな四眼からだ。しかも怒気を向けられている気配もする。機体の形状が厳ついからそういう印象を受けるだけなのか?
「なぁ、メルメっち……」
 わざと主様とやらの存在を無視して通信装置越しに声を掛ける。だが続く言葉が見付からない。返ってきた無言に背中で「いや、なんでもねえ」と答え、メルメっちの主様を視界と意識から外した。

『直ちに外部への通信を遮断しろ。“メルメッテ”』
 名前の部分を強調した抑揚で言うアインクラングに、メルメッテは肩を跳ねさせた。
「はいっ!」
 何事かを言い掛けたキリジに窄まるような心の中でごめんなさいと念じ、言いつけ通りに外部への通信出力を断ち切った。
『しかし、東の……人類め。これでは何の為の秘匿か分からんではないか』
 聴覚に届く声音とフォアシュピールから流れ込む感覚の二つがメルメッテに伝える。主様は苛立ちになられていると。何か不手際を起こしてしまったのだろうか? もっと上手にできなかったから? お話しが過ぎたから? 記憶を逡巡させる。心当たりはあるが、それが本当に主様を不愉快にさせてしまった原因なのかと自答すれば自信がない。かといって原因も分からず迂闊に謝罪すれば、主様を貶めることになってしまう。
『気を緩めるな、メルメッテ』
 ラウシュターゼの低い声音にメルメッテは心臓を掴まれた。全身を硬直させて息を詰める。
『情報や手の内は知られるほど厄介なものだ』
 モニターに映る光景が左右に流れる。ラウシュターゼが頭部を動かしたからだ。四眼が睥睨したのは日レ両海軍の艦艇。メルメッテはラウシュターゼの意図するところを推し測りかねたが、機体から発せられる重圧は、友好的な感情を含むものとは到底思えなかった。
 そして、赤い悪魔が発するプレッシャーも。
 戦場を満たすアニムスフィア・バーストを貫いて放たれる思惟。メルメッテは感受していた。主様という棺――棺? 違う、守護を越えて届く思惟の重さを。
 不意に頬に何かが触れた。それが自分の手だと気付くのに数秒の時間を要した。
「……涙?」
 濡れた感触が宿る手のひらを見つめる。アンサーウェアの表面に湿潤はなく、頬を伝った雫は幻覚だった。だけどこれは? 痛いほどの後悔。恨み。そして――。
「絶対に守護ろうとする強い意思……」
『ここまでの戦闘ですっかり弱りきったようだな? 跳ね除ける気力も残っていないのか?』
 露骨な嫌味を含めたラウシュターゼの声音に、メルメッテは遠ざかりかけていた意識を引き戻す。
「い……いえ、問題ありません」
 打ち付ける思惟を思惟で跳ね返した。
「“この世に生まれてはならないものなど存在しない。”で、ございますね、主様」
『それが呪いであろうとも、だ』
 ラウシュターゼが重ねた言葉を支えにして、メルメッテは我が身を機体ごと突き動かす。オクターヴェが広げるサイコ・フィールドが双翼を形作る。一つ羽ばたくと後方に衝撃波が生まれ、海面を白く炸裂させた。浮き上がったラウシュターゼはヘルストーカーへ向けて加速する。
 メルメッテは眉間に突き刺す痛みを覚えた。収束する殺気。レーザーが来る。ねむいのちゃんが報せてくれた情報通りならば、あの邪眼から逃れる術はない。自分と相手の意思、どちらが勝つかのぶつかり合い――機体を覆った片翼に何本もの光線が衝突して、飛び散りながら後ろへと流れてゆく。
『自分の口から出した言葉だ。証明してみせろ』
 その言葉にラウシュターゼがどれほどの重みを掛けたのかは定かではない。だが少なくともメルメッテにとって、それは自身の存在を懸けた言葉となった。光に焼かれても揺るがぬ眼差しを正中に定め、貫くような殺意をサイコ・フィールドで遮り、真正面から突き進む。
 逸れてはいけない。主様が私に与えてくださったお言葉が真であることを証明するために。
「……男前な戦い方しやがんのな」
 レーザー照射を真っ向から受け続けるラウシュターゼの挙動はどちらがやっているのだろうか? キリジには判然としなかった。シャルロットが脚部のロケットブースターを盛大に噴射して海上を進む。機体の後に続く白い波が左右に割れた。
「キリジ! マダラ! あっちの主様に遅れるじゃないわよ! どっちも頑丈な機体に乗ってるんでしょうが!」
「オーケー! こっちもストレートに行くよ!」
 天城原が飛ばした檄を背中に受けて、斑星は脇目も振らずに灰風号を直進させる。起動済みのリアンノンが爆発的な推力を生み出す。重力加速度が搭乗者の骨身を圧倒するが、斑星の表情からふやけたような微笑が消えることはなかった。
 シャルロットと灰風号を捉えたヘルストーカーの邪眼が閃く。シャルロットは盾とした両腕と機体の装甲で、灰風号は正面で円形に張り合わせたアリアンロッドで受け止める。物理的な衝撃すら伴うレーザーが二機の装甲に突き刺さり、表面を抉りながら散逸する。
「ビビってんじゃないでしょうね!? ここまで来て押し負けたらぶっ飛ばすから!」
 天城原の怒声がアニムスフィアバーストの粒子に乗る。押し返されるシャルロットと灰風号を押し戻す。レーザー照射を浴びた装甲の削り取られる速度が鈍る。粒子が持つ再生効果が働いているのだ。
「眩しくってかなわねェんだがな……!」
「いやあ、眼がチカチカするねぇ!」
 キリジと斑星は閃光に視界を焼かれながら機体を猪突させる。ヘルストーカーは後退しながらレーザーの照射を続けているが挙動が鈍い。天城原が放ったプレッシャーの拘束の影響が出ているのだろう。あと一歩でレンジに届く。そして、羽毛のような真紅の光が舞い散った。
「届きました!」
 殺意を跳ね返し、ヘルストーカーの元に辿り着いたラウシュターゼがサイコ・フィールドの片翼を叩き付けた。メルメッテの思惟を乗せた、物理的な超重力を持つ一撃。質量物体同士が激突する音がラウシュターゼの装甲を越えてメルメッテの肌を震わせた。
 ヘルストーカーが衝撃で大きく姿勢を崩す。だが拡散レーザーを放射しながらも強引に立て直して離脱を図る。
「逃さないよ」
 灰風号が振るったブリッツ・シュラークが稲光のような軌道を走らせた。鞭状の高圧電流がヘルストーカーを打ち据えて動きを止める。
「レーザーさえ無けりゃァな!」
 ほんの僅かに生じた隙を黒鉄の獣が見逃す道理はなかった。ランブルビーストが紫電の残光を描き出す。ヘルストーカーの胸部の邪眼が光る。キリジは頭部に走った焼けたナイフで切られるような痛みに構わずシャルロットを飛び込ませた。マニピュレーターがヘルストーカーの尻尾を掌握する。両腕のスクィーズ・コルクが荷電粒子の破線を迸らせた。有機構造体が抉れ、飛び散った液体がシャルロットを赤黒く濡らす。そして力任せに引き千切り、蹴り飛ばした反動で離脱した。
「メルも応えたい……皆様の動きに!」
 天輪を宿した赤雷号が、荒々しく戦う灰風号とシャルロットが、メルメッテの記憶を――激浪戦で蘇った半透明の記憶を塗り替えてゆく。世界はこんなにも鮮やかな色で満ちている。従奏剣ナーハが連なる刃を鞭のように伸ばし、ヘルストーカーの身に絡みつく。
「マダラ! ブッ潰しなさい!」
 天城原が叫ぶ。
「いっせーの……」
 ブリッツハンマー・ダグザを構えた灰風号が跳んだ。
「せっ!」
 斑星がフットペダルを限界まで踏み抜く。灰風号のバーニアノズルから炸裂する推進噴射の光。全備重量を乗せた戦鎚をヘルストーカーに叩き付けた。海面に白波が立つほどの衝撃が膨張する。幾多の思惟を重ねた一撃が、海原に稲光を轟かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久遠寺・遥翔
【渡り禽】

「何かを守りたいって思いは間違いじゃないが…」
『あれは過去の妄執、残滓です。討たなくてはなりません』

せめて全力で向き合い、落とす
オーバーロードしたディバイン・レヴィアラクスに[騎乗]し、引き続き殲禍炎剣に捕捉されない程度の[空中戦]を展開

渡り禽で高度に連携、四方からブレードとライフル、そしてUC念導刃によるオールレンジ攻撃で攻め立てる
敵機のレーザーは眼球センサーの動きから[第六感]で発射タイミングを[見切り]、[水中戦]へと移行して水という[地形の利用]で威力を弱め、[オーラ防御]と[結界術]からなる[鉄壁]の多重障壁で防ぐ
さらに相手の硬質化させた部位による近接での追撃は[残像]で回避だ

「小枝子も多喜さんも中身を諦めてはいないんだな」
『無茶です。あれはもう』
「いいや乗った。牽制と後始末は任せな!」

二人が敵パイロットの鹵獲にかかったら念導刃で援護
鹵獲に成功したタイミングを見計らい[心眼]で相手の全身、そして空になった中核を捉えUCを発動。機体に染み付いた妄念ごと全てを断ち斬るぜ


中小路・楓椛
【渡り禽】

世界には道理を蹴りとばす無理が一つくらい在っても良いでしょう──生命の渾沌流転の可能性に喝采を。


渡り禽で連携、クロさんに搭乗し【しゃんたくす】装備、偽装解除。【ばーざい】全技能行使、【神罰・呪詛・封印を解く・限界突破】併用にてUC【といりあにめいたー】起動、戦域に転がる残骸その他の素材から完全反射鏡面装甲被覆材を作成。直撃が心配な皆様の機体にミラーコートとして一発分の保険を掛けておきましょう。

クロさんに随時ミラーコートしつつ両手に即製の鏡盾持ちで殲禍炎剣に狙われない程度の良い塩梅の空間機動で全体に対する防御と陽動としてレーザー反射カウンター防御を実行します──さて自称管理側の何とかさんはフェイント込みで撃ち返してくる私に気を取られていても大丈夫ですか?


【言いくるめ】
管理側の貴方の「恐怖」も理解はしますけど「以前」と「今回」で状況が完全に同じという訳でもないのでしょう?
安易に短気で短期な裁定ではなくもっともっと長ー……い目で見守る姿勢をご提案しますよ。


朱鷺透・小枝子
【渡り禽】
大陸を守らんとする意気や良し!!その赤い悪魔の臓腑ごと引き千切り出してやる!!!
モー『えっと貴女の意志は素敵だけど機体は赦さないから降りてもらうねってことだよ!』
スナオ『機体を壊したいだけじゃない?』
全部だ!

巨神ダイダラ【操縦】[天回点壊][禍葬天間接]併用!
デスアイより空間属性【レーザー射撃】極大光線弾雨の機動を捻じ曲げ、四方八方から攻撃!

アズ『スナオ!私は敵、貴女は味方の情報収集分析!モーは反射角が味方に当たらないよう気をつけなさい!!』

【早業】メガスラスターの高速【推力移動】で距離を詰めつつ、邪眼の視線や光線から味方を庇い【オーラ防御】
纏った怨念結界で空間を歪め邪眼の視線を明後日に逸らす・光線の軌道を反射させ【カウンター】で攻撃!
【フェイント】邪視で結界を解析せんと、怨念結界と深く|接続した縁《視線》を【念動力】で辿り!
崩壊霊物質を送り込んで邪眼と肉体を強化防護ごと【呪詛解体】破壊!!

数宮殿!!

念動力を込めたダイダラの【怪力】でヘルストーカーを殴り【吹き飛ばし体勢を崩す】


ヴィリー・フランツ
【渡り禽】タイフーンカスタム搭乗
心情:化け物がっ!ヤツ一機で戦況を変えるつもりかよ!?
「カイゼルよりウルフ1へ!あんな物騒な玩具なんぞ御免被りたいわ!」
その為のオジサンだから何とかしてくれ?分かったよクソッタレ!
手段:光学兵器の回避は理論上不可能、重イオン砲に回してた分の余剰出力をフォートレスアーマーに転用、必中なら耐えるしかねぇ!三笠もドック入り程度には被弾を覚悟してくれ。
一六式自動騎兵歩槍に【完全被甲弾】を装填、三笠のミサイル艦対空ミサイルに混じりピラニアミサイルも発射して奴の目を眩ませる、射程に入ったらライフルを発射、硬質化した腕部で防ぐだろうがそりゃ悪手だ、特別製の弾は弾くことなく貫くだろうさ。
コアを撃ち抜くな?馬鹿言うな!?朱鷺透と数宮はあの化け物のパイロットを救うつもりかよ!手加減なんぞ出来るか!第一、生体部品と既に同化して人の形を保ってる保証すらないんだぜ!?

全員大馬鹿野郎だ!!囮はバリア持ちの俺がやる、スラスターで周りを飛んで奴の気を引くから後は何とかしてくれ!


疋田・菊月
【渡り禽】の皆さんとともに
おやおや、また飛行型ですか
パイロットが居るんですか?
ふーむ、捕獲するにせよ、相手の戦闘能力を削がないことには
しかし、光学兵器とは
回避はほぼ不可能、しかし焦点温度が装甲を焼き切るまでには多少の猶予はあるはず……近寄らなければですが
それはこちらの兵器も同じ
困りましたねー
突破口を開くためには、まず相手のセンサー類にアプローチしてみましょうか
【エレクロトン閃光焼夷弾】……といきたいところですが、これをそのままお出ししたところで多分当たってくれません
カミオさん、何でもいいので魔法で牽制を!
隙ができるまでは、味方の援護
手持ちのモストロや妙高などで有効打など狙わず仕掛けますが、本命の閃光焼夷弾はなるべく当てたいですねー
前章のままなら空中戦も行えるはず
とにかく動き回って狙いを散らしながら好機を待ちます
力を持つことの恐ろしさ、その責任を思っているなら、こうして対峙しているのが不思議ですね?
まずは機体を捨ててみてはいかがですか?


数宮・多喜
【渡り禽】
【アドリブ改変大歓迎】

化け物、ねぇ……
それでアンタ自身が化け物に堕ちてたら世話無いんだよ。
これでもヒトの心は捨て去ってないつもりさ、だからアンタをヒトのままに制してやるよ!
まずは"英霊"をOveredの前方にフル展開し、対光学兵器の防御力場を形成。もちろん『空中機動』での回避マニューバは続ける。
量産型のEVOL共を忘れてるつもりはないからね。
マルチプルブラスターを横薙ぎに斉射し『範囲攻撃』を兼ねて『制圧射撃』の弾幕を張って『援護射撃』を主体にした『空中戦』を繰り広げながら、『第六感』のテレパスを頼りに赤い機体の方の「テレサ」の存在を『情報収集』する。

うまく行ったなら団長、朱鷺透さん、皆、アタシは「跳ぶ」よ!
特攻に見せかけてオートパイロットでOveredを敵陣に突っ込ませヘルストーカーに組み付かせんとしながら、敵軍「パイロットを鹵獲」するためにアポートを試みる!
団長、短距離転移後のアタシと彼女の保護を頼むよ。
Overedは後で自己修復できるはずさ、後は思い切りやっておくれ!


ユーニ・グランスキー
アレンジ歓迎

騎兵団〈渡り禽〉を率い参戦
ヴィリー(f27848)
久遠寺(f01190)
中小路(f29038)
疋田(f22519)
数宮(f03004)
朱鷺透(f29924)の計7名

敵首魁を捕虜にとるとは大きく出たな小枝子君!
いいじゃないか!乗ってやろう!
団員のサポートが団長たる我の仕事だ!
メンテ代はあっち持ちだ、盛大に行こう!
生け捕りにしたら捕虜の引き渡しで更に毟れそうだな(ニヤリ)

全体を指揮しつつ前線へ
常に全個体をモニタし位置状況、距離、飛行高度を「戦闘演算」し団員に「情報伝達」
敵に「ジャミング」「ハッキング」で攻撃を阻害しつつ手の内を「情報収集」
敵大将ヘルストーカーの一挙手一投足見逃さず『自壊粒子』で行動を潰す為にミラーマッチするぞ
兎に角相手のやりたい事を予測、演算して挫きまくる
「ナイス防御だ中小路君」
「君の意見も一理ある。生命の埒外は脅威に映る。だがそれで我々を下した所で新たな脅威が生まれるだけだ。人は戦争が大好きだからな」
「完璧だ多喜君。機嫌よう捕虜君」
「今だ!やれ遥翔!」



●ヘルテイカー
 海原を埋め尽くす骸が高波に揺れる。
 人類と人喰いキャバリアが衝突する狭間で、猟兵達が敷き詰めた骸の海。
 立ち塞がる敵を叩いて砕き、薙ぎ倒し続けた後には、幾千幾万に及ぶ破壊の後が残された。

 ヘルストーカーとの交戦に挑む猟兵の総数は35名に及ぶ。海を煮え立たせ、叩き割り、爆散させる戦いの果てに、ヘルストーカーの消耗は着実に積み重なっているはずだった。
「化け物がっ! 本当にヤツ一機で戦況をひっくり返すつもりかよ!?」
 ヴィリーが牙を剥き出しにして怒声を叩きつける。タイフーンカスタムは三笠の船体から半身を覗かせ、ミサイルランチャーを連続発射した。ミサイルは血肉に興奮した獰猛な肉食魚の如く標的に向かう。ヘルストーカーはレーザーを伸ばした尻尾を振り回す。空中を、海上を、無数の光が駆け巡る。ピラニアミサイルが火球に変じるのと同時に、ヴィリーはもう何度目になるか分からない被弾警報に舌打ちした。咄嗟に後退加速したタイフーンカスタムにレーザーが走る。フォートレスアーマーが発した力場と干渉しあって散逸した。
「カイゼルよりウルフ01へ! あんな物騒な玩具なんぞ御免被りたいわ!」
 レーザーはタイフーンカスタムの装甲のついでにヴィリーの神経も削り取っていった。
『ああいう玩具と遊ばせとくために雇われてるんでしょうが。オジサン』
 通信ウインドウの中の伊尾奈が無味な顔色で半眼を向けてくる。
「そっちの方が歳上だろうが!」
『アンタらでも遊び相手が務まらないようじゃ、全員死ぬだけさね』
「分かってるよファック!」
 堪らずサイドパネルに拳を叩きつける。とはいえ遊んでいられる余裕は微塵にもない。フォートレスアーマーのお陰でなんとか撃ち合えているが、収束レーザーは貫通してくる。一応楓椛が機体の装甲をミラーコーティングしてくれてはいるが……身を挺して遮蔽物の役を買って出た三笠の状況も芳しくない。砲塔はもうほぼ壊滅してしまった。
「力を持つことの恐ろしさ、その責任を思っているなら、こうして対峙しているのが不思議ですね? まずは機体を捨ててみてはいかがですか?」
『それはあなた達を殲滅してから!』
 菊月のヴァルラウンが三笠の甲板から躍り出た。すぐにレーザーが降り注ぐ。被弾は装甲のミラーコーティングを頼りに甘んじて受け入れた。貫く衝撃が菊月を苛むもダメージレースに勝てればいい。モストロ9改と妙高のクロストリガーが実体弾とフォトンビームを交互に叩き込む。ついでに頭の上に乗るクロウタドリが『何でも撃てってなんだぎゃー!』とかなんとか文句を叫びながら火炎球、氷柱、雷撃を出鱈目に連射する。手応えはないが構わない。全て牽制の攻撃に過ぎないのだから。ユーベルコードのマニューバにすら追従してくる邪眼を潰すための前座――菊月は密やかに好機を窺う。
「アンタ自身だって化け物に堕ちてたら世話無いんだよ」
『そうさせたのはあなた達でしょう!? あなた達みたいなイレギュラーが産まれてこなければ!』
 光線の嵐に見舞われているのは多喜のJD-Overedとて同様だった。機体の正面にサイコ・シールドを展開する三基のシールディングオービットは、レーザーを受けに受け続けて焼けた銃創だらけとなっている。だが躊躇している場合ではない。ヘルストーカーを中心にヴァルラウンとは逆方向からサテライト機動しつつマルチプルブラスターのトリガーを引く。照射モードに設定した電流が横薙ぎに放射され、飛び交うEVOLを諸共に巻き込んで撃ち落とした。
「これでもヒトの心は捨て去ってないつもりさ、だからアンタをヒトのままに制してやるよ!」
 自身に突き立てられる殺気。悔恨。今度こそ絶対に守護るという痛烈なまでの決意。赤い悪魔の奥底で煮え滾る思念の根源に向かって多喜が叫ぶ。
「何かを守護りたいって思いは間違いじゃないが……」
『あれは過去の妄執、残滓です。討たなくてはなりません』
 遥翔も赤い悪魔の中に多喜と同じものを感じたのだろうか? 濁した言葉の後をレヴィアラクスの声音が覆う。
 ディバイン・レヴィアラクスが纏う多重障壁に突き刺さる光線。その一本一本から伝播する意思。その意思が持つ硬度は自分もよく知っているものと似通っているように感じた。でありながらも遠い。
 複雑に絡み合う後悔が、レヴィアラクスが言う妄執や残滓を歪めてしまったのか?
 釈然としないままに遥翔はレティクルの向こうのオリジナルテレサに眼で問う。
 強引に攻め立てるヴァルラウンとJD-Overedの攻撃にタイミングを重ねてコラプサーライフルを撃つ。スラスターが放射する光が刃と化して乱舞する。イグナイトセイバーがヘルストーカーを全包囲した。そこにディバイン・レヴィアラクスが突っ込む。光剣を帯びたコラプサーライフルとヘルストーカーの腕部が激突した。弾かれあった二機の一方はライフルを、一方はレーザーで応射しながら後退。ディバイン・レヴィアラクスは水柱を昇らせて海中に潜ると、海水という分厚い壁で追撃を遮断した。
「大陸を守らんとする意気や良し!! その赤い悪魔の臓腑ごと引き千切り出してやる!!!」
 小枝子の裂帛は抑制しきれぬ怒りを孕みながらも意気揚々とすらしていた。その裂帛と共にダイダラの頭部に穿たれた穴が閃く。陽炎のように空間が歪んで見えるほどの濃密な怨念、そして巨躯を覆う超重装甲でヘルストーカーの収束レーザーを殺意ごと受け止め、夥しい数のホーミングレーザーを撃ち返す。回避機動に移ったヘルストーカーを複雑怪奇な軌跡を描いて追い立てる。
『えーっと……貴女の意志は素敵だけど機体は赦さないから降りてもらうねってこと?』
『機体を壊したいだけじゃない?』
「全部だ!」
 小枝子は扉を勢いよく開け放つかの如く言い切った。モーとスナオが揃って短い悲鳴をあげる。
『スナオ! 私は敵、貴女は味方の情報収集分析! モーは反射角が味方に当たらないよう気をつけなさい!!』
 普段は冷静なはずのアズの声音がヒステリックだった。小枝子に振り回されるのを知ってなのか、或いはやると決めた小枝子を止める術がない事を知ってなのかは定かではない。
「んだとォ!? 馬鹿言うな!?」
 ヴィリーが殆ど悲鳴に近い抗議の声をあげた。
「引き千切り出してやるってあの化け物のパイロットを救うつもりかよ! 手加減なんぞ出来るか!」
「ああ、やってみる?」
「数宮もかよ?!」
 そういう手もあるかと含んだ多喜にヴィリーは愕然とした。
「小枝子も多喜さんも中身を諦めてはいないんだな」
『無茶です。あれはもう……』
 ひょっとしたらの可能性に遥翔の後ろ髪が引かれる。だがレヴィアラクスにとってその可能性の灯はとても小さく思えた。掬い上げても手の中で消えてしまうほどに。
「第一、生体部品と既に同化して人の形を保ってる保証すらないんだぜ!?」
 ヴィリーは何度か人喰いキャバリアの内部を見たことがある。他所の個体はいざ知らず、人喰いキャバリアの俗称で呼ばれる機種はコクピットと呼べる部位が存在しない。代わりに生体制御装置と思しき肉塊が詰まっているだけだ。
「敵首魁を捕虜にとるとは大きく出たな小枝子君!」
 ユーニの明朗な声音があってか、dunkel Onyxの肩が笑っているように思えた。
「いいじゃないか! 乗ってやろう! 団員のサポートが団長たる我の仕事だ!」
「団長もかよ……!」
 ヴィリーは大きく嘆息すると首を横に振って口を結ぶ。
「いいや乗った。後始末は任せな!」
 ディバイン・レヴィアラクスが海面を割って浮上した。遥翔の追撃にヴィリーは無言で項垂れる。
「メンテ代はあっち持ちだ、盛大に行こう! 生け捕りにしたら捕虜の引き渡しで更に毟れそうだな」
 ユーニが不敵な笑みを漏らしたのは、恐らく頭の中で電卓を叩き始めたからなのだろう。
「全員無茶苦茶の大馬鹿野郎だ!」
「世界には道理を蹴りとばす無理が一つくらい在っても良いでしょう。生命の渾沌流転の可能性に喝采を」
 爆発したヴィリーに楓椛が追撃を重ねる。クロさんが羽織るマントのような風呂敷が潮風に吹かれて波打った。
「しかし……ふーむ、捕獲するにせよ、相手の戦闘能力を削がないことには……」
 一体全体どうしたものか。菊月はレティクルの向こうで暴れまわるヘルストーカーを見て眉間に眉を寄せる。
「皆さんもお分かり頂いている通り、こちらが攻撃を当てるだけでも四苦八苦しているのに、あちらはライトノベルのチート能力者のようなエイムでレーザーをビシビシ当ててきますし。ヴィリーさんの仰る通りに手加減できる余裕があるとは思えませんねえ」
『チートが給仕服着て歩いてる猟兵のおみゃーがよく言うだでよ』
「オウムでもないくせに人語を喋るカラスモドキも大概ではありませんか? ですがまあ……やるからにはこちらも相応の覚悟で望みませんと」
「だーもう知るか! 初手の囮は俺がやる! 後は何とかしてくれ!」
 考えるのも止めるのも止めたヴィリーはフットペダルを踏み込む。撃ち切ったミサイルランチャーを投棄したタイフーンカスタムがヘルストーカーへ向けて加速する。バリアを頼りに猛烈な光線を浴びながら、より接近して一六式自動騎兵歩槍を連射した。
「中身を撃ち抜いたって知らねえぞ!」
 ヘルストーカーは小銃の弾丸など避けるまでもないと判断したのだろう。表皮を硬質化することで防いだ。だがしかし、黒鉄色の外殻に銃創が穿たれて赤い液体が散った。ヴィリーが一六式自動騎兵歩槍に籠めた弾丸は、ユーベルコードによって貫通力を増し、さらにはホローポイント弾にも似た内部破壊効果を及ぼす完全被甲弾だったのだ。
『たかが少し食らっただけで!』
 ヘルストーカーは報復と言わんばかりにタイフーンカスタムへレーザーの照射を集約させる。ユーニは戦場にばら撒いた自壊粒子で邪眼に光が収束する瞬間を察知していた。
「中小路君!」
 ユーニが鋭い声を飛ばす。
「鏡よ鏡よ鏡さん」
 タイフーンカスタムとヘルストーカーの射線上にクロさんが割って入った。といりあにめいたーお手製の鏡を左右のマニピュレーターに携えて。合計7本の光線の全てがクロさんのミラーシールドを直撃する。表面が真っ白な光を放ち、レーザーが無数に拡散した。倍返しどころでは済まないカウンターを受けたヘルストーカーが翼で機体を庇って後方へと退く。
「疋田君! 例のブツを!」
「はいはい、お届けにあがります」
 菊月はヴァルラウンを一気に突き動かす。直進で得た加速を乗せ、エレクトロン閃光焼夷弾を投げ付ける。
「その目の良さが命取りです」
『おみゃーそれ言いたかっただけだぎゃ』
 ヴァルラウンが投擲した無骨な金属の円筒がヘルストーカーに触れ合った瞬間、突如として世界が白く染まった。閃光はまるで空間そのものを引き裂くかのように炸裂し、辺り一面を凄まじいまでの光量で包み込む。機体の防眩フィルターを突き破るほど強烈な光。菊月は堪らず目を庇った腕の向こうに、鮮やかな赤橙色の炎が膨れ上がるのを見た。
 ヘルストーカーの機体が炎に包まれて火球と化す。人喰いキャバリアの多くは機体構造の大部分に生体素材を採用している。ヘルストーカーも例外ではなかった。ヴァルラウンが放り投げたエレクトロン閃光焼夷弾は、ヘルストーカーに重度の熱傷を負わせることで、機体の駆動を司る代替筋肉の動きを著しく損なわせた。
「敵は潜るぞ! 逃がすな多喜君!」
「あいよ!」
 ユーニ直々のご指名とは言え、火の玉に向かって突っ込むなど望んでやりたくはない。しかし多喜はJD-Overedの頑丈さを信じてアクセルを捻った。機体ごとぶつかる勢いでの加速と突進。傍から見れば破れかぶれの特攻とも思えただろう。恐れも躊躇いも知らないオートパイロットモードで進むJD-Overedの中で、多喜は一点に神経を集約させた。赤い悪魔の奥底。絶対に守護るというプレッシャーを放つ根源。きっとそこにいるはずだ。
「――見つけた!」
 JD-Overedがヘルストーカーと激突した瞬間、多喜は伸ばした手を握り込んだ。まるで心臓を掴み取るようにして。
「後は思い切りやっておくれ!」
 装甲越しに焼け付く熱を肌身で感じながら叫ぶ。JD-Overedが赤い光の粒子となって霧散した。
「小枝子く――」
「進めダイダラアアァァアァァッ!」
 ユーニの台詞に小枝子の咆哮が覆いかぶさった。通信装置が音割れするほどの声量に、菊月の肩に停まるカミオが飛び跳ねた。
 ロケットブースターを焚いたダイダラが海面を割って推し進む。禍葬天間接で増速を得た巨躯は外観の印象とは裏腹に機敏だった。古代遺跡の支柱を想起させる剛腕を引き、構え、突き出す。天回点壊で纏った怨念の重力を乗せた拳が、燃え続けるヘルストーカーを硬質外皮ごと砕いて殴り飛ばした。
「今だ! やれ遥翔!」
「待ってたぜ! この|瞬間《とき》をよ!」
 遥翔はユーニのGOサインが出るよりも先んじて待ち構えていた。ダイダラの剛腕を受けて吹き飛ばされたヘルストーカーが向かう先で。ディバイン・レヴィアラクスが左右のマニピュレーターで光刃の剣を握る。
「ラクス、あれを使う!」
「ワールド・エンド、発動承認」
 発振器となる刀身本体から伸びる光刃が数倍に伸長した。遥翔がセンサーカメラ越しに睨め付けるのは未だに燃焼を続けるヘルストーカー。既にプレッシャーの根源はJD-Overedと共に消えた。あれはもう抜け殻だ。
「断ち斬れぇッ!」
 ディバイン・レヴィアラクスが光刃剣を横に薙ぐ。世界の色彩が一瞬ネガ反転した。ヘルストーカーの物理運動が止まり、人体で言う上半身と下半身がゆっくりと滑るようにして左右に分離する。二分割されたヘルストーカーの機体は、赤黒い液体を噴出させながら海面へと吸い込まれ、水飛沫の向こうに沈んでいった。
 白く泡立つ海面を渡り禽の全員が無言で凝視する。通信装置は小枝子の荒い息遣いを伝えるだけで、鳴り止まぬ轟砲が響くはずの世界に、張り詰めた静寂が降りた。
「終わりは……呆気ないもんだな」
 三笠の甲板上に降着したタイフーンカスタムの中で、ヴィリーはいつからか止めていた呼吸をやっと吐き出した。
「どうでしょう? これから第二形態との戦いが始まるかも知れませんよ?」
 菊月は口にした直後に後悔した。満身創痍のヴァルラウンを含め、他の機体も替え玉を注文できるほどの余力が残されているとは思えない。しかし幸いなことに、恐る恐る覗き込んだ海面は、原型も定かではない残骸が揺蕩うばかりだった。
「ある意味じゃこっちが第二形態かも知れないけどね」
 多喜は額の汗を拭いながら言う。dunkel Onyxの傍らに滞空するJD-Overedは、機体の正面装甲が焼け焦げていた。
「まずは戦利品を持ち帰るとしようか……よろしいかな? 捕虜君」
 ユーニがdunkel Onyxのセンサーカメラを介して見下ろす先――JD-Overedが自機の胸部の高さまで上げた右腕部、そのマニピュレーターの中に握り籠められた少女が据わった眼差しを寄越す。
「無駄ですよ。私を捕まえたって、殺したって、ゼロハート・プラントは止まらない」
 赤黒い液体にまみれているが、あらゆる容姿はレイテナ軍のスワロウ小隊のテレサ・ゼロハートに瓜二つだった。何も恐れていないと言いたげな目付きだけを除いて。
「オリジナルのテレサ君でよろしいのかな? 君の意見も一理ある。生命の埒外は脅威に映る。だがそれで我々を下した所で新たな脅威が生まれるだけだ。人は戦争が大好きだからな」
 dunkel Onyxの外部拡声器を通したユーニの声音は至極淡々としていた。とうの昔に至った諦観の色すら含む声音。猟兵がいようといまいと、オブリビオンがいようといまいと、世界は変わらない。人が人と戦うための形をして産まれてきてしまった以上は。無限の選択と淘汰を繰り返して闘争は続く。
「或いは、それが人の可能性だとでも?」
 降りた沈黙の末にオリジナルテレサが問う。横目で見ていた小枝子と遥翔にとっては長い沈黙に思えた。ユーニは微かに失笑し、緩慢に瞬いただけだった。
「管理側の貴方の「恐怖」も理解はしますけど「以前」と「今回」で状況が完全に同じという訳でもないのでしょう? 安易に短気で短期な裁定ではなくもっともっと長ー……い目で見守る姿勢をご提案しますよ」
 クロさんが携えた二枚の鏡がオリジナルテレサの姿を映し出す。JD-Overedのマニピュレーターに捕縛された身体は僅かにでも動かない。それとも動かすつもりがないのだろうか。
「かつて大陸を滅ぼした力。あなた達は……それらよりもずっと恐ろしい。巨大で、歪な……産まれるべきではなかったイレギュラー。その鏡で自分の姿を見ればいい。あなたは、あなた達が恐ろしくないんですか? ユーベルコードを振り回した後を振り返ったことは?」
 鏡の盾を抜けて、クロさんの装甲を抜けて、直接自分を睥睨する紺碧の瞳を楓椛は見た。
「大陸だけじゃない。あなた達は世界を救うために世界を骸で埋め尽くす。この海のように」
 ユーニが、遥翔が、楓椛が、小枝子が、ヴィリーが、菊月が、多喜が、海面に視線を落とす。
「この海が……あなた達が進んだ後に残される世界」
 果てしない海原に、幾多の骸が揺蕩っていた。

●終演
 ヘルストーカーの撃墜。
 それを潮目に、戦況の天秤は大きく人類側へと傾いた。
 日レ両艦隊と猟兵達は一万のEVOLの増援を漸減しつつゴッドカイザー海岸へ進攻。同地域一帯の制圧後に、陸に向けて艦砲射撃とキャバリア戦力の揚陸を開始した。
 海上支援を得た陸軍は壊滅状態に陥りながらも狙撃手型の大部隊を殲滅。東アーレス半島北部全域の制圧に成功する。

 鯨の歌作戦の完了が宣言されたのは、猟兵達がヘルストーカーを撃破してから数日が経過した後の事である。

 本作戦でレイテナと日乃和の両軍が被った損害は極めて甚大だった。しかし代償に得られた戦果もまた大きな価値を有していた。

 東アーレス半島全域の奪還――完全な奪還に至るまでには聖歴2024年10月21日までの時間を必要としたが、この勝利が東アーレス全土に及ぼした影響の多大さを疑う余地はない。
 さらに鯨の歌作戦に合わせ、東アーレスの各戦線で始まった人類側の反転攻勢は、多くが戦略的目標を達成するに至った。

 そして、ヘルストーカーの搭乗者の身柄確保。
 鯨の歌作戦の最中に猟兵達が捕えたテレサ型レプリカント――オリジナル・テレサの身柄はレイテナ側へと引き渡された。その後の処遇については公にされていない。ヘルストーカーに搭乗者がいた事自体が機密情報として扱われ、猟兵達を含む関係者の全員には守秘義務が課せられた。

 攻勢を強めるレイテナ軍。しかしある時を堺に、人類と人喰いキャバリアの戦況は膠着状態に陥る。
 ゼロハート・プラントを襲撃していた未知の勢力の消失。
 ザ・スターと呼ばれるオブリビオンがゼロハート・プラントの上空に展開したエナジー・ゲート。それが忽然と消滅したことにより、人喰いキャバリアの侵攻速度は再度激化。人類は取り戻した生存圏を死守するべく、出口の見えない戦いを続ける。

●仄暗い部屋の中で
 密室を囲んで蓋をするのは無機質なコンクリートの壁。肌に冷たい空気は微かな湿潤を含んでいる。灯る蛍光灯が人の影を床と壁に浮かび上がらせた。
 部屋の中央には鉄製の椅子がひとつ。アームレストからオットマンまで付いているその椅子は、頑丈そうではあっても座り心地がよさそうとは思えない。座る者をリラックスさせる事とは真逆の目的で作られているからだ。
 椅子に備え付けられた枷。それを手足に繋がれ、椅子に磔にされた白髪の少女。灰色のタンクトップは多量の汗を吸って黒ずみ、ハーフパンツは鼻に突くアンモニア臭を放つ。レイテナ軍のスワロウ小隊に所属するテレサ・ゼロハートが尋問室に監禁されてから約半日。紺碧の瞳は戦慄くばかりで焦点が定まらない。弛緩した口からは唾液が垂れ、喉の奥からは風を切るような浅い呼吸音が連続する。
 尋問官の一人がテレサの横に立つ。
「も……や……め……」
 テレサの声帯が掠れた声を発した。尋問官は手にした注射器の針をテレサの腕に添えた。幾つもの針の痕が浮かぶそこに新たな痕を残し、シリンダーの中の薬液をゆっくりと静脈に注入する。注入を終えると針を引き抜いた。
「あたまが……とける……!」
 テレサが頭を激しく振り、呼吸が深く、長くなってゆく。注射器を持った尋問官が下がると、入れ替わりに新たな尋問官がテレサの前に跪いた。首を垂らして肩を上下させるテレサの顔を両手で支え、おぼろげなテレサの瞳を覗き込む。
「テレサ・ゼロハート少尉、もう一度初めからお尋ねします。鯨の歌作戦の遂行中、少尉はオリジナル・テレサとの会話を試みましたね? あなたは彼女を知っていたのですか?」
「し……りませ……ん……わたひは……こえを……たしかめなきゃ……て……」
 目と鼻と口から体液を垂れ流すテレサの呂律はまるで回っていない。尋問官はうんざりとした溜息と共に立ち上がる。すると先ほどテレサに注射を行った尋問官が横で耳打ちした。
「テレサ型レプリカントとは言え、これ以上の自白剤投与は脳に障害が残る恐れが。外科的手段に切り替えた方が懸命かと」
「おっと、そいつはいかんな?」
 野太い男の声に二人の尋問官が振り向く。部屋の隅の暗がりから、レイテナ海軍の将校服を着込んだ男が歩み出た。
「ブリンケン艦長……たすけ…………わたし、ほんとに……なにも……しらない……」
 テレサが汗で湿った前髪の隙間から紺碧の瞳で訴える。ブリンケンは視線だけでテレサを一瞥すると、鉄面皮を貼り付けた顔を尋問官に据えた。
「尋問は紳士的にやると約束したはずなんだがな? テレサ少尉はうちの貴重なエースなんだ。大事があっちゃあ困る」
「ベッケナー大佐のご心配には及びません。我々はユニオン議会の承認を受け、参謀次官の命令を遂行するべくお伺いさせて頂いておりますので」
 尋問官はブリンケンの重い声音を風と受け流した。
「尋問するならまずは猟兵連中がとっ捕まえてきたあっちのテレサの方が先なんじゃないか?」
「あちらは母機の可能性がありますので丁重に扱いませんと……おっと失礼」
 わざとらしく口の前に人差し指を立てる尋問官の仕草に、ブリンケンは目元の筋肉を微細させる。
「テレサ少尉はエリザヴェート女王陛下のお気に入りでな。あの女王陛下は不機嫌になるとすぐギロチンを落とすぞ?」
「お言葉ですがベッケナー大佐。他人の首よりまずはご自分の首を案じてなられては? あなたには日乃和政府と共謀し、ユニオン議会の承認を得ずに鯨の歌作戦を実施した嫌疑がかけられております」
「生憎そいつはうちの女王陛下が始めたことでな」
「その女王陛下の手綱を握っている者は果たしてどなたなんでしょうね?」
「あんなじゃじゃ馬を乗りこなせる奴がいるって? そいつは凄い。是非とも会ってスカウトしないと」
 ブリンケンと尋問官の間に一層冷たい沈黙の空気が降りる。全身を震わせるテレサは、消え入りそうな掠れた声でブリンケンに助けを乞い続けていた。

●レミニセンス・ザ・ワールドの表側で
 青空の彼方、カーマンラインに達する高度に開いた巨大な空洞。
 エナジー・ゲートが見下ろす空で、黄金のキャバリアが刺々しい造形のキャバリアに捕らえられていた。
 赤と黒と紫、そして金の彩色で構成されるキャバリアは、テールアンカーの先端部に備わるクローで黄金のキャバリアを締め上げる。見上げる高さまでに持ち上げられた黄金のキャバリアは、機体の全身に打撃の痕や亀裂を刻み込まれていた。四肢は力なく垂れ下がり、明滅するセンサーカメラの光は今にも失せてしまいそうだ。
「強いな……汝は。彼らにも並ぶか? 或いはそれ以上か? だが……我が子達の試練の邪魔はしてくれるな」
 耳朶を震わせる女の声。黄金のキャバリアのパイロットがアーレス大陸に住まう者であれば気付いたかも知れない。相対するキャバリアが闘神アーレスであったこと、声の主が必然的にその巫女であったことに。
「なあ、強き者よ。我が軍門に降らぬか? 汝は機械神の心臓に相応しい」
 アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダは双眸を歪めて甘く嘯く。
 黄金のキャバリアは残された力を振り絞るかのようにしてテールアンカーを拳で叩いた。アナスタシアは遺憾の吐息と共に双眸に瞼を降ろした。
「そうか。惜しいな。であるならば……いま一度、骸の海に還るがいい」

 それから幾日の間を置いた後、エナジー・ゲートの消失の報せが東アーレスを駆け巡る。

 斯くして、猟兵達はアーレス大陸への道を切り開いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年10月21日


挿絵イラスト