<奴隷解放戦線>いのちの価値
#ダークセイヴァー
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「そっちはいらなあい」
「畏まりました、お嬢様」
血に濡れた、白い指先ひとつでいのち一つが落とされる。
椅子に座って見下ろす先で、蹲る男の頭が空に飛んだ。揺れた身体はごとりと倒れ、そのうちに己の血の海に沈んでいった。
拘束された事に腹を立て、状況を理解しようともせずに斬首された男の死体。大人しく頭を垂れて従っていればよかったものを。お嬢様の機嫌を損ねるからこうなるのだ。
「そっちの子、可愛いわね。檻に入れといて頂戴」
「畏まりました、お嬢様」
執事服を纏った爺やが恭しく腰を折り、背に天使の翼を生やした少年を引き摺って行く。恐怖に震えたその少年は、ろくに抵抗する事もなく檻の中へとぶち込まれた。
ずろり、地を這う何ものかが、その少年を見ては欲しがるようにケタケタ笑う。
けれど今は、こちらではなく。転がる頭を飲み込んで、転がる身体を飲み込んで、地を這う怪物はのったり巨体を持ちあげた。
それを人と言うにはあまりに醜い。しかし、人たる部品が体にいくつも浮き上がる。飲み込んだ頭もまた、その一部となってお山のてっぺんに据えられた。
「売れる子たちは良いけれど、売れない子たちは『賞味期限切れ』なのよね」
はあ、と大仰に溜息を吐いたお嬢様が、足を組み替え独り言つ。
「せめて役に立って頂戴な」
ぬちゃりと聞くに堪えぬ音を立て、開いた幾つもの唇がお、お、お、と人ならぬ声をあげた。
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「人身売買、という言葉ぐらいは聞いたこともあるだろう」
そんなものが横行する世界が、あってはならぬものではあるが。
淡々とした調子で、イェロ・メク(夢の屍櫃・f00993)は猟兵達へと向き合った。
グリモア猟兵たる彼が見たのは、とある奴隷市場で行われたワンシーン。そこは『ラ・カージュ』と呼ばれ、不定期的に行われる人身売買の会場だ。いくつもの業者が集まり、各々自由に商売を為す。情報交換の場所でもあった。
その会場に集まる内の、ひとつ。
奇しくも同会場にて予知を見たグリモア猟兵もいるが、皆一様に違うものを引っ掛けたようだ。
イェロが見たものは、コロシアムにも似た円形状の地下会場。円形に檻が並んでおり、その中央に看守とでもいうべき怪物が這いずり回る。檻の上は観客席のようになっており、そのうちの一か所がマスターたる少女の座る豪華なスペースとなっていた。
詳しい場所までは把握できていない。そういう会場がある、という事だけ判明している。
接触する方法は限られている。そのヒントは、予知の中で得られていた。
「彼らは、種族的に『人間』ではない者を好んで蒐集しているようでな」
多くの世界に普遍的に存在している人間。それとは違う、――例えばダンピールや人狼、オラトリオといったところだ――人間ではない者を好んで集めているらしい。
断片的に見えた光景には、皆一様に種族としての特徴を垣間見ることが出来た。
「直接相対し、情報を聞き出す他――囮として、潜りこむことも出来る」
が。
言い淀むイェロは少しの後に溜息を吐いた。説明する口調は訥々と言葉に詰まる。
「先も言ったように、人間にはさほど、興味を持っていない。囮として潜りこむ際には工夫が必要だ」
猟兵達に与えられた選択肢は三つ。
一つは、直接相対し、暴力もしくはその他なんらかの手段で痛めつけ、情報を吐かせること。
一つは、同業者を装い、言葉巧みに探り出して、情報を引き出すこと。
一つは、囮として、内部に潜りこむこと。
人間以外の種族であれば、囮となる事は容易だろう。少し隙でも見せてやれば、同業だろうが客だろうが、彼らはこれ幸いにと貪欲に食らい付いてくる。しかし、簡単が故に、その後に起こる何かしらの所業――『調教』と称した拷問に遭う可能性は高い。先延ばしにして逃れる事は可能ではあるが、失敗した際には相応の覚悟が必要となってくる。
人間であれば、囮となる事は困難だろう。しかし不可能ではない。なんらかの手段で自身は人間ではないと見せつけ潜りこむ事が可能ではある。彼らも彼らで、人間なぞを連れて行けば自身の身が危うい。商人達に如何にして思いこませるかが大事になってくる。騙し通せなかったその時は、身の安全を保障できない。
いずれにせよ、最初に提示した二つに比べ、リスクは高いが懐には潜りこみやすい。自らの丈に合った手段を選ぶべきだ。
「良いかい。その先に何が待ち受けていようとも、君達がすべきことは元締めの討伐だ」
どんな手段を選ぶにしても、最終的に辿り着くべきものはひとつ。
人攫いの影で笑う、オブリビオンの討伐。
「そして、人々を、生ける者達すべてを解放する。……頼んだよ」
ふらりと揺れた黒い光が羽根ペンの形を形成する。摘まみ取った指先が、ダークセイヴァーの名を描いた。
猟兵達を飲み込む漆黒。次に明けるその時は、『ラ・カージュ』の一角だ。
驟雨
驟雨(シュウウ)と申します。
プレイング受付時間はマスターページにて告知いたします。
ご確認宜しくお願い致します。
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このシナリオは「奴隷解放戦線」シリーズシナリオです。
これらの事件は独立して発生します。同時参加されても時系列的矛盾はありません。
●舞台
奴隷市場『ラ・カージュ』
場所はとあるヴァンパイアが管理する豪奢なお屋敷。広い庭園に多数の座敷。地下牢も完備。ないものを探す方が難しい。
年に数回、各地から集まった奴隷商人達が催すそれなりの規模の奴隷市場です。売り場は屋敷内に点在しています。
●参加MS(敬称略)
驟雨、七宝、ヒガキミョウリ、龍眼智、くらげ屋、遠藤にんし
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●第1章『「命」を扱う商売』
開業前準備の時間です。オープニングを参考に行動を選択してください。
ただし、囮を選んだ場合、難易度は跳ね上がります。相応の覚悟をお願いします。
●第2章『No Data』
フラグメント情報は開示されておりません。
●第3章『No Data』
フラグメント情報は開示されておりません。
すべきことは、ボスの討伐です。どんな手を使っても構いません。
囚われた全ての人々が死亡した場合、敵を討伐しても失敗となる可能性があります。
●ご注意
同行者がいる場合は名前とIDをご記載ください。名前は呼び名でも構いません。
第1章 冒険
『「命」を扱う商売』
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POW : 人身売買業者を痛めつけて、オブリビオンの情報を吐かせる。
SPD : 人身売買業者のアジトに忍び込み、オブリビオンの情報を入手する。
WIZ : 人身売買業者の同業者等を装い、オブリビオンの情報を聞き出す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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先ずは香りに気付くだろう。吸血鬼の好む薔薇の花。視界が開ければ、自らが屋敷の何処かにいる事が分かるはず。
――さて、どうしようか。
方法は様々だ。燥ぐ声に導かれ、何食わぬ顔で進んでみれば豪奢なドレスを纏った人々がそこにある。
皆一様に、従者を連れている。あるいは、腰にレイピアを引っ提げアピールしている。
隙を見せるのは案外簡単そうだ。そこらにいる人間たちに共通しないことをすれば良いのだから。
そして、偽るのも簡単そうだ。そこらにいる人間たちの真似をすれば良いのだから。
択べる選択肢は三種類。どれを選ぶかは、自分次第。
「『亜人の檻』、今日もアレを連れてるのかしら」
「ああ、アレ……醜くて、わたくし嫌なのよね」
ひそひそ届く噂声。
亜人。人に次ぐ者。人ならざる者。
場所はまだ明らかにならずとも、ここらはどうやら予知にかかった奴隷商人達のテリトリーらしい。『亜人の檻』と呼ばれている事は会話の内容から推測できた。
接触するは容易いか。各々の心の元に、猟兵達は動き出すのであった。
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ふわりと空舞う翼は美しく、嫋やかに、しかして脆さは感じさせぬ厳かさもにおわせる。
咲き誇る花々は大小さまざまに存在するが、そのどれもが当人の在り様を示す証拠になった。
さやかに薫る花の香。光ない世界において艶やかに広がる天使の翼。
誰が言ったか、その呼称。
空に踊る姿を見れば天使と謳い、地に歩む姿を見れば神子と謳う。人々にとってそれは、救いの象徴にも似ていた。
闇に墜ちる大地の中で、煌いた奇跡の存在。
――天の御使い。オラトリオ。
ミンリーシャン・ズォートン
屋敷到着後深く外套被り正体を伏せ密かに観察
奴隷商人の中で貧相又は頭の悪そうな商人を密かに尾行
見張りが手薄で手助けすればすぐ逃がせそうならそこで囚われ人を逃がす
※怪我をしていたらUC使用(優しい歌声で歌いその力で傷を癒せるとあえて教えてもいいので歌声は抑えない)
移動が馬か徒歩の様ならそのまま
馬車なら火をつけ
自身は時間稼ぎし逃がす演技
何故逃がしたと問われれば「そうしなければと思ったからです」と外套をとり答え
攻撃してきたらあえて避けず受け出血すれば目的達成
捕まり自分の血痕を道中に残しながら他猟兵が気付きやすくする
怪我せず捕まった場合髪の金木犀を落とす
◇◎と臨機応変に対応
挑発はせず常に丁寧な敬語で語る
●21:50 屋敷外縁
深く被った外套は、鮮やかなパステルの水色を覆い隠した。垂れた長い横髪も、今はコートの中に詰める。小さな翼も外套の中だ。
と、と、と、と駆ける足音は軽く、ミンリーシャン・ズォートン(綻ぶ花人・f06716)は木々の陰に潜むように移動を続ける。行き交う人々はその存在に気付いてはいない――はず。
「こいつさえいりゃ、俺はまだ生きれるってモンよお!」
張り上げる声を聴き続け、ミンリーシャンは様子を窺っていた。特別近いわけでもなく、男の声はミンリーシャンの元へと容易く届く。つまり、かなりの大声と言う訳だ。
その恰好は貧相と言うには少々豪奢ではあるが、まるで自分の捉えたものを自慢して回る様は、一言で言ってしまえば阿呆にも見える。商人達が気に入られるために集っているこの場所で、手柄を見せるのは自殺行為だ。いつ闇討ちされて横取りされるかわかったものではない。
さて、その手柄は何処にあるのかと言えば、探すまでもなく目の前にあった。ガラガラと塞がれた檻が乗る荷台を引くのもまた奴隷か。繋がれた枷はその役目以外を全うするには邪魔過ぎる。
待機し続け数十分。捕らえた獲物を確認する為か、商人が商品ともども人々から離れていく。今しか、チャンスはない。
奔る。フードの先を指先で摘まみ、脱げぬようにと顔を隠しながら商人の死角へ滑り込む。荷台を引く屈強な男の視線がこちらを見た気がするが、構ってはいられない。
特別なユーベルコードは憶えていない。道具を使い、ワンテンポ遅れて発火する。
「ん……? なんだ、この、チッ誰だ!」
対策はしてあったのだろう。阿呆でも一応、保険はあるという事だ。荷台に火が付いた途端、鼻をついたにおいは強烈な腐敗臭。薬でも塗ってあったか。
ミンリーシャンに時間はない。男が裏へ回るのと同じくして、正面へと足を向ける。幸い、馬にされている男は暴れる事もなかった。
「ひっ、いや、いや……こないで……」
中で震える少女を認め、その手を引っ張る。反対にかかる力はあるが、あまりにも弱い。檻へとつなげる枷を見れば、刹那――金木犀が鎖を破壊した。
「あなた、は……」
「大丈夫。早く、お逃げなさい」
奔る風に攫われて、素顔を晒したミンリーシャンが嫋やかに微笑む。罵声はすぐそこまで迫っていた。
「……ありがとう」
少女は駆ける。この後無事に逃げ切れるかもわからぬまま、奴隷の横をすり抜け茂みの中へと入っていく。
「テメエ、イイ度胸してんじゃねえか……」
「自分でも、ばかだなって思います。けれど、こうしなければと、思ったのです」
抜け殻の箱に収まる女。上から下まで眺めた男がフンと鼻を鳴らした。
「正義感ってヤツか? テメエも天使サマなら丁度いいやあ。……抵抗したら、殺すぞ」
にへらにへらと笑う顔は狂っている。逃げ出そうとする素振りで目的を果たそうとしてみるも、商人の男が刃を構える事はない。商品を傷物にするわけにはいかないという事か。
花を落とすにも、この環境は向いていない。眉を顰めたミンリーシャンの眼前で、無慈悲にも檻は閉ざされ、天使は昏い闇に落とされた。
強さと優しさは両立出来ると信じている。
――果たして、ここでもそれが通用するだろうか?
成功
🔵🔵🔴
●
それは禁忌の関係だった。恋に落ちたは一体どちらからなのだろう。
二人はやがて子を授かり、二人のどちらでもない存在が世に産み落とされた。
半分は母に、半分は父に。
生まれながらに与えられた美貌はあらゆるものを引き付ける。それはなにも良いものばかりではないのだが。
しかして、それには力があった。神をも殺す、非凡の力が。
種族をも超え紡がれた命。
――混血の佳容。ダンピール。
赫・絲
囮として潜り込み【情報収集】
売られた娘を装い質素な服を纏って儚げに
私はダンピールよ、この顔そのものが何よりの証拠
ヒトじゃない種族を好まれる方がいると聞いたの
噂によると女性だとか
折角売られるなら、少しでも高く買ってもらいたい
だからその人とお会いしてみたくて
その方は普段どこにいるの?
何を好まれるの?
何か知ってるなら教えて欲しいの、だって気に入られたいもの
商人の手を両手で包んで、至近距離からじっと見つめる
うまく潜り込めたら周囲の様子を観察
人手が薄い所の目星をつける
調教に連れられそうになれば説得して先延ばしを狙う
それを見世物にすればお金は取れるでしょう
もっと沢山の人を集めて
そして私を晒し者にすればいい
●21:30 屋敷一階応接間[A]
「ねえ、私はダンピールよ」
檻の中から、赫・絲(赤い糸・f00433)が商人へ向けて声をかける。周りの視線が一度絲へ集まるが、奇怪な奴もいるもんだとすぐに散った。
「アンタァ、それ……解って言ってンのかい?」
「そうよ。ヒトじゃない種族を好まれる方がいると聞いたの」
囮になるのは容易かった。手段は少々荒っぽかったが、こうして接触出来たなら何も問題はない。売られた娘を装う為に使った男は、今頃自分を売った金で懐を潤している事だろう。
いずれは、そいつも干上がる事になるのだが。『ラ・カージュ』のどこかの檻に所属しているのなら、猟兵達の掌の上だ。
絲の前には、頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を向ける恰幅の良い商人が立っている。言い方は悪いが、より価値を見出してくれる場所へ転売しまくって儲けているタイプなのだろう。
「私、売られるなら、少しでも高く買ってもらいたい」
それは、明後日方向の前向きさではあるのだが。
「だから、その人とお会いしてみたくて」
「口ィ閉じた方がいいぞ」
言葉を遮り商人が苛立った言葉を吐き捨てる。『お嬢様』と呼ばれたオブリビオンが元締めだとは聞いていたが、人呼ばわりしたのがまずかった。
絲を見る目が氷点下へと落とされる。厄介な娘だと思われたか、男は未練も無く踵を返した。顔立ちの良い奴隷なぞ、そこらに掃いて捨てるほどいるのだ。『亜人の檻』に属する者なら、尚更。見つめられ、心揺れるほどの精神で生きてはいない。
拙い。絲が手を伸ばしてみるも、檻の中から触れられる訳もない。ガチャリと鎖の音が空しく鳴るだけだ。千切ってしまえる膂力はあるが、そんなことをしてしまえば囮にはなりえない。
「ねえ、お願い! だって私、気に入られたいの!」
縋る言葉を演じながら、紫の瞳はじいと男の背を見やる。好奇の視線が集まるが、そのどれもが蚊帳の外から虫けらを見下ろす嘲笑の意味を含んでいた。
男の背は、通路へ消えて見えなくなる。――ああ、失敗した。悟った絲は項垂れて、まだ時間はあると思い直し。
「おいらが買ってやろう」
「……え」
猿にも似た顔の男が、絲の顔を覗きこんでいるのに気が付いた。
「でもまあ、"お利口サン"にならんと話にならんのよ」
意味わかる? とでも言いたげな顔はにやにやと下卑た笑顔で塗れている。絲はその、"お利口サン"とやらが何を経た上で身に付けられるものなのか、とある単語を思い出して口を閉ざした。
そうか、『調教』だ。
「――分かったわ。だから、お願い。私に教えて」
交渉の余地はなさそうだ。しかし、これを逃してしまえば数多の視線に晒された絲にチャンスが来るとも思えない。この檻は今、『亜人の檻』のテリトリーだが、そこから運び出されないとも限らない。
買われた先で説得が成功するかは分からない。晒し者にすればいいと囁く形の良い唇が、次に吐くは果たして悲鳴か勝鬨か。
――女神は、絲には微笑まない。
この世界では、支配する側のみが、それを手に入れられるのだ。
苦戦
🔵🔴🔴
●
いつからそれはあったのだろう。
激痛と共に訪れたか、目が覚めたその日から変わったか、生誕と共に侵されたか。
人はそれを病と呼ぶが、治療法は闇の中。医者の手にも負えないものだ。
狼としての存在が身体をじわりと侵食する。空に浮かぶ月が丸くなる時分、人間性は殺された。
嗚呼、これを呪いと呼ばずしてなんと呼ぼう。命を蝕む病を、どうして喜劇と呼べようか。
孤独の闇で高々吼える、悲しき者。
――哀の感染者。人狼。
皆城・白露
…実験に使ったり、売り買いしたり。胸糞悪いのはあちこちにいるもんだな
(実験体だった頃を思い出せば、どんな扱いも耐えられる。
懐かしさすら感じるかもな。勿論腹は立つが)
(他の猟兵との連携・アドリブ歓迎です)
人身売買業者の前で「狼の耳と尻尾を慌てて隠そうとして見えてしまう」風を装い、囮として潜入
表向きはおとなしくしておいて、人身売買業者の会話を聞く、周囲の様子を窺う等で
内部構造・相手の人数・他に捕まっている奴隷の人数・他に猟兵がどれだけいるか、できる限りの【情報収集】を行う
拷問を受けたら【激痛耐性】で耐えるとしようか
…ああ、そいつらの顔もちゃんと覚えておく。まあ、仕返しは後で、な。
●22:00 屋敷地下某所
カビのにおい。塵の舞う澱んだ空気。
ああ、ああ、懐かしい。あの場所もこんな感じだった。
「……イ、……オイ! テメェ!」
ゴ、と鈍い音と共に皆城・白露(モノクローム・f00355)の身体が跳ねる。数瞬宙に浮いた体は容赦なく冷たい床に叩き付けられた。
ごほ、と白露の口から空気が漏れる。肺を叩き付けられ、ポンプの要領で吐き出された酸素が微かに積もった埃をふわりと飛ばした。
実験に使ったり、売買したり。汚れたダークセイヴァーでは当たり前に行われる日常の一端だった。胸糞悪い。そんなものがあちらこちらで、普通の顔して生きているんだからこの世の中狂ってる。
白露の選択肢は、囮だった。それらしい商人の前で一芸打ってやればあまりにも簡単に釣れたのだ。
きっとどこかから逃げ出した少年にでも見えたのだろう。きょろりきょろりと辺りを疑う様は、どう足掻いても同業者には見えない。
枷もなく、ツレもない。これほどの餌があるだろうか?
疑う気持ちはあっただろう。それ以上に、商人を突き動かした何かが存在した。それを白露は知ることになる。
「クソ、あのお嬢様に売れるもんがねえと、俺の首が飛んじまう……!」
どうやら『お嬢様』と呼ばれる存在は、優しさでも金でもなく、『恐怖』で商人達を侍らせているらしい。
「やだなあ、ああ、やだよ。あんな怪物に食われてたまるか……」
白露は痛みに蹲る振りをして、じっと耳を澄まし様子を窺う。余りにも大人しい白露の様子が気に食わないのだろう、やれ媚びてみろやら、やれ吠えてみろやら、ペットのふるまいを要求してくる。
手をあげれば、商品価値も落ちるというもの。しかし、それ以上に『人狼』という種に求めるのは愛玩性だ。従順に、犬のように従う様が求められる。
全く、と白露は細く短く息を吐く。生憎、こういった扱いに嘆く心はもう持ち合わせていない。
――ああ、それでも。
地に這いつくばったまま、白露は濁る灰色の瞳で男のツラをじとりと眺める。焦燥に駆られた男の額には脂汗がじんわりと滲み、口は半開きのまま何事かを譫言のように零しまくった。
憶えた。
だから、そう。――仕返しは、後でたっぷり。
「……んだテメェ! こっち見てんじゃねえぞ!」
短い、やれ、という単語。たったそれだけで、覆面をしたガタイの良い男が拳を振るう。白い肌が赤く染まり、じんわりと熱が白露を襲った。
このまま、喚いてくれたらよいのだが。そしてそのまま、『お嬢様』とやらの所へ運ぶと良い。
その時が来るまで白露はじっと耐え忍ぶ。まさか、過去の経験が、こんな形で役に立つ日が来るなんて。薄らと自嘲を含んだ笑みがこぼれた。
成功
🔵🔵🔴
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宿る魂は果たして何方と言えるのだろうか。
猛々しい咆哮と共に空を駆るその姿は、まさしく天空の覇者の名に相応しい。
器用に武器を、自らの一部を操り、地を駆ける姿もまた洗練された力の持ち主だ。
吾はドラゴンであり、吾は人間である。
誇り高き志をかいなに抱き、その一生を何れかの姿で過ごす。
進撃の牙は此処に在り。
――あめつちの王。ドラゴニアン。
セゲル・スヴェアボルグ
◎
POW
俺が囮になれば、その場で他の一般人が攫われるリスクは多少なりとも減り、時間稼ぎにもなる。ならば迷う必要などなかろう。とりあえず手近なやつをかばうとするか。後は適当に暴れて関係者をおびき寄せ、その場の流れに任せて捕まればいい。このなりだと拘束はきつそうだが……まぁいい。ついでに情報も聞き出せれば僥倖だな。
反抗的に見えると言われようが、気付いた時にはこの顔だ。抵抗する気はないが、無論、媚び諂うつもりも毛頭ない。
俺を御したいなら力を示せ。調教とやらが得意なのだろう?ならばその腕前を見せてもらおうか。だが、様々な耐性持ちの俺を屈服させるには、相応の覚悟が必要だぞ?
●22:20 屋敷近郊
セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)に迷いはなかった。
「お前さん、こいつに何しようってんだ?」
「……あァ? なんだァ、テメエ」
明らかにどこかから逃げてきたようなオラトリオの少女の腕を掴み、引き摺り歩く男がセゲルにガンつける。丁度いい商品が手に入ったのだから邪魔するなとでも言いたげだ。
男のツレがゾロゾロと陰から現れ、セゲルを包囲するように位置取る。成る程、この男が自由に動き回っていたのはこういうわけか。
だが、丁度いい。これぐらいの人数でなくば、このなりで捕まることに違和感が出る。
「手ェ離せ」
「いやだね」
「離せっつってんだよ!」
必要以上に声を荒げ、奴隷商人に掴んでかかる。先に少女の腕引く右手をドラゴニアンの膂力で握りやれば、短い悲鳴と共に少女は解放された。
「あ」
「早く行け。俺はなあ、こいつらが許せねぇんだ」
空いた片手は商人の胸ぐらを掴み、金色の瞳はちらりと一度だけ少女へ向けられた。多数の目を惹きつけている間、この少女が逃げられる可能性は高くなる。ならば、存分に暴れてやろう。
「ひっ、お、おいお前たち何をしてる! はやく捕らえろ!」
さっきまでの威勢はどこへやら。細身の男は唾を飛ばして指示をする。金さえ貰えれば何でもいい連中は、そこでようやく動き出した。
セゲルの瞳は誤魔化せない。セゲルへと向かう数人の陰で、少女の後を追う男が見えた。
商人の男を突き飛ばし、セゲルは少女の方へと身を投げる。
せめて、彼女が逃げるまでは時間稼ぎを。
セゲルがこの人数では拘束できないとなれば、より多くの人間を動員することができるだろう。
「そいつに手ぇ出すんじゃねえ!」
振り返った少女の瞳に映る青。狙う男どもを跳ね飛ばし、背に幼き天使を庇う。
このまま少女を狙っても邪魔が入るだけ。力を分散することは、愚者のすること。男の判断は早かった。
「捨ておけ、そいつを捕らえろ!幻想種はあんな女より高くつく!」
食い付いた。
暴れ過ぎず、しかし従順にはならず。少女を尾で押したセゲルは、増えたしもべたちへと立ち向かう。頃合いで、傅いてやろう。
「手間ァかけさせやがって……くそ……」
脂汗が伝う額。ストレスを感じて鳴る歯軋り。
セゲルは商人の男の前に膝をつき、両腕を背に回され跪く。演技のままに肩を上下させ、如何にもスタミナ切れと思わせた。
「くく、貴様の無礼、しっかり身体で払わさせてやるからな」
動きを封じたからか、商人はセゲルの顎に手を伸ばす。
――馬鹿な男だ。
ガチリ、牙を鳴らして手へと喰らい付こうともがけば、商人はまたも情けない悲鳴をあげた。
媚び諂う気は毛頭ない。ギラギラ輝く瞳と、その凶悪そうに見える容貌も相俟って、反抗的な印象を男に与えた。
「俺を御したいやら力を示せ。調教とやらが得意なのだろう?」
セゲルはくつりと喉で笑いやる。はなからこうなる未来を予測していたかのような言い回しに商人のこめかみがヒクつくが、今更後には引けない。
この男に残された商品は、目の前のセゲルだけなのだから。
「はは、笑えるねえ。良いだろう。……連れて行け」
昏い光が瞳に灯る。どうあがいても屈服させてやろうという魂胆がありありと見えた。
セゲルには、超えられる自信がある。さまざまな耐性を持ち、さまざまな戦場を生き抜いてきたこの身体。生半可では折れるはずもない。
さあ、巣の中へ持っていけ。中から食い尽くしてやろう。
「幻想種はな、――死んでも、高く売れるんだ」
ぽつり、セゲルの聞こえぬ所で男が嗤った。
成功
🔵🔵🔴
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あらゆる情報が猟兵達の中へと蓄積されていく。
共有する事は叶わずとも、それは確かに『お嬢様』の存在を浮き彫りにし始めていた。
まるで、噂の如く。存在しない存在を、この世に産み落とせる噂。
霞かかった世界の中で、その全容が少しずつ明らかになっていく。
シャルロット・クリスティア
【SSFM】
◇◎
囮として潜り込みます。
異種族と思わせるために、ユアさんの力を借りましょう。
背中に二筋の傷跡を付けてもらい、魔術で花などを授けてもらいます。
あぁ、ざっくり斬ってください。本物の傷の方が、信憑性は増すでしょうから。
この程度の痛みで入りやすくなるなら安いものです。
本当なら、花雫さんには無理してほしくないところなのですが…一人では限度がある以上、力を借りるしかないですね。
表向きは極力大人しく、従順に。
…後は耐えるだけ、です。
辛いですが…きっと、ここの皆は今までもっと辛い思いをしてきた筈なんです。
目を背けるわけにはいきません。
だから…逃げません。どれほど痛みと屈辱に塗れようとも、絶対に。
霄・花雫
【SSFM】
◇◎
囮になるよ。
ショーベタのフルクリアハーフムーンの耳鰭と尾鰭と、
ミノカサゴの背鰭を持ったキマイラ。
ぎゅっとシャルちゃんを抱き締めて頭を抱え込むようにするよ。
守ろうとしてるみたいに。翼を切られたなんてなったら当然だよね。
大丈夫、舞台の上なら演技くらい出来る【パフォーマンス、誘惑】
怖いけど、それすら買われて行く奴隷の不安に見せかける。
シャルちゃん、猟兵歴あたしより長いけど、あたしよりちっちゃいんだもん。
やっぱり、大事にしたいよね。
でも、あたしたちはみんなを助ける為に此処にいるんだもの。
そう簡単に折れるワケにいかないし、逃げたくない。
ユアさんも、身バレしないように気を付けてね。
ユア・アラマート
【SSFM】
◇◎
商人として潜入
シャルの背に羽の痕のような傷跡を着け、頭に鈴蘭の花を咲かせてやり亜人に見えるよう細工
フードで目元まで隠し、この場に慣れていそうな商人を見つけたら話しかけ、【誘惑】も交えて話を聞き出す
…用が済んだら早めに二人を回収したいが、今は我慢か
こんにちは、ああ、ここは初めてなんだ
お近づきの印に、この子達を譲りたいんだが…お代は安くて結構
金髪の方は暴れた時に羽を切ってしまったが、暫くすれば綺麗な羽が生えてくるよ
とはいえ体の育ちが悪いから、抱き合わせだ
ところで、ここのマスターはどんな人物なのか知りたいんだが、教えてもらってもいいかな
売り込むネタがなにか見つかるかもしれないだろう?
●22:00 屋敷近郊
「やあ、こんにちは」
「あら、何用かしら」
連れ込んだ『奴隷』を視界に収めながら、ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)は適当に見繕った商人へと声をかける。無論、自身もまた彼等の言う『亜人』なれば、フードを被り人間を装った。
声をかけた女は、いかにもな風をしている。いくつかケージを用意して、中にはとりどりの奴隷を収めていた。見れば、華奢なものばかりだ。綺麗所でも集めて持ってきたのだろう。
「あなた、同業ね」
「ああ、ここは初めてなんだ。音に聞く『ラ・カージュ』……私も来てみたくてね」
ちらりちらりと、女の視線は下へ向く。当然だ、檻に繋ぐでもなく少女二人を転がしているのだから。
ユアを見る瞳は懐疑的だ。あまり関わりたくない、と目と態度で示している。
そんな案の定の訴えに気付かぬユアでもない。
「そう睨まないでおくれ。大人しく持ち込めるのが"これ"でね」
ユアがこれと示した先、小さく縮こまるシャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)と、そんな少女を守るように霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)抱きしめるがいた。
シャルロットは人間だ。しかし、今は偽装してオラトリオを演じている。これも囮となるためと、ユアの手で背中にザクリと二筋の刀傷痕が刻まれた。
『本物の傷の方が、信憑性は増すでしょうから』とは、シャルロットの言だ。仲間がそうと決めたなら、ユアに躊躇う理由はない。
そうして出来た翼の痕跡と、魔術で咲かせた二色のジャスミン。金糸の髪に咲く小さな茉莉花は時折はらりと地に墜ちた。
表向きは大人しく、従順に。自らに付与した設定を忘れぬよう、念頭に置いて。
本当ならば、花雫の力を借りずに囮として乗り込みたいところではあったが、如何せん一人では限度がある。自らの力量は、理解していた。そして、ままならぬ種族という壁も。
件の花雫と言えば、シャルロットと違い何もせずとも囮の条件を満たしていた。キマイラだ。この界隈では、どうにも幻想種という扱いをされているらしい。
ショーベタのフルクリアハーフムーンの耳鰭と尾鰭。そこに、ミノカサゴの背鰭を携えた小さな熱帯魚。かつては鉢の中の虚弱な魚ではあったが、今は広く青い海の様な空を駆けまわる事も出来る。
ぎゅうっとシャルロットを抱え込んで、花雫はユアと女をにらみつける。事前の打ち合わせもあれば、花雫に隙はあまりない。こうした演技だってお手の物だ。
けれど、怖い。その気持ちに嘘はない。
それでも、これさえも、買われていく奴隷の不安に見えれば良い。
「ここのマスターはこういうのを好むと聞いたんだが、おまえ、他に何か知ってないかい?」
例えば、そう、どういった趣向があるのだとか。特に好んでいる種族はどんなものなのかとか。
「教えて、わたくしに何か得がありますの?」
「勿論。等価交換と言うだろう。この子達を譲りたいんだが……どうかな」
教えてくれるのなら、お代は易くて結構。そうでなくとも、予定よりも少し高めに売り捌く。
内部に入るには、やはり一見様は手厳しい。見るからに慣れた商人にすり寄り、媚びを売り、気に入られて確実に入る事が必要になる。
女は手近な警備へと檻の監視と予備のチェックを言いつけ、シャルロットと花雫に近付く。
「……っ、やだ」
小さく、怯えるように。翼を切られたというのなら、拒絶する心があってもおかしくはない。
言葉を聞いて、花雫はより強く抱きしめる。そういうシーンだから、という気持ちもあるけれど。やっぱり、大事にしたいから。
「ふうん。この子、翼は?」
「暴れた時に切ってしまったんだが、暫くすれば綺麗な羽が生えてくるよ」
商品価値として衰える事はないとユアは言い添える。むしろ、翼が生えてくる様を観察できる良い機会じゃあないか、なんて付け加えたら女は闇よりも昏い瞳をやや眇めた。
「二人?」
「ああ。体の育ちが悪いから、抱き合わせだ」
商人たるユアの口は回る回る。元より空鞠堂の店主たるユアには、あらゆるものを売る術は身についていた。ふわりと鼻腔を擽る、花の香。言の葉の端々に蠱惑的な誘いを乗せて、言葉を繰る。
「――良いでしょう。乗ってあげるわ、その話」
ユアが女と雑談に興じる間、シャルロットと花雫は屈強な礼服の男に連れられ、すとりと檻の中へと納まった。
後は、耐えるだけだ。
「……大丈夫、ですよね」
「うん」
外に並べられた檻とは別に、ゴロゴロとでこぼこの大地を踏んで二人の檻は運ばれていく。どうにも、『亜人の檻』は専用の出入り口が用意されているらしかった。人の気配がどんどん遠ざかる。
二人の間にそれ以上の会話はない。勘付かれても困るのだ。ひいては、ユアの身も危険に晒される。
ぎゅっとシャルロットを抱き寄せて、花雫は静かに目を閉じる。みんなを助ける為、ここまで来た。ここにいる。
そう簡単に折れるつもりも、逃げてやるつもりもない。絶対に、みんなを助けてここから出る。
その気持ちはシャルロットも同じだった。
怖い。辛い。けれど、この連鎖をいつまでも放置していたらダメだから。今までもっと辛い思いをしてきた人達がいるのなら、断ち切らなければならない。
目を背けては、繰り返す。失ってからじゃもう遅い。
逃げない。どれほど、痛みと屈辱に塗れようとも、絶対に。
檻はごとりと何かにはまり、動きを止めた。既に辺りは暗く、光の入らない世界に墜ちている。程なく、足元をひやりとした液体が触れて二人の肩が跳ねた。
水だ。体温よりも冷たい水は、二人の体温を奪っていく。
何が、待っているのだろう。何が、始まろうとしているのだろう。
暗がりでは、何もわからない。花雫の勘が、嫌に警告を鳴らして煩い。
「――生死は、あまり問わないって事?」
「そうよ。だって、売れるもの」
天使の羽は、高貴な飾りに。
天使の花は、数多の宝玉に。
類を見ない幻想種は、その亡骸自体に価値がある。
「彼女達が心配? 優しいのね、あなた」
蛇のような女が、初めて心底楽しそうに笑った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
●
冒険の果て、いつか見た背はとてもとても大きく見えた。
そのいのちは九つあるとも言われている。
還って巡って拾われたか、あるいは全く別のものかはわからない。
ぴんと立つ大きな耳。くるりと弧を描いた柔らかな尾。
人よりも小さなそれは、人と同じ言葉を話した。その背丈に、溢れんばかりの情を込めて。
同胞は今日もにゃあと鳴く。
――報徳の霊魂。ケットシー。
結城・蓮
……人間じゃない事に価値を見出されるのがこんなにも嫌なのは初めてだ。
こんな不条理は許されて良いはずがない。
……行こう。種族は違えど、ともがらを助けるために。
《幻想の跳躍》で屋根裏や天井裏に隠れて情報収集をしよう。
必要なら《幻影の姫君》で透明化も図る。
オブリビオンの居場所、種類、数。
奴隷達の閉じ込められている部屋、屋敷の見取り図、奴隷の数、種類。
売人と買い手の数、今日既に捌かれた数……何でも良い、調べる事が出来るだけ調べて持ち帰ろう。
もちろん、救出出来る奴隷がいるなら可能な限り助けよう。
だが、ここのオーナーが倒れるまでは籠の中の方が安全な可能性もある。
あらゆる可能性を考えながら動き続けよう。
●21:40 屋敷一階天井裏
眼下には、檻の中で項垂れる小さな猫が見えている。ダークセイヴァーには本来いないはずの種ではあるが、何かしらの要因によって飛ばされてしまったのだろう。そういう人は昔から度々存在するという。
見知らぬ土地に飛ばされて、見知らぬ人に拐かされて。不運という言葉一つで片付けるにはなんとも不憫すぎる。
ここで助けてやりたい、とは思う。
しかし、結城・蓮(チキチータ・マジシャン・REN・f10083)は冷静だった。
聞けば、客も商人も隙を見せれば狙われるという。ここで逃した所で、ケットシーのナリではすぐにまた目を付けられることだろう。
隙を見て奇襲をかければ解放は容易いが、今は檻の中の方が安全だろう。
人ではないことに価値を見出される世界。時には囃されることもあるが、今ほど不快な感情を持つこともない。
あまりにも不条理だ。こんなもの、許されて良いはずがない。
蓮の色違いの双眸は、多くの情報を集めるがため縦横に動く。種族は違えど、ともがらを助けるためならば何だって惜しまない。
天井裏は、それなりに広かった。暗視も可能なれば、暗がりでも動くに事足りる。あまりにも埃が無いものだから、眷属がいる懸念も念頭に置く。いざとなればイリュージョンでやり過ごそう。
一階はかなりの部屋数があった。そのどれもに檻が用意されており、数は種族ごとの部屋プラスごった煮の部屋が五つほど。数少ない種はそれだけ貴重なのか、客より看守の方が多かった。
オブリビオンの気配は時折感じられる。一般客に混じって、巡回しているらしい。本体というよりは、分体あるいは眷属といった雰囲気だ。
蓮は頭の中に屋敷の見取り図を展開する。記憶だけでは細部まで覚えることは不可能だが、必要な情報だけは数値としてわかっていればそれで良い。
「……全く、嫌になるね」
怯える猫が微かな音に反応してか、ぴくりと耳を持ち上げる。不安そうに辺りを見回す姿を下に見て、蓮は届かぬであろう言葉を渡す。
「絶対、助けに来るから」
その為にも、今は。すべきことをなす時だ。人の流れを把握して、蓮は地下へと降りていく。
大成功
🔵🔵🔵
●
それは、奇跡の結晶だと誰かが言った。
知性を有し、自立して動く、魔導蒸気文明が産み落とした稀有な存在。
手足が動く様は優雅で、作られた顔は人間と同じく複雑に感情を表現する。
宿る心すらも作り物ではあるが、人間との境目は曖昧だ。
で、あれば。人間とは? 人形とは?
その問いかけの答えを、それの前で出せる日が来るのだろうか。
今日も人形は嫋やかに笑う。
――夢のかけら。ミレナリィドール。
鹿忍・由紀
俺はあんまりダンピールらしい外見ってわけじゃないから情報を吐かせようかな。
囮になるのも、なんか面倒くさそうだし…。
まずは「情報収集」「聞き耳」で情報を持ってそうな関係者何人かに見当をつけ、一人になるように「おびき寄せる」。
一応ダンピールの端くれだし、見た目である程度釣れてくれないかな。
ダガーか鋼糸を使って「恐怖を与える」「殺気」「恫喝」で脅してみよう。
話を聞かせて。なんて、言いながら纏う雰囲気で威圧する。
一人ダメなら手加減した「気絶攻撃」で片付けて次に当たろう。数があればいつか当たるだろう。
他の猟兵がいれば情報共有しても良いよ。面倒なことは少ないほうが良い。
アドリブ、絡みはご自由に。
●21:20 屋敷近郊
ダンピールという種であれど、その中でも高低は存在する。より人間に近い者、よりヴァンパイアに近い者。鹿忍・由紀(余計者・f05760)は、どちらかと言えば自分は前者よりだと思う。
そうは言ってもダンピール。囮になれぬ訳ではないのだが、なにより、面倒くさいという感情が大きかった。
「ふうん……あんた、おにんぎょさんを売ってんの」
「ひっ」
ぱらり、ぱらり、恫喝して入手した商品一覧を青い瞳がなぞっていく。そこには美少年とでも言うべき貌がずらりと並び、最後の一枚は本物のドールの絵が描かれていた。特徴を並び立てるそこに、幻想種との文字がある。この世界にいない筈の種族を示す言葉か。
情報収集は割と簡単に遂行された。服装に目をつけ、人の塊に目をつけ、由紀は耳を澄まして会話を聞く。どうにも仲間内ではおしゃべりな女だったようで、ぽろぽろと参考になりそうな単語を落とした。
亜人。地下。一度登り、降りていく。鐘が鳴る。
もう少し細部を知る為にもわざわざその女の視界に入ってみれば、いとも簡単におびき寄せられた。
流石は『亜人の檻』の人間か。遠目でもダンピールだと検討でもついたのだろう。人間にしては整った容貌をしているのだから。
飛んで火に入る夏の虫、だったか。
目の前の女はくしゃくしゃに顔を歪め、優雅に振舞っていた頃の名残などどこにもない。ああ自分が愚かだっただなんて、反省でもしている頃か。
由紀の瞳が女へと移る。ただそれだけで、女は小さく悲鳴をあげた。
「話を聞かせて」
「も、もう話したじゃない? わたくしが知っているのはそれだけよ!」
どうにもこの女、半分客のつもりで来ているようで。
「わたくしたち商人は、お嬢様のお眼鏡に叶う商品を連れていくの。そうしたら席が確保できて……。本会場は分からないわ。それに、連れて行く場所は人によって違うのよ」
「あんたは、どこ?」
「わ、わたくしは……」
女が言葉に詰まり、視線を泳がせる。すかさず由紀がややに目を細めてみれば、蛇に睨まれた蛙のように固まった。
「お、思い出しましたわ! 一階の――」
「おつかれ」
由紀は踵を返す。もう絞り出せる情報もないなら次へ行こう。背後には気絶した女が転がっていた。
どうやら、監査部屋なる場所がいくつか存在するらしい。そこにいるのは『お嬢様』から直接指示を貰って動く、いわば執事の人間たち。商人から提示された商品をお嬢様の元へ運ぶ前の関所。
向かってみれば、まだなにかの情報を得られるかもしれない。
「早く、終わらせたいなあ……」
きょろりと辺りを見る視線は、仲間の猟兵を捉える。共有できる情報があるならしておくべきだろう。面倒ごとは少ない方が良い。
大成功
🔵🔵🔵
●
果たして吾は人間足り得るのだろうか。
機械の身体が唸りをあげる。奔った光が明滅する。
目を覚ましたあの日から、人の身は捨てられた。
どんなものにも耐えられる身体。イチとゼロからなる生物。
形だけはヒトを取るそれも、望めば崩れ去る事だろう。
疑問の答えは出ない。けれど、この心だけは嘘じゃない。
――メカニカルラバーズ。サイボーグ。
シキ・ジルモント
◎◇
人狼である事を利用し、囮として潜り込む
『聞き耳』を立てて『情報収集』し奴隷商人を特定
その視界に入って尾や耳を見せつつ、迷った風を装い人目の無い場所へ移動し『おびき寄せ』、食い付かせたい
後は『目立たない』よう大人しくして拷問を先送る
だが他の者が代わりに拷問を受けるなら見過ごせない
あえて自分が受けて他者への被害を防ぐ
拷問中は抵抗は最低限、『覚悟』を決めて耐える(『激痛耐性』)
ユーベルコードの効果も利用して危険を『見切り』怪しまれない程度の動きで衝撃を逃し少しでもダメージを抑える
亜人、か…気に入らないな
特定の種族というだけでこんな仕打ちが許されて良い訳が無い
元締め討伐の為、今は何があっても耐える
●22:30 屋敷地下某所
「あらぼうや、迷子?」
――なんて、蠱惑的に笑って声をかける女に良心などある筈もない。あるいは、場所が違う所であるならば、その可能性はあったのかもしれないが。
問いかけながらもその女は、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の進む先を連れ歩いた従者に塞がせ逃がさぬようにしていた。
迷い人。そして、ていのいい獲物。女に抱かせたイメージとしてはこんなものだろうか。
揺れる耳と尾は『亜人の檻』の所属商人にとっては丁度良い物だろう。女の視線が、値踏みするようにシキの身体を上を這った。
そうして、今。
シキは目立たぬよう、檻の端で出荷の時を待つ。調教を誰かが受けている気配も、そういったものが行われた形跡も、今の所は見当たらない。
当たり、だったのだろうか。
――それも間もなく裏切られる事となった。
「あなた、こっちにおいでなさいな。あなたよ、そう、――早くなさい!」
先ほどの女の声だ。謳うように伸びやかに紡がれた声は、語尾にゆくに連れて荒くなる。最後には苛立ちがありありと見えた。
シキの視線がそちらへ向く。何も行われなければ僥倖――だったのだが。そうもいかないようだ。
眼前には機械の腕を垂らした少女がいる。襤褸切れは囚われて長いのだろうか。ほとんど服としての機能はなく、シキの瞳がややに揺れて顔の位置で止まった。
ひたり、ひたり、はだしの少女が歩み出る。
――嗚呼、ばかだな。そのまま待つ事も出来るのに。
「待て」
「……あらあ? あなた、さっきのワンちゃんね?」
少女の間に入り、シキは女と向き合う。檻越しの女はクツクツと喉の奥で笑うだけ。
「うふ、うふふっ、そう、あなたが肩代わりするというの?」
いいわ、と。女は何かしら周りの男へと告げて準備を進めていく。用意されたペンチの先は赤黒い染みが出来ていた。
奥歯を噛み締める。想像できた最悪の自体だが、背に庇った少女が受けることになると思えばまだマシだ。
特定の種族と言うだけで、こんな仕打ちが許されていい訳が無い。
ああ、ああ、気に入らない。しかし、今ここで反抗して滅ぼした所で、根っこが残っている限りは繰り返されるのだろう。
だから、今は、耐えるだけ。
「あの」
「大丈夫だ、下がってろ」
ふ、と短く息を吐く。覚悟は、出来た。
狼の耳がピンと立つ。尾がぶわりとややに逆立って膨らんだ。内に宿る獣性が青い瞳を光らせる。
「さあ、楽しませて頂戴!」
興奮に頬を上気させた女の笑い声が木霊した。
苦戦
🔵🔴🔴
●
ひとり、それは可愛らしい少女である。
ひとり、それは猛々しい男である。
ひとり、それはそれはそれはそれそれはそれそそれそれは――
「こんにちは」
斯く言う吾は一体誰なのだろう。次の瞬間にはまた違う誰かがそこにいるのだ。
余りに人間らしい顔をするものだから、誰も気付いてはいない。
伸びる影は、果たしてヒトのかたちをしているか?
――万色万華鏡。多重人格者。
尾守・夜野
【SPD】
【ワンダレイ】で参加
須藤の商品…囮として動く。
耳、尾あるし行けるだろ
一番大人しい人格に変わる
調教受ける必要があるなら激痛耐性、受け身【庇う】を取りダメージは極力押さえ従順な奴隷のふりする。
武装やらは須藤に預ける。
商品に見える程度に薄汚れた感じに【変装】し、潜り込めたら相手を【騙し討ち】する為にも今は耐えるしかねぇな。
精神的にやばくなれば別の人格に変わりその時を待つ。
最悪、誰かの鮮血さえあれば暫くは持つだろ。
ネージュとはあまり関わらん。
というか、奴隷の間で仲が良いとか見せしめになる未来しか見えんし。
だが女としてヤバそうな事に巻き込まれそうならこっちに【誘きよせ、誘惑】し狙いを反らそうか
須藤・莉亜
【WIZ】
【ワンダレイ】の皆と参加
「仲間を売りに出すってすっごい悪いことしてる気分になるなぁ。」
上手いこと話しを聞ける自信がないからちょっとした仕込みをしよう。
僕は同業者役で接触。一応商人っぽい格好に変装しておく。
囮役の夜野は、預かった黒剣で彼を刺して彼の特異性をアピールして売り込む。
「ほら、刺してもだいじょーぶな丈夫な子だよ。」
ネージュは綺麗な踊り子エルフという触れ込みで売り込む。
「こちらは年中夢中で踊り続けられる子だよー。」
その後は情報収集に世間話でもしようかな。
夜野の影にはあらかじめ眷属の狼くんを潜ませとく。狼くんは夜野が中に入ってから、会場内の影へ移動し周囲を探索してもらう。
ネージュ・ローラン
【ワンダレイ】で参加。
【SPD】 ◎
人身売買……そのようなものが許されていいはずがありません。
服の中に仕込んだシークレットダガーをチェック。
万が一にもコレが見つかるわけにはいきませんので。
確認が済んだら囮役として莉亜さんについていきます。
オドオドした、戦う力のないただの踊り子を装いましょう。
潜入したら周囲の様子を探り、少しの情報でも見逃さない聞き逃さないよう【情報収集】します。
脱出する場合の経路も確認。
そして【だまし討ち】の機会を【見切ろう】としましょう。
●
「仲間を売りに出すって、すっごい悪いことしてる気分になるなぁ」
「はは、頼むよ。須藤次第だぜ?」
はたり、尾が揺れる。自らは囮となるというのに、何処か他人事の尾守・夜野(墓守・f05352)だ。武器やらなにやらはひとまず須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)に預けた。これで囮となった後、戦闘になった際に受け渡しして貰えるだろう。
一言二言ことばを交わし、夜野は静かに目を閉じる。またも揺れた尾は、今度はくるりと股の間に仕舞うように弧を描いた。
多重人格者たる夜野に宿る、一番大人しい人格。奴隷になると分かれば、眉根を下げて震えていた。
その隣でネージュ・ローラン(氷雪の綺羅星・f01285)は自らの装備の最終チェックをする。服の中に仕込んだシークレットダガーを入念にチェックして、容易く見つかる事のないように。
「ネージュも、いい?」
「はい。宜しくお願いします」
ふわりとヴェールを揺らし、莉亜の後ろへと回る。
今日は商人と奴隷二人だ。莉亜が捉えた奴隷を、檻の住人へと売り捌く。ついでにそこで情報でも引き出せるなら良いのだが。
あまり目立たぬように。選んだ商人は角に居座る仏頂面の大男。
「や、ちょっと僕の話聞いてくれる?」
「あ? ……売り込みか?」
「そう、そんなとこ」
商人っぽい恰好に変装した莉亜は疑われる事なく受け入れられる。背後に繋いだ二人の効果もあっただろう。
「ふーん……ちゃんと趣旨は分かってんじゃねーか」
そう、ここは『亜人の檻』。人間なんて連れて行った日には首が飛ぶ。
お嬢様は人間を可愛がってはいるものの、それだけだ。上手に『おつかい』も出来ない人間は、亜人同様家畜以下。餌になっちまう、とは商人の言だ。
何の餌か、とか。気になる事はあるけれど。今は先に、この二人を無事に囮として成立させることが優先だ。
「……で、そいつらはどういう種別なんだ?」
ほれ、芸でもしてみせろ。腕を組んで見下ろす男の前で、莉亜はまず夜野の鎖を引いた。心の中でごめんと謝り、少し手荒に引き寄せる。その方が彼の身に迫る危機を振り払えるのだから仕方がない。
夜野はおどおどとしたまま、何やら芸を披露する気配はない。ネージュとはアピールする面が違うのだから当たり前だ。
莉亜がすらりと黒剣を鞘から抜き去る。
「ほら、刺してもだいじょーぶな丈夫な子だよ」
そう言って夜野の剣を構える莉亜。それを止める事も無く、男は仏頂面で構えている。どうやら留まる理由は出来なさそうだ。
ざくりと肌を抉る剣。落ちた血は床を汚した。夜野は震える身体を抱くようにして喘ぐように息をする。ああ、痛いな、くそ、なんて思うが口にはしない。くるりと怯えを示してより尾が丸まった。
莉亜がちらりと男を見る。それで、そっちは、と窺う視線とぶつかって次はネージュの鎖を引いた。
「こちらは年中夢中で踊り続けられる子だよー」
と、言うものの。ネージュはオドオドと視線を泳がせるばかりで踊る気配がない。
「おい、あんた」
「は、はい……」
ねめつける視線が、蔑むものへ変わっていく。空気の読めない女だな、とでも言いたげだ。
莉亜の言葉、そして男の求めるものが何かを察し、ネージュはその場でとんと跳ねる。鎖がじゃらりと音を立て、その足を重たくさせるが関係ない。
人間ではないこと。それだけでは、きっと足りないから。ネージュは踊る、踊る。こんな媚びるような踊りは好ましくないが、今は耐え忍ぶ時だ。
「ふうん」
男の視線はネージュを舐めるように這う。舞う長髪の煌き、珠の如き滑らかな肌や空を閉じ込めたような瞳。ひとつひとつを値踏みして、ひとつ小さく頷いた。
「買おう」
「じゃあ」
「でもな、そっちの男にははした金しかやれねえな。なんせ"傷物"なんでな」
にやにやと下卑た笑みを浮かべる男の視線は、莉亜が夜野に付けた傷へ向けられた。伝う血は収まっているものの、床には血の跡がぽつりぽつりと残っている。
ぐ、とのどに詰まる。軽率だった。――でも、買わないと言わないのであれば、まだ。
「わかった」
莉亜が鎖の先を男に差し出す。代わりに出されたしわくちゃの紙幣を受け取る。交渉成立だ。
粗雑にぐいと引っ張った男は、従者の男にその鎖を引き渡す。どこかへと連れ去られていく夜野とネージュの後ろ姿を、莉亜はただ見ているしか出来なかった。
ひたりひたりと不気味な程に静かな通路を進んでいく。途中、目隠しをされればここがどこかなど二人には検討もつかなかった。
ああ、これはまずいかな。夜野の第六感がコーションを鳴らした。
瞬間、背中に衝撃。唐突なダメージに耐えられる筈もなく、夜野は冷たい床の上を転がった。押された肺から空気が押し出され盛大に咽る。
「商品にするよう、仰せつかってる」
それは、あまりに機械的で無感情な声。
「お利口になるんだ、ここで」
はらりと解けた二人の目隠し。膝をついたネージュは真っ先に眼前のものを視界に収めてひゅっと息を詰まらせた。
鉄の処女。アイアンメイデン。部屋の中央で、まるで教会の神像のように夜野とネージュを見下ろしている。
無視できないほどの血のにおいが籠っている。他に商品とするべく連れて来られた人間がちらほらと見えた。皆一様に苦しそうな表情をしている。
怯えたふりをして、ネージュの視線は彼方此方。まずは連れて来られた方をちらりと一瞥。暗がりではよく見えない。確認できる入り口は今の所、入ってきた場所くらいか。
「ここ、は……」
ネージュは連れて来た男を見上げ、儚く息を吐いて情報を引き出すべく言葉を零す。男の双眸はネージュを見やるが、それだけ。返ってくる言葉はなかった。
不意にネージュに手が伸びる。一人だけ華やかな衣装をまとうネージュの服を剥ぐべく、ぐしゃりとヴェールが握られた。
このまま剥がれては、困る。一糸纏わぬ姿になる事もそうだが、ダガーが剥奪されてはだまし討ちも叶わない。
ち、と小さく舌打ちが聞こえた。夜野だ。
「それ、踊り子ってやつなんだろ。服も含めて価値なんじゃねーの」
「……」
ぎょろりと男の瞳が動いた。刹那、夜野の頬を短鞭が打つ。またも地面に身体を打てば、鈍痛がじわりじわりと身体を侵食した。
口答えしたのはまずかったか。しかし、注目を集めた夜野に意識がそれ、ネージュはフリーになる。
「だからこそ、だ」
無口な男が光宿さぬ昏い瞳で見下ろした。
「血で濡れたら、売れんだろうが」
――ああ、最悪だ。
「ねえ、どこに連れてったの?」
それは、単なる興味に聞こえるように何気なく。
夜野の影に潜りこませた狼はうろうろと地下を蠢いた。指定した対象がいないのなら、あまり効果は見込めないか。ないよりはマシ、程度だろう。
「なに、お嬢様に粗相のないようにな。俺のテリトリーだよ」
あんたも、常連になれば貰えるかもな。
気を良くした男はガハハと楽し気に笑った。開幕を告げる鐘は、まだ遠い。
苦戦
🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
●
吾は人類の味方である。
吾はアンディファインド・クリーチャーである。
人でなくとも言葉は通ず。人でなくとも心は通ず。
例え人の形をしていなくとも、我々は同胞である。
さあ、銃を手にとろう。迎え撃つは死霊である。
さあ、盾を手にとろう。護るべきは人々である。
狼煙をあげる者。定義されぬ者。
――叛逆の地縛霊。シャーマンズゴースト。
アリーシャ・マクファーソン
◇◎
人が人を狩って、買って、飼う……反吐が出るわね。
そんな催しに人が集まるなんて、ヴァンパイアだけじゃなくて商人たち含め氷漬けにして粉々に砕いてやりたいわ。
ヴァンパイアの喉元に食らいつくチャンス、逃すわけにはいかないわ。
危険は承知、【囮】として乗り込むとしましょう。
魔獣に襲われて、命からがら人のいる場所まで逃げてきた令嬢でも演じましょうか。
服を泥で汚して、裸足で商人たちのところに駆け込んでこう言いましょう
「あぁ、どうか食料を分けていただけませんか。返せるものがありませんが、私が出来ることなら何でもやりますから……っ」
とね。
私はダンピール……簡単に食いつくでしょうよ
●22:50 屋敷近郊
人が人を狩って、買って、飼う。
あまりに下劣で、あまりに俗悪だ。
そして、そんな催しが平気な顔で開かれ、多くが集まり、平和に幕を閉じていたという事実に反吐が出る。アリーシャ・マクファーソン(氷血の小悪魔・f14777)はその全てを粉々に砕いてやりたいと冷たい瞳の奥に熱を宿した。
アリーシャはヴァンパイアを追いかける者である。常ならばそれ以外に興味など揺れないが、卑劣な行為を行う商人達も氷漬けにしてやりたい心でいっぱいだった。
全ては、根源であるヴァンパイアを討伐すれば済む話。彼の喉元に食らいつくこのチャンスとみすみす逃してやる理由はない。
危険は承知の上で、アリーシャの選んだものは囮になることだった。ダンピールたる身は、確かにそれに向いている。
薄青のドレスは今、泥ではしたなく汚れていた。実際に転んでみたり駆けてみたり、チャンスをものにするためには役作りを惜しまない。靴も脱ぎ捨てた。
さて、丁度良い獲物はいるだろうか。屋敷を囲う塀を伝い、陰に隠れながら様子を見る。魔獣に襲われて命からがら逃げてきたていを装うなら、外に近い方が良い。
幾許か待ち、眼前にがらがらと馬が荷台を引いて入ってくる。馬に鞭をいれる男は随分と恰幅が良く人当たりの良さそうな顔をしていた。
そうであっても当たり前のようにこの敷地に入ってくるのだから、彼もまた奴隷商人なのだろう。どこかで人の良い面でもして攫ってくるのだろうか。
下劣な、と思う。しかし、ここで手出ししてはヴァンパイアに異変が起きていると気付かせる切欠になる可能性が高い。
と、と泥を踏んで歩み出す。その歩みは段々と早足になり、駆け足になり、――荷台から降りた商人の前に転がり込む。
「あぁ、良かった。そこなお人、魔獣に襲われ逃げて来たのです……! どうか、食料を分けていただけませんか」
「おやおや、大変だったなあお嬢さん」
帽子を脱ぎアリーシャを見つめる愛嬌のあるまあるい瞳。何も知らなければ、きっと何の変哲もないおじさんに見えたのだろう。その瞳に込められた昏い色に、アリーシャはすぐに気が付いた。
「返せるものがありませんが、私が出来ることなら何でもやりますから……っ」
「うーむ、私も逼迫しておってねえ。そう言うなら、ついてきてもらえるかな?」
「はい、勿論……」
値踏みする視線がアリーシャの頭のてっぺんから爪先まで往復する。
おいでと差し出す手にそうっと手を乗せれば、華奢な掌が潰れてしまう程の力で握られた。
成功
🔵🔵🔴
●
開いた掌は哺乳類。踏み出した足は爬虫類。
揺れる尾は魚類。伸ばした翼は鳥類。
混ぜて捏ねてひとつにして、生まれた吾はぱちりと瞳を覗かせる。
人類が滅びた世界で、伸び伸びと生活する奇怪な者達。
日々笑い、日々泣き、日々眠る。吾はユートピアの住人である。
さあ、今日は何をしよう?
――楽園の黎首。キマイラ。
静海・終
本当に不愉快極まりない場所でございますね
しかし悪とはこうでなければ壊す事に
心の底から躊躇いの欠片も出てこない
さあ、悲劇を殺して壊しましょう
囮として侵入を
多少なりとも痛みには耐えましょう
魚類のキマイラ故、解かりやすい青いヒレの耳でも揺らし
疲れたふりをして立ったまま目を閉じ何処かにもたれておく
侵入できれば
あんな場所で隙を見せて自分が悪いのだと
諦めきった様に大人しく
死にたくないのでどうすれば気に入られるかなどでどの様な相手か聞きだす
逃げたらどうなってしまうかなどで多少の場所と脅威をしれれば僥倖
同じ場所にいる者がいれば共有を
本格的な脱出、抵抗が必要な場合に備え周囲や囚われる場所の厳重な部分を探しておく
ショコラ・リング
囮として参加 ◇◎
ボクは尻尾とお耳をアピールすれば良いでしょうか
装飾などは外しぼろ布を纏い身体を少し汚しておき、ここに来れば食べ物を貰えると聞きましたなどと商人達に売込みます
内部に入れたら、言う事を聞くから痛くしないでと怯えながら従順な振りをし、相手の望む姿を探り気に入られる努力をします
その間に第六感を利用しつつ、敵の数や強さ、重要な施設等の間取りなど可能な範囲で調べられそうなものは調べておきますね
ただ自分が拷問を回避する事で矛先が一般人に向くならば、逃亡の素振りなどをして此方に気を引き付けます
この身は人々を守る為
戦場に立つと決めたその日から傷付くのは覚悟の上ですし、人々の命には代えられません
●23:20 屋敷地下某所
嗚呼、本当に不愉快極まりない場所だ。
しかし悪とはこうでなければ。
コツコツと鳴る音に導かれ、腐ったにおいが満ちる空間を歩いていく。静海・終(剥れた鱗・f00289)の視界は既に塞がれ、何処へ向かっているのかは把握しきれなかった。
ただ、登って、降りている。それだけ分かる。
魚類のキマイラ故に、終はふらりと青いヒレの耳を揺らしていれば直ぐにでも視線を感じた。演技とも思える欠伸をひとつ。そうして疲れたように屋敷の壁に凭れ掛かる。勿論、人目のつかぬ所で。
尾行されていなければ安全な場所なのだろう。しかし、人間ではないと明らかにアピールしながら移動したものだから、犬は目を爛々と輝かせて獲物を狙っていた。
食らいつけば大人しく。あんな場所で隙を見せた自分が悪いのだと諦めて、商人の後に続いた。手間のかからない奴隷は良い。商人の鼻歌が耳に届いた。
それから幾許経っただろう。悲劇を殺して壊すその時に向かって、刻々と時間は進んでいる。
「今日は随分と豊漁だな。どっか余所から流れて来てんのか?」
「さてなあ。俺たちゃ売れりゃそれでいいよ」
雑談と共に、終の腕を引っ張る男。目隠しされていればタイミングなど分からない。その力に引かれるままに身を投げられて、肩をごつりと床で擦る。
身を捩れば、何かが背中に当たった。
――時間は少し戻る。
音に反応してぴこりと跳ねた耳。揺れた尾は狸にも似てしましまを描いている。
来た。接触の易い、塀の切れ目でショコラ・リング(キマイラのアーチャー・f00670)は荷馬車を待っていた。
装飾は来る前に外してある。貧しい子に見えるなら余計に釣りやすいだろうと、身体に巻き付けるのはぼろい布。体も合わせて汚しておけば完璧だ。
と、と、とショコラの足が荷馬車へ近づく。それに気付いた荷馬車の主たちの視線が一様にショコラの耳や角、尾へと滑り落ちた。
「あー……きみ、それ以上近付かないで」
「あ、ごめんなさい」
ぴたりと止まり、従順にお辞儀する。それから一歩だけ近付いて、ショコラはすうと息を吸った。聞こえるように、少しだけ大きな声を出す。
「あの、ここに来れば食べ物をもらえると聞きました」
「……ふうん?」
おろおろと視線を惑わせて、もう一度ぺこりとお辞儀する。
「えと、ボク、お腹が空いていて……」
だから、食べ物が欲しい、と。荷馬車を止め、降りた商人がひとりショコラに近付いてくる。見下ろす瞳は物品を吟味する人間のそれと変わらない。
「ぼく、タダじゃあげられないんだ。ついてきてくれるかな?」
「はい」
ここは、従順に。内部に入ってしまえば得られる情報も増える筈。手を引かれ、荷馬車に積まれればことこと揺られる。
その数秒後、強い衝撃と共に視界が暗転した。
終が身体を起こして腰を捻る。後ろには、終とぶつかったのであろうショコラの姿があった。
二人は同じ檻に収まる。奇しくも両者、キマイラであった。
ぱち、と目が合えばお互いに猟兵であることはすぐに理解した。一瞬宿る理知的な光を、すぐに瞳の奥に隠して演技に入る。
「ああ、どうか、痛くしないでくださいまし」
あまりにしおらしい言葉が終の口から出る。乞う様は何度見ても面白いのか、看守たちはにやにやと蔑んだ視線をぶつけるばかりだ。
ショコラも似たような路線で考えていたらしい。終が命乞いにも似た言葉をつらつらと並べ立てる横で、頭を抱えて震える振りをしながら素早く視線を巡らせた。
「来るまでに、登りました。特殊な構造なのかもしれません」
「――ええ、ええ。でしたら、私は言葉の通りに……」
言葉の端々をショコラに向けて。悟られぬよう互いに得た情報を混ぜ込んでいく。ぽそぽそと呟くショコラの言葉は終の声に消されて男どもの所へは届かない。
調子に載せられた看守たちはぺらぺらとある事ない事述べていく。後者に至ってはジョークだと気付いた仲間がゲラゲラと下品に笑うものだから、終とショコラにとっては判断がしやすく助かるものだった。
さて、一通り会話を終え、終はすとりと力なく項垂れる。ああもう逃げられないのだと、身体で表現する。ショコラもまたそれに寄り添う。
――の、だが。
「こんな、こんなとこにいられないわ!」
発狂したかのような声が暗がりからあがった。檻にはまだだれかいたようだ。それも、一般人か。
がしゃりと鉄格子に拳を叩き付ければ、喚く女が何度も何度もそれを繰り返す。時にあげる悲鳴は聞くに堪えないものだった。
「お姉さん、落ち着いて――」
「おい、それ連れていけ」
ショコラの静止の声に被せるように、男が冷たく女を見る。くいと顎先で示された女の傍に、歩み寄るは筋骨隆々の巨体。
あ、これは、と二人は同時に悟った。
余計な事をと思うのは後回しだ。逃げたらどうなるかなど、先ほど聞き出して知っている。待っているのは拷問だけ。
それでもショコラの身体は勝手に動いた。この身は人々を護るため。戦場に立つと決めたその日から、あらゆるものは覚悟の上だ。人々の命には代えられない。
幸いにも情報は共有済みだ。細められた終の視線の先で、ショコラは静かに微笑んだ。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
●
動き回る液晶画面は砂嵐の末に顔を映し出した。
まんまるをふたつに、弧を描いた一本の線。
ジ、ジ、と雑音を鳴らすが、続く言葉のなんと流暢なことか。
まるでテレビの画面の奥で人間が喋っているかのような感覚だ。
時にそれは景色を映し、時にそれは語る人々を映した。
文明が滅んだ果て、宿った電磁の魂。
――アキュムレーションレポート。テレビウム。
ロルフ・ロートケプヒェン
◎◇
……人を捕まえて、売り飛ばす。
ああ、胸糞悪ぃ
一刻も早く、情報をぶっこ抜いて、問題の相手の喉元を食いちぎってやりてぇぜ
だが、焦りは禁物だ
まずは『コミュ力、動物と話す、野生の勘』を利用して奴隷商の居場所を特定
対象を見つけたら、とっ捕まえて情報を吐かせてやろう
尋問に応じなければ、拷問……『傷口をえぐる、恐怖を与える、情報収集』……普通の人間だったら、そのうち心が折れるだろう
「それか、おれかおれの仲間がてめぇを捕まえて『商品』ですー、つって持ってっても良いんだからな?まあ、アンタみたいのは売れなさそうだし……『要らない』って言われたヤツがどんな風になるか……アンタだって想像したくねぇよなぁ?」
●22:40 屋敷一階通路
人を捕まえて、売り飛ばす。ああ、胸糞悪ぃ。
逸る足に苛立ちを乗せて、ロルフ・ロートケプヒェン(赤ずきんクン・f08008)は屋敷の中を探って回る。商人自体はそこらに見受けられるが、『亜人の檻』の管轄外の人間もいることは漏れ聞こえる会話から聞き取れた。
一刻も早く突き止めて、本命の居場所を聞き出し喉元を食いちぎる。全ての元凶を食い殺してしまえば、こんな馬鹿げた催しも行われなくなっていくはず。
だからと言って焦りは禁物だ。
ロルフは一度立ち止まり、 深呼吸を繰り返す。挙動不審だろうが関係ない。目立って接触してくるなら僥倖というものだ。今のところ、そんな気配はどこにもないが。
「あら、今日もまた素晴らしい品揃えですわ」
「ええ、檻の名に恥じぬラインナップを取り揃えておりますから」
会話が漏れ聞こえてくる。
奴隷の話で盛り上がる井戸端会議など聞いていたくもないが、今は耐え忍ぶ時だ。それに、会話の端々に『亜人の檻』に関する情報が紛れ込んでいるのだから仕方がない。
それでは、と立ち去る紳士の男の背を見やり、ロルフはつま先を男の進行方向に向けた。
人混みから遠ざかっていくその後ろ姿を追い、角を曲がった瞬間にロルフは駆けた。姿を再度確認した刹那、ロルフの腕が男へと伸びる。
「まだ喋る気になんねえの?」
はあ、とあからさまに溜息をついてロルフは爪先をカチカチと鳴らす。捕らえた男はあれからずっとダンマリだ。ご立派な忠誠心だこと。
さて、どうするか。人狼の爪はいつだって凶器になり得る。人間と、違って。じくりとわき腹につけた傷を抉りながら、ロルフは冷たい眼差しで男を睨みつけた。
「おれかおれの仲間がてめぇを捕まえて『商品』ですー、つって持ってっても良いんだからな?」
「え」
「まあ、アンタみたいのは売れなさそうだし……『要らない』って言われたヤツがどんな風になるか。アンタだって想像したくねぇよなぁ?」
「わ、わかった! 言う! それだけはやめてくれ!」
お嬢様に従順な態度は一変、叫ぶ言葉は悲鳴に変わる。お嬢様とやらの人間に対する所業をどれほど恐れているかがありありと見えた。
男は知っているのだ。目の前で首を刎ねられた人間が、怪物に食われその一部となるを過去に見ていたのだから。
解放されたダムのように、男は唾を飛ばして知っていることを吐き続ける。会場へ至る扉は、十二時の鐘が鳴ってからでないと開かれないこと。通路は一度登ってから降りる専用の道があること。商人は貢物を用意していくこと。
濁流の如き言葉を吐き終え、満足げに頷くロルフの前で男はぐったりと項垂れた。
大成功
🔵🔵🔵
●
大いなる海よ、電子の海よ。
それはいつから生み出されたか、もう誰も覚えていない。
けれど、吾はいつしかそこにいた。明日には消えるかもしれない体と共に。
体は人を真似っこして。心は人を真似っこして。
電子の海という世界で生きる、吾は新しき人類である。
――ヒューマノイドエレクトロン。バーチャルキャラクター。
ユハナ・ハルヴァリ
◎
SPD
交渉は、うまくないので
手っ取り早いのは、囮ですね
隙。
僕はぼーっとしている、らしいですから
いつも通りに、していましょう
見かけも幼く、見えますし、隙はあるのでしょう
服装とかは…周りを見て、それっぽく
襤褸を着ていた方がよければ、服を破くなどして
拷問。痛いこと、ですか
痛くないと思いこむのは、得意です
声にも表情にも、出ませんが
出ていた方が喜びますか?
相手の様子を見ながら、このあとのことを、考えます
ああでも、そうですね
喉は。
歌さえ歌えれば、生きている人さえ、いれば
治癒して逃すことが、できます
喉を壊されるのは、いやだなぁ
内部の様子、味方と奴隷の位置、敵の数と情報
できうる限り集めます。
対話でも、何でも
●
ばち、と撓った手のひらがユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)の頰を叩く。
「もう少し、可愛げがないとつまらんな」
両手を後ろに繋げたまま、商人の男は心底ガッカリしたとでも言うように大仰な溜息をついてみせた。
交渉――などと言うのは、ユハナにとって難しいことである。清々しいと言える物言いは、こういった場では逆撫でしやすい。下手に嗅ぎまわった末には入れませんでした、なんて事になっては始末に負えない。
ならば、選ぶのはただひとつ。囮だ。
特段意識するまでもなく、ユハナはただ会場の片隅に立っていた。普段からぼーっとしているのだと言う仲間の言の通り、どうやらそう見えたらしい。
見た目も幼い。格好の餌、と言うわけだ。程なく、ユハナは男に声をかけられあれよあれよと言う間に手中に収まった。
「躾けといて」
「は」
短いやり取りでユハナの意識は現実へと戻される。身体の節々が痛むが、――痛くない。そうと思い込むのは、得意だった。
声にも表情にも出ないのは、どうやらウケが悪いらしい。
「出ていた方が喜びますか?」
なんて、愚直な質問をすれば答えは苛ついた暴力で返ってきた。
「痛む心もないんなら、壊していいぞ。必要ないだろう」
「叫ぶ声もないんなら、潰していいぞ。必要ないだろう」
あ、と小さく声が出る。
ここへ至るまでの道のり、かかった時間、男に齎される数々の奴隷報告、あらゆる情報を頭の中に蓄積させていったところで、そんな声を聞いて思考が止まった。
初めて、ユハナの瞳が揺れた。
「……へえ」
それに気付いた、男が嗤った。
「――撤回だ。潰せ」
指示を受けた従者の手のひらが喉を掴んだ。ぐ、と力が込められる。
ああ、いやだなあ。
漠然とそんなことを思うユハナに、慈悲の神は微笑まない。空気が滞り苦しくなる。
酸素を求めて喘ぐ体を弄ぶように、一閃、刃が煌めいた。
苦戦
🔵🔴🔴
●
助けてヒーロー!
その言葉を幾度と聞き、いつしか魂が宿ったか。
意志を持ち、言葉を交わす。まるで人のように生きる、吾は仮面。
ひとたびこの身を預けたならば、意のままに正義を貫くヒーローとなる。
正義の反対は別の正義であるように、時には名に相応しくない事もあるだろう。
それでも、吾はヒーローたる心と共に。
――ノビリティオブハート。ヒーローマスク。
リル・ルリ
■アドリブ、絡み等歓迎
「見世物、商品
懐かしい響き――僕はそうだった
けどここより待遇はよかったかな」
怖くないといえば嘘
僕に彼等を助ける手助けができるなら
尾鰭をゆらり翻し
囮として檻の中へ
「大人しくしてるから
痛くしないで。優しくして」
懇願はダメ元なパフォーマンス
傷つけば商品価値が下がるだろ
歌唱を活かして歌う「魅惑の歌」
甘く蕩けて心を奪って魅惑して少しの時間稼ぎ
囚われの皆を励まして敵についての情報を探る
怪我をしていれば「癒しの歌」を
歌に酔いしれて
悪夢の中でも癒されてと凛と微笑む
僕は君達を助けたい
水槽から僕が抜け出れたように
こんな時
櫻の君を思い
痛みも恐怖も和らげて心励まされる
そんな僕自身が少し
腹立たしい
●
見世物、商品。嗚呼、なんて懐かしい響き。
かつて、僕はそうだった。
「けど、ここより待遇はよかったかな」
ぽつりと溢れたリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)の声は、看守に届くことはない。
この選択を聞いた時、これしかないとリルには確信があった。けれど、怖いという感情は内にこもる。ゆうらり笑んで怖くないと嘯くには少々震えが止まらない。
ただ、リルは救うため。僕に囚われた人々を助ける手助けができるのならと、鋼鉄の檻に身を投げ込んだ。
「大人しくしてるから痛くしないで」
運ばれる道すがら、まるでややこが泣くようにリルが囀れば嘲笑にも似た声が返った。
「いいこにするから、優しくして」
震える声で懇願すれば、気を良くしたのか乱暴に扱われることはなかった。
ダメ元のパフォーマンスも、その嫋やかな所作が付随すれば中々効果もあるものだ。
傷つけば商品価値が下がるだろ、と開き直りにも近い推測の元、積極的に縋ったのは正解だったか。
檻には、ほかに幾人かの姿が見える。ごった煮状態の中は人狼から天使様まで様々だ。皆沈んだ顔をしており、中には酷い怪我を負って臥している者もいた。
ぐ、と喉が詰まる。迷い、惑い、これも自らに課せられた使命なのだとリルはめいっぱい息を吸う。
奏でる音は魅惑の響き。甘くとろけるようなひととき歌は運ぶ。うろうろと落ち着きなく見回りをしていた看守も今ひととき足を止め、リルの歌に耳を傾けた。
そこから旋律は転調し、色を変える。誘惑が切れる前に、傷ついた者たちに癒しを届かせた。
「悪夢も、もう少しで終わるから」
歌と歌の合間に挟んだ、ミュージカルのような語り口調。凛と微笑むその姿に、人々は惚けたままに夢中になる。
歌う、歌う。
玻璃の外、溺れた人魚はひとたび水を得て音を奏でる。助けたいと願う心が駆り立てる。
こんな狭い檻の中で、終わる一生はあってはならない。来たる未来、永遠と続く責め苦の中で、終わる一生はあってはならない。
僕が水槽から抜け出せたように、彼らにも不可能なんてないはずだから。
――こんな時。
櫻の君を思い出して、痛みも恐怖も隅に追いやり励まされる。心を占める淡い色。
ありがとう。けれど、そんな僕自身が少し腹立たしい。
大成功
🔵🔵🔵
●
輝く黒曜石は太陽の光をも吸収して煌いた。
華奢な体に秘めたる力は底なしだ。内なる魂は熱く猛々しく燃えている。
踏み慣れた山道を超え、雲海をも超え目指す境地。
戦いこそが我が生き様。いざいざ吼えよ、同胞よ!
枷は只、己に在り。尽きぬ果ての修練者。
――剛毅果断。羅刹。
雪月花・深雨
人が人を物のように扱う。ひどく悲しい事ですが、それもまた人の営みなのでしょうか。
わたしもまた、狩りの標的になり得るので、対岸の火事ではありませんね…。こわい…。
恐喝で情報を引き出したいと思います。
一先ずお屋敷の中を一通り見回って、人気のない場所を探します。
その後は、出来ればお一人で来訪されている方をそこに誘い、足を斧で攻撃して、体制を崩したところを踏みつけて口を塞ぎつつ動きを抑えます。
わたし自身羅刹であるので、『幼い妹を取引するために仲介を依頼する』、という口実で誘い込めるでしょうか。
首尾よく拘束できたなら、負傷されている箇所を痛めつけて『亜人の檻』の会場について聞き取ります。
●21:40 屋敷近郊
人が人を物のように扱う。
それは何も、ダークセイヴァーに限らない話だ。歴史というものはどの世界にも存在し、その中の一部に綴られる物語であることが多い。ダークセイヴァーは、今なお続いている、エンディングのない劇中にあるというだけで。
悲しい出来事だ、と雪月花・深雨(夕雨に竦む・f01883)は思う。自らもまた狩られるものであり、目的は異なるが過去に搾取された側であった。
だが、心のどこかで、これもまた人が犯す営みのひとつなのだと諦念にも近い気持ちを抱いていた。
対岸の火事ならば、どれほど良かっただろうか。ただ立ち向かうだけで良かったのだ。この手が今ほど震えることも、進む足がこれほどすくむこともなかった。
こわい。
喘ぐように呼吸を繰り返し、晒される視線の中進んでいく。遠慮容赦のない人間たちの値踏みする視線は深雨の心を深く抉った。何度も逃げ出したい欲求に駆られては、首を振って前を向く。
幸いにも、強引に連れ去ろうだなんて企てる輩はいなかった。爪牙の呪のお陰だろうか。
見て回った末に見つけた場所。ここなら――、
「ダメだよお嬢さん、一人でこんなところに来ては」
「……っ!」
刹那、深雨の上に落ちる影。髪を振り乱し振り返れば大男が弧を描いた瞳で見下ろしていた。
相手は、――一人か。どこかに仲間がいる可能性はあるが、まだ想定内。バクバクと鳴る心臓は突然の出来事に煩いままだが、やれる。やらなきゃ。やるの、わたし……!
目をぎゅっとと閉じ、手を振るう。いつからそこにあったか、呪いは深雨の心に呼応して気付けば黒曜石の斧の形となっていた。
衝撃。反動。肉を断つ、気持ち悪い感触。
「な、どこから……テメエ!」
怒号が聞こえ息を飲む。しかし声は段々と高さを失い、倒れこむ音に掻き消された。止まるな。止まっちゃいけない。
自分に言い聞かせて男を踏みつける。羅刹たる身は、華奢な体に相反した力を宿していた。素早く口も塞げば、男に反撃など不可能だ。
浅い呼吸。落ち着いて、意識して呼吸して。用意した口実は、この男が居場所を吐かなかったら使えばいい。失敗しても大丈夫。
だから。
「居場所を、教えてください……」
ぐ、と足に力を入れれば骨が軋む。男の顔が忽ちこわばり、小さくやめろと悲鳴をあげた。
「……わたし、知りたいことがあるんです」
おどおどとしている姿に反して、なされる事は容赦ない。はくはくと口を開閉させる男の体が、程なく嫌な音を立てた。
成功
🔵🔵🔴
●
あるじさま、あるじさま。
わたくしはここにおりますよ。長く永く見守っておりますよ。
月日が経ち、人は朽ち、物は遺る。人の一生はあまりに儚い。
百年。生まれ落ちて死に至るまで。溢れた心が器物に宿る。
嗚呼、これでようやく、この腕で抱く事が出来るのだ。
嗚呼、けれど、芽生えた感情を伝えたい相手は、もう。
――邯鄲之夢。ヤドリガミ。
四・さゆり
◎
「任せてちょうだい。」
わたし、傷をえぐるのは得意なの。
ーーー
弱いものは嫌いよ、
けれど、チャンスは必要よね。
立ち上がる手伝いをしましょう、泥の中から、絶望から。
「ねえ、おにいさん。ここで天使が買えるってほんとう?」
「ないしょで、わたしもいれてほしいの。」
少しだけ、夢みる少女の真似をしようかしら。
一人でいいわ、暗がりまで誘い込みましょう。
あとは簡単ね。
話すまで殴れば良いの。
固くなであれば爪を剥がすと良いわ、10本もあるから。
それでもだめなら傷口を抉りましょう。
自分は何も悪くないだなんて言わせない。
わたし、グズも嫌いよ。
さっさと吐きなさい。
●23:10 屋敷外縁
「任せてちょうだい」
ゆうるり弧を描いた唇が、どこか楽し気に見えたのは気のせいだろうか。
弱いものは嫌い。気にくわないことは許せない。灰色の瞳に収めたものの是非を問い、四・さゆり(夜探し・f00775)は連れ歩く者の如何を決める。
本当なら、ここでさよならまた来世(あした)。けれど、今日はチャンスを与えましょう。
「ねえ、おにいさん。ここで天使が買えるってほんとう?」
さゆりはひょろりと長い木偶の坊を見上げ、ことりと人形のように首を傾げた。商人たる男はわざわざ自分の視線の高さで探すように視線を巡らせてから、ようやくゆるりとさゆりを見下ろす。
まるで、子供の相手をしている暇はないとでも言うようだ。実際男にとってはそうだろう。金を持っていそうにもない少女の相手をしてどこに得があろうか。
「なんだあお嬢ちゃん、ここはあんたの来る所じゃ――」
「ないしょで、わたしもいれてほしいの」
さゆりは否定の言葉を認めない。自分の歩むべき道を遮るのは嫌いよ。ほうら早く連れて行って。
曇りの隻眼は瞬き少なく男を見上げる。夢見る少女の真似でもすれば、釣れるだろうか。もう遅いような気もするが、お願い、とねだる言葉はほんの少しだけ明るみを含んだ。
男はがしがし頭を掻く。仕方ねえなと進む心に、別の所に売り飛ばせばいいかと利己的な考えを抱きながら。
「ねえ、おしえてちょうだい」
始めは、右手の人差し指の爪から。転がる男は悲鳴を上げて助けを呼ぶが、手柄を独り占めするために自ら連れ込んだ暗がりに人が来る筈もない。
浮いた爪と肌の間から、ぷくりとまあるい珠が零れた。赤く艶やかな珠は少しずつ大きくなって形を崩していく。爪の婉曲に沿って指先を飾った。
「ねえ、おしえてちょうだい」
すでに男は殴られボロボロだ。口の端を血で汚し、地面には赤黒いマーブル模様が描かれていた。雨上がりと同じ水たまり。
男は『お嬢様』と何度も何度も喚きたてる。けれど、それ以上は言わないから。
自分は何も悪くないだなんて言わせない。
「……ねえ、」
もう聞き慣れた音と共に悲鳴が上がり、血の水たまりにぽとりと剥がされた爪が落とされ波紋を作った。これで、九枚目。
さゆりの瞳は冷たく男を見据える。機嫌の悪さがありがりと映し出され、男は息を詰まらせた。
「わたし、グズは嫌いよ」
最後の一枚は触れないまま。赤い血の代わりに咲いたのは、赤い傘。
「さっさと吐きなさい」
わたし、傷をえぐるのは得意なの。
おにいさん、死んじゃうかもね。
大成功
🔵🔵🔵
●
ぴょこりと跳ねる耳は音を聞き。
ふらりと揺れる尻尾は気持ちを示す。
何よりも人々の傍らにいる事を佳しとし、狐は容易く甘言を渡した。
彼が生きることは、吾が生きること。
零れる精を喰らい、あやかしは一人取り残されていく。
それでも、何度も、繰り返す。吾は美しくある者。囚われし者。
――寸歩不離。妖狐。
依世・凪波
◎◇酷い扱いトラウマ付与歓迎
う~っ、ちょっとお宝見せて貰おうって思っただけなのに冗談キツい …酷い目にあった……
なんかキラキラしたの持ってそうだって思ったのに失敗したぁ
業者の懐に手を出そうとし捕縛
えっ!?俺そんなつもりじゃなくて…
ここは逃げるが勝ちっていうヤツだ!【シーブズ・ギャンビット】で服を身代わりに隙をついて逃げようとダガー攻撃
なんだってこんな事するんだよっ!?俺の毛皮でも刈るつもりかよっ?尻尾を股に挟みつつ涙目で見上げる
やだっていってるだろーっ!
うわぁっ!
ううっ……
こんな、ことになるなら、あの時興味本意で…手、伸ばさなきゃ…良かった……
やだ、誰か……助けて……怖いところも痛いのもヤダ…
●22:20 屋敷地下某所
腰に吊り下げた、きらきら光る銀色のもの。
依世・凪波(ギンギツネの妖狐少年・f14773)の瞳には、それが大層素敵なお宝に見えた。この少年、未だ好奇心を抑えられる精神を持たず、気持ちのままに手を伸ばす。
今日だって、そんな軽い気持ちだったのだ。
冗談、――だったら、どれだけ良かったか。
「なんで、ひっ、なんだってこんな事、するんだよ……っ」
しゃくりあげる凪波の顔は涙が伝い、悪戯っ子な一面など見る影もなかった。くしゃくしゃに顔を歪め、地に這いつくばって身体を震わせる。尾はくるりと丸まり股の間に。耳は元気なくぺたりと垂れていた。
「なんで、だと? 他人のモン盗む奴が言う台詞か?」
商人の男は苛立っていた。この小僧が自らのものに、――奴隷商人として『お嬢様』に見止められた証に、触れたからだ。
『お嬢様』に仕え、『亜人の檻』の為に粉骨砕身働いて来た。その証明ともいえる、男にとって唯一無二の宝物。
思い出しても腹が立つ。その腹いせとばかりに、男の足は振り上げられて凪波の腹を思い切り踏み潰した。
ごふ、と空気が戻る。もう随分と酷い仕打ちを受け続け、肺に溜まった血も一緒に吐き出された。
「うう、ぐ、こんな、ことになるなら……」
「手ェ出さなきゃ良かったってか? 遅えんだよ!」
語気が強まる度に、足は持ちあげられ落とされた。凪波の小さな体がその度に跳ねる。
やだ、やだやだやだ助けて、誰か……!
口の端から零れるのは苦鳴だけ。泣いて喚いて叫んでも、助けなんてどこにもない。
何とか顔をあげて睨みつけた先、凪波は無数に光る双眸を見た。
それは、赤く、青く、黄色く、さまざまに、光る。無数の瞳がにやにやと下卑た弧を描いて、無慈悲に凪波を見下ろした。
「ひ、」
暗がりに揺れる、無数の双眸。耳に届く、嘲笑の声。肌を這う吟味の眼差し。
男はもう、戒めなどと言う言葉以上に別の目的に浸っていた。
それは、支配欲。服従欲。
自らは『お嬢様』に従う畜生であるが、奥底にいつかは従わせてやろうという反逆心を抱いていた。
しかし、簡単には叶わない。
だから、こうして支配する。自分よりもか弱く、愚かで、ちっぽけな人間を。
この『亜人の檻』では、この行為も正当化される。躾と言えば、止める人間はどこにもいない。むしろ、こうしてショーの様に楽しむ人間さえ存在した。
凪波の目の前がぐにゃりと歪む。助けが望めない絶望。蹂躙される恐怖。永遠とも思える底なしの地獄。
「――……、」
反省したって、もう遅い。反撃の牙は疾うに折れ、失われているのだから。
失敗
🔴🔴🔴
●
背丈は人間の胸元程度だろうか。
それでも屈強に武器を振り回す姿を見れば、劣る所など存在しない。
見た目は幼い人間のようだ。
それでも作り出す様々な工芸品は、人間よりも繊細で有用性に満ちている。
劣悪種は死んでいく世界で、生き延び続ける小人たち。
侮る勿れ。蔑む勿れ。その技量で、地をも支配してみせようか。
――剛健質実の祖。ドワーフ。
レイブル・クライツァ
◎
潜入する人の追跡や、業者に情報吐かせたりを中心に行動
彷徨の螺旋で出した護人をボディガードとして連れて、時折耳打ちのような動きをさせ
暗い所を通る際は暗視と、聞き耳を澄ませて内緒話を拾う。
金を握らせて情報が出るなら、時間稼ぎにちらつかせての交渉を。価値のある話なら弾むわよ?
狭い路地で敢えて解除して、1人でか弱そう感を出して油断させる方向で動いてみて
引っ掛かるのがいたら、不意討ちの再召喚で沈める。
怪我で部品が露見しての囮シフトは、情報が不足しており集まらないと思った時のみで、出来る限りパーツは露見しないよう行動。
…オブリビオンを泳がせ続けるのは嫌なものね。
確実に狩る為、スマートかつ迅速を徹底するわ
●23:30 屋敷一階通路
ヴェールを閃かせ、歩む姿は他者に負けるとも劣らない。商人たる振る舞いであれば、そこらの者達よりは一歩先を行っているだろう。
従者という存在がレイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)を極めつける。孤立して動けば危険度の高い場所では、これほど有用なものも他にない。
レイブルを護るのは、どこかで見た覚えのある死神と剣聖。レイブルの記憶の底にその姿は存在した。彼らが訪れる度に突きつけられる現実は、今も見ないふりをする。
指示した通りに、防人は時折レイブルに耳打ちのような動きを見せた。よりリアリティを突き詰めた結果ではあるが、そのどれもがプラスに働いているのだから動きやすい。
どころか、向こうから接触してくるのだ。気品ある振る舞いや、凛とした立ち姿は下級商人にとっては売り込み先の証になる。
そこからは簡単だ。商談ならばと連れ込んで、ここへは他の檻からの視察で来ていることを伝える。『亜人の檻』の人間なのに知らないのか、という矛盾をなくすためだ。それで逃げ出そうとするのなら、金をチラつかせて情報を引き出す。
「価値のある話なら、これも弾むわよ?」
人々の支配から離れたこの世界において、唯一の価値は金銀財宝だ。袋の中から金貨を一枚取り出して、商人の足元へ放ってみる。
食らいついた商人は早速落ちた金貨を手にして、レイブルの持つ袋の中身を妄想するのだ。あの中にある金貨を貰えたなら、自分はより素晴らしい商品を調達できるのではないか、と。
「どうかしら。教えてくれる?」
「へへっ、ええ、あと数枚貰えたら……」
言葉が終わるより早く、レイブルはもう一枚チラつかせた。
全く、オブリビオンを討伐するためとはいえ、自分は何をやっているのだろう。時折ふっと我に返るが、これも結果の為だと言い聞かせた。
情報はぽろぽろと齎される。既に別の猟兵が得ていた情報もあるが、男は怯えた様にきょろきょろと周りを見やってからレイブルへと耳打ちした。
ここの看守は、バケモノだ、と。
「……どういうことかしら」
「言葉の通りっすよ。いらない人間を殺して纏めて怪物にしてるんす!」
字面通りに受け取るならば、かなり非人道的だと言わざるを得ない。
「分かる限りを言いなさい」
知っておくべきだ、と第六感が告げていた。きっと猟兵達の前に立ちはだかる壁になるのだと、漠然と感じたのだ。
確実にオブリビオンを狩る為ならば、どんな些細なものも掴んでみせる。へらへらと笑う男の前で、レイブルの双眸は細められた。
大成功
🔵🔵🔵
●
駆ける足は華奢ではあるが、地を踏み跳ねる様は曲芸師にも似て自由だった。
力こそないが、それを補って有り余る能力が秘められている。
降る奇跡をその身に受け、ありのままを受け入れる。
ぴこりと尖った耳が音を拾い動く様は動物の耳にも似て愛らしい。
吾は誰よりも永く生きる、森の守護者。
――寵愛の因子。エルフ。
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
人として接触したいところだが、尾と翼をしまうと体のバランスが取れん。
幸いにして頑丈な体だ。大人しく囮になった方が良いかもな。
口八丁の【言いくるめ】は得意だが、失敗したときの【覚悟】は決めておく。
大概のことは【気合い】で乗り切れるさ。今までそうだったのだからな。
【蛇の王】で、あらかじめ黒蛇を放っておこう。『亜人の檻』とやらを追え。
もっとも、こちらは私が意識を保っていねば意味がないからなァ。
念には念を入れて、槍に変化する蛇竜を偵察に飛ばす。
情報は後で聞く。見つからないことを祈るよ。
『調教』とやらが出来るのならば、やってみろ。
呪詛が体を喰らい尽くすより、キツい責め苦を生み出せるならな。
●
生憎、多少の暴力に揺らぐ精神も肉体も持ち合わせていない。
人としての接触は諦めたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)はいま、檻の中で看守と言葉を交わしていた。看守からは時折笑いすらも溢れる。
ニルズヘッグに課せられたのは、本命が開かれる前までの暇つぶし。時間が来るまでに口八丁で楽しませてくれるのならば、そのまま調教せずに出してやろうと言う。
では、楽しませられなかったその時は――?
簡単だ、口で無理から体でさせる。
薄寂れた空間には、ほのかに血のにおいが籠っていた。ニルズヘッグが座る床も、所々血痕がこびり付いている。
全く、大人しく囮になったものの、得られる情報は断片的だ。
影がない場所を探す方が手間になる部屋は、ミドガルズオルムを潜ませるには最適だった。指定した対象は『亜人の檻』だが、ニルズヘッグ自体にそのものについての情報が乏しく目立った収穫は出ていない。どこか外から入るに難い地下にいる、と言うことだけは分かった。
念には念をという事で、飛ばした蛇竜の行方も気になるところ。再び舞い戻る時がいつになるかは分からぬが、様々仕入れているなら僥倖だ。
自身のところへ帰らずとも、誰か別の猟兵の糧となれば良い。
「……飽きたな」
唐突に、ニルズヘッグの言葉を遮り零された。
「気に入らなかったか? であらば先日見た桜の話でも――」
「いい」
ぴしゃりと看守は遮って立ち上がる。
「あんたの話、面白かったよ。でもなあ、俺も仕事せにゃいかん」
つまり、初めからこうなることは決まっていて。早いか遅いか、ただそれだけだったのだ。
「ははは、出来るのならばやってみろ」
「皆最初はそう言うさ。強がりも、今だけだ」
重たい車輪の音ともに運ばれてくる機材は見慣れぬもの。ドラゴニアンのような種族は居ないはずだが、流石は『亜人の檻』と言うわけか。細々とした拘束器具は多様な種類が揃えられていた。
避けては通れぬ道か。覚悟は出来ている。
「呪詛が体を喰らい尽くすよりも、キツい責め苦とやらを見せてくれ」
挑発の文句を男は鼻で笑い捨てた。
内から喰らう呪詛の痛みと、外より齎される裂傷、果たしてどちらが上回るか。
運び入れられる拷問具を眺め、ニルズヘッグは喉の奥でくつりと笑った。
成功
🔵🔵🔴
●
ふわりとあなたの前を舞う。小さくたって、一人前。
惑う旅なら導きましょう。決めた旅なら添い遂げましょう。
ささやかに祈りを捧げた妖精は、どうか幸あれと口にした。
透き通った翅は陽の光を通して、天翔ける橋のようにきらきらと虹色に輝く。
遮るを滅ぼす魔術者であり、道しるべを齎す導き手である。
――天穹の贈り物。フェアリー。
葦野・詞波
◇◎
悪いな、私は他の連中のように器用ではない。
だから、力付くだ。多少荒っぽい。
関係者に変装し
商人を数人、人気の無い所におびき寄せる
隙を見せるなり、誘惑なり。この耳だ、多少は役立つだろう。
誘き寄せたらだまし討ちで拘束
拘束後は恫喝で恐怖を与えていく
私は拷問のプロではないからな。
やりすぎて殺してしまうかもしれん。
吐いてくれればお互い楽だ。そうだろう。
拷問は串刺しや傷口を抉る…手段は問わないが
殺してしまったら元も子もない
それでも吐きそうになければブラフも
毒使いを生かして持ち込んだ痺れ薬を飲ませ
それは毒薬だ、と嘘を伝え喋れば解毒剤をやると取引
どうだ、薬が効いてきたんじゃないか、と
嘯けば気にはなるだろう。
●21:30 屋敷外縁
「悪いな、私は他の連中のように器用ではない」
「ほか……!?まだ誰かいるってのか?」
転がる男どもの前で、葦野・詞波(赤頭巾・f09892)はからからと笑ってみせた。弧を描く唇はその内に妖艶さも伴って微笑みを作る。
喚く男には答えずに、詞波はさてどうしてやろうかと三人の男を並べて吟味していた。
一人はどうにもよく喋る。喋るというより喚く。聞き出すならばこういうタイプがやりやすいのだろう。
一人は口を引き結んだまま、寡黙を貫いている。時折一人目を蔑んだような眼差しを向けるものだから、あまり喋ってはくれないか。
一人はぐったりと項垂れたまま動かない。表情が見えないのでは推測もしづらい。要警戒。
多少荒っぽくとも、覚悟があって足を突っ込んでる世界だろう。力尽くで聞き出してやろうじゃあないか。
餌に釣られた、哀れな三人の商人。ひとつも情報を逃してなるまいと、ぴこりと跳ねた耳は一瞬男どもの視線を集めた。
「くそ、亜人め……」
「お前はその『亜人』の前に、無様に転がっているわけなのだけれど」
少し嘲ってやれば、お喋りな男は苛立ちを露わに舌打ちした。
――さて、お遊びの時間はここまでだ。
ぞわりと男どもの背筋を撫でる見えざる手。感じた恐怖は、道具がなければ狩られるだけのか弱き動物の本能か。
「私は拷問のプロではないからな。やりすぎて殺してしまうかもしれん」
だから、さっさと吐いてくれ。
言葉裏に要求してみるものの、詞波の言葉そのまま実行する者はない。
ではまず一手。娯楽物では、よくここに穴が開いていたっけ。脇腹、肩口、ここらへん。槍で穿って真似してみる。作り出された物語の中で死んでいないのだから、まだ大丈夫だろうなんてタカをくくった。
しかしまあ、肩口なんかは致命傷らしい。すぐに一人、くたりと言葉を吐く間も無く動かなくなる。
「ああすまない。加減が分からないものでね……次はこうしようか」
「ひっ」
詞波がポーチから取り出した小瓶には痺れ薬。痛みに呻く彼らには丁度いい代物だ。
しかし、そのまま渡すわけではない。情報を吐かぬのであれば、次の手を。
「これは毒薬だ」
逆らえぬよう拘束した男の顎に手を添える。噛み締める歯にたらりと垂らして隙間から染み込む様を見下ろした。
「喋れば解毒剤をやろう。……どうだ?悪くない話だろう?」
嘯くままに笑みを作り、詞波は静かにカウントダウンを刻みゆく。
恐怖に顔を引きつらせた男が洗いざらい喋るまで、あと数秒。
大成功
🔵🔵🔵
●
ただ戦うために作られた。ただ殺すために作られた。
量産され、知性を植え付けられ、気付けば戦いの最中にいた。
それも過ぎ、取り残された悲しき機械。共に果てたのなら、生まれた意義のまま逝けただろうに。
生き残り、何とする。戦う脳しかない身体に一体何が残っているというのだろう。
答えを求め彷徨う者。答えを見つけ歩む者。
戦うだけの時分はもう過ぎた。
――フロムディオニューソス。ウォーマシン。
碧海・紗
【SPD】
同業者を装うアンテロさん(f03396)と共に
覚悟はそれなりに、囮として潜入
真っ黒なオラトリオの羽を震わせながら捕らわれた振りを
何故私なんですか…!放してくださいっ
恐怖の声色で投げかけて情報収集を試みましょう
抵抗するような動きの中で視力の良さを活かし
アンテロさんとの会話の中での他の商人の表情や仕草を観察
又、万一の為に出口の位置と数の確認
避けられそうもない場合多少の事には耐えながら
第六感で致命的な拷問への回避を目論みます
根気強く粘って言いくるめ、情報を一つでも盗めたら。
あまりボロボロにしては、商品価値がなくなるんじゃないですか…?
貴方たちの身が危うくなるのは、勝手ですが…。
アドリブ歓迎
アンテロ・ヴィルスカ
籠の鳥に逆戻りとはお気の毒様、碧海君(f04532)
君の健闘を祈るよ
念動力を伝せた銀鎖で彼女を拘束、いざとなれば守りに
俺は正装に着替え【WIZ】同業者を装う
礼儀作法は大事だな、物腰柔らかく演じよう。
商品の扱いは丁寧に…価値がなくなっては困りますからね
とある地方で不吉とされた黒い翼のオラトリオです、なかなか上玉でしょう?
彼女で同業者をおびき寄せたら
新参者はしおらしく、彼らの腕前を褒め讃えて情報を引き出す
沢山の種族を仕入れらればお客の心を射止められるのでしょうが、なかなか…
一番の上客様のお好みなど特に、知りたいものですね?
もちろん見返りは幾らでも…
情報を握って居そうな者にはそう囁いて。
アドリブ歓迎
●23:10 屋敷一階倉庫
籠の鳥に逆戻りとはお気の毒様。
そうは言っても、役割なのだから情け容赦なく檻の中にぶち込むつもりではあるのだけれど。
銀鎖を操るアンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)の手が、丁寧に碧海・紗(闇雲・f04532)の体を拘束する。本日ふたりは奴隷と商人。全てはアンテロの意のままだ。
囮となる紗にも相応の覚悟がある。真っ黒な天使の翼を震わせて、体を覆うように折り曲げた。
「健闘を祈るよ」
「アンテロさんもね」
危険性だけで言えば紗の方が高いだろう。檻の中に飛び込むというのだから、そのあとにどんな所業が待ち受けているのか分からない。
お守りとするには些か物足りなくはあるのだが。銀鎖がどれだけ紗を守ってくれるだろうか。その役割を担うことになる時が来ないのが一番良いのだが。
正装に着替えたアンテロは紗を連れて壁際にひそりと居座る男へ声をかける。側にはオラトリオの少女たちが囚われた檻が複数並んでいた。
礼儀作法を重んじて、物腰柔らかく接する。
「ご機嫌よう。今日は大量ですね」
常ながらののらりくらりは本日抑えめ。漏れ聞こえてくる会話から、下手に出つつも敬語は行き過ぎぬ辺りが多いと知っていた。
反応を伺えば、男はのそりと視線を合わせてアンテロの顔を睨め付ける。それから、紗の体をアンテロの二倍ほどの時間をかけて吟味した。
粘つくような視線が紗の肌を這う。思わずふるりと体を震わせ隠してみようと身動ぐが、男の視線は変わらずだ。値踏みする眼差しを肌に感じ、紗はややに目を眇めた。
「いやはや、流石でございます。俺、ようやくこれだけでして」
「……珍しい色だな」
食い付いた。
オラトリオばかり集めているようだから、その内に欲しがるかもしれない。そうとなったら引き渡し、『亜人の檻』の中に連れられる時を待つだけだ。
「何ですか、貴方達……何故私なんですか……!」
放してくださいと悲鳴交じりに叫ぶ言葉は、仏頂面の前ではほとんど無意味だ。恐怖している姿を見せることが目的なのだから構わないが、本当にこの男は自分を奴隷として見ているのだろうかと紗は僅か不安に思う。
もし、バレたら……?
もし、この力で奴隷たちを解放しようと動いているのだと思われたら……。
それでどんな辱めが待とうとも、機は今しかない。
舐める視線が外れ、紗はようやくひっそり息を吐く。怯える振りで視線をあちこちへ向けながら、屋敷内部の造りを確認していた。
奴隷が囚われた部屋はどれも、入退室が出来る扉が1枚あるだけで他は見当たらない。逃す際に邪魔が入った時は、避けては通れぬ戦いが起こる可能性を感じられた。
「これ、とある地方で不吉とされた黒い翼のオラトリオなんです。なかなか上玉でしょう?」
ですが、と紗をやや背に隠して動きやすいようにしたアンテロが言い募る。
「心を射止めるには今一歩。もしお知りでしたら、拙い俺に一番の上客様のお好みなど……」
「タダでもらえるたあ思ってないよな」
「勿論、見返りは幾らでも」
この先、紗にどんな試練が待ち受けているのかは分からない。ただ今は、情報を得るため。そして内部に潜り込むため、アンテロは紗を売り渡す。
健闘を祈るよ、と、アンテロが言った声が頭の中で反芻された。
「っ、あまり、ボロボロにしては商品価 値がなくなるんじゃないですか……?」
痛みに赤らむ肌を隠し、紗は静かにねめつける。これ以上傷付くのは出来れば避けたい。
なおも言い縋る紗の前で、男が初めてニタリと笑った。
「価値を決めるのは俺たちで、あんたはタダのものなんだよ。黙ってろ」
振るった手のひらが、紗の頬を強かに打った。
始まりの鐘が鳴るまでは。今しばらく、耐え忍ぶ時だ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
●
時に人の真似をして。時に動物の形を取る。
何ものにもなれない黒は、それゆえに何ものにもなれる。
いつから魂が生まれたのかは分からない。
けれど、いつだってあらゆるものを見守っていたのだから。
だから、憧れたって仕方ない。
はろう、はろう。今日からわたしもおともだち。
――叡智の揚羽。ブラックタール。
リリヤ・ベル
◎
すこしだけ身なりを整えて。
囮として潜り込みましょう。
まずは目立たないように、観察を。
ちいさいものを、ちがうものを、虐げたがるひとの目。
それを、わたくしは、よくしっています。
そのようなものを好んで扱う商人であれば、
より深くに入り込めるのではないでしょうか。
目星を付けたら後を追い、その前へ。
大人とはぐれて迷いこんでしまったように見せかけて、
周囲には助けがないと判るように。
人狼の耳も尻尾も出しておきましょう。
声は、表情は、お好みですか。
好ましいと思われる部位が多ければ、
きっとその商品価値までは潰されない。
だいじょうぶです。わたくしはかしこいのですよ。
つかえる武器は、なんでもつかってみせましょう。
●23:30 屋敷外縁
すこしだけ身なりを整えて。いつもより心を強く持つ。
まずは目立たないように観察を。リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は木陰に隠れ、物陰に潜み、陰から影へ飛び移る。小さき者が視界の端を過ろうとも、彼らはちっとも気にしないだろう。
その頭に、狼の耳があろうとも。
その背中に、狼の尾が揺れようとも。
息を潜めたリリヤが見るものは、あらゆる商人達の瞳。目は口ほどにものを言うだなんて言葉もあるが、その通りだと感じられた。
この檻の人々は、『お嬢様』に認められて生きている。『お嬢様』が飼うのは人間であり、その人間が飼うのが畜生である。ここでいう畜生とは、人間以外の種族を指す。
彼らにとって、それは人間の形をした家畜と同じなのだ。見下す瞳は不気味に笑い、虐げる瞳は暴力を促す。
リリヤは、それを、知っていた。凡そ縁が無ければ知らぬものを、ようく知っていた。
まさかそんな、なければいい記憶が役に立つ日が来るなんて、思いもしなかったけれど。今は、少し、感謝する。有難いなんて、絶対口には出来ないけれど。
より深く、より鋭く。牙を立てるなら、致命的になるほど良い。
リリヤは自分がどういう風に見られるかしっかりと自覚していた。だからこそ、そういう目を探し、見つけ、用心深く様子を窺う。目星は確りつける方が良い。
そうして見つけた、その前へ。
「……あ?」
大人と逸れて彷徨うこどものように、リリヤはきょろりと視線を惑わせる。その内に、ぱちりと商人と目を合わせ。
「……あっ」
いけない、と眉を下げて暗がりへ駆ける。狼の耳は追いかけてくる足音を聞いていた。
だいじょうぶ。わたくしは、かしこいのですよ。
心配する声を聞いた気がして、リリヤはふわりと笑みを作る。強かな女なのだ。使える武器は何でも使ってみせよう。
「お嬢さん、ちょっと、いいかな」
翡翠の瞳を覗かせて。震える身体を抱きしめて。人狼の少女は、誘い込んだ狩人を見る。
声は、表情は、お好みですか。
問いかける言葉はないけれど、その表情の動きからリリヤは少しでも気に入られるために推察する。
「……迷子かい? おじさんと、おいで」
欲に塗れた言葉を聞きながら、リリヤはこくりと頷いた。
好ましいと思われる部分が多ければ、きっとその商品価値までは潰されない。
――ああ、でも、好ましくない、部位は?
成功
🔵🔵🔴
●
手のひらを太陽に透かせてみれば、きらきらと光を零して輝いた。
人の形を取りながら、それは、あまりに美しかった。一線を画した美であった。
ぱきりと欠けたその指先に、一体どれほどの価値があるのだろうか。
抱くエネルギーは無限大。故にその宝石は言葉を語るのだろうか。
謎多きものは美しい。鉱石ゆえの儚さもまた、愛おしい。
――赤鴉の涙。クリスタリアン。
クレム・クラウベル
◎◇
さて、ヴァンパイアどもが幅を利かせてる地域ならけして珍しいものではないだろうが
……これ程の規模というのは、珍しいのかもな
豪奢な服に、用意が効くならレイピアも腰に
同業装い情報を探ろう
同じ手段を取るものと協力できそうなら、片方が従者装えばらしさも増すか
亜人の檻への興味示し場所を探る
偽るのはそれなりに慣れている
常に薄く笑みを貼り付けて
さもこの日を待ちわびていた様に高揚を僅か滲ませて
亜人。それが噂の?
いえ、此方で商品以外にも中々面白いものを観れると聞きましてね
少々遠方より買い付けのついでにと参ったのです
しかし、流石音に聞くラ・カージュ
広いもので迷ってしいまして
亜人の檻はどちらの方でございましたか?
●23:40 屋敷裏口
一巡歩いた足は、目星をつけた女の元へ向けられる。
ヴァンパイアが幅を利かせている地域なら、決して奴隷市場など珍しいものではない。しかし、これほどの規模の市場はかつてあっただろうか。こんなものがごろごろと存在しているのなら、本当に腐った世界なのだと改めて思う。
翻した裾は常より微かに重さがある。腰に提げたレイピアは借り物だ。よく見る商人の姿がこれなのだと聞けば、クレム・クラウベル(paidir・f03413)は手早く手配を済ませた。
従者がいればより"らしさ"も出るものだが、如何せんテリトリーが広すぎる。転送時期が違えば合流するのも一苦労だ。この所為で会場の特定を侭ならなかったのだろう。
さて、件の『亜人の檻』とやらは、一体どこにあるのやら。
「もうすぐ時間だわ」
「ええ、そのようでございます。ご準備は宜しいでしょうか」
目的の女を見付ければ、クレムは近くで耳を傾ける。キーワードが出れば接触もしやすい。いくつか交わされる言葉の内に、亜人という単語が飛び出した。
あまり悠長にはしていられない。もうすぐだという時間の前に、割り出すことが出来るのなら。
「亜人。それが、噂の?」
「……あら」
偽るのは慣れている。心殺すのは慣れている。薄く貼りつけた笑みは、今なおクレムの唇に弧を描かせた。
高揚を滲ませるには、言葉のトーンと語調、速さを意識すれば良い。頬も赤く染められれば完璧ではあるのだが、生憎とそこまでの技量は持ち合わせていなかった。
「ああ、失敬。此方で中々面白いものが観れると聞きましてね」
「ここは初めてかしら。お坊ちゃん」
嘲るように笑う女は、良いわよ、なんて『ラ・カージュ』の説明を始める。興奮した様子は、どうにも熱に充てられている様だ。これなら容易く聞き出せそうか。
「わたくし、『亜人の檻』の常連でしてよ」
「やあ、それは幸いでした。広いもので迷ってしまいまして」
相槌は欠かさず。笑みは崩さず。女に主導権を渡しながら、会話を巧みに引き出すのだ。
彼女は言う。商品以外にも、見物があるのだと。それが、興奮するのだと。
「少々遠方より買い付けにきた甲斐がありました。――して、」
『亜人の檻』はどちらの方でございましょう?
クレムがその言葉を口にすれば、女は一層嬉しそうに微笑んだ。まるで恋する乙女のように、頬を赤らめ、胸元で指を絡める。
「もうすぐ、分かるわ。足元をちゃあんと見ておくのよ。『お嬢様』がわたくしたちを導いてくれますわ」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『屍血流路』
|
POW : 再び動き出さないよう、ひたすら破壊し燃やせばいいだろう。。
SPD : 最奥にいる元凶を倒せばあるいはすべて解決できるだろう。
WIZ : 再生の仕組みを解明すれば怪物を生み出せなくできるだろう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●00:00 屋敷某所
『亜人の檻』のテリトリー内にいた、商人達のすべての足元。
潜入した猟兵は、いずれも様々な手段で彼らと接触しただろう。金を渡す手に触れた。痛めつける体に触れた。布越しでも武器越しでも鎖越しでも構わない。
檻への参加権は、それだけで得られたのだから。
ぽうと地面に浮き上がるそれは、血のように赤い色をしていた。くの字の様に折れ曲がる矢印は、猟兵達の足元から一方向に向かってじわりじわりと進んでいく。
互いに交換した情報から得られている事は様々だ。矢印に導かれ進んだ先で、猟兵は二又に分かれる通路にぶつかった。こんな場所があっただろうか。血の矢印はそこで消えた。
片方は、登る道。
片方は、降りる道。
商人達はそれぞれ別れて進んでいく。得た情報が正しいならば、選ぶ道は前者だ。
歩み出す。道は途中で地下へ降りる階段へと変わった。
かつり、こつり、踵が鳴る。追い抜いていく商人達はいずれも興奮した面持ちだ。まるでヒーローショーでも始まる前の少年の如くに胸を高鳴らせていた。
四角く括られた出口が見える。開けたそこは薄暗くはあるが、視覚に不便しない程度の不気味な明るさを保っていた。
まるで、コロシアムだ。ドーナツ型の観客席が存在し、中央は窪んだ円を描いている。一度中央へ降りたら、一般人は戻っては来れないだろう。降りた時点で、身体が無事とも言えない高さだ。
「あれは……?」
「ああ、今日も来ているのね、『亜人』!」
誰かの呟きは、婦人の声に潰された。
あれと差したもの。中央の窪地を這う、肌色のもの。
肉塊だ。一言で表すのに、これ以上適切な言葉はない。人の肉の塊が、人の形を成さないままに、這いずり回っている。
ここの看守はバケモノだ。確か、そう言っていたのを思い出した。
●00:05 屋敷地下某所
ひどく冷たい気配がした。頬を風が撫で、何かが起こる予兆となる。
全ての檻にかけられていた暗幕が一度に落とされた。囮となった猟兵達は、差し込んだ灯りに目を細める。鉄格子の向こう側、ひしめく人間たちの姿が見えた。
ああ、あれらは全て、同じ人間なのだ。
こちらを指差しあがる嬌声。持ち帰る家畜を見定める双眸。人間として同等に扱う心などとうに捨てた人間たち。
べとりと何かが眼前を過って息を呑む。
それは、瞳を無数に抱えていた。
それは、唇を無数に抱えていた。
それは、腕を無数に生やしていた。
それは、頭を無数に生やしていた。
瞳はどれも血走っていて、ぎょろりぎょろりと目玉は止まらず何かを見る。唇からは、老若男女様々な音程の声が、言葉の形を取らないままに零された。手足は肉塊から突き出ただけで動く気配はどこにもない。生える頭は、肉塊の下に潜り込んで潰された。
人間の肉で出来たゼリーだ。こんなもの、存在していいはずがない。
●00:10 屋敷地下餌場
レディース、アーンド、ジェントルマーン!
リーシャちゃんの『亜人の檻』へようこそ! 今日はあ、いつもよりたっくさんの人がいるみたい。
でもでも、招かれざる客もいるね。だからあ、今日は特別なショーに変更します!
内容はあ、『亜人』ちゃんがぜーんいん食べるまで何分かかるか賭けをしましょう!
さあさ皆様、ベットして! それじゃあ、檻を全開放!
『亜人』ちゃん、好き嫌いせず全部食べてね。あの子も、その子も、そっちのおやじも。
食べられたくなかったら、助けに来てね。――ねっ、正義の味方様?
===========
!CAUTION!
『<奴隷解放戦線>いのちの価値』第二章は以下のルールが適用されます。
第二章から参加する方は、どちらの立場からスタートするかを自由にお選びください。
▼『囮』を選んだ方々へ
スタート地点は【檻の中】からとなります。
奴隷を救う事は容易ですが、怪物を突破し『お嬢様』に辿り着く事は困難です。
また、開始時刻までの間に、猟兵達の成功度に応じた『調教』が施されています。
第一章参加者は、🔴の数に応じてその凄惨さは決まります。真の姿を解放した場合、無傷で参加する事が可能です。
ただし、経過時間も踏まえ、🔴に関わらず自ら負傷度を決める事も可能です。負傷度変更、新規参加者は、下記数字をご記載ください。(例:囮1、囮[2]など)
[0]大成功🔵🔵🔵 策が大成功し、無傷です。常と同じく動き回れます。
[1]成功🔵🔵🔴 適度に痛めつけられています。時折傷が痛むでしょう。
[2]苦戦🔵🔴🔴 欠損、失血、衰弱等により、動きに支障が出ています。
[3]失敗🔴🔴🔴 恐怖が先行し、立ち向かうには工夫が必要でしょう。
▼『囮以外』を選んだ方々へ
スタート地点は【檻の上の客席】からとなります。
怪物を突破し『お嬢様』に辿り着く事は容易ですが、奴隷を救う事は困難です。
成功度による戦闘への支障はありません。常と同じくプレイングをお考えください。
どちらを選んだ場合でも、怪物と相対する事は容易です。
さあ、奴隷を解放しましょう! 生ける者達すべてを救うのです。
===========
●
同じ人で在りながら、時として人とはなんと残酷なのでしょう。
これが娯楽だと言うのならば、同じく応えましょう。
――正義の味方、とやらの戯れを。
月舘・夜彦
同じ人で在りながら……時に残酷なのでしょう
これが娯楽だと言うのならば、同じく応えましょう
正義の味方、とやらの戯れを
この世界に装いを合せ、ショーが始まるまでは目立たないように客に紛れて待機
戦いの合図と共に餌場へ
抜刀術『神風』で亜人へ先制攻撃
亜人の撃破を優先、奴隷を守りながら戦う
基本は2回攻撃、手数重視で肉を削ぐ
敵の攻撃は残像と見切りによる回避からカウンター
回避により奴隷が狙われるのならば武器で受け、防ぎ切れないなら庇う
毒にも痛みにも耐えられる、何を躊躇う事があるのでしょう
この身は血肉を持った仮初の器
私も人の身に非ず、貴方達が喜ぶ「物」の一つに過ぎない
……ただの「物」で終わるつもりはございません
常日頃纏う和の装いは、今日は悪目立ちするからと洋装に変えた。粗雑なやり方ではあったが演技は不向きだという自覚があり、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)はその手で商人から情報を"教えて"貰っていた。手の甲がややピリピリと痺れているが気のせいだろう。今頃、親切な商人はどこかで転がっているのだが。
リーシャと名乗る『お嬢様』が高々とショーの開幕を宣言する。と、同時、檻が開かれ痩せた奴隷が幾人か突き飛ばされた。
食われる。
そうと知れば、奴隷同士の中でもカーストが生まれるもの。弱き人間が強き人間の盾にされるのもおかしくはない。
――ああ、なんと、人間とは愚かなのか。
飛び出した夜彦は迷わず中央の窪みに身を晒す。空中ではあまりに無防備になるが構わない。蠢く瞳が夜彦を捉えた。
速く、疾く、捷く。神の目すら欺いて、刃は風の太刀と成る。捉える事が出来ようものなら、してみるがいい。
亜人に動く手足はない。防ぐ盾も無ければ、真っ向から刃を受ける。亀裂が入り、途端に間欠泉の如くに血が噴き出した。
夜彦の身体を覆う赫。着地と同時、軋む身体で刃を翻し追撃を掛ければ、眼前に伸びる人肉を見た。
亀裂から、新たな肉が湧き出てくる。聞くに堪えない音を発しながら、ぼこりぼこりと湧き出して、夜彦さえも呑みこまんと粘膜を伸ばしたのだ。
避ける、――事は容易い。しかし。
「ひっ……」
血を浴び、腰を抜かした少年が夜彦の背後で蹲る。枯れた身体では逃げる事も、背に生えた翼で飛ぶことも叶わない。
これは、覚悟だ。
苦しむ者が居るのなら、力はその為にあるのだろう。そして今、何処かではない、此処に居る。迷う事などどこにあろう?
「下がっていなさい」
毒にも痛みにも耐えられる。躊躇う事などありはしない。
刃で斬り裂きなおも広がる肉の網。竜胆は咲き誇るが、それすらも呑みこむ赤の雨が花を枯らした。
夜彦の、自らの身体を犠牲にしてでも助ける姿勢に、奥から見守る目が嗤う。お嬢様にとって、正義の味方すらも商品だ。
人の身に非ず。そして、物の一つに過ぎず。
しかして、ただの「物」で終わるつもりは毛頭ない。
庇った身体が抉られる。腕ごとごっそり肩を喰われれば、瞬きの間に敵の一部と化していた。
食って、喰って、喰いまくる。そうして成長していく亜人。
確かに守った命を背に、夜彦は眉を顰めて刀を構える。心を示すような曇り無き刃は、未だ折れてはいないのだから。
苦戦
🔵🔴🔴
ミンリーシャン・ズォートン
◇◎
―此処は、何
―あれは、何
檻から出た後
逃げながらも回りを見渡し
一つずつ理解して行く毎
瞳から涙
逃げるのをやめ
何て…酷い事を…っ
悲しみの中で無意識に★
淡い光に包まれて
髪は足元まで伸び
翼も大きくなり羽ばたいて
心のままに空へと羽ばたく
先程目があったのに助けてあげられなかった男性の姿を思いだし更に此処で起きた多くの惨劇 や悲鳴を想い
歌詞の無い鎮魂歌(シンフォニックキュア)を歌う
どうか、気付いて
この惨劇を、終わらせて…
この声が心に響いた人達へ
どうか、恐怖に負けないで
奇跡を信じて
そして…立ち上がって
祈りを込めて歌い続けます
きっと私は無事じゃすまないだろうけど私の歌が皆の助けに、解放への一歩に繋がると信じて
●
――此処は、何。
――あれは、何?
弾き飛ばされるように檻から出たミンリーシャンは、眼前にそびえる肉の塊を前に呆然自失となっていた。だからと言って、そのままに食われる程の愚かさも持っていない。
逃げ惑う。踏み出した足が何かを踏んで、視線を落とせばだらりと垂れた腕だと気が付く。短い悲鳴と共に尻もちをつけば、ミンリーシャンの耳に笑声が届いた。
見上げ、見下ろす人々を見て、青い瞳がじわりと揺れる。漣はいつしか零れ落ち、ミンリーシャンの足元を濡らした。
認めたくなかった。知りたくなかった。けれど、ひとつずつ、理解してしまった。
「何て……酷い事を……っ」
ぽたりぽたりと、床にまあるい染みが出来る。溢れる悲しみはミンリーシャンの心を覆い尽くし、――ふわりと、淡い光が滲み出た。
それは、無意識に。人が好きで、出逢いを大切にして、綻ぶ天使が壊れる前に。
僅か背を逸らすと同時、金木犀が咲き誇る髪がふわりと揺れる。風も吹かぬような場所でたなびく髪は、気付けば足元まで長く、艶やかな空色を宿していた。
「――、」
咽喉が震え、微かな声が零れる。光の翼は止まるところを知らず、ミンリーシャンの背で輝いた。空気を叩いて広げると共に、しゃんと涼やかな音を立てて白き翼が披かれる。舞う羽根は微かに水色に染まり、涙の代わりにミンリーシャンの足元へと落ちていく。
――ああ、どうか。あの人にも届いてほしい。
――ああ、どうか。多くの犠牲者に届いてほしい。
この声が、天への調べとなりますように。
どうか、気付いて。どうか、この惨劇を終わらせて。声が届く、人達へ。贈る鎮魂歌は言葉にならず、故にすべての生物へと運ばれる。
どうか、恐怖に負けないで。どうか、奇跡を信じて。
そして、――立ち上がって。
空は遠く、青はない。それでもミンリーシャンは闇に覆われた、あまりに近い空の袂へ羽ばたいていく。届け、届け、届け――。
歌声を貫いて、肉の塊が翼を抉った。
けれど、確かに、歌は人々の心へ沁みていく。墜つる天使は、解放の時を夢見て微睡んでいく。歌声だけは、途切れずに。
ぽかりと開いた肉塊の穴は、ミンリーシャンを呑みこむ前に貫かれた。
苦戦
🔵🔴🔴
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
ったく酷い目に遭った。
が、この程度ならば【気合い】で何とでもなるな。
では仕事の続きと行こう!
蛇竜が戻ってきていれば槍に。
合流が絶望的ならば鎌を使おう。
どちらにせよやることは変わらん。
アレを効率的に壊せるかは、蛇竜の仕入れた情報次第だ。
が、アレでも生きているというのならば。
【灰燼色の呪い】で動きを止めることくらいは、或いは可能か。
与えた恐怖で【輝く災厄】の発動まで持っていければ僥倖だ。
狙われる奴隷に手が届くならば【かばう】。
傷が増えるのなど今更だ、今更!
意地でも全員救い出してやる。
この傷でも、盾としてならば、時間稼ぎは可能だ。
万事任せろ――とまでは言えないが、この場は引き受ける!
●
穴蔵へ飛び込んだ蛇竜は、迷いなくニルズヘッグの手中へと納まった。触れた瞬間、黒き牙へと変わるそれは、主人の意図をようく理解している。赤き宝玉を抱く蛇竜。一対の角を飾りとし、全てを貫かんと吼える槍。
全てを、救うのだ。意地でも全員を救い出す。奴隷も、奴隷と成った猟兵も。
情報を共有する間も惜しい。墜ちる天使を咥えこもうと開いた口を槍で穿ち、強制的に閉じさせる。呻く声がニルズヘッグの耳に届くがお構いなしだ。
片腕で穿ち、片腕で救い。かかる重さに体は軋むが、気合でどうとでもしてみせよう。酷い目に遭った、とは思うがそれだけだ。仕事を中断する理由にはなり得ない。
「っ、ありがとう、ございます……」
「なに、このニルズヘッグ様に、万事任せておくが良い!」
――などとは言ってみせるが。一先ず檻の向こう側へと退避させれば亜人を見上げる。豪語するには少々分が悪いか。
檻の中には、未だ鉄格子にしがみついて離れまいと震える子らが残っていた。襤褸切れを纏い、素足を晒した子供たちは皆、その白い肌に枷を嵌められている。とぐろを巻く尾に岩の様にごつい角。ドラゴニアンだ。
ぱちりと視線が合えば、竜の子は怯えた声をあげた。
「――、安心しろ。この場は引き受ける」
絶対に、とは言えない。しかしここを守るぐらいであれば、ニルズヘッグの手も届く。今更、傷が増える事を躊躇うものか。人命に比べるべくもない。
肉塊は傷が増える度にごぽりごぽりと泡を吹いて巨大化していく。どこか、何かを潰さねば、連鎖は止まらないのだろう。
蛇竜が悲鳴に紛れて小さく鳴く。
「ふむ。アレでも生きているというのならば、或いは可能か」
跳ねるように飛び出したニルズヘッグが、複眼の前で勢いを殺す。一瞬訪れる停滞と共に、口の端に笑みを乗せた男は瞳の奥まで貫いて、亜人の心を垣間見た。
――成程、それこそが貴様か。
溢れ出した灰燼色がベージュの塊を這って行く。巨大すぎるそれを呑みこむには些か時間がかかるだろうが、一部を抑え込めるだけでも効果は充分だ。叶うならば、と次手を含めるニルズヘッグの前で、肉塊が怒号を轟かせる。
「「「お、オオ、ゼう、サマァアア"ア"!!!!」」」
嗚呼、アレは、人の塊だ。奴隷となった人々の塊だ。最も苦痛を感じたもの。最も直視したくないもの。十人十色の世の中で、重なる筈もない稀有な対象が全てひとつに定まっていた。
ブルブルと身体を震わせた塊が吠える、吼える。動きを止める、という意図は成し得たが、何とも後味の悪い事だ。
「少々荒い、が。なに、貴様らも救い出してやろう」
ずろりと巨大な腕が肉塊を掴む。引き摺りこむその先に何が待ち受けていようとも、今よりは、地獄になる事もないだろう。
成功
🔵🔵🔴
向坂・要
【囮】【2】
好き嫌いなく、ってんならお前さんも食べられちゃう如何で?
ちっとバランスがとりにくいですがま、本体が無事なんだ
そのうち戻るでしょ
覚悟に各種耐性
(片足くらいくれてやりまさ)
足りぬ肉体は精霊の助けを借りて補い
自身が入っていた檻なども利用し敵の足止め
奴隷達の救出を優先しますぜ
エレメンタル・ファンタジアで呼び出すは凍てつく吹雪を纏った鎌鼬たち
お前さんたち、頼みますぜ
属性攻撃にマヒ、時間稼ぎ
動ける仲間に奴隷の退避を託し逃げ遅れたものがいないかなどに留意
分体やオーラ防御などで庇いますぜ
ちと不便だがやれねぇわけじゃないんですぜ
全体の動きを俯瞰で把握するように留意
分体や武器も併用し臨機応変に
◇
◎
●
「好き嫌いなく、ねえ」
それなら、お前さんも食べられちゃう如何で、と向坂・要(黄昏刻・f08973)がちろりと空を仰ぐが、丸い籠からは切り取られた天井と身を乗り出し囃したてる人間どもぐらいしか見えない。
全く、と溜息と共に足を引き摺る。片方欠けた耳に半ばで千切れた尾っぽ。骨だけがびろりとまろび出て僅かに揺れた。
短い呼気。時折訪れる激痛を何とか凌いで立っている。片足は今、肉の代わりに光の柱が迸る。精霊の助けあれど借り物だ。バランスは取りにくいが、致し方あるまい。
こんなナリではあるが、要はヤドリガミである。本体が無事なれば、その内元に戻るだろう。
あれだけ頑丈に閉じ込めていた檻は、すっかり口を開けている。人狼の女性なら見たよとまんまと罠にかけた男を淵に見つけ、齎された所業が頭を過って思わず眉根を寄せた。
今はあれに構っている暇はない。奴隷として潜入した猟兵は数あれど、全員がそれぞれに負傷している。中には要のように四肢の一部を捥がれ、或いはひどく衰弱し、常の状態にない者もある。やれる限りを尽くさねば、眼前の亜人に力なき者達は食われてしまうだろう。
そんな事態を避けるべく、猟兵達は此処に在るのだ。自らの身を売ってまで耐え忍んだ。
今、反撃の狼煙をあげずして、いつあげるというのだろう!
「お前さんたち、頼みますぜ」
空を撫でる。空気を切る。指先は何も持たずとも、そこに込められた魔の力は凍てつく欠片を呼び起こす。
肌を撫でるは冷たい風。煌めく光はダイヤモンドダストのように眩く降り、要の周りを覆い尽くした。
しゃん、と。鈴の様な音が鳴る。
「ちと不便だが、やれねぇわけじゃないんですぜ」
駆け巡る足だけが売りだと思われては堪らない。こんなシーンで、足掻きもせずに朽ちるタマでもない。
要の言葉に呼応するように、氷を背負って舞い降りた鎌鼬がくるると喉を鳴らした。その数一匹に留まらず、要の周りに幾重にも折り重なって戯れる。
うごうごと犇めく肉塊の前で、要は軽く鼻を鳴らした。小動物だと侮る事なかれ。
「お前さんが人々を喰らうというのなら、俺も躊躇うこたねぇな」
食らえ、鎌鼬。
要を捉えんと伸ばされた肉塊は、小さな牙が喰らいつくした。
成功
🔵🔵🔴
レイブル・クライツァ
◎
リーシャを脅しても、怪物が止まる訳がない…観客の声もね。
始めさえしてしまえば、仕掛けは動き続けるのだから
囮面々に奴隷の救助を任せて、叩くわ
客席から妨害がある際は気絶させるに留め、出来る限り急行。
正義なんて、私には似合わない言葉ね。
さて、どうやって解体するか…
口煩いお嬢様の挑発や、調子に乗った放送が流れるなら耳障りだけれども
バラバラになった悲鳴が聞こえる気がして、そう思えば早く解放しなければとしか感じない。
肉塊の重心や、駆動時のバランスを観察し、壊れ易い箇所を巫覡載霊の舞で効率良く裂く。
害をなす存在を壊す為に積んだ知識、奪った重みが自然と身体に染み付いていて
数えることを止めた位、日常だったから
●
ああ、本当。何もかもが目障りな。何もかもが耳障りな。
リーシャを脅しても、あの怪物が止まる筈もない。件のお嬢様は、楽しそうににこにこと燥ぐ商人達を見下ろしている。彼等も彼らで、売り物を喰らい尽されようとしているのに呆れたものだ。
きっと、どうあがいても、あの怪物は息絶えるその時まで動き続けるのだろう。
肉塊はどんどんと成長を続ける。核を探さねば終わらない。
次々と攻勢を繰り広げる猟兵達の一太刀を金色の双眸に収め、レイブルはなぎなたを伴って飛び降りた。囮の救助に当たるには、階下の状況は把握しきれない。悲鳴と、怒号と、恐慌と。轟く悲劇の合唱はレイブルの耳を劈いていく。
それぞれ役割があるように、レイブル自身にも役割がある。囮となって潜入した猟兵はちらほらと見受けられたのだから、彼らに委ねておくべきだ。
「正義、なんて。私には似合わない言葉ね」
ぽつりと零した言葉は、重力と共に肉塊の上へと落下していく身体に置いてかれては空へと溶けた。異様に柔らかい感触と共に、レイブルは肉塊の上へとヒールを立てる。
どうやって、解体するべきか。
分からない。けれど、早く解放しなければ。
ちょんとてっぺんに添えられた男の頭の空虚な洞が、レイブルの顔をじいと見る。垂れた涎と血の跡が、そう時間が経っていない事を物語る。
ああ、嗚呼、奪う為に生きたとて、あまり見たいものではない。
蠢く塊の重心は、レイブルの遥か下方にある。重いものは下に集まって、上にはどうにも子供の部位が並んでいた。
斬り飛ばす。女でも、男でも、子供でも、老人でもない、ごちゃ混ぜになった悲鳴を前に、レイブルの太刀筋に狂いはない。早く、速く、解き放たねば。
す、と斬り裂いた一部。その先に捉えた何かの塊を認めれば、凡そ反射で刃を返した。これは、直感だ。そして人体を識るレイブルは、それが何かを知っていた。
心臓。
覗いた右心房を抉るよに、閃いた刃は奥へと進む。
「ヴ、あァ、アアア……!!!」
身震いというには大きく、身体と言うには不格好な塊が振動する。斬った端から再生し続けていたそれは、レイブルの眼前で不完全に膨らみ、崩れた。
これを人間の核と言うのなら、一人殺したと言うべきか。数えることを止めた過去の日をふと思い出す。あの時も、狙うべきはこれだった。
「……今更、どうだっていうの」
これは人たり得ない。なればそう、斬り裂き心臓を探し出して、すぐにでも海へ送ってやろう。
おやすみなさい、知らないあなた。
大成功
🔵🔵🔵
雪月花・深雨
吐き気を抑える事がやっとなほどに、いきぐるしい…。
まるでここは、空気が残らず血に染まってしまったかのようです…。
けれど、虐げられた人々を救うために、更なる死地に身を投じられた方々がいます。
わたしも、やるべき事を見つけなければなりません。
『お嬢様』は豪華なスペースにいらっしゃるとの事なので、見晴らしの良い外周からであれば見つける事が出来るでしょうか。
そのまま外周を沿って、目立たないよう移動する事で辿り着けそうです。
可能であれば、その区画を【極地】で破壊し、檻と客席を一直線に繋ぐ坂道にします。
そうすることで、怪物への対処を終えた囮の方達が、滞りなくこちらへ迎えるようになる目論見です。
●
いきぐるしい。
胸の奥から込み上げる衝動は、吐き気となって深雨を襲う。抑えても抑えても止まらない嘔吐感は、この空間が齎した。
街に出れば、人々の感情が溶けて騒がしい気配を届けてくれる。イベントの日は特に楽しく弾んでいて深雨の心も釣られて弾む。
森に入れば、澄んだ空気が深雨の肺をいっぱいに満たして落ち着かせてくれる。朝と昼、夜では違う顔が見られるのだ。
空気とは、場所によって違うもの。楽しかったり、寂しかったり、色々だ。
――それじゃあ、ここは?
「おいおい、あっちが優勢じゃないか?」
「なあに、今の内よ。あれは随分と痛めつけておいたからね」
逃げ惑う奴隷を見下ろし嘲笑う男。少年を指差し襲いなさいと指示する女。
まるで、ここは、全てが血に染まり狂っているかのようだ。そうある事が当たり前と抑えつけられ、正気な人間は笑声に喘ぐ。
こわい。おかしい。こんなこと。
一歩二歩後退り、深雨の背中はとんと冷たい壁に触れた。振り返れば、すぐそこに入ってきた入り口がぽかりと口を開けている。
逃げようと思えば、逃げられる。こんな苦しくて辛い空間から、背を向けられる。
――けれど。
わたしは、また、……逃げるの?
紫の双眸は出口に向けられ離れない。浅い呼吸は心を急かす。
一歩、足が進んだその瞬間。迷いなく飛び込む闇色のヴェールが視界の端に閃いた。
息を呑む。あれは、猟兵だ。虐げられた人々を救うために決意した、同胞だ。
他にも既に、自ら死地に身を投じた人たちがいる。運ばれていく猟兵を、檻の中で目が合った猟兵を、深雨は見て来たではないか。
踏み出した足を翻し、深雨は出口へ背を向けた。やるべき事がまだここにある。深雨にしか出来ない事が、ここにある。
歩む足は徐々に早まり、駆け足となって深雨を運んだ。目立たぬように音を立てず、一迅の風となって到達する。
それは、お嬢様の袂。いつまでも隠れていられる保証はない。眼下の肉塊に注目が集まっているとはいえ、対面には大勢がいる。
迷う心を呑みこんで、深雨はきゅっと手に力を入れた。
「えいっ」
惑いを振り切る小さな掛け声。訪れた現象は、そんな些細なものではなかった。
轟、と、風が唸る。単純で重い一撃は、あまりに規格外で客席の一部を崩壊させた。煌めく漆黒は黒曜石だ。滑り台の如くに出来上がった傾斜は随分と粗雑だが、駆け上がるには充分だ。その逆もまた然り。
「な、なに!?」
お嬢様の声が近くで上がる。見上げた瞳がぱちりとお嬢様のそれと出会って、深雨の心が竦み上がる。
「チッ、ちょっと! 早くあれ殺って!」
「畏まりました、お嬢様」
後には引けない。けれど、深雨にだって出来る事はあるのだ。震える身体を叱咤して、深雨はやっとのことで怯えながらもねめつけた。
成功
🔵🔵🔴
有栖川・夏介
◇◎
囮以外として動く
這う怪物、そして『お嬢様』と呼ばれる存在を一瞥して溜息。
……悪趣味ですね。
残念ですが、ああなってしまっては怪物以外の何ものでもありません。
せめて安らかな最期を……。
「……刑を執行します」
処刑人の剣を構え【覚悟】し、『お嬢様』の元へ駆けます。
元凶の排除を優先し、生き残りの救出は他の方におまかせしようかと。
【戦闘知識】や【第六感】をたよりに、敵の行動を予測して攻撃を【見切り】回避します。
襲われそうになっている猟兵の方がいたら、UC【何でもない今日に】を発動させ針を敵めがけて【投擲】し、相手の注意をそらします。
このくだらないショーは、必ずここで終わらせてやる。
●
眼下の攻防を見て燥ぐ貴族。火に油を注ぐような言葉で捲し立てる『お嬢様』。見世物になっているとも分からず、ただ暴虐の限りを尽くす肌色の怪物。
零れた溜息は、感嘆などとは程遠い。
先行した黒曜石の少女の後を追った有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は、お嬢様の指示の元、少女を狙う能面の執事目掛けて臨戦態勢を整える。
狙うは『お嬢様』ではあるが。豪奢なテリトリーを守る眷属の黒服共を伸してからではないと至難だろう。負ける戦を仕掛けるほど愚かではないが、一矢報いんその時は近い。
「……刑を執行します」
元凶であるお嬢様は元より、それを支持する者達を。処刑人の剣が断つに相応しい罪人がレイピアを振り翳したそこへ、夏介の針が飛ばされる。ひとつは側面へ。ひとつは手元へ。放たれた針は同じく細いレイピアの軌道を逸らして縫い止めた。能面の顔が微かに動く。
少女の前へと滑り込み、夏介は執事と相対する。辺りに腐臭が漂い、夏介は微かに眉を顰めた。これもまた、死体か。
「ありがとうございます……」
「ああ、無事なら良かったです」
降りてくる執事の数は凡そ二倍。『お嬢様』に傅いたままの黒服も見られるが、こちらの事を侮っているのか。それとも、この反逆劇ですら、『お嬢様』はショーにしようとしているのか。
「殺して、餌の時間にしてあげましょう」
能面の執事がにこりと形の良い笑みを作ってレイピアを構える。
「給餌がし易くなりましたからね」
「……悪趣味ですね」
傾斜の下方、暴れる怪物が視界の端で蠢いている。あれが食うのは人間であり、ここでいう給餌は、つまり。
奴らにとって、人間とはただの玩具に過ぎないのだ。
弄ばれた命。死してなお、怪物に喰われた後に一部とされる。あれは人間だった者たちだ。
ああなってしまっては怪物以外の何ものにもなれない。人間だった頃の面影などとうになく、誰とも知れぬ肉塊とごちゃ混ぜになって果てるのみ。
せめて、最期だけは安らかに逝ってほしい。
「このくだらないショーは、必ずここで終わらせてやる」
「出来るのなら、――」
開いた口が、大きさ以上に開かれる。いや、開けさせられたというべきか。切断する事に特化した夏介の剣が、それ以上の発言を許さない。
続く言葉の代わり、残る執事が飛び込んでくる。その連撃を躱し、往なし、見極めて、夏介は踊るようにステップを踏む。
「終わらせる、と言ったでしょう」
懐に潜りこむように突きを躱した夏介は、これ以上聞く耳は持たぬとばかりに心臓を真っ二つに斬り裂いた。睨み付ける先に捉えるは、全ての元凶。笑む『お嬢様』の顔が、ようやく僅かに歪んだ気がした。
大成功
🔵🔵🔵
バラバ・バルディ
◇◎囮 1
【WIZ】
「我が友よ、力を貸してくれるかの?」
(血などで汚れてはいるものの、帽子と杖がない他はほとんど普段通りの見た目。檻からひょんひょこ抜け出し、観客席を見回して愉快げに笑い、他の奴隷たちに近寄る)
ほほっ!安心せい、もうすぐ助けがくるからの!……む、信じられぬか?わしの勘はよう当たるんじゃぞ!そうじゃな、例えば……(奴隷を連れて攻撃を避け)――ほれ、のう?ちっとは信じたじゃろ?
さあ皆の衆!あやつらの望み通り逃げてやろうぞ!逃げて逃げて逃げおおせ!今度はわしらがあやつらの間抜け面で高笑いしてやる番じゃ!
(奴隷を『鼓舞』し『オーラ防御、かばう、目潰し』などで救助まで『時間稼ぎ』します)
●
『お嬢様』が思い描く盤上を荒らす猟兵達。核をついた一部の再生は止まってはいるが、複数の人間から成る怪物の核はその数だけ存在するのだろう。
未だ蠢く怪物は、目の前に"餌"があるのに食べられぬというストレスからか見境なく暴れ始めていた。
ひょこりと顔を覗かせたバラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)は、眉を顰める観客もちらほら見え始めた客席を見上げ愉快そうに肩を揺らした。血と埃に汚れてはいるものの、動く分には支障ない。
「我が友よ、力を貸してくれるかの?」
眼前に怪物を見据えたまま、何にもない空間にバラバは呼びかける。真っ直ぐに向けられた金色の双眸が、一度きらりと輝いた。
背には、同じ檻に入れられた、力なき奴隷がぐったりと身体を横たえている。放置すれば、食い物に狂った怪物が見境なく狙ってくる事だろう。それを、転がる少女も理解していた。
伸びた髪の隙間から覗く空色の瞳。折れた翼を背にした天使は、怯えた色を見せていた。
「ほほっ! 安心せい、もうすぐ助けがくるからの」
くるりとバラバは振り返り、少女へ鶏の足のような手を差し出す。しかして少女は怯えたままに手を見つめ、判断に迷っているようだった。
「……む、信じられぬか?」
実際、方々から猟兵が訪れ囮を庇い、怪物を仕留めんと舞い降りてはいるが、檻と肉塊がそれを遮った。少女に見えるものは、荒れ狂う恐怖の塊。少女に聞こえるものは、悲鳴と笑声。
ふむ、と首を捻ったバラバの肩が跳ねる。一歩踏み込み惑う少女を抱えたバラバは、そのままバックステップで檻から抜けた。勢いを落とさぬままに、走り出す。
背を向けていた。にも拘わらず、バラバは感じた。それは殺気とも言うべき気配だ。
つい寸刻前まで居た場所に、肌色のハンマーが振り下ろされた。ぐしゃりと聞くに堪えない音を立て、蠢くそれは潰した筈の贄を探す。
悲鳴が聞こえた。バラバが連れ出さねば、今頃少女も肉塊の一部になっていただろう。
「わしの勘はよう当たるんじゃぞ! 信じてみんか?」
「わた、わたし」
カチカチと歯が当たる。震えは止まらず、少女はただバラバに抱き着く形で信を示した。
確りと抱き寄せ、バラバは笑う。
「さあ皆の衆! あやつらの目論見を挫き、今度はわしらがあやつらの間抜け面で高笑いしてやる番じゃ!」
一人たりとも与えはしない。ヒトは、弄ばれるべき餌ではないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
セゲル・スヴェアボルグ
◎
激痛耐性があるので怪我など知ったことではない。
問題は過剰に取り付けられた拘束具か。
これも調教の一環だとか言っていたが、ずいぶんと念入りだな。
ご丁寧に体の部位ごとに印もつけてある。
バラして売りさばく気が満々だったのようだな。
その上で、価値を下げぬよう、部位を絞って痛めつけてきていたわけか。
余計なことばかりに頭が回りよるな。
まぁ、体は動かせずとも出来ることはある。
剛勇ナル手勢を使い、捕まった一般人たちを安全な場所へと避難させよう。正直、俺自身のことは後でいいが、避難が終わるまではダメージを避けねばならん。一人は拘束解除と護衛のために残しておく。
避難が終われば、後は亜人とやらをタコ殴りするのみよ。
●
怪我など、知った事か。
ギシ、と軋む拘束具は随分と念入りなもので、特殊に制作されたオブリビオン製のものなのだろう。猟兵と言えども破壊するには一癖ある。
断続的に訪れる鈍い痛みにるると喉を鳴らしたセゲルは、身体を引き摺り床を這って鉄格子の傍に寄る。魔術的な要因か、牢獄よりは明るい袂に身を晒せば、自身の状態もよく見えるというもの。
「全く、これも調教の一環だとか言っていたが……」
見ればご丁寧に身体の部位ごとに印もつけてある。成程、御しきれぬ竜人は魚のように掻っ捌いて売り払おうという魂胆か。食肉店でよく見る牛の部位ごとの表記のように、人体に施す様はなかなか呆れる。
そして、全ての部位が食べられぬのと同じように、全ての部位が使える訳ではないのだろう。あるいは、他に比べて価値が低いか。
余計な事ばかりに頭が回る連中だ。売れる所はご丁寧に残しながら、いらぬ部分は体力と気力を奪う為に杭で刺す。
目玉を潰されなかっただけ良しとしよう。竜の瞳には魔が宿るとかなんとか言っていたような。身体は動かせずとも、状況が分かれば対処も易い。
それに、動かせる"手"は未だ在る。
「我が軍勢を以て終わらせてやろう!」
咆える。得意げに釣り上げられた口の端は、セゲルの余裕を示していた。出来るか出来ないか、ではない。やるのだ。そしてやれる自信がセゲルにはある。
と、と一人降り立った。掲げた腕章、顔に影を落とす軍帽、剛毅な肉体。それが手をあげると同時、セゲルの背後で瞬く間に小さな灯が生まれた。その数、ゆうに五十を超える。
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず、ってな」
波が起こるように、光は人の形を取って次々と弾けていく。出来上がった軍隊は、セゲルの手となり足となる。
逃げ惑う奴隷たちの数は多い。各檻に幾人か猟兵が潜入していたとは言え、全方面をフォロー出来るかと言われれば難しい。
彼ら一人一人がすべきは、自らの場に近い者達を救う事。結果としてそれが最適解となる。
故に、セゲルもまた、それに従うだけだ。
眼前の肉塊を眇め、セゲルは笑む。不安が無くなってしまえば、後はこれを叩くのみ。セゲルの広げた手のひらは、次々と怯え震える奴隷達を安全な場所へ導いていく。数多の猟兵が剣と成り盾と成り、彼らを護る事だろう。
「招き入れた事、後悔させてやろう」
あれが懐に入れたのは、決して大人しいものではない。喉笛すらも噛み砕く、猟犬の集まりだ。
成功
🔵🔵🔴
四・さゆり
◎
「随分な眺め、ね。」
木偶の坊に時間を取られた、苛立ちを滲ませて
観客席から眺める悲鳴の舞台、まあ、結構な趣味ね。今なら観客も纏めて殴ってもいいのかしら。
お嬢様にご挨拶に伺うのも良いけれど、残念。
あの死に損ないを黙らせる方が、さき。
ーーーーー
怪物と呼ぶにはあまりにも切ないわね、
こっちよ、こっち。
そこのごはんよりおいしい痛みをあげましょう。
漫ろ雨が赤く咲いて。
かわいい傘たちで気を引けたら良いけれど、それでも籠の鳥達へ向かうのなら、気が向かないけれど、逃げ惑う彼らの盾となりましょう。
何余所見してるのよ、
でも触っていいなんて言ってないから。
あんた、たくさん腕があるものね、へし折る甲斐があるわ。
●
「随分な眺め、ね」
声に籠るは苛立ち。爪先を、と、と、と鳴らしてさゆりは仏頂面で見下ろしていた。
観客席から眺める悲劇の舞台。怪物は次々と獲物を捉え、逃げ惑う人間は陽の光を再び見る事も無く、ぐぽりと開いた肉塊の穴に貪られていく。そんな劇。
なんと、まあ、結構な趣味ね。
灰色の瞳は冷たく貴族と商人たちの旋毛を見下ろす。今ならこの観客たちも纏めて殴ってしまっても良いのだろうか。
赤い傘を握る手に力が籠る。衝動のままに暴動を起こしてしまいたい心を、ゆるり深呼吸するに留めてさゆりは往く。
嘲笑う『お嬢様』にご挨拶に伺うのも良いけれど。
残念ね。今は、あの死に損ないを黙らせる方が、先。
怪物、だなんて軽く言ってはくれるが、それの元を知ればあまりに切ない。だって、同じ人なのに。
「こっちよ、こっち」
黒曜石で出来た傾斜を滑って降りて、少し出っ張る滑り台の最後、さゆりはゆうらりゆらりと赤色を散らせて肌色を呼ぶ。
あちらこちらへ広がる肉塊の、その一部。青と赤と紫のメンタマが、ぎょろりぎょろりとさゆりを見やる。
伸びる触覚に突き出た二本の二の腕は、なんだかナメクジのようで。それならば、雨を降らせてあげましょう。乾涸びぬよう、赤くて、かわいい、雨を。
「よいこね。おいしい痛みをあげましょう」
けれど、肉塊は貪欲だ。さゆりだけに留まらず、足元の奴隷も欲しがった。頭の割れたナメクジは、上へ下へ別れていく。む、と見下ろしたさゆりが見たのは震える少女の姿だった。
自分の身体など、軽々と飲みこんでしまう巨大な肉塊。少女は震えて声も出ず、ただ目を見開いて固まっていた。
「――……へえ、」
不機嫌そうな声が出る。
「何、余所見してるのよ」
わたしが居れば十分でしょう。
何が不満なの。何が嫌なの。それをわたしが許したの。
雨が降る。赤い、朱い、雨が降る。肌色を突き刺し、穴を開けて、地面に落ちる赤い傘。
雫に紛れてさゆりも降りれば、少女の前でこつりと靴を鳴らした。
「さがりなさい」
有無を言わせぬさゆりの声。びくりと肩を跳ねさせた少女は、足を引き摺り素直に声に従った。
貫いた傘は肉塊を細切れにして、ぼとりぼとりと汚い雨を降らせた。
そこへ、ぱっ、と赤い傘が咲く。
雨の日には誰かがそうするように、さゆりが赤い傘を差し、落ちる塊を傘で凌ぐ。
「わたし、触っていいなんて言ってないから」
朽ちた欠片だとしても。肌に、髪に、靴先に、お前から触れる事は許さない。
「あんた、たくさん腕があるものね。へし折る甲斐があるわ」
だから、わたしから触れてあげましょう。赤くてかわいい、傘の雨で。
成功
🔵🔵🔴
アリーシャ・マクファーソン
◇◎
まったく、人が下手出てるからって本当好き放題やってくれて……。
けど、首尾よく檻の中に入れたわね。なら、この傷はその対価として甘んじて受け入れましょう。
吐き気を催す創造物ね……ほんと、奴らは趣味が悪い。
さぁ、檻を凍らせて砕いたのならば、観客たちに見せて上げましょう。
この狂宴の終わりを。
【WIZ】
無数の人の集合体。
きっと斬っても殴っても、次から次へと再生するのでしょう。
でも、私が取る手段は変わらないわ。ただ、あなたの時を止めるだけ。
【血命蒼翼】
他の猟兵が作った傷に翼を撃ち込みましょう。凍ってしまえば、ご自慢の再生もできないでしょう?
奴隷の檻の前に氷の壁でも作っておこうかしら。一応、ね。
●
パキ、と割れる音がした。嵌められた枷が忽ち透明な氷に覆われて、アリーシャの力が染みていく。
鈴が鳴るような音が周囲に満ちた。それは涼やかで清々しく、凡そ血生臭いこの場所には似合わぬ音だった。
「まったく、人が下手に出てるからって、本当好き放題やってくれて……」
そのおかげで首尾よく檻の中へ入れたものの、媚びを売る事を強要してくるものだから不快だ。それを拒めば振るわれた鞭が、アリーシャの肌を赤く染めていた。
時折痛む、が。この程度。対価として甘んじて受け入れよう。
舞台の中心地でアリーシャは亜人を見やる。先ほど高々と宣言した『お嬢様』とやらが作り出した、人から出来た人ならざる者。吐き気だけが込み上げる。趣味の悪い創造物だ。
さて。舞台に登らせて貰えたなら、後はエンディングに向けて駆け抜けるだけ。
触れた鉄格子は枷同様に霜で覆われ氷と化す。アリーシャがそうと指を這わせて握りこめば、途端に全てが砕け散った。
「存分に見ていきなさい」
赤い瞳が氷点下の温度を宿す。見る者全てを凍らせるような、血の色にも似た宝玉の双眸が舞台を見やる。
一瞬散るは暗い赫。瞬きの間に、それは凛と高い音を立てて翼と化した。広がる翼は自由への道標。
「この狂宴を終わらせてあげましょう」
その第一歩を踏み出して。
血を垂らし、なおも再生を続け、亜人は濡れた音を立てながら肥大していく。再生の止まった箇所は数あれど、取り込んだ命の多さが完全停止を許さない。
斬っても裂いても殴っても、それは次から次へと再生する。けれど、アリーシャの選ぶ手段は揺るぎない。
「簡単な事よ。あなたの時を、止めるだけ」
また一人、薙刀を振るい傷を作る。そこへアリーシャの作り出した透明な羽根が突き刺されば、みるみるうちに氷が肉塊を覆い尽くして喰らっていく。ぼこり、湧き上がる肉を押し留め、不可思議に脈打つ様だけを映し出した。
どくり、どくり、生きている証が氷の奥で脈動する。
「しぶといのね、あなた」
それは生きたいと足掻く人間の心なのか。本能だけで生きる亜人としての生きざまなのか。
どちらが正しいのか、アリーシャには分からない。ただ、出来る事は。
「さようなら」
凍てつく氷を以て、海の果てに送るだけ。
成功
🔵🔵🔴
皆城・白露
『お嬢様』だかなんだか知らないが、すぐ引きずりおろしてやるから、そこで待ってろ
(他猟兵との絡み・アドリブ歓迎)
囮側の猟兵と協力
非猟兵の奴隷を守り、可能なら逃がすように動く
負傷は【激痛耐性】で耐える
さっさと突破して元凶を叩きたい気分だが
この『亜人』とやらを放っておいて他の奴隷が襲われるのは見過ごせない
【ブラッド・ガイスト】使用で黒剣を爪状に変化させ
【カウンター】【2回攻撃】も駆使しひたすら叩く
潰れるまで殴れば潰れるだろう
『亜人』に対し容赦や躊躇はしない
(実験か、戯れか、…救えなかったヒト、か。酷い結果はお互い様だな
これが救いだなんて言わない
恨み言は、いつかオレが逝ったらいくらでも聞いてやるよ)
●
なんだか喚く声がする。最初に高らかに宣言した女の声のような気もするが、近くで脈動する肌色の、幾重にも重なる心臓の音がより煩く耳に届いた。
「こっちだ」
転げる人狼の男の腕を引き、氷の盾の後ろへと放る。氷姫が作り上げた壁は、暫し安全地帯となるだろう。
殴打の痕が地を駆ける度に鈍痛となって訴えかける。呼吸をするたび、ヒビでも入ったか、あばら骨が微かに痛んだ。白露はそれら全てを耐え忍ぶ。
狙うべきは、全ての元凶である女だ。『お嬢様』などと呼ばれてはいるが、オブリビオンで悪趣味な奴には変わりない。
今すぐにでも喉笛に噛みついて、引きずりおろしてやりたいものだが、眼前で猛威を振るう『亜人』を放っておいたままでは他の奴隷が犠牲となるだろう。
解放してくれ、と言っていた。それは何も、この世界からではなく、この世界から蔓延る悪からだ。放っておいて食われるなんて、本末転倒もいいところ。
見過ごせない。全てを護り、亜人を喰らい、元凶を地の底に叩き落とす。――そうすれば、自分にも意味が生まれるかもしれないから。
振るわれるたこ足のような肉塊を跳ねて躱し、逆ベクトルに再び跳ねて肉の上に着地した。ぐにりと柔い感触が、裸足に直接伝わってくる。
代償を必要とする剣よ。血なら存分にくれてやる。力を、爪を、齎さん。
「……救えなかったヒト、か」
白露の血を吸い上げて、黒剣は禍々しい爪へと変化する。白露の眼前、昏い眼窩が覗く誰かの顔と相対してややに瞼を落とした。
実験か、戯れか。至る先は、互いに酷い結果だ。自嘲する心が微かに笑みを象る。
「潰れろ」
力が解き放たれた黒剣は今、全てを切り裂く爪となる。落とされた鉤は頭を潰し、肉を裂き、内側に食い込み繊維を千切った。続く一撃は再生するよりも疾く。潰して、潰して、潰して、動かなくなる果てまで、繰り返す。
これが救いだなんて言わない。それを決めるべき人間はもう既にこの世になく、こちらから押し付けるのは単純なエゴに過ぎない。
だから、これは自分の為。恨み言は、いつか逝った時にでも、満足するまで聞いてやろう。
成功
🔵🔵🔴
シャルロット・クリスティア
◇◎★
【SSFM】
囮3
寒い…痛い…。
こんな、勇んで来ておいて…花雫さんにユアさん、灯さんまで巻き込んで、自分だけなにも出来ずに見てるだけなんて…。
こんな痛み、我慢しなきゃいけないのに…皆の痛みに比べたら…!
逃げないって、【覚悟】を決めたんです
もう、見殺しなんて…絶対に、嫌…!
今度こそ、救うって決めたんだ…だから…!
(真の姿:光り輝く戦旗を装備、槍のように扱う。他の外見変化は無し)
奴隷の皆さんを背に立ち塞がり、近づく怪物をなぎ払う。
離れすぎないように、襲われそうになったらすぐに飛びこめる距離を保ち、
そのまま脱出する皆さんの殿を維持、【援護】と【時間稼ぎ】を。
必要なら身を挺してでも守ってみせる…!
霄・花雫
◇◎
【SSFM】
囮2
痛くて、怖くて、泣きたくないのに涙が出そうになる
熱帯魚の自分には冷水は寒すぎて、震えが止まらない
でも、シャルちゃんの方がきっともっと怖いしもっと痛い
あたし、おねーさんなんだもの
まだやれるの
まだ出来るよ
みんな奥に逃げて!早く!
【パフォーマンス、誘惑】で奴隷達の恐慌を落ち着かせようと、声を張る
声、震えてないかな
大丈夫、大丈夫大丈夫
だって灯くんも来てる
ユアさんもいる
あたし、どうせ元から武器なんてろくに持ってないもん
大丈夫、動ける、動いて!
姫ねぇさま!
風の精霊姫を喚び出して、切り刻む鎌鼬を起こすよ【全力魔法】
【誘惑、挑発】で敵を引き付けて、【野生の勘、第六感、見切り】で回避
ユア・アラマート
◎◇
【SSFM】
客席
気づかれていたか。まあ、いい。奴隷側にも猟兵がいると分かっているのかいないのか、どちらにしてもその余裕が命取りだ
行くぞ灯、シャルと花雫なら大丈夫だと私は信じる
信じるが…出来るだけ早く合流できるようにしよう
『お嬢様』を目指して進行
【全力魔法】【高速詠唱】【先制攻撃】【2回攻撃】を駆使し、妨害をしてくる怪物は花片で速やかに切り刻み、沈黙させる
敵からの攻撃は【見切り】で回避し、できるだけ足は留めない
観客席の一般人が進行の邪魔になるようであれば、容赦なく蹴り飛ばして道をあけさせる
邪魔だ。死にたくないならさっさと消えろ
痛みがほしいなら、ここでじっとしていればいい
やれやれ、気分が悪いな
皐月・灯
【SSFM】
客席
やっと出番か……。
ったく……どうなってんだ、オレの知ってるヤツらは。
無茶な女ばっかりかよ。
わかってる。どっちも自分の意思で檻に入ったんだ。
……怯えて縮こまるようなヤツらじゃねーよ。
花雫、シャル……その無茶、通せよ。
『お嬢様』を引き摺り出してやる。
観客席を抜け、最短ルートでヤツの元に急ぐぞ。
邪魔する怪物は【先制攻撃】で、
【全力魔法】【属性攻撃】の《焼尽ス炎舌》を叩き込んでやる。
再生能力? なら永遠に焼かれてろ。
必要以上に構わず突破を優先する。
攻撃は【見切り】で回避だ。
観客席の一般人?
邪魔するなら容赦なくブッ飛ばす。ああ、容赦なくだ。
……ユア。とっとと終わらせて、アイツらと帰るぞ。
●
「やっと出番か……」
息を潜め、静かに静かにその時を待っていた。
「ったく……どうなってんだ、オレの知ってるヤツらは」
「行くぞ灯、今更だろう?」
「……あーくそ、無茶な女ばっかりかよ」
奔る。皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)の呟きは、風に攫われて後に溶けた。邪魔な観客どもは今、様子がおかしいと疎らに席に散らばっている。前のめりになっていればよかったものを、少しずつ逃げ出し始めているのだ。
その内の一人が、潰れた蛙の様な声を出して跳ね飛ばされた。灯が見やれば、ユアが丁度進行の邪魔だと蹴り飛ばしたところらしい。
それを諫める事はしない。灯の目の前にいたのならば、今度は灯が蹴り飛ばす番だ。
駆ける、進む。『お嬢様』も身の危険を感じ始めたか、至るには少々邪魔がいる。いつの間に増えたか、執事の姿が大量に『お嬢様』を取り囲んでいた。
やれるなら、一矢報いたいところだが。
瞬間、響く轟音。揺れる会場。一瞬地震が起きたかと錯覚させるような縦揺れが襲い、ユアと灯の足を強制的に止めさせる。転ぶような無様はしないが、その震源地に視線は移った。
「「「ギャ、アァ、アアアア"ア"!!!!」」」
赤子が泣く声にも似た悲鳴が鼓膜を打つ。潜入した猟兵により刻まれ、潰され、命を刈り取られようとしている怪物の決死の足掻き。
「灯」
ざり、と灯の足が中央へ向いたのを見咎めユアが呼ぶ。
「シャルと花雫なら大丈夫だと、私は信じる」
「わかってる。オレだって……」
けれど、どんな仕打ちを受けたか分からない。探すには人が多く、皆似たような恰好をさせられているものだから区別もつかない。じっくりと見渡せば、その姿を見付ける事も出来るだろうが、時間が惜しい。
唇を噛み、足を踏み出す。一歩を先に行ったのは、灯だった。
「どっちも自分の意思で檻に入ったんだ。怯えて縮こまるようなヤツらじゃねーよ」
だから。花雫、シャル……その無茶、通せよ。
胸の内で呼びかけて、灯は未練を断ち切った。
ふ、と。そんな仲間の背中を見守って、誰よりも年上の女が形の良い唇を微かな笑みで飾った。
●
痛い、痛いいたいいたい……!
身体が震える。体温が上がらない。危険域まで落ち込んで、心臓だけが生きたいとドクドク音を鳴らしていた。
痛くて、怖くて、泣きたくないのに涙が零れ落ちてしまいそう。
冷たく体温を奪う水は、シャルロットにとっても、花雫にとっても、絶望のしるべでしかなかった。あまりに冷たい水は両者の心を蝕んで、じわりじわりと闇へと引き摺る。
寒い。ただただ寒くて、そのまま凍えて死んでしまいそうだ。
「は、……あ、うう……」
こんな、勇んで来ておいて。結局何もできずに仲間を巻き込んで見てるだけだなんて。
手足の感覚が戻ってこない。立ち上がろうとするシャルロットの心を、暗く冷たい檻の記憶が悪戯に蝕んでいく。
こんな痛み。こんな苦しみ。捕らえられていた奴隷達や、同じく潜入した仲間達、皆の痛みに比べたら、我慢しなきゃいけないのに。
怖い。痛い。逃げ出したい……。
それは花雫も同じだった。
けれど。けれど、花雫は、ひとつの矜持に縋り付いて立ち上がる。まだやれる。まだ出来る。
震える足を引き摺って、花雫は逃げ惑う奴隷達を視界に収めて喉を震わせた。
「みんな、奥に逃げて! 早く!」
シャルロットの眼前、声をあげる花雫。ああ、同じ目に合って、花雫はああも立派に立ち振る舞う。
花雫の声は微かに震えて聞こえはするけれど、それでも、自らの足で立って猟兵たる生き様を見せていた。
大丈夫。花雫は繰り返し繰り返し唱える事で、心を奮い立たせ声を張る。少しでも恐慌が落ち着くように、自分は冷静で凛々しくあらないと。
それに。ちらと客席を見やり、花雫にとって頼もしく輝いて見える二つの影を視界に捉える。
灯くんも来てる。ユアさんもいる。
大丈夫。なにより、あたし、おねーさんだから。
――嗚呼。
私、このまま何もできないの。逃げないって、覚悟を決めたのに。もう、見殺しなんて、絶対に……!
ぽたりと、シャルロットの青い瞳から雫が零れる。微かな光を灯した珠が冷たい地面に触れ、弾けた。
刹那、――光が溢れ出す。
今度こそ、救うって決めたんだ……だから!
掲げられるは勝利への羅針盤。光り輝く戦旗を翻し、シャルロットは息を吸う。
逃げない。目を逸らさない。だって、私に出来ることが此処に在る。
「守ります。絶対に!」
光の粒子を軌跡に残し、シャルロットは蹲る少女に迫る亜人の不格好な手を打ち払う。誰一人として触れさせず、全てを救う聖女となるのだ。
飛びだしたシャルロットの背を見付け、花雫は目を瞠る。不安は一瞬、その手に掲げた輝く戦旗を見付ければ、悲しいような悔しいような、言葉に出来ない感情が胸を締め付けた。
手を伸ばす。いつもの日常にきっと戻れることを願って、花雫は震える身体を叱咤した。
「姫ねぇさま!」
しゃん、と涼やかな音が鳴る。次いで起こる風は音に反して荒々しく、抱く感情を示すようだ。いつもよりも強かに、それでも優しく肌を打つ。
「大丈夫」
精霊姫の温かな風に包まれて、花雫は困ったように微笑んだ。泣きそうになる心を呑みこんで、花雫は一歩を進む。
「あたし、おねーさんなんだよ? シャルちゃんだけに、背負わせるわけにはいかないもん」
ほら、こっちにおいで。
数多の瞳を持ち、数多の口から苦鳴を零し、がむしゃらに暴れる悲しき怪物。
小さな熱帯魚すらも食い尽そうと伸ばしたベージュの網は、放たれた傍から切り刻まれた。
どうすれば止まるのか分からない。だから、躱して刻んで引きつけて。圧倒するしか手段を知らない。
もうすぐ、きっと、来てくれる。
それまでに、やれることを尽くすんだ。二人で。
●
吹き荒れる。精霊姫が齎す風とは全く別の、肌を切り裂く花びらの吹雪が舞い踊る。
「邪魔だ」
件の『お嬢様』に近付くにつれ、ユアと灯の進路を塞ぐ者も増えた。先行していた猟兵達は多勢に無勢と判断してか、前線をわずかに下げていた。合流し、突破口となるべく二人は突き進む。
そこへ落とされる黒い影。
「ユア!」
警鐘に、ピンと立つ耳が反応した。
一歩遅ければ巻き込まれていただろう。ユアの眼前、肌色の壁が立ち塞がる。客席だった場所を崩壊させ、餌が足りぬと身体を伸ばした怪物がとうとう身を乗り出した。
ぱちりと開かれた青い瞳が、緑の双眸と相対する。ふっと過った二人の青色が、一瞬心に不安を籠らせるが、ユアの振るう刃に陰りは一切ない。
「やれやれ、気分が悪いな」
仲間が食われてしまったのだろうかと、僅かでも思ってしまった自分に自虐を込めて吐き捨てる。
瞳ごと、その身体を削ってしまおう。
銀の花吹雪は触れたものを貫き抉って細切れにする儚き刃。綺麗だと、見惚れている間にその命を奪う絢爛な花。
往かねばならぬ。こんな悲劇をショーとして、人命を弄ぶ『お嬢様』に対価を支払わせるために。
チリ、と頬を炙る熱。
普段よりも熱く身を震わせるその業火は、宿主の心を反映したか。
幻釈顕理「アザレア・プロトコル」。往く道を邪魔するというならば、全力を以て排除しよう。
拳を覆う紅蓮の炎。火の精霊サラマンダーが操るにも似た、けれどそれより極上の、焼き尽くす赫を与えよう。
触れた、――刹那、抉られるように人ならざる者の身体に穴が空く。肉のトンネルは業火で焼かれ、焦げた臭いで充満した。
再生の仕組みが残る身体は緩やかに元へ戻ろうとするが、それを業火と銀燐の花が許さない。
三色の瞳が、『お嬢様』の姿を捉えた。
「とっとと終わらせて、アイツらと帰るぞ」
「全くだ」
そうして皆で、温かい飲み物を飲もう。マーヴェリックはいつだって彼女らを迎え入れてくれる場所なのだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
ショコラ・リング
◇◎★
例えどれほどこの身が傷付き血が流れようとも、救うべき者がいる限りボクは何度だって立ち上がるのです
息をするだけで痛む身体に手足の感覚も無く失血で視界が霞む満身創痍の中、祈りを捧げ【神威】を使用し真の姿となり怪物と戦います
高速移動と光で翻弄し気を引き付けながら護るべき人々に当たらない攻撃は避け、当たる攻撃は自分の身体で受け止めるのです
怪物もまた犠牲となった方々……この場で終らせる事で苦しみから解放し救う事ができれば
怪物を解放し人々の安全を確保出来たらお嬢様戦用に上の方々と合流する為、可能ならば破壊した檻の棒を壁に撃ち込み猟兵達が登る足場としてみます
無理ならば人々の護衛をしながら避難誘導をです
●
例えどれほどこの身が傷付き血が流れようとも、救うべき者がいる限り――――。
息をするだけで痛む身体。手足の感覚はとうに無く、足元を濡らす血はあまりに多い。失血による眩暈は視界を歪ませ、世界は昏く沈んでいく。
ここまで酷い仕打ちもあっただろうか。商品にするというなら、こんな傷では価値もないだろうに。
けれど、人体ですら臓物を抉れば金になるという。
こんな所に連れて来て、人前に引き摺りだして、そこで仕留めた出来立てほやほやの死体。血も、臓器も、何もかも、新鮮なまま。きっとそうやって売ったのだろう。
ショコラよりやや遠く、中心地で暴れる怪物とショコラを交互に見やる女の影。庇った彼女は無傷でこの地に降り立った。
それで良い。ボクは守り人で、守るべき人が傷付かずに済んだのだから。
――嗚呼、でも、まだこんなにも脅威が近くに潜んでいる。
だから立たねば。冷たい足を叱咤して、力の入らぬ手を伸ばし、鉄格子の奥、何者も喰らう怪物を終わらせるため。
此処に祈ろう。全てを解放するために。
「捧げしこの身」
煩い鼓動がどくりと脈打つ。頭が、脳が、神威と共に焼けるような痛みを伴う。
「この命を以て」
軋む音。牢の床を突き破り、新緑が芽吹いていく。
「――御身の代行者たらんことを許したまえ」
一瞬眩く煌いた光は、『亜人の檻』全体を包み込む。神聖なる光は、ショコラが救いたいと願った者を癒し、ショコラが敵と見做した者を焼き尽くす。
唸り声が轟いた。それは人肉ゼリーに生えた唇全てから、悲鳴と恐慌が発せられたものだ。焼き尽くす光に悶え、苦しみ、のたうち回っては生き延びんと再生を繰り返す。
その挙動も、気付けば最初の頃の勢いはない。少しずつ、鈍足ではあるが滅びの道を歩んでいるのだ。
「この身この命にかけて、救います」
怪物もまた、犠牲となった人々の塊だ。此の場で終わらせることが、ショコラに出来る唯一である。
護る力を以て、力なき人々を悪しき者から救うべく。
貫く力を以て、苦しむ人々を悪しき者から救うべく。
「苦しかったでしょう。いま、解放してあげます」
吾は全てを救う者也。
ふ、と消えたショコラが現れたのは亜人の手前。慈愛に満ちた視線が向けられ、撫でるように亜人に触れた。
光に溶ける。
再生する間もなく、全てを海へ。聖なる光が安らかなる眠りへと導いた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
✼アドリブ等歓迎
「あんなのに、食べられたくはないよね」
だって僕はまだ
君に想いすら伝えてないんだから
檻の中から抜け出して
「泪の歌」を歌う
歌って癒し励ます
僕自身はともかく少しでも調教で傷ついた皆の傷を癒して動けるようにして奴隷達を救う
1人でも多く
その為に来たんだから
抗う術を、あれから逃げられるように、戦えるように
生きるために
【野生の勘】で行動を察知して【空中戦】で躱して
けれど周りは塀だ
「やっぱりあれを倒さなきゃダメなのか……」
牙も爪もない己が恨めしい
あるのは歌だけだ
だから歌う
「魅惑の歌」は時間稼ぎ、それでもないよりはましだろう
戦う者がいればその支援になればいい
――遅いよ、櫻宵
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)を助けに
アドリブ等歓迎
必死の歌を聴いた
奴隷達を助けようと歌い癒すあの子の姿
あたしのリルが
愛しいあの子が
あんな檻の中に
商品、奴隷、見世物――ゆるさない
リルをそう扱う全てを
傷つける全てを許さない
皆殺しにしてやるわ
首が胴体についたままここから出られると思わない事ね
距離はあるけれど
ダッシュで駆けて空中戦で飛んでリルの元へ
鶱華を纏って駆けつける
どうか、間に合って
可愛い王子様のピンチだものお姫様だって頑張るわ!
リル、迎えに来たわ
こんなとこにひとりで…馬鹿
怪物をなぎ払い
衝撃波で吹き飛ばして
傷を抉り何度でも死ぬまで殺すまで
食べた分生えてくるのかしら
これを斬って
皆を逃がせる突破口を作るわ
●
ぼたりぼたりと肌色のぬめった雨が降る。猟兵達の手により千切れ、潰され、核を壊され早四十。それでもなお動くというのだから、どれほどの人が犠牲になったかなど計り知れない。
時折肉片から天使の羽根が、狼の尾が、宝石の目玉が、透き通った翼が、蕩けた腐肉に紛れて落ちて来た。
檻から抜け、歌を歌い続けるリルの傍に、ヒレの耳が墜ちてくる。足元で震えていたキマイラの少女が悲鳴を上げ奥へと逃げた。
「あんなのに、食べられたくはないよね」
謳うように、言葉を紡ぐ。リルの表情に疲れが見えるが、なおも歌う事は止めなかった。
一人でも多く傷を癒し、一人でも多くこの檻から救い出す。そのために来たのだから。
僕自身はともかく、と思いながらも、千切れ細分化していく怪物を前にリルはややに目を伏せる。
まだ、君に想いすら伝えてないんだから。こんな所で、終わりを迎える訳にはいかない。
――ああ、けれど。
「やっぱり、あれを倒さなきゃダメなのか……」
目と目が合ったと同時、跳ねたリルの元へ肌色の網が投擲される。地面へべちゃりと伸ばされると同時、蠢き小さな怪物となった。
生きる為。逃げる為。戦う為。勘に頼りながらやれることを尽くすけれど、聳え立つ壁はあまりに高い。要所要所に登れるように細工を仕掛ける猟兵はあるが、そこに辿り着くまでを遮る肉塊が邪魔だ。
リルには牙も、爪もない。今だけは、それが恨めしい。
息を吸う。自分の取柄は歌だから。自分にあるのは、歌だから。
「僕の歌を聴いて」
澄み渡る透徹の歌声は本能のままに動く肉塊によく通る。耳が多くついているものにはより効果的に染みていく。身に着けた歌唱力がその効力を後押しした。
天に、骸の海に行く前に、最期に聞いた声がこれならば、少しは救われるだろうか。
リルは歌う。救いを欲する者へ癒しを、力を欲する者へ支援を、餌を欲する者へ蕩ける音色を届ける為に。
●
歌を聴いた。必死の歌を聴いた。
奴隷達を助け、猟兵達を後押しし、出来る限りを尽くそうと天へも響くあの子の姿。
ああ、嗚呼、あたしのリルが。
愛しいあの子が、あんな檻の中に。
今や悲鳴と恐慌に呑まれた観客席で、姿を探し続けた誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)が愛し子の姿をようやく捕らえた。
商品、奴隷、見世物――そのどれもがあの子を人間以外の"物"として扱う事であり、櫻宵はそれを許さない。あの子をそうと扱うすべてを、傷付ける全てを、許せない。
「皆殺しにしてやるわ」
胸を占める憎悪と苛立ちは言葉となって零れ落ちる。近くに居た貴婦人が悲鳴を上げたがお構いなしだ。それどころか、この女はあの子をそうと見下ろした人間なのだから、今すぐ首を飛ばしてしまっても構わない筈。
屠桜。ねえ、その首を頂戴? ――なんて、紅い血桜を散らしてしまいたい気持ちを抑え、櫻宵はぎりと奥歯を噛み締める。
全ての首を飛ばしたい。逃げられる前に、全員を。一人残らずここから生きて出る事を許せはしない。
けれど。
あの子の歌が響き渡る。そうしてふっと途切れる度に、櫻宵の心は騒めくのだ。助けなければ。あの子が食われてしまう、その前に。
一歩、二歩、後退る。腰を落とし、幅を計算し、櫻宵は思いきり駆け出した。踏み切る足は、客席の柵を踏みしめて。
「――リル!」
●
血色の桜吹雪を纏い、櫻宵は宙へ身を晒す。
恰好の的、なのだろう。構うものか。可愛い王子様のピンチだもの。お姫様だって頑張る時。
「――……遅いよ、櫻宵」
青色の瞳が細められ、リルは泣きそうにゆらりと笑む。
「ごめんなさい。迎えに来たわ、リル」
二人の再会を遮るは、お椀のように口を開いた肌色の怪物。とくりと跳ねる心臓を晒し、櫻宵を取りこんで再生せんと獲物を狙う。
そんな事、読めていた。
口に横一文字の線が引かれる。ぴ、と微かな血飛沫をあげ、――刹那、赤い菊が咲き誇るように血が噴き出した。
吹き荒れる花は千万の。屠桜が生み出す血色の華。
最後に血の花を吹き飛ばし、お姫様は王子の元へと舞い降りた。
「こんなとこにひとりで……馬鹿」
「ふふっ、今度は僕がごめんなさい、だね」
歌を止め、櫻宵へ向き直るリルは、気が抜けたのかこほりと咳き込んだ。檻の中で、檻の外で、ずうっと歌い続けた人魚は自らを省みない。櫻宵が心配そうに身体を寄せて覗きこむがリルはただ大丈夫だと述べるばかり。
そして、再会を喜ぶ暇も、そう長くは続かない。
濡れた音。這う影。未だ動く肉塊は、生きるために獲物を探す。
花霞が細められ、櫻宵は再び刃を向けた。
「食べた分生えてくるのかしら」
終わりがどこにあるかは分からない。けれど、動かぬものも数多く見られるからには、終わりない戦いではないのだろう。
それならば。抉り、斬り裂き、何度でも。これが死んでしまうまで、殺し尽せばいいことだ。
「櫻宵」
名前の後に紡がれる歌。リルの歌は櫻宵の心に容易く沁み込み、奮わせる。
「ありがとう。――もう、何も奪わせないわ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
依世・凪波
◎◇【檻の中】囮3
心身共にズタボロ
調教による恐怖と蹂躙で立てず無数の目を前にすると
恐怖が甦って震えも止められず涙目
怖、い… やだ、あっち、いけよ!!
迫る危機には本能から『逃げ足』で這い逃げ滲む血の跡を残す
果敢に立ち向かう仲間の姿に涙を溢しつつ
お、れ…俺、だって、猟兵…なのに…っ…
恐怖で逸らしそうになる亜人の姿を見ては震え
それでも『野生の勘』で感じる再生の何かないか見つめる
亜人に立ち向かう事出来ずとも出来る何かを必死に考え掠れる声で
胸元を掴んで仲間を想い必死に歌【シンフォニック・キュア】を紡ぐ
猟兵と異なる囚われ人が危険になれば無我夢中で『かばう』
おれ…も、りょ、へぃ…だから…だい、じょう、ぶだ
●
破壊音が響く度、凪波の肩はびくりと跳ねた。
近くの鉄格子が軋む度、凪波の口から悲鳴が零れた。
調教による恐怖と蹂躙は、凪波に深く深くトラウマを根付かせ、見せない枷で縛りつける。ずりずりと地を這い獲物を探す肉塊に植え付けられたいくつもの目が凪波の前に現れれば、数刻前の情景がフラッシュバックして震えあがる。
ぽたり、涙が零れ落ちて足元を濡らした。
よりにもよって、凪波に迫るは目が複数ある肉の塊。幾つもの目がぎょろりぎょろりと彼方此方へ向けられて、時折凪波を見ては近くの唇がケタケタ笑った。
怖い。暗がりで笑う色とりどりの双眸が、凪波を見下ろす幻覚を見た。
「ひっ……やだ、あっち、いけよ……!!」
自身よりも倍近くはある亜人の欠片。これでも千切れたうちの一つではあるが、少年一人を飲む込むには充分だ。
ずろりと肉塊が近付く度、凪波は本能からせり上がってくる恐怖に急かされ這い逃げる。血の跡が冷たい牢の床を飾り立て、錆びた鉄の臭いを籠らせた。
迫る巨大な影の後ろ、鉄格子の向こうから、猟兵達の勇ましい声が届いてくる。逃げろと呼びかけ、歌で励まし、怪物を仕留める多くの猟兵。
それに比べて、俺は。
ぎゅうと胸が締め付けられ、目尻から涙が零れ落ちる。
「お、れ……俺、だって、猟兵……なのに……っ」
迫る亜人の姿を見ては、埋められた瞳と目が合い逸らしてしまう。心を奮い立たせるたびに亜人を見やり、震え、逸らす。繰り返し、繰り返し。
瞳のない部分を見つけ、そちらの方へ視線をやれば、むき出しの心臓が鼓動していた。ああきっと、あれが再生をつかさどるものなのだろうと感じはすれど、凪波には今、手を出すすべも力もない。
誰か。誰か――。
「ちが、う……。おれ……も、おれも、りょ、へぃ……だから」
誰か、じゃない。逃げ惑うだけなら、仲間の足を引っ張るだけだ。だから、自分に出来る事をしなくては。
どくりどくりと上下する胸元を掴み、凪波はひゅっと息を吸う。掠れた声はなかなか旋律を紡げはしないが、それでも懸命に歌を歌う。
奏でるは、癒しを齎す歌。
這い逃げながら、凪波は近くの者達へと歌を届ける。必死にもがくその姿は、とうに生きることを諦めた人々の心を確かに動かした。
成功
🔵🔵🔴
ユハナ・ハルヴァリ
◎囮
損傷はUCで補う
目がひらくなら
意識が持てるならそれで充分
傷も何もかも、支障があるなら魔術で編んだ氷で繋いで塞ぐ
声が尽きたら僕の魔力は底が見えてる
だけど、元締めまで保てば構わない
─反転。
動く腕に氷纏わせ、剣とする
開いた檻を出て怪物へ一直線
他へ襲い掛かる前に引き寄せて潰そう
【誘惑、おびき寄せ、二回攻撃、早業】で気を引いて
魔術核、心臓の様なものがあるんじゃないかと
魔力を通して探ってみる
アタリが付いたら氷の針で味方へ示して
【捨て身の一撃、全力魔法、範囲攻撃、属性攻撃】はここぞの時に
声は出ないけれど
代わりに、戦えない子たちへ牙が向くなら庇って動く
大丈夫って、言ってあげられなくて、ごめん
でも、守るから
●
目が開くなら、意識が持てるなら、それで充分。
痛めつけられた傷は、ぱきりと魔術で編んだ氷で全て塞ぎ込む。血の代わりに咲いた透明な花は、内側からじわりと微かに赤で彩られた。
最後に、咽喉を氷で焼いてユハナは見下ろす。
声が、力そのものだった。声が尽きたら、ユハナの持つ魔力は底が見えている。湧き水から出来た小さな泉。元を塞がれればどうなるかなんて、自明の理だ。
だけど、元締めまで保てば構わない。
自らの身を顧みず、ユハナはひゅうと空気を通す。呼吸出来るだけマシだ。はくりと動いた唇は、「反転」の言葉を象った。
白い肌を荊が這う。どくりと心臓が大きく脈動し、ユハナの全身に激痛が走る。声が出ないだけで、こんなに反動があるなんて。命じる声がないのなら、荊棘は抑制なく縦横無尽にユハナを蝕む。
肩で息をし、胸元をぐしゃりと握って、ユハナは静かに目を閉じる。侵食は最後、心臓に至り完成する。
変わり果てたその姿。鮮烈な青を双眸に宿し、年相応の背格好に成ったユハナはゆらりと前に傾いた。
一歩、踏み出した足元、床に氷の花が咲く。
二歩、伸ばした腕に、氷を纏わせ剣と為す。
三歩、飛び出す檻の向こう、怪物へと一直線。
細切れのそれらすべてをおびき寄せ、その全ての核を狙う。こういったものには凡そ心臓部が存在しているとユハナは踏んでいた。そして、それは正しい。
誰よりも的確に、誰よりも多く心臓を潰して、ユハナはコロシアムに踊る。と、と軽く地を踏めば、癒す歌声へ迫る多眼の亜人へと氷を突き立てた。
――大丈夫。
そう、言えたなら良かったのに。ごめんね。でも、守るから。
声が出たなら、もっと安心させられただろうか。声が出たなら、もっと素早く仕留められただろうか。
けれど今、求めても得られないものだから、ユハナはやれる全力で応える。この姿を見て、奮い立つ者があればいい。
おやすみって、言ってあげられなくて、ごめん。
元は人だった、人ならざる者達へ。一撃で核を仕留める事を、海へと至る餞としよう。
成功
🔵🔵🔴
結城・蓮
くっ……ここが「売り場」か?
いずれにしろ、ここからじゃ救助には行けないな……!
頼む、生きててくれよ……!
殺傷力を持ったトランプを錬成し、怪物へと放ちながら『お嬢様』とやらの所へ急ぐ。
……先程奴は、自らをリーシャちゃん、と名乗っていたな?
だとすると奴は、『リーシャ・ヴァーミリオン』か……強敵だな。
しかも相棒もいない、か……。
しかし、だからといって臆する訳にもいかない。
邪魔は、しないでもらおうか!!
他の仲間が突破に苦しんでいる場合は、自分の突破に影響ない範囲でサポートする。
ボク一人で勝てる相手じゃないのはわかっている。
だからこそ、必要なら助け合い、手を貸す必要があるんだ。
間に合ってくれよ……!
●
ああ、やはり。
ぽかりと開いた肉塊のトンネルの先、見えた『お嬢様』の顔を確りと認め、蓮は予測が正しかったことを悟った。
リーシャ・ヴァーミリオン。
鮮血槍を繰り、人を人とも思わぬヴァンパイア。今はややに追い詰められ、苦虫を噛み潰したような表情を見せてはいるが、まだ彼女自身の"爪"は出されていない。
「もう! 亜人ちゃんは役立たずだし、蛆虫は次々湧いてくるし! なんなのよ!」
苛立ちに言葉を荒げて、『お嬢様』ことリーシャは傍らの執事の首を握りこむ。
「お嬢様」
「うるさい、役立たず」
ぐしゃりと潰れる音と共に、噴き出た血がリーシャを彩る。白く美しい、しかしどこか可愛らしさも持ち合わせた美貌の肌にぱたぱたと血の化粧が施された。
「相手したげる。あんたたちも、直ぐに地獄送りよ」
リーシャちゃん、などと言っていた時の猫撫で声はどこへやら。潰した執事から噴き出した血を槍へと変えて、リーシャは猟兵達の前へ躍り出た。
口元は笑みを湛えている。こちらを見る目は、嘲笑う様な光を宿していた。成程余裕がある訳だ。自らが力を示せば、ここにある全てを御しきれると思っているのだろう。
「売り場」はとうに崩壊した。リーシャが売り出した、彼女にとっての喜劇は悲劇に変わりつつある。それでもなお、リーシャにとってはハッピーエンド前のスパイスに過ぎないのだ。
冷静に状況を分析する。蓮の傍、今日は相棒の姿はない。リーシャ・ヴァーミリオンは確かな実力の持ち主だ。強敵と言っても過言ではない。
多勢に無勢。しかし、一騎当千だ。
「五分五分、といったところか」
だとしても、臆する訳にもいかない。討ち破られた末に待っているのは、あの肉塊に食われる未来かリーシャに串刺しにされる未来だけだ。
肉塊の脅威は未だ去らない。ともすれば、こちらの頭上にトンは容易い肉片を降らせて潰そうとしてくる。
一人で勝てる相手じゃない。だからこそ、助け合い、手を貸す必要があった。
ちろりと見やった異色の双眸は、リーシャへの道を切り開いた仲間へと向けられる。果たして、足りるだろうか……?
ここですることは時間稼ぎ。あるいは、逃亡させないための足止め。そうと素早く判じれば、蓮はトランプカードを錬成する。ただのカードではない。一枚一枚、殺傷力を持った特別なカードだ。
「リーシャちゃんと、遊びましょう?」
笑いながら槍を構えるリーシャへ向けてトランプを、――の前に勘が働く。走り抜けたその先に降る影を認め、札の吹雪を自身の頭上へと展開した。
「邪魔は、しないでもらおうか!」
確かな手応え。カードは奇襲を仕掛けた肉塊を細切れにして雨とする。
「ふふっ、少しはやるのね」
展開したカードは三十九枚。残る十三と二枚をリーシャへ向けて吹かせたが、易々と血霧に呑まれて虚実と成る。
此処から先は、命の取りあいだ。全ての元凶たる『お嬢様』を一時縫い止めるべく、ねめつけた蓮はカードを構えた。
成功
🔵🔵🔴
リリヤ・ベル
◎
人狼に求められるのは、愛玩性だと。
そんな声を聞いた気がします。
檻の中。
這わねば動けぬよう斬られた足。
重たい鎖の付いた首輪。
時間がさほど経っていないのは、さいわいでした。
このくらいなら。まだ、うごけます。
わたくしは、わたくしに、できることをいたしましょう。
この場のひとびとを助けなければ。
高い場所から見下ろして嗤う者たちの、思い通りになどさせません。
捕らえられているひとたちの解放を。
枷を外して、傷が酷ければ癒やすように。
『亜人』がひとを襲うなら、その前に割って入り庇いましょう。
たとえ手足をうしなっても、いのちには代えがたい。
――猟兵であれば、それは尚軽いのですよ。
わたくしは、それを知っています。
碧海・紗
◎◇★
【SPD】
さて。
アンテロさんと別れてから随分痛めつけられましたが…
其方側と此方側、いるのはどちらも同じ人間だというのに。
何と言ったらいいのやら…
と、今は『亜人』、この看守に集中しないと。
こんなものに皆さんが食いつくされぬよう守るべくオーラ防御で盾に
捕まりそうな方が居れば空中戦、抱えて攻撃を躱すことが出来れば…
その歪な肉塊は、どう動くのか。
視力でその動きを追い、第六感も交えて『亜人』へと
【UC】鈴蘭の嵐…
真の姿は翼や花弁で他者には見えぬよう
見せるのは、その肉塊だけに
正義が何かは解りませんが…捕らわれて、痛めつけられて、
そんな世界に戻りたくないということは、確か。
●
人狼に求められるもの。
狼の耳と尻尾、そこから連想するのはやはりペットだろうか。自分に従順で、可愛らしい愛玩動物。
そこに人間の知性と身体が加われば、一部の愛好家にとっては極上の従僕だ。
這わねば動けぬように斬られた足は、乾いた血に濡れ冷たくなっている。両足首の後ろ、赤い線が引かれていた。
首には重たい鎖付きの枷が嵌められている。ペットには、首輪をつけるもの。可愛らしいデザインとは程遠いのは、リリヤはまだペットらしくないと"しつけ"されていたからだ。
時間がさほど経っていないのは、この状況に置いては幸いと言っていいだろう。猶予があればあるほど、商人たちのしつけはヒートアップしていただろうことは瞳に込められた異様な熱から分かりきっていた事だった。
足を引き摺り怪物を見る。とうに逃げ去った人々の嗤い声はもう遠くなったが、きっとどこか安全な場所で事の成り行きを見守っているのだろう。『お嬢様』が、全てを制し、ショーの続きが為される時を。
思い通りになどさせない。
ら、ら、ら――。
足が動かずとも、とれる選択肢は多い。リリヤは歌う。猟兵の歌に満ちるこの空間で、それでも届かぬ隅へと響かせるように。
「だいじょうぶ、ですよ」
同じ檻の中で、震える少女。少年。そしてそれを護るように包み込む女。そのどれもに耳と尾が生えていて、くるりと恐怖をそのまま示して丸まっていた。
家族、なのだろう。皆人狼病に侵され、なおも逞しく生きて来た。それなのに。
こんな所業、許される筈もない。胸の内に沸き立つ熱はリリヤの歌へ乗せられた。
けれど音は、格好の餌となる。ここに人がいるのだと、喰える獲物がいるのだと、怪物に知らせる事に違いない。
「アア……ァ……」
べとり、べとり。千切られた欠片が地を這いリリヤ達の檻へと迫る。ぬらりと伸ばした掌から、家族を庇いたてるよに、リリヤは自ら飛び込んだ。
だいじょうぶ。
包み込まれた右腕は、忽ち焼けるような熱と共に激痛を訴える。
持っていかれる。
歌を紡ぐ喉が、震えた。吐息と共に零れた唸り声は、直ぐに奥歯で噛み殺す。
今は、これに夢中になるといい。いのちひとつ持ってかれるより、随分と軽いものだから。猟兵であれば、それは尚軽い。
死んだらそこで、終わりなのだ。
ああ、けれど。この先は――、
●
ふわりと、リリヤの眼前で鈴蘭の花弁が花開く。
リリヤへ触れた花びらは、優しい白色を宿していた。花びらの奥、一瞬見えた影はすぐに花嵐に紛れて霞の様に消えていく。
「間に合っては……ないですね」
「いえ、だいじょうぶです。ありがとう、ございます」
紗が巻き起こした鈴蘭の嵐は、肉塊を呑みこみ刻み、消滅すると共に攫って行った。後には何も残らない。
癒す力を持ち合わせていたなら、と思ったところに届く歌。それは紗をも包み込んで、痛めつけられた肌を優しく声で癒していく。
ああ、これなら大丈夫。小さな狼の言葉を信じ、紗は踵を返した。
さて。
アンテロと別れてから暫く、随分と『調教』とやらで痛めつけられてはいたが動くに支障はそれほどない。
制圧しつつある会場を見上げ、は、と息を吐いた紗は開幕と同時に見た光景を思い出す。
崩壊した客席いっぱいに埋まる人影。薄ら笑ってはこちらを指差す沢山の、同じ人間。
其方側と此方側。いるのはどちらも同じ人間だというのに、これほどまでに差が生まれてしまったのはどうしてなのだろう。
全てはオブリビオンのせい。――そうしてしまえば、楽な話ではあるが。人間の根幹に存在した"悪性"がなければ、こうまで発展しないだろう。
「何と言ったらいいのやら……」
言葉に出来ぬ感情を、まぜこぜにして吐息と共に外へ追い出す。かぶりを振れば、再び紗は『亜人』を探して踏み出した。
多くの猟兵の力もあり、『亜人』の再生能力の底が見え始めていた。分割されたいくつもの肌色ゼリーも、そろそろ制圧され尽してきている。
とはいえ、弱体化しているとはいえ一般人が怪物を前に太刀打ちできる筈もない。視線を巡らし、緊張の糸は保ったまま、紗は掃討戦へと当たる。
「ああ、ああ、ありがとうございます……!」
「助かりました。死なずに済むのですね……」
数々の感謝を声を聴きながら、ふと思う。
正義の味方様、なんて言ってはいたけれど。正義とは、一体何なのだろう。
紗は出来る事を尽くしてる。けれど今の自分が正義だと言われれば、ややに首を傾げるのだ。立派な大義があるだとか、果たすべき義務があるだとか、本の世界で語られた正義とは違う気がする。
ただひとつ。捕らわれて、痛めつけられて。悲鳴が木霊する、そんな世界に戻りたくないということだけは、確かだ。
それさえあれば、今は良いのかもしれない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
静海・終
◇◎
気持ち悪い
人を人と思わないあの瞳と今そこにいる肉塊
どちらが醜いだろう、どちらが悍ましいだろう
どちらも変わりはしない、醜いなどと御前達が口にするなんて滑稽だ
悲劇の多くは人からも生まれる
こんなものは殺さねばならない、壊さねばならない
一般人と動けない猟兵を優先して庇う行為を行う
調教で片目やら片腕やらは潰されていますが
動かせる部位を獅子に変え攻撃と同時に回復を試みましょう
あまり美味しそうではありませんが…
喰われるくらいなら喰って返すまで
先制攻撃、2回攻撃で手数を増やし肉片を削いでいく
ここにあるより多くの命を救い
命ない、その身も悲劇を起こすのであれば
その醜い姿からも、解放してやらなければ
●
――ああ、気持ち悪い。
人を人と思わないあの瞳。ここにあるのは全て"商品"で、彼らにとって自分達は『お嬢様』に媚びを売る為の貢物でしかないのだろう。
眼前で蠢く肉の塊。元は人であったのだろうそれは、どくりと心臓をむき出しにして生き延びんと触手を伸ばした。
どちらが醜いだろう。
どちらが悍ましいだろう。
人の形をした悪鬼と、人の形を成せない人の塊。見た目だけはお綺麗で、ともすれば後者の方が醜いだなどと結論づける事も容易いが。
「……」
終にとって、どちらも変わりはしなかった。
なんて滑稽なのだろう。人としての心を捨て、もはや怪物と成り果てた者達が口々に人間を醜いと言う。必死に生きて、必死に縋り付いて、一日を全うしようとする人々をかれらは容易く殺すのだ。
嗚呼、なんという悲劇なのだろう。
こんなものは殺さねば。粉々に、壊さねば。
ゆらりと影を作った終が、眼下で蠢く肉片を見る。今や抉られた赤い瞳は開かぬが、片方の瞳は燃ゆる魂に爛々と輝いていた。壊せ、壊せと心が啼く。
今までは喰らう者だったのだろう。転がされた死体を喰い、核を増やして永遠を生き延びる肉の塊。それがいま、猟兵に喰らい尽され無様な姿をさらしている。
「……あまり、美味しそうではありませんね」
幾度となく口にした。片腕を獅子へと変えて、その咢で砕いては来たが、ご馳走にありついたなんて嘘でも言えない。
けれど、他に解放のしようも知らないから。
ばくり。
獅子は容易く肉塊の核、――心臓に牙を立て、ぷつりと弾ける果実と同じように噛み潰した。中に収まる血が牙を濡らし、獅子の頭から腕へと戻した終の肌を赤く染める。
ぽたり、ぽたり、落ちる赤。
視界の端、未だ動く肉塊を見付ければ、おのずと足はそちらへ向いた。悲劇がここにある限り、終の身体は息をする。
解放せねば。
半ば幽霊のように彷徨う終は、ただそれだけを胸に獲物を求める。全てはここにあるより多くの命を救うため。悲劇を起こす、全てをこの手で殺す為。
「全てを解放しろというのなら、あなたがたも解放して差し上げましょう?」
終を喰らうべくもがいた肉塊は、より強大な獅子が丸ごと呑みこんだ。
大成功
🔵🔵🔵
赫・絲
◎◇
はー、ほんっとあの野郎『いい趣味』してたなー
お陰で目眩が酷いし体力も落ちてはいるけど動けなくはないし、心は勿論折れようもない
こんなこと、初めてじゃないしね
開いた檻から飛び出し、他の奴隷達の前へ
一人でも多く逃がしたいけれど、この身体で誰かを連れて逃げるのは難しいだろうから
せめて怪物の的になって引きつける
引きつけたなら、周囲の奴隷達に叫ぶ
今のうちだよ
行って、早く
生きたいのなら、行け!
白群、お出で、力を貸して
喚ぶは契り交わした風の精霊の字
風の濁流を奴隷と怪物間に流し、怪物の行く手を阻む
傷は恐れない
それに武器を手にしてない分、血が流れたら好都合
その血で糸を生成し放って、怪物を更に足止め
●
的になるため飛び出した。そうして裸足で亜人の間を飛び回り、撹拌し、時に核を見つけては血の絲を絡ませて切り裂いた。
今のうちだと叫んだ喉が渇く。
生を求めるのならば走れと背を押した身体が軋む。
数を減らしてなお絲は駆ける。避難にあたる人数は多く、犠牲者はろくに出ていないようだった。これも、多くが囮となって潜入した結果だろう。
絲もまた、自らが怪物に目をつけられることによって奴隷たちを遠くへ逃がした。解放はおおよそ成功と言って良いだろう。
とん、と足をついた途端、絲はくらりと視界が揺れたのを感じた。明滅する視界は血が足りないのを示している。普段ならばこの程度に揺らぎもしないが、どうにも体力が落ちているようだ。
「はー、ほんっとあの野郎『いい趣味』してたなー」
猿にも似た顔を思い出し、綺麗な面の眉間に皺が寄る。早く全部終わらせて、熱いシャワーでも浴びたい気分だ。マーヴェリックでよく見る顔もあったから、あの子達と一緒に団欒するのも良いだろう。綺麗さっぱり、忘れてしまおう。
目眩が収まるのを待ち数秒、再び絲は歩み出す。最後の一撃を入れるため、コロシアムの中心地で高々と吼える亜人を見据えた。
まだ動ける。それに、この程度で心は折れようもない。"経験済み"なのだから。
「白群、お出で、力を貸して」
絲の言葉は風に攫われていく。喚ぶは契り交わした風の精霊。時に鋭い刃となり、時に優しい導となる、絲の頼もしい契約者だ。
亜人は力なく体を這わせる。向かう先、『お嬢様』と呼ばれたヴァンパイアと交戦中の猟兵が見えた。
「行かせないよ」
言葉とともに流れ込む濁流。風が質量を持って、亜人の行く手を塞いだ。それは一方向だけでなく、四方を塞いで渦となる。
傷だらけの絲は、最期を見やり、ふらりと曖昧に微笑んだ。
「バイバイ」
薄紫の瞳の先で、濃密な風が圧縮されていく。触れたもの全てを削る風。
「ア"、あ、あァ、あ…………」
内に収めた亜人の命を削り、海へと運んでいく。耳を劈くような悲鳴を最期に、コロシアム内に蔓延っていた全ての亜人が討ち滅ぼされた。
――残る亜人の核は、ひとつ。客席に滲み出たものだけだ。
大成功
🔵🔵🔵
アンテロ・ヴィルスカ
◎◇【POW】
観客席からコロシアム内を確認
連れは…あの様子ならば充分動けるな。
無論、俺が向かうのは怪物の元
俊敏そうには見えないが、簡単にお嬢様の所へ行かせてはくれまい…
生憎ヒトの面影があろうとも、俺の心は痛まないよ。
取り込まれないよう、奴隷達が放たれた檻を間に挟み、地形の利用
敵と一定の距離を取りつつ、目などの急所を攻撃して反応を観察する。
他とは反応の違う箇所を見つければ、そこを狙いsarkofagiで斬り込む
攻撃の手応えがないようであればUCでコロシアム内を破壊し
怪物を足止めし時間稼ぎ、奴隷の避難を手助けを。
特段力技が好きな訳ではないが、細かな分析も門外漢だ
敵の仕組みの解明は専門家に任せるよ。
クレム・クラウベル
◇◎
変装はもう不要。動きの阻害になる上着は捨て、レイピアも邪魔なら投棄
どの道これは倒さねばならないだろう。怪物の処理に回る
オブリビオン以外の妨害あるなら気絶攻撃(空砲)で一先ず対処
化物の材料は、……問うまでもない事だな
吸血鬼共の悪趣味さに慣れはしても、やはり気分は良くない
肉ならば良く燃える事だろう
祈りの火よ、送れ
悪しきは、諸悪は全て彼の吸血鬼
逃さず裁き、祓う。何時も通りの仕事
だが、その前に先ずはこれを終わらせよう
とうに苦しみきっただろうが
今際まで長引かせるのも酷
祈りの句と共に炎は大きく激しく
灰は灰へ。正しき元のあり方へ
……お前たちには罪などない、天上へ行けるだろう
解放を。導きを。どうか、光を
●
他の猟兵が接触してから幾許か、血霧と共に姿を眩ませた『お嬢様』ことリーシャに代わり、一体の亜人が壁になっていた。
何やら仕掛けるための時間稼ぎか。警戒するアンテロは一度ちらりとコロシアム内を見やり、状況を一瞬で把握した。連れの状態を探るには少々時間がかかるものだが、動く亜人がいなければ心配もないだろう。視界の隅で、鈴蘭の花嵐が吹き荒れた。
突破口を作り出し、これで何度目になるだろうか。遊んであげると宣言したリーシャは、確かに猟兵を手のひらの上で弄ぶように姿を見せては晦ませて、代わりとばかりに亜人の欠片を降り落とした。
心に何やら訴える作戦だろうか。落とされた亜人はどれもがより人間に近く、助けてだのやめてだの悲鳴を上げた。
しかしアンテロは揺るがない。生憎と、人の面影があろうとも、痛む心は持ち合わせてはいなかった。
対してクレムは、眉根を顰めて息を零した。亜人の材料など諮るべくもなく人間だ。その肌の色が、瞳が、唇が、人間であった証を遺している。
これが全てひとつずつならまだマシだったのかもしれない。それでも屑には変わりないが、全ての部位が一対以上も生えているからおぞましい。一体何人の犠牲者が出たのだろう。
吸血鬼の悪趣味さに慣れはしても、気分は良くない。
「祈りの火よ」
せめて、迷わぬように。もう何ものにも囚われず、骸の海へと逝けるよう、クレムは白く眩い炎を送り火とした。
炎に包まれる亜人。しかしそれは、今までいくつも仕留めた亜人とは違い、炎に呑まれながらも再生を始め肌色のヘドロを差し向けた。
跳ねる。触れられたが最後、取り込まれるだけだ。そうなれば、敵を回復するだけでなく、自らが仲間へ牙を向ける羽目になる。
最小限の動きで躱したアンテロは金色の瞳を眇めて燃え盛る亜人を観察する。
核が違うのだろか。今までは、心臓を潰していけば再生は止まったものなのだが。
そう推察はすれど、細かい部分までは分からない。アンテロは隣へ視線を流す。幸い、肩を並べる青年は、その緑の双眸で敵を見つめ続けていた。何やら呟くように動く唇は、頭をフル回転させているのだろうか。
力技を好んでいる訳ではない。分からずとも潰しきれば潰れるだなどと野蛮な真似も出来なくはないが、仕組みを解明しようと努める者がいるならば、その補佐をするだけだ。
反転、アンテロは飛び込む。クレムと敵を結ぶ線上は塞がぬように立ち回りながら、急所と思われる場所を双剣で刻み、反応を見せる。
アンテロの意図を悟ったクレムは目礼を最後に分析に入った。幸か不幸か、ダークセイヴァーで生まれ育ったクレムには、ヴァンパイアはそこらの猟兵よりは近しい存在とも言える。
諸悪の根源が全て彼の吸血鬼であるならば、奴らが考えそうなものを――。
「硬いでしょう、その子」
声にはっと顔をあげる。いつの間にか現れたリーシャがにこりと楽し気に嗤う。
「教えてあげましょうか」
歌うように声をあげたリーシャは目の前で苦しむ亜人を前に、助けるでもなく鮮血の様に赤い瞳を向けたままに笑んでいた。
「人間と恋に堕ちた私の同種。生まれた子を、あんたたちはダンピールって呼んでるみたいだけど」
一閃、アンテロの刃が深く入る。瞳、唇、どこを狙っても大した反応を見せないものだから、奥へと切りこみ対の刃を差し込んで、その中身を白日のもとへ晒す。
「そんなもの、認めないわ。だから、えぐり取ってやったの」
全ての亜人の最初の種。人を喰らい、肥大化し、巨大なものと成る前の、ちっぽけな怪物だった頃の亜人の元。
アンテロが斬り裂いた肉の合間に、クレムはそれを見付けた。
疑いようもないそれは、――胎児だ。
人の形を取る前の、頭でっかちなアンバランスな肌色の塊。リーシャの語りが正しいならば、人と恋に堕ちた吸血鬼の腹を抉って取り出した、混血の赤子。
嗚呼。
人間でないものを亜人と呼び、苦しめ、物のように扱った女。これは、彼女にとって復讐だったのかもしれない。狂ってしまった女が、当初の感情も忘れ、ただ肥大する欲望のままに突き進んでしまった原点だ。
晒された胎児はすぐにアンテロの刃をものともせずに再生しようと肉を沸かせる。取りこまれる前にと刃を抜いた瞬間、瞬く間に肉塊は再生された。
「……あれを晒す。仕留めてくれ」
「ああ、任せてくれ」
詰めた息を吐き出して、クレムはロザリオをなぞる。祈れ、祈れ、祈れ。信じてもいない神様へ、祈りの句を捧げて神聖なる炎を熾す。
灰は灰へ。正しき元の在り方へ。
再び亜人に火が灯る。先と同じく振り払おうと暴れた肉塊を、炎は轟轟と包む込む。祈れ、祈れ、祈れ。紡ぐ句と共に浄化の炎は燃え盛り、肉を端から焼いていく。
超スピードで再生していくというのなら。それよりも早く、燃やし焦がし壊すだけ。
解放を。導きを。どうか、光を。
苦しみは此処で終わらせる。もう二度と、このような悲劇が起こらぬように。
リーシャはただそれを見下ろしていた。感情の灯らぬ瞳に白い炎を映しこむ。一体何を想うのだろうか。今は、それに構ってはいられないけれど。
「深きクレバスに眠りたまえ」
見えた。生まれる前の小さな命。その頭。炎を真っ二つに裂いて、血で強化されたアンテロの刃は容易く頭を切除した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『リーシャ・ヴァーミリオン』
|
POW : 魔槍剛撃
単純で重い【鮮血槍】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : ブラッディ・カーニバル
自身に【忌まわしき血液】をまとい、高速移動と【血の刃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 魔槍連撃
【鮮血槍による連続突き】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
イラスト:楽
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠天御鏡・百々」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
どうして、と誰かが言った。
亜人の核が燃え尽され、断ち切られようとしている時に、『お嬢様』――いや、吸血鬼リーシャ・ヴァーミリオンはただ見守っていた。
疑念と警戒の眼差しがちらほらと向けられる。
今やリーシャは多勢に無勢、多くの猟兵に囲まれたった一人孤立していた。
「やあね、そんな目で見ないでよ」
真横に立っていた執事の首を潰し、作り上げた鮮血槍。常に血が滴るその槍は、血を求めて赤き一つ目を瞬かせる。
乾く、渇く、故に次の贄を。
一人になってなおリーシャは笑みを浮かべて猟兵達を見下ろしていた。ついと滑らせた視線は、コロシアム内で奴隷と化していた猟兵を捉える。今なお傷付き、戦うには万全と言えぬ者が多数。
力なき奴隷達は、自らが運搬された道を通って、あるいは猟兵が作り出した客席への退避路を伝って、逃げている。
が、全てが逃げるには未だ時間がかかりそうだ。リーシャの視線に気付いた猟兵が、自らの身体を差し出して奴隷を隠す。
「んふふ、健気ねえ」
くすくす、リーシャが楽し気に笑った。
「答えは単純なことよ。ここには、あの子より丈夫そうな核が沢山いるじゃない!」
それも、足手纏い付きで。
人間は家畜だ。そして、人間にもなれず、怪物にもなれず、中途半端な"亜人"も家畜だ。リーシャにとってそれが当たり前であり、ここにいるすべての生物はひとしく玩具のひとつでしかなかった。
弱きを狙えば庇うだろうか。強きはどう楽しませてくれるだろうか。
リーシャの胸が高鳴る。確信しているエンディングは、新しい亜人を生み出し笑うハッピーエンドだけ。そこへ至る過程を、どう楽しめるだろうか。
「あはっ、あたしの檻をぶっ壊してくれた責任、その身体で払って頂戴!」
血の匂いを香水に纏い、紅き瞳を細めたリーシャが高々と跳ねた。降りる先はコロシアム。
これが最後だ。リーシャを仕留め、全ての奴隷を解放せよ!
●
――お嬢様。こちらは如何致しましょう?
●
あらあら、あなた、ダンピールね?
感じる、感じるわ。あたしと同族の力を。半分だけの、腐った誇りの魂を!
ああ、嗚呼、なんて嘆かわしいの!
顔がいいのなら剥ぎなさい。首から上が欲しいのなら斬首なさい。それはそれは好いナマモノの像になるでしょう。
血はグラスに。臓物は鍋に。骨つき肉は煮込みましょう。
生かしてはおけない。ええ、そうよ! だって、それを、あたしは認めない!
鹿忍・由紀
命の価値が平等だなんて綺麗事は好かないけど、ちょっと悪趣味が過ぎるかな。
これだけ猟兵がいるなら俺はお嬢様に専念しようか。
状態も万全だし、前衛を任されよう。
いちいち他の事を気にして戦いたくないから丁度良い。
もし敵の攻撃がすり抜けていっても悪く思わないでね。
こいつを止めなきゃそもそも全員死んでたんだしさ。
まずは足止めも兼ねてダガーで削れるだけ削ってく。
こちらがある程度の出血を伴うダメージを受けた際に、「激痛耐性」で堪え、即時「カウンター」として『虚空への献身』を使用。
攻撃したのち高速移動で対抗していこうか。
俺もあんたと同じようなこと、出来るんだよ。
玩具だって使い方を間違えば大怪我するの、知ってた?
●
命の価値が平等――だなんて、綺麗事だ。
王族と貧民の命の価値は同じか?
未来ある子供と先短い老人の命の価値は同じか?
ヒトという動物とヒト以外の動物の命の価値は同じか?
答えは人それぞれ違うだろう。星の数ほどいる人間の数だけ、海に流れ着いた骸の数だけ、この答えは存在する。
平等だと声をあげるそれを認める事はないけれど、否定する事はある。
「ちょっと、悪趣味が過ぎるかな」
リーシャの所業は流石の由紀でも許容範囲外だ。
比較的動ける由紀は進んでお嬢様の前へ出る。見知った顔がいた気はするが、そちらはそちらでやるだろう。助けてくれだなんて、言ったとしても聞く気はない。そのぐらいの覚悟はしてきている筈だ。正義の味方ではないのだから、招待状のままにリーシャへ向き合う。
「やあお嬢様。俺と遊んでくれるんだろう?」
「良いわよ、ダンピール。お綺麗なその顔、あたしが刻んであげるわ!」
言葉をかけおびき寄せる。頭を空っぽにして、奴隷達の悲鳴や喧噪を遠くに追いやる。他の事は気にせずに、伸び伸びと。
パシ、と軽い音と共にダガーを手のひらに滑り落とせば由紀の唇の端に薄く笑みが乗る。
懐に潜れば由紀の勝ち。距離を取ればリーシャの勝ち。得物の相性はそんなもの。
そしてリーシャがそう容易く懐へ潜りこませてくれる筈もない。頬に、腕に、脇腹に、槍の刺突が掠って赤い線を刻んでいく。色白の肌を飾る赤い血は、奔る由紀のスピードに置いてかれて空を舞う。
一滴、二滴、落ちた珠が地面を濡らした。
肩で呼吸をし、時の経過と共に痛む全身を耐性で宥める。顔をあげた由紀の眼前、鋭い槍が迫っていた。
――ああ、でももう準備は済んでいる。
「あんまり、ナメないでよね」
リーシャの槍が貫いたのは、由紀の影。いや、影というにはあまりに赤い。
リーシャの紅玉の瞳が見開かれた。その瞳に映るのは、自らと同じヴァンパイアのそれと変わりない。
血霧を纏い、槍のように鋭い杭を振るう由紀の姿。
「俺もあんたと同じようなこと、出来るんだよ」
知ってた? と軽薄な笑みで応えれば、その腹目掛けて杭を穿つ。その数、ゆうに十を超える。それでもなお生み出されるのだから、無数という言葉が相応しい。
「玩具だって使い方を間違えれば大怪我するんだよ」
肉が貫かれリーシャの顔が苦痛に歪む。舌打ちと共に吐かれた言葉は。
「――生意気!」
成功
🔵🔵🔴
●
あらあかわいいワンちゃんね。ほうら、三回鳴いて回ってみなさい。
お利口さんなら飼い主を紹介してあげましょう。
粗暴な犬に用事はないの。物好きにあげて捨てなさい。
ああ怯えないで。安心なさい。ちゃあんと躾けてあげるから。
傅き足を舐めなさい。上手に出来たら骨をあげるわ。
こうべを垂れて芸を見せなさい。面白かったら愛でてあげましょう。
出来ないと言うなら出来るまで。それでもダメなワンちゃんは解体ね。
せめて血肉になりなさいな。それが畜生の役目でしょう?
シキ・ジルモント
◇◎
奴隷を狙う血の刃は更なる負傷覚悟で体を張って庇う
直後に★(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように尖り、夜の狼のように瞳が輝く)
もう弱った姿を曝す意味は無い
甘んじて受けた傷を回復、奴隷の証の首輪は自力で壊し”お嬢様”と対峙
奴隷の退路を守ったまま反撃
敵に攻撃を当てる為檻が放置されたこの場の『地形を利用』する
高速移動が可能でも障害物があれば進路を制限できる為読みやすい
更に移動先を制限する為『フェイント』でフック付きワイヤーを射出
躱される事は見越して移動先を『見切り』『追跡』、『クイックドロウ』で銃を構えユーベルコードで狙い撃つ(『スナイパー』)
俺達は猟兵だ
思い通りに出来ると思うな、オブリビオン
●
跳ねたリーシャは表情の乏しいダンピールから距離を置く。それも、槍も届かぬ程の距離。
離れた分は誰かに近付く。奴隷を逃がしていたシキは、急速に大きくなる姿を視界の端に認めて身体を投げ出した。覚悟があったが故の行動だ。
鮮血槍の先端は綺麗にシキの腹を捉えて喰い穿つ。シキの口から血が溢れ、肺から逆流した赤が吐き出された。
背後から叫ぶ声がする。音が遠い。意識が、遠退く――。
きらりと、月の光が落ちた。空のない、全てを閉じ込めた檻に夜が降る。
そう錯覚させる淡い光。誰もが月を連想した。
「――もう、抑える必要もないな」
怪我を治さず亜人の囮となった。ワイヤーを用いて翻弄し、血を散らしながら駆けた檻。奴隷の解放は成し遂げられつつある。しかし、それだけで此度の仕事を完遂とするには惜しい。
そう、これを。眼前の吸血鬼を斃さねば。
「馬鹿げた見世物は終わりだ」
骨が軋む音が鳴る。変化は如実に現れていた。シキの牙に。シキの瞳に。ふうと零した吐息は獣のそれと変わりない。
夜に君臨した狼。腹を穿つ槍を掴むと容易く砕いた。槍は血へと変わり、シキの手を濡らす。
「あは、それがあんたの本性ってワケ? 人間じゃないわ、そんなもの!」
「……喚くな」
再び血霧から槍を形成するリーシャの手前、狼は自ら奴隷の証を握りつぶし、吼えた。傷が癒えていく。力が腹の底から湧いてくる。この熱は、穿たれた傷の痛みじゃない。
背に庇った人狼の少年を尾で押しやって、シキは輝く瞳で盤面を見る。亜人が荒らしたこのコロシアムは、数多の場所が歪み、突き出し、荒野の如くと化していた。ヴァンパイアとて、移動経路に障害があれば避けるだろう。
吸血鬼自らが用意した世界を、シキは利用する。見出された複数の可能性を潰す為、そうと悟られぬよう射出したワイヤーはシキの思い通りの軌道を描いて地面を穿った。
「当たらないわよ、それ」
自らが追い詰められていると信じる筈もなく、リーシャは槍を振るう。
――が。
ガチ、と穂先が何かに妨げられた。張り巡らされたワイヤーが絡め取ったのだ。
「なっ」
「俺達は猟兵だ」
オブリビオンを狩り、駆逐する。幾度となくそれを成し遂げ生きてきた。
「思い通りに出来ると思うな、オブリビオン」
例外などない。刹那の空白。空気すらも停滞したその一瞬、シキの構えた銃がリーシャの胸を貫いた。
成功
🔵🔵🔴
●
お綺麗な翼ね、気に入らないわ。
お綺麗な花ね、気に入らないわ。
天使だなんだと持て囃されて、気にくわないのよあなたたち。
救いの象徴? 願いの化身? 全くどうしてくだらない。
あたしの何が不満だって言うの? ねえ、あなたもそう思うでしょう?
ただの人間風情が思い上がりも甚だしいわ。磔にでもしましょうか。
ああけれど、あたしは優しいからきちんと評価してあげるわ。
翼は宝飾に。花は冠に。貴族たちに売りつけましょう。
何が好いのか分からないけれど、穢したいと言うのなら存分にさせてあげるわ。
身も、心も、全て犯され果てなさい。それがあなたにお似合いよ。
碧海・紗
◎◇【WIZ】
あら、アンテロさん(f03396)…無事そうで何より。
合流したなら狙うはお嬢様、ただ一人。
槍での突き、距離感を視力で見極めフェイントも交え戦闘を
時には飛行を織り交ぜ空中戦も…
仮初の身体と言えど、気にならないわけないでしょう?
後ろから目立たないようにアシストを
オーラ防御も使用して負傷は最小限に出来たら
私たちのこと、随分と蔑んでるように見受けられますが…
【紫苑】で攻撃出来るなら
彼女の周りに鮮やかな紫陽花の花を咲かせましょう
鮮血がお好きなら、どうぞ…ご自身の血で染まって頂ければ。
生きる為に命を頂くことはあるけれど…
玩具として扱うのは、人間でもそうでなくても…実に、痛ましい。
アンテロ・ヴィルスカ
◇◎
お嬢様を追いコロシアムへ
位置は把握済み、碧海君(f04532)と合流しよう
剣先についた亜人の核の血、一滴でも残っていれば充分だ
【POW】UC、敵の血をロザリオの刻印に注いで状態異常力を強化
絶えず活性を続ける胎児の細胞の如き回復力を頂く
鎧の激痛耐性、俺の仮初めの体と合わされば多少の攻めは効かないよ
お嬢様に辿り着けば一切の守りを捨て剣撃を
銀鎖に伝せた念動力はまだ残っているかな?
会場の何処かにあるはずだ
死角から蛇のように這い寄らせ、一時お嬢様の足を搦め捕る算段
礼を言わなくてはな、お嬢様…
よもやオブリビオンに人の心を教わるとは思わなかった
亜人の核には双剣の片割れを
薄っぺらい祈りの代わり、君の墓標だ
●
「あら、アンテロさん。無事そうで何より」
「そちらこそ」
ふわりと一弁、鈴蘭を払い紗が笑む。挨拶を交わす二人だが、視線はお嬢様へ向けられていた。
胸から赤い花を咲かせたリーシャは、その血すらも鮮血槍に食わせて高笑う。
「このあたしに歯向かうなんて! イイ度胸ね、畜生の癖に!」
と、と跳ねたリーシャ。その身体は重力に反し宙で留まる。魔力か、翼か、リーシャは空中でも自在に身体を動かしてみせた。
空中戦。ともなれば、不得手とする猟兵が増える。幾人かの眉間に皺が寄るのを見て、リーシャはまた面白可笑しそうに笑った。
ああ、地を這う様はまさしく下僕に相応しい。
高慢たる吸血鬼。そこへ追随する、一本の槍。
「……生意気、ほんっと、信じられない!」
「亜人――天使はお嫌いかしら?」
鮮血槍の射程は、同じく紗の射程内。捻った身体はリーシャの槍を躱しきれずに皮を裂く。裂傷はゆっくりと紗の身体を蝕むが、今は。
「墜ちなさい」
紗の槍が捉えたのは、空白。リーシャの顔面の横を貫いて、反転。元より狙いは刺し穿つ事よりも地へと叩き付ける事だ。
空のない空で、自由に動ける者は限られる。なれば、翼持つ者がリーシャを抑えるまで。
円を描くように振るわれた柄の一撃は強かにリーシャの背を打ち、ゴム鞠のようにかの吸血鬼を叩き付けた。
簡単に仕留められよう筈もない。けれど、と様子を窺う紗の真下。それは跳ね返る事はなく、塵を裂いて地を駆けた。流石オブリビオン、と言う訳か。ダメージはあるものの、動きに支障は出ていない。
目指す先にいるのは戦友の姿。アンテロの回避はやや遅い。いや、あれは――。
鮮血槍が貫く肌は仮初のもの。本体が傷付かねば大した致命傷にならない。人間の躰と言うのは厄介だが、傷に対する耐性もある。そこへ添えられたドーピング効果がアンテロの身体を支える。
誘い込んだのだ。剣先についた亜人の核の血液。刃を伝うその一滴を刻印に注ぎ、身体を強化したアンテロに備わるは、核となった胎児同様の再生力。起こる光景はデジャヴだ。槍すらも呑みこんで再生せんとする身体。
とはいえ。
護りを捨てたアンテロの攻勢に紗はひそりと息を吐く。本人が気にしないのなら、気にしなくて良い――なんて、なる筈もない。
まるでアンテロの影に潜むよに。舞い降りた影法師の天使はアンテロの死角を塞ぎ、穂先の軌道をややに逸らす。貫いた先は人体の致命点を避けた。
「礼を言わなくてはな、お嬢様」
「何よ、無礼者。今更礼だなんて!」
リーシャの対応は、子供が癇癪を起こす様とよく似ている。ふ、と鎧の奥でアンテロが笑んだ。
その気配を感じていた。銀鎖は今か今かと主人の呼び声を待っていた。
「よもやオブリビオンに人の心を教わるとは思わなかった」
だから礼だと、謝礼代わりに巻き付けた銀鎖は奴隷の枷に似て地面へとリーシャを縫い付ける。
「なに、……ああ、もう! 不愉快よ、あなた!」
リーシャに出来る手はひとつ。今にも再生力に破壊されんとする槍を無理にでも動かし、胴を断つ。力を入れるにはアンバランスな体勢が口惜しい。お嬢様の口から舌打ちが漏れる。
理解しているのだ。そうするよりも早く、アンテロの剣がリーシャの心臓を切り裂くが早い。
一閃。
飛び散る血は心臓の鼓動に合わせて勢いを増し、アンテロの鎧と地面を濡らす。血の雨が局所的に降り注ぎ、――その下で咲き誇る紫陽花を濡らした。
色が変わる。青く鮮やかに咲いた花弁が、赤へと変わる。リーシャの血液を含み艶やかな花々がふわりと広がった。
「私たちのこと、随分と蔑んでるように見受けられますが……」
「ごほっ、はあ、当たり前でしょう? 人間に、亜人に、価値があると思って?」
血を垂れ流しリーシャは語る。命の燈火が消えかけているというのに、随分な余裕だ。
紗は静かに目を伏せる。彼女の心に声は響かない。何を問いかけたとしても、きっと、返る言葉に宿る侮蔑は消えないのだろう。
紫苑が正しく発動される。悲しくも、無数の紫陽花はリーシャの周りに咲き誇る。
ああ、なんて痛ましい。生きる為に命を頂くことあれど、玩具として扱う事を是とするなんて。
花弁と葉がリーシャの身体を切り刻む。アンテロの腕が引かれ、刃が垂直に心臓へと突き立てられた。
リーシャの身体が頽れる。血に溶け、鮮血槍を地に突き立て、身体の形が崩れていく。
遠く、双剣の片割れが突き立てられていた。
祈りの代わりを剣に託し、刻まれた墓標は亜人へ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
●
――違和感。
こうも簡単に尽きる筈がない。
「――あ、っは、もう! 痛いじゃない!」
それは、崩れた残骸から発せられた。どくりと鮮血槍の瞳が瞬くと同時、まるで逆再生するかのようにリーシャの躰が再生される。
一連の流れは、まるで、亜人と同じく。
距離を取った二人の眼前で、リーシャ・ヴァーミリオンは元の形のまま白い肌に浮かべた鮮血の唇を歪めてみせる。
「死んだと思った? 終わったと思った? ――あはっ、そんなわけ、ないじゃない!」
自覚は、ないのだろう。自らの身体が、自ら作り上げた亜人と同じように出来ているだなんて。
あと何度殺せばいい。あと何度心臓を貫けばいい。
リーシャの余裕はこれから来ていたのだ。殺し、潰し、穿ち、――その命尽きるまで。猟兵達は止まれない。
●
幻想種、ドラゴニアン……だったかしら。
強靭な鱗は鎧になるし、ご立派な牙は矛になる。
あたし、あなたたちの事好きよ? だってたくさん買ってくれる人がいるもの!
ほらほら、早くバラして頂戴! 余った肉はソテーにしましょう。
竜の鱗には加護があるだなんて、誰が言い始めたのかしら。
そんなもの、あるはずもないのにね!
でも助かるわあ。そのお陰で、あたしの懐はあたたまるの。精々あたしの糧になって。
さあ存分に叫びなさい? 価値ある肉塊の叫びなら、聞いてあげないこともないわ。
ロルフ・ロートケプヒェン
会いたかったぜ、『お嬢様』!
その余裕の笑顔、まださにサディスティックなお貴族サマって感じで……気に入らねぇなぁ?
身体張って皆を助けた仲間を、まだまだ元気なおれが助けなくってどうするよ?
そんなの、『ロートケプヒェン』が廃れるってモンだろ!
赤毛の狼を使用
まずは敵の移動範囲、技を放てる頻度を『追跡』『野生の勘』で避けながらも観察
敵の行動範囲が分かったら、逆に相手が破壊した『地形の利用』をして反撃開始だ!
赤毛の狼をお嬢様の方へ差し向け『捨て身の攻撃』として、味方達への盾にする
交戦しながら、敵の隙を突いて『毒使い、マヒ攻撃』で弱らせてやる!
半端な防御じゃあ、こいつの前で『鎧砕き』されるだけだぜ?
◎◇
●
再臨したお嬢様の前、翻る影は狼耳の覗く赤。赤頭巾は今宵、死を運ぶ死神だ。
「会いたかったぜ、『お嬢様』!」
余裕の表情で笑うリーシャへ見舞う一撃は赤毛の狼男。それはロルフの身長をはるかに超え、一種の盾となっていた。
「やだ、生意気なワンちゃんね」
防御を捨て爪を振るう狼のはらわたを貫くは一迅の槍。動きをトレースさせるロルフの背筋をひやりと汗が伝うが、自らの動きに支障はない。鮮血槍が貫いた痕は残れども、狼男が止まる気配はなかった。
眉を顰めたリーシャが身の危険を感じたか、素早く退避行動をとる。が、狼の牙がその肩口を捉える方が早かった。
食い込む爪。その先から染み渡る、嫌な気配。
――さあ、余裕の笑顔が崩れるまで、あと幾許か。
ただ猟兵を狙うのは分が悪いとしたか、リーシャの視線は右に左に揺れては「足手纏い」の姿を認める。
ロルフが繰る狼男の側面を突破するには無理がある。と、なれば、向かう先は定まってくる。
そこから更に絞る為に、ロルフの視線はリーシャが向かう先に釘を刺すように向けられた。先の戦いで充分にリーシャの動きは理解している。先回りすることなど易い。
「ああ、もう!」
欲しいものは全て奪ってきた。堪え性の無い我儘なお嬢様に冷戦は不可能と言うものだ。半ば自棄になって飛び出したのを見やれば、ロルフがにやりと犬歯を見せて笑った。
リーシャの向かう先には猟兵もいる。しかし、囮として潜入した彼らは少なからず負傷し、血のにおいを纏わせていた。
任せてしまうのは容易い。
――否!
そんなもの、『ロートケプヒェン』の名が廃る。
動ける自分が動き、牙を立て、鋭い爪を突き立てるまで。
「――ほうら、『狼』が出るぞ?」
弧を描いた唇が零す言葉は、リーシャには届かない。その言葉を拾う前に、巨大な狼男の爪がリーシャの横顔を切り裂いていく。
何かが破裂する音がした。些細で、小さなその音。耳を横から思い切り叩けば何が起こるか――鼓膜が破裂するのだ。
狼男はそのまま腕を振り抜きリーシャを跳ね飛ばす。小柄な身体は檻の鉄格子へとぶつかり妙な音を立てた。
「な、に……これ……」
素早く復帰するリーシャの身体を襲う痺れ。ロルフが仕込んだ麻痺毒が傷口から染みこみ動きを制限する。
「あんたの支配(ものがたり)は終わりって事だぜ、『お嬢様』?」
成功
🔵🔵🔴
●
可愛らしいお顔ね、あなた。まるで作り物みたい。
動く人形なんてこの世界では珍しいもの。大切にしてあげるわ!
この際仕組みなんてどうでもいいの。あなたは高く売れる、それだけよ。
さあさ、そこの椅子に座って。お行儀よくご主人様に媚びを売って。
人間サマを悦ばせてあげるしか能のない物でしょう?
精々気に入られるように振舞って、下卑たお貴族からお金を搾り取って頂戴。
全く気味が悪い。人形風情があたしたちの真似事なんて吐き気がするわ。
慰み物になるぐらいが丁度良いのよ。自我なんて、必要ないわ!
レイブル・クライツァ
◎
――そう
"貴方には傍に本当に理解してくれる人が居なかった"のね。
だから、こんな酷い世界で踊り続けなければならなかったのよ。
理解出来ずにいた頃の私を見ているみたいだと思ったわ
貴方にとってこれはただの娯楽で
逆らえないならば、確かに家畜と変わらないのだから別に良いと思うのは自然の摂理かもしれないわね。
その前提が破綻するかもしれないと、考えれなかったなんて”可哀想”
手にかけた重みを軽んじた時点で、私とは違うけれど
二人を呼ぶ(召喚)さあ、還る時間よ。的はひとつ
『生ける者達すべてを解放する』気で来たから、意地でも欠けさせない。
護るべきものを持つ覚悟の強さ…その底力を知らない輩に、負けるつもりは毛頭無いの
●
――そう。
理解。審判。決定。
レイブルの刃は迷うことなくリーシャへと向けられた。赤色の狼が振るった爪と、染みこませた麻痺毒はリーシャに回避を許さずに縛る。
「くっ」
貴方には、"本当に理解してくれる人"が居なかったのね。
そんな感想は哀れみが滲むが、どこか胸を刺す心地もあった。踊り続けるリーシャの姿は、レイブルに憶えがある。
ああこれは、理解できずにいた頃の、自分だ。
ちくり。作り物の心臓が痛む。
「失せなさい、外道が」
救うもの。斃すもの。それも今や微かだけ。そして、狩る者たるレイブルにとって気にかかるのは的の存在のみ。亜人はもういないのだから、残りはひとつだ。
レイブルの薙刀は鮮血槍の柄に阻まれ肉を断つには届かない。続く連撃も痺れる身体に鞭打ち応戦してくるが、レイブルの方がやや優勢か。白い肌に刻む赤が徐々に増え、リーシャの肩が見るからに上下する。
横へ跳ねる形で打ち合いを脱したリーシャ。それをみすみす逃す愚かな女ではない。
「私、『生ける者達すべてを解放する』つもりで来たの」
「……へえ、それが?」
淡々と語るレイブルを前に、リーシャは尚も嘲る調子で笑い声をあげる。今が朽ちても後があるからか。再生能力という特別な力に驕るリーシャが、ただただ憐れで――そして、可哀想だ。
片や、たった一人となり、コロシアムの中で孤独に吼える吸血鬼。
片や、護るべきものを背負い、信念のもとに薙刀を振るう過去の破壊者。
「あなたは過去。命なき者。――空っぽなあなたを、在るべき所へ送り返してあげるわ」
庇うものが無い身軽な体。自身すらも投げ出すその姿は、確かに、何者にも縛られずに自由なのだろう。
けれど、あまりに空虚だ。そして命を軽んじ過ぎた。
護るべきものを持つ覚悟。海の様に深く、空の様に広く、際限ないその強さを知らぬ輩相手に膝をついては全てが覆る。あってはならない。だからこそ、レイブルは意地でもここで決着をつけるべきだと願う。
「さようなら」
余計なお世話よ、と。口を開いたリーシャの唇から溢れたのは、赤い血だけ。
レイブルの眼前、幻想が交差する。招来した死神と剣聖が、容易くリーシャの胸を切り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
●
あら、畜生が喋るだなんて、童話みたいな事もあるのね。
随分と愛らしい顔をしているじゃない。ネコは愛玩動物だもの、貰い手は数多いるわ。
でも生意気ね。喋れないように喉を切ってあげましょう。服も剥いで良いわ。
あなたたちに求められるのは、愛らしく媚びて機嫌取りする能力だけ。
まあ、物好きもいるけどね。そういう貴族にはそのまま渡してあげましょう。
じゃあまずは、首輪ね。誰がご主人様なのか、その身にたっぷり教え込んであげましょう。
せいぜい生き延びる為に、ペットらしく振る舞いなさいな。それが長生きのコツよ、ネコちゃん?
四・さゆり
◎
「全部、ぶち壊してあげる。」
悲劇に慣れた目も、心を踏み躙る嘲笑も。
気にくわないから。
ーーー
御機嫌よう、お嬢様。
お会いできて嬉しいわ、悪趣味な女の面を一度見てみたかったの。
舞台から降りる、逃げる子達から気を反らせたら良いけれど、あの女、耳を貸すかしら。
それに、再生するの。
…面倒ね。
お前が行きなさい。
赤い傘の先は、お嬢様を指してそう命じましょう。
首無し、黙らせて。
あの人に全然似てない、わたしのお人形。
お前からは血は流れない、糧にもならないでしょ、女を引き付けなさい。
首無しが口説いてる間に、
わたしはそろりと槍を避けて、ゆるりと女の元へ
やっと、あんたを殴れるわ。
わくわくしちゃう。
潰しましょ、何度でも
●
しもべの黒い外套が巻き起こる風に煽られ揺れた。歪なバッヂはただ鈍い光を返す。
「悪趣味だもの、ね」
首無しの人形へ語り掛けても、返る言葉は存在しない。ただ揺れて、裏地の昏い色を見せるだけ。
「全部、ぶち壊してあげる」
黒い外套は、何も語りはしない。
「ご機嫌よう、お嬢様」
お会いできて嬉しいわ、と声をかけたさゆりはじいと砂嵐にも似た灰色の瞳を向けてリーシャの顔を見つめる。
穴が開いてしまいそうな程の熱烈な視線に、リーシャは不機嫌そうに眉を潜めた。文句を紡ぎたい口からは、血ばかりが零れ落ちる。
「一度見てみたかったのよ、こんな、悪趣味な女の面」
「ごほ、っ、悪趣味?ふふ、……そうね、でも、あなたたちが悪いのよ!」
減らず口。
幸い、赤い傘を引き摺るさゆりの動向を睨め付けるリーシャに他所を気にする余裕はないようだ。血霧を纏う裏で、身の再生を急いでいる。
面倒ね。
けれど、いくら再生すると言っても限度があるらしい。じくじくと血を垂らした胸元は修復されつつあるが、幾分か遅滞しているように伺える。
壊れかけの吸血鬼。
喚くそれの白い首をさゆりの隻眼が捉え、す、と傘が持ち上がる。
「お前が行きなさい」
ぴたりと止まった傘の先、指し示すはリーシャの首。
「首無し、黙らせて来て」
あの人に全然似てない、わたしの人形。
血の流れないその人形は鮮血槍の糧にはならない。あの人と違って。
「ッ……生意気!」
麻痺毒と失血で震える手を繰りリーシャが鮮血槍を振るう。ブレる穂先がさゆりを捉える事は、ない。首無しがなぞる先に降る、青き一等星がリーシャを射抜いていく。
奴隷の少女を捉えていた檻の格子に触れ、くるりとさゆりが機嫌よく踊る。不安定なステップはゆらゆらと幽霊のように体を運び、リーシャを玩具にして弄ぶ。
かくれんぼも良いけれど。わくわくする心は、檻の向こうへの歩みを拒む。
「あんたの檻なんて、元から、ひとつも無いのよ」
「――え、」
と、と鉄格子から身を離したさゆりの手前、格子ごと貫いてリーシャの胎を貫き傾く星は、どこか遠く煌めくよだかの星に似て非なる。
墜つる星を見届けたさゆりは、赤い傘を振り上げた。
潰しましょ、何度でも。
刈り取った命は、ふたつ。残りは、――――。
大成功
🔵🔵🔵
●
見たことのない身体。あなた、元は"人間"だったわけ?
――良いじゃない! 人間卒業おめでとう! うふふ、とっても素敵ね。
どういう原理で動いてるのかしら。ねえちょっと解体させて頂戴。
ああ、怯えなくても良いわ。だってもともと、あなたは殺すつもりだったもの。
そのおかしな金属だけあれば十分よ。肉は必要ないの。人間はもう飽き飽き。
死にたくなかったら、その醜い部分をそぎ落としなさいな。
そうしたら評価してあげましょう。溶かして固めて、売り捌いてあげるから。
……約束が違う? 安心して、人間でなくなったあなたの形が変わるだけよ。
何をそう怖がるの? 有効活用してあげるから、大人しくしていてくれる?
結城・蓮
◇◎★
キミの好きにはさせないさ。
何故ならボクたちは猟兵だからね!
さぁ、今からがショータイムだ!
そして、舞台に上がる道化師はキミだよ!リーシャ・ヴァーミリオン!!
《泡沫の鏡像》を使って分身し、コロシアムに飛び込もう。着地の衝撃は《幻想の跳躍》でカバーだ。
仕込み杖での近接攻撃と、仕込みトランプの投擲による遠距離攻撃の波状攻撃を、ランダムに織り交ぜながら攻め立てるよ!
強敵であるのはわかっている。
絶対に油断は禁物だ。
だからといって、及び腰ではいられないのでね!
多少の危険は顧みないで飛び込むよ!
ボクが隙を作れば他の人が良い一撃を入れてくれるかもしれないからね!
そう、ボクらは1人じゃない。勝てば良いのさ!
●
何度その身体が生まれようとも。幾度と邂逅しようとも。
「キミの好きにはさせないさ」
何故なら、ボクたちは猟兵だから!
リーシャを追って跳ねた先、再生するその身体を眼下に収めて仕込み杖をすらりと抜き去る。
リーシャとて、ただやられる愚か者ではない。
頭上にかかる影を察知し、その人影がひとつならざる事を把握すれば血霧を纏う。
「あら、誰の許可があって? ここはあたしの檻よ!」
永く生きる吸血鬼にとって、――いや、過去の存在たるオブリビオンにとって寿命が削れるなど些細な事だ。
蓮へと、そして鏡写しの鏡像へと放たれた血の刃は無数にもなる。その全てを躱しきるのは不可能と言う訳だ。
――蓮でなければ、の話だが。
思い描く。この空が、自身のものたれと。そして蹴る。何もない、けれど蓮には見える透明な階段を。
その姿は幻想でなく。されど幻想の如く。
空中を踊るように跳ねた蓮は血の刃を往なし躱しステップを踏む。有限のイマジナリーステージは、途切れる前に容易く蓮を地上へ運んだ。
コロシアムに、役者は揃う。
「さぁ、今からがショータイムだ。そして、舞台に上がる道化師はキミだよ、リーシャ・ヴァーミリオン!」
「誰に物を言っているのかしら。跪きなさい!」
宣言と共に放たれたトランプは鋭い刃の代わり。一枚一枚がカードだからと侮るなかれ、立派な得物だ。
カードと共に地面を蹴った蓮がリーシャへと肉薄する。血霧でカードを払ったリーシャの懐へと潜りこめば、容赦なく杖を――仕込まれた刃を突き立てた。
狙いは逸れる。タダでやられてくれるほど、このオブリビオンは弱者ではない。
そう、強敵なのだ。だからこそ、絶対に油断は禁物で。それでも、及び腰ではいられない。
血の刃が喉元や急所を掠る度、蓮の背筋に冷たいものが落ちた。一歩間違えばこちらが骸の海行きだ。
けれど、余裕は、ある。
実力を把握せずに挑む無謀の愚行故ではない、背に負う責務と仲間故に。
「キミと違って、ボクらは一人じゃない。勝てば良いのさ!」
多少の危険は承知の上。そうする事で、仲間の一撃をアシストできるのなら、喜んで飛び込もう。
蓮の仕込み杖を抜くようにバックステップを踏んだリーシャを襲う、同様の刃。
オレンジの右目でぱちりとウインクし、鏡写しの虚像が再びリーシャを貫いた。
成功
🔵🔵🔴
●
ふうん。なんだかあたしにはよく分からないけれど、人間とはまた違うってことね?
でもどう見たってあなたは人間と同じよ。人格がいっぱいあるってことだったかしら。
その人格の分だけ体が増えたりしないの? 体が変わったりは?
つまんない種族ね、あなた。
ああ、でも良い事を思い付いたわ! どうせなら、その身体、人格分に等分しましょ。
そうしたら、肉のひとつひとつに宿るかもしれないじゃない。ああ、なんて名案なのかしら。
そうと決まれば解体ね。安心して、人間だって畜生と同じように捌けるから。
名前を付けてあげましょう。おめでとう、あなたはこれで、ようやくひとりの人間になれるのよ。
嬉しいでしょう? 喜びなさい。まあ、生きてる保証はないけれどね。
リリヤ・ベル
◎★
あなただけをたおして、すべてが解決するわけではないと、わかっています。
恐怖からではなく、ご機嫌を伺うだけではなく。
狩りを、調教を、楽しんでいた人だっていたことを、知っています。
……でも。
ひとの悪性をえぐりだすようなこの"檻”を、わたくしは、ゆるすことができません。
銀色の大狼に変じて、リーシャへ肉薄。
この姿なら、身は軽いのです。
怪我をされている方や、逃げる最中の人々の盾になるよう位置取りを。
どれだけ早く動かれても、追い縋って邪魔をいたしましょう。
なるべく周囲のひとを巻き込まないよう気を付けて、【人狼咆哮】
誰にだって、自由に生きて死ぬ権利があるはずなのです。
それをゆがめるあなたを、ゆるさない。
●
ラ・カージュ。奴隷売りの祭り。
リーシャだけをたおしてすべてが解決するわけではないと、リリヤも分かっていた。
恐怖からではなく、ご機嫌を窺うだけでなく。狩りを、調教を、心の底から楽しんでいた人だって、いるのだから。
人の心はいつだって弱さに溢れている。自分よりもさらに下に見れる者があるのなら、魔がさして調伏せんとする心も沸くだろう。
そして、それは何より強い麻薬となる。快感だ。依存してしまう程の。
――でも。
踏み出した足は狼のものに成り代わる。
ぴんと伸ばした背は丸くなり、掌を地へと付けて身震いした。
銀閃の大狼。リリヤに根付く獣性、――狼だ。
いつしか歩みは駆け足となり、風と成りてリーシャへ迫る。仕込み杖の足止めは、狩人たる狼の前では致命的だ。
ああ、身が軽い。今ならどこまででも駆けていける。
ひとの悪性をえぐりだすようなこの"檻"を、ゆるす事は出来ない。例え狼の身となれど、リリヤの心に変わりはないのだ。
ゆるさない。
爪を振るう。リーシャは跳ねて攻撃に転ずる。ぱちんと弾けた鮮血槍は、細かな刃となってリリヤを襲った。
それでもなお、怯まずに。リリヤの内に煮える熱は些細な事で消沈しない。加速する世界でリリヤはリーシャに追い縋り、爪で牙で対抗する。蓄積されたダメージは両者ともにそう変わらない。
再生したリーシャ。解放したリリヤ。
けれどリリヤは一人じゃない。多くの猟兵が孤独の王を斃さんと立ち向かっている。その気配は、リリヤを支える力ともなる。
迫る。苛立ちに噛みしめたリーシャに生まれる、一瞬の隙。傷を生み出す刃ごと、大狼の爪はリーシャを人のいない方へと弾き飛ばした。
「――……、」
息を吸い、肺を膨らませる。喉を震わせ、いざ猛よ。
――誰にだって、自由に生きて死ぬ権利があるはずなのです。
オ、オ、オと微かに零れた声は徐々に高まり、激しい咆哮へと変わる。嫋やかな少女からは想像に難く、世界を裂く銀色の大狼からは想像に易く。誰もがその聲を聞いた。
地面に亀裂が奔っていく。咆哮による影響はリリヤを中心として無差別に周囲を破壊した。
仲間を、救いたい人達を、リリヤが傷付ける筈もない。
衝撃はリーシャの内臓を叩き吐血させる。耐えられる身体を持ち合わせはいれど、ノーダメージとはいかない。
大狼の瞳がリーシャを見た。自由を歪める吸血鬼を、ゆるさぬ熾烈な炎が燃えていた。
成功
🔵🔵🔴
●
変な頭に、変なもじゃもじゃに、変な手と足。
でも、悪くないわ。こういうヘンテコな生物は珍しいもの。
さあどうしてやりましょう。
頭は落として仮面かしら。魔が宿るとでも言えば、貴族はこぞって争うものよ。
そのタテガミは毛皮? まあいいわ。この世界、あたしは丁度いいけれど、防寒具が欲しい人間はやまほどいるの。
手足は鳥に似てるわね。まあでも一本一本裂けば悪魔のお守りとでも言えるかしら。
残った所は魔力の源とでも言って売るわ。頭のてっぺんからつま先まで、全部ね。
そのまま飼っても良いけれど。こーんなペット、欲しがる人間いるのかしら?
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
こうまで囲まれてその態度、お嬢様根性もここまで来ると恐れ入る。
これまでの礼だ。
その自信ごと、貴様の命を叩き折ってくれる!
……とはいえ、先の負傷を含め、無茶の利く体ではないな。
奴隷が逃げ切るまでは守らねばなるまい。庇いきれる連中は全員【かばう】とするか。
蛇竜、奴隷の先導を頼む。私は鎌で応戦する。
撤退が上手くいっているようならば【死の橋】を使おう。
当たらなくとも、呼び起こしたものを【呪詛】として鎌に纏わせればいい。
その呪いの分だけ切れ味は増す。
貴様が虐げた者の呪い、全てを籠めたひと薙ぎだ。
よく味わえ――そいつが、たかが玩具の怨念よ。
ふはは……さぞ旨かろうな?
●
こうまで囲まれてその態度、お嬢様根性もここまで来ると恐れ入る。
再生能力があるからだろうか。それとも、生まれ持ったものなのだろうか。
まあ、なんだって構わない。これまでの礼をするだけだ。
息を吸い、長く吐く。
無茶の利く身体ではないが、動けぬほどの負傷でもない。これしきで悲鳴を上げていては、常日頃から耐えられぬというものだ。
体を蝕む、呪詛。
今宵喰らった呪いは格別の。今にもニルズヘッグの躰を食い破り、現世に溢れ還ってしまいそうだ。
蛇竜は奴隷の先導たらんと離れている。代わりに繰るは死神の如き簒奪の鎌。
「如何生きれば、此処まで歪めるかね」
「あら、どういう意味かしら。あたしは、あたし。全ての支配者よ!」
血反吐を撒き散らしながらもリーシャの心は未だ折れない。あるいは、この自信がある限り、リーシャは再生し続けるのだろう。
軽く肩を竦めたニルズヘッグが鎌を撫でる。命を刈り取るその形。絶望を喰らう死神に、食えぬものはひとつとして存在しない。
それは、眼前のオブリビオンも含まれる。
「その自信ごと、貴様の命を叩き折ってくれる!」
たかが玩具と侮り弄んだ者の生末。千差万別の人間が、ただ一人を呪った呪詛。
喰らった呪いをすべて込める。リーシャが虐げた者達の、全てをだ。
死神の鎌に薄らと赤い靄がかかる。呪詛を形にしたのなら、きっとこういう姿をしているのだろう。あまりに濃く、あまりに深く、可視化される程の怨念。ニルズヘッグには、お嬢様と叫ぶ老若男女の声が聞こえた。
一振り。軋む身体に鞭打って、お嬢様は華麗に躱す。
二振り。霧はまた一段と濃い赤を伴って、掠った肌から中へ入り込む。
「ひっ、な、なに」
三振り。何ものも防げぬ刃はリーシャの胴を確かに捉えた。
「い、や。いや、いやよ。こんなの……――!」
リーシャの紅玉の瞳があちらこちらへ向けられる。気が狂ったように頭を振り、亜人と同じく叫びをあげた吸血鬼は全身の傷という傷から血を噴いた。
「ふはは……さぞ旨かろうな?」
どんな姿が見えているのか。
どんな声が聞こえているのか。
どんな誹りがリーシャを襲い、喰い尽し、破滅させようとしているのか。
ああ、嗚呼! それをニルズヘッグが知る事は出来ないけれど。ようやく叶った人間どもの復讐の呪言はさぞ美酒だろう。
「ようく味わえ――そいつが、たかが玩具の怨念よ」
ニルズヘッグの声は、リーシャの絶叫に掻き消される。内側から喰らい尽された吸血鬼は、惨たらしく肉を腐らせ朽ちていく。
終わりは、未だ。蠢く肉塊はなおも再生せんと地面を這う。
大成功
🔵🔵🔵
●
――ねえ、あなた、本当に生き物? この世界のものじゃないみたい。
知性もあって、人の言語も理解する鋼の塊なんて、面白いじゃない。
寿命はあるのかしら。痛覚は? 感情はどこまで発達しているの?
ふ、ふふふ、面白い玩具! とーっても便利な無機物ね。
いいでしょう。生きる事は許してあげる。
勝手に壊れないで頂戴。許可なく動く事も話す事も許さないわ。
ただの玩具に、権利なんて必要ないのよ。身の程を弁えなさい。
じゃあ、まずは壊し合って貰いましょうか。どちらがより頑丈なのかしら、ね?
クレム・クラウベル
生かしておけないのはお前の方だ
……いいや、そもそも生きてなどいないか
過去の残骸。本来は既に朽ちて消えたもの
潔く過去へ帰れ、……不愉快だ
奪うも弄ぶも、全て
狙いを定めては引き金を引く
不浄が、悪しきが相手なら指先に迷いの一つも生じない
吸血鬼ならば良く効くことだろう
銀の弾丸とはそういうものだ
浄化の祈り、銀の謂れ
穿て、貫け。悪しきを滅せ
忌まわしい血は邪魔になるなら祈りの火で諸共燃やしてやろう
渇いてしまえ
オブリビオンは元より
奪うものは、虐げるものは嫌いだ
痛みを返そう。嘆きを届けよう
奪っただけお前からお前を奪い、殺そう
欠片一つとこの世界に留まれるなど思わない事だ
塵一つすら許容しない。骸の海に沈め
◇◎
●
過去の残骸。本来ならば、此の世界にあってはならないもの。
既に朽ちて消えたはずの過去が、滲み出た結果の今がある。干渉してはならないものが、今を生きる人々を脅かして来た。
あってはならない事だ、こんなこと。
「不愉快だ」
端的な感想が漏れる。クレムの眼前、リーシャはなおも再生し血走った赤い瞳を男へ向けた。
その半身は未だ不完全ではあるが構いやしないのだろう。断面からは赤い靄が溢れ、そのうちにリーシャの血霧と混ざり盾となる。
「こちらの、台詞よ」
「そうか」
完全に元に戻るまで待ってやる義理もない。
生かしてはおけない。――いや、そもそも生きてなどいないか。
なれば潔く過去へと叩き返すのが道理と言うもの。
クレムが向けた銃口はぴたりとリーシャの心臓を捉える。オブリビオンという過去の残滓が世界を蝕むと言うのなら、この引き金にかける力に迷いはない。
シルバーバレット。
悪しきを払う銀嶺が招くは浄化の祈り。こと吸血鬼にはようく効力を発揮してくれるだろう。
悪鬼を滅せよと囁く。他ならぬ自身の手で、生きとし生ける者を貶めた吸血鬼を祓えとささめく。
鼓膜を叩く様な音が鳴る。クレムにとってはもう随分と聞き慣れた音だ。遅れて漂う火薬の香りも。
ああけれど。どうにもまだ足りないらしい。
「そうか――お前は、欲張りだったな。喜べ。祈る時間をくれてやろう」
白い指先は十字架をなぞり、クレムは人の良い笑みを浮かべる。修羅の中にあってそれは、ただの好青年ではいられないのだが。
渇いてしまえ。オブリビオンは元より、そうでなくとも奪うものは、虐げるものは嫌いだ。
穿たれた銀の弾丸。一雫のしろがねから白きが溢れる。
「あ、――」
内側から呪詛で食われ崩壊した次は。
「いや、なんで、」
「痛みを返そう。奪っただけお前からお前を奪い、殺そう」
それが、とうに亡くなった人々の嘆きを届ける事になるのなら。
迷いはない。
「往ね。二度と此方へ来るな」
祈りは炎と成りて膨張する。リーシャの内側から、その聖なる響きとは真逆の残忍さを以て。
悲鳴が、木霊した。
大成功
🔵🔵🔵
●
こんなドロドロの塊を見て人間と同じ扱いをするだなんて、頭が狂ってるわよね。
ああ、悲しまないで。ここではみーんな同じ家畜だから。
あなたたちはどんな事が出来るの? どんな姿が本当なの?
千切っても元に戻るのかしら。食事は必要? 飢えはあるのかしら。
見世物小屋にでも入れておきましょう。檻より水槽ね。
さあ、あなたを見せて頂戴。死ぬ瞬間まで楽しませて。
安心なさい。死んだら仲間の所へ還してあげる。汚水と同じでしょう?
依世・凪波
◇◎
みんなの足手纏いになりたくない!
己と何より仲間の回復『祈り』【慈雨の唄】を紡ぐ※詠唱お任せ
体がある程度回復したら
俺だって…戦える!負け、てたまるかっ!
恐怖は残っているが『勇気と覚悟』決めリーシャに挑む
トラウマの刻みつけられた弱い子狐なら良い獲物として
『誘惑』足り得るかもしれない
少しでも仲間への隙を作れるよう祈りつつ
攻撃を『見切り、野生の勘、逃げ足』で必死に避けようと
あの槍きっと簡単には作れないはず…
噴出した血を思い出しぎゅっと拳を握り
傷付きながらも『フェイント』をかけ『野生の勘』で隙を狙いタイミングをみて奇跡を祈り
鉤縄を鮮血槍へ奪うように巻きつけ『盗み攻撃』
フラフラになり
俺、役に立てた…?
●
あれだけ、悪夢を齎した女が叫んでいる。
優勢なのは明らかに猟兵だ。ひとりふたり、端っこの方で震えていたって結果は変わりないだろう。
だから、――でも。
でも、おれは。俺は。
「みんなの、足手纏いになりたくない……!」
紡ぐ旋律は夜空に煌めく星の歌。誰もが知ってるその歌に、旋律は同じくして詩を乗せた。
輝く星は人に比べて永くある。人の命は、一瞬で燃え尽きる流れ星と同じだろう。ただそれは、見る者に夢を齎すように。人々の営みは、未来への架け橋となるのだから。
全てが貴く、尊い命。
「なくてもいい命なんて、どこにもないから――」
咽喉を震わせ凪波は歌う。
自らを癒すため。それ以上に、仲間の身体を癒すため。
白炎が視界の端で煌いた。
浄化の炎から脱したリーシャは見るも無残なドレスの切れ端を纏い、檻の向こうへと逃げた奴隷を追って跳ねる。
それは、凪波の眼前。炎の残り滓を振り払い、リーシャは獲物をその瞳に映した。
トラウマの刻み付けられた弱い子狐。傷は治りかけてはいるものの、『お嬢様』を前に竦む体は誤魔化せない。
「あ、」
足が、動かない。
「俺、は……」
手が、震える。
「許すわ。あたしの糧になりなさい」
鮮血槍が振るわれ、凪波の腹を貫いた。
――否。
「俺だって……戦える!」
恐怖に縛られた心を奮わせ、鉤縄を繰り槍を掴む。剣とは違い、全てが刃とならぬそれは格好の獲物だ。
鉤にかかる遠心力で縄は勢いよく絡みつく。腹を狙った槍の軌道は逸れ、思いもよらぬ力がかかった所為かリーシャの手元から放たれる。
微かな舌打ちを狐耳は捉えた。
奪った槍は忽ちぱしゃりと血に還るが、すぐさま精製される気配はない。代わりに、リーシャの周囲には再び血霧が漂い始めた。
眩暈がする。一手防いでもまた次手が。これが、猟兵の世界なのだ。
「助かりました。それでは悲劇を殺しましょうか」
凪波と入れ替わるように、人影が迫る。もう大丈夫だとかかる優しい声が、凪波の緊張の糸をぷつりと切った。
「俺、役に立てた……?」
「ええ、充分」
一歩、二歩、後退り。凪波は泣きそうに顔を歪めた。出来ることが、あったのだ。
成功
🔵🔵🔴
●
あなたの価値はその宝玉。美しいわ、忌々しいぐらいに!
四肢を落として見世物にしましょうか。ちゃんと原石が分かった方が安心だもの。
宝石が採れなくなったら捨てなさい。もう必要ないもの。
生き延びたかったら精々身を粉にして宝石を生む事ね。
やり方? 知らないわよそんなもの。
指先から砕きましょう。目玉を抉り取って、内臓を掘り出して、美しき存在にしてあげる。
最高の気分よ。生きた宝石だなんて、搾取のし甲斐があるわあ。ぞくぞくしちゃう。
静海・終
この少女はそういう生き方しか知らないのだろう
お可哀想に
哀れだと見下しましょう、我々を見下す彼女と同じように
身体は幾許か動くようになりましたが痛いものは痛いですねえ
生きている証を噛みしめながら、悲劇を殺しましょう
身体の動く限り悲劇を殺すのだと、壊すのだと決めた
腕が動かなくとも目が見えなくとも
家畜の意地とばかりに獅子にて食らいつきましょう
フェイントを入れつつ死角を狙い先制攻撃
地を這おうともそれを殺し壊せるのであれば
絶対に離しはしない
最後は檻は全て砕け見下していた家畜に見下されながら喰い散らかされる
なんとも支配者らしい、終わりじゃないですか
さようなら
●
お可哀想に。
終が抱く感想は、ただそれだけだ。この愚かで憐れな少女はそういう生き方しか知らないのだろう。それを正してくれる者もなく、教えてくれる者もなく、ただ一人立ち続けてきた孤独の女王。
哀れだと、見下しましょう。我々を見下す彼女と同じように。
身体は幾許か動くようにはなったが、痛いものは痛い。傷負いの子狐の歌は怯える奴隷ばかりか、猟兵たるわが身も癒しはしたがまだまだ完治とは言えなかった。
まあ、これも、生きている証だ。
前向きに捉え、痛みを奥歯の底で噛み殺しながら、終は口元だけはにこやかに笑む。
「なんとも無様で、哀れですねえ。檻は砕け、見下していた家畜に見下される」
「……さ、い」
「挙句、あなた様は今ここで死ぬようですよ」
「うるさい!」
リーシャの、オブリビオンの気配が怒りで膨張すれば終にもその輪郭がはっきりと分かる。見えない瞳でその姿を捉えるには、取れる方法など限られるのだ。霞んだ片目の視界では距離感も危うい。
頼りにするのは、たったひとつ。ひやりと落ちる死の予感だけは、避ける。
腹に熱。腸を絡め取り貫くように鮮血槍が腹を射抜く。戻る力に引き摺られ、はらわたが抉り墜ちようとも未だ動く。
連続する突きは皮膚を破り肉を抉るが、急所だけは捉えさせない。
繰り返される槍の連撃に癖を見つけ、テンポを掴み、――終には反撃に移る。
「家畜にも、意地というのがございますゆえ」
突き出した、その手を喰らう。ふわりと揺れたタテガミは獅子を彩る黄金色。変形した腕は鋭い牙を持つ金色の王となり、リーシャの肉にかじりついた。
振り払う。けれど、それで離れてやるほどお人好しにはなれない。
開いたのは小さな口。人間の口。次の瞬間には、獅子を象った腕が人間のそれに代わり、口は裂けて牙の並ぶ口内を見せた。
例え地を這おうとも。悲劇を殺し、壊すまで。
るる、と低く喉が鳴る。リーシャの喉を噛み千切った獅子は消え、口元を赤く染めた終の姿がそこにある。
「飼い犬に手を噛まれる、でしたっけ。まあ、噛んだのは首ですが」
ごとりと墜ちる頭を見下ろし、冷めた目で終は見下した。
「なんとも支配者らしい、終わりじゃないですか。ねえ?」
血霧は尚も漂い纏う。鮮血槍が、昏く輝いた。
苦戦
🔵🔴🔴
●
あらあなた、随分と小さいわね。もしかして、ずっとそのまま?
やだ、良いじゃない。あたし好きよ、小さくて脆い生き物!
子供みたい。そういうのを好む人、たくさん知ってるわ。
男はちょっと厳ついから、あんまり価値はなさそうだけれど。まあ、人柱ぐらいには使えるかしら。
女は、そうね。可愛がって貰いなさいな。少女でないなら、分かるわよね?
法も規律も存在しないこの世界でどう扱われるか……楽しみね?
アリーシャ・マクファーソン
◎◇★
さぁ、いよいよ本命の吸血鬼狩りのお時間ね。
その余裕に満ちた笑顔、屈辱で歪ませてあげるわ。
申し訳ないけど、あなたの玩具になるつもりはないの。
あなたが血を纏い武器とするならば、私は血を凍らせ武器としましょう。
真の姿を解放して、金色の瞳に真紅の蝙蝠の翼を生やした姿に。
ふふ、これじゃまるでヴァンパイア同士の共食いみたいね。
自ら流した血を触媒として、【百華凍刃】を解き放つ。
相手の血の刃を相殺するように幾多もの刃を飛ばしましょう。
どちらかの血が枯れるまで……我慢比べでもしてみましょうか?
あぁ、でもごめんなさいね。あなたの命を狙っているのは私だけではないようよ。
●
絶対零度の眼差しは、蠢く肉塊を貫く。元の形へと戻ったリーシャはその余裕の表情をややに歪めた。
鮮血槍を手に取り、幽鬼のようにことりと首を傾げる。唇は未だ笑みを象り、お嬢様は氷姫を眇めた。
「ああ、……あなた、ダンピールね」
「それが? 私、あなたの玩具になるつもりはないの」
この吸血鬼にとって、ダンピールは憎むべき存在だ。そして同時に、半分だけとは言え自身に似ているのだから、血を啜り糧とするには相性がいい。
あなたが血を纏い武器とするならば、私は血を凍らせ武器としましょう。
「ふふ、いよいよ吸血鬼狩りのお時間ね」
ぷつりと、白艶の肌から赤い雫が零れ落ちる。地面に落ちれば氷の棘となってアリーシャの足元を彩った。
目を閉じる。心臓が縮まるような感覚と、底から沸き立つ凍て付く熱が全身を駆け抜けた。背が熱い。何かが生み出される痛みが身を抉り、アリーシャは儚く溜息を零す。
皮膚を破り、伸ばされる翼。生み出されたばかりの蝙蝠は、真紅の血を散らして生を受けた。
嗚呼、傾く。ヴァンパイアたる血が騒ぐ。
「さぁ、その顔。屈辱で歪ませてあげるわ」
飛び散る血は忽ち凍り、仄かに赤い透明な刃へと変わる。流した血が多いだけ、その刃は無数と近付きリーシャを貫く事だろう。
それに対抗するかのように、鮮血槍を撫でたリーシャが血霧から刃を作り出す。憎悪に燃える赤い瞳はアリーシャを射抜き縫い付けるよう。
けれどそれで怯む程度の心は持ち合わせていない。
この戦いは、どちらかの血が枯れるまで。無数に無数を重ね、プラス一が勝つまで続く。
「ふふっ、これじゃまるでヴァンパイア同士の共食いみたいね」
血の刃が氷の剣を穿って砕く。氷の刃が血の剣を穿って砕く。全く同レベルで高位の戦い。まさしく、オブリビオン同士の戦いとでも言えるほどの苛烈な戦いが繰り広げられた。
アリーシャの身体を赤い刃が刻んで血を攫っていく。それさえも氷に変えて、アリーシャはお嬢様の身体を貫く。
永久にも思えた命の取り合い。
アリーシャは背に風を受け、ひそりと息を吐いた。
「――ああ、でも、ごめんなさいね」
「なによ、偽物!」
同じヴァンパイア。違いは、この風だ。抱く殺意はリーシャへ向けて放たれる。アリーシャを包む風は優しい。
猟兵は、ただ一人ではないから。
「あなたの命を狙っているのは私だけではないようよ」
アリーシャの言葉と共に飛び出す影。人と言うには異形を象るその猟兵は、るると喉の奥を鳴らした。
成功
🔵🔵🔴
●
まあ、童話の世界にいるような森の精霊というやつかしら。
実在したのねえ。繁殖させれば儲かるかしら?
長命の種族はね、心臓とか、眼球とか、とおっても高く売れるのよ。
みんな長生きしたいのかしら? あたしには分からない事だけれど。
うふふ、喜びなさい。価値のない存在に、このあたしが価値をあげようと言うのよ。
見目も麗しいなら愛玩用でも良いかしら。死にたくなければ、せめてご主人様を見付けなさいな。
それが出来ないのなら、バラして売るだけよ。選ばせてあげる。
皆城・白露
(他猟兵との連携・アドリブ歓迎)
…ああ、胸糞悪い奴だ。
謝れとか償えとか言う気はない…潰れるまでそのままでいてくれ
お前も、この市場も、ここで終わらせる
終わるまで潰す。それだけのことだ
(自分の真の姿は、化物じみている
あの「亜人」をどうこう言えないだろう
だけどそれでも…これ以上、他人に好き勝手にされるのはお断りだ)
拷問と戦闘の傷は残っているが、痛みは【激痛耐性】で耐える
真の姿を解放し、【黒風鎧装】使用
(黒い風に隠れているが、獣じみたシルエットと禍々しい爪は見て取れる)
【カウンター】【2回攻撃】も駆使し、攻撃を叩き込み続ける事で
相手の意識を自分に引き付ける
非猟兵が襲われるようなら【捨て身の一撃】で防ぐ
●
――ああ、胸糞悪い奴だ。
謝れとか償えとか、そんなちゃちな言葉を言う気はない。言葉で済む話ではないのだから。潰れるまでそのままでいればいい。
黒き風を纏った白露は一歩を進む。血と氷の刃を眼前に見ても歩みは止まらず、流れて来た刃が頬を掠る。
それでも、なお。
お前も、この市場も、ここで終わらせる。終わるまで、潰す。明けない夜はないように、終わりのない物語なんて存在すべきではないのだから。
一歩を進む。踏み出した足は獣のそれと近く、硬質な爪が檻の底に跡を残した。
二歩を進む。全身を包む肉が盛り上がり、人間の姿からかけ離れていく。
ああ、あの『亜人』をどうこう言えるものじゃあない。内に宿した力は身体に干渉し、亜人の如くに変化させた。
ただ、故に。これ以上、他人に好き勝手にされるのはお断りだ。
自分が自分であるために。他者に押し付けられて生かされるのは、果たして生きていると言えるのだろうか。
受けた傷は深く、白露の生命を脅かす。微かに耐性はあれど、その耐性を上回るほどの熱が白露を蝕んだ。
その傷痕も、消えていく。
黒い風は真の姿を晒した白露の全貌を隠すが、獣じみたシルエットと禍々しい爪は見て取れる。
狼だ。
ふっと消えた氷の刃。散らした血の跡を踏み、獣が駆ける。
「オ、オオ、オオオオオオ!!!!!」
咽喉を震わせ吼える。振るった爪は槍に防がれ弾き返されるが、なおも追い縋り牙を立てる。
「おだまり、ワンちゃん!」
リーシャが苛立ちを隠さずに喚くが構わない。終わりまでそのままでいればいい。それを潰し、壊し、引き裂くだけ。
風を纏った白露の爪は時が経つ程に強化される。槍で防ぎ切るのも限界で、リーシャの四肢に爪が突き立てられた。
終わるまで、潰そう。
昏く白露の目が灯る。噴き出る血が白露の肌を濡らして落ちた。
成功
🔵🔵🔴
●
あはは、作り物みたい。小さくても一人前、ってやつ?
知ってるわよ、妖精でしょ。フェアリーテイルなんて言うじゃない。
どうしてあげましょうか。その翅、毟り取っても良いのだけれど。
観賞用に売り捌いても楽しそうじゃない。檻は逃げられるし、瓶詰かしら。
ああ、そうね! 薬品漬けにすると永久に保つと聞くわ。
冒涜的に扱いましょう。希望を潰すその瞬間が楽しいんだもの。
生きたまま、いつまで保つかしらね。精々気に入られるように頑張りなさい。
死んでも愛でてくれるご主人様に出会えるといいわねえ。
有栖川・夏介
◇◎
「人間は……貴女の家畜ではありません」
処刑人の剣を構えて『お嬢様』と呼ばれているモノを見据える。
呼吸を整えたら敵に向かって駆けだし、一気に間合いを詰めて【フェイント】による攻撃。
UC【咎力封じ】を使用し、敵の技の無力化を試みる。
……無力化できずとも、多少攻撃力を減らせれば重畳です。
手ごたえを感じたら、一旦下がって剣を構えなおす。
逃げ遅れている奴隷たちが襲われそうになったら、すぐさま駆け寄って【かばう】
敵の攻撃が当たっても、【激痛耐性】で耐えて反撃してみせます。
人間を家畜と侮ったこと、後悔させてあげましょう。
敵を睨んで【恐怖を与える】
躊躇なく剣を振るう。
「……さよなら」
●
「人間は……貴女の家畜ではありません」
腕を捥がれ、血を垂らすリーシャを見据えて夏介が剣を構える。この剣は処刑の為に。『お嬢様』という処刑すべき対象がいるうちは、折れる事のない剣だ。
眼前の黒い風は夏介たち猟兵にとっては追い風となる。肌を撫でるそれは冷たく、しかし害する事はない。
息を吸い、静かに吐く。呼吸を整え見るは只一人。
「人間は、貴女よりも貴き存在ですから」
間合いを詰めるは一瞬。苦しむリーシャの眼前に姿を見せれば身体を捻る。そのまま刃が振るわれると思ったのだろう、リーシャは消えた影に追いつけない。
影より溢れ出づるは数多の拘束具。それはリーシャがかつて使った道具の数々と同じだろう。
リーシャがそうしたように、夏介はリーシャに枷を施す。
無力化するその枷は、リーシャの振るう鮮血槍にいくつか破壊されるが全てではない。封じる力は弱まれど、全力で動くには支障が出るだろう。
「ああ、うざったい! 小蠅が喧しいのよ!」
振り上げようと力を込めた腕は、檻から伸びる枷に妨げられて途中で止まる。ただの枷ではない、夏介の力が込められた、特別な拘束具だ。
一瞬でも動きが止まればそれでいい。
と、と軽く跳ねた夏介は剣を下段に構えて息を止める。その間、コンマ一秒以下。それだけあれば十分なのだ。
「人間を家畜と侮ったこと、後悔させてあげましょう」
断ち切る刃は処刑の為。
リーシャと同じ赤い瞳が細められ、眼力だけでその身体を縫い付ける。
「……さよなら」
奔る。手足が効かぬとも操れる血霧を容易く裂き、剣の一閃はリーシャを捉える。皮膚を裂き、肉を二分に開き、骨を断ち、虚空を斬る。滞る事はない。この刃は、処刑すべきものを断つ為の鋭さを持つ。
「また、ひとつ」
振り抜いた剣の血を払う頃、聞くに堪えない音をあげてリーシャの上半身が地に墜ちた。
鮮血槍の目が曇る。笑う心臓は微睡み始めた。
大成功
🔵🔵🔵
●
へえ、面白いわね。それって黒曜石でしょう? 珍しいのよ、この世界。
道具も何も発達してないから硬い鉱石って中々手に入らないのよねえ。人間って愚鈍でしょう?
でもいいわね。あなたたち、それを献上なさい。あたしが有効活用してあげる。
身体の一部? 知らないわよそんなもの。宝の持ち腐れでしょ。
身体も丈夫みたいだし、ガラじゃあないけれど余った身体は労働力として売りましょうか。
死ぬまで扱き使われるといいわ。あ、また角が生えたらいらっしゃいな。
これは命令よ、イエス以外は聞かないわ。
向坂・要
身体で、ときましたかぃ
ならきっちりあんたの身体に刻むことでお返ししますぜ
欠損を補うは精霊達の加護
ちょいと機動力は落ちますがね
相手の攻撃を【見切り】【第六感】で回避
不可な時は【覚悟】【オーラ防御】
その身で受け更に引き寄せ相手の動きを制限
ゼロ距離で暉焔を叩き込んでやりますぜ
動けない仲間や奴隷を【かばう】
本体が無事なら、ってね
暉焔で生み出した焔を手足のように自在に操ることで【足止め】
武器に宿した毒のルーンによる【毒使い】【マヒ攻撃】も狙いつつ
常に全体を俯瞰で見るように心がけて
仲間との連携や動けない奴隷や仲間のフォローを意識
ペットは飼い主に似る、ていいますが確かにそのようで
など皮肉
連携
アドリブ歓迎
●
ペットは飼い主に似る、ていいますが確かにそのようで。
眼前でじくじくと再生を始める肉塊を見て、要は皮肉と共に口元を歪めた。言葉は果たしてリーシャだったものに届いたのだろうか。
再生を待ってやる義理もない。精霊たちの加護で欠損を補い動き回れるとは言え、常日頃の速さを出せるわけでもない。だから、機は今だ。
身体で払えと言うのなら。こちらとて同じこと。
「きっちり、あんたの身体に刻むことでお返ししますぜ」
足を滑らせ躍り出る。指先で眼帯をなぞる。その奥に潜められた右眼が宿す、仄かな熱。
リーシャの顔が再生され、ぎょろりと瞳が向けられる。限界まで見開かれたそれと、要の瞳が向き合った。
轟。
ゼロ距離で放たれた炎は要とリーシャの瞳をそれぞれ赤く染め、その身諸共火にくべる。避けられぬよう接敵すれば己が身も巻き込まれよう。
しかして、要に躊躇いはない。本体が無事なら、どんなに苦痛に晒されようとも生きていられる。
仲間や奴隷が犠牲になろうものなら、覚悟と共に身を差し出す決意さえしてきたのだ。
「あ、ああ、あ、」
生み出した焔は再生を続けるリーシャを呑みこみ、更に燃え盛る。要の指先ひとつで燦然と燃ゆる焔の勢いは増し、溶けだす皮膚の奥に毒を染み込ませる。
そこらの雑兵ならこれで血反吐を吐いて死ぬだろうが、リーシャは違う。
要の眼前で獣のように吼えたかと思えば焔を払って飛び跳ねた。小さな翼は焼け爛れ、再生しきらぬ皮膚は溶け落ち肌色の水たまりを作っていく。
「ゆるさない。ゆるさない許さない許さない!」
憎悪が籠った絶叫は衝撃波となり猟兵を襲う。ち、と小さな舌打ちと共に繰る焔を追撃とするが、リーシャは容易く躱してみせた。
焦りが生まれる。――が、耐える事も必要だ。
幸い全体を俯瞰するよう意識を持っていた要は後を追う事をしなかった。もしがあれば、きっと、落ちた肌と血の雫から刃が溢れ刻まれていた事だろう。
一人ではないから出来る戦い。それを、要は知っている。
ワンテンポ遅れて放たれた血と皮膚の刃を焔で焼き殺した先に、要は仲間の姿を見留てひそりと笑んだ。
成功
🔵🔵🔴
●
あらあらまあまあ、凄いわね! 殺しても殺しても死なないじゃない!
その身体は虚像なの? 仮初? 素敵!
あなたの本体がコレというなら、コレを壊すまでは沢山殺せるってことよね。
それに! 気に食わなくなったら壊してしまえばいいもの!
ああ、ゾクゾクしちゃう……。あたしもひとつ欲しいぐらいだわ。
さあ、殺戮ショーを始めましょう。あなた、亜人に相応しい存在よ。
あたしが良いと言うまで、生き延びなさい。終わりはあたしが決めてあげる。
逆らえば、――判ってるでしょう? これがあたしの手の内にある限り、あんたは奴隷よ。
楽しませて頂戴。心の底まで!
月舘・夜彦
あの亜人は、人の……、そうか
地獄というものは、存外近くにあるものなのかもしれないな
片腕は食われたが、刀を持つ手があれば良い
我等も物と言うならば、その物の抗う力を知るが良い
夜叉を発動、駆け出して先制を狙う
基本は2回攻撃
槍は武器受けで受け流し
槍の連撃は残像と見切り、槍を武器落として弾いて回避に徹底
その隙にカウンターで斬り返す
命を奪うという所では、私も似たようなものだ
それでも弄ぶような真似だけは決してしなかった
悪人であろうと、一つの命に変わり等は無い
此処に居た者達も
……だが言い訳に過ぎぬ、結果は同じなのだから
私もお前も、行き着く先は同じ
地獄へは、先に堕ちていて貰うがな
●
もう既に尽きたもの。亜人の残骸。
そこにあったのは、数多の目だ。数多の耳だ。数多の腕だ。数多の、心臓だ。
誰でも分かること。これは、人"だった"のだと。
――ああ、そうか。地獄というものは、存外近くにあるものなのかもしれないな。
生き地獄などと言う言葉があるが、成程これがと得心出来た。本来ならば知らぬままでいた方が良かったものを。しかし、物であった男は、これもまた人の業なのかと深み入る。
片腕は無い。再生するには刻がいる。
が、刀を持つ手があれば良い。振るう為に必要なのは、たった一本の腕だけだ。
「物のひとつだと、言うのでしょう」
リーシャにとって、人間も、亜人も、そう変わらぬ存在だった。もっと言えば、動物とも同じ存在だ。
命の価値は全て等しく。自身以外は、全て無価値という価値に当てはまる。
「我等も物だと言うならば、その物の抗う力を知るが良い」
跳ねたリーシャが墜ちるように着地した先で、重心を低く構えた夜彦が刀を構える。静を体現した鬼神は、そこに在ってそこに無い。存在を感知する間を与えず切迫する。
命を奪う、という所では、私も似たようなものだ。
現に自らに蓄積された穢れは人間たるわが身を鬼たらしめる。
しかし、リーシャとは決定的な違いがあった。
例え言い訳に過ぎぬとも、夜彦は一人として命を愚弄し斬り捨てる真似はしなかった。悪人であろうとそれは変わらず、一つの命として扱った。リーシャが見下した命の数々も、夜彦にとって貴き命の数々と等しい。
結果は同じであれど、経過が違えば意味も違う。
「私もお前も、行き着く先は同じでしょう」
「――ッ、冗談じゃないわ。行くのは、あなただけよ!」
無理な体勢から鮮血槍を振るい威嚇するリーシャ。その一撃を刀の反りで受け流し、頬の横へと流せば、反転。
「いえ。――地獄へは、先に墜ちていて貰おうか」
漸くくっ付いた筈の胴を、夜彦の刀が斬り飛ばした。
我は夜を呼ぶ者也。命を帰し、帳を落とす鬼神也。
大成功
🔵🔵🔵
●
半分人間、半分畜生。それでも物好きは多いのよねえ。
畜生のように可愛がって貰うのがお好み?
それとも、労働者として食い潰される方が好きかしら。
ああ、そういえばあなた、精を喰らって生きるのよね。
だったら丁度良い仕事があるわ。溜まってる人間はごまんといるの。
ご奉仕が好きなのでしょう? 天職じゃない。さぞ嬉しいでしょうねえ。
やだ、あたしに近付かないでくれる? 汚らわしい。
人間の穢れが好きだなんて、あたしには理解不能だわ。さっさと売り払って頂戴な。
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
◇◎
怪物になった皆
――安らかに
恐怖も苦痛からも
解放と鎮魂を祈る
「櫻宵。気をつけて。この人がお嬢様――哀しみの大元」
だから断とう
僕の櫻を
彼女の亜人になんかさせないから
櫻宵と一緒に帰るんだ
僕は僕の【歌唱】を活かし歌で君を守る
君のための凱歌を歌おう
君のための癒しを歌おう
彼女が君を害するならば、その血が届くその前にこの命を燃やして「星縛の歌」を高らかに歌いあげる
けして歌う事をやめない
君の足でまといにならないように攻撃は空中戦で躱す
僕を狙う攻撃で櫻宵が傷つかないように
櫻宵!僕を庇うな!
でも君は聞かないんだろう
大丈夫
僕が君が舞う舞台を整える
守る
だから
いっておいで
檻を壊して終わらせよう
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
◇◎
あたしの可愛いリルをこんなに哀しませて…許さない
リルの歌が心地よくて昂るわ
あなたの想い受け取ったわよ
刀に破魔纏わせて
振りかざし放つのは衝撃波―なぎ払い、鍔迫り合いになればいなして怪力も込めて穿ち斬り裂き
傷口を抉るように何度でも斬る
核を砕き
首を跳ねて
胴を薙いで
心臓を抉り
腹を裂き、真っ二つ
あなたも亜人と同じじゃない!
殺し放題なんて素敵よ!
攻撃は第六感で察知して見切りと残像で躱し
あなたリルを狙うかしら
フェイントと鶱華でリルごと守り傷つけさせない
奪わせないわ
懐に飛び込めれば絶華を
うふふ
まだ殺せる?
リル
誰も亜人になんて
奴隷になんてさせないわ
檻ごと壊して
皆助けて
一緒に帰りましょ
●
怪物になった皆、どうか――安らかに。
恐怖からも、苦痛からも、解放されて眠れるように。
鎮魂を、祈る。
「櫻宵。気を付けて。この人が『お嬢様』――悲しみの大元」
リルが言う。だから断とうと。
悲しみを生み出し作り上げた亜人の檻。籠る声は悲鳴と悲嘆と怒号だけ。快楽を見出した人々とお嬢様の下に積み上がる、多くの人達。
そしてそれは、死して亜人となった者でも、奴隷となった者でもない、第三者にも悲しみを齎した。
事態を知り、解決へと賭け付けた猟兵達。目の当たりにした惨状を見て、心痛まぬ者などない。リルの声には、悲哀の響きが滲んでいた。
あたしの可愛いリルをこんなに哀しませて……許さない。
傷付けた事。悲しませた事。亜人の様に扱った事。全てが、櫻宵には許せない事実だ。
奇しくも二人は、――いや、想いが重なる事は、当然の事だった。
僕の櫻を、彼女の亜人になんかさせないから。
あたしの可愛いリル。誰も亜人になんて、奴隷になんて、させないわ。
――だから、檻を壊して、一緒に帰ろう。
心臓がまだ動くから。血霧は勢いを増し、リーシャの姿を眩ませる。
その中へと飛び込むは、リルの歌を背に受けた櫻宵だ。リルの歌が心地良く、そして同時に昂らせる。
歌には心が籠るから。聴いた声に想いが乗り、込めた感情が櫻宵に沁みる。確かに想いを、願いを、受け取って。
すらりと抜いた刃に込められる破魔は、リーシャの血霧を容易く払った。なおも迫る血の刃を薙ぎ払い、追随するそれらを衝撃波で撃ち落とす。
狙う先は、鬼神が裂いた胴の上。心臓が籠るそれだけが、櫻宵の狙いだ。
「あなたも、亜人と同じじゃない!」
幾度となく再生し、幾度となく立ち上がる。亜人と同じく核を砕き、首を刎ねて、胴を薙いで、そうして最後に心臓を抉りましょう。
「殺し放題なんて素敵よ!」
皮肉も込められた櫻宵の声に応える声はとうにない。ユーベルコードでの反撃はあるが、リーシャ自身は再生せんとする曖昧な状態で倒れている。その瞳だけは爛々と殺意を抱き、櫻宵を無差別の刃で襲った。
見切りで躱すには無理がある。無傷で帰れるものじゃあない。
けれど、リルを狙うならば。この身は護るためにありましょう。
奪わせないわ。もう、何も。
櫻宵がリルを護るように、リルも櫻宵を護りゆく。その方法が違うだけで、想いは同じだ。
歌を。
君のための、凱歌を歌おう。
君のための、癒しを歌おう。
櫻宵の進む道を塞ぐなら、血の刃が届くその前に、この命を燃やして、歌を。
「綺羅星の瞬き 泡沫の如く揺蕩いて」
それは魅了し、蠱惑し、思考を蕩かす甘美な歌声。
「耀弔う星歌に溺れ 熒惑を蕩かし躯へ還す」
リルの命の燈火が揺れ、限りある天命が削られる。
血霧が薄くなっていく。リーシャの力の干渉が消え、雨の如くに地に降り注ぐ。櫻宵の身体をただ濡らし、悪鬼の如くに染めようとも。傷付かぬなら、それでいい。
僕を庇うな、なんて言っても、君は聞かないんだろう。
だから、これでいいんだ。
「いっておいで」
もう、すぐ目の前にいるけれど。最後の一押し、背に声かけて。
大丈夫。僕が、君が舞う舞台を整える。
だから。
「――ええ」
その声に応えずして、この刀は何となる。
その歌に応えずして、この身は何となる。
もう声も出せぬリーシャを前に、櫻宵は春の瞳を細めて。
「さぁ、桜のように潔く……散りなさい!」
この一閃は、黄泉路へ導くしるべと成らん。
千々に散る様が美しいから、より際立って儚く見える。見習うと良い。もがき、足掻いて根を張る悪の無様さを、自覚して。
赤い血液は花弁の如く地を濡らし、吸血鬼はその姿を千々に散らした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
ビイイ、と羽搏く音が鳴る。
発生源は、全ての猟兵の視線の先。地面を穿つ、鮮血槍。
瞬いた槍の瞳孔が引き絞られ、明らかに異常を来たしている。
「ああ、嗚呼……最悪……」
声は、何処からしただろうか。
ぱちりと、瞬きの間に。槍は形を変えて少女の姿へと成り変わる。
「うるさい、うるさい煩い五月蠅い……」
リーシャ・ヴァーミリオン。鮮血槍に愛された、少女。
こてりと首を傾げた少女が纏うものは、あからさまに変化した。
勘のいい者は悟っただろう。勘のいい者は震えただろう。
本気を出したというには遅すぎるが、これまでのものとはまた違う、何かを秘めている。
「ころしてあげる」
無機質な声が、告げられた。
●
あなた、人間みたいだけれど中身は全然違うのね。次元が違うのかしら。
あなたは、あなたが思う理想の形をしているというわけね。
良いじゃない。外見がいいものは、それだけで価値があがるものよ。
厚みがあるのなら使えるわね。人間と違って、理想通りになるのでしょう?
遊戯をさせましょうか。人間の欲に塗れた、楽しいお遊戯を。
怯えなくてもいいわ。その内、きっと慣れるでしょう。依存しちゃうかもしれないわね?
ミンリーシャン・ズォートン
◇
以降
リーシャ→Χと省略
心境は※
猟兵では無い奴隷だった人達の避難誘導をしつつΧと他の猟兵の戦闘を様子見
※相手が油断している今なら…確率は0じゃない
見切りを活かしてΧが仲間の猟兵に2~3回目の魔槍連撃を使う瞬間に【星屑の天の川】を使用
魔力で作られた私の羽衣は破けても瞬間補修され自由に伸縮
相手を高速し視界も奪う
今ですっ!という掛声と共に仲間に攻撃を促す
戦闘後
※まだ、終わっていない―。
逃げようとする奴隷商人達の前に立ちふさがり各々がまだ捕らえている奴隷の解放を促します
「貴殿方…捕らえている他の奴隷も解放して下さい。―さもなくば…」
戦闘を続ける姿勢を見せ
全ての奴隷が解放されてこそ、本当の我々の勝利です
●
様子を見ていた。避難すべき人々を誘導しながら、火の手がこちらへ向かぬよう細心の注意を払いながら。
ミンリーシャンは今や、リーシャの動きを隅から隅まで把握していた。どのような技を使い、どのような癖があり、どのように再生するのか。
消耗している。誰が見ても分かる程度に、リーシャの再生力は落ちている。
そして、その顔に焦りが浮かんでいる。余裕を見せ、油断し、食い千切られたその身体が震えている。
これは、直感だ。
ミンリーシャンはこれが最後になるのだと、ただ漠然とそう感じた。リーシャが見せていた様々な物が排され、ただ焦燥だけが浮きんでて見える。
「――参ります!」
ふわり、光の羽衣を纏い、天に立つ。二人の猟兵を獰猛な眼差しで射抜いたリーシャが繰る鮮血槍が振るわれて、苛烈な突きが仲間を襲う。
助けに、行きたい。
けれど、今は未だ。
両手を組んで機を待つ。焦ってはいけない。輝く星屑の煌きを背に負い、ミンリーシャンは息を飲む。
イチ、ニイ、――。
ここ。
「今ですっ!」
放たれた羽衣はリーシャを縛り拘束する。一層力を増したリーシャは容易く光の輪を千切り捨てるが、なおも羽衣は追い縋る。破られては補完され、巻き起こる天使と悪魔の攻防戦。
けれど、この戦いに追われているのなら、仲間が手を出す隙がある。
まだ、終わってない。
これが終わってもすべきことがあるから。
ミンリーシャンは全ての解放を願い、力の限りリーシャを捉える。
そのチャンスを、逃す者はどこにもない。
成功
🔵🔵🔴
●
あたし、あなたみたいなもの初めて見たわ。生きている、って言っていいのかしら。
ただの仮面なんでしょう? それが浮くだなんて聞いたことも無い。
ああ、でも、金のにおいがプンプンするわあ。使えそうね、あなた。
従順な下僕にしてあげましょう。人間に被せてやれば、それも従順なものになるのでしょう?
便利じゃない。言う事を聞かない畜生を矯正するのに使えるって言ってるのよ。
まあ、その前に、あなたを調教しなくちゃいけないみたいだけれど。
素直に従ってくれるのなら、許してあげてもいいわよ? そうじゃないなら、ね。
霄・花雫
【SSFM】
◇◎★
冷え切った身体はもう上手く動きそうにない
適温より低い水温は熱帯魚にとっては致命的だ
……でも、あたしだって、……まだやれる
霞む意識で力を振り絞った
(流水と風と化す髪や鰭、両足は魚の尾へ。水の流れと風を纏うそれは、嵐の精霊のように。嵐と共に空を翔け泳ぐ)
無事だよ、大丈夫っ
あははっ、ホントだ。ユアさんの方がずっと綺麗
【空中戦、誘惑、パフォーマンス、挑発】で敵を引き付けながら飛び回って、【野生の勘、第六感、見切り】で回避しながら隙を窺うよ
【全力魔法、毒使い】で一撃入れたらあとは遊撃、仲間をサポート
じわじわ毒で削られてっちゃえばいいんだよ
弄ばれて死んでったヒトたちの気持ちを思い知れ!
皐月・灯
【SSFM】
◇◎★
真の姿になっても、オレの見た目はそう変わらねー。
目元を隠す仮面が付くくらいだ。
この溢れ続ける血の涙が鬱陶しくて、あんま使いたかねーんだが――。
女3人が体を張ってオレだけ何もしねーってのは、どうにも寝覚めが悪くてよ。
遅くなった。無事だな?
……違いねーが、お前が売られるタマかよ。
槍を避け【スライディング】で懐に飛び込む。
……負けることなんざ考えてもいねーヤツだ。
いきなり間合いに入れば、後退せずに攻撃してくるだろ。
狙い目は連続突きだ。
突きの初撃を【見切り】、【カウンター】の《轟ク雷眼》を叩き込む。
やることは単純――動きを止めればそれで終わりだ。
ヤツへの礼は任せたぜ。
――ブチかませ!
ユア・アラマート
【SSFM】
◇◎★
(入墨を青く染め、肌を突き破る硝子の月下美人を胸に咲かせた白髪赤目の姿。尾と尻尾のみが黒く、声は時折別の女性の声と二重になる)
二人とも、無事でよかった
しかし、お嬢様、か。なんか普通だな
仮に売られたとしたら私の方が高く売れるだろうこれ
さて、正当な値踏みもしたし…片付けるとしよう
前衛の二人が気を引いている間に【忍び足】で気づかれないよう死角へ
【属性攻撃】【全力魔法】で風の魔力を高め【先制攻撃】【暗殺】を用いて背後からの瞬撃を見舞う
初撃が避けられた時は【2回攻撃】で追撃を行い。敵の攻撃は【見切り】【ダッシュ】で回避を図る
追いつかれないと思ったか?
「絶対」なんて、この世には無いんだよ
シャルロット・クリスティア
【SSFM】
◇◎★
花雫さん、無事ですか?
お二人も!良かった……。
私は、大丈夫……やれます!
こんなのは、ケリを付けないといけないんですから……!
真の姿は継続。旗を手に、槍のように振るい。
正面から打って出ます。
恐怖は【覚悟】で押し殺す。
逃げたいですよ……でも、逃げるわけにはいかないんです。
皆を……命を弄んだこと、絶対に許しはしない!
ここで逃げたら、それを見逃した自分も許せない……!
相手の守りごと【砕く】勢いの【怪力】で打ちかかり、攻めたてる。
心情もありますけど、こちらに注意を向けて仲間が【目立たない】ように、仲間が隙をつくための【時間稼ぎ】も込めて。
お前は……お前たちのような奴だけはっ!!
●
――颶風に舞う。
冷え切った身体はもう、上手く動きそうにない。
それもそうだ。適温よりも低い水温。熱帯魚にとって、冷たすぎる水は毒だ。長期にわたり触れていたならとっくに身体を侵されている。
でも。
小さく幼い少女は、身体を震わせる。まだやれるんだと、霞む意識は光の花を啄んだ。
それは流れる清水のように。それは吹き荒れる風のように。絹糸のような髪は揺れ、透き通る鰭が細やかに跳ねた。触れ合わせた両足は、自在に水を蹴り進む魚の尾へ。
嵐を引き連れ花雫は笑む。ゆらりと見せた瞳は水の煌きに揺蕩い、猛き風の中にあって尚嫋やかに輝いた。
花雫が泳ぐは霄の果て。このそらが、花雫の泳ぐ海。
「あたしだって、……まだ、やれる」
――戦乙女の眩耀。
光り輝く戦旗を手に、シャルロットは立ち向かう。
一度逃げた過去がある。
一度見捨てた過去がある。
けれどもう、逃げる事はしたくない。
この旗は心の証。この足で確りと地を踏み、この手で確りと掲げる限り、シャルロットは前を見る。
過去に消費された命は帰らない。
「逃げたいですよ」
齢十三の少女は喉を震わせる。
「でも、逃げるわけにはいかないんです」
植え付けられた恐怖を押し殺し、覚悟を以て立ち続ける。
――赫の災厄檻に降り。
夕陽と青空。炎と水。対比する瞳は今、仮面の奥に隠された。
見た目に大層な変化はないが、灯の内には腹の底から沸く生彩が満たされる。
頬を伝い、顎に流れて零れ落ちる。朱殷の雫を指先で掬うも止まる気配はない。ただただ、涙は溢れ続けていた。
「あんま、使いたかねーんだが――」
独り言つ声は血と共に地へ落ちて。
全く、仕方のない女共だ。ただ一人ぼうと見ていろと言い出す可能性も充分に在る。
呆れか。諦念か。零れた溜息を最後、灯は昏き夜のかんばせを向けた。
――月下に踊る恋の花。
青き炎が燃え上がる。突き出で咲く花、月下美人。透明たるは彼女の心か。綻び開く、仄かな色。
風が攫いて銀は溶け、何者も侵せぬ白と成る。しかして揺れるは黒の獣。
見せる双眸はブラッドムーンにも似て苛烈に染まり、何処の香りに染まりたる。
「嗚呼」
溜息と共に零れ落ちるは二重の声。蠱惑の毒を引き連れ堕ちる月。
妖艶に咲く、月下の花。
●
「花雫さん、無事ですか?」
「無事だよ、大丈夫っ」
コロシアムの中、同じ檻にいたシャルロットと花雫が二人揃って負傷の具合を確認する。
「遅くなった。無事だな?」
囮となり、檻へとぶち込まれた二人を見つけた灯とユア。軽やかな足取りでコロシアム内へと降り入れば、遠目に見えた花雫とシャルロットの現状もよく分かる。
真の姿を解放すれば、傷は癒える。外見上の、傷は。
二人が負ったものはそれだけではないのだろう。震える手足、解放に至るまでを思えば、無事とは言い難い。
けれど、そんなそぶりは見せず。花雫は気丈に笑み、シャルロットは静かに頷く。
だから。
「二人とも、無事でよかった」
かける言葉はこれで良い。
「しかし、お嬢様、か。なんか普通だな」
仮に売られたとしたら、私の方が高く売れるだろう。
なんて、不穏な気配を醸し出すリーシャを前にユアが零した不満の声。花雫が思わず吹き出す。
「あははっ、ホントだ。ユアさんの方が、ずっと綺麗」
声にはどこか、憧れのような音が籠った。
「……違いねーが、お前が売られるタマかよ」
呆れた眼差しが灯から向けられているような気がする。仮面の奥に隠されてはいるが、そんな気が。
ちらりと見やったユアの視線。逃げるように顔を逸らした灯。
緊張と恐怖に身を固めていたシャルロットも、どこかいつも通りなやりとりを見て不要な力が抜けたようだ。
「さて」
ユアの一言は、空気を裂く。
「片付けるとしよう」
値踏みも済んだ。もう、用は無い。
機を見出した仲間の声にいち早く反応したのはシャルロットだ。
拘束する衣ごと、旗を槍の様に振るえば真正面から突きを放つ。込められた力は、少女が震える限界値を越えている。
旗は確かにリーシャを貫いた。が、シャルロットはその手ごたえのなさに身構える。
旗が貫いたリーシャの姿。刹那、全身が血へと変わり旗を濡らした。リーシャは、と視線を巡らせた末に見つけた姿は遥か空。僅か血を垂らした程で致命傷には至らない。
「お前は……お前たちのようなヤツだけはっ!!」
シャルロットが吼える。
込められた感情は様々入り混じり、言葉に表すには難い。たったひとつの単語で表現すべきではないのだろう。
ここで、ケリを付けないと。
自分が受けた様々の仕打ち。冷たい水が脳裏を過り、シャルロットの手足を忽ち冷たく奪っていく。震えは歯を鳴らし、見ぬ振りの為にきつく唇を噛みしめた。
許してはいけない。
ここで、全てを終わらせるのだ。
「任せて」
大丈夫だから。
そう声をかけた花雫の言葉に嘘はない。だから、ここは任せて、と。
空を泳ぐ。浮かぶリーシャと同じく自在に空を駆け、放たれる無数の刃を踊るように避けていく。しなやかに身体が揺れる度、きらきらと鱗が耀き熱帯魚は自由に飛んだ。
全てを避けるにはあまりに多い。だから、斬らせていい所は残して、急所を狙う刃だけ落とす。嵐を斬り抜け飛び荒ぶ刃は厄介で。
けれど、目的は果たしている。
でも。
欲張る心は、思う所があったから。
弄ばれて死んでいった沢山の人。自らがそうされたように、きっと、リーシャもまた様々な手段で『調教』と称して痛めつけてきたのだろう。
だから、知ればいい。
嵐に混ぜて、微量の毒を。嫋やかに泳ぐだけの優美な熱帯魚ではいられない。
隙を伺い十数秒。時間にしてはそれぐらいだが、花雫にはあまりに長い時間が過ぎたように感じられた。それだけ集中していたともいえる。
ここだ。
「弄ばれて死んでったヒトたちの気持ちを思い知れ!」
全力を込める。この一撃に、全てを賭ける。目を見開いたリーシャは避ける術を持たず、真っ向から嵐を受け止めた。
「――、」
口の端から血が溢れる。辛うじて叩きつけられる事は槍を突き立て減衰する事で防いだが、花雫が仕込んだ毒は全身を巡った。
抜き去り、リーシャは獲物を見る。一番近いそれを見る。
鮮血槍が騒ぎ立てた。血を、血を、鮮血を。
そうして狙いは灯へと向けられる。
「頂戴」
「いやだね」
鋭い穂先が貫いたのは、先に自分がそうさせたのと同じように、灯の影だった。体勢低く懐へと潜りこんだ灯は拳打を繰り出す。独特の魔術体系は予測に難く、リーシャとて対応に苦慮する事だろう。
負ける事なんざ、考えてもいねーヤツだ。
灯が狙うは、連続突き。血の刃を払い続け無意味だと知らしめれば、槍での攻撃に切り替える事だろう。
実際、正しい選択である。懐に潜りこみながらも、血霧を払い灯は攻めの姿勢を崩さずに行く。
そうして誘発する、鮮血槍による連撃。瞬きもせずに瞠った双眸がその兆しを捉え、最小限の動作で見切り躱した。
やることは、単純。動きを止めればそれで終わりだ。
「ヤツへの礼は任せたぜ」
雷電が奔る。
「――ブチかませ!」
リーシャへと触れた拳が、弾けた。そうと錯覚させるほどの轟雷が迸り、リーシャの躰を縫い付ける。筋肉に伝わる信号を麻痺させる一瞬。
その刹那が、命取りだ。
いつから、それはそこにいたのだろう。
知る者はたった四人だけ。共に研鑽し、共に歩んできた彼等だからこそ出来る芸当。互いに知るからこそ、無意識の連携がそれを為す。
ふわりと、今にも消えてしまいそうな花の香りが漂った。
それが何の花であるかと知る前に、香りはそうっと身を引いて。
「やあ、私とも遊んでおくれ」
花雫の嵐も含み、ユアの風が吹き荒れる。高めた魔術の力は回路を益々青く染め、臨界点に達していた。
灯のダメージは未だ残る。が、能面にも似た表情でことりと首を傾げたリーシャは、ユアのダガーを寸での所で躱してみせた。急所を外したダガーは肉を斬るが致命傷には至らない。
反転、攻勢に移るリーシャの姿。
薄く笑む、黒の獣。
「――追いつかれないと思ったか?」
素早くナイフを握りなおしたユアが笑う。リーシャが刃を振るうよりも疾く、ユアのダガーが腹を貫いた。
「『絶対』なんて、この世には無いんだよ」
ゆえに。
絶対的に君臨する独裁者も存在しない。
永久に続く、檻の王も存在しない。
このダガーはリーシャの否定。孤高に居座るオブリビオンの、否定。
眠りゆく者へかける言葉はまだ早い。それでも確かに、花雫の毒は、シャルロットの旗は、灯の雷撃は、ユアの銀閃は。
終焉へと繋ぐ序章となるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
へえ、そこはなんの部品なの? そっちはなんの部品なの?
奇妙な生き物。まるで玩具にされた人間みたいじゃない。
そうだ、あたしがまたバラしてあげましょう。あなたにあるその畜生が何か当ててあげるわ。
楽しそうじゃない。人体パズルよ? 安心して、ちゃんと元通りにしてあげる。
それが嫌なら、――そうね。やっぱり見世物小屋行きかしら。
ちゃんと芸が出来るのかしら。上手に媚びない子は家畜以下よ?
あたし、気は短いの。パズルになるか、ペットになるか、選ばせてあげる。
ショコラ・リング
◇◎★
これ以上の悲劇を生出さぬ為に
そして罪無き方々の血が流れぬ様に
この場にて黒幕を討ちます!
コロシアムへと降り立ったリーシャへと立ち塞がる様に、一般の方々を護り逃げる時間を稼ぎながら戦います
それが相手の思惑だったとしても、見過ごすわけにはまいりません!
真の姿を維持した状態で【神樹の矢】を主軸に戦います
コロシアムに幻影の森を形成するか、相手の五感を奪う事で攻めつつ皆様を守ります
これ以上貴女の好きにはさせません
全ての行いは巡り廻って、やがて己へと帰ってくるもの……
奪うばかりの貴女には、閉ざされてゆく感覚の中で、奪われる者の苦しみを知るべきでございます
●
これ以上の悲劇を生み出さぬ為に。
その為ならば神霊にだってなってやろう。為す行いは、血で血を濯ぐ戦いだ。
罪無き人々を弄んだ吸血鬼に裁きを。冥界への切符を以て、終焉を。
黒幕を討ち、全てを解放するのだ。
時折降りかかる血の雨や槍の刺突を防ぎ、逃げ惑う人々を護り続けた。時にそれはショコラの身を穿つ事になろうとも、オブリビオンに苦しむ人々がそこにいるのなら、どんな困難にも立ち向かってみせる。
戦力を削ぐための目論見だったとしても、見過ごすわけにはいかなかった。
攻防は長期化し、猟兵の体力と気力を削っていく。リーシャを屠る度に終幕を願い、覆されては再び幕を落とす。繰り返し、繰り返し。
歯痒くはあったが、ショコラは第一に人々の守護を選んだ。結果として、終ぞリーシャは奴隷の一人も手にかける事をなし得なかった。
「これ以上、貴女の好きにはさせません」
ショコラの勘が告げている。リーシャに後は無いのだと。
番えた神樹の矢はリーシャを狙うがそう簡単には捉えられない。リーシャの足跡をなぞるかのように幻影の森が形成されるが、あからさまに影響を及ぼしそうなフィールドにリーシャが近付くはずもない。
直撃を狙う以外に五感を奪う事は難しいだろう。それでも、自由に動ける足場を減らす事には繋がる。そして自らが神樹の森へと踏み込むことで、より効力と威力を増した矢が編み上げられた。
「亜人の癖に」
「貴女から見れば、ボクらは皆同じに見えるのでしょうね」
森の中を駆け抜け、絶え間なく矢を射るショコラ。
それを物ともせず、踊るように躱していくリーシャ。
二人の視線は度々交差し、その度に血の刃が降り注いだ。幻想の森は血に触れれば忽ち腐敗する。
「ボクらは、生きているのです」
足跡に新芽を抱き、聖域の守護者たる一族の少年は静かに吼える。
「互いの違いを認め合って、支え合って、今を生きているのです」
リーシャの行いは許されるものではない。全ての行いは巡り廻って、やがて己へと帰るもの。それが、今だ。
罰を下せるほどの身分ではなかろうと。見過ごすわけにはいかないから。
「他者を蔑む過去の産物に、好きにさせる訳にはいきません」
「へえ。だから?」
「奪われる者の苦しみを知るべきでございます」
腹を貫く鮮血槍。口の中に滑ついた血が溢れ返り、端から僅か零れ落ちた。息が詰まる。
それでもなお、ショコラは握りしめた手を突き出す。神樹の矢を、握りしめた手を。
弓に番えなければならぬと誰が言っただろうか。命中すれば、それでいい。赤く染まる視界の中で、リーシャの瞳が揺らめいた。
苦戦
🔵🔴🔴
●
ヘンテコな生き物もいるものね。その顔、どういう仕組みなの?
やっぱりペットかしら。一匹残してバラシ売りも良いわね。
あなたは何ができるの? 人の言葉を話すだけの、けったいな生き物とでも言うんじゃないでしょうね。
その顔、硝子みたいね。少し力を入れたら割れちゃいそう。ふふ、それって、死ぬのかしら。
ああ、未知は良いわね!
試させて頂戴。死んでも代わりはいないけど、別にどうだっていいもの。
赫・絲
★
ユハナ(f00855)と
瞬いた瞳は血潮の色に
この瞳の色はお前達に連なる血を持つ証
混血児なんかと一緒にされたくないだろうけど
手首を斬り自身の血で無数の糸を生成
この姿になっても血の量がすぐ増えるわけじゃないからぎりぎりだけど、構わない
倒すまで倒れなければいいだけ
それも全てはユハナがいるからできること
言葉がなくとも、日頃と見目が違っても
彼の動きに、日頃と変わらない視線に
彼の意図を感じるから、信じるだけ
作り出してくれた隙を縫い、真っ直ぐ血の糸を放つ
狙うは、リーシャの首ただ一つ
自分が首輪を巻かれる気分はいかが、お嬢様?
【全力魔法、属性攻撃】で首に巻き付けた血の糸を最大出力の雷に変換
その首、焼き千斬る!
ユハナ・ハルヴァリ
絲(f00433)と
僕は補佐に
氷の剣を腕に纏わせ傷は氷で塞いだ侭
絲が隙を狙えるよう、手足や武器を狙って刃を向けながら
同時に奴隷達へ攻撃を加えようとするなら阻害
態と弱った振りでもすれば、狙われやすいでしょうか
せいぜい気を引きましょう
攻め時にはタイミング合わせて全力で氷魔法の一撃を
手痛いのを見舞ってあげる
声が出なくても
好きに動いて大丈夫と、伝えられるかな
絲の戦い方見て合わせるよ
魔力が尽きかけてても、君を守る氷盾くらいは作れるし
この剣は邪魔を除けてみせる
君を皆のところへ連れて戻るまでが、僕の役目
君が無茶して突っ込んでくのくらい知ってるからね
…終わったら、いつもみたいに笑っててくれれば、それでいい
●
瞬いた瞳は血潮に染まり、絲に流れる血を現す。
この瞳。この色。お前達に連なる血を持つ証。
聞くに堪えない悲鳴を上げたリーシャは蹴りと共に鮮血槍を引き抜いて距離を置く。
「ああ、嗚呼、見えない。あたしの、あたしの檻は何処よ!」
錯乱する女を前に、絲は細く息を吐いた。
絲の宿す色を見る事はないのだろう。かつて忌み嫌い、亜人と為して踏みにじった混血児と同じもの。リーシャに認識させてやれないのは、少し残念に思う。
「――――、」
吐息。
「いいよ。分かってる」
声無き会話は成立した。冷気が降り、きらきらと細かな塵が舞う。影のように寄り添ったユハナは今、残り僅かな力を繰って傍に立つ。
反転。
茨が這う。透き通る夏空にも似た、鮮烈な青が視界を焼く。年相応の背格好は、常のぼやりとした気配を掻き消した。
けれど、絲にとってそんなものはどうでも良い。
言葉が無くとも、日頃と見目が違っても。
ユハナの動きに、日頃と変わらない視線に、彼の意図を感じるから、信じるだけ。
そこに居るのは、確かに"ユハナ"なのだ。
迷いはない。滑らかな白艶の肌を斬り裂いて、血霧を操るリーシャと同じく血を操る。生み出すは、無数のいと。絲。
覚醒したとて直ぐに身体が癒える訳もない。血を作るスピードは上昇するが、元通りの量へと戻るには時間がかかる。だから、これはギリギリの戦い。
倒すまで、倒れなければそれでいい。
今やリーシャは五感を侵食され、がむしゃらに槍を振り回すだけの幼子のよう。もはやなりふり構ってもいられず、架空の敵でも見ているかのように全方位へと殺意を向けた。
可哀想に。
それはなにも、悲哀を慰める言葉ではない。憐れだ。たったひとり掌の上で踊るピエロに、斬首台に登る罪人に贈る憐憫の言葉。
「誰も、助けてくれないよ」
そういう人間を、お前は踏みにじってきたのだから。
声を聞き、リーシャの血走った瞳が向けられる。焦点の合わぬ瞳が絲へと向けられ、血の刃が降り注ぐ。
絲はただそれを見ていた。刃が絲を刻むことは、なかった。
氷が舞う。眼前へと躍り出たユハナは剣舞を踊る。透き通る氷の剣は易々と血を打ち砕き、地面に多々の花を咲かせた。曼珠沙華にも似た血潮は、これより歩む黄泉への道と同じに。
ユハナは駆ける。絲のいる場所から逸れて、絲の立たぬ方から氷の刃を突き立てる。槍と剣との打ち合いはそう長くは続かない。
身を引いたユハナの手前、赤い絲がひゅるりと飛んだ。
それは放たれた糸の一部。
リーシャを覆うようにして起こった血の波が、押し潰すように吸血鬼を絡み取る。
「あ、……、ッ!」
「自分が首輪を巻かれる気分はいかが、お嬢様?」
返る声に期待はない。喉を押し潰すぐらいに締め上げて、絲は嫋やかに笑む。
振り払う、その前に。
残りの魔力の大半を込めたユハナの氷魔法が縫い付けた。手足を凍らせ、抵抗を無意味のものへと化して。
「それじゃあご機嫌よう。――その首、焼き千斬る!」
襤褸切れの裾を指先で摘まみ、お上品にさよならを告げるカーテシー。終幕を告げる声の後、荒げた調子はあらゆる感情をこめて。
「があッ、あ、……――!!」
最大出力。全力魔法。瓶の中身全てをぶちまけるように、底まで魔力を出し尽くす。血は鋼の絲となり、全てを斬り裂く凶器となった。
瞳孔が限界まで収縮する。気が狂ったように踊った眼球が、一所に定まる前に。
ごとり。
白髪を燃やし、血で濡らした頭が地に墜ちた。
ふ、と力が抜ける。それを支える。
君が無茶して突っ込んでくのくらい、予想済み。
へらりと笑うその顔を見て、仕方ないなあなんて笑ってみせた。
これで、終わり。
ようやく悪夢が終わったのだ。
●
――まだ、終わっていない。
安寧がコロシアム内に降る中、オラトリオの少女は駆けていく。裸足を泥で汚して、追いつく事を強く願って。
見えた。
「貴殿方」
「ヒイッ」
それは、コロシアムから逃げ出した奴隷商。少女はその先頭に立つ顔に覚えがあった。忍び込んだ荷台の持ち主だ。
「捕らえている他の奴隷も解放してください。――さもなくば」
こうなりますよ、なんて。見せたものは、もう充分。
そこに並ぶ商人の顔ぶれは全員とはいかないが。どれも素直に解放する。
放たれた奴隷達は皆一様に疲弊した表情をしていた。
ある者は癒しの歌を届け、ある者は舞いや剣舞を見せる事で鼓舞し、その裡に生きる希望の火を燃やす。
昏き檻は砕かれた。遊ぶ領主はもういない。
残ったのは、明日へと歩める人々の、暗くも明るい笑顔だけ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵