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綺刃諷詠~私の由来、過去の所以~

#サムライエンパイア #戦後 #夕凪の旅路

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#戦後
#夕凪の旅路


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●サムライエンパイア~ とある山郷にて ~



 花には花の由来があり、刃には刃の所以がある。
 すべては進み続けていくものなのだから。
 例えるならば、それは物語。
 今にこの地で鮮やかに咲く花も、元は風に運ばれ別の大地にあった筈。
 時が流れて大地に根付き、一面の花畑へと化している。
 風と時代が運んだ由来。
 はじめの一輪が何処かで咲いて、今、目の前にあるというとても静かな物語。
 ならばと。
 少女、夕凪はそっと自らの胸に手をあてる。
 他の者、少なくとも村人と異なるこの白の髪は、青い瞳の由来の脈筋とは何なのだろうか。
 さいわいなるものを探す最中、自分の根源というものに向き合うのだ。
 ならば、自らを選ぶかのように手に収まったこの黒き妖刀もまたどのようなものなのか。
 刃には刃の所以、物語がある。
 例としてあげるならば、鬼の腕を切った形がその名を得て奉られるように。
 或いは、土蜘蛛を斬ったとしてその名を衣のように移ろえていくように。
 黒き刃にも、また何かしらの物語と所以がある。
 それが刀の銘を、そして力を示すのだ。
 何もなく、最初からあの村に安置されて奉られたものではないだろう。
 自らに力を貸すような、それでいて何かしらの悲嘆を語るようなこの黒き刃。
 鞘にありてもなお、柄に触れた夕凪にとしずしずとした哀しみを憶えさせるのだ。
 ならば、この由来と所以を無視してどうして、さいわいなるに至れるだろうか。
 沢山の幸せは見つけられけれど。
 夕凪という少女だけの幸せは、何処にと。
 故に辿る。巡る。花の種を運んだ風を逆さに、時を戻る為に物語を効き、妖し刀の伝承を手繰る。
 美しい花を、風に囀る景色を、眸に映しながら、ついに夕凪はそれを知る。
「――霊峰の隠れ里」
 左様と、天狗の仮面の老いた老人は頷いた。
 名を天蓋の郷。
 周囲を巡る龍脈の交わる霊峰にと隠された郷だ。
 幾筋もの大地の気が巡り、交わり、霊石、霊砂が取れる山に位置する。
 のみならず、満ち溢れた霊気は大地と草木を茂らせ、季節を問わず美しい姿を見せるという。
 いいや、かの地でなくば出来ぬほど、幻想的な美しさを称える郷。
 だが、と天狗面の老人は語る。
「されど、鬼と呼ばれたものたちの隠れ郷。鬼を屠るが故に鬼となったか、それとも元からヒトならざる者たちであったのか」
「…………」
 種族としてこの世界に根付く羅刹たちともまち違う。
 それこそ異なるものとして、在るものたち。
「今となっては解らぬし、交流とて殆ど無い。由来も所以も、隠されている」
「なら、それこそ」
 夕凪の青い眸が真っ直ぐに見つめる。
「その郷にいく必要があるのです。少なくとも、私のこの妖刀がその地より出たものであるならば」
 臆すことも、怯えることも出来はしない。
 この妖刀の所以を知らず、自らの手に未だある血の罪など拭えないのだから。
「路は示そう。常に霧に隠され、辿り着くに値するか惑わすものなれど。……が、その前に」
 天狗面の老人が見つめ返す。 
 では、この夕凪という少女の由来と所以は如何なるものか。
 定めねばならぬと、吐息をついた。
「これより先に戦で荒廃した砦がある。そこに根付いた妖魔たちを討つがいい」
 それをもって証としようと天狗面の老人は語る。
「誰の力を借りてもよい。全ては人里を脅かす前に。……かつては、あの郷の者がしていた対魔をもって、その黒刀に相応しきを見せるがいい」
 夕凪の黒き妖刀は変わらず悲しげな念を、冷たく静かに漂わせる。
 この刀にも――。
 その先は胸に秘めて、夕凪は頷いた。



●グリモアベース


「今は昔、されど、今も棄てられた戦の跡」
 それが今回の舞台であるのだと、柔らかな声で告げるのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)。
「廃墟となった砦跡。かつては堅牢なそれも、今はそれを取り巻く陣ごと、妖魔や妖怪――すなわちオブリビオンに支配され、その住処となっています」
 人里から遠く離れた場所だからこそ、簡単に攻め入ることはできない。
 が、だからこそ少しずつと首領たるオビリビオンが配下を集め、いずれはと機を狙っている。
 平穏して泰平の世。
 されど、骸の海という過去より浮かび上がるは戦国の鬼たち。
 或いは、もっと古くより渦巻く怨念。たとえ今に生きるひとが忘れても、我は消えてはおらぬと呪いを吐き出す。
 今の世では呼吸も出来ぬと。
 殺し合う最中の、魂の衝突にこそ生きたのだという。
――それは、きっと彼らの変わらぬ真実なのだろう。
 勝者がいて世を作るならば、敗者は世と時代という土の内に埋もれるものなのだから。
「が、それを呪いとして今に生きるヒトに押しつけるのは違うでしょう」
 故に、放置していればいずれ近くの村を襲い初める事となる。
 その前にというのもあるし、かつて猟兵たちが猟書家より救った少女である夕凪もまた、討伐に勇と義を持つものに声をかけている。
 敵の数は多く、また乱世に生きた者が戦術や陣跡を用いてもまた猟兵が集うならば必ずや戦い、勝てよう。
「その先に何かしらの未来が繋がると信じて。……幸せとは、ひとの辿った路という所以と由来、縁と物語が結ぶものですから」
 今の世は素晴らしき幸せ。
 それを戦の汚泥にと穢さぬようにと。
 ふわりと柔らかく、秋穂はお辞儀をした。
「お願い致しますね、皆さん。その武勇は、武芸は、幸せとなるものの為に」


 斯くして廃した戦陣に、新たなる刃風が吹く。
 


遙月
 何時もお世話になっております。
 マスターの遙月です。
 この度は連作風でのサムライエンパイア、和風綺譚の戦闘シナリオをお届けします。
 
 少数採用、かつ、低速運営となりますのはどうかご容赦くださいませ。
 また、採用基準は「活躍しやすいもの、アドリブをいれず成功の度合いが高いもの」となります。
 一方でユーベルコードやアイテムは、あくまでその範疇での効果しか出来ませんので、『強すぎる、規模や範囲が広すぎる』などのものは不採用とさせて頂きます。
 例えば剣はあくまで剣。また、剣と銃ではどちらが有利というものは基本としては存在しないように。
 フレーバーやエフェクト、文章中の演出では大丈夫ですが、効果を発揮しようとするならば技能を絡めたプレイング次第となります。
 それらの技能を上手く使ったなどのプレイングボーナスを含めて、『活躍しやすい方から』と採用させて頂きますね。
 一方でレベルや数値はあまり見ませんので、その辺りは気にしないで頂けると幸いです。

 戦闘と心情と共に士道のような、戦う者のかっこよさというものを書きたいと思っていますので、どうぞ宜しくお願い致します。
 

 プレイングの採用は8/26日の08:31分をと予定しています。
 ゆるゆるとなりますので、終了時間は未定。採用数も少数とだけして未定。ただ、届いた順番ではありませんので、そこはご容赦くださいませ。

 それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 集団戦 『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』

POW   :    伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(毒属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    欲欲欲
【血肉を求める渇望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ   :    鳴神一閃
【全身から生じる紫色に光る霆(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:ヤマモハンペン

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●断章 ~ 過去の戦陣 ~


 夜となりて、白き月が昇る。
 過去に打ち捨てられた戦陣と砦は、荒くとも補修されていた。
 堀などはないものの、周囲には馬防柵と杭が打ち出され、さながら野戦築城のような陣。
 明かりの灯されたその場にいるのはヒトの兵などではなく、禍々しい鬼たの気配。
平和な世になど、どうして生きられよう。
 暴虐こそ全て。力で奪い取ってこそ我ら。
 いいや、戦乱と恐怖ある世界でこそ存在出来るのだ。
 ただ滲み出す雰囲気だけで、そう語っている。
 そのような存在が今に相容れられ筈はなく、ああ、討つべきなのだとそこにいる皆に思わせる。
 が、鬼もまた統率が取れているのか、警戒もまた厳重。
 照明などの用意は不要ではあるが日中に容易く攻め入られるものではないだろう。
 敵の布陣を見てとれば、取れる選択はふたつ。
 陣の隙をと狭い路を進めば、逆に戦い方も狭まる。
 相手も数を用いての乱戦や暴力には訴えられないが、自らもその狭さに悩まされるだろう。木柵に石壁は並んで戦うのは向かず、下手すれば武器の取り扱いとて難しい。間合いをとっての戦闘はほぼ無理。
 が、正面きって切り込み、一騎打ちを繰り返すように斬り進むことが出来るだろう。敵兵の堅守を越える地力が必要となるが、最短で敵の首領の待つ砦へと入り込むことも出来るだろう。
 一方で正面より挑めば敵の数と戦うことになる。
 乱戦は必須だが、騎馬や徒歩といった速度に乗せての蹂躙もまた可能。戦の華であり、武名を轟かす戦場そのもの。 武器の扱いは自由であり、数人で組んでの戦いも可能となるが、やはり数が問題か。
 物見櫓がある限り、何処にいったのかと常に把握されて鬼たちの数に圧迫され、相手の暴力の波に耐える必要が出てくるだろう。
 どちらも難しい。
 いっそのこと、防備の施設。柵や物見、石壁など破壊するか。
 なんとなれば、どうにか指揮する『頭』を見つけて討つのも当然の選択として浮かぶ。
 或いはその為に潜入するのも手ではあるのだろうが、そこは猟兵たちの自らが誇る『長所』に寄るだろう。
 鋭い三日月が照らす。
 そこにいるのは長い白髪に、澄んだ青い眸の少女。
 黒い妖刀を抜いて、かつて自らを救った猟兵たちとの戦いを前に、凜とした視線を向けて。
「……いざ」
 もう、このような妖念の武器に縋る者が出ぬように。
 そして、彼ら彼女らと戦える光栄に、少しの喜びを抱いて。
 月の元で刃が走り、戦を告げる。 



(白兵戦推奨です。どのように戦うか。示唆されていないものでも、戦国の戦いの風であれば可です。砲撃で一方的に、などは採用率がかなり下がります。近代戦術はあまりお進めできません)

(夕凪は指示と要望がプレイングにあれば、サポートとして動きますし、戦闘前や最中程度ならばと会話も可能です)
鹿村・トーゴ
嫋やかな娘ながら修羅の路を往くかい夕凪どの
この砦に挑むのも彼女の決断
遠目に武運を祈るよ

さて鬼の砦崩し
高揚しない羅刹が居るだろーかね
月光避け暗がりを行くか
刃に【毒使い】塗布のクナイを1本咥え1本は手に
UCで柵や石垣渡り【暗視/忍び足/軽業】活かし狭路から敵UC感情爆発の前に背後から喉を【串刺し、暗殺】そのまま羅刹の膂力任せに首斬り
狭い【地形の利用】暗殺発覚前に離脱→UCで想定外な場所に隠れ奇襲
とは言えこの戦法も場凌ぎだな
常に1対1確保し倒す
敵UCに備え【激痛耐性】
挙動を【追跡し野生の勘】で【武器受け、即カウンター】姿勢低くクナイで刺し斬り咥えたクナイを【目潰し】狙い【念動力で投擲】高速で撃ち込む



 月を眺めれば、血に高揚と狂気を憶えるという。
 空に浮かぶ姿は、あんなにも澄んだ白さを湛えるというのに。
美しいだけでは研ぎ澄まされた刃と変わらない。
 つまりはそういう事なのかもしれない。
 あの娘もそうなのかもしれないと、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は橙の瞳を揺らす。
「嫋やかな娘ながら」
 姿形ではなく、その心が求める故に。
 躊躇うことなく前に進む姿も、また確かに美しい。
「修羅の路を往くかい夕凪どの」
 だからこそ鹿村の言葉もまた賛辞を帯びている。
 この戦鬼の砦に挑むも彼女の決断。
 ならばこそ、言葉をかけずとも遠目より武運を祈る。
 何を求めて進むのか。
 進まずにはいられないのが、ひとなのか。
 鹿村にはいまだ確かには解らずとも、目の前に佇むは禍々しい気配を滲ませる棄てられた砦だ。
「さて、鬼の砦崩し」
 月灯りを避けながら暗がりを征く鹿村。
 一瞬だけ見上げた月は、やはり冴え冴えとした白さ。
 まるで心を見透かす鏡のような姿に、小さく言葉を呟いた。
「……高揚しない羅刹が居るだろーかね」
 鬼退治を前に、鹿村に血は沸き立って鼓動と共に戦意は巡る。
 月に魅入られたのか。
 それとも、戦への祝福を月より授けられたのか。
 毒塗りのクナイを一本は口に咥え、もう一本は手にと柵や石垣を擦り抜けるように渡る忍びたる鹿村の姿。
 柵も石垣も兵を拒む為のものだというのに、鹿村の前では一切その役目を果たせていない。
 音はなく、気配もない。
 ただ無音をもって、影のように鬼の砦の裡にと渡る。
 鬼の居ぬ間にならぬ、その隙間を縫う羅刹の忍び。
 その橙の瞳が一匹で佇む禍鬼の背を見つければ、更にその気配は薄くなる。
 どうして禍鬼たちに鹿村という忍びの姿を捉えられようか。
 するりと音もなく近寄るは死神の技。
 何処までも研ぎ澄まされた、死を運ぶ降魔の忍び。
 故に命奪う刃の閃きも、一切の予兆なく放たれていた。
「――ッ」
 禍鬼の背後にと忍び寄り、気付かれぬ儘に繰り出された毒塗りのクナイの一閃。
 呼吸の合間に出来る隙をと狙われては、回避も防御も何もない。
 ただ急所に吸い込まれるように鹿村の毒刃が滑るのみ。
 頸を貫き、気道を断つ。
 のみで止まらず、血肉を求める渇望が生じることさえ許さず、そのまま首斬りへと流れる。
 頑丈な筋肉と骨に守られた禍鬼の頸、クナイ一本では本来断てるものではない。
 が、羅刹の膂力、そして生来憑いた魔の力を持って振るわれる鹿村の刃ならばそれすらも断つのだ。
 腕に浮かぶ赭の羅刹紋が脈動するように浮かび上がり、その後を追うように鮮血が周囲に舞い散る。
 まさに暗殺の理想型。
 鹿村が繰り出すは何かを思い、感じるより速く命を絶つ暗影の疾刃。
 幾ら戦乱の世より、或いはそれよりもっと古い時代から蟠る怨念から成る禍鬼とて、振り上げた腕を叩き付ける事も出来ずに地に伏す。
 が、それを勝利と取らないのもまた鹿村という忍び。
 物陰に跳躍し、近くの食料庫の壁高くにと立つは瑞渡りの歩方。
 まさかそんな場所にと思う筈もない壁面に張り付くように立ちながら、鹿村は乏しい月光の中でも夜目を以て周囲を見渡す。
 闇の中に在る禍鬼たち。
 その中でも浮いたものを見つければ、先のように背後へと忍び寄り、毒を塗ったクナイでの一撃で葬っていく。
 忍びの独断場であり、気付いていない禍鬼は狩られるのを待つだけだ。
 だが。
「とは言え、この戦法も場凌ぎだな」
 長くは続かない。いずれ気付かれる。
 他の猟兵たちが起こす騒動に紛れる手もあるが、鹿村の脳裏に浮かんだのは嫋やかな娘の姿。確かに、背を押してやりたいとも思うから。
 ならば、内側から崩してやるのだと忍びが鬼の陣を、砦を崩すのだ。
 常に一対一を確保し倒す。
 それを忘れぬように。が、影に徹するのもこれまで。
 二体いた禍鬼の片方を奇襲で殺めれば、そのまま姿勢を低くする鹿村。
 禍鬼の雄叫びはまるで戦鼓のように響き渡る。
 だが、それが陣の内側からと聞こえたのならば、守衛に回る鬼たちも動揺するだろう。暗殺、更には攪乱。忍者としての役目を十全に果たしつつ、鹿村は殺意の感情を爆発させた禍鬼の一撃を待ち受ける。
 鋼の棍棒を振り上げる挙動を追跡しつつ先読みするは野生の勘。
 放たれたのは鋼とて潰す禍鬼の剛撃なれど、恐れることなくクナイで迎え撃つ、羅刹と鬼の力比べと持ち込む鹿村。
「はっ。流石は鬼」
 腕が痺れる。何という重い一撃か。
 しかし、鹿村は禍鬼の攻撃を受けるのではなく弾き飛ばしていた。
「だからこそ、鬼退治っていう物語があるんだよ」
 ならばとその隙を突くように姿勢を低くして飛び込み、即座のカウンターとして毒塗りのクナイにて脚部を刺し、抉りながら横手へと斬る。
 脚を斬られて姿勢を崩す禍鬼。
 だが、これでは終わらないと目を鹿村が咥えたクナイが、その目へと向かって念動力により高速投擲された。
 眼球を貫き、頭蓋へと至り、脳を刺す一撃。徹底した急所への攻めに禍鬼の巨体が地面に倒れ込む。
「仕事は果たせただろうーかね」
 騒動を聞きつけ、いいや、動揺している禍鬼たち。
 指揮が乱れれば陣も砦も十全には機能しない。
 ならば、これが鹿村が続く仲間へと送る武運への祈りだろう。
 結果として自らを苦しめることとなるが、それでよしとする。これは決して、後先考えないからではなく、心を持つひととして。
 旅はひとの縁と物語あって続くものなのだから。
「羅刹が振るう鬼退治の物語で、彼女の旅を支えてやらねーとな」
 自らにと向かってくる禍鬼の気配を感じて、狭い場所へと誘き寄せる為に、或いはまた再び奇襲へと繋げる為に、鹿村は砦の壁へと跳躍する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
アドリブ等◎

【狭い路を進む】

花の色はうつりにけり
然れど褪せぬは人の情
衆生の平穏への祈りが褪せぬように
戦場に散った筈の骸もまた
死地への渇望が褪せぬのだろう

ん。お前達の立場は承知した。
承知の上で――斬らせて貰おう、か。
大太刀回りのみが戦の花とは思う勿れ、細逕にも花は咲く。
剣狐のクロム。大胡の弟子にして織田の末席に連なる者。
いざ、再び三途を渡りたい者より来ると良い。

狭所にて▲先制攻撃を取る為に
逆手に放つ▲早業の▲居合を放ち斬捨てたい
▲威圧で後詰が怯めば尚良い
確実に一人ずつと戦う形に▲陽動したい

敵UCには【朱八仙花】で対応
自身に降る毒尾のみを▲切断しよう
後詰迄巻き込んでいるならば
僥倖なれど……憐れ、ね



 如何なる花とて、時の流れにて褪せていく。
 されどと移ろうことに抗えば澱むが必定。
 それは誇りであれ、想いであれ同じ事。
 美しきあの色はどうして斯様な様へと墜ちてしまうのか。
 そこに哀しみを覚え、声に滲ませ、言葉が流れる。
「花の色はうつりにけり」
 澄んだ声色は茫としつつも、月灯りのように闇に広がる。
 ああ、憐れ。悲しきかな。
 痛みさえ解るからこそ、藍玉の双眸はするりと細まる。
 からん、と下駄の音を響かせて。
 戦陣となった場所へと恐れなく踏み込むは、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)。
「然れど褪せぬは人の情」
 なんともやるせなきもの。
 これより待ち受けるは禍々しき戦の鬼。
 色褪せることなき人の情を、それでもという念で混濁させたものたち。
 遙かなる戦乱の時を経て、澱む情念と狂気へと至る願い。
 が、本当に全てを濁らせたのか。
 本当の本当に全てを捨てて、鬼に至ったのか。
 衆生の平穏への祈りは褪せることないように。
 戦に生きるものとしての矜恃もまた、消え果てることはないはず。
「戦場に散った筈の骸もまた」
 転がり果て、風に晒され、地へと還り天にと巡れず。
 ああ、未だにこの胸にあるという想いが、楔となってこの世に縛る。
 例え、それが歪み、澱み、狂い果ててもなお。
 戦いの裡に、その後に望むものがあるからこそ。
「死地への渇望が色褪せぬのだろう」
 悲しく、悲しく、言の葉を舞わし、詠うように口ずさむクロム。
 解るとも。
 解らぬ筈がないだろう。
 痛いほどに胸に染み入る、道半ばで果てた無念さ。悔しさ。
 例え澱んだ汚泥に塗れて泥水を啜ってなお、再起を図るという鬼の情念。
 これもまた、戦に生きるものとしてクロムも痛感している。
 けれど、その歩みは止まることなく狭き路へと入っていく。
 からん、からんと下駄を鳴らして、陣の隙間たる狭き戦路へと踏み込んで、藍玉の眸をするりと泳がせた。
 周囲に群れを成すは、禍鬼たち。
 痛みを忘れ、哀しみが消え果て、願いさえも壊れてしまった末路たる鬼。
 或いは、もはや数え忘れた古き戦より在り続けた残骸たち。
「ん。お前達の立場は承知した」
 悠久の時が流れすぎたが故に。
 禍鬼の裡に在るは憤怒、狂乱、慟哭より成る破滅と破壊への衝動。
 残ったのはそれだけということに、クロムはこくりと頷いた。
 暗き闇しか残っていない者たちと向き合い。
「承知の上で――斬らせて貰おう、か」
 それでも烈士として、在りし日の残影へと語りかけるようにクロムは言葉を向ける。
 向き合うは戦鬼にして、鬼に非ず。
 嘗ては侍として志を以ていた者として、美しき刃のように澄んだ眸に映す。
 魂響と銘打たれた刀に指を這わせ、ゆっくりと姿勢を整えた。
 クロムの言葉は、想いは、果たして禍鬼に届くのか。
 もはや歪んだものは変わらない。色褪せた花が、枯れ果てた草木が戻ることはない。
 だとしても。
「大太刀回りのみが戦の花とは思う勿れ、細逕にも花は咲く」
 凛とした剣気が、禍鬼の裡より在りし日の光を思い出させる。
 魂ばかりは不滅なのだから。
 そこに刻んだ有り様は、変わることはないのだから。
 人の情というものは、祈りは、願いというものは散ることはない。
 そう示すように最早自らの名を名乗れずとも、一匹の禍鬼がクロムの前へと進み出る。
 もはや先のない細逕であれ、戦の花を最期に咲かせんとばかりに。
 ならば、せめてもの救いはあろう。
 刃の交わりの裡にしかない、刹那の慈悲であろうとも。
「剣狐のクロム。大胡の弟子にして織田の末席に連なる者」
 名乗りを上げて待ち受けるクロムは刀光剣影の最中にて鬼の魂を洗う。
「いざ、再び三途を渡りたい者より来ると良い」
「――――!!」
 吠え猛る禍鬼の唸り声。
 もはや鬼の喉は言葉とて発せられぬ。
 それでも果然と進む姿は、まるで板東の鎧武者。
 恐れることも、怯むこともなく。
 むしろ戦に喜び、武勇振るうかのようにクロムへと突き進む。
 振りかぶる棍棒は鋼とて叩き潰す剛撃そのもの。
 ならば受けてはならぬと、影を残して更に踏み込むクロム。
 鞘に納められた儘の魂響を掴むは逆手。
 疾風の如く、されど、揺らぎのひとつみせず。
 僅かなる予兆も見せず、鞘より放たれるは稲妻にも似たる居合一閃。
 すれ違い様に武器を握る禍鬼の手首を斬り断ち、身ごと翻す返しの刃で頸を断ち斬る。
 疾風迅雷とはまさにこの事。
 呼吸の間もない儘に、鬼の腕と頸がはらりと椿のように墜ちる。
 抜刀の刃で、その身で、三日月のような鋭い弧を描いたクロムが残心をもって振り向き声を投げかける。
「ん。――さあ、次に末期の花を咲かせるのは、誰か」
 その身より流れるのはなんと静かで鋭い剣気か。
 迅雷の如き居合と体捌きなれど、クロムの身は静謐なる儘。
 肉と骨を断つ刃の音さえ響かせず、命を斬り捨てている。
 放たれる威圧もまた流麗にして透き通る水のよう。
 いいや、斯く在れと、武士の魂たる刀、その美しき刃文を眺めるかのようだった。
 だからこそ、クロムの予想に反して鬼が怯むことはない。
 されど、ある意味では逆にクロムの狙い通り。
 狂乱の姿を取るのではなく、鬼たちはクロムとの一騎打ちにともつれ込む。
 直ぐさまに次にと殺到するのではない。
 名乗りはあげられずとも、クロムの呼吸と姿勢が整うのを見て、武器を振り回し、いざと戦意を燃え上がらせて挑む禍鬼。
 確実に一人ずつと戦う形に持ち込みたいクロムとしては幸いでもあった。
 何より、鬼となった魂を、刃を以て士として葬ることが出来る。
 禍鬼が襲い懸かれば、その勢いを利用して奔る刃が肉体を断ち斬る。
 舞い散る赤い花びらのような鮮血。
 されど、それは水。体液。零れた血が大量となれば地に溢れ、泥と化す。
 それほどに多くの鬼を切りながらも、凜然と澄んだ儘のクロムの振るう刀たる魂響。
 それこそ玲瓏たる音色を伴って鬼を斬る刀だった。
 何体を斬ったのか。
 幾つの魂を黄泉へと送ったのか。
 重なる骸を数える事は出来ず、されど緩やかな吐息を付いてクロムは最期の鬼へと向き合う。
 向き合う藍玉の眸と、爛々と輝く赤い眼孔。
「ん。いざ、尋常に――」
「――――!」
 鬼は最期のひとつまで言葉を紡げなかった。
 が、もはや巻き込む仲間もいないと猛然と襲い懸かるソサリの尾。
 猛毒をしたらせて狂奔する殺意を前に、なおクロムの精神は深く、静かに研ぎ澄まされた。
『神速剣閃、陸ノ太刀――万象を断つ』
 呟くは奇蹟への祈り。
 我が刃は斯く在れという、誓いの言葉ならばこそ。
『ならば、鬼の迷妄をも断て』
 詠唱に足された一言こそ、クロムの心。
 褪せぬ誇りであり、情であり、そして刃の在り方。
 抜刀よりの瞬刃一閃。
 いいや、幾重にも瞬く切っ先が描くはさながら剣光の紫陽花。
 幾筋もの細き剣筋が咲き誇り、攻防一体の剣戟結界が結ばれる。
 いいや、そこに踏み入ったモノを悉く斬り捨てるのだ。
 自らの間合いへと入った毒尾は幾つもの細かな肉塊となって崩れ去り、鬼の隙を見出したクロムは剣風伴い踏み込んでいく。
「……憐れ、ね」
 自らの生涯を以て磨いた武を、言葉を、想いを紡げぬ鬼に。
 クロムは逆手より順手へ、瞬きより速く持ち替えて。
 諸手で握る魂響の一閃には、礼節さえ滲ませて。 
「せめて、黄泉ではその武芸を、名誉を失わぬように」
 介錯にも似た冷たき慈悲の剣閃を以て、鬼の頸を斬り飛ばすクロム。
 残心と共に息を吐けば、周囲より上がるは戦の気配。
 血と泥に塗れ、屍が転がる戦場。
 此処に咲く花はあるのかと。
 いいや、いずれはこのような戦場にも慰めの花が届くのだと。
 柔らかな息を吸い込み、クロムは魂響を鞘へと収める。

 ちりんっ、

 と響く音は、弔いの鈴に似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四方堂・幽梨
静かでいい夜だ
それに戦場の饐えたニオイ
剣術を嗜むなら、気持ちが昂るのもわかるかもなあ
時代錯誤の剣術家も、この世界なら役立つもんかね
ま、感傷は後回し
夕凪嬢の本懐を遂げさせてやりたいね

てなわけで、なるべく目立たないようジャージは、搦手からちまちま削っていこうかねぇ
居合はもともお座敷剣法。狭い場所はバッチコイよ
相手の意と合うこと、居から合うこと、それが理想
つまり、こちらの殺気で相手の行動を誘うのさ
相手の方が体格が大きいってことは、狭い場所での分はこちらにある
金棒を受けるのはまずいから、交叉で仕留めるつもりで間合いの内側に入りつつ抜き打ち、切り抜ける

騒ぎになる前に、見張りを潰しておきたいけど……



 深き静けさに染まる夜。
 けれど、虫の声さえ届かぬのは戦の気配を察してか。
 ただ月ばかりは白く、冴え冴えと空に浮かんでいる。
 何事も見透かすように。
 これより起きる全てを、忘れぬようにと。
 ならばその月は、今までの全ての戦を、戦乱の世を見てきたのだろうか。
 答えはない。
 が、ただ感じるのはひとつだける
「静かでいい夜だ」
 ぽつりと呟くは四方堂・幽梨。
 夜風に触れられるが儘に髪を揺らし、瞼を閉じている。
 静寂ばかりが、夜に在る。
 が、それが破られる予兆もまた感じるのだ。
 鈴蘭が焼き刻まれた白木拵えの無骨なる居合刀、黒鈴蘭に指を這わせて呟いていく。
「それに戦場の饐えたニオイ」
 棄てられた戦陣と砦を、鬼たちが再び改修して使っている。
 在るのは何も鋼などの物資だけではない。
 戦に挑もうとする暴力の、或いは、狂乱の気配。
 そこから滲み出す匂いは確かに戦場そのものといっていいだろう。
 血の匂いさえ、微ながらに憶えてしまうほど。
「剣術を嗜むなら、気持ちが昂るのもわかるかもなあ」
 そして、天より見下ろす白き月。
 戦はこれより始まり、残るのは片方だけだといと冷たく冴え渡る様は、まるで刃であるかのよう。
 戦乱を経て泰平の世となり。
 されど残滓が動き続け、未だ終わらぬと戦を求めるこの世界で。
 ただ強さだけが全てと、揺らぐことなく、悠久なる昔より在り続ける月。
「時代錯誤の剣術家も、この世界なら役立つもんかね」
 幽梨が口にしながら愛刀たる黒百合の柄を撫でるが、そも彼女のような存在が振るう剣刃は砲火にも勝る。
 時代錯誤とは何のことか。
 魂を懸けた刃は、魔術よりもなお深き神秘へと至るほど。
 が、その深きにどれほどまで至っているかといえば、それを確かめるには戦に挑む必要がある。
 あの禍鬼たちのように、戦乱にと身を浸していって始めて知れる自らの刃の真価。
 ああ、自分の剣にと願いを込めれば込めるほど、想いを絡ませれば絡ませるほど、戦いより遠ざかることが出来なくなる。
「なんて。ま、感傷は後回し」
 何処で始まったのか。
 内部で起きた騒ぎに鬼たちの気配と統率が乱れる気配を幽梨は見逃さない。
 そのまま戦いに加わるのではなく、その逆。他の猟兵が攻めていないが故に、騒ぎが起きていない場所を狙うのだ。
 そのままひらりと風のように駆け抜け、鋭い眼差しで斬るべきモノを捉える。
 静かなる夜はこれまで。
 これよりは戦に燃えるのみ。
 ただ義にて幽梨が思い浮かべるのはひとつだけ。
「夕凪嬢の本懐を遂げさせてやりたいね」
 自らの願いに届かず、骸へと果てるならば。
 それこそ鬼へと至る道に他ならないのだから。
 この禍鬼たちも、現世に残るほどの無念を抱えたからこうして形を取る。
 されど。
 故に斬らぬ、という訳にはならない。
 そのままひそりと駆け、陣の隙間へと入り込む幽梨。
 搦手より少しずつ、だが確実に削るのだと柵と柵の隙間へと身を滑り込ませれば、幽梨を見つけた禍鬼が正面より襲い懸かる。
 躊躇いなどありはしない。
 狂乱と、暴虐。ただ破壊衝動に身を任せる文字通りの戦の鬼。
 せめてもの救いはここ狭い場所であるということか。
 数体が同時に襲うことはなく、波状攻撃も不可能。加えて、棍棒を自在に振り回すのも苦労するだろう。
 だが、同じ縛りを幽梨が受ける訳ではない。
 幽梨が遣うは斬滅四方堂たる抜刀居合い剣術。
 居合とは元を辿れば座敷剣法であり、柔を取り入れたそれは狭い場所でも自在に切っ先を振るうもの。相性としてはまさにの一言。
 故に片膝を付いて、抜刀の構えを取る幽梨。
 鍔鳴りを響かせ、愛刀たる黒鈴蘭を白木の鞘より解き放つ瞬間を待つ。
 刃より先んじるは幽梨の身より放たれる強烈な殺気。
 身を刺すような、或いは臓腑を斬り裂かれるような威圧が周囲に広がる。常人ならば怯んで踏みとどまり、躊躇いを見せるほど。
 が、禍鬼はむしろ狂乱する。殺気には殺意と、感情と欲求を爆発させ、その豪腕から強烈な一撃を放つのだ。
 血が欲しい。肉を潰したい。骨の砕けて、命の潰える音を聞かせてくれ。
 そんな鬼のどす黒い衝動をぶちまけるような剛撃が迫る中、幽梨は小さく、だが同時に鋭い笑みを浮かべる。
「ばっちり、殺意という意が、殺すという居が合っているねぇ」
 居合の理想は、意と居が合うこと。
 挙動という肉体の動きと、精神の波。
 両方が噛み合う中、その間隙を断つことこそ基礎にして極意。
 幽梨の放った殺気に乗せられた禍鬼は、まさに術中に落ちているといっていいだろう。攻め懸かる最中では止まることも戻ることも出来ない。
 ならば、後は誘いに乗った鬼を、一刀の下に斬り伏せるのみ。
 瞬間、幽梨の銀の眸が怜悧さを帯びる。
 振り下ろされる金棒は確かに脅威。が、巨体を以て振るうのであれば、その軌道は読みやすく、幽梨の殺気に誘われての一撃ではそのタイミングも見切るのは容易い。
 故に姿勢を低く、地を滑るように前へと跳ねる幽梨。
 禍鬼の間合いの内側に入り込みながら、剛撃を放つ相手の勢いを乗せる交差方で放つのだ。
 ちりんっ、と響くは鞘走り。
 鞘より放たれる刀の影すら見せることのない、まさに神速の一閃。
 氷が砕け散るような凛烈な音を立てて剣閃が夜闇に瞬く。
 抜き打ち様の一刀は鬼の頑丈な肌や筋肉を易々と両断し、心臓を捉えて斬り裂く。のみで止まらず、幽梨はそのまま背後へと斬り抜け、更に前へと跳躍。
 狭い。だから何だという。
 その中で自由に動いてこその迅速さというもの。
 飛び往く燕が、ただ狭い場所というだけでその動きが捥がれるものか。
 そして、鬼の肉と骨ごと断った筈の黒鈴蘭の刀身はしんっと静まりかえっている。一切の揺れや振動を見せないのは、幽梨の剣技を詠うかの如し。
 一度斬れば刀身が震え、鞘に納まらぬとは誰の言葉か。
 いいや、我が虎徹ならばそのような事はないと笑ったのは、はて、誰の技を示していたのか。
 今はただ、黒鈴蘭という刀と、幽梨の抜刀が鬼を斬りて進むのみ。
 そのまま、ちりんっと鍔音を響かせて鞘に納まり、次なる鬼にもまた居合からの疾刃を以て屠る幽梨。
 次の相手が襲い懸かるまでの僅かな間に視線を巡らせるは、見張りをみつける為。
 騒ぎが本格的となり、指揮を執られる前に潰して置きたいのだ。
 そうして見つけたのは櫓に昇ろうとする鬼の姿。
 ならば見逃さぬと再びの低い跳躍。
 袖のボロボロとなったケルべロスコートを黒い翼のようにはたかめ、禍鬼の背後より強襲する幽梨。
 地の低くより、身を捻りながら再び放つは無影なる瞬刃。
 頸を斬り飛ばされて鮮やかな血を散らす鬼の骸を捨て置き、更に前へ。
 止まることなく前へ。
 闇に溶け込むようにしながら、黒鈴蘭の残光を散らして幽梨は鬼を斬る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブラミエ・トゥカーズ
鬼達よ。初めまして。
余は異界の”血を吸う”鬼である。

忘れ去れるという事の憐れさはわかるぞ。
余とて人に殺され尽くした弱い生き物であるゆえな。

貴公等はどの様な逸話を持つかは知らぬが、余は生きる者の敵である。
忘れ去られた鬼共よ。それでも、と宣うのなら異界の魔よりこの世を護るがよい。

夕凪には手を出させず、但し、鬼の闘争を彼女に魅せつける
自身を吸血鬼の型に封じる剣・夜舞垂と夜の吸血鬼の不死性をもって鬼に正面から戦いを挑む

傷つけられたら血をまき散らす
病の元である血霧は霆で消毒される
また霆は血霧で相殺する
結果身体能力だけの殺し合い

吸血鬼の形をした病原菌《下等生物》にとって形が壊れる事など戯れにすぎないが



 夜が戦の狂乱に包まれるは、さながら月が赤く染まるかのよう。
 鬼たちが慟哭をあげて武器を振るい、血を流して骸を転がす。
 だが、その中でも夜闇の色を纏った姿が静かに佇む。
 決して揺らぐことも、騒ぐこともない。
 夜色の髪に、翠玉のよう双眸。
 危うい程に白く透ける美貌。
 そして唇より微かに見える鋭い歯が、彼女の存在を示している。
「鬼達よ。初めまして」
 高貴さと気品。
 穏やかな口調ながら、そのふたつを聞く者に憶えさせる声が血のように赤い唇より零れる。
「余は異界の”血を吸う”鬼である」
 上品な微笑みを浮かべながら告げるは、ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)。
 恐怖と血を啜る、御伽噺の吸血鬼。
 夜に生きる魔の存在が、同じく光に生きられぬ禍鬼たちを見つめる。
「忘れ去られるという事の憐れさはわかるぞ」
 今や狂乱と暴虐の衝動して存在出来ない禍鬼たちを見つめながら、ゆっくりと言葉を紡ぐブラミエ。
 彼らがどの時代に生き、そしてどのように死んだかは解らない。
 そう、ひとつ、ひとつの名さえもう定かではない、影の残骸でしかないのだ。
「世とて人に殺され尽くした、弱い生き物であるゆえな」
 そう言いながら、僅かに眉を顰めるブラミエ。
 自らの殺され尽くしたという過去を思い起こすのか。
 それとも、自らの名も忘れた鬼への憐れみを胸に抱えているのか。
 語らぬブラミエの真実は不明。
 ただ続いて流れる言葉ばかりは、どうしようもない事実であった。
「貴公等はどの様な逸話を持つかは知らぬが、余は生きる者の敵である」
 血を啜るとは、命を啜るということ。
 生きるものより奪い続けることこそ、ブラミエという吸血鬼。そして夜の御伽噺の存在そのものだった。
「忘れられた鬼共よ」
 そういう意味では同類。
 今を生きるものを殺す事でしか、己を示せない戦の禍鬼に、優雅な笑みを浮かべてみせるブラミエ。
「それでも、と宣うのなら異界の魔よりこの世を守るがよい」
 ブラミエの言葉を理解しているのか、それとも出来ないのか。
 言葉をまともに発することも出来ない禍鬼は、ただ吠え猛る憎悪を見せるのみ。
 世界を守るなどという事は禍鬼はしない。
 ただ目の前に壊せる存在がいる。
 そして、自分たちとは相容れない存在であると解るだけ。
 同じ世界の妖魔であれ、異界の魔であれ、自らが壊すものを奪うというのならば、ただ向かうのみ。
 群れを成してブラミエに襲い懸かる禍鬼たち。
 が、ブラミエは後方に控える夕凪には手を出させず、自らの鬼の闘争を彼女に魅せ付けるのだ。
 それは余りにも恐ろしく、荒れ果てた戦い。
 身を厭わぬ廃退を感じさせる、死せる者の闘争だった。
 封剣・夜舞垂を携えぬブラミエは夜の吸血鬼として鬼に正面から戦いを挑み、禍鬼もまた正面から鋼を砕く猛撃で攻め懸かる。
 禍鬼の一撃が振るわれれば、ブラミエの身から弾け飛ぶ血肉。
 だが、血液こそブラミエのばらまく病の源。
 それが血霧として撒き散らされれば、禍鬼たちとて苦悶に唸る。
 が、ただでは鬼は止まらない。禍鬼たちは周囲に漂う血を消そうと全身より霆を発生させ、血霧の毒を蒸発させていく。
 が、その霆を蝕み相殺させる血霧たち。
 結果として残るのは身体能力だけでの、剣と棍棒、血泥に満ちた殺し合いだ。
 封剣の切っ先が鬼を斬り裂くが、鬼の腕もまたブラミエを押し潰す。
 生命力と不死性。鬼と鬼の戦いは、まさに自分と相手を滅ぼしあう廃退の姿。どちらがより長く原型を保っていられるかという恐怖劇。
 もっとも、吸血鬼の形をした病原菌にとって形が壊れる事など戯れに過ぎないが……。
 存在を削り合う毒と癖。
 苦痛と幻覚の病と、麻痺をもたらす霆。そして鬼の剣と腕が交差し続ける。
 だが、躯がどれほどに壊れ、朽ち果てていっても。
 所詮は戯れだと。
 優雅に微笑み、黒と白の廃退の美に赤い血を飾るブラミエの美貌は変わらない。
 鬼の身が、無念が果ててもなお。
 ブラミエという吸血鬼の御伽噺が消え去る事はないというように。
 ただ吸血鬼の零すくすくすという笑みが、夜の裡に溶けていく。
 ああ、この程度で。
 終われる夜の御伽噺ではないのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斑鳩・椿
己の進む道を切り拓く姿勢こそ、貴女が貴女であることの礎
夕凪ちゃんが探すものに巡り逢えますように
露払いは私達のお仕事ね

影満ちる場は私の戦場
さあ皆様、三味の鳴るほうへ…

【誘惑】で暗がりに誘う
【暗視、聞き耳】で【地形の利用】を意識し【忍び足】で動く
【罠使い、影縛り】で影による罠を展開、範囲は狭く薙刀の届く距離程度
罠は敵が入り込むと動きを制限し、掛かった敵を薙刀で仕留める
複数や大物にはUCを発動、更に弱体化を
【なぎ払い】をしつつ拘らずに【部位破壊、切断】も狙う
【破魔、足払い】を織り混ぜて動き、【見切り、ジャンプ】で回避、防げないものは【オーラ防御、第六感】で致命傷を避ける
懐に入られたら桜色の懐剣を使用



 月ばかりが白くも静かに佇んでいる。
 これより来る戦の気配など知らぬとばかりに。
 或いは、それで揺れるほどに儚いものではないと言わんばかりに。
 久遠の時の流れを経て、変わる事のない姿を以て地を見下ろすのだ。
 そんな三日月の下で、ひとりの戦巫女が旅人に祝福を授けようとしている。
 数多の旅路と路を祝うように。
 しゃん、と三味線が奏でる音を夜闇に零して。
「己の進む道を斬り拓く姿勢こそ、貴女が貴女であることの礎」
 そう詠うように囁くのは斑鳩・椿(徒花の鮮やかさ・f21417)。
 銀の髪を夜風に揺らしながら、求める少女たる夕凪にと聲を落とす。
「夕凪ちゃんが探すものに巡り逢えますように」
 それは果たしてどんなものなのか。
 夕凪自体も解ってはいない。
 白い髪に青い眸。そんな花の色の由来は如何なるものか。
 黒刀に込められた悲嘆の妖念。その所以たるや、一体何なのか。
 夜闇の裡で揺れるが如く朧げで、なにひとつとて掴める輪郭などないとしても。
 そう、なにひとつとてわからずとも、手を伸ばすが夢なのだから。
 求めるという祈りで、願いなのだから。
 斑鳩は緩やかに、少しだけ悪戯っぽく微笑むと踵を返す。
 後は夕凪次第。何を手にする事が出来るのかは、道征く本人の想いに依るものなのだから。
 変わりにと、三味線を手に戦場へと。
 しずしずと斑鳩は歩を進める。
「露払いは私達のお仕事ね」
 だから、さあと。
 音なき歩みは、さながら舞踊の如く。
 ひらひらと舞う花びらめいた優雅さで歩く斑鳩は、戦場に踏み込む気負いのひとつ感じさせない。
 けれど紫の眸は、既に戦いの始まっている戦陣を見ている。
 影満ちる場こそ、斑鳩の戦場。
 まるで神楽鈴の如く三味線を掻き鳴らし、鬼を誘うは星流す夜空の巫女。
「さあ、皆様」
 ひとつ、ひとつと鳴らされる三味線の音に、禍鬼たちが寄っていく。
 戦場で在るべきでない雅な調べに、ふらりと鬼が誘われ、近づき、そして暗がりへと導かれるのだ。
「どうぞ、三味の鳴るほうへ……」
 それは誘惑の調べ。
 決して逃れる事の出来ない、夜魔の音色。
 これだけ三味線の音色が響いているのに、斑鳩の足音ひとつ聞こえないのだから。
 気付けばひと惑わす狐狸のように。
 或いは、ひとの魂さえ攫う神隠しのように。
 はらはらと花びらのように歩めば、夜闇の裡に三味線の音が散る。
 それを集めようとするかのように近寄る禍鬼。斑鳩の姿を見つけて、獰猛な雄叫びを上げていく。
 が、禍鬼は気付かない。闇夜に満ちる斑鳩の影が、ゆらりと泳いだことに。
 それは斑鳩の用意した罠たる影縛りの術。
 本来より大きく伸びた斑鳩の影が襲い懸かろうとした禍鬼の身体を捉え、その身を捕縛する。
 どれほどの怪力があってもこれは術、呪いによる罠。逃れられる術はありはしない。
 斑鳩の三味線の音色に誘われ、この場に踏み込めばそこで終わりなのだ。
「さあ」
 斑鳩の繊細な腕が自らの影に伸びれば、そこより取り出すは黒一色たる薙刀、淀切。
 するりと淀切の黒い刀身を翻せば、そこから溢れるのは斑鳩の紡いだ夜霧の流れ。
 厭わしい魔力を帯びた夜霧は、影の罠に捕らわれて足掻く禍鬼の身を更に束縛し、その身動きを奪っていく。
「そろそろと終わりにしましょうか」
 身動きの取れない禍鬼へと斑鳩が淀切へと破魔の力を纏わせながら、するりと流水のように踏み込む。
 薙ぎ払うは黒影の刃。
 破魔が宿ったそれは、夜色めいた深くも艶やかなる黒。
 禍鬼の毒を持つ尾が迎撃に向かうが、影と夜霧に囚われて精細さを欠く動きでしかない。鬼の怪力も蝕まれたかのようで、脅威と映るほどではないのだ。
 斑鳩の紫の双眸が見切って捉えれば、迫る毒尾を薙ぎ払って切断し、返す刃で鬼の胸部を斬り裂く。
 怨念と衝動で動く禍鬼には破魔はまさに特攻。斬り裂かれた傷口が焼けて白煙を吹き、そこから鬼の身体が崩れていく。
「さあ。これがあなたの終わり。終着点」
 そう言いながら、流麗なる舞いのように円を描く斑鳩の身体。
 放たれる淀切という影の刃は音もなく振るわれ、易々と鬼の頸を斬り飛ばす。
「これで終わりならよいのですが……」
 が、禍鬼たちは数で攻め入るもの。
 斑鳩の傍に踏み入るものから影の罠に捕まり、夜霧に囚われて身動きが出来なくなる。
 そうして動けない鬼から、静かなる影刃が屠っていく。
 緩やかで静かな、戦いを想わせぬ鬼払いの舞。
 ひとつ、ひとつと鬼の骸が転がっていく斑鳩が舞う戦場。
 影と夜霧の満ちる場所こそ、斑鳩という戦巫女が支配する場だった。
 故に、憤激に満ちる鬼とてそこから逃れることも、抗うこともできず。
 ただ銀糸に彩られた花飾りが、斑鳩の舞いと共に揺れる。
 椿と云うその名の通り。
 ぽとりと鬼の首を落としながら、艶やかなる夜花は舞う。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
生きる場を戦場のみと定めるを否定はせん
だが其れは自ら選び取ればこそ
安寧を望む者達、其の行く末を巻き込む事なぞ赦されぬ
況してや過去の残滓の所業なぞ見過ごせよう筈も無い

……面倒は好かん。最短を選ぶ
血符に応えよ――伐斬鎧征
周囲全てを斬り払って進んで呉れよう
膨れ上がった処で此の狭さでは限界もあろう、動きも制限されるのは明白
隙を増やす愚を己が身で思い知れ
刀の振りは最低限に抑え、切り返しを速めて斬撃の回数を増やす
重加速が使い難い分、目・首・腱等の急所を確実に獲れるよう
体捌きに脚運び、視線や気配・得物の揺らぎから動きを見極め見切り
僅かな隙をも見逃さず刃を叩き込み、止まらず前へ征く

退かずとも構わん。只、潰えろ



 月が夜空に浮かぶは、独り在る事を選んだからなのか。
 確かめるには余りに遠く、声も手も届く筈もない。
 空の向こうは、さながら幽世の如し。
 今は亡きモノの魂に問うかのよう。
 だが同じ地に生きるモノならば違うだろう。
 ただ、どのように問うかはまた対峙する者次第。
「生きる場を戦場のみと定めるを否定はせん」
 紫煙を燻らせながら、鬼たちへと向ける言葉はさながら鋭き刃。
 石榴の如き赤き隻眼を静かに細めて、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は続ける。
「だが、其れは自ら選び取ればこそ」
 過去の残骸たる身に禍々しき戦気を纏わせ、現在を壊そうとする禍鬼たち。
 数多の魂が、果てぬ妄念が、消え去れぬ悔恨がその身を成そうとも。
 もはやそれは過去の影なのだ。
 選び、掴み取ることの出来なかった者なのだ。
 二度目の機会など、在りはしない。
 例え大切な者をもう一度、懐に抱くことが出来たとしても。
 鷲生はその為に、自らを鬼の路へと堕としはしない。
 吐息と共に、馨しき煙が揺れる。
「安寧を望む者達、其の行く末を巻き込む事なぞ赦されぬ」
 外道へと成り果て、今を生きる者の人生を壊すなど。
 それこそ武の有り様と異なろう。
 誇りに生きた人生という路を、自ら穢す事となろう。
 ともすれば、供にあった友人を、愛さえをも。
 一度きりの人生だからこそ、失った痛みを憶えながらももう取り戻せないと、今に腕に抱く者に微笑む。
 ああ。隣に居る者は全てを得た。何も失っていない。などと、恨みを抱くなど間違いだろう。
 それが強さ。戦場を、喪失をと越えるもの。
 ならばこそ。
「況してや過去の残滓の所業なぞ見過ごせよう筈も無い」
泰平へと至った世に、もしも、という過去の覆しは許さぬとる
 失った友情と愛の先に未だ痛みを憶えても、鷲生の魂は揺るがない。
 今を生きる者の為に災禍を断つのだと、鞘より放たれる名刀・秋水が月灯りの下で鋭き剣光を瞬かせる。
「――そんな在り方に異論があるからお前達は鬼だろう。例えそれが暴力の形になり果ても、私に向けたくば来い」
 面倒は好まぬと最短を以て進む鷲生という烈士の姿に、放たれる清冽なる剣気に禍鬼たちが吠える。
 言葉さえ失ったか。
 が、それでも構わぬと黒符に自らの血を吸わせる鷲生。
「向かい来る鬼の総て、斬り棄てて呉れる」
 揺るがぬ意思こそ、澄んだ刀身なり。
 鬼を斬り払う鋭さは、烈士たる漢の魂心にこそ宿る。
 禍鬼たちが感情を、血肉と闘争を求める欲求を爆発させ、その身と力を増大させるのを赤き眸で見つめながら、鷲生もまた刃を滑らせる。
「血符に応えよ――伐斬鎧征」
 燃え上がる符と供に、鷲生の身を包むは膨大なる氣。
 烈火の威を帯びる鷲生が身を撓めた次の瞬間、陽炎のように姿が揺らぐ。
 それは果断にして迅速なる踏み込みのせい。
 凄まじいまでの速度に禍鬼の眼では捉えきれず、揺らいで掻き消えたかのようにしか見えないのだ。
「どの道、お前達が如何に在ろうとも」
 声さえ刃に遅れて聞こえる。
 刀の振りは最小限に、されど鋭い踏み込みの勢いを乗せた一閃が擦れ違い様に禍鬼の首を斬り飛ばす。
 はらり、はらりと舞い散る鮮血。
 さながら夏に狂い咲いた、椿が落ちるように。
「周囲全てを斬り払って進んで呉れよう」
 鬼の首が地面に落ちた瞬間、鷲生は次の相手へと刃を瞬かせる。
 どれほどに禍鬼が自らの身体を巨大化させようと、此の場の狭さでは限界もある上、動きが制限されるのは明白。
 感情の激発は怯むことも、臆すこともない暴虐たる力の顕れだとしても、怒りは戦いにおいて自ら心の死角を増やし、隙を産む。
 心身は透き通る水面の如く。
 武の道で止水明鏡が説かれる理由のひとつ。
「隙を自ら増やす愚を己が身で思い知れ」
 狭き道で迅雷の如く武を振るえば、加速した鷲生とて自らの力を減じさせることとなる。
 故に鷲生の刀の振りは最小限に抑え、一刀ごと精密さを重視して斬撃の回数を増やす。
 さながら渦巻く烈刃。
 成すは速度のみにあらず、鷲生きるの磨き上げた技と強靱なる身体あってのこと。
 剣風を伴いながら、禍鬼を斬り刻む斬閃は止まることを知らず、脚の健、武器握る手首、脇に首、眼とどう在っても鍛えられぬ急所を捉え、斬り裂いていく。
 狭き路では加速しての重い斬撃は使えぬ。
 ならば、無数の剣閃を繰り出し続け、総ての鬼が潰えるまで切っ先翻すのみ。
 故に鷲生が放つは猛火の威を秘める精緻なる鋭刃たち。
 一拍の間に十を越える斬撃を放ち、影を残しながら周囲を伺う鷲生。
「――――」
 隻眼なれど、其れがどうした。
 見える範囲、見えぬ場所。それらを越えて周囲を捉えるは剣士として戦場を越える事で培われた第六感。
 禍鬼たちの体捌きに、僅かな足運びの差異。
 視線や気配、得物の揺らぎから鬼たちの動きを見極め、見切り、先を制して僅かな先をも見逃さず刃を滑り込ませる。
「如何に力が強かろうが、今に在るモノではない為に振るえば脆い影に過ぎん」
 鷲生の言葉通り、攻め懸かる勢いを制されて放たれたカウンターの一閃は鬼の腕を両断して通り抜け、そのまま流れるように後方にいた鬼の頸を刺し貫いている。
 如何なる妄念の戦鬼とて、鷲生の瞬く刀光の前では搔き消される淡い影に過ぎぬ。
 ならば前へ。止まる事なく前へと駆け抜け、陣を斬り裂く刃と成れ。
周囲の悉くを斬り棄てながら、剣刃の嵐と成って奔る鷲生。
 鬼たちが慟哭をあげる。
 鷲生の武に鎧袖一触と斬り払われ、なお止まらぬ狂奔の熱を持って。
「退かずとも構わん」
 それを総て秋水の瞬刃を以て迎え討ちながら、鷲生は告げる。
「只、潰えろ」
 如何なる思い、妄念在ろうとも。
 安寧と泰平、幸せなる世を認めぬ鬼。
 その存在を認めず、此処に斬り棄てるのだと、百の言葉より雄弁に、そして激烈に、音速を超えた秋水の切っ先が吠えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…戦場に在らねば生きられぬ。戦の世たる過去なればこそ、そうでなくば己足り得ぬ命もまた在ったのでしょう。

私の適性を鑑みれば狭き道を行くが正道。
されどこの砦に犇く鬼はその中の唯1体すら民にとっては抗う事叶わぬ暴虐。
泰平に戦あれと吼え集ったとあらば、頭を断ったとてその残党は孰れ必ず民への脅威となりましょう。
故に1体でも多く、1秒でも早く。全てを狩り尽くし民への憂いを此処にて断たねばなりません。
…或いは身に余る重荷とて、それこそが猟兵として立つこの身の負うべき責務なれば。


正面より挑む

UC発動、落ち着き技能の限界突破、無想の至りを以て己の気配、音、存在そのものを全て遮断し
数多の兵との戦の内、眼前にあったとて完全に『姿を消す』
敵の感知に隙が生まれれば野生の勘、見切りにて急所を見極め的確に打ち抜き一撃一殺
感情を爆発させた精彩を欠く力技を以て襲い来るとあらば巨鬼の攻撃を誘導し同士討ちを以ての迅速な殲滅を狙う
巨躯に変じたとて形が変わらぬならば急所も変わらず。針の穴が開けば死する場所ゆえの『急所』なれば。



 過去に在りし戦場の星もまた煌びやかに美しかったのだろう。
 死が眼前に広がり続ける筈の戦の裡に在るは、誇りがあったからこそ。
自らを燃やし尽くしたとしてもと求めるものがあり、命より尊ぶ忠があり、武名を天に轟かすという夢があった。
 だからこそ余燼たるモノとなったとしても。
 影なる残骸として鬼に成り果てても、戦乱を求める。
「……戦場に在らねば生きられぬ」
 呼吸の仕方さえ解らないように。
 自らの生き方を、進み方を、何かを求める事さえ出来ない。
 憐れとは云わない。
 そういう時代が在ったということに月白・雪音(月輪氷華・f29413)は瞼を伏せた。
「戦の世たる過去なればこそ、そうなくば己足り得ぬ命もまた在ったのでしょう」
 瞬く刃の吐息の元で、ようやく己足り得る。
 明日に死ぬかもしれないから、今を全力で駆け抜ける。
 それこそ周囲全てが燃え盛る空に、刹那を刻む流れ星の如く在ったのだ。
 ああ、確かに。
 無数の帚星が、自らの祈りと志の元に奔り抜ける空は、美しいのだろう。
 けれどそれは修羅の炎天に他ならない。
「全ては今を生きる儚き命の為に」
 守るべきは泡雪のような、儚く、淡く、弱い存在。
 そんな人々には過酷なる世であったことに変わりは無いのだ。
 溢れ出した戦火に焼かれる民。武も所詮は暴力と、自らの人生を壊されていく。
 力が在れば。
 そんな世は在ってはならぬのだと。
 戦の狂乱とは真逆、降りしきる雪のような姿で進む雪音。
 もう目の前には禍鬼たちが戦いに興じる陣があるというのに、揺らぐ気配は一切ない。
 ただ音もなく、一歩、一歩と先へと進む。
 この正面から挑むことが過ちだと知りながらも。
 雪音の武は徒手空拳。寸鉄も帯びずに戦うものだ。
 故に適正を鑑みれば狭き道を征くのが正道。
 精神性というものを見ても、ひとつ、ひとつの命と対峙する雪音は、数多の敵を同時に相手するのを得手とはしまい。
 あくまで冷たく、命を屠るだけの武ならばまだしも……。
 必ずや過去の残滓の裡に在る想いを、汲んでしまう。
 それが数えきれぬ程となって、自らを縛す鎖となったとしても。
 だが。
「全ては」
 この砦を落とす事が目的ではないのだから。
「私の武は今と未来に生きるものと、歩むものなれば」
 求めるは、あくまで今を生きる民たちの安寧。
 犇めく鬼たちは、その一体をもってしても民には抗うこと叶わぬ暴虐の化身。
 もしも討ち残りが在り、村里へと向かう鬼があればそれは災禍の炎に他ならぬ。
 泰平に戦あれと吠え集ったとあらば、指揮する頭を断ったとしてもその残党はいずれ必ずや民への脅威へとなるだろう。
 それこそ、民を憂うが為にこの砦を落とす。鬼を討つのだから。
 故に。
「一体でも多く」
 例え、そのような乱戦を雪音が不得手としていても。
「一秒でも早く」
 まるで冴え渡る月のような、静かなる心境を以て囁く雪音。
 殺意とは思えぬ美しい声なれど、その温度は氷よりもなお冷たい。
「全てを狩り尽くし、民への憂いを此処に断たねばなりません」
 決意として言葉に示した雪音は、紅い眸で緩やかに周囲を見渡す。
 もう此処は鬼の巣窟にして戦の場。
 爛々と輝く戦鬼の眼が雪音の矮躯を捉え、包囲するように取り囲んでいく。
 正々堂々、正面から挑んで来た雪音に自らの暴力をぶつけるべく、禍鬼たちが吠え猛る。
 消え去らぬ戦への熱が、天の月を焦がすように立ち上る。
 ああ。
 斯くも消え去らぬ願いがあるのかと。
 その芯たる想いを汲めぬことに、慈悲をもって送ることが出来ぬことに、雪音は悔いに似た想いを抱きながら。
 それでも戦いて全てを屠るのだと、姿勢を低く身構える。
「……或いは身に余る重荷とて、それこそが猟兵として立つこの身の負うべき責務なれば」
 そうして更に心を静かに、深くと落ち着かせていく雪音。
 細波のひとつ立たぬ明鏡止水ではまだ足りぬ。
 それより更なる深淵、心境ではなく心魂が辿り着く静謐の世界。
 無念無想。あらゆる情を止め、揺らぎを制し、辿り着く心の深奥たる領域。
「…………」
 零れる雪音の吐息さえ、余りにも静か。
 いや、すぐ傍で身構える気配がまるで薄氷の如く透き通っていく。
 身動きどころか呼吸、心音さえもまるで雪が吸い尽くすように消し去り、存在そのものの感知を阻んでいく。
 其処に在る筈なのに、まるでいない。
 まるで陽炎が見せる夢、蜃気楼めいた存在感。
 まるで風景に溶け込むかのように、自らの命という存在感さえ消し去った雪音を前に、禍鬼たちが驚愕を浮かべた。
「――」
 その一拍の動揺で、雪音には十分。
 雪音が嗅ぎ分けるのは命の脈動、その隙間にある死の気配。
 この刹那ならば命を刈り取れるという冷たき指先が瞬き、急所を見極めた精密なる手刀が鬼の頸骨を打ち砕く。
一撃一殺。余計なる手はひとつも重ねぬ。
 速やかにして、密やかなる跳躍。そのまま二体目へと躍り懸かり、目の前にあっても雪音の姿を、気配を捉えられぬ儘の鬼の心の臓へと放つ抜き手。
 どれほど強靱な鬼の肉体であれど、形が変わらないのでなれば急所もまた変わらない。針の穴が開けば死する場所に、針の穴を通すような精緻な死の一撃を叩き込んでいくだけ。
 よって、『鬼には姿の見えぬ』雪音の、さながら鬼を祓う神楽の舞いが繰り返さしれる。
 戦いにすらならぬ。
 鬼がひとつ、ひとつと屠られていく。
 数え歌が進むように。
 しかし、決して時が戻る事はないのだと、迅速を以て雪花の舞踊がもたらす禍鬼の撃滅。
 恐慌へと陥らぬのは流石は鬼であろう。
 不可視の死神を前にして、それでも戦と鮮血への欲求を爆発させ、自らの体躯を巨大化させていく禍鬼たち。
 戦力も一気に跳ね上がり、見えぬものならばと周囲ごとを薙ぎ払っていく鬼の豪腕。
 乱戦の結果として、それは同士討ちに導かれることとなるが、誰も彼も戦いを止める事など在りはしない。
 戦場でなければ生きられぬというように。
 戦場でなければ、死ぬことも出来ぬというように。
「ああ」
 故に、故に。
 澄み渡る心境、その奥深くにおいても雪音は僅かに痛みを憶える。
 どのように情緒を顕せばよいのか解らず。
 それでも恐れを知らぬ、かつての武勇を。
 だというのに、今のように死と共に狂乱する鬼の宴を。
 何と憐れだというのかと、そっと胸に抱く。
 死んでも死にきれぬ。
 その想いが、彼らを鬼へと落とした。
「ならば、その思いもまた速やかに」
 そうやって雪音が悼みを、哀しみを、そして終わりという慈悲を無数の鬼たちへと向けること。
 やはり乱戦というものに雪音は適していない。
 奪う命がひとつであるならば、美しさである筈の心。
 が、それが自らを危ぶむものとなるのだ。
「――冷たく、速やかに。奪い取ると致しましょう」
 事実、その思いを抱くが故に雪音の鬼の一撃が身を掠める。
 ただの偶然。狙いも何もなく、直撃したのは雪音の横にいた鬼へ。
 流れる一撃の余波が肌を掠めた程度に過ぎないが、雪のような白膚からつぅと流れる鮮血が、地へと零れる。
 このような負傷もまた、何も思わず、むしろ昂ぶる思いのままならば受ける事もなかったとしても。
 全ては、雪のような儚いものの為にという一念のもと、受けてなお心を澄み渡らせる。
 雪音からすれば、この禍鬼たちもまた。
 乱世に在った筈の、今は脆き願いの残影に他ならぬのだから。
 鬼が啼く。
 戦場で殺してくれと、希うように。
 だが。


「貴方たちの求める乱世は、戦は、ついぞ昔に終わっているのです」


 故に冷たき慈悲を。
 真白き氷雪がもたらす、死の一撃を。
 巨躯に、在るいは、鬼の姿へと。
 どう変貌しても、ヒトとして、命あるものとして、変わらぬ急所を捉えて死を届けながら。
 ならば。
 心は狂ったとしても、まだ魂は在りし日の儘なのかと。
 幾つも屠った鬼の魂の、或いは、武士だったモノの重さを感じることが出来ぬまま、雪音は手を握り絞める。
 だとしても。
 そう、だとしても全ては力なき民を守るが為に。
 白い三日月を描く蹴撃が、迷いを振り切るように鬼の頭部を粉砕した。
 そのまま鬼の頭部に着地し、跳躍。
 自らを捉えきれぬ鬼の姿を見つめて、するりと息を零す。
 この鬼たちの全てが消え去るまで、終わることはないのだと心に定めて。
 過去より続く戦乱の災い。
 それを打ち払うのだと、雪のように白い姿が、月の如く鋭き武を放つ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
久しいな、夕凪
ちぃっと見ない間に更に良い面するようになったなァ
って今は悠長に語る暇は無ェか(剱握り直す
天蓋の郷、向かう先は其処なンだな?
先ずは砦跡にいる奴らを斬るぞ

…アレは
俺の嘗ての仇敵だ


亡き故郷で人を襲う事あり
その度に主やお嬢と追い祓う

(故郷が滅んだ時には既に杜を出ていた
世の安寧の為
為すべき事を為す為

だから主の最期も
故郷が滅んだ真の原因も
知らない

自分と対の鏡の負の感情を受けすぎて
死期を悟るお嬢も
初恋も此処に置いていった(紆余曲折あったが吹っ切れた)
総て理解して送り出したあの貌は忘れられない
…最期を見たくなかった
俺の弱さ)

テメェらは俺の大事なモンを根刮ぎ奪い取った
もう昔の俺じゃねェ
何度来ようと
この手で
鎮める

白む月で表情見えず
隠しきれぬ殺気纏いUC使用
真の姿(絵:東様)へ
口調同じ

強く打破する意思を糧に
炎を剱に宿し尻尾から胴へ上向きに斬る
毒に注意
最小の力で数減らすを優先
普段より派手×
動きに無駄が無い
皮一枚で回避しカウンター+追撃
一ヶ所に集め、石壁破壊して一網打尽
馬に乗り、一気に敵の頭狙うも可



 如何なる荒野にて花は咲けども、鬼の蔓延る地には種も宿らぬ。
 ましてや、忌々しき過去を滲ませるものなれば。
 その影が踊る裡は、その胸に新たなる花の色など宿らぬのだと。
 夕赤と青浅葱からなる金銀妖瞳は今と過去、そのふたつを映す。
 疵ひとつなき神鏡とて、その裡にある心は痛むのだと。
 微かな揺れを、呼吸に混じるその動きを隠しながら。
 ああ、討たねばならない。
 が、それよりも進まねばならないと、義に生きる男の鼓動は告げている。
――自らに向けられた心をこそ、裏切る訳にはいかないのだから。
「久しいな、夕凪」
 故に、痛みを憶えている筈の男は。
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、それでもと今に生きてしあわせへと巡る旅路を続ける少女へと笑いかける。
 過去は変わらない。
 もはや、心鏡に映した事実は変えられない。
 だが此より辿る自らの道は、必ずや選べるのだと胸の奥に響かせて。
「ちぃっと見ない間に更に良い面するようになったなァ」
「そうでしょうか」
「あァ、俺が保証するから安心しな。しなやかさは舞う花のように、求めるのは風のようにってな。鮮やかなる美しさは、昔よりなおってもンだ」
 それこそ夕凪の顔がその証拠だろう。
 戦を前に僅かに微笑んでみせるその貌は、先へ先へと進む者の輝きと色彩に満ちている。
 過去に浸り、反芻するのではなく。
 自らの先に何があるのかと、真っ直ぐに未来を見つめる。
 さながら蕾より開こうとする花のよう。
 その色艶も、色彩も、形とてこれから決まるのだと。
――あァ、その通りってもンだよ
 過去に揺さぶられて道を違えるなど、余りに悲しく、勿体ない。
 だからこそクロウは笑う。
 僅かな痛みを胸の底に仕舞い込んで、それでもと心より力強く笑みを浮かべるのだ。
「って今は悠長に語る暇は無ェか」
「でしょうね。後は砦の前に集い、最後の反抗を狙う鬼たちを討つだけ」
 身の丈ほどもある漆黒の魔剱、玄夜叉を握り直すクロウ。
 思わず柄を握る指に過ぎる程の力が籠もるものの、それは決意の証拠。
 斬り拓き、先へと進み続けるこのクロウという男の在り方そのものでもあるのだから。
 勇猛果敢。恐れを知らず、如何なる敵をも真っ向より斬り伏せる。
 そうして手にした未来に微笑みかけるのだから。
「天蓋の郷、向かう先は其処なンだな?」
「ええ。詳しくは、まだ解っていませんが……」
 夕凪の持つ黒い妖刀の所以の場所。
 或いは、夕凪の白髪と青い瞳にも由来の在る場所。
 どちらにしても、願う未来へと進む為に振り返るべき原点なのだろう。
 ならばこそ、クロウは手にした剱を心を込めて振るうのみ。
「先ずは砦跡にいる奴らを斬るぞ」
 そう云って、真っ向から陣へと斬り込む姿勢を見せるクロウ。
 確かに。
 どんな戦場でも、如何なる敵でも、クロウは臆さない。
 揺れることもなければ、恐れることも、震えることも在りはしない。
 だが、僅かにその呼吸が硬くなる。
 思い出すかつてに、痛みが酷くなる。
 暴虐の化身として荒れ狂う禍鬼たちの姿に、クロウは異なるいろの双眸を僅かに細めた。
「……アレは」
 僅かに軋むクロウの声。
 込められる過去と、想いの重圧で。
 或いは、それでもと告げねばならない責務の為に。
――クロウ。貴方は、貴方の成すべき事を、為すのです。
 そう優しくも真っ直ぐに、告げてくれたヒトの為にも。
「俺の嘗ての仇敵だ」
「…………」
 クロウの奥底で降り積もった想いに触れて、夕凪は吐息を止める。
 嘗ての仇敵。ただそれだけの言葉に、どれほどの時間をかけて、複雑に絡み合う想いが重なっているのだろうか。
 察するに余る。
 が、言葉にされても聞き返せない。
 ただ、緩やかにクロウは微笑んで、そう、あえて柔らかな調子で声を紡ぐ。
「俺の、今は滅んだ故郷で人を襲っていた事のある鬼だ」
 これは過去。
 もはや変わることのない事実を、疵ひとつなき|神鏡《クロウ》が告げていく。
 もしも。
 ひとのように疵付くことが出来れば、まだ幸いだっただろうか。
 だが、そんな事は出来ないと黒髪の少女の微笑みが、姉のように優しくも正しい声が、今も心の底で囁いている。
 さながら、風に揺れる花びらのように。
微かであっても、未だに薫る言葉たち。
「その度に主や、お嬢と追い祓ったもンだ」
 クロウが語るのは輝かしくも色鮮やかなる青春なのだろう。
 親しき誰かたちと、狭くても大切な世界の為にと駆け巡ったある時の話。
 鬼を討つ度に、隣にいた誰かとの心が近づく。
 それは主という親のような存在だったり。
 お嬢と呼ぶ姉のようなひとのことだったり。
 そうして心が近づけば近づくほど、距離と関係という綾模様は別のものへと変わっていく。 
 気付けば淡い恋心は、まるで月のように満ちていく。
 同時に、教えて、導かれて、ひとつ、ひとつと貰った心の欠片は、クロウそのものとなった。
 どちらも大切で、棄てる事など出来る筈のないもの。
 それでも、クロウは選ばざるを得なかったのだ。
「世の安念のため」
 そう云ったのはクロウであつても。
 そう言い始めたのは、クロウではなかったから。
 本当の意味で、主とお嬢というふたりを大事にするのならば、選択肢さえなかったのだ。
「為すべき事を、為すため」
――そうして、進んだ貴方を、わたくしがどうして恨むことも、悔やむこともできましょうか。
 そう微笑むあの女性の微笑みが、影でなければよいと。
 ただ今はそう願うだけ。
 故郷が滅んだ時には既に社を出ていたから、今がどうなっているかさえ解らないのだけれど。
 そう、だから主の最期ね。
 故郷が滅んだ真の原因さえも。
 大事だった小さな世界の終わりの真実を、クロウは知らない。
 それでも。
「……そうして進んだから、クロウさんに私は助けられたのですね」
 そう囁く夕凪は、青い眸でクロウを見つめる。
「為すべく事を為す。そう告げてくれた、誰かに私は助けられたのですね」
「……ああ。そうだな」
 云われてようやく、クロウは優しく微笑んだ。
 もしも夕凪の言葉が真実であれば。
「俺と、俺に云ってくれたお嬢のお陰で夕凪や、他の奴らも救われてるンだよな。為すべきを、為して」
 狭い世界たる郷の最期を何も知らずとも。
 広い世界たる今に咲く想いの数々。
 それらを悔いることなど、クロウは在りはしない。
 きっとあの黒髪の女性も微笑み続ける。悔いることなど、あるものですかと。
 だから――クロウは夕凪を置いて駆けた。
 背に声をかけられても振り返らない。今、どんな表情を浮かべているのか、全く解らない。
 絡みつく過去より、尊ぶべきは今。
 そうして救えたのが夕凪だというのは、確かなこと。それこそ、求められたクロウの姿。
 でも、男気に燃える美貌を見せられるとは、今だけは思えなかったから。
 そう。
 自分と対となる鏡の負の感情を受けすぎて、心どころか身を侵されて死期を悟っていたお嬢も。
 彼女への切なるほど初恋も、狭い世界に置いて来たとしても。
 どうしても、弱りゆくばかりの自分を彼女が見つめて欲しいと思っただろうか。
 助からないひとりより、助かるみんなの為にと微笑むひとが、自らの最期に伴って欲しいなどと。
 きっと、彼女は解っていた。
 自らの命が枯れ果てた後に、クロウの周りで咲く花があるということを。
 だからそう。
 紆余曲折、それこそヒトとヒトの想いが紡ぎ合う世界の色彩の中で、吹っ切れるように逡巡と後悔から時離れたとしても。
 クロウは彼女の、お嬢と呼び続けるあのひとのことは忘れない。
 初恋と共に、もはや届かぬ想いであっても、魂を呼び続ける。
 それは愛ではないけれど。
 希望と祈りという、クロウへの願いだったから。
 ああ、そうだ。だから忘れられないし、忘れない。
 総てを理解して送り出してくれた、あのひとの美貌を、僅かでも忘れることなどできないのだ。
 渦巻く風の匂いさえ憶えている。
 空に泳ぐ雲の一筋とて、消え去ることができない。
 すべては、あのひとの貌と想いを彩るかのようだったから。
 ただ。
 そう、ただ一点を恥じるならば。
 そんな事を気にしないでと笑うあのひとの貌と、気にしすぎてはいけませんと優しく咎める眸が浮かぶのだけれど。
「……お嬢の最期を見たくなかった」
 それが自らの弱さだと、クロウは悔いている。
 心の底から。もしも、一度だけ奇跡が許されるならば、あの瞬間だけはやり直したいのだと願ってしまうほどに。
 初恋のひとの死の匂いに触れて、なお自らは曇らず。
 なおあのヒトを微笑む儘に最期を遂げさせられる、強い男であったのなと。
 決してやり直しなど、あのヒトが望む訳がないと知りながら。
 ああ、だから。
 優しい幻として花は薫らず、風ばかりが吹き抜けた。
 やり直したい過去を切実に思いながらも、クロウは前へと進み続ける。
 一度決めたことは決して歪めず、歩みも止めないのだとクロウは決めているのだから。
「テメェらは俺の大事なモンを根刮ぎ奪い取った」
 無数の禍鬼を前に、クロウは魔剱に諸手を添える。
 報復に怨念、恨みに復讐。
 そんなモノに澱む心ではなく、ただ果たすべき使命と捉えて澄み渡るクロウの声。
「もう昔の俺じゃねェ」
 今に在るは、ひとりでも立ち向かえる強さを持つ男だから。
 背負うべきものを背負い。
 そして、その感情の重さでより強くなれる存在として。
「何度来ようと」
 掲げるは魔剱の切っ先。
 月天さえも斬り裂かんと、剣気が刀身に満ち溢れる。
 いいや、それは神鏡から流れ出す霊気か。おおよそヒトが練り上げられる類いのものではないものが、クロウの刃から溢れて周囲に漂った。
「この手で鎮める」
 月が薄雲で隠れクロウの表情は誰も伺い知れぬまま。
 けれど、隠しきれぬほどの殺意を纏いてクロウが変貌するは真の姿へ。
 射干玉の黒髪は長く伸び、狩衣纏う風雅なる姿は神霊たるモノの姿。
 胸元でじゃらりと鳴り響く鎖と鍵は、一体何を示すのか。
 いいや、この場にいる鬼には何ひとつ伝えるものなど在りはしない。
 ただ強く、強く、過去を打破し未来へと繋ぐ意思を滾らせ、火種とするクロウ。
 長大な魔剱に燃え上がるは魔を祓い、災禍灼き尽くす霊炎。
 そのまま、するりと踏み出す一歩。
 優美とも取れる歩みは、さながら神楽の舞踊めいているが、一瞬で禍鬼の眼前へと躍り出ている。
「さあ、踊ろうじゃねぇか」
「――――」
 禍鬼が吠え猛ると共に迎撃に放つは毒尾。
 周囲全てを無作為に攻撃し、暴れ回る狂乱の鬼の一撃を前に、静謐たる|神鏡《クロウ》は刃を瞬かせる。
 毒尾が暴れるその寸前、鬼の怪力を利用した交差法で尻尾から同へと上向きに奔る炎刃一閃。尾より離れた毒も、舞い散る炎に焼かれて、浄化されて消えゆくばかり。
 何時もの自ら攻め懸かり、猛火の如く斬り伏せるクロウとは全く異なる動きだ。
 最小の力を以て数を減らすことを優先する動きには、一切の無駄がない。
 一切の恐れを抱かぬ果断さは常なれど、幽艶なる舞をも思わせる。
 さながら神楽鈴の調べに合わせる舞踊さながら。
 されど、同時に見せて示す動きではないのだ。
 絶対に断つという鋭い意思が、クロウの心の刃と成って脈動している。
 これは戦いではなく、払い鎮めるものなのだと。
 禍鬼を斬り伏せると共に、流麗なる体捌きを以て次の一体へと肉薄するや否や、刹那の待を見せる。
 攻めて見せろと。
 それとも、ただ果てるかと。
 クロウは一切の隙は見せずとも、この機を逃せば無為に斬られるばかりと鬼を恐れさせるほどの凄絶なる剣気と共に威圧を示した。
「テメェらの最期だ。全力を尽くしな。その上で、俺はテメェらを払い、鎮める」
 再びの毒を持つ尾の一撃を寸前で回避すると共に、相手の攻撃の勢いを乗せて放つ斬刃が地に紅の三日月を描く。
 強靱なる鬼の肉体も骨も問わず、ただするりと滑り抜ける刃。されど、それでは終わらぬと翻った刃が再度、剣弧を描く。
 地に顕れるは切っ先が紡ぐ双つの幻月。
 鬼を斬り裂く魔剱の紅き軌跡だ。
「もう、テメェらの居ていい世界じゃねェんだよ」
 美麗なる黒き剱が瞬けば、鮮血を散らして果てる禍鬼ども。
 それでもと殺到する鬼の猛攻を紙一重で避け、風雅とも憶える剣閃を放ってひとつ、またひとつと鬼を屠るクロウ。
 そうして波の如く殺到した所を狙い、石垣へと刀身を叩き付け、破壊することで一気に鬼たちの攻勢を狂わせる。
「終わりだ」
 魔剱より燃え上がる炎は、さながら紅き曼珠沙華。
 躍るように身ごと振えば、鬼を断ちて払う玲瓏たる刃金の音が響き渡る。
 あるいは。
 かつての過去、禍根たる影をも断つように。
 炎刃の紅き光が闇を灼き払い、鬼を斬り払う。
 そうしてクロウは――炎の剣花にて、過去の花たる紫苑と杜若の匂いをも弔うのだ。
 幸せをと願ってくれた、あのヒトの為に。 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『白鬼』

POW   :    颶風雷刀
予め【斬馬刀を担ぐ】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    あふなわるや
【自己暗示の祝詞による無念無想の境地】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    無明無月
自身の【狂気に染まる瞳】が輝く間、【暴風の如く振るわれる斬馬刀】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。

イラスト:kiyo

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠刹羅沢・サクラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 断章 ~ 白刃の微笑、血花の歌~



 禍鬼たちを打ち払った後に訪れる静けさ。
 けれど、その隙間を縫って美しい歌が聞こえる。
 荒れ果てた陣に、そして砦の奥より。
 まるで誘うかのような。
 それでいて、何処か狂っているかのような。
 決して聞き届けてはいけない、鬼の歌が響き渡る。
――見逃してはいけない。
 猟兵たちがそう直感するのは、その歌の美しさが刃に似ているからだ。
 研ぎ澄ました殺気が、まるで月のように優美な調べを奏でている。
 全てを殺すまで戦うと定めた戦意は、まるで雪のように全てを塗りつぶす。
 歌を辿れば、そこに居るのは真っ白な羅刹の姿。
 荒れ果てた砦の奥にて、斬馬刀を肩に担ぐ純白の鬼女。
 ふと、猟兵たちに気付いたように視線を揺らす。
「あなたたちの吐息は、眸は、鬼と戦う中であんなに美しかったのに」
血の色を忘れたような、妖艶なる白き唇が紡ぐは、やはり歌。
 浮世離れした軽やかさに、狂気に似た殺意を込めて紡ぐ。
「戦いは否と、乱世は在ってはならないと嘯く」
 ああ、と喉を鳴らして白の羅刹は微笑む。
「なんという、ひねくれモノでしょうか。武は、刃は、殺すが為にあるのに、その起点を翻すなんて、何という拗くれでしょうか」
 くすくすと笑う羅刹の姿は、なんとも麗しき雪のよう。
 冷たき白は、凍て付きし冬が見せる死の情景に他ならぬ。
 事実、刃の色もまた真白きものなれば。
「自分たちの心が、魂が、存在が戦の裡で輝けれど、他は戦に赴いてはならぬという勝手」
 それが血に染まるのも、また必然。
「自分たちは天に認められるかのように正義を掲げ、相手にはないとい断じる傲慢さ」
 そうして細き羅刹の腕が、軽々と斬馬刀を掲げる。
 くるりと切っ先を翻し、ふわりと剣風を吹かす。
「どちらも、戦いの中に在って輝けるというのに。命があるというのに。ねぇ、私と、貴方たちと」
 そうして歩むは、泡雪のように。
 静かに、静かにと真っ直ぐに進み征く。
「何処がどう違うのかしら。戦いの中で輝き、色を帯びる貴方たちと、乱世の中で確かにあった私たちの魂は」
 ああ、と白き羅刹は小首を傾げた。
「斬り結ぶ中で定めるならば、あなたも私も同じもの」
 鬼でしかない。
 今、鬼であるのか。
 それとも、これより先に鬼に墜ちるのか。
 その違いでしかないと、詠い続けた白き羅刹が斬馬刀を振るう。
 さながら、躍るように。
「私は白鬼。――他ならぬ同胞として、所詮は鬼たるあなたたちの色を下さいな?」
 いずれは、戦の中にあったものは修羅道に墜ちる。
 そう告げた白鬼の刃が、鋭くも冷たく迫る。

 異なると口にするは容易きもの。
 されど、それは異なると言い合うものであり。
 それもまた、終わらぬ乱世を示すものなのだろう。
 認めれば。
 それもまた、戦が終わらぬことを認めることなれば。
 如何にこの白鬼の刃に応えるのか、それは各々の心に問われる。

――あなたの|色《こころ》を、くださいな?
 
==================================================================================

・補足

夕凪は変わらず、サポートや支援が必要でしたらお声かけください
不利にはならないように支援致します
鹿村・トーゴ
夕凪殿と同じ髪と目…偶然かね
夕凪殺害阻止、他助力なし

や、別嬪さん
月下の廃墟で儚く詠う鬼の恨みの問答歌…
風流でも血腥いや
大義名分の他にそう無いだろねェ違いなんて
姐さんは絶たれる命の血の色が欲しい
オレは戦いは好きだが屍の山はいらねー
心はやれんが斬合いで識ってくれてもいーぜ
UCで全強化
代償呪詛は戦意転化
敵UCは気配【追跡/野生の勘】で致命傷躱し【激痛耐性】で凌ぎ【カウンター】に槍化の猫目雲霧を敵の突進に合わせ突き出し弾かせ刀先を逸らす
同時に手裏剣を上半身へ高速【投擲】
猫目雲霧を【念動力】で布化、腕や手首に巻付かせ一瞬拘束
即接近し手首掴み櫛羅刺し麻痺【毒使い】至近からクナイで裂き斬り【暗殺】

アドリブ可



 白鬼は詠う。
 戦の裡に夢見た色を、もう一度と。
 輝かしきあの瞬間をもう一度と願いながら。
けれど、それは己が消え果てる時まで続く禍歌に他ならないだろう。
 悲しきことに、乱世はもうないのだ。
 かつてという時の色艶は、全て色褪せた。
月ばかりが白々と、同じ色を浮かべ続けている。
――白い色……。
 冬の情景も似た色彩に、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)の胸が僅かに騒ぐ。
 傍にある夕凪と似た髪の色、白さ。
 ただの偶然というには、場と状況が出来すぎている。
 美しくも狂おしい鬼の歌が、未だに響くならば。
「夕凪、下がってな」
 猟兵ではない夕凪に白鬼の相手は些か重かろう。
 言葉と共に鹿村の思いと橙の瞳が向けば、夕凪もこくりと頷き後方へと下がる。
 助力は不要。殺害阻止こそ大事。
 どと、なんとも忍びらしくない発想。
 身を案じる以外の一切の理由などなく浮かび上がった鹿村の思い。
 戦い方こそ忍びの業が抜け去らぬが、鹿村はもう忍びではない証拠なのだろうと、自ら小さく笑ってみせた。
「や、別嬪さん」
 そうして、斬馬刀を携える白鬼へと声を向ける。
 色を喪った鬼は確かに幽玄なる美を誇るものの、何処か現実感が薄い。
 まるでこの世ならざる者と対峙しているような冷たさを感じながら、鹿村は続けていく。
「月下の廃墟で儚く詠う鬼の恨みの問答歌……」
 或いは。
 この廃墟となった砦に、何かしら白鬼の魂の所以があるのか。
 刃と花と、色の由来を辿るならばそうあっても可笑しくはない。
 が、そう綺麗なことばかりではないのだと、鹿村は未だ漂う争いの匂いに苦く笑ってみせた。
「風流でも血腥いや」
「おや、恨み節と言いますか。別に何も恨むことはありませんよ」
 するりと。
 手に握る斬馬刀の重さを感じさせない歩みで白鬼は鹿村へと近づいていく。
「ただ刃が瞬く刹那が愛おしい。かつてあって心が、理由が、ああ、と悲しく詠うだけ」
 そうして、刃にも似た光湛える眸を鹿村に向ける。
「そうして戦の全ては、刃の吐息に散るものなれば。――恨みを抱く瞬間とて存在しないものですから」
 生きていて、死へと向かうもの。
 冷たく色褪せ、されど、その姿は凛と真っ直ぐに。
 まるで祈るかのような姿に、鹿村は吐息を付いた。
「変わらぬ鬼か」
 所詮はそうだという白鬼に、鹿村もゆっくりと頷いた。
「俺たちに大義名分の他にそう無いだろねェ、違いなんて」
「そう。儚い命に、果敢なる思いの色を乗せるのみ」
「なんとも物騒な歌じゃねぇーの」
「ええ、ええ。けれど、斬って、斬られて、散っては落ちて。でも消え去れぬ想いが継がれて、色を織り成す。物騒ではあっても、何処までも純粋なものですよ」
 それもまた美しき生き様かと、鹿村は頭を左右に振るう。
 否定はしないが。
 だが、心の底から理解し賛同も出来ない。
 だから武器を握り対峙するのかと、鹿村は猫目・雲霧を手に執る。
「姐さんは絶たれる命の血の色が欲しい」
 ともすれば、斬り殺した他者の命の色をも帯びるというように。
 それでも。
「オレは戦いは好きだが屍の山はいらねー」
 それは間違っている。
 捻くれだとか、純粋ではないだとか。
 幾ら言葉を尽くしても、優しさや他者を想う穏やかなる気持ちとは相容れぬ。
 産まれた時が違い、育った空さえも違うのだ。
「心はやれんが斬合いで識ってくれてもいーぜ」
 ならば、鹿村の見てきた空を。
 旅の果てで見上げてきた想いを、触れてきた心を。
 泰平なる世でこそあった美しさと強さをもって向き合うのだと、鹿村もまた眦を決した。
 そうして鹿村が帯びるは妖怪、悪鬼、幽鬼の力。
 代償として呪詛の毒が身を走るが、それさえも戦意へと変換して肉体の表面に赭の羅刹紋を浮かび上がらせる。
 魔と生命が拮抗する赤き色彩に、白鬼が感嘆の息を漏らす。
「まあ、美しい」
 故に屠りて自らの色にするのだと、白鬼は微かなる躊躇を見せずに踏み込む。
『あふなわるや』
 自己暗示の祝詞から成るは、無念無想の境地。
 刃の吐息を持って殺めるのだと、刹那に咲き誇るは斬馬刀による三連閃。
 どれも必殺の威を秘めたものが神速を持って突き進み、防御を砕く重さを伴って鹿村に殺到する。
「っ!」
 受ければ死。が、まともに回避も出来ぬ早技。
 だが、鹿村は確かに白鬼の気配を捉え、追跡し、命に迫る死刃の匂いを嗅ぎ分けていた。
 故に右へ身を撓めながら跳躍。
 全ては避けられず、斬られた傷口から血霧を吹き出すが、致命となる深手は避ける。
 痛みはある。
 だがさて、どうしてそれで羅刹たる鹿村を止める事が出来ようか。
「ああ、止まれないのは互いにだろーよ」
 灼熱じみた激痛を憶えながら、槍へと化した猫目雲霧を走らせる鹿村。
穂先にあるのはやはり止まらず、斬馬刀で剣風の嵐を紡ぐ白鬼。
 静かながらに果断なる踏み込みをと槍となった猫目雲霧で捉え、白鬼の斬撃の出だしを挫くようにと剣先を弾いて逸らす。
 神速の鬼剣の乱舞。
 故に、動き出しを制されれば速度故に乱れて狂い、鈍りと澱みたる隙を見せる。
「おや」
「まだだ」
 容易ならぬ相手との戦いの悦びに笑う白鬼。
 同時、隠し持っていた手裏剣たちを白鬼の上半身目がけて高速で投擲する鹿村。
 連続で降り注ぐ手裏剣は刀身を盾とする白鬼の斬馬刀で弾かれるが、それでよい。
 守りに入り、攻めに懸かれぬその間隙にと、するりと滑るは念動力で槍から布へと転じた猫目雲霧。腕や手首に巻き付かせ、僅か一瞬であれ白鬼の動きを拘束する。
「これはまた、奇妙な芸を遣われますね」
「歌のお礼さ、別嬪さん」
 言葉を置き去りに、一気に踏み込む鹿村。
 狙うは斬馬刀を自在に扱えぬ懐、至近戦。
 鹿村は組討つようにと白鬼の手首を掴めば、指輪状に加工した暗器たる櫛羅による鋭くも密やかなる一突きを見舞う。
 痛みで止めるのではなく、仕込んだ麻痺毒による更なる束縛狙い。
「風流に合わせて酒や花ではなく、毒で返してわりーね」
 だが、これもまた戦いの色艶なれば、白鬼の求めたもの。
 吐息が混じり合うほどの至近距離で鹿村の振るったクナイが、深々と白鬼を斬り裂き、白い姿を血の赤い色で染める。
 さながら、並ぶ彼岸花のように。
 色と心を求めた白鬼へと、斬り合う最中にと鹿村の心と応えを添えるのだ。
 解ってはやれないから、せめて眠れと囁くように。
 伝わったのか、それともやはり互いに解らぬのか。
 白鬼は痛みに貌を歪めることなく、ただ悲しげに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四方堂・幽梨
そうねぇ
何かを志したときから、人は心に鬼を飼う
でも、色を象るのは、そいつに生きると決めたときさ
他のすべてを捨てる覚悟を決めたとき、そいつはもう鬼になるんだ

あんたもさ
馴染めないんだろ、いきなり天下泰平なんて言われてさ
剣は答えをくれたか?
それとも、まだ探してるのか?
この血の畔をさ

さて、あの大刀は厄介だな
どんなに速く切っ先を当てようにも、その前にこっちが斬られる
だから、お互いに当たらない距離から抜き打つ
殺気をぶつけて本気で斬ると思わせるのがポイントさ
まあこんな虚仮威しは最初の一度しか効かない
本命は次だ
受け止めるしかない、が受け止めたら突き破るまで斬る

楽しいよなあ、斬り合いは
でも、永遠はないんだよなぁ



 詠う白鬼の聲が静まれば、さらりと風が吹き込む。
 雲は流れて月を隠し、僅かな暗がりが周囲に満ちる。
 この女は、果たして何を求めたのか。
 そうして今も消え去らずに、何を探しているのか。
 戦いの中に。乱世の裡に。刃金が響き合い、血の色が咲き乱れるその刹那に。
「そうねぇ」
 もはや、その欠片を探すことさえ難しくとも。
 四方堂・幽梨(義狂剣鬼・f40785)は鋭利なる刃に似た銀の双眸に、僅かな思慮を乗せた。
 全てを解らぬと、斬り棄てることなく。
 ああ、あれもまた同類の果てなのかもしれないと、微かに情に似た想いを持って。
「何かを志したときから、ひとは心に鬼を飼う」
 ひとの志とは、ともすれば鬼となる。
 強すぎる思いは他者を害する鬼と成り得るのだと、故に鞘の尊さを語る烈士のように。
 或いは、剣の道という危うさを説くように。
 義に生きればこそ、呼吸さえ難しく。
 されど、他を廃さぬからこその仁義たりえる刃を語るのだ。
 鬼と成るな。鬼と成る道へと違えるな。
 それは自らの姿を持って、他人へとも示すことも出来ようと。
「でも、色を象るのは、そいに生きると決めたときさ」 
「…………」
 あれだけ饒舌に詠っていた白鬼も、今だけは幽梨の声にと耳を傾ける。
 剣を持つものならば、或いはと。
 その心を求めて、色艶を喪った鬼の眼を向けるのだ。
 生き方を決めたが為に、ようやくと色を得る。
 されど。
「他のすべてを捨てる覚悟を決めたとき、そいつはもう鬼になるんだ」
 幽梨の声が響き渡り、少しの間だけ沈黙が周囲に満ちた。
 ああ、と。
 喉を鳴らして、雲の向こうに隠れた月を仰ぐ白鬼。
「然り、然り。すべてを棄てて、今ぞ鬼とならん、修羅たらんと勇みしあの時……」
 そうしてようやく。
 想いという色を得る。矜恃という形を得る。
 志が刃となって、道を斬り拓く者となる。
 鬼と成って果てて、ようやくと手に入れるその姿。
 されど。
「あんたもさ」
 ゆらりと互いの間合いを計りながら。
 まるで剣の鬼の道が交差するのを見るようにしながら。
 幽梨はゆったりと語りかける。
「馴染めないんだろ、いきなり天下泰平なんて言われてさ」
 戦いの奥底で、目覚めて疼きいて沸き立つ想い。
 それを世が平和だから。刃は危うく、そして世を乱すものだからと。
 先の先まで、護国の霊刀の如く在ったというのに、まるで妖刀の如く云われるのであれば、どのように吐息を重ねていけばよいのか。
 今までの道と歩みは。
 すべてを捨てる覚悟と共に、捨て去った輝きたちはと。
 ふと、振り返ればそこに戦の残り火が煌めいている。あの色が欲しかったと、手を伸ばす。
 僅かに、白鬼の胸が痛んだ。
 それは、もしかすれば幽梨の胸にもある|痛み《こころ》なのかもしれず。
「剣は答えをくれたか?」
 握った剣は、どれほどの血を吸えば応えてくれるのか。
「それとも、まだ探してるのか?」
 探し、探し、探し求めて未だ得ず。
 だからこの場にいるのだと、白鬼と幽梨を対峙させる。
「この血の畔をさ」
 時代錯誤と嘯きながら、この刀を握り絞めて。
 後回しといいながら、感傷を共に出来る者と語り合いて。
 そう――どれだけ解り合っても、語りあっても、生きて残れるは片方のみ。
 互いの道が定まり、衝突が決するように。
 するりと、ふたりは同時に構えを取った。 
 風が吹いて、再び月が配慮なき白き光を零していく。
 これよりの血風剣刃、隠すことなどなく世に曝き見せるように。
 剣に生きる鬼の醜さを示して、世の泰平を詠うのか。
 これほどまでに実直に、切実に生きるをひとの道と賞賛するのか。
「すべての色は、されど、色たりえて」
 そう詠うように口ずさむ白鬼が、斬馬刀を担いで一歩前へと踏み出る。
 颶風雷刀、一閃に心魂を懸ける。
 相手が何をしようと、それより早く、刹那でも早くと振り下して悉くを断ち斬るように。
 では、それにどうるかと幽梨は目を細めた。
――さて、あの大刀は厄介だな。
 どんなに早く切っ先を当てようとも、あの長さだ。
 踏み込んで届かせる前に、颶風となって奔る刃が幽梨を断つだろう。
 ならばこそ、斬り結ぶ前にこそ全てが決するというもの。
 状況、場という地の利、心境の穏やかさと狙い。いわば戦の呼吸と心の駆け引き。
 幽梨は居合抜刀術の遣い手だが、一刀流の極意にある通り。
 斬り結ぶ前に、既に雌雄は決して居る。
 これを定めることこそ、かの剣聖が説いた一之太刀という奥伝に他ならないだろう。
 故に、刃の交差するその寸前。
 決して此処で振るっても届かぬ筈のないと白鬼の眸が定めていた距離で、幽梨が鳴らすは鞘走り。
 凛烈なる音を響かせて、澄んだ刃金が空を斬る。
「――っ!」
 幽梨の構える居合刀、黒鈴蘭では届かぬ筈。届いては成らぬが道理。
 されど、確かなる殺気の込められた抜刀に防御をと応じた白鬼。虚実織り交ぜてこその剣法というのならば、間合いという空間の幻惑は最もなる所のひとつ。
 されど虚実織り交ぜる綾模様が剣ならば、また殺気も嘘。騙しの一閃。
 黒鈴蘭の切っ先が紡ぐ剣風が吹き抜けるものの、何にも届く事なく空を切り、また防御に身構えた白鬼の動きも何にも届かぬ。
 虚を付き、姿勢と呼吸を乱し、そして幽梨が飛び込む為の一瞬の路を斬り拓く為の殺気の遠当て。
 所詮は虚仮威し。最初の一度しか効かないし、効いても僅か。
 されど、その僅かな差が命運を分けるのだと、黒鈴蘭を再び納刀しながら幽梨が前へ、前へと躍り出る。
 が、それでも迅雷と化して狂奔する白鬼の斬馬刀。
 間合いには踏み込めたとはいえ、それでも先制の一刀。 
 これを制するか否かが全てと、本命なる死の刃に幽梨は笑いかける。
 あくまで剣ならばこそ、どうして睨むばかりであれようか。
 あれを受け止め、なおかつ斬るのだと、黒鈴蘭が鞘の裡で鳴いている。
 いいや、鳴いているのは幽梨の魂そのものか。
「すべて、承知の上で」
 鍔鳴らし、再び抜刀の鞘走りを響かせる黒鈴蘭。
「アンタが倒れるまで、斬り続けるだけだ」
 衝突するは幽梨の黒き瞬刃一閃と、白鬼の白き雲耀剛刀。
 刃金と刃金の激突音が響き渡る様は、さながら落雷の如し。
 颶風雷刀に食らい付く桜花散佚は威においては劣っている。だが、必ずや斬り砕くという一念が斬撃に宿る重さも、強さも凌駕して噛み合わせるのだ。
 黒鈴蘭からは黒墨に似た漆黒のオーラが幾度となく弾け飛び、刀身に纏わり付く。必ずや斬撃を届けると、斬馬刀の剣威に推される度に斬鉄の刃と化していく。
 舞い散る火花。互いの刀身が悲鳴を上げて、それでもなお狂乱の戦歌を紡ぐ。
 ああ、それは刹那のことなのだろう。
 が、余りにも引き延ばされた、剣に生きる者の為の世界。
「楽しいよなあ、斬り合いは」
「衝突する刃に、吐息を重ねることは無常の悦び」
 だから、この会話も。
 言葉のすれ違いも、うまれてしまう。
 こんな命の遣り取りを永遠に続けられたらばと。
 戦乱の世にあったかつての輝きと色に、幽梨と白鬼は薄く微笑んで眸を輝かせる。
 されど。
 全ては過ぎ去るものに過ぎない。
 斬馬刀と噛み合い、鎬を削る黒鈴蘭。
 突き破るまで斬り進むのみとした刃が、ついに白鬼の剛剣を弾き飛ばしたのだ。
「でも、永遠はないんだよなぁ」
そうして、擦れ違うふたり。
 白鬼の脇腹からは夥しい鮮血が舞い散り、白き姿を染めていた。
 さながら赤い桜花が、はらりはらりと舞い散るように。
 美しきもの、愛おしきもの、尊きもの。
 そのすべてに永遠などなく。
 そして、すべてを捨て去って鬼となったように。
「幕引きだよ」
 そう静かに囁いた幽梨が身を翻し、白鬼の身へと再び居合を放つ。
 すべては無常。如何なる結末になったのか。
 再び隠れた月は、真実を照らすことなく世に埋もれさせる。
 二振りの刀が交差した事実だけ、過去に残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斑鳩・椿
互いの道理が通らぬならば…きちんとぶつかり合うことも誠意なのかしら、なんてね
さて、こちらの大将が目指すものがあと少しなの…引いてくださる?

薙刀を構えて引き付け、UCを発動
呼び出した使い魔達はブラフとして周囲を駆け回らせ、敵の注意を引かせる

防ぎ切れない攻撃はオーラ防御、または使い魔がその身で受けて消滅

周囲の地形を確認しながら位置取りをして動き、敵を足回りの悪い場所へ誘導してから桜色の懐剣を投擲
防がれたとしても踏み込み、破魔の力を乗せた薙刀を振り切る

ごめんなさいね
白兵戦は不得手なもので

…どうしてそんなに、って?
ふふ、私の良い人も羅刹なの
…だからね、あなたにも幸せになって欲しい、それだけよ



 詠う、詠う、悲しき鬼が詠う。
 かつてに在った色艶を。
 散ってしまった徒花の美しさを。
 喪われてしまった戦乱の世の、輝きし過去の理を。
 もはや通らぬ道理なれど、確かにそれは戦の裡で息づいていたもの。
 今更消え去ったのだと云う事は出来ず。
 が、確かに今に生きるものとは道理が合わぬ。
 まるで共に水に生きるのに。
 真水の清さに耐えられぬ、海の命の如く。
 が、ならばこそ。
 悲しき歌に、また密やかにと花は重ねて歌い返す。
「互いの道理が通らぬならば……」
 さらさらと。
 まるで花で花びらが掠れ合うような、美しき聲を持って。
 斑鳩・椿(徒花の鮮やかさ・f21417)は今を生きるものの色と鮮やかさを持って、美しき言葉を紡ぐ。
「……きちんとぶつかり合うことも誠意なのかしら、なんてね」
 詠う、詠う、今を生きる温もりが。
 周囲に在る影を従え、躍らせ、黒き薙刀たる淀切を手に執り、くるりと舞うように地を踏む斑鳩。
 この場で、この世界で。
 生きていくのは自分たち。
 相手とて真っ向から思いを向けて斬り結ぶというのならば、斑鳩たち、今の天に生きる者もまた真心を持ってこそというもの。
 その結果として痛みをえて、疵を負っても。
 なお心は生き続けると示す為に。
 どれほどに色褪せ、変わり果てても、心ばかりは永遠なるものだと示す為に。
 ね、と。
 鬼となったのは全てを捨て去ったせいだとしても。
 その全てを捨てて、何かを得ようとしたのはひとの心でしょうと。
 憐れみとも、情とも、優しさとも。
 或いは情とも付かぬ色艶を紫の眸に宿し、斑鳩は緩やかに微笑んだ。
 ただ、引くことばかりは出来ないから。
 それこそ、前に進み続けることが生きるということなのだから。
「さて、こちらの大将が目指すものがあと少しなの」
 過去に色を喪った鬼へと、斑鳩はゆらりと舞うように歩を進めて。
「引いてくださる?」
 決して受け入れられぬと解っている言葉を向けるのだ。
 悲しき、悲しき。
 今が為に詠う、ひとの心。
「あなた達があと少しでも」
 故に白鬼もまた詠い返す。
 血に濡れた白い姿で、なお変わらぬ斬馬刀を掲げて。
「私の長い路は、後戻りもできないほどに長かったの」
 それは或いは修羅の道程か。
 泰平の世に戦を唱え、過去の輝きをと求めるもの。
 今に在りし志を、拗くれていると嘯くもの。
 つまり――やはりどうしようもなく、相容れない。正面からぶつかり合い、どちらか片方のみが生き残ることが唯一の誠意となるほどに。
「だって、どちらも自分の心を、思いを捨て去れないでしょう?」
「ええ。そうね。とても、とても解るわ」
 斑鳩の脳裏に浮かんだのは、戦の華などではなく。
 鮮やかにして深き色合いを秘めたる愛情の花なれど。
「結ばれたものを、散らされてはならないもの」
 散らされていくことを美と尊ぶことはできないと、鮮やかなる仇花は今と現に咲き誇るのだ。
 黒一色の淀切を構えて引きつけながら、斑鳩は澄んだ声で囁く。
『後で撫でてあげましょうね』
 斑鳩の囁きに応じて影より顕れたのは影狐。
 影から影へと移動していく狐が、月灯りに照らされた廃墟にある影を縦横無尽に飛び交っていく。
 捕まえてみせてよ。
 捕まらないけれど。
 そんな悪戯めいた鳴き声が聞こえなそうな程に軽やかに飛び跳ねる影狐。
「さ、こっちよ」
 影狐の存在に気を取られた白鬼を誘うように、物陰にと歩を進める斑鳩。
 まるで舞踊の如き歩みなれど隙はなく、美しき足音を響かせて進む姿は風に舞う花びらのよう。
 妖狐の尻尾を空に、地にと広げて把握するは空気の流れ。周囲の地形を把握して確認し、白鬼よりも軽やかながら確かな足取りを繋げていく。
 そうして斑鳩という花びらが誘うのは、砦の中でも最も荒れ果てた場所。
 瓦礫があり、残骸が転がり、月に照らされてあらゆるものに影が在る。
「成る程……」
 そう白鬼が囁く通り。
 使い魔たる影狐が無数の影に入っては、また別の影から顕れる。
 さながら何処にでも通じる道で遊び、戯れるように。
 どうやっても鬼には捕まらないと笑う童のように。
 翻弄し、惑わせ、白鬼の意識を目の前の斑鳩へと集中させない。
「それなら」
 となれば、当然として鬼は札を切る。
 白鬼の瞳が狂気に染まり、輝くはさながら紅に染まる月のよう。
 瞬間、手にした斬馬刀が暴風の如く荒れ狂い、周囲の悉くを斬り刻んで散らす。
「すべて、斬るだけよ。影も、形あるものも、色さえも」
 斬馬刀が瞬くは、一息に九度。
 重厚かつ長大な刀身が乱れ咲いた先では、言葉通りにあらゆるものが斬り散らされている。
 威力、速度、重さに射程。
 全てが暴威そのものであり、剣筋に在るもの斬り砕いて花びらのように散らす。
 世は無常。徒花として散るが定めと詠うような、凄絶かつ美しい刃金の音色。
 影狐とてそこから逃れる事は出来ず、刃に斬られて黒い露となって霧散していく。
 だが、それでも役目は果たせたのだ。
 足回りの場の悪い所に誘導し、かつ周囲の残骸を斬馬刀で斬り砕かせたせいで、白鬼の周囲は石や小さな瓦礫が積もって足場が酷く悪い。
 どのように躍ろうとしてもそれは不可能と気付いた時には既に遅く、逆に自在なる足場を取った斑鳩が桜色の懐剣を投擲している。
 うっすらとした桜色を帯びた刀身が白鬼の腕に突き立つ。
 それだけでは剣の鬼を止められる筈もないと、跳躍して斑鳩に剣嵐の如き斬馬刀を繰り出そうとする白鬼だが、その膝が崩れ落ちる。
 ぽたりと落ちる赤い、赤い血の雫。
 懐刀の傷口から零れるその鮮血たちは、甘やかな毒に浸されているのだ。
「ごめんなさいね」
 身体を痺れさせ、自由を奪う麻痺毒。
 その類いであると白鬼が腕に突き刺さった懐刀を払った時には既に遅く、斑鳩が躍るようにと踏み込み、破魔の力を宿した淀切を振り上げている。
「白兵戦は不得意なもので……」
 だから真心をもって真っ向から戦う事をせぬを詫び。
 されど、これも戦いだという真摯な瞳が、互いの姿を映し出す。
 高く跳躍し、その勢いで辰狐の衣装が風に靡き広がるはまるで翼のよう。星の流れる様を映す着物は、艶やかに美しい。
 そして上空より放たれる淀切の漆黒の一閃は、それこそ箒星そのものだっただろう。
 余りに静かに、けれど瞬くは刹那。
 さらりと破魔の力を燐光として伴った黒刃が放たれ、真白き鬼の身を捉える。
 流れる血は、過去に生きた者でもまた赤い。
 白鬼の姿を染めながら椿の花びらのように舞い散る血はまさに美麗。
 冬の情景を飾る花の色。
 死の綾模様に彩られ、欲しいといった色を届けられ、白鬼は膝を付いたまま動けない。
 ただ、白い唇を震わせて、問うだけ。
「どうして。どうして、そこまで私と向き合うの?」
 それは、斑鳩が戦に赴くものではないと感じるから。
 白鬼は戦場に生きた。
 が、斑鳩も戦場に送る巫女ではあろうとも戦いに生きるものではない。
 呼吸からして違う筈。
 それでもどうして、此処まで向き合うのか」
「……どうしてそんなに、って?」
 相手の思いを無視して、ただ一方的に術を駆使するのが最善手。
 薙刀を振るうより、妖狐の術で幻惑するのが斑鳩としては強い筈。
 それこそこのように危うき白刃の上で、舞踊を見せる必要などないというのに。
 それでも。
 それでもと、斑鳩は深い慕情の色を湛えた微笑みをひとつ浮かべてみせた。
「ふふ、私の良い人も羅刹なの」
 今と過去、私と貴女は違うから。
 戦いの中でも幸せを思い、浮かばせ、舞わせて思う。
 忘れることなく、消え褪せることなき愛の色艶を。
「……だからね」
 優しく、優しく斑鳩は詠う。
「あなたにも幸せになって欲しい、それだけよ」
 一度は失い。
 それでも得た幸せがあるように。
 白鬼にもまた、最期の幸せを願って、徒花は自らの魂の色彩を見せる。
 幸せと、愛と。
 絡み合う情念の綾模様は、さながら夏の星空のように麗しく。
「――――」
 戦いの果てには決してない美に、幸せに、白鬼は微かに瞼を閉じた。
 それを選ばなかった。
 けれど。
 そんな幸せが欲しくなかった訳じゃない。
 一番ではかっただけ。
 でも、たったひとつ以外にも手を伸ばせて、掴めるならと。
 過去の残滓は、赤く染まった白き身で、色褪せた心で喉を鳴らした。
 鬼は泣くことができないから。
 変わりに詠うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
アドリブ等◎

然り
遍く武は凶器、殺人術
然れど、其れは悪鬼が手繰るが故
衆生を救わんと欲し
衆生を害する鬼を討つ為に抜いたのならば
最早悪鬼の牙では無く
夜闇を祓う月灯に同じ
――お師様ならば
屹度毅然と仰るだろう

嘗ては妖術に拠らず力が誇示出来ると
喜び勇んで刀を抜いたが
其れは幼かった己の
未熟さ故の苦き過ち
今は
「抜かせて呉れるな」の想いが強い
お前は
其れでも
同じだと寝言を囀るか

無念無想の境地
嗚呼、其れもまた善いだろう
然し生憎、此の身は既に其の末路を|識っている《・・・・・》
敵UC発動を待って
迎え撃ちて咲くは【彼岸花】
人が為に剣を抜く|士《もののふ》の心
お前になぞ呉れてやるものか
握りの妙を以て|追付け《▲早業》
鞘操の妙を以て|追越せ《▲先制攻撃》
敵の刃が閃くより先に三撃加えられたなら
後は如何に無念無想の境地と言えど
得た癖と弱点を基に浅く斬らせつ▲受け流し
全ての刃筋に▲カウンターを放ちたい

剣は心を映す鏡
なれば、お前の眼から見た私の剣には何が映る?
私には……お前の剣に哀しき夜叉が見える



 鬼の聲なれど、鬼の歌ならず。
 幽玄なる刃の歌と憶えるからこそ藍玉の眸は澄み渡る。
 何処までいっても刀は刀、力は力。
 それを異なるといえども、身を染めた血の色は消え果てぬ。一度知った死の匂いは褪せることなど在る筈もない。
 剣の道に歩む以上、それは当然のことなれば。
「然り」
 ああ、それを否というならば、それこそ拗くれ。
 刀というものが歪み、捻れ、そして澱むものだろう。
 遍く武は凶器、殺人術。
 如何に血を流させて殺し、屍の山を築き上げんとするかに他ならぬ。
 ひとを歩めることで先に進み、未来の可能性を奪い合う。
「然り、然り」
 例えば最強という座とユメはひとりしか掴めぬ。
 そうでなくとも、立ち会う両者は勝者と敗者に別れる。
 刃とは斬り断つという事であり、それを如何に上手くするかが武というもの。
 ああ、解っている。
 委細、全て承知して修羅なる道筋も、剣の鬼に至る道理も心得ている。
 そうだ。クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は否定など一切致すまい。
 それこそ危うき道、昏き道より視線を逃して、善きものに、麗しきものにとばかりを見るなど言語道断。
 清濁併せ呑むほどの器とはクロムも未だ至らぬが、それが今も目指さぬ理由にはならない。
「然れど」
そう、然れどと。
 苦しく、軋むようにと絞り出したクロムの声。
 史実として認める。真実として受け入れる。
 が、求める|理想《そら》とは違うのだとクロムの心が静かに、静かに、けれど瞋恚を以て震えている。
「然れど、其れは悪鬼が手繰るが故」
 僅かに震える声色を、それでもと凛と張り上げ詠うように。
 胸にある誇りを口にし、刃の如く白にへと向けるクロム。
 いいや、或いは。
 その鬼の瞳に映る、己に向けて言ノ葉の切っ先を向けているのか。
「衆生を救わんと欲し」
 己ではなく、誰かが為に。
 名も識らずとも、他が生きる心と命を救わんが為に。
 それこそ、数多の力なき人々が求め、焦がれ、自らも目指す光の道筋であれるように。
「衆生を害する鬼を討つ為に抜いたのならば」
 そうしてまた誰かの胸に、救う光として灯るのであれば。
 鞘より抜いた刃にて零す命と魂にもまた意味はあるのだから。
「最早悪鬼の牙では無く、夜闇を祓う月灯に同じ」
 かつて。
 そう、ずっと昔にクロムの聞いた言葉たち。
――お師様ならば。
 その時のように、屹度毅然と仰るだろう。
 戦の裡にて瞬く白刃は死の軌跡であったとしても、闇夜を照らし、いずれは暗闇を払う光とならんと。
 今のクロムのように、怒りで震える声ではなく、確かなる思いを込めた巌の如き声色で。
 そう成らぬ未熟さに恥じ、痛みを憶え、されどだから前に進めるのだとクロムは愛刀たる魂響の柄に手を伸ばす。
 一歩、一歩と進みながら。
 乱世にあったという白鬼の姿を、その眼に灼き付けながら。
 だが、白鬼は軽やかに詠う。
 風雅さと、優雅さえ感じる色亡き聲で。
「それでも、討たれる悪鬼より見た月灯は――また異なる悪鬼の瞳に見えるでしょう」
 つまりはと、爪先を滑らせるように横手へと歩き。
 詠うようにと続けて見せる。
「戦の裡に在るのに、鬼が修羅がと語り、私とアナタは違うというのを傲慢。捻くれた魂と云うのです」
 それこそと、緩やかに微笑む白鬼。
「その姿、まるで鍍金……命を懸ける武士にあるまじきと」
「――――」
「鞘より抜いた自らの刀身を見て、なお生きているものが居るなど恥ずべきこと」
 白鬼の言葉を受けて、ぴたりとクロムの震えが止まる。
 怒りも度を過ぎれば逆に鋭き冷徹さとなる。ましてや、それが自らのみではなく誇れる他者にも掛かるならばなおのこと。
 確かに白鬼の言葉はある程度の真実を含んでいよう。
 殺人術たる武に、理や悟りという鍍金を施して活人の心得と語る。そう言葉を向けられても、否定は出来ない。
 クロムとと嘗ては自らの欠如を示す妖術に拠らず、力と武が誇示出来ると、敵と向き合えば喜び勇んで刀を抜いていた。
 その結果がどちらかの死であるという事実を、確かに捉える事の出来ないまま。
 そうして活人の名を、騙った。
 けれど、其れは幼かった故の過ちなのだ。
 道を進む誰もが、今でなき時には幼く、未熟で、力というものを持て余して。
「己を美しく見せる鍍金――それがあった事を否定などしないよ」
 だが、今はその鍍金というものを、苦きものと噛みしめている。
 驕りであり、強さを求める貪欲さであり、何より活人の心に至るまでに落とさねばならぬ未熟さそのもの。
 心に浮かぶ罪咎なればこそ、未熟さとして研ぎ澄ましていくべきものなのだ。
 悟りを得て捨て去るべきもののように。
 ひとつの道を進み続けてようやく、見つけられるもの。
「だが、ただ死を浮かべた刃が明澄たる空の如しか。誇りや誉れを重ねず、ただ死を運ぶ刃が純粋として、それがひとの世にとって善きものなのか」
 歩み行くクロムは止まらない。
 胸には灼き付く激情を抱けども、微かなる揺れも見せず、ただ真っ直ぐに。
「今の私は鍍金で結構……けれど、それを削ぎ落とし、研ぎ澄まし、更なる先へと征くだけ」
 捻くれと云うならばそう続けるといい。
 違うと否定をされても、クロムは自らの道を進み続けるだけ。
 だって、今は。
「鞘より抜いた刀を見られるを恥じる気持ちは、在る。でも、抜かせた呉れるなという思いが強い」
 痛みにた思いがクロムの胸に渦巻くのだ。
 だって殺す事でしか何も出来ないなんて、悲しすぎる。
 例え世の中が奪い合う事が本質だとしても、それに逆らって生きていきたい。
「鞘奔りて、その先に在ったものを全て斬り殺すよりは、自らを恥じる己で在りたい。抜いたことを、戦ったことを、刀を振るわねば何も成せない自分を」
 そうして吐息を整えて。
 居合の構えを示すクロム。
 抜かせて呉れるなという思いは、未だこの白鬼を前にして在ったとしても。
 それでも進まねば成らぬと、静かに押し殺した息を零す。
「お前は、其れでも」
 この痛みを、斬らねば進めぬこの苦しさを抱くこの身と心を。
「お前と同じだと、過去と変わらないとのだと、寝言を囀るか」
 剣風より、名月よりなお澄んだ声と藍玉の双眸。
 向けられた白鬼は、それでもなお緩やかな微笑みを浮かべる。
「違うというのならば示せばよいのでしょう。そして、示した時点であなたは私と同じ戦と剣の鬼」
 結局は巡り巡って、何も応えは出ぬ。
 この時、戦への妄執が紡ぐ無明の闇こそが、衆生を苦しめる戦乱そのものであるのだとクロムは深く、深く理解した。
 ならば。
「斬る他、道はない」
 ただ、ただとクロムは鍔鳴りより先んじて言葉を弾く。
 これだけは示すのだと。
 剣で語れど、決して伝わらぬ鬼相手へと突き刺すように。
「今は鍍金で構わない。でも何れ、何れはそう寝言を騙られぬように私は、進む」
 故にクロムと白鬼。
 ふたりの身より放たれる剣気が、まるでふたつの旋風のようにぶつかり、鬩ぎ合う。
 互いに純粋に過ぎたから。
 真っ直ぐに進み続けたから。
 だから、言葉でも刃でも道を渡すことなど出来ないのだ。
『あふなわるや』
 修羅の道より、白鬼の祈りの言葉が紡がれる。
 自己暗示を経て辿り着く無念無想の領域。
 何処までも透き通った世界へと踏み入った白鬼が、斬馬刀を手繰り寄せる。
 鹿島の武神が如き暴威を振るわんとするその寸前、クロムもまた自らの心境を澄み渡らせる。
 無念無想の領域、それは白鬼のみが辿り着いたものではない。
 嗚呼、それもまた善いだろう。
 然して生憎、クロムは既にその末路を|識っている《・・・・・》。
 それは何もない世界。情動のひとつ動かず、誰とも触れることのないもの。
 色を喪った鬼が、更に魂の色を喪っていく高すぎる空の世界。
 斯く在るものかとクロムが定めたものを迎え撃つべく、魂響の柄を握りて抜刀の瞬間を待つ。
 嗚呼、と。
 対峙したからこそ鮮明に解るのだ。
 同時に放っては確実にクロムが斬り棄てられる。
 が、先にと動いてもやはり斬馬刀の長さの元に後の先にて斬り伏せられる。
 故に求められるは先の先。
 士の魂を奔らせる刹那にのみ、勝機があるのだ。
 クロムの双眸に揺れも、恐れも、怯みも在りはしない。
 しん、と静まりかえった裡に、人が為に剣を抜く武士の鼓動を刻むのみ。
 この心、宿す刃。
 白き乱世の鬼になぞ呉れてやるものか。
 過去たる影に負けてはならぬと、押し殺した吐息が零れる。
 瞬間、身より意思より先んじて気が動く。
 が、クロムが無念無想の心境より先んじて動くは出来る筈もない道理。
 白鬼の斬馬刀が軽やかに、死の軌跡を刻む。
 されど、どうして諦めることが出来ようか。
 それでもと微かな遅れに追い付くべく、クロムが振るう業は今と未来に生きるが為に培った握りの妙。
 この指先は、数多の想いに触れてきたものが故に――どうして、独りある鬼の速さに負けようか。
 対峙する者の後に動きながら、まるで同時にと憶えるかのような疾風の如き加速。
 しなやかなる脈動を以て、鞘走りて音響かす。
 されど、後一歩足りぬ。これでは同士討ち。
 ならばこそ、鞘繰の妙を以て更に加速。
 鞘に在りしは、武士の魂――無数の戦を経て磨かれたその技が、どうして過去に色を喪った者に劣るというのか。
 故にこそ雲耀の輝きがクロムの鞘より放たれる。
 明らかに初動は遅くとも、僅か一瞬を以て越えるクロムの神速抜刀。無拍子の剣の調べ。
 後に動きし筈の者が、先の先を奪い取る。
 条理を覆し、勝敗をも斬り裂く先の先たる刃が剣狐より紡がれるのだ。
「――――」
「――――!」
 言葉が入り込む余地とてない。
 白鬼の刃が閃くより先に、三つの鋭き剣弧を描く抜刀術の名は彼岸花。
 鮮やかなる赤き筋を走らせ、剣風と共に鮮血を撒き散らし、白き鬼を染める。
 手首、脇腹、肩。魂響の刃で刻まれた白鬼は、されど止まらず。
 烈風を伴い斬馬刀を振るうは、まさに暴風。
 そして、クロムに抗う術はなかった。
「ん……くっ!」
 後方に跳躍するが、深く脇腹を斬り裂かれて赤黒い血を流すクロム。
 見れば剛剣の威を受けて、血肉が石榴のように弾けている。
 が、その痛みにクロムが止まった訳ではない。
 単純に、有り体に言って詰みを悟ったのだ。
「如何致しました?」
 そう詠うように語り、近づく白鬼。
 彼女の無念無想に、弱点と癖はないという事実がクロムの身を強ばらせる。
 ある意味、最悪のユーベルコードの組み合わせと言えただろう。
 クロムの選択した業が彼岸花でなければ、まだ戦いは続いただろう。
 或いは、先の一瞬の攻防で決していたかもしれない。
 が、無念無想はその通りに弱点や癖というもの消し去る心境の極意。
 今や未発の象さえ掴む白鬼の瞳は、如何にクロムが動こうとしてもその一歩先を未来視のように捉えている。
 加えて技の冴えも恐ろしきもの。
 どのように癖や弱点を突いても即座に反応し、組み替え、払うのみ。
 むしろ一意専心たる刃こそが、先のように無念無想を越える術だったのだろう。
 ああ、ならば。
 ならばこそ、クロムは死に体ではない。
「ん、そう。ならば」
 先に出来たのであれば、もう一度。
 癖とは言えずとも、斬馬刀を手繰る白鬼の術理はクロムも彼岸花で覚えている。ならば、先より深く捉えるのみと身を低く、滑るようにと白鬼へと迫るクロム。
 ユーベルコード。奇跡の御技。
 それに頼ることなくとも、培い続けて磨き上げた剣の技が確かにあるのだと、クロムの烈士たる心魂が吠える。
 紫電を纏う足下に浮かぶ、蒼い粒子は仙狐式抜刀術の足捌きの秘奥。
 淡く、儚く、それでも色鮮やかに浮かぶ光を纏い、剣速勝負ならば、決して負けぬという自負と矜恃の元に一陣の風と成って走るクロム。
 が、先んじて白鬼が振るうは地より這い上がる颶風一閃。
 下段から跳ね上がった斬馬刀が、クロムの身を斬り裂きながら月を目指す。
 赤い血飛沫が上がり、冷たき殺人の刃が冴え渡る。
 その儘、鋒翻して振り下ろせば迅雷の断刀。
 クロムもまた己が命の危機に肌が粟立つが、なお深く踏み込み、先に見せた握りと鞘繰の妙を見せる。
 浅き傷ではない。
 されど、越えるのだと藍玉の双眸は確かな光を灯しながら、稲妻の如く落ちる斬馬刀を捉える。
 鞘走りて放たれる魂響の居合は迅雷の断刀を、幽艶なる繊月描きて迎え撃つ。
 柳の如くしなやかに。
 されど、譲らぬは魂の如く激烈に。
 刃金の音色を響かせ、擦れ違う刃は互いに空を切るが、ほんの瞬間だけ早く翻るは魂響の切っ先。
 全ての刃筋に返しを放ちたくとも、これが全力。
 無念無想を破るは、それを越える魂の熱量なのだから。
 故に、ただ一閃。
 擦れ違い様に放つは、烈火を纏うが如き熾烈なるクロムの一刀。
 まるでクロムの身が燃えるかのように覚えるは、深手を負いながらもなお駆けて全霊の刃を放ったから。血霧のように夥しい流血を伴いながら、決して止まる事無く全身全霊の斬撃を繰り出したから。
 だからこそ、無念無想という透き通る世界をも断つ、鮮烈なる魂刃の瞬きを此処に結んだのだ。
 そう、白鬼の|色《こころ》を喪った瞳では捉えられぬ刃を。
「っ……」
 一拍遅れて、白鬼の身より吹き上がる鮮血。
 互いに深く身を刻まれ、止まらぬ血を流し、それでもと膝を付かぬ。
 共に精神力だけで立ち続けている。気合いの尽きた方が負けだと、互いの武心を、想いをと胸で渦巻かせる。
 嗚呼、と。
 雌雄を決するは結局の所、そうなのかと。
 クロムは唇より、小さく声を落とす。
「剣は心を映す鏡」
 故に、振り切った魂響の澄み渡る刀身を眺めるクロム。
 そこに映る己が心は、果たして善きものなのか。
 そして、そこに入り込んだ白鬼の真実の姿とは何なのかと、問うように。
「なれば、お前の眼から見た私の剣には何が映る?」
「……傷ついた者が見えますよ」
 そう。刃は傷つけるものなれば、確かにそうだろう。
 己をも傷つけて、それでも幸せを求めるが武士の魂なるもの。
 衆生を救わんと清冽なる想いを抱くものたち。
 それらは皆、傷を負いながら前へと進むのだから。
 だがと、クロムは魂響を一振りしてその刀身を白き月に翳して見せた。
「私には……お前の剣に哀しき夜叉が見える」
 それが今と、過去との違いなのかと。
 クロムが囁いた直後、ふ、と白鬼は笑った。
 そして、白鬼は崩れ落ちるように地に膝を付く。
「哀しき夜叉なれど、憐れみも情も不要。それは、そうなっても戦という夢を思い求めた者なれば」
「…………」
「ただ」
 そう、白鬼が泣くような声色で問い掛け、重ねた。
「ただ……私の色はどのように映りましたか?」
 クロムは、応じる言葉を持たなかった。
 どのような言葉も、もはや、この白鬼には手向けの花とはなりえぬのだから。
 鬼はただ、過去の影としてひっそりと消え去るのみ。
 涙の色など、有り得るものではないのだから。
 さながら、無念無想という刃の色の如く。
 澄み渡る色を、誰も救いて触れることは出来ぬ。
 哀しいと。
 クロムがそう思うのは、やはり今に生きるからこその傲慢なのだろうか。
 だが。
「傲慢さだとしも、私は」
 捨て去れぬのだと。
 抱きしめたいのだと。
 今までに斬り結んだ者の過去に、命の欠片に触れるように。
 魂響の柄へと指を這わせる。
 それこそがクロムが無念無想を破った握りの妙を紡いだ、追想の指先だったのかもしれない。
 ならば、この夜叉が、白き女が。
 どうして色を喪い、鬼となり、血と戦に色を求めたのか。
 それを尋ねる瞬間は、ついぞ来ず。
 夢幻を消し去るが如く、風が吹いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
俺達と何が違う…か
全然違う
武は誰が為の力
護るが為の剣

刃を抜かず
戦いで命散らし
血で大地を染めちゃァいけねェンだ(世の安寧を願う

お前は乱世の中で振るうのが一番綺麗だと
其処に価値を見出だしてるようだが
俺は…
確かに戦いは好きだ
強ェヤツと相対した時は心踊る
が、誰かが哀しむ世界にはしたくない
互いが掲げる矜持は正反対
引く訳にはいかねェ
最後に立っていた者が
正義だ

俺の色(こころ)は
俺の意思でしか揺られない

夕凪と共闘希望
UC使用
破魔の羽根飛ばし意識を向けた所を玄夜叉で斬る
炎属性の力を出力
斬馬刀の攻撃は半分受け流し、暴風を利用し焔の刃でカウンター
半分は回避
夕凪が危うい時はカバー
死角を極力減らす
左右で挟撃+同時斬撃



 止まらず、終わらぬ鬼の歌。
 美しきけれど、悲しき、哀しき、もはや届かぬ聲。
 どうしてその想いで、明日へと胸を張って生きていけよう。
 次に巡り会うひとの手を、どうやって優しく握り絞めていけるのだろう。
 ああ、或いは。
 それこそが戦というモノなのかと、金銀妖瞳は瞼を閉じる。
 深き己が胸の裡より言葉を探し出すように。
「俺達と何が違う……か」
 ゆっくりと、深い吐息と共に零すのは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
 だが、次の瞬間に赤夕の眸が過去より続く現実を映す。
 強き光に満ちたそれは、さながら闇を払う光のように瞬いて、言葉と共に荒れた戦場へと向けられる。
「全然違ぇよ」
 自らを、そして傍に在る者たちを誇るように。
 今を生きるからこそ、過去から続く鬼の歌を否定する。
「武は誰が為の力」
 そうして青浅葱の眸は、未来へと繋がる現を映す。
「護るが為の剣。少なくとも、俺はそう思っているし、信じてンだよ」
 そう言いながら、燃え盛るような熱き義を胸に前へと進むは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
 そう信じて進んできた路は決して軽くなく、乗り越えた困難は強さへと変わっている。
 どうしてクロウという男が鬼の歌で揺らぐことがあろうか。
 玄夜叉の刀身を構え直しながら、その刃へと視線を向ける。
「刃を抜かず在ることが最良」
 世の安寧こそを願いてある強き刃。
 争いを、災禍を、斬り裂いて穏やかなる幸せを。
 そう、誰しもがユメという雪のように淡く儚いものを、手のひらに乗せられるように。
「戦いで命散らし」
 強いものだけが得るということなど。
 弱きものは悉くを喪うということなど。
「血で大地を染めちゃァいけねェンだ」
 そのような天と世界の色、認めてはならないのだとクロウが纏う気炎が舞い上がる。
 まるで鮮やかなる花を纏うように。
 或いは、数多の想いを映して輝く鏡のように。
 応じるように、夕凪もまた妖念の黒刀を持って傍に控える。
「戦の為にと、力なき民を踏み躙るを武とも呼べません」
 それは嘗てのとある噺なれど、夕凪もまた過去の戦乱に郷を喪いし身。
 ならばこそ、喪わぬため、喪わせぬが為にとこの剣は在るのだと思えるのだ。
 故にこそ、クロウは真っ向より白鬼を睨み言葉を向ける。
「お前は乱世の中で振るうのが一番綺麗だと」
 どうしてそのようになったのか。
 過程も、動機も、そしてその初心なるものも解らないが。
「其処に価値を見出だしてるようだが、俺は……」
 僅かに思うは戦いというもの。
 そこに身を置き、そして勝者で在り続けているクロウは、決して白鬼とは相容れないのだろう。
 白鬼の痛みも哀しみも、理解してやることは出来ない。
「確かに戦いは好きだ」
 それでも乱世あれと火嵐を望む気持ちは、どうしても解らず。
「強ェヤツと相対した時は心踊る」
 世界の為にと幾つもの災禍と破滅を断ったクロウだからこそ、どうしても相容れない。
「が、誰かが哀しむ世界にはしたくない」
 色を喪い、鬼と成り、それでもなおと。
 そのようなモノを産み出すのが乱世というものだろうと、クロウは首を振るう。
 お互いが掲げる矜恃は、それこそ正反対。
 火と水、争いと平穏。
 光と影のように交わることなく、そこに在る。
「引く訳にはいかねェ」
 ぎり、と強く玄夜叉の柄を握り絞めるクロウ。
「そしてどう語ろうと、詠おうと、最後に立っていた者が――正義だ」
 ただその一点だけは武の本質であるが故に。
 正義を譲らぬと、クロウの猛る想いが炎となって玄夜叉の刀身に纏わり付く。
 ああ、されど鬼は詠う。
 哀しく、悲しく、美しく。
 くすくすという唇より弾む、透き通る聲。
 色亡き心の音色。
「けれど、誰が為といいながら」
 軽やかに斬馬刀を掲げ、白鬼は戦に舞う。
 その身、魂、果てるその刹那まで。
「自らの|理想《ユメ》の為に振るった瞬間、アナタもまた鬼。そして、過去の|想い《ユメ》の為に振るったことはないと」
 鬼の冷たい眼差しが、クロウを撫でる。
「そんな悲しいことを、あなたは謂うのですか?」
 否とは謂わせない。
 自分の願い、想い、或いは過去と理想の為に武を得て、刃を振るう。
 でなければ今のような交差は在りもせぬ。
 だからこそ、夕凪もまた言葉を重ねた。
「……禅問答。武の基本ではありますが、答えがないことをこそ、答えとする」
「が、問い続けねば武は腐るものですよ」
 そう言い合う白きふたりの間に割り込むように、クロウは身を躍らせた。
「違いねェ」
 間違いではない想いと言葉を突き刺されてなお、決して揺らがぬはクロウなればこそ。
 己の|色《こころ》は、己が意思でしか揺れはしないのだと、果断なる微笑みさえ浮かべて見せる。
 そんなクロウの美貌と伴う頼もしさ。
 反面、敵にした時の恐ろしさ。
 両者にただひとつ等しく同じは、見たモノの武心を躍らせる笑みという事のみ。
「言葉だけで変わるようなら、俺たちは此処にいねェんだよ」
 故に結末は、辿る路は劍にて決す。
 視線を交差させたクロウと夕凪が左右に分かれるように跳躍する。
『遠つ神恵み給え』
 同時に紡がれるクロウの言霊より、誘われるは破魔なる炎纏いし朱の鳥。
『――我が敵を切り裂かん』
 霊力で紡がれた翼をはためかせ、高く鳴くは聖鳥。
 形を得た朱鳥が空中で身を翻した瞬間、刃のように鋭い朱色の羽根が白鬼へと殺到する。
 が、また白鬼も容易ならざる難敵。
 朱鳥の姿を見るや否や、その瞳を狂気に染めて輝かせ、鋭く呼吸を吸い上げる。
 直後、荒れ狂うは暴風の如き斬馬刀。
 触れただけで斬り壊すという猛威と速度。
 破魔を宿した朱の羽根の殆どを斬り散らし、二割がたに身を貫かれてもなおクロウへと突き進む白鬼に衰えはない。
「上等……!」
 が、気と注意を分散さればそれで十分と踏み込むクロウ。
 白鬼の斬馬刀は一息に九度と瞬き、死を奏でるものなれど、霊鳥の羽根にしてそれは減じている。
 ならば斬り崩す隙もあろうと玄夜叉で受けた瞬間、クロウの身に走る凄まじい衝撃。
 岩であれ、鋼であれこの刃にて斬り砕く。
 狂気にも似た一念によって、一度に九度の剣速を得た斬馬刀はただただ恐ろしい。一度折れた玄夜叉の刃金が、再び悲鳴を上げる。
 が、クロウは怯まない。臆さない。揺らぐ事なく更に前へと踏み込むのだ。
 暴風の如き勢いを逆に利用し、放つは紅蓮の焔刃による熾烈なるカウンター。 
 紅き色彩が路となり、未来を拓かんと鮮烈なる色彩をもって奔り抜ける。
 さながら太陽の一閃。
 譲らぬというクロウの|意思《こころ》の激発。
 白鬼の身を捉えた灼刃が鮮血を散らし、焔と共に白鬼の身に赤という色を飾る。
 されど、のみで終わらぬ。
 鬼が哭く。詠うを辞めた白鬼が刃で告げる。
 瞬間で放たれるクロウへの連閃。身を捌いて躱そうにも、斬馬刀の間合いと速さがそれを許さない。
「っ」
 身を刻まれ、同じく血を流すクロウ。
 回避には至らぬ。が、それがどうした。
 激痛ごときでクロウは怯まず、止まらず、揺るがずに動き続ける。
 この状況は一度に九回と速度を跳ね上げた斬馬刀の殆どをクロウが引き受けたということ。
 つまりは夕凪を脅威から遠ざけ、その刃を自由と自在に振るう好機を作ったということ。
 故に、クロウに応えるべく、夕凪は鋭い踏み込みを以て白鬼へと躍り出る。
 黒刃一閃。影の如く静かに、白鬼の脚を捉えた妖刃が動きを鈍らせる。
 ならばと続けて瞬く黒き妖刀は牽制と翻弄がため。
 援護を受けた朱の焔劍は、鬼の暴風たる斬馬刀をも焼き尽くす猛威を示す。
 互いの死角を消し、相手の隙を紡ぐ為に奔るクロウと夕凪の刃。
 息を合わせたふたりの前では九度という剣速を十全に活かせず、振り終わった直後の鈍りを晒すのだ。
「いくぜ、夕凪。いい所をよォ、見せてみろ」
「云われずともです。旅は、想いは無意味ではないのだと」
 剣で示すのだと。
 左右に回り込み、挟撃したふたりが同時に斬撃を放つ。
 朱と黒。鮮やかさと、静けさ。
 ふたつの剣閃は、決して独りのみで紡ぐことの出来るものではない。
 そう、独りでは、決して届かぬ|領域《こたえ》。
「ああ」
 独りあった白鬼は深く身を斬り裂かれ、血を流す。
 色と心とを喪った身が、更に命を零しながら、なおと斬馬刀を振るうからこそ。
「そうだ。残ってるもンを全部、俺に示してみな」
 決して否定はするまい。
 勝って最後に立っている勝者が全て。
 けれど、戦いの果てに何も残らないのは悲しいだろうとる
 せめて、せめてとクロウは二つの色彩を纏う眸を向けるのだ。
 相容れぬからと、存在の全てを認めぬのはなんと――悲しきことかと。
「見て、覚えてやるよ。認めはしなくとも、お前がいた事、忘れはしねェ」
 傷口から止まらぬ血を一切気にせず。
 果敢に、勇猛に、そして毅然と笑って告げるクロウ。
 故に、夕凪もまた穏やかに言葉を浮かべた。
「ええ。あなたという存在も、鬼も、全てはしあわせへと至る旅路に、きっと必要なこと。忘れはしません。痛いほどの哀しみが、時として柔らかな優しさを産む種ともなるから」
 そうして、朱の焔刃と妖しの黒刀が鬼の魂と名残りを断つのだ。
 ああ。確かに。
 未来と世とは変わるものなのだと、舞う焔を見て鬼は微笑む。
 妖しきの念もまた、このように熾烈なる破魔の焔と共に在れる今ならば。
「もはや名残のように現世に言葉を置くことは、不要でしょう」
 そう告げた瞬間、しあわせを求める黒刃と。
 世界を照らす焔刃が、交差するように鬼の芯を斬る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
生憎と私は善ではないし、此の刃が“絶つ”為に在るという事を否定もせん
だが望まぬ戦いに平和を生きるものを巻き込む事を良しとする気は無い
何より過去の残滓が戯言に踊らされ、為すべきを見誤る心算も無い
護る為に。私に出来る唯一の方法として、斬禍を成すのみ

――妖威現界
大振りな構えからの大太刀の太刀筋は、何より能くと知っている
衝撃波で四肢へのフェイントを加えて長くは時を掛けさせず
近接へと持ち込み捌く
とは云え相手も武人、懐に入られた対処は心得ていよう
狙うは“切り替える”一瞬
最短最速の挙動で以って、目・腹・首の3点
怪力乗せた斬撃で潰せる限りを斬り払ってくれる

元より剣鬼――なればこそ、堕ちてはならぬと識っている



 正しきか、過ちか。
 それを指摘し、語るは戦うものではなかろう。
 刃でしか決する事の出来ない愚直さは、また武の姿なれど。
 向き合うモノの想いを端より否定しては、刀の冴えも鈍るというもの。
 ならばと。
 馨しき紫煙を吸い込んで、その愛しさに痛みを覚えて。
 ああ、大切とは痛いということなのだと。
 |痛み《いろ》を喪った、美しいだけの鬼の歌の終わりを聞き届けるはひとりの烈士。
 閉じた瞼が開けば、石榴の如き深緋の隻眼が顕れる。
 そうしてしばしの、沈黙のあとに鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は深く、深くと声を響かせた。
「生憎と私は善ではないし」
 鞘走る音を響かせ、夜闇を裂いて顕れるは名刀たる秋水の怜悧なる姿。
 思わず周囲の視線を引きつける鋭刃を以て、告げるのだ。
「此の刃が“絶つ”為に在るという事を否定もせん」
 手に在る、此の刃のみならず。
 刃を執り続けるこの身もまた、断つものなれば。
 否定など出来ようか。
 断つものがなくなった時、刃とは存在価値を失うというもの。
 鞘に在りて価値ありと云えど、抜かぬならばその真価は修めることにあり。
 戦いにあったものが、泰平の内に輝きを喪うはまた道理。
「だが、望まぬ戦いに平和を生きるものを巻き込む事を良しとする気は無い」
 ゆっくりと。
 だが刃金の如きと真っ直ぐに、そして澄み渡る鷲生の声。
 それこそ自らは刃であると示すかのような声色で、なお続ける。
「何より過去の残滓が戯言に踊らされ、為すべきを見誤る心算も無い」
 白鬼もまた過去の残滓。
 一度、命を喪い、それでもまたと蘇った過去より浮かびし泡なのだ。
 今を生き続けたものではないが故に、今を生きるものとは断絶がある。
 あの白鬼という残影は、結局は戦国の世で存在が留まっている。変わらない。進まない。
 ただ澱み、周囲を侵すのみ。
ならばこそと、鷲生は紅の眸を細めた。
「護る為に」
 この腕で、大切なる温もりと約束を抱いて。
 それを何時まで、何処まで続けられるかと、痛みを抱き続けるその為に。
「私に出来る唯一の方法として、斬禍を成すのみ」
 そこに鬼との違いが在ろうか。
 ああ、云われた通り違いなどないのかもしれない。
 何かひとつの為に、この身と魂捧ぐ想いは。
 或いは。
 誰かの為にと、願いの為にと在りし姿は。
「ああ、話の分かる鬼で助かりました」
「ならば解ろう。言葉で為すことが、もはやないと」
「ええ。ええ。……ですが、|心《いろ》があるならば、存分に声に滲ませるものが戦の華かと思います」
「いいや――戦に華など、最早求めん」
 それは、ただ喪い続けるだけの禍々しき渦故に。
「ただ、断つ。それだけだ」
 告げる鷲生が、深く吐息を吸い込み、自らの掌で秋水の刃に触れる。
 肉を斬り、血が溢れ、深紅の血とそこに滲んだ精神力を代価として、鷲生がこの世に顕すは天魔鬼神。
「――妖威現界」
 放たれる鷲生の言葉に、吐息に、そして存在にと凄まじいまでの圧力が掛かる。
 空気が軋む。風が止まる。
 決して立ち入ってはならぬ剣の領域に、月さえその姿を雲に隠した。
「最後の戦いだ。悔いなく、全力で来い」
 そうして秋水を諸手で構える鷲生。
 白鬼の斬馬刀。大振りな構えからの刀身の長い武器の攻撃と動きは。
 いいや、大太刀という太刀筋は、何より能く知っている。
 例え斬馬刀と大太刀と変われど本質は余りに近しい。戦場で荒れ狂う暴風であり、敵を断つ迅雷の刃だ。
 ならばその猛威を滑り抜けるのみと、呼吸を整えた鷲生が地を蹴る。
 同時に秋水の切っ先から放つは、白鬼の四肢へと向けた衝撃波。これで決まる筈のない虚の攻勢だが、同時に颶風雷刀の構えを長くは続けさせぬという意思。
 避けるか。受けるか。
 身で幾らか受ければ、痛みは無視出来ても斬撃の勢いは消し去れぬ。
 姿勢が崩れた所にと踏み込まれれば、これが致命の隙と成り得る。
 と、白鬼も深く理解しているが為に、水が流れる如く動き出す。
斜め前への跳躍で鷲生の起こした刃風を躱し、腕へと迫るものは柄で打ち壊す。
 躍るような白鬼の姿から滲むのは強烈なる剣気。
 そして凄絶とも言えるほどの一閃が、さながら稲妻の如く鷲生へと襲い懸かる。
 速く、重く、そして鋭い。
 諸手で受けた瞬間、鷲生の怪力を持ってしても腕が痺れ、秋水の刃金が悲鳴を上げる。僅かでも力の加減を間違えれば、刀身がへし折れて鷲生の身ごと両断しただろう。
 が、僅かでも鷲生が刀にて過つことはない。
 拮抗し噛み合った刀身が砕かれる寸前、緩やかに傾けて斬撃の威を受け流す。
 云うは易きが、為すは困難。猛然と吠える剛剣を受け止め、その勢いと向きを理解してこそ出来る技。最初に撃ち合う気勢と力、留めた後に流して捌く技。何より、死を告げる断刃を前に怯まぬ心が求められる。
 されど、それを為してこそ剣士というもの。
 戦いの裡にて、呼吸をし続ける為に必要なことで、誇るようなものではない。出来なければ死ぬ、それだけだ。
 故に、それを必ずや為すという鷲生の鍛錬と精神の有り様が、刃金の音色として周囲に響き渡る。
 決意。覚悟。或いは、矜恃というべき凛烈な音が夜を裂く。
 刹那、更に踏み込む鷲生。
 大太刀に斬馬刀。大きな長物ほど、懐に入られれば自在には奮えぬは道理。
 刀を手繰る達人こそが小太刀を恐れ、無手の武芸者ほど恐ろしいと言わしめるものである。
 が、故にこそ間合いに踏み込まれた時も対処と武技を心得ていよう。事実、呼吸より速く白鬼の握りが変わる。構えと姿勢が、ゆらりと移ろう。
 鷲生が狙っていたのはその構えの切り替えという一瞬の隙。
「――そこだ」
 何かしらの技が出る寸前にと、最短最速を以て鷲生の剣風が吹き荒れる。
 秋水の白刃が狙うは悉く急所。急ぐ余りに十全の力が乗らぬならば、鍛えようのない箇所を斬り裂くのだと、鷲生の剣光が死の軌跡を描く。
 狙うは目・腹・首の三点。
 踏み込むと同時に放った脇腹は、白鬼の臓腑までも確かに斬り裂き、唇より赤黒い血を零れさせる。
 翻りて続くは目への斬撃なれど、僅かに頭を傾げて躱す白鬼。額が斬られ、鮮やかな血が白い肌に零れ落ちる。
 そして首筋へと秋水が触れようとした、その瞬間。
「ふふふ」
 とても軽やかな鬼の吐息が、鷲生に届く。
「――っ!」
 在ろう事か白鬼は自ら更に前へと深く踏み込んだのだ。
 秋水の切っ先が喉を撫で斬るが、逆に間合いが近すぎるせいで命に届くような深さには至らない。
 むしろ、交差法のように放たれた斬馬刀の柄頭が鷲生の胸部を押し潰し、砕くように撃ち付けられている。
 両者が感じる激痛。
 されど。

 されど、動いてはならぬと至近距離にて静かに佇む両者。

「…………」
「ふ、ふふふ」
 方や毅然と睨み、方や緩やかに微笑んでみせる。
 が、ふたりを結ぶ事実はひとつ。先に動いた方が、相手の刃に斬られるということ。
 鷲生の秋水は脇構え。翻る寸前なればこそ、本来は先に動けるが、近すぎる間合いを外さねばならない。
 白鬼の斬馬形もまた下段だが、これより後ろに飛びながら切っ先翻して釣瓶の如く奔り抜けるのだと解る。
 両者、一度の後退が必須な至近距離。が、先に引けば相手が有利。
 ならばどうすると脳裏に高速で浮かび、消える技と駆け引きの数々。
 が――その読み合いを先に踏み越えたのは鷲生だった。
「知れたこと」
 その呟きと共に、半身を翻して後ろへと退く鷲生。
 それを好機と、地を這う斬馬刀を渦巻く颶風のように上へと跳ね上げる白鬼。
 完全に後の先を取った白鬼の必勝。
 に見えるは、互いを知らぬ者のみ。
「ああ、知れたこと――そうするということは、あの男の剣から能く知っている」
 大太刀の太刀筋は能く知るが故に、こう来るとは解るのだ。
 半身を翻しながら、されど鷲生が見せたのは刺突の構え。冴え渡る切っ先は、地より這い上がる斬馬刀を映して、なお冴え渡り揺らがぬ。
「故に、疾くと穿つのみ」
 そう、鷲生が狙うは『切り替える一瞬』。
 間合いが近くなれば、構えが変わるように。
 間合いが遠くなれば、また構えは変わるのだと。
 柄の握りが、足先の運びが違うのだと。変わるのだと。
 その刹那を貫くが如く、神速の一閃が白鬼の胸を貫いた。
「――――」
 溢れる鮮血に、白鬼の微笑みの聲も掻き消される。
 ただこれでよいと。
 死の匂いさえ感じる戦いの裡に、それでもその先に光が見えたのならばと微笑む白い鬼の美貌。
「ああ。そうとも」
 貫いた刀身にて抉ると同時に、鷲生は呟く。
「元より剣鬼」
 死の間際に微笑む白鬼の貌は、なんとも見慣れたもの。
 かつて鷲生が水面や鏡を見れば、きっとそこにあったものなればこそ。
「――なればこそ、堕ちてはならぬと識っている」
 今を進むが為に。
 今に在りて生きる片割れが為に。
 約定が為にと過去を断つ刃が翻り、白鬼に終わりを刻む。
 剣刃を閃かせる指に在りしは血の赤ではなく。
 暮相という静かなる光と、未来果てるまで続く我が儘なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…然り。
いかに戦の理由を語れど、その中で振るう力はただ命を断つ術に過ぎません。
それを振るい、相容れぬ者を否定し業を重ね続ける我が在り様は貴女の言う鬼と相違無いのでしょう。
武とは命の数だけ答えを有するもの。貴方の殺す為の武もまた正しい道の一つです。

されど、我が武は力を以て成るに非ず。
研鑽の末に有した力を其れに溺れる事なく律し揺らがず、命を慈しむ精神の在り様こそが『武』。
即ち武とは己自身にこそ向けて振るうもの。

故に殺しの技術など小手先の業に過ぎず、戦場での美など求める事は無し。
貴女の武が、今を生きる民を脅かすものなれば。

──我が|武《こころ》を以て、その刃を断たせて頂きます。


UC発動、落ち着き技能の限界突破、無想の至り。
相手も無想に至るとあらば勝敗を決めるは境地の深さ、積んだ研鑽の質。
野生の勘、見切りで攻撃を感知し刃を無手にて側面から弾き、逸らし、体幹が崩れれば殺人鬼の技も併せた致命の一撃を以て止めを


…私の武とて、答えの一つに過ぎません。
貴女は貴女の『武』を見出して頂ければ幸いです、夕凪様。



 美しくも、禍々しく。
 悲しげながら、楽しげに。
 詠われるは色喪いし白き鬼の歌。
 もはや、この世とは相容れぬと分かりながら。
 それでも過去の影として、詠う鬼の心。
 姿は血で斑に染め抜かれて赤を帯びながらも、現の|想い《こころ》を得ることは叶わず。
 ああ、とか細い喉が鳴る。
 やはり鬼は、乱世という過去にあってこそなのだと憂いを滲ませながら。
「……然り」
 故に、頷くは武を知る今に在りし真白き姿。
 今を生きて、未来と歩む。
 そう定める月白・雪音(月輪氷華・f29413)が、静かに声を紡いでいく。
「いかに戦の理由を語れど」
 雪のような純白な色は、儚げさと繊細さを思わせても。
 清澄なる月に似る雰囲気は、神秘さえも感じさせても。
「その中で振るう力はただ命を断つ術に過ぎません」
 語り、告げるは武の深き業。
 どう在ろうとも、どう足掻いて変わろうとも変わらぬ根本を、あまりにも穏やかに語り続ける。
つまる所、何処までいっても武人とは人殺し。
「それを振るい、相容れぬ者を否定し」
 異なる想いと夢、理想を刃で斬り刻み。
 柔らかなる願いさえ、拳と脚で踏みにじる。
 勝ったものが正義といい、敗者を悪と騙る自分たちの弱さを知り、恥じながらながらも、止める事が出来ない以上……。
「……業を重ね続ける我が在り様は貴女の言う鬼と相違無いのでしょう」
 ああ、それでも。
 もしも祈ること、求めることが罪ではないのならば。
 深紅の眸をふるりと微かに揺らして、雪音は紡ぐ。
「武とは命の数だけ答えを有するもの」
 だからこそ、雪音の答えはまち違う。
 辿り着ける場、最後に握り絞めるひとひらは違うのだ。
 この武は力なき民の安寧の為に。
 乱世という戦火を鎮め、微笑みを浮かべる穏やかな水面のような世界の為に。
 火嵐は不要。
 路は花の蔦が如く柔らかに続くのみ。
 そう心に定めながら。
 そう定めた自分もいずれは討たれて果てると、雪音は深く心に置きながら。
「貴方の殺す為の武もまた正しい道の一つです」
 それは今ではないのだと。
 為すべきがあるのだと、緩やかに足を踏み出す。
 殺される訳にはいかないのは、また同様なれど、確かに見据えた先が雪音にはあるのだから。
 殺す以上は、殺される事も善しとしながらも。
「されど、我が武は力を以て成るに非ず」
 淡き雪が舞い踊るように。
 しんっ、と静まりかえるような空気を伴って、拳を握り構える雪音。
 寸鉄帯びぬ徒手空拳。それが雪音の武芸の形であり。
「研鑽の末に有した力を其れに溺れる事なく律し揺らがず」
 その器の裡に絶えず注ぎ続ける精神は、澄み渡る慈悲と決意。
 例え殺すしか能がないと云われ続けても。
 然りと頷き続けても、決して揺るがぬ雪音の|想い《いろ》。
「命を慈しむ精神の在り様こそが『武』」
 色を喪ったのではない。
 他に犯されぬ純白の様こそ雪音の武心。
「即ち武とは己自身にこそ向けて振るうもの」
 故に華美など要らぬ。
 華法を以て美しく装飾されたものなど何となろうか。
「故に殺しの技術など小手先の業に過ぎず」
 言い訳は不要。ただ、そこに真実さえあればよい。
 それが命を脅かす冷たさであろうとも。
「戦場での美など求める事は無し」
 心地よい欺瞞の笛鳴らす調べは要らぬと、雪音は重い息を吐いた。
「貴女の武が、今を生きる民を脅かすものなれば」
 後戻りなど既に出来る筈がなく。
 まるで猛虎のような威圧を伴って、雪音は告げる。
「──我が|武《こころ》以て、その刃を断たせて頂きます。」
 そうして、奔るは死の情景という白の猛襲。
 一足で大地を蹴り抜き、低く、低くと身を屈めて迫る雪音。
 同時に精神と情感の波を落ち着かせ、心が至るは無想の至り。
 止水明鏡では足りぬと、形も、色も、音をも透き通る世界へと雪音は埋没していく。
 無念無想の武心。
 あらゆる技が、武が、形を為す前に心が掴み取る。
 組み立ても出も自在。己が限界を超えた覚醒の領域にと踏み込むのだ。
『あふなわるや』
 ただし、それは白鬼も同じこと。
 自己暗示の祝詞によって発動された無我の境地は、されど雪音と違い狂気の様相を帯びている。
 が、純度が低い訳ではない。
 それだけ質がヒトより鬼の側へと寄っているということ。
 ならばこそ、勝負は余りにも明白。
 友に無念無想へと至っているならば、勝敗を別つは境地の深さ、そして積み上げた技の研鑽。
 故に揺れ動かぬ自負を互いに持っている。
 矜恃があるからこそ、同等の存在と立ち向かい、怜悧なる美貌を見せるのだ。
「さあ」
 白鬼の斬馬刀が剣風を伴い、荒れ狂うその寸前。
「鬼との戯れを始めましょう。鬼の歌に惹かれた、武人の夢として」
「ならば、その歌は」
 誰が始めたのか。
 鬼の歌に惹かれて白鬼が、今の修羅と成り果てたのならば。
 誰がその禍歌を、戦の祈りを始めたのか。
 ああ、最早、論ずることも尋ね返すことも出来はしない。
「――此処にて、この拳にて断たせて頂きます」
 白刃の真上に踏み込んだと悟る雪音は、ただ静謐なる深緋の双眸で総てを映すのみ。
 颶風と化すは地より這い上がる斬馬刀。
 下段より横薙ぎにと奔る斬刃は雪音の速さを警戒してのことか。
 いいや、立て続けに技を振るう為。左右、後退を許さぬ間合いとなればこれは跳躍して避けるしか出来ない。
 故に、相手の組み立て通りにその場で跳び、斬馬刀を避ける雪音。だが、超高速の鬼の剣舞は止まらない。
 そのまま空中にある雪音へと放たれるは、地より跳ね上がる逆さの三日月。
 空中にあれば避けられまい、受けるならば如何に――など甘いことを白鬼もまた考えてはいない。
「鬼よ、貴女の刃は美しい」
 故に、此度に詠うは雪音。
 空に有りて刃に晒されながら、なお紡がれる玲瓏たる月の音色。
「それを為す想いもまた、かつては美しかったのでしょう」
 故にこそと、誠心誠意。
 或いは一念を以て全力を燃やすのだと、空中で身を捻り、白き虎尾を靡かせる雪音。
 空という足場なき所でなお脈動するしなやかなな肢体。姿勢制御、更には体重を以て放つ拳に勢いを乗せるのだ。
 狙うは斬馬刀の側面。
 どれほどに凄絶な剣であれっても、むしろその威が強烈であればあるほど、僅かな打と誘導で太刀筋は狂う。
 刃金を撃つ拳の轟音。まるで氷が砕けるような音だが、事実、それを以て雪音の指の骨の六割は砕けている。
 互いに込めた力と速度が強すぎる。肉体の限界を、道理と条理の限界を奏でるように、潰れた雪音の拳より血が吹き出る。
 だが、それで善い。
 生死を別つ野生の嗅覚、鍛錬で培った見切りの心得で斬馬刀の太刀筋を悟れればそれで十分。
 無傷で勝てぬ相手とは、理解しているのだから。
 これは鬩ぎ合い。互いに無念無想ならばこそ、心に募った武芸の多寡が全てを定める。
「ですが、貴女は色を亡くした。心を、喪った」
 故にこれは道理。
 例え不条理めいた|超常《ユーベルコード》の力を持ってしても、雪音はそれを踏み越えていくという証。
「…………っ」
 白き稲妻めいた剣威を以て触れた雪音の拳を砕いた筈の斬馬刀。
 けれど、白鬼の手繰る刀身は大きく弾かれ、逸らされ、切っ先は虚空を滑るのみ。
 何も捉えられず、戻るにも戻れぬ。
 それこそ修羅の道行きが果てを示すような剣弧は確かに美しく、けれど何も色も心も在りはしない。
「それでは、私を討つこと叶いません」
 ひそりと音もなく着地する雪音。
 さながら細雪。音もなく地に足が付いたと思えば、幻惑するような真白き残像を伴って襲い懸かる。
 歩法にて先読みはさせず。
 されど、必ずや命奪うと死の気配にて静かに迫る。
 が、此処にても反撃を紡ぐからこその無念無想。
 迫る雪音へと空を切っていた斬馬刀が切っ先翻して強襲し、破刃が猛然と吠える。
 最短最速。身体を断つではなく、気勢を砕かんとする一刀。
 雪音の矮躯で受けるには足りぬ。
 が、避ければまた暴風の如く荒れ狂う刃が走り始めるだろう。
 ならばこそと雪音の無念無想は、己が身を捨てるを選ぶ。
 我が身可愛さ、痛み怖きという我執など今の雪音にある筈がない。
 身を断つ気概のない刃など恐れずに足りず、砕けていないもう片方の拳を、僅かな躊躇いもなく斬馬刀の側面へと手刀として叩き付ける。
 結果として先の如く、斬馬刀は横手へと弾かれ、捌かれ、そして雪音の手は砕けて血を流す。
 されど、先と違うのは確かに雪音は地を踏み込んでいたということ。
 故に、最初の交差以上に大きく剣筋を弾かれて白鬼の体幹、姿勢が崩れる。これほどの猛撃とはと、己が斬馬刀に勝るとも劣らぬ雪音の怪力に眸を揺らす。
「何、と」
 無念無想。雑念など互いに棄てている。
 故に勝敗、命に関わらぬのであればと負傷を是として拳を振るった雪音。そこから立て直すべく、気を砕かんと迎え撃つ白鬼。
 避けても狙いは気勢。勢いを挫かれて間合いを離されれば刃嵐に呑まれると、再び雪音は身体の自壊を恐れずに果断を為す。
 言うまでも無く、白鬼の狙いたる気勢を挫くは成功している。
 が、それ以上に雪音が白鬼の隙を、命に至るまでの間隙を紡ぎ、瞬間で踏み込んでいるだけ。
 結論だけいえば、互いに自らの意を、自らの無念に至る武の境地を押し通す戦いでもあった。
「何とも。鬼を喰らう美しき虎の姿ではありませんか」
 気高くも凜々しく、自らの傷など厭わぬその姿。
 ああ、まさしく猛りし白虎。
 ただ一撃。一撃を以て致命に至らせるとその牙を、心で紡ぎし者。
 龍をも屠らんとする拳撃に鬼は微笑む。
 ならばよし。
 武と戦の猛りは、毅然とした誇りは此処に在る。
 負けて、死んで、悔いず恥じぬ。
 どのような理想、在り方であっても、異なるからこそ尊びながら命を奪う業。
 そんな相手があってこその、白鬼の|武《こころ》だから。
「善き戦と夢でした」
 息も交わる程の至近距離で囁き、詠う白鬼。
 さながら辞世とも、賛美とも取れる言葉に雪音はただ耳を澄まし、身ごと旋風の如き翻して蹴撃を放つ。
 鋭き三日月を放つは白き矮躯。
 なれど、身と心に培いしは凛烈なる武の専心と、不条理に立ち向かう冷たくも澄んだ志。
 死神の鎌刃を思わせる。
 いいや、或いは真冬の凍月を思わせる蹴撃が白鬼の頸を打ち抜き、その命を奪い去る。
 白鬼の貌は微かに、笑っていただろうか。
 ただ全ては冬の、白き色彩に。
 美しくも凍て付く死の情景に染まるかのように。
 戦の終わりは静寂に包まれていた。
 命の儚さ、危うさ、そして終わりというあっけなさを、無常を感じさせるように、ただ音もなく風が吹き抜ける。
「……私の武とて、答えの一つに過ぎません」
 もはや拳を握りしめることも叶わぬ両手から、ぼたぼたと血を零しながら。
 それでも構えをとくことなく、するりと身を翻す雪音。
 例え、屠ったとしても。
 勝ったとしても、そこで構えをといて喜ぶなど礼を失うものだと騙るように。
 そうして、雪音は己が血よりもなお鮮やかな紅い眸で夕凪を見つめる。
 この様な、死の匂いと気配の満ちた。
 美しい冬の、真白き戦と武などではなく。
「貴女は貴女の『武』を見出して頂ければ幸いです、夕凪様」
 叶うならば、花にはいろを。
 幸せなるいろをと、雪は願いて募るのだから。
 そうして春に溶け出して流れる想いが、数多の心のいろへと至るならば。
 それは幸いなること。
 そう、無辜なる民の為に。
 あまねく無数の人々の幸せと、夢の為に。
 この死しか紡げぬ業深き雪色の身が、尽くせるというのならば。
 雪音の命が討たれ、或いは、時の果てに消え果てた時こそ、力なき民が微笑む安寧の世界となろう。
 その為に――。
「けれど、傷は、傷です」
 その為に、と思えども。
 夕凪が近寄り、雪音の手にと布を添える。
「誰かの傷と血で、武たるもの、幸せたるもの、見出したくはありません」
「…………」
 そう告げて応急手当をする夕凪に、雪音は僅かに目を細めた。
 情動の表し方を知らぬ頬は、ぴくりとも動かせず。
 眉もどうすれば形を変えるのやら。
 ただ耳と尾は、ゆらりと夜風のように揺らめいて。
「……左様で」
 静かに、静かに。
 そして深く、戦の終わりを告げるように雪音は囁き、頷いた。




 斯くして戦に鬼は果てて散り。
 天蓋の郷なる場への道筋を知ることとなる。
 由来と所以は、過去より続き、未来へと繋がるものなるか。
 それは今の噺ではなく、次なる噺。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年09月14日


挿絵イラスト