【サポート優先】涙をなくす
これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです(通常参加者を採用する場合もあります)。
●
無数の血の流れが連なり、束ねられた、蓋であり大地でもある、第二層の地。
過去だけが蔓延る筈の場所に、突如として現れた城があった。
「ほら、ミア。ウィルさま、おとうさまよ」
城の中。数十個の水晶が浮かぶ回廊を、ひとりの女の姿をしたものが、ゆっくりと歩いていく。
「ミアとおかあさまのために、がんばって下さっているの。……あら、ふふ。ちゃんとわかるのね。賢い子ね。おとうさまも、嬉しそう……」
女の動作は、ゆっくりと穏やかだ。まるで、赤子を抱いて夫に逢いに行くように。
女の声は、やわらかく幸福そうだ。まるで、水晶に浮かぶすべてが、愛する夫であるかのように。
女の足取りは、一定を刻んでいる。まるで、水晶に繋がる鎖すら、認識していないかのように。
「おかあさまもおとうさまも、ミアのことが大好きよ」
赤子をあやすような動作を享ける手の中のおくるみは、身じろぎどころか、呼吸ひとつ発しない。
清廉な白だったドレスは、あちこち血に濡れ、その白さをただ痛ましく浮かび上がらせる。
「ああ、泣かないで。大丈夫。大丈夫よ。何があっても――お母様が、ミアを、守ってあげますからね」
その瞳が、虚空を見る。
「家族三人で、いつまでも、幸せに。その為なら、私は、ミアのお母様は、何だって――」
視線のむこう。遥か彼方で、第二層の六つの赤い月が、浩々と輝いている。……。
●グリモアベース
「ダークセイヴァー第二層に、第五層にいた月光城のオブリビオンが集結しているのは知っているかしら。そのうち一体の正確な居場所が判明したわ」
いつものグリモアベースで、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)がそう切り出した。
「今回見つかった月光城の主は『ソフィア・ブラックローズ』。人と恋に落ちて、不幸な最後を迎えた吸血鬼の『過去』よ」
オブリビオンとしての彼女は、『過去』として蘇るその度に、愛した夫の面影を持つ男を探し、幸福を再現しようとする。
そして今回。月光城の主としての彼女は、そうした男たちを|人間画廊《ギャラリア》の水晶に閉じ込め、夫と子供と共に在るのだと信じ込み、信じ込んだまま、何かをしようとしている。
「説得は、正直通用しないと思った方がいい。結構長いこと活動していたからか、他の要因からか、今の自分に対する認識が、ものすごく強固なの」
それに加えて、|人間画廊《ギャラリア》によって、月の眼の紋章と融合している為、迎撃する能力も跳ね上がっている。
「彼女自身の戦闘能力も強力だけど、月の眼の紋章の力は更にそれを66倍にするわ。加えて、紋章から飛び出す棘鞭への対処も必要よ」
特に『腕に抱いた骸が傷つけられる』という条件で発動する呪詛は、猟兵であっても、無防備に食らえば即死級の代物だ。
「紋章の力は、|人間画廊《ギャラリア》に囚われた人を解放すれば弱体化、無効化出来る。状況的に難しいとは思うけれど、救える可能性がないとは言わない。現地の状況と判断に任せるわ」
長い活動の為、囚われた人々は命をすり減らしている。
だが、完全な手遅れであれば、そもそも紋章自体が稼動しなくなっている筈だ。
タイミングとしては、五分よりは悪いが、手遅れではない。
油断せず、気をつけてことに当たって欲しい、と告げたコルネリアが、ふと、言葉に迷う素振りを見せる。
「あと、はっきりとした事は言えないけれど、……不完全な闇の種族にも、遭うことになる、みたいだわ」
歯切れの悪い様子のコルネリアは、何かを探すように眉をひそめている。
「変身するのか、召喚するのか……とにかく、戦うことになる。そして、どうもまだ、『欠落』を見つける必要があるほどの力は得ていない」
わかった範囲のことを述べ、ひとつ息を吐いて、コルネリアは続ける。
「はっきりと言えなくて申し訳ないけど、どちらも、撃破する必要がある相手なのは間違いない。――どうか、気をつけて」
健闘を祈ります。と、コルネリアは言葉を結んだ。
越行通
こんにちは。越行通です。
こちらは、サポート参加の方を優先的に採用するシナリオとなります。
通常参加のプレイングも歓迎です。
時間が取れるタイミングで執筆、進行予定です。
第1章 ボス戦
『『愛の残影』ソフィア・ブラックローズ』
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POW : 私の子
【抱く骸を傷つけた敵を即死させる呪詛を纏う】事で【呪詛に全力を吸われるが尚強大な吸血鬼貴種】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : なぜ、この方達を私は殺してしまったのでしょう…?
自身の【優しき気性、家族を殺した人間達と父の亡霊】を代償に、【地形改変。茨で拘束し吸血する黒薔薇の花園】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【強力。【私の子】の呪詛を纏った自身も戦斧】で戦う。
WIZ : ウィル様とミアとの暮らしを邪魔しないでください!
【【私の子】の呪詛を纏いその余力で戦うこと】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【膂力と愛憎の呪詛で全て破壊する家伝の戦斧】に変化させ、殺傷力を増す。
イラスト:桐ノ瀬
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「トリテレイア・ゼロナイン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ティエル・ティエリエル(サポート)
◆キャラ特徴
ボクっ娘で天真爛漫、お転婆なフェアリーのお姫様です。
王家に伝わる細身のレイピアを使った空中からのヒット&アウェイで戦うのが得意な女の子です。
・冒険大好きお姫様
・珍しいものにも興味津々
・ノブレス・オブリージュの精神で弱者を放っておけないよ
・ドヤ顔がよく似合う
・困ったら動物さんに協力を!
◆戦闘方法
・背中の翅で羽ばたいて「空中戦」や「空中浮遊」で空から攻撃するよ
・レイピアに風を纏わせて「属性攻撃」でチクチクするよ
・対空攻撃が激しそうなら【ライオンライド】
・レイピアでの攻撃が効かない敵には【お姫様ビーム】でどかーんと攻撃
クロト・ラトキエ(サポート)
基本、戦闘中は無口。
静かに、密やかに、確実に…
鋼糸やワイヤーを張り巡らせ、陸空構わず足場とし、武器として、
他に、毒にナイフ…と多彩な暗器で敵を討つ。
物心ついた時から戦場に在り、
仮令、相手が誰であっても、如何なる強者や数だろうと、
ふわり、いつも通りの微笑みを絶やさない、生粋の戦場傭兵。
かわいい小動物から猛獣まで、生き物には避けられがち。
かなしみ。
常に周囲を視。
敵の動きや特性を見切り、回避や攻撃へと繋げる、
距離・範囲拘らずの攻撃orサポートタイプ。
温かな癖に、凍れる感情。
特に色仕掛けは効かない。
状況に合わせ、動きやUCはご自由に。
物語にとって良い様に、上手いことサポートさせて頂ければ幸いです。
ヴィリヤ・カヤラ(サポート)
次に繋げる場合にできる限り有利になるように頑張るね!
武器は月輪や他の武器も状況次第で使っていくね。
攻撃を受けたらカウンターで月輪を使ったりしてみるよ。
連携時はタイミングを合わせて、
危ない時にはフォローに入れるように気をつけておくね。
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
中村・裕美(サポート)
副人格のシルヴァーナで行動します
『すぐに終わってしまってはもったいないですわね』
多重人格者の殺人鬼× 竜騎士
外見 赤の瞳 白の髪
口調 (わたくし、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)
裕美のもう一つの人格で近接戦闘特化。性格は享楽的な戦闘狂
戦闘では【残像】が残るような優雅ステップで敵に近づき、惨殺ナイフによる【切断】を【早業】で繰り出す
ドラゴンランスを使うことがあれば、相手を【串刺し】にするか、竜に変えて【ブレス攻撃】
【瞬きの殺人鬼】使用後の昏睡状態はもう一つの人格に切り替えカバー
電脳魔術が使えないので裕美の能力が必要な場合は【オルタナティブ・ダブル】で呼び出します
あと、虫が苦手
リカルド・マスケラス(サポート)
『正義のヒーローの登場っすよ~』
装着者の外見 オレンジの瞳 藍色の髪
基本は宇宙バイクに乗ったお面だが、現地のNPCから身体を借りることもある
NPCに憑依(ダメージはリカルドが請け負う)して戦わせたりも可能
接近戦で戦う場合は鎖鎌や鎖分銅の【ロープワーク】による攻撃がメインだが、プロレスっぽい格闘技や忍者っぽい技もいける
遠距離戦では宇宙バイク内臓の武装による射撃攻撃やキャバリアによる【結界術】
その他状況によって魔術による【属性攻撃】や【破魔】等使用。
猟兵や戦闘力のあるNPCには【跳梁白狐】で無敵状態を付与できる。
基本的にチャラい上辺ですが、人々の笑顔のため、依頼自体には真面目に取り組みます
●
腕に抱いた『子』をあやしていたソフィア・ブラックローズが、ゆっくりと視線を上げる。
回廊の向こうから、堂々と靴を鳴らして近づく気配。そちらの方へじっと視線を注ぎながら、片腕で抱え込むように『子』を抱く。
「ごきげんよう、月光城の城主様」
笑みを含んだ声と共に、白い髪を靡かせて中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)――その別人格のシルヴァーナが姿を現す。
「お会い出来て光栄ですわ」
「何か御用ですか。知らない方」
「あら、もうお気づきではありませんの? そんなに張り詰めたお顔をなさって」
シルヴァーナの指先が唇を撫でるのと、ソフィアの全身から呪詛が吹き上がるのは、ほぼ同時だった。
弧を描く口元をそのままに、シルヴァーナが残像を残す程の速度で距離を詰める。
振りかぶられたナイフが僅かな光を反射し、その軌跡が横に避けたソフィアのすぐ目の前を掠めた。
ソフィアの眼差しが、より鋭利に、より黒々とした敵意を宿す。
「貴種の方とのダンスなんて、滅多に出来ない経験ですわね」
――ねえ、踊りましょう?
誘うように、ソフィアへと惨殺ナイフを突きつけ、その切っ先を遊ばせる。
「私の子に、手出しはさせません」
答えず、シルヴァーナは笑っている。
彼女へと、ソフィアの攻撃と呪詛が伸びてゆき、ある一点で弾かれた。
「!?」
咄嗟に距離を置いたソフィアが視線を巡らせると、シルヴァーナの来た方角に、更なる人影を見つける。
「私たち、貴女に用事があるんだよ」
うごめく影に手を添えたヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)が、金色の目でソフィアを真っ直ぐに見つめる。
「結果的には、そうなっちゃうのかもしれないけれど」
「何故?」
呪詛を纏ったまま、戦斧を取り出して右手で構えたソフィアが、鋭く吼える。
「あなたは、何故、ウィル様とミアとの暮らしを邪魔するというのですか!?」
「――」
一瞬、ヴィリヤは錯覚した。その『何故』が、ヴィリヤの生まれと行動を弾劾していると。
けれど。
(違う)
錯覚と同時に、経験と本能的な感覚で、ヴィリヤは思う。
怒りに満ちて斧を構え、シルヴァーナを牽制しながらこちらを見るその目は、この場の誰も区別していない。
すべてが『敵対する誰か』でしかない。彼女自身の世界に、たったひとり。
「炎よ。熱き刃となって射抜け」
ヴィリヤの周囲に生まれた青い炎が、刃をかたちづくってソフィアへと伸びる。
それと同時に、シルヴァーナの手に飛び乗った小さなドラゴンが槍に変わり、戦斧とがちりと噛み合う。
「私が、私が守ってみせます! 何もかも、何もかもから!」
シルヴァーナの槍を受け止め、鍔迫り合いに押し勝ちながら、幾重にも伸びてきたヴィリヤの炎のことごとくを、飛び出した棘鞭で迎撃する。
言葉にすればそれだけ。――だが、シルヴァーナの早業と電脳魔術による補助、よく観察して呼吸を合わせ、練り上げたヴィリヤの魔術のすべてを受けて健在というのは、尋常ではない。
それでも、彼女達は攻撃を続ける。排除すべき侵入者として、少しでも長く在るように。
●
主戦場となっている場所から離れた、水晶の立ち並ぶ一画。
ひょこりと物陰から身を乗り出し、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)はなるべく静かに水晶に触れる。
「待ってて。こんなひどいとこ、すぐに出してあげるから」
目的のため、常の溌剌とした声を抑えて。けれども、輝く瞳がいつも以上に強く、囚われた人影を見つめる。
閉じ込められた相手の目が動く。それを確認してから、ティエルは羽ばたきと共に鎖の方へ回り込んだ。
「鎖を壊して、すぐこのひとたちを隠すんだよね?」
「はい。それもなるべく静かに」
溶け込んでいた闇から浮かび上がるように、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が頷いた。
「強度を調べてみましたが、これなら、少し準備をすれば、連鎖的に壊せそうです」
「じゃあ、解放された端から、ボクのフェアリーランドに招待すれば安心かな?」
「そうですね。ここを起点に一回りで回収出来るようにします」
言葉を交わす間も、クロトは次々と鋼糸を水晶や周囲の壁、突き立てたフックなどと絡め、蜘蛛の巣のような大仕掛けを作り上げていく。
前線での時間稼ぎのお陰だろう。このままいけば、ひとつ引くだけで、全ての鎖を切断するように仕込みが出来るだろう。
手を休めず、思考する。
――|人間画廊《ギャラリア》からの解放は、生死を問わない。
ぱっと見た限り、解放されて助かるものも居れば、生きていくのにはもう足りない危険があるものも居るように見える。
後者がいよいよ危なくなったとき。躊躇いなく手を下せるのは己だろう、と、クロトは思う。
とはいえ、それは、今すぐのことではない。
それが出来るという事実がはっきりしているなら、まだ起こっていないことをあれこれ考える必要はない。
「う~、このひとたちの命を使って、好き勝手やってる……解放されたら、ただじゃおかない!」
待機中のティエルが、飛び出したい気持ちを懸命に堪えている。
それが報われるかどうかは、抗戦しているふたりと、クロトの働き次第でもある。
●
「りかるどさん つかれてない?」
「いや、全然大丈夫っすよ。戦場ガン見しながら破魔の結界何度も貼り直すだけっすからね」
「それが つかれないのかなって おもったんだけど」
前線で戦うシルヴァーナとヴィリヤの様子を見守るネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)が、手に持っているリカルド・マスケラス(希望の|仮面《マスカレイド》・f12160)とひそひそ話しをする。
今のリカルドの役割は、ソフィアの呪詛から、この場の猟兵全員を守るのに専念すること。
そしてネッドの方は、本体を外したリカルドの身体と機体の傍で戦場全体に気を配り、より作業に専念しやすくするのがひとつ。
「でも そろそろ ふたりのひろうも しんぱい」
「うーん。ヒートアップしてるとはいえ、そろそろやばいって合図はちゃんと送ってくれる筈っす……あ、噂をすれば」
ヴィリヤの操る炎が、攻撃に紛れて一筋、逸れたと見せかけて天井近くへ伸びて消える。
「それじゃあ もうちょっと ひっかきまわす」
クリーピングコインを足元に煌かせ、ヴィリヤがこちらに視線をやったことを確認してから、ネッドは掌を天井に向ける。
「あめあめ ふれふれ そーだすい」
「――きゃああ!?」
一瞬で広い空間全てを雲が埋め尽くし、しゅわしゅわとした雨が全域に降り注いだ。
咄嗟に『子』を抱え込むように抱くソフィアの周囲が、彼女の知らない深さ、暗さ、重さを纏う。
「は、あ、っ」
守るように両腕を抱くソフィアの口から、こぽこぽと泡が漏れる。
溺れた足が宙に浮かび、リカルドの支援を受けたシルヴァーナとヴィリヤが体勢を整えたとき。
一斉に、|人間画廊《ギャラリア》の水晶が砕けた。
「……ど、どうして!? いや、ウィルさま……!」
懸命に振り返ったその先に、彼女が見ていた『ウィルさま』は、ひとりも居なかった。
●
「これが最後のとっておき、どうぞ味わって!」
紋章の力を失い、動揺するソフィアに槍の一撃を食わせたシルヴァーナの手元から、更に召喚されたドラゴンが羽ばたいて、ソフィアの全身を打ち据える。
ヴィリヤが炎の刃を立て続けに爆発させ、ネッドの曳くソリから手を伸ばしてシルヴァーナと共に安全圏へと撤収する。
身体を丸め、『子』を抱きしめるソフィアの口から、這うような声が漏れる。
「私、私、まだ……まだ殺しきれていなかった?」
落とした言葉が、芽を出し、花が開く。
ソフィアの足元を中心に、黒薔薇が咲き乱れ、花園を作り上げていく。周囲を包む深海を否定しながら、伸びて、咲き誇る。
「どうして……お父様を、あの方たちを……私、確かに。でも、どうして」
黒薔薇を支えにゆっくりと立ち上がり、戦斧を拾い上げる。
花園から逃げるように走るソリへと、茨が、続いてソフィア自身が、追いすがるべく、走り出す。
振りかぶって、今度こそ。
夫と子の平穏を守るのだ、と。そう考え、行おうとした。
「そこだぁ!」
「ぃ、……――!!」
「大当たり☆」
斧を握る側の肩に深々と刃が突き立った感触が、ソフィアの動きを止めた。
鋭い痛みに斧を取り落とし、膝を突いたソフィアに、羽ばたいて距離を取ったティエルがドヤ顔をしてみせる。
「ボクのこと、ぜんぜん気づかなかったでしょ♪ これ以上、好きにはさせないよ!」
傷口を押さえることを諦め、残った腕で『子』を強く抱きしめたソフィアは、それでも茨を伸ばそうとした。
だが。伸びた茨は、別な茨によって絡め取られ、動きを止める。
――黒薔薇の中に、別な黒薔薇が混ざっている。
「少々、お借りしましたよ」
切り伏せたと思しき茨を無造作に散らして、クロトが敢えて姿を現す。
「得物は握れず、薔薇はこの通り。その上、もう」
クロトは言葉を切り、ソフィアが抱え込む『子』に、目を細めて沈黙する。
彼の耳に、機械の駆動音が聞こえる。ならば、後は任せるだけだ。
「いやー、いい花園っすね! 折角なので、ちょっとドライブでもいかがっすか!」
正しく一歩横にずれたルートに、改めて宇宙バイクに騎乗したリカルドが、深海も花園も置き去りに飛翔して滑り込んできた。
「ま、目的地はアンタの敗北っすけどね」
「きゃあ! ミア、ミア……!」
容赦のない関節技でソフィアを拘束したリカルドの表情が、一瞬だけ、不愉快な無になる。
取りこぼした、『子』が、床にとさりと落ちる。……その音が、あまりに小さく、か細い。
「ミア、ミア!!」
半狂乱のソフィアは、そのか細さを悼みはしない。
リカルドは、それ以上躊躇しなかった。
クロトの支配する、茨溢れる床へ。容赦なく、ソフィアと呼ばれた女を叩き付ける。
愛した男と思い込んだ他人を、閉じ込めて、命を啜り。
生きていると思い込まれた骸は、悼まれ、弔われることはない。
だから、彼女はひとりきり。
いつでも、いつまでも、ひとりきり。
●
幾重にも纏った呪詛の代償と、激しい戦闘による負傷。肩の傷と茨の痛み、叩きつけられた全身が悲鳴を上げている。
これ以上、存在出来ない。夫のくれる力を失い、抱きしめるべき腕は空っぽで。
「それ、でも……」
空っぽの左腕を、伸ばす。
ミア、と小さく呻いて、咳き込み、目を閉じる。
そして、その目を、大きく見開いて。
「――それでも、私は、尚も、五卿六眼の欠落を求める……!」
夫の名でも、子の名でもない、ただひとつのことばを唱える。
第二層の空に浮かぶ、六つの赤い月。
そのひとつから、赤い光が放たれ、吸い込まれるようにソフィアのもとへ降り注いだ。
ゆるりと、持ち上げられたように身を起こす。
手足はだらりと伸びて、俯いた顔は黒々とした闇の中に落ちてゆく。
全身が月の如く煌々と輝いて、異形の腕が幾つも生えた。
白いドレスは、闇の種族の衣に。華奢な身体は、一回り二回りと大きくなっていく。
黒薔薇は失われ、戦斧は塵と消える。
みぁ、と、誰かが聞いた気がした。
それが、変貌の最後。
――生まれ変わったように、『ソフィア・ブラックローズ』だった女は、あらゆるすべてを一変させていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『聖王プラグマ・ケイオス』
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POW : 聖王武装
無敵の【『聖王の武具』】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : 聖王の御使い
レベル×1体の、【胸元】に1と刻印された戦闘用【天使】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 破魔の闇撃
【聖王の法力】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【猛毒】の状態異常を与える。
イラスト:鹿人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
印旛院・ラビニア(サポート)
・境遇的なものもあり、思考や嗜好は成人男性のものです(恥ずかしい境遇なので自分からは喋らない)
・基本的にはヘタレで気弱、強者にビビるし弱者に慎重な面もありますが、物事がうまくいったり周りに煽てられるとイキり散らかして墓穴を掘ることもあります
・なんだかんだで人がいいので困っている人につい手を差し伸べたりしちゃいます
・やり込みゲーマーで現状を学ぶ【学習力】と自分のプレイに【チューニング】できる応用力が武器
UCは指定した物をどれでも使用し、他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
シン・クレスケンス(サポート)
◆人物像
落ち着いた雰囲気を持つ穏やかな青年。
窮地でも動じず冷静な状況判断で切り抜ける。
◆戦闘
射撃武器(主武器は詠唱銃。【破魔】の魔力を込めた銀の銃弾)による攻撃、魔術による広範囲攻撃が主。
魔力のコントロールに長け、射撃の腕も確か。
作戦次第では、闇色の武器を召喚(UC【異界の剣の召喚】)して前衛を務めることもある。
◆特技
・情報収集や追跡、索敵など
・料理も得意
◆UDC『ツキ』
闇色の狼の姿をしており、魂や魔力の匂いを嗅ぎ分けての追跡や索敵が得意。
戦闘は鋭い牙や爪で敵を引き裂き、喰らう。
◆口調
・シン→ステータス参照
(※使役は呼び捨て)
・ツキ→俺/お前、呼び捨て
だぜ、だろ、じゃないか?等男性的な話し方
エジィルビーナ・ライアドノルト(サポート)
私はエジィルビーナ、エジィでもルビーでも好きに呼んでくれていいよ。
困ってる人がいるなら助けたいし、倒さなきゃいけない強い敵がいるなら全力で立ち向かわなきゃ。全力で頑張るからね!
実は近接戦闘以外はあんまり得意じゃないんだけど……あっ、畑仕事ならチェリから教えてもらったから、少しはわかるよ!
力仕事はそんなに得意じゃないけど、足りない分は気合と根性でカバーするから任せといて!
☆
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
マヤ・ウェストウッド(サポート)
「アタシの助けが必要かい?」
◆口調
・一人称はアタシ、二人称はアンタ
・いかなる絶望的状況におちいろうとも希望と軽口をたたくことを忘れない。だけどちょっとキザすぎるのが玉にキズ
◆癖・習性
・獣人特有の鋭い野生の勘で、危機を察知できる
・紅茶中毒
◆行動傾向
・おとぼけな言動や態度とは裏腹に、困っている人を放っておけず、たとえ秩序や慣習に背こうとも、自身の正義を貫こうとする
・弱者の盾になることに存在意義を見出しており、戦場では最前線で豪放に戦う。その形相は、まさに地獄の番犬
・医学に心得があり、人体の構造を知悉している。言い換えれば、人を効率よく「壊す」方法の専門家でもある
・パンジャンドラムは淑女の嗜み
鳶沢・成美(サポート)
『え、これが魔導書? まあどうしよう?』
『まあどうでもいいや、オブリビオンなら倒すだけですよ』
故郷UDCアースの下町の古書店でたまたま見つけた魔導書を読んで覚醒した自称なんちゃって陰陽師
昨今でいう陽キャラ? みたいな行動は正直よくわからないのでマイペースに行動
でも集団での行動も嫌いじゃないですよ
元ボランティア同好会でつい気合い入れて掃除しちゃったりしなかったり
一応木工好きでゲートボール好きキャラのはず……たぶん
例え好みの容姿だろうと、事情があろうと敵ならスパッと倒すだけですよ
実はシルバーレイン世界の同位体である自分と融合していたことが判明
三角定規型詠唱定規の二刀流で戦う様に
アドリブ・絡み・可
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
●
すべての水晶が破砕された、月光城の回廊の果て。
禍々しい武器の数々を構えた姿を物陰から覗き込んだネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)は、小さく『ステータスオープン』と呟いた。
「のうりょくと すがたは やみのしゅぞく 『プラグマ・ケイオス』 だね」
だが、欠落をどうにかしなくても、倒すことは出来ると、はっきりと口にする。
「ぶぐを つくったり がったいする てんしをよんだり やりでつらぬいたひとが きょうかされてたら どくにしたりする」
読み取った能力を淡々と伝達していたネッドが、そこで小さく「あ」と声を出し、しろくじらという名のイルカにソリを曳かせて後ろに下がる。
「あと じゅうごびょうで てんしがくる」
「アレかい? 何だかヒヨヒヨしたのが出てきてるねえ。1って番号入りだ」
「数字入りって……合体して強くなるタイプだよね!?」
「弱いうちに減らします」
いち早く察知したマヤ・ウェストウッド(フューリアス・ヒーラー・f03710)の言葉に、特性を即座に理解した印旛院・ラビニア(エタらない人(仮)・f42058)が慌てて召喚の為の手札を吟味しはじめる。
地面に膝をついたシン・クレスケンス(真理を探求する眼・f09866)が詠唱銃を構えて連射し、残る片手で命中重視のスナイパーライフルを設置した所で、定規から魔導書に持ち替えた鳶沢・成美(三角定規の除霊建築士・f03142)が一歩前に進み出た。
「広範囲魔法撃つよ。今なら天使は全滅か、数は減らせる」
「そっか。じゃあ単体向けの……」
答えて振り向いたラビニアは、成美が持っている『魔導書』を見た。君もこれで陰陽師だとか書いてある、どう見ても、読み終わったらナントカ系の香りがする本の佇まい。
しかしそんな見た目ながら、力ある魔導書からは無数の細かい氷の粒が放たれ、呼び起こされた渦巻く旋風に乗って戦場全体へと吹き付けて、天使の羽根を氷付けにしてゆく。
「なるほど、あとは合体前に落とせばいいね!」
甲高い笑い声を上げる|拳銃《クランケヴァッフェ》を携え、元気一杯前線にすっ飛んでいくマヤの前には、黙々と天使を仕留めるシンの作った道が出来ていた。天使を片端から落とし、そのままの勢いでプラグマ・ケイオスを目指している。
「これ範囲型だから、味方巻き込むときは使いづらいんだけどね」
「もし必要なら私が引っ張って逃げてくるよ!」
じゃ、私も行ってきます! と、やはり元気一杯に駆け出していくエジィルビーナ・ライアドノルト(シールドスピアの天誓騎士・f39095)を見送り、ラビニアは一旦落ち着いて現状メンバーとプラグマ・ケイオスの戦力差、先程のネッドの分析を思い返す。
――毒々しい割に聖王とか天使とか……近接もキツそうだし……なら、これかな?
一枚選び出したカードを掲げ、氷の嵐が途切れた瞬間を狙って、声を張り上げる。
「召喚! 神滅の戦乙女・ジークヒルデ!」
カードから溢れた光と共に現れた戦乙女が、プラグマ・ケイオスの持つそれに匹敵する威容の剣を構え、空気の圧が周辺一帯を震わせる。
「行け、ヴァルグラム・ノヴァ!!」
真っ直ぐに伸ばした剣先から、光線が迸る。その輝く光は荒れた城内を照らし、一瞬でプラグマ・ケイオスまで辿り着き、その中心を貫いた。
プラグマ・ケイオスを打ち据えた光線の勢いに、その身が僅かに揺らぎ、足が僅かに後方へ滑る。
その機を逃さず、マヤが零距離射撃を仕掛け、エジィルビーナが愛用のシールドスピアで突撃する。
「ぶぐに きをつけて ね」
クリーピング・コインに命じて手近な燭台や床材の残骸を放り投げるネッドに合わせ、一旦詠唱銃からライフルに切り替えたシンが、武装落としを狙う為に構えを取る。
「悪かったね。出来ればアンタみたいなからっぽさんも満足な紅茶を、ゆっくりなみなみと注いでやりたかったけど」
至近距離からの弾丸が穿つ。追って突き出されたシールドスピアが、大剣と鎌の刃とかみ合って、がきりと音を鳴らす。武器同士が震えたのは一瞬。飛来したライフル弾が、その均衡を破壊する。
距離が空いて、プラグマ・ケイオスの剣に、大きなヒビが入る。
切り取られたような、暗がりの貌は、何も語ろうとしない。ヒビの入った剣を無造作に振るって、ひどく無造作に、一番近くに居るマヤの首を刈り取ろうと動く。……。
「チッ!」
「ジークヒルデ、もう一撃!」
マヤが即座に身を捻ると同時、戦乙女の光線とシンの弾丸が僅かな差をつけて飛来し、回避を許さない連携で打ち込まれる。
「もう一度行くから、一旦離れてー」
「マヤさん、捕まって!」
了承を取るか取らないかの速さでマヤの片腕を肩にかけたエジィルビーナが、そのままぐるりと後ろを向いて、一心不乱にネッドのソリを目指す。
最初は無謀かと思われた逃走は、すぐにその不思議さを顕にした。――伸ばされた異形の腕も、黒い茨に似た鞭も、何一つとして彼女を傷つけることが出来ない。
細部まで理解出来ずとも、マヤにはそれで充分だった。
「イイコにさせる! 一斉にぶちかましな!」
その場に集う全員に呼びかけ、すう、と息を吸ったマヤは、軽く姿勢を変えて真っ直ぐにプラグマ・ケイオスを見据える。
「待て! おすわり!」
右眼の義眼から、目に見えない力が作用して、プラグマ・ケイオスの周辺を絡め取る。
ずん、という空気の変化に次いで、武具の数々が、それまでと比にならない重量を訴え、プラグマ・ケイオスの自由を奪う。
判断は早かった。
がらがらと音を立てて、武具の大多数が落とされる。
一つだけ。手元に残した大剣に、法力に属する力が注がれ、尖り、重みを増してゆく。
構えというには雑な形で頭上に掲げられた大剣は、不思議な力で足を縫うマヤを、一番に狙っている。――その全てを、真っ向から見たまま。
「撃てェ!」
再び吹いた氷の嵐が、構えられた大剣を、その持ち主ごと凍てつかせていく。
弾丸は他の武装を弾き飛ばし、光線が暗い貌へと真っ直ぐ吸い込まれた。
――幾度も。
幾度も、幾度も。互いに、武器を下ろさなかった。
立ち続ける限り、決して。
双方が、そう思っている、証のような攻撃が、最後まで衝突を繰り返していた。
成功
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月光城に、静寂が戻る。
第二層の赤い月は、何も変わらず、世界の謎を抱いたまま、赤と黒の空に浮かんでいる。
猟兵が勝利し、|人間画廊《ギャラリア》から助け出された者たちも運びだされたいま、生きるものの空気は何処にもなかった。
『ソフィア』を幸福に思わせていた『暮らし』もまた、彼女のごく一部だけが切り取られた『過去』だった。
だから、新たに得るかもしれない喜びも、先に進めなかったという失意も、何もなかった。
泣かないで、と、我が子をあやしながら。
泣くようなことも、泣くいのちも、何処にもありはしなかった。