#クロムキャバリア
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不意に零したそれは|呼吸《いき》か咳か。
……否。そのどちらでも無いのだと、地に撒き散らした暗い赤が告げていた。
何のことはない。生ある者ならいつか必ず迎える『それ』が、すぐ其処まで来ているという、それだけの話。
――故に。
●命の終わりに見るものは
「とある大陸の西端。海に面したその国の成り立ちに、特異なコトは何もない。およそ百年近く前、戦禍の絶えない世界で如何にかプラントを確保した|人物《リーダー》と同志たちが国を建て、現在ではその子孫達が王族・貴族の地位に納まって政治や経済の中枢に居る……ってのは、無数の小国家が乱立してるクロムキャバリアじゃあ、よくよくありがちな話だろう」
……で。偉大な創始者の二代目以降が初代同様優秀かと言うと別にそうじゃ無いってのも良くある話でねぇ。と、デボラ・ネビュラ(魔女・f30329)は皮肉めいた|表情《かお》で肩を竦めた。
「建国以降、数十年かけてゆるゆると落ち続ける国力。事は内政のみならず、自国の狙う敵はどこにでも。血筋や家柄で国家運営を継承した能力平々凡々なお貴族様達にはひっきりなしに難局が押し寄せて、まぁ大変さ。その国のそれまでの歴史は、そこそこ上向いた瞬間もあったけど、大体常に斜陽の記録。それでも特権を手放したくない|お貴族様《凡人》達は、無い知恵絞ってこう考えた。『国の創設者の血を引く超有能な人物が居れば、全部解決するんじゃない?』ってね」
そうして当時の技術の粋を集め、次代の指導者となるべく人物を遺伝子から徹底的に『|設計《デザイン》』したのが今から二十数年前の事。
「その名をセウ王子。五つに満たない頃からキャバリアを駆り出すと、以後その国を脅かす外敵を悉く退け、未開地域の探索に赴けば犠牲者を出すことなく新たなプラントを発見し、長じて|政《まつりごと》に関わり始めたら、国内もすぐさま活気に満ち満ちて――文武両道、眉目秀麗、戦に内政、何をやらせても完全完璧、おまけに性格良しの抜きん出たカリスマ性。まるで天から遣わされたが如く、計画は出来過ぎなくらいお貴族様達の思惑通りに大成功。彼の活躍していた期間こそ、その国にとって燦然と輝く黄金時代と呼べるものになるだろうね」
……ただし。セウ王子の輝かしい功績を並べ終えたデボラの表情に陰りが帯びる。
「彼の超人的な能力には代償があった。精々まだ二十の後ろ位の歳なのに、もう――寿命なのさ」
けれどその事について、セウ王子に恨みはないと言う。戦争ばかりの世界なら、年端も行かぬ者の命が散るのも珍しくないが故に。これだけ生きられれば充分、と。
「死を目前にした王子の唯一の懸念は、愛しき国の発展と安寧を空の彼方より阻む『それ』の存在。即ち――」
徐に、デボラは天を指差した。
クロムキャバリアに於いて、その先にあるものは――蒼穹に座す|殲禍炎剣《ホーリーグレイル》ただ一つ。
「本来の聡明な王子なら、それを破壊しようなんて、そんな考え馬鹿馬鹿しいと切って捨ててしまうだろう。でも今の、今際の際の王子には立ち止まり、正誤を吟味する時間すら最早無く――その焦燥を、オブリビオンマシンに付け込まれてしまったのさ」
ひとたび殲禍炎剣に攻撃を仕掛ければ、それは忽ち一つの国を滅ぼして余りある|終末《おわり》を寄越すだろう。
マシンが望むのは世界の破滅。どうあれ王子が抱いた最期の夢は叶わない。だから容赦なく、或いは残酷に、打ち砕いてやらなければならない。
「そんなセウ王子周辺の異変に気付いたのが、彼のきょうだいの一人であるテハ王子。その性格を簡潔に言うならまぁ……兄貴とは対照的に血筋と家柄に寄っかかった放蕩三昧のバカ坊ちゃんだよ。馬鹿の振りして実は優秀とかそういうオチも特に無いね。頼りになるのは無計画で無軌道で莫迦みたいな羽振りの良さ位だ」
しかし、セウ王子直属の兵士達もオブリビオンマシンに侵され、殲禍炎剣打倒の宣言に、彼ならきっと成し得るだろうと国民たちも|お祭り《熱狂》状態。その国で猟兵の味方になってくれるのは、テハ王子と、彼を慕う一部のごろつきとチンピラと穀潰し達くらいしかいないだろうとデボラは溜息交じりに説明した。
「そんな訳だから、取り敢えずテハ王子と合流するよ。何やら秘策があると胸を張って言っていたけれど、言っていたけれどね……うーん」
まぁ逃げずに国の窮地に立ち向かうその心意気は買ってあげて欲しいと歯切れ悪く言葉を濁した。
「味方は大分頼りないけれど、相手は間違いなくその国最強の|アンサーヒューマン《エースパイロット》と最新鋭のオブリビオンマシンだ。その上……そうだね、結末が如何であれ、セウ王子の命はきっと保たない。国の危機を救っても、大勢の人間から恨まれて終ってしまうかもしれない。それでも……どうか、力を貸してほしい」
長谷部兼光
某ダ勢でした。
●目的
オブリビオンマシンの暴走を止め、殲禍炎剣攻撃作戦を阻止する。
・セウ王子:聡明な人物だが、死を間近にした焦りをオブリビオンマシンに付け込まれてしまう。アンサーヒューマン。
・テハ王子:キャバリア操縦技能も政治的才能も無いが、血筋と羽振りと面倒見は良い。普通の人間。希望するなら猟兵へキャバリアを無償提供してくれる。
●備考
・キャバリア搭乗の有無は判定に影響を与えません(乗っても生身で戦っても問題ありません)。
・プレイングの受付は、各章とも冒頭文を追加してから以降になります。
第1章 日常
『キャバデコ!』
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POW : カッコよく仕上げる
SPD : 可愛く仕上げる
WIZ : この世界に爪痕を残すレベルで独創的に仕上げる
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●放蕩王子のはかりごと
転移早々、煌々と輝く人工的な|照明《あかり》が猟兵達の|眼《まなこ》の奥を刺激する。幽か打ち寄せる波の音が耳朶をくすぐり、機械油と潮の混じった匂いがした。
辺りを見ると傷一つない新型からクラシックな量産機まで、多様なキャバリアが所狭しと肩を並べ……どうやら此処は、何処かの|倉庫《ガレージ》であるらしかった。
「よう。来たかい猟兵。歓迎会の一つでも開いておきたいところだが、ま、状況が状況だから、そういう訳にも行かねぇよな?」
猟兵達を歓迎したのは、余りガラのよろしくない連中を引き連れた、胡乱な男――彼がテハ王子なのだろう。
取り巻き達に比べれば、彼の身なりはそこそこ整っていたが、態度がそうさせるのか、動作を挟むたびにジャラジャラと擦れる無意味に高級そうな装飾品たちがそうさせるのか、どうにも胡散臭い印象が拭えない。
「早速本題に入るぜ。じゃないと明日にはもう――いや、さっき日付が変わったから、もう今日の話か。予定通りなら、今日の午後にはこの国、火の海だもんなぁ……」
殲禍炎剣撃破の一大イベントに、国中町中数日前からお祭り騒ぎ。だからまずはその熱気に紛れて機を窺うのだと王子は謀る。
「何も知らない住人達を隠れ蓑に使わなくたって、|猟兵《あんたたち》が来てくれたなら今すぐ夜襲を仕掛けりゃなんて、|お馬鹿な王子様《オレ》は思うワケだけど、どうやらそれは駄目らしい。|グリモア猟兵《ガイドさん》曰く、国が亡びる直前、兄貴の命が燃え尽きるその間際を突かないと、勝ちの目が一切見てこないんだと。予知の仕組みは知らないが、相手が兄貴ならまぁそうなんだろって納得しか無いな。あの人が負けてるところ見た事ねぇもん」
もっと言うと負ける姿も見たくねぇんだけどなぁ…と、テハ王子はやりきれない表情で周辺の地図を広げた。
「舞台はこの国の首都、城下町兼港町。西は港に海岸、地図の中心が式典用の大きな広場。街中は無数の人波やら出店やらでごちゃごちゃしてるだろうが、彼らに被害を出すのはNGだ。んで、兄貴の最期の仕事の邪魔はさせまいと多くの|精鋭《キャバリア》達が巡回し、熱気に反して迂闊な行動なんざそうそう取れやしない……だがね猟兵、自慢じゃないが、俺の日頃の行動は常に迂闊なんだ」
本当に自慢じゃない事を胸を張って自慢し始める放蕩王子。雲行きが大分怪しくなってくる予感がした。
「いいかい。俺が迂闊で胡乱で放蕩三昧の阿呆なのは、既に国民全員が知る所と言っても過言じゃない。なのでその風評を利用する」
「風評も何も、テハくんが日頃遊び惚けてるだけのちゃらんぽらんなのは揺るぎのない事実じゃん?」
「うるさいよ」
けたけた笑う取り巻きたちを軽く捌いて、王子は話を続ける。
「半端に隠れるよりむしろ喧伝するレベルで堂々としてた方が良いだろう。きっと。お祭り騒ぎにテンション上がっちゃった王子サマは、調子に乗って秘蔵のキャバリアコレクション展示会をあっちこっちでおっ始めるのさ。一応俺王族だし。国をどうこうする様な度胸も野心も無いこともとっくの昔にバレてるから、微妙な顔をされつつもごり押しに賄賂を乗せて駄々をこねればイケるだろ。多分」
そんでもってさらに警戒度下げる為に外国から新進気鋭のア~ティスト集団を招聘して、たのしいキャバリアペイント&デコレーション大会を開催する、などと宣いはじめた。
「そんな訳だから頼んだぜ|ア~ティスト集団《猟兵》さん。肝心の|キャンバス《キャバリア》に関しては注文あるなら、ほれ、リスト渡しておくからこっから好きなもん持っていくといい。コトが終っても、別に後で返せとは言わねぇよ」
国を救ってもらう報酬にしちゃ安いモンだろう。と、羽振りの良さに関しては、間違いなく王族のそれだった。
「特に要望が無けりゃこっちで勝手に見繕っておく。自前の機体を持っているならソイツを持ち込んで構わない。俺のコレクションの詳細なんざ誰も知らねぇし、エンブレムくっつけたり、デカール施したり、気分転換に愛機のカラーリング変えてみるのもどうよ? 夜間迷彩仕様とか。仕掛けるの真ッ昼間だけどな」
割と頓珍漢な提案だが、まともに考えれば一理ある。たとえ国を救うためとはいえ、どうあっても此方が襲う側なのだ。熱狂する民衆達から恨みを買うのは避けられないだろう。|出自を誤魔化すの《カムフラージュ》も悪くない。
「……何にせよ力作、期待してるぜッ!」
まともに考えない場合、本当に何もかも振り切ってキャバリアを芸術作品に仕立て上げるのもそれはそれでアリ……なのかもしれない。
「無い知恵と有り余る金を振り絞って俺が思いつくのはこんなもんさ。あんたたちも運が無い。仮に狂ったのが俺であんた達をサポートしてくれるのが兄貴なら、|作戦《コト》はもっとスマートだったろうが……ま、そこのところは我慢してくれ。全く、なんでこうなっちまったんだか……」
愚痴混じりのテハ王子が音頭をとれば、倉庫の内は忙しなく稼働し始める。何とか朝までには仕込み終えておくと、軽薄に笑いながら彼は言った。
●滅亡数時間前
空が白み始めてしばらく後。街中は既にどこもかしこも人の波。街の各所に運び込まれた|キャンバス《キャバリア》の前にも人だかりが出来ていて、あの放蕩王子がまたぞろ変な事を思いついたらしいなどと、いつの間にやらそんな噂話が飛び交っていた。
塗装やデコレーションに必要な道具も一通り揃えられ、どうやら本当に新進気鋭のア~ティスト集団を気取らなければならないらしい。足りないモノが有ればいつでも言ってくれと取り巻き達が丁寧に逃げ道を塞いでくる。
が、|芸術《アート》に決まった形などありはしない。ここは機が来るまで感性の赴くまま好き勝手やるのが一番の正解なのだろう。実際のところ、周囲から不審がられない程度に振舞えばそれで十分ではあるのだが。
――しかし、市内に持ち込んだこれらの機体で後に襲撃を仕掛けるという|計画《スケジュール》は、ほんの少しだけ……頭の片隅に留めておくべき、なの、かも。知れない。
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
さてどんな盆暗かと思いきや、随分と手前の事を理解してるみてぇじゃねぇか
己を過信する賢者と身の程を弁えた愚者、真に賢いのはどっちやら
オーケー、スーザンちゃんをハレの舞台に相応しくドレスアップしようじゃねぇか
おう任せろや
まずフルドレスフォーレイヴンズドウターを塗装しよう
普段は着せねぇ色にすっか、赤とか
っつーわけでオボロちゃんたち手伝ってくれ
ドでかいタンクに直結する剛毅なタイプの塗料スプレーで真っ赤に染め上げるぜ
その上から白でレースの縁取りを模した模様を描くわ
その間にスーザンちゃん本体もおめかし頼む
唐草模様的なボディペイントでヨロ
色はボーンホワイトの上からピュアホワイトとか粋じゃね?
六島・椋
【骸と羅刹】
力作。……力作(首を傾げる)
……なーんもわからん。創造ではなく解体なら自信があるが
エスタきみこっちに指示寄越せ、今回自分たちは腕になる
アーティファクトだかアーキテクチャだか知らんが、自分たちが動けば目は集めるだろうよ
自分と│骨《かれ》らとシャドウズで、エスタの指示通りに動いていく
汚れそうな作業は自分とシャドウズのほうで行い、それ以外の作業は│骨《かれ》らに頼もう
唐草模様的なやつな、りょーかい
粋とかそういうのはよくわからんが、ホワイトは好ましい
【早業】でそれっぽく早描きパフォーマンスでもやっておくか
なんなら皆で大げさに身振り手振りつけたりしながらやれば、それっぽくはなるだろう。たぶん
欧州の、古い街並みにもよく似た往来のその一角。
「力作。……りきさく」
腕を組み、瞼を閉じ、唸り声を上げながら、小首を右に左に幾度か傾げてみても、六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)の脳裏に広がるのは|閃き《星》一つない無明の荒野。
「……駄目だ。なーんもわからん。|創造《クリエーション》じゃなく|解体《デストラクション》なら自信があるが、見事なまでに専門外だ」
初めから無い|発想《もの》はどうやったって出て来やすまい。椋はあきらめたように|竜体骨格人形《ナガレ》の背の上へごろんと寝転び、天を仰ぐ。
ただ――降り注ぐ陽光、雲一つない青空、心地良い快晴に見せかけて、今この瞬間にも空のどこかから地上を気軽に滅ぼせる殲禍炎剣が睨みを効かせている、と考えると、通りすがりの身としても、それを憎々しく思うセウ王子の気持ちは良く解る。ひとたび火を噴けば骨片一つ残らなそうなモノが管理者を気取っている世界なんて、いっそ他の何処より地獄だろう。
「何だ? 愛を知らない破壊神みたいな事言ってんなぁ、椋」
自分とは対照的に、聞き慣れた声が矢鱈と弾んだ調子で近付いてくる。椋がナガレの背から身を起こすと、そこには種々の機材を抱え、ばっちり|作業着《つなぎ》を着込んだエスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)の姿があった。
「失敬な。|骨《かれ》らへの愛ならいつだって無尽蔵だとも。というかやたらと似合ってるが何だその恰好」
「いやなに、|倉庫《ガレージ》に丁度いい|新品《の》があったからな。いつものカッコで作業をすれば俺までカラフルになっちまうだろ?」
キャバリアやるって言ってんのに作業着一着で良いなんざ何とも奢り甲斐が無い、なんて王子には呆れられたけどな、と、エスタシュは笑う。
「ちょいと話してみりゃあ、どんな盆暗かと思いきや、随分と手前の事を理解してるみてぇでな。己を過信する賢者と身の程を弁えた愚者、真に賢いのはどっちやらだ」
何にせよ。愚者に乗って道化を演じなければ国を救えないというなら、そうするまでの話だろう。その上で今は『機』を待たねばならない。だったら座して待つよりも、楽しんで過ごした方が|健康《からだ》に良いに決まってる。
「オーケー、それじゃスーザンちゃんをハレの舞台に相応しくドレスアップしようじゃねぇか!」
声高らかに宣言し、エスタシュは徐ろ角に運び込まれた機体の|防護カバー《ヴェール》を引き剝がす。そうして現れたのは――鴉の如き|鋼《翼》を纏う、巨大な人骨型のキャバリアだ。
露わになったその姿に歓声とどよめきが巻き起こる会場。そうして一人の子供が満面の笑顔で勢いよくスーザンちゃんを指差すと、
「あー! 燃焼系カルシウムほね子だー!」
「……チガウヨ? スーザンちゃんだよ?」
即座ツッコミを返そうと思ったが、年端も行かない子供相手に声を荒げるわけにもいかないと自制した結果、エスタシュは不自然なカタコト口調で間違いを窘めた。
「えー? でもそこの看板に書いてあるよー?」
そんな訳あるかよと看板を覗き込んだら本当にそう書いてある。あの王子センスがポセ男並みの愚者だった。
「|バトルオブフラワーズ《キマイラフューチャー》……随分と懐かしい。彼女も元気そうで何よりだ」
「おう。スーザンちゃんは何時だって絶好調さ」
「……それは重畳。しかしエスタ、今更な話だが、此処から皮も肉も削ぎ落したそのフォルムに何か着飾らせる必要ってあるのか。ありのままでも十分じゃないか」
椋の素朴な問いかけに、それも十分|芸術《アリ》だなと機材を物色しながらエスタシュは返す。
「けど今の俺はスーザンちゃんをおめかししたくて仕様が無ぇ。だから思う様存分にそうする。|衝動《アート》なんてなぁ、つきつめちまえばそんなもんさ」
そんなもんと言われても、一体どんなものなのか、椋には結局良く解らない。ただ、相棒がはしゃいでいるのに茶々を入れる程野暮ではないし、芸術は爆発だとどこかの世界の何かの折に聞いた覚えはある。爆発と言えば火力、火力と言えばエスタシュなので、やはり此処は彼に任せるのがベストなのだろう。
「エスタ。きみ、こっちに指示寄越せ。今回自分たちは腕になる。アーティファクトだかアーキテクチャだか知らんが、自分たちが動けば目は集まるだろうよ」
言いながら、椋の内より外界へ靄が滲みだす。黒い靄は九つに別れ人の形を成すと、それぞれが機材とスーザンちゃんを眺め――眼がある訳では無いのだが――エスタシュ親方の指示を待つ。
物を持てる靄。靄だから塗料で汚れない。椋本人に興味が無かろうと塗装要員としてはこれ以上ない位に適任だ。
「おう任せろや。それじゃあまずは|フルドレスフォーレイヴンズドウター《アーマー》分離させて、そっから塗って行こうぜ」
「色はどうする。|群青色《いつものやつ》か」
「いや……折角だ。普段は着せねぇ色にすっか、赤とか。っつーわけでオボロちゃんたち手伝ってくれ」
靄達が手分けしてアーマーを外し、エスタシュはスーザンちゃんドレスアップ計画の完成予想図を頭の中で描き切ると、椋の指より伸びる糸の先、骨格人形達へ声を掛ける。オボロ達はかたかたと、首の骨を上下に動かして、すぐ近くに停めてある|物置《トレーラー》から群青色の塗料の詰まったドでかいタンクを担、ごうとしたが。
キャバリアを塗装して足りるだけの塗料となると必然分量も重量も相当なものなのか、『お徳用』のシールが貼られたドでかいタンクの全長は、ほぼほぼキャバリアのそれ並みで、ヨハとナガレが曳き、オボロが押し、サカズキ組とハガネが宙から引っ張り、骨格人形総出、ようやくエスタシュの元へ運び込む。
エスタシュはタンクとスプレーノズルを剛毅に直結し、ちゃんと動作することを確認すると、満を持して漆黒のアーマーを真っ赤に染め上げていく。塗りムラ無く、塗り忘れなく、ダイナミックかつ繊細に。
「……ふぅ。こいつぁ中々……」
一通り塗り終えて、オボロが差し出す冷茶を一気、少しばかり息を吐く。普段羽織りはしないが、やっぱりスーザンちゃんは赤も似合うだろうなぁと謎の親目線、もとい感慨深く頷いて、次の段階に取り掛かる。
赤一色で終わらせるのはもったいない、というか自前の防具改造|技能《スキル》に火がついた。細部に神は宿るという。赤のキャンバスの上から、白でレースの縁取りを真似た模様を施し、スーザンちゃんが纏う|鎧《ドレス》は、より煌びやかになっていく。
「いや、しかし凝り出したら終わらねぇどんどん楽しくなってきた……椋、こっちは手が離せないからスーザンちゃんのおめかし頼む。唐草模様的なボディペイントでヨロ!」
「……唐草模様的なやつというとアレか。|泥棒《シーフ》の」
するりと靄の指先が、緑のスプレーに伸びる。
「うーん……いいやソイツはピンと来ねぇ。そうだなぁ……色はボーンホワイトの上からピュアホワイトとか……粋じゃね?」
「……粋。粋とかそういうのはよくわからんが――ホワイト、と言うのは好ましい。|骨《かれ》らに通じるモノが有る。名前もまんまだしな」
ボーンホワイト。実を言うなら骨の色、白には相違ないがよくよく見ると真白ではなく若干の色味があるもので、そう言う部分に目をつける|塗料《いろ》があるとは、|芸術《アート》と言うヤツもなかなか分かっているじゃないかと、椋は若干得意げに。
そんな彼女の心を反映してか、九体の靄はダイナミックに動き出し、飛んで、跳ねて、前後左右四方八方リズミカルにスーザンちゃんを理想的な骨の色に染め上げていく。
ぐるりと宙を三回転、真っ逆さまの状態で、あるいはサーカスの演目のように大袈裟な身振り手振りを交えて骨の白の上に|純白《ピュアホワイト》の唐草模様を描き出すと、街角の、特設アート会場は大喝采。どうやらそれっぽく振舞えたようだ。
「おー! でっかい骨カッコいい―!」
特に子供達にはデザインもパフォーマンスもよく刺さったらしい。大人気だった。
「……おお。骨の良さがわかるとはなんと有望な。この国の未来は明るいぞ、エスタ」
「ああ……ほっといたら数時間には滅びちまうけどな」
だからこっから先は頼んだぜ、スーザンちゃん。
エスタシュはそう呟くと、いつもと違う装いで、いつもと変わらず頼れるスーザンちゃんを見遣った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セレーネ・ジルコニウム
「テハ王子……なんだか親近感を感じますね」
『セレーネも、亡き両親から私設軍事組織ガルヴォルンと旗艦ストライダーを受け継いだだけのドジっ娘じゃからのう』
通信してきたサポートAIミスランディアの声は、周囲の騒音にかき消されて聞こえませんでした。
「オブリビオンマシンを撃破するのが我々ガルヴォルンの役目ですが……」
『一般人からの恨みを買うと、普段の傭兵稼業に支障が出るのう』
「私にいい考えがあります!」
ストライダーの外装のカラーリングを変えたり、いろいろデコったりして、ガルヴォルン旗艦だとバレないようにしましょう!
戦艦に搭載してあるスティンガーも同様です!
「私のア~トのセンス見てください!」(壊滅的
「テハ王子……なんだか親近感を感じますね」
何処か自分と似ている様な、そんな気が。
取り巻きからの差し入れの、スイカ味のアイスキャンディを頬張りつつ。大通りをぼんやり眺め、セレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)は暫し思考を巡らせる。
「……そうじゃのう。セレーネも、亡き両親から私設軍事組織ガルヴォルンと旗艦ストライダーを受け継いだだけのドジっ娘じゃからかのう」
思索に浸る暇も無く、傍にいたレプリカント体の少女――ミスランディアが朗らか正論めいた口調で断じに来た。
人をドジっ娘呼ばわりとは何て失礼なAIだろう。己の胸に手を当てて、我が身をじっと顧みても、ドジっ娘だと非難される謂れは微塵も……いや思い返せば――いいや矢張り、きっと、多分、恐らく無いので、騒音にかき消されて聞こえなかった体を装い、口笛交じりに無視を決め込むことにした。
「ノーダメージを気取っても無意味じゃぞ。心当たりがありますとでかでか顔に書いておる」
……不思議だ。何時もは良く通るミスランディアの声が、今日に限って聞こえない。
「――おほん。兎も角。オブリビオンマシンを撃破するのが我々ガルヴォルンの役目ですが……」
考えるにも糖分補給は必要、と言う名目で、セレーネは二本目のアイスキャンディに手を伸ばす。
「一般人からの恨みを買うと、普段の傭兵稼業に支障が出るのう」
ミスランディアが難儀するように小さく唸り――私設軍事組織ガルヴォルンとしての問題はそこだ。
……が、それならば一時的にガルヴォルンで無くなればいい。此処は組織としての名誉より、例え誰に称賛されずとも、オブリビオンマシンを撃破すると言う実利を優先すべきだろう。十分な糖分補給により、セレーネの直感は冴えていた。
「私にいい考えがあります! 我々がガルヴォルンだと悟られないレベルで諸々色変えデコッちゃえば良いんです!」
天啓を得たとばかりにばん、とテーブルを勢いよく叩いて立ち上がるセレーネ。
「……うむ。王子に機体を借りる案もあるが、慣れないモノを使うより、そちらの方が良いかもしれん。で、誰が諸々デコるんじゃ?」
「それは勿論私です!」
「えっ」
「そうですね……過ぎゆく夏への一抹の寂しさを盛り込むのが吉と私の|直感《ア~トセンス》が囁いているのですが、どうでしょう?」
どうもこうもお主そう言うの壊滅的じゃろとミスランディアが突っ込む暇も無く、火のついたセレーネは止まらない。
「方向性は決まりました。けれどもう少し取っ掛かりが欲しいというか……アシスタントの取り巻きちゃんはどう思います?」
「んー? あーしー? えー? それじゃあねぇ、ほら、そこの|スティンガーⅡ《キャバリア》の隣に大型ワゴンよろしく停まってるソレなんだけどさー」
「ああ。機動戦艦ストライダー(実物)ですね」
「――実物!? 何かしらの模型かと思ったら実物って何があったんじゃそれ!?」
さらりと明かされた事実にミスランディアは驚愕する。ストライダーと言えば紛う事無きガルヴォルンの旗艦。本来はキャバリアの格納庫やカタパルトも備えた巨大な艦であった筈だが……。
「ほら。ストライダーって分類的にはボトルシップでしょう? 瓶に収まってる姿が最小、いつもの姿が最大だとして、如何にかその中間、いい感じなサイズに調整することが出来ないかなぁと色々試してみたら何かこう――できました!」
「……えぇ?」
セレーネはやり遂げた満面の笑顔だが。知らないうちに新機能を背負わされた旗艦の制御ユニットの気持ちも考えてほしいと思った。
「……話続けるよー? その戦艦さー。上から見るとちょいサーフボードっぽい感じじゃない?」
「なるほどー。サーフボードに見立てるのは良いかもしれません。海上航行も可能ですし」
ギャルっぽい取り巻きちゃんのアドバイスを受けて、セレーネの明晰な頭脳と非常識な直感は加速する。|論理的な戦術AI《ミスランディア》は置いてきた。
早速ストライダーを沈みゆく夕陽の色に染め上げて、後部にそれっぽいフィンを取り付ける。
方向性が定まれば早いもので、ストライダーがサーフボードなら、スティンガーⅡはサーファーだろうと、彼らが着込むウェットスーツをモチーフに、赤と白を基調とした機体色をダークブルーと黒に変え、|サングラス《バイザー》と|シールド機能を仕込んだ腕輪《ダイバーウォッチ》をつけてみる。
「おおぅ……」
壊滅的かと思いきや、中々纏まった雰囲気に着地した感があることに、ミスランディアは密か胸をなでおろす。
が。
「ところで、|刀《ブレード》を紅くしたのはテーマ的に一見浮いてるような気がしよるが、どういう理屈なんじゃ?」
「え。だって紅いじゃないですか。西瓜の果汁」
「――何で急に西瓜割り要素が入って来とるんじゃ!?」
「夏ですし」
「ね~」
絶対さっきスイカ味のキャンディ齧ってたからだろう。
同じ麺類だからとラーメンとうどんを一緒のどんぶりにぶち込むが如き所業に、ミスランディアは一瞬|眩暈《フリーズ》を起こす。
「あー。じゃあさー。あーしらのキャバリアスイカカラーにしたらいい感じにバランス取れる感じじゃな~い?」
「おー! 良いですねー! そうすると他の武装は――」
……もう好きにしたら良いと思う。ドジとギャルの相乗効果で何処までも加速する二人をよそに、ミスランディアは諸々放り投げた。
どれだけ機体がデコられようと、為すべきことは変わらないのだから、どうあれきっと問題ないだろう。
――たぶん。
成功
🔵🔵🔴
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK
ねぇ、本当にこの格好で行くの?
確かにテハくんならコンパニオンの知り合いも居そうだけど、
気鋭のアーティストとはだいぶズレるんじゃないかしら。
しょうがないわね。
えと、自分の量産機を出すわ。
UCを使ってアンカーチェインを
巨大な銛っぽい兵装に変えておくわね。
港のある国のパイロットなら、これの用途はわかるでしょう?
そう。水中戦用兵装。
これに合わせて、今から機体に水中迷彩を施すの。
青と白の組み合わせがとても綺麗よ。
後は塗装あるのみね。
他には寄って来たお客さんに当たり障り無い感じで応対するくらいかしら。
そうね……そっちが貼りたいエンブレムやデカールはあるかしら?
私物だし融通は効くわよ。
こつん、こつんと。
ビッグモールの外装をノックする音が、通信機器越し、ノイズ混じりで反響した。
「……ねぇ、私。本当にこの格好で行くの?」
明かりを落としたコクピットで、アメリア・バーナード(量産型キャバリア乗り・f14050)は、整った眉根を寄せつつ一人自問自答を繰り返す。
カメラ越しに周囲を見た。装甲一つ隔てた外界は、爽やかな青空が広がり、道行く人々は皆笑顔。軒を連ねる屋台には色とりどりの料理に土産物。
……そんな賑やかな街の片隅で、ビッグモールの内側に閉じ籠っているのは少々心の整理をつける時間が欲しかったからだが、こつん、こつんと。お構いなしに催促のノックは鳴り響く。
「……姐さん。そろそろ時間ですぜ」
いつの間にか王子の取り巻き達から姐さん呼ばわりされていた。何故か。否。心当たりが無いわけでは無いのだが。
どうしてこんな状況になっているかと言うと――。
『……あん? どんな格好が好いかって? そりゃあお前さん強いて言うなら――」
遡る事数時間前。ペイント&デコ大会の細かなあれこれを詰めていた時の事。配置場所や持ち込みの機体について話し終え、ならば服装については何が良いのかと尋ねると、それまで軽薄な調子だったテハ王子は一転、なにやら難しい顔で唸り声を上げながら懊悩し始め、そうして待つこと十数分。
「――バニーだな」
苦渋の決断を乗り越えたらしき王子は曇りなき眼でそう答えた。
王子のその言に深く頷く野郎の取り巻き達。何だか妙な所で彼らの絆の深さを見せつけられた気がしたが、
「バニーはな……浪漫なんだぜ?」
敢えて多くを語らないその一言に、万感の思いが込められている様な気がして……ならば|バニー《それ》が最善なのだろうとその時のアメリアは納得した。
――が。そう言う格好をした後で、今になって思い返せばあれは単に自分の好みを暴露していただけの様な気がする。女性の取り巻き達は『まぁそうだよね』みたいな顔をしていたし。
ただ、それが放蕩王子の好みなら、隠れ蓑としては十分以上に機能してくれるだろう。夜な夜なそう言う格好のコンパニオンを引き連れて豪遊してる様は容易に想像できるし、恐らく事実とそうズレてない。
「でも……気鋭のアーティスト像とはだいぶズレるんじゃないかしら」
果たしてこのまま出てっていいモノなのだろうか?
「……姐さん、|芸術《アート》って奴は、大海原の如く何処までも自由なモンなんですぜ……っ!」
アメリアがぽそりとこぼした呟きを、耳聡く拾い上げた取り巻きは、とてもとても高い熱量でそう力説する。絶対バニー姿を見たいだけだろう。
……兎も角。乗り掛かった舟ではある。いつまでも籠ってばかりでは塹壕戦よろしく事態は進まない。
アメリアは深く息を吐き、
「――しょうがないわね」
覚悟を決めた。
いかにも武骨な陸戦機。その表面には切り傷、銃痕、衝撃痕。しかし無数のそれらに彩られた重厚な装甲が|扉《ハッチ》を開ければ、現れたのはサイバーバニーなパイロット。当然会場が盛り上がらないはずも無く、気恥ずかしさを紛らわせるように、アメリアはこほんと小さく咳払い。
「えーっと。ビッグモールは基本的に掘削主体の陸戦機体。けれど今回一つだけ、ちょっと浮いてる武器をつけてるの。それが一体どれなのか、わかる人はいるかしら?」
わいわいがやがや、あれかこれかと飛び交う答え。やがて誰ともなく、武装の中に|銛《ハープーン》が混じっていると当てられて、
「そう。水中戦用兵装ね。これに合わせて、今から機体に水中迷彩を施すの。見てて。青と白の組み合わせがとても綺麗よ」
コンパニオンっぽく。ぱちんとウインクを飛ばしたアメリアは塗装用の機材を抱え、大地の色の装甲を、海の色へと塗り替えていく。
ハープーン同様、迷彩も|現地改修《ユーベルコード》で瞬く間に変更することが可能だが、それでは少々味気ない。
その『時』までは未だ猶予がある。住人達からの情報収集も兼ねて、しばらくはゆっくりと進める事にしよう。
「後はそうね……そっちが貼りたいエンブレムやデカールはあるかしら? 私物だし融通は効くわよ」
今の所銛以外の武装をいじってはいないが、それでも色が変われば印象も大きく変わるものだ。順調に塗装を進めつつ、アメリアは世間話の調子で三下口調の取り巻きに訊いた。
「さあて。うちは然して纏まりも無いですからそう言うのは。けど、姐さん。それなら情報収集も兼ねて一石二鳥の手がありやすぜ」
手、とは。
「こうするんすよ……おーい! みんなー! このカッコいい機体に好きなモン貼っ付けてみねぇかー!」
そんな取り巻きの呼びかけに、続々集まる貼り付け希望。
最初に渡されたのは、帆船と跳ねる魚のステッカー。曰く、セウ王子が睨みを効かせてくれるから、安心して漁に出られるのだと。
次の注文は、ナンバー2と刻まれたプラントのシルエットのデカール。曰く、それが発見されなかったら、この国は今ほど豊かでは無かったろうと。
三番目に、この街を象った風光明媚なエンブレム。曰く。戦乱塗れの世の中で、この街に戦禍の痕跡が一つも無いのは、頭の下がる思いだと。
それから次に――。
少し融通を効かせすぎたかなと、アメリアは塗装を終えたビッグモール眺める。
水中用の迷彩の上には、まるで世界中を旅したキャリーケースのように、色んな|絵柄《想い》が犇めいて……。
じりじりと、焼け付くような陽射しが降り注ぐ。
覚悟を決めた。そう。姿格好だけの話では無く。
――それらを守るためには、それらに背を向けて戦わなければならないのだから。
成功
🔵🔵🔴
鳴上・冬季
「命の軛から逃れられぬ生命らしい顛末です」
嗤う
「自分の命以外大事なものがない者も、自分より大事な何かがある者も、揃って同じに径に嵌まり込む」
テハ眺め
「貴方は兄君を敬愛しているようですが。貴方の兄君を暗君と貶め貴方の株を上げるのと、貴方の功績を全く残さぬ代わりに兄君を悲劇の人として民に敬愛されるまま残すのと。選べるならばどちらを選びますか」
「では、そのように」
嗤う
「行けい、黄巾力士水行軍」
5体1班として28班計140体黄巾力士召喚
飛来椅で飛行し砲頭から放つ水流にペンキ混ぜ空中から派手に機体を塗りたくらせる
自分は風火輪で現場を鳥瞰
避難径路に使えそうな建物や通路も誤射装い塗装
「無いよりマシです」
嗤う
「命の軛から逃れられぬ生命らしい顛末です」
誰も彼もが殲禍炎剣の撃破を信じ、笑顔で行き交う人の波。その波の中でただ一人――鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は、セウ王子が末期に抱いた夢を嗤う。
ゆらりと。そこだけ色が失せたように。冬季が歩を進めれば、誰も彼もが知らずの内に道を割って交わらず、故に何にも足を取られることも無い。
「自分の命以外大事なものがない者も、自分より大事な何かがある者も、揃って同じに径に嵌まり込む」
それは最早、生ある者の業病だ。そんな命の終わりなど、いずれの世界にも履いて捨てるほどあるだろう。故に、其処にそれほど興味もなし。未知なる甘味の方がよほどそそられると言うものだ。
故に冬季は遠慮しない。巡回の名目で方々をふらふらするテハ王子を捕まえて、前置き無用と問い糾す。
「――貴方は兄君を敬愛しているようですが。貴方の兄君を暗君と貶め貴方の株を上げるのと、貴方の功績を全く残さぬ代わりに兄君を悲劇の人として民に敬愛されるまま残すのと。選べるならばどちらを選びますか」
「……何だい、藪から棒に」
それまで軽薄な様子だったテハ王子の声音に、不機嫌そうな色が混じる。冬季の態度が不躾だから、と言うのではなく、何か触れてほしくない部分に触れてしまったが故に……そんな感触だ。
「兄貴を倒せばあんたらの仕事は終わりだし、そこから先はこの国の問題だ。どっちを選ぶにせよ、それは俺の勝手だろう。知ったところで、あんたに何の益がある」
「いいえ? 知ったところで、或いは知らなかったところで、特段何も」
「あんた。人を食ったような奴だな」
「真逆。人を喰らう妖魔の類なら、さながらじっくり下拵えをするように、あからさまな懇切丁寧を騙るものです」
「……そうかい」
テハ王子はふてくされたように近くのベンチへ腰を掛け、手にしていた飲料を飲み干した。暫しの無言。雑多な外野の話し声が、内容も良く解らぬまま耳朶に響く。
「名声なんかにゃ興味はねぇよ。これで満足か?」
そうして。王子の答えを聴いた冬季は合点がいったと嗤う。それもまた、『らしい顛末』でしょうと。
「では、そのように。しかし貴方、どうやら名声よりも『悪名の方がお好きなようだ』。そちらの|顛末《ほう》は保証いたしかねますが」
ああそれと。立ち去ろうとしたテハ王子の背に冬季は再び声を投げかける。
「今回の異変をいの一番に知れる立場にあったのでしょう? その上で留まって何とかしようなどと、失礼ですが放蕩王子の風評らしくない。逃げしてまおうと考えた事は?」
テハ王子はゆっくり首を振る。首肯否定の類では無く、この国の街並みを眺めているようだった。
「そうも思ったが……結局、この国の飯が一番口に合うからなぁ……」
「――成程」
確かに。甘味を碌に堪能しても無い内に滅び去られてしまっては、折角足を向けた甲斐も無い。故に、
「行けい、黄巾力士水行軍」
黄巾力士達には少々気張ってもらうとしよう。冬季は街の真ん中で、百四十体もの黄巾力士を次々呼び出すと、五組で一つ、計二八班に組み分けし、それぞれに飛来椅を用いさせ、街の上空に|待機《お》く。
何が始まったのかと足を止め、空を見上げる人々へ、どうやらドローンのパフォーマンスがあるらしいですよ、と、柔和に嗤って嘯いた。
街中を巡回していた|集団敵《オブリビオンマシン》も空を見上げ黄巾力士を睨めつける。
追加装甲と大型のシールドで全身を固めた、恐らくは拠点防衛特化の機体。主たる武器は近接専用のグレイブとキャノン砲。それで殲禍炎剣を狙いでもするつもりだろうか。
まさか現状宙に浮いてるだけの黄巾力士を即刻叩き落としはしないだろうが、早々に、今のところは敵意が無いことを示しておくべきだろう。
ぞろりと黄巾力士たちが動き出す。陣を取るのはテハ王子が各地に持ち込んだ量産機達の上空。
百四十の砲塔が一斉に動く、同時、敵機に緊張が走り、対照的に、冬季は嗤う。
「何。此度は危険物など持ち込んでいませんよ」
刹那。祝砲にも似た発射音と共に、一斉に砲塔から放たれたのは、塗料を混ぜた大水流。赤青緑に白と黒、それぞれの砲塔にそれぞれの色を詰め込んでも良かったが、そうする直前逡巡し、空の青の一色に留めておくことにした。
空を仰いで仕方のない奴の足元に、空の色が落ちている、と言うのも、中々寓話的だろう。
そしてここからが本題と、冬季は無数の砲音に紛れ、風火輪で空を飛ぶ。黄巾力士達よりさらに|上空《うえ》へ。辺りが塗料の大洪水ではやりにくいので、仙術を少々効かせ、対象以外にはただの水として振舞う様に。己が眼で確認したいのは、鳥瞰してこそ初めて解る、敵の配置と数と、そして避難経路。
敵量産型のおおよその数は知れたが、肝心のセウ王子の機体が見当たらない。どこかに隠してあるのか、仕方なしと思考を切り替え、避難経路に使えそうな建物や目星を付ける。
「其処とあそこと……まぁ、無いよりマシです」
冬季は嗤う。黄巾力士は冬季の意のまま砲に新たな塗料を詰め込んで、目星をつけた地点へ正確に『誤射』をした。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「其れはつまり、可笑しな事をして衆目を集めれば良いと言う事です?」
首傾げ
「任せて下さい、お花の絵を描く事と頓痴気な事をするのは得意です」
胸を張った
ペンキ缶を山のように抱えキャバリアへ
どのキャバリアの足元(自分の手が届く範囲)にも幻朧桜と夏の花を描いていく
疲れたら周囲の人にこの国の国歌や軍歌聞き歌い衆目集める
「観客の皆様もそろそろお疲れになった頃ではないでしょうか?是非一緒に英気を養いましょう」
序でに手品のノリで空になったペンキ缶等無機物にUC「食欲の権化」
美味しいフルーツやジュースに食材化し観衆に配る
(此れだけ珍奇な事を重ねれば、他の方への監視は多少なりとも緩むのではないでしょうか)
首傾げた
テハ王子曰く。
隠れるよりは堂々と。
たのしいキャバデコ大会で、如何にか時間まで誤魔化そう!
「――其れはつまり、可笑しな事をして衆目を集めれば良いと言う事です?」
解る様な、解らないような、でもちょっとわかるような。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は首を傾げつつ、ならばどう可笑しく動いたものだろうかと思案する。
そもそも前提のキャバデコ大会からして可笑しな話。けれど放蕩王子日頃の可笑しな行いの甲斐あって、奇跡に街中へ|戦力《キャバリア》を持ち込むことに成功しているので、頓痴気と見せかけて方向性としてはこれで正解……? だったのだろう。
だとするときっと、このまま一切減速せずにその方向性で突っ切ってしまうのが一番良い予感がする。例えるならケータリング用キャンピングカーのアクセルを全開、そのまま障害物を跳ね飛ばしてまっすぐ前進する時のように。
「任せて下さい、お花の絵を描く事と頓痴気な事をするのは得意です!」
えへん、と胸を張って、和装メイド服の裾をふわりと翻し、気合を入れて腕まくり。
じろりと睨んでくる警備の機体――セウ王子の配下達――の視線をまずは気にせずに、山のような塗料を抱えて右へ左へ。近付くと、目当てのキャンバスは果たして自分の背の何倍か。目一杯に無理をして、手を伸ばしてみても、|頭部《天辺》までは届きやしない。
なので桜花は|機材《絵筆》を取ると身を屈め、キャバリア達の足元へ、さらさらと花の模様を咲かせていく。
例えどれだけ世界を跨ごうと、心に在るのは艶やかに咲き誇る幻朧桜のその姿。冬季が塗った青空に、ひらりひらりと舞い散る花弁を足してゆく。
そうやって幾本もの幻朧桜を一本一本丁寧に描いてゆくが、どれだけ大きく描いたつもりでも、流石自分の背丈より巨大なキャンバス。手の届く範囲でも未だ余白は潤沢。青空の下にポツンと一本幻朧桜があるだけではどうにも寂しいので、新たな花を描いて咲かす。
ある機体には向日葵を。またある機体には紫陽花を。そのまたある機体には朝顔を。夏を彩る花たちを、分け隔てなく描き込んで、いつの間にか桜花の|表情《かお》も大輪の笑顔。
からん、と、桜の色の塗料が尽きて小休止。一体何機のキャバリアに、花を描いて入れただろう。そう思いながら賑やかな夏の花畑を眺めていると、ぱちりぱちりと拍手が響く。振り返れば、人だかりが出来ていた
――ああ、そう言えば。絵を描くことに熱中していた桜花はふと我に返る。頓痴気要素がいつの間にか頭から抜けていた。
けれど結果的に衆目が集まっているのならそれは好機。此処からさらに奇妙と奇天烈のゴングを鳴らせばいい。具体的に言うなら大騒ぎだ。
「もし。よろしければ、この国の国歌や軍歌を教えていただけないでしょうか?」
桜花がにこり微笑むと、住人たちは上機嫌。あなたの国の事をもっと知りたいのですと、自身が拍手を送ったア~ティストから請われれば、誰だって悪い気はしないものだ。
街角にはたちまち陽気な調子で国家・軍歌が響いて止まず、お祭り騒ぎは最高潮。
同時に一体何事かと、この騒ぎを注視する|敵《てき》の眼が増える。けれどもまだまだもう少し。なので珍奇のレベルをもう一段。
「歌って踊って、皆様、そろそろお疲れになった頃ではないでしょうか?」
正直に言うなら桜花自身もそうだった。するりと手のひら・指先で桜鋼扇を操って、
「タネも仕掛けも御座いません」
そのままバチン、と空の容器を叩いてみせると一瞬でみずみずしい林檎に早変わり。
一体何が起こったのかとどよめく観客。もう一度、とせがんできた観客へ、
「ええ。望みとあれば何度でも」
ゆるり淀み無くそう返し、再び空いた容器をバチンと叩く。衆人環視の状態にもかかわらず、誰もその|仕組み《メカニズム》を解明できないまま空の容器は熟した桃に変じ。三度ばちんと。今度はオレンジジュースに変じた。
「さあ、是非一緒に英気を養いましょう」
空の容器を次々食材に変えた桜花はそれらを切り分け盛り付け、一部を頬張りつつ、観客たちへ勧めた。
最初の内は恐る恐ると言った様子だったが、何より食材の味は桜花の|料理技能《うで》に連動しているので、最終的に争奪戦が始まる程、人気になるのにはそう時間がかからなかった。
しかし一体どうやって? 観客のそんな素朴な問いに、
「実は……漲るほどの食い意地が、無機物を食材に変えてしまうのです」
頓痴気を横に置いて、桜花は本当の事を包み隠さず応えるが、大体の人々には天然ボケと見做された。ほんのり悲しい。
じろり、と。
珍奇に奇天烈、摩訶不思議な事柄を次々起こした桜花に対し、必然注がれる警戒の眼差しはおよそ数十以上に膨らんで。攻撃されないまでも、敵キャバリア達の監視は最大限に強くなり――しかしこれは最初から、桜花が望んだ状況だった。
(「此れだけ珍奇な事を重ねれば、他の方への監視は多少なりとも緩むのではないでしょうか……?」)
桜花は首を傾げる。
――大丈夫。大勢の瞳に映ることこそ桜の|宿命《はな》であるのなら……慣れたもの。
成功
🔵🔵🔴
叢雲・源次
【特務一課】
※第三極東都市より特務一課として派遣された立場
俺達は一介の来訪者だが特務一課に所属する以上義務を果たす
局長がこの事態に対しどの程度政治的重点を置いているかは俺の知る所ではないが…どの国も常に亡国の危機に晒されているというのは余所者の身分ながら忍びない
※白鈴号さんをデコるについて
要するに欺瞞、擬装をすればいいらしい……サギリ、俺にはこういった事にセンスは無い。お前に任せる
※白鈴号さんは怒りました『見世物ではないぞ』
コクピットで調整しようと神経接続を開始しようとしたらデコられた白鈴号さん(会話や思考伝達は出来ないが意志がある)が怒ってパルス逆流してきた
「サギリがいなければ即死だった…」
サギリ・スズノネ
【特務一課】
白鈴号に搭乗(制御担当)
※名前の呼び方
・源次お兄さん
・グウェンお姉さん
合点なのです!
何かあったら安全にぶっ飛ばすのです。サギリにお任せなのですよ!
お兄さんとお姉さんと一緒に、頑張るのです!
おー!(とお姉さんに合わせて)
黒玉姫お洒落さんなのです。かわいいのです。ちょう素敵なのです!
よーし、白鈴号もお洒落さんしようなのですよ!
白色をメインに梅の花っぽいお花の飾りをつけるのです!
ついでに陽光ノ神楽でキラキラ度もマシマシなのです!
って白鈴号めっちゃ怒ってるのですよ!
お兄さんがやべー事になってるのですよ!
(破魔と浄化、狂気耐性、呪詛耐性を全力で叩き込み)
白鈴号!「めっ!」なのですよ!
グウェンドリン・グレンジャー
【特務一課】
(源次は剣の師匠、サギリはかわいい後輩)
なるほど、デコ
亡国、うんうん
お国の興亡、一大事だもんね
ストレンジャー、ながら、がんばろー、おー
モリガン(黒玉姫を愛称…じゃなかった、正式名称で呼びかけて)
私と、からすで、飾り付けるから、いい子でお座りできる?
ぐっがーる
UCでからすたち、呼び出して、手数を確保。黒玉姫、お姫様扱い…というか、女王様扱い、大好きだから、なー
デコは、喜ぶ、はず
レースみたいな外装つけて、からす達のセンス、お任せして、巨大ラインストーン
これなら、ブラックダイヤモンドの乙女像で、通るはず
いぇーい(((くわ〜)))
白鈴くん、たいへんだー
源次ー、サギリー、だいじょうぶー?
ぎらり照り付ける陽光に、吹き抜けるのは異国の潮風。
叢雲・源次(DEAD SET・f14403)は少しだけ、首元を緩めた。
陽気な街の雰囲気に、フォーマルスーツは些か浮いているかもしれないが、今回は第三極東都市所属の特務一課として派遣されて来たのだ。まさかラフな水着を引っ張り出してギターを片手、弾き語る訳にも行くまい。
赤い瞳の視界には、ひどく賑やかな――数時間後消え果ているかもしれぬ人の営みがありありと。
……局長がこの国とこの事態に対し、どの程度政治的重点を置いているか――そう言った類の話は自身の知る所では無いが、例え一介の来訪者に過ぎぬとて、特務一課の義務は果たす。
「しかし……この世界の習いとは言え、どの国も常に亡国の危機に晒されているというのは余所者の身分ながら忍びない」
源次は幽か顔を歪める。現状、幾度世界を股にかけ、逐一災禍の芽を摘んで回るしかないと言うのも歯がゆい話。
「亡国……うんうん。お国の興亡、一大事だもんね」
至極|ぼんやり《いつもの》調子のグウェンドリン・グレンジャー(Imaginary Heart・f00712)も、源次の……特務一課のスタンスに異議は無く、
「ストレンジャー、ながら、がんばろー、おー」
ついさっき近くで買ったアイスキャンディ片手とはいえ、彼女なりに気合を入れて、拳を高く突きあげる。と。
「合点なのです!」
サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)も元気いっぱい同意して、勢いのまま御札をぱたぱた振り回す。
「何かあったら安全にぶっ飛ばすのです。サギリにお任せなのですよ! お兄さんとお姉さんと一緒に、頑張るのです!」
彼女もまたグウェンドリンに合わせておー! と強く拳を掲げると、同時にちりん、澄んだ音色も一緒に跳ねた。
「おー」
「おー!」
「……?」
「おー」
「おー!」
「……おおー?」
最終的に源次も拳を突き上げる。なんだかそんな雰囲気だった。
「それで、ええっと――なるほど……なるほど? デコ大会」
高く掲げたアイスキャンディがいつの間にやら何者かの手によって消失していたことを残念に思いつつ、くちばしが不自然に濡れた鴉を従えて、グウェンドリンが本題を切り出した。
「要するに欺瞞、擬装をすればいいらしい」
神妙な調子で、源次は口元に手を当てる。|戦力《キャバリア》を派遣しておきながら、しかし第三極東都市の存在は隠蔽しておかなくてはならない。民衆の感情とは微妙なものだ。考えすぎかもしれないが、此処から先の|襲撃《展開》を考えるなら、そう言う措置を施しておくに越したことはないだろう。
「そう言う事なら、秘策、アリ……みんな、集合ー」
山の頂でそうするように、果てなき大空へ、グウェンドリンがそう呼び掛けると、何処からともなくここをカラスの国にすると言わんばかりに無数の鴉たちが集まって、彼女の肩に止まったワタリガラスが代表してくわっと一鳴き、キャバコ大会への途中参加を宣言する。これで手数は確保した。そうしてグウェンドリンは|会場《そこ》に佇む自らのキャバリア・黒玉姫へと身体を向けて、
「……モリガン」
敢えて彼女の|正式名称《本来の名前》で語り掛ける。
「私と、からすで、飾り付けるから、いい子でお座りできる?」
その言葉に反応して、モリガンはまず視線だけを投げて返す。しばしの沈黙。固唾をのんで状況を見守る鴉たち。
グウェンドリンには勝算があった。モリガンは結構な|暴走癖持ち《じゃじゃ馬》だが、同時にお姫様扱い……というか女王様扱いされるのも大好きなので、デコには興味津々の筈。
――果たして長い沈黙の後。グウェンドリンの想定通りモリガンはゆっくりとその場に座り込む。
「おー。ぐっがーる」
しかもお姫様座りで。内心絶対テンション上がっているだろうことが見て取れた。
「それじゃあまずは、レースみたいな外装つけて、からす達のセンス、いい感じにお任せして……」
気難しいモリガンへの説得は済んだ。後は時間と手数の許すまま、じっくりと……。
「くわー?」
「くけー!」
行こうと思いきや、デコレーションもそっちのけ、何故か激しく言い争う様な|鳴き声《こえ》を上げお互いを威嚇し始める鴉たち。
「あー……うん。そっかー……色んな種類の|鴉《コ》がいるし、そう言う事もある、よね」
「……? グウェンお姉さん、ええと、一体何が起こっているのです?」
鴉たちの異変を一人理解した様子のグウェンドリンに、サギリが訊いた。
「ええと、ね。芸術性の違いで喧嘩してる、みたい」
「ええっ!?」
「くわわー!!
「くけけー!!!」
「『上等だこのヤロー! 表ヘ出ろ決闘で白黒つけてやる!』『望む所だバカヤロー! かかってこいやオラー!!』とか、そんな感じ」
「……大丈夫なのです?」
「うん。まぁ、多分」
多分。
「……サギリ、俺にはこういった事にセンスは無い。白鈴号の塗装はお前に任せる」
鴉ならずとも、合作に熱が入ればそう言う事はあるだろう。残念ながらセンスが無いのも事実なので、源次は諸々サギリへ一任することにした。
……街角に、威風堂々直立する白鈴号を見る。この国では|姿形《つくり》が珍しいのか、デコレーションを施す前から既に黒山の人だかりが出来ており――白鈴号は不動だ。黒玉姫のように身振り手振りで感情を伝えたりはしない。しかしどこか……不機嫌そうに見えるのは錯覚だろうか。
「おっけーなのです! 張り切っていきますよ~!」
ともあれ、やる気満々のサギリが一体どういう画を描き出すのか、密やか気になるのもまた事実なので、源次は不測の事態に備えつつ、彼女の|芸術《アート》を見守ることにした。
「それじゃあ最初から全開で、この世界に爪痕を残すレベルのぜんえー的な、」
「……サギリ」
「それとも魔除けの意味も込めて、敢えておどろおどろしい怪物をおっっきく描くのも、」
「サギリ……」
「いえいえ何なら痛車よろしく、敢えてみすまっちなくらい可愛らしいキャラクターを、」
「サギリ」
「……んふふ。さっきから、解るのですよ源次お兄さん。やっぱり描いてみたくなったのですね?」
お見通しなのですよ、と言う様に、サギリはえへん、と得意げな顔で胸を張った。
「……いや。別に」
「ならばここは鴉さん達に倣って決闘なのです! 穏便に、あっちむいてホイとかでどうでしょう?」
「そう言うのではなくてだな」
それではどういう問題なのです? とサギリに訊かれても、感覚的な問題なので説明しにくい。源次としてはサギリの行動を阻むつもりはないのだが、ただ何か、何と言うかこのままだとデッドエンド一直線な予感がした。
「むむむ。実を言うと色々挙げてはいるのですが、どれも中々しっくりこなくって……あ、そうなのです、窮地の時こそ、ここは頼れるグウェンお姉さんの意見も――」
「――くわっか~!!」
鴉の大きな歓声につられ、二人がグウェンドリンの作業場へと目を向けると、そこには先ほどまでの決闘騒ぎが嘘のように、着々と|デコレーション《おめかし》の完成に近づくモリガンの姿があった。
「……何か、両方倒れるまで殴り合った後、前より仲良く……なったみたい」
「くわ~」
「くけ~」
二人の見てないところでとんだ青春が展開されていたらしい。
デコレーションの方はと言うと、優美なレースの外装に、赤の|部位《パーツ》のカラーを鴉のセンスの赴くまま金に変え(グウェンドリンの翻訳によると、本気モード的なイメージらしい)、一つ動作を起こす度、黒く巨大なラインストーンがどの角度から見ても鈍く輝き、まさにブラックダイヤモンドの乙女像といった装いだ。
「紆余曲折、アクシデントもあった気がするけれど、うん。満足。いぇーい」
「「「くわ~」」」
作業を終えたグウェンドリン達が盛り上がる傍らで、ドレスアップを終えたモリガンはそわそわ、キャバリア用の大きな鏡を覗き込む。表情からは読み取れないが、細かな身振り手振りを見るに、どうやら満更ではなさそうだった。
「ふおぉー……黒玉姫お洒落さんなのです。かわいいのです。ちょう素敵なのです!」
金の瞳をきらきらと瞬かせ、サギリは心の底から本音の本音を駄々洩れに、黒玉姫を褒めちぎる。
そしてその興奮冷めやらぬままの眼差しを、ゆっくりと白鈴号へスライドさせたその瞬間、彼女の中であらゆる|閃き《全て》が驚く程すんなりと繋がった。
「よーし、白鈴号もお洒落さんしようなのですよ!」
留まっている時間も惜しいと、鈴の音だけをその場に残して飛び跳ねて、機材を片手、屈託のない笑顔で、白き白鈴号を更に真白く染め上げる。
次によいしょと鉄鍋を抱え、中に湛えるのは沢山の梅の花……っぽい花飾り。鍋に山盛り盛られた花飾りを、底まで浚って白鈴号につけてゆく。
「戦闘中ちょっとやそっとじゃ取れないように、がっつり貼り付けておくのですよ!」
さらにもうちょっと輝き的な物が欲しいなと第六感的にビビッと来たので、サギリは燦燦と降り注ぐ陽光に少々|ユーベルコード《仕掛け》を施して、桜吹雪のカタチの変える。
柔らかき陽光の桜吹雪が照らし、真白の原に咲き乱れるのは梅の花。キラッキラ度もマシマシで、華と戦を同時に感じさせるその佇まい。もしかすると花鳥風月に通じるものがある。かもしれない。
「……ん? んー、でももうちょっと|腕部《うで》の内側にもこう……源次お兄さん、少しだけ右腕を動かしてほしいのですよ」
ここまで来るとさらに細部までこだわりたい。なのでサギリは白鈴号の操縦手を務める源次にそうお願いした。
「承知した。お安い御用だ」
どの道戦闘前に細かな調整するつもりではあったので、そのついで、源次は白鈴号と|神経接続《リンク》して、右腕部を動かし、
「ほら。これ、で――!?」
刹那。圧倒的な量のパルスが逆流し、源次の全身を一瞬で蝕んだ。
声はおろか指先一つ動かせぬまま全身を駆け巡る激痛。呪詛。狂気。
暴走、否。これは明確な白鈴号の|意思表示《怒り》だ。
『今回ばかりはこの程度で見逃すが、展示され、美術品が如く衆目に曝されるのは武器兵器の本懐にあらず。我は見世物では無いぞ』と。
「えーっ!? 白鈴号めっちゃ怒ってるのですよ! お兄さんがやべー事になってるのですよ!」
「白鈴くん、たいへんだー!」
にこやかにデコっていたところからのこの地獄。
黒玉姫が『短気だな』と言う視線で遠巻きに状況をのんびり観戦しているが、事は一刻を争う緊急事態。
二人はコクピットを何とか開くと、グウェンドリンは怪力頼りに源次を如何にか引き剥がし、それでもなお抗議の律動を続ける白鈴号は、
「白鈴号、『めっ!』なのですよ!」
と、サギリが窘める様にコンソールを叩いたことでようやく停止した。
「うわー!? お兄さんもやべー事になってるのですよ!」
激痛と呪詛と狂気に侵されすさまじいことになっている源次の容態。
グウェンドリンの力も借り受けて、サギリはお札を媒介に、破魔と浄化に狂気耐性、呪詛耐性、兎に角体に良さそうな物をありったけ源次の身体へ叩いて叩いて叩き込み、最終的には雁字搦めのぐるぐる巻きに巻き付ける。
「源次ー、だいじょうぶー?」
「――ああ、二人がいなければ即死だった……」
源次が息を吹き返したのは、御札の枚数を当初の三倍投入してより後の話。
二言三言言葉を交わし、源次は再び目を閉じる。
――何。あれで加減はしてくれたようだから、数時間後には如何にか動けるようになるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユキ・パンザマスト
……寿命、か。
八百年生きた自分にとっては瞬きの間に感じますねぇ
尽きる前の最後の灯、それが迷うてはなりません
黄昏時の夕焼け放送として、手を引く一助になりましょうか
了解すよ、弟さん!
お気になさらず、マシンはこれこの通りの持ち込みです
へへ、真っ黒マットな表面で地味でしょう?
今からこいつを陽動ができるように派手にしてやるんです
ベースは黒地に鮮やかな蛍光塗料をぶちまけたパンクなデザイン
オレンジ、黄色、赤はきっと目を引きましょう
稲妻、星などの装飾パーツはさまざまにとりどりに
ライトは明るいものをチョイス
さながら路地裏を色づかせるグラフィティアートのような
さ、完成!!
真昼の戦場ではこいつで掻き乱してやりますよ
「……寿命、か」
賑わい絶えない雑踏で、ぽつりと一人そう零し、気まぐれ地に|視線《目》を落とすと、蝶の死骸が朽ちていた。
「八百年生きた自分にとっては瞬きの間に感じますねぇ」
廻りに廻って、ふと気が付けばいつの間に、それだけ生きてしまってる。ならば人の死に目など、猫の瞳はきっと幾度も見ているのだろう。見ているはずだ。
羽色鮮やかな蝶であっても、どれだけ才のある人物であっても、いずれ迎えるそれの事。
朧ろな記憶を幾度揺すれども、今となってはうすぼんやりの輪郭程度しか浮かばないけれど、自部自身、|寿命《おわり》から随分遠いところまで来てしまったけれど、ただ――ユキ・パンザマスト(暮れ方に咲う・f02035)は明瞭に、
「尽きる前の最後の灯、それが迷うてはなりません」
そう言い切って、空を見た。燦燦と輝く太陽は、恐らく、激戦の頃合いには頂点にあるだろう。逢魔ヶ時には幾分早いが、今回は特別前倒し。
「……了解すよ、弟さん! 黄昏時の夕焼け放送として、手を引く一助になりましょうか!」
|悪戯《名案》を思いついた童の様な笑みを浮かべ、塗料を掴んで駆けだした。
「よう、進捗どんなもんだい?」
方々をふらふらしていたテハ王子が、ふらふらユキの所へ訪れる。
「丁度今から始める所っすよ~」
ユキは会釈代わりに両手に持った塗料の缶をぶらぶら振って、大きな|機体《キャンバス》を見上げた。
「ああそうだ、あんたは確か持ち込みだったな。あんたの機体、ウチの連中が結構話題に出してたぜ。『興味はあるけど、なんだか見てると冷や汗出てくる』ってさ」
「いやぁ。あはは。これで可愛いヤツなんすよ」
ユキは朗らか笑ってごまかすが、取り巻き達の感想は実に正しい。ユキが持ち込んだ機体こそ、過去何人もの搭乗者が命を落とした曰く付きで呪詛憑きの危険物。
その名を聚楽。何を隠そう正真正銘のオブリビオンマシンなのだから。
「まぁちょっと近寄りがたい雰囲気があるのは事実っすよね。何せほら、真っ黒マットな表面で地味でしょう?」
夕闇時なんかじゃあ、影法師みたいで様になっているんすけれどもね。白昼堂々の装いとしてはちょっと堅苦しい感出てるかもしれないっすねぇ、と徐に、近くに積み重ねていた塗料の蓋を開け始め、
「なので今からこいつを陽動ができるように派手にしてやるんです」
「へぇ? どんな風に?」
「こんな風にっす!」
言って、ユキは勢いつけて思い切り、遠慮も自重も何もなく、バケツの水をひっくり返す動作そのまま、蛍光塗料を聚楽目掛けてぶちまけた。
ばしゃんと跳ね散る色鮮やかな水の飛沫。夜の闇に紛れそうな黒地のボディは乱雑に明々と橙色へと染まり、
「うおっ!? 随分思い切るんだな!?」
「まだまだこんなの序の口っすよ!」
と、大笑しながらユキは次の傾向塗料をぶちまける。
大胆不敵に赤を撒き、ドラスティックに黄を叩きつけ、サイケデリックなパープルやピンクなんかも拒まず取り入れると、最終的には全ての色が我も我もと一切|調和《なじ》まず大喧嘩。
「おお? 結構後先考えずにノリでやってたんすけど、中々どうしていい感じに仕上がりましたねぇ」
何処から見てもめためたで、荒々しくて、何より|強烈《パンク》で、古い街並みからは完全に逸脱した、嫌が応にも目を引く色。でもまだちょっとパンチが弱い感。
「んー、今の所八割……って感じっすね」
これで完成でもいいけれど、此処から拘ろうとさらに拘れるし、何より楽しくなってきたので、予算の底が無いのをいいことに、今度はデコレーションに手を付ける。
まだまだいける。何ならもっと見た目だけで相手を殴り倒せるくらい喧しく。
蛍光色がせめぎ合う群雄割拠の|戦場《ボディ》を割くように鋭く強い稲妻を走らせて、さらには無造作、大小さまざま、色とりどりに瞬く星を散りばめる。太陽と月を一緒に浮かべ、夕暮れ時の意匠を盛り込むのも良いかもしれない。
ここまで来たらライトにもこだわりたい。何だかんだ、街のあちらこちらには薄暗の小路はあるようだから、昼の光に負けないくらいモノをチョイスして、そんな場所でも堂々目立つように。
「さ――完成!!」
「おお……何と言う事でしょう」
と王子が口走りたくなるくらいには、元が地味だった面影は一切無く。マットな黒地はむしろ蛍光色を際立たせ、改めて眺める全体像は、さながら路地裏を色づかせるグラフィティアートのような、一度見たら強烈な印象となって頭に焼き付くものに仕上がっていた。
「ふふふ。真昼の戦場では、こいつで掻き乱してやりますよ」
逢魔ヶ時よりやってきた、不滅の鵺は不敵に笑う。
空の太陽はじりじりと、一番上まで登ろうとしていた。
大成功
🔵🔵🔵
神崎・伽耶
デコキャバ!
アーティストかぁ……あたしの専門は、誰かの何かの仕上げだからなあ。
ま、奇抜な料理には出会ってきたし。
なんか興味引くだけなアートなら行けるんじゃないかしら。
え、引いちゃダメ?
これまた、色々集めたモンだわね……流石は放蕩王子様だわ~♪(誉めてる)
じゃ、この四足歩行型でお願い。
ベースはもふもふ調……水上戦闘用カピバラさんと見せ掛けて。VTOL仕様なのだ~♪
臨戦態勢ではトゲる吶喊ハリネズミ! しかも飛び道具アリ!
あとは、目潰し用の光るビームね。ふっ、目からだけだと思ったか!?
ついでだし、学生服仕様に飾っとこうかな。
横腹には漢字で、『懴羽威』っと♪
あとは、額にエースマーク☆
カ・ン・ペ・キ♪
王子の説明より少しあと。
まだ日の昇らない時間のガレージにて
「デコキャバ!」
おでこの広いキャバリアと言う訳ではなく、とりあえずキャバリアをデコッてみようぜと、そう言う話であるらしい。
けれどそんな事をいわれても、と、神崎・伽耶(トラブルシーカー・ギリギリス・f12535)は珍しく難しそうな顔をした。
「アーティストかぁ……あたしの専門は、誰かの何かの仕上げだからなあ」
レポートで生計立ててる甲斐あって、ジャンルを問わず何かしらの完成品を目にする機会も多く、そこそこ目は肥えている方だとは思うが、作る側に回るとなると、やっぱり話は別だろう。
「その上展示……? もしや好感触からの高額落札とかあり得たりする感じかしら…?」
急に不安になってきた。インタビューされたとき用のセリフとか考えておいた方が良いだろうか。尚、特に失敗することは考えない。
「ま、奇抜な料理には出会ってきたし?」
「奇抜ナ料理、タベタヨ!」
「ネ~」
ばす停が茶々を入れてくる。何とは言わないが、自覚はあったらしい。
「なんか興味ヒくだけなア~トなら行けるんじゃないかしら」
こう、一回の出番で伝説を残すような?
「……あれ? 引いちゃダメ?」
襲撃を仕掛ける側なら、アサシンチックな印象に残らないモノにしておくべきだろうか。
「いいよ」
「え、いいの?」
悩んでいた様子の伽耶へ、王子が声を掛けてきた。別に何でも良いし、寧ろ派手なのは歓迎だという。
折角貰えるなら、病気以外は貰っておこうの精神で、伽耶はずらりと並ぶキャバリア達に目を向けた。
「これまた、色々集めたモンだわね……流石は放蕩王子様だわ~♪」
伽耶のそんな屈託のない誉め言葉に、あの人乗りもしない癖金だけは持ってるからーと近くで作業していた取り巻きが返してきた。どうやら本当に放蕩王子の愛称で通っているらしい。
「うーん……っと――じゃあ、この四足歩行型でお願い」
傷一つない新型からクラシックな量産機まで。様々ある機体の中から伽耶が選び出したのは、ひときわ異彩放つを四足歩行型。
というか見た目カピバラだった。
「……え? なにあれ? あんなのあったっけ?」
「え? 知らん。前からあったんだろ。まさかキャバリアが勝手に倉庫へ潜り込んでくるとかありえないし……」
倉庫内で当然のように鎮座する、紛う事無きモフモフの巨大カピバラを見上げる取り巻き達の表情には、困惑しか無い様子だった。全く覚えが無いらしい。
「ヤバイヨヤバイヨ!」
「アブナイヨー!」
その上ばす停まで騒ぎ出す始末。いよいよもってこのカピバラの出自が怪しくなってきた。
倉庫内でも一際浮いてるカピバラ。首を傾げる取り巻き達。警告を飛ばすばす停。即ちこれは――。
「――大正解って事ね!」
確信を持って伽耶は頷く。自分の直感に間違いがないなら、きっとこれは大当たりの機体だ。性能的にという訳では無く、恐らくトラブルシーカー的に。
「それじゃあ取り巻きさんたち~、この機体運び込んでおいてよろしく~♪」
「ワーワー!」
「ヤーメーナーヨー!」
……そうして。必死に伽耶を止めようとするばす停の奮戦も空しく、巨大なカピバラはデコキャバ会場へと運び込まれてしまったのだった。
「えーっと、なになに~。電子説明書、本機のスペックについて……」
問題なく街の角の隅っこに搬入されたカピバラのコクピットで、伽耶は備え付けの説明書を読みふける。
「ほうほう、水上戦闘用カピバラさんと見せ掛けて。VTOL仕様。え? 飛べるの?」
『その気になれば』と表示を返す説明書。なんてユーザーフレンドリーだろう。
「臨戦態勢ではトゲる吶喊ハリネズミ! しかも飛び道具アリ! へー例えばどんな?」
『おいおいね』と表示する説明書。ユーザーフレンドリーを飛び越して知人友人の距離感では。
「それから目潰し用の光るビームね。目が光るの? 目からだけ?」
『その気になれば口から行ける』と言う回答。それちょっと絵面が悪役じゃない? 伽耶がそう呟くと、
『悪役なので』
「ん……?」
直後。鳴り響くアラーム、明滅する赤色灯、何をしたわけでもないのに、機体が勝手に律動し、おどろおどろしい文字ででかでかと、
『|Death《です》|Death《です》|Destroy《デストローイ》!』
の表記が踊る。
……瞬間。伽耶は悟る。これは――この機体こそこの世界に戦乱と狂気を齎している元凶、オブリビオンマシンの一機であると。
それは人を惑わせる。いかに聡明な英雄でも、如何に慈愛に満ちた聖女でも、ただの例外一つ無く、取り込まれれば狂い果て、ただただ戦禍をまき散らす存在へと成り果てる。
そして伽耶は――。
「チョップ!」
『ぐえー!』
と言うか猟兵はそう言う理の外に居るので全然平気だった。唸るチョップが制御盤に斜め四十五の角度でめり込んで、邪悪なカピバラはあっさり沈黙した。
『おのれ猟へ……!』
「チョップ!!」
『ぐあー!』
沈黙した。
「んー、何だか反抗期って感じだねー。となるとー……よし! 学生服仕様に飾っとこう」
飾った。ついでに横腹に漢字で、『懴羽威』と描き込むと、可愛さのなかにしっかり反骨心を感じさせるその装いは、観客たちに三倍マシでバカ受けだった。
『ぐるる……ネバギバー!』
「チョップ!!!」
『ぐはー!』
顔面チョップ。沈黙した。
「そうそう後は、忘れちゃいけない、額に確りエースマーク☆」
……そうして伽耶は――。
「――よし。カ・ン・ペ・キ♪」
『……きゅう』
新たな力を手に入れた!
成功
🔵🔵🔴
カグヤ・アルトニウス
○防衛作戦の計画
アドリブ歓迎
一人のアンサーヒューマンを理解して生きる道を示せなかった回りの人間に責任はあるのでしょうけど…
今回は今後の布石を打っておきます
(行動)
今回は展示用の機体の準備ですね
故郷で使われている拠点防衛用機体のリメイクになります
機体名:タイタニア
全高5m・全長10mの城の意匠の白銀のタンク型キャバリア
全長10mのアンダーフレームの中央部に2対の腕(うち一対はハイパービームシールド)とビームカノンを持つオーバーフレームを載せた異形の機体
概要はこうですけど、足りない部材…特に熱核ジェネレータとハイパービームシールドはSSWの祖国からの取り寄せですね
頑張って間に合う様に組み立てます
会場の一つ運び込まれたそのキャバリアの姿は、歪だった。
否。よくよく見れば、異形なりとも |欠損《かけ》は無く、脚は無くとも|履帯《あし》は有り、まるで寄せて集めたように統一感の無いカラーリングがそう思わせているのかもしれない。
ここらじゃ見ない|機体《カタチ》だな。歪の戦車を見た観客の一人がそう言った。
「そうですね。これは、わたしの故郷の|機体《防人》達を参考に組み上げた|機体《モノ》ですから」
応対した、カグヤ・アルトニウス(とある辺境の|私掠宇宙海賊《プライベーティア》・f04065)はそう答える。
歪つを眺め、成程他の国じゃあこういうのもアリなのか、と観客は暫し、カグヤと言葉を交わす。猟兵として、異世界人として、秘すべき事、話せぬことも多々あったが、それでもキャバリア談議に花が咲き、短いながらも有意義な時間はあっという間に過ぎ去って、名残惜しいがと、客が会場を後にしようと踵を返そうとしたその直前、最後に一つと、訊いてきた。
そういえば、こいつの名前は何て言うんだい? と。
「それは――」
少し時間は遡り、空が白み始める前のこと。
「一人のアンサーヒューマンを理解して生きる道を示せなかった回りの人間に責任はあるのでしょうけど……」
ずらずらと機体名が記されたリストに目を通しながら、カグヤぽつり、そう零す。事態がこうなってしまう前に、出来る事はあったように思えた。
「そうさなぁ。兄貴はスペック凄いから、|他人の|事《こころ》は驚くほど理解していたよ。でも確かに、逆はどうだったろうな。十二、三の頃にゃあ既に生ける伝説扱いで、そりゃもう特別視されてたから、真っ当に、一人の人間として、兄貴の事を見ていた奴はもしかするとこの国にゃあ居なかったかもしれないな」
「……あなたも?」
「――まあな。俺の中じゃ、今でも兄貴は完全無欠のヒーローだよ」
……ならば。やはり。異邦人たる自分たちが、幕を引いてやるしかないのだろう。カグヤはもう一度、端末に表示された機体のリストを初めから終わりまでスクロールさせた。
「何だい?目当ての機体は見つからないかい?」
「いいえ。おおよそ目星はつけています……ところで、受領できるキャバリアに、上限は有りますか?」
「いいや? 国の破滅を助けてくれんならお前さん、幾らでも持っていけよ」
それでは遠慮なく、と、カグヤは目星をつけた機体を次々リストアップしていった。
より正確に言うのなら、欲していたのは完品の機体では無く、フレームやパーツ、望みの|機体《モノ》を組み上げるための部品取りに、相当数のコレクションをジャンクに必要があった。
組み上げるのは|故郷《SSW》で使われている拠点防衛用機体のリメイク品。そもそも|技術体系《世界》が違うので、難儀するのは見えてるが、これも何より今後のための布石。国の存亡がかかっているからこそ、半端なものは作れない。
「おやまぁ、随分集めたな。こいつらを|解体《バラ》してくっつけてじゃ、昼前までに終わるかい? 機械いじりが得意な奴ぁ幾らか居るが、さて、何人くらい必要だ?」
「いいえ。どうぞお構いなく。スパナ一本あれば十分です」
言って、カグヤは手に持つスパナを放り投げると、それを超空間に変換し、超空間は集めたキャバリア全てを飲み込み、覆い尽くす。
Overlord The Dimension。カグヤの支配するこの世の物ならぬ理論の空間。今回定めるルールは、『自分の意志のおもむくままに不自由なく機体が組み上がる事』。
超空間の内側で、キャバリア達が独りで、パーツにフレームに分解されてゆく。まずはタンク型、全長十mのアンダーフレームが欲しい。けれどもコレクションの中に目当てのモノが無かったので、此処は自作するしかない。数個分のタンクをばらして結合し、仮組の土台を作ったその上に重厚堅牢な胴部を置く。そこに備えるのは二対の腕だ。稼働範囲に優れた一対と、射撃性能に優れる一対を備え付けると、それはさながら多肢多腕の神々の如く。
全てをまぜこぜに、新たに作り上げた機体色は酷く統一感のない斑の色だが、これは後回しで良いだろう。指先、履帯、内部、制御装置、細かな挙動を確認し、整合性を取ってゆく。
「後は熱核ジェネレータとハイパービームシールドを組み込めば……」
それらばかりはリストの何処にも見当たらなかった。グリモア猟兵を使いに出して、祖国から取り寄せる必要があるだろう。
それらが届きさえすれば、十分に刻限まで間に合う筈だ。
「タイタニア、です」
ジェネレータと武装を揃えたそれに、カグヤは塗料を吹きかける。歪の元斑の色はみるみる覆い隠されて、タイタニアと名付けられたそれは、日の光を受けて白銀の城の如く輝き、この瞬間、クロムキャバリアに新生した。
――『刻限』までは、もう少し。
大成功
🔵🔵🔵
円谷・澄江
あー何とも厄介な状況だねえ…しっかし予知でそこまでギリギリの状況突かないと勝ちの目一切見えないってどれ程の技量なんだい?
ま、最悪の悲劇を阻止するために頑張るとするかねえ。
とにかくまずは準備から、ってどうデコれと!?
愛機のクニークルス…月光の色、というのは崩したくないからいっそ銀とか金から赤っぽい月光に変えるとして…いやパンチが足りないような。
もっとこう和風に…刺青、いいねえ!(ペイントでそれっぽい模様を描いてみて)
やってみると段々楽しくなってくるか…徹夜明けに書く文字のような有様でもまあよしとして。
展示の時はメインシステムこっそり動かして街中の状態の情報収集させておくよ。
※アドリブ絡み等お任せ
「あー……何とも厄介な状況だねえ……」
軒を連ねる店は繫昌、小さな子供が無邪気そうに親の手を引いて、正しくハレの日と言った様相の街中を眺める円谷・澄江(血華咲かせて・f38642)の表情は、正反対に困り顔。
此方が襲撃を仕掛ける側ならば、大なり小なり彼らを巻き込まないと行けなくなるわけで、それは些か任侠のやるべき事とは言い難い。
事前に避難を促せば、きっとそこから此方の動きはバレてしまう。『時』が来るよりその前に、逸って襲い掛かれば返り討ち。結局国が亡びると解っていながらも、その直前まで身動きの取りようが無いのは意地の悪い話だろう。
「しっかし予知でそこまでギリギリの状況突かないと、勝ちの目一切見えないって、一体どれ程の技量なんだい?」
テハ王子曰く『あの人なら一度に百機位から襲われても多分余裕』とのことだが、さて……そんなエース相手に自分とクニークルスがどこまでやれるか。
「ま、最悪の悲劇を阻止するために頑張るとするかねえ」
背に一国の存亡を背負っている|状況《コト》も相俟って、赤の瞳は静かに燃える。
――で。
その為にこそ入念な準備が必要ではあるのだが。
「……ってどうデコれと!?」
本当になんとも厄介な状況だ。いやなんとも。先程とは全く別の意味合いで、澄江は困った顔をした。
しかし頓珍漢な案だとしても、乗っかった以上は最後まで付き合うのが義理人情。取り敢えず|日陰《パラソル》の下で紅茶を一杯しばきつつ、ほぅっと大きく深呼吸。|襲撃《あと》の事はこの際横に置いておく。
喉を通る冷たい紅茶が、|デコレーション《アイディア》的にとっ散らかった思考を整理してくれる。
機神・クニークルス。情報解析・機動力に特化した澄江の愛機。何より外見的に目を引くのはウサギ耳にも近しい形をした一対のアンテナと、静やかに、しかしはっきりと夜道を照らすが如く機体を彩る月光色。
無限にデコって良いとして、最低限の線引きは必要だ。あまり元から離れたシルエットにするのも、月の光を隠すのも気乗りしない。
「……月にもいろんな顔があるもんだ。銀色金色はお約束だけど……例えば|青《ブルームーン》とか――いや、ここは思い切って赤にするのも良いかもね?」
赤い月。うん。紅をさしてるみたいで洒落てるじゃないか。ぐるりとクニークルスを月紅色に染め上げた澄江は、改めて愛機の全身を見遣り感心する。突飛な思い付きだったが、『これもあり』と、悪くない。
「……いや。でも……ちょ~っとパンチが足りないような……?」
色を塗るのもデコるのも、言ってしまえばあくまで前座。それじゃあこれで完成ですと切り上げて、後は出店を漁っても、特に問題ないのだが。折角機材と塗料と時間があるのなら、もう少しだけ手を入れてみたくなるのも人のサガ。
より具体的に言うのなら、もっとこう、世界観の広がりが欲しい。渋く、和風で、刺青調なテイストで。澄江は再び、思いつくまま|機材《ふで》を走らせる。
赤、とくれば白が欲しい。白と言えば雪だろう。けれど月が見えてる夜なのだから、これは|雲《そら》から落ちてきたものでは無く……そう、重力に逆らって、空へと跳ねる地吹雪だ。そんな地吹雪吹き荒れる夜にそれでも強く咲き誇る花があるのはどうだろう。花言葉で見るとちょいとクサいが、縁起の良い葉牡丹を添えてみるのも悪くない。
気付けば|機体《キャンバス》は彩り豊かな雪月花。それでもまだまだ|物足りない《描き込める》。何を描いてやろうかとしばらく腕を組んで悩みこみ、直感的に、最初に思い浮かんだ奴らを描こうと決めた。
それは|故郷《アリスラビリンス》の愉快な仲間達。ファンシー極まりない連中を、和風調に仕上げれば、何と言うか渋カッコいいのにどこか可笑しくて。
「ははは! いいねえ!」
思わず破顔してしまう。
「やってみると段々楽しくなってくるか……まぁまぁ眺めてみると徹夜明けに書く文字のような有様だけど……ちょいと喧しすぎるかねぇ?」
引き算の美学ともいうし、少々羽目を外し過ぎた感もあるので、澄江はもう少し大人しめな画に修正しようと機材を取って――しかし、やめた。
「……まぁいいさ。これくらい賑やかな方が良い。何せウサギは、寂しすぎると死んじまうからね」
観客たちの反応も上々だ。澄江は大きく頷いて……笑った。
「さてとここからもう一仕事……」
クニークルスに乗り込んだ澄江は、こっそり愛機のメインシステムを起動する。目的は街中と現状の情報収集。この機体の本領だ。
街中を巡回警備している敵機の数は無数。此処に集った猟兵の達の機体と、取り巻き達が持ち込んだ機体の数を合わせてみてもその差は数倍。基本的には入り組んだ街中での戦闘になるだろうが、西側が|海《行き止まり》、と言うのは良いかもしれない。誰かが塗りたくった避難経路が示す様に、民衆が逃げるとしたら陸伝い。港や海岸側に陣取れば、避難の邪魔にはならないだろう。
拠点防衛用と思しき重装甲の敵機たちは、図体から見て恐らく水中戦に不向き。水中仕様の機体なら、海を戦場に選ぶのも悪くない。
「――しかし。自分の名前で街に戦力配備して、その上派手に塗りたくれなんて、|放蕩王子《わたし》が騒動の黒幕ですって喧伝しているようなもんだが……よっぽどの馬鹿なのか、それとも――『覚悟』を決めているのかね?」
――そして。
『その時』は来る。
●刻限
正午の鐘と同時に鳴り響くのは、平穏を|打ち砕く《守る》為かき鳴らされる大きな銃声。
戦禍の到来を告げる音。
それを合図に運び込まれた|武力《キャンバス》の|瞳《カメラ》には次々戦意に満ちた光が燈り……。
街は、恐怖と叫喚に包まれた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ガーディスト』
|
POW : グレイブカウンター
【EPキャバリアシールド】を構える。発動中は攻撃できないが、正面からの全攻撃を【大盾】で必ず防御し、【RXキャバリアグレイブ】で反撃できる。
SPD : シールドアタック
【EPキャバリアシールドを押し出した】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【仲間】の協力があれば威力が倍増する。
WIZ : ヘビーガンナー
【両手持ちBSキャノン砲による砲撃支援体勢】に変形し、自身の【移動速度と|近接兵装《盾と槍》】を代償に、自身の【攻撃力と射程距離】を強化する。
イラスト:イプシロン
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●地に這いつくばる虫のように
※次回冒頭文更新9月10日(日)予定。
|地上《てんじょう》が揺れる。
軋み悲鳴を上げる|地下《へや》の内で独りきり、|死《ねむり》の淵から目を覚ます。
交錯し、けたたましくも次々鳴り響く|音声通信《こえ》。それらが告げるのはテハ王子叛乱と言う、俄かに信じ難い報だった。
――馬鹿な。弟は確かに軽薄で猥雑で胡乱な男だが、そのようなモノからは最も縁遠い場所にいる筈だ。
……もし。それが本当であるのなら……質さねば。
そう、立ち上がろうとして、しかしそれすら最早叶わず|仮の寝床《ソファ》から転がり落ちる。
視線を何処かに遣るだけで、眼窩の奥が熱を持つ。指先一つ動かすだけで、どうしようもない|激痛《いたみ》が走った。
……地に這いつくばる虫のように。こんな姿は、他の誰にも見せられまい。
ほんの数日前までたったの十数秒で|機体《空》まで辿り着けていたその道が、今ではひどく――長いものに感じられた。
●
瞬く銃火。撃ち出された銃弾達は狙い通り敵機――ガーディストへと殺到するが、しかし大盾がその全てを遮り弾き、そのまま取り巻きの操る機体へと迫る。
武器を捨てて投降しろ、という敵機の呼びかけに無視をして、取り巻きは接近してくるならと待ち構え、会心のタイミングでソードを振り下ろす。が、その一撃は軽々敵の|槍捌き《グレイブ》に往なされて、為す術も無く機体ごと吹き飛ばされた。
それでも如何にか五体投地の格好で受け身を熟し、立ち上がろうとしたその刹那、大型のキャノンの砲口が此方を睨んでいる事に気付き、取り巻きは大慌てで|建物の陰《死角》に身を隠す。
「あー、駄目だこりゃあ。勝てる要素が一切無ぇ。一応これで機体の|性能《スペック》はこっちが上の筈なんだけどなぁ!」
「そりゃあ肝心要の中の人の|技量《スペック》がな。日々何もせず遊び惚けてるごろつき・チンピラ・穀潰し共と、日々心血注いでこの国を守って下さっている精鋭の兵隊サマを比べちゃ向こうさんに失礼だろ」
他所で奮戦していた別の面々も合流するが、それで何か事態が好転するわけも無く。
「それでそっちはどうだ? ダメージは?」
「致命傷だ。特にちっこい子供に大泣きで卵ぶつけられたのが一番効いてる」
「そりゃ酷い。よく耐えられたな」
「ああ。いっつも母ちゃん泣かせてたのは伊達じゃねえ」
「もっと酷ぇな!」
|状況報告《馬鹿話》を交わすのが精々だった。
『――安心しな。別にお前達にゃあ華々しい活躍なんて期待しちゃいねぇさ。取り敢えず生きてるんなら、まぁそれで十分だ』
街中に居る全ての味方に向けて、軽薄な放蕩王子の音声が反響する。
「何だいテハくん、いっちばん後ろから随分偉そうに。めっちゃ軍師気取りじゃん」
「いやまぁ操縦超絶下手っぴなテハくんが|最前線《まえ》に出てきたら、絶対秒で落ちるしこっちはお守りしなきゃいけないしだから、そうやってどっかにせこせこ隠れてて貰わないと逆にすっげぇ困る」
「ああ……言われてみりゃあ確かにそうだわ!」
『うるさいよ!』
そんなやり取りを遮るように、敵機より放たれたキャノン砲の光芒が取り巻き達のすぐ横を掠めて消えた。
「うわー……おっかねぇ。今街にめちゃくちゃ居るガーディスト、一般人に犠牲が出ない風に立ち回って、完全に理性ある正義の味方な振る舞いしてるけど、その実全部オブリビなんちゃらなんだろ? オカルトだよなぁ……」
『ああ。全員が全員、兄貴なら絶対に|殲禍炎剣撃破《それ》が出来ると思ってるし、自分達こそ正しい立ち位置に居るとそう『思い込まされている』だけの被害者だ。マシンの方は全部ぶっ壊さなきゃならねぇが――』
猟兵。勢い余って|中身《人間》まで壊してくれるなよ? テハ王子がそう猟兵達へ声を掛け、正直こっちの方が先にくたばるかもしれねぇなと取り巻き達は笑い合う。
「兵隊さんたちがきちんとお国を守ってくれねぇと、安心してチンピラやゴロツキなんぞ出来やしねぇもんな。だから頼むぜ猟兵サン。俺達がバックアップじゃ、不足しか無いだろうけどよ!」
そうして暫しの|休息《やすみ》の終わり、色とりどりの|名も無き量産機の群れ《取り巻き達》は武器をしかと携え、走り出す。
国家の存亡などそんな大仰な話は分からない。殲禍炎剣のことなど真面目に考えた事すらなかった。
彼らは結局|近視眼的《自分中心》な物の見方しかできない凡人達なのだ。だからただ、自分にとって居心地の良い|場所《街》を守るために――どれほど罵声と怨念に曝されようと、彼らの機体は止まらない。
『よぉーし、良いぞ穀潰し共! 砲を殲禍炎剣に向けさせんな! 笑われようが何しようが今更知った事じゃねぇ! 地に這いつくばる虫のように鬱陶しく動き回れ! お前らが一機でも動いてりゃ、敵も|地上《じめん》に目を向けざるを得ないだろうさ!」
――これが俺らに出来る精一杯。後の諸々は任せたぜ。
そんな虚勢で格好をつけた通信が、猟兵達の耳へ届く。
セウ王子の姿は未だ見えないが――この戦場に降り立った|猟兵《エース》として、役割を果たそう。
カグヤ・アルトニウス
○市街地防衛戦
アドリブ歓迎
猟兵が殲禍炎剣に手を出しかねているのはその正体が分からないからなんですけどね
でも、オブリビオンがなぜそれを落とそうとするのか…謎ですね
ひとまず、今回は防衛戦です
(乗機)
ホワイト・レクイエム
タイタニアはGOKUが操縦
(行動)
タイタニアは市街地前に移動し、ビームカノンやミサイル・ビームマシンガンの【制圧射撃】で応戦しつつハイパービームシールドを展開して余波を食い止め、市民の避難の支援をします
わたしはUC発動して市街地を透過しつつ背後に回り込み、タイタニアと挟撃する形でソードオブビクトリーのソードモードを二刀にして敵機の両肩を【切断】して戦闘力を奪い、反撃は【見切り】ます
鳴動する無限軌道が、真昼の街路へ激闘の軌跡を刻む。
難攻不落の城塞が如く、泰然と火線に聳え立つのは白銀色のタイタニア。二対の腕の異形の|戦車《タンク》は否が応でも敵の視線を引きつけて、ならば墜としてやろうと|砲《キャノン》が奔る。
だが、たかが砲火の一撃でやられる|機体《モノ》を組んだ覚えも無い。
履帯が動く。タイタニアは展開したハイパービームシールドでキャノンを受け止めたまま、応酬に肩部よりミサイルを打ち出す。槍と盾を捨てて砲撃に専念していた敵機にそれを躱す術は無く。直撃後パイロットの脱出を確認したタイタニアもまた、新たな敵機に|照準《ねらい》を定め、ビームカノンを構えた。トリガーを引くと同時、即座逆転する攻守。今度はガーディストが此方の砲撃を大盾で受け止め、凌ぐ。が、|熱核ジェネレータ《異世界のテクノロジー》が安易な防御を許さない。高出力のビームが大盾を焼いて穴を開け、そのままそれでも構わず一撃入れようと突進してくる敵機と真正面から組み付いて、零距離での格闘戦。
肉薄すれば、と考えたのだろう。だが馬力の差と腕の数の差がそんな一縷の望みを絶ち切る。数秒後、後退り、弾き飛ばされていたのは敵機の方だった。
「おお、凄ぇ。よくそんなクセの強そうな機体を動かして大立ち回り出来るもんだ」
俺にゃあ到底出来ねぇ芸当だと感心しつつ、取り巻きは盾を失った敵機の機能を止める。
「あやかりたいもんだねぇ。あんた、名前は何て言うんだい?」
「……ゴクウ、です」
ホワイト・レクイエムのコクピットから、思案交じりにカグヤが答えた。
取り巻きは通常のキャバリア同様、タイタニアにも|中の人《中の人》がいると思って話しかけてきているが、実際にタイタニアを動かしているのは、人では無く半自律式の汎用電脳ユニットだ。
が、それをこの鉄火場で一から説明するのは少々野暮ったい気がしたし、
「ははぁ、自分からは名乗りもせずあくまで仕事に徹するその態度。燻し銀でイカしてるじゃねぇの」
良い方に解釈してくれるならまぁ、敢えて訂正することも無いだろう。
「ところで、オブリビなんちゃらって奴らは、なんで人間サマを狂わせて、殲禍炎剣を落とそうとしてるんだ? 猟兵サン達はそこら辺どう見てるよ?」
戦闘の合間、味方機の|眼《カメラ》が空を見る。恐らく、コクピットの中でも同じ動作をしているのだろう。
「現状では、わたし達の方でも何とも。単純に、そちらの方が何もかもを壊すのに効率が良いからなのかもしれませんし――」
あるいはオブリビオンにとってもそれは撃破したいほど邪魔なものなのか。
この世界を今の窮屈な形に押込めている|元凶《ギミック》にも拘らず、殲禍炎剣の詳細は未だに不明のままだ。
「何にせよ、今、アレに関われば確実に破滅が待っている。だから、人を狂わせる理外の機体の存在は見逃せません」
敵機の群れの|陣形《うごき》が変わる。タイタニア相手に一対一は無謀と悟ったか、大盾達が寄せ集まって一気に仕掛けるつもりらしい。
槍を揃え、砲で狙い、敷き詰められた大盾が、ただ一機、たった一つの城砦を破る為だけに、雪崩の如く押し寄せる。
「……堅牢な装甲、堅実な兵装、そして重厚な連携。拠点防衛の運用としては実に理想的です。ですが……」
次元を超えたインチキをお見せしましょう。準備運動を熟す様に、ホワイト・レクイエムの|統合兵装《ソードオブビクトリー》がゆっくりと長剣の形に変じた。
「位相操作式空間機動ユニット『ダイダロス』、起動。多次元確率変動演算完了……現実反映開始」
――そして、ホワイト・レクイエムは戦場を駆け抜ける。
「あ!? おい! そのまま行ったら建物にぶつ……からないのか……!?」
|物理法則《なに》に縛られることも無く、ただ只管、縦横無尽に。
白銀の城を揺るがす力攻め。間断ない攻勢に晒されて、さしものタイタニアも消耗は避けられず、じわりじわりと後退る。
化け物馬力に抗う為に|出力《ちから》を束ね、異形の腕を封じるために無数の腕を突き出した。ガーディスト達はようやく勝機を見出して、あと一押し、と言う|瞬間《ところ》、剣閃一撃煌めいて、大盾の後ろ、完全無防備の背後よりホワイト・レクイエムが現れる。
大盾を構えた左腕が脱落し、異常に気付いたグレイブが、力任せに薙ぎ払おうとするものの、紙一重で躱したホワイト・レクイエムは飛び退き、その勢いのまま建造物に衝突、することなく『すり抜け』『紛れ込む』。
目を疑うような光景に、動揺を隠せない敵機たち。何処に狙いをつければいいのか、ぐるりと周囲を見渡してもただ見慣れた街並みがあるばかりで、最早この街全てが自分たちにとって死角であると気付いたのは、僚機の首が跳ね飛ばされた後だった。
姿をみせぬホワイト・レクイエムに注視すれば、タイタニアのビームマシンガンが縦の背後から容赦なく降り注ぎ、タイタニアを抑え込もうと動き出せば、無限にある死角から、二刀に別れた兵装が、左右の腕を同時に斬り飛ばす。
まさしく次元を超えたインチキ。こうなってしまっては、装甲も兵装も、陣形すら何の意味も成さなかった。
宙から落ちてくる大盾を、タイタニアが受け止める。
足元には、先程キャバリア談議で盛り上がったあの観客が居た。
観客は恨みと困惑がない交ぜになった顔を向け……そこから退避する。
――構わない。今はただ、役割を果たすのみだ。
成功
🔵🔵🔴
鳴上・冬季
戦場俯瞰し
「オブリビオンマシンに乗って一般人への殺戮衝動に繋がらないとは実に珍しい。避難誘導の準備が無駄になりましたか」
嗤う
「であれば、面倒臭くても操縦士を助ける方向で動かねばなりません」
嗤う
「5mの木偶の手足を毟り取るなら、掌が10mもあればいいでしょうか。ならば全長は110mもあれば十分ですね。蹂躙せよ、真・黄巾力士」
黄巾力士を110mまで巨大化
飛来椅で上空をゆっくり飛行しながら敵機掴み手足を毟って都市外に放り投げるのを繰り返す
敵の攻撃はオーラ防御で防ぐ
自分は高度百m辺りを風火輪で飛行し戦場俯瞰
竜脈使い黄巾力士の能力底上げし継戦能力高める
敵の攻撃は仙術+功夫で縮地し回避しながら雷撃も落とす
先程の、塗装大会の頃よりそのまま、冬季は上空より街の――戦場の様相を俯瞰する。
統制の取れた敵機たちは、専ら蜂起した取り巻き達の対応に当たり、戦闘の余波で二次的に建造物の倒壊などは起こしているが、率先して民間人を襲う気配はない。
「オブリビオンマシンに乗って一般人への殺戮衝動に繋がらないとは実に珍しい……避難誘導の準備が無駄になりましたか」
冬季は嗤う。
両陣営から狙われないのを良いことに、逃げもせずその場へ留まり、取り巻き達へ罵声を送る事に熱心な連中もいるものだから、全く甲斐の無い仕事をしてしまったものだと対して気にした素振りも見せず、大仰に肩だけ竦めた。
逃げ隠れしつつ攻撃を加え続ける此方側。大盾を振るい物ともせずに前進する彼方側。戦況を眺めて見る限り、やはり現状ではこちらの方が不利だろう。
しかし取り巻き達の行動は、敵側の、空への意識を確実に逸らし――その証拠として、蒼穹を悠然と飛翔する冬季の存在に気付いていない。
ならば|虚《そこ》を衝かない道理もあるまい。|殲禍炎剣《うえ》に睨まれない程度、一息風火輪を加速させ、猛禽が強襲を仕掛けるが如く上空よりすれ違いざま、雷公鞭で敵機を打ち据える。
何事か、と打たれた敵機が冬季を認識した時にはすでに遅く、叩き込まれた仙術が、衝撃に変じて、分厚い装甲の内側を破壊し尽くす。そのままなす術も無く中身が放り出され、冬季は嗤う。
「であれば、面倒臭くても操縦士を助ける方向で動かねばなりません」
突如得体のしれぬ仙人の乱入に、浮足立つのはガーディスト。それでも冬季を明確に敵だと認識したその瞬間、振り下ろされるグレイブの速度に一切の容赦はない。しかし迫りくる槍撃に対し、冬季は足裏に仙術を籠めて半歩。無拍子の縮地で音も無く敵の懐にするりと忍び込み、再び雷公鞭が唸れば、先程同様敵機が爆ぜた。
武装も機体も明確に対人戦を想定していないが故。人の身で終わることなき槍衾を躱し続けるのはさほど苦のある|作業《モノ》ではない。
だが些かに煩わしい。それに獣狩りの如く追い回されるのも気に喰わない。
ならば『覆しようのない体格差』と言うものを、彼らに押し付けてみるのも一興か。
そんな風に思考を巡らせていた矢先、余りにも都合の良いタイミングで横合いから|空《あお》色の|量産機《取り巻き》達が放つ弾幕が敵機を引きつけたものだから、不意に零れそうになった笑みを堪えつつ、
「よう、仙人サン。加勢に来たぜ。さて、俺達ゃ何をすればいい?」
「そうですね。それでは此処から|遁走《にげ》てください。可能な限り、全力で」
冬季は嗤いながらそう答えた。
「……は? えっ? 何だって!?」
眼前で起こりつつある光景に狼狽する取り巻き達。何が起こっているかと問えば答えは明快。数瞬前まで精々人間大だった黄巾力士が見る見るうちに巨きくなって――キャバリアの標準サイズなど即座飛び越え、その十倍の全長を軽々上回ると、百mの壁すら優に突き破り……巨体を浮遊させる飛来椅の轟音が、あらゆる雑音を駆逐する。
「さて。五mの木偶の手足を毟り取るなら、掌が十mもあれば良いでしょうか。ならば全長は|百十m《ここまで》もあれば十分ですね」
そうして冬季はそれに合体し――戦場に、大きな巨きな黄巾力士の陰が落ちる。
冬季の言に従って、混乱しつつも全速力でその場を離脱する味方側。向こうも側もこの威容に怖気づいて膝の一つもついてくれれば楽を出来るのだが、印籠さながらそう美味い話などありはすまい。しばしの混乱こそあったもののの、ガーディスト達は一斉に、巨大なる宝貝に向けて砲撃を開始する。
当初の内は逆に何処も狙い放題とあらゆる部位に向けて砲火を放っていたが、やがてそれが効果の薄いことを悟ると、今度は火力を集中させ、一転突破を仕掛けてくる。
敵の狙いは頭部。オーラのガードが綻び、じわりと、青の瞳に痛みが走る。成程、恐らく初めて遭遇した超巨大構造物相手に怖じる事無く向かってくるとは、大した練度と使命感だ。
しかし。
「――蹂躙せよ、真・黄巾力士」
劈地珠より龍脈の力を吸い上げた巨大なる黄巾力士の、|障壁《かべ》とも見紛う掌が動く。開かれた掌は、大盾毎あっさり敵機を攫って手中に収め、これでは防御も何もない。地上より撃ち付ける砲撃など物ともせず、まるで無邪気な子供が羽虫へそうするように、ガーディストの手足を毟る。
ひとたび腕部が動く度、必ず一機、毟り取る。そうして毟り終えれば都市外へ。巨大化させる隙を与えたのが運の尽き。この程度の|蹂躙《作業》なら、黄巾力士一人でもこなせるだろう。
冬季は黄巾力士より分離して、再び蒼穹より戦場を俯瞰する。
まだまだ敵の数は多い。いくら掌が巨大でも、手数が足りていないのもまた確か。
ならばと雷公鞭を掲げ、戦場に無数の雷撃を落としてやる。
敵機が雷に撃たれれば束の間痙攣するように動きを止め、その隙を黄巾力士が攫っていく。
鳴り響く雷鳴に、堪らず民衆達も一目散。突如落ちてくる|自然現象《それ》は時として殲禍炎剣より脅威であることを、生物ならば誰しも本能的に理解しているからだ。
大慌ての民衆は、這う這うの体で冬季の付けた|避難経路《マーカー》を辿り……。
「――おや。苦労して付けた目印が、役に立っているなら何よりです」
そう、冬季は嗤った。
成功
🔵🔵🔴
叢雲・源次
【特務一課】
局長からは「極力殺すな。」という指示も下っている
二人とも、わかってはいると思う…が…
(先程見世物にされた鬱憤が残っている白鈴号の怒りがパルスを通して伝わってくる)
努力目標とする。
殲滅大太刀はその名の通り殺す為にある武装だ…で、あるならば抜くは不要
「鬱憤晴らしに付き合う事になるか…サギリ、お前の好きな格闘戦だ。制御、頼む。」
超速駆動、オーバークロック
乗り手の動きを完全再現できるジャイアントキャバリアの強みを最大限に生かし、指示を完遂すべく徒手空拳にて敵キャバリアをドツき回さんとする
裏拳、裏打ち、鉄鎚、左下段前蹴り、右背足蹴り上げ、左中段前蹴り、左中段膝蹴り、右上段膝蹴り
じゃじゃ馬が。
サギリ・スズノネ
【特務一課】
キャバリア:白鈴号搭乗(制御手)
合点なのです!命大事にを目標に行くのです!
源次お兄さんグウェンお姉さん、がんばろーなのですよ!
ところで白鈴号、どうどうなのです(浄化・破魔・呪詛耐性・狂気耐性を叩き込みつつ)
白鈴号はお洒落さんだったのです。綺麗だったのです。ハイカラという奴なのです。
ですからー……ハイカラにぶっ飛ばしてやろうですよ!
はいなのです、ぶっ飛ばすのは得意なのです!
白鈴号が暴走しないように制御しつつ、敵からの攻撃はオーラ防御でガード!
白鈴号とお兄さんを鼓舞しながら『陽光ノ神楽』を使って
蹴りと拳を限界突破をさせてー、全力全開でサポートなのです!
ひゅー!格好良いのですよ、白鈴号!
グウェンドリン・グレンジャー
【特務一課】
キャバリア『黒玉姫』と融合(搭乗)
キョクチョーの命令、なるべく不殺。分かってる、けど……
じゃじゃ馬プリンセス、そうは問屋が……卸してほしいなぁ
(自分でも制御を諦めることも多い。荒ぶる女神はどこまで聞いてくれるだろうか)
白鈴くんはー……(僚機を見る)マジおこまだ長引いてる、ねー
力押しの舞踏、だと、テンションノッてくる可能性が高いから…魔法戦、で。
影の追跡者とも、同調しつつ、敵機体の統率者がどれか、推測……あいつかー
Scáthach、起動。捕食したいと、思わない不味そうな部位……つまり、コクピットから遠い部位、第六感で察知
牽制、威嚇……命、奪っちゃダメ、だよ。プリンセス
白鈴号のコクピット内で、源次は確かめるようにゆっくりと手を握り、手を開く。ようやく身体の調子も戻ってきた。
短時間でここまで回復できたのは二人の尽力と、そして経緯を思えば苦々しいが、頑丈な体のお陰だろう。
さて、と、源次は戦場を見据えた。既に数人の|猟兵《なかま》が介入を始めているが、敵機の多さから状況は未だに劣勢。まだちらほらと民間人の姿もある。しかし相手が彼らを手に掛ける素振りを見せないのなら、|特務一課《自分たち》は敵の数を減らすことを第一に動くべきだろう。
「局長からは『極力殺すな。』という指示も下っている。わかってはいると思う……が……」
再び白鈴号と神経接続した源次は、らしくも無く言い淀む。
「キョクチョーの命令、なるべく不殺。分かってる、けど……」
|黒玉姫《モリガン》との|搭乗《融合》を果たしたグウェンドリンもまた歯切れ悪く呟いて、二人の懸念は同様に、意志持つ乗機の気性についてだ。
「じゃじゃ馬プリンセス、そうは問屋が……卸してほしいなぁ……」
気難しいと言うべきか我が儘と言うべきか、気に入らないことがあれば頑として動かないし、逆に興味を示すものがあれば勝手に動いたりもするので、思い返せば色々と。操縦者であるグウェンドリンでも制御を諦めることも多い。特に今回は悪党呼ばわりされるのも避けられないので、果たして荒ぶる女神はどこまで聞いてくれるだろうか。
(「あ。でも、今は割と機嫌が良さそうな……?」
融合しているので、何となく程度に彼女の気持ちが読み取れた。金のカラーにレースを羽織り、ブラックダイアモンドを輝かせ、いつもと違うお召し物を選んでくれた報酬に、一つお願いを聴いてあげましょう、とか、なんだかそんな気分をしてる予感がする。
ありがとう|職人《鴉》たち。お互いボロボロになるまで殴り合ってたのも無駄に見えてきっと多分無駄じゃなかった。
「それで白鈴くんはー……?」
ご機嫌いかが? と問われれば、最大級に|激怒《斜め》だろう、先程見世物にされた鬱憤が、パルスを通してよくよく源次に伝わってきた。それでもいたずら此方に当たってこないだけ幾分冷静ではあるのだろうが。『殺すな』と言ってそれに従ってくれるかどうかは正直……。
「……先の指示は、努力目標とする」
「マジおこまだ長引いてる、ねー」
端からだと黒玉姫が『やっぱり短気過ぎじゃない?』と言いたげな視線を白鈴号に送り、白鈴号は『何か文句あるのか』と怒気をはらんだ顔をしている……ように見えなくも無いかもしれない。
「合点なのです! 命大事にを目標に行くのです!」
そんな中、唯一サギリは満面の笑顔で元気よく声を返し、ばしばしと景気よく白鈴号の制御盤を叩く。
「ところで白鈴号、どうどう、なのです」
それはもうばしばしと。先程源次へ施したように破魔や浄化の力を籠めて。ついでに呪詛と狂気を退けるお札を熱覚ましのシートのように貼り付けた。
「よし! これでもう大丈夫! なのです!」
仕上げとばかり最後にもう一発ばしんと叩く。
するとそれまで怒りに震えるが如く起きていた律動が収まり、白鈴号が少し大人しくなった気がした。
「白鈴号、落ち着いたのです?」
「ノーコメント、だそうだ」
そう口をきいてくれるだけ十分なのですよ、言って、サギリは微笑んだ。
「それじゃあ源次お兄さんグウェンお姉さん、今回もがんばろーなのですよ!」
おー! とサギリは白鈴号のコクピット内で拳を突き上げる。
「おー」
そんなサギリに呼応して、|黒玉姫《グウェンドリン》も拳を掲げ、
「おー!」
「おー」
「……」
源次は一人静かに指先を動かし、自身の眉間を触れる。
「おー!」
「おー」
「――よし。行くぞ二人とも」
そして現状を打開すべく白鈴号を動かすと、
「あー! 源次お兄さんそれは反則なのですよー!」
「ルール違反ー」
いつの間にか知らないルールが出来上がっていた。
「……うん。やっぱりモリガン、機嫌良いでしょー?」
最初から、手加減抜きの最高速。建造物を踏み台に、華麗なステップを刻んみふわり宙へと飛び出すと、ふわりとレースを翻し、勢いよく真下の大盾を|脚部《ヒール》で踏みつける。
音を立てて割れる盾。幸いパイロットは無事なようだけど、と大盾諸共残骸と化した敵機を見遣り、グウェンドリンはこのまま力押しの舞踏を続ければ、テンションノッてそれはそれでまずいことになりそうだと、何より敵操縦士を案じて距離を取る。
「趣向を変えて、魔法戦で、いってみよー」
折角調子が出てきたところに、と、モリガンはその提案を断るようなそぶりを見せる。が、
「えー? 魔法で戦うのも格好良いと思う、よ。 こう、神罰の光、とか、闇、的な?」
その言葉に何か感じるものがあったのか、モリガンは考え事をするようにくるりくるり空中で回転し、やがて|Scáthach《槍》を杖に見立てて携えた。
「おー、ないすステッキ。それじゃあ二回戦目、やっちゃおう」
立ち振る舞いすらそれっぽく。もしかするとモリガンの中ではまだキャバデコ大会が続いているのかもしれない。
槍の穂先が相手を示せば、忽ち機体を囲むように炎の弾が揺らいで生まれ、撃ち出されたそれらは複雑怪奇な挙動で大盾潜り抜け、敵機を燃やす。
ゆっくりと|腕部《うで》を天に翳せば、何処から鴉の形をした真っ暗闇が襲来し、鋭い翼で重装甲を割いてゆく。
「牽制、威嚇……命、奪っちゃダメ、だよ。プリンセス」
明らかにノッてるな、とグウェンドリンは確信する。炎や闇を使おうと決めたのは自分だが、それを滅茶苦茶な挙動でぶつけたり、わざわざ鴉を模ったりしているのは、間違いなくモリガンだ。
しかしどれだけやられても、統制が崩れない敵の姿へ、関心と同時に脅威も感じた。
モリガンがやり合っている内に、グウェンドリンはそろりと戦場へ|追跡者《影》を紛れ込ませ、敵部隊の統率者を探し出す。
機体のデザインはすべて同一だが、その中に指揮を取る為、立ち回りの異なるものが居るはず。
おそらく好きにやっているだけだろうが、モリガンが派手に魔法を使ってくれているお陰で、その差異はより明確に示されるだろう。
「見つけた。あいつかー」
そして影は見つけ出す。一塊の敵集団の中心。
「モリガン、ちょっとだけ、Scáthach、借りるね」
グウェンドリンがそう言うと、槍は独りで動き出す。
「捕食したいと、思わない、不味そうな部位――」
つまり、コクピットから遠い部位。胴以外の何処か。
それで潰すのならば、やはり頭だろう。Scáthachは彼女の|思考《脳波》の通り、高速で疾走し、銃火・砲火を掻き分けて、敵の|統率者《アタマ》を貫いた。
途端に敵部隊の鈍くなる。モリガンからは『魔法っぽくない』と𠮟られはしたが……やるだけの価値はあっただろう。
不意に、白鈴号は側面から強い光に曝される。何かと思えば、数階建ての建造物の大きなガラスが、戦火の光を返しただけだった。
しかしそこに映り込む白鈴号の姿はデコった時のそのままの、真白装束梅の花。
「白鈴号はお洒落さんなのです。綺麗なのです。ハイカラという奴なのです」
サギリの言葉を受けた白鈴号の感情を、源次は読み取れない。彼自身が語らないからだ。見世物ではないという、その怒りは未だ絶えず。ただ――源次はふと考える。
こうやってめかし込むことなど今まで無かったろうから、或いは困惑の感情もあるのかもしれない。戦具足とて時には豪奢に飾り立てられるものだ。
ただ。
「ですからー……」
硝子に映り込むもう一つの|機体《キャバリア》。胸像の中のそれは大振りにグレイブを振り下ろし――。
――終わる前に裏拳で頭部を潰す。崩れ落ちる大盾。白鈴号は迫る敵機の群れを睨め付けて、
「……ハイカラにぶっ飛ばしてやろうですよ!」
今度は同意するように唸りを上げる。
ただ。どうあれ二人と一機の目的は一致した。即ち、
「鬱憤晴らしに付き合う事になるか……サギリ、お前の好きな格闘戦だ。制御、頼む」
サンドバッグとして・取り除くべき脅威として、眼前の敵機達を倒すこと。
「はいなのです、ぶっ飛ばすのは得意なのです! そんな訳なので戦いつつも今からちょちょいっと、」
二人の事情に構う事も無く、大盾は、速度と質量のまま白鈴号に迫る。面白い、とばかりに白鈴号も真正面から受けきって、堂々腰の、
「じゃじゃ馬が……今、刀に意識が行ったな白鈴号。だが駄目だ。殲滅大太刀はその名の通り殺す為にある|武装《モノ》。ならば今、抜くは不要」
「なので、今しがたロックを掛けたのです。今回は反則、なのですよ」
まさか徒手では戦えないとは言わないだろう、源次は敢えて、煽る様な言葉を並べる。
「|超速駆動《オーバークロック》……刀が無くとも退屈はさせない。だが、俺の動きについて来れないとは言わせないぞ、白鈴号」
――面白い。白鈴号がそう猛ったような気がした。
命賭けの高速戦闘。時間を惜しんでいる暇はない。白鈴号はめり込むほどに地を蹴って、一足飛びに距離を詰め、大盾を構える前の機体を裏打ちで吹き飛ばすと、次の機体に鉄槌を。左下段前蹴りで新たな機体の|脚部《膝》を壊して、キャバリア相手に効果は薄かろうが|右背足蹴り上げ《金的》を見舞い、|左中段前蹴り《脇》を打つ。
「おー! 滅茶苦茶大迫力なのです!」
サギリの鼓舞を受け止めて、拳と足はさらに鋭く。
「お互い、そちらの装甲に助けられたな。生半な機体なら、恐らく死人を量産するのみだったろう」
さながらこの世に煉獄が具現化したような、鬼神の如き立ち回り。
苦し紛れの、隙間なく迫る四方八方からの槍撃は、
「サギリ!」
「はいなのです!」
全てサギリの|防御《オーラ》に任せ、五体の全てを|攻撃《オフェンス》に注ぎ込む。
「ちょちょいっと……調整が終ったのです! 白鈴号の動きを格闘戦に最適化させたのですよ!」
さらに舞い散る陽光の、桜吹雪。
白鈴号の性能は限界のさらに限界を超え、拳撃蹴撃乱れ舞い、飴細工のように敵を蹴散らして、遂には打ち放たれたキャノンの|光芒《ひかり》すら、突き出した拳で二つに割った。
「ひゅー!格好良いのですよ、白鈴号!」
こっちも負けていられないですよ源次お兄さん! と、テンションノッてきたサギリは源次へ呼び掛け、
「次はこう……『なんとか波』的なヤツで一気にぶあーっとやっちゃうのです!」
「いや、『なんとか波』は無理だ。目から熱線ならいけるが」
代わりに敵機を蹴り砕きつつ、冷静に源次は答えた。
「……それなら、私たちが、出来るかも」
空より合流する|ブラックダイアの乙女像《グウェンドリン》。二機は互いに背中を合わせ、大盾達と対峙する。
黒玉姫は翳した掌に神罰の光を収束させ、
「えーと……『波』~」
解放された光が敵団を薙ぎ払い、戦闘力を奪い去る。
「おおー!? 目がチカチカするのです!」
「おー……本当に出来た……?」
グウェンドリン自身もびっくりだった。
「――兎も角。二機揃ったなら此処からが特務一課の本領だ。一気に蹴散らすぞ」
そして白鈴号は|前衛《まえ》へ。黒玉姫は|後衛《うしろ》へ。
拳が鋼を打ち砕き、魔法が鋼を焼き尽くす。
幾ら大盾を揃えても、|連係《タッグ》を組んだじゃじゃ馬二機は止まらない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
御園・桜花
敵機まじまじ眺め
「操縦席は胴部、動力系は背面でしょうか。動力系を爆発させた場合緊急脱出可能かは保証されませんけれど、駆動系の破壊だけではオブリビオンマシンの完全破壊は難しそうです。でも無力化出来れば後でゆっくり解体も可能かもしれません」
UC「侵食・花霞」
雷鳴電撃
物理攻撃無効
通電物質内移動の能力得て敵の突進無効化
接触した敵機金属部分を通電物質内移動の能力で移動しながら雷鳴電撃
駆動系や頭部カメラにダメージ与え敵機を鉄の棺桶状態にしたら次の敵機へ向かう
「全く駆動出来なくなったら、操縦席から手動操作で脱出すると思います。操縦士なしで動けるオブリビオンマシンは限られますから、此れで止められると思います」
――当然の帰結として。
先の頓痴気塗り絵大会で多くの注目を集めていた桜花は、今回の『叛乱』の重要参考人として追い回される羽目になる。
けれどもそれは自ら望んだこと。むしろ血眼で追って来るなら好都合と、桜花はアクセル全開、キャンピングカーを走らせた。
右へ曲がり、左へ曲がり、坂から高くジャンプして、より人気のない港側、逃げ惑う民衆達とは逆方向に。
壊れかけの信号機を潜り抜け、さらに距離を稼ごうとハンドルを握りしめたその刹那、見通しの利かない街路の、その建物の陰より|敵機《キャバリア》が姿を現して、此方の道行きを阻む。
そこで止まれと警告を飛ばす敵機。けれども車は急に止まれない。止まれないので全速前進。キャンピングカーはむしろ加速して、真正面からガーディストと激突した。
あまりの突飛な行動に、盾を構える暇も無く、直撃を受けた敵機は諸共建物にめり込む。が、そこは流石の重装甲か、突き刺さるキャンピングカーを振り払い、難なく敵機は立ち上がった。
激突直前車から飛び降りていた桜花はその様子をまじまじと眺め、果たしてどんな|手段《て》が有効だろうかと考える。
「そうですねぇ……」
激突の際、頭部は不動、反射的に|胴体《からだ》を庇おうとした動作が見られたから、操縦席も多分そこ。この構造だと恐らく動力系は背面に集中しており、そして建造物に叩きつけられた程度の衝撃では損傷は見られない。ユーベルコードを用いれば、大きなダメージを与えることは出来るだろうが、相手はオブリビオンマシンなので、動力系を爆発させた場合、素直に脱出可能装置を働かせてくれるかは微妙な所だろう。
うーん……と声を零しながら、桜花は小首を傾げる。少しの間だけ頓痴気を隅に置いといて、取り敢えずのところは|駆動系《うごき》を止めてしまうのがベターだろうか。無論それだけで完全破壊とはいかないが、そこのところは無力化出来た後にゆっくり解体してやればいい。
「槍と盾と大砲を持った状態では、文字通りお話にもなりませんから……」
方向性が纏まったので、にんまり笑うと桜花は単身、敵機と対峙する。
体格の差は大人と赤子、いいやそれ以上。にも拘らず、敵機は大人げ無くも自身よりさらに大きな盾を構え、桜花目掛けて突進する。
響く大きな|駆動音《あしおと》。地を削る大盾は火花を撒き散らし、そのまま引き潰してやろうと桜花へ迫るが、当の桜花はぼんやりと其処に立ち尽くしたまま――。
瞬間。大質量の盾が高速で通り過ぎ、桜花の姿は消え失せた。
誰より先に異変に気付いたのは、桜花と相対していた敵機の操縦士。彼女を轢断した際盾から伝わる衝撃が、無に等しいほど余りに軽く、仕損じたのかと周囲を窺う。
盾に彼女の痕は無く、ひらひらと、その場にあるのは桜吹雪の花霞。
やはり避けられていたのだ。美しき季節外れの光景に決して見惚れる事はせず、何が起こっても良い様に、守りを固めようとして――がらん、と。逆に。大盾が地に転げた。
そんな操作はしていない。だが機体は勝手にグレイブすら手放して、さらに勝手に座り込み、幾ら制御盤を叩こうと、何故かまともに動かない。その間にもばちん、ばちんとコクピット越しに聞こえる何かが焼き切れる音。遅れて警報音が鳴り響き、各所の異常を報告し始めるが、何か策を講じようとする内に、機器の光が消えていく。
最早唯一生き残っているのは|外界《そと》を覗くカメラのみ。それすらやがて故障を示す様に明滅を繰り返し……最期、ノイズ混じりの映像に、移り込んだ桜吹雪が人の形に集まって―――ぷつんと、全ての光が落ちた。
「ふぅ。どうやら上手く行ったようですねぇ」
鉄の棺桶と化した敵機を見上げつつ、桜花は暫し息を吐く。
こうなってしまっては流石に如何仕様も無いと観念したか、操縦士が這い出て来て、その後暫く空になった機体を観察するが、一人でに動き出す様子も無い。
ならば次だ。敵機の数はまだ無数。花霞があちらこちらに軌跡を描いて鮮やかに、桜花は再び桜吹雪に変じて、戦場を駆け抜ける。
戦場に咲く花は桜花の一輪のみならず。向日葵、紫陽花、朝顔、その他彼女が絵筆をとった|機体《夏の花》たちが、周囲の軽蔑にもめげず、状況は苦しいながらも各所で奮戦を続けていた。
そんな夏の花たちを、鼓舞する様に桜は吹雪く。剣を失った向日葵が、我武者羅マニュピレータ―で大盾を殴れば、花霞はそれを伝って敵機へ渡り……そこから先は、|前戦《まえ》の動作の繰り返し。白く眩く閃いて、装甲の隙間、通電物質の全てを標的に雷鳴電撃が駆け巡り、駆動系を焼き尽くす。
花火の如き火花と共にまた雷を帯びた桜吹雪も散り散りに、ひとたび花弁が敵機に触れれば内より雷光が迸り――鈍重な機体で舞い散る花弁の一つ一つを回避することなど出来はしない。
――雲一つない青空に、花霞は咲き乱れ、桜吹雪が吹き抜ける。
傷だらけの夏の花達も、ここでは決して手折れはすまいと再び大盾へ立ち向かった。
大成功
🔵🔵🔵
ユキ・パンザマスト
全く格好のいい方々揃いだ!
五分の魂、見せてきやがるじゃあねえですか
ユキ達もやらねば廃るもんすね
手始めにハッキング、敵機の通信回線を乗っ取りましょうかね
回線越しの挑発、さぁさノロマな亀さんたちあっそびましょ☆彡 こっちですよう、こっちー、捕まえてごーらんなさぁーい♡
陽動、誘惑、ダッシュ、引きつけるだけ引き付けてさあ走れ走れ聚楽!! お前さんのおめかしはそのためのもんです!!
反撃はしない
非戦闘行為に専念ですとも
オーラ防御と早業、連中の突進を躱せ
【此岸祝呪】、失せ物探しと情報収集、取り巻きさん達や弟さんの場所を把握、認識、守りとなりましょうさ。
貴方がたの魂の灯、消させてなるものかよ。
「……全く。格好のいい方々揃いだ!」
テハ王子の通信と、取り巻き達の奮闘を見遣るユキは、清々しい心地で笑う。
「五分の魂、見せてきやがるじゃあねえですか」
ごろつき・チンピラ・穀潰し、などと自虐交じりに名乗っても、どれだけ動機が|不純《ささやか》でも、押し付けられた滅びに抗い、立ち向かう様こそ|汚名《どろ》塗れながらも気高く。彼らは正しく、命懸けで|現在《いま》を生きている。
夕暮れ時の住人としては些かそれが眩しくて、けれども決して嫌いじゃない。
「ユキ達もここでやらねば廃るもんすよ。ねえ聚楽?」
言って、ユキは不敵に|極彩色《パンク》な装いの聚楽を小突いた。
手始めユキは戦場の、全敵機へ向けて無差別にハッキング。相手がどのような|回線《モノ》を使っているか、細々とした事は知れずとも、|聚楽《オブリビオンマシン》ならば強引に、割って入って押し付けることが出来るだろう。
「あー、あ~。只今マイクのテスト中~」
人が居ないのをいいことに、周辺で一番高い|建造物《あしば》を拝借し、ライブのステージでパフォーマンスをするように、大仰な身振り手振りを|戦場《客席》へこれ見よがしに投げつける。
「はーいそんな訳でね。何処も彼処も銃声なり轟音なりの殺風景なので、ここらで一曲、気分のアガる曲でも弾き語ってみようかなと。そう思ってる次第なんす。それじゃあ早速……」
何の脈絡も無く。全く唐突に戦場に響く弦の音。出だしムーディーに見せかけて、途中から何やらたどたどしく、最終的に纏まりの無い雑音が狭苦しいコクピットに響くのだから、堪ったものでは無いだろう。
そして波乱含みに一演奏終えたユキは、
「――うん。いや違うんす今回これちょっと借り物のギターで。何時ものヤツならもっとこう、『音楽の力で戦闘終結』レベルの名曲が流れていたと思うんですよ。まぁ初心者なんすけど」
含蓄に富んだ|語り《煽り》などを一つ。
じろりと全方位から注がれる敵機の|視線《カメラ》。本来表情が無い筈のそれから|大不評《大好評》の感情がありありと伝わってきたので、想定通りとギターを鳴らし、
「それじゃあこの調子でもう一曲、」
直後。荒ぶり瞬く無数の|キャノン砲《ペンライト》。
「おおっと!」
聚楽は紙一重でそれらを躱し、跳躍すると敵機を踏みつけ、大盾と槍の包囲網を縫うように疾駆する。
「さぁさノロマな亀さんたちあっそびましょ☆彡 こっちですよう、こっちー、捕まえてごーらんなさぁーい♡」
挑発に挑発を重ね嘲るように背を向けて逃走する相手を放置する道理も無く、無数の敵機が不逞の輩を捉えようと怒涛の如く動き出す。
行く手を封鎖する複数の大盾が、街路をめくり、圧し潰そうと全速力で迫って来る。2Dアクションモノならそれでゲームオーバーでしょうけど~? と煽る態度を取ったまま、目にも止まらぬ早業で真横に飛んでやり過ごし、1ミス即死の飛び交う弾幕を僅かな挙動の調整で潜り抜け、複雑に入り組んだ薄暗の裏通りを駆け抜ける。
逃げ続ければ逃げ続ける程、必然警戒も強くなる。袋の鼠と断じるように、あちらこちらの隘路から、無数の槍が伸びて来て、流石に|無傷《ノーミス》は無理だろうと、咄嗟、聚楽をオーラで覆い、ダメージを最小限に抑え込む。
傷を受け、聚楽が震えた。呪詛の機体が、応報を望んでいるのだ。
しかし、とユキは聚楽を抑え込む。どれほど傷をつけられようと、この場での戦闘は、自分達の役目ではない。故に。
「さあ走れ走れ聚楽!! お前さんのおめかしはそのためのもんです!!」
薄暗闇に紛れ込むのも良しとしない。ライトアップした|聚楽《グラフィティ》は、全ての者の衆目を攫っていく勢いで、戦場を意のまま搔き乱す。
飛んで跳ねての敵視が途切れた僅かな間隙。
失せ物探しの甲斐あって、ユキは隠れ潜んでいたテハ王子を見つけ出す。
つん、と。何もない空間を小突くと、そこには確かに何かが居た。光学迷彩の類だろう。
「成程。猟兵達へ機体を派手にデコるようにと言ってたのは、あべこべに自分が隠れるためでもあったんすね?」
「いや。そこは単なる成り行きだ」
格好つけてイエスと答えておけば良いのに、基本的に行き当たりばったりだった。
「あんた達を引っ張って来て、豪快に叛乱起こして、それで途中|一抜け《死んじまうの》は流石に駄目だろ。最後まで見届け無けりゃなんねぇ。だから今は、みっともなくても生き残るのが俺の仕事さ」
だから俺には構うなと王子は再び隠れ潜む。
――本当に。全く。誰も彼も。ユキは柔らかな顔で苦笑を浮かべ、聚楽を高く高く跳躍させた。
即座目立つ聚楽へ攻撃が殺到し……今はそれは良い。重要なのは今も奮戦を続けている味方達を『認識』することだ。
いくら機体の性能が良くとも、どれだけ気合を入れようとも、やはり積み重ねた技量の差は埋めがたく、取り巻き達が窮地に陥るのは必然だった。
弾は尽き、刃は折れた。それでも構えは解かないが、無慈悲な槍撃は、半壊した装甲を抉るように――否。
「死――んでない……のか!?」
幾度槍が閃こうと、最早半壊の機体をそれ以上壊すことはできず。
何が起こっているかなど当の取り巻きにもわかりはしない。だが、不意に見上げた空にいる聚楽が無言のサムズアップをこちらに送っていた事で――彼らはそういうモノの使い手だったと、解らないなりに理解する。
「これなら――!」
無敵と化した耐久力に物を言わせて、強引に敵機の武装を奪い取る。
瀕死の機体達が瀕死のままあらゆる攻撃を受けつけず――形勢が、逆転しようとしていた。
「当然。死なせませんよ。貴方がたの魂の灯、消させてなるものかよ」
――此岸祝呪。例えそれが|一時《いっとき》この身を蝕む|永遠《のろい》を分けて与えるモノだとしても。
今は逢魔ヶ時ならぬ|未来《あした》を取り戻すために。
成功
🔵🔵🔴
セレーネ・ジルコニウム
「テハ王子の取り巻きの皆さん、ここは私が指揮を執りましょう!」
えーってなんですか、えーって。
私だってガルヴォルンの指揮官なんですからね。
というわけで、【傭兵部隊】として取り巻きの皆さんを雇い、指示を出していきます。
「さあ、この戦いで活躍したら、特別ボーナスですよ!」
とはいえ、皆さんを危険な目に遭わせるわけにはいきません。
私もスティンガー(デコ)に乗り、大型ワゴンサイズのストライダー(デコ)の上でサーファーっぽく出撃です!
「正面からの攻撃が防がれるなら――
飛んでください、ストライダー!
ビッグウェーブに乗るがごとく!」
上空という死角から、ミサイルポッドを乱射して攻撃です!
「今です、一斉攻撃!」
「ようよう、何処でも景気よくドンパチやってんなぁ。俺達が仕掛けた喧嘩だけどよ。で、今、勝ってんのか? 負けてんのか?」
「えー? あーし知らなーい。まー最初よりは何かいい感じなんじゃなーい?」
「それよりどっかに機体余ってない? 前のがちょっと壊れちゃって……」
主戦場のやや後方。がやがや騒ぐ取り巻き達。ここに居るのは激戦を潜り抜け一旦補給に戻って来た者、セレーネと行動を共にする者、砲戦仕様の機体で後方からちくちく援護する者等様々で、選りすぐりの取り巻きの中でも特に|クセの強い《自由な》連中が集まっていた。
学校で例えるなら問題児ばかりを集めたクラスのような。しかし、それゆえ方向性が揃った時の、いざと言う時の爆発力は決して侮れないモノが有ると明晰な頭脳でセレーネは分析した。尚、ミスランディアはその分析に小首を傾げていたが、此処では割愛する。
「はいはい皆さん静粛に! テハ王子の取り巻きの皆さん、ここは私が指揮を執りましょう!」
問題児を纏め上げる敏腕教師さながら、セレーネが場の緩んだ空気を締めるようにびしっとそう提案すると、皆、ここはやはりそれしか無いだろうと同意の声が、
「えー?」
「えー??」
「えー???」
上がらない。
「えーってなんですか、えーって。私だってガルヴォルンの指揮官なんですからね」
心外な、と頬を膨らませ、セレーネは仕切り直す様に咳払い。
「何も後から出てきて|無料《タダ》で指揮を取ろうって訳じゃないですよ。というわけで、私のポケットマネ~で皆さんを傭兵部隊として雇い、指示を出していきます!」
おおっ! と俄かにざわつく取り巻き達。
「勿論! この戦いで活躍したら、特別ボーナスですよ!」
そいつは良いやと諸手を挙げて、遂に取り巻き達はセレーネを|頭《トップ》と認める。文字通り現金な。ただし、セレーネが指揮をとらない場合は皆遠からずの壊滅が見えていたので、そこのところは明晰な頭脳に偽り無く、現金だろうが何だろうが最善手と言えた。
「ボーナスが入ったら……まずは酒だな」
「ギャンブル!」
「あーしはあの新作のバッグかな~?」
「あー、それいいね~」
お金の使い方が実に|即物的《チンピラ》。これは逆に信用できる。やはり私の眼に狂いはなかったと、セレーネは独り大きく頷いた。
『……のうセレーネよ。人心掌握は指揮官の基本じゃが、おぬし今そんな小遣い持っとったか?』
セレーネのポケットマネ~の残額を、おおよそ把握しているミスランディアが訝しむような声音で、そう訊いてくる。
「大丈夫ですよ。臨時収入が有ったので」
得意げな顔でセレーネは応えた。
『……臨時収入?』
「はい。テハ王子のコレクション、有ったじゃないですか」
『うむ。わしらにはあんまり縁が無かったがのう』
「何個でも持ってって良いって言ってたので、何個でも持ってってスパッと売り払いました!」
『――悪辣じゃろそれ!?』
「失敬な。れっきとしたライフハックですよ。それに王子に許可は取っていますし。あくまでユーベルコードを発動させるための必要経費ですよ」
それなら問題ないのじゃが、疑問が氷解したにも関わらず、ミスランディアは物憂げに溜息を吐いた。
「ん? どうしたんですかそんな沈んだ調子で。何処か不具合でも?」
『いやさ、不具合も何もお主――』
セレーネは不安げに、ミスランディアが搭載された、いい感じの大きさのストライダーの艦橋を覗き込む。
『それじゃよ! 本当にストライダーこのサイズでいくのか!?』
現状のストライダーは、先の塗装大会から変化なしで、サーファー仕様の|スティンガー《キャバリア》が、サーフボードとして乗っかるに丁度いいサイズをしていた。
「行きます! 大丈夫ですよ。きっと今回のデータも、いずれ何処かの戦場で役に立つときが来る……かも知れません?」
『……せめて疑問形で締めくくるのやめい』
そうして過ぎ行く夏の|スティンガー《サーファー》は、すっかり観念した夕焼け色の|ストライダー《サーフボード》に乗り込んで――。
「さあ――出撃です!」
何処までも広がる青い青い|大空《大海原》へと飛び出した。
どうなる事かと思いきや、サイズが変わっても|性能《スペック》はそのままなので、寧ろ小回りが利く分こういう遮蔽物の多い戦場では有利……なのかもしれない。
新たな形態とその活用法に喜べばいいのか呆れればいいのか、感情の置き場所に微妙に困りつつ、ミスランディアは地上スレスレを飛翔し、敵機達を攪乱する。
「良いですよー。では私も、この深紅に染まったブレードで!」
スイカ果汁モチーフと言う事に目を瞑ればそこそこ格好いい気がしてきた。煌めく紅の刀身は、すれ違いざま敵機の腕部を切り落とす。
「間髪入れずにシャークペイントのライフルを!」
『サーファーでそれは不吉が過ぎるじゃろ!』
そんな懸念が当たった訳ではあるまいが、敵機達は盾を前にライフルを弾き、反撃に幾条ものキャノン砲を寄越してくる。
ストライダーがそれを回避して、スティンガーが再び近接攻撃を仕掛けるが、此方の機動力に対応するためさらに防御を固め、如何ともしがたい。
『向こうもこちらの動きに慣れてきたようじゃのう。やはり付け焼刃か?』
「いいえ! 正面からの攻撃が防がれるなら――飛んでください、ストライダー! ビッグウェーブに乗るがごとく!」
『よかろう。ここまでくれば乗り掛かった、いやさ乗られてる船じゃ! ギリギリの高度を攻めて見せよう! 振り落とされぬようになスティンガー!』
|風《なみ》に乗り、色々振り切ったストライダーは戦場の遥か高く。何の障害物も無いそこで、太陽を背に、花火模様のポッドから雨霰の如くミサイルを地上へと乱射する。
天から降り注ぐミサイルを防ぐためには、大盾を傘の如く掲げねばならず――。
「今です、一斉攻撃!」
「了~解❤」
スイカ模様の量産機が音頭を取って、取り巻き達ががら空きになった地上から銃に剣に一斉に大盾達を攻め立てる。
天を防げば地上から、地を防げば天から。セレーネの指揮による三次元的な攻撃で、たった一枚きりの大盾は無力と化した。
大成功
🔵🔵🔵
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
一般人に被害を出さず立ち回る正義の味方か
OKタゲ取りなら任せろや
つーわけで相棒、頼んだぜ
鴉ノ業を投げ渡す
元々身体に装備するモンだから無問題
お前も怪力だろ一応
ドレスアップしたスーザンちゃんに搭乗【操縦】
客観的に見たら赤備えのがしゃどくろだが聞く耳持たねぇ
黒くてゴツいブルーブーケをこれ見よがしに斜め下方へ向ける
おう、そのまさかよ
『群青業火』供給
街並みに向けて炎をぶちまけ【範囲攻撃】
安心しろ一般人は焼かねぇさ
敵の皆様にゃ内緒だぜ
構造物はちょいと焦がすがよ
さぁ灼熱地獄を踏み越えて来い
アンダーフレームの耐熱性能見せてみろ
多少のダメージはドレスで相殺する
椋が攻撃したら炎幕張って隠れるの手伝うか
六島・椋
【骸と羅刹】
エスタが持ち込んだ武装(鴉ノ業)を借りる
はいよ任せろ――いやおっも大丈夫かこれ
オボロの外套を借りて羽織り、体に装備した借りたやつを隠す
彼らは一般人を守るように動くんだろう
なら、一般人相手には武装を構えまい
逃げ惑う一般人を装って、敵機の集団に接近。とりわけ密集してるところを選ぶ
演技に自信はないが、もともと血色いいほうではないし、ふらついてれば騙せるんじゃないか多分
保護しようと近づいてきたら、ご自慢の盾を構えられる前に、借りたやつで攻撃を放つ
外套は黒、靄も黒、ならUCの前兆は恐らく目立つまい
中の人間らに直撃せず、かつ多くを巻き込める位置を狙う
騙し討ちですまないが、こちらも仕事なものでな
「賑やかだった街が一転、聞こえてくるの銃声と悲鳴ばかり。少々心苦しくはあるが……」
国の破滅には代えられないだろう、と椋は遠巻きに、立ち上る戦火を眺める。既に|猟兵《なかま》達が各々大暴れを始めているし、地図の上で言えばスーザンちゃんのデコ会場は街の外れの方だったので、此処に敵機が到達するまでには、今しばらくの猶予があるようだった。
「一般人に被害を出さず立ち回る正義の味方か……良いね。OK! タゲ取りなら任せろや」
赤の|鎧《翼》に二色の白の唐草模様でばっちり仕上がった、スーザンちゃんの晴れ姿を改めて眺めつつ、エスタシュは豪放磊落大笑する。純粋に塗装を施しただけで、当然外観以外の性能に違いは無いが、今回は何だかいつも以上にやれそうな気がする。午前中好き勝手したので気分も晴れやか、|健康《からだ》の調子は絶好調だ。
「まあ、ぱっと見自分達の方が平和を乱すテロリストなんだが……」
言いながら、椋は所在無げに自身の|指先《ゆび》を見る。其処に糸を繰る為の|輪《リング》は無く、今回|骨《かれ》らはお休みだ。
「つまり今の俺はダークヒーローって事だ。なに、|信念《ねっこ》の方がブレなけりゃ、石をぶつけられようが罵られようが平気なもんさ」
つーわけで相棒、頼んだぜ。と、エスタシュは至極軽い調子で、バイクのキーでも放るように、|鴉ノ業《アームドフォート》を椋へと投げて渡す。
「はいよ。任せろ――」
無造作に放り投げられた鴉ノ業は弧を描き、しかと椋へ……。
「――いやおっも大丈夫かこれ」
ずしりと。エスタシュが直前まで軽々と扱っていたものだから、不意の|質量《ギャップ》が無遠慮に椋へと牙をむいた。
「元々俺が普通に装備してるモンだから無問題。ついでに体も鍛えられて一石二鳥。つうかお前も怪力だろ一応」
「用途が違う。自分の|筋肉《それ》は|骨《かれ》らと共にある為のモノだ」
「そりゃ失敬。それにしたって、そっちが鴉で、こっちが骨か。見事に何時もと逆だよな」
使い慣れてない得物の扱いに多少悪戦苦闘しながらも、椋はオボロから借り受けた黒い外套の下にそれを羽織り、靄を纏う。あちらこちらから土煙なり火の煙なりが噴いているのなら、気持ち霞む程度の黒い靄を纏っていても、そう怪しまれたりはすまい。
「で、だ。椋。逃げ惑う一般人を装うのは良いが、そもそもお前さっきのキャバデコ大会で面ぁ割れてんじゃねぇのか?」
エスタシュの疑問に、それは無いなと椋は首を振る。
「思い出せ。君が意気揚々とスーザンちゃんに塗装を施している傍らで、六島・椋なる人物が、一体何をしていたか」
「何をって……靄と骨でアシスタントしててくれてたろ?」
「|当事者《猟兵》視点ではな。だがそんな仕組みを知らない第三者視点ならどうか。最前列で指先をこちょこちょ動かしてただけの一般人でしかない訳だ」
「考えたな。 だがそう上手く行くもんかね?」
「まぁ……見ていればわかる。正直演技に自信がある方では無いが」
――等と言葉を交わしている内、近づいてくる機械の足音。建造物の屋根越しに、大きな盾の形がちらちらと。いよいよ来たかと気合を入れて、エスタシュはスーザンちゃんに乗り込んだ。
「……良し。それじゃあ打ち合わせ通りに。行くぞ椋! ――椋?」
「ああ――……」
起動を果たし、戦場に立つスーザンちゃん。反対に、力無くその場に倒れ込む椋。まさか鴉ノ業が重かったせいでは無いだろうと、エスタシュが椋へ問おうとしたその時、敵機達が到着し――。
大丈夫ですか、と緊迫した様子で|一般人《椋》に声を掛ける敵兵。どうやら本当に殲禍炎剣関連以外は正気らしい。
「……ええ。はい。大丈夫です。っ――」
『っ――』じゃない。
|血色の良くない《いつもの》表情で、わざとらしく息を切らし、大仰に足を抑える。|当事者《エスタシュ》から見れば演技なのも良い所だったが、しかし|第三者《敵兵》から見れば確かに……状況も相俟って負傷者に見えるだろう。
何があったのです? と椋に尋ねる敵兵士。椋は震える指先でスーザンちゃんを指し示し……。
「あの凶暴な……ええと、ああと、その……」
アドリヴ。だが付き合い長いので、適当な|言葉《フレーズ》が出てこないのを数度の咳で誤魔化しているのがエスタシュには良く理解できてしまった。
「あの凶悪なバイクのおっさんが……」
成程ノリで指をさしたは良い物の、スーザンちゃんを悪く言う訳にはいかないから言葉を選んでいたわけだ。だがそのチョイスはどうなんだ。
しかし、おのれ何と邪悪なバイカーめ……! と怒りを燃やす敵兵たち。善良すぎる。これは確かに、殺してしまう訳にはいかない。
身動きの取れない、ように見せかけている椋を掌に載せ、この場を離れる機体と、そのまま此方に立ちはだかる機体達。
「……いいさ。来いよ」
そう啖呵を切って剥き出しの|骨《こぶし》を握り、地を蹴った。
ガーディストの掌中に載せられて、戦場の景色は流れゆく。『負傷者』である自分を元気づけようと、操縦士は会話を絶やさない。あるいは誰かに話しかける事で、自身の不安を払拭したいのかもしれない。
曰くテハ王子が叛乱を起こすとは思わなかった。曰く他の市民は大丈夫だろうか。曰く殲禍炎剣は自分達が絶対に撃破するから何の心配もいらない。曰く行きつけの飯屋が壊れてしまって悲しい。曰く――。
……どうやら本当に殲禍炎剣関連の思考のみが狂気的に歪んでいる。
どうにも趣味の悪い話だ。それは無理じゃないかとやんわり話を振ってみても、絶対出来ると狂信的で、おそらく殲禍炎剣が地を焼き払うその瞬間にすら、彼らはそう確信しながら死んでいくのではないかと思えた。
ならばこちらも手段を選んでいる暇はない。もうすぐ味方部隊と同流するという。いつ撃とうかと思っていたが、どうせやるなら一気に沢山が良い。
前方にガーディストの集団が見てきた刹那、不意に一瞬空が陰る。見上げれば、重装甲の筈の敵機が、半壊状態で宙を飛んでいた。恐らく投げ飛ばされたのだろう。
奴が来た! と誰かが叫ぶと、その眼前には、赤備えのがしゃどくろ。
一対一では分が悪いと見たか、敵機達は密集し、大盾を翳して――。
「|この瞬間《ここ》だな」
防御を固めるその|直前《まえ》に、椋は鴉ノ業のトリガーに指を掛けた。
黒い靄が奔る。力を圧縮するように、鴉ノ業は何より黒く染まり――。
「騙し討ちですまないが、と言う奴だ。こちらも仕事なものでな」
轟く爆炎。爆心地より鴉ノ業の一撃が、多くの敵を薙ぎ倒し、エスタシュは即座距離を詰めて『撃ち漏らし』に殴りかかった。
ごうと|ブルーブーケ《フレイムランチャー》が吐き出した群青色の大きな炎は煌々と、無防備な椋を覆い隠し、赤と真白のスーザンちゃんを照らし燃え盛る。
炎に揺らぐがしゃどくろ。この世のものとは思えない光景に、それでも敵機達は怖気ない。怪異ならず実体があるのならと槍を揃えて斬りかかる。
そいつは上等と振り下ろされる二槍を砕き、左右から閃く連係薙ぎ祓いを躱し、四方から攻めかかる無数の槍撃をレース模様の走るドレスで防ぐ。
その場で激戦を続ければ、増援が来るのも当然で、一度は散らした敵機達が、いつの間にやら気付けば無数。
「椋。靄の調子は?」
「問題ない、もう一撃いける」
「了解。だったら……こうだ!」
にやりと不敵にエスタシュは、ブルーブーケの銃口をこれ見よがしに|地上《した》へ向ける。
瞬間まさか、と手に取るように敵機達の動揺が伝わった。
「おう! そのまさかよ!」
ふと。スーザンちゃんの|視界《カメラ》が遠くに逃げようとする親子の姿を拾う。
……ああ。あの子供は、あの時の。
誰に見せる訳でも無く、伝わりもしないだろうが……エスタシュは子供を安堵させるように微笑んだ。
「安心しろ。一般人は焼かねぇさ。敵の皆様にゃ内緒だぜ。何せほね子は正義の味方……だからな!」
――斯くしてブルーブーケは街を覆いつく程の大火炎をぶちまける。
地も建物も空も、何もかもが超高温の|群青業火《ブレイズアズール》に包まれて、しかし|人間《ヒト》は決して燃やさず、敵機――ガーディストのみが地獄の炎に焼き払われる。
「いや。建物ちょっと焦げてるぞ」
「……そこはまぁご愛嬌って事で」
燃え盛る炎の奥から、鴉ノ業もやって来て、炎に焙られ溶解した装甲の敵機達を吹き飛ばす。
――それでも未だ。誰かを守るために赤熱した槍を振るい、沸騰を大盾を掲げてくるのならば。
「……|パイロット《お前》達に罪は無ねぇ。だから……やるってんなら|機能停止《最後》まで付き合うぜ。さぁ! 灼熱地獄を踏み越えて来い! アンダーフレームの耐熱性能見せてみろ!」
何処に逃げる事も無く、群青業火の中心で、鴉と骸骨は堂々挑戦者を待ち受ける。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神崎・伽耶
ふわぁ~、おっとこまえじゃない、アンタたち!
あたしの琴線センサーにビンビンきちゃった♪
空の果てまで行っちゃおうかと思ってたんだけど、気が変わったわ。
守るモノがあるってんなら、アンタたちで最後まで守り抜いて見せなさいな!(45度のポーズ)
はてさて、でっかいシールド持ちだわね。
ガンナー形態とガーディアン形態アリ、と。
近接は防御の隙間からカウンター、遠距離は砲撃支援ね。
で、ドッチから潰す?
え、潰さないでほしい?
オッケー、任せて!
じゃ、あたしはきゃピばリアの機動力生かして攪乱行くわね~♪
もやもやもや~ん、と飴ちゃん発動。
からの~、予測不能な動きときどき電撃☆
さっすがセンパイ機、優しさが違うわ♪(べし)
「ふわぁ~……おっとこまえじゃない、アンタたち! あたしの琴線センサーにビンビンきちゃった♪」
日頃駄目な奴を気取っておきながら、いざと言う時本気出す、的な。
そう言う王道は嫌いじゃないので、伽耶はにんまり笑ってペしぺしと、同意を求めるように乗機の頬を叩く。
しかし誉めているにもかかわらず、何故だか取り巻き達は微妙な顔。その原因の十割は、先ず間違いなく伽耶がペしぺし叩いてる、やたらとデカくてもふもふの|オブリビオンマシン《カピバラ》にあるだろう。
「うん。このまま空の果てまで行っちゃおうかと思ってたんだけど、気が変わったわ」
「えっ!? ソイツ飛べるんですか!?」
完全再現のずんぐりむっくりな体型だが、自己申告によれば飛べるらしい。VTOL仕様で。
「守るモノがあるってんなら、アンタたちで最後まで守り抜いて見せなさいな!」
取り巻き達の背を押すように、ビシッとそう言い放つ伽耶。ギリギリスだって偶には格好をつけて見せるのだ。
『そう。ありったけの悪意と火力を以て、この世の全てをデストローイ……』
「チョップ!」
『ぐあーっ!』
すかさず炸裂する斜め45度のチョップ。ダメージを表現するためか、手持ちの|電子説明書《タブレット》が強く明滅した。
――そんなでこんな恙なく。伽耶はきゃピバラに乗り込むと、反骨心をほのか感じさせる|高性能カメラアイ《ぱっちりおめめ》で戦場を隈なく見渡す。
猟兵が介入した甲斐あって、消耗が激しいながらも徐々に押してる|取り巻き《みかた》側。着実に数を減らしつつあるが、まだまだ油断できない相手側。
そしていつの間にやら本筋とは全く関係ない所で倉庫に紛れ込んでいたきゃピバラ。
……そう。知らない所で知らない内ににょっきり生えてきたこの第三のオブリビオンマシンの存在こそ、現状の拮抗状態を打ち破る鍵となる――かもしれない。
「はてさて、でっかいシールド持ちだわね。ガンナー形態とガーディアン形態アリ、と」
近接は防御の隙間からカウンター、遠距離は砲撃支援。淀み無くそれを使い分ける彼らの立ち周りを見るに、練度も相当なモノで、中々如何して隙が無い。
しかし『そんなの別に関係なくない?』と強気に瞬くタブレット。
「そうね。で、ドッチから潰す?」
『両方!』
お子様ランチ並みの贅沢な答えを返してくるきゃピバラ。そこのところは完全に伽耶も同意するが、きゃピバラの愛くるしい見てくれからとてつもない殺る気を感じ取った取り巻き達は、先回って不殺でお願いしますと釘を刺してくる。
『嫌Death。絶対ぶったkill!』
「ちょっぷ!」
『ぎゃーっ!』
良し。話は|暴力《平和》的に纏まった。
「オッケー、任せて! じゃ、あたしはきゃピばリアの機動力生かして攪乱行くわね~♪」
そして迎えるきゃピばリアの初陣。きゃピバラは満を持してお座り状態からゆっくり立ち上がり、|邪悪《ワル》な瞳で学生服をはためかせ、肩で風切りのっしのっしと威風堂々我が道を行く。
「……え? 機動力は?」
そんな取り巻きの疑問は、戦場全体に立ち込め始めた飴色の靄に紛れてしまったのだった。
飴色の靄が敵機に齎すのは、全包囲からの不可視の攻撃。不可視ゆえに大盾で防ぐことは難しく、と言って重装甲を頼みに攻撃を凌いでも、一撃一撃受ける毎、まるで沼地に捕らわれるように、どんどん|挙動《うごき》が鈍くなる。
故に敵機は寄せ集まって円陣を組み上げ、バリケードの如く全周を大盾で固める構えを取る。どれだけ動きが鈍くなろうと、大盾の防御性能に信頼を置いているのだろう。
――が。
『ぼでぃーぷれーっ!』
本当にVTOL仕様で空も飛べたカピバラは、靄を掻き分け天から突如降って来る。
完全なる奇襲。気付いたところで鈍った機体では対応できず、横腹に掛かれた『懴羽威』の文字がぎゅむっと敵機を踏みつける。
敵部隊は一発で陣を崩され混乱状態に陥るが、死と死と破壊が信条のきゃピばリアに慈悲は無く、ハリネズミの如く|体毛《モフモフ》を尖らせ、『トゲが生えている方が強い』とばかりに大盾の突進に突進で返し、エースマークの額でごっつんこ。串刺しにしてぶん投げる。
よくよく伽耶が観察してみると、混乱してるのは陣を乱されたという理由だけでは無い気がしてきた。けど敵なのでやっぱり容赦しない。キュートなつま先から無限に爪ミサイルを発射して弾幕を形成しつつ、迫るキャノンを滅茶苦茶な挙動の俊敏な動きで躱し、尖らせた体毛まで投槍よろしく打ち出して、最初から休むことなくやりたい放題。
「あとはええっと……あ、あれ! 目からビーム最大出力!」
『んビーーッ!』
邪悪で円らなおめめより、|仕様の範疇《リミッター》を超えて発射されたそれは最早目潰し用とは言い難く、迸る電撃が、視界に映った全てを焼き払う。
靄のお陰で動けるまでに回復した味方機達が、ガーディストのコクピットをこじ開けて、敵パイロットの救助に回る。
『ムフ~』
そうして粗方周囲の敵を沈黙させたきゃピバラは満足げ、次の闘争を求めてのっしのしと先ほどまでの俊敏な動きが嘘のように歩き出す。既に終わった戦場に興味は無いのだ。
取り巻き達から通信を聴く限り、敵兵達は全員無事なようで、伽耶は中々やるじゃなーい? ときゃピばリアを素直に褒めた。
「物騒なこと言っときながら、さっすがセンパイ機、優しさが違うわ♪」
『……こっちの方が上だと解らせてやっただけ』
『またまた。照れちゃって~』
景気づけにばしんと。斜め45の角度で。
『うぎゃー!』
「あっごめん。うっかりいつもの調子でやっちゃった」
大成功
🔵🔵🔵
シルヴィ・フォーアンサー
……途中からお邪魔、とりあえず眼の前の奴をふっ飛ばせば良いんだね。
殺気感知でシールドアタックしてくるタイミングを読んで回避しながら背面に回り込み。
殺気読まなくても見た目でもバレバレ……とりあえず大人しくしてて。
両手のガトリングと両肩部のミサイルポッドを一斉発射。
関節部に狙いを集中して行動不能を狙う。
頑丈そうだし多少外れても大丈夫……たぶん。
正午の太陽が、戦火に染まるその街並みを照らし出す。
敵と味方がじろりとにらみ合い、堪らず取り巻きは額に伝う汗を拭う。
戦況は此方の方が優勢らしい。最初は勝ち目が無かろうと、チンピラなりに如何にかしたくて覚悟を決めて。
死ぬかも知れぬと思ったが、猟兵達のお陰で勝ちの目が見てきた。あともう少し、もう少しだけ頑張れば――。
取り巻きは息を吐く。僅かに見えたあり得無かったはずの勝機が、死闘に中にあって意識を弛緩させた。
無論、手練れの敵機がその弛緩を見逃すはずも無く。遅れて悪手を悟ったとき。|槍《グレイブ》は既に振り下ろされ――。
――刹那。
上空より二条の熱線が瞬いて、一機のキャバリアが乱入を果たす。
「なんだ!? 敵か、味方か!?」
死の運命を免れた取り巻きが、息も絶え絶えそう問うた。
「多分、そっちの味方」
|乱入機《ミドガルズ》のパイロット――シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)は簡潔にそう返し、ガトリングキャンの銃口を、ガーディストへと向ける。
「……途中からお邪魔。話は聞いた。とりあえず眼の前の奴をふっ飛ばせば良いんだね」
これだけ街の各所で脇目も振らず戦闘を繰り広げているのだから、|外部《そと》から介入する|手段《ルート》は無数にあった。そして潜り込めたなら、やるべきことは一つきり。
シルヴィは自己紹介代わりに敵機を頭部を打ち抜いて、そのまま狙いもつけず無造作に、両碗のガトリングから銃弾をばら撒く。
口に出さずとも、『こちらで注意を引きつけるからそっちはさっさと下れ』と、その動作が語っていた。
済まない、と味方機は下がり、ミドガルズの眼前には無数の敵機。
『優しいな』
AIユニットの《ヨルムンガンド》が、お節介にもそう声を掛けてくる。
「邪魔だったから退かしただけ」
ぶっきらぼうにそう答え、再び、ハイペリオンランチャーを撃ち放つ。
敵機は大盾でそれを真正面から受け止めて散開し、ミドガルズを包囲する。
『あれを受け止めるとは。脅威だが、敵の得意分野に付き合う必要も無いだろう』
「解ってる」
前方から、盾が迫る。響く足音。揺れる街路樹。速度と質量の、|単純《シンプル》な|組み合わせ《コラボレーション》。だが直撃すれば、ミドガルズとて無事では済むまいが。
高速でやって来るそれに対し、シルヴィは憂鬱げに言葉を零す。
「見た目でバレバレ……」
左右でも無く、|後退《うしろ》でもなく、最善の回避位置は前方。地を蹴って、一瞬だけスラスターを最大出力で噴かせ大盾をすれ違うようやり過ごすと、そのまま反転し背面から各所の関節部を狙う。
「とりあえず大人しくしてて」
大盾の無い無防備なそこへ無数の弾雨を注げば、敵機はもう、動けない。
『関節部以外にも当たっているようだが』
「頑丈そうだし多少外れても大丈夫……たぶん。敵機の生体反応は?」
『ある……次が来るぞ』
「そう」
|次撃《つぎ》は慈悲無く四方から。人気者はつらいなと、ヨルが軽口を叩いてくる。
完全に圧し潰してスクラップにするつもりか。だが。迫り来る四枚の大盾の殺気を辿れば、それは同時じゃない。始動と速度にばらつきがあった。
瞬間思考で導き出したか細い逃げ道を無限軌道で辿り抜け出して、その後は先程と同じ処理を四回。
ならば次はと大盾八枚。|キャノン砲《後方支援》までついてきて、それでも回避をした先に、立ちはだかるのは会心の槍撃。
「!」
脱落する腕部。シルヴィは即座肘部の|仕込み刀《ビームサーベル》を起動して、敵機の四肢を薙ぎ払い、距離を離す。
隻腕による重心の変化。未だ無数の敵機達。今度こそ大盾は逃げ場のない陣を敷き、高火力の砲口が、此方に狙いをつけている。死刑を宣告するように、大盾がゆっくりと此方に向けられ、恐らく次はスクラップ。
――だが。
もう全ては終わっている。
「ヨル」
『全く、|高負荷《無茶》な仕事をさせてくれる』
のそりと。蛇のように。
『切り離した』腕部が独りで動き、完全に、敵機の意識の|背後《うしろ》側から、ガトリングを撃ち放つ。
「でも、出来るじゃない」
挟撃。背後へ意識の逸れた敵機目掛け、ミドガルズはミサイルポッドを撃ち尽くす。
前方後方、大盾をどちらに向けるべきか。一瞬の混乱が、全てを決定付けた。
ロケットパンチを再び肘部に接続し、シルヴィは戦場を見遣る。
あともう少しの時間で、一旦の決着がつくだろう。
成功
🔵🔵🔴
円谷・澄江
港や海岸側で戦闘。
やっぱり広いのが跳ねやすい。
サイキック全開でさあ、精々かき回してやろうかねえ!
…デコり過ぎたかもだけどまあヨシ!
引き続きセンサーで情報収集、解析しつつガーディストと交戦。
火力にはちょっと自信ないからあの固そうなのどう崩したものか…
間違っても一般人は巻き込まぬようそれとなく離れるようにしてウイング開いて跳ねるように機動力で敵を翻弄。
砲撃支援体勢になったらこっちもUCだ。
鈍くなったならこの竜巻からも逃れられないだろう?
どうせ帰ろうとはしないんだ。
堪えてる隙に飛び込んで両腕やキャノンをビームドスで潰してやろうじゃないか。
パイロットは潰さないように注意の上でね!
※アドリブ絡み等お任せ
その時、その瞬間は最高の仕上がりだと確信していたものが、時間を置いて客観視してみると何だか違う、となるのは良くある話で。
徹夜明けよろしくなハイテンション状態から覚めた澄江は眼前の、クニークルスの有様を眺めつつ頭を抱えた。今さらながらデコりすぎたかもしれない。特にこの和風調の愉快な仲間たち。万一彼らがこれを見たら何と揶揄わられるやら。
「……まあヨシ!」
暫しの葛藤の末、澄江は折り合い付けて振り切った。刺青なんて、そう簡単には消えぬモノ。誰に何を言われようが堂々振舞ってさえいれば、その内|風格《あじ》も出てくるだろう。
恥ずかしがるのもらしくない。腹をくくって見た目喧しい愛機に乗り込み、|サイキック式電探《センサー》を起動する。
現在位置は街の西側の港湾部。最初に|転移《とば》されたガレージの近く。テハ王子叛乱の報を受けた|警備兵《敵機》達が、キャバリアの一杯詰まった其処を抑えに来るのは当然で、|予備戦力《乗り換え》目当てにやってきた取り巻き達とかち合い、既に広範囲の戦闘を繰り広げている。
「――って、少し目を離した隙に大分ピンチになってるじゃないかい!?」
何ともまぁ手のかかる。|任侠《性分》として放って置くことは出来ないので、クニークルスはドスを一本携えて、|取り巻き《子分》達の援護へ跳ねる。
ゴロツキと兵隊たちの抗争に、割って入るは赤き月光。傷だらけで息の上がった味方機を、退かす様に蹴っ飛ばし、怖じる事無く聳える大盾へ立ち向かう。
じりじりと|粒子《花弁》を散らすドス。身を屈め、脚力のまま地を駆けて、渾身の一刀を叩きつけるが、大盾が造作も無いと言うように軽々受け止め、不利を悟ったクニークルスは|反撃《つぎ》が来るその数瞬前に飛び退いた。
「いやはや。こいつは参ったね。勇んで飛び出したまではいい物の、さあて、どう崩したもんか……」
ドスを構えたまま、|兎耳《アンテナ》を忙しなく動かして、電探をフル稼働。そうして収集した情報を解析する度、明らかになるのは此方の非力さと向こうの頑丈さ。唐突に泣き笑いしたくなるくらい全く勝負にならないと、|集積《あつ》めた数字が告げている。
「でもそれは、|火力と装甲《正攻法》での話だろう?」
澄江は笑う。押し寄せる情報の渦の中に、一つの解を見出したのだ。
一際高く跳躍したクニークルスの背部より展開される|光輝《サイキック》の翼。
「兎が『一羽』、なんて、良く言ったもんさ」
天に逆らって吹き上がる地吹雪の如く、一羽の兎は空を飛翔し、周辺の情報をより精密に解析する。
敵機多数、ほぼ無傷。味方機少数。ほぼ半壊。港湾部に一般人の姿は見えず、ならば、何に憚ることも無い。
「行くよ、クニークルス! ここらすべてがアタシらの|遊び場《庭》さ!」
応えるように兎翼が煌めき羽搏いて、敵機の群れへと急降下。奇襲に備えた大盾を踏みつけると、それを|足場《バネ》に今度は地上を疾駆する。さながらハードル走のように、執拗に|機動力《脚》を狙って薙ぎ払われるグレイブをその都度躱し、袋小路を飛び越え、再びウイングを広げ地上スレスレの低空飛行。そのままテハ王子のガレージに突っ込んで、無数のコレクションに見送られながらさらに西へ。
路地を走り、コンテナを蹴り、貨物船を盾にして、大盾に追い回されるクニークルスは遂に|大陸《りく》すら飛び越えて、|外海《うみ》へと躍り出る。
「おや。動きが止まった……そうだね。そっちの機体は海を渡れない。だったら……どうするんだい?」
海岸線にずらりと並んだ敵機達が、一斉に|砲《キャノン》を構える。
……そう。そうするしかない。盾も槍も投げ捨てて、どっしりと腰を据えて此方を狙うその時を待っていた。
砲口が光を蓄えて、全ての|照準《ねらい》がクニークルスに注がれる。国を乱した反乱分子へ、一斉発射の号令を指揮官が高らかに宣言しようとした、その瞬間。
突如巻き起こるのは、|巨体《キャバリエ》すらも吹き飛ばす苛烈な|烈風《サイキック》。
澄江の起こした半径百二十二mの局所的な竜巻は、全ての敵機を飲み込んで唸り、奔る。
重装甲の敵機が軋む。一欠け入った極小の損壊が罅となって全身を侵し、火花を上げる関節部が、姿勢の保持を許してくれない。
「うおお!? 俺達まで降っとばされるー!?」
すぐ傍にいたので。物のついでに半壊状態の味方機も巻き込んでおく。
「風に逆らうんじゃないよ! あんた達も大体傷だらけなんだから、ここは大人しく下がってな」
風を拒絶しなければ対象を住処に戻すだけ。澄江の言に従って、取り巻き達は素直に戦場の後方へ吹っ飛んでいったが、しかし、敵機達はそうもいかない。
「アンタらから見たらアタシ達はテロリストだもんね。最初っから帰るなんて選択肢、取れっこない」
クニークルスはドスを手に、ゆるりと陸への帰還を目指す。
そうはさせじとキャノンの光が迸る。しかし風に嬲られる|頭部《カメラ》ではまともな照準をつけられず、壊れかけた|指先《マニュピレータ》では正常にトリガーを引くこともままならず、打ち放たれた光たちはただ、虚空だけを貫いた。
「その真面目さ付け込んだ、狡い手だ。許してくれとは言わないよ」
安心しな。取って食おうって訳じゃない。
そう言って、クニークルスはそうっと――キャノンにドスを突き立てた。
成功
🔵🔵🔴
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK
相手は正規兵。こちらはゴロツキの集まり。
練度、戦意、共に相手が上。
でも逃げ回れるだけの性能差となれば……ふふ。
敵も味方も見慣れた動きをしてくれて、気が楽だわ。
さっきの|銛《ハープーン》を敵陣に撃ち込むわね。
使い捨てだし装甲に傷をつけるのが精一杯だけど、
こっちを振り向かせるぐらいはできるでしょ。
敵がUCを展開したら、ガトリングからEPグラビティバレットをばら撒くわ。
大盾に特殊な加工が無い限り、防御されても何がしか重力の影響を受ける筈よね。
相手の動きが鈍くなったのを確認したらこちらもUC発動。
地中を掘り進んで、足元を攻めて、さらに回り込むわ。
ここを彼等のレウクトラにしてあげる。
「……相手は正規兵。こちらはゴロツキの集まり」
あらゆる計器やモニターが、賑やかに、喧しく、外界の戦闘を実況するコクピット内。
先程とは打って変わって。アメリアは一つとして険の無い表情で、ビッグモールの挙動をチェックする。
「練度、戦意、共に相手が上。でも逃げ回れるだけの性能差となれば……ふふ」
やっぱりさっきは大分無理をしていたなと思いつつ。不謹慎な話だが、それでもやはり|戦場《こちら》の方が性に合っているのだろうと、掘削ホイールを試運転させた。
「敵も味方も見慣れた動きをしてくれて、気が楽だわ」
傭兵稼業を続けていれば、今回のコレもよくよく見知ったシチュエーション。その上特に|裏切りや切り捨て《背中》の心配をしなくていい事を考えれば、自然と笑みも零れてくるというものだ。
唯一違いがあるとするならば、今回負ければ国が一つ滅びてしまうことくらい。
アメリアはタブレットに、先程撮った|現状《いま》のビッグモール外観の画像を表示する。水中迷彩の上に貼られた沢山のステッカーとデカールとエンブレムと、それを提供してくれた大勢の観客たちの笑顔。
「……よし」
負けられないな、とは気負わない。ただ、いつもの様に戦って、何時もの様に|帰《戻》るだけだ。
着かず、離れず、距離を取り、時折攻撃などを放りつつ、取り巻き達は敵機を休ませない。
俺達がこの街を守るんだ、等とらしくも無い使命感を発揮して、しかし同時にやっぱり怖いと|駄目人間《ごろつき》らしく怖気づく。
そんな心境が機体の操縦にも伝って、結果逃げはしないが攻めも半端のチキン|戦法《スタイル》。だがそんな臆病な|立ち回りこそ、|猟兵《エース》犇めくこの戦場においては――取り巻き達とて意図していないだろうが――最適解だった。
取り巻き達を追いすがる敵機の背を目掛け、ビッグモールは一発きりの|銛《ハープーン》を撃ち出す。そのまま銛は大過なく敵機の背部へ命中するが、装甲に少々の傷をつけた程度でそのままがらん、と地に転がる。元より威力に機体はしていない。|射手《こちら》の位置を伝えてくれたのなら、それで十分だ。
「あなたは――姐さん!」
その呼び方あのば限りじゃなかったんだと心の中で突っ込みつつも、丁度良かったので支援を要請する。|此方《ビッグモール》の方が厄介だと、既に敵部隊は気付いている。だが、少しでも|向こう《ごろつき》に意識を割いてくれるなら――それだけでやり易くなる。
ビッグモールが|ガトリング《重心》を空転させれば、ずらりと並ぶ盾の群れ。
「……賭けよね。万一『コレ』まで普通に弾いてしまえるなら――文無しも良い所だわ」
敷き詰められた動く防衛線へ、ビッグモールは撃ち放つ。敵機達は案の定、大盾に身を隠し、ばら撒かれたガトリングを受け流そうとするが――大盾に衝突した銃弾は直後炸裂し、一瞬、その重厚な駆体を揺らがせる。
それでも敵機はダメージなどありはしないと大盾を前にしてビッグモールへ接近し――否。動けない。炸裂した|特殊弾《グラビティバレット》がその場の重力を歪め……ただでさえ超重量の大盾が、さらに十数倍の質量を得たように、地にめり込んで、動かない。
好機と見た取り巻き達が、離れた位置から敵機に銃撃を浴びせる。敵機はビクともしない盾を捨て、|槍《グレイブ》一本、取り巻き達へ斬りかかる。しかし大盾抜きでは|傷《ダメージ》を免れず、寄って集って素人丸出しの銃撃が、地道ながらも確実に、敵機の装甲を削り取っていく。
ただし大盾一枚剥いだとて、それでも軍人と暇人たちの技量差は埋まらず、次第に追い立てられる味方たち。
オブリビオンマシンの完全破壊が目的ならば、アメリアとしても、ただ足止めのみで終わらせる道理も無く、ビッグモールは地に|両腕《エクスカベーター》を突き立てて、地中を掘り進む。土を掻き分け、岩を砕き、そして、何かの構造物をぶち抜いて――。
「これは空洞……いいえ、キャバリア用の通路かしら?」
マグネティックレーダーに目を向ける。確認すると、街の下にはここと同じように、大樹の枝葉の如く無数の通路が伸びていた。
『アンタも知っての通り、戦禍の絶えない世界だからな。にぎやかな街の下にだって、もしもの時の隠し通路や隠し|格納庫《ハンガー》なりがあるのさ』
テハ王子がそんな通信を寄越してくる。ならばここの何処かにセウ王子が居るのかと訊いたが、テハ王子もその全容を把握してないという。
「……もしかして。穴を開けちゃまずかったかしら?」
『国が無くなるかどうかの瀬戸際なんだ。別に構わねぇよ』
「……そう。だったら――!」
両腕にありったけの闘気を籠めて、ビッグモールは|地上《うえ》を目指す。
レーダーが目標の正確な位置を示す。前方でも無く、後方でも無く、上空でも無く。大盾を備えていようが、練度が高かろうが、それは確実に|意識《常識》の外からの強襲だ。仮に察知できたとしても、防ぐ手立ては皆無に等しい。
「空ばかり見ているのなら、なおさらよね?」
果たして地中を突き進んだマイニングエクスカベーターは、勢いそのままそのまま足元より敵機を轢断し、破砕した。
「――続けるわよ。ここをあなたたちのレウクトラにしてあげる」
貼り付けられた無数の想いを破滅の暗がりから|出口《明日》へ繋げるために――ビッグモールの両腕が、終わりに向けて唸り出す。
●幕間
どすん、と。
最後のガーディストを打ち倒し、取り巻き達は狭いコクピットの中で息を吐く。
「俺達の勝ち――か?」
「ああ。まったく生きた心地がしなかったが……いや、猟兵サン達が居なけりゃ確実に死んでたけどな!」
死線を超えた取り巻き達は、今はただ、呆けたように笑い合う。
ただ。テハ王子は独りだけ。
『いや。まだだ。兄貴が来るぞ。本当の死戦は――此処からだ!』
――そして。この国最強の、エースが来る。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『空を目指す者』
|
POW : System one
【アンダーカバー射撃や近接戦闘用の爪・手甲】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【防御や回避といった行動】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD : System two
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【装甲各所】から【内部圧密流体エネルギーの噴射攻撃】を放つ。
WIZ : System three
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【生体部品の体力や精神】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
イラスト:aQご飯
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ライアン・フルスタンド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●死戦
※次回冒頭文更新九月二十日(水)予定。
最早自嘲の言葉すら出てこない。半ば倒れ込みながら、コクピットに乗り込んだ。
操縦桿に縋りついて身を起こし、状況を確認する。あれだけの距離を進むのにかかった時間は数十分。そして、その数十分で地上の部隊が壊滅したと云う。
未だソファの上で夢でも見ているのかと疑い、しかし体を蝕む死の気配たちがそれを明確に否定する。最前線で他国の侵略を退け続けてきた精鋭たち。そんな彼らがこんな短時間に倒されたのが紛う事無き現実だと云うのなら、恐らくそれを為したのは――。
「猟――兵……、か」
か細く、掠れ、自身でも驚くほどに生気無く。
……光が燈る計器類。駆動する動力部。|流体《エネルギー》が四肢の末端まで隈なく循環すると、まるで奮起を促す様に機体が震え、ブースターに熱が帯びる。
|中央広場《天蓋》が開く。モニタ越し、中天に輝く陽の眩さが両の眼を刺激し……このまま瞼を閉じてしまえば二度と開けないような気がした。
――そうだ。最期の最期に何が立ちはだかろうとも、やらなければならない。
空を、|目指す《拓く》為に。
地が開き、瞬きを挟む間すらなく、暗色の両翼が空を翔け、既に臨戦態勢と奔る|雷気《オーラ》を纏う全ての元凶が猟兵達の眼前に姿を現す。
悠然と天に陣取る元凶――空を目指す者は、地で構える猟兵と取り巻き達をじろりと一瞥すると、
「……そうか。良し。では、始めようか」
セウ王子はそう、冷然と、明瞭な声色でただ一言。
『いやヨシじゃねぇよ一人で世間話どころか本題すらかっ飛ばしていきなりぶん殴ってこようとすんなよ少しはこっちの事問い質すってそう言うの気になんねぇの!? 実の弟が叛乱起こしてるんだぜ?』
そんな兄貴の態度に、食ってかかるのはテハ王子。
「……? 何を言ってる。今しがた『質した』ばかりだろう。伊達や酔狂で引き起こしたモノじゃないことは、恐らくお前の|取り巻き《友人》たちや、お前が招き入れた凄腕の傭兵――猟兵達を一目見れば機体越しでも解る話だ。何かしら、何としてでも|殲禍炎剣撃破《こちらの動き》を止めたい理由があるのだろう」
『あーあーその通りです完全に正解ですいつも通りの超速理解助かりますつーか、声色滅茶苦茶元気じゃねーか。何かこう、色々心配して損したわ。いや、死に掛けにゃあ変わりないんだろけどさ。あんた最期まで全盛期かよ。俺ぁてっきり……」
「――。……。みっともなく地に這いつくばって、のた打ち回ってるとでも思ってたのか。だとしたら残念だったな」
『馬鹿言うな。家族が苦しむトコ想像して喜ぶ奴が何処に居るよ』
「解らんぞ。姿を隠して最後方から偉そうに啖呵切って来る奴が其処に居るくらいだからな」
「うるさいよ!」
どんな風に言おうか迷ってたが、そんだけ元気ならはっきり言ってやる! 勢いのままテハ王子は叫ぶ。
『その機体じゃ殲禍炎剣は絶対|撃墜《おと》せねぇ! 国が全部焼けて無くなるだけだ。だから止まれよ兄貴!』
通信機器がハウリングを起こす程、力の限りの叫びだった。死に逝く兄のその心を、|訳の分からない奴《オブリビオン》が弄んでいい道理など無いからだ。
「……軽薄で猥雑で胡乱なお前が、このタイミングで|叛乱《コト》を起こした。本来野心も度胸も無い筈のお前がだ。故にお前の言い分は、真実なのかもしれん」
だったら――その言を遮るように、セウ王子の|表情《かお》も見えぬまま、オブリビオンマシンは|頭部《くび》を振る。
「だがな弟よ。私にはもう、それを冷静に判断するだけの|思考力《ちから》は……無いんだよ」
『何――を、馬鹿な。そいつに当てられて、おかしくなっちまってるだけだろう?』
絶句するテハ王子。すまないな、と言葉を続けるセウ王子。
「『それ』こそが私の最期の夢……いや。もしかすると生まれて初めて抱いた夢かもしれん。だから私は全てを賭してそれを為す。私が間違っているというのなら――簡単だ。力づくで止めれば良い」
『――馬鹿野郎!』
刹那。オブリビオンマシンは両翼を広げ、忽然とその場より姿を消す。
……否。残されたオーラの残影が上空いっぱいに幾何学的な軌跡を描き……。
「!! 上か!? 豆粒みたいに小さいアレが……」
「――惜しい。君のすぐ隣だ」
「えっ……? なっ……!?」
|瞬間移動《テレポーテーション》を疑うほどに、訳の分からない速度だった。取り巻きの一人が遥か上空に敵機を視認したその次の瞬間、空に居たはずのソレがすぐ傍に佇んでおり……自機の手足が綺麗に宙を舞っていることに気付いたのは、さらにその数瞬後だ。
地上に降りてきたならば。呆気にとられながらも取り巻き達はあらゆる包囲から敵機に銃を突きつける。が、そのどれらの|腕部《うで》もトリガーを引くより前に破壊され、ただ地に落ちて響くだけの楽器と化した。
捥がれ、撃たれ、叩き壊され、数十の手足が乱れ飛び、運よくそうされなかった味方達も、敵機の装甲各所より放たれる流体エネルギーに機体を焼かれ、為す術も無く墜とされる。
「ちょっと何これ!? 速度も高度も明らかに殲禍炎剣の制限振り切ってんじゃん!」
「ああ畜生、死にかけの人間の動きじゃねえ! 今の一瞬で何機やられた!?」
「笑っちゃう位たくさん!」
「何人死んだ!?」
「ゼロ人!」
「……は!?」
「だって、本当に誰も死んで無いんだもん!」
混乱の坩堝に叩き込まれる取り巻き達。
その間にも容赦なく、何をされてるかもわからぬまま墜ちてゆく。
「これがこの国最強のエースパイロット……如何にか出来るのか? 俺達に……!?」
……先に戦ったガーディストにだってこの国の精鋭達が乗っていた。だが今相対しているセウ王子の技量とその機体の性能は――文字通り次元が違う。
「――一般人も私の部下たちも、君達は誰一人として殺さなかった。だから私もそうしよう。君達を殺める理由が無い。しかし……|猟兵《かれ》らが相手では、流石にそうもいくまいが……!」
その思考が歪められたものであると、セウ王子は気付けない。
血を吐き出しながらそれでも堪え、死へと近づく王子とは対照的に。まるで命を得たように機体が大きく吼える。それは最高の|生体パーツ《パイロット》を手に入れた、オブリビオンマシンの歓喜の叫声だ。
『――わずかな時間。十秒にも満たない時間だけ、|空を目指す者《あいつ》は殲禍炎剣のルールを無視出る。|グリモア猟兵《ガイド》さんの受け売りだけどな』
全く大した詐欺師だよ。テハ王子は忌々しげにそう吐き捨てた。
『実際|撃墜《おと》せもしない癖、|性能《騙り》だけは立派だから、みんながみんな、まんまと欺かれちまった――だから猟兵』
今までの、軽薄な態度は微塵も無く、怒りと悲嘆と嗚咽を押し殺したように――テハ王子の声音は酷く真摯で、酷く震えていた。
『……頼む。兄貴を止めてくれ』
生まれてからずっと国の発展に尽くしてきた英雄が、最期に抱いた己の夢を叶えようと、オブリビオンに魅入られた。
生まれてからずっと自分勝手に好き放題過ごしていた愚者が、初めて郷里を守ろうと、猟兵達を引き入れた。
――決着をつけよう。
シルヴィ・フォーアンサー
(生まれた時から一人なので家族とかわからないので淡々と仕事します)
……速すぎない、飛んでるし。
『逆に言えば装甲は薄いはずだ、当てれば落とせる、君ならできる。』
……頑張る。
分身呼んでからのオーバー・リミッツ。
一斉発射で弾幕を張る、エネルギー噴射で誘導性能が高いミサイルは落とされるだろうけど本命は遅れて放つガトリングガン付きロケットパンチ。
強化された気配感知、戦闘演算で誘導弾として追っかけ回す。
速度と小回りじゃ負けるだろうけど数と瞬間思考力で動きを先読みしてカバー。
そのまま削りきれれば良し。
振り切って攻撃してこようとするならそこへ
無手のままスラスター全開で突撃してビームサーベルで切断した後に昏睡。
天を仰ぐ両腕の|砲身《ガトリング》。獲物は蒼穹に滲む暗色の|悪意《それ》。轟音と共に無数の銃弾をばら撒くが、しかし相手は瞬間移動と見まがうほどの超速機動、一発たりとて敵機を掠める事も無く、ただ、空の薬莢だけが空しく地面へ降り注ぐ。
「……速すぎない? 飛んでるし」
憮然とした表情で、シルヴィはぽつりとそう零す。生まれた時から一人だった自分にとって、『家族』のことなど解りはしない。殲禍炎剣がどうこうと言うのも関係ない。唯一明確に解るのは、|空を目指す者《それ》を壊してしまえば話は終わりという、それだけの単純な仕事だ。
……だが、敵機と敵パイロットの出鱈目な性能が酷く話を難しくしている。溜息一つ、気軽に吐き出せやしない。
『あれだけの機動力、逆に言えば恐らく装甲は薄いはずだ。当てれば落とせる、君なら出来る』
気軽に言ってくれるよね。反射的にそう返したくもなったが、他でもないヨルがそう言うならそれは、当たり障りのないアドバイスでは無く、本当に勝ちの目がある話なのだろう。
「……頑張る。多分、随分頑張らないといけないだろうけど」
『その意気だ――いや。来るぞ』
途中まで穏やかだったヨルの口調が、冷たい色を帯びたと同時、ミドガルズの眼前、極至近距離には敵機の殺意。暗色の装甲が瞬くように輝いて――。
『零距離からの流体噴射。直撃すればそれで終わりだ』
「だったらこっちは……!」
流体エネルギーを吐き出そうとした正に刹那。全く意図していなかったであろう死角からの|超巨大荷電粒子ビーム砲《ランチャー》が空を焼きつつ敵機に迫り、シルヴィは僅か一瞬生じた隙をついて砲身を突き付けながら無限軌道を後ろへと最大稼働させる。前方からガトリング。後方からランチャー。挟撃を受けた敵機は寸前空へと離脱して、しかしその装甲には僅かながらもダメージの痕跡が刻まれていた。
「掠めただけ? 本当に速い……」
『それでも捉えた事には変わりない。このまま物量と弾幕で押し切るぞ』
「解ってる。全方位からボコボコにする」
シルヴィの決意と共に、蜃気楼の彼方より現れ出でる十三機の|残像分身《ミドガルズ》。本体同様天を睨んだ分身達は一斉に、敵機へ狙いを定めミサイルを放ち、雲一つ無かった大空に無数の爆炎が乱れ咲く。
だがこれだけで敵機を落とせはしないだろう。時折空を走る光の線が良い証拠だ。現状全ての爆炎は、逆に撃ち落とされているか、振り切られたミサイル同士がかち合って爆ぜたものかだ。
「ヨル、本気で行く」
オーバー・リミッツ。脳の反射速度と演算速度を|増強《ドーピング》出来る時間は百三十秒。
「ねえヨル。『家族』って何なのか……知ってる?」
ふと、何とはなしに訊いてみる
『基本的には、親族関係を基本にして成立する生活共同体の事を指す。|AI《わたし》に訊いたところで、杓子定規な答えしか返ってこないぞ』
残り百二十。だったらやはり自分には関係のない話だろう。幾条もの|残影《ハイペリオン》が迸り、敵機がそれを潜り抜けた。
けれど今なら|視《追》える。五感を集中し幽かな痕跡から気配を辿り、|瞬間思考力《頭》を回転させ次の動きを予測した。
より正確に、より高密度に包囲網が狭まる。それでも敵機はかすり傷で済む程度。
「ここまでは演算済み。けど――!」
残り百。全ての砲身が天を仰いだまま――ミサイルとランチャーで弾幕を形成しつつ、ミドガルズ達の|腕部《ロケットパンチ》が一斉に分離した。本体を含め十四対二十八基のガトリングが空を駆け、敵機を更に追い立てる。
残り八十。上下左右、四方八方、ガトリングたちは弾幕と言う鳥籠の中へ敵機を押し留める様に、無尽とも思える|弾雨《嵐》を浴びせ、さしもの敵機も掠り傷程度では済まされない。明確に脚部が破損し、流血さながら、エネルギーが噴き出した。
残り六十。しかし敵機もさるもので、噴き出したそれを振るい飛ばして刃の如く、分身一機を消し飛ばす。
残り四十。一対の腕が消え、僅かに空いた鳥籠の隙間から、空を目指す者が這い出して、一瞬地上を睨めつけた。
一瞬。あの王子が何かを悟るには、それだけで十分だったことを思い出す。すぐさま|此方《本体》を割り出した敵機が、迫る。
残り二十。五感も脳も未だ王子に狙いをつけたままだ。ミサイルとランチャーが進路を遮り、追撃するガトリングが天地から翼を射貫いても尚、ダメージ覚悟で突っ込んでくる王子に対し、ミドガルズは一歩も引かずスラスターに火を燈す。
残り十。真正面から全開でぶつかり合う蛇と翼。残り五。敵機の装甲より噴き出した流体を、ミドガルズは紙一重、肘部のビームサーベルで切り裂き、そのままオブリビオンマシンを|X《クロス》の形に断ち切り――残り零。
そして。訪れるのは不可避の代償。
ヨルは切り離された|腕部《ガトリング》を動かして、とどめを刺さんと近づいてくる敵機を牽制する。が、やはりシルヴィを欠いた状態ではどうにもならない。
それでも。
『……この子はやらせん』
今出来る事はただ……父の様に、兄の様に、家族の様に。
「――そう、か」
そんなセウ王子の呟きが聞こえた気がした。一分間の昏睡状態に陥った猟兵を倒すことなど、ソレにとっては造作も無いだろう。
……にもかかわらず。
確かに直前まで明確な殺意を見せていた筈のソレは、しかし次の瞬間、ミドガルズに背を向ける。
既に弾もエネルギーも尽きてると見透かされたか、最早相手では無いと認識されたか。いずれにせよ、好機だった。
『シルヴィ。君は良くやった。だから、今はゆっくりとお休み……』
コクピットの中で微睡むシルヴィへそう優しく声を掛け――ヨルは後方へ下がる。
彼女は為すべきことを為したのだ。後は……後続の猟兵に託すとしよう。
大成功
🔵🔵🔵
カグヤ・アルトニウス
○空は果てしなく遠い
アドリブ歓迎
今の所、殲禍炎剣を叩くという事がどういう結果を招くのか分からない以上、可能だとしても今の猟兵は手を出さない
…それを分からせる為に立ち向かう事にします
後、タイタニアは此処の規格で組み直してから返却の予定です
(乗機)
ホワイト・レクイエム
(行動)
今回は手数です
UCを発動して攻撃を【見切り】で【残像】を残して回避しつつソードオブビクトリーのマシンガンモードの【制圧射撃】して凌ぎ
射程内に降りてきた所をトゥインクル・スターのゲートで包囲して拡散・衝撃エネルギー砲の【弾幕】+【マヒ攻撃】で足止めし、止まった所にソードオブビクトリーのソードモードの【連続コンボ】で追撃します
蒼空に、火花が散った。
白銀と暗色、互いの一撃が一歩も譲らず交差して、しかしどちらも命中せずの鍔迫り合い。拮抗状態を拒否した|双剣《ソードオブビクトリー》が拳をいなし刃を閃かせるが、二刀の|軌道《ねらい》を読むように、二つの拳が邪魔をして、斬撃は強引に威力を殺される。
震える二刀。軋む腕部。
「……出来るな。機体も技量も卓越している。君を含め、猟兵とはかなり高水準の戦闘能力を持つ集団だと見た。だが、解せないな。それだけの力を持っていながら、どうして殲禍炎剣を放置……いや、護る様な真似をする? あれがこの世界の有り様を歪めているのは知っているのだろう?」
「――いいえ。わたし達は何も知りませんよ」
|相手《拳》の間合いでの戦闘を嫌ったカグヤ――ホワイト・レクイエムは、次の『引き分け』が起こる直前、タイタニアの支援砲撃と同時、双剣を機関銃に変えて撃ち放ち、強引に距離を取る。
「現状。|殲禍炎剣《あれ》を叩くという事がどういう結果を招くのか分からない以上、迂闊に手出しは出来ません。壊すにせよ据え置くにせよ情報が足りないんです。だから、生き急ぐあなたの行動は許容できない。例えそれが人生の最期に見た夢だとしても……」
「冷静だな。だがそれは、時間がある者の言い分だ」
通信に、どうしようもなく苦しそうな咳の音が混じる。ただの呼吸すら|収音機《マイク》が拾うほど荒々しく、吐血さながら、敵機より此方に向けて流体エネルギーが噴き出した。
致命的な直撃を躱しつつ、ホワイト・レクイエムを掠めるエネルギーの奔流。いや。これ自体が目晦ましか。気付けば敵機の拳がタイタニアを引き裂いていた。
「見てくれはキャバリアだが、どうにも聞き慣れない|駆動音《おと》がする。この機体、半ばこの世の|技術《モノ》では無いな」
「――っ!」
即座状況を確認する。ジェネレーターは潰されたが、GOKUは無事だ。元より戦後元の規格に戻すつもりではあったが、それより前に余りにも呆気ない幕切れだった。その行動は即ちタイタニアの脅威を最大限に評価していた、と言う事でもあるだろう。現にこれから取ろうとしていた|手段《て》のいくつかは披露する間も無く潰されてしまった。
……舌戦で済まない事は互いに承知している。共に自身の主張を通すためには、相手を打ち負かさねばならぬことも。
「そちらが死に体だとしても、加減は出来ません。出し惜しみは無しです。ダイダロスの本領――見せてあげましょう」
起動する|位相操作式空間機動ユニット《ダイダロス》。発生した不可視の力場が慣性と空気抵抗を遮断し、機体の挙動が驚異的に軽くなる。
空を目指す者を狙う|仮想砲身《マシンガン》。無数に撃ち出された弾丸は、カグヤの念動力に操作され、まるでそれら全てが意志を持つかのごとく、曲がり、跳ね、駆け抜け、あり得ざる軌跡を描いて縦横無尽に敵機を追い縋る。
殲禍炎剣がある以上、此方の高速機動にはどうしても上限がある。速度で対抗したところで、振り切られるのみならば、手数と出力で押し切ればいい。
刹那の瞬き。その刹那で、敵機は弾丸たちの追跡を潜り抜け、唸る爪撃が此方の装甲を貫こうと|音速《おと》を置き去りにやってくる。呆気にとられる暇も無い超高速の爪先は正確に白銀のコクピットを抉り――否。ホワイト・レクイエムの|形《シルエット》が揺らぐ。敵機が貫いたそれは残像だ。
背後を取るホワイト・レクイエム。その場から即座退避しようと翼を広げた敵機の眼前には今まで回避し続けていた無数の銃弾が迫り――。
これだけやっても、一瞬程の間隙があれば相手は軽々逃げ果せる。故にその一瞬をカグヤは容赦なく潰す。
退路を断つように、敵機の四方に開く超空間ゲート・|機動兵装システム《トゥインクル・スター》。だがその本質は敵を閉じ込める牢獄では無く、次元を超えた場所に在る兵器庫へと繋がる直行通路だ。
超空間の向こう側で、綺羅と満天の星にもよく似た、無数の光が瞬く。
「あれら全てが此方の砲火。受けてもらいますよ」
瞬間。蒼穹の戦場に顕現するのは、見果てぬ空のさらに先、煌めく砲火の流星群。拡散する衝撃エネルギー砲が逃げ場なく敵機を麻痺させ苛むが、それでもセウ王子は不可避の光の狭間を最小の被弾面積でやり過ごす。しかし万能無敵はあり得ない。
速度の鈍った敵機へと、カグヤは機関銃を連射したまま突撃する。縦横無尽の銃弾が、敵機の動きを更に狭ると、機関銃を再び二刀に割って振り下ろす。完全に入ったと思った連撃は、片方弾かれ|一撃《ひとつ》きり。だが刀ならば孤剣に陥るしくじりも、しかし|統合兵装《ソードオブビクトリー》ならばその名の通り勝機に変える。
くるくると弾かれた刀は次の瞬間ビットに変じ、剣撃代わりの光を見舞う。
焼け付く装甲。迸る流体が損傷個所を覆い尽くし……。
「再生している? ですが……!」
底無しでは無いだろう。削り切るのみだ。携えた刃で薙ぎ払おうとして、直前敵機の拳に防がれる。
再びの、拳の距離。|始動《おこり》すら認識困難な爪撃がホワイト・レクイエムの肩部装甲を脱落させ、その余波か右腕が操縦を受け付けない。
次いで左腕も捥いでやろうと殺意を乗せた拳が唸るが、しかしそうはさせじと突如立ちはだかる光の壁――念動力で取り寄せ装着した、タイタニアのビームシールドが拳を弾く。
「――この世界の空は……果てしなく遠いんです」
生きてる左腕。刃とビットを一つに合わせ、|長剣《はじめ》の形に戻し――。
最大出力で、ホワイト・レクイエムは空を目指す者を断ち切った。
大成功
🔵🔵🔵
セレーネ・ジルコニウム
「さすがに友人の皆さんはこれ以上付き合わせられませんね。
ここからは私設軍事組織ガルヴォルンの仕事です!」
『とはいえ、殲禍炎剣すら無効化する機体じゃぞ?
それをどう相手にするのじゃ?』
ミスランディアの言葉に自信満々に答えましょう。
相手は殲禍炎剣を無視できる――ならば、そこに付け入る隙があると!
「ストライダー搭載の長距離弾道ミサイルを発射です!」
『なんじゃと!?
そんなもの、殲禍炎剣に……』
そう、弾道ミサイルは殲禍炎剣に迎撃されるでしょう。
ですが至近距離でミサイルの誘爆に巻き込まれれば、敵機も無事ではすみません。
そこをスティンガーのミサイルとブレードで攻撃し――墜としてみせます!
人々は守り抜きます!
光が奔る。
時間外れの一番星、輝いたのは味方機を狙う敵の射撃。その狙いは驚く程に正確で――セウ王子は、取り巻き達を殺すつもりが無いと言った。だからこの一撃を放って置いたとして、彼らが死ぬようなことは無いのだろう。
……けれど。此処から先は矜持の問題だ。見て見ぬふりでは、ガルヴォルンの名が廃る。
「――ミスランディア!」
『わかっておる!』
スティンガーを背に乗せた小型状態のストライダーは、街並みと、瓦礫と味方の隙間を縫って着弾地点――スイカ模様の取り巻き機に辿り着くと、降りてくる光に対し|腕輪《ダイバーウォッチ》を翳す。瞬間展開した光学障壁は一度きりの代物だが、防げたのならそれで良い。
「さすがに友人の皆さんはこれ以上付き合わせられませんね……」
セレーネは無茶苦茶な軌道で空を飛翔する敵機へ向けて、ライフルを放つ。当たりはすまい。自身に注意を引きつける事が出来れば十分だ。
「ここからは私設軍事組織ガルヴォルンの仕事です!」
矢継ぎ早に降り注ぐ光をぎりぎりで躱ししつつ空を駆けるストライダー、応酬にミサイルを打ち上げ牽制を重ねるスティンガー。ぎろりと、敵機の眼が此方へ向けられる。
『とはいえ、短時間ながら殲禍炎剣すら無効化する機体じゃぞ? それをどう相手にするのじゃ?』
ミスランディアがそう質す間すら無く、敵機はあっという間に距離を詰め、両腕の爪連撃が、余りの速度に熱すら帯びて襲い掛かってくる。赤熱したその乱撃を、紅の刀身で如何にか凌ぎ切るが、これは何度も防げる類のモノでは無いだろう。
「手は有ります。が、先ずは海に出ましょう。|街《ここ》では少し、やりにくい方法です」
了解したとストライダーが加速して、街を|地上《した》に、敵機に追われたまま海を目指す。
「総長ー、頑張ってね~❤」
尻餅つきながら見送るスイカ模様達に手を振り返した。例え共に戦う事が叶わずとも、その|声援《エール》があるだけで百人力だ。
『総長て。まぁ確かにさっきまで彼らの頭を張っとったが。いつの間にそんな称号増えたんじゃおぬし?』
「今はそれを気にしてる場合では無いでしょう。行きますよ! 特攻隊長!」
『……えっ特攻隊長? 誰が? わしが!?』
惚けた会話の最中に、敵機の攻撃も躱しつつ、|港湾地帯《スタート地点》を横断し……そして海が見えてきた。
、
蒼穹と群青、陸地は既に遠く、青の狭間のその場所で、スティンガーと空を目指す者は睨み合って対峙する。
そろそろ種明かしをしてほしいとミスランディアが急かすと、よくぞ聞いてくれましたと、流体エネルギーを凌ぎつつ、セレーネは自信満々胸を張った。
「相手は殲禍炎剣を無視できる――ならば、そこに付け入る隙がある! と言う事です!」
『ほう?』
「逆にこちらは殲禍炎剣を無視できません。意識しなくていい向こう側と、意識しなければならない私達。両者が真っ当に立ち回る限り、殲禍炎剣が機能する余地はありません。ですがここで、真っ当じゃないヤツがいきなり乱入して来たらどうなるでしょう?」
「うむ?」
不意に。ミスランディアは強烈なデジャヴに襲われた。今回の依頼でセレーネがその明晰な頭脳で導き出した答えは、大体。その。何と言うか……。
「そう! 満を持してストライダー搭載の長距離弾道ミサイルを発射です!」
『なんじゃと!? 正気かおぬし、そんなもの、殲禍炎剣に……』
それが狙いですから、と、何本もの光を辛うじて弾き、セレーネはにんまり笑う。閾値を超えた高速飛翔体は撃破される。それはこの世界に生きる人間なら誰もが知ってる絶対のルール。そのルールを無視できる敵機を前にして、此方は敢えてタブーを踏むと、セレーネはそう言っているのだ。
『確かに至近距離でミサイルの誘爆に巻き込まれれば、敵機も無事では済まなかろうが……』
「あれは兎に角強すぎるんです。|猟兵《わたしたち》に加え、殲禍炎剣をも味方につけるくらいの事をしでかさなければ、倒しきれるモノじゃありません。恐らく」
ミスランディアは暫し考え込むそぶりを見せる――が、長い付き合いだ。既に腹は決まっていた。
『……分かった。わしとてガルヴォルンの一員。リーダーであるおぬしが導き出した解に賭けるとしよう――行くぞセレーネ!』
「ええ。行きましょう! ミスランディア!」
撃ち放つのはスティンガーのライフルとストライダーのミサイルポッド。サイズが変わろうと威力の変わらないそれらを、高速機動で避けられるのもお構いなしに撃ちこんで、さらには超重力波砲を解き放てば、必然弾幕を嫌う敵機は|前方《まえ》に飛び出し、殲禍炎剣を無視した速度で格闘戦を挑んでくる。
しかしそれを拒絶するように、ストライダーは艦首を敵機に向け、刹那巨大化――夕焼け色のサーフボードは、急速に、元の|戦艦《サイズ》へと戻っていく。
勢い艦首に弾かれた敵機は、仕切り直す様に距離を取り、
「――その距離を待っていましたよ。聡明と名高い貴方なら、突如巨大化した戦艦へ突っ込む真似はしないだろうと」
『ターゲット座標指定。長距離弾道ミサイル……撃つぞ!』
敵機はつい先ほど殲禍炎剣を無視したばかり。再発動には少々のインターバルが必要らしい。つまり今……この速度は振り切れない。放たれたミサイルは、殲禍炎剣の課す制限速度を優に超え――刹那、天からの光が、ミサイルを打ち抜いた。
敵機を巻き込んだ爆炎が、さらに拡散するのはオブリビオンを侵食・崩壊せしめるナノマシン群。薄暗がりで流体と装甲が不気味な明滅を繰り返す。異物を排除しようとして、僅かの間機能不全を起こしているのだろう。
「ガルヴォルンの名に懸けて――!」
ミサイルを乱射しながら、|刀身《ブレード》を携えて、スティンガーはストライダーの甲板を駆け抜け、翔ぶ。
「無辜の人々は守り抜きます!」
黒煙を拓く紅の剣閃が、空を目指す者を|蒼穹《そら》ならぬ|群青《うみ》へと貫き、墜とした。
大成功
🔵🔵🔵
六島・椋
【骸と羅刹】
国のため人々のため、というのはよくわからん
ただ、何かを愛する心はわかるつもりだ
……だから、国を愛し、人々のために尽くす君の"骨"は、美しいと思う
そちらの時間がないのは承知している
ならば君の愛したものを守ろう。眠る時間だ
『睡臥』の霧で戦場全体を覆い視界を遮る
視界の悪さと、からだの不調であの速さを少しでも鈍らせよう
とはいえ相手は歴戦の猛者だろう
"眠り"があるとはいえ視界不良くらい経験はあろうよ
というわけでスーザンちゃんを動かして囮をやる
エスタほどの動きは難しいが、一度は動かしたことのある身だ
この霧の中で動くキャバリアがいるなら少しは気は逸らせるだろ
さて、王子に「この後」の経験はあるかな
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
ちっと真顔になる
想像以上の性能じゃねぇか
殲禍炎剣をぶっ壊そうって気になるのも分かる
だが、やっぱ関係ねぇヤツまで道連れになるのは見過ごせねぇわ
しばらくはスーザンちゃんに乗って戦うが、
専門ジョブじゃねぇんで力の差は歴然だろう
折角のドレスもボロボロ
なるほど
こりゃ相手の土俵に上がってやる必要ねぇな
おっとヤベェ
椋!
センキュー相棒、助かった
そんじゃ霧に紛れてこっそりとスーザンちゃんからから降りて椋と交代
任せたぜ
『黒曜火車』発動
シンディーちゃんに【騎乗】していったん離脱
敵がスーザンちゃんに攻撃したら一瞬の隙を狙うぜ
【怪力】でフリントを構えて業火を纏い【ダッシュ】
ランスチャージよろしく敵に突っ込む
大きな大きな衝突音。大容量の|貨物《コンテナ》がへしゃげ、|機体《ひと》の形の痕がつく。
街の外れの港湾地帯。|猟兵《なかま》に叩き墜とされた後、海より這い上がってきた敵を、迎え撃ったのは|スーザンちゃん《エスタシュ》。相手が連戦中の死に体だとしても、加減してやるつもり一つ無く、白の拳と|暗色《くろ》の拳が交差して数巡。いつの間にやらスーザンちゃんがコンテナに叩きつけられ、今に至る。
――塗装が剥げ、レースも散り散り、折角誂えたドレスもボロボロ。外観は朽ちて野晒しの髑髏の様な、惨憺たる有様だが、まだ機能停止していない。まだ動ける。流石スーザンちゃんだと褒めつつも、エスタシュは笑みを浮かべる余裕すらない現状を把握していた。
「全く。大した性能してやがる……!」
ふざけた速度に馬鹿げた技量、その上インチキ染みた能力があるのなら、殲禍炎剣を撃墜してしまおうと躍起になるのも頷ける。それがこの世界で暮らす人々の悲願だというのなら猶更。だが、そう言う感情を逆手にとって世界を更地に変えてしまおうとするオブリビオンのやり方には、正直言って反吐が出る。
「俺はこの国、いや………この世界にとっちゃ|渡り鴉《部外者》みてぇなモンだけどよ。それでもやっぱ、関係ねぇヤツまで道連れになるのは見過ごせねぇわ」
「……何を言う。私がその様な事、するはずが無いだろう」
異音混じりの息の音。同時、不服とでも言いたげに、空を目指す者の|眼《カメラ》が此方を睨んだ。
「そうだな。てめぇはそこの所の分別がもう、つかなくなっちまってる」
だから何が何でも俺達がお前を止めてやんのさ。転がっていたブルーブーケを再び手に取り、スーザンちゃんはコンテナから身を起こす。
幽かの間。嵐の前の静けさと、寄せては返す波の音。一転どん、と地を蹴って、先に動いたのはエスタシュ。殴り合いが駄目ならと、身を屈め、組み伏せようとぶちかます。が、突進は軽くいなされ、脳天目掛けて横殴り。それでも踏ん張り怯まず前へ、打たれたばかりの脳天でヘッドバッドを目論んだ。しかし敵機はここに来て、|格納した翼《アンダーカバー》より光を放ち、格闘戦を拒絶する。だったらこちらも何でもありだとブルーブーケを突き付けて、問答無用に業火を放った。
群青色に染まる港湾部。炎の奥で敵機が揺らぎ、一瞬。神速の手刀で業火は二つに割られ、暗色の拳が、スーザンちゃんを吹き飛ばす。
「成程。畜生。確かに|操縦技術《次元》が違う。済まねぇスーザンちゃん、悔しいが、どうやら今の俺じゃあ如何にもなんねぇみてぇだ」
|蒼穹《そら》に打ち上げられたスーザンちゃんを、空を目指す者が見逃す道理も無く。此方を見遣る敵機の眼差しは、明らかに急所を捉えたソレだった。
「おっとヤベェ――椋!」
エスタシュがそう叫んだ瞬間、蝙蝠の骨格人形組達が離陸寸前の敵機の視界を阻み、同時、かたかた骨が揺れる音と共に、黒く深い霧が戦場に立ち込める。
「センキュー相棒、助かった」
「なに、困ったときはお互い様だろう。借し百な」
「借し百はお互い様じゃ無くねぇ!?」
兎も角今は息を落ち着けろ、と、サカズキ組を回収しながら椋は言う。
「らしくも無い。随分とボコボコにされていたようじゃないか」
「ああ。全く。自分自身不甲斐ないと思ったのは、随分と久しぶりの話だよ」
嘆息しつつ、エスタシュはスーザンちゃんから飛び降りて、大きく伸びをした。
「悔いる心があるという事は、それだけまだ伸びしろがあるという事だ。このまま研鑽を積んで、バイクのおっさんからバイクの爺さんへのランクアップを目指すと良い」
「老けてるだけねぇかそれ」
――だが。落ち着いてきただろう。椋はエスタシュの|顔色《かお》を覗き込む。この霧には、そう言う効果があるからな、と。
「……まぁな。椋、今度はお前がスーザンちゃんに乗れよ。俺はもう、相手の土俵じゃ戦わねぇ」
「それは構わんが。太刀打ちできると思うか、自分に」
「なんて事無い直感だけどな。今回はお前の方が向いてるんじゃねぇか……と! 思う」
それじゃあ頼んだぜ初代パイロット。そう言い残してフリントを担ぎ、エスタシュは手を振りながら深い霧に紛れ込む。
「――いいだろう。一度は動かしたことのある身だ」
そろりとコクピットに乗り込んだ椋は、計器の類を横目に、内部を見回す。随分様変わりしているが、エスタシュが此方にスーザンちゃんを託すという事は、まだ『それ』が残っているという事だろう。
「……やはりな」
操縦用のからくり糸。椋がそれを指に通せば、スーザンちゃんは再び起動し、立ち上がる。
「よし。仕掛けるとしようか、スーザンちゃん」
空の青が見えない程に、深く深く立ち込める黒い霧。
天を仰げど目指すべき空は無く、孤立を強いられる敵機の、その眼鼻の先に突如白い掌が迫る。
掌底。あれだけ俊敏だった敵機が、殆ど棒立ちの状態で直撃し――|骨《それ》は、ゆらりと姿を現した。
仰け反る敵。動きが変わった、とセウ王子は今まで聞こえた中でも一番か細く弱々しい声音で、囁くようにそう呟く。
ご名答。椋は短くそう返し、続ける。
「国のため人々のため、というのは自分にはよくわからん」
数歩退き、霧に紛れる白い骨。数秒後には背後より、何処からでも攻撃できると、警告をはらんだ足払い。空を目指す者が地に伏せる。
「ただ、これでも何かを愛する心は解るつもりだ。|対象《モノ》が違えど、な」
そして国にせよ骨にせよ、それらへの『愛』の総量が勝負を分かつというのなら、負けるつもりは毛頭ない。脚部を引っ張り、投げ捨てた。瞬刻、霧の深奥より返礼の爪撃が髑髏の数メートル先を超高速で通過する。機体の機動力はそのまま、霧が計器の類を狂わせているのだ。そして恐らく王子の体調も。死の淵にある王子にとって、|昏睡《ねむり》を誘う睡臥の霧は何よりの――|毒《薬》だった。
「……だから、国を愛し、人々のために尽くす君の『骨』は、美しいと思う」
本音だった。打算、虚飾、悪――そう言った悪しき贅肉に囚われない純粋な『気骨』こそ、実物の|骨《かれ》ら同様好ましい。
故に。どうあれ終わらせてやらねばならない。
敵機が駆動する。それを動かしているのは王子か、|殺意《オブリビオン》か。
「ここで……目を閉じるわけには行かない……私は、皆のために、殲禍炎、剣、を……!」
「……だろうな。そちらの時間がないのは承知している。ならば君の愛したものを守ろう。眠る時間だ」
……せめて目を逸らさずに、その生き様を看取ってやろうと思った。
黒霧を纏い、敵機へ迫る髑髏。だが、敵機の装甲が輝き出す。全方位へのエネルギー噴射。成程、これならば見えようが見えまいが関係ない。そして流体を掠めた僅かな接触音から、耳聡くこちらの位置を割り出して、一機に距離を詰めてくる。
再びの掌底。しかし今度は躱され、殴り返される。死の淵、昏睡、機体不良。そんな窮地に立ったまま、技量と経験だけで保たせているのか。
足払いは脚で受けられ、投げ飛ばそうにも弾かれる。だが全ては反撃の意識すら防御に注いだ紙一重。
「さて、王子――そろそろ|終局《おわり》にしよう」
敵機が髑髏の右掌を受け止める。かたかたと、黒い霧が骨の擦れる音を出す。それを掻き消す様に、敵機の前面装甲が、髑髏へ向いて瞬き――瞬刻、耳を劈くバイクの轟音が、深い霧の中すら狭しとけたたましく鳴り響く。
「王子。君は確かに、ことキャバリアの扱いに関して歴戦の猛者だ。だが。この『後』の経験はあるかな。そう。例えば――」
――生身の人間が、武器を携えキャバリアへ突っ込んでくるような。
大きなライトを煌々と、エスタシュをその背に乗せたシンディーちゃんが霧の中を駆け抜ける。剛腕任せ、|燧石《フリント》片手アクセルを回せば、|ブルーフレアドレス《エンジン》が群青色に燃え盛る。排気孔から巻き上がる炎はドレスの様に車体を包み、一つの業火となってすれ違いの風を焼く。
敵機が此方に眼を向ける。瞬いていた流体が、吐き出す寸前急遽こちらに向けられて、しかし|照準《ねらい》も定まらず大外れ。ごう、と噴き上がる炎が火力のまま無理矢理シンディーちゃんを飛翔させ、エスタシュは燧石の分厚い切っ先を前へ構えると、さながら槍騎兵の如く吶喊する。
巨大なロボットが闘争を繰り広げる世界だからこそ。これは王子にとって完全初見の光景だったろう。対応するための高速爪撃が一拍遅れ、故に椋がそれを遮るだけの間が生まれ――。
「パイロット自身が生身で戦う方が強い。なんて、外連味のある話だな」
「あんまり言ってくれるなよ。スーザンちゃんに申し訳もねぇ。これでも結構傷ついているんだぜ?」
業火が煌めく。
群青色の流星が、|空を目指す者《オブリビオン》のみを抉り、焼き尽くす。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サギリ・スズノネ
【特務一課】
キャバリア:白鈴号搭乗(制御担当)
サギリは人が好きなのです。
だから――人が願うなら、叶えてあげたいのです。
そして願うなら、あんなオブリビオンマシンの中じゃだめなのです。
というわけでー、まずはとにかく、全部の元凶をぶっ飛ばすのですよ!
合点なのです、源次お兄さん、グウェンお姉さん!
あいつをー、まるっとやっちまおうなのです!
よーし、白鈴号、フル稼働なのです!
白鈴号を鼓舞し、機体性能を限界突破
敵の攻撃はオーラ防御を込めて火ノ神楽で出した炎の鈴で防ぎます
そしてお兄さんの攻撃――エネルギーの刃に、狂気耐性と破魔の力を乗せるのですよ!
叢雲・源次
【特務一課】
こちらも準備出来ている…いくぞ、サギリ。グウェン。
抜刀、殲滅大太刀。内燃機関始動。
機体から溢れた蒼金綯交ぜとなった碧炎が今は無粋とばかりに装飾を焼き払い、白亜の修羅となる
「随分と手の込んだ無理心中だ。気持ちは分からんでもないがな…」
歯に衣着せぬ、只々率直な感想を述べる
そしてそのように仕向けたオブリビオンマシンに対しては容赦はしない
グウェンが時間を稼いでいる間、サギリに指示。内燃機関をフル稼働にまで持っていく。
「だからこそ、貴様を止めなければならない」
着剣、完了。
長大なエネルギーの刃を形成し
「そして、その機体は破壊する。」
振り下ろす。真っ向から。
それが手向けだ。
グウェンドリン・グレンジャー
【特務一課】
(融合したレディの視覚を借り受ける。あの兄王子の気持ちも分かる。何故なら、自分もかつては命の火が尽きかけていたから。)
でも……燃やさせない、よ
白鈴ーズ、あーゆーれでぃ?
Scáthach、今回は、白兵武器として運用
光れ、Herodias Noctiluca
(翔ぶならそれを上回って高く飛ぶのみ。死の女神の躯は、中の己にとっては魔女の箒だ)
通信手段…も、安全なテレパス…ないな、これしか無い
精神攻撃、で、プリンスへ、言う
その先は、例え、生きられたとしても、地獄……私が、そうだから
だから、ここで、あなたを止めたい
(機体の関節性能を全力で使い、槍を突き刺す)
白鈴号、今、だよっ
紺碧の海を遡上し、|黒霧《きり》に煙る港湾部を抜け、舞台は再びその街へ。
黒玉姫の操る魔法の|弾雨《あらし》を潜り抜け、空を目指す者は常識を千切る速度で白鈴号に迫る。突き出された|爪撃《つめ》が兜を打ち、応酬に、拳を返すが空を切る。直後に胴部を殴られて、白鈴号は地を踏みしめたまま地を捲り、後退を強要させられる。
「白鈴号を押し込むか。やはり一筋縄ではいかないが……」
開いた距離に差し込まれるアンダーカバーの射撃。続けて食らう道理も無いと、源次は射線を躱して立て直す。
「――そうか。思い出した。二つの機体のその姿……少々外観は異なるが、確か第三極東都市・管理局戦術作戦部特務一課の|所属《モノ》、だったか」
|第三極東都市《くに》については知らないが、|特務一課《きみたち》の活躍は知ってるよ。断片ながらこの国にも伝わっている。そう言うと、敵機は警戒するように空へ退き、二つの機体をその視界に収めた。
「おお? 変装しててもバレちゃうなんて、いよいよ白鈴号も有名人の仲間入り! なのです?」
ぽやっと笑顔を浮かべつつ、今のお気持ちどんなです? とサギリは白鈴号に訊いてみる。しかし白鈴号は特段|名声《そんなもの》に興味は無いと言わんばかり、ただ冷然と空を睨んだ。
「黒玉姫は……あ、うん。そう、だね。悪い気、しないよね」
それはもう。グウェンドリンが訊くまでも無く。女王様扱いが好きなので。今回黒玉姫は徳しかしてないような気がしてきた。
……しかし。と。そう断ち切るようにセウ王子は続ける。だからこそこんな形で見える事になって残念だ、と。
|モリガン《レディ》から借り受けた視覚で、グウェンドリンは王子を見る。
如何仕様も無く、尽き果て消え行く命の灯。グウェンドリンには、兄王子の気持ちが良く解る。自分の意志に反して、体から力が抜けていくあの感覚。自分もかつては……否、本来ならば、『そう』だった。
けれど。父が為した|禁忌《過程》がどうであれ、命を長らえたグウェンドリンは今、此処に居て、再び|死の淵《それ》と対峙している。これも何かの|縁《えにし》だというのなら――。
「……燃やさせない、よ。白鈴ーズ、あーゆーれでぃ?」
黒玉姫は杖の様に振るっていた|巨大槍《Scáthach》を翻し、その穂先を敵機へと突きつける。
「応。こちらも準備出来ている……いくぞ、サギリ。グウェン」
沈着冷静な源次の|心境《こころ》と、白鈴の猛る気炎が同調し、
「合点なのです! 源次お兄さん、グウェンお姉さん! あいつをー、まるっとやっちまおうなのです!」
そこにサギリの決意が背を押して、白鈴号は弾くように地を駆ける。倒すべき敵はただ一つ。
サギリが太刀のロックを外し、必然白鈴号の意識は刀へ伸びる。しかし源次はまだ早いと遮った。
「|格闘戦《殴り合い》で遅れを取ったままと言うのもな。もう一手だけ付き合え、白鈴号」
疾駆する、その加速のまま跳躍し、重力に逆らって地から天へ。
「――貴様がしでかそうとしているのは結局、随分と手の込んだ無理心中にすぎん」
空に陣取る敵機を、さらに|上空《うえ》と蹴り飛ばす。
それは、揶揄無く皮肉なく、歯に衣着せぬ、只々率直な|物言い《感想》だった。しかしそれすら、歪められた今の王子には解せまい。故に、そのように仕向けた|空を目指す者《オブリビオンマシン》に容赦はしない。
「一手って言うか、滅茶苦茶奇麗に入った|脚《キック》なのです!」
其処のところは言葉のあや。遂に白鈴号は|殲滅大太刀《千手院長吉》を抜き放ち、内燃機関を始動する。
「サギリ。|内燃機関《エンジン》は任せた」
「おっけーです! 白鈴号、問答無用のフル稼働なのですよ! そんな訳なのでグウェンお姉さん!」
白鈴号を鼓舞し、サギリは上空へ|声援《エール》を飛ばす。吹き飛ぶ敵機の終点には、ブラックダイヤの乙女像の姿があった。
「おっけー。任された」
無限大のカンバスを埋めるが如く、無数の|炎弾《ほのお》と鴉の形の闇達が、|蒼穹《そら》すら狭しと飛翔する。たった一機の|異物《オブリビオン》の為に開かれた、盛大なる舞踏会。我も我も殺到する魔法達を、しかし敵機は素気無く弾き、躱し、断ち切り、脇目も振らず、群がる参加者達の奥の奥、それらを操る魔女の元へと殺意を携え馳せ参じる。
そんなモノは無粋だろうと、モリガンは槍の刃に力を伝わせほんの少し、|殺意《拳》の軌道をずらしていなす。窘める様にそうすれば、殺意は萎むどころかさらに増し、嵐の如く吹き荒れる。それが其方の流儀なら。カラスアゲハが空に舞い、槍の切っ先に力が宿る。とん、と。其処に無い筈の床を蹴ってステップを踏み、一撃、二撃、|機体《からだ》を刻んだ。
だが、十にも満たぬ槍取りで、焦れた敵機はさらに速く。逸らしきれない殺意をぶつけ、Scáthachを弾いて捨てる。
回避の挙動すら無視して降って来る拳。ラインストーンに罅が入る。寸前如何にか防御して、モリガンは敵機から目を逸らさぬまま空を仰ぐ。
……『降って来る』『仰ぐ』、それはつまり、相手が自身より遥か|上空《うえ》に居るという事。
後背に迫る大地の景色はどんどん大きく、色濃くなって、衝突しようとする――寸前、|Herodias Noctiluca《女神の心臓》が光を帯びる。
「そう、だよね。レディ。このままじゃ、終われない……!」
女王の健在を示す様に、モルフォチョウが空に踊る。地面すれすれの高度から、モリガンは――グウェンドリンは再び空を翔ぶ。
正確に、冷酷に、ただ只管に降り注ぐ|射撃《悪意》。レースが破れ、金地から、赤色の装甲が覗く。傷だらけ、最早優雅さの欠片も無いが、それでも矜持はくすまない。翔ぶならそれを上回ってさらに高く。死の女神の躯は、グウェンドリンとっては魔女の箒だ。
モルフォチョウの|防御《加護》を信じ、噴きこぼれる流体エネルギーの真ん中を突っ切って、グウェンドリンは空を目指す者のさらに|天空《うえ》を取る。
伝えたいことがある。ああ、けれど、無茶をしたから通信手段は不調で、テレパスなんて便利なものも此処にはない。
地より遠く離れた此処に在るのは唯一、風に揺蕩うアサギマダラ。取るべき手段もまた唯一、超強力な精神攻撃。
「その先は、例え、生きられたとしても、地獄……私が、そうだから」
其処を終点にすべきだと、淵より逃れた地獄の先人が言った。
拒絶するように、爪撃が唸る。
知っている。為せずに命が尽きてゆく、その無念さを。
――けれど。
「だから、ここで、あなたを止めたい……!」
するりと。槍を引き寄せ、死力を尽くしてしなやかに。
拳を躱し、全身の関節性能の全力で、突き刺した。
「白鈴号、今、だよっ!」
槍を受け、墜落するように急降下する敵機。
ギラリと、地で蒼の炎が輝いた。
「内燃機関フル稼働! 源次お兄さん、行けるのですよ!」
揺らめく陽炎。蒼き煉獄を纏う白鈴号が、敵機を見据え、大太刀を構える。
集中。整息。弛緩。緊張。全てを一つの覚悟として纏め上げた源次は赤の眼を開き、同時。白鈴号が地を蹴った。
瞬間、蒼の炎は金の気炎と綯交ぜ――碧炎に変じ、碧炎は、今は無粋とばかりに機体を彩る|花飾り《はな》を焼き払う。燃ゆる炎。舞い散る花弁。その深奥より姿を現すのは、白亜の修羅。
槍を突き立てられ、|墜落《お》ちながら、それでもブレない殺意の照準。避ける事は叶わない。一挙手一投足僅かな身じろぎすら、守りに回せばきっと仕損じる。そう言う相手だ。
故に。
「――サギリ。俺達の命、全て預ける」
「はい! 任されたのですよ!」
しゃん、と。鈴の音が響く。白鈴号へ寄り添うそれは、大きな大きな金の|炎《鈴》。鈴が一回鳴るたびに、呼ばれたように鈴が来て、呼ばれた鈴もまた揺れる。
碧炎を護る金の炎。百十七個の鈴たちが、白鈴号の前に出て、オーラを羽織り、神楽舞い。白鈴号に迫る|射撃《殺意》の悉くを、その身を挺し鎮めていく。
「……サギリは人が好きなのです」
古い時代に作られた本坪鈴。ずっと人の歴史を見守って、何時しか人の形を得た。
「だから――人が願うなら、叶えてあげたいのです」
人の営みの傍らに。些細な困りごとでも助けを求められたら手を伸ばし――これまでずっとそうだった。きっと、これから先も。
「そして願うなら、あんなオブリビオンマシンの中じゃだめなのです」
降り注ぐ殺意は豪雨の如く。オーラの羽織を貫いて、鈴の音が止められる。歪んでしまった純粋な願いが、鈴の神楽を壊していく――死の淵に在りながら、何と言う精神力だろう。けど。
助けを求める声があった。だから助けようと思った。サギリにとってそれは極々自然な|日常《コト》で、故にサギリは何が来ようが揺るがない。
幾つでも破ればいい。精神力に物を言わせてこちらの守りを破くつもりなら、目一杯に鈴を鳴らして道を照らし続けるのみだ。消えかけの鈴の音が、それでも力いっぱい鳴り響き、新たな|鈴《炎》を呼び寄せる。
「源次お兄さん、兎に角全部の元凶をぶっ飛ばすのですよ!」
そして辿り着いた源次の間合い。
「誰かのために何かを為そうとする、その気持ちは分からんでもないがな……」
碧炎が、|大太刀《刃》を走る。
「だからこそ、貴様を止めなければならない」
炎は大太刀を飲み込んで、サギリがさらに破魔の力と狂気に抗う力をくべた。
空を焦がし尽くしてしまいそうなほど大きく爆ぜ、燃え盛り、合一し、やがてそれは一つの長大な――エネルギーの刃へと変貌する。
「着剣、完了」
ただ静かに、源次は|終局《おわり》の言葉を紡ぐ。
敵機の装甲より流体エネルギーが迸る。だがその程度の攻撃では、最早刃は止まらない。
――自身の剣術。白鈴号の気炎。グウェンドリンが作り出した隙。サギリが照らした道。
碧炎の刃と同じだ。総て綯交ぜに、一つの勝機を形作る。
「その機体は……破壊する」
後はただ、搦め手なく、哀れみなく、強者への敬意をもって、真っ向から振り下ろし、斬る。
それがせめてもの手向けだと、刃の描く軌跡が告げていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「とても素敵な夢ですけれど。其れが此の世界の終わりに繋がる以上、今共存する事は出来ません…ごめんなさい」
「多分、ですけれど。貴方が乗っている其の機体自体が、殲禍炎剣の手先だから、です」
天指差し
「世界には、|オブリビオンの在り方を定めるもの《オブリビオン・フォーミュラ》が居ます。此の世界の其れ、若しくは其れに1番近い所に居るのが…殲禍炎剣」
「共に望みを叶えたいけれど。其の機体では、其の機体に乗る貴方とは、叶えられない夢なのです…ごめんなさい」
「私達は。其の機体に乗る貴方を倒し、私達が其の夢を継ぐと…証し立てます」
飛行ルート第六感で先読み
UC何度も放ち敵機の手足や頭部破壊狙う
敵の攻撃も第六感で躱す
砕けた街路。横たわる残骸。銃痕や刀傷でデコレーションされた崩落しかけの建造物。何処其処で黒煙が立ち上る。
全く同じ場所なのに、ほんの少し前までの平和だった景色は何処にも無く、ただ、空を目指す者が空すら構わず、躍起になって猟兵《地上》ばかりを睨んでいた。
視線がはらむ、尽きぬ敵意、装甲の内で不気味に蠢く流体。何時――あるいは一瞬後に自身の身体が吹き飛んでいても可笑しくない状況で、しかし桜花は敵機と正反対に空を見遣る。
地上がどれだけ騒がしくしていても、雲一つない真昼の空は何処までも青く燦燦と。一目見るだけでは|幻朧桜《さくら》舞う、故郷の空とそう変わりはしないのに、何より其処こそが――この世の今の有様の元凶なのだ。
「殲禍炎剣の撃墜。とても素敵な夢ですけれど。其れが此の世界の終わりに繋がる以上、今共存する事は出来ません……ごめんなさい」
ぺこりと行儀よく敵機に頭を下げる桜花。そんな事にはなりはしない。通信越し、大きく血を吐き出す音がして、その後幾許か、声色を取り戻した王子は否定する。何を根拠にそんなことを、と。
……そう答えるだろうと、桜花は半ば予感していた。歪められた思考、短時間とは殲禍炎剣の制約を無視できる機体、そして何より、すぐそこまで迫っているであろう死の足音。
話を続けたところで|和解《おわり》はない。結局、彼はオブリビオンの暴走に体よく駆り出されたに過ぎず、どちらかがどちらかを倒すより他終わりはないのだ。
「多分、ですけれど……」
それでも桜花は話をやめない。頓痴気だから、と言う訳では無く、|猟兵《自身》が現状知り得る|考察《もの》を詳らかに、自身が敵対する理由を明確に、今その言葉が伝わらなくても、すぐそこに|寿命《おわり》が見えていても、それでも『まだ』時間はある。いつか――眠りにつく前までに、伝わってくれる可能性は零じゃない。例え来世があるとして、今生の最期が何も知らぬまま生体部品として使い潰されて終わりでは、余りにも遣る瀬無い。
「貴方が乗っている其の機体自体が、殲禍炎剣の手先だから、です」
ゆっくりと、天を指差す。
人として見送るためにこそ、桜の精は何も偽らない。
「この世界には、人を狂わせるマシンと、その頂点、|オブリビオンの在り方を定めるもの《オブリビオン・フォーミュラ》が居ます。此の世界の其れ、若しくは其れに一番近い所に居るものが……殲禍炎剣」
あくまでそれは考察だ。この世界のオブリビオン・フォーミュラは未だ知れず、しかし眼前の空を目指す者以外にも、人間を唆し殲禍炎剣の撃墜を目論むオブリビオンマシンはたびたび見受けられるが、グリモア猟兵達の予知が確かなら、仮に猟兵が事件に介入しなくても『それは絶対失敗し』、ユーベルコードを繰る其れらすら『撃墜は不可能』とされている。殲禍炎剣の存在は、猟兵の視点から見ても余りにきな臭い。
俄かには信じがたい話だと、セウ王子は首を振る。
「埒外の闘争を繰り広げる君たちの言う事、真実なのかもしれない……いや。だが、それでも、私は止まれない」
「止まってしまえば、其処が命と夢の終わりだから……解っています。ですがそれでも、私達はあなたを止めなければいけないのです」
瞬き程の刹那の時間、敵機は空へと飛翔して、超高速度に振り切られた残影が、幾何学模様の軌跡を描く。
とても目で追える速さじゃない。ならばいっその事。
意を決した桜花は緑の色の瞳を瞑り、自身の第六感に全てを委ねる。
ごうごうと、破滅的な|駆動音《おと》がした。
「共に望みを叶えたいけれど――」
影の落ちる感覚。桜花の言葉を遮るように、流体エネルギーがこちら目掛け四方に降り注ぐ。しかし桜花は敵機が流体を噴射する数瞬前に手を翳し、|光壁《シールド》で完全に受け止めた。
「其の機体では、其の機体に乗る貴方とは、叶えられない夢なのです…ごめんなさい」
相手が空を駆けるより、相手が攻撃に移るより、それより早く、動きを読む。
右へ数歩、瞬間すぐ隣を烈風が駆け抜け、左へ数歩、流体と数センチの差ですれ違う。荒れた街路に蹴躓き、ぽろりと桜鋼扇を落としてしまったものだから、腰をかがめて手を伸ばすと、そのすぐ上を敵機の拳が通過した。
ぶわりと乱れる桃の髪。一撃受ければタダでは済むまい。だがそれは敵とて同じ事。
神速の機動で桜花の背後へ周り、噴き出す流体。数歩の歩幅で回避するには|拡散し《ちらばり》過ぎており、身を翻してのシールドを展開するには時間がない。
しかしエネルギーが桜花を焼き尽くす寸前、突如颶風が吹き荒び、流体は虚無へと消えた。
ならばと瞬間移動の如き速度で距離を詰め、戦ぐ桜花へ爪撃を見舞おうとするが、その爪先は颶風に煽られぼろぼろと|崩壊する《無に帰る》。
それでも敵機は退かず、損傷部位から迸る流体が即興で新たなマニュピレーターを形成し、先の拳速すら優に超える斬穫の一撃を放つ。が、不滅の精霊の息吹に容赦の情は無く、振り下ろす際の部位の負荷も相俟って、即座に砕け散った。
風に撫でられた敵機の脚部が損壊する。皮肉にもセウ王子の技量が桜花より上回っているが故、格上殺しの颶風はより強く、より激しく荒れ狂い――。
「――私達は。其の機体に乗る貴方を倒し、私達が其の夢を継ぐと……証し立てます」
桜花は緑の眼を開く。其れは今まさに燃え尽きようとしているセウ王子へ送る言葉。
一瞬、空を目指すものと眼差しが交差する。しかしこれは王子の|意志《モノ》では無く、討ち果たすべきオブリビオンの、殺意の籠った|視線《ソレ》だ。
故に。桜花は瞬く。
|颶風《かぜ》が吹き、敵機の頭部は虚無へと消し飛んだ。
大成功
🔵🔵🔵
円谷・澄江
…ホントあの動きで死にかけなのかい?
蝋燭の灯は最期にぱっと明るく輝く…なんてのはお話の中だけにしておいて欲しいんだけど。
…まぁ無茶でもやるのがアタシら猟兵、真っ向から止めてやるさ!
UC起動、月はなくとも2分ちょっとの全開ぶつけてやるよ!
敵の機動データを収集しつつ全速で人の居ない場所を駆け回り、全開のテレキネシスで機動力を封じてやる!
光すら捻じ曲げる念動力だ、流体エネルギーだろうが逸らす位やってやるさ!
それでも脱出位してくるだろう、今度は捕まらぬよう攻めてくるだろうとも。
…時間がないなら余計焦る。それを踏まえ動きを読んで空間の断裂の刃を叩きつけてウイングや四肢を壊してやる。
※アドリブ絡み等お任せ
あらゆる計器が何重にも掛けた|目覚まし時計《アラーム》の如く、けたたましい悲鳴を上げている。
クニークルスの情報処理能力すら今にも振り切りそうな敵機の機動力。あらゆる数値を読み込んで、何度解を弾きだしても、握りしめた|短刀《ドス》が相手に突き刺さる|光景《シーン》一つだって想像できやしない。
「……嫌だね。ホントあの動きで死にかけなのかい?」
澄江は苦い顔をする。このままいけば破落戸どころか『計算とは違う』と動揺しながらくたばっていく情けない三下一直線だ。
「蝋燭の灯は最期にぱっと明るく輝く……なんてのはお話の中だけにしておいて欲しいんだけど――!」
言いながら、駄目元で振るったドスは案の定に空を切る。直後押し寄せる流体を、予測は出来ても回避はならず、咄嗟の防御で如何にか急所を護った。火花が舞って、地吹雪も散り散り、|葉牡丹《装甲》が赤々と熱を持つ。それでも……クニークルスは逃げはしない。背中を向けて脱兎の如く、そんな保身は任侠から対局の位置にあるからだ。
「……まぁ、無茶でもやるのがアタシら猟兵、真っ向から止めてやるさ!」
腹を据えた澄江は一転、笑った。怖じた態度で勝利を拾うものなど居はしない。喧しいのはかなわないがクニークルスは今この瞬間にもしっかりと情報を上げ続けてくれている。ならば……やり様は有る筈だ。
「二分だけ、時間を貰うよ。今のアタシがアンタに付き合えるのはそれだけだ」
或いは。澄江はとある|情報《データ》に目を向ける。此方にとっては『たったの二分』だが、向こうにとっては最早――。
「――念動力全開、行くよ!」
唸りを上げるクニークルス。澄江の力を増幅し、|外界《そと》へ伝え、一瞬、空間そのものが揺らいだ。
それは決して|夢幻《ゆめ》の類では無く、念動力の意のままに、空へと浮かぶ|残骸群《ガーディスト》。物理法則を端に追いやった戦場で、クニークルスは駆け抜ける。牽制、攪乱、強襲、回避。機体を跳ばす目的など幾らでも。だが一番の理由は、此処から少々派手にやらかすつもりの二分間、それに取り巻き達を参加させる訳にも行くまいという|思いやり《姉御肌》の心意気。
遥か彼方の上空より街に起こった異変と異常を認めながら、それでも敵機は飛翔する。殲禍炎剣同様に、千切ってしまえばそれで終わりと、残骸を足場に跳ねる兎目掛け神速の突撃を敢行する。しかし全てを置き去りにするはずの速度は、不可避の力に押し留められ、獲物を捉えておきながら、それ以上前には進めない。
藻掻く敵機。軋む躯体に不気味な光を蓄える装甲。一見好機に思えたが、決して近付いてはならぬと計器類が警告する。駆けて、跳んで、上空に到達したクニークルスは兎翼を広げ、|残骸《足場》達を大質量の弾丸として、全方位から差し向ける。
「そいつらの硬さだけは折り紙付きさ。このまま圧し潰れてくれるなら話は早いが……」
敵機を中心に、加速し四方から大質量の衝撃を押し付ける、天地を無視した残骸の流星群。やがてどれが何処ともわからぬ一塊に変貌し、巨大な塊は圧力のまま小さく小さく収束していく。
しかし、いや、やはりと言うべきか、塊の内より迸るエネルギーが残骸を消し飛ばし、敵機は再び蒼穹へと復帰する。流体による修復機能が無傷を装っているが、クニークルスの眼は誤魔化せない。明確な消耗が、数値となって表れている。
「さあて残り時間は……一分か」
木兎時計の秒針が無慈悲に時を刻み続ける。時計ウサギが時計を鬱陶しく思うなど、きっと最初で最後だろう。
敵機が動く。再び抑え込もうとするものの、どういう理屈か不可視の念動力を潜り抜け、残骸の弾幕を殴って砕き、自由自在に空を駆けて魅せる。
『念』じて物を動かす事こそ澄江のサイキックの本質。『一度に百機位から襲われても多分余裕』と宣っていたあの軽薄王子の言に嘘はなく、圧倒的な技量と経験に物を言わせて無理矢理こちらの思惑を読んでいるのだろう。
「いいさ。読みたければ、読めばいい。こっちもアンタの|情報《コト》は読んでいる。お互い様だ」
遂に敵機を捉えぬことが出来ぬまま、無慈悲に奔る流体エネルギー。しかし一条、一直線に澄江を射貫く筈だった流体は拡散し、飛沫を立てて消失する。
光すらも捻じ曲げる強烈な念動力。どれだけ読まれようと、|出力《思い》の強さは変わらない。
縦横無尽に飛んで回るなら、それでも回避し切れない位大きな大きな一撃を。同じ次元で勝負はしない。|蒼穹《そら》と言うカンバスを引き裂くように空間の断裂を刃となして敵機へぶつける。突然砕けた空間に、回避もままならず巻き込まれた暗翼が欠けた。バランスを失う敵機。数秒後に再び修復するのは目に見えている。
――数秒。此方に遺された時間も気付けばその程度。
今が夜……月さえ出ていれば、時間なんて気にせず力を使う事が出来るのに。
「――けど、そうか。アンタもずっとこんな焦燥の中で戦っていたんだね……」
異音を帯びる息遣い。吐き出し散らばる|血液《いのち》の響き。
故にこそ、最後の最期に間違いを犯したまま逝ってしまわぬように……。
憐憫一つなく、断裂の刃が空を目指すものの四肢を削いだ。
大成功
🔵🔵🔵
神崎・伽耶
……ふぅん。
言ってくれるわね……エースの矜持ってヤツ?
それじゃ、コッチも本気で行くのが礼儀、かしら。ね。
キャバリアから降りて愛機に跨り。
オッケー、始めましょ、とアクセル踏み込むわ。
きゃピばリア、盾役は頼んだ!(無茶振り)
大型機体の高速機動にバイクで対抗。
全部、勢いで躱すわ。宙バイク返りもイケるわよ♪
ホントなら、時間切れを狙うべきよね。
だらだらやるの得意だし。
でもねー。テハ君に頼まれちゃったからねー。
ねえ、救世のお兄ちゃん。
キミの生涯の夢と、テハ君の一生のお願い。
ドッチが通るかな?
ふふっ。じゃあ、掛ける?
勝負は一刹那、鞭を抜いてすれ違いざまに一撃。
アタシは止めただけ。
最期は君が看取らなきゃ、ね?
「――ふぅん。『力づくで止めて見ろ』、なんて、言ってくれるわね……エースの矜持ってヤツ?」
きゃピバラのコクピット内。伽耶は珍しく真剣な|表情《かお》で、暫しの間、思索に耽る。
『何か変なモノでも食べたのか』などと失礼なこと聞いてくるタブレットにデコピンをかまして、意を決した伽耶は良し、といつも通りの笑みを浮かべた。
「それじゃ、コッチも本気で行くのが礼儀、かしら。ね」
らしくも無いかな、と考えつつ、いやいや結局毎回やりたいようにやってるのでこれもまた平常運転の範疇だろうと思い直す。ただし今回の結末はちょっとだけ、湿っぽくなるかもしれない。
『オーイエース。そうと決まれば思い立ったが仏滅。礼儀を持って、本気死力のデストロ~イ!』
オブリビオンマシン同士と言えど別段仲間意識は欠片も無いのか、強敵を前に、きゃピバラも矢鱈とやる気な様子だったが、
「うん。それじゃあここからから降りるから、はーい搭乗口開けゴマ~」
『えっ!?』
無慈悲にも伽耶はきゃピばリアから脱出し、魔法鞄を逆さ、エブリロードバイクを引き出した。
バイクとキャバリアじゃ絶対キャバリアの方が強くない? という円らなお目目の無言の訴えを退けて、伽耶は愛機に跨った。きゃピばリア君には悪いけど、元々こっちのスタイルが本職なので。仕方ないよね。
バイクのエンジンに火を燈す。あっちこっち、酸いも甘いも一緒に駆け抜けてきた相棒は今日も絶好調だった。
「そんな訳だからきゃピばリア、盾役は頼んだ!」
『えーっ!?』
何と言う無茶ぶり。アクセル全開、荒れて捲れた街路もどこ吹く風で蹴散らして、エブリロードバイクは疾走する。
『グレてやるー!』などと不穏な台詞がタブレットに表示されたような気がしたが、存在自体がもう|オブリビオンマシンな《グレてる》ので、これ以上どうにかなる心配は無いだろう。
人畜無害――でも無いマスコットを置いといて、伽耶は空に蠢く敵機を見た。
殺風景な戦場を最高速度で走るバイク。取り巻き達に見送られ、カーブにT字路、途中で絶えた橋すら速度を落とさず事も無げに駆け抜けて、いっそこのままツーリングと洒落込みたいところだが、空より睨む敵機の眼差しがそれを許してくれそうにない。
「ワー! 滅茶苦茶見テルヨー!」
「見ーラーレーテールーヨー!
鞄からひょっこり顔をだしたばす停の実況が響く。ミラー越しに確認すると、今まさに敵機――空を目指すものの装甲が不気味に瞬いて……。
「うおっと! これで|殲禍炎剣の制約《制限速度》は守ってるんだけどねー。ちょっと締め付け厳しすぎない?」
疾走しているすぐ隣にエネルギーが差し込めば、即座大地が抉れ、余波で車体がよろけた。すぐさま姿勢を立て直し、|減速《お》ちた分だけアクセルを回す。今度はバイクの数ミリ後方が消し飛び、あと数瞬、加速するのが遅ければ大事故だったろう。行き止まりを横切って、悪いと思いながらもどこかの敷地を横断し、その間にもつぶさにミラーへ|視線《め》を這わせる。鏡に映った装甲のあの角度、今度は前方、進行方向に撃ち放つつもりだ。けれどもその寸前に急減速のUターン。ギリギリの所で流体を躱せば、次の噴射は前も後ろも無く、街路に沿って、街路を覆うほどの一直線。左右への方向転換も許されず、仕方なしと伽耶は息を吐いて、秘密のボタンをかちりと押し込む。下部より発生した爆風がたちまち車体を空へと持ち上げ、勢いバイクも宙返り。けれどもそこが終点だった。
雷の如きオーラを纏い、二度と地上には帰還させまいと立ち塞がる空を目指すもの。回避もイカサマも出来ない至近距離で、煮立つように装甲から流体が噴き上がり……。
『カーット!』
……伽耶とバイクを焼く直前、タイミングよく現れたきゃピバラがその射線を遮った。
「おー! 流石センパイ! 頼りになる~!」
『ククク。お前を倒すのはこのきゃピばリア。こんな所で――』
ふかふかボディで流体を受け止めたきゃピばリアは、恐らく大ダメージを受けているにもかかわらず、不敵に笑って、余裕を見せる。が。
「オッケー! じゃあ先手必勝の自爆スイッチー!」
『うぎゃー!』
カッコつけてる最中に盛大に爆ぜた。
――身代わり人形のストックも残っているし、だらだらやるのはレビューに次いでの得意分野。本当ならきっと、時間切れを狙うべきなのだろう。
もうもうと立ち込める爆炎を嫌い、地上へと降りる敵機。伽耶もまた地上に帰還し、荒れ果ての街角で、両者は睨み合う。
「……ねえ、救世のお兄ちゃん。キミの生涯の夢と、テハ君の一生のお願い。ドッチが通るかな?」
「その二つなら私の夢だろう。あいつには既に一生のお願いを百回くらい使ってる」
「えっ、そうなの!?」
『ごめん、それはマジ』
自ら通信に割り込んできてまで肯定することでは無いと思う。全く締まらない。何ともまぁ、その性根で良く立ち向かおうと思ったものだ。
本来ならばこっちの方が大穴の、低確率の、
「……ふふっ。じゃあ、賭ける?」
笑えるくらい分の悪い賭けなのだろう。
良いだろう、と王子はその誘いに乗った。技量も、最高速度も向こうの方が当然高いのだ。乗らない道理は無い。
……アクセル。全速のエブリロードバイクが異次元亜空間を纏い地を疾駆する。
……残影。神速の敵機が、世界の理を無視して飛翔する。
音すら置き去りに一瞬の交差。
いずれ勝負は一刹那。
そしてコインは投げられた。
――果たして。すれ違いざま抜き放った伽耶の鞭が敵機を打ち据え、有利だったはずの空を目指すものは流体をまき散らし地に伏せる。
どれだけ分が悪くても、それが零ではないならば、どんな奇跡も起こり得るのだ。
「アタシは止めただけ。最期は君が看取らなきゃ、ね?」
お節介な性分故に。
姿は見えずとも、一連のやり取りを見ていたであろうテハ王子へと伽耶はそう――投げかけた。
大成功
🔵🔵🔵
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK
あの衛星を無力化できるなんて
滅茶苦茶なスペックしてるわね。
きっと王子の体も保たない……なら攻撃する必要もないわね。
キャバリアを使って戦うわ。
戦っているうちに攻撃が激しくなってくるだろうから、
そこで超防御モードを展開するわね。
以降はデコイとして相手の攻撃を全て吸収しつつ
相手の消耗や味方の援護を待つわね。
ビッグモールは防御寄りの機体。
そう簡単には破壊できないわよ。
どの道国民に恨まれる事は確定でしょうね。
ま、私はただの傭兵だし、通りすがりの憎まれ役としては丁度良いわ。
弱っている筈だ。傷付いているはずだ。
しかしあれだけの数の猟兵を相手にして尚、敵機は平気な顔をして、|蒼穹《そら》を超高速の縦横無尽に飛び回る。
ひっくり返した絵の具の如く、残影が空を埋め尽くし、最早その始点も終点も定かではない。
「あの衛星を無力化できるなんて……滅茶苦茶なスペックしてるわね」
機動力に関しては、文字通り天地の開きがあると言っていい。一発でも当たれば御の字と、アメリアは空へグラビティバレットをばら撒くが、一発たりとも敵機を掠める気配も無く、地上に引きずりおろせば或いはと、|照準《ねらい》をつけて撃ちだした渾身のアンカーは、無意味だと殊更強調するが如く、最高速度に達した瞬間、叩き落とされた。
その直後に瞬速の機動。幾度見ても目で追えず、当たりをつけて防御に翳した左腕のホイールが砕かれる。他の猟兵達の様に、此処から何か気の利いた反撃が出来ればいいのだが、ビッグモールが何かしら、一つの挙動を取るうちに、敵機は十の挙動で動き回って来るだろう。これだから特殊な機体と言う奴は。装甲が怪しく輝き、殺意を帯びる敵機の拳。右腕まで差し出すのは立ち回り的にも修理費的にも大損失だが、仕方ないと嘆息し、刹那、斬られたことに気付いていないホイールが空転したまま、宙を舞った。
横合いから取り巻き達の援護射撃があったのは、それよりさらに数瞬後の事。両腕部を砕いたことで無力化を為したと考えたのか、動きの重い機体より、援護射撃が鬱陶しいと思ったのか、敵機の意識はそちらに逸れ、気付いた時には眼前に一つの|残影《かたち》もなく。他愛なく取り巻き達を蹴散らした敵機は、再び他の猟兵達と激闘を繰り広げる。
王子の意識から外れたアメリアに、かの暴風をじっくり観察して余りあるだけの|猶予《とき》が生まれる。改めて、見るべきは何処か。一時的に殲禍炎剣を無視できる速度。それは見飽きた。セウ王子の体調と、死の淵にあるにも関わらずの圧倒的な操縦技術。それも嫌と言うほど知っている。性能では無く、技量でも無く、注視すべきは彼が地下より這い出てきた時から有った、その違和感。
「――そうよね。どうしてもう後がないと自覚していながら……寄り道ばかりしているのかしら?」
両腕を失ったビッグモールは、それでも戦意は尽きぬと、再び空へ向けてガトリングとアンカーを打ち放つ。予想するまでも無く全ては外れるが、その砲火に誘われた敵機は、再び殺意を伴って、|音速《おと》より速く再びアメリアの眼前へとやってくる。ビッグモールの撃墜を予感して、悲鳴を上げる取り巻き達。まるで消失したように、軌跡すら見えぬ|爪撃《つめ》の一撃。瞬刻、鋼同士が爆ぜたようにけたたましい衝突音を奏で――しかし、その場にいた全ての人間の予想を覆し、|水中迷彩《ビッグモール》には傷一つ付きはしなかった。
今一度、次撃は目一杯に力強く握られた拳の殴打。|攻撃《ちから》と|防御《まもり》の激突は、悲鳴にも似た|騒音《絶叫》だけを響かせ、だが、半壊した量産型キャバリアは固い硬い岩盤の如く揺るがない。
――短時間とは言え殲禍炎剣の制約を無視できるのなら、ここに居る誰一人として追い付けはしないのだ。最初から猟兵達を振り切って、目的を果たせばいい。だが現実は、猟兵達を倒す事ばかりに傾注し……それは末期の夢を遂げたい王子と、|宿敵《猟兵》の排除を優先したいオブリビオンの意識の差だろう。そして巧みに機体を操縦してるようでいて、その実生体パーツに過ぎない王子に主導権は無く……半壊し、空も飛べない機体など無視をすればいいのに、無数の光の線が如何にか此方を射貫こうと奔る。だが全ては|無敵城塞《ユーベルコード》に散らされて、ただただ、掛け替えのない『残り時間』だけが浪費されていく。
この事実に気付いていた猟兵もいるだろう。けれどきっと、セウ王子を慮って『そう』しなかった。
だが、アメリア・バーナードは躊躇なく『それ』をやる。
感傷も憐憫も敬意も功名心も無く、ただ、『それ』が出来る手段があって、この一戦に一つの国の存亡がかかっているのなら、やらない理由は何処にも無い。
神速すら超えた敵機の拳が真正面から自機を叩く。ビッグモールは斃れない。
何より鋭利な爪撃が、槍の如くただ一点、自機を穿とうと強烈に装甲へ接触する。しかし仰け反ることも無く、ビッグモールは不動のまま、その場に佇むのみ。
取り巻き達の銃撃が、敵機へと殺到する。にも拘らず、敵機は回避する素振りも見せずただ只管に、ビッグモールへ怒涛の如き連撃を打ち込んだ。
|暴威《あめ》が|装甲《かべ》を打つコクピットの中で、手持無沙汰なアメリアは、取り巻き達の|視界《カメラ》を借りる。
タブレットに映る敵機と自機の第三者視点の闘争。よくよく見ればセウ王子が繰り出す攻撃は、全て貼り付けられたデカールやエンブレムの類を避けており……それは知らずの内の、マシンへの抵抗なのだろう。恐らくは自身より遥かに上の技量を持つパイロットが、何もせずとも機体に使い潰されて、後はただ『時間切れ』を待てばいい。
あまりに無情な決着だ。奇跡が起きでもしない限り、きっと国民達に恨まれる道は避けられない。
『アンタはそれで良いのか』と、テハ王子が問うてくる。
別に構いはしない。自ら下した判断が、ただ自らに帰ってくる事の、何処に不満があるだろう。
所詮自分はただの気ままな傭兵だ。通りすがりの憎まれ役としては丁度良い。
――轟音と共にコクピット内が揺れる。遂に無敵の守りが崩されて、敵機の拳がビッグモールの前面装甲に大きくめり込んだ。
だがそれっきり。その一撃こそが、王子が意地と死力の全身全霊で放つことのできる、最後の一撃だった。
……空を目指す者――この国に於ける最強の特殊機体は、両腕の捥がれた量産機に致命的な消耗を強いられたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「寿命には勝てません。延びても2週間、健康に死ぬだけです」
戦闘時
敵機が他者に攻撃して動きが止まった瞬間狙い黄巾力士が制圧射撃
敵機の行動阻害し雷公鞭で雷撃を当てていく
戦闘終結直前セウの命が消える前にUCで悪夢
痛みは肩を軽く叩く程度
セウへの悪夢
死ぬまで継続
弟がいて健康で未来は希望に満ち溢れている
例
「兄貴、大丈夫か?」
テハがソファーで寝ていたセウの肩を小突く
「いや、兄貴変なところで寝てるし魘されてたし」
赤くなった顔でそっぽを向きつつ起こそうと手を伸ばし
「はあ?なんだそれ。悪夢の内容なんて気にしてもしょうがなくねえ?兄貴は元気だろ」
「何かあっちで兄貴探してるヤツいたし」
「大丈夫だよ。いや、俺じゃ大して力にはなれないだろうけど。それでも俺は、絶対兄貴を助けるから」
「私が居た場所には判官贔屓という言葉があります」
「お約束したでしょう、テハ王子」
嗤う
夜が明けるまで都市中移動
セウ称え悼む悪夢をUCでばら蒔く
酒場で知り合いに小突かれ一緒に酒を飲みながら噂話
雑踏で人にぶつかり立ち止まったら噂話聞こえる等内容
静寂の戦場。
蒼穹に最早残影の軌跡一つ無く、あれだけ高速・自在に飛翔していた空を目指す者が今はただ、|建造物《手摺り》に寄りかかりながら地を歩く。一歩。二歩。全身の装甲よりとめどなく流体を零し、亀の如き足取りで、ただ|当所《あてど》も無く、戦場を彷徨しているように見えた。
……否。よくよく見れば猟兵達から距離を取り、建造物の陰に隠れあからさま、オブリビオンマシンが此方の手から|遁走《のがれ》ようとしているのだ。
空の|装甲《いろ》の取り巻き達が、逃しはすまいと銃を撃つ。這う這うの体の敵機は、暫しの間銃弾を素手で受け止めて、しかし撃たれ続ける銃弾全てを凌ぎ切ることは叶わず、罅の入った装甲から、やがて更なる|流体《血液》を滲ませた。それでも足を止めない敵機へと、取り巻きは|刀《ブレード》を振り下ろす。未熟な|操縦技術《腕》も丸出しの、ただ振り回しているだけに等しい剣撃。ほんの少し前まで当たる余地すらなかったそれが敵機を切り裂き、取り巻き達は息を呑む。今なら――自分達でも倒すことができるかもしれない。
「けど……これで良いのか……?」
刀を振り下ろした量産機が、振り下ろした姿勢のまま硬直し、ぽつりとそう呟いた。
「プラントを見つけ、外敵を撃退し、政も達者で……今のこの国があるのも、俺達が馬鹿みてぇに平和呆けして遊んでいられるのも、間違い無くこの人のお陰だった。この国の人間なら誰もが憧れてた|英雄《エース》がこんな……こんな襤褸雑巾みてぇな最期で――!」
そんな感傷を好機と見たマシンが動く。呆気にとられる取り巻きを押し退け、ろくに狙いもつけずの乱射と乱撃。撃破間際の破れかぶれでも、命中すれば容易く量産機の装甲を貫き、未だに油断できる相手では無いことを、取り巻き達は改めて理解する。
「……本来なら何であれ、寿命には勝てません。ですが貴方は――」
乱痴気射撃が途切れた刹那、釘を刺す様に黄巾力士の|金磚《宝貝》が、熱線・実弾問わずに放たれて、幾条もの火の線たちは一分の間断なく瞬き、敵機の動きを封じ込む。
そのまま弾幕の密度を保ち阻害し続けよと黄巾力士へ令を飛ばした冬季は敵機を見据え、感心したように青い瞳を細めた。
「貴方の命は、既に尽きているのですね」
|人間達《ヒト》の遺伝子操作技術。オブリビオンマシンの特殊なシステム。そして何より強い個人の意地。それらが奇跡的に噛み合った結果、ただの精神力を第二の心臓に、セウ王子は今、意識を保ち続けている。
冬季は暫し口に手を当て考え込む仕草を見せ、やがて嗤った。無い|寿命《モノ》をこれ以上伸ばすことは能わず、しかし、まだ、死化粧を施すだけの余地はある。
健やかなる死と言う、この世で一番矛盾した死化粧を。
「|猟兵《誰か》が言っていましたね。……兄の最期はせめて|家族《弟》が看取らなければ。その言に私も殊更異論は有りません」
翳した雷公鞭より奔る雷が、金磚の吹かせる|弾雨《あらし》の内で瞬き、次から次に敵を撃つ。
低く低く天地の際を飛翔する両足首の風火輪。雷公鞭はその名の如く|雷《光》を湛え、冬季は弾雨の中を征く。
|血涙《なみだ》の如く敵機の|眼《カメラ》より噴き出す流体。この期に及んで駄々を捏ねる様に投げつけられる|射撃《足掻き》と|爪撃《藻掻き》を潜り抜け――。
「……ですのでテハ王子、最後に少しだけ、付き合ってもらいますよ」
敵機の最至近に到達した妖狐は嗤う。
刹那。雷が閃いた。
●悪夢
やわやわと降り注ぐ陽光。
気が付けばあれだけ苦しかった|呼吸《いき》も楽になっていて、身体が軽い。
見慣れた自室。窓からのぞく景色もいつも通りの筈なのに、眼窩の|激痛《いたみ》が無いだけで、何もかもが新鮮に見えた。
しかし――ああ、まだ。ここに至るには早すぎる。故に後ろ髪を引かれる思いではあったが、僅かに残った使命感を手繰り寄せ、無理やりにでも現世へ帰還することにした。
|呼吸《いき》が苦しい。体が軋む。咳に混じって吐いた血が現実の実感を齎したのと同時、コクピットの外から必死に此方を呼ぶ声がした。
あまりに五月蠅い物だから、仕方なしに応じてやると、安堵と悲嘆がグズグズに混じった調子の弟が、其処から降りろと急かしてくる。
だが、それは出来ない、と。焼け付く喉で拒絶した。
「私にはまだ、為さねばならないことがあるからな」
「――なんだって!? まさかアンタまだ……!」
弟の言葉を振り切って、機体を飛ばす。街をでて、港を見送り、果てしなき|群青《うみ》から、限りなき蒼穹《てん》へ。そう。遮二無二目指すは見果てぬ空。
為さねばならない事がある。振り絞った肉声入りの通信を地上へ飛ばした。間違っても|猟兵《かれ》らの手に掛かるわけには行かない。
制限を無視して加速する機体。死に体のソレが大音量の|警報《悲鳴》をあげる。同じく死に体の生体部品を制御しようとするが、あの時渡された破魔の力と狂気に抗う力が機体の支配を退ける。
謝罪もしないまま出て行ってしまったが、今なら|猟兵《かれ》らの言葉が良く解る。この機体に殲禍炎剣の撃墜など出来やしない。ただ、この世に存在してはいけないモノだ。
だから、この機体に魅入られた者の責任として……。
「――System three……!」
この機体『で』殲禍炎剣を破壊するのではなく、この機体『を』殲禍炎剣に破壊させる。
暫し微睡んだことで戻った体力。僅かだが、成功させるにはそれだけあれば十分だ。
さらに重力を振り切って機体を加速させる。どれだけ警告を飛ばしても好き勝手に振舞うパイロットに愛想が尽きたのか、機体は遂にコクピットを自ら開き、生体部品を放り出す。
しかし――もう遅い。既に速度は上限を優に超え、生体部品を放り出したが故に制約を無視することも出来ない。
成すがまま、自由落下を続ける身体。最早指先の一本たりとも動かすことはままならず、それでも如何にか最後の力を振り絞り――命の終わりに、|地上《国》を見た。
|操縦技術《ちから》を失い、|身体機能《じゆう》を失い、命を失い、最後に残ったのはただ……生まれ育った郷里への――。
『……兄貴、おい兄貴! 大丈夫か?』
肩を小突かれ、ソファの上で目を覚ます。正面には、何やら此方を心配そうに覗き込んでくる弟の顔。
それが露骨に命の危機に瀕した重病人を見るような眼差しだったものだから、大分イラっと来て無言の目潰しを放ってやった。
『ぐあっ!? 子供かアンタは!』
無遠慮に覗きこんでくる方が悪い。
『いや、だって。兄貴変なところで寝てるし魘されてたしよぅ』
顔をこすって手を差し伸ばしてくる弟。さっきから可笑しな奴だ。腰が抜けてる訳もない。誰の介助が無くたって、楽々と立ち上がることは出来る。
……だが無性に、そういう|介助《もの》を欲している自分がいるような気がする。まぁ、起こしてくれるならとこの際手を取って、瞬間全身に力を籠め、逆に転ばせ、その反動で自分は置き上がる。何時まで経ってももやしっ子め。
――魘されていた。確かに悪夢を見ていた気がする。死が迫り、体の自由も効かず、焦燥に駆られ、悪魔に唆されて国を亡ぼす。そんな如何仕様もない夢を。
『はあ? なんだそれ。悪夢の内容なんて気にしてもしょうがなくねえ? この通り兄貴は滅茶滅茶元気だろ』
夢の内容を詳らかに語ってみれば、生意気にも弟が一笑に付してくる。いいや、これは真剣な調子で話した自分が悪い。だが如何にも――引っかかるものがあった。妙にリアリティがあるというか、起きてしまえば忘れてしまうのが夢の定石だろうに、今でも鮮明に、ありありとその悪夢の内容を思い出すことが出来る。
だから――弟に訊いた。もし。仮に。そうなったとしたら、お前ならどうする? と。
すると弟は、暫し挙動不審に眼を泳がせ、その後らしくも無く確かな決意を秘めた表情で言葉を紡ぐ。
『安心しろよ。いやまぁ、俺じゃ大して役にゃあ立ちゃしねぇだろうけど――それでも、如何にかして、絶対兄貴を何とかするさ。それが家族ってモンだろ』
――ああ。そうか。
その言葉を聞いた瞬間、全てを思い出し、大笑した。
『あん? 何だよ急に爆笑なんかして』
「いや、なに、間違いなくこちらの方が夢なのだろうな。でも無ければ、お前がそんな格好つけた事を口に出すわけがない」
『そんな察しの仕方は幾らなんでも酷くねぇ!?』
事実だろう。普段の素行が悪すぎるのが悪い。
「実際この国を救ったのは猟兵達だ。彼らが居なければ本当に何もかもが消え去ってしまっていただろう。比較して、お前の活躍度合いは大体その1……いや、0.8割位のモノだな」
『うるさいよ。んなこと言ったら兄貴は優にマイナス100割じゃねぇか!』
馬鹿話をして、笑い合う。懐かしい。こうやって過ごすのは何時ぶりになるだろうか。
――やがて。周囲の景色が白みだす。『時間』が来たのだろう。
『……もう、逝くのか』
「ああ」
最後はただそれだけの、短いやり取り。それで十分だった。
「お前は精々、長く生きてくれ。それは殲禍炎剣の撃破以上に――私が決して抱けない夢だった」
別れは済ませた。振り返りはしない。|何処《いずこ》に続いてるとも知れぬ、真白い道を歩み出す。悔いはない。人生の最期に犯してしまうはずだった過ちを、その身を挺して|猟兵《かれ》らが止めてくれたのだ。
彼らなら、いつかきっとこの世界を――。
「ありがとう。猟兵。最期に、良い夢を見れた」
遠ざかるセウ王子の背が白い光の内に消えるまで、テハ王子はじっとそれを眺め続けた。
『しかし夢扱いは酷ぇよな。|悪夢《ゆめ》の中でも正真正銘の本物だったってのに』
人徳ばかりは私の仙術をもってして如何とも。冬季はあっさりそう毒舌を吐いて、邯鄲の|悪夢《ゆめ》を解いてゆく。
二人を同時に眠らせて、悪夢を介して意識を繋いだ。しかしすでに一人が退出してしまったのだから、維持する必要もない。
「存外に、気付いていたと思いますよ。貴方が急に殊勝な事ばかり言い出すから、照れくさくなって、知らない振りをしたんでしょう」
端から見ててもセウ王子の態度は、|幻影《ニセモノ》に接するそれでは無かったように思う。
最後まで格好をつけて逝きやがって。穏やかな顔で、テハ王子はそう愚痴る。
『――しかし、これの何処が悪夢なんだ? 最後まで綺麗なモンだったじゃねえか」
「いいえ。紛う事無き悪夢ですよ」
冬季は嗤う。
「もう決して見る事の出来ない|夢幻《ゆめまぼろし》を、悪夢と言わず何と言いましょう?」
――そして現実。遙か天より光が煌めき……空を目指す者は、完全に消滅した。
●夢の終わり
テハ王子の機体の掌の上に横たわるセウ王子の亡骸。
「――本当に、ありがとうよ猟兵。どんだけ礼を重ねても足りやしねえ。アンタ達が全力で悪い|機体《ヤツラ》を全部ぶっ飛ばしてくれたから……兄貴は最後、|部品《パーツ》で無く、一人の人間として逝けたんだ」
瘦せ細り、血まみれの、傷だらけで、二度と瞼が上がることは無く。それでも。その顔は苦痛の色に塗れる事無く安らかで――。
●黄金時代の終わりに
数日後。
落ち着きを取り戻した街のとある酒場。その一角。冬季が噂の|甘味《タルト》にありつこうとした丁度その時、隣良いかい、と知らない男が返事も待たず席に着く。
うっすらとしか見覚えが無かったが、どうやら彼はあの時弱った敵機に刀を振り下ろしたあの取り巻きらしい。図々しい男だったが、先ずは一杯と酒を奢られればそう悪い気はしない。
しばし|どうでも良い話《談笑》に花を咲かせ、肴を抓み、酒を三杯ほど開けた頃合いに、実は、と、ほのかな赤ら顔を神妙な調子にして話し始める。
「テハくん……と言うか俺達は、アンタ達の汚名をおっ被る手筈だったんだ」
どうあれセウ王子を殺してしまえば、恨みを買うのは避けられない。だが自分達では到底王子を止められない。かと言って外部から招き入れた、セウ王子を倒し切れる|猟兵《助っ人》に、何もかも背負わせるのは違うだろうと。自分達が派手な機体で派手にやらかしてる間、エース殺しの汚名だけを引き継いで、どさくさ紛れに此方を逃す算段だったという。
「しかし……そうはならなかった。無論途中殴り合いはしましたが。セウ王子は結果的に|猟兵《だれ》の手に掛かることも無く死亡しましたからね」
冬季は手持ち無沙汰にフォークを弄ぶ。その上手際の良い事に、彼は死の間際自身の過ちを認める通信を地上へ飛ばしていた。
「『邪悪なマシンに魅入られていた』、『殲禍炎剣は撃墜出来ない』、『もう少しで自分が国を亡ぼす所だった』。そう告白した後、自分がどう見られるかわからなかったわけでもねえだろうに、テハくんが一番隠蔽したがってた事実をあっさりと。馬鹿正直が過ぎるってもんだ」
『悪名の方がお好きなようだ……テハ王子を質した際にそう言った事を思い出す。引っ被った悪名で、兄の過ちをも塗りつぶし、覆い隠す。恐らくそれが、彼の真の謀だったのだろう。他でもない、当の兄貴に打ち砕かれてしまったが。
「――で、不思議なのは、そんな馬鹿正直にヤベェ告白をしたセウ王子の人気が大して落ちてねぇコトなんだよ。なぁ仙人サン、もしかするとアンタ……」
何か知ってるんじゃないのかい? そう訊いてきた男に冬季はさて? とあからさま、知らない風を決め込んで、
「ここ数日は甘味を堪能するどころでは無かったですからね。騒ぎが早くに収まったなら、それは目出度い話でしょう。ただ……」
私が居た場所には判官贔屓という言葉があります。
そう嗤いながら、冬季は甘味を頬張った。
数日前に比べると、急に夜風が涼しくなっただろうか。
人の営みは想像以上に逞しいもので、荒れた街路に列をなしてふらふら歩く者有らば、穴の開いた店舗で早くも商いを再開する者もおり、荒れ果ての風景のまま、活気だけが一足先に戻ろうとしていた。
酒を呷った影響か、それともここ数日の疲れが出たか、冬季はふらりとよろめいて、不意に雑踏へぶつかってしまう。
それはそれで丁度良かったと足を止め、名も知らぬ人々の世間話に耳を傾けてみれば、『包み隠さず過ちを告白した彼は立派』とか、『彼の最後は殲禍炎剣破壊を目論む者たちへの抑止となった』とか、『悪いのは人の思考を狂わせてしまう機体の方だろう』とか、『どうあれ彼のこれまでの功績に陰りは無い』だとか、どれもこれもがセウ王子を悼み、称えるものばかり。想定通りだ。ならばこそ、連日連夜そういう内容の|悪夢《ゆめ》を都市中にばら撒き続けた甲斐もあったというものだ。
|残影《くも》一つない、満天の星を見遣る。
『貴方の兄君を暗君と貶め貴方の株を上げるのと、貴方の功績を全く残さぬ代わりに兄君を悲劇の人として民に敬愛されるまま残すのと。選べるならばどちらを選びますか』
『名声なんかにゃ興味はねぇよ』
『では、そのように』
「――お約束は果たしましたよ、テハ王子」
冬季は嗤う。
斯くして猟兵の仕事は終わる。此処から先は、この国に根差す者たちが紡ぐ物語。
|英雄《エース》の死。黄金時代の終わり。戦乱絶えぬ世の中で、これから数々の試練が押し寄せてくるのだろう。
だが。
今はただ。
この国に|一時《いっとき》の平穏を――。
大成功
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