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微睡む桜のデカダンス

#UDCアース

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#UDCアース


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●桜花の頃
 桜の樹の下には屍体が埋まっている――そんな話が嘗てより頻繁に語られていた。
 あまりに美しく咲くから、それは誰かの血を吸い取ったものではないか。元々桜の花弁は白く、屍体の血を養分として育ったために、淡い薄紅に色付いているのではないか。桜染めという染色手法が元になっているのではという説はあるが、その真偽は定めようがない。探りようがない。
 しかしそれを本当に『そう』だと思った者たちがいた。
 桜を美しく咲かせることを追求する者。桜の樹の下に大切な誰かの屍体を埋めて、彩られる紅に故人を重ねる者。
 何時しか祈りは呪いとなり崇拝に置き換えられ、神格化されていくこととなる。
 もっと麗しく咲き誇るため。
 神に屍体を捧げたまえ。
 そのためならば幾ら屠って贄にしたって構わない。

●decadence
「ううん、ちょっと怖いっていうか。狂気にも似た思いがあるのかなって思っちゃった」
 でも桜に罪はないよね、とメーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)が呟いた。複雑そうな色がかんばせに乗っている。
 花は綺麗だし、好んでいる。それは確かだが、花を美しく染めるために人命が損なわれると聞けば黙ってはいられない。
 予知に耳を傾けるために集ってくれた猟兵に頭を下げ、メーリは話を続ける。
「UDCアースで邪神教団の拠点が見つかったの。『桜の君』って呼ばれる邪神に屍体を捧げるんだって。年に一度しか活発に活動しないから、なかなか尻尾を出さなかったみたいで……でもね、今回はその手掛かりが見つかったんだよ」
 曰く、ある神社の裏手から、地下へ潜る通路が発見されたのだという。
 そこには骨となったUDCたる眷属が集っている。
 既に贄は捧げられた後だ。故に、猟兵たちが向かう段階で救える命はない。つらいけど、とメーリは唇を噛みしめた。しかしこれからの被害を防ぐことは出来る。ならば、迷う必要は何もない。
「通路は広いけど薄暗くて入り組んでるみたい。だからまずはね、通路に立ち塞がる眷属を倒して奥に進まなきゃいけない」
 いかに邪魔者を排し先へ進むかが肝要だ。眷属との戦いでは手間取ってる暇はない。
 そして通路の奥に聳える祭壇に、事切れた遺体が横たえられているはずだ。その前には『桜の君』と呼ばれる邪神が待ち構えている。
「爛漫の春の幻覚を見せるみたい。誰もが待ち焦がれた、あたたかい季節の幻覚を」
 けれど所詮それは幻だ。
 それを斬り伏せ打倒して、本物の春に会いに行くほかないのだ。甘い夢に浸っている暇はない。
 メーリは決意に似た何かを腹に据え、猟兵たちに語りかける。
「きっと討伐が終わって地上に戻ってくる頃には夕暮れ時になってるんじゃないかな。それでね、そのあたりで早咲きの桜が見られるから、よかったらそれを見てみるのもいいかもって」
 その桜の色が果たして屍体の血を啜って美しく咲いているかは、恐らくこの期に及んでは肝要ではないのだろう。
 大切なのは咲き誇る桜に何を思うか。過去を鑑み未来を夢見て、どんな心持で猟兵たちが桜を眺めるかだ。
「つらくて、かなしいけど。それでもその向こう側に満開に咲く花があるなら、……目を逸らさないで会いに行けたらいいと思うんだ」
 今回の事件をどう捉えるかは猟兵次第。
 だからこそ、メーリは柔らかく微笑みを綻ばせた。
「いってらっしゃい。帰ってきたら、あなたが桜に対してどう思ったのか、教えてもらえると嬉しいよ」


中川沙智
 中川です。
 桜の樹の下には~というのは元々明治時代の短編小説が発端だったのですね。今回改めて知ってへーと思ってしまいました。

●プレイング受付期間について
 各章、プレイング受付期間を設けます。それぞれ導入文を掲載した後の受付開始となります。
 詳しい受付開始時刻等はマスターページの説明最上部及びツイッターにてお知らせします。お手数ですが適宜そちらをご参照くださいますようお願いいたします。受付期間外に頂いたプレイングはお返しする可能性がありますのでご了承ください。

●シナリオ構成について
 第1章:シャーマンズゴースト・ボーン・リボーンの殲滅(集団戦)
 第2章:黒の王『桜の君』の打倒(ボス戦)
 第3章:黄昏時の花見(オブリビオンを全て撃破した場合)
 以上の流れになっています。

●屍体の扱いについて
 今回リプレイにおいて「屍体を埋葬する」「家族に引き渡す」等の場面が描写されることはありませんのでご注意ください。勿論胸を痛める等、思いを馳せて頂くのは自由です。

●第3章について
 黄昏に浮かび上がる早咲き桜を愛でましょう。
 出店等はありません。飲酒喫煙及び飲食物の持ち込みもご遠慮ください。とにかく落日に融ける桜花のうつくしさに思いを巡らせて頂ければと存じます。
 第3章のみお呼びがあれば、グリモア猟兵のメーリが同席させて頂きますのでお気軽にお声がけください。

●同行者について
 ご一緒する参加者様がいる場合、必ず「プレイング冒頭」に【相手のお名前】と【相手のID】を明記してくださいますようお願いします。
 今回は雰囲気重視、心情・情景描写に重点を置くため単独か、多くても2名様までの参加を推奨します。

 では、皆様のご参加を心からお待ちしております。
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第1章 集団戦 『シャーマンズゴースト・ボーン・リボーン』

POW   :    クロウボーン・ライダー
自身の身長の2倍の【白骨化した馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD   :    サイキックボーン・パレード
【念力で操った自分自身の骨】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ストーンエイジ
【杖の先端に嵌った宝玉】から【物体を石化させる光線】を放ち、【石化】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●昏迷
 神社の裏手は薄暗い。そこから、人目につかないように巧妙に隠された入口が見える。予知がなければ偶然見つかるようなこともなさそうなくらい、ひっそりと。
 入口に踏み入れば通路が伸びている。照明のようなものがなければまさに一寸先は闇。何も見通せない。きっと歩くことも覚束ない。
 けれど猟兵たちは歩を進めるのだろう。
 望む未来を勝ち取るために。
 通路の奥から骨の眷属が数体、侵入者の気配を察して集まってくる。
 普通に歩く程度には問題ないくらい広く、天井も高さがある。しかし敵を避けて進むほどの余裕はない。つまり、逐次オブリビオンを撃退しながら前進しなければならないということだ。
 誰かの靴音が通路に響く。
 退いてなるものか、そんな決意を窺わせるようだった。
ニコ・ベルクシュタイン
敵は複数、戦闘は不可避、可及的速やかに排除せねばならぬと。
委細承知、邪教相手に感傷の類は一切不要にて。

恐らく先陣を切る形になるだろうか、臆する事無く正面から向かい
可能な限り多くの敵を巻き込める立ち位置を取りに行こう
狙いは【花冠の幻】を敵陣真っ只中で発動させること
孤立するおそれはあるが、味方まで巻き込む訳にも行かぬでな
桜の花も勿論美しいが、虹色の花というのも中々であろうよ

石化光線は果たして「オーラ防御」で展開する防御障壁で
防げるだろうか、ひとつ試みてみようか
駄目そうならば一目散に「ダッシュ」で離脱する他無いな

味方と連携が取れそうな場面があれば有難く受け入れ協力する
此方からの助力も惜しまぬよ


ヨハン・デクストルム
浅学にして桜、という花は見たことがないのですが、それほどまでに言われるならば、やはりきれいな花なのでしょうね。
私の故郷でも、“あまりにも美しいバラの根元には死体が埋まっている”などとよく言われますが……“こんなに美しいのだからおぞましい代償を払ったに違いない”という思考は、人間という種の定番なのでしょうか?
【WIZ】
まずはUCで通路の壁に光属性を付与。次に、大気と水分と光を操って空中に擬似的な鏡を作り、石化の光線から皆さんをお守りしましょう。
余力があれば攻撃にも参加いたしますが、数が多いそうなので……光線の処理と周囲の把握で精一杯かもしれません。
その際は皆様に攻撃をお任せしますね。


影見・輪
桜の樹の下には…ね
この季節になるとよく語られるよねぇ
…確かに、崇拝と狂気の対象になりそうな話でもある
この手の話は個人的に嫌いではないよ
ある種桜に憑かれた者たちと崇拝される神をこの目で見れるというなら実に興味深い
是非とも見てみたいねぇ

シャーマンズゴーストってもう少し可愛らしい外見だった気もするけれど
骨になったらずいぶんと逞しく映るもんだねぇ
花見の前に一興、相手してやろうじゃないか

基本後衛より「誘(記憶消去銃)」で攻撃するよ
骨に【催眠術】やら【傷口をえぐる】ことって効果あるかわからないけど
試す価値はあるよねぇ
敵からの攻撃は可能な限り【見切り】で対応し
敵に隙が生じるようなら【鏡映しの闇】で応戦するね


ユナ・ニフェトス
綺麗な花には棘がある
綺麗な桜には裏がある

少し、分かる気がします
綺麗なだけではいられない

狂気に身を染めた人のなんて恐ろしいこと
けれど綺麗な物を求めるのは人の性
他人事ではないのかもしれませんね

鎌を構え【なぎ払い】
【2回攻撃】でダメージを重ね

【オーラ防御】を鎌に纏い防御
もしくは【第六感】【野生の勘】で回避

一歩ずつ確実に、前へ

恨み辛みはあるでしょう
けれどそれが命を奪う理由にはなりません

それでも貴方達が命を奪うというならば
その前に私が刈り取ってあげましょう

――どうか安らかに


アドリブ、共闘歓迎



●春の岸辺
 麗らかな日差しがさざめく頃、猟兵たちは通路へと足を踏み入れた。
 桜の樹の下に――そんな言い回しはいっそ陳腐なほどに現代に馴染んでいるが、本当に即した邪神が存在するとは。
「この季節になるとよく語られるよねぇ……確かに、崇拝と狂気の対象になりそうな話でもある」
 影見・輪(玻璃鏡・f13299)が、春風に黒髪を流しながら言う。通路は暗く、しかしまったくの密閉空間というわけでもなさそうだ。空気孔があるのかもしれない。
 この手の話は個人的に嫌いではない、そう輪は思う。
 桜に憑かれて焦がれた者たちと、崇拝される神。直に相対出来るならば実に興味深い。
 さて、どんな風貌か。どんな風情か。
「是非とも見てみたいねぇ」
「ええ、そうですね。それにしても……綺麗な花には棘がある、綺麗な桜には裏がある……少し、分かる気がします」
 銀の双眸を眇めて、ユナ・ニフェトス(ルーメン・f13630)が呟いた。
 美しいものにはそれだけの理由が存在する。人間はそう思いたいものなのかもしれない。理由をこじつけてでも納得したい、安心したい者はそれなりに存在するだろう。
 ヨハン・デクストルム(神亡き狂信者・f13749)も首肯して、通路に視線を走らせた。
「私の故郷でも、『あまりにも美しいバラの根元には死体が埋まっている』などとよく言われますが……『こんなに美しいのだからおぞましい代償を払ったに違いない』という思考は、人間という種の定番なのでしょうか?」
 ヨハンは桜を見たことがない。今この通路へ至る道程も、偶然だろうが桜が咲いたところは通らなかった。
 どんな花なのだろうと思いを馳せる。少なくとも、人の心をかき乱すような魅力のある花だろう。どんな蠱惑か嫣然か。後で見ることが叶うならば楽しみだ。
 誰しもが桜とその逸話を思い描いていたその時、周囲を警戒し先に歩いていたニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)の足が止まった。
「敵は複数、戦闘は不可避、可及的速やかに排除せねばならぬと」
 それは認識、それは覚悟、そして意思。
 ニコは通路に真直ぐ踏み入る。時を正確に刻む時計のように、長針と短針に似た切先を構える。
 視線の先は闇。見通しが悪いが、猟兵たちとて無策というわけではなかった。
「頼めるか」
「出来ます」
 ニコが端的に問い、ヨハンは手短に返す。
「少々、大掛かりになりますが……」
 詠唱を諳んじながらヨハンが通路の石壁に指先を伸ばした。
 触れた瞬間、瞬く間に通路に光が迸っていく。石壁が淡い光を宿し、薄暗いばかりだった通路の視界が一気に拓けた。光属性を付与したのだろう、原理には得心すれどその発想はなかった、と輪は内心舌を巻く。
 ヨハンのユーベルコードのおかげで、今回の踏破における視界の見通しの問題は解決された。
 ならば後は、眷属どもを討ち奥へと進むだけだ。状況を正確に呑み込み、ニコは毅然と前を見据える。
「委細承知、邪教相手に感傷の類は一切不要にて」
 ニコの声が呼び水になったかのように、曲がり角の先から骨の眷属が姿を現した。血色の桜を求めた者の成れの果て。
 その姿を確かに捉えて、ユナは吐息を食んだ。複雑な感情が緩やかに胸裏を撫でる。
「狂気に身を染めた人のなんて恐ろしいこと。けれど綺麗な物を求めるのは人の性」
 ユナも世界に美しいものがあると、知っている。見目は勿論、本質的に綺麗なものに惹かれてしまうのは至極当然のこと。
 だから他人事として断ずることも出来ないのかもしれない。そう、思わざるを得ない。
 凶行を阻止しよう。もう誰も嘆かないように。
 じり、とシャーマンズゴースト・ボーン・リボーンが距離を測ろうとしている。猟兵らもまた武器を構える。
 それなりの数の敵を目の前にして、それでも臆さず相対する。
 ――骨が蠢き、鳴った瞬間。
 ニコが一足飛びで馳せた。敵陣に一気に肉薄する。出来るだけ多くの敵を巻き込める射程を得る。孤立する可能性も鑑みたが、万一にも仲間を巻き込むわけにはいかない。骨の眷属の集団のど真ん中、懐に滑り込んでは双剣を交差させる。
 その重なったところから、奇跡の花弁が散った。
 春の爛漫を思わせる虹色が躍る。戦陣を包むように咲き綻ぶ七彩の薔薇は芳しい。虹を砕いてばら撒いたような鮮やかな景色だった。
「桜の花も勿論美しいが、虹色の花というのも中々であろうよ」
 乱舞する花弁は鋼の鋭さ。幾重にも轟然と敵を切り裂く。
 数多の傷を負い怯んだ眷属らの姿を、輪の朱眼は見逃さない。
「シャーマンズゴーストってもう少し可愛らしい外見だった気もするけれど、骨になったらずいぶんと逞しく映るもんだねぇ」
 どんな見目であろうと倒すことに変わりはない。
 掌に収めた光線銃の銃口を突きつけよう。
「花見の前に一興、相手してやろうじゃないか」
 発射。光が真直ぐ奔る。眷属の一体の嘴を大きく穿つ。抉る。骨の砕ける音。罅が入った骨が粉々の残骸となり通路に落ちた。
 しかし敵とて黙ってはいない。
 骨の外れる小気味いい音。念力で操った肋骨が宙に舞う。
「来ます」
 周囲に注意を払っていたヨハンが声を飛ばす。浅く顎を引いたニコが身を捩れば、先程まで顔があった高さを骨が横切った。
 また別の個体が動いた。杖の先端に嵌った宝玉が鈍く光る。
 光線が迸る。しかし猟兵たちは対策を怠らなかった。ヨハンは大気と水分と光を操り、疑似的な鏡を生み出した。
「光線の処理と周囲の把握はお任せください」
「考えること、似てたみたいだね」
 輪は上機嫌に嘯いた。同じく輪の掌には玻璃鏡が在る。鏡のヤドリガミたる本質、深淵を顕現させるように傾げる。光線が反射し軌道が変わる。光がぶつかった先、地面が夥しく石に変化していく。
 成程これは僥倖、そう示すようにニコは続けざまに手を振り下ろした。再び虹の薔薇が咲き、骨の眷属を裂いていく。戦局は圧倒的に猟兵に傾いていた。
 一歩ずつ確実に、前へ。
 未だ蠢く骨の眷属らの姿を見遣り、ユナは胸裏にわだかまる何かを噛みしめる。
「恨み辛みはあるでしょう。けれどそれが命を奪う理由にはなりません」
 もしかしたら救いたかっただけかもしれない。
 もしかしたら思い馳せたいだけかもしれない。
「それでも貴方達が命を奪うというならば、その前に私が刈り取ってあげましょう」
 眼前を真白く染めよう。紅とは縁遠い世界へ連れていこう。そんな思いを傍らに、敵前に舞い降りたユナが鎌刃を横薙ぎに振るう。
 一閃。
 ばらばらと骨が砕け落ちる音がする。
 ――どうか安らかに。
 ユニが真摯に祈る時、そこに決然たる覚悟がある。
 幾らかの眷属を倒した猟兵たちは床を蹴り、更に奥へと進んでいく。まだ先は長い。長いからこそ、顔を伏せているわけにはいかないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ロダ・アイアゲート
早咲きの桜ですか…
夕暮れ時に見るのも違った趣があっていいかもしれませんね

綺麗な花には棘があるのは分かりますが、美しさに血が必要だなんてまるで吸血鬼のようですよ、それ

UC【Capture】
生命力を共有するということはどちらかにダメージを与えれば自ずともう片方にもダメージが入りますよね?(弱点指摘)
実際に【Aiming at a shot】【早業】【援護射撃】で体の大きい馬の方を狙いましょう
避けて通るほどの余裕がないのは相手も同じ筈ですから
攻撃が当たりダメージが入れば証明成功
捕縛ガジェットを召喚し、さらに追撃【2回攻撃】


アドリブ・共闘歓迎


花菱・真紀
桜の下には…か。有名なやつだよな。
小説が元になってるのは知ってるけど。桜に怪しい魅力を感じてる人間が多かったんだろうな。これもまた一つの都市伝説、か?
桜が怪しい魅力が好きな気持ちは俺にもわからないわけじゃねぇけどそれを実行に移しちまうのはよくねぇ。

UC【バトルキャラクターズ】使用。
召喚は二体。呼んだキャラクターには近接格闘戦で戦ってもらう。
俺は拳銃で【クイックドロウ】からの【二回攻撃】以降【援護射撃】に徹する。
たぶん火力は低めだから決定的なダメージは他の猟兵さんが頼りだ。
俺たちは援護が出来ればいい。
攻撃回避には【第六感】で【見切り】

アドリブ歓迎。


狭筵・桜人
花の桜と人の桜。親近感が湧きますねえ!

くらいくらい途には灯りを持ちましょう。
鼻歌うたいながらカンテラ揺らし
召喚したエレクトロレギオンを供にして。

――ああ。来ましたね。

戦闘開始。どなたかお仲間を見掛ければ砲撃で援護しますよ。
私はレギオンの後方で【見切り】による回避に集中。
ヤバそうな光線が飛んで来たらレギオンを1体捨てる覚悟で。
こんな途の真ん中で照明器具壊されるのが一番困りますからね!

敵が一塊になれば砲撃を【一斉発射】。
こちらの戦力を減らされる前に敵を減らしてしまいましょう。

手持ちも減ってきたし鹵捕したいところですけど……
まあいいや、壊します。
私、今はプライベートじゃなくてお仕事中ですので!


冴島・類
花に魅せられる気持ちはわかりますよ
けど
崇拝にも似た勝手な想いを
押し付けられて、花は笑っているとは思えない

春、花、ひと
有りの侭の綺麗な姿をこれ以上歪めさせません

叶うなら腰に付ける灯りを用意

通路に入り進み始めてからは
眷属が現れ次第戦闘へ
囲まれないよう注意しながら
相手の攻撃を見切る為に注視

瓜江をフェイントを交えてつつ相手の投擲や遠距離攻撃引きつけ誘導
二回攻撃のなぎ払いで体勢崩させ斬り

他の猟兵さんがいれば連携意識
味方が、狙われた際や予備動作必要な攻撃をする際は
かばうよう意識

相手が騎乗した際は
脚となる側をコードの糸で狙い
機動力の優位を削ぎ

贄となった方々ならば
せめて、これ以上重ねぬように

※連携アドリブ歓迎



●春の此岸
 通路はやはりかなり入り組んでいるようだ。
 しかし猟兵たちが手分けして注意を払っていることもあり、特段大きな問題は生じていない。
 故に思い巡らせる余裕もあった。例えば、桜について。
「早咲きの桜ですか……夕暮れ時に見るのも違った趣があっていいかもしれませんね」
「それにしても花の桜と人の桜。親近感が湧きますねえ!」
 ロダ・アイアゲート(天眼石・f00643)が黄昏に融ける桜を思い描けば、狭筵・桜人(不実の標・f15055)も声を弾ませた。桜人は名に桜を戴いているから尚の事だ。手にはカンテラ、傍らには長閑な鼻歌。その足元には機械兵器が闊歩している。まるで春の散歩みたいな風情だ。
 予知で耳にした桜の逸話。思い返して花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)は呟いた。
「桜の下には……か。有名なやつだよな」
 小説が元になってるのは真紀も知っている。桜に妖しい魅力を感じている人間は少なからずいただろう。これもある種の都市伝説と言えるのではないか、というのが都市伝説蒐集に携わる真紀の見解だ。
 それでも。
「桜が醸し出す危うさに惹かれる気持ちは俺にもわからないわけじゃねぇけど、それを実行に移しちまうのはよくねぇ」
「全くです。綺麗な花には棘があるのは分かりますが、美しさに血が必要だなんてまるで吸血鬼のようですよ、それ」
「ええ、そうですね」
 真紀とロダの言葉に頷いて、冴島・類(公孫樹・f13398)は緑眼を伏せた。花に魅せられる気持ちは理解しないでもない。
「けど、崇拝にも似た勝手な想いを押し付けられて、花は笑っているとは思えない」
 春、花、ひと。
 それぞれの本来の在り方というものがある。有りの侭の綺麗な姿をこれ以上歪めさせるわけにもいかない。
 そんな決意を湛える頃、灯りに照らされた類の横顔が強張った。
 通路の先、蠢く気配がある。
「――ああ。来ましたね」
 空虚な音を立てる骨の眷属らを見据え、桜人は確かめるように言う。
 それぞれの得物を構える。腰を低く落とす。様子を窺い、殺気を敵という一点に集中し。
 床を蹴ったのは、果たしてどちらの陣営だったか。
 類は十指に繋いだ赤糸を操る。呼吸のような自然さで濡羽色の髪持つ絡繰人形が疾駆した。上段から襲い掛かるそれを眷属が間一髪で避ける。
 しかしそれは陽動だった。気付いた時には既に真紀のバトルキャラクターが踏み込んでいた。二体同時に、各々の死角を埋めるが如くに拳を振り抜いた。
 猟兵たちの攻勢にたたらを踏んだ敵の隙を見過ごさない。
「食らっときな!」
 真紀が手中で対UDC用の自動拳銃を回転させ、狙い定めて発砲する。立て続けに桜人も砲撃を見舞った。乾いた音が通路に響き渡る。
 崩れ落ちる眷属の影から、白骨化した馬に騎乗した個体が現れた。駆けてくる。勢いの強さは単独の比ではない。
 だがロダは一筋の怯みも抱きはしない。冷静に冷徹に、敵の姿を見透かすように。
「生命力を共有するということはどちらかにダメージを与えれば自ずともう片方にもダメージが入りますよね?」
 その性質に因る弱点を看破し、ならば片方を落とせば連鎖して打撃を与えられるはずだ、と思考を展開させる。
 狙い定めたのはより身体の大きい馬のほう。通路の狭さは予知で指摘されていた。こちらが避けにくい一方、敵とて攻撃を躱すのは難しいはずだ。
 蒸気銃を構える。どんな相手も逃がさない、そんな気概で相手を射貫く。
 実証は鮮やかに。迸った弾が馬の頭蓋を盛大に穿つ。そこを基点としてガジェットが展開し、騎乗していた眷属をも絡め捕った。
 逃すわけがない。更にもう一撃。
 鈍い音が通路に反響する。
 欠片となり砕け落ちる骨を見遣り、類は口許を綻ばせる。
「ではこちらも参りましょうか」
 同様に白骨の馬に乗る個体を視認する。近接される前に倒してしまおう、そんな心意気で前を見据えた。
「援護します!」
「こっちもだ!」
 桜人の銃弾が骨を削る。硬直した間を見過ごさず真紀も銃撃を放った。俺たちは援護が出来ればいい――そう見込んだ真紀の気概は、明確な形となって敵を慄かせていく。
 その合間を縫うように、絡繰糸が馬の前脚に食らいついた。
「燃えよ、祓え」
 それは宣告のように。
 類が指先を向けたのが合図となる。途端に糸から燃え盛る劫火。骨のすべてを焼き尽くし、残るは灰塵のみ。
 果たしてこの眷属らは、贄となった方々なのか。
 判別は出来ない。確証もない。しかしその可能性が一縷でもあるならば。
「せめて、これ以上重ねぬように」
 今一度瓜江を向かわせる。上段から鋭い斬撃を見舞えば、骨同士が重なり崩れる音がする。
 敵とて黙ってはいない。杖の先端の宝玉が妖しく光る。
 襲い来る光線を食い止めるべく、桜人は敢えてエレクトロレギオンを前に出した。
 機械兵器が石化し脆く砕けるも、意に介さない。灯りは無事だ。
「こんな途の真ん中で照明器具壊されるのが一番困りますからね!」
 そして先の類の攻撃で一塊に集った眷属らを見遣る。躊躇なく銃口を向け、一斉発射を見舞ってやった。骨を次々と打ち崩していく。
 乾いた音を立て地に転がった骨を一瞥し、桜人は残党の骨を視界に入れ軽く笑んだ。
「手持ちも減ってきたし鹵捕したいところですけど……まあいいや、壊します」
 UDC組織で研究材料にするのも悪くない。が、今日はやめておこう。
 桜人はとにかく殲滅することを命題に据える。
「私、今はプライベートじゃなくてお仕事中ですので!」
 再び銃声が響く。光線や銃弾、遠距離攻撃が次々に敵を襲う最中、ゲームキャラクターや絡繰人形が各個撃破で数を減らす。
 抜かりはない。見縊らない。
 余さず打倒する心意気で猟兵たちは行く。
「さて、まだ続けましょうか」
 ロダの声が、通路に静かに落ちていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

桜庭・英治
暗い道だな
けど、俺が照らしてやるよ
この炎は燃え広がっても自由に消せるんだ、照明にはもってこいだろ

さあ道を開けてもらうぜ、俺たちは奥に用があるんだ
桜を綺麗に咲かせるために人の命を使うやつと
そんなもんを喜ぶ邪神をブッ飛ばさなきゃいけないんだ

というわけでパイロキネシスの炎を照明にしながら
同時に敵を焼いていくぜ
通路には曲がり角もありそうだから、曲がったときの奇襲に注意したいよな
鏡を利用して曲がり角の先を確認しながら行くのはどうだろ
足音を消したってどうせ明かりで接近はバレるだろうし
先制攻撃を意識して進んでいくぜ


ロカジ・ミナイ
嫌だ嫌だ、暗い地下の道なんてまぁ
ジメッとして辛気臭いったらない。
だから灯りは大きい方がいいけど
こう見えて気ぃ遣いなもんで、邪魔にならない位にしておこう。

そして違いに行く手を阻む生者と死者、と。
もはや骨のお宅らには退路が無い。
人生の話かって?いやいや、通路の話だよ。
そもそも戻る道どころか先もないじゃないの。
……ああ、僕は屍人への興味は薄いんだ。
白骨体に塗る薬は無いからねぇ。僕も似た様なものだけれど。

けれどね、そこらに打ち捨てられるよりは
せめて灰になってくれとは思うよ。
だからこの火で燃えておくれ。
この場に不似合いな香を道しるべに、
明るく道を照らしておくれ。


フーカ・フダラク
あぁ、既に降ろされたのだな
骸は海へ流れていったのだろう
であればこそ、私は行かなければならぬ

〔アイテム 奥の瞳〕暗視で通路の中をよく見ながら進もうか
中は入り組んでいるようだが〔第六感〕で見極める
立ち塞がるものが多くいるほうが正しい確立が高いだろう
その先に、咲いているのだろうか

そこを動かぬのか、ゴーストたちよ
ならば致し方あるまい
私はシャーマンであるが、猟兵として貴様らを祓わねばならぬ

戦士よ、私に力を貸してくれ!
〔UC サモニング・ガイスト〕
内部は十分な広さだ、〔なぎ払い〕ながら炎を宙に広げさせ
敵が何処の道から来るのか見てみよう


オルハ・オランシュ
身勝手な話だよね
捧げられた人は、そんな馬鹿げた理由で
埋められたくなんてなかったはずでしょ
自分自身を贄にするなら止めないけど、
他人を利用するなんて絶対許せない

早くここを突破したいのに……!
戦いは避けられないか
なら、急いで仕留めるまでだよ
薄暗くても【暗視】で支障なく戦えそうかな

効率重視で三叉槍を振るおう
【範囲攻撃】の【2回攻撃】で一体でも多く巻き込んじゃおう
もし想像以上に攻撃が通りにくかったら
【鎧砕き】も意識して
一振り一振り、無駄のないように攻撃
他の猟兵との協力も惜しまないよ!

早く行かなきゃ
命を救えないのはわかってるけど、
せめて樹の下に埋められるのは阻止したいもの


遙々・ハルカ
》人格『トヲヤ』
》銀の眸+セルフレーム眼鏡

――面倒と思うと俺に押し付ける
……困った奴め

だが、ああ、あれは問題ないサイズだな
俺の技術が使えるのは助かる
骨があるなら、折るも外すも出来るだろう
馬?
そういうものは脚を砕くんだ

アサルトライフルの弾をばら撒き弾幕に
当たって死んでくれても構わん
フェイント、だまし討ちは上等
近付いて急所を狙うなり、組み付いて首を脚に挟みへし折るなり
雑魚の散らし方なら心得ている
零距離で頭に弾をぶち込めば、頭蓋とて砕けよう
技能を存分に揮えることは――確かにある種の喜びだ

想定外や面倒事の対応には汚泥汚辱のアンガロスを
チ、――
俺の『指』を煩わせるんじゃあない
泥と腐れて消え落ちろ



●春の渇仰
 猟兵たちは誰かしら灯りになるものを持参していたし、中には暗い中でも支障が出ない対策を立てていた者もいた。フーカ・フダラク(幽霊船・f11950)もその一人だ。
 フーカは智慧の瞳を頼りに、通路を何の憂いもなく進む。歩くたびに黒髪が翻る。この近くには骨の眷属はいないようだ。油断は見せず、ただ先を行く。
 胸裏で独り言つ。あぁ、既に降ろされたのだな。骸は海へ流れていったのだろう。
「であればこそ、私は行かなければならぬ」
 その決意だけが声になる。歩く先、明るく照らされている道が見えた。人工的な灯りではなく、いのちそのものを思わせる苛烈な炎。
 そこにいたのは桜庭・英治(WarAge・f00459)だ。
「この炎は燃え広がっても自由に消せるんだ、照明にはもってこいだろ」
 成程確かに、下手な照明器具よりは便利かもしれない。ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)も得心するように笑みを刷く。嫌だ嫌だ、暗い地下の道なんてまぁ、ジメッとして辛気臭いったらない――そう思っていたのが嘘のようだ。光量もある程度調整可能なように思えるから、明るすぎる心配もあるまい。ロカジは内心ほっと息を吐いた。
 焔に集うように猟兵たちが合流する。付近に現状敵の気配はないが、遠く蠢く何かは感じる。
 それにしても、と嘆息したのはオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)だった。
「身勝手な話だよね。捧げられた人は、そんな馬鹿げた理由で埋められたくなんてなかったはずでしょ」
 桜が染まるためなら埋められても構わない、そんな人間は全くいないわけではないかもしれないけれど、ほぼいないと言っていいだろう。ましてやそのために命を奪われるなど。
「自分自身を贄にするなら止めないけど、他人を利用するなんて絶対許せない」
 強い意志を籠めて言い切った。フーカも睫毛を伏せた。その傍らで遙々・ハルカ(DeaDmansDancE・f14669)は己の中の己に呼び掛ける。
 骨が鳴る音が、通路の先から聞こえてきたのとほぼ同時。
「――面倒と思うと俺に押し付ける。……困った奴め」
 ハルカ、否、トヲヤはオルハと別の意味で眉根を寄せる。セルフレームの眼鏡越し、銀の双眸が敵の影を捉えた。
「お出ましのようだ」
 誰ともなく通路の突き当りに視線を向ける。英治が炎宿す指先を突きつければ、幾つもの影が死霊のように揺れた。
 行く手を阻む敵が多いことが、この先に祭壇があるという何よりの証左だ。
 その先に、咲いているのだろうか。
 ならばまみえなければならない。
 フーカは真直ぐに眼差しを注ぐ。
「そこを動かぬのか、ゴーストたちよ」
 返事はない。その代わり、続々と通路を埋め、猟兵たちへと向かってくる。
「ならば致し方あるまい。私はシャーマンであるが、猟兵として貴様らを祓わねばならぬ」
 白いセーラー服は炎色に染まらない。フーカは地を踏みしめる。それに合わせてロカジも剣呑に口の端を上げる。
「互いに行く手を阻む生者と死者、と」
 手にした煙管は今は熱を持たない。
 乾いた骨の音が鳴る様に、困った子供を見遣るように告げる。
「もはや骨のお宅らには退路が無い。人生の話かって? いやいや、通路の話だよ」
 そもそも戻る道どころか先もないじゃないの。
 もっとも逃すつもりもない。敵も退く気はあるまい。なればその道がこれから途絶えるのは自然の摂理。
 而してロカジの眼差しにもまた、熱はない。
「……ああ、僕は屍人への興味は薄いんだ。白骨体に塗る薬は無いからねぇ。僕も似た様なものだけれど」
 緊張が空気を硬くする。
 並び立った英治は威風堂々、宣誓のように言い放つ。
「さあ道を開けてもらうぜ、俺たちは奥に用があるんだ。桜を綺麗に咲かせるために人の命を使うやつと、そんなもんを喜ぶ邪神をブッ飛ばさなきゃいけないんだ」
 声に呼応するように轟、と炎が燃え盛った。咲き誇る紅蓮はいっそ桜にも似ていた。
 それを視界の隅に入れ、トヲヤは一歩前に出る。視線が捉えるは骨の眷属の佇まい。
「ああ、あれは問題ないサイズだな。俺の技術が使えるのは助かる」
 骨があるなら、折るも外すも出来るだろう。
 そんな呟きに理解が降りて、オルハは今一度前を見据える。早くここを突破したい。そんな焦燥が胸を燻らせるが、何より大事なのは突破することだ。邪神を排するという本懐を遂げねば意味がない。
「戦いは避けられないか。なら、急いで仕留めるまでだよ」
 愛用の三叉槍の穂先を突きつける。張り詰める空気。
 貫く。
 覚悟と共に一度穂先を下げた。それが合図となった。
「戦士よ、私に力を貸してくれ!」
 朗々とフーカが告げた。顕現するは歴戦の古代の戦士。雪崩のように押し寄せる骨の眷属を石突きで跳ね返し、同時に炎の波で襲わせる。
 真正面からやって来た敵は焔を避けきれない。炙られ、焦がされる。粉々の灰になるまで。
「右前方の通路から来る!」
 鋭い声を飛ばす。フーカの言葉通り白骨の馬に騎乗した眷属が襲来する。
 しかしトヲヤのかんばせには余裕が湛えられたまま。
「馬? そういうものは脚を砕くんだ」
 事実として知っている。そんな風情で宣って、神性殺傷侵食弾の装填可能なアサルトライフルを翳した。
 波濤の如き銃弾。鳴り響く。打ち砕く。脚を折られた馬は崩れ、たまらず眷属も前に転がった。それを見過ごさない。トヲヤはそれを組み伏せて、首を脚に挟む。重い音。永遠に沈黙する骨の残骸を、もはや一瞥すらしない。
 隙を埋めるようにオルハが馳せた。狙い澄まして体重を乗せて、一気に突き刺した。頭蓋を貫通させたまま勢いに乗せて横薙ぎにする。そのままさらに踏み込んで、周囲にいた眷属も纏めて潰す。
 攻勢は止まらない。三叉槍を引き抜いた反動を利用して、背後に迫った眷属を弾き飛ばす。
 一挙一動、すべてを無駄になんかしない。
 だって進まねばならないから。
「早く行かなきゃ。命を救えないのはわかってるけど、せめて樹の下に埋められるのは阻止したいもの」
 ひたむきな声だ。そんなオルハの心意気を掬い、英治は果敢に炎を唸らせた。
「前のめりなくらいがちょうどいいってな!」
 きつく前を睨んだ先、集団のど真ん中。眷属のいる座標に火種を宿す。鼻っ柱を折る勢いで、轟然とした業火が立ち上った。燃やし尽くす。何も残さぬように。
 炎で空気が揺れるように見える。炎光は曲がり角の先の眷属も余さず照らしていた。撃ち漏らさない。そんな決意がさらに焔の延焼を押し広げていく。
「こちらの炎も如何かな」
 ロカジが嘯く。煙管の先、熱した香油から湯気煙が薫る。
「そこらに打ち捨てられるよりは、せめて灰になってくれとは思うよ」
 ふと、煙が眷属らの鼻先で燻った。仕込みは十分。あとは成すのみ。
「だからこの火で燃えておくれ。この場に不似合いな香を道しるべに、明るく道を照らしておくれ」
 花のように芳しく、毒のように甘やかに。全身を浸すような香りが薫り高い焔となる。
 焼き尽くす。文字通り骨も残さず。慄き一歩下がる眷属をトヲヤは見逃さない。一足飛びで踏み越えて頭蓋に零距離射撃を見舞えば、どうと音を立てて骨が崩れた。その手応えにトヲヤの双眸に愉悦が混じる。
「左だ!!」
 フーカが再び声を張った。トヲヤを狙った骨棍棒が飛翔する。僅かに眉を顰めた。
「チ、――」
 短い舌打ち。それでも臆さず手を振り上げた。
 巫術による霊の導き。汚泥に崩れる器官は、翼に似ている。間を置かず骨棍棒を叩き落す。低く言い捨てる。
「俺の『指』を煩わせるんじゃあない。泥と腐れて消え落ちろ」
 それは宣告。
 泥濘に蝕まれてしまえ。
 炎は未だ華麗なほどに燃え盛り、地の涯を照らす。またもう一体の骨が沈んで消滅する。
 通路を踏みしめたのは誰だったか。それを確かめることに意義はない。
 その誰かが猟兵で在る以上、この場に立ち止まっているわけがないのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

木鳩・基
血で咲いた桜か……
私の趣味には合わないなぁ

とにかく、眷属倒して進んでいこう
邪神のためにも余力は残したいし、さっさと行こうぜ

『反規範パズル』発動
通路の真ん中に差し込む感じで巨腕を打ち込み、敵を壁際に追い込む
外しても地面をピース化で組み直し、壁と組み直した地形で挟み込む
潰せなくても、そこにもう一回巨腕を打ち込んでドカンといくぜ
残念でした、見事に誘い込まれたな! ざまぁみろ! 
【だまし討ち】【地形の利用】【勇気】

戦法を見抜かれたら通用しなくなるだろうし、
ある程度それを繰り返したら【逃げ足】で離脱
あとは味方を【鼓舞】しつつ有利な地形を創り出して援護
前は任せる! サポートはするぜ!

アドリブ・連携歓迎


月夜・玲
【戒道・蔵乃祐 f09466】
戒道さんと同行

原典がどこから来たであれ、なんだかちょっと悲しいね
是非は兎も角、きっと最初は純真な祈りだったんだろうに
それが歪んでいくのは、悲しい事だよ

まあでも、こーいう邪神が私の研究の礎になってるんだから同じ穴…かもね

●戦闘
【エナジー開放】を使用
空の記憶とKey of Chaosを抜刀し、刀身に蒼きエネルギーを纏わせて行動
『忍び足』で敵陣内まで静かに、迅速に移動して『2回攻撃』を活用して纏わせたエネルギーを放って敵に攻撃
飛んでくる敵の骨は『第六感』で回避しつつ、避けきれないものは『カウンター』で迎撃

ほいさほいさ、任された
チャンス、モノにしちゃうよ

●アドリブ等歓迎


戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と参加しています

古典的な都市伝説ですね

寡聞にして、原典が何処から来た物であるのか不勉強ではありますが。決まった時期に短い間だけ咲き誇り散る桜を見て、
何時しか誰もが同じ印象。妖しげなイメージを抱いてしまうのかもしれません

そうであって欲しいと想い願ってしまう信仰。それは救いにも繋がれど、容易く邪悪な魔の誘惑に堕ちてしまう心の隙間も齎す温床。表裏一体の感情なのです


『破戒僧捕物帖』で先制攻撃
スナイパー、援護射撃でゴーストボーンの杖を狙い鎖分銅を投擲
呪術の触媒を絡め捕り。石化光線の狙いを反らしつつ、怪力任せの力技で眷属を捩じ伏せて動きを封じ。その場で釘付けにします

任せた!縛!!


キトリ・フローエ
命は何よりも美しいものよ
その命が宿る身体もきっと同じだって、あたしは思う
でも、無理やり大切な命を奪って、血を捧げるだなんて
無理やり命を奪われて、残された身体に芽吹いた花が綺麗だとは思えない
…思いたく、ないの

猟兵の皆と協力して拠点を潰すわ
あたしは空色の花嵐を全力で、早口には自信があるから高速で、何度だって
通路のその先の祭壇まで届くくらいの勢いで花を送ってあげる
石化光線は第六感で動きを読んで飛んでかわしたいけれど
万が一受けてしまっても、守ってくれるオーラの力があるからきっと大丈夫!だと思いたいわ

骨の眷属のあなた達も、桜の下に埋められた誰かなの?
…誰であっても、もう一度、安らかな眠りに落としてあげる



●春の懊悩
 徐々に通路の奥へ。敵を蹴散らし、角を曲がり、靴音を響かせるごとに、踏破していく手応えを感じる。猟兵たちは前に進む足を止めない。
 そんな折、木鳩・基(完成途上・f01075)はぽつりと呟きを零した。
「血で咲いた桜か……私の趣味には合わないなぁ」
 何気なしに、さらりと。ただ紡いだ声には言葉数以上の複雑な気持ちがない交ぜになっているように思う。
 基の周囲で青色翅を翻すキトリ・フローエ(星導・f02354)も、そうね、とアイオライトの瞳を伏せる。
「命は何よりも美しいものよ。その命が宿る身体もきっと同じだって、あたしは思う」
 春。芽吹きの萌しが綻ぶ季節。新緑がこれから迎えるあたたかさに真直ぐ背を伸ばして、太陽の光に包まれる季節。
 そんな時期に――そう、そう思えば。皮肉というか、随分残酷な話だって、思わざるを得ない。
「でも、無理やり大切な命を奪って、血を捧げるだなんて。無理やり命を奪われて、残された身体に芽吹いた花が綺麗だとは思えない……思いたく、ないの」
 その声には断定ではなく、願いのような祈りが籠められていた。
 キトリの言葉を聞き、前方で歩を進めていた戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)と月夜・玲(頂の探究者・f01605)の胸裏にも、かたちにならない何かが去来する。
 桜の樹の下には屍体が埋まっている――典型的かつ古典的な都市伝説だ。
「寡聞にして、原典が何処から来た物であるのか不勉強ではありますが。決まった時期に短い間だけ咲き誇り散る桜を見て、何時しか誰もが同じ印象、妖しげなイメージを抱いてしまうのかもしれません」
「原典がどこから来たものであれ、なんだかちょっと悲しいね」
 蔵乃祐の声を拾った玲が、本来は善きものであった何かを惜しむように告げた。
「是非は兎も角、きっと最初は純真な祈りだったんだろうに。それが歪んでいくのは、悲しい事だよ」
 桜は美しい、それを愛でる人々の心境とて、はじまりは恐らく無垢なものであったはずだ。
 しかし人の心、もっと言えば悪意が混ざった時、それはたちどころに濁ってしまうのだろう。
「そうであって欲しいと想い願ってしまう信仰。それは救いにも繋がれど、容易く邪悪な魔の誘惑に堕ちてしまう心の隙間も齎す温床。表裏一体の感情なのです」
 生業故に蔵乃祐も思うところは多々ある。努めて軽妙に笑みを刷き、玲は肩を竦めた。
「まあでも、こーいう邪神が私の研究の礎になってるんだから」
 同じ穴の何とやらだ。
 そこまで思い至ったところで、視界の片隅で影が動いた。
 骨が軋む音が通路に響く。この場所を根城にしている骨の眷属らは、この期に及んで身を潜めようという発想はないのだろう。通路の曲がり角から顔を覗かせ、続々とこちらへ向かってくる。
「とにかく、眷属倒して進んでいこう。邪神のためにも余力は残したいし、さっさと行こうぜ」
 基の端的な提案に猟兵たちが頷いた。地を踏みしめる。白骨の馬に乗り吶喊してくる眷属を見据える。基の帽子でジグゾーパズルピースのバッジが光を弾いた。
 解は導き出すもの。己で構築するもの。己が腕を組み換えた巨腕を振り翳し、地を蹴った。
 馬ごとなぎ倒す勢いで拳を叩きつける。咄嗟に避けられたが、それでもお構いなしに壁まで追い込むように押し出す。
 そのまま踏み込んで拳で床を砕いたら、瞬く間に地面をピースに分解する作用が展開される。新たに形成された地形と壁とで骨を囲う。身動ぎすらままならなくした後に、更なる巨腕の一撃が骨に迫る。
「残念でした、見事に誘い込まれたな! ざまぁみろ!」
 哄笑と共に、基の打ち込みで完膚なきまでに骨を粉砕した。
 その意気に、流れに乗ろう。骨の眷属が次手を決めあぐねている間に、蔵乃祐は一気に肉薄する。先制攻撃を見舞ってやろう。
 狙い定めるはゴーストボーンの杖。先端の宝玉目掛けて仕込み籠手から投擲されたのは鎖分銅だ。捉えたなら力を籠め鎖を引く。呪術の触媒のコントロールが思うように利かないからだろう、骨の眷属が杖を操ろうとするもままならず、石化光線が斑に散った。半端に床の部分部分が白骨めいた石になる。
 そのまま力任せで捩じ伏せる。生憎怪力には自信があった。もがく眷属を押さえつけながら声を飛ばす。
「任せた! 縛!!」
「ほいさほいさ、任された。チャンス、モノにしちゃうよ」
 飄々と嘯いた玲の手には双剣。遠き空への思慕と混沌を齎す鍵。抜刀し、刀身にエナジーを這わせれば蒼く光を湛えた。
 混戦の中にあっても玲の動きは静かだ。飛んでくる骨を身を捩って躱し、足音もなく近接する。
 蔵乃祐が捕えた眷属の頭蓋に、十文字を描く剣閃を見舞う。
 青が迸る。骨が裂ける音がする。綺麗な切り口の鮮やかさは、暗い通路に在って清々しさすら覚えるもの。
 ついでに迫る眷属を逆手に持ち替えた混沌の剣で穿つ。たまらずたじろいで退いたその個体を待ち構えていたのは青と白の円舞曲。
 空色の花嵐だ。キトリは淀みなく滑らかに詠唱を諳んじる。音節を辿るごとに花弁が一枚、また一枚と降り積もる。その輪郭が鋭さを持つことを証明するかのように、猟兵が手にした灯りを弾く。澄んだ煌きは幾重にも咲き誇り、その度に骨の眷属を纏めて蹂躙する。
「!」
 死角から迸った石化の光を背に受ける。しかしキトリは焦りをかんばせに乗せたりしない。淡く纏った霊光が石と成す効果を剥がし、地に落としたからだ。
 臆さない。怯まない。全力で、早口には自信があるから高速で、何度だって。
「花を送ってあげる」
 通路のその先の祭壇まで届くように。轟然と花が散る。青と白で通路を埋め尽くす。崩れ倒れる眷属の頭蓋にひらり舞い降りたキトリが、噛みしめるように問うた。
「骨の眷属のあなた達も、桜の下に埋められた誰かなの?」
 返事がない。あるわけがない。しかし問わずにはいられなかった。
 だから成すことに躊躇はない。
「……誰であっても、もう一度、安らかな眠りに落としてあげる」
 高らかに詠唱を重ねよう。花嵐に圧される眷属らを見逃さない。故に基も搦め手を講じる。
「前は任せる! サポートはするぜ!」
 先程の攻撃は見切られたら効果が半減する。だから攻撃を当てるのではなく地形を変化させることに注力する。
 わざと大振りに拳を床に叩きつけ、数多のピースを変形させていく。花弁に塗れた敵は、足元を固めに来る破片を避けられない。
 敵の動きが止まった。ならば迷いはない。玲は軽やかなステップで眷属の懐に滑り込む。一文字に薙いだなら背骨が折れたのだろう、自重を支えきれずに砕け、灰塵になる。
 負けていられないなと心中で独り言ち、蔵乃祐もまた馳せた。純粋な暴力の形である拳骨で杖ごと叩き潰す。余さず砕け散った白骨の残骸が地に広がる様は、白い砂浜を思わせるほど。
 隙を生まぬよう背を預け合い、着実に屠っていく。
 それが必ずや祭壇へ、花の君への足掛かりになるのだと、信じている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
アドリブ等歓迎

桜の木の下に死体が
ええそれはもう
とびきり美しい桜が咲くのでしょう

でも―リルには言えないわ
曖昧に微笑んで
なおあたしの花だと憤ってくれる可愛い子を優しく撫でる

大丈夫よリル
そう思ってくれるだけで十分

終わらせて
綺麗な桜を見に行きましょう
最高の歌をよろしくね
歌姫様!

刀に纏う破魔
リルを庇うように前へ
衝撃波を込めてなぎ払い穿ち切り裂く
振るう刀に怪力をのせて骨ごと断ち切ってあげる
攻撃は第六感で察知し見切りで躱し
リルの歌にあわせ舞う様に傷口を抉って何度でも斬る

あたしの可愛いリルに手出しはさせない
さっさと骸にかえりなさい
踏み込み、絶華を

リルには美しい桜を
穢れない桜を
見せたいの


リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
✼アドリブ等歓迎

「あんなに綺麗な桜なのに。櫻宵、桜の樹の下には本当に死体が埋まっているの?」
君は千年桜を守る龍だから、知ってる?
曖昧な彼の笑顔に首を傾げて
「けれど、桜は君の花だ
その桜を穢すのは……僕はゆるせない」

僕の櫻が
君が、穢されるようで

「櫻宵、僕が歌う。君の凱歌を――舞台を整えるから、存分に舞っておいで」
この歌で君を、まもるから
【歌唱】を活かして歌う「凱歌の歌」
櫻宵をその剣戟を支えるように
【空中戦】と【野生の勘】で攻撃を躱すよ

櫻宵ばかりみて……
抱くのは少しの嫉妬
「魅惑の歌」を紡いで動きを止めるから
ほら
いっておいで

美しい桜を美しいまま楽しめるよう
亡者を邪神を骸に返そうか


葦野・詞波
桜の早咲きの理由を、昔何処かで聞いた。

厳しい冬に耐えた桜ほど
少し暖かくなれば春を感じてか
早く綺麗に咲くのだという。
逆に、暖かい冬を過ごした桜は
なかなか咲きはしない。
春をいつまでも感じられないから、だそうだ。

桜が自らに課せられた試練を
乗り越えた証――というのは考えすぎか。

真偽は別として、だ。
狂気に満ちた信仰で咲けといった所で
桜は咲いてくれはしないだろう。
咲いたとしたらそれはただの紛い物だ。
退け、狂信者。

先手を取り近接戦に持ち込んだ後は
乱戦覚悟で範囲攻撃やなぎ払い
馬は優先的に潰していく

宝玉には特に注意し、光線は見切りで回避
密集した敵には【揺光】で一網打尽

//アドリブ歓迎


黒海堂・残夏
生憎、道理を歪めてしまうほどの想いなんてモンは許しちゃおけなくてね
――さぁて、美しい神様とやらを拝みに行きましょうかあ
ワルーイ神様には人の手で、この世の道理を教えてやらなくっちゃあ、ですよね〜え?

暗視こそできますけどお、心許ないですし明かりの用意は万全に
敵を見つけ次第、武器で拘束して動きを止めてやりますぅ
姿を捉えればこっちのモンだ
ざんげちゃんのユベコはお前らみたいな奴のためにあるんでね、
見ない、許さない――芯まで塵に返すまで、存在ごと書き換えて、いないことにしてやりましょう

ホ〜ラ、ね、こわいでしょう?
ありえないでしょう?
狂った神様のチカラなんて、総じてロクなもんじゃねえんだ
……はぁ、頭が痛い



●春の眩惑
 この通路に至るまでの道程、青空の下で揺れる桜を見た。何の変哲もない、それ故に普遍的な美しさがあると思える花の色。
「あんなに綺麗な桜なのに。櫻宵、桜の樹の下には本当に死体が埋まっているの?」
 君は千年桜を守る龍だから、この逸話にも詳しいのではないかと思って。
 そんな風に言いたげに、リル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)の玻璃のように澄んだ声が響く。それに耳を傾けていた誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)が、花霞の双眸を細める。
 ――ええそれはもう。とびきり美しい桜が咲くのでしょう。
 そんな言葉は声にならない。その代わりに櫻宵は曖昧に微笑んだ。浸す感情を読み取らせぬ柔らかさに、リルはことり首を傾げた。
「けれど、桜は君の花だ。その桜を穢すのは……僕はゆるせない」
 続いた言葉ははっきりと。僕の櫻が、君が、穢されるようで。言外の意図を掬い上げ、櫻宵は繊手でリルの頭を撫でる。己が花だと憤ってくれる真直ぐな気持ちが嬉しくないわけがない。
「大丈夫よリル。そう思ってくれるだけで十分」
 故に言の葉はあくまで緩やかに。ふたりを行き交う優しいやり取りに、葦野・詞波(赤頭巾・f09892)は花の瞳を眇める。
「桜の早咲きの理由を、昔何処かで聞いた」
 通路を歩む猟兵たち。偶然隣を征くこととなった黒海堂・残夏(Atropos・f14673)へ、何気なしに語り掛ける。
「厳しい冬に耐えた桜ほど、少し暖かくなれば春を感じてか早く綺麗に咲くのだという。逆に、暖かい冬を過ごした桜はなかなか咲きはしない。春をいつまでも感じられないから、だそうだ」
 四季の優しさも厳しさも受け止めるからこそ、桜は美しく咲く。桜が自らに課せられた試練を乗り越えた証――というのは考えすぎだろうか。
 残夏はふうん、と何気ない相槌を打つ。その様子を一瞥して詞波は続けた。
「真偽は別として、だ。狂気に満ちた信仰で咲けといった所で桜は咲いてくれはしないだろう」
 狂気は試練ではない。乗り越えなければいけないものではない。
 それは押し付けられた傲慢であり、少なくとも自然に咲く上ではまったく必要のないものだ。
「咲いたとしたらそれはただの紛い物だ」
 断じる詞波に、残夏はくつりと笑んでみせた。同意を声に乗せて嘯こう。
「生憎、こっちも道理を歪めてしまうほどの想いなんてモンは許しちゃおけなくてね」
 不遜に不敵に視線を走らせる。その先には、幾体もの骨の眷属が蠢いている。
 始めよう。無粋な戯言を塵芥とするために。
「――さぁて、美しい神様とやらを拝みに行きましょうかあ。ワルーイ神様には人の手で、この世の道理を教えてやらなくっちゃあ、ですよね〜え?」
 残夏が照明を指先で揺らす。灯りに照らされて、影絵のように骨が浮かび上がった。
 得物を構え前に出る。櫻宵とリルの視線がかち合えば、意気も揃いの気概に変わる。
「終わらせて綺麗な桜を見に行きましょう。最高の歌をよろしくね、歌姫様!」
「櫻宵、僕が歌う。君の凱歌を――舞台を整えるから、存分に舞っておいで」
 この歌で君を、まもるから。
 その気持ちに応えるが如くに、櫻宵が桜の刀身に破魔を添わせる。リルを庇うように進み出る。
 残夏も招く者たる鋼糸を引いた。生と死の境界線。生者は明日へ、亡者は冥府へ。じりじりと距離を詰め、一触即発ともいうべき緊張感が戦場を満たした頃合い。
「退け、狂信者」
 詞波の宣告が合図となった。残夏が飛び出す。骨が構える隙を与えずに、鋼糸を一気に射出する。捻じ曲げて捕縛すれば、骨が軋む音がする。姿を捉えればこちらのものだ。
「ざんげちゃんのユベコはお前らみたいな奴のためにあるんでね」
 眸に宿す、蕩けるカラメルのような甘さ。しかしその内実は決して甘くなどなかった。
 捉えた眷属を蠱惑的に見遣る。眼差しで歪める因果、見たくないものを拒絶する不可視の力。
「見ない、許さない――芯まで塵に返すまで、存在ごと書き換えて、いないことにしてやりましょう」
 囁くたびに、対象となった眷属が身を戦慄かせる。骨に浮かぶ表情は見えないのに、明らかに絶望の淵にいると知れる佇まい。
「ホ〜ラ、ね、こわいでしょう? ありえないでしょう?」
 宝玉の杖が地に転がった。眷属は膝をつく。内側から崩れ、灰になる。
 その様子を見ていた周囲の眷属も何かしらの畏怖めいたものを感じたらしい。躊躇が伝わってくる。それを見過ごす詞波ではない。
 床を蹴る。敵陣の真中に滑り込み、亡骸の涯てに見た竜騎士の槍を振り回す。赤頭巾が振るう大車輪。近づく者どもを巻き込んで、特に騎乗する敵の脚を損ねて、次々と骨を地に転がしていく。
 そして乱戦の最中に見出した、後方で石化光線を練ろうとする集団。
「刺し闢け」
 密集する眷属へ、流星のような投槍を放つ。単純明快でありながらも故に豪放な一撃は、悉く宝玉を砕いて骨の破片を散乱させた。
 この攻勢に乗らぬ手はない。櫻宵は霊光を帯びた刀に力を籠める。踏み込む。一縷の迷いも憂いもなく、袈裟懸けに斬り伏せる。骨の髄まで断ち切ってしまおう。
 枝垂れ桜の異形の翼。その背を支えるように、リルのくちびるは凱歌を紡ぎ始める。
 それは希望。それは勇気。剣戟を振るうその手に迷いがありませんようにと、絢爛を戴く力強い歌声は戦場に光の梯子を下ろすかのよう。
 確かな力を与えてくれる歌声だった。まるでリルの歌に合わせた円舞を披露するように、櫻宵は幾重にも太刀筋を見舞った。何度でも、息の根を止めるまで何度でも。
 特に後方、リルの方向へ向かおうとする眷属への容赦はない。体重を乗せ一気に貫く。骨が罅割れ、折れる音は存外軽い。
「あたしの可愛いリルに手出しはさせない。さっさと骸にかえりなさい」
 容赦のない攻撃に、自然と櫻宵へと眷属らの視線が集まる。
(「櫻宵ばかりみて……」)
 胸裏に浮かんだのは少しばかりの、嫉妬。それを歌に落とし込めば常のリルだ。
 旋律を変える。透徹の歌声が玲瓏に響く。引き寄せ、惹きつけ、離さない。シャーマンズゴースト・ボーン・リボーンの幾体かが、金の眼を蕩けさせる。動きが完全に止まっているのを見遣ったリルが再び背を押した。
「ほら、いっておいで」
 美しい桜を美しいまま楽しめるよう、亡者を邪神を骸に返そうか。
 その想いをこそ汲んで、櫻宵は今一度奥へ踏み込んだ。
 散りなさい。
 そんな無言の宣告を籠め、不可視の剣閃を奔らせた。僅かに空気が歪んだ気がしたのは空間ごと断ったからだ。
 崩れ落ちる骨の残骸。何の未来も残さぬ灰塵。
 櫻宵は毅然と顔を上げる。
 ――リルには美しい桜を、穢れない桜を見せたいの。
 そう告げているような眼差しだった。それを眺め、詞波は淡く笑みを深める。
「本当に、もし血を吸っていたなら、桜の辿る道も碌な結末ではないだろうな」
「それな。狂った神様のチカラなんて、総じてロクなもんじゃねえんだ」
 残夏のぼやきと嘆息は、通路の空気に溶けこまない。
 まだ眷属は祭壇への通路を固めていることだろう。
 はぁ、頭が痛い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

忍冬・氷鷺
綾華(f01194)と

何時の時代、世界でも
罪深きは人というものだな…

なるだけ敵が綾華に近付けぬ様、積極的に前へ
仮初めの命を貫き断ち切る氷刃裂破を見舞う
傷を負わせられずとも
視界を奪う目眩ましにでも成れば良し


―忠告痛み入る
だが心配は無用だろう。お前が居るのだから
共に戦う事は初めてでも、
背を預ける程に信は置いているのだぞ

―応。
笑みと共に彼へ返事を一つ
激痛耐性と残像、
生命力吸収で僅かな命も奪いながら
引導を渡すべく黒爪と刃を振るう

眠れぬ骨の躯
死して尚も力を振るわねばならぬ哀しさよ
生在る者の敵であるお前達に、
桜花の景は見せてやれぬが
せめて次なる生ではあたたかな春を迎えられる様

細やかな祈りと願いを込めながら


浮世・綾華
氷鷺(f09328)と
…いろいろ思うとこはあるが
とりあえず被害を食い止めなきゃな

共闘は初めてなんで
最初は氷鷺の動きも観察
把握したら後は可成合わせて動く

視界を照らすのは鬼火
狭くても地形の利用とフェイントで上手く切り抜ける
転がった敵をも掴み盾をすればいい
残酷だと詰られても構わねえ
最良の結末に至る為にならば

前に出る氷鷺の意図を察す
戦略的な理由で盾になり傷を負うようでも
庇うほど過保護じゃない

でも、言葉は口から出ていた
――ひとりで飛ばしすぎんなよ

…分かってるならいい
おう、任せとけ
ちゃんと預かって…後で返すから
等とおどけ

咎力封じで敵の動きを制御
――任せたぜ、氷鷺

葬れば姿を現すであろう薄紅を想って
一刻も早く


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と一緒に
人の想いはいつの時代も、時として恐ろしい行為に手を染めさせるものですね
桜の花は日本人の心ともいうべき美しいものですが……
このような形で咲かされる花も、少々気の毒に思えます
桜の木のためにも、悲劇は早々に防いでしまいましょう

僕の強みは集団戦闘ですから、遠慮なく暴れさせていただきましょう
ザッフィーロ君と示し合せて
【おびき寄せ】で敵の密集地帯を作れれば
【高速詠唱】を用いて素早い術の発動につとめ
【第六感】【視力】で判断し
【属性攻撃】【全力魔法】【2回攻撃】にて
『天撃アストロフィジックス』で範囲攻撃を行います

撃ち漏らした敵はザッフィーロ君、頼みましたよ


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
人々の想いが呪いになる…か
…人の心とは本当に恐ろしい物だな

遮光版付のランタンを手に中へ
『暗視』もあるがこの闇はそれだけでは心許無いからな
戦闘時は俺は『2回攻撃』と『盾受け』を使い前衛にて、宵が打ち漏らした敵をメイスで確実に屠って行けるよう立ち回ろう
本体さえ無事ならば良い故、前衛は性に合っているのでな
だが攻撃が間に合わず宵の元に行った敵は『高速詠唱』を使い【穢れの影】にて敵を拘束、援護を試みる
同じヤドリガミだが…仲間の怪我は見たくないというのは矛盾しているか

まあ少々数は多いが宵が居る故、背後から攻撃を受ける心配はないだろう
俺も宵の背中位は守って見せる故、全力で動いてくれれば幸いだ



●春の思惟
 通路の踏破は進んでいく。
 大勢の猟兵が集ったこともあり、戦いは始終猟兵の優位な状況で推移している。迫り来る骨の眷属を打倒し、先へ。着実に最奥である祭壇に、桜の君の元に近づいていると誰もが予感する。
 周囲の敵はもういないだろう。そう判断し、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は視線を巡らせた。静寂が齎された故か、思考は予知で触れられた今回の事件の謂れについて及んでいく。
「人々の想いが呪いになる……か。……人の心とは本当に恐ろしい物だな」
 感慨深げな呟きに、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は長い睫毛を伏せる。
「人の想いはいつの時代も、時として恐ろしい行為に手を染めさせるものですね」
 そう、本来桜は何の関係もないはずだ。季節が巡るごとに花を咲かせるだけだ。それに歪んだ理を捩じ込むのは、人間の業に他ならない。
 この通路を踏破し祭壇で桜の君を討ったなら、黄昏に融けるような桜を愛でることも叶うだろう。
 それを思えば楽しみでもある。けれど。
「桜の花は日本人の心ともいうべき美しいものですが……このような形で咲かされる花も、少々気の毒に思えます」
 桜の木のためにも、悲劇は早々に防いでしまいましょう――そんな宵の言葉に否はない。ザッフィーロが浅く頷いた。
 ふたりの話を聞いていた忍冬・氷鷺(春喰・f09328)が、何かを噛みしめるように囁く。
「何時の時代、世界でも、罪深きは人というものだな……」
「……いろいろ思うとこはあるが、とりあえず被害を食い止めなきゃな」
 氷鷺の背を叩いたのは浮世・綾華(❂美しき晴天❂・f01194)だ。綾華の緩やかな笑みの裏側に、確かな決意が掲げられている。為すべきことはわかっている。ならば、前進するだけだ。
 引き締められた空気に誰ともなく諾意を携え、まずは先に進もうと足を動かし始めた。
 通路の所々に白い塵が落ちているのは、恐らく骨の残骸だ。それに感慨を抱く者、そうでない者様々だろう。注意深く警戒を怠らずに往く。ザッフィーロの手で揺れる遮光版付のランタンが、道行を静かに確かに照らしている。綾華の緋の鬼火も合わせれば、視界を確保するのは容易かった。
 どれほど歩いただろう。曲がり角に差し掛かる前、宵がふと歩を止めた。
「……この先に、居ます」
 視線を流せばザッフィーロが得物を構えた。綾華も目を眇め、その前に氷鷺が進み出る。氷鷺は元より積極的に前に出る心積もりだったから、臆せず一歩を踏み出した。
 確かに、曲がり角を進んだ先。複数の不穏な気配を感じる。呼吸を挟み、軽く床を蹴る。
 身を翻した氷鷺の白銀の双眸の先、骨の眷属らが蠢いている。彼奴等が反応するより先に、大気中の水分が凍り始めた。
 羅刹の指先が横一文字に払われた瞬間、空中に無数の氷刃が出現する。それは縦横無尽に展開し、瞬く間に宙を埋めていく。眷属が声にならない声を上げる。砕ける。凍った骨は粉々になる。命中を免れた個体もいるが、そも視界が氷結していて動くのもままならない。
 こうして共闘するのは初めてだが、いやはや何とも頼もしい。
 氷鷺の動きを観察していた綾華も口の端を上げる。氷鷺が前に出た意図は察していた。立ち位置上、戦略的な理由で盾になり傷を負うこともあろう。それを敢えて庇うほど過保護なつもりはない。
「――ひとりで飛ばしすぎんなよ」
 だからこれは余計かもしれない。勝手にまろび出た言の葉が、丁寧に掬われる。
「――忠告痛み入る。だが心配は無用だろう。お前が居るのだから」
 氷鷺は振り向かずに声だけで伝える。確かな信頼を滲ませている。
 こうして同じ戦場に立つのは確かに初めてのこと。しかし。
「共に戦う事は初めてでも、背を預ける程に信は置いているのだぞ」
 一応。
 ついでとばかりに付け足された声の後、顔だけを向けた。そこには淡い笑みがある。その会話の間にも敵は容赦なく攻め入ってくるから、氷鷺は身体を反転させて氷毒滴る黒爪を振るう。
 綾華も念力で飛ばされた骨を、転がった骸を引っ張り上げ盾にすることで防ぐ。目の前で骨が崩れる。感慨はない。残酷と罵られても構わない。
 そのくせ、紡いだ声は存外穏やかだった。
「……分かってるならいい。おう、任せとけ。ちゃんと預かって……後で返すから」
 おどけた口吻。ふたりの気安いやり取りを見て、あえかに微笑んだのは宵だ。
「負けていられませんね」
「まったくだ」
 ザッフィーロも応える。凍り果てた個体に肉薄し、メイスで殴り倒す。細かい霧のように白骨が散った。振り向きざまにもう一撃。後ろに通さぬよう、身体を張って奮戦する。ザッフィーロはヤドリガミとして、本体であるサファイアの指輪さえ無事であればいい。故に前衛はむしろ性に合っていると言えた。
 その間にも宵は早口で詠唱を諳んじる。指先を跳ねさせれば敵陣の真中で星の瞬きに似た光が弾ける。
 咄嗟に身を竦めるようにして眷属が知らず身を寄せ合い、密度が上がる。そこまで想定通りだ。
 前に立つサファイアの君が健闘してくれている間に、努めて役目を果たそうか。宵の強みは集団戦闘だ。遠慮なく暴れさせてもらおう。
 太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。
 そして時に牙を剥く宙の耀き。
「さあ、宵の口とまいりましょう」
 嫣然を捧ぐ。
 迸ったのは閃光。それが星のきらめきであると誰もが悟る。清冽な瞬きが燦然と空中に出現した。
 もう一度詠唱を重ねる。星光が倍加する。宵が悠然と指を払った瞬間、幾千と形容して良いほどの流星の矢が眷属らに降り注いだ。
 先に凍てついた破片をも更に砕く。粉塵として地にも還さぬ。
 辛うじて免れた個体が咄嗟に飛び退こうとするも。
「ザッフィーロ君、頼みましたよ」
 声が飛ぶ。音もなく馳せたザッフィーロがメイスで殴打する。逃さない。骨のひとかけらさえ。
 間に合わず宵へ向かう敵がいれば罪と穢れの影を飛ばすつもりでいたが、その心配もないらしい。ヤドリガミ同士、ヒトに非ざるものではある。仲間の怪我は見たくないというのは矛盾しているかと胸裏で呟いた。
 流れ星の威力につい笑みを綻ばせたのは綾華だ。それこそ同じヤドリガミだからかもしれない。慌てて逃れようとする骨の眷属に手錠を飛ばし、その逃げ足を絡め捕る。
「――任せたぜ、氷鷺」
 応えたのは氷刃。もがく骸にとどめを刺し、氷鷺は低く囁く。
「眠れぬ骨の躯。死して尚も力を振るわねばならぬ哀しさよ」
 心を添わせるのは優しさか情けか、恐らくそれは決意だ。
「生在る者の敵であるお前達に、桜花の景は見せてやれぬが。せめて次なる生ではあたたかな春を迎えられる様」
 密やかな祈りと願いを込める。そのために、まだすべきことがあるはずだ。
 再び静寂が場を支配する頃、綾華はゆっくりと瞼を下ろす。
 道行の向こう、歪んだ崇拝を葬れば姿を現すであろう薄紅を想う。
 そして前を見据える。
 一刻も早く、進もう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
花はいつだって絢爛に咲きたがる
だけど望まないものを贄にするのは無粋だ
――なんて、言えた義理じゃないけど

薄く笑って右目の牡丹を撫ぜ
倒れ伏す敵に落とすその種は、

“涜葬”

みるみるうちに芽吹いて絡む花
さあ、苗床になるのはどんな気持ち?
お仲間も巣食う闇も何もかも
自分ごと、壊して、おいで

ひとつ壊れたら次、また次と
敵に混乱を招いて切り崩そう
合間に扇をひらめかせて
花散らす風で範囲攻撃も重ね
前へ前へと確かに進みながら

己が身の血を魂を啜る花に
今更のように問い掛ける
どうして、わたしだったの
けれど勿論応えなど返る筈もなく

そうしてまた駆け出す闇のなか
ただひらり、花びらが落ちるだけ

※アドリブ・絡み大歓迎


鳴守・猛
何処の世にも
空想を付与する昔語りはあるのか
確定せぬ、あやふやな夢ある余地をこそ
人は好むのかもしれないが
……俺にはどうも、座りが悪い

併し
彼の者達の所業を見過ごす訳にはいくまい
血吸いの花などと
これ以上の生を喪う前に、手折らねば

生憎と灯りとなる持ち合わせは無く
其を持ち得る者が居たならば
頭を下げ同行願う
如何にしても夜目が効かぬなら
雷司る勾玉の封を解くもやぶさかでなく

拙き身なれど
盾程には使えるだろうか
小細工など出来ぬ故
俺は皆の前に出よう
掴みの技と怪力
そして雷咆を用い
骨を掴み、砕いて、焼き付くそう

此れなる敵は畏るるに能わず
――慢心ではない
己の力量は心得ている
捨て身となれど倒すべきであると
そう判断しただけだ



●春の衷情
 通路に幾つもの骨が転がる。すべて猟兵が蹴散らしたものだ。いのちを喪い、さらに失った成れの果て。実らず咲かずして地に還るもの。
 歩みつつ、境・花世(*葬・f11024)が思い馳せるのは花の在り方だ。予知で耳にしてから、ずっと考えていた。
 花はいつだって絢爛に咲きたがる。
 しかし望んでもいないものからその糧を奪うのは無粋というものだ。
「――なんて、言えた義理じゃないけど」
 困ったように、密やかに。淡く微笑みを刷いた花世の指先が、右目の牡丹に触れた。もっとも身近にある花。花弁の輪郭をゆっくりと辿る。
 その隣、鳴守・猛(雷仔・f15310)もまた物思いに耽っていた。
 何処の世にも、空想を付与する昔語りはあるらしい。きっと本当かどうかはどうでもいいのだ。曖昧な夢を思い描く余地をこそ、恐らく人は好むのだ。
 けれど。
「……俺にはどうも、座りが悪い」
 吐息が通路の空気に馴染まず、ただ沈殿する。猛は訥々と続けた。
「併し。彼の者達の所業を見過ごす訳にはいくまい」
 血吸いの花を現のものとして存在させ続けてはいけない。これ以上の生を喪う前に、手折らねば。
 花世と猛が同時に、視線を一点に差し出した。禍々しい気配が迫ってくる。薄暗い道の向こうから、骨の眷属が攻め入ってくる。
 繊手を閃かせ、花の娘が倒れ伏した骨の残骸に種を落とす。
「“涜葬”」
 声と同時に芽吹いた。きみはすでにきみ。骸に根を張り、薄紅の花が綻んだ。
 そこにいたのは、件の桜とお揃いの彩を咲かせたシャーマンズゴースト・ボーン・リボーン――であった、何かだ。
「さあ、苗床になるのはどんな気持ち?」
 その問いの答えを、花世は望んでいるわけではない。そう、これもまた言えた義理ではないだろうから。
 お仲間も巣食う闇も何もかも。
「自分ごと、壊して、おいで」
 宝玉嵌めた杖を振るおうとした骨の眷属に、花咲きの骸が骨を投擲する。敵の頭蓋に罅が入る。軋む。すぐに倒されるものの、生憎手駒となるものはたくさんある。何せそこらに転がっているのだ。すかさず次の花骨を生み出す花世を、眷属らはどこか恐れているように思えた。
 通路を歩むうちに闇に目を慣らした猛は、その様を確かに見届けた。黒曜の内にいかずち抱く勾玉を握りしめる。
 そして顔を上げる。前に踏み込む。小細工は出来ぬ。ただ身体を張ることしか出来ぬ。
 迷いはなかった。眷属の装束を掴み引き寄せる。突き出したのは掌底。
 骨の髄に雷鳴が轟いた。
 轟音が通路に反響する。砕いたのと焼かれたのは同時か。骨であった何かはもはや灰塵に過ぎない。乾いた音を立てて散っていく。雷光に怯んだ眷属を見据え、花世も前に出た。嫋やかな春扇を翻し、花散らしの風で扇ぎ斬る。骨が連鎖するように割れる。
 進む足に淀みはない。ないが故に、否応なしに己が身の血を魂を啜る花が疼いた気がした。嫌になるほど鮮明に。
 胸裏に手向けるは今更な問いかもしれない。
 ――どうして、わたしだったの。
 花は黙して語らず。小鳥のように囀ってはくれない。きこえない。どうしても、きこえない。
 地を蹴る。
 花世は再び扇を振るう。残り香のように、ひとひらの花弁だけが舞い落ちた。
 それと同時に再び雷撃が迸った。骨が粉々に散っていく。いかずちと同じ色の双眸を眇めて、猛は尚も敵前で拳で骨を真正面から打ち抜いた。
 此れなる敵は畏るるに能わず。
 ――慢心ではない。驕りではない。傲慢ではない。
 己の力量は心得ている。その上で、捨て身となれど倒すべきであると。
 そう判断しただけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルリリー・ベルベット
リーゼ(f00755)と

屍体が桜の美しさの理由だっていうなら、ある意味納得だわ
美しさというものは黙ってても得られないものだもの
人もお花も、ね

さぁ、ショーの始まりよ
援護はよろしくお願いね
頼りにしてるわよ、リーゼ

敵の攻撃は『見切り』で回避して、反撃の隙をうかがうわ
攻撃チャンスを見つけたら【レギーネル危機一髪】で纏めて切り刻んでやりましょう
炎の『属性攻撃』を付与して、ド派手に演出してあげる

敵がリーゼの方へ向かったらフック付きワイヤーを引っ掛けて、リリの方に引き寄せるわ
引き寄せた敵はナイフで仕留めましょう
ダメダメ、お前の相手はこっちよ


リーゼ・レイトフレーズ
ベルリリー(f01474)と一緒に

桜の色は血を吸った色、って話はよく聞くけど
だからって生きてる人間を殺して埋めるのは違うかな

さて、それじゃよろしく頼むよベルリリー
気兼ねなく突っ込むといい
降り掛かる脅威は私が取り除く

敵の攻撃を見切り
ベルリリーを狙ったものを狙撃していく
徹底した援護射撃はメインを飾る彼女の為に
第六感で敵の行動を潰して隙きを作る
一掃する舞台が整ったならば
ベルリリーに合わせて全力魔法の火属性攻撃
Cassiopeiaを放つ

敵が接近するような事があっても冷静に武器受けをし
彼女にパスしよう

アドリブ歓迎


マリス・ステラ
【WIZ】他の猟兵と協力します

「桜の君。異端の神というべきでしょう」

本来、神には正統も異端もないのです
しかし、贄を求めるなど神の所業ではありません
重なる想いが神となるヤドリガミのひとりとして向かいます

全身から放たれる光で『存在感』を示し、敵を『おびき寄せ』ます
同時に薄暗い通路を照らし道を示しましょう
光は『オーラ防御』として働く星の輝き、その星が煌めくような『カウンター』
『破魔』の力を宿しています

「主よ、憐みたまえ」

『祈り』を捧げて弓で『援護射撃』
負傷者には【生まれながらの光】
軽微なダメージは無視して重傷者に限定
緊急時は複数同時に回復

髪飾り・花霞に宿る精がふわりと舞えば『第六感』を強く働かせます



●春の随想
 猟兵たちが通った後は、骨の残骸が転がるのみ。
 通路に侵入してしばらく経った。時間経過がわかりにくいが、そろそろ祭壇が見えてきていい頃合いだろうか。
「桜の色は血を吸った色、って話はよく聞くけど。だからって生きてる人間を殺して埋めるのは違うかな」
 棒付きキャンディーを口に咥えて歩きながら、リーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)がぽつりと呟いた。
 血染めの桜は割とありふれた言い回しだろう。それを本当に試みようとする者がいないだけで。今回、そんな輩がいただけで。
「屍体が桜の美しさの理由だっていうなら、ある意味納得だわ」
 空色巻毛を揺らしながら、ベルリリー・ベルベット(ルーナフラウ・f01474)が嘯く。その言葉にリーゼは首を傾げる。
「そう?」
「ええ。美しさというものは黙ってても得られないものだもの。人もお花も、ね」
 素材だけで美しく在れるものなど稀だ。土壌、気候、あるいは人の手。咲き誇ることが出来るものには、それなりの理由がある。
 そんな口吻に浅く頷いたのは、傍らを往くマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)だ。星の双眸を細める。
「桜の君。異端の神というべきでしょう」
 本来、神には正統も異端もない。信仰によって存在証明を得るものであれば、尚の事。
 しかし、贄は捧げられるものであっても、求めるものではない。
「それは神の所業ではありません」
 そもそも捧げられることさえ固辞したい、そう思っていることにマリスも遅れて気付く。
 重なる想いが神となるヤドリガミのひとりとして、今は先へと向かおう。迷いも惑いもなく、金の髪を翻し、前へ。
 マリスが纏う光は花のように薫る。惹き付ける、引き寄せる。通路を眩く照らす光条は、自然と敵の存在をも浮かび上がらせる。
 骨の眷属を視線で数え、ベルリリーはサーカスさながらの軽やかさでステップを踏む。
「さぁ、ショーの始まりよ」
 スポットライトを浴びるべきは骨の眷属ではない。そう知らしめるような声音だった。
「援護はよろしくお願いね。頼りにしてるわよ、リーゼ」
「さて、それじゃよろしく頼むよベルリリー。気兼ねなく突っ込むといい」
 リーゼは星空冠する対物ライフルの銃口を、骨の頭蓋へと向ける。
 自然の摂理のように言い放つ。
「降り掛かる脅威は私が取り除く」
 それが開戦の合図だった。眷属の動きを注意深く窺っていた猟兵たちは、一挙一動の先を読む。念力により骨が投擲されるも、リーゼとベルリリーは難なく避けてみせる。流れ弾がマリスに向かうも、星の霊光で守られた手で払っただけで弾き飛ばす。
 反撃開始。
 まずはベルリリーを狙ったものを潰さねばならない。即ち、今の念力の基点を探ると、左手側に位置する個体がそれと知れる。
 ならば報復と洒落込もう。ライフルでの狙撃は手短に。瞬く間に頭蓋を貫通し、急所をも穿ったのだと知れる。がらがらと滑稽なほどに乾いた音を立てて骨の眷属が崩れ落ちた。
「主よ、憐みたまえ」
 その間にも少しでも隙を埋めるべく、マリスは星屑戴く大型の弓矢を構える。 射出。しなやかに翔け、これもまた嘴の際を抉った。短く叫びが上がる。
 異なる遠距離攻撃手段同士だが、補い合うにはちょうどよかったようだ。
 今はただ徹底した援護射撃を捧げよう。マリスも割り切って攻撃に専念することにした。重傷者が出れば治癒する心積もりではあったが、これは攻勢に出たほうが最終的な損害は少なくなる。そして目的達成に大きく近づく。そう見込んでのこと。光の耀きで引き付けて、そのままカウンターで眷属の喉笛を穿った。支えとなっていた部分が砕けたからだろう、あっという間に地面に骨が転がった。
 徐々に敵を追い詰めていく。曲がり角。その先には先程別の猟兵の一団が交戦中だったはず。
 つまり袋の鼠だ。
 追い詰められ狂ったか、奇声を上げて白骨の馬に騎乗し突撃してくる眷属。
 これこそが、リーゼがお膳立てした、ベルリリーのための一掃のための舞台。
 ステージに進み出て踊るようにターンするベルリリー。
「これぞ、世紀の大脱出ショー! 真っ二つにならないように、ちゃんと逃げてね」
 そこにあるのは可憐さと、得も言われぬ凄みの調和であった。
 ベルリリーの手で、うなりを上げるのは奇術用の回転ノコギリだ。甲高い駆動音が響く。
 その一撃は、言葉で言い表すならば『暴力』としか言いようがない。
 骨を断つ。骨を削る。骨を抉る。骨を折る。骨を裂く。骨を砕く。ありとあらゆる自由自在の攻撃が、追い詰められていた敵を完膚なきまでに塵と化していく。
 背を支えたのは勿論リーゼだ。火の精霊弾を充填し、一気に弾丸をばら撒いていく。骨は残らず、地に落ちることしか出来ない。
 そんな攻勢一方――だが、見切り仕損じて、石化光線をしたたかに受けそうになったリーゼは唾を呑む。これは武器では流せない。その間に突撃してくる眷属もいたけれど――。
「まだ、油断禁物です」
 マリスが再び星弾の射手として矢を放つ。眷属の動きを牽制する間に、リーゼは体勢を整えた。危ないところだった。動きを硬直されては戦局が逆転してしまう。
 牽制でたたらを踏んだ個体を、フック付きワイヤーで引っかける。そのまま引き寄せる。
 サテンリボンが可憐な乙女のナイフは、断頭台の刃の代わり。
「ダメダメ、お前の相手はこっちよ」
 鋭く。砕く。
 何度か刃を突き刺していると、いつからか眷属の目の光は消えていた。
 誰ともなく安堵の息が漏れる。周辺はあらかた片付け、逃げ出す奴までいる始末だ。向こうも侵入者の力を認識して把握するお時間だろうか。だがどんな対策を取られようと、祭壇を目指すことには変わらない。
 もうすぐ決戦が近い。肌で理解する。
 桜の精を労わるように、マリスは花霞の髪飾りを撫でる。ふわり春の香りがする。
 肺に春の風情が染み入るような感覚に、浸る。
「――こちらです」
 研ぎ澄まされた第六感に促され、未知を指し示す。マリスはベルリリーとリーゼを案内するように手を差し出す。
 さらに通路の先へと踏み入っていく。
 振り向かない。
 絶対にみんなで勝利を勝ち取るんだと、信じている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

花剣・耀子
『これは信じていいことなんだよ。』――なあんて。
数多い空想は往々にしてカタチになってしまうものだけれど、
この時期のこれは別格だわ。

埋まっていないことを証明する身にもなって欲しいし、
埋められたものを掘り返す身にもなって欲しいものだけれど。
これは言っても詮無いはなしかしらね……。
いいわ。
ようやく尻尾を掴んだのだもの。ここで片付けましょう。

灯りは用意していきましょう。
両手を空けるように腰にでも提げていくわね。
敵から此方が見えても、やるべきことは変わらないもの。

行く手を遮る敵に対して【《花剣》】
質量が増えたって、お前の一部であることには違いないでしょう。
すべて斬り果たすだけよ。
花より先に散りなさい。


斬断・彩萌
【持ち込み】首からかけるライト

屍体はとっても綺麗よね。それがどんな死因であれ、死という現象それそのものが美しいわ。
ま、こんな事言ったらオカシイ奴扱いされそーだし?胸に仕舞っておくけど。
でも、そう思うんだから仕方ないじゃない――死は全てにおいて平等なんだから……。
とはいえ私達の未来にあなたたちは必要ないわ。悪いけど、屠らせてもらうわよ!

【WIZ】
UCの力を武器に込め、走りながら射撃。【クイックドロウ】で素早く、【スナイパー】で的確に。
味方の援護をしつつ、前に出られるようなら積極的に前進。射程に捉えたらOracleで【傷口をえぐる】わ!

※アドリブ・絡み歓迎



●春の傾倒
 花剣・耀子(Tempest・f12822)は声を紡ぐ。
「『これは信じていいことなんだよ。』――なあんて。数多い空想は往々にしてカタチになってしまうものだけれど、」
 この時期のこれは別格だわ。
 眼鏡越し、青眼を細めて呟いた。
 桜の樹の下に埋まっているもの、乃至埋めるもの。それについて思いを巡らせること自体は、成程確かに自由だ。
 埋まっていないことを証明する身にもなって欲しいし、埋められたものを掘り返す身にもなって欲しいものだけれど。
 耀子の笑みは苦かった。為せることは決して多くはない。
「これは言っても詮無いはなしかしらね……」
「どう、かな」
 言外も含めた耀子の言い分も、斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)はわからないでもなかった。これもまた眼鏡越しである彩萌の眸が、迷いに浸って下を向く。
「とっても綺麗よね」
 屍体は。
 それがどんな死因であれ、死という現象それそのものが美しいわ。
 そんな胸裏は音にならない。己が思考回路が異端というか、あまり他の誰かと共有出来得るものではないと冷静に理解していたから。
 あくまで心のポケットに折り畳んで仕舞っておく。丁寧に、折り目を付けて。
 耀子も彩萌が何かしら思索に耽っていることは感じたから、追及はしない。踏み入らない。
 ただ肩を並べて、祭壇への道を踏破する。
「いいわ。ようやく尻尾を掴んだのだもの。ここで片付けましょう」
 十六歳の少女ふたりが持参する灯りが、通路の先を照らす。
 何やら大きな扉が見えた。明らかに、何者かの手で拵えられたそれ。薄ら桜の紋様が刻まれているように思うのは気のせいだろうか。
 その前に蠢く骨の眷属の群れ。既に視認されているだろう。しかしやるべきことは変わらない。
 得物を構えた耀子を見遣り、彩萌もまた決然と顔を上げる。
「私達の未来にあなたたちは必要ないわ。悪いけど、屠らせてもらうわよ!」
 叛逆者と処刑人、二丁拳銃を携えて彩萌は地を蹴った。
 迸る石化光線、投擲される骨を紙一重で交わす。一段低く踏み込んで、構えた銃口は鋭く、前へ。
 乾いた音。確実に標的を捉えた弾丸が頭蓋を貫通する。ぐらり揺れて崩れ落ちる骨。それを見て奮起したのか、突撃してくる白骨の馬に向かったのは耀子だ。
 行く手は遮らせない。進まなければならないから。
 白刃が姿を露わにする。白骨の馬に騎乗している眷属諸共仕留めにかかる。抜かりはない。
「質量が増えたって、お前の一部であることには違いないでしょう。すべて斬り果たすだけよ」
 しろが奔る、躍る、切り裂く。
 馬の脇から首にかけて、一気に斬り上げたなら、骨の欠片が花弁のように散った。白。骨の色。紅に染まらぬ果ての色。
「花より先に散りなさい」
 言い切る。耀子が指先を横一文字に薙いだと同時、白がもう一閃。
 骨の馬と眷属はけたたましい音を立てて地に転がった。
 眷属らの間に少なからぬ同様が過る。彩萌はそれを見過ごさない。一足飛びで眷属の懐に滑り込む。精神力で織りなした神託の刃を、喉元に突き付ける。
 首を獲る心意気、叩き切る勢いで剣を振るった。逆手に持ち替えてもう一度、同じ切り口をなぞるように抉る。
 断ち切られた眷属は自重で倒れる。骨が鳴る。もはや二度と動かぬと、示すような虚ろさで。
「綺麗だから、見届けにきたのよ」
 彩萌は決意を腹に横たえ、噛みしめるように囁いた。

 幾らかの時の後、眷属の軍勢はほぼ壊滅状態となった。
 通路に静寂が落ちる。しかしその向こうにいる存在を、猟兵たちは確かに把握している。故に先に進む意思に濁りはまったく存在しない。
 桜紋様の扉が、鈍い音を立てて開かれる。
 その向こうの部屋は廟に似た佇まい。地下だというのにどこか清廉にも思える空気がある。
 そこには――桜を冠する、黒の王の姿があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『黒の王』

POW   :    生成
【対象の複製、または対象の理想の姿】の霊を召喚する。これは【対象の持つ武器と技能】や【対象の持つユーベルコード】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    母性
【羽ばたきから生み出された、幸福な幻覚】が命中した対象を爆破し、更に互いを【敵意を鎮める親愛の絆】で繋ぐ。
WIZ   :    圧政
【羽ばたきから、心を挫く病と傷の苦痛の幻覚】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴィル・ロヒカルメです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花霞
 夢と知性を司る神性がそこにはあった。
 紅く美しく咲き綻ぶもの、その想いでこそ顕在したモノだった。
 頭はない。四肢もない。故に何にも届かない。
 しかし、立ち込める空気からその黒の王が何の属性を齎すものかは自然と知れる。
 ――はるのゆめ。
 咲き誇る時の甘美。
 散り往く時の残酷。
 望まれたものを差し出したが故の、幸福な末路。それを以て猟兵を損ない、傷つけてくるだろう。羽搏きは春に鳴く小鳥を思わせるものでありながら、着実に痛みの記憶を引きずり出す。
 幻覚は猟兵の心を惑わすかもしれない。意識をしっかり持たなくては、内側から滅ぼされるのは明らかだった。
 桜の君。
 そう呼ばれる黒の王が、祭壇の前に静かに佇んでいる。

 猟兵たちが部屋の中に入った時最初に感じたのは、空気の違いだ。
 先程まで数多の骨の割れる音、砕かれる音、折れる音、いろいろ耳にしてきた。
 しかしこの部屋の中では音らしい音の気配がしなかった。
 この場は清廉で静謐。神社の佇まいに近いだろうか。周囲に篝火が焚かれているものの、それらと祭壇以外は余計なものはない。飾り気もない。誰かが仲間の肩越しに祭壇の上に視線を向けた。横たわる幾人かの屍体が見えた。事切れているのは明らかだった。
 視線を戻そう。部屋の設えがシンプルだからこそ四肢がない神性の違和というか、禍々しさが明白に伝わってくる。
 猟兵らが控えめな声で言葉を交わし、思い切って部屋の中ほどまで進み出る。
 桜の君に声はない。目線もない。それ故に何か語りかけてくることはない。こちらからの呼びかけも反応を期待するのは難しそうだ。
ユナ・ニフェトス
ああ、確かに
彼女は美しいです
狂った想いもまた、美しいものだったのかもしれませんね

彼女がどんな幻覚を使おうと【覚悟】を決めて立ち向かいましょう
理想の姿なんて、思い浮かばないけれど
私が相手ならば遠慮はいらないでしょう?
だって、手の内は分かっているんですから

それに、幸福も苦痛ももう知っているの
そんなことに今更揺らぐことなんてない
そうさらに自分を【鼓舞】します

鎌を構え【オーラ防御】【第六感】で回避行動をしつつ接近
射程距離圏内(半径21m)に入ったら
『純白乱舞』で敵を四方八方から攻撃
逃げ道はあげませんよ

桜は好きです、だって儚く美しいもの
でも、私のお花も綺麗でしょう?


アドリブ、共闘歓迎


ロカジ・ミナイ
嫌な予感ってのはどうも好きになれない
不快感の一種でしょう?これ

理想の姿など――今の僕以外など有り得ない
孤独もしらず、手も綺麗なまま、尻尾を隠す術など不要な
でも、今以上の男前が見えたら殴っちゃうかもねぇ
煙管の一番痛いとこでコーンッてね

女体しか残ってない女体にグッとこないではないけど
そことそこだけじゃ3押しくらい足りないでしょう
……たぶん

通ったお医者は実家だけ
超健康優良怪我知らず少年ロカジとは僕の事
痛いのあんまり知らないんだよ
これが特技なのか弱みなのか、僕は訝しんでいる

桜の枝を折ってはいけない
でもねぇ、僕にはこの桜は折れている様に見えるんだよ
はるのゆめに払った代償は如何程か
尊い君に敬意の鉄槌を



●桜の失墜
 不躾なほどに真直ぐに視線を差し出して、ユナ・ニフェトスは歩を進めた。
「ああ、確かに。彼女は美しいです」
 欠落を脳内で勝手に埋め合わせるからではなく、悠然と在る居住まいこそが美しい。
 それは善悪によって左右されない。
「狂った想いもまた、美しいものだったのかもしれませんね」
「その本質は美しいもんかねぇ」
 ロカジ・ミナイが思わず嘆息する。嫌な予感ってのはどうも好きになれない。それは自然と喉元までせり上がる不快感の別名だ。
 その声に反応したわけではなかろうが、桜の君が僅かに動いた。
 花が散るように。
「――! 風が」
 突如吹き抜ける突風。桜の花弁は夢と現の境界を朧にする。
 生成。
 眼前にいたのは、先程までの桜の君の姿ではなかった。否、複製がいた。それと知れぬ鏡合わせの存在が複数、各々の猟兵の前に顕現している。しかし目の前の複製に視線が奪われている猟兵の中には、それが桜の君の技のひとつであると冷静に判断出来ていない者もいるだろう。
 ユナは白銀の睫毛を伏せる。同じように、複製も追従する。
 唇を噛んだ。腹の底に据えたのは覚悟だ。理想の姿なんて、思い浮かばないけれど。
「私が相手ならば遠慮はいらないでしょう?」
 あえかに笑んだ。手の内は知れている。この身体を染め上げる幸福も苦痛も、既知のものだ。自分を構築する要素であることを正確に理解しているから、目を逸らすような真似はしない。今更揺らぐほど、生憎軟弱なつもりもない。背筋を伸ばし息を吸う。
 白染めの鎌を傍らに地を蹴った。同じように構え接近してくる複製。その姿を射程に収めたら、三日月のように鎌を振るった。
 それを合図に清廉なる白が躍る。白薔薇の花弁は春嵐として、桜を上書きするように襲う。どの角度からも攻め立て逃がしてはあげない。
 圧倒的な白が静寂を埋め尽くす。
「桜は好きです、だって儚く美しいもの。でも、私のお花も綺麗でしょう?」
 その嫋やかな声が何故か、ロカジの耳朶を揺らした。綺麗な存在が目の前にいた。
 理想の姿など――今の僕以外など有り得ない。
 それは傲慢か思い上がりか、そんなことはどうだっていい。事実だ。
 孤独と縁遠く、手も穢れを知らず、尻尾を隠す術など不要な己という存在。
「でも、今以上の男前が見えたら殴っちゃうかもねぇ」
 なんて、と冗談めかして嘯いた時には既に手が動いていた。複製の顔面に煙管を叩きつける。痛かったかな、こりゃ失敬。そんな風情で。
 鋭い一撃で複製を退けたロカジは、桜の君の前に躍り出る。
「女体しか残ってない女体にグッとこないではないけど、そことそこだけじゃ3押しくらい足りないでしょう」
 たぶん。
 そういうことにしておく。
 ロカジを羽搏きの音が包んだ。幻覚が蝕もうと爪先から染みてくるのを、どこか醒めた双眸で見つめている。
 実家にしか医者にかかったことがない。超健康優良怪我知らず少年ロカジとは己の事。それが善きことか悪きことか、思案したなら眉根が寄った。
「痛いのあんまり知らないんだよ」
 しかし猟兵としての戦いにおいて、過去一切傷を負わなかったわけではない。それはむしろロカジの命の証かもしれない。骨の髄が軋む、かに思うのはそれでも幻覚だろう。
 さて桜は折れるだけの枝を残しているか。否、既に。
「僕にはこの桜は折れている様に見えるんだよ」
 はるのゆめに払った代償は如何程か。懐から大振りの長簪を掬い、一気に振り抜く。
 桜の君へ一閃齎したのは、尊きそれへの敬意の鉄槌だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

浮世・綾華
氷鷺(春喰・f09328)と

攻撃はフェイントでかわし
互いに惑わされぬよう声を掛け合うつもりでいるが
万一見たものが有るならば

(幸福だったことはあっただろうか
幸福の概念とはなんだ
魅せられた景色がそれなのだとしたら
自分の惨めさを感じるしかなく)

迫る幻惑にも友の声が届けば
悪い、ちょっとトんでた
お前のおかげで目が覚めたよ
強い彼の意志を頼もしく感じ
同時に自嘲する
彼の問いには聞こえないふりで

曝け出す余裕は未だない

月華ノ刃で幻影へと投げる言葉は
己も分かり得ぬ過去に埋葬された真実
あんたにそれが分かるわけ、ねーだろ
カウンターを狙い飛ばすは白菊の刃
其の紅で薄紅よりも色濃く染まるのだろう

ひさぎ
――氷鷺
丸呑みにしてやれ


忍冬・氷鷺
綾華(f01194)と

幸福と苦痛
どちらも等しく俺を形作る掛け替えなきもの
懐かしさに胸は疼くだろうが
見せかけだけの幻に惑う程柔ではない

身に染みついた痛みの色
優しき焔が教えてくれた幸せの温度
それら全ての姿形は
己の胸に色鮮やかに刻まれているからな

―綾華
凛と一声。彼の名を呼ぶ
夢は寝てから見る物だぞ
茶化す様に、一笑
問い尋ねる程野暮ではないが
気にならないと言えば嘘になる
…なぁ、お前は幻に何を見た?
零れ落ちた呟きは届いたか否か

名を呼ぶ声に笑み一つ
嗚呼。任せろ

人の祈りより生まれし桜の君よ
まやかしの春は此処で終いだ
ブラッド・ガイストで黒爪を変化させ
揺るがぬ覚悟を以て春を喰らう

その花の名に違わぬ様
美しくも儚く散れ



●桜の落款
 神経を蝕むような幻に、惑わされぬよう心構えはしていた。
 それでもすべてを呑み込む濁流のように、押し流そうとする惑いの桜。
 痺れるのは指先か、将又思い出のよすがか。
 幸福だったことはあっただろうか。甘い記憶は心の裡に宿っているだろうか。浮世・綾華は不可思議な浮遊感の中でそんなことを考える。
 幸福の概念とは、幸福の定義とは何だろう。
 目の前を滲ませる光景が『それ』だとするならば。
 口の端を噛んだら鉄の味がした。錆に似ていた。足を桜が絡め捕る。動けない。惨めではない、そう思おうとするたびに貶められるようなその感覚。
「――綾華」
 しかし溺れる前に、その声は凛然と耳朶を揺らす。
 綾華が顔を上げたなら、そこには馴染み深い忍冬・氷鷺の姿がある。
 氷鷺は手袋と籠手を嵌めた手で、存在を確かめるように自分の胸を押す。
 幸福と苦痛の幻想。
 果たして己を襲ったのはどちらだったかの判別はつかぬ。つかなくてもいいのかもしれない。氷鷺にとっては双方等しく己を構築する、掛け替えのないものだからだ。
 僅かに目許が緩んだのは懐かしさ故か。胸裏が波打たないと言えば嘘だ。
 けれど。
「見せかけだけの幻に惑う程柔ではない」
 声は真直ぐに、傍らの友へ届くだろう。それはふたりともに語られる言葉だったのかもしれない。
 頭のてっぺんから爪先まで染みつく痛み、あたたかな火焔が教えてくれたやさしい幸せ。その輪郭は年月を経ようとも、確かに色鮮やかに刻まれている。
 氷鷺があまりに吹っ切ったような顔をしているからだろうか。綾華がかぶりを振った。自嘲で口許を歪ませながらも、常の表情を取り戻そうとする。
「悪い、ちょっとトんでた。お前のおかげで目が覚めたよ」
「夢は寝てから見る物だぞ」
 おどけた言い回しを茶化すように一笑に付し、肩を並べる。
 桜の君との距離感を測りながら、得物を手に、視線を同じ方向に投げかけながら何気なしに氷鷺は問う。
「……なぁ、お前は幻に何を見た?」
 綾華の横顔は何も言わない。沈黙が雄弁に心境を語るようだ。
 余裕があったらもっとずっと楽だった。
 曖昧に戸惑いを飼い慣らしながら、さて今度はこちらの攻勢だ。綾華は影を生む。逆さまの暁月を抉らせるような声音で告げる。
「――言ってみろよ」
 それは詰問に似た色を孕んでいながら、正答を求めてはいなかったのかもしれない。何せ己ですら掴み切れぬ過去の話だ。真実は墓標の下に埋まっている――それこそ屍体のように。
「あんたにそれが分かるわけ、ねーだろ」
 吐き捨てる。同時に白菊の花弁が刃と散り、黒の王を滅多刺しにする。カミであろうと傷つくものは傷つく。身を以て知っている。
 滲む紅があるのなら薄紅より尚昏い。
「ひさぎ――氷鷺。丸呑みにしてやれ」
「嗚呼。任せろ」
 何を重ねても野暮になるから、氷鷺は笑みひとつ綻ばせて返す。終わりにしよう。まやかしの春は此処で終いだ。
 横合いに回り込む。苦無で二の腕に切り傷施し、雪ノ華に鮮血を滴らせる。
 途端、咆哮を上げる獣のように黒爪が猛る。桜の君の腹を噛み千切るが如くに、牙を突き立てて捕食する。
「人の祈りより生まれし桜の君よ」
 その花の名に違わぬ様、美しくも儚く散れ。
 宣告と覚悟を、骨の髄に刻んでやろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
この敵はとてもいやらしい攻撃を使ってくるようだ
ヤドリガミにも効くんですね……
僕らヤドリガミは、朽ち滅びるのを最大の恐怖としていますが
あいにく僕は、ひとの手で大事にされてきた箱入りですので
そのような攻撃に屈するようなものは持ち合わせておりません……!
ザッフィーロ君が幻覚に囚われているならば、呼びかけ導き抜け出させましょう
きみはきみの心のままに、過去に囚われてはなりません
僕らはモノでありながら心がある、モノにはない未来を切り拓ける力があるのです
そうでしょう?
【高速詠唱】を用いて 【属性攻撃】【全力魔法】【2回攻撃】を使い
『天航アストロゲーション』で狙い撃ちを行います


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と参加
無数の瞳が埋まる蔦状の【全能の目】にて先制攻撃を試みる
命中するかは解らぬが羽ばたきを受けたなら肉を授けた所有者と在った日の幻覚を見るのだろう
幻覚等無くとも憎む事等出来るわけがない
絶望の中盗み連れ出し肉を与えてくれた人間を
物でさえなければ、同じ存在であればと叶わぬ願いを抱いた事のある大事な…
…と、捉われかけていたか
本当に宵は迷いを払う言葉をいつもかけてくれるな
…本当に助かった

…彼女はもう姿を消した。もうここに居る筈もない
命中していれば其の侭
していなければ再度【全能の目】で攻撃を試み問おう
「あの時、何故姿を消した?」
…真実を識るからこそ尋ねよう
応える事などできはしないだろう?



●桜の罪過
 攻撃が弾かれ、一歩後退する。距離を取る。
 なるほどこれは王の名に恥じぬ強敵ではあるようだ。逢坂・宵は思考の裏側で冷静に分析する。幻想の名残りを振り払うように外套を翻す。星戴く深宵が細められ、桜の君を睥睨に似た眼差しで射貫く。
「この敵はとてもいやらしい攻撃を使ってくるようだ」
 微睡に似た惑いを齎す幻覚。それは人工存在であろうと宿神であろうと等しく絡め捕るらしい。かぶりを振る。大丈夫だ。指先を苦も無く操れることを確認する。
 ヤドリガミは長い年月の末に宿るもの。大切に重ねた時間に拠って存在するものだから、故に朽ちて壊れることを極端に恐れるように思う。
「そのような攻撃に屈するようなものは持ち合わせておりません……!」
 しかし宵は箱入り育ち、大事に大事に慈しまれて時を経たアストロラーベ。培われた気概は決して損なわれない。己が複製や理想像ならいざ知らず、心を挫く病と傷に拠る苦痛など、軽く掌翻しお帰り願おう。
 故に今の懸念は自分にはない。
「ザッフィーロ君」
 宵は同道のザッフィーロ・アドラツィオーネの傍で膝をつき声をかける。先程まで錘状の黒い蔓に埋まる無数の眸で応戦していた彼だったが、今その脳裏を苛むのは肉を授けた所有者との一幕。
 眉間に皺が寄る。胸を軋ませる記憶。痛みを伴うのは幻覚のせいかそれとも。それでいながらその光景を心から追い出すことが、どうしても出来なかった。
 憎むなど出来るわけがない。思い出す。絶望に浸っていたサファイアの指輪。攫うように連れ出して、受肉させてくれた人間。数多の表情を見てきた、思い出を重ねてきた。それがどれほど眩く焼き付いていることか。目の前の景色が滲むようにすら思える。これも幻覚の一端か。
 己が物でさえなければ。
 同じ存在であれば、そう叶わぬと知りながら願った。特別で大事な――。
「……と、捉われかけていたか」
 思考が浮上して初めて、沈んでいたことを知る。浅い呼吸を整える。額の汗を手の甲で拭う。銀の双眸に焦点が定まったのを見届け、宵は鷹揚に頷いて見せる。
 ザッフィーロの口から吐息がまろび落ちた。
「本当に宵は迷いを払う言葉をいつもかけてくれるな……本当に助かった」
「いいえ。ただ……きみはきみの心のままに、過去に囚われてはなりません」
 宵の声はまるで春の夜の泉のようだ。澄んだ水面に広がる波紋。静かに、穏やかに、だが確かに。
 それに導かれ誘われるように、ザッフィーロの面差しに理性の光が取り戻される。
「僕らはモノでありながら心がある、モノにはない未来を切り拓ける力があるのです。そうでしょう?」
 同じヤドリガミとして、同じ方向を見ることが出来る。
 そう告げる宵に、今度はザッフィーロが頷く番だ。
「……彼女はもう姿を消した。もうここに居る筈もない」
 それは事実の提示。過去の認識。それを反芻し、苦いものを呑み込んだ。腕を振り抜く。すると再び蔦が蔓延り始める。無数の瞳が桜の君を捉えんと蠢く。全能の眼差しが射るように注がれる。
 同時に宵が紡いだ詠唱は短い。否、速いのだ。星の意匠が凝らされた魔杖で敵を指し示せば、誘引されるように天が煌いた。降り落ちるは隕石、もう一度杖を翳せばもうひとつ。光年を駆け、桜の根を折ろうとするもの。
 ザッフィーロの問いは端的だ。
「あの時、何故姿を消した?」
 既に真実を識っている。故に、だからこそ尋ねた。
 胸に去来するのは確信だ。
 ――この問いに、応えることなど出来はしないだろう?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーゼ・レイトフレーズ
ベルリリー(f01474)と一緒に

君が泡沫の、春の夢から生まれたなら覚えておくといい
花は散るからこそ美しく、心惹かれるんだよ

さて、援護は任せて好きに踊るといい
今度はこちらの心配は無用だよ、ベルリリー

敵の行動を見切り先制攻撃するよう援護射撃
私の複製を出されるとちょっと厄介だから
出された場合は相打ち覚悟で速攻狙い撃つ
第六感で危険を察知してベルリリーに負担を与えない

私にとっての幸福と言えば家族だけど
幻覚の家族に惑わされる事はない
同様に苦痛な幻覚も今の私には無い
腕のいい医者が薬を処方してくれたからな
だからどんな幻覚はさっさと振り払おう

さあ、リリー、仕上げといこうか
最後の精霊弾を彼女の攻撃に合わせて放つ


ベルリリー・ベルベット
リーゼ(f00755)と一緒に

いいこと言うわね、リーゼ
リリも同意見よ
美しさっていうものは期限付きなんだから

うふふ、それじゃあお言葉に甘えて踊ってくるわ
フック付きワイヤーや『ジャンプ』を使って空中を移動
リーゼがいてくれるから、安心して攻勢に出られるわね
もしも敵の攻撃が飛んできたら『見切り』でかわしましょう
こっちの射程距離内に入ったら光の『属性攻撃』を乗せて、【早撃ちシンデレラ】をお見舞いしてあげる

これが幸福な幻覚?
大好きな相棒が、優しく抱きしめようと両手を広げて立っていて、少しだけ心揺らぎそうになるけれど…
でもお前は所詮ニセモノ
リリの相棒はもっともっと美しいんだから



●桜の祈念
 桜の君を目の当たりにして、リーゼ・レイトフレーズは芝居がかった口調で告げる。
「君が泡沫の、春の夢から生まれたなら覚えておくといい」
 四肢なしのデュラハンとは些か悪趣味か、そう思い巡らせながら敵を見据える。
 自然の摂理を語るかのような自然さで、宣告しよう。
「花は散るからこそ美しく、心惹かれるんだよ」
 永劫咲き続ける花はいっそ歪なのだろう。いのちの流転に乗らず、時を凍らせ沈殿するもの。
 であれば、懸命に咲いて生きて、惜しまれつつ散るくらいでちょうどいい。
「いいこと言うわね、リーゼ。リリも同意見よ。美しさっていうものは期限付きなんだから」
 ベルリリー・ベルベットはいちごシロップみたいに甘く瞳を細める。
 どちらともなく視線を交差させて、得物を手に桜の君に向き直る。
「さて、援護は任せて好きに踊るといい。今度はこちらの心配は無用だよ、ベルリリー」
「うふふ、それじゃあお言葉に甘えて踊ってくるわ」
 確かな信頼を胸に萌した少女たちは、桜の君が羽搏く前に地を蹴った。
 先手を打ち出鼻を挫こう。グランディディエライトの瞳が標的を定めると、淡く青さを増していく。
 リーゼは星空冠する対物ライフルを差し向け弾丸を撃ち出した。炸裂音が響く。己が複製を出されては厄介だ。だから手を封じる勢いで精霊弾を見舞う。
 桜の君を蹂躙する勢いで轟く銃撃に、顔貌はなくとも桜の君がそちらに注意が注がれていると知るのは容易だ。
 故にベルリリーは死角に滑り込む。純白のシューズで空中を駆けるたびリボンが翅のように翻る。
「余所見しているの? あら、そもそも目がないんだったわね」
 いつの間にか部屋に張り巡らせたフック付きワイヤーに軽やかに踵を乗せ、しなやかに降り立つは桜の君の背面だ。ベルリリーはナイフを投擲する。24分の1秒。瞬きの間に宙を埋めるサテンリボンが咲く刃は、翼の根元を抉るように穿つ。まるで光の羽根が刺すようだ。ぐらり、桜の君の身体が揺らいだように見えた。
 しかし黒翼が風を巻き起こそうとする様に、胸裏で第六感が瞬いた。リーゼは短く「ベルリリー」と声を飛ばす。だが同時に羽搏きが戦場を支配する。
 幻惑と現実の境目が朧になる。桜吹雪が天地をあべこべにする。少女たちのこころに行き交う風景は、眩い。
 ――これが幸福な幻覚?
 ベルリリーの問いかけは音にならない。大好きな相棒が目の前にいる。飛び切り鮮やかな紅の姫薔薇が、優しく抱き留めようと両手を広げて立っている。
 波打つのは心音か、胸裏か。桜の匂いが薔薇に浸食されていく。将又その逆か。
 迷わず手を差し出したくなる大切な。
 それでも。
「でもお前は所詮ニセモノ」
 言い切る言葉に迷いはない。
 鎖骨のど真ん中にナイフを突き立てる。そう、本物の貴方は。絢爛たる貴方は。
「リリの相棒はもっともっと美しいんだから」
 自信に満ちた口吻に、リーゼはふと口許に笑みを綻ばせる。
「そう、そうなんだよ」
 自分に言い聞かせるような響き。リーゼが伏せていた視線を上げると同時、眼前に顕現していた幻覚が崩れ始める。虚構で塗り固められたそこに、本物はないと知っている。
 家族への弛まぬ思いを糧に、毅然とした態度で桜の君を睨みつける。腕のいい医者が薬を処方してくれたから、痛みは今の自分には齎されない。
 幸福にも苦痛にも屈しない。リーゼは一度だけ顔の前に掌を翳し、ゆっくりと外していく。
 そうしたら目の前に広がるのは精神を削る幻覚ではなく、命を削る戦場だ。
「さあ、リリー、仕上げといこうか」
「ええ!」
 不敵な笑みを足掛かりに、ふたりは再び桜の君に矛を向ける。
 精霊弾が一筋流星のように放たれれば、その着地点にナイフが閃くように墜落した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

影見・輪
相手からの攻撃は可能な限り【見切り】、動きの癖を見ていくね
隙があるなら【ブラッド・ガイスト】使用の上で
「鮮血桜」で【生命力吸収】【傷口をえぐる】よ


(「生成」された
自身よりもう少し表情豊かにも見えるそれに、目を細める)

理想も何も、僕のこの姿が人の複製の借り物だからねぇ
複製を複製したところで劣化が激しくなるだけだと思うけど

(「母性」が見せる幻覚には眉をひそめる
幻覚だろうと現実だろうと幸福は一瞬であり永遠ではない
永遠とも思える時を過ごしてもう分かってしまっている)

気に食わないねぇ、君の何もかも
そうやってどれだけの人間を惑わし壊してきたんだか

さぁ、もう終わろうか
僕はもう、そういう淡い夢は見飽きたんだよ


キトリ・フローエ
誰かの歪められた祈りから生まれたもの…
やっぱり、全然、綺麗じゃないわ
…間に合わなくて、ごめんなさい
間に合わなかったあたしに、かたきを討つだなんて言えるはずもない
でも、きっとあなたはこうなることは望んでいなかったでしょう?
だからあなたの代わりに、あたし達がこの歪んで咲いた桜を散らしてみせる

捧げられたひとの亡骸からは、決して目を逸らさずに
あたしは夢幻の花吹雪で、桜の君の動きを阻むわ
顔はないみたいだけれど、全力で、たくさんの花弁で覆ってあげる
傷ついた猟兵の皆にはシンフォニック・キュアで回復を

幻覚の痛みは呪詛耐性とオーラの守りで耐えて、破魔の力で砕いてみせる
大丈夫、怖くないと自分自身に言い聞かせて



●桜の頑愚
 血を滴らせたような桜の花弁が舞い散るのも幻覚なのだろうか。それすらも曖昧になりそうで、キトリ・フローエは吐息を僅かに噛んだ。
 桜の君。黒の王。誰かの歪められた祈りから生まれ、現の理を歪めるもの。
 苦いものを飲み下せないまま、アイオライトの双眸を潤ませる。
「やっぱり、全然、綺麗じゃないわ……間に合わなくて、ごめんなさい」
 後半の言葉は、いつの間にか見つめていた祭壇へと手向けられる。
 横たわる人々は土気色の肌をしている。きっと普通の平凡な人生を送っていたと知れるような、どこにでもいる人間のすがたかたち。
 時間は巻き戻らない。過去は覆らない。手は伸ばしても届かない。
 仇を討つなんて口にすら出来るわけがない。
「でも、きっとあなたはこうなることは望んでいなかったでしょう?」
 目は逸らさない。戦場において尚真摯に、犠牲者に心添わせようとするキトリ。
 悼むなら、やるべきことがある。星煌めく翅震わせて、決意を乗せて言い切った。
「だからあなたの代わりに、あたし達がこの歪んで咲いた桜を散らしてみせる」
 いいでしょう? そう問いたげなキトリの声に、影見・輪は浅く頷いて見せた。今から命を救うことは出来ないが、何も出来ないわけではないのだから。
 故に輪は右手を翻す。幻惑の気配に呑まれぬように敵を見据え、右手の親指の付け根に、切り傷を一本拵える。伝う赤い滴が掌の刻印に及べば、桜の花弁めいたそれが血色に色付いて綻ぶ。
 絢爛が咲いた。芳しい桜は猛々しく枝を伸ばし、獣のように敵に喰らいつく。最初に生んだのは微かな傷口。桜の刻印が牙を剥き、それに嬲るように噛り付いた。
 しかし桜の君も黙ってはいない。猟兵たちの理想の複製を生み出したなら、それぞれに対面させる。
 なのに輪は柔らかに目を細めた。
「理想も何も、僕のこの姿が人の複製の借り物だからねぇ」
 文字通りの鏡合わせ。自分より些か表情豊かにも見えるが、紛い物であることに違いはない。複製を複製したところで劣化が著しくなるだけだ、そう思えば秀麗な面差しには感慨ひとつ浮かばない。
 もう一枝。突き立てるように桜が『輪』を食らう。差し違えるように互いの喉を抉る様に、キトリは軽やかな歌声を響かせた。哀切を潜ませたそれに輪が心を重ねれば、受けた傷が徐々に埋まっていく。
 最後の音節まで丁寧に歌い上げたキトリは、眼前で指先を振り上げる。
 光り輝く無数の花弁が舞う。夢の狭間に導くように、桜の君はおろか複数の複製を巻き込んでいく。顔がない以上視界を妨げられるかは定かではないが、敵の動きを牽制することは出来るはずだ。その隙に輪が一足飛びで敵前に躍り出たなら、桜の刻印を横一文字に薙いだ。轟然と複製が喰われていく。
 他の猟兵たちも含んだ連携の成果か。花嵐が吹き終わる頃、既に複製の姿はない。
 しかし。
「……!」
 息を呑む頃にはもう遅い。羽搏きの音が部屋を覆い尽くしていく。幸福な幻惑は酩酊に、痛烈な眩惑は慟哭に似ている。そのいずれかあるいは両方が、記憶の隙間に滑り込んでは蝕んでいく。
 輪は眉を顰めた。しあわせそのものに浸ったような甘さを紅の双眸に乗せるくせ、それとの明確な境界線を引く。
 幻覚だろうと現実だろうと幸福は一瞬であり永遠ではない。
 幾年もの時を折り重ねたヤドリガミだからこそ、その理解は鮮明であった。
「気に食わないねぇ、君の何もかも。そうやってどれだけの人間を惑わし壊してきたんだか」
 或いは眷属や被害者も、惑いに惑わされた末に精神を喰い破られたのかもしれない。
 真実は定かではないが、輪の眼差しに迷いはない。
「さぁ、もう終わろうか。僕はもう、そういう淡い夢は見飽きたんだよ」
 裂くは幻想、咲くは鮮烈。桜の刻印が再び桜の君を襲う。その反動でキトリははたと顔を上げた。
 歯を食いしばる。意識を集中させ破魔を籠めてまぼろしを砕けば、乙女の眼差しが桜の君を捉えた。
「大丈夫、怖くない」
 それは自分への声。背筋を伸ばし、向き合うための声だ。
 キトリはもう一度言葉を紡いだ。
「言ったでしょう。あたし達がこの歪んで咲いた桜を散らしてみせる」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴守・猛
――春
焦がれる想いを、分からぬとは言わん
暖かく、穏やかな世界に
心惹かれる俺もまた、居るのだろう

――知っているとも
咲き誇る花々、朗らかに笑う人々
いつまでも身を浸したくなる、暖かな景色
その全ては、かつて既に失ったものだ
この身以外の何もかもが焼け焦げた
からりと喉に張り付く渇きを
鼻について離れぬあの臭いを
忘れたことなどない

立ち止まるな、絆されるな
業を降ろす事だけは、けして許されぬ

感情に揺られた雷は
己が拳をも焼くだろう
それで良い。それが良い
未熟な俺に
痛みは戒めであり気付けだ

痛みを携え
心惑わす桜の君を斃そう
苦痛与える攻撃あらば
この身を賭して仲間を庇おう

――俺は今一度、春を焼く

即興の縁、己が言葉
在れば任せる


マリス・ステラ
【WIZ】他の猟兵と協力して戦います

「あなたは美しい」

心を挫く病と傷の苦痛の幻覚に蝕まれながらも賛辞を送る

全身から光が溢れ出す
光は星の輝き、その『存在感』をもって桜の君を『おびき寄せ』る
星の輝きは『オーラ防御』と星が煌めくような『カウンター』
愛と星を司る神性が迎え撃つ

桜の花弁が風に舞う
髪飾り・花霞に宿る桜の精が春を呼ぶ
二つの桜が触れ合うと花霞の幻想が世界を刹那、染め上げる

「夢は覚めるもの。覚めるから夢なのです」

弓で『援護射撃』
星屑の弦音は『破魔』の力を宿して夢から解き放つ

重傷者に限定して【生まれながらの光】
緊急時は複数同時に使用

愛をもって『祈り』を捧げる
「眠りなさい。春はまた訪れるのですから」



●桜の逡巡
 戦局は一進一退だった。
 それは桜の君が搦め手に特化しているからだろう。猟兵たちの攻撃は確実に通ってはいるが、表情がない分どれだけ打撃を与えているかが読みづらい。
 それでいて向こうの攻撃は容赦なく猟兵たちに襲い来る。己の複製は己しか熟知していないはずの独自のユーベルコードすら使いこなし、幸福な幻覚と苦痛の幻覚を織り交ぜ、精神はおろか肉体的にも傷を負わせ、着実に猟兵たちを追い込もうとしている。
 しかし退かない。
 眼前の春から目を逸らさない。
「焦がれる想いを、分からぬとは言わん」
 鳴守・猛の声は密やかだ。暖かく、穏やかな世界に心惹かれる自分も居るのだろう。だから考えが及ばぬわけではない。
 だから実感ばかりが言の葉に滲む。
「――知っているとも」
 咲き綻ぶ花の色、朗らかに肩を並べ破顔する人々。
 ずっとずっとその輪の中に居たくなるような、優しくもあたたかい光景。
 胸裏に去来するそれを、遮断する。
「その全ては、かつて既に失ったものだ」
 羅刹の男の呟きを拾い、マリス・ステラ未だ夢の名残りが仄かに残る彼へ、大弓の弦を弾いてみる。星屑の弦音は性根に冴えた光を贈るよう。
 そうすると、夢は名残惜しそうに去っていく。しかしこれで最後まで残っていた夢を完全に振り払った。
 だが敵とて黙ってはいない。桜の君は翼を羽搏かせる。真の黒色。闇の淵が風を招けば、鋭い苦痛が猟兵たちを包み込む。
 幻と知っていても平気なわけがない。痛覚を完全に切り離すことが出来ない以上、戦いに身を置く猟兵を苛まぬわけがない。
 歯を食いしばり、マリスは前に進み出る。星光を紡いだような金糸の髪が靡いた。己が身を腕で抱えるように支え、決然と言い放つ。
「あなたは美しい」
 心の根を折る、塞がったはずの傷痕を抉る幻覚。蝕まれて尚賞賛を送る。
 桜の君の注意がマリスに向いたようだった。それを更に深めるようにマリスの指先に光が弾けた。徐々に溢れて迸り、全身を包む霊光は星のようだ。澄み渡り、果ての空からも真直ぐに届くよう。女の端正な横顔は黒の王への敵意を示さない。桜の君は近接する技を持たない。だからそれはあくまで意識が傾いた程度のものではあったけれど。
 十分だった。
 黒翼が翻るその瞬間に懐に滑り込む。敵に生まれた一拍のみの、隙を突く。
 夢と知性を司る神性を、愛と星を司る神性が迎え撃つ。
 衝撃の瞬間、星が煌き光が散った。波濤のような突風が吹き抜ける。桜の花弁が舞い上がり、髪飾りに宿る桜の精が春を冀う。
 それは神秘の顕現だった。物語の挿画のような一幕だ。
 双つの桜が相対する。花霞の幻想が花開き、薄紅に染め上げる。
「夢は覚めるもの。覚めるから夢なのです」
 はっきりとしたマリスの声音に、猛は僅かに瞠目する。吐息を噛んだ。そう、とっくに覚めている。忘れたことなどない。
 この身以外の何もかもが焼け焦げたあの日を。
 声が出せぬほどに喉に張り付く渇きを。
 鼻腔から離れぬあの臭いを。
「忘れたことなどない」
 決然と前を向いた猛の横顔には迷いはない。
 臆さず、揺らがぬ自身をこそ据えて、背筋を伸ばして突進する。
 進む足は止めない。絆されて慢心に陥ったりもしない。
 ――業を降ろす事だけは、けして許されぬ。
 決意を傍らに、一段腰を落として低い姿勢で拳を構える。掌からは小さな電流が、次第にそれは莫大な熱と破壊を齎す雷撃となる。
 真直ぐに。
 感情に揺らぎを持った己のままで。
 猛は桜の君の腹に掌底と電撃を叩きつける。星とは違う閃光を放ち、部屋を一気に迸っていった。
 しかし、感情そのものが揺らいだせいだろうか。猛の掌底は広範的に火傷の痕が生まれている。
「それで良い。それが良い」
 未熟な自分にとって痛みは戒めであり克己だ。その学びを糧にして、痛みを抱えたままで戦ってみせよう。
 マリスと、そして他の猟兵たちと視線を交わす。
 痛みを携えるからこそ痛みを、その時の気持ちを忘れずにいられるのかもしれない。
 羽搏きのたびに傷ばかりが抉られて、喪わないように手を伸ばし続ける猟兵たちの賛歌を掲げながら。
 それ故に心惑わす桜の君を斃そう。

 確信のように猛は断言する。
「――俺は今一度、春を焼く」
 予言のようにマリスは囁く。
「眠りなさい。春はまた訪れるのですから」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴島・類
捧げられたのが盲信だろうと
最初にあった願いは、単純なだったろうに

綺麗でも
随分禍しくなってしまったね
何やら神々しい分
少し、かなしい

その姿に届かせる為祭壇に向け駆けて
羽ばたき見れば
見切り
直撃は避けようと

けれど甘い夢
かつて失ったものが現れたなら
足が僅かに止まりかけるけど…
咄嗟に指先に絡めた糸で瓜江たぐり
自分に頭突きさせ
無理にでも意識を保つ

そうだね
ここに、彼等はいない
それを…先日思い知ったばかりだ
どれだけ愛しい幻でも
偽物に囚われるのは、冒涜だから
それを望まない

更に苦痛の幻覚には
自分も、味方も捕まえさせるものかと
UCで春を呼び
破魔の力乗せ幻覚を包み
相殺狙う

幻を食い、咲け
夢は終わりだよ

※絡み、アドリブ歓迎


ヨハン・デクストルム
桜の君とは、夢を武として振るう女王でしたか。
……完全な私事なのですが、最近やたらと花や夢幻を操るオブリビオンと出会いますね。なにか縁が出来てしまっているのでしょうか……。
【WIZ】
神の御使いたる白鴉を招聘いたします。相手の羽ばたきに合わせて撒いた羽根が幻覚を相殺し、皆様を正気に戻すでしょう。
私はその隙に高速詠唱を行い、炎の属性攻撃魔法で王の翼を燃やします。
魔力にはそこそこ自信がありますので、全力を込めれば一度に翼全てを範囲に収められるかと。
気合いを入れていきましょう。



●桜の螺旋
「桜の君とは、夢を武として振るう女王でしたか」
 間合いを取り、呼吸を整える。未だ桜の君の体力には余裕があるように感じられる。
 それにしてもとヨハン・デクストルムは首を捻る。
「……完全な私事なのですが、最近やたらと花や夢幻を操るオブリビオンと出会いますね。なにか縁が出来てしまっているのでしょうか……」
「春先だからね。そういう謂れのあるオブリビオンの活動が活発になるのかもしれない。春眠何とやらとも言うし」
 努めて穏やかな口調で冴島・類が口許を綻ばせた。鶸萌黄の彩宿す双眸は、ひたむきに敵へ、そしてその後方にある祭壇へと注がれる。
 今捧げられているものは歪んだ盲信かもしれない。されど。
「最初にあった願いは、単純なだったろうに」
 無垢な祈りだったのかもしれない。少なくとも今の凄惨なものよりは、ひしゃげて曲がったりはしていなかっただろう。
 哀切か憐憫か、あるいはもっと別の何かか。憂いを帯びた類の声は囁くように。
「綺麗でも、随分禍しくなってしまったね」
 余分なところが一切ない、黒の王の身体。見えず聞こえず掴めず前に進むことも出来ない。
 何やら神々しい分。
 少し、かなしい。
 だからこそ、桜の君の夢をここで絶とう。類が地を蹴る。接敵するその直前、羽搏きが部屋を満たそうとする。
 咄嗟に見切ろうとするが僅かに届かない。黒い羽根がばら撒かれる。それは桜の花弁へとかたちを変え、爛漫の春へと誘っていく。
 甘い夢だ。幸福というものは、その姿は違えど、誰しも胸に抱えるものだ。
 失ったものがある。手から零れ落ちたものがある。もう届かないものがある。
 それを目の前にして類の足が強張った。進もうとした動きが硬直し、止まりこそしないが思うように進めなくなる。奥歯を噛んだ。痺れるような頭痛が脳髄を焼く心地。
 しかし類は咄嗟に、指先に絡めた糸を引いた。赤糸で操るは濡羽色の髪持つ絡繰人形、疾く己が元に馳せるよう半身を動かす。
 力業だった。瓜江に類へ頭突きをさせたのだ。眼前が揺らぐ。視界がぐるり回転するも、僅かに景色が鮮明になる。それをよすがに踏みとどまった。
「ここに彼等はいない」
 己に言い聞かせる。事実を提示する。夢の畔で耐える類の姿に、ヨハンの焦点が定まってくる。つられるように微かにでも意識が取り戻されたなら、ヨハンは白鴉を喚んだ。地下の廟にあって眩い羽根を翻した白鴉は、一際高い声で鳴いた。強い浄化の作用が鼓膜を通じて染み渡る。繋がりかけた敵意を鎮める親愛の絆を、砕く。
「ッ、は」
 幻惑の名残りを拭い去った時には、思考が正しく巡り始める。
 類は胸を押さえる。心臓の音に呼び掛けるように、反芻するように告げた。
「そうだね。ここに、彼等はいない」
 先日思い知ったばかりだった。
 そこに在る幻がどんな愛しいかたちを模っていても、それは所詮紛い物なのだ。それに心乱され囚われるのは、冒涜であり侮辱だ。
 だから類は、毅然と前を見据える。それをどこか満足げに見遣って、ヨハンは大儀杖を構えた。
「援護いたします。気合いを入れていきましょう」
「わかったよ」
 再び桜の君が幻覚を齎す前に。類が短く承諾したのを耳にして、ヨハンが幾つもの焔玉を生み出した。劫火が雪崩のように襲い掛かる。羽搏きを阻害するように翼を燃やそうとする。惜しまず全力の魔力を注ぎ、幾翼もある黒のすべてを手中に収めんとする。
 その間に類も掌を翻す。途端に山桜が咲き誇る。血染めのそれよりずっと鮮やかで優しい彩の花嵐が躍る。破魔の欠片も含ませたそれは、苦痛齎す幻に罅を入れて遮ろうとする。
 常春よ咲け。
 狂おしいほどに。
 幻を咀嚼して、それを養分にして尚も咲け。
「夢は終わりだよ」
 これから幕引きと相成るのだから。
 現の舞台で、終わらせよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と参加しています

UDC
定義ならざる化生の者!


この怪異に、屍体を要求する様な知性は感じ取れないが
狂気に侵された臣民達は、黒の王に供物を捧げる走狗と化す

何れ取り返しのつかない狂気汚染の連鎖が引き起こされる前に
此処で邪神を屠ります


覚悟、鼓舞、破魔、呪詛耐性で『生成』に対抗

僕の理想は、暴力でも武辺でもない
言の葉を以て遍く人々の苦難、苦悩を解き。救い導く覚者の姿
何れ功徳を積み続けた道の果てを夢想した

ただ僕は、言葉よりも拳に才が授けられていた

現実的な問題として、口先だけの理想論で
今オブリビオンに脅かされる人々を護る事叶わず!
ならば

『灰燼拳』!
破戒の先に救世救道の理を見出だすのみ!


月夜・玲
【戒道・蔵乃祐 f09466】
戒道さんと同行

人を惑わすもの、信仰を狂気へと至らせるもの
UDC…か
気分の良いものではないね
さてと、研究は一日にしてならず
黒の王…嫌な名前
君の特性を調べさせてもらうよ

●戦闘
新たに《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
今までの装備はパージし身軽になって【I.S.T.起動】で攻撃
『2回攻撃』『生命力吸収』で敵の体力を削っていこう

『第六感』で敵の羽ばたきを感知して幻覚を避ける、避けきれない時は『オーラ防御』で爆風を防御

敵意?
悪いけど君に感じているのは敵意じゃないさ、知的好奇心だよ
それがある限り、君に対する攻撃を止めるわけにはいかないからね



●桜の静清
 UDC――アンディファインド・クリーチャー。
 定義ならざる化生の者。怪異。異形。どの言葉も近くて遠い。
 だが何にせよ、戒道・蔵乃祐が堂々と相対するのは変わらない。黒の王。桜の君。目の前のそれには、眷属に対して屍体を要求するような知性は感じられない。事実表情も何も窺えぬのだから、察することすら難しかろう。
 しかし狂気に侵された臣民は、供物を献上する走狗となる。屍体を幾らでも貢物とするだろう。
 より紅に染まる美しい桜を! そんなお題目の名の下に。
 そして桜の君はそれを拒まない。存在するだけで歪みを生み、水彩紙に染みるインクのように容易く広がっていくことだろう。
 何れ取り返しのつかない狂気汚染の連鎖が引き起こされる前に。
「此処で邪神を屠ります」
 力強い断言。隣で佇む月夜・玲は至って冷静だ。人を惑わすもの、信仰を狂気へと至らせるものを目の前にしているにも関わらずだ。
「UDC……か。気分の良いものではないね」
 しかしその視線には蔑むような色は宿らない。元々玲は各世界の技術や文化、奇異に強い関心を抱く性分だ。
 だから、これはいわば観察。
「さてと、研究は一日にしてならず。黒の王……嫌な名前だけど」
 ――君の特性を調べさせてもらうよ。
 宣戦布告にも似た声音だった。それに応えるように黒の翼を翻す桜の君を一瞥し、玲は武装を整える。
 ここに至るまでに使用していた遠き空への思慕と混沌を齎す鍵はパージしておく。再誕の為の詩と還りつく為の力を抜き、二刀流にて構えたならば疾く馳せる。
 Imitation sacred treasure――その力が星辰のように煌く。
 一太刀を横薙ぎに、一太刀を肩口を抉るように振り下ろす。速さ故に剣閃が交差する。柄から伝わる息吹は確かな手応えだ。
 桜の君も攻撃を食らいながらも揺らがない。意識が向けられたのは蔵乃祐だ。何もない空間から桜吹雪が躍り出たと思えば、瞬く間に蔵乃祐と瓜二つの複製を拵えてみせる。
 滲む威圧も含め、備える力はオリジナルに準拠する。こうして間合いを測る時の面構えすら鏡映しだ。些か様相が異なる面があるのは、願いの涯てを入り交ぜたものだからだろう。説法を元に迷える人々の苦を祓い迷を解すその佇まいは清廉としたもの。
 それでも蔵乃祐は臆さない。
 今顔を突き合わせる存在が己が理想を戴いていたとしても。
「僕の理想は、暴力でも武辺でもない。言の葉を以て遍く人々の苦難、苦悩を解き。救い導く覚者の姿」
 いずれ功徳を重ねた、その長い旅路の果て。
 それを形にするとしたら、夢を編み上げたならこんな形になる。眉間の皺は深い。
「ただ僕は、言葉よりも拳に才が授けられていた」
 その声と面差しに憂いはない。己が才を否定することはない。
 適性を正しく見極めて、その上で出来ることを模索し続けている。
 覚悟の形だ。
「現実的な問題として、口先だけの理想論で、今オブリビオンに脅かされる人々を護る事叶わず!」
 祭壇にて息絶えている人々を生き返らせることは出来ない。ここで倒さなければ被害はさらに増えるだろう。
 ならば。
 腰を低く据え破魔を錬成し、躊躇のひとつも挟まず撃ち抜くしかない。
「『灰燼拳』!」
 桜の君の鳩尾に重い拳を叩きつける。
 轟音が響く。空気が緊張を帯び、張り詰めては威圧が迸る。
「ならば、破戒の先に救世救道の理を見出だすのみ!」
 真正面から入った一撃に桜の君の身体が傾いだことを玲は見逃さない。羽搏きで抗おうとしていることもだ。身を反転させ一足飛びで敵の懐へ滑り込む。
 見上げれば相手に目がないのに目が合ったような心地になる。不敵に笑んだ。
「敵意なんてないよ」
 疑念を掬うように飄々と嘯く。
「悪いけど君に感じているのは敵意じゃないさ、知的好奇心だよ。それがある限り、君に対する攻撃を止めるわけにはいかないからね」
 例えば今もこんな風にだ。
 返事を待たずして、鎖骨目掛けて逆手で斬り上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

遙々・ハルカ
嗚呼
成る程、これが――

》人格交代『ハルカ』
》金眸+金属細縁眼鏡

アハハ、今ちょっとくらっときてたろ
記憶無くてもわかるぜトヲヤ
オレもこれが見たかったんだよなァ
いや花見がしたかったんだよ

ふゥん
こないだ邪神てヤツも見たけど
そいつに比べりゃマトモな顔してんのね

ナイフ刺すとどうなるのか試してみようぜ
だまし討ちフェイント上等
誰かの付けた傷口をえぐるのだって上手いよ
その中心に、刺してみたいよなァ

ねえ、なんか見せてくれるんだろ

ああ

ア、ハハ
アハハハハハ、
ごめんね

オレってば欲しいものも幸せもトラウマも何ひとつ!
無ェんだよなァ!

汚泥汚辱のアンガロス、これがオレの天使ちゃん
可愛いだろ?
さあ触れてみて
溶ける様を見せてくれ



●桜の背反
 桜の君に相対すれば、感嘆めいた吐息がまろび出た。
「嗚呼。成る程、これが――」
 揺らぐ視界。酩酊に似た揺らめきの後、表情が一変する。
 先程まで『トヲヤ』だったはずの遙々・ハルカが『ハルカ』に交代する。セルフレームの眼鏡ではなく、金属の細縁眼鏡越しに、金の双眸が爛々と輝く。
「アハハ、今ちょっとくらっときてたろ。記憶無くてもわかるぜトヲヤ。オレもこれが見たかったんだよなァ」
 先程まで面倒といって眷属戦をトヲヤに任せていたことなど悪びれもせず、「いや花見がしたかったんだよ」なんて嘯いた。
 桜纏いし黒の王を睥睨する。
「ふゥん。こないだ邪神てヤツも見たけど、そいつに比べりゃマトモな顔してんのね」
 言った側から「顔ねェわ」と愉快そうに嗤う。さて、手応えは先の邪神と如何程までに違うものか。
「ナイフ刺すとどうなるのか試してみようぜ」
 そんな企みは戦場の誰にも拾われぬ。数多の猟兵が同時並行で桜の君と戦っているが、敵の持つ技の効力が広範に渡るものだからか、一対多勢と思えぬ有様。
 他の猟兵が斬り上げ、その半身を反らした様を見過ごさない。艶消しされた黒塗りの刃が、先の斬り痕を抉るように奔る。
 その勢いのままに桜の君の腹に突き刺した。
 傲然と宣う。
「ねえ、なんか見せてくれるんだろ」
 挑発めいた囁き。黒の羽根が応えるように羽搏いた。
 高く響いた羽音は幻覚を注ぎ、神経を蝕むように浸食しておく。
「ああ」
 ハルカは吐息を零した。
 それから――哄笑が響く。
「ア、ハハ。アハハハハハ、」
 眼前の現実と幻惑の境目を踏み躙るような声音。
「ごめんね。オレってば欲しいものも幸せもトラウマも何ひとつ! 無ェんだよなァ!」
 しかし笑い声が、身体を軋ませる重圧で鈍くなる。傷の苦痛が顕現する。
 猟兵としての初陣でもなく、物理的な傷を知らぬわけではない。それがトヲヤの領域だったとしてもだ。つまんねェ、そう吐き捨てるように。
 だからその苛立ちはそのままそっくり返してやろう。
「汚泥汚辱のアンガロス、これがオレの天使ちゃん。可愛いだろ?」
 返事を待つわけでもないのに問いかける。
 汚泥に崩れゆく翼に似たそれは、奇しくも桜の君の翼にも似ていた。
 さあ沈め。
「さあ触れてみて。溶ける様を見せてくれ」

成功 🔵​🔵​🔴​

誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
アドリブ等歓迎

あら首がないの?
残念ね
はねたかったんだけど
仕方ないわ
他の所を斬りましょ
例えば翼
例えば胴

春の夢――甘やかで残酷で
千年桜に封じたあの記憶のよう
だけど
(リルに気取られるわけにはいかないのよ
あれだけは)

踏み込み放つ衝撃波
リルが傷つかぬよう庇い前へ
あたしの歌姫は今日も最高ね!

なぎ払って穿いて串刺しにして傷を抉る
生命力も奪いましょう
怪力を込め、グラップルも使いぶち壊す
そんな夢はあの子に相応しくない
第六感で察知し見切りと残像で躱し

嫌ね
同じ桜の名を持つなんて

綺麗に潔く
散らしてあげる
リルの時間は奪わせない
ダッシュで踏み込み放つ絶華

桜はいつでも
清く美しくあるべきなの
散る時もね


リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
アドリブ等歓迎

「櫻宵、あれも桜なの?嫌な感じがする」
桜の君
頭がない、なら歌は届かない?
いや……知性があるならば
それを揺さぶるまでだ
「僕はこの歌で、君を守るんだから」
櫻宵に守られるばかりではいけないんだ
空中戦で、躱していけるようにする

【歌唱】を活かして歌うのは君を支える「凱歌の歌」を
その刀が迷いなく黒を斬り裂けるように
君があの羽ばたきに、病に幻惑に囚われないように
「ダメだよ――櫻宵を、惑わせるなんて」
そんなの
僕の櫻を傷つけるなら許さない
櫻宵は櫻宵のままが1番なんだから
打ち消してやる、その痛みも幻惑も「星縛の歌」で
この命を使って

桜はきっと散るから美しい
けれど僕の櫻は
散らせない



●桜の荘厳
 少しずつ桜の君の力が削がれてきている。それを肌で感じる。
 戦闘は長引きつつある。地下での戦いということもあって空気が淀み、些か息苦しい気がした。それでも誘名・櫻宵は毅然とした佇まいで、淡墨の髪を靡かせる。
「それにしても首がないなんて、残念ね」
 ふと、蕾が綻ぶように言う。
 血桜の刀を構え、嫣然と笑みを零して、曰く。
 もしも首があるならば。
「はねたかったんだけど。仕方ないわ、他の所を斬りましょ」
 刀先で示す。例えば翼、例えば胴。どこにしようか思案するような櫻宵に、リル・ルリが無垢な声で問う。
「櫻宵、あれも桜なの? 嫌な感じがする」
 恐らくそれは直感めいたもの。理屈ではない。それは頭部と四肢がないからというだけではない。数多の血を、想いを、吸っているからなのかもしれない。
 喉に指先を添わせる。頭がない、つまり耳がない。ならば歌は届かないだろうか。
 否。桜の君が少なくとも本能ではなく、冷静な判断の下に攻撃していることは見ればわかる。つまり相応の知性はあるということだ。
 知性があるならばそれを揺さぶるまでだ。
「僕はこの歌で、君を守るんだから」
 リルの言葉はひたむきで曇りない。その様にあえかに笑んで、櫻宵は視線を桜の君に注ぐ。
 都市伝説の類だ。真実は定かでないのに、ひとの狂気を養分にして花開いたもの。
 それはまるで春の夢――甘やかで残酷で、千年桜に封じたあの記憶を思わせる。
(「リルに気取られるわけにはいかないのよ、あれだけは」)
 胸裏で独り言つ。何でもないような顔貌で、涼しい様子で地面を蹴る。
 疾く踏み込む。桜の君が反応する前に刀を振り抜いた。剣閃が迸る。一筋の切傷が黒の王の腹に刻まれた。
 その足でリルに攻撃が向かぬよう、射線を遮る格好で前に立つ。薄花桜色の瞳がそれを見届けて細められた。
 櫻宵に守られるばかりではいけないんだ。そんな決意が据えられる。空中戦を試み躱すことは元より、櫻宵の背を確と支えることが肝要だ。
 覚悟と共に花脣から紡がれるヴィクトワール。リルが歌い上げるは君の凱旋。誇り高くしなやかに、咲き続ける唯一へ捧ぐ。
 その刀が迷いなく黒を斬り裂けるように。
 君があの羽ばたきに、病に幻惑に囚われないように。
 ふつり、櫻宵の四肢に力が宿る。理由は明白だ。湧き上がる勇気と希望――なんて陳腐なヒーローソングみたいだけれど、それに相応しい活力が漲るのだから仕方ない。
「あたしの歌姫は今日も最高ね!」
 溌溂と告げて剣戟を見舞う。逆手に持ち替え薙ぎ払い、刺し、さらに螺旋の捻りを加えて体重を乗せる。確かな手応えと共に生命力をも奪えば、花霞の眼差しが爛漫に綻んだ。細腕に似合わぬ剛力で力任せに壊していく。
 桜の君が軋んだような気配がした。
 それはある種の防衛本能だったのかもしれない。黒翼が羽搏く。空間が歪む。桜の花弁が朧に浮かんでは消え、それが痛みを想起させる幻覚を齎すものだともう思い知っている。
 だから本能めいた勘で察知し、リルが声を戦慄かせた。
「ダメだよ――櫻宵を、惑わせるなんて」
 そんなの。
 僕の櫻を傷つけるなら許さない。
「櫻宵は櫻宵のままが一番なんだから」
 存在の肯定。
 その枝垂れ桜を手折らせるわけにはいかない。
 故にリルは再び息を吸う。口遊むはアムレート・ソー、迦陵頻伽を彷彿とさせる歌声が、桜の君の精神を絡め捕る。星の落涙が痛みも幻惑も溶かし、沈める。
 桜はきっと散るから美しい。
 けれど僕の櫻は散らせない。
 一瞬意識がぐらついたのは己が寿命を削っているから。だがそれをおくびも出さぬ。それでもその様子が、櫻宵には手に取るようにわかるのもまた事実だ。
 幸福と沈痛の幻覚。そんな夢はいらない。
「生憎ね。そんな夢、あの子にちっとも相応しくない」
 ああ嫌だ。
 こんな輩と同じ桜の名を戴くなんて。
 綺麗に斬り落とそう。散るべきだ。誰かの血を糧にせねば咲けぬ桜など。ましてや大切なあの子の時間を奪うなどもってのほか。
 一気に肉薄し、櫻宵は自然の摂理を語るかのように言う。
「桜はいつでも、清く美しくあるべきなの」
 刀身に淡く光が刷かれる。薄紅のひとひらを思わせるそれは儚くも麗しい。
「散る時もね」
 不可視の斬撃が鋭く。
 胸骨を砕くかの如くに、心臓を抉るかの如くに穿たれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葦野・詞波
黯然と立ち尽くしたあの日の傷跡。
疼きはしても、とうに乗り越えた試練だ。

そう在って欲しいと願った「if」の幻覚。
そうはならなかったから、私は此処にいる。

今更後ろ髪をひかれることもなければ。
感傷に浸っている暇もない。
やるべきことは多いのだから。
――だが、傷も願いも、どちらも確かに。
嘘偽りのない、本物だった。

霊には「頭巾を脱いだ」【貪狼】を
本当に私が冀った姿なら。私であるなら。
避けてみせろ。見切ってみせろ。
出来ないというなら
お前も今まで見た連中と同じ紛い物だ。

羽ばたきを起点にした攻撃には常に注意
一旦距離を取るか、見切って回避


フーカ・フダラク
そうか、あれが貴様らの神か…
確かに、美しい
だがな
我が身を犠牲にすることなく呼び出すモノを
例え邪だろうと、神と認める事は決してないのだ

しかし、こちらも無傷では済まんだろうな
覚悟して攻撃に備え〔見切り〕を狙いつつ
自身の攻撃が届く20mの範囲内で距離を保つ

帯刀した〔アイテム 六道〕を抜き
〔UC 蓮華の上の宝珠〕を〔高速詠唱〕
マニ・パドメー 私に教えてくれ
黒の王とその周囲に花吹雪を集中させる
目には目を、花には花だ

連携が可能な者がいるなら目くばせし
自身や相手に目に見える害を捉えれば
〔衝撃波〕で吹き飛ばしてやろう



●桜の蠱惑
 桜の君の均整の取れたその身体に、今は幾つもの切傷や裂傷、火傷痕、魔力の残滓、あらゆる攻撃の痕が残されている。
 それでも未だ玄妙な蠱惑を戴く桜の君。春の甘美と残酷を、この上なく如実に映し出した黒の王。
 絞める首はない。砕く頭もない。折る腕も、潰す脚もない。
 しかし斃すことは出来よう。フーカ・フダラクはあれが貴様らの神か、そう内心で眷属へ語り掛ける。確かに、美しい。だが。
「我が身を犠牲にすることなく呼び出すモノを、例え邪だろうと、神と認める事は決してないのだ」
 それはシャーマンとしての矜持でもあったのかもしれない。
 桜の君が一際音高く翼を羽搏かせる。巻き起こる風に幻桜が舞う。引き摺り出されるのは苦痛の幻覚。
 猟兵たちは一様に見切ろうと腐心したが、精神を絡め捕ろうとするそれを完全に避けるのは難しい。無傷でいられるとは、流石にフーカも思わなかったけれど。
 葦野・詞波が戦場を駆ける足を止めたのは、黯然と立ち尽くした日の傷痕が熱を抱いたからだ。
 とうに乗り越えた試練だったが、疼かないといえば嘘だ。
 まったく自分とは関係ない、と言えるほど達観しているわけでもなかった。かぶりを振る。或いはそう在って欲しいと願った幸福な幻覚にも苛まれたかもしれないが、事実そうはならなかった。今更縋るような真似はしないし、感傷に浸る時間などない。為すべきことは多い。
「――だが、傷も願いも、どちらも確かに」
 詞波が胸元を掴んだ。知っている。幻覚とはいえその彩を知らないわけではない。どちらも嘘偽りなく本物だった。
 眩惑の残滓を振り払うように毅然と顔を上げた様子を見て、フーカもまた黒刃を構える。細い刀身が怜悧な光を燈す。
 間合いを保ち、交錯する緊張が歪む瞬間を待った。その隙を見過ごさない。唇が紡ぐ詠唱は疾く。
「マニ・パドメー 私に教えてくれ」
 補陀落から喚ぶための陀羅尼。咲き誇るは芙蓉だ。
 水面に映る花弁の如く幾重にも、幾重にも。瞬く間に宙を埋めた蓮華を流すように、黒刀を一気に横一文字に薙ぐ。
 それが合図だった。花嵐が黒の王を基軸として躍り狂う。
「目には目を、花には花だ」
 泥沼から生じ、それでいて濁りに染まらず清く美しく咲く花。鋭い矛となって桜の君を斬り刻む。
 桜の君は己が劣勢を感じたようだ。頭部に据える赤い宝石が妖しく光る。猟兵たちの理想たる複製を構築し、各々の得手とするユーベルコードを差し向けてくる。
 フーカが視線を流す。詞波は浅く頷く。
 赤頭巾を外す指先が強張ったのは、本当はあまり脱ぎたくはなかったからだ。しかしそれでも外す。白黒の曖昧な髪が地下の淀んだ空気に翻る。
 亡骸から聖別されし槍を構え、穂先を桜の君に翳した。
 本当に私が冀った姿なら。私であるなら。
「避けてみせろ。見切ってみせろ」
 狼は捷い。一足飛びで敵の懐へと滑り込む。迷いは介在せず、その滑らかな腹目掛けて差し穿つ。
 やはり避けられはしないのだな、と微かに残念そうな声で詞波は告げた。
「お前も今まで見た連中と同じ紛い物だ」
 一気に払うように槍を引き抜けば、流石の桜の君も大きく身体を傾げた。
 生じた隙を見過ごすほど愚かではない。
「もう一度、蓮華を見せてやろう」
 フーカが再び詠唱を諳んじれば、花弁が花嵐を成していく。ひとひらごとに鋭く、しなやかに、何度でも散ってみせただろう。
 黒の王を力づくで捩じ伏せるくらいの勢いで。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒海堂・残夏
幻、あたたかい春の夢ねぇ
久しく花見なんかしてませんので〜、ウゥーン、想像つかないなぁ

ああいや、満開の春がどんなに素晴らしいモンかはよく知っているんですよぉ
しかし――いくら焦がれるほどの春と言えど、ただ胸が疼くだけ、痛むだけ
その理由をざんげちゃんは知ってます
だって一緒に見たかった人が隣にいないんですから
一人で見るには余りに――あまりに、幸福すぎるんですよねぇ、この夢

リボンを使って春の君を引きずりだしたら
ユベコを使って幻を一時的にでも止めてやります〜う
誰かが捉えやすくなるように、しっかり捕まえますぅ
犠牲を払ってでも見せられるものは所詮幻なんて、虚しいこと
ざんげちゃんがその花弁を散らしてやりましょう


花剣・耀子
黒の王。UDC。オブリビオン。――桜の君。
お前がどれだけさいわいをうたっても、
そう在るために咲く土を、あたしは赦しはしないから。
ここで手折られて貰うわよ。

……――そうね。
後悔も、理想も、傷みも、喜びも、人並みにはあるのよ。
もっと強ければ友達を喪うことはなかった。
もっと大人だったら師を喪うことはなかった。
もっと、もっとと、枝葉のように理想へと手を伸ばすのは、ヒトの習性だわ。

でも、それがどうかしたかしら。
あたしがどう在るかは、あたしが決めるのよ。
お前に提示されるまでもない。目障りよ。

目の前に広がる全部、全部を、掻き消しましょう。
――ヒトを巻き込まないよう注意はするけれど。
駄目だったら御免なさいね。



●桜の惑乱
 桜の君は何度でも幻惑を差し出してくる。
 あるいは理想。あるいは幸福。あるいは苦痛。それは人の過去に基づくものであったり、過去を重ねた末の己の延長線上にあるものであったりもするだろう。
 故に猟兵が今を生きている以上、何の被害も被らない者はいなかった。
 透き通るような薄紅色が舞う、絢爛の春。
 幻、あたたかい春の夢。
「久しく花見なんかしてませんので〜、ウゥーン、想像つかないなぁ」
 黒海堂・残夏はこてんと首を傾げる。傍らにいる花剣・耀子が訝しげな顔をすると、残夏は違う違うと手を振った。
「ああいや、満開の春がどんなに素晴らしいモンかはよく知っているんですよぉ。しかし――」
 言いかけて、口許が開いたままで固まった。
 焦がれるほどの春を知っている。それでも胸は疼くだけ、痛むだけ。逆に言うと、それ以上の感慨は押し寄せてこないということだ。
 残夏が刷く笑みは淡い。過るは懐古。浸るは回顧。
 その理由なんてとっくの昔にわかっていた。
 肩を並べて春を迎えたかった人が、隣にいないからだ。
 わかりきったことを思い返して困ったように眉を下げる。
「一人で見るには余りに――あまりに、幸福すぎるんですよねぇ、この夢」
 幸福な幻覚は、寂しさを駆り立てるだけだ。胸に空いた空白を埋めてくれるわけではないのだ。
 その横顔を一瞥して、耀子は睫毛を伏せて「そうね」と囁いた。
 吐息を食む。顔を上げる。
 目の前の敵に切々と告げる。
「黒の王。UDC。オブリビオン。――桜の君」
 揺るぎない眼差しと、腹に据えた覚悟と共に言う。
「お前がどれだけさいわいをうたっても、そう在るために咲く土を、あたしは赦しはしないから」
 耀子の冷えた青目に迷いはない。憂いもない。
 居住まいは堂々と。
 退く気などこれっぽっちも存在しない。
「ここで手折られて貰うわよ」
 ふたりの娘がしあわせな迷夢を踏み越える。対峙する。
 桜夢想に罅を入れて砕いたら、耀子が一際強く床を踏んで跳躍する。上段から布の封印を解いた日本刀を振り翳す。甲高い接触音が祭壇に届く。
 桜の君が手を取られている間に残夏がリボンを射出する。絡め捕る。石像めいた桜の君の身体を、舞台に引き摺り出すように引き寄せた。更にリボンが迸り捕縛する。身動きはおろかユーベルコードをも封じる。有体に言えば蜘蛛の巣に桜がひっかかったみたいだ。
「さ、よろしくお願いしまぁす」
 残夏が促せば、返事の代わりに耀子が刃を構え、斬撃を払おうとした瞬間に――脳裏を幸福の残滓が掠めた。痛みを堪えるように眉根を寄せる。
 躊躇いではない。ただ、漠然と続くと思っていたさいわいの名残りに胸が軋んだだけだ。
「……――そうね」
 過ごした時間が『幸福』だったと言えるから尚の事。
 後悔も、理想も、傷みも、喜びも、人並みにはある。
 もっと強ければ友達を喪うことはなかった。
 もっと大人だったら師を喪うことはなかった。
 己が未熟と幼さを、悔いたことがないと言えば嘘になる。春の日差しを浴びた枝葉が成長するように、理想へと手を伸ばすのはヒトの習性だ。
「でも、それがどうかしたかしら」
 柄を握る力を強める。肋骨を叩き折る勢いで薙ぎ払えば、此度軋んだのは桜の君のほうだった。
 確かな手応えと共に着地すれば、耀子の眼光が敵を射貫く。
「あたしがどう在るかは、あたしが決めるのよ。お前に提示されるまでもない。目障りよ」
 夢に浸る時もあるかもしれない。あるかもしれないけれど、それは誰かに強要されてすることではない。
 だから今は前を向く。
 その毅然とした横顔を見て、残夏は桜の君を憐れむように薄く嗤う。
「犠牲を払ってでも見せられるものは所詮幻なんて、虚しいこと」
「ええ。だから――目の前に広がる全部、全部を、掻き消しましょう」
 視えている。
 だから斬れる。
 耀子が生み出した白刃がひとつ、ふたつ。瞬く間に宙を埋めていく。その切先はすべて桜の君に向けられる。
「巻き込まないよう注意はするけれど。駄目だったら御免なさいね」
「いいえちっとも。さあ、ざんげちゃんがその花弁を散らしてやりましょう」
 耀子と残夏が視線を交わして不敵に笑んだ。
 花嵐を越える時は、今だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
満ちてゆく爛漫の春に、
歓喜に震えて己に宿る花が咲く
――否、咲かせたのはわたしの意志だ

“紅葬”

常は疾風と駆ける脚を
今ばかりは静かに進め
甘い夢に手繰られながら

瞼に映る春のゆめは、
誰もが融け合うあの海へ
ひそやかに散る自分の屍
温もりに眠れる花の墓標

けれど、

幻覚に囚われ切裂かれて尚、
咲き乱れる牡丹は枯れず
爪先まで花になった躰が
はらりはらりと散るばかり

なんてうつくしく、
なんて幸福なゆめだろう
だけどこの脚が動く限り
わたしはそれを、選ばない

繋がれた絆を柔く掴んで、
あえかな笑みで千切ったならば
虚構咲かせる花を葬りに
迷いなく駆け出してゆく

――ああ、だけどそうだね、
とてもいとおしい、春だった

※アドリブ・絡み歓迎



●桜の偏愛
 猟兵たちの怒涛の攻勢は続く。その最中、一輪の花が凛と前を見据える。
 指先からじわりと染み、徐々に満ち往く花盛り。爛漫の春にて、歓喜を覚えた境・花世の花が咲く。
 ――否、咲かせたのはわたしの意志だ。
 眼差しは真直ぐに注がれたまま揺るがない。
「“紅葬”」
 これはきみへの餞だ。
 咲き誇るは八重の牡丹。先程は骸を養分として咲かせた。今は、己を糧として花開く。花弁が柔らかに綻ぶ度、牡丹と花世の境界が曖昧になっていく。
 常ならば疾く馳せるばかりの足は、静かに地に足跡をつけていく。芳しく薫るのは幻夢のとばりだ。羽搏きの音がどこか遠くに聞こえる。引き寄せられるのか、望んで身を投じるのか。それを判ずる前に瞼に映る夢がある。
 海の光景。
 誰もが融けあい澄み渡るそこへ、密やかに散る己が屍。ぬくもりに浸る微睡。花の墓標は、いっそ健やかな寝息を立てていたかもしれない。
 けれど。
 幻覚が身を苛んでいる自覚はあった。神経を蝕み、苦痛の認識が傷痕となり身を抉る。
 なのに牡丹は衰えを見せない。爪の先まで花そのものとなった花世の小指からひとひら、はらりと花弁が舞い降りるだけ。
 それは美しかったのです。
 それは幸せだったのです。
 潤む視界から目を逸らさずに、それでも歩を進め続ける。こうして脚が動く限り、こうして咲き続ける限り。
「わたしはそれを、選ばない」
 その声は明瞭に響く。
 手繰るのは、既に故意的に繋がれた親愛の絆。敵意を鎮めるそれは赤い糸みたいだ。意識を研ぎ澄ませる。
「笑わせないで」
 誂えられたそれを、いとけない微笑みで千切り捨てる。
 同時に地を蹴った。虚構を咲かせるのみならずそれを伝染させようとする花を、葬りに行かなくては。掌を翻せば牡丹が一際強く香る。
 ああ。
 だけどそうだね。
「とてもいとおしい、春だった」
 眦がほんの少しだけ、濡れた。
 花世の血を啜って染まる花弁が、次に矛先を向けるのは――桜の君だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

桜庭・英治
桜の夢か
そんなもののために人が死んだのか
お前が生贄を喜んでたのかどうかしらないけど
見過ごすわけにはいかないんだよ

お前が何を見せようと関係ねぇ
俺とそっくりのものを出しても、それはオブリビオンの手先だ
全部燃やすぜ、複製もお前もな!


……
ああ、クッソ
自分と同じ顔が燃えるのって地味に堪えるんだな…


アドリブ、共闘など歓迎


斬断・彩萌
はるのゆめ。やがて来て去る季節の廻り。
そんなものに夢を見たりしないわ。
私は私の、消えない夢を実現するんだから!

【POW】
私と同じ力……!?面白いじゃないのっ、蹴散らしてやるし!
師しょッピから習ったこの技、真似できるものならやってみなさいよ。
ま、直伝の私に勝てるわけないでしょうけど!っていうか絶対負けられないのよっ。
【クイックドロウ】で素早く抜いて、【スナイパー】のように狙いを定める。
相手が一体なら絶対はずさないわ!
適度に距離を保ちつつ、接近されたら【武器受け】で対処。
味方が多ければ後方から支援する。

※アドリブ・絡み歓迎


ニコ・ベルクシュタイン
俺は、桜の花が好きだ。
咲いたかと思うとあっという間に散ってしまう儚さも、
青空に映える薄紅色も、宵闇に浮かび上がる白も。
お前のような禍々しさしか感じぬものが桜の君を名乗るのは悍ましいが、
誰かが其れを望んだのならば仕方があるまい、後始末は俺達がつけよう。

「ダッシュ」で一気に懐に潜り込んでからの「先制攻撃」を狙い
【時計の針は無慈悲に刻む】での「2回攻撃」を叩き込みたい
2撃目が入るようならば1撃目の傷を狙って「傷口をえぐる」で
与えるダメージを最大限大きなものに出来れば僥倖

挫かれる心も、傷む身体も、俺にとっては所詮は仮初めのもの
恐るるに足らず、と言い切れたら完璧だろうが
少々難しいかな、多少の負傷は覚悟だ


狭筵・桜人
綺麗ですねえ。
壊してしまうのが勿体ないくらいです。

とはいえ肉壁が役に立ちそうもない相手は私の天敵なわけですが。
幻覚に囚われるくらいなら自らに【呪詛】を唱えましょう。
だって、ねえ?
他者に心を支配されるなんて、考えただけで吐き気がします。

目が覚めたなら気休めの【呪詛耐性】。
……全ッ然釣り合わないんですけどね、これ!

幻覚が長引く共闘者には明るく元気よく声をかけて。
挨拶は大事ですからね!
おはようございます。夢見はどうでした?

さてさて――いいもの見せて貰ったお礼です。
ユーベルコードに同じく【呪詛】を重ねて。

――祈りと呪いって似てませんか?
あなたはどんな夢を見るのでしょうね。桜の君。



●桜の慢心
 魂の炉心が燃え盛るようだった。
 桜庭・英治は奥歯を噛みしめた後、苛立ちを隠さぬままに言い捨てる。
「桜の夢か。そんなもののために人が死んだのか」
 やるせなさが英治の腹で煮える。沸騰する。
 視界の隅に映る祭壇。息絶えた人々。
 二度と目覚めない、空虚。
「お前が生贄を喜んでたのかどうかしらないけど、見過ごすわけにはいかないんだよ」
「そうよ」
 続いて進み出て声を張ったのは斬断・彩萌だ。
 背筋はぴんと伸ばしたまま。まるで刃で削られた桜の幹みたいな黒の王を見ていた。
 はるのゆめ。やがて来て去る季節の廻り。
「そんなものに夢を見たりしないわ。私は私の、消えない夢を実現するんだから!」
 彩萌の気概は夢物語ではない。猟兵たちの尽力で、桜の君の体力は損なわれているのは明らかだ。
 もう一歩だな。そう見極めたニコ・ベルクシュタインの眼差しは厳しいまま。それでも桜という花自体に罪はないから、記憶を反芻するように声を紡ぐ。
「俺は、桜の花が好きだ。咲いたかと思うとあっという間に散ってしまう儚さも、青空に映える薄紅色も、宵闇に浮かび上がる白も」
 爛漫に咲き誇るうつくしきその花を知っている。
 それは年月を経ることで顕現したニコならではの観点かもしれない。長針と短針のルーンソードを構えて、告げる。
「お前のような禍々しさしか感じぬものが桜の君を名乗るのは悍ましいが、誰かが其れを望んだのならば仕方があるまい。後始末は俺達がつけよう」
「まあ確かに禍々しいですが、綺麗だと思いますよ私は。壊してしまうのが勿体ないくらいです」
 とはいえ肉壁が役に立ちそうもない相手は私の天敵なわけですが。
 へらり笑って狭筵・桜人が宣う。そう、いくら桜の君を追い詰めているとはいえ、搦め手に長けた敵であることは間違いない。下手をすれば幻覚に呑まれて全滅なんて憂き目に遭いかねない。
 ならば、最後の一撃まで油断せずに立ち向かうしかない。猟兵らはそれぞれの得物を携えてじりじりと距離を詰める。
 緊張が部屋の空気を支配する。
 均衡を崩したのは桜の君だ。前に立つ英治と彩萌の眼前に、各々に瓜二つな複製を出現させる。睫毛の長さまで等しい、シンメトリー。
 思わず目を丸くしたのは彩萌だ。先程から他の猟兵を模る複製は目にしていたが、やはりこうして実際に相対すると何やら腹立たしい。
「私と同じ力……!? 面白いじゃないのっ、蹴散らしてやるし!」
「当然! お前が何を見せようと関係ねぇ。俺とそっくりのものを出しても、それはオブリビオンの手先だ」
 であれば倒すまでだ。
 毅然と言い切った。英治が鳴らした指先が火花が散る。狙い定めるは己が顔面と同じそれ。座標を定め、仕掛けるのは複製よりも一歩英治のほうが早い。
 地を揺るがすような爆音が響いたのは、空気が破裂したからだ。途端に燃え盛る業火。近くにいた彩萌が思わず身を竦ませる。
「全部燃やすぜ、複製もお前もな!」
 まずは複製を燃やし尽くし、その後はお前だ。そんな風に傲然とした視線を桜の君に注ぐ。複製との差異はごく僅か、ひとつ間違えば焼かれていたのは自分のほう。
 だから容赦はしない。英治が掌を翻せば更に焔は猛々しく燃え広がる。
 苦い何かを噛みしめるように、しかしそれでも見届けぬわけにはいかなくて、『自分』が灼かれる様をただ、見ていた。
「……、……ああ、クッソ。自分と同じ顔が燃えるのって地味に堪えるんだな……」
 唾棄するように顔を顰める頃には、既に灰塵しか残っておらぬ。
 それは本人の性質ゆえか、将又別の何かか。彩萌の複製が炎に気を取られ、ほんの少し隙を覗かせる。
 その間に彩萌は素早くアサルトライフルを抜いた。すかさず構える。
「師しょッピから習ったこの技、真似できるものならやってみなさいよ。ま、直伝の私に勝てるわけないでしょうけど! っていうか絶対負けられないのよっ」
 発破は己を鼓舞するためでもある。銃口を差し向け、目を眇めて狙いを定める。
 彩萌は口中で呟いた。『落ち着いて、まずはしっかり狙いをつける』、と。
 精神を集中させる。不思議だ。戦闘音でこれほど騒がしい部屋の中に沈黙が落ちていく気がする。
 どうせなら心臓を狙おう。自分と同じサイズの体躯だ。照準を合わせるのだって難しくない。
 見つめる。鼓動がやけにうるさい。
 狙う。
 乾いた銃音が響くまでに時間はかからない。相手が一体なら絶対はずさない、そんな執念が弾丸に込められたからか。心臓を貫通し、反動で複製の身体が大きく揺れた。崩れるそばから桜の花弁となって飛散していく。
 複製が倒されることで力のバランスが崩れたのだろうか。桜の君も身体を反らせた。それを視界に入れたニコが一足飛びで肉薄する。
 過去は過去に。
 未来は我らに。
 炎と氷の針先が錯綜する。玄妙な螺旋を描き二重に刻む。更に踏み込む。逆手に持ち替え傷痕に突き立てる。桜が哭いた。
「!」
 ニコが羽搏きの音に気付いた時には間に合わない。力が損なわれているからか、区別する余裕がないからか。桜が齎す幻覚は幸福な気配を湛えながら、無造作に苦痛を植え付けてくる。脳を直接手掴みで弄られているみたいだ。
 表情を歪め、頬に汗を伝わせながら。それでも桜人は構わず蟀谷に手を添える。
「ほら、背に腹は代えられぬって言うじゃないですか。だって、ねえ?」
 袖口から覗かせた腕には呪詛の痕。皮膚の下、神経を蝕んでいると知れる色。
「はあ!? まさか自分で自分を痛めつけて」
「ええ。それが何か。他者に心を支配されるなんて、考えただけで吐き気がしますから」
 英治の驚愕に視線だけで応え、桜人は傲然と言ってのける。自分から幻覚の息吹がすべて去ったことを確認してようやく呪詛返しを施す。が、当然のことながら毒を以て毒を制すようなその戦法、身体に負担がかからぬわけがない。気休めに過ぎぬことは本人が一番よくわかっている。
「……全ッ然釣り合わないんですけどね、これ!」
 空元気でも元気は元気だ。桜人は傍らのニコの肩に手を置いて、明るい声音で「やあ、調子はいかがですか」なんて嘯いた。
 その声を呼び水にしてニコの双眸に意識が宿る。桜人の様子に困ったように笑って、ニコは落としていた視線を上げる。
「すまない。声をかけてくれて助かった」
「挨拶は大事ですからね! おはようございます。夢見はどうでした?」
 僅かに吐息を噛む。ややあって懐中時計のヤドリガミは口を開いた。
「……挫かれる心も、傷む身体も、俺にとっては所詮は仮初めのもの。恐るるに足らず、と言い切れたら完璧だろうが」
 ニコは鳩尾に指の腹を押し当て、痛んだ何かを揉み解す。
 幻覚の姿は他の猟兵と共有しているわけではない。言葉に出来ない。だから一拍置いてから苦笑い。
「少々難しいかな、多少の負傷は覚悟していたんだが」
 英治と彩萌が心配そうに様子を窺えば、問題ないと示すようにニコは頷く。
 それを暴くような無粋はしない。ままならないものですね、桜人はそう告げて改めて桜の君に向き直る。
「さてさて――いいもの見せて貰ったお礼です」
 琥珀色の瞳が敵を射貫く。眼光に宿るはやはり呪い。
 徐々に浸食し腐敗し駄目にしてしまうような、壊れた何かに至るまでの物語を贈ろう。
「――祈りと呪いって似てませんか?」
 桜人のその問いが狂気を齎したのか、桜の君は手足もないのに苦しくもがこうとしている。抱えるための手がない。抱える先に頭がない。なれば――ああ、頭がないのにそもそも夢は見られるのだろうか。
「あなたはどんな夢を見るのでしょうね。桜の君。」
 ああ。
 もうすぐ倒れる。
 彩萌は視線を奪われたかのように、桜の君の佇まいをじっと見つめている。
 桜が潰える時が、もうすぐ来る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ロダ・アイアゲート
美しくあれど、いつか夢は覚める
全てに永遠なんてない、私も、桜も、貴女も
…貴女の夢、ここで終わらせて差し上げます

UC『Strengthening』で強化し銃で攻撃
【属性攻撃】【援護射撃】【早業】【先制攻撃】【二回攻撃】【零距離射撃】を使う

仲間が狙われたら【かばう】
私の体は機械ですから、人間のそれより頑丈ですし

幻覚は【覚悟】で迎え撃つ
痛みよりも、問題は心を挫く幻覚…
ですが私は造られたモノ
私の心を挫くのも、壊すのも、私を造ったマスターにしか許されない
ならば私はここで壊れるわけにはいかない
貴女に壊されるわけにはいかない
貴女に負けるわけにはいかないのです

アドリブ・共闘歓迎


木鳩・基
理想の姿? もっと背が高くてとか……
あー、そういう生半可な奴じゃないか

小さい頃に怪死した父さんが立ってんだろうなぁ、理想の私の隣には
そりゃもうちょっと一緒にいたかったし、一緒に今年の桜も見たかったよ
でも願っても叶わないなら願わないよ

たぶん幻覚は避け切れないと思う
爆破されても幸せには変わりないし、ちょっと無理するよ
受け止めてからまた走り出す

『反規範パズル』で地面をピース化
階段状に地形を変化させて、あいつの元まで一直線
それから巨腕で思いっきり殴り飛ばす

これが一番けじめをつけられると思うから

勇気、覚悟、呪詛耐性、地形の利用



●桜の終焉
 終わりは近い。
 それがどんなに美しいものだとしても、いつか夢は醒めるものだ。
「全てに永遠なんてない、私も、桜も、貴女も」
 ロダ・アイアゲートはミレナリィドールだ。魔導蒸気文明の技術と人間の叡智を尽くして造られた人型機械人形だ。
 誰かしらの理想や想いを糧に造られたという意味では、桜の君も己も大差ないのかもしれない。
 しかしだからこそ、望まれなくなる時は来る。人の心は移ろうものだ。永遠なんてないのだから。
「……貴女の夢、ここで終わらせて差し上げます」
 その言葉が引き金となる。ロダの背丈と同じくらい巨大な蒸気銃に、ガトリングガンの付いた小型ガジェットを装着させる。威力が増加されたそれを構える。
 一足飛びで敵の懐に滑り込んだら規則正しい稼働音が加速する。
 波濤のような弾幕が桜の君を包む。黒き翼も、頭の位置の紅玉も、腕代わりの突起も。すべて穿って撃ち抜いていく。
 ロダは決して目を逸らさずにただただ弾丸を贈る。
 その意気に気圧されたか。軋むような羽搏きの音が響くと同時に甘美な幻夢が部屋を満たしていく。
 幸福の幻影と同時に、咄嗟に――無理やりと言っていいかもしれない――生み出したとしか言えぬ複製が木鳩・基の前に立ちはだかった。
 はるのゆめ。
 しあわせの景色にいる『基』は、よくよく見覚えのある姿だったけれど。乾いた、苦い笑みが零れる。
「理想の姿っていうからもっと背が高くてとか……あー、そういう生半可な奴じゃないか」
 理想。そう在りたいと願うかたち。
 爛漫の春にいる『基』の傍らには幼い頃に怪死した父が立っていた。
 そう、自分にとってそう在ればいいと願うのは、単純でやさしい未来だった。
「そりゃもうちょっと一緒にいたかったし、一緒に今年の桜も見たかったよ。でも」
 目の奥に熱が宿る。呼吸が早くなる。苦しい。
 それでも絞り出た声は紛れもない本音だ。
「願っても叶わないなら願わないよ」
 だから幸福が弾けるのも甘んじて引き受ける。
 爆風が迸る。受け止めて吹っ飛ばされそうになるが、基の背中を支える存在があった。ロダだ。戦闘で荒れた床に倒れてはそれだけで怪我をする恐れもあった。だがロダはでこぼことした床を軽く蹴り飛ばす。
「私の体は機械ですから、人間のそれより頑丈ですし」
「……そ、ありがと」
 無理はする。けれど無茶はしない。覚悟を決めた基の横顔は清々しい。
 それを見咎めたのか、残り少ないエナジーを費やして尚も桜の君は羽搏いた。黒の翼が幾重にも苦痛を織りなす。雷に似た鋭さで戦場にいるすべての猟兵たちを痛めつける。
 ロダはそれでも膝をつかない。ロダも基と似て非なる覚悟を据えていたから。
 身を苛む痛みより、問題となるのは心を折ろうとする幻覚のほうだ。
 仮にその人を構築する芯が根元から折れてしまえば、それでも歩き続けると言い切れる猟兵は決して多くはないだろう。
「ですが私は造られたモノ。私の心を挫くのも、壊すのも、私を造ったマスターにしか許されない」
 ならば私はここで壊れるわけにはいかない。
 自然の摂理を幼子に説くようにロダは言う。再び銃口を黒の王に差し向けて。
「貴女に壊されるわけにはいかない。貴女に負けるわけにはいかないのです」
 その堂々たる言い回しに、基はつい小さく噴き出した。笑みを浮かべながらも「ごめん、変な意味じゃないんだ」と断りを入れておく。
 惑わされたりはしない。
 幻影がほどけていく。
「春を迎えるのは、春に迎えてもらうのは、私たちだ」
 基は受け止めた上で走り出す。
 意思にぴったり嵌るピースを既に持っている。ならばそれを為すだけだ。桜の君まで些か距離が残る頃合い、再構築したピースの巨腕で地を穿つ。衝撃と同時に床が瞬く間にピース化していく。
 まさに変幻自在。幻より余程鮮やかだ。桜の君の眼前に至る階段が組み上げられ、それを一段飛ばしで駆け上る。
 声にならぬ叫びは気概の表れ。強くあれ。
 意志と覚悟と精一杯の勇気を籠めた巨腕で、桜の君を殴り飛ばした。
 桜の君が弾け飛ばされる。大きく身体を逸らせて、なのに痛みを訴えるための声がない。喉がない。足がないから踏ん張れないし、手がないから何の未来も掴めない。
 罅が入り砕ける。
 ひとひら、花弁が散った。
 それは切欠に過ぎなかったのかもしれない。幕引きだ。桜の君の砕けた破片が花弁になる。波打つように翻って、花の嵐を巻き起こす。
 やがて花弁がひらりひらりと地に墜ちて、床に接触する前に泡のように消える。

 すべてが舞い降り消えてしまえば。
 そこには何も、残らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『季節の花を鑑賞しよう』

POW   :    花を眺める

SPD   :    花を眺める

WIZ   :    花を眺める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●はるのひかり
 桜の君を倒し、猟兵たちが通路を抜けて外に出た頃には、既に日が傾いていた。
 浅緋から珊瑚へ染まり行く空に黄金が刷かれる。夜との瀬戸際で菖蒲色が重なり、ゆっくりと春を焦がしていく。
 少し進んだところに桜並木がある。花弁は血にではなく夕暮れに浸り、淡く微睡んでいる。風に揺れる。漣のように綻んでは、春爛漫を寿ぎ咲き誇る。
 綺麗な風景を眺めると仄かな寂寞が胸に過るのは何故だろう。

 宵の明星がひとつ、煌めく前に。
 黄昏時の桜に逢いに行こう。
ロダ・アイアゲート
自分に似たような敵でしたが、倒せてよかったと思います
桜の君
あの存在は、桜をどのように感じていたのでしょうか
色を楽しむ目もなく、幹に触れる手もなく…

でも折角ですから早咲きの桜をしっかりと見ておきましょう
メーリさんにも声を掛けてみましょうか
そして聞いてみたいですね
春の温かさを感じるか
春の匂いを感じるかと
私の肌は春の温かさを感じ取れず
春の匂いも分からないけれど
認識は出来ますから
それに春の色なら分かりますしね

風に吹かれて舞う花びらを眺める
きっと黄昏の空に溶ける様に消えていくのだろう
早くに開花してしまった桜とはいえ、これはこれでいいものかと

アドリブ歓迎



●はなひらき
 理想と願いで構築された者同士、思うところがないわけではない。
 桜の花弁が舞う黄昏時に、ロダ・アイアゲートは先の戦いを思い返す。
「自分に似たような敵でしたが、倒せてよかったと思います」
 桜の君。
 花の名を冠しながら、色を楽しむ目もなく、香りを味わう鼻腔もなく、幹に触れる掌もない。
 不思議と寂寞めいた何かが胸をそっと軋ませるけれど、早咲きの桜をゆっくりと眺めておこう。同じように桜に見入っていたメーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)の姿を見て、ロダは何気なしに声をかけた。
「春の温かさを感じますか。あるは、春の匂いを感じますか」
「うん、どっちも感じるよ。……穏やかで柔らかい感じがする」
 爪先をロダの前に揃えて、メーリは水晶の双眸を細める。
 ふたりの間を優しい春風が滑り抜けていく。そういうものですか、とロダが小さく呟いた。
 ロダの肌は春のぬくもりを感じられぬ。春のふくよかさも嗅げぬ。されど、そういうものがあることは認識している。
 それに――掌に降ってきた桜の花弁のひとひらを受け止める。
「私にも、春の色なら分かります」
 仰ぎ見れば爛漫に綻ぶ桜花。夕映えに抱かれるような薄紅は、一際鮮やかに風に揺れている。ふわり花弁が風に舞い上がるごとに胸裏のあたたかさが滲むようだ。そうして夕暮れと桜、更には己の境界がゆっくりと融けていくような心地。
 消えていくのだろうと思うのに、なくなりはしないのだろうとも思う。今掌の中にある花弁のように。ロダは無意識に淡く笑みを刷く。その姿を見遣り、メーリはほにゃり目を細めた。
「あったかくて、綺麗だね」
「そうですね」
 太陽が完全に姿を隠してしまうまで、もう少しこうして肩を並べていようか。
 早咲きの桜をこうして眺められるのも、春の挿話を読み解くようで悪くない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
綺麗ね、少し怖いくらいに……。逢魔が時に舞う花弁は、一体どこに逝くのかな。
昔の人はこの美しさに嫉妬して、樹の下には屍体が埋まってるなんて言いだしたのかもね。
――なーんて、ちょっと哀愁漂わせてみる私なのであった!(声には出さないけど小さく笑って)

おっ、メーリんだ。
へへへ~私はちょっと感傷に浸ってたんだ。まぁ雰囲気よ雰囲気。
メーリんは桜といえば思い出すものとか、あったりする?
私はやっぱり新しい季節や出会いの始まりにドキドキしちゃう。知り合いが増えるのはやっぱ楽しいしね!
あとは限定品の桜シリーズも見逃せないよね~。他にも……(以下談笑)

来年もまた、此処に見に来れたらいいな。

※アドリブ歓迎



●はなごもり
「綺麗ね、少し怖いくらいに……」
 斬断・彩萌の呟きが日暮れに溶けていく。
 逢魔が時ともいえる刻限。大きな災禍を蒙ると信じられていた頃合いだ。魑魅魍魎が闊歩すると思われるくらい、成程確かに現実感が曖昧になる。
 空は橙、桃、薄紫を重ねたような玄妙な色彩をしている。浮かび上がる桜は柔らかく落とす影さえも美麗だ。こんな時間に舞う花弁は一体どこに逝くのだろう。
 昔の人はこの美しさに嫉妬して、樹の下には屍体が埋まってるなんて言いだしたのかもしれない。何かしらの所以があったと思わなければ納得できないくらいに、美しい。
 彩萌は小さく笑う。
 ――なーんて、ちょっと哀愁漂わせてみる私なのであった!
 胸裏で軽口を叩いて、ひとたび瞬いた後は常の風情だ。グリモア猟兵たる同僚の娘を見遣り、彩萌は口の端を上げる。
「おっ、メーリんだ」
「メーリだよ! 何やってたの?」
「へへへ~私はちょっと感傷に浸ってたんだ。まぁ雰囲気よ雰囲気」
 ゆるやかな傾斜の土手に座って、肩を並べよう。ふたりの娘の視線の先、咲き綻ぶ桜をゆっくりと眺める。
 ふと投げかけた問いは猟兵としてというより、ただの女の子同士としての会話だ。
「メーリんは桜といえば思い出すものとか、あったりする? 私はやっぱり新しい季節や出会いの始まりにドキドキしちゃう。知り合いが増えるのはやっぱ楽しいしね!」
「ええとね、春だからかな、私も心機一転新たな出会いってイメージ! 今もそうだよ、すごく楽しい~!」
 笑みと笑みが重なって、笑顔がふたつ咲き誇る。どんな花より眩しいくらいに。
 たわいもない会話を紡ごう。コンビニで見つけた春季限定の桜のお菓子、道端に桜だけじゃなくタンポポも咲いていたこと、それから、それから。
 そうしたささやかな幸せの先に思い描くのだ――来年もまた、此処に見に来れたらいいな、って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリス・ステラ
【WIZ】

「供贄などなくても、桜はいつだって美しい」

桜のたもとに腰を下ろして、ひらひらと舞う花びらに手を伸ばす
満開でも、そうじゃなくても、葉桜であっても美しいと私は思う

「桜の君。あなたはわかっていたのではないのですか?」

桜の花びらを見つめて思いをはせる
知性を司るあなたなら、この結末が見えなかったとは思わない
夢は美しい、美しいから夢なのか

「いずれ散るのだとしても、だからこそ、咲き誇らずにはいられない……」

桜だから
散ることを恐れて咲かない花などありはしない
髪飾り・花霞に宿る桜の精がふわりと舞えば、頬を撫でる風が心地よい

「もう春ですね」

そして季節は巡る
また桜が咲くころに逢いましょう
私は黄昏に囁いた



●はなうたい
「供贄などなくても、桜はいつだって美しい」
 桜の根元に座り、着物の袖を押さえて、マリス・ステラは手を伸ばす。
 星の繊手にひらり舞い落ちる花弁。掌の上のそれに空色の双眸を細める。視線を上げた先、満開の桜は美しい。けれど咲き初めの頃も、何なら葉桜でさえ綺麗だと、マリスは本心からそう思っている。
 先刻相対した神性を思う。頭部も四肢もなく、うららかな幻惑を操ったもの。
 知性を司るほどの存在であれば、眷属を倒され猟兵らに葬られる、この結末が見えなかったとは思わない。
 故にマリスの声に迷いはなかった。
「桜の君。あなたはわかっていたのではないのですか?」
 問いかける先に相手は居らぬ。それでも問わずにいられなかった。
 夢は例外なしに美しいものなのか、将又美しいから夢なのか。マリスは花弁をそっと両手で包み込んだ。
 春うららかな黄昏が、桜と己の境界をも朧にするよう。金糸の髪が春風に翻り、花の香りを含む逢魔が時。
「いずれ散るのだとしても、だからこそ、咲き誇らずにはいられない……」
 それが桜の宿命。
 散ることを恐れて咲かない花などない。どんな花であれ、実らずとも咲かずにはいられないのだ。星光のように真直ぐひたむきに花開く。幾千光年を越えて地に、人の心に届くのだろう。
 桜飾る髪留めに桜の精がふわり息衝く。頬を撫でる風は柔らかく、夕暮れの気配を孕むから、マリスは眦を緩めるほかない。
「もう春ですね」
 爛漫の春の只中に居る。
 そして季節は巡る。桜は散り葉ばかりが残り、それも色付いては雪をかぶる。四季を渡り再び花綻ぶときが訪れるから。
 ――また桜が咲くころに逢いましょう。
 マリスの囁きは黄昏と重なり、静かに春の名残りとなろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
黄昏に翳む桜霞は、
此の世のものと思えない儚さ
目を瞑ったらこのまま消えて
もう逢えないような気がするから、
息を止めて静かに見上げ

この国で一等愛される花だと
教えられたのは何年前だったろう
あの日からなんにも変わらずに、
桜を愛しも憎みもできないままでいる

だから、

左の眦から涙が伝うのは
瞬きすらできないせいだし
空っぽの心臓が震えるのは、
きっと気のせいに違いない

……泣いていないよ、
理由がないもの

薄紅の色に滲んでく視界で
もうなんにも見えなくなる
桜があんまりうつくしいから
眸がつぶれてしまったのかなあ、
なんて淡くわらえば

はらはらと散って頬にふれた
かすかな気配だけが
黄昏に咲いた、春のあかし

※アドリブ・絡み大歓迎



●はなひびき
 黄昏時のうたた寝のように桜霞が微睡んでいる。
 花の輪郭は翳み、夕映えとの境界すら曖昧だ。天上の光景の如くに儚く、指先でなぞっただけで消えてしまいそう。
 境・花世の左瞼が震えた。目を瞑るのが怖かった。二度と逢えないような気がして、それが厭だった。縁を紡いで織りなすように希う。
「――……」
 呼吸をひとたび止めたのは縁を保つため。春の絢爛を肺腑に閉じ込めるため。桜花を仰ぎ見る。
 UDCアースという世界の日本という国家。桜がこの国で一等愛される花だと、教えられたのは何年前だったろう。
 困ったように眉が下がったのは自然の成り行き。あの日から何も変わらない。時間は凝ったままだ。愛されるべき花を同じように愛せないくせに、憎むこともまた出来ずにいる。
 華やぎに包まれて、世界はこんなにも美しい。
 だから。
 左の眦で雫が弾けた。はらり。花弁にも似たそれは地面に染みを作っていく。
 これは瞬きすら出来ないせい。
 花の心臓が干乾びて、水を求めて喘ごうとする。
 これはきっと気のせいに違いない。
「……泣いていないよ、理由がないもの」
 言い訳みたいに呟いて、それでも拭うことすら出来やしない。
 もうひとひら花弁の泪が舞う。
 薄紅に浸った視界は他の何かを映さない。潤んで滲んで爛漫に塗り潰されていく。
 ――桜があんまりうつくしいから、眸がつぶれてしまったのかなあ。
 淡い笑みを模る。それに応えるように桜の花弁がそっと花世の頬に触れる。涙を含んでくっついた。ますます滴と花が境界線を見失っていく。
 それでもその微かな気配は夢じゃない。
 春のあかしが咲き誇る。
 花の娘の横顔が、夕暮れにゆっくりと融けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
もし大丈夫ならメーリに声を掛けて
メーリ、一緒に桜を見たいの、少しだけ、いい?
他にもメーリと桜を見たいって人がいるなら、あたしは一緒でも大丈夫

すっかり、季節は春ね
ねえねえ、メーリはどの季節が一番、好き?
あたしは、星がたくさん見える夏や冬も好きだけど
やっぱり、たくさんの花が咲く春が好き、かなあ

あの桜の君も、いつかは本物の桜になって
どこかで咲くことが出来るかしら
人々の心に笑顔を、色々な想いを灯せる、そんな桜になれるかな

…メーリは。誰かにとっての花になりたいとか、思うことはある?
あたしはフェアリーだから
誰かにとってのみちしるべになれたらって思ったりもするけど
…あたしでも、誰かの花に。なれるのかしら?



●はなごころ
「メーリ、一緒に桜を見たいの、少しだけ、いい?」
「少しじゃなくても全然大丈夫~! 私も一緒に見たいな!」
 キトリ・フローエとメーリは視線を交わして、同時にくすぐったそうに笑った。背格好こそ違えど同年代の乙女であることには変わりない。「キトリとこうやって過ごすの好きなの」なんて何時かの日を思い返しながら水晶の娘ははにかんだ。
 春風がふわり綻べば、日暮れに抱かれた桜花もつられて花開くよう。
「すっかり、季節は春ね」
 噛みしめるような囁き。涼風がふたりの髪を掬って、流れて霞んで消えていく。
 瑠璃の翅を翻し、キトリは内緒話を打ち明けるような口吻で問う。
「ねえねえ、メーリはどの季節が一番、好き?」
「う~ん……春かなあ。はじまりの季節だし、何より花がとても綺麗だから」
「あたしも。星がたくさん見える夏や冬も好きだけど。やっぱり、たくさんの花が咲く春が好き、かなあ」
 目の前に咲き綻ぶは爛漫の桜。桜といっても様々な種類があるし、他の花もまた好ましい。
 キトリの胸裏に過ったのは頭と四肢がない神性のこと。きっと、こうして花を愛でることも出来ずにいたのだろう。
「あの桜の君も、いつかは本物の桜になって、どこかで咲くことが出来るかしら」
 願いと祈りを受けて咲くのなら、血ではなく想いを糧にすればいい。
 贄を求めるのではなく、人々へ歓びと笑顔を齎すような、優しい思いを燈せるような桜になれたらいい。
 そこまで考えてキトリは僅かに吐息を噛んだ。ふと胸を押さえて、それから視線をメーリに向ける。
「……メーリは。誰かにとっての花になりたいとか、思うことはある?」
 誰かの心にあたたかいものを連れてくるような花。
 キトリはフェアリーだから、種族の特性という意味も含めて、誰かにとってのみちしるべになれたらと願わずにはいられない。
 躊躇いをアイオライトの瞳に浸して、それでも声を紡いで手向けた。
「……あたしでも、誰かの花に。なれるのかしら?」
 つい視線を落としてしまっていたキトリの顔貌を覗き込むようにしてメーリは言う。
「私にとってキトリはこうして隣で咲いてくれてる、飛び切り綺麗な花だよ」
 もうとっくに。そんな風にいとけなく微笑んだ。
 あなたという花と一緒にもう少しだけ、絢爛の春に包まれていよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

影見・輪
(黄昏の桜。
並木道を歩いて、目についた一本の桜。
立ち止まり見上げれば、脳裏に浮かぶ光景がある。
さきの戦いで黒の王が魅せた幻とも重なれば、目を細める。)

一瞬だと知っているからこそ、美しく映るものだよねぇ

(幸福というのは、この桜のようなものだと思う。
一瞬で、儚くて、永遠を望んでも叶わない。
だからこそ幸福は、幸福たりえるものなのかもしれないと、思う。)

……できれば、君が年を重ねていく姿も、映していきたかったのだけどね

(もっとも、それはもう叶う事はないけれど。)

……幸せ、だったよ。

(ありがとう。
そっと紡ぐは…脳裏に、そしてさきの幻にあった「主」への言葉。
鏡として、大切に使ってもらった事への感謝の念。)



●はなうつし
 黄昏に長く影が伸びた。
 桜並木。影見・輪が漣のように揺れる花を見遣る中、ふと一本の桜に目が留まる。
 仰ぎ見る。揺れる光と影の向こう、切なく軋む景色がある。
 それは先の戦いで桜の君が顕現させた幻惑にも似ている。手を伸ばしても届かない優しい光景。
 知らず吐息を零す。紅の双眸が眇められる。諦観にも似た何かを湛えた声が紡がれる。
「一瞬だと知っているからこそ、美しく映るものだよねぇ」
 幸福というものは、そういうものだろう。
 この季節だけ花を咲かせる桜のように限りあるもの。
 強風に煽られればすぐに散るほど儚い。永遠を望んでも叶わない。
 しかしだからこそ幸福は幸福として存在し得るのかもしれない。
 今目の前で咲き綻ぶ花が、日を重ねれば散り、地に還るのと同じように。
 困ったような笑みを刷いて、噛みしめるように囁いた。
「……できれば、君が年を重ねていく姿も、映していきたかったのだけどね」
 輪は胸裏に浮かぶ面影へ思い馳せる。胸にそっと指先添えれば、長い睫毛が伏せられる。
 知っている。
 それがもう、叶うことがないものだということを。
「……幸せ、だったよ」
 幸せでした。
 君と過ごした時間は桜のように美しく咲き誇っていました。
 一陣の風が吹き抜け、輪の黒髪を翻していく。黄昏が桜を掬って攫って行く。
 ありがとう、そんな輪の呟きは誰に耳にも届かない。それでいい。それは今この場にいない、先の幻影に居た『主』にだけ伝えられればそれでいい。
 柔らかに映し出すのは、鏡として、大切に慈しみ使ってくれた君へ捧ぐ、心からの感謝の彩だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
晴天の桜や、月明かりの下の桜には何度か出会ったが。
其の半ば、黄昏時の桜を愛でるのは初めてかも知れない。
何時如何なる時でも桜は美しいが、果たしてどのような姿を見せてくれるのだろうか。

最近のスマートフォンは高性能だな、写真も綺麗に撮れる
良き構図を狙って、夕暮れに優しく揺れる桜を記念に収めようか
花を咲かせた枝が近くにまで伸びてきていたら
ピントの合うギリギリまで近付けて桜の花のアップも撮りたいな
もしも気の早い月が出ていたら、其れも共に収めて一枚頂きたく

こうしてたくさん記念の写真を撮っておくと、後から何時でも見返せて実に良い
飛び切りの一枚は待ち受け画面にして皆に自慢するのだ

帰りは喫茶店にでも寄ろうかな



●はなみちて
 青空に映える薄紅の桜、月光に浮かび上がる真白い桜。そういったものは見たことがあった。
 しかしそのちょうど狭間にいる黄昏の桜を眺めるのは初めてかもしれない。そう思えばニコ・ベルクシュタインの胸裏に興味の光が瞬いた。何時如何なる時でも桜は綺麗なものだが、果たしてどんな彩を見せてくれるだろうと思えば心が浮き立つ。踵が軽い。
「最近のスマートフォンは高性能だな、写真も綺麗に撮れる」
 カメラアプリを立ち上げて傾げてみる。良い塩梅の角度を見定めて、日暮れの橙に染まる桜の輪郭を捉えた。
 一際美しく綻ぶ花を揺らす枝が視界に入れば、それもまた切り取れるようズームしようか。エフェクトをかけなくても十分幻想的な佇まいの桜に、ニコの紅玉の眸が柔らかく細められる。
 何枚かを撮り終え視線を上げたところで、未だ仄かに蒼を残す空が見えた。淡く月が浮かんでいる。まるで昼と宵のあわいに取り残された忘れ物みたいだ。
 これもまた一興か、そう思って再び切り取ってみよう。
 画面の中に閉じ込められた月と花。まるで美しい絵画のようにも見えるその風情。
「こうしてたくさん記念の写真を撮っておくと、後から何時でも見返せて実に良い」
 満足げに顎を引く。カメラロールを辿ればたくさんの景色がある。仲間の姿もある。そして――そこまで考えたところで口許に柔い笑みが刷かれた。
「さて、待ち受け画面はどの写真にしたものか……」
 皆に自慢するのだから、飛び切り綺麗な一枚が望ましい。しばらくそうして思案顔で首を捻る頃、春の風がニコの頬を撫でていく。
「おお」
 風に攫われたのか、花弁がひらりとスマートフォンの上に舞い降りた。その時見ていた写真が選ばれた気もして、さっそく待ち受け画面に登録する。
 帰りは喫茶店にでも寄ろうかな、なんて小さな呟きもまろび出る。
 あたたかい飲み物を喉に落とそうか。今一度桜の思い出を重ねて誰かさんに伝えるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

遙々・ハルカ
》人格『ハルカ』

一人でぶらぶら
や、二人か?

花見っつーとやっぱこうフツーが一番だな
オブリビオンだっけアイツらじゃさ
ほら、風流?風情?ってのが足りねェよ
知らんけど

オレにゃトヲヤの考えもやったこともメモってくれなきゃわかんねェのに
お前はどーせオレと一緒に見てんだろ、花
ズルイよなァ
片手ではらと落ちる花びらを追い掛け

桜の下に死体がどうのってハナシ
梶井基次郎もそうだけど
アレさァ、多分民俗学みてーな分野よな
調べりゃわかるんだろうけどさ
そもそも死体みてェなでかい異物が根元にあったら
成長の邪魔になってその樹は枯れるって方が理に適ってる
…いや?
これが風流ってヤツのひとつかもね

自販機でオニオンコンソメでも買って帰ろ



●はながすみ
 ひとりで、花を見る。
 否。正確にはふたりか。それはさておいて、遙々・ハルカは夕暮れに微睡む桜を眺める。
 特別な謂れはなくていい。何の変哲のない春の花でいい。桜はただ咲くだけで十分綺麗だ。
「花見っつーとやっぱこうフツーが一番だな。オブリビオンだっけアイツらじゃさ、ほら、風流? 風情? ってのが足りねェよ」
 知らんけど。
 独り言つ声は、沸騰する薔薇色の光に呑まれない。
 黄昏を煮詰めて焦がしたみたいな金色の瞳が、皮肉気に細められる。
「お前はどーせオレと一緒に見てんだろ、花。ズルイよなァ」
 こちらにしてみればトヲヤの考えも、トヲヤが行った行動も、メモ等の記録に残ってなければ把握出来ないのだ。
 溜息が落ちた。それを追いかけるように花弁が一枚、眼前に降りてくる。指先で手繰るように捕まえる。
 掌の上、花弁は柔い橙を刷いたような色をしている。
 ハルカが思い馳せるは、そもそも今回の一件の発端となった言い回し。
 ――桜の樹の下には、屍体が埋まっている。
「梶井基次郎もそうだけど、アレさァ、多分民俗学みてーな分野よな」
 様々な都市伝説が混ざって伝搬したそれ。逸話も調べればわかるのだろうけれど、生憎それを正確に分析しようなんて、ハルカは別に思っちゃいない。
 そもそも屍体は養分になり得ない。植物からすれば異物だろう。そんなものが根元に埋まっていたら花が色付くどころか、成長の邪魔をして樹が枯れるという流れのほうが理に適っている。
「ああ、いや」
 首を捻る。だからかもしれない。
 本来あるべき姿に『ならなかった』からこそ、桜の君が生じたのかもしれない。
「……いや?」
 ハルカの口許には歪んだ笑みがひとつだけ。顎を擦り、桜を見上げて呟いた。
「これが風流ってヤツのひとつかもね」
 そういうことにしておこう。
 自販機でオニオンコンソメスープでも買って帰ろう。今日の空の色にも似た、滋味に満ちた凝った色を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
斜陽に染まむてにじむ春
たそがれの中
ひそりと、見つめて想うのは
あの君にかけられた
いくつもの祈りの数

いつから、すり替わっていってしまったんでしょうね

目的と手段
想いや狂信

花揺らす桜は
言葉は交わせはしないけど

連れはいないので
皆を送り出してくれた
メーリさんに
彼女も桜を見ていたら声をかけてみようかな

綺麗ですねえ
送り出し、ありがとう
花見は好きですか?

もうここで過去に捧げられるものはないし
賑やかに、花見でひとの笑みが咲けばいいですねえ

先客がいればお邪魔はしません

命をかけるんじゃなく
手をかけるだけで良かったろうに

桜は儚い
けど人のいのちも短い
得難く、二つとない
うつくしいものを
捧げず、眺め、共に咲いて欲しかったな



●はなえんで
 落日は熟れ過ぎた橙のようだ。
 暮れ往く春に身体を浸して、冴島・類は鶸萌黄の眼で咲き綻ぶ桜を眺める。
 その向こう側に透かすように、先程相対した神性へ思い馳せる。
 幾つも捧げられた祈り。ひとつ、ふたつ。指折り数えれば決して濁っていなかっただろう願い。
「いつから、すり替わっていってしまったんでしょうね」
 目的と手段。
 想いや狂信。
 損なう側に転じたその理由を、花揺らす桜は語ってはくれない。
 春風が吹き抜けた。近くで桜を仰ぎ見ていたメーリを見つけ、類は近くに歩を寄せて呟く。
「綺麗ですねえ」
「うん、とっても綺麗だよね」
 弾む声ではなく、反芻するような声音。「送り出し、ありがとう」と類が言えば「じゃあ私も、向かってくれてありがとう」なんて返事が届く。
 肩を並べて何ともなしに桜を眺める。柔らかであたたかで、哀しいくらいに美しい花を見る。
「花見は好きですか?」
「好きだよ。……そう言えるようになってよかった」
 誰かの犠牲が横たわっているとすれば素直に好きとも言えまい。予知に応えて戦ってくれた猟兵たちの健闘あってこその今だから、メーリはもう一度「ありがとう」を手渡した。
 類も笑みを深めて、再び視線を桜へ向ける。
「もうここで過去に捧げられるものはないし、賑やかに、花見でひとの笑みが咲けばいいですねえ」
 昏くて血に塗れたお話にエンドマークを拵えた。誰も泣かなくていい。純粋に綺麗だねと言い合えるさいわいを甘受出来たらいい。
 ああ、それでも。吐息を微かに噛んで類は囁いた。
「命をかけるんじゃなく、手をかけるだけで良かったろうに」
 また来年も綺麗に咲いてねって願うだけで留まれば良かった。思い出を重ね、心癒されるだけで良かったのだ。本当は。
 桜は儚い。
 けれど人のいのちも短い。
 得難く、二つとないもの。どちらが偉いとか優先させるとかではなく、どちらも大事にすれば犠牲は出なかった筈なのだ。
「そんなうつくしいものを、捧げず、眺め、共に咲いて欲しかったな」
「……そうだね」
 類とメーリの声が夕映えに溶ける。
 今はただ軋んだ何かを横に置いて、只管に桜に魅入っていよう。
 何も傷つけず、奪わず、ただそこに在る美しさを愛でていよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユナ・ニフェトス
時間をかけて、一歩ずつゆっくりと先へ
視線は桜から逸らさず目に焼き付けるように

青空の下で咲き誇る桜、星空に輝きに照らされた桜
でも、この桜を見るのは初めて
またひとつ、新しいことを知れた

まるで時間帯によって表情を変えているみたい
ああ、きれい

肩に乗っているシマエナガも、とても満足しているみたい
言葉は分からなくても一人と一匹、分かちあえる友がいるというのはいいですね

春の僅かな時間を彩る花、始まりの花
寂しさもある、けれど希望にも満ち溢れている
明日も、その先も、がんばろう
そう思わせてくれる不思議の花

素敵な時間をありがとう
また、来年会いましょう



●はなふぶき
 暮れかぬる頃、風に吹かれて桜が波のように音を立てる。
 それを味わうように聞き届けながら、ユナ・ニフェトスは並木道を往く。視線は上げたまま桜から逸らさない。瞼の裏に焼き付けるように、真直ぐに。
 今まで蒼天の下咲き誇る桜も、満天の星の煌きに照らされた桜も見たことがある。
 けれど夕暮れ時、沸騰するような茜色に包まれて咲き綻ぶ桜を見るのは初めてだ。時間帯により桜も玄妙にその趣を変える。凛然と、密やかに、妖艶に。どの表情も麗しいことに違いはないから、またひとつ新しい発見と出逢えたことが嬉しい。
「ああ、きれい」
 感慨深げなユナの呟きに、肩に乗ったシマエナガも満足げに囀ってみせる。言葉は交わせなくとも想いは交わせる。小さな友へ向けられる白銀の双眸が柔らかく緩められた。
 白の娘と白の鳥が、薔薇色に染まる黄金の昏に包まれる。
 桜が咲くのは春の中でも限られた時期だ。ふくよかに広がり行く春の始まりを萌す花。四季の境目を花で知ることが、ユナの心に温かい何かを滲ませる。
 季節の移り変わりを思えば寂寞が胸に雫を落とした。けれどその波紋は哀しいばかりではない。豊かな希望にも満ちていて、ゆっくりと胸裏に広がっていく。
「明日も、その先も、がんばろう」
 ユナの口から自然と言葉がまろび出た。大丈夫。そう背中を押してくれる、不思議で優しい花が咲いている。
 そっと繊手を差し伸べたなら、誘われるように花弁が降る。ひとひら捕まえて、約束めいた言葉をひとつ。
「素敵な時間をありがとう。また、来年会いましょう」
 未来は今と地続きで繋がっている。
 来年も友と一緒に、絢爛の桜と出逢えますように。
 祈りのような想いこそが、夕映えの中で花開いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
メーリさんに声をかけてみます。

転送お疲れ様でした。シャバの空気は美味しいですねえ。
ああいやナンパじゃないですよ!
独りだとどうにも手持ち無沙汰で。
何なら3メートルくらい離れてますから。

桜の樹の下には屍体が埋まっている――なんて聞くと
私達は当然のように人の屍体を想像するわけですが。
動物の屍体でも花を染めるに足るというのに、ねえ。
人の屍体が良いんですって。

美しい人の命は美しい花を咲かせるだとか。
亡くした人が春の日に逢いに来る、だとか。

まったくロマンチストですよねえ。

おっといけない、メーリさんを長く引き留めていると
怒られちゃいますね。

桜に対してどう思ったのか、でしたっけ。
綺麗だなあって。それだけです!



●はなごろも
「転送お疲れ様でした。シャバの空気は美味しいですねえ」
 桜をぼんやりと眺めていたメーリに話しかけたのは狭筵・桜人だ。
 水晶の瞳をぱちくりさせる娘に、桜人は屈託なく破顔してみせる。手を横に振る。
「ああいやナンパじゃないですよ! 独りだとどうにも手持ち無沙汰で」
 何なら3メートルくらい離れてますから、なんて嘯いて本当に足を後ろに動かそうとするものだから、メーリが小さく噴き出した。びっくりしただけだから大丈夫だよって笑みを解けさせて、隣に並んで桜を仰ぎ見る。
 膨らませるようにふわり綻んだ風に、花弁が煽られて舞い上がる。
 日暮れに染まる桜は確かに薄ら怖くなるくらい綺麗だ。それを見て、桜人はぽつりと呟いた。
「桜の樹の下には屍体が埋まっている――なんて聞くと、私達は当然のように人の屍体を想像するわけですが」
「ああー確かにそうかも」
 元の小説を読んだ人間はそう多くないだろう。何となく耳に残るフレーズというだけで、真偽を確かめようとする人間はさらに少ないはずだ。
 動物の死骸では駄目なのだろうと何故か当たり前のように想定してしまう。
 血の通った人でなければならない。
 思い込みなのかそうでないのか、判別のつく者は稀だろう。
「人の屍体が良いんですって。美しい人の命は美しい花を咲かせるだとか。亡くした人が春の日に逢いに来る、だとか」
「そうなんだ。詳しいねすごいね」
 桜人の博識ぶりにメーリは小さく拍手する。その様子にくすぐったそうな笑みを刷いて、桜人は琥珀の双眸を眇めた。
 嘆息ひとつを挟んで、他人事のように言う。
「まったくロマンチストですよねえ」
 もしかしたら。
 そこに所以を見出そうとするからこそ、その出処が人でなければならないのかもしれない。
 僅かに眉根を寄せたかと思えば、桜人はすぐに剽軽な様子を取り戻す。
「おっといけない、あんまり長く引き留めていると怒られちゃいますね」
 もう行こうと踵を返そうとしたところで、ふと。
 予知の時に聞いた問いを思い出したから、桜人は眼差しだけを娘に戻して告げる。
 ――桜に対してどう思ったのか、という話。
「綺麗だなあって。それだけです!」
 黄昏に染まる桜並木で、透き通るような声でそう言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
アドリブ歓迎

愛しい人魚の手をとって
桜回廊を歩み行く
幽玄咲く並木道
無邪気に花弁と戯れる人魚が愛おしい

綺麗ねリィ
桜も綺麗だけど何よりあなたが
リィは身も心も全て綺麗ね
勿論
根元に死体…なんて迷信
桜があまりに美しいからそんな話がうまれたの

(この子に知られるその前に
処分しましょう
千年桜の根元深くに埋めた

憎いかつての愛の亡骸を)

黄昏時は逢魔が時
魔の時間

リィと目が合えば優しく微笑み撫でる
こんなあたしが一番綺麗な櫻だなんて
真っ直ぐで純真で可愛い子
はやく逃げて
逃がしてなんてあげないわ

桜は清く美しい
それでいい

あたしはあなたの美しい櫻
それでいい

昏くなる前に帰りましょ
ずっと手を握っててあげるから


リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
アドリブ歓迎

はらり舞う桜
黄昏時の桜はいつもと違う茜色
僕の櫻の手をとり游ぐ並木道は格別で
嬉しくて歌が零れる
「櫻宵――桜。綺麗だね。夕暮れの桜もいいな」
舞う花弁を尾鰭で扇ぎ戯れて
君へ笑いかける

「そう。こんな綺麗な桜だもの。迷信だよね」
僕の櫻がいうんだから間違いない
そう?僕は君の方が綺麗だと思うけれど
優しい櫻
だいすきな櫻

僕は思うんだ
(君になら君の桜の根元に埋められたっていい……って)
君の桜になれるかな、なんて
清い桜に失礼かな

桜の双眸に捕えられれば撫でられて
嬉しくなって笑う
やっぱり僕の櫻が一番綺麗だ!
逢魔が時でも大丈夫

愛しい櫻がこの手をとって
いざなってくれるだろ
甘く美しい櫻の宵へ



●はなあかり
 昼間とは違い、黄昏時の桜は艶やかでいっそう豊かだ。
 繋いだ手があたたかい。花の漣にも似た桜回廊を、誘名・櫻宵とリル・ルリが泳ぐようにそぞろ歩く。
 リルの花脣から零れる旋律は、夕焼け彩るわらべうた。歌声に誘われるように花弁がひとひら、リルの空いた掌にたどり着く。
「櫻宵――桜。綺麗だね。夕暮れの桜もいいな」
 ご機嫌なリルの尾鰭が扇げば、ふわり花弁も舞い上がる。
 人魚の無邪気な様子をこそ慈しんで、櫻宵は緩やかに花霞の双眸を細める。
「綺麗ねリィ。桜も綺麗だけど何よりあなたが」
 リィは身も心も全て綺麗ね――その呟きは本音の響きに満ちている。けれど言われた当人は薄花桜色の瞳をぱちりと瞬かせるばかり。
「そう? 僕は君の方が綺麗だと思うけれど」
 優しい櫻。
 だいすきな櫻。
 どんなに目の前の花が美しかろうと、目の前の櫻がいっとう美人に決まっている。それこそ謂れに関わらず。そんなリルの想いを掬ったように、櫻宵は長い睫毛を伏せてみせた。
「根元に死体……なんて迷信、桜があまりに美しいからそんな話がうまれたの」
「そう。こんな綺麗な桜だもの。迷信だよね」
 僕の櫻がいうんだから間違いない。全幅の信頼を携え咲き誇るリルの微笑みに、櫻宵は僅かに吐息を噛みしめた。
 心の底に沈めたはずの何かにそっと蓋をする。
 ――この子に知られるその前に処分しましょう。千年桜の根元深くに埋めた、憎いかつての愛の亡骸を。
 憂慮に浸る櫻宵の眼差しは尚も艶やかだ。だからきっと、そこに影が差したのも玉響のこと。
 ふたりの輪郭が茜色に覆われる。黄昏時は逢魔が時だ。人ならざる者が闊歩する魔の時間だ。
 だからこそ、なのかもしれない。
 ふたりの視線が惹かれ合うように重なったのは。
 逆の手を伸ばして櫻宵がリルの髪を優しく撫でる。
 こんなあたしが一番綺麗な櫻だなんて、本当に真っ直ぐで純真で可愛い子。
 掌からそんな気持ちが伝わったように、くすぐったそうにはにかんでリルは口を開いた。
「僕は思うんだ」
 ――君になら君の桜の根元に埋められたっていい。
「君の桜になれるかな、なんて」
 裏腹な想いを繕って眉を下げる。その僅かな間に潜む何かを、聞こえないのに感じたみたいだ。声にならない感情が錯綜する。
 ――はやく逃げて。
 ――逃がしてなんてあげないわ。
 櫻宵の秀麗な面差しが陰る。どちらも本心のように重なり合って軋むものだから、リルが首を傾げる様に気付くのが遅れた。
「そんな風に思うなんて清い桜に失礼かな」
 おずおずと告げるリルに櫻宵がかぶりを振った。
 桜の眼に映るあなたは、清くて美しい。
 それでいい。
 而してあたしはあなたの美しい櫻。
 それでいい。
 もう一度櫻宵が秘色の髪を柔く撫でれば、歓びを咲き綻ばせるようにリルが笑う。
「やっぱり僕の櫻が一番綺麗だ!」
「そう? ……ふふ、昏くなる前に帰りましょ」
 ずっと手を握っていてあげるから、大丈夫。
 そうしてふたりは桜並木を歩いていく。魑魅魍魎が闊歩する宵の口でも、はぐれたりはしないから。
 共に行こう。
 うたかたの幻想が揺蕩う、甘く美しい櫻の宵へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミンリーシャン・ズォートン
フーカさんのお誘いを受け大好きな【蝉時雨】の皆と参加

呼称→井艸さん、フーカさん、コガネさん、ナユさん

『フーカさぁ~んっ、お待たせしましたー!』

息を切らしながら瞳を輝かせ招待してくれたお礼を伝え

黄昏時―
いつもはその時刻になると夜営の準備で忙しいけれど今日は夕陽に照らされた桜に見惚れその幻想的な雰囲気に小さく声を溢し

途中フーカさんから此処に至るまでの経緯を聞けば、怪我は無かったかと心配したり
コガネさんを誘って桜の下に積もった花弁を被せあいっこして遊び

『ナユさん、井艸さーん、どぉーんっ♪』

子供の様にはしゃぎながら、フーカさんを含めた3人にも桜の花弁をふわり、頭の方からかけて皆と一緒の一時を楽しみます


フーカ・フダラク
【蝉時雨で参加】全5名
呼称
日本名→苗字
洋名→名前
敬称なし

大勢のほうが楽しかろうと旅団の友と待ち合わせ
心配の声に大丈夫だと笑い

ふふ、わが国には花より団子なんて言葉があるがね
時には空を見上げ
散り行く桜をただ眺めるのも良かろう

…先まで戦っていた邪神は
桜の君といって心地の良い幻を見せるのだが
動揺したはずが、もう覚えていないのだ
皆ならどんな幻を見ただろうなあ
不思議そうに首を傾げて

視界には黄昏を透かした花びらばかりで
本当に夢の中のようだ
天使の掛け声と共に降る花びらと皆の笑い声に
なるほど心地のよい夢とはこのことなのだろうか

さてと
仕返しに怖い話をしてやろう
知っているかね、桜の樹の下には――


井艸・与
【蝉時雨で参加】

フーカは誘ってくれてありがとな
まずは戦いお疲れ様、怪我はなかったか?
よかったら、どんな相手だったのか、どんな戦いだったのか
フーカの話を聞かせてくれ

昼に見る桜も綺麗だが、黄昏に佇む桜はそれとはまた雰囲気が違うな
昼の桜は活気に満ちているように見えるが、今は儚く、愁いを帯びてさえ見える
このまま夜の帳の中に呑まれていってしまいそうだ

桜の花びらで遊ぶミンリーシャンの様子をくすくすと笑って見守るが……
花びらをかぶせられたら、やり返すしかないよな?
「そーれっ、仕返しだ!どーん!」
仕返しした後、フーカ、七結、コガネも巻き込んで花びらをふわりとかける
桜の季節の思い出が、またひとつ増えたな


七篠・コガネ
【蝉時雨で参加】
地上で桜を見るのは初めてです!…でもどこか懐かしいのは何故でしょう?
なんだか気が遠くなる程昔に…大好きな人と一緒に見た事があるような…
…昔かぁ…夕暮れってどうして淋しい気持ちになるんでしょうね
茜色に染まる桜。帰りたいなぁ…
銀河帝国の滅亡は平和の訪れとなりましたが、でもそれは僕の故郷の喪失でもあった
僕は……何処へ帰ろう?

フーカさんの話に耳を傾けます
先程までオブリビオンがいたのですね…こんなに穏やかな場所なのに
で、ミンリーシャンさんと桜の花弁を被せあいして遊びます
えへへへ~…他皆さんにも花弁をブチ撒けてやりますよ!
身長差ハンデはやりませーーん

え…樹の下に…何です?


アドリブ・絡みOK


蘭・七結
【蝉時雨】
誘いの声に応じて桜樹の元へと降りたつ
お疲れさま、フーカさん
幻惑と蠱惑の化身――桜の君、
フーカさんのお話を、聞かせてちょうだい

宵に解けるサクラは、何処か憂いを秘していて
舞う一片をその手に閉じ込める
大勢でサクラを眺るなんて、はじめてだわ
コガネさんと、ミンリーシャンさんから降り注ぐサクラの花吹雪を全身で浴びて
フーカさんとタスクさんと、顔を合わせて笑う
両手いっぱいにサクラの花弁を掬って
四人目掛けて、宙へと遊ばせる
ふふ。お返しの、サクラの花時雨よ
視界に広がるサクラ色は、とても美しくて

少しずつ、夕闇が深まってゆく
賑わう声に耳を寄せれば、自然と笑みが溢れ
瞳を閉じれば浸透してゆく、心地良い声色たち



●はなびより
 黄昏に咲き綻ぶ桜並木に元気な声が響いた。
「フーカさぁ~んっ、お待たせしましたー!」
 ミンリーシャン・ズォートン(綻ぶ花人・f06716)がふわり水色の髪を揺らして、黄昏の下で大きく手を振る。
 そのままの勢いで息を切らせて、ミンリーシャンは飛び込むように駆け寄った。その笑顔に「誘ってくれてありがとう」って書いてある。その傍らにも見覚えのある仲間の姿があった。
 それを見止めたフーカ・フダラクは金の双眸を細める。どうせならば大勢のほうが楽しかろう、そんな意を汲んだかのように井艸・与(人間のUDCエージェント・f03832)がフーカの顔を覗き込んで尋ねる。
「フーカは誘ってくれてありがとな。まずは戦いお疲れ様、怪我はなかったか?」
「大丈夫だ。大事ない」
「なら良かったけど……」
「お疲れさま、フーカさん」
 進み出たのは蘭・七結(恋一華・f00421)だ。紫晶石の瞳を緩やかに細めて問う。
「幻惑と蠱惑の化身――桜の君と、フーカさんのお話を聞かせてちょうだい」
「そうそう。どんな相手だったのか、どんな戦いだったのか聞かせてくれ」
 興味の色を湛えて与が嘯けば、隣にいた七篠・コガネ(その醜い醜い姿は、半壊した心臓を掲げた僕だ・f01385)がはたと視線を下ろす。桜に魅入っていたのは明白だった。
 仲間の視線が集まるのを感じて、コガネは軽く頬を掻いて見せる。
「地上で桜を見るのは初めてだったので、つい。……でもどこか懐かしいのは何故でしょう?」
 ずっとずっと遥か昔に、大好きな人と共に見たことがあるような。
 不思議な感慨と共に押し寄せる浮遊感は、桜の波間で揺蕩うのに似ている。誰ともなく桜並木に視線を向ければ、応えるように桜花が華やいだようにも見えた。
 先の戦いも経てこそだろう、フーカの声は少し感傷めいたものも帯びていたかもしれない。そうでもないかもしれない。
「ふふ、わが国には花より団子なんて言葉があるがね。時には空を見上げ、散り行く桜をただ眺めるのも良かろう」
 一人ではなく、仲間と一緒なのだから尚の事。
 そんな言外の意味を言わずとも肌で感じて、与は頭の後ろで手を組んだ。視線の先には沸騰するような夕暮れに浮かび上がる桜の姿。
「昼に見る桜も綺麗だが、黄昏に佇む桜はそれとはまた雰囲気が違うな」
 与の言葉をきっかけにしたわけでもあるまいが、強めの突風が桜並木を駆け抜けた。
 煽られるように桜の花弁が舞い上がる。ひらり、ひらり。宵のひとひらが散ったかのようだ。
「昼の桜は活気に満ちているように見えるが、今は儚く、愁いを帯びてさえ見える。このまま夜の帳の中に呑まれていってしまいそうだ」
「そうね。宵に解けるサクラは、何処か憂いを秘しているよう」
 掌に落ちた花弁を、七結は蝶を捕まえるように閉じ込める。指先で優しく花弁を撫でた。
 そんなやりとりを耳に挟んだコガネは、黄昏の後ろ、もっと遠い果ての景色を見据えながら囁いた。
「……夕暮れってどうして淋しい気持ちになるんでしょうね」
 ――帰りたいなぁ……。
 そんな小さな呟きは春の夕映えと重ねられる。思い馳せるのは猟兵として決死の大作戦であった先の戦争。
 銀河帝国の滅亡は平和の訪れであった、しかしコガネにとってそれは故郷の喪失でもあった。
 そんなことを考えてしまう程度には感傷的になっている自覚はあった。それはこの春茜に咲き誇る桜のせいか、伝わる逸話があまりに哀しみを彷彿とさせるものだからか。
「僕は……何処へ帰ろう?」
 コガネの声を聞き届けて、仲間たちはされど敢えて踏み込みはしない。そっと隣で大丈夫だよって示すように隣にいる。
 ミンリーシャンも視線を巡らせる。日暮れが宵に滲んでいる。いつもはこのくらいの時間になると野営の準備で慌ただしくなるものだが、今日は違う。
「さみしいけれど、きれいですね」
 素直な感想が零れた。綺麗だ。橙色に染められた桜は優しい彩をしている。どこか柔らかで幻想的な空気も相俟ってつい、見惚れてしまう。
 誰ともなく桜の並木道を歩き出す。世間話の風袋でフーカは言葉を紡いだ。
「……先まで戦っていた敵は、桜の君といって心地の良い幻を見せるのだが」
 邪神と言えども神とは認めない、そう判別した彼奴の幻。
 しかしそれはあまりに甘美だった。けれど。
「それが動揺したはずが、もう覚えていないのだ」
 冗談めかして嘯いて、フーカは肩を竦めた。
 怪我はなかったかとミンリーシャンが心配げに見つめれば、それも軽く「大丈夫だ」と、本当に何でもないように言ってのける。
「先程までオブリビオンがいたのですね……こんなに穏やかな場所なのに、地下の通路の先ではそんな戦いが」
 コガネが唸るように顎に手をやる。フーカの口吻からして搦め手が得意そうな相手だ。
 故に心配も尤もではあるが大きな被害もなく終わってよかった、というのは共通の見解だろう。
「でも本当に無事に終わってよかったよ」
 与の言葉がすべてを言い表しているような気がする。
 フーカは思案巡らせ、首を傾げてみせる。
「皆ならどんな幻を見ただろうなあ」
 幸福と苦痛の幻惑。どちらにせよ皆と一緒なら頼もしかったろうに、そう思えば心が凪いだ。
 風が吹いて黄昏透かした艶やかな桜がさざめく。淡いのに鮮烈で、眩いのに穏やかだ。
 それこそ目の前の光景こそが幻影めいて、七結が一際穏やかな微笑みを刷く。
「そういえば大勢でサクラを眺めるなんて、はじめてだわ」
 たわいのない幸福が目の前に咲き綻んでいる。ミンリーシャンがコガネを誘って、桜の樹の下、土の中ではなく樹の根元に降り積もった桜の花弁を集めているようだ。幼い所業が、皆とだからこんなにも楽しい。
 最初はふたりで掌から零れる花弁をかけ合って遊んでいるようなものだったけれど。
「えへへへ~……他皆さんにも花弁をブチ撒けてやりますよ!」
「フーカさん、ナユさん、井艸さーん、どぉーんっ♪」
 天使が福音を振りまくみたいだ。
 コガネとミンリーシャンが仲間たちの頭上へたくさんの花弁をふわり舞わせる。視界に降り注ぐ桜は天使の羽根にも似ている。コガネの長身を活かした振る舞いに、誰ともなく優しい笑顔が花開く。
「なるほど心地のよい夢とはこのことなのだろうか」
 フーカの脣から納得がまろび出た。負けじと桜を掬った七結もまた、手を伸ばして高い位置から花弁を翻した。
 春風に乗って華やかに、茜色に染まるひとひらはうつくしい。
「ふふ。お返しの、サクラの花時雨よ」
「こっちもそーれっ、仕返しだ! どーん!」
 与も便乗して花弁を降らせるものだから、視界に広がるサクラ色は、これ以上なく鮮やかに爛漫の春を彩る。
 何より皆の笑顔こそが何より綺麗な花なのだと、言わずとも知れたこと。
「さてと、仕返しに怖い話をしてやろう。知っているかね、桜の樹の下には――」
「え……樹の下に……何です?」
 フーカの鷹揚とした口振りにコガネが慄いた。皆で話に聞き入ろう。ゆっくりと日が暮れていく。
 少しずつ、宵を浸すように夕闇が深まってゆく。
 仲間たちの賑わう声に耳を傾けていれば、七結の口許が淡く綻んだ。
 ゆっくりと瞼を閉じれば尚の事、春の夢みたいに心地よい声色が耳朶を打つ。
 そうして染み渡る、何より優しい幸福がそこにはあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
一本、直感で選んだ桜の木の下に寝転がる
桜以外目に入らないくらい近い位置から見上げる
夕暮れなのに、今日のこの目には君の桜色が眩しい
煙草の煙をぷかぷかと浮かべたら、きっとピンクに染まるだろう
それが桜の魅力さ

人命やら何やらを救うだのなんだのには
見返りってのを用意してから行くんだけど
今日ばかりは下心なく「救った」優越に浸ってもいい

頑張った、頑張った
一杯やりたいもんだ



●はなうつろ
 その桜を選んだのは直感だった。勘と言い換えてもいいかもしれない。
 樹の根元にごろり寝転んだロカジ・ミナイの視界を埋め尽くすのは絢爛の花靄。軽く視線を巡らしても、桜、桜、桜。黄昏に包まれる桜はその色彩を際立たせるようで、世界を染め上げる茜色よりずっと眩しい。
 花弁の漣を視線で追いかける。ああ、煙草の煙をふかしてみれば、それすらも淡いピンクに染まるだろう。
 春に於いて桜以上に鮮やかに景色を塗り替える花はない。すべてが桜の虜になる。
 それすらも桜の魅力なんだろう。ロカジの青眼が柔らかく細められる。
「あーあ。人命やら何やらを救うだのなんだのには、見返りってのを用意してから行くんだけど」
 戯れに指先を伸ばしてみれば、応えるように桜が綻ぶ。花ですら誰かの心を糧に咲くのだ。況や人であれば何とやら。
 それでも。
 ひとひら、鼻先に花弁が舞い降りる。ロカジが小さく笑みを刷く。そう、そんな些細な歓びでよかった。今日ばかりは下心なく『救った』優越に浸ってもいいだろう。
 手を身に引き寄せて、軽く指先で鳩尾を叩く。眷属や桜の君との戦いの先、快い疲労が己を満たすから。
「頑張った、頑張った。一杯やりたいもんだ」
 自分へ薄紅色の労いを贈ろう。
 誰が讃えずとも己が軌跡は己が知っている。
 今宵は花見酒と洒落込んだって、きっと許されるはずだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
残夏ちゃん(f14673)と

こんな日もあるわよね。
こちらこそ、助かったわ。お疲れ様。

手を挙げて応えて、ちょっと笑う。
ぱちん、という軽い音が存在証明。

きれいなものは、おそろしくもあるのよ。
桜の季節はそわそわしてしまうのだけれど、たそがれどきは尚更。
怒られるわよ、未成年。
今年の内はジュースで乾杯ね。

それはお互い様ではないかしら。
残夏ちゃんのことを沢山は知らないけれど、
こんなところまで来てしまったのだもの。
……あたしは過去よりも、夢よりも。
体温のあるヒトが居る今の方が好きだわ。

お花見、良いわね。ぱあっと景気付けしましょう。
誰も彼も桜に攫われるような子ではないもの。
賑やかしいくらいがちょうどよいのよ。


黒海堂・残夏
よーこっち(f12822)と

やァ、さっきは奇遇でしたねぇ
よーこっちと一緒だと仕事が早くていいですねえ
ナイスファイトでしたよ〜お
手を挙げてハイタッチ

ヒヒ、本物はやっぱ立派なモンだ
風流とかよく分かりませんけどぉ、キレイなものは良いですねぇ
酒でも一杯呑みたい気分だ
アハ、室長に内緒でもダメですかぁ?ざんね〜ん

――さっき何の幻見たか、聞くのは無粋なんでしょうねえ
よーこっちだって若くても土蜘蛛なんだ
きっとその肩に色んなものを抱えてるんでしょ

ざんげちゃんじゃあ隣に至らないでしょうから
今度お花見でもしましょ、土蜘蛛みんなで
ま、でも、桜の儚さに思いを馳せる前に
騒がしくってどっか忘れちゃうんでしょうね、ヒヒ



●はなめぐむ
 桜の君に相対した時、隣り合わせになったのは偶然だ。
 こうして戦いの後に顔を合わせるのもまたくすぐったい。勝利を分かち合うことが出来るなら、尚の事。
「やァ、さっきは奇遇でしたねぇ。よーこっちと一緒だと仕事が早くていいですねえ。ナイスファイトでしたよ〜お」
「こんな日もあるわよね。こちらこそ、助かったわ。お疲れ様」
 黒海堂・残夏と花剣・耀子は桜の樹の下でハイタッチを交わす。微笑みも交わす。ぱちんと軽やかな音が互いの存在証明だ。
 仰ぎ見る。茜色の宵に包まれて、一際幻想的に微睡む桜花は美しい。
 に、と残夏は口の端を上げた。
「ヒヒ、本物はやっぱ立派なモンだ」
 先の幻惑とは比べ物にならぬ豊かさで春風に揺れる桜。綺麗すぎるから、惧れのようなものも抱かせる。
 だからだろうか。耀子は僅かに肌寒さを感じて腕を擦る。
「きれいなものは、おそろしくもあるのよ。桜の季節はそわそわしてしまうのだけれど、たそがれどきは尚更」
 逢魔が時。人の世の淵のようなもの。越えてしまえば引き返せない深遠を思わせるから、尚の事落ち着かない心地にさせるのかもしれない。
 けれど残夏は桃色の髪を跳ねさせて、あくまで軽妙に嘯いた。
「風流とかよく分かりませんけどぉ、キレイなものは良いですねぇ。酒でも一杯呑みたい気分だ」
「怒られるわよ、未成年。今年の内はジュースで乾杯ね」
「アハ、室長に内緒でもダメですかぁ? ざんね〜ん」
 どちらが年上なのかわからない口吻だ。耀子が小さくため息を零すと、ちっとも残念に思わなさそうに残夏が喉を震わせた。
 宵の口の風は涼しい。ふたりの娘の耳朶を、項を、撫でていく。
 僅かに唇を噛んだのはどちらだっただろう。桜が揺れる。先に意識を浸した幻想を思い出す。
「――さっき何の幻見たか、聞くのは無粋なんでしょうねえ」
 残夏の声は桜に攫われない。確と耀子に届いた。その証拠に耀子は長い睫毛を伏せる。
「それはお互い様ではないかしら。残夏ちゃんのことを沢山は知らないけれど、こんなところまで来てしまったのだもの」
 剣呑な気配帯びた呟き。因縁や懐古、様々なものが胸裏で喘ぐ。
 互いを熟知しているわけではないけれど、こうしてともに過ごす時間が心地よいのは本当だ。だから続く言葉もあくまで和やかに。
「そうですねえ。よーこっちだって若くても土蜘蛛なんだ。きっとその肩に色んなものを抱えてるんでしょ」
「……あたしは過去よりも、夢よりも。体温のあるヒトが居る今の方が好きだわ」
 ぱちりと視線がかち合った。花弁がふわり、一枚舞う。
 同じ組織の一員として、そして同胞として肩を並べよう。ふたりの間の温度は、夢でも幻でもないのだから。
「ざんげちゃんじゃあ隣に至らないでしょうから。今度お花見でもしましょ、土蜘蛛みんなで」
「お花見、良いわね。ぱあっと景気付けしましょう」
 再び桜を見上げれば、歓迎すると言わんばかりに綻んでいる。夕暮れに融ける彩はひどく優しい。
 春はまだこれからなのだから、楽しんだほうがいいに決まっている。
「ま、でも。桜の儚さに思いを馳せる前に、騒がしくってどっか忘れちゃうんでしょうね、ヒヒ」
「誰も彼も桜に攫われるような子ではないもの。賑やかしいくらいがちょうどよいのよ」
 残夏が口許に手を添え悪戯に笑んだら、耀子も満更でもなさそうに肩を竦めた。
 そう。春はまだこれから――爛漫に咲き誇るだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
月夜さん(f01605)と参加しています


今回も一件落着だね。お疲れ様

僕ら2人だけの力ではないけど
自分としては、上々の戦果だったんじゃないかな?と思ってる

しかし、先日正月が明けたばかりの様な気持ちでいたけど。もう4月の桜の時期になってしまったとはね
道理でなんとなく暖かくなってきた筈だな

去年の今頃は正直何してたか思い出せないんだけど。今年の桜も、来年の桜も、人の世がどう遷ろおうとも。相も変わらず今の時期、満開に咲き誇るのだろうね

確約は出来ないけどさ。
来年も、こうして桜を見にこられたら良いなと思う。
今から来年の話をすると鬼が笑うどころじゃないかな??

月夜さん、改めてだけど。今年もよろしくお願いするね


月夜・玲
【戒道・蔵乃祐 f09466】
戒道さんと一緒に参加

お疲れお疲れー。
とりあえず一段落!
私も良いデータが取れたし、事件も解決したしで一件落着。
それに、なかなか良いコンビに仕上がって来たんじゃない、なんてね?

そういえば、もう桜の咲く季節なんだね
月日が経つのがあっという間過ぎて驚くよ
この桜達も、こんな風に月日を過ごしてきたんだろうね
去年も今年も、そしてこれからも…
事件が無ければ、色々持って来て花見とかも出来たんだけどね
まあ花に罪は無いし、せめて楽しむのが犠牲者への手向けかな

本当、先の話。
鬼も大爆笑だよ。
でも、私も来年もこうして見に来れればって思うよ。
うん、行こう約束だよ?

じゃあ、これからもよろしくね



●はなのつゆ
 沸騰するような夕暮れに浸りながらも、尚も桜は存在感を露わに芳しく咲いている。
 それは花のみならず、人も同じ。
「今回も一件落着だね。お疲れ様」
「お疲れお疲れー。とりあえず一段落!」
 桜に寿ぐように見守られ、樹の下で寛ぐふたりがいた。戒道・蔵乃祐と月夜・玲だ。
 根元に腰かけて大きさの違う拳と拳をぶつけ合う。籠められた意思は違えど方向が揃えば、ほら。小気味いい快さが満ちていく。
 思い返すは眷属、そして桜の君との攻防の一幕だ。
 この一撃がよかった、でもここでもう一歩踏み込めたのでは、と戦術的な会話に発展してしまうのはご愛敬。
「僕ら2人だけの力ではないけど。自分としては、上々の戦果だったんじゃないかな?と思ってる」
「私も良いデータが取れたし、事件も解決したしで一件落着。それに、なかなか良いコンビに仕上がって来たんじゃない、なんてね?」
 事実連携は滑らかだったし、遠距離・近距離それぞれの間合いも掴めてきた。手応えを確かに噛みしめて、蔵乃祐はおもむろに視線を上げる。
 風が吹く。桜が煽られ靡いていく。淡い薄紅の波が寄せては返す。
 春だな、なんて今更ながらに実感する。桜は春の訪れを殊更明白に訴える存在なのではなんて、ぼんやりと思考の隅で考えた。
「しかし、先日正月が明けたばかりの様な気持ちでいたけど。もう4月の桜の時期になってしまったとはね」
 道理でなんとなく暖かくなってきたはずだ。以前別世界で捕物帳を展開した時より幾分薄着でも平気になってきた。
 感慨深げな蔵乃祐の言葉に、玲もまた眼を緩めて囁いた。
「もう桜の咲く季節なんだねって今更実感するよ。月日が経つのがあっという間過ぎて驚く位に」
 その一瞬ごとに全力で乗り越えているから、悔いを残すほど暇ではないつもり。
 けれど日々の移り変わりの境界を、穏やかな時間と共に味わうことが出来たなら。
 何も鑑みないというほど、鈍い感性でもないつもりだ。
「この桜達も、こんな風に月日を過ごしてきたんだろうね。去年も今年も、そしてこれからも……」
 玲の声に頷くように、桜がまた風に揺れる。
 その言葉の端っこを掬うように吐息を零してから、蔵乃祐は首を捻った。
「去年の今頃は正直何してたか思い出せないんだけど。今年の桜も、来年の桜も、人の世がどう遷ろおうとも。相も変わらず今の時期、満開に咲き誇るのだろうね」
 桜の君へ屍体を捧げる動きはこれで収束に向かう。憂いはなくなる。きっと華やかに咲き誇ることが出来るはず。
 事件がなければ食べ物や飲み物を持ち寄って花見と洒落込めたのだろうが、流石に今はそうもいかない。まあ花に罪は無いし、せめて楽しむのが犠牲者への手向けかな――なんて玲がふと笑みを刷いた。
 変わりゆく日常にも変わらないものがある。それを綺麗だと思う心がある。
 それをよすがにして、閃いたように蔵乃祐が瞬いた。
「確約は出来ないけどさ。来年も、こうして桜を見にこられたら良いなと思う。……今から来年の話をすると鬼が笑うどころじゃないかな??」
 蔵乃祐があんまり神妙に打ち明けるものだから、玲は小さく噴き出した。くつくつと喉を鳴らして、茶目っ気湛えて口の端を上げる。
「本当、先の話。鬼も大爆笑だよ」
 でも。
 繋げた言葉は真実の色しか宿さない。
「私も来年もこうして見に来れればって思うよ」
 本心だったから、それを紡いで糸にして、未来予想図を織りなせばいい。
 ささやかな約束を桜だけが見守っている。
「月夜さん、改めてだけど。今年もよろしくお願いするね」
「じゃあ、これからもよろしくね」
 ――きっとやくそくははたされるよ。
 そんな明日の声が、聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴守・猛
陽の眩さに目を細め
皆の流れに続くよう、歩き往く

脳裏には未だ、春が在る
いくさの後の束の間の安寧は
あの心地よさを想起する
其を嗤う己も、戒める己も
いくさの倦怠感に包まれた今
鳴りを潜めて
どこかぼうとした頭で
足だけが進む

しかし
――嗚呼
現つの桜を見て、ようやくに
春焼きの罪悪感は薄まるのだろう

花は好きだ
目を奪われる、心を囚われる
その刹那だけは、何を考えずにいても
……赦される気がする
そう思ってしまう事こそが
俺の未熟さなのだろうが

言葉にこそせずにいれど
うつくしき景色に
吐く息は、安堵と感嘆を交え


嗚呼、だが
このうつくしい桜を前にして
ひとは、何を想うのだろう
聞いてみたい気は、する
もしも手が空いていれば
導きの彼女にでも



●はなみどり
 綻ぶ花弁の隙間から覗く陽光は、まるで泉に沈めた輝石のようだ。
 鳴守・猛の、雷鳴思わす金の双眸が柔く細められる。眩さの名残りを追って、人の流れに添うように歩を進める。
 僅かに吐息を食んだ。思い返す。未だ脳裏に広がる春が在る。
 戦いの苛烈がゆっくりとなだらかに収束し、結ばれる安寧。それは厳しい冬を越えた先の春にも似て、快い心地よさを齎すのだ。
 猛はふと胸に手を置いた。優しい穏やかさを嗤う己も、気を許してはならぬと戒める己も、いくさの倦怠感に身を浸した今は鳴りを潜めている。
 朧に霞んだ意識のままで、慣性で動く足が往くままに行く。
 しかし。
「――嗚呼」
 呟きは春風に掠れない。
 現つの桜を見て、ようやく。春焼きの罪悪感が和らぐ様を知る。
 花は好きだ。花は佳い。視線が自然と絡め捕られ、心が囚われるその玉響。微かに、その刹那だけは、理性ではなく感情のまま春を甘受することも。
「……赦される気がする」
 自嘲めいた苦笑が口許に刷かれた。勿論口にも出しはしないが、そんな風に考えてしまうこと自体が己が未熟さを証明するようだ。
 それでも天を仰ぐように視線を向ける。茜に揺れる桜花はとてもうつくしい。薄紅の漣。我知らず零れた息は、安堵と感嘆の彩をしている。
 嗚呼、だが。
 この麗しい桜を目にした時、ひとは、何を想うのだろう。
 極めて単純な興味が湧いて、そこ往くグリモア猟兵の娘に問うた。聞いてみたい気がしたのだと、そう告げて。
「何だろうねえ」
 うーんとメーリは首傾げ。春雷思わす猛と、春の顕現たる桜を交互に見て、娘はゆっくりと唇を開いた。
「次の季節も、こうやって優しい色を見せてくれたらいいなって思う!」
 咲き綻ぶ春の向こう、あたたかいあなたともう一度会えたなら、きっと何より幸せだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
氷鷺(春喰・f09328)と

夕暮れの眩しさに想いを馳せる
この感情を形にする強さは未だ持ち合わせていない
―綺麗だな
音にする言の葉は舞う薄紅のように意味を為さず消え

何かの犠牲の上に成り立つものだったとしたら
否、だったとしても、ならば余計に
焼き付けなければならぬような気がして
秉燭に目を細めど視界を閉ざすことなく
言葉には瞬き

お前はいつだってそうして
自然と正しいと思わせる
真っすぐな言葉を口にするんだなあと
胸がぎゅっとなる

銀色の眸が朱に染まるのを
…まっか。とくすり
―桜は好きか?
それじゃ、夕暮れの朱は?
お前、そりゃあ俺みたいなのに言う台詞じゃねえよ
どーかねえ
薄紅を掴まえようと手を伸ばしながら笑う


忍冬・氷鷺
綾華(f01194)と

風に揺れる薄紅が、一つまた一つと黄昏に染まり行く
瞬きの間にも姿を変える
桜花の美しさたるや

…嗚呼。まるで夢の様だな
今この一瞬を咲き誇る為
永き日々を堪え忍んだ
其れ故の美しさなのだろう
決して何かを代償にして魅せられる姿では無い

届いた声と笑みに
春風の様な心地よさを感じたのは何故か
そっと鬼面を外し
薄紅を追う彼へと応え

あたたかな春を運ぶ桜も、夕暮れ彩る朱も好きだが
それよりもずっと此方の方が好きかもしれん

紅よりも尚深い、赤
優しく燃ゆる生命の色を宿した彼の瞳を真っ直ぐ見つめ
間違いではないと思うんだがな、と微笑い

この景色に何を思い何を視たのか
今は未だ分からずとも
綾華、良い夢はみれそうか



●はなにしき
 潮騒に似たざわめき。それは花弁が揺れる音であり、夕暮れに静かに融けていく。
 宵の黄昏と淡紫が広がる。薄紅と重なれば境界が朧になるほど幻想的だった。そのくせ夕陽のきらめきは胸を刺すほどに眩しい。
 自然が織りなす玄妙な美しさによって齎される、この感情は何だろう。言い表せずに躊躇を噛んだら、浮世・綾華は唇を引き結ぶ。
「――綺麗だな」
 事実を呈する言の葉は、音にはなれどそれ以上のかたちを成さない。舞う薄紅のように霞んで消えていく。
「……嗚呼。まるで夢の様だな」
 忍冬・氷鷺も浅く頷いた。
 瞬きひとつ挟んだだけで刻々と陰影を変え、燃えるような橙に染まるその美しさよ。
 咲き誇る桜が何かの犠牲の上に成り立つものだったとしたら――否、だったとしても、ならば余計に逸らさずに向き合わねばならぬような気がした。そんな綾華の気持ちを掬ったかのような自然さで氷鷺が言う。
「今この一瞬を咲き誇る為、永き日々を堪え忍んだ其れ故の美しさなのだろう」
 思い描くは予知にて知らされた哀しき贄の話。知っている。目の前の桜が綺麗なのは、決して何かを代償にしたためではない。花開く時のために厳しい冬を耐え抜いた靭さが、命の篝火が、鮮やかに人の胸裏に焼き付くからだ。
 そんな事実を鮮やかに提示された心地だ。綾華が瞬いて「そうだな」と短く返す。
「お前はいつだってそうして、自然と正しいと思わせる真っすぐな言葉を口にするんだなあ」
 その言葉は口中でのみ呟かれたから、氷鷺の耳には届いていまい。
 胸の奥が締め付けられたような感覚に陥った。落日の光は燈火のように目の裏を焦がす。赤眼を細めど完全に閉じはしない。
 故に、綾華は隣の銀色の眸が朱に染まっている様子も確かに認識していた。「……まっか」と吐息交じりで笑気を零す。
 氷鷺はその微笑みの気配に眦を緩ませた。まるで春風のような穏やかな心地よさを感じたから。理由はわからない。
 わからないけれど――知らぬ間に氷鷺の手が自身の鬼面を外す。柔らかい春の空気が頬を撫でた。
 それを見計らったかのように綾華が問う。
「――桜は好きか? あとはそうだな、夕暮れの朱は?」
 視界を覆うような爛漫の桜を一瞥して、尋ねた。氷鷺は暫しの間顎に手をやり思索に耽っていたが、一拍の間を置いた後に言葉を紡ぐ。
「あたたかな春を運ぶ桜も、夕暮れ彩る朱も好きだが。それよりもずっと此方の方が好きかもしれん」
 白銀の双眸が辿るのは、 紅よりも尚深い、赤。
 あたたかに燃ゆる生命の煌きを宿した、綾華の瞳をこそ真直ぐ見詰める。
 それがあまりに真摯なものだから、
「お前、そりゃあ俺みたいなのに言う台詞じゃねえよ」
 とおどけて返すも、
「間違いではないと思うんだがな」
 なんて悪びれずに笑みを深められてしまう。
 ゆっくりと蕩けていく黄昏の花霞。この景色に何を思い何を視たのか、今は未だ分からずとも構わない。
 その代わり、何気なしに氷鷺が訊いた。
「綾華、良い夢はみれそうか」
「どーかねえ」
 曖昧に言葉を泳がせて、綾華はひらり舞い降りる花弁を掌に閉じ込めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【宿】の皆と

漸く倒せた、か
宵は本当に助かった
通路を出る迄未だ幻影の中に居る様な気はしていたが…夕日の色を見ると戻ってきたという実感が湧くな
リーゼとリリも無事だったか…本当に良かった

…地上でも桜が満開なのか
咲き誇る桜はとても美しく思わず魅入ってしまうかもしれんが…皆を見れば共に帰路へとつこう
そこに在るだけだろう桜にはきっと人々の想いなど知った事ではないのかもしれんが…
美しく雪の様に儚い桜を見ていると、その薄い紅に先人が死体が埋まっているとそう見るのも不思議ではないか
ああ、でも降る様に咲く桜は本当に美しいな
写真は勿論だ。僅かに表情を緩めつつ写真に納まろう
来年も皆でこの花を見れれば良いな


リーゼ・レイトフレーズ
【宿】の皆と一緒に

いつものように飴を舐めながら
隣を歩くリリーに、こちらこそ、と
逢坂とザッフィーロを見掛ければ
やっほーっと軽く手を振りながら合流しよう
二人共無事なようで何よりだ

ザッフィーロの言葉に耳を傾ければ
思わず桜に見惚れて足を止めてしまうかもしれない
私には詩人のセンスはないけれど
この光景を見ていると不思議とそういう言葉を紡ぎたくなるね

っと、こんな事してたらまたいつものように迷子になっちゃう
あ、写真撮るの?
私も記念に撮りたい撮りたい
自分のスマホを構えて自撮りするように4人で写り
逢坂もザッフィーロもにっこり笑ってー
はい、ピース


逢坂・宵
【宿】のみなさんと

ザッフィーロ君が迷っている時は、導くのが僕の役目でしょう
世界を染める黄昏の色を見れば、戦闘で緊張していた体も解れるというものです
リーゼさんとリリーさんを見つけたならば、手を振り返して
お二人ともご無事でなによりです

見上げる桜の木はどこまでも凛と
桜の花は愛らしくそして美しい
やはり桜は日本人の心です

ザッフィーロ君の呟きを聞いたなら、なるほど、と頷いてから
桜の森の満開の下……ですか
それほど桜の花は人の心を洗い、美しく浄めるのでしょう
そう推測させるほど、儚くも麗しいということです

写真撮影、いいですね
是非やりましょう
来年またきっと、こうして桜を見に来ましょうね


ベルリリー・ベルベット
【宿】の皆と一緒に

リリたち戻ってきたのね
いろいろありがと、リーゼ
んーと思い切り伸びをして、空気を吸い込むわ
リリは宵とザッフィーロなら無事だと思ってたもの
さ、一緒に帰りましょう

舞い散る桜はなんだか雨みたい
あら、ザッフィーロも宵も案外詩人じゃない
リリは美しさを楽しめるなら、死体が埋まってようがなんだっていいわ

ねぇねぇ、せっかくだから皆で桜をバックに記念撮影しましょうよ
来年また皆で桜を見たとき、この写真を見て懐かしむのよ
ほら並んで、笑って笑って



●はなもよう
 ふたりずつの影が、ふたつ。
 夕映えに伸びるそれは長く長く、色濃く地面に落ちている。眷属が蔓延っていた通路を逆に辿る形で地上へと帰ってきたなら、世界を染め上げる茜色の桜が出迎えてくれた。
 春の涼風が頬を撫でる感覚が心地よい。つい声を弾ませて、ベルリリー・ベルベットははにかんだ。
「リリたち戻ってきたのね。いろいろありがと、リーゼ」
「こちらこそ」
 いつものように飴を舐めながら、何気ないような顔をしてリーゼ・レイトフレーズも視線で礼を。黄昏時の柔らかな空気を肺に染み込ませるように歩くうち、見覚えのある姿が視界に入る。
「こうして外に戻ると漸く倒せた、と実感するな。宵は本当に助かった」
 眷属戦、桜の君戦と、頼りになる仲間と肩を並べる僥倖を胸裏に据えて、ザッフィーロ・アドラツィオーネが目礼する。
 特に桜の君の幻惑は厄介だったから、ザッフィーロの声にも自然謝意の色が強く籠められている。受け取った逢坂・宵は緩やかに睫毛を伏せる。
「ザッフィーロ君が迷っている時は、導くのが僕の役目でしょう」
 吐息交じりにそう告げて、空を染める夕焼けに目を細めた。沸騰するような落日の彩を見るだけで、連戦で緊張していた身体もほぐれるというものだ。
 狭い通路を抜けた後だからか不思議な開放感があって、つい安堵の息がまろび出るのも仕方のないこと。
「通路を出る迄未だ幻影の中に居る様な気はしていたが…夕日の色を見ると戻ってきたという実感が湧くな。……ああ」
 ザッフィーロの銀の瞳と、リーゼの碧眼が互いを映し出すのはほぼ同時だった。
 リーゼはやっほーっと軽く手を振りながら距離を詰める。それに手を振り返して、宵は歩み寄りながら柔い微笑みを刷いた。
「お二人ともご無事でなによりです」
「そっちこそ二人共無事なようで何よりだ」
 つい同じような言葉を並べてしまうも、胸裏の安堵がお揃いだから。つまりお互い様なのだろう。
「リーゼとリリも無事だったか……本当に良かった」
「そうね、でもリリは宵とザッフィーロなら無事だと思ってたもの。だから何にも心配してないわ」
 互いの無事を寿ぎ合った頃、涼やかな夕暮れ時の風が吹き抜けていった。背を押すようなあたたかさをしていた。
 桜が揺れる。極上の蜂蜜に漬けられたような、甘くて優しい茜色をして。
 んーと思い切り伸びをして、肺いっぱいに春の空気を吸い込んだ。ベルリリーが軽やかに踵を鳴らして仲間を促す。
「さ、一緒に帰りましょう」
 返事の代わりに皆で歩き出した。爪先の向かう方向はおんなじ。爛漫の春の中、肩を並べて風を切るようにして進んでいく。
 地下では幻想が桜を綻ばせていたけれど、今目の前に咲き誇る薄紅は満開の春心地。
「……本当に、地上でも桜が満開なんだな」
 その美しさについ魅入ってしまうところだけれど、今は。ともに帰途に就こうとするザッフィーロの面差しは優しい。
「桜の花は愛らしくそして美しい。やはり桜は日本人の心です」
 宵が噛みしめるように囁けば、ベルリリーもひらり手を空に向ける。先程から花弁が舞い降りてくる姿が可憐で、雨みたいだなって何となく思った。
「そこに在るだけだろう桜にはきっと人々の想いなど知った事ではないのかもしれんが……美しく雪の様に儚い桜を見ていると、その薄い紅に先人が死体が埋まっているとそう見るのも不思議ではないか」
 黄昏に揺れる桜は幽玄なのにひどく豊かだ。感じ入るように呟くザッフィーロに、宵がなるほど、と顎を浅く引いた。
 予知を聞いた時から、いやそれよりずっと前から、都市伝説めいた話は耳にしていた。
「桜の森の満開の下……ですか。それほど桜の花は人の心を洗い、美しく浄めるのでしょう」
 そう推測させるほど、儚くも麗しいということだ。惹き付けて、理由を当て嵌めでもしないと、納得出来ないほどに綺麗だから。
 ザッフィーロと宵の会話を耳にして、ベルリリーも悪戯っぽく笑みを深める。
「あら、ザッフィーロも宵も案外詩人じゃない」
 少女の空色巻き毛が春風に靡いて、でも、と宙に指先を伸ばす。
「リリは美しさを楽しめるなら、死体が埋まってようがなんだっていいわ」
 応えたのか、そうでないのか。桜の花弁がちょうどよく舞い降りてきたから、ベルリリーは蝶を捕まえるような仕草で掌に閉じ込める。
 その言葉にふと、リーゼは足を止める。それは桜に見惚れて足を止めてしまったのか、仲間の言葉が胸裏に響いているからなのか。どちらかはわからないし、どちらでも構わないのかもしれなかった。
「私には詩人のセンスはないけれど、この光景を見ていると不思議とそういう言葉を紡ぎたくなるね」
 絢爛の春が咲き誇っているから。
 あまりに綺麗で、その所以を探そうとして。けれどこれ以上実際に血が流れることはない。それは猟兵たちが勝ち取った事実だ。
「っと、こんな事してたらまたいつものように迷子になっちゃう」
 はたと気付いたリーゼが仲間に追いつくように足を速めて、歩調を合わせる。
 揃って、笑って、明日への軌跡を作っていこう。
「ああ、でも降る様に咲く桜は本当に美しいな」
 噛みしめるようなザッフィーロの囁きに、ふと瞬いたのはベルリリーだった。
 両手を合わせて、いいことを思い付いたと言わんばかりに白百合は笑みを咲かせる。
「ねぇねぇ、せっかくだから皆で桜をバックに記念撮影しましょうよ。来年また皆で桜を見たとき、この写真を見て懐かしむのよ」
「写真撮影、いいですね。是非やりましょう」
 宵が星瞬く藍色の瞳を細める。ザッフィーロもリーゼも否はない。
「勿論だ」
「あ、写真撮るの? 私も記念に撮りたい撮りたい」
 リーゼが己がスマホを構えてインカメラに。四人でぎゅっと固まって、各々らしい表情で納まろうか。
「ほら並んで、笑って笑って」
「逢坂もザッフィーロもにっこり笑ってー。はい、ピース」
 些か落ち着いてしまいがちな年長組を促して。シャッター音が響けば今日という日が大切に切り取られる。
 桜を背にした一枚に、自然と笑みを綻ばせたのは誰が先だっただろう。
「来年も皆でこの花を見れれば良いな」
「ええ。来年またきっと、こうして桜を見に来ましょうね」
 勿論リーゼとベルリリーも頷いて、それから、やっぱり優しい笑顔が解けていく。
 来年もまた肩を並べて、一緒に歩いていくことが出来ますように。


 桜が舞う。夢のようで夢じゃない、春の賛歌。
 もう血に塗れずに花は咲く。
 その綺麗な薄紅は――実はみんなの笑顔を養分にして咲いているのかもしれないよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月01日


挿絵イラスト