百合の花散らす狂風を断て
●百合の花園、儚く散る
「ごきげんよう、皆様」
「ごきげんよう、おねえ……教官」
クロムキャバリアの小国家『聖ヒルデガルト修道騎士団領』。
北辺の地を、修道院のシスターたちとともに切り開いたという聖ヒルデガルトが建国した国家である。
そして、彼女を崇める気風のあるこの国では、古くから女性の権力が強い地であり、エリートは男の目や手から物理的に隔離され、温室の花のように育てられるのが古くからの伝統であった。
時が流れ、男女同権が進んだ今でも、士官学校は最後の花園として知られている。
だが、その乙女の園からも、いつか巣立つ時は来るもので。
「これより、卒業戦闘試験を開始します!」
士官学校の教官は、学校敷地に隣接する森林地域へと向けて通信で宣言を行った。
士官学校の演習区域として定められているそこには、既に学生たちの手によって南北にふたつの陣地が構築され、|アルストロメリア《Alstroemeria》と|ベラドンナ《Bella-donna》のキャバリア二個小隊として既に展開済みであった。
この小隊同士による模擬戦闘を行い、その成果や行いをもって卒業可能かを判断する。
また、一部の教職員以外には日程すら開示されない、抜き打ちの試験でもある。
それがこの士官学校における伝統である。
「忠節と貞淑を胸に、伝統ある士官学校の一員として、この試練を乗り越えることを切に願います。
アルストロメリア小隊及びベラドンナ小隊、士官心得!」
教官の凛とした声が届くと同時に、通信の向こうから少女たちの唱和が聞こえてくる。
その声には、未知の試練への不安と、そして伝統を行うことへの高揚が乗っているのが分かる。
「我ら、樫の木の如く|毅《つよ》く、百合の花の如く麗しく立ち、国家と聖ヒルデガルトに尽くすことを誓います!」
だが、その声は教官の期待するものではなかったようだ。
通信越しにそれを咎める。
「アルストロメリア小隊、唱和しなさい!」
その声に答えるのは沈黙のみ。
代わって悲鳴のような声で答えたのは、通信担当の学生であった。
「アルストロメリア小隊の反応確認! こちらにまっすぐ向かってきます!」
「何を考えているのですか、アルストロメリア1!説明しなさ」
次の瞬間、教官本部はアルストロメリア小隊の一斉射撃によって焦土と化し。
学生部隊の説明を教官が聞くことはなかった。
●花を守るには、花になればいい
「その後、学生によるキャバリア小隊は士官学校校舎まで進撃。多くの犠牲者が出る……。
だから、それを阻止してほしいのだけど、今回は少し厄介なのよ」
クリスティーヌ・エスポワール(廃憶の白百合・f02149)は、猟兵たちを前に、そう言い淀んだ。
「それは、現場は予知できたけど、正確な日時の予知ができてないってこと。
だから、いつもやっているような事件発生と同時に現場に乗り込んで即制圧、は正直難しいの」
猟兵がほとんど被害なく事件を解決できるのは、日時と場所の両方を絞り込み、ピンポイントで事件の原因となる敵を倒しているからだ。
判明しているのが場所だけでは、こうした運用は不可能となる。
「あ、でも事件の解決が不可能なわけじゃないわよ。そして、ここからが肝心」
クリスティーヌは一拍置いて、一気に言い切った。
「『正確な日時』が分からないなら、私たちがその時間に居合わせればいい。
つまり、士官学校に潜り込んで事件を待ち構える……潜入ミッションよ!」
ただし、問題もある。
舞台となる『聖ヒルデガルト修道騎士団領』の士官学校は、男子禁制の花園。
学生として潜入するには、女生徒としての体を保つ必要があるのだ。
無論、これは「学生として」なので、「講師や職員として」ならば男性も潜入可能ではある。
その上でどう活動するかは個々の猟兵に任されるが、一つ所に長く留まる関係上、目立つことをすれば黒幕のオブリビオンに露見する危険性が高いため、学園に馴染んで穏当に過ごすのが望ましいだろう。
「まあ、穏当という言葉の定義について議論をする気はないから、そこは任せるわよ?
ともあれ、ちょっと長いこと拘束しちゃうけど、解決できれば多くの学生や職員が救われるわ。
よろしくお願いするわね」
そう言うと、クリスティーヌはグリモアを起動させ、士官学校での生活へと猟兵を誘うのであった。
西野都
こんにちは、西野都です。
今回はクロムキャバリアでの|潜入任務《がくえんせいかつ》をお送りします。
本シナリオの構成と注意点は以下の通りです。
第1章:士官学校を舞台とした日常。
学園の校風についてですが……創作等でよく見られるお嬢様学校と考えればOKです。
また男性についてもOPの通り、講師や職員としての潜入は可能となっております。
第2章:オブリビオンマシン化したキャバリアとの集団戦。
彼女たちを放っておけば士官学校が灰燼と帰してしまうため、迅速な対処が求められます。
また、学生パイロットが機体内に囚われているので、助けてあげてください。
第3章:オブリビオンマシンとのボス戦。
パイロットは搭乗しない自律型機体のため、搭乗者の安全を考慮する必要はありません。
心置きなく破壊してくださって構いません。
なお、今回はロボ描写だけでなく学園(百合?)描写も頑張りたいなと思っております。
それでは、参加をお待ちしております。
第1章 日常
『士官学校潜入』
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POW : 自前のキャバリアと共に訓練に参加する
SPD : 他の士官学生達と積極的に交流する
WIZ : 士官学校内部の様子を観察する
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●日溜まりの花園
聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校。
騎士団領南部の丘陵地にあるこの学舎は、全般的に寒冷な騎士団領において比較的温暖な地域に当たる。
白漆喰が目に眩しい旧校舎は、かつては修道院の建物であった。
そして、その頃から既に学問の門戸を大きく騎士たちの子女らに開いていたという。
それは今も変わらない。
「ごきげんよう、お姉さま」
「ごきげんよう、妹たち」
優雅に挨拶を交わしながら、士官学校の生徒たちが学舎へと入っていく。
彼女たちは寮生活を行いながら、一般社会との関わりを絶って勉学に励んでいる。
兵営や野外での訓練を行うこともあるが、生徒に騎士の子女が多かった伝統もあり、生活の基礎はあくまで寮にある、というのがここの在り方であった。
「そういえば、聞きました? 留学生が来るという話」
「わたくしも聞きました。人事異動もあるとかないとか」
こうした場所でも、噂は人類最古の友としての座は揺るがない。
狭い社会であるからこそ、環境の変動には関心も強いのだ。
「やっぱり、卒業戦闘試験が近いのでしょうか?」
「可能性はありますわ。実際、わたくしのお姉さまのお姉さまも――」
そして、それらは彼女たちの最大の関心事にも結びついている。
卒業戦闘試験。
そこに潜む破滅を食い止めるために、猟兵たちは少女たちの花園へと入っていく。
御魂・神治
お嬢の学校かいな、ワイやと百合に挟まる男になってまうやないかい...
サークルの姫もとい、サークルの王子ってか、なんつってな
天将『王子と認識可能な美貌が確認できませんでした、発言の訂正を要求します』
うっさいわ、妙案出してや
天将『サイキックキャバリア専攻術式講師としての潜入を推奨します』
先生なら入れるんか、流石に指導者まで全部女性で固める程ガチガチやないみたいやな
天将、アンタは転校生のギーク系不思議ちゃんとして演じろや、ほら実体化や
存在感消したり、何言われても真顔でスルー余裕なアンタやと何か盗み聞きするのも得意やろ
(情報収集・ハッキング・迷彩)
●百合に挟まる男の憂鬱
聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校の白亜の学舎に、高らかに鐘の音が響く。
それは細かく課された学生の課業の区切りである。
この国の士官学校の日課は、一般市民向けのハイスクールよりも量が多い上に、それを運用する規則も非常に厳格であるため、学生は常に時間に追われて行動をすることになる。
それでも、課業の一つが終わったことに変わりはない。
そのため、授業時間に比して張り詰めた空気は幾分和らいでいた。
「ごきげんよう、先生」
「ご、ごきげんようや」
優雅な挨拶を担当講師に残し、女学生たちは次々と教室を後にする。
そうしたやり取りがしばらく続き、ついに学生がすべて退室した教室で、先程までサイキックキャバリア科の専攻科目である『機動術式概論』の教鞭を執っていた講師は、大きくため息をついた。
「ほんま、ワイやと百合に挟まる男になってまうやないかい……」
しばし時を遡る。
「なんや潜入しろっちゅうのは、お嬢の学校かいな」
依頼について聞かされた御魂・神治(除霊師・f28925)は、糸目をさらに細めて頭をかいた。
『はい、当地の伝統だそうです』
肯定するのは、彼をサポートする人工式神『天将』。
そのアバターは、コートを纏った女性、という姿である。
「ほな、女の園に男が一人潜り込むわけか。
……サークルの姫もとい、サークルの王子ってか、なんつってな」
「王子と認識可能な美貌が確認できませんでした、発言の訂正を要求します」
冗談のつもりだったのだが、天将は眉一つ動かさずに切り捨てた。
あまりの当たりのきつさに、神治が逆に眉をひそめる始末である。
それでも長い付き合いであるから、すぐに気を取り直した。
「うっさいわ、妙案出してや」
天将は人間に知覚できないほどの僅かな待機時間の後、回答を導き出した。
「サイキックキャバリア専攻術式講師としての潜入を推奨します」
そして時は戻る。
「テンショウさん、どうかいたしました?」
『いえ、問題はありません。続きをお願いします』
天将は士官学校の制服を纏い、カフェで一人の女生徒と向かい合っていた。
数日前、講義の際に隣の席に座ったことをきっかけに、こうして話すようになった。彼女は話好きであり、同時に噂好きでもあるという、情報源としてはうってつけの人材であった。
「それでですね、今年の卒業戦闘試験なのですけれど」
核心の話がいきなり来た。
『卒業を賭けた、抜き打ちの試験でしたか』
「はい。まだ日程とかは出ていませんけれど。それを示唆する噂がいくつかありまして」
こうして、天将は女生徒から食事時間終了ギリギリまで、弾薬庫に弾薬が大量に補充されたらしいだとか、試験に向けて臨時職員の採用があったらしい、などの噂話を聞かされることになったのである。
裏付けを取るには、潜入捜査を行うか、他の猟兵たちの証言と突き合わせることになるだろうが、ひとつの情報源から得られる情報としては、こんなものであろう。
「テンショウさん、ありがとうございます」
別れ際、話をしていた女生徒が天将に向けて微笑みを向けた。
「私、こういう話ばかり好きなのだけれど、今までこんなに聞いてもらったの初めてで。とても嬉しかったです……ありがとう」
それだけ言うと、女生徒は身を翻して去っていった。
そうした女生徒の行動に、天将が何を思ったかは定かではない。
なお、この時天将は瓶底眼鏡をかけ、化粧っ気を抑えた薄いメイクを施していた。
後に、神治はそれについてこう語ったという。
「転校生のギーグ系不思議ちゃんとは言うたけど、ほんまにやるとは思わんかった。
というか、ワイ何もしとらんのとちゃうか?」
彼が噂話の精査について八面六臂の活躍をするのは、また別の話である。
成功
🔵🔵🔴
鳴上・冬季
「私が人に見えるのは、人化の術を使っているからです。外見の性別を変えるのも容易いですが、物理法則の違うこの地で、教えるべきことも教わるべきこともありませんからねえ」
嗤う
用務員(不可の場合はキャバリア整備員)として潜入
校内の美化や清掃、小破修繕や備品の保管運搬作業熟しつつ米粒大の式神放ちキャバリアの整備状況や現時点でオブリビオンマシン化の兆候があるか確認
キャバリア納品業者やキャバリア部品納品業者、最近部品交換等あったかや交戦状況等も式神使い内密に調査
整備員なら各機体を整備しながらもっとあけすけに機体の状況確認しつつ同じように調査
「彼等も昇仙の方法や宝貝の作り方を教えられても困るでしょう?」
嗤う
●妖仙、人界を睥睨すること
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
今日も士官候補生の少女たちが穏やかに挨拶を交わしながら学舎の門をくぐっていく。
学業は過酷であるが、それでも挨拶や所作を崩さないのが、ここの嗜みだ。
そんな中。
「ごきげんよう、皆様」
傍らの花壇の手入れをしながら、そう少女たちに笑いかける男が一人。
切れ長の目を細めながら、それでも雑草を抜く手は一切止まることはない。
彼の名は、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)。
少し前に用務員として士官学校に配属となった者である。
このような花園においては、異分子である異性は往々として恐れられるものだ。
だが、その仕事ぶりは勤勉かつ正確。
それも、朝に学舎の廊下を磨き上げたかと思えば、昼は中庭の剪定を完璧に整え、夕には学内の備品をもれなく整えるというもので、学内に感嘆しない者はなかった。
ある女生徒Aに至っては、やや熱の入った口調で上級生にこう言ったという。
「それに、わたくし見たのです。鳴上様が窓を磨いていた折、その横顔を。
いつも微笑んでおられる目から覗く、アイスブルーの瞳を……。
あの方、普段は作業着ですけれど、正装ならダンスの希望者の列ができるのではないかしら。
嗚呼、せめてあの方が先生として赴任してこられていたら。
わたくしはより勉学に身を入れることができるのですが……」
これを聞いた上級生は、Aの熱の入った声に肩をすくめながらも否定はしなかったという。
……と、このような噂が出るほどには、冬季は女生徒たちの支持を得ていた。
「成る程、教師とは。全く考えもしませんでした」
学舎裏に垂れ込める影の中で、彼は女生徒には決して見せない嗤いを浮かべた。
この場所は学内の中心から遠く、人の喧騒も僅かしか聞こえてこない。
だが冬季の耳は、今しがた最高学年の教室の一角で囁かれた、彼についての噂を確かに捉えていた。
それだけではない。
冬季は同時に教職員の会議も、納入業者の乗るトラックの音も、キャバリアハンガーの喧騒も、その他無数の場所の音を聞き、光景を瞳に収めていた。
それを可能にするのが、彼が学内中に放った米粒大の式神の群れである。
式神は草の間に、建物の隙間に、書物の間にすら潜む。
彼らと五感を共有することで、冬季は手に取るように学内を知ることができるのだ。
「キャバリアの整備状況。現状の進行具合は並程度ですか。
予備機にも現状動きはないですし、オブリビオンマシン化の兆候もありません。次」
別の式神に感覚を切り替える。森林地帯近くの倉庫区画に配置したものだ。
「昨日は配置されていなかったキャバリア用の模擬弾が多数。
射撃練習に使われる演習場からは離れた位置に置くということは、今日明日に使うものではないですね」
つまり、これは一時的に置かれているものだ。
キャバリアの運用コストは、浪費を許しては小国家の破綻を招く程度には高い。
すなわち。
「これは予定されたものです。卒業戦闘試験に使われるものの可能性が高い」
この情報だけでは試験が近いという評価しかできないが、他の情報と突き合わせれば、また違うものが見えてくるかもしれない。
冬季は他の猟兵たちに報告する情報リストの最上位に、これを差し込んだ。
「しかし、教師ですか。それはない」
そう呟いて、冬季は嗤う。
「物理法則の違うこの地で、教えるべきことも教わるべきこともありませんからねえ。
それに、彼等も昇仙の方法や宝貝の作り方を教えられても困るでしょう?」
転生を七度経て昇仙した妖仙は、再び嗤うと影の中に消えていった。
成功
🔵🔵🔴
ノア・クレムリィ
花園のような場所と伺っていましたが、確かに可憐な方ばかりのようですね。私は彼女らに馴染めるでしょうか。少々不安です。
年齢は多少誤魔化しつつ、〈情報収集〉の為にも学生として潜入です。〈礼儀作法〉は一通り復習しましたし、〈落ち着き〉を保って過ごしましょう。寮のルームメイトに挨拶と自己紹介をしたら、学校の案内をお願いしましょう。主に〈戦闘知識〉について質問を交えながら、学校生活について話を聞くことにします。
鍛錬を重ね、可憐のみならず精強であるべし、ということですね。鍛錬と言えば、演習は森で行うのでしょうか。森林戦には興味がありまして……いつも装備はどういったものを?
(アドリブ連携等々歓迎)
ミア・ミュラー
わたしはほとんどキャバリアの操縦したことない、けど。乗り方をそれなりの期間教えてもらえるのは、ちょうどいいね。学校のみんなを守れるように頑張って勉強、するよ。
ということで学生で潜入、だよ。んー、運動は自信あるけど、キャバリアの操縦はちょっと、不安。あんまり成績が悪いと怪しまれるから、こっそり魔法を使ってずる、しちゃおうかな。
学校には通ってない……覚えてないだけかも、だけど。せっかくだから空き時間にはいろんな場所を見て、回ろう。いつ事件が起きてもいいように、ね。人がいないところもしっかり、見ていくよ。怖そうなひとがいても、ティーセットで紅茶を淹れて一緒にお茶会すれば、きっと仲良くなれる、はず。
●海賊とお茶会
「わたしはほとんどキャバリアの操縦したことない、けど。
乗り方をそれなりの期間教えてもらえるのは、ちょうどいいね」
士官学校への潜入という任務について、ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は非常に前向きであった。
挑んだことも、|轡《くつわ》を並べて戦ったこともある人型兵器、キャバリア。
オブリビオンマシンの脅威に晒された人々を守りたいという意志は勿論であるが、同時にキャバリアの操縦方法を学んでみたいという興味もあったからだ。
だが、困ったことが一つ。
操縦訓練の時間。
訓練機のコクピットに座り、内部のレイアウトを確認しながら、ミアは呟いた。
「んー、運動は自信あるけど、キャバリアの操縦はちょっと、不安」
座席の両側から一本ずつ生えた操縦桿、足元のフットペダル、モニター下のコンソール。
この学校のキャバリアの標準的仕様だが、ミアにとっては全く不慣れなものであった。
座学で使い方を習ってはいるものの、いざ実践となると正直心細い。
とは言え、あまり成績が悪いと周囲の目を引き、無駄に怪しまれかねない。
しばし内装をいじり回した後、ミアはこれについては妥協することにした。
「こっそり魔法を使ってずる、しちゃおうかな」
こうしてミアは士官学校に溶け込むことに成功したのだった。
(私は彼女らに馴染めるでしょうか)
士官学校への潜入が決まった時、ノア・クレムリィ(海駆ける鋼鉄の竜騎兵・f30572)の胸中には、一抹の不安がわだかまっていた。
今のノアを知る者の多くが、彼女を優れた軍人であると考えるだろう。
それは事実ではあるが、その奥深くには海の記憶が揺蕩っている。
荒くれ野郎どもとともに鉄風雷火を掻い潜り、偽装客船の上で快哉を上げたあの日々。
彼女にとっての家であったその船がオブリビオンによって失われ、重油漂う海へひとり投げ出されたあの日。
それはノアにとっての原体験であり、本質だ。
これから過ごすこととなる、乙女の園との心理的距離は計り知れないものがあった。
だが、月日はそれを埋める時間を与えてくれず、結局解きほぐせない想いを抱えたまま、彼女は士官学校への編入日を迎えることとなった。
そして編入初日。
編入の挨拶をするべく寮へと向かっていたノアは、視界の隅にちらりと動くものを捉えた。
「ん? あれは」
視線を向けると、一瞬だけ見えたのは建物の影へ消えていく制服姿の少女。
一瞬だけ見えた金髪が何処か眩しさを感じさせる。
勿論、制服姿の少女など珍しくもない場所だが、彼女たちが課業の合間に入っていくには、些か|辺鄙《へんぴ》な場所であるのも確かであった。
「……追ってみましょうか」
オブリビオンマシンのこともある。ノアは足音を潜めながら今の影を追うことにした。
校舎の影を踏みしめ、裏側へ。
そこは学校の喧騒も遠く、沈黙の垂れ込めた場所だ。
もしかしたら本当にオブリビオンの手先なのだろうか、そう思った矢先。
どん、という衝撃とともに何かがノアにぶつかった。
転ぶことはなかったが、ぶつかった何かの方が倒れ込んだようだ。
そちらの方に素早く視線を走らせ、ノアは見た。
目の前で尻餅をついていたのは、間違いなく先程見た|金髪の少女《ミア》であった。
「まさか同室が貴女で、しかも猟兵だったなんて。しかも学校の案内まで」
「ん、気にしないで。わたしも、ぶつかったのはよくなかった、から」
ミアに案内されながら、ノアは士官学校の中庭を歩いていた。
やはりノアが見た少女の正体は、ミアであった。
ノアより少し早くから潜入を開始していた彼女は、いつ事件が起きてもいいよう、空き時間に見回りをするのを常としていた。無論人の普段入らぬところもその対象であり、ノアが見たのは、まさに見回り中のミアだったわけである。
ともあれ、合流の手間が省けたのは二人にとって僥倖であった。
こうしてノアは、ミアから学内の案内を受けていた。
ミアも転入からそれほど日を経ているわけではないが、編入者に対して寮の同室が案内をするのは、この学校の数ある非公式な習慣の一つだ。
それに、|猟兵《潜入者》の視点を知ることができるのはありがたい。
気がつけばノアはすっかり物影や人の少ない場所に詳しくなってしまった。
「それにしても、士官学校にこう言うのも変な話ですが、平和なところですね」
こうして歩く間にも、生徒たちと多くすれ違う。
士官候補生というものの、彼女たちの多くは穏やかで。
特に二人連れの場合は、互いを気遣い慈しむ気持ちがにじみ出ているようにも思える。
それが、ノアとの心の距離を印象付けてしまう。
自分とはかけ離れた遠い人間たちであると、馴染めない人たちだと思ってしまう。
ほんの少しだけ、ノアの紫の瞳が揺れた。
横を歩いていたミアが、それをひょいと覗き込んだ。
「もしかして、あなたは不安なのかな。そんな目を、してる」
真っ直ぐな青い瞳がじっとノアを見つめている。
ノアは観念したように一つため息をつくと、足を止めた。
「多分、そうなのだと思います。
私の生まれはこの世界の海で、ここと全く違う荒っぽい世界でした。
だから、ここに馴染めるのかとずっと違和感があって」
ミアは、ノアの告解めいた言葉に、じっと耳を傾けていた。
その言葉が途切れるのを待ってから、口を開く。
「生まれって、むずかしい。わたしもよくわかってない」
ミアには、アリスラビリンスに来る以前の記憶はほぼない。
学校に通うのもこれが初めてである。
その意味では、ノア以上に原体験と現状の開きのある人物だろう。
「でも、ティーセットで紅茶を淹れて一緒にお茶会すれば、きっと仲良くなれる、はず」
それでも、ミアはそう信じている。
お茶会をして、楽しい気持ちになって、少しずつでも自分のことを話して、他人のそれを聞いたなら、それが理解への第一歩になるはずだから。
アリスラビリンスの、愉快な仲間たちがそうだったように。
ミアの静かな言葉が、そっと胸に染み渡っていくのを感じる。
気づくと、ノアはため息を――先程とは違う、安堵の念のこもったものをついた。
「……そうですね、少し難しく考えすぎていたようです」
少しだけ肩の力が抜ける。
確かに、士官学校の生徒たちと自分は、生まれも育ちも隔たっているだろう。
それでも理解し、その手を取ることはできるのだ。
「では、お茶会をしましょう。どこかいい場所はありますか?」
「うん、この先にオープンカフェがあるから、そこにしよう。友達も、呼んでいい?」
「ぜひ、お願いします!」
そうして、ノアはこの環境に『馴染む』ための第一歩を踏み出したのだった。
その後開かれたお茶会は、ミアのクラスメイトたちを交えた賑やかなものとなった。
「それで、うちの学校には『我ら、樫の木の如く毅く、百合の花の如く麗しく立つ』って言葉があるんだけど」
「鍛錬を重ね、可憐のみならず精強であるべし、ということですね」
「そうそう! やだミア、この人すごい話せば分かる」
「うん、みんなならお話できると、思った」
「鍛錬と言えば、演習は森で行うのでしょうか。森林戦には興味がありまして……。
いつも装備はどういったものを?」
「そうね、うちの学校だと、生身なら――」
泉のように、滾々と言葉が止まらない。
楽しそうに会話を続ける彼女のクラスメイトとノア。
「もう馴染んでる、ね。よかった」
その景色を見ながら、ミアは静かに微笑んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヴィリー・フランツ
プレイング
心情:ここが件の士官学校か、何処を向いても弛んだ雰囲気で、ここは花嫁学校じゃねぇんだせ?
手段:「(フランス式の敬礼)本日より諸君の教練を担当するヴィリー・フランツだ」
軍服(式典用)を着て胸にアークライト名誉勲章を着けて着任の挨拶をする。
カタギの学校ならいざ知らず、命令という理不尽な上下関係を通す軍にとって、箔をつけて目下にマウントを取るのは非常に重要だ、特にお嬢様学校なら男は侮られるだろうから第一印象は大事だ、何時ものダラけた顔をシャンとさせるか。
教練は実践演習を行う、まぁ卒業試験前だ、基礎を今一度見直す機会を作り、褒める所は褒めダメ所は指摘し是正案を提示し、信頼を得る努力をしよう。
●冴えない傭兵の教え方
「本日より諸君の教練を担当するヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)だ」
軍靴を高らかに鳴らし、手の平を見せるフランス式敬礼を決めたヴィリーの放つ威厳に、士官学校の少女たちは息を呑んだ。
ブラウンのブレザーとスラックス、赤いベレー帽によって構成される正装をボタンの一つも隙なく着用。胸にはアークライト名誉勲章が輝いている。
所作には淀みが一切なく、かつ質実剛健さを感じさせる力強いものだ。
その威厳は、下手な高級軍人をも凌ぐものがあった。
(傭兵出身と聞いていましたけれど)
(学校のお偉方なんて比べ物にならない)
そんな密やかな声が、学生たちの間を通り抜けていく。
男性との接触の少ないお嬢様学校としての側面を持つこの士官学校において、ここまで威風堂々とした男性軍人を見るのは初めてであったからだ。
そのざわつきは予想通りである。
お嬢様ばかりとは言え、ここは命令という理不尽な上下関係を通す軍の末端だ。
箔をつけ、目下にマウントを取ることでその上下関係を叩き込む。
男が侮られがちな女性社会に斬り込むべく用意したヴィリーの策は大成功と言えた。
「今回諸君らに行ってもらうのは、有り体に言えば実践演習だ」
ヴィリーは、乗機である『HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ』の前に立ち、野戦服姿で眼前に整列する学生たちに視線を向けた。
更にその後ろには、演習機が停止状態でパイロットを待っている。
「内容は、機体に乗り込み、起動させ、立ち上がり、射撃場へ移動し、的を撃つこと。
何を今更と思うだろう?」
ほんの微かに、少女たちが視線を外す。その思いはどこかにあるのだろう。
「だが、戦場ではそうした今更な事を確実に、素早くできる者が生き残る。
それをこの演習で学んでもらいたい。
では、搭乗開始!」
ヴィリーの号令一下、学生たちが一斉に振り返って割当機体へと走った。
夕刻、同演習場。
朝と同じように機体とパイロットを整列させたヴィリーは講評をすべく声を上げる。
「実践演習、ご苦労だった! まず結論から言おう。全員、穴が多い!」
実践演習を通してやらせてみると、各々違う部分で苦手な行動が露となった。
例えば、1番機は機体の足元の認識に甘い部分があったし、3番機は突発的なトラブルに不慣れな部分が見られた。4番機は体力配分を誤ったせいで射撃訓練時に悪影響が出ていたし、逆に8番機は体力配分は完璧だが、射撃精度が甘かった。
そうした部分を次々と指摘すると、学生たちの顔が曇っていく。
どうやら自覚はあるようだ。
「欠点を放置すれば、それがいつか足を引っ張る。これは卒業戦闘試験でも同じだ。
だが諸君らには長所もあった。
1番機! 足元は危ういが仲間の状況に一番気を配っていたな」
1番機のパイロットが顔を上げる。
彼女は、後続の機体の状況をつぶさに確認し、行軍しやすいルートを確立しようとしていたのだ。そのせいで地面の窪みに足を取られそうになったため、それが目立つことはなかったが。
「3番機は、立て直した後のリカバリーに見るべきものがあった。4番機は体力配分さえこなせれば総合的には優秀な成績になるだろう。逆に8番機は体力配分が優秀だ。他の行動の精度を上げれば長征もこなせるようになる」
学生たちはヴィリーが自分たちの美点を細かく上げていくことに驚嘆した。
(細かく見てくださってたんですのね……)
(ここまでされたら、応えない訳にはいかないじゃん)
学生たちの目に光が宿る。
ヴィリーは学生たちに向き直った。
「今回、諸君らは自分の長所と欠点の両方を目の当たりにした。
その両方を見据えて、自分をデザインしろ」
長所と欠点は往々として表裏一体である。盲目的に長所を伸ばそうとすれば、欠点のつまずきが大きくなるし、欠点を埋めようとすれば、長所を潰す結果になることもある。
だが、自分の能力を認識し、どう変えていくかのビジョンがあれば、そうした事態は避けられる。それこそが、自分のデザイン。
「諸君らならば、それができると俺は信じている。
以上! 解散!」
「「「はい!」」」
陽の沈む演習場に、少女たちの声が唱和し響き渡った。
成功
🔵🔵🔴
バブリー・アリスライム
百合もいいが鈴蘭もいいよな。あれだろ?姉の身代わりにされた弟くんとかもいるんだろ?俺は詳しいんだ。え、ちがう?
まぁ、いい。教員として潜入すればいいんだな。って、なんで女生徒の制服が届いてるんだよ?手違いだぁ?まぁ、問題はないな。むしろ似合ってるだろ?なにせ|容姿も頭脳もハイスペックだからな《高性能を駆使する》、俺は。はっはっは、もちろんツッコミまちだぞ?ああ、わかってるわかってる、きちんと隠し通すともさ、バレたら社会的な死がまってるしな。高速フラグ回収してく……冗談だ冗談。
んんーあーあー、ガムゴムの身体は|声帯弄る《化術》のも楽でいいですわね、では私行ってまいります。……こんな感じでいいかね。
●これは、百合の花園に挑むまでの話
「百合もいいが鈴蘭もいいよな。
あれだろ?姉の身代わりにされた弟くんとかもいるんだろ?
俺は詳しいんだ」
ネットミームを交えながら、バブリー・アリスライム(|蒼汁《アジュール》ゼラチンスライム・f41794)はインカムで通話をしながら、軽妙なトークを繰り広げていた。
誰と話しているかは不明である。
だが残念ながら|鈴蘭《男の娘×男の娘》は、百合の花咲く士官学校においては不明なユニット扱いであるし、BLめいたシチュエーションも存在しない。
「え、ちがう?」
違う。
まあ、「俺は詳しいんだ」と言われれば、半分ぐらいは的外れなのがお約束なのだが。
ここは士官学校……ではない。なんとまさかのまだ自宅、である。
その主、バブリーのベッドの上には、丁寧に箱詰めされた制服が一式。
ネイビーブルーのブレザーに揃いのプリーツスカート、白いブラウス。
件の士官学校の、女子制服に間違いない。
「って、なんで女生徒の制服が届いてるんだよ?」
電話の向こう側に、気まずい沈黙が垂れ込める。
本来、バブリーの潜入に関するオーダーは、教員としての潜入であった。
バブリーは、容姿こそ少女と見紛うほど端麗であるが、れっきとした男性であり、女子校である士官学校には当然ながら教職員以外の居場所はないのだが。
「まぁ、問題はないな。むしろ似合ってるだろ?」
バブリーはそう断言した。いいんだ。
確かに似合っている。むしろ違和感はない。
「なにせ|容姿も頭脳もハイスペックだからな《高性能を駆使する》、俺は。
はっはっは、もちろんツッコミまちだぞ?」
安心できるのかできないのか微妙なラインの発言である。
確かにスキルを持ってはいるが。
電話の向こうにそれを咎められたのか、彼は微妙に顔をしかめた。
「ああ、わかってるわかってる、きちんと隠し通すともさ。
バレたら社会的な死がまってるしな。
高速フラグ回収してく」
電話の向こうが大声を上げたのか、バブリーはインカムを50センチほど耳から離した。
とは言え、流石にまずいと思ったらしい。
「……冗談だ冗談」
彼は自らの軽口を訂正する羽目になった。
まあ、フラグを回収すると任務失敗になりかねないので、仕方ない話ではあるが。
で、結局女装しての潜入任務ということでいいのだろうか。
「ああ、せっかくだしな。みてろよ、いや聞いてろよ」
彼は自らの喉に手を当てて声を上げた。
バブリー自身の声も、男性にしては音域が高めだが、声を出しているうちに、その音域が通常ならばありえないほど高くなっていく。
「んんーあーあー、ガムゴムの身体は|声帯弄る《化術》のも楽でいいですわね。
では私行ってまいります」
気づくと、バブリーの声はメゾソプラノと言って間違いないものとなっていた。
どろんバケラーの使う化術の賜物である。
これならば、容姿も相まって、容易に怪しまれることはないだろう。
「……こんな感じでいいかね」
一気に声が男性のそれに戻る。
どうにも締まらないが、それがバブリーらしさなのかもしれなかった。
かくして、バブリーはクロムキャバリアへと転送され、潜入任務に当たることとなった。
その結果については、読者諸兄の想像にお任せしよう。
苦戦
🔵🔴🔴
ティオレンシア・シーディア
そこそこ長く猟兵やってるけど、ごく短期ならともかくそこそこ長期間の潜入はあたしも経験ないわねぇ。
さすがに30超えて学生もないし、講師とかそっち方面での潜入になるかしらねぇ。
座学戦術机上演習、射撃格闘に電子戦。どれもこれも専門ではないけれど、それなりに手広く色々できるわよぉ。
…あと教えられることといえば…そーねぇ。「見た目を当てにしてはいけない」ってコトかしらぁ?「戦場で|骨董品《ロートル》を見たら生き残りと思え」とかね。
(なんなら〇クイックドロウ一閃披露して実演して見せてもいいかしらねぇ?あたし見た目と声と口調の多段落ちでナメられがちだし。…ま、大半意図的ではあるけれど)
●|骨董品《ロートル》の底、知れず
その日壇上に上がったのは、軍人というよりはバーのマスターかバーテンダーという雰囲気と出で立ちの美女、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)であった。
艷やかな黒髪を束ね、常に瞑られた瞳はどこか神秘的にさえ見える。
(涼やかなお声の人なのかしら)
そんな期待も若干ある中で、講師の美女は黒板に自分の名前を書き……。
「ティオレンシア・シーディアよぉ。よろしくお願いするわねぇ」
幼さすら感じる極甘の間延びした声に、受講者の半分は内心スッ転んだという。
……初対面がこのようなものであったから、士官候補生たちからのティオレンシアの評価は決して高いものとは言えなかった。
もとより、内向きにまとまりがちなコミュニティであるから、尚更である。
「何よ、甘い声しちゃってさ。あれで講師なんて務まるのかしら」
「私も同感ですわ。初回の講義はそつのないものでしたけど」
「うちのお姉さまの方が甘い声出しますわ」
「え???」
初回講義終了時には、そんな声も聞かれたものである。
だが、その評価は徐々に変わっていった。
「……以上が、シュリーナガルにおける防衛戦の顛末よぉ。ここから導き出される戦訓は、防衛戦における主力部隊の機動を確保することの重要さかしら。後出しできる防衛側は一見有利に思えるけれど、それは戦力の集中と再配置が行いやすいということに立脚しているのぉ」
座学戦術では主要会戦とその教訓を、応用を含めて滔々と話してみせた。
続いて机上演習においては、模範を見せると称し、学内でもトップレベルの戦術能力を持つと称されたアストリア嬢を相手取ることになった。
当初、|楔形陣形《パンツァーカイル》を組んで進撃するアストリア嬢に対し、ティオレンシアは防戦一方であると思われた。防戦はやがて潰滅へと移行し、アストリア嬢の取り巻きからは、所詮こんなものかという声も漏れた。
だが、潰滅したはずのティオレンシアの軍勢が、アストリア嬢の軍勢の横を逆走し、その後方に食らいついたことで形勢は逆転した。全てはアストリア嬢の中央突破戦術を逆用した策だったのである。
こうして、模範演習はティオレンシアの勝利に終わった。
意外にも、アストリア嬢はこの敗北を素直に受け入れたという。
事件が起きたのは、射撃演習の折であった。
「模範をお願い致します」
アストリア嬢の取り巻きたちが、複数人でティオレンシアに申し出たのである。
当初はアストリア嬢の差金とも考えたが、視線を向けたアストリア嬢は憤慨していた。
「おやめなさい、みっともないですわよ!」
だが、取り巻きたちは申し出を撤回する様子はない。
どうやら彼女の意に染まない、取り巻きたちの暴走のようだ。
大方、ここまでの経緯からフィジカルなら勝てると思ったのだろう。
浅慮と言えるが、それならそれでやりようもある。
ティオレンシアは頷いた。
「いいわよぉ。あたしのリボルバーを使ってもいいかしらぁ?」
「どうぞどうぞ」
「それじゃぁ……」
その時、ティオレンシアの手が消えた、そう取り巻きたちには見えた。
ホルスターから銃が抜かれ、即座に一射。
反対の手で撃鉄を上げ、更に一射。
これを繰り返し、装填された6発を撃ちきるまで、実に1秒足らず。
ガンプレイの中でも、ファニングショットと呼ばれる技法である。
「1発……? いえ、6発をほぼ同時に!?」
「まだ終わりじゃないわよぉ?」
ティオレンシアの手が閃き、魔法のように|スピードローダー《弾丸装填用の保持器具》が現れた。
即座に排莢され、再装填される。この間1秒。
更に6発発射。これも1秒足らず。
再装填を含め、リボルバーで12発の弾丸を3秒で発射したことになる。
「はい、おしまいっ」
「こ、こけおどしですわよ……。早撃ちは確かに凄いですけれど……」
取り巻きが的への命中確認を行い……凍りついた。
12枚の的の中央全てを、銃弾が貫通していたのだ。
早撃ち、そして正確無比な狙い。
取り巻きたちは、フィジカルにおいてもその強さを見せつけられたことになる。
こうなっては、誰も何も言うことはできなかった。
「そーねぇ、1つ教えておこうかしら?」
ティオレンシアの声に、出席者全員の注目が集まる。
「『見た目を当てにしてはいけない』ってコトかしらぁ?
『戦場で|骨董品《ロートル》を見たら生き残りと思え』とかね。
……あら2つ」
それにツッコミを入れることは、その場の誰にもできなかった。
成功
🔵🔵🔴
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
臨時の教官として潜入。軍や傭兵時代には、|訓練教官《ドリル・インストラクター》の経験もあるから、お手のモンだぜ。
早速愛機のストーラウスで模擬戦。訓練とはいえ、手加減はしねぇ。
必ずしも、キャバリアの敵はキャバリア、とは限らねぇからな。時には生身の兵士にすらやられる。何故わかるかって?実際に俺は生身でキャバリアを何機も仕留めてるからさ。
(学生達に)ひとつお前らに教えてやろう。戦場での死に方ってのは、星の数だけ存在する。敵兵に殺されるのもその一つだ。だが、それ以外は全て自分のミスが原因だ。よく覚えておけ。
…しっかし、こんな場所じゃ酒も煙草もやれねぇ。早いトコ始まって欲しいモンだぜ。
木鳩・基
【SIRD】
アドリブ・連携歓迎
制服…久々に着たかも
懐かしいけど新鮮でもあるかな
学校はずっと共学だったし
学生として潜入
キャバリア訓練は誤魔化しつつ、生徒たちと打ち解けてみるよ
【コミュ力】で何とかするけど、お嬢様のお淑やかさって自然と身につくのかな…
割とどうにもならない気がする、俗物な自覚はあるし…
とにかく頑張り…ますわっ!
潜入時は情報収集も兼ねてとにかく話しかけにいく
使用機体も色恋沙汰も、あらゆる情報を逃さないよ
これでも昔は「神出鬼没の情報屋」って呼ばれてたからね
作戦上有益な情報は仲間にも共有しつつ、個人的な噂は一人で楽しんじゃお!
やっぱり高校時代を思い出すなぁ…
今が楽しくないわけじゃないけどね
ヴィルマ・ラングカイト
SIRDとして参加
教官として士官学校に潜入する。
総員|傾注《アハトゥング!》本日から諸君の教官役を拝命した、ヴィルマ・ラングカイト中尉だ。諸君にはキャバリアに関しての知識をしっかり学んで貰うので、そのつもりでいる様に。
主に座学の授業を担当し、生徒に対して授業を行う。
…諸君はキャバリアに乗って無敵になった気分でいるとは思うが、それは間違いだ。キャバリアも所詮人間の作った兵器、それ故完璧ではない。必ず弱点がある。そこを突かれれば、ただの高価な鉄の棺桶に成り下がる。だから、戦闘時にはその弱点を可能な限り曝さない様、|諸兵科連合《コンバインド・アームズ》を組む、地形を利用する等の工夫が求められる。
●講義:|SIRDの場合《ファル・SIRD》
女子寮の一室。二段ベッドに机と、構成は極めてシンプルかつ古いものだが、だからこそ細部のデザインに花や蝶があしらわれているのに、この士官学校の特殊性があるだろう。
「制服……久々に着たかも」
その部屋で制服に袖を通すのは木鳩・基(完成途上・f01075)。
学生として士官学校に潜り込んだのだが、本年度は留学生や編入生が多いらしく、部屋割りで不都合が発生、「一時的な措置」と念押しされた上で単独での部屋使用となってしまった。
同室という情報源候補が編入時点で失われたが、それはそれ。
それよりも基の胸に去来するのは。
「懐かしいけど新鮮でもあるかな。学校はずっと共学だったし」
真の身分が女子大生である基は、中高を共学の学校で過ごした。
制服の胸に手を当てれば、その頃の思い出がいくつも蘇っていく。
が、まさか自分が女子校に再び入ることになるなんて。
「お嬢様のお淑やかさって自然と身につくのかな……」
胸の中を小さな不安がちくり、と刺してくる。
一般的な家庭で育った基としては、お嬢様の社会を想像しきれない部分があるからだ。
だが、頭を振ってそれを振り切る。
どう考えても自分は一般家庭で育った俗物だ。自覚もある。
今更あれこれ想像したとて、どうにもならない。
「ぶつかっていくしかないよね。とにかく頑張り……ますわっ!」
語尾だけでも変えてみて、その違和感に内心首をひねりつつ。
彼女は授業へと向かうのだった。
「総員|傾注《アハトゥング》!」
講義室に響く声とともに、さっと日常の喧騒が消え去った。
普通の学校ならば、まだ話そうとする者もいるかもしれないが、ここは仮にも士官学校、規律と統制が行き届いているようだ。
壇上に上がるのは、灰髪に軍服の女性と、野戦服に身を包んだ男性だ。
基にとって、見覚えのある……ありすぎる二人であった。
「本日から諸君の教官役を拝命した、ヴィルマ・ラングカイト中尉だ」
「同じく、ミハイル・グレヴィッチだ」
教官として現れたのはヴィルマ・ラングカイト(パンツァー・ヴィルマ・f39899)。
そして、ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)であった。
「ヴィルマとミハイルも行くとは聞いてたけど、まさか同じ授業に当たるなんて」
二人と同じ旅団の基にとって、馴染みの有りすぎる人選だ。
ヴィルマはさっと階段状の講義室を見回すと、言葉を続ける。
「私は主に座学を担当する予定だ。
諸君にはキャバリアに関しての知識をしっかり学んで貰うので、そのつもりでいる様に」
「俺は模擬戦担当だ。ラングカイト中尉の授業が身についているか早速試してやる。
訓練とはいえ、手加減はしねぇ」
獰猛な笑みを浮かべるミハイルに対し、ヴィルマは謹厳な表情を崩さない。
「私も貴様らに教えた成果を確認できることを楽しみにしている。
では、授業を始めようか」
笑うこともなく肯定し、授業を始めるヴィルマ。
「こ、この人たちらしいなぁ……」
ノートを広げながら、基は微苦笑を浮かべた。
「……諸君はキャバリアに乗って無敵になった気分でいるとは思うが、それは間違いだ」
教鞭を執ったヴィルマは、プロジェクターに映し出したキャバリアの映像を叩いた。
同時に、その機体が爆発四散。
この世界最強の兵器は鉄くずと化し、どうと倒れた。
「キャバリアも所詮人間の作った兵器、それ故完璧ではない。必ず弱点がある。
そこを突かれれば、ただの高価な鉄の棺桶に成り下がる。この映像のようにな」
静まり返った教室に、緊張を孕んだ沈黙が流れる。
士官となれば死ぬ可能性もある、というのは頭では分かる。
だが、実際に映像として流されればそれを追認せざるを得ない。
「必ずしも、キャバリアの敵はキャバリア、とは限らねぇからな。
時には生身の兵士にすらやられる」
ミハイルがそれに補足を入れる。
「何故わかるかって? 実際に俺は生身でキャバリアを何機も仕留めてるからさ」
この発言には、流石に少し講義室がざわつく。
対キャバリア歩兵という戦術は存在するが、その実情は「キャバリアの数が足りない貧乏小国家が行うような、生還率の極めて低い戦術」である。
眼前のこの男が、それを成し遂げる戦場の英雄と名乗っている。
キャバリア主兵とも言える世界の常識からは、にわかには信じられない。
「静かに、授業中だ。彼の実力が気になるなら模擬戦で確かめろ。
とは言え、ミハイルの言は正しい。弱点を晒すということは、そういうことだ。」
ミハイルの野心的な言を肯定し、生徒たちの私語をたしなめつつ。
ヴィルマは授業を続けていく。
「だから、戦闘時にはその弱点を可能な限り曝さない様、|諸兵科連合《コンバインド・アームズ》を組む、地形を利用する等の工夫が求められる。それはひとえに……」
それから課業時間の終わりまで、ヴィルマの実践に基づく「如何にキャバリアを生かし、活かすか」という講義は続いた。
「今日は複座に乗せてくれてありがと。まさか初日から実技に当たるなんて」
座学の次は、ミハイルの仕切る模擬戦である。
訓練用の複座型キャバリアの補助席で、基は操縦席に搭乗する同級生に話しかけた。
「そんな、一般学校からの編入じゃ仕方ないわよ。今日は慣れるつもりでいきましょ」
操縦席からは、思ったよりフランクな口調で肯定の意が返ってくる。
事前に「一般学校からの編入で、キャバリアにはほとんど触れていない」というカバーストーリーを作ったのが功を奏した形だ。
「ありがとう。えっと……」
「エリー・カニンガム。エリーでいいわ。貴女は?」
「木鳩・基だよ。私も基でいいや」
「わかったわ。よろしくね、基」
微笑みの気配を漂わせて、エリーは機体を立ち上がらせると、ゆっくりと指定された座標へと歩かせ始めた。
この複座機は席がタンデム配置のため、表情は見えないのだ。
「そう言えば、この機体ってなんて言うんだっけ。私、全然分からなくて」
「ああ、この子はジェネム2って言うのよ。それでね……」
そうして、基はエリーに話しかけ続けた。
少しでも多くの情報を引き出すためだが、彼女との話が楽しいのも否定はできない。
キャバリアの名前は『ジェネム2』。この学校の練習機は概ねこれだという。
旧型機に大規模な近代化改修を施してベストセラーとなった機体だが、それも世代交代し、士官学校はそのお下がりが配備され、運用されている格好となる。
武装はビームライフルとビームサーベルだが、オプションの運用も可能。
機体としての癖の無さと拡張性の高さが、士官学校という現場にマッチしていた。
(戦うのはこの機体だよね……。なら、後で報告しなきゃね)
かつて『神出鬼没の情報屋』と呼ばれていた基は、これを価値ある情報と見ていた。
生徒のキャバリアがオブリビオンマシン化するのならば、猟兵が戦うのはこの機体だ。
それについて知ることは間違いなく有益であろう。
「ほんと、基って話を盛り上げるのが上手なんだから。つい色々と話しちゃう」
情報を引き出された形のエリーだが、上機嫌そうで内心胸をなでおろす。
「ううん、エリーと話すの楽しいから。気にしないで」
「ありがとう。……ねえ、ついででいいので聞いてくれる?」
「ん、なに?」
「……女の子を好きになったこと、ある?」
ああ、これは価値のあるなし以前に、他の誰にも話しちゃいけない話だ。
しがらみがないからこそ、基を信じたからこそ、ダメ元で相談した話に違いない。
それからしばらく、基はエリーの切ない恋の話に耳を傾けることとなった。
基にとってはそうしたやり取りが嬉しくも楽しかった。
「やっぱり高校時代を思い出すなぁ……。今が楽しくないわけじゃないけどね」
エリーにも聞こえないように、基はぽつりと呟いた。
「おうおう、来た来た。教科書通りだな、まったく」
双眼鏡で戦場を見渡したミハイルは、不敵に笑った。
そんなミハイルに対し、通信越しにヴィルマがため息をつく。
「それはそうだ。彼女らは教科書通りに動く訓練をしてきているのだから。それから外れた事を教えるのは、貴様の仕事だろう」
「ヴィルマの仕事でもあるんだがな。生徒たちの対戦相手だろ、俺ら」
そう、この模擬戦は生徒|1個小隊《4機》に対し、教官機2機という、生徒有利の状態で行われているものなのだ。
使用される弾こそ低出力ビームやペイント弾であるが、それ以外は全て実戦相当。
「まあな。しかしよく模擬戦そのものの許可が下りたものだ。
……今のうちに色々と経験させたいという親心なのだろうか?」
ヴィルマは訝しんだ。
『戦場の霧』という言葉が示すように、戦闘とは本来不確定性の強いものだ。
士官学校の教師陣は、その極みを教えたいのかもしれない。
「どうだろうな。ともあれ、作戦開始の時間だ。合図したら戦闘行動を頼むぜ」
そう言うと、ミハイルはスイッチの付いた箱を取り出した。
プラスチック爆薬の起爆スイッチである。
視界の向こうでは、生徒のキャバリア小隊が広い谷底を進軍している。
押し込むと同時に、キャバリア小隊の進路と退路両方が、同時に爆破された。
「おう、動揺してるのがよく分かるぜ。まあ、そうでなきゃ戦力差きついけどな!」
偽装を振り払うと、愛機『ストラーウス』が機関砲とミサイルを一斉に発射した。
その位置は、小隊から至近距離にある小さな林。限りなく引き付けての一撃だ。
射線上にいたキャバリアが1機、見る間にペイントまみれとなる。
この一連の出来事が合図であった。
「レイター22、交戦を開始する!」
尾根側に陣取っていた、パンツァーキャバリア『PanzerkampfwagenVI AusfuhrungE』が砲撃。
狙いすました88mmの一撃がコクピットに直撃し、ペイントの赤い花を咲かせた。
「2番機、4番機、戦闘不能です!」
「3番の複座、動きながら反撃して!」
「分かりました! 基、レーダー見てて!」
「り、了解!」
残ったキャバリア2機は散開しながら、一斉に砲撃の起点へビームライフルを放つ。
谷間の斜面へ無数の低出力ビームの赤い光芒が突き刺さる。
だが、パンツァーキャバリアは揺るがなかった。
「敵機、ハルダウン態勢してます! 命中弾なし!」
僅かな窪みへと機体を滑り込ませ、射撃に晒される面積を減らしたのが功を奏した。
そのまま後退し、ヴィルマは火点から撤退を果たす。
「こちらレイター22。ストラーウスの攻撃支援を続ける」
「了解。予定通り接近するぜ。チャフも撒く」
砲撃とキャバリアの戦闘機動によって生じた戦塵の中を、影が移動する。
それだけならばキャバリア搭載のレーダーによって捕捉されようものだが、戦塵に紛れてばらまかれていたチャフによってレーダーを欺瞞しながら、彼は着実に小隊の喉元へと忍び寄っていた。
「レーダー反応……こんな近くに!?」
気づいた時には、全てが手遅れ。
側面からの一斉射により、2機のキャバリアは即座に戦闘不能判定となったのである。
「戻ったな、諸君。だが復習までが勉強だ。再度講義室に集合!」
模擬戦闘から戻った学生たちを待っていたのは、戦闘の疲れを全く見せないヴィルマとミハイル、即座のデブリーフィングである。
小隊員たちに戦闘の結果を報告させるとともに、映像記録で振り返りを行う。
こうすることで、戦闘の状況をクラス全体で共有し、学習効果を得るのだ。
「全体的には、教官機の経験に翻弄された形となる。
が、反撃への移行速度などには見るべきものがあるし、指揮官の判断も早かった。
今回の負けは経験によって巻き返せるものだ。そう考えてほしい」
そこまで言った後、ヴィルマはミハイルに対し、なにか発言はあるかと促す。
壇上に経った彼は、士官候補生たちを見回すと、こう言った。
「ひとつお前らに教えてやろう。戦場での死に方ってのは、星の数だけ存在する。
敵兵に殺されるのもその一つだ。
だが、それ以外は全て自分のミスが原因だ。
よく覚えておけ」
ミハイルの言葉を、彼女たちは肯定するしかなかった。
今回の模擬戦の結果は、まさにこのミスが積み重なったものだ。
初撃をしのいでいたら、反撃に成功していたら。
いや、そもそも谷の両側に爆薬が仕掛けられていることに気づいていたら、ミハイルの大言を流さずに備えていれば、結果は自ずと違うものになっただろう。
結果をどう受け取るかは様々だが、将来への糧へとしてほしい。
ミハイルの言葉を聞きながら、ヴィルマはそう思わずにはいられなかった。
そして、学生側では。
「思った以上の負けだったね、エリー……」
「ええ、正直教官たちに圧倒されっぱなし。 ……でも、次は負けない」
基の見るエリーの横顔は、負けの事実にあっても、凛としていた。
それだけでも、教官の――SIRDの仲間たちのやったことに意味はあったに違いない。
(ちょっとやりすぎな気もするんだけどね)
それに対する素直な感想は、流石に口にできそうになかったが。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
シルヴィ・フォーアンサー
POW判定
『』内はAI発現
……相変わらずオブビリオンマシンは唐突に出てきて迷惑だね。
『潰しても潰しても湧いてくるからな、害虫のようなものだ』
……で生徒として潜入しようと思うけど
目立たないようにお嬢様っぽくってどうすればよいのかな。
『無理に演じようとすればボロが出るしいつも通りで良いだろう、君は大人しいほうだし行儀良く黙っていれば目立つまい』
ふーん……分かったよ。
いつも通り行動してよいということで手加減せずに
訓練で叩きのめした結果目立ってしまって
容姿が可愛いとギャップ差やらでお姉さま方に気に入られて。
他人に囲まれて内心涙目(表情には出ない)になりつつ排除するわけにもいかず可愛がられることに。
●美しい花は目立たずに過ごしたい
「……相変わらずオブリビオンマシンは唐突に出てきて迷惑だね」
照明を最低限に落としたクロムキャバリア『ミドガルズ』のコクピットの中で、シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)は嘆息した。
『潰しても潰しても湧いてくるからな、害虫のようなものだ』
コクピット内に響く合成音声は、この機体のサポートAI『ヨルムンガンド』。
シルヴィにとっては良きパートナーであり、話し相手でもあった。
薄暗がりで気心の知れた彼と話していると、編入初日の疲れが溶けていくようだ。
シルヴィには、自分が人付き合いに向かないことの自覚がある。
だが、今日は教師陣に挨拶をし、寮で同室になる生徒にも挨拶をし、更には編入に必要な書類の山を次々に処理するなど、到底向かない物事のオンパレードであった。
諸事を済ませた後、彼女は避難場所としてコクピットの中を選んだのである。
幸い、自習時間中は多くの学生が自室に引っ込むため、見咎められることはなかった。
「……で生徒として潜入したわけだけど。
目立たないようにお嬢様っぽくってどうすればよいのかな」
シートに身を任せながら、シルヴィは相棒に語りかける。
目立たないようにと言われたことは、人付き合いを苦手とするシルヴィにとってはありがたい話だった。ただでさえ人間関係の濃そうな女子校に馴染めと言われるよりは、百倍マシである。
主のそうした指向を察するヨルムンガンドは、静かな声で答えた。
『無理に演じようとすればボロが出るしいつも通りで良いだろう。
君は大人しいほうだし行儀良く黙っていれば目立つまい』
「ふーん……分かったよ」
こうして、明日からの学生生活をやり過ごすための行動指針は決まった。
だが、シルヴィはこのコクピットから去り難い気持ちを感じていた。
翌日。早速事件が起きた。
「貴女。あたくしと手合わせしなさい」
縦ロールの上級生と取り巻きに、|近接戦闘《CQC》の授業中に絡まれたのである。
この上級生、本国の高級軍人の娘という親の七光を盾に幅を利かせている人物であった。
それだけならまだマシだったのだが、悪いことに彼女はそれなりの才覚があった。
このため、止められる生徒がおらず、暴走する一方だったのである。
「……なんで?」
「あなた、あたくしを廊下で無視したでしょう。下級生の分際で生意気なのです!」
暴論だが、上級生にとっては真剣であった。
面子を潰された(と思っている)以上、黙っている訳にはいかない人種なのだ。
突然の状況に、シルヴィは心底面倒くさいものを感じていた。
だが、仮にも授業である以上、逃げるわけにも行かない
結局、彼女は手合わせを受けるしかなかった。
「いきますわよ!」
上級生が一気にシルヴィへ突っ込んでいく。
突進して押し倒し、制圧しようというのだ。そう思った瞬間。
「めんどくさい」
「……なんですって!?」
伸ばした腕を掴まれたと思うと、気づいた時には床に叩きつけられていた。
周りで見ていた他の生徒達は、より彼女たちに起きた出来事を正確に把握していた。
掴みかかった上級生の勢いは、普通の学生では対処の難しいものであった。
だが、シルヴィは冷静に上体を反らして一撃を回避すると、そのままその腕を取り、背負い投げの形に持ち込んだのである。
しばしの沈黙。
その後、大喝采が授業の場を覆い尽くした。
「シルヴィさん、本当によくやってくれましたわ!」
「あの子が大回転する様、本当にスカッとしましたわ……!」
士官学校の食堂に併設されたカフェの一角。
紅茶とケーキが用意された一席で、シルヴィは何人もの上級生のお姉さま方に囲まれる羽目となってしまっていた。
シルヴィによって件の上級生が投げられた一件は、瞬く間に全校に知れ渡った。
腕自慢の上級生を投げたその転入生は、スタイルの良い美少女であるという。
こうして、シルヴィについて知りたいという需要が急増したのだ。
まして、姉妹制度の存在する学校であるから、それが、
「できれば友達になりたい」
「あわよくば妹としてお迎えしたい」
と移行するのがのは必然であっただろう。
かくして、一部のお姉さまが結託してシルヴィの許へ吶喊、お茶会の席を設けたのだ。
「噂には聞いていましたが、本当に可愛い……!」
「それで強いなんて、ギャップがたまりませんわ……!」
彼女たちの勢いに、もはやシルヴィは翻弄されるしかない。
内心涙目であのコクピットに戻りたいと心底願うも、それが叶えられるのは、少し先の話になりそうだった。
成功
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ソフィア・エルネイジェ
学院…懐かしい響きです
かつては騎士の学舎に在った身
先人として生徒の皆様をお守り致します
私は講師として潜入致しましょう
より実戦的なキャバリアの教練の為に招かれたという体を取ります
生徒達に教授するのは空中機動
この世界は殲禍炎剣により飛翔という行為自体に大きな制約が課せられています
ですがだからこそ、殲禍炎剣の照射判定域以下の匍匐飛行の戦術的価値が増していると言えましょう
極低空を高速滑空する匍匐飛行訓練は危険を伴います
これは卒業戦闘試験を控えた皆様にのみ教えられる高等訓練なのです
私はインドラ・ストームルーラーで先導致します
高度は爪先合わせ!
もっと低く!もっと速く!
己と機体を信じて翔ぶのです!
●スパルタ皇女様、教壇に立つ
その日、講義室に集った生徒たちはソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)の姿を目にしてざわめいた。
クロムキャバリアのアーレス大陸西部。そこに位置するエルネイジェ王国と言えば、この国においても騎士の国として勇名が通っている。
しかもソフィア第一皇女と言えば、自らキャバリアを駆って最前線に立つ勇猛果敢な騎士でもあるとして、様々な武勇談の存在する有名人だ。
その皇女が、より実践的なキャバリアの教練の為に招かれたというのだ……!
どのような授業を行うのか、期待の視線が交錯する中、ソフィアの第一声が放たれた。
「今回、皆様に教授するのは戦闘機動です。こちらの映像をご覧ください」
プロジェクターに映し出されたのは、クロムキャバリア世界と|殲禍炎剣《ホーリー・グレイル》の位置関係を簡略化した映像であった。円で表現された地上と、その上に乗っかった手描きの市街地、その遥か上に描かれた殲禍炎剣という構図だ。
ソフィアが指示棒で映像の空の部分をタッチすると、影絵タッチのキャバリアが映像に現れた。そのまま横にスライドさせると、キャバリアもよちよちと空を移動する。
その時、映像内の殲禍炎剣からビームのようなものが放たれ、それに触れた映像内のキャバリアは、爆発四散して消え去ってしまった。
これが世界の現状である。
「この世界は殲禍炎剣により飛翔という行為自体に大きな制約が課せられています。
ですが」
再び指示棒で映像をタッチする。今度は地面に近い位置にキャバリアが現れる。
だが、今度はどれだけ動かしても殲禍炎剣は砲撃してこなかった。
「だからこそ、殲禍炎剣の照射判定域以下の匍匐飛行の戦術的価値が増していると言えましょう」
匍匐飛行とは、地表から数十メートル程度の、|極低空《ごく低い高度》を飛行する飛行法である。
殲禍炎剣は、一定高度を一定速度以上で飛行する飛翔体を迎撃する性質を持つ。
逆に言えば、高度と速度、どちらかの条件を欠けば攻撃は免れるのである。
だが、これについて言及するということは、つまり。
「本日は、皆様にこれをやって頂きます」
気品ある、だが有無を言わさぬ笑顔でソフィアは頷いた。
しばしの後、生徒たちの全員は空中にあった。
あの後、|緊急離陸《スクランブル》並の強行軍で練習機を飛ばす羽目になったのである。
士官学校は基本を教えるという性質上、練習機の運用には時間をかける。
当然、タキシングまで200秒で持っていくような緊急離陸の経験など誰も有しておらず、空に上がる頃には、皆が訓練初期のような疲労を感じる有様だった。
「極低空を高速滑空する匍匐飛行訓練は危険を伴います」
その中で、一人だけ全く疲労を感じさせない声で、ソフィアは講義の続きを行う。
匍匐飛行は、その性質上障害物の影響を受けやすいし、燃料の消費も激しい。
そのため、操縦者の負担は極めて大きなものとなる。
つまり。
「これは卒業戦闘試験を控えた皆様にのみ教えられる高等訓練なのです」
方法はスパルタだが、ソフィアの言は正論であった。
士官学校でこれを行えるのは、卒業間際の彼女たち以外にないだろう。
「正直厳しいですけれど、そこまで信じて頂けるのならば」
「やるしかありませんわね……!」
生徒たちも腹を括る。こうなったらやるしかない。
そこへ、練習機たちに地点データが転送された。
丘陵地の東西の端に地点Aと地点Bだけが記載された、簡単なものだ。
「皆様には、地点Aから地点Bへと飛行して頂きます。
飛行に関する注意事項は既に説明した通り。私はインドラ・ストームルーラーで先導致します」
ソフィアのキャバリア『インドラ』は、エルネイジェ王国に伝わる獣脚類型のキャバリアだ。
ストームルーラーはその航空戦闘仕様であり、背に大型のEP-Bフライトユニット、両腕部にRS-Aアームガンポッド、両腿部にRS中距離空対空ミサイルを装備している。
空中機動能力と、連続航行時間に長けた仕様であった。
「では、訓練開始!」
声とともにインドラが反転、急加速した。
その高度は眼下の木々に装甲を擦りそうなほど低く、低空にしては信じられないほどの高速で、谷間を縫って飛行していく。
「皆さん、ソフィア皇女に続きましょう!」
やや遅れて、生徒たちのキャバリアも訓練空域へと侵入した。
だが。
「速度を上げられない……!」
「これ以上高度を低くしたら、クラッシュ必至ですわよ……!」
共通回線に、生徒たちの呻きが流れていく。
速度を上げれば上げるほど、高度を下げれば下げるほど、障害物との衝突リスクは飛躍的に高まる。それが恐怖と結合し、効果的な飛行の妨げとなっていくのである。
恐怖の克服。それこそがこの訓練最大の課題であった。
「高度は爪先合わせ! もっと低く! もっと速く!
己と機体を信じて翔ぶのです!」
その只中にあって、ソフィアは生徒たちに声をかけ続けた。
叱咤し、激励し、彼女たちの心が折れないよう、自らの心を砕き続けた。
それは、生徒たちに痛みを感じさせるほど伝わっていた。
「「「うわぁぁぁぁぁぁっ!」」」
呻きは、やがて咆吼へと変わる。
ソフィアに応えよう、壁を打ち破ろう、そんな想いが声になっていたのだ。
速度計も高度計もギリギリの数値を示し続け……そのままB地点を飛び越えた。
その事実への理解が及ぶとともに、咆吼は歓声へと変わった。
生徒たちが一つの壁を乗り越えた姿を、ソフィアは誇らしく思ったのだった。
成功
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月隠・望月
姉に妹……? わたしにも|兄様《あにさま》と|姉様《あねさま》はいるが……ここの生徒たちは血縁関係があるわけではなさそう。義姉妹といったところか。ここの伝統なのだろうか。
わたしは留学生として潜入しよう。
オブリビオンの討伐という目的はあるが、こうして士官学校で過ごす機会はあまりない。この機会にキャバリアでの戦い方を教わりたい。キャバリアは持っていないからレンタルしよう。
キャバリアでの戦闘を学んでおけば、オブリビオンマシンとの戦いに役立つかもしれない。それに、生徒たちと交流できて、学園に馴染みやすくなるだろう。一石二鳥(【学習力】)
生活面は……まあ、がんばる。掃除とかは、あまり得意ではないが……
●キャバリア初心者の士官学校生活
「姉に妹……? わたしにも|兄様《あにさま》と|姉様《あねさま》はいるが……」
夕方の点呼後の自習時間に、寮内の廊下から聞こえてくる話し声。
それに耳を傾けた月隠・望月(天稟の環・f04188)は盛大に首を傾げた。
頻繁に聞こえてくるのは、「お姉さま」「妹」というワード。
最初は姉妹での通学が多いのかとも思ったが、そういう風にも見えない。
「もしかして、ここでの『姉妹』が珍しい?」
潜入後数日ですっかり見慣れた顔の、長い黒髪の少女が話しかけてきた。
マリカという名前で、割り振られた寮の部屋の同室だ。
「少し。それでも、義姉妹ということは分かってきたけれど」
「そうね、義姉妹。よそから編入したなら、ここの習慣ってすごい変に見えると思う」
女のみの女学校、そして環境の厳しい士官学校。
2つの環境が化学変化を起こして誕生したのが、この学校の姉妹という伝統である。生徒同士が擬似的な血縁関係を結ぶことで、共に困難を乗り越えよう……ということらしい。
「でも、互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。普通なら少し難しいことだけれど、それらをまとめて括るための言葉があるのは、素敵なことだと私は思うわ」
マリカはそう言うと望月に微笑みかけた。
それから幾日か、ついに望月にもキャバリアに乗る日が訪れた。
訓練用の複座機による操縦演習だ。
シミュレーターも存在し、実際にそれらをもって基礎を学んではきたが、実際に動かした際の感覚を知るのが目的であるという。オブリビオンマシンとの戦いに役立てるべく、キャバリアでの戦い方を知りたかった彼女には、願ったり叶ったりである。
「よろしくね、望月さん。初めてだけど、大丈夫?」
主操縦席に乗り組んだマリカの声が通信越しに聞こえる。操縦席のレイアウトは、バイクや戦闘機で見られるタンデム配置となっているため、望月の乗る副操縦席からその表情を知ることはできない。
「よろしくマリカ様。多分大丈夫だと思う。やり方は習ってきた、し」
操縦桿にフットペダル、各種計器などを確かめながら、その扱い方を思い返す。
今まで習い覚えた武器術や陰陽術などとは違い、|各種電子機器《ヴェトロニクス》が間に挟まるのに当初は戸惑ったが、それでも徐々に手に馴染んできているのを感じていた。
「うん、それじゃ始めるわね。まず、立ち上がるところから」
「わかった。いきなりじゃなく、ゆっくりと」
望月はゆっくりとフットペダルを踏み込んでいく。
その動きに呼応し、キャバリアは片膝立ちの状態から緩やかに立ち上がろうとする。
筋肉に相当するアクチュエーターが唸りを上げ、地につけた膝が離れた。
接地面積が大きく減るため、重心が不安定になるだが、望月の操作に危なげはない。
そしてついに、搭乗する複座機は直立歩行を果たした。
「うまくいった。次は歩く、ね」
望月は機体の足を上げて、一歩踏み出す。ずん、と大地が揺れる。
もう一歩。ずん。機体が少し前へと進む。
歩く度に重心は揺れ動くが、もはや望月はその制御を手中に収めている。
歩様は一切揺らぐことなく、演習場の端へと来ることができた。
「最後は、射撃。銃身を保持して、モニターの照準で、狙う」
キャバリアがビームライフルを構えて、演習場の反対にある標的へ向けた。
同時に、外部の景色を投射しているモニターへ、|照準器《レティクル》が表示。
発射されるビームの弾道予測や目標までの距離などの情報が表示されるが、これは「なんとなく」で流し、操縦桿のトリガーを押す。
発射された低出力ビームの赤い光芒が、正確に標的を撃ち抜く。
同時に、これを見ていた生徒たちから快哉が上がった。
望月は知らなかったが、編入すぐは立つだけでもなかなか大変なものなのだ。
「すごい、すごいわ望月さん! まさか射撃までこなすなんて!」
耳元からマリカの我が事のように喜ぶ声が聞こえてくる。
きっと満面の笑みなのだろう。
(もしかしたら、この学校の姉妹ってこんな感じなの、かな)
ふと望月はそう思った。
この出来事を経て、望月は生徒たちへ受け入れられることとなった。
望月の壊滅的な生活能力を巡って、寮内で騒ぎが巻き起こるが、それは別の話。
成功
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カーバンクル・スカルン
留学生として学園に体験入学したいところなんだけど私、キャバリアを「操縦」したことはないんだよねー。どっちかといえば後方支援がメインっていうの?
ということでキャバリアやその武器のメンテナンスを行う部署の派遣職員として学生達と交流を深めていきましょう。キャバリアは操縦したことないけど、その機構を弄ったことは何百回とあるんでね。
仲良くなった子が出てきたら世間話がてら他の潜入した猟兵の評判とか、先生・教官への愚痴、クリスティーヌさんの情報では「反乱の主部隊になる」というアルストロメリア小隊の最近の動向を何の気なしに聞いていきましょ。
●油まみれの花
「留学生として学園に体験入学したいところなんだけど私、キャバリアを「操縦」したことはないんだよねー」
聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校への潜入に当たり、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)が考えたのは、このことであった。
カーバンクルの保有する機械仕掛けのワニや懲罰機エレキラーと合体すれば、確かに人型ロボとなることはできるが、制御方法は到底『操縦』と言えるものではない。
それならばと志願したのが、整備班の派遣スタッフとなることであった。
幸い、キャバリアの操縦経験はなくとも、機構をいじくったことなら何百回とある。
彼女の経験と技術が、士官学校内で頭角を現すまでに時間はかからなかった。
「やぁ! お疲れ様だカーバンクル・スカルン!」
パイロットスーツに身を包んだショートヘアの少女が、先程ハンガーに固定されたキャバリアから降り立ち、白い歯を光らせて微笑んだ。その挙動からは、どことなく少年めいた稚気を感じさせる。
「今疲れの種を放り込んだ人の台詞じゃないよね、レイさん。
あと、フルネーム呼びやめてって何度も言ってるじゃない」
「わかったわかった、今日は従っておくよ、カーバンクル」
レイと呼ばれた少女はわざとらしく肩をすくめた。
その合間合間に、朗らかな笑みを浮かべることも忘れない。
(こういうところ、結構他の女の子たちに受けてるんだよね。王子様というか)
この少女をある意味で見上げた根性の持ち主と、カーバンクルは評価していた。
レイと出会ったのは、このキャバリア格納庫である。
操縦時に異音が聞こえたので、見てほしいと言ってきたのだ。
それだけなら何のこともない整備案件だ。
だが、7人の整備兵が発見できないと言ったら……些か話は変わってくる。
「父祖から受け継いだ大事な機体なんだ。どうか、整備してほしい……!」
土下座しかねない勢いで頼み込んだため、承諾せざるを得なかったのだ。
その後、幾多の試行錯誤を経て「ジェネレーターの高速稼働中に特定動作をすることでのみ発生する」ことを突き止めた。
修正は無事成功し、レイは嬉しさのあまりステップを踏みながら、カーバンクルを振り回して全力で喜びを表現したという。
レイが自機をカーバンクルが詰めている格納庫に持ち込むようになったのは、それからだ。
そして、彼女たちが時間の合間になんとなく世間話をするようになったのは。
「随分真面目にキャバリア乗ってるみたいだけど、やっぱり卒業戦闘試験ってやつ?」
仕事が終わり、ハンガーのキャットウォークに三角座りで腰掛けて、カーバンクルはレイに対して話を切り出した。
膝に半ば顔を埋めながら、視線をレイの方へと向ける。
その想定通り、レイは気取った態度を取って、カーバンクルの言を肯定した。金色の前髪をふぁさぁとかき上げながら微笑む。
「勿論さ! ボクも活躍をしたいからね……練習をするのは当然というものだよ!」
「まあ、皆そのために頑張ってるらしいしね。でも大丈夫? 有望な転校生も何人かいるって聞いたけど」
世間話の中に、カーバンクルは本当に聞きたいことの一つを滑り込ませた。
この士官学校には、既に猟兵が何人も紛れ込んでいるが、いかんせん格納庫に詰めている状態では、得られる情報は限られる。生徒側から見た情報を得ておきたかったのだ。
……本当に「穏当に」潜入できているか、一抹の不安を覚えていたのも、ある。
レイは、学園に流れる武勇談を楽しげに語りだした。
その語り口は本当に楽しいものであったが、カーバンクルはその背後に猟兵の大暴れを確信していたため、無批判に乗ることはできなかった。
(まあ、分かってたけど! 分かってたけど!)
自分だけでも、少しオブリビオンマシンの動向を警戒した方がいいかもしれない。
「あ、あとこれは小耳に挟んだだけだから、意味とかわかんないんだけどさ。
……『アルストロメリア』って、何? 学生キャバリア小隊の名前?」
「へえ。それをどこで聞いたんだい?」
レイの目が、すっと細められた気がした。値踏みされているかのようだ。
「いや、全然覚えてないんだけどね。語感が気に入ったから、頭に残っちゃって」
「なるほどね。……どこかで噂が出ているのかな」
顎に手を当て考え込むレイ。
それが置いてけぼりをになっている気がして、カーバンクルは少し面白くなかった。
「分かるように説明してよ。私だってここに来て、そんなに経ってないんだし」
「ごめんごめん。『アルストロメリア』というのは、臨時編成小隊の名前なんだ」
レイ曰く、それは卒業戦闘試験でのみ使われる、臨時編成小隊のコールネームらしい。
試験を控えた学生たちは、卒業戦闘試験の日時を告げられると同時に、『アルストロメリア』と『ベラドンナ』、どちらの小隊に編成されたか告知される。
言い換えれば、現時点ではこの学校にアルストロメリア小隊は存在していないのだ。
「でも、その名前をカーバンクルが聞いたってことは、既に面子は内定してて、それがぽろっと出てきたのかもしれない。もしそうなら、試験の告知が明日あってもおかしくないんだろうね」
そこまで言うと、レイの口から押し殺したような喜色が漏れ……爆発した!
「よーし、いいことを聞いた! 試験が近いなら明日からも頑張れそうだ!
ありがとうカーバンクル・スカルン!」
「だから、フルネームで呼ぶなっての」
軽口で返しつつ、彼女はレイの言葉が頭から離れなかった。
今は存在しないアルストロメリア小隊、それが反乱の主体になるという。
狙っているのか? それとも偶然なのか?
考えてみる必要が、あるようだった。
成功
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純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ
【百合の邪魔するオブリビオンマシン絶対許さない邪神】降臨だよ〜♪
ぴゅあは誰よりも百合が大好きな自信あるよ〜♪
百合淫魔の神さまだからね〜、同性相手なら最強だよ〜♪
自分にユーベルコード【男性完全お断りの百合淫魔】を使って〜、アイドルオーラを纏って全身からサキュバスハートを放ちながら校内を歩くよ〜♪
えへへ〜♪女の子だけの秘密の花園特有の優しい甘い香り〜♡辺りに満ちる感情エネルギーもとーっても濃厚〜っ♡
いつもなら好き放題遊ぶんだけれどね〜、百合と女の子達の為なら真面目に調査するよ〜♪
百合姫の刻淫はね〜、ぴゅあが同性を魅了する事に究極特化した証なんだ〜♪
抱きついて甘えれば女の子は何でも教えてくれるよ〜♡
●神、降臨! ~百合の花園を守りたい~
その日、聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校に、神が降臨した。
「【百合の邪魔するオブリビオンマシン絶対許さない邪神】降臨だよ~♪」
邪神だった。
その名は、純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ(永遠に無垢なる幼く淫らな魔貌の邪神姫【百合淫魔王】・f30297)。|淫魔《サキュバス》王国を治める永遠の9歳であり、そもそもその王国を淫魔の王国にし、彼女たちに邪神の子を孕ませた元凶という、紛うことなき邪神である。
とはいえ、女性の守護者も自認するピュアニカにとって、百合の花が多数咲くこの士官学校は、庇護の対象でもある。それに破壊の魔手を向けるオブリビオンマシンへの怒りは、人一番強かった。
こうしてピュアニカは、百合淫魔の正装とも言える、露出度高めのガーリーなランジェリードレスを脱ぎ捨て、機能性重視の士官学校制服にお着替えして花園へと降り立ったのだ。
「えへへ~♪ 女の子だけの秘密の花園特有の優しい甘い香り~♥
辺りに満ちる感情エネルギーもとーっても濃厚~っ♥」
ピュアニカは、士官学校の空気を吸い、恍惚とした声を上げた。
事実、そこには長きに渡り、学園に通ってきた少女たちの感情の坩堝であった。
友情、親愛、純愛、性愛、あるいはそれ未満の蕾のような幼い感情。
時に笑い、時に泣き、時に愛を交わした想いの系譜。
それらが積み重なった感情エネルギーは濃厚の一語に尽き、ピュアニカはこの学校を守らなくてはならない、と決意を新たにした。
「それじゃ、【男性完全お断りの百合淫魔】、いってみよ~♪」
ピュアニカは、自身のユーベルコードを解き放った。
完全百合特化形態に自らを作り変えるそれは、淫魔としての権能の強化と言える。
男性をシャットアウトする代わりに、同性への快楽や魅力、吸精能力を強化するのだ。
そんなピュアニカが、士官学校の廊下をかつかつと音を立て歩いていく。
キラキラ輝く圧倒的な一番星の証であるアイドルオーラを纏い、同時に森羅万象をあまねく魅了する魔力の証であるサキュバスハートを全身から放つ淫魔王に、猟兵ならざるただの女生徒たちが抗えるわけもなかった。
「今の女の子は……!?」
「あっ、かわいらしい……素敵……ですわっ♪」
「あんな子いたかしら、でもどうでもいいわね、可愛いから!」
すれ違った女の子が、次々と瞳孔にハートマークを浮かべ、振り返っていく。
無意識に後を追いかけてしまう女生徒まで出る始末。
これぞまさに百合邪神の権能であろう。
さて、普段ならこうして魅了された女の子と好き放題|遊ぶ《色々な意味で》のであるが。
今回は調査ということもあり、ピュアニカはその力を魅了へと特化していた。
制服に隠された百合姫の刻淫は、まさにそれへ究極特化した存在であるという証。
その力をもってすれば、もはやピュアニカに魅了できない者は存在しなかった。
「ねぇ~♪ ぴゅあ、色々と教えてほしいことがあるんだけど~♥」
文学少女然としたその少女は、ピュアニカに抱きつかれた瞬間に、それはもうメロメロになってしまった。
「は、は、ひゃい♥」
「あのね~、もう卒業戦闘試験って、決まってることある~?」
少女の耳元から、甘い声で脳内へ注ぎ込むように囁きかける。
快楽そのものとも言えるその声に、少女は考えることをやめた。
「んあぁっ、そ、そのぉっ……♥」
喘ぎ声とともに語ったのは、既に卒業戦闘試験が、その小隊メンバー選定も含めて佳境に入りつつあるということであった。アルストロメリア、ベラドンナ両小隊の主要メンバーはほぼ内定、あとはサブメンバーを決めていく状態なのだとか。
そして、彼女はそれを支援する学生側のエージェントとのことであった。
ただし、具体的なメンバーのリストまでは持っていなかったが。
彼女に聞けるのは、これぐらいだろう。
「ん~、ありがとっ♪ これはご褒美だよっ……♥」
唇に、そっとキス。
それだけで、少女は腰砕けになり、ぺたりと床にへたり込んでしまうのだった。
成功
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ルナ・シュテル
此度の任務は此方の学園にてのオブリビオンマシン制圧でございますね。
了解致しました。
女生徒として学園へ潜入致します。
髪を短く、制服をきっちりと着こなし、清潔感ある女学生としての装いを整えて参りましょう。
学内にてはあくまで品行方正に努め、且つ目立ち過ぎることの無いよう実技の成績は所属クラスにおいて中の上〜上の下辺りに位置する程度に抑えます。
然し学業外での頼まれ事は(法や校則に抵触しない限り)UCを併用してでも完璧に遂行致します故、其方の方で名が知られてしまいます。
…元々が奉仕目的にて生まれた身、奉仕に妥協はできません。
中には私を小間使いの如く扱おうとする方もおられますが、そういう方には上級生の方からの指導が入るようで。
私は別に構わないのですが…彼女の為にならないと言われれば納得を。
処で、此方の上級生様(名前等のパーソナリティはお任せ)は何か私に頼み事などありますでしょうか。お尋ねしてみましょう。
どうぞご遠慮なく…私は奉仕する為のモノ、貴女様の望まれる事ならば、何でも致します故…。
●奉仕者と少女
ルナ・シュテル(Resonate1120・f18044)は、奉仕の為に作られたバイオノイドである。
猟兵の力に目覚めた今でも、その存在理由に変わりはない。
今こうしてオブリビオンマシンを待ち構えるため、女生徒として士官学校に潜り込んでいるのも、ある意味では世界への奉仕とも言えるかもしれない。
であるから、彼女は一切の手を抜かない。
髪を整え、制服を着こなし、清潔感ある出で立ちを整えた。
学内では品行方正に努め、かつ目立ちすぎないように立ち居振る舞いに気をつけた。
実技の成績を、中の上から上の下まで抑えることまで行ったのだから、ルナの気配りは細部にまで及んでいたと言っても過言ではないだろう。
だが、いつしか「何を頼んでもこなしてくれる」という評判がついて回るようになった。
きっかけは、ある教師に依頼された講義室の掃除であった。
その講義室は長く使われておらず、半ば物置と化していたのだが、カリキュラムの変更から再度使われることになったのだ。
その教師としては、荷物の搬出と簡単な掃除をした上で、あとは清掃業者を入れて使える状態にしようと思っていたらしい。まず力仕事なのは、この学校の性質によるものだ。
だが『奉仕』を存在理由とするルナのにとって、頼まれ事の手を抜くなど考えられない。
「かしこまりました。只今より全霊を以て命令の完遂に当たります」
……ユーベルコード【天上天下の二十の業】まで行使して清掃を行った結果、講義室はリノベーション物件もかくやという綺麗な状態となっていた。
こうして「目立たないようにする」というルナの気配りは灰燼に帰した。
その日、ルナは下級生グループの頼み事を引き受けている最中であった。
「書類整理手伝って」
「部室の掃除しといて」
「チキンブリトー買ってきてー」
この下級生たち、ルナが基本的に頼み事を断らないことを気づいており、その要求は日増しにどうでもいいものになりつつあった。
だが、そんな日々がいつまでも続くわけもない。
「あんたたち、いい加減にしなさい!」
腰に手を当てて、一人の女生徒が下級生グループを怒鳴りつけた。
ルナに比べれば頭一つ小柄だ。胸も小さい。
だが、その瞳にこもる力は、あまりに強いものがあった。
目に見えて、下級生グループがたじろぐ。気圧されているのだ。
「これ以上この子をこき使うようなら、担当教官にこの事を報告するわ。いいの?」
「くそっ、仕方ない……! 覚えてろ!」
ついに下級生グループが折れ、講義室を去っていく。
彼女たちの全員がいなくなった後、ルナは女生徒に問いかけた。
「私は別に構わなかったのですが……」
「何言ってるのよ。何もかも他人にやってもらおうなんて虫がいいのよ。
それに、そんなことしてるって教官に知れたら、間違いなく評価が下がるしね」
軍隊というものは、基本的に身の回りのことは一人で行うものとされる。
それに、昨今はハラスメントなどについても厳しくなってきている。
他人の労働を搾取するような行動が許されるはずはないのだ。
「なるほど、彼女たちの為にならない、という訳ですね。納得致しました」
こくり、とルナが頷く。
その完璧な所作と整った容姿もまた、下級生グループに目をつけられるきっかけの一つだったのだろうが、それについては女生徒は触れなかった。
ともかく、女生徒はこれで終わりとばかりに、ルナに背を向けて手を振った。
「それじゃ、私はこれで。貴女も気をつけてよね」
「お待ち下さい」
そんな女生徒を、ルナは引き止める。
下級生グループを狂わせた魔性の問いが、放たれようとしていた。
「貴女様は、何か頼み事などありますでしょうか」
ルナは、メルフィナを名乗った女生徒に、彼女の部屋に連れ込まれていた。
もっとも、メルフィナとしては、ルナの問いに困り、とりあえず自分の安心できる場所に移動したというのが本当のところであったが……。
「どうぞご遠慮なく……」
何故かメルフィナの耳元に近づいて、ルナは囁きかける。
ぞくり、と。
メルフィナの背筋に悪寒のような、それでいてどこか甘い電流のようなものが走る。
ルナの肉感的な肢体が近づいてくる。
メルフィナのそれとは比較しようもなく大きな双丘が、形を歪ませながら彼女のそれに押し付けられる。それに気づいた時、メルフィナの顔がさっと熱を帯びた。
ルナはそうした事柄に一切構う素振りを見せない。
事務的に、けれど蠱惑的にメルフィナに囁き続ける。
「私は奉仕する為のモノ。貴女様の望まれる事ならば、何でも致します故……」
(何でも、する……)
ルナの言葉が脳髄に染み渡っていく。
顔の熱が、全身に伝播しているように感じる。
甘い、甘い、誘惑だった。
そしてついに、
「ルナさん……!」
メルフィナはルナの肩を掴んだ。士官学校に通う学生だけあり、力が強い。
ぐっとルナを引きはがすと、ベッド側に立たせる。
紅潮した顔のまま、メルフィナはルナの誘惑に答えを出した。
「脱いで……くれる?」
その一言を言うだけで喉の乾きを覚える気がする。
ルナの体を見たいなんて欲望、普段であれば声に出すことすら躊躇われるが。
彼女自身がいいと言ってくれるなら……。
「はい」
あっさりとメルフィナの言を受諾し、彼女はブレザーのボタンに手をかけた。
するりと脱ぎ捨てると、プリーツスカートの留め具に手をかける。
スカートは重力に屈し、はらりと床に沈んだ。
そしてブラウスのボタンを外すと、下着だけになったルナの姿が露となる。
身体そのものは華奢な方だ。腕や首など、折れそうなほどに細いと思う。
だが、やはり目を引くのはブラジャーが窮屈そうに支えている、その大きな胸だろう。
人より小さいと思っているメルフィナは、羨ましいとすら思う。
服装を整えれば、きっと社交界の花にだってなれるだろう……。
その思考を中断したのは、ルナが下着に手をかけようとしたことだった。
背中のホックを外そうとしたところで、思わず手首を掴み、慌てて止める。
染みや傷ひとつない白皙の肌は、ほんのり冷たかった。
「ああ、そこまでしなくてもいいの!」
「そうなのですか? 邪魔になると思うのですが」
「……勘違いしてる、すごい勘違いしてる! ともかく、いいから!」
メルフィナはぶんぶん、と首を横に振って否定する。
ルナも納得したようで、ブラのホックにかけていた手をすっと離した。
「では、メルフィナ様。貴女は何をお望みなのでしょう?」
ルナの赤い瞳がメルフィナへ問いかける。
対し、メルフィナは息を少し吸うと、一気に言葉として吐き出した。
「私にルナさんの服を作らせて! だからまず採寸させて!」
「……理由を聞かせて頂いても?」
こくり、と首を傾げるルナ。
重ねて言うが、スペースシップワールドで奉仕を目的として生み出されたルナにとって、採寸をしたいと言うのであれば、それに従うのが彼女の存在理由だと言える。
だが、それでもこの少女が何故それを望むのかは、少しだけ気になった。
「あのね、私って服を作るのが趣味なんだ。それも人に着せるのが」
人の服を仕立てる趣味があるメルフィナだったが、少々夢中になりすぎるきらいがあるため、最近は友人を誘っても断られることが多かった。
そんな時に現れたのがルナであった。
「何をしても良い」と言われ、思わず答えてしまったのが「(貴女の服を作りたいので、採寸をしたいから)脱いで」という一言だったのである。
そこまで聞き、ルナはこくりと頷いた。
「なるほど、理解致しました。
それならば是非……私の身体を使って、納得のできる服をお作りください」
「だから言い方ぁ! まぁ、でも。ありがとう。
それじゃ、遠慮なく行くね!」
メルフィナの手が閃き、採寸用の布メジャーが現れた。
そして出来上がったのは、ハンドメイドとしては豪華とすら言える赤いドレスであった。
波打つ真紅の布地は、完璧にルナの体型にフィットするよう裁断、縫製され、動きやすくかつ社交界にも着ていける、素人目にも良い一着と言えるものだ。
製作者であるメルフィナによれば、卒業記念パーティーを想定した一着であるという。
それをこの学校で着られるかどうかは定かではないが、最後の一針を入れ、ルナに試着させた時のメルフィナは、全てを成し遂げたような笑みを浮かべていた。
成功
🔵🔵🔴
リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【SPD】
※絡みアドリブ歓迎濃厚百合希望
※生徒の名前外見性格等一任
いいねえ女学園、色々滾っちゃうよ♪
【U・フロンティア】で保健医の身分確保
生徒用保健室の1つが根城さ
猟兵間の情報交換用にも開放しておくね
…集まった情報はまとめとこうかな
「ごきげんよう、●●さん。もう痛みは引いたかなー?」
保健医らしく《医術》も駆使するけど
アタシの『非戦闘行為』と言えば…ねえ♪
「もっと自信を持って。可憐で強いよ、キミは…んっ♡」
あまり目立たないけどイケそうな娘を全力で籠絡っ
《操縦》…もといプロデュースして探査にフル活用だよ
メンテログから同級生の話まで広範に調べてもらおうか♪
当然『ご褒美』は潤沢にアゲるさ…♡
「ふふ、いいねいいね。素直な娘は大好きだよ、アタシ♪」
密偵支援用に【ヘラルダスト】の疑似紋章をフル活用
スキル付与・心身補強・お楽しみ用…色々徹底的に仕込み
向上的な底上げを兼ね【アイス・ミルク】複数種も丹念に投与
仕上げは甘美な百合の蜜でアタシ色に染めるのさ♪
「ほら、ご褒美のキスだよ…んむっ♡もっと欲しいかな?」
●百合の花、狂い咲く
「知ってる? 第4保健室の噂」
「旧校舎の第4保健室には、キャバリアよりももっと恐ろしい怪物がいるの」
「最初は、先生のふりをして親しげに迎えてくれるんだって。でも」
「仲良くなっちゃいけない。好きになっちゃいけない」
「そうしないと、いつか襲われて……」
「食べられちゃうんだってさ」
聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校、第4保健室。
士官学校内にいくつもある学生用の保健室のひとつである。
士官学校のカリキュラムは過酷で、生傷を負う機会が多い。また、学校社会の中で想定される様々な軋轢に対応する役割も期待され、その全てに専属の保健医が配属されている。
生徒の身体を、そして心を守ることを目的としているのだ。
その日、保健室のデスクでペンを走らせながら書類の空白を埋めていたリーゼロッテ・ローデンヴァルト(|KKS《かわいくかしこくセクシー》なリリー先生・f30386)は、扉の開く音に気づき、顔を上げた。
眼鏡越しに銀の瞳を煌めかせ、その主に微笑みかける。
「ごきげんよう、サユリさん。もう痛みはひいたかなー?」
「ごきげんよう、リリー先生。もうすっかり。的確な処置とお薬のおかげです」
扉を開けた女生徒、サユリ・ルベリウムは長い前髪の間から青い瞳を覗かせつつ、リーゼロッテに微笑み返した。その物腰は柔らかだ。
事の起こりは数日前。授業中に足を痛めたサユリがここに運び込まれたことだった。
足首を腫らし、強い痛みを訴える少女に対し、保健医は笑った。
「大丈夫、処置さえ終われば良くなるさ。さあ、まずはこの『オクスリ』を飲んで……」
言われるままに渡された錠剤を飲むと、サユリは驚愕した。
彼女の意識に割り込んできていた足の痛みが、すうっと引いたのである。
「すごい、さっきまで歩いていられないほど痛かったのに……」
「でも、これは一時的にごまかしてるだけだからね。ここからが本番さ。
……処置するよ、準備はイイかい?」
リーゼロッテが下唇をぺろりと舐め、処置の準備を始める。
腫れた患部をリーゼロッテの手がそっと触れ、ごきりと音が聞こえるほど、一気に足首のズレを修正した。
「くすくすっ。あの時はお薬を飲んでも痛かったですけど」
「でも、痛みは飲んでないより十倍はマシさ。事実、こうしてほぼ治ったわけだし」
包帯に覆われてはいるが、サユリの足首からは既に腫れは引いていた。
その下は、痛み止めの湿布だけである。事実上の快癒と言ってよい。
「まあ、これで授業にも戻れるはずさ」
「あのっ、それなんですけど……。先生に、ご相談したいことがありまして」
サユリが顔を上げた。その視線の先には、リーゼロッテの銀の瞳がある。
羞恥なのだろうか、顔をほんのり赤らめながら、それでも視線をそらさなかった。
リーゼロッテは、その姿を見てにんまりと微笑んだ。
「いいよ。アタシが役に立てるかどうかは分からないけど」
「いえ、リリー先生は信頼できる方だと思ってますし……だから聞いてほしいです」
視線が合ったと同時に目をそらしてしまう。目を伏せる。
その表情には羞恥だけではない、苦悩の色があるとリーゼロッテは感じた。
「実は、私。学業の成績が、あまり芳しくなくて。座学はそれなりですけど実技の方が……」
「なるほど、足を痛めたのはそれが原因だね」
「はい、行軍訓練で出遅れてしまい、焦ったら滑落しまして……。
それで、実家の方から『もう辞めたらどうか』って言われて、私すっかり自信が……」
サユリの伏せた目尻には、涙が光っていた。
ぽとり、ぽとりと落ちてスカートに染みを作る。
その頬を流れる涙をそっと手で拭い、リーゼロッテは真っ直ぐサユリの瞳を見つめた。
「もっと自信を持って。可憐で強いよ、キミは。
そうでなければ、とっくに諦めているさ。足を痛めたって理由だってあったんだし」
本当に自信を失っているのなら、足を痛めたことを理由にしただろう。
それでも学校を辞めなかったのは、サユリ自体が学校を辞めたくなかったから。
そう、優しい声で語りかけた。
だが、サユリは涙を止めることなく、頭を振る。
自分のことを、信じきれないのかもしれない。
リーゼロッテは、静かにサユリの手を取った。その手はほんのり温かい。
「それじゃぁ、アタシがサユリの信じられるおまじないをあげるよ。
……目を閉じて?」
言われるまま、サユリが目を閉じた。溜まった涙が流れ落ちる。
暗闇の中で何かが近づく気配。
それを感じた瞬間、サユリの唇に柔らかいものが触れた。
「んんっ、リリー先生っ……っ!」
目を開けると、リーゼロッテの顔が至近にあった。
そして、その唇が……サユリのそれに押し当てられている。
(リリー先生が、私に……口づけを……!?)
驚きのまま動けないでいると、リーゼロッテは唇をついばみ始めた。
何度も吸い付き、離れる度にちゅっ、ちゅっ、と高い音が鳴る。
「嫌なら、離れてもいいんだよ?」
リーゼロッテが、笑みの消えた真剣に見える表情をするのは初めてだった。
それを見て、サユリは離れがたいものを感じてしまう。
大きな胸がどくり、と音を立てて拍動する。頬が熱くなり、涙の跡を灼く。
それらの示すものは明白で。
だから、サユリはどうするかを決めた。
「いいえ……続き、お願いします。もっと、おまじないをください」
それを聞いてリーゼロッテはにまり、と笑った。
「ふふ、いいねいいね。素直な娘は大好きだよ、アタシ♪」
リーゼロッテがサユリの細い腰に手を回した。そのまま、ぐっと引き寄せる。
僅かの間離れていた唇同士の距離が再び近づき、触れた。
「先生っ、先生っ……んっ、ちゅっ……」
たどたどしく唇を合わせてくる、サユリの姿が微笑ましい。
けれど、リーゼロッテはそれで済ませるつもりはない。
サユリの唇の間に、リーゼロッテの舌が差し込まれた。ちろちろと蠢きながらこじ開け、何者も触れたことのなかったサユリの舌へ絡んでいく。
「はふぅ、んむっ、んむぅっ、んぁっ……♡」
(舌っ、入れられちゃったっ……。リリー先生がっ、入ってっ……)
甘いリーゼロッテの唾液がとろりと流れ込むと、舌にほのかな甘みを感じる。
ひとしずく増える度に、サユリは頭に霧がかかっていくのを感じていた。
(もっと、欲しい)
その思考が言葉になる瞬間、サユリはリーゼロッテを抱き返した。
元々ふたりの距離はほとんどなかったが、ゼロになる。
サユリの大きな胸と、リーゼロッテの慎ましい胸が押し付けられ、変形し合う。
「くださいっ……せんせぇっ、もっとっ……。わたし、がんばりますからぁっ……」
「それでこそさ、サユリ……頼みたいこともあるし、ねっ……んちゅっ♡」
「せんせっ、せんせっ……」
甘い声を上げながら、サユリが舌を絡め返した。
嚥下する唾液はその甘さを増し、熱すらも伝えているように思う。
サユリの尻にリーゼロッテの手が回され、悩ましげに震える。
どれだけその交歓が続いたのだろう。
やがて、どちらともなく二人の顔が離れ、銀の橋が架かって、切れる。
サユリの背筋はリーゼロッテの腕の中でふるふると震えていた。
それからやや経って。
一冊のファイルを読み、リーゼロッテは満足そうに頷いていた。
「うんうん、良く調べてきたね。流石はサユリだよ」
「あ、ありがとうございます……」
対して、サユリはどこか落ち着かない顔で視線を彷徨わせていた。
ファイルの中身は、サユリが調べてきた卒業戦闘試験にまつわる情報であった。
丁寧な字で情報と、その解説や考察が読みやすくまとめられている。
初出の情報と言えば、サユリが見つけてきた卒業戦闘試験の小隊割り振りだろう。
教師陣の中では既にメンバーが決定しており、あとは告知するだけであるようだ。
無論、サユリをこうするよう仕向けたのはリーゼロッテである。
最初に飲ませた鎮痛剤の正体は、彼女の調合した薬剤【アイス・ミルク】だった。
鎮痛剤としての効果も無論あるが、思考を誘導し、サユリの中の欲望をかき立てる効果も含まれていた。
言うなれば、サユリはリーゼロッテの張る蜘蛛の糸に絡め取られたようなものだ。
それでも、サユリはもはやどうしようもなかった。
「あの、リリー先生……」
「ん? どうしたんだい?」
赤い顔をしながら、サユリがリーゼロッテに問う。
リーゼロッテは、サユリが何を言いたいのかは既に分かっている。
だが、あえて焦らす。サユリの中の熾火を起こすように。
サユリはそれに乗るしかなかった。
「ご褒美を、ください……私にっ……!」
満足気に、リーゼロッテは頷いた。そのままサユリと唇を合わせる。
それだけで、サユリは背筋を震わせてしまう。
「ほら、ご褒美のキスだよ……んむっ♡ もっと欲しいかな?」
「欲しいです……。私、いっぱいリリー先生が欲しいですっ……!」
「いい返事だね。ほら、いっぱい上げるよ。そして、アタシ色に染まれっ……♡」
ベッドに倒れ込みながら、もう一度二人は口づけを交わした。
成功
🔵🔵🔴
秋月・信子
●SPD
『元修道院のお嬢様学園ね…かつての学び舎を思い出す?』
「ええ…同じ悲劇を起こさせないようにしませんと」
突如学園を襲った謎の武装集団による襲撃、その際に拳銃を奪って生き残る為に応戦したのが全ての始まり
もう5年も前の話となりますが、今でも時折夢を見ます
だからこそ、悲劇を最小限に食い止めないと…ですね
『気持ちは分かるけど、まずは現地に潜入しての情報収集よ。説明し直すけど、私達は海洋交易企業国家 #トリアイナ 重役の子女というカバーストーリーを用意して貰ったわ。トリアイナ傘下ペーパーカンパニー社長令嬢の双子ってところね』
「ええ、念の為に#日出国 支社長のルキウスさんにご相談しましたら、ノリノリで偽造身分証を作って貰いましたよね」
|キャバリア《ピースメーカー》の搬入もトリアイナ持ちで搬入完了しましたし、まずは不審がられないよう案内に従い学園見聞をします
予知で得られた状況を考えますと卒業試験を受けます各小隊、ならびに教官の線が有力ですので、パイロット同士の|交流《お茶会》もお受けしましょう
●好きになってくれたら
秋月・信子(魔弾の射手・f00732)は、夢を見る。
「ごきげんよう、秋月さん。今日も素敵な日和ね」
「ごきげんよう、二条さん。ええ、本当に」
神の庭に集いし少女たちの、穏やかな挨拶の交わしあい。
先輩である二条が、今日もにこやかに笑いかけ、手を振ってくれる。
だから他愛もない会話でも嬉しくなって、ついこちらも微笑んでしまう。そういう人だ。
入学式の式典で出会ってから、ずっとそう。
その彼女と朝から出会えるのは、信子にとって嬉しいことだった。
「今日は生徒会室にいらっしゃるのですか?」
「ええ、二週間だから、忘れられてないか心配だわ」
緩くウェーブのかった長い栗色の髪をなびかせながら、軽口を言う二条。
彼女は風邪をこじらせ、しばらく学校を休んでいたのである。
二条の体があまり強くないのは聞いていたから、少しだけ信子の表情に陰がかかる。
だが、彼女はそれでも柔らかい笑みを浮かべ。
信子の額に、デコピンした。
「いたっ!?」
「こーら、そんな顔しないの」
二条は微笑んでいた。 ほんの少し、有無を言わさぬ迫力を纏ってはいたけれど。
ふるふると、長い髪を揺らしながら首を振る。
「問題ないわよ。もうお医者様のお墨付きはもらったし、身体の調子もいいの。
だから、秋月さんが心配することはないわ。 ね?」
(……心配することなんてなかったんですね)
信子は得心した。
二条は自らの身体については受け入れているし、笑い飛ばせるだけの強さもある。
ただ、他人がそれについて悲しむのが悲しいのだ。
ならば、自分がするべきは。
「分かりました。では、生徒会室でお待ちしていますから。
先日、良いお茶を頂いたので、是非二条さんに飲んでいただきたくて」
「あら、それは楽しみね。お昼ごはん、ちょっと加減しなきゃ」
くすくす、と二条が声を上げて笑う。つられて信子も微笑んでしまう。
そう、これでいいのだ。皆でお茶を飲んで笑い合えれば。
だが、この約束は果たされることはなかった。
「……んっ」
『ようやく起きた?』
二重身たる『姉』の内なる声に促されるように、信子は身体を起こした。
周囲を見渡す。一瞬、かつての学び舎の姿が二重写しになる。
しかし、瞬きをするとそれは消え去った。
二段ベッドと机だけのシンプルな居室だが、よく見ると花や蝶の意匠の飾りが施されている。
あてがわれた士官学校の寮の一室だ。
「はい……久しぶりに夢を見ていました」
その一言で『姉』は理解した。それは信子の心の底にわだかまる、猟兵としての原風景。
『……かつての学び舎を思い出す?』
かつて、信子の通う学校に、謎の武装集団が襲撃を仕掛けたことがあった。
学内の生徒たちは圧倒的な暴力に晒され……ある者は斃れ、またある者は汚された。
花を手折るどころか根こそぎにする脅威に、為す術はないと思われた。
その中で銃を取ったのが信子だったのである。
始まりにして悔恨の舞台。もしも、と思ったことは数知れない。
それでも、その全てを呑み込んで、信子は静かにこう言うのだ。
「ええ……同じ悲劇を起こさせないようにしませんと」
『姉』は、信子のその心を肯定した。
肯定した上で、その先へ続けるように思考の橋渡しをする。
『気持ちは分かるけど、まずは現地に潜入しての情報収集よ。
説明し直すけど、私達は海洋交易企業国家トリアイナ重役の子女というカバーストーリーを用意して貰ったわ。トリアイナ傘下ペーパーカンパニー社長令嬢の双子ってところね』
トリアイナは、信子姉妹と関わりのあるクロムキャバリアの海洋交易小国家である。
非常に広い商業圏を有しており、この聖ヒルデガルト修道騎士団領においても首都に支社が存在し、多くの資源や資金をやり取りしているため、知名度は高い。
信子のキャバリア『ピースメーカー』も、そちら持ちで学校に運び込んでいる。
「ええ、念の為に日出国支社長のルキウスさんにご相談しましたら、ノリノリで偽造身分証を作って貰いましたよね」
偽造身分証を依頼したときのことを思い出し、思わず苦笑いをした。
ルキウスは、任地の権力者と丁々発止のやり取りを繰り広げている傑物である。
そうした立場故に、オブリビオン絡みの事態に度々巻き込まれていることもあり、猟兵との縁が深いが故の起用なのだが、彼はもしかして事態を楽しんでいないだろうか。
そう言えば、身分証とカバーストーリーのすり合わせを行った際、後ろにいる|護衛の女性《元海賊》が盛大に溜息をついた気がするが……。
『……考えたら負けよ、信子』
「アッハイ」
信子は、怖いものになってきた考えを脳内のゴミ箱に放り込んだ。
その時、部屋の扉が控えめにこつこつと鳴った。
一緒に、
「秋月さん、いらっしゃいますか?」
という女生徒の声も聞こえてくる。
信子が扉を開くと、そこにはウェーブヘアの少女がひとり立っていた。下級生だろうか。
強い既視感。彼女の知る人物と印象が重なり合う。
「二条さん……?」
「ニジョー……? いえ、わたしはリューネですけれど」
ハッとして、目の前にいる少女を見返す。
ウェーブした髪は金髪だし、目は青。身長もかなり低く、ビスクドールのような印象だ。
二条とは似ても似つかない。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、気にしてないですよ! この学校、理由ありの子も多いですし。
そうじゃなくて、その……」
リューネと名乗った少女は一瞬言葉を切り、こう言った。
「トリアイナ|縁《ゆかり》の生徒でお茶会をするのですけど、いらっしゃいませんか!?」
「なるほど、傘下企業のご令嬢でしたのね。日出国でもお仕事をされていると聞きましたけれど、どのような土地なんですの?」
「東西に分かれての内戦を繰り広げている島国ですね。金銀やジャイアントキャバリアの生産が盛んなので、姉の会社はかなりの利益を上げているらしいです」
学生食堂のオープンカフェスペースの片隅。
そこを借りて行われているお茶会は盛況を呈していた。
トリアイナ縁の生徒たちによって行われている関係上、親兄弟の話題に付随してトリアイナの現状について話す機会も多い。長く士官学校で学んでいる者ほど、その傾向が強いようで、彼女たちは引き換えに学校の噂話や現状を多く話してくれた。
今までの経験と、カバーストーリーに合わせての勉強が功を奏した形だ。
「それで、ついに卒業戦闘試験の編成が決まったそうなんですけれど、アルストロメリア小隊は何故かC格納庫の側に住んでいる人が多いんですって……!」
「あ、うちのお姉さまもC格納庫側の寮です」
「C格納庫は昔、学生が事故で亡くなったらしいと聞きましたわ……。つまり、悪霊がアルストロメリア小隊の人々を誘っているのでは……!」
「それ、先生方も悪霊の手先じゃありません?」
「確かに……」
|和気藹々《わきあいあい》とする少女たちの中で、信子は思う。
(C格納庫ですか。何かいるのでしょうか……?)
『かもしれないわね。どちらにせよ注意しておいた方がいいわ。噂で済むならそれでいいし』
『姉』の言葉に内心頷く。
噂で済まなかった時には、彼女たちを助ける初動が遅れることになるのだ。
ならば、注意をしておくに越したことはないだろう。
そう考えていた時、横合いから声をかけられた。
「あの、秋月さん」
見ると、このお茶会に誘ってきたリューネだった。
ふわふわのウェーブヘアを心配そうに揺らしている。
「怖いお顔をしているようだから、心配になって。もしかして、わたしが誘っちゃったから……」
信子は頭を振った。つとめて、笑顔を作るようにする。
「そんなことはないですよ。予想より賑やかで驚いただけで」
「良かった……」
リューネは安心したのか、ふぅと一息ついた。
ことり、とティーカップをテーブルに置く。
「ねえ、秋月さん。正直ここは変な学校だと思うんです。でも、いい所だとも思うから。
少しでも好きになってくれたら嬉しいなって思います」
その言葉に、リューネと二条の印象が再び重なり合う。
かつて、入学式に言われたことを信子は思い出していた。
(ここは変な学校だけれど、いい所だから。少しでも好きになってくれると嬉しいわ)
リューネは二条ではない。世界すらも異なるけれど。
同じ心をもって信子に接してくれたことだけは、間違いなく事実だ。
だから。
「そうですね、これから通う学校ですから、好きになりたいと思います。
だから、この学校のこと教えてくれますか、リューネさん?」
「はいっ、喜んで!」
この楽しい場所を、この笑顔を守るために。
信子は、この学校でかつての悲劇を絶対に繰り返さないと誓うのだった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『ジェネム2』
|
POW : 全機一斉射撃
【部隊全機でビームライフル】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 突撃援護
【同型機による支援攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【ビームサーベルでの攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 別動隊合流
【同型機で編成された別動隊】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
イラスト:tel
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●操り人形の行軍
「アルストロメリア小隊、唱和しなさい!」
その声に答えることなく、沈黙のキャバリア部隊が森林地帯を行軍する。
互いの状況確認すら行なわず、それでいて整然と。
統一された意志すら感じられる動きで、士官学校へと迫っていく。
この時、コクピットを覗くことができたなら。
中で意識を失い、操縦席に身体を沈める少女たちの姿を見ることができただろう。
「いやっ、私そんなことしたくはありません……」
「お願い、銃口を下げて……! 妹たちを撃たせないで……!」
悪夢に|魘《うな》され、苦悶の表情を浮かべる彼女たちは、それでも機体の操縦桿を握っている。それはまるで、彼女たちが悪夢によって機体に組み込まれ、別の意志に動かされているかのよう。
そして、放置すれば少女たちの悪夢は現実へと変わるだろう。
機体を動かす『意志』のほくそ笑むままに。
その前にオブリビオンマシン化した機体を破壊し、少女たちを救い出すのだ!
月隠・望月
この学び舎の『姉妹』は、痛みやよろこびを分かち合う相手。血の繋がりはなくとも、家族のように……わたしはそう解釈した。
望まずして家族を傷つけさせるわけにはいかない。
キャバリアの乗り方を教えてもらったところ悪いが、わたしは生身で戦おう。こちらの方が慣れているから。
【呪符壁展開】で結界を張り、敵の攻撃を防ぎたい。強力な次撃を躱すためにも、初撃を防ごう。
結界で防御しつつオブリビオンマシンに近づいて、生徒を救出したい。少しだがキャバリアについては学んだ、機体の急所もコックピットの位置もわかるだろう(【学習力】)。多少手荒だが、羅刹の【怪力】で機体を破壊しようか。
救出した人の周りにも結界を張っておこう。
●羅刹と巨人
月隠・望月(天稟の環・f04188)は忍装束姿で森林を疾駆していた。
キャバリアには搭乗せず、己が身ひとつで。
きっと前方を見据えると、木々の間から白い死神めいた群れが揺れ動く。
アルストロメリア小隊の搭乗する練習機、ジェネム2だ。
ちらりと見える、搭乗者の意志に反して閉まったハッチ。
その内側に囚われている少女たちを、望月は想う。
「この学び舎の『姉妹』は、痛みやよろこびを分かち合う相手。血の繋がりはなくとも、家族のように。
……わたしはそう解釈した」
士官学校で出会った少女たちは、互いを頼り、互いを庇い合い、互いを助け合っていた。
その有様は、望月にとっては『家族』と呼ぶべきものとよく似ていた。
そして、望月にも家族がいる。
「望まずして家族を傷つけさせるわけにはいかない」
戦うには、十分な理由だった。
その時、前方に展開するジェネム2たちの1機が、こちらに視線を向けた。
それを皮切りに、他の機体も次々と望月へとカメラアイの焦点を合わせてくる。
手にした得物、ビームライフルを構え、一斉に桜色の荷電粒子ビームを望月に放つ。
演習の時に使っていた、赤い低出力ビームとは出力が大きく異なる。
その軌跡は大気を電離させ、進行方向の樹木もろとも望月を灼き尽くそうとしていた。
だが、望月はその攻撃範囲から退避しようとはしない。
むしろ、その弾幕を正面突破しようと突き進む。
そのふたつの進路が衝突する刹那。
望月は懐から呪符を取り出し、ビームの進路を遮るように掲げた。
衝突。
桜色の光が望月の前で弾けた。荷電粒子の放つ熱量が望月の頬を灼く。
だが、それだけだ。走る望月の足は止まらない。
|【呪符壁展開】《アミュレット・ランパート》。
陰陽術の呪符によって、結界を展開するユーベルコードである。
結界はあらゆる内と外を峻別し、概念的な障壁を発生させる。それこそが望月を荷電粒子ビームから守り抜き、無傷で走り抜けるという結果を産んだのだ。
だが、敵の攻撃がそれだけであるわけがない。
「次が、来る」
先頭のジェネム2がビームサーベルを抜き放った。
背部のスラスターが一斉に火を吹くと、オブリビオンマシンに爆発的な推進力を与え、望月へと向けて一直線に飛んでくる。切り結ぼうというのだ。
いや、むしろ叩き潰すと言う方が適切かもしれない。
本来、歩兵に対してはありえない戦術なのだから。
だが、彼らはあえてそうする。
ビームライフルを生身で受け止めるのも、また同様にありえないからだ。
あるいは、それは理外に生きる猟兵に対する防衛本能かもしれなかった。
だが、望月が待っていたのはこの一撃であった。
「少しだがキャバリアについては学んだ。なら」
更に速力を上げ、突っ込んできたジェネム2の懐へと跳ぶ。
オブリビオンマシンにとっては、獲物が自分から飛び込んできたに等しい。
そのまま両断……できなかった。
『目標喪失』の文字が、メインモニタに点灯する。
キャバリアの視界は、基本的に頭部のカメラアイから送られた情報をメインモニタに投影することで確保されている。無論カメラはそれだけではないが、それらは適宜切り替え、もしくはメインモニタに割り込ませることで使用される。
このため、視野の殆どを頭部カメラに依存する構造を変えるには及んでいなかった。
そう、望月はカメラアイの死角……懐へと飛び込んだのである。
機体胸部へとりつくと、その装甲の隙間へ指を滑り込ませ、力を込めた。
たちまち複合装甲がめりめりと悲鳴を上げる。
ジェネム2は懐へ飛び込んだ慮外者へ手を伸ばそうとするが、全てが遅かった。
「この子は、返してもらう」
ついに胸部の装甲、すなわちコクピットハッチが剥がされた。
意識を失ったパイロットの姿が顕になるや否や、望月はその少女を抱えて機体から飛び出し、叢へと着地する。
奪われたパーツを奪還しようと、オブリビオンマシンは手を伸ばす。
だが、それは果たせない。救出したパイロットを中心に張った結界が阻んだのだ。
ジェネム2の動きが止まる。
「そして、これで終わり」
望月はその腰へと回し蹴りを入れる。
羅刹の怪力にとって振るわれた一撃は、機体の重心バランスと内部機器を破壊。
立つことのできなくなったキャバリアは、どうと仰向けに倒れ、勝負は決した。
「人型である以上、基本的な急所は人体と同じ」
人型兵器の構造的弱点をついた、勝利であった。
成功
🔵🔵🔴
シルヴィ・フォーアンサー
……やっときた、早く帰りたい。
『ここからが本題だ、早く帰りたいなら迅速に処理したまえ』
言われなくても……パラライズ・ミサイルを発射して
一部を麻痺させつつガトリング砲を持たせたままロケットパンチ。
誘導弾として麻痺させた機体の頭部に腕や足をガトリング砲で破壊して無力化。
腕をはずしたのを好機と攻撃してきた残りの機体には
スキルコネクト・カウンターを発動。
攻撃を回避しつつ肘間接部に仕込んだビームサーベルのカウンターで四肢を切り落とす。
残ってる敵機も同じように倒していくよ。
●この戦いの向こうに答えはあるのか
アルストロメリア小隊の成れの果て、オブリビオンマシンたちの行軍は続く。
一秒の遅滞もなく、同じテンポと歩幅で進軍する。
そして敵が現れたならば、戦術的な最大効率をもって、黙々と殲滅する。
その光景は、戦場の兵士たちなら間違いなく畏れを抱くだろう。
だが、シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)にとって。
「……やっときた、早く帰りたい」
眼前のキャバリアたちは、この地にシルヴィを繋ぎ止める重し程度の意味しかなかった。
進行方向に立ちふさがったキャバリアが数機、横隊を組んでビームライフルを構える。
そして同時発射し、密度の高い弾幕を展開する。
だが、シルヴィの操るクロムキャバリア『ミドガルズ』は、進行速度を緩めなかった。
スラスターの角度や出力を細かく変更、踊るように機体を回しながら、紙一重でその全てを回避する。
そこには、学内の人間関係に目を白黒させながら閉口する少女はどこにもいない。
一人のエースパイロットが、そこにあった。
『ここからが本題だ、早く帰りたいなら迅速に処理したまえ』
ミドガルズのサポートAI、ヨルムンガンド(以下ヨル)がシルヴィに語りかける。彼はシルヴィの保護者役も担っており、当然ながら彼女が帰るにはどうすればよいかもよく知っていた。
使用可能な兵装リストが、シルヴィの手元にリストアップされて展開。
素晴らしい仕事だが、シルヴィにとっては仕事を積まれたようで内心面白くなかった。
少し棘のある声で、それに応える。
「言われなくても……!」
ミドガルズの背面と脚部に配置されたスラスターが火を吹き、ミドガルズの巨体が空に舞い上がった。殲禍炎剣の捕捉高度と速度に達しないよう気をつけながら。
ジェネム2の放った何本もの荷電粒子ビームが追いかけてくるが、追いつけずにその軌跡を彩ることしかできなかった。
一定高度に達したことを確認すると、シルヴィは兵装リストの一つをクリック。
同時に、ミドガルズの肩部に装備されたミサイルランチャーのカバーが一斉に爆砕ボルトで吹き飛び、装填されたミサイルが露になる。
ミサイルは【パラライズ・ミサイル】。
着弾地点に高圧電流を撒き散らす、|EMP《電磁パルス》兵器の一種だ。
ヨルによる予想効果範囲の演算結果がもたらされる。
効果範囲は着弾地点から球形に発生し、攻撃した敵機の8割を巻き込むことができる。
そして……自機ミドガルズは、安全範囲。
『右肩第1から第8、左肩第9から第16まで全弾発射可能だ』
「……ビリビリってするよ」
ミドガルズから放たれたミサイル群は、敵機ではなくその足元に着弾した。
同時に、カメラアイの視界を灼くほどの雷光が、その周囲一体を飲み込む。
巻き込まれたキャバリアたちは、ある者はびくん、と大きく痙攣めいた動作を最後に戦闘機動をやめ、またある者は上半身のみが動く滑稽な姿となった。
ミサイルの着弾地点から発生した瞬間的な高電流及び高電圧によって、それに耐えきれない機器を故障させたのである。落雷が電線を通じて家電を壊してしまう、雷サージの大規模なものと思えばよいだろう。
本来、キャバリアはこうしたEMP攻撃に対してもある程度の防護策を巡らせているものだが、このミサイルはユーベルコードの産物。通常の対策は無意味であった。
8割が事実上無力化した敵キャバリアへ、シルヴィは更なる追撃を行う。
「ロケットパンチ……行って」
RSガトリングキャノンを装着したまま、腕部を切り離したのである。
切り離された腕部は、仕込まれた大出力スラスターの推力をもって自律飛行する。
ヨルの制御によって動くそれは、もはや無防備となっていたキャバリアの頭部や腕部、脚部を狙っていた。
『敵機体を無力化する』
「お願い」
ガトリングキャノンが唸りを上げると、無力化されていたオブリビオンマシンの腕や足、頭が次々と破砕される。後に残るのは、少女たちの囚われたコクピットブロックのみ。
だが、それを好機と捉えたのか、残存機体がビームサーベルを構えて吶喊した。
実際、肩部のミサイルランチャーは全弾を撃ち尽くし、腕部は切り離し、背部の荷電粒子ビーム砲は見るからに有効射程を割り込んでいる。有効な武装を失った機体ならば倒せると考えたのだろう。
しかし、シルヴィは慌てなかった。
「【スキルコネクト・カウンター】発動するよ」
上段からの斬撃を、右へ体軸をずらして回避。
それを戻すと同時に、肘から展開したビームサーベルで斬り込んだのだ。
斬撃一閃。
四肢を失ったオブリビオンマシンは、どうと倒れ込んで戦闘不能状態となった。
「これで終わりかな」
『まだEMP範囲外の敵機体は多いし、おそらくは首魁もいるだろう。
もう暫くは戦闘が続くな』
そんな、と一声上げて、シルヴィは操縦席のシートにぼふりと身を沈めた。
せめて、少しだけでも休息がほしかった。
成功
🔵🔵🔴
バブリー・アリスライム
さて、多少のトラブルはあったが|依頼《オーダー》はこなせそうだな。いやー監禁された時は焦ったぜ、ヤンデレこわ。
で、あれが予知で言ってたやつか。|中身《パイロット》入りってのは厄介だがなんとかならんこともない。
ガムゴムスライム化してガムゴムキャバリアと融合、これで|ガムゴムキャバリアは魔喰部位の一種として使える《高性能を駆使する》。
さて、スライム化の特性で銃撃は|ボディに沈むだけ《鉄壁》、エネルギー兵器でも魔喰で吸収するから問題はないぜ。
後は敵機に取り付いてオブリビオンの『意志』を魔喰しちまえばいい。ま、それが無理でも関節や動力部を溶解させちまえば動けなくはなるな。
もう、悪夢は終わりだぜお姫様?
●これは、お姫様を救う英雄の物語
「さて、多少のトラブルはあったが|依頼《オーダー》はこなせそうだな」
依頼前からトラブルがあったような気もするバブリー・アリスライム(蒼汁アジュールゼラチンスライム・f41794)が戦場に現れた。
少々よれよれになっているようにも見えるのは気のせいだろうか。
「いやー監禁された時は焦ったぜ、ヤンデレこわ」
気のせいじゃなかった。
というか、それは憲兵かなにかを呼んでください。
あるいは、既に呼んだのかもしれないが……。
閑話休題。
「で、あれが予知で言ってたやつか」
バブリーは見晴らしのいい崖上からジェネム2の進軍を見下ろしていた。
既に猟兵たちとの交戦で稼働数は減り始めているが、まだまだ数は多い。
そのコクピット内に女生徒を抱えていることも相まって、むしろ厄介とも言える。
「|中身《パイロット》入りってのは厄介だがなんとかならんこともない」
だが、バブリーは落ち着き払っていた。むしろ自信のようなものすら感じる。
後ろへ視線を向ける。
そこには、1機のキャバリアめいたものが控えていた。
『めいたもの』と書いたのは、一般的なキャバリアとは大きく異なる代物のためだ。
そのボディはゼラチン質で構成されていた。
細部のディテールは若干曖昧だが、それは機体の成立プロセスに、擬態めいたものが関わっているのかもしれない。
そして、謎の発光部位が一定の規則できらきらと煌めいていた。
そう、この機体には自由意志すら存在するのだ。
それへと、バブリーは背を見せたままバックジャンプした。
ジャンプ中に、バブリーの身体がガムゴムスライム化。
そのままガムゴムキャバリアの表面へと接着し、内部へと溶け込んでいく。
その時、人体で言えば頭部に相当する部位で発光部位が光り輝いた。
拳を握り、足を踏ん張り、機体細部のディテールが明瞭になっていく。
シルエットはやや鋭角を帯びた、よりキャバリアめいたものへ。
それは、まるで機体にバブリーの意志が行き渡ることで、変化したかのようだった。
この機体を、以降『ガムゴムキャバリア』と呼称することにする。
「よし、それじゃ行こうか?」
ガムゴムキャバリアは跳躍し、そのまま崖へと飛び降りた。
足を接地させ、巧みなバランス感覚と部分的な不定形化によってそのまま滑降。
一直線に崖下のオブリビオンマシンたちへと接近していく。
だが、派手な登場は当然相手の注意も引き付ける。
「だよなぁ、そりゃ気づくよな」
ジェネム2たちがビームライフルを構え、崖上へと一斉射撃した。
多数のビームがたちまち崖を粉砕するが、バブリーのガムゴムキャバリアはそこには既にいない。
スピンを絡めながらの伸身宙返りで空へと逃れていたのだ。
だが、1機がそれに追従し射撃を放つ。
狙いすました射撃はまさにガムゴムキャバリアの軌道の上。
逃れることは不可能だった。
「しまった……って、言うと思ったか?」
だが、それもバブリーの計算の内である。
ガムゴムキャバリアがビームへと腕を伸ばすと、なんと軟質化したそれが受け止めた。
そのまま、ビームのエネルギーは機体内へと呑み込まれていき……それで終わる。
結果、ビームを喰らい尽くしたガムゴムキャバリアは無傷のまま着地した。
「でもって、オブリビオンの『意志』を魔喰しちまえば」
バブリーはキャバリアの腕をオブリビオンへと伸ばし、その頭を掴んだ。
そのまま機体内部へと触腕を滑り込ませ、奥底の『オブリビオンの意志』へ伸ばす。
意志を魔喰させまいと、オブリビオンマシンが暴れる。
ゼラチンの腕を掴み、必死で引き離そうとしている。
だが、抵抗もそこまでだった。
ついにガムゴムキャバリアの触腕が『意志』を呑み込むと、その腕を掴んでいたオブリビオンマシンの腕から、そして全身から力が抜ける。
意志を失うことでそのまま膝をつき、戦闘能力を失ったのである。
「はい、終わりっと。
……もう、悪夢は終わりだぜお姫様?」
バブリーはハッチを溶解させると、コクピット内部の少女へと手を伸ばした。
成功
🔵🔵🔴
カーバンクル・スカルン
パニクってる通信担当をどかして席につき、自作プログラムをインストールさせてこちらの意思でキャバリアとの通信を強制的に開く。整備士として周波数は把握済みよ。
そして【置酒高会】でキャバリアでも越えられない壁を展開して閉じ込めつつ、声をかける。アルストロメリア小隊、私の質問に答えよー。
……あー、ダメだこれ。焦ってるけど全部譫言。操縦者意識ロスト、なのにキャバリアは動いてる。自律駆動出来る物なんて預かってねーぞ、このために外部からでも持ってきたかぁ? と司令官役に確認。
ブラックボックスだったらしゃーないが、万が一真実だったらその担当者を速攻捕まえる。あとでどこから仕入れたか聞き出すから覚悟しとけ。
●檻の中のチクタクワニ
「アルストロメリア小隊、応答してください! 応答してください!」
「ダメです! 全機呼びかけに応答ありません!」
管制室は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。
演習直前だった2部隊のうち1つが丸ごと通信を断ち、無言で士官学校への進軍を始めたのだから、無理もない。
まして、後ろに教官がついているとは言え、実際の通信などの対応を行っているのは学生である。
こんな事態は誰も想定していなかったに違いない。
「ちょっと代わってくれる?」
慌てる通信担当の女生徒の肩をポンと叩き、顔を突き出したのは前髪の一房だけが黒い赤毛の娘、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)であった。
でも、振り向きながらと女生徒は抗弁するが。
「ちょっと落ち着こう。落ち着いたら、彼女たちを助ける手も浮かぶかもしれないし。
それまでは私が代わる。いい?」
両肩を抱えられ、真摯に見つめるカーバンクルの姿に、通信担当は折れた。
そっと自らの席を明け渡す。
「おっけ。外の空気吸ってきなさいな。それまでできる限りのことはする」
通信担当の女生徒の手をぺちりと叩いてハイタッチの代わりとし、カーバンクルは通信席へと滑り込んだ。
「さて、それじゃやりますか!」
カーバンクルは手に小型の記憶ストレージを握っていた。
それをスロットに挿入すると、内部に格納されていた自作プログラムのインストーラーが走り、数秒後にはその操作ウインドウが通信席のタッチディスプレイに現れる。
ウインドウには『強制通信』とでかでかと書かれたボタンが配置されており、それをポチリと押そうとした時。
女生徒たちについていた教官が大声を上げ、駆け寄ってきた。
「整備班のカーバンクル・スカルン!? こんな所で何をやっているの!」
「何をって、そりゃアルストロメリア小隊の子たちと話をするのよ。整備士として周波数は把握済みだし。あとは落ち着いて話をできる環境を作るだけ」
この女は何を言っているのか、そう言いかけた教官は絶句した。
進撃するキャバリアの1機を、突如地面から生えた巨大な鉄の檻が遮り、閉じ込めたのである。
カーバンクルのユーベルコード|【置酒高会】《ソーシャブル・インズ・ショータイム》だ。
本来であれば、同時召喚した機械仕掛けのワニを食いつかせるところまでセットだが、それは少し待機させている。今回の主目的に必要なのは檻の方だからだ。
強制通信ボタンを押す。
すると、管制室のスピーカーにノイズが、いやノイズ混じりの音声通信が流れてきた。
手元でノイズを補正し、音声をクリアにしていく。
それは徐々に人の声の形を成しつつあった。
強制的に通信回線を形成し、コクピットの音を拾っているのだ。
「よし、ここまでは予想通り。あーあー、アルストロメリア小隊、私の質問に答えよー」
カーバンクルが通信の向こうへ問いかける。
だが、返ってきた声は予想よりも悪いものであった。
「機体が、言うことを聞かない……。助けて……誰か助けて……」
「……あー、ダメだこれ」
「どういうこと?」
嘆息するカーバンクルに教官が問いかける。
「焦ってるけど全部譫言。操縦者意識ロスト、なのにキャバリアは動いてる」
「自律駆動……!?」
それは最悪の可能性だった。
基本的に、キャバリアはパイロットを必要とする。
これはオブリビオンマシンも同様で、機体の意志に引きずられつつも操作そのものはパイロットが行っていることが多い。
だが、この機体群はそれを必要とはしていない。
パイロットが乗っているという体裁だけ整えているに過ぎないのだ。
「自律駆動出来る物なんて預かってねーぞ、このために外部からでも持ってきたかぁ?」
カーバンクルは教官に問う。
少なくとも彼女の扱った中に、こんな機能の搭載された機体はなかった。
密かに持ち込まれていたか、あるいは。
「そんな機能の機体なんてうちにはないわよ!
仮にあったとしても、卒業戦闘試験に持ち込むなんて考えられない……!」
「あー、ブラックボックスだったらしゃーないか……」
整備士であっても、全てを把握して整備しているわけではない。
特に設計時にのみ触れられるような基幹部分に関しては、機能や使い方さえ把握しておけば、戦闘状態を保つことは可能であるからだ。それが何故このタイミングで起動したかは議論の余地があるが。
とは言え、この状況を放置することはできない。
「よし、もういいよワニたち。手足を食い千切れ!」
檻の中に機械仕掛けのワニが躍り込み、キャバリアの手足へ食いついた。
待たされたワニたちは狂奔し、自分でもぎ取った|勲章《てあし》を高々と掲げるのだった。
なお、残されたコクピットブロックから、パイロットは無事に救出されたという。
成功
🔵🔵🔴
御魂・神治
うわ機体に変なもん憑いとる
まぁ、此処の世界やと何時もの事やけどな
しかもぎょうさんおるやないかい
で?中の女学生は傷つけずガワの機械だけ祓えってか
こんなん一人一人祓ってたらめんどくさいからまとめて処理するで
天将、武神を天人形態にせえ、三神は散弾銃形態や
足元に紫電符を広範囲に放って【切断・部位破壊】してスッ転ばせる
すかさず『蒼天』を【範囲攻撃】で放って複数体拘束状態にしつつ
【除霊】効果でじわじわ憑いとるモンのエネルギーを無くして機能停止させる
機体が大人しくなったら天将の【ハッキング】で強制脱出装置を起動させて女学生を外に出してはい終わりや
●
「うわ機体に変なもん憑いとる。まぁ、此処の世界やと何時もの事やけどな」
御魂・神治(|除霊師《物理行使》・f28925)は、大型バイク『人工式神強化外骨格『武神』』に騎乗しながらひとりごちた。
クロムキャバリアでの脅威は主にオブリビオンマシンであるから、その見方は決して的外れなことではない。もっとも、事件に対してピンポイントに転移しがちな猟兵の認識が偏っているという可能性もないとは言えないのだが。
戦場へ通じる道の最後のカーブを曲がると、敵の全容が見えてくる。
木立の間から妖しく光るカメラアイの視線、それが多数。
無数の敵の視線が、神治を刺し貫いた。
「しかもぎょうさんおるやないかい!
で?中の女学生は傷つけずガワの機械だけ祓えってか」
『はい。殺人者としての悪評がお望みであれば、完全破壊を推奨しますが』
神治の顔の横に浮いている、女性の姿の式神『天将』が随分な極論を提示する。
だが、それは受け入れられないことを前提で述べているのであろう。天将の、そして神治の本位ではありえないことが分かっているのだろう。多分。
「それは流石にぞっとせんな、やめとこ。
けどこんなん一人一人祓ってたらめんどくさいからまとめて処理するで」
『ということは?』
「せや。天将、武神を天人形態にせえ、三神は散弾銃形態や」
神治の指示とともに、彼を乗せたまま武神が変形を開始する。
そう、武神はただの大型バイクにあらず。主である神治の指示があれば、彼の戦装束――強化外骨格としてその身を鎧い、戦うことができるのだ。
その手に握られるのは、専用の大型可変型銃『三神』。
ライフルとハンドガン、散弾銃の3形態が選択可能だが、今回選択されたのは散弾銃形態。
広範囲に『ばらまく』ことに適した形態である。
機械の鎧を纏い、伝説の天人もかくやという神々しさを帯びた神治は、愛銃に紫電符を装填、トリガーを引く。放たれると同時にプラズマの刃と化した符は、オゾン臭を漂わせながら敵へと襲いかかった。
前衛の3機の脚部が溶断され、ずんと鈍い音を立てて転倒する。
それでも、紫電符を免れた機体の支援を受けながら、オブリビオンマシンたちは反撃を行う。片腕で機体を支えながら、ビームライフルで神治と天人を懸命に射撃する。
「そんなへなちょこ当たるかいな」
荷電した金属粒子の雨を掻い潜りながら、神治は三神を腰にマウント。
代わりに愛用の神器銃『天地』を握った。
「んでもってチョロチョロすんな、大人しくしいや!」
轟音やマズルフラッシュとともに複数の青白い軌跡が放たれ、敵へと殺到していく。
神治のユーベルコード【陰陽霊弾『蒼天』】だ。
敵前に達した蒼天は、太陽のように発光した。
その光を浴びたオブリビオンマシンは、細かく痙攣しながらその動きを鈍らせていく。
やがて、機体の隙間から黒い粒子が漏れ出し始める。
それは蒼天の聖光を浴び、苦悶するように震えた後、虚空へと消えていった。
直後、キャバリアの脱出装置が強制起動し、囚われていた少女たちが次々と射出される。
これは天将のハッキングによるものであった。
「はい終わりや。あとは回収班待ちやな」
『武神に乗せてあげてもいいのではありませんか?』
「敵のど真ん中でピストン輸送とかできるかい!
まあ戦闘区域から引っ張り出すぐらいはしよか」
少女たちが士官学校に回収されたのは、それからすぐのことだったという。
成功
🔵🔵🔴
リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【POW】
※アドリブ等歓迎
※愛機搭乗
(屋上等で見てる)サユリを散々愛でたけど
ココの本懐にも通じるアタシの勇姿こそ仕上げさ♪
目指すヒトがいるのは校風的にも大事だしね?
教員には意識パルスの低下と機体暴走を指摘
保健医招集とカウンセリング準備も依頼するか
後はサクッと無力化…何、痛みは一瞬さ
オペ9番【セラフ・アンサラー】開始
立膝に接続した【フドウ・ミライズ】と
【サクラ・シンドーネ】のバリアビット群で
防御を固めつつ【ドミナント・バレル】で狙撃
【カイルス】を《瞬間思考力》で超過駆動
挙動を読み切って四肢関節と頭部を貫き擱座
当然中身は無傷
神経質・慎重で派手な動きが苦手なら
|こんなヤり方《狙撃機習熟》もあるのさ♡
ヴィリー・フランツ
※引き続きヘヴィタイフーンに搭乗
心情:来たか、メインシステム戦闘モード起動、本試験前の模擬演習だ…殺す気で来い。
手段:「こちらはヴィリー機、教官機だけで迎撃する、ベラドンナは後退せよ」
機体周囲にフォートレスアーマー展開、左のスパイクシールドを構えて前進する、増加装甲もあるし、防御は問題はねぇな。
射程に入り次第、右手の一六式自動騎兵歩槍をジェネムに向けて発砲、マガジンに装填された30mm弾は徹甲弾じゃなくて【指向性EMP発振弾頭】だ、これでCPUを焼けば無力化は容易いだろう。
ミサイルは温存だ、流石にひよっこ相手に勿体ねぇ。
EP-Sアウル複合索敵システムも搭載してる、回り込み等の小細工も通用せんよ
ミア・ミュラー
来たばっかりのわたしにも、とってもよくしてくれた、みんな。今がその恩を、返すとき。頑張って助ける、よ。
まずは見回りで見つけた格納庫に行って、キャバリアを借りて出動、だよ。最初はシールドで防御に専念して、暴れてる機体を、見極める。数が増えてもわたしには魔法がある、から。【炎砲】を撃ち込んでまとめて動きを、止めるよ。
おとなしくなったらコクピットを開けてみんなを救出、しよう。キャバリアの仕組みもわかってるから上手に、できるはず。ん、これも勉強の成果、だね。わたしのコクピットにも何人か入ると思うし、魔法で攻撃したから両手も、空いてる。どんどん助け出して、いこう。
●深い森の三騎 ~傭兵と魔女と魔法使い
士官学校の廊下を、何人もの生徒や教官が小走りで駆け抜けていく。
彼女たちは一様に焦りや恐怖、緊張といった感情を浮かべており、自分たちの目的以外は見えていない。
アルストロメリア小隊の進軍以降、学園内は大騒ぎとなっていた。
仮にも軍人候補生である学校の性質上、秩序を崩壊させることにはなっていない。
だが、生徒による実戦に関しては及び腰であった。
あるいは、猟兵による凄まじい戦いぶりが、それをより実感させたのかもしれない。
どちらかというと猟兵の戦いを物資や情報面で助けようという動きが主である。
そんな喧騒の外にある、第13格納庫。
ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は、ここで予備機のコクピットの中にいた。
「来たばっかりのわたしにも、とってもよくしてくれた、みんな。
今がその恩を、返すとき」
機体の起動準備を進めながら、彼女はこの学校で出会った友人たちの事を思う。
破天荒な行動で皆を振り回しつつ、笑顔にしてしまうロリーナ。
おっとりと落ち着いた物腰のアリス。
みんなのまとめ役で、いつも苦労しているイーディス。
勿論、他にもいっぱいの友人がいて、いつもミアの周りは賑やかで。
そんな彼女たちのことを思い出す度に、ミアの心は暖かくなる。
だから、彼女は決意したのだ。
「頑張って助ける、よ」
ミアは操縦桿を握ると、搭乗するキャバリア、ジェネム2に第一歩を踏み出させた。
戦場へ向かって。
一方、戦場では既に1機のキャバリアが展開していた。
ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)の搭乗する【HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ】である。
「来たか。メインシステム戦闘モード起動」
声と同時に、ヘヴィタイフーンの全システムが起動する。
レーダーにはアルストロメリア小隊の機影が多数。ある程度は他の猟兵によって撃墜されているはずだが、それでもなお物量差だけは圧倒的だ。
それでも負けるつもりはないが、今の彼は一人で戦っているわけではない。
ヴィリーは旧演習区域に展開しているベラドンナ小隊の学生司令部へと通信を入れた。
「こちらはヴィリー機、教官機だけで迎撃する、ベラドンナは後退せよ」
「ベラドンナ了解。方位2-0-5方面に後退、士官学校構内への撤退を目指します。
……ご武運を、ヴィリー教官」
「いいから自分のことに集中しろ。ケツは俺が拭いてやる」
「了解!」
通信が切れると、彼は機体をアルストロメリア小隊の進路へと向けた。
敵が狙うのが士官学校である以上、そちらへ撤退するベラドンナ小隊とは競争となる。
追いつかれたら殲滅は必至。
できる限りの遅滞戦闘を行い、敵を寄せ付けない必要があった。
「本試験前の模擬演習だ……殺す気で来い」
コクピットのディスプレイに照らされながら、ヴィリーは獰猛な笑みを浮かべた。
舞台は再び変わり、士官学校の屋上。
戦場からどこか淀んだ焦げ臭い風が流れていく中、リーゼロッテ・ローデンヴァルト
(|KKS《かわいくかしこくセクシー》なリリー先生・f30386)はその風に銀髪を遊ばせていた。
彼女が立っているのは、愛機【ナインス・ライン】の開いたハッチの上。
その手には通信機が握られている。
「そうだね、あの機体群のパイロットの意識パルスは全部覚醒時の数値を満たしてない。つまり全員が意識喪失してるってことさ。まあ十中八九、機体は暴走してるだろうね」
通信の相手は学生司令部を監督していた教官だ。
リーゼロッテは、学生司令部から断続的に行われたアルストロメリア小隊への通信、それに付随した脈拍数などの生体データに着目。
そのデータの中から、意識パルスのデータを取ることに成功したのだ。
これにより、パイロット全員の意識がないことが裏付けられたのである。
その原因がどこにあるにせよ、これにより対処法を絞り込むことが可能となった。
理外の技を持つ猟兵はともかく、学生や教官にとっては大きな意味のある話だろう。
「パイロットを救出すれば、保健医の手は絶対必要になる。今から集めといてよ。
中長期的にはカウンセリングも準備しといたほうがいいかもね。
……え、アタシはどうするのかって?」
リーゼロッテはニヤリと笑う。
「アタシは、仕上げを担当させてもらうさ♪」
リーゼロッテのキャバリア、ナインス・ラインは片膝をついて、長大な大型対物ライフル【RS-565RW-LEX ドミナント・バレル】を敵の進行方向に向けて構えていた。
無骨な重装甲の機体がそうする様は、さながら要塞の主砲を思わせる。
無論、ただ構えているわけではない。
【|Op.IX:SERAPH ANSWERER《セラフ・アンサラー》】。
キャバリアを狙撃特化モードに変形させるユーベルコードである。
だが、重厚な作りであるナインス・ラインに、複雑な変形機構などもとより必要ではない。
膝部から展開された機体保持用のギアさえあれば、事足りるのだ。
「サユリを散々愛でたけど、ココの本懐にも通じるアタシの勇姿こそ仕上げさ♪
目指すヒトがいるのは校風的にも大事だしね?」
コクピットでリーゼロッテは嘯く。
ディスプレイのHUDは長距離狙撃仕様に切り替わっており、そのカメラは遥か遠くのオブリビオンマシンたちを確かに捉えていた。
「ヴィリー教官、すごい硬い。びっくり」
「そういうミアこそやるじゃねぇか。乗って日の浅いパイロットとは思えねぇ」
戦場で合流した2人の猟兵は、|単縦陣《縦一列に並ぶ陣形》を組んで敵陣へと進みつつあった。
先頭にいるのはヴィリーのヘヴィタイフーン。
拠点防衛用として建造された機体は、機動力は低いが、その分重装甲だ。
ヴィリーはこれに増加装甲を取り付けていた。
重量は大幅に増し、機動性は更に劣悪になるが、堅牢性と生残性は上昇する。
ヘヴィタイフーンが【EP-Aスパイクシールド】を構えて前進する様は、鋼鉄の防壁を思わせる。
オブリビオンマシンが火線をヴィリー機に集中させた。
いかな重装甲とは言え、自身の火力で十分食い破れると考えたのだろう。
だが、エネルギーパック1つ分のビームを浴びせかけても、ヘヴィタイフーンの機影は小揺るぎもしない。それどころか、装甲に焦げ跡一つもつけられない。
更に、彼は愛機に防御用の力場、【EPフォートレスアーマー】を展開している。力場によって攻撃のエネルギーを減衰することで、装甲への負担を減らしているのだ。
自前の装甲と増加装甲、シールド、力場の四重の装甲によって鎧われたヴィリー機は、無人の野を進むように敵陣を切り裂いていく。
「そんな豆鉄砲じゃ、回避なんざするまでもねぇな。おら、こいつは返礼だ!」
左前方でエネルギーパックを取替中のオブリビオンマシンへ、ヴィリーは【RS一六式自動騎兵歩槍】を発砲。
マズルフラッシュとともに、連続で弾丸が吐き出される。
至近距離にもかかわらず装甲の貫徹はしなかったが、射撃を受けた敵機は一度びくんと痙攣したかと思うと、機体各所から煙を吹いて跪き、擱座した。
このキャバリアライフルに装填されていたのは、【指向性EMP発振弾頭】である。
徹甲弾のように装甲を貫徹して内部構造にダメージを与えるのではなく、着弾と同時に電磁パルスを発生させ、その大電圧で電子機器を破損させることにダメージを与える。
コクピットを無傷で残し、パイロットを救出する今回の任務に適した兵器だ。
「ミサイルは温存だ、流石にひよっこ相手に勿体ねぇ」
ミサイルのトリガーには手もかけないまま、ヴィリーは次の目標へと向かっていく。
一方、ミアの乗るキャバリア、ジェネム2はというと。
「防御に専念する、よ」
ミアはオプション兵装のシールドを構えながら、防御に専念する戦闘機動を行っていた。
訓練を思い出しながら操縦桿を動かす。
右へ飛び、左へ飛び。
時には速度を上げ、または後ろへ跳躍し。
それでも避けきれない攻撃へは、手にしたシールドを構える。
ビームコーティングされたシールド表面で、ビームは貫通することなく花のように弾けて消えてしまった。
まるで踊るように敵の攻撃をいなすその動きは、本職にも引けを取らない。
その合間に、ミアは敵の動きに目を凝らす。
「ん、暴れてる機体を、見極める」
どうやら敵は起伏のある森林の地形を活用し、動きながら射撃しているらしい。
だが、常に射撃し続けることはできない。必ずエネルギーパックを交換する。
そして、そのタイミングが必ず隙となる。
訓練過程の中で、ミアはそのことをよく知っていた。
そして、その機会は訪れる。
一瞬だが、敵の攻撃が止んだのである。
「まとめて動きを、止めるよ」
機を逃さず、ミアは魔力をジェネム2へ注ぎ込み、ひとつの形を組み上げた。
それはキャバリアを通して拡大投影され、背後に浮かび上がるカタチとして結実する。
それは巨大な大砲だった。砲口から炎がちろちろと覗いている。
「其は炎……撃ち壊し、灼き焦がせ」
ミアの意思に応え、アサルトライフルの制圧射撃をも上回る連射速度で、無数の炎の砲弾【|炎砲《ヒート・カノン》】が轟音を立て発射された。炎の塊は物理的にありえない急角度の弧を描き、木立を回避しながらオブリビオンマシンへ殺到する。
2機のオブリビオンマシンが火に呑まれた。
機体表面の温度が急激に上昇、コクピット内部の計器が狂ったように悲鳴を上げる。
「表面温度、1500度に到達。|ACS《アクチュエータ複雑系》に深刻な障害。CPU、排熱限界。
メインシステム、戦闘モード強制終了します……」
機体のシステムが落ち、2機のキャバリアが崩折れた。
それと同時に、執拗に機体を焼いていたはずの炎が突如消え去った。
機体を焼いた熱さえも尋常なものに戻っている。コクピット内部への影響もないだろう。
魔法の炎は、主の意志に応えて必要なものだけを焼いてみせたのだ。
「これで終わり、かな」
ミアはふうと息をついた。操縦桿を握った手が薄っすらと汗ばんでいる。
周囲を見ると、木々の合間に何機ものキャバリアが擱座している。
機体内部に囚われた女生徒を救出すれば、彼女にとってのミッションは完了する。
「いや、それはまだ早いようだぜ。別働隊が来るぞ!」
ヘヴィタイフーンに搭載された肩部レーダー、【EP-Sアウル複合索敵システム】はヴィリー機とミア機に接近する無数の反応を捉えていた。
「ほんとだ。まだいっぱいいる、ね」
遅れて、性能的に劣るミア機のレーダーにも機影が映る。
彼らは戦場を迂回しながら、猟兵たちの後ろを取るべく移動していたのだ。
ヴィリーの警戒によりそれは頓挫していたが、どのみち攻撃することには変わりない。
そのまま進撃を行うオブリビオンマシンを迎撃するべく、ふたりは身構える。
その時、戦場に空を切る轟音が轟いた。
敵陣先頭でビームライフルを構えていたはずの機体の上体が大きくのけぞった。
見れば、その右腕は鉄屑の細雨となって後方にばら撒かれ、消失。
ビームどころか電気スパークと煙を上げるしかない。
そこへ、更に空を切って第二撃、第三撃、第四撃、第五撃。
右腕を失った機体はその度に無様なダンスを踊る。
左腕が、右足が、左足が、そして頭が。
空を切って飛来する砲弾の度に機体がちぎれ飛び、無事なのは胴体のみとなった。
ヴィリーには、そのやり口に覚えがあった。
浮かぶのは、傭兵にして闇医者、そしてフィクサーを名乗る不敵な女性の姿。
ヘヴィタイフーンの|IFF《敵味方識別装置》に表示された機体名がその記憶を裏付ける。
「機体名:ナインス・ライン……! リリー先生か!」
「御名答。元気かいヴィリー? そっちのお嬢ちゃんは初めてかな」
「うん。でも友達が噂してるのは、聞いたかも」
通信から流れてきたのはリーゼロッテの声だった。
その本人は戦場の遥か後方、士官学校屋上に在る。
そこは、ヴィリー機の火器やミアの魔法の有効射程の遥か外だ。
「あの超遠距離で狙撃したのかよ。相変わらず無茶するぜ」
「パーティーにはちょっと遅れちゃったからね。これぐらいは許しておくれよ♡」
「うん、だいじょぶ。でも、もうちょっと手伝ってほしい、かな」
「オーケーオーケー。折角|ドレス《キャバリア》も用意したし、もう少し働かないとね」
ミアにそう応えると、リーゼロッテは愛機の得物であるドミナント・バレルの排莢を行った。
がこんと音を立てて、空薬莢が中庭へと落下。
同時に、ナインス・ラインに搭載された【EP-209FL-LEX 事象推論型トゥルース・サイト『カイルス』】が超過駆動を開始。膨大な情報がリーゼロッテにもたらされるが、彼女はその全てを的確に捌いていく。
「重力、潮汐力、空気摩擦、砲身仰角、その他諸々補正修正完了っ。
敵思考推論精度も許容範囲内さね」
微妙な誤差を修正しながら、ナインス・ラインは巨砲を構える。
照準のズレなどない。
いや、仮にあったとしても、それすらも式に入れて補正を行う。
リーゼロッテにとって、この長距離狙撃はそういうものであった。
「オペ9番【セラフ・アンサラー】開始」
衝撃波を周囲にばらまきながら、重金属弾頭の砲弾が発射された。
無論、敵もただ黙って見てはいない。弾速と射角から着弾点を割り出し、回避行動を取る。
だが、それすらも予測の内にあったとしたらどうだろう。
それは、まるで敵機体に砲弾が吸い込まれていくように見えるのではないか……。
狙撃を回避しようとしたキャバリアに起きたのは、まさにそれであった。
あっという間に四肢と頭を砕かれ、先の機体と同じ末路を辿る。
コクピットブロックを含む胴体だけが、どさりと地面に落ちた。
「神経質・慎重で派手な動きが苦手なら、|こんなヤり方《狙撃機習熟》もあるのさ♡」
ぺろりと唇を舐め、リーゼロッテは妖しげに微笑んだ。
かくして、この局面における戦闘は終了した。
いや、もうひとつだけ、この戦いにおける終局を触れておくこととしよう。
士官学校で整備や物資運搬を担っていた女生徒たちは、戦場から歩いて戻る1機のキャバリアを見た。
武器は持たず、シールドすら投棄して非武装状態。
その機体は掌を上にし、何かを捧げ持つような態勢で歩いている。
当初、それが何なのか誰も分からなかったが、一人の女生徒がそれに気づく。
「人よ! キャバリアの手の上に、人が乗ってる!」
その手の上に、開かれたハッチの上に、更にはコクピットの中から。
何人もの少女たちが学校に向けて手を振り、大声で呼びかけていた。
「こちら、ジェネム2予備6番機、ミア・ミュラー。帰って、きたよ」
「アルストロメリア小隊、15番機のパイロットです!」
「あたしは8番機! ミアちゃんに助けてもらいました!」
ミアの声と、助けられたパイロットの声がわいわいと通信から聞こえてくる。
実は、ミアが武器を持たず、シールドのみで戦場に赴いた理由がこれであった。
一人でも多くの女生徒を連れて帰還する、そのために。
彼女たちの帰りを待つ格納庫に、喜びの声が湧き上がった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ
濃厚百合お色気展開大歓迎〜♡
ぴゅあね〜♪この学校気に入っちゃった〜♪
だからぴゅあからプレゼントUCだよ〜♪
ぴゅあと眷属淫魔122人とUCの像から〜、一斉にサキュバスハートを放ってオブリビオンマシンを含む森羅万象を魅了しちゃうよ〜♪
敵UCの別動隊が現れても〜、魅了してぴゅあ達の味方にしちゃえばいいよね〜♪
パイロットの娘達をぴゅあに返してね〜♪
味方にしたマシンは収納魔法陣の中へご案内〜♪
助けた娘達にはペインプレジャーを飲ませてあげて〜、仲良しな娘同士二人っきり淫魔愛宿へご招待する避難させるよ〜♡(他の百合の間には挟まらない)
フリーな娘達は〜、ぴゅあや眷属淫魔の皆が慰めてあげるよ〜♡
●神、再び降臨!~ぴゅあと遊ぼ♪~
オブリビオンマシン・ジェネム2の軍勢は進撃を続けている。
これに対し、既に猟兵たちは交戦を開始。
パイロットの救出を始めとする多大なる戦果を挙げていた。
しかし、小隊という部隊名称に見合わぬ機体の多さと、一糸乱れず最後の1機まで戦うという敵の姿勢から、その動きを止めるまでには至っていない。
そんな中、巻き込まれた少女たちを救おうとする者が出るのは当然の理だろう。
これは、そんな(?)|邪神《かみ》、純真邪神・幼淫魔姫ピュアニカ(永遠に無垢なる幼く淫らな魔貌の邪神姫【百合淫魔王】・f30297)の御伽噺である。
その時、戦場に現れたものを誰もが二度見した。
物言わぬオブリビオンマシンですら、例外ではなかった。
戦場に突如描かれた、ハート模様の魔法陣。
その魔法陣が突如桃色の光を発したかと思うと、中心から何かがせり上がってきたのである。
最初に見えたのは、黄金の光であった。
きらびやかな光がオブリビオンマシンたちを照らし、射すくめる。
光に照らされた機体は、物理的障壁に突き当たったかのように、その足を止めた。
いや、あるいは|見とれていたのか。
やがて光は強くなり、魔法陣の中にいたモノが徐々にその姿を表していく。
それは、少女のように見えた。
幼く無垢な、だがどこか淫靡さも伴う妖しき可愛らしさを備えている。
それは、黄金のように見えた。
人類社会を捕らえて離さぬ魅惑の輝きに似ていたが、もっと根源的な何かがあった。
それは、神のように見えた。
人類(の半分)に向けた無限の愛と欲を、トップ神アイドルのみが纏うことを許されるアイドルオーラを、淫魔姫の魔力であるサキュバスハートを放つ御姿を定義する言葉を、人類はそれしか持ち合わせていなかった。
そう、それは黄金で作られた、ピュアニカの巨大な似姿だった。
実物と寸分違わぬフォルムに、無生物すら魅了するだろう圧倒的な魔力。
ユーベルコード|【【召喚】純真なる黄金像】《サモン・ゴールデンピュアニカ》によって召喚されたものだ。
そして、黄金像の前に現れる、像の魔力すら圧倒する者。
「やっほ~♡ ぴゅあだよ~♡」
122体もの眷属淫魔を従えたピュアニカであった。
手を振りながら、笑顔をその場の森羅万象に向ける。
オブリビオンマシンたちは動かない。いや動けない。
眼下に在る可愛らしき神から、視線を外すことができない。
そして、動かぬ機械たちに対し、ピュアニカは宣誓する。
「ぴゅあね~♪この学校気に入っちゃった~♪
だからぴゅあから|プレゼント《UC》だよ~♪」
その愛らしき声とともに、ピュアニカと眷属淫魔、そして黄金像から無量大数にも等しい数のサキュバスハートが放たれた。
ずっきゅんと音を立て、世界が魅了される。
オブリビオンマシンにそれを耐える術はない。直接サキュバスハートを受けた前衛の2機はたちまちピュアニカに膝を折り、恭順の意を示したのである。
だが、信じがたいことに(!)、それに抵抗する者もまた存在していた。
後方に控え、前衛の支援に当たるはずだった残り2機が、ビームライフルで射撃したのだ。
だが、今や世界をも魅了したピュアニカには、それでは不十分だった。
放たれた荷電粒子ビームがサキュバスハートに触れるや否や、ピュアニカに弓を引こうとした自らを恥じて消滅したのである。
こうなると、後方の機体たちには為す術はない。
「ぴゅあ達の味方になっちゃえ~♪」
後衛の2機も、またピュアニカに心奪われたのである。
味方にしたキャバリアを、ピュアニカは収納魔法陣で自身の宝物庫へ転送する。
いつか彼女の役に立てる日を夢見て、眠りにつくのだ。
では、オブリビオンマシンに囚われていた少女たちはどうなったのか?
気づくと、彼女たちはピンク色の大広間に立っていた。
見るからに手間のかかった豪奢な装飾に、高い天井。
あちこちに有翼の少女を象った黄金像が配置されているレイアウトは、古代の宮殿を思わせる。
そんな彼女たちの目の前に、ピュアニカがサキュバスハートとともに現れた。
「こんにちは~♪ ぴゅあだよ~♪」
手をふりふりして、精一杯客人たちをもてなそうとする。
ここは、【|淫魔愛宿《ホテルサキュバス》】。城のように見えるが最高級ホテルである。
少女たちを避難させ、慰めるべくピュアニカの召喚したものである。
だが、少女たちの反応が薄い。
その表情は、どこか空ろですらある。
ピュアニカが少女の一人の瞳を覗き込むと、そこには心を押しつぶさんばかりの恐怖が見えた。
オブリビオンマシンに取り込まれるという経験が刻み込んだものだろう。
これでは、心からこの淫魔愛宿を楽しむことはできない。
そう考えたピュアニカは、その少女の首に腕を回し。
「それじゃぁ~、んんーっ♡」
「えっ……んんっ……!♡」
口づけをした。しかも舌も入れる濃厚なフレンチキスだ。
その口越しに、秘薬ペインプレジャーが流し込まれる。
「んっ、んんっ……♡」
ペインプレジャーは、恐怖を性的興奮に、苦痛を快楽に変える淫魔の秘薬である。
オブリビオンによって刻まれたものも例外ではない。
やがて、口付けられた少女の頬は火照り、薄っすらと汗すら浮かんでくる。
ペインプレジャーが効いてきた証だろう。
心を壊す恐怖すら、淫魔神の前ではひざまずくしかないのである。
「もう大丈夫だよ~♪ ここには怖いものはなんにもないからね~♪
仲良しな娘がいるなら無理にって言わないけど、よければぴゅあと遊ぼ~♡」
キスをしながら、ピュアニカは少女の後頭部に手を回し、優しく撫でる。
そんな神様に、その少女は背中に腕を回して、応えるのだった。
成功
🔵🔵🔴
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
(学生達に向け)さて、ここで|講義《レクチャー》の時間だ。生身の兵士が如何にしてキャバリアに対抗できるか、|実演《デモンストレーション》してやる。ちゃんと目ぇ見開いて見とけよ。
それじゃ、ショウ・タイムといこうぜ。
敵味方が交戦している隙を狙って、UCで攻撃。
双方のキャバリアや猟兵が入り乱れている上、地形は森林。付け入る隙は幾らでもある。混乱は収めるのではなく、利用するモンだぜ。それらを利用して敵の側背に回り込み、脚部や関節を狙って攻撃して行動不能にする。
…何者かに操られている上、おまけに操縦しているのはひよっ子共だからな。こいつは|撃墜数《キル・スコア》の勘定に入れられねぇな。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
戦場となる地域を見渡せる高い地点にて、UCの夜鬼を飛ばして敵を監視、SIRDメンバーへの指揮管制を行う。
…グイベル01より各員へ。敵は|方位《ベクター》2-8-5より士官学校へ侵攻中。敵兵力は小隊規模のキャバリア、機体及び武装は木鳩さんの情報通り。会敵予想時刻は約5分後。レイター22が敵を誘引、その隙にセールイ11とピジョン58が左右から敵を挟撃します。グイベル01は|交戦を許可《クリアード・ホット》、|各個にて射撃開始《ファイア・アット・ウィル》。
更に、夜鬼にて戦場外の周囲に不審な点がないか確認する。
恐らく、舞台袖で笛を吹いている存在がいるのではないでしょうか
ヴィルマ・ラングカイト
SIRDとして参加
来たか。訓練生達の初陣、と言うには少々酷な状況だな。もっとも、そう都合の良い相手が来てくれるとは限らないのが戦場だが。
こちらレイター22、敵キャバリア小隊を視認。別命なくばこれより交戦に入る。|戦車、前へ《パンツァー・マールシュ》。
愛機を訓練生機の盾になる様に前面に立たせ、UCで敵の攻撃を引きつけつつ反撃。当然、反撃時には敵キャバリアに搭乗している訓練生を傷つけない様に注意する。同時に、訓練生達の機体を援護しながら後方に下げさせる。
撤退後衛戦闘は、嫌という程慣れているからな。
|PanzerkampfwagenVI AusfuhrungE《ティーガー》の装甲は伊達ではないぞ。
木鳩・基
【SIRD】アドリブ連携歓迎
この状況は想定済み
だから大丈夫…ってわけじゃないけど
殺させはしないよ
みんないい人たちなんだから
UCを発動して接近を仕掛ける
味方の大きな攻撃に紛れて移動
地形を瞬間的に組み替えて転ばせる
機体の情報はあるし、授業で動きも習ったから
近距離から相手陣形を連絡しつつ行動を妨害
巨腕の攻撃も叩き込むけど第一は機体内部の生徒の救助かな
壊れた機体をピースに分解して速攻で助け出す!
生身でキャバリアと戦うと驚かれてたけど実は私もそうなんだよね…
エリーが戦場に紛れてたらできればすぐに助けたい
正体も教えとこ
私、潜入調査で来てて、所謂超能力者で、年は20歳で…
まぁ、恋が成就するよう祈ってるから!
●特務情報調査局、実戦を教育する
アルストロメリア小隊のオブリビオンマシン化は、卒業戦闘演習に関わる者たちに大きな衝撃と混乱を与えた。管制室はアルストロメリア小隊への通信に狂奔し、学校上層部も大きな動きをするには未だ至っていなかった。
さて、ここでもう一つの|要素《ファクター》について語らねばならない。
本来、卒業戦闘演習で相対するはずだった、ベラドンナ小隊である。
ベラドンナ小隊は、規模の上ではアルストロメリア小隊と同様の員数を抱えている。
その規模は『小隊』の名称に見合わぬ巨大なもので、学生に対し部隊の大規模運用という試練を与えることで総合的な完成度を測るため、この規模の大演習を行うのだ。
なお、規模に見合わぬ『小隊』の名称は、伝統の墨守から生じたものである。
ただし、機体の全てがオブリビオンマシンと化したアルストロメリア小隊と異なり、ベラドンナ小隊はあくまで一般生徒の運用するキャバリアに過ぎず、その攻撃力、組織力において劣位であった。
そうした状況の者たちを、オブリビオンが放っておくわけがなかった。
「アルストロメリア小隊、来ます! 一切の通信に応答せず!」
「仕方ない、戦います! ぜ、全機のリミッターを解除して実戦稼働状態に移行して……」
『小隊長』役の女学生は、必死に状況をまとめようとしていた。
むしろ、不測の事態においてよくやっていたとも言え、ベラドンナ小隊が曲りなりとも自然崩壊を迎えなかったのは、彼女及び幕僚役の手腕が大きかった。
「よう、学生諸君。プロムは楽しんでるか?」
「ミハイル教官!?」
そこへ忽然と姿を表したのが、ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)だ。
|RPG-7V2《ロケットランチャー》を背負い、軍用ベストに予備弾薬。腰には|副武器《サイドアーム》のハンドガンという出で立ちは、学生たちには野戦訓練で馴染み深い、だが誰も負ったほどがないほどの重装備であった。
「って、まあそんな状況でもねえか。ところで、ここで復習だ。
キャバリアは生身の兵士にもやられることがある、と言ったことを覚えてるか?」
「は、はい。ミハイル教官が実際にそれを成しているとも」
小隊長が、おずおずと答える。
ミハイルは、それに対し満足そうに頷いた。
「この状況で授業の内容が答えられるなら上出来だ」
戦場における非日常を生き延びるには、如何に学んだ内容を血肉にできるかにかかっている。
覚えただけでは意味がない。
手足を動かすように、自在に頭から取り出し、扱えなければならないのだ。
目の前の少女たちはそれができている。ならば、良い兵士に、士官になるだろう。
くだらない戦いで死なせるわけにはいかない。
「さて、ここで|講義《レクチャー》の時間だ。
生身の兵士が如何にしてキャバリアに対抗できるか、|実演《デモンストレーション》してやる。
ちゃんと目ぇ見開いて見とけよ。安全な場所からな」
「は、はい!」
状況が飲み込めているわけではなかったが、それでも小隊長と幕僚たちは敬礼した。
ミハイルもそれに答礼し、ロケットランチャーを背負い直した。
「それじゃ、ショウ・タイムといこうぜ」
同時刻、ベラドンナ小隊の駐屯地からやや離れた高台。
この戦場を俯瞰できる場所で、旅団【|特務情報調査局《SIRD》】団長、ネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)は戦況を把握しつつあった。
双眼鏡などの補助機器は持っていない。
それでも、ネリッサの視界には戦場の有様がまざまざと映っている。
その遥か上空に在るものと視界を共有しているのだ。
|夜鬼《ナイトゴーント》。
UDCアースのとある小説家が、小説内で描写した生き物である。
冷たいゴムのような黒い表皮に、大きな膜状の翼、針毛突起のある長い尾、そして無貌の顔。
西洋の悪魔を思わせる姿形だが、これはネリッサがユーベルコードで操る使い魔だ。
夜鬼はその無貌からは想像できぬほどの感覚能力を備えている。
これをネリッサは無人偵察機のように運用していた。
人間大の飛翔体、それも低速で飛行可能なことから、殲禍炎剣の対象にも数えられておらず、ことクロムキャバリアにおいては戦略・戦術的に極めて有用であった。
(アルストロメリア本隊から、ベラドンナ小隊の方面に分遣隊が出ましたか。
こちら側の遊兵は存在すら許さないということでしょう。
しかし、あの規模はキャバリア小隊と言うより歩兵小隊ですね)
キャバリア小隊というと、国にもよるが定数は3~4機程度。
しかし、どう見てもアルストロメリア小隊の規模は、それを大幅に上回っていた。
歩兵小隊の最低限の定数である40人が、キャバリアに置き換わったと言っても驚かない。
その中から差し向けられた分遣隊は1個小隊、合計4機。
戦力としては無視できない上に、狙いは学生部隊のベラドンナ。
彼女たちでは相手にならない。間違いなく一方的な殺戮になるだろう。
(それは、止めなくてはなりませんね)
ネリッサは意を決した。
小型情報端末MPDA・MkⅢで、SIRD局員たちに呼びかける。
「グイベル01より各員へ。敵本隊は|方位《ベクター》2-8-5より士官学校へ進行中。
また、同方位よりベラドンナ小隊駐屯地方面へ進発する別働隊を確認。
まずはこちらを叩き、その上で本隊の動きを牽制します。
敵兵力は小隊規模のキャバリア、機体及び武装は木鳩さんの情報通り。
会敵予想時刻は約5分後」
通信の向こう側から緊張が伝わってくる。だが怯懦はない。
ネリッサは続ける。
「|レイター22《ヴィルマ》が敵を誘引、その隙に|セールイ11《ミハイル》と|ピジョン58《基》が左右から敵を挟撃します。
グイベル01は|交戦を許可《クリアード・ホット》、各個にて|射撃開始《ファイア・アット・ウィル》」
「この状況は想定済み。だから大丈夫……ってわけじゃないけど」
木鳩・基(完成途上・f01075)は、ネリッサからの通信を受け、背筋を引き締めた。
SIRDが、ひいては基自身がオブリビオンマシンと交戦するのは、想定内だ。
生粋の軍人であるミハイルやヴィルマと違って、彼女には常在戦場の心構えはない。
だが、彼女もオブリビオン相手の死線を何度もくぐり抜けた猟兵だ。
遅れをとるつもりは毛頭ないし、基には戦う理由もある。
「殺させはしないよ。みんないい人たちなんだから」
両手で頬を叩き、気を引き締める。
基の脳裏に浮かんでいたのは、穏やかなエリーの笑顔だった。
「来たか。訓練生達の初陣、と言うには少々酷な状況だな。
もっとも、そう都合の良い相手が来てくれるとは限らないのが戦場だが」
乗機『PanzerkampfwagenVI AusfuhrungE』の戦闘室内から、ヴィルマ・ラングカイト(パンツァー・ヴィルマ・f39899)は敵キャバリアの動向を確認していた。
木々の影から現れたキャバリアは4機。ネリッサの情報通りである。
正面のオブリビオンマシンたちは、一糸乱れぬ……というよりは全く同じ動きでヴィルマのパンツァーキャバリアを潜ませている戦車壕の方向へと向かっていた。まるでシミュレーターの歩兵ユニットのようだ。
僅かな間とは言え、実際に教鞭を執った身としては、アルストロメリア小隊にせよベラドンナ小隊にせよ、オブリビオンの絡む地獄のような戦場を初陣にはさせたくなかった。
だが、戦場も敵も実際には選べない。
ならば自分たちが生きて帰すしかない。
ヴィルマは眦を決した。
「こちらレイター22、敵キャバリア小隊を視認。別命なくばこれより交戦に入る」
「グイベル01よりレイター22。別命なし、交戦されたし」
「|了解《ヤボール》。|戦車、前へ《パンツァー・マールシュ》」
ネリッサの指示が下り、ヴィルマは機体を戦車壕から進発させた。
戦車に手足をくっつけたような、無骨な全身が露となる。
これこそが獣人戦線における陸の王者、パンツァーキャバリアである。
その威容へ向け、敵キャバリアが荷電粒子ビームを次々と発射する。
たちまち、ヴィルマ機の周囲は土煙に包まれた。
だが彼女は大きな戦闘機動を取らない。常に後方に気を配っている。
「ベラドンナ小隊、後退せよ! 撤退戦だ!」
後方部隊に撤退を指示すると、ヴィルマは機体をオブリビオンマシンとベラドンナ小隊の間に移動させ、【MG34T 7.92mm機銃】で牽制射撃。
敵機体は注意を引かれ、ヴィルマ機への射撃を濃密なものとしていく。
そして、ついにその一撃が機体砲塔正面に突き刺さった。
敵パイロットに意志があったならば、快哉の叫びを上げたかもしれない。
だが、ビームの光が散った後に見えたパンツァーキャバリアは、健在であった。
「|PanzerkampfwagenVI AusfuhrungE《ティーガー》の装甲は伊達ではないぞ」
ヴィルマ機の最大装甲厚は実に110mmを数える。
これは獣人戦線で運用されるパンツァーキャバリアの中でも屈指の重装甲であり、更にヴィルマのユーベルコードで強化されていた。これにより、ヴィルマ機はオブリビオンマシンのビームライフルの攻撃を防ぎきったのである。
「攻撃というものを教育してやろう。|発射《フォイア》!」
主砲である|88mm砲《アハト・アハト》が火を吹いた。砲弾は緩い放物線を描いて敵キャバリアへと飛んでいき、先頭で射撃していた機体の右足を吹き飛ばす。
足を失った敵機体はバランスを失い、転倒した。
残りの3機は、不埒者を撃墜しようとライフルを一斉に向ける。
正面装甲がダメなら側面や手足を撃てばいい。
装甲厚には当然偏りがあり、全てが分厚いわけではないのだから。
だが、それは果たせない。
「混乱は収めるのではなく、利用するモンだぜ!」
敵の左後方がちかりと光ったかと思うと、飛来した光が別のキャバリアに突き刺さった。
左足が膝から吹き飛び、その機体も地に倒れ伏した。
放ったのは、RPG-7V2を構えたミハイルであった。
先に装填された|成形炸薬《HEAT》弾は放たれ、なくなっている。
ヴィルマの動きは、ただベラドンナ小隊の盾となるだけではなかった。
彼らの注意を他のSIRD局員から逸らすためでもあったのである。
それを最大限に利用し、攻撃に用いたのがミハイルだ。
もとより地形は森林、ましてキャバリアの入り乱れる戦場である。
一歩兵に対する注意など、ほとんど払われていなかったのだ。
「……何者かに操られている上、おまけに操縦しているのはひよっ子共だからな。
こいつは|撃墜数《キル・スコア》の勘定に入れられねぇな」
嘆息し、彼は再び姿を消す。別の射撃地点を探すのだろう。
そして、撤退しつつあるベラドンナ小隊では、それが驚きをもって受け止められた。
「ミハイル教官、すごい……あんなにキャバリアに接近して撃墜するなんて」
「戦場の英雄って、誇張も何もなかったのね……」
女生徒たちは、彼の言葉が全くの事実であることを知ったのである。
一方、残り2機となった分遣隊は、なおも戦意を衰えさせてはいなかった。
いや、そんなものは元からないのかもしれない。
ただ機械的に戦い続ける。胎内のパイロットが朽ち果てるまで。
1機がビームサーベルを構え、ヴィルマ機に相対し、もう1機はビームライフルを持ったまま周囲を警戒。
ミハイルのような歩兵の襲撃を警戒しつつ、パンツァーキャバリアが苦手とする近接戦に持ち込もうというのだ。
一方、ヴィルマ機の近接武装は7.92mm機銃のみ。
中遠距離戦における88mm砲に比べれば、その攻撃力は格段に低い。
お世辞にも有利とは言えない状況であった。
だが、SIRDにはまだ猟兵がいることを、敵は完全に見落としていた。
「それはさせないよ……!」
突如、ビームサーベルを構えた機体が前につんのめった。
その足元は、地面が四面体のピースに分解・再構成されて、窪地のようになっている。
一瞬前まで存在しなかったものだ。
そのまま、キャバリアは地面へと倒れ込んでしまう。
ずん、と大地が大きく震えた。
転倒した機体へ向けて、木々の間を塗って基が走る。
その腕がピースの群れに分解され、次々と組み替えられていく。
やがて、そのピースは基の身体のサイズには見合わぬ巨腕へと変幻した。
ユーベルコード【|反規範《アウト》パズル】の能力である。
基はその腕を倒れたキャバリアへと突き出した。
その掌の触れた部分から、機体が細かなピースに変換され、組み変わる。
「解は無理やり捻り出す! やりたいようにやらせてもらうぜ!」
裂帛の気合が迸り、キャバリアの機体を波のように伝わった。
波は通り過ぎた部分を四面体に変え、弾けさせる。
機体の|貌《かたち》が崩れ去る。
その中からパイロットが落下するのを、基はその巨腕で抱え込んだ。
柔らかい重みが、助けたという実感を伝えていく。
「レイター22、分遣隊はその機体で最後です。撃破をお願いします」
「了解。これで状況終了だ」
次の瞬間、残った1機はヴィルマ機の88mm砲によって撃破され、この場の戦闘は終了した。
「基……? もしかして、助けてくれたの?」
「エリー……! 良かった……!」
弱々しくも微笑むパイロット……エリーを、基は抱きしめた。
彼女は、アルストロメリア小隊に配備され、オブリビオンマシンに囚われていたのだ。
「ちょっと、痛いよ」
「あ、ごめん」
基はエリーを離し、笑った。
この笑顔を守れてよかったと、そしてその笑顔に素顔で向き合いたいと、心から思った。
基は真剣な顔で、エリーへと向き直った。
「あのね、聞いてほしいことがあるんだ。
私、潜入調査で来てて、所謂超能力者で、年は20歳で……」
それから、とりとめもなく、基はエリーに自らの素性を語った。
その全てを、エリーは頷きながら、一切口を挟まずに聞いていた。
そのことが、基にはたまらなく嬉しかった。同時に、少し照れくさかった。
だから、少しだけおふざけの成分も込めて、こう言った。
「まぁ、恋が成就するよう祈ってるから!」
そう言って、基は笑いつつ立ち上がる。彼女には、まだ|行くところ《戦場》があるのだ。
エリーもそれは分かっていた。だから、止めなかった。
「基、ありがとう。それと」
「それと?」
「またねっ」
ほんの少し顔を赤らめつつ、エリーは笑って基を見送った。
一方ネリッサは、次の状況に向けて夜鬼を飛ばしていた。
彼女は戦場の不審点を探していたのだ。
予知されたのは、間違いなく今回のオブリビオンマシンの襲撃である。
だが、この規模のオブリビオンマシン化が、何の原因もなく突発的に発生するだろうか?
ネリッサの答えは否である。
(恐らく、舞台袖で笛を吹いている存在がいるのではないでしょうか。
……ん?)
その時、強烈な視線を感じ、|夜鬼《ネリッサ》は振り返った。
そこには何もいない。
いや、正確には下方にオブリビオンマシンの軍勢がいるのだが、彼らは士官学校へ向けて行軍している。誰もこちらを見てはいないのだ。
「いえ、それでも確かに見られていました。
……あちら、でしょうか」
その視線の先には、士官学校。
アルストロメリア小隊メンバーが周囲に固まっているという、C格納庫が映っていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
鳴上・冬季
「オブリビオンマシンと言えど、キャバリアであることに変わりはありません」
嗤う
「練習機ならば、繊細な機動力を誇るよりも鈍重でも防御力が高い機体が選ばれることでしょう。畢竟、操縦席周辺の防護も厚いと見て良い筈です」
「機械を止めるには電撃こそ有効です…七尾転仙」
人化の術解き七尾の雷狐と化す
物理攻撃無効
通電物質内移動の能力で敵機の中に潜り込みエンジンや駆動部、頭部カメラ等を雷鳴電撃で焼き尽くす
一応操縦席周りは焼き尽くさないよう気を付けながら一機ずつどんどん行動不能にしていく
「下手にキャバリア同士で殴り合うより、不足の事態は起きにくいかと思います。戦闘後に一機ずつ救助しても間に合うことでしょう」
嗤う
●迅雷公、雷姿を顕すのこと
「オブリビオンマシンと言えど、キャバリアであることに変わりはありません」
両の足で風火輪を踏みしめ、上空から戦場を進むオブリビオンマシンたちを睥睨しながら、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は、口の端のみを釣り上げて嘲笑する。
冬季とキャバリアの縁は、案外と深い。
実戦で相対することは勿論、彼が袖の内に収める宝貝、黄巾力士はキャバリアに似た運用で用いられることもあった。
「練習機ならば、繊細な機動力を誇るよりも鈍重でも防御力が高い機体が選ばれることでしょう。畢竟、操縦席周辺の防護も厚いと見て良い筈です」
練習機というものは、様々な使われ方を想定しなければならない。
士官候補生とは言え、少なくともその訓練課程の初期においては素人に毛が生えた程度のものであるから、扱いはどうしても荒くなるし、事故の類も起こりやすくなる。
そうした際、パイロットを守るのは物理的な防御力及び機構の信頼性だ。
こうした考えから、この士官学校では練習機の配備の際、機体の防御を増す改修が行われることもあり、特にコクピット周りにはフレームの強化などが念入りに施され、学生の安全を重視する姿勢が貫かれていた。
無論、これは敵手として相対する際には、こちら側の不利になる特徴である。
では、如何にして『迅雷公』たる妖仙は戦おうというのだろう。
その回答を、彼はすぐに示すこととなる。
「機械を止めるには電撃こそ有効です……七尾転仙」
その言葉とともに、周囲の空気が一瞬で帯電した。
爆発の如く膨れ上がった大気が放電現象を伴いながら天へと昇る。
竜巻と言っても良い強烈な上昇気流は黒風となり、冬季の長身を覆い隠す。
そして地から放たれた七条の轟雷が、その風を貫く。
雲散霧消した風の中から現れたのは、一瞬前とは異なる存在だった。
大地を踏むは四つの脚。地を走る電光の如く駆けるモノ。
その身を覆うは毛皮。紫電を纏い輝くモノ。
天を衝くは七つの尾。雷光そのもののように闇を裂くモノ。
闇を照らすは二つの|眸《ひとみ》。無限の嘲笑を湛えるモノ。
そう、それは七尾の雷狐。人化の術を解いた鳴上・冬季の真の姿である。
その|頭《こうべ》をあげ、冬季は走り出した。
視線の先に在るのはオブリビオンマシンの群れだ。
それに気づき、一斉に振り向いたキャバリアたちがビームライフルを放った。
統制が取れたというより、同時に操ったと形容すべき均一な動きで、眼前に突如現れた怪異を捻じ伏せようとする。
――だが。
「無意味、実に無意味です。雷を物理的に押し留めようなどと」
放たれたビームの全てが、幻のように冬季の獣身を透過した。
物理法則を超越した雷の体は、低次の現象など歯牙にも掛けないのだ。
手近の一機の懐へと、冬季の変幻した雷狐が飛び込んだ。
装甲を透過した冬季は、その荒ぶる雷を機体内部へと解き放つ。
エンジン、駆動部、頭部カメラ……雷は伝播し、我が物顔で駆け抜ける。
冬季の意志によりコクピットブロックのみは残されたが、それ以外は黒く焼け焦げ、燃え残った残骸のみが残る。
がらがらと音を立て、人型は崩れ去った。
それだけでは終わらない。
雷狐は手近な機体へと飛び移ると、再び機体内部を食い荒らした。
荒れ狂った雷の後に残されたのは、溶断されたコクピットブロックと、一握の灰のみであった。
「下手にキャバリア同士で殴り合うより、不測の事態は起きにくいかと思います。
戦闘後に一機ずつ救助しても間に合うことでしょう」
再び人の姿を纏った冬季が嗤う。
その視線は、今しがた彼が切り裂いた戦場にはもう向けられていなかった。
成功
🔵🔵🔴
ソフィア・エルネイジェ
こうなってしまえば機体を止める他にありませんね
ですがご心配無く
アルストロメリア小隊の皆様!
我が聖なる雷で貴女達の悪夢を打ち払いましょう!
参りますよ!インドラ!
騎士の乙女を蝕む闇を砕くのです!
引き続きストームルーラーで行きましょう
聖雷縛封の詠唱を開始し、極低空を維持した高速かつ立体的な機動で撹乱致します
敵陣の間を駆け抜けて急停止や急旋回を繰り返しましょう
隊列を掻き乱して集団戦闘の有利を削ぐ事が目的です
時折ガトリングガンポッドの射撃を交えて更なる撹乱効果を狙います
攻撃はあくまでも牽制に留めます
ただし可能なら頭部センサーや武器の破壊を積極的に狙います
ミサイルは威力が高過ぎるので禁じ手と致します
十分に詠唱を重ねましたら高速機動で接近
脚部クラッシャークローで強襲し聖雷縛封を放ちます
機体の機能を麻痺させて停止させましょう
停止させた後はクローとバイトファングでジェネム2の四肢を破壊します
残ったコクピットブロックは一旦戦闘領域の外縁に運び去ってしまいましょう
ジェネム2を倒して終わりではないようですので
ティオレンシア・シーディア
始まった、かぁ。それじゃ、全力尽くすとしましょうか。
そこそこ長く関わったし、後に残る事態になったら寝覚め悪いしねぇ。
●黙殺・妨害起動、描いたのは|帝釈天印・ソーン・イサ《雷の茨による停止》。ソーンの原義は|雷神《トール》、相性的に見てもかなりいいのよねぇ。パルスグレネードも合わせた〇電撃マヒ攻撃の雨霰、対機械に特化させてはおくけれど多少痛いくらいは勘弁して頂戴な。
…結構勘違いされるんだけど、このUC「基点はあらかじめ描いておいた魔術文字でも問題ない」し、「あたしがその場にいる必要もない」――つまり、任意起動型トラップとしても使えるのよぉ。
不明だったのは|時間《何時》であって、相手の位置も進撃ルートも割れている。…なら、やらない理由はないわよねぇ。別動隊合流?どうぞどうぞ。自分から寄ってきてくれるなら手間が省けるわぁ。
幸い、効率的配置と弾種を〇戦闘演算する時間もバラ撒けるだけバラ撒く時間もたっぷりとあったんだもの。〇罠使いに時間を与えたらどうなるか、しっかり教授してあげましょ。
●蒼穹には竜帝、地にはドルイド
空を裂く轟音が、戦塵に淀んだ青空を裂く。
地表から空を振り仰げば、見えるのは空を覆い隠すかのような巨大な翼。超低空を匍匐飛行しているため、一瞬ではあっても、その翼下には黒々と輝く機械の竜が在るのを見ることができるだろう。
その竜の名は、サイキックキャバリア『インドラ』。
アーレス大陸において、機械神の一柱としても崇められる尊き一機である。
「こうなってしまえば機体を止める他にありませんね」
インドラに搭乗していたソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)は、下方に広がる森林を踏みしだきながら進軍する、オブリビオンマシンの群れを見下ろしながら嘆息した。
グリモア猟兵の予知の光景は必ず起こる。自らもグリモアを持つ者として理解している。
だが、実際に教壇に立って彼女たちと接し、教え導く役割を担った者としては、そうなる前に止められなかったのかと僅かに切なさを覚える部分もあった。
あの中には、間違いなく教え子もいるからだ。
ほんの少しソフィアは目を伏せる。
次に前を見据えた時、その迷いは消えていた。振り払った。
声高らかに宣言する。
「ですがご心配無く。アルストロメリア小隊の皆様!
我が聖なる雷で貴女達の悪夢を打ち払いましょう!」
インドラの黒金の装甲が、太陽の光を照り返す。その前肢にはガトリングガンポッド、後肢大腿部には中距離空対空ミサイルが爆装され、絶対的な力を誇示する。
その姿を航空戦闘仕様、ストームルーラーと言った。
「参りますよ!インドラ!
騎士の乙女を蝕む闇を砕くのです!」
ソフィアの意思に応えインドラが咆吼、フライトユニットが唸りを上げる。
たちまち速度を上げると、ソフィアとインドラは戦場へ疾駆していった。
一方、戦場のいずこかにて。
「始まった、かぁ。それじゃ、全力尽くすとしましょうか。
そこそこ長く関わったし、後に残る事態になったら寝覚め悪いしねぇ」
そこにはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の姿がある。
ティオレンシアもまた、ソフィアとは別の場所からオブリビオンの軍勢を見ていた。
そして、様々な出来事があったが、彼女もまた教鞭を執った者である。
故に、女生徒たちには思い入れがある。
だが、それを表立っては表情に出さない。細目はいつものままだ。
それでもその視線は決然とした、決意を秘めたものであった。
ティオレンシアは、手の中でくるりと【ゴールドシーン】を一回転させる。
ペンの形をしたそれの先にあるのは、|淡黄色の輝石《シトリン》。
このペン自体が祈りに応え、願いを叶える力を持つという鉱物生命体だ。
彼女はこのペンで魔術文字を描き、ユーベルコードを発動させるのである。
ふぅと一息つき、ティオレンシアはひとりごちる。
「……結構勘違いされるんだけど、このユーベルコード「基点はあらかじめ描いておいた魔術文字でも問題ない」し、「あたしがその場にいる必要もない」。
――つまり、任意起動型トラップとしても使えるのよぉ」
遠くに見ゆるオブリビオンマシンを睨み、ティオレンシアはゴールドシーンを掲げた、
離れた場所のルーンと梵字が輝きを放つ。
先ず描いたのは帝釈天印。「イー」と発音する梵字こと|悉曇《しったん》文字である。
この文字が意味する帝釈天は、UDCアースのインドにおいて雷神・財神とされたインドラが仏教に受け入れられたことで誕生した神であり、ここではその権能を借りて雷の象徴として用いている。
次に描いたのはソーン。巨人や棘、茨を意味するルーン文字。
縦線に逆のくの字を組み合わせたようなその形は、北欧神話における雷神トールのハンマー由来ともされ、帝釈天印とは雷神同士ということもあり親和性が高い。
3番目に描いたのはイサ。氷の象徴にして、停滞を意味するルーン文字。
縦線のみで描かれるそれは停止の意味合いが込められている。
帝釈天印、ソーン、イサ。
3つの力ある文字から導き出される術式は。
「【|黙殺・妨害《デザイア・ディスターブ》】起動。 多少痛いくらいは勘弁して頂戴な」
冷厳に、ティオレンシアは術式を解き放った。
オブリビオンマシンの足元から、輝く茨が爆発的な勢いで解き放たれた。
それは手近のキャバリアに絡みつくと、蒼雷を発する。
雷は過電流となって機体内部を走り、キャバリアにとっては神経とも言える電子部品を次々焼いていく。
たちまち彼女らは関節から黒煙を発して動かなくなった。
無論、茨を引きちぎって抵抗しようとする者もいた。
だが、生えている棘がそれを阻む。装甲に食い込み、動きを拘束する。
ルーン文字『イサ』の意味は停止。その呪言としての拘束力が、物理的な力を超越してオブリビオンマシンたちの動きを止めているのだ。
そして、動きを止めたオブリビオンマシンは雷による電撃の餌食となる。
敵の足並みが乱れ、その隊列も崩れ始める。
その変化を、ソフィアは鋭敏に捉えていた。
「オブリビオンマシンの足並みが乱れている……! どなたかのユーベルコードでしょうか」
その時、インドラに通信が入る。発信点は戦場の外れ。
「御名答。何度か学校で会ったかもだけど、ティオレンシア・シーディアよぉ」
「ティオレンシア教官……! 猟兵でしたか!」
「そう、ご同輩ってわけ。それはそうと、戦場にはあたしが罠を仕掛けてあるの。
座標を転送しておくから、うまく使ってねぇ」
「了解しました! 【聖雷縛封】詠唱開始……!」
ユーベルコードの詠唱を従え、ソフィアの駆るインドラ・ストームルーラーが天から舞い降りた。
前肢部に装着されたガトリングガンポッドが火を吹き、地面に線状の弾痕を穿つ。
機体群がビームライフルを構えるが、ソフィアは無理をせずインドラに上昇を命じた。
翼の角度を変えることで推力方向を大幅に転換し、V字の航跡を残して再び空に昇る。
ソフィアの身体にも強いGがかかるが、詠唱は全く途切れなかったのを称賛すべきであろう。
ミサイルは使わない。威力が高すぎて、機体ごと女生徒たちを爆散させかねないからだ。
それを追って、オブリビオンマシンたちは新たな領域に足を踏み出す。
だが、その足元にも。
「あらあら、足元がお留守よぉ?」
ティオレンシアの指が鳴らされ、ルーンと悉曇文字がまたひとつ発動。
放たれる雷の蔦、そして蒼雷。
オブリビオンマシンの餌食もまた一機増えた。
そして、その擱座した機体に向けて、上空に退避していたインドラ・ストームルーラーが一直線に急降下した。ガトリングガンポッドが吠えるが、今度の弾痕は線ではなく点を穿つ。
撃ち貫かれたのは、ビームライフルと頭部のセンサー部。
銃身とカメラアイが粉々に砕けて、透明な強化樹脂と黒いスチールが飛び散る。
そして、そこへインドラの後肢部に装備されたクラッシャークローが襲いかかった。元々の重量に加え、急降下時の加速まで加わったのだからたまらない。
オブリビオンマシンは、為す術もなく押し倒されてしまった。
「雷の戒めを!」
敵機を踏みしめながら、詠唱されていた【聖雷縛封】を解放する。
インドラが雷光を纏ったかと思うと、腹に響くような重低音が響き、足元の機体は焦げ臭い匂いと黒煙を放った。機体の全機能が停止し、抵抗が止む。
ソフィアの嬉々とした声が、ティオレンシアへの通信に届いた。
「良いですね! 流石は魔術文字を駆使する罠使い、いい仕事をします!」
「ソフィア教官も、流石は機械神の担い手というところかしらぁ。殲禍炎剣もあるのに頑張るわぁ」
「匍匐飛行を心得ていれば、これぐらいは。っと、方位0-0-0より別働隊を確認しました。合流しつつあり」
インドラのレーダーに複数の光点が現れる。
それらは北側から、敵――すなわちソフィア(ティオレンシアは別の場所にいるために含まない)へ向けて進撃を行っている別働隊であった。
数は増えるが、ティオレンシアは鷹揚とした態度を取る。
音声通信のソフィアには通じないが、ぱたぱたと手も振る。
「どうぞどうぞ。自分から寄ってきてくれるなら手間が省けるわぁ」
「分かりました、では私は反復攻撃をかけつつ、罠への追い込みを行います。
起動はお任せしましたよ!」
そう言うと、ソフィアは再び上空へと舞い上がる。よくやるものだと思う。
「でもまぁ、あたしも向こうからしたらそう思われてるのかもしれないわねぇ」
別働隊はビームライフルを構えながら進撃しつつあった。
先行していた部隊はほぼ全滅。戦場には何らかの罠が敷設されているらしい。
だが、それでもその足は鈍らない。
もとより、この部隊も先行部隊も、全体から見れば手足の指の一本にも及ばない。
ならば、たとえこの部隊も全滅したとしても、総体で勝てば良い。
そのような思考のもと、別働隊は先行部隊が消息を絶った地点へと接近する。
足元で、焼け焦げた電子部品が踏み潰され、砕かれる。
その時、頭上の蒼穹に|飛行機雲《コントレイル》が走った。
飛行機雲を作っている源はインドラ・ストームルーラー。
「食いちぎりますよ、インドラ!」
急降下し、前肢のガトリングガンポッドを発射すると、地面に穿たれた弾痕が敵機へと迫る。
一斉に敵機群が応戦開始。ビームライフルを放つ。
なおも降下しつつあるインドラは荷電粒子ビームの雨に晒された。
だが、フライトユニットが細かく動き、推力方向を細かく偏向。
時に機体を一回転以上回転させながら、それらを全て回避してのける。
「ぬるいですよ! そんな戦闘機動を教えたつもりはありません!」
直後、フライトユニットによる推力方向を大きく変化させ再上昇。
再び高度を取ると、再度急降下攻撃を仕掛ける。
オブリビオンマシンたちもこれを回避しつつ、反撃。
そうした応酬が暫く続いた。
だが、戦場を空から俯瞰する者がいれば気づいただろう。
ソフィアの駆るインドラは、敵の退路を断ちつつ、南へ、南へと追い立てていることに。
それは、複数人の狩人や猟犬で獲物を追い立てる狩猟法、|巻狩《まきがり》に似ていた。
「そして、追い立てられた先には別の狩人がいる。
幸い、効率的配置と弾種を戦闘演算する時間もバラ撒けるだけバラ撒く時間もたっぷりとあったんだもの。罠使いに時間を与えたらどうなるか、しっかり教授してあげましょ」
オブリビオンマシンの足元で、魔術文字が一斉起動した。
光る茨がうねり、繁茂し、その海へと呑み込んでいく。
その海が一斉に雷撃を放つ。それは絡まれた敵の電子回路を灼き、その奥に潜むオブリビオンとしての意志をも焼き尽くした。
それでも尚引きちぎろうとするのは、最後のあがきというものか。
ややあって、その力も尽き、がくりと機体から力が失われ……勝負はついた。
「お疲れ様でした、ティオレンシア教官! 良いトラップでした!」
そう言いながら降り立ったインドラは、オブリビオンマシンの残骸から、コクピットブロックのみを摘出して抱え込む。その外殻には、ほとんど焦げ跡などはついていなかった。
「お疲れ様。それ持って帰るの?」
「いえ、戦闘領域の外縁に運び去るだけです。ジェネム2を倒して終わりではないようですので」
「そうねぇ。間違いなく黒幕がいるでしょうしねぇ。
じゃ、こちらで回収のためのトレーラーを手配しておきましょ。フィクサーの面目躍如ってやつね」
勝利にもかかわらず、二人の表情は硬い。
それは、この先の決戦への緊張であった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
秋月・信子
●POW
『…この様子じゃ操縦系統はオブリビオンマシン側に奪われているようね』
ええ、自らの意思を改ざんされずに殺し合いを強制されているとなれば、黒幕の趣味の悪さが伺えます
ですが、だからこそ始末が悪いです
部隊全機によるビームライフルの一斉射撃を避けるべく、一撃離脱の強襲戦で対応します
『はいはい。じゃあ私は、いつも通りに影に戻って索敵に専念するわね。集団を捉えたら警告しておくわよ』
この悲痛な叫び声は…リューネさんでしょうか
本来なら無惨に爆散される運命だったかもしれませんが…私達で変えてみせましょう
推力移動でビームライフルの銃口から逃れてのシールドバッシュで大勢を崩させ、間隙を縫うようにハンディマシンガンによる『浄化の魔弾』を発射
本来ならば実体弾ですが、機体自体ではなくOSの破壊を敢行
倒れましたら姉さんに機体を預け、私はジェネム2のコックピットハッチを開けて、パイロットであるリューネさんの救出を行いましょう
●お茶会をもう一度
「助けてください……助けて……!」
「だめっ、こんな……! お姉さま、お姉さまぁっ!」
秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)の開いた通信の共通チャンネルには、そんな少女たちの声が微かに、だがいくつも流れてきていた。
聞こえてくるどの声も、どちらかかと言えば譫言に近い。
まるで悪夢に相対しているかのようだ。
だが、それは信子たちに一つの事実を告げていた。
『……この様子じゃ操縦系統はオブリビオンマシン側に奪われているようね』
コクピットで寄り添いあいながら、信子と二重身の『姉』は深刻な表情を浮かべた。
多くの場合、オブリビオンマシンのパイロットは、機体から精神操作を受けている。パイロットに操縦させることでオブリビオンマシンは駆動し、戦うことができるのだ。
だが、今回のケースではそうなっていない。
機体の主導権をオブリビオンマシン自身が握っているのだ。
「ええ、自らの意思を改ざんされずに殺し合いを強制されているとなれば、黒幕の趣味の悪さが伺えます。ですが、だからこそ始末が悪いです」
恐らく、パイロットは一様に凄惨な「最悪の光景」を見せられているのだろう。
あえて操作させず、恐怖と悲哀の感情を発生させるやり口は、まさに趣味が悪いと言える。
だが、一方で機体とパイロットの関係性の違いは、猟兵側の対処が一様で良いのか、という疑問も投げかけるものだ。通常の「機体撃破=パイロット救助」の公式が成り立たない可能性があるのである。
彼女たちを確実に助けるにはコクピットブロックを無傷で保つしかなくなるが、それは猟兵の戦術が限定されることを意味する。もし相手側が意図しているのならば、恐るべき戦術だろう。
信子にはそれを放っておく選択肢は存在しなかった。
「彼女たちを助けないと。手伝ってもらえますか、姉さん?」
その真剣な視線と声色に、姉は肩をすくめた。
これは|私《姉》にとっても、選択肢は存在しないじゃない。
『はいはい。じゃあ私は、いつも通りに影に戻って索敵に専念するわね。集団を捉えたら警告しておくわよ』
するり、と姉が信子の影へと滑り込んだ。
索敵系のシステムがアクティブとなり、通信系と連動。
共通チャンネルに拾われている微弱な電波を捉え、敵の方向を見極めようというのだ。
とは言え、非常に微弱な電波である。ある程度の時間がかかるかと思われた。
だが。
「いやだっ、やだぁっ……!」
その時、ピースメーカーの通信がひとつの声を拾った。
聞こえたのはほんの僅かだったが、信子には聞き覚えのある声だった。
「今の声は……!」
ある種の予感を感じ、信子はスピーカーの音声レベルを上げる。
がりがりと耳障りなノイズがコクピット内に流れる中、微かに先程聞いた声が混じっているのが分かる。
「やめてっ、友達なんて撃ちたくないっ……! 止まって、止まってよぉ……!」
「この悲痛な叫び声は……リューネさんでしょうか」
その声は、編入したばかりの頃にトリアイナ縁のお茶会へ誘いに来た少女、リューネのものだった。
その後も色々と縁があったが、まさかこんな所まで縁がなくてもいいだろうに。
『丘向こうからキャバリア部隊が来るわ。今の電波の方向とも一致してる』
「分かりました。本来なら無惨に爆散される運命だったかもしれませんが……」
それはあり得たかもしれない未来。
機体は討伐部隊と交戦するのに何も出来ず、無力感をしか感じられぬままの非業の死。
だが、今は信子たち猟兵がいる。ならば。
「私達で変えてみせましょう」
『了解。付き合うわよ』
キャバリア『ピースメーカー』は背面スラスターから炎を上げる。
大出力に押された機体は、倒すべき敵、あるいは守るべき者の許へと駆けていった。
そのジェネム2小隊は、丘を迂回するルートを取っていた。
丘上は見晴らしが良く、敵からの発見の危険性が高いからである。逆に敵を早く発見できれば、丘自体を遮蔽として活かすこともできるだろう。
勿論敵が丘上にいれば、主導権を取られる可能性もある。
だが、かなりが猟兵に撃破されたとは言え、未だ多くの機体が稼働している。
戦力的には優位にある状況で、冒険などすまい……。
だが、敵側のある種楽観的とも言える予測は、最悪の形で裏切られることとなる。
スラスターを全開にした敵キャバリア――ピースメーカーが丘上から飛来したのだ。
『稜線を越えるわよ、準備はいい?』
「もちろんです、最大戦速!」
ピースメーカーは速度を上げながら登坂し、稜線から飛び出した。
スラスターを最大出力で稼働させ、機体を飛翔させながら眼下のオブリビオンマシンの小隊へとカメラアイの視線を向ける。
敵側の思考は、全て信子たちにとって承知済みのものであった。
彼らの優位性は確かだが、一方でそれは丘上の存在を切り捨てることで成立している。
しかも、それは他の敵機体が有機的に連携が取れればこそ。
編成が歯抜けになっている現状では望むべくもないものであった。
己の失策を悟ったオブリビオンマシンは、一斉に信子のキャバリアへ銃口を向けた。
スラスターでその勢いを増しているとは言え、その動きは、丘から飛び出した際の慣性に支配されている。
ならば未来位置の予測は容易だ。
だが、オブリビオンマシン側の予測はまたも覆された。
「推力偏向方向移動……くっ!」
信子のピースメーカーが、脚部スラスター等を駆使して、強引に推力移動を行ったのだ。
強烈なGがかかり、信子の身体が悲鳴を上げる。喉から出そうになる悲鳴を噛み殺す。
だが、だからこそそれは功を奏した。
敵のビームが、本来いるはずだった機体の未来位置を正確に貫いていく。
その横をすり抜け、信子は死神を出し抜くことに成功したのだ。
そのままシールドを構えて吶喊する。渾身のシールドバッシュだ。
慣性のまま、前衛のキャバリアの一機と衝突。
ジェネム2の自重ではその衝撃に耐えきることが出来ず、大きく体制を崩し後方へ吹き飛んだ。
すかさず逆手に持ったハンディマシンガンを、吹き飛んだジェネム2に構える。
「これが好機です……行きます!」
照準もそこそこに連続発射。
小口径ながらも間合いは至近距離である。装填された銃弾の威力は敵機体の破壊には十分。
のはずだった。
だが、命中した弾丸は装甲に傷ひとつ付けることはない。
一方で、コクピット内では機体を制御するOSが悲鳴を上げていた。
機体各所の動作モニタリングが次々と機能を喪失、異常診断プログラムがOS内を走査するが、返ってくるのは「そんな部位は存在しない」という結果。
信子のユーベルコード【|浄化の魔弾《パーガティヴ・ショット》】が、機体本体ではなく、それを統御するOS、ひいてはオブリビオンの意志を破壊していたのだ。
やがて、パイロットそっちのけの空騒ぎは、コクピットの電源が落ちることで決着した。
|OS《オブリビオンの意志》の消失した機体が停止したのである。
その機体はそのままどうと背中から倒れ、完全に戦闘不能となる。
信子はそれを見届けた後、次の敵機へと向かっていった。
「リューネさん、ご無事ですか!」
ピースメーカーを姉に任せた信子が、最初に倒したジェネム2のコクピットハッチの緊急開閉用ハンドルを回した。
きりきりとハンドルが回って手動でロックが解除、その中が露となる。
全電源を喪失したコクピットの中で、パイロット……リューネは、シートに体を預けた状態で気を失っていた。
特に目に見える負傷もなさそうだ。ほっと胸をなでおろす。
その時、リューネの睫毛が震え、ゆっくりと青い目が開かれた。
「秋月さん……? そっか。あれ、夢じゃないんだ」
弱々しくリューネが微笑む。どうやら悪夢の、機体の見ていたものを覚えているようだ。
どう言葉をかければいいか分からない。信子は迷う。
そんな信子に……リューネはえい、と言ってデコピンをした。
ヘルメットのガラス面に指が当たり、こつんと音が鳴る。
「そんな顔をしないでください。信子さんがすごく強いのは、ちょっとびっくりしましたけど。
でも、私は大丈夫ですから。あまり心配しないでくださいね?」
その言葉に、信子は二条を思い出した。かつての言葉が重なる。
(だから、秋月さんが心配することはないわ。 ね?)
(やっぱり、そっくりです)
信子は胸が一杯になるのを感じた。そして、リューネを救えてよかった、と思った。
「今度みんなでお茶会をしましょう。リューネさんも是非いらして頂きたいです」
「楽しみです。お昼ごはん、ちょっと加減しなきゃですね」
二人はそんな言葉を交わしながら、暗いコクピットから出ていくのだった。
成功
🔵🔵🔴
ルナ・シュテル
キャバリアを借り受けまして出撃致します。
メルフィナ様に頂いたドレスは、今後の機会に有難く着用させて頂くと致します。
然し先ずは、かの問題を解決致しませねば。
此度の黒幕は未だ此処には無し。
ならば、彼女らの機体を破壊することで無力化せねばなりません。
先に教官本部の方へ通信。
アルストロメリア小隊の機体が何らかの外部要因にて暴走状態にあること、我々が彼女らの鎮圧に当たる旨をお伝えします。
「彼女達は全員生還させます。その為のタイプ:ルナです」
包囲されぬよう位置取りに注意しつつ交戦を。
距離に応じて近接武器と射撃武器を使い分け、四肢や頭部を破壊しての無力化を試みて参ります。
とはいえ、敵は多勢。完全に包囲を躱すのは容易ではありますまい。
故に、空を辿る猫の音楽を発動。
量子的揺らぎを利用した存在座標変更にて包囲を躱して死角を取り、無力化を期した攻撃を仕掛けて参ります。
無力化した機体からの搭乗者救出はLucyDollにお任せします。
彼女達に自我はありませんが、生徒の皆様を守る意志は間違いなく。
故に、ご安心を。
●されど、|奉仕者《人形》の意志は固く
戦場を1機の士官学校の制式キャバリア、ジェネム2が行く。
そのパイロットはルナ・シュテル(Resonate1120・f18044)。聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校に潜入していた猟兵のひとりである。
彼女は細い指をヘッドフォン【TripMachine】のハウジング部分にそっと添わせる。
すると、彼女の意志を反映して通信回線が開かれた。
「こちらLNA-1120、ルナ・シュテル。学生司令部、応答願います」
「こちら学生司令部指導教官。ルナさん、どうぞ」
繋げたのは、学生司令部だ。アルストロメリア小隊とベラドンナ小隊の卒業戦闘演習の管制を行うはずであったこの部署は、そのまま事件の実質的な対策本部として機能していた。
通信に出たのは、その指導教官。すなわち対策本部長と言える存在だ。
「既にご存知かもしれませんが、アルストロメリア小隊は何らかの外部要因にて暴走状態にあります」
「機体の暴走については把握しています。ですが、それが外部要因というのは……。
確かなのですか?」
「はい。ですが此度の黒幕は未だ此処には無し。
ならば、彼女らの機体を破壊することで無力化せねばなりません」
それは学生司令部にとっての頭の痛い要因であった。
戦闘状態のキャバリアを、ましてパイロットを確実に生存させた状態で無力化することは困難を極めるからだ。
だが、通信に出たこの学生はそれをやろうとしている。
自信過剰なのか、それとも策があるのか。
指導教官は確かめずにはいられなかった。
「できるのですか? 『貴女』が」
ルナは縦に頭を振った。赤い瞳に決然とした輝きが灯る。
「はい、『我々』であれば。彼女達は全員生還させます。その為のタイプ:ルナです」
アルストロメリア小隊の機体を乗っ取ることで成立したオブリビオンマシンの軍勢は、猟兵の猛攻を受け、その勢力は劣勢に転じつつあった。
だが、それでも彼女たちは止まろうとしない。
そもそもが、士気の概念がそもそも存在しない操り人形のようなオブリビオンである。
最後の一兵を破壊するまで、その足を止めそうにはなかった。
「目標を確認。鎮圧開始いたします」
それに対し、ルナは全く怯むことなく自らの任務を遂行することを宣言する。
ビームライフルとシールドを構え、油断なく距離を詰めていく。
その動きを察知したオブリビオンマシンたちが前進し、一斉にビームライフルを構えた。
こちらは移動を優先しており、シールドは構えていない。
敵機体は鶴翼の陣を取る。陣形が左右に広がる様を、鶴が翼を広げた様に喩えたものだ。
その翼にあたる陣形の両端が、ルナ機の横を狙うように前進と移動を開始。
そのまま抱き潰すように両翼を広げていく。
「敵側に包囲の意図を認めます。ですが、それに乗る訳には参りません」
一方で、ルナ機もそれに対応する移動を開始していた。
スラスターを吹かすと、その推力をもってダッシュをかける。
目標は右翼。包囲を完成させようとするその翼の片方へと突っ込んだのだ。
その動きに気づいた敵機体群のライフルの銃口に光が宿ると桜色のビームが放たれた。
たちまちルナ機の周囲はビームの雨に打たれることとなる。十字砲火である。
「正確な射撃。しかも適度にランダム化させて、回避を難しくしていますね」
敵機体の狙いは、あえてビームの狙いをずらし、弾幕を重層化することであった。
正確な射撃だけならば、十字砲火の交点、つまり「確率的に命中する可能性のある範囲」は極めて狭いものとなり、そこから抜けることさえできれば回避は容易である。
だが、狙いがズレればどうか。
命中率そのものは下がるものの、命中の可能性がある範囲は広くなるのである。
数を揃えているからこその戦術であり、それ故に厄介であった。
だが、ビームの雨にルナ機が貫かれたと思われたその時。
「観測軸遷移、関数値再設定。揺らぎの発生を確認、制御を開始します」
ルナ機の輪郭が朧げになり、それを貫いたはずのビームはすり抜けて地面を穿った。
敵機体のレーダーにも、射撃制御システムにもその機影が映っているにも関わらず。
ユーベルコード【|空を辿る猫の音楽《クァンタム・テレポーテーション》】。
自身の存在を量子的に揺らがせるユーベルコードである。
これにより機体は「どこにでもいて、どこにもいない」、言わば幽霊のような存在となる。
物理的干渉を極めて受けづらい状態となるのだ。
この性質をもって、ルナは自身に殺到したビームを回避したのである。
そして、この性質にはもう一つの特性がある。
「存在座標変更、再物質化。敵右翼後方に出現します」
ルナ機が突如敵陣の背面に出現した。
「どこにでもいて、どこにもいない」ということは、どこにでも出現しうるということである。
この特性をもって、ルナは敵後方で物質化し、実質的な移動を成し遂げたのである。
ルナ機はその余勢を借り、シールドを構えながら前方へ突進する。
それに気づいた何機かがビームを放ち、何度か装甲を、シールドをかすめ、その度に機体から「敵射撃、注意」のアラートが鳴る。だが、ルナはその全てを無視、眼前のキャバリアへ発砲した。
じゃっと空気が電離する音とともに、荷電粒子ビームが放たれる。狙いを過つことはなく、敵機体のビームライフルを持つ腕が爆散し、その衝撃で機体は大きくのけぞる。
そこへ更に2条のビームが命中。今度は足が吹き飛び、実質上の戦闘不能となったキャバリアは大地へと転がることとなった。
量子化と物質化を繰り返し、ヒット・アンド・アウェイを行うルナ機に対して打つ手を欠くまま、オブリビオンマシンの軍勢が壊滅するのに、時間はかからなかった。
その女学生パイロットは、ハッチが開く音とともに目を覚ました。
「んんっ……私は……確か……」
機体に搭乗した際、その制御が失われたことは覚えている。
そして、その機体が同胞たる同じ学生を撃とうとしていることも。
だが、今は機体の動力は全て喪失し、コクピット内は開いたハッチ以外は闇に包まれている。
どうしたことだろう、そう思って女学生は光の射すハッチへ目をやった。
そこにいるのは、一人の少女であった。
体の線がぴったり出る、学園の規格ではないスーツに身を包む人形めいた容姿の少女だ。
彼女は、こちらに手を差し伸べながら、合成音声で語りかける。
『こちらLNA-1120、ルナ・シュテル。貴女の救助に参りました』
ルナの名前は「謎のお助けメイド」として名前は聞いたことがある。
だが、それにしては容姿が人形的すぎるし、増してオブリビオンに乗機を乗っ取られるという異常な体験をした直後である。彼女を信じていいか、女学生には分からなかった。
それを受けてか、人形的な容姿の娘は、合成音声で続ける。
『彼女たちは、確かに自我はございません。この声も私が喋らせているものです。
ですが、生徒の皆様を守る意志は間違いなく』
こくり、と人形が頷く。それは発言を肯定するかのように。
『故に、ご安心を』
「……分かりました。よろしくお願いいたします」
女学生も頷いて、その手を取った。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『アークレイズ・ディナ』
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POW : 孔壊処刑
【ドリルソードランス】が命中した対象に対し、高威力高命中の【防御を無視或いは破壊する掘削攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ガンホリック
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【デュアルアサルトライフルとテールアンカー】から【実体弾の速射とプラズマキャノン】を放つ。
WIZ : パワーオブザ・シール
命中した【テールアンカー又は両肩部のアンカークロー】の【刃】が【生命力やエネルギーを吸収し続けるスパイク】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
イラスト:タタラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リジューム・レコーズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●人形遣い、憤怒する
猟兵の活躍により、アルストロメリア小隊のオブリビオンマシンはほぼ鎮圧された。
同時に、コクピットに囚われていた少女たちも解放されたが、それを快く思わぬ者が|一人《一機》いた。
それは、身を走る不快感とともに|身動《みじろ》ぎした。
アルストロメリア小隊のキャバリアを乗っ取り、オブリビオンマシン化させ、暴れさせたのは自身の仕業である。ここまではうまく行った。
だが、それ以降はどうか?
立ちはだかった猟兵たちは、丁寧に機体を無力化し、捕らえた少女まで解き放った。
当初の予定では、士官学校を焼き尽くし、彼女たちを絶望させ、その身体が朽ち果てるまでコア部品として使い潰すつもりであったというのに……!
おのれ猟兵、憎らしいぞ猟兵。
それは、電子回路に憤怒のパターンを走らせた。
エラー、エラー、エラー。
それが抱いたのは機械らしからぬ衝動である。
何故自身がそれを抱いたかは知らぬ。
他の機体を一斉にオブリビオンマシン化させる|機能《ユーベルコード》を何故得たかも知らぬ。
だが、自らの目論見が潰えたからには、それは自ら元凶を叩き潰さねば済まなかった。
C格納庫の天井を破壊し、そいつは外に飛び出した。
そして、戦場へと一路疾駆する。
その胎内には、パイロットの影は全くなかった。
※MSより
ボスはパイロットを乗せていない無人機となります。
心置きなく戦って頂ければと思います。
シルヴィ・フォーアンサー
……トゲトゲしたのが飛んできた。
『あれが元凶のようだ、パイロット反応はない撃墜したまえ』
ん、早く帰りたいしさっさと倒しちゃおう。
『片付けやらお別れの挨拶がありそうだが』
……揉みくちゃにされそうだから怖いこと言わないでよ。
相手の攻撃を見切って回避しながらパラライズ・ミサイルを叩き込みつつガトリング砲ごとロケットパンチ。
吹き飛ばして麻痺と体勢崩れた所にマキシマム・アサルトを発動してこちらも飛行。
ビームサーベルでの連続攻撃から蹴り飛ばして全武装一斉発射を叩き込むよ。
●告げるペイバックタイム
アークレイズ・ディナ。
それがシルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)が対峙するオブリビオンマシンの名だ。
右手には長大かつ穿孔力に特化したドリルソードランス、左手には実体弾とプラズマ弾の両用に対応したデュアルプラズマライフルを装備し、それを油断なく構えている。
更に、腰部背面と肩部にはクロー付きのアンカーが固定兵装として備わる。
近距離から中距離にかけての高速戦闘に強みを持つ強敵だ。
……そのはずなのだが。
「……トゲトゲしたのが飛んできた」
シルヴィにかかると、高性能オブリビオンマシンも形無しである。
確かにスタビライザーやアンカーは鋭利に尖っているのだが。
『あれが元凶のようだ、パイロット反応はない。撃墜したまえ』
乗機『ミドガルズ』のサポートAI『ヨルムンガンド』もそこは特に反応しない。
関心がないのか、諦めているのか、それとも……?
ともあれ、シルヴィはヨルムンガンドの言を良しとした。
オブリビオンマシンの方に視線を向けたまま、それでもこくりと頷く。
「ん、早く帰りたいしさっさと倒しちゃおう」
だがここで、ヨルムンガンドのメモリ領域に、ふと一つの光景が浮かんだ。
それは、メモリエラーとして片付けるには、あまりに具体性のあるものであった。
彼はそれを音声として出力する。
『片付けやらお別れの挨拶がありそうだが』
言われて、シルヴィも思わず想像してしまう。
寮の部屋の片付け。手伝いながら泣き出すルームメイト。
駆けつけた先輩方によって半ば強引にお別れ会が開かれ、次々ともらい泣きが伝染し、感極まった彼女たちによって抱き潰されそうになり……。
「……揉みくちゃにされそうだから怖いこと言わないでよ」
思わず背筋に寒いものが走るシルヴィであった。
『ともかく、機体を戦闘モードに移行させる』
余計なことを言ったことは棚に上げ、ヨルムンガンドは宣言した。
先の戦闘後、通常モードに戻っていた機体の制御が次々と戦闘モードに移行する。
アレゴリーマニピュレイトシステム、接続モード変更。
火器管制システム異常なし。駆動系及びスラスター出力制限解除。
メインシステム、戦闘モード再起動。
シルヴィの意識の隅々に機体の存在が流れ込み、一体化する。
目を凝らせばカメラが絞られるし、ガトリング砲の回転、背面キャノン砲の仰角もまるで自らの手の延長かのように操ることができるのだ。
今やシルヴィがミドガルズで、ミドガルズがシルヴィと言える。
その意志に応え、背面のスラスターが炎を上げる。
得られた爆発的な加速力を持って、シルヴィは敵オブリビオンマシンへ飛び出していった。
メインモニタの中で、みるみるアークレイズ・ディナが大きくなっていく。
『敵機、高速飛行しつつこちらに急速接近中。ライフルを構えているな』
「何とか見切るよ。回避」
シルヴィの思考を即座に反映し、真っ直ぐオブリビオンマシンに突っ込むルートから、左側面から敵を迂回するルートへと変更する。
するや否や、足元に実体弾と紫色のプラズマ弾が突き刺さった。
ルート変更をしなければ、そこにはミドガルズの機体があったはずだ。
一瞬だけ冷たいものが背中を走るが、それは振り切る。
『敵テールアンカーに高熱源反応』
「尻尾からも撃ってくるんだ」
腰部背面に装備されているテールアンカーが紫色の光を帯びる。マズルファイアのように十字の光をきらめかさせたかと思うと、プラズマ弾を連続射撃。
シルヴィはそれを右へ左へ蛇行させながら回避する。
周囲の地形がみるみる変わっていくが、それは全て無視だ。
狙うは攻撃の切れ目。エネルギーチャージや装弾で必ず隙を作るはず。
「今だ!」
機を見るや否や、シルヴィは肩部ミサイルの被覆を爆砕ボルトで吹き飛ばし、装填されていた【パラライズ・ミサイル】を発射した。
合計16発のユーベルコードの力を帯びたミサイルが煙の航跡を描き、アークレイズ・ディナへと突き刺さる。それは爆発すると強力な高圧電流を敵へと流し込むのだ。
更に、ガトリング砲ごとミドガルズの腕が飛んだ。ロケットパンチだ。
AI制御によって自在に飛行させることのできるそれは、一種の砲台、またはオールレンジ兵器として扱うことが可能である。
オブリビオンマシンの死角へと滑り込んで発射された銃弾が次々と突き刺さり、機体の安定が大きく揺らぐ。
そして、それを見逃すシルヴィではなかった。
「……切り裂いて吹っ飛ばす」
ミドガルズの巨体が浮き上がった。推進装置【EPメガスラスター】の大出力によるものである。
シルヴィのユーベルコード【マキシマム・アサルト】がその力を与えていた。
大地を離れたミドガルズは速度を上げ、アークレイズ・ディナへと急接近。
ガトリング砲ごとロケットパンチを切り離した両肘がビームサーベルを出力し、斬撃を浴びせる。
それをオブリビオンマシンは防ぐことができなかった。
更に斬撃の上から蹴りを浴びせる。紫色の装甲が拉げ、若干の距離が開く。
もはや敵のユーベルコードは、連続攻撃を受けてその効力を失い、飛んで逃げることも叶わない。
そこへ、ミドガルズの肩部ミサイルが、背部ハイペリオンランチャーが狙いをつける。
死角からはガトリング砲も狙っている。
「一斉発射するよ」
シルヴィの意志を受け、放たれるミドガルズの全武装。
その一撃はオブリビオンマシンにダメージを与えるとともに、この地での猟兵の反撃を告げる狼煙となった。
戦いの幕を、シルヴィは確かに引き開けたのだ。
成功
🔵🔵🔴
御魂・神治
※前回に続き武神『天人』形態
出てきよったな本丸の呪物が
それも持っとるだけで周囲が不幸になるタイプの
こういうもんはサッサと爆破粉砕せなアカンて
ちまちま対応すんのも面倒やからな、一方的にボコって帰るでな
【破魔】の力纏わせた【結界術】で相手の攻撃を受け止めて武神の本体にダメージ入らん様にする
もうこの時点で『浅間大神』も発動済みや
相手がしびれ切らして少しでもイラついた瞬間結界解放して耐えた時間分、【浄化】と【除霊】も上乗せして返したる
性質上、相手が攻撃すればするほど相手にとっては面倒この上ないしっぺ返しが来るでなこの術式は
●結界際の攻防
「出てきよったな本丸の呪物が。それも持っとるだけで周囲が不幸になるタイプの」
戦場に現れたアークレイズ・ディナの禍々しい姿を目の当たりにし、天人形態の【人工式神強化外骨格『武神』】に搭乗した御魂・神治(|除霊師《物理行使》・f28925)は、そう呟いた。
何せ、この機体こそが、アルストロメリア小隊のキャバリアを軒並みオブリビオンマシンに変えた張本人である。まして、それらに士官学校を破壊させようとしたとなれば、呪物扱いも的を得ていると言えるだろう。
オブリビオンスイーパーたる神治が、それを放っておけるはずもなかった。
「こういうもんはサッサと爆破粉砕せなアカンて。
ちまちま対応すんのも面倒やからな、一方的にボコって帰るでな」
ズボラが極まり、物理粉砕に走った除霊師はそう断ずる。
それで実績を上げているのだから、彼の主張にも一定の説得力があるのだ。
『要するに、いつも通りということですね』
女性型アバターで顕現している、人工式神の『天将』がぽつりとツッコミを入れた。
「まあ、結局はそやねんけどな。そこは少しばっか盛り上げてもええやんか」
神治はぽりぽりと頭をかこうとしたが武神の天人形態を纏っていることに気づき、慌ててその腕を引っ込めた。装甲を傷つけてもつまらない。
「まあええわ。いくで天将、最後の決戦や!」
神治は武神を加速させ、オブリビオンマシンへと吶喊した。
それを迎え撃つアークレイズ・ディナは、担いだドリルソードランスを神治に向けた。
長大なそれを片手で水平に構える。剣術でいう「平突き」の構えだ。
巨大なドリルが、全てを穿たんと唸りを上げる。スラスターが光を放つ。
次の瞬間。
爆発的な加速をもって、オブリビオンマシンが突っ込む。
目標は武神を纏った神治。
絶対的貫徹の意志をもって、手にしたランスを突き出す……!
「やらせるかい! 結界術や!」
大量の符を構えた神治が、それを阻むように手を突き出した。
符はひとりでに散って展開、それぞれを点として線を結び、結界と成す。
纏う力は破魔。魔に属する者であれば、結界を構成するその力によって、こじ開けようとするだけでダメージを受ける代物である。
まして、今の神治は武神を纏っている。
その本体の物理的・霊的防御力を加味すれば、生半可な攻撃は通じないだろう。
そうした鉄壁の防壁を構えた神治のもとへ、アークレイズ・ディナのドリルソードランスが突っ込んだ。
物理的な実体を持たないはずの結界から、猛烈な火花が飛び散る。
オブリビオンマシンが魔に属する存在であるからだろうか。
「よっしゃ! あとは根比べや。わいとアンタのどっちが痺れ切らすかのな!」
自信があるのか、不敵に神治はにまりと笑う。
この術式、術の防御時間が長くなれば長くなるほど、反撃の威力が高くなる。
敵の攻撃を耐えきれればという前提はあるが、攻撃すればするほどしっぺ返しの威力が上がる上、術式そのものは彼の知悉しているものである。
もとより、これは彼の有利な領域だと言えた。
だが、オブリビオンマシンの力は神治の想定を越えるものであった。
『結界を構成する護符の12.6%が負荷限界に達して消失しました。現時点での結界保持限界時間まで、あと30秒』
無情な天将のカウントダウンに、神治の背筋に冷たいものが走る。
だが、今更引くわけにはいかない。
「相手が根負けしたらわいの勝ちや。ほな最後までやったるわ!」
オブリビオンマシンのドリルにきっと視線を向ける。
それは徐々に結界を穿孔しつつあった。
先程までは結界表面で火花を上げていたが、今は切っ先を結界内部へと食い込ませている。
そして、それは少しずつ先へ進んでいる。
勝つのはオブリビオンマシンか、それとも神治か。
相対する互いに緊張が流れる。
そして、その緊張を断ち切ったのはオブリビオンマシンの側だった。
忌々しい結界を叩き壊さんと、両肩部のアンカークローをも投入しようとしたのである。
一瞬だけ、ドリルに注がれた注意がそれる。
その一瞬こそが、神治の待ち望んだものだった。
「よそ見したらあかんで、全返しや!」
一瞬の隙を突き、神治は結界術を反転させた。
内へと籠る術の力を外へ。受け止める力を解放する力へ。
その瞬間、アークレイズ・ディナを阻んでいた力は、敵機体を撃つ力と変じたのである。
自身と相反する力の濁流を受け、オブリビオンマシンは吹き飛んだ。
スラスターを吹かし、何とか姿勢制御を行うが、それは更なる隙を作ることとなってしまう。
「ほな、景気よういったろか!【破魔爆散・禁忌『|浅間大神《フジヤマヴォルケイノ》』】!」
結界を構成し、今は力を失っていたはずの護符が力を帯びた。
符は無数の流星へ変じ、距離の開いたオブリビオンマシンを追っていく。
護符は敵機体に着弾すると、浄化と除霊の力を解放しつつ爆発。
爆発がオブリビオンマシンを揺るがせる。
実は、神治が展開した結界の護符は、攻撃にも用いられる爆龍符である。
敵の攻撃を受け流し、その時間に応じて手痛い反撃を叩き込む。
それこそが彼の使った結界、呪詛めいた側面も持つユーベルコードであった。
「ふぅ、結果オーライやけど上手いこと行ったわ」
『焦っていたのはどこの誰でしたか?』
「あーあー、聞こえんなぁ」
勝者のはずの彼らは、いつもと変わらぬ漫才を繰り広げていた。
成功
🔵🔵🔴
鳴上・冬季
「そう言えば人を乗せずに動けるキャバリアもありましたねえ」
「それを木偶と言ってしまえば巨神に怒られそうですから、流石に私も控えますが」
嗤う
「尤も、破壊してしまえば同じです。これだけ猟兵が集ったのです。私も露払いに参加するとしましょう」
嗤う
「穿て、黄巾力士」
黄巾力士に砲頭と金磚から制圧射撃
敵の行動阻害させつつUCで敵のドリルソードランス破壊を狙う
敵の攻撃は黄巾力士にオーラ防御で庇わせたり仙術+功夫で縮地(短距離転移)して回避
「堪え性がない貴方が、主武装の1つを失ってどこまで耐えられるか見物です。精々見学する学徒達の糧となるよう、足掻いて下さい」
嗤う
破壊後
衰弱した生徒達に仙丹や仙桃与え早期回復補助
●迅雷公、神雷で敵を打ち据えること
「そう言えば人を乗せずに動けるキャバリアもありましたねえ」
鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は、彼にしては珍しくそう回想する。
クロムキャバリア世界において、過去に存在した超技術の産物、巨神。
自意識を持ち、操縦者がいなくても動くことのできるそれらに、冬季は過去に幾度か依頼で関わったことがあった。
「それを木偶と言ってしまえば巨神に怒られそうですから、流石に私も控えますが」
表情にはいつもの嘲笑。ただ、口調には若干苦笑めいたものがある。
これは冬季には珍しいことである。
だが、それは一瞬。
再び浮かべた笑みは、全てを嘲笑ういつもの冬季であった。
「尤も、破壊してしまえば同じです。これだけ猟兵が集ったのです。私も露払いに参加するとしましょう」
そう言うと、冬季は袖内から一体の人形を取り出す。
それは放るとみるみる内に巨大化し、大口径の砲を有する人型戦車となった。
パンツァーキャバリアとは似て非なる自作宝貝『宝貝・黄巾力士』である。
瞬間的に解放された超重量に、ずんと地面が音を立て、足の形に沈み込む。
頭部に相当する砲塔が、敵を求めて旋回し、唸りを上げる。
主の敵を討ち滅ぼす刃金が、今ここに解放されたのだ。
「穿て、黄巾力士」
冬季の命とともに、砲塔が唸りを上げた。
発射とともに砲身がゆっくりと後ろへ後退、その反動を軽減させる。
高初速で撃ち出された砲弾は、僅かに弧を描きながら一直線にオブリビオンマシンへと迫る。
一撃の破壊力を恐れた敵は回避行動を取り、その攻撃は横を抜けていき、着弾した崖の一角を木っ端微塵に破壊した。
その一撃、侮るべからず。
もっともこれだけならば、砲撃の合間にアークレイズ・ディナはその機動力に物を言わせ、黄巾力士へ反撃することができただろう。
だが、黄巾力士の攻撃はそれだけでは終わらなかった。
「これで終わりとは思わないことです。金磚、射撃開始」
その腕に抱えられていた銃器型自作宝貝『金磚』が咆哮した。
実体弾とレーザーの切り替えが可能な、仙術版マルチウェポンと言える宝貝である。
その射撃間隔は、砲塔よりも圧倒的に短い。
慌ててアークレイズ・ディナが回避行動を取る。
スラスターが不規則な光の航跡を描き、ある時はその射程から外れ、またある時はテールアンカーのプラズマキャノンで弾幕を作ることで防御する。
冬季の黄巾力士の攻撃はダメージを与えることはできていないが、一方でアークレイズ・ディナも攻撃に移ることができない。そんな均衡状態が生まれつつあった。
もっとも、それも冬季の計算の内。
次なる一撃のため、彼は臍下丹田にて気を練り始める。
黄巾力士の制圧射撃にて敵の行動を封じ、本命のユーベルコードを放つ。
これこそ冬季の考案した戦闘プランであった。
一方、アークレイズ・ディナは焦りを感じていた。
敵を撃滅することこそが我が存在理由。
だが、現状はその敵にいいようにやられている。攻撃に移れていない。
そのような状況を許すわけにはいかない。
行動パターンを変える。
回避優先のそれから、ある程度の被弾を受容し、前進するものへ。
眼前の敵を叩き潰すチャンスを作るのだ。
オブリビオンマシンは、手にしたドリルソードランスを横向きにまっすぐ構えると、そのまま全速をもって黄巾力士の主、冬季へと迫る。
当然、金磚の攻撃が幾度も装甲をかすめるが、その被害は無視。
全ては敵をこの槍で穿つために。
その様を見て、冬季は口を歪めて嘲笑する。
「どうやら思い切りは良いようです。ですが」
ドリルソードランスが突き出される。
たとえ切っ先の一撃を耐え抜いても、ドリルが穿孔することで敵を貫通し、重装甲の敵をも屠る必殺の武器だ。
生身の冬季では如何ともし難いと思われた。
しかし、それが貫いたのは冬季の影だけであった。
冬季を貫いたかと思われたその時、彼はもう練り上げたものとは別の仙術を行使していた。
縮地。
仙術における瞬間移動である。
この術をもって、彼はドリルソードランスの一撃から逃れることができたのだ。
そして、その隙はアークレイズ・ディナにとっては致命的なものであった。
「どうにも堪え性はないようだ。八卦天雷陣・雷爆鎖」
天に描かれた陣図から、無数の稲妻がオブリビオンマシンに降り注いだ。
これこそ冬季が練り上げたユーベルコード【八卦天雷陣・雷爆鎖】。
自らの神気を込めた雷で敵を打ち砕く必殺の法である。
神雷を受けた機体が軋みを上げ、仰け反る。
その手にあるはずのドリルソードランスは、切っ先が砕け散っていた。
「堪え性がない貴方が、主武装の1つを失ってどこまで耐えられるか見物です。
精々見学する学徒達の糧となるよう、足掻いて下さい」
アークレイズ・ディナのカメラアイが、嗤う冬季を睨みつける。
だが、それ以上の手出しはせず、敵機体は逃走の道を選んだ。
スラスターの光跡が、黄巾力士の射程圏外へと去っていく。
「どうやら予想よりは慎重だったようだ。まあ良いでしょう」
冬季もまた戦場に背を向ける。
戦場の外には、アークレイズ・ディナによってオブリビオンマシン化した、アルストロメリア小隊機のパイロットたちが臥せっている。
そんな彼女たちに対し、彼は自らの仙丹や仙桃を提供するつもりであった。
「まあ、回復するかは本人次第ですが。そこまでは見届けさせてもらいましょう」
嘲笑を浮かべたまま、冬季は戦場を後にするのであった。
成功
🔵🔵🔴
ミア・ミュラー
他とはぜんぜん違う、機体。まるで感情があるみたいだけど人はいない、のね。どっちにしても、みんなを苦しめた悪いやつはここで、やっつける。
今度はビームサーベルとライフル、シールドで、戦うよ。性能差がありそうだから魔法で何とか、しないと。気づかれたら惑わせる本を開いて見せれば、狙いをつけづらく、なるかな。あれだけ速いと撃っても当たらないし、射撃を避けたりシールドで防いで近接攻撃を、狙うよ。
けど別に当たらなくても、平気。わたしのキャバリアに【プリンセス・プランク】で憑依させた妖精さんの攻撃が本命、だよ。逆にわたしが追い詰められた時が、チャンス。動きがおかしくなったところをビームライフルで、撃ち抜こう。
月隠・望月
繰手の居ないキャバリアが動くとは。ともあれ、あれが親玉か。ここの学生たちの未来のため、何としても倒そう。
あの敵の槍、当たると強力な次撃が来るか。初撃は何としても躱したい。【霊布強化術】で忍びの首巻きを変形させ、回避率を上げて備えよう。
敵がどうやってこちらの位置を認識しているのかわかれば、更に避けやすくなるのだが……思いつくのは、カメラやレーダーあたりか。変形させた首巻きに光学【迷彩】の術式を付与する等、色々と試そう。
機を見て【ダッシュ】で近づいて無銘刀で【切断】する等して攻撃したい。できれば急所を狙いたいが、難しければ武器を持つ腕部を攻撃しよう。あの槍での攻撃は強力、あまり使わせたくはない。
●戦う者たちは、心を重ねる
クロムキャバリアにおいて、戦いとはもっぱらキャバリアのものである。
火力、装甲、機動力、悪路の踏破性、汎用性……全てにおいてキャバリアは優位に立ち、他の兵器や生身の兵士は、キャバリア相手には極めて分の悪い賭けを強いられる。
戦場における主役の座を占めるには、理由があるのである。
だが、理外の存在である猟兵に、そうしたセオリーは通用しない。
その一つの事例を、ここで見てみることとしよう。
「他とはぜんぜん違う、機体。まるで感情があるみたいだけど人はいない、のね」
キャバリア・ジェネム2のコクピットの中。
搭乗者のミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は、上空にホバリングするオブリビオンマシン、アークレイズ・ディナを見つめながら呟いた。
光学的に拡大表示された映像の中で、その機体はドリルソードランスの中心部、折れたドリルを自ら引き抜いたところだった。
それを遠くに放り捨て、機体にマウントされていた別のドリルを接続。
数回の回転と逆回転の後、それは吠え声のような音を高らかに回転する。
その動きに、ミアは苛立ち、あるいは怒りのようなものが見えたように思えた。
ただの機械が、あえて遠くまでドリルの芯を投げ捨てたりするだろうか?
見せつけるようにドリルを回転させたりするだろうか?
それは、この戦場に現れたどのオブリビオンよりも人間のようであった。
一方、ミアが搭乗するキャバリアの肩の上にも人影があった。
「繰手の居ないキャバリアが動くとは」
ミアと同じくオブリビオンマシンに視線をやるのは月隠・望月(天稟の環・f04188)。
士官学校に潜伏し、この戦場において己が身一つで疾駆していた猟兵である。
この戦場にキャバリアは持ってこなかったものの、望月もそれについては学んでいる。
故に、眼前の存在が通常ありえないことはよく分かっていた。
一方で、彼女はキャバリアに揺られながら、装備の点検を行っていた。
相棒とも言える『無銘刀』の刃の歪みを、目釘の緩みを確認し、同時にオブリビオンマシンに対してそれを振るう自分を想像する。
「あの敵の槍、当たると強力な次撃が来るか。初撃は何としても躱したい」
敵の攻撃にどう対処するか。それに対して自分がどう動くか。
刀だけではない。習い覚えた武器術や陰陽術、更にはキャバリアの知識等。
自分の繰り出せる「武器」をどう使うか、確認はいくらしてもし足りない。
「望月さん、真剣。すごい」
ミアが外部スピーカーを使って、望月に話しかけた。
そして望月はミア機の顔に視線を向ける。
パイロットが胸のコクピットにいるとは分かっていても、ついその目を見てしまうのを彼女は不思議に思った。
人と相対している時の感覚なのかもしれない。
「わたしからすれば、ミア殿もすごい。キャバリアを道具として、使いこなしてる」
「そう、なのかな。わたしのは、ちょっと魔法でずる、してるけど」
ミアは、訓練時と同じく操縦系の補助を魔法で行っている。
ここで習い覚えた技術だけではなく、手足のように使ってきた魔法を併用することで、その操縦技術は熟練のものにも劣らないものとなっていた。
ずる、という言葉には罪悪感めいたものも感じるが。
「ううん。使える技を全て使えるのは、すごいこと」
技術を取り入れ、自分の血肉にするのには相応の努力が伴う。
これを自然体でやっているミアの在り方は、望月にとっては好ましいものだった。
そして、それは何のためか。
それも望月には理解できる気がした。頷く。
「ここの学生たちの未来のため、何としても倒そう」
「うん。みんなを苦しめた悪いやつはここで、やっつける」
その心は、ふたりとも同じだった。
猟兵二人の接近に気づいたアークレイズ・ディナは、スラスターを全開にして飛翔。
デュアルアサルトライフルとテールアンカーからプラズマ弾の弾幕を展開する。
「ミア殿、武運を」
「うん。ふたりで、がんばろ」
ミア機の大きな旋回と同時に、望月がその肩から跳躍。
二人は散開して敵の狙いを分散させにかかった。
敵機めがけて一直線に駆けるのは望月。
無銘刀を構え、ただその懐へと。
「《変質》《対象固定》――術式付与」
望月の命とともに、彼女の巻く首巻きが変形する。
ユーベルコード【霊布強化術】である。
深い夜の色をした首巻きは、夜の帳のように広がり、望月の姿を見定めにくくする。
その朧な姿の影を、オブリビオンマシンの弾雨は踏むことすらできなかった。
その足跡を焼き焦がすのみだ。
「でも、これはまだ本命じゃない」
望月が真にユーベルコードで対処するべきと考えていたのはドリルソードランスだった。
一度当たれば、そこにはドリルの穿孔が待っている。
なんとしても躱したいところだったが、それには情報が足りない。
「敵がどうやってこちらの位置を認識しているのかわかれば、更に避けやすくなるのだが……」
キャバリアが外界を認識するのに用いるのは、主にカメラやレーダーである。
レーダーは主に中遠距離かつ誘導兵器、カメラは近距離から中距離で使われると認識しているが、オブリビオンマシン化によって変容が起きている可能性もあり、断言できるわけではなかった。
一方その頃、ミアは敵機に近づこうと回避行動を続けていた。
シールドを構え、避けることに専念していてもなお、無数の弾雨が襲い来る。
「性能差がありそうだから魔法で何とか、しないと」
ミアの搭乗するジェネム2は型落ちの量産機。
一方で敵のアークレイズ・ディナは最新鋭クロムキャバリアの変異体である。
基本性能においても、武装面においても、その差は歴然としていた。
例えば、ジャンプできる程度のジェネム2に対し、アークレイズ・ディナが自由に飛行できる、という一事だけでもそれは伺い知ることができる。
そのため、ミアはこの距離での攻撃を諦めていたが、それでもプラズマ弾は脅威である。
「それならこれを使ってみる、よ」
取り出したのは一冊の薄い絵本。『惑わせる本』だ。
ぱらぱらと本を開く。するとぽんぽんと風景が溢れ出て、機体の外に広がっていった。
その風景には見たものを混乱させる魔力が込められている。
刻一刻と形を変えるその形を見た者は、遠近感を、色覚を、他様々な感覚を狂わされるのだ。
そして、その影響はアークレイズ・ディナにも現れていた。
明確にプラズマの狙いが乱れている。
前は高速でも狙っていたが、今は闇雲に撃っているようだ。
そう、あの機体の感覚は、主にカメラアイからの視覚に頼っている……!
「それが分かれば、やりようは、ある」
望月は自分の首巻きに術式を走らせる。その内容は光学迷彩。
変形した首巻きに周囲の光景を映し出すことで、風景に溶け込むのだ。
レーダーに用いられる電磁波の欺瞞はこの術式ではできないため、今一歩踏み込むには情報が足りなかったが、ミアの惑わせる本が効いたのならば。
望月は駆ける速度を上げる。ミアも同様に速度を上げる。
流星のように/光跡を残して、一直線にアークレイズへ向かう。
アークレイズ・ディナは混乱した。
視覚が乱されている上に、猟兵たちが己に向かっている。
正確な位置は把握できぬ。レーダーはこういう時に役立たない。
こうなれば、闇雲にでも……!
ドリルソードランスを横薙ぎに振るう。やはり狙いはついていない。
この使われ方ではドリルの穿孔など不可能だが、それでもその重量は脅威である。
まともに当たれば装甲も拉げるかもしれない。
白兵戦の間合いを目前にして、ミアと望月の進撃は阻まれたかに見えた。
「でも、この時がチャンス。
妖精さん妖精さん、びっくりするようないたずらを、よろしくね?」
ぽん、とミア機から雲のように魔法の粉が吹き出した。
そして、その粉に触れた瞬間、アークレイズ・ディナは関節部から煙を吹き出し、振り回していた腕を止めてしまう。ぎぎぎ、と機械の軋む音が上がる。
実は、ミアはキャバリアにユーベルコード【プリンセス・プランク】を仕込んでいた。
いたずら妖精を憑依させ、その妖精に魔法の粉で攻撃させる、というものである。
この魔法の粉の効果こそ「不運をもたらす」。
アークレイズ・ディナはそれを受け、駆動系のトラブルに見舞われてしまったのだ。
そして、それは猟兵二人にとって致命的な隙だった。
「ここなら絶対に当たる、よ」
ミア機が至近距離でビームライフルを放った。
いかに性能差があるとは言え、至近距離のビームライフルを無傷では受けられない。
肩口に桜色のビームが突き刺さり、敵の上体が大きく揺らいだ。
そのアークレイズ・ディナに向けて、望月が跳躍する。
想像の通りに地を蹴り、刀を抜き放つ。
「そんなのじゃ、受け止められない」
その腹を、抜き放った無銘刀が薙ぎ払った。
羅刹の怪力が装甲に刃を突き立て、その傷口を広げていく。
切り裂かれる機械が上げる悲鳴のような軋み。
オブリビオンマシンの腹に一文字の傷を残して、敵はどうと背中から倒れた。
「これで終わったとは、思わない」
「けど、わたしたち、勝ったね」
コクピットの中でミアが微笑む。
首巻きに口元を隠しつつ、望月がその口を緩ませる。
それに値する勝利を、彼女たちは勝ち取ったのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヴィリー・フランツ
心情:オイオイオイィ!?なんで士官学校なんぞにアークレイズみたいなハイエンド機がいやがる!持ってきたのは何処の馬鹿野郎だ!!
手段:「…大方、演習の仮想敵アグレッサー機役か?ジェネムじゃ相手にならんぞ」
はぁ~、状況を開始する。ゴーグル型HMDに肩レーダーからの敵・味方の位置を投影、奴の近接は非常に強力だ、猟兵の支援を受けながら一定の距離を保ち射撃戦に移行する。
【熟練操縦士】にて各種性能もアップしてるし、ヘヴィタイフーンにはキャバリアスラスターも搭載してる、空を飛ばれても温存してる肩ミサイルもある、万が一突っ込まれても装甲とバリア、近接のバーンマチェーテもあるし大概の事には対応も可能だ。
●響くオン・ザ・エッジ
「オイオイオイィ!?なんで士官学校なんぞにアークレイズみたいなハイエンド機がいやがる!
持ってきたのは何処の馬鹿野郎だ!!」
ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)は、愛機ヘヴィタイフーンのコクピットで素っ頓狂な声を上げた。
それもそのはず。
現在対峙しているアークレイズ・ディナは、多くの戦場で旗機として扱われている機体である。
中には、オブリビオンマシンと知りながら整備運用を行っていた企業もある程だ。
ヴィリー自身も過去に相対した経験のある機体であり、その威力は思い知っていた。
少なくとも士官学校にあっていい機体ではない、はずだ。
「過去の持ち込み記録を参照したところ、当該する機体の記録はありませんでした」
ヴィリーに答えるのは、学生司令部。
彼女たちもアークレイズ・ディナの出どころについては調べていたらしい。
「当該する? 随分引っかかる言い方だな」
「……はい。当該機体は確かにありませんでした。
しかし、外部からの持ち込み機体として、C格納庫に特徴の似たクロムキャバリアが格納されていました。それの改装型である可能性はあります。ですが、そんな改装を受けることができたとも思えないのですが」
「……大方、演習の仮想敵アグレッサー機役か?ジェネムじゃ相手にならんぞ」
そう言っておくが、ヴィリーにはもう一つの心当たりがあった。
変異した、という可能性である。
真偽は不明だが、アークレイズ・ディナはクロムキャバリアの変異体であるとされる。
ならば、その原型機が格納されていて、それがオブリビオン化で変異したのではないか。
そう考えることはできた。
(まあ、まともに言っても信用されるかは怪しいところだけどな)
だが、それについては胸に納めておくこととする。
代わりに、ひとつ釘を差しておくこととした。
「だが、どうあれクロムキャバリアが士官学校にあっていい代物でないことは変わらん。
格納された経緯については調べておいてくれよ?」
「分かりました。そちらについてはお任せください。
ヴィリー教官、ご武運を」
通信は切れた。
ヴィリーから大きなため息が漏れる。
全ての理不尽と諸々の感情を丸めて、吐き出したかのような重いため息であった。
暫くの後、ゴーグル型HMDを装着した顔を上げる。
すべてを吐き出した後の表情は、戦場の緊張感に満ちていた。
「状況を開始する」
ヴィリーの装着したゴーグル型HMDに、様々な情報が流れてくる。
周辺の地形情報に、乗機ヘヴィタイフーンと敵機アークレイズ・ディナの現在位置。
味方の位置も、分かるものは全て出力してある。
生身で参戦している猟兵までは追いきれないが、それは仕方のないところだろう。
アークレイズ・ディナは、ドリルソードランスを構えて近接戦を仕掛ける構えだ。
だが、ヴィリーは近接戦を仕掛ける考えはなかった。
「そううまく行くとは思わないほうがいいぜ!」
ユーベルコード【|熟練操縦士《キャバリアマスタリー》】を起動した。
これによって、自機の性能が増強される。
その力を借りて、手持ちのライフル『一六式自動騎兵歩槍』の一斉射。
射撃を避けるべく敵の足が鈍ったところに、どこかの猟兵からの攻撃が入り、完全に敵機は足を止めてしまった。
その間に、ヘヴィタイフーンはホバー移動から跳躍、距離を取ることに成功したのである。
丘陵の影に入り込み、断続的な射撃。連続した銃声が響く。
スラスターを吹かせてアークレイズは飛翔、それを躱すとデュアルアサルトライフルを構えた。
実体弾とプラズマ弾を交互に発射してヴィリー機の動きを掣肘しようとする。
「けっ、甘いぜ! 温存したミサイルを喰らいな!」
肩部にマウントされたジオメタル社製8連装ミサイルポッド『ピラニアミサイル』が被覆を爆砕ボルトでパージし、一斉射出した。ジェネム2戦で温存したものだ。
発射されると同時に、ミサイルは個々の判断をもって独自に敵を追い始める。
その姿は、名前の由来であるピラニアのようだ。
一転して、アークレイズ・ディナは防戦に追い込まれた。
食いつこうとするミサイルに対し、ギリギリまで引き付けてから急上昇してロストを狙い、それがうまく行かないと見るや、アンカークローとテールアンカーの一斉射撃による弾幕での制圧に切り替えた。
大爆発が起きる。
だが、ヴィリーは舌打ちをした。
「ちっ、あれで終わってくれるほど甘くねえか」
爆発の煙を裂き、アークレイズ・ディナが現れた。
装甲にはあちこち砕けた部分も見られるが、機体の中枢に損傷があるようには思われない。
その手には、ドリルソードランスが握られている……!
唸りを上げるドリルに対し、彼は山刀型の実体剣『バーンマチェーテ』を構えた。刀身を高周波で加熱させ、敵の装甲を溶断する近接戦闘用武器である。同時に力場発生装置『フォートレスアーマー』も展開し、敵の衝撃力を可能な限り削ごうと試みる。
高速でアークレイズ・ディナが衝突した。
縦に構えた刀身で、ヘヴィタイフーンがそれを正面から迎え撃つ。
バーンマチェーテとドリルソードランスの間に滝のような火花が飛び散り、ヴィリー機の足が思わず一歩下がる。
「くっ、きついな……! だが後ろで生徒が見てるんでな、退けるかっ!」
一歩、前進した。
穿孔するドリルを押し返そうと、機体の全出力を傾ける。
もう一歩、更にもう一歩。
進んだところで、ヴィリー機はバーンマチェーテを振り下ろした。
一刀両断。
均衡が一気に崩れ、ドリルの先端が両断された。
オブリビオンマシンが弾き返され、そのまま上昇して退いていく。
それを見届けると、ヴィリーは一息ついた。
戦闘前のそれとは異なり、安堵のため息だ。
「やれやれ、退いてくれたか。まあ、これ以上やったら正直やばかったが」
ヴィリー機の手にするバーンマチェーテには、刀身に大きなヒビが入っていた。
熾烈な戦いによって、刀身の命数が来たのである。
だが、それこそがヴィリーの勝ち取った勝利の証であった。
成功
🔵🔵🔴
ヴィルマ・ラングカイト
SIRDとして参加
あれか、彼奴が生徒達の機体を操っていたのか。いわゆる諸悪の根源という奴だな。実に禍々しい見かけだ。
よかろう、向こうがその気ならば、こちらは受けて立つまでだ。
|戦車、前へ《パンツァー・フォー》!
敵の動きに注視しつつ、愛機を前面に押し立てて正々堂々正面から攻撃を受け止める。搭載した主砲や機銃等で牽制射撃を行いながら、チャンスを伺う。こちらは機動力では劣るが、その分火力は申し分なく、装甲は分厚い。この程度の攻撃ならば、持久してみせよう。
チャンスを見計らって、UCで攻撃し、一気に止めを刺してやる。
短期間とはいえ、私の教え子達を操って無理矢理戦闘に陥れたんだ。その報いは受けて貰おうか。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
グイベル01より各員へ。目標はオブリビオンマシン。当該機は無人機である為、遠慮は無用です。|全兵装使用自由《オールウェポンズ・フリー》、|射撃開始《オープン・ファイア》。
周囲の遮蔽物伝いに敵に接近、巻き込むような味方が周囲にいない事を確認してUCを発動。
この方が周囲の見通しは良くなりますから、他のメンバーも狙い易い筈。それに、偶には千匹の仔を孕みし森の黒山羊シュブ=ニグラスも好きな様に暴れさせないと、拗ねてしまいますからね。まぁ周囲にあるこの学校の設備にもダメージを与えてしまいますが…必要経費と思って貰うしかないですね。生徒達の命に比べれば安いものかと。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
ふん、自分の悪巧みが上手くいかなくて、頭に血が上って格納庫から飛び出てきたか。マシンの分際で短気だな。その程度でいちいちキレてたら、戦場じゃ長生きできねぇよ。
ま、やるコトはいつも通りだ。さっさとスクラップにしてやろう。
敵に気づかれない様に狙撃に適したポイントへ移動し、UCを使用。流石に7.62×54mm弾程度じゃ普通に撃ってもたかが知れてるから、狙うのはカメラ・センサー・アンテナ等の重要な割には脆い部分だ。場所が場所だけに、当てるのは至難の技だが…何、難しくはあるが不可能ではないし、第一無茶なオーダーも毎度のコトだぜ。
相手の目と耳を潰してから、牙を抜きに掛る。戦術の基本だ。
木鳩・基
【SIRD】アドリブ歓迎
なんかヤバいの出てきたけど…
あいつを倒せば解決するんだね
…オッケー、できることはやろう!
森林に潜伏して観察
あの機体、格納庫から出てきたってことは何か情報を拾ってないかな?
学校に潜伏してたときに聞いた話を手帳で確認
C格納庫に関連する噂と外見から機体を逆算
該当する情報を見つけたら(UC発動)
みんなに性能と弱点を伝達するよ
これが助けになればいいけど…!
けど私は手出しできないな、これ…
そういえばベラドンナ小隊は動けるんだっけ?
戦線に加わらない最後方からなら援護してもらっても安全かな?
大丈夫なら味方の砲撃で停止した瞬間を知らせるよ
私が破損部位を特定して、狙い撃つようお願いしよう
●特務情報調査局の、長い一日
オブリビオンマシン、アークレイズ・ディナはオイルの滾りに身を苛まれていた。
幾度かの猟兵との戦いの中で内燃機関は灼け、燃える油圧の血がそれを全身に供給する。
メインの演算装置は熱暴走の数値を何度も警告しているが、オブリビオンとしての意志がその全てを却下。
結果として、彼の思考はどこか浮かされたものとなりつつあった。
許さんぞ猟兵、憎らしいぞ猟兵。
我が必滅の機能を以て、彼らを絶対に討つ……!
「ふん、自分の悪巧みが上手くいかなくて、頭に血が上って格納庫から飛び出てきたか。マシンの分際で短気だな」
だが|特務情報調査局《SIRD》に所属する猟兵、ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)は、そんなオブリビオンマシンの怒りを鼻で笑う一人であった。
「その程度でいちいちキレてたら、戦場じゃ長生きできねぇよ」
そう言って、僅かに肩を竦める。
戦場に立てば、あらゆる物事が神経を刺激してくる。
古典的な狙撃兵の罠には、撃たれた戦友を餌にして兵士をおびき出すものもあるし、そもそも戦場における死のほとんどは理不尽なものである。
それにいちいち反応していては身が持たない。
鈍感さあるいは意図的に目を背ける能力は、身を守る盾ともなるのだ。
ミハイルから見れば、それはあまりに幼稚に過ぎる反応であった。
一方で、その威容に目を向ける者もいる。
「あれか、彼奴が生徒達の機体を操っていたのか。いわゆる諸悪の根源という奴だな。
実に禍々しい見かけだ」
パンツァーキャバリアのハッチから上半身を出して敵を見据えるのは、ヴィルマ・ラングカイト(パンツァー・ヴィルマ・f39899)だ。
威風堂々と立つその姿は、愛機と同じく不動のようにも見える。
「なんかヤバいの出てきたけど……あいつを倒せば解決するんだね」
畏れを感じているのは木鳩・基(完成途上・f01075)。
だが、その足は一歩も退こうとはしていない。
むしろ正面から見据えようとしている。
「ああ、彼奴を倒せば今回の現象は収まるはずだ。……行けるか?」
基に向けて、真っ直ぐな視線を向けるヴィルマ。
その視線には、背中を預ける者への信頼が向けられている。
「……オッケー、できることはやろう!」
基はそれに答えるように、親指を立てにっと笑ってみせた。
「グイベル01より各員へ」
その時、ミハイル、ヴィルマ、基の端末に、冷静沈着な女性の声が飛び込んできた。
声の主はネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)。旅団【|特務情報調査局《SIRD》】の旅団長であり、この場での指揮官とも言える存在である。
その声を聞くや、3人の背筋がすっと伸びる。
SIRD局員にとって、彼女はそれだけの敬意を勝ち取っている存在なのだ。
声は静かに続ける。
「目標はオブリビオンマシン。当該機は無人機である為、遠慮は無用です」
ここまで、SIRDは普段と異なる、守るべきものを背中に守る戦いを強いられてきた。
だが、ここからはそれは不要。
一切の遠慮を捨て、戦っていいのだと、そう告げる宣言であった。
「よかろう、こちらは受けて立つまでだ」
「ま、やるコトはいつも通りだ。さっさとスクラップにしてやろう」
「分かった、できる限りのことはするよ!」
三者三様の答えが通信を乱れ飛ぶ。
ネリッサは、その答えに少しだけ口元を緩ませた。
そう、これでこそSIRDだ。
ならば、自分のすることは決まっている。
「|全兵装使用自由《オールウェポンズ・フリー》、|射撃開始《オープン・ファイア》」
通信の向こうにいる隊員たちに向かって、ネリッサは直立不動で戦闘開始の指示を送った。
「敵の動きがかなり速いな。この機体での下手な追従は無理か」
ヴィルマは彼我の戦力状況を冷静に分析し、それでもひとつだけため息をついた。
彼女の機体【|PanzerkampfwagenVI AusfuhrungE《VI号戦闘車両E型》】は、UDCアースにおける重戦車、ティーガーIに手足と下半身を生やしたような姿をしている。
その長所と欠点も似通っており、高射砲を転用した主砲と重装甲によって火力と防御力が極めて高い代わりに、それらがもたらす超重量によって機動性が低くなっている。
逆に、敵機体アークレイズ・ディナは火力と機動力に極振りした高機動型キャバリアである。
その領域に引きずり込まれれば、ヴィルマ機は何もできないまま撃破される可能性が高い。
そして、オブリビオンマシン側はそれを選ぶことは容易に予想できた。
「……来たか!」
遠距離から高速で飛来した敵機から、プラズマの雨が放たれた。
紫色の光芒は大気を切り裂き、一直線にヴィルマのパンツァーキャバリアへ向けて飛来する。
だが、ヴィルマはそれを予想していた。
パンツァーキャバリアは重々しい手足を動かしながら緩やかに後退。
機体が即席の戦車壕から逃れた直後、その戦車壕がプラズマの直撃を受けて消し飛んだ。
無論、ヴィルマ機は無傷である。
「見え見えの攻撃だな。狙いは正確だが、敵がどう動くかまるで読めていない」
ヴィルマは、アークレイズ・ディナの攻撃が正確に自陣を破壊するだろうと推測していた。
だが一方で、正確すぎるが故にその破壊範囲がごく狭い範囲に留まることも読んでいた。
そのため自機でもできる最小限の動きで回避できたのだ。
そして、敵が次に取るであろう手段も、ヴィルマには想像がついた。
(自身のプライドが傷つけられた以上、最大火力を正面から叩きつけてくるだろうな)
まさに敵はその通りの行動を取った。
切っ先をヴィルマに向けてドリルソードランスを構え、大出力に物を言わせて突撃する……!
並のキャバリアでなくとも撃破は必至の巨大ドリル。
それに対し、彼女は機体を正面に向けて正面から受け止める態勢を取った。
正面からアークレイズ・ディナを受け止め……二機は正面から衝突した。
鈍い金属が切削される音を立て、ドリルがパンツァーキャバリアの装甲へと突き立てられる。
ヴィルマ機は、敵機に手をかけてそれを押し留めようとしていた。
力と力のせめぎ合いがしばし続き、切削の音が止んだ。
ドリルはまだ高速回転している。つまり、押し込めていない。
「こちらの装甲厚を甘く見たな! 昼飯の角度も馬鹿にならんものだ」
昼飯の角度とは、敵の攻撃を斜めから受け止めることで、見た目の装甲厚を増やす技法である。
読者諸兄も本や板などで一度試してみて頂きたいが、同じ分厚さであっても、正面から当たるのと、斜め45度から当たるのでは、反対側に突き抜けるまでの距離が違うし、攻撃の運動エネルギーも分散する。
これを「避弾経始」という。
つまり、命中角度次第では貫通するものも貫通しない可能性が出てくるのだ。
これを意図的にやったのがヴィルマで、敵の攻撃に対して1時の方向に機体を傾けることで、攻撃を受け止める余地を生んだのである。
「この程度の攻撃ならば、持久してみせよう!」
そう言いつつ、彼女は主砲のトリガーに手をかけることも忘れない。
照準には敵の土手っ腹が見えている。もはやシュトリヒ角の調整すら必要ないだろう。
だが、敵もそれは予想していたようで、あっけなく装甲に突き立ったままのドリルソードランスを残して飛び去ってしまう。
ヴィルマは舌打ちをしつつ、再度の攻撃に備えて機体各所の点検を始めた。
「うわぁ、すっごいなあれ……」
基は森の中から、その光景を観察していた。
ヴィルマ機の耐久力も凄まじいが、それを知っているからこそオブリビオンマシンの攻撃も凄まじいことが分かる。ドリルの攻撃は侮れない威力を持つようだ。
「アークレイズ・ディナか……。って、あれ?」
ふと、基は脳裏に引っかかるものを感じた。
頭上のオブリビオンマシンのことについて、思い返していく。
「確か、あの機体が敵のボスで、格納庫から現れたんだよね。
……あ! あの機体、格納庫から出てきたってことは何か情報を拾ってないかな?」
脳裏で、パズルが組み替えられ、全体像が見えてくる感触。
即座にポシェットから、シールでデコレーションされた一冊の手帳を取り出した。
パラパラとめくり、指で文字をなぞりながら内容に目を通していく。
「格納庫、格納庫……あった! C格納庫のクロムキャバリアの話!」
それは、生徒から採話した情報を書きつけたページだった。
曰く、C格納庫には、生徒の誰もがその搭乗者を知らないクロムキャバリアがある。
実家の太い生徒の誰かが持ってきたものとも言われているが、不思議と生徒の間で所有者であると名乗り出たという話はただの一度も聞いたことがないという。
以降この話は眉唾な怪談話へと接続されるのだが、ここまでは現物があるため説得力もあった。
保管されている機体の特徴は……細部は異なるが、概ね一致する。
装甲の一部を換装し、アンカークローを取り付ければ、あの機体に近い外見になるだろう。
ここまで調べがついたところで、基はポシェットから『モトスマホ』を取り出した。
複数通話機能のアイコンを起動し、同時にユーベルコード【|神出鬼没の情報屋《サイレントピジョン》】を発動。
「みんな、聞いて! あの機体は……!」
戦域に展開している局員たちに告げる。
C格納庫のクロムキャバリアが眼前のオブリビオンマシンであること。
そしてその弱点も。
このユーベルコードは対象の個人情報を開示するものだが、事前調査を行うことでより詳細な情報を得られる特徴を有している。それこそ、弱点のような。
つまり、基の地道な調査こそが弱点の情報を得る鍵だったのだ。
「敵の感覚は、主に頭部のカメラアイに頼ってる。レーダーは限定的みたいだね。
それから、装甲が随分薄いよ。一撃当てられれば、大ダメージになるかも……」
彼女の手に入れた情報は、即座に全員に共有されて活用される。
ならば、必ずSIRD局員はこれを活用して戦局を打開するに違いない。
基にはその確信があった。
戦場の喧騒を縫って、ネリッサはアークレイズ・ディナに向けて近づきつつあった。
この周辺は木々が生い茂っていると同時に、小高い丘が至るところに分布している。
非常にアップダウンの激しい地形であり、接近の際に隠れるための遮蔽物には困らなかった。
そんな丘の一つに、ネリッサは登る。
頂上近くまで木が生い茂ってはいるが、下生えの密度はそれほどでもなく、このあたりでは登りやすい部類だろう。
更に、頂上はぽっかりと木が途切れ、広場のようになっていた。
天から、あるいは地から何かが現れそうな、そんな場所であった。
「十分ですね。あとは、皆さんの現在位置を」
手にした『小型情報端末MPDA・MkⅢ』を操作し、SIRDの局員たちの場所を確認する。
ミハイルは森林に潜伏しているが、現在周辺にはいないようだ。
基は後退中。間違いなくこの周囲ではない。
ヴィルマは……端末を見るまでもなく、散発的に火線がオブリビオンマシンへと伸びている。
結論としては、参戦中の全員がこの場にはいない。
ネリッサは頷いた。もう一度端末を操作し、ひとつの情報を表示する。
そこには、人の発声器官では到底発音できないような音の文章が並んでいた。
「偶には千匹の仔を孕みし森の黒山羊シュブ=ニグラスも好きな様に暴れさせないと、拗ねてしまいますからね」
ネリッサはその文章、否、呪文を読み上げる。
それは、我々の言葉に置き換えれば、概ね以下のような内容であった。
「狂気産む黒の山羊よ、我が召喚に答え、我に仇なす者を全て薙ぎ払え」
最後の一音節を発音すると同時に、丘そのものが鳴動した。
そしてその地鳴りとともに、太いロープのような、無数の口を備えた触手が姿を見せる。
夜よりもなお黒い、地に無数の足で蹄の跡を付けるもの。
それは、ネリッサのユーベルコード【|千匹の仔を孕みし森の黒山羊の召喚《サモン・ザ・シュブ・ニグラス》】で招喚された、『千匹の子を孕みし森の黒山羊、シュブ=ニグラス』と呼ばれる|大いなる古のもの《グレート・オールド・ワン》の顕現である。
触手は、口々に未知の言語での呟きを発しながら、周囲を無造作に薙ぎ払った。
神にすれば、軽く身じろぎをした、あるいは寝返りを打っただけであろう。
だが、それはアークレイズ・ディナにとってまさに大質量の攻撃であった。
スラスターを吹かすが、次から次へとあらゆる角度、ありえぬ角度からの執拗な攻撃が襲う。
オブリビオンマシンの行動は、徐々に防戦へと追い込まれつつあった。
……森林内の士官学校の小規模施設のいくつかが、シュブ=ニグラスの触手によって筆舌に尽くしがたい状況になったが、それは大事の前の小事というものだろう。
戦闘の光が断続的に森の中を照らす。
その中を、ミハイルは狙撃ポイントへ移動していた。
「相変わらず派手にやってやがる。俺もとっととプロムに参加しねえと置いてかれるぞ」
軽口を叩きながら、見通しの良い小高い場所にある岩の陰へと滑り込む。
ネリッサの招喚した触手が周囲の樹木を残らずなぎ倒しているせいで、敵オブリビオンマシンに向けての射線は通りやすくなっていた。
岩に背を預けながら、手にした得物の状況、ついで動作を確認していく。
彼が手にしているのは、ロシア製のボルトアクション式スナイパーライフル、『SV-98M』である。Mの型番は近代化改修が行われた型であることを示し、銃床がアルミ合金製の軽量スケルトンに換装されているなどの違いがある。
弾丸は7.62×54mm弾を使用。
ハンドルに手をかけ、|ボルト《遊底》を操作する。
動作には異常はない。
銃身には、初期型とは異なり、マズルブレーキではなくサプレッサーがついている。
サプレッサーというと発砲音の低減のためと思われがちだが、本銃では発砲時の爆風やブローバック、マズルフラッシュを低減するための装備である。
ピカティニーレールの上には、ロシア製の昼間用可変倍率望遠鏡サイト。
これによる有効射程は1000mとされている。
銃の調子は上々。誤動作の兆候もない。
「よし、こんなもんか。それじゃ行くか」
前部銃床に取り付けられたバイポッドをおろし、自らも腹這いに。
望遠鏡サイトを覗き込むと、オブリビオンマシンの禍々しい機体が見えた。
この銃は弾丸の仕様を見ても分かる通り、本来は対人用の狙撃銃である。
そのままでは、到底キャバリアの装甲など通りはしない。
だが、そもそもミハイルは装甲の貫徹など考えてはいなかった。
(狙うのはカメラ・センサー・アンテナ等の重要な割には脆い部分だ)
こうした部位は機体の要であり、同時に弱点でもある。
精密機器で出来ているから、直接的な攻撃にはとことん弱いのである。
そこならば、このSV-98Mでも足りるのだ。
「場所が場所だけに、当てるのは至難の技だが……。
何、難しくはあるが不可能ではないし、第一無茶なオーダーも毎度のコトだぜ」
そう言うと、ミハイルはすぅ、と息を吸う。
同時に、彼の意識は「狙撃」という行為に最適化。
一種の自己暗示だが、彼のそれはユーベルコードにまで昇華されている。
【|Точная стрельба《プリシジョン・シューティング》】。
射程内の自らに気づいていない敵に、ほぼ確実に狙った部位へ攻撃を当てるものだ。
ユーベルコードの加護を得て、ミハイルは高速で動く敵の、頭部へと狙いを定める。
そこに在るのは、赤く光るカメラアイのバイザーだ。
当然ながら、そこには装甲のような堅牢性などない。
ただ、撃ち貫かれるだけの場所だ。
「……|Начать съемку《射撃開始》」
軽い音とともに、7.62mm弾が吐き出された。
発射とほぼ同時に弾丸の速度は亜音速へと到達、回避困難な速度で敵へ迫る。
次の瞬間、アークレイズ・ディナのカメラアイのバイザーは粉々に砕けていた。
その奥のカメラアイも無傷ではいられない。
複合システムのため、完全な視覚喪失まではいかなかったものの、複数のカメラが破壊され、その感覚能力は大きく減退することとなった。
「相手の目と耳を潰してから、牙を抜きに掛る。戦術の基本だ。
さあ、出番だぜ!」
戦友へ向けて、ミハイルはニヤリと笑ってみせた。
戦況は一気にSIRD側へと動いていた。
敵の弱点は既に知られているし、主たる感覚器官であるカメラアイは潰されている。
触手の攻撃も断続的に続いており、アークレイズ・ディナの行動は大きく阻害。
もう一押しで相手の撃破すら叶うかもしれない。
「だが、足りない」
ヴィルマのその言葉には故がある。
オブリビオンマシンは、今この状況においても高速機動を続けている。
視界が大きく制限されているため、その動きは滅茶苦茶なものであったが……それ故に行動の予測がつかず、砲撃を当てにくい状況が発生していた。
もう一押しを、押したくても押しきれなかったのである。
「もしもしヴィルマ? 止め刺せそう?」
通信を入れてきたのは基だった。
咽頭マイクのスイッチに手を添え、応答する。
「いや、そのあと一押しが足りない状況だ。
動きを止められればいいのだが、局長の触手はそういうのは不得手だしな」
「敵の動きを止められればいいの?」
「そうだが……基、何をする気だ?」
「大丈夫、ちょっと手伝ってもらうだけだから!
それじゃ、みんなお願い!」
基がそう言ったと同時に、空が桜色に光った。ヴィルマにはそう感じた。
次の瞬間、超遠距離から無数のビームがアークレイズ・ディナへと降り注いだ。
狙いもビームの収束率も正直甘い。甘いのだが、数がとにかく多い。
敵機も回避しようとするが、それだけでは足りない密度である。
出力は低くとも、オブリビオンマシンの装甲は次々削られていく。
この攻撃、基が後方のベラドンナ小隊に依頼した支援射撃であった。
距離の遠さと練度の問題から、当初予定していた狙撃とはならなかったが、その代わりに密度と範囲を重視した支援射撃にはなった。
そして、敵機の動きが止まった今の状況こそ、ヴィルマの待ち望んだものだった。
「|初弾硬芯徹甲弾《APCR》、続けて|粘着榴弾《HESH》及び|徹甲焼夷弾《API》装填!」
自動装填装置がヴィルマの指示通りに弾丸を装填する。その弾丸に超常の力が宿る。
ユーベルコード【|Drei Hauptschusse《スリー・メインガン・ショット》】である。
それは必殺の一撃。この戦闘を終わらせる号砲。
ヴィルマはそのトリガーに手をかける。
「短期間とはいえ、私の教え子達を操って無理矢理戦闘に陥れたんだ。その報いは受けて貰おうか。
主砲三連射、行くぞ!」
斉射三連。
放たれた3発の砲弾は、狙い過たずアークレイズ・ディナへと命中した。
硬芯徹甲弾が装甲を破り、粘着榴弾がダウンを招き、徹甲焼夷弾が止めを刺す。
だが、それでもアークレイズ・ディナは動いていた。
最後の力を振り絞り、スラスターを全力で吹かす。
機体を軋ませながら、アークレイズ・ディナは戦域外へと退避していった。
止めこそ逃したものの、この戦局での勝利はSIRDにもたらされた。
やがて、局員たちは思い思いに帰路へと就くだろう。
イレギュラーな依頼からもたらされた、今回の戦いと出会い。
それが何らかの実を結ぶのかは、まだ分からない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルナ・シュテル
暴走事件の元凶と思しき個体を確認。
これを排除致します。
引き続きキャバリアに搭乗して戦闘を。
ビームライフルを用い、距離を保ちながら攻撃していきます。
ですが、恐らくこの機体だけでは有効打を与えることはできませんでしょう。
そこで、LucyDollを出撃させ敵を包囲するように布陣させます。
敵が彼女達に気付くことを防ぐべく、私は積極的に攻撃を重ね、意識を惹き付けにかかろうかと。
電子的手段での発覚は、電脳魔術による【ジャミング】で防げればと。
準備完了次第、敵のUCを敢えて受け、直後に機体より脱出。うまく「敵が私の機体からすぐ離れられず」「私の脱出が阻害されない」形で受けられれば尚良しです。
敵のUCは暫く標的と近接距離を維持する必要のあるものと推測されますので、私の意図に気付かれてもすぐには離脱されないと予測されます。
脱出後はPolarisで【推力移動】し包囲の外へ離脱。直後に終末を紡ぐ焔の環を発動、敵へと砲撃を叩き込んでみせましょう。
斯様な無粋は、この学び舎には不要の代物。お引き取りを。
●奉仕者、死地に挑んで帰り来る
「暴走事件の元凶と思しき個体を確認。
これを排除致します」
ルナ・シュテル(Resonate1120・f18044)は、ヘッドフォン『TripMachine』のハウジング部分に手を添わせながら、学生司令部と通信を取り合っていた。
「こちら学生司令部。ルナさんの状況了解。……その」
通信の向こうの教官は、そこまで言ったところで不自然に言葉を切った。
次に何を言うべきか、それを選んでいるかのようだ。
「何か?」
ルナの言葉に、意を決したように教官は声を発した。
「……本当は学生の貴女にこれを言いたくはないですが。健闘と、無事の帰還を祈ります。
それと、講義室を綺麗にしてくれてありがとう。次は私にも貴女を手伝わせてちょうだい」
教官は、この学校に来て最初に奉仕を請け負った、言わばこの学校での彼女の「謎のお助けメイド」扱いのきっかけとなった人物だった。
奉仕者に奉仕をするという提案に、一瞬だけルナが目を見開く。
だが、次の瞬間には、彼女はもうカメラへと一礼をしていた。
「了解致しました。貴女がそう望まれるのであれば」
その言葉とともに通信が切れる。
どうやら帰還前にやることが、一つ増えたようだ。
そして、ルナの駆るジェネム2は、オブリビオンマシンと対峙する。
(ですが、恐らくこの機体だけでは有効打を与えることはできませんでしょう)
ここまでの戦いを見て、ルナはそのことを痛感していた。
士官学校に配備されているのはジェネム2。型落ちの払い下げ品だ。
癖がなく扱いやすい機体ではあるが、機動性も攻撃力も世代相応。
ハイエンド機の変異体であるアークレイズ・ディナとは、世代も違えばキャバリアとしての位置づけも異なるため、性能差は歴然としていた。
猟兵にも同型機を使っているケースがあるが、曲りなりとも抗することができているのは猟兵のユーベルコード故である。
ならば。
「私もユーベルコードを使いましょう。そのための時間稼ぎは致しませんと」
そう決意すると、機体を走行させながらビームライフルを連続発射。
同時にジャミングを仕掛け、少しでも敵の目をそらそうと試みる。
ルナの狙いは正確。敵の未来位置を予測しながら、それを的確にそれを射抜く。
一射、二射、三射。
一撃を仕損じてももう一撃、そして更にダメ押しで一撃。
時間稼ぎと言うには容赦のない攻撃を繰り出す。
だが、アークレイズ・ディナの速度はルナの予測をも上回っていた。
スラスターの出力をさらに増大させ、機体を軋ませながらも、一射、二射、三射。
ルナの事前想定を更に上回るスピードと機動性で、放たれたビームを次々と回避する。
そして気づく。
敵機は確実にルナに向けて近づこうとしていると。
その時、アークレイズ・ディナの機体から黒い闇が爆発的に広がった。
いや、それは闇ではない。
機体の肩部及び腰部背面に装備されていたアンカークローとテールアンカーである。
一瞬、蛇のように鎌首をもたげたそれは次の刹那にはルナ機を覆い尽くすように襲いかかる。
頭部を貫いた。肩部を貫いた。腿部を貫いた。
コクピットは細かい機動を繰り返すことで直撃を逃れたものの、貫かれていない部位の方が少ない。
何とか動かせる腕でがしりとアンカーを掴むが、それは敵機は無視する。
最後の足掻きなど一考にも値せず。この機体はもう終わりだ。
ルナにはそう舌なめずりしているように思えた。
「ならばその油断、利用させて頂きましょう」
緊急用の爆砕ボルトでハッチを吹き飛ばし、自機から躊躇なく飛び降りた。
オブリビオンマシン側は、それに対して無反応。
ルナの目論見では、敵のユーベルコードは自機と近接距離に近寄る必要性があることから、追撃も、そして彼女の意図に気づいての離脱もないだろうと考えていたが、それは図に当たったようだ。
足に内蔵されているプラズマ噴射機構『Polaris』が、クロムキャバリアでの既知の物理学を超えて展開した。
噴射口から高圧の電離した気体が噴射し、紫電を発しながら後方へと飛んでいく。
ルナは|効果範囲の外へ《・・・・・・・》向かう必要があったのだ。
それをレーダーで見送りながら、敵機は如何に半壊したジェネム2を料理するか考えていた。
だが、その直後。
アークレイズ・ディナは自身の周囲にいくつもの小型反応があることに気がついた。
それは、豊満な肉体をシンプルなスーツに包んだ何体もの|人型の何か《バイオロイド》だ。反応は人間のものと異なるので、人型の機械か何かなのだろう。
彼女たちは腕を大きく広げ、天へとその視線を向けている。
まるで、その向こうに「何か」があるかのように。
オブリビオンマシンはようやく悟った。
これは、異常。間違いなく異常だ。
すぐさまアークレイズ・ディナはこの場から逃れようとした。
だが、そうするには撃破した敵機が重すぎる。
アンカークローとテールアンカーはとっさに抜くには深く刺さりすぎているし、キャバリアに掴まれていることも良くなかった。
最後の足掻きだと軽視したことが、このようになろうとは……!
オブリビオンマシンが後悔という感情に襲われている中、ルナはバイオロイドの包囲範囲外へと降り立った。
展開していた足のプラズマ噴射機構が折り畳まれ、細い足の中へと収納される。
この大出力をもって、ここまで一度の跳躍で飛んだのだ。
ルナはついてもいない埃を一度手で払うと、流麗な動作で一礼した。
「仕掛けは整いましてございます。然らばどうぞ、御覧じられませ――」
その言葉と同時に、包囲するバイオロイドたちの間にリング状の力場のようなものが発生する。
それは炎を思わせるオレンジの光を発していた。揺らめきながら回り、廻る。
バイオロイドたちは天を見上げたまま、力場の光だけが踊っている。
踊り狂う光たちは徐々にそのスピードを上げていく。
まるでその場に天からの「何か」を呼び込むように。
アークレイズ・ディナは機体損傷の結果を演算していた。破滅の予感と言ってもいい。
震えるオブリビオンマシン。
ルナはそれを無表情に見やりつつ、宣言する。
「斯様な無粋は、この学び舎には不要の代物。お引き取りを」
それと同時に、天が裂けた。
アーモンドのように引き裂かれた裂け目から一瞬巨大な構造物が覗いた。
と思うと、次の刹那にはそこから放たれた強い光に呑まれ、アークレイズ・ディナへと降り注いだ。
ユーベルコード【|終末を紡ぐ焔の環《ヴァルキリー・ディメンジョン》】。
ルナの引き連れたLucyDoll複数を誘導装置とすることで、彼女の故郷にある小惑星破壊重粒子砲を空間を超越して浴びせるという大技である。
なお、LucyDollたちの発生した力場が破壊の業を遮蔽する役も果たしている。
そのため、効果範囲外には一切の影響を及ぼさない。
その破滅の光に晒され、ルナ機とオブリビオンマシンの装甲が蒸発していく。
機体を軋ませながら、アークレイズ・ディナは足掻いた。
繋がっていたアンカーを強制射出。そして動作の可能なスラスターを束ね、それを一斉に吹かす。
最大稼働時の出力には到底及ばないが、それで十分だ。
爆発的な加速とともに、敵機が重粒子砲の範囲を逃れた。
機体各所が焼けただれ、動作不良もあちこちに及んでいるが、それでも動いている。
重粒子砲の影響範囲をちらりと一瞥し、敵機は再びスラスターを吹かす。
範囲内の全てが蒸発し、ガラス化した岩石のみが存在する死地から目を背けるように、アークレイズ・ディナは戦闘領域外へと逃れていった。
そしてルナはというと。
「さて、学校に戻ると致しましょう。皆様が待っておられるようですし」
学校指定の制服のスカートを翻し、ルナは身一つで軽やかに死地から戻るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
秋月・信子
●SPD
…今回の事件の元凶がおいでなされたわね
信子はあの子を救出に行ってよろしくやってるタイミングと重なったようだけども、そんな事態になった時の為に|影《私》が残った訳
百合の間に挟まれる男とか云うミームがあるそうだけど、折角の感動な場面に水を差すだなんてホント、空気を読んで欲しいものよね
運悪くジェネム2のコックピットから出たタイミングで鉢合わせしてしまったお二人を救出しに援護と行きましょうか
安全な場所まで避難させようとしてる信子とリューネさんを撃つ気満々なオブリビオンマシンを強襲
ごめん遊ばせ、あんたの相手は私よ
信子とリューネさんを回収する予定だったけど予定変更
あんたは安全な場所まで他の子達もエスコートなさい
頭部のガンポッド・システムで牽制射撃を行いつつ相手の射線をこちらへ誘導
実体弾の速射とプラズマキャノンの連撃は予備動作から【見切り】、肩部や腰部スラスター噴射で対処していくわよ
ヘタに相手を追撃せず向かって来た際のカウンターでも狙って、私の得意な|接近戦《インファイト》で決着を付けるわよ
●重なる影の戦い
「今度みんなでお茶会をしましょう」
「楽しみです」
秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)は、オブリビオンマシン化したジェネム2に囚われていた生徒・リューネと言葉を交わしながら、擱座したジェネム2のコクピットから脱出しようとしていた。
救えてよかった。
だが、その思いは踏みにじられようとしていた。
ハッチを潜り、外に出ると。
「……オブリビオンマシン!?」
オブリビオンマシンの首魁、アークレイズ・ディナがそこに在った。
その手は、デュアルアサルトライフルを構えている。
今の信子には、猟兵として戦った多くの経験がある。だから理解してしまう。
銃口がジェネム2ではなく、ハッチに立つ自分とリューネを狙っていることを。
(撃たれる……!)
銃はある。だが既に銃爪に手をかけた相手に追いつき、機先を制する術がない。
隣にいる友人、リューネを救う術もない。
何をする、術もない。
信子が諦めかけたその時。
「ごめん遊ばせ、あんたの相手は私よ」
一機のキャバリアが戦場に疾風の如く飛び込むと、構えた手持ちのシールドを機体ごとアークレイズ・ディナへと叩きつけた。
敵機の上体が大きく揺らぎ、銃口が逸らされる。
放たれた実体弾が、信子たちの遥か後方の地面を虚しく抉った。
そして、その勢いのまま一回転し、信子たちを背に庇って立ち塞がる。
信子はその機影をよく知っていた。
「姉さん!」
そう、飛び込んだのは信子のキャバリア『ピースメーカー』。
グリモアの化身にして、彼女が『姉』と呼び慕う二重身に任せていたものだ。
「こんな事態は望んでなかったけど、よろしくやってるタイミングと重なっちゃったわね」
後ろの二人を視界の隅に収めながら、姉はからかうように二人に声をかける。
そのあけすけな言葉に、たちまち信子とリューネの顔が紅潮する。
「ね、姉さんってば……」
「よろしくって、わたしたちそういう関係じゃ!というかお姉さんいらっしゃったんですか?」
慌てる二人の姿に、姉はふっと声を上げて笑った。
「大丈夫、分かってるわよ。それより信子」
「え、なんですか姉さん?」
「ここは私に任せて、あんたは安全な場所まで他の子達もエスコートなさい」
ふたりの間に一瞬流れる沈黙。
信子の気遣わしげな視線に、ピースメーカーのモノアイは答えない。
全てを悟った信子は言った。
「……分かりました。姉さんも気をつけて」
決然とした強い視線を姉に向け、信子はリューネとともに他の機体へと向かっていった。
この周辺には、先の戦闘で撃破したジェネム2が何機も擱座している。
当然、コクピット内部では、かつてのリューネのようにパイロットが気を失っていることだろう。
そのパイロットの救出を信子たちに任せることにしたのだ。
(守らなくていいのは戦闘が楽になるし……それに、あの子ならやり遂げるでしょうしね)
その思いを言葉にはしないけれども。
けれど、分かってくれているという確信をもって、姉はオブリビオンマシンへと向き直った。
「百合の間に挟まれる男とか云うミームがあるそうだけど」
姉の言葉とともに、ピースメーカーの頭部に装備されたガンポッド・システムが火を吹いた。
小口径、だが高初速の機銃弾がアークレイズ・ディナへと襲いかかる。
「折角の感動な場面に水を差すだなんてホント、空気を読んで欲しいものよね」
信子たちに銃を向けていたアークレイズが飛び退った。
曳光弾がその後を追っていき、黒い機影はそれに自らの影を踏ませまいと、全身のスラスターを断続的に噴射させて細かい機動を行う。
距離を取り、攻撃を着実に躱す敵機。だが、信子とリューネへのロックはそう上手く行かなかった。
気づけば二人は戦場の何処かへと隠れてしまい、その存在すらロストしていた。
牽制し、二人から敵を引き離す役割は十二分に果たしたと言えるだろう。
そして、今のやり取りで姉とピースメーカーを敵手と認めたのだろう。
アークレイズ・ディナが、デュアルアサルトライフルを振りかざすように構え直した。
実体弾とプラズマ弾の双銃身がぎらりと光る。
「見せつけるように振り回しちゃって。そんな自信があるの?」
挑発するようにからかうと、姉はシールドを油断なく構える。
ピースメーカーの装備は、どちらかというと近接寄りだ。中距離射撃を旨としたアークレイズ・ディナのデュアルアサルトライフルとは相性が良いとは言えない。
(だからと言って、こちらから向かっていくのは悪手ね。向こうが引き撃ちに徹してきたら終わりよ。だから)
アークレイズ・ディナは大きく腕を伸ばしてライフルを構える。
トリガーが引かれ、その銃口に凶悪な光が宿る。
「あんたのそのわかりやすい攻撃、見切ってあげるわよ」
ライフルから弾丸が放たれるのとほぼ同時に、ピースメーカーが動いた。
肩部のスラスターが噴射、横っ飛びになって飛び退る。
その過去位置を、正確に実体弾の連射が貫いた。
当然、アークレイズ・ディナは満足しない。敵の反撃を予想して空中をジグザグに起動しながら、更に腕を伸ばして照準。今度はプラズマ弾で広範囲を薙ぎ払うように連射する。
だが、それも姉の予測の範疇。
腰部スラスターが唸りを上げ、機体が後方へと跳んだ。
その後を追って連射されたプラズマ弾が迫るが、機体を右へ左へと振り回しながら、影響範囲を巧みに回避し続ける。
アークレイズ・ディナはそのOS内で、攻撃を回避し続ける敵機に攻撃を当てるための優先順位を上げ続けていた。
機体の負荷、考慮外。
銃身の加熱、実体弾とプラズマ弾の交互射撃で解決。
索敵用演算、60%切り捨て。リソースは命中演算に充てる。
自分の全てを振り絞って、敵を倒そうとする。
人間で言えば、それは「躍起になる」という行動パターンであった。
そして、ついにアークレイズ・ディナは距離を取るという選択肢すら捨てた。
距離を詰めることで命中率を上げようと試みたのである。
「しびれを切らしたわね。でも、それを待ってたのよ」
姉は不敵な笑みを浮かべ、シールド背面にマウントされていた『スイーパー』、大口径のリボルバー型ハンドガンを取り出した。
手の中でくるりと一回転させた後、握り直す。
同時に、その正面からアークレイズが細かく射撃モードを切り替えながら、実体弾とプラズマ弾を吐き出す。連射速度はこれまでで一番早いだろう。
だが、姉の目には敵機の動きも、弾雨の軌跡もスローモーに見えていた。
それは研ぎ澄まされた感覚の為す業なのか、それとも姉をこの場に存在させているユーベルコード【|Esの影法師《ダークサイド・シャドウ》】の知られざる効果なのか。
それを知る術は存在しないし、知る気もない。
ただ、眼前の敵を撃ち砕くのみである。
「わざわざ私の得意な|接近戦《インファイト》で決着を付けさせてくれるなんてね。
ありがとう、あんたが短気で助かったわ」
思惑通りに動いてくれた敵に礼を言いつつ、姉は機体各所で細かく姿勢制御スラスターを吹かし、少し上体を反らせる形を取る。
その過去位置を追って、無数の実体弾とプラズマ弾が通過。
瞬間的な衝撃波が機体前面を揺らすがそれは無視し、手にした拳銃を敵機へ向けた。
狙うは。いや。もはや狙う必要もない。
「あんた、狙う時に腕を伸ばす癖、というか予備動作があるのよ。
眼前でそんなことしたら、柔らかいお腹に当ててくれって言ってるようなものじゃない」
どう、と拳銃からキャバリアサイズのマグナム弾が発射された。
その弾丸は狙い過たずアークレイズ・ディナの腹部、その装甲の合間へと突き刺さり、その内部で炸裂。コクピットブロックとその周辺をずたずたに引き裂いた。
さらにもう一撃。
無慈悲な二撃目は傷跡をさらに広げ、装甲と機械の欠片を周囲に飛び散らせる。
オブリビオンマシンは機械油を吹き出しながら、甲高い軋みを上げた。
それはまるで絶叫のようで。
その絶叫を引きずって、アークレイズ・ディナは空へと飛び、そのまま後方へと飛び去っていった。
緊張感から解放され、姉はシートに背中を預けた。
ふぅ、とため息が一つ漏れる。
「まあ、こんなものかしら。とっとと信子とリューネさんを回収しなきゃね」
姉とピースメーカーは戦場から背を向ける。
彼女とリューネの対面でもう一悶着あるのだが、それは別の話。
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
ふぅん、黒幕サンも痺れを切らして居ても立っても居られなくなったってとこかしらぁ?
無人機なら、容赦とか手加減とかに神経使わなくていいわよねぇ?
まずは|ラド《車輪》・|韋駄天印《迅速》で機動力を底上げ、|エオロー《結界》で○オーラ防御の傾斜装甲を展開。ミッドナイトレースに○騎乗してテイクオフ、●黙殺・砲列で牽制しつつ吶喊。弾種は|帝釈天印《雷》の○マヒ攻撃や|ソーン《阻害》の○捕縛あたりがいいかしらぁ?
イヤガラセで強引な突破を誘ってドリルソードランスの一閃をバレルロール回避、○カウンターで●重殺を叩きこむわぁ。
|刻むのはベオーク・シゲルの二条・ウル・ハガル・ユル《「成長」する「エネルギー」は「臨界」し「制御を離れ」「破滅」の「終焉」を齎す》――あの子たちを利用しようとしてくれたこと、これでもそれなり以上にはムカついてるんだもの。汚い花火になって弾け飛びなさいな。
…そういえば、卒業試験こんなになっちゃったけれど。色々とどうするのかしらねぇ…
あの子たちに不利益にはならないとは思いたいけれど。
●蒼天駆けるは未確認
荒れ狂うオブリビオンマシンの親玉、アークレイズ・ディナ。
幾多の猟兵の猛攻に遭い、装甲にはあちこちひび割れ、カメラなどには破壊の跡がつき、満身創痍という有り様である。
だが、それでもオブリビオンマシンは怯むことはない。
「ふぅん、黒幕サンも痺れを切らして居ても立っても居られなくなったってとこかしらぁ?」
そんな敵機をそう評したのは、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)であった。表情はいつもの微笑みであるが、その奥底には鋭いものが横たわっている。
実際「キャバリアをオブリビオンマシン化させるユーベルコード」などがあるのなら、それに徹して自身は動かない方が危険は少ないのだ。攻撃力が充足しているなら尚更だ。
にもかかわらず、自身が戦闘に降り立つということは。
「随分短気なのねぇ。そんなのじゃ女の子に嫌われるわよぉ?」
ティオレンシアはニヤリと笑うと、傍らに駐機させていた愛機、バイク型UFOの『ミッドナイトレース』にまたがりスロットルを全開にした。
ガソリンならぬエネルギーが中枢部に一気に流れ込み、爆発的な加速を生み出す。
その手が閃くと、愛用のペン『ゴールドシーン』が回転しながら現れる。
ティオレンシアはそれを手に取ると、素早く愛機に魔術文字を刻み込む。
先ず刻むのは、騎乗や道などの移動関連の意味を持つルーン文字・ラド。
次に、梵字と呼ばれることも多い悉曇文字の韋駄天印。
円滑な移動を約束するルーンと、天部一とも言われる韋駄天の俊足の力を借りることで、ミッドナイトレースは更なる速度の領域へと突入する。
そして、もう一つ刻むのが、結界を意味するルーン文字、エオロー。
鹿の角の図案化とも言われる三本突起から伸びるように、傾斜装甲がミッドナイトレースを覆っていく。オーラ防御と同等の性能を持つそれは、速度を殺さないよう配慮されていた。
「さぁて、それじゃテイクオフするわよぉ」
装甲化されたミッドナイトレースが、音もなくふわりと浮き上がった。刻まれたエオローと韋駄天印の力も借りて加速するバイク型UFOは、真っ直ぐにアークレイズ・ディナへ向けて吶喊する。
「もちろん丸腰じゃないわよぉ。それは分かるわよねぇ?」
更にティオレンシアのゴールドシーンが走った。
虚空に描かれたのは、ジェネム2との戦いでも使った悉曇文字・帝釈天印と、ルーン文字・ソーン。ゴールドシーンの筆跡は、虚空にすら文字を残すことができるのだ。
ふたつの文字は、そのまま創造主であるティオレンシアを追跡しながら、前方の敵を滅ぼすべく光の弾幕を放つ。
ユーベルコード【|黙殺・砲列《デザイア・バッテリー》】である。
前方を掃射するその弾丸の一発一発に、雷神である帝釈天の由来の麻痺属性と、ソーンの持つ阻害の意味由来の捕縛能力が込められている。一発でも当たれば、さしものオブリビオンマシンと言えども動きが鈍るのは避けられないだろう。
スラスターの炎を尾にした流星となったアークレイズ・ディナは、その射線から逃れようと戦闘機動を開始、不規則な弧を描く。
「ふふふ、乗ってきたわねぇ。それじゃ、次は我慢比べと行くかしらねぇ?」
ティオレンシアは、その弧……敵機が回避行動を取る際に旋回する地点へ執拗に弾幕を展開した。
言わば敵の避けようとする地点に弾を置いていく嫌がらせである。
アークレイズから見れば、回避しようと身を翻そうとすると、必ずそこへ攻撃を撃ち込まれるのだ。
一度ならまだしも、二度三度と同じ行動を繰り返されればストレスもかかる。
ティオレンシアに「短気」と評されたその思考回路には、瞬く間に強い負荷がかかっていった。
そして、彼はひとつの決断を下す。
アークレイズ・ディナは、多くの猟兵に狙われて傷だらけのドリルソードランスを手にすると、フェイントを交えながらも突撃を開始したのである。
当然、ティオレンシアの砲列にその身を晒すことになるわけであるが、弾幕によって装甲を凹ませ、帝釈天印の麻痺により反応速度が落ち、ソーンの捕縛に絡まりながらも、その威力と速度の減衰を最低限に留めることに成功していた。
思考の性向に多大な問題を抱えるとは言え、一戦闘者として優秀なのは確かだろう。
「そうよねぇ、あなたなら乗ってくるって思ったわぁ。それとも、あえて乗ってるのかしら?
まあ、どちらでもいいけれど。あたしは回避するだけよぉ」
それらは全てティオレンシアの誘導であった。
ここまでの弾幕と牽制は、アークレイズ・ディナからドリルソードランスを引き出すためのものだったのである。
そして、その思惑も含めて貫こうとするアークレイズ・ディナのドリルソードランス。
立てる金切り音は甲高く、一撃の余波はたとえ触れなくとも、ミッドナイトレースを木の葉のように揺るがすだろう。操縦は困難となるはずだ。
だが彼女は機体を横倒しにして旋回しながら、敵機へと突っ込んでいく。
当然、オブリビオンマシンから見れば、多少の回避は織り込み済みだ。
その程度は撃ち貫くのみ。
だがティオレンシアは旋回を続けながら、同時に機首を上向きに上げた。
旋回とは、乱暴に言えば横方向の力を掛けることで、機体に円を描かせる機動である。
自然と、敵からは離れる軌道を描くことになる。
だが、ここに上方向の力を同時にかけるとどうなるか。
結論から言うと、それは前方向への回転となるのである。
この戦闘機動をバレルロールという。
アークレイズ・ディナのドリルソードランスに絡まるような軌跡を描きながら、ティオレンシアの操るミッドナイトレースは敵の一撃を回避したのである。
頭上を過ぎるドリルは空を切り、もはやUFOを貫くことはない。
縦横方向の強烈なGの中、ティオレンシアは淀むことのない動きで愛銃『オブシディアン』を構えた。
弾倉には六発の銃弾。その全てには彼女の手でルーン文字が刻まれている。
ユーベルコード【|重殺《エクステンド》】の弾丸である。
必殺の槍を回避されその身を晒したアークレイズ・ディナに向け、すれ違いざまに、それらを次々と叩き込んでいく。
白樺やその枝の意味から転じて、誕生や成長の意味を持つベオーク。
太陽や生命力を意味するシゲルが二発。
野牛や本能を意味するウル。
雹や霰を意味するが、変革や崩壊の意味も持つハガル。
死と再生の輪廻を意味するユル。
その意味は――「成長」する「エネルギー」は「臨界」し「制御を離れ」「破滅」の「終焉」を齎す。
ルーンによって紡がれたティオレンシアの意志が、銃弾そのものの威力を超えて、オブリビオンマシンを打ち砕く。
「あの子たちを利用しようとしてくれたこと、これでもそれなり以上にはムカついてるんだもの。
汚い花火になって弾け飛びなさいな」
ティオレンシアの宣告とともに、後方に抜けた敵機が大爆発を起こした。
「……そう言えば」
一仕事を片付けたミッドナイトレースの機上で、ティオレンシアはふと思い至る。
「卒業試験こんなになっちゃったけれど。色々とどうするのかしらねぇ……」
アルストロメリア小隊はキャバリアを全機喪失。
ベラドンナ小隊は直接の戦闘は避けられたものの損耗が軽視できるレベルではなく、もはや士官学校に卒業試験を行う余裕はないだろう。
だが、それでは彼女たちは一体どうなるのか。
限りある青春の一ページを締めくくるはずが、こんなことになってしまった学生たちが。
そう思っているところへ、通信のコール音が鳴り響いた。
ティオレンシアが通信を繋ぐ。コールの相手は卒業試験の指導教官だった。
「お疲れ様です、ティオレンシア教官。取り急ぎですが、ひとつご報告がありまして。
今、よろしいですか?」
指導教官も状況は把握しているはずだが、その状況で何を報告するのだろう。
内心穏やかでないものを感じつつ、彼女はその先を促した。
「いえ、実は卒業試験のことなのですが。
アルストロメリア小隊所属の学生の回復を待った上で、科目を変えて実施することとなりました」
「……あらあら」
「しかし、何分本校の開校以来初めてのことですので、ノウハウも人手も足りなくなると思います。
ティオレンシア教官のお知恵と時間もお借りすることになりますが……」
なるほど、どうやら百合の花は存外したたかなようだ。
忙しさと騒がしさの予感を感じつつ、ティオレンシアの口元は緩んでいた。
成功
🔵🔵🔴
ソフィア・エルネイジェ
あの機体が放つ重圧、並大抵のものではありませんね
アルストロメリア小隊のキャバリアをオブリビオンマシン化させたのは、恐らくあの機体でしょうか?
人の気配は無しと見ました
討つべき敵は明白です!
インドラ!貫きますよ!
これより先はナイトオブリージュで参ります
敵の最も注意するべき点は回転衝角にございましょう
まずは盾で守りを固め、ショットガンの左右交互射撃で敵の出方を伺います
散弾の弾幕に怯まず突進してくるなら良し
こちらも真正面からお相手致します
ナイトランスを構え、イオンスラスターで加速して突撃
突撃の間もショットガンを連射して敵の動きを抑制しましょう
敵の回転衝角はラウンドシールドで受け止めます
当然ながら盾は破壊されてしまうでしょう
ですが受けた直後にサイドブースターを噴射し、軸を僅かに横にずらします
盾の破壊を代価として突撃し、槍を突き立てます
インドラ!そのまま押し込んで噛み付くのです!
そして断罪の瞬光を接射しましょう
その機体から湧き出る憎悪は!インドラの雷が討ち滅ぼします!
●雷の機械神、降臨す
「あの機体が放つ重圧、並大抵のものではありませんね」
エルネイジェ王国第一皇女にして士官学校臨時講師、ソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)は戦場に屹立するアークレイズ・ディナの姿に並々ならぬものを感じていた。
猟兵たちの攻撃により、装甲は歪み、砕け、武装にも数々の傷が生じている。
だが、それでも。
戦場に放たれる重圧感は下手な敵など及びもよらないものだ。
間違いなく戦場の王と言える存在であり、そうであればこそ、アルストロメリア小隊のキャバリアを全てオブリビオンマシン化させたのはこの機体であると断言することができるだろう。
そして、強烈なまでの機動性を見て確信する。
「人の気配は無しと見ました。討つべき敵は明白です!」
ソフィアは、機械神とも呼ばれる乗機『インドラ』に手にする槍を振りかざさせた。
真白き槍の切っ先が光を反射してきらりと光る。
それは、神の光のように清らかだ。
「インドラ!貫きますよ!」
インドラは一声吠えると、倒すべき敵へと向かっていった
この戦いにおいて、インドラは別の装いで参戦していた。
その名は『ナイトオブリージュ』。
この形態では機体背面に副腕を装備し、実体を持つ騎乗槍『RX-Bナイトランス』と、耐ビームコーティングを施された円形の盾『EP-Bラウンドシールド』を保持している。
更には『RS-Aアームショットガン』も装備。
背面の『EP-Bサイドイオンブースター』の大出力で敵の懐に飛び込み打ち砕くその様は、まさに強襲形態と言うに相応しいものがあるだろう。
だが、ソフィアは円盾を構えながら、相手の様子を見ることを選んだ。
盾の端からショットガンの銃口を突き出し、左右交互に放つことで弾幕の密度を確保する。
「相手がライフルやアンカーをメインに戦うつもりなら、ランスで正面から戦うには少々不利です。
そのあたりを見極めなくては」
無論、ナイトオブリージュを選ぶにあたり、相手の性向は加味したつもりである。
だが、決め打ちで挑み、窮地に陥るのも避けたいところではあった。
「ですが、恐らくアークレイズは……」
ソフィアが言いかけた時、敵機に動きがあった。
一度後方へ退いたかに見えた機体が、再び前方へと突っ込んできたのである。
左右交互射撃の弾幕を浴びせかけるが、相手の動きに変化はない。
むしろ、そのような小細工を正面からねじ伏せる、という意志すら感じさせた。
自然と、ソフィアは微笑んでいた。
「その意気や良し! こちらも真正面からお相手致します!」
噴射する正イオンによって得られた爆発的な加速を背に、槍をかざしたインドラがアークレイズ・ディナへと一直線に突っ込んだ。青いプラズマ光を発しながら、流星となる。
一方のアークレイズ・ディナもまた、これを良しとした。
傷だらけのドリルソードランスを構え、猛烈な回転音を立てながら真っ向から迫る。
どちらも当たれば必殺の武器である。
いかに敵の攻撃を回避しつつ、自分がそれを叩き込むか。
両者の戦闘の帰結はそれにかかっていると言っても過言ではないだろう。
インドラがショットガンを放つ。
直接敵機に当てるというよりは、敵の行動を制限する牽制用途だ。
「つまらぬ搦め手などさせません。どうせ突撃するなら正面からでしょう」
敵機の機動がインドラの側面や後方に及ぶのを防ぐためである。
それを回避することで、自然とその矛先はインドラの正面へと向けられる。
そして双方の意図通り、ついにインドラとアークレイズ・ディナは正面からの激突を迎えた。
機先を制し、槍を突き込んだのはアークレイズだった。
甲高い回転音が叫び、周囲の空気を巻き込みながら必殺の一撃を放つ。
「その回転衝角には、こうです!」
インドラは手にした盾を突き出した。
円形の形状は、古くから攻撃の勢いを受け流す形状として広く用いられている。
貫通さえしなければ、攻撃の矛先は弧によって滑ってしまうのだ。
だが、貫通したならば?
その答えはすぐに得られることとなる。
ドリルソードを受けて僅か0.3秒で盾は貫通されてその役目を終えた。
「ですが、それは予想通りです!」
その時アークレイズ・ディナが見たのは、槍をかい潜り前進するインドラの姿だった。
何が起きたのか、0.3秒前に巻き戻してみよう。
ドリルソードランスとラウンドシールドが接敵する瞬間、ソフィアは素早くコンソールを叩いた。
側面のサイドブースターに光が灯り、横方向の加速度がソフィアの身体を襲う。
そう、彼女は盾が壊されることを前提に、横への回避を選んでいたのである。
そして盾の円形の形状によって、僅かにドリルの切っ先の軸は逸らされることとなる。
インドラの表面を撫でる程度へと。
摩擦によって側面装甲が火花を上げるが、その程度はかすり傷。
「今度は私の番です! 押し通りますよ!」
ナイトオブリージュの副腕が、無防備になったオブリビオンマシンの機体腹部へ、ナイトランスを押し込んだ。
巨大な金属が機械油を撒き散らしながら上げるのは苦悶の軋み。
互いの相対距離と相対速度がゼロになる。
「インドラ!そのまま押し込んで噛み付くのです!」
獣脚類の恐竜を思わせるインドラの巨大な顎がくわっと開いた。
機械の竜は、その鋭い牙をもってオブリビオンマシンの喉元へと食いつく。
その絶大な咬合力は装甲に穴を開け、拉げさせる。
オブリビオンマシンは、まさに肉食獣に食いつかれた獲物という状態である。
その口の間から、兇悪な光が漏れる。
それは機械神による断罪の光……!
「その機体から湧き出る憎悪は!インドラの雷が討ち滅ぼします!」
ユーベルコード【|断罪の瞬光《ライトニングバスター・ラディカルレイ》】。
古の機械神神話において、断罪の雷と呼ばれる高圧電流砲の一撃が、アークレイズ・ディナを貫くのであった。
成功
🔵🔵🔴
カーバンクル・スカルン
あ? C格納庫が一部損壊!? 内側から? 分かった、すぐ戻る。……教官すまんね、どうやらチェック漏れが起きてたみたいだ。ご希望通りこんなとこで道草食ってないでさっさと戻るわ。あ、代わってくれた子ありがとねー。
駆け足で格納庫に戻ったら、人気のないところで【執行合体】を起動させる。強化対象は攻撃、代償は攻撃回数に設定!
『Code:Cavalierover, approved』
他の人達の対応に追われているオブリビオンマシンの背後から強襲して右腕に装着しているワニの顎でしっかりとホールドしたら、デスロール・マシーナリーも起動させて振り回しながらあちこちに叩きつけていく。整備班として、この位置でその腕じゃドリルソードランスの穂先が届かないのは把握済みだよ!
非正規雇用だったとはいえ何人か生徒達と交流してたことだし、卒業式の日までしっかりと勤務。わざわざ格納庫まで来てくれた子達とは会話を交わそう。
いないと思うが、引き抜きを試みる子がいたら|営業《グリモア猟兵》見つけて直接交渉しなさい、とあしらうかな。
●ローリング・クロコダイルと、ひとつの別れ
「……」
「……」
卒業戦闘演習の管制室には重苦しい沈黙が垂れ込めていた。
先程までアルストロメリア小隊のキャバリア暴走に必死で対処していたこの部署であるが、全機を鎮圧したと思ったら、更に新手が現れたのである。しかも今度は新顔だ。
ある者は思考を放棄し、またある者は事態を見極めようと逆に思考を巡らす。
カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)は、その中では思考を巡らす側であったが、懐のスマホが鳴り、それを中断する羽目になった。
「ごめん、格納庫からだ。ちょっと出るわ」
そう言うと、先程まで占領していた管制室の一席を離れて電話に出る。
電話口の声は、随分狼狽している。
それを落ち着かせるように、彼女は努めて静かな声で受け答えに努めた。
「はい、こちらカーバンクル・スカルン。はい、はい。大丈夫大丈夫、ゆっくりね。
あ? C格納庫が一部損壊!? 内側から?
……分かった、すぐ戻る」
ぷつりと電話を切ると、彼女は一度管制室への席へと戻った。
席の傍らには、難しい顔をした指導教官と、おどおどとした表情の通信担当の女生徒が待っていた。
「電話は済みましたかカーバンクル・スカルン?」
若干険のある声をスルーしつつ、カーバンクルは少し深刻な声色を作る。
「……教官すまんね、どうやらチェック漏れが起きてたみたいだ。
ご希望通りこんなとこで道草食ってないでさっさと戻るわ」
「そ、そうですか。別に、その、希望してるとまでは言いませんけれど……」
思ったよりあっさりと、指導教官はカーバンクルの退室を認めた。
正直、もう少し食いつかれることも覚悟していたが、何だかんだでこの教官も育ちのいいお嬢様気質だったのかもしれない。
お嬢様学校という環境に感謝しつつ。
「あ、代わってくれた子ありがとねー」
と女生徒に手を振り、カーバンクルはその場を後にした。
ぱたん、と後手で管制室の扉を閉めると同時に、彼女は全力ダッシュ。
士官学校にいる間に覚えた近道やショートカット手段を駆使し、来た道を戻る。
そうして辿り着いたのは、彼女の根城である格納庫であった。
中は破損したアルストロメリア小隊機の受け入れ準備で忙しかったが、既に勝手知ったるというやつで、すいすいと奥へと入っていく。
たまに声もかけられるが。
「あ、その部品は第二ハンガーの裏。同じ箱積んでるから持っていっていいよ」
「うーん、発注急かしてるんだけどねぇ。もっかい電話しといてくれる?」
的確に、てきぱきと答えていなしていく。
その奥の小さい倉庫へと入り、鍵を締めた。これで完全に自分以外の人目はない。
窓を開け、外への進路を確保し……カーバンクルはひとつのコマンドを唱えた。
『Code:Cavalierover, approved』
一方その頃。
オブリビオンマシン、アークレイズ・ディナは戦闘の真っ最中であった。
既にダメージは蓄積し、あちこちに損傷を受けてはいるが、その度に反撃や戦域からの徹底離脱を行うというやり方で、致命傷そのものは逃れ続けていた。
そうして幾度目かの離脱の後。
突如、アークレイズは後方からの衝撃を受けたのである。
戦域から逃れたはずが、別の戦域に突入していたのか。
走査が甘くなっていたセンサー範囲を再定義し、後方へ視点を向ける。
そこに在ったのは、一機のキャバリアだった。
だが、普通のキャバリアとは訳が違う。
紫煙と歯車が組み合わさった機械、懲罰機エレキラー。
スクラップから生まれた機械仕掛けのワニ。
そしてカーバンクル。
今の彼女は、ユーベルコード【|執行合体《コード・キャバリアオーバー》】による三身合体によって誕生した鋼の機神なのだ。
その右腕は、巨大なワニの|顎《あぎと》となっていた。
鉄屑で構成された乱杭歯『RX-Bクロコダイルファング』がぎらり、と光る。
その先端は、アークレイズ・ディナの肩の装甲を貫き、機体へと食い込んでいた。
右腕を根本から咥え込んだ格好である。
「これが今回の目玉! 攻撃力マシマシのワニの顎だよ!」
ユーベルコード【執行合体】は、合体の度に細かい性能のカスタマイズが可能である。
今回カーバンクルが選んだのは攻撃力。
機械仕掛けのワニのパワーを最大限に活かし、オブリビオンマシンに確実にダメージを与えるための選択だ。
「ただ、いかんせん小回りが利かなくてさ。当てるために小細工させてもらった……ってわけ!」
オブリビオンマシンに噛みついた、ワニの顎が回転を始める。
ワニの口の構造は喰らいつくことに向いているが、一方で噛み砕くには不向きである。
この欠点を補い、獲物を解体・呑み込むために生み出されたのが俗に「デスロール」と言われる、回転することでその肉を噛みちぎる必殺の一撃なのだ。
そして、それはカーバンクルと一体化した機械仕掛けのワニにも受け継がれている……!
回転するワニの顎に、アークレイズ・ディナが巻き込まれる。
この際、下手な獲物よりも頑丈なのが不幸であった。
ワニの膂力をもってしても引きちぎることのできない機体は、その回転をもってぐるぐると振り回されてしまったのだ。
「やっぱ振り回したぐらいじゃ破壊できないか。それじゃ、その状態であちこち叩きつけたらどうなるかなっ!」
カーバンクルは、敵を回転させたまま手近の丘へと叩きつけた。
そのまま左右に振り回しながら、丘をただの土塊へと変えていく。
それはもはや攻撃というよりは、オブリビオンマシンというハンマーをもって繰り出される地形破壊と言ったほうが適切かもしれなかった。
無論、アークレイズ・ディナも抵抗を試みた。
右腕に握られているドリルソードランスを振り回し、振りほどこうとする。
だができない。
「整備班として、この位置でその腕じゃドリルソードランスの穂先が届かないのは把握済みだよ!」
振り回すには、どうしてもその腕に食い込んだワニの顎が邪魔となる。
可動範囲は事実上ゼロであり、後方から食いついたカーバンクルを攻撃できないのだ。
ランスを左腕に移そうにも、デスロールの最中では不可能に近い。
詰んだ、と言っても過言のない状況であった。
「それじゃとどめ!バラバラになれ!」
回転状態のまま、敵機を大地へと叩きつける。
その装甲はもはや超回転と打撃に耐えられず、次々と拉げ、砕けていった。
だが、致命傷とはならない。
「あいつ……右腕を切り離した!そこまでする!?」
あえて右腕を切り離すことで、致命的なデスロールをようやく逃れたのである。
巻き上がる土煙の中、ほうほうの体で敵機は戦域を離脱していく。
「ま、いっか。 機体のダメージ的にあんな真似はもうできないだろうし。
そこまで持っていけたことでよしとするかー」
カーバンクルはそう言うと、速やかに戦域を離脱するのであった。
そして、しばしの時間が流れた。
仕事に戻ったカーバンクルは、搬入されたアルストロメリア小隊機(残骸含む)を巡り、その検分につきあわされたり、オーバーホールや共食い整備を行う羽目になって激務の日々を送ることとなった。
だが、それもどうにか目処がついて、卒業式の日を迎えた。
「お疲れ様です、カーバンクルさん! 短い間でしたがありがとうございました!」
「そっちもみんなお疲れ様。まさか契約満了前日までフルで働かされるなんてね」
格納庫の中で、カーバンクルは駆けつけた何人かの同僚と語らっていた。
士官学校潜入時にカーバンクルの選んだ身分は「非正規雇用のメカニック」だった。
その契約満了日は卒業式、つまり今日である。
彼女は卒業生とともに、自分も学校を去ることにしていたのである。
「まあ、私たちも勉強になりました。些か横紙破りの傾向があるとは言え、あの事件の中で貴女が取った行動は適切だったわけですし」
「というか、指導教官まで来るとは……」
この場に駆けつけていた指導教官は、僅かに頬を緩めた。
短い付き合いとは言え、彼女が笑うのを見るのは初めてだ。
「あの時はやり合いましたけど、貴女のことは評価していたのですよ?
……本当は、直接雇用を申し出るつもりだったのですが、それは止めておきましょう」
おや、とカーバンクルは声を漏らす。
本当は「|営業《グリモア猟兵》見つけて直接交渉しなさい」という台詞も用意していたのだが。
「貴女は多分、あの時のような現場でこそ輝く方です。
ならば、私たちが縛るのは違うのかな、とそう思ったのですよ」
そう言って、指導教官は右手を差し出す。
「お元気で、カーバンクル・スカルン。貴女の道行きに幸運がありますように」
「そっちこそ、今度こそ平穏な学校生活が送れるよう祈ってるよ」
カーバンクルはその手を握りかえす。
その上に、同僚たちの手が次々と重なっていった。
大成功
🔵🔵🔵
リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【SPD】
※アドリブ等歓迎
※愛機搭乗
なるほど、ディナ型が病巣…OK、生体反応なし
百合の花畑を荒らす害獣は駆除させてもらうよ
…生憎ディナ型は交戦経験が豊富でね?
◆戦闘
生徒達への市街戦手本を意識
オペ1番【アサルト・ヒート】で超高速機動
但し飛ばずに【マギ・M】併用で地表滑走
【カイルス】で挙動予測しつつ《操縦/瞬間思考力/応用力》活用
【G・アライアンス】の思考操縦で校舎間を縫う様に追い込み
両主腕の【D・バレル/スカベンジャー(連射)】で攻撃
本命はD・バレルによる【D・バレット】の『侵蝕プログラム』注入と
建物の影へ回り込んだ【グラン・A】のビーム実体複合刃による裁断
※敵機爆発による各種被害抑制が目的
◆戦後
出立前に2章以降も目撃してたサユリとガチ百合逢瀬
アタシなりにキミの道標は幾つか示したつもりさ
…何故か学校の七不思議扱いだけどね♪(クス)
でも『捕食』で開花した硬軟諸々の素質は本物
アタシが居ない時も堂々大きな胸を張りなよ
時々往診するし、イイ娘にしてたら…ね♡
※ファルマコン院章型の装飾等で義姉妹の契り
●断たれる狂風、そして百合は咲き誇る
「なるほど、ディナ型が病巣……」
愛機『ナインス・ライン』のコクピットに座するリーゼロッテ・ローデンヴァルト
(|KKS《かわいくかしこくセクシー》なリリー先生・f30386)は、この戦場に突如として現れ、幾多の猟兵と交戦してきたオブリビオンマシンをそう分析していた。
アークレイズ・ディナは過去にも複数回の交戦歴がある機体であり、猟兵にも比較的知られているオブリビオンマシンなのだ。
とは言え、今回はパイロット周りがイレギュラーな案件だ。
彼女は、慎重に眼前のアークレイズ・ディナのデータを分析にかける。
戦闘時の微細な行動、機動によって敵機にかかる瞬間的なGの推測値等々。
リーゼロッテが自ら施した電脳改造が、戦闘中のそうした演算を可能としていた。
そうして、導き出された結論はと言うと。
「OK、生体反応なし。まあ予想された結論だけどね」
敵機は無人機である、という結論だった。
つまり、これまでの戦闘とは異なり、彼は純然たるオブリビオンということだ。
すなわち、そこには「何をしても良い」という結論も付随している。
「というわけで。百合の花畑を荒らす害獣は駆除させてもらうよ。
……生憎ディナ型は交戦経験が豊富でね?」
先に「アークレイズ・ディナは猟兵に比較的よく知られたオブリビオンマシンである」と書いたが。
その一翼を担っているのが、何を隠そうリーゼロッテその人である。
某山脈中腹部において、僚機とともに敵を追い詰めた際の経験は健在だ。
これからの戦闘を思い、リーゼロッテはぺろりと下唇を一舐めした。
「さて、見てる生徒たちもいるだろうし、ここは市街戦の手本でも見せようかな。
丁度、おあつらえ向きの廃墟もあるし……」
現在地から少し行った地点に、廃墟と化した旧校舎がある。
これは過去に使われながらも、本校舎と距離の離れた不便さから廃止されたものだ。
本校舎とは距離があることから、ある程度自給自足の態勢を組む必要があったため、規模はそこそこ大きい。市街戦には十分の立地だ。
一方で、アークレイズ・ディナの側にも事情があった。
彼は既に多くの猟兵と交戦したことで多くの損傷を負っていた。
中でも右腕の喪失は、アークレイズ・ディナの象徴とも言えるドリルソードランスの運用能力を喪失したことを意味していた。クロスレンジにおいての攻撃力の低下は、もはや隠しようもない。
だが、遮蔽物が多く、見通しのきかない市街戦であれば、まだ巻き返しようはある。
実弾とプラズマ弾の双方が運用可能なデュアルアサルトライフルも、生命力が吸収可能なテールアンカーも運用可能だ。
出会い頭にヒットアンドアウェイを繰り返せば勝機はあるだろう。
そう結論付けたアークレイズ・ディナは、半壊した機体を引きずって旧校舎で向かう。
こうして、リーゼロッテとアークレイズの市街戦は実現した。
「オペ1番、【|Op.I:ASSAULT HEAT《アサルト・ヒート》】起動。
高機動戦闘がそっちの専売特許じゃないってことを、見せてあげようかね」
ナインス・ラインの機体各所に搭載されたブースターが一斉に火を吹いた。
爆発的な加速力が機体に加わり、音速を超えた機体は旧校舎の敷地へ突入する。
しかも、その全てがリーゼロッテの思考とリンクすることで、微細な機動を可能としているし、それを所掌するのはユーベルコードの効力だけでなく、様々な分野で強化された反応能力だ。
建造物との衝突など無縁。
大型走行輪『マギ・メルキオール』によってコンクリート舗装を削りながら、入り組んだ路地を稲妻のように駆け抜けていく。
一方で、半壊したアークレイズは思うような速度を出せないでいた。
機体各所が既に悲鳴とエラーを断続的に上げているし、内部の構造の知識もない。
下手な速度を出せば市街戦以前に機体が自壊しかねない状況である。
市街戦を選択したロジックを、見直すべきだろうか。
それに着手する直前、アークレイズ・ディナを無数の弾丸が襲った。
咄嗟の回避は何とか間に合い、コンクリート舗装と旧校舎が標的の代わりに穿たれる。
射撃したのは、先に市街地へ突入していたリーゼロッテのナインス・ラインだ。
握る獲物は、先の長距離狙撃でも用いられた大型対物ライフル『ドミナント・バレル』と、大型ビームマシンガン『スカベンジャー』。
市街地で用いるには大ぶりにも見えるその銃身を軽々と振り回し、右の路地に現れたかと思えば、左の角から撃ってくるなど、変幻自在の攻撃を仕掛けてくる。
「ほらほら、鬼さんこちら。そんなへっぴり腰じゃアタシは捕らえられないよ?」
からかうように笑うリーゼロッテ。
無論、アークレイズ・ディナも黙ってはいない。
見つけた端からテールアンカーとデュアルアサルトライフルで反撃する。
その弾幕の密度は相応のもので、下手に顔を出せば一瞬で蜂の巣になりかねない。
「へぇ、その機体でよくやるねぇ」
ほんの少しだけ感心しながらも、リーゼロッテは攻撃の手を緩めない。
そして、その終わりは訪れた。
幾度かの遭遇戦の末、アークレイズ・ディナが辿り着いたのはコの字型の袋小路だった。
「随分みんなを手こずらせてくれたみたいだけどさ。これで終わりだよ。
生憎、地理データはあったし、そっちの手も全部読めてたからね」
リーゼロッテは決して散発的に遭遇戦を繰り返していたのではなかった。
『事象推論型トゥルース・サイト『カイルス』』によってその全ての挙動が予測・計算され、リーゼロッテの思う場所へ行くように誘導していたのだ。
すなわち、逃げ場がない袋小路。
だが、それはリーゼロッテも同様のはずである。
アークレイズ・ディナの射撃能力であれば、通りの全てを弾幕で覆うこともできる。
そうなればカイルスの未来事象推論も無意味だ。回避できず破壊されるしかない。
だが、できなかった。
放つためのエネルギーが、収束しない。
この時、アークレイズ・ディナは気づいていなかった。
彼が遭遇戦で受けた弾丸が『デンジャー・バレット』の侵蝕プログラム弾であること。
そして、そのために攻撃力が極端に落ちていることにも。
もはや、彼には弾丸を放つ力すら残されていなかったのである。
アークレイズ・ディナの思考がゼロに満たされていく。
それは、人で言えば「絶望」という感情であることを知る前に。
「それじゃあ、さよならさ。
あの子たちの教材になれるんだ、少しは喜んでもいいんだよ?」
彼は、リーゼロッテが後ろに回り込ませていたビット『グラン・アウェス』のビーム実体複合刃のローターに裁断され、崩折れ果てた。
それから、しばらくして。リーゼロッテの根城である第4保健室。
「んっ……んんっ♡」
「ぁぁっ……リリーせんせぇっ……♡」
その片隅の白いベッドで、リーゼロッテとサユリ・ルベリウムが口づけを交わしていた。
事の起こりは、リーゼロッテが自身の「卒業」を告げたことである。
リーゼロッテはアークレイズ・ディナを倒し、事態を収めるべく投入された猟兵だ。
役目が終わったならば、また別の戦いへと赴く。
それは、この戦いの舞台である士官学校から去ることを意味していたが……知らせないまま去るのは、どこか気が引けたのかもしれない。
リーゼロッテはサユリに自らの真実を明かし。
どちらともなく抱きしめて、今こうなっている。
「アタシなりにキミの道標は幾つか示したつもりさ」
唇の間に銀の橋を伝わせながら、リーゼロッテはサユリに言った。
言葉の端々に、甘い熱が乗っているかのように、サユリの体温は上がっていく。
それに対し、「……何故か学校の七不思議扱いだけどね」とおどけつつ、リーゼロッテは真っ直ぐにサユリの目を見つめる。
どこか真剣なその表情に、サユリは目を反らすことができない。
「でも『捕食』で開花した硬軟諸々の素質は本物。アタシが居ない時も堂々大きな胸を張りなよ」
「先生……」
リーゼロッテと出会ってから、サユリの成績は目に見えて上がっていた。
それは座学のみならず、実技においてもである。
サユリはそれを「リリー先生が変えてくれた」と寝物語に語ったが、リーゼロッテに言わせれば、それは「自信がなくて実力を発揮できていなかっただけ」だ。
どちらにせよ、サユリにはそれだけの才はあったのである。
それでも、サユリにはまだ不安がある。
色々なものを与えてくれたリーゼロッテがいなくなればどうなるのか。
それに回答を与えるように、リーゼロッテはサユリの手に髪飾りを握らせる。
「はい、これ。アタシ流の義姉妹の契りの証……かな」
バレッタ部分には、リーゼロッテの率いる医療艇ファルマコンの紋章。
離れていても同じ旗のもとに。
「ありがとうございます……! ま、また、会えますよね……?」
サユリの問う声に、リーゼロッテは甘い囁きとともに答えた。
「イイ娘にしてたら……ね♡」
こうして、聖ヒルデガルト修道騎士団領士官学校における、オブリビオンマシンにまつわる事件は幕を閉じることとなった。
期せずして起きた猟兵の長逗留は、学生たちに多くの刺激を与えた。
もしかすると、新たな道を選んだ者すらいるかもしれない。
それは大きな事件として、この乙女の園で長く語り継がれることになるだろう。
だが、そもそもなぜこんな事件が起こったのか?
その答えは、まだ誰も持っていなかった。
大成功
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