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レイテナ第一艦隊護衛

#クロムキャバリア #人喰いキャバリア #レイテナ #日乃和 #鯨の歌作戦

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●鯨の歌作戦
 百年にも及ぶ戦乱が続く世界、クロムキャバリア。
 アーレス大陸の東洋に位置する島国の日乃和は、人喰いキャバリアと呼ばれる無人機群の襲来に曝され続けていた。
 発端となったのはアーレス大陸東部、現在のレイテナ・ロイヤル・ユニオン領内の地下空洞で発見された大規模なプラント群――ゼロハート・プラントの暴走。
 ゼロハート・プラントから出現した蝗害の如き人喰いキャバリアの大軍勢は、近隣のあらゆる政治共同体を喰らい尽くしながら拡大を続け、海を隔てた島国の日乃和にまで到達した。
 一時期は国家滅亡の窮地に立たされていた日乃和だが、反攻作戦の成功を着実に積み重ね、暁作戦にて西側一帯の国土を奪還し、人喰いキャバリアをほぼ完全に掃討する事に成功。いつ終わるとも知れない束の間の安寧を得た。
 だが日乃和を取り巻く状況は最悪を零に巻き返しただけに過ぎない。
 根源たるゼロハート・プラントを止めない限り、いずれまた日乃和は人喰いキャバリアに飲み込まれる。
 根源を断つには人類から打って出なければならない。
 人喰いキャバリア側にとって日乃和列島への橋頭堡となっている東アーレス半島を人類の手に取り戻す。
 それが、日乃和とレイテナ・ロイヤル・ユニオンが標榜する反攻の為の第一歩である。
 同盟関係を結ぶ両政府は東アーレス半島の奪還を目的とした特別軍事作戦の発動を宣言。
 作戦名は|鯨の歌《ホエール・ソング》作戦。
 東アーレス大陸全域における人類の生存戦略を左右する本作戦には、計画立案当初より猟兵の戦力が組み込まれる前提にあった。

●レイテナ艦隊護衛
「……という次第なんですって。改めまして、お集まり頂きまずは感謝を。依頼の内容を説明するわ」
 グリモアベースにて集う猟兵達を前に水之江は深く腰を折る。頭を上げると長杖を振るい、半島の三次元立体映像を宙に浮かべた。大陸の東側に張り出したその形状は朝鮮半島とよく似ている。
「雇い主は日乃和政府。目標はレイテナ第一艦隊の護衛よ」
 レイテナとはアーレス大陸の東部で大きな影響力を持っていた国家だ。雇用主の日乃和とは同盟関係にある。
 レイテナは人喰いキャバリアの出現で甚大な被害を受けながらも、同じく被害を受けて弱体化した東アーレスの諸国を強引に併合する事で国家連合を樹立した。
 それが現在のレイテナ、正式名称レイテナ・ロイヤル・ユニオンである。
「昨今のアーレス大陸の東側一帯は、ゼロハート・プラントって呼ばれてる大規模プラント群から無限に湧き出る無人機に襲われているんだけれど、それに対する反攻作戦を始めるんですって。作戦名は|鯨の歌《ホエール・ソング》作戦。今回の依頼は鯨の歌作戦の一環になるわ」

●艦隊死守命令
 立体映像は東アーレス半島の東側沿岸沖へと移り変わった。灯る幾つもの光点は艦艇を示しているようだ。
「鯨の歌作戦の全部を説明すると長くなるから依頼の点だけに絞って説明するわね。今回猟兵さん達にやって貰いたいのは、東アーレス半島東沿岸沖に展開したレイテナ第一艦隊の護衛よ」
 陸上部隊を支援するべく展開したレイテナ第一艦隊。この艦隊の砲撃支援を維持する事が鯨の歌作戦の要となる。
 陸上部隊は艦砲射撃を頼りに戦線を押し上げる。艦隊が面制圧を維持できなければ作戦は破綻。猟兵の役回りは間接的だが責任は重い。
「艦隊の損害が大きくなり過ぎると失敗になっちゃうから気を付けて。それと艦隊護衛と並行して旗艦のクイーン・エリザヴェートの撃沈は何としても防いでちょうだい」
 クイーン・エリザヴェートはレイテナ海軍の旗艦である。艦艇の種別としては戦艦だが、空母の機能も備えた巨大過ぎる船体は、船というより海に浮かぶ要塞だ。
「このクイーン・エリザヴェートにはレイテナ側の艦隊司令兼女王様、エリザヴェート・レイテナ女王陛下が座せになられているわ。要人を乗せてるというのもあるし、船自体が持つ戦力価値も非常に大きい……くれぐれも撃沈させないでね」
 旗艦の撃沈も作戦失敗条件の一つ。艦自体が非常に頑強であるからにして生半に沈みはしないだろうが、沈んだ時点で作戦の成否は決してしまう。
「まあ、猟兵さん達が大暴れしていれば敵の目は猟兵さん達に向かうわよ。むしろ猟兵さん達の攻撃に艦隊を巻き込まないように気を付けてね」
 レイテナ第一艦隊は砲撃陣形維持のため殆ど身動きが取れない。広域に及ぶ兵器やユーベルコードを使用する際には正確な敵味方識別能力が要求される。

●敵戦力
「今回の敵となるのはこちら、エヴォルグ量産機EVOLよ」
 生じた三次元立体映像は翼が生えた人間としか形容できない半生体キャバリアだった。
「見た目通りに優れた飛行能力持ちで機動力も高い。触腕を分裂させて伸ばす攻撃の他にも侵蝕作用を持ったミサイルも撃ってくる。更には齧った対象の特性に合わせて適応進化できちゃう。これが物凄い数で押し寄せてくるわ。勿論全部オブリビオンマシン化してるわよ」
 敵の総数は旅団規模どころでは済まないという。単独で艦艇を沈めるほどの火力は持たない。だが数という圧力は艦隊を粉砕するに足り得る。
 数的不利から如何にして護衛対象を守護り抜くのか。各々猟兵に戦術が問われるだろう。

●黒い幽霊
「それから予知で見たんだけれど……」
 水之江は暫し言い淀んでから再度口を開く。
「黒い何かが飛んでたわ。捉えられないほどのスピードでね。まるで幽霊みたいだったわ。敵はEVOLだけじゃないかもね」
 より危険度の高い敵が待ち構えているのだろう。数ばかりではなく質への対処も求められるのかも知れない。

●友軍
「次は味方の戦力について説明するわね。まずは日乃和海軍の第六独立機動艦隊から……」
 同艦隊旗艦の大鳳は空母能力で補助的な支援を担う。
 戦艦の三笠は攻撃的な支援を行う。
 大鳳の艦載キャバリア部隊である白羽井小隊と灰狼中隊は個艦防御や火力支援など要請に応じて柔軟な支援が可能だ。

●友軍の友軍
「続いてレイテナ第一艦隊。先にも言った通りやられ過ぎるか旗艦が沈んじゃうとゲームオーバーだから気を付けて」
 レイテナ第一艦隊は旗艦クイーン・エリザヴェートを中心として戦艦ウォースパイト、空母イラストリアスなど様々な艦種が数多く展開している。
「キャバリア戦力は少ないわね。スワロウ小隊っていう独立部隊が旗艦の直掩に当たってるそうよ」
 防空の要は猟兵だと想定した方がよいだろう。

●作戦領域
「次は作戦領域についてね。今回の作戦領域は海上になるわ。護衛対象の船が犇めいてるから飛べない泳げないキャバリアは船を足場にするといいんじゃないかしら? 大丈夫、その位なら文句言われないわよ」
 洋上である為に殲禍炎剣の照射判定高度には余裕がある。勿論これは敵側にも言える事だ。

●ブリーフィング終了
「それから今回の依頼は作戦開始の一週間前に現地入りして貰うわ。着替えやお風呂セットを忘れないでね。こんなところね。苦しい護衛任務になると思うけど報酬はたっぷり出るわ。やってみる? よろしければ契約書にサインをどうぞ」
 水之江は嫋やかに腰を折った。
 東アーレス半島の開放が成されれば、日乃和に渡海する人喰いキャバリアの橋頭堡は挫かれ、レイテナの反撃の足掛かりとなるだろう。
 鯨の歌作戦は新たな戦端を切る為の序奏。
 鋼鉄の巨鯨達が歌う海で、猟兵達は如何なる戦律を奏でるのか。


塩沢たまき
 レイテナ編開始シナリオとなります。宜しくお願いします。
 以下は補足と注意事項です。

●目標=レイテナ第一艦隊と旗艦クイーン・エリザヴェートの護衛
 第一章と第二章を通しての目標となります。

●第一章=集団戦
 出現する敵勢力を排除してください。
 敵はエヴォルグ量産機EVOLです。圧倒的な数で襲来しますので敵味方入り乱れた乱戦は免れないかと思われます。
 効果範囲が広域に及ぶ攻撃手段の使用の際は護衛対象への被害にご注意ください。
 戦域は海上となります。
 護衛対象の艦艇を足場にする事も可能です。
 作戦開始時刻は正午過ぎ。天候は晴れ。波の高さは穏やかです。

●第二章=ボス戦
 出現する敵を排除してください。

●第三章=日常
 レイテナ第一艦隊と共に海軍基地への帰路へ就きます。道中は自由にお過ごしください。

●第六独立機動艦隊
 日乃和海軍隷下の艦隊です。作戦領域へ猟兵を送迎したり戦闘中は要請に応じた支援を行います。
 空母の大鳳の艦長は葵・結城大佐。
 戦艦の三笠の艦長は佐藤・泉子大佐。
 白羽井小隊の隊長は東雲・那琴少尉。
 灰狼中隊の隊長は尼崎・伊尾奈中尉。

●レイテナ第一艦隊
 護衛対象となります。
 被害が拡大し過ぎると作戦失敗となります。
 旗艦のクイーン・エリザヴェートを中心に多種多様な艦艇で構成されています。
 火力の殆どを地上部隊の支援に傾けているので自衛攻撃しかできません。対空防御に当たるキャバリアの数も少ないようです。

●クイーン・エリザヴェート
 レイテナ第一艦隊の旗艦です。要塞のように巨大です。艦種は戦艦ですが空母の機能も有しています。
 簡単には撃沈しませんが撃沈されると作戦失敗となります。
 艦長はブリンケン・ベッケナー大佐。
 艦隊司令のエリザヴェート・レイテナ女王が乗艦しています。金髪まな板のじゃロリ。

●スワロウ小隊
 レイテナ軍所属の独立部隊です。
 クイーン・エリザヴェートの直掩に就いています。敵の物量に苦戦中です。
 隊長はテレサ・ゼロハート少尉。アークレイズに乗っています。白髪で胸がでかい。
 隊員は全員が隊長と同じ容姿をしています。イカルガに乗っています。

●その他
 高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
 キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
 ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
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第1章 集団戦 『エヴォルグ量産機EVOL』

POW   :    フレッシュエヴォルミサイル
【レベル×100km/hで飛翔しながら、口】から、戦場全体に「敵味方を識別する【分裂増殖する生体ミサイル】」を放ち、ダメージと【侵蝕細胞による同化と侵蝕】の状態異常を与える。
SPD   :    エヴォルティックスピア
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【体】から【分裂増殖したレベル×10本の触腕】を放つ。
WIZ   :    EVOLエンジン
【レベル×100km/hで飛翔し、噛み付き】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【進化した機体、EVOL-G】に変身する。

イラスト:すずや

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●指揮者達
 秋口を迎えた日乃和西州北西部の白昼は、未だ夏の名残りを色濃く引いていた。日乃和列島と東アーレス半島の間に跨る日乃和海から吹く潮風が、岩江海軍基地の埠頭に横付けされた艦艇達に穏やかな波を寄せる。
 基地に居並ぶ艦艇の中でも一際威容を放つ巨大戦艦があった。
 かの船の名前は|大和武命《ヤマトタケル》。
 大和武命を一言で表すなら海上に浮かぶ要塞だ。駆逐艦など小舟と見間違えてしまうほどの巨大な船体は、徹底して重装甲化と重武装化が施されている。レイテナのクイーン・エリザヴェート、バーラントのグラーフ・ツェッペリン等と並んで全アーレス海に名を轟かせる艦艇の一隻でもある。
 要塞艦などという捏造された艦種分類で呼ぶ者もいれど、国内外において誰もそれを否定しない。事実として大和武命が持つ価値は戦艦の域に留まらなかったのだから。
 そして同型艦でより新しく高性能な武蔵と信濃を差し置おいて、日乃和海軍の旗艦の座を与えられた大和武命は、時に政治を巡る場面においても特別な役割を果たす。

 大和武命艦内の大会議室は軍艦らしく飾り気の無い無骨な作りだ。要求される機能に特化した空間は居る者の佇まいを引き締める独特の緊張感に満ちている。
 室内中央の楕円形の長机を境にして向かい合うのは日乃和陣営とレイテナ王室陣営。
 日乃和側からは鈴木健治内閣総理大臣を筆頭に東雲正弘官房長官、第六独立機動艦隊の葵結城と佐藤泉子が出席している。
 そして|白木矢野《しらぎやの》――大和武命の艦長その人の姿もあった。
 鋭く細い双眸に納まる黒い瞳からは、如何にも堅物の職業軍人らしい気配が伺える。強かに鍛えられた肉体を日乃和海軍式の将校服が覆い、襟元では大佐の階級章が照明の光を返す。オールバックに固められた黒髪は草臥れた中年男性とは無縁の艶やかさだ。
 彼等の他には外務省長官と各軍の幕僚も揃って席に着いている。いずれの面子も鯨の歌作戦の実務に携わる者ばかり。この会合の目的が国家間の馴れ合いなどでは済まされない証左だ。
 対するレイテナ側の顔触れも日乃和と大差は無い。だがひとつだけ決定的な相違点があった。
 レイテナ陣営の中央の座に、女児とも少女とも判別し難い歳頃の子供が堂々と腰を据えていたのだ。
 柔らかな金の長髪は毛先で縦の螺旋を巻いており、瞳には海の青が潤んでいる。宝石や貴金属を多用した服飾を纏う身体付きは小柄な少女と言い表す他に無い。長机の上まで頭を出すのに足りない座高は二重三重に敷いたクッションで補っている。
「四割じゃとぅ……?」
 一見場違いな少女――エリザヴェート・レイテナは不満たっぷりと言った顔を鈴木に向けた。
「申し訳ありませんが、現状の我が国が捻出可能な戦力枠の精一杯でして……」
「足りぬ足りぬ足りぬ! たーりーぬー! 全く足りぬわぁー!」
 眉宇をハの字にして首を下げる鈴木に対し、エリザヴェートは刃物のような黄色い声を振り回す。
「|暁作戦《オペレーション・ドーンブレイカー》では七割寄越したじゃろ! もしや鈴木! 妾への恩義を忘れたではあるまいな!?」
「滅相も御座いません! ですがエリザヴェート陛下、我が国は暁作戦で喪失した人的資源を回復しきれていないのですよ」
「日乃和ではアンサーヒューマンのクローニングを急ピッチで進めておるのじゃろう? 使えばよいじゃろうが!」
「あのですな女王陛下……人材ってもんはそんな簡単に取り戻せるもんでも無けりゃ育つもんでも無いんですよ」
 エリザヴェートの隣に座る男が言葉を選びかねている鈴木の代弁者となった。
 体格の良い中年男性で、短く丸刈りにした髪はレイテナ人によく見受けられる金髪だ。収穫を終えた小麦畑のような顎髭が目立つ。軍服に付けた階級章は大佐のそれだった。
「言い訳など聞きとうないわ! ブリンケンは黙っとれ!」
「いいえ黙りませんとも。言い訳ではなく現実の問題ですので」
 喚き散らすエリザヴェートとは対照的にブリンケンは落ち着いた物腰を崩さない。
 ブリンケン・ベッケナー。
 レイテナ海軍旗艦、クイーン・エリザヴェートの艦長だ。
「それに加えて例の恫喝文章の件もありますからな」
 ブリンケンが言う恫喝文章とは、かつて猟兵と第六独立機動艦隊が協働して大津貿易港を占拠するテロリストを排除しようとした直前、猟兵を介して日乃和政府に届けられた文書だ。
「内容は確か……大津貿易港にいる潜水空母艦への攻撃は即刻中止しろ。さもなくば相応の報いを受けてもらう……でしたかな?」
 ブリンケンの尋ねに「ええ」と東雲が短く肯定を返す。
「しかもバーラント機械教皇アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダの署名付きだったとか?」
「あの年増の教祖め……! いつもいつも邪魔立てばかりしおってからに……!」
 アナスタシアの名前を出すとエリザヴェートは露骨に顔を顰めた。
「その点については機械教皇庁執行官のエクシィ・ベルンハルト一等執行官がアナスタシア聖下の関与を否定しています」
「しかしじゃあ誰が書いて送ってきたんだと……そういう問題ですかな?」
 東雲はブリンケンに無言で頷いた。
「送り主がテロリストにしろ、機械教皇庁以外のバーラントの派閥にしろ、送り付けられた以上は無視も出来ませんわな」
 日乃和陣営が一様に頷く。
 大津貿易港の潜水空母艦は猟兵の多属性魔力粒子砲と155mmクラスター焼夷弾頭、そして超重力波砲の直撃を受けて完膚なきまで破壊されてしまった。
 だが結局今日に至るまで相応の報いとやらは訪れていない。
 理由は海上警備の網目を細かくした事もあるだろう。猟兵に海上や街中を彷徨かせた事もあるだろう。だが今まで報復を妨げていた理由は数あれど、今後も報復されないなどと言う保証はどこにもない。
「なので今は海上監視の穴を開けてまで戦力を捻出する訳にはいかないのですよ」
 どうか分かってくださいと頭を低くしてお伺いを立てる鈴木。
「という訳ですので聞き分けてやくれませんかね? 我らが敬愛するエリザヴェート女王陛下?」
 ブリンケンの援護射撃が加わった。エリザヴェートは深い溜息を吐き出す。
「仕方ないのぅ……じゃが戦力不足は変わらんじゃろう? |オペレーション・ドーンブレイカー《暁作戦》の時ですら人喰いキャバリアの海渡りを抑えるので精一杯だったのじゃぞ? あの時より少ない戦力でどうやって東アーレス半島を取り戻すつもりなのじゃ?」
「猟兵を雇用し、この戦力を投入します」
 東雲が放った簡潔な言葉が室内の空気を張り詰めさせた。
 猟兵――ユーベルコードを操る凄腕のパイロット、あるいは生身でキャバリアと渡り合う超人。生命の埒外たる彼らは、クロムキャバリアにおいては希望の象徴とされている。
「ほう? イェーガーを?」
 ブリンケンが顎髭をなぞり、東雲に値踏みするような眼差しを向ける。
「ふん……イェーガーの御伽噺など妾は信じぬぞ」
 エリザヴェートは鼻を鳴らして顔を背ける。
「エリザヴェート陛下も日乃和から貰った記録はご覧になったでしょう?」
「イェーガーは御伽噺。機械神の秘めたる力も御伽噺。御伽噺はしょせん御伽噺じゃ。でなければ人喰いキャバリアなど、妾とトールがとっくに駆逐しておったわい。父上と母上だって死なずに済んだわ……」
 碧眼に慚愧の湿潤を見たブリンケンはそれ以上の追求を飲み込み、日乃和陣営の方へと顔を向けた。
「私も映像資料は何度も拝見させて貰いましたがね、実際のところどこまで使えるもんなんです? そのイェーガーってのは」
 猟兵が日乃和で残した戦績はあらゆる形で記録されており、レイテナ側も提供を受けている。だがブリンケンとしては鵜呑みにし難い内容だった。もし記録の全てが正しいのであれば、猟兵はアーレス大陸の軍事均衡を根本から崩壊させかねないほど強力な力を有している事になるからだ。
「ブリンケン艦長のお尋ねが力量という意味であれば、未知数と言わざるを得ません」
 東雲の語りの滑り出しは慎重だ。だが黒い瞳には確信の光が宿っている。
「ですが、絶望的な戦況を覆すだけの力を有している点について疑いを挟む余地はありません。事実、彼等は沙綿里島の防衛や暁作戦において、其方に提供した資料通りの働きを見せています」
 淀みない言い切りにエリザヴェートまでもが息を詰めた。
「では、東雲官房長官殿から見た猟兵というものは?」
 ブリンケンが訝しく問う。
「如何なる状況下であろうと、確実に任務を遂行する存在……我々は猟兵をそのように認識しています」
 東雲の声帯から放たれた圧力は誰にも有無を言わせなかった。大会議室の空気が静まり返って皆が皆口を開けないでいると、耐えかねたブリンケンがやっとの思いで薄い笑顔を作って見せた。
「根っからの軍人としちゃあ、もっと具体例を聞かせて頂きたいもんですな。せっかくイェーガーと作戦行動を共にした方々がいらっしゃるんですから。出来たらそちらの妙齢の艦長様から……」
「わ……私でありますか?」
 唐突に振られた指名に泉子は肩を跳ねさせた。
「軍神三笠の艦長を務める佐藤泉子大佐の勇名はレイテナにも伝わっておりますんで。どうです? この後食事でもしながらゆっくりと聞かせて――」
「弁えんかこのスケベオヤジが!」
「あいだっ! ヒールでっ! 踵は……!」
 机の下でエリザヴェートがブリンケンの脚を力一杯に蹴り出したらしい。情けない悲鳴と共に大の大人が背中を丸めて震わせた。泉子は決まりが悪そうに苦く笑う事しか出来なかった。隣の結城まで困り眉を作って淑やかにはにかんでいる。
 終始口を噤んでいた矢野は、頭の中で東雲の言葉を反芻し続けていた。
 猟兵。
 生命の埒外にある者達。
 ユーベルコードを根拠として理不尽を理不尽で捩じ伏せる戦闘集団。または個人。
「分岐路の鍵を握るのは、今回も彼等だろうな……」
 人知れず口から呟きが漏れる。東雲の耳はそれを聞き逃さなかった。
「ま……捻出する戦力に関しちゃ、こちらとしても偉い事を言えんのが実情ですがね」
 ブリンケンが脛を摩りながら言う。
「ではやはりユニオン議会の承認は取り付けられないと?」
 鈴木が渋面を作る。ブリンケンが肯定したからだ。
 現在のレイテナは、ユニオン議会とレイテナ王室の併存する二つの政治機関によって政治混乱の渦中にある。
 レイテナ・ロイヤル・ユニオン樹立の際に発足したユニオン議会は王室が持つ政治権限を全て議会側に譲渡させる法案の強行採決に踏み入ったが、王室と王室に強い繋がりを持つ政治派閥や軍閥の妨害を受けて否決となった。
 この結果に被併合国出身者達は旧レイテナ派の事実上の一党独裁政治だとして猛反発。
 与党は批判を抑え込むための代替案として、以下の条文を含んだ法案を提出し、可決させる事で一旦の妥協点に着地させた。

『レイテナ王室の遍く政治判断の実施には、ユニオン議会の承認を求む』
『ユニオン議会の遍く政治判断の実施には、レイテナ王室の承認を求む』
『ただし、国家の緊急事態の場合は承認を省略可能なものとする』

 しかしレイテナ王室とユニオン議会は、国家の緊急事態を事由として互いの承認を待たずに法令や軍の防衛出動権の強行発動を繰り返した。
 双方の関係はより軋轢を深め、国民と軍は二つの政治機関の狭間で振り回される事となった。
 一つの社会で二つの政治機能が共存し合う事は無い。互いが互いを滅ぼし合うだけだ。猟兵とオブリビオンがそうであるように。
「軍部の意向は?」
 鈴木が問うと、ブリンケンは腕を組んで椅子に背を預けた。
「私を含めた旧レイテナ出身の連中はエリザヴェート陛下に同調する姿勢を見せておりますな。残りは日和見と議会派が半々ってとこですが」
「よろしいのですかね?」
 ブリンケンは多様に解釈出来る鈴木の言葉を噛み砕いた後、組んだ腕を解いて気さくな笑みを作る。
「軍人ですからな。御上の決定に従うまでです」
 軍人としてやるべき事をやらせてくれるなら、上司など誰だって構わない。ブリンケンの発言はそういう意図だと解釈した矢野は深く瞑目する。
「ふん、批判と揚げ足取りが仕事だと思ってる議会のジジババどもなど捨て置けばよいのじゃ。奴等は何も決められぬ。ただの税金泥棒じゃ」
「騒がしいのは陛下も同じですがな」
「なんじゃとぅ!? 不敬罪じゃぞ!」
 頭に痛い声を張るエリザヴェートを鈴木が宥め賺す。
「しかし我々レイテナはいいとして、そちらの日乃和様方こそよろしいんですか? ユニオン議会を無視して王室と足並みを揃えたとなれば、ユニオン議会からの風当たりも強くなるどころでは済まんでしょう?」
「我々はレイテナ王室もユニオン議会も一つのレイテナ・ロイヤル・ユニオンと認識しています」
 東雲が重く低い声音で明確に言い切る。
 やるべき事をやらせてくれる方の味方か。頼もしくも油断ならない隣人だな。特にこの男……東雲正弘は国益の事しか頭に無いと見える。ブリンケンは胸の内に生まれた失笑を瞬きひとつで押し込んだ。
「じゃが、議会の連中が足を引っ張りあっている今がチャンスでもあるじゃろう? 妾達がゼロハート・プラントを手に収めれば、日乃和とて付き合う相手に悩む事もあるまい?」
 エリザヴェートは僅かに顎を上げて鈴木に視線を送る。
 ゼロハート・プラントの確保。それはレイテナと日乃和両陣営の共通目標だ。
 人喰いキャバリア問題の解決はゼロハート・プラントの確保と同義。ゼロハート・プラントを確保した陣営が東アーレス大陸の覇権を握る事は間違いない。そして被った損害と犠牲を贖う唯一の手段ともなる。
 鯨の歌作戦は、人類の反撃の序奏であるのと同時に、ゼロハート・プラントを巡る争奪戦の序奏でもあるのだ。
「そうですねぇ……我が国とエリザヴェート陛下がゼロハート・プラントを抑えれば、東アーレスから無意味な争いを一掃する切掛ともなりましょう」
 念を押すように抑揚を強めた鈴木に「わかっておるわ」とエリザヴェートは鬱陶しそうに応じた。
「単独でゼロハート・プラントを取れんのは互いに同じじゃろうて」
 それはどうかな? 猟兵の力を以てすれば――机の一点を見詰める東雲の内心を看破出来た者はいない。
「じゃが……ユニオン議会には渡さぬ。あそこは今やバーラント派も蔓延る魔窟じゃ。この思惑は鈴木らも同じじゃろう?」
「勿論ですとも」
 頷く鈴木に表裏は無かった。バーラント機械教国連合に与する者には渡せない――これが、いつ相手に切り離されるか知れたものではない危うい同盟関係の下で、確実に保証された共通の認識。ゼロハート・プラントは覇道を拡大し続けるバーラントへの対抗手段にもなるのだから。
「ゼロハート・プラントは妾達が掴む。有象無象どもにも、ましてやアナスタシアの年増教祖なんぞには一片たりともくれてやらぬわ……」
 固い背もたれに背中を埋めたエリザヴェートは深く息を吐く。
 エリザヴェート・レイテナ。前女王の急逝に伴い14歳で即位した女王。幼い身体に乗る責務は重く、抱える野心は大きい。
●楽しい遠足の集合場所へ
 鯨の歌作戦発動まで、残り一週間。
 時間は正午。天候は快晴。ささやかに波立つ海面をカモメが滑るようにして飛ぶ。
 日乃和西州の沿岸沿い。日乃和海を臨む一大軍事拠点、岩江海軍基地の各埠頭には、鯨の歌作戦発動を控えた多数の艦艇が集結を進めている。その中には第六独立機動艦隊の大鳳と三笠の船体もあった。
「猟兵の皆様……この度は本作戦へのご協力、心より御礼申し上げます」
 埠頭に降り立った猟兵達の出迎えに、結城が嫋やかな身振りで腰を曲げた。
「私は空母大鳳の艦長、並びに第六独立機動艦隊の司令を務めさせて頂いております、葵結城大佐です。どうぞよろしくお願い致します」
 這うナメクジのように粘り気のある語り口に添えられたのは、蠱惑的かつ不気味な薄笑い。
「遠路遥々ご苦労! 猟兵諸君!」
 結城の隣に立つ女性将校から発せられたのは、湿り気を払うかの如く明朗な声音。
「三笠の艦長、佐藤泉子大佐である! よろしく頼む!」
 溌剌とした表情に冴えた敬礼は男顔負けだ。
「白羽井小隊隊長、東雲那琴少尉ですわ。コールサインはフェザー01。猟兵の方々、どうぞよろしく」
「灰狼中隊隊長の尼崎伊尾奈。コールサインはウルフ01……まあ、精々協力するとしようじゃないか……」
 結城の斜め後ろに控えていた那琴が敬礼し、伊尾奈が赤い瞳で猟兵達をなぞる。
「それでは大鳳へ機体と荷物の搬入を始めますのでご案内致します。艦艇の停泊に関しましては四号埠頭をご利用ください」
 結城は流し目を残しながら身体の向きを反転させる。泉子達も習って停泊中の大鳳の元へと足を進めた。
●死神は身構えていない時にこそ動き出す
 大和武命の艦橋の窓際に佇む矢野は、大鳳へ向かう結城達の背中を見下ろしていた。
「後藤大佐の忘形見と猟兵達か……」
 猟兵……超剛性プラスチックの窓越しに見る彼等が、暁作戦を成功に導いた事は矢野もよく知っている。当時は東アーレス半島近海で人喰いキャバリアの渡海を阻止していたのだが、日乃和側の戦況は定時連絡で逐次耳に入っていたからだ。
 そして首相官邸占拠事件を解決した者達である事も既知の内だ。
 大津貿易港での一件ではテロリストを完膚なきまでに叩き潰した。当時の猟兵達の戦績は国内外に向けて大々的に発信されている。
「如何なる状況下であろうと、確実に任務を遂行する存在……買い被りではなさそうだ」
 会談の場で東雲の口から出た台詞を無意識に反芻する。事実としてその通りなのだろう。
「気になりますかな?」
 隣に並んだ副長に、矢野は顔を動かさないままで「まあな」と答えた。
「愛宕連山、南州のプラント、沙綿里島、暁作戦……日乃和の未来の分岐路には常に猟兵が居たんだ。これで気にならないと言う方が無理じゃないか?」
 口元に気さくな微笑を作ると副長も同じ表情を見せた。
「さて、私は彼等に顔を合わせてくる」
 そう言って矢野が艦橋を出るべく扉に向かおうとした時、扉が開いた。と思いきや大慌ての様子の士官が駆け込んできた。何事かと動揺したのも一瞬。士官の顔色を見るのと同時に不穏な予感が膨れ上がる。
「白木艦長! こちらを! レイテナのクイーン・エリザヴェートからです!」
 突き出された紙を受け取る。最初の一行に目を通した矢野の双眸が険しく細められた。
「全艦長を緊急招集! 大和武命の作戦会議室に集合させろ! 猟兵も全員! 大至急だ!」
 窓枠を震わせる程の声量に、艦橋内の皆の背筋が跳ね上がる。
「どうなされました?」
 詰め寄る副長。
「人喰いキャバリアが動き出した」
 矢野の一言を受けた副長の顔から感情の色が抜け落ち、すぐに臨戦態勢の人間の顔へと転じる。
「レイテナの艦隊が……全滅するぞ……!」
 焦燥が眉間の皺となって苦く滲む。
『死神は、身構えていない時にこそ動き出すもんだ』
 旧い友人――後藤宗隆元大佐の声が頭蓋の中で反響した。
 
●緊急出動
 岩江基地に到着した猟兵達は、鯨の歌作戦の出撃に向けて空母大鳳への機体搬入作業を開始した。
 その矢先の緊急招集。招集に応じた猟兵達が案内されたのは、大和武命の作戦会議室だった。

 殺風景なまでに趣きを削ぎ落とした室内には、同じく招集を受けた各艦の艦長や高級将校が詰めている。結城と泉子の姿もすぐに見付けられた。
「猟兵各位との挨拶がまだだったな」
 壁に掛けられた大型モニターの前に立つオールバックの男が発した一声。全員が息を潜めたかの如く静まり返った。
「大和武命の艦長、白木矢野大佐だ。鯨の歌作戦では日乃和海軍の総指揮をやらせて貰う。宜しく頼む」
 海軍式の挙手敬礼に猟兵達はどう応じたのだろうか。矢野は姿勢を解くと傍に控えていた副長に目配せする。
「状況を説明する」
 副長が端末を操作するとモニターに東アーレス半島の地図が表示された。
「既に聞いている者も居ると思うが、東アーレス半島内陸部に集結中の人喰いキャバリアが一斉に活動を再開した」
 将校達の間に騒めきは起こらない。変わりに緊迫した空気が降りる。地図上の半島に人喰いキャバリアの梯団を示す光点が幾つも灯ったからだ。
「人喰いキャバリアは幾つかの梯団に分かれて南下を開始。目標地点はイーストガード海軍基地と思われる」
 半島の最南端に青い光点が表示された。
 イーストガード海軍基地とは、東アーレス半島に於ける現在唯一の軍事拠点である。鯨の歌作戦に捻出された日乃和の海軍戦力は、このイーストガード海軍基地でレイテナ第一艦隊と合流する予定だった。
「継続的な間引き作戦によって向こう二ヶ月は動きを封じ込められる目算だったが、我々の読みが甘かったという事だな」
 作戦の前提となる予測は裏切られた上で最悪に切迫している。暗に含んだ矢野の声音は低い。
「人喰いキャバリアの活動再開を受け、レイテナ軍は予定を繰り上げて鯨の歌作戦を発動した。よって我々も現時刻を以って鯨の歌作戦を発動する。作戦行動自体は当初の計画通りだ」
 モニター上の半島に南北を二分するようにして破線が渡された。38度線と呼ばれる第一次攻略目標らしい。加えてイーストガード海軍基地の周辺に友軍を示す青い光点が出現し、陸と海に別れて北上を開始、人喰いキャバリアを示す赤い光点と衝突して停止する。
「では現在のレイテナ軍の状況を説明する。イーストガード海軍基地への敵軍侵攻を阻止するべく、レイテナ軍の地上部隊が基地の正面に防衛線を敷いた。艦隊は東アーレス半島東沿岸部に展開し、面制圧で地上部隊を全力支援している。早急の問題はレイテナ第一艦隊だ」
 友軍の地上部隊と衝突していた赤い光点の半数が東進して海上へと向かい、レイテナ第一艦隊の所在を示す光点を取り囲んだ。
「地上側の敵航空戦力の殆どがレイテナ第一艦隊に誘引されたらしい。お陰で地上での戦況はそれなりに優勢を維持出来ているようだが……敵の海上戦力の異常な増大が深刻だ。このままではレイテナ第一艦隊の壊滅はほぼ確定だろう」
 地上優勢は海上からの手厚い砲撃支援ありきのもの。それが無くなれば作戦が破綻する。矢野が言わんとしている所は、猟兵達が事前に聞かされていた話しと同じだ。
「我々日乃和艦隊は当海域に急行、レイテナ第一艦隊を援護しなければならない。だが我々はまだ艦隊編成が完了していない状況だ。現時点での進捗は四割ほどとなっている」
 本来ならば一週間あった猶予期間が一瞬で零となったのだ。これを見通しの甘さと批判するのも当然であろう。かといって批判が岩江基地を目指して航行している艦艇の船足や、物資搬入作業を加速させる要素になり得るでもない――表情筋を強張らせる泉子を含め、殆どの艦長達が同じ所感を抱いていた。
「しかし傍観するという選択肢は無い。我々は艦隊編成進捗の六割達成を目処とし、作戦領域に向けて出撃する」
 断じた矢野に将校達は横目で視線を伺い合う。元より不足していた戦力。今すぐ出撃しても焼石に水。良くて共倒れ。だが悠長に戦力集結を待っていればレイテナ第一艦隊は壊滅し鯨の歌作戦は破綻。六割という数字は危うい綱渡りの数字なのだろう。
「併せて第六独立機動艦隊の大鳳と三笠には特別任務を与える」
 矢野が結城を見据えて言い放つ。将校達の挙動が固まり、視線が結城へと集束した。
「先んじて出撃し、本隊の到着までレイテナ第一艦隊を死守せよ」
 薄い笑みを浮かべて緩慢に瞬く結城。隣の泉子は口許をきつく結んで顎を引く。
「葵艦長、佐藤艦長、出撃は可能だな?」
「可能でございます」
 結論ありきで問うた矢野に、結城は嫋やかな口運びで答える。
「はっ!」
 泉子の声は射る矢のようだった。
「待ってください矢野艦長! 二隻だけですか!? それでは死にに行けと言って――」
「両艦の特別任務には猟兵に同行してもらう」
 言葉尻を遮られた将校は口を開けたまま身を硬直させた。
 猟兵。
 その名詞は誰しもの声を失わせるだけの価値を持つ。
「猟兵とは、如何なる状況下であろうと確実に任務を遂行する存在……東雲官房長官はそう言っていた。私も同じ認識だ」
 将校達が沈黙する最中、矢野の黒い眼差しが猟兵一人一人の目を巡る。
「やってくれるな?」
 尋ねると表現するにはあまりにも確信めいた低い声。果たして猟兵達はどう応じたのだろうか。
 承諾した者もいれば拒否した者もいたかも知れない。沈黙する者もいただろう。買い被り過ぎだ、付き合い切れないと退出した者が続出したとしてもおかしくはない。或いは異なる案を提示した者だっていたかも知れない。
 考え得るあらゆる反応があったのだろう。だが、いずれにせよ矢野が続けた言葉は変わらない。
「大鳳と三笠、猟兵各位は出撃準備が完了次第直ちに出撃。他の全艦は出撃準備を急げ。以上だ」
 矢野が両足の踵を揃えて挙手敬礼すると、取り巻きの将校達も一斉に動作を真似る。作戦会議室に軍靴の音が轟いた。
 
●ホエール・ソング
 銀色の太陽を抱く空と海は、際限なく澄み渡っていた。
 空との境界線が曖昧になってしまいそうなほど青い海原に重低音が轟く。
 大気を震わせるそれらは規則的に連続し、かつ絶え間なく繰り返される。まるでコーラスのように。
 歌っているのは、東アーレス半島の東沿岸部海域に集結したレイテナ第一艦隊。
 旗艦クイーン・エリザヴェートの元に群れを成す鋼鉄の巨鯨達が、主砲の首をもたげ、爆轟の歌声を奏でる。
 時折空の彼方からか細い光が伸びて火球が華開くのは、高速飛翔する砲弾が殲禍炎剣の照射判定高度に触れたからであろう。
 絶対の審判者たる殲禍炎剣には何者も抗えない。例え猟兵であろうとも、オブリビオンであろうとも。
 だが殆どの砲弾は有罪判決の下限寸前を潜り抜けて地表へと到達する。赤黒い火柱が立ち昇る度に幾多の人喰いキャバリアが粉微塵に爆ぜた。
 艦砲射撃による圧倒的な面制圧力。蹂躙と呼ぶに相応しい飽和火力が、イーストガード海軍基地を目指す人喰いキャバリアを撃ち払う。そして海上からの支援を受けた地上部隊が前へ前へと戦線を押し返す。
 一方的な戦況。視野を地上に絞れば誰もがそう考えたであろうし、間違いではない。
 だが、海上での戦闘もまた一方的だった。
 レイテナ第一艦隊の各艦から黒煙と緋色の火線が天に向かって伸び、艦隊の真上を覆い尽くす笠雲に吸い込まれてゆく。
 しかしそれは笠雲ではない。なぜならば、笠雲は深い緑と鮮やかな赤を混濁させた色彩にはならないし、ましてや渦巻くようにして蠢くなどあり得ないからだ。
 笠雲を形成しているのは水分の細かな粒ではなく、膨大な数の人喰いキャバリア――エヴォルグ量産機EVOLだった。

 大和武命が海に浮かぶ要塞なら、クイーン・エリザヴェートは海に浮かぶ王城と言えるだろう。
 UDCアースで言う所の西洋文化圏の城の意匠を取り入れた船体の輪郭は、戦闘兵器にしては些か優雅が過ぎる気配もあった。金属質な照り返しを放つ青い線の塗装が尚更な印象を強調付けている。事実、女王の移動宮殿として運用される艦艇であるからにして、見栄えにも気を使う必要があったのだろう。
 こうしてEVOLの襲来に曝されて満身創痍では形無しだが。
「ニューカッスル損傷拡大! 戦闘続行不可能との事!」
「ウォースパイトより入電! 対空ミサイル残弾無し!」
「フォーミダブルの艦載機部隊、全滅しました!」
「敵総数尚も増大中! 測定値限界を超過!」
 クイーン・エリザヴェートのブリッジには凶報ばかりが届く。
「ユニコーンが集中攻撃を受けています!」
「スワロウ小隊は回せんのか?」
 切迫した面持ちで報告する通信士に対し、艦長席に深々と腰を据えたブリンケンは務めて落ち着いた声音で応じる。
「駄目です! 本艦の防衛で手一杯で……!」
 クイーン・エリザヴェートの船体に僅かな振動が走る。ブリンケンが殆ど条件反射で「被弾状況はどうか!?」と声を発した。
「右舷二番カタパルトに敵の侵蝕誘導弾が多数直撃! 構造の侵蝕変異が始まっています! 右舷二番カタパルト使用不能!」
「浄化作業を急がせろ。酷いようなら切り離せ」
 凶報が入った側から凶報が舞い込んでくる。そして凶報が新たな凶報を呼ぶ。ブリンケンは参ったなと内心で溢しながら凝り固まった眉間を指で摘んだ。
「うぬぬぬぬぅ……! 妾の艦隊がボロボロではないか……!」
 隣の司令席ではブリンケンの悩みの種がいよいよ癇癪を起こそうとしていた。
 小さな暴君――エリザヴェート・レイテナ女王が肘掛けを掴んで身体を震わせる。白い歯が覗く口は食い縛られており、吊り上げた眉から察するに憤怒は爆発寸前といったところだろう。
「いやはや、まさか向こうの航空戦力が全部こっちに振り向けられるとは」
 ブリンケンがお手上げだと身振りで示してみると遂に暴君が弾けた。
「ぬぁぁぁにを呑気に言っておる! 主砲じゃ! 主砲で蹴散らすのじゃ!」
「なりません。砲撃は全部地上部隊の支援に回さにゃなりませんのでね」
「一本くらい構わんじゃろう!? 妾の頭上を埋め尽くしている不届き者に目に物を見せてやれ!」
「陛下、そいつは海に角砂糖を溶かすようなもんです。なら一本でも多く陸に向けて撃ってやった方がいい。主砲を一発撃ち込む毎に陸の連中は一歩進めるんですから」
「陸軍が進む前に妾の艦隊が全滅してしまうわ!」
 エリザヴェートは頭に痛い黄色の声を振り回す。操舵士や砲雷長達が思わず首を引っ込め、ブリンケンが如何ともし難いと顎髭をなぞる。
「艦長! ユニコーンより救援要請! 敵機が艦内に侵入! 被害甚大との事!」
 メインモニターに出力された映像は、多数のEVOLに取り付かれた空母の姿。飛行甲板上で甲板員が携行武器で応戦するも殆ど意味を成さない。空母は既に人喰いキャバリアの餌箱でしかなく、甲板上に限らず内部の船員までもが次々に捕食されてゆく。
 その有様を目の当たりにしたエリザヴェートは、泣き出してしまいそうな、或いは悔しくて堪らない苦悶の表情に顔を歪める。
「ええい! もうよい! トールを用意させるのじゃ! 妾が直々に出る! バケモノどもめ! トールの雷で焼き払ってくれるわ!」
 司令席を立ったエリザヴェートが右腕を横に薙ぐ。
「ですから陛下! トールは修理中だと何度もお伝えしているでしょうが!」
 ブリンケンの荒んだ怒声が叩きつけられると、エリザヴェートの小さな両肩が跳ねた。
 かと思いきや附せた顔が陰り、身体が小刻みに震え始める。
「なら……なら妾は……妾はどうすればよいのじゃあぁぁぁ〜!」
 膝を崩してへたり込んで嗚咽する。大音量の泣き声がブリッジ中に反響し、ブリンケンを含んだ誰もが堪らず渋面を作った。
 ブリンケンがやっちまったと後悔するも先に立たず。助けを求めて周囲に視線を流すが誰も頑なに目を合わせようとしない。泣かせた当事者が責任を取れと言いたげな無言の圧力が立ち込める中、エリザヴェートの両肩を支えて立ち上がらせた。
「エリザヴェート陛下、将兵達の前でそんなわんわん泣くもんじゃありませんよ。レイテナ・ロイヤル・ユニオンの偉大なる女王様でしょう?」
「うるさいうるさいうるさい……! ブリンケン、お前なぞ不敬罪でギロチンの刑じゃ!」
「そりゃ恐ろしいですな。ではさっさと終わらせてどうぞ首を刎ねてやってください」
「さっさと終わらせられるなら苦労しとらんわ!」
 エリザヴェートがブリンケンの胸に顔を埋めた。続いて鼻をかむ音が続いた。ブリンケンは声を殺して悲鳴を上げた。将校服にべったりと張り付いた粘液が光沢を放っている。
「まあまあ、もう暫くの辛抱ですよ。白木艦長が大和武命で駆け付けてくれるでしょうから」
「もう暫くじゃと? もうちょっとでも待っておれぬわ! こうしてる間にも妾の兵がバケモノどものエサになっておるのじゃぞ!」
 やっと司令席に戻ったエリザヴェートだが、目元を拭う度に雫が流れ落ちる。口許は鼻水で惨事になっていた。
 ブリンケンからしてエリザヴェートが言う事もご尤もではある。レイテナ第一艦隊には最早一刻の猶予も無い。すぐにでも日乃和艦隊の援軍が到着しなければ壊滅の縁を飛び越えてしまうだろう。
 だが恐らく援軍は間に合うまい。一週間後の予定だった大規模軍事作戦の発動を何の前触れもなく今日に繰り上げたのだから。レイテナ側としてはそうせざるを得なかったとしても、海を隔てた島国の日乃和側が急激な変化に対応し切れると考えるのは楽観が過ぎる。情報伝達の速度という障害もある。殲禍炎剣によって広域通信網が失われているからだ。
 戦いとは常に理不尽を強いてくるものだ――艦長席に身体を落ち着けたブリンケンは新たな凶報を聞きながら、やるせなさを握った拳に篭めた。
 二本の光芒が戦場の空を突き抜けたのはその時だった。
 青白い光は粒子の軌跡を残しながら直進。レイテナ第一艦隊の頭上を覆うEVOLの笠雲に突入して風穴を開けた。自分たちの頭上には青空が広がっている事を思い出したのも束の間、開いた穴はすぐに埋まってしまう。
「プラズマビーム……? どこからだ!?」
 呆気に取られていた自分を取り戻したブリンケンが観測手を問い質す。
『レイテナ第一艦隊へ、こちらは日乃和海軍、第六独立機動艦隊所属、大鳳です』
 返ってきたのは嫋やかで粘質な女性の声。
「大鳳!? 葵艦長か!?」
 ブリンケンの口角に驚嘆が滲む。
「五時の方角に反応有り! 数は2! 識別信号の照会完了! 大鳳と三笠です!」
 メインモニターに皆の目が集う。長大な弧を描く水平線を越え、波濤を引き裂いて進む二隻の艦艇の映像が流れた。
『二連装メガビーム砲! 撃ち抜けぇぇぇぇい!』
 三笠の艦首に備わる砲塔が青白く閃き、稲妻の如き荷電粒子の光条を伸ばす。先に戦域を駆け抜けた時と同じく、EVOLの笠雲を貫いて青い大穴を広げた。
「にっにににっ!? 二隻だけじゃとぉぉぉ〜!?」
 途轍もない大声を張り上げたエリザヴェートが司令席から飛び降りる。
「鈴木のタヌキオヤジめぇぇぇー! 謀りおって! 妾を切り捨てるつもりじゃなぁぁぁー!」
「落ち着いてください陛下。あれは第六独立機動艦隊の二隻ですよ」
 ブリンケンはなるべくやんわりとした口調で宥めようとするも、癇癪を起こした女王はモニターを指差して怒鳴り散らすばかりであった。
「たった二隻で何が出来ると言うのじゃ!」
「肝心なのは船じゃありません」
「なにぃ?」
 含んだ意味を汲めなかったエリザヴェートが眉間に皺を寄せて首を大きく傾げる。
「連中を連れてきているはずです」
 ブリンケンの目には確信の光が宿っていた。
「第六独立機動艦隊が連れて来た猟兵……第六猟兵を」
 思い出したかのように目を丸くしたエリザヴェートの頭がメインモニターに向く。
 大鳳から飛び立つ色とりどりの光跡は、キャバリアが放つ推進噴射の光に他ならない。
 
●テレサ・ゼロハート
 友軍のキャバリアが次々に堕とされてゆく。
 一体のEVOLを相手取る内に二体が迫り、二体を撃破した頃には三体に組み敷かれてしまう。戦術の有無は関係ない。敵の数が多過ぎるから。奴等は知恵という盾を数という暴力で無理矢理壊してしまう。
 イカルガを捕らえたEVOLはコクピットのハッチを噛み砕き、触腕を用いて搭乗者を器用に引き摺り出す。そしてEVOL同士で我先にと奪い合い、千切れた人体を喰らう。
 人喰いキャバリアとの交戦時には幾度も繰り返される光景。テレサ・ゼロハートの紺碧の瞳も同じ光景を何度も見届けてきた。
「はぁっ……く……ぅ!」
 アークレイズのコクピットの中でテレサが胸を荒く上下させて喘ぐ。肌に張り付く白い前髪を手で拭えば、汗ばむ額のぬめった感触がパイロットスーツの保護皮膜越しにでも伝わる。
 戦闘開始からどれだけの時間が経過したのだろう。戦闘適性に特化した作りのレプリカントの身体ですらこんなに苦しいのだから、他の人達はもっと苦しいはず。私達が頑張らなければ……フットペダルに乗せる足に力を入れた。
 アークレイズが腰部のスラスターから青白い噴射光を靡かせて海上を滑走する。後方には裂けた白波とテレサが率いるスワロウ小隊のイカルガが続く。
『スワロウ01! あの集団が! クイーン・エリザヴェートに向かってます!』
 隊員のイカルガがアサルトライフルの火線を伸ばす。その先をテレサの視線が追う。編隊紛いの群れを構築したEVOLが低高度からクイーン・エリザヴェートに迫りつつあった。
 旗艦への接近を阻止するべく、テレサのアークレイズが電磁投射突撃銃を向ける。だが銃口は躊躇いがちに降ろされた。
「だめ……船に当たっちゃう……!」
 EVOLの集団の直線上にはクイーン・エリザヴェートの横腹がある。
 接近戦で落とさなければ。EVOLの集団は艦からの対空砲火を受けて数を擦り減らしながら更に接近する。背後を追うアークレイズ。背負う大型推進装置のロケットブースターの噴射光を炸裂させて急加速した。
 交差した刹那に閃いた青白い一閃。アークレイズの左腕から生じた荷電粒子の刃が、EVOLの胴体を真っ二つに切り裂く。
 得た加速でEVOLの集団を追い越し正面に回り込む。両肩部のスラスターを瞬間的に噴射して機体の向きを急速反転させる。常人ならば耐えきれない重力負荷が、テレサの身体を操縦席に磔とした。
「う、ぐぅぅぅ……っ!」
 苦悶に奥歯を噛み締めてトリガーキーを押し込む。突撃銃から連続発射された電磁加速弾体がEVOLの集団を貫き、穴だらけにして失速させる。同じくして側面に回ったイカルガ達が横殴りの弾雨を浴びせた。機能を停止したEVOL達は海面へと着水。水柱の奥に沈む。
「スワロウ01より小隊全機へ……フォーメーションを組み直します! 私のところに集結してください!」
 突撃銃の弾倉の再装填操作を行う傍ら、整える間もない息遣いで声を張る。常に視界に入り込む敵の姿にロックオンマーカーを重ね、操縦桿のトリガーキーを引く。テレサのアークレイズが青い電流の軌跡を伸ばすと隊員達のイカルガも同調し、弾幕の壁を形成した。
『こちらスワロウ09! 援護お願いします! 誰か!』
 合流するべく接近中だった二機のイカルガにEVOLの集団が襲い掛かる。一機は後退推進しながらアサルトライフルを応射するも、別方向から飛来したEVOLに抱き付かれて海中に没する。
 もう一機はビームソードで追撃を振り払うが群がる誘導弾から逃げ切れない。装甲や翼に食い込んだ生体弾頭から血脈が拡がり、機体への侵蝕が始まった。
「スワロウ05! 機体を捨てて!」
 アークレイズが飛び出す。被弾したイカルガから生えた無数の蔓状の触手が狂喜乱舞する。
『あぐぅッ゛?! おなか、入って……! いやっ……やだ溶かさないでぇッ!』
 近接戦術データリンクを介して表示された映像は、コクピットに侵入した深緑の触手に全身を刺し貫かれ、体内に侵蝕因子を直接注入されている|テレサの姿《・・・・・》。
「スワロウ05! テレサ!」
 無数の蚯蚓のような何かがパイロットスーツの保護皮膜の下で蠢く。体内を這い回る侵蝕因子が遺伝子情報を書き換え、人体を溶かして生体制御装置に再構成しているのだ。
『テレ、サ……たすけ……て……』
 遂に触手が身体を内部から食い破って生じた。赤黒い血を吹き溢す口が求めた助けは掠れて弱々しい。テレサが手を伸ばすとイカルガも同じく手を伸ばす。その腕を掴むかのようにしてアークレイズもまた手を伸ばした。
『ごめんなさい、テレサ……!』
 だが伸ばした手が取られる事は無かった。アークレイズの左腕に装着された荷電粒子剣発生装置が青白い光球を発射したからだ。光球はイカルガを直撃して炸裂。閃光と共に機体を打ち砕いた。
「あぐ……ぎっ、いぃッ! ひぅ……… ッ…ぐ……ぇ……ああああぁぁッ!」
 同隊のイカルガを撃墜した瞬間、テレサは背中を逸らし、胸を押さえ、目を剥いて絶叫した。
 注入された侵蝕因子が体内を這いずり回り、臓器を溶かされ、肉体を作り替えられた際に受けた感覚――痛み。嫌悪。恐怖。それらが濁流となって脳と身体に流れ込む。周囲の|テレサ達《・・・・》もまたテレサと同じ断末魔をあげている。
 機能停止した個体のあらゆる蓄積情報を周囲の同一個体に転送する。それがゼロハート型レプリカントに備わる機能のひとつ。
『スワロウ……07、よりスワロウ01……ユニコーンが……やら、れて……!』
 絶え絶えの呼吸でやっと報告した隊員。テレサはEVOLに群がられている空母に視線を向けるが、首を横に振る事しか出来なかった。
「いま……私達が、行ったら……クイーン・エリザヴェートの、防空が……」
 だから見殺しにするしかない。喉が締め付けられているかのように苦しい。
 この痛みも苦しみも、全部私達に対する罰なんだ。
 もう何人殺したのかも分からない母親から……ゼロハート・プラントから産まれた、私達に対する罰。
 テレサ達は目と口を拭ってトリガーキーを引き続ける。戦う事が贖罪なのだと信じて。だが赦される事はあるまい。私達の母はあまりにも殺し過ぎた。忌子たる私達が赦される道など無い。なら苦しみ抜いて戦い続けるしか――人喰いキャバリアの笠雲に穴が開いた。
「荷電粒子の光……!?」
 頭上を抜けた蒼天の霹靂の如き光条に、テレサは思わず目を丸くしてしまう。咄嗟に光条が伸びた元を視線で辿る。二隻の艦艇の姿が目に入った。
「日和和海軍……!?」
 不意に口から漏れた声に疑念が浮かぶ。
 だけじゃない。この騒めく感覚はどこから?
 一瞬が何秒にも引き延ばされた時間の中で、テレサの青い瞳は一点に釘付けとなっていた。
「イェー……ガー……?」
 時の潮流が変わりゆく。
 
●嵐の前の
 岩江軍港を出立したのと同時に発令された第1種戦闘配置。白羽井小隊と灰狼中隊の各隊員達の機体は、最大戦速で航行中の大鳳の飛行甲板上で、刻々と迫り来る出撃の時を待ち続けていた。
 アークレイズ・ディナのコクピットの中に入ってどれほどの時間が過ぎたのだろうか? 1分? 1時間? ひょっとしたらまだ数秒かも知れない。薄暗闇の密室では自分の呼吸音が嫌に大きく聴こえる――那琴は昂る神経を抑えるべく、緩慢な腹式呼吸を繰り返す。
 東アーレス半島を北北西に臨む日乃和海の空は快晴だ。これから向かう先が人喰いキャバリア飛び交う死の海域だという現実を忘れてしまいそうになるほどに。
 しかし通信装置が伝える観測手や艦長達の声音が、待ち受ける現実を強かに突き付けてくれる。お陰で紺碧の海原に腑抜けさせられる心配をしなくていい。暫く前に台風の最中の演習を行なった身としては、海が青いというだけでも幾分肩の力が弱まるが。
 演習に付き合ってくれた猟兵は今回の作戦で雇われているのだろうか……目で捜すと、猟兵が乗るキャバリアの後ろ姿が目に止まった。メインスラスターのバーニアノズルが上下左右に蠢いたり窄まったり広がったりしている。出撃直前の機体動作確認に余念が無いらしい。或いは彼等だって落ち着かないのかも知れない。自分のように。
『お母さんが死んだ海かぁ……』
 通信装置の向こうで栞菜が呟いた。
 日乃和西州を奪還した暁作戦の折、艦長だった栞菜の母親は東アーレス半島の海で青葉と共に沈んだ。
 那琴は栞菜の母親との面識がある。この親にしてこの娘ありと言うべき栞菜にそっくりな母親だった。顔も性格も。
「栞菜……大丈夫ですの?」
『まぢむり。慰めえっちして』
「生きて帰れましたらね」
 心配して損した。那琴は露骨に含んだ溜息をわざとらしく盛大に吐き出す。誰かが声を殺して失笑していた。隊員だったのか猟兵だったのかは判らない。
 栞菜ばかりではなく三笠の佐藤艦長やお母様――葵艦長だってきっと同じ。この海で大勢の仲間を喪っているのだろう。自分達は死者を踏んで生きているんだ。誰一人の例外も無く。そう思えば、コクピットの隅の暗闇で誰かの手招きを幻視した。
「ごめんなさい、まだ其方には……」
 腹に響く重低音が幻を掻き消す。面持ちを上げると、遥か彼方の海原に視線が辿り着いた。
 微かにだが黒煙や何かの動体が見える。水平線の丘を越えた先で激戦が繰り広げられている事の証だ。空の上の上から時折降ってくる光線は殲禍炎剣であろう。
 戦域が近付くにつれて隊員達の息遣いが変わってきた。何度実戦を潜って来ても、作戦前のこの時間はやはり身体が強張る。
 猟兵達は……きっといつも通りなのだろう。世界どころか異世界を渡り歩いて戦っているらしい彼等からしたら、こんな状況なんて慣れっこなのかも知れない。世界そのものの存亡を賭けた相手……確か、オブリビオン・フォーミュラと言っただろうか……常人では想像もつかないような規模の敵と戦っているなら尚更。猟兵達にとって、自分達が直面している戦いなど片田舎の紛争程ですらないのかも。なのに今回も雇用契約を結んで来てくれた。
 理由は……給料が良いから?
 むしろそうであってほしい。でなければ増税に次ぐ増税で苦しんでいる市民が報われない。増税タヌキなどと仇名を付けられた鈴木おじさまだって同じ思いだろう。
 那琴の琥珀色の瞳が横に並ぶ伊尾奈のアークレイズ・ディナを見る。伊尾奈はずっと何も発していない。
 尼崎中尉は平気なのか?
「あの……尼崎中尉」
 疑問に思った時には無意識に訊いてしまっていた。
『あ?』
 機嫌の悪そうな低い声はいつも通りだった。尼崎中尉はこれが普段の調子なのだ。
「尼崎中尉は海外派兵の経験はおございますの?」
『この道二十云年、アタシはずっと引き篭もりでね』
「そうですの……ですが、落ち着いておられますのね」
『そんな風に見えるかい?』
 伊尾奈は鼻を鳴らして失笑を吹き消す。
『怖過ぎて今にもチビりそうだよ』
 冗談めかしているのか本音なのか判然としない。
「わたくしもですわ」
『初体験ってのは怖くて痛いもんだからね。腹括るしかないじゃないか』
 那琴にとって、品性の無い伊尾奈の言葉が今はとても頼もしく思えた。それに安心した。エースと名高い不死身の灰色狼だってちゃんと人間なんだ。尼崎中尉まで猟兵のようになってしまっていたらどうしようかと思っていた。
『はーい尼崎中尉ぃ、尼崎中尉の初めてってどんな人だったんですかー?』
 音声のみでも下品な話題が大好きな栞菜のにやけ顔が目に浮かぶ。那琴が咄嗟に嗜めるも伊尾奈の答えの方が早い。
『さあね? 多過ぎて覚えてないよ』
『んへ? 多過ぎってどういう?』
 栞菜と那琴は揃って目を丸くする。同じ通信帯域を聞いていた白羽井小隊と灰狼中隊の隊員達も同様に。猟兵達の反応は……それぞれである。
『便所で飯食ってたら|輪姦《まわ》されたから』
 那琴は空気が凍てつく音を聞いた。冗談にしか聞こえないが、躊躇無く言ってのけた伊尾奈の口振りは現実味に溢れている。
『作戦領域到達まで、残り10分――』
 お喋り出来るのはここまでだ。真相は後で……聞くか聞かないかを決めるのは任務が終わってからにしよう。那琴は口を結んで北北西の海上に目を移した。
『全艦へ通達! 本艦三笠は戦闘領域に侵入次第、メガビーム砲による砲撃を行う! この砲撃の目的は灰狼白羽井両隊並びに猟兵諸君が出撃する際の安全性を確保する事である!』
 泉子の声はよく通って聞き取りやすい。大鳳と並行して進む三笠の艦首砲塔が動き出した。
 戦いの時は近い。

●人喰い台風
 レイテナ第一艦隊の頭上は深い緑と暗い赤の雲で蓋がされている。雲の形をどのように形容するかは人の感性に依るが、栞菜はこう言った。
『こんなの、人喰いキャバリアの台風じゃん……』
 作戦領域到達までもう間も無く。水平線の丘を越えた第六独立機動艦隊は、ようやく敵を肉眼で捉えられた。
 コーラスのように規則正しく轟く砲撃の音。黒煙を上げる艦艇。絶え間ない対空砲火の破線。膨れ上がり消失する爆球。そして、人喰いキャバリアの群れ。
『沙綿里島の時とは比較になりませんわね』
 那琴が発した言葉に記憶を呼び覚まされた猟兵は居ただろうか。確かに比較にならない。密度も規模も。栞菜の言う通り、レイテナ第一艦隊が展開している海域は、人喰いキャバリアの台風の暴風圏内直下だった。
『あたし今日こそ死ぬかも』
 口に出さずとも那琴を含む白羽井小隊の隊員達、灰狼中隊の隊員達が思う所は栞菜と大差ない。
『人喰いキャバリアの本場は東アーレスだからね。アタシらがひぃこら死に物狂いで殺し回ってた奴らなんて、本場から漏れ出たお溢れに過ぎなかったって訳さ』
 抑揚の薄い伊尾奈の声音に諦観の色が滲む。
『作戦領域到達まで残り5分』
 大鳳の観測手は冷徹に現実だけを突き付けてくれる。
『灰狼白羽井両隊並びに猟兵の皆様方、出撃前の最終確認をお願いします』
 結城の薄寒い嫋やかさは変わらない。振る舞いからは恐れも躊躇いも微塵にさえ見受けられず、まるで結末を知っているかのようだった。
『ウルフ01より中隊全機、楽しい遠足の始まりだ。ビビってる奴は今のうちに薬打っときな』
『フェザー01より小隊全機へ! わたくし達がここに来た意味を! よく思い出しておきなさい!』
 生命の埒外に無い只人達が、それぞれに戦意と共に機体を立ち上がらせる。
『作戦領域到達まで、残り60秒!』
 刻まれる時を生命の埒外たる猟兵達はどう過ごしたのだろうか。恐れたのか、昂ったのか、平静だったのか。
 数秒間の静寂の後、遂に距離と時間は零に達した。
『作戦領域到達!』
『二連装メガビーム砲! 撃ち抜けぇぇぇぇぇぇい!』
 三笠の艦首に備わる二連装砲が泉子と共に咆哮した。莫大な熱量の二本の荷電粒子が箒星になって飛ぶ。大気による減衰効果を全く物ともせずに突き進んだ果てに、レイテナ第一艦隊の頭上を覆う人喰いキャバリアの台風を貫通。開いた大穴の先に青空が見えた。
『うそーん、一瞬で閉じちゃったじゃん……』
 栞菜が表情を引き攣らせる。開いた大穴がすぐに人喰いキャバリアによって埋められたからだ。されど三笠の砲撃は止まらない。意地でも撃ち抜くという泉子と砲撃手の執念が見て取れる。
『花道は三笠が切り開く! 結城艦長!』
『灰狼白羽井両隊、並びに猟兵の皆様は直ちに出撃を』
 結城の発艦許可を受けて漸く戦場に躍り出る。戦場の花――この世界に於ける究極にして最強の機動兵器、キャバリア達が。

●猟兵よ、東の海に歌うがいい
 紺碧を越えて辿り着いた海に、穏やかな波が走る。
 されど空は暗く、重い雲からは人喰いの嵐が吹き下ろしていた。
『全艦奮起せよ! 気合いだ! 気合いで撃つのだ!』
『アークレイズ・ディナ、尼崎伊尾奈……行くよ』
『アークレイズ・ディナ! 東雲那琴! 参ります!』
『猟兵の皆様……どうぞご武運を』
 結城の唇が喜色に歪む。
 因と果を結ぶ分岐路の選択権。それを握るのは猟兵達。
 彼等が奏でる戦律は、時の潮流をどこに運ぶのか。
 東アーレスの海に鯨の歌が響く。
フレスベルク・メリアグレース
広域かつ護衛対象に被害が出ない様に攻撃を
では、この『因果に刻まれる斬撃』を以てエヴォルグだけを殲滅しましょう

灰狼白羽両隊の近くに座し、エヴォルグが接近しないよう過去の斬撃の結界で対応
接近しようとするエヴォルグは即座に自身の因果に刻まれた斬撃により肉体を細切れに
皆様、お久しぶりです
ゼロハートを抑えるべく出撃して参りました

無線で通信を
こちらノインツェーン
灰狼白羽両隊周辺に集って下さい
我が帰天を用いて安全圏を作り出してみせます
そう言って斬撃結界の範囲を広げて安全圏を更に広げていく
さぁ、始めましょう…鯨の歌作戦を



●ゴスペル
 神騎ノインツェーンの玉座に腰を据えたフレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)の、エメラルドグリーンの瞳が忙しく動き回る。目が追うのは艦艇犇く海上を飛び交うエヴォルグ量産機EVOL。
「迂闊に撃てませんね……」
 苦く目元を歪める。標的はそこら中にいるのだが、考えなしに高火力兵器……例えばサイキ・アンリミテッドレールガンを使えばEVOLどころか護衛対象の艦艇まで貫いてしまうだろう。
 回避や防御にしてもそうだ。護衛対象を背にして敵の攻撃を避ければ、当然攻撃は護衛対象に及んでしまう。艦隊を退かせるという選択肢は言うに及ばず論外だ。だからこちらが融通を効かせる他にない。
「ままなりませんね……!」
 攻めるにしても守るにしても動きが取り難い。結果として待ちの消極的な戦術を強いられているのがノインツェーンの現状だった。
 帰天の力を循環させる天輪を背負い、海面に爪先が触れる寸前の高度で滞空する。そのノインツェーンに目を付けた有翼の人喰いキャバリアの集団が、旋回しながら徐々に間合いを詰める。脇目も振らず。或いは他の獲物を放り出して。
「レイテナの人喰いキャバリアも、猟兵を優先して狙う習性は変わらないのですか……?」
 疑念を確かめるように抑えた声で尋ねる。フレスベルクが左右の両手を上げて五指を開く。ノインツェーンが動作を忠実に再現した。左右のマニピュレーターから帰天の円環が生じる。
「なれば戦う術は、ある筈です」
 ノインツェーンの周囲を旋回していたEVOL達が、目無し鼻無しの白面に大口を開いて一挙に迫り来る。顎が白金の装甲に齧り付かんとした矢先、鮮烈な赤い光が斬撃の軌跡のように閃いた。迫るEVOL達は四肢を細切れにされ、深緑の体液を撒き散らしながら海面へと没する。
『フェザー01よりノインツェーンへ、カバーに回りますわ』
 攻めあぐねている様子を見だのだろうか、イカルガを引き連れた那琴のアークレイズ・ディナが敵集団を回転衝角で轢き殺しながら馳せ参じた。
「了解です。こうして戦場を共にするのは大津貿易港以来ですね」
 慣れ親しんだ微笑を作ったフレスベルクが右腕を薙ぐ。接近しつつあった有翼の人喰いキャバリアの群れが赤い一閃に切り刻まれる。
『丁度いい、そのまま客寄せになってておくれよ』
 ノインツェーン目指して滑空するEVOLに伊尾奈のアークレイズ・ディナと隷下のイカルガ達が背後から銃撃を浴びせにかかった。
「やはり……」
 国が違えど人喰いキャバリアの習性は変わらない。猟兵とそうでないものが居た場合、人喰いキャバリアは猟兵をより優先して攻撃対象と見做している。
「ノインツェーンより灰狼白羽井両隊へ、わたくしの周囲に集結してください」
 疑念を確信に変えたフレスベルクが言う。
『あ? なんだって?』
「結界を張ります」
 その一言だけで伊尾奈と那琴からは了解の応答が帰ってきた。短くない付き合いの中でフレスベルクの考える事がおおよそ掴めて来ているのだろう。ノインツェーンを中心として白羽井小隊と灰狼中隊の機体が円形の防御陣を構築する。
「現在と言う幹に未来と言う枝を伸ばす時間という名の世界樹は、根たる過去があってこそ――」
 フレスベルクの唇が祝詞を紡ぐ。呼応してノインツェーンの背と両手に展開された帰天の円環が発光を強める。
 無論敵が黙って見ているでもない。触腕を伸ばし、生体誘導弾を放ちながら一斉に距離を詰める。白羽井灰狼の両隊達が弾幕で迎え撃つ。
「故に消えざる過去にこそ救いと裁きは体現されるべし」
 フレスベルクが祝詞の最後の節を紡ぎ終えた時、迫る脅威は全て微塵に切り刻まれた。ノインツェーンの周囲に生じた無数の斬撃が、鮮やかな赤い軌跡を閃かせたからだ。
 教皇級帰天・消えざる過去の刃……EVOLの軌道から出現した刃による結界に触れた有翼の人喰いキャバリア達が、原型を判別しかねる肉の細切れとなって海面に降る。
『楽なもんだね』
 呆気ないなと含んだ伊尾奈の声の感情は無味だった。
「ですが……」
 フレスベルクは言い淀んだ末に続きを飲み込む。
 オブリビオンマシン化した人喰いキャバリアは、猟兵を積極的に狙う。
 なら今回、人喰いキャバリアの活動再開が当初の見込みよりも早まったのは、もしや猟兵の接近を感知しての事ではなかったのか?
 いや、だとしても考えを巡らせるのは詮無い事だ。あの時ああしていれば、こうしていれば、生きている限り常に後悔だらけ。しかし結果論としてその時はいつもそうするしかなかったのだ。
 それに常に移ろい変わりゆく未来を、真に正しく見通して最適解を選び続けられる者など本当にいるのだろうか。こうして帰天の力を用いても未来など霧の最中にあるのだから。
「故に戦うのでしょうね」
 フレスベルクは首を横に振って思いを払う。
「そして、いつか根源の元に……」
 人喰いキャバリアを無限に産み出し続けるゼロハート・プラント。怪物達の母を止めるべく、フレスベルクは波濤を越えてここまで来た。ノインツェーンと共に。
 神騎が右腕を伸ばす。マニピュレーターが握り込まれると、鮮烈な赤い斬光が有翼の人喰いキャバリアを両断した。
「さあ、続けましょう。鯨の歌作戦を」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
エイストラ搭乗、ライフル2/キャノン1/ミサイル1。

コンバットキャリアは大鳳甲板の余剰エリアに露天固定させて頂きます。また出撃報酬につき、当方が算定した額を越えた場合には、残額を依頼人へ返却致します。よろしいですね?

言い捨てて出撃します。時間が惜しいのですよ。

キャリアは大鳳のゴールキーパーです。
大鳳の危急時のみ、自動制御で近接防空をやらせます。
キャノン2/ライフル2/ミサイル2、必要ならばウェポンコンテナから予備のミサイル群を直接打ち上げます。

私はスワロウ小隊の支援を行います。索敵/見切り/操縦/一斉発射。
本作戦において、この直掩部隊の少なさは異常です。
実情を把握するまで生き残って貰いますよ。



●鳥籠
 主戦域の外周に留まる大鳳。その飛行甲板上で、平たい鉄の台座のようなカタパルトにエイストラは両足を載せた。
『カタパルト固定。エイストラ、発信準備完了』
 通信士の声をリンケージベッドの中で聞いたノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は目を横に流す。視線の向かう先では甲板上で露天駐車されているコンバットキャリアが各砲塔と多連装ロケットシステムの鎌首を上げていた。これで留守中に大鳳が易々と落とされる事はあるまい。帰りのバスが無くなると困る。洋上で母艦を喪失したキャバリアは大概碌な目に遭わないから。斜線が通った赤丸の黄色い紙が貼られる前に終わりたいものだが――ノエルは翡翠色の瞳を前に戻した。
「エイストラより大鳳へ、出撃報酬につき、当方が算定した額を越えた場合には、残額を依頼人へ返却致します。よろしいですね?」
 予め用意していた台詞を早口で述べるた。元より言い捨てだ。フライトレコーダーなり通信記録なりに言質を残せればいい。艦隊司令とは言え葵艦長には報酬金額の増減に関わる意見を述べる権限はあれど、実際に支払われる金額を決める権限はあるまい。権限を持っているのは防衛省か……既に決定していた額を超過したのならば、予算委員会や財務省のご機嫌も関わってくるだろう。
「エイストラ、ノエル・カンナビス。出ます」
 ブースターの制御を司るフットペダルを踏み込む。答えが返ってきたか来ないかを確認する暇も無く、カタパルトはエイストラを無遠慮に船から突き飛ばした。急激な物体運動がもたらす重力加速度に、レプリカントの身体を構成する内の有機部品が苦痛に呻く。バイブロジェットブースターが最大稼働に乗った頃には、既に大鳳は遥か後方だった。
 モニターの隅のレーダーマップを見る。広域に展開した彼我の戦力の分布を、統合センサーシステムは嫌味なまでに正確に捉えていてくれていた。探知可能な領域は敵を示す赤の輝点で埋まっている。総数は測定許容量を超過していた。
 どこから手を付けたらよいのやら。いつも途方に暮れながら生きているが、改めて途方に暮れた肩を落とす。
「スワロウ小隊の援護に回りますか……」
 レイテナ第一艦隊の旗艦を直掩しているらしいスワロウ小隊が全滅すれば、ゲームオーバーへの道も直線に均されてしまうだろう。ノエルは操縦桿をやや前方に傾斜させた。
 爪先が海面を掠めるほどに高度を落としたエイストラの後を、衝撃波によって吹き飛ばされた海水が白い飛沫となって追う。EVOLの群れを掻い潜り、なるべく護衛対象の艦隊の傍を通らないように――衝撃波を浴びせて艤装を吹っ飛ばさないよう慮りながら海上を駆け抜ける。さながら社交界で用いられる舞踏のように。
 スワロウ小隊の元には難なく辿り着けた。なにせ海に浮かぶ王城紛いのクイーン・エリザヴェートのすぐそばに展開しているのだから。
 案の定と言うか当然と言うか、多数のEVOLに大して多くない数で防戦を強いられている。投影面積が大き過ぎる護衛対象を守護りながら。
「ランチボックス、アクティブ」
 ノエルの音声入力を受け付けた火器管制機能がインターフェース上の兵装項目の欄を点灯させた。飛び回るEVOLの姿を瞳でなぞる。一体一体に捕捉完了を示すマーカーが重なった。トリガーキーを押す。
 海上を驀進するエイストラの背部に備わる多連装ランチャーが幾多の誘導弾を解き放った。いずれの弾頭もスワロウ小隊の機体を追い回すのに忙しいEVOL目掛けて突撃し、接触と同時に爆発して深緑の半生体素材を粉砕した。
「エイストラよりスワロウ小隊各機へ、援護します」
 隊長機らしきアークレイズの元に接近し、迫る有翼の人喰いキャバリアをプラズマライフルの一射で貫く。
『スワロウ01よりエイストラへ、援護感謝します!』
 アークレイズが電磁投射突撃銃で弾幕を張りながら言う。ノエルと同じ、或いは歳下の少女の声質だった。
「結べますか?」
『えっ?』
「近接戦術データリンク」
『え……あ、はい。どうぞ』
 機体間の総合的な情報を共有するネットワークがエイストラとスワロウ小隊各機を繋いだ。
 表示された隊員の名前の一覧表は全てテレサ・ゼロハート。名前の後に数字が付いている。隊員の名前の幾つかは既に点灯表示ではなかった。
「ひとまずこの梯団を撃滅しましょう。侵蝕弾を受け続けていれば、クイーン・エリザヴェートと言えどよろしくはないでしょうから」
『了解です!』
 エイストラがプラズマキャノンとプラズマライフルを交互に撃つ。どちらも出力は抑えられていた。考えなしに撃っていたら砲身が熱暴走してしまう。
 考えといえば撃った後の事もだ。護衛対象を背景にした状態では撃てないし、逆に護衛対象が背景にいる状態では迂闊に回避運動を取れない。かと言って避けない訳にもいかない。ガーディアン装甲の反射防御機能が備わっているとは言え、連続して侵蝕弾を受け続けたらどうなるか……試してみるつもりには到底なれない。
 ないない尽くしのこの戦場。一見広大な海原に見えるが、実のところは行動に制限が付き纏う窮屈な鳥籠のようだ。
 直掩部隊の少なさの理由はこれ? だけにしてはやはり少な過ぎるような。
「他の防空戦力は? スワロウ小隊ばかりが直掩ではないでしょう?」
 機体の制動を途切れさせないままで問う。通信の向こうでテレサが首を横に振った。
『地上部隊の支援に回されている部隊も相当数いますが……他はもう……』
 数にすり潰されたのか。元から数が少なかったかも知れないという疑念が残るが……ノエルは視覚野の外で膨れ上がった殺気を受けて身体を捩る。
 延びるEVOLの触腕。エイストラが機体を翻しながら腕を横に振る。腕部に内蔵された荷電粒子刃発生機構が作動し、光の短剣を伸ばした。触腕は機体に触れる直前で灼き切られて散った。
「燕を鳥籠に閉じ込めたら、そうなるものですかね」
 熱を宿さない瞳の中で、荷電粒子の光線が有翼の人喰いキャバリアの正中を射抜いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
以前アンサズ連合が日乃和に派兵した作戦は
先方にとっては鯨の歌作戦の露払いでしたっけ

折角ですしイェーガー社としても本チャンの作戦に協力せねば
わざわざヘルメスをアークライト自治領から回航させたのは外交上アンサズも協力体制にあるというアピール目的でもあります
|こっち《エルディスタン》に持ち込まれた|機体《アーレス》の出処も気になりますし
というか何か情報持って来いとせっつかれましたし

ヘルメスよりセラフィム・リッパーを発艦
私もORCAと改良したTRINITY ANGEL BLADEを装備しTYPE[JM-E]で出撃
全機クリスタルビットを投射
当機もCOAT OF ARMSを射出
友軍の直掩に回りましょうか



●アーレスへの道
 ヘルメス――それは、ヘルメス級強襲揚陸航空母艦のネームシップである。15機のキャバリアを搭載可能でカタパルトを装備。優れたキャバリア運用能力を有する艦艇だ。
 三笠と大鳳に並んで航行するヘルメスの飛行甲板上。JM-Eジョイントシステムを介してHMCCV-CU-01[M] TYPE[JM-E]"MICHAEL"に内包されたジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/Mechanized Michael・f29697)が見る先は主戦域の海。スリット状のセンサーカメラが捉えたレイテナ第一艦隊は、今にも人喰いキャバリアの台風に押し潰されそうだ。
『以前アンサズ連合が日乃和に派兵した作戦は、先方にとっては鯨の歌作戦の露払いでしたっけ』
 記憶装置の中の愛宕連山は生い茂る広葉樹林で緑色だった。
 アークレイズ・ディナに搭載されていたイェーガー・デストロイヤー・システムの譲渡と引き換えに、鯨の歌作戦発動中に低下するであろう国内に残留する敵対的自律機動兵器群への対処力を補填する。といった触れ込みで実施されたPKO活動。
『実際には鯨の歌作戦の発動前に始まって契約満了となってしまいましたがね』
『だが愛宕連山一帯の恒久的な安全確保が想定よりも早く完了した。その分だけ物流の安定も早まった。得られた結果は想定通りだろう』
 白騎士の鎧から作られた事象予測電子頭脳の声音が情報としてジェイミィの電子頭脳に直接届く。
『アンサズ連合としてもイェーガー社としても、日乃和との関係を対外的にアピールする機会にもなりましたね』
 当たり障りの無い不可侵条約を結んだ関係だがと言い含めた。
 行く行くは通商条約を結べれば新たな貿易相手となるやも知れない。しかし現状は物理的な距離という問題に阻まれている。ならジェイミィを矢面に立たせてグリモアという凶悪極まりない空間転移能力で解決してしまえなくもないのだが……日乃和での猟兵に纏わる活動展開権限はとある猟兵に独占されてしまっている。
 加えて海上路の安全性という問題もあった。現在の日乃和は正体が判然としない相手から報復を示唆する恫喝を受けている。恫喝の嘘か誠はさておいて、どこに誰が潜んで何を狙っているのか分からない日乃和周辺海域に、民間の船を出入りさせるのは安全保障上の懸念が大き過ぎるだろう。
『で? レイテナに対して更なるアピールをかける為にヘルメスを引っ張ってきたと? 遥々アークライト自治領から?』
 嫌味たらしいWHITE KNIGHTの口振を、ジェイミィは風と受け止めて『はい』と流した。
『調査依頼の件もありますからね。レイテナとの関係も構築しておかなければ身動きが取れませんし』
『アーレスか』
 メサイアの夜明けによってエルディスタンに持ち込まれた機体。以前の作戦に伴い、機体は猟兵達が破壊し、AIの中枢が納まるコクピットブロックと頭部は回収された。その機体と同一の形状を取り、同一の名前を冠する機体が、この大陸では機械神の一柱として崇め奉られている。ついでに言えば大陸の名前自体も同じだ。
『件の機体と同一個体なのかは不明ですが、この地にアーレスがキャバリアとして存在する事は間違いありませんからね』
 何せアーレスは大陸中で最大級の信徒を抱える宗教の御神体のだから。
 加えてアーレス大陸で最も強大な権力を持つ政治共同体、バーラント機械教国連合。そのバーラントの実質的な最高指導者に君臨する機械教皇アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダの乗機でもある。
『ならバーラント機械教国連合まで遠足に行くつもりか?』
『必要とあらば』
『道を開けるものかな……機械教皇は猟兵を好いていないようだが』
『そう考える根拠は?』
『根拠も何も追い返された猟兵がいるのだ』
『ではこっそりお邪魔させて頂きましょう』
『そうして忍び込んだ結果、見つかって追い返されているんだ。機械教皇庁は猟兵の所在と活動範囲を把握しているらしい。精密にな』
『ほう……? どういった技を用いて把握していらっしゃるんでしょうね?』
 ジェイミィは訝しく尋ねる。猟兵が相手方の行動を把握しているのは日常だが、逆のケースはそうそう見受けられないからだ。
『さあな。誰かが情報を流しているのではないか?』
『それは穏やかではありませんね。しかしこちらも何か情報を掴んでこいとせっつかれているのですが……ま、荒事に及ばなければならない段階ではありませんけども』
 背中にはアンサズ連合とイェーガー社の看板もある。調査は踏むべき手順を踏んで進めていく他あるまい。ジェイミィが結論を付けたのと三笠のメガビーム砲がプラズマの彗星を放ったのはほぼ同時だった。

『さてはて、出遅れては後ろの沽券に関わりますからね。参りましょう』
 巨大なサーフボード――WMWR-3000 "ORCA" に乗ったTYPE[JM-E]が、ヘルメスのカタパルトデッキから主戦域の海上目掛けて撃ち出された。右腕部には槍が、左腕部には巨大な盾、或いは柄の無い巨大な剣の形状を持つ複合兵装が備わっている。
『こういう時はゲット・ライドでしたっけ? アロンジー?』
『真面目にやれ』
 着水。ORCAが海面を叩く。白い飛沫が弾けた。推進機関が噴射光を発して機体を加速させ、空気抵抗を受けた機首が持ち上がる。
 海面を滑走すると、セラフィム・リッパーの一個中隊がすぐに追いついて来た。TYPE[JM-E]を中心として横一列の編隊を構成する。
『と言ってもどこから取り掛かりましょうか?』
 程度に差はあれ、護衛対象に指定された艦艇はどれもかれもが危機的状況だ。
『フッドの直掩に付け。8725秒後に艦首から数えて一番目と二番目の砲塔が重大な損傷を受けるぞ』
 WHITE KNIGHTがやけに具体的な予測結果と共に拡大映像をジェイミィの視野に直接送り付けた。
『それはいけませんね』
 TYPE[JM-E]とセラフィム・リッパー中隊から成る編隊が巡洋戦艦フッドの元に急行する。僅かな数のイカルガが防空に当たっているが、人喰いキャバリアの数に対して完全に押されている。
『船に当てるなよ』
『心得ておりますとも』
 TYPE[JM-E]が右腕部を横に振るった。セラフィム・リッパー達がクリスタルビットの枷を解き放つ。同時にTYPE[JM-E]の左腕部に備わる兵装の一部が8機に分離。シールドガンビットとしてクリスタルビットと共に背後に集結した。
『ミクロン単位での精密手作業は、私達機械種族の得意科目ですからね』
『お前は工作機械か』
 前方に突き出したCVWMHP-2000 "LONGINUS"を行けの合図に、ビットの集団が一斉に散開した。
 向かう先はフッドの周囲に群がるEVOL。乱舞するクリスタルビットの放つ光弾が頭部を射抜き、縦横無尽に飛び交うCOAT OF ARMが四肢を切り刻む。
 フッドを中心として幾つもの血煙が咲いた。直掩に就いていたイカルガがハンドサインで支援の歓迎を伝える。両手を塞がれてしまっているTYPE[JM-E]は機甲槍を掲げて応じた。
『このままフッドを守護り続けろ』
『他の艦はよろしいのですか?』
『よろしくない。だがお前がフッドを守護らないのはもっとよろしくない』
 左様でございますかとは言葉に出さずに受け止めた。状況は常に過酷な取捨選択を迫る。事象予測AIに世界はどのように見えているのだろうか……想像したら人間ならば薄ら寒さを覚えるところなのだろうが、生憎ジェイミィにその機能は無い。COAT OF ARMSが有翼の人喰いキャバリアの首を跳ねた。噴き出す鮮血が、TYPE[JM-E]の装甲に緑の斑点を作った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨飾・樒
海上戦は未経験、数は圧倒的劣勢
でも成功すれば多額の報酬と得難い実績、やってみせる

味方のキャバリアに私の運搬をお願いしたい
救援が必要な艦の上に落としてくれれば良いから
跳べる装備はあるけどまだ慣れてないし、これは奥の手

まずは艦に取り付く化物と着弾した気色悪いミサイルを掃除して、被害を抑える
"眠り薬の魔弾"、加減なしで撃ち込む
あんなのにやられて死にたくない、撃ったら移動、囲まれないように警戒

周りの動く敵が減って大丈夫そうなら、通信で味方の状況を確認
コールサインは適当に、ドーマウスを名乗る
他に助けた方が良い艦がいるなら、空中跳躍符の性能を信じて跳んで行く

ネズミは、沈みそうな艦を見捨てたりなんてしない



●静寂の奥底
 白羽井小隊所属、フェザー02こと栞菜のイカルガが隊列を離れて単独で飛ぶ。左腕は何かを大事に抱え込むかのように折り曲げられていた。
『降ろすよー』
 緊張感の抜けた声が発せられたのは、レイテナ海軍第一艦隊に所属する戦艦、ネルソンの直上に差し掛かる手前だった。
 ネルソンに低空から接近した栞菜機の左腕が解き放たれる。そこから黒く小柄な人の輪郭が零れ落ちた。
  小柄な人の輪郭――雨飾・樒(Dormouse・f41764)は、遠ざかる栞菜機の推進噴射の風圧を試製特殊作戦補助装備で覆った背中に受けながら、ネルソンの甲板を見下ろした。
 高度は目算7から8メートル。地上3階建てのビルの高さに匹敵する。落下すればただでは済まないであろう高さだが、樒は特段臆するでもなく着地地点だけを見据えている。
 つま先が甲板に触れた。身体を捻りながら膝を曲げる。倒れ込んで脛、太腿の側面、腕、背中と身体を順に甲板に押し付ける。
 忠実に再現した五点接地回転法と戦闘服の衝撃緩衝機能により、樒の身体は無傷でネルソンの甲板に着地した。
「着地成功」
身体をバネにして跳ね起き、右膝と左手を地に付けて姿勢を落とす。頭頂部左右に生える鼠の耳が周囲を探るようにして動く。ネルソンの主砲が轟いた。聴覚の痺れに顔をこわばらせながら視線を巡らせる。
 ネルソンの艦首から数えて二番目の砲塔に、EVOLが発射した侵蝕弾が喰らい付いていた。侵蝕弾は深緑色で、羽か鰭のような器官が生えた巨大なカエルの幼体を思わせる形状だ。噛み付いた箇所から血脈のような何かが拡大している。侵蝕を図っているのだろう。
 樒は六式拳銃丙型のスライドを引いて弾丸の装填が確実になされている事を確認した。スライドを戻すのと同時に甲板を蹴って走り出す。砲塔の元に駆け付けると、構えた拳銃のアイアンサイトの向こうに侵蝕弾を見据えた。戦闘服の胸部に仕込まれた零式射撃動作補助符が手の振れを抑制してくれている。
 銃口が火薬の爆発を吐き出した。弾頭が侵蝕弾を射抜く。すると淡くて薄い紫色のガスの霧が膨らんだ。
途端に侵蝕弾が蠢きを止め、拡大しつつあった血脈が脈動を停止する。
 眠り薬の魔弾――樒が撃った弾丸によって、侵蝕弾は休眠状態に陥った。もう二度と目覚める事のない休眠に。
 耳が風切り音を捉えた。半ば本能で身体を横に転がす。対空砲火を掻い潜ったEVOLが樒を喰らわんと急降下してきたのだ。さながらEVOLは猛禽で樒は鼠であった。
 一体の急襲を躱す。間髪入れずにまたもう一体が急降下してきた。自身を狙うEVOLの脚を樒は横転で避ける。絶対に当たってはいけない。生身で当たれば即死だ。
 息を切らせながら身体を捻る。急降下攻撃に失敗して上昇するEVOLの背中に銃口を向けた。淡い薄紫の霧が膨らむ。昏睡したEVOLの四肢から力が抜けて降下を開始。海面に落着した。
 躱す。撃つ。躱す。撃つ。砲塔が轟くネルソンの船上でどれほど繰り返しただろうか。一つの弾倉が空になる頃には幾分敵の密度も低下してきた。樒は油断なく周囲に目を巡らせると姿勢を落とし、耳元に指を当てがった。
「ドーマウスよりネルソンへ、状況説明を願う」
『ネルソンよりドーマウス。そちらの動きはこちらでも確認していた。防空支援に感謝する』
 応答したのはネルソンの通信士らしい。
『本艦は危機的状況を脱した。だが僚艦のロドニーに敵の攻撃が集中している。援護を要請したい』
「了解。ロドニーの所在位置情報を請う」
『2時の方角を見てくれ』
 樒は言われた通りの方角に頭を向けた。ネルソンと似たような艦艇が飛び交うEVOLに向けて対空砲火を上げている。
「ロドニーの所在を確認した。これより援護に向かう」
 無味な声色で通信を終えた樒が立ち上がる。六式拳銃丙型のグリップを固く握って走り出した。
「……ネズミは、沈みそうな艦を見捨てたりなんてしない」
 微かに動きた口が溢した言葉は、誰に唱えた言葉だったのだろうか。
 ネルソンの甲板の縁から海に向かって跳躍する。零式空中跳躍符が作り出す虚ろな足場を蹴り、ロドニーの元へと向かう。黒い前髪が風を受けて激しく揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サマエル・マーシャー
※アドリブ歓迎
※召喚前はアイテム『霊的サイバースペース』に収容されているサイバー・アスモデウスは常にほぼ洗脳状態。交渉を省略できる。
※機体は飛行可能。戦況に合わせて戦場を移動。

淫欲の術を敵群に対して範囲攻撃。味方を巻き込んでも大丈夫なように術は敵にしか効果を発揮しないようにプログラミング。術が当たった敵は共食いをするように心身を操作。食欲と性欲には密接な関係があるのでその方向で操作するのはそこまで難しくはない。

敵が共食いで隙だらけになれば味方も退避がしやすいはず。味方が私の攻撃範囲から離脱したら世界を焼く獄炎で敵の群れを焼却。

上記のプランは味方にきちんと説明し、味方からの要望次第で細部は修正。



●性触行為
 少女が大鳳の飛行甲板に佇む。風に揺れる前髪から覗く赤い瞳は、朧げで得体の知れない空洞へと続いているようだった。
「救われないのですね」
 明滅する爆球。鳴り止まぬ轟砲。海面近くに浮上した魚の群れを啄む海鳥の如く飛び交う有翼の人型。目に映るそれらを、サマエル・マーシャー(|電脳異端天使《サイバー・グノーシス・エンジェル》・f40407)瞳孔が吸い込む。
「でしたら、私があなたたちを――」
 続きは電流が爆ぜる音に遮られた。サマエルが腰を前屈みに折り曲げる。電気的な刺激を受けているかの如く跳ねる身体。羽毛の翼を生やす背中に白い亀裂が走る。亀裂は白光を伸ばしながら拡がり、やがて巨大な裂け目となった。
 その裂け目から人型にして人ならざるものの手が生えた。手は虚空を地として押さえ付ける。腕を介して繋がる身体を這い出させる為に。
 頭部の側面から屹立した二本の角はセンサーユニットだろうか。狼か或いは狐、はたまた古代エジプトに伝わる冥界神の意匠を採った頭部の上には、サマエルのそれと同形状の天輪が浮かんでいる。
 顔の作り。胸部の膨らみ。曲線を描く胴と脚。全てがあからさまに女性の人体を意識した姿だった。肩部と脚部の装甲、太腿部側面の推進装置、背負う翼状のフライトユニットによって膨らんだ輪郭が、人型でありながら人の形を少し外れている異様さを醸し出している。白と黒の機体色に際立つ赤い帯は拘束具のようだ。杖とも斧槍とも見て取れる武器に印字されたI'm all yoursの主張が激しい。
 巨人を産み落としたサマエルが地に伏して痙攣を繰り返す。サマエルが胎内に内包する霊的サイバースペース。そこより這い出た巨人の名は、サイバー・アスモデウス。ジャイアントキャバリアが二本の脚で飛行甲板に立つ。
 サマエルが緩慢に上体を起こし、ふらついた足取りで立ち上がる。そしてゆっくりと背後に振り返った。サイバー・アスモデウスのバイザーが睥睨している。
「あなたを愛しています。だから、私を愛してください」
 契約の楔を唱える。跪いたサイバー・アスモデウスがコクピットを開いた。内部に滑り込んだサマエルが操縦席に身体を沈める。電子神経が繋がれると、サイバー・アスモデウスがコクピットを閉じた。淀む暗闇の中にサマエルの姿が浮かび上がる。
「出ます」
 サマエルが短く言うとサイバー・アスモデウスが翼を拡げた。翼を羽ばたかせるのと同時に脚部のバーニアノズルが噴射光を放出した。踵が大鳳の飛行甲板から離れる。急激な重力加速度がサマエルの身体を押し付けた。
「んっ……」
 小さな呻めきを置き去りにしてサイバー・アスモデウスが飛ぶ。海面寸前を滑走すると白い波濤が左右に裂けた。
 群れから逸れたEVOLを無視して、伸びる触腕を躱して、自機に向かう侵蝕弾を振り切って、サマエルは機体を走らせた。向かう先はどこでもよかった。敵が群れていてさえいれば。
 空母フォーミダブルは艦載機の殆どを喪失していた。そうなった空母の末路は悲惨だ。群がるEVOLに対して殆ど無抵抗のまま嬲られ続けるしかない。だからサマエルはフォーミダブルを目標地点に定めた。サイバー・アスモデウスがフォーミダブルの直上で停止する。
「フォーミダブルへ……これより本機は敵群に対して思考偏向及び思考操作を実施します」
 サマエルはまるで感情の篭らない、それでいて粘度の高い油のような口振りで語る。
『思考偏向……? ジャミングか? 無駄だ、奴等には電子欺瞞は効力が薄い』
 相手方の通信士が言わんとしている事をサマエルは航海中の座学会で既知していた。人喰いキャバリアを構成する材質の多くは有機部品であり、思考機能の中枢部には頭脳にも似た生体制御器官が備わっている。人喰いキャバリアは限りなく生物に近い機械なのだ。
「問題ありません。攻撃実施から終了まで、フォーミダブルの周辺に友軍機を接近させないよう周知をお願いします」
 通信装置の向こうに、押し黙って考え込む相手の姿が見えた。
『……了解した』
 物分かりが良いというよりは他に選択肢が無かったのだろう。通信を終えたサマエルは機体の神経に己の意識を伝播させた。サイバー・アスモデウスが翼を拡げ、左右の腕を拡げ、マニピュレーターを拡げる。
 機体を中心として、淡くて薄い菫色の波動が球状に放射された。波動に接触したEVOL達が首をしきりに振って辺りを見渡す。
 無数に湧き上がった金切り声。EVOLが発したものだ。一体のEVOLがサイバー・アスモデウスに向かって一直線に加速する。サマエルは機体のセンサーカメラが捉えたそれを黙して見詰めていた。
 顎を全開にしたEVOLがサイバー・アスモデウスの喉元に喰らい付く。だがそれは叶わなかった。横から割り込んだEVOLが噛み付いたからだ。
 噛み付かれたのはサイバー・アスモデウスでは無い。EVOLがEVOLに対して噛み付いた。両腕部を下ろしたサイバー・アスモデウスの周囲で同じ光景が繰り広げられている。
『どういうんだ?』
 フォーミダブルの通信士が訝しくも驚愕染みて問う。
「食欲を操作したのです」
 正確には淫欲の術を用いて性欲を暴走させたのだが――只人に理屈を説明すれば長くなってしまうからとサマエルは端的に語った。
 行動の根幹たる捕食衝動を暴走させられたEVOLは止まらない。周囲の動体かつ有機物、つまりは同族をひたすらに喰い散らかすだけだ。
 そろそろ頃合いと見たサマエルはサイバー・アスモデウスに思惟を流し込む。掲げた錫杖に埋め込まれた紅の結晶体が光を放つ。
「あなたたちを満たしました。だからわたしを満たしてください」
 横に薙ぎ払われた錫杖が紅蓮の熱を放出した。世界を焼き尽くさんばかりの熱量を持った炎が帯状となって周囲を巡り、フォーミダブルの頭上に炎の嵐の蓋をした。
 EVOL達は筋繊維を炙られた事によって運動能力が麻痺し、焼き尽くされるまでもなく海に没して底へと沈む。サイバー・アスモデウスの眼下の海面で次々に水柱が立ち昇る。
 EVOLの特性を突いたサマエルの戦術は完璧であった。だが彼女はそれを誇るでもなく感嘆するでもなく、ただ目の前の光景だけを見届けている。黙して紅蓮の空に留まるサイバー・アスモデウスは、さながら地獄に降臨した救世主のようでもあった。
 だが彼女の救済に未来は無い。未来は獄炎に焼き潰されるだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

数には数で対抗するわ。カゲブンシン・フェノメノンでとりま|不可説不可説転《無量大数の5400講乗》人を、え、そんな数見えないがどこにいるのかって?そりゃ量子的多世界とかチャンネルで仕分けとかで、見えはしないけど同時に存在してる感じにしてるのよ。
被ダメの増加?この人数で|多層に重ねた鉄壁の結界術《多重詠唱鉄壁拠点構築結界術》を抜けて?むろん味方艦隊も|範囲内《かばう》でございます。
結界術を足場に海中、海上、空中を自在に駆けて敵を翻弄しましょう。我が|混沌魔術《欲望開放》を見よ。|高速詠唱早業先制攻撃《タイムフォールダウン》で手速くかたしましょ♪



●アリス疾風伝
 とある将校は言った。戦いは数だよと。
「たくさん居るわねぇ……」
 大鳳の飛行甲板の縁に立つアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔少女・f05202)が呆れとも嫌気とも見える溜息を溢す。アリスが見る先では、レイテナ第一艦隊の真上で人喰いキャバリアの群れが台風のように渦を巻いていた。
 一体何体いるのだろう。測定値の許容限界を超過していると言うのだから百や千では済まされないはずだ。
 ではどうする? こちらも増えてしまえばいい。
「目には目を、数には数よね?」
 アリスとはそういう性分である。
 その数をカゲブンシン・フェノメノンで確保するべく細い指先で印を結ぶ。そこで思考と動きが停止した。
「……何人増やそうかしら?」
 アリスは考えた。
「んー……無量大数の5400講乗くらい?」
 なんだかよく分からない単位を言っている。ただひとつ明確なのは、天文学的数値であるということだ。という訳で夥しい量の分霊が召喚された。
「まあ……一気に全部出しちゃうと足の踏み場もなくなっちゃうからね、小分けにするわよ」
 大多数は量子的多世界に残機として確保し、アリスは大鳳の飛行甲板から海面へと舞い降りた。分霊達も後に続く。その光景はさながらナイアガラの滝のようである。
 足元に展開した結界を床として海上を進むアリスと愉快な分霊達。どの艦艇を守護ろうかと辺りを見渡していると、EVOLに取り付かれている戦艦が目に付いた。アリスは虚空に手をかざす。板状の立体映像が生じた。この立体映像は端末と同じ機能を有しているらしい。
「ええっとあれは……重巡洋艦? サセックス? なんだかいやらしい響きねぇ」
 気に入った。守護るのは一番初めにしてやる。アリスは下の話題が大好きであった。
「アリスミサイル……発射!」
 サセックスに人差し指を立てて高らかに言い放つ。すると分霊達がミサイルの如く次々に突撃を開始した。分霊はサセックスの襲撃に忙しいEVOLに突進すると光を爆ぜさせ、自ら諸共に消滅させてしまう。アリスミサイルで消耗した分霊は無くなった側から順次補充されてゆく。アリスのリロードはレヴォリューションだ。
「お邪魔するわね?」
 跳躍したアリスは柔らかな足取りでサセックスの艦首に着地した。
「あらあらまあまあ、手厚い歓迎ねぇ」
 分霊に誘引されたのか、迫るEVOLの梯団が一斉に触腕を伸ばす。
「アリスバリア展開っと」
 命じた言葉一つで分霊達が壁を構築する。分霊一体一体が展開した多積層防御結界が遍く触腕を遮断し、跳ね返す。攻撃を防がれたEVOLが突っ込んでくるも、結界の壁に正面衝突して深緑の体液をぶち撒ける末路に終わった。
「ノーダメならどうという事はないわね」
 鼻を鳴らすアリス。現在のアリスはカゲブンシン・フェノメノンの代価として召喚した分霊の数だけ痛みが倍加しているのだが、そもそも損傷を受けなければどうという事は無い。分霊の特攻にしても生命力が消費される前に帰化させてしまえば然り。
「やっぱり数よねぇ」
 唇に手を当てがい顎を引く。鯨の歌う海でアリスは口角を喜色に上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
見てよ東雲氏、新しい女の子が沢山いる気配がするよ
アイサツに行こうぜ!

とりあえず目標は美少女パイロットがいそうな所であとついでに旗艦共横切ろうぜ!
大丈夫だってちゃんと拙者用の足は【創造】しといたから…こいつ?|クロムキャバリアン《機械仕掛けのクソデカ》デスワームだけど?どこに乗ってるって?操縦席なんてねぇから背中にだけど???

雑魚なんぞ轢き殺してやろうぜ!エヴォルや~良い子だ|命《タマ》出しな~
でぇじょぶだ侵蝕はこう…バリア的なものが何とかなるだろ!装甲もクソ厚いでござるしな
まっすぐ行って遠慮なく頭部ドリルでパクパクですぞ

大丈夫だって聞かれたらちゃんと日乃和のですって答えとくでござるから



●PV公開と同時にネットスラングが流行して正式名称が判明しても誰も本来の名前で呼んでくれないデスワーム
「ハイ調子ィ?」
 エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)は那琴機の頭に乗っていた。どうやって乗っただとか、人体には耐えられない機動で動き回っている物体にどうしがみついているのかとか、そういうのは考慮しないものとする。エドゥアルトだから。
『ええ、まあ』
 これで何度目だと含んだ那琴の声は素っ気ない。
「見てよ東雲氏、新しい女の子が沢山いる気配がするよ。アイサツに行こうぜ!」
 エドゥアルトの思考は下半身だった。
『お一人で行けばよろしいでしょう……』
「とりあえず目標は美少女パイロットがいそうな所であとついでに旗艦の前横切ろうぜ!」
『聞いておりますの?』
 聞いてない。エドゥアルトの頭の中はもう新しい女の子の事で一杯だったからだ。
『わたくしは今忙しくてそれどころではありませんのよ。行くならご自分で――』
「大丈夫だって! ちゃんと拙者用の足は自分で用意するからよ!」
『ご自分で……?』
 那琴の中で凄まじく嫌な予感が膨らんだ。穏やかな波が立つ海面を重い唸りが這う。
 用意する足とは……那琴が詰問しようとした際、海面が炸裂して巨大な水柱が立ち昇った。
「このルビコ――」
『お止しなさい!』
「|クロムキャバリアン《機械仕掛けのクソデカ》デスワームをな!」
 水柱の奥から姿を現したのは、機械仕掛けの巨大な蚯蚓であった。幾つもの節で繋がれた超重装甲の胴体。頭部には眼のような形状の回転掘削機関が三つ備わっている。
「よっこらせっと。メインシステム、戦闘モード起動! オールエドゥアルトは、全ての美少女のためにあります!」
 エドゥアルトが那琴機からデスワームの頭部に飛び移る。異変が起きたのはその時だった。クロムキャバリアンデスワームがもたげた鎌首をクイーン・エリザヴェートの方角へと向けたのだ。
「……待て、何か様子がおかしい」
『始めから何もかもおかしいですのよ!』
「これはまさか……! そうか! デスワーム君も美少女パイロットに会いたいのでござるな!」
 エドゥアルトに命じられるでもなくクロムキャバリアンデスワームが動き出す。
「雑魚なんぞ轢き殺してやろうぜ! エヴォルや~良い子だ|命《タマ》出しな~」
『音楽著作権協会に怒られても知りませんわよ』
 まるで日本に伝わる昔話のようにクロムキャバリアンデスワームに跨るエドゥアルト。しかしこんな巨大兵器が海を割って入ってを繰り返して突き進んでいれば当然敵の注意を引いてしまう。たちまち夥しい数のEVOLが群がり触腕と侵蝕弾の集中攻撃を浴びせにかかる。
「カスが! 効かねーんだよ!」
 しかしクロムキャバリアンデスワームはそれらの攻撃をものともしなかった。
「説明しよう! このデスワーム君は超絶分厚い重装甲に加えてプライマリシールドとセカンダリシールドの二つのリアクティブシールドを備えているのだ! 頭部以外に攻撃したって効かねえぞこの野郎! 落としたかったら戦友とクソデカレールガンとスタンニードルランチャーと重ショとパイルでも持ってくるんだな!」
『ショットガンは調整が入りましたわよね?』
「適正な性能になっただけでまだまだ現役でござる」
 目の前のEVOLを粉砕しながらクイーン・エリザヴェートを目指して海を掘り進む。
『あれもイェーガーの機体なの……!?』
 目の前を横切る蚯蚓の怪物にテレサは意識を引き摺られた。
『あんなのを持ってくるなどと聞いとらんぞ! 動かしてるのはどこのどいつじゃ!?』
 困惑するエリザヴェートが黄色い声を振り回す。
「動かしてるのは変なおじさんです! あとこれ日乃和の新兵器だから大丈夫」
『違いますわよ!』
 クロムキャバリアンデスワームは誤解と衝撃と破壊を撒き散らしながら海を征く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【POW】で判定
アドリブ、連携可
『難しい依頼だが、やるしかねえな!全砲門、ミサイル発射管展開!援護に来たぜ!』
コスモ・スターインパルスのコクピット内から機動戦艦『天龍・改』に指示をとばし、自身も【オーラ防御】を纏わせ、スロットル全開で突撃するぜ。
高度と護衛対象に注意しながら、電磁機関砲とミサイルでの【制圧射撃】とブレードでの【鎧砕き】で攻撃。
ユーベルコード【特式機甲戦術『龍嵐』】で敵の戦列に風穴を開けてやる!



●龍嵐
 特空機1型・改『コスモ・スターインパルス』が波濤を裂いて海面を駆ける。
「難しい依頼だが……やるしかねえな!」
 操縦席に背中を押し付けるガイ・レックウ(|明日《ミライ》切り開く|流浪人《ルロウニン》・f01997)の眉間に刻まれた谷は深く険しい。赤眼は正面だけを睨んでいる。もうレーダーマップを見るのは止めた。敵を示す輝点で埋め尽くされていて眺めても仕方ないからだ。
「全砲門展開!」
 裂帛を張る。コスモ・スターインパルスの背を見送る機動戦艦『天龍・改』の各砲塔が蠢いた。
「衝撃砲! 撃てっ!」
 ガイの音声入力を受け付けた天龍・改が三連衝撃砲を轟かせた。砲弾はコスモ・スターインパルスを追い越して前方の人喰いキャバリアの梯団に着弾。炸裂する爆炎がEVOLの有機構造体を引き裂いて焼き尽くす。
 コスモ・スターインパルスは空中に咲いた爆炎の余韻の中に飛び込みながら更に直進する。すれ違った敵機を特式機甲斬艦刀・烈火の居合で真っ二つに切り落とし、進路を塞ぐ敵機に試製電磁機関砲1型・改の速射を浴びせる。
「キリがねえったら……!」
 烈火を濡らす緑の液体を払いながら苦く歯噛みする。戦域中央の護衛対象の援護に回りたいが敵の層が厚くて前進がままならない。喧しい接近警報音が耳朶を撃つ。
「侵蝕弾かよ!」
 防護障壁を張り巡らせているとは言え被弾すればどうなったものか知れたものではない。ガイは苛立ちを吐き捨てながら操縦桿を引く。コスモ・スターインパルスが全身のバーニアノズルを焚いて後退加速を開始した。後を追う侵蝕弾に電磁機関を撃ち散らす。
「敵も寄ってきやがったな……!」
 更に別方向からEVOLが接近しつつある。苛立ちと焦燥にガイは歯を食い縛った。
「ええい面倒だ! 天龍! ぶっ放せ!」
 ガイが叫ぶ。直後にロケット推進の音が聞こえたと思いきや、白い尻尾を引き連れたミサイルの群れが飛び込んできた。ミサイルは信管を作動させて爆発。侵蝕弾を吹き飛ばす。間を置かずに風切り音が鳴った。ミサイルのそれより巨大な火球が連続して膨張。コスモ・スターインパルス諸共にEVOLの群れを飲み込んだ。
 天龍・改の放った嵐の如き砲撃の猛威。炎を孕む黒煙の雲から炎上した敵機の残骸が海面へと落下する。
「初めっからこうしてりゃよかったぜ……」
 機体の端々に黒い飛行機雲を引いてコスモ・スターインパルスが黒煙の中から現れた。
「待ってろよ、いま援護に行くからな!」
 ガイがフットペダルを強く踏み締める。背負うドラゴン・ウイング・スペリオールが噴射光を吐き出す。生じた推力に突き飛ばされたコスモ・スターインパルスは射られた矢の如く加速した。鯨が歌う嵐の海の中央へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
03……全部、壊せ!

【瞬間思考力】敵味方位置把握、
【範囲攻撃】に味方を巻き込まないよう留意。
ディスポーザブル03【操縦】メガスラスターで【空中浮遊】
無数の敵群への【闘争心】を03に注ぎ【エネルギー充填】、RSパルスガトリングの【弾幕】ミサイルコンテナ展開【一斉発射】艦隊に近づかんとする敵群を【吹き飛ばし】
充填ハイペリオンランチャーで【砲撃】荷電粒子ビームで【なぎ払い】
【継戦能力】『覩剣所零式』発動。

壊して壊して、壊し尽くせぇえええええ!!!

海中から巨大サーベル刃を複製しながら出し、
【呪詛】崩壊霊物質纏わせ【念動力】で回転を加え、射出【切断重量攻撃】
触腕も、敵機も、斬り刻み、呪い壊す!



●災禍
 ディスポーザブル03を一言で形容するなら歩く武器庫である。
 胴体に頭部が埋まってずんぐりとした輪郭の機体には、全身に夥しい数のミサイルランチャーが備わっている。左右の腕部は肘関節から下が丸ごと大口径の荷電粒子砲と化しており、その下部のウェポン・ベイには大型の三連装ガトリングガンが接続されていた。
 攻撃は最大の防御という言葉を体現したスーパロボット。そのコクピットの薄暗闇の中で、|朱鷺透・小枝子《ジカクナキアクリョウ》・f29924)が微かに口を動かす。
「03……壊せ」
 モニターやコンソール類が灯す光に浮かび上がらせる小枝子の顔は幽鬼のそれだった。或いは本当に――。
「全部、壊せ!」
 怒声がコクピットの中に跳ね返った。敵機を恨めしく睨め付ける双眸に怒りが燃える。胸部の奥底で膨れ上がる恨み。怒り。闘志。それらを吸い上げたディスポーザブル03のセンサーカメラが鋭く閃いた。
 バーニアノズルを激しく焚いて突き進む姿は、見る者にはまるで無限軌道の脚で海面を走っているのではないかと錯覚を与えたであろう。小枝子とディスポーザブル03が目指す先は正面の敵梯団。護衛対象の艦艇に向かっているらしい。攻撃射程圏内を報せる電子音が鳴った瞬間、小枝子の人差し指はトリガーキーを引いた。
「消えろォォォッ!」
 小枝子の咆哮と共にディスポーザブル03の三連装ガトリングガンが唸りを上げた。電磁徹甲弾と徹甲榴弾による死の嵐が吹き荒れる。弾幕をまともに浴びたEVOL達が頭部を、翼を、胴体を抉り取られて緑の肉塊に変ずる。
 更に背面に背負う三連装ミサイルコンテナランチャー、シージュが三角柱を射出した。ロケット噴射の尾を連れて進んだ合計6本のミサイルコンテナが夥しい数の誘導弾を放出する。それぞれに捉えた標的に向かって飛ぶ誘導弾が爆球を咲かせると、ディスポーザブル03の前方は鋼鉄の炎で埋め尽くされた。
「横かッ!?」
 両側面で膨れ上がる殺気を感じた時には、小枝子は既に叫んでいた。ディスポーザブル03が左右の腕部を開く。ハイペリオンツインランチャーの砲門から粒子の光が滲み出る。挟み撃つEVOLが侵蝕弾を放った。
「壊し尽くせェェェッ!」
 莫大な熱量の荷電粒子が光軸となって伸びた。侵蝕弾はEVOL諸共に押し流されて溶解する。右腕を左に、左腕を右に向けると、荷電粒子でなぞられた敵梯団は文字通りに消滅した。
「まだだッ! まだ殺れる!」
 ディスポーザブル03の周囲の海面が泡立ったかと思えば水柱を登らせた。白い泡の中から幾つも出現したのは浮遊する巨大な刃。簡素な形状のそれらは冷たい鋼の艶を放つ。
 小枝子は視線を周囲に一巡させた。壊しても壊しても更なるEVOLが押し寄せる。身から湧き出ずる憎悪と怒りに頭を戦慄かせた。
「滅びろォォォーーーッ!」
 海を割らんばかりの咆哮が覩剣所零式を呼び醒ます。小枝子の怒りを示すかの如く出鱈目な軌道で乱舞するサーベル達が、ディスポーザブル03を狙う無数の触腕を微塵に切り刻み、伸ばした本体であるEVOLの首を次々に刎ねる。
「壊せ! 壊せ! 壊せェェェッ!」
 噴火する火山のようなディスポーザブル03の砲火も止まらない。衝動のままにガトリングガンの弾雨を撒き散らし、荷電粒子の光軸で薙ぎ倒す。小枝子の奏でる呪詛の戦律は鳴り止まず、幾多の骸で海面が埋め尽くされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィンデ・ノインテザルグ
大鳳の甲板から愛機のブースターを吹かして戦場へ。
羽虫相手だ、私達も似た者同士善戦出来るよう努めようじゃないか。

敢えて水面ギリギリを飛行しながら
Luciferを展開し、敵勢に威嚇射撃を施しながら囮役を。
護衛対象が被弾しない位置まで引き離したら―UC、機動。

敵が触腕を放つ隙を突いて
Mammonを上空に向け突き上げ、複数体を【捕縛】し
飛翔する勢いに乗せてAsmodeusで【貫通攻撃】を試みよう。

ダメ押しのブーストキックで海面に叩き落としたら
次なる標的に死刑宣告の如くMammonを伸ばしては繰り返し。

弾数を気にする上品さは10代の頃に棄てた。
触腕に侵食を受けたら
即座に該当部位をパージし、蹴撃で応戦を。



●その日の昼は仄暗く
 大鳳のリニアカタパルトから射出されたFireflyが主戦域目掛けて驀進する。推進装置が噴き出す風圧が船の航路のような白波を残す。爪先が海面に触れる寸前まで高度を落として飛んでいるから、さながら海面でスケートをしているようでもあった。
「まるで羽虫だな」
 ヴィンデ・ノインテザルグ(Glühwurm・f41646)は孤独な空間で呟きを溢す。モニターに拡大表示されたEVOLの姿は人型であったが、無数に群れて飛び交う様子は街灯に群がるカゲロウの印象が強い。
「私達も似た者同士……善戦出来るよう努めようじゃないか……」
 乗機の名前に掛けた皮肉はどこか他人事染みている。更なる加速を得るためにフットペダルに乗せた脚に力を込めた。今日のWandervogel……義足の調子は悪くない。
 戦艦プリンス・オブ・ウェールズに接近するEVOLを撃ち落とすべく軽巡洋艦のシリアスが対空機関砲の火線を上げている。ミサイルは既に撃ち尽くしているらしい。
「あれでいいか……」
 ひとまず目に付けた護衛対象の元にFireflyを走らせる。EVOLに重なったロックオンマーカーが射程圏内の色に転じるのを待って操縦桿の引き金を引いた。
 背部の兵装懸架装置に搭載したドローン・ポッドより九機のクリスタル・ビット、Luciferが解き放たれた。LuciferはFireflyの前方で十字架形の編隊を組むと光弾を発射した。数機のEVOLを射抜き、そのままシリアスの船体を追い越す。
「食い付いたな」
 自機を追ってくるEVOL達をヴィンデは横目で見た。Luciferが編隊を崩して方々に散らばる。シリアスと敵群の相対距離が十分に開いた頃を見計らってFireflyは減速を掛ける。急旋回したのと追うEVOLが触腕を伸ばしたのは同時だった。
「だが……」
 ヴィンデの中指が音を鳴らした。途端に重い息苦しさが全身を支配し、一瞬が何倍にも引き延ばされたかのような感覚に陥った。Fireflyに向かう触腕の一本一本の軌道がはっきりと見て取れる。僅かな機体制動ですり抜けながら、右腕を上方に突き上げた。
 右腕部に装着されたMammonからビームアンカーが四方に伸びる。蛇のようにのたうち、EVOLの胴体に鏃を食い込ませた。アンカーが急激に引き戻される。その先で待ち構えていたのは――腕を引いたFireflyであった。
 EVOLとの距離が零に詰まった瞬間、Fireflyは引いていた腕を前に突き出す。すると腕部に備わるパイルバンカー、Asmodeusが火薬を炸裂させた。勢い良く射突した鋼鉄の杭がEVOLの白面を吹き飛ばす。引き抜くのと同時に蹴撃。跳躍力に優れた逆関節型の脚部から繰り出される打撃は強烈だった。頭を喪失したEVOLの身体が彼方に飛んでいき、海に没して水柱の向こうに消えた。
「上品さは10代の頃に棄てたんでな」
 ビームアンカーで捉えていた次なるEVOLを引き寄せて蹴り飛ばす。その間にLuciferの群れが捕縛したEVOLに集中砲火を浴びせる。ヴィンデの淀んだ瞳の中では、同じ処刑が淡々と繰り返されていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレフ・フール
……他の世界はオブビリオンの脅威にさらされているが…この世界は少し他の毛色が違うようだな?
「そうだぜマスター?この世界は人間もすげーし多くの文明がひしめいているからな!」
しかし…アレウスよ…何故か妙に注目されてないか?
「何でだろうな?俺の今のイケメンボディに惚れちゃった?」(アイテム欄参照

まぁ良い
わしらはわしらの出来る事をするまでよ
【属性攻撃】で紅蓮の炎を機体に付与
UC発動
【グラップル・砲撃・重量攻撃】で近くの敵は殴り粉砕し遠距離の敵は重力球をうち放ち自壊させる
立ち回りながらも周囲の状況はきちんと把握し囲まれた敵には襲い掛かり粉砕する
触腕諸々はそのまま重力強化された力で引きちぎり投げ飛ばす



●闘神の名を冠する者
「他の世界もオブビリオンの脅威にさらされているが……この世界は他とは少し毛色が違うようだな?」
 大鳳を発ち、主戦域を目指して青い海原をひた走る機体の中でアレフ・フール(愚者・f40806)はふと考えた。
 出身世界のケルベロスディバイドではケルベロス対デウスエクスの構図が基本である。他の世界もケルベロスが猟兵に置換され、デウスエクスがオブリビオンになるだけでやはり基本は変わらない。だがクロムキャバリアの場合はどうだろうか。
「まず土台に人対人の戦いがあって、その上に猟兵とオブリビオンの戦いがあるというのかな……」
『いま戦ってる奴等は人って言うかバケモノだけどな』
 姿の無い何者かの声がコクピット内に反響する。厳密には姿が無いのではなく見えないのだ。なぜなら今まさにアレフが乗り込んでいる機体――アレウスこそ声の発信元なのだから。
「しかしだな、このバケモノ紛いのキャバリアを作ったのも元を辿れば人間なのではないか? これだけの物量を生み出せる技術、大したものだと思わんでもないが……」
『そうだぜマスター? この世界は人間もすげーし多くの文明がひしめいているからな!』
 伊達に百年も世界中で戦争している訳ではないか。人間とはつくづく争う為に生まれた生き物なのだな。胸中で膨らんだ言葉が喉を出る事はなかった。
「人と言えば……アレウスよ、何故か妙に注目されてなかったか?」
 機体を大鳳に搬入していた時の事を思い返す。自分達に向かう周囲の目がやたら刺々しく、或いは奇異の色に満ちていた。声を密やかにして何かを言い合っている者達も少なくなかった。
『何でだろうな? 俺の今のイケメンボディに惚れちゃった?』
 視線を集める原因となったであろう本人の見解はふざけているのか本気なのか判然としない。
「まあ……考えても仕方あるまい」
『その通りだ! 来るぜマスター!』
 前方180度の視界からEVOLが迫る。翼を広げて海面を滑る姿は海鳥のようだ。
「アレウスよ! お前の力を見せてみよ!」
『任せろマスター! 全部ぶっ壊してやるぜ!』
 背負う翼状の重力制御機構を展開したアレウスが更に加速する。全身を暗い紫の波動が球状に覆う。
「突っ込め!」
 向かい雨の侵蝕弾も触腕も全て纏う重力波障壁で跳ね除け、機体ごとEVOLの集団に飛び込む。真正面から轢かれたEVOLは錐揉みしながら海面へと落下していった。
『機神重撃拳! 炎の型!』
「なんだそれは?」
 紅蓮に燃え立つ炎を宿した拳が貫手を打つ。EVOLの胴体を貫いてマニピュレーターを握り込む。するとEVOLは機体内部から生じた灼熱により火達磨となった。アレウスが蹴り飛ばして腕を引き抜く。
『マスター! 後ろだ!』
「分かっている!」
 アレフが身体を翻せばアレウスも応じて機体を翻す。背面に迫ったEVOLの胴体を太く剛質なテールアンカーが打ち据えた。
「粉砕しろ!」
 機体をくの字に曲げたEVOLが跳ね飛ばされるよりも先に、テールアンカーの先端部に備わる鋏状のクローアームが頭部を捕まえた。駆動系のモーターが唸ると、EVOLの白面は卵の殻のように割れた。内部の脳めいた生体制御装置と体液が噴出する。
『まだまだ来るぜ!』
「大売り出しだな……!」
 息継ぎの暇も無い。厭気が差す。四方から伸びた触腕に対してアレウスは腕を横に薙いだ。生じた重力波の刃がそれらを切断する。
「撃ち落とすぞ!」
 アレウスが左右のマニピュレーターを開く。片方で重力波の盾を形成し、もう片方には重力波の球体を形成する。
『因みにマスター、強力な重力兵器を使い過ぎると契約違反になるらしいが大丈夫か?』
「なんだと? どうしてだ?」
 重力球を撃とうとした矢先にアレフの目元が強張る。
『重力異常が発生して環境がおかしくなったり、酷いと大気が消滅したり無重力空間が出来上がるそうだ』
「な……ならどうしたらいい!? お前格闘以外の攻撃手段は重力波しか無いではないか!」
『強力過ぎなきゃ大丈夫だぜ!』
「具体的にはどこまでが強力過ぎる範囲なのだ!?」
『街一つを吹っ飛ばすようなのはヤバいぜ!』
「なら大丈夫なのは!?」
 この程度ならとアレウスが重力球を乱射する。暗い紫の球体を受けたEVOLは、被弾箇所に押し潰されたかのような跡を残して失速。青い海へと落ちてゆく。
「大いなる力には大いなる代償が伴うという事か?」
『その力をコントロールする為にマスターがいるんだぜ?』
 アレフという入力装置とアレウスという出力装置が一体となり、戦闘単位として初めて成立する。どちらか一片だけでは何も出来ず、或いは要らぬものまで壊してしまう……そういう事か? 尋ねる前に顎を開いたEVOLが肉薄する。
「精々上手いようにやってみるがな……!」
 アレウスの繰り出した回し蹴りがEVOLの胴を打ち据える。その姿はアーレス大陸に伝わる闘神のようでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中小路・楓椛
どうも、ダゴン焼き屋です。

繁栄も衰退も刹那の一炊の夢。しかし子供が啼いているのを放置する程当方余裕が無い訳ではありませんので、ええ。

クイーン・エリザヴェートを含む第一艦隊の専守防衛に勤めましょう。
司令のエリちゃんさんが人生経験の少ない中で運命の切り札を引き当てられるかどうか見守るのもまた一興。
クロさんに搭乗し、UC【それはまるでチートのような、とんでもない才能】起動。足りない分は私が補いましょう。

エリちゃんさんに必要なのは学習です。現実から目を背けず姿勢を正し毅然としてありのままを直視しましょう。そう、理不尽を覆す大理不尽の存在も含めて──ね?



●猟兵のチートは万能です
 中小路・楓椛(contradictio in adjecto・f29038)……外見は小さい妖狐である。ダゴン焼きという名状し難い冒涜的な飲食業を営んでいるが、その営業実態を知る者はいない。
「繁栄も衰退も刹那の一炊の夢……」
 大鳳の飛行甲板の縁に立つ楓椛の耳が潮風に煽られて揺れる。風が運んだ鉄の焼ける臭いが鼻腔に刺々しい刺激を残す。背後では爆音と共に猟兵のキャバリアがリニアカタパルトで射出されていった。
「しかし」
 双眸は閉ざされており感情が伺えない。だが得てして目は主戦域中央の海に浮かぶクイーン・エリザヴェートの元に向かっている。
「子供が啼いているのを放置する程、当方余裕が無い訳ではありませんので、ええ」
 真後ろで鈍重な衝撃音と振動が生じた。クロムキャバリア――クロさんのセンサーカメラが楓椛を睥睨している。
「司令のエリちゃんさんが人生経験の少ない中で運命の切り札を引き当てられるかどうか見守るのもまた一興……わたしは札となりましょう」
 楓椛は軽やかに跳び上がる。開かれたクロさんのコクピットに潜り込んだ。ハッチが閉ざされるのと同時にセンサーカメラが閃く。
「ですが……どのような札となるかは引いてからのお楽しみです。なにせわたしにも札の柄が分からないのですから」
 クロさんの足が耐熱アスファルトの床を蹴った。大鳳を飛び降りて着水する寸前で全開にしたバーニアノズルを焚く。強烈な推力が海面を沸き立たせた。
 白く泡立つ飛沫を巻き上げながら海面を滑るクロさん。針路の彼方にあるのはクイーン・エリザヴェートだ。
「おや……? 思ったより早かったですね?」
 クロさんのコクピットの中に在りながらも、楓椛の髭は海の奥底から這い登る振動を感じ取っていた。
「わたしが使うとこうなると……ダゴン繋がりでしょうか?」
 誰に尋ねるでもない呟きの直後、作戦領域の一辺の海面が爆発した。巨大な水柱が昇る。虹を描く飛沫の向こうに現れたのは、巨大な蛸の足であった。
 揺れ動く蛸の足がしなり、EVOLの梯団に覆い被さる。圧倒的な質量の運動に大気が怯えている。そして振り下ろされた蛸の足。逃げ遅れたEVOLを巻き込みながら海面を叩き、真っ白な飛沫を炸裂させる。
「タコじゃとぉぉぉ!?」
 クイーン・エリザヴェートのブリッジからもその巨大な蛸の足は肉眼で視認する事が出来た。レイテナの小さな暴君は驚嘆に開口する。
「クラーケンですな。いやしかし、あんなデカい個体は見た記憶がありませんが……」
 顎髭をなぞりながら眺めるブリンケンの顔にも驚きと物珍しさが見受けられた。
 アーレス大陸の豊かな海は生命に溢れている。溢れ過ぎる余りに太古の巨大生物や、育ち過ぎた生物が多かれ少なかれ存在している。クラーケンと呼ばれる巨大な蛸もその内の一種だ。
 楓椛が解き放った未知のユーベルコードが、大海の主を呼び醒ましたのだ。
「エリちゃんさんに必要なのは学習です。現実から目を背けず、姿勢を正し、毅然としてありのままを直視しましょう」
 エリザヴェートの反応を知る由も無い楓椛であったが、その口許は微かに嘲っているようでもあった。
「そう、理不尽を覆す大理不尽の存在も含めて──ね?」
 猟兵。それはまるでチートのような、とんでもない才能。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戦艦・大和
旧大日本帝國海軍建造、現帝都桜學府所属。対影朧決戦用秘密兵器……大和型一番艦、戦艦大和。推して参ります!

真の姿、全長526mのスーパーロボットに変身
全身を波動の攻性オーラ防御で覆い、生体ミサイルが着弾する前に破壊消滅させます。
艤装鎧装の爆撃誘導弾砲撃と九六式二十五粍機銃の対空戦闘一斉発射自動射撃を放ちつつ、波動を纏ったグラップル連続コンボ重量攻撃の武術で応戦します!



●もう一度あの海で
 大日本帝国海軍が建造した超弩級戦艦。それが大和である。UDCアースの日本の旧年号時代に生まれたその艦艇は果たしてどのような時代の軌跡を辿ったのだろうか。沖縄に向かう途上で米軍の猛攻撃を受け、3056名の戦士達と共に暗い海底に沈んだのかも知れない。
 或いは――隔離世を渡り、サクラミラージュに流れ着き、現帝都桜學府所属の対影朧決戦用秘密兵器として新たな魂を得たのかも知れない。
「大和型一番艦、戦艦大和。推して参ります!」
 戦艦・大和(蘇み返りし護国の鎮守・f33928)が艶やかな黒髪を靡かせて東アーレス半島の海を征く。艤装を背負い、足に備えた水上用推進機関で滑走する姿は人の身でありながらも戦艦の威容を醸し出す。
 彼女が降りたクロムキャバリアの地は、奇しくも遥か遠い故郷の列島の似姿を持っていた。
 そして眼前に広がる戦域の光景さえも旧い記憶のそれであった。
 無数に飛び交う有翼の人喰いキャバリア。深緑と暗い赤を混濁させた空に向かって対空砲火を上げる艦艇達。レイテナ海軍の艦船の命名規則が英国と類似しているのは何の巡り合わせだろうか。おまけに日乃和海軍の旗艦の名は|大和武命《ヤマトタケル》と来ている。
「まるで、あの時と同じ……」
 我知らず下唇を噛み締める。こうして私は――。
「……もう二度と沈まない」
 蘇った記憶を振り落とす。
「今度こそ、国と世界と大切な仲間達を必ず護ってみせる!」
 自身に叩き付けた裂帛が己の真の姿を暴き出す。
 体感ではほんの一瞬に過ぎなかった。自身の内側から身体が拡大する感覚があったかと思えば、瞬きの前には走っていた筈の海面を見下ろしていた。腰から下に鈍重な抵抗を感じる。これは水の重さだと気付いた切掛は、眼下で白く泡立つ波だった。
 全長526mに及ぶ鋼鉄の巨躯が海を割って進む。黒鉄色の装甲と機体各部に備わる砲の数々からは、戦艦大和に通じる意匠が見受けられた。
「大和は決して沈みません! 全てを護る為……何度でも蘇り、再び立ちあがります!」
 警笛が轟く。腰から下を海面に沈めた鋼鉄の戦神が重く分厚い歩調で前へ前へと進む。その巨大過ぎる機体は誰の目にも留まった事であろう。無論ながら人喰いキャバリアにも。
 海鳥の如く群れを成したEVOLが大和目掛けて一直線に加速する。まるで対艦攻撃機のように。放たれたのは無数の魚雷――ではなく侵蝕弾だった。
「そんなもので!」
 侵蝕弾は大和に到達する直前で障壁に阻まれ粉砕された。
「照準合わせ……!」
 大和を大和たらしめる超大口径三連装砲と無数の九六式二十五粍機銃が首を持ち上げる。
「撃ちぃぃぃ方ぁ始めー!」
 砲門が赤黒い炸裂を吐き出す。大和の巨躯が僅かにだが仰け反り、発射の衝撃波を受けた海面が白く弾けた。風切り音を立てて飛ぶ爆撃誘導弾が突入してくるEVOLの群れの直前で信管を作動させた。目を灼く爆発の光と一瞬の静寂。直後に大気を震え上がらせる爆音と海面を騒めかせる衝撃波が走った。
 空中に膨張した爆炎の華。そこへ対空機関砲から伸びる緋色の破線が殺到する。炎と金属片の嵐に飲み込まれたEVOLを弾丸の暴雨が襲う。
 だが尚もEVOLは大和に挑み掛かる。人喰いキャバリアには死の恐怖など存在しない。
「特攻だとでも……!?」
 狂っている。米軍もこんな気持ちだったのだろうか――大和は首を振って想起を掻き消した。これは人と人との戦いではない。敵の習性は虫が餌に向かって飛ぶのと変わらない。あれらは滅ぼすしかない敵なのだと。
「大和は……もう沈まない!」
 右腕部を引いてマニピュレーターを握り込む。
「そして! もう誰も! 沈ませない!」
 思惟を込めて前へと突き出す。攻性波動障壁を纏った巨大な鉄拳が、真正面から飛び込むEVOLの群れを文字通りに粉砕した。大質量の物体と正面衝突した有翼の人喰いキャバリアが緑の血煙と化す。
 後を引く咆哮の残響に後悔と悲痛が滲む。あの時沈んでしまった私を。あの時守護れなかった私を。今度こそ。もう一度。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドワルダ・ウッドストック
アドリブ連携歓迎・細部お任せ

人を食らう、オブリビオンマシン……。
この世界も百年に及ぶ戦争が続いているのですね。
わたくしも、微力ながら鯨の歌作戦に参加いたしますわ。

キャバリアは何か、桐嶋技研のものをお借りしますわね。
我が団にはキャバリアこそありませんが、パンツァーキャバリアの乗り手がおりますので。
ということでペドロ、操縦は任せますわ。
相乗り状態で、わたくしはUCによる攻撃に専念してEVOLの排除に務めます。

敵は多数で、護衛対象も多いとなれば……このUCが適当ですわね。
キャバリアに搭載されている全武装の一斉発射ですわ!
射程半径136mは機甲戦では短いですが、対象を選んで振えるのが素敵ですのよ!



●金雀枝と金糸雀
 大鳳の飛行甲板から見渡せるのは、果てしなく広がる青い海原。北西の彼方には微かに陸地が見える。海に犇く艦艇は空に向かって火線と黒煙を伸ばし、その周囲を有翼の巨人達が海鳥のように飛び回る。快晴の筈の空は深緑と暗い赤に埋め尽くされていた。
「この世界も、百年に及ぶ戦争が続いているのですね」
 キャバリアの後部座席に身を沈めるエドワルダ・ウッドストック(金雀枝の黒太子・f39970)は、この戦場に獣人戦線の海と空を見た。煤けた火の匂いが香るクロムキャバリアの空気は故郷とさして変わらないのかも知れない。誰かが戦って誰かが死ぬ。ふたつの世界で百年以上の間ずっと繰り返されてきた光景だ。
「そして、人々が生きる為に抗い続ける事も変わらない……」
 超大国に抗い続ける自分達のように。この世界の人々にも火は灯っている。生きる為に戦う火が。
「ペドロ、操縦は任せますわ」
 前席に座るペドロが無言で親指を立てた。歩行や加速などの運動に纏わる機体制御が前席の担当だ。エドワルダが座る後部座席の担当は火器管制となる。
「後はわたくし達次第ですわね……」
 エドワルダは握った操縦桿の感触を確かめる。馴染みのない感触だった。
 今回の依頼の条件はキャバリアに搭乗していた方が多角的に見て有利だ。しかしガーター騎士団は乗り手こそ居れどもキャバリアを保有していなかった。なので依頼の契約時にグリモア猟兵が所長を務める桐嶋技研製のキャバリアを借り受けたのだが――。
「この色は戦場では些か派手過ぎるとも思いますわね」
 小声で呟くと前席のペドロの頭が浅く頷いたように見えた。借り受けた機体――カナリアの装甲色は黄金色だったのだ。
 作戦領域に至る迄の間にひたすら読んだ取扱説明書が正しければ、この金色の鏡面装甲は伊達や酔狂ではないらしい。実体弾以外の攻撃に対して非常に高い遮断性を有しているようだ。
 ついでに座学で教わった人喰いキャバリアの習性のひとつに、迷彩などの視覚的欺瞞は殆ど効果を及ぼさないとの言及があった。だから装甲が金メッキだろうがゲーミングカラーだろうが狙われ易さには影響しないのだろう。
「わたくしとしましてはパンツァーキャバリアに近い機体をお借りしたかったのですが……贅沢を言ってもいられませんわね」
 実際にはない事もなかったのだが、下半身が戦車のパンツァーキャバリアならぬキャバリアパンツァーだった。流石のガーター騎士団副団長と言えど海の上をキャタピラで進む気にはなれない。
「性能は保証すると仰られていましたから、それを信じましょう」
 獣人戦線で出回っている機体とは違い過ぎる毛色に抵抗感を禁じ得ないのはペドロも同じであろう。己と相方に向けて気休めの言葉を唱える。他の猟兵の機体が盛大な推進噴射の爆音を上げて戦域へと射出されていった。
『カナリア、発進準備どうぞ』
 大鳳の通信士がカタパルトへと急かす。陽光を受けて眩しく輝くカナリアがペドロの操縦通りの動きで歩き出した。鋼鉄の爪がカナリアの足を咥え込む。
『カタパルト接続確認。発進準備完了』
 向かう先――EVOLの襲来の渦中にあるレイテナ第一艦隊を睨み、エドワルダは声を張った。
「カナリア、エドワルダ・ウッドストック……参りますわ!」
 ペドロがフットペダルを限界まで踏み付ける。強烈な重力加速度がエドワルダの身体を操縦席に押し付けた。リニアカタパルトから解き放たれたカナリアは一瞬で最大加速域に達する。
 脹脛の側面に備わる推進装置が90度回転して噴射口を下方に向けた。ホバー機能が自動で発動したらしい。高度を落としたカナリアが海面を滑るようにして走る。
「重いですわね」
 火器管制の席に座るエドワルダでさえ機体の制御感覚が把握出来た。この感覚を例えるなら大型車両の運転に近い。速度は出るが立ち上がりが遅い。重量を高推力で無理矢理振り回す機体にありがちな感覚で、はっきり言って玄人向きの乗り味だ。
 しかしペドロは対応してくれている。今日乗るのが初めての機体なのにも関わらず。天賦の才というものだろうか……などと関心する間も無く接近警報が耳朶を打つ。
「位置取りはお気になさらず! 回避に専念を!」
 ペドロは機体を横滑りさせる事で了解とした。尻が横に引っ張られるような慣性の働きは、背中の推進装置と直結している大容量プロペラントタンクのせいだろう。
「基本の操作はパンツァーキャバリアとさして変わりませんわね」
 これなら故郷で培った経験が活かせないでもない。エドワルダは照準に神経を注ぐ。
 横方向へ加速するカナリアをEVOL達が追う。互いの相対距離はまだかなり開いている。
 コンソールの画面にエドワルダの指が触れる。可変速式メガビームキャノンの兵装項目が選択中を示す点灯状態に変化した。
「収束モード……まずはこちらで!」
 カナリアの両肩に備わる単装砲が正面を向いた。砲門に鮮やかな緑の粒子が集い、鋭い光線となって伸びた。二本の光線がそれぞれにEVOLの胴体を撃ち抜く。失速したEVOLは海面へと接触すると二回三回と跳ねて海中に没した。
「この武器はわたくし向きですわね」
 悪くない。口許に微かな笑みを作る。有効射程が長くて威力が高い。精度も良好。これは狙撃砲として扱える。
「ペドロ! 艦隊の中央へ! 突破いたしますわよ!」
 カナリアが背負う推進装置が噴射光を炸裂させる。より力強く加速したカナリアをEVOLが追走する。
「侵蝕弾……!」
 自機に向けられて発射された誘導弾にエドワルダが歯噛みする。あれに当たれば一環の終わりだ。メガビームキャノンを速射モードに切り替えた。
「構わず直進を!」
 砲門が真後ろに向く。荷電粒子の弾が連続かつ高速で撃ち出される。接触した侵蝕弾は小さな爆炎を咲かせ、追走中だったEVOLは全身を射抜かれて機能停止した。
「次は正面……!」
 休む間もなく新手が立ち塞がる。前方に展開したEVOLの層はかなり厚い。
「ハイパーメガバスターを使いますわ!」
 取扱説明書では拠点攻撃用の兵器との記載があった。嘘偽りが無ければ半生体キャバリアの壁など容易く撃ち抜けるはず。カナリアが右腕で抱える巨砲を前方へと向けた。エドワルダがトリガーキーを引き絞る。モニター上に展開したサブウィンドウにエネルギーの充填率状況を現すゲージが表示された。充填率40パーセント……50パーセント……途端に嫌な予感が膨らむ。
「……十分ですわよね?」
 思わず指を離してしまった。大口径かつ大型の砲身から莫大な熱量の荷電粒子が束となって解き放たれる。防眩フィルターでも相殺し切れない光量にエドワルダとペドロは目を顰めた。
 ハイパーメガバスターから生じた荷電粒子の奔流は前方のEVOLの集団を貫通。触れたそれらを一瞬で消失させた。実際の有効範囲は視認出来ている範囲以上に広いらしく、一見すると掠めてもいない位置にいたEVOLさえも灼熱に炙られて焼け落ちていく。
「これは……いけませんわね……」
 強力過ぎる。迂闊に撃ったら護衛対象を巻き込みかねない。幸い射線上には敵しかいなかったが……エドワルダは肝に底冷えを覚えた。
「メガビームキャノンだけでも対応可能ですので……っ!」
 己に向かう殺気に取り囲まれた。視界を巡らせるとEVOLが頭上を含めた全方位から群がりつつある。減速しかけたペドロに「わたくしの合図で360度の急速旋回を!」と鋭く声を飛ばす。
 なおも突き進むカナリアに押し迫るEVOL達。双方の間合いが130メートルを切った。
「今ですわ!」
 カナリアが右足を軸にして機体の向きを翻す。瞬間、両肩のメガビームキャノンが閃いた。
「これでいかが!?」
 フルバースト・マキシマムを反映させて拡散放射された荷電粒子が、指向性を持ってEVOL達を追跡し撃ち抜く。それぞれに無秩序な飛行軌道を描いて海面に落着。幾つもの水柱が立つ。
 だが全てを処理しきれた訳ではなかったらしい。辛うじて生き残った一体が真正面から突っ込んできた。
「加速を!」
 叫ぶエドワルダ。応じるペドロ。カナリアの高機動スラスターユニットが噴射炎を焚く。
「雷の鉄拳を受けなさい!」
 正面衝突の寸前でカナリアが左腕を突き出した。籠手とも盾とも言える左腕の兵装、プラズマガントレットがEVOLの胴体を打つ。直後に炸裂する青白い稲光。雷はEVOLの体内を通り、背中を内部から引き裂た。
 帯電しながら盛大に吹き飛ばされるEVOLの骸。白く泡立つ水柱を見届けたエドワルダが息を抜いて両肩を落とす。
「存外なるようになるものですわね。不慣れな機体でも」
 ペドロが後ろに同じと含んで二回頷く。
「推進剤の残量は……まだ大丈夫ですわね? 友軍艦の護衛に回りましょう」
 機体を翻したカナリアが海原を滑走する。エドワルダの闘志を乗せて、救うべき者達の元へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィエラ・ヴラニツキー
(道すがら、自らのことを考えていた

自身はとある軍事政権下の小国が擁していた戦力だった……らしい
記憶は無い(※アリス故)が、呼ぶと来る愛機(?)と資料映像が一致しているので相違ないだろう

各地で相当な脅威となっていたと聞いており。友軍に余計な不安や恐怖、そして敵意を抱かれやしないか……
しかし此処まで深刻な状況では、不安がっている時間も勿体ない

自身の存在が妙な軋轢を産まないことを祈りつつ出撃したのは、鋳造の増加装甲に覆われた機体
無骨な鎧の下に更なる姿を隠しているが、この姿の時点で驚異的な存在だった様だ)



と、とりあえず今は味方ですからっ
皆さんこっち撃たないでくださいね!

(上擦った声でおっかなびっくり宣言した直後にコクピット内で呪文を唱えると、戦域を数多の蟲が飛び回り敵群に絡みつく)

えーと……今のうちに体勢立て直してください、ね?

(続けて増加装甲に取付けてある増強火力――肩部速射砲2門、右前腕部機関砲――による射撃、加えて30機ものビットを展開

妖術と技量とで、圧倒的物量差をもひっくり返さんと挑む)



●蟲魔女
 皮下で魔蟲が蠢く。
 体内に潜む生き物が這いずり回るこの感覚に慣れる事はない。ヴィエラ・ヴラニツキー(|22番目の奴隷少年兵《センチュリオンウィッチ》・f41726)の緑玉の瞳に苦悶が滲む。この得体の知れない同居人達はいつから住み着いているのだろうか。分からない。記憶が無いからだ。
 自分の身の上で知っている事と言えば、どこぞの軍事政権下の小国に使役されていた戦力であったらしい事と、各地で相当な脅威とみなされていた事程度だった。そのどちらも資料映像の中で知り得た情報だが……こんな身体なのだから、碌でも無い経歴なのは間違いないのだろう。
 だがひとつ、消えなかった思いがある。帰らねばという思いが。それは壊れた記憶の中で微かな火として灯っていた。帰巣本能とでも呼べばいいのか、己がアリスで自分の扉を探して帰る事こそ――。
「この数、まともじゃ……!」
 状況は考える時間を与えてはくれない。機体のセンサーカメラが出力した光景は前後左右に真上のどこを見渡しても有翼の人喰いキャバリアばかり。攻撃は台風の暴雨の如く絶え間ない。
 セピド|C《ケントゥリオ》がスラスターの噴射圧で海面を沸き立たせながら走る。かつて“魔女の下僕”として猛威を振るったとされる伝説的キャバリアの量産型は、伝承らしく古風な鋳造の鎧を纏っていた。だがこの鎧は本来の姿ではない。
「潰しても次から次と!」
 ヴィエラが焦燥を声にして吐き出す。セピドCの肩部の速射砲と右前腕部の機関砲の銃口が激しい燃焼を炊く。薬莢が排出された分だけの弾丸を撒き散らし、群がるEVOL達が緑の体液の飛沫を上げて失速する。
「手数が……!」
 足りていない。ヴィエラは歯を噛み締めながら眉間に神経を集中させる。頭の中に幾つもの剣のイメージを浮かべた。するとセピドCの周辺に魔術めいた円陣が現れる。数にして30に及ぶ。
「ワスプビット!」
 言霊に応じて円陣から自律機動砲台が滲み出る。備えた銃剣と本体の輪郭が相まって十字架に見えなくもない。
「行って!」
 セピドCが左腕を横に払う。一斉に散開したワスプビットがEVOLの胴をレーザーで射抜き、銃剣突撃で翼膜を切り刻む。セピドC自身も両腕部を広げ、各砲をそれぞれの方角へと向けて緋色の破線を伸ばす。
「まだ……足りない……!?」
 自機の周囲の圧力は抑えられているが、護衛対象に及ぶ敵の攻撃までは抑えきれていない。すぐ横で砲撃を続ける巡洋戦艦レナウンの船体にEVOLが張り付く。
 もっと殲滅力が欲しい。それも優れた敵味方識別能力を有し、広域に及ぶ殲滅力が。
 渦潮のように旋回飛行するEVOL達が侵蝕弾を斉射する。ヴィエラは唾と共に意を飲み込んだ。
「地に、空に満ちよ。そして我が敵に絡みつけ」
 囁くように唱えた呪言。皮下で蠢く蟲達が一斉に騒めき出す。ヴィエラは悲鳴を呻きに転嫁してやり過ごす。
 セピドCの装甲の隙間という隙間から這い出てた魔蟲妖術。環形動物に似たそれらが空中を飛び回り、誘導弾の如く標的に殺到する。
 侵蝕弾と衝突した魔蟲が変異を始め、変異を始めた魔蟲に魔蟲が群がり貪り喰らう。魔蟲がEVOLを喰らい、EVOLが魔蟲を喰らう。暴食が連鎖し繰り返される光景がセピドCを中心として拡大してゆく。
『この蟲みたいなの新種!? 気持ち悪ぅ!』
 近場で戦闘中だった栞菜が異変に気付いたらしい。イカルガが向けたアサルトライフルの銃口は撃っていいのか駄目なのか判断しかねているようだった。
「と、とりあえず今は味方ですからっ! 皆さん撃たないでくださいね!」
 ヴィエラが慌てた上擦り声で台詞を挟む。
『そうなの? あ、もしかしてユベコ?』
 猟兵と付き合い慣れているのか、ヴィエラの様子から察しを付けた栞菜のイカルガは銃口の先を魔蟲からEVOLへと移す。何匹もの魔蟲に集られ、まともに飛んでいられなくなったEVOLの頭部が銃弾で撃ち抜かれた。
「えーと……今のうちに体勢立て直してください、ね?」
 恐る恐る下から探るように言うと『どーもー』とだけ残して栞菜機はEVOL狩りに戻って行った。
「ま、まあ、やっぱり見た目はよくない……かな……?」
 自分を知っていた者たちはこれを恐れていたのだろうか……今ので日乃和軍にもレイテナ軍にも余計な不安や恐怖を植え付けてしまったかも知れない。
 寂寥と後悔にヴィエラが面持ちを傾ける。だが今はこの力が必要なのだ。蟲魔女の悍ましくも凄まじいこの力が。
 ヴィエラは魔蟲達を手繰るべく、冷徹に努めて念じる。行け、喰らえ、潰せ。
 皮下で蟲達が騒めく。まただ。何度だって慣れない。この感覚は。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シルヴィ・フォーアンサー
『』内はAI発現、アドリブ、合わせ自由。

……前に戦ったREVOLってのに似てるね。
『飛行タイプのようだな、兵装も違うようだ注意したまえ』

一応自前で飛ぶといえば飛べるけど勢いよく進むだけで自由自在じゃないので主に船を足場に戦うよ。

シルエット・ミラージュを発動させてからライトニング・レーザー。
出来るだけチャージしつつ射程内に入ったらクイーン・エリザヴェートにまとわりついてる敵に発射。
死体撃ちは勿体ないからそれぞれの機体が放つレーザーはできるだけ違う対象を狙って撃つよ。
目標は一杯いるから困ることはないだろうし。

目標がこっちに狙いを変えたら普通にハイペリオンランチャー撃ちながら
ロケットパンチをガトリング砲持たせたまま切り離して誘導弾として遠隔操作しミサイルとで近づけないよう迎撃。

触腕絡ませようとしてくるなら見切って両肘からのビームサーベルで切り裂いてカウンター迎撃。
(いちいち腕をはずさないと使えない仕様につき)



●幻銃
 人喰いキャバリアの渦雲に蓋をされた空。巨鯨達が砲の轟きで歌い、上がる火線は途切れず、幾つもの火球が開いては消える。襲来するEVOLの姿は海面の魚群を啄む海鳥達のようであった。
 爆煙が立ち昇る東アーレスの海を黒い機体が跳ぶ。背面と脚部に備わるスラスターから噴射炎を吐き出し船から船へ。飛び石を渡るかの如く。
「……前に戦ったREVOLってのに似てるね」
 黒い機体――ミドガルズのコクピットの中でシルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)は呟きを落とす。金の前髪の隙間から覗く紅月の眼差しは、飛び交う有翼の人喰いキャバリアに向けられていた。記憶の中にある同型種にはあのような翼は生えていなかった。あちらはサイキック能力に傾向した機種であっただろうか。
『飛行タイプのようだな』
 聞き馴染みのある合成音声が聴覚神経に直接届いた。気取った独特の抑揚を持つ音声の発生元は機体に搭載されている戦術支援人工知能のものだ。
『兵装も違うようだ。注意したまえ』
 世話を焼きたくて仕方がない人工知能が頼まなくても敵機の情報を視覚野に送り付けてくれる。シルヴィは密着型パイロットスーツとコクピットを経由して機体と神経接続を結んでいるので逃れようがない。
「侵蝕弾……」
 とりわけ警戒するべきはこれだとシルヴィは確信を付けた。被弾したらどうなるか知れたものではない。機体との同調がより密な自分とミドガルズなら尚更だろう。
『間も無く戦域中央。クイーン・エリザヴェートに接近するぞ』
 意識を前に戻す。ヨルが防衛対象の船体を望遠拡大した。
「まるで城だね」
 周辺で交戦中の猟兵の機体が豆粒大に見える程に巨大だった。船体各所から空に向かって伸びる破線は対空砲火だ。夥しい数のEVOLが船体の周りを旋回しながら攻撃を加えている。
『船の対空砲火に巻き込まれないよう注意するんだ』
「精々上手くやってみるよ……」
 ミドガルズが戦艦ウォースパイトの艦尾に降着した。振動がコクピットを揺らし、シルヴィの尾骶骨を突き上げる。かと思えば身体が操縦席に押し付けられた。ミドガルズがバーニアノズルを焚いて大跳躍したのだ。睨むクイーン・エリザヴェートのカタパルトデッキが近付く。何機かのEVOLが取り付いていた。
「どいて」
 シルヴィの左右の手が操縦桿のトリガーキーを引く。降着体勢に入ったミドガルズが両腕部に保持するガトリングキャノンを敵機に向けた。唸りを上げて回転する砲身。銃口が緋色に明滅する。銃弾のゲリラ豪雨を受けたEVOL達は瞬時に有機物と無機物の化合物となった。カタパルトデッキに深緑の液体が拡がる。着地したミドガルズの装甲は返り血にまみれていた。
『数が多い。シルエット・ミラージュを使いたまえ』
「わかってる」
 シルヴィが短く応じるのと同時にミドガルズの影が機体から分離する。その数は10以上。影は虚ろでありながら確かにミドガルズの似姿へと変容し、クイーン・エリザヴェートのカタパルトデッキ上に展開した。
「ハイペリオンランチャー、チャージ開始」
 視界の隅のサブウィンドウ上にレベルゲージが表示された。充填率を示す数値の上昇に合わせて、ミドガルズの背部ユニットから前方に向けて伸びる長銃身の砲門が光を滲ませる。分身体も同様だった。
 その間にもシルヴィの瞳が忙しく動き回る。視界内で飛び回っているEVOLに視線を合わせると、捕捉完了を意味するロックオンマーカーが灯る。
『十分だろう。撃つといい』
「ライトニング・レーザー……発射」
 ヨルの勧めを受けてシルヴィはトリガーキーから指を離した。ミドガルズ本体と幻影達のハイペリオンランチャーが一斉に稲光を発し、無数の光線を放出した。光線はミサイルの如き指向性を持ち、うねり曲がる軌道を描きながら各個にEVOLを追い回す。翼膜を穿たれた個体は飛行能力を喪失し、頭を射抜かれた個体は中枢機能を喪失し、海面へと落下していった。
「7割は当たった……?」
 シルヴィはレーダーグラフの輝点の減少量を見て言った。シルエット・ミラージュで低下した命中精度はライトニング・レーザーの追尾性付与で補えたようだ。威力の低下はさして問題にならない。EVOLを撃墜するのには通常の半分の出力で十分だったらしい。
『狙いがこちらに向いたようだ』
 獣に睨まれたような殺気を感じた。役目を終えたミドガルズの幻影達が潮風に吹かれて溶けてゆく様を横目に、本体であるミドガルズはハイペリオンランチャーの双門を咆哮させた。伸びた光軸がEVOLを掠めて焼き溶かす。だが多方面から迫るEVOLの圧力はこれだけで到底押し返せるものではない。
「ロケットパンチ射出」
『オールレンジ攻撃だな。任せたまえ』
 ミドガルズの左右の腕部が肘元から噴射炎を焚いて射出された。ヨルの制御下の元、2本の腕部は左右に散開してそれぞれの射角からガトリングキャノンを撃ち散らす。弾幕の結界がミドガルズに接近するEVOLを海へと叩き落とす。されど全てを叩き落とせた訳ではなかった。
『抜けたぞ』
 弾幕を掻い潜った一機が触腕を伸ばす。無数に枝分かれした触腕がミドガルズを包囲するようにして肉薄する。
「見えてる」
 腕が留守になったミドガルズの肘元から青白い荷電粒子が生じた。荷電粒子は剣状に集束形成され、空気中の酸素と水を一瞬で滅却する。
 寸前まで迫る触腕。横に薙ぎ払われたミドガルズの片腕。ビームサーベルの一振りが触腕を焼き切った。顎を目一杯に開いてEVOLが飛び掛かる。ミドガルズは半身を逸らしてもう一方の片腕を縦に振るった。
 交差する二機。シルヴィの視界の横をEVOLが過ぎ去る。後方で肉が激突する衝撃音がした。
 首を横に向けて視線を背後に流す。ミドガルズの頭部も連動して回った。頭から股まで溶断されたEVOLが転がっていた。人間の臓器によく似た内部機構が露呈している。小刻みに跳ねる様子は死後痙攣のようだった。
「……気持ち悪い」
 色彩を宿さない顔が正面に戻される。ミドガルズのセンサーカメラも、シルヴィの瞳も、既に死体を見ていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
楽しいお仕事の時間っぽーい!
護衛任務ってのがちょっと面倒だけどね
猟兵だけのお気軽任務とはいかないのです
そーゆーわけなんで単騎で突っ込んで暴れるってのはなしかなー
数が多すぎてヘイトを集めきれないからね
まぁ、こーゆー時は数が求められるよね
強いけど失われても惜しくない戦力ってのがあるといい
とゆーことで<空穂舟>を喚ぶことにするですよ
文字通りの意味での幽霊部隊はどれだけ落ちようが再出撃が可能なので、ね
空中空母も誰よりも前に出るですよ!
既に死んでるんだから全機突撃!
死兵となって存分に戦うがいーのです
とーぜん僕もアポイタカラで出るですよ!
まぁ、兵力の補充もあるんで空中空母から離れられないんだけどね
そーなると全距離に対応できる重量子ビーム砲がいい感じっぽい!



●古き武士達
 大小様々な艦艇が犇めく東アーレス半島東沿岸沖。鋼鉄の歌声を轟かせる鯨達の頭上で渦巻くEVOLの大軍勢は、海面近くに浮上した魚群を啄む海鳥の如く襲来を繰り返し続けていた。
 貪食の海を赤鉄の鬼が走る。テールスタビライザーが引き裂く空気が海面に白波の痕跡を引く。
 アポイタカラの操縦席に身を据えた露木・鬼燈(竜喰・f01316)が目を横にずらす。レーダーを埋め尽くす赤い輝点は全て敵の反応だ。総数はとっくに測定許容値を飽和している。
「数が多すぎてヘイトを集めきれないね」
 これは猟兵であろうと個人の手に負える範疇では無いと眉宇を傾けた。戦域の広さと護衛対象の多さ、そして敵の総数からして局所的には可能であっても戦略的にはどうしようもない。単騎で全部を守護ろうとすればボールを追い回すサッカー少年の如く走り回る羽目になるだろう。そんな事をしていては守護ろうとした全ての防備がおざなりとなるだけだ。ならどうする?
「まぁ、こーゆー時は数が求められるよね」
 鬼燈の結論は簡潔であり常套であった。人手が足りないのであれば増やせばいい。戦いは基本的に数が多い方が有利なのである。少なくともこの場ではその法則が当てはまる。事実として圧倒的な総数を誇る人喰いキャバリアに対してこちらは苦しい戦いを強いられているのだから。
「とゆーことで」
 アポイタカラが脚部のスラスターを逆噴射して急制動を掛けた。砲身を折りたたんだ状態の重量子ビーム砲を天に向かって掲げる。
「空穂舟……しゅっこーう!」
 高らかに叫ぶ。機体の後方の空間に葉脈の如き線が通うハート型の術陣が生じた。術陣から滲み出た虚ろな巨影は、大鳳やイラストリアスと同じく長大な飛行甲板を持つ航空母艦だった。鬼火のようにぼやけた輪郭が術陣から完全に這い出ると、船底で海面を叩いて激しい波濤を爆ぜさせた。
 幽霊空中空母たる空穂舟は本来空中航行能力を有している。だが腹下に敵機が潜り込む事を阻止する為に敢えて着水し、水上艦として運用する事も可能だ。加えて燃料効率も向上する。
 船首に立ったアポイタカラが重量子ビーム砲の銃身を展開して前方へと向ける。
「全速前進!」
 鬼燈の命令を受けた船がメインエンジンを唸らせて加速する。
「出でよ! 鋼の英霊達!」
 空穂舟の飛行甲板上を紫炎が走る。すると燃える炎の中から人の輪郭が立ち上がった。また一人また一人と立つ輪郭の数は飛行甲板を埋め尽くすほどの数だ。そして輪郭は次第に虚ろでありながら明らかな形を取り始めた。
「鎧武者?」
 鬼燈でなくともそうとしか言い表しようが無かったであろう。空穂舟の船上を埋め尽くすサイキックキャバリアの亡霊達は皆、日本の戦国の世に語られる鎧武者に瓜二つの姿を採っていたのだから。
「誰だい? あんな博物館入りの骨董品持ち出してきたのは……」
 空母が全速で主戦闘域に突っ込んできたならば誰でも気が付く。戦闘の片手間に伊尾奈が目を怪訝に顰める。
「骨董? ああそういう」
 恐らくこの鎧武者型のキャバリアは古代魔法帝国時代の日乃和で運用されていた機体なのだろう。推論付けた鬼燈は「全機突撃!」と短く叫んだ。
 鎧武者達がスラスターから光を焚いて一斉に艦上から飛び立つ。推進装置の稼働音はさながら雄叫びのようでもあった。海上を走る鎧武者の中には馬型のキャバリアに跨る機体までいる。戦域に駆け込むや否や和弓や火縄銃に類似した武器を撃ち放つ。古風な外観に反して威力は申し分ないらしい。矢はEVOLの翼膜を引き裂き、銃弾は白面をかち割って深緑の内容物を撒き散らした。
「征けー! 進めー! 古の英霊達よー! 今こそ護国の為に魂を燃やす時である!」
 鬼燈はそれらしい事を言って煽ってみる。先頭を走る重装騎馬兵がEVOLの集団とかちあった。伸びる触腕。鎧武者は鎧で跳ね除け、或いは日本刀によく似た近接長刀で切り払う。刺し貫かれた機体が馬型の支援機から転げ落ちて落水する。されど武者の突撃は止まらない。
 侵蝕弾の防雨に見舞われてもなお突き進む。先頭集団の鎧武者は機体全身を使って侵蝕弾を受け止めると足を止めた。そして自らのオーバーフレームとアンダーフレームの間に刀を突き刺して横一文字に割く。裂けた隙間から溢れ出した紫炎が機体を包んだ。
 その間に後続が先頭集団を追い抜いて前へと出る。海上を滑空するEVOLにはすれ違い様の一太刀を浴びせ、頭上を飛ぶEVOLは銃や弓で撃ち落とす。
「なんじゃ? 日乃和はまだあんな古いキャバリアを使っておるのか?」
「いや……イェーガーのユーベルコードで喚び出したのでは?」
 津波の如く押し寄せる亡霊武者の集団はエリザヴェートとブリンケンからも視認出来たらしい。機体ごとEVOLにぶつかり腕を噛ませて刀を突き刺す戦い振りは、古代日乃和の伝承に語られる機動武者の鬼気迫る戦い振りを想起させた。
 衝突する軍勢と軍勢。鎧武者がEVOLを切り捨てる。EVOLが鎧武者を食い千切る。海上はEVOLの死体と鎧武者の残滓たる鬼火に染まった。
「どんどん行くのですよ」
 激戦区域となっているクイーン・エリザヴェートの近辺に到達した空穂舟の船上からは次々に増援が送り込まれている。船を囲う鎧武者達が飛来するEVOLに対空防御の矢を放つ。
「僕は船から離れられないけど……」
 空穂舟の維持以外にも出来る事はある。アポイタカラが重量子ビーム砲の長大な砲身を両腕で支えた。紫の光を灯すセンサーカメラが飛び交うEVOLを見据える。鬼燈が操縦桿のトリガーキーを引いた。砲身から伸びる暗い光線が空中を走る。機体を抉り取られたEVOLが金切りの断末魔を上げて海に落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラリー・ホーク
【ファントム】
拓也と参戦。
愛機のマイティホークⅡに搭乗。
普通に他の人と無線でやり取りするが、拓也だけは秘匿通信でやり取り。
「さて、日乃和軍とレイテナ軍の皆! カメリア合衆国軍のエース、ホワイトホークことラリー・ホーク大尉が援軍に駆けつけたぜ!」
と無線で自己紹介しつつ、襲われている味方を救援。敵の頭部を狙うように適切な武装を使って戦闘。
暫くして
「だぁぁぁー、面倒くせぇ! こうなったら俺の十八番を使わせて貰うぞ!」
と叫び、コックピットハッチを開けて、身体を晒す。敵はチャンスとばかりに寄ってくるだろうがそれが狙いだ。素早く術印を両手で組んで
「爆炎術・火鳥乱舞!」
と指定UCを発動。自身の目の前に現れた大きな魔法陣から次々と炎の鳥が飛び立っていき、敵を焼き尽くす。
「さて、白い閃光の方はどうかな?」
と拓也の様子を見る。
拓也からの攻撃指示が来たら、彼の名前を伏せて味方に伝える。味方が渋ったら
「なら、俺は遠慮なくやらせてもらうぞ」
と炎の鳥達を拓也がいる場所へと飛ばす。ま、相棒なら大丈夫さ。
アドリブ可。


防人・拓也
【ファントム】
ラリーと参戦。
ラリーとは秘匿通信でやり取り。それ以外は無線封鎖。
光学迷彩で姿を隠し、顔はゴーグルとスカルマスクで見えないようにする。
指定UCを発動し、襲われている味方の救援の為、敵の注意を引きつけるように群れへと単身で突撃。水上歩行は魔力を使用して出来る。
「さぁ化物共。白い閃光に付いてこれるか?」
敵を踏み台にしながら群れの中を縦横無尽に飛び回りつつ、自身が纏う白色の魔力に風の性質変化を付与し、踵落としや蹴り上げで敵の頭部や翼の切断を狙う。敵のミサイルや触腕は群れの中にいる事を利用し、他の敵に当てるように誘導する。
敵がいい感じに自分の所へと集中したら
「ラリー、三笠及び支援可能なキャバリア部隊に指示しろ。白い閃光がいる場所を一斉攻撃で一網打尽にしろと」
とラリーに言う。気にするな。こちらは余裕で離脱出来る。
攻撃が来たら即離脱。近くにいる艦船の人がいない場所へと着地する。
「やれやれ…もう少しこちらを信用して欲しいものだな」
と呟きつつ、次の敵部隊へ突撃を仕掛けていく。
アドリブ可。


フィア・シュヴァルツ
「ふむ、借金を返すために、報酬がよかった若作りババアの依頼を受けてみれば、なかなかエグい状況に放り込まれたようだな」
『数千年を生きるフィア様が、若作りとかババアとか言うのはどうかと思うのでございます』

使い魔のフギンの言葉は無視し、城のような戦艦に群がる化け物どもに目を向けよう。

「今回の依頼、あやつらを一匹残らず撃ち落とせばよいのだろう?」

空飛ぶ箒の上に仁王立ちして、魔力を集中させよう。
ドラゴンすら滅する我の魔法の前では、あのような相手など羽虫にすぎぬ。

『フィア様、依頼を聞いておられましたか!?
旗艦が沈んでは当方の負けでございますよ!?』
「なあに、船が沈まねばいいのだろう?
船の上に乗っている城のようなモノのことまでは聞いておらんわ!」

【竜滅陣】を放ち、船の周りを飛んでいる化け物どもを撃ち落とそう!

『ああっ、フィア様の魔法がクイーン・エリザヴェートの船体を掠めて飛んでいきました!?
船体表面が高熱で溶けております!?』
「ちっ、箒が揺れて外したか……」
『当てる気満々で撃たないでくださいませ!?』



●この禄でもない世界に爆炎を
 戦火孕む東アーレス半島の海を箒が飛ぶ。箒に跨る……否、箒の柄の上に仁王立ちする魔女の装いは夜のように真っ黒だった。
「ふむ、なかなかエグい状況に放り込まれたようだな」
 潮の向かい風にはためくとんがり帽子を抑えながらフィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)は言う。目が向かう先の戦域では火砲と火球が絶え間なく明滅し、天は渦巻くEVOLの台風に蓋をされている。
「借金を返す為に良い報酬の仕事を受けてみたが……あの若作りババアに嵌められたか?」
 もし本人に聞かれていたら転送事故を装ってクェーサービーストの巣のど真ん中に放り込まれていたであろう。
『数千年を生きるフィア様が、若作りとかババアとか言うのはどうかと思うのでございます』
 肩に乗る鴉の使い魔のフギンが露骨に当てつけるもフィアは視線すら寄越さない。
「人は見た目が九割なのだぞ? その点で我はどう見ても水も恥じらう17歳だからな。片や向こうのババアは見た目もババアで中身もババア、ババアもババアのパーフェクトババアだからな」
『私怨が見え隠れしているようですが』
「ああ?」
 フィアが低い声と共に瞳をフギンに向けた。
「私怨だと? 我が? あのババアに? 胸ばかりでかいだけの凡人に何の理由で私怨を燃やすというのだ?」
『今本音が漏れましたよね?』
「なんだって? 今夜は焼き鳥だと?」
 本気の殺意を感じたフギンは口ならぬ嘴を噤んだ。フィアの肉体は悪魔との契約によって時間が停止している。これ以上もこれ以下も無く大きくも小さくもならない。フィアにとってもう二度と手に入らない事に触れるのは禁忌だった。
「でかいと言えば……」
 夕食の材料に向いていた瞳が正面に戻る。
「図体ばかりでかい船だな」
 遠方の海上に展開するレイテナ艦隊。その中央に座す旗艦クイーン・エリザヴェートの威容を瞳に移す。城が浮かんでいるような船体の周囲を無数のEVOLが飛び回り、対空機関砲の火線が後を追う。推進装置の噴射口を閃かせているのは直掩のスワロウ小隊と猟兵達のキャバリアであろう。一部の猟兵は船体に降着して防空に当たっているらしい。
「今回の依頼、あやつらを一匹残らず撃ち落とせばよいのだろう?」
 話しは早し。やるも早しとフィアは杖を掲げる。捻じくれた先端部の紅月の如き球体が緋色の脈動を放つ。
「竜すら滅する我が爆炎魔法の前ではあのような羽虫など――」
『フィア様、依頼の内容を聞いておられましたか!?』
 鼓膜に痛い抗議の声にフィアは顔の半分を顰めた。
「うるさい! 耳元で怒鳴るな!」
『旗艦が沈んでは当方の負けでございますよ!?』
「なあに、船が沈まねばいいのだろう?」
『竜滅陣を使うおつもりでしょう!? 船が吹き飛んでしまいますよ!』
「船の上に乗っている城のようなモノのことまでは聞いておらんわ!」
『キャンプ場に続いてここも出禁になってしまいますよ!』
「知らんな」
『修理費請求されますよ!』
「今更借金の百万や二百万程度どうという事はない」
『軍艦が幾らするかご存知なんですか!?』
「我が知るわけないだろう」
 参考価格としてUDCアース基準だと原子力空母の建造費が一隻辺り7300億円程度である。
「そもそも取り立てられたとて逃げてしまえばいいだろう? 奴等は猟兵ではないのだから異世界にまでは追ってこれまい」
『雇用主が追ってこなくても今回の依頼の報酬を当てにしていた猟兵から損害賠償を請求されたらどうするんです!? 例えばあそこのストライダーの艦長とか!』
「なあに、一人二人程度なら逃げ切れる」
『31人だったら?』
 フィアの動きが止まった。そう言えば今回の仕事は妙に人手が集まっていたような。
「ま……まあ、船の周りを飛んでいる化け物どもを撃ち落とすだけだ。船を少しばかり掠めるかも知れんがな」
『その船の周囲には既に猟兵が展開済みなんですよ! 味方撃ちするおつもりですか!? 猟兵の恨みは恐ろしい事をフィア様はよぉぉぉぉくご存知でしょう!?』
 フィアには心当たりがある。あの紫ババアめ、目の前でたゆんたゆん見せ付けおって。思い返すだけでも恨めしい。つい力が籠もって杖に炎を滾らせてしまった。
「まったくフギンは我のやる事に文句ばかり言いおって……ならどうやって吹き飛ばせばいいのだ?」
『何故吹き飛ばす事に拘るのです!? ミゼリコルディア・スパーダでも使えばよろしいでしょう!?』
「それでは詰まらんだろう」
『詰まらんだろうって……』
 フギンが重く深い溜息と共に首を横に振る。
『ホワイトホークより三笠及び支援可能なキャバリア部隊へ! 白い閃光がいる場所に一斉攻撃を求む!』
 イヤホン型通信端末から男の声が聞こえたのはその時だった。フィアは暫し瞬きを繰り返す。
「おやおやぁ? 我を喚ぶ声がするなぁ?」
 フィアの唇が嬉色に吊り上がる。フギンは膨れ上がる嫌な予感に羽毛を逆立てた。

●猟兵忍法火の鳥
 砲撃の重奏を奏でる鯨達の群れ。その狭間を縫うようにしてキャバリアが海面を滑走する。
「日乃和軍とレイテナ軍の皆! カメリア合衆国軍のエース、ホワイトホークことラリー・ホーク大尉が援軍に駆けつけたぜ!」
 CXM-83-MHⅡ マイティ・ホークⅡがスラスターで海水を巻き上げながら軽快に走る。ラリー・ホーク(ホワイトホーク・f40715)の威勢の良い啖呵を乗せてMHⅡ専用高出力ビームライフルが荷電粒子を間欠噴射した。超高熱の光の弾丸が戦艦ウォースパイトに纏わり付くEVOLの群れをなぞる。翼なり胴体なりを撃ち抜かれた個体が失速して海面に墜落した。
「カメリアじゃと? はて? どこかで聞いたが……?」
 司令席に座すエリザヴェートが難しい面持ちで頭上を見上げる。記憶の引き出しを探しているらしい。
「エルネイジェから西アーレス海に出て、更にずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううぅぅぅうぅぅぅううぅぅぅぅぅぅぅっと西に……進むと……行き着く大陸の……国ですな……」
 息を切らすブリンケンを他所にエリザヴェートの顔に明かりが灯った。
「思い出したぞ! キャバリア泥棒を拷問に掛けた時にカメリアがどうとか喚いておったな」
 そんなクイーン・エリザヴェートのブリッジの様子などいざ知らず、マイティ・ホークⅡは満身創痍のウォースパイトを庇う位置取りでビームライフルの弾幕を張り続ける。
「ええい! 物量戦は我らがカメリアのお家芸だが! やられる側は堪ったもんじゃないな!」
 弾幕を掻い潜って突っ込んできたEVOLが喰らい付く。マイティ・ホークⅡはコーティングシールドで受け止めるとビームライフルのフラッシュハイダーを頭部に押し当てた。
「頭をぶち抜けばいいんだな!?」
『そうだ。奴等の機能の中枢は頭部に集約されている。無駄弾を撃つなよ。人喰いキャバリアとの戦闘は圧倒的物量と長丁場が常だ』
 秘匿回線の向こうの男が素っ気なく応じる。
「了解了解っと!」
 ラリーが操縦桿のトリガーキーを押し込むとEVOLの白面が西瓜のように炸裂した。死体を蹴飛ばしたマイティ・ホークⅡの側近を虚ろな人の輪郭が走り抜ける。
「旗艦から敵を引き剥がさなければ……」
 ゴーグルとスカルマスク、そして光学迷彩に覆われて素顔は伺えない。だが海面を生身一つで疾駆する防人・拓也(独立遊撃特殊部隊ファントム指揮官・f23769)の声音からは苦味がありありと感じ取れた。
「うおっ……!」
 海面を滑るように飛ぶEVOLと交差した途端、EVOLが引き連れた衝撃波に吹き飛ばされた。身を丸めて空中で二転三転すると手足を広げた。EVOLはウォースパイト目掛けて触腕を伸ばす。
「流石の白い閃光様も生身じゃキツいだろ? グラントゼロで出ればよかったんじゃないか?」
 マイティ・ホークⅡが触腕とウォースパイトの間に割り込んだ。攻撃を盾で受け流すのに合わせてビームライフルの三点バーストを見舞う。三発目がEVOLの眉間を貫通した。
「この程度、なんとも無いさ」
 拓也は穏やかに波打つ海原を地面に見立てて受け身を取った。視線を逡巡させる。高度を落として飛ぶ敵の群れが目に付いた。進路からしてクイーン・エリザヴェートかウォースパイトが狙いなのだろう。
「さぁ化物共。白い閃光に付いてこれるか?」
 四肢が風を纏う。海面を蹴って走り出す。群れとの距離が縮まった矢先に跳躍してEVOLの一体の背に降着した。
「届くか!?」
 頭部目掛けて踵を落とす。時空間魔術・疾風瞬身で得た風の魔力を乗せた一撃はまさに疾風の如しだった。強烈な衝撃で内部に深刻な損傷を受けたEVOLの身体が大きく傾く。結果を見届ける暇も無くEVOLを足場に跳んだ。
「生身でも急所だけを的確に狙えば!」
 空中で身を捻って次なる標的に目を向ける。推進噴射をしたかのように身体が直線加速した。EVOLの身体に降りると翼を一蹴。風の刃が翼膜を引き裂いた。
 EVOL側も標的を艦艇から生餌たる拓也に切り替えたらしい。触腕と侵蝕弾が四方八方から迫る。拓也はEVOLからEVOLへと飛び石の要領で足場を変える。背後から聞こえた金切り声は触腕に貫通されたEVOLのものだろう。
「こっちに食い付いてきてくれているが……」
 視線を後方に逃がす。艦艇に向かっていた敵集団が猛烈な勢いで追いかけて来ている。マイティ・ホークⅡが敵を追い抜いて拓也の隣に並んだ。疾風瞬身で気流の鎧を纏っているとは言え、生身にはキャバリアが生み出す衝撃波とスラスターの噴射熱が辛いので止めて欲しいのだが――。
「だぁぁぁー、面倒くせぇ!」
「ラリー!?」
 並走するマイティ・ホークⅡから苦悶とも怒声とも取れる叫びが上がった。細々と頭部を狙う作業にゲシュタルト崩壊を起こしてしまったらしい。
「こうなったら俺の十八番を使わせて貰うぞ!」
 マイティ・ホークⅡが機体の向きを反転させて敵集団に正面を晒す。
「十八番……? おい待て!」
 拓也の静止を無視してラリーはコクピットハッチを開放した。吹き込む強烈な風に目が眩む。生肉の登場に獰猛に群がるEVOL達。ラリーの左右の五指が術印を結ぶ。
「爆炎術・火鳥乱舞!」
 マイティ・ホークⅡの真正面に炎の魔術陣が開いた。そこから生まれ出ずる火の鳥。百を越える火の鳥が乱れ飛び、ラリーが腕を横に払うのに呼応してEVOLに襲い掛かった。猛禽の如き火の鳥と正面衝突したEVOLは瞬時に火球へと変じて海へと落水する。身体構造の殆どが有機的な筋繊維で構成されているので、重度の火傷を負った事で飛翔に必要な運動動作が取れなくなったのだろう。
「さて、白い閃光の方はどうかな……ってもうあんな遠くかよ」
 ラリーがコクピットハッチから身を乗り出す。拓也は多数の敵を引き連れつつ艦隊陣形の外周……それも周囲に友軍がいない空白地点に到達していた。次なる作戦に備えて操縦席に身体を戻すとハッチが閉ざされた。
「十分だな」
 クイーン・エリザヴェートを遠方に見た拓也は足を止める。
「ラリー、三笠及び支援可能なキャバリア部隊に指示しろ。白い閃光がいる場所を一斉攻撃で一網打尽にしろと」
「いいのか? 俺は遠慮なくやらせてもらうぞ?」
「問題ない」
 短く言い切った相棒に「ああそうかい」と味気なく応じてからコンソールを指先で叩く。通信帯域を友軍共通のオープンチャンネルに設定して口を開く。
「ホワイトホークより三笠及び支援可能なキャバリア部隊へ! 白い閃光がいる場所に一斉攻撃を求む!」
『三笠よりホワイトホークへ! 白い閃光とはエイストラの事か!?』
「ああ! ん!? いや待て違う! さきも……」
 喉元まで出かけた名前を寸前で飲み込んだ。本作戦において拓也の参加は一応秘密となっている。といっても作戦参加者の名前が書かれた契約書が向こうに渡っているのだが。
「あーその、なんだ……座標データを送る! そこに攻撃を集中させてくれ! 敵を掻き集めておいた!」
 そう言えばエイストラにノインツェーンにラウシュターゼにメルクリウスにTYPE[JM-E]にセピドCにアークレイズに自分に相棒に……この戦場は白が結構居るな。一応サイバー・アスモデウスとレゼール・ブルー・リーゼもか? などと浮かんだ雑念は横に置いて三笠宛に座標情報を送り付ける。
『三笠よりホワイトホークへ! 座標情報を確認した! これより砲撃を――』
『その役、我が買って出よう』
 傲岸不遜な性格を隠そうともしない少女の声音が割って入った。

●ゲームオーバールート回避
 拓也が引き付けた敵集団を見下ろす黒い瞳。
 箒に威風堂々と立つフィアの漆黒の衣がはためく。
「フギンよ、今度は文句もあるまいな?」
『ええ……ですが……』
 フィアの問いは結論ありきだった。今度は耳元で怒鳴り散らす必要も無いだろうと。有能なる同志がわざわざ敵を引き付けてくれたのだ。しかも周囲への被害を慮る必要の無い場所まで。この好機を逃しては同志の命懸けの働きを無碍にするも同義。
「よくやってくれたな。後は我が引き継ごう」
 早くぶっ放したい。頬が自然と上がってしまう。フィアは杖の頭を拓也が誘引した敵集団の中央へと向けた。複雑怪奇かつ幾何学的な魔術陣が二重三重に拡がり、それぞれが別方向へと緩やかに回転を始める。
「漆黒の魔女の名に於いて、我が前に立ち塞がりし全てを消し去ろう……」
 フィアの薄い唇が微かに動いて呪いを紡ぐ。
「とてつもなく嫌な予感がするんだが……」
 拓也の周辺の海面に巨大な魔術陣が展開した。フィアが杖先に生じさせているものと完全に同一だ。
「気が合うな相棒、俺もだよ」
 マイティホークⅡのセンサーカメラもその光景をはっきりと捉えていた。拓也とラリーは背中から冷たい汗が滲み出るのを感じた。
「人喰いの異形共よ! 飢えず乾かず焼滅するがいい! 竜滅陣!」
「相棒ォォォッ! 逃げろォォォッ!」
 ラリーの叫びは届いたのだろうか。
 フィアが杖先で回していた魔術陣より閃光が走る。それと同時に海上に展開されていた巨大な魔法陣が発光を強めたかと思いきや炸裂。目を焼かんばかりの極光が膨らむ。次に大気を戦慄させる爆音が轟く。衝撃を伴う熱波が海面を撫でて津波が後を追った。
 魔術陣の後に立ち昇ったのは巨大な火炎の十字架。天を衝く勢いのそれが東アーレス半島の海を緋色に照らし出す。
『猟兵がまた核を使ったのか!?』
『総員落ち着くのだ! 沙綿里島の防衛作戦以来、核兵器の使用は雇用契約で厳重に禁止されているはずだ!』
『連中が紙の約束なんざ守るもんかね……』
『フェザー01より小隊各機! 放射線濃度に変動はありませんわ! 冷静に行動なさい!』
『綺麗な花火だねー』
『誰じゃあんなのをぶっ放しおったのは!』
『なるほどな。日乃和はこの力で|オペレーション・ドーンブレイカー《暁作戦》を成功させたと……まったく、東雲官房長官殿もとんだ怪物を寄越してくれたもんで』
 大騒ぎになっている通信などいざ知らず、フィアは火の粉を孕む風に黒髪を流していた。
「ふははは! 我が大破壊魔術! 思い知ったか!」
 無い胸を揺らして高笑いするフィア。その様子を見つめるフギンの眼差しは呆れ色を隠そうともしない。燃え盛る焔の柱の向こうに拓也の面影が浮かんだ。
「無茶しやがって……」
 マイティホークⅡのコクピットの中でラリーは相棒の幻に敬礼を捧げる。
「勝手に殺すな」
 秘匿通信回線経由で疲弊した声が聞こえた。ウォースパイトの艦尾に着地した拓也の戦闘服はずぶ濡れで端々が焦げ付いていた。
「お! 無事だったか!」
 ふざけているのか感動の再会を本当に喜んでいるのか分からないラリーに対し、拓也は嫌味を込めて溜息を聞かせてやった。
「白い閃光から黒い消し炭になるところだったがな……」
「核を食らって生き残った奴が何を言う」
 咄嗟に潜っていなかったらどうなっていたか……未だ燃え立つ火柱を見て拓也が自身の身体を触れて回る。手足は全部揃っているし、どこか吹き飛ばされた箇所も無さそうだ。
「やれやれ……もう少し手加減して欲しいものだな」
 無線を封鎖している為こちらの声は届かない。だがそれでも呟きを禁じ得なかった。
「世界よ! これが漆黒の魔女の力だ! 破壊! 粉砕! 大喝采! よおし、もう一発」
「やめてくれ!」
「待ってくれ!」
 フィアの言葉尻に拓也とラリーの悲痛な叫びが重なる。
 斯くしてクイーン・エリザヴェートの撃沈という作戦失敗条件は、当事者達が知る由も無い所で阻止された。されど鯨の歌はまだ続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
「また――人喰いキャバリアとの戦いですか。
いいでしょう、私設軍事組織ガルヴォルン大佐として、人喰いキャバリアは殲滅してあげます!」

潜水艦モードで深海を航行中の機動戦艦ストライダー。
その艦長席から緊急浮上を命じます。

艦が海上に出て艦艇モードに移行したら、ストライダーの制御AIミスランディアに指示を出します。

「ストライダー、主砲の超重力波砲に全エネルギーを集中させてください!」
『セレーネよ、作戦を聞いておったか!?
敵の迎撃に出ておる味方を巻き込みかねんぞ!?』
「わかっています。安心してください。
――目標は遠方で飛び回る人喰いキャバリアの群れそのものです!」

あの雲のような敵を撃滅するため、ストライダーのリミッターをカット。
動力炉の全エネルギーを超重力波砲にチャージします。

「動力炉や主砲が壊れても構いません。
ここで敵を一掃します!」
『やれやれ、人喰いキャバリアへの恨みで我を忘れておるようじゃな。
まあいい、修理代は雇い主に請求するかの』
「ストライダー、超重力波砲、全力射撃です!
ってー!」



●太陽に向かって撃て
 人喰いキャバリアの俗称で呼ばれる無人機群の多くがジャイアントキャバリアに分類される。機体を構成する材質の大半が有機物だ。通常のキャバリアは活動にエネルギーインゴット等の燃料を消費するが、人喰いキャバリアは俗称が示す通りに人間を含む有機生命体を捕食して活動エネルギーに転換する性質を持つ。
 初めて名前を聞いたのは日乃和の東州と西州の狭間にある愛宕連山補給基地の撤退支援作戦だっただろうか。ワダツミ級強襲揚陸艦ストライダーの艦長席に腰を落ち着けたセレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)が沈黙の中で記憶を辿る。
 思い返したくない記憶だった。だが逃げてはならない記憶だった。乗り越えなければならない記憶だった。あの時感じた恐怖。あの時失った部下達。あの時味わった挫折。全ての痛みを抱えて自分はもう一度戦場に帰ってきた。死者を踏み越えて生き残った者として、義務と責任を果たすべく。
「また人喰いキャバリアとの戦いですか」
 それも今となってはかなり前の話しだが。艦橋の天面を覆う超剛性プラスチックに沿って海水が前から後ろへと流れる。結んだ口から溢れた呟きは、藍色の潮流に乗って過ぎ去って行った。
『また、と言うよりまだまだじゃな』
 艦橋内に電子音声が伝う。年寄り臭い口調だが声音は少女の色だ。
 ミスランディアが言わんとしている所はセレーネだって理解している。愛宕連山補給基地撤退支援から暁作戦に至るまでの戦いが無駄だったとは言わない。だが全てはマイナスをゼロに巻き戻す為の戦いだったのだ。
「解ってますよ。ここからが始まりですからね」
 漸く人類側はスタート地点に立てたのかも知れない。だが鯨の歌作戦という通過儀礼、或いは入場試験を突破しなければ終わりを始める事は出来ない。
「いいでしょう、私設軍事組織ガルヴォルン大佐として、人喰いキャバリアは殲滅してあげます!」
 突き詰めてしまえばやること自体は最初から変わらない。意思疎通の手段が無く、滅ぼすか喰われるかの二者択一しか無い天敵が相手ならば、武力を以てして生存競争に打ち勝つ他に進む道など無いのだから。
「ストライダー! 浮上開始!」
 セレーネの命令を受けたミスランディアがストライダーのメインエンジンを回す。藍色の海中に重い衝撃音が拡充した。海底を這うように進んでいた長大な船体が緩やかに浮き上がる。艦橋から見える世界の色が藍から青に移りゆく。海中に差し込む陽光が光のカーテンを踊らせた。
『ストライダー、浮上完了じゃ』
 船体から泡立つ白波が溢れる。海面に身を露わにしたストライダーの威容はまるで巨大な海洋哺乳類であった。
 主な戦闘域の外縁に浮上したストライダーの頭上では、日乃和とレイテナ両軍のイカルガと猟兵達の機体、そして有翼の人喰いキャバリアが飛び交っていた。空に向かって伸びる対空機関砲の火線は途切れず、無数の火球が膨張しては泡沫の如く消え失せる。
「これより本艦は戦闘を開始します! 攻撃準備!」
 セレーネはストライダーを取り囲む戦場に眼差しを巡らせた。見渡す限り敵だらけ。倒すべき敵には困らない。
『了解じゃ。VLS1番から12番起動するぞい』
「主砲の超重力波砲に全エネルギーを集中させてください!」
『艦首ハッチ展か……なんじゃと?』
 途中まで言いかけたミスランディアが続きを詰まらせてセレーネに問う。
『セレーネよ、作戦を聞いておったか!? 敵の迎撃に出ておる味方を巻き込みかねんぞ!?』
 メインモニターに彼我戦力の位置情報と護衛対象の展開状況を反映した地図画像が表示された。状況は混戦と言う他に無い。敵味方が入り乱れて戦闘の秩序は不協和音と化している。いま重力波砲を発射すれば多数の敵を排除出来るだろう。合わせて同数の友軍を撃墜しかねないが。
「わかっています。ちゃんと考えていますから安心してください。目標は空です!」
 セレーネが斜め上仰角50度程度の先を指差す。
『……なるほどのう』
 ミスランディアが声音を潜めた。戦域の上空に蓋をする台風の如きEVOLの大軍勢。三笠がメガビーム砲での砲撃を継続しているが、穴が空いてすぐに塞がりの繰り返しだ。
 だが狙うだけなら簡単だ。射角も然るべき調整を取れば友軍も巻き込まない。より強力な攻撃で一挙に撃滅すれば戦況全体に加わる圧力も幾らかは和らぐだろう。例え一射限りの攻撃だったとしても。
「全リミッターを解除! 動力炉や主砲が壊れても構いません! 全エネルギーを超重力波砲に回してください!」
 異論は挟ませないと断ずるようにして命令を下す。固く引き締めた面持ちが睨む先はEVOLの台風だ。
『艦首仰角上げ50度』
 船尾に向かって身体が引っ張られる。ストライダーの船体後部が海面下に沈んだ分だけ船体前部が頭を上げた。外観は海面を割って飛び出た鯨のようだった。
『艦首ハッチ開放。超重力波砲を起動するぞい』
 本来はウェルドッグとして使用する空間に納められた巨砲――超重力波砲がハッチから迫り出す。砲身内部の何層ものファンが回転を開始する。回転速度が増大するにつれて黒い稲光が走った。
『エネルギー充填率180、190、200……本当に砲身がお釈迦になるが、良いのじゃな?』
「構いません! 私のユーベルコードで限界を超えた出力を引き出します!」
 喧しい警報音が鳴る。メインモニター上には警告や異常を示すメッセージが次々に飛び出す。だがいずれも艦長席の肘掛けを掴むセレーネを動かす要素にはならない。
『280……290……300! 撃てるぞい!』
「超重力波砲! てー!」
 セレーネが身体を声にして叫んだ。右腕が左から正面へと振り切られ、手のひらが広がる。
 ストライダーの船体を鈍重な衝撃が駆け抜けた。揺らめく黒い波動が艦首の巨砲から拡がり、闇の奔流が御柱となって伸びる。超重力の咆哮は射線に掠めたEVOLを瞬時に圧砕しながら直進。頭上を覆うEVOLの台風に突き刺さった。
 EVOLの台風に大穴が開く。濃霧が強風によって吹き消されたかのように。計測出来ないほどの夥しい数のEVOLが封鎖していた空。その一部が文字通りに抉り取られたのだ。
 許容値を三倍も超過した出力で発射した超重力波砲の悲鳴が響く。動力炉の緊急停止と補助電源作動の旨を慌ただしく伝えるミスランディアの声音をセレーネは遠くに聞いた。
「私は……もう負けません……!」
 噛み締めた奥歯から自戒が滲む。
『多数の敵が接近中じゃ。目立ちすぎたな。潜航は出来んぞ? どうする?』
「補助電源だけでもVLSは使えるでしょう! 順次迎撃を!」
 状況はセレーネに立ち止まる事を許さない。戦い続けなければ。さもなくば追い付かれてしまう。いつも後ろを追い掛けて来ているあいつに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【POW】
絡み・アドリブ歓迎

作戦発動直前に先手を打たれましたか。ここからの巻き返しは少々厳しいですが、まずはこの飛行集団を片付けましょう。
三笠、大鳳の後方を追走しつつ、サテライトドローン群を戦闘エリア外周を囲う様に展開し通信、観測網を構築。
UCで水上型護衛艦群を召喚、輪形陣を展開し防御力を上昇させる。護衛艦の艦載機は艦隊の直掩に回す。
三笠、大鳳及びレイテナ艦隊との間にデータリンクを設定し、猟兵を含めた味方間の【情報伝達】が迅速に行える様にする。
観測網及び味方艦隊、愛鷹及び護衛艦隊のレーダー、センサー及び各種観測機器による【偵察、索敵、情報収集】を行い収集した情報を【戦闘知識、情報検索、瞬間思考力】で解析し、効果的な迎撃パターンを構築し味方と共有。
迎撃パターンに従って敵集団に対し【誘導弾、砲撃、レーザー射撃】の【一斉発射、制圧射撃、範囲攻撃】による【対空戦闘】を行って敵の数を削る。
味方機が敵集団に接触後は【援護射撃】で支援する。
Aー2隊と自立砲台群は【集団戦術、空中戦】で【遊撃】を行う。



●防空艦隊
 敵の意表を突く事が戦いの原則の一つだとするならば、今回の人喰いキャバリアが取った行動は原則に則った行動と言えるだろう。レイテナ軍の間引き作戦によって次に活動を再開するまで数ヶ月間は必要と見せ掛け、内陸部から無限に送られる増援戦力との合流を待ち、日レ同盟軍が作戦を発動する直前に突如として南下を開始した――。
『意図の有無はいざ知らず、作戦発動直前に先手を打たれた事は事実ですね』
 ホバーが巻き上げる海水の飛沫を纏う陸上戦艦愛鷹。その艦橋でウォーマシンの義体に中枢機能を移した天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)が無機質な電子音声を漂わせる。
 人喰いキャバリアは高度な戦略及び戦術判断思考を有さない。そういった資料を閲覧した記録がある。だが此度の人喰いキャバリアの動向にも当てはまるのだろうか。意図の有無はいざ知らず……意図するだけの思考能力の存在を疑わずにはいられない。
 物量に物を言わせた圧砕が基本の人喰いキャバリアだが、やはり兵器は兵器。制御する術はあるのだろうし殲滅や制圧といった目標の下で運用されているに違いない。
 だとしたら誰が制御を担い誰が作戦目標を与えている? 暴走中のゼロハート・プラントとやらか? 戦闘の目的は? 一般論で言えば戦闘は手段であって目的ではない。 世の中には闘争自体を目的とする人間が最低280万人は居るはずだが……人喰いキャバリアに限っては当てはまらないだろう。
『まずはこの飛行集団を片付けましょう』
 思考容量を割いても詮無い事だ。千歳は視覚野を拡張して愛鷹の船体を俯瞰視点で眺める。既に広域に展開済みのサテライトドローンが構築した通信網と観測網による賜物だ。艦橋の窓から戦場を見るよりも遥かに視界が広いし、敵味方の所在や予測進行方向などが正確かつ簡潔に把握出来る。
 現状の愛鷹は大鳳と三笠の近辺やや後方に留まっている。戦域を見渡しつつ艦艇が持つ火力を投射して友軍を援護するには丁度良い立ち位置だろう。敵機の襲来もまばらなのでその分だけ処理能力を観測に回せる。問題は頭数だが、千歳は補う手段を持ち合わせていた。
『護衛艦隊出撃、本艦を中心に陣形を組め』
 愛鷹の周囲にワープドライブの門が開く。青く眩い光の円環をくぐり抜け出て来たのは140隻に及ぶ航宙護衛艦だった。艦艇は皆一様にして洋上艦と同じく半身を海に浸し、波を割って整然とした艦隊陣形を構築する。精密な動きはまるで全てで一つの生物のようでもあった。
『各艦の艦載機部隊はレイテナ第一艦隊の直掩に回れ』
 無機質にそう告げると護衛艦から次々に艦載機が出撃し始めた。小隊ないし中隊の編成を組んだ艦載機達が海面を滑って三笠を追い越す。向かう先はEVOLの攻勢を受け続けるレイテナ海軍の船だ。戦術データリンクは既に結んでいる。後は緊急性の高い艦艇を選定して勝手に防衛に当たってくれるだろう。
『我が身は我が身で問題な訳ですが』
 人喰いキャバリアはレイテナの艦艇しか狙わないなどという道理は無い。戦域外縁部に居るとは言え愛鷹とて攻撃対象だ。人間が乗っていないので優先順位は低いのだが――人肉をたっぷり積んだ大鳳と三笠に誘引されて飛んでくるEVOLには不足しない。
『雇用主の戦力を囮として活用する事が適切か否かには言及しかねますが、戦術上より効果的な行動を取らせて頂きます』
 両艦を囮として敵集団を誘引し、迎撃陣形を敷いた隷下の戦力で防衛と殲滅を行う。千歳はこれを効果的な迎撃パターンと判断した。
『全艦に告ぐ。VLS、対空砲塔、電磁加速砲発射用意』
 愛鷹の三連装砲の旋回に呼応して護衛艦隊の砲塔も一斉に蠢き出す。突き出た砲身が睨む先にはEVOLの集団。夕暮れ時の鳥の群れの如く犇めき合ってこちらの方角へと接近しつつある。三笠から対空機関砲とミサイルが上がり始めた。
『攻撃……始め』
 落とすように下した命令が砲撃の火蓋を切った。夥しい数の艦艇から夥しい数の火線が伸びる。電磁加速砲が発射した弾体が触れたEVOLの身を木っ端微塵に吹き飛ばす。VLSから白煙を引いて飛んだミサイルがEVOLに吸い込まれて火球に変ずる。対空砲塔群が毎分3000発の間隔で吐き出す機銃弾がEVOLを穴あきチーズにした。
 空中に広がる黒煙と爆炎、そして緑の血煙。数秒前までEVOLだった物体が海へ落水するたびに小規模な水柱が立つ。
『この数だとやはり抜けますか』
 辛うじて弾幕を抜けたEVOL達が極低空から三笠に迫る。千歳は『こちらで対処します』とだけ通信で伝えると人知れず指令信号を送信した。
 三笠の船体に到達するまであと数秒。だがEVOLの食欲は志半ばで挫かれた。横殴りの小口径ビームの雨に打たれたからだ。16基の自立浮遊砲台群の強襲によりEVOLの集団が一様にして飛行姿勢を崩す。そこへビームソードを抜いたA-2P型無人装甲騎兵隊が襲い掛かった。盾ごと激突し強制的に失速させてからの溶断。身を切り落とされたEVOLが手足を滅茶苦茶に振り回しながら海へと没する。
『防空網を抜けた敵への対処はお任せください』
 至極事務的に伝える千歳。言うほど容易な任では無いが、現状打てる最善手ではある。
『後は敵が尽きるのが先か、弾が尽きるのが先か……見通しは暗いとしか言えませんね』
 戦術データリンクを経由して送られてきたレイテナ各艦の残弾数は殆どが黄色か赤色、もしくは灰色だ。三笠とて無限に弾を抱えている訳ではない。そして愛鷹と隷下の艦艇達も。だが弾が多かろうが少なかろうが今は撃ち続けるしかないのだ。レーダー上で赤い輝点が波となって押し寄せる度に千歳の鯨達が爆轟の重奏を歌う。残響は引く波音のようでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
※ML-TC タイフーンカスタムに搭乗
※EPキャバリアスラスター搭載
心情:クソッタレ、余計に状況が面倒になってやがる!
手段:「こっちはエンジンに火を入れた、早く甲板に上げろ!」
大鳳のカタパルトから射出されたらキャバリアスラスターを全開にして吹かす、早いが奥の手を出させてもらう!

先ずはレイテナ艦隊上空の|糞蝿《エヴォルグ》から掃除させてもらう、推力偏向にてホバリングを試みる。【BS特火重イオン粒子砲・連続照射モード】スタンバイ、日本武尊の主砲が点ならこっちは線だ、加速機のコイルと砲身が焼ける迄3分、どれだけ上空を掃射出来るか…
照射限界が来たら粒子砲を投棄、だが後退はせんぞ、通信で危機的状況を知らせてる空母ユニコーンか?バーンマチェーテを抜刀して取り付いたヤツの掃除を開始する、周りを浮いてる奴をは肩のクロコダイル単装電磁速射砲で射抜き、取り付いた奴は船外・船内の奴共にマチェーテでナマスにしてやる。
《だからおじさん言うんじゃねぇ!分かった分かった、お前が生き残ったらTACネームで呼ばせてやる》



●ハウスクリーナー
「こっちはエンジンに火を入れた、早く出させろ!」
 ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)の怒声に焦燥が滲む。猟兵の戦力を含んでも尚苦しい作戦前提が、人喰いキャバリアの気紛れで余計に不利な状況での開始となってしまったからだ。
『カイゼル、発進位置へどうぞ』
 何機目かの猟兵のキャバリアが飛行甲板から射出されていった。
「やっとかよ……!」
 発進を焦がれた心が先に出撃したキャバリアの残した爆音に煽られる。ML-TC タイフーンカスタムをカタパルトデッキへ進ませるべく操縦桿を押す。手に要らぬ力が篭る。
『ユニコーン、ブリッジに被害が及んでいます! 応答無し!』
 通信帯域に時折混線する声が伝えるのはレイテナ所属の航空母艦の損害状況。護衛対象となる艦艇の中でも取り分け大きな痛手を受けているらしい。
『こちらスワロウ01! 誰か! ユニコーンの救援をお願いします! こちらはクイーン・エリザヴェートから離れられません!』
 テレサの悲痛な叫びに応じる声は無い。レイテナ第一艦隊に残存する航空戦力はそれぞれの個艦防御で手一杯だ。
「ええい、空母は一隻でも落とされたら大事だろうが」
 ヴィリーはコンソールに指を走らせる。地図情報を呼び出すと機体の進路とユニコーンの現在位置を線で繋いだ。
『タイフーンカスタム、発進準備完了。発進どうぞ』
 カタパルトに乗せたタイフーンカスタムの足が鋼鉄の爪に捉われた。
「ヴィリー・フランツ! タイフーンカスタム出るぞ!」
 黒煙が昇り火球が明滅する海原に向かって叫ぶ。操縦桿を前に突き出してフットペダルを踏み込む。強烈な重力加速度に身体が押し潰されそうになったのも一瞬、弾丸となったタイフーンカスタムは大鳳から弾き飛ばされていた。
「まだ沈んでくれるなよ」
 リニアカタパルトの最大加速に乗ったタイフーンカスタムは四肢を僅かに動かす。機動兵器にのみ許された特権――能動的な質量移動によって舵を取り、折角得た加速を殺さずにユニコーンの元へと進路を傾ける。
「糞蝿どもめ……わんさかと……!」
 出撃から1分と掛からぬ内にユニコーンの船体は視程に収められた。何本かの黒煙が上がっている。頭上では比喩の通りにEVOLの集団が煩く飛び交う。
「こちらカイゼル! ユニコーン! 聞こえるか!」
 無音を返す通信にヴィリーは舌を打つ。タイフーンカスタムがスラスターノズルを力強く焚いて加速した。ユニコーンの元まで僅かな距離となった手前で急制動を掛ける。空中に留まるタイフーンカスタムが推進装置の噴射圧を真下に向けた。海面が白く波立つ。
「高圧洗浄だ!」
 タイフーンカスタムが肩に担ぐ巨大な筒――特化重イオン粒子砲のグリップをマニピュレーターが掴んだ。ヴィリーは照準モードを自動から手動に切り替える。操縦桿のトリガーキーを引くと、画面端に現れた充填率のレベルゲージが増加を始める。
「加速機のコイルと砲身が焼ける迄3分、どこまで掃除できるか……」
 翡翠色の粒子の光を蓄えた砲門が睨むのはユニコーン直上の敵集団。ヴィリーの眼差しも同じ方向を睨んでいる。そしてEVOLから向けられた殺気と視線が交差した。
 集団の一部がイオン砲の充填を開始したタイフーンカスタムの存在に気付いたのだろう。乱射した侵蝕誘導弾と共に高速で迫り来る。視界は緑で埋め尽くされつつあった。
「遅かったな!」
 充電率が100を示した瞬間、ヴィリーはトリガーキーから指を離した。特火重イオン粒子砲から放たれる翡翠の奔流。跳ね返ってきた反動をタイフーンカスタムはバーニアノズルを焚いて堪える。
 巨砲から放射された光は迫りつつあったEVOLと誘導弾を焼き払って直進。ユニコーンの頭上を覆うEVOLの群れに突き刺さった。軌道を中心にして霧が晴れたかのようにして散る深緑の雲。タイフーンカスタムが機体方向を横へと動かすと、砲門から伸び続けているイオンビームの奔流も合わせて横へとずれる。
 念入りな動きで少しずつ向きを変えるタイフーンカスタム。センサーカメラが睨む先では、EVOLが高圧洗浄機をかけられた汚れの如くみるみる内に消失してゆく。
「限界か!」
 180秒間の照射を終えてイオンビームがか細い光の筋とった。砲身破損を報せる警告音がヴィリーの耳朶を打つ。爆発寸前のイオン粒子砲を投棄したのとユニコーンの頭上から緑色の雲が一掃されたのは同時期だった。
「後は仕上げだ」
 登った水柱を背後にタイフーンカスタムが直進する。飛行甲板に降着するとバーンマチェーテを一振り。人の残骸に夢中になっていたEVOLを袈裟斬りにする。
「こいつは……侵蝕弾にやられたのか?」
 甲板のあちこちに噛み付く弾頭は巨大なオタマジャクシのようだ。弾頭を中心に緑の血脈が拡大している。タイフーンカスタムがそれら一つ一つをバーンマチェーテで焼き切っていく。
「性懲りもなくまだ来やがるな」
 視界の上方から感じた殺気に唾棄を堪えて視線を上げた。先程のイオン粒子砲の照射に釣られて来たらしい。向かい来るEVOLに肩部に備わるクロコダイル単装電磁速射砲が唸り声を上げる。しかしやはり数が多い。
『おじさん一人? 大丈夫?』
 釣られたのはEVOLだけでは無かったらしい。数機の日乃和軍仕様のイカルガがEVOLの集団を舐めるようにしてアサルトライフルで強襲を仕掛けた。
「だからおじさん言うんじゃねぇ!」
 聞き覚えのある声質からして灰狼中隊の隊員なのだろう。
『ぼっちっぽかったから援護に来てあげたのに……』
「分かった分かった、お前が生き残ったらTACネームで呼ばせてやる。そっちはやれるな?」
『おじさんはどっか行くの?』
「おじ……艦内清掃だ。外は――」
 続きが頭上を過ぎ去るエンジン音に遮られた。アークレイズ・ディナの鋭角な航跡に血煙が咲く。
『食い残ししか無いじゃないの』
 アークレイズ・ディナの肩部から伸びたアンカークローがEVOLに突き刺さる。すると内部から吸引されたかの如く機体――或いは身体が萎びた。
「遅えよ。粗方食っちまったぜ」
 不死身の灰色狼が来たのなら外は問題あるまい。ヴィリーは続ける筈だった言葉を飲み込んでタイフーンカスタムを旋回させた。
「エレベーターデッキは……あれか?」
 艦内格納庫に繋がるエレベーターデッキは下がった状態になっていた。これ幸いとタイフーンカスタムは飛び込んで格納庫内に進入する。
 内部は予想を裏切らずに荒らされた様子だった。真っ先に視界に飛び込んできたのは夥しい数の赤黒い染み。散らばる食べ残しから染みの正体が人間だった事はすぐに把握出来た。そして食事に勤しむEVOL達。僅かに残った船員が携行火器で健気に応戦していた。有無を言わずにヴィリーはフットペダルを踏む。
 加速するタイフーンカスタム。機体ごとEVOLに衝突して灼熱の刃を振るう。白面を貼り付けた頭部が転がった。
「なんだこりゃ?」
 次の標的に体当たりを食らわせようとした矢先、ヴィリーの喉から不意に声が飛び出た。
 機体の足元にEVOLによく似た人喰いキャバリアがいる。だが大きさがそれとは全く異なる。この背丈は人間と同じ――。
「侵蝕された奴の成れの果てかよ!」
 タイフーンカスタムが飛び掛かる人間大の人喰いキャバリアを跳ね飛ばして驀進する。ヴィリーは装甲越しに肉が潰れる感触を味わった。人間を引き潰した気分だ。
 EVOLと正面衝突したタイフーンカスタム。何度目になるか分からないバーンマチェーテの刺突がEVOLの頭部を焼き貫く。噴き出す鮮血は濃い緑色だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
ひゃっはー到着まで灰狼中隊の女の子と結城艦長と遊びまくるぜー!
「ひゃっはー☆日乃和の女の子とイケオジや男の子と遊ぶまくるぞ☆」

そして緊急出動
「「こん畜生ー!!」」

【情報収集・視力・戦闘知識】
人食いキャバリア共の動きと能力を把握

此奴らの所為で…よしぶちのめす
「ご主人サマー☆怖い怖い人食いキャバリアがいるよ☆これはもうあれだね♥」
うっがぁぁぁ!!
地獄のUC発動
「「ひゃっはー☆」」
1470師団…人数にして2840万人の武装幼女が上空に出現!
僕は後方待機!

【空中戦・集団戦術・念動力・弾幕・属性攻撃・電撃・砲撃】
1400師団
上空に竜眼号も出現
先ず後方から攻めてくるエヴォルグ達に全機電撃を纏い電磁レールキャノン斉射!
仲間は巻き込まない!
残り
主の護衛とレイテナの戦艦の防衛かつ救出
後女王様ちゃんわっしょいわっしょい

【空中戦・二回攻撃・切断】
灰色中隊や白羽井小隊、スワロウ小隊と連携
「可愛い女の子達を助けちゃうぞ☆」
「一人も死なせないぞ☆」
「那琴ちゃんや伊尾奈ちゃんにいい所見せちゃうぞ☆」
敵機を切り刻み



●幼女地獄変
 岩江基地に降りた猟兵達。出迎えに現れた結城達に連れられて大鳳へ向かう。機体や物資の搬入作業を行う為に。
「ッシャオラ! ッシャオラ!」
 カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は気合いが入っていた。
「ひゃっはー☆」
 メルクリウスの人化形態であるメルシーもご機嫌であった。理由は鯨の歌作戦開始までの時間的猶予にある。
「作戦スタートまでの一週間! 灰狼中隊の女の子と結城艦長と遊びまくるぜー!」
「日乃和の女の子とイケオジや男の子と遊ぶまくるぞ☆」
 多少の差異はあれど、一人と一機の目的は大体同じだった。荷物を大鳳に放り込んだらまずは誰と遊ぼうか。青空から注ぐ秋の陽光に両者は胸を躍らせる。
 だが、夢と希望は一瞬で粉微塵に粉砕されてしまった。緊急招集命令を報せる音声が岩江基地の全域に響く。

「……てやる」
 メルクリウスのコクピットでカシムが呟く。面持ちを俯けて双眸が前髪に隠される。
「ぶッッッ殺してやるッッッ!」
 かと思いきや急に顔を上げた。見開く血走った眼差し。眉間に刻み込まれた怒気は深く険しい。
「ぶっ殺してやるッ! ぜってーぶっ殺してやるからな! お前らぜってーぶっ殺してやる! 結城艦長のふわふわおっぱい! 尼崎中尉のむっちりおっぱい! 那琴少尉のお手頃おっぱい! 全部お前らのせいで! お前らがァァァッ!」
 八重歯を剥き出しにして怒声を叩き付ける先はメインモニターに出力された戦域――を飛び交うEVOLの集団。
「こん畜生ー!!」
 人型インターフェースとして操縦席にしがみ付くメルシーも激怒していた。めくるめく楽しい一週間を丸潰しにした人喰いキャバリアを断じて許す事は出来ない。死を以って償わせるのだと。
「はっ! いかんいかん……! 僕はインテリ盗賊。こういう時こそ冷静にならねば……!」
 活火山の溶岩の如き怒りを抑え込み、カシムは首を横に振った。海原を裂いて進む竜眼号。その艦首にメルクリウスは立っている。主戦域からは離れた位置だ。戦況を観察するには丁度良い位置でもあろう。
「同業が頑張ってくれてるお陰で幾らか漸減してはいるが……超多いがかなり多いになった程度か……」
 カシムは務めて冷静に戦域を視線で一巡する。上空で渦巻くEVOLの台風にはムラが目立つようになってきた。緑の雲の裂け目から青空が覗く。
「EVOL自体は日乃和で交戦したのと同じっぽいだが、なんつーか動きにキレがあるな? それに本能に任せて動いているように見えて統制が取れているような……」
 前者は東アーレスこそがゼロハート・プラントから湧き出る人喰いキャバリアの本場だからという理由もあるのだろう。
 後者に関しては艦隊の頭上で台風のような渦を巻いている動きに抱いた所感だ。本能に任せるなら一直線に艦隊へと突っ込むはず。なのにこの人喰いキャバリアの大群勢はそれをしない。まるで嬲り殺すかのように。或いは何かの時間を稼ぐかのように。
「どこかに統率してるボスがいるのか?」
 だとしたら大群勢という考え方は改めなければならない。
 大群勢ではなく大軍勢――知性を持たない怪物の群れではなく軍を相手取る事になるのだと。
「だとしても、だとしなくても、向こうの目論見に乗ってやる筋合いは無い」
 人喰いキャバリアの大軍勢の目的を粉砕する。仮説が正解か否かに関わらず、これは正しいはずだ。
「相変わらず馬鹿みたいな数だがな! 竜眼号! 電磁レールキャノン斉しゃ……」
「ご主人サマー☆ 怖い怖い人食いキャバリアがいるよ☆ これはもうあれだね♥」
「あ?」
 台詞の末尾をメルシーの黄色い声が遮った。これはもうあれだね? カシムの中に猛烈な嫌な予感が押し広がった。
「まさかお前――」
「ひゃっはー☆」
 おいばかやめろ。言おうとしたが時既に遅し。メルクリウスの機体から白い波が一挙に溢れ出た。
 白い波の正体は対軍撃滅機構、即ち武装した幼女メルシーである。白い波と化して放出され続ける幼女メルシーは数にして1470師団分。2840万人に及ぶ。
 古来より戦いの基本は数で圧す事である。クロムキャバリアに於いても基本は変わらない。事実としてゼロハート・プラントから無限に湧き出す人喰いキャバリアによって東アーレスの人類文明は存続の危機に陥っているのだから。
 生命の埒外たる猟兵とて数が脅威である事は変わらない。故に対多数の戦闘を想定したユーベルコードを編み出す。故に数を力として振るうユーベルコードを編み出す。カシムのように。
 だがしかし、何事にも限度というものがある。
「可愛い女の子達を助けちゃうぞ☆」
 無数の幼女メルシー達は鎌剣を手にして果敢にEVOLへ襲い掛かる。対するEVOLは数体の幼女メルシーを喰らう事も出来たであろう。だが全包囲から押し寄せる飽和攻撃を防ぎ切れはしまい。
 誘導弾を浴びて侵蝕されてしまった幼女メルシーもいたであろう。されども変異が始まる前に他の幼女メルシーが介錯してしまう。触腕に貫かれた幼女メルシーもいたであろう。だが次の瞬間には数十人の犠牲を踏み越えた数百数千の幼女メルシー達がEVOLに群がって白い幼女団子を形成しているのだ。
 だがあまりにも数が多過ぎた。
「なんじゃ!? 新種の人喰いキャバリアか!?」
 遠目からは鳥の集団にも見える幼女達がEVOLを追い回す。その光景にエリザヴェートは開口を禁じ得なかった。
「ブリンケン艦長! 新たに出現した幼女……型のアンノウンが射線上に多数! 艦砲発射時の衝撃に巻き込まれています!」
 どうすんだこれと含んだ観測手の声にブリンケンは渋面を作る。
「砲撃を止める訳にゃいかんだろう……あの白いのは猟兵のユーベルコードだ。大鳳へ繋げ。射線上から退かせるよう伝えろ」
 拮抗する緑と白。犠牲を躊躇わずに戦う幼女戦士達。海原はEVOLと幼女メルシーの骸で埋め尽くされた。
「絵面ァッ!」
 カシムは叫んだ。海はまさに血の池地獄である。
「ホラホラ、ご主人サマもいいとこ見せないと☆ 那琴ちゃんや伊尾奈ちゃんもいるんだぞ☆」
「テメーが邪魔で撃てねーんだよ!」
「構わずぶっ放せ☆」
「うっがぁぁぁ! もう知るか! 目標! 敵集団! 電磁レールキャノン連続発射!」
 竜眼号の砲塔が首を持ち上げて電磁加速弾体を射出した。弾体は黄金の電流の軌跡を引いて海上を駆け抜ける。射線上に緑と赤の血煙が咲き乱れた。通信が入ったのは連続発射の最中だった。
『大鳳よりメルクリウスへ。クイーン・エリザヴェートのブリンケン艦長より要請が――』
「ほらテメーのせいで怒られちまったじゃねーか!」
 全文を聞き届けたカシムは平謝りに徹し、通信が切られたのと同時に怒りを炸裂させた。
「ひどい! メルシー頑張ってるのに!」
「ひどい! じゃねぇ! 砲撃してる艦隊を守護ってるのに砲撃の邪魔してどーすんだ! 射線から退け! 死んでも平気なら船の肉壁になれ! 灰狼中隊と白羽井小隊とそれから……なんだっけ?」
「スワロウ小隊?」
「それだ! スワロウ小隊を手伝え! 邪魔すんじゃねーぞ!」
「任せてー☆ 可愛い女の子達を助けちゃうぞ☆」
 本当に解ってるのか? カシムが問うよりも先に対軍撃滅機構は幾つかの戦闘集団を編成してそれぞれの任へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
●POW

『はぁ…レーダーに写った機影を眺めているだけでうんざりするわね』
狭いコックピット内でモニターが照らす光で浮かび上がった『意志を持った影』が私の耳元で語りかける
「本来であれば元凶となっているプラントを破壊すべきでしょうけど、それも作戦の成否でとなれば、です」
『それもそうね。火器管制や索敵はいつも通りこちらが受け持つわ。弾代はクライアント持ちだから、お構いなしに打ち尽くしなさい』
「では…|撃鉄を起こします《シュラークヴォルゼン、始動》」

クイーン・エリザヴェートの甲板上に着地して、旗艦ならびに艦隊の防空と護衛を担当します
押し寄せる一叢のエヴォルグ量産機には展開済みのバントライン砲による曳火砲撃、ならびに弾頭部に埋め込まれたマイクロミサイルの弾幕が一斉展開される大型地対空ミサイルによる制圧射撃
索敵を行っている姉さんから火線を突破された指示が出れば、装薬を『紅蓮の魔弾』と化させたガトリングガンで近接防空ならびに迎撃に移行
『あの生体ミサイルは見るからにヤバいから、しっかりと焼き尽くすのよ?』



●青い巨人
 あらゆる世界のあらゆる場所でオブリビオンと戦い続ける猟兵。猟兵の戦闘行動の前提を支えているのは、オブリビオンの活動の予知と予知した場所への転移である。それを可能とする為に必要なのがグリモアだ。
 発動と維持に時間が掛かるために緊急時や交戦中には使用出来ない制限があるものの、敵の行動を極めて正確に察知し、尚且つ距離の価値をゼロにしかねない転送の合わせ技がどれほど有用で危険なのか……猟兵達はこれまで幾度となく身を以て体現し、世界に知らしめてきたであろう。
 グリモアの形状は猟兵によって千差万別だ。透明な立方体であったり赤黒い色の球体であったり。秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)の場合は影の形として生じた。
『はぁ……』
 シュラークヴォルゼンの狭くて薄暗いコクピットの中に嫌気をたっぷり含んだ溜息が拡がる。
『レーダーに写った機影を眺めているだけでうんざりするわね』
 続く声の色味も変わらない。だが信子の口は閉ざされたままだ。
 計器類やコンソールが灯す光が影を浮かび上がらせる。信子のものであって信子の姿が落とした影では無い影を。
 信子から生じたグリモア。それは意思を持った影として、自分の姿を採っていた。
「本来であれば元凶となっているプラントを破壊すべきでしょうけど、それも作戦の成否でとなれば、です」
 信子はメインモニターに目を固定し続けて耳元で囁く影に言う。壊れた水道は元栓を閉めなければ止まらない。されど今は元栓に向かう手立てが無い。
『それもそうね。火器管制や索敵はいつも通りこちらが受け持つわ。弾代はクライアント持ちだから、お構いなしに撃ち尽くしなさい』
 心強い限りだ。信子は内心に溢した。収支報告書の弾薬費の項目が赤くなる事を気にせず済むのは良い。ガトリングガンもミサイルも弾倉が空になるまで撃ち尽くせる。余程特殊な兵器や規約違反の武器――それこそ深刻な環境汚染を引き起こす核弾頭や、重力変動を起こして地上に地上ならざる環境を生み出す超重力爆弾を使いでもしなければ。搭乗している機体には当然ながらどちらの類も搭載していない。間違えて撃ってしまうなどといった心配も必要無い。
「では……|撃鉄を起こします《シュラークヴォルゼン、始動》」
 発艦の順番が回ってきた旨の通信が大鳳の管制官から飛んできた。信子が操縦桿を僅かに押す。青い鋼の巨人が単眼に灯る光を閃かせた。重装甲を体現するかの如くずんぐりとした体躯が飛行甲板を踏み付ける。右腕のガトリングガン、背面右の兵装懸架装置に接続された四連装ミサイルランチャー、同装置の左の折曲式大型榴弾砲。高火力兵装によって増加した重量が、飛行甲板上に鈍い地鳴りを広げる。
『シュラークヴォルゼン発進準備完了。発進どうぞ』
 機体の両足がリニアカタパルトに噛み付かれた。
「秋月信子はシュラークヴォルゼンで行きます!」
 フットペダルを踏み締めた瞬間、操縦席の背もたれに向かって押し潰される身体。パイロットスーツを以てしても完全には殺しきれない重力加速度に、信子は食い縛った歯の隙間から呻き声を漏らす。
 大鳳から突き飛ばされたシュラークヴォルゼンは理論上の最大戦速に達した。視線を横にずらすと機体が発生させる衝撃波によって引き裂かれた海面が白い航跡を作っている。
 EVOLに群がられる艦艇。交戦中の友軍機。それらに目もくれず、シュラークヴォルゼンはスラスターの光を焚いて驀進し続ける。
『この辺りは同業者に任せていいでしょう。こっちは予定通りに』
「クイーン・エリザヴェートですね」
 信子は影の姉から続きを引き取った。旗艦が落ちれば艦隊の損耗度に関わらず作戦は失敗だ。旗艦だけを守護っていれば良いという訳では無いが、その他の艦艇の守りは既に他の猟兵が頑張ってくれている。加えて旗艦の周囲にはウォースパイト等の艦艇も展開しているのだから、旗艦を護衛しながらでも手の届く範囲で他の艦艇を護衛する事は不可能では無いはずだ。
 クイーン・エリザヴェートの元まで十数秒の距離に到達した頃を見計らい、信子はコンソールを指で叩いた。呼び出したのは通信機能。昨今のユーザーインターフェースは洗練されていて直感的に操作出来て良いものだ。そんな所感が湧くよりも先に回線が繋がった。
「シュラークヴォルゼンよりクイーン・エリザヴェートへ。これより貴艦の防空に当たります。甲板への着艦許可を願います」
『クイーン・エリザヴェートよりシュラークヴォルゼンへ。了解した。支援に感謝する。着艦を許可する。砲撃並びに対空砲火に巻き込まれないよう注意されたし』
「シュラークヴォルゼン了解」
 信子は極めて形式張った通信を終えた。
『近くに寄ると遠近感がおかしくなりそうね』
 影の姉に浅い頷きで応じた。前方の海上に浮かぶ巨大戦艦と周囲の艦艇の大きさを間近で比較すると馬鹿げているように思えてくる。
「要塞というより都市ですね」
 周囲で交戦中の猟兵やスワロウ小隊のキャバリアが豆粒大に見える。これは体積が大き過ぎて守護るのも骨が折れそうだ。
『感覚じゃなくて計器で見なさい』
 有り難い忠告に「了解です」と返す。インフォメーションに表示された相対距離の数値は感覚よりもずっと短い。
「着艦します!」
 レイテナ第一艦隊の旗艦を目前にしたシュラークヴォルゼンのスラスターから光が失せる。慣性のみで飛ぶ事数秒。機体が船体の甲板上に達した。減速の為にスラスターを間欠噴射させつつ高度を落とす。足裏が甲板に触れると火花が飛び散った。幾らかの距離を滑った後に停止し、屈めていた姿勢が立ち上がる。
『さあ、狙い放題よ』
「らしいですね」
 レーダーは全周囲が敵の反応を示す輝点だらけ。目をどこに動かしても艦の周囲を煩く飛び回るEVOLが視界に入る。
「これだけ多いと逆に目移りしてしまいますが……!」
 編隊なのか単に群れているだけなのかは定かではないが、兎に角として塊になったEVOLが旋回飛行しながら侵蝕弾を連射している。その塊が信子の目に止まった。
 シュラークヴォルゼンが折り畳んでいたバントライン砲の砲身を展開する。メインモニター上の照準のレティクルが信子の目の動きを追ったEVOLの集団の頭に重なる。
 引かれる操縦桿のトリガーキー。バントライン砲の口が炸薬の光を噴いた。ガスの尻尾を伸ばして進む弾体。EVOLの集団の進路上に達した途端、鉄と炎の爆球に変容した。近接信管を作動した弾体が金属片と灼熱の衝撃波を押し広げてEVOLの集団を飲み込む。
『お客さんよ!』
 引き裂かれた深緑の肉片が海面に落下するのを見届ける間も無く信子は機体を旋回させる。先ほど粉砕した集団と同程度の規模の敵機がこちらの存在に気付いたらしい。明確な敵意――或いは食欲を感じる。
「防衛する分には好都合ですけども!」
 弾が足りるのか? シュラークヴォルゼンの背面に懸架する四連装ミサイルランチャーがハッチを開く。次いで白煙と共にミサイルが立て続けに発射された。ミサイルは影の姉の火器管制に従ってEVOLの集団と正面衝突――するかに思われたが、直前で弾頭を拡散させた。
 ミサイルがより小型のミサイルを無数に撒き散らす。獲物を執拗かつ獰猛に追い回すそれらが突っ込んでくるEVOLに食らい付き、ミサイルの数の分だけ爆球の花を咲かせた。
『抜けたわ! 敵の層が厚い!』
 後続を処理しきれなかったか。歯噛みする信子。黒煙の中から何体ものEVOLが飛び出してきた。いずれもシュラークヴォルゼンを射程内に捉えるや否や、撃てるだけの数の侵蝕弾を解き放つ。
『侵蝕ミサイルが来るわ。しっかりと焼き尽くすのよ?』
「はい、当たればどうなるか知れたものではありませんから」
 ガトリングガンの砲身が回転を始める。明滅するマズルフラッシュ。左から右へとなぞるようにして掃射した。分間数千発の弾丸が暴雨となって侵蝕弾を撃ち落とし、EVOLの集団を引き裂く。かのように思われたが、咲いたのは緑の血煙ではなく紅蓮の炎だった。ユーベルコードよって装弾を丸ごと紅蓮の魔弾に置換されていたのだ。
 燃え盛る炎が火炎球となって視界を埋め尽くす。念入りに熱消毒された空間から落ちてくるのは、火達磨になったか丸焼きにされて炭化したEVOLだ。
『なるほどね……このエヴォルグを構成している材質は殆どが有機素材。動く仕組みは人体のような筋肉の運動に近い。だから重度の火傷を与えれば動けなくなっちゃうわけね』
「では紅蓮の魔弾で発生させた炎は残しておきましょう。バリアの代わりになりそうですから」
 空中で尚も燃え続ける炎が紅蓮色の雲を形成する。シュラークヴォルゼンの青い装甲が緋色の照り返しを受けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
さながら「王室議会互ヒニ相争イ、ソノ余力ヲモッテ東夷ト戦フ」ってとこかしらぁ?実に見慣れた二重権力組織のグダりっぷりねぇ…
結局のとこ、危急存亡の秋程度の脅威じゃ破綻の見え透いた呉越同舟が精々なのよねぇ。

空対空戦もできないことはないけれど専門外だし、あたしは対空砲火に回ろうかしらねぇ。――スノーフレーク、ティオレンシア・シーディア。エンゲージ!
MG・GG・GL積めるだけガン積みしたスノーフレークに○機乗してレイテナ艦隊のできるだけ高いところに布陣、●鏖殺・滅謡を起動してベタ足|全力全開全門開放《フルファイア》。マルガリータ、|同時多重捕捉《マルチロックオン》よろしくねぇ?雲霞の如くいるわけだし、多少雑に火力ガン振りの魔術文字バラ撒いても当たるでしょ。
さらに|オセル《領域》と|大元帥明王《夷狄尽滅》を描いて●黙殺・砲列を同時起動、魔術文字の○弾幕による結界術も全力稼働させるわよぉ。
まあ一応時間制限あるにはあるけれど…そう長々やってたんじゃ、どの道ジリ貧で詰むし。そこは考えるだけ無駄よねぇ。



●鈴蘭水仙
 穏やかな波に揺蕩うのは鋼鉄の躯と微塵になった深緑の肉片。得体の知れない液体に穢れた海には巨鯨達の重奏が鳴り止まず、空に蓋をする人喰いの異形の雲には晴れ間が目立ちつつあった。
 戦禍の海と空の狭間。推進装置の噴射口から限りなく白に近い青の光を引いてスノーフレークが翔ぶ。
「実にありふれた二重権力組織のグダりっぷりねぇ……」
 孤独な密室にティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の溶かしたチョコレートのような声音が充満する。繊細な糸で結ばれた双眸は、微風のような軽い眺めでモニター越しに敵を見据えながらも、深遠なる思惟を奥に潜めていた。
 黒煙と火砲を上げるレイテナ艦隊を見て思い出すのは、船旅の暇潰しに流し読みしていたネットニュースの記事。人類共通の敵たる人喰いキャバリアの出現で一致団結したと思いきや、レイテナ王室とユニオン議会の二重政権――或いは議会内の派閥を含めれば三重四重政権で元気に抗争に勤しむ様子は、ティオレンシアから見ればまさしく見慣れた光景であった。
「結局のとこ、危急存亡の秋程度の脅威じゃ破綻の見え透いた呉越同舟が精々なのよね」
 怪物が攻めて来ようが異星人が空から降って来ようが人類の行動は変わらない。権力層は特に。大衆に向けて耳障りの良い広告を打ち、収拾の目処が立たない内に顛末を自分側に傾けるよう電卓を叩く。
 クロムキャバリアに限らずどこの世界でも繰り返されて来ただろうし、これからも起こり得るだろう。フットペダルに乗せた右足を踏み込むと、頭の中で渦巻く濁りを置き去りにするかのようにしてスノーフレークが加速した。
 初戦の状況と比較すれば敵の数は明らかに目減りしている。しかし相手に悩むほどでは無い。悩むのは立ち位置だ。
「空対空戦もできないことはないけれど……」
 生憎専門外であった。地に足を着けて生活する方が性に合っている。手頃な足場――軽空母シーシュースに目を付けたティオレンシアは「ちょっと失礼するわよぉ」の一言でスノーフレークを降着させた。
 飛行甲板に接地したアンダーフレームの足裏が派手に火花を散らす。スラスターを小刻みに噴射して制動を掛けると速度はゼロに至った。
「あらぁ? まぁまぁ……大人気ねぇ?」
 間延びした危機感の薄い声音に反してレーダーグラフの状況は切迫していた。シーシュースまで駆け抜けてきたスノーフレークを熱心なファンが大挙して追いかけて来ていたからだ。ついでにシーシュースの周辺を旋回飛行していた観客達の注目も集めてしまったらしい。
「では謹んでお相手しましょうかぁ……スノーフレーク、ティオレンシア・シーディア。エンゲージ!」
 スノーフレークのセンサーカメラが閃く。マニピュレーターに保持した機関銃と回転式多銃身砲の口が太陽光を受けて鈍く輝く。榴弾砲が折り畳んでいた砲身を直線に伸ばした。
「マルガリータ、全目標並列捕捉、よろしくねぇ?」
 機体が内包する人工知能から了解を示す応答が返って来た。全方位から接近しつつあるEVOLに次々とロックオンマーカーが重なる。
「これなら目を瞑っていても当たりそうねぇ」
 実際瞑っているのか開いているのか他者には判別しかねる。さておきメインモニターを埋め尽くすそれらに溜息を禁じ得ない。
「後は一筆書いて……」
 ティオレンシアは明るい黄色の水晶をあしらったペンをおもむろに取り出し、筆先を空中に走らせる。慣れた手の運びで描いたのはオセルと大元帥明王。いずれも黄金の軌跡となって出現したかと思えば微細な粒子に変容して霧散してしまう。
「これで良しと」
 ペンをしまったのと接近警報の耳障りな警告音が鳴ったのは同時だった。ティオレンシアの左右の手が操縦桿を包み込む。
「カンバンなしの大盤振る舞い、心逝くまで堪能してちょうだいな?」
 閉じた双眸の狭間に赤が垣間見え、口許に微かな喜色が灯る。スノーフレークが装備する兵装の全門が火薬の燃焼の光を明滅させた。
 機関銃が火線を伸ばし、ガトリングガンが弾幕の壁を形成し、グレネードランチャーが榴弾の爆球を咲かせる。いずれの弾もマルガリータの照準補正通りの標的を射抜き、ロックオンした順序通りに標的が次々に切り替わる。
「やっぱり雑にバラ撒いても当たるわね」
 両脚を根としたスノーフレークが弾幕を張り続ける。魔術文字から精製された銃弾は鮮やかな曳光を残し、グレネードは眩しい虹彩を膨張させた。EVOLがボロ雑巾のように千切れ飛んで海に落下する光景は鏖殺・滅謡の名に相応しい。それでもなお恐れを知らない人喰いキャバリア達は、弾幕の出迎えを無理矢理にでも抜けてスノーフレークの元に至ろうとするも、魔術文字の弾幕結界に正面衝突して粉砕されるに終始した。
「時間と銃身が許すまで撃つだけ……といっても時間一杯撃たせるようじゃ、どの道ジリ貧で詰むわよねぇ」
 こうしているだけなら楽な仕事なのだが。モニター上に表示された兵装状態の項目では、砲身の発熱量を示すレベルゲージが緩やかな上昇を始めた。レーダーグラフに目を移せば、自機を中心として全方位を取り囲む赤い輝点が一定距離に達した途端に消滅している。
 ティオレンシアの指は操縦桿のトリガーキーを引き続ける。ふと空を見ると、雲霞の隙間から青が覗いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティー・アラベリア
奉仕人形ティー・アラベリア、ご用命に従い参上いたしました
レイテナとはずいぶんと久しい響きでございますね
通信回線越しにこの国の言語を聞いていると、別人格の事とはいえ懐旧の念を抱くものです
そういえば、あの時はプラントの暴走が始まる前でしたか

こうも敵味方が渾融していると、沙綿里島の時のように薙ぎ払うわけにも参りませんね
下手に戦うと味方を巻き込んでしまいますし、細々と群れを潰しても"再生産"に追いつきません
持ち主のいない生体キャバリアの大群相手なら、倫理制約を多少外しても良いでしょう
因果崩壊杖を戦闘出力で使用いたします

敵をどう排除するかは特に問題ではありません
しかし、長丁場となる作戦の最序盤でこれ程の損害はいけませんね
|戻しましょう《・・・・・・》
制約上死者は戻せませんが、死んでいないならどうとでも致します
乗員が居なくなった艦もキャバリアも、損傷が無くなれば使い道はあるでしょう。パイロットや乗員も一緒に戻ってくれば御の字です
戻ってきた方にとっては、それなり以上に壮絶な体験となるでしょうけれども



●あなたはそこにいますか
 鳴り止まぬ重低音。走る緋色の破線。膨張した火球が外気に冷やされてガスの雲と散る。鯨が歌う海に集った観客達が、秩序無く空と海の狭間を飛び交う。
 複数機から成る群れを構成したEVOLが翔ぶ。口だけの白い仮面を貼り付けた頭部が向かう先は、レイテナ第一艦隊に所属する艦艇。蠢く胸部から侵蝕弾が生み出され、オタマジャクシに似たそれらが一斉に解き放たれようとした。だが背後から浴びせられた被覆鋼弾の雨により未遂に終わった。全身を撃ち抜かれたEVOLの機体……あるいは身体が体液を噴出させて海面へと没する。その後をレイテナ軍仕様のイカルガの編隊が飛び去っていった。
「ずいぶんと久しい響きでございますね」
 通信装置の向こう側に搭乗者の声を聞いたティー・アラベリア(|ご家庭用奉仕人形《自立駆動型戦略魔導複合体》・f30348)が、頭上を過ぎ去るイカルガを青硝子の瞳で見送る。一瞬遅れて過ぎ去った衝撃波が柔らかな金色の髪を揺らし、エプロンドレスの裾を捲り上げる。それらをティーは慎ましく手で抑えた。飛沫となった海水が衣服に無数の染みを作り、すぐに蒸発して消え失せる。怯える海面に着ける少女趣味めいた靴が濡れた。
 久しい響き――かつてレイテナ絡みの依頼を受けたのは数年前だっただろうか。まだ数年? もう数年? 常人ならざる時間を生きる容れ物でありながらも、数年という時間が遠く長く思える。久方振りに肌身で感じた空気は当時と随分と風変わりしてしまっていたが。当時は人を喰うジャイアントキャバリアが闊歩しているなどという話しは耳に入れていなかった。知らなかっただけなのかも知れないが、少なくともレイテナ領西部の空は青かった筈だ。
「こうも敵味方が渾融していると、沙綿里島の時のように薙ぎ払うわけにも参りませんね」
 核兵器並びに類似性のある大量破壊兵器の持ち込み及び使用の禁止が契約書に明記される切っ掛けを作った張本人が至極残念そうに呟く。日乃和軍関係者が聞いていたらどのような顔色を見せたのだろうか。
「かといって下手に戦うと味方を巻き込んでしまいますし、細々と群れを潰しても"再生産"に追いつきません」
 どの杖を使おうか? どのユーベルコードを使おうか? あれでもないこれでもないと頭の中で渦巻く思考に合わせて首が右に左に傾く。ほど近い頭上でイカルガのマイクロミサイルを受けた人喰いキャバリアが爆ぜる。黒い爆煙の中からボロ切れになったEVOLが落下し、死に際に発射したであろう侵蝕弾が飛び出す。標的となったイカルガは後退加速しつつ回避運動を取りながらアサルトライフルで迎撃するも、数発の被弾を許してしまった。侵蝕弾はただの一発が致命的だ。機械も生物も分け隔てなく平等に蝕んで作り替えてしまう。
「長丁場となる作戦の最序盤でこれ程の損害はいけませんねぇ……」
 作戦領域の全域で幾度も繰り返されてきた光景の一端を間近で見たティーは一層残念そうに眉宇を傾ける。
「そうです、因果崩壊杖を戦闘出力で使用いたしましょう」
 かと思いきや表情に光が灯った。
「持ち主のいない生体キャバリアの大群相手なら、倫理制約を多少外しても問題にはならないでしょうから」
 何やら物騒な言葉を連ねているが、本人は妙案を思い付いているつもりなのだろう。エプロンドレスの裾を左手で掴むと内部に右腕を無遠慮に突っ込んだ。
「この辺に……ありました」
 まさぐる事数秒。スカートの内側を探索していた右手が引き抜いたのは、ティー自身の身長と同程度の丈を持つ杖。なお別にぬめっていたりはしない。
「かくあれかし、かくあれかし、かくあれかし。遍く因果を蹂躙し、あるべき現実を引き寄せましょう」
 魔杖の石突きで海面を突く。コンクリートの床を叩いたかのような高音と共に風が拡がる。髪とエプロンドレスをはためかせるティーの足元に、どこの流派か式かも定かではない魔法陣が開き、毒々しい緑の光を放つ。
「お戻りください」
 ティーの微かな囁きを合図として魔法陣から圧を持った波動が走った。次いで魔法陣を起点として翡翠色の氷柱が海面から雨の後のタケノコの如く生え始める。瞬く間に広域へと円形状に広がり、EVOLと侵蝕を受けたイカルガ、レイテナ第一艦隊の艦艇をも包み込んだ。
「まだ、いらっしゃいますか?」
 再び魔杖の石突きで海面を突く。高音の拡がりと共に海原を埋め尽くしていた翡翠色の氷柱が砕けて微細な欠片と化す。氷柱に包まれたEVOLは諸共に微塵となり、艦艇は原型を留めたまま船体に食い込む侵蝕弾を砕かれ、侵蝕されて変異の最中にあったイカルガは原型に回帰した。
 日レ両軍の共通通信帯域から上がるのは途中再生された断末魔と錯乱する声。後には状況説明を乞う声が続いた。
『戻ってきた……?』
 誰かが混乱の中でした体験は、得てしてそう表現する他無かった。魔杖デウス・ウルトが発した魔力光が翡翠の氷柱という形を取り、海上を埋め尽くし、EVOLとそれを起因とする侵蝕現象を包み込んで除去したのだ。病巣のみを消失する放射線治療と同じような事をしたと言えば常人にも伝わるのだろうか。
「半分は、もういらっしゃらないのですね……」
 寂寥を滲ませて眉宇を傾けるティーの目は、搭乗者を失って海面へと吸い込まれてゆくイカルガに向けられていた。作戦領域のあちこちで白い水柱が立ち昇る。
 EVOLの台風雲は、層と色を次第に薄めつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
また、大きな作戦だね。
しかし、人喰いキャバリア多すぎないっ!?

…シル・ウィンディア、レゼール・ブルー・リーゼ、行きますっ!

ロングビームライフルの推力も重ねて一気に空中へ舞い上がるよ。
前回からの改善点でコックピットも改修したし、対G性能も上がってるから大丈夫っ!
出撃後、接敵までにUCのチャージ時間を行うね。
30秒だと長いけど、一気にぶっ放す為には必要だしね。

チャージ完了までに接敵されたらビームバルカンで牽制しつつ回避行動重視。
チャージ完了したら…。
全友軍に避難勧告を出しすね。
今から大きいの行くから、みんな射線から退いて!!
その後は、全射撃武装展開!
リフレクタービットも機体の周囲に展開させてから青の電光!
ビーム兵器の一斉発射で仕掛けていくよ。
敵の広範囲を範囲攻撃して、隠れている敵も貫通攻撃で貫いていくからねっ!

撃った後は、ランチャーを腰部後方にマウントして、左手にセイバーを抜いて…。
ロングビームライフルの推力移動で敵とすれ違いざまに切り裂いていくよ。

しかし、エヴォルグとも長い付き合いだなぁ…



●青の雷光
「今日はちょっと多すぎないっ!?」
 メインモニターの傍らに表示されたレーダーグラフを視覚の隅に入れて、シル・ウィンディア
(青き流星の魔女・f03964)は目元を歪めた。自機を示す中心点を囲む無数の赤い輝点。その内の幾つかが執拗に追い掛けてくる。
「照射判定高度の手前まで上がれば……っ!」
 天井を作れる。シルがフットペダルを踏み込むとレゼール・ブルー・リーゼはウイングスラスターから推力の光を炸裂させた。同時にロングビームライフルのエトワール・フィラントの銃床後部に備わるスラスターフィンが開く。箒の尻尾状に広がった推進噴射光が機体を急激に加速させ、搭乗者たるシルに殺人的な重力負荷を与えた。
「だい……じょうぶ!」
 肺が圧迫されるのを感じるも、視界の輪郭が黒ずむほどではない。回収したコクピットの対G機能は想定通りに作動しているようだ。エトワール・フィラントを抱えて魔女の面影を宿したレゼール・ブルー・リーゼが海原の空を翔ぶ。後を追うEVOLの群れとの距離がみるみる内に広がる。殲禍炎剣の照射判定危険高度に達しつつある警報音が鳴り、黄色の警告文字が明滅し始めた。
「ブルー・ライトニング、チャージ開始!」
 音声入力を受け付けた火器管制機能が充填状況を視覚的に表すレベルゲージを表示させた。最大充填完了まで30秒。その間は他の武器でやり過ごさなければ。後方からはEVOLがまだ追走している。更に別方向からも異なる集団が接近しつつあった。
「ある程度は、牽制しておかないと……!」
シルの足がフットペダルから離れた。レゼール・ブルー・リーゼの推進装置から光が失せる。左右の操縦桿を横に倒す。加速で得た慣性はそのままに、四肢を使った能動的質量移動によって機体の向きが180度反転した。急旋回時に加わる重力負荷に意識を持っていかれるだろうと身構えていたシルだったが、実際に受けた負荷は口を閉じていれば耐えられる程度だった。
「うぇっ!? 触腕!?」
 振り向いて真っ先に視界に飛び込んできたのはEVOLの群れが伸ばした触腕。それらにロックオンカーソルが重なる。シルは殆ど反射的にトリガーキーを引いていた。レゼール・ブルー・リーゼの頭部機関砲から魔力粒子の破線が迸り、有線式誘導弾の如く追尾してきた触腕を射抜く。更に大本のEVOLの一体に無数の穴を開けてやった。シルは撃墜の成否を確認する間もなくレゼール・ブルー・リーゼの向きを反転させて再度加速した。別方向から接近中のEVOLに追い付かれて十字砲火を受けてしまうからだ。
「来た!」
 短い電子音が鳴る。ブルー・ライトニングの充填率が100パーセントに達した。後は撃つだけ……いま引き付けているEVOLを直線に並べれば纏めて処理出来る。糸くず状の余剰粒子を零すエトワール・フィラントがスラスターを閃かせる。
「レゼール・ブルー・リーゼから周辺の友軍全機へ! 今から大きいの行くから、みんな後ろに立たないで!」
 追尾する触腕を振り切る速度で翔ぶレゼール・ブルー・リーゼ。背後を追うEVOLの群れは別方向から迫っていた群れと合流してそれなりの規模の集団となっていた。
「いまっ!」
 一瞬の加速の停止。反転するレゼール・ブルー・リーゼ。機体各部に張り付いていたプリュームが一斉に散開する。腰だめに構えたエトワール・フィラント。片腕に保持するヴォレ・ブラースクが狙撃モードに切り替わった。グレル・テンペスタが基部から正面に倒れて砲身を伸ばす。全ての砲門が睨む先にはEVOLの集団。
「ブルー・リーゼ! 全力で撃ち抜くよっ!」
 シルが全身を声にして叫ぶ。レゼール・ブルー・リーゼのセンサーカメラが閃く。エトワール・フィラントとヴォレ・ブラースクとグレル・テンペスタが咆えた。縮退保持していた魔力粒子が開放され、青の雷光となって迸る。エトワール・フィラントから放出された光の奔流はそのままEVOLの集団を洗い流し、グレル・テンペスタとヴォレ・ブラースクから伸びた三本の光軸はプリュームを直撃。乱反射した魔力粒子が纏めきれなかったEVOLを無差別に撃ち抜く。
 前者を浴びた、或いは掠めたEVOLは影も残さず消滅。後者を浴びたEVOLは飛翔能力を喪失して穏やかに波打つ海へと落下していった。エトワール・フィラントとグレル・テンペスタとヴォレ・ブラースクの兵装項目にオーバーヒートの警告メッセージが灯る。それぞれの武器に備わる緊急冷却機構が作動したのとシルが背中に鋭い殺気を感じ取ったのはほぼ同時だった。
「あぶなっ!?」
 振り向きながら咄嗟にヴォレ・ブラースクを投棄したマニピュレーターがエトワール・ブリヨントの発振機を抜いた。横薙ぎに振るった魔力粒子の刃が機体に接触する寸前の触腕を焼き切った。エトワール・フィラントのバーニアノズルが噴射光を炸裂させてレゼール・ブルー・リーゼを突き飛ばす。EVOLと交差した瞬間、青白い光が走った。肩口から腰に掛けて袈裟斬りに二分割されたEVOLが海に落ちてゆく。
「しかし、エヴォルグとも長い付き合いだなぁ……」
 その姿にシルは無意識の内に呟きを零していた。撃破した人喰いキャバリアの累計数はこれで何体目なのだろうか……数える気にはなれないし記憶してもいない。倒しても倒しても切りが無いからだ。根本を止めない限りは。自由落下中のヴォレ・ブラースクにレゼール・ブルー・リーゼが駆け寄る。熱した砲身の向こうに陽炎が揺らめいている。更に向こうでは、雲行きに晴れ間が見えつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
主様……サイキックキャバリア、ラウシュターゼ様に搭乗して参ります
接続、安定。操縦者情報秘匿、マイクオフ、他全て確認完了
『前回の戦場の、単騎で出撃したお前の惨憺たる様子に関しては最早何も言わん
一歩間違えればお前の命など簡単に弾けると知れ』
帰還・報告後に受けた長時間の叱責、今もしかと胸に刻んでおります
『精々、無様な鳴き声だけは私の耳に入れない事だ!』

ウイングで飛翔。スワロウ小隊へ急行し援護に入りましょう
「皆様で感覚が?共鳴でしょうか……?」
『不愉快だな。これを歌だとは言わせないぞ』
指定UCを発動。機体片腕に小さな蝶翅を最大枚数まで生やし攻撃対象数を増やします
剣を指揮棒に見立てて振るいつつブレードビットを【念動力】で操作、敵ミサイルに熱線を放ち【武器落とし】です
さながら【パフォーマンス】の様に。小隊の皆様に【落ち着き】を与えれば気を取り直して戦えるでしょうか
皆様に危険が及ぶなら鞭も用いて【不意打ち】や【なぎ払い】。落とし損ねた敵の対処にも入りましょう
『響かせる音は、やはり――こうでなくてはな』



●斬響
 無数の人喰いキャバリアの骸が水面に揺蕩う。それらの真上を白磁の機械騎士が滑るようにして駆け抜ける。後を追う衝撃波が海水ごと骸を豪快に吹き飛ばした。
『前回の戦場の、単騎で出撃したお前の惨憺たる様子に関しては最早何も言わん。一歩間違えればお前の命など簡単に弾けると知れ』
「はい。主様から賜ったご叱責の数々、今もしかと胸に刻んでおります」
 外界から隔絶されたラウシュターゼの胸殻の奥底で、操縦席に座するメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)は面持ちを俯けた。大津貿易港の作戦終了後、聴覚神経に直接届く声の主は心底お怒りのご様子であられた。長きに及ぶお叱り。その一字一句が硝子のような心を抉った。だが何も弁明出来る点は無い。主様のお怒りは正しく、そもそもとして弁明など許されるはずもない。
『どうだろうかな……精々、無様な鳴き声だけは私の耳に入れない事だ!』
「……努力致します」
 記憶が即答を躊躇わせた。はいと答えてしまえば嘘になってしまうかも知れない。反射的に出かけた言葉を一旦喉に飲み込んで、慎重に口を動かす。主様にはきっと勘付かれてしまっているのだろう。主様は言動や身振りに敏感だから。言葉を選んだつもりなのに嘘を付いているような気分だ。自己嫌悪が湧く。
『努力……な。ではこの盤面ではどういった努力を見せてくれるのだ?』
 ラウシュターゼの探る声が沈みかけていたメルメッテの思いを強制的に臨戦態勢に引き上げる。淡い虹彩の瞳がレーダーグラフに走った。
「敵総数の減少に伴い、レイテナ第一艦隊の防衛状況はほぼ安定しております。ですがクイーン・エリザヴェートの周囲は依然として敵の密度が濃い傾向にあります。他の猟兵の方々も防衛に回っていますが、十分では無いかと。これは船体の面積に対して防空に当たる機動兵器の少なさが原因であると考えております」
『それで?』
「直掩のスワロウ小隊の体勢を立て直す事で枚数の不利を克服します」
『ではお前の見立てが正しいか否か、答え合わせをしてこい』
「はい。直ちに」
 思うようにやってみろ。そう解釈したメルメッテは浅く頭を垂れた。フットペダルに乗せた足に力を籠める。ラウシュターゼが紅い双翼を広げて羽ばたく。強烈な加速度にメルメッテは背中がシートに押し付けられる感覚を味わった。
 無様な鳴き声だけは私の耳に入れるな。
 主様の言いつけ通り、結んだ唇の奥で歯を閉じる。決して無様な鳴き声を漏らさないように。

 激戦区。クイーン・エリザヴェートの周辺はその一言に尽きる。
 基地を丸ごと浮かべたような巨大な船体の周りをEVOLが飛び回り、侵蝕弾や触腕等で攻撃を繰り返す。そのEVOLに対して他の猟兵やスワロウ小隊のキャバリアが空対空戦を挑む。船体の甲板上でも取り付いたEVOLと猟兵が攻撃の応酬を続けている。
「ベルリオーズの弾が……!」
 テレサは苦く顔を顰める。アークレイズがリニアアサルトライフルに最後の弾倉を叩き込んだ。EVOLが伸ばした触腕がエレクトロ・マグネティックフィールドによって阻まれる。青白く明滅する非実体障壁の向こうに見たEVOLに応射を加えようとした途端、紅の残影が駆け抜けてEVOLを細切れにした。
「イェーガー!?」
 目で残影を追うテレサの声はメルメッテには届くまい。ラウシュターゼはオクターヴェを広げると急停止した。そして振り向きざまに従奏剣ナーハを振るう。百足の如く刃が連なる刀身が伸び、轢き殺しそこねたEVOLの一体を刺し貫く。
「共鳴……でしょうか……?」
 メルメッテは双眸を細めて言う。脳の神経を刺激するノイズ。としか言い様が無い。クイーン・エリザヴェートに接近するにつれて感じていた不快感。その出処はスワロウ小隊の隊員の全員であるらしい。
『不愉快だな』
 従奏剣ナーハを引く。鞭状に伸びた刃がEVOLの胴体を内部から外側へと炸裂させた。
「主様も聞こえていらっしゃるのですか?」
『同じ声を揃えただけの合唱。これを歌だとは言わせないぞ』
 不快感――というより気持ちの悪さはそれだろうか? スワロウ小隊の間に飛び交っているのは恐らく脳量子波と呼ばれる類のものだろう。その脳量子波が主様の仰られる通り、全部同じ声質なのだ。兄弟やクローンなどといったレベルではない。微かな抑揚の相違さえ無い完全同一の声質。だから不快に、不気味に聞こえているのだろう。
「あの皆様は群体生命……と申し上げればよろしいのでしょうか?」
『まだ気付かんか?』
「えっ?」
 メルメッテはラウシュターゼが言わんとしている所を察しかねて目を丸くする。
『奴等と同じ声だ』
 ラウシュターゼの左腕が持ち上がる。刺々しいマニピュレーターが向けられた先にはEVOLの集団があった。メルメッテは息を詰めるも、広げられたラウシュターゼの手のひらを見て何をするべきか反射的に理解した。
「終わりを今、始まりへと!」
 左腕に淡い空色が膨らむ。光は蝶の姿を採って羽ばたいた。紙吹雪のように溢れ出す蝶達が視界全体に吹き荒れる。それらはEVOLに集い、機体を空色で塗り潰す。蝶が呪縛となって悶え足掻くEVOLをベリーベンの鞭打が打ち据えた。
『歓迎が足らんのではないか?』
「ベグライトゥングを使います!」
 周囲に幾つもの光が凝縮する。光から滲み出たのは熱飛刃。ラウシュターゼが行けと言わんばかりに従奏剣を振るうとそれぞれに散開、蝶を引き剥がそうと足掻くEVOLに襲い掛かる。
 指揮者の従奏剣の動きに合わせて踊る飛刃。後続の観客達が侵蝕弾を放つも、網目状に張り巡らせた熱線の結界に遮断された。ラウシュターゼはしなやかな身振りでベリーベンを波打たせる。
『ようやく器楽奏者も動く気になったか』
 斉奏ノ翅に張り付かれたEVOLを火線が貫く。スワロウ小隊のイカルガが発射した銃弾だった。続けて隊長機のアークレイズが敵集団の最中を人間では不可能な鋭角機動で駆け抜け、青白い荷電粒子の剣で次々に撫で斬りにする。いずれの挙動もラウシュターゼの指揮に合わせるかのように滑らかであった。
『響かせる音は、やはり――こうでなくてはな』
 ラウシュターゼの抑揚を抑えた声音の奥に、メルメッテは冷酷な昂りを感じた。
 轟く鯨の歌を背に、白磁の騎士は獰猛な指揮棒を振り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【ネルトリンゲン】

久しぶりの日乃和ー♪みんなに会うの楽しみだね!

って、なんだか濃い会話してるね。
ま、わたしもそのへん深くはツッコめないけど!

それにしてもあのポンコツ王女さまはいいキャラしてるね。
ここはなんとしても守り切らないと、ねー。

『希』ちゃん、【ネルトリンゲン】で行くので、火器管制任せるから、
地上援護と対空防御、よろしくね!
『おねーちゃんはどうするの? セレステで出る?』

ううん、わたしは、なんかフラグがガンガン立ってるので、
レイテナの艦隊に【リフレクションマリス】使って防衛とカウンターさせてもらうよ。
……変なところに跳ね返らないといいんだけど。

あとは敵の陣形見つつ、みんなとリンクして情報提供かな。

あ、シャナミアさん、ネルトリンゲンから遠距離するなら、
弾薬やエネルギーは気にしないでいいから、ねー♪

錫華さんは近接?
なら日乃和のみんなと会えたら、挨拶しておいて。
あと、危なくなったら来てくれれば補給も整備もするから、遠慮なく、って!
錫華さんも無理しないで、補給には帰ってこないとだめだからね?


支倉・錫華
【ネルトリンゲン】

キャバリアは【ナズグル】でいくよ。

うわ……これはなかなかの数だね。

アミシア、『希』ちゃんとリンクして敵の動き、リアルタイムで教えて。
これ、油断すると囲まれそうだからね。
あと、日乃和のみんなのマーカーは捕捉できたらよろしくね。

最終的には接近戦するとして……。
まずはシャナミアさんの攻撃にあわせて相手に火炎放射。
ひととおり焼いたら、ライフルをグレネードモードで斉射かな。

陣形に穴が開いたら、そこから突撃だね。
近接戦闘に持ち込んだら、【歌仙】と【天磐】、
それに【バンカーナックル】と【ワイヤーハーケン】を利用して、潰していこう。

アミシア、囲まれないように陣形の確認と、援護要請任せるね。
シャナミアさん、よかったら大きい一撃、ひとつもらえるかな?

日乃和の部隊を見つけられたら、シャナミアさんと理緒さんに連絡して、合流。
援護はそのまましてもらいつつ共闘したいね。

機体にダメージを負ってたりしたら、
庇いつつ理緒さんのところに行ってもらおう。

あ、慰めなら、言ってもらえれば帰ってからお相手するよ?


シャナミア・サニー
【ネルトリンゲン】
いやー久しぶりにイイ雰囲気だね白羽井小隊
戦地だから気は抜けないけどさ
那琴さんと栞菜さんも元気になってよかったよかった
おっと、この子たち何言ってるの?!(なこしーの会話聞きながら)
え、帰ったらマジでするの??
お姉さん偏見はないつもりだけどもったいなくないかなー?
可愛いのに
さて、約束通りお姉さんの事頼りにしてもらいましょうか
まぁ上手い事使ってよ、このキャバリア乗りを、さ!

空中戦は苦手なんだよなー
ということで支援に回るよ
レールライフルだと回転数が間に合わないから
ここは【バックウェポン・アタッチメント】で!
『ライトニングバレット・ツインロングライフル』でがんがん行こう!
錫華さん突っ込んでいいよ
進路は確保する
ちな、『こういう時』のための『対生物用』なんだよね!
人喰いキャバリアだって生きているなら『電気』は効くでしょ!
一時的でも麻痺すりゃ後はイカルガの餌食ってね

いやでかいのって雑ぅ!
【メインウェポン・チェンジ】!
ロングバレル・レールライフル、セット!
さぁでかい風穴、ぶちまけろぉ!!



●形勢決定
 作戦領域の只中。東アーレス半島の東部沿岸沖をネルトリンゲンが進む。船体の底面半分を海水に浸し、洋上艦のようにして波濤を立てるそのミネルヴァ級戦闘空母は、陽光を受けて真珠色の装甲に淡い桜色の照り返しを宿していた。
『ナズグルとレッド・ドラグナーの補給終わったよ』
 ネルトリンゲンの総合戦術支援人工知能たるM.A.R.Eの電子音声に、艦長席の座に腰を沈める菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が良しと含めて二度頷く。これで補給の為の帰艦は何回目だっただろうか。三回? 四回? 何回にせよ作戦開始から相応の時間が経過している事に間違いはない。
「二機ともデッキに上げちゃって。ネルトリンゲンはこのまま前進」
『どこまで?』
「もうちょっと戦闘領域に食い込みたい、かな? だいぶ押し返せてきたみたいだし」
 広域レーダーで見る敵の分布状況は未だ広く大量だ。しかし戦闘開始直後と比較すれば明らかに層が薄くなってきている。空を見ればなお明らかであろう。
 殲禍炎剣照射判定域の寸前か以上の高度を維持して台風の如き雲を形成していたEVOLの大群。天気も定かではない空模様が、今や青が7割で緑が3割といった程度にまで回復しつつあった。
『おねーちゃんはどうするの? セレステで出る?』
「ううん、わたしはリフレクションマリスの維持に専念するよ。なんかフラグがガンガン立ってるし」
 あとどれだけ艦艇が残っていれば作戦を遂行出来るのか判別し難いところではあるが、現状の分で少なくとも失敗判定は満たしていないらしい。堅実に各艦に防御結界を張っておけば突然引っ繰り返される可能性は少ないだろう。理緒は艦長席のひざ掛けに埋め込まれた操作パネルを指先で叩く。
「もしもーし、ナコちゃん?」
『ナコ……フェザー01よりネルトリンゲンへ。如何なされました?』
 通信回線を開くと手元のサブモニターに那琴の姿が映し出された。レッド・ドラグナーとナズグルの補給作業中、白羽井小隊はネルトリンゲンの周囲で防空に当たっていた。
「これからシャナミアさんと錫華さん上げるから、船の前開けといて!」
『了解ですわ』
「そっちの補給は? 推進剤は大丈夫?」
『部隊内の総残弾数、推進剤量共にまだまだ戦えますわ。お気遣いに感謝致します』
 戦術データリンクで知り得る限りでも白羽井小隊には十分な余力が残されている。洋上での長期戦に対応する訓練を積んでいたのだろう。
「そっか。危なくなったら遠慮なく言ってね」
「それと慰めが必要なら帰ってからお相手するよ?」
 再出撃の準備中のナズグルに乗る支倉・錫華(Gambenero・f29951)が通信に割り込む。那琴が盛大に咳き込んだ。
『いえ、それは……』
『え? いいの!? ホントに!?』
 那琴の台詞の続きを栞奈が遮った。
「え、帰ったらマジでするの……?」
 レッド・ドラグナーのコクピットの中で息を潜めて聞き入っていたシャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)が引き攣った声を漏らす。
「お姉さん偏見はないつもりだけどもったいなくないかなー?」
『ですから一種の言葉の綾と言いますか冗談と言いますか……』
『なにさ今更恥ずかしがること? 任務終わった後は殆ど毎回やってるじゃん』
 那琴が凄まじい剣幕で『お止めなさい!』と怒声を張った。理緒は決まりが悪そうに笑う。
「ま、いい雰囲気で何よりだね」
 切り上げないと収拾が付かなくなりそうだ。シャナミアはそろそろ真面目にやるぞと含めて声の抑揚を落とした。レッド・ドラグナーとナズグルを乗せたエレベーターデッキが最上階――即ち甲板上に到達する。昇降機能がロックされた振動音を待って2機が歩行を開始した。
「減っては来てるけど、まだ油断していい数じゃないね」
 ネルトリンゲンの甲板上から見渡す海原では未だ多くのEVOLが飛んでいる。当然ネルトリンゲンにも敵は襲来してきているのだが、殆どは那琴のアークレイズ・ディナや栞奈を含む隊員達のイカルガによって撃墜されていた。
「アミシア、希ちゃんとリンクして敵の動き、リアルタイムで教えて。油断すると囲まれそうだからね」
 感情の色彩を見せない錫華にアミシアは『了解』とだけ短く応じた。
「じゃあ錫華さん前衛よろしく。お姉さんは支援に回るよ」
「ん、飛ばないの?」
 シャナミアは嫌々と首を横に振った。
「やっぱ空中戦は苦手なんだよなー」
「羽生えてるのに?」
「いやまあ……それにこれ、重いの持ってきちゃった」
 レッド・ドラグナーが長大な砲身を備えたレールライフルの銃床を甲板に着けた。金属がぶつかる鈍い音は銃身が持つ総重量を物語っているのだろう。
「という訳で錫華さんは遠慮なく突っ込んでいいよ」
 アンダーフレームの膝関節を曲げてしゃがみ撃ちの姿勢を取ったレッド・ドラグナーを見て、錫華は「じゃあよろしく」と素っ気ない言葉を残し、ナズグルをカタパルトデッキへと進めた。
「あ! シャナミアさん! 弾薬は気にしないでいいから、ねー!」
 つまりは遠慮なく撃ちまくれ。理緒はレッド・ドラグナーの砲撃或いは狙撃支援を行うべく、該当機のステータスを手元のパネルモニター上に広げた。
「了解了解! ライトニングバレット装填よーし!」
 ロングバレル・レールライフルのチャンバーに弾丸が送られた。発射準備の為に電力供給を開始すると、砲身に糸状の稲光が纏わり付き始める。
「進路はお姉さんが確保する! 錫華さん! いってらっしゃい!」
 シャナミアが操縦桿のトリガーキーを引いた。瞳に映すのはネルトリンゲン前方のEVOL集団。衝撃音と共にレールライフルの銃口が跳ね上がる。電磁加速された弾体が黄金の光跡を引いて目標へ直進。音速の何倍もの速度で走ったそれが、EVOLの胴体を正確に射抜いた。
 そして炸裂する電光。弾体が流し込んだ超高圧電流がEVOLを内部から焼き焦がし、申し訳程度の電子機器を引き裂き、運動能力の根源たる筋肉構造体を麻痺させた。
『いただきまーす』
 飛翔能力を含む運動動作を封じられたEVOLに栞奈機がアサルトライフルの弾雨を浴びせる。体液を散らしたEVOLは断末魔の金切り声を上げて海に落下した。
「人喰いキャバリアだって生きているなら電気は効くでしょ!」
 続けて1射2射とライトニングバレットを叩き込む。弾が命中した後の展開は初弾の命中時とさして変わらない。栞奈機なり他の隊員の機体なり、那琴のアークレイズ・ディナがブレイクドライバーで挽肉にするなりと頼むまでもなく白羽井小隊が獲物を横取りしてくれる。
「ナズグル、出るよ」
 レッド・ドラグナーを尻目に置いて錫華のナズグルがリニアカタパルトから射出された。全身を押し潰す重力加速度に「んっ」と妙に艶めかしい呻きを上げた時にはもう敵が眼前に迫っていた。ナズグルに喰らいつかんとEVOLが顎を開いて一直線に突っ込む。
「電気もだけど、炎も効くよね」
 錫華は特段臆するでもなく操縦桿の引き金を押し込んだ。ナズグルの左腕マニピュレーターが保持する火炎放射器――FdP AMIS-FL30が焦熱を吹き出す。2000℃にも及ぶ炎がEVOLの顔面を焼き、突撃を噴射圧で強引に押し留める。人体のように柔軟な運動を可能とする筋繊維は重度の熱傷で硬化し、薄い皮膚の翼膜は文字通りに焼け落ちた。ともすれば後は火達磨となって落下するしかない。
 ナズグルがAMIS-FL30を横に薙ぐ。凶悪な熱波が扇状に拡がって接近するEVOLを炎上させた。間髪入れずに右腕マニピュレーターが握るFdP CMPR-X3の銃口を向ける。排出した榴弾が炎上するEVOLに接触して信管を作動。爆風と金属片がEVOLを破砕した。
 されどまだ新手が迫る――かと思いきや殺到したミサイル群が粉微塵にしてしまった。
「火力支援もお任せ!」
 錫華機の動きをデータリンクで追っていた理緒がネルトリンゲンの対空ミサイルを発射した。そのミサイルの終末誘導をアミシアが行った。ミサイルのバケツリレーである。
 群れに穴が開いた事でこれみよがしに錫華は機体を飛び込ませる。ライフルと火炎放射器を腰部アタッチメントに懸架し、代わりに歌仙を抜いた。EVOLの噛み付きを天磐で受け止めて歌仙を頭部に突き立てる。別の個体にワイヤーハーケンを射出して鏃を食い込ませると振り回して周囲のEVOLを薙ぎ倒す。用が済んだらウインチを巻き上げて回収。引き寄せたEVOLにバンカーナックルを打ち据え、炸薬の力を得た射突で殴り潰した。
 アウェイキング・センシズによって研ぎ澄まされた感覚が、身体を通して機体を突き動かす。
 この世界に於ける最強にして究極の機動兵器、キャバリア。キャバリアとは単なる乗り物ではない。鍛え抜かれた兵士の肉体の延長線であり、搭乗者の能力と可能性を拡張するもう一つの身体であり、パイロットという魂で稼働する半身なのだ。
『敵反応、ナズグルに集中しつつあります』
「暴れすぎた?」
 アミシアが拡大表示したレーダーに錫華が目を落とす。赤い輝点が飴に群がるアリの如く集結しつつある。そちらの方角へと頭を向けるとナズグルの頭部も連動して旋回した。層が分厚い。まともにぶつかれば今度はこちらが圧砕されるだろうが――。
「シャナミアさん、よかったら大きい一撃、ひとつもらえるかな?」
 敵が集結しているというのは殲滅の好機でもある。
「いやでかいのって雑ぅ!」
 レッド・ドラグナーがよっこらせと言わんばかりに重々しい挙動で立ち上がる。再度しゃがみ撃ちの姿勢を取り、レールライフルの先端を錫華機の方角へと向けた。
「さぁでかい風穴、ぶちまけろぉ!」
「あ! 射線上にシグニット!」
「ぬぁにぃ!?」
 理緒が言葉を発するよりも先に、僅差でレールライフルが跳ね上がった。超高速弾体は極めて素直な弾道で突き進み、錫華のナズグルに接近しつつあったEVOLの群れを直撃。シャナミアの啖呵通りに余波で大きな風穴を開けた。その穴が開いた先に見えたのはレイテナ第一艦隊に所属する駆逐艦シグニット。やっちゃった――シャナミアの頭から血の気が引く。
 果たして電磁的な加速を得た弾体はシグニットの艦橋構造体を撃ち抜いて爆発音を上げる筈だった。だがそうはならなかった。代わりに金属を叩いたような甲高い音が響いた。
 反射結界リフレクションマリス。理緒が予め展開していた障壁が弾体を反射したのだ。射出した元へと。
「ぎゃん!?」
 本能的に横方向へと機体を跳ばしたシャナミア。レッド・ドラグナーのすぐ横を細い光線が駆け抜け、一秒遅れて風切り音と電流が弾ける音が続く。
「理緒さん! そういうのはもうちょい早く言ってくれないと……!」
 EVOLに心があるのかは定かでは無いが、レールライフルに狙われる心境が理解出来た。肝が冷える。堪ったものじゃないと渋面を作ってシャナミアはレッド・ドラグナーに射撃姿勢を取らせる。
「ごめーん!」
 理緒は眉宇をハの字に傾けて苦く笑って手を合わせた。
「……大体の形勢は決まりそうかな?」
 残ったEVOLに火炎放射を浴びせるナズグル。錫華の目はレーダーグラフを映していた。
『敵の増援が止まりました。以後は戦闘時間の延長に比例して漸減するかと』
 アミシアの言う通りであればいいのだが……出そうになった言葉を飲み込む。
「今夜は慰めのお相手出来そうだね」
『本当にするんですか?』
 人工知能らしからぬ訝しげなアミシアの口振りを錫華は無言で流す。次の戦闘はベッドの上の方がずっといい。だから何事も無く帰してくれ。こんな楽観的な甘い祈りは潰えるのだろう。きっとまだ終わらない。忍び寄る何者かの気配を察し、他人事めいて冷めた視点で状況を俯瞰している自分がいる。
「嫌になるね」
 思わず吐き出してしまった。
 死神とは、いつも都合の悪い時に現れるものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『エヴォルグ伍號機『Blaster』』

POW   :    戦場魔弾警報
【大地から生命力を吸い取り魔弾生成。全銃器】【から高命中の魔弾を撃ち命中した物と自機】【を不可視のラインで繋ぎ生命力を吸収する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    火力集中一条魔弾
全身を【覆う銃器を全て合体し頭部を合体した銃器 】で覆い、自身の【頭部銃器の火力上昇。銃器の総数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    銃火器化身機『Blaster』
【銃火器の攻撃、銃火器を取り込む姿 】に変身する。変身の度に自身の【銃火器、命中率、威力数値】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。

イラスト:FMI

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●戦況反転
 東アーレス半島の沿岸沖の空に渦巻く人喰いキャバリアの台風雲は、緩やかに薄く綻んで青い晴れ間の兆しを見せ始めた。
 殲滅された訳では無いにしろ、増援の足も途絶え、暴風域は着実に脱しつつある。
 猟兵の出現によって人類は擦り潰される側から擦り潰す側に立ち変わった。同じく猟兵の行動が人知れず作戦崩壊の危機を招き、猟兵の行動が人知れず作戦崩壊の危機を避けた事は兎も角として。
 これでレイテナ第一艦隊の地上に対する面制圧能力は維持され、時間の推移と共に地上部隊が第一次攻略目標の38度線を突破するだろう。
 だが天秤は再び大きく揺れ動く。
 たった一つの新たな分銅によって。

●御伽噺の顕現
 猟兵が変容させた戦況の局面は、猟兵でない常人の感覚からすれば劇的としか言い表し様が無かった。自分はエンターテイメントを見せられているのではないか? 眼前の現実をそうと疑ってしまうほどに。
 クイーン・エリザヴェートのブリッジクルーの多くも、口に出さずとも似た様な思いを抱いていたのだろう。
「たった32人で五分以上に押し返すとはな。恐ろしい連中だ」
 艦の前方でEVOLと交戦中する猟兵のキャバリアを眺めながら、艦長席に座るブリンケンは顎髭を右手でなぞる。
 たった32人とは言うが、猟兵目線で言えば一つの依頼への参加数としてはたったの数どころでは済まされない。しかし只人の感性であっては一個艦隊を圧砕するだけの物量を32人で押し返すなど、到底及びも付かない発想だ。
「どうです女王陛下? 御伽噺も案外バカにならんでしょう?」
 わざと意地が悪い表情を作って隣の席を向く。エリザヴェートは面白く無さそうにやや顔を逸らした。
「ふん……それなりにはやるよう……じゃな……」
 声は尻窄みだった。懐疑を抱いていた猟兵の能力を間近で見せ付けられたが故だろう。
 我らが女王様は素直じゃないな。ブリンケンは内に呟き手元のパネルモニターに目を移す。残存艦数は作戦継続に支障をきたさない程度だ。クイーン・エリザヴェートの損害状態も許容範囲。もう一踏ん張りすれば――。
「半島側より急速で接近する敵反応有り! 物凄いスピードです!」
「なんじゃと!?」
「数は!?」
 観測手の切迫した報告にエリザヴェートとブリンケンが同時に声を飛ばす。
「数は1! 10時の方角より作戦領域に侵入します!」
 単機。超高速。二つがブリンケンの頭の中で繋がった瞬間、とびきり悪い予感が膨らんだ。

●死神
 戦況好転に緩み始めていたクイーン・エリザヴェートのブリッジの空気が硬直する。
 大型モニターに表示されたのは戦域全体を俯瞰する広域レーダー図。そこにブリンケンとエリザヴェートの目が釘となって突き刺さる。敵反応を示す赤い輝点が、戦域外縁部から中央に向かって尋常ならざる速度で接近しつつあった。
「敵反応、なおも加速中! 凄まじいスピードです! マッハ幾つ出てるんだ……!? 映像出ます!」
「おいおい、こりゃあ」
 参ったな。ブリンケンが額に手を当てがう。
 拳銃のスライドを乗せたかのような髑髏頭。
 骨が剥き出しになっているかと思うほどの痩せ身。
 一見すると鴉の翼に見える両翼は、夥しい数の銃火器と推進装置の集合体であるらしい。
「エヴォルグ伍號機Blaster……! だがあいつは!」
「個体識別信号の照合完了! スカルヘッドです!」
 誰かが発した続きを観測手が引き継いだ。
 スカルヘッドの名で呼ばれたエヴォルグ伍號機『Blaster』が広げた双翼から無数のスラスター噴射炎を焚いて海面を翔ぶ。その後を炸裂した白波が追い、続いて鼓膜を破壊しかねないほどの爆発音が飛び去った。髑髏の頭は脇目も振らずに一点だけを見ている。直進する先の一点だけを。
 ブリンケンはモニター越しに死神と目が合った。
「奴の進路は!?」
「本艦と思われます!」
「何をやっておる! はよう撃ち落とすのじゃ! 全艦に攻撃させよ!」
 艦長の指示よりエリザヴェートが黄色い声を飛ばす方が早い。すぐに最高司令官の命令通りに各艦が対空ミサイルを発射した。
 ロケットエンジンの炎から白い尻尾を引いた破壊の柱が群となってスカルヘッドに向かう。
 スカルヘッドは自機に迫る脅威を悟ると殆ど直角の軌道で急上昇。一定の高度まで達すると再度直角に向きを変え、空に対して水平飛行を開始した。ミサイルが追尾する――かに思われたが、ミサイルは同程度の高度まで達した途端に空から降ってきた光線に射抜かれ、スカルヘッドの後塵と化した。
「殲禍炎剣を使って撃ち落としたのか? 照射判定高度スレスレを飛んで? 命知らずめ」
 ミサイルが爆散する直前に輝いた細い光線は、殲禍炎剣が絶対の審判を下した結果だ。
 爆煙を置き去りにしたスカルヘッドが真下に向かって直角に進行方向を変える。火山噴火の如く立ち昇る水柱を抜けて海面を腹に水平飛行。進路を塞ぐ駆逐艦ジャベリンがCIWSで迎撃するも、スカルヘッドは僅かな機動制御だけで対空砲火を潜り抜ける。そしてスカルヘッドがジャベリンの頭上を抜けた。追いかけて来た衝撃波によってレーダーアンテナなどの艤装が吹き飛んだ。
「ええい! 一発も当たっておらんではないか! ちゃんと狙うのじゃ!」
 流石のエリザヴェートもスカルヘッドが発する殺気を感じ取ったらしい。焦燥の色が顔に見て取れる。
「スワロウ小隊に迎撃させろ!」
 頼むぞテレサ少尉――内に祈りながらブリンケンは両手を組み合わせた。

●燕と死神
 猛進するスカルヘッドが上げる飛沫は、クイーン・エリザヴェートの直掩に当たるスワロウ小隊からでも確認出来た。
「あれは……スカルヘッド!?」
 テレサが眼を見開いて身体を強張らせる。
「内陸部からここまで来たの!?」
 |隊員のテレサ達《・・・・・・・》も一様の反応を禁じ得なかった。
 独立部隊として各地を転戦するスワロウ小隊は、スカルヘッドの俗称を持つエヴォルグ伍號機Blasterと何度も交戦した経験を持つ。
 そして、スカルヘッドたった一機に崩壊させられた戦線を幾つも知っている。
 いつも暴風のように現れ、死神のように命を狩り尽くし、幽霊のように消えてしまう。
 理不尽の化身。まるで、猟兵と同じ――。
『テレサ少尉! 艦の護りはいい! 奴を仕留めろ!』
 ブリンケンの怒声がスカルヘッドに吸い寄せられていた意識を引き戻す。
「スワロウ01了解です! 小隊全機! フォーメーション・スカルシュレッダー!」
 了解と応じた隊員達のイカルガが一斉に散開した。
「ここで落とさないと、みんな殺されちゃう……!」
 テレサの指先がコンソールの盤面で踊る。
「イェーガー・デストロイヤー・システム……起動!」
 メインモニターの中央に横文字が浮かび上がる。アークレイズのセンサー類と装甲の隙間から垣間見えるブルー・オリハルコニウムが力強く光を脈動させた。
「ガンホリック!」
 背負う大型複合推進装置と腰部のメインスラスターが青白い噴射光を爆発させた。
 ほぼほぼスカルヘッドと同等の機動――人間が乗る機体の動きではあり得ない鋭角な光跡を残し、白い閃光となったアークレイズがスカルヘッド目掛けて驀進する。
 先んじて散開したスワロウ小隊のイカルガ達がマイクロミサイルを発射した。超小型かつ超高機動の誘導弾の群れが、海面を壁としてスカルヘッドを全方位から包み込む。
 対するスカルヘッドは直進加速を緩める事なく機体を縦軸に一回転させた。双翼から無数に放たれた小口径の弾丸がマイクロミサイルに接触して火炎球を膨らませた。
「追い詰めた!」
 視界を埋め尽くす火炎球の嵐の中に飛び込むアークレイズ。左腕の荷電粒子刃発生装置――ルナライトから青い光弾を飛ばす。電磁加速式突撃銃は使えない。撃った弾を取り込まれてしまうからだ。
 スカルヘッドは微かに機体を捻って光弾を避ける。だがマイクロミサイルが撒き散らした金属片が荷電粒子を包み込む電磁場に干渉し、内部に圧縮していた荷電粒子が爆発を起こした。青い電流が球体状に拡がる。伴う衝撃波がスカルヘッドの姿勢を崩した。
「これでぇぇぇッ!」
 裂帛と共に突進するアークレイズ。プラズマブレードが右斜下から左斜上へと逆袈裟斬りに振り抜かれた。
「なっ……!?」
 テレサは手応えを疑った。スカルヘッドを倒す為だけに作り上げた連携だった。必中の一太刀だった。しかしスカルヘッドは全ての努力を嘲笑うかのように、或いはこれが現実だと見せ付けるかのようにして、軽々しく半身を逸らすだけの回避運動で躱してみせた。
 追撃――の隙は無かった。スカルヘッドは回避と同時に双翼を広げていた。双翼の推進装置や銃器類からプラズマの刃が伸びる。そして孔雀のように大きく広げた翼を正面で閉じ合わせた。
「ぐうっ……!」
 瞬間的な後方加速で退くアークレイズ。眼前をプラズマの刃が掠める。EMフィールドが容易く引き裂かれた。再び開くスカルヘッドの双翼。頭部のリーゼント状の砲が飛び切り鮮明な赤を閃かせる。
 迸る荷電粒子。テレサは呼吸も忘れて機体を左右に振る。赤い光線は運悪くアークレイズの背後に居合わせた軽巡洋艦エディンバラを直撃した。赤黒い爆煙が昇る。
『まだ!』
 アークレイズに代わって|テレサ《・・・》のイカルガが飛び込む。スカルヘッドの背後を取った。しかしビームソードが届く事は無い。
『お、ごぉ……っ』
 背を向けたままのスカルヘッドが突き出した銃がイカルガのコクピットブロックを潰したからだ。構造体に胸を押し潰されたテレサが赤黒い血液を吐き出す。
「テレサぁっ!」
 姉妹、或いは半身、或いは自分の一部だった少女の名を叫ぶ。
 爆ぜる炸薬。排出される薬莢。装甲を砕く散弾。イカルガの背部から出た飛散物の中に、パイロットだった肉片をテレサは確かに見届けた。
「ぎひっ!?」
 全身に流れ込んできた|テレサ《・・・》の記憶と痛みに、|テレサ《・・・》は眼を見開いて舌を突き出し背中を弓形に逸らす。

 同じくしてスカルヘッドが一瞬動きを止めた。
 まるで何らかのショックで制御が急停止してしまった機械のように。

 だが周囲が反応するよりも先に反転し、スワロウ小隊から大きく離れる。
 生身の搭乗者が行えばたちまち挽肉になってしまうであろう鋭角かつ超高速の回避機動を繰り返し、ミサイルやその他の追撃を振り切る。そして空母ヴィクトリアスの直上に達した途端に急停止。防空に当たるキャバリアを失った飛行甲板に悠々と降着した。床面に打ち込んだ不可視のケーブルが、伝う電流によって浮かび上がる。
「ヴィクトリアスのエネルギーを吸収してるの……!?」
 艦艇級の観測機能があればより正確に検知出来たであろう。ヴィクトリアスのエネルギー反応が急速に低下し、スカルヘッドのエネルギー反応が急激に上昇してゆく。
 追撃するスワロウ小隊の到達よりもスカルヘッドが食事を終える方が早かった。ケーブルを回収すると双翼のスラスターノズルを炸裂させて飛び立つ。凄まじいバックブラストがヴィクトリアスの艤装を滅茶苦茶に吹き飛ばし、重く巨大な船体を大きく傾けて、海面を白く波打たせた。

●化け物には化け物を
 スカルヘッドはスワロウ小隊のテレサ・ゼロハートでさえ抑えきれない。その事実はクイーン・エリザヴェートのブリッジに悲痛なまでの絶望感をもたらした。
「ええい! 誰でもよい! あのドクロ頭を止めるのじゃ!」
 黄色い声を刃物のように振り回すエリザヴェートも事態の深刻さは把握しているのだろう。喉が震えている。
「化け物だな」
 刈り揃えたい顎髭をしきりになぞるブリンケンとて、露骨に表情に出さずとも受けた心理的衝撃は大きい。
 テレサは盤面を覆し得るだけの切り札だったのだ。しかしスカルヘッドには後一歩及ばなかった。
 エリザヴェートと機械神トールという最終兵器は打てる状況に無い。トールはクイーン・エリザヴェートの専用格納庫で絶賛修理中だ。
 もう切れる手札が無い。
 レイテナ第一艦隊には――。
「大鳳との通信回線開け」
 ブリンケンは通信士の背中に声を投げた。
「大鳳じゃと? どうするのじゃ?」
 訝しい眉間のエリザヴェートにブリンケンは鼻を鳴らす。
「化け物にはね、化け物をぶつけるんですよ」
 返答次第ではあるが……まだ手札は残されている。
 日乃和海軍所属、第六独立機動艦隊になら。

●任務内容更新
 通信装置を持ち、なおかつ受信を許可に設定していた猟兵達の元に同じ音声或いは中継映像が届けられた。
『大鳳より猟兵の皆様へ……クイーン・エリザヴェートから通信の中継要請がありましたのでお繋ぎ致します』
 映像を出力するサブウィンドウ内で、結城がナメクジのような口振りで語る。すると新たなサブウィンドウが開いた。
『イェーガーか!? ぬぁぁぁにをボサっと見ておるのじゃ! はようドクロ頭を――』
『はいはい女王陛下、ここは私にお任せください』
 一瞬だけ金髪の少女が枠一杯に映ったがすぐに押し退けられた。
 入れ替わりに映ったのは体格の良い中年男性。短く丸刈りにした髪はレイテナ人らしい金髪で、眼もレイテナ人らしい碧眼だった。収穫を終えた小麦畑のような顎髭が目立つ。ご立派な軍服からして高級将校なのだろう。
『ご機嫌よう、イェーガー諸君。レイテナ海軍第一艦隊所属、ブリンケン・ベッケナー大佐だ。諸君らが守護ってくれているクイーン・エリザヴェートの艦長を任命されている。ひとまず礼を言わせてくれ』
 淡々とした言葉運びであるが声音は柔らかい。
『堅苦しい挨拶は後にするとして早速本題に入ろう。新たに出現した敵機はエヴォルグ伍號機Blaster……個体識別名称でスカルヘッドだ。こいつの排除を要請したい』
 時折画面の端に金髪が映り込む。
『スカルヘッドは相当な厄介者でな。うちも以前から手を焼いている。信じられないかも知れないが、こいつ単機によって全滅した部隊や崩壊した戦線が幾つもあるんだ。人喰いキャバリア側にとってのイェーガー……とでも例えれば伝わるだろうか?』
 ブリンケンの目には冗談のつもりは一切見受けられない。
『我が軍が誇る精鋭のテレサ・ゼロハート少尉が当たってもご覧の有様だ。そこでイェーガー諸君の腕を見込んで排除を要請したい。なお、スカルヘッドを撃墜した者にはエリザヴェート陛下が褒賞を授与してくださるそうだ』
『こらブリンケン! 勝手に決めるでない!』
 必死にサブウィンドウの枠に入ろうとする金髪の頭を、ブリンケンが顔を動かさないまま抑え込む。
『という訳だが……どうだろうか?』
『第六独立機動艦隊司令、葵結城は、依頼主代理人権限に基きまして、ブリンケン艦長の要請を猟兵の皆様に対する正式な依頼内容の一環として承認致します』
 結城は事前に用意していた台詞を寸分の澱みなく読み上げる。
『スカルヘッドはクイーン・エリザヴェートを優先的攻撃目標と見做しているようです。作戦遂行の為にはスカルヘッドの迎撃は必要不可欠と判断致しました。危険な相手となりますが、猟兵の皆様方……どうぞよろしくお願い申し上げます』
 口許に嫋やかな笑みを作り、双眸を蠱惑的に細める。
『大鳳にはスカルヘッドに関するデータを送っておいた。多大な犠牲を払って収集した貴重なデータだ。有効活用してくれる事を願う』

●スカルヘッド
 エヴォルグ伍號機『Blaster』――スカルヘッドの識別名で呼ばれるこの個体は、東アーレス大陸の各戦線に出現し、出現の度に人類側へ甚大な被害を与えてきた。
 テレサ・ゼロハートとの交戦結果が示す通りに戦闘能力の高さに疑う余地は無い。中でも特筆すべきは機動性能だろう。
 翼状のスラスターユニットが生み出す速力と俊敏性は凄まじく、慣性を無視したかのような急停止や急旋回を連続して行う事など造作もない。加えて機体自体の反応速度も非常に高い。飛翔に伴う衝撃波は周辺に破壊を撒き散らす。更には殲禍炎剣の照射判定高度の限界寸前を維持して音速飛行出来るだけの精密な制動すら可能だ。
 両翼は推進装置のみならず武装を兼ねている。この武装は機関砲や電磁投射砲、ホーミングレーザー等の様々な弾種並びに攻撃パターンを有する。近距離での戦闘となれば複数のプラズマブレードを展開して対応するだろう。ただしプラズマブレードの最大展開には相当なエネルギーの消耗を強いられるらしい。
 また、機体構造を変化させたり武器の配置の変更及び生成、果てや巨大化する機能を備えているようだ。
 挙句はライフル等の銃火器の攻撃、或いは銃火器自体を取り込んで我が物にしてしまうという。
 しかし対象の線引きは曖昧だ。参考程度ではあるが、スカルヘッドと複数回の交戦経験を持つテレサは、リニアアサルトライフルの使用は避け、荷電粒子系の射撃武器を使用していた。
 そして戦術思考能力もEVOLと比較して明らかに優れている。少なくとも捕食本能に任せて突撃を繰り返す様子は見受けられない。レイテナ第一艦隊が最重要戦力に設定しているクイーン・エリザヴェートを狙っている点からしても知性の存在は明らかであろう。有人機を相手取る心構えで臨む必要があるに違いない。

●残存するEVOL
 猟兵達の苛烈なる攻撃によって漸減したとは言え、作戦領域内には未だ多くのEVOLが残存している。
 放置して問題が無い量ではない。しかし差し迫った驚異度だけで判断するならばスカルヘッドの方が遥かに重大だ。
 猟兵の戦闘結果によりレイテナ第一艦隊の全体損耗率は低く抑えられているし、白羽井小隊と灰狼中隊は大きな余力を残して戦闘を継続中だ。よほど賽の女神に嫌われでもしない限り、ここから急に護衛対象が壊滅するような状況が生じるとは考え難い。
 スカルヘッドの迅速な撃破こそが護衛対象全体の守備に直結する。
 EVOLにかまける事も可か否かで言えば可能であろうが……果たして余所見をした敵をスカルヘッドが見逃すのだろうか? 確かめるには命を賭けねばならない。賭けに負ければ結果という成果がそもそも得られないであろう。

●護衛対象
 スカルヘッドの撃破が作戦目標に設定されたが、レイテナ第一艦隊を護衛するという前提自体に変更は無い。スカルヘッドはクイーン・エリザヴェートを狙っている。しかし猟兵が積極的に攻勢を掛ければ、敵の攻撃は自ずと猟兵に向かうはずだ。
 引き続き使用する兵器やユーベルコードには適切な選択が求められる。

●戦闘開始
 オブリビオンマシン――髑髏頭のキャバリアを一目見た瞬間に猟兵達は看破したであろう。そして自らに限りなく近く、限りなく遠い存在である事も。
 猟兵達が傾けた天秤は再び均衡を取り戻し、今も不安定に揺れ動く。
 スカルヘッドという新たな奏者を迎えて鯨達は尚も歌う。
 衝突し合う猟兵とオブリビオンマシンの戦律。
 どちらが東アーレス半島の海を満たすのか。
 弱者必滅。強者絶対。
 決定権を握るのは、力ある者だけだ。
ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『大物か…それに機関砲などはまずそうだな…』
電磁機関砲をマウントに戻して斬艦刀とブレードを構えるぜ。
【オーラ防御】を纏い、【戦闘知識】で相手を見極めて【武器受け】をしながら、【鎧砕き】と【鎧無視攻撃】の【二回攻撃】で攻め立てる!!
頃合いを見て【リミッター解除】とユーべルコード【竜闘技・天乃型『爆界天昇』】を発動!機体性能を限界まで上げて多少無茶でも攻撃するぜ!!


ノエル・カンナビス
面白いですね。

しかしこちらも似たような空戦機動は可能ですし、
揚力翼どころか空力舵も安定板も必要としない境界層制御機です。

ガーディアン装甲システムによる低出力の衝撃波を常時発振し、
機体表面の気流を制御して各部位の揚力抗力を自在に操れますので、
推力だけで勝負するよりも多彩なアクションが可能なんですね。
一つの技術を単一目的だけに浪費するほど技術屋は甘くありません。

むろん推力も動作速も相応にあります。
肉体の一部として制御される当機は反応速度も1/10000sec以下。
天然自然の人体でも、反射ならばそれくらいは出ます。

つまり――ガンファイトするなら、大した差異はないんですよ。

勝敗を決めるのは思考の読み合いと、彼我の未来位置の予測です。
この点において、格上の敵との交戦経験が豊富なこちらが上です。
こちらは初心者スタートでしたからねぇ。

先制攻撃/指定UCでの高速空中戦。
急いで撃っても仕方ありません。見切り/操縦でしばらく牽制射撃した後、
敵の未来位置にライフルとキャノンの荷電粒子ビームを置きましょうか。


アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

それはまるでチートのような、とんでもない才能なぁんてね。
おっけおっけ、こっちも|玩具《キャバリア》を出しましょ。
てなわけで、ワンダーラビットのぬいぐるみの擬態を解いてキャバリア形態にして搭乗するわ。
まぁ、私の|妄想を具現化する混沌魔術《多重詠唱欲望開放結界術》の出力にはまったく影響はないんですけども。はったりって大事よね。
|タイムフォールダウン《高速詠唱早業先制攻撃》による時間質量操作戦闘で翻弄いたしましょう。



●それはまるで、フォックストロットのようなとんでもない爆界天昇
 スカルヘッドの双翼が鮮やかな赤い噴射光を発する。箒星となった機体が音を置き去りにしてクイーン・エリザヴェートに突き進む。だが直線の軌道が唐突に折れ曲がった。速度と進路を維持していたならば交差したであろう空間を青白い光線が鋭く走る。
「面白いですね」
 言葉とは裏腹にノエルの表情筋は微動だにしない。バイブロジェットブースターから鼓膜を破らんばかりの振動音を立てるエイストラがスカルヘッドを猛追する。目標の攻撃対象が切り替わったのとエイストラが上方向に瞬間加速したのは同時だった。アンダーフレームの直下を電流の残光が駆け抜ける。
「ですが、こちらも似たような空戦機動は可能なんですよ」
 左方向に機体を飛ばすと側面を電流が迸った。スカルヘッドと同等の慣性を無視したかの如き鋭角な回避運動を繰り返すエイストラ。ガーディアン装甲の衝撃波で機体全体の気流を整波する事により、部位単位での繊細で多様な運動を可能としているらしい。
 そしてノエルの反応速度とエイストラの応答速度もスカルヘッドに決して大きく劣るものでは無い。リンケージベッドを介して直結された双方の間に伝達速度の時間的な差は殆ど生じていないと言ってよいだろう。応射されたレールガンを避けた事が証左だ。
「ご覧のように、ガンファイトする分には大した差異はないんですよ」
 エイストラが機体を横滑りさせながら左右に保持するプラズマライフルを交互に放つ。一射目の出力は三割程度に絞り、二射目は通常出力に設定していた。
 スカルヘッドは一射目を躱さずに機体で受け止める。直撃だが損傷は見られない。二射目は発射の兆候を察知したのと同時に後方へ飛んで射線軸から脱した。
 そこへプラズマキャノンから伸びた光軸が突き刺さる。スカルヘッドの回避先に置いた必中の一撃。だがスカルヘッドは反発する磁石のようにすり抜けてしまう。
「機体性能が同等であるなら、勝敗を決める要素は制御装置次第ですが……」
 ノエルは幾多の戦場で幾多の敵と戦い続けてきた。無色の紙が真っ黒になるまで書き込まれた遍く強敵との戦闘は、経験と知識としてレプリカントの脳器官と身体に染み付いている。それこそがスカルヘッドとの決定的な差異だ。
 スカルヘッドはレイテナからお尋ね者にされている辺り、昨日今日生産された個体ではあるまい。されどゼロハート・プラントの暴走時期からして実稼働時間は数年が精々だろう。交戦経験であればこちらが劣る道理は無い筈だ。しかし――。
「おや、よくお勉強なされているようですね」
 牽制と直撃を狙う弾。どれもがエイストラの回避運動先に置かれている。ノエルがするようにして。
 ただ精密なだけかも知れない。猟兵の間で流行している未来予測装置の類を備えているのかも知れない。
 いずれの可能性もノエルは肯定しかねた。だって感覚があまりにも似ているから。自分の感覚と。
 長期に渡って蓄積した経験と勘――たった今エイストラの脇を掠めた電磁投射弾に、生々しい人の感性が匂う。
 エイストラとスカルヘッドが互いに一定の相対距離を開けて高速機動の撃ち合いを繰り広げる。荷電粒子の光線をすり抜けたスカルヘッドがレールガンを撃ち返し、電流の閃きを躱したエイストラがプラズマライフルとプラズマキャノンを撃ち返す。
「千日手ですね」
 ノエルの見込み通り、ガンファイトにおいて二機の間に大きな差異は確かに存在しない。当たらないし当てられない。この様子だと審判の日が訪れるまで続きそうだ。
 違う。ノエルは勝負を着ける方法を知っている。後ほんの少しだけ相対距離を詰めれば良いのだ。たったそれだけなのに、ノエルの神経はエイストラを前進させなかった。
 回避運動が意味を成さない絶対命中の間合い。エイストラがその領域に踏み込めばスカルヘッドに一撃を与えられるだろう。そしてスカルヘッドもエイストラに一撃を与えられるだろう。
 自分はこの敵をよく知っている。今日が初対面の筈なのに。どうして? 感覚がまるで合わせ鏡のようだから――或いは影のようだから? 白と黒の相反する色なのに。因果関係などあり得ない筈なのに。
 ノエルはスカルヘッドの奥に自分の姿を幻視した。
「誰か乗っていらっしゃるんですか?」
 荷電粒子の光線に乗せた問いは届かない。電磁的に加速して射出された完全被甲弾がコクピットを狙う。エイストラの半身に備わるスラスターノズルが噴射光を焚き、機体を横に飛ばす。
 よく知っているのに得体が知れない。
 だか交戦の中で見えた点もある。
 スカルヘッドが吸収可能なエネルギー系兵器は平均的か低出力のものに限定されるようだ。
 さもなくば三割程度の出力で発射したプラズマライフルを受け止めて吸収し、直後に続いた通常出力のプラズマライフルと一層強力なプラズマキャノンの攻撃を回避する必要など無かっただろう。
「そして攻撃から出力の強弱を見極めるだけのセンサーなり知性なりを持ち合わせていると」
 回避運動の数手先にまで置かれたレールガンの弾道に、エイストラは前後左右への切れ目無い瞬間加速を強いられる。噴射したスラスターの光が蝶のように羽ばたく。
 回避運動の最中でも二挺のライフルと一門のキャノンが荷電粒子を撃ち続ける。僅かな間隔を置いたローテーション射撃。スカルヘッドはエイストラがしているように人外めいた機体制動で青白い火線を掻い潜った。踏み込んでくる気配は無い。
 ノエルの翡翠色の瞳は看破した。敵はクイーン・エリザヴェートへの攻撃とエイストラの撃墜を天秤に掛けている。
「自らリスクを犯して不利になる行動は取らない……言うに及ばずの当然の判断ですが、単にエイストラとドッグファイト出来るだけの機体ではなさそうですね」
 まるで鏡写し――否、影のような相手。人には自分に似た特性を持つ人を嫌う習性があるという。ノエルの場合はどうだろうか? 感情を宿さぬ貼り付けた顔からでは誰にも解るまい。ひょっとしたら自分ですら解らないかも知れない。何にせよ好意を抱く気にはならないだろう。
 連鎖する瞬間加速によって生じる殺人的重力加速度。ノエルは自身の骨格構造の軋みを聞きながら天秤を見る。
 相打ち前提で踏み込めば千日手を終わらせる事も出来よう。だが今日のノエルには無理をするという行動予定は無い。
「そういう分野には、もっと適した人材がいらっしゃいますからね」
 レーダーに目を移した。緑の輝点が闘牛の如き勢いで突っ込んでくる。
「だらっしゃぁぁぁぁッ!」
 薩摩剣士も斯くやといった咆哮と共に猪突するガイのコスモ・スターインパルス。背面で膨れ上がる光翼と左右のマニピュレーターでそれぞれに保持する烈火とシラヌイがX字の輪郭を作り上げていた。
 そのコスモ・スターインパルスを複数本の人参が背後から追い抜く。
「……人参?」
 ノエルが双眸を細める。飛翔物体は紛れもなく野菜の人参……キャロットである。大きさがキャバリア用のミサイルと同程度で、葉っぱを生やしている部分から若草色の噴射炎を吐き出している点を除けばだが。
 人参とコスモ・スターインパルスが一直線に向かう先はスカルヘッド。新手の出現に反応した標的はエイストラに牽制のレールガンを撃つ片手間で機関砲を乱射した。銃弾に貫かれた人参が膨張する爆煙に変貌する。
「追い切れねぇか!」
 ガイが苦く舌を打つ。コスモ・スターインパルスが爆煙を割って飛び出すもスカルヘッドは離脱した後だった。
「おーおー、速い速い」
 モノクルにシルクハットを被った燕尾服姿の兎のぬいぐるみ――ワンダーラビットがコスモ・スターインパルスの背中を追う。不思議の国から飛び出して来たかのような造詣ではあるが、全長はエイストラとコスモ・スターインパルスとさして変わらない。見た目はぬいぐるみだが中身はれっきとしたキャバリアなのだ。
「先程のミサイルはどなたが?」
 ノエルはトリガーキーを一定間隔で引きながら尋ねる。エイストラが連射するプラズマビームが、クイーン・エリザヴェートに向かうスカルヘッドの進路を遮った。
「わたしよ?」
 アリスが応じるとワンダーラビットが手を振る。
「あと何発撃てるんです?」
「何発かしら? これユーベルコードで撃った人参ミサイルなのよねぇ」
「おいおい、自分のユーベルコードだろ?」
 ガイの呆れ気味な声に対してアリスは「仕方ないじゃない」と口を尖らせる。
「これはまるでチートのような、とんでもない才能で出したんだもの」
 必ず有効活用出来るユーベルコードをリプレイを執筆するマスターに選択させるユーベルコード。それがアリスの言うとんでもない才能である。もう毎回これだけ使っていればいいんじゃないかと思わせる程の恐ろしい業界破壊ユーベルコードだ。
「まー、たぶん詠唱時間に応じて召喚数が増えるタイプのユーベルコードなんじゃないかしら?」
「そうですか。では私がスカルヘッドを追い込むので、そちらは人参を召喚できるだけ召喚しておいてください」
「なんで?」
 アリスに合わせてワンダーラビットが首を傾ける。
「私達でフォーメーション・スカルシュレッダーを再現します」
「スワロウ小隊がやってたアレか?」
 ガイが問うとノエルは「ええ」と短く頷いた。
「ミサイルの飽和攻撃による空間制圧。直後の一点突破攻撃。スワロウ小隊が実施した際の結果は失敗でしたが――」
「猟兵がやれば……ってわけね?」
 話しに乗ってやろうとアリスが鼻を鳴らす。
「なら一点突破の役は俺のコスモ・スターインパルスが行くぜ!」
「ではよろしく。お二人の正面に追い込みますから、場所はこのままで」
 エイストラがスラスターから光を爆発させた。クイーン・エリザヴェートに直進するスカルヘッドに対してプラズマライフルで妨害し、側面から大きく弧を描く軌道で進路に割り込む。
「似たもの同士なら、ある程度の行動制御は効きます」
 エイストラは押し込むも決定的な間合いには踏み込まない相対距離で三門の絶え間無い連射を見舞う。視界の隅を過ぎ去るのはリニアガンとホーミングレーザーの夥しい撃ち返し。1/10000sec以下とて反射神経を途切れさせてはならない。
「タイムフォール・ダウン」
 エイストラとスカルヘッドの射撃戦を遠目にアリスが呟く。アリスの周囲の広域に無数の魔法陣が浮かび上がる。そこから人参が生えてきた。大豊作である。アリスの中に流れる1秒を何倍にも引き延ばし、人参の召喚に本来必要だった詠唱時間を瞬時に消化したのだ。
「こっちは準備完了よん」
「こちらも……まあいいでしょう。始めてください」
 エイストラが社交ダンスを踏む滑らかな挙動でホーミングレーザーを躱した。プラズマキャノンの返礼がスカルヘッドに伸びる。目標を撃ち損じた荷電粒子は海面を直撃。水蒸気爆発を起こす。
 立ち昇る蒸気の柱が合図となった。
「ごー!」
 ワンダーラビットが右腕を上から前へと振り下ろす。人参が一斉に若草色のロケット噴射を焚いた。海を床面として全方位からスカルヘッドを包み込むように殺到する。
 スカルヘッドは縦軸に回転しながら機関砲を撃ち散らす。爆発の火球が周囲を埋め尽くした。
「コスモ・スターインパルス! 最大パワーだ!」
 ガイの裂帛が機体の推進系と駆動系に嵌められた枷を引き千切る。センサーカメラに紅が閃く。
「たぎれ竜の雷! 天をも揺らし、明日を掴む力とならん!」
 背部のスラスターが真紅の噴射炎を爆発させた。二刀を構えて突撃するコスモ・スターインパルス。纏う真紅の波動。超加速した機体が稲妻そのものに変貌する。
 スカルヘッドは双翼の火砲の全てをコスモ・スターインパルスに向けた。夥しい弾雨が真正面から注ぐ。纏う衝撃波の守護が撃ち貫かれ、装甲が削ぎ落とされてゆく。だがコスモ・スターインパルスは止まらない。
「爆界天昇ォッ!」
 二刀で振るった渾身の横薙ぎ。雲耀の如き刃の一閃が走る。
「浅いかッ!?」
 切先に僅かに触れる手応えはあった。散る緋色の火花。スカルヘッドと交差した刹那、ガイは髑髏の頭頂部に真紅を放つ銃口を見た。
「うおおおッ!?」
 赤い光が迸る。機体が激震し、ガイの意識ごと横方向に吹き飛ばされた。荷電粒子砲がコスモ・スターインパルスの左腕を抉り飛ばしたのだ。
「真似する気にはなれませんね」
 最後の一撃をくれてやらんとするスカルヘッドと後退加速で間合いを稼ごうとするコスモ・スターインパルスの間に青白い光線が割り込んだ。エイストラが発射したプラズマビームだった。
「男の子ねぇ……」
 アリスが追加召喚した人参が飛び退くスカルヘッドを執拗に追い回す。
「悪いかよ?」
 ガイが苦く顔を顰める。モニターの隅に表示されたサブウィンドウ上の機体ステータスで、左腕が丸々灰色と化していた。推進装置の類いが赤文字で負荷警告を伝えている。
「別にぃ?」
 取り敢えず一発当てたんだし本は取れたんじゃないの? そう含んでアリスは薄く笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨飾・樒
ネルソンとロドニーは、まだ戦える?
スカルヘッドを仕留めたら戻ってくる、持ち堪えて

"眠り薬の魔弾"が取り込まれるのかどうかは分からない、でもやるしかない
速度も運動性能も敵の方が上、頭も良いらしいし、射程内に近付ける機会は一度逃したらもう無いと思う
多少の負荷は覚悟の上で全力跳躍で敵に接近、既に取り込んだ火器で迎撃してくるだろうけど回避は最低限の機動で射撃に集中
どの部位でも良いから1発目を命中させる、2発目は同じ位置に、齧り付いてでも撃ち込む
魔弾が取り込まれないなら効果は期待できるだろうし、取り込まれても同じ位置に撃ち込めば構造変化の仕組みに異常を引き起こせるかも
離される前に撃てるだけ撃ち込んでやる



●情けは人の為ならず
 髑髏頭に拳銃型の砲を生やしたキャバリアは、猟兵の追撃の狭間を軽快な挙動で掻い潜って進路を変える。眼窩が向かう先はクイーン・エリザヴェート。双翼の推進装置が鮮明な赤を噴射した。
 樒のエメラルドグリーンの瞳がロドニーの甲板上からそれを見ていた。スカルヘッドとの距離は非常に離れている。だがそれにも関わらず視覚で捉える移動速度は異様に速い。派手に弾ける波濤の航跡からして音速域に達しているのは明白だ。
 今すぐ行動を起こさなければ間に合わない。樒は耳元に片手を当てる。戦闘服に備わる通信機能が自動で起動した。
「ドーマウスよりネルソンとロドニーへ、そちらの状況は?」
『ネルソンよりドーマウスへ、本艦は既に危機的状況を脱しつつある。自衛戦闘の継続には問題無い』
『こちらロドニー、同様だ。救援に感謝する』
 つまりはこちらの事は気にするな。そう含んだ二隻の通信士の声に「了解」と応じ、六式拳銃丙型の弾倉を抜き、零式雑嚢符から取り出した新たな弾倉を差し込む。
「スカルヘッドを仕留めたら戻ってくる、持ち堪えて」
 スライドを引く。チャンバー内に弾頭の生えた薬莢が装填された。
『ロドニーよりドーマウスへ、了解した。そちらはイェーガーの仕事をやってくれ』
 やれるかどうかの保証は無い。速度も攻撃力もスカルヘッドの方が明らかに上だ。だがやるしか無い。
 樒は硬い甲板を蹴って海原に飛び降りた。直線距離で進めばスカルヘッドより先にクイーン・エリザヴェートの直掩であるウォースパイトの元に辿り着ける。逆に今行かねば、速力で劣るこちらはスカルヘッドに接近出来ず、拳銃の射程域に収めることだって出来ない。
 敵は絶対にクイーン・エリザヴェートを狙う。だから進路上で待ち構える。
 零式空中跳躍符が空中を地面として踏みしめた。空中を蹴る。零式脚部運動強化符で補正された脚力が樒の小さな身体を大きく跳ばした。
 対空砲火もミサイルも振り切って猛進するスカルヘッド。空中を蹴って跳躍する樒。ウォースパイトの艦首に降着した時には、スカルヘッドはもう間近に迫っていた。
 眠り薬の魔弾が籠もる六式拳銃丙。握る右手を左手で支える。腕と肩はまっすぐに。正しい射撃姿勢。正しい射撃照準。重なる照門と照星の向こうに直進してくるスカルヘッドが見えた。
 先の猟兵との交戦を見るに、スカルヘッドには吸収可能な銃火器の攻撃とそうでない攻撃があるらしい。そして見極めるだけの知識なり経験なり観察眼なりを備えている。樒はその性質を利用しようとしたのだ。
 対キャバリア用の射撃武器が吸収出来て、人対人用の射撃武器を吸収出来ない理由があるまい。スカルヘッドは脅威と判定した攻撃なら回避し、そうでないなら回避しない。人の身で撃てばスカルヘッドは躱さない。仮説ではあるが――実証は今からやればいい。
「一発当たりさえすれば……」
 魔弾の睡眠薬が巡る。樒は六式拳銃丙型のトリガーを引いた。銃口から青いガスのような光が噴き出す。数ミリ程度の弾頭が照準通りに真っ直ぐ進み、射線上のスカルヘッドに――到達できなかった。
 樒がトリガーを引いた直後、スカルヘッドが鋭い軌跡を引いて横に飛んだ。樒は一瞬目元を強張らせた直後に「そうか」と短く呟いた。
 生の人間が無策で待ち構えている筈が無い。巧妙な罠も緻密な連携も、ましてや数の暴力も無しに生身でキャバリアと渡り合おうとする時点で、そいつは猟兵か何かなのだ。だったら拳銃の一発も食らう訳にはいかない。どんな毒が――ユーベルコードが仕込まれているか分かったものではないのだから。
 スカルヘッドの心の有無は樒には知る由も無い。だが避けたという事はきっとそう考えたのだろう。呟きと共に樒は殆ど本能だけで床を蹴って右に飛んでいた。一瞬前まで立っていた場所に金色の電流が伸びて爆発が起きる。スカルヘッドが発射したレールガンが立て続けに直撃した。樒の身体に熱と金属片が吹き付ける。
 樒は体勢を立て直す間もなく拳銃を立て続けに応射した。命中弾は無い。完全に警戒されたと舌を打つ。奴は回避可能な攻撃は確実に回避するだけの速力と運動性、反応速度を持っている。命中させるには視認してからの回避が間に合わない至近距離から相打ち覚悟で撃つか、スワロウ小隊がしたように飽和攻撃で空間を制圧し、機動力を潰すか。今の自分には前者を実施する機動力も、後者を実施する火力も無い。
 スカルヘッドのクイーン・エリザヴェート到達を見過ごす他に無いのか。面持ちの色を変えないまま奥歯を噛む。すると幾つもの風切り音とロケットエンジンの音が聞こえた。
何本もの対空ミサイルがスカルヘッド目掛けて猪突する。すぐに機関砲や散弾で撃ち落とされて爆散してしまったが、飛来するミサイルは更に数を増やしてスカルヘッドを追う。
『ネルソンよりドーマウスへ、そちらを援護する』
『こちらロドニー、ミサイルで目標の動きを封じる。その間にドーマウスは攻撃を』
二隻の艦艇が防空の為に残していた対空ミサイルを全弾撃ち尽くす勢いで発射していたのだ。艦艇が搭載可能なミサイル総数は一般的なキャバリアの比では無い。周囲の艦艇も呼応し、たちまちスカルヘッドの周囲が緋色の爆煙に埋め尽くされる。
「ドーマウス了解」
 今度は外さない。膨れ上がった火球に包囲されたスカルヘッドに銃口を重ねる。後退するスライド。排出される薬莢。噴き出す青白い光。跳ね上がる六式拳銃丙型。
 スカルヘッドの片翼に小さな火花が散った。翼を構成する長銃身の砲と視線が交差した。だが樒は動かない。電磁加速弾体が射出され、樒の身体を跡形も無く粉砕する。
 はずであった。樒は髑髏の顔に動揺の色を見た気がした。
 電磁加速弾体は発射されず、銃身が電流の残光を伸ばす事も無かった。魔弾の薬が回り、翼を構成する銃器の機能を眠らせたのだ。
「撃てるだけ撃ち込んでやる」
 スカルヘッドに生じた隙はわずか一瞬。されど一瞬。樒の指先が六式拳銃丙型のトリガーを連続で引く。跳ね上がる右手を左手で支えながら。
 小さな両肩が揺れる事数十回。ウォースパイトの船首に、空の弾倉が落ちる音が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中小路・楓椛
アドリブ連携等自由

なるほど、大体わかりました。
【ミスラ】さん、報酬はいつものところに置いておきますのでスカルヘッドと他の猟兵と交戦中にアンブッシュです。

此方でもクロさんと装備で牽制掛けますので戦況を見極めて殲禍炎剣の攻撃対象ギリギリのマニューバをスカルヘッドが実行した際に操縦空間の「120度以下の鋭角」から顕現して操縦者の操作を混乱させて「高度を上げて」「加速させる」操作に持ち込んでください。
ついでにクイーン・エリザヴェートからの再度の捕食を阻止するためにエネルギー吸収機構の基部に顕現して適当に破壊しておいてください。テーブルマナーは守りましょう。

後の戦闘は他の皆様にお任せです。


フレスベルク・メリアグレース
では、派手に引き付けるとしましょうか

『三の王笏』の力を原点以上に宿し、万象全てを消滅させる『Ain』なる『無』を放ってエヴォルグを牽制していきます
更にダメージと共にエントロピー消滅事象による【『無』の侵食】の状態異常を与え、銃器による攻撃に不具合を生じさせます

エリザヴェート陛下
今はわたくし達を信じてください
そうでなくとも、わたくし達は貴方も、貴方達を助けましょう

万象を消滅させる『無』を従え、それを以てエヴォルグーースカルヘッドと渡り合いながら無線で通信を送っていく

さて、どう出ることでしょうか?


アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

ワンダーラビットは着ぐるみを脱いで、乳尻太ももを魅せるタイプの軽パワードスーツを着たうさ耳美少女(5m)に。
”まるで何度も繰り返し体験したかのように”最小限の動きだけでスカルヘッドの攻撃を回避し、明後日の方向に銃撃を”置く”。するとあら不思議、スカルヘッドは吸い込まれるように置いた銃撃の場所へと。
|タイムフォールダウンにエンドテイカー《高速詠唱早業先制攻撃多重詠唱拠点構築結界術》を加えた時間質量操作戦闘はやっぱ便利だわぁ、おっとミスったリテイクリテイク、と。
大技も一発。|時間質量を圧縮するだけ圧縮したマイクロブラックホール弾《重量攻撃、詰め込み》よ❤


ヴィリー・フランツ
※熟練操縦士にて基本性能アップ
心情:クソ!一旦武装の補充をしようと思ってたが…予定変更だ、このまま迎撃する!
手段:「やべぇぞアイツは、迎撃はこちらでする!白羽井と灰狼、レイテナ直掩機は残りの|量産型《糞蝿》を叩き落としてくれ!」
スラスターを吹かして敵機に一気に接近する、このエヴォルグタイプは初めてだから敵の攻撃パターンを収集しながら慎重に戦う。
近接はバーンマチェーテによる斬撃、離れたら肩のクロコダイル単装電磁速射砲で蜂の巣にしてやる。防御に関しては機体を左右に振っての回避運動、今回は粒子砲の取り回しが悪くなる盾の代わりに、EPフォートレスアーマーを搭載している、敵の魔弾もある程度は防げる筈だ。


テラ・ウィンディア
シルも参加してるみたいだな!それならおれも手助けするぞ!

スカルヘッド…恐ろしい相手のようだが…おれだって恐ろしい奴だって教えてやる!

【戦闘知識】
敵機の動きや武装の性質を分析

遠距離系か…だが易々とおとされてたまるか!

【属性攻撃】
炎を機体に付与

【見切り・第六感・空中機動・オーラ防御・武器受け・残像】
UC発動!
超高速で低空を飛び回りながら敵の弾幕を残像を残して回避!避けきれないのは剣で弾く!

【弾幕・重量攻撃・貫通攻撃】
ドリルビット
ガンドライド
展開
重力弾とドリル攻撃を叩き込み
【二回攻撃・早業・串刺し・切断】
剣による連続斬撃から槍で串刺しにして
【砲撃】
ブラックホールキャノン発射!
圧潰して散れぇ!



●コントロール・バトル
 スカルヘッドの雷光の如き俊敏性は衰えを知らない。仮に速さに天井があるのだとしたら、スカルヘッドはそこに到達しているのだろう。
 軽空母ユニコーン艦内の掃討を終えたタイフーンカスタムは飛行甲板に上がってきていた。ブリンケン伝に知らされた新手の敵機を探すべく、ヴィリーは海上に視線を巡らせる。
「クソが! やべぇぞアイツは!」
 海上で乱れ狂う光跡に毒づく。レーダー上でも視覚でも捉えた動きはまるで出鱈目だ。
「一旦武装の補充をしようと思ってたが……」
 悠長に準備している余裕も無いらしい。熟練の戦士であるヴィリーの観察眼は、皮肉にもスカルヘッドの脅威を一目で看破した。猟兵と交戦しながらもクイーン・エリザヴェートへ攻撃する機会を伺っている。早急に割って入らなければ今までの戦闘が全て灰燼と化してしまうだろう。
 残弾数は? 推進剤の残量は? 機体の損傷度は? ヘッドアップディスプレイに表示された機体の状態を追って瞳が忙しく動き回る。
「直行するしかねぇな」
 やはり戦闘の後である以上、万全では無いが……呑気に大鳳まで帰っている内に試合が終わってしまう。ヴィリーは操作盤を叩いて通信機能を呼び出す。
「カイゼルよりフェザー01とウルフ01へ! 食残しは任せる!」
『フェザー01よりカイゼルへ、了解でしてよ!』
『怪物の遊び相手はアンタらの仕事だからね』
 那琴と伊尾奈は皆まで言うまでも無く察してくれたらしい。ヴィリーは通信帯域を調整してスワロウ小隊との交信を試みた。
「カイゼルよりスワロウ01! スカルヘッドの迎撃はこちらでする! そっちはクイーン・エリザヴェートを守護れ!」
『スワロウ01! 了解です!』
 随分と可愛げのある声だな。本当にスカルヘッドと渡り合った搭乗者なのか? 湧いた疑問を横に置き、ヴィリーはフットペダルを踏み込む。タイフーンカスタムがバーニアノズルから力強い炎を焚き、ユニコーンの飛行甲板より飛び立った。

 ミサイル、対空砲、考えつくあらゆる攻撃がスカルヘッドを追う。しかしいずれも標的に届くまでもなく、或いは吸収されてしまう。
 クイーン・エリザヴェートへの到達までもう間もなく。突如スカルヘッドが進路を真逆の方向に反転させた。一瞬前までスカルヘッドが存在していた空間に、宇宙の深淵を宿した球体が膨れ上がった。
「無よ、其れは万有を残らず貪る全ての終わり。無よ、万象を礼賛する私は汝を征服する。無よ、全てを飲み込む汝を以て礼賛を証明しよう」
 スカルヘッドの進路とクイーン・エリザヴェートの座標位置の中間点に降臨したノインツェーン。フレスベルクの唇が流暢に祝詞を紡ぐ。
「エリザヴェート陛下……今はわたくし達を信じてください。そうでなくとも、わたくし達は貴方も、貴方達を助けましょう」
 フレスベルクは背負う護衛対象に嫋やかでありながら強かな口運びで言う。
『なんでも構わんからはよう止めるのじゃ!』
 跳ね返って来たのは耳に痛い黄色い声。思わず困惑した笑みが浮かぶ。
「レイテナの女王陛下は我のご意思がとびきり強いご様子で」
 クロさんがノインツェーンの隣に並び立つ。楓椛の言葉には皮肉がたっぷりと籠められていた。
「お元気そうで何よりねぇ」
 ノインツェーンを挟んでクロさんの反対側にアリスのワンダーラビットが到着した。
「しかし、空間座標への直接攻撃すらも避けてしまうのですか……」
 フレスベルクの硬い眼差しの向こう、ノインツェーンが右腕のマニピュレーターを広げて向けた先では、空間に泡立つ帰滅の虚無からスカルヘッドが逃げ回っている。
「台所のGも真っ青な動きだこと」
 アリスが何気なく言うと楓椛が「なるほど確かに」と呟く。
「ありゃ攻撃を見てから避けてるな。フレスベルクの嬢ちゃんが撒いてる黒いタマが膨らんだ瞬間に軌道を変えてやがる」
 タイフーンカスタムが白波を割って海上を突き進む。
「みたいねぇ……あいつ、少しでも避けられる要素のある攻撃は全部避けちゃうわよ?」
 つい先程交戦したアリスには確信があった。未来予測の類いの能力を持った猟兵の攻撃ですら、スカルヘッドは攻撃されてから回避してしまう。
「つーまーりー?」
「飽和攻撃の追い込み漁と?」
 後を引き取った楓椛にアリスが「せいかーい」とウィンクを飛ばす。
「スワロウ小隊とそっちのウサギがやってた様子を見るに、一応通用するらしいな」
 スカルヘッドの動きを観察していたヴィリーからしても見立てにさしたる相違は無い。
「その話し! おれも乗るぞ!」
 通信に割って入った活発な少女の声音。虚無の泡沫から逃れるスカルヘッドに、四方八方から弾雨が走った。更にロケットエンジンを噴射する小型の回転衝角型自律攻撃端末が追い打ちを掛ける。スカルヘッドは全方位から迫る衝角を微細な挙動で回避し、弾雨を受けると吸収してエネルギーに転換、夥しい数のホーミングレーザーを発射した。
「ガンドライドはダメか!」
 光輪型の推進機関を背負い、紅蓮の刀身を携えた機体――テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)のヘカテイアが、海面を泡立たせて駆け抜ける。降り注ぐホーミングレーザーの暴雨を引き付けてから逆方向に急加速した。残影を置くほどの瞬発力。目標を追尾しきれなかった荷電粒子光線が海面に突き刺さる。無数の水蒸気の柱が昇った。
「あいつの動きはだいたい分かった! ホーワコーゲキってので逃げ場を塞ぐんだろ!? ならドリルビットが役に立つ筈だ!」
「オールレンジ攻撃ですか。確かに有用でしょうね」
 楓椛が顎を撫でる。攻撃手段の手数は多ければ多いほうが良い。ミサイルやビットの類いであれば尚更理想的だ。犠牲を考慮しなくて済むのだから。
「突っ込む役ならタイフーンカスタムがやるが? こいつはフォートレスアーマーを搭載している。レールガンだろうがビームキャノンだろうが、バリアで多少は耐えられる筈だ」
「では飽和攻撃の役はノインツェーンが」
「ワンダーラビットにもお任せあれ。ちょっと本気出しちゃいましょうか」
 アリスのウサギ型キャバリアが力なく頭部を傾けた。背中のファスナーが降りる。内部から這い出てて来たのは、兎の耳を生やした、やたらと露出度の高い艶めかしい少女だった。
「これはこれは、随分と身長の高いお嬢さんですね」
 楓椛が言うのもご尤もである。ワンダーラビットを脱ぎ出た少女は全長が5mもあるのだから。パワードスーツらしきレオタードを着ている当たり、戦闘能力はあるようだが。
「では此方でもクロさんと牽制を掛けますので、スカルヘッドを殲禍炎剣の照射域寸前にまで追い詰めて頂けないでしょうか?」
 照射域という死の壁に追い込む。楓椛の意図を汲んだヴィリー、アリス、フレスベルクはそれぞれに戦術行動を開始した。
「三の王笏、一なる虚無を……」
 深淵に続く空洞。空間を抉る泡沫がスカルヘッドの下方から湧き上がるようにして無数に膨らむ。上昇を余儀なくされたスカルヘッドを同じく深淵色をした剛速球が襲う。
「はーい、もっと上よ」
 ワンダーラビット改め名状しがたいうさ耳美少女のような何かが射出した極小の重力球体。超高速機動で飛び回るスカルヘッドの移動先に置かれた射線は、やはり撃ってから躱されてしまう。だがアリスとしてはそれでよかった。攻撃の目的はスカルヘッドの動きを制限する事にあったのだから。
 レールガンの連射がうさ耳美少女を穿つ。研ぎ澄ました超高速弾体。だがアリスは風と受け流した。スカルヘッドがするようにして、うさ耳美少女は発射されてから身を翻し躱してみせる。
「それはもう“識って”いるわ」
 先程の戦闘で散々見てきたのだから。アリスとスカルヘッドの射撃戦は当たらないし当てられない状況に陥った。もっと距離を詰めれば相打ちという代価を支払って命中弾を撃ち込めるが……アリスにその役を担当するつもりは無い。
「上がれ上がれ!」
 ヘカテイアが操るドリルビットがスカルヘッドを追い回す。幾つかはショットガンで撃ち落とされるも、自律攻撃端末は死を恐れない。縦横無尽に飛び回り、頭上から足元からと絶え間ない突撃を繰り返す。
「もう頃合いでしょうか?」
 クロさんが発射するEMPグレネードの手動信管が作動し、青白い稲光を花火のように広げた。
「目標! 殲禍炎剣の照射判定高度ギリギリだ!」
 アウル複合索敵システムの観測結果を受けてヴィリーが鋭く声を飛ばす。ノインツェーンとうさ耳巨大美少女の追い込みは功を成したらしい。
「ではミスラさん、お願いします」
「ミスラさん?」
 テラが疑問符を浮かべるよりも先か後か、スカルヘッドの直ぐ側近に影が生じた。影は犬、或いは狼の輪郭を以て、威嚇するかのように頭を下げ、身体を上げた。咆哮の姿勢だ。
「驚異的な反応速度としか言いようがありませんね。操縦空間内部にお邪魔させて頂くつもりだったのですが……」
 自律行動型次元潜航追尾攻撃術式、ミスラ。狼の王たる影と共有した五感から察するに、ミスラが出現した直後にスカルヘッドは後方へ急加速したらしい。
「操縦? 人喰いキャバリアって無人機なんじゃ?」
 首を傾げる楓椛にテラが問う。
「どうかしらねー?」
 意味有りげに双眸を細めるアリス。二人の意図がどうあったにせよ、スカルヘッドは殲禍炎剣の照射判定高度という壁に追い込まれた。
「此方の思惑とは少々異なりますが」
「射線開けます!」
 楓椛の声を合図にフレスベルクが叫ぶ。
「ブラックホールキャノン! 圧潰して散れぇ!」
「じゃあわたしもっと」
 ヘカテイアとうさ耳巨大美少女が揃って暗黒球体を射出する。頭上は限界高度。足元を含めた周囲はノインツェーンより生じる虚無の泡沫で満たされている。スカルヘッドに残された逃げ場はそう多くない。だが射線確保の為に僅かに広げられた空間に滑り込んだ。されど側近を掠めた二つの暗黒球体の重力に捕われ、僅かの刹那だが目にも止まらぬ挙動が硬直した。
 そして、広げられた空間とは、スカルヘッドが逃げ込むように敢えて確保された空間だった。
「押し切るぞ!」
 タイフーンカスタムのバーニアノズルが光を爆発させた。虚無の泡沫の最中、開かれた道を最大戦速で突き進む。肩部の電磁速射砲のフラッシュハイダーが明滅する。スカルヘッドは弾体を取り込み、突き進むタイフーンカスタムにレールガンを返した。夥しい数の超高速弾体が機体を球状に覆う障壁を貫き、装甲を砕く音をヴィリーは聞いた。激しく振動するコックピット。だが足はフットペダルから離れない。
「あと一撃、足りなかったな!」
 フォートレスアーマーのバリアフィールドが、最後の一撃の威力を僅かに減衰させた。満身に創痍を負ったタイフーンカスタムが赤熱化した大鉈を振るう。スカルヘッドの双翼から噴き出す荷電粒子の刃。二機の距離が零に達し、互いの刃が交差し合う。金属が焼き切られる音。荷電粒子が擦過する音。二つの音が同時に広がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サマエル・マーシャー
引き続き意思を持っているようで助かりました。あの様子ならあの方にも私の術が効くでしょう。

淫欲の術を敵にだけ効果を発揮するようにプログラミングして戦場全体に範囲攻撃。スカルヘッドさんも残ったEVOLさんたちも私を求めるように操作。
その状態で私はゆっくりと高度を上げます。速度を出してしまえば殲禍炎剣の攻撃対象になってしまう高度に。
私の術で精神を汚染され欲望を開放させられてしまった皆さんはそんな位置にいる私を求めて最高速で飛んでくるでしょう。理性を奪われると知性は失われます。

殲禍炎剣に貫かれた皆さんには追撃の世界を焼く炎を。

(殲禍炎剣案が不可なら自分に殺到させたところにカウンターをするだけの案に)



●殲天死
 EVOLの骸が穏やかな波に揺られている。海から僅かに高度を取ったサイバー・アスモデウスが呆然と立ち尽くす。
 虚ろな赤い瞳が髑髏頭のキャバリアを追う。引き連れた紅の光跡は、箒星のようでありながらも歓楽街に灯るネオンのような淫靡さも放っていた。
 彩色の無い面持ちで見つめるサマエルが光跡を見てどう感じたのかは定かではない。或いはサマエル自身にもサマエルが考えている事、思っている事など解らないのかも知れない。
「引き続き意思を持っているようで助かりました」
 自身の事は解らなくとも、相手の事は解る。描く光跡から、挙動の節々から、スカルヘッドにもEVOLと同じく欲望がある。それもより高度で……或いはより人間的な欲望が。
 猟兵の意図を読み、躱し、撃つ。スカルヘッドには相手の意思を慮るだけの思考能力が存在している筈だ。
「あの様子ならあの方にも私の術が効くでしょう」
 サイバー・アスモデウスの仄暗いコクピットにサマエルの囁きが漂う。自身の背に備わる双翼を広げ、羽ばたく情景を想像する。するとサイバー・アスモデウスが呼応して双翼型の推進装置を展開した。
 想像の海の中でサマエルは空に向けて飛ぶ。より高く、ゆっくりと。サイバー・アスモデウスの艶めかしい機体が浮かび上がり、緩やかに上昇し始めた。帯状の羽が、風を受けて波打つ。
 耳障りな警報音が鳴り始めた。殲禍炎剣の照射判定高度域が近付きつつある事の警告だ。メインモニター上に高度注意を促す黄色の文字が表示された。されどサマエルとサイバー・アスモデウスの緩慢な上昇は止まらない。
 サマエルの細くしなやかな指先がコンソールをなぞる。機動制限の設定項目を呼び出し、解除の文字にそっと触れた。これでサイバー・アスモデウスはどこまでも高く飛んで行ける。太陽に近付き過ぎて翼を灼き溶かされた勇者のように。
 警報音が一層強く激しくなった。照射高度侵入中。速度注意。要下降。危険を知らせる横文字は全て真っ赤だ。音と文字、いずれの警告を受けてもサマエルの面持ちは動かない。
 殲禍炎剣の聖域にまで達したサイバー・アスモデウスが右腕部を天に向けて伸ばす。そしてマニピュレーターを広げた。
「どうか、私を愛してください」
 微かに菫色を含んだ淡く柔らかな白い波動が、サイバー・アスモデウスのマニピュレーターを起点として戦域全体に拡大し、包み込んでゆく。
 海上を飛ぶEVOL達が一斉に首の向きを変えた。無い目で見る先は空中に浮かぶサイバー・アスモデウス。暴走した食欲が人喰いの怪物を突き動かす。
 全方位から高速で迫るEVOL。サイバー・アスモデウスは動かない。サマエルもまた眼前の光景をただ見届けているだけだ。
 やがてEVOLはサイバー・アスモデウスの元に辿り着き、その柔肌に口付けする。だが、いずれのEVOLも辿り着く事は無かった。
 空から降ってきた光線。光線はEVOLを確実に貫き、胴体の大部分をくり抜いた。光線はサイバー・アスモデウスに高速で殺到しつつあったEVOLの数だけ降り注ぎ、降り注いだ数だけのEVOLが断片と化して海に吸い込まれてゆく。
 高速飛翔体を無差別に撃ち落とす暴走衛星――絶対の審判者たる殲禍炎剣からは何人たりとも逃れられない。猟兵であろうとも。オブリビオンであろうとも。判決を下された者は、死を以て叩き落されるだけだ。
 そしてEVOLと同族のスカルヘッドもまた開放された欲望のままにサイバー・アスモデウスを求め――。
「……愛が足りなかったのでしょうか?」
 サマエルは尋ねるも答えは無い。スカルヘッドは照射判定高度寸前まで驀進したかと思えば、焼き落とされるEVOLを見た途端に我を取り戻したかの如く急速停止。背を向けてクイーン・エリザヴェートの方角へと飛び去ってしまった。狂おしい欲望を御するだけの理性が存在したというのだろうか。知能があるとは言え動物が精々の……人を喰うだけの無人機に?
 赤い虚ろな瞳がスカルヘッドの背中を見送る。サイバー・アスモデウスの周囲で、天に近付きすぎた罪人達が灰のように焼け落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
邪魔するぜ!ラオウ!

なんやかんやでクイーン・エリザヴェートに乗り込む拙者だ
だってやることないというか…【創造】して出しっぱなしにしといたクロムキャバリアンデスワーム君が銃の悪魔みてぇな奴と戦ってるから拙者はフリーなんだよね
並大抵じゃないバリアと装甲で魔弾程度屁でもねぇでござる…それに全身機械しかないデスワーム君から生命力が吸える訳ないだろ!という訳でやっちまうでござるよデスワームくぅん!

という訳で早速艦橋に乗り込むでござるよ!スロー…スロー…クイッククイックスロー…どうも一般猟兵でござる
金髪つるペタ美王女…素敵だァ…よろしくでござるよ|ご友人《レイテナ氏》、あとついでにベッケナー氏

そういや戦闘中でしたな
ほらレイテナ氏もデスワーム君を応援してあげてね!なんでって?わからんか|ご友人《レイテナ氏》!!機械生命体に心が宿るためには美少女の声援が必要なのだ!イメージでござる!まあ出した時からなんか宿ってた気がしないでもないが…

素敵だァ…自身の活躍を見せられてデスワーム君も喜んでいます



●一方その頃、|ギャグ《エドゥアルト》時空では
 エドゥアルトがどこからか喚び出した名状し難いデスワームのようなものは、水を得た怪獣王のように元気に暴れ回っていた。スカルヘッドはクロムキャバリアンデスワームを破壊出来るだけの火力を持たない。クロムキャバリアンデスワームはスカルヘッドを捉えられるだけの攻撃手段を持たない。終わりの見えない戦いが延々と繰り返される。そしてエドゥアルトは――。
「クイーン・エリザヴェートに来たぞ!」
 地球よりも遥かに大規模な防衛組織を持っていた霧の異星人のようなノリで、レイテナ第一艦隊の旗艦に乗り込んでいた。なお乗り込んだ方法や警備の突破方法については考慮しないものとする。ここは|ギャグ《エドゥアルト》時空だから。
「スロー……スロー……ドゥエドゥエスロー……」
 艦内を進むエドゥアルトのステップはご友人のように素敵だった。人とすれ違った気がするが誰も声を掛けない。エドゥアルトと関わり合いになりたくないからだ。
「どうも一般猟兵でござる!」
 ブリッジに繋がる扉が盛大に開かれた。
「なんじゃこの変なオッサンは!」
 エリザヴェートが椅子から飛び上がった。
「そうです! 私が変なオッサンです! 金髪つるペタ美王女……素敵だァ……」
「ブリンケン、こやつを即刻ギロチンに掛けよ」
 丹念に研いだ包丁のような声音のエリザヴェートをブリンケンが「まあまあ」と宥める。
「つるペタ美王女なら、もてなしたい。よろしくでござるよ|ご友人《レイテナ》」
「よろしい、アイアンメイデンの方が望みと見た」
「あとブリンケン氏もよろしくな」
「無視するでない! それに妾は王女ではなく女王じゃ!」
「そんな事よりレイテナ氏もデスワーム君を応援してあげてね!」
「こ……こやつ……!」
 噴火し始めたエリザヴェートを他所にエドゥアルトはブリッジの窓を指差す。そこではクロムキャバリアンデスワームとスカルヘッドが怪獣映画の如きキャバリアプロレスを展開していた。
「なぜ妾があんな珍妙なキャバリアを応援せねばならんのじゃ!」
「わからんか|ご友人《レイテナ氏》!」
「ひいっ!」
 エドゥアルトが切迫した顔で声を叩き付けるとエリザヴェートの小さな肩が震えた。
「機械生命体に心が宿るためには美少女の声援が必要なのだ!」
「宿さんでよいわ!」
「まあ出した時からなんか宿ってた気がしないでもないが……」
「そもそもなんなのじゃあのナントカワームと言うのは!」
「説明しよう! クロムキャバリアンデスワーム君とは! クロムキャバリア封鎖機構が管理する自律防衛型|C《cavalier》兵器の事でござる!」
「そんな機構聞いたことが無いんじゃが……」
「当然でござる。たった今拙者が考えたのでござるからな」
「さようか」
 エリザヴェートはもう疲れてしまった。この髭面の男は何を言っているのか解らない。
「ほら|ご友人《レイテナ氏》! ちゃんと応援してあげて!」
「ドクロ頭を叩きのめせるならなんでもよいわ……ほれ頑張れ頑張れ」
 指令席に戻ったエリザヴェートは酷く適当に応援して差し上げた。するとクロムキャバリアンデスワームの頭部に備わる三基の掘削用衝角が赤く閃いた。そこから極太の光線が三本伸びる。クロムキャバリアンデスワームが本気を出し始めたらしい。彼はロリータ・コンプレックスを抱えていたのだ。
「素敵だァ……自身の活躍を見せられてデスワーム君も喜んでいます」
「良きことじゃな。ほーれがんばれがんばれー」
 エリザヴェートは勝手にやってくれと言わんばかりに手を払う。クイーン・エリザヴェートのブリッジは、暫くの間怪獣映画の上映会場と化した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティー・アラベリア
ふふっ、化け物には化け物を
その思い切りは嫌いではございません
これは期待に応えませんと

高機動かつ実体弾を吸収する特質ですか
質量兵器中心の文明に対しては良い選択ですね

相手が大空を駆けるのであれば、空を狭くして差し上げましょう
どうやって?簡単なことです、あらゆる火力で空を埋め尽くすのです
ボクの魔杖に加えて、乗員喪失、あるいは弾薬を射耗し使用不能となった砲やミサイル発射管、搭乗者を喪失した機体に同化妖精を凝着させ、火力を投射するという概念を持ったあらゆる砲口から敵が存在する空間へと魔力を打ち出します

残骸も含めEVOLが残っているのも好都合です
尽く同化し、尖兵として扱い敵へと取り付かせます
人間達の感情を、EVOL達にも知っていただきましょう

スカルヘッドそのものにも同化妖精を差し向けます
もちろん同化による行動阻害効果も期待しますが、どちらかというと個人的な興味ですね

ボクに教えて下さいな
あなた達のような存在がどのような思考構造を持っているのか
そして、人間の感情を同調させた場合どのような反応を示すのかを



●あなたはそこにいる
 スカルヘッドがクイーン・エリザヴェートに一進すると猟兵に阻まれて一退する。その光景をティーは空母イラストリアスの飛行甲板から眺めていた。だが目はスカルヘッドを追っていない。
「化け物ですか……」
 化け物には化け物をぶつける……ティーはブリンケンの言葉を反芻する。こんなに可愛いのに。丸い手鏡の中からこちらを覗き込む奉仕人形は、そう言いたげに青いガラス玉の目に憂いを宿す。口許が綻んだ。
「その思い切りは嫌いではございません。これは期待に応えませんと」
 手鏡をスカートの中に戻す。裾を摘んで揺らす。金属の棒がアスファルトにぶつかる音が鳴った。
「大空を駆けるのであれば、空を狭くして差し上げましょう」
 ティーが両腕を浅く広げる。足元に転がっていた92式火力投射型魔杖を始めとする魔杖がひとりでに動き始め、浮き上がり、ティーの周囲で砲撃陣形宜しく列を成す。
 飽和攻撃による空間制圧。これがスカルヘッドに対して一定の効力を発揮する事は、ティーも既知している。先に零した言葉のように空を狭くして行き場を失わせてやれば良いのだ。だが言うは易し。生半可な量の火力では隙間から逃げられるのが関の山だ。
 人手を借りたい。と思い立った途端、表情に明かりが灯る。
「再利用させて頂きましょう」
 杖を産み落とした時と同じくスカートの裾を摘む。
「ひとりはみんな、みんなはひとり。過去の経験上、それを楽園と評するか地獄と評するかは意見の分かれるところですが……」
 犬と兎を中途半端に混ぜ合わせた容姿の黄金の獣――ティーが言う同化妖精がスカートの内側から溢れ湧き出てきた。まるでひっくり返した石の裏に潜んでいた蟲のように。
 同化妖精の大集団は滝となってイラストリアスの甲板を滑り落ちる。そして水面に浮かぶEVOLやキャバリアの残骸に入り込んだ。そして残骸達が動き出す。趣味の悪いホラー映画に登場する亡者達の如く。
 残骸だけに留まらない。既に弾を使い果たした、或いは使用不能に陥った艦艇の火砲にまで人理調律機構の侵蝕は及ぶ。
『VLS使用不能! 金色の化け物が……入り込んで!?』
 同化妖精が広がるのと比例して、通信装置の向こうで混乱が拡大する。
「暫しお借り致します」
 ティーは丁寧にかつ簡潔に言葉を並び立てた。届いたかどうかは定かにあらず。深緑から黄金色に塗り替えられたEVOLが海面を満たす。期は熟したとティーはスカルヘッドの所在へ躯体を向け、右腕を上げた。
「では……始めましょう」
 前へと振り下ろされる右腕。ティーの周囲に浮いていた魔杖が一斉に色取り取りの光線や光弾を解き放つ。同化妖精に入り込まれた垂直発射システムが黄金色の誘導弾を斉射し、砲塔からは黄金色の光条が迸る。全てがスカルヘッドに向かい、鋭敏な機動で動き回るそれの周囲を破滅の光球で満たしてゆく。
 そこへ飛来するEVOLとレイテナ第一艦隊所属のキャバリアの成れの果て。黄金色に塗り替えられた傀儡達は、火砲によって背後を撃たれようとも構わずスカルヘッド目掛けて猪突する。
 更に機動兵器群の合間を縫って、背中に羽を生やした同化妖精達が殺到する。弾幕と傀儡と同化妖精に埋め尽くされた空間の中央に、スカルヘッドの姿が飲み込まれた。
「さあ、ボクに教えて下さいな。あなたがどのような思考構造を持っているのか……そして、人間の感情を同調させた場合どのような反応を示すのかを」
 奉仕人形の双眸が嬉色に曲がる。ティーの意識は夥しい同化妖精達を遡り、その中に居るスカルヘッドの元へと至った。

 一瞬の瞬きの後、ティーは薄暗い人工的な室内空間に立っていた。躯体の中の記憶を精査しても場所に覚えは無い。或いは他の人格なら覚えているのか? 少なくとも東アーレス半島近辺の海域では無い事は確かだ。
 何百、或いは何千との透明な水槽が等間隔で並ぶ。中は液体で満たされており、液体の中で人体が浮かんでいた。身体の曲線や胸の豊かな膨らみ、生殖器の形状からして紛れもなく女性だと判別出来る。水槽の中で眠る少女達はどれもが一つの例外無く同じ容姿だ。髪は白く、目は紺碧で――少女達が目を醒ました。
 少女と視線が交差した。白い前髪が視界に揺れる。
 違う。この髪は自分のものではない。認識した途端、意識が黒い井戸に吸い込まれた。
 場面が移り変わる。
 黄昏色の空。血のように赤い海。黒く焼き尽くされた大地。
 傷付き、力なく跪くキャバリアのそばで、海から吹き付ける風に紫の髪を流す少女。
 少女は抱いた人の骸を手放す。微かにこちらに向けた横顔に銀色の筋が伝う。
 白い前髪が視界の中で揺れた。自分の髪では無いと認識すると、またしても世界が暗闇に吸い込まれた。
 今度の場面は水槽が並んでいた場所と同じ空気だ。
 広大な屋内空間の中央に屹立する長方形の人工建造物。全高は15m程度――。
 プラントでしょうか? 言葉は声にならず、頭蓋の中で反響した。
 視界に白い髪が揺れる。次第にプラントが近付いてくる。備え付けられたタラップを一段ずつ登った先に待ち受けていたのは、口を開けた水槽だった。人体の背骨に似た機械から何本もの管が伸びている。
 中に入ると視界が180度反転した。水槽の蓋が閉じる。透明な壁の向こうに見渡す空間は恐ろしいほど広い。飾り気が全く無く、床も壁も寒々とした鋼鉄色だった。それでいて教会のような荘厳さを漂わせているような気がしないでもない。言わば鋼鉄の聖堂……ティーは背中に刺す痛みを感じた。
 管のような何かが背骨に沿って突き刺さった、或いは接続されたらしい。同時に水槽に注水が始まる。液体は無色透明だが、片栗粉を緩く溶かしたかのような粘性だ。
 やがて液体が水槽を満たしきると、視界の隅がゆっくりと暗黒に蝕まれ始める。ティーはこの身体が微睡みに沈んでゆくのだと理解した。深く長い、深淵の微睡みへと。

 暗闇が晴れた。
 迸る火線。膨張する爆炎。鳴り止まぬ砲撃の重低音が躯体の内部を震わせる。
 海原に浮かぶ鋼の巨鯨達。飛び交う有翼の人型。空と海の狭間を駆け巡るキャバリア達。
 戻ってきた。
 同化妖精の呪縛を脱するべくして全てのプラズマブレードを最大展開したスカルヘッドは、双翼を広げる鳳凰のようでもあった。
「遅れましたが……ボクはティー・アラベリアと申します。あなたは?」
 ティーはスカルヘッドの奥へと声を投げかける。スカルヘッドの眼窩は、ティーを見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

防人・拓也
【ファントム】
ラリーと行動。海上で水面を走りながら秘匿通信で
「こちら1-0。ラリー、得意の瞳術で奴の動きを止めてくれ。後は俺がアイリス達を召喚して止めを刺す。だから日乃和とレイテナの皆に一旦後退するように伝えてくれ」
ラリーに言う。ラリーの言葉を聞いた後に
「別に構わん。いずれバレる事になるだろうしな」
と返事した後、術印を組んで自身の両脇に魔法陣を出現させてキャバリア形態のアイリスとルイーズを召喚する。
「お呼びですか、マスター」
「ルイーズ、ここに」
2機が俺の前に跪いて言う。
「2人とも、アレをやるぞ。敵の動きが止まったら一気に仕掛ける」
と言い、味方の後退とラリーが敵の動きを止めて離脱したのを確認してUC発動。アイリスが『神弓カラドボルグ』で光の矢の雨を降らせ、ルイーズが『神槍エリクトニオス』で神速の刺突と弾幕の如き光弾を放ち、俺は疾風瞬身で身体強化して旋風術・疾風を発動。
「こちら1-0。ラリー、奴のエネルギーが一番溜まっている所を教えろ」
と聞き、そこを狙って止めの疾風を叩き込む。
アドリブ可。


ラリー・ホーク
【ファントム】
拓也と行動。愛機のマイティ・ホークⅡに搭乗。
「ほう…超高速で移動する敵か。なるほど、確かに速いが…」
と言いつつ、猛禽類の眼の状態になって
「相手が悪かったな。こっちは超高速で動ける奴とそれを捕捉出来る奴が揃っているのさ」
と言う。拓也から通信が入って
「了解した。俺が幻術で動きを止めて、相棒が巨神達を召喚して連携技で引導を渡すってか。けど、日乃和とレイテナの連中はビビるぞ?」
と言う。拓也の返事を聞いて
「へいへい。俺からあいつらに危ないから一旦後退するように伝えておくぜ」
と言い、日乃和とレイテナの皆に通信で
「ハロー、日乃和とレイテナの皆さん。これから俺が敵の動きを止めた後、白い閃光が巨神達を召喚して一気に攻撃を仕掛けて仕留めます。巨神達の攻撃はえげつないので、死にたくなかったら一旦後退してね。以上!」
と伝えた後、敵を攻撃して気を引いた後、艦隊が巻き込まれないような位置まで誘導し、そこでUCを発動。
動きを止めたら安全な場所まで即離脱。後は頼むぜ、相棒とお2人さん!
アドリブ可。



●亡霊対決
 スカルヘッドに対する飽和攻撃は一定の効力を発揮した。しかしスカルヘッド自身も己への効果的な対抗措置を既知しており、猟兵達がその対抗措置を多用してくる事は理解していたのだろう。防衛網の一点突破を狙っていた挙動から、外周部を旋回飛行しながらの牽制攻撃に変じる。
「流石に生身で追い回すのは堪えるな……!」
 穏やかに波打つ海面を地として拓也が生身一つで駆け抜ける。ユーベルコード、疾風瞬身で四肢に纏った風は潮の香りがした。正面からはスカルヘッドが発射した電磁加速弾体が絶え間なく飛んでくる。相対距離が非常に離れているので避けられなくはないが、狙いは極めて正確だ。一瞬足りとも気を他所にやれない。もし掠めでもしたら風の加護はどこまで威力を減衰させてくれるのだろうか。拓也は確かめてみる気になどなれなかった。
「いよいよ白い閃光様もヘバってきたか?」
 拓也からやや離れた間合いでマイティ・ホークⅡで並走するラリーが嫌味を籠めて不敵に笑う。何の返事もなかった所から察するに、拓也の肺活量にも余裕が無いのだろう。なるほど、それだけの足の速さかと無言の内に納得したラリーは、紺碧の眼を獲物に据える。
「確かに速いが……」
 光の筋を残して飛ぶスカルヘッド。オールビューモニターが出力する標的を冷たい観察眼が追う。仮に速度に天井があるのだとすれば、スカルヘッドはそこに達しているらしい。
「だが相手が悪かったな。こっちは超高速で動ける奴と、それを捕捉出来る奴が揃っているのさ」
 所詮速いだけ。俺達の敵じゃないと言いたげに口角を上げる。
「こちら1-0。ラリー、得意の瞳術で奴の動きを止めてくれ」
 拓也が右耳に手を当てながら簡潔に指示を飛ばす。
「そりゃ構わんが、相棒はどうする?」
「アイリス達を召喚して止めを刺す」
「俺が幻術で動きを止めて、相棒が巨神達を召喚して連携技で引導を渡すってか?」
 首を傾げて尋ねるラリーに拓也は「ああ」と短い応答を返した。
「アイリス達……ねぇ? 相棒のガールフレンドを見たら日乃和とレイテナの連中はビビるぞ?」
 ラリーがカメリア流の意地が悪い言い回しをしてみると、通信装置の向こうで拓也が微かに唸った。
「別に構わん。いずれバレる事になるだろうしな。だから日乃和とレイテナの皆に一旦後退するように伝えてくれ」
「へいへい。ラリーコールサービスにお任せあれってな」
 ラリーはコンソールのタッチパネルを叩く。日乃和レイテナ両軍が共用する通信回線に繋いだ。
「ハロー、日乃和とレイテナの皆さん。これから俺が敵の動きを止めた後、白い閃光が巨神達を召喚して一気に攻撃を仕掛けて仕留めます。巨神達の攻撃はえげつないので、死にたくなかったら一旦後退してね。以上!」
『フェザー01よりホワイトホークへ、了解でしてよ』
『ウルフ01了解』
 元よりスカルヘッドの相手は猟兵に任せるつもりだった日乃和軍側は二つ返事で了解した。
『ふざけておるのか!? 妾の艦隊を傷付け――』
『はいはい女王陛下、私が対応致しますので……』
 耳に痛い黄色い大声がスピーカーから飛び出てきたかと思いきやすぐに引っ込んだ。
『こちらクイーン・エリザヴェートのブリンケンだ。カメリア合衆国軍のエース、ホワイトホークへ。貴官の要請は容認出来ない』
「ホワイトホークよりブリンケン艦長へ、何故だ? スカルヘッドの撃墜を要請したのはそちらの筈だが?」
 ラリーは声音の抑揚を抑えて訪ねた。カメリア合衆国軍のエース――レイテナのブリンケン・ベッケナーとやらはカメリア合衆国のレイテナに対する振る舞い方をホワイトホークの行動如何で判定するつもりらしい。自分の向こうにカメリア合衆国を見ているとは面白い心掛けだ。
『現在我が艦隊は砲撃陣形を死守しなければならない状況にある。陣形が崩れれば地上への面制圧能力が損なわれ、作戦目標の達成が困難になる……って雇い主から聞かされていなかったか?』
 ラリーは記憶を辿る。
 交戦時はむしろ猟兵の攻撃に艦隊を巻き込まないように気を付けろ。レイテナ第一艦隊は砲撃陣形維持のため殆ど身動きが取れない。広域に及ぶ兵器やユーベルコードを使用する際には正確な敵味方識別能力が要求される。そんな話しをグリモアベースでグリモア猟兵が言っていたような、いなかったような。
「だそうだが、どうする相棒?」
「契約だからな。やれる様にやるしかあるまい」
 自分達はアマチュアではなくスペシャリストなのだから。拓也の覚悟を汲んだラリーはそれ以上聞かなかった。
「ホワイトホークよりブリンケン艦長へ、了解した。まあ上手くやるさ。こっちの白い閃光と巨神のガールフレンドの活躍、しっかり目に焼き付けておいてくれよ」
「おい……」
 口籠る拓也を他所にラリーは日乃和軍とレイテナ軍との通信を断った。
「そんじゃ始めるぞ!」
 ラリーがフットペダルを踏み抜く。マイティ・ホークⅡが背負うウイングストライカーパックが推進噴射の光を炸裂させた。翼の先端から白い筋雲を引きながら驀進する機体の後を、戦慄く海面が追う。
 スカルヘッド目掛けて突進するマイティ・ホークⅡを横目に見た拓也が足を止める。そして両手で術印を組んだ。
 拓也が立つ海面の左右に、それぞれ異なった彩色の光を放出する魔法陣が広がった。魔法陣から滲み出る全高約5mの人型の光。光が殻のように砕けて弾け飛ぶと、内包されていた機動兵器――キャバリアの姿が露わとなった。
『お呼びですか、マスター』
 大弓を携えたタイプEXドラゴン『アイリス』が膝を負って拓也に頭を垂れる。
『ルイーズ、ここに』
 長槍を手にする護城神機『ミネルヴァ・ルイーズ』も同じく跪く。
「2人とも、アレをやるぞ。敵の動きが止まったら一気に仕掛ける」
『承知しました』
『仰せのままに』
 拓也が走り出す。それを合図にアイリスとルイーズが推進装置から光を膨張させた。向かう先ではラリーのマイティ・ホークⅡとスカルヘッドが互いに火線を飛ばし合っている。
 スカルヘッドの双翼から夥しい数の光線が放たれた。光線は緩やかな曲線を描いて広範囲に広がったかと思えば途端に進路を変える。
 殺到するホーミングレーザーを、マイティ・ホークⅡは前方向と横方向への小刻みな回避運動で躱す。一瞬前まで居た海面に水柱が昇る。コーティングシールドで胸部を庇いながらビームライフルをバーストモードで撃つ。極短い間隔で三連射した荷電粒子の弾がスカルヘッドの残影を射抜いた。
「身の硬いお嬢さんだ……!」
 ラリーは奥歯を噛む。巨神の攻撃に艦隊が巻き込まれない位置までスカルヘッドを誘導しようと試みたのだが、押しても引いてもこちらに食い付く素振りが見られない。スカルヘッドの目的はあくまでクイーン・エリザヴェートの破壊であって猟兵では無いのだろう。
 スカルヘッドがばら撒いた機関砲の弾がコーティングシールドを叩く。甲高い金属音を聞きながらラリーは目を巡らせる。どこの方角を見ても護衛対象が視界に入る。艦隊陣形の只中だ。
「相棒とガールフレンドの腕を信じるしか無さそうだな!」
 諦めを付けたラリーはレーダーに急速接近中の友軍反応を見た。目論見は少々異なったが、採算は相棒が合わせてくれるだろう。忙しく出鱈目な機動で飛び回るスカルヘッドを睨んだ。
『俺の|猛禽類の眼《ラプターズ・アイ》に捕捉された時点で、お前は逃げられないのさ』
 微細な動きも逃さない、野生の本能を宿した眼光が閃く。途端にスカルヘッドの機動が変わった。翼を翻し、縦軸に機体を回転させ、その場から離脱しようとしたかと思えば逆方向に短距離加速する――まるで無数の落雷から逃れるかのように、或いは籠の中に閉じ込められた鳥のように。
 実際にスカルヘッドは落雷の檻の中で逃げ回っていた。だが周囲の者が気付く道理はあるまい。雷とはラリーの猛禽類の目が放った幻術で、檻とは幻術が視せる白雷世界なのだから。
「後は頼むぜ、相棒とお2人さん!」
 離脱するマイティ・ホークⅡの左右をアイリスとルイーズが駆け抜ける。拓也が後に続いた。
「決めるぞ!」
 拓也の啖呵にアイリスのセンサーカメラが閃く。古代武装たる大弓、神弓カラドボルグを天に構えて光の矢をつがえ、弦を引き絞って解き放つ。光の矢は弧の放物線を描いてスカルヘッドに突き刺さる……かと思いきや無数の光の矢に分裂した。白雷世界に閉じ込められたスカルヘッドは降り注ぐ雷と光の矢の飽和攻撃を躱しきれず、損傷を甘んじて受け入れざるを得なかった。
 スカルヘッドは雷に打たれる事の方がリスクが大きいと判断したのだろうか? 落雷を避ける代償に光の雨矢を浴びた。双翼を構成する銃火器や推進装置が砕かれた。黒翼の人喰いキャバリアが眩い光に埋め尽くされる。
「うおっとぉッ!?」
 後退中だったマイティ・ホークⅡを幾つもの電磁加速弾体が襲った。初弾を受け止めた実体盾の表面がコーティング材ごと砕けた。金属の破片が散る最中、二射以降を左右への短距離加速で躱す。
「ラリー!?」
 反射的に声を飛ばす拓也。
「目の良さが命取りだったな……! 幻術は切れちまったが……!」
「問題ない」
 もう間合いは詰めたのだから。ルイーズが神槍エリクトニオスを突き込む。連続かつ高速で。一突き毎に発射する光弾も相乗した刺突の速度は、巨神に違わない神の域だった。対するスカルヘッドは双翼からプラズマブレードを広げてルイーズの連撃を打ち払う。両機の間に鮮烈なる極彩色の稲光が迸る。そしてルイーズは、スカルヘッドの頭部の砲身の奥に膨張する紅を見た。
「こちら1-0。ラリー、奴のエネルギーが一番溜まっている所を教えろ」
 ルイーズの背中を追って走る拓也が問う。
「頭だ! だが待て!」
 ラリーが叫ぶ。ならばと拓也は制止を無視して海面を蹴った。撃ち合うルイーズの背中に手を掛け、身体を飛ばす。
『我が君!? お待ちを!』
 視界の上に映り込んだ拓也の姿に、ルイーズは思わず驚愕の声を上げた。
 ルイーズの頭を踏み台にした拓也がスカルヘッドの頭部を目掛けて放物線を描く。
 左手は前に出して広げ、右手は腰の高さで奥に引き、構えた貫手は螺旋の風を纏っていた。
「これでケリを着ける。旋風術・疾風!」
 拓也が右腕を突き出す。スカルヘッドの頭部の砲門が閃く。拓也と、ラリーと、アイリスと、ルイーズの視界を、鮮烈な紅が焼き尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【ネルトリンゲン】

スピードと遠距離射撃メインのタイプか。
しかも接近戦もできるとかチートな期待だねー。

ん、よし。
【ネルトリンゲン】で突撃して、囮にするね。

『希』ちゃん、あいつさっき『ヴィクトリアス』のエネルギー吸ってたよね。
『おねーちゃん、またあぶないこと考えてない?』

だいじょぶだいじょぶ。
でも、『希』ちゃんは念のため、タブレットのほうに本体移しておいてね。

ということで!
ネルトリンゲンは、EVOLと交戦中の白羽井、灰狼、両中隊を援護!
相手の戦力を削ぎつつ、スカルヘッドをこっちに引きつけるよ。

『希』ちゃん、ネルトリンゲンの制御と攻撃は任せるよ。
リモートだとちょっとラグるかもだから気をつけて。
『おねーちゃん、わたしわりと怖いんだけど』
だいじょぶ。消えるようなことにはさせないから!

スカルヘッドをネルトリンゲンに取りつかせて、
【フィリング・ウェーブ】で逆にエネルギーを吸い取ってあげよう。
吸えるかどうか解らないけど、隙はできるよね。

その間にシャナミアさんと錫華さんの全火力、叩き込んであげちゃってー!


支倉・錫華
【ネルトリンゲン】

なんかまた凄いのがでてきたね。
ベッドまでの道のりはまだまだ長そう。

さて、|最終目的地《ベッド》を目指すためには、アレを片付けないとだね。
『スピードではあちらが上、パワーもあちらが上ですね』

アミシア、もうすこし心配してくれてもいいんじゃない……?
『いつも量産機なんですから、パワー負けだっていつものことじゃないですか』

いやまぁそうだけど。
ま、スペックで勝てないなら、知恵と勇気、ってね。
こっちは3人。そのあたりも考えて戦えばなんとかなるよ。

って、なんでそんなにリスキーな作戦思いつくかな。有効そうではあるけど……。
理緒さん、以外とギャンブル好きだよね。

でも、そう決めてくれたなら乗った。

アミシア、スカルヘッドがエネルギーに気を取られているうちに、
【ワイヤーハーケン】で相手と繋いで、逃げられないようにしてから、
【E.O.Dソード】で融かし斬るよ。

スカルヘッドが攻撃してくるなら【アウェイキング・センシズ】で回避。

攻撃に問題ない程度の被害はあえて受けるよ。
剣が使えれば問題ないからね。


シャナミア・サニー
【ネルトリンゲン】
え?3人でしてきたの?
あ、まだ?
いやー、お姉さん3人の感覚にびっくりだよ

って、和やかにおしゃべりしてる場合じゃなかったね
地対空かぁ…苦手なんだけどなあ仕方ない

まずは相手の戦闘範囲に入らないと
理緒さん、ネルトリンゲンで突っ込める?
その間に装備準備
【バックウェポン・アタッチメント】
チョイスはレゾナンスクレイモア・スクウェアポッド
ツインバレルライフルはビームだけ使うように設定っと
よし!

仕掛けるよ!
まぁ錫華さんが全力で先駆けそうだから
まずはツインバレルライフルで援護射撃
お、いい感じにこっち向いたな?
ならギリギリまで引きつけて……
レゾナンスクレイモア、いけぇぇぇっ!!
銃火器は取り込むんだろ?
こっちは『敵機体に撃ち込む埋め込む』ための散弾なんだ
思う存分、味わってくれるとお姉さん嬉し泣きするよ!

動き……止まったっ!!
理緒さん、錫華さん、いまっ!!
私はドラグナーウイング展開、リミットブレイカー、セット!
やっぱり最後は殴り合い!
ナノクラスタ・ナックルガード展開!
ふきとべぇぇぇぇぇぇっ!!



●アブソーバー
 炸裂した紅の光の狭間で弾かれ合う猟兵とスカルヘッド。その光景をネルトリンゲンの甲板上に立つナズグルのセンサーカメラが捕捉し、モニターに出力した。防眩映像処理を掛けても尚目に痛い光量に錫華が双眸を細めた。這い寄りつつあった気配の出処はあの拳銃を頭に生やしたエヴォルグだったらしい。
「……ベッドまでの道のりはまだまだ長そう」
「だねー」
 何の気も無しに錫華が呟く。ネルトリンゲンの艦長席に座す理緒が同調する。
「遠近両刀で超高機動。うっかりしてたらベッドに行く前に昇天しちゃう」
 理緒に冗談を言っているつもりは無かった。手元のサブモニターに流すスカルヘッドの映像を精査する限り、隙と呼べるものが殆ど見当たらない。
「えー? 三人でしてきたってー?」
 わざと声量を大きくするシャナミアは甲板上での換装作業に忙しい。スクウェアポッドを両肩に搭載したレッド・ドラグナーの輪郭は一回りか二回りほど肥大化して見えた。
「まだ。だからベッドの為にさっさと片付けないとね」
 薄い抑揚で答えた錫華に「……本気?」とシャナミアが眉を顰める。
「でもどーするよ? 私地対空戦苦手なんだけど」
「じゃあネルトリンゲンごと突っ込めばいいよね。という訳で突撃!」
 理緒がスカルヘッドが飛ぶ戦域を指差すと、M.A.R.Eがネルトリンゲンのエンジンを始動した。船体に走った衝撃にナズグルとレッド・ドラグナーがあわや転倒といった様子で姿勢を崩すも、姿勢制御装置が作動して踏み留まった。
「ちょちょちょ! 理緒さんってば! ネルトリンゲンで突っ込んだらタダのいい的でしょうが! それに空母のエネルギー吸ってたの見たでしょ!?」
 八重歯を覗かせるシャナミアに理緒は「うん」と一つ返事を出した。
「だからこそ……」
 理緒が手元のサブモニターに目を落とす。映像はスカルヘッドが空母ヴィクトリアスに降着したところで一時停止されていた。
『おねーちゃん、またあぶないこと考えてない?』
 M.A.R.Eの電子音声は訝しい。
「だいじょぶだいじょぶ。でも、希ちゃんは念のため、タブレットのほうに本体移しておいてね」
「絶対大丈夫じゃない奴でしょそれ!」
 シャナミアの中で膨らんでいた嫌な予感がだんだん現実味を帯びてくる。理緒は恐らく……いや確実にスカルヘッドをネルトリンゲンに取り付かせるつもりだと。
「ま、スペックで勝てないなら戦術で勝つしかないよね」
 同じく錫華も理緒がやらんとしている先に勘付きつつあった。
『ナズグルと比較すれば、スピードではあちらが上、パワーもあちらが上ですね』
 ナズグルに搭載した支援人工知能はまるで他人事のように言ってくれる。ナズグルは決して安かろう悪かろうな機体では無い。あくまでも設計思想が根本から異なるスカルヘッドとの単純な比較だ。
「アミシア、もうすこし心配してくれてもいいんじゃない……?」
『いつも量産機なんですから、パワー負けだっていつものことじゃないですか』
「いやまぁそうだけど。こっちは3人。そのあたりも考えて戦えばなんとかなるよ」
『あちらは未だ数百以上の友軍機が健在のようですが』
「足りない分は知恵と勇気で補えばいいんだよ」
「それと努力と根性!」
 アミシアが何かを言い掛けたがシャナミアが遮った。換装作業を完了したレッド・ドラグナーがネルトリンゲンの艦首へと進む。いよいよ近付いてくるスカルヘッドとの主戦域を前にして、操縦桿を握る手に力が籠もる。
「希ちゃん! M.P.M.S発射準備! 全部!」
 理緒の指令を受けたM.A.R.Eが、艦周辺のスカルヘッドを含むエヴォルグを自動捕捉した。ネルトリンゲンの各部に格納されていたミサイルランチャーが頭を出してハッチを開く。
『おねーちゃん、わたしわりと怖いんだけど』
「だいじょぶ。消えるようなことにはさせないから!」
 人工知能らしからぬ不安気なM.A.R.Eの様子に、理緒は明朗な声で応じた。ミサイルの照準が完了した旨を知らせる電子音が鳴る。
「発射!」
 ネルトリンゲンから幾つものミサイルが解き放たれた。ロケットエンジンから白煙の尻尾を引いて飛ぶ誘導弾達は、それぞれに設定された目標に向かって翔ぶ。EVOLに接近したミサイルが近接信管を作動し、金属片を乗せた衝撃波と熱波を押し広げた。
 焼け落ちるEVOL。爆炎の花が咲く空の下で、スカルヘッドは自機を追い回す誘導弾を散弾や機関砲で撃ち落とす。
『ネルトリンゲンで突っ込んできたの!? 理緒さんも無茶するねぇ……』
 栞奈は半ば呆れ気味だった。
『餌と盾は大きいに越したことは無いけどね』
 伊尾奈のアークレイズ・ディナが撃ち漏らしのEVOLにアンカークローを突き刺し、エネルギーを吸い尽くす。
「ネルトリンゲンはこのままEVOLと交戦中の白羽井灰狼両隊を援護! こうすれば……」
 消耗したスカルヘッドが餌を求めてやってくる。理緒の目論見は早々に的中する事となった。猟兵との交戦で消耗したスカルヘッドは推進剤なり電力なりを求め、戦闘領域の只中に飛び込んできたネルトリンゲンに降着した。甲板にアンカーを打ち込み、艦の生命力たるエネルギーを頂戴する。理緒はモニター上に表示された、艦の出力を示すレベルゲージが急速に減少し始めるのを見た。
「マイクロウェーブ照射開始!」
 途端、声を矢にして射つ。甲板上の対空荷電粒子砲から光線が伸びた――が、光線は物理的な破壊力を有さない。代わりにスカルヘッドのエネルギーを吸引した。
 本来のスカルヘッドならばマイクロウェーブが照射される直前に難なく躱していただろう。だがエネルギーを吸収する為に自機とネルトリンゲンを繋いでいたケーブルの存在が仇となった。ケーブルを切るまでの僅か一瞬の内に少なくないエネルギーを奪い返されたスカルヘッド。ネルトリンゲンを賭けて生じた隙に二機のキャバリアが獰猛に襲い掛かる。
「捕まえた」
 ナズグルがワイヤーハーケンを射出した。咄嗟に片翼で防御するスカルヘッド。鏃が食い込む。鋼線を巻き上げるウインチが火花を散らす。一気に肉薄するナズグルにスカルヘッドが枷の無い片翼を向けた。何発もの散弾が発射される。ナズグルは左半身を丸ごと盾にし、更にコクピットブロックを天磐で庇いながら尚もウインチを巻く。
「逃さない」
 振りかざした歌仙から荷電粒子の刃が生じた。同時にスカルヘッドの片翼からも荷電粒子の刃が伸びる。ナズグルが歌仙を振り下ろす。スカルヘッドが片翼を薙ぐ。目を焼かんばかりのスパークが明滅する。
「仕掛けるよ!」
 レッド・ドラグナーがツインバレルライフルを撃ち散らしながら猪突した。熱量からして吸収しきれないと判定したのか、スカルヘッドがナズグルと切り結びながらも強引に機動する。しかしワイヤーハーケンでキャバリア一機分の重量が増している状態では、推進装置の瞬間噴射に加速が乗らない。されどもナズグルを強引に振り回しながら躱して見せる。一方でナズグルもバーニアノズルを盛大に焚いてナズグル、スカルヘッド、レッド・ドラグナーの位置関係に持ち込んでいた。
「シャナミアさん!」
「レゾナンスクレイモア、いけぇぇぇっ!」
 シャナミアの音声入力を受け付けた火器管制装置が、スクウェアポッドのハッチを開いた。無数のベアリング弾がクレイモア地雷よろしく飛び散る。スカルヘッドが選択した行動は――被弾しての吸収。機体半分を覆う片翼で受け止めたベアリング弾が装甲内部に沈み込む。
「かかった!」
 異変はすぐに発生した。スカルヘッドの挙動がしなやかさを失い、連続性が途切れ始める。ベアリング弾に仕込んでいた共鳴発生装置がスカルヘッドの機体内部で作動し、駆動系や信号伝達機能に干渉を及ぼしたのだ。
「理緒さん、錫華さん、いまっ!!」
 千載一遇の好機にシャナミアは声を叩き付ける。
「ごめーん! いま無理!」
「こっちも」
「んなあっ!?」
 理緒と錫華から同時に返された応答にシャナミアの右肩が急激に下がった。理緒は対空防御で、錫華はスカルヘッドを捕らえておくので手一杯らしい。
「抑えてるからこのままやっちゃって」
 錫華は先程からブーストペダルを最大まで踏み込みっぱなしだった。強烈極まりない推力で振り回そうとするスカルヘッドを、ナズグルも切り結んだ状態で押さえ付け続ける。推進剤の残量が危険域に達した事を報せる警告音が耳に痛い。
「ええい! リミットブレイカー、セット!」
 ツインバレルライフルを投げ捨てたレッド・ドラグナーのドラグナー・ウイングが推進噴射の光を炸裂させた。通常出力の倍以上に伸びた光は、さながら翼のような形状だ。
「シャナミアさん! スカルヘッドの頭部に高エネルギー反応!」
「ナノクラスタ・ナックルガード展開!」
 理緒の切迫した叫びに構わずシャナミアはトリガーキーを引いた。左右のマニピュレーターを打撃用の装甲が覆う。背負う光を迸らせてレッド・ドラグナーが突き進む。スカルヘッドの頭部が向けられた。頭頂部の砲門に紅い光が集う。だがシャナミアは前に倒しきった操縦桿も、フットペダルを踏み込む足も動かさない。
 レッド・ドラグナーの拳が届く寸前、スカルヘッドの頭部が紅の閃光を輝かせた。迸る荷電粒子。だが今まで発射してきた荷電粒子と比較して明らかに出力が低い。
 直前に交戦していた猟兵との消耗分と、ネルトリンゲンに吸収し返された分と、ナズグルと切り結んだ際のプラズマブレードに費やした分がここに来て響いたらしい。致命的な形で。
 微かに姿勢を落としたレッド・ドラグナーの頭部左側と左肩部を抉りながら紅の荷電粒子が過ぎ去った……が、速度は落ちていない。
「ガイコツ頭! ふきとべぇぇぇぇぇぇっ!!」
 八重歯を見せるシャナミアは全身を声にして咆哮した。下方から上方へと掬い上げた鉄拳がスカルヘッドの顎を打ち据えた。金属同士が衝突し合う重低音と衝撃が拡大する。直後に轟いた戦艦の砲撃は、観客が挙げる喝采のようでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
「ストライダーはしばらく動かせませんね。
私はスティンガーで出ます!」

ストライダーのリニアカタパルトで機体を射出し、一気に前線に到達します。

『セレーネよ。
スティンガーの武装は実体弾がメインじゃ。
それに飛行能力も備わっておらん。
奴とは相性が最悪じゃぞ』
「大丈夫です、私にいい考えがあります」

飛行できない欠点は、海上の船を足場にして、船から船へ飛び回ることで解決します。

「スティンガーの攻撃、受けてください!」

アサルトライフル、ミサイル、実体剣で攻撃しますが――

『いかん、どの攻撃も奴に取り込まれておるぞ……
そして、巨大化していっておる……』
「大丈夫です、作戦通りです。
ミスランディア、これが何だかわかりますか?」

スティンガーが手にしたそれは、ストライダーの主砲である超重力波砲のコアユニットです。

『馬鹿者、そんなもの、いつの間に!
早く手放すのじゃ!
さっき、限界を越えた出力を出した直後じゃ!
衝撃を与えたら重力崩壊が起こりかねんぞ!』
「ええ、危険な状態ですよね。
そんなのを取り込んだらどうなるでしょうね」


フィア・シュヴァルツ
『フィア様、今度は味方を巻き込まないように戦っていただけますでしょうか』
「ふん、仕方あるまい。あの黒いカラスを撃ち落とす程度、周囲に被害を出すまでもなかろう」

箒の上で仁王立ちしながら、ゆっくりと飛んでいるカラスを眺めよう。

『言っておきますが、フィア様。あの黒い機体、遠くを飛んでいるからゆっくりに見えるだけで、本当は超速く飛んでいるのでございますからね』
「嘘を言うでない。遠くだったら、あのカラス、かなりの巨体ということになるではないか」
『はい、おっしゃる通り、わたくしめのようなカラスとは比べ物にならないほどの巨体でございます』
「マジか」
『マジでございます』

ならば、ここは我の究極魔術を叩き込んでくれよう。
【極寒地獄】の術で、カラスの周囲に無数の氷壁を生み出し、氷の中に閉じ込めてくれようぞ。

『さすがはフィア様でございます!
敵が得意とするのは銃火器を取り込む能力!
それに対して魔術で攻撃することで、敵の能力を無効化するのでございますね!』
「え、あのカラス、そんな面倒な能力を持っておったのか?」



●氷獄と重獄
 理論値の限界を超えて発射したストライダーの超重力砲。多数のEVOLの掃討の代価として支払った船体の損傷は看過するには余りある状況だった。
 超重力波砲は内部の重力波増幅環状機関と重力波整波機関が形状を留めない程度にまで歪み、砲身自体も欠損や圧潰が著しい。幸いにしてコアユニットは無事だったが、兵器として使用出来る状態には無い。
 ストライダーの動力炉にしても、ユーベルコードで強引に出力を引き出された応報は大きく、今も各部署の電力供給不具合が続いている。
 力を大きく削がれた私設軍事組織ガルヴォルンの旗艦。だがセレーネの闘志はまだ潰えていなかった。
 飛行甲板に昇る為のエレベーターデッキが迫り上がり、黄色の警告灯が回る。セレーネは操縦桿を浅く前に傾斜させた。スティンガーⅡが前進歩行する。エレベーターデッキから抜けると天井が視界の後ろへと流れていった。頭上に広がる空を埋め尽くしていた濃い緑はもうまばらで、本来の澄み渡る青を取り戻しつつあった。
「ミスランディア! カタパルトの準備を!」
『セレーネよ、スティンガーの武装は実体弾がメインじゃ。奴とは相性が最悪じゃぞ』
 出ると固く決意したセレーネの意思をミスランディアは理責めで崩そうと試みる。実際にミスランディアの指摘は誤りではない。スカルヘッドは銃火器の攻撃と銃火器そのものを吸収する性質を持つ。アサルトライフル程度の威力ではダメージを与えるどころか塩を送ってしまうだろう。加えてスティンガーⅡの飛行能力には限りがある。飛べない訳では無い。だが長時間滞空して飛び回れるかと聞かれたら難しいと答えざるを得ないのが現実だ。換装するフレーム次第でもあるが……いずれの事もセレーネは既知していた。
「わかってますよ。この機体は私が一番上手く操縦出来るんですから」
『ならストライダーで火力支援に専念するか、スカルヘッドを無視してEVOLの掃討を――』
「私にいい考えがあります」
 セレーネは自信たっぷりに言い切った。ミスランディアの経験上、セレーネがこう言う時は大抵碌な事にならないのだが。
「一気にスカルヘッドに接近します! 出してください!」
 球状の物体を隠すように抱え込んだスティンガーⅡが、リニアカタパルトの射出装置に両足を乗せた。射出装置の爪がスティンガーⅡの足をしっかりと固定すると、メインモニターの隅に射出準備完了との文字が表示された。
『まったく、聞き分けがないのぅ。この頑固さは誰に似たんじゃか……』
 誠に渋々ながらといった様子の口振りで、ミスランディアは甲板管制機能を経由してリニアカタパルトに電流を流す。レールが黄金の稲妻を纏い始めた。
「スティンガーⅡ! セレーネ・ジルコニウム! 行きます!」
 フットペダルを踏み込むと射出装置が連動して加速した。少女の小柄な身体を重く強い加速度が圧迫する。セレーネは腹の奥から出る呻き声を噛み殺した。
 電磁的な加速で最大戦速に乗ったスティンガーⅡは一気に主戦域に躍り出た。得た加速が緩やかに衰える兆候を感じたセレーネは、展開するレイテナ第一艦隊の艦艇にスティンガーⅡの足を付ける。そして使える距離を使えるだけ使って滑走し跳躍した。船から船へと飛び石を飛ぶかの如く着地と加速と跳躍を繰り返す。やがて他の猟兵がクイーン・エリザヴェートへの接近を身を挺して防いでいるスカルヘッドの元に辿り着いた。
「捕捉しました! スティンガーの攻撃、受けてください!」
 鋭敏な光跡を残して飛び回るスティンガーに照準を固定するや否や、セレーネは操縦桿のトリガーキーを押し込んだ。スティンガーⅡが前進加速しながらアサルトライフルをセミオートで連射する。スカルヘッドは一瞥をくれただけで、攻撃に対する直接的な回避も防御もしない。何発か命中するも命中弾の全てが取り込まれてしまった。
「ミサイルならどうです!」
 両肩部に搭載したランチャーユニットが誘導弾を解き放った。白煙の尻尾を振ってスカルヘッドを追い回す。スカルヘッド側は回避運動を取りつつも散弾や機関砲を連射して全弾を撃ち落とした。
『躱して迎撃したという事は、スカルヘッドにとってミサイルは脅威なのじゃな。じゃが手数が全然足りぬ。アサルトライフルは吸収されておるし、これでは何度撃っても結果は同じじゃぞ?』
 ほれ見ろ言わんこっちゃないとミスランディア。
「大丈夫です、作戦通りです」
 銃火器の攻撃を吸収するという性質は確認出来た。後はとっておきの秘策を使うだけなのだが――。
「スピードの不足が想定以上に深刻でしたね……!」
 秘策の為にはある程度距離を詰めなければならない。だがこちらが接近する気配を見せるとスカルヘッドは引いてしまう。逆にこちらが引くとクイーン・エリザヴェートの方角へと転進してしまう。
 秘策が読まれているのか? セレーネの口許が苦く歪む。諦める訳にはいかないが、せめてスカルヘッドの行動半径を狭める事だけでも出来れば、スティンガーⅡの瞬発力で距離を詰められるかも知れないのに。何発目かの牽制のミサイルが、ばら撒かれた機関砲の弾を浴びて爆散した。

「カクカクと気持ち悪い動きをするカラスだな……」
 箒に跨る――のでは無く箒の上で仁王立ちするフィアは、遠目にスティンガーⅡとスカルヘッドの追い掛けっこを眺めていた。
「どれ、我が一つ丸焼きにしてくれよう」
 フィアが杖をかざすと、三日月型の先端部に埋め込まれた球体の中で炎が揺れる。
「究極魔法――」
『フィア様、今度は味方を巻き込まないように戦っていただけますでしょうか』
 フィアの台詞をシャッターを下ろすかのようにして遮ったのは肩に乗るフギンだった。
「ダメか?」
『ダメです』
「あの……なんだ、いまカラスを追い掛けているアイアンゴーレム」
『セレーネ・ジルコニウム大佐のスティンガーⅡです。部隊表くらいちゃんと読んでください』
「我は三行以上の文字は読まない主義なのだ」
『それでどうやって魔法を覚えたのです』
「覚える必要など無い。我は天才だからな」
『そうですか。それからアイアンゴーレムでは無くキャバリアでございます』
「同じようなものだろう」
『全然違いますよ! 兎に角、味方を巻き込むのはいけません。賠償金では済みませんよ?』
「仕方あるまい。あの黒いカラスを撃ち落とす程度、周囲に被害を出すまでもなかろう」
 フィアは大変不服そうに鼻を鳴らす。
『言っておきますが、フィア様。あの黒い機体、遠くを飛んでいるからゆっくりに見えるだけで、本当はとても速く飛んでいるのでございますからね?』
「嘘を言うでない。遠くだったら、あのカラス、かなりの巨体ということになるではないか」
 目視で測る程度でも、戦域外周部を飛ぶフィアからスカルヘッドまでの距離はかなり離れている。
『はい、おっしゃる通り、わたくしめのようなカラスとは比べ物にならないほどの巨体でございます』
「マジか」
『マジでございます』
 にわかには信じ難い。フィアの眉間に刻まれた皺はそう言っている。
「ところで……あのスティンガーⅡとかいうアイアンゴー……いやキャバリアだったか? カラスを追い回しているようだが?」
『黒い機体の機動性を追い付けていないご様子ですね』
「そうか」
 フィアは暫し顎をなぞりながらスティンガーⅡを見詰める。すると口許が三日月状に歪む。
『フィア様?』
「なあに……ただ潰すのも詰まらんからな、少しばかり遊んでやろうと思ってな」
 また変な事考えてる。フギンはフィアの不穏な笑みに暗雲を感じ取った。

「やはり届きませんか……!」
 セレーネは食い縛った前歯を覗かせて苦しく呻く。跳躍と滑空で追いかけるスティンガーⅡを、スカルヘッドは立体的な機動で翻弄し続けていた。
 やはり機動を封じる手が無ければ、間合いを詰める事など夢のまた夢――。
「手こずっているようだな? 手を貸してやろうか?」
 不敵な、煽るような口振りの少女の声が響く。同じくしてスティンガーⅡとスカルヘッドを中心とした海域に、氷山が屹立し始めた。
「我が魔力により、この世界に顕現せよ、極寒の地獄よ」
 フィアがかざした杖の球体が凍える青い光を放つ。
「氷!?」
 何事かとセレーネが頭を左右に回す。スティンガーⅡの頭部も連動して旋回する。屹立した氷山は互いに重なり合い、より高く密度を増して氷壁に変容する。やがて空間をドーム状に覆い尽くし、海面さえも氷結させてしまった。
「これぞ極寒地獄! コキュートスなり!」
 恐れ慄け。フィアは顎を浮かせて邪悪に笑う。
『さすがはフィア様でございます! 敵が得意とするのは銃火器を取り込む能力! それに対して魔術で攻撃することで、敵の能力を無効化するのでございますね!』
 興奮気味のフギンが翼を打ち合わせる。
「え? あのカラス、そんな面倒な能力を持っておったのか?」
 真顔のフィアが首を傾げた。
『え?』
 一人と一羽の間に沈黙が降りる。
「当然ではないか! 我は全知全能漆黒の魔女である! さあスティンガーⅡのパイロット! セレーネ・ジルコニウムとやら! 氷獄にて勝負を付けるがよい!」
 白い目線を送るフギンを横目にフィアは元気一杯に高笑いした。
「どなたかは存じませんが……援護に感謝します!」
 セレーネはスティンガーⅡを推進加速させた。海面が凍結した事でこちらの機動に関する事情が格段に改善した。対するスカルヘッドは横にも縦にも限定された空間では本来の機動性能を発揮出来まい。
「あとは接近してコアユニットを!」
 スティンガーⅡが左腕で隠すように抱え込んでいた球状の物体を構えた。
『馬鹿者! そんなものをいつの間に! 早く手放すのじゃ!』
 その物体を機体のセンサーカメラ越しに見たミスランディアが合成音声を荒らげる。スティンガーⅡの左腕部マニピュレーターが保持している球状の物体――それは超重力波砲のコアユニットだった。
『先程限界を越えた出力で稼働させた直後じゃ! 衝撃を与えたら重力崩壊が起こりかねんぞ!』
「ええ、危険な状態ですよね」
 そんな事は百も承知だと、セレーネは叱咤を風と受け流す。
「そんなのを取り込んだらどうなるでしょうね?」
 セレーネは賭けた。スカルヘッドの銃火器類の攻撃を吸収する性質に。もし取り込めば機体内部に生じた重力の井戸に飲み込まれる。このコアユニットは一撃必殺の切り札に成り得ると。
「最大戦速!」
 氷獄の中、セレーネはぶつける覚悟でスティンガーⅡを加速させた。ミサイルランチャーとアサルトライフルを投棄した機体が途端に軽くなって速度を増す。スカルヘッド側は迫るスティンガーⅡを撃ち落とすべくショットガンを連射した。装甲が砕け、重い衝撃がコクピットにまで伝わる。だがスティンガーⅡの突撃は止まらない。
「どうぞ!」
 相対距離が150を切った瞬間、スティンガーⅡはコアユニットを投げ付けた。スカルヘッドは球状物体を吸収――するのではなく、散弾で撃ち砕いた。
「なっ!?」
 コアを縮退保持していたチャンバーが崩壊し、内部が露わになった。丸くて黒い穴としか表現のしようが無い重力の井戸が周囲の万物を飲み込み始める。深淵から逃れるべく逆方向へと加速するスカルヘッド。吸引する力と加速する力が拮抗し、一瞬だが完全に動きが止まった。
「いまっ!」
 日本刀型のキャバリアブレードを構えたスティンガーⅡが突っ込む。重力の井戸を横に掠める極めて危険な機動。落ちかけていた装甲が吸い込まれる。だがこの吸引力がスティンガーⅡを加速させる一助となった。
 刃を振り抜くスティンガーⅡ。ショットガンを向けるスカルヘッド。二機が交差し、金属が砕ける音と切り落とされる音が氷獄の中に反響した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【POW】
アドリブ・絡み歓迎
三笠、大鳳に続航し、引き続きUCで呼び出した護衛艦隊で輪形陣を展開し防御力を向上させる
戦場周辺に展開したサテライトドローンの通信・観測網と戦場内の艦艇群、キャバリアの各種索敵・観測機器を使って【索敵、偵察、情報収集】した情報を元に【戦闘知識、情報検索、瞬間思考力、戦闘演算】でエヴォルグの群れと大砲頭への最適な迎撃プランを算出、データリンクを通じてレイテナ、日乃和両艦隊へ【情報伝達】します
護衛艦隊はエヴォルグの群れへの対空戦闘を優先
「主砲、ミサイルの弾頭をプラズマ弾頭に変更、相手が吸収出来ない高火力で一気に焼きます」
演算で算出した大砲頭の未来位置とその周辺に対し、【砲撃、誘導弾】による【弾幕、範囲攻撃、対空戦闘】を行い、周辺空域毎焼き払う勢いで攻撃
対空砲と近接防御システムは【自動射撃】でエヴォルグの群の迎撃
護衛艦隊の艦載機とキャバリア隊、自立砲台群は【遊撃、自動射撃】で主に友軍を援護
大砲頭への攻撃と並行して【ジャミング】【ハッキング】を行い敵の動きを妨害する



●観測手
 三笠と大鳳に並んで続航する愛鷹。その周囲をユーベルコードで生成した護衛艦隊が輪形陣を組んで囲む。
 戦域に広域展開したサテライトドローンを中継する光景は、戦闘開始直後と比較して緑色の濃度が大きく減少しつつあった。
『まだ楽観視して良い数ではありませんが』
 愛鷹の無機質な艦橋に千歳の無機質な電子音声が降りる。集積した観測情報を元に構築した最適な迎撃計画案と緻密な情報同期、そして敵の漸減により日レ両艦隊共にEVOLの迎撃状況は順調に推移していると言えた。今も時折三笠と大鳳にEVOLの一塊が襲来するが――。
『各艦各機、自動迎撃始め』
 千歳が発した信号で護衛艦達が一斉に垂直発射装置の蓋を開いてミサイルを解き放つ。ミサイルの集団はEVOLの集団と正面衝突して爆散。膨れ上がる火球が海面を緋色に照らす。
 赤と黒の爆煙の中から後続のEVOLが抜けてくるも、千歳にとっては想定外の結果という訳でもない。陣形の前面で待ち構えていたA-2P型無人装甲騎兵隊が一斉に熱線機関砲を発射する。規則正しい戦列が生み出す弾幕は、ある種の芸術のようでもあった。
 熱線に射抜かれたEVOLが次々に海面に落下する。立ち昇る泡沫の柱を見届けつつ、千歳の視野はスカルヘッドを注視した。
 動作と機動を観測し続けていた結果、スカルヘッドは猟兵の戦術に対応しつつある兆候を見せている。攻撃範囲に入らない、敢えて艦隊の内部に入り込んで護衛対象を盾にする、クイーン・エリザヴェートから引き離そうとする動きがあれば無視して転進する等。
『無人機にしては極めて高度な適応性と順応性を有していますね』
 それでいて精度も高い。言うならば人間の適応力と機械の精密度を併せ持った複合生命体――レプリカント? レプリカントの脳でも制御装置に組み込んでいるのだろうか。仮説と並行してスカルヘッドの予想進路の算出を開始した。
 この距離から発射しても命中するものでは無い。それは千歳も重々承知している。しかし火力支援にはなる筈だ。それにクイーン・エリザヴェートへの攻撃を最優先しているらしいスカルヘッドは、わざわざこちらに出向いてまで反撃はしてこない。お互い当たらないし当てられない間合いだが、誘導弾を使用すれば命中精度の問題は克服出来る。
 ついでにジャミングと並行して電子介入を試みているのだが、今のところ前者の効力は確認出来ない。後者はスカルヘッドの機能への入り口が見当たらない。機体から電子的な信号が発信されている様子も無いので、そもそも機械的なネットワークが存在しないのかも知れない。では生物的なネットワークは? 検証が必要だろう。或いは過去の戦闘記録を洗ってみるか? だが今やるべき事ではない。
『主砲、ミサイルの弾頭をプラズマ弾頭に変更』
 千歳の指令が愛鷹の自動装填装置を動かす。視界内に展開した兵装項目の表示が装填中から装填完了に転じた。
 照準と終末誘導にはサテライトドローン群を使えばいい。問題となるのは機動予測だが……これまでの戦闘を観測した結果、スカルヘッドに対する未来予測は予測以上の価値を有さないらしい。
 尋常ならざる機動力と反応速度で攻撃を悉く躱してしまう猟兵が存在する。スカルヘッドはその猟兵と同等の事が出来る。
 回避可能な余地が僅かにでもあれば避けられてしまう。故に空間を埋め尽くす飽和攻撃に一定の効果が見込まれた。だから千歳はプラズマ弾頭を選択した。
『発射』
 千歳の指令を受けて愛鷹と護衛艦隊が主砲と誘導弾を斉射した。主砲の反動と衝撃波が海面を泡立たせ、ミサイルが引く白煙が無数の線を描く。
 主戦域で交戦中のスカルヘッドの予想進路上に主砲の弾頭が到達するまで残り3秒、2秒、1秒――プラズマの花が空間を埋め尽くした。
『命中弾無し』
 スカルヘッドは弾頭の接近を感知して進路を変えたらしい。続いてミサイルが殺到する。スカルヘッドは後退加速しながら迎撃するも数が尋常ではない。艦艇が搭載可能なミサイル総数はキャバリアとは比較にならないからだ。膨張するプラズマの雷光球がスカルヘッドを追い回す。更に別方向から迂回したミサイルが目標を包囲する。が、スカルヘッドを追尾していたミサイルが突如として軌道を真上に変えた。そのまま上空に向かって直進。一定の高度に達すると空の彼方から降って来た光線に射抜かれて爆散した。
『クイーン・エリザヴェートのみならず、艦艇の損害が拡大すれば地上への面制圧が不可能になるという事を知っていますね』
 そして猟兵側が艦艇に被害を及ぼせない事も。戦艦プリンス・オブ・ウェールズを盾にされ、千歳は止む無く誘導弾の軌道を手動で変更した。クイーン・エリザヴェートに狙いを定めている時点でそうであろうが、やはりスカルヘッドは人類側の戦術を理解しているらしい。
『各艦は主砲による砲撃を継続。発射間隔は――』
 かと言って何もしない選択肢は無い。安全圏にいる者にしか出来ない役回りがある筈だ。主砲のプラズマ弾頭で火力支援を行えば、スカルヘッドの機動をある程度抑制可能だと先程実証された。愛鷹と護衛艦隊の砲塔の重奏は続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皇・絶華
(空間が歪み出現する機神)
おや…物凄い戦場だな
「主様!あれエヴォルグですよ!俺が言うのもなんだがスゲーやべー奴らですよ!」
人食いキャバリアとやらか
成程…多くのキャバリア達を壊滅させた恐るべき脅威か
さっちゃんは奴に後れをとるか?
「んなわけねーですよ!俺の権能を使えば余裕です!」
良い自信だ
では応えるとしよう

【戦闘知識】
敵機の動きと攻撃の癖等を冷徹に把握
【空中機動・弾幕・念動力・乱れ打ち】
UC発動
超絶高速戦闘開始
次元転移を繰り返しながら飛び回り念動光弾と次元切断をとばしながらの猛攻
特に頭部の重火器を狙う

【二回攻撃・切断】
「お前あれか?チェン◎ーマンに出てきそうだな?」
鎌剣による連続斬撃により敵の空間毎切り刻んで蹂躙する

お前が人を食う理由は判っている!
そう!…それはお前にパワーが足りないからだ!
「ひぃ!主様何言ってるんだ!?」
だが安心するがいい!我がチョコを食する事でお前に圧倒的なパワーを与える事が出来るだろう!今こそ喜びの叫びをあげるがいい!(捻じ込み捻じ込み

「わぁ!もがき苦しんでいるぞ!?」


カシム・ディーン
…褒章か…そういう名誉欲を満たすのも悪くねーな?まぁ…目立つのは趣味でもねーが

「活躍したら結城艦長も遊んでくれるかもだぞ☆テレサちゃん達とも遊べるかもだね♥」
ああ…そいつは実にいい…つー訳でこの髑髏野郎…てめーらの所為で僕らのお楽しみ潰してくれたんだ
ちょいとは役に立って貰おうか!

【情報収集・視力・戦闘知識】
敵機の動きと構造を冷徹に解析
更に友軍機達の状況も把握

【属性攻撃・迷彩】
光水属性を機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源も隠蔽

【念動力・弾幕・スナイパー】
随分とスピード自慢のよーだが…
「君自身より早い相手との闘い…経験があるかな☆」
UC発動!
同時に爾雷彌参上発動
「ドーモ、スカルヘッド=さん。爾雷彌=です。」
忍術を駆使して独自に暴れ

超絶速度で飛び回りながら念動光弾を乱射して周囲のエヴォルグ諸共蹂躙

【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
遠距離系は距離詰められるときちーよな?
「追いつかれないと思った?思った?」
鎌剣による連続斬撃を叩き込み
そして銃器を容赦なく強奪
後で売ってお小遣いにしてやる!


アレフ・フール
「マスター!ありゃ相当に厄介そうだぞ!」
そうか…だがここで引けば今戦ってるレイテナや各部隊に被害が出るだろう…対処できるのはわしらのみと見たが…アレウス…やれるな?
「勿論だマスター!俺の|機体《闘神アーレスの体》も遅れなど取らないと言ってる気がするぞ!」
気がするとは中々にん人間らしい事を言うではないか…まぁいい
なら…わしなりに力を尽くすぞ!

【戦闘知識】
敵機の動きと銃撃の方向性や射程範囲を捕捉

【砲撃・属性攻撃・呪詛】
恐ろしく速い相手だが…
「それなら…引き寄せちまえばいいさっ!」
機神重撃拳発動!
重力球に土属性を付与してより重力を強化して飛ばして…外してもそのまま超重力で引き寄せて圧壊させ

【グラップル・重量攻撃・貫通攻撃】
高速で飛んで接近して超重力を拳と脚とテールアンカーに纏わせて連続格闘攻撃を叩き込み
一撃一撃に超重力を纏わせてインパクトの破壊力を増強させて粉砕させる
「俺にマーズ兄さんのような破壊の権能はないけど…この体に宿った重力の力…使いこなして見せるぜ!」
わしもいる…問題はない…!



●インファイト
 虚空に紫電が散る。雷光は徐々に環状を形作り、あちら側とこちら側を繋ぐ門を形勢した。門から人ならざる鋼鉄の指――マニピュレーターが生え、門を押し広げる。這い出て来たのは神々しさを醸し出す鋼の巨人であった。
 連環神機サートゥルヌス。鎌剣を携えたその機体のセンサーカメラが戦域を一巡する。
「物凄い戦場だな」
 皇・絶華(影月・f40792)が銀の長髪を微かに揺らしながら呟いた。背面に翼を背負ったキャバリアと有翼の半生体キャバリアが海上を飛び交い、海に浮かぶ艦船は黒煙と火線を上げながら巨大な砲塔を轟かせる。水面に揺れるのは撃墜されたキャバリアと半生体キャバリアの成れの果てだろうか。
『主様! あれスカルヘッドですよ! 俺が言うのもなんだがスゲーやべー奴ですよ!』
 サートゥルヌスの声が頭蓋の中に響く。促される方角を注視すれば、鋭角な軌道を描く紅い残光が見て取れた。
「成程……多くのキャバリア達を壊滅させた恐るべき脅威か……」
 グリモアベースで聞かされたスカルヘッドとやらがあいつか。単機で数多くの戦線を崩壊させ、部隊を全滅させたと聞き及んでいたが、猟兵との交戦の様子を見る限り誇張した話しでは無いらしい。
「さっちゃんは奴に後れをとるか?」
『んなわけねーですよ! 俺の権能を使えば余裕です!』
 全力で否定する乗機に絶華は鼻を鳴らす。
「良い自信だ。では応えるとしよう」
 絶華がフットペダルに足を乗せて踏み込む。サートゥルヌスの背面に三つの円環が展開し、光の波動を押し広げて機体に推力をもたらした。向かう先はスカルヘッド。既に二機のキャバリアが交戦状態に入っているようだ。

「こんの髑髏野郎……! てめーらの所為でお楽しみが……!」
 私怨を燃やすカシムの目は血走っている。光の魔術で姿を透過させ、水の魔術で熱源も隠蔽したメルクリウスが、タラリアのバーニアノズルから小刻みに光を噴射して機敏に動き回る。スカルヘッドにも負けず劣らずの鋭角な立体機動で弾雨を掻い潜り、念動光弾の応射を見舞う。
『活躍したら結城艦長も遊んでくれるかもだぞ☆ テレサちゃん達とも遊べるかもだね♥』
 メルクリウスが嘯けばカシムは俄然やる気になった。こいつを倒してお楽しみに興じるのだと。
「褒章も出るって話しだから……なぁッ!?」
 スカルヘッドが発射したホーミングレーザーを引き付けて躱そうとするが、切り返すつもりだった先にレールガンの三連射が置かれた。殆ど条件反射で急上昇する。アンダーフレームの真下を黄金色の電流の跡が掠めた。
「視えてるのか? こいつ……」
 光学迷彩も熱源遮断も切れている訳ではない。しかしスカルヘッドの狙いはこちらが視えているかのように正確だ。レーダーで探知しているのかも知れないが……それにしては狙いが精密過ぎる。ルーンシーフの観察眼が言っている。
「ついでに随分とスピード自慢のよーだが…」
『でも君自身より早い相手との闘い……経験があるかな☆』
 メルクリウスのマニピュレーターが印を結ぶ。するとすぐ傍で白煙が破裂した。白煙の中に人型機動兵器の影が揺らめく。
『ドーモ、スカルヘッド=サン。爾雷彌=デス』
 ユーベルニンポでサモンされたのは、なんとニンジャめいたビッグ・ゴッド、爾雷彌であった。爾雷彌は慎ましく左右のマニピュレーターを合わせてお辞儀する。お辞儀は大切だ。お辞儀をしないのは実際タイヘン・シツレイに当たる。
「ドーモ、爾雷彌=サン。カシム=デス。手が足りない! 頼む!」
『オブリビオンマシン、殺すべし……!』
 ニンジャめいたフット捌きで海面をランする爾雷彌。
『イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!』
 スリケンを三連投擲。ニンジャのスリケンは単なる石つぶてとは訳が違う。スカルヘッドは機関砲でスリケンを撃ち落とす。側面に回ったメルクリウスがサイコ・フラッシュ・バレットを扇状に拡散発射した。堪らず後退加速するスカルヘッド。そこへ紫電の雷光を引くキャバリアが飛び込んだ。
「んなっ!? アーレスだと!?」
 おおブッダ! なんたるコンタクトか! カシムは驚愕した。以前訳あってアーレス領内に入り込んだ際、立ち寄った教会内のステンドグラスに飾られたキャバリアと瓜二つの機体が視界に飛び込んできたからだ。
「いや……アレウスか」
 すぐにメイキョ・シスイを取り戻す。人違いならぬキャバリア違い。あれはアーレスと似て非なる機体のアレウスなのだと知っている。部隊表にアレフの名前があったからだ。
 アレウスの鉄拳は空気を殴った。僅かに戸惑った様子を見せたスカルヘッドが飛び退くと、報復の機関砲を連射する。アレウスが両腕で機体を庇う。装甲を叩く無数の金属音がコクピット内にまで伝わった。
『マスター!ありゃ相当に厄介そうだぞ!』
「そうか……だがここで引けば今戦ってるレイテナや各部隊に被害が出るだろう……」
 今の視界外の一撃を回避された時点で、スカルヘッドが並大抵の敵では無いとアレフは骨身で理解した。しかし下がるという選択肢は無い。
 だが――スカルヘッドが持つ脅威以上に少々気になる点がある。攻撃を避けた瞬間、アレウスを見たスカルヘッドが戸惑う素振りを見せたような。確かにアレウスは厳つい見た目をしているが、果たして人喰いの無人機が見た目で戸惑うのか?
『対処できるのは俺達だけってわけだな!』
 闘志が滾るアレウスの声に思考の中に沈みかけていた意識が引き戻された。
「アレウス……やれるな?」
『勿論だマスター! 俺の機体も、遅れなど取らないと言ってる気がするぞ!』
『メルシーも遅れを取らないぞ!』
 黄色い声が通信回線に割り込んできた。
「その声……!?」
 メルクリウスの気配を察したアレフが周囲に視界を巡らせる。
「単機で掛かっていたんじゃ埒が開かない! 囲んで殴るぞ!」
「心得た!」
 カシムの誘いにアレフが力強く応じる。爾雷彌が追撃するスカルヘッドにメルクリウスとアレウスが同時に突き進む。
「その話し、私も乗ろう」
 スリケンを躱した直後のスカルヘッドのすぐそばにサートゥルヌスが出現する。刃を閃かせたハルペー2が、スカルヘッドの個体識別名称の由来を狙う。
「お前あれか? バズソーマンに出てきそうだな?」
 虚空を切った刃が空間に傷跡を残す。ショットガンの応射が来る。銃口の中で炸薬が弾けるのとサートゥルヌスが消失したのは同時だった。
「サートゥルヌス!? ってことは!」
 カシムに言葉を続ける暇も無い。スカルヘッドの機動を殺すべく爾雷彌と共に弾幕を張る。サイコ・フラッシュ・バレットとスリケンのミルクティーめいたサイクロン。迎撃弾のマシンテッポと衝突しあってファイア・フラワーが散る。
「やはり速いな!」
 アレウスが援護に入る。マニピュレーターに発生させた重力球を左右交互に連射した。三方から吹き付ける猛攻にスカルヘッドはいよいよ逃げ場を失う。
「お前が人を食う理由は判っている!」
 上昇して回避した先にサートゥルヌスが出現した。
「そう! ……それはお前にパワーが足りないからだ!」
『ひぃ! 主様何言ってるんだ!?』
 頭部を向けるスカルヘッドに対し、サートゥルヌスは左腕を突き出す。ぜっちゃんチョコを保持した左腕を。
「だが安心するがいい! 我がチョコを食する事でお前に圧倒的なパワーを与える事が出来るだろう! 今こそ喜びの叫びをあげるがいい!」
 なんだかよく解らない絶華の台詞と共に、サートゥルヌスはスカルヘッドの頭部にチョコを捩じ込んだ。
『わぁ! もがき苦しんでいるぞ!?』
 サートゥルヌスの声には悲哀が滲んでいた。何せ、ぜっちゃんチョコは超高濃度カカオと漢方配合の狂気のチョコで、食した者を超強化するが地獄のような味なのだから。人喰いキャバリアの味覚の有無は定かではないが。
 そして頭部の砲が紅い閃光を放った。
『ぎゃああああ!』
 チョコと荷電粒子のクロスカウンターである。超強化してしまったスカルヘッドの攻撃は絶大だった。だがサートゥルヌスは瞬時に空間跳躍し装甲が貫かれる前に離脱した。
「だぁぁぁもう! カッコ付けて出てきたと思ったら何やってくれてんだよ!」
 噴火寸前のカシムがメルクリウスを猪突させる。接近するのも一苦労な相手。折角詰めた間合いを逃したくない。頭部の荷電粒子砲を発射した直後の今が好機だ。どうもアレは出力を上げて撃つとインターバルが必要となるらしい。カシムは己の観察眼を信じて踏む込む。
『追いつかれないと思った? 思った?』
 肉薄するメルクリウス。左翼を広げ、右翼で機体を庇うスカルヘッド。
「遠距離系は距離詰められるときちーよな?」
 カシムの口角が不敵に歪む。
「待て! そいつは!」
 アレフが叫ぶもメルクリウスがハルペーを横に薙ぐ方が早かった。右翼を構成する火砲や推進装置のノズルが切り離され、宙に舞う。返す刃で首を狩る――前にスカルヘッドが左翼を凪いだ。
「うおおぉぉ!?」
 咄嗟に後退するメルクリウス。無数のプラズマブレードが胸部装甲の表面を掠め、抉り取った。更に右翼に残された火砲が瞬く。しかし一手速く爾雷彌がスリケンの連投を浴びせにかかった。スカルヘッドが後方に瞬間加速する。
「このっ! 売ってお小遣いにしてやるからな!」
 メルクリウスのマニピュレーターにはスカルヘッドの右翼の断片が握られていた。
『まだまだぁー!』
 裂帛と共にアレウスが蹴り込む。スカルヘッドが半身を翻す。片翼の銃火器が散弾を発射した。アレウスは右腕を盾に甘んじて受ける。
「逃げるつもりか!?」
 スカルヘッドはこの三機との接近戦は危険と判定したらしい。機関砲と散弾を乱射しながら鋭角な機動で後退加速する。それをアレウスが追う。間合いを離されればもう詰める事は叶わないだろう。アレフは奥歯を噛み締めた。
『逃げるなら! 引き寄せちまえばいいさっ!』
 左腕に宿した暗黒球体を撃ち放つ。アレウスとスカルヘッドの中間距離で膨張し、重力の井戸を生じさせた。抗い難き呪縛がスカルヘッドとアレウスを等しく引き寄せる。
『俺にマーズ兄さんのような破壊の権能はないけど! この体に宿った重力の力! 使いこなして見せるぜ!』
 アレウスの四肢とテールアンカーが紫の陽炎を纏う。
「機神!」
『重撃拳!』
 アレフとアレウスの裂帛が重複した。繰り出した左腕の正拳突きが散弾の接射と相殺し合う。受けた反動を左腕のアッパーに繋ぐ。スカルヘッドは僅かに機体を反らして躱した。右足の膝蹴りがまたしても散弾と衝突した。姿勢制御用のバーニアを噴射して機体を回転させ、得た加速を乗せた左足の回し蹴り。手応えはあったが片翼に阻まれた。もう一方の翼に備わる多数の銃口が明滅する。
「ぐうっ!」
 右半身に複数の散弾の直撃を受けた。骨と内臓に響く衝撃に呻くアレフ。アレウスの機体がスカルヘッドに左半身を見せる。
「だがなぁッ!」
 前進のスラスターノズルを噴射し、スカルヘッドに背中を向けた。機体に引っ張られて振り回されるテールアンカーがスカルヘッドの胴体を打ち据えた。確かな手応え。重い衝撃。アレウスが感じた全てを、アレフもまた同じく感じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
●SPD

『雲霞の如く押し寄せる敵機からクイーン・エリザヴェートを守り通しただけでも上出来よ。けど、問題はここから』
はい、距離がこれだけ開いて且つ弾速が遅い実体弾…あそこまで疾いと艦への直撃コースを反らせるだけの防御砲火で精一杯なのが正直な所です
『なら、固定砲台ってるのはここまでね。目には目、歯には歯…』
機動兵器には機動兵器、ですね
『そ、機動兵器は機動してなんぼよ』

そうなると…後部ラッチの残弾は僅かですし、砲とミサイルコンテナは甲板上に|破棄《パージ》しましょう
『元々この重い装備を搭載してるもの。その分こちらも身軽になって、あっちほどじゃないけど速度は出るわね』
ガトリングガンも残弾が多い方だけを残します
脚部ホバーも併用してバーニアを最大スロットル、馬力ならこちらも負けていません
『チャンスは火力を頭部に集中させた|攻撃《UC》を仕掛ける時ね。信子、アレを使うわよ』
アレ…ですか
ちょっと恥ずかしいですけど…叫んでみせます!
RX-Aブラストナックルの炸裂する電撃の鉄拳…ライトニング・マグナーム!



●雷拳
 どれほどの時間、どれほどの弾を撃ち続けたのだろうか。クイーン・エリザヴェートの甲板上で対空砲座となっていたシュラークヴォルゼンの足元は、ガトリングガンが排出した薬莢が散乱して足の踏み場も無い状態となっていた。回転を止めた砲身の先端が赤熱化している。左背部の兵装懸架装置に乗せたバントラインも、煙草でも吹かしているかのように砲門から煙を排出していた。
『雲霞の如く押し寄せる敵機からクイーン・エリザヴェートを守り通しただけでも上出来よ。けど、問題はここから』
 イマジナリーシャドウが囁く。信子が口を開こうとした時、自分の呼吸が荒くなっている事を漸く自覚した。
「はい、距離がこれだけ開いて且つ弾速が遅い実体弾……あそこまで疾いと艦への直撃コースを反らせるだけの防御砲火で精一杯なのが正直な所です」
 食欲に任せて突撃を繰り返すだけのEVOLとスカルヘッドは全く違う。相手はクイーン・エリザヴェートを狙っているようだから、待っていれば向こうから来てくれるのだろう。しかしこちらが展開する対空砲火に付き合ってくれるとは限らない。スカルヘッドを迎撃するにはこちらから打って出るしかあるまい。信子の目は現実を見透かしていた。
『なら、固定砲台になってるのはここまでね。目には目、歯には歯……』
「機動兵器には機動兵器、ですね」
 信子が浅く頷く。
『そ、機動兵器は機動してなんぼよ』
 影が口許を綻ばせた気がした。信子は手をコンソールに伸ばす。ヘッドアップディスプレイに各兵装の残弾数が表示された。軒並み黄色か赤だ。
「後部ラッチの残弾は僅かですね……砲はパージ。ミサイルコンテナは突入前に残弾を全部撃ち切ってパージします」
 投棄を承認する項目に信子の指が触れる。懸架装置とバントラインを繋ぐ接続部が外れた。巨砲が甲板に落ちて重い衝撃と音が床を這う。
『元々この重い装備を搭載してるもの。その分こちらも身軽になって、あっちほどじゃないけど速度は出るわね』
 ユーベルコードを反映させれば尚更――信子は「はい」と頷く。再び投棄承認の項目に触れると、シュラークヴォルゼンは二挺あるガトリングガンの内一挺を投げ捨てた。弾倉内に残された弾数は残り僅かで、トリガーを引けば3秒足らずで虚しい回転音を立てる羽目となっていたからだ。
「仕掛けるタイミングは?」
 おおよそ答えは分かり切っているのだが、信子は敢えて影の姉に問う。迷わず突き進む為の自信と支えが欲しかった。
『ただ突っ込んでも追い付けないし無視されるだけよ。周りの攻撃に合わせなさい』
 猟兵でもレイテナの艦隊でも、誰かしらが飽和攻撃を仕掛ける瞬間。仕掛けるならその瞬間しか無い。点の攻撃は回避不能の超至近距離から撃たなければ躱されてしまう事は信子の既知の内にある。
『スカルヘッドは必ずクイーン・エリザヴェートに来る。焦らないで』
「了解です」
 出鱈目な軌跡を描く紅い光に誘導弾の照準を重ね合わせながら信子は待った。荒んだ呼吸を整え、目標の動きを注視して。
 好機はあまり時間を置かずして訪れた。猟兵の迎撃を掻い潜ったスカルヘッドがこちらに接近して来る。各方面から追撃の誘導弾が昇った。
『今よ!』
「全弾発射!」
 右背面の兵装懸架装置に搭載した大型のミサイルランチャーが弾頭を解き放つ。最後の一発を発射したのと同時にランチャーが甲板に落ちた。信子がフットペダルを踏み締める。スラスターの出力を示すレベルゲージが一気に上昇して赤の領域に達した。脚部ホバーを含む全身のバーニアノズルを炸裂したシュラークヴォルゼンが突き飛ばされたかのように急加速した。重量負荷が高い武装を捨てた分だけ機体がとても軽く感じる。ユーベルコードの効力が大きく反映されているらしく、加速性が非常に向上しているのを信子は骨身で感じた。
 スカルヘッドの周囲で次々に爆発する誘導弾。若干間を置いてシュラークヴォルゼンが発射したミサイルも到着した。迎撃されているのか信管を作動したのか判別し難いが、いずれにせよスカルヘッドの周辺の空間は膨張する爆炎で埋め尽くされた。
 熱と衝撃波と金属片の渦中をシュラークヴォルゼンが突き進む。ここまで来れば最早ガトリングガンも要るまいと信子が投棄操作を実行した。重量の枷を外した機体が更に加速する。
『チャンスは火力を頭部に集中させた攻撃を仕掛ける時ね。信子、アレを使うわよ』
「アレ……ですか」
 影の姉の勧めに信子は少なからず躊躇いを見せた。しかし機体の重量と加速をそのまま破壊力に乗せられるアレは、現状最も有効な攻撃手段ではある。どうせもう武器は無いのだから。拳以外は。
「ちょっと恥ずかしいですけど……叫んでみせます!」
『見えた! 敵! 攻撃準備に入ってる!』
 膨らむ爆炎の先でスカルヘッドが睥睨する。頭部の砲の奥に紅の光が灯っている。荷電粒子で迎撃するつもりらしい。
『行きなさい!』
 耳元で弾けた裂帛に、覚悟を固めた信子が機体を直進させた。スカルヘッドの頭部が閃く。荷電粒子の奔流が視界に飛び込んできた。シュラークヴォルゼンの左半身に備わるスラスターが瞬き、僅かに機体を右側に逸らす。灼熱の紅い光芒が左腕を肩口から抉り取った。
「届いた!」
 片腕を代償に接近を果たしたシュラークヴォルゼン。右腕を前に突き出し、機体全体を拳として驀進する。
「ライトニング・マグナァァァァァム!!」
 信子が全身を声にして咆哮する。剛速で駆けるシュラークヴォルゼンの拳がスカルヘッドを打ち、衝撃と共に青白い稲光が炸裂した。魂を乗せた気合いの一撃だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
あっちも|撃墜王《エース》のお出ましってわけねぇ。
…にしてもあたしの武装9割以上銃火器で、しかも全部実弾兵装なんだけど。相性最悪にも程度ってものないかしらぁ…?

銃火器が封じられたとなると、どう考えてもあたしじゃ火力不足ねぇ
|ラド《車輪》・|韋駄天印《迅速》で機動力を底上げ、|エオロー《結界》で○オーラ防御の傾斜装甲を展開。ミッドナイトレースに○騎乗してテイクオフ、●轢殺・揺走と黙殺・砲列を同時起動して|巴戦《ドッグファイト》仕掛けるわぁ。|ミッドナイトレース《この子》はこんな見た目でもUFO、UFO特有の0→100・100→0加減速に慣性を無視した鋭角機動なら食らいつくには十分でしょ。…まあ、正直だいぶしんどいけれど。
|砲門《ビット》として描くのは|遅延のルーン三種《阻害・停滞・欠乏》に|帝釈天印《雷》。〇捕縛足止めマヒ攻撃、状態異常弾幕の雨霰。全力で足引きとイヤガラセするわよぉ。

アレの|操縦系《中身》に関しては…現状想像に想像を重ねた状態だし。そもそも言ってどうなるものでもないしねぇ。



●轢殺揺走
 スカルヘッドの強襲は苛烈であったが、猟兵の迎撃網はそれ以上に苛烈だった。クイーン・エリザヴェートの前を塞ぐ圧力という壁が、執拗に突破を試みる髑髏頭のカラスを跳ね除ける。積み重なった状況は天秤を猟兵側に傾斜させつつあった。
「相性最悪にも程度ってものないかしらぁ……?」
 困り果てたティオレンシアの声音は、溶かしたチョコレートに角砂糖を五個ほど放り込んだかのようだった。不幸な偶然だが、ティオレンシアが携行する武器の殆どは実体弾を使用する銃火器である。スカルヘッドの特異な性質を鑑みれば、塩どころか焼肉定食を送ってしまうようなものであろう。
 だがダメージレースに加担出来ないなら出来ないでやりようはある。敵に弾を撃って命を削り取るばかりが戦闘ではない。状況を整え、全体の勝利の道筋を補助する役の存在も戦闘行為に於ける重要な要素のひとつだ。ティオレンシアはその役の演者を選んだ。
 自動二輪――ミッドナイトレースがティオレンシアを乗せて海上を疾駆する。青い焼入れ跡が入ったマフラーが奏でる重低音に紛れ、機関が未来的な電子音を鳴らす。座席に跨るティオレンシアは姿勢を低く下げ、ミッドナイトレースと身体を一体化させていた。潮風を受けた前髪が激しくはためき、編んだ後ろ髪が黒い波のうねりを打つ。
「一気にブチ抜くわよぉ。マルガリータ、解析よろしくねぇ?」
『はぁい、ますたぁ』
 計器類の電子表示盤に声を掛けると、搭載した人工知能が気の抜けた返事で応じた。ティオレンシアがスロットルを回してアクセルを踏み込むとマフラーが重く轟いた。ミッドナイトレースの周囲に展開した防護結界の傾斜装甲がエアロフェアリングとして機能しているのか、空気が整流されて加速度が増しているようだ。
「お出ましねぇ……」
 薄く開いた左目がスカルヘッドの姿を捉えた。やはりクイーン・エリザヴェートを目指し滑空してきている。
「ゴールドシーン、お願いねぇ?」
 ティオレンシアは手早く宙に筆を走らせた。書かれた魔術文字は三種のルーンと帝釈天印。輝く魔術文字は実体を形成して散開し、ミッドナイトレースの周りを囲む配置で追従を開始した。
「|巴戦《ドッグファイト》……仕掛けるわよぉ」
 その言葉を合図として、共に走る帝釈天印が雷光を発した。攻撃と認識したスカルヘッドは機動を鋭く折り曲げて雷光を躱し、電磁加速弾体を連射する。
 対するティオレンシアはスカルヘッドが瞬いた瞬間にハンドルを切った。ミッドナイトレースが減速せずに直角に折れ曲がってみせる。自動二輪離れした挙動だが、そもそもとしてミッドナイトレースの中身は自動二輪ではない。いつぞやの戦争の際に奪取した自動二輪型のUFOなのだ。
 撃ち込まれる銃撃に対して直角機動を繰り返して回避し続けるミッドナイトレース。避けた先に撃たれれば一瞬で慣性をゼロにして急停止する。かと思いきや急加速して跳躍し空を翔ぶ。どのタイミングでどう避ければいいのかは、マルガリータが敵の攻撃を解析して教えてくれるし、ユーベルコードで強化されたミッドナイトレースの操作性が解析結果に対する運動性に着いてきてくれる。
 回避機動の間にも引き連れる魔術文字が雷光とルーン文字の形を取った光弾を撃ち続ける。編隊の列は可能な限り大きく広げ、射線は扇状に。
 雨霰と吹き荒ぶ魔術文字の弾幕。空間を埋め尽くす飽和攻撃にスカルヘッドは逃げ場を失いつつあった。雷光を避ける代償にルーン文字の被弾を数発許してしまう。しかし損害は軽微だった。直接的な損害は。
 ティオレンシアの吐息には漸く当たり始めたかという嘆息が籠もっていた。僅かにではあるがスカルヘッドの挙動が鋭敏さを損ないつつある兆候を見せた。というのも黙殺・砲列で発射した三種のルーン文字は阻害・停滞・欠乏を含む遅滞の呪いを秘めていたのだ。このルーン自体は大きなダメージを与えるものではない。代わりに火の粉が紙を灼き溶かすように、じわじわと蝕む呪いを積み重ねていた。恐らく直接的な威力の低さがスカルヘッドの警戒心を鈍らせ、被弾を強いる一助となったのだろう。
「やっぱり人間臭いのよねぇ……」
 ホーミングレーザーの暴雨を紙一重で躱し続けながらティオレンシアは呟く。警戒心もそうだし、恐らくは遅滞のルーンに感づき、クイーン・エリザヴェートへの接近を投げ打ってでもこちらの迎撃を選んでいる事にしても、どうもスカルヘッドの中に人の影が垣間見えるような気がする。想像を膨らませているだけと言われれば何とも反論し難いが。
「ま、中身が何でも全力でイヤガラセさせて貰うわよぉ」
 海面を白く泡立たせて駆けるミッドナイトレース。雷光が瞬きルーン文字が乱れ飛ぶ。スカルヘッドが持ち得る最大の武器たる機動性を、ティオレンシアは着実に削ぎ取り続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィンデ・ノインテザルグ
Blaster出現の報を傍受次第、即座にUCを機動。
惑わず首裏から結合装置を挿入。
私自身がFireflyとなる事で被ダメージの軽減を図ろう。

ブースターを吹かして引き続き海面付近を移動。
…好い翼だ。堕とし甲斐が在る。
偵察も兼ねて放ったSatanの着距離で敵機までの射程を算出。
射程範囲ギリギリのヒット&アウェイの要領で
Leviathanによる光波で肩関節部を重点的に狙撃。

相手が焦れて下降してきたら
Luciferを前方に展開し盾代わりに。
カウンターの要領でMammonを撃ち込み
そのままBelphegorの加重力で海面近くまで引き摺り墜としたい。
高機動を活かして
反転して海面側に敵機を回し
半ば抱き着くような至近距離でBeelzebulで羽搏き刻んでいこう。
その間に幾つ銃弾を浴びせられようと
『今』の私が怯む要因にはなりはしない。
…沈め。

可能であれば、捨て身でAsmodeusの一撃を見舞ってから離脱。
片翼でも落とせれば御の字と云った処か。
退避後は自身の昏倒を見越して
いずれかの艦の船尾部分で合体解除を。



●疼痛
 神経が逆立つような、頭蓋を吹き抜けて脳に届く重い風。スカルヘッドから生じる圧力をヴィンデはそのように感じ取った。そして身体は反射的に動いていた。
「父と子と聖霊の御名に於いて――」
 操縦席後部から伸びるケーブルを引き出し、先端の端子部分を自身の後頭部に突き刺す。切れた神経を繋ぎ合わせた激痛に胸が跳ねたのも一瞬、自身の身体が内部から拡張されてゆく。身体はより強固に。視野はより広く。感覚はより鋭敏に。
 Suicide Paradeが乗機のFireflyとヴィンデを一つに繋ぐ……否、ヴィンデを人とキャバリアの複合生命体へと昇華させた。Fireflyの血肉と魂を我が身としたヴィンデが、加速のイメージを全身の神経に流す。Evangeliumが推進噴射の光を破裂させ、Fireflyを突き飛ばした。
 Fireflyが海面寸前を滑るようにして翔ぶ。意識の中に展開した海域地図上で自機の進路とスカルヘッドの予測進路が矢印として表示される。どちらの矢印もクイーン・エリザヴェートの手前で交差していた。
「……好い翼だ。堕とし甲斐が在る」
 紅い推進噴射の光を引いて飛ぶスカルヘッドを視界に捉えた。照準を固定するや否や、選択兵装をSatanに設定。スカルヘッドに幾つものロックオンカーソルが重なり合う。Fireflyが黒い双翼を広げた。翼状のホーミングレーザー発振基から夥しい数の荷電粒子光線が放射された。光線は各方向に広がると緩やかな曲線を描き、スカルヘッドに殺到する。スカルヘッドは機体を翻して初弾の数発を回避するも、次弾以降は全て被弾した。エネルギーに転換したらしい。
「この程度ならば吸収可能か」
 ではこれはどうだとFireflyが左腕を連続で振るう。ビームダガーのLeviathanが射出した光の刃が射程限界の寸前からスカルヘッドの肩部を狙う。適切な距離は先程のホーミングレーザーで算出済みだった。スカルヘッドは見切っていると言わんばかりに軽やかな上下左右への切り返しで躱して見せた。反撃のレールガンが来る。
 Fireflyはクリスタルビットを盾にスカルヘッドへ驀進した。電磁加速弾体の直撃をまともに受けたLuciferが次々に砕け散ってゆく。Fireflyを守護るものは早々に全滅した。だが驀進は止まらない。
「届くか?」
 強引な直線加速で距離を詰める。スカルヘッドが発射したショットガンに連続して被弾した。痛烈な衝撃が機体を減速させるもSuicide Paradeの作用によって直接の損傷は無い。Mammonの必中の間合いに入った。ビームアンカーが伸びる。スカルヘッドは左翼で受け止めた。すかさずBelphegorを撃ち込む。アンカーと同じく左翼に命中。生じた加重力がスカルヘッドを海面へと引き摺り降ろす。Fireflyが反転してスカルヘッドを海面に押し付けようとするも推力が拮抗した。互いに上を取ろうとスラスターを盛大に焚き、海面に半身を向ける格好となった。
 スカルヘッドを切り刻むべくBeelzebulを羽ばたかせるFireflyと、Fireflyを切り刻むべく翼からプラズマブレードを生じさせたスカルヘッド。互いの刃が切り結び、弾かれ合う。Fireflyはスカルヘッドの頭部に紅の閃きを見た。
 敵はこちらの無敵状態に気付いていないのか? 違ったとしても好機ではある。FireflyはAsmodeusを構えた。鉄杭が引っ込む。ビームアンカーのウインチを巻き上げるのと同時に腕を突き出す。スカルヘッドの頭部が傾斜した。迸る超精度の荷電粒子。Fireflyとスカルヘッドを繋ぐ赤い糸が荷電粒子同士の干渉によって千切れた。パイルバンカーの射突は狙っていた胸部正中を逸れて左翼の表層を滑った。金属を抉り取る不快な音に続いてオレンジ色の火花が明滅し、カラスの羽のような黒い断片が空中に舞い散った。
 スカルヘッドは大きく崩れた姿勢をスラスターの制御で強引に立て直し、なりふり構わないといった様子で急速離脱した。衝撃波に当てられたFireflyは物理運動に抗う事無く後方に飛び退く。
「限界か……?」
 ヴィンデは自身の肉体たるFireflyの至る所に刻まれた銃創と切創を見た。プラズマブレードが触れた箇所は超高熱による溶解の痕が赤い残光を放っている。だが痛みを感じないし、機能上の不具合も生じていない。全ての損傷は後ほどヴィンデの肉体が引き受けるのだから。
 個人としては十分な損傷を与えただろう――スカルヘッドの光跡を一瞥してからFireflyは緩やかな機動で戦艦ウォースパイトの船尾に降着し、膝を追って機体を屈ませた。ヴィンデが肉体側の後頭部に手を伸ばす。捕まえたケーブルを引き抜く。拡張されていた身体の感覚が急速に折りたたまれ、全身を多種多様な疼痛が苛んだ。Fireflyに刻み込まれた痛みだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィエラ・ヴラニツキー
っ!?む……
(むごい。この時の為に磨き抜かれた鍛錬の成果、ありったけをぶつけて……事も無げに凌がれた
しかしこのむごさ……何処か見覚えを感じた。自身はむしろ理不尽を“叩きつける”側だったように思えてならない
資料映像で見た自身?と敵機体との戦闘と、銃頭とテレサらの戦闘とがダブッて見えた)

……やるしか、ないか
(鋳造の外装をパージ
中から現れたのは、蟲と筋肉と機械とが融合したかの様な容貌のキャバリア
こちらが真の姿というべきモノだ)

(操縦桿を握る手が震える
これから理不尽を振るうにあたって、相応の苦しみが自身に降りかかることは避けられない……それでも、やらないという選択肢は無い

覚悟を決めて妖術を発動する
体内に棲む蟲が、常人なら発狂しかねない苦痛と引き換えに膨大な魔力を提供する
機体がソレをコンバーターにて取り込むと、性能が跳ね上がる

ヴィエラの総身から多量の脂汗が噴き出し、瞳孔が開く
耐えがたき苦痛に耐えながら、しかし標的たる銃頭をしかと見据え
異様なりし蟲機は、槍を構えて銃頭めがけ猛然と襲い掛かる――!)



●痛みの代価
 スカルヘッドに対抗するべくスワロウ小隊が作り上げた連携攻撃は容易くあしらわれた。切り込んだイカルガが散弾の接射を受けた。砕け散る機体構造の中に紛れる人体の血肉を、ヴィエラは確かに見届けた。
「っ!?」
 声にならない声が喉から滲み出る。テレサ達にミスがあったとは思えない。むしろ彼女達はこちら側と……猟兵側と比較しても遜色無い力量を持っていた。だが蓄積したであろう努力と、研鑽したであろう技は、スカルヘッドという理不尽の壁に衝突し、跳ね返された。
 惨いと思う。でも湧き上がるこの既視感は何? 自分はこの光景を知っている? 猟兵達が世界に叩き付ける理不尽か? そうでもあろう。しかしこの既視感はもっと奥底にこびり着く記憶から湧き上がっているように思える。
 視界をノイズのフィルターが覆った。資料映像で見た自身のような何者かと銃頭の姿が重なった。スワロウ小隊の悉くを、自身が操るセピドCが理不尽に粉砕する――。
 瞬くと何者かの姿は消えていた。
「……やるしか、ないか」
 化け物には化け物を、理不尽には理不尽をぶつけるしか無い。ヴィエラは声帯を震わせてレバーを引いた。
 セピドCが纏う鋳造外装の接合部に沿って極小さな炸裂が連鎖する。機体との接合を解いた外装を排除する光景は、さながら昆虫の脱皮のようでもあった。
 外装を脱いだセピドCは変身した、或いは変容したとも表現出来るだろう。昆虫の甲殻を人体の筋肉と無機質な機械で繋ぎ合わせたその姿は、キャバリアと言うよりも生物と機械の混合体であった。
 一回り細身になった機体の輪郭がサブウィンドウ内の機体コンディションモデルに反映される。それに目を落としたヴィエラは操縦桿に手を伸ばした……が、握る手が躊躇う。
 理不尽に抗するには理不尽を叩き付ける他に無い。痛みの代価を支払って。耐えられるのか? 誰だって痛いのは嫌だ。怖い。痛いのなんて平気などと言うのは余程の強がりか、本当に痛い事を知らない者だけだ。自分は本当の痛みを知っている。心が痛いとか、そんなセンチメンタルな意味では無いのだ。もっと直接的で耐え難い痛み――。
「それでもっ!」
 やらなければ。銃頭と同じ土俵に立つ為には。操縦桿を強く握り込んだ。
 身体の奥底で眠っていた蟲達が蠢き出す。臓腑を食い荒らされる感覚に身体が跳ねる。抑えていた悲鳴が決壊し、コクピットの中に反響した。呼吸が浅く短くなり、剥いた目に瞳孔が開き、額から脂汗が噴き出す。
 痛みを代価に湧き上がる魔力。肉体という小さな器から無尽蔵に溢れ出るそれを、セピドCのサイキックコンバーターが吸い上げる。
 セピドCの中にヴィエラという少女はもう居ない。代わりに内包したのは、ヴィエラという制御装置を兼ねた燃料供給機関だけだ。
 歯を食い縛って照準の向こうを睨む。紅の光跡を連れて飛ぶ銃頭が見えた。
 行け、潰せ。
 腹の中から怨嗟が響く。痛みと本能に塗り潰されたヴィエラは操縦桿を押しやり、フットペダルを力一杯に踏み込んだ。
 セピドCが翅を広げ、推進装置の噴射光を背負って驀進する。構えた槍が睨む先へ。迎撃のレールガンとショットガンに甲殻を砕かれても止まらない。受けた痛みを内から湧き続ける激痛で上塗りし、ヴィエラは銃頭だけを見据えてセピドCを突き進ませる。
 距離が零に達する直前で銃頭が双翼を広げた。荷電粒子の羽根が噴出する。ヴィエラは言葉にならない裂帛を上げた。或いは断末魔だったのかも知れない。蟲機が機体全てを矛として飛び込んだ。黒翼が羽ばたき、灼熱の刃がセピドCの甲殻を溶断する。代価として槍の鋒が銃頭の片翼を削った。後退加速する銃頭。セピドCが槍を薙いで追撃する。
「ま……だァっ!」
 噛み締めた前歯の隙間から苦悶が滲む。幾ら傷付こうとも痛みを重ねようとも離れない。散弾を至近距離で受けたセピドCが仰け反る。ヴィエラもコクピットに浸透した衝撃で同じく仰け反ったが、すぐに身体を引き戻す。
 直撃を多重に受けても尚セピドCは倒れない。魔蟲強化魔法で活性化した蟲魔女の魔力が、ヴィエラの痛みを代価にしてセピドCに狂戦士の如き力を与えているのだ。
 セピドCは背面の姿勢制御用スラスターを噴射して体勢を立て直し、槍を縦に振るう。銃頭の胴体を掠めた。黒翼を構成する砲が瞬く。またしても散弾の直撃を受けるがセピドCは強引に槍を突き出す。
「届けぇッ!」
 鋭く高い金属音が、鯨の歌う海に拡大した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
WHITE KNIGHT、複製躯体の用意を
「武装はどうする?」
伊邪那岐とSOL RAVEN、WORM KILLERを
接近戦に備えてCRESCENT MOONLIGHTも持って行ってください
「承知した…だが追加人員が欲しいところだ」
…友軍にも声をかけましょうか

セラフリーダーよりフェザー01、お手を拝借したいです
それと…エリザヴェート陛下、並びにブリンケン艦長
この作戦が終わり次第貴国の作戦参加機体の整備や補給を弊社で受け持ちますが如何です?
もちろん陛下の機体の修理…いえ、強化改修も請け負いますよ
その代わりスワロウ01をこの作戦中私の指揮下に預けていただきたい
(交換材料を出してスワロウ01を指揮下に)

スワロウ01、ちょっとお付き合いいただけますか
リベンジと参りましょう

2機はWHITE KNIGHTの指定位置に待機を
WHITE KNIGHTが目標の座標に敵機を誘導
指定のタイミングで2機のガンホリック+N-Ext.BOOSTERで集中砲火
COAT OF ARMSで動きを止めてパイルバンカーで打突



●スカルシュレッダー
 誘導弾の雨を振り切って海上を駆けるスカルヘッド。猟兵に突入を阻まれたが、大きく迂回の進路を採って再度クイーン・エリザヴェートへの攻勢を仕掛ける。その予想進路上でHMCCV-CU-01[M] TYPE[JM-E]"MICHAEL"ともう一体のキャバリア――或いは機動兵器が待ち構えていた。
『複製躯体の調子は如何ですか?』
 ジェイミィが尋ねると隣の白い機体が『良好だ』と答えた。ユーベルコード、S.A.R.F.PRODUCTS:DIABLOで生成した白騎士ディアブロの複製躯体を稼働させているのは、メガリスから作り出された事象予測AIだった。EXTEND AI UNIT "WHITE KNIGHT"は実に馴染む機体の感触を確かめるようにして右腕部のマニピュレーターを開いては閉じる動作を繰り返す。
『時にジェイミィよ、奴を落とすには未来予測も超精密射撃も殆ど意味を成さないぞ? どうする?』
 WHITE KNIGHTは小馬鹿にしたような、煽るような口振りだった。
『答えはもうスワロウ小隊が出しているではありませんか』
 ジェイミィに皆まで言うつもりは無い。
『そうか。では武装はどうする?』
『伊邪那岐とSOL RAVEN、WORM KILLERを。接近戦に備えてCRESCENT MOONLIGHTも持って行ってください』
 自分で持っていけと言わんばかりにMICHAELは両腕部を広げる。DIABLOは嫌味を籠めて首を竦める動作をするとMICHAELの背面に回った。ミサイルポッドとニードルランチャー、プラズマブレード発振基と兵装懸架装置との接続が解除される。それらを受け取ったDIABLOは自身の各アタッチメントに接続基部を当てた。武器側と受け側の爪が噛み合った。WHITE KNIGHTが自身の視覚野の中に表示する兵装項目に、新たに三つの武器を追加した。
『武装だけでは無く追加人員も欲しいところだがな』
 相変わらずWHITE KNIGHTの言い草には嫌味が籠もっているが、ジェイミィとしても同意であった。
『……友軍にもお声掛けしましょうか』
 人数は多ければ多いほどいい。ただし人員にはある程度の技量と機体性能が必要だ。具体的には猟兵か、猟兵に比肩する程度の……通信回線を日乃和海軍第六独立機動艦隊が使用している帯域へと合わせる。
『セラフリーダーよりフェザー01、今お時間よろしいでしょうか? お手を拝借したいですが……』
『フェザー01よりセラフリーダーへ、了解ですわ。フェザー02! ここは頼みましてよ!』
『えー? あたしEVOLの相手飽きたんだけど?』
 不満そうな声の主は栞奈だろう。二つ返事で承諾した那琴にやや拍子抜けしつつも、彼女のアークレイズ・ディナがこちらへ向かってくる最中にもう一方への相談先へと通信回線を繋ぐ。
『セラフリーダーよりエリザヴェート陛下、並びにブリンケン艦ちょ……』
『まぁぁぁだドクロ頭を落とせぬのかぁぁぁ!? はよう――』
 通信越しに飛んできた黄色い刃物に言葉尻を遮られた。
『レイテナの偉大なる女王陛下はとんだ大物だな』
 WHITE KNIGHTが妙に人間臭く鼻を鳴らして電子音声を発した。
『陛下、そいつは私の仕事ですから……失礼、ブリンケンよりセラフリーダーへ、何か問題発生か?』
『スカルヘッドの対処にあたりまして、そちらの隷下にあるスワロウ小隊のスワロウ01、テレサ・ゼロハート少尉の指揮権を一時的にお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?』
『テレサ少尉をか? ちゃんと返してくれるなら構わんが……』
『引き換えと言っては不躾かも知れませんが、この作戦が終わり次第、貴国の作戦参加機体の整備や補給を弊社で受け持ちます』
『整備をか? 噂には聞いていたが多芸なんだな、猟兵という人種は』
『もちろん陛下の機体、雷神トールの修理……いえ、強化改修も請け負いますよ』
『妾のトールがどうかしたのか!? 修理じゃと!? 出来るならはよう治せ――』
 またしても黄色い刃物のような声音がスピーカーから飛んできた。ハウリングを起こしているあたり、声の主は相当な元気の良さらしい。
『陛下ちょっとお静かに。そりゃあ助かるが……その辺の話しは終わってからにするとしよう。スカルヘッドを落とすのにテレサ少尉が必要なら持って行ってくれ』
『ご承諾に感謝致します』
『ただし優しく扱ってくれよ? テレサ少尉はうちのエースで女の子だからな』
『了解しました。善処します』
 ブリンケンとの通信を終えたのと入れ替わりに那琴のアークレイズ・ディナから通信の呼びかけが入る。ジェイミィの視覚野にサブウィンドウが開き、那琴の姿が表示された。
『フェザー01よりセラフリーダーへ! ご要件は?』
『こちらスワロウ01、ブリンケン艦長よりセラフリーダーの指揮下に入るようにとの命令を頂きました』
 ジェイミィが那琴に対応するよりも先にテレサのアークレイズが到着した。サブウィンドウに表示された少女は、黒髪の那琴とは対照的な白髪だった。
 MICHAELとDIABLOとアークレイズ・ディナとアークレイズが集結した。四機が滞空する直下の海面が、スラスターが発する噴射熱と風圧で白く泡立っている。
『スワロウ01、フェザー01、両機ともイェーガー・デストロイヤー・システムは搭載していますね?』
『え? ええ……』
『はい』
 ジェイミィが尋ねると那琴は少し躊躇い気味に、テレサは明朗に答えた。
『ガンホリックは?』
『使用可能ですわ』
『こちらも可能です。システムにプリインストールされていますので』
 思惑の前提条件は整っているらしい。よろしい、とジェイミィは電子の意識の中で頷く。
『ではスワロウ01、我々と共にリベンジと参りましょう』
 ジェイミィの意図を察しかねた那琴が双眸を細める。
『……スカルシュレッダーを?』
『そうです』
 慎重な口振りのテレサにジェイミィは短く肯定する。那琴がなるほどといった意味を籠めて浅く頷いた。
『時間が押していますので手短に……スワロウ01とフェザー01はWHITE KNIGHTの指定位置座標で待機を。WHITE KNIGHTが目標の座標に敵機を誘導しますので、スワロウ01とフェザー01はこちらが指定するタイミングでガンホリックで火力を集中させてください。私も……類似したユーベルコードで攻撃します』
 テレサと那琴が了解との応答を被せる。
『世間話はもう済んだか? 始めるぞ?』
『どうぞどうぞ』
 ジェイミィが言うよりも速くDIABLOはバーニアノズルから噴射炎を吐き出した。合わせてアークレイズ・ディナとアークレイズがWHITE KNIGHTの指示通りの座標位置へと加速する。ジェイミィもまたスカルヘッドを追い込んだ先でとどめを刺すべくMICHAELを移動させた。
『躱される要素が僅かにでも存在する状況であれば、未来予測も、精密射撃もさして意味を成さないが……』
 クイーン・エリザヴェートを目指すスカルヘッドの進路上に割り込んだDIABLOが、WORM KILLERを発射した。狙い澄ました硬芯は黄金の電流の軌跡を引く。音速の数倍の速度で飛来した怪物殺しの針を察知するや否や、スカルヘッドは機体を縦軸に回転させた。このレベルの威力の射撃攻撃は吸収対象では無いらしい。
『回避運動を前提とすれば、ある程度行動を制御可能という事だ』
 向かい来るレールガンの弾道を視覚化し、左右に瞬間加速しながらミサイルを撃つ。ポッドから垂直射出された弾体が、山なりの軌道を描く白煙を引き連れてスカルヘッドを追う。目標が迎撃体勢の兆候を見せたのと同時に弾体が複数に分裂した。スカルヘッドは直角の機動を交えて後退加速しつつ、機関砲の乱射で迎撃する。
『ガンホリック!』
『起動!』
 テレサと那琴の裂帛が重複した。ミサイルの迎撃に追われるスカルヘッドを左右から大きく迂回する形でアークレイズとアークレイズ・ディナが追う。アークレイズは左腕のルナライトから荷電粒子榴弾を、アークレイズ・ディナはテールアンカーのマンティコアから収束荷電粒子砲をそれぞれに発射した。イェーガー・デストロイヤー・システムによって擬似的ながら猟兵が扱うユーベルコードと同等の力を再現した二機が極音速で翔け、スカルヘッドの周囲に青白い雷球を咲かせ、青白い灼熱の光軸を迸らせる。
 追い込まれたスカルヘッドの元へMICHAELが飛び込む。Neuclear Fusion Extra Booster start up.との横文字がジェイミィの視覚野に点灯した。TRIPLE SERAPHIM DRIVEが生み出すエネルギーがHMX-XXXV-EB "RED DRAGON"のバーニアノズルの光を炸裂させた。
 爆炎と衝撃と光線の只中で身動きを封じられたスカルヘッドへ猪突するMICHAEL。しかし尚も細かい機動で致命的な被弾を躱すスカルヘッドを止めるべく、TRINITY ANGEL BLADEから盾が分離し、8基のシールドガンビットとして散開した。いずれもが自機を質量弾としてスカルヘッドに捨て身の体当たりを仕掛ける。銃撃は使えない。吸収されてしまうからだ。
 スカルヘッドが双翼のレールガンを連発してCOAT OF ARMSを撃ち落とす。その間にMICHAELが肉薄を果たした。スカルヘッドは最後の自律機動防楯を砕いた先に、大型のパイルバンカーを構えたMICHAELを視た。MICHAELもまた頭頂部の砲を紅に閃かせるスカルヘッドを視た。
『もう逃げられませんよ』
 MICHAELが前進加速を掛ける。スカルヘッドの頭部が紅の奔流を放射した。光が擦過した装甲が焼き溶かされる。熱波と衝撃を受けながらMICHAELは機体の全備重量と加速を乗せてLONGINUSを突き出した。トリガーを引く。炸薬が弾ける。射突した突撃槍の先端が、漆黒の鋼を打ち砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
速いし空戦強そうだし…。そして、相変わらず気持ち悪そうだしで厄介だね。
でも強さは本物。だから油断せずに行くよっ!

そっちが高機動型でもこっちも高機動型っ!機動力勝負っ!!
ロングビームライフルのスラスターも全開で加速していくよ。
実弾兵器が取り込まれるのなら、ビーム主体のリーゼならいけるかな?

手数勝負でランチャーは連射モード。
バルカン・ビット・ランチャーの射撃を中心にして、所々にロングライフル、ツインキャノンを組み込んで攻撃だね。
本命は当てたいけど、なかなか難しそうだから…。

敵攻撃は第六感を信じての回避行動とオーラ防御によるフィールド防御。
装甲自体は薄いからね、リーゼ。

同じ戦法を取ってくるなら…。
機動戦闘を行いつつ多重詠唱と魔力溜めを開始。
クイーン・エリザヴェートをかばう位置まで来たら…。
全力魔法・限界突破のヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!
わたしとリーゼの全力…。
遠慮せずにもってけーーーっ!!

…ふぅ、少しは痛手になったかな?
しかし、厄介なエヴォルグだこと…。戦術とか出来るのやだなぁ。


シルヴィ・フォーアンサー
……飛んで出るよ。
『飛行戦用な向こうと違って此方は真っ直ぐ飛ぶぐらいで不利だぞ』
ユーベル・コードで補うよ、護衛対象の上で捌けなさそうだし。

マキシマム・アサルトを発動して空中戦。
機体との神経接続のリミッターを解除して限界突破。
ドーピングもパイロットスーツを介して投与で瞬間思考力を強化。
高さ制限に引っ掛からないようヨルに戦闘演算のフォローをお願い。
注意を引くべく武装で攻撃するけど無理はしない。

相手の攻撃を凌いで焦れるのを待つよ。
飛行速度で此方を翻弄して頭部の強力な一撃で仕留めるよう仕向ける。
相手の行動パターンを記憶して動きが変わるのを待つ。

相手が違う動きをして仕掛けて来たと判断したら
そっと腕部を切り離して浮かせておくよ。
無理に目で捉えようとせずレーダー状の動きを見て瞬間思考力で動きを予測。
その時を見切って最低限の動きで回避しつつロケットパンチで砲身を頭部に直接ぶち当ててカウンター。
続けざまに肘部ビームサーベルで連続攻撃からの蹴り飛ばし。
チャージしておいたハイペリオンランチャーで追い討ち。


露木・鬼燈
ふむふむ…射撃戦に持ち込むのが浪漫!
それにアポイタカラは射撃戦向けの機体だからね
ここは射撃で…とはいかないよね
実弾系は効果ないみたいだからなー
使える射撃武器は重量子ビーム砲だけっぽい
あとは魔術攻撃であるダークネスウイングとサイレントヴォイスかな?
んーここは射撃は捨てるかっ!
アポイタカラは近接戦闘も可能だからね
機体特性に合わなくてもそこは僕の腕とUCで補うですよ!
重量子ビーム砲と魔術攻撃で上下への動きを制限
そこに秘伝忍法<写見>からの<兜割>を叩き込むのです
写見で低下する命中率と威力は数で補うっぽい
新選組で使われていた草攻剣、これを写し見が兜割で行うのです
写し見なので被害を恐れぬ全力の一撃を絶え間なく叩き込めばイケルイケル!


朱鷺透・小枝子
敵だ。死神だ。敵だ。じゃあ壊せ!

興奮剤注入。今、壊すべき敵へ、改めて【闘争心】を燃やし、その熱を機体へ注ぎ込み、ディスポーザブル03外殻ユニット接続【操縦】
人工魔眼で拡張した自己の【第六感】と【動体視力】でスカルヘッドを捉え
【念動力】サーベルユニット展開スカルヘッドへ飛翔斬撃。
【推力移動】敵機とクイーン・エリザヴェートの間に自機を割り込ませ、
【オーラ防御】バリア展開、ハンドユニット【エネルギー充填】

壊せ。黒く!!

『禍戦・黒輪無邊光』発動。戦場の怨念を纏めて喰らい、己が闘争心と成し、黒輪光展開。
黒輪光と、機体各部ビーム砲から極大霊障光線の【制圧射撃】
霊障光線を念動力で操り、敵機の機動を抑制。

この死神を、塗り潰せ!!!

ハンドユニット【なぎ払い範囲攻撃】【フェイント】
【瞬間思考力】ハンドユニットの砲撃を躱した瞬間を狙い、スカルヘッドへ霊障光線をねじ込む。

壊れて、消えろぉおおおおおお!!!!!!!

翼を躯体を抵抗を穿つ、動きを縫い留め、
ハンドユニット全砲台、全霊障光線の集中砲火で壊し尽くす!!!!


エドワルダ・ウッドストック
アドリブ連携歓迎

カナリア・ペドロと共に、スカルヘッドとの交戦を開始します。
カナリアの兵装なら、Blasterに取り込まれずに対応できるはず。
さあ、クイーンは取らせませんわよ!

プラズマガントレットは盾として運用し、メガビームキャノンの速射で牽制を。
スラスターの残量も補充はしましたが……起動するのは隙を見出してからですわ。
まずは目を慣らし、敵機の怪物的な機動に反応できるよう受けに回るのです。

……キャバリア戦の経験値は劣り、技量も敵わないでしょう。
こちらの優位は数多くの仲間がいること、カナリアという高性能機体、そして……わたくしとペドロの複座式ということですわ!
こちらが相手の癖を観察していたように、相手もこちらを見ていたことでしょう……そう、わたくしが機体を操縦し、ペドロが火器管制をしていたカナリアの動きを!

好機を見逃さず、その時が来れば素早く席を入れ替わり強襲を仕掛けます。
ペドロの操縦を信じ、わたくしは攻撃に集中しますわ。
ハイパーメガバスターを構え、スカルヘッドに狙いを定め……射抜きますわ!



●堕天死
 大鳳の飛行甲板が慌ただしさを増す。艦載機が出撃する訳では無い。白羽井と灰狼両隊は既に出撃済みで、運んできた猟兵達の機体も最前線でスカルヘッドと交戦中だ。キャバリアの居ない飛行甲板にはむしろ閑散な雰囲気さえも降りていた。されど担当部署毎に割り当てられた蛍光色のベストを来た甲板要員達は忙しく走り回り、艦の内外では喧しい警報音が鳴っている。出撃準備を報せる警報音だった。
「艦長、発進準備完了との事です」
 甲板管制官の報告を受けた結城が双眸を細める。窓際に立つ彼女の目は大鳳の艦尾に向いていた。
「切り離してください」
「了解。外殻ユニット、切り離します」
 目を動かさずに言う結城に甲板管制官が粛々と応じた。鈍くて重い振動と音が船体を走る。
 結城の目が向かう大鳳の艦尾には、機械の櫓としか形容出来ない巨大な構造物が曳航されていた。全高50mはあろうかという巨躯。辛うじて人型に近い輪郭をしているが、脚部に相当する部位は丸ごと巨大な推進装置と化している。
「脚が無いのですね」
 左右の腕部もまた形だけが近いばかりであり、マニピュレーターの類いは見当たらず、代わりに生えているのは合計五門の砲身だった。
 四肢を繋ぐ胴体の中央にある円形状の装置の真上には、本来あるべき胸部も頭部も見当たらない。あるのはまるで5m級の何者かを迎え入れる為に開けられたかのような不自然な空間だった。
 機体各部に設けられたミサイルランチャーと、背中のバインダーに懸架する四枚の長大な刃からして兵器の類いである事に間違いはないのだろうが――巨体が醸し出す質量と空洞の胸に、大鳳の甲板要員達は異様な不気味さを抱かずにはいられなかった。
 外殻ユニットの名前で部隊表に登録されている巨大なそれと、大鳳を繋ぐ鎖や推進剤注入用のホースが切り離されてゆく。臍の緒を切られた胎児のように外殻ユニットが身体を蠢かせ、大鳳の艦尾から離れて横方向へと滑る。
 噴射炎を吐き出すバーニアノズルが轟音を響かせた。外殻ユニットがゆっくりと前進し、次第に加速し始める。大鳳から遠ざかり、クイーン・エリザヴェートが腰を据える海域へと向かう。
「猟兵の皆様……あなた方は波濤を越えて進まなければなりません。それが、あなた方の宿命なのですから」
 琥珀色の瞳が見送る巨躯が往く。朽ちて燃える海の先へ。

 スカルヘッドに猟兵一人一人が刻み込んだ傷は微細なひび割れ程度だったかも知れない。だが小さなひび割れは、同じひび割れ同士と結びつき、大きな亀裂と化しつつあった。打ち砕くまであと一撃。綻び壊れる間際に於いて、スカルヘッドは最後の粘りを見せる。
 己に残された時間がさほど多くない事を悟ったのか、防衛網を張り巡らせる猟兵の間隙を無理矢理に縫ってでもクイーン・エリザヴェートへの直接攻撃の敢行を試みるスカルヘッドに対し、猟兵側もなりふり構わない鬼気迫る勢いで迎撃の壁を押し付ける。
「行かせ……無いっ!」
 シルが食い縛る歯の隙間から苦悶を滲ませる。鋭角な航跡を描く青い閃光と化したレゼール・ブルー・リーゼは、とうに人体が耐え得る速度を超過していた。グラビティ・ガードとパイロットスーツの保護機能で辛うじて堪えているシルではあったが、少女の身体を縦横無尽に圧する殺人的重力加速度に削ぎ落とされた体力は既に限界を越えている。意識を繋ぐのは、人が持つ根本の力――気力だった。
 エトワール・フィラントが発射した鋭い光芒が、姿勢を捻ったスカルヘッドの傍を掠める。間髪入れずにヴォレ・ブラースクの魔力粒子とエリソン・バール改の荷電粒子、スカルヘッドを包囲したプリュームの指向性荷電粒子が暴雨の如き弾幕を浴びせる。スカルヘッドはいずれの非実体弾も意図して回避せず、被弾を無視してクイーン・エリザヴェートへ向かう。
「吸収されてる!?」
 出力が足りないのか……テンペスタの双門が瞬き、スカルヘッドの進路上を太い光軸で遮った。スカルヘッドは反発する磁石の如く別方向に急加速する。
「高出力のビームじゃないと吸われちゃうっぽいー」
 スラスターの光を目一杯に燃やして走るアポイタカラが、長大かつ大口径の砲身から重量子ビームを放射した。スカルヘッドの進行方向に伸びた赤黒い光線は、海面に衝突して水柱を白く爆発させる。
「ですが、それでは面制圧の密度が……!」
 ひっきりなしに飛んでくるレールガンを躱すべく回避機動に専念するペドロの背後の操縦席で、エドワルダが苦く双眸を細める。海の表層をホバリングするカナリアが両肩部のメガビームキャノンより圧縮した荷電粒子の光条を迸らせた。僅かな間隔を置いて発射した収束荷電粒子は、二射とも虚空を貫く末路に終わった。
『ただでさえ此方の機体は空中戦は専門外なのだが』
「そこはユーベルコードで補うしかない。それと薬」
 ヨルムンガンドの囁きに無味に応じるシルヴィではあるが、余裕がある訳ではない。マキシマム・アサルトで半ば強引に機体を超高機動化させ、機体との神経同調率を限界以上に引き上げ、投薬でシルヴィ自身の反応速度を向上させ、辛うじて対応出来てはいるが――。
『抜かれるぞ。撃て』
「わかってる」
 ヨルムンガンドの戦闘演算が示す通りにトリガーを引く。ミドガルズの両肩部の多連装ランチャーユニットが誘導弾を立て続けに射出した。白い曲線を残してスカルヘッドに向かったミサイルは着弾を待たずに分裂。複数の弾頭に分裂して目標を包み込むようにして殺到する。爆炎が膨張するも命中弾の手応えは無い。撃ち落とされたようだ。
「だめ! クイーン・エリザヴェートに行っちゃう!」
 爆発の合間を掻い潜って進路を変えたスカルヘッドに、シルが悲鳴にも似た叫びを挙げる。背中を追うレゼール・ブルー・リーゼがエトワール・フィラントを、アポイタカラが重量子ビーム砲を、カナリアが収束メガビームキャノンを、ミドガルズがハイペリオンランチャーを一斉射するが、スカルヘッドは発射の直前ないし直後に軌道を変えて光軸をすり抜けてしまう。
『目標の頭部に高熱源反応。なおも増大中。荷電粒子砲を撃つつもりか』
 無機質な電子音声でヨルムンガンドが発した観測結果にシルヴィは我知らず奥歯を噛み締めた。
「ブリッジを潰すつもりなのですよ」
 鬼燈が操縦桿のトリガーを引き絞って離す。アポイタカラのランチャーから放出された重量子ビームは果たせず空の彼方に伸び、大気との摩擦による減衰の末に消失した。
 クイーン・エリザヴェートほどの超巨大戦艦がブリッジを破壊された程度で沈む道理はあるまい。しかし破壊による人的資源喪失が今後の人類側に及ぼす戦略上の影響は甚大だろう。鬼燈の脳裏に過ぎった想像と、他の者達の想像はさして変わらなかった。
「間に合いませんわ!」
 諦めずにエドワルダはトリガーキーを引き続け、ペドロは機体を走らせ続ける。メガビームキャノンの二射はアポイタカラ達の砲撃と同じ結果に終わり、体当たりしてでも止める覚悟で全ての推進装置を全開にするカナリアも、スカルヘッドとの直進加速力が拮抗していて追い付けない。荷電粒子系の兵装に対して高い耐性を持つカナリアを割り込ませれば、最悪でもクイーン・エリザヴェートのブリッジへの直撃は防げるかも知れないが……追いかける紅の光跡との距離は縮む気配が無い。
 スカルヘッドの頭頂部が赤く閃いた。細く鋭く研ぎ澄まされた光線が、まっすぐにクイーン・エリザヴェートに突き進む。
「おんやー?」
 鬼燈はクイーン・エリザヴェートと光線の間に割り込む巨躯を確かに視た。
 ブリッジを貫く筈だった紅の光線は、進行の途中で実体の無い広く巨大で分厚く青白い障壁に衝突した。水の如く無秩序に飛散する荷電粒子。稲妻が迸る音と爆ぜる光の明滅が終息した後の海上に聳え立っていたのは、全高50mに届くではあろうかという巨大な機動兵器であった。
「……敵だ」
 外装ユニットの胸部の空間に収まったディスポーザブル03の操縦席で、腰を深く沈めて俯く小枝子。
「死神だ……」
 面持ちが微かに上がる。黒い前髪の奥で灰色の瞳が覗く。
「じゃあ壊せ!」
 牙を向いて怨嗟を吐き出す。ペン型注射器を首筋に叩き付けた。同時に生じた鈍い痛みと鋭い痛みに眉間が険しく歪む。注入した薬剤が血中を通って毛細血管から全身の隅々にまで行き渡り、頭に昇って脳の全体に浸透する。早鐘を打つ心臓。臓腑の奥で煮沸する熱とは対照的に、意識は氷のように冷たく透明だった。
 左眼を覆う眼帯がスカルヘッドの軌道を追い掛ける。小枝子は自身の視覚野が飛び回る黒翼に絞り固定される感覚を味わった。自分の眼は敵しか視えていない。
「壊せ! 黒く!」
 外殻ユニットの背に巨大な黒い円環が展開した。円環はゆるやかに回転を始め、戦場に満ちる圧力を吸引し始める。痛み、絶望、恐怖……考え付く限りのありとあらゆる怨恨が空気を揺り動かすだけの圧力となった。小枝子自身を作り上げている同質の圧力に。
「破壊を為せ! |黒輪無邊光《リヴォルバーレイ》!!」
 怒号と共に超大型のサーベルユニットが飛び立つ。併せて黒輪光が夥しい数の光線を放出し始めた。どちらもが小枝子の思念を反映した指向性を有し、回避機動に入ったスカルヘッドを追い回す。
 高速回転しながら飛び回るサーベルユニット。大蛇のようにうねりのたうつ極大霊障光線が標的を執拗に追って空間を満たしてゆく。
『今を逃せば後は無い。追い詰めろ』
「簡単に言ってくれて……」
 シルヴィは姿の視えない人工知能に視線を流し、フットペダルを踏んで機体を加速させた。防眩フィルターが作動しているとは言え、こうも光が洪水を起こしている状況では肉眼も仕事をしてくれない。レーダーを信じるしか――ディスポーザブル03の外殻ユニットが引き起こした破壊の嵐の中へ、片腕をどこかに置き忘れてきたミドガルズを飛び込ませた。
「もう逃さないっ!」
 突入するミドガルズをレゼール・ブルー・リーゼが砲撃で支援する。狙撃モードに設定したヴォレ・ブラースクとエトワール・フィラント、グレル・テンペスタの合計四門をそれぞれ僅かに間隔を開けて発射した。
「こちらからも参りますわよ!」
 カナリアが収束荷電粒子砲の交互連射を重ねる。周囲の空間を埋め尽くす飽和攻撃と間断なく交差する光軸に、スカルヘッドはいよいよ回避先を失った。
「るぉぉぉああああああ!!」
 そこへアポイタカラが捨て身の肉薄を掛けた。猿叫と共に兜を割る勢いで振り下ろした大太刀。しかし僅かに先んじてスカルヘッドがプラズマブレードを薙いだ。掻き消されるアポイタカラ。されどもすぐにまたアポイタカラが飛び込み大太刀を振るう。
 大太刀を担いで突撃するアポイタカラは秘伝忍法で生み出された写し身でしかない。死も消耗も恐れない幾多の写し身が、捨て身覚悟の必殺兜割りを繰り返す。絶え間ない剣戟は、古の剣豪が振るった草攻剣の如し。
 何体目かのアポイタカラの写し身が霧散した直後、輪郭がずんぐりと膨れ上がった。
「こっちもいるんだけど」
 連撃に割り込んだミドガルズが肘から下が無い片腕を振りかざす。下ろす直前に肘口が荷電粒子を放出し、収束して刃を形成した。スカルヘッドはプラズマブレードで切り返す。切り結ぶ刃の狭間に強烈な明滅が爆ぜる。骸骨の頭頂部から生える銃の奥底に紅が瞬いた。
『回避しろ』
 人工知能が言うが先か後か、ミドガルズは蹴りを繰り出す。スカルヘッドはスラスターを焚いて飛び退く。アンダーフレームが宙を蹴った。シルヴィとスカルヘッドの視線が交差した。
「掴め」
 シルヴィの頭の中のイメージが言葉となって飛び出す。横から突っ込んできたミドガルズの片腕がスカルヘッドの頭部を掴んだ。
「撃ちますわよ!」
 カナリアが搭載する兵装の中で最大最強の火力を持つ大口径大型荷電粒子砲――ハイパーメガバスター。口から鮮やかな蛍光色の緑を溢れさせる巨砲を構えたカナリアが、スカルヘッドに照準を重ねた。頭部を掴むミドガルズの腕部のマニピュレーターの隙間から黄金色の機体を視野に入れたスカルヘッドは、頭部をその方向へと向ける。そして紅の奔流が迸った。
「エドワルダさん!」
 シルの叫びは熱と衝撃に押し流された。鮮烈なる紅がカナリアを影も残さず飲み込む。光が過ぎ去った後には、エドワルダとペドロの残り香も漂う事無く――。
「この機体に……ビームが効くものですか!」
 通信回線にエドワルダの声が走る。カナリアの姿は残っていた。機体各部の黄金装甲は焼け焦げ、コックピットを庇ったプラズマガントレットは辛うじて原型を留める程度にまで溶解してしまったが。
「ハイパーメガバスター! 発射!」
 エドワルダの裂帛を乗せて、カナリアが最大出力の荷電粒子を放出する。
「これで落ちなきゃもうダメなのですよ」
 アポイタカラが腰だめに構えた重量子ビーム砲から赤黒い光軸が伸びる。
「……吹っ飛ばす」
 ミドガルズの背部から両肩を越えて生える二門のハイペリオンランチャーが膨大な熱量の帯を照射した。
「ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!」
 使える限りの全銃砲を開いたレゼール・ブルー・リーゼが六属性から成る魔力粒子の螺旋を発射する。
「壊れて、消えろぉおおおおおお!!!!!!!」
 ディスポーザブル03の外殻ユニットの両腕部がそれぞれに五本の極太の熱線を伸ばし、黒輪光が吸い上げた怨嗟を全て費やして霊障光線を撒き散らす。
 混濁した光が熱と衝撃を押し広げ、世界を塗り潰しながら拡大してゆく。シル、エドワルダ、鬼燈、シルヴィ、小枝子は焼き尽くされる視界の中に飲み込まれる黒い双翼を確かに見届けた。

 滞留する荷電粒子が空気中に電流の瞬きを走らせ、熱で煮沸した海面が白く泡立つ。
「スカルヘッドは……!?」
 未だ眩む目を庇いながらエドワルダは黒い輪郭を探す。
「あそこ!」
 レゼール・ブルー・リーザがエトワール・フィラントを向けた先で全員の視線が重なる。
 片翼と頭部を喪失し、輪郭が曖昧になるほどに機体を溶解させ、力なく俯くスカルヘッドが空中に留まっていた。
「まだ動いてぇッ!」
 巨躯を身じろぎさせる外殻ユニットを『待て』とヨルムンガンドが制した。同時にスカルヘッドの姿勢から力が完全に抜け落ちる。糸の切れた操り人形のように。そして呆気なく海に吸い込まれた。多数の猟兵を相手に大立ち回りを演じた相手としては、あまりにも矮小で肩透かしに思える水柱が昇った。
 誰の機体もが油断無くそれぞれの火砲を構え、どの機体の搭乗者もが瞬きさえも忘れて水柱の奥を凝視する。舞い上がった海水の飛沫が降り、張り詰めた潮騒が戻ってきた後、焼け落ちた黒い骸がゆっくりと浮かび上がってきた。
 機体が放出していた圧力はもうない。オブリビオンマシンだったスカルヘッドは死んだ。浮かんでいるのは、機械と肉を中途半端に捏ね合わせた名も無い化合物だ。
「終わりました……わね」
 エドワルダはいつからか止めていた呼吸をやっと吐き出した。カナリアの構える重砲の先端が骸から外れて下に傾く。
 そして、彼女と彼らは骸から生まれ出た人の形を目の当たりにした。
「え」
「女の子?」
 シルヴィの喉から条件反射の声が飛び出し、鬼燈が首を横に傾げる。
 潮風に揺れる白髪。身体は密着型のパイロットスーツと思しき黒い被膜に覆われていたが、手足の形状は明らかに一般的な人間のもので、身体の曲線や腰のくびれ、胸の豊かな双丘は、どう贔屓目に見ても第二次性徴を迎えたであろう女性の姿だった。
 少女と呼ぶに相応しい幼さが残る面持ちを赤黒い液体が伝い、前髪の隙間から微かに覗く双眸の奥で、鮮やかな紺碧の瞳が震えている。機体越しに交差し合った視線に、エドワルダは息を飲み込んだ。
『生体反応と動力反応を検知』
 ヨルムンガンドの観測結果は目の前の人の形をした何かが幻でも錯覚でも無い事を示していた。電子的に、物理的に認識出来る存在だと。
「動力? それってレプリカント――」
「お前も敵かァァァッ!」
 通信が音割れするほどの声量で叫んだ小枝子に呼応してディスポーザブル03の外装の腕が持ち上がる。荷電粒子を放出しようとした刹那、接近警報が鳴り響いた。
「なんかいっぱい来たのですよ!」
 咄嗟に反応した鬼燈が操縦桿を引き戻し、アポイタカラの向きを変える。まともに照準も付けずに発射した重量子ビームは、凄まじい密度のEVOLの集団を射抜いた。
「ちょっと! ちょっと待って!?」
 シルは激しく動揺しながらも機体を後退加速させた。戦場に残留していたEVOLが全て集結しているのでは無いかと思うほどの大集団が、大蛇型の群れを形成してスカルヘッドとレゼール・ブルー・リーゼの間に割り込んだ。
『下がれ、飲み込まれるぞ』
 返事をする余裕も無くシルヴィは夢中でミドガルズを離脱させた。ハイペリオンランチャーが荷電粒子を闇雲に走らせる。
「何が起こっておりますの……!?」
 ペドロの機体制御によって生じた振動が混乱するエドワルダの意識を操縦席に引き戻した。拡散モードに設定したメガビームキャノンを乱射しながら海面を滑って後退する。
「邪魔をするなァッ!」
 ディスポーザブル03の外装が両腕を薙ぐ。荷電粒子を束ねた極大の刃がEVOLの群れを灼き切った。一瞬の間だけ晴れた緑の暗雲の向こうに、彼女と彼らは己を見詰める紺碧の瞳を見た。
「イェーガー……やはりあなた達は、危険過ぎる……」
 頭蓋に浸透する少女の声は、果たして現実の声だったのだろうか? 幻聴だったのだろうか? 鬼燈は少女の元へアポイタカラを飛び込ませようとするも、視界を流れるEVOLの河に退く事を余儀なくされた。
 レゼール・ブルー・リーゼが、アポイタカラが、ミドガルズが、カナリアが、ディスポーザブル03の外殻ユニットが、火線と刃を振り回す。されども濃い緑の河は途切れない。
『荷電粒子反応。並びに誘導弾接近中。南からだ』
 ヨルムンガンドの報告に釣られて全員が南方に視線を飛ばす。幾本ものプラズマビームが南の空より此方側へと伸びてゆく。そしてEVOLの河を貫いた。続いて風切り音を引き連れた夥しい数の誘導弾が到達。熱と衝撃波を乗せた金属片を拡大させた。
「もうっ! 今度はなにっ!?」
 シルは兎に角機体を後退させて無作為な回避運動を取る。
「邪魔をするなァァァー!」
「お待ちになって! この信号は……!」
 旋回して荷電粒子の飛来元へと向かおうとした外殻ユニットをカナリアが制する。
「日乃和海軍の信号っぽい」
「ならあれって……」
 既にアポイタカラは砲を降ろしていた。シルヴィがコンソールを叩いて水平線の果てを拡大表示させる。水平線に隆起した物体にCG処理が加わると、巨大な要塞の形容が浮かび上がった。
『こちらは日乃和海軍所属、|大和武命《ヤマトタケル》だ。大鳳と三笠、そして猟兵各位……よく持ち堪えてくれた』
 日レ両軍の共有周波数帯域から聞こえてきた男性の声には、この場にいる猟兵なら誰しも覚えがある筈だ。何せ作戦予定を一週間繰り上げ、この海域に自分たちを送り込んだ張本人――白木矢野の声だったのだから。
『やれやれ……漸くご登場か……』
『白木ぃぃぃぃぃ~! おそぉぉぉい! 遅すぎるわぁぁぁぁ~!』
 混線した音声はブリンケンとエリザヴェートのものだろう。この間にも大和武命以外の艦艇が続々と水平線を乗り越え戦域に到達し、空母の赤城や加賀等から発艦したイカルガの編隊が、艦隊に先んじて残存するEVOLへと獰猛に襲い掛かる。
「彼女は!?」
 エドワルダが鋭く飛ばした声に応じてペドロがカナリアを振り向かせた。EVOLの河の向こうにはスカルヘッドの成れの果てが浮かんでいるばかりで、白髪で碧眼の少女の姿は既に消えていた。
「うん? 北に逃げてるっぽい?」
 鬼燈はEVOLの流れが明らかに指向性を持って移動しつつある事を察知した。
「追う!?」
 シルが焦燥を滲ませて誰に構わず尋ねると、シルヴィが「やめておく」と短く応じた。誰しもEVOLとスカルヘッドとの交戦で著しく消耗しているし、EVOLが逃げた先に何が待ち構えているか知れたものではない。そもそも依頼内容はレイテナ第一艦隊の護衛であり、敵の追撃では無いのだから。
「わたくしもご遠慮させて頂きますわ」
 今日はもう流石に勘弁してくれと含んでエドワルダとペドロは首を竦める。
「敵は……」
 小枝子は己の臓腑を煮えたぎらせていた熱と、機体が取り込んだ怨嗟の圧が急速に引いていくのを感じた。じきにここは戦場では無くなる。この場での役割は一先ず終わった――ディスポーザブル03の動力炉の唸りも次第に冷めていった。
『艦載部隊は残存する敵機の掃討を急げ。各艦は敵機の掃討と並行して生存者と遺体を探索。誰一人として残さず引き揚げろ。救護班は――』
 大和武命の艦長の指令が遠くに響く。
 遅すぎた最後の演者を迎え、鯨が歌う海は静寂の凪に回帰しつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『猟兵相談室』

POW   :    大声で喝を入れ、気合を入れ直させる

SPD   :    的確な相槌や返答で相手の話を引き出す

WIZ   :    静かに話を聞き、共感を示す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終演
 地上部隊への支援砲撃を続けるレイテナ第一艦隊を襲撃したエヴォルグ伍號機『Blaster』……個体識別名称スカルヘッドは、猟兵達により撃破された。
 時を同じくして超巨大戦艦、大和武命を旗艦とする日乃和海軍の増援艦隊が作戦海域に到着。残存する敵勢力の掃討を開始した。一部の離脱を許したものの、大多数を撃破。また、地上部隊も38度線と呼ばれる第一次攻略目標の突破に成功。優勢は人類側に大きく傾いた。

●南へ
 クイーン・エリザヴェートのブリッジを硬く張り詰めさせていた戦時の空気は、緩やかにだが落ち着きを取り戻しつつあった。窓から覗く空は緋色掛かった夕焼け模様で、頭上を埋め尽くしていた緑はもう見当たらない。代わりに警戒監視の目を光らせるイカルガの哨戒部隊が飛び交っている。
「艦長、大和武命から連絡がありました。全ての生存者並びに遺体の回収を完了したとの事」
 通信士の報告にブリンケンは「協力に感謝すると伝えておいてくれ」と応じながら右肩を回した。今日一日で随分凝り固まった気がする。
「まったく白木め……もう少し早う来れんかったのか……」
 司令席ではエリザヴェートが口を尖らせて両足をぶらつかせている。
「仕方ないでしょう。一週間も予定が早まったんですから。むしろ来てくれただけでも奇跡ってもんでしょうが」
 ブリンケンは自分の胸元に目を落とした。偉大なる女王陛下がたっぷり付けていったご褒美が乾燥して嫌な光沢を放っている。帰ったらクリーニング行きだなと胸中で零した。
「報告します。ユニコーンの曳航準備が完了しました」
 曇りを含む航行管制官の声音にブリンケンは目頭を摘む。
「最後の一線で踏み留まったか……イェーガーのお陰だな」
 ユニコーンはEVOLの集中攻撃を受けて艦内外に甚大な被害を被った軽空母だ。しかし猟兵が救援に入った事で辛うじて自沈処理を免れた。
 猟兵とは数十人でこうも戦局を転覆させてしまうものなのか。噂は兼ね兼ね耳にしていたが、いざ目の当たりにすると頼もしくも恐ろしい。ブリンケンは背筋に冷える感覚を味わった。
「イェーガーに本艦への着艦許可を出しておけ。大鳳も負傷者やらなんやらの収容で手一杯になるだろうしな。それに、女王陛下が褒章を賜るそうだ」
「ブリンケンが勝手に言いだした事であろうが!」
 意地悪く視線を送る艦長に女王陛下は黄色い抗議を挙げる。
「言っても言わなくても、彼らがスカルヘッドを落としたのは事実なんですから。功労者にはご褒美を与えるのが女王陛下のお勤めってもんでしょう?」
「ふん……まあ、構わぬ」
 一つ息を吐き出したブリンケンの元に全艦の帰還準備が完了したとの報告が届く。よしと頷いてから肺に酸素を取り込んだ。
「機関始動! 前進微速! 全艦隊、進路をイーストガード海軍基地へ取れ! 帰るまでが作戦だぞ!」
 クイーン・エリザヴェートのエンジンが唸り、巨大過ぎる船体に鈍い振動が伝う。
 一つの演目を終えた鯨達は南へと進む。緋色の海を泡立てながら。

●帰還
 クイーン・エリザヴェートの飛行甲板。幾つもある内の一つに、アークレイズが降着した。傷だらけのスワロウ小隊の隊長機は、同隊のイカルガが集結している場所まで歩行すると、力なく跪いてコックピットのハッチを開放した。パイロットスーツに身を包んだ白髪碧眼の少女が滑り落ちる。
「テレサ……」
 出迎えたのは同じ容姿の少女達。誰かが発した声音は潮騒に飲まれてしまいそうなほどか細い。
「スカルヘッドは撃墜されました。皆さん、お疲れ様です」
 隊長のテレサがやつれた笑みを浮かべるも、隊員のテレサ達は唇を結んだまま神妙な面持ちで押し黙る。スカルヘッドの撃墜に際して支払った代償を慮っているのだろう。
「スワロウ小隊は第二種戦闘配備のままで待機。イーストガード海軍基地に帰還するまで作戦継続中だという事を忘れないでください」
 感情の籠らない言葉を連ねると、了解との無味な応答が返ってくる。
 単機で夥しい犠牲者を生み出したスカルヘッドは倒された。その現実味をテレサは未だ感じられずにいた。そして、スカルヘッドを倒した彼等の存在の実感も。
「イェーガー……」
 振り向いた拍子に声が溢れてしまう。大きく傾いた緋色の太陽に、テレサは目を細めた。

「んあー! めっちゃ疲れたー!」
 両手を上げて背中を伸ばす栞奈。白羽井小隊と灰狼中隊が帰ってきた大鳳の飛行甲板上は、来たときよりも賑やかさを増しているようにも思えた。
「大勢が亡くなってしまわれましたわね……レイテナの方々は……」
 那琴は甲板に並べられた人間大の袋に憂う目を落とす。死が戦場の常だと知っていても、悲しいと思う気持ちを捨てられるほど出来た人間になれそうには無い。胸中に押し留めながら人知れず瞼を閉じる。スカルヘッドに対する戦いを共にしたスワロウ小隊の隊長――スワロウ01はもっと悲しいだろうに。辛いだろうに。
「ナコぉ~、シャワー浴びにいこ~」
「残念だけどそいつはお預けだよ」
 栞奈が那琴の手を取った途端、奥から伊尾奈が歩いてきた。背景では緑の返り血をたっぷり浴びたアークレイズ・ディナが膝を折って駐機している。
「えー? まーだなんかあるんですかぁー?」
 那琴の手を離した栞奈が深くうなだれた。
「アタシらのボスが帰るまでが遠足だとさ。ま、もう暫くお互い汗臭いままでいようじゃないか」
 冗談なのか本気なのか定かではない伊尾奈に那琴は苦く笑う。されど伊尾奈の額から伝う汗を見て、冗談ではないらしい事を察し、やはりこの人は自分と同じ生き物なのだと安堵した。
「尼崎中尉は何体撃墜しましたの?」
「さあね? 3から先は覚えちゃいないよ」
 不死身の灰色狼と畏れ敬われようとも、中身は自分と変わらない。戦えば疲れるし汗もかく。腹だって減る。出来る事は出来るし、出来ない事は出来ない。
 でも彼等は――猟兵は違うのだろう。今日だってそう。自分たちのような常人には及びも付かない戦いを極平然とやり遂げてしまった。彼等に出来ない事などきっと無い。かつてはそんな猟兵達に憧れを転じて嫉妬を抱いた自分も在ったが、今はもう居ない。
「敵いませんわね」
 寂寥の微笑が漏れる。猟兵の生きている世界と見えている世界は、自分達のそれらとは全く違うと知ってしまったから。
 凪ぐ海は緋色に染まる。大鳳と三笠もまた、鯨達の航路を辿った。

●幕間
 レイテナ第一艦隊は、東アーレス半島最南端に位置するイーストガード海軍基地を目指して帰還の路に就いた。
 既に戦闘は終結し、周辺海域に敵の反応は無い。万が一の事態が生じたとしても、大和武命を旗艦とした日乃和海軍の増援艦隊が護衛に当たっている。またスワロウ小隊と白羽井灰狼両隊も緊急出撃が可能な状態を維持して待機中だ。
 イーストガード海軍基地に到着するまで、猟兵達には空白の時間が訪れる。使い方は様々であろう。
 居住区画を間借りして休息を取るのも良し。格納庫施設で機体の整備や補給を済ませておくのも良し。許可された範囲内で大鳳艦内を散策しても良いだろう。身体が傷付いているならば治療も受けられる。
 まだ働き足りないというのであれば負傷者の救護や遺体の整理を手伝えない訳でも無い。油断大敵を座右の銘とするなら哨戒任務の役を買って出る事も可能だ。
 クイーン・エリザヴェートに用事があるのならば着艦許可が降りている。大和武命にしても同様だ。
 そして必ずしもいずれかの艦に便乗していなければならない訳ではない。他所の格納庫に入れるのも慎まなければならないほどに重大な機密を抱えている機体もあるかも知れない。自前の艦艇を保有している猟兵だっているだろう。いずれにせよ過ごし方は猟兵それぞれだ。
 穏やかに波打つ海を燃える夕日が緋色に輝かせ、吹き抜ける向かい風は潮の香りを孕む。長く激しい重奏を終えた鯨達が往く。主演を担った猟兵達に、微睡みへ誘うような幕間が訪れた。
ティー・アラベリア
それでは、|アフターケア《ひざまくら》をいたしましょうか。
安楽死……?いえ、この機能にそのような需要があることも承知していますが、今回は慈悲の一撃に使う弾は豊富でしょう。
治療の対象は“戻ってきた”方やその周辺にいらっしゃった方々です。
生体キャバリアの部品から人間に戻るという経験は、その後の人生を苦痛に満ちた物に変える得る類の経験でしょう。
残りの人生をフラッシュバックの苦痛に怯えながら過ごしたがる方は少ないかと思いまして。
苦しみの原因を取り除き、精神の均衡を整えて差し上げようかと。

ただ、ボクの機能について不幸な誤解が広まっている事も承知しております。
そのため、医官の方が必要と認めた場合、命令という形で移送いただきたいのです。
患者様のプライバシーを損なわぬ限りにおいて、監視をおいていただいても構いませんよ。

さぁ、カウンセリング場所として落ち着ける場所を用意しませんとね。
勿論、ほかの方々も歓迎いたします。所詮は人ならざる人形でございますから。悩みや不安を吐き出す場所としては丁度良いかと。



●ひざまくら
 以下はティー・アラベリアの施術を受けた、レイテナ第一艦隊所属のキャバリアパイロットより、とある記者が聞き取った内容である。

 鯨の歌作戦の事は……あんまり思い出したくないんだ。そりゃあ窮屈な塹壕で臭い泥水啜って戦うような戦場じゃ無かった。こちとら腐ってもパイロットだからな。電気臭い操縦席に座ってられるってだけで恵まれてちゃあいる。だけどそういう嫌な思い出ってわけじゃない。空が緑色だったんだよ……アンタは見たことあるか? あの羽を生やしたバケモノモドキのキャバリアが俺たちの頭の上に雲を作ってたんだぞ? 鳥の群れどころじゃない。イナゴの……蝗害? それだ。そこら中どこを向いても怪物だらけ。そいつらが突っ込んでくる。船に張り付いてくる。切っても撃ってもキリが無い。俺はあんなのは戦争だなんて思えない。クソ食らえだ。
 だが俺だって必死に戦った。アンタが俺をどう見てるか知ったこっちゃないが、これでも何度も死地を潜ってる身だからな。その位の根性はある。けど結局奴等の数には敵わなかった。隊の仲間が次々に落とされて……そのまま死ねる奴はまだマシさ。人喰いキャバリアの中には、生き物でも金属でも侵蝕しちまう奴がいるんだ。EVOLのミサイルにはその侵蝕する能力があるんだ。それで、俺のイカルガはミサイルを避け損なって食らっちまった。
 機体が侵蝕されるとどうなるか知ってるか? まずは機体の制御系がやられる。操縦した通りに動かなくなるのさ。奴等、バケモノみたいなナリをしちゃいるが、そういうところはちゃんと理解してるんだ。やっぱり兵器なんだろうな、人喰いキャバリアって。
 機体を侵蝕した後はどうすると思う? パイロットを狙うんだ。パイロットが必死に操縦桿をガチャガチャやってる内に、今度はコクピットの中に入り込んで来やがる。戸締まりなんて関係ない。どうやってるのかは知らないが、緑のスパゲティみたいなのが小さな隙間という隙間から入り込んでくるんだ。そいつらが体中の穴から……或いはパイロットスーツを貫通して中に入ってきやがる。すると人の体内に妙な汁を注入し始めるんだ。
 アンタに分かるか? 自分の身体の中が溶かされて、ちょっとずつ別の生き物に作り変えられて行く感触が。あの気色悪さったら……身体の中であのスパゲティみたいなのが動き回って……いっそ頭を吹っ飛ばして死ねれば楽なんだが、手足が自分の意識で動かせないからどうにもならない。なのに、どういう訳か、意識と感覚ははっきりしてるんだ。
 でも時間が経つにつれてだんだんと暗く、静かになっていくんだ。これで俺も怪物共の仲間入りか……人間死ぬ間際って意外と落ち着いてるもんなんだな。前置きが長くなったが、本題はここからだ。
 巻き戻った……としか言えない。身体の中が溶かされて作り変えられる感触も、コクピットに入ってきた緑のスパゲティも。それから音が……音がしたんだ。硝子が砕ける音……だったと思う。バリーン! って。凄い数のガラスが割れた凄い音だった。その音で俺は目が覚めたんだ。そしたらイカルガのコクピットの中だった。
 居眠りでもしてたのかと思ったさ。緑のスパゲティもいないし、アラームも鳴ってない。さっきまでのは全部夢だったんじゃないかって。だけど周りを見たら、戦闘はまだ続いているし、まるで訳が解らなかった。
 解らないのはそれだけじゃない。俺以外の隊員も同じだったんだ。侵蝕された奴が戻ってきたんだ。これは後になってから知ったんだが、猟兵のティー・アラベリアがユーベルコードを使ったらしい。何なんだろうな、猟兵って。
 その後は……よくわからない。足元がフワフワしたまま、ずっと戦い続けていたんだと思う。気付いたら日乃和の増援艦隊が来て……戦闘は終了した。
 母艦に着艦したら救護班に囲まれて、担架に乗せられて、パイロットスーツをひん剥かれて、患者衣を着せられて……どれもこれも現実味が無かった。だって俺は人喰いキャバリアに侵蝕されたんだぞ? 侵蝕された奴は人喰いキャバリアの仲間入りになるか、仲間が慈悲をくれてやるしかないんだ。この時はまだ夢の中にいるみたいだった。
 それからクイーン・エリザヴェートに運ばれたんだ。俺以外にも結構な人数が乗っていた。みんな同じ格好をしてたな。まるで魂が抜けたみたいな顔をしてて……多分俺も同じ顔だったと思う。輸送機の中で医官だか看護師だかが、ティー・アラベリアがどうのとか言っていた気がするがよく覚えてない。
 船に着いたらみんな仲良く艦内に連れて行かれた。するとまた俺と同じような連中と出会ったんだよ。何十何百……とにかく大勢。広い医務室みたいなところで名前を呼ばれるまで待っていろって言われたんだが、部屋から溢れて通路も埋まってた。
 ここで気付いたんだ。こいつら、俺と同じで戻ってきたんだなって。
 侵蝕されて戻ってきたって事で良くて検査か、最悪解剖でもされるのか……そんな事を考えてたと思う。この時はまだ猟兵の事もユーベルコードの事も知らなかったからな。だが不思議と逃げる気になれなかった。夢だと思ってたのかも知れないし、ぼーっとして頭が回らなかっただけかも知れないが。
 言われた通りに待ってたらさ、一人ずつ名前を呼ばれるんだよ。病院の診察を受ける時みたいに。呼ばれた名前の中には俺と同じ隊の奴もいた。そして俺の名前が呼ばれた。
 看護師に連れて行かれて……通路を進んで……部屋に入るように言われたんだ。尋問室みたいな部屋だった。殺風景で、薄暗くて、狭くて。部屋の真ん中に、病室で使うようなベッドが一台だけ置かれてた。
 そのベッドの上に居たんだよ、あいつが。
 人形みたいな|女の子《●●●》だった。小綺麗なエプロンドレスを着てて……アリスって知ってるよな? そう、おとぎ話の。そいつだ。それみたいな服を着てた。
 アンタも想像してみろよ。薄暗い尋問室みたいな部屋の真ん中にベッドが一つ置いてあって、そこにエプロンドレスを着た|女の子《●●●》が座ってるんだぞ? 青いガラス玉みたいな目をニヤニヤさせて。不気味じゃないか?
 そしたらそいつが言うんだ。ボクはティー・アラベリアですって。
 ボクのユーベルコードで戻ってきた方々を対象に治療がどうとか、カウンセリングがどうとか……色々言ってた気がするが、医官の名前を出した辺り、少なくともタチの悪いホラー映画の収録じゃ無かったらしい。
 俺の頭はまだボケっぱなしだったが、ティーが言ってる事は何となく理解出来た。要は俺みたいにおかしくなっちまった奴等を治療してくれるって事だったんだろう。
 少しほっとしたけどな。頭をくり抜かれたり、魚みたいに開きにされる訳じゃ無いって。
 だけどな……治療が……はじめはカウンセリングが何かをするもんだと思ってたんだ。先生と向かい合ってお喋りするアレだな。だけどそいつは……ティーはどうしたと思う?
 ベッドに腰掛けたまま、膝を叩いてたんだ。ぽんぽんって。正確には太腿か?
 意味が解らなくて突っ立ってたらティーが言うんだよ。こちらにどうぞって。
 いやこちらにってどちらにだよ? 膝に頭でも載せろってのか? 聞く前にティーが言ったんだ。頭をこちらにってな。
 馬鹿にしてるのかと思うだろ? 俺も思った。でもティーはずっと俺の目を見たまま膝を叩いてるんだ。ぽんぽん、ぽんぽん。頭をこちらにどうぞ。ずっと同じ動作を言葉を繰り返しながら。
 するとだんだんと……こう……吸い寄せられていくような感じがして……どうしようもなく眠い時、すぐにでもベッドに潜り込みたくなる時ってだるだろ? それと同じ気持ちが湧いてきたんだ。変態だと思うか? 悪いが俺には|児童性愛《ペドフィリア》の趣味は無くてな。なのに、だ。あのティーとかいう|女の子《●●●》の膝が、どうしようもなく……魅力的に思えて? 違うな……とにかくティーの膝に頭を乗せたくなっちまった。
 いつの間にか、俺はティーに膝枕されてたんだ。
 するとあいつが耳元でこう囁くんだよ。怖かったですね、痛かったですね、頑張りましたね、偉い偉い。子供を寝かしつける母親みたいに、掠れた小さな声でよ。
 もう一度念のために言っておくが、俺は特殊な性愛者じゃない。だけどティーの声はとても……心地よかったんだ。脳が蕩けそうなほどに。
 でも不思議なもんで、ティーが囁く度にボヤケてた頭がハッキリしてくるんだよ。そして思い出しちまったんだ。人喰いキャバリアに侵蝕される瞬間の記憶を。
 途端に夢から覚めたみたいになってよ、パニックを起こして暴れそうになっちまった。だけどティーは頭を撫でながら言うんだよ……大丈夫、大丈夫って。そしたら頭がすっと冷えてな。
 あいつの身体……陶器みたいな変な匂いだった……だがその匂いがかえって落ち着いて……太腿の感触もおかしかったな。人肌なんだが、肌の奥にこれまた陶器が詰まってるみたいでさ。レプリカントだったのかもな。
 どれ位の間そうしてたか解らないが、頭が冴えきって心も落ち着いた頃、ティーがもう平気ですね? って聞いてきたんだ。俺は漸くあいつの膝から頭を上げて身体を起こした。なんでかは解らんが、自分でも元通りになったと思ったんだ。
 部屋を出る時に振り向いたんだ。ティーはニヤニヤしながら手を振ってた。俺を見るあの青い目……ガラス玉みたいだった。
 ティーが猟兵だった事や、ユーベルコードで俺達を戻した事を知ったのは結構後になってからだったな。日乃和の暁作戦の時、膝枕で命を吸ったって噂を聞いた時はゾッとしたが。まあ少なくとも俺は生きてるが。これが夢じゃなければな。
 その後? ご覧の通りさ。原隊復帰して人喰いのバケモノどもと毎日元気に乳繰り合ってるよ。昨日は10体は殺したな。
 だがな……時々出るんだよ。夢に……あの|女の子《●●●》が。
 夢の中のあいつは、俺を膝枕してこう言うんだ。
 よく頑張りましたね。えらいえらいをして差し上げますって。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『強敵だった…そして最後、現れたあの女もてきってことか…』
戦闘記録を【情報収集】、分析しながら機動戦艦『天龍・改』の格納庫でキャバリアを整備していくぜ
『今回の作戦…まだまだ嫌な感じがぬぐえないが…やりきるしかなさそうだ」



●振り返り
 大鳳達と共に帰路を辿る天龍・改。夕日を映すオレンジ色の海を船の舷側が割り、その船尾から生まれる白い泡が、凪の水面と混じり合って舞い散る。泡は小さな揺らめきを広げ、大きな船影と共に航海の奇跡を優雅に刻みだしてゆく。
 天龍・改の腹の中に広がる格納庫では、片腕を丸ごと喪失した満身創痍のコスモ・スターインパルスがキャバリアハンガーに安置されていた。センサー類の灯は落ち、動力炉は静まり返っている。保護用のシートが被せられている辺りからして、この場で出来る応急処置は完了したのだろう。
 開け放たれたままのコクピットハッチの奥の暗闇に、モニターが放つ薄い青が灯る。訝しい面持ちで画面に向かい合うガイを亡霊の如く浮かび上がらせていた。
「強敵だったな……」
 顎を手で掴みながら呟く。モニターの中で動き回るのは、頭頂部から銃器を生やした髑髏頭の黒いキャバリア……スカルヘッド。先程の戦闘で無理を強行して漸く一太刀浴びせた相手だ。記録映像の中のスカルヘッドも、自分の記憶の中に残るスカルヘッドも、兎に角早かった。
 接近戦闘時は一瞬でも目を離せば視界から消える、まさに亡霊のような機動。間合いという概念を明らかに理解し、適時適切に距離を調整してこちら側に不利を強いる。
 ガイも人喰いキャバリアとの付き合いが長い部類に入る猟兵だが、スカルヘッドのような個体と交戦した経験は記憶に薄い。一応暁作戦でchopperというエヴォルグと交戦したが……奴からはスカルヘッドほどの知性は感じられなかった。
 そう――スカルヘッドからは知性を感じた。人間臭い知性を。
「そして最後、現れたあの女も敵ってことか……?」
 映像の中で撃墜されたスカルヘッドが海面に浮かび上がり、内部から少女が現れた。恐らく知性の根源はこれなのだろう。
 銀髪で碧眼、豊かな双丘。落ち着いた環境で映像を何度も再生する内にガイの中で芽吹いた疑惑は確信に変貌する。
「どう見たってこいつ、スワロウ小隊のテレサ・ゼロハート少尉だよな」
 映像の隣に別枠を開き、部隊表の記録から参照可能なテレサの容姿を表示した。世の中には似た人間が三人は居るとは言うが、纏う雰囲気とパイロットスーツのデザイン以外は完全に一致しているようにしか思えない。より精査すれば差異が見付かるのかも知れないが。
 スカルヘッドを撃墜したら、中からテレサ少尉のそっくりさんが出てきた。
 現状の手持ちの記録を洗って出てきた情報はここまでだ。
「今回の作戦……まだまだ嫌な感じが拭えないが……やりきるしかなさそうだ」
 底知れぬ暗闇の空洞が開いたかのような不穏を感じながら、ガイはモニターの電源を落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シルヴィ・フォーアンサー
クイーン・エリザヴェートに着艦

……腕吹っ飛んじゃったね。
『勝利のための必要経費と思えば安いものだ、もう戦闘もないだろうしな……ところで機体内に引きこもってる気かね』

知らない人いっぱいで怖いし……ここが落ち着く。
『休息には不向きだと思うがね、食事も必要だろう』
昔はボロ部屋で生活してたしキャバリアの中の方がマシじゃない、
ご飯はユーベル・コードで(普通にデリバリー頼むのも嫌がりユーベル・コードで済ませる娘)

というわけでアマテラスのごとく外に出たがりませんw
機体から出てこないパイロットがいると聞いたエリザヴェート(別NPCでも可)に引きずり出されたり(誰とも接触しないのも寂しい、コードは使いたかった)



●デリバリーサービス
 イーストガード海軍基地へ向けて航行を開始したレイテナと日乃和の艦隊。いずれの艦隊の空母の飛行甲板上は出撃前よりも慌ただしく騒々しい様相を呈していた。
 理由としては幾つかの事情が挙げられる。着艦したキャバリアは勿論、小破なり大破なりして引き上げられたキャバリア、病室をはみだして通路にさえ収まりきらず、露天で寝る羽目になった負傷者、規則正しく並んでいる遺体など。
 どこの空母の甲板上も等しく賑やかで人に溢れていた。勿論クイーン・エリザヴェートの幾つかある甲板も例外ではない。
「……腕吹っ飛んじゃったね」
 隅っこで隠れ潜むように跪いて駐機するミドガルズの中でシルヴィが呟く。機体のコンディションを示すモデル上で、片腕が喪失を示す灰色に転じていた。ついでに推進剤の残量も赤くなっている。
『勝利のための必要経費と思えば安いものだ、もう戦闘もないだろうしな』
 粛々淡々としたヨルムンガンドの物言いは正論だった。実際、支払われる成功報酬で賄って余りある損失だろう。
『ところで、ずっと機体内に引きこもってる気かね』
「外、知らない人いっぱいで怖いし」
 シルヴィは膝を抱えて身体を丸めた。
『休息には不向きだと思うがね』
『別に……昔はボロ部屋で生活してたし、キャバリアの中の方がずっとマシ』
 伊達に犯罪組織で奴隷として扱き使われていない。壁があって床がある。雨漏りもしなければ嵐で吹っ飛んだりもしない天井だってある。嗚呼、なんと良い空間であろうか。キャバリアの操縦席は素晴らしい。
『食事はどうする?』
「ユーベルコードで済ませる」
 なんという事だろう。シルヴィはコール・デリバリーを使用する事で、一日三回という制限付きではあるが食事を調達する事が可能なのだ。外の世界に飛び出して怖い思いをしなくとも、このミドガルズのコクピットだけで食事は完結する。そしてシルヴィはユーベルコードを発動した。
 するとコクピットハッチがノックされた。
 二回三回とノックが続く。ピンポンダッシュの類いでは無いらしい。
『客人が来たぞ』
 ヨルムンガンドがコクピットハッチの外の様子をモニターに出力した。ノックしているのは白髪碧眼の少女だった。着ているスーツからしてパイロットである事に間違いは無いらしい。
「……誰?」
『照合完了。レイテナ・ロイヤル・ユニオン統合陸軍スワロウ小隊所属、同隊隊長のテレサ・ゼロハート少尉だ。コールサインはスワロウ01』
 テレサは恐る恐るといった様子で閉ざされたコクピットハッチを眺めている。シルヴィは困惑した。
「何の用?」
『貴官の行動の意図の説明を要求する』
「ひえっ」
 代弁したヨルムンガンドの合成音声に不意打ちを受けたテレサの両肩が跳ねる。
「コクピットから出てこないイェーガーが居るって聞いたので、安否を確認しに来たんですけど……」
『回答する。ミドガルズのパイロット、シルヴィ・フォーアンサーの生体機能は正常。また機体並びにスーツの生命維持機能は正常に稼働中』
「そ、そうですか」
 わざとやっている無機質なヨルムンガンドの応接にテレサは若干引き気味になっている。意地悪するんじゃないと含めてシルヴィはコンソールを叩いた。
「それとこれ……お腹空いてたら、どうぞ」
 テレサがA4サイズのパックをコクピットハッチに向けて突き出す。
「……レーション?」
『ユーベルコードの能力通りに食事が運ばれてきたようだな』
 コール・デリバリー……それはキャバリアのコックピットの中にいる間、1日3回食事が運ばれてくるユーベルコード。今回食事を運んでくる役はテレサだったらしい。
『それで? どうする?』
 シルヴィはモニター越しにレーションのパックを見詰め、暫く押し黙った後にコクピットハッチを開放した。
「ん……」
 シルヴィが手を前に出す。テレサの顔に困惑が浮かんだ。
「ん!」
 少し凄んで身体を前に出す。
「あっ……どうぞ!」
 すると察したテレサが身を乗り出して腕を伸ばした。シルヴィがレーションのパックを掴む。テレサが下がるのと同時にコクピットのハッチが閉ざされた。
『やれやれ』
「なにが?」
 嫌味っぽく嘆息するヨルムンガンドに低い声で尋ねると『なにも?』と素っ気なく返された。シルヴィはレーションの封を切って中身を覗く。ビスケットやエナジーバーの他、肉のシチューが入った小袋や粉末飲料等が詰まっていた。
「ミューズリー……なにこれ?」
 馴染みの無い名称が記載された小袋を手にとって疑わしく眺める。
『オートミールの一種だ。食べるには水が必要だ』
 そう言えばさっきの子、水はくれなかった。でも外には出たくないし……でも経口補水液を掛けて食べるのはちょっと……シルヴィは諦めてビスケットの袋の封を切った。分厚くて大判なビスケットが数枚入っている。食いでがありそうだ。一口齧る。
「味がしない……」
『当然だ。付属のフルーツジャムやチョコレートクリームを付けて食べるものだからな』
 きっとこれが労働の味なのだろう。シルヴィは沁み沁みと咀嚼して飲み下した。口の中の水分が全部持っていかれた。
「お冷はセルフサービス……か……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
……経費の積算は終了。出撃報酬と撃破報酬は自動算出のまま……
こんなものですか。けっこう安く上がりましたね。
これは今まで取り過ぎた分から差し引くとして、
今回の報酬は日乃和政府に全額叩き返しましょう。

まあ、日乃和に恨みがあるわけでもないのですが。
面倒なことです。ともあれ。

時間も空いたので、スワロウ01に会いに行きましょうか。
スカルヘッドのパイロットに心当たりがあるかを確認しませんと。
身元はもちろん、その知見がどこで得たものかも、問題の一つですし。

スワロウ小隊機の撃破と同時に動きが止まったのは、
縁ある者を自ら討ってしまったからでしょうか?
それとも――蓄積情報の転送を受けたから?

あなたはどう思います?



●聴取
 クイーン・エリザヴェートの甲板に着陸したエイストラ。バイブロジェットブースターの毎分数千回振動する翅から発する喧しい振動音が急速に遠のく。誘導棒を振る甲板要員の案内に従って駐機位置にまで足を進める。ノエルは電気信号を介してエイストラに駐機を命じると、機体は膝を折って姿勢を屈め、跪く格好となった。
「こんなものですか。けっこう安く上がりましたね」
 サブウィンドウ内の出撃報酬と撃破報酬の数字に緑の瞳が向かう。数字からして算出設定が途中でおかしくなったような気配は見受けられない。
「これは今まで取り過ぎた分から差し引くとして、今回の報酬は日乃和政府に全額叩き返しましょう」
 独り零す。誰が誰と交渉して設定しているのか不明瞭な、不自然に高額な報酬に対する愚痴だったのだろうか? 知る者はいない。ノエルの考えが及ぶ所はノエルにしか解らないのだから。
「ともあれ……」
 サブウィンドウを閉じてメインモニター上に目を巡らせる。センサーカメラが取り込んだ光景にアークレイズは……居た。ノエルはスワロウ小隊の隊長に用事があった。緊急出撃に備えて待機命令を下されているらしいから、機体の中か近くには居るのだろう。余計な邪魔が入らない内に済ませたいと、ノエルはコクピットハッチを開放した。モニターの出力が切れて薄暗くなった空間に、オレンジ色の夕日と潮気を含んだ海の風が一気に入り込んでくる。
 コクピットを滑り落ちたノエルは足早にアークレイズへと向かった。
「スワロウ01……テレサ・ゼロハート少尉ですね?」
 長い白髪を風に流す背中に声を投げる。
「はい? そうですが……あなたは? エイストラの?」
 振り向いたテレサの顔立ちは、纏う空気こそ違えどスカルヘッドのパイロットと瓜二つだった。
 それにこの匂いは恐らく自分と同類――レプリカントだ。
「ノエル・カンナビスです。いくつかお尋ねしたいのですが」
 向かい合ったテレサは「お答えできる範囲でよければ……」と躊躇いがちに応じる。どうやらノエルが親睦を深めに来た訳でも丁寧に挨拶をしにきた訳でも無い事は理解してくれたらしい。ニンジャではあるまいし。
「スカルヘッドのパイロットについてお尋ねします」
 ノエルは単刀直入に切り出す。テレサは尋ねられる予見があったのか、動じるでもなく唇を結んで緑の瞳を見返した。
「他人の空似とするにはスワロウ01と似過ぎていたように思いますが、心当たりは?」
「あくまで私の憶測に過ぎませんが……私と同じテレサ型のレプリカントじゃないかと」
 慎重な言葉運びには、あまり真に受け過ぎないでくれと前置きが含まれていた。
「テレサ型レプリカントとは?」
「ゼロハート・プラントで発見された、私と同系統のレプリカントの総称です」
「ゼロハート・プラントは暴走状態にあるのでは?」
「回収されたのは暴走するよりも前でしたので……」
「同系統、総称と言っていましたが、テレサ型レプリカントは複数体存在しているのですか? ああ、スワロウ01を含むスワロウ小隊に配属中の個体以外にもという意味です」
「はい。総数は私にも分かりませんが……百? 或いは千以上は……」
「それらは現在どちらへ?」
 テレサは首を横に振る。
「私達と同じく戦線に投入されているわた……個体もいますし、実験や研究に使用されたり、繁殖用に保管されている個体もいます。既に死ん……消耗してしまった個体も数多くいますが……」
 全部は把握し切れていないと言い淀むテレサにノエルは双眸を細める。
「ではレイテナはゼロハート・プラントから回収したレプリカントを様々な分野で利用していると?」
 リスク管理が杜撰過ぎるなと視線で投げ掛けた。
「仮にスカルヘッドのパイロットが本当にスワロウ01と同系統のレプリカントだったと仮定して、テレサ型レプリカントの運用に伴い生じる危険性に想像が及ばないものなのでしょうかね? ましてや現在暴走状態にあるプラントが生産したレプリカントです。何らかの条件を切っ掛けに人の制御を離れ、人喰いキャバリアのように暴走し始めない保証があるのですか?」
 敢えて棘を立てた言葉を並べる。テレサは苦笑を紛れさせながら応じた。
「私が知り得る限りですけど、有人制御の人喰いキャバリアは今まで発見されていなかったので……私自身も驚いているんです。スカルヘッドを人が操縦して動かしていたなんて……テレサ型レプリカントの運用を決定した経緯にはあまり詳しくありませんが、戦闘適正の高さが理由の一つだったと聞いたことがあります」
 ノエルが緩慢に瞬く。嘘ではあるまい。ユーベルコードを自由自在に使用可能な猟兵と比較は出来ないが、常人と比較すると戦闘能力は明らかに標準値以上どころの話しではなかった。スカルヘッドの機動に対応していた時点で疑う余地は無い。
「暴走の恐れに関しても私からは絶対に無いとは言えませんけど、必要な検査措置を受けているので大丈夫かと……それに、安全装置も入っていますから」
「安全装置?」
「心配されているような万が一が起こった際に、処理する為の装置です」
 ああ、そういう事か。ノエルは鼻孔から息を抜いた。
「大きく話しが逸れてしまいましたが、もう一度確認します」
 テレサが促すように浅く頷く。
「スカルヘッドのパイロットは、スワロウ01と同系統のテレサ型レプリカントの可能性がある……といった認識でよろしいですか?」
「はい。あくまでも私の憶測ですけど……」
 自信無さ気にテレサが俯く。検証と裏取りの手段が無い以上、スワロウ01がこういった見解を示していたという情報以上は得られまい。その点はノエルも重々承知していた。
「ではもう一つ。戦闘中に何度か、スワロウ小隊機の撃破と同時に動きが止まっていたように見えましたが」
 一瞬だけ目を見開いて顔を背けたテレサの様子をノエルは見過ごさなかった。つまりは肯定だ。
「理由は縁ある者を自ら討ってしまったからでしょうか? それとも……蓄積情報の転送を受けたから?」
 確信染みた推測を投げ付ける。テレサは暫し沈黙した後に口を開いた。
「両方です。お察しの通りに私……達、テレサ型レプリカントには、生体機能が停止した際に付近の同じテレサ型レプリカントに記憶情報を転送する機能があるんです。なので……」
 無人機にはよくある……とまでは言わずとも希によくある話しだ。やはりテレサもゼロハート・プラントが生み出した戦闘端末の一部なのだろう。ノエルは言葉選びに淀む続きを頭の中で補完した。
「そうですか。お尋ねしたい事は以上です。それでは」
 短く切り上げて踵を返す。
 背中に視線を受けながら、ノエルはエイストラの元へと戻った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
那琴さんたちは大丈夫そうですね
ならばわたくしは、心揺らぐ者の心を

はじめまして
わたくしはフレスベルク・メリアグレース
メリアグレース聖教の教皇です
この度はわたくし達に加勢していただき、感謝の極みです

エリザヴェート陛下は、バーラントの拡大阻止の為にゼロハートを確保するのですね
いえ、わたくしはゼロハートには興味がありません
あるとすれば、バーラントの行く先…そしてこの大陸に『猟兵の敵』がどう暗躍するか…それですね
それを見定めた果てに行動するのがわたくしの目的…
今のエリザヴェート陛下となら、同道出来るはずでしょう
そう言って小柄ながらも淑女の笑みと振る舞いで対応する



●謁見
 レイテナ全海軍の旗艦を担うクイーン・エリザヴェートは、重大な水上戦力であるのと同時に、政治戦略的価値も持つ。冠した名に違わずレイテナ女王の専用艦で、移動する王宮を兼ねる。
 故に外観にも気を配らなければならなかったのだろう。軍艦にしては優雅が過ぎる加飾は艦内にも及ぶ。
 特にブリッジは豪華絢爛であった。最新鋭の設備の数々と戦いに不必要な調度が共存し合う空間はどこか歪な空気すら醸し出していた。
「改めて御初にお目に掛かります。わたくしはフレスベルク・メリアグレース……メリアグレース聖教の教皇です」
 謁見の場に指定されたクイーン・エリザヴェートのブリッジにて、フレスベルクは慣れた身のこなしで嫋やかに膝を曲げて首を浅く下げた。
「くるしゅうない。妾はエリザヴェート・レイテナである。其方も知っての通り、このレイテナ・ロイヤル・ユニオンの偉大なる女王じゃ」
 司令席でふんぞり返るエリザヴェートが無い胸を張る。
「外界の教皇か……日乃和伝手で噂には聞いていたが……」
 艦長席の横に立つ薄い髭面の中年男性が顎をなぞる。彼が言う外界とはアーレス大陸の外の国を指す。
「クイーン・エリザヴェートの艦長、ブリンケン・ベッケナー大佐です。作戦の協力に感謝します」
 砕けた口振りだが、身から放つ気配は軍人のそれだ。このブリンケンという男はどうもエリザヴェートの腹心らしい。そうとフレスベルクは看破した。
「この度はわたくし達に加勢していただき、感謝の極みです」
「いや、加勢して貰ったのはこっちの方ですが……よくぞスカルヘッドを叩いてくださいましたな」
 ブリンケンから向けられた社交辞令の微笑に愛想笑いで応じる。
「して妾に話しとは何じゃ?」
 フレスベルクは自分よりも小さな暴君と目線を重ね合わせてから口を開く。
「エリザヴェート陛下は、バーラントの拡大阻止の為にゼロハート・プラントを確保するのですね?」
 口運びは穏やかに、しかし勿体振らずに直に切り込む。ゼロハート・プラントの名を出した途端、エリザヴェートの眉間が露骨に険しくなった。
「メリアグレースもゼロハート・プラントが欲しいのか? ダメじゃ。あれは妾達のものじゃからな」
「いいえ、わたくしはゼロハートには興味がありません」
 疑り深く顔を顰めるエリザヴェート。隣でブリンケンが「ほう?」と小さな声を漏らした。
「興味があるとすれば、バーラントの行く先……そしてこの大陸に猟兵の敵がどう暗躍するか……」
「イェーガーの敵というと……オブリビオンマシンですか?」
「ご存知なのですか?」
 尋ねるブリンケンに尋ね返すと、何とも曖昧な顔をされただけだった。無理もあるまい。仮にオブリビオンマシンの存在を知識として得ていたとしても、猟兵以外の者では知覚する事さえ出来ないのだから。
「それを見定めた果てに行動するのがわたくしの目的……」
「本当かぁ?」
 まるで信じられないという目付きと声を隠そうともしないエリザヴェートにフレスベルクは淑やかに努めて微笑み掛ける。
「今のエリザヴェート陛下となら、同道出来るはずでしょう」
「こちらとしても、今後とも敵同士にはなりたくないもんですな。ね? 陛下?」
 ブリンケンが目を投げるとエリザヴェートは「それは当然じゃろうが」と鼻を鳴らした。
 小柄な教皇は昼下がりの陽光のように柔らかな笑みを作る。
 メリアグレース聖教の教皇とレイテナの女王。目的は違えども、興味の有無は違えども、両者が進む道の終着点ではきっと大きな空洞が――ゼロハート・プラントが口を開けて待っているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【POW】
絡み・アドリブ歓迎
引き続き護衛艦隊を展開し、艦隊周辺の警戒を行うと同時に航行不能艦艇の曳航も行います。
サテライトドローン群による通信・観測網を継続して維持し、周辺海域の索敵と未発見の行方不明者の捜索を行います。
行方不明者を発見したらサプライドローンで回収し、機内で医療用リモート義体による応急手当を行いつつ大鳳へ移送します。
適当な所で今回の戦闘記録の纏めを持ったリモート義体を大鳳に向かわせ、
葵艦長への報告がてら、日乃和、レイテナ両艦隊の状況確認と情報収集をします。
艦載機とキャバリア隊は艦隊周辺に展開して直掩を継続。
行方不明の陰気な猟兵を発見したら速やかに回収、「海産物」扱いで大鳳へ移送



●後片付け
 イーストガード海軍基地へ向けて転進し、南下を開始したレイテナ第一艦隊。艦隊の端で遠慮がちに大鳳と三笠が続く。更にその後にはホバークラフトで海面を沸き立たせる千歳の愛鷹が続き、後ろにはロープで繋がれたニューカッスルが曳航されている。機関部に損傷を受けて自力での航行が困難になったからだ。
 周囲にはユーベルコードで生み出した護衛艦が規律正しい戦列を作って防空監視の網を敷く。加えて艦隊内外に放ったサテライトドローンの目もあるし、艦載機とキャバリアがローテーションで防空に当たっている。そして日乃和海軍の増援艦隊が外縁を固めるこの布陣では、スカルヘッドと言えども万が一を起こす事は並大抵の所業ではないだろう。
 鳥一匹さえ通さない万全たる網に掛かった反応は今の所は無い。お陰で千歳は回収した負傷者の応急処置に専念出来た。
 処置を終えた負傷者を運ぶため、愛鷹と大鳳の間を幾度も往復するサプライドローン達。最後の負傷者と共に千歳のリモート義体が大鳳へと向かう。
 久々に訪れる事となった大鳳の艦橋では、通信士と甲板管制官が最も慌ただしくしていた。艦長の結城はと言うと、相変わらずマイペースな身の振る舞いで甲板上での作業を見守っている。お陰で千歳としては戦闘記録を纏めた資料を渡し易かったのだが。
『これで愛鷹が回収した負傷者並びに遺体の搬送は完了しました』
「ご協力に感謝申し上げます」
 千歳の粛々かつ事務的染みた報告に、結城は蠱惑的な笑みを作って緩慢に首を下げる。
『日乃和海軍の状況は如何に?』
 尋ねた千歳に結城は「依然変わりなく」と答えるに留まった。と言う他に無かったのだろう。監視ドローン群からリアルタイムで送られてくる映像からしても、大和武命を含む各艦共に平常に航行中だ。
 つまり、人喰いキャバリアは潔く完全に撤退したという事となる。
『レイテナの艦隊はやはり全艦等しく消耗が大きく、航行が困難になるほどの損傷を受けた艦艇も少なからず見受けられます。特に防空に当たっていたキャバリアと搭乗者の損耗が著しく大きいと』
 事実を淡々と並べ立てると結城の面持ちが僅かながらに曇ったように見えた。
「苛烈な戦いでしたので、そうもなりましょう。失われた命は重く、大きい。暁作戦の折と同じように、あの海はまた大勢の命を飲み込んでしまいました……ですが」
 落ちた琥珀色の瞳が千歳に向かう。
「貴女は……猟兵の皆様は、あの海さえも乗り越えてみせました。やはり宿命なのやも知れませんね」
『宿命とは?』
 千歳が問うも結城は双眸を細めて首を横に振るだけだった。瞳はもう甲板上を向いている。
「あの方もまた、宿命を負っているのでしょう」
『どうしても死ぬ事のない宿命ですか』
 千歳も結城の目線を辿って甲板上を見る。
 複数人の猟兵と複数機の人化した巨神が、海産物の名義で回収された猟兵を囲んで盛り上がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
心情:何とか勝てたが…パーツ交換だな。
手段:「カイゼルよりクイーン・エリザベートへ、当機は損傷多数の為緊急着艦を要する、誘導を願う!」
姿勢制御のスラスターやバーニアの六割破損、何とか重力下でも飛べる程度の推力は残ってるが、良く生きてたもんだ。こりゃ灰狼のひよっこ達にデカい顔出来んぞ、特に人をオジサン呼ばわりするあの…そう言えばアイツの名前と階級を聞いてなかったな、生きてたらひよっこではなく官姓名で呼んでやるか、俺のTACネームの許可も含めてな。

褒章?勲章だったら俺のキャリアにも箔が付くし謹んでお受けするぜ、レイテナ十字章でも授与されるのか?それとも外人だから下位の殊功勲章か?



●満身創痍の代価
 スカルヘッドと交戦して何らかの戦果を勝ち取った猟兵達の機体は、多くが等しく傷付いていた。決死の吶喊で一太刀を浴びせたヴィリーのタイフーンカスタムもまた満身に創痍を負った機体のひとつである。
「何とか勝てたが……パーツ交換だな」
 赤か黄色だらけの機体コンディションを確認しながらヴィリーは呟く。コクピット内を跳ね回る警報音が耳にうるさく、モニターのウィンドウに並ぶ警告メッセージの点滅が目に痛い。推進装置の六割がまともに機能していない。スラスターやバーニアの類いは推進噴射炎ではなく火花を吐き出している。こうして海上をふらふらと飛んでいられる程度の推力が残っている事が不思議な位だ。
「こりゃ灰狼のひよっこ達にデカい顔出来んぞ」
 口に出してからしまったと周囲とレーダーに目を巡らせる。幸い灰狼中隊の面々は大鳳に帰艦した後だったらしい。少なくともクイーン・エリザヴェートの周囲を飛んではいないようだ。こんな有様を見られたら何と言われるか知れたものではない……特に人をオジサン呼ばわりするあの……誰だったか?
「……そう言えばアイツの名前と階級を聞いてなかったな」
 声と顔を思い出せども名前が出てこない。次回からはそろそろひよっこを卒業して官姓名で呼んでやろうか、俺ののTACネームの許可も含めて――スカルヘッドとの交戦中に確認している余裕は無かったが、白羽井灰狼両隊の誰かが撃墜されたという話しはまだ聞いていない。多分生き残っているのだろう。
 だんだんとクイーン・エリザヴェートが近付いてきた。タイフーンカスタムの限界が先か着艦が先か……そもそも席が開いているのかという不安が湧いてきたヴィリーは、海上に浮かぶ王宮へ通信回線を開いた。
「カイゼルよりクイーン・エリザヴェートへ、当機は損傷多数の為緊急着艦を要する、誘導を願う!」
「クイーン・エリザヴェートよりカイゼルへ、了解しました。五番デッキへ誘導します。以降はデッキクルーの誘導に従ってください」
 了解と応じる前にヘッドアップディスプレイに案内が表示された。とりあえず海水浴する羽目にはならなさそうだ……と深く息を抜いた途端、嫌な衝撃が機体を襲った。
「おいおい、だらしねえな、タイフーンカスタムさんよ」
 ヴィリーは生き残りの推進装置の出力を調整してバランスを取り直す。速度と高度を一段落とした機体が、細い黒煙の跡を引きながら五番デッキへと向かう。デッキクルーが誘導灯を振っている降着地点は目前だったが、ヴィリーには非常に遠くに感じられた。

「髑髏征伐勲章?」
 耳に馴染みの無い名前にヴィリーは思わず眉を顰めた。着艦後、スカルヘッドの撃破に当たった猟兵に褒章を出すという話しをブリンケンから受けてブリッジに上がって来たのだが――。
「自分は初めてお聞きしましたが、殊功勲章のようなものでしょうか?」
「初めて聞くのは当然じゃ。さっき妾が考えたのじゃからな。光栄に思うがよいぞ」
 司令席でふんぞり返っている金髪の小娘がレイテナの女王ことエリザヴェート・レイテナであるらしい。隣の艦長席の横に立つブリンケンがエリザヴェートを一瞥した後、ヴィリーと目を合わせて首を竦めた。
「我が女王陛下はイェーガー諸君の働きに大きな謝意をご表明なされている。髑髏征伐勲章はその栄誉を称えるものである。誇ってくれ。正式な叙勲は後ほど執り行わさせて貰う」
「は。有難き幸せ」
 ブリンケンのいかにもな美辞麗句にヴィリーも形式張った敬礼で応じる。するとブリンケンが歩き出し、すぐ横で止まった。
「こちらからの報酬は諸君らの雇用主に送っておく。金塊での支払いでいいか?」
 ヴィリーは口を開きかけたが「他のイェーガーにも伝えておいてくれ」と被せられた言葉に声を飲み込まざるを得なかった。横を抜けて後ろに遠ざかるブリンケンの気配に、どことなく自分と似た匂いを感じる。苦労人の匂いだ。
「誰も彼も儘ならんな」
 横目でブリンケンの背を追いながら、密やかに肩を落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
本当は、行きの合間に練習するつもりだったのですが……。

揺籃の子守唄、魔楽機をバイオリンに変形。
邪魔にならぬよう、艦の端で演奏練習をしております。
この軍の事をさほどしか知らぬ自分が、あれやこれやと軍事に干渉してはいらぬ混乱を招くでしょうから。
…もし何かあれば、即座にサイキックキャバリアを召喚し対応致しますが。

魔楽機のAIから機械絆を経由して頭の中に楽譜を転送、
【楽器演奏】まだまだ拙い腕ですが、鎮魂曲を奏でましょう。
この戦いで死んでいった全てのものたちが、安らぐことを願って。
……そして、事後報告となりましたが…貴殿らの怨念は、自分が持っていきます。



●亡霊よ、鯨の海に歌うがいい
 歌い傷付いた鯨達と共に、大鳳は南への航路を進む。役目を終えた巨大な外殻ユニットを曳航して。
 空母の船尾から見渡す限りの海原が、夕焼けに照らされて黄金色に染まっていた。船首から舞い上がる波飛沫が、夕日の光を反射して緋色を踊らせる。キャバリアや負傷者、それに遺体達で窮屈になった飛行甲板上を、潮の香りを含んだ風が滑る。風は船尾を抜け、船が引く泡沫の航路の果てを眺める小枝子の髪を揺らした。
 轟く風の音。その音が小枝子の耳の奥に怨嗟の残滓のようにこびり付く。
 すぐ横の床面に紫の光輪が音もなく浮かび上がる。光輪の内にどこに繋がるとも知れない奈落が生じたかと思えば、床から生えてくるかの如くキャバリアが出現した。頂点とツバが前面に大きく鋭く迫り出したテンガロンハット状の頭部が目を引く、四肢に音響出力装置らしき部位を備えた機体だった。
『やあ! 今日は練習かい? それとも一曲弾こうか?』
 デモニック・ララバイ――に搭載された支援AI、|揺籃の子守唄《クレイドル・ララバイ》がどうしようもなく陽気な合成音声を奏でる。
「いえ……今日は……」
『海か……ではバラードはどうかな? だけど、あー……ここはなんというか、ロマンチックというよりセンチメンタルだね? スローなバラードがいいんじゃないかな?』
 空気を感じ取っているのかいないのか、揺籃の子守唄は小枝子の続きを遮って饒舌に語りだす。
「練習であります」
 はっきりと言い切る。すると揺籃の子守唄の顔が明るくなったような気がした。
『それは結構。幸いここは海の上のようだからね。ご近所を気にする必要もなさそうだ。思う存分練習するといい』
 ご近所はいるのだが――小枝子が微かに後ろに視線を流す。甲板要員が時折視線を送っているようだ。背中がむず痒い。
『それで? どうしようか?』
「バイオリンに……」
『バイオリン! バイオリンはいいね! 今日のお勧めだ! バイオリンにしよう! さあ! 心の思うがままに音を奏でよう! 楽器は音を出す為にあるんだから!』
 皆まで言い終えるよりも先に揺籃の子守唄は勝手に快諾してしまった。するとデモニック・ララバイの機体が内側へと折りたたまれ、どんどん凝縮してゆく。本の数秒後には小枝子が望んだ通りのバイオリンに変容していた。クラシックな響きに対していささか未来的な造詣ではあるが。
『曲は? 何がいい? やはりバラードかい?』
 手にした小枝子に揺籃の子守唄は急かすように語りかける。持ち上げたバイオリンは存在感を主張するように重量を伝えてくる。
「鎮魂曲を」
『うん?』
 零すように呟くと揺籃の子守唄は虚を突かれたといった様子で疑問符を浮かべた。ほんの少しの間に沈黙を降ろすと『それもいいだろうね』と音階を落とした声音が続く。
 左目を覆う眼帯型端末に譜面が表示される。頭の中の視神経にも同じ譜面が流し込まれた。使い古された、遠い時代の譜面だった。
 バイオリンの顎当てに頭を乗せ、本体を頭と身体で抑え込む。弓を弦の上に当て、深くゆっくりと呼吸を整える。
 躊躇いがちに引いた弓が弦と擦れ合い、音色を奏で始める。意識の中で流れる楽譜の通りに腕を運ぶ。奏で出しで躓き、転びそうになった律動が拙いながらも整い始め、次第に曲という形を作り出す。
 戦いの中で吸い上げ、飲み込んだ怨嗟達が、臓腑の中で脈打つように蠢動を繰り返す。小枝子の旋律に合わせて。
『辛い音色だね』
 果たして揺籃の子守唄は、鎮魂歌の向こうに戦いの光景を視たのだろうか。小枝子の口は何事も語らず、それでいて魔楽機の音色は誰よりも雄弁に戦いの物語を歌う。亡き戦士達の魂を乗せて。
 これが安らぎに……慰めになるのかは解らない。だが小枝子は奏で、魔楽機は歌う。祈るように。願うように。
「……貴殿らの怨念は、自分が持っていきます」
 内に取り込んだ怨嗟達が融けて染み渡る。これまでの怨念達と同じく、或いは己という器に取り込まれた魂と――。
 鯨達が去る東アーレスの海に、機械の鎮魂歌が響き続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【WIZ】
※アドリブ絡み歓迎

【ヒュギエイア】連結の12両編成【ファルマコン】にて
海路上で艦隊接触、《瞬間思考力》と《医術》フル回転だよ

アタシは日乃和絡みノータッチだったけど
膨大な死傷者が出たと聞いたんで出番かなと?
武力だけが猟兵じゃないってのを魅せないとね♪

【イリーガル・メディック】で救命治療は万全だし
【テスタメント・アーキテクトリックス】で
重要な情報を握って死傷した将校の引き継ぎ補佐も可能
更に【マトリクス・メモリ】で『クローンの発生源』を用立て
非常識なスピードで生体義肢構築や再生医療も可能♪

実はコレら、MIAな猟兵の捜索&治療目的でもあるけどね?
※捜索はヒュギエイアの救急用対人センサー類活用



●闇色医療従事者
 イーストガード海軍基地に向けて黄昏の海を渡るレイテナと日乃和の艦隊。
 その艦隊の最中に、11両から成る大蛇の如き車列と、最後尾に連なるワダツミ級の艦艇があった。
 非合法機動医療艇ファルマコンとヒュギエイア。先頭を進む大型トレーラーは、車体下部に備わるホバークラフトで海面を騒めかせ、車列を覆う白いカーテンを作り出していた。車列の最後に曳航されるヒュギエイアは水上艦艇のように半身を海に浸し、割った波濤の航跡を左右に広げながら進む。
 ファルマコンの車両内には医療艇としての機能が取り揃えられている。移動拠点ながら通常の医療拠点と何ら遜色がない程に。搬送された患者が車内で目を醒ませば、充満する消毒液の匂いも相まって、海上を渡る車列の一室だとは想像も及ばないだろう。
「膨大な死傷者が出たと聞いたんで来てみたけど……やっぱり正解だったかな?」
 リーゼロッテ・ローデンヴァルト(|KKS《かわいくかしこくセクシー》なリリー先生・f30386)は楕円の眼鏡の奥で銀の瞳を輝かせる。頭の中で電卓を叩いているのか、それとも大勢回収した瀕死の負傷者をどう料理しようか考えを巡らせているのか――いずれにせよ、纏う白衣に相応しい仕事が出来る事に違いは無い。
「さーてさてさて? 闇医者の本領発揮ってね」
 車内に並ぶ培養カプセルの形をした医療ユニット、イリーガル・メディックを前にリーゼロッテは舌で唇を湿らせた。いずれのユニットの中にも艦隊から引き取った重症患者ばかりが縛り付けられている。既にそれぞれのユニットが処置を始めており、千切れ飛んだ手足の患部の初期洗浄や、損傷した内蔵の止血を行っていた。
「うん、経過は順調順調……」
 透明な容器の中で眠る患者を覗き込んでリーゼロッテは頷く。発生源の記憶を司る可変式記録媒体たるマトリクス・メモリで生体情報を複製し、急速培養した腕を接合する間際だった。引き取った際には達磨になっていたパイロットだが、麻酔が切れた頃には元通りの身体を手に入れているだろう。
 問題無しと踏んだリーゼロッテは次のユニットの経過観察に向かう。
「こっちは……あーらら、分かっちゃいたけどもうダメかな?」
 こちらの患者は全身を激しく挫滅している為判別は難しいが、服装の名残りから辛うじて高級将校だった事が窺える。しかし越えてはならない一線を既に踏み越えていたようだ。
「さて……んじゃコピーの自我が保つ内に、色々お話ししてもらうよ?」
 これ以上の処置は無駄と判断したリーゼロッテの次なる行動は迅速だった。死に体の将校が向こう側に渡ってしまう前に、テスタメント・アーキテクトリックスで救急ポッド内に複製を生成。24時間以内という制限はあるものの、持ち得る知識と情報を後任に引き継がせるだけの猶予を作り出した。
「武力だけが猟兵じゃないってね♪」
 救急ポッド内に急速に構成されてゆく複製体を見届けながらリーゼロッテは口の端を喜色に歪ませる。
「後はMIAな猟兵が運び込まれてくれれば……ね」
 まだかな。来ないかな。腰の後ろに手を回して歩くリーゼロッテの姿からはそんな期待が見受けられた。
 ファルマコンの中で闇医者が医療行為を執り行う傍ら、ヒュギエイアの救急用対人センサーは、絶えず猟兵を探索していた。餌食もとい患者となる猟兵を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
拓也(f23769)の捜索開始
『戦争と死の神』発動!
「「ひゃっはー☆」」
取り合えず遺骸や要救助者とか全力で回収してこい!後無茶かました拓也は絶対見つけてこい!
「「畏まり☆」」

【情報収集・視力・集団戦術・戦闘知識・念動力】
という訳で全力で生きている人もうでない人も全力回収!
それぞれの船に返す

但し負傷者諸々は可能な限り一か所に集める
拓也も共に

ったく…無茶しやがって…此奴は貸しだからな?
UC発動
戦場全体の拓也含む負傷者の傷を無力化して回復させる!

ぎりぎりまで発動して…

ぜはぁっ!きちぃ…!

後の拓也の処置はぜっちゃんに任せるぞ…僕は結城艦長にじゃれるっ!
「メルシーは日乃和の女の子と遊ぶぞ☆」
あ!レイテナの褒章も貰っとくぞ!

という訳で結城艦長にじゃれてます(寝所かな?
お胸もふもふしながらも

…あのスカルヘッドって結局何者だったんだ?
随分被害が多かったみたいだが…人が乗れるもんだったのか?

あれって自動で沸いてる災害みたいなもんだと思ってたんだが…

と、情報共有も行っておく

ま、調べてみるか…(ぽそりと


皇・絶華
拓也(f23769
の治療(?)

うむ、負傷者の治療が行われているな!彼らもまた戦士!ならば我が力を尽くし!圧倒的なパワーを与えようではないか!
「やっぱりぃぃぃ!」(がくがくぶるぷる)

【薬品調合・医術】
怪我人負傷者の医術的治療と共にカカオ濃度1億%チョコドリンクカカオ汁流し込み!(味は絶望的!)
そして負傷者救助に当たってる者達にも流し込むぞ!
そうすれば圧倒的なパワーで効率アップだ!
「ひえぇ!軍人達が凄いオーラ放って働き出した!」
我がチョコは砂糖不使用ヘルシーチョコ!身体から溢れる圧倒的なパワーに酔いしれるがいい!

死にかけていようと再生効果で甦らせて見せる!
死者であろうとも現世に戻して見せる(獣人戦線で実績あり!)
負傷したテレサ達にも流し込む!

「うん?こいつからミネルヴァの魔力を感じるな…?契約者か…?」(拓也捕捉)
うむ、猟兵のようだな?カシムが言ってた奴だな!今助けるぞ!(カカオ汁流し込み!超絶肉体再生と死者さえ飛び起きる地獄の味が拓也を襲う!!)
よくぞ帰ってきた!皆待ってるぞ!
後は自己紹介


防人・拓也
マスクをとった俺は海上に浮かぶEVOLの死体の上で休んでいた。
俺はスカルヘッドの攻撃でレーダーでも探知出来ない場所へ飛ばされ、攻撃の影響で光学迷彩の機能は故障し、ゴーグルや無線機も破損。孤立無援状態でEVOLの群れから襲撃を受け、それを片付けて今に至る。
「やれやれ。己の実力不足を痛感したな」
あんな敵を倒せなかったのでは、アイリス達の主に相応しくないな。もっと力をつけねばな…。
その時、聞き覚えのあるブースト音を聞く。ラリーが迎えに来たのだ。
ラリーの言葉を聞いて
「ああ、五体満足でこの通りだ」
と健在をアピール。ラリーの愛機に乗せてもらい、アイリス達が待つ大鳳へ。
大鳳の甲板上でディープスリープ状態だったアイリス達は俺の気配を感じた途端、目覚めて人間形態へと変身し、到着した俺に駆け寄る。
「心配かけたな、2人共」
と頭を優しく撫でてやる。
絶華の特製カカオ汁を飲まされた時は顔面を青くしながらも飲み切って
「こ、この程度…少年兵の頃に比べたら…!」
と言う。
アドリブ・連携可
日乃和とレイテナの人達との絡みOK。


ラリー・ホーク
愛機に搭乗し、指定のUCを使用しながらカシム達と一緒に拓也を捜索。
「やれやれ。白い閃光はどこへ飛ばされたのやら。アイリス達は落ち込んで大鳳の甲板上でディープスリープ状態になっちまったし。葵大佐、面倒掛けてすまない」
と無線で言う。葵に白い閃光の正体を聞かれたら
「あ~、生身で戦っていた本人は殉職してるかもしれんし、構わんか。防人拓也だよ。白い閃光はエルネイジェの一部で通っているあいつの異名さ」
と明かす。
日乃和の人達と何やかんや話している内に、多数のEVOLの死体が浮かぶ場所を見つける。
「この死体の傷…風の魔術だな。間違いない」
と言い、場所の中心に浮かんでいる死体の上で休んでいる拓也を見つける。
「よぉ、相棒。まだ生きてるか?」
と言う。拓也の返事を聞いて
「ったく、よくもまぁ無事だったな。ほら、乗れよ。アイリス達が大鳳で待ってんぞ」
と拓也を愛機に乗せ、大鳳へ。
絶華に特製カカオ汁を飲まされた拓也を見て
「ほら、口直しに飲んどけ。後でバイタルチェックを受けとけよ」
とスポドリを渡す。
アドリブ・連携可。



●人探し
 艦隊が帰路に就く少し前――主な戦闘が終息した直後、日乃和とレイテナ両軍は海に取り残された負傷者と遺体の引き揚げ作業を開始した。猟兵達の中にも同じく探索と救護に当たる者達が少なからず存在し、ラリーもその一人だった。
「やれやれ……白い閃光はどこへ飛ばされたのやら。アイリス達は落ち込んで大鳳の甲板上でディープスリープ状態になっちまったし」
 マイティ・ホークⅡがオレンジ色の海上を滑るように翔ぶ。各種センサーを最大限に開いて目標の反応を探索する機体の中で、ラリーの猛禽類の眼はモニターと計器類の間を忙しく右往左往していた。マイティ・ホークⅡからやや離れた地点で飛んでいるのは、他の猟兵が放った探索用ドローンとメルクリウスの分体であろう。降下したかと思えば大鳳の方向へ飛んで行く。生存者なり死体なりを発見したに違いない。
「葵大佐、面倒を掛けてすまない」
 白髪の少女達の作業を横目にして、ラリーはモニターに開いたサブウィンドウに声をかける。枠内の黒い長髪の女性は、蠱惑的な微笑に琥珀色の瞳を閉じ込めた双眸を細めた。
『こちらこそ、クイーン・エリザヴェートからの要請の承諾、感謝しております。ところで、白い閃光というのは、いずれかの猟兵様の通名なのでしょうか?』
「通名?」
『名簿に記載の無いお名前でしたので……』
「あ~、生身で戦っていた本人は殉職してるかもしれんし、構わんか。防人拓也だよ。白い閃光はエルネイジェ王国の一部で通っているあいつの異名さ」
 黙っていてくれとは言われていたが、今となってはもう意味の無い口約束だろう。ラリーの声には無意識な寂寥が含まれていた。
『防人様でございましたか。名簿上での雇用登録は確認しておりましたが、姿がお見えになられていませんでしたね』
「広域無線は封鎖してたし、ずっと光学迷彩を付けっぱなしだったからな……ん?」
 ラリーの眼が何者かを捉えた。遠方の海上……EVOLの躯が多数浮かぶ中央に人の気配を看破した。拡大表示してCG処理を掛ける。粗くて名言はしかねるものの、座り込んで身体を縮めた人の形が見て取れる。
「この死体の傷……風の魔術だな。間違いない」
 緑色に変色した海に浮かぶEVOLはどれもが鋭利な刃で切り刻まれたような裂傷をさらしていた。ともなればあの人影は――救難信号を検知したセンサーが高い警報音を発した。
「葵大佐、今の話しは俺から聞いたって事は内密に頼む。喋るなって約束でな」
『承知致しました』
「ああ見えて恥ずかしがり屋なんだよ、あいつ」
 マイティ・ホークⅡが背負うフライトユニットのバーニアノズルが閃く。EVOLの死体群の中央に向かってラリーは機体を加速させた。

●人に探され
 やっとの思いで海からEVOLの死体に這い上がった拓也は、ようやくといった身振りで腰を降ろした。顔を覆っていた髑髏柄のマスクを剥ぎ取り、唾を吐き捨てる。EVOLの体液が混ざった海水を飲んでしまった。侵蝕毒が染み出していたらもう終わりだなと内心で呟く。
 スカルヘッドのゼロ距離荷電粒子ビームをユーベルコードで相殺し合った拓也は、衝撃を受けて戦域の外縁部付近まで跳ね飛ばされてしまっていた。厳密にはそうせざるを得なかった。もし物理運動に抗おうとしていれば、間違いなく身体は爆発四散していたであろう。我ながら適切な瞬時の判断だったと拓也は半ば自嘲気味に思う。
 しかし問題はその後だった。光学迷彩の機能は停止。ゴーグルも無線機も使えない。唯一の救いは二つに折ると救難信号を発する使い捨てのタグ型装置のみ。そんな状況で戦域の外縁部に飛ばされた拓也を待ち受けていたのは、未だ多くが健在だったEVOL達の歓迎だった。生き残る為に兎に角無我夢中で戦った末、気付けば周囲はEVOLの死体で埋め尽くされていた。
 果たして現在に至る。
「やれやれ。己の実力不足を痛感したな」
 深く思い溜息が溢れた。あんな敵を倒せないようでは二体の巨神の契約者として相応しくない。さらなる力を付けなければ。無言の中で己に戒めを課していると、耳朶に聞こえるエンジン音が次第に近付いてくる。耳に馴染みのある音――マイティ・ホークⅡのエンジン音だった。カメリア製の機体であるマイティ・シリーズを運用している猟兵は極限られている。つまりこのエンジン音を発する機体に乗っている者は彼しかいない。
『よぉ、相棒。まだ生きてるか?』
 ラリーは漸く発見した拓也を機体の中から見下ろし、外部拡声器を使って呼び掛ける。
『ったく、こんな外れにまで飛ばされといて、よくもまぁ無事でいられたな……白い閃光が白い流星になっちまう所だったな』
「ああ、五体満足でこの通りだ」
 拓也はバーニア噴射の風圧から顔面を庇いつつ立ち上がる。轟音が耳に痛い。
『ほら、乗れよ。アイリス達が大鳳で待ってんぞ』
 マイティ・ホークⅡが機体を拓也に寄せて左腕を差し出す。拓也は開かれたマニピュレーターを足場にしてマイティ・ホークⅡに飛び移った。拓也を抱えたマイティ・ホークⅡは機体の向きを旋回させ、来た時と比較して随分と慎重そうに滑空を開始する。大鳳に向かって。

●甘き救済よ、来たれ
 イーストガード海軍基地への帰路に就いた大鳳の飛行甲板は、回収した負傷者と遺体で大変賑わっていた。応急処置に駆けずり回る医務官に紛れて、救護に当たる猟兵達の姿も見る事が出来た。
「アポロンソウル……リンク開始……ナノマシン起動!」
 カシムが翳した手より黄金の光が膨張する。光は微細な粒子となり、甲板上に並べられた負傷者達に降り注いだ。負傷者達は患部を苛む耐え難き激痛に顔を歪めて呻いていたが、黄金の粒子を浴びると次第に顔から苦悶が和らいでいった。
『あんまり使いすぎると死んじゃうぞー?』
「うるせぇな、分かってるよ」
 システム・アスクレピオースでの治療を横で楽しそうに眺めているメルシーを適当にあしらいながら呼吸を整える。使い過ぎると死ぬというのは事実だ。今なら一日に147秒までといったところか……故にカシムは緊急の処置を要する重症患者のみに絞って少しずつ治療を行っている。
「カシム! 疲れているようだな!」
 黒髪の少女を引き連れた絶華がやたらと元気な大声を張って歩いてきた。
「あのビームを至近距離でモロに食らって無事だったのかよ……」
「当然だ! サートゥルヌスがあの程度で落ちる道理が無いだろう!」
「無事じゃないよ……死ぬほど痛かったよ……」
 カシムは皮肉を籠めたつもりだったが絶華には全く通じていない。サートゥルヌスが化けた黒髪の少女は鳩尾付近に大きな絆創膏を貼っていた。
「ところでカシムよ、疲れているように見えるが?」
「そりゃあな……これだけ患者が多いと――」
「ならば我が力を尽くし! 圧倒的なパワーを与えようではないか!」
「もがっ!?」
 言葉尻に割って入った絶華がカシムの口に中ジョッキを押し当てる。そして溶かしたチョコレートを流し込んだ。カシムはむせながら絶華を払い除ける。しかし幾らか飲んでしまった。
「どうだ?」
「てめぇ……っ!」
 咳き込みながら身体を曲げるカシム。すると身体の奥底で湯が沸騰するような感覚が生じた。熱は臓腑の底から胸に迫り上がり、血液を通じて全身を駆け巡る。
「パワーーーーーーー!!!」
 カシムは天に向かって咆えていた。同時に両腕を頭上に突き上げて光の粒子を撒き散らす。
「ひえぇ! 凄いオーラ放って働き出した!」
「我がチョコは砂糖不使用ヘルシーチョコ! 身体から溢れる圧倒的なパワーに酔いしれるがいい!」
 血走った眼でユーベルコードを暴走させるカシムを見て、絶華は満足そうに高笑いする。
「どれ、そっちのメルクリウスも一杯――」
「メルシーは日乃和の女の子と遊ぶぞ☆ レイテナの褒章も貰いに行かなきゃいけないぞ!」
 絶華が声を掛けるや否やメルシーは凄まじいスピードでどこかへ飛んでいってしまった。背中に掛けた声は、飛行甲板に降りてきたキャバリアが発するエンジン音に掻き消された。
「うん? あいつからミネルヴァの魔力を感じるな……? 契約者か……?」
 降りてきたキャバリア――マイティ・ホークⅡの腕から滑り落ちた拓也を目に止めた絶華が首を傾げる。次に甲板の隅で駐機したまま動く気配を見せないミネルヴァとアイリスに視線を移す。やはり感じ取れる魔力の質は同様だ。
「なんとか帰ってこれたか……」
 大鳳の飛行甲板に降りた拓也は漸くの一息を付く。ラリーはアイリス達が待っていると言っていたが、大鳳に回収されたのだろうか? あの攻撃で損傷を受けていなければいいが……目で2機の巨神を探していると、こちらに駆け足でやってくる銀髪の男の姿が見えた。
「カシムが言ってた奴だな?」
「何か――」
「今助けるぞ!」
 拓也が口を開くが後か先か、絶華は出会い頭に拓也の顔面へジョッキを押し付けた。
「がっ!? ご!?」
 あまりにも唐突過ぎた挨拶に拓也は咄嗟に後方に退いた。が、呼吸の拍子に少なからず胃に入ってしまった。
「ぐ……うっ!?」
 身体の奥底がとてつもなく熱い。まるで自分の身体が湯沸かし器になってしまったかのようだ。沸き立つ熱に拓也は胸を押さえて膝を付き、身体を丸める。
「マスター!?」
「我が君!?」
 そこへ人の姿に変じたアイリスとミネルヴァが駆け寄る。
「ご無事なんですか!?」
「ご無事ではないんですか!? どちらなんですか!?」
 背中を庇い肩を支える二機。拓也は急に立ち上がり、天に向かってこう叫んだ。
「パワーーーーーーーーー!!!」
 暴走するエネルギーを声にして放出した拓也の顔面が青ざめ、身体が傾く。アイリスとミネルヴァが二人掛かりで支える。
「よくぞ帰ってきたな!」
 絶華は善行は気分が良いと言わんばかりに笑顔を作る。
「よくぞ帰ってきたな! ではありません! 貴方! 我が君に何をして……!?」
「私か!? 私は皇絶華だ! 私のバレンタインチョコドリンクの効果は素晴らしいだろう!? そうそう、こいつは連環神機サートゥルヌスだ!」
 ミネルヴァが怒りを露わにするも絶華には意味が全く通じていないらしい。横では黒髪の少女が「ごめんなさい」と何度も頭を下げている。
「防人拓也だ……味は兎も角、確かに効果は絶大だな……」
 二機に支えられた拓也はもう大丈夫だと肩を支える手を叩く。
「そうか! 防人拓也か! お前も契約者なのだな! どれ、私はクイーン・エリザヴェートとやらに行くぞ! 死にかけている兵共を私のチョコレートで救済してやらねばな! スワロウ小隊のテレサと言ったか? 奴にも飲ませてやらんとな!」
 一方的に言いたいことを言い、また会おうと手を振りながら去る絶華の背中に、二機分の視線が突き刺さる。
「心配かけたな、二人共」
 二機の頭に拓也が手を乗せると、顰め面が和らいで代わりに泣き出しそうな表情へと移り変わった。
「ほら、口直しに飲んどけ。後でバイタルチェックを受けとけよ」
 巻き込まれないように機体の傍で眺めていたラリーが拓也にボトルを押し付ける。受け取った拓也はボトルの封を切って中の経口補水液を飲み下した。腔内に残ったチョコレートの味と香りを洗い流すようにして。薄い砂糖と食塩の味を美味いと感じたのは、久しぶりだった。

●双丘の狭間で
「結城艦長ぉ~……絶華のチョコレートゲロマズだったよぉ~……」
 生地の厚い高級将校用の服を内側から押し上げる二つの丘。豊かな女性の輪郭を作り出すそれは、服の上からでも分かるとびきりの柔らかさを頬ずりするカシムに伝えていた。
 大鳳の艦長席に腰を据えている結城。跪く格好で結城に抱き着いて胸に顔を埋めるカシム。カシムの背中を最大にして最低の侮蔑を籠めて睨む艦橋要員達。奇妙な地獄が出来上がっていた。
「……あのスカルヘッドって結局何者だったんだ?」
 胸に顔を押し付けてくぐもった声で尋ねる。結城は相変わらずな蠱惑の微笑を唇に浮かべながら、左右の眉を困ったように傾けて言う。
「申し訳ありませんが、わたくしは何も存じておりません。エヴォルグ伍號機『Blaster』の目撃及び交戦記録は日乃和側にも存在しておりますが、スカルヘッドのような特殊な個体の記録は、私の知る範囲では存在していなかったかと……」
「随分被害が多かったみたいだが……人が乗れるもんだったのか? あれって自動で沸いてる災害みたいなもんだと思ってたんだが……」
 カシムは視線を上げる。結城は緩く首を横に振った。
「これも私の知る範囲となりますが、日乃和側では有人制御されている人食いキャバリアの存在は確認されておりません」
 結城の知る範囲が何処までなのか、全て事実なのかは定かではない。しかし日乃和で人喰いキャバリアとの交戦経験を持つカシムとしても、人が入って操作している人喰いキャバリアと遭遇した例は今のところ無い。気付かなかっただけなのかも知れない。しかし機体の奥に人間臭さを感じた事は無いのは事実だ。少なくともスカルヘッドほどの人間臭さは。
「或いは……レイテナの方々であれば、何か存じているかも知れませんね。特にスワロウ小隊の皆様は、スカルヘッドとの複数回の交戦経験がお持ちだったご様子ですので……」
「そっか……調べてみるか……」
 元々人喰いキャバリアの原産地はレイテナなのだ。何せ人喰いキャバリアを産み出しているゼロハート・プラントは現レイテナ・ロイヤル・ユニオン領内のゼロハート大空洞内に存在しているというのだから。そう言えばスワロウ小隊の隊長、テレサのファミリーネームもゼロハートだったような。
「ま、今はいいや。あ~……結城艦長のお胸あったかもふもふなんじゃぁ~……」
 艦橋要員の複数人が「猟兵色を好むって訳ね……」とか「信じらんない」とか「幻滅だわ」とか「最ッ低!」とか露骨に聞こえる声でカシムの背中を唾棄した。一方の言われた当人はというと、全てを包み込む柔らかい感触をじっくり確かめるようにして両手で揉み、顔を埋ずめている。鼻孔一杯に吸い込んだ結城の甘ったるい体臭は、母親のそれだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【ネルトリンゲン】

さて、帰りは比較的自由みたいだけど、どうしよっか?
勲章とかもらえるみたいだけど、いる?

なにもないならわたし『希』ちゃんと、
メンテデートしにいこうかなって思ってるよ。

具体的には、白羽井と灰狼の機体整備のお手伝い!

最近機体も変わったみたいだし、
また新たにみんなの機体を個別チューンしてもいいかなーと思って。

シャナミアさんもいっしょする?
いろんな機体の整備は、次の機体の設計に役立つよ!

『希』ちゃんといっしょなら、整備とチューンくらい帰り道でできると思う。

あとほら、たまには『希』ちゃんと2人の時間もつくらないと♪
……『希』ちゃん、怒るとこわいし。

『おねーちゃん、聞こえてるけど?』

って、拗ねた風に言ってるわりに、準備万端じゃない?
『べ、べつに楽しみとかじゃないんだからね!』

なにそのいきなりなツンデレ。
って、いうか、ツン要素薄すぎない?

『ネルトリンゲンの制御返そうか?』

あ、うそ、『希』ちゃんかわいい!
大穴開いたままだから、制御難しいの!サポートしてー!?
帰ったらちゃんと直すからー!


支倉・錫華
【ネルトリンゲン】

なんとか依頼完了できてよかったよ。

勲章、わたしはいらないかなぁ。
くれるって言うなら、送ってもらえばいいしね。

っていうかほら、
わたしは那琴さんと栞奈さんと、|次の戦場《ベッドの上》に行かないとだし。

え?まだお預け?
ああ『基地に帰るまでが|作戦《遠足》です』ってことね。了解。
たしかに、してる最中に敵の攻撃とかあったら、興ざめだもんね。

それじゃそっちは基地まで我慢しておくとして、
そうなるとなにしようかな。

暇つぶしも兼ねて、哨戒任務とか訓練とか?
久しぶりに小隊のみんなと哨戒任務っていうのもいいかもだね。

さすがにここからの奇襲は可能性薄いと思うけど、
警戒しておくに越したことはないしね。

ということで、那琴さんと栞奈さんと哨戒任務に出ようかな。
ふたりともよろしくね。

骸骨頭との戦いで、ナズグルは動けなさそうだから、
イカルガの乗り心地を試しつつ、ってのもいいかもだね。

那琴さんと栞奈さん、|次の戦場《ベッドの上》目指して無事に帰ろうね。
ん? わたしも久しぶりだし、わりと楽しみにしてるけど?


シャナミア・サニー
【ネルトリンゲン】
あ゛ー、つかれたぁぁぁ……
もうソファの上でトカゲのように寝てたいけど
ここに来るとホント、レッド・ドラグナーが毎回ボロボロになるんだよねえ
メンテナンスしますかあ
久しぶりに栞菜さんとメカニック話もしたいしね

いや、希ちゃんとデートはいいけど……
その前に希ちゃんっていうかネルトリンゲンは|労わらなくて《メンテナンス》いいの?
ほらー今も希ちゃんの刺すような視線っていうか物理的にナイフ握ってる気がするけど大丈夫ほんと??
そうかこれがツンデレご褒美……お姉さんよくわからないや

さて
あ、言っとくけど、|あの《理緒さんの》レベルでの
メンテナンスや改造は無理だから(指さしつつ)
私ゃ(猟兵の中では)一般人(寄り)なんですよっと
その代わり、コックピットの微調整は得意だよ
反応速度とかフィードバックとか操作性とかね
ご要望がありましたらどうぞお嬢様方?
まぁ、アークレイズディナとかイカルガとかそういうメンテナンス要るの?ってくらい高性能だけどねえ

錫華さんは哨戒?
一回イカルガ借りて乗り心地確認してきてよ



●乙女共が戦の後
 大鳳の飛行甲板に降り立ったレッド・ドラグナーが、一歩一歩を確かめるような足取りで甲板要員の誘導に従い所定の駐機場所へと向かう。先に場所を取っていた白羽井小隊のイカルガとアークレイズ・ディナの隣に至ると、機体を屈ませて駐機姿勢を取った。
 エンジン音が急速に遠のき、センサーカメラを含む発光部位の灯が落ちる。開け放たれたコクピットハッチからシャナミアが滑り落ちるようにして甲板に着地した。
「あ゛ー、つかれたぁぁぁ……」
 ずっと操縦席に座り続けていたせいで体中が固まっている。両手を天に向けて背を伸ばすと、体中の節々が音を鳴らした。
「ここに来るとホント、レッド・ドラグナーが毎回ボロボロになるんだよねえ」
 傷だらけになった機体を見上げると溜息を禁じ得ない。あのパーツは丸ごと取替が必要。あちらの装甲はまだ予備が残っている。修理に掛かるであろう数値を思い浮かべながら、頭の中で電卓を叩く。報酬はたんまりと出るので収支報告までレッド・ドラグナーになる羽目にはならないのだろうが、毎度こうも痛め付けられるのは精神に悪い。
「良いんじゃない? なんとか依頼完了できたし」
 先んじて大鳳を訪れていた錫華がシャナミアの隣に立つ。
「あれ? ナズグルは?」
 錫華の機体が見当たらない事に気付いたシャナミアが尋ねる。
「だめ」
 錫華の発した一言でシャナミアは事情を察し「ご愁傷さま」と呟いた。
「それで理緒さんは?」
「あそこ」
 錫華が指差す方向をシャナミアが目で辿る。駐機状態のイカルガの背面で何やら取り込んでいる理緒の姿があった。機体の傍に立っているのは伊尾奈と栞奈、それに那琴だろう。いずれもパイロットスーツはまだ脱げない状況らしい。
「シャナミアさん! こっち!」
 視線に気付いた理緒が手を振る。
「人んちの機体の前に希ちゃん……っていうかネルトリンゲンは労わらなくていいの?」
 顔に油を付けた理緒の様子を見て、シャナミアは元気だなと思わずにはいられなかった。錫華はというと、これが理緒の常態と言わんばかりに顔色を一つも変えない。
「大丈夫。そっちは後でゆっくりやればいいから」
「今も希ちゃんの刺すような視線っていうか、物理的にナイフ握ってる気がするけど大丈夫?」
「そうなの?」
 理緒が板状端末の中のM.A.R.Eに尋ねる。
『別に?』
 返された合成音声はどこか冷ややかで素っ気ない。
「ま、まあ偶には『希』ちゃんと二人の時間もつくらないと♪」
「その二人のお時間がメンテデートねぇ……」
 当事者達が幸せなら何も言うまい。そう含めてシャナミアは双眸を細めた。
「……それに『希』ちゃん、怒るとこわいし」
『おねーちゃん、聞こえてるけど?』
 理緒が零した言葉をM.A.R.Eは一字一句聞き逃さなかった。抑揚が抑えられた合成音声に理緒の両肩が跳ねる。
「って、拗ねた風に言ってるわりに、準備万端じゃない?」
『べ、べつに楽しみとかじゃないんだからね!』
 今度は声音が黄色くなった。感情表現が豊かだなと錫華は自分の無愛想なAIを思い出す。
「そうかこれがツンデレご褒美……お姉さんよくわからないや」
 シャナミアは漫才をする理緒とM.A.R.Eから視線を外した。
「なにそのいきなりなツンデレ。って、いうか、ツン要素薄すぎない?」
『ネルトリンゲンの制御返そうか?』
「あ、うそ、『希』ちゃんかわいい!」
 いまM.A.R.Eに預けているネルトリンゲンの制御が手放されてしまったら大急ぎで戻らなければならなくなってしまう。理緒は忙しい口運びで露骨な世辞を並べる。
「大穴開いたままだから、制御難しいの! サポートしてー!?」
『どーしよっかなー?』
「帰ったらちゃんと直すからー!」
 板状端末に向かって騒ぐ理緒を、那琴は苦く笑いながら眺めていた。
「んお? シャナミアさんもメンテしてくれるの?」
 栞奈が首を傾げるとシャナミアは顔を伏せて首を横に振った。
「まあ、キャバリア工房の跡取りだから……言っとくけど、あのレベルでのメンテや改造は無理だからね」
 理緒を指さしてみると栞奈は承知したかのように頷いて笑う。
「でもシャナミアさんならユーベルコードでババーっと治せちゃうんじゃ? 猟兵だし」
「出来るかどうかは別として、そういうのは性に合わないんでね。それに、わたしゃ猟兵の中じゃ一般人寄りなんですよっと」
「スカルヘッドに対応していらしたのに?」
 謙遜じゃないかと訝しむ那琴にシャナミアは応じる言葉を選び損ねた。
「その代わり、コックピットの微調整は得意だよ。反応速度とかフィードバックとか操作性とかね。ご要望がありましたらどうぞお嬢様方?」
「そうなの? じゃああたしのイカルガ見てくんない? 最近なんていうか……鈍い? 遅れてる? 感じがしてさー」
 シャナミアは栞奈に手を引かれた。この娘は他人との距離感に不具合を起こしているような気がしないでもない。
「イカルガってそういう調整必要なの? 言っといて何だけどさ、要らない位高性能に見えるんだけど」
「わかんない! とりあえず見て!」
 栞奈に引っ張られて姿勢を崩しそうになった。
「ちょっと!」
「ごゆっくり」
 錫華は涼しい顔と声音で栞奈に引き摺られるシャナミアを見送る。
「錫華さんは? 何も無いなら褒章が出るらしいから貰ってきたら?」
 シャナミアの訪ねに錫華の頭は横に振られた。
「わたしは那琴さんと栞奈さんと、次の戦場の上に行かないとだし」
「次の戦場?」
 栞奈とシャナミアの疑問の声が重なる。
「ベッドの上」
 何喰わぬ顔で錫華が言い切る。シャナミアと栞奈、それに那琴が咳き込んだ。黙って聞いていた伊尾奈が眉宇を上げる。イカルガのフライトユニットの内部機構と格闘していた理緒が耳聡く顔を上げた。
「慰めえっちしてくれるの!? マジ!?」
「弁えなさい!」
 興奮気味に食ってきた栞奈の後頭部に那琴の平手打ちが入る。
「残念だけどね、暫くそいつはお預けだよ。次の哨戒の番はお嬢様方だからね」
 腕を組んだ伊尾奈が鼻孔から深く息を抜く。
「ああ……基地に帰るまでが遠足ですってことね。了解」
 目を輝かせている理緒と、引いた目で見ているシャナミアを他所に、錫華は涼しい顔を崩さない。
「たしかに、してる最中に敵の攻撃とかあったら、興ざめだもんね」
「支倉様……!」
 勘弁してくれと那琴が渋面を作る。
「そうなるとなにしようかな。暇つぶしも兼ねて、わたしも行こうか? 哨戒任務」
「哨戒デート!?」
 理緒が甲高い声で叫んだ。
「機体どうするの? ナズグル駄目なんでしょ?」
 シャナミアの言う事も御尤もだと錫華は周囲に視線を巡らせた。
「レッド・ドラグ――」
「だめ」
「うん」
「出るならウチのイカルガを使えばいいさ」
 伊尾奈が面倒臭そうに機体を親指で示す。
「いいの?」
「ちゃんと返してくれるなら。当然、機体ん中で盛るのはナシだけどね」
「コクピットえっち!?」
「慎みなさい!」
 那琴の一際強烈な平手が栞奈の頭部を打ち据えた。良い音だなと錫華は思った。
「このまま放っておいて甲板でおっぱじめられても困るからね。哨戒でも何でも連れて行って発散させてやっておくれ……」
 面倒事を押し付けたい伊尾奈と栞奈を連れていきたい錫華。二人の利害が一致した。
「シャナミアさん、イカルガの調整はどうする?」
 錫華が尋ねるとシャナミアは手を払う動作で応じた。
「いってらっしゃい。私は理緒さんと遊んでるから……」
「ほらほら! 伊尾奈中尉のオーケーも出たし行こ!」
 うなだれる那琴を他所に、栞奈はもう自機のイカルガに乗り込む気でいる。
「それじゃあ那琴さんと栞奈さん、次の戦場目指して無事に帰ろうね」
 張り切っているのかいないのかよく解らない錫華。付き合っていられないと深い溜息をつくシャナミア。何事か盛り上がっている理緒。やがて白羽井小隊の哨戒ローテーションが回ってきた際、本来の規定数に加えて一機のイカルガが大鳳から発艦していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

時間とは質量を持った物質である。物質である以上はそれは|干渉可能なものであり、過去の改竄もやれんことはない《ハッキング、仙術、精神汚染、高性能を駆使する》。
まぁ、つまるところ私の|生命再演《リンカーネイション》は改竄した時間質量から失われた命を召喚する術である。死者蘇生というよりはゲームシステム的な転生に近いけど、産み直しだし。
ただまぁ、ただ復活させたんじゃぁ阿鼻叫喚まったなしなので|関係者の記憶の方も弄っておかないと。ミーム汚染ともいう。《精神汚染、情報伝達》
今の私の継戦能力ならリソースの心配もないでしょう。仮に不足したら海に潜って適当な生物を化術で人魚にして”なかよし”してエネルギー充填すれば大丈夫だ、問題ない。

まぁ、私の|妄想を具現化《欲望開放》する|混沌魔術《多重詠唱結界術》でも大変な作業だけどね。でもまぁ、私達の知覚を離れた客観的真理は何もなく、あらゆることは真実であり可能であるのだからイケるイケる。



●リインカネーション
 アリス・セカンドカラーはこう言った。
 時間とは質量を持った物質である。物質である以上はそれは干渉可能なものであり、過去の改竄も不可能では無いと。
 そこは開けた空間だった。太い鋼鉄の梁が剥き出しとなった天井には、一定間隔て設けられた照明が薄明かりを灯している。鈍い金属色の壁と、若草色で塗装された床面が、冷ややかな光沢を照り返し、無機質な屋内空間に暗い静寂を降ろす。
 軽空母ユニコーンの飛行甲板直下の格納庫が、凪の海に微かに揺れる。まるで揺り籠のように穏やかに。
 本来はキャバリアを納めておく筈のユニコーンの胎内だが、いずれのハンガーにもキャバリアは一機も見当たらない。奥行きのある空間には、キャバリアの代わりに黒い袋が整然と並べられていた。
 いずれの袋の大きさも共通して縦の長さが二メートル程度。横の幅は一メートル弱といったところだ。盛った土のように、なだらかな輪郭を作っている。中に何かが入っているのだろう。
 アリスは緩慢な足取りで並ぶ袋の列の間を歩く。暗く冷たい揺籃の室内に足音を響かせながら。時折足を止めて黒い袋を覗き込む。
「まぁ、これだけ原型が残っていればなんとかなるでしょ」
 黒い袋の開いた口から伺える内容物の顔は、既に体温を室内温度と同化させていた。唇は紫色で、鼻孔から眠りの息吹が聞こえる事も無い。
「私の生命再演は改竄した時間質量から失われた生命を召喚する術……厳密には死者の蘇生というより転生に近いかしら? 産み直しだもの」
 墓所となった艦内にアリスの声が反響する。彼女はまるで死者達に公演するかの如く語り始めた。
「ただ……単に復活させたんじゃあ……阿鼻叫喚待ったなしよね?」
 胸の高さで翳した両手の間に、仄かな光が灯る。炎のような電気のような、あるいは粘性の水のような……色も形も定まらない光を、アリスは手の動きだけで粘土の如く捏ね回す。
「関係者の記憶も弄っておかないと……こういうのミーム汚染っていうんだったかしら?」
 やがて光が球体の形状で安定すると、アリスの手が止まった。
「今の私の継戦能力ならリソースの心配もなし。仮に不足したら海に潜って適当な生物を化術で人魚にして”なかよし”してエネルギー充填すれば大丈夫」
 特定の宗教家や学会の業界人が聞いていれば憤慨に狂いかねない冒涜的な言葉を並べ連ねる。されども両手の間に揺蕩う光がぼんやりと照らすアリスの面持ちは何の色味も映さない。
「私の妄想を具現化する混沌魔術でも大変だけどねぇ?」
 アリスが両手を左右に広げる。すると光の球体は綿毛が落ちる程度の速度でゆっくりと降り始めた。
「でもまぁ、私達の知覚を離れた客観的真理は何もなく、あらゆることは真実であり可能……」
 言葉はそれ自体が一種の呪文だと提唱する魔術師が居る。仮に事実ならば、いまアリスが連ねている言葉の全てもまた呪文なのかも知れない。彼女が実践するという混沌魔術の。
「さぁ、心機一転頑張りましょ」
 アリスが双眸に瞼を降ろすのと同時に、光球が床に触れた。水面に落ちた水滴が立てる音が波紋となって拡大し、薄暗い船内を満たしてゆく。音は天井と壁にぶつかると跳ね返り、幾度と無く反響した。
 幾らほど繰り返したのだろうか。跳ね回っていた音が次第に薄らぎ、微かに聞こえる凪の潮騒と溶け合った頃、漸くアリスは目を開いた。
「おかえりなさい」
 微笑に歪ませた唇が囁く。
 黒い袋達が、布の擦れる音を立て始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
せっかくだからコミュ相手にゼロハート氏を選ぶぜ!強制なので絶対につきあってもらう絶対にDA!
ちょうどこれからやる事があるしな

という訳でゼロハート氏を連れて海の見える所へ、あそこに見えるのはクロムキャバリアンデスワームくんでござる
出会いがあれば別れもある…今日はそういう日ですぞ!デスワームくん、お前にも萌えるものが出来たか
理論上は電脳魔術製でござるしなんか行けそうな気がする!いっちょやっか!という訳でこれからユーベルリリースをします!
ユーベルコードからデスワーム君を切り離して良い感じに現実に固定するんだよ、ちゃんと考えてますぞ角度とか

デスワームくん、これで貴様は自由でござる…どこまで飛んでいけるか見させてもらうでござるよ…火を付けろ、萌え残ったスケベに…
多分|女王《レイテナ氏》の国へ行くんじゃないでござるかね?守護獣になりたそうだったしな…野に放った後の事なんざ知らん!
総員旗振れ!新しい友の旅立ちだ!

おや東雲氏、あんまり拙者に会えなくて寂しかったかい?
ゼロハート氏とで拙者を挟んでおくれよ!



●個人の場合3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、法人の場合1億円以下の罰金
 太陽が西に沈んでゆく。揺らぐ凪の水面が、オレンジと金色を魚鱗のように反射して煌めかせた。
 海路を静かに進むクイーン・エリザヴェートの航空甲板の上、焼けた海を前にしてテレサが佇む。潮の香りを孕む風が白い後ろ髪を波打たせる。夕陽が空と海の境界線に近付くなか、駐機したキャバリア達は影を伸ばし、鋭く輝く偽装が緋色の光を浴びていた。
「はい調子ィ?」
 穏やかで荘厳ですらある雰囲気を一瞬で複雑骨折させる男が居た。エドゥアルト・ルーデルである。彼はどこからともなく出現し、酷い形相でテレサの顔を覗き込んだ。
「ひぇっ!?」
 テレサは紺碧の目を見開いて飛び退く。
「だ、誰です!?」
「そうです! 拙者が変なおじさんです!」
 話しが噛み合っているようで全然噛み合っていない。
「は……はぁ? それで、私に何か……?」
「まずはあちらをご覧頂こう……」
 エドゥアルトは心霊特集番組で使い古された言い回しを添えて西の海を指差す。まるで状況を飲み込めていないテレサは訝しくも指で示された方角を凝視する。
「ええっと……何も見えませんけど……」
「お分かり頂けないであろうか? もう一度ご覧頂こう……」
 テレサは双眸を細めて更に注意深く遠方を凝視する。泡立つ海面に敷かれたオレンジ色の絨毯が見事なばかりで、後は太陽が黄金の輝きを散らしているだけだ。
「すいませんが私には何も――」
 奴が現れたのはその時だった。黄金の海が泡立ち始めたかと思いきや爆発し、白い泡の瀑布が立ち昇る。そしてミミズか蛇のように長大で、幾つもの節を持つ機械の怪物が出現した。
「クロムキャバリアンデスワーム君でござる!」
「あの機体……!? あなたの機体だったんですか!?」
 三眼を思わせる三つの回転衝角がエドゥアルト達に一瞥をくれる。
「そうか……お前にも萌えるものが出来たか……」
「も、もえ?」
 疑問符を浮かべるテレサに構わずエドゥアルトは神妙な面持ちでクロムキャバリアンデスワームを見詰める。目尻に涙を溜めて。
「出会いがあれば別れもある……今日はそういう日ですぞ!」
「あの……どういったお話しなのか、よく分からないんですけど……」
「いっちょやっか! という訳でこれからユーベルリリースをします!」
「リリース……? ってええ!?」
 テレサの中で凄まじく嫌な予感が膨張したが既に遅い。エドゥアルトは手綱を切ってしまった。
「デスワームくんよ、クロムキャバリアと共にあれ。これで貴様は自由でござる……どこまで飛んでいけるか見させてもらうでござるよ……」
「飛べるようには見えないんですけど……」
「火を付けろ、萌え残ったスケベに……」
「一体どこに向かったんですか!?」
「多分女王レイテナ氏の国へ行くんじゃないでござるかね? 守護獣になりたそうだったしな」
「あんなに巨大なキャバリアが移動したら、それだけで進路上に重大な被害が及んでしまいます!」
「野に放った後の事なんざ知らん!」
「戻してください!」
「総員旗振れ! 新しい友の旅立ちだ!」
「聞こえていないんですか!?」
「……無駄ですわよ。その御方は会話しているのではなく、言葉に聞こえる鳴き声を発しているようなものなのですわ」
 エドゥアルトが「誰じゃ?」と振り返る。そこには那琴が立っていた。
「おや東雲氏、どうしてこちらに?」
「貴方がプレイングで無理矢理喚び出したのでしょう!?」
 なお移動手段等の諸々については考慮しないものとする。だって|エドゥアルト《ギャグ》時空だから。
「あんまり拙者に会えなくて寂しかったかい?」
「そうですわね、危険生物がどこに逃げ出したのか不安で堪りませんでしたのよ」
「じゃあゼロハート氏とで拙者を挟んでおくれよ!」
「それは後日になさって。百トンプレス機を借りられる工場を探しておきますわ」
 エドゥアルトの傍らでテレサは青ざめた顔で見送る事しか出来なかった。海に潜って出てを繰り返しながら次第に小さくなってゆくクロムキャバリアンデスワームの後ろ姿を。
 あの怪物が行く先々でどれほどのインフラと環境が破壊されるのだろうか。特定危険外来種に認定されるまで、さほど日数を必要としないであろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィエラ・ヴラニツキー
お、おわっ……たぁ……!
(戦闘終了。蟲どもに臓腑を喰わせた甲斐があったと言うべきか)

んー……んっ、んふふっ
(コクピット内で一息つくと、如何にも陰キャらしいアレな笑みがこぼれる
そう、ヴィエラは【実は女性が好き】。それも少々アレな性癖をお持ちなのである!
因みにきょぬーが大好きだが貧もイケる)

(まず大鳳へ帰投し、待機中の灰狼中隊らへさっと顔を出してから哨戒へ出る
役割上、哨戒要員なら自然な形で最後に挨拶できるだろう……という、ヴィエラの浅ましくも涙ぐましい下心と気遣い故の行動である

それはそれとして、顔を合わせた際にヴィエラもまた汗でぐっしょりしていることに気づくだろうか
猟兵だって、人によるかもだが戦えば疲れるし汗もかく。腹だって減る。出来る事は……上限がだいぶ高いけど

首尾よく海軍基地に辿り着ければ、最後に挨拶を交わして分かれることになるだろう
……お別れついでに、中隊の女子らに羽虫――言うなれば「不可視の生きたビデオカメラ」をけしかける

汗だくむわむわお着換えやシャワーシーン等が楽しみだ!(マテ )



●これからのこと
 大鳳の甲板要員が振る誘導灯に従い、セピドCが航空甲板に降着した。機体全体――特に正面装甲に集中して刻み込まれた大小の銃創や裂傷の跡が、スカルヘッドとの交戦の様相を物語っている。
 果たして駐機地点にまでセピドCを移動させ、機体の姿勢を屈めたヴィエラはコクピットの中で大きく背を伸ばす。
「お、おわっ……たぁ……!」
 臓腑の中で蠢いていた蟲共は今も幻の痛みとして残っている。この痛みを負っただけの価値はあったのだろうか……スカルヘッドを撃墜し、こうして帰ってこれたのだから、あったのだと信じたい。それに、彼女達も全員帰還出来たのだから。
 セピドCと同じく駐機中のアークレイズ・ディナとイカルガの足元で、ヴィエラが指す所の彼女達が何事か話し合っているらしい。着用しているパイロットスーツから察するに日乃和軍所属なのだろう。荒んだ灰色の髪で潮風を撫でているのは尼崎伊尾奈中尉に違いない。不死身の灰色狼の異名の基となった髪と、他の女性と比較して図抜けて高い身長ですぐに判別出来る。とすると、他の少女達は灰狼中隊か白羽井小隊なのかも知れない。
「んー……んっ、んふふっ……」
 不意にヴィエラは不穏な笑い声を漏らしてしまった。もし鏡があれば中々に怪しい笑顔をしている自分の姿が確認出来たであろう。お喋りしている女性陣を眺めているだけで表情が綻んでしまう。ヴィエラは女性が好きだった。
 暫し眺めている内にふと思い浮かんだ。
 今なら話しかける絶好の機会なのでは?
 思い立ったヴィエラの行動は迅速である。コクピットのハッチを開放し、差し込む夕焼けの陽光を全身に受けながら航空甲板に降り立った。冷えた向かい風が戦闘で火照った身体に心地よい。無意識に額を拭うと、前髪が汗で張り付いていた事に漸く気が付いた。
「……しょせん人間なんだな、ぼくって」
 呟きは人々の喧騒に呑まれて消えてしまうほどに小さい。猟兵でもアリス適合者でも、こうして激しい戦闘を行えば発汗するし疲れもする。腹だって減る。撃たれれば痛いし、殺されればきっと死ぬ。猟兵の中には例外も居るのだろうが……そういう猟兵はそもそも立つ世界が違うのだ。少なくとも自分は例外の内に含まれないつもりだった。
 常人より少しやれる事が多いだけの……でもその少しが猟兵と常人を隔てている大きな壁なのかも知れない。決して越える事の出来ない大きな壁。猟兵を生命の埒外たらしめている壁。ヴィエラは途端に伊尾奈達の姿が遠くに見えた。
 赤い瞳と視線が交差した。伊尾奈がこちらに気付いてちらと目を寄越したらしい。ヴィエラは反射的に息を詰めて歩き出していた。きっと性が好機と捉えたのだろう。
「あの……哨戒は?」
 思わず経緯を省いた言葉を発してしまった。
「あ?」
 伊尾奈の声音は女性にしては太く低い。
「んお? あの虫みたいなキャバリアに乗ってた人?」
 亜麻色の髪の少女が覗き込む。同じくして黒い長髪の少女からの目線も受けた。
「えっとその、哨戒に出てもいいのかな……って……時間、空いてるから……」
 物珍しい生き物を見るような目を集めてしまったヴィエラは、戸惑いながらもなんとか言葉を形にする。珍獣の気持ちが少し理解できた。首を右往左往させていると、伊尾奈が眉を怪訝に顰めた。
「行くのは勝手だけどね、休みは要らないのかい?」
「えっ?」
「そんな汗だくでもう一回りして来て大丈夫なのかって聞いてるのさ」
 少しの間だけ思考を逡巡させた後、伊尾奈が言わんとしている事を漸く把握した。他者からすると相当に激しく疲弊しているように思えたのだろう。
「だい……大丈夫、この位……慣れてるし」
「そうかい。なら止めないけどね」
 本当に大丈夫なのか? 伊尾奈が細めた目はそう含んだ問いを投げかけていた。
「じゃ、じゃあ行ってくる。哨戒……」
「あんまり一生懸命やるんじゃないよ。遅れてきた連中の仕事なんだからね。アンタらは適当に休んでりゃいいんだよ」
 ぶっきらぼうな伊尾奈の口振りがヴィエラにとってはむしろ有り難かった。背中に視線を感じながらセピドCの元へ足早に向かい、操縦席に身を落ち着かせた。
「……ふふっ」
 ハッチが閉ざされて暗闇となった操縦席に不穏な笑い声が充満する。
 灰狼中隊の女子――子と付けるのに伊尾奈は歳が行き過ぎてる気がするが、兎も角彼女達と少し話す事が出来た。それからあの亜麻色の髪の少女は白羽井小隊のナンバーツーの栞奈准尉で、黒髪の方はナンバーワンの那琴少尉だろう。白羽井小隊の女子達とも顔を合わせる事が出来た。しかしちゃんとした挨拶らしい挨拶をし損なってしまった。
「基地に着いたらさよならする前にしておけばいっか」
 一人納得したヴィエラはその後の事を思案する。あわよくば、不可視の生きたビデオカメラを彼女達にけしかけて――セピドCの動力炉が奏でるアイドリングの音に紛れて、ヴィエラは怪しく密やかに笑い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中小路・楓椛
アドリブ連携自由
以降の会話は言いくるめ併用

屋台を展開、看板に「楓椛さんのウキウキお悩み相談QE出張所」の張り紙を追加。
ブリンケンさんと白木さんに話を通してから此方側の世界のニンゲンに安全な材料と製法の飲食物をそれなりの量を参加者に提供しつつお悩み相談を開催。
覚悟完了済の職業軍人と言えどストレスは無かった事にはなりませんので話したい事を最初から最後まで聞いた上で何か助言できるなら対処。相談者の秘密は守りつつ現状の情報収集を巧みに行い分析しこの国の「次」の高強度紛争に備えます。

私はどなたからの相談でも遠慮なく承ります。それがハイネス……いえマジェスティであろうと変わりませんヨ。
特に荒唐無稽な大理不尽や御伽噺の概要や距離感付き合い方についてはこの世界に限定しないものも含め助言できる事があるかもしれません。
血に因って至高の椅子に座るしかない現状、「それでも」貴女が君主と「なる」事を諦めないのであれば先ずは周囲で支えている人の名前と顔を忘れない事から始めましょうか。私はいつでも見守っていますよ?



●楓椛の部屋
 クイーン・エリザヴェートのブリッジクルーは困惑していた。
 どういう経緯になればブリッジに屋台が出店するのだ?
 まず物理的には可能だ。レイテナ全海軍の旗艦でもあるクイーン・エリザヴェートのブリッジは、大規模な艦隊を指揮・統制する為に多種多様な機器や設備を取り揃えている。それらを内包し、更には管制に携わる者達が円滑に各々の役割を果たせるよう、結果として空間を余分に広く取った設計となっているからだ。
 しかしそういう問題ではない。倫理や作法といった、言わば人の精神面での問題だ。
 極端な例ではあるが、首相官邸の一階大広間に屋台が出店していればどう思うだろうか。難しい理屈は抜きにして、よほど特異な価値観の持ち主でも無い限りは場違いだと思うに違いない。
 加えてその屋台がラーメンやおでんならまだしも、ダゴン焼きなどという名状し難い冒涜的な|幟《のぼり》を上げていたら尚更であろう。その手の崇拝者は怒り狂うかも知れないが。
 楓椛がしている事はまさにそれだった。
 艦長席と司令席に対面する格好で屋台を構え、極めて高性能な空調設備でも吸気し切れないほどの炭火の芳醇な香りを広げ、焼き鳥屋にありそうな網焼き式の厨房器具に海鮮素材入り卵焼きを並べている。
 荒唐無稽かつ支離滅裂な光景にブリンケンとエリザヴェートのみならず、ブリッジクルーの総員が困惑の目を集約させた。
 注目を一身に集めている楓椛本人――もとい本狐はというと、立てかけた看板に紙を貼り、そこへマジックペンで何事かを書き込んでいた。
「これでよし、と」
 マジックペンのキャップを閉める。
 楓椛さんのウキウキお悩み相談QE出張所。
 やたらと仰々しく達筆な文体でそう書かれていた。
 店主は屋台に立つと、慣れた手付きでダゴン焼きを引き揚げて二枚の皿に並べた。
「さあ、熱い内にどうぞ」
 エリザヴェートとブリンケンにそれぞれ手渡す。
「なんじゃこれは……」
 世界三大奇虫を観察するような目付きで、手にした冒涜的な串焼きを様々な角度から見るエリザヴェート。
「まあ、悪くは無いな」
 ブリンケンは一口入れると良く噛み締めて味と食感を確かめる。
「無用心過ぎぬか……?」
 まるで信じられないと顔を引き攣らせるエリザヴェートを他所に、ブリンケンはまた一口食べてしまった。
「ブリンケンさんのお口に合ったようで何よりです」
 楓椛は浅く頭を垂れる。
「して、お二人様方、何かお悩みはございませんでしょうか? どのような生まれ、役職にせよストレスは無かった事にはなりませんので……勿論秘密は厳守致します」
 というのが楓椛が屋台をブリッジ内に出した目論見だった。
 現状の情報収集を巧みに行い、分析し、この国の次の高強度紛争に備える。ダゴン焼きは情報収集を行う為の一つの要素だ。人は美味いものを食えば口が緩むものだから。
「私はどなたからの相談でも遠慮なく承ります。それがハイネス……いえマジェスティであろうと変わりませんヨ」
「なら俺から相談させて貰おうか。お仕えしている女王陛下がワガママ放題のきかん坊し放題なんだがどうすりゃいいもんかね?」
「誰か! ブリンケンの首を跳ねよ!」
 黄色い声に対してブリッジクルーは誰も反応を示さなかった。
「なるほど……これは中々にお困りのご様子ですね」
「キツネ! 聞こえておったぞ! そなたもギロチンの刑が望みか!?」
 鼓膜に痛いエリザヴェートの声を真正面に受けて楓椛は首を引っ込める。ブリンケンに目をやると、ご覧の通りだと口に出さずに嘆息で告げていた。
「お言葉ですがエリちゃん」
「気安すぎるわ!」
「失礼しました、ではエリザヴェート陛下。不躾ながら、陛下の現状は血に因って至高の椅子に座るしかない、或いは余儀なくされたとお見受け致します」
「ぬぁぁぁにぃぃぃ!?」
「おおう? 言うなぁ?」
 憤慨を剥き出しにするエリザヴェート。隣のブリンケンはこれは観物だぞと艦長席の肘掛けに腕を置いて顎をなぞった。
「ですが……それでも貴女が君主として君臨する事を諦めないのであれば、先ずは周囲で支えている人の名前と顔を忘れない事から始めましょうか」
「人の名前じゃと!? 侮るでないわ!」
「それじゃ陛下、質問です。侍女長のお名前は?」
 ブリンケンの問いにエリザヴェートは身体を固まらせて押し黙った。
「ほら覚えていないじゃないですか」
「やかましいわ!」
 楓椛はこれはどうにも深刻らしいと密やかに呼吸を抜いた。
 高強度紛争云々の前にレイテナが抱える女王が問題かも知れない。レイテナは王室と議会の二重政治構造と化しているとは事前に聞いていたが、王室のトップを張る女王がこの様子では、あれよこれよとしている内に議会に蹴落とされるのが必定だろう。むしろ今までよく保っていたとも思うが……支持者の涙ぐましい努力と献身があったのだろうか?
「ブリンケンさんはさぞ苦労なされたのでしょうね」
「いやぁ全くな」
 クイーン・エリザヴェートの艦長はお手上げだと言わんばかりに左右の手を広げた。
 恐らく彼は女王の支持者の一人、それもかなり有力で近い所に居る人物と見て間違いない。
「他にご相談はございませんか? 例えば……荒唐無稽な大理不尽の付き合い方についてなど」
 敢えて勿体を付けた。するとブリンケンの目付きが変わった。
「イェーガーについてだが」
 楓椛の思惑通りに食い付いた。無言で微かに頷いて続きを促す。
「前々から日乃和伝手に情報は貰っていたが、実物は思っていた以上に大したもんだった。超人集団とでも言えばいいのか……」
「ご期待に沿えたのならば何よりです」
「じゃがデタラメが過ぎるわ! 特にあのバカでかい火柱! 一歩間違っておったら妾の艦隊が丸焦げじゃったぞ!」
「陛下、その点はご心配無く。私達イェーガーは、如何なる状況下であっても確実に任務を遂行する存在ですので……基本的には」
 楓椛は最後に極小さな声で付け加える。嘘は何一つ言っていない。
「ほう? 東雲官房長官と同じ事を言うんだな」
「おや……私達の雇用主も同様の見解をお示しになられていたと?」
「俺の見立てもそう遠くないかも知れんがな」
 お気に召して頂けたようで何より。楓椛は緩やかに会釈した。
「今後は必要とあらばどうぞお呼び立てください。私はいつでも見守っていますよ?」
 呼ばれる時には決まってオブリビオンマシンが湧いているのだから。恐らく因と果を結ぶ鎖の所在は日乃和からレイテナに渡ったのだろう。既にエリザヴェートもブリンケンも飲み込まれているに違いない。世界を滅ぼす者とそれに対する抗体の戦いに。
 この国の「次」の高強度紛争……起きるとすれば、その場には猟兵とオブリビオンが存在する筈だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨飾・樒
戦闘が終わっただけ、艦隊護衛は終わってない
残存してる侵蝕弾とか、強制停止しなきゃいけない機器とかがあれば"眠り薬の魔弾"が使えると思う
基地に着くまで、出来ることをやる

戦闘後の艦隊の状況を詳しく知りたい
援護射撃で沢山ミサイルを使ってくれたけど、その後の対空戦闘は大丈夫だったのか
何が出来て、何が出来なかったのか、知らないといけない
その上で、援護してくれたことへの感謝を伝えたい

艦内の設備を使わせて貰えるんだろうけど、休息は必要最低限にする
正直、缶詰以外も食べたいし、シャワーも浴びたい
でも他世界だとネズミを忌み嫌う人達も少なくないって聞いてる
どう見られてるか分からないし、不要な摩擦は避けたい

スカルヘッドのパイロット、ゼロハート・プラント、今後の作戦
気になることは多いけど、考えるのは帰ってからにしよう



●眠り
 スカルヘッドの撃破に合わせて日乃和の増援艦隊が到着し、主な戦闘が終息の兆しを見せた頃。樒は空母ヴィクトリアスに食い込んだ侵蝕弾の鎮静化に当たっていた。
 オタマジャクシのようなそれは、航空甲板の着弾地点から血管のような筋を広げ、構造を徐々に変異させる。
 樒は六式拳銃丙型のアイアンサイトの向こうに侵蝕弾を重ねると、引き金を引いた。青白いガスを噴射した銃口が弾丸を放ち、標的を射抜いた。
 激しく打っていた尻尾のような器官の動きが鈍り、力なく垂れ下がる。航空甲板に放射状に広がりつつあった筋の脈動も止まり、侵蝕弾は眠るようにして活動を停止した。
 まずは一つ。眠り薬の魔弾で止めておけば、後はヴィクトリアスの船員が撤去と浄化処理を行う。樒は六式拳銃丙型のスライドを引いてチャンバー内の弾丸を確認すると、次の侵蝕弾へ向かった。
 撃って眠らせての繰り返しは、ヴィクトリアスが受けた侵食弾が全て眠りにつくまで続いた。

「艦隊の状況は?」
 艦隊がイーストガード海軍基地への帰路に就いた頃には侵蝕弾の沈静化処理も終わっていた。そして樒は戦艦ネルソンのブリッジを訪れ、艦長にそう尋ねた。
「損耗は大きい。だがウォースパイトを含めた主要な艦艇の多くが轟沈を免れた点は不幸中の幸いと言えるだろう」
 ネルソンの初老の艦長は重い口振りで慎重に語る。
「主要な艦艇が多く残った点については、EVOLの迎撃に成功した事もあるが、それ以上にスカルヘッドの攻撃を抑えられた事が影響を及ぼしたのだと考えている」
 数と質――どちらが優れているのかは一概には言えない。戦いの基本は確かに数だが、実際には時と状況に依るし、昨今は質が数を覆す事など珍しくもない。これは猟兵が実践しているのだから誰も否定出来まい。質で圧倒的な数的不利を覆したのが現在の結果だ。
 樒は思う。スカルヘッドは人喰いキャバリア側にとっての猟兵的な存在だったのではないかと。
 拳銃越しに対面した時に感じた重圧。あれは尋常では無かった。一撃掠めさせる事すら困難な超高速機動。偶々ネルソンとロドニーがミサイルで援護してくれたから良かったものの――樒はいつの間にか傾けていた面持ちを上げ直した。
「援護射撃で沢山ミサイルを使ってくれたけど、その後の対空戦闘は大丈夫だったの?」
 空対空ミサイルもCIWSもあの状況においては貴重な自衛手段だった筈だ。戦艦のネルソンは地上に支援砲撃を降らせるという重要な任務を担当していた。だから自衛の為に使う事はあっても友軍の援護の為に使う余裕があったとは思えないのだが。
 ネルソンの艦長は暫し沈黙してから口を開いた。
「我が艦はあの状況で最善と思われる策を選んだ。スカルヘッドこそが防空上最も危険視するべき脅威であり、あの援護射撃は我々の艦隊が戦略上の勝利を収める為に必要な判断だった。ロドニーや各艦の考えも同じだろう」
 やたらと遠回しに聞こえる言葉の羅列を咀嚼する。
 要は自艦防御が疎かになったとしてもスカルヘッドを止める必要があった。その為には樒を援護する事が必要だと判断した……という事らしい。
「援護に感謝する」
 樒が小さな声で呟く。
「互いに自分の義務と責任を果たしたまでだ。しかし感謝は受け取っておこう。こちらからもスカルヘッドの撃破に感謝の意を送らせてもらう。奴はあまりにも多くの将兵を殺し過ぎた」
 スカルヘッドの撃破という言葉を聞かされて、改めて戦闘が終わった事を肌身で実感した。途端に身体に重い疲れが伸し掛かって来る。
「イェーガーとは言え、我々のように疲れもするのだな?」
 ネルソンの艦長の問いを受け、樒は無意識に額に手を当てがっていた事に気が付いた。
「イーストガード海軍基地に到着するまでまだまだ掛かる。食事、シャワー、睡眠、艦内施設を使って身体を休めるといい。寛げるかは保証しかねるがね」
「……いいの? ネズミだけど?」
 樒は探るように尋ねる。自分の種族は他世界では必ずしも良い目ばかりで見られるとは限らない。疫病や不浄の象徴として忌み嫌う者達も少なくないからだ。
「問題かね? ゴブリンなら一考させて貰うが、見たところ君は獣人のようだが……」
 ネルソンの艦長は首を傾げた。どうやらゴブリン差別はあっても獣人差別は無いらしい。少なくともこの艦長には。
「なら、使わせて貰う」
「それがいい。よく身体を休めてくれ」
 樒は背中に視線を受けながらネルソンのブリッジを後にする。
 撃破したスカルヘッドから現れたテレサ・ゼロハートそっくりの人……のような何か。人喰いキャバリアを生み出し続けるゼロハート・プラント群。今回の戦闘が今後に及ぼす影響。樒の前には濃い霧が立ち込めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィンデ・ノインテザルグ
どれ程の期間機能停止していたのだろう。
医療従事者の妨げにならないよう身を起こし
簡潔に手続きを済ませたら、陽光を求めるように甲板へ。

相も変わらず、この眼に昼明は戻っては来ないが。
あれは…白羽井小隊の。
彼女に声掛けする時に、呼称は役職名で。

…ナグサメエッチは、もうお済みで?
オープン回線で拾った会話を思い返し
飄々と本人に問うてみる。

君達とは違って、私の|国《父》は死んだ。
帰る場所も護るべき物もない。
眼前の彼女とその縁者がそうならぬよう
内心では願いながらもそっけなく。
君の|国《神》の立ち回りによっては
この先一戦交えることもあるのだろうな。
おっと安心してくれ。今は未だ、その時ではない。

戯言はさておいて…御母堂への鎮魂の祈りは済ませたのか。
信仰の違い等些細な事だ。
総ての祈りは、生きる者達の心を護る為に在る。
もし彼女が黙祷を捧げるならば
私も密やかに人差し指と中指を交差させ、共に祈ろう。

喀血する前に踵を返してその場を後に。
私はギャラガー財団所属、ヴィンデ・ノインテザルグ。
機が在れば、また何処かの戦場で。



●煤けた夕焼け
 果たしてFireflyの操縦席から大鳳の航空に降り立ったヴィンデは、まず東の空を見た。水平線から滲み出た暗闇が空の三割程度を覆いつつある。
 次に西の空を見た。もう1時間か2時間で水平線に触れるであろう太陽が、凪の水面に黄金の煌めきを映している――のだろうが、ヴィンデには灰色掛かって煤けた世界にしか見えていない。
 しかしながら思わず安堵の溜息が漏れた。どれほど寝ていたかは定かではないが、少なくとも日の出を拝むほどでは無かったらしい。寝ている間に太陽が沈む方角が変わっていなければの話しだが。
 全身を苛む痛みからしても熟睡していた訳ではないようだ。Fireflyが受ける筈だった痛みを、ユーベルコードの振り返しとして自身の身体を以てしてツケを支払わされている。強化人間でこれなのだ。生身であればこうして立っている事も無かったかも知れない。
 かといって境遇に感謝するかと聞かれたら……首の後ろをさすっていると、視界の隅に少女の姿が入り込んだ。
 東アーレス半島側へ吹き付ける風になびく濡羽色の長髪。作戦領域の海を眺める背中に、ヴィンデの中にある記憶が呼び覚まされる。
「あれは……白羽井小隊の」
 東雲那琴――フェザー01か。ヴィンデはしなやかな輪郭の背中に声を投げた。
「少尉」
 すると那琴は暴れる髪から手で顔を庇いつつ半身を向けた。
「ナグサメエッチは、もうお済みで?」
 飄々と尋ねると那琴は激しく咳き込んだ。
「日乃和といったか? これで君達の国は救われたという訳だ」
 ヴィンデはな事の隣に立ち、大鳳が引く航路の跡に目を飛ばす。
「ひとまずは。ですが、半島を……いえ、ゼロハート・プラントを止めない事には……」
 視界の隅で那琴が同じ方角を向いた。きっと彼女にはこの空が燃えるように赤く、この海が黄金に輝いて見えているのだろう。見る先は同じでも見えている光景は違う。
「なに、国が残っているならどうとでもなる。私の国は死んだ。帰る場所も護るべき物もない」
 何かを言い掛けて首を向けた那琴にヴィンデは首を振る。感傷に浸りたい訳では無い。ただ、自分のようにはなるなという祈りなのだと。
「この世界ではありふれた事だ。国同士が争い、どちらかが滅ぶ。滅んだ側が偶然私の国だったというだけなのだからな」
「ですが、ありふれた事だとしても、悲しいと感じる心まで切り捨てられる人間にはなれませんわ。わたくしは……」
 那琴は再び顔を辿ってきた帰路へと向けた。
「君の国の番が回ってくる時もあるやも知れない。或いは……猟兵に目を付けられるかもな。君の|国《神》の立ち回りによっては、この先一戦交えることも無いとは言えない」
 猟兵とはそういうものだ。ヴィンデは猟兵だからこそ知っている。
「その時は……もう過ぎましたのよ」
 ヴィンデが見た那琴の横顔は、寂寥を含んだ微笑を形作っていた。
「ほんの冗談だ」
 既に終えた後か……ヴィンデは瞑目して微かな失笑を吹き消す。
「ところで、何故海を見ていた?」
「黙祷を」
「そうか」
 荘厳なまでの威容を湛えるこの海原の下には、多くの死者が累積している。
 戦い、生き抜いた己もまた幾多の死者を踏み締める者のひとり。
 双眸に瞼を下ろして俯く那琴を横目に、ヴィンデは人差し指と中指を交差させた。信じる神は違えど、祈り悼む思いに違いはあるまい。総ての祈りは、生きる者達の心を護る為に在るべし。ヴィンデは内なる神に英霊達の安息を願う。
 煤けた世界が暗闇で閉ざされると、身体の奥底で蠢く痛みがより鮮明に感じられた。撫子の前でうっかり赤黒い体液を吐き散らすのも申し訳ないと密やかに踵を返す。
「あの」
 気配を抑えて去る背中に声が投げられた。
「まだお名前を伺っておりませんでしたわね」
 ヴィンデは立ち止まり、顔を僅かに横に向けてこう答えた。
「私はギャラガー財団所属、ヴィンデ・ノインテザルグ。機が在れば、また何処かの戦場で」
 義足が歩き出す。煤けた夕焼けの航空甲板を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドワルダ・ウッドストック
アドリブ連携歓迎

スカルヘッドのパイロットと思わしき少女に、統率されたEVOLの群れ……謎は多く残りましたが、何とか艦隊を守り切ることができましたわね。
追撃する余力こそありませんが、帰投が完了するまでが任務。
気を振り絞って、哨戒に加わり協力しましょう。
輝くカナリアなら夜空ではいい目印にもなるでしょうし、……流石に、初見の方々に(聖餐儀式を)振舞う訳には行きませんし。
もうひと頑張り頼みますわよ、ペドロ。

……海というものは、どの世界であっても広大なものなのですわね。
イカルガの方々と共に、レーダーや目視での監視を行います。
あと、日が暮れている間に《聖餐拵》にてカナリアの修復を済ませておきましょう。
キャバリアも自身の一部と見做してUCを行使できる。この発想も獣人戦線ではなかなか気づけなかった名案ですわね。
……こうした交流も、わたくしたちの力になりますわね。

これからは積極的に交流をしていきましょう。
今は哨戒中なので会話に専念するのは良くないですけれど、共に並ぶ方々と挨拶を交わす余裕はあるでしょう。



●黄金の海
 西の遥か彼方に望む東アーレス半島。空と地の狭間に触れ合いつつある太陽は、目が眩む緋色に燃えていた。大鳳の飛行甲板に聳立するカナリアは、機体の正面全体に夕陽を目一杯に浴びて、装甲をより一際黄金色に輝かせる。
「何とか、艦隊を守り切ることができましたわね」
 ペドロと並び立つエドワルダは、カナリアの足元から機体を見上げた。スカルヘッドの魔弾こと頭部荷電粒子砲の直撃を受け止めたプラズマバックラーは溶け落ちてしまった。機体も各所が溶解している。しかし致命的な損傷にまでは至らなかったのだから、この黄金装甲は単なる伊達や酔狂、ましてや目立ちたがりの成金趣味ではなかったのであろう。
 撃墜したスカルヘッドから出現した白髪碧眼の少女と、統率性を見せたEVOLの集団という得体の知れない謎は残されたが、敵は去り、レイテナ第一艦隊の護衛の任務は果たされた。残すところは無事にイーストガード海軍基地に辿り着くだけだ。
「もうひと頑張り頼めますね? ペドロ」
 はにかんで尋ねると鹿獣人の相棒は親指を立てた。共にカナリアの薄暗いコクピットの中に入り込み、操縦席に腰を据えたエドワルダは、祈るように両手を組み合わせて瞼を降ろす。
 足元から湧き上がる黄金の燐光。琥珀色の髪がゆっくりと浮き上がる。溶け落ちたプラズマバックラーが少しずつ原型を取り戻し、破壊された機体各部の装甲が時間を巻き戻したかの如く再生し始める。モニター上に表示された機体のコンディションモデルが赤から黄、緑に移り変わった。
「キャバリアも自身の一部と見做してUCを行使できる。この発想も獣人戦線ではなかなか気づけなかった名案ですわね」
 エドワルダは組んだ手を解くと一息着いた。聖餐拵の聖者の光はカナリアにもちゃんと及んだらしい。恐らくキャバリアは肉体の延長線上、或いは拡張された肉体という概念なのだろうか――何にせよユーベルコードで修復出来る事が判明しただけで十分だ。太陽光は……コクピットに引き籠もっていれば問題あるまい。
 哨戒出撃の為に機体をカタパルトに進めようとした矢先、次第にエンジン音が近付いてきた。哨戒に出ていた灰狼中隊のアークレイズ・ディナとイカルガが戻ってきたらしい。入れ替わる格好で白羽井小隊の各機がカタパルトから射出されていった。
「丁度良い機会ですわね」
 ついでに交流を深めるには――エドワルダが口に出すまでも無く意図を察したペドロがカナリアをカタパルトデッキへと付ける。管制官の指示に従い、白羽井小隊の後を追って射出されたカナリアは、やがて緩やかに高度を落とすと脹脛部分のバーニアを90度下方に向け、海面を滑るようなホバー移動を開始した。背中の大型スラスターを一瞬力強く閃かせ、カタパルト射出で得た加速を増速させて白羽井小隊の編隊と並ぶ。
『うわ、金ピカだ!』
 珍獣を見つけたかの如き声を上げたのはフェザー02の雪月栞奈准尉だった。やはり輝かしい装甲は嫌でも目に付くようだ。目印になってくれてなにより。これでは隠密性は全く期待出来ないなとエドワルダは内心で苦く笑う。
「ガーダー……02よりフェザー01へ、哨戒任務にご協力させて頂きます。コースはどちらに?」
 コールサインの番号で少々言い淀んだが、流暢な口振りで後を続ける。
『フェザー01よりガーダー02へ、ご協力に感謝申し上げますわ。哨戒コースをご案内致します。ガイドを送りましたので、そちらに』
 戦術データリンクシステムを介して送信された進路情報がマップモデルに反映される。それを他所に、エドワルダはどうにも白羽井小隊の隊長、東雲那琴少尉の口調が気になって仕方が無かった。
「……似ていらっしゃいますね、わたくしに」
『どうかなされました?』
 うっかり口走ってしまった事を知らされて「お気になさらず」と言い繕う。
「ペドロ、受信したガイドの通りに」
 前席に座る操縦士が了解と応じる。白羽井小隊の編隊の左翼を行くカナリアは、編隊が進路を右方向に傾斜させるのに合わせて同じく舵を切った。メインモニターの中央に居座った真っ赤な夕陽に思わず双眸を細める。防眩フィルターが効いていても尚眩い光が目に痛い。
『ぎゃー! 金ピカに夕陽が反射して! 目が! 目が!』
『フェザー01よりフェザー02へ、おだまりなさい』
 本気なのか冗談なのか解らない栞奈の悶絶にエドワルダは眉宇をハの字に傾けて仄かに笑う。
「こうした交流も、わたくしたちの力となるのでしょうか……」
 隣を翔ぶ白羽井小隊の各機に尋ねるようにして呟いた。
 自分達が世界が産み出した抗体だとするならば、彼女達は世界を構成する環境の一部なのだろう。因果の連鎖がどう繋がるのか想像が及ぶところではない。だが彼女達との繋がりが、世界との結び付きに連鎖するのだとすれば、いずれ大きな力へと繋がってゆくのかも知れない。エドワルダは視線を前に戻した。
「……海というものは、どの世界であっても広大なものなのですわね」
 緋色に焼け付く太陽が照らす海。穏やかに揺れる水面の間に黄金が煌めく。
 宵闇が迫る数刻前の哀愁感じる黄昏が、疲弊しきった身体に痺れを滲ませた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
んーどうしたものだろうね?
いつも通りに医者の真似事をするのもありです?
<臨時診療所>なら死んでなければどーとでもなるし
いや、でもなー重症とまではいかない負傷者も溢れかえってるしなー
それなら食事を通して大量に治療できる<医食同源>もありっぽい?
ふむ…スペース問題もあるし<秘密之箱庭>もありか?
あー戦闘ではないから十分な集中もできるしUCの複合発動もいけるか?
それなら内部時間を24倍まで加速した<秘密之箱庭>で治療と食事の提供をすれば効果的なのでは?
うんうん、今くいけば復帰も確実に早まるしね
成功すれば負傷者の問題を一気に解決できるのが最高なのです
まぁ、秘密之箱庭だけでもある程度の治療はできるしね
やるだけやってみるっぽーい



●温泉病院
 空母大鳳の飛行甲板上は人で溢れていた。
 甲板要員は勿論、船内に収納しきれなかった負傷者や看護に当たる医務官、引き揚げた機体を格納庫に搬入する整備班や死体袋、あと何か名状し難い奇行に及んでいる猟兵まで。
 都市部のスクランブル交差点もさながらといった雑踏を前にして鬼燈は腕を組んで首を傾げていた。
「んー? どうしたものだろうね?」
 やれる事があり過ぎる。
 まず負傷者を大勢回収しているので医療に従事する事が出来るだろう。ユーベルコードの臨時診療所を使えば、まだ心肺停止していない患者ならどうとでもなる筈だ。
 しかし一方で重症でない負傷者も大勢居る……というよりそちらの方が明らかに多数だ。特に飛行甲板上に追いやられた負傷者の多くは程度の低い者が目立つ。こちらを先に処置した方が良いのだろうか? 医食同源で回復料理を振る舞えば効率的だろう。飯を食えば治る。
「でもなー、スペース問題もあるしなー」
 鬼燈は改めて周囲に視線を一巡させた。とてもでは無いが道具を広げて作業に当たれるほどに空間的余裕があるとは思えない。厳密にはあるにはあるのだが、帰路に就く前からキャバリアがひっきりなしに哨戒から出たり戻ったりしているので、その際に生じる強烈なジェット噴射圧という暴風問題もある。
 艦内は論外だ。格納庫には引き揚げたキャバリアを搬送するフォークリフトが行き交ってるし、通路も部屋も負傷者だらけで余裕が無い。
「ふむ……スペース問題もあるし、秘密之箱庭にするか?」
 空間が無いのなら増設しよう。ユーベルコードで。
 思い立った鬼燈はおもむろに負傷者に近寄り「ちょっと失礼」と一声掛けて懐から取り出した小箱に取り込んだ。ほんの一瞬の出来事に吸い込まれた相手は状況も飲み込めなかったであろう。
「な、なんだその箱は!? いま人を吸い込んだぞ……!」
 一連を目の当たりにしていた周囲の負傷者が青ざめた顔で叫ぶ。
「どこでも温泉旅館なのですよ」
「は?」
 なんてこと無く言ってのける鬼燈に負傷者は素っ頓狂な声を上げた。
 これはユーベルコードで生成した箱で、内部は湯治温泉になっている。大鳳にはもう道具を広げて医療や食事を提供出来る場所が無いので、この箱の中の空間でそれらを行いたい。という旨を伝えると、日乃和側の人間は一つ返事で納得した。
「本当か? とてもそうには見えないが……」
 レイテナ側の人間は訝しい。これは猟兵に対する解像度による差なのだろう。
「大丈夫ですよ。猟兵のユーベルコードとはそういうものなのです」
 日乃和側の勧めを受けて、レイテナ軍の負傷者は疑わしくも渋々といった様子で秘密之箱庭に触れた。身体が一瞬で吸い込まれて消失する。
「では僕も」
 続いて鬼燈も箱の中に吸い込まれた。
 奥に引き伸ばされた景観が元の伸縮率に戻ると、温泉宿の玄関口が出迎えてくれた。和風の調度で彩られた室内には暖色の照明が灯り、カウンターの奥では二人の給仕係――の姿をした式神が、来客の対応の為に控えている。
「ど……どうなってんだこりゃ……」
「どうなってるのかと聞かれたらこうなってるのですよ、としか」
 突拍子も無く現れた温泉宿に呆気に取られるレイテナ人。鬼燈は適当にあしらいつつ式神に指示を与えた。その間にも玄関口には続々と負傷者が送り込まれてくる。外の世界で日乃和軍の誰かが融通を効かせているのだろう。
「じゃあよろしく」
 腰を折る給仕係の式神を横目に鬼燈は通路の奥へと進む。向かう先はいつくかある大部屋の内の一室だった。

 本来は宴会に使われる大きな畳部屋だが、本日は幾つもの布団が敷かれた寝床となっている。だが布団の上に身を横たえた者達は泥酔した客人などではない。鯨の歌作戦で負傷したレイテナ第一艦隊所属の兵達が殆どだ。
 飛行甲板に溢れている負傷者の中でも処置に急を要する者達を収容し、臨時診療所と化した大部屋に並べた。軽度の低い者達は今頃湯治しているか回復料理を食っているだろう。
「はじめるっぽーい!」
 入るならまずは形から。そう言わんばかりに手術衣に着替えた鬼燈が患者の処置に取り掛かる。患部の洗浄から消毒。一時止血の為の仮縫合を解いて再縫合。折れた手足があれば添え木を当てて固定したりなど、あらゆる医務を流れ作業のように流暢な手付きでこなす。
 医療効果には秘密之箱庭が持つ精神と肉体の治癒作用も働いていたであろう。患者達が比較的大人しくしていてくれた理由もそこにあるのかも知れない。式神の補助看護師の手助けも得て、鬼燈は一人の患者の処置が終わればまた次の患者と、忙しくも淀みなく処置を続ける。加速した時間が流れる温泉宿で、来訪者達の傷が癒えた頃には、きっと艦隊はイーストガード海軍基地に到着している筈だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
今回も疲れたぁ~。哨戒とかはちょっとみんなにお任せだね。
しかし、エヴォルグシリーズ、ついにこんな相手も出るようになったか…。
今回の相手は、今までと全然違う…。それに、あの女の子。
気にはなるけど、驚異になりそうだよね。
となると…

整備と一緒にブルー・リーゼの戦闘記録をコピーするね。
エヴォルグシリーズとの戦闘記録、特に今回のスカルヘッド戦の戦闘記録は念入りに。

データコピーしたら…。うーん、ここは上の人にっていうのが筋だけど…。

伊尾奈さんと那琴さんに会いに行こう。
二人を見つけたら、ちょいちょいっと手招きをするね。

…ブルー・リーゼの対エヴォルグとの戦闘データ、二人に渡すね。
上の人っていうのも考えたけど、上の人の空気が苦手なんだよね…。なので、信頼できる二人にお任せするよ。
小隊の練度を上げるのに使うもよし、上にもっていって、全体の戦力アップやデータ解析にもっていくもよし。そのまま握りつぶすもよしだよ。

わたしの個人的な気持ちは、誰にも死んでほしくないから、それに役立てばいいかなって思っているから。



●贈り物
 疲弊しきったレゼール・ブルー・リーゼを、大鳳は誘導灯で迎えた。久方振りに降着したと思えるのは、それほどに密度が高い戦闘時間を経たからなのだろうか。
 案内の通りに移動させた機体を駐機指示に従って跪かせる。コクピット内に充満していたスラスター類の稼働音が遠退くと、シルはやっと操縦桿を手放し、フットペダルに乗せていた足を離し、全体重を操縦席の背もたれに預けた。
「疲れたぁ~……」
 緊張という糸が解け、腹がへこむほどに深い息を吐く。手が震えているのは疲労による血糖値の低下によるものだろう。スカルヘッドとの交戦で蓄積した重力加速度の負担が全身に重たく伸し掛かる。しかし逆に言えば疲れるだけで済んだのだ。一重にコクピットとパイロットスーツの働きあっての事に他ならない。
 ふと首を横に向けると金色のキャバリアがカタパルトから射出されていった。
「元気だなぁ」
 思わず乾いた呟きが漏れる。哨戒出撃なのだろうが、流石にもうひと働きする気にはなれない。単に疲れたというのもあるが、頭の中も整理したいところでもある。
「人喰いキャバリア、ついにあんな相手も出るようになったか……」
 真上をぼんやりと見上げてスカルヘッドを思い返す。日乃和での作戦に従軍した際にも強力な個体とは何度も交戦してきたが、スカルヘッドはまるで次元が異なった。人喰いキャバリア側にとっての猟兵に相当する戦力とでも言えばいいのか――実戦経験豊富な猟兵が30人以上でひたすら殴り続けて漸く撃破したのだから、シルが感じた脅威を誰しも否定は出来まい。
「それに、あの女の子」
 挙動の端々から妙な人間臭さを感じてはいたが、まさか本当に中から人が出てくるとは。
 あの白髪碧眼の少女は自分と目を合わせてこう言った。
『イェーガー……やはりあなた達は、危険過ぎる……』
 幻聴だったかも知れない。しかし耳朶にこびり付くあの声は、思い返すとずっと頭蓋の中を反響し続ける。
 スカルヘッドのパイロットは自分達を認識した上で戦っていた?
 答えの無い無言の問いが、緋色と藍色のグラデーションに染まる空に溶ける。
「脅威になる、よね」
 シルは操縦席に投げ出していた身体を起こすとコンソールパネルに指を走らせた。先程の戦闘中の記録映像を複製し、記憶端末に移し替える。
 あれが最後のスカルヘッドとは限らない。搭乗者と思しき少女の姿が消えた以上、またしても……或いは猟兵との直接交戦を経てより強化された個体が出現するかも知れない。もし杞憂が的中してしまえば、今回得た戦闘記録が多少なりとも役に立つ筈――レベルゲージが最大まで達して、複製が完了した旨を伝えるメッセージが表示されると、シルは記憶端末をコンソールの端子から抜いた。
「……誰に渡そう?」
 一般論で考えるなら艦隊司令の葵結城に渡すのが筋だろうが……シルは高級将校という人種がどうにも苦手だった。代わりに尉官にでも渡しておけばいいか。伊尾奈と那琴がそれぞれのアークレイズ・ディナから降りてきたのは、そう考えていた矢先だった。
 丁度いいところにとシルはすぐにレゼール・ブルー・リーゼのコクピットハッチを開いて飛び降りる。
「ちょっと! こっち!」
 手招きを送ると、伊尾奈と那琴は何事かと眉を顰めながら歩いてきた。
「これ、持って行って」
 シルは自分の親指大の記憶端末を差し出す。受け取った伊尾奈は空に翳して訝しげに観察した。
「良いもんなのかい?」
「たぶん。対スカルヘッド戦の時の記録が入ってるから」
 伊尾奈は「へぇ」と微かに頷くと記憶端末を掌握した。
「上の人っていうのも考えたけど、上の人の空気が苦手なんだよね……。だから、信頼できる二人にお任せするよ」
「まあ……葵艦長ですものね……」
 困ったように微笑するシルに那琴は同じ表情を返す。
「小隊の練度を上げるのに使うもよし、上にもっていって、全体の戦力アップやデータ解析にもっていくもよし。そのまま握りつぶすもよしだよ」
「シル様、お心遣い痛み入ります。有効に活用させて頂きますわ。ね? 尼崎中尉?」
「誰でもちんちくりんの真似事が出来るとは思えないけどね」
「ちんちくりんって……」
 シルがショックを受けたような表情を作ると伊尾奈は極薄い失笑を吹き消した。
「いいのかい?」
「え?」
 不意打ちの疑問符を投げられてシルは首を傾げる。
「こいつをウチかレイテナに売り付ければ、付く値段は二束三文どころじゃ済まないんだけどね」
 シルは「ああ……」と呟き頭を横に振った。
「わたしの個人的な気持ちは、誰にも死んでほしくないから、それに役立てばいいかなって思っているから」
「損な性格だね」
 皮肉とも遠回しに褒めているとも取れる言葉と共に、伊尾奈は鼻を鳴らす。
「どういたしまして」
 人をちんちくりん呼ばわりするこの長身で全身傷跡だらけのお姉さんは素直じゃない。伊尾奈の性分を知っているシルは褒め言葉と捉え、胸を張って誇らしげに笑う。
 シルの笑顔は、東アーレスの夕焼けよりも眩しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
『スティンガーは、無茶な戦闘のせいで大破。
ストライダーの主動力炉は損傷大ゆえ、自力の航行ができるようになるまでしばらくかかる。
そして遺失兵器である超重力波砲は――ブラックボックスであるコアユニットを失ったことで、二度と使用することはできぬ。
――セレーネよ、どう責任を取るつもりじゃ?』

ストライダーの制御AIであるミスランディアの感情を感じさせない人工音声が管制室に響きます。
これ、ぜったいミスランディアが激怒してるときの声ですよー。
下手に口答えしたら、ドラム缶に詰められて海に沈められちゃうやつです。

「ごめんなさい。反省してます――」

艦長席で正座をしながら、私は冷や汗をだらだらながして、命乞いの言葉を発します。
うう、スカルヘッドよりも強いプレッシャーを感じますよぅ。

『そうか、反省しておるか。
ならば、しばらくは迷惑をかけたクルーたちのために、日替わりで『特殊戦闘服』で勤務してもらおうかのう』
「って、これって、サンタ服に巫女服じゃないですかー!?
それも、めちゃくちゃスカート短くありません!?」



●罰ゲーム再び
 東アーレス半島最南端を目指し、夕陽が照らす緋色の海を空母大鳳と並んで航行する戦艦三笠。その三笠の背後に曳航されるストライダーの巨大な船体は、まるで抜け殻になってしまったかのように威容が感じられなかった。後部の全環境対応エンジンに灯は無く、外部の力で無気力に進む後には、控えめとも思える航跡が続く。
『スティンガーは、無茶な戦闘のせいで大破。ストライダーの主動力炉は損傷大ゆえ、自力の航行ができるようになるまで暫くかかる。そして遺失兵器である超重力波砲は――ブラックボックスであるコアユニットを失ったことで、二度と使用することはできぬ』
 いつもより抑揚を低く抑えたミスランディアの合成音声がブリッジに反響する。メインモニター上には幾つものサブウィンドウが開かれ、ストライダーが受けた損害を事細かに突きつけていた。
『セレーネよ、どう責任を取るつもりじゃ?』
 無機物らしい冷淡さを隠すでもなく問うミスランディアに、艦長席に正座を据えたセレーネは眉間を険しくしたまま瞑目して押し黙った。何一つ反論出来ない。全部一時の感情に流された自分がしでかした事だ。特に超重力波砲のコアユニットの喪失は極めて甚大だ。大げさなどではなく、このままでは本当に二度と使用することは出来ないだろう。
 セレーネが思うに、ミスランディアがこういう合成音声で喋る時は相当なお冠の状況だ。下手な言い訳を口走ればどうなるものか……一週間甲板掃除か? そんな生易しいものではあるまい。魚雷に括り付けられて発射されるか? 或いは垂直発射官に詰め込まれるか?
「ごめんなさい。反省してます――」
 ミスランディアが望むであろう答えの中から、当たり障りの無い言葉を慎重に選んで組み立てたつもりだ。額から嫌な汗が伝う。耳に痛い沈黙が降りる。この重圧と言ったらスカルヘッドの比ではない。ミスランディアはしっかりこちらを睥睨している。いまのセレーネに出来る最善は、余計な言い訳を口走らず、少ない完結な言葉を添えた態度で誠意を示す事のみ。呼吸の音すら潜め、謝罪に対するミスランディアの返答を待つ。
『そうか、反省しておるか』
 何十秒か何分か、或いは何時間が経過したのか。ミスランディアは重たい口振りがブリッジ内に響いた。合成音声の抑揚からして人間魚雷発射の刑は免れたらしい。セレーネは張りに張った肩の力を思わず抜いてしまった。
『ならば――』
 喉元まで出かけていた深い息を生唾ごと飲み込み、緩みかけた肩と背中を再度硬直させる。
 ならば……何だ? 何をさせようというんだ? いっそ楽にしてくれ。セレーネは呼吸を止めて続く言葉を待った。
『しばらくは迷惑をかけたクルーたちのために、日替わりで特殊戦闘服で勤務してもらおうかのう』
「はいっ! ……はい? んん?」
 反射的な答えの後に耳を疑い、眉を怪訝に顰める。日替わり? 特殊戦闘服? 聞き間違いか?
『日替わりで特殊戦闘服で勤務してもらおうと言ったのじゃ』
 どうやら聞き間違いなどでは無かったらしい。
「ええっと、それは……」
 特殊戦闘服――その響きにセレーネは身に覚えがあった。あれは確か、いつぞやの演習の後……敗北した罰として着せられたような。
 嫌な予感が膨らむ。無言の圧を加え続けるミスランディアに、セレーネは了解かイエスの二択を強いられた。

「やっぱりあの時のサンタ服じゃないですかー!」
 ストライダーの艦内格納庫にセレーネの悲鳴とカメラがシャッターを切る音が響く。
 クルーがカメラを切る理由はセレーネの姿にあった。
 肩と腹から腰回りに掛けて露出した赤と白のサンタ衣装に、二の腕まで覆うグローブを嵌め、太腿までの丈のソックスを履き、茶色のロングブーツを合わせている。頭に乗せたサンタの帽子は小振りながらも存在感の主張が激しい。
 ミスランディアが言う特殊戦闘服とは、この露出過多のサンタ服だったのだ。
「しかも前着たやつよりスカート短くなってません!?」
 脚を閉じてスカートを抑えるセレーネ。そのポージングが囲むクルーの心を焚き付けたのか、カメラの撮影音が一層激しくなる。
『セレーネよ、ちゃんと撮影に協力するのじゃ。これはただの慰労ではないぞい。その格好で撮影した写真集の売上をストライダーの修理費に充てるのじゃからな』
「こんな…っ! こんな……!」
 セレーネは屈辱に顔を紅潮させて唇を噛む。私設軍事組織ガルヴォルンの大佐が何たる有様か。しかしストライダーに著しい損害を被らせたのは自分だという事実は覆らない。ミスランディアが言う通り、ここは自分が責任と取る形で身体を張らなければならない所なのだが――。
『明日は巫女服でやってもらうぞい』
「はぁぁぁ!?」
 怒り、絶望、軽蔑。混濁した感情を籠めてセレーネは開口した。
『日替わりで、と言ったじゃろう?』
「どうせ巫女服も露出度高いんでしょう!?」
『当然じゃ』
 怒声を風と受け止めるミスランディアに、セレーネは肩を震わせるばかりで続く言葉を失った。責任は自分にあるし、取るべきだとは思う。しかしもう少し相応しいやり方というものがあるのではないか?
「屈辱です……とんでもない屈辱ですよ……!」
 慚愧に堪えない表情もまた良いのか、クルーの撮影にも熱が入る。
 セレーネは目尻に涙を溜めながらスカートの裾を固く抑え、そして心の中でミスランディアを呪った。いつか中枢ユニットをドラム缶に詰めて沈めてやると。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィア・シュヴァルツ
「ほほう、戦場で大活躍した我に褒美を出そうとは良い心がけだ!」
『フィア様、そこまで活躍されていない気がいたしますが』

使い魔フギンの言葉は無視し、箒でクイーン・エリザヴェートとかいう船に着陸しよう。
そして女王とやらに謁見しよう。
我は、もらえるというものは遠慮なくもらう主義よ!

「我こそは偉大なる漆黒の魔女!
さあ、この船を救いし我のために勝利の宴を開くがよい!
そして我に莫大な財宝を寄越すがいい!」
『フィア様、現状は宴など開ける状況ではございません。
そして、いただけるのもあくまで褒章。報奨金ではございません』

なん……だと……
我は攻撃魔法を使って腹が減ったというのに、宴の用意がない……だと……
さらに報奨金ではなく褒章だと……

「ええい、こんなもの質屋で売ってくれるわ!」
『フィア様、罰当たりなことをしないでいただけますか!?』

ならば、せめて船に積んである食料を拝借していこう。
なに、多少減っても気付くまい。

「食料も手に入ったし、しばらくこの世界を旅して回るとするか」

まずは褒章を売れる街でも探すとしよう。



●この二人を合わせてはならない
 レイテナ総海軍の旗艦を担う女王専用の超巨大戦艦、クイーン・エリザヴェート。王城の装いを持つ外観に相応しく、ブリッジも軍艦にしては些か綺羅びやかが過ぎる空間だった。
 窮屈さとは無縁の広々とした間取りで、床は照明を照り返すほどに磨き込まれている。取り揃えた設備のどれもが真新しい。それでいてデザインにもテーマが見受けられ、UDCアースで言うところの西洋の趣が贅沢に取り入れられているようだ。美術としての性質と、総旗艦に相応しい管制能力の両立を実現した、設計者の並ならぬ情熱と拘りが感じ取れる。
 極めつけは司令席だ。金銀で豪勢に飾り付けられた席は玉座と呼ぶに相応しい。だが玉座とは決して比喩では済まされない。何故ならば、司令席に座るのは艦隊司令を兼務する女王、エリザヴェート・レイテナなのだから。
「褒美を出すと言っていたな? 戦場で大活躍した我に褒美を出そうとは良い心がけだ!」
 箒の尻尾を床に付け、両足を肩幅程度に開き、片腕を腰に当て、司令席を前にして傲岸不遜に立つフィア。漆黒の魔女を前にしたエリザヴェートは、なんだコイツと言わんばかりの半目をしている。
「これは大物だ」
 艦長席の横に立つブリンケンは腕を組んだまま肩を竦めてみせた。
『フィア様、そこまで活躍されていない気がいたしますが』
 フィアの肩に止まるフギンが囁くが、言われた本人の耳には届かない。フィアは都合の悪い話しは聞こえない体質なのだ。
「まあ良いじゃろう……そなたには――」
「我こそは偉大なる漆黒の魔女、フィア・シュバルツ! さあ、この船を救いし我のために勝利の宴を開くがよい! そして我に莫大な財宝を寄越すがいい!」
 エリザヴェートの声を両断してフィアが腹から響くような声を発する。ブリンケンは堪らず失笑を零し、エリザヴェートは上体を引っ込めて険しく顔を顰める。
『フィア様、現状のレイテナ第一艦隊に宴など開ける余裕はございません』
 使い魔の鴉の言う事はもっともである。艦内は収容した負傷者の処置と死体の整理で宴の真っ最中なのだ。戦勝の宴を開く余裕など人材的にも空間的にも無い。
『そして、いただけるのもあくまで褒章。報奨金ではございません』
 スカルヘッドの撃破に貢献した証として贈られる髑髏征伐勲章は、あくまでも名誉を称える為のものだ。フィアにバッジを食べる習慣があれば別だが、とても腹が膨れるようなご褒美ではないだろう。
「なん……だと……」
 鴉の耳打ちに両目を見開いて身体を固めるフィア。
「あー……イェーガー諸君への報酬についてだが、雇い主経由で金塊での支払い――」
「我は攻撃魔法を使って腹が減ったというのに、宴の用意がない……だと……!?」
 失望に打ちひしがれたフィアにブリンケンの声は届かない。
 極大魔法を一度ならず二度まで使って空腹の絶頂にいるというのに。しかも貰える褒美が報奨金ではなく褒章だと? 煮ても焼いても食えない褒章? そんなものでどうやって空腹を満たせというのだ? フィアは憤慨した。
「おいエリザヴェートとやら! この偉大なる漆黒の魔女の働きに対してなんと粗末な待遇だ!」
「妾はそなたの働きなど見ておらぬわ! だいたいどう働いたと言うのじゃ!」
「節穴め! 我が竜滅陣を見ていなかったというのか!? 古の竜さえも消し飛ばす極大魔法を!」
「極大魔法じゃとぅ……?」
 エリザヴェートは首を傾ける。すると思い当たる節があったのか、開いた口から息が切れる音が鳴った。
「もしや、あの馬鹿のように大きな火柱……!」
「如何にも! 漆黒の魔女の魔力がこの船に群がる無数の敵を退けたのだ! 深く感謝するがいい!」
 フィアは控えめな胸を張って誇らしげに高笑いする。対するエリザヴェートは握った拳を震わせて司令席から立ち上がった。
「お主じゃったのか! あんなものを使いおったのは! 危うく妾の艦隊が消し炭になるところだったんじゃぞ!」
「当然だ! 偉大なる漆黒の魔女に掛かれば、こんなちんけな船の集まりなど蟻の群れを踏み潰すのとさして変わらん!」
『フィア様、完全に悪者の台詞です』
 やはりフギンの声はフィアの耳に届かない
「おのれぇ~……! 妾に向かってよくも無礼な……! そなたには褒章はやらん!」
「ふん! 煮ても焼いても食えん褒章など、こちらから願い下げだな!」
「ブリンケン! こいつにだけは金塊もくれてはならぬぞ!」
 金塊――その名を聞いた瞬間にフィアの顔色が変わった。
 金塊……あの金か? ゴールドの……金があれば何でも出来る。美味いもの、好きなもの、どれでも食べ放題だ。双眸の中で瞳が右往左往し始める。
「待てエリザヴェート。褒章とやらはいらんが金塊はよこ――」
「だーめーじゃー! やらぬ! そなたにだけはな!」
 フィアが全てを言い切るよりも先にエリザヴェートはそっぽを向いて拒絶を示す。
「我はクイーン・エリザヴェートに迫る敵を退けたのだぞ!」
 エリザヴェートに詰め寄るフィア。
「妾の艦隊を丸焦げにしようとしたじゃろうが!」
 目尻を吊り上げた目でフィアを睨むエリザヴェート。
「こうして無事なのだから問題無いだろう!?」
『……フィア様、当初はクイーン・エリザヴェートを直接狙っておいででしたよね?』
 フギンがうっかり口走ってしまった言葉をエリザヴェートは聞き逃さなかった。
「なんじゃとぉぉぉ!?」
「船の周囲を飛び交っている羽付きを狙っただけだ! 大体なんだこの馬鹿みたいにデカい船は! こんな無駄に大きな船に乗っている方が悪いのだ!」
「無駄とはなんじゃ無駄とは!」
「ハッ! 無駄なモノに無駄と言って何が悪い!? ああ、さてはエリザヴェートとやら……自分が小さい事を気にして無駄に大きな船に乗っているのだろう?」
 フィアはしたり顔でエリザヴェートを見下ろす。見上げるエリザヴェートは呆然とした面持ちで口の開口を繰り返すと、小さな双肩を震わせて激昂の声を上げた。
「やかましいわ無礼者め!」
「無礼者はそちらも同じだろうが童め! 我は永劫の時を生きる不老不死の魔女であるぞ!」
「ふん! そんな見た目で信じられるものか! 第一妾を捕まえて小さいなどと、そなたが言えるのか!」
「ああ言えるとも。我は偉大なる漆黒の魔女だからな」
「貧相なる胸の魔女の間違いではないのか?」
 空気と共にフィアの顔が無表情で凍結した。直撃を悟ったエリザヴェートが鼻を鳴らす。触れてはならない禁忌の平野に刃を突き立てられたフィアは、髪を燃え盛る炎のように揺らめかせて修羅の形相に変ずる。
「こんの……金髪まな板ロリが言わせておけば! 自分が堂々と言えた胸か!」
「妾はまだ成長期じゃからの」
 跳ね返された反撃にフィアは思わず苦渋を飲み込む。フィアも少女と言って差し支えない見た目だが、禁断の魔術により悪魔と契約して不老不死の肉体を得て以降、成長が止まってしまった。つまりはもう未来が望めないのだ。
「ふ……ふふふ……口ばかりは達者な童め。どうやら年長者に対する礼儀というものを教育してやらねばならないようだな?」
 声の音階を低く抑えたフィアの左手に火球が灯る。
「そなたこそ、一国の女王に謁見する際の作法を、妾が直々に教えてやらねばならぬようじゃな?」
 両手の拳を固く握り、一歩踏み込むエリザヴェート。フィアも一歩踏み込むと、怒気の熱を孕んだ息がお互いにかかり合う距離まで接近した。
 間近で睨み合い火花を散らす。ブリンケンからどうすりゃいいんだこれと含んだ呆れの眼差しを受けたフギンは『どうにもなりませんね』と双翼を小さく広げる事しか出来なかった。そしてフギンは思った。この二人を合わせてはならないと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
UC常時
「お疲れ様ですテラ…どうもあのサートゥルヌスの気配がしますね…!」(黒髪の美少女)
ってことはぜっちゃんもきてるのか…!今は避けるぞっ!
「ええ、少し気になることはありますが今は避けましょうっ!」

レイテナで負傷者の治療を行うぞ!
「ここは私に任せてください。どうもあのえヴぉるぐの侵食を受けてる方もいるようですね。ならば…浄化させましょう。」
神聖魔術で侵食を浄化
怪我の治療も行い

後はエリザベートを散策するぞ!せっかくならここの巨神を見ていこうかな!
「アーレス大陸の機械神ですか…しかしバーラントが今は脅威となっているとは…」
ヘカテはこの大陸知ってるのか?
「ええ、色々とありましてね…いずれ話しましょう。差程楽しい話ではありませんからね?」
わかったぞ!

後はエリザヴェートとお話しするぞ!キャバリアの話とか戦い方とかどんなお仕事してるのか!おれとあまり変わらないのに女王様って凄いぞ!後はトールの活躍とかも聞いてみたい!
後は修理とか必要なら手伝うぞ!!

うん、こうして生き延びたのは喜ぶべきなんだ。


アレフ・フール
…何とか討伐できたようだな…
まさか…中に人が乗っていたとは…そうなると…あの時の反応も…
「何者だろうな…?エヴォルグに人が乗ってる…人なのかあれは…?」(解析してみる機神)
何かわかったかアレウス?(MSに任せ

ある程度情報整理を行ったらエリザヴェートに着艦しよう
アレウスに対する反応も少し気になるからな

可能なら女王陛下とも謁見して情報共有するとしよう
…彼女も機械神の…巫女?のようだからな
「アーレス大陸では機械神の乗り手は巫女と呼ぶんだぜ?そういう意味ではマスターも巫女だな?」
なんともむず痒い物だな
そうすると今回の戦いでは多くの巫女が参戦したという事よな

機械神トールの見学も可能なら行うぞ

…なんとも嫌な名前だな…
「何か嫌な思い出があるのかマスター?」
…デウスエクスにも同じ原典の名の神が居てな…デウスエクス時代のわしは奴に約束を反故にされ罠にかけられた事があって酷い目にあったのだ
多くの叡智を失ったわしだが今なお残る怨恨よ

まぁ所詮別人(?)よ…ロボなら腹は立たん

折角なら整備の手伝いと調査を行う


ジェイミィ・ブラッディバック
さて、改めてお初にお目にかかりますエリザヴェート陛下
アンサズ連合所属国家「アークライト自治領」に本社を持つPMSC「イェーガー・ミリタリー&セキュリティ社」取締役、及びメカニックガレージ「Bradyback's Works」代表取締役のジェイミィ・ブラッディバックと申します
先般お伝えしたとおり、今回の当機の作戦行動に当たり、ゼロハート少尉の指揮権を一時的に譲渡いただいた返礼として、貴国所属キャバリアは弊社にて責任を持ってメンテナンスさせていただきます
もちろん、陛下の雷神トールの修理と強化改修もお任せくださいませ
それと…陛下宛にアンサズ連合構成国家であるガイアス大公国の元首であるヴィルヘルム・フォン・ガイアス大公より親書を預かっております
近々に両国の国家元首同士で会談の席を持ちたいと仰せです

折角ですしゼロハート少尉や日乃和の東雲少尉にも直接お礼を申し上げに伺いましょうか
お二人には個人的な返礼品としてガイアス産のハムのギフトセットをお贈りしましょうかね



●刺さる視線
 クイーン・エリザヴェートの複数ある飛行甲板は、巨大過ぎる船体と比例して長大かつ広大だ。撃墜されたキャバリアを引き揚げ、負傷者を乗せ、死体の入った黒い袋を並べ、生き残った艦載機を収容してもまだ余りある。猟兵のキャバリアが30人ほど降着したとしても窮屈さを感じる事はないだろう。
 機体を駐機させる場所に不足は無い。どこでも堂々と駐機させて良いだろう。しかしアレフはアレウスの駐機場所を目立たない隅っこに選んだ。
「どうも人気者らしいな、アレウスは」
 皮肉をたっぷり籠めて膝立ちの姿勢となったアレウスを見上げる。背中に刺さる視線がむず痒い。息を潜めて聴覚に全神経を集中させれば、自分と機体に向けられた密やかな声が聞こえる。
「怖いもの知らずだな……」
「罰当たりめ」
「熱狂的な信者?」
 多くの視線は奇異と罵りを含んでいる。日乃和でも同じ歓迎を受けたが、レイテナ人だらけのこちらでは一層濃くて痛い。
 理由はアレフも薄々ではあるが理解している。アレウスの外観が原因なのだ。アーレス大陸で最も大きな宗教勢力であるアーレス教の機械神と瓜二つの姿をしていれば、そういった注目も集めよう。
 突き刺さる視線はさておいて、こうしてアレウスを見上げているとやっと戦闘が終結したという実感が湧く。機体に刻み込まれた傷跡の一つ一つがスカルヘッドとの生命の削り合いの記憶を呼び覚ます。
「まさか……中に人が乗っていたとは……」
 白髪碧眼の少女の面持ちを脳裏に浮かべて無意識に呟く。撃墜したスカルヘッドから這い出てきたあの少女は何だ? 人喰いキャバリアは無人機だと聞いてたのだが。
 しかし思い返せば心当たりが無いでもなかった。スカルヘッドが戦闘中に一瞬だけ見せた不審な隙。あれはまるでアレウスの姿に意表を突かれたような挙動にも思えた。
「アレウスよ、あの少女について何か知らないのか?」
 アレフが尋ねるもアレウスは人がするように首を傾げて横に振るばかりであった。
『何者だったかなんて全く見当も付かない。そもそも本当に人なのか? あれは……』
 アレウスの反応にアレフは深く息を吐いた。他の猟兵達も目撃しているのだから幻という事は無いのだろうが、あまりにも唐突過ぎて現実味が薄い。
 確かなのはテレサ・ゼロハートにそっくりだったという事。されど彼女と何らかの関係性があるのならば、とっくに大騒ぎになっていそうなものだが。
「勘繰り過ぎても仕方ない、か」
 アレフは凝り固まった背中を伸ばすと、身体をクイーン・エリザヴェートのブリッジの方角へと向けた。
「謁見してみるか? レイテナの女王陛下に。彼女も機械神の乗り手のようだからな」
 機械神――アーレス大陸の外界で言うところの巨神に相応するそれの搭乗者の一人が、エリザヴェート・レイテナだという。外観だけとは言えアーレス大陸産に所縁のありそうなキャバリアに乗っているアレフとしては気になる相手だ。
『乗り手じゃないぞ。アーレス大陸では機械神の乗り手は巫女と呼ぶんだぜ?』
「わしは男だぞ?」
『男でもだ。そういう意味ではマスターも巫女だな?』
 なんとも背中がむず痒い呼び名だ。アレフは内心で呟いた。巨神イコール機械神として捉えるならば、今回の依頼では多くの巫女が集った事となるだろう。どうにも因縁染みた気配を感じずにはいられない。
「アレウスはここで留守番をしていろ」
『ああ』
 流石に艦内に連れて行く事は出来ない。アレウスに背を向けてブリッジに向かおうとした矢先、視線の隅に漆黒の髪を揺らす二人の少女が入り込んだ。
「ん……猟兵か」
 片方の長身の少女は落ち着かない様子で周囲を見渡している。
 もう一方の小柄な少女は負傷者の元で膝を折っている。応急手当を行っているようだ。

●日乃和海の記憶
「どうもあのサートゥルヌスの気配がしますね……!」
 長身の少女こと人間に化けたヘカテイアが頭を右へ左へと忙しく右往左往させる。恐らく危険極まりないチョコレート液を配って回っている猟兵と、猟兵が伴うキャバリアとの接触を警戒しているのだろう。
「今は避けるぞっ!」
 負傷者に包帯を巻き終えた小柄な少女ことテラが立ち上がる。彼女もまたヘカテイアと同じ相手を警戒していた。姿は確認出来ていないが気配を感じて仕方がない。
「ええ、少し気になることはありますが今は避けましょうっ!」
 入れ替わりに負傷者の元に跪いたヘカテイアが手を翳す。唇が何事かの祝詞を紡ぐと、手のひらから神々しい黄金の粒子が溢れ始めた。粒子が負傷者の身体に浸透すると、ゆっくりとだが裂傷が塞がってゆく。これで良しと処置を終えたヘカテイアが立ち上がる。
「侵蝕された方は……いないようですね」
 ヘカテイアが確認出来る範囲ではそれらしい負傷者は見当たらない。テラは眉宇を難しく傾けて腕を組んだ。
「一応ユーベルコードで浄化した前例はあるんだが……侵蝕された直後じゃないと間に合わないらしいぞ」
 つまりはそもそも侵蝕された者達は回収されていないという事……ヘカテイアは去る作戦領域の海域にやるせない眼差しを向ける。
「ん……? あれ? この海……」
「どうした?」
 テラが尋ねるもヘカテイアは上の空で黄昏の海を眺め続けている。
「おーい? ヘカテ?」
 眼の前で手を振るとヘカテイアの意識はようやく我に戻ってきた。
「あ、いえ……この海の景色、なんだか見覚えがあるなぁって」
「見覚え? ヘカテはアーレス大陸に来たことがあるのか?」
「ええ、色々とありましてね……」
 ヘカテイア濁った言葉尻にテラは首を傾ける。
「この地のアーレス教国との争いで――」
「アーレス教国? バーラント機械教国連合じゃないのか?」
 テラが眉間に疑問の皺を寄せると、ヘカテイアは躊躇うように目を右往左往させた。
「……いずれ話しましょう。差程楽しい話ではありませんからね?」
「わかったぞ!」
 今は止めておこうと目での訴えにテラは明朗な返事で応じる。
「それじゃあ怪我人の手当ても大体終わったし、エリザヴェートとお話しするぞ!」
「あ! 待ってください! 私も行きます!」
 駆け出すテラと追うヘカテイア。
 何気なく二人を遠目に眺めていたアレフも、エリザヴェート女王陛下が御座すブリッジに向かった。

●謁見
 豪勢に飾り付けられた司令席。そこに座るエリザヴェートを前にジェイミィは腰部関節機構を深く折り曲げた。横に控えるアレフ、テラとヘカテイアも釣られて浅く頭を垂れる。
『改めてお初にお目にかかりますエリザヴェート陛下』
「……今度のイェーガーは礼儀を弁えとるようじゃな」
 エリザヴェートはなんともふてぶてしい表情で頬杖を付く。これは自分が来る前にひと悶着あったなと察したジェイミィは、至って穏やかな合成音声で続けた。
『アンサズ連合所属国家『アークライト自治領』に本社を持つPMSC『イェーガー・ミリタリー&セキュリティ社』取締役、及びメカニックガレージ『Bradyback's Works』代表取締役のジェイミィ・ブラッディバックと申します』
「アンサズ連合じゃと……? はて? どこかで……」
 記憶の引き出しを漁るエリザヴェートに、隣の艦長席の横に立つブリンケンが「暁作戦後に日乃和がPKO活動を依頼した国ですな」と伝えた。するとエリザヴェートは「ああ、そうじゃったな」と納得して頷く。
「妾はエリザヴェート・レイテナである。レイテナ・ロイヤル・ユニオンの偉大なる女王じゃ。ジェイミィよ、此度の働き、見事であった」
 司令席でふんぞり返る小さな暴君に、ジェイミィは再度腰部関節を折ってから頭部を上げた。
『先般お伝えしたとおり、今回の当機の作戦行動に当たり、ゼロハート少尉の指揮権を一時的に譲渡いただいた返礼として、貴国所属キャバリアは弊社にて責任を持ってメンテナンスさせていただきます』
「さようか。ではブリンケン、格納庫を使わせてやれ」
 ブリンケンは無言で頭を垂れる事で承知とした。
『もちろん、陛下の雷神トールの修理と強化改修もお任せくださいませ』
 雷神トールの修理。その言葉を出した途端にエリザヴェートの顔が明るくなる。
「ほう? 我が雷神トールの修理とな? よいじゃろう。後で妾が直々に案内してやろう」
「いやあ陛下……改造は流石にちょっと困りませんかね? それに機密もありますので」
 苦い物言いのブリンケンにエリザヴェートは鼻を鳴らす。
「監視を付けておけばよいじゃろう? 修理すると言っておるのじゃから、早う修理させぬとな。このままでは妾はいつまで経ってもトールに乗れぬではないか」
 ブリンケンから送られたウィンクの合図に、ジェイミィはご心配なくと意味を籠めて微かに頷く動作を返した。
『それと……陛下宛にアンサズ連合構成国家であるガイアス大公国の元首であるヴィルヘルム・フォン・ガイアス大公より親書を預かっております』
 ジェイミィは蝋の封印が施された手紙を差し出す。ブリンケンが受け取り、納められていた手紙の内容に素早く目を通すと、エリザヴェートに手渡した。
『近々に両国の国家元首同士で会談の席を持ちたいと仰せです』
 手紙を広げたエリザヴェートの紺碧の瞳が左から右へと流れる。すると明るかった表情に疑わしい曇天の色がかかり始めた。
「……ゼロハート・プラントが欲しいのか?」
 エリザヴェートの歯に衣着せぬ台詞にジェイミィは頭部を動かさずに応じる。
『プラントの概念に対する価値観の認識は、アンサズ連合も変わらぬところかと。しかしゼロハート・プラントのみに限定するのであれば、地政学的観点から見て、仮にアンサズ連合が何らかの形で利権を獲得したとしても、伴う利益は極微小と考えております』
 この暴君はゼロハート・プラントの横取りを警戒している。だがアンサズ連合がゼロハート・プラントに興味は無いなどと言った所で逆に不信を買うだけであろう。須くしてこの世界の統治機構はどこもかしこもプラントを巡って日夜争い続けているのだから。
 ジェイミィのスリット状のセンサーカメラを睥睨するエリザヴェート。暫くして言葉の意味を咀嚼し終えたのか、視線を外して深く息を吐き出した。
「まあ、よい。ユニオン議会ではなく妾に寄越したのは賢い選択じゃったな」
『お褒めに預かり恐縮です』
 ウォーマシンらしく精密な動作で形式張った礼をする。ジェイミィが頭を上げたのとエリザヴェートが司令席を降りたのは同時だった。
「どれ、トールの元に案内してやろう。着いてくるのじゃ」
 エリザヴェートは金色の髪を揺らしながら、嬉々とした足取りでブリッジの出入り口に向かう。その後姿にジェイミィとアレフ、テラとヘカテイアが続いた。

●オブリビオンマシン
 クイーン・エリザヴェート艦内の格納庫区画。その最奥部に設けられた専用のキャバリアハンガーがエリザヴェートの乗機の定位置だった。
 ガントリークレーンに吊るされている赤い大きな布は、本来キャバリアの背中に装着されるべきマントなのだろう。壁に懸架された槌が鈍い鋼の光沢を照り返していた。
 ハンガー内に聳立するキャバリアは修理の真っ最中らしく、機体各部の装甲が外されて内部機構が露呈していた。されども装甲の艷やかな白が美術品めいた風格を醸し出し、筋肉質な戦士といった印象を振りまく輪郭を形作っている。
「刮目して見よ! これがレイテナ王家の秘宝にして我が機械神! 雷神トールじゃ!」
 トールを背に仁王立ちして胸を張るエリザヴェート。ジェイミィとアレフ、テラはハンガーで今なお修復を受け続けているトールを呆然といった様子で見上げていた。そして三者を不思議な様子でヘカテイアが見ている。
 白亜の機体が放つ、雷神の名に相応しい威容。
 しかし要因はそれではない。

 アレフにとってトールという名は愉快な名では無かった。
 ケルベロスディバイドには、同じ名の神のデウスエクスが存在していた。デウスエクス時代のアレフは、そのトールに約束を反故にされ、罠に嵌められ、散々な目に遭わせられていた。多くの叡智を失った今でも、それらの屈辱は怨恨として骨身に染み込んでいる。
 しかし所詮は同じ名前だというだけ。エリザヴェートのトールは同名の全く別物だ。旧敵を思い出させられようとも恨む所以は無い。
 しかしこいつは――アレフの目はトールに釘付けにされた。

 トールを前にしたテラの反応もアレフと同様だった。
 自分とさして変わらない年代の少女が一国の女王を担っていると聞いて、どのような業務に携わっているかなどの他愛も無い話しをするつもりだった。トールの武勇伝も聞いてみようと思った。しかしいずれもそれどころでは無くなってしまった。

『困りましたね』
 ジェイミィが微かに呟くと、視覚野の中で『修理しないのか?』とWHITE KNIGHTが尋ねる。
『そのつもりだったのですが、少々事情が変わって来てしまいまして』
 電脳の中でそう答えた。
 この後は修理の下見を終わらせ、スカルヘッド戦での協力の返礼にテレサと那琴にガイアス産のハムのギフトセットを贈りに行く予定だったのだが、予定が崩されてしまった。他ならぬこれから修理しようとしていたトールによって。
 ジェイミィが頭部を右に向ける。
 アレフが横目でジェイミィに視線を振った。
 ジェイミィが頭部を左に向ける。
 テラが横目でジェイミィに視線を振った。
 光を宿さないトールのセンサーカメラが、ジェイミィとアレフ、テラを見下ろす。
「雷神トール……オブリビオンマシン化してるじゃないか……」
 テラの密やかな声は、格納庫の喧騒に融けた。

●プロローグ
 焼けるような緋色の空は既に無い。東より這い寄る宵闇が、空一面に藍色のカーテンを降ろす。
 夕陽は西の果てに微かに残光を灯すばかりで、金色の海はもう夜空と同じ闇に染まっていた。
 鋼鉄の鯨達は東アーレス半島の最南端にさしかかった。沿岸を埋め尽くす人工の星々が、海路を誘うかのようにして眩く輝く。
 イーストガード海軍基地の様子を見ようとした者達が、クイーン・エリザヴェートの甲板の縁に集まっている。探せば猟兵達の姿も見付けられただろうか。
「帰ってこれましたね……」
 夜風に髪を流すテレサが寂寥を込めて囁く。居並ぶテレサ達の面持ちには、帰還の安堵よりも亡き者達への悔やみが映っていた。
 クイーン・エリザヴェートが汽笛を鳴らす。テレサは目尻を拭うと振り返り、力ない笑顔を作って猟兵達にこう告げた。
「イェーガーの皆さん……ようこそ、レイテナへ」
 斯くして因果の鎖は繋がった。
 ゼロハート・プラントの落とし子が、猟兵達の運命を終演へと誘う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年01月20日


挿絵イラスト