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正義の戦いを、君に

#UDCアース

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#UDCアース


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●グリモアベース
「今日も今日とて仕事だ。場所はUDCアースの日本。内容は捜査がメインになるだろう。……お前らダークウェブ、もしくは闇サイトって知ってるか?」
 グリモア猟兵、藤堂・藤淵が集まった猟兵達に資料を配りながら説明を始める。
「ヤク、殺人、違法ソフトの売買、銀行口座やパスポートのデータ、人身売買、売春、自殺幇助、まあそういう反社会的な活動をする連中が集うサイトを表す造語なんだがな。まあ今回はそれ絡みの事件だ」
 資料には10件もの殺人事件の詳細が記されている。つまり、闇サイトの中でも特に殺人に関する事件なのだろうことは容易に知れた。
 だが、
「警察の領分じゃねえかってツラだな。まあ俺もそう思うが、だが予知にひっかかったってところを見るとどうやら違うらしい。詳しくはわからねえが、オブリビオンが関係しているとみて間違いねえ」
 グリモア猟兵の予知に引っかかったのは、どういうわけかその闇サイトそのもの。
 そこには殺してほしい人間の名前と、知りうる限りの情報を記入する欄が存在していた。
「特殊なサイトでな。通常の手段ではアクセスも何もできない。検索したって勿論ヒットしない。アドレスを知っている奴が、然るべき手順を踏まない限りは入れないって代物なんだろうな。どうやら相手はそっち方面に明るいらしい」
 ではお手上げではないかと猟兵達は怪訝な顔をする。
「手がかりがないわけじゃない。被害者が殺される前には決まった行動、儀式ともいっていい。それが存在する。……SNSに被害者の名前と罪状が乗るんだよ。拡散希望って付けられてな。現地組織が調べたところある程度の反響があると殺害に至るらしい。あるだろ? イイネだのなんだのってアレ。それが有る一定の数になると、そいつは死ぬ」
 現状その成功率は100%。
 被害者の罪状は、虐め、強盗、婦女暴行、恐喝、詐欺、児童虐待などだ。
「つまり、多数の人間に悪党だと太鼓判押された奴だな。それ以外で殺害が成立したケースは存在しない」
 藤堂が最後のプリントを指し示して犯行の流れを解説する。

 1,闇サイトに殺害希望の依頼を出す。(住所や罪状が記載しなくても成立する点から、このサイトの運営者は高度な調査能力を有していると推測される)
 2,SNSで殺害予定者の名前と罪状が公表される。(追跡しても犯人らしき人物には至らない。アカウント削除をしても復活する)
 3,反響が大きくなると殺害に移る。(殺害方法は銃殺、轢殺、絞殺、撲殺、と多岐に渡る)
 4,犯行現場、時間、手段はバラバラ。法則は今の所見つかっていない。

「サイト、依頼者は追跡できん。そもそもそのサイトに入ることが出来ないんだから当たり前だな」
「ちなみにサイト名は?」
「……†ガーディアンズ†」
 は? という顔をする猟兵達。
「短剣符! がーでぃあんず! 短剣符! だよ! 何度も言わせるなそんなん」
 一部の猟兵が頷く。短剣符は暗黒の歴史。天使とか猫とか付いた日には死ぬ。
「ああ後、警察関係はどーいう訳か足が遅い。なんらかの妨害をうけてんじゃねーかってのが現地協力組織の見解だな。今回は警察の情報はほぼ当てにならんと見ていい」
 そもそもこのSNSでの法則を見つけたのも現地協力組織の力なのだという。
「てことでお前さんらにやってほしいのは警察の真似事。最新の事件現場付近に飛ばすからどうにかして犯人に繋がる糸口探してくれや」
 最新の事件はこうだ。
 都心で起きた殺人事件。
 被害者は諸星・剛(27)
 罪状は家庭内暴力、いわゆるDVだ。
 このDVはまだ事件として取り扱われておらず、被害者は法的措置をとられる前にこの世を去ったということになる。
 家族構成は妻、吉江(30)と息子、裕太(9)、そして深雪(8)
 殺害現場は被害者の勤め先から住居であるアパートまでの帰り道。
 死因は脳挫傷。後頭部を鈍器でめったうちにされたようだ。

 ネットに強いのならばハッキングによって情報を得ても良い。スマホやPCに関しては現地協力組織からの貸与が認められている。
 対人に強いのならば被害者に恨みを持っている、殺害依頼を出しそうな者を割り出して聞き込みをしても良い。警察、探偵、そういった者の偽の身分は用意してもらえる。
 現場に赴いて残留物や聞き込みから犯人を探しても良いだろう。
「現場には協力組織の力で入れるようにはしてある。じゃあまあ、結構長丁場になりそうな話だが、頑張ってこいや」


サラシナ
 数あるシナリオの中から拙作に目を通していただきありがとうございます。
 サラシナと申します。

 今回は調査メインですのでじっくり腰を据えて情報収集を行ってみてください。
 捜査の足がかりとなるものは全て提示してありますが、それ以外から探っても構いません。

 今回の依頼は少々ブラックな物となっておりますので、お覚悟を。
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第1章 冒険 『無責任な殺意』

POW   :    殺害現場に残留する証拠の捜索

SPD   :    被害者の知人や家族への聞き込み

WIZ   :    ネットコミュニティを渡り情報を収集する

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

波狼・拓哉
さて、探偵として腕の見せ所って奴ですかね。しかしまぁDVねぇ…んー死んで良かったとかはあんまり言い難いけど助かった人がいると考えると何ともなぁ…
さてと調査といくかな。まあ、DVだしね。出したのは被害者家族の誰かだろなぁ。話聞きに行くか。
†ガーディアンズ†というサイトについて調べてるんです。剛さんの殺害にも関係あるみたいなんですが?という感じで聞き込みを。隠しても仕方がないしちょっと突っ込んで見るか。コミュ力と言いくるめをフルに活用しようか。
…後はまあUDC案件に巻き込まれてるからUDC組織にこの家族にある程度の補填を出すように言いくるめてみよう。…少しくらいの救いをね。
(アドリブ絡み歓迎です)


八上・玖寂
随分正義感と自己顕示欲に溢れた同業者ですね。
僕なら警察沙汰になどしませんが。

法的措置を取られる前のDVということは、知り得るのは
家族かそれに近しい人物、ですかね。
被害者(夫)と奥様の職業・勤め先、子供の小学校など
基本情報を下調べした後、警察としてご自宅にお伺いしましょうか。
【礼儀作法】【言いくるめ】込みで【情報収集】。
内容は「殺害方法から見て怨恨の可能性が高い。被害者(夫)が恨みを買うようなことはなかったか」
「奥様や子供にDV傷っぽいものがあれば指摘する(怒らせると弊害がありそうなので深く追及は避ける)」
行けそうなら【誘惑】で甘言を囁いて後押しするなど。

※アドリブ歓迎


伊美砂・アクアノート
【WIZ】【他猟兵との連携を重視】【オルタナティブ・ダブル】で労働力を倍にして、他猟兵の補助に回る。電話連絡とか情報共有、技術力が要求されない仕事は引き受けるわ。…何なら炊事洗濯掃除まで、ね。全てお任せください、ご主人様。なので早く情報を集めやがれくださいご主人様。…複数形なのね。ふーん…個人的に調べるなら、警察関係周辺。できれば最初に報道関係に手を回したいね。「警察しか知りえない情報」を、人為的に作り出したい…。今回の件なら、意図的に『DVや家族のコトは報道しないように要請』…とか。…被害者プライバシー的にも正しいわよね?…で、『その公表されてない情報を知ってるヒトはネット上に居るかしら?』


勘解由小路・津雲
「法的措置をとられる前に」ということは、DVはネットの誹謗中傷ではなく事実のようだな。となると……。調べたいことは2つ、①殺害依頼を出したのは誰か、②その人物は、通常の手段ではアクセスできないサイトにどうやってたどりついたのか。いずれにせよ、①がわかれば②もわかるだろう。

■行動 さて調査だが、DVをどれだけの人が知っていたか調べたい。事件化する前だから、そう多くの人が知っていたとは思えない。まずDVを受けていたのは妻か、子どもか、両方か。その結果次第で、近所の人や、学校関係者に聞き込みもしよう。…………ちなみに、子どもたちがスマホを持っているかも、確認しておきたい。

(アドリブ・連携歓迎)


ステラ・アルゲン
依頼をするほどに殺したいほどの人間か……
綺麗事かもしれませんが、どんな悪人だとしてもその人を殺していい理由にはなりません。それに手を貸す者も放っておけませんね
その者もまた人殺しなのですから

被害者の罪状は家庭内暴力と
なら被害者の家族に本当にそういったことがあったのか、手がかりがあるか確認のために【情報収集】

話を聞くのは深雪ちゃん
今回のことで少なからず心が傷ついているでしょう
まずは【コミュ力】を持って話しかけ
【優しさ】を持って笑顔で対応し
目線を合わせて安心させるように【手をつなぐ】

事件のことをこちらから聞いたりはしません
深雪ちゃんが話してくれる会話から事件に繋がる情報を探しましょう


アイ・リスパー
「オブリビオンが絡む闇サイトですか。
これは厄介そうな事件ですね」

闇サイトの隠匿性、SNSへのクラッキング、高度な調査能力など、
相手は高度な情報技術を持つか、オブリビオンとしての特殊能力を持つかのどちらかでしょう。

特殊能力ではどうしようもありませんが、
まずは可能性を潰すために情報技術の面から調査しましょう。

「ネット技術でしたら、電脳魔術士の私にお任せください」

ホログラムディスプレイとキーボードを取り出し、
闇サイトを突き止めようと調べたり、SNS をクラッキングして相手の痕跡を探したり、ネットの噂話を調べたりと調査をおこないます。

調査で得られた情報は味方と共有しますね。

「痕跡があるといいのですが」


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
まるで中世の公開処刑や闘技場の剣闘士の殺害に熱狂する観客の様相ですね…。
正義に酔っての行動こそが一番恐ろしい。そして、私もいつの間にか彼らと同じ側に立ってはいないか、それが一番恐ろしいのです

…捜査と参りましょう
ハッキング技能は持っていますが元々自分の頭を弄るための付け焼刃、ネット関係は他の方にお任せ
警察を騙り、礼儀作法で被害者遺族や知人、児童相談所の方から情報を得ましょう。その際、闇サイトの情報を見せ、センサーで動揺を見切り怪しい方をリストアップ、フォルター様にお任せします。
…子供達にも注意を払いましょう

前回この方法は空振りでした。今回もそれなら彼女にワインを奢らなければなりませんね…


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

【古城】で参加

ほぅ…これが多数決、民主主義という事か?
我がこの世界に生まれていれば、こうやって粛清されていたかもしれぬな

さて、今回も対人調査を行うか
妻の遠縁を騙り、まずはトリテレイアが纏めた人物に接触する
誘惑やUC:ヴィーゲンリード、言いくるめ、場合によっては恐怖や殺気を用いる事も厭わぬ

被害者と共に居住していた以上、遠方の相談機関に駆け込む事は難しい筈…近隣の他の相談機関も訪ねてみよう
子供の同級生の母親にも聞き込みをしてみるか
他所の子供が闇サイトの噂をしていたのをその母親が聞き、それを妻が知り…という経路もあるかもしれぬ

出来れば、ワインは勝利の祝杯として飲みたいものだな

※アドリブ歓迎


レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み歓迎

――気に食わんな。蚊帳の外の無責任な声による「復讐代行」など

◇事前準備
SNS上に上がった罪状の「真偽確認」と「被害者」のリストアップ
変装技術で自分の顔に実際に傷をつけ「ひどいことをされた仕返しに闇サイトの噂を探る」人物を装う
服装も少し女性らしいものを着るか

殺された者たちから被害を被った人間なら
その中で本当に「闇サイト」に頼った者なら
傷口を見せて“同類”であることを示そう
「私の顔に一生消えない傷をつけた奴を罰したい」とかなんとか適当に理屈もつけて
彼らがどう「闇サイト」の戸口を叩いたかを聞き出せればいいが

ま、空ぶっても気にするな
人の口に戸は立てられぬ、だ
聞き込み続行。足で稼ぐぞ


ファン・ティンタン
【POW】人の殺し方、殺させ方

嫌だね、感情で殺しをするんだから…人間は
そこまでなら、まぁ、まだ分かる
でも……他人の感情を代弁するなんて、何様のつもりなのかな?
感情は、その人だけのものだよ、そうでなくちゃいけない
故に―――私は理性をもって、犯人を追い詰めよう

殺害現場の男性の状態を調べることで分かることを【情報収集】する
特に、頭部への致命打、それを武器としての【戦闘知識】と【第六感】を元に観察する
威力は?殺意は?腕前は?得物は?

残留物や、現場周囲で古そうな物品があるようならば【付喪神ねっとわーく】を使用して何か分からないか調べてみる
特に、古い物品があれば【コミュ力】を行使し、物からの聞き取りも検討


狭筵・桜人
◼️WIZ

良いですねえ、入り口が隠された闇サイト!
おっといけない。お仕事でしたね。
【コミュ力】を発揮してSNSで【情報収集】してみましょう。

被害者の罪状は家庭内暴力ってことなんで
被害者の奥さんのSNSアカウントを探ります。

いやー好きなんですよね、SNSで主婦の愚痴眺めるの。
おっといけない。お仕事お仕事。
見つけられたらフォロワーや親身にリプってる人をリストアップします。

奥さんがSNSやってなさそうなら検索に引っかかる程度の
殺人依頼サイトを探って熱心な投稿者にコンタクトを取ってみましょう。

利用者はどうやって件のサイトを知ったのか?
……ひょっとすると、求めよさらば与えられんってやつかもしれませんね。


嶋野・輝彦
●POW
諸星吉江を脅してガーディアンズに俺の殺害依頼を上げさせる
脅せば犯人かどうかわかるだろ?そこがわかるだけでも御の字だ

事前準備として集めたガーディアンズの資料のコピー
でっち上げた怪文でも良い

で警察手帳使って
今回の事故について…的な感じで家に

恫喝、存在感、コミュ力で
クソ犯罪者がゴラァ!
コピーした資料ぶちまけて
恫喝、存在感、コミュ力
この資料近所にばら撒いたらどうなると思う?やったとかやってないとか関係ねぇんだよ。生活は?子供は学校で?
俺が満足する答えを聞こうか

犯人じゃないなら星に近い奴を言うだろうし犯人なら殺害依頼だすだろ
後は第六感で警戒
不意打ちには激痛耐性、覚悟で耐える
毎日脅しに行って釣りだ


出水宮・カガリ
ひとが、ひとを、殺す
「都の城門」としては…それもまた、ひとの営み、なのだが
…オブリビオンが関わるのであれば、「ヤドリガミの猟兵」として、ひとの心という城を守らねば

組織の人間に、まず確認を
法的措置…?とやらを待てば、男は殺されずに済んだのか
この世界の、ひとの常識に疎くてな

もし、穏便な解決が有り得たのなら
それを待てなかった、あるいは…穏便に解決すると、困ったのか
それほど、強く恨んでいたか、それに何かが手を貸したか
その辺りを注意しつつ、現場の残留物を目を凝らして(視力)探してみるな
後頭部を殴ったのなら、血痕か、倒れた際の擦過痕が残るだろう
そこから、犯人の身体特徴や、鈍器の特徴を絞りたい


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
ガーディアン……守護者、か。
猟兵なんてやってるおれが懐いていい疑問じゃねえだろうけど……何を守るためなら、人殺しが許されるって思えるんだろうな?

ウェブには詳しくねえ……つーか苦手だし、ハッキングなんてそれ以前の話だけど、気になることがあるから今回はこっちで調査してみる。
そのサイトの存在が、どうやって“利用者”に知れ渡るのか、そもそも何歳くらいの人間が興味を惹かれてるんか。
SNSだっけか、掲示板だっけか? とにかくウェブで評判になってそうな所を虱潰しに探してみる。
こんなのが流行ってるとは考えたくねえし……普段ウェブに触れてねえ、年端もいかない子供が引っかかってねえと善いけどな。




(ガーディアン……守護者、か。猟兵なんてやってるおれが懐いていい疑問じゃねえだろうけど……何を守るためなら、人殺しが許されるって思えるんだろうな?)
 鏡島・嵐が迷路じみた思考へと沈みかけながらスマホをいじる。
 ハッキングなどというものではない。ただ単純にネットを巡回しているだけだ。
 もともと彼にはそういうツールもなければスキルもない。ただ純粋に心配になったのだ。
 一体誰が殺しの依頼などというものに手を出してしまうのか。どういった経路でそんな仄暗い道へと足を踏み入れてしまうのか。
『殺人請負』『殺人依頼』『†ガーディアンズ†』等々。
 思いつく限りの単語を検索にかけてまわる。
 出てくるのは都市伝説めいた物から実際に起った事件、それこそガーディアンズが関わったと噂されている物のまとめ記事なんてものまで。
 見ていて楽しくなるようなものではない上に、猟兵達が掴んでいる情報以上のものは無かった。
 次いで掲示板やSNSで同様の単語を検索にかけてみる。
 出てきたのは悪意そのものだった。
 被害者と言う者たちの恨みつらみ。理解しづらい理屈で相手を逆恨みした者たちの憎しみ。
 同僚、上司、部下、伴侶、子供、親、ありとあらゆる関係性の中に悪意が有り、殺人サイトという都市伝説じみた存在を希求する”需要”が存在していた。
(なんで、こんな)
 気分が悪くなる。
 誰かの死をこれだけ多くの人々が望んでいるという現実に打ちのめされてしまった。
 特定の年代に限った流行などというものではない。誰もが望んでいるのだ。
『自分が嫌う存在が消えてなくなること』を。


(しかしまぁDVねぇ……んー死んで良かったとかはあんまり言い難いけど助かった人がいると考えると何ともなぁ……)
 オブリビオンの影が見えなかれば関わらなかったかもしれない。いや、どうだろうか。
 複雑な想いを抱いて波狼・拓哉は被害者のマンションを訪れていた。
 当然の如く周辺には野次馬や報道関係者が詰めかけている……と、思われたが、噂話をする女達と、遠巻きに写真を取る者が居るくらいでマンションの前はそれほど混雑もしていなかった。
(もしかして、UDCが上手いことしてくれたのか)
 報道も一企業に過ぎない。金銭や平和的お願いによって出足を遅くすることは不可能ではないのだろう。
 通り過ぎざまに女たちの声が聞こえてくる。
「聞いた? あの噂」
「ああ、SNSの?」
「そうそう。まったく正義の味方気取りなのかしら。怖いわねえ」
 警察の動きが鈍くとも、人の噂に戸はたてられないということか。
 誰はばかること無く交わされる噂話。こんなに身近で起きた事件だと言うのに彼女らはどこか対岸の火事を見ているような呑気さだ。
 悪党とそれを殺す謎の人物。そういう構図が出来ているからこそ『自分は違う』と単純に思い込める図々しさが垣間見える。
(気分悪っ……)
 悪だとカテゴライズされたらいとも容易く殺される。真偽も定かではないというのに、だ。その恐るべき事実をこの中の誰も気づいてはいない。
 自分がそのターゲットになるかもしれないということを誰も想像していない。
(まあそんなものか)
 探偵を生業とする波狼には見慣れたものだ。
 人の無知、傲慢、楽観。
悪意などより余程たちの悪いそれらは、逆を言えばそれだけ平和だという証でもある。次は自分かもしれないと怯えすくむ世界はそれはそれで悲劇的だ。

 とはいえ、見慣れていても割り切れはしない。小さく溜息を吐いてから波狼は遺族との面談にこぎつけた。
「ガーディアンズ、というサイトについて調べているんです。剛さんの殺害にも関係があるみたいなんですが、何かご存知ありませんか?」
「いいえ……わかりません」
 妻、吉江はありていに言ってしまえば暗い女だった。
 頬は痩け、体は華奢で、来客を出迎えたというのに化粧の1つどころかセミロングのその髪は禄に整えられては居なかった。
 うつむきがちな視線は年下である波狼を捉えること無く、常に自身の手や膝、テーブルの上をさまよっている。
 落ち着きがない。
 夫が死んで情緒が不安定になるのはわかるが少々怪しくも見える。
「SNSの書き込み……その反応だと、ご存知ですよね。剛さんが行ったDVについてなんですがあれは本当ですか?」
「っ……。それと、今回の事になんの関係があるんですか」
「すいません。言いにくいことなのは重々承知しているのですが、これも犯人を見つける為でして」
 答えは沈黙だった。それが何よりも雄弁に真実を語っている。
 暴力はあったのだ。では何故隠すのか。夫を愛していたからか、それとも。


(随分正義感と自己顕示欲に溢れた同業者ですね。僕なら警察沙汰になどしませんが)
 波狼同様、聞き込みに来ていた八上・玖寂だ。
 この世界では毎日、いや毎秒人が消える。自殺であったり行方不明であったり、変死であったり。だからこそ騒がれない。他殺でない限り誰も大騒ぎをしない。自殺でさえ最早騒がれはしない日常の一部なのだ。
 木を隠すなら森。行方不明でも自殺に偽装するでもやりようはあるはずなのに、態々公に罪を見せつけ、断罪する。
 犯人の愉快犯的な性癖と、捕まえられるものなら捕まえてみろという圧倒的な自負が垣間見えた。
(ならばまあ、その鼻っ柱を叩き折ってやりましょう)
 情報は多い。遺族、遺体、Webの痕跡。どれが当たりになるかはわからないが、とりあえずは遺族から当たるのがセオリーだろう。
 一番恨みが深いのは被害者の親族。これもまたセオリーであった。

「殺害の方法から見て怨恨の可能性が高いのです。正直に言ってしまいますが、貴女を疑わざるを得ないのが現状なのです」
「っ!? 私は! あの人を殺してなんて居ません! 誰が好き好んでそんな恐ろしいことを!」
「はい、私も貴女にはそれが不可能だと確信しています。けれどそう思わない者も警察関係者には居るのです。どうか、もう少しお話を聞かせていただけませんか? それが貴女自身の身を守る為にもなるのです」
 優しげな笑みを顔に貼り付けて、女を籠絡する誘惑の術すら使いながら八上は裏で思考する。
(事実そうだろう。彼女には実行するのに足る腕力が有るようには思えないし、仮に殺しを依頼するにしろメリットが少ない)
 部屋の中を観察した上で判断するならば、生活はけして豊かではない。都心のマンション住まいとなれは見た目は裕福そうなものだが、いざ部屋に入ってみれば中身は安物の家具、家電。
 訪問前に軽く調べた限りでは収入自体多くはないようにみえた。見栄でこんな所に住んでいるのか。子供2人を養うのはギリギリといったところだろう。
 まともな判断力が有るのならば稼ぎ頭を殺してくれなどとは依頼しないだろう。衝動的に殺したならいざしらず、あれは計画的な殺人だった。
「……暴力は、ありました。でも……それに、あれはしつけだって……あの人が。止めようとすると、私にも……」
(成る程。夫を恐れて言いなりになり子供への暴力を見て見ぬふりをした……。だから話したがらなかったわけですか)
 愚か、とは言い切れない。そもそも断罪する気など八上にはない。事実を事実としてただ無感動に受け止めていた。


(依頼をするほどに殺したいほどの人間か……綺麗事かもしれませんが、どんな悪人だとしてもその人を殺していい理由にはなりません。それに手を貸す者も放っておけませんね。その者もまた人殺しなのですから)
 ステラ・アルゲンは他の猟兵達と同様に諸星家に上がり込んでいた。
 しかし目的は別。彼女は妻、吉江ではなくその娘から話を聞こうと試みたのだ。
 彼女は吉江や猟兵達がいるリビングではなく子供部屋の隅で小さくなっていた。知らない者が大挙して押し寄せたのでびっくりしたのかもしれない。
「深雪ちゃん、少し私とお話ししてもらってもいいかな?」
 膝を折ると、少女と目を合わせてそっと手を繋ごうとした。びくり、と震えた体が、怯えの視線が痛ましい。
(こんな歳で、人を恐れて……)
 もっと無邪気に優しさを受け入れても良い年頃なのに、びくびくと此方の様子を伺う様子はあまりにも悲しい。
 瞬間、背後から敵意。
 幾多の戦場を渡り歩いてきた彼女は反射的にそれを跳ね除けようとして、やめた。
 ガツリ。
 肩口に軽い痛み。本当に些細なそれ。
「深雪から離れろ!」
「お兄ちゃん!」
 台所から持ってきたのだろう。すりこぎを手に持って震えている少年が、少女を守るように割り込んできた。
 長男の裕太だろう。少年の目は誰も彼も、世界の全てが敵だとでも思い込んでいるかのように暗く鋭い。
 痛ましさが募る。どれだけの苦しみをこの子供たちは味わい、耐えてきたのか。
「立派なお兄さんだね。大丈夫。私はステラ。ステラ・アルゲン。君たちの味方だよ」
「うるさい! 大人なんて信用できるか! 出てけ! 深雪は俺が守るんだ!」
「私は君たちに酷いことをするつもりはありません。お話を聞きに来ただけ」
「話すことなんてない!」
「わかりました。では、こうしましょう。部屋からは出る。扉も閉めましょう。そのかわり少しだけ、話を聞かせてください」
「お兄ちゃん……」
 深雪がそっと兄の袖を引けば、不承不承という顔で了承したのだった。

「で、アンタなんなんだよ。けいさつか?」
「似たようなものです。お父さんの件は、大変でしたね」
「……ああ」
 間が空いた。奇妙な間が。まるで本音を飲み込んだかのような。
「何か思うところでも?」
「なんでもねえよ。アイツの事、調べに来たのか?」
「アイツ、が君たちのお父さんの事でしたら半分正解です。もう半分は、君たちやお母さんが大変じゃないか心配で来ました」
「別に。もっと記者とかがたくさん来るかと思ったけど、そういうのも無いしどうってことない」
(父親が亡くなったというのに、そこですか)
 心情面ではなく実生活の苦労と取った。余程彼の中では父親という存在の価値は低かったと見える。
「辛くはないのですか? 深雪ちゃんや君は」
「わたしは、だいじょうぶ」
「深雪はいいから静かにしててくれ。……辛いは辛いけどな。死んじまったんなら、俺がこいつを守らなきゃだし。くよくよしててもはじまんねえし。だからもういいだろ、帰れよ」
「そんな邪険にしなくても、私は何もしませんよ」
 それきり、子供たちは何も返事をよこさなくなった。
 余程嫌われたのか、それとも。
(妙に引っかかる。この奇妙な感じは……)
 首を捻りながらアルゲンは部屋の前から去るのだった。


「成る程……やはり主な被害者は子供、か」
 他猟兵からの連絡を受けた勘解由小路・津雲がわずかに顔を歪めた。
 ある程度予想できた話だった。水が低きに流れるように、暴力の向かう先は何時だってより弱い者だ。
「ちなみに子供にスマホやPCといった通信手段は……無い? そうか、ありがとう。参考になったぜ」
 最悪の場合、彼もしくは彼女が殺人依頼を行ったのではないかと踏んだのだがそういうわけではないのだろうか。否、まだ判断を下すには時期尚早だ。
 子供たちの関わった人間を当たってみるのがいいだろうと聞き込みを開始する。
 隣近所の主婦に聞き込みをすれば、確かに夜中、子供の泣き声や夫の怒鳴り声が聞こえることは有ったという。
「でもまさかここまでの事だとは思わないじゃない? ネットで上がってた旦那さんのやってたこと見てぞっとしちゃったわよ。あれでしつけだったって? そんなことあるわけないじゃない。私だって子供を叩いたことくらいありますけどね、殴ったり蹴ったりとはわけが違うわよ。どう考えてもあれはやりすぎ。吉江さんも然るべき所に相談すればよかったのにねえ」
「お、おう。参考になった。もういいぜ。あ、最後に1つ、ガーディアンズって言葉に聞き覚えは?」
「なにそれ。漫画かアニメの話?」

 学校関係者。
「ええ、深雪さんがたまに保健室で休んでいるところは見ましたが、まさか虐待を受けていたなんて……。気づいてやれなかったのが悔やまれます」
「つまりあんたはSNSのその情報を信じると?」
「……はい。言われてみればそういった兆候がありましたから。私は、忙しさを言い訳にそれに気づかないふりをしていた。今ではそう思います。私も同罪ですね……」
 娘の方の担任教師で若林と名乗る若い男だった。
 悲痛な顔は真に生徒の境遇に同情をしているようで好感が持てた。
「そうだな。もう二度と、そんな生徒を出すんじゃないぞ。で、だ。他に彼らが接触したと思われる人物は居ないか。相談所や親戚を頼ったような形跡は?」
「私が知る限りは……。大人しい、というよりも自分を表現したり発言するのを恐れる傾向がある生徒でしたので。お兄さんである裕太さんがいつも引っ張ってあげていた印象ですね。そちらの担任にも話を聞いてみますか?」
「頼む。ああ、最後に1つ、ガーディアンズという名に心当たりは?」
「はい? いえ、聞いたことはありませんが、何かこの事件に関係が?」


 裕太の担任は田沼といった。中年の目付きの鋭い厳しそうな男だ。
「親御さんの証言があったとしても、ねえ? 此方としてはなんともお答えできません。お引取りください」
「おい、実際にそれで人が死んでいるんだぞ」
「痛ましい事件だとは思います。謹んでご冥福をお祈り致します。ですが、それとこれとは関係がありません。此方では虐待の事実は認められなかった。親御さんもしつけだと言っていたのでしょう? そこに介入しろとおっしゃるんですか」
「そうは言っていない。ただ、何かそちらで働きかけは無かったのかと問うているだけだ」
「ありません。仮に虐待があったとして、それを見つけられなかった事実は深く反省し、今後このようなことが起きぬよう努力していきたいと思います」
「そんな紋切り型の返答を聞いているのではないのだが」
「それ以外に答えようがないじゃないですか。もういいですか? 教師というのも刑事さんほどではありませんがそれなりに忙しいもので」
 取り付く島もないとはこの事か。田沼は時計を気にしながら此方の返答も待たずに立ち上がる。
「最後に1つ。ガーディアンズという名前に聞き覚えは有るか?」
「ありません。本当に忙しいんで、勘弁してくださいよ」


「最後に、児童相談所にもいいですか」
 学校を出るなり勘解由小路の横に侍っていたトリテレイア・ゼロナインがポツリと呟いた。
 彼は聞き取り調査の最中、その内蔵されたセンサーをフルに発揮して返答者の心拍、瞳孔の変化、声の抑揚を観察していたのだ。
「ああ構わないが、今までのは空振りだったのか?」
「……なんとも言えません。ですが、関係がありそうなところは全て回ってから判断を下したほうが良いかと」
「そうか。じゃあいこうぜ」

 2人は先程と同様、警察を名乗って近場の相談所を訪れて聞き込みをした。
 今度の聞き役はトリテレイアが担当した。
「諸星さん……ですか。こちらのデータには何も残っていませんが」
「虐待が有った可能性があるのですが、一度も?」
「ええ。ですからそう言っているのですが」
「……こういう案件は詳しくないのですが、有りうるのでしょうか。虐待被害者が誰にも助けを求めないなどということが」
「はぁ、良いですか刑事さん。いじめにしろ虐待にしろ被害者が即関係機関に相談する、そんな単純な話ではないんです。被害者が全員きちんとそういうシステムを理解して協力を仰ぐ姿勢をもてるなら、あんなものはいらないんですよ」
 富士と名乗った女性職員は、壁に貼ってあるポスターを指差す。
「ひとりで抱え込まないで、ですか」
「はい。こうやって地道に活動を続け虐待が認知されたお陰で相談件数は増えていますが、それにしたって氷山の一角だと思います。自分のせいだと思い込んだり、親への愛情であったり、知識が無かったり、声を挙げられない年齢だったり、様々な要因で相談が出来ない子共というのはいるんです。刑事さん、親に殺される子供が年間何人居るか、ご存知ですか?」
「いえ、お恥ずかしながら……」
「認知されているだけで毎年50人前後です。70や80の年だってあります。殆どは赤ちゃんですけれど、それだけの子供が親からの理不尽な暴力によって亡くなっているんです。もしその子達が周りの大人に、我々に相談できたら、と思わずにはいられません……。ですから周りの大人が、彼らの言葉以外のサインを見つけて導いてあげなければならないんです」
 その言葉には真実があるように思われた。顔にはどうしようもない現実に挑み、疲れた大人の苦悩が見えた。
「ご教授ありがとうございました。それと最後に1つ、ガーディアンズという言葉に聞き覚えはありませんか?」
「いえ。何かのフィクションかなにかですか?」

 相談所を後にしたトリテレイアは空を見上げた。
 雲ひとつ無い快晴。だというのに、彼の心中は曇りきっていた。
(明らかに嘘をついている怪しい人間は、居た。だが何故。悪意を感知する機能などありませんが、それでも邪悪なようには見えなかった……。何故)
 青空は答えてはくれない。
 トリテレイアはかぶりをふって頭を切り替えた。悩むより、行動だ。



「はい……はい。それでは、よろしくおねがいします」
 現地協力組織が用意した車の中で、通話を切った伊美砂・アクアノートは軽く溜息をつく。
 彼女が買って出たのは情報の管理だ。現地協力組織の力を使って報道、そして警察に手を回し此方と被害者に有利に事を運ぼうと動いたのだが。
(流石に情報の伝達が早い。後手に回りましたが、それでもなんとかなってよかった)
 そもそもグリモア猟兵自体、殺人事件そのものを予知したわけではない。事件になり公になったからこそ今回の依頼となったのだ。事件が起これば数時間後には速報でTVに流れる。全国どこでも、だ。
 冷静に考えたら恐ろしい話だ。
 それでも彼女の根回しにより報道関係者は被害者遺族を囲むこともなく、DVの事実はごく一部、それこそ当時のSNSを見ていたような人間しか知らないという状況を作ることに成功した。
 諸星剛の罪状をあげつらった投稿もすでに管理側から削除してもらっている。どこまでこの手が有効かは未知数だが、知るものを一部に絞れただけでも良しとしよう。
 端末が振動する。
 遺族へと聞き込みにいっていた者たちからの定時連絡だ。
「はい、はい。かしこまりました」
 その場で端末に情報を書き起こして共有ファイルに入れていく。要すれば電話連絡もする。
 多数の猟兵が参加している作戦だからこそこういったまとめ役、連絡係は必須である。
「お疲れ様でした。お茶を用意してお待ちしておりますので、さっさと次の情報をとってきやがりくださいませご主人様」
『んん? 口調が面白おかしくなってるがどうした』
「失礼いたしました。どうもしやがりません。これが素ですのでさっさとお戻りください」
『お、おう』
 多重人格者の言動に一々気にしていたら疲れると悟ったのか、それとも不機嫌だと思ったのか、通話口の相手はそれ以上突っ込まなかった。
 気を取り直して端末の情報を整理していく。
(虐待があったと知っていたのは近所の主婦、そして教師の若林……彼らはSNSで知ったといっていたが本当にそうでしょうか? いくら拡散されたからと言って近所の人間の特定の話題を都合よく知っているもの? わからない。けど、怪しい)
 そういったネット関係に伊美砂は明るくない。餅は餅屋にまかせるに限る。
 視線を巡らせれば電脳魔術士達が端末をいじっているのが見えた。


 グルもしくはウィザードと呼ばれる人種が居る。
 パソコンに精通し、ネットの海を縦横無尽に航海し、常人には思いもよらない魔術的な成果を成す。
 ある一面においてそれは正しい。実際彼らは通常の技術者の何倍も効率的に作業をこなし、セキュリティを突破し、修復し、攻撃し、防御もする。
 だがそれはあくまでネットワークという大海を知っているだけに過ぎない。
 彼らは別に魔法使いではない。突き抜けた技術者なだけだ。ネットワークという幻想の海を支配はできないのだ。できるならば今すぐにでも世界征服だって可能になってしまう。
 そんな脆弱な物であれば米国はネットワーク黎明期に金を投じたりはしない。
 それは電子的な生命体でも、電脳魔術士と呼ばれる者たちでも同様だ。
「特殊能力、ではありませんね。これは純粋に人の技術……」
 ほぞを噛む思い出ホログラムディスプレイを睨んでいたアイ・リスパーが呟く。
 横から覗き込んだ伊美砂が首をひねる。ちなみに彼女は【オルタナティブ・ダブル】で分身したもうひとりの彼女だ。
 元の伊美砂は今も電話番と情報の整理に奔走している。
「IPアドレスをたどって犯人を見つける、みたいな事って出来ないんですか?」
「捜査権があってかつ相手が迂闊であれば可能です。ですが、これは……」
「IPが無い?」
「いいえ、秘匿性と暗号化が複雑なんです。経由地が無数にあって、たどり着いたとしてもダミーで。深い領域、ダークウェブなんて呼ばれる領域はほぼ常識のようなものなんですが」
「よくわからないんだけど」
「玉ねぎっていくら剥いても剥いても同じでしょう? それと同じ。辿っても辿っても本当なんてものには行き当たらないんですよ」
 隣に座っていた狭筵・桜人が茶化すように口をはさむ。いや実際茶化していたのかも知れない。彼は心底楽しげにスマホを弄っている。
「良いですねぇ、入り口が隠された闇サイト! わくわくしてしまいます、っといけない。お仕事でしたね」
 女性2人はそんな彼を胡乱な目で見つめるだけで突っ込みは入れない。
「こほん。語弊を承知で単純に言ってしまえば、Aさんの家からBさんの家への直通の道路があるのが普通の回線だと思ってください。これならIPがわかれば辿れます。プロバイダに協力してもらえれば、ですが。ですがこれは、Aさんの家に行くのに、一度隣の県に行って、さらにそこのCさんから車を借用し、更に隣の県に行って、自転車をつかって、というように複雑怪奇な移動の仕方をしているんです。辿るのは容易ではありません」
「ダミーというのは?」
「SNSへの書き込みですね。たぶん、スマホ。もしくはPC。消されたら別、消されたら別と、複数のそれらから送られていますが、全て乗っ取られた無関係なモノだと思います。そういう終点は見つけましたが、本命ではありません。持ち主の知らないうちにバックグラウンドで行われたのでしょう」
「……できるんですか、そんなこと」
「私なら、というかハッカーならお茶をしながらでも出来ますが、試しますか?」
「遠慮しやがりますわよ」
「実際今私がやっているわけですが」
 再度横から狭筵が口を挟めば、屠殺される豚を見るような目で伊美砂が見下ろす。
「いやいやいや、嘘ですよ嘘。普通に私のアカウントから彼女のを拝見してるだけですって。いやだなぁ、視線だけで寿命が縮む」
 おおこわ、なんて言いながら弄っていたスマホをみせれば、そこには件の諸星吉江のSNSのトップページらしきものが映る。
「まあやろうと思えば出来ますけど。禄にガードもしてなければパスも単純。多分フリーソフトでもいけちゃいますよ、これ」
「犯罪……」
「何を今さら。大事の前の小事、やむを得ない犠牲。コラテラル・ダメージというやつですよ。大体やってませんし。……お、主婦同士の愚痴はえぐいですねえ。大好きですよこういうの」
 およそ人に見せてはいけないようなゲスい顔をしてログを漁る狭筵。
「……まあ、そこの方が言うように、アカウントの乗っ取り程度でしたら本当に簡単なんです。今回このガーディアンズに使われたダミーも同様です。予め仕込まれていたか、何らかの手段で潜り込ませたか……出処を探るのは不可能ではありませんが警察レベルの組織力と時間が必要ですね」
「サイバーウィザードでもお手上げですか」
「時間と人員と資金を無限にいただけるのでしたら虱潰しでいつかは解けますが、今すぐ私1人でというのならば無理です。ネットワークというのは超巨大な仮想の世界そのものです。それに個人で挑むようなものと言えばわかっていただけるかと。掌握なんてできませんよ。出来てたら世界そのものがひっくりかえりますし」
 出来ない理由を述べながらリスパーが悔しげに俯く。
 電脳魔術士のプライドが傷つけられたのかもしれない。まさかここまでしっかりと敵が、オブリビオンが犯罪をやっていたとは思いもしなかったのだ。
 吉江の対人関係を洗い出していた狭筵が顔を上げて。
「闇サイト自体は見つけました?」
「はい、それはもうとっくに」
「仕事が速いですね。何か面白い情報は?」
「多少は。ですがこれも本人に繋がるものではありません。たとえクラックしたとしても、修正プログラムが走るように作られていますし、ミラーがいくらでもある。1つが死んだ所で他の物が生きていれば意味がありません。ですが……」
「ん?」
「面白い情報というやつです。彼ら……彼らですね。殺人に関与した複数の人間の会話ログを手に入れました。対象の情報を調べ上げた者の書き込みがあります。丁度、諸星さんの事件についての音声や映像データなんか転がっていますよ。多分これで相手の罪状を確定させて、SNSに書き込み……そして」
「殺害」
「はい。殺害した人間、それを移動させた人間。凶器を準備し破棄した人間。複数人の、まったく繋がりのない人物同士がここで連携して行動していますね」
「ネトゲのPTプレイそのままですね」
 狭筵が嗤う。信用どころか顔も、名前も知らない同士が集って1つのミッションをクリアーする。バカバカしいほどの類似性だ。
「ちなみに個人に繋がるような情報はありましたか?」
「残念ながら。ただ、仮にこの行動をしているのをチームと呼称しますが、チームは複数あります。今回の事件と、前回の事件、さらにその前と、全ての事件は別のチームが当たっています。文章の特徴などから同一人物が複数事件に関わっているようには見えません。何故か」
「ふむ……地理的な制約、リアルの都合、そんなところですか。ネトゲあるあるですね」
「恐らくそうでしょう。彼らは参加できる案件にのみ関わり、見ず知らずの人間たちと協力して犯行に当たり、そしてまた新たな依頼が来るのをまっているのです」
 ふと狭筵は思いいたる。ネットゲームなどよりも類似しているものが今目の前に居るではないかと。
 そう。
 まるで自分たちのようだ。
 名前も知らず、想いも知らず。依頼に集って悪を討つ。
 中々に皮肉が効いている。
「ま、いいです」
 どうでも。
 正義も悪も、高潔さも下劣さも、全てひっくるめて嘲笑って。
「ちなみにこっちは空振り。ネット上では諸星吉江と殺人サイトへの直接的な繋がりはありません。それこそ垢乗っ取ってメールや通話ログを取ってもいいですけど、ねえ?」
 それはもう少し調べ上げてからでも遅くはなかろう。藪をつついて仲間割れ、などとなってはたまらない。
 これでも仕事はそれなりに真面目にやるつもりはあるのだ、狭筵も。たまに趣味に走るだけで。
「もう少し探りましょう。それでどうしても彼女がクロだと思えば」
 その時だけ、ほんの少し正義と高潔には目をつぶっていてもらおう。



(嫌だね、感情で殺しをするんだから……人間は。そこまでなら、まぁ、まだ分かる。でも……他人の感情を代弁するなんて、何様のつもりなのかな? 感情は、その人だけのものだよ、そうでなくちゃいけない。故に――私は理性をもって、犯人を追い詰めよう)
 現場へと赴いたファン・ティンタンはぐるりと周囲を眺めながら決意する。
 ふと視界に見慣れた後ろ姿が目に入った。出水宮・カガリ。同じヤドリガミ同士、名前を呼び合う程度には親しんだ仲の男だった。
 どうやらどこかと通話をしているようで話しかけるのは控えようかと思っていたのだが、向こうの方から気がついて近寄ってきた。
「ファンか。現場の確認に来たのか?」
「ああ、そういうカガリも、か」
「丁度確認も終わった所だ。2人で意見を交換しながら見てみるのもいいだろう」
 出水宮は現地協力組織とコンタクトを取り、法的措置というものが間に合っていたらどの様になっていたのかを聞いていたのだ。
 答えは『場合にもよるが、虐待者を近寄らせないようにしたり被虐待者を保護するということもできた』というもの。穏便に、誰も死ぬこと無く解決することは可能だったかもしれないのだ。
(それを待てなかった、あるいは……そういう形で解決すると、困ったのか。それほど、強く恨んでいたか、それに何かが手を貸したか)
 見極めなければならない。

 
 規制線を超えて現場へと入った2人は未だ凄惨な痕の残る路地を、猟兵の視点で観察する。
 遺体は既に検視へと回されていたが、警察の内部協力者から画像データを手に入れることはできていた。
 人によっては吐き気を催すような凄惨な画像をティンタンと出水宮は眉1つ動かすこそ無く見つめ、現場と照らし合わせながら推理を始めた。
「頭部が原型を留めないほど殴ってる。人外の力か? いや、違う……」
 どう見ても複数回の攻撃の痕がある。何度も何度も叩いた結果このような状態になったのだろう。
 少なくともオブリビオン、超常の者の犯行には思えない。もし人並の膂力しかないようなオブリビオンがいたなら話は別だが、そんなものはティンタンは知らない。
 情報は他にも有る。
 遺体はうつ伏せに倒れている。また血痕の形状から推測するに立った状態から一撃を背後から貰ったものと思われた。
 遺体や着衣に突いた血痕は主に背中に集中しており、腹側には地面を伝った物以外は付着していない。

 状況を想像してみる。
 暗い夜道。人気はない。通り慣れた道だからと警戒も何もなく歩く被害者に背後から迫る犯人が凶器を振り上げる。
 一撃。
 被害者は血を撒きながら腹ばいに倒れる。
 さらに犯人は何度も殴り、頭部を破壊した。

 しかし不思議だと2人は首をひねった。
 どれが最初の一撃かは判別が出来ないが、被害者に抵抗や藻掻いた形跡が見られない点から最初の打撃ですでに諸星剛は亡くなっていた可能性が高い。だというのに何度も執拗に攻撃を加えているのが解せない。
「カガリはどうしてこんなに何度も殴ったか、わかるか?」
「もしかしたらだが、恨み……かもしれないな。1発殴るだけでは足らないほどの殺意があれば、こういう事をするのではないか?」
「恨みを持った者の犯行だと」
 だとすれば真っ先に思いつくのは家族。妻と幼い2人の子供が怪しいのだが。
「そうでもなければここまで殴る理由が見えないな。もしくは頭を潰す事にこだわる性癖、残虐な性根なども考えつくが。とはいえカガリは城門。人の心は伝聞と関わった人からの推測しかできない」
「……だが、恨みを持っていた人間だとすると家族だろう? 彼女たちにこのような事は可能だろうか?」
 凶器は円柱形の何かであろうことは2人とも睨んでいた。ハンマーの類ではない。丸い棒状の、それこそ棍棒のようなもので殴ればこのような傷になると経験則でわかったのだ。
「子供たちには無理だな。力以前に背が足りない」
「確かに。背後から頭を殴るには、な」
 仮に子供が殴りかかっても背中に当たるのが精々だろうというのは容易に想像がつく。
 諸星剛は180cmは有るのだ。小学校低学年の平均的な身長しかない子供たちには不可能だろう。なんらかの策を弄して屈ませた上で殴るのならば可能かもしれないが、あまりにも無駄が多いように思える。
「では妻だろうか?」
「可能性的には一番ありえそうだが……ファンはどうみる?」
「私は違うと思う。腕前は我々から見たら児戯に等しいが、傷が深い。人間の頭蓋骨を陥没させ、果ては破壊し尽くすようなことを妻のあの細腕で出来るかは怪しい。私が彼女ならば刃物を使うな。その方が理に適う」
 現場と写真を突き合わせて議論を重ね、そうして出した犯人像は10代後半以上の人の中では膂力のある者。凶器はバットあたりが適当ではないか、という所に落ち着いた。




「そうか。調査ありがとう」
 通話を切って物思いにふけるのはレナ・ヴァレンタイン。通話の相手は今回調査に参加した他の猟兵だ。
 殺された者たちの罪状は本当なのかという疑問に直ぐ様『真である』と回答してくれた。ネットワークに強い別の猟兵が調査してくれたのだという。
(フェイクによる扇動ではないことはわかったが……だからといって気に食わんな。蚊帳の外の無責任な声による『復讐代行』など)
 彼女自身も『復讐屋』をしているだけに人一倍捜査対象に相容れないものを感じていた。
 真っ当な仕事ならば依頼者と請負者、その二者以外が交じるべきではないのだ。態々公にして決を取るなどというのは仕事ではない。ショーだ。
 しかも復讐を望む者をも罪状の名の下に晒しかねない下劣なショー。
(正義ごっこに興じる阿呆共に、教育してやらねばなるまい)
 美しいかんばせに決意の色を浮かべて、ヴァレンタインは己の顔に作った傷に手を当てた。

「諸星裕太、だね?」
 マンションの近くにある公園で、ヴァレンタインは1人の少年に声をかけた。
「……誰だよ、アンタ」
 裕太はヴァレンタインの顔の傷に一瞬目をやって、逸らす。
 反応は上々。
 勿論顔の傷は偽物である。変装技術によって作られたそれは素人目には本物と見分けがつかない。ましてや子供の目を欺くくらい造作もない。
 何故そんなことをするのか。理由は単純。
「レナ。ねえ、あなた『ガーディアンズ』って知ってる?」
「っ……そんなサイト、知らない。急になんだよ」
「私はね、復讐したいんだ。この顔の傷が見えるだろう? ある人間にやられたんだ。私はその復讐をしたい。私の顔に一生消えない傷をつけた奴を罰したいんだ。ねえ、君、父親に酷いことされていたんだろう? ならこの気持ち、わかってくれるんじゃないか」
「だ、だから知らないって言ってるだろ! おかしいよアンタ!」
「嘘。だってあなた、サイトって言っただろう? 私は『ガーディアンズ』としか言っていない」
 裕太の体がビクリと震えた。足が震え、顔を真っ青にして、ヴァレンタインを見上げている。恐怖と絶望。その顔は犯行を見破られた罪人のそれ。
「言ってねえよ」
「大丈夫。私は君を捕まえに来たんじゃない。ただ教えてほしいだけだ。ガーディアンズにはどうやって入ればいいかを」
「し、しらねえったらしらねえ!」
 脱兎の勢いで逃げて行く裕太をヴァレンタインはただ見つめていた。
(……子供、か。なんともやりきれないもんだ)
 捕まえようと思えば捕まえられた。だが、それからどうしようというのだろう。
 精神を操作して聞き出すのか。それとも恐喝するか。
 被害者でもある10にも満たない少年にさらなる理不尽を強いるのか。
 咄嗟には判断できなかった。
  

「クソ犯罪者がゴラァ!」
 諸星家に男の怒声が響き渡った。
「こっちはもう大体の目星ついてんだよ! これ使って殺害依頼だしたってことはよお! なんならこの資料全部近所にばらまいてやろうか? あぁん?」
「刑事さん、やめて、やめてください」
 嶋野・輝彦だ。彼は単独で刑事のふりをして上がり込むと殺人サイト『ガーディアンズ』の知りうる限りの情報、そしてSNSで行われた投票じみた投稿のコピーをぶちまけて吉江を脅迫していた。
「なあ奥さんよう、こんだけ状況証拠が揃ってたら周りの連中がどう思うかなんて、わかるよなあ? そうしたら生活は? ガキ共は学校でどう扱われる? 足りないおつむでちっと考えてみようや」
「こ、こんなの脅迫じゃ」
「飲み込みおせぇな奥さん。だからクソな男に良いようにされてきたんだよ」
「っ……つ、通報、しますよ」
「残念。警察ならもう来てるんだよ。テメェの目の前によ! おら、私がやりましたっつえば良いぞ? それともこっちをばら撒かれる方が好みか? 選ばせてやるよ」
「そんなの……冤罪じゃ、ないですか」
「俺は事件が終わればそれでいいんだよ。真実とか本当とかしったこっちゃねえんだわ。さあ、俺が満足するこたえを聞こうか? わかるよなあ?」
 堂に入った恐喝に、夫に支配され続けてきた吉江は抗う術を持たない。
 ふるふると震える手を膝の上で固く握りしめ、視線を落としてただ嵐が去るのをじっとまっているようにも見えた。
「ビビリの癖に単純な二択も出来ねぇのかよ。ほんとグズだな。実行犯じゃねえし旦那の暴力もあった。情状酌量で執行猶予もらえるかもしれねえぞ? それとも毎日俺に脅されてぇか? こればら撒かれた上で」
「……やめてください」
「知るか。選べって俺は言ってるんだぞ。何ならガキどもに聞いたって良いんだぜ?」
 吉江は震えるばかり。むしろこれは。
「今お前、ガキに矛先が剥いてほっとしたろ。どこまで畜生だよ、テメェは」
 吐き捨てて子供部屋へと向かう。吉江はやめてやめてと小さく呟くばかりでなにも行動はしない。
 根っからの弱者根性なのか。それとも嶋野の恐喝が効きすぎたのか。まあどちらでも関係ない。
 子供部屋を蹴破って、そこにあった光景に嶋野は口角を釣り上げた。
「ガキの方が根性あるってのはなんとも」
 ぐずぐずと泣いている妹を守るように立つ兄。
 ズボンには失禁の染みすら見えるのに、歯の根も合わぬほど震えているというのに、嶋野を睨みつける瞳には異様な覚悟が見えた。
「じょうじょうしゃくりょう、ってのは無罪になるかもって、事か?」
「へえ?」
 少年は意外な申し出をしてきたのだった。

 諸星宅を後にした嶋野はスマホを取り出しながらひとりごちる。
「流石にこの展開は予想外、ってほどでもないがちと驚いたな」
 少年――裕太からの告白は、自分が殺人依頼をだしたというもの。だが、彼自身はスマホもPCも持っておらず、そのサイトを紹介してくれた教師経由で依頼を出した。
 若林教諭。それが今回の件の黒幕なのだろうか。
 


「突然すいません先生。私、諸星吉江の親戚の者です。少しお伺いしたいことがあるのですが」
 学校から出てくるその教師に声をかけたのはフォルター・ユングフラウ。
「ああ、諸星さんの……親戚の方? そんな方がどうして。あ、はじめまして、若林と申します」
 若林教諭はトリテレイア達と面談した時同様、人好きのする誠実そうな雰囲気でユングフラウに応じた。
「先日の剛さん、いえ、子供たちの件で……ここではなんですから、少し落ち着ける所へ」
「校内ではいけませんか? 立ち話よりはましですよ」
 路地裏にでも連れ込んで尋問してやろうと思ったのだが、流石に初対面の人間に無警戒にはついていかない。教師という立場上異性との付き合いも気をつけているのだろう。慎重な事は美徳だが今この時に限っては面倒なだけだ。
 仕方ないとユングフラウが仕掛ける。
「な、なにを」
「お静かに。邪魔の入らない所でお話がしたいだけです」
 軽く誘惑をかけて釣ることにした。
 距離をつめ、瞳を合わせ、軽くその腕に触れてやるだけで、若林は陥落した。若い男がユングフラウの色香に抵抗など出来るはずもない。彼女にかかれば枯れ枝のようになった翁すら鼻息を荒くして傅くのだ。  
「こちらへ」
 人気のない路地裏へと連れ込めば即座に【ヴィーゲンリード】を発動。
 男は色香の虜からさらに堕ち、ユングフラウの命に抗えぬ傀儡となった。
「さて、若林といったな。ガーディアンズについて、知っていることを全て吐いてもらう」
 単刀直入。
 トリテレイアのセンサーに反応した明確な嘘をユングフラウは突いた。
「ガーディアンズ。闇サイト。我らの希望。正義の鉄槌。神の意思。私は、組織の一部。神の声を広める宣教担当者の1人」
「組織? 他にも居るのか。お前のようなのが」
「はい。悪を裁くための羊と呼ばれる者たちや、それを統括する羊飼い、悪を見つけてくる牧羊犬がいます。そして我々は神の声を聞き、その正義を代行するするのです」
 ユングフラウが眉根にシワを寄せる。完全にどこかの宗教のような、いや、邪神の崇拝者のようなではないか。
「神、神、神、神と、なんだそれは」
「神は、神。私達を導く父にして母。私はあの方に救われた」
「どこぞに降臨でもしたのか。それとも脳内にでも話しかけてきたか」
「神は常にこれでお声をかけてくださる」
「……すまほ、とかいう奴か」
 この世界の神は随分と俗っぽいなと若林が取り出した携帯端末を眺める。
 どの世界、どの時代でも神は人に理解出来る形で現れるのだから、この時代ならばすまほなる板に降臨してもおかしくはないだろう、と納得する。
 異世界出身のユングフラウは少々ずれていた。
「見せてみろ」
 若林からスマホを取り上げてみたものの使い方がよくわからない。暫く画面を他の者たちがするように突付いたり、擦ったりしてみたが埒が明かない。
 振ってみた。勿論メールは読めない。
 持ち主に返す。
「その神とやらからの最初の託宣を出してみろ」
「はい」
「……次……次、次だ」
 メールを何通も流し読みしていくうちにユングフラウは頭が痛くなってきた。
 以前関わったトモダチを名乗る邪神のそれに似ている。
 理解者を装い耳障りのよい言葉を吐き、籠絡する。
 どうやら若林は理想に燃える教師だったようだが現実とのギャップ、人間関係、派閥といった教師の実務以外の問題で思い悩み心を病んでいったらしい。メンタルクリニックに通い、理想と現実のギャップを埋めるためにネットを彷徨いそれらしい記述を漁る日々。
 ある時、神はメールを寄越した。
 神は彼の話を聞き、理解して、居場所をあげようと、共に理想の世界を築こうと誘っていったらしい。
「……で、その神とやらはどこにいる」
「会ったことはありません。声を聞いたことも」
「は? 汝は、こんな文字列に神を見出して盲信しているというのか?」
「神は私を理解して導いて存在価値をくれた。それだけで十分。声も、姿も、必要ありません」
「……幸せな奴だな。では汝の仕事、宣教とは何をするんだ」
「ガーディアンズの存在を必要とする者に広める」
「深雪にも教えたのか」
「はい。ただ彼女は決断力に欠けたため、兄の裕太に見せました」
「だが、すまほを持っていなかった。違うか」
「はい。彼らは持っていなかったので、私のスマホから直接書かせました」
 なるほど、としばし黙考する。
 思ったよりも規模が大きい。人を籠絡して手駒にし、殆どの事をその駒にやらせている。だからグリモア猟兵もサイトそのものなんておかしな予知をしたのではないか。
(なんとも底が知れぬ。おかしな事件だ)
 たとえ勝利したとしても祝う気にはなれそうもない。そんな予感がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

河南・光
ふーん、†ハンターズ†ではないのね
まぁいずれにせよサイト作った奴は厨二病か、あるいは厨二病患者を引き込みたいとか考えてるようなやつね
で、被害者は……
はぁ、18で3つ上の奥さんと子供作って、翌年にもう1人
まだまだ遊びたいお年頃で子供2人も作っちゃって、仕事に育児にで貯まったストレスをDVで発散してたってとこ?
まぁ奥さんに全部やらせて自分は遊び歩いてただけかもしれないけど
……現時点では奥さんか子供が一番怪しいけど、まぁとにかく情報収集ね

ご近所さんとか家族に
被害者の不審な行動の目撃情報、殺したいくらいの恨みを持ってそうな人、で尚且つ被害者の通勤ルートを把握してる人、辺りで聞き込みしてみましょ


イルナハ・エイワズ
短剣符で単語を挟む意図が理解出来ませんが
そこは他の人に任せましょう

10件の殺人事件の資料、街の地図を入手して
地図に現場と時間を記入しておきます
自分の中に記録するだけでは人には伝え難いですから

ユルと猫のおやつを準備したら
目立たないようにして街を散策
猫を探しましょう
出来ればこの地域のボス猫がいいですね
ユルには野生の勘と第六感で頑張ってもらいましょう

猫を見つけれたら、交渉と情報収集です
是非とも猫の集会というものに参加したいですね
おやつは大量に必要でしょうけど
UDC組織の経費処理して貰えば問題ないでしょう
「ユル、猫さんたちがたくさん集まるらしいですよ? 楽しみですね」

得た情報と地図をリンクさせます


矢来・夕立
黒江さん(f04949)と。
ダークウェブ。そういうウソっぽいものは好きですよ。真実でも「ウソですよ」で済むので。


ウェブ方面は黒江さんが。
オレは通話を繋ぎながら足で現場検証です。
これも一種の『失せ物探し』ということで。
『式紙・導紙』で人手を増やしておきます。

経験者目線で考えましょうか。
……検死結果を確認できるもの、ありませんか?
「滅多打ちでなければならなかった理由」は、遺体の傷から判断できると思います。面倒なんですよ。滅多打ちって。
そのあたりも併せて現場を見てみます。
気づいた事や異常はすぐ黒江さんに伝えますね。
アンタの方が悪巧みは得意そうですし。何か思いつきません?
てか何か飲んでます?呑気か?


黒江・イサカ
夕立(f14904)と


恐ろしいなあ、僕もサイトの中を見てみたかったものだ
ところで、ダークウェブの時点で若干ダサくない?

…さて、いったい何が予知に引っ掛かったんだろうね?
人間のすることらしいと思うんだけどな
それに、単独でもなさそうだし
探偵役と実行役が同一だと足がつきやすいからね

夕立、そっちはどうだい?
痕跡何ひとつなし、みたいなことには?
まあそれならそれで問題ないよ
完全犯罪、なんて尚更人間に出来たもんじゃないからね

悪巧みなんて人聞きの悪いことを言うなあ
僕はちゃんと、珈琲飲んで新しい予告がないかSNSを張ってたよ
あと、事件近辺の投稿とかね
SNS使って煽ることを思いつくやつさ、他にも使ってんじゃない?




 河南・光は警察と偽るには少々年齢的に難が有ったため、噂好きの女学生を装って付近の主婦を中心に聞き込みを行っていた。
 同性、しかも二回りは下という条件。さらに持ち前のコミュニケーション能力でもって主婦たちの口を軽くしていくことに成功した。
 かなりの時間を主婦達の趣味や愚痴に付き合わされたが、まあ必要経費と割り切る。
「しかし剛さんは凄いですね。あの歳で都心のマンション住まい。しかもお子さんを2人もなんて」
「ああ、コネだったらしいわよ。噂だけどね。詳しくは知らないけど、住まいと仕事を用意してもらったって話を聞いたことが有るわ」
「へえ。やっぱコネって重要なんですねえ」
「そーよ。光ちゃんも勉強も大事だけど人付き合いもしっかりね。どんなに凄くてもそれを伝えたり認めてくれるのは人なんだから」
 愛想笑いの裏で嘆息。このパターンで幾度脱線して時間を浪費したのか思い出す。
 そうはさせじと話題の変更。
「そういえばこのすぐ近所なんでしたっけ、現場。怖いですよね」
「そうそう。今までこんな怖い事件なんて無かった所なのにねえ。警察は何してるのかしら。早く捕まえてくれたら良いのに」
「夜中とかこのあたりは人通り少ないんですか?」
「そんな事は無いんだけれどもね。あの道はちょっと使わないわねえ。ちょっと大回りすればもっと明るいしコンビニとかあるからどうしてもそっち使う感じなのよね。ほら、建物の影になってて昼でもちょっと暗い感じするでしょ? 近道なんだけれど」
 幾人にも同じように質問し、会話をして、情報をまとめていく。
・彼が殺されたところを見たものは居ない。
・殺害現場はあまり使われない道だったが被害者は使っていたらしい。主婦の1人が証言した。近道だからという理由で。
・被害者自身はそれなりに社交的でルックスも良かったため余り悪い印象を抱かれていなかったらしい。ただ隣人は怒鳴り声と悲鳴、泣き声を聞いていたため若干印象は悪かった。
・恨んでいた人物で上がる人物は無し。しいて上げるなら家族、しかいないのではないか。
(まあ、そうよね。怨恨での殺害なら尚の事縁者がまっさきに容疑者にあがる。ドラマじゃあるまいし、ほうぼうに恨みを買う人間というのもそうはいないでしょうし)
 人は見ず知らずの人をそうそう殺しはしない。殺人事件の犯人は被害者と何らかの関係を築いているものだ。でなければ恨みつらみなどそもそも発生しないのだから。
 人通りの少ない通勤ルートを通る事を知っていたのは家族以外には今の所1人だけ。その1人もごく普通の主婦にしか見えない。無関係だろうか? 保留。
(ますます家族以外怪しいものはいない、か)
 河南自身わかりきっていた事実を再確認する結果と成った。
 

(ここと、ここ。最後にここ、ですね。また随分と範囲の広い)
 事件の有った場所を地図上に書き込んでいたイルナハ・エイワズは瞑目する。
(事前情報通り犯行現場はバラバラ。複数の県にわたっていて法則性は無いように見えますね)
 有りがちな中心点のようなものがあったら良かったのだが、そうそう都合良くいかないものだ。
 仕方がない。頭とデータだけでわからい時は別方向からアプローチするべきだ。
 そう、これは足で稼ぐ操作の基本スタイルであって彼女は別に猫と戯れたいだけなのではないのだ。たぶん。
 エイワズは近所のスーパーで猫用のおやつを準備。今日は奮発して大量に購入した。なぜなら今回は猫集会に突撃するからだ。突撃したいからだ。
(まず接触するなら付近のボス格の方が最良ですね。集会を開いてもらいましょう)
「ユル、お願いしますね」
 相棒である子竜に話しかければ『まかして』と鼻息荒くふよふよと周囲を探索してくれる。実に頼もしい限りだ。
 勿論エイワズもその金色の瞳でくまなく威厳のありそうな猫の姿を探す。おやつをふりふり猫釣りである。

『こんなもので私が、人間なんかの言いなりになると思ったら、大間違いです』
 程なくして見つけたボス格らしき猫の言葉である。
 ちなみにエイワズが渡したお菓子を一心不乱に食べながら、フーともグーとも聞き取れる妙な唸り声を上げながらである。
「ツンデレというやつですかね、ユル」
『なんだか不名誉な事を言われている事だけはわかりますよ、人間』
 彼の名前は自由猫のクロ。艷やかな黒毛としなやかそうな体はミニチュア版の黒豹のようで格好がいいのだが、お菓子を一心不乱に食べている様は中々に台無しである。
 とりあえず手付金代わりの一本を食べ終わった所で事情説明と交渉開始。
「とまあ、ちょっと広く聞きたいことが有るので猫集会にお邪魔したいなと。連れて行ってくれませんか?」
 ものすごく嫌そうな気配を出してくるクロ。
 自由猫らしく人間は嫌いであるらしかった。
『人間を信用するな、利用しろ。それが人の町で生きる動物の不文律ですが……まあ、借りもあります。付いてきなさい。試してあげます』

 クロが課してきた幾つもの試練を乗り越えエイワズは漸く『集会参加権』を手に入れる。彼女の辛く険しい冒険の数々は長すぎるので割愛する。
 兎にも角にも。
 猫である。雉猫トラ猫白猫三毛猫黒猫。日向ぼっこをしているものやじゃれ合っているもの、お互いの毛づくろいをしているもの。見ているだけで癒やされる理想郷が顕現していた。
 事前にクロが話を通してくれていたらしく猫たちは特段エイワズを見ても警戒もせず、マイペースにくつろいでいる。
「ユル、猫さんたちがたくさん集まってますね……用意してきたかいがあります。あ、ユルにはこっちですよ」
 若干嬉しげに猫用おやつを二刀流してエイワズはその中へと飛び込んでいき、私服のひとときを過ごしたのだった。

 情報? ああ、うん。殺人犯らしき人間はいたらしいですよ。車で逃走したのでねぐらまでは知らないそうですけど。


 日もだいぶ陰ってきた殺人現場。ふらりふらりと奇妙な影が何かを漁るようにうごめいていた。
 人、ではない。矢来・夕立の使う式だ。若干いびつな形をしたヒトガタが凄惨な事件があった場所で右往左往する様はシュールであり、そして怪談的だ。
「はい。今丁度調べているところですが、残念ながら目ぼしいものは見つかりそうもありません」
 毛ほども残念そうに聞こえない口調で通話を続けているのは術者である矢来。相手は共に事件に挑んだ黒江・イサカである。
『ねえ、僕今わかったんだけどさ。ダークウェブって若干ダサくない?』
「……通話、切りますね」
『だってダークだよ。裏社会だの闇ルートだの……あ、君はそういうの好きなお年頃かな?』
「話を聞いてくれません?」
『通話』
「はい?」
『切るんじゃなかったの?』
「……オレ、殺人サイトに書き込みした人の気持ちに共感してしまいそうです」
『共感なんて幻想だよ夕立』
「話すすめませんか」
『せっかちは女の子にモテないよ、君』
「モテなくていいので今すぐ通話を終わらせたいです」
『でも切らない。そういう所がアレだよね』
「っ……だから、事件の話しをですね」
 するすると立て板に水の勢いで通話をしながらも、一応矢来は現場を見てはいた。
 凶器が実は建物の影に、なんて阿呆な事はないし驚愕の事実などというものもない。
 協力組織経由で取り寄せた資料以上のものは見つけ出せそうにはなかった。腐っても日本の警察である。仕事は正確だ。
 で、あれば。矢来に出来るのは警察では出来ないこと。猟兵であり忍でもあるヒトデナシの視点による考察だ。
「たぶん犯人は人間。オブリビオンのような痕跡が無いというより、人間らしいものがありすぎます」
 そう。現場と資料を見たときから感じていた人臭すぎる始末の付け方。
「例えば人通りのない道を犯行現場に選んだこと」
 化け物であれば一々ひと目をしのぶ必要などないのだ。どれだけ人が群れた所で彼らにはかなわない。フィクションの中で化け物が闇に隠れてひっそりと人に害を及ぼすのは、単純に雰囲気作りの為である。彼らにとって昼も夜もひと目もなにも関係ない。
 闇に隠れるのは何時だって人だ。
「例えば滅多打ちにされた被害者の頭部」
『ん、どこがおかしいと思う? 怨恨の線だってあるだろう』
「それもあながち間違いではないと思いますけど。オレは……恐れたんだと思います」
『うーん、犯人が、被害者を、かな?』
「はい。もし死んでなかったらどうしよう。立ち上がって反撃してきたらどうしよう。そういう恐れ、わからなくもないです」
『経験談っぽいなあ。君のはじめてもそうだったのかな?』
「セクハラですよ」
『僕のはじめても教えるからノーカンにならない?』
「いりません。まあ、そういう意味で犯人は殺しには慣れて無かったのではないかなと」
 恐らく過去9件の殺人とは別人。それだけ殺していれば慣れる。こんな無様な殺し方はしないだろう。
 矢来は資料にあった被害者の頭部画像をしげしげと確認しながら。
「以上、こちらはこんなところです。アンタは? オレより悪巧み得意そうですし。何か思いつきません?」
 返事は無く代わりに聞こえるのは、音。ごくごくと何かを飲むような。
「てか何か飲んでます? 呑気か?」
『珈琲ブレイク珈琲ブレイク。しかし悪巧みなんて人聞きの悪いことを言うなあ』
「現実をきちんと受け入れたほうがいいですよ」
『酷いねえ。まあ話を戻せば人間、しかも複数犯って所までは想像がつくね。探偵役と実行犯、足がつかないようにするなら分業は1つの手だから』
「かもしれませんね。ネットの方は?」
『ぼちぼちかな。事件の時に熱心に語ってくれてる人らは居るね』
 ガーディアンズの熱心なファンや、それにかこつけて現行法や日本そのものの在り方を叩く自称活動家、社会不安をダシにして信者を増やそうとするカルト。
『ちょっとつついてみみようか』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ひきこもりは知っている』

POW   :    壁越しに話しかける、強行突破で室内に侵入する等

SPD   :    こっそり侵入し情報を探す、周辺の人物に聞き込みを行う等

WIZ   :    興味を惹くようなものを用意する、手紙やメールを利用する等

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 若林から得られた情報。猟兵達が総当たりした幾つかの目星。
 それらが導き出した人物は、事件現場からそれほど遠くない場所に住んでいた。
 馬場と表札が掲げられた小さな家。そこにすむ長男、馬場・崇が†ガーディアンズ†の関係者であることはほぼ間違いない。
 周囲から聞き込みをした結果、彼は数年前に会社を退職して親元に戻ってきて以来ずっと引きこもっている事がわかった。
「妙、ですね」
 猟兵の1人が首をひねった。あまりにもスムーズにここにたどり着いてしまったがためだ。
 まるで誘われているのようだ。
「とは言え接触しないことには他に手立てがないのも事実。いこう」
 猟兵達は頷きあうと行動を開始した。
※マスターコメント
問答・会話パートになります。
スキル、UCを使っても構いませんが、普通に会話をしても先へは進めます。
悪人を殺すのは是が非か。
皆さんなりの考えをぶつけてみてください。
河南・光
うーん、相変わらず私は調査ってやつとは相性が悪いわ。
まぁ『相性が悪い』で済ませてたら先に進めないから、その辺りも鍛えないとね、その内。

で、このおっさんが関係者?
はぁ、よくある『悪人を殺して何が悪い』的な?
知るか
法的にどうこうなんて話はこの場では求められてないだろうし、そうでないなら善悪なんて時代によっても人によっても変わるでしょうよ
結局あんたらのやってる事は『殺したいから殺した』だけでしょ
『殺したくない』ならどんな極悪人だろうが無関係の他人にわざわざ手出そうなんて思わないわ
でも自分は悪人にはなりたくないから悪人に絞って大義名分を笠に着てるだけ。正義って言えば何やってもいいような気になるものね!


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

【古城】で参加

悪人を殺す、それは結構
正攻法で抗えぬならば、殺しもまた手段と成り得よう
…だが、気に食わぬ
殺しとは、最後に残された究極にして禁忌の手段
手を染めた時点で、自身もまた悪
故に、殺しは殺される覚悟をした上で堂々と行わねばならぬ
これが、外道たる我の美学よ
…どれ、電脳の海で姑息に殺しを行う三流以下に、我が“指導”してやるか

もはや身分も偽らぬ、トリテレイアに続き押し入る
恐怖と殺気を存分に浴びせ、片手で首を絞め上げてやるか
女の細腕と甘く見るな…人間の首なぞ、小枝も同然よ
その後は更に誘惑で堕とし、UC:ヴィーゲンリードで情報や重要物品を提供させる
少しは役に立ってもらわねばな

※アドリブ歓迎


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
仮にこの馬場様が構成員だとしても、ガーディアンズという正義の怪物の触手の一本に過ぎません。望み薄ですが、頭となるオブリビオンに繋がる情報を引き出さねば。

…たとえ頭を失っても正義の怪物は生きて動きつづけるかもしれませんが…

時間が惜しいのでドアノブの鍵を怪力で破壊、問い詰めます。組織に関する知っている情報を洗いざらい吐いていただきましょう。

正義のお題目で殺人に加担する気分はいかがでしたか?
直接危害の及ばぬ電脳の海に潜み、電子の仮面を被っていても貴方の手は返り血で真っ赤だというのに。
処刑した悪人や我々と同じように貴方も永遠に咎を背負うのですよ。
(ただ正義に陶酔している様ならば死なぬよう鉄拳)


伊美砂・アクアノート
【SPD】…別に、オレだけキレイなまま居られるとは思っちゃいないさ。精々、意地悪く立ち回るよ。 潜入する猟兵に、ケータイを話中にしてもらって、音を拾わせて貰う。―――【ダークウェブ殺人事件一斉検挙されるが】【悲報†ガーディアンズ†終了のお知らせ】…っと。適当にダミーのスレを乱立させ情報攪乱。嘘と釣りをばら撒く。串の刺し方は教わって、リアルタイムっぽさを装いつつ欺瞞情報を拡散。…敵の意図が介在しているとしても、その集団の全てが一枚岩ではないでしょう? デュフフ、祭りですぞ。「ヒキコモってたんだが警察が何人もドアの前に来ててもうだめぽ」っと!遊びで燃やすのはダメですぞー。拙者は仕事でゴザルからなー


波狼・拓哉
さーて、色々聞けるといいんだけど。しかし彼らは隠してやってるんだよね。一応悪い事やってるという認識あるのかな・・・
取り敢えず普通に壁越しに話しかけよう。聞けそうならどうしてこのようなサイトが出来たのかとか、大元の居場所とかを聞いてみたい。
悪人を殺すことの是が非かはまあ、是なんじゃない?一応救われてる人はいる訳ですし。ただこの世界じゃ勝手に殺すのは悪人の所業だけどね。いや、だって何を持って悪人とするかなんて個人の両分よ?いくら不特定多数が認めようと個人個人でやってりゃ歯止めが効かなくなるのは目に見えるしね。だから法律という大きなルールがあってそれに沿うように警察や裁判なんてものがあるんだしね。


勘解由小路・津雲
ずいぶんとあっさり見つかったものだ。罠かという気もするが、避けていても何も始まるまい。目的は背後のオブリビオンを引きずり出すこと、上手くいくか分らないが、ひとつやってみよう。

■会話 誰かを助けたいと思う者は、助けるべき誰かを望む。やがて本末は転倒する。あいつが酷い目にあえば、俺が助けられるのに、と。あんたは自分の消滅を心の底から願えるかい? 自分などいなくても、上手くいく世の中でありますように、と。思えないなら、しょせんあんたは他人を自己肯定するためのダシにしているに過ぎないさ。あんたは願えるかい、†ガーディアンズ†の消滅を?(と、オブリビオンに都合の悪い方に話を持っていってみる アドリブ可)


狭筵・桜人
家人の留守を狙います。
目的を同じくする猟兵を見かけたら手招き
玄関の【鍵開け】て。

不法侵入?
ンッフフ、共犯ですねえ!

仲間の問答に茶々を入れつつ
崇さんの逃走と家人の帰宅を警戒。
逃走対策には部屋の窓の位置確認と影の追跡者の召喚。
家人には【催眠術】と【言いくるめ】。

――毒を呑んだってとこですかねえ。
いえ、裕太君の事ですよ。

人の精神構造って想像よりずっと善良に出来てるんです。
今はいい。極限状態の中で守るものがありますから。
環境が正常になるにつれて、
あの子もいずれどこかが壊れてしまうのでしょうね。

人を殺しても平気な人なんて最初から壊れた
人のなり損ない――つまり“人でなし”です。

……今のはダジャレですよ?


ステラ・アルゲン
……妹を守りたいと思った兄の正義を否定することはしない。その心を利用して人殺しを実行した者は許さないがな

【POW】
さて、情報だとここか。なぜこんな事に手を貸しているのか、聞きたいところだな
とりあえず、まずは壁越しに【コミュ力】にて話しかけよう
しばらく相手の言い分を聞く

それはお前の正義を為すためか?
正義の反対はまた別の正義ともいう
お前たちの行為もまた誰かにとっての正義なのかもしれないな

だがこんな方法は道理が通らないと私は思う
悪いが私は私の正義を貫く。そのためにお前たちを止める

(アドリブOK)


ファン・ティンタン
【SPD】悪は正義を騙る

さて、正義を騙るヤツの顔、拝ませてもらおうか

現場周辺で小鳥か猫に触れることでUC発動条件を満たす
【異心転身】にて、先に触れた動物に変化し、崇の部屋へと侵入する
侵入後は、敢えて、か弱い動物の姿のまま会話を試みる

ねぇ、あなたからまともな情報が聞けないことは重々承知してるんだよ
だから、私はあなたの話を聞こうと思う
いいよ、主観で話してもらって
どうせ、事件の核心には他の人が辿り着くだろうから

あなたにとって、正義って何なのかな?
あなたが正義を為そうとした時、何が出来たのかな?
あなたには、正義が為せたのかな?

正義は、果たしてあなたを救ってくれたかな?


※発言は努めて無感情に
アドリブ歓迎


アイ・リスパー
「悪人を裁く……
それは私たち猟兵もやっていることなので、それ自体に口出しするつもりはありません。
その行動の善悪は司法機関の手に委ねるべきことです」

ですが、その裏にオブリビオン――人の世界に関与してはならない存在がいるのなら話は別です。
私たち猟兵は、オブリビオンを倒すための存在なのですから。

馬場さんの背後にオブリビオンがいるのでしたら、
どんな手段を用いてでもその手がかりを手に入れてみせます。

「私は私の得意とする方法で探りを入れましょう」

電脳面から馬場さんの情報を洗いざらい調べて
†ガーディアンズ†やオブリビオンとの繋がりの証拠を突きつけましょう。

「人には踏み越えてはいけない一線があるのです」


八上・玖寂
特に相手の顔を見たいとは思いませんし、こちらの顔も見せたくないので
出来れば直接顔を合わせることは避けます。

積極的な行動、大いに結構。
しかし、少しばかり派手にやりすぎですね。
あなた方に"善意で"こんな風にされてしまうと、我々は商売上がったりなんですよ。
ねえ、馬場・崇さん。

殺す相手によって善悪なんか変わりませんよ。
後には死体が残るだけです。

警察や行政が有能だとは思いません。
世間が優しいとも思いません。
だからこそ影は深まり僕は飯の種にありつけるのですから。
貴方もそうでしょう?
請負によって殺しを為す殺人鬼。
僕はプロなので依頼料を取りますが。

領域を侵す不届き者には何かしらのお仕置きが必要な気もしますね。


出水宮・カガリ
引きこもり
社会から隔てられ、親の加護に甘んじる生活
…ひとを壁の内に守りたいカガリとしては、割と理想像に近いのやも知れん

直接より、文字で話せるだろうか
ぺんねーむ…守護の門、とか

この世界では、誰もが当たり前に遠く離れた、顔も知らんものと繋がることができるらしいな
ひととして生きるために、繋がりは必要だろう
繋がりがあれば助けを呼べる、支えになれる、いいものだ
引きこもりは加護の中にありながら、勇者になれるのだな

しかし、な
勇者はやはり、ひとには荷が重い
法があるこの世界では、勇者は求められない
親の加護も、法からは守りきれないのだから
法を越えた…勇者を加護する神がいたとて、勇者の結末などろくなものではないよ




(引きこもり。社会から隔てられ、親の加護に甘んじる生活。……ひとを壁の内に守りたいカガリとしては、割と理想像に近いのやも知れん)
 出水宮は1人思う所あってPCと向き合っていた。
 相手のIPアドレスは割れている。ネットには明るくない出水宮だが、他の詳しい者の話しによればPCというものを使えば遠く離れていても連絡はとれるのだという。
(ぺんねーむ……守護の門、とか)
 慣れないキーボードを一本指でぽちりぽちりと打ちながら、想いのたけを形にしていく。

『ぺんねーむ 守護の門
ひととして生きるために、繋がりは必要だろう
繋がりがあれば助けを呼べる、支えになれる、いいものだ
引きこもりは加護の中にありながら、勇者になれるのだな
しかし、な
勇者はやはり、ひとには荷が重い
法があるこの世界では、勇者は求められない
親の加護も、法からは守りきれないのだから
法を越えた…勇者を加護する神がいたとて、勇者の結末などろくなものではないよ』

 送信ボタンを押す。
 一瞬でそれは相手のPCへと届くのだという。実に便利な世界、文明である。
 返事は、しばらくしてから来た。

『手紙ありがとう。
ご忠告痛み入る。だが、今更止まるつもりもなく、この道を進もうと思う』

 簡素な内容だった。
 言葉は届かず、といったところか。


 同様にメールという手段に出たのは八上だった。
(特に相手の顔を見たいとも、此方の顔を見られたいとも思いませんので)
 説得も別段するつもりもない。で、あればメールが妥当ではあろう。

『積極的な行動、大いに結構。
しかし、少しばかり派手にやりすぎですね。
あなた方に"善意で"こんな風にされてしまうと、我々は商売上がったりなんですよ。
ねえ、馬場・崇さん。

殺す相手によって善悪なんか変わりませんよ。
後には死体が残るだけです。

警察や行政が有能だとは思いません。
世間が優しいとも思いません。
だからこそ影は深まり僕は飯の種にありつけるのですから。
貴方もそうでしょう?
請負によって殺しを為す殺人鬼。
僕はプロなので依頼料を取りますが。

領域を侵す不届き者には何かしらのお仕置きが必要な気もしますね』

 それは制裁勧告。
 邪魔だから消すという脅しだ。
 メールを送った端末はもう用済みだった。どうせ向こうにクラッカーが居るのならば即特定されるだろう。それなりにアングラなルートを通してはいるが、特定は時間の問題だ。
 返事は別にいらない。会話がしたいわけではない。
 行動を少しでも制限できれば、それで目的は達せられるのだから。



 馬場の家に真っ先に侵入を果たしたのはティンタンだった。
(悪は正義を騙る。さて、正義を騙るヤツの顔、拝ませてもらおうか)
【異心転身】
 それは触れたことのある任意の対象に化ける能力を持つ。彼女はそれで子鼠に化けると、開いている窓から侵入。家人に気取られぬよう注意しながら馬場・崇の部屋へと潜入を果たした。
 部屋は小奇麗に片付いていた。
 ベッドと壁一面を占拠する書棚。向かいの一面はパソコン机があり、大小様々な機器と接続されていた。
 馬場・崇らしき中年男性は机の前に座っていた。
 どこにでも居る風体だった。
 中肉中背。それなりに小ざっぱりしており、町を歩いていても印象にはまず残らないような十人並みの容姿。しかしティンタンの感と戦闘経験が、彼が只の一般人ではないことを見抜いていた。立ち居振る舞いがしっかりしている。体幹が鍛えられている証拠だ。着衣の下には鍛えられた肉体があることが容易に想像できた。
「こんにちは」
 子鼠が話しかけてきたことに気づくのに30秒、そして会話を成立させるのにさらに30秒を要した。
 合計一分の間を長いととるか短いととるか。
「随分と飲み込みが早いね。普通は現実を疑うと思うけれど」
「お前のような不思議な存在は初めてではないからな。しかし、そうか。俺の招待にまねかれてきたか、それとも誰か捕まったか」
 年相応、いやそれ以上に落ち着いた声音だった。
「招待……罠、ということかな?」
「いや、言葉のままだ。お前たちのような存在が居る、というのは聞いていた。少し話をしてみたくなってな」
「意外だね。まあ此方の意にも沿う。そういうことなら遠慮なく質問させてもらう」
「単刀直入なのは助かる。どうにも人を接待するのは苦手でな」
 淡々とした声音の応酬。ティンタンもそうだが、馬場もまた妙に落ち着いている。
 やはり罠だろうか。
 ティンタンは訝しむが、それならそれで構いはしない。此方は複数人の猟兵で周りを囲んでいる。何か有れば一度に攻め入れるし、馬場自体に何かオブリビオンやその眷属めいた凄みはないように感じられる。一人でも制圧は可能だ。
「あなたにとって、正義って何なのかな?」
「難しい話をするな……」
「答えて」
 馬場は首を横に振った。その瞬間だけ、男の目には苦悩のような物が見えた気がした。
「わからない。わからないから、こうしている。お前たちのような存在に話を聞いてみたくなった」
「こう、とは?」
「人を操り、殺し……いや、そもそも仕事もせず禄に生産せず社会にも馴染めず居ること、だな」
「迷いながら人を殺しているの?」
 一瞬の苦悩はなりを潜め、力強く頷く。
「そうするより他に道がないと確信しているからな。……鼠、少し俺の話をしようか。俺はな、ガキの頃はヒーローに成りたかったんだ。悪を倒す絶対正義。そのまんま、何を勘違いしたのか警官にまでなって、悟った。正義は無いとな。金、権力、そういったものにはおいそれと手を出せない組織としてのジレンマ。明らかに犯人だとわかっていても証拠不十分で裁けない悪人。逆に、証拠をでっち上げてられて加害者にされた奴。幾つも見てきた。沢山泣き寝入りする被害者達を見てきた」
「だから辞めたの?」
「違うな。排斥されたのさ。俺という異物を組織は必要としなかった。俺はガキだから馴染めなかったんだよ。そういう組織として在り方と、社会の正しさというやつに」
「あなたはあなたの正義を貫けなかった」
「そうだな。だから今こんな風になっている」
 告白めいた言葉の中にも、自嘲するような言葉の中にも、感情は見えなかった。押し殺しているのだとしたら大した役者である。
「では、今やっている殺人は正しいことなの?」
「いいや。だがその正しさでは裁けない奴がいる、それだけだろう」
「そう。最後に聞かせて。今、こうしていてあなたは救われたの?」
 鋭い呼気の音が響いた。
 能面のような顔。それと不釣り合いな鋭い目。ティンタンを見つめている。
「だったら、どれだけよかっただろうな」


 ティンタンが馬場と面談をしている最中、狭筵が馬場の家の鍵を鮮やかな手並みでピッキングしていた。
 ことがことであるし、それを咎めるものはいないのだが鼻歌交じりで楽しそうに犯罪行為をしているのはどうしても目に余る。
「でも、そうしないといけませんよね。正義の為には犯罪もせねばならない。ンッフフ、共犯ですねえ!」
 なぜにそんなに嬉しそうなのか。彼を見つめる一部の猟兵は呆れ顔だ。
「あまりそんな目で見ないでくださいよ。楽しくなっちゃうじゃないですかっと、はい、開けゴマ。どうぞ中へー。汚いところですが」
 お前の家ではないという突っ込みは無かった。皆粛々と侵入していく。
 真面目なことだと呆れとも感心とも取れる不可思議な表情で見送って、彼は馬場の家をもう一度確認する。
(窓、勝手口、先に入った猟兵の話だと逃走するとしたらここ、ですかね)
 あらかじめ逃走経路には【影の追跡者の召喚】を使って網をはっておく。更には家人、馬場の両親が帰ってきても問題ないように注意を払いながら、今度こそ彼も中へと入っていく。狭筵は彼なりにしっかりと仕事をこなしていた。
「あれ、皆さんどうされました?」
 突入した者たちが部屋へは向かわず玄関で溜まっていた。聞く所、穏便に話をしたいものが居たということで待っているのだそうだ。
「あー、なるほど? お優しいことで。でもあれですよね、これ刑事ものの話とかだと犯人逃走しちゃうんじゃないですかねえ? いや、いいですけどね」
(きちんと対策は取ってありますし)


 穏便に話しかけようとしたのは波狼だった。彼は壁越しにコンタクトを試みたのだが、馬場崇に中に招かれていた。
「招待したのは此方だし、壁ごしじゃよくわからんからな」
 引きこもり、ニート、殺人者等々のレッテルからは想像もつかないほどに普通の大人だった。
 部屋は整頓されているし髭もしっかり剃っている。身なりもこざっぱりとした清潔感の有るもの。これで引きこもりだというのだから詐欺だろう。
 此方の表の身分と訪問理由を述べればこれまた難なく答えが返ってきた。
「残念ながら俺はただの中間管理職みたいなものだ。サイトそのもを立ち上げたわけでも無ければ、上、まあ奴の言葉を借りれば神の居場所を知っているわけでもない。連絡はネットをつかうからな」
 気持ちが悪いほど素直だった。少なくとも嘘を付いているようには見えない。
「つかぬ事をお聞きしますが、妙に冷静ですね。俺たちが接触した人はもっとこう」
「キてた、だろう? そういう人間を選んで洗脳したからな」
「貴方が?」
「全員ではない。この地区の数人程度だな」
「若林教諭は神に救われたと」
「見つけてきたのは神だがな。俺はそういう心の弱ったやつに望むキャラクター、言葉をかけてやって引き込むんだ」
「……何故そこまで教えてくださるのですか?」
 ほんの少し、馬場が笑ったようにみえた。口角が数ミリ上に傾いたのを笑みと言うのならば、だが。
「意味が無いからだ。俺個人を捕まえようが裁こうが事件は続く。最悪、もしくは最善か。神を殺してもな。あの怪物並のクラッカーが居れば似たようなことは出来る」
 事実そうだろう。警察への何らかの妨害工作、SNSへの書き込み、多数の踏み台を使った足をつかせない行為の数々。それらは技術的な要求レベルが高いがあくまで人の領域であり不可能ではない。
 電脳魔術士達だってマシンと時間をかければ可能だろう。
 無数の、繋がりの薄い、動機なきボランティア殺人者達。正義の尖兵。
 波狼はその想像に眉根を寄せた。中々に不愉快な話だ。
「気に入らないか?」
「そりゃあ。悪人を殺すことの是が非かはまあ、是なんじゃない? 一応救われてる人はいる訳ですし。ただこの世界じゃ勝手に殺すのは悪人の所業だけどね。いや、だって何を持って悪人とするかなんて個人の領分よ? いくら不特定多数が認めようと個人個人でやってりゃ歯止めが効かなくなるのは目に見えるしね。だから法律という大きなルールがあってそれに沿うように警察や裁判なんてものがあるんだしね」
「その警察や裁判では裁けない悪がいるのもまた事実だろう? それについてはどう考える」
「いや、それこそ俺みたいな部外者が口を突っ込んで回ってたら社会がめちゃくちゃになっちゃうでしょう」
「確かにそれはそうだな。だが感情では? 今まさに虐めで死んでいく子、親のいわれなき暴力で死んでいく子を見てもお前は何も感じないのか? 加害者が反省も無くのうのうと生きていることについては?」
 男の言葉に初めて力のような物を感じた。執念のような、熱さ。
「捕まえるだけじゃだめなんですかって……これって洗脳してます?」
「いいや、ただの会話だ。捕まえても裁かれない悪は存在する。そういう話だな」
「……ありがとうございます。これ以上、俺からはないです」
「そうか、態々ありがとう。それじゃあ外に居るのも呼んでやったらどうだ」


 同時刻
(別に、オレだけキレイなまま居られるとは思っちゃいないさ。精々、意地悪く立ち回るよ)
 PC前で伊美砂が何やら作業をしていた。キーボードの横にはケータイ。相手は突入班の1人、先刻同道していた男性猟兵だ。
 情報自体はいくらでもそこから手に入るという手はずだ。その感に彼女は彼女の仕事をする。その仕事とは。
「【ダークウェブ殺人事件一斉検挙されるが】【悲報†ガーディアンズ†終了のお知らせ】……っと」
 フェイクニュースに掲示板でのスレ立て。ネットにはネットというやつだ。
 クラッキングが出来ないのならば、つつく。
 正義だなんだと社会にうかがいを立てているところを見るに、犯人、少なくともトップはそれなりに評判を気にする性質を持つ。反応があれば儲けもの。
「さらにさらにー? 他の連中はどうですかなー?」
 構成員は人だという。ならばこんな風に祭りを演出されてグラつかないわけもなかろうという狙いだ。
「デュフフ、祭りですぞ。『ヒキコモってたんだが警察が何人もドアの前に来ててもうだめぽ』っと!遊びで燃やすのはダメですぞー。拙者は仕事でゴザルからなー」
「それにしてもこの猟兵、ノリノリである」
 突っ込みは現場から狭筵氏がお送りいたします。
「シャラップ。これも世界平和の為でござるから拙者無罪であるよ」
「キャラ、安定しませんねえ」
「それが拙者の持ち味でござれば。にんにん」
「もうわけがわからないよ」
 そもそも闇サイトそのもので連絡を取り合われたら意味も薄いだろうが、それでも今のSNSに群れる悪意なき殺人擁護者たちには効いている。そういう手応えがあった。


 次々に乗り込んでくる猟兵を前にしても、馬場の表情は変化しない。
 まず口火を切ったのは狭筵だった。
「――毒を呑んだってとこですかねえ。いえ、裕太君の事ですよ」
「何がいいたい?」
「人の精神構造って想像よりずっと善良に出来てるんです。今はいい。極限状態の中で守るものがありますから。環境が正常になるにつれて、あの子もいずれどこかが壊れてしまうのでしょうね。人を殺しても平気な人なんて最初から壊れた。人のなり損ない――つまり“人でなし”です。……今のはダジャレですよ?」
「中々に耳が痛い。それで?」
「いいえぇ? 善悪を問うた所で意味なんて無いでしょう? 貴方も多分、そういう人種でしょうし。別に正義のつもりは、ないんでしょう?」
 ほぼ確信に近い。対面するまでは正義に踊らされただけの罪に無自覚な人間かと思ったが、今では評価を切り替えていた。
 欲求のためならば自覚的に人を殺す人間。まさに、人でなしだ。


「で、このおっさんが関係者? はぁ、よくある『悪人を殺して何が悪い』的な?」
 蔑視の視線を隠すこと無く向けたのは河南だった。犯罪の方向性、ひきこもりという馬場の現状が彼女のなにか許しがたい部分に触れたのだろう。
「知るか。法的にどうこうなんて話はこの場では求められてないだろうし、そうでないなら善悪なんて時代によっても人によっても変わるでしょうよ。結局あんたらのやってる事は『殺したいから殺した』だけでしょ。『殺したくない』ならどんな極悪人だろうが無関係の他人にわざわざ手出そうなんて思わないわ。でも自分は悪人にはなりたくないから悪人に絞って大義名分を笠に着てるだけ。正義って言えば何やってもいいような気になるものね!」
「そう。今まさにお前達が他人の家に土足で踏み込み、相手を蔑むように、な」
 淡々とした返答は煽っているように見えて、事実を並べているだけの実に平坦な口調だった。
 河南が年若い女だからということで舐めてかかっているのだろうか。いや、違う。じっと河南を見つめる顔には侮りもなにもない。観察者の眼だ。
「いや、実際そうだな。俺も、そして他の連中もそうだろう。殺したいから殺す。実に単純で明確だ。だがな、他の猟兵、だったか?」
「なぜ、それを」
「自称神から聞いた。そういうのが居る、と。まあそこ猟兵の男にも言ったがな。お前は目の前で裁かれずにいる悪党を見て何も思わないのか? そんなことはないだろう。今俺にそういう感情を抱く位だ。何かを感じる物があったのだろう? こんな奴は許せない、そう思ったのだろう?」
「勝手に人の気持ち代弁しないでよ。例えそう思ったとしても私はあんたらみたいに殺してやろうなんて思わないわよ。あんたらのやってることは子供のやってる吊し上げとかわりゃしないって話よ。気に入らないところをあげつらって、叩いて、それで気持ちよくなってるんでしょうが」
「否定はしない。レイプ魔が、虐めをしていた連中が、肉親を殺して平気な面をしている奴が、無残に殺されたのを見た時俺は確かに興奮したよ。やってやった、と思ったよ。……お前には無いのか? 悪党を倒してスカっとすることは。無いというのなら、そんな歳でなぜこんな事をしている」
「あんたには、関係ないでしょうが」
「確かにそうだな。俺も俺の理由で殺す。それだけの話だ」


 次いで馬場に声をかけたのは勘解由小路。
 この状況はもう既に敵の罠の中ではないのかと半ば確信していたが、それでも進む以外に道がないと虎穴に飛び込んだのだ。
「誰かを助けたいと思う者は、助けるべき誰かを望む。やがて本末は転倒する。あいつが酷い目にあえば、俺が助けられるのに、と」
「面白い発想だな。もし仮に、悪党が1人も居なくなる世界が実現したとしたら……そうなるかもな。実現したら、だが」
 馬場の表情からは真意が読めないが、勘解由小路の言葉に耳を傾けている事だけはわかった。それなりに理性的なのだろう。
「あんたは自分の消滅を心の底から願えるかい? 自分などいなくても、上手くいく世の中でありますように、と。思えないなら、しょせんあんたは他人を自己肯定するためのダシにしているに過ぎないさ。あんたは願えるかい、†ガーディアンズ†の消滅を?」
「うまく行く世界にしたい、とはそもそも考えては居ないのかもな。そもそもそこまでうまく行くなんて思ってはいない」
「なにを言っている?」
「自称神は言った。死をもって示威行為とし悪党の無い新世界を、とな。それに賛同している奴もいるにはいるようだが、それは人間を舐めすぎているな。そんな単純ではないだろう」
「だが、あんたはその神の下僕だ。神の手足となって動いている。何故だ」
「俺の望みと奴の行動が合致したからだ。……俺は多分、感情で動いている。警官時代に裁けなかった悪を、この手でただ潰してやりたいと。そのためなら犯罪にも手を出そう。行き場を無くした連中を利用もしよう」
「その行動がアンタがかつて裁けなかった悪そのものに成っているんだろうが」
 元警官だと名乗る馬場の言い分もわかる。世の中には様々な理由で手出しができない、明るみに出ない犯罪は存在する。だが、それを理由に犯罪者になっていいなどという道理は存在しないのだ。
「そうだな。だが、理屈ではないんだよ。……ああ、わかった。俺はやっぱりガキのまんまだったんだな。悪党をぶっつぶしたい。ただそれだけなんだ。ありがとう、名もしらない正義の味方。ようやくスッキリした」
 馬場が笑う。
 きちんと人間じみた表情で、はっきりと。



「悪人を裁く……それは私たち猟兵もやっていることなので、それ自体に口出しするつもりはありません。その行動の善悪は司法機関の手に委ねるべきことです」
 馬場の家に突入していく猟兵達を尻目に、まずリスパーはネットの海へと潜っていた。
(ですが、その裏にオブリビオン――人の世界に関与してはならない存在がいるのなら話は別です。私たち猟兵は、オブリビオンを倒すための存在なのですから)
 その為ならば手段は選ばない。どんな手段を用いても、それこそ犯罪だろうとも手がかりを見つけてみせる。
 数々の防壁、無数にある踏み台。それらを攻撃し、穴を開け、潜り込んでいく。
 馬場・崇の学歴、職歴、勤務成績、前科の有無、全てが彼女の前に行儀よく並べられていく。けれどもどうしてもオブリビオンとの繋がりだけが見つからない。
 闇サイトを使っていたことはわかっている。わかってはいるがどのHNでいつログインしているのかがわからない。
 不自然な金の流れもない。そもそもガーディアンズは金銭のやりとりを行っていない。
 情報が少なすぎた。
 電脳魔術士は魔法使いではない。アンダーグラウンドという秘匿世界そのものと戦うのは容易ではない。
 時間だけが過ぎていく。こうなったらこの世界のネットそのものを掌握してやろうかと熱くなりかけたところで、ふと馬場の家が目に入った。
 天啓。
 思わず笑ってしまう。
 侵入、強奪。それしか手がないと盲目になっていた。もっと単純に考えれば済んだ話だ。
「馬場さんのPCそのものが証拠じゃないですか」
 猟兵の突入に合わせてHDDのデータを自壊させていたら駄目だろうが、ここで延々ネットの秘匿性そのものに喧嘩を売っているよりかは建設的だった。

 結論から言って、馬場のHDDはそっくりそのまま残っていた。
 証拠能力としては十分。彼はもう終わりだろう。
「人には踏み越えてはいけない一線があるのです」
「そうだろうな。だが、それでは満足できなかったんだ」
 馬場はどこか清々しげですらあった。


(やはり、そうでしたか)
 猟兵達の聞き出した情報を頭の中で組み立てていたトリテレイアは暗澹たる気持ちで溜息をつく。
 元から予想は付いていた。馬場もまたただの尖兵の1人に過ぎないのだろうと。そして頭を失っても機能する、そんな恐ろしいシステムなのではないのかと。
「他の、貴方がしっている全てを吐いていただきましょう」
 3m近くもあるトリテレイアが詰め寄ればそれだけでものすごい圧力だ。だというのに馬場は彼を見上げるばかりで尻込みした様子がない。
「他、とは?」
「貴方が言うその自称神という存在。貴方の役割。全てです」
「役割は、羊飼いとかいう名前が付いていたが割と雑用だな。ネット越しに実行犯に支持をだし、手配をして動かす。先も言ったように構成員を作るために洗脳の真似事なんかもしているな」
「超常の力も使わず、そんなことが?」
「今どき実際に顔も合わせていない異性に惚れ込んで金を貢いだりするのは当たり前に起きる。それと比べたら大差ないと俺は思うがな。皆が求めているんだよ。何か夢中になれるモノを」
「……仕事に関してはわかりました。神の話をお願いします」
「警察を首になった直後だ。あてもなくさまよっていた俺に声をかけてきたのが、神と名乗る女、いや少女だったよ。セーラー服を着た、見た目はどこにでも居るような子だったが、違う。人じゃないとひと目でわかった」
 人には不可能な怪力だとか、超人的な能力だとか、そんなものは関係ない異物感。
 見ているだけで不安になるような超常の存在を、馬場は少女に感じたらしい。
「この存在なら、と思った。悪党を潰せる、法も国も超えた存在に正直体が震えるほど歓喜したな」
「しかし解せませんね。そんな存在ならばなぜ直接手を下さないんです。その方が余程早い」
 回りくどすぎるのだ。
 百歩譲って殺人サイトは有りだとしよう。そこで募集をかけて集った依頼をオブリビオンが殺す。これなら話は単純でスムーズだ。
 くつくつとその時初めて馬場が声を上げて笑った。
「それは俺も気になって聞いた事がある。そうしたら奴はなんて言ったと思う? 人を使う方がそれっぽいからだ、とのたまったんだ。遊びなんだよ。奴にとっては俺たちも、SNSでの宣言も、正義なんてお題目も」
「そこまでわかっていてなぜ」
「言っただろう。俺の欲求と合致するからだよ。奴はきっとお前たちが殺すに足る邪悪な存在なんだろう。だがな、正義の味方。俺にとってはレイプ魔だとか虐めだとか、そういった話のほうがリアリティがある。俺が殺すに足る邪悪なんだ」
「……貴方もまたその邪悪ですよ。人を殺して、スカッとするなどと」
「お前は感じないのか? お前が邪悪と決めた存在を殺して」
「そのようなことは、一度も」
 本当にそうだろうか。
 トリテレイアは自分の手を見つめた。
 馬場と同じく返り血で真っ赤に染まった手を。


「悪人を殺す、それは結構」
 にゅっと腕が伸びた。
 それは誰の制止を受けることもなく馬場の首を掴み、締め上げた。ユングフラウだ。
「正攻法で抗えぬならば、殺しもまた手段と成り得よう。……だが気に入らぬ」
 殺気を叩きつけながら馬場を睨みつける。
 締め上げられて顔を真赤にしながらも馬場はそれを正面から受け止めた。伊達にオブリビオンとつるんで人殺しなどしているだけはある。胆力は一級ということか。
「殺しとは、最後に残された究極にして禁忌の手段。手を染めた時点で、自身もまた悪。故に、殺しは殺される覚悟をした上で堂々と行わねばならぬ。これが、外道たる我の美学よ」「そう、だな。殺すの、だから、殺されるだろう、な」
 馬場はひゅうひゅうと息も絶え絶え。だというのに。
 ユングフラウの手首に隠し持っていた警棒で殴りかかってきた。
 呆れた根性だと褒めるべきか、無駄なあがきと嗤うべきか。
「女の細腕と甘く見るなよ。我もお前の神と同じく、人外の者。汝如きでは刃が立たぬと知れ」
 理解したのか、それとも窒息で朦朧としているのか、抵抗は止んだ。
「フォルター様、それ以上は」
「ふんっ」
 馬場を離してやって落ち着くのを待つ。
 さて、誘惑でもして傀儡にしたてあげてやろうか。今までの情報が全て真だと信じる材料がない。
 だがその前に馬場が提案してきた。
「これ、以上俺がなんと言おうと信じられんだろうよ。情報がほしいならPCでも漁るといい。奴が自壊ウィルスでも仕込んでなければの話だがな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 未だに痛むのか首をさすっている馬場にアルゲンが近づいた。
「お前にとっての正義、というかただの欲求か。それはわかった。だが、ならば何故証拠を残すような事をした。お前は招待したと言ったな」
「ああ。辿りやすいよう、痕跡を残した。警察は動けないようにしてあると聞いたからな。消去法で、見つけられるのは興味本位のハッカーか、もしくはお前たちのような存在だろうと踏んだ」
「止められるとは思わなかったのか。まさか私が、私達がお前達の考えに共感するとでも?」
 だとしたら浅はかな企みだろう。猟兵は誰もが人を外れた力を持つが、殆どの者が極々普通に社会生活をおくっている。つまりそれは世界の、社会の在り方を受け入れているということ。
 少なくとも馬場のような破壊者に共感し、なびくようなやわな神経をしていない。
「いや。……ただ、見てみたかったんだよ。警察にも国にも、そして俺にも出来なかった、本物の正義の味方というものを」
「私はそんな大層な代物ではない。1人の騎士として、道に殉じたいだけだ」
「……そうか。ならば、お前はどう思うんだ。法では裁けない悪党を。誰にも知られず泣くしかない人間を」
 馬場の目は一欠片の嘘も見逃すまいとアルゲンの目を見据えている。
 硬く、暗い、鋼のような目だった。
 アルゲンは考えた。
 どれだけ間違った人間だとしても、犯罪者だとしても、真摯に向き合おうと。それが今試されている。
 騎士道とは。死に際まで側に居たあの英雄は、こんな時どう答えただろうか。わからない。けれども、答えはさほど考えずとも出た。
「……私はこの国の状況にそれほど明るくないし、お前が見てきた地獄を理解できるとは言わない。が、お前が決定的に間違っていることはわかるぞ」
「どういう事だ」
「何故守ってやらなかったんだ。泣いている誰かに寄り添ってその涙を拭いてやることを何故思いつかなかった。これから誰も泣かないように、守ってやることをなぜ考えなかった」
 悪党を許すまいとする気持ちは自身にもまた有る。だからこそ馬場の無軌道で感情的な道は看過できるものではなかった。
「お前達に唆されてあの少年は罪を犯した。親殺しを依頼したという罪は一生彼に付いてまわる業だ。穏便な決着を模索しなかったのか? 彼は親を殺さなければ救われなかったのか? 違うだろう。救われたかったのは、お前達だ」
 もはや馬場は問い返しもせず、アルゲンの口上を静かに聞いていた。判決を粛々とまつ罪人のようですらあった。
「お前の方法には道理がない。それを正義と騙るのは自由だが私は私の正義によってお前達を止めるぞ。お前達は私にとっての、悪だ」
鏡島・嵐
判定:【SPD】
依頼したのがおれより小さな子供で、実際に殺ったのは化け物じゃなくて人間、か。
なんかすげぇやるせねえ……モヤモヤする。

崇って奴の所に行って……何も言えねえかもだけど……疑問だけは頭ん中ぐるぐる回ってる。
コイツは、ヒーローになりてぇんだろうか。
皆にとっての“悪党”をやっつけて……それでコイツは何を得るんだろう。
もし皆に「平和のために犠牲になってくれ」って頼まれたら……コイツは喜んで自分自身を擲てるんか。たとえ自分の生命でも。
そもそもヒーローって何なんだ。卓越した個人? 力の象徴? 体のいい生贄? それとも単なる安全装置?
今ここで晴らす疑問じゃねぇけど……他の奴の意見が知りてぇな。


黒江・イサカ
夕立(f14904)と

やあ、万端かい夕立
ちょっといたずらをしてきたんだ

馬場君もびっくりするんじゃないかなあ
まさか自分が見てるSNSで、被害者家族犯人説が飛び交ってるなんてね
ま、適当に似せて作らせたページなんだけど

さあ馬場君、やっちまった気分はどうだい?
これからムショに入って前科持ちになる気分は?

…え?自分じゃない?まあそう言うなって、聞いててよ

…で、サイトの存在も明るみに出て…依頼者は被害者家族だった!
マスコミはそんな流れかな?
ほら馬場君、見てごらんよ
ネットはもうそんな論調じゃないか

悪を殺して正義になり、そしてその正義は誰を守ってるんだろうね
訊いてみてよ、馬場君
君の信じるガーディアンズ様にさ


矢来・夕立
黒江さん(f04949)と

お話は黒江さんに任せます。
人の弱みにつけこ、失礼。会話が上手いので。
オレは『忍び足』で潜伏してますね。お二人の護衛です。
状況的にはいつ殺されてもおかしくないですよ。口封じとか。
…心底どうでもいいですけど。仕事なので。

で?人殺し?
良いじゃないですか。悪い人なんでしょう?
計画立案実行した段階で晴れて悪党の仲間入りですが。
ようこそ。それだけ。

「“悪い奴”を殺せば“正義”になれる」って、本気で思っちゃってます?
殺しまでやってなんの疑問も抱いてない?
それ異常ですよ。UDCアースでは普通なんですか?

…藤堂さんの予知に引っかかったの、この辺りじゃありません?
ただのカンですが。


嶋野・輝彦
誘導されてんならそれもいいだろ
追いつめて手札を切らせて状況を動かした方が話が早くねぇか?
親か…
警察手帳と【恫喝】で黙らせる
小市民ならお上に逆らう事ぁないだろ

馬場崇の部屋の扉を
【怪力】で蹴破って
【恫喝】【存在感】【コミュ力】【殺気】
正義の味方気取りのクソ犯罪者がゴラァ!
てめぇみたいに裏でコソコソやるなんざ正義であるわきゃねぇだろがテメェ舐めてんのか、あ゛あ゛っ!
俺はなクソ犯罪者なんだよ、裏で動くなんざ俺と同じやり口でな
おめでとう卑怯者、お前も仲間だ
この前脅しつけた小学生の方がまだ根性あったぞ
正義を騙るなら矢面立ってから言えや

と煽りまくる

【第六感】で周囲、本人の様子も含め警戒

さって何が出てくるかな




 幾人もの猟兵達と馬場の会話を、鏡島は黙って聞いていた。聞いて、その全てを心に落とし込み、考えていた。
(欲求、正しさ、ヒーロー、子供、裁けない悪党……)
 思想の氾濫だ。鏡島は景色が歪んでいくのを自覚した。
 馬場のように、もしくは他の猟兵のように、確固たる信念というものが未だに無い鏡島にとって、この問題はあまりにも割り切れなくて吐き気すら催す難事であった。
 依頼したのは子供で、それを殺したのは人。洗脳や思考誘導は有ったにしても彼らは、オブリビオンという明確な”殺すべき敵”ではないのだ。
 馬場達が殺した10人に及ぶ被害者達は邪悪なのだろうか。それとも自分達猟兵が守りたい世界の一部なのだろうか。無辜の民と呼べる人々なのだろうか。
 諸星の件は確かに殺すほどでもなかった。通報して、然るべき組織が介入すれば血をみない解決策も有った。
 だが他はどうだろうか。強姦、集団暴行、虐め。諸星を除く9件の被害者の中にいた者たちは、ガーディアンズが介入しなければもしかしたら今も大手を振って社会に溶け込み、また人を傷つけていたのではないか。
 わからない。
 わからない。
 何もわからない自分の口で、何を語れるというのか。
「お前は、何も言わないのか?」
 見かねたように馬場が話しかけてきても、直ぐには言葉が出ない。間違っているのだろう。個人が人を裁くのはこの世界、この国では違法だ。
 わかっている。だがそんな単純な話ではないような気がするのだ。
 許せないという想いは間違っていないはずなのに。
「わからねえ……お前が正しいのかどうかなんて、おれには……」
「だが、決断をしなければならない時は、くる。お前が止めなければ俺は止まらないとしたらどうしたいんだ」
「……」
 答えられれない。殺すのなんて間違っているとはっきりと言えはしない。自分もまたオブリビオンという邪悪を殺して回っているのだから。
 言い訳なら出来る。
 オブリビオンは邪悪な存在だ。世界の敵。倒さなければならない敵。
 だが本当にそうだろうか。
 オブリビオンと交渉して、お互い譲歩できるラインを探そうと努力しただろうか。
 誰かの言葉を鵜呑みにして彼らが邪悪で倒さなければならない敵だと思いこんでいるだけではないのか。
 世界の敵だという何者かの意思、言葉、それらを除いたときオブリビオンは単なる大虐殺者であったり邪悪な思考の持ち主であったり……つまり、馬場達が殺している人間となにが違うのかという話だ。
 自分と馬場の違いは世界の敵という錦の御旗を掲げているかどうかの差しかないのではないのか。
「1つ、聞きてえことがある。皆にとっての“悪党”をやっつけて……それでお前は何を得るんだ」
「満足を」
「もし皆に『平和のために犠牲になってくれ』って頼まれたら……お前は喜んで自分自身を擲てるんか。たとえ自分の生命でも」
「いいや。俺は自己満足の為に悪党を殺している。お前は、お前達は出来るのか? 正義の味方」
「おれは、そんなんじゃあない……そもそも正義の味方ってなんだ。卓越した個人? 力の象徴? 体のいい生贄? それとも単なる安全装置?」
 言うつもりも無かった頭の中を渦巻いていた疑問が、ついに言葉になって漏れ出した。
「人を救うものだろう。俺が憧れていたと思いこんでいたモノはそういうものだ」
「おれは……」
「救うのだろう? 世界を蝕む邪悪を倒し世界を救う。正にヒーローではないのか」
 馬場の言葉が皮肉めいて鏡島の耳に届くのだった。


 単独行動をしていた黒江が馬場の家へとやってきたのは他の猟兵が問答をしている最中だった。勿論出迎えはなし、というわけでもなく1人だけいた。
「やっと来ましたね、黒江さん。どこで油を売ってたんだか」
「やあ、夕立。万端かい? ちょっといたずらをしてきたんだ。馬場君もびっくりする心尽くしの仕掛けさ」
 正に性悪そうな顔で嗤う男を、矢来は凍土もかくやといった瞳で見つめる。内心を表現するならば『うさんくさい』といったところか。
「うさんくさい」
 口に出ていた。
「そう言わないでよ。これでもそれなりに頑張ったんだけどな。ま、褒めるのは後に取っておいてくれていいよ」
「絶対にないと思いますけど、まあお手並み拝見しますよ」
 2人の男が馬場の部屋へと入っていく。
 黒江はまっすぐに馬場のもとへ。矢来は気配を殺し壁の花。万が一に備えての彼らの身辺警護だ。
(口封じ、しますよね。普通に考えたら。ああ、窓から狙撃とか簡単そうですね。ユーベルコードならブレも無いですし……)
 考えることはひたすらに仕事のこと。
 別段馬場を説得しようとか断罪してやろうとか、そんなつもりは毛頭ない。
 町の喧騒程度の認識で猟兵達と馬場の問答を聞いて、思った事は唯一つ。
(まあ、畜生道に落ちる覚悟は有るみたいですし。ようこそ、としか)
 人を殺す者は全て悪党だ。どんなに理由を御大層につけようとも、殺しは許されざる悪だ。正義や大義などというものは事実を隠す分厚いオブラートでしかない。
 殺しは、殺し。
 馬場も己も、ただの悪党でしかない。議論する意味もない純然たる事実があるだけだった。

「やあ、馬場崇君。色々言葉責めにあってお疲れだろうけど見てほしい物があってね。まあ時間はとらせないからさ、ちょっとだけ見てみてくれよ」
 猟兵達との問答が一段落ついた所で、胡散臭い笑みを顔いっぱいに浮かべた黒江が進み出た。
 指し示すのは端末のモニター、そこに映る言葉の羅列。
 馬場の顔が一瞬引きつるのを黒江はしっかりと確認して、口角を更に上げた。
「見たかい? いやあ、酷いねえSNSって。被害者家族犯人説だなんて根も葉もない噂をこんなに真面目に書き散らかして、共有して。これはもうあの家族どこ行っても白い目で見られちゃうね?」
 嘘である。全ては黒江が仕組んだ『心尽くしの仕掛け』である。
 その方面に強い人間に急造させた偽ページは素人目にはわからない程の出来栄えだ。
「……」
「別にどうでもいいかい? そうだよね『自分の満足』の為に悪党を殺す君には、家族がどうなったって構わないだろうね」
「何が言いたい」
「少し声が固くなったんじゃないかい。もう少しリラックスしてくれよ。僕は別に君を虐めたりしないから」
『正義ではない。悪党を殺したいだけ』そう嘯いた馬場だが、だからといって正しさへの未練が一切ないわけではないのが反応から読みとれた。
 DVの被害者が自分達がやったことで更に傷つくのを見て、心が動かないはずがなかったのだ。
「お前は、中々に性格が悪そうだな」
「何故かよく言われるよ。心外だね。そんなつもりは欠片もないのに。ああ、ほら見てみなよ。例の闇サイトまですっぱ抜かれて、依頼者は被害者家族だった! と、マスコミはそんな流れかな?」
「……俺に、どうしろというんだ」
「訊いてみてよ、馬場君。君の寄る辺、ガーディアンズ様にさ。君がただの殺人者だとかそういうのはどうでもいいさ。ただね、君の神は同じ考えじゃない。そうだろう? 気にならないかい?」
 信じはしているように見える。揺さぶりも効いている、が。
「……それで、俺が神と接触すればそこを討つ、か? 残念だが俺から奴に接触する方法はない」
 馬鹿ではなかった。
「本当に? 一切? 何一つとして?」
「メールやメッセージでよければ幾らでも出来るが、奴は気まぐれだ。見るかどうかもわからん」
「うーん、残念。まあダメ元で送ってみてくれるかい? 白馬の騎士よろしく来てくれるかも知れないし」
 

(まどろっこしい)
 言葉を重ねる猟兵達を見て嶋野は呆れ顔だ。
 やるべきことは説得でも断罪でもなく、ただオブリビオンを討つこと。馬場本人がそれでないのならば、追い詰めて手札を切らせて状況を動かすしかないだろう。嶋野はそう考える。
 嶋野の思考はいつだってシンプルだ。手段を選ばず最短経路をとる。
「うだうだうだうだクソ犯罪者がゴラァ!」
 どら声を張り上げて馬場の胸ぐらを掴み上げる。
「正義だ? 悪党だ? 糞くだらねえ。テツガクやってんじゃねえんだぞこっちは。わかんねぇならはっきり言ってやるよ。テメェみてえな裏でコソコソやってる奴は紛れもねえ悪党だ! おめでとう卑怯者、俺と同じ悪党のお仲間だよテメェは」
 片腕一本で吊し上げて、馬場に殺気と怒声を存分にぶつける。それこそただの一般人ならば1発で失禁してしまいかねない。
 馬場は、なんとか耐えている。
 必死に恐怖に屈すまいと歯を食いしばっている様は見事と褒めてやっても良いが、怯えていることが丸わかりだった。
 どれだけ経験があろうとも、精神が強くとも、猟兵達が持つ力は一種のチートだ。やすやすとは抗えない。
「そんなに悪党殺したければ表立って殺して回りゃいいだろうが。一々理由付けしてお仲間までこさえてよ。本音はお前保身に走ってんだろうが! 1人で戦うのが怖くてしかたねえんだろ。きょうび小学生のガキのが根性あんぞテメェ!」
 恫喝と言葉による揺さぶり。
 別に馬場自身にこれ以上の情報を求めてはいない。
(来るならこいや)
 何かの術か、伏兵か、それともオブリビオン本人か。
 誘い込んだくらいだ、何かあるだろうと踏んだのだが果たして。

 真っ先にその存在に気がついたのは外を警戒していた狭筵の影であった。
 次いで、警戒していた矢来が、嶋野が、同様に馬場家に侵入してくる者を察知した。
 急速で窓へと突撃してくる。弾丸ではない。人間サイズの何か。
 迎撃は間に合わない。
 咄嗟に猟兵達が馬場を抱えて飛び退るのと、窓を粉砕しながらそれが中に飛び込んでくるのは同時だった。
「ククククク、中々に面白い見世物だったぞ。人間ども」
 それは少女のような見た目をしていた。
 それはセーラー服を着たどこにでもいるような普通の少女。
 ただその表情だけが、人とはかけ離れていた。
 笑みだ。ただ笑っているだけだというのにここまで邪悪に思える存在を、もはや人とは呼べないだろう。
「褒美に我から名乗ってやろう。我こそは新世界の神にしてガーディアンズを統べし者、絶影ノ華!!」
 大仰に手を広げると見得を切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『絶影ノ華』『リリナ・アルシエル』

POW   :    シャドウエンペラー
対象の攻撃を軽減する【神霊体】に変身しつつ、【衝撃波を放つなぎなた】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    マインドコントロール
レベル分の1秒で【熱線銃(ブラスター)】を発射できる。
WIZ   :    ダブルハッキング
対象のユーベルコードを防御すると、それを【頭部のテレビ画面に映し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。

イラスト:はちごう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はネラ・イッルジオーネです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「しかし、困るぞ馬場。汝には期待してると言うのに。このような者たちを招き入れて」
「……やはり、見ていたか」
 特に感慨も感じさせない声色で馬場が呟くと、得意そうに自称神がPCのカメラと、自身を指さして笑った。
「我が目はどこにでもあるということだ。まあ、面白かったから許そう。正義、悪、実に心が震える会話であった。これだから汝ら人の子は面白い」
 ぐうるりと、また大仰な仕草で猟兵達を睥睨する。
「事情は全て承知している。汝らは猟兵、我を殺しに来たのだろう?」
 そのとおりだと構える猟兵達に、自称神はまてまてとジェスチャーをする。
「まあまて、我も汝らと話をさせてくれ。オブリビオンだから殺すなど短絡的だろう? 我はただ悪党を下僕をつかって殺せたらそれでいいのだ。誓ってもいいぞ。きちんと調べて悪党と確信した者を殺していこう。善人には手を出さない。世界にもお前達にも都合がいい話ではないか? 奴らを守る価値などどこに有る?」
 にやにやと笑いながら。
 言葉を転がしながらゆったりと猟兵達に近づいてくる。
「大体だな、我らより余程人間のほうが人間を殺しているだろう? それは見逃してかまわないのか? 猟兵達。力持つものとしてそれは怠慢ではあるまいか?」
 耳から脳髄へと、オブリビオンの言葉がじわりじわりと迫ってきていた。
嶋野・輝彦
胸倉掴みあげてた馬場を【怪力】でオブリビオンに投げつけて

ウォーハンマーで【先制攻撃】【だまし討ち】【捨て身の一撃】【怪力】で攻撃
「知るかバーカ、世界の敵か語るなよ」
馬場がどうなろうと知ったこっちゃねぇよ、オブリビオンを殺せとは言われてるが誰を救えとも言われてねぇしな

相手の攻撃は【激痛耐性】【覚悟】で耐える
つーか顔色変えずに対応、ああいう理屈をこねる相手、周りの動きも悪くなるし場を呑むのが正解だろ
「正しい正しくないとかくっそどうでも良いわ、俺は好きでここに居るわけじゃねーんだよ、むしろ出来うる限り最悪の方法で世界の敵を滅ぼしてやるわ、てめぇの理屈なんざ効くかざまみろや」

死にかけたら戦場の猟兵発動


勘解由小路・津雲
何か誤解しているようだな。我ら猟兵が倒すのは悪ではない、オブリビオンだ。もしお前らが神と崇められ、善とされる世界があったとしよう。おれは躊躇なく神を殺し、悪と罵られよう。我らの関係は善悪の彼岸にある。……それに、人間の悪は人間自身の自浄能力に任せる領域だ。自浄できないというのであれば、それはもう……。そこは、オブリビオンも、猟兵も手を出してはならないのだよ。

■戦闘 【符術・結界陣】を使用。ここは戦うには狭すぎるので相手を押し出したい。符の一部は馬場にまわす。彼が戦闘に巻き込まれないよう守るためでもあり、同時に彼に余計なことをされないためでもある。



「ラぁッ!!」
 嶋野がそれを放り投げるのを止められる者は皆無だった。
 馬場だ。成人男性の体がオモチャのように宙を舞う。人外の怪力によって真っ直ぐに飛び、ぺちゃくちゃと喋くる絶影ノ華に激突。
「な!?」
 驚愕は敵か味方か、それとも両者か。
 倒れはしない。
 無論ダメージもない。
 けれども敵に束の間隙が生まれた。
 突然無数の選択肢を与えられた時、思考するモノはそれを処理しようと自動的に考えてしまう。
 捨てるか、盾にするか、その場で引き裂いて殺すか、それとも批難するか。
 なまじ馬場が相手側の駒である分取れる選択肢が異様にあるのがまた効いていた。
 そして今は、戦闘中。
 一拍すら万金を積んでも手に入らないもの。
 見逃す間抜けはいなかった。
「如何なる災厄もここより立ち入りを禁ず、急急如律令!」
 勘解由小路が唱えれば【符術・結界陣】が発動。25枚に及ぶ霊符が出現し、もつれ合っている敵と馬場を部家から押し出す。
 賢明な一手と言えた。
 それなりに広いとはいえ民家、しかも個人の部屋だ。とてもでは無いが集団で戦うには難く、単騎の敵にとっては有利なフィールドだ。下手をしたら同士討ち。そうでなくとも一度に仕掛けられる数に多大な制約をうけたことだろう。
 間を置かずに猟兵達も外へ飛び出す。
「本当なら敵だけ出したかったのだが……」
「あのタイミングで一々相談なんて出来るかよ。大体モロに技決まったろうが。結果オーライだ」
 悪びれもしない嶋野に勘解由小路が渋面を作る。
 正義などではないと割りきってはいても、嶋野の破天荒な行動には諸手を挙げて賛同はしにくかったのかもしれない。
 とはいえ虚をつけたのも事実。流れは此方に移った。
 勘解由小路はかぶりを振って戦闘に意識を集中させた。
 出た先は馬場家の庭。
 花壇も何も無い開けたそこは数人で戦うには不便はしないだろうが、少々手狭でもあった。
 隣家との距離もそれほど離れていない。
 部屋よりまし、という程度だろう。
「問答無用、か。中々に驚いたぞ」
 敵が笑いながら出迎える。足下にはうめき声をあげる馬場が横たわっていた。
「とはいえ力の無いただの人間を巻き込むのは感心しないな? かわいそうに、あばらの2、3本は折れているなこれは。もしかしたら内臓もいっているのではないか?」
「知るかバーカ」
 再度さえずりだした顔面に先制してウォーハンマーが突き刺さる。
 錐もみしながら地面を転がる敵に、嘲笑。
「善悪、一般人、纏めて諸共くっそどーでもいいわ。こちとら好きでここに居るわけじゃねーんだよ。むしろ出来うる限り最悪の方法でてめえら世界の敵を滅ぼしてやるわ」
「やれやれ、ここまで話を聞かない相手は対処に困る」
 敵がすっと起き上がる。
 まるでこたえていないかのように、その顔の半分をぐずぐずの肉塊に変えながら。
「てめえの理屈なんざ効くかよ。壁にでも向かってほざいてろ」
「つまらんなあ。そこの、烏帽子の汝はどう思う。これほど面白い話も無いとは思うのだがな」
 鉄火場に似つかわしくないのんびりとした口調。
 だがその間にも嶋野のウォーハンマーが、風をひりつかせながら何度も敵を襲っているのだ。
 話しかけられた勘解由小路とて棒立ちしていたわけではない。嶋野と連携しながら錫杖を振るっているのだが、如何せん敵はまだ余裕らしく中々に当たらない。
「誤解があるようだから訂正しておくが、おれ達、少なくともおれは正義の味方を名乗ったつもりはない」
「ほう」
「我らが倒すのは悪ではなくオブリビオン、貴様らだ」
 払う、と見せかけて突く。届かず。
「我らの関係は善悪の彼岸。……それに、人間の悪は人間自身の自浄能力に任せる領域だ。自浄できないというのであれば、それはもう……。そこは、オブリビオンも、猟兵も手を出してはならないのだよ」
「なるほど? 自分たちが人の、生物の埒外であることを自覚しているのだな、汝は。だから他人事なわけだ。だがなあ、烏帽子の」
 ぐい、と。
 錫杖を掴まれ、引き寄せられる。
 互いの吐息すら届きそうな距離で。
「ならば賢しらに人のふりをして、人の社会に混ざるものじゃあないよ。化け物は化け物らしく、化け物の世界で生きるがいいさ」
「よく回る口だ」
――禁!
 ゼロ距離で符を放つ。
 轟音。衝撃波でもって相手の顔面と己をはじきとばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイ・リスパー
「妄言ですね、オブリビオン。
私はオブリビオンを倒すために作られた実験体。
あなたを見逃す理由は何もありません」

自分の声が感情の色を失っていくのを感じながら、
大規模攻撃電脳魔術【アインシュタイン・レンズ】を邪神に向けます。

「私を生み出した非道な研究所はもうありません。
同じ実験体だった子供たちも、私以外は死にました。
オブリビオンを倒すという目的、それだけが唯一私に残されたもの……」

蘇るのは研究所での辛い実験の日々の記憶。
次々死んでいく実験体の仲間たち。

「私はっ!
オブリビオンを倒すことにしか生きる意味を見いだせないのですっ!
そうしなければ死んでいった仲間たちの遺志は誰が継ぐというのですかっ!」


出水宮・カガリ
外道であれ、ひとはひと
何かの救いになればと、文字での意思伝達を試みたが…
そちらに対しては、既に完全な『壁』を作っていたか

現場に来てみれば黒幕のオブリビオンか
オブリビオンだから殺す
短絡的で、わかりやすく、余情を挟む余地のない絶対理由だ
ひとが、ひとを殺すのは、ひとの理由
過去となったものが、現在の善悪を口にしても意味がない

しかし…猟兵がこのような、わかりやす過ぎる誘いに乗るとは思わんはず
この回答を見越した上での、何かの罠か?
警戒しておきたい

下手に使われんよう、男(馬場)は早急に気絶させて現場から連れ出しておきたい
目が覚めてからどうするかは、あれの自由だ
連れ出しが間に合わなければ【夢想城壁】へ確保を



 出水宮は戦場となった庭から馬場を掴んで後退していた。
 馬場を可能な限り後方に放り出す。もはやうめき声を上げるばかりとなった彼は放っておいても邪魔にはなるまい。
 見た限りでは致命傷でもない。治療は後でも良いだろうと判断する。
 それよりも懸念すべきは敵の軽口。
(オブリビオンだから殺す。短絡的で、わかりやすく、余情を挟む余地のない絶対理由だ。ひとが、ひとを殺すのは、ひとの理由。過去となったものが、現在の善悪を口にしても意味がない)
「そう、まったくの無意味なはず」
 あの愉快犯的な行動と言葉が全く噛み合っていない。そもそも猟兵たる者があのような口車に乗るわけがないというのに。
――何かの罠。
 不意に訪れる虫の知らせめいた悪寒。
 出水宮は急ぎ戦場へ取って返した。

「妄言ですね、オブリビオン。私はオブリビオンを倒すために作られた実験体。あなたを見逃す理由は何もありません」
 リスパーの声は硬い。
 色を失っていく声。1つの意思によって染め上げられて行く思考。
「私を生み出した非道な研究所はもうありません。同じ実験体だった子供たちも、私以外は死にました。オブリビオンを倒すという目的、それだけが唯一私に残されたもの……」
「ほうほう、それはまた悲劇だなあ。許せんなあ。可哀想になあ」
 揶揄するように絶影ノ華が嗤う。
 それがまたリスパーの殺意を強固にしていく。
 殺さなければ。
 殺さなければ。
 殺意に連動して過去のトラウマがいやがおうにも顔を見せる。
 辛い、などという言葉では表現しつくせぬ地獄のような実験の日々。
 次々と死んでいく同じ実験体の仲間たち。
「私はっ! オブリビオンを倒すことにしか生きる意味を見いだせないのですっ! そうしなければ死んでいった仲間たちの遺志は誰が継ぐというのですかっ!」
「汝は操り人形なのだな」
 殺意に染まり、相手しか見えないような視界の中、敵の口だけがやたらはっきりと写って。
「何故汝は非道な行いをした奴等の意向のまま動く。汝はその者たちに我らを殺す為に作られたのだろう? そして筆舌に尽くしがたい地獄をその者らに強いられた」
 物分りの悪い生徒にするように一つ一つ丁寧に。
「おかしいだろう? 酷いのはその者たちだ。死んでいった者たちだって汝の幸せを願いこそすれ、非道な連中の注文を完遂せよなどとは思わないのではないか?」
 子供が小動物をなぶり殺すように一つ一つ丁寧に。
「汝のそれは仲間の遺志ではない。お前の仲間を殺した仇の意思だ」
「だまれぇ!」
 殺意が弾けた。
 大規模攻撃電脳魔術【アインシュタイン・レンズ】発動。
 重力場によって歪められ集積された光。
 膨大なエネルギーが、絶影ノ華へと向けられて。
「やめろ!」
 間際。
 横合いから城門。いや、盾が差し出されて重力場と干渉。
 殺意の光は狙いを大きくそれ、絶影の頭部の一部を焼き滅ぼしながら空へと駆け上がっていった。
「殺す気か」
 出水宮だ。彼は敵を警戒しながらもリスパーにも同様の感情を向けているようにみえる。
 何故。
 同じ猟兵なのに何故邪魔を。
「な、にするんですか! ええ、オブリビオンは殺します! 殺さないと! 殺すの!」
「落ち着け。そしてよく周りを見ろ」
「え……」
 出水宮が示す先を順繰りに見る。
 オブリビオンの、先。
 民家。民家。民家。
 人の、住処。
 よく見ればその屋根が一部根こそぎ消失していた。考えなくともわかる。自分が、焼き尽くしたのだと。
「あ、あぁ」
「飲まれるな。敵の言葉に耳を傾けるな。あれは問答してはならない存在だ」
「酷いな。折角面白そうな演目になろうとしていたのに」
「黙れ狂言回し。カガリはお前と問答するつもりはない」
「残念。だがまあ聞け。我を殺し、ついでに人を沢山殺す。世界の味方はそれでも知ったことではないと嘯けるのかな? そうやって我らを殺し尽くした果てに、誰が残るのだろうなあ? とても面白そうな話、面白そうな空想じゃないか、なあカガリよ」
 ゲタゲタ
 ゲタゲタゲタ
 ゲタゲタゲタゲタ
 戦いならが、削られた頭部から中身をぼたぼたと垂らしながら。
 華が嗤う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

伊美砂・アクアノート
【SPD】にゃはは、どうでも良いコトを云うのだなプッシーキャット。気の迷いに生きて、気の毒に死ぬ現実の有象無象に、究極の意味などないのであるぞ。人類が絶滅したってよぉ、地球は回るし星々は巡るンだ。 胡乱に、曖昧に。人格も表情も移ろわせ…分身。手にするのは拳銃、ショットガン。武器を持ちかえれば、鉈に鎖分銅。くるくると、口から呟くのは無意味な言葉の列。―――さあ、今日も太陽が眩しい。ボクは過去に消え、私は常に滅び、我は未来に死ぬであろう。故に、生存競争をしよう。なあに、意味なんてないさ。【2回攻撃6、援護射撃5、早業5、暗殺5、フェイント5】何も見えないし聞こえてないから、千変万化に無意味に死ね。


八上・玖寂
僕の"気持ち"は既にお伝えした通り。
尚、勧告ではなく予告ですよ、お嬢さん。

人が人を殺す。当然のこと。
力持つ者の怠慢?それがどうした。
思い上がりと欺瞞は聞き飽きました。
そも、面白かったからで許すような気まぐれな品性に正義やら善悪やらを語られたくはありません。

向こうの攻撃は【第六感】と【見切り】で回避。

【目立たない】【忍び足】からの【暗殺】でいいでしょう。
【先制攻撃】【2回攻撃】【傷口をえぐる】も乗れば僥倖。
『万天を断つ無明の星』を乗せた『咎力封じ』で攻撃。

やり方を知らないなら教えてあげましょう。
暗殺っていうのはこうやるんですよ。


波狼・拓哉
というか前提として恐怖とか感じるレベルならさっさと相談しろって話なんだよなぁ…法律何のためにあると思ってるんだ。
まあそれはそれとして過去からわざわざ蘇った殺人貴見逃す必要もないよね?見逃したら怠慢だね?
ああ、さっきも言われたけど感情云々なら本人がやり返さないとどうにもならんよ?本人が止め刺す事で終わりを感じれるんだし。…救ってやったとか悪人を殺したなんてものはただのエゴだし無価値だよ。真に悪党だと認定出来るのは被害を受けたものだけだし。
さてと、問答は終わりでもいい?こんなもんどうせ平行線だしどれが正しいとかないし。自分が信じたものが正しいでいいんだよ。それじゃ、化け撃ちなミミック。終わらせな。


狭筵・桜人
あーあ……折角私達がお行儀よく玄関から入ってきたのに。
よくも窓を割ってくれやがりましたねえ!

悪党だけを殺すから見逃してくれと?
体よくしたって無駄ですよ。
だってそれ、結局は人を殺したいだけでしょう?

力持つものの責務?
まったくおかしいですねえ。
出来ることを出来るだけ。上手に生きるコツです。

エレクトロレギオンを展開。
敵の初動に細心の注意を払いレギオンを盾にして
崇さんの保護を最優先に。

窓の外にも数体配置して包囲網を張ります。
私は常に敵と崇さんの射線上に。
はいはい下がって良い子にしててくださいね。

【呪詛】による足止め。
レギオンによる【一斉発射】。

――あなたの最大の過ちは、

サイト名を短剣符で挟んだ事です!


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
言葉巧みに誘導し、人々の手を血で汚させる。まさしく御伽噺に謳われる悪魔そのものですね。

舌戦と理論比べでは私は不利、ならば騎士の感情をぶつけましょう。

「前に立つ私は、後ろで糸引く貴女が気に入らないのです」

ですが魔術も神秘も乏しい私にとって神霊体は相性が悪い。「武器受け」「盾受け」で防御しつつ、フォルター様を「かばい」攻撃を援護します。
馬場様と会う際に装填していた非殺傷系ペイント弾で防御妨害目的の「目潰し」を狙います

防御姿勢を「見切り」「スナイパー」で画面を汚しUCのコピーを妨害。

可能性は低いが現場の馬場様に攻撃が向かえば「かばい」ます。今の貴方は力なき人、目の前にいる限りはお守りします


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

【古城】で参加

開口一番に新世界の神云々とは、貴様の頭の方が面白いと言っておこう
他の者はどうだか知らぬが、我はオブリビオンだから貴様を殺す訳では無い
気に食わぬから殺す…それだけだ
そこに、種族や年齢、性別の差は無い
どうだ?
我程に平等な者はおらぬだろう?

さて、お喋りの時間は終わりだ
中々に厄介なUCばかり、特に神霊体が厄介だが…飽和攻撃で削り潰してやる
貴様、先程「下僕をつかって殺せたらそれでいい」と言ったな?
馬場にも言った通り我の主義では無いが、今回は特別に合わせてやる
UC:フェルカーモルト─これが、下僕の使い道よ
殺すならば、殺される事もある…今が、その時だ
さぁ、骸を晒せ

※アドリブ歓迎


レナ・ヴァレンタイン
※アドリブ、絡み歓迎

――で?言いたいことは終わったか?
末期の台詞としても命乞いにしてもつまらんが

善悪なぞ知らん。同族殺しの数の多寡も知らん
オブリビオンが関わらん悪事なぞ、その世界の人間がどうにかしろ
世界をどう良くするかは自分たちで責任を持て


そして貴様だオブリビオン
猟兵は貴様らの掃除が仕事でな
今のことは今の「人間」が決める
“過去”の遺物がでしゃばって歪めるな、迷惑だ


ユーベルコード起動
銃器複製、各25挺、合計100挺による殲滅射撃開始
防御を固めるならアームドフォートでの一撃で装甲ごと打ち砕く
誤射と流れ弾にだけは注意だ

敵が武装コピーを模倣したなら、積極的に武器を狙って潰していく
接近戦は他に任せるぞ



「あーあ……折角私達がお行儀よく玄関から入ってきたのに。よくも窓を割ってくれやがりましたねえ!」
 そこかよ、と向けられる視線をガンスルーしながら狭筵も戦場へと躍り出た。
「力持つものの責務? まったくおかしいですねえ。出来ることを出来るだけ。上手に生きるコツです」
「汝もまた会話はしてくれないのか? 残念だなあ」
「ご要望とあらば。でも、できればあなたが死んだ後がいいですねえ」
 ふわふわと言葉を重ねながらも【エレクトロレギオン】を展開。20機に及ぶ機械兵器達が絶影ノ華を取り囲む。
 攻撃は直ぐにはさせない。
 付かず離れずの位置をキープさせる。
 数は多いが1機ごとは脆いのだ。必要なのはそれと悟らせずに圧をかけ、退路を塞ぎ、余計な被害を増やさないこと。
「ふむ。馬場の事がそんなに心配か?」
 陣の配置から悟ったのか、敵が此方の企図を口にする。
「そりゃあまあ、見捨てれば寝覚めは悪くなりそうですし。彼には後ほど檻の中で臭い飯を食ってもらう大事なミッションもあるので」
「存外に優しいのだな? それが汝の出来ることであると?」
「もちろん。無理そうになったら投げ出しますけどね」
 会話が通じると見るや、喜んでべらべらと喋りだす敵。
 洗脳や扇動、精神を乱すような事でもしたいのだろう。が。
(そういうのはあなたの専売特許じゃないんですよねえ)
『止まれ』
 力ある言葉。呪詛。
 会話の中に忍び込ませていた幾つもの種が、瞬間的に発芽、相手の運動中枢を停止させる。
 意志あるものの耳から入り思考を冒し体を縛る。
 停止したのは一瞬。
 不自然なほど敵の動きが固まる。その一拍で十分。
 エレクトロレギオン達の一斉発射。
 耳をつんざく発砲音と煙があたりを埋め尽くす。
「――あなたの最大の過ちは、サイト名を短剣符で挟んだ事です!」
「なんでだ! かっこいいだろ!」
 銃撃の嵐の中、ほうほうの体で出てくる絶影ノ華。体のあちこちに穴はあいているものの、流石は化け物。苦しんだり泣き叫んだりはしないようだ。
「うわあ、元気ですねえ。決め台詞いったのに格好つかないったら」
 やれやれなんて苦笑しながら、慌てず騒がず頼れる仲間にバトンパス。



「にゃはは、どうでも良いコトを云うのだなプッシーキャット」
 ここぞとばかりに追撃に出たのは伊美砂。
「気の迷いに生きて、気の毒に死ぬ現実の有象無象に、究極の意味などないのであるぞ」
 くるくると声色が変わり。
「人類が絶滅したってよぉ、地球は回るし星々は巡るンだ」
 言葉の裏で力を編んで【オルタナティブ・ダブル】を発動させる。
 ぼやけ霞んでいつの間にか2人に増える。
 拳銃とショットガンが、鉈と鎖分銅が、まったく違う軌道と術理で絶影ノ華を追い立てはじめる。
「だから愛しいんだろう。だから愛でるのだろう。関係ないと突き放す汝らより我の方が余程人の側に居ると思うが」
「そうかいそうかいそりゃ結構」「好きにすりゃいい」「好きに生きて死ねるなら、お主は幸せ者でござるよ」
 重ねる言葉に双方意味など無く。ただ空虚に宙を舞う言の葉は銃弾と、鋼の軌跡に霧散する。
「さあ、今日も太陽が眩しい」「ボクは過去に消え」「私は常に滅び」「我は未来に死ぬであろう」「故に、生存競争をしよう」「なあに、意味なんてないさ」
 2人の伊美砂が。
 内に居る複数の伊美砂が。
 我も我もと顔を出しては無意味な音を発して笑う。
 一体誰と戦っているのか、何を話しているのか、敵からしたら悪夢的。万華鏡のような不可思議さ。
「まったく、やりにくいな汝は!」
 漸く敵に焦りのようなものが見えた。
 言葉によって人を操り陥れる手合にとって、そもそも会話をするつもりのない相手は大敵ともってもいい。
「何も見えないし聞こえてないから、千変万化に無意味に死ね」
 そうして、ついには散弾をまともに食らってその体を弾き飛ばされるのであった。


「開口一番に新世界の神云々とは、貴様の頭の方が面白いと言っておこう」
 銃弾の雨によって穴だらけになった絶影ノ華を、嘲笑いながらユングフラウが声をかけた。
「オブリビオンこそ敵だ、なんて馬鹿正直に、信じている君らも大概だがね」
「どうした新世界の神。先の口調はどうした。メッキが剥がれてきたのではないか?」
「……我は汝があまり好きではないな」
 在り方そのものをユングフラウが揶揄すれば、漸く絶影ノ華に明確な殺意と呼べるものが灯る。
 その殺意から彼女を庇うようにして巨体が前へと進み出た。
 全身甲冑の騎士の如き威容。トリテレイアだ。 
「それは此方の台詞です。矢面に立たず、策士気取りで後ろで手を引くだけの貴女が、私は気に入りません」
「だから殺すと? なんたる短慮」
 敵の手に現れるのは薙刀。トリテレイアとユングフラウを諸共に斬って捨ててしまおうという敵意。
「だからどうした。貴様はこれから我によって、ただ気に入らぬという理由だけで死ぬのだ。そこに善悪もオブリビオンだからなどという理由も存在せぬ。我ほど平等なものもおらぬだろう?」
「くくく、最早言葉をかける価値すら無い!」
「口で丸め込めないから諦めたと正直に言うがいい、下郎が!」
 瞬間、火花が散る。
 ユングフラウ目掛けて振り下ろされた薙刀をトリテレイアがかばったのだ。
「偉そうに囀っておいて木偶の影に隠れるか!」
「木偶かどうか、確認してみたらいかがでしょう」
 舌打ち。
 ならば切り刻んでくれようと言わんばかりの激しい打ち込み。
 技も何もない我武者羅なものだ。けれど化け物の膂力によって振るわれればそれは侮りがたいものとなる。
 トリテレイアはそれを見切り、剣でいなし、盾で受け、ときにはその機械の体でもって受け止めた。
「どうしたどうした、気に入らないから殺すのではなかったのか! 殺してみよ! この神を!」
「貴様、先程『下僕を使って殺せたらそれでいい』といったな」
「なにを突然」
「馬場にも言った通り我の主義では無いが、今回は特別に合わせてやる」
――おぉぉぉおおおおおお。
 何処からともなく声が聞こえる。
 怨嗟の、慟哭の、悲哀の声。
 重なって混じり合ったそれが大きくなるにつれて、ユングフラウの周りに死霊が1人、また1人と現れていく。10や20ではない。もっと沢山。
 数が多すぎるそれは其々が重なり合って、膨れ上がって、まともに数を数えることすら不可能だ。
「フェルカーモルト――これが、下僕の使い道よ。殺すならば、殺される事もある……今が、その時だ。さぁ、骸を晒せ」
 流石に不味いと感じた敵が防御の姿勢を取れば。
「させません」
 すかさず狙いすました一撃がそれを妨害。
 禄に防御も出来ぬまま絶影ノ華は死霊の群に押しつぶさる。
「くは、ははは、死霊の群だと。汝の方が余程邪悪じゃないか」
 毒に冒され呪詛に蝕まれながらも、それでもなお嘲弄して、立ち上がる。


「――で? 言いたいことは終わったか? 末期の台詞としても命乞いにしてもつまらんが」
 傷だらけの絶影ノ華に冷たく言い放たのはヴァレンタイン。
「なん、だと」
 尊大なものには尊大な態度が効くのか。先程からだいぶメッキが剥がれてきた絶影ノ華である。
「善悪なぞ知らん。同族殺しの数の多寡も知らん。オブリビオンが関わらん悪事なぞ、その世界の人間がどうにかしろ。世界をどう良くするかは自分たちで責任を持て」
「っ、おいおい、まるで自分は世界も、社会も関係ない別の生物のような振る舞いだな。汝のほうが余程神のようではないか。何様だ?」
 まるで餌に食いつく飢えた獣のごとく。会話のとっかかりを見つければ絶影ノ華は食らいついた。が。
「煩い。騒ぐな。遺物ごときが賢しらに喋るんじゃない」
 あれだけ味方を愚弄するような真似をしたのだ。
 最早ヴァレンタインに、会話をしようなどというつもりは一切ない。ただひたすらに容赦なく骸の海へと叩き返そうとしか考えていない。 
「っ、まったく、可愛げのない」
 薙刀を構える敵に、けれどもヴァレンタインは涼しい顔だ。

(僕の"気持ち"は既にお伝えした通り。尚、勧告ではなく予告ですよ、お嬢さん)
 ヴァレンタインが態々口上でもって敵の意識をひいている中、八上は無感動に敵の背後へと忍び寄っていた。
 耳に入ってくる敵の戯言は全て右から左。聞くに値しない雑音以下と切り捨てる。
(人が人を殺す。当然のこと。力持つ者の怠慢? それがどうした。思い上がりと欺瞞は聞き飽きました)
 そもそも彼は問答をしに来たのではない。
 殺しに来たのだ。
 一々殺す対象と悠長に会話などするか? 否だ。
(そも、面白かったからで許すような気まぐれな品性に正義やら善悪やらを語られたくはありません)
 凝視し続けていなければふとしたはずみで見失ってしまいそうな隠形に、敵どころか他猟兵もまた八上の存在を認識の外へとやってしまいそうになる。
 するすると蛇が獲物に忍び寄るようにして距離をつめていく。
 決定的な瞬間を探る目は正に仕事人の冷たさ。
 無駄に発声したりはしない。
 意思はただ刃に乗せて。
 無色の刃が踊る。
 風を斬る音すらひた隠し、刃が深々と敵の体を切り裂いた。
「なっ!?」
(やり方を知らないなら教えてあげましょう。暗殺っていうのはこうやるんですよ)
【咎力封じ】
 今更気づいてももう遅い。瞬時に展開した拘束具が敵を雁字搦めしはじめる。その結果を禄に見ること無く八上は脱兎の勢いでその場を離れていた。
 なぜなら、
【軍隊個人(ジャック・レギオン】
 ヴァレンタインが複製し、複製し、複製した、無数の銃。
 呆れるほど多くの銃口が絶影ノ華の真上に覆いかぶさるようにして展開していたのだ。
「過去は過去に還れ」
 瞬間。
 銃声意外の音が消失する。


 数多の銃弾が、死霊が、暴れに暴れた庭はすでに原型を留めていない。
 その中心、絶影ノ華は正に満身創痍だ。
「というか前提として恐怖とか感じるレベルならさっさと相談しろって話なんだよなぁ……法律何のためにあると思ってるんだ」
 波狼がそんな敵をみるとはなしに眺めながら愚痴をこぼす。
「まあそれはそれとして過去からわざわざ蘇った殺人貴見逃す必要もないよね? 見逃したら怠慢だね? ああ、さっきも言われたけど感情云々なら本人がやり返さないとどうにもならんよ? 本人が止め刺す事で終わりを感じれるんだし。……救ってやったとか悪人を殺したなんてものはただのエゴだし無価値だよ。真に悪党だと認定出来るのは被害を受けたものだけだし。さてと、問答は終わりでもいい? こんなもんどうせ平行線だしどれが正しいとかないし。自分が信じたものが正しいでいいんだよ」
「そ、れで済むならこの世に対立はない。違うかい? 我々が議論しているのは」
 一方的な言葉の掃射に、なんとか口をはさもうとすれば、
「あ、ごめん、場を引っ掻き回して笑う化け物とまともに会話する気ないんだ」
 それすらも斬って捨てて。
「それじゃ、化け撃ちなミミック。終わらせな」
 宙に放ったミミックがゼロコンマ秒の早さで变化。戦艦へ変貌した。
「ああ、流石に流れ弾と周辺被害が怖いから控えめでね」
 了解とでもいうように放たれたレーザーが絶影ノ華を真上から貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イルナハ・エイワズ
人間の善悪なんて些細な事ですし
人間が絶滅しても世界が滅びなければいいのです
ですが、オブリビオンはその存在が世界を滅ぼしてしまう
オブリビオンだから殺す以上に重要な事はないでしょ?

やるべきことがあるので
仲間と協力して素早く倒してしまいましょう
敵の観察し、戦闘知識、見切り、視力で行動を予測し
アッサルの槍で攻撃します
槍で敵を串刺しにし、地面に磔に出来れば
他の猟兵の攻撃も当てやすくなるでしょう
私の攻撃で倒す必要はないですから
戦闘が有利に進むように上手く立ち回りましょう

戦闘終了後は
ユルがクロさんと遊びたいらしいので探しに行きます
クロさんに遊んで、遊んでとじゃれるユルをのんびりと見守りましょう


ファン・ティンタン
【SPD】神の不在論

神と言っても、いろんな種類がある
唯一神から、それこそ便所の神様までピンキリ
私だって極論、刀の宿神だからね

でも本当は、神なんて者、いないんだよ?
全て、誰かの空想
中身のない、力のカタチでしかないんだから

神サマは、警察の民事不介入を知っているかな
人の事なんて、神サマの領分じゃなんだよ

人は、動物なんだよ
高尚ぶって法律なんてもの作ったって、抑えられない野生もある
どうすればいいと思う?
勝手にやらせてなよ、どうせ百年も生きないんだし

神サマがいなくたって、世界は回る
良くも悪くも、ね
だから、あなたには、退場願うよ

【早業】で敵に隙を与えずUC
敵の【呪詛】のような口撃には【呪詛耐性】で知らぬ振り


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
確かに人間は弱ぇよ。我が身可愛さで誰かを傷つけたり、命を奪いもする。
けど。
生に苦しみのたうちながら、でもいつか善いモノも残せるって、おれは信じてぇ。

どうあれオブリビオンと戦う仲間は放っておけねえから、UCで援護。

なあ、おっさん。アンタは平和のために自分を犠牲にはしないって言ったけどさ。
どうしようもねぇ理不尽を処理する役割なんて、やっぱり自分を犠牲にしてるって思う。
自己満足でやってるとしても、そこに救いや正しさが無えなら、そんなんは生贄と変わんねえよ。

最後の質問だ。
……アンタはホントにそれでいいんか。

全部終わったら裕太ん所行って、一言言ってやりてぇ。
――人殺しなんて、よくねえぞ。


ステラ・アルゲン
お前たちより人間のほうが人間を殺している……そうだろうな
一度戦争が起きれば何百、何千という途方も無い人々が死ぬ
私はそれを剣として見てきた
見て、殺して、そして守るものを守った

だが、それに関われるのは今を生きる人間たちだけだ
いくら人を守る正義のためであれ、過去のお前たちが今に介入していい道理はない
お前が神だろうがすで過去の神
過去は過去らしく歴史の海に沈んでいろ

素早く間合いを詰めるようにダッシュで駆け寄る
変身による衝撃波を放つならこちらも斬撃による衝撃波をなぎ払い
敵の攻撃に当たりそうならオーラ防御を纏わせた剣で武器受けにて受け流す

お前の歪んだ正義ごと流星一閃にて斬り捨ててくれる!

(アドリブOK)


矢来・夕立
黒江さん(f04949)と

はなちゃんて。知ってるんですかアンタ。

“きちんと調べて悪党と確信した者を殺していこう”。
…。どう思います?
オレとしては今ココで殺したいです。放っとくと将来殺されるので。

【刃来・慈正紅衣】。
毒か流血か呪縛か。今日の天罰は何でしょうね。
何にしろ動きが鈍ってるフリをしときましょう。
【だまし討ち】で斬ります。

このやり方は一発限りです。仕留められなければ下がりますね。
以降は式紙で【援護射撃】に回ります。
あとは宜しくお願いしますね。神様、殺してください。

あ、馬場さんのことは終始気にかけておきます。
オレはどうでもいいんですが、黒江さんの指示ですから。
流れ弾くらいなら庇いますよ。


黒江・イサカ
夕立(f14904)と

えっ、いまなんて?
ガーディアンズの絶影ノ華?マジで?
はなちゃんだね

“きちんと調べて悪党と確信した者を殺していこう”
どう思うも何も、べつに、いいんじゃない?そういう主義なら

それに、わざわざ僕の前に来てくれたってことは
誘われてくれたってことさ
殺されたいってことだ

はなちゃんに主義があるように、僕にも主義ってやつがある
だから僕が彼女の言葉に惑わされることは一切ないよ
止めをさせたら最高だな

UCを使って速さをあげながら、一撃離脱を基本に行動
何度も【先制攻撃】を繰り返す感じで狙っていくよ

…うわ、夕立痛そうなことしてるね
あとで手当てをしてあげよう

馬場君も、御用入りなら是非お声がけを




 鏡島は1人、馬場のもとを訪れていた。
 戦闘を放棄したわけではない。単純に、喫緊で治療が必要なのが馬場の方だと判断しただけだ。
 後方、というには些か近すぎる距離。馬場の家の奥に彼は居た。
 戦闘音と声が届いてくる。何か有ればすぐにでも戻れるだろう。
【大海の姫の恋歌】
 召喚した人魚の歌声が、馬場の傷を見る見る癒やしていく。
「……お前は」
「無理に起きるなよ。あんた結構ひどい怪我してたんだからな」
 鏡島の言葉に、横たわっていた馬場が己の体を触って確認していく。
「なんとも、ない?」
「おれが治したからな」
「そんなことまでできるのか。もはや何でもありだな」
 馬場が感心か、呆れか、吐息を1つ吐いた。
「……お前は、奴と戦わないのか?」
「聞きたいこと聞いたらすぐまた戻る」
「聞きたいこと?」
「なあ、おっさん。アンタは平和のために自分を犠牲にはしないって言ったけどさ。どうしようもねぇ理不尽を処理する役割なんて、やっぱり自分を犠牲にしてるって思う。自己満足でやってるとしても、そこに救いや正しさが無えなら、そんなんは生贄と変わんねえよ」
 鏡島の言葉は真摯だった。行いを否定するわけでも、肯定するでもなく、ただ馬場の身を案じていた。
「最後の質問だ。……アンタはホントにそれでいいんか」
「ああ。言っただろう、自己満足だと。それが俺の救いなんだよ。世の中の割り切れない事を見て見ぬふりしているより余程マシなことをやれたさ」
「そっか……」
 朗らかにすら聞こえる馬場の声は、それが真実なのだと物語っていた。
 真摯に向き合った鏡島に、馬場はこたえたのだ。
「質問をそのまま返そう。お前は今の道でいいと、本当にそう思っているのか?」
「おれは……」
 人殺しの目が、ただ真っ直ぐに鏡島を見据えていた。


 場面は戦場へと戻る。
 銃弾に、死霊に、体中蝕まれても、それでもなお敵はしっかりと立っていた。
 そこに悲壮感は無い。どちらかと言えば操り人形のような人間味の無さ。まさに化け物というに値する雰囲気であった。
 敵に語りかける猟兵がまた1人。エイワズだ。
「人間の善悪なんて些細な事ですし。人間が絶滅しても世界が滅びなければいいのです。ですが、オブリビオンはその存在が世界を滅ぼしてしまう。オブリビオンだから殺す以上に重要な事はないでしょ?」
「まったく、汝らは口を開けばすぐそれだ。オブリビオンだから。世界の敵だから。……本当にそうか? そうだという確証はどこからくるんだ? 誰かに言われた話ではなく、自らの目と耳で我らが世界を滅ぼしたという事実を確認した者がいるか?」
「寡聞にして」
 エイワズの回答にそらみたことか、と絶影ノ華が笑う。
 ここから切り崩そう、心に手をかけてやろう、と言の葉でもって魔手を伸ばそうとした、が。
「ですが、貴方がたオブリビオンが世界の敵だということは確信しています。私が猟兵になったとき貴方がたは世界を滅ぼすものだと、そう感じたから」
「感じたとは、また曖昧な話だな……汝はもう少し冷静な者だと思ったのだが。買いかぶりだったか?」
「それをいうなら目で見たことは真実ですか? 耳で聞いた音は本当ですか? 真実や世界などというものはそれを受け取る個人個人が其々作るものです。私が見ている世界と、あなたが感じている世界は別物です。真に客観的な真実などというものは存在しませんし、できません。見たものを信じることと、感じたことを信じることになんの違いがありますか」
「……」
「ですから、私はあなたを殺します。それが私の感じた真実ですから」
 揺らがない。
 崩せない。
 エイワズに絶影ノ華の甘言は届かない。
 悲壮な覚悟も、悲惨な過去も、個人的な理由でもなく、ただそう在るからそうするという、器物めいたシンプルさに、絶影ノ華は圧倒された。


「お前たちより人間のほうが人間を殺している……そうだろうな。一度戦争が起きれば何百、何千という途方も無い人々が死ぬ。私はそれを剣として見てきた。見て、殺して、そして守るものを守った」
 アルゲンが己の過去を想起しながら語りかける。
「そうだろうそうだろう。害悪という意味では人のほうが余程だろ? いやあ、話がわかるものがいてくれて助かったよ」
「だが」
 嬉しそうににたにたと嗤う絶影ノ華を遮って。
「それに関われるのは今を生きる人間たちだけだ。いくら人を守る正義のためであれ、過去のお前たちが今に介入していい道理はない」
「……ふむ? 除け者にされるのは些か悲しいが……。つまり汝は人同士で殺し合うぶんには問題がないと? 我が手をかさなければ人同士、殺人をしようが戦争をしようがどうでもいいと? 騎士のような見た目に反して中々に冷たいな」
「そうは言っていない。先程他の者が言っていたが、私達は全能ではない。いくら力があろうとも出来ることには限りがある。出来ることを、出来る範囲で。それだけの話しだ」
「汝の出来る範囲というのが我らを殺し尽くすことだ、と」
 返事の代わりに剣を構える。
 真っ直ぐな、彼女の心根を表すかのような流星剣が言葉よりも雄弁に殺意を表明する。
「やれやれ、頑固者だらけで楽しくない。人の振りをするなら人らしくもう少し惑いたまえよ、猟兵たち」
「お前の遊びに付き合うのはもう十分だ。お前が神だろうがすで過去の神。過去は過去らしく歴史の海に沈んでいろ」


 人を食ったような笑み浮かべた黒江が絶影ノ華に語りかける。
「いや、しかしガーディアンズの絶影ノ華って……マジ?」
「なにがおかしい」
「いやいや、おかしくないよ。絶影ノ華だから、はなちゃんと呼ぼう」
 ビシリ、と。絶影ノ華の顔面が音を立てて固まった。
「はな、ちゃん?」
「知り合いですか……」
 隣に居る矢来が『なにいってんだこいつ』という視線を黒江へと向ける。
「え、駄目? かわいくていいじゃん」
「ク、ククククク、我の名を馬鹿にするとはいい度胸だ。そのはらわたを引きずり出して犬の餌にしてくれるわ!」
「あ、キレた」
「わかってていったでしょ、アンタ」
 痛ネームをつける者には二種類居る。本気の奴か、それともそれを揶揄している奴か。
 絶影某は前者のようだった。なんだか小刻みに震えているような気がしなくもない。
「いやあ、ぼかぁ彼女を馬鹿にするつもりは一切ないのだけどね。ほんとほんと。他の人達みたいに主義を否定するつもりもないし」
 殺すも殺されるも好きにすればいい、と笑って。
「オレとしては今ココで殺したいです。放っとくと将来殺されるので」
 シンプルに己のために、刃をとって。
「それには同意。折角誘いに乗ってくれたんだ。殺してあげなきゃ失礼さ」


「神と言っても、いろんな種類がある。唯一神から、それこそ便所の神様までピンキリ。私だって極論、刀の宿神だからね」
 言葉で翻弄する敵だとわかりはしても、ティンタンは語りかける。
 否定をしなければいけない、と彼女の器物の心がささやくのだ。
「でも本当は、神なんて者、いないんだよ? 全て、誰かの空想。中身のない、力のカタチでしかないんだから。神サマは、警察の民事不介入を知っているかな。人の事なんて、神サマの領分じゃなんだよ」
「くく、く。何を今更。すっこんでろということか?」
「ご明察。人は、動物なんだよ。高尚ぶって法律なんてもの作ったって、抑えられない野生もある。どうすればいいと思う? 勝手にやらせてなよ、どうせ百年も生きないんだし。神サマがいなくたって、世界は回る。良くも悪くも、ね。だから、あなたには、退場願うよ」
「成る程成る程。……でも嫌だね。我は好きで関わっているんだ。人が人の死を無責任に願い、正義という剣で人を殺すその様を見たいから! 折角ここまで場を整えたんだ。そんな言葉で捨てられるか!」
 元からそうだが、だいぶメッキが剥げてきている。
 怒りか、それとも焦燥か、どちらにしろ乱れた感情は攻撃を雑にする。
 後の先。
 かかってくる敵に、早業でもって先を取る。
【天華泰平の儀】
 まるで刀が三本に増えたかのような連撃。
 一ノ太刀、袈裟斬り。
 防ごうとしたその腕を斬り裂いて。
 ニノ太刀、胴。
 腹を深々と断つ。溢れるはらわたは、人がましく桃色。
 三ノ太刀、切落。
 寸でで避けられ頭を割ることには失敗する。その肩を浅くかするだけだった。だが、それだけで十分。
 この技の恐ろしい所は斬撃に合わせ敵の力を削ぎ、完全に決まれば技すらも封じるところにある。
「ぐ、ぬ!?」
 急激に萎える身体に敵もティンタンの企図を察したが、いまさら遅い。

「イヴァル」
 無感動な声が響けばまたしても絶影ノ華の上に凶器が現れる。
 エイワズの【アッサルの槍】。
 敵が見上げてそれを確認するのと、高速で落ちてきた槍が体中に突き立つのは同時だった。
 悪魔めいた羽に。
 ちぎれかけている手足に。
 次々と槍が貫き、地面に磔にしていく。
「こ、の程度」
 藻掻き、引っこ抜こうとするが、それは果たされない。
 血に濡れた矢来がその背後から強襲したからだ。
 敵にやられた傷ではない。
【刃来・慈正紅衣】
 自らの喉を掻き切ることで発現するその力。
 罪業が、怨念が、過去から現れて彼を冒す。
 死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
 呪いあれ、と叫ぶ無数の死者。
 常人ならば狂死しそうなその怨嗟の声によって彼は強化される。
 死者の願いすらも己が力に変えて、雷花を振るった。
 ぞぶり。
 芯を捕らえたという手応え。
 鎖骨を割り、肋を砕き、肺を切断し、それでも足りぬと尚も刃が殺意を走らせる。
「はは、ははははは、ほんと、君は何なのさ。どれだけ殺せばそんだけ酷いツラになんのさ! 邪悪邪悪邪悪邪悪! 世界がどうのとかより先に人の敵だろおまえぇ!」
 メッキは最早跡形もなく。
 だと云うのに騒ぐ口は健在で。
「うっわ痛そ。ああ、はなちゃんじゃなくて夕立がね」
「なん、ぇ」
 口の中にナイフが飛び込んできた。と思えば喉に、額に、心臓に、次々に突き立っていく。
 黒江の【炯眼】だ。加速に加速を重ねた彼のナイフが、人ならば絶命する急所を次々に穿っていく。
「戯言は聞き飽きた」
 アルゲンが大上段に剣を、振り上げて。
「お前の歪んだ正義ごと消え去るがいい!」
【流星一閃】
 願いさえ断つと謳われた一撃が、絶影ノ華を左右に分断するのだった。


●そして、これから
 馬場、そして彼の知っている範囲での仲間たちは警察によって捕らえられた。
 絶影ノ華が消滅すると同時に警察も漸く動き出すことが可能になったようだった。
 時間はかかるだろうが殺しに関わっていた人間たちが御用となる日も遠くはなさそうである。完全犯罪など有り得ない、とはある猟兵の言葉だ。
 
 鏡島はそんな話を聞きながら、件の少年のもとを訪ねていた。
「……俺は、どんな罪になるのかな」
 馬場達が捕まれば当然のように殺人を依頼した裕太の罪も明るみになった。
 未成年であること、虐待の事実が有ったこともあって、メディアも警察も取扱には慎重になっているようだった。
「わかんねえ。おれは警察の人間じゃないから」
「そっか……」
「なあ、色々あったのはわかってるけど、それでも……人殺しなんて、よくねえぞ」
 万感の思いを籠めて鏡島が呟いた。
 応えは無い。
 少年は俯き、肩を震わせながら、己の成した行動とその結果を噛みしめることしか出来なかった。
 過去は変えられない。
 彼は親殺しの烙印を背負い、生きていかなければならない。


『なんだ、また来たんですか。……人間というのは暇なんですね』
「ええ。うちの子がクロさんと遊びたそうにしてましたので」
『ああ、ユル、でしたっけ。遊ぶならそこらの若いのにでも、ちょっ、やめなさい私はそういう遊びは卒業してってああもう!』
 エイワズは縁を結んだ猫たちと再会していた。
 連れの子竜が遊びたいと言ったからというのが半分、その彼らを観察していたいというのが半分というったところだ。
 なんのかんのとゴネながらもユルと追いかけっこを始めたクロ達を見て、存分に癒やされたエイワズなのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月21日


挿絵イラスト