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何もない、普通の日

#UDCアース #呪詛型UDC

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#UDCアース
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●おしまい
 どうしてこんなことに。
 廃墟を彷徨う少女の脳裏に、この日何度目かとなる同じ問いが浮かんだ。
 今日は普通の休日だったはずだ。友達と一緒に話題の新作映画を見に行って、感想を言いながら何か食べようとカフェに入って、お昼から何をするか話し合う。そういう、よくある普通の日だった。
 なのに、気がついたら変な場所にいて、歩いていたら変な人に追いかけ回されて。
 何とか振り切ったはいいけれど、ずっと探されているようで、あちこちから物音が聞こえる。誰かに助けを求めたくても、携帯が圏外ではどうしようもない。
 早く帰りたい。そう思いながら、ゆっくりと歩を進める。
 通路の奥に階段が見えたから、そこから降りよう。1階まで行けば、きっと外に出られ――、

「おい」

 すぐ後ろ、から、女の声が、し、

●日常/非日常への誘い
「みんな、集まってくれてありがとう。UDCアースで事件を予知したの」
 オリヴィエ・ベルジェ(飛び跳ねる橄欖・f05788)はぺこりとお辞儀してから、事件の資料を広げた。
「今回は、行方不明事件を解決してほしくて。とあるカフェで起こるみたいなんだけど……」
 何の変哲もないカフェで食事を楽しむ人々が、前触れもなく消える――そんな不思議な行方不明事件が予知されたという。
 ただ、そのカフェ自体に、カルト教団や邪神的な集団との繋がりは一切ない。大通りから少し外れた場所にある、落ち着いた雰囲気と様々な種類のパンケーキを出す事で評判の、木造2階建てのお店だ。
「UDCが、こっそりカフェに細工したみたい。『カフェで過ごす時間を心から満喫してる人』を異空間に引きずり込んで、自分たちの仲間にするために、呪詛を展開しているの」
 この現象を引き起こしているUDC――『風魔衆』は改造手術で仲間を増やす邪教集団で、余計な邪魔が入らないようにするために、今回のような手段を取っているらしい。故にUDCから接触できるのは怪異に巻き込まれた者のみとなるが、また逆も然り。UDCと接触出来るのは、怪異に選ばれた贄だけとなる。
 その法則は、どのような手段でも覆す事はできない。だが、怪異に誘われる事でUDCと接触できると言い換えれば――。
「猟兵が怪異に引き込まれれば、そのまま倒しに行けるということよね。だからみんなには、カフェでお茶したり、お友達とお話したり、のんびり過ごしてきてほしいの!」

 お店のメニューを調べてきたと、オリヴィエがカラー印刷された紙を見せてくる。評判だというパンケーキは、甘くないタイプのものからふわふわのスフレ系まで。もちろん、各種ドリンクや他の軽食もしっかり完備されているようだ。
「すっごく珍しいメニューとかは無いみたいだけど……事件なんて忘れちゃうぐらいの気持ちで、ゆっくりしてきてね」
 穏やかな昼下がり、カフェでゆったりした時間を楽しむのが良いだろう。いっそアルバイトを装って、店員としての『日常』を過ごすのもありかもしれない。
 現地で具体的に何をするかは猟兵達の自由。心ゆくまで満喫する気持ちが大事なのだ。
 そして、一般人よりも日常を満喫していれば、怪異は猟兵達を獲物と見定める。
「怪異に巻き込まれたら、突然廃墟に転移されるから……『あれ? 景色が変わったけど、これって自然現象?』って勘違いすることはないと思う」
 とにかく、無事に廃墟へと転移したら、呪詛を唱えるUDCが潜む場所を探し出す必要がある。廃墟に残された手がかりを辿り、UDCの下へと辿り着いて撃破するのだ。
 呪詛を唱えるUDCは強大な力で押してくるよりも、数の暴力で襲いかかってくるタイプとなる。困難な戦いとなるが、全滅させることができれば、今回の事件は解決だ。元を断てば異空間も消滅し、猟兵達も元のカフェへと送り返されるだろう。
「UDCがいなくなったら、カフェに展開された魔術も消えるわ。あとはもう、何もない普通のカフェね」
 呪詛を唱え、カフェに細工したUDCさえ消えれば、このカフェは再び思い思いの時間を過ごせる憩いの場となる。そのためには、猟兵達の力が必要不可欠だ。

「じゃあ、頑張ってきてね。いってらっしゃい!」
 人々が当たり前の日常を『当たり前』として送れるように。オリヴィエは元気よく手を振り、猟兵を見送った。


すずのほし
 こんにちは、すずのほしです。
 今回はUDCアースからお届けとなります。

 ●第1章
 日常章です。よく晴れた昼下がり、落ち着いた木造カフェで過ごす時間となります。
 色々なパンケーキがメニューに並んでいるようですが、その他にも普通のカフェに置いてあるようなものなら大抵あります。ケーキとかフレンチトーストとか。
 ランチタイムなので、パスタとかピザとかも用意されます。
 章で提示されている行動案はあくまでも一例なので、ご自由にお過ごし下さい。
(※チャレンジ系や激辛系など、奇抜なメニューはありません。また、一般のお客様も店内にいるという事をご留意下さい)

 ●第2章
 冒険章です。廃墟を探索しつつ、UDCの潜伏場所を目指します。
 探索中は風魔衆など、UDCとの接触はありませんので、探索に集中できます。
 OPの女の子は第1章での行動により、廃墟への転移を免れているため、諸々の心配は無用です。

 ●第3章
 集団戦です。
 カフェでの優雅な一時を邪魔したUDCを全力で殴りましょう。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしています。
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第1章 日常 『ティータイムは事件解決の後で』

POW   :    お菓子を楽しむ

SPD   :    お茶を楽しむ

WIZ   :    談笑する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リコリス・シュピーゲル
パンケーキ、ですって…?
そんな素敵なものを食べないほど私は愚かなつもりはなくてよ!!
……はっ、はしゃぎすぎました(コホン)

【POW】
もちろんパンケーキをいただきましょう
ふわっふわで、甘いパンケーキがいいわ
ストレートティーもセットであるかしら?

あらあらまぁまぁ!
こんなにクリームたっぷりなのにくどくないですのね!
ベリーの爽やかさがまた美味ですわ!(大興奮)

……このあと仕事をしなくてはならないだなんて、少しだけ面倒ですわね
今度は平和にお邪魔するために頑張りますけど…はぁ、至福の味です

絡みアドリブ等大歓迎


南雲・海莉
日本でのカフェって、久しぶり
ここ最近、仕事が終わったら、
買い物してすぐアルダワに戻っちゃってたもの

わ、ここ、ほんとにいろいろあるのね
(メニューを端から端まで見る
本人は落ち着いてるつもりだが、目は輝いている)
10枚重ねのパンケーキタワーも凄いけど
スフレタイプの表面をキャラメリゼしたものとか
こっちは苺たっぷり♪

(たっぷりと悩んでから)

ティラミス風パンケーキと、
ダージリンの紅茶でお願いします

……うん、テンション上がるわ
(待ち時間にそわそわしたり、同じ猟兵さんを見掛ければ声掛けたり)

チーズ風味のクリームと、珈琲風味のスフレ生地の相性が最高♪
ミルクのジェラードも蕩けてる♪

アドリブ・他PCさんとの絡み歓迎


中願寺・垂
「年頃の女の子が良い感じのお店で評判のパンケーキを食べて楽しむなんて、とっても『普通』で素敵な事だよね!」
今回の事件において、事件の解決云々よりも話に出たお店が『普通』に楽しめそうだと思ったので依頼に参加。
テーブルに案内されたら、まずはお店の看板ともいえるであろう『普通』のパンケーキとアイスコーヒーを注文。
一品だけだと物足りなそうな気がするので、コーヒーのお替りと共に今度は『季節限定メニュー(パンケーキに拘りません)』を注文します。
事前にお店に確認を取り、許可が出たなら料理をそれぞれ写メで保存し、コメントをつけてSNSで発信。
そんな感じで『普通』の女の子ライフを満喫します。



「年頃の女の子がいい感じのお店で、評判のパンケーキを食べて楽しむ……なんて、とっても『普通』で素敵な事だよね!」
 案内されたテーブルで、メニューを広げた中願寺・垂(ふつうのおんなのこ・f15190)は満面の笑顔でそう語る。
 グリモア猟兵の話を聞いた時、現れるUDCや事件の内容の事よりも、舞台となるカフェの話で参加を決めた中願寺だ。事件を解決することよりも『普通の女の子』の休日を楽しめる事に、彼女の心は踊っていた。
「ええ、今日この時間ぐらいは心から楽しみましょう。こんな機会、なかなか無いもの」
 南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)にとってUDCアースは故郷だが、普段はアルダワ魔法学園の寮で生活している。故に、この世界で過ごす時は仕事として、そしてその帰りに買い物を済ませるだけのものだった。
 久々に過ごす、日本のカフェでの時間。事件のことは一度横に置いて、ゆったりのんびりと楽しみたい。
 だが、その傍らでメニューを覗き込むリコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)の表情は、淡々としたものだった。人形である彼女が静かに振る舞っている姿は一種の芸術品のような美しさがあるが、日常を満喫しなければならない今日はそのような静かさは不要だ。
「パンケーキばかり、ですって……?」
 人形の口が動く。その呟きは僅かに震えを帯びていて、小さな体もふるふると揺れている。
 リコリスが見つめている冊子状のメニューに並ぶのは、ふかふか分厚いスフレ系から、カリカリした食感が楽しめそうなホットケーキタイプまで様々。他のページには別の物も載っているはずだが、リコリスの視線はパンケーキの項目から動かない。
 あまりの品数に圧されているのか。もしかしたら、パンケーキが苦手なのに、数が多くて嫌気が差しているのか。
「もしかしてリコリスさん、パンケーキ苦手――」
「そんなことはありません!」
 南雲が心配そうに声を掛けると、リコリスは見ていたメニューブックを抱きしめて叫ぶ。
「こんな素敵なものを食べないほど、私は愚かなつもりはなくてよ!」
 心配無用であった。
 どうやら、感動のあまり固まっていたらしい。よくよく見れば、白磁の頬はほんのりと薄紅色に染まっている。
 ただ、うっかり叫んでしまったことで、店内の注目を浴びる事になってしまった。自分が何を口走ったのか悟ったリコリスは、咳払いをして顔を伏せる。
「は、はしゃぎすぎました……」
 甘味とは、人を『うっかり』に走らせるものであった。

「ねえねえ、何からいく? 何たべる?」
 とりあえず確保されていたメニューブックを再度テーブルに広げさせて、中願寺はうきうきと二人に訊ねる。
「もちろんパンケーキです。ふわっふわで、甘くて……この写真みたいなのがいいわ。これと、ストレートティーをセットで」
 リコリスが示したのは、見本として掲載されているパンケーキの写真だ。スフレ系のパンケーキの上に、たっぷりのクリームとベリーソースが掛けられ、フルーツも乗せられている。甘味と酸味の欲張りセットとでも言うべき品だ。
「私はどうしようかしら……このお店、ほんとに色々あるのね」
 至って冷静にメニューを眺めて、数が多くて逆に迷うと苦笑する南雲。しかしその目は隠しようが無いほどに輝いている。圧倒的な数の甘味を前にして、普段からカフェに出入りする者として、冷静でいられるはずがなかった。
「『100枚重ねパンケーキタワー』もすごいし、キャラメリゼされたパンケーキも美味しそうだし……ああ、本当に迷うわね」
 苺がふんだんに使われたパンケーキも素敵だし、クリームをこれでもかと絞り出してトッピングしたものもある。どれも美味しそうだが、全部頼むわけにはいかない。しばらくメニューとにらめっこする事になりそうだ。
「あはは、分かるよ。ここまで多いとねー。あ、私はこれとアイスコーヒーで!」
 メニューの至る場所に視線が動く南雲とは対象的に、最初から頼むものを決めていた様子の中願寺がぴっと指さしたのは、シンプルなホットケーキの写真だ。写真の端に『定番』という文言が添えられたそれは、バターとシロップだけで楽しむものらしい。
 まさしく『普通』を地で行くパンケーキ。『普通』に憧れる中願寺の心境をよく表していると言えよう。
「二人とも早いわね……?」
 あまり迷った風もなく、あっさりと注文を決めたリコリスと中願寺に、南雲は出遅れた気分になりながらもメニューを熟読する。こうして誰かと共に食事に出て、何を頼むか迷うなど果たしていつぶりだろう。ぼんやりと浮かんでしまった考えは、そっと思考の片隅へと追いやった。
 じっくり悩むこと数分。顔を上げた南雲は呼び鈴を押しながら、宣言した。
「私も決めた。ティラミス風のパンケーキと紅茶のセットにするわ」

 しばらくした後に、三人が注文していたパンケーキと飲み物が運ばれてくる。
 若い少女が三人もいるテーブルだからか、運んできた店員は写真撮影もOKだと説明してくれる。よく若い女性が撮影した写真をSNSに載せているらしく、宣伝になるということで店側も歓迎しているらしい。
「よーし、それならさっそく……二人のも撮っていい? すぐ終わるから」
 ストラップのついた携帯端末を取り出して、中願寺はパンケーキの写真を撮っていく。見栄えが良くなるように光の当たり具合も調整して、SNSに映える角度もばっちりだ。
 撮影は数秒で終わり、先に食べてほしいと二人に伝えてから、中願寺はSNSのアプリを開く。
「よし、そーしん……っと!」
 ――友達と一緒にカフェでスイーツ! そんな風にコメントを書いて、店の名前も添えて投稿。程なくして他のユーザーからのコメントや、評価のポイントが付けられていく。
 中々の手応えだ。満足そうにそれを見てから、中願寺も自分のパンケーキに取り掛かった。二枚重ねのパンケーキを切り分ければ、溶けかけたバターが下の段へと染み込む。
 かりかりした外側と、ふかふかの中身。それがシロップとバターを吸ってじゅんわりとした食感へと変わっていくのが、何だか幸せに感じられる。
 一方、先に食べ始めていたリコリスと南雲は既に『おいしいパンケーキ』という幸せの只中にいた。
「まあ、まあ……! すごいわ、このパンケーキ! クリームたっぷりなのに、全然くどくない……!」
 片方の頬を幸せそうに押さえて、花が咲くような笑みを浮かべるリコリス。口の中で溶けて消えていくような、とろとろふわふわのパンケーキ。それだけでも十分すぎるほど美味しいのに、程よい甘みの生クリームに混ざるベリーの甘酸っぱさが合わさって、絶妙な味と化している。
 ころりと転がるフレッシュベリーをフォークで刺して、クリームを絡めていただくのも堪らない。パンケーキを待っている間は、「これを食べた後は仕事がある」と面倒に感じていた気持ちも、甘味と酸味のコラボレーションの前に霧散しきっていた。
 抱いていた気持ちは違うが、パンケーキを心から楽しんでいるのは南雲も同じ。
「んん、思ったとおり。パンケーキもソースも、ジェラートも全部美味しい!」
 こちらは待ち時間で上がりきったテンションのまま、パンケーキに染み込んだコーヒーの風味を楽しむ。ティラミス風パンケーキなんて珍しいと思って頼んだが、これが大当りだった。コーヒーの豊かな風味と振りかけられたココアの苦味と、チーズクリームの相性は抜群すぎる。
 パンケーキだけでなく、ジェラートも最高だ。とろけたミルクジェラートを舌の上で転がせば、パンケーキとは正反対の甘みが口内を支配する。今度は溶けたジェラートを吸って白く染まったパンケーキを口に運べば、ほろ苦さと甘さ、そしてほんの少しの冷たさが、また違う味を提供してくれた。
「ああ、幸せ……。こんなにパンケーキ堪能したの、初めてかも」
 皿の上で溶けるジェラートのように、南雲も蕩けた笑みを浮かべてしまう。緊張感の無い姿だとは思うが、今はつい微笑んでしまうような、柔らかな気持ちが大切なのだ。
 そんな二人の様子を見ていた中願寺は、そっと自分の皿を見下ろす。一番最後に食べ始めたにも関わらず、頼んだホットケーキは完食目前という状態だった。
 シンプルであった分、あまり量がなかったので仕方ないと言うべきか。アイスコーヒーを飲み干してから、中願寺は店員を呼び止める。
「アイスコーヒーのおかわりとー、あと『季節限定いちごタルト』一つ!」
 レアチーズのタルトを土台にしたそれは、この春限定として出しているお菓子の一つだ。せっかくだからパンケーキ以外、今しか食べられないものを食べてみたかった。
 こういう限定品を楽しむ心も、『普通』に違いないはずだ。
 程なくして運ばれてきたいちごのタルト。今度はどんなコメントを付けようか思案しながら、つやつやと輝くタルトを写真に収めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

高野・エドワード
楽しい憩いの時間を邪魔するなんて、なんて無粋な輩なんだ風魔衆…。ちょっと厨二入ったネーミングしてるし。
正直嫌いじゃないけどね!

あ、折角だし評判のパンケーキっていうのを食べたいな。
色々な種類があるんだよね?今日は果物食べたい気分なんだよなぁ。果物が沢山乗ったパンケーキとかないかい?
ある?おお、美味しそうだね!じゃあそれでお願い♪

あと飲み物…はそのパンケーキに合うようなのが良いな。オススメとかあるかい?

パンケーキと飲み物がきたらちゃんと映えるように並べて写真撮って、SNSにアップして…っと。
そうだ、同じように食事を楽しんでいる子がいたらお喋りしたいなぁ♪ここにはよく来るの?とか

アレンジ等OK♪


モルツクルス・ゼーレヴェックス
「ブレンドと……このチョコケーキお願いするっす!」
まったりと過ごす昼下がり、カフェでコーヒー啜りながら本とか開いて読んだり、眺めたり……いいっすね
「だからこそ、許せないっす……美味しい」
コーヒーを一口
口から鼻に抜ける香りを存分に楽しんでから、ケーキを小さく、一口
また、コーヒーを一口
……読むのはアメリカのホラー作家原点の、外宇宙からの恐怖の小説
「……夢を求めてっすか」
カフェに来る人は、意外と、違う世界を求めてるのかも知れないっすよね
コーヒー飲んでゆっくりするのは家出来るけど……何処かに行きたい
ここに来る人にも店の人にも、オブリビオンなんて分からないし、どうしようもない
「……どうにかしたいっすね」


アイ・リスパー
「わぁ……
パンケーキにパフェ、フルーツタルト……
美味しそうなメニューばっかりですねっ」

私が生まれた研究施設では、まともな食事が食べられませんでしたから、
思わず目を輝かせ……

「っと、いけません、これは任務なのでした」

私はよだれを拭いて、真剣にメニューに目を走らせます。
どのメニューを頼めば怪異に引き込まれるのか。

【チューリングの神託機械】を発動。
演算能力が高まる代償として、脳にかかる負荷から吐血しながらも、ホロディスプレイに流れるプログラムで最適な答えを計算します。

「よし、答えが得られました!
店員さんっ、このメニュー、端から全部お願いしますっ!」

経費は組織持ちですから、遠慮はいりませんね!



「楽しい憩いの時間を邪魔するなんて……なんて無粋な輩なんだ」
 風魔衆への憤りを露わにしながら、高野・エドワード(愛のガチ勢・f00193)がメニューを捲る。
「まったく持ってその通りっす! 大体、『風魔衆』って名前もおかしいっすよね」
 彼の横でモルツクルス・ゼーレヴェックス(自由を飛ぶ天使・f10673)も力強く同意を示していた。まったりと過ごす昼下がりに、UDCが絡んでくる嬉しくない非日常は不要だ。
「ああ、名前かあ……ちょっと厨二入ったネーミングだよね。僕は嫌いじゃないけど、誰も指摘しなかったのかな?」
「いやー、案外全員ノリノリで名付けたヤツかもしれないっす。全員テンションが上がりきってたとかで」
 実際はどうなのか。深層は骸の海の中だが、ついでとばかりに今回の事件を引き起こしたオブリビオンの名前に、本人たちがいないからと物申して和みつつ。モルツクルスもメニューを覗き込み、何を頼むか考え始めた。

 テーブルに広げたメニューを見ている二人の対面では、アイ・リスパー(電脳の妖精・f07909)が輝いた表情でメニューブックを眺めていた。
「わああ……」
 かつていた研究所では食べられなかった、お洒落で可愛くて、それでいてまともな食事の写真。思わずアイの口から感嘆の声が上がる。
 きつね色に焼き上がったパンケーキ、塔のようにクリームが聳え立つパフェ、フルーツたっぷりのタルト。菓子類でなくても、チーズが糸を引いているピザや、カラフルでフレッシュな断面を晒すサンドイッチが揃っている。どれもこれも素敵なものばかりだ。
「アイちゃん、口。よだれ。トキメキが口から飛び出てるよ」
 苦笑気味に高野が指摘したアイの口元からは、透明な雫が一筋。感嘆ついでに溢れてしまったようだ。
「はっ……! い、いけませんっ。これは任務でしたね。まじめにやりませんと……」
 少し気が緩みすぎていたようだ。ごしごし口元を拭って、再びアイはメニューと向き合い、すっと目を閉じる。
「――電脳空間への接続を確認。万能コンピューターへログイン」
 昼下がりの穏やかなカフェで、まず聞く事はない言葉が響く。傍にいる猟兵達の耳にはしっかりと届いたそれは、【チューリングの神託機械】と名付けられたユーベルコードだ。
「え、ガチっすか? ユーベルコード使うんすか!?」
 まさかそこまでやると思っていなかったモルツクルスが困惑気味に突っ込むが、アイは止まらない。目を開き、しっかりと頷く。
「はい。何事にも全力で取り組むべきかと!」
 己の計算能力を超強化するユーベルコードを使った、全力のメニュー選び。
 メニュー選びでそこまでやるのか。そこまで気を張らなくてもいいんじゃないか。男性二人の無言の指摘を受け流し、アイは万能コンピューターの計算能力を自身に宿す。
「オペレーション、開始します」
 空中に浮かぶホロディスプレイに展開されるプログラム。アイが読み取ったメニューの内容を取り込み、『怪異に選ばれるには、何を頼めばいいか』という最適解を導き始める。
 人外の思考力を得た代償で引き起こされた吐血は、口元にハンカチを当てて、咳き込むことでごまかした。カフェで吐血する姿を見られて救急車を呼ばれては、『日常』を楽しむどころではなくなってしまう。
 プログラムを走らせること僅か十数秒。人知を超えた万能コンピューターと同等の演算能力が、この場で取るべき行動を示した。
「よし、答えが得られました! すみませーん!」
 ハンカチをしまって、アイは近くを通りかかった店員を呼び止める。
「このメニューの、ここから……ここまで、全部お願いしますっ!」
 開いているのは、各種タルトとパイが並ぶページ。パンケーキと違って膨大な品数というわけではなく、出される量も一切れずつというものだ。それでもメニューとして掲載されているこれら全てとなると、相当なことになる。
 伝票を持った店員が硬直して、何度も確認を取ってくるが、アイの決意は変わらない。これが一般人を怪異に巻き込まないようにする最適解だと確信しているからだ。
 強張った表情で去っていく店員を見送り、アイはやりきった笑顔でメニューを閉じる。その様子を見て、高野とモルツクルスはつい顔を見合わせた。
「思い切ったね。……お会計、ものすごい事になりそうだよ?」
「経費はUDC組織持ちですから、遠慮はいらないかとっ!」
 グッと両拳を握ったアイが宣言した通り、ここでの飲食代はUDC組織が全額負担してくれる。ならば、好きなだけ食べておかないともったいないし、遠慮はいらないという主張も当然だろう。まともな食事にありつけるなど、本当に貴重で、ありがたい事なのだから。
 ちなみに後日、請求書の金額を見たUDC組織の者が盛大な悲鳴をあげるそうだが――猟兵には全く関係のない話である。
 アイは満足げにぱたぱたと足を揺らし、自分が頼んだ洋菓子へと思いを馳せ始めた。

 果たしてあれは『日常』なのだろうか。怪異の判定が待たれる事だが、さておき。
 男性陣もまた店員を呼び止め、各々の注文を伝え始める。
「自分はガトーショコラとアイスコーヒー。あ、豆の種類はお任せするっす!」
 ケーキセットとして書かれていたメニューを頼むのはモルツクルス。パンケーキが評判の店だと言うが、今日の気分はパンケーキのふわふわ感よりケーキのしっとり感を求めていた。飲み物はコーヒーにするとは決めていたが、そのぐらいだ。素人がチグハグな物を選んでしまうより、こういうものは分かっている人が決めた方がいいだろうと、店側の判断に期待する。
 横にいる高野の方はというと、顎に手をやってまだ迷っているようだ。メニューへ向いた視線はほとんど動いていないので、頼みたい方向性は決まっているのだろう。
「んー……果物が沢山乗ったパンケーキはあるかい? 今日は果物が食べたい気分なんだよね」
 メニューに見本としてパンケーキの写真は掲載されているが、一方向から写されただけのものだったり、紙面のスペースの都合上、見本写真すらないものがある。頼んでからガッカリするよりも、予め確認しておいた方が良いと判断したのだ。
「でしたら、こちらのパンケーキがおすすめですね」
 店員が紹介したのは、季節限定ページにあるパンケーキ。苺とブルーベリーがたっぷりと乗った上に、粉砂糖が振りかけられているそれは、フルーツを所望する今の気分にピッタリな品だと言えよう。
 見た目も華やかな写真を見て、高野の顔もまた華やいだ風になる。
「おお、素敵だね! じゃあ、それでお願いするよ。飲み物も、このパンケーキに合うものを!」

 運ばれてきたコーヒーを一口飲んで香りを楽しんだ後は、ケーキを小さく一口。そしてまた、コーヒーを一口。ささやかな幸せに浸りながら、モルツクルスはぽつりと呟く。
「平和っすねえ……」
 本当に怪異が起こるのか不安に思うぐらい、のどかな時間。その中で読み始めたのは、あるホラー作家視点の小説だ。夢で見たり遭遇した怪異を綴る本を手に、彼もまた静かにカフェで過ごす時間を楽しんでいた。
 読書は家でもできるが、落ち着いた店内BGMと誰かの話し声、外から差し込む自然光というカフェ独特の世界は、家ではとても再現できない非日常のものだ。
 周囲を伺えば、ブックカバーが被せられた文庫本を読みふけっていたり、書店の袋を破って本を取り出している者が何人かいるのが見える。彼らもまた、カフェという『非日常』に魅せられているのだろう。
「何処かに行きたい……そういう気分、分かるっす」
 自分もっすから。続く言葉は口に含んだコーヒーと共に飲み込んで、この場にいる名前も知らない人々に共感する。
 物理的に遠くに行きたいわけではなく、ただ少し、いつもの日常とは違う、別の世界へと足を踏み入れたい。知らない世界に触れたいという、ささやかな欲求。
 それは誰でも持ちうる夢であり、邪魔されずに満たされるべきものだ。
 だからこそ、今回の事件を見過ごす事はできない。ちょっとした『非日常』を求めて過ごす者を怪異へと引きずり込み、ノンフィクションの恐怖を与えるUDCの企みなど、現実にあってはならないのだ。
 その企みを止めるのは、自分たち猟兵――カップを持つ片手に、思わず力が籠もる。

「今回ばかりは……どうにかしたいっすね」
 本に目を落としたまま、ぽつりと紡がれた言葉は、確かな決意に満ちていた。 本に目を落としたまま、ぽつりと紡がれた言葉は、確かな決意に満ちていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

シーラ・フリュー
美味しい珈琲を飲みながら読書でもして、のんびりと過ごす…これぞ休日の醍醐味。
…はっ、いけない、いけない。今日は休日ではなく依頼で来ているんでした…。
ですけど、心から満喫している方が引き込まれるなら、今は少しくらいだらけても良いですよね…。
あ、ええと…オーダーは珈琲と…後、スフレパンケーキ。
あの甘くてふわっとしてぷるぷるのパンケーキ、好きなんですよね…。とても美味しいです…。

食べ終わったら珈琲を適度におかわりなんてしながら、読書に勤しみます。
いつも買っているシリーズの新刊が丁度出たので、読みたいと思ってたんですよね…。ついでですし、読める所まで読んでしまいたいです…。


チガヤ・シフレット
佐々真子(f12501)とランチタイムだな。
【SPD】
たまにはのんびりゆっくりのランチというものありだな。
真子とのお出かけは仕事ばかりだったからなぁ。

よーし、ここは私のおごりだ。好きに食べるといいぞっ!

私はパンケーキと珈琲にしようか。
程よく大人っぽくお上品だろう?
あ、パンケーキにはアイスクリームもつけてくれ。

おぉ、このパンケーキ美味しいぞ、真子も一口食べるか?
はい、あーん。

うんうん、こういう時間も大事だなと感じるよ。
相変わらずは私はあっちこっちでドンパチしてばかりだからな。

真子が楽しそうに喋るのを聞いて、楽しい時間を過ごすとしよう。


佐々・真子
同行:f04538
使用能力:WIS

ふふふふ、今回は普通のカフェです
変なものが入っている心配がないというのは素晴らしいことなのですよ

あぁ、ホイップクリームたっぷり、ソフトクリームに抹茶蜜、あんこに小豆がのったホットケーキにしましょうか
それとも、フルーツたっぷりのパフェにしましょうか

チガヤさん、チガヤさんはどうします?

私は……ほうじ茶がないのでカフェオレとパフェにしましょうか

久々にゆっくりですねー
後のことなんて忘れてのんびりお喋りしましょう

え、一口?
わーい!

そうそう、先日なんてすっごいおおきなひよこに会ってきたんですよ
もふもふで、ふわふわで、とっても素敵だったんです
チガヤさんは最近何かありましたか



 カフェの二階。そこはボックス席が設置された賑やかな一階とは違い、二人がけの席とカウンター席で構成された静かな空間だった。

 壁際に設置された二人がけの席で、二人の女性が向かい合って座っていた。
 こうして穏やかな昼下がりを二人で過ごすのは、いつぶりだろうか。テーブルに広げられたメニューブックを反対側から覗きながら、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)は薄く笑みを浮かべる。
「たまにはのんびりゆっくりのランチというのもありだな」
 友人の言葉に同じくメニューブックを見ていた佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)が、嬉しそうな表情で顔を上げた。
「そうですねー。チガヤさんと普通にお出かけって、あんまり無い気がします。しかもここ、普通のカフェです。普通のカフェ! 平和そのものですよ!」
「平和そのものって……まあ、たしかにな。これでも後で事件が起こるらしいし、今の内に楽しんでおこうぜ」
 いつもは仕事として出かけてばかりで、その時に心を落ち着けてゆっくり食事を……というのは中々叶わなかった。今回もまた仕事絡みではあるが、普段とは違った食事の時間になりそうだ。
「どれも美味しそうですよね。あぁぁ、ホイップクリームたっぷりの和風ホットケーキ美味しそう~……! こっちのフルーツたっぷりパフェも素敵ですね。どれも美味しそうで困ります!」
 UDC組織に所属しているとは言え、佐々は年頃の女子高生。ずらりと並ぶスイーツを見て、心が踊らないわけがない。思わずニヤけていく表情を何とか持ち直して、遊び友達の女性へと声を掛ける。
「チガヤさん、チガヤさんはどうします? 甘いものとかいっちゃいます? たくさんありますよ」
 開かれているページは、山となるほどクリームとフルーツを盛り付けたパフェのページ。いかにも女性が好みそうなラインナップを一瞥して、チガヤは緩く首を振る。
「いや、私はパンケーキとコーヒーにしようかと。トッピングとして、アイスクリームが付いたやつな」
 チガヤが選んだのは、少女好みの華やかなさはない、シンプルなパンケーキ。それとコーヒーだけという選択はやや質素な印象を与えるものの、甘い氷菓子が合わさる事でささやかな女性らしさが加わる。野性的な顔立ちからは想像も付かない、チガヤの大人っぽく程よく上品なチョイスに、佐々の目が尊敬の色に染まっていった。
「おお~……大人ですね。私はどうしようかな、ほうじ茶は置いてないみたいですしカフェオレと……あと、んんん……」
 真似するのもありだとは思うが、やはり華やかで可愛いものを頼みたい。飲み物はさっくりと決まったが、佐々はセットで頼む菓子に迷っていた。
 目に留まったのはりんごとキャラメルのパフェ、値段は少しお高めだった。支払いはUDC組織が持つと言えど、組織に所属する者としてはやはり気になる。組織の事を抜きにしても高校生のお小遣いという範疇からしたら、軽い気持ちで手出しするのは躊躇う金額だ。
 それでも琥珀色のソースがたっぷりとかかった、素敵なパフェの写真から目が離せない。どうしようかと悩む友人の顔を見て、チガヤは何を考えているかを正しく察した。彼女の気持ちはよく分かるし、悩み自体も微笑ましいものだ。だからこそ心ゆくまで今日という日を過ごすためにも、細々とした面倒な物事からは解放されるべきだろう。
 チガヤは手を伸ばして少女の肩を軽く叩き、ニッと笑いかける。
「真子、ここは私のおごりだ。好きに食べるといいぞっ!」
「いいんですか? やったー!」
 UDC組織の懐にも学生の懐にも優しいチガヤの宣言。佐々は喜びの声をあげて、呼び鈴のボタンを押した。

 少し経って運ばれてきた甘味をつつく二人の間には、久々とも言える落ち着いた時間が流れていた。後ほど非日常に巻き込まれるとは言え、今は今。この日常を大事にして、お互い会話を楽しむ。
 チガヤに分けてもらったパンケーキの素朴な味を楽しみ、お返しとしてキャラメルソースが絡んだリンゴを差し出して、生き生きと佐々は語っていた。その話を聞いたチガヤは合いの手を入れたり、詳細を訊ねたりしつつ、彼女の話を聞いて楽しむ。
 最近出会ったオブリビオンの話や、出向いた世界の話。佐々の近況報告は留まることなく続いていく。
「あとですねー……あ、そういえばチガヤさん。チガヤさんは最近何かありました?」
 唐突に向いた話し相手への質問という矛先。聞き役に徹して穏やかな気分に浸っていたチガヤはパンケーキを切り分けていた手を止めて、わずかに視線を彷徨わせる。何か話せる事で、佐々が興味を惹くものがあっただろうかと悩み――。
「私? 私は相変わらずだ。あっちこっちでドンパチやってばかりだな」
 派手に暴れたか、盛大に戦った記憶しかない。それらをひっくるめた結果この答えとなったが、佐々はむしろ目を輝かせて、テーブルから身を乗り出してくる。
「その『ドンパチ』が知りたいんですよー。チガヤさんのお話、聞かせてください!」
「お、そうか? なら、そうだな……この間の銀河帝国攻略戦の話とか、興味あるか?」
「はい!」
 興味津々とばかりに頷きまくる少女の姿に顔をほころばせて、チガヤは先月の戦争の話を語り始めた。

 一階の喧騒にも負けないぐらいの、賑やかで楽しげな話し声。
 それを背中で聞きながら、窓際のカウンター席に腰掛けたシーラ・フリュー(天然ポーカーフェイス・f00863)はメニューブックを熟読しながら、ぼんやりと考え込む。
 暖かな日差しが差し込む、カフェの窓際。そこで美味しいコーヒーを飲みながら読書して、のんびりと過ごす。これぞ休日の醍醐味というものだろう。
 さて、カフェで休憩した後はどうしようか。今でも人と接するのは苦手だが、外で新しい物事に触れるのは悪くないことだ。好きな本に似合うブックカバーを探しに行くのもいいし、季節に合わせた栞を見るのも良いかもしれない。本に関係したものでなくても、家で飲むためのコーヒー豆や茶葉を買いに行くのも――。
「はっ……!」
 気持ちが完全に休日モードになっていた。このカフェを出た後の予定まで考えかけていた事に気づき、慌ててぷるぷると頭を振る。
 今日は完全な休日ではなく、依頼として来ているのだ。この後の予定もほぼ決まっているようなもので、気を引き締めてかからなければならない。
 そう言って自分に喝を入れるものの、かすかに漂う砂糖とコーヒーの香りに、シーラの思考はゆるい方向へと傾いていく。
 そこまで気合を入れなくても、別のいいのでは――心の中で完全休日モードになった自分が、ぼそっと呟いた気がした。
「あ……たしか、心から満喫している方が、いいって……」
 UDCの贄として選ばれるのは、『日常を満喫している者』と聞いている。ならば、今は少しぐらいだらけてもいいはずだ。むしろ、だらけるぐらいの気持ちが必要だろう。
 そう結論づけて、シーラは呼び鈴を鳴らす。
「あ、あの、……コーヒーを、ひとつ……」
 注文を取りに来た店員に、もごもごとつっかえながらオーダーを伝え、メニューを指さしていく。
「あと、ええと……これを、スフレパンケーキを、お願いします……シロップとアイス、で」
 何とか希望を伝え終わり、店員が一階へ降りていくのを見送ったシーラは、大きく息を吐く。店員へメニューの伝え方は今のであっているはずだし、失礼もなかったはずだ。
 変に思われなかったかという不安を、大好きなぷるぷるふわふわのパンケーキに思いを馳せることで振り払い、シーラは窓ごしに見える街の風景を眺め始めた。

 頼んだパンケーキのセットが届く頃には、シーラの抱いていた不安も完全に霧散していた。乏しい表情にそわそわとした期待の感情を浮かべながら、光るフォークをパンケーキに突き入れる。
 フォークが刺さった所からふわふわとパンケーキが崩れるような、可愛らしい崩壊を目で楽しみながら、シーラは頼んだパンケーキを咀嚼し始めた。
 たまにコーヒーを飲んで甘くなりすぎた口内をリセットし、黙々と食べ進めていく。小さなバニラアイスとシロップだけというシンプルなトッピングだが、派手に飾り立てられた菓子よりも、質素な方がより味を楽しめる。『美味しい』に派手さは不要なのだ。
 窓と向かい合って黙々と食べ進めれば、あっという間にスフレパンケーキの姿が消える。残っていたコーヒーも、カップに伝わった温もりだけ残して、パンケーキの後を追った。
「……ごちそうさま、でした。さて、と……」
 飲み干したコーヒーのおかわりを頼み、シーラは文庫本を取り出す。愛読しているシリーズの新刊が出たばかりで、せっかくカフェで過ごせるならと持ってきたものだ。
「時間の有効活用、ですよね……」
 怪異に引きずり込まれれば中断してしまうとしても、ただ待つだけというのはあまりにも勿体無い。ついでだし、読める所まで読み進めておこうと本を開く。
 それに、前巻は「そこで終わるのか」と声をあげたくなるような、とんでもない締めで終わっていた物語の続きが気になって仕方なかったのだ。はたして登場人物はどうなってしまうのか。これから何が起こるというのか。逸る気持ちを抑えて、シーラはゆっくりとページを捲り始める。
 様々な声が聞こえてくる窓際。コーヒーカップがソーサーに置かれる澄んだ音と、本を読み進める音だけが響いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『廃墟の探索』

POW   :    障害物を撤去・破壊しつつ、手掛かりを探す

SPD   :    聴覚・嗅覚など感覚を働かせ、手掛かりを探す

WIZ   :    洞察力を活かし、隠された場所や手掛かりを探す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 人々が思い思いの時間を過ごすカフェの中、猟兵たちもまた自分達の思うように過ごしていた。
 食事を楽しみ、会話を楽しみ、読書を楽しむ。

 ある者は、パンケーキの次の一口を食べようとしたところだったかもしれない。
 ある者は、自分の頼んだ菓子をねだられて、一口だけあげようと苦笑したところだったかもしれない。
 ある者は、飲み干したカップを見て、おかわりを頼もうと声をあげたところだったかもしれない。
 ある者は、読んでいた本から顔を上げて、大きく伸びをしたところだったかもしれない。
 それぞれが『日常』を満喫して、『日常』に連なる行為をした瞬間だった。

 つい直前まで取っていたポーズのまま、景色が一変する。柔らかな午後の日差しが差し込むカフェの景色が消える。
 瞬きの間にすり替わった景色は、とても殺風景なものだった。
 薄暗く、お世辞にも広いとは言えない室内。鉄筋が剥き出しになった壁に、バネが飛び出したボロボロの椅子。床に投げ出されるように転がった、ピンセットなどの器具。
 部屋の外に出て扉にかけられたプレートを確認すれば、擦り切れた文字で『四階 診察室』と書かれているのが分かる。
 そして、いつの間に夕方になったのだろう。崩れた外壁から見えた空は、黄昏の橙色へと染まっていた。

 四階建ての廃病院。
 それが、猟兵たちが引きずり込まれた場所を、的確に表した言葉だった。
アイ・リスパー
「ああっ!?
まだタルト食べかけだったのにっ!?」(この世の終焉のような表情

あー、こ、こほん。
これが、予知で言われていた廃墟……
ここでUDCの手がかりを探ればいいのですね。

「風魔衆という相手は、改造手術をおこなうとのこと……
廃病院とは、まさにうってつけのシチュエーションですね」

ここは、電脳世界から【エレクトロレギオン】を実体化して、病院中を探索させましょう。
特に手術室のような設備を重点的に調査しますね。

「それにしても、この廃病院……
私の生まれた研究所に似た雰囲気がして嫌な感じですね」

人体改造などという手段は断固許すことはできませんっ!
絶対に風魔衆の陰謀を止めてみせます!

あと、食べ物の恨みもっ!


チガヤ・シフレット
佐々真子(f12501)と探索だ。
パフェももう……。くくく……くくっ。
はっはっはぁ!
いい気分でランチしていたのに、いきなり廃病院か!
私が放り込まれるとしたら、アサイラムだろうが、そういうところでもないなぁ?

UDCを探しに行くとするか。ぶっ飛ばしてやらにゃあなぁ。

【POW】

邪魔になるものはどんどん壊してどかしていこうじゃないか。荒事は任せろ。よって、考えるのは真子に任せた!
言ってくれ、壁だってなんだって破壊してやるぞ。
見事な連携だよなぁ?

案内板やらを確認しつつ行くか。
せっかくだ、霊安室も探して見るとしようか。
他のところより漁るのは楽しそうだぞ。
何か隠してあるにしろ、潜んでるにしろ定番の1つだな?


佐々・真子
同行:f04538

パフェは?!

う、うぅ……許せません!
私は、この犯人を、許しません!
ごおお、って心が燃え盛っていますよ、もう!!

チガヤさん行きましょう!
この犯人に正義の鉄槌を与えなくては!!

そうと決まれば探索です
私の目はごまかせませんよ!(第六感、視力、情報収集)

追跡者を呼んで、視界を共有し、単純に捜索範囲を倍に増やします
二手に分かれて探索しましょう
できれば館内案内板と院長室は見つけて探索したいです
何か見つけたり、障害物があればチガヤさんに声をかけますね

もし先に行方不明になった人が見つかったら声をかけて話を伺います
錯乱していてもゆっくり声をかけて落ち着いてもらいます(医術、優しさ、言いくるめ)


モルツクルス・ゼーレヴェックス
「てんち あまねく 孤独の鷹よ わがみに やどりて めをこらせ」
素早く【高速詠唱】【鷹の眼】
不意討ち偽装、潜伏、その他異常は見逃さない
「病院っすか……カフェ、病院、どういうしゅみなんすかね風魔衆」
じっくりと院内を巡って【情報収集】
一室、一室確実にクリアして敵や痕跡を探す
「……いや、改造するって言ってましたっけ……なるほど、取り敢えず手術室に向かうっすか」
常に杖を構え、脳みそを回して備え、慎重に進むっす
「ガチでいくっすよ。カフェでまったりしてたら気づいたら病院で改造手術とか……虫酸が走るっす」
連中の方こそ二度と悪事が働けない平和的身体に改造してやるっす
……保険は効くっすよ



「私のタルトはっ!?」
「パフェは!?」
 廃病院の狭い診察室に、二人分の悲痛な叫びが響き渡った。
 
 周囲の視線を浴びながら大量のタルトを食べていたアイ・リスパー(電脳の妖精・f07909)と、キャラメルパフェと友人との会話を楽しんでいた佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)のものだった。
 甘いものを食べて幸せな気分に浸っていたところでの仕打ちに、心が耐えられなかったらしい。お互いこの世の終わりを目前としたかのような、愕然とした表情で膝をついている。
「あ、あー……どんまいっす? ま、まあほら、カフェに戻ったらパフェもタルトも残ってると思うっすよ。……たぶん」
 そんな二人をどう慰めればいいのか。モルツクルス・ゼーレヴェックス(自由を飛ぶ天使・f10673)は目をそらしながら、そんな言葉をかける。カフェで自分達がどういう扱いになったのかは知らないし、残された菓子だの飲み物だのもどうなったかは分からないが、少しぐらい救いがあるべきだと思う。
「そうですよね、私のタルトもそこに――あっ」
 慰められたことで僅かな希望を見出したアイは、やっと正気に戻った。ここが安全なカフェの中ではなく、いつUDCが襲いかかってきてもおかしくない危険地帯である事を思い出したらしい。
「えー、こほん。……どうやら無事、予知で言われていた廃墟にたどり着いたみたいですね!」
 キリッとした表情でまっとうな事を言い始めたアイに対して、俯いて震えたままの佐々は立ち直っていないようだ。
 初めてとも言える、友人と過ごすの平和な時間。それを奪われた事がショックでならないのだろう。
「う、うぅ……よくも私のパフェを……! 許せません! 私は、犯人を、絶対に許しませんから! ばばっと探してばばっと倒すんです! パフェの続きを楽しむためにも!」
 訂正。佐々は立ち直っていないが、立ち上がっていた。幸せな瞬間を奪い去った風魔衆への怒りを燃やして、スイーツを奪われた女子高生は奮起する。怒りのあまり、背後に燃え盛る炎まで見えるようだ。
 そんな佐々の肩にそっと手を置き、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)は静かに首を横に振った。
「いやあ、真子。残念だがパフェはもう……。く、くく……ふっ、はっーはっはぁ!」
「あああなんで笑うんですか! 私は真剣なんですよ! まじめなんです! 犯人に正義の鉄槌を与えに行くんです!」
 チガヤは悲痛な感じでパフェの末路を伝えるも、耐えきれないとばかりに途中で爆笑してしまい、佐々に抗議ついでにぽこぽこと叩かれる。笑いを抑えようと手で顔を覆いながら、お返しとばかりにチガヤは友人の肩を少し強めに叩いた。
「いや何、いい気分でランチしていたのに、いきなり廃病院だぞ? 私が放り込まれるようなアサイラムって感じでもないしなぁ?」 日常の唐突すぎる終わりと、普通の病院にいる事への場違い感。それが一周回っておかしく感じられたらしい。ひとしきり大笑した後、チガヤは両拳を打ち付ける。
「よぉし、早速UDC探しに行くとするか。諸々の怨みを込めて、きっちりぶっ飛ばしてやらにゃあなぁ!」

 引きずり込まれた病院は、病棟のある館と処置室など各種設備が揃った館が分かれている、四階建ての建物らしい。
 猟兵たちは一旦二手に分かれ、それぞれ希望の場所を探索し始めた。
 一度案内板を確認しようと、階段を使って一階まで降りたのは佐々とチガヤだ。所々が崩れた階段を降りて、病院の総合案内の掲示板を確認した佐々は、訝しむような声を上げた。
「んー……院長室がないですね。これだけ大きな病院なら、どこかにあると思うんですけど」
 彼女は院長室から探そうと考えていたが、該当の部屋が見当たらないのだ。案内板を隅から隅まで探してみても、ナースステーションや事務室、果ては売店から食堂まで書かれているのに、そこだけがどうしても見つからない。
「院長室は作り忘れ、入れ忘れ……ってことはないだろうなぁ」
「ですよね。これ、うっかり誰かが院長室に入らないように、何かで隠しているということでしょうか?」
 案内板に何かを削り取ったり、テープか何かで院内図を覆い隠したような痕跡はない。カフェに呪いを仕込み、特定の人物を怪異へと誘う力を持ったUDCだ。部屋の存在を隠してしまう事ぐらい造作もないのだろう。
 逆に言えば、そこまでしてでも隠したい部屋があるという意味になる。恐らく、首尾よく一般人を廃病院へ引き込めた場合でも、迂闊に立ち入ってほしくないということだ。
 何があるかとても気になるところだが――今は入れないということで、院長室の探索は後回しとする。先に他の場所を探索しつつ、院長室に行く方法を探せばいいのだ。そう決めた二人は案内板の前を離れ、奥へと向かった。

「――ふんっ!」
 チガヤに内蔵された武装。変形させた鎚が振るわれれば、派手な破砕音と共に病院の床が叩き壊される。
 何か隠したり潜ませる場所としては最適だろうと、地下にある霊安室へ行くつもりだったが、地下に降りる階段が近くに見当たらない。探す時間も、階段を上り下りして移動する惜しいと言うことで取った行動が、この『それらしい場所にアタリを付けて、道を作る』というものだ。
 乱暴かもしれないが、自分たちの探索が長引いたことで、一般人が怪異に巻き込まれるような事があってはならない。
 早速霊安室の真上にあたるはずの通路を叩き割ってみたのだが、どうやら正解だったらしい。床の大穴からは、部屋に置かれたトロリーと壁際の保管庫が見える。
「よし、ちょっと行ってくるぜ!」
「はいっ! あ、追跡者さんもついて行かせますので!」
 彼女を追うように穴に飛び込んだのは、【影の追跡者の召喚】で呼び出された追跡者だ。これで佐々は一階部分と霊安室の内部を同時に確認しつつ、警戒することができる。
 一足先に降り立ったチガヤは、"視えるんデス"越しの霊安室を見渡して、ぼそりと呟いた。
「こりゃあ、『待合室』って感じだな」
 それなりに掃除と整頓がされたここは、猟兵達が介入しなかった場合に引き起こされる事件、行方不明となった被害者達を保存する場所なのだろう。上の穴からは見えなかった箇所には、多数の拘束具と点滴台が置かれている。部屋の隅には何に使うのか、点滴パックが山積みになっていた。
「うわあ……」
 階上で佐々が引き気味の声を上げる。彼女もまた、この部屋の用途に気付いたのだろう。だからといって引いたままではいられない。影の追跡者を部屋の隅々まで探索させるように操作して、何か手がかりがないか探し回る。
「……あれ、ここ何かありますね? 魔法陣……でしょうか」
 点滴パックの隙間に滑り込ませた追跡者の視界を通じて、佐々があるものを発見する。床に描かれた、小さな魔法陣だった。
 床色と似た色の塗料を使って、極力目立たないように描かれているようだが、佐々の視力と情報収集力の前ではあまりにも無意味な隠蔽だ。
 じっと魔法陣を見つめる事数秒。佐々がUDC組織で得た知識を総動員して、これが何のために用意された物なのか、答えをはじき出す。
「何かの門か、封印か……その両方。そんな感じですね」
「根拠は?」
「あ、勘です!」
 UDC組織で得た知識は、あまり当てにならなかった。過去から様々な物を引き出してくるオブリビオンが描いたもので、UDC組織も把握していない類の術式の一つなのだろう。似たようなものに心当たりはあっても、完全に一致するものは見たことなかった。
 ずばっと言い切った佐々に噴き出しながら、チガヤは続いて訊ねる。
「真子の勘か、そうかそうか! じゃあ真子、この魔方陣はどうする? ほっとくか?」
「いえっ、壊すべきだと思います! これも勘ですけど、残しておいたらロクでもない事になりそうです!」
 やはり力強く言い切る佐々。やはり根拠は勘ではあるが、魔法陣に関しては自分の中の何かが「これを残してはいけない」「あってはならない」と強く訴えてくるのを感じていた。
「やっぱり勘か! そういうのは好きだなぁ! よし真子、追跡者を退かしとけ。派手にやってやらぁ」
 チガヤが腕を突き出すと、内蔵兵器が唸りを上げて起動する。するりと退避していく追跡者を目の端で追い、兵器を変形させた。
 内蔵兵器"バッドメタル"から突き出たランチャーから、一つの榴弾が放たれ――点滴パック諸共、床を粉々に打ち砕いた。
 
 
「さて、自分達も行くっすよ! ……それにしても、カフェと病院……どういう趣味してるんすかね、風魔衆」
 カフェにいる時に浮上した、風魔衆厨二病説。その説をもってしてもカフェと病院の関連性は見えず、「難しい年頃なんすね」とぼんやりと思った。
「オブリビオンの趣味は難しいですよね。とにかく、ささっと風魔衆倒して帰りましょうっ! 食べ物の怨みも晴らすんです!」
 こんな場所に長居は無用とばかりに、落ち着かない心を抱えたアイは診察室を飛び出した。彼女の脳裏には、自身の生まれた研究所の風景が浮かんでいる。あまり好ましくない場所だったあそことこの廃病院は、何だか雰囲気が似ているのだ。
 ひとまず改造『手術』をするというのだから、手術室に何か手がかりがあるだろうと、二人は四階の奥へと進む事を決める。
「てんち あまねく 孤独の鷹よ わがみに やどりて めをこらせ」
「出番ですよ、一緒に行きましょう」
 移動する前。厳かな詠唱とシンプルな起動ワードが呟かれた。青年に宿るのは万象を見通し、把握する力。少女が呼び出すのは、小型の機械兵の群れだ。
 三桁を超える機械兵による人海戦術と、人外の認知力による警戒。万全の体制でモルツクルスとアイは四階の手術室を目指していく。
「カフェでまったりしてたら、いつの間にか病院。その上で改造手術とか……虫唾が走るっす」
「はい! 人体改造などという手段は、断固許すことはできませんっ!」
 いつになく真剣な表情のモルツクルスに、アイは深く頷いて同調する。いつもの日常が唐突に終わり、何もかもが奪われてしまうUDCの企みは、心底許しがたい。
「連中の方こそ、二度と悪事が働けない平和的身体に改造してやるっす」
 保険は効くっすよ! などと宣うモルツクルス。とんでもない発言にアイは突っ込むことなく、むしろ「アフターケアも万全だなんて……!」と目を輝かせている。
 そうして闘志を燃やしつつ、適度にリラックスする会話をしながら辿り着いた手術室の前。二人は無言で目配せして、なるべく音を立てないように静かに扉を開ける。扉の先で風魔衆が待ちけている可能性もあるのだ。もし出くわす事になった時は、すぐに動けるように注意を払う。
 そしてゆっくりと開かれた扉の先を確認して、アイは小首を傾げた。
「誰もいないですが、あたり……って感じでしょうか?」
 ここの手術室はあまり広い所ではないが、綺麗に掃除されていて瓦礫も全て片付けられていた。崩れた壁の補修もされている。中央の手術台の周囲にあるのは、改造手術に使うらしい様々な手術用器具だ。
 壁際の戸棚に積まれた電子機器は、改造の過程で埋め込むものなのだろう。何故か棚の一つは空になっているが、パッと見たところで不審な点は見当たらない。
 清潔が保たれた無人の手術室。不気味なことこの上ないが、安全ではあるようだ。眉をひそめて、アイは手術室の中へ一歩踏み出す。
「誰かが迷い込んだら、ここを使うんでしょうね。……やっぱり、嫌な場所です」
 最後に付け加えられた言葉が、静かな空間にぽつりと響く。モルツクルスもアイの後に続いて入り――、
「アイ殿ッ! その空の戸棚、何か来るっす!」
「えっ!?」
 微かな魔力のうねりを感じて、鷹の眼を宿した青年が叫ぶ。その言葉を受けてアイが意味を把握した瞬間、数多の機械兵が戸棚の方へと銃を向けた。
「……ッ!?」
 直後、空っぽの戸棚から飛び出すように現れたのは、バイザーを付けたセーラー服の少女だ。少女がオブリビオンだと認識した機械兵の銃口が一斉に火を噴いて、一瞬で少女を蜂の巣へと変える。
 断末魔の叫びをあげる間もなく、恐らく何が起こったか理解する事もなく細かい塵と化して消えていった少女を見つめ、アイは恐る恐る戸棚へと近づいた。
「い、今のってオブリビオンでしたよね。なんで戸棚から……? 風魔衆って、手品が得意とか言われてましたっけ?」
「たぶん戸棚に細工が……やっぱりあるっすね。棚の中から、何か嫌な気配を感じるっすよ」
 魔力の残滓を感じ取ったモルツクルスが、空の戸棚を指差す。よくよく目を凝らせば、戸棚の奥の壁に何やら魔法陣らしいものが描かれている。目立たないように薄い塗料で小さく描かれたそれを注視して、アイは手をかざした。
「えーと、これですね。……ちょっと解析してみます」
 言うと同時に、アイの目元を電脳ゴーグルが覆い隠し、眼前にホログラムのディスプレイとキーボードが現れる。キーボードを操作する度に画面が切り替わり、シークバーが走る。
 この間、機械兵による探索も忘れない。部屋に隠し通路や、他の手がかりはないか、並行して隅々まで探させる。ざっと探索した感じ、怪しいものは魔法陣以外ないようだが、それが分かっただけでも十分だった。
 数十秒に渡る画像の解析。画面の至る場所に表示されたウィンドウが閉じて、結果だけを出したウィンドウが画面の中央に残った。
「出ました! これは……一方通行のゲートっぽいものですね。ついでに、何かの仕掛けに組み込まれているみたいです」
 何故手術室にこんなものがあるのかは分からないが、ロクでもない理由のために設置された事だけはよく分かる。仕掛けとやらも詳細は不明だが、状況から考えて今自分たちが巻き込まれている怪異に関わる『何か』だろう。
 そう結論づけたアイは、部屋を探索させていた機械兵をずらりと並べて、再度戸棚へと銃口を向けさせる。
「これ、とりあえず壊しちゃいましょう。またオブリビオンが飛び出してきたら嫌ですしっ」
「そうっすね。戸棚ごとガッツリやってしまうっす!」
 機械兵の銃が再び吼えて――戸棚を一瞬でガラクタへと変えた。
 
 
 
 二つの魔法陣が壊された直後。
 廃病院の空、夕暮れの橙に僅かな青みが宿った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リコリス・シュピーゲル
……私の、私のパンケーキが…っ
〆の一口でしたのに…っ(震え)

【WIZ】
獲物がかかったことにどうやって気づいたのか、どうやって改造手術を行うのか「情報収集」しましょう
あとこの病院擬きの構造もわかれば動きやすいでしょう

最初に飛ぶのが診察室ならあまりここに情報はないかしらね
手術室とか院長室とかはリスクも情報もありそうですけど

呪詛の気配を感じたら「ハッキング」で居場所を逆に「追跡」して差し上げましょうね

絡みアドリブ等大歓迎


南雲・海莉
【POW】

分かってたけど……
幸せから急転直下で廃墟の鬼ごっこでUDCへの改造コースとか、
酷いってものじゃないわね
(深く息を吐いて意識を切り替え)

どこまで現実の病院を模してるのかは分からないけど、
風魔衆って奴等が潜みそうなところって……
改造に拘るなら手術室、かしらね
院内の案内地図でもあればいいのだけど

とにかく足で虱潰しに探しましょう
UDで身体能力を上げて、徹底的に調べるわよ
地道な探索はアルダワの地下で慣れてる……つもりだけど、
もっと得意そうな人が居たらサポートに回るわね

瓦礫をどけたり、邪魔な鍵を刀で壊したりと
物音を立てれば雑魚も来るかしら
悪趣味な奴らに遠慮なんてしないわよ

アドリブ・絡み歓迎


シーラ・フリュー
あぁ、せっかく本のお話が良い所でしたのに…。と、いけないいけない。残りは依頼を終わらせてから、ゆっくり読みましょう…!
とりあえず、廃病院と言うのは分かりましたが…ううん、中々探す場所が多そうですね…骨が折れそうですけど、頑張って探しましょう…。

【SPD】
知らない場所って結局、【第六感】とかに頼るしかないですよね。…もし見取り図とかあれば、ある程度目星をつけやすいのですが…。
念のために【目立たない】ように移動して…何か変な音や匂いがしないか気を付けつつ、ゆっくりと探索します。

後は…もしもの話なのですが、暗い場所があったらゴーグルで【暗視】したり、変な物を見たら【追跡】してみたり…でしょうか?


枯井戸・マックス
「……来たか」
 店の片隅でのんびりと珈琲を啜っていたマックス。
 コーヒーカップを置こうとして、既に置くべきテーブルさえも消え失せている事に気が付いた。
「全くの異空間か。はたまた、どこか実在する場所に飛ばされたのか。まずはそこから調べるとしますか」
 スマートフォンのGPSを起動させ、自分の現在位置を探る。
 その後は近くの仲間達と合流し辺りを探る。
 
◇WIZ
 【第六感・暗視・情報収集・世界知識】を駆使して慎重に、しかし楽し気にに病院を探索し違和感を探る。
 隠された何かを見つけたら【封印を解く】でその正体を暴くことを試みる。
「鬼が出るか蛇が出るか。この瞬間がたまらないねぇ」

 連携・アドリブ歓迎です。



「私の、私のパンケーキが……っ。〆の一口でしたのに……っ」
 残ったクリームをたっぷり絡めた、パンケーキの最後の一口。今まさに口に入れるところでの転移に、リコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)はぷるぷると震えていた。それでも取り乱す事なく、最高の一口を奪われたという要因だけで震えられるのは、事前に情報を得ていた故であろう。
「あっ。わ、私の本……とても良いところだったのに……!」
 シーラ・フリュー(天然ポーカーフェイス・f00863)も唐突に終了した読書の時間に、思わず悲しげな声をあげてしまう。どこかで中断されると分かった上で読み進めていたとは言え、流石に山場に差し掛かった直後での"おあずけ"は酷すぎる。
 主人公はどう選択するのだろうか……と読みかけの本に意識が飛びかけたが、慌てて首を振って意識を現実につなぎ留めた。
「いけないいけない……。続きは後です。依頼を終わらせてから、ゆっくり読みましょう……!」
 その時はコーヒーと、仕事をした後のおやつとしてパンケーキのおかわりも付けなければ。最後にぺちぺちと軽く頬を叩いて、気合を入れる。
「……そうですわね。こんな事件すぐ解決して、カフェに戻りましょう」
 リコリスも顔を上げて、気持ちを仕事モードに突入させる。どうも目が据わっているが、やる気が出ているのはいいことだろう。
 それぞれが決意を露わにする様子を見ながら、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)はため息をついた。
「分かってたけど……幸せから急転直下で、廃墟の鬼ごっこからUDCへの改造コースとか、酷いってものじゃないわね」
 自分たちは何が起こるか分かっていて、あえて招かれるように行動していた猟兵だ。だからこそ、残したパンケーキや読みかけの本の事を思う余裕があるのだろうが、何も知らない一般人は別だ。
 温かな店内から突然こんな場所に転移させられて、散々怖い思いをさせられた挙句に改造手術で人外の存在へと変えられるなど、理不尽以外の何物でもない。
 誰かが転移させられる前に、この事件を解決しなければ。南雲はもう一度深く息を吐いて意識を切り替えてから、壁際でスマートフォンを操作する男に声を掛けた。
「枯井戸さん、ここがどこにあるか分かった?」
 そう訊ねられた枯井戸・マックス(強欲な喫茶店主・f03382)は、ゆったりとした動作で首を振る。
「いいや、位置情報はめちゃくちゃだ。GPS的には、俺たち『海の上にいる』ことになっているぜ?」
 青い背景にぽつんと表示されたマーカーを見せて、枯井戸は笑みを浮かべる。位置が分からなくて困ったというより、とんでもない場所を示しているのが逆に面白いと感じているのだろう。
 しかし、本当に異空間に連行されたにしては、やけに『使い込まれた』感のある診察室だ。壁に貼り出された担当医の名前や、手作り感がある健康推進の標語ポスターなど、UDCがわざわざ用意したものとは思えない。
「(……どっちかっていうと、現実のものを土台にして作った異空間、ってところか)」
 診察室を眺めて、枯井戸はそう推察する。恐らくここは実在する施設で、誰も来る事はないから改造作業に都合が良いとして、風魔衆に目をつけられたのだろう。位置情報が割り出せないのは、病院そのものが異空間に飲み込まれているからか。
 半ば現実、半ば異空間。楽しげなシチュエーションだ。踊る心を抑えながら飲みかけのコーヒーカップを置――こうとして、そもそも置くべきテーブルもカップも無くなっていることを思い出し、笑みを苦笑に変えて枯井戸は立ち上がった。
 
 病院の総合案内図を確認してから、四人は一階の手術室を目指す。元々の病院の構造がそのまま使われているらしく、『広すぎる』という理由以外で迷うことはなさそうだ。
 極力目立たず、余計な敵を招き寄せないように慎重に行動しながら、猟兵たちは順調に進んでいくが――。
「……塞がっている?」
 角を曲がった先が手術室――総合案内図を思い浮かべつつ、銃を携えて先行していたシーラが足を止める。
「おっと。行き止まりか、こりゃあ」
 シーラの後ろから、枯井戸がひょいと顔を出して、残念そうな声を上げた。
 手術室へと続く通路を、うず高く積まれた瓦礫が塞いでいる。天井付近を見れば巨大な穴が空いていて、そこから夕日が差し込んでいるのが分かった。上の階から屋上までの床が崩れて、ここに積み重なっているのだろう。
「どうしましょう。他の道があったと思いますけど……時間がかかりそうですわね」
 リコリスの脳内に、病院の総合案内図が浮かぶ。どこか別の通路から手術室に向かえたはずだ。しかし今から移動して通路を探すとなると、どれだけの時間を食うことだろう。
「いえ、でも……なんとなくですが、この道でいいと、思います。ちょっと、先を見てみます……ね」
 少し自信なさげな表情を浮かべて、シーラは瓦礫の隙間から通路を覗き込む。夕日が差し込んでいるお陰で、ナイトビジョンゴーグルを使って確認しなくても良さそうだ。
 隙間から見える範囲で視線を走らせて、壁や床を注視すること数分。シーラは猟兵たちに向き直った。
「……ありました。靴の跡です。しかも、たくさん……」
 同じサイズ、同じ形。そんな靴跡が瓦礫の向こう側に大量に残されて、奥へと続いている。もちろん、ここを猟兵が通ったという事はない。
 進む道が正しいと示す、見るからに怪しい痕跡。それを追うために瓦礫を乗り越える時間も、片付ける時間も惜しい。ならばどうするかは――簡単である。
「なら、壊していくわ。他の道を探す時間がもったいないもの」
 野太刀を構えた南雲が進み出ると同時に、彼女が構えた刀が一瞬だけ夕日を反射して輝き、爆炎に包まれた。
 アルダワ魔法学園の地下迷宮でも、こういった類の障害物は度々見かける。普段はこんな大雑把な探索も解決法も取らないのだが、今は状況が状況だ。迂回路を探す時間は、この後の探索の時間に当てておきたい。
 大体、ここの瓦礫が取り払われても、自分たちは何も困らない。むしろ移動がしやすくなって探索も楽になる。。
 何も気にする事はないのだと、少女は炎を纏う太刀を瓦礫へと振り下ろす。
【トリニティエンハンス】で強化された斬撃は、南雲の宣言通り瓦礫を粉々にして、先へ進む道を切り開いた。

「まあ、風魔衆とやらは改築がお好きですのね。こんなに広いお部屋なんか用意して」
 瓦礫を退かした通路の先。両開きの扉の中に踏み入ったリコリスが、呆れ混じりの言葉を発した。
 扉の先はやたらと広い空間だ。消毒室や他の手術室との壁をぶち抜いて、強引に拡張している。壁だった部分に剥き出しの鉄筋や、砕き損ねたな痕跡が残っているが、綺麗に掃除されてゴミひとつ残されていない。
 器具やら機械的なパーツが収納された、清潔で消毒液臭い部屋。そんな部屋へと猟兵たちは注意深く侵入し、探索を開始する。
「あれ……? あそこの床、何か汚れて……いますね……?」
 どこかに痕跡が残っていないかと、床を見ていたシーラが違和感を抱いた箇所を指さした。
 壁を取り払われて手術室と同化した通路の床に、僅かな汚れが付着している。言われて注視しなければ気づかない程だが、よくよく見ると靴の形をした汚れが床に残っているようだ。
 それがどこかの扉から続いているならまだしも、部屋の中にぽつりと残っているのだから、怪しいことこの上ない。
 足跡の周囲に何があるか見渡してみると、真上に新品の無影灯が吊るされているのが見えた。元々は手術室に繋がる通路だった場所だ。後付で設置したのだろう。
 汚れがついたのは偶然か、それともあの無影灯に何かあるのか。どちらにせよ、気になったなら確認はしておくべきだと、隣にいる南雲へとシーラは話しかける。
「あのっ。ええと……あれ、落としてもらっても、いい……ですか?」
「ええ、もちろん。……破片に気をつけてね」
 つっかえつっかえになったお願いに、南雲は軽く答えて跳躍する。そして無影灯のアーム部分を一閃し、灯体を床へと叩き落とした。耳障りな音を立てて落下した灯体に遅れて、風の魔力を操作した少女がふわりと降り立つ。
 粉々になった無影灯に近づき、猟兵たちは見た感じの異変がないか確かめる。ざっと見ても特に異変はないが、シーラは警戒の表情を緩めないまま呟く。
「何でしょう……何か、嫌な予感がします、ね。変な感じ……です」
「おーっと、それなら俺の出番じゃねぇの?」
 シーラ自身もうまく言い表せない不安の言葉を聞いた枯井戸が、サングラスの奥の目を細めてワクワクした様子で進み出た。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……この瞬間がたまらないねぇ!」
 喜色を隠すことなく、床に膝をついて無影灯に手をかざす。真面目な場で喜ぶなど不謹慎だと枯井戸も思うが、廃墟の手術室に隠された謎の仕掛けを前にして、興奮するなと言う方が難しい。
 空いた手でカプリコーン・ザ・サモンズアイを操作して魔遺物を呼び出し始めると、電子的なノイズが虚空に浮かび始める。何があるかを探るつもりだったが――空間に走るノイズは、『何か』を隠蔽する術が魔遺物の力に抗っている証らしい。
 だが、ここで止めるつもりはない。抵抗されるという事は「ここに何かがある」と叫んでいるのも同然だ。少し力を強めてやればノイズの量が増えていき、手術台の下全体を覆い隠した後、一斉に霧散した。
「ヒュゥ、これはまた……いかにもってやつじゃねぇか!」
 現れたものを見て、枯井戸が歓喜する。無影灯に浮かび上がっているのは、複雑な紋様が書き込まれた魔法陣だ。
 その様子を覗き込んでいたシーラは、自分の勘と感覚は間違ってなかったことに、そっと胸を撫で下ろす。自分の勘違いで他人に色々とさせてしまったとなれば、申し訳無さで頭を抱えたくなるかもだ。ともあれ、あとは魔法陣が何なのか判明すれば、良い情報が得られそうだ。今度はリコリスが、解析のために魔法陣に指先を触れさせる。
「あらあら、こんなものを隠して……。何を企んでいるのかしら」
 行われるのは、呪詛の逆探知と追跡。魔力の流れに割り込んで遡り、発信源を探っていった。
 魔法陣から淡く光る魔力の粒が浮かび上がり、泡として弾けていく。泡として浮かぶ魔力が無くなった頃、リコリスは閉じていた目を開き、結果を告げた。
「一種の呪術でしょう。単体では『別の場所にいる者に、すぐ傍を通る者がいることを知らせる』『この魔方陣のある場所に転移する』程度の力しかありませんけど」
 獲物がかかったかどうかは、これである程度探知しているようだ。天井近くの無影灯に描かれていたのは、室内の状況把握を楽にするのと、頭上からの奇襲を容易にするためだろう。無影灯の下にあった汚れは、魔法陣を仕込み終わった後か何らかの理由で転移した時に付いたものか。
 しかし、魔法陣の機能はこれだけでは終わらない。
「そして……この病院に展開された呪詛を、成り立たせるものでもある。そういうものですわ」
 ただの廃墟として朽ち果てるはずだった病院と密かに細工を施したカフェを繋ぎ、特定の感情を抱き続けた者を片っ端から異空間に引きずり込む地獄。その呪詛を構築する要素の一つとして、魔方陣は設置されていた。
「つまり、これを壊せば呪詛も薄れていく……ということですの。申し上げた通りの危険物ですので、遠慮なくやって頂けたら」
 たおやかにリコリスが微笑むと、すぐ傍でUDCの襲撃を警戒していた南雲が静かに頷く。皆に離れるように促してから、南雲は紋朱を掲げた。
「ええ。悪趣味な奴らに――UDC相手に、遠慮なんてしないわよ」
 呪詛が薄れるということは、事件の解決――普通の人々の日常を守ることへの一歩に繋がる。むしろ遠慮する必要がどこにあるのかと、再び朱を宿す野太刀が振るわれた。
 
 赤い軌跡を描いた刀が魔法陣を叩き割り――病院の外に広がる夕暮れの空が、昼の青さを取り戻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『風魔衆・下忍』

POW   :    クナイスコール
【ホーミングクナイ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【クナイ手裏剣の連射】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    サイバーアイ演算術
【バイザーで読み取った行動予測演算によって】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    居合抜き
【忍者刀】が命中した対象を切断する。

イラスト:安子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 贄を保存する霊安室。
 カフェから贄が届いた後、すぐに改造できるようにと用意された、四階の手術室。
 そして、一階にある巨大な手術室の魔法陣が全て破壊された。
 カフェから異空間への転移術。それ以外の呪詛が取り払われると同時に、猟兵達の認識が書き換わる。否、正しいものに直されていく。
 この病院には、もう一階あること。
 四階までしかないと思っていた案内板も、たしかに五階まであったということ。
 その五階には、何人かの猟兵が探索を希望していた「院長室」が存在しているということを。

 存在していないと思っていた部屋を目指して、猟兵たちは五階へと駆け上がる。
 昼間の青空を天井とした、もはや建物の様相を成していないフロアを駆ける猟兵の足元に、青い光を放つ苦無が突き刺さった。
「猟兵だな。贄を捕えにいった者が戻ってこないと思っていたが。呪詛に気付いたのか、偶然ここにやって来たのか」
 淡々と呟くように話すセーラー服の少女の後ろから、全く同じ姿の少女が顔を出した。
「だが、好都合だ。奴らを改造すれば、良い戦力となるだろう。ここで"我ら"となるがいい、猟兵よ」
 自身らを破壊する存在を前にしても、彼女らの言葉に焦りはない。むしろ贄がこれだけいれば十分だと、薄く笑みすら浮かべている。
 そして、その期待と余裕を表すかのように、次々に出現するセーラー服の少女が猟兵達を取り囲んだ――!
モルツクルス・ゼーレヴェックス
「……もしかしたら、あんたらも元は被害者っすけども」
【高速詠唱】で【単純難解針】
を行使
「……残念ながら、あんたらを元に戻す術はないっす……だからせめて、痛みなく殺してやるっすよ」
こう言って注目を集めることこそ【パフォーマンス】
【コミュ力】全快で、本音を語って……同時に細胞サイズの【単純難解針】を風魔衆共の体内へと気付かれず仕込む

「なんでこんな事を言うか?お前らの気を惹いてるんすよ……弾けろ」

瞬時に、体内で爆ぜるように人間大になると同時に斥力を最大解放……苦しませない
「お疲れ様っすね」

「……さて、一仕事終えたことっす。……コーヒーでも飲んでいくっすかね」
思い切り甘いケーキが食べたいっすねえ


アイ・リスパー
「私のタルト、返してもらいますっ!
……じゃなかった、人々をさらって改造するなど許せませんっ!」

無理やり人を改造して力を与える……
研究施設によって生み出された私のような存在を、これ以上増やさせはしません!

電脳空間のプログラム【ラプラスの悪魔】を起動し、敵の動きをシミュレートして回避。
【マックスウェルの悪魔】で炎の矢と氷の弾丸で攻撃します。

「どうやらあなた方も、私と同じような予測能力を持っているようですね」

敵の姿と、研究施設の研究者の姿が重なります。

「ならば、どちらの演算能力が優れているか勝負です!」

与えられた力で戦う自分に矛盾を感じながらも今は戦いに集中です!

平和にタルトを食べる日常のために!


佐々・真子
同行:f04538

「セーラー服と機関銃……」チガヤさんの言葉を聞いてふと呟きます
いけない、それよりもあのクナイをどうにかしませんと
距離をとっても安心できません!

勘と動体視力に任せて初撃を何とかかわし、それ以降当たらない相手のクナイを見て「なるほど、これが誘導の目印なのですね」と看破し影の追跡者に敵元へ投げさせます(視力、第六感、影の追跡者の召還)
そのまま下忍は影の手で封じましょう(パーシアラティ)

影の狩人を呼んで弾丸を撃たせます
私が、撃たせるのです
「私は、私でいたいんです。それを、誰かに譲るつもりはありません」
チガヤさんのように強くなりたいとは思うけれど


チガヤ・シフレット
真子(f12501)と一緒に戦うぞ。

さて、カフェでのんびりタイムを妨害するってのが、どれだけいけないことなのか、きちっと教え込んでやらないとなぁ?
やり過ぎてしまったら、すまないなっ!

そういえば、真子は普通にセーラー服か?
ハッハッハァ!
私にセーラー服は似合うだろうが、貴様らと同じになるとかつまらんな!
改造されるよりも先に、私の弾丸で改造してやろう!
内臓兵器を起動。銃火器を大量展開して、弾丸の雨霰と行こうか。
しょっぱなから一斉発射で打ちまくりだ!

敵が密集してるなら、ミサイルでも撃ち込んで衝撃波で吹っ飛ばしてやろう!

え、なに、やりすぎ……?
そんなこと言われてもなぁ~。



「何が『好都合』ですかっ! 私のタルト、きっちり返してもらっ――じゃなかった……人々をさらって改造するなど、許せませんっ!」
 うっかりはみ出てしまった食べ物の恨みをごまかして、アイ・リスパー(電脳の妖精・f07909)は勇ましく言い放つ。
 たしかに、食べかけのタルトを奪われた恨みはそう簡単に収まるものではないが、それ以上に風魔衆のやり方に彼女は憤っていた。
 無理やり人を改造して力を与えるなど、許される事ではない。そんな事をしても何にもならないし、誰も幸せにならないのだ。『自分』はこれ以上増えるべきではない。
 だから、何としてでもここで止める。アイの戦意と決意に呼応した電脳ゴーグルが淡く輝いて、周囲に格子状の光を走らせた。
「初期パラメータ入力。シミュレーション実行。対象の攻撃軌道、予測完了です」
 自身へと迫る風魔衆を前にしたアイの口から、酷く事務的で機械的な言葉が発せられる。相手の攻撃をシミュレートして回避するユーベルコード、【ラプラスの悪魔】のコマンドワードだ。
 シミュレーション通りの動きでセーラー服の少女が放ったクナイを避けつつ、お返しとして【マックスウェルの悪魔】で生み出した火矢と氷弾を放つ。
 周囲に展開された電脳空間のプログラムによる熱制御。傍から見れば『何もない空間』から行われた攻撃だというのに、風魔衆はその攻撃がどこから来るのか把握していたかのように、あっさりと避けてしまった。
 狙いを失った炎の矢と氷の弾丸が、廃墟の床に当たり、罅を残して消える。
 風魔衆の回避の動きを見て、アイは何とも言えない表情を浮かべていた。攻撃が避けられた事に驚いているのではなく、回避動作に酷く覚えのあるものを感じたからだ。
「……あなた方も、私と同じような予測能力を持っているみたいですね」
 自分と同じ、行動予測演算による回避。未来予知じみた動きは、自分のものとよく似ていた。
「ああ。だから、どうしたというのだ」
 これ以上語ることはないと、風魔衆が再び走り出す。
 バイザーを光らせて廃墟を駆け回り、必殺の一撃を叩き込もうとする風魔衆をいなしながら、アイの心に暗い感情が浮かぶ。
「(私も、同じなんですよね。誰かから力を与えてもらって、それで……)」
 敵の姿と、自分を作り出した研究者の姿が重なってどうしようもない。彼女も自分と同じだ。誰かから与えられた力を自分のものだとして、自分のために使っている。はたして彼らは、ここまでして何を得たかったのか。
 それでも自分と彼らは違うのだと、平和な日常を求める心を持ち、そのために戦う自分は少しだけ違うのだと心を奮い立たせて、叫ぶ。
「ならば、私とあなた――どちらの演算能力が優れているか、勝負です!」
 暗い思考に沈む事は、あとで幾らでも出来る。今は戦うべきだと、気持ちを切り替えた。
 幾度目かの攻撃と回避の応酬の中で、ふいにアイの動きが止まる。風魔衆のバイザーでも、攻撃の意思無しと分析される程の、完全なる無抵抗の状態だ。
 高速で行われる行動予測演算の負荷がかかったか、何か別の要因か。罠にも見える動作だが、その後の行動を予測した風魔衆は『あえて踏み込むべき』と判断する。攻撃してこないなら、この隙を逃すわけにいかない。
 そのまま電子の少女の命を刈り取るべく、握ったクナイを一閃させ――。
「ぐああアァァァァ――ッ!?」
 突如、炎に巻かれた少女が悲鳴を上げる。何もない空間から突如、アイを守る炎の壁が出現したのだ。
「っと、とと……何とかうまくいったみたいですね!」
 大きく飛び退いて距離を取ったアイが、安堵の笑みを浮かべてガッツポーズを作る。
 実はアイは無抵抗になったわけではなく、敵の接近を待っていたのだった。【マックスウェルの悪魔】を用いた攻防一体の炎の壁で、迎撃するために。
 予測して回避されるなら、分かったところでどうしようもない、避けようがない瞬間に攻撃する。もちろんそれを悟られないために他のプログラムを密かに走らせて、自分が攻撃準備に入っている事すらも隠蔽する。
「よし、次です。私はまだまだいけますよー!」
 燃え盛る炎の壁と隠蔽のために展開していたプログラムを電脳世界に格納して、電子の妖精は再び戦場を駆けた。

 ●

 UDCに囲まれても、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)の余裕の笑みは崩れない。
「『カフェでのんびりタイムを妨害する』ってのが、どれだけいけなくて、どれだけ人の恨みを買うことか、きちっと教えてこんでやらないとなぁ?」
 この状況を前にしても、物理的な説教をするつもり満々なチガヤに、友人の佐々・真子(f12501)は激しく頷いて同意を示す。
「そうですよ、私のパフェ、ちゃんと返してくれませんとっ!」
 やはり食べ物の恨みは、山より高く海より深い。食べ物ではなくても、穏やかな日常を強引に奪われるなど、大変許しがたい事だ。故に容赦するつもりはないが、チガヤはそれにしても、と呟く。
「お前ら、制服はセーラー服かあ。真子のは普通のやつだよな?」
「当たり前じゃないですか! 私のは学校指定のセーラー服。あんなボロボロじゃありませんー!」
 ちゃんと着こなしている友人によく似合っていると笑って流しつつ、チガヤはしげしげと居並ぶ風魔衆の姿を眺める。クナイや忍者刀を構えた、少し裾がぼろぼろになったセーラー服姿の少女ばかりだ。あちらも制服なのかもしれない。 
「私もまあ、似合うだろうな。いい服だと思うぜ、セーラー服」
 何度かセーラー服姿の自分を想像したのだろう。改造手術に前向きな感じで、敵の服を褒める。それでも風魔衆が警戒を緩めないのは、獰猛な肉食獣じみた物へと変わった笑みのせいか。
「だが、貴様らと同じになるとか、最高につまらんな!」
 快活な言葉と共に、彼女に埋め込まれた兵器が両腕を変貌させる。現れたのは無数の銃火器。異形の砲架と化したチガヤの意志で、砲口が次々に火を噴いた。
 嚆矢として風魔衆の集団へ向けて放たれる、弾丸の雨霰。挨拶代わりの一斉発射が風魔衆を消し飛ばし、廃墟の壁を粉々にして――二人の戦いが始まった。

「あのクナイ、怪しいですよね……嫌な予感がガンガンします!」
 銃弾の雨を掻い潜って迫る少女が携えたクナイ。パッと見た感じ何の変哲も無いクナイだが、佐々の第六感が危険と叫んでいた。
「おお、そうか? じゃあ、撃ち落としてやろうか!」
 佐々の叫びに答えたチガヤは銃火器に変形した両腕を向けて、投射されたクナイを撃ち落とす。鋭い金属音を響かせながら、クナイが床に落ちていく。だが一本だけ、放たれた時のままの速度と勢いで、真っ直ぐに佐々へと飛来していた。
 チガヤが撃ち落としそこねたのではない。あいつなら絶対に避けると信じて、友人が使うユーベルコードをよく理解した上で、その発動を助けるために一本だけスルーしたのだ。
 そして佐々はチガヤの予想通り、クナイの一撃を躱していた。普通とも無個性とも言えない動体視力と、研ぎ澄まされた直感。それらを駆使して言い表せない嫌な予感がしなくなる距離を取りつつ、クナイを回避する。
 直後、床に突き刺さったクナイめがけて、雨霰と別のクナイが降り注いだ。誰にも当たらなかったはずなのに、まるで予め設定されていたかのような動きでクナイを放った風魔衆に、佐々はなるほどと頷いた。
「最初に撃ってきたクナイ……これが誘導の目印として、次の攻撃を自動的に放つんですね」
 よく見ると、最初に放たれたクナイにはオレンジ色のランプが小さく灯っている。次弾を殺到させるための装置だろう。
「最初の一撃が当たらないと、次の攻撃は撃てない。そうでしょう?」
 佐々の指摘と共に、黒い影の追跡者が風魔衆の足元へと走る。足元の影に到達した黒い追跡者が、風魔衆の少女の体を這い上がり、その手足に縋り付き、纏わり付く。
【愛でることの呪縛】で敵の体を拘束する事でクナイによる攻撃を封じて、佐々は一歩だけ、前に進み出た。
「……たぶん、あなた達と改造を受けたら、強くなれるんでしょうね。チガヤさんみたいな、とっても強い人に」
 影の手を振り払おうともがく少女を前にして、佐々はゆったりと首を振る。彼女の背後から現れるのは、クラブのマークを胸に刻んだ、黒影の霊。【影の狩人の召還】によって呼び出された影の狩人が、身動きの取れない風魔衆に弓を引こうとした。
「でも私は、私のままでいたいんです。それを、誰かに譲るつもりはありません。だから――撃ってください」
 射撃命令を受けた狩人が、黒い矢を驟雨の如く降り注がせる。本来自律行動も、自発的な攻撃も可能な狩人だが、佐々自身が命令を下したことには意味があった。
 自分と同じような年頃で、自分とは違う力を得た相手との真剣勝負。ならば、撃たせるのは自分であるべきだ、と。
 いつになく真剣な表情で戦う佐々に、チガヤは温かな眼差しを向ける。思わぬところで友人の成長ぶりを見て、嬉しくなってしまった。これは――盛大に祝ってやらねばならない。
「よーし、真子! ちょっと伏せておけよ!」
 チガヤが楽しげに吼える。友人の成長を見守っているのは良いが、ここは戦場だ。そもそも、何もせずにサポートに周り続けるなど、チガヤの闘志が許さない。
 敵は影の手に捕まり、振りほどこうとして身動きがろくに取れない状態だ。こんな大きな隙を逃す程、チガヤは甘くない。しかも最初に集団でクナイを放ったせいで、敵は佐々のユーベルコードで纏めて拘束されている。固まっているなら好都合だと、チガヤの笑みは深くなった。
 同時に銃火器だった両腕が、機械音を上げて更に変形する。銃火器の形を失い、ミサイルランチャーへと変わっていく。
「笑顔であの世へ、行ってこい!」
 ランチャーから発射されたホーミング式のミサイルが次々に風魔衆に襲いかかり、爆発する。
 その余波で生まれた衝撃波が、風魔衆ごと病院のフロアをも吹き飛ばした。あまりのオーバーキル気味な威力に、病院全体が震動し、下の階であちこちが崩れた気配もする。
「チガヤさん、やりすぎだと思いますっ! 崩れたらどうするんですかー!」
 揺れに足を取られかけた真子が、思わず抗議の声を上げる。建物全体が嫌な揺れ方をしたので、つい心配になったのだろう。
「えー、そんなこと言われてもなぁ~。このぐらいで崩れるような軟弱な病院じゃないって、私は信じてるぜ!」
 実際、本当に崩れていないので無問題だ。
 ミサイルを撃ち終わったチガヤは再び腕を銃火器形態に戻して、黒い矢の雨とミサイルの中から生き残った風魔衆を撃ち抜いた。
 
 ●
 
 己を取り囲むUDCを前にしたモルツクルス・ゼーレヴェックス(自由を飛ぶ天使・f10673)は、静かに目を伏せた。無感情に自分を囲む少女達の正体、そして彼女らが置かれている状況を思うと、心が痛む。
「……もしかしたら、あんたらも元は被害者っすけども」
 風魔衆。人々に改造手術を施す事で仲間を増やす邪教集団。猟兵達を包囲していた少女達はその『下忍』だと聞いている。
 つまり、風魔衆の何者かによって既に改造されてしまった元一般人だ。できることなら助けたいが――。
「残念ながら、あんたらを元に戻す術はないっす」
 黒い瞳で風魔衆を見据え、自身と対峙した少女へ静かに宣告する。『風魔衆となった少女は助けられる』という話は聞いていないし、あそこまで冒涜的に改造された者が元の体に戻れるのかは、モルツクルス自身も疑問だった。
 それに、風魔衆はオブリビオンでもある。下忍である彼女たちも、今はいない存在である可能性もあるのだ。既に『そういう存在』として骸の海に沈んだ者達を、ただの人に戻してやる事など、できるはずがない。
「元に戻すなど。我らとなった時点で、我らとして生きるのみ。お前は何をいうのか」
 嘲笑うのでもなく、意外だと驚くのでもなく、風魔衆の少女は淡々と言い放つ。自分たちがどういった存在かも答えず、猟兵を狩るために忍者刀を構えた。
 モルツクルスもまた、そうっすよね、と諦め混じりの言葉を呟いて杖を向ける。
「だからせめて、痛みなく殺してやるってことっすよ」
 助からないなら、慈悲を以て屠る。それが青年の答えだった。
 忍者刀の一撃をすんでのところで回避して、モルツクルスは廃墟を走る。
 大袈裟な動きで斬撃を避けて、翼による飛行で不安定な足場を越えて、とにかく多くの風魔衆を引き付けて駆け回った。
「ほらほら、こっちっす! そっちだって広い場所で戦いたいっすよね、自分もっす!」
 戦場を変えようと呼びかけるモルツクルスは、回避行動だけで一切攻撃しない。普通に考えれば、混戦状態にある場所から離れる彼は、放置しておけばいいだろう。なのに、風魔衆はそうしない。彼の大仰とも言えるパフォーマンスと、心底から訴えかけてくる言葉に注目し、引き寄せられていく。
「……戦わないのか?」
 モルツクルスを追う風魔衆の一人が、耐え兼ねて口を開く。殺してやると言った割には、時折杖を振るだけで何もしてこないのだから、対峙する者として理解ができなくなったのだろう。
「いや、自分は戦ってるっすよ? 結構真面目に!」
 翼を叩き割ろうとした忍者刀を翼を収納することでやり過ごして、モルツクルスは人好きのする笑顔で答える。
 たしかに回避動作は大真面目だ。彼の言葉に、虚偽やごまかしなど何一つ混ざっていない。
 驚異的なコミュニケーション能力でUDCに本音をぶつけて、上手く誘導していく。
「ま、なんでこんな事言いまくってるのかっていうと……本気であんたらの事を、助けられなくて残念だと思ってるっす」
 かつて奇跡の子と持て囃されて人々を救っていた存在として、悲しげに告げる。あの生活に自由は無かったが、それでもモルツクルスが人々を救う者だった事には変わらない。助からない相手だとは言え、残念だと感じる心に嘘はない。
 だが、と続く言葉を紡いだ青年の表情は、冷ややかな戦意だけが浮かんでいた。
「もう一つ。自分は――お前らの気を引いているんすよ」
 弾けろ。
 風魔衆たちが言葉の意味を理解する前にモルツクルスがその一言を唱えると、彼を取り囲む少女の姿が音もなく消える。
【単純難解針】による斥力属性の魔法の針。敵と会話しながら、彼女らの体内へ仕込ませた針を最大解放して、一瞬にして消滅させたのだ。
 針の膨張も斥力の展開も、何が起こったか把握させない内に。最初に宣言した通り、痛みも苦しみもなく、少女達は倒される。
 消滅まで見守ったモルツクルスは、ふう、と息を吐いた。
「さて、と……一仕事終えたら、コーヒーでも飲みに行きたいっすね」
 屠った者達への祈りや、今回の戦いについて思う事はまた後に。まだ風魔衆はたくさんいるのだ。
 愛用の杖をくるりと回し、モルツクルスは次の敵へと狙いを定めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

南雲・海莉
あなた達も元は犠牲者だったのかしら
……ごめんなさい、私達には戻す術は無いの
できるのはそんな負の連鎖を止めるだけ
ここで根絶させてもらうわ

UCで確実に敵を倒していく
犠牲者を増やさない
その為なら容赦など一切しない

クナイの初撃は、近くにある家具の残骸などを倒して当てさせる
その間に一気に距離を詰めて攻撃に転じるわ

……ここに来る前にいただいたパンケーキ、すごく美味しかったの
皆との会話も楽しくて、穏やかでね
たくさんの幸せがあの場所でこれからも生まれ続けるのかしら
そんな幸せな時間を、人々から奪わせないわ

あなたをUDCにした始まりの輩も
きっといつか骸の海に叩き返してあげる
だから今はゆっくり眠りなさい


シーラ・フリュー
私は改造されるのは嫌です、痛そうじゃないですか…。あ、そういう問題では無いです?
そんな話は兎も角。良い所で本の邪魔をした恨みを、此処でぶつけましょう…!(割と根に持ってる)

【SPD】
リボルバーで【援護射撃】寄りで動いていくスタイル。できる範囲で皆様の戦いやすいように支援しつつ、という感じでしょうか。
優先度的にはクナイ、バイザー、足くらいで狙っていきたい所。
リロード中に近寄られたら【狼牙】で応戦したいですね。

後は、回避がとても厄介ですね。早めにバイザーを撃って壊しておきたい所なのですが…。
【2回攻撃】であえて1発目を回避させて、次の弾を【早業】で当てるとか…?難しそうですけど、試してみたい気も。



 病院の最上階で、また別の戦場が展開される。
「えーと……私は改造されるのは嫌ですね。痛そうじゃないですか……」
 シーラ・フリュー(天然ポーカーフェイス・f00863)が、おずおずと改造を拒否する。なんとも締まらない理由ではあるが、風魔衆の一人が小首を傾げて律儀に答えた。
「安心しろ、麻酔を使う。目覚めた時には、"我ら"となっていよう」
「いえ、そういう問題じゃないと思うけど……とにかく、改造なんてお断りよ。強くなれるとしても、あなた達になるのは嫌なの」
 一体何を安心しろというのか。改造手術に伴う問題を色々と脇に置いて、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)が、はっきりと拒絶を示す。たしかに自分が求めている強さは手に入るだろうが、それはこんな手段で得るものではないし、UDCにされるなどまっぴらごめんだ。
「んー……よく考えなくても、私も断りますね。だって私、読書の途中だったんです。いいところで邪魔された恨み、ここでぶつけさせてもらいます……!」
 リボルバーを構えたシーラも、控えめに頷いて風魔衆の誘いを拒否した。こちらはわくわくする最高の瞬間を台無しにされた方の恨みだ。本当の本当にいいところだったのだから、これで怒るなというのが無理な話だろう。
 だからといって、怒りで銃を乱射するような荒々しく非合理的な戦い方はしない。自分のするべきことは、仲間の支援だと決めていた。できる範囲で皆が戦いやすいように、援護射撃をするつもりである。
「南雲さん……援護は任せてください」
 改造手術への同意は無し、交渉決裂と判断した風魔衆が迫るのを見て、シーラが銃を撃つ。狙い澄まされた弾丸が風魔衆の足や手元、クナイへと命中し、次々に金属音を響かせた。
「助かるわ」
 短く感謝を伝えて、南雲はUDCの群れへと踏み込む。突如武器を失い、足を撃たれてよろめく風魔衆たちを、野太刀の一閃で薙ぎ払った。生み出された斬撃と風が、投げられたクナイごとUDCの体を斬り裂いて消滅させる。
 だが、その攻撃を巧みにすり抜けた者もいた。
「シーラさん、そっちに――!」
 脇を通っていく風魔衆に気付き、南雲が警告を飛ばす。こちらで止めようとしたが、邪魔はさせないと残った風魔衆が割り込んできて、南雲の動きを妨害する。
 リロードの最中だったシーラは、迫り来るUDCを前に半身の構えを取った。
「銃だけが取り柄だと思ったら、大間違いですよっ……!」
 直後に放たれたのは、鋭いハイキックだった。顎を蹴り抜かれてよろめいた風魔衆に、追撃としてリロードしたばかりの弾丸を叩き込んだシーラは、瓦礫の上を飛んで距離を取る。
「こ、こちらは大丈夫ですからっ、南雲さんは、気にせずに……!」
 気にするなと言いながら、シーラは銃を撃って次々に風魔衆を倒していく。が、二人だけ弾丸を悠々と躱して、至近にいた南雲へと襲いかかった。
 迎え撃つために振るわれた太刀による斬撃も、リボルバーの援護射撃も、最初から来ると分かっていたかのような回避能力。
「私たちの攻撃を予測して、避けている……?」
 青く光るバイザーを見つめて、シーラは呟く。風魔衆の体や動きに、特にこれといった変化は見られない。機械の四肢も、戦闘が始まった時と同じように淡い光を放っている。
 ならば怪しいのは、顔の半分を覆い隠す物々しいバイザー。あれで自分たちの行動を読み取り、攻撃の軌道を予測しているのだろう。
 あのバイザーを何とかしなければ、まともに攻撃が当たらない。このままではジリ貧になってしまうと焦りかけたシーラの脳裏に、一つの考えが浮かんだ。
「(……でも、いける?)」
 行動予測による回避能力を与えるバイザーを、無力化する手段。自分の考えた手が上手くいくかは分からないし、本当にこれでいいのか、そんな逡巡は一瞬だけ。駄目なら自分と南雲の二人で、また別の方法を探れば良いだけだ。
 南雲にクナイを投げようとした個体に狙いを定めて、発砲。何のひねりもないその一撃を、風魔衆は軽く頭をそらして回避して――
「ガッ!?」
 続いたもう一発でバイザーごと頭を撃ち抜かれ、仰向けに倒れて絶命する。
「何っ……!?」
 近くで戦っていた相方が突如倒された事実に、無感情を貫いていた風魔衆が驚愕の声を上げた。
 その隙を狙って刀を振るう南雲から離れていく敵を見て、シーラはそっと息を吐く。
「うまく行ったみたい、ですね……よかった」
 シーラが行ったのは、ただの二連射だ。一発目をあえて避けさせて、すかさず次の弾を放つ大変シンプルな射撃。行動を予測してくるなら、どうしようもない領域で攻撃するだけのことなのだ。実際、あれこれと工夫を凝らした攻撃よりも、逆に絶大な効果を上げているようだ。
 残ったもう片方にも同じような射撃を行えば――二発目の銃弾に当たり、もんどりうって倒れる。こちらの方はギリギリ回避が間に合ったのか、バイザーを砕かれるだけで済ませたようだ。だが反則じみた行動予測演算は、二度と使えないだろう。
「猟兵め。……おのれ、何故"我ら"の邪魔をする……我ら風魔衆に、何故楯突くのだ……」
 バイザーを砕かれても、組織への忠誠を露わにして戦おうと立ち上がる少女に、南雲は思わず痛ましげな視線を向けた。
「……元に戻せたら、どんなに良いことか……」
 彼女らが骸の海より蘇った存在なのか、蘇った者に改造された存在かは分からないが、元々は自分と同じ『普通の人』だ。
 可哀想な存在だが、だからといって容赦する事はない。元に戻す方法はないし、本当に犠牲者が出る前に負の連鎖を断ち切らなければならないのだ。
「……ここに来る前にいただいたパンケーキ、すごく美味しかったの」
 それでも、かつて日常にいた者に伝えずにはいられないと、南雲はそう切り出す。
 対する風魔衆の表情には、何も浮かんでいない。強いて言うなら、「いきなり何を言うのか」と意図を計り兼ねている気配があった。かつて自分がいた日常のことは、忘却の彼方なのだろう。
「それで、皆との会話も楽しくて、穏やかで……」
 構わず間合いを詰める。忍者刀による攻撃をマンゴーシュで受け流していく。攻撃を弾かれた風魔衆が、地面を強く蹴って南雲から遠ざかる。
「きっとたくさんの幸せが、あの場所でこれからも生まれ続けるのかしらね」
「……だから、どうした?」
 興味ないと呟く少女が、服の裾から一本のクナイを取り出して、投げつける。その動作を見た南雲は、ある物の隣で足を止めた。
「だから私は、そんな幸せな時間を……!」
 言うと同時に、傍らにあった丸椅子を蹴り飛ばす。訪問客のために用意されていただろうそれは、投擲されたクナイへと回転しながら突き刺さった。
「――!」
【クナイスコール】の初動、その失敗を悟った風魔衆が後ろに飛ぼうとするが、遠方より足を狙って放たれた弾丸に邪魔をされる。大きく体勢を崩した少女が見たものは――長い黒髪を翻して懐に飛び込んできた、南雲の姿。
 もしバイザーによる演算能力が生きていたとしても、回避が間に合わないほど密着した距離。
「……人々から奪わせないわ」
 決別を乗せた決意の宣言と共に、居合の構えで放たれた【剣刃一閃】が、風魔衆の体を袈裟懸けに両断する。その衝撃で機械の四肢を砕け散らせながら、UDCの体が虚空に解けるように消え始めた。
 姿が薄れていく風魔衆から目をそらさず、南雲は静かに語りかけた。
「……ねえ。あなたををUDCにした輩が、どこかにいるんでしょう。そいつも、きっといつか骸の海に叩き返してあげる」
 だから今は、ゆっくり眠りなさい。
 険しさの欠片もない、穏やかで柔らかな別れの言葉。
「…………」
 徐々に存在が薄れていく少女が、南雲の目を見たまま、しっかりと頷いた気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リコリス・シュピーゲル
ようやく招待主様にご挨拶ができますわね
もうずっと会いたくて会いたくて仕方なかったのですよ?
あの一口を奪い去ったときから!

【死を謳う氷雨】で集中砲火、参ります
『2回攻撃』『スナイパー』で1発の数も質も上げていきましょう

攻撃は…一旦鞘に刀を納めるのかしら?
それなら納めているうちに『属性攻撃』による冷気で鯉口あたりを氷漬けにしますわね
抜けなければただの打撃武器ですの
弾丸の雨を手元へ集めて『武器落とし』も有効かしら

ああ、お答えするのが遅れてましたわ
『あなたがた』になるのは丁重にお断りしますわ!
ムッシュに気づいてもらえなくなってしまいますもの!

絡みアドリブ等大歓迎



「ごきげんよう、招待主様。あなたにご挨拶できる時を、心待ちにしていましたの」
 小さな体でドラゴンランスを操り、リコリス・シュピーゲル(月華の誓い・f01271)はにこやかに風魔衆に話しかけた。そう言いながらランスを突き出し、迫る相手を刺し貫いて投げ捨てる。
「我らを、心待ちに……猟兵がか?」
 抑揚のない声で訊ねてくる少女達へと、リコリスは笑みを保ったまま頷く。
「ええ、それはもう。ずっと会いたくて会いたくて、仕方なかったのですよ? 私の大事なパンケーキ……その最後の一口を奪い去った時から!」
 黒服の淑女から放たれたのは、恨みの籠もった叫びだ。甘いものが大好きな人物から、一番甘い一口を奪った場合どうなるか。かなり極端かつ良い例が、そこにあった。
 しかし、風魔衆の反応は冷ややかを通り越して、無感情そのものだ。何故そこまで言われないといけないのか、よく理解できていない様子でもある。
「なんだ、そんな事か。それがどうした?」
「そんな事とおっしゃいましたね? あなた方にとっては『そんな事』でも、私にとっては大切な事だったのよ……!」
 己の幸せをあっさりと切り捨てられた怒りで、普段の淑女らしい口調が完全に吹き飛んでしまっている。それでも軽い深呼吸でギリギリ平常心に戻れたのは、染み付いた淑女の振る舞いのお陰か。
 投げられたクナイを叩き落とし、ランスを薙いで牽制しつつ、リコリスは鈴を鳴らすような声で詠唱する。
「此れが奪うは生の温もり。降り注げ、悲しみの雨よ」
【死を謳う氷雨】によって出現した、大量の氷弾。至近にいる風魔衆を穿ち、遠くにいた者は研ぎ澄ました狙いを以て撃ち落とす。回避行動を取った相手には避けた先に弾を撃ち込み、確実に仕留めていく算段だ。
 リコリスの狙い通り、氷の雨に打たれた風魔衆が面白いように倒れ伏して、消滅していく。
 しかし、他の者から大きく距離を取っていた個体だけは、回避行動も防御の動作も行わない。その代わり抜き身の刀を一度鞘に納めたかと思うと、居合の要領で抜き放って、自身に迫る氷を両断してしまったのだ。
 恐らく、攻撃に使うユーベルコードを防御に応用したのだろう。氷の雨を斬る事で凌いだ風魔衆に、リコリスは僅かに瞠目する。
「(あの攻撃……一旦鞘に刀を納める必要があるのかしら?)」
 ただ切り落とすだけなら、鞘に納めることはせず、普通に忍者刀を使って切れば済む話だ。だが、あの風魔衆はそうせずに、わざわざ納刀した上で攻撃してきた。今もせっかく抜いた忍者刀を納めて、静かにリコリスの出方を伺っているようだった。
 物体を両断するユーベルコード。その効果を発揮するために、納刀という動作を経る必要があるのだろう。
 ならば対処のしようがある。勝算を抱いて、リコリスはうっすらと笑みを浮かべる。
「あら、私からのお礼が受け取れないのかしら。そんなにご遠慮なさらなずとも良いのよ?」
 企んでいる事は敵からしたら悪辣だが、声音だけは清楚な乙女のままで。リコリスが靴の踵で軽く床を叩くと、先ほど廃墟に突き刺さった氷が花開くように弾けて、礫となって風魔衆に襲いかかった。
「腕が……っ!?」
 細かな欠片となって冷気を撒き散らす礫を振り払おうとした、機械の腕が凍りついていく。
 何事かと風魔衆が疑問の言葉を発するよりも先に、腕の氷が広がって、忍者刀の鯉口をも氷漬けにしていった。
「素敵な武器をお持ちですのね。……でも、抜けなければただの鈍器でしょう?」
 攻撃手段と一瞬にして奪われた風魔衆からバイザー越しの忌々しげな視線を受ける。それを意に介さず、リコリスは何かを思い出した様子で両の掌を合わせた。
「ああ、そうでしたわ。あなたがたの誘い、お答えするのが遅れてましたわ。残念ですけれど、『あなた方』になるのは丁重にお断りしますの」
 愛らしい仕草と共に淑女の周囲に現れたのは、無数の氷弾だ。三桁を超える数の氷弾が、風魔衆を取り囲む。一本一本が針の如く尖り、見るからに殺意に溢れた形状へと変わっていく。
「だって、ムッシュに気づいてもらえなくなってしまいますもの」
 どこかへふらりと消えてしまった主人が、自分を二度と見失わないためにも、自分は『リコリス・シュピーゲル』であり続けなければならない。そういうことだ。
 そして虚空に浮かぶ氷の針は、リコリスが命じるまでもなく一斉に殺到して――残ったUDCを串刺しにした。
 
 ●

 呪詛を構築していたUDCが完全に消滅すると同時に、猟兵達の視界が一瞬だけ闇に閉ざされる。
 瞬きのような刹那の時間がすぎれば、それぞれはカフェで自分たちがいた席へと戻されていた。
「お客様、空いたお皿をお下げしますね」
 店のどこかから、従業員のそんな言葉が聞こえる。
「ねえ、次はどこいく? 服見に行く?」
 傍の席から、少女達が話し合う声が聞こえる。
 昼下がりのカフェの中、何事もなかったかのように語り合う人々の中に、猟兵達は戻ってきたのだ。
 
 何もない普通の日常が、ここにあった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年03月23日


挿絵イラスト