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絶冬を征く

#UDCアース

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#UDCアース


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●参列者
 雪の頂。針葉樹と銀世界。
 王は其処に顕現されたし。
 王は空腹であられる。このような雪山では当然だ。
 集え、集え、教団よ。我らの血肉は王の為に。
 参列しよう。謁見しよう。この白紙の 上に待つ王が為。

●旅路
「いや、別に、死にたいなら放っときゃいいと思うんだけど」
 本音をいの一番に零す口元を、小型辞書型グリモアで隠しつつ。グリモア猟兵である松本・るり遥は息を吐いた。
「……多分、邪神の方はそれを望んで、無い……と、思う……」
 そんな益のない私見を吐く口を、一度一文字に結び。気を取り直すように、光る頁を開いた。何を望む望まざるに関わらず、顕現したからには、骸の海に送るだけなのだ。

 目的地、UDCアースの、とある雪山。
 その、山頂に、今回の討伐対象は在る。
「多分、邪神の縁深い場所に顕現するように、召喚儀式を行なったとか。そんなん。そんで発生地点を嗅ぎつけた教団員たちが、列をなして其処に向かってる」
 るり遥の青みを帯びた眼が、猟兵たちの様子を伺っている。ボールペンを頭部でかちこち鳴らしつつ、また光る頁を捲る。
「そして辿り着いたら邪神に己の身を供物として捧げる。……近付いて、踏み込むだけでとろかされるような……雪山の綺麗さとか、全部かなぐり捨てるような、ひっでえ絵面だった。あんま、思い出したく無い……」
 首を一度、ゆるく、横に振る。顔色も良くは無い。
「けど教団員の列を追っていれば、邪神への道のりは一直線。遭難の心配は無い。途中、いっしょに顕現した配下が襲ってくるだろうけど……戦闘して追跡を気付かれ逃走、とかの心配すら無さそう。奴ら、ひたすら真っ直ぐ、向かう。参列を、崩さない」
 故に、不自然な話では在るが。襲ってくる配下を倒しつつ、教団員の後ろを共に歩む事が近道となるだろう。るり遥はそこまで話し終えると、グリモアを閉じた。

「ああけど、何でだろ。予知の最後に、花が。見えたんだよ。こんな雪山なのに」
 その言葉に、興味を示した猟兵は何人いただろう。耳を傾けた猟兵に、現地で見てきてくれと、曖昧に笑って言葉を返す。雪山に花など無いという先入観故か、るり遥にも、よくは見えなかった。

 準備が出来たものから送ろう。神へと歩む雪路へと。


小林
 書いてるうちに絶対春うららになる。こばやしです。

 一章、教団員の後ろを歩みながらの雪山集団戦です。グリモア猟兵はああ言っていますが、しゃらくせえ!と教団員ごと吹き飛ばしてくださっても問題なくボス戦には辿り着けます。フレーバーです。
 二章、山頂にてボス戦。その後、三章日常シーンとなります。
 日常のみ、お声掛けいただければグリモア猟兵も顔を出させて頂きます。

 それでは、皆様のプレイング、お待ちしております!
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第1章 集団戦 『くちなぜつづち』

POW   :    秘神御業肉食回向
自身と自身の装備、【自身が捕食している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    風蛞蝓
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    悉皆人間如是功徳
自身の身体部位ひとつを【これまでに捕食した犠牲者】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。

イラスト:オペラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●悪路
 着けば、成る程直ぐにそれは見つかった。
 雪に閉ざされる白い道を、黒い外套が列を成している。
 グリモア猟兵の予知に従うならば、あれの後ろを辿っていけば、目的地に着く事は明白。

 時折、教団員達は何らかの文言を零している。祈り、だろうか。
 猟兵を一瞥する者も居た。もしも何か話しかけたなら、何か言葉が返ってくるかも知れない。が、有益な情報は、無いだろう。開き切り、蠢くように震える瞳孔が、それを知らしめる。

 ーー眷属として召喚されたのであろう。堅い殻に身を包まれた、一口の怪物が、ぞろり、居る。ぞろり、歩む教団員へ、無造作に食らい付き、引きずり倒す。その脳から肉を吸い上げる。
 歩みは止まらない。
 痙攣し、深いな水音を立てながら、死する肉袋に、何者も歩みを止めない。

 ねごり。舌が厚く畝る。
 後方の猟兵達へと、浮かぶように跳ね、その唾液を飛び散らせた。
 彼らにとって、肉は等しく、肉である。
リゥ・ズゥ
※アドリブ歓迎

ゲテモノ食い、と言うのだった、か。
そういうもの、ほど、美味とも、聞くが。お前達は、不味そう、だ。

(敵の初動を「見切り」、「ダッシュ」で「先制攻撃」、「カタチの無いカイブツ」で喰らいつく。
先に取り付いてしまえばいくら空中に逃れようが無意味、噛み付き合いになるなら、仲間に己ごと攻撃させ「捨て身の一撃」とし攻め続ける。
振り払われて透明になっても、こちらを狙う限り「聞き耳」と「野生の勘」で察知して「鎧無視攻撃」で内部まで浸透する「衝撃波」を「2回攻撃」の「カウンター」で叩き込み治療の暇も与えず叩きのめす。)

やはり、不味い、な。お前達の神は、美味いと、いいが。


ギュンター・マウ
汚ぇな…、見苦しい有様だなァ
邪神に身を捧げる程心酔する様は理解できねぇや

雪山なら、多少木々も有るだろ?
なるべく高い所へ、辺りが見渡しやすけりゃいい
何せ小せぇからな
飛び跳ねてる敵は面倒だから回避するぜ

ある程度敵を視認できれば歌唱の為に深呼吸を一つ
「なぁなぁ、お前らは死合わせか?」
ありったけの呪詛を込めて曖の詩を

そういやあの配下耳あんのか?
…口有るからどっかに耳もあるだろ、まいっか
まぁ耳がなくても、声が振動するだけでも多少の攻撃にはなるから

俺はあくまでもサポートだ、他の猟兵たちに繋げられればいい

…ってか本当にこんな雪山に花なんてあるのか?
あったとしたらそらぁ…天国の花じゃね
見てみてぇ、気はする。


鹿忍・由紀
ついていくだけで良いんなら楽で良い。…って思ったけど流石に寒いな。
普段だったら面倒くさいって思うけど、今回は配下が出てきてくれて良かったよ。
動いてたほうが暖かいし、死にたいやつらの背中を見てるだけじゃうんざりするからね。
仲間が倒れても気にする素振りもしないとは、随分と熱心な崇拝者達だ。

雪で足場が悪いからユーベルコード影雨であまり動かなくても済むように戦おうか。
あれ、それじゃあんまり暖まらないか。
狂信者が透明になったら敵と見分けが難しいけど、捕食されてる時点でもう助からなさそうだしそのまま引き続き攻撃しちゃおうか。
「第六感」で運良く敵だけ倒せたら一番ラッキーだけど、元々死にに来てたんでしょ。



●咀嚼者へ
「……流石に寒いな」
 鹿忍・由紀(余計者・f05760)が、白い息を吐き出しぼやく。白い肌、金糸の髪が、雪景色に溶け出すようだ。
 内側から肉を吸い上げられている教団員と、振り返りさえしない参列の異様さに、蒼い瞳を細め溜息ひとつ。
「仲間が倒れても気にする素振りもしないとは、随分と熱心な崇拝者達だ」
「汚え、見苦しい有様だなァ」
 由紀の言葉に応じるように帰ってきた言葉は低く、妙に小さく。雪の静けさが無ければ、ぞるぞる繰り広げられる咀嚼音と弛まぬ足音に掻き消えたかもしれない。ギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)の、妖精としての小柄な身体から発されるには、よく通る声であったが。
「邪神に身を捧げる程心酔する様は理解できねぇや」
「だよね。まあ、もう助からなさそうだし。死体の考える事を、理解する必要もないだろうし」
「違い無え。ま、片付けてくか」
 ギュンターが、下は任すと言葉を残しながら、雪に紛れ舞い上がる。骨と皮のみになった抜け殻が、眷属の大口へと、ゆっくりと吸い込まれている。骨が圧縮され、めしり、ばきゃり、砕かれていく音が、妙に高かった。
 そうして飛び込んでくる次の大口にーー真っ直ぐに駆け込む黒い影。その速さは雪の足場を物ともせず、衝突に躊躇は無い。リゥ・ズゥ(惣昏色・f00303)が、その怪物の腕ひとつで、大口を無理やり閉じさせる様に、堅い殻ごとその顎をかち上げた。怪物の骨格がひしゃげる手応えが拳に届く。
「不味そうな、肉だ。リゥ・ズゥは、お前達を、好まない」
 リゥ・ズゥの重打により、ひしゃげた大口から、唾液が、後方の由紀まで飛び散る。それは流石に不愉快で、由紀の蒼い目がしょっぱく眇められる。
「うわ、びっくりした」
「巻き込んだ、か。リゥ・ズゥは、謝罪する」
「いいよ。そんなん気にしてたら、戦ってられないんだし。俺も、気にしない」
 返しつつも、リゥ・ズゥは大口への攻撃を一切取りやめず食らい付きあい、肉と泥を引きちぎり合う。ブラックタールの怪物であるリゥ・ズゥは、多少の欠損など気にするそぶりも見せぬ。少し体積が減るだけだ。由紀の語調からも、気にしていない事に嘘はない。
「唾液はまあ……臭うものだし……目下問題は、寒くて困るなってくらい」
 戦闘音に、教団員達は立ち止まらない。されど大口供はそうは行かせてくれない。次次に、派手な近接戦を繰り広げるリゥ・ズゥの元へ跳躍し集う。
「足元さえもう少し良ければね。俺も君の側まで行って、手伝えたんだけど」
「良い。リゥ・ズゥごと、攻撃すれば、良い。あるだろう。そこから、攻撃できる、手段は」
 大口供は透明化し、姿を隠しながらリゥ・ズゥの身体を吸い込み、噛み付き、千切りと群がっている事がわかる。が、その辺りに居る事さえ間違いがないならば。攻撃手段には、困らない。
「じゃ、お言葉に甘えて」
 由紀が言葉を吐けば。雪に馴染む青い影が水面のように蠢いて。影より、黒いダガーが複製され、夥しく並ぶ。
 貫け。シンプルな命令とともに、黒いダガーが縦横無尽に、リゥ・ズゥごとその一帯に注がれる。その様は、まるで踊り手と、暴れまわる黒い鍵盤。
 そして上空からは。
『ーーなあなあ、お前らは死合わせか?』
 低く呪うような歌が響く。
『死にに行く者は死合わせだろう、生を振り返らないなら。それを食う者は死合わせだろう、啜るお零れはどんな美酒だ』
 木立の上から、ギュンターが破壊という形の愛を歌う。その声が呪詛となり、一帯の対象に捻れるような痛みを与え、吹き飛ばす。
『願ってやるよ、死合わせを』
 リゥ・ズゥが目印となり。歌声が、大口供の機動を食い止め、ダガーが無差別に蜂の巣に。緑の血液混じりの唾液が飛び散り、大口供の透明化が次々解かれていく。
 黒いダガーに刺されようと、呪詛に捻られようと、リゥ・ズゥにはさしたる問題でも無い。衝撃波、二回攻撃、攻撃の手を緩めるような事態には程遠い。目下問題はーー
「……やはり、不味い、な」
 醜い、最早むごたらしいまでの怪物へと変貌したリゥ・ズゥが、縋り付く大口を飲み込み、零したその言葉だ。単純に、リゥ・ズゥにとっては、美酒でも何でも無かった事だ。せめて、参列者供が命を賭して捧げる神が、もう少し美味い事でも、期待しよう。
 
「ああ、やっぱ寒いな。もっと暖まるように動けばよかった」
「山頂まで行きゃあ、ぬくいんじゃあねえか。花が咲いてんだろ、こんなとこに」
 奏で、歌い、踊る最中。由紀とギュンターが言葉を交わす。
「……山頂まで行ったらもっと寒いだろうけどね。普通は」
「そりゃな。こんなとこに咲いてる筈無えよな、普通は」
 もしも咲いているならば。それは天国の花と呼ぶのではないか。
 天国は地獄の上にあるものならば、少し期待も持てるかもしれぬ。この、誰が生きているかも曖昧な、貪り合いの現場を眺めながら、薄らと期待してもいいかも知れぬ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
【POW】
死の行軍……て言うには覇気はないな。狂気めいてはいるけれど。

(前を行く人の列を追う。)
(……この人達は何を思って死ぬのだろう。)

……あなたは、なぜ死のうと?
(聞いてみる。ただの興味本位。狂気による所なのか、信仰か、……或いは生きる事への絶望か。)
【コミュ力+勇気】
(聞いたところで、『僕』にはどうする事もできないだろうけど)

……僕、ですか?
僕は……咎を禊ぐ為に。
(嘘だ。禊ぎたい咎はあれど、死にたいとは思わない。)

……あぁ、敵か。
(NAVIとGU-MPによる【情報収集】【追跡】で透明化した敵を検知。)
邪魔だな。
(雀みたいな見た目だ。猫らしく嬲ってあげるといいよ、NAVI。暴れておいで。)


リュカ・エンキアンサス
※アドリブ歓迎
……ある意味幸せなことだね。
(ちらりと今日団員を一瞥して銃を構えた)
悪いけれど、その幸福、壊させてもらうよ。

背後から追いすがり、配下を仕留めながら進む。
教団員のこともあるからなるべくこっちにくるように見える場所で攻撃を行う。絶望の福音を使って冷静に処理していこう。
攻撃するときはなるべく頭部を狙う。数発ぶち込めばその胸糞悪い顔も潰せるだろう
姿を消している場合は物音に気をつけて、少しでも異常を感じ取ったら問答無用で銃をぶち込む。
人はなるべく助けたいとは思う。……でも、自分がしんだら意味はないから。自分優先。
……何も感じないわけじゃないんだけどね。
するべきことをする。それだけなんだよ



●雪ぐ行軍
 人の歩んだ後は、雪が踏み固められて、歩きやすいのだ。死へ向かう参列者達が、この深い雪を不乱に歩いてくれるお陰で、後に続く猟兵達は体力を温存出来る。少なくとも、彼らのおこぼれに預かっている。彼らは歩いている。彼らは生きている。なのに、どうして。そんな興味が、零井戸・寂(アフレイド・f02382)の喉を震わせた。
「あなたは」
 冷気が喉を痛めつける。雪が舌上で消える。最後尾の男に問う。
「何故、死のうと?」
 問いに、男が振り返る。その目はたしかに寂に向けられているが、偶々位置関係的にそうあるだけで、その心は少年へ向けられてはいない。
「死ぬのでは、ないのだよ。王は哀しんでおられる。王は慈しんでおられる。故にこそ捧げるのだ。お護り頂くのだ。死ぬのでは、ないのだよ。幸福が、約束されているのだよ」
 うわごとめいて返される言葉は、似たようでいてちぐはぐな言葉が並ぶばかり。それを聞いた寂は、困惑に目を伏せて。その後ろ、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)もまた、白い息に交え言葉を吐いた。
「……ある意味、幸せな事だね」
「……生きる事に、絶望して、とかだったら……って、思ったけど」
 誰かが、引き止めてくれるかなと。他人任せな期待が、ひとつまみ有ったのだが。その期待を下がり眉に秘めた寂が、リュカに振り返りながら、言葉曖昧に切った。リュカがその言葉の先をどう取ったかはわからねど、少なくとも反語で終えた言葉だ。絶望していたら、猟兵にも何かできたかもしれない。絶望していないならば、参列者のの歩みは止まらない。首を静かに横に振る。降る雪が、その些細な風圧でも揺れた。
 ーーそう いう、君も、王に逢いに征くのだろう。
 前征く男が、言葉を返した事に、寂が驚きに見開く視線を戻す。
 ーー何故 死のうと?
 同じ形の問い。瞳孔は、明らかに正気でないのに。その問いを、鸚鵡返しと鼻で笑えるほど、少年達はささくれてはいない。意趣返しするだけの人間性が残っているという事実に映るだろう。歩むかたわらには、前列から外れたのであろう男が倒れていて。勿論、大口の化け物が肉を砕いて吸い上げていた。
「僕は……咎を禊ぐ為に」
 寂が応える。嘘だ。けれど、嘘を嘘と見ぬかれはしないだろう。己を隠す嘘に胸を痛めるほど、寂は純粋でもない。踏む雪が、靴底に詰まり、軋む。
「きみは」
「……」
 リュカにも言葉が向いた。リュカは俯き、帽子とマフラーの狭間に呼吸を潜める。夜のマフラーにへばりつく雪結晶を、指先で削る。
「僕は」
 男の人間性から身を隠す。青い目が、男の肩向こうを見据えた。
「その幸福を、壊すために」
 その返答は男の意識まで届いたろうか。灯り木の銃口が男に向く。男が首を傾ぐ。寂もまた、NAVIという識別記号の猫型電子映像の最小化を解く。
 凍気を劈く銃声がーー後方より男に食いかからんとしていた大口の口を貫いた。ごぼばぼと気泡を交えた唾液が、雪を溶かしながら飛び散る。倒れていくその身体を、NAVIが爪撃で引き裂きながら突き飛ばす。我らの、彼らの、生きる者達の歩みを、妨げさせぬよう、踏み固まる細い道の外へと吹き飛ばす。
 銃口を向けられても、男は動じなかった。それがまた彼が正気でない事を少年たちに突きつける。それでも、少年たちには、これが人であると、認識できてしまえるのだ。

 故に、外敵がいるならば、寂の黒猫が探知し、次々嬲るのだ。せめて魂どもが、望んだままの死の地へ赴けるように。
 だから、リュカの銃声も響くのだ。福音がリュカへ告げる未来に、生者が残り続けるように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

在連寺・十未
……眷属として呼ばれた以上、駆逐対象であるのに変わりはないし、全員食べられてしまったら邪神への道行きが解らなくなる、ので。……いつも通りやるだけだ。できるだけ死『人』はださない。

ユーベルコード起動。くちなぜつづち位ならこれで十分だ。【ロープワーク】と合わせて問題なくバラバラにしてやれる

……捕食された犠牲者の顔? 手遅れだって解ってる以上悪いけれど僕にとっては不愉快なだけだ。戦意の低下の期待をしていたなら残念。……小賢しいことをするのならば疾く、しね

※アドリブ、連携など大歓迎。ご自由に


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携歓迎


ただ死ぬためだけの歩みなんて
俺には到底理解ができない

……理解する必要もないか
どうせ、なんだろうとすべきことは変わらない
立ち塞がる者が、辿り着く先に在るのが「敵」なら殺すだけだ

【聞き耳】【見切り】等、視聴覚を中心に感覚情報を頼りに
相手の居場所を探知しながら戦闘を運ぶ
透明になったところで雪上に足跡もつくし
気配や物音までは消えないからな

撃つのは目に付いたやつからだ
邪魔な脚を潰してから殺すかな
足がなければ、地も空も蹴れないだろ

教団員は強いて殺しはしないが、別に助けもしないぜ
……ああ、もし敵に捕食されそうなやつが居る場合だけ
喰われる前に殺すかな
何って、敵が強くなるのは面倒だろ


朽守・カスカ
命の使い方は其々のもの
自身に後悔ないならば、それもまたその者の在りようの一つで
善悪では論じれないもの

…だけど、その悪趣味な使い方は私にとって気に入らないものだ
其々のものであっても、邪魔されないと保証されたものでもない
だから、邪魔させて貰うよ

教団員の列の後ろを
大人しくついて行くこともない
【ライオンライド】
勇猛なる獅子よ、巨躯で深く積もる雪も踏み越え
相対する敵もその膂力で蹴散らして行け

この場の敵も教団員も
その目論見の全てが気に入らない
さぁ、向かう敵を喰い破れ

そして、贄とさせないために
教団員を追い越して、その先は向かうとしよう



●灯である者
 戦闘音のけたたましさを置き去りに。深雪を、獅子と人形が征く。
 朽守・カスカ(灯台守・f00170)の召喚した勇猛なる獅子が、教団員の列を追い越さんと、懸命に疾る。贄になど、させぬ為。その使い道を、良しとせぬ為。跳ねるような駆動の上、雪色の長髪を揺らし、風を切る。
 しかし、大口ーーくちなぜつづちどもは雪に足を取られない。永続ではないにしても、空中を飛び跳ね、縦横無尽に動く能力が有るが故に、カスカと獅子は機動力で不利を取る。それでもカスカは進む事を選ぶ。機動で負けれど、雪を踏み越える脚は確かにある。襲われれば噛み潰す為の牙はある。くちなぜつづちを食い捨て、前へ、前へ。
 されど。くちなぜつづちどもからすれば、自ら不利を被る獲物を見逃す理由もない。強敵である猟兵を貪るチャンスであるならば尚のこと。後方の戦闘音から逃れるようにつづちが集い始める。いつしかカスカと獅子は、眷属どもに囲まれる。樹々の上から、雪の上から、腐肉と脂のにおいの吐息が向けられる。
 ここで立ち止まれなどしない。
 灯台は、進む者の征く先にあるものだ。
「……蹴散らせ、獅子よ」
 カスカの言葉に、獅子が雄々しく吼え哮り、一層荒々しく駆けた。ぞろぞろとくちなぜつづちが追いすがる。何匹かは、すでに咀嚼した人間の顔を己の頭部に複製し、おうおうと鳴いている。
 気にいらないよ。気にくわないな。命を捧げる教団員も、それらに群がる眷属も。彼らを導くなんて、贅沢な言葉は使えない。
 邪魔をすると、決めたのだ。
 後ろから喰らわんと、くちなぜつづちが大きく跳んだ。

●響かぬ者
 それを撃ち落とす銃声が有る。鳴宮・匡(凪の海・f01612)の銃弾が、つづちの堅い殻の合間を縫うように、針の穴を貫くように放たれた。その銃弾が頭部の複製を貫いて、血を吹き出す様をカスカが見ていた。慣性に従い、ただ雪の上に落下。血色に染まる。
「ん、やっぱり猟兵がいたか。怪物どもがやけに集まっていくから、もしやと思ったが」
「殺せそうと見た相手をリンチする頭があるのか
。小賢しい」
 在連寺・十未(アパレシオン・f01512)もまた、鋼糸を樹々の隙間に張り巡らせ、高所を跳ぶつづちを蜘蛛の巣のごとく絡めとり、やわらかな箇所に滑り込んで、次々斬り裂いていく。ロープワークの技術を活かし、本人も樹々と鋼糸の上を歩んでいる。黒い外套が、雪景色の中で鮮やかに見えた。
 見れば、カスカを追っていたつづちどもは、糸に八つ裂きに。あるいは、手足を失い、むしのようにもがいていた。それがまた血を吹き、動かなくなる。つまりはいつのまにか助けられていたらしいと気付き、カスカは礼をひとつ。
「すまない。思ったよりも、脚を取られた。それから、ありがとう」
「問題無いよ。お陰で纏めて絡め取れた」
「そうそう。先を行くなら、後ろは任せてくれていい。前からくる敵だけは、そっちで対処して貰うことになるけどな」
 話しながらも、匡は常に視覚聴覚を震わせる。動くつづちの気配に、片っ端から砲声を響かせる。細い手足を的確に吹き飛ばし、機動力を奪っていく。手足がなければ、土すらも蹴れまいと。
「前の事は、頼みたい。僕も、死人を出したい訳じゃない」
 十未の言葉に、カスカが再び礼を告げ、列の前へと向かった。

 事実この戦場において、十未の鋼糸は攻撃と探知、両方に活きた。そしてその探知を見逃さない為の、匡という眼にも恵まれた。
 十未が樹々の間に鋼糸を張りながら進む。その糸に、跳ぶつづちが切り裂かれるのは勿論、透明化しているつづちが少し震わせれば、少量とはいえ雪が落ちる。匡は、それを見落とす事ができるほど人間らしい目はしていない。そこまで見えれば、最早条件反射で撃ち落とせる。
 そのような雪に混じり、血の雫が列に注いでも、歩みを止める者はいない。
 そして止めないのは猟兵も同じ。向かいくるつづちに人間の顔がついていようと、口はしから人間の肉だったものが垂れ下がっていようと、十未の糸が鈍る事は無く、匡の心にも響かない。

「……不愉快だね」
 十未が、上方からふと零す言葉に、匡が射撃の合間に言葉を返す。
「まあ、死ぬためだけの歩みなんて、理解しようも無いよな」
「ああ。けれど殺す理由も無い。生かす理由はある。僕らが、邪神の道を知るために」
 つまりは、邪神は殺す。眷属は殺す。人間は生かす。やる事はいつも通りでしかない。十未がため息をひとつ。
「はあーー頂上で、この人達は皆死ぬのにな」
 教団員は放っておけば次なる邪神を呼ぶ。あるいは自身らが次なるオブリビオンとなる。殺す理由の方が多い者を、死なせるために生かすという、とんちきな状況だ。冷気が、肺を少しだけ刺した。鋼糸がまた揺れて、肉片と化してつづちが落ちる。
「ま、手間が差し引きゼロってだけさ。……差しの方が多いか」
 つづちが透明化しながら、また列の中から教団員を引きずり倒す。べく、近づいたことで、雪が不自然に揺れ、凹んだ。匡が撃ち抜く。死して透明化が解けたつづちがまた列の脇に増えた。
「まあね。……助けたの?」
「助け?いや。食って強くなられても、面倒だろ?」
 雪の中、教団員がゆっくりと起き上がる。また列に加わり、歩んでいく。
 死にぞこなって尚、妄執のまま、死へと歩むそれは、あまりに亡霊のようだ。十未が視線を前に向け、また糸を張り巡らせていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ロク・ザイオン
※八咫と

(ととさまの森はいつでもぬくかった。この刺すような冷たさと白は、馴染みが無い)

……八咫。
こいつらは。何も、言わないのか。
(蟻のような病葉の列は放っておく。あの大口の病を灼くのが先だ。
堅い殻持つ病には【先制】し【鎧砕き】。
八咫の烏が啄みやすいようにする。
ひとの頭が現れたら)
――っ
(すぐさま「烙禍」でその顔面を炭に)
(その口が開くのが怖い)

(自分の聞いていたうたは。
痛いと叫ぶ声だったと、知ってしまったから)
八咫。
今は誰も、痛がっていないか。
(あのうつくしい声が聞こえるのが、怖い)


襲祢・八咫
【ロクと】
……音のない世界だな。
真白く、冷たく。美しいが、淋しかろうて。
獣が獲物を狩るは当然だが、此奴らは泡沫から溢れ出した悪夢ゆえな。
早う、屠って終いとしよう。

今は、誰も痛がっておらぬよ。
大丈夫。安心おし。

様子の違うロクを気には掛けつつも、
鈴の音と共に赤鳥居の魔法陣から無数のひとつ目烏を喚び出して。

ロク。きみは、よいこなのだなあやはり。
嗚呼、この子供は知ってしまったのかと、朧げながらに察しが付いた。
そうして、この子は歌声に怯えているのか。

往け、と命じた指の動き【破魔、衝撃波、二回攻撃、なぎ払い】
【誘惑、第六感】で敵の動きを誘導、予測し、ロクが啄ばみやすくしてくれたそれらを纏めて屠ろう。



●塞ぐ
 音の無い世界だな。
 鈴の音さえも吸い込まれるようだ。
 真白く、冷たく、美しいが、淋しかろうて。
 襲祢・八咫(導烏・f09103)が独りごちる。
 ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)がその視線の先で、烙火を振るい、ひとの顔持つ眷属ーーくちなぜつづちを屠っていた。
 それさえ静かだった。
 いやに静かだった。

 ロクの咆哮が無い。喜びに弾む呼吸も無い。悲鳴を煽るような動きもなく、ただただ最短でつづちどもは炭と化す。顔を未だ持たぬつづちは、その硬い鎧を剥がれるのみで、炭化を免れてはいたがーーそれも八咫の召喚する多数のひとつ目烏が群がり啄む。
 八咫の知るロクは、もっと、……たしかに、静かであったが。もっと、嬉々を滲ませ、勇ましかった。異様なまでに、悲鳴と炎と戯れていた。今のロクは、余りにも怯え、痛ましい。
 殺す恐怖を知ってしまったのか。
 ぎょ、ぎょロロ、ギョロぷグェ、ゑ、ゑ、ゑ
 嗚呼、嗚呼、嗚呼。
 つづちが喉から零す音と、烏どもの喧騒が、雪景色に響いては溶けて消えていく。

「八咫」
「何だい」
 呼ばれる。その声音には覚えがある。こどもがおとなに、理不尽を問う声だ。どうして命は死ぬのかと、子犬を抱いて泣き縋る時のような声だ。
「こいつらは、何も、言わないのか」
 ロクの青い瞳が一瞬、蟻の如き参列者に向けられ、後ろに声を投げ掛ける。すぐに前を向く。何かから逃れるように駆け、つづちを捉え、鎧を剥がし後方に捨てる。何かを直視しない為に。
「……言わぬなあ。我らは彼らを救えぬらしい」
「八咫」
「うん」
「今は誰も、痛がってはいないか」
 掠れ声が吼ゆように問う。飛び跳ねるつづちを烏が衝撃波で薙ぎ払うごとく引き摺り落とし、ロクの目の前に誘導したのをまた剥ぎながら問う。その傍らで、蟻の列がまた他のつづちに遊ばれている。蟻の蜜はつづちには甘いのだろうか。
 痛がってはいないか。痛いのは、この森が持つ、命を拒絶する寒さだけか。どうか教えて欲しくて、振り返れない。
 八咫が淡く微笑み、子を宥める程に穏やかな声でかえす。
「君は、よいこなのだなあ、やはり」
「八咫」
「今は、誰も痛がってはおらぬよ」
 ぞぶる、ぞぶる、肉という名の蜜を吸う音。吸われる蟻が手足を痙攣させるか弱い抵抗。烏が肉を啄み引きちぎる音。つづちが喉奥を泡立てる音。
「安心をし」
 痛がっておらぬとも。
 君のその悲痛を、抜けばであるが。
 その痛みを語るには、場所が悪かろう。
 八咫の言葉を信じたロクは、それきり子供の声を出すのをやめた。

 ロクが鎧を剥ぎ、肉をむき出しにしたつづちを、烏が落とし、誘導し、前へと進むロクの、可能な限り後ろで一纏めに、鳥葬する。
 おろろ、ごぼろ、ぼろおおおあおあゐゐゐろ、嗚呼、嗚、嗚呼嗚呼
 前方でまた炎が上がり、肉が焼ける匂いが風にのって攫われていく。
 さあ、はよう、屠って、終いとしよう。
 痛いのは、聴こえないのが、いっとう良いのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイクス・ライアー
邪神自身が望んでいようがいまいが関係ない。もたらされる結果が災いであるというなら、取り除くだけだ。

【SPD】
雪山に相応の防寒具、戦闘への影響はない。
気づかれても問題ないというのなら、教団員の横に着き山頂へと向かおう。
敵が襲ってきた場合にのみ対処を行う。雪山での体力の消耗は抑えたい。
接近してくる敵には傘型の銃を構え威嚇の[遠距離射撃]。向かってくるようであればワイヤーを巧みに使い敵の上へと乗り上げ[零距離射撃]。
基本のスタンスは教団員の護衛だが、無理をして救うことはしない。喰われてしまったら、それはそれだ。一瞥をくれ先へと進む。

彼は、彼女は。この白銀の先に何を見る。



●望みの先
 邪神自身が望んでいようがいまいが関係無い。齎される結果が災いであるが故に取り除く。それが猟兵であり、ジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)という男の自然である。

 防寒具に身を包み雪を征く。目的地までの基本は、道を示す教団員の護衛。己の体力の温存。シンプルに以上二点。
 山を昇る程に雪は降り、視界が悪くなとも思えたが、好都合が有った。透明化した眷属ーーくちなぜつづちの存在位置が視認できるようになった事。
 空白。浮遊する雪。風に抗う畝り。微かに現るそれらの不自然を視認し、狙撃する。
 目を凝らす必要はあるが、戦兵が五感を研ぎ澄ます等当然である。困難の中に機会がある。煙を吐く黒傘が纏う雪がさらりと落ちる。
 また、つづちの足音は軽い。巨体ではあるが、浮くように跳躍するその体は、雪に足を取られながら重く歩む人間どもの足音とは比べものにならない。故に、間違えようも無い。教団員を隠れて貪ろうと後方より接近するその軽い足音にいち早く気付く事が出来る。故に、つづちが口を開き、舌を伸ばしたその瞬間にはもうその命はジェイクスの手中にして眼下。ワイヤーを駆使し背に着地。脳天と思わしき位置に零距離射撃を叩き込んでやる事も、十分に可能であった。散弾銃の冷徹な痛撃、つづちの殻と肉が上顎ごと消し飛んだ。透明化が溶け、教団員の首に巻き掴んとしていた舌が、ぬろりと力無く離れ、倒れた。
 目の前で他人が死んでも気にもとめぬ教団員達であったが、流石に真横、今まさに己の命が危うかったとなれば、視線をジェイクスに向けもする。どこか、もう少し遠方では、猟兵の目をかいくぐったつづちがまた人間の咀嚼に成功したのであろう、人を引き倒す音がどさりと鈍い。
 教団員が、ジェイクスに向け何か言葉を吐く。支離滅裂なうわ言、聞くに値せぬよまよい言。一言に集約するならばこうだろう。『それは我らには救いでは無い』と。
 ジェイクスが一度首肯した。
「知っている。そしてお前達の救いになりたがった覚えもない。進め」
 指が列の先を示す。話す価値も無いと教団員も判断したか、言われずとも歩み出す。
 
 この白銀の先に何を見る。己には何が映る。一抹の興味を抱き、ジェイクスもまた、歩みを再開する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴラディラウス・アルデバラン
雪山には慣れている。徒歩でも問題はないが、馬の方が何かと都合が良いだろう。
我が身を呈して教団員を庇う様な真似まではしないが、巻き込むつもりはなく。
もし邪魔になるようであれば、邪魔だ、と雑に振り払ったり放り投げたりはするだろう。

戦闘を繰り広げる我等の様子を気にもかけぬ教団員やその瞳の異様さには眉を潜めるやもしれん。
が、それもきっと、ちらりと見遣る程度。何時も通りにただ剣を振るう。



●スレイプニールの行進
 雪など珍しい物でも無し。歩みを阻むもので無し。ヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)は、八本足の大型軍馬スレイプニールを召喚し、涼しく突き進む。
 八本の大足は圧倒的な駆動力で雪山を登る。雪が左右に踏み散らされ、さながら戦車のようであるが、その背に乗る女騎士は雪の王の如く美しい。撒き散らされる雪に呑まれて文句を垂れるような猟兵は、まさか居ないであろう。

 道中に現る眷属を斬る。その剣戟に教団員が邪魔故に、軍馬のいななきに威嚇を任せ、首根っこを掴み数人を放りもする。くちなぜつづちなる眷属が居らず、他猟兵の目につく方向へ捨てておく。意図的には巻き込まぬ、逃す手心もある、されど丁寧に救う必要性もない。これは死にに征く、愚かな参列であるのだから。

 くちなぜつづちは空中を跳躍しながら進む事が出来る為に、深追いができる猟兵は限られる。故にヴラウディウスとスレイプニールの仕事は、接近してきたつづちを斬り捨て、雪に体力を取らせず確実に進む事。接近してきたつづちの外殻は硬い為、そのいかにも柔らかそうな口から斬り捨て、八脚にて轢き潰していく。何者にもこの脚は止められぬ事を知らしめる如く無慈悲に。砕け、潰れ、飛び散る音は愉快では無かったがーーそれ以上に眉をひそめたのは。
 周囲で繰り広げられる戦闘に、精々稀に一瞥する程度で歩み続ける教団員。つづちに中の骨肉のみ吸い上げられ、仲間にさえ拾われもしない皮袋。それらの、人としての、異様性。
 ああされど、邪なる神を信仰する者の言動など理解出来ず当然である。これは、死に征く、愚かな参列なのだから。ヴラウディウスの氷のように鋭い瞳が、また敵の気配を見やる。人に比べれば外敵とはシンプルだ、殺せばいいという事が、いかなる時も決まっている。いつも通りにただ、彫刻の美しい細剣を振るう。彫刻の溝を、雪と血と脂が輝かせていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジンガ・ジンガ
こンなトコまで、ご苦労なこった

別に止めませんて
死にたいなら好きにすればァーってカンジ
自分の命なンだから
自分のために好きに使って好きに生きて死ねばイイよ
ヒトサマ巻き込まないんだったら、別にどーでもいーや

さっむ
帰ったら鍋かな、鶏鍋
お前、鳥に似てるモンね
食欲の失せる光景アリガト
ソレ、美味しい?
カミサマへのゴハンのツマミ食いだもんね
カクベツなんじゃない?

でもね
俺様ちゃんの命は、だァめ

代わりに豆やるから喰っとけよ
【スナイパー】気分で鉛玉をお口にご馳走
おかわりに【2回攻撃】もサービス

攻撃は【見切り、フェイント】かけて
その辺の信者の首根っこ掴んで【敵を盾にする】
お肉はこっちでショ

あーあ
花って、どんなだろ


三岐・未夜
……さむい。あと、こわい。
でも、だって、……だって、るり遥が、青い顔、してたから。
行かなきゃ。

……どうしてかな。
死ぬの、こわいよ。
死にたくないよ。
痛いのも苦しいのもいやだよ。
なのに、どうして自分の命を得体の知れないものに差し出せるのかな……。

UCを使用し、地属性の矢を【属性攻撃、祈り、破魔】でより硬く鋭く強化。
【操縦、2回攻撃、範囲攻撃、誘導弾、先制攻撃、全力魔法、援護射撃】で教団員に当てないように撃ち抜いて行くよ。
ほんとは炎や水の方が得意なんだけど……雪山だしなぁ……雪溶かしすぎて雪崩とかはちょっとこわい。

自分への攻撃は【誘惑、催眠術】で狙いを曖昧に、【見切り、第六感、フェイント】で躱すよ。



●用途
 雪を踏む。
 さむい。あと。
「……こわい……」
 三岐・未夜(かさぶた・f00134)の零すか細い声に、ジンガ・ジンガ(塵牙燼我・f06126)が振り返る。
「あーもー震えちゃってンじゃんよ未夜ちゃん。無理してない? へーき?」
 マフラー増やす? と己の防寒具をひとつ崩しながら問うジンガに、未夜がふるふると首を横に振る。
「ジンガが風邪引いちゃうよ。……それに、だって、るり遥が青い顔してたから。行かなきゃ」
 その動機を言われては、団地で待ってる?なんて提案、ジンガも言えぬ。少なくとも自分もそれが理由である。あの、臆病で人の良いグリモア猟兵の見る悪夢を撤去する場には、いたいものだ。だよねだよね、分かってンよそーだよね。
「じゃ、帰ったら鍋かな。鶏鍋」
「おなべ」
 未夜の耳がぴこんと立つのを見て、ジンガが表情筋を綻ばせる。旧い友達をおいでおいでと呼び出しながらくるり軽やかに前を向く。
「体の芯までぬくぬくにしたいトコー」
 旧友は呼べば来てくれるいい子揃い。ジンガの手中には慣れた銃器がひとつ。後ろの未夜もまた、戦う為の準備として、己の狐の身から土の気を練り上げ、浮遊する土の矢を生成。更に、邪悪を祓う殺傷能力を祈り、鋭利に精製。
「うん、お鍋しよ。るり遥も呼んで」
 その声の嬉しそうな響きを聞いて。あの眷属ーーくちなぜつづち、鳥みたいだもんね。なんて感想は、まあひとまずお喋りな口ながらも、ちゃんといい子で仕舞っておく事にしよう。

 足場が悪い、かつ、教団員を救う必要もないとくれば、戦法は自然と射撃戦に定まっていた。
 二人にとっては、己と友を守る事がこの道中のクリア条件。前のつづちは前に出た猟兵に任せ、己らは自分を脅かすつづちと、倒し易くいてくれたつづちの殲滅に専念する。
 頭をぐちぐちと食われながら木の陰に引きずられる教団員を目印に。くちなぜつづちを、ジンガの銃弾が仕留める。あれをほっといて、後ろから追いついてきて不意打ちされても迷惑だ。だが、可能ならば、曲がりなりにも人間には違いない彼らが、生きているうちに助けるべきであるか否か。ジンガは、己の意思で死にたいならば自由に死ねと思う。そして、自由であることは、誰かに護られる事もないということだ。ーーそれを、未夜が同じように思うとは限らない故に、様子を伺うように視線を後ろに向けた。
 未夜は、震えているようにこそ見えたが、教団員が死んでいく事自体には怯えていない。名前も知らぬ邪悪な他人を、救う救えないと奮闘出来るほど、人を信じられる性質ではない。ただ。
「どうしてかな」
「なァに」
「死ぬの、こわいよ。死にたくないよ」
「……そーね。俺様ちゃんもすっかり同意見」
 土の矢が、ジンガを援護するように雪景色に放たれる。いつも得意な炎は今回はお休みだ、雪崩が起きるのは勘弁だ。
「なのに。どうしてあの人たち、……自分の命を、得体の知れないものに、差し出せるのかな……」
 くちなぜつづちに食われる教団員を見て、未夜は思う。列を成し山頂に向かう様子を見て思う。あれがひととして正しいだなんて、勿論これっぽっちも思わないがーー自分に巣食う『得体の知れないもの』と、己に、重ねてしまう。
 ねえジンガ、どう思う。……までは言えずとも、友の答えを求めるようにその背を見る。未夜の援護で縫いとめられたつづちをこれ幸いと射殺。どうぞどうぞ、人が好きなら鉄分とか好きでしょ。似たようなもんだし鉛玉でもお食べください。おかわりもサービス、念には念を入れて殺す。
「さア?命の使い道は本人達のモンだし。俺様ちゃんも未夜ちゃんも、あれはヤベーって思う。真似する必要これっぽっちもナッシンでオールオッケーって感じっしょ」
「……うん」
「それにィ、もっともっと、一番、どこまでいっても大事な事は」
 人の顔をぶら下げたくちなぜつづちが、おどろおどろしい声を上げて向かってくる。恐怖を煽り、戦意喪失を狙っているのか知らないが、ジンガの銃撃の狙いはその程度で鈍る筈もない。
「俺様ちゃんの命も、未夜の命も、得体の知れないどなた様には勿体無えよ」

 未夜の縦横無尽に舞う土矢と、ジンガの戦闘慣れした目が揃えば、くちなぜつづち程度、近付けさえしない。お陰様で、うっかり教団員を使い捨ての肉盾にするような外道な手癖は見せずにすみそうだ。
「あーあ。花って、どんなだろ」
「ね。どんなだろ」
 最初よりも、少しだけ震えが収まったと見える未夜が、白い道先を見上げながら頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

虹結・廿
了解、任務を遂行します。

UC【分隊編成】を発動。

義体を一体を囮に、他で囲み【ヴァリアブル・ウェポン】でアサルトウェポンをフルバースト。

撃破してゆきます。

(息を吐き出す。戦場で重い銃を握って、何も考えず、鉛玉をばら撒くこの時間が、一番好き。好きだから、多分これは楽しいのだと、思う。)
(口元が歪む。でもこの感情が良い事なのか悪い事なのか、分からない。)
(分からないから、今は仕舞っておこう。)

「任務を続行します。」

義体の損傷は、損失ではありません。
1体がやられたら、次の1体が囮になります。

(肉なんて何処にも無い、機械と化物で出来た身体は美味しいのかな?
分からない。分かってあげれない。ごめんね。)


零落・一六八
あーあ、真っ白な雪が台無しっすねー。
ま、死にたいやつは勝手に死ねばいいと思いますけれどぉー。
隠れなくていいようなので後ろ着いて行きます
なんすかこの参列、なんだかあくびでちゃいますね

眷属にはUCで対応
中に渦巻く悪意が邪魔だから殺しちまえって囁いても
そうっすね。激しく同意します。
死にたいなら死ねばいいですし、正直邪魔ですよね。
心の中で同意して悪意と共存しつつも眷属へ

野太刀で【捨て身の一撃】で【なぎ払う】
血反吐はこうが、腹の中が毒と呪縛でいっぱいだろうが
気にせず野太刀を突き立て切り刻みます

ダメージが深刻になったら【生命吸収】
周りにも神経割き誰かと連携できそうなら動きをあわせる

※他と絡みやアドリブ歓迎


華折・黒羽
※アドリブ、連携歓迎

また供物……か…
そんな簡単に捧げていいものじゃ、ないだろう…。

自身の目に敵が映れば敵が動く前に直ぐ様攻撃へ
針葉樹であれば翼を使うのは不利
ならばと猫である自身の身体を駆使
身軽さと速さで固さの劣るであろう敵の脚と口内を狙っていく
隠である程度の攻撃を防ぎ、屠で回復と攻撃を平行して
立ち回りが厳しくなって来た場合は黒帝を喚んで手伝ってもらうつもりだ
退かない。目の前の命を見殺しなどしない、絶対に。

使用技能:生命力吸収、鼓舞、武器受け、野生の勘、盾受け、カウンター、気合い

…俺はまだ子供だけど、死者と生者の区別もつかないほど愚かしくも弱くもない。
その胸糞悪いふざけた身体、たたっ斬るッ!



●雪に燃ゆ
 千差万別の魂故に、燃ゆる衝動は十人十色に百花咲く。

 零落・一六八(水槽の中の夢・f00429)はあくびの真似事一つ。
 ある者は戦闘をし眷属ーーくちなぜつづちを討伐し、ある者は列の護衛にと走るというのに、その中央で参列者達は、周りの様子など碌に気にした風でもなく歩み続ける。
 助ける甲斐もなければ、死なせる甲斐も感じない。ただの道案内の看板オブジェクトと変わらない。一六八の目にはそう見える。
「死にたいなら放っときゃいいんじゃないすかね、あれ」
 ねえ? と、たまたま近辺にいた猟兵にでも話しかけようと首を捻ってみれば。そんなもの耳に入って居ないかの如く、一六八の横を飛び出す姿が一つ。黒猫の背に見えた。その疾さの風圧で、一六八の灰色の髪が揺れた。
「ありゃまあ。まじめ。」
「廿も」
 その逆側から、少女の声。一六八は視線を下に。背丈に見合わぬ銃器を抱える同じ顔、同じ背丈が、五つ。ああ、なんらかのユーベルコードの分身か、とは、すぐに理解が及ぶだろう。
「廿も、あれらを助けろ、とは、命令されてはおりません。ですが、皆様と同様に動くべきでしょうか」
「んえ。それボクに聞いちゃいます?」
 少女らの内、おそらく主導権を握る一体ーー虹結・廿(ですますプロダクション・f14757)が、一六八を見上げて問うた。斬撃や銃声が響いては雪に吸い込まれる景観の中、悲鳴が少ないのは、現実味がないもので。
 一六八も得物である野太刀を抜く。
「そっすねえ。そこ気になっちゃうくらいなら、そうすんのがいいと思うっすよ。守るな、とは命令されてないんですしね」
「ーー了解致しました。作戦を開始します」
 一体と、五体が、先を行った黒を追うように駆せた。

 黒い猫ーー華折・黒羽(掬折・f10471)が戦闘行動を繰り広げる。猫が雀を狩る様にみえる。されど烏が子猫を弄ぶようにもみえる。
 黒羽は参列者を護る為に、くちなぜつづちを意図的に引きつけて動いていた。つづちどもは一体一体は、攻撃が一度通りさえすれば直ぐに死する雑魚雀。されど宙を跳ねる身軽さと速さ、身を包む固さ、そして、数において、はっきりと黒羽の上をゆく。黒羽の疲労が見え始めれば、つづちは弱者を嬲る様に一層多頭集まり始めた。
 それでも黒羽は息を切らし、決して誰一人見殺さぬと我武者羅となる。隠と名付けられた黒盾が黒羽の身を護り、急所を隠し、その口には吸い込まれぬと噛みつきを防ぎ。屠と名付けられた黒剣で、口を内側から斬り裂き、時に細脚を斬り捨て、その血から生命力を吸収する。
 ぜひゅ、息切れが喉を焼く。後ろから黒羽に噛み付かんとする気配に、手数の不足を痛感。されど黒羽とてひとりではない。巨大な黒獅子が、黒羽の背を護るよう顕現。その爪牙でつづちを引き裂き、投げ捨てる。黒獅子『黒帝』に、道を開けよ。黒猫『黒羽』に道を開けよ。呼吸を整える間もない攻防が、例えまだまだ続こうがーー
「退かない」
 絶対に。全身の毛という毛が逆立つ心地。
 また他のつづちが、参列者に近づく気配に、黒羽は気合で駆ける。その道を開けろと、黒帝が邪魔なつづちを掻き分けるように吹き飛ばす。間に合えと願い、翼で空気を叩き背を押す風を作る。
「絶対に、見殺しになんて、しない……!」
 冷静な大人は、無駄な戦闘だと言うだろう。それでも。
 黒羽は、死者と生者の区別も付かないほど、愚かしくも、弱くもない。

 つづちが参列者に食いつくその直前、その隙間に、少女の身体がねじ込まれた。ーー飛び込んだ、というよりは、文字通り投げ込まれたような唐突さ。ーー齢二桁行くかも危ういような背丈の少女がどぽんとつづちの口の中に吸い込まれる。その景色に黒羽の青い瞳が見開かれるが、胸中に
湧いた絶望も束の間。内外から一斉に叩き込まれる銃声に、少女を飲んだつづちは敢え無く血を垂れ流しながらその場に落ちた。
「な」
「いや、流石にちょっと良心痛みますね!」
「ありがとうございます。護衛に成功しました。次の作戦に移行します」
 囮である一体をつづちの前に走らせようとしたのは廿。それをこっちのほうが速い、と投げ込んだのは一六八。少女の形とはいえ換えが効く義体に過ぎないというならば、電脳体から発生した一六八には躊躇う理由は無かった。
「次なる義体を前に。……あの、また投げて頂いても、よろしいですか」
「え。いっすよいっすよ。はいおいでー。よしよし、よく来てくれたっすね。……行っといで!」
 広げた腕の中に収まる義体はたしかに少女の形で、されど兵器と呼べるほど体温が無い。怪力と吹き飛ばしの要領で投擲せば、少女が無防備に飛ぶ事で、つづちたちの興味は義体二体目へ群がった。
 そう来れば、あとは廿のステージだ。囮を務めるために投げられ、宙で食いちぎられる義体の内臓兵器がつづちの顎を吹き飛ばし、囮を囲む様に行動する他三体がつづちの身体を撃ち、焼き飛ばしていく。
「……黒帝!」
 その光景への割り切れなさは、守護者の魂持つ黒羽には確かに有った。あれは生きていないと己に言い聞かせ、歯を食いしばり、討伐を再開する。
 その剣戟も今度は黒羽と黒帝のみでは無い。
「ちょーっと敵引きつけ過ぎじゃありません?や、倒しやすくていいんですけどね。おこぼれ頂戴しますよっと」
 飄々とーー代償の血を流しながらも、強化された脚で追いついた一六八が、捕食形態を取る野太刀で、つづちを斬り捨てていく。捨て身の如く口の中まで飛び込んで、食われるその直前に口の
内側から薙ぎ払ってあげりゃあ真っ二つってもんですよ。
「あの子は、本当に、大丈夫なのか」
 つづちを肉塊に返す最中、黒羽が声を上げる。
「え、大丈夫っすよ。ほら。あんなに楽しそうにしてますし……いや、雪で見えないっすかね?」
「……見えない」
「それはそれは、幸いでしたね」

 廿はただ鉛玉をつづちに喰らわせていく。誰かに怒られるかな、誰かに迷惑かけないかな、だとか、何も考えず、義体達(わたしたち)だけで殺傷任務を遂行する時間が一番すき。
 口を、あるいは細足を撃てば死ぬつづちの儚さに、廿の口元は歓喜に歪む。笑い声をあげたり、楽しいですね、なんて同意を求めるほど下品でも、己をかわいいと思えもしない故に、こんな表情も廿だけのものだけど。
 囮の一体がまた喰われる。
 意識のリンクが、喰われる瞬間の映像に脳のリソースを割いてしまう。これは、ちょっと邪魔だと思う。でも。
 女子供は柔らかくて美味しいって、よく聞くけれど。機械と化物で出来た身体は、実際には美味しいのだろうか。不味いのかな。わかってあげられない。
「ごめんね」
 口端を釣り上げて。咀嚼され噛み砕かれる意識のリンクを眺めながら、廿は己の義体ごとつづちを殺した。

 黒羽が参列者を護ろうと動く事に、一六八は軽口こそ叩けどただの一言も否定せず、笑いもしなかった。
 一六八の内側に潜む悪意が囁き続ける。邪魔だろう、殺してしまえという提案に、一六八は強く同意できるが、それを実行するか否かは肉体の権利を持つ一六八だけが決める。悪意が、呪詛が、どこかのだれかの残留思念が、どんなに腹の中で、暴れても。総て均しく喰らってしまえと、一六八の意識を蝕んでも。ここから出せと内側を切り裂いて、血反吐はいても。
 この野太刀は、つづちをひたすらに斬り殺す。
「もー。ワガママ言わないでくださいよ、それしたら怒られんのボクなんですから」
 引きつけ過ぎた敵の処理の中、己の中の悪意とのやりとりを零してしまう程度には、ダメージは累積していた。一六八の危うさを察し、黒羽が焦燥にじむ青い目を向けてくる。一六八は血を飲み込んでへらりと笑い返し、黒羽と共に、引きつけ過ぎた最後の一体を斬り伏せていった。

「終わりです?」
「まだ。まだ。山頂までは」
 ぎらぎらと、救いに燃える青い目。己の周りが開けても、つづちの数は湧いてくるが如く無数。参列者の命は、脅かされ続ける。黒羽はそれを許さない。一六八は肩をすくめながらもその善行に付き合うだろう。廿は、もっと敵を撃つべく先を進んでいるようだが。
 まだ到底終わらない。次の敵を求めよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
確かに、自ら皿に上がっていく奴まで助ける義理は正直ないんすけどね。
まあこれも乗り掛かった舟ってやつでしょ。
……にしても、望んで無い、とはね。
ユキの知る腹ペコ共は、どいつもこいつも見境なかったのに。

よう、大口の。逃げない獲物を喰うのは、美味いんで?
ああ良く肥えたタンっすね。焼いて塩ダレで喰いてえわ。
跳び回られる前に早業と先制攻撃で接敵、只咢で大きく身を抉る! 
衝撃波を起こしつつ、生命力吸収で捨て身の一撃!
鎧無視の一咬みは、当たった箇所から白椿ホロが狂い咲き、枝根が伸びて、麻痺同然の行動阻害を与えるだろう。

幾ら人の頭で惑わそうと、ユキがそんなの気にするかっての!
まやかしは逢魔ヶ時の領分でしてねえ!


コノハ・ライゼ
え、ナニあれ気持ち悪い
一言は、オブリビオンではなく教団員に向けたモノ
巻き込むなとは言われてないがさて、美味そうでもないし
ならばと欲求のまま敵へと駆ける

「柘榴」の刃を肌に滑らせ『高速詠唱』にて【紅牙】発動
数が多い分一体ずつを確実に仕留める方向で動く
先ずは「氷泪」の牙で敵に喰らい付き動き鈍らせ
『2回攻撃』で牙となった「柘榴」を『傷口をえぐる』ように捩じ込み食いちぎるヨ
受けた傷は攻撃ついでに『生命力吸収』で補いたいトコ

肉は肉、食いモンは食いモンだけどさ
美味い方が嬉しいデショ、分かる?
わっかんないよねぇ
戦いつつ教団員は見失わないよう、後をついてくヨ

(アドリブ歓迎)



●食事会
「え、ナニあれ気持ち悪い」
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)の口から遠慮無く零される言葉に、ユキ・パンザマスト(禍ツ時・f02035)が雪を踏みつつ頷いた。
「てんで覇気が無えですよね、アレ。命あるならきちんと死んでみろって言いてえわ」
「それ。ホント気持ち悪い。……さて、巻き込むなとは言われてなかったよね、確か」
 武器を取り、準備運動がてら肩を回し首を回し。いかにも饒舌そうなユキに、コノハはそのまま問い掛ける。ユキは眼下でうんうん首肯。
「はい。自ら皿に上がっていく奴まで助ける義理も正直ないんすよね。どう動くおつもりです?」
「んー。一所懸命生かしておこうとしてる猟兵もいるみたいだし」
「ね。皆さん熱くて鮮やかだ。格好いいぜ」
「あと、皿の上に登ってる奴ら、不味そうだし」
「……アッハハ、兄さんすごい!ユキもおんなじ事思ってました!」
「そう? んじゃま、僕らも敵を倒す方向で」
「異論なしの大賛成。どーせ乗りかかった舟です、このまま場の空気に合わせていくスタイルで」
 ああところで、はじめまして。なんて、妙に同類めいた気配に、今更ながら二人ご挨拶して。男と少女が、くちなぜつづちに牙を剥く。

 コノハの持つ鉱石のナイフ『柘榴』は、コノハの血を吸い一瞬で捕食形態への変貌を遂げていた。それは獣、あるいは竜の顎の如く凶暴だ。
 そしてユキの両腕も、好き嫌いなくよく食べる怪物の貌。何者でもなくなった歪な頭蓋骨が、腹を空かせて口を開く。
「わんさか居やがる、食い出があるなぁ。そんじゃあまぁーー」
「イタダキマス。」
 食事前には、お行儀の良さも忘れずに。ーー捕食者の気配に、つづちどもが殻をぞわりと鳴らした。一斉に食らいつかねば殺されるだけであると、一斉に跳躍し群がった。
 ユキが身軽さに任せ跳躍ーー早業と先制攻撃の速さで、自らつづちの群の中央へ飛び込んだ。
「よお、大口のォ。逃げない獲物を喰うのは、美味いんで?」
 両腕の大顎を振るう。その一振で衝撃波を発生させ、浮かぶつづちどもの脚を一瞬止めさせてから、鎧無視で貪った。傷跡から白椿のホログラムを咲かせながら、その花がつづちの身体を縛り、拘束しながら落としていく。
 それをコノハの、透き通るほどうすあおい瞳が見れば。瞳から形状展開、氷の牙を成し、つづちに一匹二匹と牙を立てる。鋭利な突牙は殻を破り血を噴きださせる。肉を貫く傷を少しでも癒そうと、血を求め舌を伸ばしてくるつづちどもを見るあおの目は冷たい。柘榴で抉り付けて喰い千切る。イタダキマスといったからには、生命力吸収で糧とするのも忘れずに。とは、いえ。
「……やっぱ肉食の肉って美味しくないよね」
 
 ユキがつづちを麻痺させ、コノハが食い潰す。そんな連携が自然と成り立っていく。

「ほんとこのバケモノども、良く肥えたタンっすねえ! 焼いて塩ダレで食いてえわ」
「うーん? 肉は肉、食いモンは食いモンだけどさ。美味い方が嬉しいデショ、分かる?」
「わかります! 美味いと思いますよこのタン!」
 そんなに明るく断言されては、コノハも「そっかあ」と笑い頷くしかない。
 帰ったら塩ダレの肉でも食べたいと、空虚な悪食二人は思った。
 雪に体力を取られつつも、教団員達を追っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルゼドラ・アインシュタイン
はっはーっ、救いの無ェ光景だ
邪神に食われる前に此奴らの餌になってちゃ
浮かばれるもんも浮かばれねぇな
どうでも良いけどよ

【殺気】を込めてガン飛ばし【恐怖を与える】
跳ね回る敵には相棒(拷問具)の刃に
ちょいと【毒使い】を盛って斬り付けながら薙ぎ払えばいいか
寒ィから、相棒の餌(血)は少し節約すっぞ

もし接近してきて噛み付こうとしてくる奴らがいれば
懐に忍ばせているダガーで【怪力】を乗せつつ【シーブズギャンビット】
【2回攻撃】で容赦なく【傷口をえぐる】で仕留められりゃ良い

ぁ?教団員?知らねぇよ
攻撃の邪魔だったら蹴り飛ばすだけだ
邪神に執心な奴らに”女”を装って
「退いて下さらない?」って言った所で効かねえだろ多分


花邨・八千代
うっわ、うっっっっっわ。
何これ何のホラゲー?えっぐい光景だなァ。
ったく、どいつもこいつも楽に死ににいきやがって。
羨ましいもんだ、反吐が出るぜ。

◆戦闘(POW)
武器は黒塚、【ブラッド・ガイスト】始動。
「怪力」使って「なぎ払い」だ。
広範囲を一気に巻き込みつつ「2回攻撃」で「傷口をえぐる」ぜ。
「第六感」で敵の動きを読みつつ、片っ端からぶちのめしていくぞ。
透明になっても気配で追撃だ。

教団員が邪魔だな、死なない程度に蹴倒して退けるぜ。
こんなクソみてーな世の中で楽に死ねると思うんじゃねーぞ。
「恫喝」で眷属の意識をこっちに引っ張る。
どうせ喰うなら活きのいい獲物が喰いてーだろ?
タダで食わす訳ねーんだけどなァ!



●苦楽
 邪魔だ!!!
 女二人分の怒号が、教団員を蹴り飛ばす。直後、その教団員がまさに立っていた位置にて、くちなぜつづちと女達の武器が激突した。

「ああ蹴り飛ばされても文句の一つも無ぇのかよ、ったく気味が悪ィなあ、カミサマに傾倒してる奴等ってのは!」
「まあまあ、静かで良いじゃあないの。蹴られた程度で喚かれちゃあ尚の事邪魔だってな」
 花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)の苛立ちに、ベルゼドラ・アインシュタイン(錆びた夜に・f00604)は愉しげに応じた。八千代は怪力任せにつづちどもを薙ぎ払う。八千代のひと薙ぎでつづちの殻ごとひしゃげて潰れ、二回攻撃で叩き割る。八千代の単純無比な重量を乗せた斬撃に加え、自身らの殻が直接やわい肉まで突き刺さるのは、それはそれは。吸ったはずの肉を吐き戻すほど痛かった。人間であったはずのミンチを嘔吐しながら、くちなぜつづちが動かなくなる。その殻ごと、ブラッド・ガイストがずぞりずぞりと捕食する。
 逃げようと透明化して身を引くつづちもいる。が、それらを見逃す八千代ではない。
「食うだけ食って逃げようなんざいい度胸だ、お代は命でって言うだろが?」
 透けたつづちを視認する手段は、雪だ足跡だあるにはあるが、そんな小手先洒落臭いと感のみで叩き潰すその様は正に羅刹。
「ハッハ。全く、救いの無ぇ光景だ」
 ベルゼドラが笑いながら鎖刃を放つ。跳躍により高くを彷徨うつづちの脚を、その鎖の先についた刃で撫でてやれば、脚を失いーーかつ、刃に塗られていた毒に身の自由を奪われたつづちの、落下する様の無様な事。笑えて来るったらありゃしない。
「邪神に食われる前にこいつらが食って。そのこいつら眷属も私らに殺されるんだから、全く浮かばれねえな。どうでもいいけどよ」
 心底どうでも良さそうに。凶暴な笑みで告げながら、跳ねる力を失ったつづちを道端に捨てていく。毒が回ってきたか、おぶる、おぶる、泡を吐いて痙攣している。芋虫だってもう少しマシな苦しみ方をする。
「あーあーどうでもいいぜ、本当にな。どいつもこいつも楽に死にやがって反吐が出る」
「あら。苦しんで生きる方がお好み?」
「こいつらよりは余程好みだなァ。この化け物供はどうだ?楽な狩が好きか?いいや、どうせ食うなら生きのいい獲物が食いてえだろ!!」
 殺気、恫喝。嫌悪と怒りに任せた咆哮と共に、雪を踏み散らし羅刹は暴れる。薙いで、斬って、喰われた分だけ敵を喰らって。参列者へと向かう牙を、その一身に受けようとするかの如く。
「タダで食わす訳ねーんだけどなァ!!!」
「そう。優しいのね八千代ちゃん。私からすれば、そんな苦楽、どちらも同じだわ」
 敢えて言うなら、『楽に殺されてくれる』方がテンションは上がるな、などと、微笑みの真似事に潜めつつ。ベルゼドラにとっては、他人の生き方などどこまでも興味の対象外だった。
 八千代の斬撃を逃れ、ベルゼドラの懐まで飛び込まんとする愚かなくちなぜつづちに、猫の抜け毛でも見るような眼を注ぐ。上着を脱ぎ捨てる動きを推進力に、目にも留まらぬ斬撃がつづちの厚い舌を抉り飛ばしながら口内も斬りつけていく。口を閉じる手段がないのも哀れなものだ。浴びる唾液に躊躇無く、その口内をさらに刃で蹂躙、下顎を斬り落としてやればつづちの命はいつの間にやら無い。

 女達に渦巻くものは。
 死を選べる羨望か。
 他人の生き様に心揺さぶられる事への嘲りか。
 いいや、どちらもどうでもいいけどよ。
 山程殺せりゃいいけどよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

星鏡・べりる
さ、寒い……
ううう、寒いよーーーー!
歩くだけじゃなくて、身体を動かしたい。

うわぁ、気持ち悪っ!
目の前の人が死んでもノーリアクション!
神様の生贄になりに来たのに、そんな最後で納得できるの?

とかなんとか考えてたら、こっちにも来た!
銃、は音が大きいからやめておこ。
足場が悪いから、スカイステッパーで移動しながら殴ったり蹴ったりするね。
コイツは、どこが弱いのかなぁ。変な見た目してて分かんないね。
とりあえず、鳥みたいな足でも圧し折ってあげようかな。
誰かがトドメ刺してくれるなら譲るし、誰もやらないなら気持ち悪いけど思いっきり踏み潰すね。

ううーん、ちょっと体が温まったけど、今度は汗が冷えて……
ぶえっくしょん!


リンタロウ・ホネハミ
はー、なんつー辛気くせえ行列っすか……
泣きわめいたり騒いだりするっつーならまだ分かるっすけど、こいつらはそれすらありゃしねぇっす
生きてるくせに死んでやがるとは……
ほんと、仕事じゃなきゃ関わりたくねぇっすよ

とはいえ、愚痴愚痴言っても始まんねぇっす
カメレオンの骨を食って【〇八七番之隠伏者】を発動するっす
同じ透明化だなんて思わないで欲しいっすよ?
あっちは無差別に人を襲って食ってやがるっすからね
そんなことすりゃ……ほら、雪に浮かぶ足跡、食ってる獲物の断末魔が、やつらの姿を見せてくれるっす
対してこっちは動かず騒がず……ただ静かに、弓を引いて放つだけ
ケダモノと人間、同じモノを使えば負けるわけがないっすから



●故にヒトは支配者である
「う、わぁ、気持ち悪っ!!」
 スカイステッパーで空駆ける星鏡・べりる(Astrograph・f12817)が、眼下で行われるくちなぜつづちの長閑な食事に、身を縮こませて声を上げた。寒さと不気味さが少女のサブイボをばんばか開く。
「目の前の人が死んでもノーリアクション! ?神様の生贄になりに来たのに、そんな最後で納得できるの?」
 眷属も神の一部と仮定するなら、無抵抗である事も納得できるかもしれない。されど何も理解したくて疑問を口にした訳でも無し。それを聞いていたリンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)も、骨を口に咥えながらため息ひとつ。
「泣きわめいたり騒いだりするっつーならまだ分かるっすけど、こいつらはそれすらありゃしねぇで……生きてるくせに死んでやがるとは……」
「……ねー!そこのキミー!糸目のひとー!私、あんまこいつらに触りたく無いからトドメお願いしていーい?キミ、弓持ってるみたいだし」
「ん。いーっすよいーっすよ、お任せあれっす。ただ、後のオレっちはもう静かにするだけっすから……」
 骨を噛み砕く。さすれば、ゆらり透明化していくリンタロウの身体。
「また後でお会いしましょっす」
「はーい。そんじゃ、私ずんどこ蹴るからねー」
 ひらり、べりるが手を振る。その後ろから、くちなぜつづちどもの熱い吐息が少女の首筋を撫でた。
 ああ、本当に、気持ち悪いや。回し蹴りで凹ませて、遠く離れていただこう。

 べりるが跳躍でつづちを追い、その細足を下から掴み、おててをつないで、引き千切る。骨が身体から無知やり引き抜かれる激痛に、つづちがあぶくを垂れ流す。
「ぎゃーっ! やだやだ、変なもん垂れた! せいっ!」
 汚いものはさっさと捨てるに限る。握ったままの細脚を捨てる。機動力を失ったつづちを蹴り飛ばす。それを、無から飛来する透明矢が、的確に打ち抜けば、つづちは甲高い悲鳴を上げ痙攣した。それを二人は着実に繰り返す。
 実際には、無から飛来したのではなく。カメレオンのように透明化する骨を齧ったリンタロウが、ただ息を潜めて的確に弓を引いている、というだけなのだが。
 べりるのお一人様かしましさも含め、リンタロウの隠蔽に一役買っているようだった。矢の来た方向は大まかにはわかるが、はたしてどこに、いるのか。見えない。
 べりるの蹴りとリンタロウの矢から逃れたくてか、くちなぜつづちの身体が透明化を開始する。
「あ。うわあ、あの気持ち悪いのがどこにいるか分からないとか、すっごいやだ。蹴っちゃお」
 とびきり鈍い音で蹴り落とされる。隠れられなかった。透明の塊が雪の上に落下。あーあと呆れながら、リンタロウがトドメの矢で射った。
 それはそうだ。透明化したところで、それは『透明な塊が動いている』だけの事。霊体になった訳でさえ無い。そこに在りあえするならば。不自然な空間、あるいは熱源、あるいは気配、足音、殻がざわつく音ーーあらゆるものが、告げる。
 対し、リンタロウの透明はただただ、静か。
 黙し、目を凝らし、弓を引き、射る。
 方向で見当をつけられるという可能性などに臆さない。見当をつけたところで、逃げない獲物を喰うだけのケダモノには、真に息を殺す狩人は見つけられない。
 べりるの跳躍とてそうだ。顕現したて、ただ餌を食べたいだけのケダモノには。明確な殺意を持ち追い立てる人間の脚が、同じ空を駆けたなら、追いつく事もにげきることも叶わない。
 ケダモノと人間。同じものを使えば、負ける筈も無い。気味の悪いものを見た後なのだ。格の差というものを、爽快に見せつけるのも、また良し。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

犬曇・猫晴
あぁ、綺麗な雪景色だ。
あの子も呼んで雪合戦でもしたいね。
……仕事が終わってからだけど。

【POW】
迫ってくる敵は無視して、こちらに興味を示していない敵を中心に攻撃
良い具合にヘイトがぼくに向いたら、UCを地面目掛けて発動、そのあとは【金獅子】を使用、爆破による【衝撃波】で一掃するよ。
あ、周りに人が居たら着火する前に注意勧告するよ

……初めて使ったけど、ちょっと殺意強すぎない?


マルコ・トリガー
綺麗な銀世界を見たくて来てみたけど、この景色に不釣り合いな奴らがいるから【掃除】しようか

ヘェ、君たち(敵)も跳べるんだ
ボクもね、【竜飛鳳舞】で跳ねようと思ってたんだ
雪山に不慣れだから地面に足を着いた戦法よりはマシに戦えるかなって

雪山で派手に戦ったら雪崩でも起きそうなものだけど、敵を集めて流すのもありかな
他の猟兵が巻き込まれないように事前に伝えておかなきゃね

【竜飛鳳舞】で跳びながら威嚇射撃で注意を向けさせよう
【フェイント】しながら囲まれないように動き回りつつ、なるべく敵を一ヶ所に集めたいね
タイミングを見計らって一際高く跳んで、敵の上部の雪を狙って【誘導弾】【2回攻撃】で雪崩を狙った【破壊工作】だ


雷陣・通
ちょ、待てよ!
どいつもこいつも好き勝手に動きやがって!

仕方ねえ、まずはこいつをなんとかするぞ!
足元も悪い、ココは空中戦って奴か
『スカイステッパー』でバンバン飛び回って飛び蹴り連打だ。
途中でジャンプ出来なくなりそうなときは眷属の頭を踏んずけてカウントをリセット
再び空中ジャンプ連続からの飛び蹴りだ
一回で駄目なら二回踏みつける!
伊達にスニーカーは汚れてねえ!

なあ……王様よ
アンタはこうするために生まれて来て、こういうことをしたかったのかい?
視線を雪山へ見上げながら戦闘中思索にふける。


夷洞・みさき
暑いのは嫌いだけど、寒すぎるのもちょっとね。
鱗の隙間に霜が張りそうだし。
動けば楽になるかな。

白地に赤は綺麗だと思うけど、使う素材は選びたい所だね。

まだ人なら襲うのは僕としては控えたい所だから、配下のオブリビオンをしっかり狙っていこう。

その騒ぎに恐怖して、下山してくれると楽なんだけどね。

【WIZ】
その顔は、何時の誰の顔なんだい?
海から蘇った君達の一部である以上、まとめて潰すだけだよ。
でも、数が多いし、同胞達。みんなで狩りをしよう。

賑やかに、やかましく、教団員の意識を向け【恐怖をあたえる】様に。
信仰であろうが事故であろうが死は死であることを思い出させるかのように。

山登りは苦手なんだよ。

アド歓



●一切合切
「ちょ、待てよ! どいつもこいつも好き勝手に動きやがって!」
 雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)が声を上げ、我先に飛び出していく。その背を見つつ言葉を交わすは、六人の同胞である死霊を呼び出す夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)。小さな触媒道具を手中に握る犬曇・猫晴(亡郷・f01003)。そして、先行く通と同様に跳躍の準備をする、マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)。
「暑いのは嫌いだけど、寒すぎるのもちょっとね……動けば楽になるかな」
「上に行けばもっと寒いだろうしなあ。こう寒いと雪遊びとかしたくなるよね」
「遊ぶなら仕事を終えた後にかな。……あの不細工な眷属どもを、一斉に掃除しようと思うんだけれど、協力してもらえる?」
 マルコの提案を手短く簡潔に聞けば、みさきと猫晴の動きは自然と決まった。これより始めるのは、追い込み漁。

 通はスカイステッパーで足場の不利を打ち消しつつ、くちなぜつづちを跳び蹴りで落としていく。その蹴りは通の少年の身体ながらに強く鋭く、体の小ささを舐めてかかったつづちを雪へと真逆さまに落としていく。
 跳躍回数を数えつつ、上限回数が近くなればつづちの頭部を踏んで回数リセット。ついでにその踏みしめたつづちも蹴り落とす。
 ただ、一度の蹴りのみでは、つづちの外の殻とやわい雪がその身を護ってしまう。ずるりずるり身を起こして来る。しかし、通の戦意はしぼまない。
「一回でダメなら二回踏む! 掛かって来いよ、伊達にスニーカーは汚れてねえ!」
「そうか。ならその調子で下へ追い詰めて貰えるか」
 竜飛鳳舞ーー同じく跳躍のユーベルコードで通に追いついてきたマルコが飛び跳ねつつ、短銃でつづちに威嚇射撃。音に怯んだつづちの腰が竦むのを視認する。
「まとめて流そうと思うんだ」
「まとめて……? わからねーけどわかった!追い詰めてけばいいんだな!」
「そう。なるべく、一箇所にが望ましい」
 橙と青の少年達が宙を跳ねまわりながら、くちなぜつづちを下方へと誘導していく。

 落とされてきたつづちを相手取るのはみさきと同胞たち。頭数に任せてそこかしこに配置待機。近場に来たつづちを怪力任せに捕まえ、その細足を捥いでいく。二度と飛べない身体にして捨てていく。
 かつ、賑やかに喧しく。虐殺された苦痛を乗せた呪詛を吐く。沈められた冷たさを表す怒りを吐く。それらはつづちにではなく、死んだ目の教団員供へ。死への恐怖を思いだせ。ここは生者の為の場では無い。……その悪寒を与える騒々しさに教団員達も恐れたか、登る速度が足早になる。ーーあわよくば下山を、と思ったのだが。まあ、これから己らが狙う策を思えば、それでいいのかもしれない。
 人の顔を生やし、甲高い悲鳴を上げながら襲って来るつづちの顔面を、同胞の腕が掴む。
「その顔は、いつの誰の顔なんだい?」
 みさきが問う。人間の顔でも人語を解する脳は無いらしく、つづちは掴まれた事にびちびちと身を跳ねさせるだけ。
「まあ、いいけれど。海から蘇った君達の一部である以上、まとめて潰すだけだよ」
 顔面を、同胞の怪力が文字通り引き剥がす。筋繊維や皮膚がぶつぶつと千切れる音も、まあ慣れたもの。首だったものと、激痛に痙攣するつづちを雪の上に投げ捨てながら、みさき達の登山は続く。

 そしてもう一方。
 猟兵や参列者に向かって来るつづちは彼らに任せるとしてーーこちらに興味を示していない、あるいは尻尾を巻いて逃げようとするつづちを狙い、銃で、或いはワイヤーで軽傷を与え集めていくのは猫晴。
「はいはい、こっちにおいで」
 意図的にヘイトを集めながら登山する。どうせ纏めて潰す策があるなら、出来るだけお得に倒したいだろう。
 他猟兵を巻き込まぬように位置を取る。参列者……も、まあ、巻き込まないようにしてやるのが無難かと踏む。懸命に護っている猟兵も、ちらほら見える事であるし。猫晴はやさしく、ものわかりのいい男であった。

 上空の少年二人による叩き落とし。地の七人みさきと猫晴のヘイト回収。それらが合わさり、雪の上はくちなぜつづちの大きな群れと死屍累々、と化したところでーー
 アイコンタクト。作戦を実行する。

「それっ」
 言葉の軽さに完全に反して。重く響くは猫晴の震脚。あたり一帯の雪を響かせ脆くしながら、金粉をばら撒く。脚力に任せて跳躍するように猫晴がそのエリアを離脱する。
 みさきも、上へ、上へと離脱していく。六人は、下でつづちを逃さぬように取り囲んでくれている。よろしくね、とそこでも、朋を信頼し、しかし別れを惜しむ挨拶が交わされて。
「姉ちゃん、こっちだ!!」
「ああ、」
 登山が苦手なみさきを、通の小さくも硬さのある手が握り、幾度目かのステッパーで一気に上昇。
 そして。
 つづちらを追い詰め、
 雪は脆くされた、
 金粉舞う一帯。舞台はこれにて整った。
 あおい少年が、一際たかく、寒空を駆け上がる。金粉の揺らぎがその金眼に映り込む。静かに銃口が向けられた。
 それは幼い柔和さを孕みながら、無機物の宿神であることを思い出させる冷徹な声で。
「さ。綺麗な銀世界に不似合いな奴らは、ここでお別れだよ」

 発砲。二回攻撃。弾丸が空気を擦り起きる微かな火花は、触媒道具でもある金粉を引火させるには十分だった。
 爆発が起きる。事前に脆くしていた雪から崩れる。雪崩によって、生きたつづち、死んだつづち、それからみさきの六人の死霊(同胞)らが流れていく。おおお。おおお。つづちと死霊の上げる悍ましい悲鳴も、雪の中へと飲まれていくーー
 少し経てば、後に残るのは、飲む息すら凍らせる静けさばかり。

「うまくいったかな。さて、他も雪崩れる前に登り切ろう」
 ゆっくりと地に降りて、協力してくれた者達にマルコは一礼。教団員の後を追っていく。流石に爆発に驚き脚を止めていたようだ。
「うーわ。粉塵爆発、威力強すぎないかな、これ」
 触媒道具と、それを己に贈った者の笑顔を思い浮かべながら、猫晴が薄く笑ってぼやく。
 死霊故に、雪崩に飲まれてもダメージはないが。海よりも冷たい場所に沈んだ同胞に、みさきが祈るように瞼を閉じて。
 通が、みさきと手を繋ぐまま山頂を見上げた。
 この先の王は、一体何を望んで生まれたのだろう。……思索に耽っても、どんな予想を打ち立てても。答えはもう、目と鼻の先まで来ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『緑の王』

POW   :    暴食
【決して満たされぬ飢餓 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【辺り一帯を黒く煮え滾る消化液の泥沼】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    巡り
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【消化液 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    慈悲深く
【激しい咆哮 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:龍烏こう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々羅・赤銅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【プレイング受付は9日(土)朝8時半以降とさせていただきます】
●害獣
 
 結局、多くの教団員の命は護られたままに。猟兵たちは山頂へと辿り着く。

 そこに広がっていたのは、銀世界の真逆。
 黒く煮えたぎる液体が辺り一帯に溢れ、植物はもちろん、石も、土も、総てを飲む黒い泥沼。甘いような、酸味を帯びたような。据えた悪臭で満ちている。じゅわ、じわ。ごぼん。ぽん。時折浮かぶ気泡が、今も山を溶かしている事を伝えている。

 その中央に在る、あれが今回召喚された邪神なのだろう。
 酷く眠そうに、億劫そうに。その身を折り、蹲っている。この泥のような消化液は、あの邪神の腹から溢れているらしい。長い鬣。勇猛な獣の身体と白骨の、生死一塊の美しさ。受け皿のような雄大な角が、王冠のようにも見えた。ゆっくりと、王冠の持ち主がその身をもたげる。寝起きの子供のように、うやうやと手が足掻く。病床の老人のように、弱々しくその身を蠢かせる。
 ようやく、猟兵たちへと向けられた緑の瞳は、総てを呑むこの景観では唯一の緑。この邪神が美しいいきものであると、嘯く緑。
 あれこそが緑の王であると、護衛の礼にか、教団のひとりが土産のように教えてくれた。

 旅を終えた教団員達が、消化液の沼へと入水していく。
 消化液は水しぶきも上がらない粘性で、一歩ごとに教団員を蝕んでいく。
 ずっと、緩慢に動いていたみどりが、その目を見開いた。
「あ」
 攻撃が来るか、と身構えた猟兵もいるだろう。
 されど殺意敵意が猟兵に向いていないーー否、そもそもあの緑の王は、そんなもので動いたわけではない。戦慣れした猟兵ならば分かるだろう。
「あ、ぁ、」
 緑の王が身を起こし、消化液の中に倒れる。歩けない。それをもどかしそうに這い蹲り手を伸ばす。
「あああ、あ"、ああ"う"う、」
 奇妙な光景だった。
 教団員達は、そのために来たのだ。その身体を、王の腹へ捧げるべく溶けていく。王は、それを見て、悔しげに、悲しげに吼ゆ。さて、そんな人間的な感情が、あれにあるのか、知る者などいないが。
 ひとのいのちがとけていく。
 足掻くように手を伸ばす。
 それが届かなくて、王の表情が、まるで人間めいて歪む。

「 ぁ" ." 、
ぁ' が" ぁ ァァア" ア"'ア"あああア""."!!!!!!!」

 咆哮。哀しみを暴力的なまでに叩き付けるような。
 その叫びは、猟兵含め、溶けかけていた教団員ごと一切均しく吹き飛ばす衝撃波。
 消化液の上から、何人かの教団員を押し返すことは出来たが、その足は既に溶けて骨が見えている。骨も残っていない教団員も居た。それでも命はまだある。それでもなお、供物は供物として自死を望む。この、己の死を哀れみ、それでいて抱き抱え、受け入れるはらに、沈む事を望んでいる。緑の王が、もう助からない教団員達が溶け泥んでいった辺りを、どぷり、ねぷりと掻く。手が溶けているだろうに。辛うじて肉片を拾い、それを口に運ぶ動作が見えた。
 そして、それでもなお、緑の王は。
「あぁ。 ぁぁ。 ……うう、ぅ」
 猟兵達に、その泣きそうな顔を向けたのだ。
 その表情に、見覚えのある猟兵もいるだろう。
 あれは、助けてくれと、願う時の。

 この消化率だ。
 放っておけば次々液は広がり、何処までも何処までも、この星は溶けていく。
 消化液の海で、この王が何処にいるかもわからなくなる。
 すべてが届く、今。殺す事が、最善である。
 
(花なんてどこに)
(此処にみどりがあるとしたら)
朽守・カスカ
この山も季節が移ろえば
緑が、命の営みが溢れるような世界だったのだろうか

それでも今は命が溶けて、消えてゆくだけの世界
このような凄惨な景色が見たいのではない
嗚呼、全くなんて気に入らないんだ

緑の王よ、君が座すべき景色は
こんな、全てを溶かして広がる死の景色なのかい
その瞳の色が示すような
命の営みが溢れる世界ではないのか

この景色はもう、充分だろう?
だから、キミを止めるよ
溶けゆくのみではなく
命が営み、巡るために

【微睡の淵】
私は灯台守だ
還るべき海を見失ったのなら
この灯がしるべとなって照らそう

だから、迷うことなく、微睡むように
どうか、やすらかに



●やがて、いずれ、安らかに
 ランタンの灯りが揺れる。
 霧が満ちる。
 少女が、口を開いた。
 王が、息を切らし、それを見た。

「……この山も、季節が移ろえば。緑が、命の営みが溢れるような世界だったのだろうか」
 朽守・カスカ(灯台守・f00170)は腕を広げ、そのさして高くもない背に、沼になお向かおうとする参列者を押しとどめようとしながら、歌うように語る。その言葉の優しさは、寝床で子に語るおとぎ話のようである。その言葉の穏やかさは、子守唄のようである。
 それでも、引き留めようとする何人かの猟兵を無視し、教団員は溶けていく。それにまた王が口をはく、はく、と開閉する。命が溶けて、消えて行くだけの凄惨な世界。
「嗚呼、全くなんて気に入らないんだ」
 ここまで共に雪山を超えてきた獅子が、沼の奥に行かせまいと教団員の襟首を掴んでは引いていく。脚が溶ける痛みはカスカにも共有され、足裏がじぐりと痛む。
 手にしていたランタンを、前へと掲ぐ。霧が幕の役割を成し、王の後ろに、その角を一層大きく見せるように影が広がった。そしてそれは王の視点から見ても同じこと。カスカが照らされ、後ろに影を映す。おおきく、やわらかく照らす。
「緑の王よ、君が座すべき景色は。こんな、全てを溶かして広がる死の景色なのかい」
 王は震える瞼を閉じて、開く。物言いたげに唇が震えるが、うめき声も出さず、無を嚥下。
「その瞳の色が示すような、命の営みが溢れる世界ではないのか」
 今の王の一挙一動が、はたして肯定なのか否定なのかは、カスカには分からない。それでも、これは問いの形を取った願いだ。もしもあの王をどこかへ導けるなら、どうか、そんな場所であれ。骸の海の先、緑の地を照らす光であれ。
「この景色はもう、充分だろう?だから、キミを止めるよ」
 カスカが己の喉にその細い手指を添える。
「溶けゆくのみではなく。命が営み、巡るために」
 王が、その言葉に、緩慢に、されど深く、一度だけ、首肯した。そんな気がした。
「どうか、やすらかに」

 ランタンの灯りが揺れる。
 霧が満ちる。
 少女の唄は王へ届いた。
 王の死の巡りが、少しの間、止まる。


 そうか、おまえは 灯台守。ひとを導く者なのか。くらやみに灯る明かりというものは、いつの世も、ひとの心の希望であるな。おまえが灯り続ける事、わたしはきっと、骸の海から願っていよう。

成功 🔵​🔵​🔴​

桜庭・英治
そうか
おまえも辛いんだな
こんなことしたくないんだな
そんな顔をする邪神なんて初めて見たよ

そういうことなら、俺が全力で止めてやる
あんたを殺すことでしか止めてやれないけれど、それでもいいか?
ごめんな、俺がスーパーマンじゃなくて

その代わりあんたにも協力してもらうぜ
吠えろ、吠えてくれ
さっきの教団員吹っ飛ばしたやつをもっと頼む
教団員を近づけるなよ
死んでほしくないんだろ
自分が死の原因になりたくないんだろ
全力でやれ!

俺はその上からあんたを殴りにいく
こんな方法しかやれなくてごめんな!
歯ァ食いしばれ、舌噛むなよ!


緑の王の「慈悲深く」に対し「ヒュプノシス」で対抗
消化液の泥沼を越えて
捨て身の一撃を叩き込んでやる


在連寺・十未
君がそれを向けるのか。……君が、な。……

【WIS】それを、助けを望むならもう一度吼えろ。緑の王。憐れな供物を拒絶してこちらへ吹き飛ばせ。……そして、口を開いて、目と耳を少し塞げ――

……あの消化液に入ろうとする教団員どもの意識をユーベルコードで奪って『ロープワーク』で安全地帯に引き寄せる。緑の王がうまく吹き飛ばしてくれると助かるんだが。さて――

後は、解るだろ。君の有り様は肯定できない。その首、落とさせて貰う。



●共闘
 あんな顔をするのか。邪神が。
 桜庭・英治(WarAge・f00459)と、在連寺・十未(アパレシオン・f01512)は目を見合わせた。視界の端で、互いに同じような表情を浮かべていたから。
 邪神が、ひとを食うことに、苦しむ事などあるのかと、信じられない気持ちも一抹。されど、あの表情を。行動を。嘘だと一笑する疑う気持ちは、一匙ほども無かった。
「そうゆう事なら全力で止めてやる。……あんたを殺す事でしか止められないけど、それでもいいか?」
 緑の王は息を浅く切らしながら英治を眺む。みどりの眼が、ゆったりと瞬きを返した。
「……それを、助けを望むならもう一度吼えろ。緑の王。憐れな供物を拒絶してこちらへ吹き飛ばせ」
 十未の指示に、王の獣の耳が揺れた。はく、と口がたしかに開閉。息を、吸う、胸部のふくらみ。

 咆哮は悲痛だった。
 空気を天まで劈く。
 戦意も敵意も無いならば、咆哮とは耐えきれぬ感情の滂沱だ。
 その悲しみに、いつしかひとは、抱かれたいと感じていたのだろうか。

 教団員が再び吹き飛ばされる。緑の王が肩で息をする。教団員が再び身を起こす。緑の王が喉を鳴らす。
「ーー耳と目を、少し塞げ」
 今度は十未が低く紡いだ。亡霊のような声は地を這うように確かに届く。王は兵を信じ瞼を下ろし身をかがめ、耳を塞ぐ。瞬間、強烈な音と閃光があたりを一瞬で満たす。十未の投げたスタングレネードが、教団員達の意識を無理矢理に奪った。
「おやすみ。……できればそのまま。終えるまで」
 気絶した者達が起き出さぬよう、あるいは沼の上で気絶したものが溶けぬよう、十未がロープワークで、教団員をまとめて引きずり上げていく。他、緑の王へと向かう者は。十未の言葉に気づき、運良く気絶を免れた教団員と、駆ける桜庭英治。
「吠えろ、吠えてくれ! 教団員を近づけるなよ!」
 緑の王が、蹲ったまま、首を横に振る。何度も撃てば教団員は死んでしまうと恐れている。ただの人間には己らの力は強大であると、王はよく知っている。消化液が粘度を持って脚に纏わり付く。靴底が薄くなり、すぐに穴が空いた。
「死んでほしくないんだろ。自分が死の原因になりたくないんだろ! 全力でやれ!!」
 そうだ、緑の王の哀しみを慈愛とする教団員は、王が叫びを止めれば溶けゆくだけだ。
「……まだ行くのか。死にたがりを食い止める事ほど、手間な事もないな……」
 十未が次のグレネードを用意する。緑の王が歯を食いしばり身体を起こした。声がかすれる。ああされどまだ吠える。死へと沈まんとする教団員を吹き飛ばし、それを十未が気絶させ、引きずり寄せる。咆哮、閃光、ばだ、ばぢゃ、駆ける音。
 地獄と呼ぶには、此処は随分と騒々しくて、眩しい。
「ここまで来て止まれるかよ。帰れるかよ。負けられるか……意地があるんだ、俺たちは……!!」
 ヒュプノシス。痩せ我慢、強がりを叫ぶ。教団員の命が潰えぬよう、彼らにもこの回復の催眠が届くようにと言葉も選んだ。幾度目かの王の咆哮を、消化液を踏みしめ、意地で耐え抜く。液が英治の脹脛まで浸っている。布は勿論、肉まで溶け出していく激痛があるが、溶けた端から回復が痛みを忘れさせるから、英治はまだ前へと進める。

 陸で、蠢く教団員を、十未が縛る。
「悪いね。君達の信仰に興味は無いんだ。出来るだけ死人も出さない。……だから、ここでおとなしくしていなよ」
 そう言葉を残して、十未も沼の中央へと、長髪を翻して駆けた。

 痛みを共有するかのように英治は駆けて、息をひどく切らしてたどり着いた。
 死に損ないの義務を全うするかのように十未は駆けて、ひどく静かにたどり着いた。
 蹲る王の御前へと。
 王が、教団員を救うべく動いた二人が来るのを待っていた。
「ごめんな、俺がスーパーマンじゃなくて……!」
 王が身を起こした。どちらかといえば、殴りやすいようにと身を差し出してきたように見えた。
 スーパーマンだったら、この王の運命すら断ち切れたろうか。時を巻き戻し、こんな形になる前に連れもどせでもしたろうか。けれどもここにいるのはただの桜庭英治であった。その悔しさを拳に乗せて、今の自分に出来る限り、体の限界も無視して、捨て身で殴る。王の美しい鼻が歪み、天を仰ぐ。
「……わかるだろ。君の在りようは肯定できない。その首、落とさせて貰う」
 十未がワイヤーを垂らした。王の首にワイヤーを巻く。その力ない眼差しに、王もまた亡霊であると思わせる。強く、引く。骨ごと切断する手応え。角が重くて、ごとごとと身体に引っかかりながら、鈍い音で、ゆっくりと、沼へ転げ落ちていった。


 少年。少女。手間を、掛けたな。的確な気絶手段と回収手段、大義だった。
 このひととき、共に、命を守るべく戦えた事、わたしの誇りとしよう。



 ごぼり、ごぼり。
 首の切株から血が溢れ出し、再び頭部を形作った。
 角は変わらず勇壮だ。
 王のまぶたが開く。
 まだ、王の生命力は潰えない。
 眠らせるにはまだ足りない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャガーノート・ジャック
(――ザザッ)
起動完了。
此より標的の破壊を開始する。

(ザザッ)
SPDを選択。
脱力時に攻撃を無効化し排出する類のUCか。
ならば――いや、まずはお前達だ。

『Summon: Arms』により"シールド"を複数召喚。
教団員達と泥沼との間を隔てる壁として配置。
戦闘の邪魔だ。それ以上に――いや、いい。

防壁展開後、『Call:Gepard』で浮遊戦車を召喚、右腕に接続。

誰かが敵UCを破る手立てを有するなら、その攻撃に乗じる形でチャージした熱線を敵に撃つ。
(力溜め+スナイパー+援護射撃)

――彼らの死を望まないのならば、本機達がお前を破壊する事でそれを阻止する。

実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)


リュカ・エンキアンサス
淡々と銃を向け、その体に銃を撃ち込む
躊躇はしない。最初から全力でいく

その瞳も、その感情も、思うものはないわけじゃない
けれども俺は、あなたをただの敵として屠ります
今までしてきたように
あなたの感情も、状況も、嘆きも、そして苦しみも罪も斟酌しません
この星のためにともあなたのためにとも言いません
俺は俺が見ていられないから、俺のためにあなたを殺します

なるべく遠距離からの銃撃を行う
基本は援護射撃で仲間の補助をするように振舞う
万が一接近する事態になったらナイフを抜いて覚悟を決めようか
引かずに全力攻撃。捨て身の一撃で手早くぶった切る
なに、この身が骨になる前に倒せばなんとでもなるだろう

※アドリブ歓迎




 銃声に迷いは無かった。
 戦いの合間合間、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は淡々と、確実に銃を撃つ。
 沼が広がっていくならば身を引く。遠ざかる王を視界の中心から外す事なく。幾度目かの引き金を引いた。

 その瞳も、その感情も、思うものはないわけじゃない。されども少年は、緑の王をただの敵として屠る事を選んだ。
 他人の胸の内に何があろうと、人間はそれを汲み取りきる事など出来ない。言葉が無ければ尚のこと。敵同士であれば不要なこと。これまでしてきた事と、同じこと。
「……あなたの感情も、状況も、嘆きも、そして苦しみも罪も斟酌しません」
 銃弾を撃ち込まれた緑の王が、その度に衝撃に身体が揺らぐ。血が吹き出す。力無くその目が彷徨う。
 この星のためにとも、王のためにとも、言うものか。命を屠る責任を、大義名分に押し付けるものか。緑の瞳と、青い瞳が、かち合った。
 己のあり方を確認するように、リュカが口を開く。王はリュカを見ている。
「俺は、俺が見ていられないから、俺のためにあなたを殺します」
 それがいい。と、まるで讃えるように。王の表情が和らいだ気がしたが。撃たれ、沼にうつ伏せてしまったから、分からない。
 消化液が波打った。
 けものの本能、死への抵抗。ごぼり、消化液が競り上がる。王の誇り、微かな抵抗。その消化液を鎮めようと、指が足掻く。
 その波から逃れるべく、猟兵が後ろへ距離を取るのに対して。まだ動ける何人かの教団員は、王が空腹であられるなどと譫言を吐きつつ、前へと歩む。
 狙撃手であるリュカは、如何なる時も王から眼を逸らさない。その表情や仕草の変動も、全て見ている。本当に、見ていられないと、まだ幼さ残る表情筋が歪んだ。

● 
 ノイズが響いた。
 大自然……と呼ぶには、些か破壊されすぎているが。大自然に不似合いなノイズは、鼓膜を擽るように耳に障る。
 冬の風を切る黒い機体。破壊が、豹鎧にそのかたちを包んだもの。ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)が前へと跳んだ。着地、消化液の波をまともに浴びるが知った事では無い。暴力的な腕で、質量任せに地を殴りつければ、沼地が抉れ飛ぶ。その衝撃で前に出ようとしていた教団員を後方へと押し戻す。消化液の雫が、猟兵に飛んだろうがーー
 体を低く、腕で身を守りながら、リュカはジャガーノートの行為に頷いた。
「オプションパーツ召喚――」
 『Summon: Arms』。シールドを召喚し、吹き飛んだ兵と沼地の間に、壁の如く展開する。教団員達をこれにて隔絶。多くの教団員は、先の猟兵により縛られ無力化もされており、わざわざこの壁を越えようともなかなかしないだろう。
「戦闘の邪魔だ。それ以上に――いや、いい」
 
 見ていられない。
 見るに耐えない。
 あの王も、それに身を捧ぐ供物も。
 
 ジャガーノートが跳躍する。王がそれを無防備に見上ぐ。リュカの銃弾が、王の無防備な顎を撃ち抜いた。
「、ぁ、」
 痛みに微かなうめき声。王が顎を抑え、体を丸めて硬ばらせる。ーー先の猟兵ににより行われていたコード封じ、そして今の強張った身体。反撃の心配は無いと踏んだジャガーノートが、次なる兵装を呼んだ。それは豹鎧の姿の二倍もある、巨大な浮遊戦車。接続。砲口が王へ向けられる。
「――彼らの死を望まないのならば、本機達がお前を破壊する事でそれを阻止する」
 告げるが否や。沼中央にて待つ王へ、激しい熱線攻撃が注がれた。一瞬であたりの空気が熱く、鼻腔が焼ける。消化液が蒸発し、強烈な悪臭が、酸のように鼻腔や網膜に沁みた。
 熱線の中、王が、少年たちにこうべを垂れたように見えた。


 青の少年。見苦しいものを見せていて、すまないな。己の為に、と、背負い続ける勇敢は、重かろうが。その背を、わたしは、讃えよう。

 けものの機体。わたしを讃える弱者どもに、何か思うところがあったのだな。……一切合切、纏めて塵と返さなかった事。ただただ、感謝する。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジェイクス・ライアー
悲しい、いきものだな。

【SPD】
全てを溶かす混沌の臭いを肺に大きく吸い込み。目で耳で鼻で肌で、人間の顔をした哀れな生き物を感じる。…想いを馳せるのは一瞬。それだけの時間で、感情を捨てる。

疾れ。
[覚悟]が私を突き動かす。

空を駆ける靴の機動力は消化液すらも問題としない。
敵を屠る事。それ以外に何の思考が必要か。
足場に困る仲間がいればその手を取り、奴の元へ送ろう。
視界はクリア、狙いは正確。空中からの[援護射撃]。近づけるようであれば、靴の仕込み刃で蹴りつける。
状況に応じ、持ちうる手で息の根を止めるべく行動する。

私たちはお前の救いであるかは分からない。
だが。

お前の姿を忘れまい。

(負傷・連携歓迎)


ベルゼドラ・アインシュタイン
この噎せ返る悪臭に懐かしさを覚える
…あぁそうだ、古巣の匂いだ

緑の王の安息の地に信者が勝手に乗り込むたぁ、無礼じゃねーか
王はこんなにも綺麗なのに、贄はとても見苦しい

王には王で厚遇しようか
咆哮に警戒しながら【怪力】【暗殺】【傷口をえぐる】で
懐にダガーで一撃でも与えられればいい
近づくことが出来れば【ベルゼブブの抱擁】を

うちの王は心が広いんだ
きっと御前すらも抱き留めて愛してくれるさ、地の果てまで




 男と女が息を吸った。

 死にたがる者に、人の手など紅葉一枚だ。弾けど、縛れど、たかだか薄い紅葉一枚、掻い潜る者はいる。死ぬ者は死ぬのだ。死にたい故に死ぬのだ。ひとの形を成していたものが、消化液に溶け落ちて、悪臭を一層放っている。
 それを肺に迎え入れていた。網膜に、鼻腔に、喉に、粘膜に。焼けるような悪臭を、己の中へ。
 悲しいいきものだ、とジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)が零した。
 古巣の匂いだ、とベルゼドラ・アインシュタイン(錆びた夜に・f00604)がぼやいた。
 他猟兵の放った熱線の輝きの中、勇壮な角持つ王の黒い影が、空を見上げていた。

 熱線の輝きが晴れた後も。肉を黒く爛れさせて、王は天を見上げている。
 ベルゼドラは、前へ進もうと足掻く教団員を、物のついでに後方へ蹴り飛ばす。
「緑の王の安息の地に信者が勝手に乗り込むたぁ、無礼じゃねーか。見苦しいぜ」
 王はこんなに美しいのに。呆れながら、咥え煙草を消化液に捨てる。じゅい、と微かな音を立てて、すぐに溶け失せた。ああ、よく溶けるな、なんて感心しつつ、ベルゼドラは沼へ踏み出す。
 出てもいない月を見上ぐ事にも飽きたか、王の首が動く。
 ジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)は地を蹴った。空を跳躍する靴により、消化液は歩みを止める理由にはならない。王の生存の確認が取れたのだ、やる事は変わらず殺害それ一点。それ以外に、何の思考が必要か。湧き出しかける思考を斬り捨てる事には慣れている。
「失礼、手を」
「あら。……優しいのね」
 途中、どこか自棄めいて消化液を征くベルゼドラの手を取って。ベルゼドラもまた、動じるような可愛げも無く手を取り返した。王の御前を望むなら、送り届けよう。

 王が鳴いた。その高い轟は衝撃波となり、全方位を襲う。有る者は、沼の外で身を伏せ、有る者は他猟兵が築いていった壁に隠れ、またある者は傘の薄い防壁でその身を護りて。
 王が、口から酸素を吐き切った瞬間。ジェイクスの傘から散弾が降り注ぐ。人の顔をなしていた部分を弾き飛ばす。さらにその御前へと、ベルゼドラは降り立った。降り立ちざま、ついでのようにダガーで口から顎、胸に掛けてを抉りつける。落下の勢いをそのまま活かした深い斬撃は、王から声を奪い去った。
「、 ーー、」
 爛れた肉がダガーにべろりと張り付いて、妙な液も吹き出していた。御機嫌よう。なんて白々しくベルゼドラが挨拶をひとつ。ベルゼドラに続く形で、ジェイクスもまた王の後ろに着陸する。靴に仕込んだ刃で胴と腹を寸断。断ち切られた上半身が、呻きの代わりに空気を吐きながら崩れ落ちていく。
「……斬っても、消化液は止まらない、か……」
「あら、止めてあげようとしていたの?」
「止まれば、戦いやすくなると思ってね。だが、そうも行かなかった……退こう。我々は飲まれに来たのではない」
 肉の少ない王の体を斬りつける手(足)応えはなんとも脆弱だった。……それに、何の想いを持とうとも思わない。
 ベルゼドラが、そんなジェイクスを視界端に眺めつつ微笑んだ。
「そうね。戻りましょうか。ああけれどその前に、王に合わせたい方がいるの。……暴食同士、きっと仲良くなれるわ」
 消化液の中に倒れ込んだ王の上半身を掴み上げて、ベルゼドラは殺意を込めた眼差しを王に捧げた。


 ベルゼドラにより召喚された蝿の王ベルゼブブが、みどりの王の身を掻き抱き、脳も心臓も挽き潰す。それでいて、共に溶けていく。それを見下ろしながら、ジェイクスとベルゼドラは王から吹き出す消化液の海から離脱していく。
 顔も声も失った王の腕が、わずかながら、蝿の王の背に回されたように見えた。

 ジェイクスと王は瞑目した。
 救いになれるかは分からねど、助けを乞うようなあの顔も、天を見上ぐ気高さも。細い身体も。
「お前の姿を、忘れまい」
 ……低く穏やかな声が、唇から溢れていった。


 心を封じる紳士。わたしは、哀れまれるのは、あまり趣味では、ないんだ。だから。わたしを忘れないその心を、哀れんでやろう。ひとは忘れる方が楽なのだから。

 蝿の王との抱擁を勧めるとは、皮肉のよく効いた女め。……抱かれるなんて、はて、どれほどぶりだったか。……ああ、悪い気は、しない、ものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

虹結・廿
(泣いてる)
(このけものは、どうして泣いてるの?)
(分からない。でも、どうしてだろう。こちらまで悲しくなってしまう)

(ああ、だけど)
目標確認、任務を遂行します。
目標を破壊します。
(殺さない理由がない)

【分隊編成】を使用、消化液に触れない様に警戒しつつ距離を取り斉射。確実に削ります。
(任務だから、迷わなくて良い。)
(…任務じゃなかったら、どうしただろう?)

っ…損傷軽微
(どうでも良いや、今は撃て、進め、殺せ。それがオーダーなのだから)
(悩みも迷いも必要ない)
義体損失。再編成。

…突撃。

(…ああ)
悲しむ必要はありません
"私達"は安価な量産品、ですから。
(だから)

(泣かないで、ね)

※アドリブ歓迎


ヴィクティム・ウィンターミュート
…何だよ、その顔は。助けてくれってか?自分から死にに来る奴らを、殺してしまうことがそんなに辛いか?嗚呼、分かんねえよ…。分かんねえけど…お前が、死んでいく奴らを哀れと思って、止めて欲しいと願うなら…。

助けて(殺して)やる。

戦闘では攻撃を【見切り】、ナイフでヒット&アウェイ気味に攻撃する。
緑の王の咆哮で範囲攻撃してきたら、【早業】でユーベルコードを使用して味方を纏めて回復する。

…まあ、出来る限り死にたがり連中も治してやるさ。別に、俺は善人じゃない。悪党さ。死にたがりをいちいち助けてやるようなヒロイズムもねーけどさ。

あんな悲しい顔されちまったら、最善尽くさなきゃ寝覚めが悪い。
生きて、更生しろよな。




 溶け落ちていった黒の中から、王の形が生成された。魂が抜け落ちたような表情をしている。猟兵を見るみどりは力無い。なのに、だのに、教団員が蠢くと、その表情は強張るのだ。なにかを恐れているのだ。消化液の中に浮かぶ肉片に、その身を震わせるのだ。

 邪神など、人を食う存在でしかないではないか。
 それがどうして、そんな顔をするのか。
 戦闘兵に過ぎぬ少女、虹結・廿(ですますプロダクション・f14757)には分からなかった。
 賑やかな端役に過ぎぬ少年、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)には分からなかった。

 それでも。
 廿は銃を取り、四体の義体を新たに召喚。ひとりぼっちの小隊を築く。
 ヴィクティムは歯を食いしばりナイフを取る。デバイスが展開、周辺把握の為にその起動音を鳴らす。
「ーー目標確認、任務を遂行します。目標を破壊します」
「ーー……てやる」
 共に、あれを殺さぬ理由は無かった。

 廿の小隊が沼に触れぬよう分散。王の四方を取り囲む。王が、力無く少女ーー義体ーー……少女。少女らを、見る。斉射。統率の取れた発砲が、王に容赦なく注がれてーー消化液に触れたいくつかの銃弾は、そのまま少女らに帰って行く。幸い、排出は狙いを定められていない為、損傷は軽微。幼い髪が揺れる。頭皮が微かに削げる。それだけでも王の目は見開いた。
 廿の斉射、第二陣。三陣。その度に、注がれる銃弾のうちのいくつかが銃撃として排出されて、少女を少しずつ壊していく。四陣目で、少女のうち一体の脳天を直撃。弾かれたように崩れる少女に、王が吠えた。
 その吠え声に殺意はなく。むしろ少女の命を憂うような響きさえある。されど邪神の力を持って全方位を破壊する。その破壊の衝撃波を、廿達小隊は這いつくばる事で回避し、ヴィクティムは他猟兵が展開していった防壁に潜む事で回避しつつ。負傷をデリートするプログラムを高速展開、負傷を抹消していく。
 廿が、王の表情に、大丈夫、と応えるように、その幼い顔を和らげる。

 影で、ヴィクテムの喉が震える。
「……何だよ、その顔は。何だよ、あの顔は!」
 握りしめたナイフを投擲した。消化液のない肩を目掛ける。突き刺さる刃を跳ね除けもせず、されど身体は強張り、その刃を抜こうと王が身を屈める。
「……助けてくれってか? 自分から死にに来る奴らを、殺してしまうことがそんなに辛いか?嗚呼、分かんねえよ……。分かんねえけど……!」
 ヴィクティムの乱れた言葉の中でも、王の非脱力状態を、廿は見逃さないーー否、脱力状態でも、容赦無く撃つことを繰り返したろうと思うがーー銃弾が王の中に叩き込まれ、皮膚を突き破り血肉が爆ぜた。
 内臓も破られた王は黒い消化液を嘔吐する。喉が焼ける痛みに、静かに呻いている。みどりの目が、ヴィクティムを見た。息を浅く切らした王は、目の錯覚でなければ、微笑んだようにさえ見えた。
「お前が。緑の王、お前自身が、死んでいく奴らを哀れと思って、止めて欲しいと願うなら」
 防壁の隙間を這いずり出ようとする教団員が、視界端に映る。……半ば、躍起になっている節もあるのだろう。教団員からすれば、自分達はここで死ぬために歩んできたのだから。馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しい。あんな、たとえもしバグめいた目の錯覚だとしても、あんな顔で微笑む王に、この教団員はなにを願っている!
 廿が小隊を再編成。教団員の死よりも先に王を殺すべく、少女らは突撃する。緑の王が息を、ゆっくりと、これみよがしに吸った。咆哮が来ると理解する。理解できる。このヴィクティムに確かに伝わった。
『__死なねえ。終わってねえ。絶望してねえ』
 教団員の信仰も、あるかもしれない絶望も知ったことか。ただただ、あの王の顔が、あまりに目覚めが悪いから。咆哮の痛みが死まで届く前に、全て打ち消し続けてみせる。

『テメエの後ろにいる死神に、別れの挨拶をしろ。そして、絶望への死刑宣告を叫べ!!!』
 
 脚を失った教団員の肉が再編成される。前へ進まんとする教団員が咆哮に吹き飛ばされる。ヴィクティムが、そのダメージに這い寄る死神を全て引き剥がす。王へとかける廿ら少女の損傷も、全て消して、負傷なく送り届けてみせる。
 王から、絶望の顔を剥がし続けてみせる。
 王が穏やかに息を切らしていた。
 

「……悲しむ必要、なんて、無かったんですよ。私達、安価な量産品、ですから」
 五人の少女は王を囲む。本当は、壊れても壊れても前にひた進むつもりだったのだが、あの少年に助けられてしまった。……安価とはいえ、生成にはリソースを使うのだから、確かに誰も欠けない事こそ、最も安価なのだが。
 王は少女らをその腕に抱いた。
 消化液と獣の匂い、森の匂い。正直に言えば、臭かった。それでも振り払う気になれなかったのは。

 王は廿らにかよわいこどもを錯覚した。
 廿らは王にやさしさを錯覚した。
 そんな、誰も得をしない、希望ののぶつけ合いのせいだった。

 抱かれるゼロ距離。廿らがやる事は一つ。

「…………泣かないで、ね」
 その身に内蔵された兵器が、一切合切火を噴いた。
 爆炎が、沼の中央で上がる。


 少年。……わかってくれた。わかって、くれていたよ、おまえは。
 褒めてつかわそう。お前の征く道に、栄光の光がある事を願っている。

 少女。いいや、悲しむ必要は、あるよ。
 身を削る強さは、どうにも、ひとを悲しませる。だから……いや。
 伝えようも、ないな。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギュンター・マウ
あぁ…此奴ぁ凄ぇ光景だな
とても、哀傷に満ちた顔声だ、可哀想に

緑の王はこんな人間共の贄なんて、望んでないのだろうか?
山が、王が、麓の人々が手遅れになる前に…

黒い沼に取り込まれないよう
高い所か他の猟兵の肩でも借りるか
「歌唱」の為に深呼吸し
ありったけの慈悲を「呪詛」に込めて【曖の詩】を歌おう

「どうか、此の緑の王に死合わせを」

どうか、その御身に赤い華を咲かせて逝ってくれ
弔いの華がきっと、キレイに咲くだろうさ


揺歌語・なびき
惨状に吐き気がしそうだった
贄を願う人間も、それを受け入れるけものの王も
全てが悲劇で、喜劇にすら思える

消化液を避け【目立たない】ように素早く接近
【野生の勘、第六感】で攻撃を躱しつつ
味方の攻撃と【殺気】で隙をつくったら超殲滅動作に移る
【2回攻撃、呪詛、傷口をえぐる、串刺し】でなるべくダメージを重ねる

それでも食らう痛みは【激痛耐性、呪詛耐性】で受けきる
味方の攻撃時には【援護射撃】で支援

止められない、止めてたまるか
彼らのいのちが何一つ報われないとしても
此処でお前を殺してやる
その緑は、春を迎えちゃいけないんだから

殺してやるよ
助けてなんかやらない
なのに
そんな顔を、お前がするなよ





 惨状に吐き気がしそうだった。
 贄を願う人間も、それを受け入れるけものの王も。
 全てが悲劇で、喜劇にすら思えた。

 嫌悪に戦慄く揺歌語・なびき(春怨・f02050)の肩に、フェアリーであるギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)がろくな許可も取らず乗り込んでいた。なびきの草色の髪を踏まないように分けて、ギュンターは憐憫の吐息。
「あぁ…此奴ぁ凄ぇ光景だな。とても、哀傷に満ちた顔声だ、可哀想に」
「うん……哀れすぎて、笑えてくる。……殺さないと」
 笑い、など、これっぽっちも浮かばない。なびきの表情筋は凍りついたように硬く、桜の瞳は炎のように殺意にゆれていた。
「ああ。助けてやらねえと。ここでちいと、歌って良いか」
「良いよ。好きにしてくれ。途中降車はさせてやれないと思うけど良いかな。それと」
「ああ、構わねぇ。……それと?」
「おれは、あれを、助けてなんかやらないよ」
「……へえ」

 関心の息を低く吐いた後。ギュンターは深く息を吸う。なびきは、己の中のUDCを呼び出し、この身体を明け渡す。
 なびきの身体の内部で、力の制御が外れた。
 道化めいて、笑った。

 ギュンターが低く歌えば、その音波で消化液が左右へと弾けた。王への道が、一瞬開く。その一瞬に、なびきが鹿の王へと食い付きに駆けた。
 消化液のアーチが狭まる中をひた駆ける。疾く。疾く。ギュンターの歌が、痛みを代償になびきの背を尚押した。歌に含まれる呪詛なども耐えて、駆けて、割れた消化液が道を塞ぐと同時にたどり着く。顔に飛び散った消化液が皮膚をじくじく溶かす事など欠片も気にかけず、なびきは焼けただれた王の細首を潰すように鷲掴んだ。
「あ、ぁ」
 うめき声に開いた口が、二度と吼えるなと呪いながら気道を潰す。これ以上消化液を零すなと責めるように、そのだらしのない腹を抉る。棘鞭で身体の自由を奪うように縛り上げて串刺しにすれば、王がぼだぼだと血混じりの消化液を吐いた。
 道化は笑えない時でも笑うのだ。
 UDCに体を渡したなびきは、終の道化だ。
 道化も王も哀れなものだ。ギュンターが口を開く。こんな争いは一刻も早く終えて仕舞え。
「終わりにしようや、何もかも」
 呪詛を込めた愛の詩。緑の王が、どうかここで死に絶えますように。
「ーーどうか、此の緑の王に死合わせを」
 歌が王の体を内外から破壊する。棘の刺さった箇所から、一層激しく液という液が溢れて滲む。
 しあわせ、なんてと自嘲せど、それしかできないとばかりにギュンターは歌い続ける。
「……その御身に、赤い華を咲かせて逝ってくれ」

 しあわせ、なんて願うなと、吠えたい口をなびきは無理矢理に食い縛る。
 歌によってずたずたに筋繊維が破壊されていたのだろう。切り裂けば容易く王の肉が削げた。腕が飛んだ。こんなか弱いものに、教団員は一体何を望むんだ。
「何も、できないんだろ」
 責め立てるようになびきが口にすれば、王は自嘲めかして眼を細めたような気がする。
「……彼らのいのちが何一つ報われないとしても、此処でお前を殺してやる」
 王がたった一度頷いた気がする。
 春を迎えてはいけない命を殺す。
 殺す事を助けるなどと呼ぶ気もさらさら無い。
 なのに、なのに。
「そんな顔を。お前がするなよ」
 ぐぶぅ。と、不細工な音が、哀れみに歪む王の喉で泡立った。

 ギュンターが、それを間近で見ながら、歌を紡ぐ。
「……春待つけものに、しあわせを」
 胸元の肉がすべて後ろへと弾けて。飛び散った血肉が、赤黒い大輪を沼に咲かせる。


 歌う者。わたしは、血を、花と愛でる悪趣味はないよ。ないが。
 わたしを花と呼んでくれる、とびきりうつくしい歌は、またききたい。

 春色の、けもの。
 そんなかおを、お前も、するなよ。
 その、綺麗な花の目を、わたしは、見れて、よかったよ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三岐・未夜
【ジンガと】

…………殺したく、ないのかな
死なせるくらいなら、死にたいのかな
教団のひと、どうして、一方的に崇めるばかりで誰も神様の気持ちを見てあげないの
こんなに泣きそうなのに

…………やっぱり、死にたがりの気持ちなんて、僕には分かんないよ
僕は、生きていたい
死にたくない
だから、ごめんね
緑の、……森の王様
此処には豊かな森も何もないけど。此処で、眠って

UC土の矢を【属性攻撃】で強化して、確かな足場となる岩へ
【操縦、誘導弾、援護射撃、見切り】の一部で教団員を弾き飛ばして消化液の外へ、他は全てジンガの足場に回す
100も超えれば足場としちゃ十分でしょ、いつ溶け落ちるかも分かんないものにジンガ任せておけないよ!


ジンガ・ジンガ
【未夜と】
イヤなら死ねばいいのに
あァ、自分は溶けられない?
それとも、自死を選べない程度には生存願望残ってる感じ?

理由なんざシンプルで充分
お前は、いつか俺様ちゃんを殺す
飲み込んで、飲み込んで、その腹に受け入れ続けて
きっと、未来で俺様ちゃんを殺す

だから、その前に此処で死ね

未夜にはヤなモン見せっかもだけど
俺様ちゃんも死にたくねェからさ

入水する信者を飛石代わりに【地形の利用】
少しくらい足場が消えてもヘーキ
どうせ、どんどん新しく出来る――っと
……あァ、ほんとヤッサシーんだから

緑まで駆け
攻撃がくるなら【見切り】
【フェイント】かけて【だまし討ち】
射撃も加え、シーブズ・ギャンビット【2回攻撃】

さァ、食ったげる




 イヤなら死ねば良いのにと思っていた。
 されど、見る限り。緑の王にあふれては溢れ落ちていく生命力は、緑の王を死なせてくれないらしい。……羨ましいことで。なんて、小声で、ジンガ・ジンガ(塵牙燼我・f06126)は零す。

 先の猟兵が張っていた防壁が、消化液の拡がりにより熔け崩れていく。信者が蠢く。緑の王がそれにまた身を起こし、三岐・未夜(かさぶた・f00134)も寒気を覚える。どうして一方的に崇めるばかりで、誰も神様の気持ちを見ないのだろう。こんなに、泣きそうなのに。

「まぁー、イイや。教団員の気持ちもカミサマの気持ちも、俺様ちゃん知る由も無いし配慮する義理も無いしィー?」
 ジンガは背伸びをひとつ。愉快でこそ無いが、興味も無い。興味があるのは、自分の命と未夜の命だ。故に。
「ヤなモン見せっかもだけど、俺様ちゃんも死にたくねェからさ」
 後ろに向けて笑う。未夜は首を横に振った。
「……大丈夫。僕も、死にたくない。生きていたい。だから、全力でやるよ」
「そォ?んじゃ、やりますかァ。これ、溶けちゃったら困るから預かってて?」
 速度を増すべく脱いだ上着を未夜に被せながら。ジンガは、再び信者が入水し始めた消化液の沼へと駆け。未夜も頷き、数多の土矢を生成する。

 教団員を飛び石代わりに、躑躅色の鬼が駆ける。踏まれた教団員が口の中に入った消化液に噎せるが、まあ文句が飛んでくることはあるまい。
「どーせ死にに来たんでショ? 俺様ちゃんに有効活用されるだけ有難く思ってね!」
 液に溺れる教団員をーー未夜の土の矢が弾き飛ばした。死にゆく教団員も、陸へと打ち飛ばす。打ち飛ばす。げえげえ痛みに吐かれても知ったことか。
 敵とはいえ、悲しみを無視して踏みにじられているのを見過ごすのは、どんな形でも不愉快だから、未夜は教団員を生かす。それに。
「いつ溶け落ちるかも分かんないものに、ジンガを任せておけないよ!」
 浮遊する矢をジンガの足場の確保にありったけ回す。弾数には自信がある。教団員を片っ端から妨害しても尚、ジンガを王のもとへ送り届けるには十分数。
「…………あァ、ほんとヤッサシーんだから」
「優しく無いよ、ジンガだって安定した足場の方がいいでしょ!?」
「はーい勿論! 助かるわぁありがとー!」
 軽く風を切る。切った風は波紋を描く。
 
 ジンガへ、緑の王が低く唸った。ここに来て初めて怒りの表情を見た気がする。
「は。何、教団員ちゃんを踏んだことにご立腹? やぁっぱ俺様ちゃんには害獣じゃん。躊躇が要らなくていーわ」
 この緑の王とかいうけものがどんな表情を見せようが、躊躇などする気は無かったが。
 跳躍。上から、羅刹が、降る。
「此処で殺す」

 先ず厄介な咆哮を上げる喉を斬り潰す。斬りつけた喉の中から消化液がせり上がり吹き出した。ジンガはこれを勿論躱す。王の身体を蹴り、液を遠ざけながら一回転。未夜の矢に足場を確保してもらい、さぁて次はと顔を上げる。身を傾けた緑の王が消化液を吐きながら、周囲の黒い液を使役した。ジンガに向け、液が波を為して唸りを上げる。
 圧倒的な、死のにおい。全てを受け入れ、全てを溶かし、有象無象全ての意思を問わずに飲む、死の海にーージンガは荒く息を吐く。
「ーージンガ!!」
 その波を防いだのは未夜の土矢。足場の役目を終えた分の土矢をかき集め、傘状に形成し友を護る。二人とも、己の鼓動が喧しい。
 滴る消化液に髪先を焦がしながら、ジンガは冷や汗と口笛をひとつ。
「教団員は弾いてあげたけど。ジンガを殺そうとするなら、それは許さない……!」
「そーね。そーだわ。俺様ちゃん、ホンットアンタには興味無ェんだから」
「ごめんね、王様。……此処には、豊かな森も何もないけど。此処で、眠って」
 緑の王がジンガと未夜を睨んでいた。
「そうそ。怒りで眠く無いってんなら、さっさとくたばれ。食ったげるから、さっ」
 二回攻撃。生命の急所である心臓と、脳へ届くはずの目へとダガーで斬り込んで。王が声にならない雄叫びで身悶え、手を伸ばす。
「ーー未夜ァ! そっち戻るから足場ちょーだーい!」
 これでダメならもう出来る事はないと即座に踏み、未夜の側へとジンガは戻っていく。
 急所を迅速に抉られた緑の王は、喉を抑えながらごぼごぼと鳴く。


 躑躅の。
 悪運の強い愚か者め。

 黒狐の。あやまることなど、お前には、何も無いよ。
 あるとすれば、その躑躅色を庇った事だが
 それは、お前の、誇りであろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴラディラウス・アルデバラン
もし可能ならば、緑の王。
其方の心を見てみたく思う。
姿は今のままなのか、それとも。
何か言葉は発するだろうか。
闘えはするのだろうか。

覗けなければ、仕方がない。
単に素早く自然に還そう。骸の海へと送ってやろう。
助けを請われ、楽にしてやる程度の慈悲はある。
感傷に浸る様な精神は元より持ち合わせておらず、故に躊躇なく。けれど苦痛は感じさせぬ様、一閃のみで終わらせる心積もり。

内の熱に喰われれば、辿るかもしれない成れの果て。
お前は何故此所に喚ばれたのだろうな。
私と同じく雪にでも縁があるのか。或は、こうなる事が分かってか。
緑を、人を、巻き込まぬ為か。

嗚呼正に、お前は緑の王なのだろう。

美しき一輪の花を、今手折ろう。



●街
 ヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)からの、心象風景への招待状。

 冬の街。
 緑の王の名には添わぬだろう。人の営みが広がっているだろう。
 豪奢でなければ静謐でもない、されど窓には灯が絶えることの無い、当たり前の街並み。
 たまたま、王の好む季節として雪が降っているだけで、この街自体は雪の街でさえないようだ。並ぶ屋根の角度がそれを物語っている。
 当の緑の王は、と言えば。周囲を見渡して、不思議そうに瞬きをしているのだが。
「……此処が、其方の心象風景」
 ヴラディラウスが言葉を発しても、王はそのズタズタの身体で佇むばかり。
 覚えていないのかもしれない。
 骸の海で混ざった何者かの記憶でしかないのかもしれない。
 それでも、その景色は。緑の王が、かつてはひとであった事を、ヴラディラウスに見せ付けるようだった。
 王が、ヴラディラウスを見る。
 唇がかすかに動いた。
 血と脳をこぼしながらも、静かに微笑んでいる。
 ただ、王の静けさが。これを下げろ、と、命じているように思えた。

 王の元へと歩む。歩みながら、結界を解く。
 ヴラディラウスの歩んだ端から、結界がほどけ、黒い沼地に戻っていく。

 ここには人の営みなど無い。ただの孤独な山頂だ。剣の切っ先を王に向けながら、ヴラディラウスは問う。
「お前は何故此所に喚ばれたのだろうな」
 王は何も答えない。
「私と同じく雪にでも縁があるのか。或は、こうなる事が分かってか」
 王の首がかすかに傾いだ。

 緑の王、と呼ばれる由縁は、どこかにあったのだろう。生い茂る森の主であったとか、緑を芽ぶかせる力があったとか。
「緑を、人を、巻き込まぬ為か」
 その答えを知る事は、きっと無いのだろう。
 教団員は王を理解しておらず。王は語る言葉を持たないのだから。
 ただ、ヴラディラウスは、王の姿に、己の成れの果てを重ね見た。それだけが、今得ることのできる答え。

 一閃、剣が王の首を刎ねる。
 手応えは軽い。恐らくまだ死ねていないのだろう。そんな予感がヴラディラウスの胸中にざわめく。

 哀れな一輪の花。その花を今手折った。
 花は幾度も咲くものだ。骸の海に沈んでも、またどこかで咲いてしまうのだろう。
 いずれどこかで、ただ枯れる命に還れることを、同じ雪に生きる者として祈っている。



 さて
 わたしは、何を見せられたのだろうな。
 わからないが。ひどく寂しく、穏やかな心地になってしまった。
 ゆるしてやろう。
 首は褒美だ。持っていけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
※八咫と

(そのこえは、うたは
音無き、色無き森で痛みをうたうのは
お前だけなのか)

(みにくい咆哮で、応え、疾る)

(肉溶かす海には怯まない、が)
……!!
(八咫の叫びが耳に届けば、頷く。溢れる黒い翼を足掛かりに【ダッシュ】【ジャンプ】で渡る。
横たわる骨と肉を踏みつけ、次の叫びを放つ前に。
【先制】【早業】でその喉を。首を。頭を。躯を。
「烙禍」で焼き潰し灰にする)

おまえは、
ちゃんと、
土に、して、やるから!!

(還れ。巡れ。
お前は病であるけれど。
その瞳は、懐かしい森の色だった)


襲祢・八咫
【ロクと】

……己の消化液で、自らも溶けるのか。
かわいそうに、なあ……死ねぬのか、獣よ。
そうか、そうか。おまえは、死なせたく、ないのか。

獣の嘆きと、それを裂くような咆哮が聞こえる。

靴が、肉が溶ける音が横を駆け抜けて行く少女から聞こえた瞬間。
ざっと血の気が引いた。

ロク!!踏め!

珍しくも腹から吐いた声は、届いたか。
判断など一瞬だ。咄嗟だ。
ぶわりと溢れたひとつ目烏が、地を這うように足場を生む。

道具は使われてこそだ。使われなくては意味を持たない。
ロクの望むように、足場を成そう。
だから、どうか。
愛し子が、傷付くことのないように。
ずっと、ずっと。
そう願って、それだけ願って、この器物は時を経て来たのだから。




 幾度目かの再生を果たした緑の王が上げるは、悲痛と呼ぶ他無い高音。
 その声に、ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)が徐に立ち上がり、咆哮を返す。潰れた醜い嗄れ声。
 緑の王は一瞬驚いたようだった。が、傷を負った獣のようなそのロクの声は、王の胸にも響いたか。また声を返す。その鳴き声に、ひととしての言葉が何一つ無くとも、今のロクは知っている。あの声が、痛みであると、知っている。

 だからロクは疾走する。
 あの病に届くまで沼の上を駆ける。
 脚が溶けたとしても、それは止まる理由足り得ない。

 それでも。おまえが傷付くのを恐れる者はいるのだよ。

「ロク!! 踏め!」

 襲祢・八咫(導烏・f09103)が、ロクの鼓膜を叩くべく声を荒げ、地に満ちんばかりの烏を放つ。烏どもが、ロクという娘ひとりの為にその背を差し出し路を成した。溶ける足の裏が血の尾を引きながら、跳躍。烏の上を、赤い閃光が駆ける。
 踏まれれば重みに耐えきれず落ちる烏はいる。されど人と共に生きる宿神の一部であるなら、そんなものは烏どもとて本望だ。器物は使われてこそなのだ。そんな犠牲を、ロクも理解したか、踏み込みに迷いは存在しない。
 羽と肉と骨を渡り、八咫の愛子は王の御前。
 王は渡り来るそれを見ていた。

 ロクは森護る者。けものとひとの、はざま。そこに、王は何か見出したか。細い腕を、力なく前へ出す。

 縋るようなみどりが、燃えるような赤を見ている。祈るようなみどりが、満ち溢れる青を見ている。哀れだ。だから。

「ーーーーウ"ゥルルォ"お"オ"オ"アア"ァ"!!!!!!」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ーーーー!!!!!!」

 二つの咆哮が再び近距離にて邂逅する。音と音の激突。王は跪けと命ずるように叩きつける。ロクは弱者を立ち退かせる如く吠えがなる。ロクは脚を止めたくなるだろう。されどここで止まれようか。病は絶えねばならないのだ。だから、だから。八咫は烏を送り続け、ロクに至近距離で届く衝撃波の肉壁をつくる。湧いては吹き飛び、湧いては落ちる。そんな命の消費を掻き分けて、ロクの刀が振り下された。
 烏の亡骸を踏み締める。

 烙印刀が王の喉を焼いた。王の咆哮が空気の流れのみになる。
 烙印刀が王の首を切り落とした。咆哮が完全に止まる。
 王の腕が尚も足掻いて、ロクに摑みかかる。それを烏が啄んで、引きちぎり、腕力を少しでも柔らげる。刀を振り上げる。

「おまえは、」
 肉と骨のまだらになった王の身体を見下ろす。
「ちゃんと、」
 刀が厚い風圧を伴い落ちていく。
 ロクは思う。
「ちゃんと、土に、して、やるから!!」
 私も死ぬならば、土がいい。

 業火の柱が上がる。王が炭と灰となりゆく。
 息切らすロクが天を仰ぎ、細く吠えるのを、八咫は遠く見ていた。
 王とて生きるのは辛かろう。
 王とて愛しのいのちが死ぬのは辛かろう。
 おれもだよ。

 覚束ぬ足取りで戻り来たロクを、八咫が抱き止める。八咫も、王の咆哮に対し、ロクの壁にするために烏たちを全て向かわせてしまった為に無事とは言えない。
 それでも八咫はただただ、愛し子の無事を噛みしめる。赤い髪を指で梳いて、ロクの帰りを尊んでいる。
 ロクは八咫の慰みに目を閉じて、王の還りを願っている。
 あの病にも、森に還る権利が、あってほしいと祈っている。


 死ねない命は苦しい。
 それでも死なせる方が苦しい。
 おまえもか。
 わたしもだよ。

 すまない。
 すこしだけ、すこしだけ。
 おまえが、わたしに似ていたから。
 むきになった……大人気ないだろうな。
 お前の、森が、どうか絶えぬこと、祈っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リンタロウ・ホネハミ
もー気が滅入るったりゃありゃしねぇっすわ
死にたがりな信者に死なせたくないのに死なせる異形の神
どうせ死ぬなら、景気よくパァッと死んでくりゃ良いものを……
はぁ、仕方ねぇっす
オレっちが咲かせてやろうじゃないっすか、戦場の華ってのをね

ゴリラの骨を食ったら【〇二〇番之剛力士】を発動するっす!
そしたらまずは黒い泥の広がる地面にたたきつけて
地形を破壊する余波で泥をぶっ飛ばしてやるっす!
それを繰り返し繰り返し、緑の王までの道を作り上げ
最後はその土手っ腹に一撃ぶっ込んでやりまさぁ!

ハッハァ!! どうっすか、ただ死ぬだけじゃない奴の、お前を殺しにきた奴の一撃は!!
さぁ、楽しく殺したり殺されたりしましょうや!!


マルコ・トリガー
フーン、自分の命を捧げてまで何がしたいのかボクにはよくわからないな
しかも捧げられた当人はそれを望んでなさそうだし
……ま、ボクは綺麗な銀世界が見たいだけだからどうでもいいけどね

あの消化液は厄介だな
少し距離を取ろう
消化液が凍るかわかんないけど、精霊に氷の力を借りて【属性攻撃】で一時的にでもこれ以上広がらないようにしたいね

【フェイント】かけて他の猟兵の【援護射撃】をしながら様子見
攻撃に対して何らかの対応をしてる時って脱力状態じゃないよね
他の猟兵の攻撃直後を狙って【クイックドロウ】を撃ち込もう

君はもう何も考えなくていい
骸の海に帰りなよ

しかしこの雪山に花なんて……
緑の王様が春でも呼んでくれるのかな




「……ふーん。自分の命を捧げてまで何がしたいのかボクにはよくわからないな」
「あーあー全くっすよ。わかりてえとも思わねえっすけど」
「それに対して、どーも思うところのある猟兵も、ぽろぽろいるのかな。これは」
「そうっすねえ。なんやかんや、教団員も結構助けられてるじゃないっすか。は、死にたかったところを邪魔されて、ざまーみろって感じっすよ」
「……そうだね。よくわからないなりに。死ぬのを見つづけるよりかはまだ、ざまーみろって感じかな」

 リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)の剛腕が地を殴りつけた。地が轟く。土が抉れ飛ぶ。消化液が飛び散り、その最中でリンタロウは、この景色の全てを笑い飛ばすように口を開いた。
「もーーー気が滅入るったりゃありゃしねえっすわ! どうせ死ぬなら、景気良くぱぁっと死ねばいいものを!」
 飛び散った消化液がリンタロウの衣服を溶かす。皮膚を溶かす。目に入ったらまずいだろう、自分の細目が珍しく有利に働くシーンだ、なんて。
「オレっちの咲かせる戦場の花、その目にとくと焼き付けてくれていいっすよ!」
 リンタロウの腕に宿したゴリラの剛力が、二撃、三撃、溶けた地ごと吹き飛ばす。
 飛び散ってくる消化液に眉間をしかめ、マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)は短銃を取り出したる。
「花を咲かせるのはいいけれど。周りの事も、もう少し考えても、良いんじゃない」
 マルコの銃弾が絶対零度を帯びて放たれた。
 空気は愚か、銃握る手指まで凍らせかけながら。
 溶けるよりも早く凍て付かせる。融解と凍結の正面衝突、凍気とも熱気ともつかぬ靄が一帯に圓滿する。
 飛び散っていた液も、広がっている液も、一切合切凍らせて。
「ああ、こりゃあお陰様でやり易くなったっすね。どーも感謝するっすよー!」
「氷漬けの沼になっても、近づくのに不便だったろうしね。どんどん抉っていってよ」
 マルコは指に張った氷を剥ぎながら、勇猛に突き進むリンタロウの背を見ていた。
「綺麗な銀世界を見たくて来ただけ、……だけど」
 その賑やかさもまあ、これだけ酷い景色をぶち壊すなら、悪くはない。

 ゴリラは森の賢者である。
 賢者は王への道を作り上げる。以降に続く者たちが、傷つくことなく王の前へたどり着けるように。
「ああ、くだらねえんすよ、命を投げる信者も、それを嫌がる王も。ぜーんぶひっくるめて、ぶっ壊してやりたくなる」
 その道も、王から溢れ出す液によりまた埋まっていくのだろうがーー
 リンタロウを見る王の瞳孔が、最初に見た時よりも随分と開いているように見えた。
 王が身を僅かに乗り出す。歩けはしないようだが、それでも、心沸き立つように。
 リンタロウが笑う。
「おーおー、こうゆうの、乗り気になる方っすか? そりゃあいい」
 その、渾々と消化液を垂れ流す腹部めがけ。
「アンタ、死んだっすよ」
 鉄槌の如く叩き込む。

 その打撃の圧倒的衝撃が、そっくりそのまま、リンタロウの脳を激しく揺らした。
「か、は……!?」
 王は心沸き立った。故に、一撃返してみせた。脱力状態による反撃。王が笑う。
 故にリンタロウはもう一撃。オブリビオンを殺すほどの衝撃をその身に返されても尚、掴みかかり、その笑みを殴り飛ばす。
 二撃目は王にも返せなかった。返した、という高揚が、その身を力ませていた。顎といわず鼻まで破砕されるような衝撃に仰け反りながらも、手がリンタロウへ伸ばされて。
「ーーハッハァ!! どうっすか、ただ死ぬだけじゃない奴の、お前を殺しにきた奴の一撃は!!」
 伸ばされた手を穿つは、後列より、リンタロウの脇を縫うように放たれる熱線銃。手に穴が開く。遅れて感じる熱に、王が呻いた。
「うん。やっぱり攻撃を受けた直後は、脱力状態じゃないな。続けて」
 短銃を取り回しつつ、マルコが頷いていた。
「……いやいや今のオレっちの脇までめちゃ熱かったっすよ!?あっぶな!あっぶなぁ!」
「ゴリラなら穴が空いたくらいで止まらないだろうと思って。期待してる」
「ゴリラじゃなくてオレっちは普通の人間なんすよぉ? いやぁ、スリルがあって良いっすけどね。今の撃ち筋、信じたっすよ!」
 ああ、穴が空いたくらいでは、止まるまいよ。されど今確かに微かな隙間を縫ったその腕、買う価値有り。
「さぁ、楽しく殺したり殺されたりしましょうや!!」
 王が、穴の空いた腕を握り締める。
 王の瞳が、ぎらぎらと輝いて。
 マルコがその目に肩をすくめる。子供の喧嘩でも見るような気分だ。
「なんだ。楽しむだけの自我はあるのか。
 それなら、骸の海に帰るまでは付き合ってやる。
 終えたら、何も考えることなくただ眠りなよ」


 ゴリラ? ゴリラと、ここに来て、闘えるとは。思ってもみなかった。
 ああ、お前はやさしい男だ。私をわざわざ沸き立たせたのだから。

 銀世界。期待通りの景色を提供できずすまないな。
 私が落ちた後なら、きっと……否、どうかな。
 あまり、自信がないが。お前と見る雪は、冷たく、心地好さそうだなあ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
※アドリブ、連携歓迎

沼に進む教団員を死なぬ程度に
沼の反対側へと殴り飛ばす

望まぬ命を、押し付けるな

怒りに揺らぐ瞳
殴り飛ばした先の教団員へと向けて


緑の王、会うのは二度目だな
以前会ったあの個体が目の前の王と同じなのかはわからないけれど
…また、悲しみに塗れた顔をしている

今回は、あなたにお礼を言いに来たんだ
生を望む命をこの手で散らす事
境界線を越える事に迷いがあった俺に踏み込む切欠をくれたのはあなただ

王に、感謝を
――ありがとう

あなたを救うのはきっとこの一振りでは無いだろうけど
俺は俺の全力を持ってしてこの力を揮う
あなたの命は、俺の臓にしっかりと刻まれた

屠、行くぞ
翼を広げる

技能:鼓舞、気合い、覚悟、なぎ払い




 幾度も繰り返される咆哮。それをかわすでも、防ぐでもなく、王の痛みを焼き付けるようにその身に受ける。
 黒い体に血が滲んだ。内側が破壊され、粘膜から血が伝った。
 華折・黒羽(掬折・f10471)が立ち上がる。

 進む教団員を殴り飛ばす拳があった。
 その拳に殺意はなく、されど確かな怒りに震えていた。
 沼の外へ押し出す拳。それを振るった、黒羽の両足は、消化液にとろけ出していく。息を吸う。腐臭が肺に流れ込んだ。
「望まぬ命を、押し付けるな」
 その叱咤は、荒げるでもなく、されど確かにいのちの熱に喉が震える。
 こんな叱咤が、狂信者の胸に届くかは、黒羽にはわからない。それでもあのやさしい目の王が、尚も苦しむなんて。もう黒羽には、見ていられなかった。
 背を向け、進む。
 ここまで様々な猟兵が、消化の威力を和らげようと、道を開いて来た上を、黒羽が歩む。
 歩む事は、痛む事だと。凡ゆる命に知らしめる、王への絨毯。

 御前。
 緑の王は静かに黒羽を見上げていた。
 立っていれば、王とて背丈はあるだろうが、立ち上がれぬその姿では、自然と黒羽の方が視線が上となる。
「緑の王」
 見下ろして話すには、いささか胸が痛んだ。だから、黒羽は膝を付き視線を合わせる。
「会うのは二度目だな」
 以前は、泥人に命を捧げられていた。今は人か、と、哀れみにまぶたを短く伏せる。
 以前、会ったあの個体が、目の前の王と同じなのかはわからないけれど。それでもあの場でみた景色と、重ね見てしまう。
「……また、悲しみに塗れた顔をしている」
 王が、ほんのわずかに、笑ったような気がした。

 礼。
「今回は、あなたにお礼を言いに来たんだ」
 王が、ゆっくり、と、まば、たき。その緩慢なまぶたの動きと、注ぐ視線のみで、先を促す。黒羽は浅く頷き、想いを音に。
「生を望む命を、この手で散らす事。境界線を越える事に 迷いがあった俺に、踏み込む切欠をくれたのはあなただ」
 骸の海から湧く過程で、記憶が共有なんて、されないだろう。それでも同じ顔をした王の前に、今度は胸を張って立ちたかった。自己満足だ。そして己の在り方の証明だ。誓いを己に、焼き付ける。

「王に、感謝を。――ありがとう」

 王は、どこまで言葉を解しているのだろう。
 どこまで想いを解しているのだろう。
 言葉を受けて、王の背もまた、応えるように伸びたような気がするのは、黒羽の錯覚だろうか。
 王の手指が伸びたのはなんの気まぐれだろうか。黒羽の頬に触れる手指がひどく優しいものに感じてしまうのは、殺す者の傲慢だろうか。
 答えがどうであれ。この敬意に嘘はない。

 屠を、己の身より引き抜くよう顕現させる。
「あなたを救うのは、きっとこの一振りでは無いだろうけど」
 王の咆哮により流れた血を吸った屠を捕食形態へ。
「俺は俺の全力を持ってして。この力を揮う。
あなたの命は、俺の臓にしっかりと刻まれた」
 語らう間にも消化液は満ちて。
 脚を焼かれれど、黒羽は立てる。
 地を踏みしめ、屠を振り下ろす事が出来る。
 王の与える痛みの上に立てる。そしてその痛みも癒える。だから。どちらともなく、思うだろう。
 お前と話せて良かった。と。

 翼が広がる。
「屠、ーー行くぞ」
 空腹に苦しみながらも、人を喰らいたくないと吠えた王を。明日を征く己らの糧とする。
 王は屠られ、幾度目かの死を迎える。


 そうか。
 私の命、持っていけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花邨・八千代
あーぁ、ひっでぇ声と泣き顔。
これが邪神かよ、なっさけねぇ神様も居たもんだ。

なぁ、お前も……喰うのはいやか。
……いやだよなぁ、こんなの。

◆戦闘
黒塚を思い切り振り回すぞ、【羅刹旋風】だ。
ついでに教団員をふっ飛ばす、邪魔なんだよこいつら。

俺がいくら焼けようとどうでもいい、「捨て身の一撃」ぶちこむぜ。
邪神のすぐ傍まで近付いて、「怪力」を乗せて叩き込むぞ。
消化液ごと「なぎ払い」つつ、「2回攻撃」で「傷口をえぐる」。
すぐに終わりにしてやるよ、緑の王様。
お前だって早く寝たいだろ、……俺もだよ。

あぁクソ、クソが。
らしくねェんだよこんなの、反吐がでる。
……アホらし。


夢飼・太郎
クソだ
死にたがる民間人も
溶けた身体を治せないオレも
それを悲しそうに喰うテメェも
だからこんな冬は終わりにしてやる

☆感情
悪神である緑の王が人間のように悲しげな顔をする不快感
それでもやはり食らおうとする怒り
自ら溶けにいく信者たちへの不甲斐なさと苛立ち

☆戦闘
前に出る
靴や服が多少溶けても立つ

初手UC

以降は刺突、UC、射撃
で柔軟に動く

「きっとテメェにはオレ達よりも身を任せたいと思わせる強さが有んだろう
だからテメェを倒してテメェよりオレ達が強いと死にたがり達に証明して!
いますぐ全員目ェ覚まさしてやるよクソッタレ」
「よって消えろ今すぐ消えろ
テメェが生きてるから人間が死ぬしんだ被害者ヅラしてんじゃねぇ!!!!」


ユキ・パンザマスト
(愉快ではない、そんな顔で)
お前、何、ないてんですか。
山頂くんだりまで、自ら足を運んでくれた食事ですよ。
なかずに、おびえすに、喰いやがれってんですよ。
緑の王だぁ? 
かつえたけものの、成れの果てじゃねえですか。

只咢で、王冠の載る頭部をぶち抜きましょうかね。
激痛耐性と毒耐性がある。消化液は駆け抜けますよ。
先制攻撃だ。鎧無視。捨て身。生命力吸収。
ああ、ああ! ひっでぇ泣き顔だ! 
全く、そんなのは、獲物のする顔じゃないですかよ!
なら、ユキが喰らってやりますよ!

(──ユキは、お前みたいに、なるかよ)
(絶対に、お前みたいな顔を、目を、するものか)
(そんな目、するんじゃねえですよ)




 沼に浮かぶ、溶け残った屑を、王はその手指で集めて口に運ぶ。そして泣く。涙が、出る訳では、ないが。表情を歪め、その手指に乗る程度の屑を、酷く悲しんでいるような。
 最初も、助けてくれって顔をしていたな。
 それへの不快感を、露わにする猟兵が、幾人か。

 ーー放たれる指向性ミサイルの群れの合間を縫い、ユキ・パンザマスト(禍ツ時・f02035)が、猫のように身を低く駆ける。駆ける。溶けたって構わない、と思っていたが、先の猟兵が地を抉り、液を凍らせた関係で、脚の痛みは覚悟していたよりはなかった。故に、一層速く。一層精密に。死に物狂いで駆ける事が出来る。
 王が気怠げに顔を上げる。ユキが高く跳躍。直後、ミサイルが王に一切合切注がれる爆炎。その立ち上る炎の中へと、ユキは果敢に落ちていく。

 緑の王だぁ?
 かつえたけものの、成れの果てじゃねえですか。
 
 熱気に小さな体を煽られながらも、あれを喰うという我武者羅な心臓が、黄昏のけものを王の御前にかぶりつく。ミサイルを浴びれど王は健在。焼けた目がユキを見る。
「ああ、なんだ、その、覇気の無え目は!」
 猫の憤怒めいて吐き散らす。
 ユキの振るう只咢もまた、きっと何らかの成れの果て。全てを貪る獣の骨。それで王の顔面を食い潰ーー否。身の力を抜いた王が、その噛み付きを無へと喰らい、同じ骨の大口を、後ろの消化液からそっくり返す。前に王、後ろに口、ーー間に合わな、
(なんですか。ムキになったんですか。どちらが食う側か教えようって? ああ、ああ、心底腹が、立つ。)
 ユキが食いつかれる寸前。棍棒が骨を盛大に薙ぎ払う。骨がずんばらりと斬り崩され、落ち、吹き飛んだ。後ろから現れるのは、酷くつまらない顔をした花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)。
 薙刀黒塚を肩に背負い、短いため息ひとつ。
「ほんっと、なっさけねえ顔した王様だよなぁ。……神様だっけ? どっちも不似合いすぎて覚えらんねえんだけど」
「……ほんと。ソレですよ。こんなん、神でもなけりゃ王でもねえ。与えられる供物を受け取る責任も度胸もなく、苦悩だけ垂れ流すようなけものの、どこが」
「ああ、クソだ」
 再び扉が開く音。夢飼・太郎(扉やかく言うな・f00906)の扉型グリモアが、第二のミサイルを充填。
「死にたがる民間人も。溶けた身体を治せないオレも。それを悲しそうに喰うテメェも!」
 太郎はいつも感情の矛先が滅裂だ。他人に怒り、怯え、最終的に己の首ばかり締めていく。このただの猟兵に、もしも死者を蘇らせる力でもあれば、あの王も安堵の一つ浮かべたろうか。ーーそんな筈は無いな、と、胸中のどこかがハッキリと感じさせる不可思議があるが。
 先の猟兵がせっかく凍らせていた消化液の一部がミサイルの熱気で溶ける。再び上がる爆炎。二撃目は、溶けだした消化液をどぽんと畝らせ、かなり無効化されたようだが、炎は好まないかみどりの眼が太郎をじとりと見つめていた。
「だから、こんな冬は、終わりにしてやる」
「……あーーあ、折角消化液凍ってたのにどろどろじゃん。しゃーねえか」
「えっ、お、オオオオレが悪いのかよんな訳あるかよ、うるせえどいつもこいつもオレを責めやがって」
「いや別に気にしねえけど。どんだけ爛れたって上等だし」
「そうですそうです。気にしませんて」
 どうせ全員、焼かれても知ったことかと思ってここに来た。あの王の齎らすどんな痛みにも、踏みとどまってたまるものか。

 死にたがる教団員を、八千代の旋風が自己強化のついでに吹き飛ばす。邪魔すぎてあくびが出る、見るに耐えない。
「太郎、あいつらグリモアで吹っ飛ばしとけば良かったんじゃねえ?すげえ邪魔」
「吹っ飛ばした先で何しでかすかわかんねえだろ。邪教だぞ」
「それもそーか……ち、妙案だと思ったんだがな」
 オレは悪くねえ弱くねえとごちゃごちゃと一人勝手に付け足している太郎劇場と共に、八千代が薙刀を振るい、王の肉を抉る。
 怪力も載せた斬撃は王の骨など容易く斬る。茹で卵くらいの容易さで斬る。上半身が分かたれて、消化液の中に王の半身が沈んだ。みどりの目が見上げる。
「なんだ、真っ二つになっても死ねねえの」
 八千代が呆れ、太郎が前に出、その目を真上から見下ろした。
「きっと。テメェにはオレ達よりも身を任せたいと思わせる強さが有んだろう。その死ねなさも、要素の一つなんだろう。再生の神めいてるもんな、錯覚もいいとこだ」
 語れば語るほど、太郎の息が上がっていく。強さを妬むような、羨むような。この有様を惨めだと思うような。惨めだと思い見下ろす自分を、嫌うような。感情が、太郎のうちによくよく煮えたぎり、熱の奔流。それを抑えきれないままに、至近距離で銃口を向け。
「だからテメェを倒してテメェよりオレ達が強いと死にたがり達に証明して! いますぐ全員目ェ覚まさしてやるよクソッタレ」
 引き金。
「よって消えろ今すぐ消えろ!!
テメェが生きてるから人間が死ぬしんだ被害者ヅラなんざしてんじゃねぇ!!!!」
 悲鳴も同然の怒号と共に、夢飼太郎は王を殺した。

 次いで再生し蘇ってしまう王を、後ろからユキの只咢が背骨をへし折るように噛み付いた。両脚を溶かされ、視界が僅かずつ下がっていくが、これを食わねば今日のユキの腹の虫は収まらぬ。
「あいつら。山頂くんだりまで、自ら足を運んでくれた食事ですよ。
なかずに、おびえすに、喰いやがれってんですよ」
 王の呼吸が咀嚼からも伝わる。
 泣いているのかよ。何様だよ。
「全く、そんなのは、獲物のする顔じゃないですかよ! なら、ユキが喰らってやりますよ!」
 成れ果てなど知らぬ身だが、もしもユキという黄昏にも、いつかその果てがあった時。
 その時は、そんな目は決してするまいと。
 どうせ忘れてしまう記憶に、脚の痛みと味覚を決意に紐づけながら。ユキ・パンザマストは王を食い潰した。

 背中から食われ、転がり落ちた頭は、八千代のつま先にぶつかった。
 無闇に大きい角を重いなと思いつつ、気まぐれにその頭部を拾う。
 みどりの目が動く。生きているなんてむごい話だ。
「なぁ、お前も……喰うのはいやか」
 頭部の持ち方は酷く雑。自慢の角を持たれて、死に際の王は渋い顔。それでも、かすかな呻きが、八千代には同意に聞こえた。
「いやだよなぁ、こんなの」
 ふと視線を後ろに向ければ。先程吹き飛ばしたはずの教団員数名がこちらを見ている。沼に入水こそしていないものの……もう一度、粗雑に、風圧のみで教団員を弾き飛ばす。蛙のような悲鳴に、鼻を鳴らす。
「終わりにしてやるよ。緑の王様」
 速くこの消化液を、全て無くそう。そうしたらもう、誰も食わずにすむのだから。
 頭部を投げる。降ってくるまで見上げる。薙刀をつかみ直す。
「お前だって、はやく寝たいだろ」
 音も無く、斬る。王冠の如き角ごと、頭部は左右に崩れて落ちていった。もうこの首の表情は動かない。
「俺もだよ」
 馬鹿馬鹿しい。阿呆らしい。やるせなくも、花邨八千代は王を眠らせた。
 なに見てんだ。と、二人に悪態吐いておく。

 三人とも、脹脛ほどまで、肉がすっかり削げている。
 それでも、立ち続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
……その願いはあのヒトの形をしたモノたちへか
それとも、アンタ自身へか
なあ王サマ

【月焔】を消化液へ撃ち込む事で蒸発を試みる
教団員の命ではなく、誰かが其処へ沈むのを
少しの間止められればいい
死にたい奴らを救う気はないが
飢えながら尚、喰いたくないと拒む顔は見たくねぇの

焔で足場を確保しつつ右目の刻印「氷泪」を嗾け『生命力吸収』
喰らうってのは、もっと楽しむモノだろう?
だから、アンタを喰わせてヨ
その代わりアンタが望むモノがありゃ、くれてやるよ
オレは料理人だもの
望むモノを、食わせたげたいデショ

ああケド、腹が膨れたらこの雪山で花見する予定ナンだ
ソレは叶えさせてネ


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

あんなにも…哀しそうな顔をするのか。
とうに忘れたはずの、昔の自分と重なってみえて複雑な気持ちになる。

……貴方も私も、何かを殺めることでしか生きられないのですね。
ならば私は、殺め続けましょう。貴方という存在も。
もっといい、他の選択を見つけられたらよかったのですが。ごめんなさい。
「……処刑します」
貴方の居るべき場所へ、還りなさい。

「神を殺す小刀」を構えて【覚悟】
消化液に警戒しながら間合いを詰めていき、攻撃範囲に入ったら小刀で斬りつけて攻撃。
王の攻撃は、UC【絶望の福音】で回避したり【オーラ防御】で防ぐ。

そういえば、るり遥さんの言っていた花というのが気になります。
「緑」の王と花、か。




 王から溢れる新たな消化液は勿論、その消化液が氷を溶かす。渾々。もしも、もしも、これが全て飢餓を表しているならば、あの王の飢餓はどんなにか。

 だから、という訳でもないが。コノハ・ライゼ(空々・f03130)は、消化液の蒸発を試みた。冷たい月白の炎が揺れ、一帯の液を空気に返す。
 蒸発により、悪臭が一層立ち込めるが。鼻がひん曲がるよりも、人が死ぬほうが、あの王も、不愉快なのであろうから。
「アンタ、さっき助けてって顔してた」
コノハが言う。王はほむらに見とれているのか、呆けた顔。
「……その願いはあのヒトの形をしたモノたちへか。それとも、アンタ自身へか」
 ……なんて、口に出してみれば、確認するまでもない。だって、消化液が消えゆくこの最中。王はあんなにも穏やかな虚無を抱いている。空腹が過ぎて無気力となっている顔、なのだろう、が。
「ま。その顔だったら、まだいいか」
飢えながら尚、喰いたくないと拒む顔は見たくない。
「はい。……先の顔は、あまりにも哀しそうだった」
 コノハの声に同意を示したのは有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)。
 血色の瞳を哀しげに伏せ、想いを馳せる。
 とうに忘れたはずの、昔の自分に重なってしまう。殺したくないと嘆く顔は、あんなにも悲痛であったかと、己の胸に手を当て、知らずのうちに指が衣服を握りしめていた。心臓の上に、ひび割れのように皺が集う。
「なにかを殺す事でしか、生きられないのですね」
 神も人間も同じだなんて。場違いに、少しだけ、笑ってしまった。どこまでいっても、ひょっとしたら死んでも、なにかを殺し続けるのかもしれない。見えてしまった未来を笑う。少女めいて笑った口元を、殺す者としての決意で硬く結ぶ。
「もっといい、他の選択を見つけられたらよかったのですが。ごめんなさい」
 神を殺す小刀を構える。道を、月白の焔が確保する。美しくて醜悪な路を、ひらく権利が生者にはある。
「他の選択肢、あるよ」
 言っても、ただの言い換えだけれど。と付け足しながら、コノハが己の顎を掻いていた。夏介が視線を向け、首を傾ぐ。
「オレ、これからアレを喰うから」
「……ああ。それは、良い手かも、しれませんね」
「デショ」
「生者の輪廻に、命のほんの一部だけでも、まじわれるなら。ただ悲しく海に溺れるよりは」
 きっと、王のさいわいを願う者は少なくないのだから。王を殺そう。
 小刀が、ぎらりと、覚悟を現す。
「ーー処刑します」

 一閃。王の懐まで駆け込み覚悟を振るう。夏介の小刀が王の胸部を抉る。一瞬で詰まった間合いに、王の瞼が遅れて持ち上がった。
 あ。呻き声。を、前兆に。王が泣きわめくように吼えたてる。前兆があったならば、福音に愛されし夏介には回避は容易い。オーラ防御を張り、痛みを抑える。
 殺すべく小刀を翻し。声を奪うべく、肺を突く。ごぽん。王の胸が跳ねた。
 更に、夏介の後ろで身を低く、衝撃波をしのいだコノハが立ち上がり、その氷色の目を開く。その瞳は、稲妻待とう氷の牙を剥き出して。王へと食らいついた。
「うん。喰らうってのは、もっと楽しむものだろう?だからアンタを喰わせてよ。オレが、手本、見せてあげるから」
 ぶ、ぐぶ。口から液を吐きながら王が足掻く。女の肉で、獣の肉。痩せていて食い出はあまりないが。腹が膨れるだけでも、人生とは楽しいものなのだ。
「その代わり、アンタが望むものがありゃ、くれてやるよ」
 はく。王の唇が、無意味に開閉。
「オレは料理人だもの。望むモノを、食わせたげたいデショ」
 ねえ。同意を求めるように、一瞬夏介に、コノハの視線が向いた。
 殺すことしか与えられない夏介は、目をわずかに見開いた後。返り血のついた顔を片手で多い、哀しげな苦笑を浮かべて頷いた。
「はい。はい……是非、そうしてあげてください。もう、時間も、あまりないでしょうが」
 殺傷の意図を持って。突き刺したままの小刀を、肉を切り開くように振り上げた。がくん、王の身が痙攣。
 それでも。王の唇がなにか、言語を形成しようとしている気がする。
「うん。なあに」
 コノハが耳を傾ける。
 その答えが聞こえることはなかった。

「……人を食いたい、とは言ってなかったよーな気するねえ」
 王が泥に返る。ぼこ、ぼこ。あぶく。恐らくまだ再生してしまうのだろう。それでもおそらく、次の王が最後。理由もなくそう感じられた。命が消える気配というものに、殺す者どもは敏感だ。
「花」
 夏介がつぶやく。ーー出してはいないが、気持ちだけ、コノハの耳が立った。
「はな……と、動いた、ような気がします。……いえ、違うかもしれませんが」
「そっかあ。王も花見したいのなら、好都合かも」
 緑の王と、花。
 あれがどうして、緑の王と呼ばれたのか。
 それは何の名残であるのか。
 猟兵たちは知らない。知らないが。

「雪山の花見。期待してよっか」
「ーーはい」

 じきに、冬は終えるのだろう。



 やさしい。
 あまりにも、おまえたちは、やさしい。
 ああ、鱈腹、なんて、とうに忘れた感覚だが。
 おまえたちと、たらふく、花でも見たいものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

犬曇・猫晴
初めまして。そんな目で視なくても、そのつもりだから安心してよ
うん、救いに来たんだ
でもさ、なんでろうね。なんなんだろうね
君を視ているとあの子が頭ん中に出てくるんだよ
分かんねぇんだけどさぁ、哀れみじゃねぇんだよ
ひとりぼっちの英雄に、仲間を見せびらかすみたいな。そんな最上級の侮辱をした奴に対する怒りしか湧いてこねぇんだよ
ごめんね、ついさっきお前を救うって言ったばかりだけど。俺、そんな優しい人間にはなれねぇみたいだ

【POW】
殺す





「初めまして」

 犬曇・猫晴は、仕草は恭しく、声音は気さくに。ほんの少し場違いな冗談めかして、挨拶一つ。
 王は幾度目かの再生をしていたが、既に衰弱しきった目。間も無く王の命も解放されると、誰もが理解できている。
「そんな目で視なくても、そのつもりだから安心してよ。うん、救いに来たんだ」
 王が、無言のままに見上げている。
 王の挙動の鈍さとは対照的に、猫晴の語りは流れるようで、軽快だ。
「でもさ、なんでろうね。なんなんだろうね」
 消化液を踏む。前に歩む。距離を失っていく。
 みどりの目が、ただただ、猫晴を見ている。
 死を待ちわびるような静けさが、猫晴の内心の深くを逆撫でるようだった。
「君を視ていると、あの子が頭ん中に出てくるんだよ」
 あの子。どの子。問い掛けのかわりに、わずかに開く王の唇と、重たい瞼。あの子だよあの子、わかってんだろ? 肩をすくめ。わかんないよなあ。視線を遠くへ投げる。期待している。期待していない。いつかどこかに存在した可能性の幻燈を、胸の内に燻らせる。
「分かんねぇんだけどさぁ、哀れみじゃねぇんだよ」
 その熱を、猫晴は己の指で撫でた。尚も首を傾ぐ王へ、こらえきれない舌打ちが溢れた。
 互いの距離は失われた。王の顔に、猫晴の色濃い影が落ちている。

「ひとりぼっちの英雄に、仲間を見せびらかすみたいな。
 そんな最上級の侮辱をした奴に対する怒りしか湧いてこねぇんだよ」

 その見下しを、王が受け入れている事が、
酷く気味の悪い事象に思えた。
 殺すための拳を握る。王が力無く瞼を閉じる。何だいそれ。俺の怒りへの侮辱かな。あの子への贖罪かな。いいや、きっと違うんだろう。もう、かえりたい、だけなんだろう。
「ごめんね、ついさっきお前を救うって言ったばかりだけど。俺、そんな優しい人間にはなれねぇみたいだ」
 拳が、王の心臓を鋭く穿つ。肉が飛び散る水音。王の口から、液体と空気が通過する。
 この腹も困り者だろうから潰す。その口ももういらないだろうから潰す。その目が、いつまでも透き通っている事が、許せないから。その顔面を拳で穿った。

 王が崩壊する。
 肉が己から湧き出す消化液にとけ、あぶくとなって消えていく。
 ぬっとりと、波紋とも呼び難い歪な波も、消えて。
 しんと静まりかえった。
 これでおしまい。



 おまえは
 相変わらず わたしを きらいだなあ

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『季節の花を鑑賞しよう』

POW   :    花を眺める

SPD   :    花を眺める

WIZ   :    花を眺める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【OP少々お待ちください】
【19〜20日のどこかで断章更新後、21日春分の日より受付開始させていただきます】

 緑の王が死する。
 ようやく。と、言ったのは誰だったろう。
 その『ようやく』さえ、今この場所に限った話のみで、実際には緑の王はまた別のどこかで芽吹いてしまう。
 それでも今は、王はもう己の消化液に沈み、その王冠めいた角さえ残さず溶け落ちた。

 花なんてどこに。
 何人かの猟兵が、改めて考え、見回した時だった。
 王の玉座であった土に、一輪小さな花があった。ただの白い、味気ない花だ。子供だって摘み取らないような地味な花だ。グリモアが見た予知はこれだったのだろう。
 それを起点に。王を失い、溶かす力を失った黒い泥を養分に。波紋が広がるように、風が草むらを撫でるように、一斉に緑が早送りで芽吹いていく。
 喰らう、溶かす、奪う。それらの平等なまでの暴力的概念を、骸の海へ持ち去った後に残るものとでも言おうか。
 あれは緑の王である。
 春の匂いが、辺りに残った腐敗臭を、連れ去っていく。
 残るのは一面の、ただ当たり前の生命を湛えた、白い花畑。


 生き残った教団員達は呆然と花を見ていたが、暫くすれば何かを諦めたようにうごめき始める。
 教団員のことは好きなように放っておくと良いだろう。戦闘中に様々な保護や回復を受けており、彼らもそれなりに歩ける。どうせ彼らも人間だ。人間である限りしぶといものだから。

 ただ帰るも良いだろう。
 花を見るも良いだろう。
 絶えた冬を置き去りに、次へ征くまで、今ひととき。
【21日春分の日 8:30より、プレイング送信お待ちしております】
花邨・八千代
……青臭ぇなァ、今度は。
なんだよ、腐ったかと思えば今度は花か。
何が緑の王だ、誰だって死ねば養分にならァ。

――まぁ、ここまで来るのにちっとばかり疲れたからな。
少しくらい眺めてやってもいいさ、休憩時間の暇つぶしだ。
煙管でもふかしてちょっとばかし居座るぞ。

……なぁ、緑の王様よ。
お前なんて花もなんも残さず消えちまえばよかったのに。
どうせここで種を落として綺麗なまんま残ってくんだろ。
汚いことも見苦しいものも、全部消しちまったのに。

別に、羨ましくなんてねェよ。
ただ……ずるいだろ、そんなの。
俺にはそんなことできねぇのにさ。

ただの八つ当たりだよ、バカヤロー。
早く骸の海に消えちまえば良いんだ、あんなやつ。


ユキ・パンザマスト
……ああ、往った後まで気に喰わない。
花なら、鮮やかな方がいいです、好みです。
こんなにかちっぽけで、退屈な白一辺倒なら、ユキの記憶に残るかどうか。

(玉座の近くにて。ぐり、と耳に串刺されたピアスを揉む)
(ピンで留めるような痛みで、自身の傷口をえぐり、極力長く灼きつけるリアルハック)
(飢餓の、成れの果て。反面教師じゃねえですけど、)
(こうならないが為、覚えておいてやりますよ)

……まあ、たまには。
きっと。
(長い生の内の、一コマくらいは)
悪くないかもしれないですけれど。ね。




 花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)が面白くなさげに、紅玉の瞳を細めていた。唾の代わりに煙を吐く。それは風に棚引いていく。白くとろけて、匂いさえも攫われていく。
「……青臭ぇなァ、今度は」
 なんだよ、腐ったかと思えば今度は花か。い、と、鋭い歯列で煙管の先を噛みたくもなる。
「何が緑の王だ、誰だって死ねば養分にならァ」
「ほんと。養分になれる命を、見せびらかしてるだけじゃねえですか。こんなん」
 視界一面の白い花を、ユキ・パンザマスト(禍ツ時・f02035)が踏み、中央へと向かう背を八千代は視線だけで追い掛けた。
「……別に。羨ましくなんてねェよ」
 視界内に動くものがあったから視線で追うだけの自然な事。ユキもまた、もっとも印象深い、あの王が座していた中央へ向かう、自然な事。

「……ああ、往った後まで気に喰わない」
 花を踏む。茎が折れる。胸中の不快感を、足の裏に表すように。
「花なら、鮮やかな方がいいです、好みです」
 花を踏む。しなやかな葉が持ち上がる。野草の生命力を知った上で歩む。
「こんなにかちっぽけで、退屈な白一辺倒なら、ユキの記憶に残るかどうか」
 ほつりほつり。ユキが言葉を落としつつ、歩む。感情を言語化する事で、耳からも情報を入れ、少しでも記憶に残る時間を長くしようと、するような。勉学における暗記のテクニックと同じだ。五感で、物事を記憶する。
 王が在った地点を見下ろした。もう、花で埋まっていて、ここに王が在った事さえ忘れたような有様だ。それでも、この記憶が正しいならば此処だった筈だ。己の記憶にそれを焼き付けるべく、ユキはピアスを指で押し付ける。耳をわざと傷付けて、その痛みの上からさらにぐりぐりと強い痛みを重ねて。触覚の中でもさらに強く、痛覚に記憶を刻む。
 反面教師という訳でもないが。飢餓のけものとして、この王のようにはならないよう。
 自分は、供物の誇りを踏みにじらぬよう。
 その上で泣き顔など決して晒さぬよう。
 死ぬならば百花繚乱に咲いてやる。

 そのささやかなら明確な自傷行為は、後ろから見ている八千代には今一掴みきれなかったろうがーーいつもは溌剌としたユキが、睨むように周辺全てを見回しながら耳を抑える様は、花を見るよりは興味があった。小動物の警戒行動のようでいて、理不尽におぼれながら覚悟を胸にする少女のようでもいて。
 勝手に視界に入って来る白い花々が、時折風でざあざあ鳴る。
 綺麗で酷い。
(……なぁ、緑の王様よ)
 純粋が狡い。
「お前なんて、花もなんも残さず消えちまえばよかったのに」
 花となったからには、どうせここで種を落として、また次の季節に咲いて、その巡りに還って。綺麗なまんま残ってくのだ。
 汚いことも、見苦しいものも、全部消してしまった癖に。
 俺だって出来るもんなら。
 否。羨ましくなど、ない。
 出来るはずもない。だから、狡い奴だと、子供じみた悪感情だけを、この花畑にぽつぽつ吐露し、つま先で花を蹴る。ざ、と花びらが舞うが、花畑からしてみればその程度擦り傷にも該当しないだろう。
 そしていつもは賑やかな者が、こんな景色に想う事がある様子が面白く映ってしまうのは、おそらくユキと八千代、互いに該当する。暫くすれば、煙を吐く八千代と、耳から血を流すユキの視線は合い。互いに様子を伺うように、暫く合い続け。それから、勝手にユキが寄って行く。

「やちょさんは、白い花がお好きで?」
 お隣失礼します、と寄ったユキに、八千代は気だるげに隣を叩いた。そんなに真摯に見ていたように見えたかと、八千代は口先を尖らせた。
「別に。俺も鮮やかな方が好きだね、赤い花とかよ」
「嗚呼、そっちの方が億倍良い。全く気の効かねぇ王でした」
 本当にな、と煙を吐く。炎の味。
「…………今から火でも放てば、多少は清々するかもしれねェけど」
 ぱち。ユキが大きな金眼を、火花のように瞬いた。
「そこまでしてやんのも癪だわ」
「っあーーわかります。あの王からすりゃ、もう終わった事ですしね。けど、火の花畑、きっとこの白よりもユキは好きです」
 けれどやらないでやります。癪なので。
「そうそ。それに俺ぁ今、煙管をふかすのに忙しい」
 灰を落とす。それが燃え広がらぬように踏む。
 靴底が溶けていた事を忘れて、流石に痛んだ。
 八つ当たりくらい気持ちよくさせろよ、バカヤロー。
「早く骸の海に消えちまえば良いんだ、あんなやつ」
「そうだ、そうだ。早く骸の海でずっと寝こけちまえば良いんだ、あんなやつ」
 花の匂いと煙りが混じり合う匂いが、ユキの鼻腔に、少しばかり心地良かった。

「あーあー、ユキ血ぃ出てるじゃねえか、勿体無ェなぁ」
「あー気づきました? そーなんですよ勿体無ぇんすよ。舐めます?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴラディラウス・アルデバラン
波紋が広がる様に芽吹く緑に、視線を奪われたせいか。それともただの気紛れか、その両方か
春の匂いを嗅ぎながら、片膝を立て座っているだろう

あの時に見た緑の王の心象風景を思い浮かべたり、花を眺めたり
何を考えているか一人静かにしているが、誰かに話し掛けられることがあったならば、会話することもあるだろう

何故だろうな。雪も似合うだろうが
お前はやはり、春のいきもの。そんな気がするよ

他の者との戦いを見た限りでは王は戦闘を好んでいる様に感じた
立ち上がった姿を夢想する
肉が付き、どっしりと構えた姿を
立派な角と、脚。そして、緑の目
仮にそんな姿が有り得たとして。その突進はさぞや恐ろしかろうな
嗚呼。一度、闘ってみたいものだ


朽守・カスカ
季節が移ろい
命が巡り、春の匂いが薫る

共に闘った金獅子に
労うように撫でながら
花畑を見やる

結局、君は緑の王だったのだと
オブリビオンとして蘇ったとしても
命を溶かすものとなってしまっても
それでも、緑の王だったのだな

そうして、命は巡る。
無性にその証を示したくて
少しだけ、花を摘んで小さな花環と小さな花束を作ろう
一つは、緑の王に冠として。
一つは、溶けていった命に、手向けとして。

ただの自己満足でしかないのかもしれない
例えそうであっても、弔いの気持ちは変わらない
此処での出来事が過去となって
骸の海に漂うことになっても
それでもどうか、穏やかであれと



●春にしな垂れ
 朽守・カスカ(灯台守・f00170)は花畑にて白冠を編む。共に戦った金獅子を背凭れに、かつ時折労わるように撫でながら。花が咲いても吹く風は時に冷たい。されど、金獅子と共にあれば、緑の王が残した春をただ享受する事ができた。
 
 花は無数。されど花冠を作れば、当然ながらカスカの周囲だけ花は減る。
 別段、この一帯ばかり摘んでも、花からすればそこまで問題も無いだろうがーーそれでも、この花畑を傷つけたくて冠を編む訳でも無い。カスカは、獅子と共に、ほんの少し場をずらそうと歩む。
 その先で、偶然にも、花畑に半ば沈むような女騎士と目が合った。雪氷色の騎士は立膝を付き、春の香りに物思う。その様が美しく勇壮であった。ーーふと、騎士の目蓋が動き。ふたりの目が合った事は本当に、ふと風向きが示した偶然だろう。カスカが控えめながら品良く会釈をすれば、ヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)もまた、ゆっくりとした目蓋の開閉にて礼をひとつ。
「この辺りで、花を摘んでも?」
 良いだろうか。カスカが問えば、ヴラディラウスは頷きを一つ。
「そも、私には、この花を摘むな等と制限する権利など無い。思うまま過ごすと良い」
「そうなのだけれど。花に、想いがあるのかと思って」
「……花は、人を惹きつけるもの故に、な」

 カスカが花を丁寧に編む。
 溶けた命と、王の海路の無事を祈りながら花を編む。
 一輪一輪、細くしなやかな茎が、とつ、と折れる、微かな手応えと音すら心地良い。
 その傍に膝をついたまま、少女と金獅子が花で遊び、白い花と青い空が広がる光景をヴラディラウスは眺めていた。
「その花冠は、手向けに?」
「ああ。それと、緑の王が。王であった証の為に」
「……ああ、確かに。あの王は。冬も、雪も似合うだろうが、花冠が似合いそうだ」
 ヴラディラウスの、落ち着いた声で遠く征く王を眺むような言葉。意見が合うね。などと、カスカが穏やかに笑う。金獅子が傍であくびをひとつ。
 灯台は船渡しでは無いから、旅立った者に付き添うことはできない。花を流すような思いで摘み、舟を編むように茎を編み、王を想いて冠へ。
 そうして出来上がった二つの輪に、ヴラディラウスは感心の息を吐いた。
「巧いものだ。王も喜ぶことだろうな」
「そうだと良いな。自己満足だけれど」
 自己満足でも。死する者には、弔いの気持ちを向けたい。草のつゆがついて、カスカの指先が若緑の化粧をしていた。

 カスカは花で弔う。
 ヴラディラウスは。立ち上がり、王の玉座であった地点に向かい合い。剣の柄を、もう一度撫でた。
 浮かぶのは、あの王がもしも立ち上がったならば。その姿。
 泣くばかりではなく、時に勇猛に戦っていたあの王は、本来は戦いを好む性格なのではないかと思いをはせる。
「……一度、闘ってみたいものだ」
 そんな賛を、ヴラディラウスは、春へと手向けた。
 風が正面から吹き、一瞬息苦しい。花畑が、後方へと撫でつけられていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【冬星】

るり遥、ジンガ、お花見しよ!
レジャーシートなんて持って来てないけど、花の中に埋もれてお花見を。
お菓子あるよお菓子。
(鞄からぼろぼろ出て来るお菓子と水筒のミルクティー)

花冠とか昔母さんに作って貰ったことあったけど、僕結局教わっても作れなかったんだよねー。
何アレめっちゃ難しかったんだけど!

……るり遥さあ、予知したあと顔色悪かったじゃん?
だから、ひっどい悪夢みたいな予知の終わりは賑やかにしてあげたいんだよね、僕。
だってるり遥きっと、あの邪神こと、気に病むから。
せめて最後は笑い声の絶えないバカ騒ぎの記憶になるなら、ちょっとはマシじゃない?
……なーんて、るり遥には内緒ね?
僕とジンガだけの秘密。


ジンガ・ジンガ
【冬星】

さーて、これで目的果たせるじゃんよ?

わァお、未夜マジ絶好調じゃん
ソレどっから出てくるのよ、ホントにさ
……ほら、るり遥、こっちこっち
折角、遠路遥々来たんだからさ
こっから先は、お楽しみタイムっしょ?

花冠だなんてロマンチックゥ~
俺様ちゃん、作り方すら知らねーわ
……それさァ、単純に未夜がぶきっちょだったとか
そういうオチなんじゃねーの?

ぶっちゃけ、俺様ちゃんさ
るり遥に花ァ見せるためだけに来たのよね
「あったよー」って現物見せたら、驚くかなって
そしたら、少しくらい笑えないかにゃーって
……これ、るり遥にはナイショね?
俺様ちゃんと未夜だけのヒミツ
そう、真似して告げて笑おっか

二人が笑ってりゃ、それでいいよ



●花降り

「ごめん。今ね、るり遥ちょっとぐずってる」
「あ。ほしふり?」
「そ。久し振り」
「アラ? るり遥ん中の他人格?」
「うん。えーと。君たちの事は、僕はるり遥の中から見てるけど、僕が出てる時は、るり遥には聞こえてないから、そこは、ごめんね」
「ふうん? 複雑なのネ、オッケーオッケー把握したじゃんよ。お名前はほしふりちゃん?」
「はい。哀しまない人格、ほしふりです。よろしくねぇ」
「じゃあるり遥が大丈夫になるまで、ほしふり一緒にお花見しよー」

 るり遥がどうして人格を交代する程哀しいのか、ほしふり自信にはてんで分からないと言う。るり遥の性格を知るジンガと未夜には、何となくわかった。
 さ! レジャーシートなんて用意のいいものは流石にない! だから花の絨毯の上に直接埋もれながらお花見をはじめよう!

「お菓子あるよお菓子」
「ヒューーッ四次元ポケットも真っ青じゃん未夜の鞄〜。一働きして疲れたし、俺様ちゃん甘い物欲しいわァ」
「未夜。バームクーヘンたべたい。あるかい?」
「小さいやつならあった。はいほしふり」
「ありがと。未夜すきだよ」
「へへ。ジンガ、カルメ焼き食べる?」
「なんでそんな糖分の救世主出てくんの。用意よすぎて感激してきた。食べる食べるゥ!
……えっほしふりちゃんバームクーヘン引っぺがして食べる派?」
「バームクーヘンがね、かわいそうでね、好き」
「えっわかんない。そのサドっ気俺様ちゃん全然わっかんない」
「ミルクティもあるよ。熱いから気をつけてね」
「あっったかぁ〜〜〜い!! 凍えた身体に染み渡る〜〜〜!!」


「……あー……ごめん、遅れた」
「るり遥だ? おはよー」
「おっ、るり遥がログインしました? グッモーニ〜」
「……あー。あっちの人格のことは、もうジンガも、聞いたか。……え、何してんの」
「花冠チャレンジ」
「いやもうぜんっぜん出来ねェの。不器用な未夜VS作り方を知らない俺様ちゃんVS圧勝ほしふりちゃん。今ドンケツ決定戦開催中」
「へ。アイツも参加してたの」
「うん。すごい上手かったよ。僕とほしふりで一緒にジンガにレクチャーして」
「へー…………」
「るり遥も参加しちャう? 飛び入り参戦大歓迎よ?」
「や。いいや……俺そんな、あいつみたいに小器用じゃねえし…………、……なにニヤニヤ見てんだよ」
「んー? べっつにぃ?」
「そうそ。何でもないよ?」
「あ?」

 ほしふりがつくった勝者の花冠が、るり遥の頭に捧げられていることは、今しばらく僕らの秘密。


 それから、それはそれは不恰好な花冠が二つ出来上がって。るり遥が何気なく身をそらしたところで、ほしふり作の冠が落ち、ひとしきりわやわやと騒いだ後。

「ーーーー、あら、ら。なんか今日のるり遥、情緒不安定みたいだ。」
「ほしふり忙しいね? うん、大丈夫。僕たち、るり遥が大丈夫になるまで、待ってるし」
「入れ替わり立ち替わりでほしふりちゃん大盤振る舞いじゃんよ。花冠黙って乗せられてたの、そんなアウトだったかしらー……。」
「はは、まさかぁ。王の事考えて、勝手に傷ついたんじゃないかな。知らないけどさ。」
「るり遥、だもんね」
「……そーね。そーゆー奴ね。んじゃー、さ。俺様ちゃん、今だけ言える、内緒話しちゃう」
「あ。僕も丁度内緒話したかったところ。……ほしふり、しばらくるり遥、そのまましまっといてね?」
「いーよ。僕バームクーヘン食べてるから」
「ほしふりちゃん話がわかるゥ。ーーいや、ぶっちゃけさァ。俺様ちゃんさ。るり遥に花ァ見せるためだけに来たのよね」
「あ、わかる」
「でしょ?『あったよー』って現物見せたら、驚くかなって」
「わかる」
「デショ〜〜?
……そしたら、少しくらい笑えないかにゃーっ、って」
「わかる……僕の内緒話もそれなんだけどさ」
「マジで?」
「うん。るり遥さあ、予知したあと顔色悪かったじゃん?」
「青かった、青かった。なにかと青いけどそこまでブルーになる必要無ェでしょって」
「うん、でも、そんな事、るり遥に言えないじゃん」
「……ホントそれね」
「だから、ひっどい悪夢みたいな予知の終わりは、賑やかにしてあげたいんだよね、僕」
「未夜、ミルクティーおかわり」
「はい、どうぞ。……だってるり遥きっと、あの邪神こと、気に病むから」
「メッッッチャ病んでる〜〜〜」
「病んだでしょー?」
「だから、せめて最後は、笑い声の絶えないバカ騒ぎの記憶になるなら。ちょっとはマシじゃない?」

 ……なーんて、
 ……これ、
 るり遥には内緒(ナイショ)ね?

 二人、人差し指を口の前に当て、ツノと前髪が触れあうような距離で、秘密秘密。
 ねえ、そろそろるり遥落ち着いたみたいだよ。なんて、ほしふりが申告してくれたなら。今度は何を話そうか。ただ笑っていたい僕らのために。ただ笑っていてほしい人達のために。

 花は、いつだって、当たり前みたいに綺麗だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

襲祢・八咫
【ロクと】

……ロク、じっとして
治療を施してからでないと、地を踏ませられぬのでな
いい子におし

言いたいことは当然ながらある訳だが、さて、この娘がそれを理解するかはまた別の話
けれど、言わぬよりは良いだろう
うつくしい生命の花畑で説教なんて、無粋も良い所だがなあ

……ロク
おれは少し怒っている
おまえが傷付くことを、おれは良しとしたくないのだよ
ロク。かわいい子。森の娘よ
おれに人の子のような寿命なんぞありはしないが、寿命が縮むと言うのはこういうことを言うのだろうな
避けられる怪我は避けなさい、ロク
手助け出来る者が近くにいるなら頼りなさい
おまえを愛する者の心の平穏の為にも
おれは、おまえを大切にしたいよ。かわいいロク


ロク・ザイオン
※八咫と

……あぁ
(跡が。きちんと、芽吹いてくれた)

(安堵に体から力が抜けて)
おれ、
(顔を上げて、怯む。
何故、そんなにこわい顔をしているのか
何故、そんなにおそろしい声で語るのか)

あれは。
……あれを焼くのは、おれの仕事だと。思ったから。

(自分で光ることも出来るけれど、大人しくされるがまま。
たくさんの烏を踏んだ、足の痛みがあっけなく癒える。
キミの声からは、痛みが消えないのに)

…………ごめんなさい。

(森を護れと、ととさまは望まれた。
ひとを護れと、あねごは仰った。
けれど。
自分の痛みをこれほど怒られたことは、無い)

八咫。
怖がらせて。ごめんなさい。

(自分の胸からも、痛みが消えない)



●こえがいたい
 砂嵐のように嗄れた声が、ここに来て初めて安堵の息を吐いた。
 喉に滑り込む空気は冷たい。されど肺に滑り込むまでに熱を帯びる程度の、生きた森の気配がここにあった。
 跡が。きちんと、芽吹いてくれた。
 森が守られ、森の王は土へと還った。
 安堵に、体から力が抜ける。
 表情筋が僅かにまろく綻ぶ。
「おれ、」
 ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)は、側に立っていてくれた、襲祢・八咫(導烏・f09103)の顔を見上げてーーすぐに、怯んだ。瞳孔が開く。
 見上げた八咫の顔は、いつも穏やかで優しい八咫と違って、はじめて、こわかった。厳しかった。痛そうだった。だからロクは戸惑い怯えた。敵はもういないはずなのに。それでもなお、ロクに向けて八咫がそんな顔をするというなら。あとの、敵は。おれ。
 (ーー恐らくは、八咫の表情は、戦士の女が怯むほど険しい顔をしていたわけではないのだろう。口元を結び、目元がわずかに険しく。子の安全を願い叱る者の、愛の顔でしかない)
 (それでも、それほどに、ロクにとって、八咫はいつでもやさしさの権化だった)
「……ロク」
「は、い」
 痛みの声に、ロクの声が上擦る応答。
「おれは、少し怒っている。おまえが傷付くことを、おれは良しとしたくないのだよ」
 八咫がそれとなく、そこに座りなさい、と、てのひらで示す。ロクが、示されるがまま、腰掛ける。白い花びらが少し崩れる。
「……痛かろうに。無理をするでないよ」 
 液を踏み、赤い肉が露出して。烏を踏み、命を踏む脚。むすめの、そんなしなやかな脚を八咫が取り、治癒のための暖かな光をあてる。
 光り、癒す事自体は、ロクにもできる。けれどそれを申告するでもなくされるがまま。
「あれは」
 理由を言いたい。
 言い訳がしたい。
 ぬくいのに寒い。
「……あれを焼くのは、おれの仕事だと。思ったから」
 それを聞いた八咫の眉が、仕方のない、という言葉の代わりに下がった。
「ロク」
「はい」
 あっという間に、脚の痛みが引いていた。
「かわいい子。森の娘よ」
 口を閉じ、哀しそうな八咫の言葉を待つ。
「避けられる怪我は避けなさい、ロク。手助け出来る者が近くにいるなら頼りなさい」
 八咫はそっと、ロクの髪の房を撫でる。赤い美しい髪。猫のような柔い毛並み。にじみ、ゆれる、青い瞳。これが失われる可能性がこわい。寿命が削れるとは、ああいった感覚を言うのだろう。血の気が引いて、心臓が悲鳴をあげて、それ以外目に入らなくなって、体温が一斉に下がったようなのに、血液は煮えたぎるような、熱の乱れ。
「おまえを愛する者の心の平穏の為にも。おれは、おまえを大切にしたいよ。かわいいロク」
 ロクの怯えようを見て、八咫の眦は最初よりも穏やかなものになっていた。声もそうだ。己の内の怒りを伝える段階はとうに過ぎて、もうすでに優しい言い聞かせだ。
 それでも、八咫の声から痛みが消えないと、ロクは思う。
「…………ごめんなさい」
 ロクの焼けた声が震える。青い瞳から涙が舞った。八咫の目が、いとおしみ、細められて。ロクの呼吸がわずかに楽になる。

 森を護れと、ととさまは望まれた。
 ひとを護れと、あねごは仰った。
 けれど。
 自分の痛みをこれほど怒られたことは、無い。
 
「八咫」
「うん」
「怖がらせて。ごめんなさい」
 八咫が祈るよう微笑んだ。治療と叱りの終わりを示し、ロクの手を取る。よいせ、と立ち上がる。
「怯えさせて、すまなかったな。ロク、脚の調子を見るべく、散歩でもしよう」

 森の花はもうただただ柔らかいのに。
 森の外の、大切とは、こんなにも痛いものなのか。
 八咫はもう優しいのに。胸から、痛みが消えない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夢飼・太郎
どういうつもりだ緑の王
アンタに春を呼べと言ったつもりはねぇぞ

●感情
突然の緑化に対する警戒
めっちゃ脚痛い
意図のわからない現象への苛立ち
意図のわからない現象を理解したい焦り


●行動
まずは仕事を果たす
現場の撮影
自身の怪我の撮影
生存者へ簡単な聴取等
「待てよ死にたがりどもタダで帰すわけねぇだろナメてんのか。ココの事を誰に聞いた。指導者はいたのか。何とか言えオラ!」

終えたら草花の採取
「触れても無害、摘んでも無害、嗅いでも無害……あのUDCガチでただ花を咲かせただけってのか?」
「綺麗。ヒトの命と靴と肉を散々食い散らかした果てのこれが綺れ……クソっ。何でもねぇ。私情は無用だな」

委細お任せします。



●無害
「……どういうつもりだ緑の王。アンタに春を呼べと言ったつもりはねぇぞ」
 夢飼・太郎(扉やかく言うな・f00906)が舌を打つ。舌の上の酸素を吸うようにぎしぎし打つ。花が咲こうが脚は痛む。突然の緑化は狂った現象。他の者が浮かれていようと、太郎は仕事をこなさねば安心して花粉も吸えぬ。

 花粉を吸わぬようにと警戒し、口を抑え可能な限り息を止めつつ。玉座も残さず咲いた花をカメラに収める。次いで怪我を収める。上に報告する準備を整える。
 太郎は弱い男である。他人に命じられたことに忠実に動かねばならない。
 生き残った教団員達のことも、おちおち逃がせる筈もなく。怒りと動揺に嫌な汗を吹き出しながらも、教団員の肩を掴む。
「待てよ待てよ死にたがりどもタダで帰すわけねぇだろナメてんのか。ココの事を誰に聞いた。指導者はいたのか。何とか言えオラ! オラ早く! 俺が弱いと思って馬鹿にしてんのか命があるだけマシの癖に情報さえ吐けねえのか吐けよ吐けよ早くオラぁ!」
「ひ、ひい、ひいい」
 正直、言葉よりも太郎の流れる汗と錯乱した呼吸が怖い。狂人には狂人をぶつけると、弱い方の狂人がひるんで、たのしい。

 聴取を終え、この教団はしっかりぶっ潰すとして。そう怒鳴っているうちに、花粉を吸ったと慌てて口を塞ぐ。が、身体に異変はなく。自分と違って気にした風でもなく花を見、語らう者達にも、誰にも異変は見られない。良い事だ。それが不気味で奥歯を噛む。
 わかってんぞ緑の王、油断させておいて後から効いてくる毒や麻薬か、最後っ屁の何かだろう。必ずその悪性を見抜いて、誰も道連れにはさせない。
 花畑にしゃがみ、花弁を撫でる。昔幼少期に触れた、道端の花と同じような、薄くしなやかな花弁。薄過ぎて、表面が軋むような手応えがある。
 花を摘む。汁が滲み、警戒に身を退かすが異変は無く。嗅いでも、ただの野草の、ほんの微かな芳香と青臭さ。有害なものへの鋭敏さには多少
自信があるが、本能という名のセンサーはただただ、子供が摘む花と同じであるという答えしか示さない。
「……触れても無害、摘んでも無害、嗅いでも無害…………あのUDCガチでただ花を咲かせただけってのか?」
 不可解。不愉快で眉間に皺を刻む。遅効性の可能性ももちろんあるが、……どうしてだか、そんな気も、しない。他にも持てる手段を動員し調べたが、その全てが「花である」という温和な答えしか導かない。
 顔を上げる。視界に広がるのは一面の白い花弁、若葉の緑、隣の山の白、青い空。
「綺麗」
 ただただ、無垢。
「ヒトの命と靴と肉を、散々食い散らかした果てのこれが、綺れ……クソっ」
 平和ボケる口で、何度目かの舌打ち。ぐしゃりを前髪を掻いて立ち上がる。誰にも見下ろさせないとばかりに。
「何でもねぇ。私情は無用だな」
 誰に言い訳るでもなく言葉を吐く。何事もないなら、ここで出来る仕事は終わりだ。
 この花が攻撃でも罠でも新たなUDCでもなんでもないなら、花を処理する理由もない。故に立ち上がったはいいが次の動作に移れない。
 結局、暫し、その景色の中に立ち竦んで。ときおり口をついて出る素直な感想に、幾度も自身で悪態をついていた。
 どうしてこんなに綺麗なのだろう。
 あの王、扉にツノとかぶつけて、削ってきそうなナリしてた癖に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

虹結・廿
目標消滅確認。

(花…。でも、どうしよう)
……。
(なにか、まだやる事あったかな)
……。
(あ、そうだ)
……。

確か、この辺に……。

ありました。先程の爆発で壊れ切らなかった義体。
回収し、帰投します。
お願いします、松本・るり遥さん。

……すみません。花を鑑賞する趣味はありませんので。
嫌いではありません。ただ、この場にいると少し、落ち着かないので。
……なにか、追加の指示があれば、どうぞ。

……。
……。
……。

……るり遥さん、手を伸ばしてください。真っ直ぐです。
……そのまま、ゆっくり下に下げてください。
……そして左右に手を動かしてください。


はい。ありがとうございました。

では廿はもう行きますので

また何処かの戦場で。



●目標消滅確認
 虹結・廿(ですますプロダクション・f14757)が義体を回収する。幸い壊れ切らなかった。まだ使える。まだ戦える。自分と同じ背丈の義体を抱き抱え、今回の転送者であるグリモア猟兵の元へと歩んでいった。

 ただ、当のグリモア猟兵……るり遥は、廿の様子を見て何らか歯噛みする。るり遥も、今はたまたま一人周囲を眺めて……というか、廿の様子を見るように目を向けていたが、基本は、友人知人と話すのに忙しい筈だ。どうして早く転送しないのか、何か廿が悪さをしたかと、少女の体は首を傾ぐ。

「……や、帰しても、いい。勿論良いんだけど」
 るり遥が歯切れ悪く話す。廿はきちんと依頼者の話を聞こうと真摯に見上ぐ。
「花。興味無いの」
 ああ。と思う。
 先程、花畑を見て少し立ち竦んでいた私への、なんらかの配慮だと、廿は察する。
 いいえ、と首を横に振ってみせた。
「すみません。花を鑑賞する趣味はありませんので」
「あ。……えーと……嫌い、か」
「嫌いではありません。ただ、この場にいると少し、落ち着かないので」
「落ち着か、ない」
「落ち着かない、です。……なにか、追加の指示があれば、どうぞ」

 花をただ見るなんて行為、胸の内がこそばゆい。どうやって見たらいいのか分からない。目標を破壊するとか、敵を殺すとか、そういった目標地点の無い行為に、どうやって向かえばいいのか分からない。仕事が欲しい。存在意義が欲しい。褒めてもらえる廿が欲しい。
 だから、花を見るなんて、普通の少女のような時間の浪費は、すごく、落ち着かない。

 グリモア猟兵なのだ。なんらか追加の指示、後処理の手伝い。あるかもしれない、と、少し期待も込めて見上げていたのだが。
 少年と少女の間には沈黙が流れるばかり。
 時折、るり遥の唇が動くが、言葉は発される事なく霧散していくようだ。言葉にするというのは難しい。

 沈黙する。
 沈黙する。
 鎮魂なんて知らない。
 沈痛だって知らない。

「……るり遥さん」
「うおっぇぉ」
 沈黙を破った廿の声に、るり遥が間抜けな声で飛び上がった。何をいう勇気も無い代わりに、この沈黙を破るのは己の声だろうと思っていたのだろう。ごめんなさい、ちょっと痺れを切らしました。
「手を伸ばしてください。真っ直ぐです」
「お、おお……?」
「横じゃないです。前です」
「こう」
「そうです。……そのまま、ゆっくり下に下げてください」
「え、けど」
「大丈夫です。ぜひ、廿の言う通りにしてください」
「こ、う」
「ありがとうございます。……そして、左右に手を動かしてください」
 ぐ、と。るり遥が下唇を噛んだ。
 歯を噛みしめる。言葉が歯列から抜けていく。言われるままに左右に、ゆっくりと、数往復。細く、柔らかながら、埃や泥を含んだ手応えを撫でる。否、その手応えの上で、手を左右に動かす。

 おそらく、そう長くは無い時間だった。
 だって迷惑かける訳にはいかないから。
「ーーはい。ありがとうございました」
 廿が、頭を下げた。るり遥の指先に何も触れなくなる。控えめに、手を引っ込めていく。
「では、廿はもう行きますので」
 廿は聞き分けのいい兵なのだ。これ以上手を煩わせたりはしない。それに次の仕事も、組織に帰ればきっと待っている。
 るり遥がやはり何か言いたげに意味のない呻きを零しているが。その苦しみが廿のせいであるなら、申し訳ないと思う。ビジネスライクに処理して欲しかったのだが、この人には、甘えない方がいいのかもしれない。
 るり遥がグリモアを開く。廿の望む地点への転送を開始する。
「廿、」
 光に飲まれていく最中、最後の最後に、ようやくるり遥の唇が言葉を得たようだった。
 なんでしょうか、と、声に出さず首を傾げる。
 るり遥が唾を飲み、勇気もなく絞り出す。
「お前、は。……ただの、可愛い女の子なんだと。思うよ。俺は」
 消えゆく廿を、るり遥がどこか泣きそうに見ていた。

 ーーああ、ありがとうございます。はい、そうだと思います。こういった外見は、敵の油断をひけますから。すごいでしょう。

 褒められて嬉しい。わずかに表情から硬さを抜いた廿が、ほんのちょっとおませに、カーテシーの真似事。
「ありがとうございます。また何処かの戦場で」
 少女の甘い声が、花から離れ、次の硝煙へ向かっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
へえ、と感心したようにぐるり眺める
雪の様な花畑の中、生命の存在を確認するかに緑の匂いを嗅いで

ああ、ああ、イイ匂いだ
屈み、花に語り掛けるように
ねぇ、オレ初めてだよ
カミサマに願いを叶えて貰ったの
嬉しいモンだね

一輪、あるいは一房、手折ってもイイ?
手の中の花をゆっくりゆっくり、月白の焔で焼く
死した先など知らぬし想う事も無いけれど
約束だからネ
こうすれば、腹の足しになる気がして

オレはとても満足、ゴチソウサマ

(アドリブ等歓迎)


リュカ・エンキアンサス
花…か
それじゃあ折角だから
珈琲でも飲んでいこうか

のんびりと花畑を眺めて、先ほどの戦いを思い出す
周囲に誰かがいれば簡単なおしゃべりに興じるし、いなければ多分無言で、淡々とその花を眺める
花ではしゃぐガラじゃないんだ
だからって、花が嫌いなわけじゃないんだけど
…ずっと、ずっと。こういう綺麗な世界は俺にとってただ通り過ぎるだけのものだったから
だから、どう過ごしていいのかわからない、というのはある
ショーウィンドウに飾られてある、手に入らない高価なものを眺める感覚に似てるな

そうやってしばらくのんびりしたら、バイクを出そう
道ぐらいあるだろう。花畑に添って走ればきっと心地いいだろう
この道はどこへ続いているのかな


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

緑の王……、思えば不思議な敵でした。
……否、果たして敵だったのだろうか、アレは。
しばし思考するも答えはでない。

……せっかくなので「お花見」していきます。
そうすることを、彼も望んでいる、なんとなくそう思いました。
花畑に腰を下ろして花を眺めます。
微かに香る花の匂いに、心が落ちつく。
さっきまでの光景がまるで嘘のようです。

ああ、もう冬の季節は終わったんだな……。
彼が遺していった白い花、とても綺麗です。



●珈琲で一杯
 一面の白と緑。くるくる周囲を見回していく。白ばかりで味気ないのがまた素朴で良いと思える。花の香りを胸に吸う。ああ、ああ、イイ匂いだーーその上で。コノハ・ライゼ(空々・f03130)の鼻腔に、花の他にもう一つ芳ばしい香りが流れて来たので。その匂いを辿って歩む。

 匂いの元では、古く青い服に身を包む少年が、春めく緑髪の青年に珈琲を渡していた。おそらく、青年も、香りに惹かれて来ていたのだろう。
「ね、イイ匂い。オレも貰ってイイ?」
 コノハが顔を出し、気さくに話しかければ。
「勿論。こうゆうのは、一緒に飲む方が美味しいから」
 青い服の少年ーーリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は、穏やかに微笑んでカップに一杯。溶けていく湯気が山頂では一層魅力的だ。
「美味しいですよ。丁寧に淹れてありますね」
 緑髪の青年ーー有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)が、コノハに軽く会釈をして。先に口をつけた者として、味の感想をおひとつ。褒められて、リュカが嬉しそうに帽子の鍔を摘まんだ。
 折角なので、『お花見』をしていこう。綺麗な花と話し相手、美味しい珈琲も出た事だし。


「先までの光景が、まるで嘘のようですね」
 有栖川が深く染み入る様に零せば、他二人も自然と首肯。ここがほんの少し前まで、全てを溶かす液と、その悪臭と、悲痛な咆哮に満ちていたなんて、信じられようか。
「ホント。聞いてよ。オレ初めてカミサマに願いを叶えてもらったよ」
 コノハが身体を前へ屈め、二人には勿論、そこに広がる花にも語りかける。花は応じはしないが風に揺れるし、リュカは珈琲を飲みながらコノハへ問う。
「願い……花が見たい、って?」
「そそ。嬉しいモンだね」
 感謝しなきゃ。と付け足しつつコノハが振り返る。その表情が言葉の通りで、有栖川も嬉しく思えて、無表情ながらも胸に手を当て目を伏せる。
「はい。……きっと、『彼』も、喜んでいる。そんな気がします」
「ね。あ、珈琲もう一杯貰っていい?」
 リュカは追加で珈琲を一杯。望まれるままコノハに差し出す。アリガト、と受け取り、もう片手で花を一輪手折る。
 何をするのだろうとリュカと有栖川が眺める中。コノハが月白の炎をぽつぽつと呼び出す。手中の花を焼き、珈琲の黒い水面に炎を浮かべる。
 花がゆっくり、ゆっくりと焼かれていく。通常の炎よりもスロウに。白い花びらが、寝ぼけたようにうねり、背伸びのように立ち上がり。少しずつ灰になり崩れていく。珈琲もぽこぽこと沸騰。蒸発で嵩が減っていく。
「死んだ後の世界に思う事も無いケド、約束だからネ」
 花を与えることが。
 空腹の王に。料理人であるコノハは、何を食べたいかと問うたのだ。死に行く王の口が、花、と、動いたような気がしたのだ。
 空へ踊る灰と湯気を見上げる。
「こうすれば、腹の足しになる気がして。……あとどうせ食事するなら、飲み物も欲しいかと思ってさ」
「そうですね。せっかくの美味しい珈琲ですから」
「緑の王の口にも、合うと良いけど」
 ほんの少しの謙遜めかして笑うリュカに、他二人も、それを願って頷く。
「……実は、どう過ごしていいのか分からなかったから。珈琲を喜んでもらえて良かった」
「ああ。お花見って、花を見るだけですからね」
 少しわかるような気もして。有栖川が相槌の言葉。
「うん。はしゃぐガラじゃなくて。……だからといって、花が、嫌いなわけじゃないんだけど」
 ほつりほつりとリュカが語る。こうゆう綺麗な世界は、俺にとって、ただ通り過ぎるものだったから。そのつぶやきを受けてみれば、リュカの古い衣服の補修や、……日本的な感覚でもし見るならば、年端に見合わぬ古いバイクや大きな鞄にも、自然となんらかの納得がいくだろう。大切な愛用の衣服に包まれながら、香り立つ珈琲を揺らし、リュカが言う。
「ショーウィンドーに飾られてある、手に入らない高価なモノを眺める感覚に似てるな」
「じゃ、高級品が手に入ってトクした」
「そうかも」
 花畑大盤振る舞い、といえば、確かにそうかもしれぬ。そんな考え方もありか、と、リュカは少し笑う。

 そんな談笑の最中に。
「お話ついでに、お伺いしてみてもいいですか」
 場の雰囲気を壊さぬ程度の、つとめてゆるやかな声音を作り、有栖川が唇を開く。珈琲の温もりが声を一層まろやかに仕立ててくれる。
「緑の王は、敵だったと思いますか」
 小首を傾ぐ。ああ、やっぱり言葉にしてみれば、それは重い問いに思えた。自分では考えても答えが出なかった。花畑はさざめいている。
「うん。気前のいい敵」
 そんな有栖川の心配や気遣いをよそに、ぽんと軽く言葉を返すのはコノハ。そこを迷うようなクチではない。
 山頂は雲の流れが早い。
 一方その声の下で、リュカは丁寧に言葉を探し俯いていた。たっぷりとした沈黙の後、納得いく言葉を見つけ頷いた。
「……害獣、と言う方が、的確かも」
「害獣」
 ーーああ。そうか。そうかもしれぬ。
「それに。敵に、必ずしも悪意や害意があるとは限らない。敵も、味方も、結局は立ち位置の話だから」
 リュカは旅人だ。強いことが答えであるとおしえられる、そんな世界に居た少年だ。
 有栖川はただ殺せと言われたものを殺して来た青年だ。敵でなくとも、殺して来た。
「そうそう。お腹を空かした害獣さんは、ちゃんと殺さないと」
 コノハが飄々と、静かに笑う。

 珈琲も飲み終えた頃。リュカのバイクが下山の音を鳴らし遠ざかる。グリモアの転送よりも、リュカは旅を選んで次へ行く。
 コノハは手を合わせゴチソウサマ。花見が出来てとても満足。腹は膨れねど心は満ちる。とても美味い花見だった。
 有栖川は、花畑に、そして解散した二人の背に礼を一つ。冬の終わりを感じながら、もう少しだけ、花を眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイクス・ライアー
冬をつれて逝くか。
どこまでも悲しいいきものだ。
どれだけこの世界が美しかろうと、
混沌に芽吹いたお前の目には映らない。

だが、腹立たしいのは。これほど悲しい哀れないきものに、逆に、哀れまれたこと。
あれは哀れみの色だ。
何故お前はあの目で私を見た。
何故お前のようなものに哀れまれなければいけないのか。

網膜に、鼻腔に、喉に、粘膜に。吸い込む香りは生命に満ち溢れて。

ここには、結局。なにもなかったのだ。

もういい。
春の景の一部となり、帰ろう。




 苛立っていた。
 透き通る青の目元を細める。
 この場の戦いは終えた。花畑は美しい。あのいきものは哀しい。
 この景色を見ること叶わぬあのいきものの分までーーとまでは、思わないが。花を幾許か愛でてそれで終わり。
 一面の花は、先までの有り様など知らないとばかりに穏やかだ。

 されど胸中に湧く腹立たしさが邪魔をする。
 あのみどりの眼が邪魔をする。
 あれは哀れみの色だ。
 何故お前はあの目で私を見た。
 何故お前のようなものに哀れまれなければいけないのか。

 応える者はもういない。
 答える声も元より無い。
 白い花は揺れるだけ。
 苛立ちを抑えるように深く息を吸う。網膜に、鼻腔に、喉に、粘膜に。吸い込む香りは生命に満ち溢れている。
 清廉だ。されどこの不快を浄化しない。むしろ僅かずつ増幅させるような感覚すらあった。
 こちらの抱いた怒りの感情も、何故という疑問も、もうどこにも届かない事を突きつけてくるようだ。穏やかな景色の中で、これでは自分だけが異物である。
 息を吐く。まとわりつく生命の息吹を、王の残したものを循環させる。誰にも聞こえぬよう小さく舌を打つ。

 もういい。そう感じた。
 花畑に背を向ける。
 金の髪は光を受けて淡く眩い。
 青の瞳はまだ冷たさを帯びる空に似る。
 細い男が立ち去っていく。
 ここには、結局、何もなかったのだ。異物など、なかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
…花、ね。俺には、ちょいともったいねえや。綺麗な物を愛でたりするのは、俺のガラじゃあない。──まあでも、見ていくだけならタダか。

なぁ、緑の王。お前の望みは叶ったかい?敵であるオブリビオンの願いを叶えてやるなんざ、癪だが…敵に辛気臭い顔をされる方が、モヤっとするんだよ。だからまぁ、叶ってたらいいな…ってことで。

花をまじまじと見るのは、なんだかんだ初めてかもしれねーな。
ストリートじゃ花は咲かない。死骸と薬莢と血だまり…そんなもんしか地面には転がってねーからな。
そんなんだから、花を美しいなんて思うことも無かったが…。
うん、まぁ…綺麗だとは思うぜ。飾らない美しさって言うのかね。

俺とは正反対の存在かもな


マルコ・トリガー
フーン、これが雪山の花か
緑が芽吹き、白い花畑になる、ね
なるほど緑の王って名前なだけはあるね
本当はまだ山頂付近なんて春には程遠い時期だよね
銀世界を見に来たけど、まあこういうのも悪くないね
折角こんなところまで来たんだから、しばらく王の置き土産を眺めていようか

しかし教団員も何をしたかったんだか
ボクの理解の範疇にない奴らだけど、生き残った命はどう使うんだろうね
せいぜい人間らしくしぶとく生きてから死んで欲しいものだね
ま、ボクには関係ないし、その後の人生に興味も無いけど

記念に花でも摘んで帰ろうかと思ったけど、折角咲いた命だ
この景色は一期一会の出会いと思って自らの目に焼き付けるだけにしておくかな




 視界に溢れる白に、ふうんと関心の息と。居心地悪げに花を眺む視線が向けられている。

「なるほど緑の王って名前なだけはあるね」
「まあ……おう……そーだな」
「本当はまだ山頂付近なんて春には程遠い時期だよね」
「花がまさかこんなに咲くとは思わねえしな……」
「銀世界を見に来たけど、まあこういうのも悪くない」
 マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)とヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が花を見つつ言葉を投げ合っていた。
 たまたま同じ戦にいて、たまたま比較的近くに花見に腰を落としていただけ。たまたま声が届く範囲にいただけ。
 折角だから、花を見ていこうと想った者同士。花に視線を投げるまま、言葉のキャッチボールが成立させていた。
 
「しかし、教団員も何をしたかったんだか。
ボクの理解の範疇にない奴らだけど、生き残った命はどう使うんだろうね」
「さアなあ。ここ以外でまた死ぬのかもしれねえ、また緑の王に命を押し付けるのかもしれねえ。少なくとも改心するようなシーンは無かったろ」
「確かにね。あの王が感情的だったから、止める人も居たってだけ。けど、せいぜい人間らしくしぶとく生きてから死んで欲しいものだね」
「全くもって。……チ、見殺しにすりゃモヤついて、生きて返せばロクな事無い。どっちに転んでも損しか無え。LOSE-LOSEで詰まらねえ筋書きだよ」

「花を見るだけなのによくそんな顰めっ面で見れるね君も」
「そんなに顰めてたか」
「硬いね」
「あー……ガラじゃねえんだ。花をまじまじ見るなんてのも、なんだかんだ初めてかもしれねえ」
「つまりどうしたらいいのか分からなくて睨んでるんだ」
「ストリート育ちなんだよ。俺の育った寝ぐらじゃ、花は咲かない。……ゴミと薬莢と血だまり……そんなもんしか、地面には転がってねーからな」
「でも、眺めていこうと思う程度には、花は好きなんだ?」
「……うん、まあ……綺麗だとは思うぜ。飾らない美しさって言うのかね」
「うん。摘んで行こうって気が失せるくらいには綺麗な景色だからね、此処が」

 暫しのやり取りの後。一足先にマルコが立ち上がる。膝裏や背中にも、まだ冷たさのある春の匂いが流れ込んできて心地が良い。軽い背伸び。それと、肺の動きだけで、深呼吸。この景色の匂いを、身体の中に迎え入れる。
「折角だし、別の角度からも眺めてこようと思うよ」
 おそらく此処には来ることは、もう、そうそうないから、一期一会の景色を焼き付けていく為に。
 この場を離れる、と、話し相手であるヴィクティムに申告。おう、と、ヴィクティムも返事をし、手を軽くあげる。
「良いと思うぜ、緑の王も喜ぶんじゃねえか」
 これだけ一面に咲かせたのだ、花を好む者に良く見られるならばそれが良い。ヴィクティムには、この景色を多角から見たところで、違いを見出せる自信は、いまいち無いから。

 マルコはその後も数度角度を変え、花の景色を楽しんだ。
 この下に教団員の馬鹿げた行為だの、王の咆哮だのがあったなんて、きっと忘れていくのだから。ならば、そんな酷い有様よりも、綺麗な景色を記憶していくほうが良いだろう。
 強めの風が吹いて花びらが少量舞う。人工物、かつ人に使われるものであるマルコも、自然への思い入れや縁は、強いわけではないがーーそれでも。ひとが手折らずともこうして散っていく儚い命が、今ひととき枯れるまで、穏やかに咲いていればいい。

 残されたヴィクティムも、腰をあげる。
 花が揺れている。
 緑の王の辛気臭い顔が、花に上書きされていくようだった。
 王の願いは叶ったのだろうか。自然とは丸で正反対の、機械と悪事の塊のような己がした事は、果たして王の願いを叶えたろうか。
 この胸の内のモヤは、下山とともに置いて行って良いものだろうか。
 悪党の癖にあんな顔されてモヤつくなんてどんな了見だと我ながら呆れて肩をすくめる。
 ーー叶ってたら、いいなって、事で。
 こっちまで辛気臭い顔をするのは、終いにしようか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギュンター・マウ
あぁ、キレイだな…とてもキレイだ
きっと此れが弔いの花だろうさ

黄泉の導き手として、王の最期を看取れた事は光栄に思う

地上に降りて、華奢な花を一つ抱き寄せてみる
鼻を掠める香りはそんなにしつこくはなかった

此処に居た王は、安らかに逝けただろうか?
また何処かで会えることがあれば
……まぁ無ければ良いんだがな

でも人間は愚かだから、
また不完全な王が産み落とされるかもしれない
其の時はまた、この手で葬ることが出来れば、なぁ?

花を一つ摘んで
花弁を千切って
ばさりと青空に向けて放り投げる

雪のように白い花は
太陽と、少し緑の香りがしたんだ




 きっとこれが弔いの花なのだろう。酷く綺麗な葬送花が一面に咲いた歓喜を、胸の内で静かに噛みしめる。
 ギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)は黄泉の導き手だ。愛を歌い、しあわせを願い、道を示す。この小さな体躯で王の最期を歌い、看取れた事は、光栄に思うーー
 暫し浮遊し花の海を泳いでいたが、ふと思い立ち花畑へと下り立った。
 花の背丈は意外と高い。揺れる華奢な茎を一つ、褐色の腕で抱き寄せてみる。僅かに花粉が舞い、その粉が光を受けて輝いて見えた。そんな景色が見れるのも、小ささならでは。鼻を掠める香りは、そんなにしつこくはなかった。人の手の加わらない、どこまでも当たり前で飾り気のない白い野の花。

 此処に居た王は、安らかに逝けただろうか?
 また何処かで会えることがあればーー
 ……あの王を哀れみ案ずる余り、猟兵としてちぐはぐな事を願いそうになった。無い事が最善なんだがな、と、自嘲を交える。腕に力を込め、花を一本手折りながら苦笑。

 ギュンターは識っている。人間の愚かしさを。また不完全な王が産み落とされるかもしれない事を。花弁を一枚一枚千切る。絹のように手触りの良い花びらが、衣服に液をつけてもお構いなく。王が残した花弁を、腕に抱く。

 それをばさり、青空へと放れば。
 白い花びらは広がり、雪のように舞い、一層香りを強めて、ギュンターへ注ぐ。緑の匂いと、太陽の匂い。あの緑の王に無かったもの。けれどあの緑の王に、必ずや、似合ったもの。

「(其の時はまた、この手で葬ることが出来れば、なぁ?)」
 
 骸の海の旅に出た王に、この花が届けばいい。
 王の残したこの春が、此処に連綿と続けばいい。それを見届けるのが誰であっても。

 またの遠征を待つ。また次のかなしい王へ、また幾度でも愛を歌う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月28日
宿敵 『緑の王』 を撃破!


挿絵イラスト