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明日の為に希望を絶て~グエイザン大密林掃討戦~

#クロムキャバリア #戦争モノ #グエイザン大密林

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#クロムキャバリア
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#グエイザン大密林


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●明日の為に希望を絶て
「……既に一刻の猶予も無い。それは理解しているのだろう、友よ」
「無論、誰よりも理解しているとも。だからこそ、苦悩をお裾分けすべく呼んだのだ、友よ」
 クロムキャバリアの一角、グエイザン大密林と名付けられた熱帯雨林。その片隅にある打ち捨てられた小さな民家で、軍装に身を包んだ二人の老人が机を挟んで向かい合っていた。一人は痩身で眼光鋭く、一方は大柄で頑健そうな体つき。二人とも葉巻の紫煙をゆらりゆらりと燻らせてゆく。
 既に10月も半ばに差し掛かろうと言うのに、室内は未だに汗ばむほどの気温と湿度。ちらと砕けた鎧戸の向こう側へと視線を向ければ、熱帯域の植物が繁茂している様子が見て取れる。生憎とこの土地に四季の概念は無い。あるのはただ、乾季と雨季の二つだけだ。
「降伏文書に調印するのが億劫ならば、代わりに私が代筆してやろうか」
「ああ、是非ともお願いしたい。ついでに国民への説得も丸投げ出来ればなお良い」
「冗談を。暗殺してくれと言うものだ」
 両者の口振りこそ軽口めいているが、話題に踊る単語とその裏に滲む苦悩は隠し切れないものだ。痩身の老人の名はホアン、大柄な老人の名はグエン。二人は三十年来の腐れ縁であり、そしてそれぞれが互いに交戦中の国家――ホアンは西の『共和国』、グエンは東の『人民国』に属する高級将校であった。
 如何に友情があるとは言え、本来であれば非公式な接触は双方ともにご法度だ。下手をすればスパイ容疑を掛けられ、銃殺刑となってもおかしくはない。だがもう既に、両国はそんな事を気にしていられない状況へと追い詰められていたのである。
「……纏まらんのか、共和国内は。かつて『深緑の魔術師』と謡われた貴様の名声を以てしても」
「君まであんなプロパガンダを信じんでくれ。あんなものは魔術どころか詐術が上手くいっただけに過ぎん。そも、将校と言うのは軍において綺羅星の如き存在だが、国家と言う枠組みの中では代替可能な一人材でしかない。況や、戦争は政治の延長だ。軍人に政治家の真似事は出来んよ。そう言うそちらはどうなんだ?」
「なまじ、ここまで優勢になってしまっては……あと一押しで勝てると言う状況で銃を置ける者なぞ居まい。例えそのあと一押しがどれほど困難であろうとも、な。このまま被害が増えれば、戦後の報復もまた苛烈になるぞ」
 そう言って、二人の老人は深々と溜息を吐く。長きに渡って続いた戦争は現在、『人民国』の圧倒的な優勢となっていた。人民国軍は既に共和国の首都目前まで迫っており、このまま順当にいけば戦争の終結も近いだろう。
 だが一方、共和国側は密林を活かしたゲリラ戦術で少ない兵力を補う事により、徹底抗戦の構えを見せている。しかし、それは避けようのない終わりを先延ばしにしているだけだ。寧ろ徒に戦争が長引けば、不要な犠牲が増える事になってしまう。
 その様な事態を避けたいとこうして彼らは秘密裏に接触の機会を設けているのだが、二人とも名案が浮かぶ様子はなかった。
「貴様の共和国は言わずもがなだが、このままでは我が人民国もピュロスの勝利になりかねん……全く、軍大学で戦争の勝ち方は学んだが、終わらせ方は教えられなかったぞ」
 忌々し気に葉巻を揉み消すグエンに対し、ホアンは短くなったそれを大事そうに吸っている。そうしてプカリと煙を吐きつつ、ポツリと呟きを零す。
「近々『善意の第三国』から戦略物資が届くそうだが、これほど余計な世話はあるまい。今は希望ではなく、絶望が必要だ。完膚なきまでに希望と心をへし折るほどの絶望が。その為ならば、私の首とて惜しくはない。生贄の羊としては十分だろうさ」
「……損な性格だな、貴様も。ならば、その時には俺が引導を渡してやろう」
「ああ、世話を掛ける。その時は是非頼むよ」
 そうして老人たちは席を立ち、それぞれの陣営へと舞い戻ってゆく。
 ――恐らく、もう二度と顔を合わせる事は無いと予感しながら。


「やぁ、みんな。集まってくれてありがとう。最近すっかり寒くなったね。ただ、三十六世界は今日も今日とて火種の燻る火薬庫さ。と言う訳で、今回みんなにはクロムキャバリアでとある戦争に介入して欲しいんだ」
 グリモアベースに集まった猟兵たちを見渡しながら、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はそう口火を切った。彼女は『闇の奥』と銘打たれた文庫本を仕舞いつつ、先を続けてゆく。
「熱帯の密林地域に存在する二つの小国家、『共和国』と『人民国』は長きに渡って戦争状態が続いていたのだけれどね。近年、遂にその均衡が崩れて『人民国』側が『共和国』の首都目前まで進軍に成功したんだ」
 『人民国』側はあと少しで勝てると勢い付き、『共和国』はもう後がないと死に物狂いで抵抗を試み、血みどろの抗争を繰り広げている。戦力こそ『人民国』側が圧倒しているが、『共和国』軍は密林を活かしたゲリラ戦術で時間を稼ぐつもりの様だ。
「両者は共に疲弊していて、もうあと一歩が詰め切れないみたいだ。ただ、このままなら時間は掛かるだろうけれど、『人民国』側が勝つことは間違いない……そう、このままであれば、ね」
 善意か、利益か、政治か、主義か。理由は何であれ、とある第三国が劣勢の『共和国』側へ支援を表明したらしい。軍需物資やキャバリアが供給されれば、共和国も多少は息を吹き返すだろう。だが、その支援こそが問題だった。
「供給されるキャバリアは既にオブリビオンマシンへと変化しているんだ。つまり、このまま座視すればまず間違いなく『共和国』の軍部は汚染され、取り返しのつかない破滅へ突き進むことになる。それを防ぐ為、『人民国』軍と協力して『共和国』のゲリラ部隊を速やかに殲滅する事が今回の目的となるよ」
 幸い、疲弊している『人民国』軍側は猟兵の助力を喜んで受け入れてくれる。彼らと協力すれば、ゲリラの殲滅もそう難しくはない。寧ろ、問題はその後とも言えた。
「……ゲリラ部隊を失えば、もう『共和国』に戦争を続ける力は無くなる。そうなれば、次は戦後処理の時間だ。すぐに終戦協定の交渉が始まるだろうけど、内容は極めて報復的になるだろうね。ただ、もし戦果を挙げれば交渉に加わる事も不可能じゃない」
 正直、オブリビオンさえ倒せば猟兵が関わる理由も無くなる。とは言え、荒廃し切った敗戦国に対する見せしめ的な弾圧を見過ごすのも忍びない話だ。もし望むのならば、穏当な着地点を模索するのも良いかもしれない。
「良い勝ち方は知っていても、良い負け方を知る者は少ない。まぁ、勝つ気で戦っているんだから当然だけれどもね」
 そうして説明を締めくくると、ユエインは仲間たちを送り出すのであった。


月見月
 どうも皆様、月見月でございます。
 今回はクロムキャバリアシナリオでゲリラ掃討と終戦交渉会議となります。
 いわゆる、一番長い日というヤツですね。
 それでは以下補足です。

●勝利条件
『共和国』ゲリラ部隊の殲滅。

●『共和国』
 密林地帯の西に位置する小国家。戦争序盤はホアンという軍略家の活躍で優勢だったものの、次第に国力差で押され始め、現在は第三国の支援を希望としながら絶望的なゲリラ戦を展開しています。

●『人民国』
 密林地帯の東に位置する小国家。戦争序盤は劣勢だったが徐々に盛り返し、現在は敵国の首都目前まで侵攻に成功しましたが、あと一歩のところでゲリラに苦しめられています。現在の指揮官は豪放磊落なグエンという老将軍です。

●開始状況
 まずはグエン将軍が率いる『人民国』軍と協力し、『共和国』ゲリラ部隊がグエイザン大密林地帯に仕掛けたトラップ群を排除して頂きます。一帯の安全を確保した後、潜伏しているゲリラ部隊の殲滅へと移行します。
 そうして敵部隊を殲滅後は両国による終戦交渉へ移ります。何事も無ければ弾圧的・報復的な条約が『共和国』へ押し付けられてしまいますが、もし大きな戦果を挙げていた場合、この交渉へ介入する事が可能です。
 各章の開始時点での詳細状況は断章にて補足いたします。

●その他
 進行は頂いたプレイングの量にもよりますが、ゆっくりめを想定。繁閑状況によってはプレイングの再送をお願いする可能性がございますので、その点を御了承頂けますと幸いです。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『危険物でいっぱい』

POW   :    頑丈さを取り柄にして被害を最小限にする

SPD   :    細心の注意で器用にかわして被害を最小限にする

WIZ   :    危険物の法則性を見出して被害を最小限にする

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●緑の地獄
「ほう、貴様らが|猟兵《イェーガー》か。直接会うのは初めてだが、噂は聞き及んでいるぞ。腕の立つ傭兵で随分と暴れているらしいな、実に結構。とは言え、今回はほぼ勝ち戦の様なものだ。貴様らからすれば、些か物足りないやもしれん。ガハハハッ!」
 クロムキャバリアがグエイザン大密林へと降り立った猟兵たちは、そのまま『共和国』首都を目指して進軍中の『人民国』軍と接触。どうやら猟兵の名は此処でもそれなりに広まっているらしく、すんなりと指揮官であるグエン将軍の元まで通された。
 密林の中に仮設された指揮所テントの中、机に広げられた地図を睨んでいた大柄な老人は訪問者を豪快な笑顔で出迎えてくれる。顔には大きな傷跡が有り、ゴツゴツとした拳から武人然としていた印象を受ける一方、浮かべる笑みは親しみやすさを感じさせるものだ。
「改めて自己紹介と行こう。ワシはグエン。人民国の将軍であり、この侵攻軍を率いる指揮官でもある。ま、そんなに肩肘を張る必要はない。ワシもそういう事に気を遣わんしな」
 取り急ぎ老人は猟兵たちへ席を勧めつつ、自らもまた椅子代わりの木箱へどっかりと腰を下ろす。まずは前段階の説明だと、老雄は口火を切ってゆく。

「そもそも開戦の切っ掛けが何だったのか、それは政治家の領分ゆえワシには良く分からん。だが軍人である以上、やれと言われたら何であれ従うだけよ。そうして命ぜられるまま、我が国と『共和国』はこの密林地帯を舞台にあちこちでぶつかり合ったのだ」
 元々、国力的には『人民国』側が有利であった。まともにぶつかり合えば『共和国』に分が悪いものの、見ての通りこの地域一帯は熱帯性の密林地帯。大規模な兵力を展開する土地など無い。故に戦力で劣る『共和国』はホアンと言う参謀本部きっての軍略家が指揮の元、機動力を生かした戦術で挑んできたのだと言う。
「兵卒に装備、飯や燃料。軍組織と言うものは、デカくなればデカくなるほど動きが鈍くなる。こっちが大軍でえっちらおっちら行軍していたのとは対照的に、奴らは小部隊を薄く広く配置していてな。どこかの部隊がこちらを見つけた瞬間、各地に潜んでいた兵がそちらへあっという間に集結。ガツンと一発殴ったら、あとは三々五々にトンずらって寸法よ……全くあ奴め、手加減と言うものを知らんのか」
 その神出鬼没の奇襲戦術に『人民国』軍は苦しめられ、一方のホアンは『深緑の魔術師』と盛んに持ち上げられた。しかし裏を返せば、それは少ない兵力を活かそうとする苦肉の策でもある。例えいくら上手く戦おうとも、戦力はジリジリと減るのだ。そして、どんな名将とて常勝無敗とはいかぬもの。
「無論、こちらもやられてばかりではない。相手がある程度の数を集めた所で機先を制し、そのまま逆奇襲をしてやったわ。元々、数はこちらが上なのだ。決定打を叩き込むのは難しくなかった」
 結果、『共和国』軍は再建困難な程の損害を被る事になる。グエンはそれで大勢が決すると読んでいたのだが、予想に反して相手は戦闘を継続。ジリジリと後退しながらも、ゲリラ戦術による徹底抗戦を続けている、と言うのが此処までの経緯だった。

「さて、ではここからが本題だ。貴様らにはまず、密林地帯に仕掛けられた罠を排除して貰う。|乱杭落とし穴《パンジ・ピット》、ワイヤー爆弾、有刺鉄線に地雷。敵軍は手当たり次第にトラップを仕掛け、我が軍の進行を阻んでいるのだ」
 それらは一般の兵士は無論、キャバリアにすら有効打を与えるものも存在するのだと言う。『人民国』軍もそうした障害物の排除は心得ているが、なにせ数が尋常ではない。猫の手も借りたいと言うのが正直なところなのだろう。
「時間を掛ければ、我々だけでも安全は確保可能だ。しかし未確認だが、連中に対して近く大規模な支援が行われるという情報も入っている。つまり、今は一分一秒が惜しい。金で猟兵と言う時間が買えるなら、それに越したことはない」
 求められるのも密林地帯全域ではなく、飽くまでも部隊を通す経路の安全確保だ。猟兵の力量ならばそう手間取る事はあるまい。伝えるべき事は以上だとグエンは話を切り上げると、猟兵たちを下がらせる。その際、ポツリと小さな呟きが耳朶を打つ。
「…………最期の詰めが傭兵の手柄となれば、茹だった政治屋どもの頭にも多少の冷や水を浴びせられよう」
 その言葉が何を意味するのか。誰何する間もなく、猟兵たちは作戦に向けて準備を進めてゆくのであった。

※マスターより
 プレイング受付は14日(土)朝8:30~より。
 第一章は密林地帯に仕掛けられたトラップ群の排除となります。一つ一つ着実に解除するも良し、広範囲攻撃で薙ぎ払うも良し、設置場所だけをピックアップして後続に任せるも良し。お好きに行動下さい。なおキャバリア等の装備が必要な場合は、一般的な量産品であれば借り受けることが出来ます。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
鳴上・冬季
「まず質問ですが。全く罠も敵もいなかった場合の、共和国への進軍予定ルートを教えていただけますか。そのルート上の罠を全て廃棄してから、他に取りかかろうと思いますので」
嗤う

「進軍せよ、黄巾力士金行軍」
周囲警戒及び罠から仲間を庇う2体
罠撤去を行う3体
木々を薙ぎ倒し整地していく5体
計10体を1班として14班140体黄巾力士召喚
進軍予定ルートに従い木々すら伐採して敵国への道を作っていく

自分は風火輪
普段から連れ歩く黄巾力士は飛来椅で飛行し作業状況俯瞰
竜脈使い全黄巾力士の能力底上げし罠撤去と整地の速度を上昇させる

「今後一国になるなら直通の道があっても良いと思いませんか。撒き餌は多い方がいいでしょう?」
嗤う



●金は木を断つ
「……まず質問ですが。全く罠も敵もいなかった場合の、共和国への進軍予定ルートを教えていただけますか。いわゆる、理論上の最短ルートというものです」
 鬱蒼と広がる熱帯性の大密林地帯。10月であっても高い湿度と気温を保っており、更には夥しい数の罠が敵兵と共に息を潜めて待ち構えている。高密度に繁茂する植物群も相まって、さながら緑色の迷宮と形容できるだろう。
 そんな戦場を前に、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は攻略に先立ってそう『人民国』側へと尋ねていた。グエンは傍らの副官に改めて地図を持って来させると、それを広げながら説明してくれた。
「密林を通る大河や行軍に不向きな湿地帯、待ち伏せを受けやすい渓谷などを除けば……ふむ、こんな所だろうな。しかし、どこが通りやすいかなぞ相手も承知の上だ。馬鹿正直にそこをへ突っ込めば、さぞ盛大なお出迎えが待っているだろう」
 指先で示された経路は大きく曲がりくねってはいたが、確かに密林の真っ只中でも比較的マシと言えそうだ。とは言え、そんな戦略的に重要な要所を『共和国』側もそのまま放置している訳がない。流石にそのまま進むのは厳しいとグエンは告げるも、対する冬季は心得顔でうっすらと笑みを浮かべゆく。
「成る程……事情は分かりました。ではまず、私はそちらに手を付けるとしましょう。そのルート上の罠を全て廃棄してから、他に取りかかろうと思いますので」
「……おいおい、ワシの話を聞いていたのか?」
「ええ、勿論。ですが、別の場所でこれ見よがしに罠を解除しながら密林を進めば、むざむざ敵にあなた方の意図を悟らせるようなものです。つまり、陽動の様なものですよ」
 そのまま打通してしまうのも一手ですけれどね。妖仙はそんな独白を零しつつ、呆れた様に眉を顰める老将軍に対し心配ご無用と肩を竦めて見せる。グエンとしても猟兵は飽くまでも傭兵なのだ。仮に失敗しても懐は痛まないと、最終的には頷いてくれた。
「よかろう。それでは音に聞く猟兵の手並み、見せて貰おうか」
「ええ、どうかお任せを」
 斯くして冬季は一路、頭に叩き込んだ経路を単身先行してゆく。そうして暫し進んでところで、彼は不意に足を止めた。一見何の変哲もない密林だが、猟兵としての勘が警告を鳴らしている。
「ふむ、もうここからですか。まぁ、敵の領土内ですから不思議ではありません。それでは……進軍せよ、黄巾力士金行軍」
 妖仙が素早く印を組みながら何事かを口遊んだ次の瞬間、周囲の地面が盛り上がり土塊を形成する。それらは瞬く間に人型を形作ると、人間サイズの人型自律思考戦車『黄巾力士』へと変じていった。
「周囲警戒に2体、罠の撤去に3体、木々や障害物の排除と整地に5体。以て10体を1班として、140体で計14班。頭数としてはまずまずでしょう」
 冬季は手早く生み出した宝貝たちに役割を割り振ると、速やかに行動させ始める。ある者はゲリラの奇襲を警戒し、ある者は頑健さを以て罠を踏み砕き、ある者は木々を薙ぎ倒しては引き抜いてゆく。
 時たま地雷か手榴弾のものと思しき爆発音が鳴り響き、鉄条網や木杭を破砕する騒音が耳朶を打つ。黄巾力士の働きは見事だが、これだけの効率と数を以てしても密林は濃く深い。龍脈から齎されるエネルギーも利用しながら、冬季は上空より全体を俯瞰する。
「……今後、一国になるなら直通の道があっても良いと思いませんか。何より、ゲリラの食いつく撒き餌は多い方がいいでしょう?」
 そうして切り拓かれゆく経路を見下ろす妖仙は、周囲を探る様に動き回る気配を感じて酷薄に嗤うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
どんな所でも、クロムキャバリアは戦争ばっかりね。日本の夏も顔負けね。「環境耐性」でやり過ごせるけど、暑いものは暑い。
この調子じゃ、そのうち極地へ行ってくれって言われるんじゃないかしら?
ま、いいわ。「召喚術」「式神使い」。アヤメ、おいで。

罠を仕掛けたり解除したりは、クノイチの得意分野でしょ。よろしくお願いね。
発見と解除の報告はよろしく。
しかしまあ、鬱蒼として。道に迷いそうだわ。多分、この地図のこの辺りのはず……。

こうして突っ立ってるだけでも、ゲリラ兵から直接狙撃される可能性はあるわね。「オーラ防御」を自分とアヤメに張って、警戒は怠らずに進んでいきましょ。
撃たれたら金行の「属性攻撃」で反撃する。



●音も無く忍びて
「……どんな所でも、クロムキャバリアは戦争ばっかりね。こんな日本の夏も顔負けな環境下でも争い合うんだから。ふぅ、それにしても暑いものは暑いわ。この調子じゃ、そのうち極地へ行ってくれって言われるんじゃないかしら?」
 濃く深く生い茂る|密林《ジャングル》と断続的に続く|大雨《スコール》、そしてそれらによって生み出される高温多湿な気候。ほんの少し行動しただけで雫となる汗を拭いながら、村崎・ゆかり(“|紫蘭《パープリッシュ・オーキッド》”/黒鴉遣い・f01658)はやや辟易とした口調でそう独り言ちる。
 耐えられこそすれ、不快である事に変わりはない。こうも不慣れな環境では集中力もそう長くは続かないだろう。本格的に疲弊する前に手を打っておこうと、ゆかりはパチリと指を鳴らす。
「ま、いいわ……アヤメ、おいで?」
 刹那、彼女の背後へ音も無く人影が現れた。まるで始めからそうしていたかのように傅くは苦無を手にしたくノ一である。斥候と言う意味合いでは確かに適任だろう。
「罠を仕掛けたり解除したりは、クノイチの得意分野でしょ。よろしくお願いね。発見と解除の報告はよろしく。もし手に負えない物だったら、後続に処理して貰うわ」
 ――頼んだわよ?
 そうゆかりが念押しすると、くノ一は小さく首肯した後に先行してゆく。ゲリラの練度がどのレベルなのかは分からぬが、この様子であればそう心配はあるまい。いざとなれば瞬時に連携出来るだけの距離は維持しており、万が一の襲撃が有っても対応は可能だ。
「とは言え、こうして突っ立ってるだけでも、ゲリラ兵から直接狙撃される可能性はあるわね。念のため結界を張って、警戒は怠らずに進んでいきましょ。いざとなれば反撃も止む無しよ」
 しかし、地の利は依然として敵方に在る。どこから此方の行動を見られているのか分かったものではない。故にゆかりは己とくの一に最低初撃を防げるだけの障壁を付与しつつ、罠の解除を進めてゆく。
「艶消しした糸の先に手榴弾の安全ピンを結んだワイヤートラップ、逆茂木を底に仕込んだ落とし穴、板を踏み抜くと左右から剣山が挟み込んで来るトラバサミ……よくもこれだけの数を仕込んだ物ね」
 だが、その歩みは決して早いとは言えないものだ。なにせ仕掛けられた罠は尋常な量ではなく、その一つ一つを処理せねばならない。くの一が苦無で張り巡らされた糸を切り、落とし穴はゆかりが偽装された被せを取り払って存在を露呈させ、トラバサミは手にした得物で叩き潰す。
「しかしまあ、どこもかしこも鬱蒼として。罠の解除だけに熱中していると道に迷いそうだわ。多分、現在位置はこの地図のこの辺りのはず……」
 その上、情報共有の為に潰した罠を地図へと都度書き込んでいるのだから、嫌が応にも歩みが遅くなると言うものである。ただ反面、そのお陰で現在位置を見失う事も無く、遭難する恐れが低いのはある意味で利点とも言えた。
「気が付いたらゲリラに取り囲まれていた、なんて間抜けにも程があるわ。とは言え、ここまで仕掛けて来ないのも少しばかり不気味ね……何か意図でもあるのかしら?」
 作業を開始してからもう暫く経つが、『共和国』側が襲撃して来る気配は今のところない。単にまだ気づかれていないのか、それとも何かしらの理由があるのか。どちらにせよ気は抜けぬと、ゆかりは引き続き警戒しながら罠の排除を続けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シルヴィ・フォーアンサー
とりあえず罠を解除すれば良いんだね……薙ぎ払っても良いそうだけれど森とか燃えそう。
跡形もないほど消し飛ばしても良いけど……要は通れれば良いんだよね。

シルエット・ミラージュで14体の分身を呼び出して更にそれぞれでハンドレッド・イリュージョンを発動。
切り上げで計算して73✕14+145で分身が消えても残る1167機の
ミドガルズの複製体を創造して瞬間思考力とヨルにも戦闘演算手伝ってもらってそれぞれを操縦。
横にずらーっと並べて直進、罠に引っかかって破壊されても気にせず後続を送る。

『……漢探知だな』
シルヴィ女だよ?
『こういうのを漢探知というのだ』
ふーん……本体は痛くもないし発動させちゃえば安全でしょ。



●鉄量こそが状況を打破せし
「とりあえず罠を解除すれば良いんだね……薙ぎ払っても良いそうだけれど、森とか燃えそう。跡形もないほど消し飛ばしても良いけど、戦後の事を考えると余り荒らし過ぎても問題なのかな」
 愛機であるキャバリア『ミドガルズ』の操縦席に身を収めながら、シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)はさてどうしたものかと思案を巡らせている。そんな搭乗者の悩みを受けてか、機体に内蔵されたサポートAI『ヨルムンガンド』が電子音声で応じた。
『これだけの密林だ、多少の損害を受けたとしてもある程度は自力で回復可能だろう。とは言え『人民国』側は既に勝利を目前にし、戦後を見据え始めている。領土の荒廃も必要経費と理解はしてくれるだろうが、場合によっては心証を損ねる可能性も否定できない』
「なるほど、それだとちょっと面倒かな……つまり、要は通れれば良いんだよね?」
 単純に戦争で勝つだけならば、シルヴィの考えも決して悪くはない。だが戦後に終戦条約を結ぶにあたり、『人民国』は『共和国』に対してほぼ間違いなく領土の割譲や国家併合を求めるはずだ。その際、得られる国土が猟兵によって荒廃していたとなれば、交渉への介入に影響が出る恐れがあった。
 AIからの捕捉を受け、シルヴィはであればと一計を案じる。彼女が機体システムへ命令を入力すると周囲の空間がぐにゃりと歪み、乗機と全く同じ姿をした精巧なデコイが現れた。その数、合計で十四機。頭数としてはまずまずだが、これは飽くまで下準備だ。
「出せる数は半減しちゃうけど、例えそれを加味したとしても十分かな」
 呼び出された機体たちはそのまま続けてオリジナルと共に更なる複製機能を発動。自らの維持限界と引き換えに数十体規模の再複製体を召喚していった。ほんの数分で生み出された『ミドガルズ』の数は実に1000と167機。性能こそ原型機から幾分落ちるものの、罠の掃討程度であれば十分である。
「ある程度は単純な命令で自律稼働させつつ、細かな調整を掛けていけば労力も少なく済みそうだね。ヨル、サポートをお願い」
『また随分と頭数を揃えたものだが、理には適っているか。隊列の維持と直進で指示設定を行い、ズレが生じたら修正する形であれば何とか運用可能だろう』
 斯くしてシルヴィは複製体たちをずらりと横一面に並べるや、そのまま真っ直ぐ進ませ始めた。全高5メートルのキャバリアはそれその物が一種の重機と呼んでも差し支えない。それらがただ真っ直ぐ進むだけで対人用の地雷や鉄条網は踏み潰されてゆく。
「っと、対キャバリア用地雷に丸太や岩を束ねた重量罠か。流石に無傷とはいかないけど、問題は無いよ」
 しかし、時たまキャバリアや装甲兵器を想定したトラップも混じっており、それらによって行動不能になる機体も出て来てしまう。だが、その程度の損害は端から織り込み済みだ。掛けた穴は後続ですぐさま埋められ、罠の処理が続行される。そんな豪快な戦術を前に、指示出しを手伝っていたAIが半ば呆れた様に呟きを零す。
『解除ではなく踏み込んで無効化か……漢探知だな』
「うん? シルヴィ女だよ?」
『こういうのを漢探知というのだ』
 疑問符を浮かべる操縦者にAIは律儀に応じている。何はともあれ、猟兵の面目躍如といった所か。通常の軍集団でもこうはいくまい。
「ふーん……本体は痛くもないし、発動させちゃえば安全でしょ」
『まぁ、それは否定しないが』
 対して、飽くまでも合理的な選択だというスタンスのシルヴィ。彼女の言う通り、安全性と効率と言う点では間違いない。斯くして鉄騎の横隊は大密林を踏み進んでゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

葉月・静夏
人間同士の戦争へ介入することになるなんて、話に聞いていた通りクロムキャバリアはかなり大変なことになっている世界なのね。できるだけささっとすませたいね。

私は生身のままでいくよ。わざわざ不慣れなものを使うことはないよね。
不器用な私ではトラップを丁寧に解除していくのではいくら時間がかかるかわからないから、【酷夏紫外熱線】で纏めて焼き払っていくよ。
見た目で分かりにくいトラップもありそうだから、熱線を放つ、進む、熱線……といった進み方をしていけば安心かな?察知できなくとも壊してしまえば良しということね。

この世界では、私はどれくらい通用するのかな?



●闘争に熱は高まりて
「人間同士の戦争へ介入することになるなんて、話に聞いていた通りクロムキャバリアはかなり大変なことになっている世界なのね。元の世界では人類が一致団結していたから、なんだか複雑な感覚だよ」
 足場や見通しの悪い密林を進みながら、葉月・静夏(せい夏・f40839)は事前に受けた説明内容を改めて思い起こしてゆく。彼女の居た世界でも多少の諍いが無い訳では無かったが、基本的にはデウスエクスという共通の脅威に対して人々が足並みを揃えていた。
 それが無い世界ではどうなるのか。そんな答えの一つを垣間見てしまったようで些か思う所もあるが、今は求められる役割を果たすべきだろう。ここで戦果を挙げれば後々の発言権を大きくし、終戦交渉を軟着陸させることも可能なのだから。
「……出来るだけささっとすませたいね。取り敢えず、私は生身のままでいこうか。巨大ロボットとか気にはなるけど、わざわざ不慣れなものを使うことはないよね。この世界では、私はどれくらい通用するのかな?」
 ケルベロスのみならず猟兵として覚醒した現状ならばキャバリアの操縦も問題ないだろうが、ただでさえ経験の浅い異世界かつ地の利が敵に在るのだ。まずは己に出来る事を着実に為すことが最優先である。
「まぁそれはそれとして、手先に関しては不器用だって自覚はしているからね。トラップを丁寧に解除していったら、いくら時間がかかるかも分からない……ここは少しばかり力技で進むとしようかな」
 とは言え、罠の解除と言う経験もそこまである訳では無い。だが話を聞く限り、そこまで特殊な仕掛けの物はほぼ無く、大半が数を揃える事に特化した単純な仕組みの様だ。尤も、だからといって殺傷力が低いと言う訳でも無いのが悩みどころなのだが。
「熱いし蒸すけど、陽射しは枝葉に遮られてまだ弱いのが救いだね。だけど、私の紫外熱線は日焼け程度ではすまさないよ?」
 静夏はくるりと頭頂部から生え伸びたアホ毛を揺らすや、その先端より紫色の熱線を放ち始めた。見た目はややコミカルだが、威力は本物。頭を巡らすとそれに合わせて熱線もまたスライドしてゆき、木々や茂みを纏めて焼き払ってゆく。
 途中でパァンと勢いよく爆ぜたのは隠されていた手榴弾か。視界の端で落下した物体は無数の棘を生やした丸太の塊だ。恐らく、頭上へ吊り上げていたロープか何かを切ったのだろう。
「例え罠を察知できなくとも、壊してしまえば良しということね。時間は掛かるけれど、熱線で一帯を掃射してから進むのを繰り返していけば安全かしら」
 どれも番犬や猟兵からすれば足止め以上の意味を持たないが、一般兵であれば致命傷となり得るものばかり。排除漏れを防ぐためにも静夏は自らの言葉通り、着実に確認済みの領域を増やす他に無かった。
(これが終わればゲリラの掃討戦ね。キャバリアさえ破壊すればパイロットは無事と言うし、戦争を終わらせる為と割り切るしかないかな)
 次に待ち受けるのは対人間との戦闘に、それが終われば政治的な交渉。異形なる神々と刃を交えるのと、果たしてどちらの方がまだ気が楽か。そんな事を徒然と考えながら、番犬は罠の解除を続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

戦争紛争!あぁ嫌になる!それに暑いし密林…うわ蜘蛛!?
…だが私は騎士だ!あのグエン将軍にベルト・ラムバルドはできる男というのを見せねばならんのよ!行くぞ!

キャバリア操縦して空を飛ぶ!…てのはできんかそうか…
ジャンプしながら進むか…くそ~…

索敵による情報収集と情報検索で罠を探しだそう
私が破壊できそうな罠は武器を振るい破壊するぞ

だが密林だし視界も悪い…こうなりゃ…UCでデビルキングワールドの悪魔達を召喚!
悪魔諸君!この密林をドンドン進み罠を虱潰しに潰せ~!
悪魔達を鼓舞し前進させよう!あの世界の出身だし罠にかかっても平気だろ!

…悪魔!?人でなし?!
私は人だし彼等は立派な悪魔なの!突撃~!



●敵も味方も人でなし
「戦争紛争! あぁ嫌になる、何故誰も彼も争うのか! それになんだ此処は! 暑いしジメジメしている上に密林……って、うわ蜘蛛!? これが世に言うタランチュラかッ!」
 どこまでも続く鬱蒼とした大密林に騒々しい声が吸い込まれてゆく。意気揚々と深緑の戦場へと降り立ったベルト・ラムバルド(自称、光明の宇宙暗黒騎士・f36452)であったが、どうやら早々にジャングルの洗礼を受けているらしい。肩に落ちてきた巨大な蜘蛛を払い落としつつ、コホンと気を取り直す様に咳払いをしてゆく。
「……だが、私は騎士だ! どの様な戦場や敵であれ、背を向ける事は許されない! 後の交渉で優位に立つ為にも、あのグエン将軍にベルト・ラムバルドはできる男というのを見せねばならんのよ! さぁ、行くぞ!」
 意気込みだけならば十二分。改めて先へ進もうとする騎士だったが、一歩踏み出した先にサッと横切ったのは毒々しい色の蛇。思わず飛び退けば得体の知れぬ蟲の羽音が耳朶を打ち、頭上では鳥とも猿とも分からぬ唸りが鳴り響く。一転して、ベルトはしょんぼりとした表情で梢の合間から見える空を仰ぎ見る。
「やはり、この世界の主役はキャバリア! 自らの乗騎を操縦して空を飛ぶ! ……てのはできんか、そうか。飛べないから、こうしてえっちらおっちらジャングルを踏破しているんだもんな……仕方ない、ジャンプしながら進むか。くそ~……!」
 殲禍炎剣さえなければ、恐らくはこの戦争もここまで泥沼にはならず、より早く決着を見ていただろう。それが良いか悪いかは別として、今はただ徒歩で進むしかなさそうだ。ならばせめて少しでも勢いをつけようと、木の幹や枝を足場に跳躍しながら進み始めた。
 無論、罠の捜索も忘れたわけではない。注意深く地面や茂みに目を凝らしながら、違和感が無いか慎重に確認してゆく。
「……む、なんだ? これは地面を掘り返した後か。落とし穴にしては些か小さすぎるな」
 そうして彼が見つけたのは三十センチ四方ほどの地面だ。偽装されているものの、微かにではあるが色が変わっている。まず罠で間違いないだろう。とは言え、正体が何であるかはぱっと見だと分らない。なればと、ベルトは細剣の切っ先をそちらへと差し向ける。
「罠は踏んでも踏み抜けばいい! ……けど、ちょっとそれだと痛そうなので代わりに剣で確かめる! とぉおッ、っとと!?」
 そうしてその場所を突いた瞬間、パァンと勢いよく何かが真上に爆ぜた。彼の超人的な視力が捉えたその正体は、ライフル用の弾丸。恐る恐る穴を覗いてみれば、どうやら垂直にそれが固定されていたらしい。地雷や落とし穴よりも小さな穴を気付かず踏めば、今の様に足裏をズドン、と言う事か。
「び、びっくりした! こんなえげつないモノがわんさか仕掛けられてるのか、この森は!? ええい、視界が悪い中では何を見落とすか分からん……あ、そうだ!」
 恐れ戦くベルトであったが、何やら名案を思いついてポンと手を打つ。彼がパチリと指を鳴らすと空間が歪み、そこから恐ろしい風体の異形たちが現れる。彼らはデビルキングワールドの悪魔たちだ。何だ何だと周囲を見渡す悪魔たちへ騎士はにこやかに呼びかけてゆく。
「悪魔諸君! 私は現在、今にも負けそうな国を降伏させるべく作戦行動中である! つまりは弱い者いじめ、悪い事だ! さぁ、この密林をドンドン進み罠を虱潰しに潰せ~!」
 悪い事と聞けばホイホイ乗ってしまうのが悪魔の性。彼らは生来の気真面目さを以て、丹念に罠を探しては丁寧に解除し始める。所詮は対人用の罠だ、仮に失敗しても悪魔に傷一つつく心配は無い。
「……騎士なのに人任せ? 悪魔!? 人でなし?! 私は人だし彼等は立派な悪魔なの! 突撃~!」
 ただ『人としてどうなのか?』と言う戦術だが、誰も損はしていないので良しとすべきか。斯くしてベルトは悪魔たちと共に密林を突き進んでゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリー・フランツ
※増加装甲を付けたヘヴィタイフーンに搭乗
心情:まぁ、ここまで来たら戦意を完璧に叩き折るしか終戦への道筋はねぇわな。
手段:「空調に慣れた身体には堪らん蒸し暑さだ」
人民軍の認可を降り次第【宇宙海兵強襲部隊】を召喚、効率は悪いが飛行型揚陸艇より下船させ地上展開するしかねぇな、人数的には大隊規模だから罠の除去や不意の遭遇戦の対応には十分だ。

メインルートの掃除は他の猟兵が済ませた様だな、俺は第ニ案か第三案の進軍ルートの掃除を行う。いざとなれば退路にもなるし無駄にはならんだろう、もし掃除中に洞窟を発見したらRSファイアアント対装甲火炎放射器で内部を炙る、敵の監視拠点の可能性もあるからな、地道に潰すさ。


ティオレンシア・シーディア
始めるよりも終わらせるほうが難しい、ってのはどこの世界も共通よねぇ。
…敵を全て滅ぼしてしまえば戦争は「終わる」けれど…そんなのは結果とも言えないただの「現象」だしねぇ。

あたしには強引に轢き潰せるほどの物量も質量もないし、地道に行きましょうか。スノーフレークに○機乗して|エオロー《結界》で○オーラ防御を展開しつつ最前線を少し先行、「害意のある|モノ《物/者》」を指定した●黙殺・掃域で邪魔な障害物○なぎ払っちゃいましょ。|ウル《暴走》あたり描けばいい感じに暴発してくれないかしらぁ?ダメでもグレネード幾つか放り込めばなんとかなるでしょ。
…お互いに狙撃を心配しなくていいからできることよねぇ、コレ。



●堅実に、確実に
『何事も始めるより終わらせるほうが難しい、ってのはどこの世界も共通よねぇ。敵を全て滅ぼしてしまえば、確かに戦争は「終わる」けれど……そんなのは結果とも言えないただの「現象」だしねぇ』
『叶うなら逆転を、或いは少しでも有利な状況に持ち込みたいって気持ちは分からんでもない。だが、退き際を見誤って破滅した例なんざごまんとある。まぁ、ここまで来たら戦意を完璧に叩き折るしか早期終戦への道筋はねぇわな』
 各地に散らばった猟兵たちにより、密林に仕掛けられた罠は順調に除去されつつある。とは言え、戦場に指定された範囲は広大だ。引き続き罠の捜索と解除を行うべく、ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)とティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の両名もまたそれぞれの機体に乗り込み現地へと降り立っていた。
 コックピットのハッチを開き、身を乗り出して直接周りの様子を窺うヴィリーはむっと流れ込んで来る湿った熱気に思わず顔を顰めゆく。
「これはなんとも、空調に慣れた身体には堪らん蒸し暑さだ。しかし拠点を吹き飛ばすとかならいざ知らず、罠を探すならキャバリア頼みって訳にも行かないか。効率は悪いが、人海戦術で挑むしかあるまい。丁度、人民軍側の許可も降りたようだ」
 傭兵は操縦席に引っ込むと、友軍から入った通信文に目を通してゆく。軍とは集団を重んじる組織であり、報連相は基本中の基本だ。何処に敵が潜んでいるかも分からぬ状況で先走り、友軍に撃たれるなど間抜け極まりない。故にこそ、彼は作戦に先立って己が行動の是非を人民軍側へ問うていたのである。斯くして、文面に記されていた内容は許可の旨。それを受け、ヴィリーはまた別の何処かへと命令を飛ばし始めた。
『さぁ、お偉いさんのお墨付きだ。行くぞ、野郎ども。危険な戦場を切り拓く事こそ海兵隊の誉れ。そして|歩兵《ライフルマン》の本領は歩く事ってな』
 要請を受けて現れたのは近未来的な装備に身を包んだ海兵隊の兵士たち、総数およそ一個大隊規模。男が求めていたのはこの追加人員の参戦許可であった。海兵隊員たちは分隊ごとに分かれると、手分けして索敵を開始してゆく。
『メインルートの掃除は他の猟兵が済ませた様だしな、俺は第ニ案か第三案の進軍ルートの掃除を行う。いざとなれば退路にもなるし、陽動として相手に戦力を割かせる事も出来る。どのみち無駄にはならんだろう』
『成る程ね。あたしも罠を強引に轢き潰せるほどの物量も質量もないし、それじゃあ協力して地道に行きましょうか。対キャバリア用の罠も混じっているみたいだから、念のため|エオロー《結界》を張って、と』
 彼らは歩兵に随伴する戦車と言った役割か。海兵隊の指揮を取る仲間を横目に、ティオレンシアは己が乗騎を前へと進める。キャバリア相手では対人用の落とし穴やワイヤートラップは脅威にならない。しかし装甲兵器用の大型地雷を始めとする言わば『大物食い』を狙った罠も少なからず仕掛けられており、決して気を抜くことは出来なかった。
(勿論、対人用の罠も見落とすべからず……ただ、木を削った杭や竹を利用したものもあるから、キャバリアの探知機能だけじゃ拾い上げきれないのが厄介ねぇ。なら、別の側面から攻めるとしましょうか)
 細かなところは海兵隊員が見てくれるものの、二重三重にチェックするに越したことはないだろう。女は機体を先行させつつ、操縦桿を通して魔力を躯体表層へと注ぎ込んでゆく。それは装甲表面に複雑な紋様を描き出し、周囲一帯に対する索敵術式を発動する。
『対象指定は「害意のある|モノ《物/者》」。設定は感知と同時に魔力弾で自動攻撃……ついでに|ウル《暴走》あたりを描けばいい感じに暴発してくれないかしらぁ? ダメでもグレネードを幾つか放り込めばなんとかなるでしょ』
 どんな罠であれ、人の手で仕掛けられている以上は意志が介在するもの。彼女の巡らせた術式はそれに反応し、自動的に攻撃を仕掛けるのである。これならば、少なくとも効果範囲内のトラップを潰し漏らす事はあるまい。
 果たして、魔術文字は周囲に存在する害意や敵意と言った意志を検知。瞬時に放たれる魔力弾によって隠蔽された罠を次々と無力化してゆく。その中には大小の爆発音が混じっており、もし迂闊に踏んだ場合を思うとゾッとしなかった。
『お互いに狙撃を心配しなくていいからできることよねぇ、コレ……っと、あれは』
 苦笑を浮かべつつ、深緑の戦場を進み征くティオレンシア。だがその道中、ある場所で海兵隊員たちが立ち往生している場面に出くわした。何事かとそちらへカメラを向ければ、どうやら入り口が偽装されていた洞窟を見つけたらしい。ただ、不用意に入るのは言うまでもなく自殺行為である。故にどうすべきか様子を窺っていたようだ。
『共和国軍ゲリラの拠点、かしらねぇ? ただこれだけ派手に罠を解除している手前、とっくに離脱はしてそうだけれど』
『だが、この手の場所にはブービートラップが仕掛けられると相場が決まっているからな。何か残ってはいないかと内部を漁ったらドカン、だろう。情報を得られるに越したことは無いが、今回はどのみち勝ち戦だ。欲の皮を張ってケチをつけたくはない』
 どうしたものかと思案するティオレンシアだったが、そうこうしている内に連絡を受けたヴィリーも駆けつけて来る。パッと見た限り、奥行きと高さ共にそこまで大きな洞窟ではなさそうだ。だがこうした密閉空間で爆発が起これば、密林で炸裂した際とは比べ物にならない損害を被るだろう。
 相手とは異なり、此方は余計なリスクを抱え込むほど追い詰められていないのだ。である以上、ここは安全を取るべきか。そう判断した傭兵は愛機に装備されている火炎放射器のノズルを洞窟へと差し向ける。
『敵の監視拠点か、それともそれらしく偽装した罠か。どちらにせよ関係ない。地道に潰すさ』
 トリガーを押し込むと同時に、火の着いた液化燃料が内部へと放たれた。瞬く間に内部は炎に満たされ、赤々とした灼熱が蹂躙してゆく。刹那、幾つかの小規模な爆発音が起こったと思うや、ガラリと天井が崩落。一瞬にして洞窟は瓦礫で埋まってしまう。
『あらあら、これはまた……敢えて脆くしていたのかしらね?』
『中に入らなくて正解だったな。生身の兵士は勿論、キャバリアも無事では済まなかった筈だ。全く、油断も隙もありゃしないぜ』
 ともあれ、今はまた一つ危険な仕掛けを無力化出来た事を喜ぶべきだろう。既に行動開始から少なくない時間が経っており、そろそろ終わりが見えて来る頃合いだ。斯くして猟兵たちは最後まで気を抜く事無く、作業を続けてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
オブリビオンは皆殺しですわ〜!
全部オブリビオンのせいなのですわ〜!
ヴリちゃん!ガンフューラーで参りますわよ〜!

あら〜!
おジャングルですわ〜!
このおジャングルのどこかにおゴリラが潜んでいらっしゃるんですの?
おゴリラではなくおゲリラ?
どちらも似たようなものですわ〜!

お罠を探してぶっ壊せばよろしいのですわね?
こういう時はつま先でちょんちょんするとよろしいのですわ!
わたくし慎重お姫様ですわ〜!

開始10秒でイライラしてきましたわ〜!
こんなじれったい事していたら一日が終わってしまいますわ〜!むきー!
はっ!そうですわ!
お罠は地形に隠されているものですわ!
なら地形ごとぶっ飛ばせばよろしいのですわ!
わたくし天才ですわ〜!
ヴリちゃん!ロングレンジビームキャノン発射ですわ!
ブレイクブラストでお石器時代に戻して差し上げますわ〜!
ビームガンとおミサイルもおまけ致しますわよ〜!
そこら中穴だらけですわ〜!
見通しも良くなって一石お二鳥ですわ〜!
やはり暴力!暴力は全てを解決するのですわ〜!



●最も賢く野蛮な解決
 猟兵たちがグエン将軍率いる『人民国』軍と協力しながら、密林に仕掛けられた罠を解除し始めて既に短くない時間が経過していた。双方の尽力の甲斐も有って作戦想定領域の大半は掃討が完了し、残りの領域が終わればいよいよ対ゲリラ掃討作戦を開始できると言うタイミングに差し掛かった頃。
『オブリビオンは皆殺しですわ〜! 人々が争うのも、戦争が絶えないのも、ここがもう秋なのに蒸し暑いのも、全部オブリビオンのせいなのですわ〜! ヴリちゃん! ガンフューラーで参りますわよ〜!』
 なんかトンチキな、もとい高貴さを感じさせる声が深緑の戦場に響き渡る。ミシリと木々を薙ぎ倒しながら姿を見せたのは、総身が鋼鉄によって形作られた恐竜型のキャバリア。そして物々しい見た目とは裏腹なハイテンションの元凶こそ、操縦席に身を収めるメサイア・エルネイジェ(暴竜皇女・f34656)であった。
 黒鉄の暴竜はさながら本物の恐竜が如く、ぐるりと首を巡らせ周囲をアイカメラで見渡してゆく。どちらを向いても熱帯性の木々ばかりで、見通しは酷く悪い。仲間や友軍から共有される情報が無ければ作戦範囲は愚か、自己の現在位置すら見失ってしまうだろう。
『あら〜! おジャングルですわ〜! このおジャングルのどこかにおゴリラが潜んでいらっしゃるんですの? おゴリラではなくおゲリラ? どちらもお霊長類だから似たようなものですわ〜!』
 しかして、『お』がゲシュタルト崩壊しそうな台詞を吐くメサイアはどこまでもあっけらかんとしたものである。近現代の戦場は勇敢さよりも臆病さを尊ぶが、さりとてそれは萎縮を意味しない。故に発言内容の残念具合さえ除けば、ある程度の楽観さは寧ろ望ましいものだ。
 ともあれ、こうして戦線に加わった以上はいつまでも茶番に興じてはいられない。皇女は祖国からかっぱらってきた、もとい拝借した愛機を操りながら、極めてクレバーな探索方法を思いつく。
『お罠を探してぶっ壊せばよろしいのですわね? こういう時はつま先でちょんちょんするとよろしいのですわ! わざと踏み潰して進むなんてお野蛮極まりませんわ! わたくし慎重お姫様ですわ〜!』
 結果に関してはなんかもう火を見るよりも明らかという感じだが、挑戦する気持ちはいつだって大切だ。メサイアは暴竜の巨躯をちょこちょこと動かしながら、爪先で器用に地面を叩き始める。『それ別にキャバリアでやらなくても良くない?』等と言うのは余りにも思いやりに欠けるので、心の中で思うだけに留めるべきだろう。
 そうして、皇女はちょこっとだけ歩いては爪で恐る恐る地面を確かめ、安全を確保してはまたちょびっとだけ進んでゆく。ねぇ見てごらん、なんだかドン亀みたいで可愛いね。
『おほほほほ……なんだか開始10秒でイライラしてきましたわ〜! こんなじれったい事していたら一日が終わってしまいますわ〜! まさか、こうしてお時間を浪費させるのがおゲリラの狙いなのでは!? なんたる策略ですの、むきー!』
 まぁこうなる事は知っていた。こんな日が暮れるレベルのチンタラしたやり方、もとい堅実過ぎる探索方法では少しばかり効率が悪い。となれば、方針を変えるより他にあるまい。ではどうすべきかと暫し思考を巡らせてゆくメサイアであったが、すぐに頭上でティンと電球が瞬いた。
『はっ! そうですわ! お罠は地形に隠されているものですわ! なら地形ごとぶっ飛ばせばよろしいのですわ! わたくし天才ですわ〜! これは次のおノーベル賞も確実ですわ!』
 彼女の言葉は的を得ているかもしれない。だってほら、何とかと天才は紙一重とよく言うし。何はともあれ、一度決断さえしてしまえば後の行動は速かった。皇女は暴竜に射撃体勢を取らせると、目に付いた地点を片っ端から照準してゆく。
 背面にマウントする一対二門の長距離ビーム砲に両腕部へ搭載された近距離用連射砲、そして両太腿側面に備え付ける四連装ミサイルランチャー。もしかしなくとも過剰火力だが、どうしてこの手の人々はこう極端から極端までシャトルランしてしまうのだろうか。
『ヴリちゃん! ロングレンジビームキャノン発射ですわ! 枯葉剤なんて生温い事は言わず、ブレイクブラストでお石器時代に戻して差し上げますわ〜! ついでにビームガンとおミサイルもおまけ致しますわよ〜! わたくし太っ腹ですわ~!』
 斯くして躊躇なく発射トリガーが押し込まれ、キャバリアは己が身に秘めし暴威を解き放つ。ビームキャノンは各砲門がゆっくりと旋回しながら射線上にある障害物を薙ぎ払い、撃ち漏らした箇所へは連続して放たれる熱線を叩き込み、念には念を入れるとばかりに駄目押しの誘導弾が炸裂する。
 一歩、また一歩と暴竜が歩を進めるたびに先程までとは打って変わった破壊が撒き散らされてゆく。これならばまず間違いなく『共和国』軍ゲリラの仕掛けた罠を木端微塵に粉砕できるだろう。同時に深刻な環境破壊が進んでいる気もするが、これも所謂コラテラル・ダメージと言うやつである。
『見てくださいまし、そこら中穴だらけですわ〜! これで見通しも良くなって一石お二鳥ですわ〜! やはり暴力! 暴力は全てを解決するのですわ〜! この勢いのまま、おゲリラも殲滅ですわ~!』
 暴竜皇女の名に恥じぬ暴れっぷりは良くも悪くも猟兵の面目躍如といった所か。因みにこんな有り様でもまだストゼロをキメていない為、恐ろしい事に未だ素面である。対ゲリラ戦闘が始まったらどうなるのか不安な限りではあるが、取りあえず作戦の第一段階が完了したことに変わりはない。
 斯くしてメサイアは何とも脳筋な発言を垂れ流しながら、意気揚々と切り拓かれた路を征くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ドヴェルガー』

POW   :    ウォークライ・アタック
全身を【死の恐怖を打ち払い奮起を促す叫び声】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【損耗】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD   :    キャバリアハンター
【ドヴェルガー】に騎乗して【間隙を突いての対キャバリア兵器】で攻撃する時、自身より【体高】が大きい(高い)敵への射程とダメージが増大する。
WIZ   :    アンチキャバリア・トルーパー
敵より【地の利を活かし、また仕掛けた罠に掛かった】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。

イラスト:Hispol

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●現実は偽りと願望に隠されて
「グエン将軍閣下に報告! 現刻を以て戦闘想定エリア内の安全確保が完了! これにより、作戦計画を第二段階へ移行可能となりました!」
「予定を半日以上も前倒すとは……成る程、これが猟兵か。まったく、噂に違わぬ働きぶりよ。これは次のゲリラ掃討戦にも期待出来るやもしれんな」
 猟兵たちの活躍によって、『共和国』軍がグエイザン大密林に仕掛けた罠はそのほぼ全てが排除された。これにより『人民国』軍は行動的自由の確保に成功。予想以上の戦果に対しグエンは満足げな笑みを浮かべる一方、気を引き締め直す様に各部隊から上がって来た報告書へ視線を巡らせてゆく。
(しかし妙だな。罠を排除している間、襲撃は愚か遭遇すらも無かったとは。よもや、ホアンの奴がこの土壇場で俺の裏を掻こうとしている……と言うのは考えすぎか。だがそうでないにしろ、何らかの意図があるはずだ)
 自分たちの仕掛けた罠が綺麗さっぱり排除されたのである。普通ならば腹いせに、あるいは無防備な作業中を狙ってちょっかいを掛けて来る者が一人や二人は居るものだ。それが一切無かったという点は、歴戦の老将軍からすれば些か以上に不気味だった。
 とは言え、ここに来て足踏みなどしていられない。相手へ徒に時間を与えては、十中八九ロクな事にならないだろう。その上、こうしている今も後方のお偉方からは確認の催促がひっきりなしに届いている。巧遅よりも拙速をと、グエンが麾下の部隊へ号令を下そうと口を開いた……。
「ふむ、よろしい。全軍に通達せよ。これより我々はゲリラ部隊の掃討を行い、以て『共和国』に残された最後の組織的抵抗を粉砕す――」
「ほっ、報告!? 将軍閣下に、緊急のご報告がッ!」
 瞬間、血相を変えた伝令役の兵士が飛び込んで来る。何事かと司令部に緊張が走った瞬間、遠くから立て続けに爆発音が鳴り響く。それが何を意味しているのかを直感的に悟ったグエンに対し、伝令兵はそれを裏付けるような報告を叫ぶ。
「潜伏していたと思しき『共和国』軍ゲリラ部隊が、各地で一斉に攻勢を開始しました! 既に各部隊が応戦を始めていますが、機先を制され浮足立っている模様です!」
「攻勢だと? 馬鹿な……」
 絶句しながらも外へと飛び出すグエン。だが、驚いたのは出鼻を挫かれたせいではない。ゲリラ戦の鉄則とは徹底的に正面戦闘を避ける事である。戦力的に劣勢だからこそ、逃げ隠れしながら戦うのだ。
 にも拘らず、共和国軍はゲリラ戦の利を捨てての大規模攻勢を実行していた。こんなのは悪手以外の何ものでもない。その理由を知るべく天幕を飛び出したグエンは、目の当たりにした光景に再び絶句してしまう。
「共和国の戦力を叩き潰した張本人であるワシが言うのも何だが……『あんなモノ』しか残ってないのか、連中は」
 『人民国』と交戦する『共和国』のキャバリアは、端的に言って貧弱としか表現しようがなかった。センサーを積んだ頭部や最低限の機能を持たせた手足はまだ良い。問題はそれ以外の部位が骨組みしか無く、操縦者に至ってはパイロットスーツに身を包んだだけで剥き出しの状態。グエンもこれをキャバリアと呼ぶべきか判断に迷う始末である。
 仮にも一国の正規兵がこんなものを使うなど、末期も末期としか言いようがないだろう。だが、『共和国』軍兵士の士気は何故か異様なまでに高かった。
『ここを耐えきればじきに支援が届く! そうなればまだ逆転の目はあるとホアン閣下はおっしゃられた!』
『全ては領土的縦深を生かし、「人民国」軍を誘引するための策略である! 「深緑の魔術師」の名は伊達ではない! 我らはまだ諦めんぞ!』
 敵軍の無線通信帯では、繰り返し演説か何かが流れているのだろうか。耳を澄ませば怜悧さを感じる老練な声音で、ゲリラ部隊が口走る内容と同じフレーズが漏れ聞こえる。その声の主をグエンは良く知っていた。
「……ホアンの奴め、えげつない真似をする。領土的縦深だと? 戦線を押し込まれた事を随分とお上品に言い換えたものだ」
 兵士たちが叫ぶ戦術もあながちハッタリではない。これでもかと罠を仕掛けた自領土内に敵軍を引きずり込んで疲弊させ、伸び切った補給線を断ち、最終的に身動きの取れなくなったところで殲滅する。戦力差を引っ繰り返すには有効な一手だろう……それを実行できるだけの兵力がまだ残されていれば、だが。『人民国』軍は兎も角、猟兵が予備兵力の存在を確認できていない時点で答えは既に出ているようなものだ。
「ワシらが共和国の奥深くまで踏み入ったのは事実。大量の罠に二の足を踏んだのも事実。近々、相手方に大規模な支援が来るのもまた事実……ああ、確かにこれは詐術だな。なまじ、過去の名声があるだけ性質が悪い」
 呆れた様な、悔いる様な。そんな複雑な感情を滲ませつつ、グエンは忌々しそうに舌を打つ。お膳立てをされたと、そう小さく毒づきながらも全軍へ命令を下す。
「……逃げ隠れしていたネズミがのこのこ巣から出て来おったわ。お望み通り、全て殲滅してやれ。言うまでも無いが、手加減は要らん。徹底的かつ完膚なきまでに、だ」
 斯くして広大な密林を舞台に、『共和国』の命脈を断つべく、猟兵と『人民国』軍によるゲリラ部隊掃討戦の火蓋が切って落とされるのであった。

※マスターより
 プレイング受付は20日(金)朝8:30~開始。
 第二章は集団戦、『共和国』ゲリラ部隊との戦闘になります。
 敵は『人民国』軍に対し、グエイザン大密林の各所で一斉に攻勢を仕掛けています。ただ相手は何故かゲリラ戦術の利点を捨てて姿を晒しており、かつ戦力も各戦場ごとに分隊から小隊程度の戦力しか集められていません。既に罠も撤去済みの為、冷静に対処すれば撃破はそう難しくはないでしょう。
 またここで更なる活躍を見せた場合、3章で終戦交渉を行う際に判定ボーナスが得られます。
 それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
村崎・ゆかり
アヤメは下がって。後はあたしがやる。あなたは背後の警戒を。
相手はオブリビオンでもなければ、精神汚染されてるわけでもない一般兵。それも、キャバリア未満のパワーローダーで。
だからって、戦場に出てきた以上は容赦しないわよ。それくらいの「覚悟」はある。

「結界術」「範囲攻撃」酸の「属性攻撃」「仙術」で紅水陣。
戦場を紅い酸の雨と強酸の靄で満たす。
パイロットを守る装甲一つないその機体じゃ、耐えることなんてできないわよ。
――脆いわね。これも何かの罠じゃないかと疑うくらい。
敵性集団の殲滅が終わったら、絶陣を解除して先へ進む。別の部隊と遭遇したら、また紅水陣を展開して溶かし尽くすわ。

こんな攻撃に何の意味があるの?


葉月・静夏
うーん、キャバリアはもっとかっこよくて強そうなものがでてくると思ったのだけれど……本当にそこまで追い込まれているみたいね。
でもここは戦場。相手の都合は気にせず、敵対者は倒すだけね。

今回も生身のままで戦うよ。
パイロットがオブリビオンなら直接倒せばいいのだけれど、違うみたいでかえって厄介ね。
防御力重視の【重力夏の祝福】で自分を強化して、ダメージを受けながらでもいいからとにかく敵に接近。【怪力】に任せて邪魔そうな部位を壊して、パイロットを力ずくで引きずり降ろし死なずに動けなくなる程度に殴っておく。不殺を狙ってこんな戦い方をしてみるよ。

自分の打たれ強さを信じて、1人でも多く引きずり降ろしたいね。



●雨霰と降り注ぎ
『攻めろ、攻めろ! 「人民国」軍の補給路は伸び切り、罠の排除によって疲弊している!』
『以てこれに大打撃を与え、我が『共和国』が反攻の先駆けとなるのだ!』
 実際の現状がどうであれ、プロパガンダによって扇動された『共和国』軍ゲリラ部隊の士気は極めて高かった。装備が貧弱とは言え、勢いに乗った兵士は決して侮れはすまい。ゆかりは斥候として先行させていたくノ一を下がらせつつ、代わりに自らが前へと歩み出る。
「アヤメは下がって。ここから先はあたしがやる。あなたは万が一に備えて、背後の警戒をお願いするわね?」
 後方に戦力を回せるだけの余力があるとは思えないが、戦場に絶対はない。指示を受けたくノ一は小さく頷くと後方へ下がってゆく。それと入れ替わるように姿を見せたのは、同じように近くで罠を解除していた静夏であった。彼女は次々と姿を見せる敵軍を一瞥し、どこか残念そうに溜息を吐く。
「うーん、キャバリアはもっとかっこよくて強そうなものがでてくると思ったのだけれど、これじゃあダモクレスの方がまだロボットらしいかな……どうやら、本当にそこまで追い込まれているみたいね」
 人型機動兵器が主戦力になっている世界と聞き、少しばかり期待感があったのだろう。しかし末期状態の国家が用意できるモノなぞたかが知れている。とは言え、火力だけは通常水準を満たしているらしいので、決して侮って良い訳では無かった。
「でも、ここは戦場。飽くまでも戦う意志を見せている以上、相手の都合は気にせず、敵対者は倒すだけね」
「操縦者はオブリビオンでもなければ、精神汚染されてるわけでもないただの一般兵。それも、機体はキャバリア未満のパワーローダーで。だからって、戦場へ出てきたからには容赦しないわよ……それくらいの『覚悟』はある」
 『共和国』も『人民国』も、それぞれ主義主張や背景事情が当然あるのだろう。だが戦争において最も重要なのは、誰が勝ったかと言うその一点のみ。今回、傭兵と言う立場で一方に肩入れする以上、二人とも自らに求められる役割を果たすと決めていた。
 静夏は己が裡に秘めし重力の鎖を具現化し、ゆかりは白紙のトランプカードを懐から取り出す。彼女たちは共にキャバリアを利用せず、生身のまま挑むつもりだ。どうやら相手も猟兵の存在に気付いたらしく、装備した重機関銃の銃口を差し向けて来る。
『あれは「人民国」の兵士ではない? まさか、正規兵ではなく傭兵か』
『外部戦力に頼らざるを得ないほど疲弊しているとはな。やはりホアン閣下の慧眼通りだ!』
 油断のない乙女たちとは裏腹に、ゲリラ部隊の口振りからは与し易しという慢心が滲み出ていた。しかし『人民国』側が疲弊していたと言う点もあながち間違いではない故、余計に性質が悪い。尤も、それで首を絞めるのは他ならぬ彼ら自身なのだが。
「油断しているなら好都合よ。出来れば不利を悟って逃げ隠れされる前に、纏めて一網打尽にしてしまいたいわね。その為の手も有るけれど、少しばかり準備に時間が掛かるわ。申し訳ないけど、その間は任せてしまっても良いかしら?」
「ええ、勿論よ。ただパイロットがオブリビオンなら直接倒せばいいのだけれど、違うみたいなのが却って厄介ね。機体だけを破壊するなら、と」
 今は高揚感に支配されているから良いが、下手に冷静さを取り戻せばまた潜伏されかねない。そうなれば再び居場所を探り当てるのも一苦労だろう。やるならば一気に仕留めてしまうべきだ。
 その為の時間を稼げるかと問うゆかりに対し、静夏は問題ないと頷きを返す。彼女は周囲へ霊符を投じ始めた仲間を横目に、まずは距離を詰めるべく地を蹴って駆け出してゆく。一方、対する『共和国』兵は重機関銃による迎撃を試みる。
(防御力は生身に等しいようだけれど、あの火力は侮れないよ。取り敢えずは防御を重視しつつ、多少の被弾覚悟で近づく必要があるわね)
 敵は骨組み同然の機体だが、兵装だけはきっちりとキャバリア準拠だ。弾丸が掠めた木々は呆気なく粉砕され、着弾した地面が湿った土を撒き散らす。静夏は浴びせかけられた射撃の軌道を重力鎖で偏向させて防ぎつつ、そのまま強引に突破する。
『なっ、生身でこの弾幕を抜けてきただと!?』
「よし、この距離まで踏み込めれば……!」
 雇われの歩兵と侮っていた相手が重機関銃弾の雨を凌ぎ切ったという事実に、思わず『共和国』軍兵士は目を剥く。咄嗟に後退しようとするも、機先を制した|番犬《ケルベロス》は剥き出しの操縦者をむんずと掴むやそのまま接続ユニットを破壊。相手を機体から引きずり出すと同時に、横っ腹へ強烈な拳撃を叩き込む。
 幾ら戦闘用のパイロットスーツとは言え、強化された超人的膂力を防ぎ切れるものではない。痛みの許容量を超えて意識を失った兵士を、静夏は戦闘に巻き込まれない場所へと放り投げる。多少荒っぽいが、命を取らないだけマシだろう。
(よし、上手くいったね。出来れば同じように不殺を狙って、1人でも機体から多く引きずり降ろしたい所だけれど)
「『人民国』軍め、こんな戦力をいったいどこから引っ張って来たのだ!?」
「だが所詮は歩兵に過ぎんッ。火力で押し潰してやれ!」
 しかし番犬のそんな気遣いなど知った事ではないとばかりに、ゲリラ兵たちは口々に雄叫びを上げながら敵を押し返すべく攻勢を強めてゆく。近づきさえすれば静夏の間合いだが、こうも圧力を掛けられてはそれも難しい、が。
「……古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ!」
 ザァッ、と。響き渡った祝詞と共に戦場へ突如として強烈な|豪雨《スコール》が降り注ぎ、濛々と靄が立ち込めてゆく。無論ただそれだけならばよくある自然現象だが、雨粒はまるで血を思わせる様な毒々しい色を帯びていた。
『なんだこの雨は? 「人民国」の化学兵器か……ッ、機体にエラーが!?』
 何事かと訝しむゲリラ兵だったが、突如としてけたたましい警告音が耳朶を打つ。ヘルメットのバイザー画面には機体の異常を示す文字列が躍り、瞬く間に稼働状態が悪化し始めた。一機、また一機と膝を着き、もんどりうって倒れ込む敵部隊の姿を、ゆかりはつまらなさそうに見下ろしている。
「あらゆるものを腐食させる強酸性の雨と靄よ。骨格剥き出しの機体は勿論、パイロットを守る装甲一つないその機体じゃ、耐えることなんてできないわ……それにしても、予想以上に脆いわね。これも何かの罠じゃないかと疑うくらいよ」
 これらは全て、彼女が生み出した現象だった。周囲に符を投じて結界を構築し、一気に霊力を流す事で術式を起動。逃げ出す間もなく殲滅して見せたのである。周囲に広がる濃密な深緑とも相まって、極彩色に染め上げられた戦場は目が眩みそうな程だ。
 そうして数分も経たぬうちに、周囲に展開していた敵戦力は全て無力化されていた。操作システムも停止しているのか、兵士たちは脱出する事もままならずモズモゾと手足を動かす事しか出来ないらしい。ゆかりが術式を解除した後は、距離を取って待機していた静夏が一人ずつ捕縛して友軍へと引き渡してゆく。
「頭数も不十分だし、作戦の段取りも無茶苦茶……こんな攻撃に何の意味があるの?」
「寧ろ、成功させる気が無いとすら感じられるね」
 勢いこそあったが、裏を返せば勢いだけしかないとも言える。いったい、どんな意図を以て『共和国』司令部は攻勢を決断したのか。理解できぬと首を振るゆかりに、静夏も同意を示す。
 斯くして些かの疑念は残ったものの、猟兵と番犬は首尾よくゲリラ部隊の殲滅に成功するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シルヴィ・フォーアンサー
……土木用マシンかな?
『フレームのみと言っても過言ではないな』

戦争なんだし消し飛ばしても文句でないだろうけど流石にちょっと可哀想に思えてきたよ。
でも大体どのコードも殺傷力満点で手加減難しいんだよね。
うーん……よし、初めてのパターンだけどこれで行くよ。

シルエット・ミラージュからのパラライズ・ミサイルで敵集団を麻痺させてクリムゾン・ウィンド。
ロケットパンチをガトリング砲を保持したまま切り離して誘導弾としてコントロール。
敵機体の四肢を狙って攻撃させて行動不能にさせる。
本体は肘からのビームサーベル出して高速移動しながら四肢を切り刻んでいくね。
降伏勧告するけど生身でも戦うというならもう容赦しないけど。



●理想と現実は埋めがたく
『他の戦線でも一斉に戦友たちが蜂起している! 我らも出遅れるな!』
『この一戦を以て、全ての流れを引っ繰り返してやれッ』
 勇ましい雄叫び、高い士気、深緑より放つ反転攻勢。今この瞬間、『共和国』軍ゲリラ部隊は勝利を夢見て、乾坤一擲の一大決戦に挑む心境だろう。だが一方、現実に目を向ければシルヴィの感想が全てを表していた。
「……土木用マシンかな?」
『フレームのみと言っても過言ではないな。いや、確かにキャバリアは上下のフレームによって構成されるものではあるが……』
 いま猟兵が身体を収めている機体と比べれば、性能は天と地ほどの差がある。いや、量産型と言う括りを差し引いたとしても、余りにも劣悪と言わざるを得ないだろう。しかし、利点が全く無い訳でもないと、AIは補足してゆく。
『あれだけ単純な構造ならば生産性、整備性は良好だろう。また、小型軽量な機体は障害物が多いこの密林での行動にも適している。とは言え、搭乗者の安全を一切考慮していない点は擁護のしようも無いがな』
「戦争なんだし消し飛ばしても文句でないだろうけど、流石にちょっとあれは可哀想に思えてきたよ……でも、大体どのコードも殺傷力満点で手加減難しいんだよね。アレ、着ているのはただのパイロットスーツでしょ?」
 多少の防護は施してあるとは言え、操縦者はほぼ生身同然だ。まるで兵士の生死を度外視した様な設計思想に、シルヴィとAIの言葉尻からは我知らず呆れの色が滲み出る。どんな状態であれ、交戦意志を見せている以上は撃滅して後ろ指を指される恐れはないが、だからと言って諸共に叩き潰すのは幾ら何でも気が引けた。
「うーん……よし、初めてのパターンだけどこれで行くよ」
 さてどうしたものかと思案する少女だが、これならばという一手を閃く。そうして猟兵が行動を開始した矢先、同時に敵も此方を捕捉したのか、木々の合間を縫って四方八方から襲い掛かって来た。
『見慣れぬ機体だな。「人民国」軍の新型か?』
『いや、他の戦線から情報が入った。どうやら、正規軍人ではなく傭兵らしい。構わん、蹴散らしてやれ!』
 そんなシルヴィの懸念などお構いなしに相手は重機関銃を浴びせかける。機体こそお粗末だが、乗っている兵士と手にした火器は標準以上だ。余り好き放題にさせていれば、負けこそしないだろうが手痛い被害は免れない。この後に待つ交渉を考えれば、どの様に勝つかも考慮しておくべきだろう。
「まずは『シルエット・ミラージュ』からの『パラライズ・ミサイル』。その後、間髪入れずに『クリムゾン・ウィンド』。行ける?」
『勿論だ、問題ない』
 先に手を出されたのだ、もはや手加減無用。少女は精巧なデコイを15体分展開してゲリラ部隊の火力を分散させつつ、各機から一斉にミサイルを斉射してゆく。周囲一帯にばら撒かれたそれらは着弾と同時に高圧電流を放射し、敵機の脆弱な電子システムを麻痺させていった。
『ぬ、ああ!? 操縦システムがダウンしただと! だが、この機体はマニュアルでも動かせる……ッ!』
 しかし単純な機構が功を奏し、敵兵士は操縦手段をアナログへと変更して対応する。何とか反撃を行おうと銃口を向けた彼らが見たモノは、真紅の疾風を纏って疾駆する猟兵の姿。その速度は残像すらも生み出しており、人間の感覚では狙いをつける事すらままならない。
「ガトリング砲を保持したままロケットパンチを射出。ヨルに操作を一任するから、ビットやドローン代わりに死角から四肢を狙って欲しい。その間、シルヴィは肘のビームサーベルで同じように四肢を切り刻んでいくから」
 ゲリラ部隊の攻撃が虚しく空を穿つ一方、猟兵の放った弾幕は敵の保持する火器を蜂の巣にし、振り抜かれた光刃が手足を切断してゆく。使い物にならなくなった機体から這う這うの体で脱出した兵士はそれでも抵抗を続けようとするものの、それを読んでいたかの様にミドガルズが仁王立ちで待ち構えていた。
「降伏するなら、身の安全は保障するよ。ただ、生身でも戦うというならもう容赦しないけど」
「……くっ、ここまでか。分かった。降伏、する」
 既に部隊は壊滅し、これ以上の抵抗は無意味と悟った兵士は大人しく両手を上げる。斯くしてシルヴィは損害らしい損害を出すことなく、ゲリラ部隊の掃討に成功するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

敵か!?…ほぼ生身じゃあないかよ?!どうかしてるぞ!?これだから戦争は!
だが例え狂人でもベルト・ラムバルドは騎士だ!相手をしてやる!
…恨みっこなしだ!死んでも恨むなよ!行くぞ!

キャバリア召喚し乗り込み戦闘開始
戦場を駆け抜け剣を振るい鎧砕きと鎧無視攻撃で真っ二つに切り捨て
盾で敵の攻撃を防御しシールドバッシュで反撃しコックピットを潰そう

地の利を生かした敵の攻撃にはUCによる勝負勘と環境耐性で見切り
キャバリアでジャンプしながら移動して敵機を次々に葬ってやる!

狂人共め!…いや私も騎士を騙る狂人なのか…?
いや!私は正気だ!騎士ベルト・ラムバルドだ!
…くそ~!さっさと戦いを終わらせてやる!!!



●理想と現実
『他戦線で苦戦の兆しだと……? 流石にそう易々とはいかんか』
『ならば我らが早々に眼前の敵を撃破し、救援に向かえば良いだけの事だ!』
 『共和国』軍ゲリラ部隊の一斉攻勢により当初は浮足立つ『人民国』側だったが、時間が経過するにつれ統制を回復。徐々にだが戦況の天秤は此方側へと傾きつつある。だがそれでも、相手の士気は依然として高いままだ。
『敵か!? ……って、あんなのほぼ生身じゃあないかよ?! そんなので戦場に出て来るなんてどうかしてるぞ!? これだから戦争は!』
 しかし、ベルトからすればあんな貧相な装備で真正面から挑んでくるなど理解し難かった。心意気こそ買うが、それも最低限の勝算あってこそ。これは幾ら何でも自殺行為にしか見えない。とは言え、挑んで来る以上は迎え撃つ必要がある。
『軍人とはもっと理性的なものだと思っていたのだがな。だが、例え狂人でもベルト・ラムバルドは騎士だ! お望み通り正々堂々相手をしてやる! ……どうなろうとお互いに文句はなしだ! 死んでも恨むなよ! 行くぞッ!』
 優位になる事自体は勿論良い事だが、同時に余り時間を掛け過ぎれば勝ち目無しと悟った敵軍が再び潜伏を選びかねない。そうなれば例え首都への道を切り開き戦争を終わらせても、残党の跳梁を許すことになるだろう。故にこそ、真っ向から言い訳のしようもない敗北を突き付けてやる必要があった。
 ベルトは愛機である紫紺色の騎士型キャバリア『パロメデス』を駆り、右手に長剣、左手に大盾を構えながら猛然と吶喊してゆく。対する敵もまともにぶつかれば流石に分が悪いと理解しているのか、数少ない長所である運動性を以て攪乱しようと試みて来る。
『足を止めるな、距離を取れ、数の利を生かせ!』
『この地は我らが生まれ故郷! 外部の傭兵風情に後れを取るな!』
 相手は接近されないよう木々を障害物として利用しながら、一定の距離を保ちつつ四方八方より重機関銃を浴びせ掛けて来た。外見通り白兵戦を主体とし、かつ大ぶりな得物が多いベルトでは些か対応の難しい戦術だ。
(罠の解除で多少の土地勘を得た心算だったが、いざ戦うとなればやはり勝手が違うか……!? だが、このベルト・ラムバルドは戦えば戦うほど強くなる男だ! 思い出せ、先ほどの経験を!)
 弾丸が装甲を穿つ不快な衝撃を感じながら、騎士は高速で思考を巡らせてゆく。機体性能では優越しているのだ。それに追いつけないのは操縦者が敵に対応し切れていないが故。どうにかして状況を打破しようと足掻くベルトの脳裏に、一瞬閃光が走る。
『そうか、敵を先ほどの罠と思えば……こうかッ!』
『なっ、飛び、いや跳ねた!?』
 騎士は手頃な木に目を付けると、それを足場に機体をジャンプさせた。それは罠探索で行った機動の再現だ。踏みつけた樹木は重量に耐え切れず折れ砕けるが問題は無い。自らの機動力を確保しつつ、相手が利用できる障害物も排除出来て一石二鳥である。
 こうなればもう戦いの流れは此方のモノだ。縦横無尽に動き回りながら刃を振るい、反応の遅れた敵機を騎士剣で両断。別方向から弾幕を浴びせて来る集団には大盾を構えたまま踏み込むと、そのままシールドバッシュで押し潰す。
(脆い、脆すぎる……だが、その脆弱さで逆に命を拾う事に繋がるとは、何がどう功を奏すか分からんものだな)
 これは飽くまでも戦争だ。当然、犠牲が生じるものだと覚悟を決めていた。しかし、敵機は操縦者を骨組みで吊り上げつつ、手足をポイント接続しているに過ぎない。つまり余りにも強い衝撃が加われば、それが伝わり切る前に接続部が壊れ、そのまま操縦者は機体外へと吹っ飛んでしまうのである。
 だが無論、それは無傷を意味していない。人の身に過ぎる威力で骨は折れ、肉が潰れ、内臓も悲鳴を上げ、意識なぞ容易く消し飛ぶ。地面に転がった『共和国』軍兵士たちは力なく呻き、あるいはぐったりと倒れ伏すのみ。
『狂人共め、こうなる事など始めから分かっていただろう! ……だが、分かっていながらそれを為した私も、もしや騎士を騙る狂人なのか……? いや! 私は正気だ! 騎士ベルト・ラムバルドだ!』
 そんな痛々しい光景を目の当たりにし、男は思わずそんな自問自答を口にしてしまう。こうした近現代戦とは、彼の邁進する騎士道の対極に位置する概念だ。しかしここで戦わなければ、こんな闘争が後々まで尾を引く事になるだろう。
『……くそ~! こうなったら、さっさと戦いを終わらせてやる!!!』
 故にこそ、今はただ刃を振るうしかない。ベルトは歯噛みしつつ、次なる敵を探して密林を駆け抜けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴上・冬季
「おやおや、あれでは只の工作機械。キャバリアの利点を全て捨てているではありませんか」
嗤う

「従来どおり真ん中をぶち抜けば、操縦者は簡単に死亡する。ふむ、外聞が悪すぎますね」
嗤う

「しょうがありません、猟兵らしく人命第一なことをお見せするとしましょうか。…七尾転仙」
人化の術解き七尾の雷狐に
物理攻撃無効
通電物質内移動
で敵の攻撃擦り抜け銃器から敵機頭部へ
雷鳴電撃で銃器と敵機頭部のモーター破壊
それで無力化出来ればよし
出来なかった場合はもう1度ぐるりと通電物質内移動で敵機全身巡り雷鳴電撃
敵機駆動部を全破壊

「小部隊相手ですから、掛けられる時間は存分にあります。貴方達の戦意を、圧し折って差し上げますとも」
嗤う



●妖仙、神鳴る力を纏いて
 ――諸君らが使用する『ドヴェルガー』は本作戦に最適な機体である。
 ――必要最低限の性能を維持しつつ、高い整備性と運動性を……。
 ――……装甲面に不安は在ろうが、代わりに密林での良好な視界性を担保し……。
 密林の中から微かに漏れ聞こえてくるのは、恐らく『共和国』軍の無線放送か。ホアンと思しき老練そうな声音が延々と作戦意義やキャバリアの有用性について語っている。尤も、傍から聞いている限り、その内容はプロパガンダ以外の何ものでも無いのだが。
「……おやおや、あれでは只の工作機械。柔軟な武装選択、強固な装甲に機動速度。キャバリアの利点を全て捨てているではありませんか。流石に、少しくらい疑問に思う方は居なかったのやら」
 『人民国』側と交戦中の敵軍を一瞥し、冬季は冷たい笑みを浮かべてゆく。彼が嗤うのはその願望塗れで現実が見えてない様か、はたまたその裏に透けて見える意図か。どちらにせよ、やるべき事は変わらない。
「従来どおり真ん中をぶち抜けば、操縦者は簡単に死亡する。ふむ、外聞が悪すぎますね。いや、或いはそれを狙って? 例え負けるとしても、相手を非難する為の材料があれば交渉に利用したい、と……そう考えるのは少しばかり穿ち過ぎですか」
 勝てば官軍、負ければ賊軍。勝利さえすればその程度は幾らでも押し切れるだろうが、逆に勝つ事がもう既定路線なのであれば、瑕疵の無い勝ち方を狙うのも悪くはない。幸い、その為の手段も既に当たりが付いていた。
「しょうがありません、猟兵らしく人命第一なことをお見せするとしましょうか。生きたまま兵士を捕虜に出来れば、『共和国』側にも恩を売れますしね………『七尾転仙』」
 猟兵とは常識の埒外に立つ規格外存在である。ならばその名に相応しく、国家間の思惑を引っ繰り返すのもまた一興だろう。冬季は自らの肉体を構築している妖力を解きほぐし、本来の姿へと変じてゆく。
 ゆらりと揺らめくは九つの尾。纏う体毛は紫電を纏い、地を踏む四肢は流麗ながらも力強い。瞬き数度の内に姿を見せたのは、強大な妖気を纏った一匹の大狐であった。突如として現れた獣にどよめくゲリラ部隊を、妖仙は愉快そうに見渡す。
「人から成り上がったものを人仙と呼び、妖物から成り上がったものを妖仙と呼ぶ。普段人化の術に回す妖力を使えば、この程度の手妻なぞ造作もないことです」
『「人民国」め、一体何を雇い入れたのだ。あれじゃ傭兵ではなく化物ではないかッ!』
 しかし相手がどんな見てくれであれ、敵である事に変わりなし。呆けたのも一瞬、ゲリラ部隊は冬季目掛けて弾幕を放ち始める。一方、妖仙は避けるどころか防御する素振りすら見せない。
 命中は確実、そう確信した兵士たちは次の瞬間、驚くべき光景を目の当たりにした。なんと、燐光を放つ身体はまるで水か何かの様に銃弾を素通りさせてしまったのだ。今度こそ呆気に取られる人間を、人ならざる妖は嗤い嘲る。
「御覧の通り、残念ながら今の私に物理攻撃は通用しません。総身が木気、つまり稲妻と化していますのでね。では、今度はこちらから参りましょうか」
『ふざけるな、こんなのどうしろと……ッ!?』
 光学兵器かサイキック兵装でもあればまだ話は違ったかもしれないが、あの貧相なキャバリアにそんなモノが備わっている訳も無し。往生際悪く重機関銃をばら撒く敵部隊に対し、冬季は電光石火の速さで接近し襲い掛かってゆく。
 そうして銃身へと食らい付いた瞬間、妖仙の身体がずるりと内部へ侵入。火器、腕部を経て頭部に移動するや、高圧電流によって内部機構を一瞬にしてショートさせた。ボフンと黒煙を上げた躯体が、まるで糸の切れた人形の様にその場へと崩れ落ちる。
『な、ぁ……』
「小部隊相手ですから、掛けられる時間は存分にあります。貴方達の戦意を丹念に、丁寧に、じっくりと圧し折って差し上げますとも」
 絶句する『共和国』軍兵士へ、頭部だけを外へ出した妖仙が嗤い掛ける。その表情はこれから行われる戦闘、否、狩りの結末をこれ以上ない程に表しており――。
 斯くして暫しの後、一帯のゲリラ部隊は冬季によってその全てが無力化されるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
あら〜!
おゴリラの群れですわ〜!
おゴリラではなくおゲリラ?
おジャングルから出てきたのであれはおゴリラですわ〜!

なんだか変わったおキャバリアに乗っておられますわねぇ
中の人が剥き出しですわ〜!
あれをおキャバリアでぶっ飛ばすのは誉れが無い気が致しますわ…
そうですわ!
わたくしにはアレがありましたわ!
ヴリちゃんはそこでわたくしのお勇姿を見届けるのですわ〜!

アンビシオン装着!
女子力百倍!フルアーマーメサイアですわ〜!
お越しなさいドヴェルガー!
武器なんて捨てて掛かってくるのですわ!
折角のお楽しみを不意にしたくないでしょう?
よいお叫びですわ〜!しか〜し!
ラースオブザパワー!
掴んでぶん投げますわ〜!わっしょい!
たぶん100トンは無さそうなので投げられますわ〜!
お姫様背負い投げ!お姫様ジャイアントスイング!お姫様大雪山降ろし!お姫様スープレックス!お姫様筋肉バスター!
お損耗する前に投げ技で1発KOにして差し上げますわ〜!
わたくしが怖いでしょう?
わたくし、とても恐ろしいのですのよ?
早く降参なさって?



●大惨事大戦、勃発
 ほぼ同時にグエイザン密林の各所で戦端が開かれ、今こうしている間にも猟兵たちはその対処に当たっていた。ある者は順調に敵部隊を制圧し、ある者は戦争の非情を嘆き、またある者は攻勢の裏に隠された意図に思考を巡らせゆく。
 そして他の仲間たちと同じように、わらわらと飛び出してくる『共和国』軍ゲリラ部隊と会敵したメサイアの場合はと言うと――。
『あら〜! おゴリラの群れですわ〜! いえ、おゴリラではなくおゲリラ? おジャングルから出てきたのであれはおゴリラですわ〜! ほら、おっきいし胸板もお分厚いですから間違いありませんわ~!』
 こんな骨組みだけのゴリラが居てたまるか。とまぁいつも通りの|平常運転《トンチキ》な言動を垂れ流しつつ、さり気なく騎乗した暴竜に距離を取らせるのは流石といったところか。ゲリラ部隊もその凶悪な外見に面食らったようで、すぐには手を出さず様子を窺っているらしかった。
『なんだか変わったおキャバリアに乗っておられますわねぇ。中の人が剥き出しですわ〜! きっと蒸し暑いから、風通しを良くしたかったのですわね! 何て賢いんですの、|森の賢者《ゴリラ》と言うだけありますわ~! とは言え、あれをおキャバリアでぶっ飛ばすのは誉れが無い気が致しますわ……』
 なんかもう褒めてるのか馬鹿にしてるのか分からない内容だが、さしもの皇女とて考えなしに相手を吹き飛ばす様な真似はしなかった。彼女の駆る『ヴリトラ』ではどんな兵装を選んだところで、あの敵機が相手ではどれも威力過剰である。直撃すればミンチより酷い事になるだろう。幾ら何でもそう言うスプラッタは笑えない。
『……あぁっ、そうですわ! わたくしにはとっておきの「アレ」がありましたわ! そうと決まれば、ヴリちゃんはそこでわたくしのお勇姿を見届けるのですわ〜!』
『なんだ、ヤツは何をするつもりなんだ……?』
 だがどうやら、何か名案を思い付いたらしい。メサイアはポンと手を打つや、なんと乗機のコックピットハッチを開け放って外へと飛び出してゆく。敵からすれば絶好の攻撃チャンスだったが、余りにも意図が読めなさ過ぎて仕掛ける機を失ってしまう。
 訝しむ視線を涼やかに受け流しつつ、地面に降り立った皇女はビシリと高らかに天を指差す。その先に浮かぶは薄桃色の光輪を纏いし一領の機械鎧。神々しさを纏うそれは猟兵の身体を包み込むや、戦乙女と見紛う美々しき威容を顕現させた。
「アンビシオン、装着完了! 女子力百倍! これぞフルアーマーメサイアですわ〜!」
 これで発言内容さえ伴ってくれれば完璧なのだが、これも一種の愛嬌か。メサイアは心なしか胸を張りつつ、悠然とゲリラ部隊の眼前へと歩み出てゆく。反射的に銃口を向けられるが、臆することなく手招きして見せる。
「わたくしはこれにて準備完了。さぁ、お越しなさいドヴェルガー! 武器なんて捨てて掛かってくるのですわ! 折角のお楽しみを不意にしたくないでしょう? それとも、女子供に負けるのが怖いんですの?」
『ば、馬鹿にしやがって……誰がてめぇなんか。テメェなんか怖かねぇッ!』
 これみよがしな、あからさま過ぎる程の挑発。普段であれば、『共和国』軍兵士も無視して鉛玉を叩き込んだだろう。だが、今の彼らは『祖国を救うべく、一大反攻作戦に殉じている』つもりなのだ。つまりプロパガンダも相まって、自己に酔っている。そんな精神状態で冷静さを保つ事など出来る筈がなかった。
『このアマ、ぶっ殺してやぁああああるッ!』
 兵士たちは手にした重機関銃を地面へ叩きつけるや、諸手を構えて挑み掛かって来る。勿論、完全に乗せられた訳ではない。幾ら装甲に身を包んだとはいえ、所詮は生身。如何に貧弱であろうとキャバリア相手に勝てるはずがないと踏んでの判断だった、のだが。
「よいお叫びですわ〜! しか〜し! ラースオブザパワー! 掴んでぶん投げますわ〜! たぶん100トンは無さそうなので投げられますわ〜! Wasshoi!」
『グワーッ!?』
『アイエエエ!?』
 メサイアは繰り出されたマニピュレータを引っ掴むと、そのまま人形か何かの様に呆気なく放り投げてしまう。放物線を描いて吹き飛ばされた機体は、大木に激突し機能を停止してゆく。これじゃあ百倍になったのは女子力じゃなくて膂力である。もうどちらがゴリラなのか分かったものではなかった。
『な、なんだコイツは……いやホント何なんだこの頭の悪そうな女は!?』
『しかし、こんなふざけた相手に翻弄されたとあっては共和国軍の名折れ。所詮相手は独りだ! 数だ、数で攻めろ!』
 兵士たちは余りにも非現実的な光景に一瞬だけ呆然とするも、すぐに我を取り戻す。軍人である以上は戦場での生き死になど覚悟の上だが、コレに敗れると言うのは流石に受け入れ難いのだろう。尤も、そう言う意味では相手の戦意を折るのにこれ以上の方法も無いか。
 対するメサイアは四方八方から飛び掛かって来る骨組みの鉄騎を一瞥しながら、口元へたおやかな笑みを浮かべて見せる。
「あら、纏めてお挑みなされるつもりですの? 望む所ですわ~! さぁ、お損耗する前に投げ技で1発KOにして差し上げますわ〜!」
 次の瞬間、清々しいまでの肉体言語が吹き荒れた。腕を取って投げ、足をホールドして振り回し、遠心力に任せて放り、抱え込んで地面へめり込ませ、落下の衝撃と共に関節という関節を破壊する。
「お姫様背負い投げ! お姫様ジャイアントスイング! お姫様大雪山降ろし! お姫様スープレックス! お姫様筋肉バスター!」
 これのどこにお姫様要素があるのか甚だ疑問だが、昔からこういうではないか。『打撃系など花拳繍腿。|関節技《サブミッション》こそ王者の技』、と。いや、知らんけど。だが後に、メサイアと交戦した兵士たちがこの戦闘を回想する際、みな口を揃えてこう話したと言う。
 ――高らかに鳴り響くゴングの音を確かに聞いた、と。
「わたくしが怖いでしょう? わたくし、とても恐ろしいのですのよ? さぁさぁ、早く降参なさって? ……って、あら?」
 早く投降しろと皇女が呼びかけるも反応は無し。やれやれとファイティングポーズを取りながら振り返るも、その先に広がっていたのは死屍累々の光景であった。コックピット剥き出しでこんだけ振り回されればこうなるのも当然だろう。破綻した設計の妥当な末路だ。
「もしも~し? ちょっと、もしかしてもう終わりですの!? まだ試したい技が残ってますのよ! ほら、立って! 立つのですわ~!?」
 まだイケるだろうと問い掛けるも、兵士たちはピクピクと痙攣するのみ。斯くして作戦目標は達成するも、不完全燃焼だと嘆くメサイアの叫びが大密林に木霊してゆくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
…もはや兵器じゃなくて火砲振り回すことだけはできる重機よねぇ、コレ。
末期戦も極まれりだわぁ…

あまり人的被害甚大にすると後々困りそうだし、と。
ミッドナイトレースに○騎乗して|エオロー《結界》で〇オーラ防御の傾斜装甲を展開、●圧殺と黙殺・砲列を同時起動。描くのは|帝釈天印とイサ《雷による停止》、さらにスタングレネードやパルスグレネードも合わせた〇電撃気絶攻撃マヒ攻撃の雨霰。操縦者の気絶でも機械の擱座でも、戦闘不能には変わりないわよねぇ。

…敵がいなくなれば、戦争は「終わる」。
ここまで曲がりなりにも「戦争のていにできていた指揮官」がこんな愚策を打つってことは…たぶん、「そういうこと」よねぇ…



●偽りの勝機、終わりの先
『ここだ、この局面さえ乗り切れば戦いの流れは変わる!』
『恐れるな、進め! 動き続ければ被弾する事はない!』
 大密林全域で同時多発的に発生した『共和国』軍ゲリラによる一斉攻勢。兵力に劣る側が薄く広く布陣するなど愚の骨頂でしかないが、兵士たちの士気だけは高い。剥き出しのコックピットを晒しながら突撃してくる姿は、愚かしくも戦争の狂気を体現しているかのようだった。
「……もはや兵器じゃなくて火砲振り回すことだけはできる重機よねぇ、コレ。そりゃ普通のキャバリアを作るよりも早いし安いだろうけど、切り捨てちゃいけないものまで捨ててないかしら。ホント、末期戦も極まれりだわぁ……」
 他の戦線で戦闘を開始している仲間たち同様、ティオレンシアも深々と溜息を吐く。装備然り、作戦然り、普通ならば誰かしら異議を唱えそうなものだが、誰も彼も勝利を信じて疑わない目をしている。指揮する将はそれだけ兵士たちに信頼を置かれているのか。しかし幾ら情報を改めた所で、此方の裏を掻く様な兆候は微塵も見られない。
「まぁ、手間が掛からないのは良い事だけれどね……とは言え、あまり人的被害甚大にすると後々困りそうだし、と」
 つまり正面の戦力を駆逐してしまえば、本当に戦争は『終わる』。喜ばしくもどこか釈然としない気持ちを抱きながら、女は眼前の敵へ対処すべく意識を切り替えてゆく。ただ単純に殲滅するだけならば、これほど容易い事はない。
 だが、敵兵士を生かして捕らえるとなれば別の意味で難易度が上がる。しかし生きた兵士と言うのは色々と使い道があるものだ。戦後に待つ交渉を考えれば、多少の手間を割く価値はあるだろう。
「流石に生身で相手をするのは厳しいから、あたしも乗り物を使わせて貰うわねぇ? |エオロー《結界》で傾斜装甲を展開して守りも固めつつ……まずは動きを止めるのが先決かしら。となればやっぱり機械が相手だし、|帝釈天印とイサ《雷による停止》を狙いましょうか」
 音も無く駆動するバイク型UFOに跨りつつ、ティオレンシアは宙空に東洋と西洋それぞれの魔術文字を描いてゆく。前者は天雷を、後者は停滞の意を秘しており、組み合わさればキャバリア相手には効果覿面なのは間違いなかった。
 更には駄目押しとばかりに取り出したのは幾つもの丸や円筒形の物体。その正体はグレネードだ。内訳は目潰し用のスタンや対電子機器のパルスが殆どだが、先の魔術的な強化が付与されれば話は変わって来る。
「操縦者の気絶でも機械の擱座でも、戦闘不能には変わりないわよねぇ。それじゃあ、始めましょうか」
『本来は「人民国」軍のキャバリアを想定した兵装だが、問題はあるまい。生身の傭兵風情に遅れは取らん!』
 ティオレンシアが準備を整えるのと同時に、不穏の空気を察知したらしいゲリラ部隊もまた攻撃を仕掛けてきた。搭乗している機体はお粗末だが、武装自体は通常のキャバリアと遜色ないものである。吹き荒れる銃弾の嵐が木々を粉砕する中、女は乗騎を巧みに操って弾幕を掻い潜ってゆく。
 火力だけならば確かに凄まじい。だが、彼女とて歴戦の猟兵だ。どうしても避けられぬ弾丸は傾斜結界で弾きつつ、当たるを幸いにと爆発物をばら撒いていった。敵が手数ならこちらも手数、雨霰と降り注ぐ雷光と紫電の渦である。
『が、あああっ!? せめて、操作をマニュアルに……ッ』
『駄目だ!? 指に、腕に力が、入らない!』
 奇しくも別の戦線で同じような手管を使う猟兵が居たが、あちらが機体のみを狙ったのに対し、ティオレンシアは操縦者諸共に無力化してしまう。電子制御に頼らぬアナログ操縦が可能でも、パイロットが動けなければ意味はない。
 一機、また一機と機能を停止し、その場へと崩れ落ちてゆく『共和国』軍ゲリラ部隊。その全てを制圧するのに、そこまで時間は掛からなかった。死屍累々と言った光景を見渡しながら、スゥと女は目を細める。
「……敵がいなくなれば、戦争は『終わる』。ここまで曲がりなりにも『戦争のていにできていた指揮官』がこんな愚策を打つってことは、たぶん……『そういうこと』よねぇ?」
 そもそもとして、お互いの『勝利条件』に致命的な食い違いがあるのではないか。そんな予感を朧気に思い浮かべながら、ティオレンシアは友軍に捕縛される兵士たちを見つめてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリー・フランツ
※連携お好きに
心情:読めたぞ、敵将もこの戦争を終わらせるつもりだ、自らの死によって。
手段:「これが連中が選択した|負け方《無条件降伏》か」
通信内容から察するに、付き従ってるのは降伏を潔しとしない抗戦派のタカ派、戦後の禍根となるよりはここで壮絶な玉砕を遂げスムーズに戦後処理をさせる腹積もりかよ。
…はぁ、生憎武装は殲滅仕様で手加減出来ん、恨むならそんなキャバ‥参加してる時点で覚悟してる連中か。

ヘヴィタイフーンは前面に出て人民軍の反撃体制が整うまで時間を稼ぐ、敵の位置は肩のアウル複合索敵システムで判明してるが、近距離は火炎放射器で間違いなく燃やせるが中距離射撃戦用の右肩のクロコダイル単装電磁速射砲や左手のコングⅡ重無反動砲の爆風や破片が木々に阻まれそうだな。
仕方ねぇ、切り札の【EP-155mmクラスター焼夷弾頭】を使う、人民軍及び猟兵に加害範囲を通達、レーダーで敵味方の位置を確認しながら敵集団の上空に叩き込む!

敵の攻撃は装甲で受ける、そんな民製品の改造機の攻撃に貫かれるかよ!



●焼き付けよ、戦場の無常を
 グエイザン大密林における『共和国』軍ゲリラ部隊の一斉攻勢は、時間の経過と共にその勢いを失いつつあった。元々、地力では『人民国』側の方が上である。当初の混乱から立ち直れば、撃退するのもそう難しくはない。
 傭兵らしく友軍が体勢を立て直すまで時間を稼ぎつつ、他の戦線から飛び込んで来る情報に耳を傾けていたヴィリーはある一つの結論を導き出してゆく。
(……読めたぞ、敵将もこの戦争を終わらせるつもりだ。自らの死によって、な。これが連中の選択した|負け方《無条件降伏》か)
 少しでも軍事について齧っていれば、或いは冷静に状況を俯瞰して見れば。敵軍の作戦がハリボテである事などすぐに分かるだろう。確かに追い詰められた末に平時では考えられぬような愚策を選ぶことは、哀しいかな歴史上珍しい事ではない。だが彼の傭兵としての勘が、戦場に漂う作為の気配を感じ取っていた。
(通信内容から察するに、付き従ってるのは降伏を潔しとしない抗戦派のタカ派だ……この手の連中は得てして周りも巻き込んで自滅するクチだからな。戦後の禍根となるよりはここで壮絶な玉砕を遂げさせ、スムーズに戦後処理する腹積もりかよ)
 徹底抗戦を叫ぶ軍人が終戦条約を妨害したり、クーデターを画策した事例なぞ枚挙に暇がない。早急な終戦を望む者としては身内に噛みつく狂犬は敵以上に厄介な存在だ。その排除を敵に押し付けると言うのはある意味で理に適っている。
 戦死すれば目論見通り、上手くいけば敵への非難材料として利用できるやもしれぬ。万が一生き残ったとしても、捕虜となるのはまず確実だ。そんな者が何かを叫んでも負け犬の遠吠え、発言力の低下は免れない。つまりどちらにせよ、裏で糸を引く者にとって損にはならない仕組みだった。
『……はぁ、生憎と手持ちの武装はどれも殲滅仕様で手加減が出来ん。恨むならそんなキャバ……いや、参加してる時点で覚悟してる連中か。利用されているようで少しばかり腑に落ちないが、利害自体は一致している。せいぜい、お望みどおりに動いてやろう』
 目論見の大枠こそある程度は見抜けたものの、さりとてやるべき事が変わる訳でもない。お前たちは騙されている等と教えてやる義理も無い以上、当初の予定通り殲滅する事に変わりはなかった。
 既に周囲に展開している敵部隊の位置は肩部に搭載された複合索敵システムによって捕捉済み。となれば、次にやるべき事は単純だ。
(近距離は火炎放射器で間違いなく燃やせるが、中距離射撃戦用の右肩のクロコダイル単装電磁速射砲や左手のコングⅡ重無反動砲の爆風や破片は木々に阻まれそうだな。となると……仕方ねぇ、切り札を使うか)
 敵が姿を見せているとは言え、依然として密集する樹木のせいで見通しは悪く、射線も通しにくい。だが、高度に発達した近代兵装はそうした障害を力技で踏み砕くものだ。ヴィリーはとっておきの一発を十全に機能させるべく、まずは彼我の戦力分布や周辺地形の把握に努めてゆく。
『人民国軍の機体ならば兎も角、あの重キャバリアは厄介だぞ……ッ』
『だが避けては通れぬ以上、打ち倒すしかあるまい。他戦線も苦戦しているとの報告が入っている。時間は掛けられん!』
 一方、ゲリラ部隊も自分たちの置かれた状況すら見えなくなるほど耄碌はしていなかったらしい。まずは眼前の敵を確実に排除する為、木々に紛れて散開しながら四方より重機関銃を浴びせて来る。如何に重厚な装甲に包まれていようとも、一切の隙間が無い訳でも無し。脆弱部を炙り出そうとする判断は決して悪くは無かった、が。
『涙ぐましい努力は評価するがな……そんな民製品の改造機程度の攻撃に貫かれるかよッ!』
 当然ながら、猟兵とてただ棒立ちで居る筈も無い。小刻みに機体を動かし、装甲の厚い部分で弾丸を受け止めてゆく。ガンガンと喧しい音が操縦席まで響いてくるが、こうした甲高い音の内はまだ装甲が耐えている証拠だ。
 とは言え、余り時間を掛け過ぎれば万が一と言う事もある。弾幕を受け止めている間に情報収集と加害範囲の算出を終えると、友軍を巻き込まぬよう退避警報を発する。
『周囲の友軍機に通達。本機はこれよりクラスター焼夷弾頭を使用予定だ。共有された散布範囲より速やかに退避されたし。退避完了を確認後、即時攻撃を開始する』
 その一報を受け、バラバラと『人民国』軍のキャバリアや歩兵たちが後退してゆく。一方のゲリラ部隊側は俄かに離れてゆく敵軍の姿を喜ぶよりも、何かが来ることを察して警戒を強めている。彼らも正規の軍人だ、相手の動きから大まかな狙いを推測する事も出来た。
『あの傭兵を残して、他の連中は距離を取ったか……となれば、まず間違いなく無差別攻撃か』
『固まるな、こちらも間隔を空けてばらけろ! 密集すれば高確率で一網打尽だぞ!』
 一拍遅れて、隊伍を崩す『共和国』の兵士たち。だが彼らが散開し切るよりも前に、既にヴィリーは攻撃準備を終えていた。傭兵は保持した重無反動砲を頭上へ向け構えてゆく。
『残念だがもう遅ぇよ。装填及び弾道計算完了、デカい花火を打ち上げるぜ!』
 果たして、凄まじい轟音と共に上空目掛けて何かが撃ち出された。円柱型のそれは一見するとグレネードのように見える。なんであれ、広範囲に影響を及ぼすものか。そう直感した『共和国』軍兵士たちが少しでも遠ざかろうとした、瞬間。
 ――ゴォオ、と。
 宙空で炸裂した弾体が無数の子弾を撒き散らすと同時に、視界を塗り潰す暴力的なまでの輝きが戦場を満たす。閃光弾か、EMPか。その正体を彼らはすぐさま知る事になる。
『が、ああああっ!? スーツ越しでも熱い、全身が焼けるッ!? これはまさか、テルミット!?』
『ご名答。より正確に言えばサーメート……効果範囲こそ少しばかり狭いが、その分凄まじい高温を生み出す代物だ』
 パイロットスーツを着ていても耐えがたい灼熱感。瞬く間の内に操作システムはオーバーヒートし、鉄騎は操縦者を縛る足枷と化す。ヴィリーが放った砲弾、それはサーメートと呼ばれる金属反応によって高温と光を発する焼夷弾の一種だった。
 科学的な作用のため酸素を必要とせず、瞬間的に生み出す熱量は実に数千度を超える。余りの温度にただ物体を焼くだけでなく、鉄骨や金属部品すらも融解させてしまう威力を誇っているのだ。業火に呑み込まれるゲリラ部隊の姿に、さしもの『人民国』軍兵士たちでさえ言葉を失う。
(運が良ければ命だけは助かるが、もう二度とベッドからは起き上がれんだろうさ。コイツは敵の戦意を挫くと同時に、猟兵の脅威を味方へ知らしめる事にも繋がるだろう)
 ほぼ間違いなく、これで『共和国』軍の組織的抵抗は消滅する。そうなれば次は終戦交渉への介入だ。その際は十中八九、疲弊した『共和国』よりも苛烈な要求を強いる『人民国』側がメインの交渉相手となる筈だ。戦果だけでなく予め畏怖も刻み込んでおけば、駆け引きの手札も多少は増える。
 斯くして燃え盛る戦場を前にしながら、ヴィリーは次なる戦いへの布石を打ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『休戦協定会談』

POW   :    情熱と勢いで会談参加者達の説得を試みる

SPD   :    市井の人々になるべく悲劇が及ばないよう、会談内容を誘導する

WIZ   :    堂々と会談の場で演説し、主張を述べる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●敗北と言う名の勝利
「――これで、我が最後の策は為った」
 『共和国』首都、軍司令部の一角。薄暗い一室には煌びやかな軍装に身を包んだ老参謀が佇んでいた。遠くから聞こえて来る遠雷の如き砲声に耳を傾けながら、痩身の男は満足そうに葉巻を燻らせている。
「最後まで『戦おうとしてしまう』タカ派は全て戦場に散り、或いは虜囚の辱めを受けた。負けた軍人が檻の中で何かを言った所で遠吠えにもなるまいよ」
 机上に積み上がった報告書を無造作に掴むと、それを紙吹雪の様に放る。バラバラと舞い散るそれらを踏み締め、老人は天井へ向けぷかりと紫煙を吐いてゆく。
「それに政治家連中も観念した様だ。一般市民まで根こそぎ動員を、等と言い出されたら面倒だったが、流石に最後の理性が働いたらしい。その冷静さをもっと早く発揮してほしかったが、それも詮無いことか」
 彼は酷く上機嫌だった。麾下の兵が斃れ、軍組織が壊滅し、祖国が完全なる敗北を喫したと言うのに。気を抜けば鼻歌でも歌い始めそうな程、無邪気に浮かれていたのだ。
「良い意味で予想外だったのは、あの傭兵たちだ。グエンよ、君はあれだけ戦力が無いと嘯いておきながら、いったい何処から引っ張ってきたのやら。だが、最期の詰めを彼らが搔っ攫ってくれたのは有難い。これで多少は要求の勢いも弱まるだろう」
 そうしてすっかり短くなった葉巻を灰皿へ置くと、老軍人は扉と相対する様に椅子へと腰掛けた。その姿はまるで、死刑執行を待つ罪人そのもので。
「あとは……私の頸を以て幕引きとするまで」
 『人民国』は私を忌々しく思っているだろう。散々に煮え湯を飲ませたのだから。
 国民は私を恨んでいるだろう。数多の血と命を戦禍へ放り込みながらも負けたのだから。
 従うべき政治家は私を丁重に扱うだろう。処刑台に送る大事な|生贄羊《スケープゴート》なのだから。
「人間誰しも、同じ相手の陰口を叩いている間は仲良くなれるものさ」
 ――願わくば、君も私を罵ってくれ給え。貧乏くじを好んで引いた馬鹿者、と。
 そうして男は、自らを拘束すべく近づいてくる友軍の軍靴の音に耳を澄ますのであった。

●勝利と言う名の苦悩
「やぁやぁお前たち、この度は誠にご苦労だった。詰めの武功を搔っ攫われたのは業腹だが、まぁ我が軍の被害を抑えられたので良しとしよう」
 ゲリラ掃討戦から一週間後、『共和国』首都にある議事堂。そこに呼び出された猟兵たちを出迎えたのは、口ぶりとは裏腹にまったく残念そうな様子を見せていないグエンだった。
 ちらと周囲を見やれば、誇らしげに胸を張る若者や項垂れている中年、注意深く周囲を盗み見る老人など、正装に身を包んだ老若男女が集まっている。彼らはみな政治家、外交官、駐在大使、軍人……つまりは、終戦交渉の為に集められた両国の関係者だ。
「城下の盟、というやつだな。『共和国』にとっては首都まで攻め込まれて屈辱なのは勿論、ワシらが大手を振って歩くことで『人民国』の優位を内外へ誇示する。ま、本格的な交渉を前にした鞘当てよ」
 ふんと詰まらなさそうに鼻を鳴らすグエンだったが、彼は不意に猟兵たちへ顔を近づけると、囁く様に耳打ちをしてくる。語られる内容は本来であればこの後に待つ会議で発表される、終戦条約の内容について。
「……我が人民国の要求は大まかに三つだ」
 1つ、『共和国』の行政、立法機能の停止。及び軍権、外交権、司法権の譲渡。
 1つ、本戦争に関わった政治家、軍人に対する『戦争犯罪裁判』の実施。
 1つ、両国の『融和』に向けた準備作業の速やかなる着手。
「国家の主権を奪い、裁判と言う名目で邪魔な連中を処刑し、自らの枠組みに組み込む。ま、分かり易過ぎるくらいあからさまな併合案だな。負けた側の末路なぞ、いつの時代も似た様なモノだ。否と叫んだところで拒む力もあるまい」
 そう吐き捨てる様に告げる老将軍の顔に勝利の誇らしさは微塵も無く、忌々し気な感情が露わとなっていた。もしそれが実現した場合、両国がいったいどうなるのか予想がついているのだろう。
「領土、財産、労働人口。利益も多いだろうが、まず間違いなくそれ以上に大きな禍根を背負い込む羽目になる。しかし、政治家共が求めるのはどうなるか分からぬ十年後より、明日の分かり易い成果だ。奴らの十八番、問題の先送りだな」
 そこで一旦話題を区切ると、グエンは顔を離して軽く咳払いをする。その相貌には取ってつけたかのような笑みが浮かんでいた。ロクでもない事を考えていると一目で分かる表情だ。
「で、ここからは余談なのだが……お前たちが望めば、この会談に同席することが可能だ。本戦争終結の重要な役回りを担ったのだからな、相応の報酬を求めることも可能だろう。ワシとしては規定額を払って御終いにしても良かったのだが、自らの手で対価をもぎ取るというのも傭兵の醍醐味。そうだろう?」
 大雑把に見えるが、グエンとて軍の高級将校だ。腹芸の一つや二つ出来ぬ手合いではない。故にこそ、言外に告げられる意図は明確だった。
 つまりは――『何でも良いから会議を引っ掻き回せ』、と。
「退き際を見誤って大敗した国を嘲りながら、自らもまたもっと寄こせと欲の皮を突っ張る。愚かさという点では良い勝負だ。何事も落としどころが重要……一人で全て背負うなぞ、己に酔った馬鹿の所業よ」
 ――さぁ、会議が始まるぞ。
 そうして説明を終えたグエンは踵を返して猟兵と別れ、議事場へと足早に入ってゆく。その背が心なしか小さく見えたのは、果たして気のせいだろうか。しかし改めて問い直す間もなく、猟兵たちもまた交渉の席へと着いてゆくのであった。

※マスターより
 プレイング受付は27日(金)朝8:30~開始。
 第三章は『共和国』と『人民国』の間で行われる終戦条約会議の場面となります。ただし、内情は『人民国』による一方的な併合要求であり、『共和国』にはこれを拒否する軍事的・政治的な余力はありません。猟兵が何らかの介入を行われない限り、『共和国』は『人民国』に併合されて消滅。残された人々は苛烈な弾圧を受ける事になるでしょう。
 猟兵はこの会議に『然るべき報酬を得る為の交渉』と言う名目で同席しています。1,2章で得た戦果を材料に『人民国』『共和国』へ要求を行う事が可能です。不平等な裁判の是正、何らかの形での『共和国』の主権維持、一般市民の安全確保など、より良い未来の為に提案をお考え下さい。
 それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
村崎・ゆかり
戦争にあらゆる資源を投入して干上がった国を併合しても旨みはないでしょ? もっと上手く立ち回るべきよ。

『共和国』は民主制を停止し、ホアン元参謀を中心に軍政を施行する。
『人民国』は占領国としてグエン将軍をトップとする総督府を設置し、一定の軍事力を貼り付ける。グエン総督には大きな自由裁量権を持たせ軍政を指導する。

『共和国』の現状を示す正確な情報を軍政に要求。それを元に、プラントで現地生産される物資を含む『人民国』の収益を任せる。
両国の現役退役を問わず、軍属が行った犯罪行為は厳罰に処す。実施主体は総督府。それ以外の治安維持は軍政が行う。

国民の怨嗟は軍政に引き受けさせ美味しいとこ取り。
これくらいでどう?


シルヴィ・フォーアンサー
……憂鬱。
『これも仕事だ頑張りたまえ』

仕方ないから自分にコード。
人前でもしゃべれると思い込ませる。

異議は『共和国』の行政(以下省略)と『融和』準備作業着手の2つ。

大雑把に言えば明日から人民国法律下で言うこと聞いてお手て繋いで仲良くって無理でしょ。
恨み辛みも消えないうちに押しつけ押さえつけたら最初は良くても後で耐えきれず爆発してテロとか起きると思う。

人民国と共和国混じった暫定政権立てて緩やかに人民国化した方が結果は良いと思う。
できるだけ双方犠牲でないよう動いたんだから無駄にしないでほしいな。

裁判は生け贄なしじゃ民衆納得させられないだろうし仕方ないよね。
無能な責任者から首切ってけばっていうぐらい。



●急げば事を仕損じる
「敗れたと言えども、この条件は仮にも独立国に対して無礼極まりなく……」
「そもそも本戦争の切っ掛けは、貴国が行った軍事演習が――」
「……国民が納得しなければ、必ずや大きな動乱となって……」
 斯くして幕を上げた『共和国』と『人民国』による終戦交渉は、冒頭から双方ともに舌戦を繰り広げる形となっていた。圧倒的に有利な立場を以て要求を突きつける『人民国』側に対し、『共和国』はせめて少しでも抗おうと弁舌による巻き返しを図っている。
 表面上は慇懃に、だが暗喩と示唆を多分に含んだ熾烈な駆け引き。そんな発言の数々を右から左に聞き流しながら、席につくシルヴィはややげんなりとした表情を浮かべてゆく。
「……憂鬱。既定の報酬だけ貰って帰っちゃ駄目かな」
『傭兵としての役割は終わったが、猟兵の義務はまだ終わっていない。残念ながらこれも仕事だ、最後まで頑張りたまえ』
 思わず零れた愚痴をAIがすかさず窘めてくる。この状況を看過すればまず間違いなく両国の政情は悪化し、いずれ新たな戦乱の火種を生むだろう。四方が丸く収まるとまでは言わずとも、交渉を軟着陸させる事が後の平和に繋がるのは間違いなかった。
 とは言え、彼女自身も弁舌が立つタイプではない。やむを得ないと、シルヴィはAIを介して己のキャバリアから特殊な電気信号を自らへと浴びせてゆく。それは一種の洗脳効果を持っており、それを利用して人前でも喋れるだけの平静さを作り上げる。
「……お話し中のところ申し訳ないけれど、ちょっとだけ良いかな」
「む、そちらは……確か、グエン将軍が雇った傭兵か。いったい何かね?」
 そうして発言の許可を求める猟兵に対し議事進行役は一瞬だけ訝しむ様に眉根を顰めるが、その横に腰を下ろすグエンをちらりと盗み見て態度を改めた。戦争の英雄が招き入れた戦力にして、終戦の立役者。その機嫌を損ねるべきではないと判断したのだろう。シンと議場が静まり返り、人々の視線が集中する中、シルヴィは意を決して言葉を紡ぐ。
「素人の意見で恐縮だけど、『共和国』の主権停止と『融和』準備作業の着手について少しばかり異議があるよ」
 発された内容に一瞬、ピリと議場の空気が張り詰める。邪険に出来ない相手である以上、続く言葉が自分たちにとって利となるか、損となるか。注目を浴びながら、少女は己が考えを述べてゆく。
「大雑把に言えば、どちらも性急過ぎるかな。昨日まで殺し合っていた宿敵同士、明日から人民国の法律下で言うこと聞いて、お手てを繋いで仲良くってどう考えても無理でしょ?」
 それはある種、当然の指摘であった。どんな政治体系であれ、国民感情と言うのは絶対に無視することは出来ない。幾ら武装をしていないとはいえ、数だけで言えば軍人よりも圧倒的に多いのだ。強引な併合は必然、要らぬリスクを抱え込む羽目になる。
「恨み辛みも消えないうちに押しつけ押さえつけたら、最初は良くても後で耐えきれずに爆発してテロとかが起きると思う。そこまでいかなくても、暴動を起こされたら今の戦力で鎮圧は出来るの?」
「それは無論……いやそもそも、我々は飽くまでも平和的に手続きをだね」
 シルヴィの問い掛けに対し、『人民国』側の参加者は明言を避けて言葉を濁す。例え実際はそうでも、見栄とハッタリを崩せないのが国のメンツと言うものである。それとなく論点をずらそうとするが、別方向から新たな発言が飛び込んできた。
「実際に両国を見た第三者の立場からすれば、『共和国』は勿論『人民国』だって青色吐息。それは|猟兵《あたしたち》を雇い入れた事でも明らか……戦争にあらゆる資源を投入して干上がった国を併合しても旨みはないでしょ? 更に労力を費やすくらいなら、もっと上手く立ち回るべきよ」
 今度は誰かと参加者が声の上がった方へと目を向けてゆく。果たして、視線の先に居たのはやれやれと嘆息するゆかりの姿。彼女は言葉の端々から仲間が自分と同じ考えを持っているのと悟り、すかさず援護射撃を放ったのである。
「土地や資源はただ手に入れれば良いってもんじゃない。利益を生む為には、どうしたって人間の手を介す必要があるわ。隣国同士なんだもの、『短期間で一気に』よりかは『長く細く』でやった方が結果的には得になるでしょうね」
「理屈で言えば確かにそうだろう。だが、そんな都合良くいかぬからこそ悩ましいのだ」
 『人民国』側はゆかりの発言に頷きつつも、それが出来れば苦労はしないと苦言を呈す。しかし、それに対する解決案もまた彼女たちは既に思い付いていた。
「最終的には併合するにしろ、もう少し段階を踏もうって事かな。最初はまず、人民国と共和国が混じった暫定政権を立てて、緩やかに人民国化した方が結果は良いと思う。できるだけ双方の犠牲がでないように動いたんだから、それを無駄にしないでほしいな」
「具体的には『共和国』の民政は要求通り停止させつつ、グエン将軍をトップとする総督府を設置。同時に『共和国』側からはそうね……ホアン元参謀を中心に軍政を施行し、グエン総督には一定の軍事力と共に大きな自由裁量権を持たせ軍政を指導する、ってのはどうかしら?」
 シルヴィとゆかりが打ち出した提案はかなり大胆に踏み込んだものだ。反射的に反発するもの、全体の反応を窺う者、脳内で算盤を弾く者。十人十色の反応に再び議場が騒めいてゆく。なお、当のグエンは『え、そこでワシ?』と不意打ちを喰らっていた。
「待て待て待て!? 英雄であるグエン将軍殿は分かるが、何故我が『共和国』側の代表が元参謀のホアンなのだ! もっとより相応しい者が……」
「内情がどうあれ、形式的には敵だった『人民国』と手を取り合う形になるのよ? 国民からどう見られるかを考えた上で、それでも貴方はやりたいのかしら」
 今度は先程とは打って変わって『共和国』の政治家が食って掛かるも、ゆかりは意味深な物言いでそれを跳ね返す。侵略者に協力しながら政治を行う、そんな者を国民は『売国奴』と見做すだろう。その場合にぶつけられる怨嗟を想像し、相手は思わずウッと黙り込んでしまった。
「軍政は『共和国』の現状を示す詳細情報を開示し、総督府はそれを元にプラントの生産物を含む収益の徴収、管理運用を委任。また両国の現役退役を問わず、軍属が行った犯罪行為を調査し厳罰に処す。実施主体は総督府、それ以外の治安維持は軍政が行う……ま、叩き台としてはこんな所ね」
 纏めれば『人民国』側が主、『共和国』側を従とする統治機構を設立。方針は『人民国』側が指示しながらも、実行するのは『共和国』側となる形だ。つまり、国家としての形は維持しつつも、国民の不満は手足となって動く『共和国』軍政へ向けさせ、『人民国』総督府は美味しい所だけを頂くと言う魂胆である。
(処罰や裁判に関しては生け贄なしじゃ民衆を納得させられないだろうし、こればっかり仕方ないよね。無能な責任者から首切っていけば、まだダメージは少ないかな)
 仲間の捕捉にシルヴィも口を挟むつもりはなかった。戦争は国と国との大事である以上、必ず誰かしらが責任を取らねばならぬ。こればかりはどうしようもないと割り切るしかなかった。
「我が『人民国』も共に厳罰へ処すと言うのは、間違いなく軍部から反発が……」
「……しかし一定の理は認めるが、なぜ傭兵風情がこんな提案を」
「連中はグエンの雇った戦力だ。雇い主を押し上げ、今後も繋がりを得る魂胆では――」
 ガヤガヤと人々は猟兵の示した提案を吟味しつつ、裏に隠された意図を読み取らんとする。此方としてはただ平和を求めているだけなのだが、都合の良い様に勘繰ってくれるのならばそれに越したことはない。
「成る程、君たちの考えは理解した。結論を出すにはまだ些か早いが、一先ずは妥結案の一つとして参考にさせて頂こう」
 どうやら、シルヴィとゆかりの提言は双方に受け入れられたらしい。早い段階で終戦交渉の方針を示せたのは極めて大きいだろう。とは言え、まだ会議は始まったばかりである。今暫くは意見を揉まねば結論は出まい。
 斯くして猟兵たちは周囲の反応を観察しつつ、引き続き議論に耳を傾けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィリー・フランツ
アドリブ自由に
※威厳と箔をつける為に軍服(式典用)とアークライト名誉勲章を装着

心情:将軍は最後の最後で無茶言ってくれる…

手段:主権移譲の取下げ、属国化するにしても自治領程度の主権は確保せねばならん。
代替案として賠償金の支払いだな、共和国にとって高額になるがそこは甘んじて受けてもらう、それこそ併合すれば良いじゃないか!と人民国から反論は来そうだが、ここは冷静にソロバンをもう一度弾いてもらう。
併合すると仮定し当面の治安駐屯部隊の数と経費、そして主権を維持した場合の人民軍兵員を民間へ復員させ経済活動させたときの税収予想、政治家連中に如何に併合が早急かつ不利益だと説くしかないな。

それと最後に、我々はあくまで仲介人の召集によって集まっただけで、本来はフリーランスです。他の傭兵は小官と違って殆どが道義を優先する連中でして…余り感情だけで戦後処理を行うのは控えたほうが宜しいかと思案致します。
「悪名もまた名声ですかな?グエン将軍。我々に外交官や軍政家の様な真似をさせたのです、報酬は期待してますよ」



●理性は感情の上に座す
(終戦条約交渉の軟着陸、か。将軍は最後の最後で無茶言ってくれる……報酬をもぎ取れと言ったが、別口で追加を貰わねば割に合わんぞ)
 先に口火を切った仲間の提案を一つの目安としつつも、交渉会議は少しでも有利な条件を得ようとする駆け引きが続いていた。これに切り込むのは些か以上に骨だとヴィリーは内心顔を顰めつつ、煙草に火を点け肺腑を煙で満たしてゆく。
(当初の要求と比べればまだ穏当な提案によって、妥協案と言う基準ラインが出来た。後はそこからどこまで求め、或いは退くか……一先ず、主権移譲の取下げを狙うべきだな。属国化するにしても自治領程度の主権は確保せねばならん。枠組みさえ残せば、後で巻き返す目もあるはずだ)
 ともあれ、例え無茶振りであろうが雇い主の希望を無下にする事も出来ない。断片的に漏れ聞こえる背景事情を鑑みれば、恐らくは『共和国』を何らかの形で残すことが肝だと思われる。共同で設立する統治機構も悪くは無いが、押し込めそうなら狙うまでだ。
 加えて苦言こそ呈しているが、彼とてこんな事態をある程度は予想していたのだろう。糊の効いた式典用軍装に身を包み、胸には別件の活躍によって授与された勲章が輝いている。こういった場ではまず身なりから推し計られると、傭兵の経験上から知っていた。
「……一つ、発言を許して頂きたい。先の仲間が行った提案を踏まえた上で、こちらからも意見がある。少しばかり時間を貰えると有難いのだが」
「ふむ、その顔は……ああ、良いとも。拝聴させて頂こう」
 斯くして機を見て試しに切り込んだところ、意外にもあっさりと要望が通る。先日の掃討戦時、ヴィリーは入念に罠を潰し、更には交戦したゲリラ部隊を苛烈なまでに叩き潰していた。恐らく、そうした振る舞いから『人民国』側に不利な提案はしないと思われたらしい。実際はどうであれ、なればと傭兵は遠慮なく口火を切ってゆく。
「先ほど出た提案の意図を端的に言い替えれば、『段階を踏もう』という趣旨だったと思われる。自分としては更にその前段階として、共同統治云々よりもまずは賠償金の支払い等から始めるべきだと考えたのだが如何だろうか? 『共和国』にとって高額になるが、どうかそこは甘んじて受けて貰いたい」
 こうした終戦交渉の際、本来であれば男の話した賠償金や領土の割譲と言った要求は不可分なものだ。今回、それが盛り込まれていなかったのはそもそもとして『併合』が大前提となっていたが故。つまりヴィリーはまず、そうした賠償的な内容を以て併合案に歯止めを掛けようと考えたのである。
「……我が国としては、分割払いでも良ければ問題は無い」
 その提案に対し、『共和国』側は表面上こそ不承不承ながらも素早く飛びついて見せた。金銭は後でどうとでも出来るが、独立は一度失えばそう容易くは取り戻せない。金の問題で同行出来るのであればそれに越したことはないといった所か。
 一方、『人民国』側からすればそんなまどろっこしい事をする必要など無いとばかりに反駁の声が上がってゆく。
「『人民国』としてはその提案に頷く事は出来ない! どんな賠償額を決めようとも、それ以上の富を得る機会をみすみす逃すなど、余りにも馬鹿げて……ッ」
「いやいやいや、そう短絡的に考えんでください。ここは一つ、冷静にソロバンをもう一度弾いて欲しいのです」
 俄かにヒートアップしかけた空気をヴィリーは堂々とした立ち振る舞いで制する。これが薄汚れた軍服姿であれば蹴散らされていただろうが、冷静に手元の書類を捲る礼装姿と言うのは言外の圧力を生むと言うものだ。男は紙面に記された数字を目で追いながら、先を続けていった。
「併合すると仮定した場合の当面の治安駐屯部隊の数と経費、これらは勝利したとはいえかなりの負担になる筈です。国力で勝っているとは言え、警戒する人も面積も単純計算で2倍。更に元々敵対していた場所を治めるのです。本国以上のコストが掛かるのは明白でしょう」
「だが、そんなものは後々でも回収がッ!」
「もし仮に主権を維持した場合、ゼロとは言いませんが想定される労力を大幅に抑え込める。なおかつ、それに当てる筈だった人民軍兵員を民間へ復員させた場合の経済効果、及びそれに伴う税収……先行きの見えない空手形より、よほど分かり易い成果では?」
 デメリットを提示しつつ、被せる形でメリットを突き付ける。ドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれるものに近い交渉方法だ。落差によって後から出した提案を魅力的に魅せる手管。実際、ハッタリではなく中身を伴った数字である。それを悟った相手もいつしか黙り込み、脳内で各案を天秤にかけ始めたらしい。
「金や損得だけの話では無い! 名誉や感情の問題なのだッ! それ相応の贖いが無ければ、我が国の国民感情が……!」
 しかし、静かになってしまった政治家の姿を苦々しそうに一瞥しながら、今度は別の者が立ち上がる。ぱっと見、恐らくは『人民国』の高級軍人か。損得以外の面から反撃しようとするものの、その程度は想定の範囲内だった。
「おや、落とし前ならこの手でキッチリ着けましたよ。グエン閣下からも報告が入っている筈でしょう。それじゃ不満ですかな?」
「ぐ、む……!」
 ヴィリーはゲリラ部隊掃討戦での戦果を持ち出す事で反対意見を跳ね返す。その際の戦い振りは両国にも広まっており、最期の大詰めを完遂したと言う前提も相まって、たかが傭兵働きと切って捨てるには苦しいのだろう。
 そんな恐れの感情を敏感に悟ったのか、ヴィリーは話を区切る様に短くなった煙草を揉み消す。敢えて慇懃無礼な態度を見せつつ、男は会議に出席した面々の顔を見渡してゆく。
「我々はあくまで仲介人の召集によって集まっただけで、本来はフリーランスです。他の傭兵は小官と違って、殆どが道義を優先する連中でして……余り感情だけで戦後処理を行うのは控えたほうが宜しいかと思案致します。どうか、理性的なご判断を」
「……肝に命じておこう」
 ともあれ、これで求められた役割は果たせただろう。出しゃばり過ぎても要らぬやっかみを受けるだけだ。残りの細かい部分は他の仲間たちが詰めてくれると判断し、傭兵は椅子へと腰を落とした。その際、隣に座るグエンへそっと耳打ちを送る。
「悪名もまた名声ですかな? グエン将軍。我々に外交官や軍政家の様な真似をさせたのです、報酬は期待してますよ」
「上出来だ、主計課には話を通しておいてやろう。当初の要求が罷り通った際の苦労を考えれば、安いものよ」
 話が分かり、なおかつ金払いの良い雇い主と言うのは得難いものだ。満足げに頷く老軍人の隣で、ヴィリーは食えない相手だと苦笑しながら新しい煙草に火を灯すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「小さなパイで全員は満たせない。人減らしはこの世界で最も効率がいい適合方法だと思うのですがねえ」
嗤う

「私の居た場所では、負けた側の九親等までの根切りは普通でしたから。生かしておくだけ度量が広いと思いますがね」
嗤う

「何のために、進軍ルートに合わせた道を作って差し上げたと思うのです。何のために殺さず無力化したと思うのです。貴方達の国を一つにするためです。ですから報奨をいただきましょう。戦争犯罪裁判で人を殺さないでいただきたい」
「人民国の主権を旧共和国に周知するなら、物の分かった1人、周知役にするホアン氏を除き全ての政治家を更迭し森林開発に従事させればいい。それで立法権と外交権は停止します」

「声高に軍権停止を触れ回ればすぐ叛乱が起きます。最後の最後までそれをいなしていただくためにも、自軍の殺し方を良く知るホアン氏は残した方が良いでしょう」
嗤う


「存分に引っ掻き回しましたが?」
嗤う
「国名と政治形態が一致しないことなど儘あります。融和の法改正など数年作業です。敵の敵になる方が分かりやすいでしょう?」



●天秤に掛けるは命と名
 猟兵の介入によって多少の軌道修正が行われながら、議論は引き続き進んでゆく。『人民国』の最上は得られる物の全取り、『共和国』の最善は可能な限りのダメージ回避。現実的に全ての要求を満たすことは厳しいと分かっているが、僅かで有利な条件で終わらせるべく言葉を武器に丁々発止の遣り取りが続いている。
(戦争とは得てして、必要に駆られて行われるもの……土地、資源、食料、安全。小さなパイで全員は満たせない。人減らしはこの世界で最も効率がいい適合方法だと思うのですがねえ)
 そんな様子を冬季は第三者の立場から観察していた。平和とは抱える人口を飢えさせずに済む富、そしてそれを奪わせない武力が合って初めて成り立つ概念である。そう言う意味では逆説、妖仙の言う様に手持ちの資源に合わせて口減らしをすると言うのも一つの手だ。
 現に両国共、この戦争によって若年人口に大きな打撃を受けているはず。嫌が応にもお互いに手出しをしにくい状況になったが、それ故の懸念点が未だに残っている。つまりは、捕虜とした『共和国』軍兵士の処遇について。
(私の居た場所では、負けた側の九親等までの根切りは普通でしたから。生かしておくだけ度量が広いと思いますがね……族滅としてしまった方が手間は掛かりませんし、立ち直るまでの時間も稼げますから)
 先に発言した猟兵は敵を無慈悲に殲滅した武を以て要求を通したが、それはそれとして冬季を始めとする面々が確保した捕虜をどうするかと言うのも課題の一つだ。改めて裁判に掛けて戦勝国の留飲を下げる材料にしても良いし、生きたまま返して敗戦国に恩を売るのも悪くはないだろう。
(ふむ、そう言えば戦争裁判云々についてはまだ深堀されてないようです。そろそろそちらに手を付けても良い頃合いでしょう……それに、『出来る限り引っ掻き回せ』と言うのが雇い主の意向ですからね)
 愉快そうに妖仙の口元が弧を描くかの如く裂ける。『会議は踊る、されど進まず』、だ。更なる一石を投じ、時間を稼ぐ事で気勢を削ぐ事も可能だろう。それに折角骨を折った以上、手持ちの交渉材料を使わずに終わらせるのも馬鹿らしい話だった。
「……これだけの大事になったのだ。誰かが責任を取らねば、国民は納得せん」
「戦いが終わったのにまだ血を求めると? それこそ国家理性の敗北であって……」
「……仲良しこよしのガキではないのだぞ!? 単に頭を下げて済む問題では――」
 奇しくも、交渉の流れもまたそちらへと傾きつつあるらしい。冬季は渡りに船だとばかりにタイミングを逃さず、落ち着きながらも良く通る声を議場へと響かせてゆく。
「……一つ、現場で汗水を流した者として言わせて頂きましょう。何のために、進軍ルートに合わせた道を作って差し上げたと思うのです。何のために兵卒を殺さず無力化したと思うのです。少しばかりは我々の配慮も汲んで頂きたいものですねえ」
「その点について、協力に感謝してはいます。しかし、いったい何が言いたいのですかな」
 猟兵が発言する度に、何らかの楔が交渉に打ち込まれている。『人民国』側としてはそろそろ黙って欲しいと言うのが本音かもしれないが、妖仙の言葉を無視するには大きすぎる戦果を挙げていた。故にこそ、相手としても身構えて耳を傾ける事しか出来ない。
「全ては貴方達の国を一つにするためです。誰もが納得できる形で無くとも、少しでも穏当な形で決着できるようにね。ですから、その働きに相応しい報奨をいただきましょう……これから実施される戦争犯罪裁判で、人を殺さないでいただきたい」
「なんだですと……?」
 冬季の言葉にピクリと『人民国』政治家の眉が動く。これまでとはまた異なる方向からの申し入れにやや警戒しつつも、それをおくびにも出さず応じて見せる。
「殺さないで頂きたい、とは些か性急な話ですな。裁判は飽くまでもこれから行われるもの。証拠や証言に則って判決を決めるものであり、最初から結論ありきなぞ公正な審議とはとても……」
「ほう、そうですか。それならば良かった。飽くまでも『公正』に判断して頂けるのですね?」
 だが、完全には動揺を消せなかったらしい。猟兵は零れ落ちた言葉尻を見逃さず、言外に懲罰的な判決を下さぬように言質を取る。してやられたと内心舌を巻く『人民国』の政治家だったが、相手も海千山千の手合いだ。頷きながらも、ただでは転ばぬと答えを返す。
「ええ、我が国は無法国家ではありませんので。勿論、一般市民に対する弾圧など『目に余る内容』であれば、要望に沿う事は難しいですがな。いかな終戦の立役者とは言え、法を捻じ曲げるのは通りますまい」
「それが『事実』であれば、こちらも流石に擁護のしようはありませんからね……そうした悪質な場合を除き、命の保証をしていただければこちらとしても文句はありません。つまり、留置なり追放なりの処遇にまで口出しするつもりはないと言う訳です」
 お互いにそれとなく牽制を交えつつ、冬季は少しばかり話題を変える。此処からが本題だと暗に示すと、相手もそれを悟ったのだろう。纏う雰囲気が僅かに真剣さを増してゆく。
「『人民国』の主権を旧『共和国』側に周知するなら、物の分かった1人が居れば十分でしょう。余り頭数を残せば、旧態と変わりがありませんからね。それだとそちらも納得しがたいでしょうし、その一人以外は更迭し森林開発に従事させればいい。それでどのみち、立法権と外交権は停止します」
「な、なんだと!? そんなのは受け入れられる訳が――」
「して、その『物の分かった1人』とは?」
 妖仙の告げた言葉に反応したのは『人民国』よりも『共和国』側だった。助命云々に関しては損にならぬと黙っていたが、続く内容は実質的なクビ宣告に他ならない。ふざけるなと気色ばむが、それを『人民国』の政治家が制する。そも、相手からすれば敗戦国を庇う義理も無い。先ほどの遣り取りはこの為だったのかと悟りつつ、先を促す。
「そうですね、参謀のホアン氏が適任かと。声高に軍権停止を触れ回れば、すぐ叛乱が起きます。最後の最後までそれをいなしていただくためにも、自軍の殺し方を良く知るホアン氏は残した方が良いでしょう。それにグエン将軍とも知己とお伺いしていますし、連携と言う点でも懸念は少ないと思われます」
「ふむ、『深緑の魔術師』か。その高名は我が国にも響いておる。先の傭兵もホアン殿を推していたな……分かった、参考にさせて頂こう」
 『共和国』首脳陣に関しては、脛に傷が無い限りは処刑を免れるだけでも温情だろう。そう判断した『人民国』政治家は首肯を返して進言を受け入れてくれた。そのまま通るかはまだ未知数だが、少なくとも悪い事にはならない筈だ。
「さて……お望み通り、存分に引っ掻き回しましたが?」
「もしこの案が通った場合、ホアンは恨みや嫉妬を一身に向けられるだろうな」
「国名と政治形態が一致しないことなど儘あります。融和の法改正など、それこそ数年作業です。ならいっそ、敵の敵になる方が分かりやすいでしょう?」
 席に腰を下ろし、冬季はグエンへそう飄々と報告する。苦笑を浮かべる老将軍だったが、そう不満なわけではないらしい。それを受けた妖仙もまた、愉快そうに嗤うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
あたし、こういう戦後処理がどうのとかいうのは専門外もいいとこなんだけど。
ま、アフターサービスってことで無い知恵絞りましょうか。

主権だ行政だはあたし門外漢だから置いとくとしても、こないだの作戦の総指揮官…ホアン将軍、だったかしらぁ?その人処刑するのはやめといたほうがいいと思うわぁ。
文民統制の原則により、戦争犯罪を別にすればその責任は政府が負うべき…

――ってのはまあ建前として。
あんなカミカゼとも言えない愚策に相当数が乗ったことからしても声望は相当なもののはず。そういう人が処刑されたとなれば、間違いなく「無敵の人」が何かやらかして――あっさり鎮圧される。そうするとどうなるか?
…そいつを「殉教者」として旗印にした、もっとド派手な物事が動き出す。
こうなるともう止められないわぁ。なにせ止められる人間はもう「全員死んでいる」。いかにも「善意の第三国」とやらが介入しやすそうな事案よねぇ。
死者ほど担ぎやすいし担がせやすい神輿はないわよぉ?なにせ、どう扱っても何も言わないものねぇ。



●虎は死して皮を留め
(……あたし、こういう戦後処理がどうのとかいうのは専門外もいいとこなんだけど。お客様同士のイザコザくらいならまだしも、ねぇ……ま、アフターサービスってことで無い知恵を絞りましょうか)
 ちょっと場違いではないかしらん、と。背もたれに身を預けたティオレンシアは、周囲に悟られないように小さく息を吐く。充満した紫煙は見慣れたものなれど、飛び交う単語は難解なものばかり。酔客ならば宵の戯言と笑って受け流せるが、ここに居る者は全員素面。こちらも気を引き締めねば、代金を得るどころか身包みを剥がされかねぬ勢いだった。
(ふむ、そう言えばこれまでの流れ的に、確か『共和国』参謀のホアンだったかしら? 詰め腹を切らされそうなその人を助命して協力させよう、って方向性のようねぇ。どうやらグエン将軍とも知己みたいだし、そちら方面にも援護射撃をしておいた方が良さそう)
 ティオレンシアは改めて交渉の流れを吟味し直し、ホアンの名が幾度か挙がっている事に気付く。グエン自身は明言していなかったが、彼と決して浅からぬ付き合いである事は言動の端々からは察せられていた。
 その上、敗軍の将と言う汚名と引き換えに強硬派を全滅させ、間接的に終戦への道筋を立てた男でもある。能力と言う点では恐らく文句は無いだろう。このまま敗戦の責を負わせて処刑台の露とさせるには些か惜しいのも確かだ。しかし現状は寧ろ、『共和国』側から反発が大きいようにも見えた。
(『共和国』の首脳陣としては責任を全て個人に押し付けて、自分の身だけは守りたいって魂胆の様ねぇ。階級的には参謀の一人でしかないのに、随分と名が売れている様で……いえ、逆にそれを利用すれば、流れを引っ繰り返せるかしら?)
 『深緑の魔術師』と自国は愚か、敵にまで知られた名参謀。それ故に『人民国』としては手柄を喧伝し易い標的であり、『共和国』としても格好の|生贄山羊《スケープゴート》だ。だが、世には有名税と言う言葉もある。高名であるが為に懸念される弊害、ティオレンシアはそこに糸口を見出す。
「……失礼、ちょっといいかしら? 主権だ行政だなんて話、あたしは門外漢だから置いとくとしても、こないだの作戦の総指揮官……そう、ホアン参謀。終戦条約がどうなるにせよ、その人を処刑するのはやめといたほうがいいと思うわぁ」
「またその名が出るか。猟兵殿が彼の人物と接触したと聞いたことはないのだが、みな同じようにホアンを推す。ここらで一つ、顔も知らぬ相手をこうも持ち上げる根拠を知りたいところだ」
 そうしてさり気なく会話の流れに糸を垂らすと、すぐさま目端の利く者が食いついてきた。無論、味方と言う訳ではあるまい。『人民国』にしろ、『共和国』にしろ、付け入れそうな隙が無いか虎視眈々と目を光らせている。例えばそう、猟兵を介して実は敵国と内通していた、とか。そんな事実など、少なくともティオレンシアは知らないのであるが。
「文民統制の原則により、戦争犯罪を別にすればその責任は政府が負うべき……ってのはまあ、建前として。先ほどあなた自身も言ったでしょう? 『顔も知らぬ相手』と、ね。盛んに喧伝された|高名《プロパガンダ》が厄介なのよ」
 そう返す女の言葉に、少なくない数の参加者が訝し気に眉根を顰める。それがどうホアンの助命に繋がるのか、話の筋が見えないのだろう。無数の視線に促されるまま、ティオレンシアは順を追って説明してゆく。
「実際に相対した者として、最後の攻勢は正直言ってお粗末としか言えなかったわぁ。ゲリラ戦の利を捨てて、なけなしの戦力を分散させて……でも、あんなカミカゼとも言えない愚策に相当数の兵士が乗ったことからしても、ホアン参謀の声望はかなりなもののはず。勿論、勇名を馳せるのは悪い事じゃないけれど」
 ――そういう人が処刑されたとなれば、兵士たちはどう動くかしらね?
 そこで女は一旦言葉を区切り、しばし沈黙を保つ。何も一から十まで説明してやるだけが交渉ではない。自ら考えさせ、答えを導かせた方がより響く事もあるのだ。実際、ホアンのせいで負けたと恨む者も居るだろう。
 しかしそれも、直接作戦に関わった者に留まる筈。その他大勢の兵士たちはきっと、あの老参謀を最後まで抗った英雄と見做すだろう。それらを踏まえた上で、彼らはいったいどんな反応を示すのか。そうしてある程度考えが纏まったであろう頃合いを見計らって、猟兵は先を続ける。
「間違いなく『無敵の人』、つまりは負けて職も名誉も明日も失った『誰かさん』が何かをやらかすでしょうねぇ。勿論、一時の感情に任せた破れかぶれの行動なんて、成功する可能性は低いわ。きっと、あっさり鎮圧される。だけど、そうするとどうなるか?」
「……まだ、先があるのかね?」
 問いかけに対し、ティオレンシアは勿体ぶる様に無言で頷く。ここから先はある種、カルトじみた領分の話だ。理性的に過ぎる首脳陣には想像しがたいに違いない。女は困ったように肩を竦めながらその答えを示す。
「……そいつを『殉教者』として旗印にした、もっとド派手な物事が動き出す。軍人は良くも悪くも死に慣れ過ぎているのよぉ。死は敗北だけれど、同時にそれは闘争の正当性を周囲に示してしまう。こうなるともう止められないわぁ。なにせ、止められる人間はもう『全員死んでいる』んだもの。いかにも『善意の第三国』とやらが介入しやすそうな事案よねぇ」
 人が戦争で死ぬのが道理なら、人が死んで戦争になるのもまた道理。流血は更なる流血を招き寄せるものだ。目先の功績に釣られて現実を直視できる人物を処刑すれば、後は雪だるま式に事態が悪化していくと言う訳である。ようやく話の全貌を理解し、出席者は苦々しそうな渋面を浮かべていた。
「ゾッとしない話だ。それが単なる妄想や世迷い事と言い切れない点も含めて、な」
「そりゃそうでしょうとも。死者ほど担ぎやすいし担がせやすい神輿はないわよぉ? 死人に口なし、なにせどう扱っても何も言わないものねぇ」
「そしてホアンを処刑すれば、その筆頭に加わると。成る程、確かに活かしておいた方がまだマシか」
 分かって貰えれば結構だと、女は微笑を浮かべながら腰を下ろす。これでホアンの処遇について釘を刺すことが出来た。強硬に処刑を主張すれば、その後の対策についても責任を負う破目になるのだ。勢いも大分減じるだろう。
 斯くして一仕事を終えたティオレンシアは、どっと溢れ出す疲労を溜息と共に吐き出してゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

後始末ってやつか…
おとぎ話みたいに皆幸せに暮らしました、めでたしめでたし…てならんのがこの世界の不条理だし道理だな…馬鹿げてる!
くそ…遍歴の騎士の政治に参加するなんてな…ほんっとに馬鹿げてる!
こ~ゆ~のが嫌だから軍人なんかやめて騎士になったのに…
こ~なりゃあのグエンの言う通り引っ搔き回してやる!ベルト・ラムバルドは男だ!

UCでなんか威圧感を放って疲弊してる両国の一般市民の身の安全確保の交渉だ!

両国の疲弊した老若男女問わず病人、そして子供達を助けるべきだろうが!
あんたら軍人だろ!ならば人だ!心があるはずだ!
アンサーヒューマンやレプリカントやロボットヘッドにも心はある!心があるなら人道があるだろうが!
民衆をないがしろにする事はくれぐれもやめていただきたい!
生きて心がある人が疲弊した者達を甚振り踏みにじる姿なぞ以ての外だ!
んな事したら…キャバリア以下だ!外道だ!
そんな事はさぞかし頭のいい政治家やご立派な軍人ならば分かるはずだがな!分からんならば…
分かれよ!石頭め!

…後は勝手にしろ!



●国とは誰が為に在る
(今後の統治に捕虜の取り扱い、首脳陣の処遇や賠償問題……これが後始末ってやつか。ある意味で戦いよりも厄介だな、これは)
 猟兵の介入によって終戦交渉の会議も大枠が見えてきている。それ自体は非常に良い事だが、ある意味でここからが政治の本番だ。文言や言い回しの些細な違いが、後々の命取りとなる場合も珍しくはない。それらを一つ一つ潰してゆく作業は戦闘に勝るとも劣らぬ苦労が発生していた。
(おとぎ話みたいに皆幸せに暮らしました、めでたしめでたし……てならんのがこの世界の不条理だし道理だな、馬鹿げてる! くそ……その上、遍歴の騎士が政治に参加するなんてな。嗚呼、ほんっとに馬鹿げてる!)
 聞いているだけでも疲労しそうな内容を自らの脳内で噛み砕きつつ、ベルトはおもわずげんなりとした表情を浮かべてゆく。昔の政治家が『国際情勢は複雑怪奇』と嘆いた逸話は有名だが、専門家でさえ手を焼くのだ。ポッと出の立場で介入を求められるのは荷が重すぎる。つまり端的に言えば、騎士はこの状況に腹を立てていた。
(だが、それ以上に馬鹿げている事があるッ! この戦いに関わった者として、絶対に見過ごせない点がな! 全く、こ~ゆ~のが嫌だから軍人なんかやめて騎士になったのに……こ~なりゃあのグエンの言う通り引っ搔き回してやる! ベルト・ラムバルドは男だ! 求めには応じよう! その後がどうなるかは知らんがな!)
 裕福な家を捨て、組織の束縛を嫌って飛び出し、後は独り流離う遍歴の騎士。必要が必要たる理由が分からない訳では無いが、剣を以て勝敗を決する方がやはり性に合っている。故にこそ、こうした場でも己が信義を貫かんとベルトは腹を括ってゆく。
「双方ともにより良い明日の為、激論を交わす事は誠に結構! 然れども、どちらも肝心な事をお忘れではないか!」
 彼はやおらと立ち上がると、胸を張り威風堂々と周囲を睨め付ける。騎士の心境を反映してかピリと張りつめた空気が漂い、背に纏う後光もまた激情を示す様に輝きを増す。俄かに増大した存在感に、その場に集った面々も否応なくそちらを注目せざるを得ない。
「……失礼、そちらのおっしゃる『肝心な問題』とは?」
「決まっている! 一般市民の安全確保、つまりは両国の疲弊した老若男女問わず病人、そして子供達をまずは助けるべきだろうが!」
 恐る恐ると言った風に訪ねて来る相手へ、ベルトは噛みつかんばかりにそう答えを叩きつけた。先ほどから話に耳を傾けていて、ずっと不満だったのだ。誰も彼も首脳部や兵士、経済の事には盛んに言及するが、その他大勢を占める国民についての言及が余りにも少ない。騎士道を尊ぶ者として、流石にこの流れを看過することは出来なかったのである。
「国あっての民草に非ず、民草あっての国家だ! 国民感情云々と嘯きながら、そこを吐き違えている時点で既に間違っているぞ! そんな事ではどんな名案を考えた所で、早晩破綻する事が見え切っている!」
 だからこそ、ベルトは真正面から堂々とこの領域へと切り込んだ。とは言え自ら内心零していたように、彼には百戦錬磨の政治家連中を『理』で説き伏せる力はない。しかし、こうした状況が決して理詰めのみで決まる訳では無いと言う事も知っている。
 時に勇壮かつ雄弁に、時に切々とした、そして時には穏やかな。魂を籠めた演説、つまりは『情』の力が政局を左右する事例も往々にして存在するのだ。騎士は『理』ではなく『情』に訴えかけるべく、半ば本能的に身振り手振りすら交えて言葉を紡いでゆく。
「あんたら軍人だろ! ならば人だ! 心があるはずだ! アンサーヒューマンやレプリカントやロボットヘッドにも心はある! 心があるなら人道もあるだろうが! そうだろうッ!」
「いや、何も我々とてそれらを蔑ろにするつもりは……ッ!?」
 そして当然ながら、相手もその効果を知っている。故に猟兵の発言をいったん押し留めようと口を開きかけるも、ベルトはダンッと勢いよくテーブルを叩く事で逆に相手の二の句を遮った。『鉄は熱いうちに打て』と言う様に、この手の話は熱量こそが肝だ。
 尤も、彼もそこまで計算尽くという訳ではない。ただ沸々と胸の中で渦巻いていたモノを勢いのままに吐き出しているだけだ。だが寧ろ、そうした下手に混じり気のない想いの方がより直接的に心を揺さぶるのも事実だった。
「重ね重ね、民衆をないがしろにする事はくれぐれもやめていただきたい! 生きて心のある人が、疲弊した者達を甚振り踏みにじる姿なぞ以ての外だ! んな事したら……血の通っていないキャバリア以下だ! 単なる鉄屑にすら劣る外道だ!」
 無論、この場に集った者たちとて決して国民の事をどうでも良いと思っている訳では無い。少しでも良い条件を求めてはいる。ただし、それは飽くまでも『自国民にとっての』と言う但し書きが付いてしまう。
「もちろんッ、そんな事はさぞかし頭のいい政治家やご立派な軍人ならば分かるはずだがな! 利益を求めるのも良い! 算盤を弾き冷徹に数字で判断するのも、確かに上へ立つ者としての責務だろう。しかし、人として切り捨ててはならない物があるのだ」
 敗北した『共和国』は少しでも傷を浅くしようと足掻き、勝利した『人民国』とて費やした労力に見合うだけの見返りを得ようと必死だ。その為に相手の国の一般市民に皺寄せが行ったとしても、彼らは『交渉とはそういうものだ』と割り切ってしまう。その常識が決して当たり前ではないと、ベルトは雁首を揃えた面子へと投げ掛けたのである。
「だが、もしもここまで言って分からんならば……」
 そこで騎士は一旦言葉を区切り、呼吸を整える。鋭く巡らされる視線は戦う者のそれだ。思わず、護衛や警備として張り付いていた兵士たちが銃器へ手を伸ばす。相手は鉄騎を駆った時のみならず、生身でも一騎当千の猟兵だ。万が一敵対する事態に陥れば、どれ程の被害が出る事か。
 そんなこれまでの交渉とはまた質の異なる緊張感が張り詰め、結界寸前まで高まり、そして。
「……分かれよ! この石頭めッ!!」
 ベルトはそう吐き捨てると、後は勝手にしろと言わんばかりに席へドカッと腰を下ろす。周囲は一瞬意表を突かれて身を震わせるが、一先ず発言が終わったと悟るや弛緩した空気が流れてゆく。深々と息を吐く者、煙草に火をつける者、水で口を湿らす者。反応は様々だが、騎士の言葉が刻まれたことは確かだろう。
「……青臭く、粗削りな演説だったな。だが、ああいう愚直なまでの真っ直ぐさは嫌いじゃない」
「ふんっ、思ったことを言ったまでだ。当たり前だろう、こんなのは」
 愉快そうに笑みを零すグエンとは対照的に、ベルトは憤懣やるかたなしと言ったように鼻を鳴らす。少なくとも、騎士の言葉を軽んじる者は居まい。斯くして自分の役目は果たしたと、猟兵は引き続き会議の推移を見守ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
お対価をもぎ取るですって?(話しをちゃんと聞いてない)
わたくしもお勝利のご褒美頂けますの?
わたくしご褒美大好きですわ〜!
頑張ったのでたくさんご褒美頂きたいですわ〜!

わたくしがお求めになる勝利のお対価!
それは…んんん?
お領土?お財産?お労働者?
わたくしお姫様なので間に合っておりますわ〜!
誰かのお首?
おマグロのお首なら頂きたいですわねぇ…あれは美味しいのですわ〜!
そんなものよりご馳走!ご馳走ですわ〜!
頑張ったのでわたくしお腹ぺこぺこですわ〜!
お戦勝祝いですわ〜!
美味しいものが沢山食べたいですわ〜!
お酒も飲みたいですわ〜!一番いいのを頼みますわ〜!
あら…?皆様どうしてそんな御顔なさっておりますの?
はっ!?まさか…ご褒美頂けませんの!?
頑張ったのにご褒美貰えないわたくしかわいそうですわ〜!
涙が出てしまいますわ〜!
止まりませんわ〜!
因みにストゼロ味ですわ〜!



●酔いて蟠りを解きほぐし
「……さて、終戦条約に関する交渉も佳境を越えたと言って差し支えありますまい。細かい文言はまた追って詰める必要はありますが、概ね内容は定まったと言って良いでしょうな」
 『人民国』と『共和国』の交渉会議が始まってから、既に半日以上が経過していた。各々が激論を交わし合い、少しでも利を得ようとぶつかり合う、言葉を弾丸とする最後の戦い。それは猟兵たちの介入の甲斐あって、一つの穏当な決着を迎えつつある。
 議事進行役は小さく咳払いすると、参加者の顔を見渡してから取り纏めた内容を改めて確認し始めてゆく。
「それでは『人民国』と『共和国』の終戦に係る条約について、以下の通りに定める」

 一つ、『共和国』の各種主権は段階を経て縮小。最終的な見通しは別途定めるが、当面は『人民国』に属する『自治領』として扱う。『共和国』に一定の権利を残しつつ、代わりに定められた賠償金・生産資源を『人民国』へ支払う事。
 一つ、戦時中に発生した違法・犯罪行為に関しては調査を行い、公平公正な裁判を以って然るべき処分を下す。なお、これに『人民国』『共和国』の籍は問わない。
 一つ、統治機構に関してはグエン将軍を頂点とした『人民国』側が、ホアン参謀を中心とする元『共和国』側を主導しながら統治。戦力に関しては自治に必要な範囲のみに限定して保有を認める。
 一つ、上記と並行し、両国は疲弊した国民の慰撫安寧に努め、以って再びの平穏を希求すべし。

(……ま、落とし所としては一番良いラインに落ち着いたか。結構、誠に結構なことだ)
 語られる条約内容に耳を傾けつつ、グエンは肩の荷が下りたとばかりに深いため息を吐いてゆく。懐から葉巻を取り出し、マッチでそれに火をつけて紫煙を肺腑へと送り込みながら、改めてその内容を吟味する。
(『共和国』は『人民国』の下に収まりつつも、国家としての枠組みは維持できた。統治機構には何故かワシが担ぎ上げられたが……まぁ、ホアンの奴に丸投げすればいいだろう、うん。加えて国民の慰撫については努力目標的な文言だが、国内政情が安定すればそちらも自ずと好転するはずだ)
 限りなくベストに近いベター。百点満点なぞ望めぬこの手の話し合いを鑑みれば、最上だろう。懸念点があるとすれば裁判周りの内容だが、それもそこまで悪い事にはならないとグエンは考えていた。
(裁判に関してだけは各々の行い次第よな。幾ら懲罰的な色が薄れたとはいえ、流石にやらかした馬鹿まで無罪放免とはいかん。締めるところは締めねば今後に差し障る。恨むなら己の所業を恨んで貰おうか)
 ともあれ、これにて交渉の山場は抜けたといってよい。後は細々とした部分を修正し、体裁を整え、後日改めてお互いに条約文書へ署名を行う。ここで交渉のテーブルをひっくり返すような真似でもなければ、これで一区切りである。
 まぁ、今更そんな真似をする奴なぞ――。
「ふぇ……? お対価をもぎ取るですって? つまり、わたくしもお勝利のご褒美頂けますの? わたくしご褒美大好きですわ〜! とっても頑張ったのでたくさんご褒美を頂きたいですわ〜!」
 居たわ。なんだか小難しい話が長引きすぎて、メサイアは途中からすっかりお眠であった。しょうがねぇだろ、(知能指数が)赤ちゃんなんだから。しかしどうやら、会議の終わりを何となく感じ取って目が覚めたらしい。どうせならそのまま寝ていてほしかった。
 その上、皇女はお姫様なので政治とかよく分かんないのだ。三行以上の文章も理解できない。ただ厄介な事にご褒美とかプレゼントと言う単語には非常に敏感だった。メサイアは状況を良く分かっていないまま、ダンッと勢いよく立ち上がる。
「わたくしがお求めになる勝利のお対価! それは……んんん? お領土? お財産? お労働者? わたくしお姫様なのでどれも間に合っておりますわ〜! 持って無いのは、誰かのお首? おマグロのお首なら頂きたいですわねぇ……あれは美味しいのですわ〜!」
 ああもう滅茶苦茶だよ。頭お花畑な発言を垂れ流す皇女の姿に、議場全体へ『どうすんだコレ』と言う空気が充満してゆく。ただ、彼女が傭兵の一人だと言う事だけは理解できたのだろう。グエンの近くに居た者が、恐る恐る耳打ちする。
「グエン将軍、彼女はいったい!?」
「さぁ…………?」
 ここで漢グエン、勇気ある|戦略的撤退《たにんのふり》を敢行。知らない子ですねと視線を逸らす。まぁ当然の反応である。終戦の為に火中の栗は拾ったが、流石にこの|爆弾《メサイア》処理までは荷が重すぎた。
 一方の皇女はそんな心労を知ってか知らずが、ウキウキな様子で報酬と言う名のご褒美を要求し始めてゆく。
「そんなものよりご馳走! そう、ご馳走ですわ〜! 頑張ったのでわたくしお腹ぺこぺこですわ〜! お戦勝祝いですわ〜! 美味しいものが沢山食べたいですわ〜! お酒も飲みたいですわ〜! おドンペリとか、一番いいのを頼みますわ〜! もう待ち切れませんので、まずは駆け付け三杯ですわ~!」
 カシュッと響くは炭酸の抜ける音。この|皇女《アマ》、遂に酒を持ち出しやがった。しかも上品ぶった高級酒ではなく、労働者御用達のストロングな缶チューハイである。お姫様とは何か。そんな非常に難解な哲学的命題に対し、議事進行役の答えは極めてシンプル。
「おい、済まんがちょっと憲兵隊を呼んで……」
「待て待て待て、待ってくれ!? 頼む! お願いだからッ!」
 流石にそれは不味いと、グエンが泡を食って進行役に縋りつく。確かに引っ掻き回せとは暗に伝えたが、間違ってもこんなカオスは求めていなかった。うん十年の軍人生活の中で始めて出会ったタイプである。いや、こんなのが早々エンカウントしてたまるか。
 周囲の『何のつもりだテメェ』と殺意交じりの洒落になってない視線に対し、グエンは『そんなこと言われても』と半分泣きそうになりながら思考を巡らせてゆく。何だったらメサイアも不穏な空気を感じ取り、ちょっと泣きそうになっているのが非常に図々しかった。
「あら……? 皆様、どうしてそんな御顔なさっておりますの? はっ!? まさか……ご褒美が頂けませんの!? 頑張ったのにご褒美貰えないわたくし、とってもかわいそうですわ〜!」
 可哀そうなのはこんな状況に放り込まれたグエンと他の参加者たちである。知能指数の寒暖差が急すぎて風邪を引くレベルだ。もし緊張続きだった会議の空気を和らげようという意図なら大したものだが、まず間違いなくそんな賢い事なぞ考えちゃいまい。
「涙が出てしまいますわ〜! 止まりませんわ〜! 因みにストゼロ味ですわ〜! これがほんとのなみだ酒ですわ~!」
 いや寧ろ余裕バリバリそうだった。小粋なジョークを挟んではいるが、流石に乗って来る様な命知らずは居ないらしい。とそこで、グエンはある事を思い出して思わず手を打つ。
「そ、そうだ! 確か、条約会議後に親睦を深める為のレセプションを準備しておったろ? 交渉もほぼ終わった事だし、少し早いがそれを始めてしまうのはどうだ」
 何を暢気なと思われるかもしれないが、酒を入れれば誰しも気や口が緩むもの。そうした場もまた交渉を繰り広げる立派な戦場だ。交渉の首尾次第ではあったが、場を改められる様に予め宴席が用意してあったのである。
「まぁ、議題も概ね固められた事ですしな。両国とも一旦内容を持ち帰り、正式な調印はまた後日実施すればよろしいでしょう。レセプションの内容もそれに見合ったものを揃えておりますし、猟兵殿にもきっとご満足頂けるでしょう」
「それってつまり、マグロの首もございますの!?」
「いや、ここ見ての通り内陸国なんですが???」
 何はともあれ、すっかり交渉会議を続ける空気でもなくなってしまった。それに長時間の話し合いでみな疲れ切っていたのも事実だ。議事場からレセプション会場への移動を案内され、メサイアを筆頭に参加者たちがゾロゾロと席を立ってゆく。
 それらを見届けつつ、最後まで残っていたグエンは一瞬だけ立ち止まり、伽藍洞になった議事場を振り返る。その瞳に映るのは此処に居ない我俺の友の姿。
「次にこの場へ足を運ぶのは、終戦条約への調印式か。俺と一緒に働くことになると知らされたお前がどんな顔をするのか、楽しみで仕方がないわ」
 そう言う意味ではやや慌てさせられたとは言え、やはり猟兵には感謝しなければならないだろう。少しでも彼らの働きを労わんと、老将軍もまた足早にその場を後にしてゆく。

 斯くして、『人民国』と『共和国』の戦争は此処に終結を見た。
 両国が今後どのような未来を創るにしろ、そう悪いものにはならないだろう。
 それは間違いなく、猟兵たちの尽力によるものだ。
 その結果を噛み締めながら、彼らは一先ず華やかな宴席を楽しむのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年11月01日


挿絵イラスト