闇の救済者戦争⑳〜無二の記憶
●
「「……鮮血の大地に潜り、猟兵達を迎え撃つ……」」
「「……この大地は、これまでこの世界で流された『全ての血液
』……」」
「「……『腐敗の王』が生と死の循環を断った為、全てはここに蓄えられている……」」
「「……そして、わたしたちが操るは『生贄魔術
』……」」
「「……無限の鮮血を贄としたとき、わたしたちは最強……」」
「「……つまり、これでようやく猟兵と五分……」」
「「……わたしたちは最も古き『はじまりのフォーミュラ』として……」」
「「……ライトブリンガー、かつてあなた達と戦った時のように……」」
「「……六番目の猟兵達との戦いに、死力を尽くしましょう……」」
ひとりは剣、ひとりは木の櫂。
ひとりは女、ひとりは骸。
双人は祈る。
●
「あなたたちには自分を助けてくれる『記憶』はある?」
開口一番、六道・橘(逸脱の熱情・f22796)は集まった皆へと問いかける。
この世界のオブリビオン・フォーミュラにして、ダークセイヴァーの真なる支配者「五卿六眼」の一柱『祈りの双子』
最も古く、故に最も弱きフォーミュラ」と自称するように、これまでのフォーミュラと比べて特別強いわけではない。
『欠落』は健在だが無敵能力は無く、制圧すれば滅ぼせる。
だが双人がおめおめと滅ぶに任せるわけがない。
双人は、第二層の大地を切り裂きそこから溢れる膨大な鮮血を生贄とする「生贄魔術」を駆使して猟兵達に刃向かってくる。
――それに対抗する為に必要なのが、先ほど橘が問いかけた、猟兵達がそれぞれ胸の褥に抱く『記憶』だ。
「祈りの双子は語るわ――第二層の大地に流れる鮮血は「「これまでこの世界で流された全ての血液である」」って」
祈りの双子は、その鮮血を糧とする。
鮮血は、かつてオブリビオンを憎み血を流した人々の記憶そのもの。
橘は瞼を伏せて首を振る。
「憎悪を纏いし双子は強いわ。だからあなた達も、鮮血に潜って、自らを助けてくれる『血の記憶』を見つけ出して頂戴。その力を借りて戦うの――その負荷で、あなたたちは真の姿を晒してしまうけれど……」
それでも、と橘は区切り、真っ直ぐに皆を見据える。
「戦って」
そう、まるで呼吸するように呟いて、闘争への扉を開くのである。
一縷野望
オープニングをご覧いただきありがとうございます、一縷野です
>募集、再送について
オープニング公開時から受付を開始します
こちらの依頼は【戦争が決着した以降まで か 5月末日まで】運営します
ですので、タイミング次第では再送が発生します
その点ご了承の上ご参加ください
募集停止はタグでお知らせします
基本的に全員採用のスタンスですが、書きこなせない方はお返しとなります、申し訳ありません
※シナリオの性質上お一人様でのご参加を推奨します
>プレイングについて
=============================
プレイングボーナス:鮮血の中に満ちる人々の記憶の中から、自身を助けてくれる「血の記憶」を見つける。
=============================
【探し出す記憶】
あなたの力になる『記憶』の記載をお願いします
人、物、感情、どのようなものでも構いません
あなたが今まで歩いてきた人生で持ち得たものであれば、この血の中から必ず見つけることが出来る筈です
【🔴なしで自動的に「真の姿」が現れます】
描写希望の方はわかりやすくプレイングに記載願います
・イラストをお持ちの方は納品日付
・イラストがない方は「こんな外見」といただければ外れぬように書きます
(「真の姿」関連の記載がない場合は「真の姿になった」という事実だけリプレイに記します)
上2つがない場合は非常にあっさりとしたリプレイになるか、参加人数によってはプレイングをお返しとなるかもしれません
それではご参加お待ちしております
第1章 ボス戦
『五卿六眼『祈りの双子』』
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POW : 化身の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に、1〜12体の【血管獣】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
SPD : 鮮血の祈り
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ : 双刃の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に【血戦兵装】を創造する。[血戦兵装]の効果や威力は、代償により自身が負うリスクに比例する。
イラスト:ユヅカ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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幎・夕真
普段悪霊であることを隠し
真実を知らない人にしか辿り着けない雀荘にいる
蘇る記憶は炎
家は12年前で火事消失
炎の不始末が原因
原因は俺
不慣れなままご飯を作ろうとして、火を消し忘れて燃え広がった
家族も客も巻き込んでこの場所は世界から孤立
1番に裁かれるべきは俺なのに
猟兵の力を手にして外にも出られるのは俺しかいない
皮肉なもんだよ
電撃鞭を握りしめて呟く
皆を不幸にしていながら、なんでこんな時にも皆助けてくれるんだ?
皆を護りながらまだ存在したい
鞭を巻き付け電撃
片割れに麻雀牌
あーっと三倍まーん
俺の記憶を喰らえ
独りじゃどうにかなりそうだ
敵を炎で焼きながら、また自分を責めて周りに救われるんだ
■真
外見年齢を25に成長
●
赫に沈む。
赫の奔流は幎・夕真(廃墟・f32760)の前では血から炎へ変わる。
優しい両親と賑やかな客のおっちゃん達が炎にまかれていく『記憶』の再生を、悪霊である現在の夕真は見据えるしかない。
子供は、勝ちだ負けだと騒ぐおっちゃん達がご飯を食べたら一様にわっはっはーって笑うのが大好きだった。
だから自分も出来たらいいなぁってお手伝いの隙を窺っていた。
――なんて愚かだったんだろうと、
青年は指ぬき手袋の掌で顔を覆う。
火の怖さを舐めてかかり、油一杯の中華鍋を火に掛けたまんまにした。皿一杯のからあげを、やっとパラパラにできたチャーハンを、少しでもはやく食べて欲しかったから。
「みんな、ごめん……皆を不幸にしていながら、俺だけが外に出られるなんて……」
膝をついて額を血の水にこすりつける。
『謝んなって! 死んで借金チャラで毎日麻雀できんのって天国だぜ』
『はは、ちげぇね。でもここは天国よりおもしろぇの、飯も美味いし』
涙に濡れた25歳の青年を取り囲み親父達が馴れ馴れしく肩を叩く。その様を前に瞳の端の涙を拭うのは紅一点。
『夕真、大きくなれたのね。母さん嬉しいよ』
『ハイ! レバニラ定食いっちょあがりぃ! 早く持ってってー』
厨房から顔出す父の何時もより眼差しは柔らかだ。
『『『『早く祈りの双子を片付けちまってよー』』』』
「は、はは……」
皮肉なもんだよと電撃鞭を握りしめる。
死んだのは自分のせいなのに皆助けてくれる。
『だって、おいちゃん達が麻雀で遊んでられんのって、夕真ちゃんが護ってくれっからだろ?』
「あったりまえだろ! 絶対に護る!」
現世では姿形を失ったって皆が
ここにいる。
祈りの双子が仕掛けてくる前に、夕真は鞭を巻き付けた拳で右の双子を殴り掛かった。
「俺の記憶を喰らえ!」
「「……させませんよ……」」
骸の双子が腕をあげ血戦兵装を展開しようとする所へ、夕真は綺麗に並んだ雀牌を叩きつける。
「リーチ一発ツモ! ジュンチャン三色イーペーコー」
『お! 坊、やるじゃねぇか、裏ドラが乗って三倍満だぜー!』
「あーっと、役満手前の三倍まーん!」
大人になった夕真は笑いながらも泣いていた。
独りじゃどうにかなりそうだ。罪の意識で自分責めたって、何時だって周りに救われるんだ。
双子が炎の中で悶えるのに苦笑い、なんて優しくて残酷な『記憶』なんだ、これは。
大成功
🔵🔵🔵
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
これが、この世界の人々が流した血…
意を決して鮮血に潜り記憶を探す
膨大な鮮血に時々溺れそうになりつつ必死に探せば
見つかったのは…両親と妹、そして故郷の人々の記憶
皆、吸血鬼に殺され、オブリビオンとして蘇り…俺がこの手で討った
魂は黒剣の中に回収していたが
記憶は…この中に溶け込んでいたか
…ああ
一緒に戦おう
記憶の力を借りて憎悪の騎士たる真の姿解放
(容姿は2020年9月14日納品の真の姿イラスト参照)
さらに指定UC発動し家族の魂を俺自身に憑依させ
魂と記憶の力を合わせて「2回攻撃、怪力、なぎ払い」で血管獣ごと祈りの双子をぶった切る!!
この世界にもはや貴様らの居場所はない!
去れ!!
●
「これが、この世界の人々が流した血……」
意を決した館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、とぷり、と生暖かい血色の水に身を浸す。
怨嗟に足を取られ物理的にも溺れそうになるも、死してなお彼らを玩具にする祈りの双子を浮かべれば耐えきれる。
血の濁流を掻いた敬輔の脳裏に、一気に鮮やかな光景がぶちまけられた。
ダークセイヴァーの故郷にて、共に暮らした両親と妹、そして同じ里の穏やかで優しき人々。
あの頃の自分は、笑っていただろうか。
堅く強ばった頬を一度だけ撫でて、敬輔は彼らに何か告げんと唇を開いた。こぽり、と血の泡がひとつ。それを合図に、大切だった家族や故郷の人々が、赤い絵の具でなすられる。
いいや、これは血だ。
……苦悩と哀しみと痛みに軋む。
どろり、どろり、と、濁流の鮮血に脳裏の皆が同化する。ああそうだろう、融けている筈だ。皆は憎っくき吸血鬼に殺されたのだから。
だが、オブリビオンとして蘇った彼らの命を絶ちきったのは自分だ。
自らを戒めるように黒剣の刃を握りしめる彼の双眸は赤く変じていた。黒の刃自身が脈打つように示すは、封じた魂の慟哭か。血に融けた記憶を得て、黒剣は更に重く敬輔にのし掛かる。
「…………」
皆の囁きが聞こえる、それは決して責め苛む物ばかりではない。笑わない黒騎士は刃から指を剥がし構えなおした。
「……ああ、一緒に戦おう」
決意をトリガーに、黒曜の鎧には血のような赤が絡み、何処か禍々しく重厚なるものへと変じた。
鮮血からあがった敬輔は、蒼紅白の魂を既に纏っている。それは父であり、母であり、妹だ。
「「……六番目の猟兵よ、あなたは何を見つけたのか……」」
足元に絡みつく血色の手首を双子は同じ角度で下げた容で睥睨する。征け、とでも命じられたように、赫きケダモノは敬輔の喉元めざし跳躍する!
「この世界にもはや貴様らの居場所はない!」
記憶を得てより力を増した魂と共に、敬輔は黒を薙ぐ。
裂断されたケダモノの先にある双子の下肢は、鋭い一光で割れた。ひとりは疵から血を流し、ひとりは骨を砕かれる。
「去れ!!」
――命の温度を亡くしている筈なのに、背中を押してくれた掌はあたたかく感じる。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
鮮血を厭うことなく、我が身を浸す。
オブリビオンへの恨みに満ちているのは当然の事。
ですが人の想いはそれだけではありません。
大切な人々に生き延びてほしいという願い。
この地獄を何とかしてほしいという想い。
それらもここには満ちています。
さあ、私と共にこの世界を救いましょう。
《神事起工》にて願いと想いを取り込んで攻撃力強化。
アシカビヒメの姿に。
空中浮遊で宙に浮き、結界術・高速詠唱による防御壁とオーラ防御を纏って巨大化した天耀鏡盾受けで、双子や血管獣の攻撃を防ぐ。
UC効果及び多重詠唱による光と雷の属性攻撃・神罰・全力魔法・高速詠唱で生み出した極大の雷を、範囲攻撃・貫通攻撃にて双子と血管獣共に撃ち抜きます!
●
神事の前に身を清める、大町・詩乃(
阿斯訶備媛・f17458)の今の心持ちはそれに近いかもしれぬ。
数多の幸せを祈り哀しみを祓う、同時に未来に流される涙は減じる。これから祈りの双子を退けるのは詩乃にとって同じ意味だ。
この鮮血に満ちているのは、無念の内に既に
終焉ってしまった人々の『記憶』だ。オブリビオンへの恨みに満ちているのは当然の事。
(「ですが人の想いはそれだけではありません」)
詩乃は人々が己以外を思いやれると知っている。
――大切な人々に生き延びてほしいという願い。
――この地獄を何とかしてほしいという想い。
詩乃は全てを受け止めるべく
腕を広げた。
濁流の中で殊更綺羅を帯びた流れが詩乃の腕へともたらされる。それは、自らが理不尽に果てても他者へ光をと願う尊い『記憶』たち。
「さあ、私と共にこの世界を救いましょう」
呼びかけに、空間が涙を流す。だってこれは待ち焦がれた救いと尊厳の道に他ならない!
彼ら彼女らの血色が詩乃の纏う羽衣と同化する。未来を示す若草の芽吹き色が膝上で揺れた。天耀鏡には『記憶』の彼らの何れかの横顔が浮かんでは沈む。
――神は人が祈り願うから、神としての務めを果たせる。
アシカビヒメは常にそう自分を律している――。
「「……第六の猟兵に神までいるとは……」」
双子は外側の腕を振り上げる。黒の指先にて弧を描く血流、未だ『憎しみ』を我が物と利用する様に巨大化する天耀鏡の中で『記憶』が心を傷めた。どうか彼らを解放してあげて、と。
「もちろんです」
血色の獣と変えられた者どもの突進は、翳す指先に現れる結界にて全てが阻まれた。血管獣は、苦痛なく贄の歪みを取り祓われてあるべき姿へ戻るのだ。
「「……なぜ
そのようなことをもたらせるのですか……」」
羽衣を翻し躱す詩乃は、後は何処かにぶつかり潰れるだけの血管獣へも天耀鏡を遣わせる。
「血に融けた人々の願いと想いが私に力を授けてくれています。
私は力を祈りに従い行使するだけです」
次の血管獣を召喚する前に、詩乃は口元の詠唱を済ます。
天地の力を戴くように翳した掌には、膨大な光が膨らみバチリバチリと爆ぜた。
「神罰を受けなさい」
言葉の儘に、雷撃は祈りの双子を呑み込み心身を打ち据えるのだ――!
大成功
🔵🔵🔵
キャロライン・ブラック
永劫に続く苦しみの中で、それでも人々は祈りを胸に生きています
そんな彼らが作る日常はどのような世界にも負けず美しいものです
故に、その美しさを塗りつぶそうというのであれば
世界の支配者であろうと抗って魅せましょう
わたくしが探すべきは祈りの記憶
それもヴァンパイアへの祈りでしょう
強く祈り、しかしその全てが無為となった悲しい祈りをこそ
力と変えて支配者に突き立てるがわたくしの役目と存じます
わたくしはヴァンパイアの血を継ぐものなのですから
いと紅き瞳、いと白き身体、いと黒き衣
ヴァンパイアたる真の姿をもって祈りの双子へと相対します
ヴァンパイアと化した我が身に魔法は不要
血を啜る黒き剣をもって切り裂いて見せましょう
●
様々な世界の彩りを知った、それらはどれも皆2つとない魅力を有していた。その上で、この“あかいろ”はとてもとても美しいと思う。
キャロライン・ブラック(色彩のコレクター・f01443)は、既に首まで浸してくる鮮血を前にして改めてその気持ちを強くする。
(「永劫に続く苦しみの中で、それでも人々は祈りを胸に生きています」)
何時奪われるとも知れぬ日常を重ねていく様は、どのような世界にも負けず美しい。奪われて命絶たれても、また別の誰かが祈りを重ね、決して途絶えることはない。
故に、その美しさを塗りつぶす蛮行は看過できない。
“世界の支配者であろうと抗って魅せましょう”
“さぁ来たれ『祈り』よ、我が元へ”
絶対の主君ヴァンパイアへ強く祈り、その全てが無為となった悲しみを連ね束ねる。此ら無念を力と変えて支配者へと突き立てる――“ヴァンパイア”キャロライン・ブラックは誓いと共に血色の水から浮上した。
「「……猟兵、あなたがここに立つのは矛盾しています……」」
誹る祈りの双子へ、キャロラインは艶やかな紅の双眸を瞬かせた。黒色の衣を纏う陶器のような白い肌、それはまさに『記憶』を嬲った吸血鬼そのものである。
「何故でしょう? 無為とされた祈りを受け止めるには、この
わたくしであることがなにより肝要かと存じます。わたくしはヴァンパイアの血を継ぐものなのですから」
時計の針が刻まれるたびに削れるキャロラインの命。そこまでの覚悟を無欲恬淡と為すからこそ、彼らの『祈り』を力と変えられる。
矛盾など何処にも見当たらない、そう口ずさむ黒の娘は、普段は決して取り去られることのない鞘を滑らせる。
直後に、すいっと突き出された切っ先の軌跡は余りにも真っ直ぐなもの。
……だから却って骸の双子は避け損ねた。
「あ」
と、刺された側が呻き、痛みのない方も驚き同じ位置に手を宛がった。そうして憎悪を浮かべズレるアンバランスさの妙を、キャロラインは好ましいと受け止める。
「……死になさい……」
「……ッ、なさい……」
微妙に揃わぬ双子が放つ血管獣は、キャロラインの強固なる意志の元に斬って捨てられる。血を浴びた黒き剣よりの甘美に瞳を眇めるのは一瞬。吸血鬼の娘は実らなかった祈りを力に変えて、肉を持つ双子へも同じ疵を穿ってやるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
レナータ・バルダーヌ
あなた方にとっては替えが利く命でも、わたしたちにとっては違います。
この世界を血の海に沈めさせはしません!
敵の攻撃はサイキック【オーラ】で防御、負傷しても【痛みに耐える】のだけは得意なので簡単には倒れません。
【念動力】で拘束してなるべく少数相手を心がけ、翼を象る黄金の炎で【焼却】します。
この世界の憎しみが深いことは知っています。
捨てたくても捨てられない、他ならぬわたしがそうでしたから。
一方で、これまで出会ってきた方々の胸には、常に希望がありました。
共に歩み、時に同じ敵に立ち向かい血を流した皆さんの力を今一度お借りして、【∀.F.アダストネス】を放ちます。
護ってみせます、一緒に明日を迎えるために!
●
鮮血の奔流の中を漂う『記憶』は、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)とっては己がことのよう。
美しきオラトリオと為ったのに目をつけられて吸血鬼に囚われ弄ばれた日々は、悔しさ満ちる『記憶』だ。
「敵へと向ける深き憎しみは、己の心をも傷つけます」
胸元で手を翳し、レナータは鮮血へ向けて心からの呼びかけを口にする。
「それでも捨てられない。どんなに手放したいと望んでも……他ならぬわたしがそうでしたから」
その苦しさを打ち負かすのは『希望』だ。
レナータは、共に歩み時に同じ敵に立ち向かい血を流した皆の容を浮かべる。どうかどうか、今一度力を貸して下さい、と。
力で満たされると同時に、長い髪が零れ落ち紫苑の片羽根は四翼の黄金へと変じていく。
「「……なにかが、来ます……」」
荘厳に輝く血の池を目にした祈りの双子の行動は早い。複数の血管獣を召喚し輝きの中心へと向かわせた。
血の海からあがったレナータは、敢えてその攻撃を受け止める。二の腕の肌が食いちぎられて溢れる血液が鮮血の奔流へと落ちて混ざる。華奢な花唇の端からは臓物の産む血が一筋伝った。
嗚呼、痛い。無論、痛い。
だが、このような痛み、彼らの無念と比べれば余りに些事だ。嬲られ憶えた堪える術を全身に張り巡らして、レナータは羽ばたき距離を取る。そうして再び襲いかからんとす血管獣と相対した。
「……」
哀しげに瞳を伏せてそれらの獣に向け掌を翳す。念じ生み出す力場でもって、彼ら彼女らの身の自由を奪い、黄金の翼をひときわ輝かせた。
「……せめてあなた達の絶望を焼き払わせていただきます」
言葉の通り、光輪で掠め続く風は血管獣らを『絶望』ごと無に帰した。
鮮やかな手並みに、双子は振り上げた腕をおろすことも忘れ、外側にのみにある瞳をそっくり同じに見開く。
「あなた方にとっては替えが利く命でも、わたしたちにとっては違います」
力を借りるではなく、奪う。そんな暴虐は見過ごせない。もうこれ以上、生け贄になどさせるものか。そして――。
「この世界を血の海に沈めさせはしません!」
宣言。
同時に共に戦いし『記憶』が、レナータの意志が翼を燦然と輝かせる。
「「……止めなさい、猟……」」
「護ってみせます、一緒に明日を迎えるために!」
場は完全なる黄金に埋められる。直後、祈りの双子は同じ高さの悲鳴をあげて膝をついた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
真の姿:騎士礼装に身を包んだ男装の王子
(22/04/23納品のディアコレ参照)
流される鮮血の分だけ、この世界には悲劇が溢れている
苦難、犠牲、絶望、死
そしてそれらに最後まで抗い戦った人の意志
思い出す
わたくしの騎士、最愛の夫
いつだってわたくしを救い守ってくれた愛しい人
だけどその度に、彼はわたくしの代わりに傷つき血を流す
気にするな、と彼は笑ってくれるけれど
だからこそ、わたくしも貴方のその優しさを守りたい
ただ守られるだけで終わっては駄目
守るもののため、救世の願いを叶えるために
わたくしは自らの意志で道を切り開く
勇気と覚悟を胸に歌う【不屈の歌】
傷つくことも恐れずに、何度でも立ち上がり
浄化の力込めた一閃を!
●
いつだって守られるお姫様。
ミスミソウの花を咲かせる令嬢ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は、その天上の歌声も相まって愛情の中で育まれた。
柔らかな巣の中での穏やかなる生活。その裏には数多の犠牲があったことを、無垢な雛鳥は当時知ることはなかった。
鮮血の奔流は、改めてヘルガに当時の嘆きや哀しみを叩きつけてくる。
「……」
流される鮮血の分だけ、この世界には悲劇が溢れている。
苦難、犠牲、絶望、死――もはや白鳥となった雛鳥は知っている。嘗て、身分が高いというだけで守られた自分や家族の代わりに犠牲になった人々から湧き出た負の感情だ。
犠牲の下に生きるのがどうしても納得いかなかった。だから令嬢は知ろうとしたのだ。
(「その中でわたくしは、最後まで抗い戦った人の意志も垣間見ました」)
“ノブレス・オブ・リージュ”
高貴な者へは相応の責任が伴う。だがその責務を果たす前に、自分の故郷は滅んでしまった。
濁流に垣間見えるのは、彼女の最愛の夫の力強い微笑みだ。夫は身を盾にしてヘルガを守り己の疵は厭わない。
(「あなたは気にするなと言うけれど……」)
ただ守られるだけで終わっては駄目、もう誰かの犠牲の下に立ちたくない。
(「――わたくしは、貴方のその優しさこそ守りたい」)
夫の『記憶』と手をつないだ刹那、ヘルガの姿は凜々しき王子へと変貌する。誰かを守り抜く誓いの騎士服には、藍色の鞘に包まれた細身の剣がよく似合う。
剣を抜いて構えたならば、祈りの双子はそれぞれ瞳ある側の眉を持ち上げた。
「「……この血戦兵装をもってすれば、あなたの剣を防ぐことは容易いです……」」
双子が併せる手から鮮血が滴り落ちる。相応の代償でもって展開した血のマントにて、ヘルガの切っ先はからくも受け流された。
うねるマントは度々ヘルガの剣を阻む。それどころかヘルガの頬に朱を刻み、真っ白な羽根も散らされた。
「……ッ、わたくしはこれしきでは挫けません」
ヘルガは喉元に手を宛がい、いつもより勇ましい歌声を響かせる。
――守るもののため、救世の願いを叶えるために、わたくしは自らの意志で道を切り開く!
覚悟の刹那、胸で微笑んでくれたのは愛しき良人。いつでも傍らにいるとの励ましに、ヘルガは恐れず前へ。
マントをつかみ取ると、浄化の一閃にて双子を別つように斬り裂くのである!
大成功
🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
貴様たちによって流された血を、命を、死後すらも、貴様たちのいいように使わせてなるものかよ
鮮血の海へと身を投じ、祈りを捧げて同調してくれる記憶を探す
祈りの根底にあるのは――怒り
明日の光を、あるべき未来を、愛する者の命を
理不尽によって奪われたことに対する、正当なる怒り
カタチを喪い、血の一滴となっても煮え滾る赫怒の念、逆襲への渇望
それらを束ね、聖槍に纏い、刃を形成する
鮮血の海から飛翔し現れるは、白き翼の姿(2019年5月20日)
携える聖槍は巨刃を備えた【赫怒の聖煌剣】へと変じている
加減はない――全霊だ
万物を斬り裂く黄金の斬撃波を以って、血管獣も血戦兵装も一切合切を叩き斬る!!
ぉおおおおおお!!!!
●
オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は厭うことなく我が身を投ず。神の使徒たる衣に身を包む女が祈る先は、鮮血に融け込む全ての記憶に向けて。
――我は
怒る。
曖昧な記憶から始まりしこの身であれど、破邪の聖槍を手に闇を掛け祓い進んだ道は確かなものである。
さぁ来たれ、我が元へ。
明日の光を、あるべき未来を、愛する者の命を、理不尽によって奪われ怒るのは正当なものだ。
ざわりと柔肌を逆立てる感触にオリヴィアは留まった。すると鮮血の海に融けた『
記憶』が、シスターを軸に絡まり出した。
カタチを喪い、血の一滴となっても煮え滾る赫怒の念、逆襲への渇望が、同調を得てより明確に修復される。
「ありがとう」
集う同志に今一度心を寄せてから聖槍を掲げあげた。憤怒は腕を伝い切っ先へ、くるりくるり螺旋を描く度に刃は雄々しくも燦然さを増していく。
この怒り、必ずや果たす。
臨界点に到達した刹那、オリヴィアの背が割れて輝く白銀の翼が羽音をたてて一気に地上へ浮上する。
「「……怒りを使役するのなら、あなたも同じ穴の狢……」」
開口一番ぶつけられた皮肉にオリヴィアの口元が歪みあがる。
「無理強いなものか」
言い捨て赫怒の聖煌剣を翻せば、生み出されるは黄金の波動。それは祈りの双子が
無理強いしようとした鮮血ごと照らし、双子の腕ごと祓い斬った。
「「……クッ……」」
片割れの疵を目にした双子は庇い合うように内側の腕を絡めた。同時に、足元の血波が吊り上げられて背中に赤々とした翼を授けた。
――何処まで愚弄すれば気が済むのか。そのように煽らずとも加減をするつもりは毛頭ないというのに。
羽ばたくも棒で操られるように直線的な動きの双子へ、対照的にしなやかに身を躍らせるオリヴィアが追いすがる。
双子が腕を振り上げると、棘状のものが翼より幾つも生えてくる。だが、それがなんだというのだ。
「ぉおおおおおお
!!!!」
大きく反された手首の元、赫怒の切っ先が虚空を削り取った。全身全霊の振り下ろしで生じた衝撃がバチンと弾ける。血棘を打ち消しても衝撃波は勢い留まること知らず、圧倒的な力でもって双子の翼を挽きつぶした。
「……ああぁぁぁ、痛い痛い痛い……」
「……ああぁぁぁ、泣かないで泣かないで……」
うぅ、と泣いたのは肉のある側の娘。
再び血を呼び翼を繕おうとするのは骸の娘。
だが既に双子の眼前に詰め寄っていたオリヴィアは、その一切合切を叩き斬る。
「貴様たちによって流された血を、命を、死後すらも、貴様たちのいいように使わせてなるものかよ」
大成功
🔵🔵🔵
ルリララ・ウェイバース
互いを姉妹と認識する4重人格
末妹で主人格のルリララ以外序列なし
『力を貸してくれる記憶なら』『考える必要すらないわね』
「森羅万象、この世にある精霊達の記憶よ!ルリララ達に力を貸してくれ」
真の姿は2019年2月7日公開
宝石の体
より、精霊に近い存在に
主導権がルリララに100%戻り、地水火風すべての精霊の力を十全に行使できる
【リミッター解除】して【全力魔法】でのエレメンタル・ファンタジアで【属性攻撃】
吹雪の記憶が鮮血を凍らせ、地割れの記憶が鮮血を飲み込む
家事や雷の記憶で生まれた火と雷の竜巻で攻撃だ
「命は循環するもの。それを堰き止めるお前達はここで倒す」
『お姉ちゃんの数でルリララちゃんの勝ち〜♪』
●
ルリララ・ウェイバース(スパイラルホーン・f01510)の認識は“自分は四姉妹である”だ。
地水火風それぞれの精霊に特に親しむ姉妹がいる。性格もどこか属性に引っ張られているようだ――と、ベースである地のルリララはたまに思うのだ。
けれど今は、四人の認識が揃っている。膝まで血に濡れた所で嫌がったり嘆いたり怒ったりする者はいない。
こぽりこぽりと、直立不動の儘で沈んでいくルリララを取り囲むように、ルリとララとリラの声がしだした。
『力を貸してくれる記憶なら』
『考える必要すらないわね』
『森羅万象……』
このリラの声はルリララと重なり混ざる。
「森羅万象、この世にある精霊達の記憶よ! ルリララ達に力を貸してくれ」
末妹へ、姉達三人は全てを注ぐ。主導権は100%ルリララへ。
水の、火の、風の、そして勿論地の精霊の声を聞く。鮮血に融け込むは、吸血鬼の狼藉に抗う人々に影ながら力を貸した精霊のもの。
鮮血から風を纏いふわりと漂うルリララの躰は、地水火風の宝石めいた綺羅となる。腕は炎、足は草木、額は水に。
「「……ほう、自然現象を操りますか。ですが、我々の技は絶対に成功します……」」
「血の贄があればの話であろう?」
ルリララはそれ以上は語らなかった。行動で示すと言わんばかりに、指先で巻く吹雪にてまずは双子の足元の鮮血を凍らせる。
「「……ならばこちらを……」」
祈りの双子が差し伸べた腕の先の地が割れた。ごぅごぅと飲み下されていく鮮血は彼女らへ力を貸すこと叶わない。
直後、右側の娘は全てを灰へと化す紅蓮の炎にまかれた。
「……ッ……」
骸の双子は、鮮血の贄を遣うより先に片割れの火を己が手で振り払おうとする。だが手袋に隠された骨の腕は雷にて叩き落とされた。
上半身を折った双子を前に、ルリララは氷結と地割れを手元に収め戻す。
「命は循環するもの。それを堰き止めるお前達はここで倒す」
震える手をそれぞれ鮮血に伸ばす先を雷が打ち、風が巻く。拭き上げられた鮮血は凍り付き尖るツララは双子達の肩や背中を貫いた。
「「……あぁ、あぁ……」」
互いを抱きしめ庇おうとするのを前にして、悪戯っ子のようなララが容に浮上する。
『お姉ちゃんの数でルリララちゃんの勝ち〜♪』
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
あたしの力になる記憶。
それは、ニコル、サラ、アヤメ、羅睺、そして
揺籠の君。あたしが愛して、想いを返してくれた皆との掛け替えのない記憶。手の、唇の、舌の感触が全身くまなく這い回って、鮮血の海で溺れてしまいそう。
待たせたわね、祈りの双子。
真の姿は三面六臂に薄布だけを纏った阿修羅のごとき姿。
それじゃあ、始めましょうか。
「結界術」「全力魔法」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「仙術」で紅水陣。
この世界にこれ以上似合いの術式はないんじゃないかしら。
「環境耐性」「オーラ防御」で酸に耐えつつ、絶陣に捕らえた双子目がけて、剣や斧、戟、戦輪などを叩き込む。
その溶け始めた血戦兵装の力、確かめさせてもらう!
●
赫に耽る。
滑らかな鮮血に溺れるように村崎・ゆかり(“
紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)は沈む。
脳裏に浮かべるは愛した容。求める『記憶』は唯それだけ。
まるで不要なものが剥がれ落ちていくようにゆかりの衣服が融けていく。同時進行で現れた三面六臂が薄き衣を纏った。
「「…………」」
阿修羅の如き異形を前に祈りの双子は内側の眼窩を震わせた。
「待たせたわね、祈りの双子。それじゃあ、始めましょう」
しょう……とゆかりが言い終わる前に、双子はすいっと下がり眼前に血の衣を形成する。
肉ある娘がつま先を伸ばし鮮血に浸す。足先からの生け贄の無限供給かとゆかりは予想する。
一方の骸の娘は、端を掴むとゆかり目掛けて撓らせ打った! 元の場所には既に新たな血戦兵装が追加されている。
「それも想定通りよ」
落ち着いた声音を合図に赤い雨が降り出す。まるで幕が落ちたかの如く止めどない土砂降りだ。
「この世界にこれ以上似合いの術式はないんじゃないかしら」
哄笑するゆかりの前で、肉ある娘の肩が濡れて焦げ臭さを放った。じくりとした痛みにおののき片側だけの瞳が見開かれる。
「……これは、酸……」
「……いけない。これを……」
骸の娘がすぐに血戦兵装を拡張して身をくるむ。傍目には、仲の良い姉妹が身を寄せ合ってひとつしかない雨具を分け合っているようだ。
その様子を見据えるゆかりの眼差しは実験者めいた冷徹さを帯びる。
自らの身はオーラで防御、なにより身体はこの酸を熟知している為、ほぼ自動的に抵抗する。
鮮血を無限供給としゃれ込んでいるようだけど、果たしてどこまで保つのか。紅水陣にて変えられた環境は、刻一刻と足元の鮮血も蝕み、無限を打ち消していくのだ。
「「……まずい……」」
「その溶け始めた血戦兵装の力、確かめさせてもらう!」
蕩けるように破けた血戦兵装へ、ゆかりは手当たり次第の刃をねじ込んだ。
剣や斧、戟、戦輪……打ち込まれる度に再生力を失う血戦兵装。
やがて身を裂かれた双子からか細い悲鳴があがった。上半身の血を流すも、それは兵装とはならず。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
こんなにも多くの血が流れたんですね…
…私の知っている(貴種)ヴァンパイアなら罪なき人を傷付けたりしないのに。
鮮血に潜り聞こえてきたのは。
『あの人とずっと一緒に居たかった』
…ああ、この気持ちはよく分かる…私にもいるから。大好きで、でも今は一緒にいることが叶わないかつての仲間たち。そしてだからこそ失いたくない、あの頃からずっと大切な人。
大切な人と一緒に生きたかったその想い、受け取ります。
瞳は青く変わり、解いた髪は腰まで伸びて白い着物を纏った雪女の姿に。
【天候操作】で吹雪を起こし鮮血を【吹き飛ばし】たり【凍結攻撃】で凍らせて代償として使えなくした上で指定UC発動。
この月の光が導く明かりになるように…
●
足元でくるりくるりと弧を描き留まる鮮血を前に、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は嘆息を漏らす。
「こんなにも多くの血が流れたんですね……」
――私の知っている(貴種)ヴァンパイアなら罪なき人を傷付けたりしないのに。
意を決した詩織は赫へ身を浸す。直後遭遇した『記憶』は余りに切実なものであった。
『あの人とずっと一緒に居たかった』
これは死をもって別たれた誰かの嘆きだろうか? 鼓膜を震わせる願いに、詩織は髪を押さえ琥珀の双眸を瞼に隠した。
(「……ああ、この気持ちはよく分かる……私にもいるから。大好きで、でも今は一緒にいることが叶わないかつての仲間たち」)
次々と浮かんでは消える容それぞれへ、詩織は綺羅の想いを向ける。
(「むしろあなたの抱く想いはこちらの方が近いでしょうか」)
胸の内に、今は共にあれないからこそなお失いたくはない、当時から大切な人の面差しが浮かぶ。呼応するように、差し伸べた両腕に『記憶』がおりてくる。
生きたかった、彼と。
共に逃げ延びたかった、あの人と。
「大切な人と一緒に生きたかったその想い、受け取ります」
詩織の姿が変じていく。瞳は静まる空に浮かぶ青月色に、解けた髪は黒檀を広げるように伸びた。冷気纏い故に心はあたたかく情け深い雪女は、白い袖を閃かせ地上へ出でる。
一片の雪がやがて吹雪く。
「「……寒い、です……」」
双子は互いをあたためるよりも詩織の排除を選ぶようだ。全く同じ仕草で足元の鮮血を指さし、一筋から一束と練りあげていく。
「させません」
白く霞む口元で呟く一言、即座に祈りの双子の足元でうねる鮮血が凍り付いた。
「「…………」」
かきり、と、細く赤い氷柱が割れ落ちて、双子が贄とすることは叶わなかった。他所の血をと手繰るも、その傍から凍り付いていく。
「鮮血に融け込む人々の『記憶』はかけがえのないものです。あなた達が弄んで良いものではありません」
祈りの双子の『成功』を封じた上で詩織は両腕をおろす。
雪白と瑠璃紺の雪女、その背に夜闇の世界にてなお輝く月が灯る。
「この月の光が導く明かりになるように……」
静逸なる声は、数多の記憶へは慈悲深く、だが相対する敵へは神をも殺す永劫の凍てつきをと宣告する。
「「……おやめなさい、嫌……」」
別たれたくないと願う『想い』を弄ぶ祈りの双子たち。けれど双人の手は確り凍てつき絡まって離れない。
――まるで寓話のような皮肉さに、詩織はふっと瞳をとざすのである。
大成功
🔵🔵🔵
火狸・さつま
この、世界で、流された…?
その量に、しょぼんと耳垂れ
とても悲し、気持ちなる、けど…
だからこそ、悲し、苦し、おしまい!させなきゃ!
流れ込む沢山の記憶達
今までの、苦しみ、悲しみ、悔しさ…憎しみ
自分が関わった依頼でちゃんと助けれた人、
向かった時よりもっと前に犠牲になってた人…
そして…
戦う意志を持ち抗った人々
更には『流された』全て、なのだから…
戦闘時に流された、俺達…猟兵の記憶だって!
ちから、貸して欲しい…今こそ、悲しみを倒さなきゃ!
変貌するは漆黒の大狐姿
青き炎纏い、ふわりと宙に浮かべば
瞬時に距離を詰め、早業『しっぽあたっく』を繰り出す
現れる血管獣へは、雷火の黒雷で範囲攻撃
攻撃見切り避けるかオーラ防御
●
赫に沈む。
「この、世界で、流された……?」
心優しき狐は、眼前に満ちる赤い奔流に口元を震わせる。瑠璃色の輝きには熱い涙がにじみ、頭のおみみはしょんぼり。
この血には、沢山の悲しみが伴っているのだろう。だから同じ悲しい気持ちになってしまう。
「……だからこそ、悲し、苦し、おしまい! させなきゃ!」
ぎゅうと握られた拳に、まるで「聞いて欲しい」と言うように血流が掠めた。想い受け止めると浮かべた刹那、さつまの中に『記憶』がしだれる花ひらく。
今までの、苦しみ、悲しみ、悔しさ……憎しみ――さつまが手を伸ばし救えた人もいる。けれど間に合わずに犠牲になっていた人もいた。後者に属する『記憶』はさつまの優しさに惹かれ腕に身体に絡みついた。
踏みにじられた者が、新たに戦う意志を持ち抗った人々のように闘志を抱く。そこに元より最期まで心折れなかった人々も寄り添い支えた。
やはり、ひとは、強い。
「……ん、行こ」
だからさつまは口元をつりあげる。人の姿が手足の先から解け、黒くしなやかな絨毛へと変じていく。
『流された』全てだ。当然1人でも多く救おうと激戦に身を投じ傷ついた猟兵の記憶だってあるはず。
「ちから、貸して欲しい……」
さつまと戦場を共に駆けた心強い見知った顔、知らぬ戦場で力の限りを尽くした
猟兵……様々な彼らが願い望む、そう――。
「今こそ、悲しみを倒さなきゃ!」
流れ込む『記憶』と共に闘志を燃やすちいさな狐は、誰よりも大きな心と身体の大狐へと変貌する。
「「……????……」」
双子はさすがに眼前に現れた獣に驚きを隠せない。
夜闇の中で涙を流した人々の想い色の体毛に煌々とした青き炎を纏う大狐は、祈りの双子が視認した時には既にその場にいなかった。
バシンッ!
直後、激しい叩きつけと共に双子の状態が仰け反った。勢いで結ぶ指は外れ唇は鮮血を吐く。
「……ッ、かはっ……」
「……! あれを倒すのです……」
蹲る片割れを背に庇い、骸の娘は鮮血を掴みあげてさつまへ投げ放った。
四つ足獣と変じた赫をさつまはオーラで弾く、出来た『隙』に黒雷をねじ込み祓い斃す。
消えゆく赫を前にして、ずきりずきりと胸が疼き痛む。この獣も、いま力を貸してくれている『皆』も、掛け替えのない『記憶』だ。
もう道具にさせるわけにはいかない!
肉ある双子が身を起こした所を撓るしっぽで苛烈に薙ぎ払う。二度と召喚のチャンスを与えるものか! その誓いを証明するように大狐は猛攻を止めない!
大成功
🔵🔵🔵
ロー・シルバーマン
…助けてくれる記憶、相当昔の記憶でも大丈夫なのかのう。
血の記憶を探り出すまでは回避と情報収集に専念。
野生の勘や瞬間思考力で状況を適宜分析し回避に利用、特に血管獣達に囲まれぬよう注意。
可能なら即席の浄化結界で時間稼ぎも。
…原風景、最初の故郷である社。
師と友と過ごした修行の日々の記憶を探り、力を借り受けよう。
今を生きる若人の為に…頼む!
真の姿での機動力を活かし双子を速度で翻弄、記憶が周囲の怨念を浄化し敵を弱らせてくれる筈。
その上で血管獣を躱し祈りの双子に飛び込み山刀で体勢を崩しUC起動!
至近距離から弾丸をくれてやる!
※アドリブ絡み等お任せ
真の姿は巨大な銀の狛犬。銃や山刀を周囲に神通力で浮かべている
●
ロー・シルバーマン(狛犬は一人月に吼え・f26164)のふくらはぎが鮮血を吸って重くなる。どんどんどんどん重くなる。
(「……助けてくれる記憶、相当昔の記憶でも大丈夫なのかのう」)
何処だ、何処に眠る? あの懐かしき記憶は。
思えばローの人生は喪失に彩られてきた。それを見据えるのは心が苦しいが、今は為さねばならぬのだ。
血管獣の襲撃をギリギリで躱し、意識は常に眼下の海へと集中させる。
「「……猟兵よ、防戦一辺倒で耐え凌げると思うのですか……」」
確かに確かに、銀灰の毛は削られて、太ももの外側からは血が滲み出している。それでも、祈りの双子の揶揄にローは一切心を乱さない。
血管獣、つまりは
獣だ。ローが磨きあげた野生の勘はどのように喰らわせればこちらの身体機能を保持できるか、瞬時にたたき出し自動時に躱させている。
「ぬ……」
――視えた。
ローは結界を編み己の周囲に張り巡らせた。突破されるまで1分と保たぬが想定内だ。それだけあれば『鮮血の海』の中をたゆたう記憶に還っていける。
ローの最初の故郷ではダークセイヴァーの異端の神を崇拝ていた。対の者と守護する任を担う。
嗚呼、懐かしい。
社の手触りと、師と友と過ごした修行の日々がまるで今目の前のことのように脳裏に満ちる。
(「今を生きる若人の為に……頼む!」)
応との相方の声が、思慮深い師の双眸が、心強い!
「「……葬り去りなさい……」」
血管獣が次々と結界を食い破り突破する。だが奴らめが突進した先にローの姿は、ない。
真の姿を現わししなやかに跳躍。片手間事のようにばらまいた弾丸が血管獣の足を挫き動きを止める。
「――」
記憶の彼らが某かを唱えればローの唇を借りて浄化の呪いが施され、獣は錐揉みし場に留まった。
「「……新しい者を呼べばいい、ッ
?!……」」
ごん。
山刀の柄でつないだ手と手をしこたまに突き上げられて、祈りの双子は呆気なく尻餅をついた。指を解けばそれぞれに態勢を保てたろうに、それはどうしても出来なかったのだ。
「見せつけてくれるのう」
長い人生で喪失に塗れた爺はそっくりな容貌の娘
双人へ苦笑い。だが構えた猟銃の引き金を引く指は容赦のない精密さで動く。
タァン…………ッ!
響き渡る銃声の元で、それでも祈りの双子は手を離さない。互いを庇い合うように身を寄せて、故にますますローの弾丸の餌食となり鮮血を散らせた。
大成功
🔵🔵🔵
ジード・フラミア
見えた記憶はとある集落の夫婦、妻は人形劇の元劇団員で夫は元は貴族の家系だったという。彼らはその集落のリーダーだった。
ある日集落が白い吸血鬼……オブリビオンに襲われる。
夫婦は我が子を使用人に託し、自分たちは集落の人達の避難活動と、殿として集落に最後まで残る事を選んだ。最後まで思うのは、集落の仲間の無事、そして我が子ともっと一緒に居たかったという思い。
ジード「今のは…… 」
メリア?『ボク達の両親……デシタネ。』
見たのは幼い頃別れ、未だ再開を果たせていない両親の記憶。
メリア?『早く見つかるといいのデスガ……』
ジード「……でもまずは、父さんや母さんのように皆を守るため戦わないとね……よし、行きます!」
会えなくなった両親との再会の願い、そして最後まで人を助ける為に動いた両親への誇りを胸に戦いに挑みます。
UC【2つで2人 分けても1人】を使用二手に分かれて、攻撃を分散させながら戦います。
アドリブ・連携は歓迎です。
●
夜しかない世界に鮮やかな赫が降り注ぐ。
噎せ返るような鮮血の中、ジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)は身を固める。その手をひやりして硬い指が包む。
『ジード、大丈夫ですカ?』
メリアがことりと首を傾けたなら黄金の髪をはらり。
「ありがとう、メリア」
ジードは仄かな笑みで応えるといつものようにメリアに寄り添う。そうして床のない鮮血の海へ一歩一歩踏み出していく。
「記憶を探すと言っても、どうすればいいのかわからな……」
言葉の途中でジードはあっと息を飲んだ。直後、2人は圧倒的な記憶の奔流に呑み込まれる――。
土塊の大地に実らぬ作物、暗く沈んだ街並みはダークセイヴァーの何処にでもある平凡としたものである。この地が怒号と悲鳴に包まれて空気を尖らせるのもやはりありがちなお話。
白磁の肌の吸血鬼、それが此度の
敵役。
集落の女どもは子供を抱き震え、男どもの中で果敢な者は鍬やナイフを手に戦いを挑んでは殺されていく。
ほんとうに短い時間で集落は絶望に包まれた。
――人を殺すのはなんだと思う? 吸血鬼? まぁそれもあるがね、殺すのは自分さ。覇気を棄てちまったら生きる可能性は最小限まで目減りする。
皆が躰を縮こまらせる中で、松明を掲げ声を張る者がいる。驚くべきことに女性だ!
劇団で鍛えた喉で朗々と退路を示す。
ここは自分達に任せてとの微笑みは、人形操り子供達へ夢と希望を与える時に浮かべたものと同じだ。
大丈夫、大丈夫、と、逃げ遅れた子供をあやし抱いて男が現れた。彼は松明の女の伴侶だ。
子を親に帰し「さぁはやく」と撤退を促す。その様を、彼らのこどもがじっと見つめている。抱いているのは親ではなくて使用人だ。
先ほどの子供は安心して親に身を委ねる。親も生気を取り戻し、絶対に我が子を守るとぎゅっと抱き走り去っていく。
だけど、
集落のリーダーたる2人は、ここで我が子と別たれねばならぬのだ。
「……」
「……」
最後に一度だけと、夫婦は代わる代わる我が子を抱いた。
母は、ごめんなさいと眦に涙を滲ませる。本当なら、一緒にいたい。
父は、我が子が誇り高き背を憶えていてくれるようにと願う。誇りに殉じようとも集落の皆をそして我が子を逃がすのだ。
別れを惜しむ素振りで、ずっとずっと一緒にいたい。然れどそれも、あがる悲鳴により無理矢理の幕切れとされた。
父と母はさようならも言えず勇ましく悲鳴の方へと駆けていく。それがこどもが最後に見た両親の姿であった。
「今のは……」
まるで夢から引き戻されたように、ジードは茫洋とした口ぶりで呟いた。
『ボク達の両親……デシタネ』
答えたのはメリアだ。
メリアの、筈だ。
“ワタシ”ではなくて“ボク”と口ずさんではいるけれど。
「やっぱり、そうだよね」
2人に流れ込んできた『記憶』は、幼い頃に別れ未だに再会を果たせぬ両親との最後のひとひら。
メリアは顎を引くと黄金の髪を垂らした。つられて下がる瞼が朱い瞳を隠す、それは見慣れた
メリアの仕草ではある。
『早く見つかるといいのデスガ……』
湿り気を帯びた声に、ジードは銀色に縁取られた容をメリアと対照的にぐっと持ちあげた。
「……でもまずは、父さんや母さんのように皆を守るため戦わないとね……」
こぽり、こぽり。
ジードの周囲には出来る呼吸の泡。
こちらを見るメリアの近くにはないもの。
――最後まで皆を救おうとした両親の、誇り高く優しい『記憶』を纏い、ジードとメリアの2人は、双人の前に踊り出る。
「よし、行きます!」
あうんの呼吸で滑り出るジードとメリアを前にして、祈りの双子は喫驚を隠せない。
「「……あなた達も双子なのですか
?……」」
それには答えず黒のレースを翻しメリアが祈りの双子を叩き祓おうとする。
「「……防ぎます……」」
言葉の通りに、同じ角度で翳す掌がメリアを退けた。双子の立つ足元はごっそりと鮮血がなくなり大地が露出している。
「「……! ガハッ……」」
……新たな鮮血が流れ込む前に双子の躰が前へと折れた。肉ある側の娘の口元からは乾いた色の血が迸り服を汚す。骸の娘は砕けた腹を押さえて呻くのみ。
「無限の代償だなんて、あり得ない。ぼくらがさせない」
ジードの当て身だ。メリアは囮だったのだ。
「……生意気な口を聞けなくしてあげます……」
「……うっ、ぐッ……」
肉ある娘が更なる生け贄を求めて腕を伸ばす、すると引きずられた骸の娘が呻き声をあげ膝骨をぺきりと砕けさせた。
それでも『成功』を求め鮮血を貪り、肉ある娘はジードの追撃を躱すことを選ぶ。
「……ヒッ、あぁぁッ……」
前のめりな躰を背中から刺し貫かれて、肉ある娘は眉を寄せ悲鳴をあげて膝をつく。
『それも読み通りですヨ』
手刀を突き出してメリアは淡々と宣告を下すのである。
大成功
🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
#真の姿納品日:3/7
……ようやく逢えたわね
殺すわ。
その為に生きてきたのだから。
魔神の魂の《封印を解く》事でオーバーロード
この鮮血は
貴方たちを憎み血を流した人々の記憶そのものだそうね
オブリビオンが今更、
そんなものに
縋りつくなんて滑稽にも程があるわ
敵UCには【第一神権】をぶつけ相殺
押し勝てば成功を後押しする行動は鮮血に干渉する《ハッキング+略奪》であり
扇動
記憶は
探すまでもないわ
――遂に。遂に
この世界の
牙を元凶に届かせる日が来たのだから
闇の救済者の
矜持に懸け、目に映る全て掬い上げてみせる
怪物や吸血鬼に立ち向かった騎士が居た
世の安息を祈り続けた聖者が居た
理不尽に踏み躙られた人が居た
ただ大切な相手の無事を願った人が居た
貴方たちが奪った、私が護れなかった、皆の幸福を。
その罪の重さを。叫びを。
全て預かり、束ね、《神罰》として叩きつける!
●
どれほどに、目にしただろう。
吸血鬼どもに蹂躙されて打ちひしがれる人々の絶望を。
カタリナ・エスペランサ(望暁のレコンキスタ・f21100)は血の海にて踊る、何時ものように。
刹那でも良い、気力を灯すのが己が使命と科してきた。その舞いは荘厳にして煌びやかさに充ち満ちている。
血の渦がカタリナの指先とつま先に集う。だがその中から特定の『記憶』を
探す必要は全くない。
彼らは嘆いている。
血となりてなお『記憶』というモノに融けてすら虐げられる、その身の上に。
カタリナはそのひとつひとつをつまびらかに紐解き共感し共有する。嘆きも怒りも憎しみも、全て。
「……ようやく逢えたわね」
とぷりと血の海から浮上した獣の娘に対して、祈りの双子は瞳を一度だけ瞬かせる。
「「……どこかで逢いましたか
?……」」
「殺すわ。その為に生きてきたのだから」
カタリナの性質が根底から変貌するのに警戒し、鮮血をいつでも贄にできるよう纏わせる。
その傲慢な態度はカタリナのカンに障った。強敵を相手取る時は自他を鼓舞する為に不遜な物言いを多用する。だからこその苛立ちがひとつ。
「この鮮血は
貴方たちを憎み血を流した人々の記憶そのものだそうね」
背中の翼が極彩色に輝き四に増える。
封印を解かれる『魔神の魂』が持つのは
本物の傲慢さ。だから、祈りの双子が鮮血を弄び我頂点と思い込む様が不愉快でならない。
暁の神気がカタリナを包み込む。光輪を輝かせ蒼の剣を携え、双子へ無垢双眸は暖色なのに怖ろしく凜然としている。
「
オブリビオンが今更、
そんなものに
縋りつくなんて滑稽にも程があるわ」
先に動いたのは双子だ。明らかに
カタリナに怯えてのことだ。
「「……死になさい、
猟兵……」」
祈りの双子はそれぞれ外側の手で血を掬い、無数の刃とし投げ放つ!
――代償は?
ひりつく脳裏にて“此度は一体如何ほど私を削るのか”と問い返す。疑問の形を取っているだけで、答えは際限なく使えに相違ない。
「……あなた達を奴の為すがままになどさせない」
この言の葉は、鮮血に
干渉するであり
扇動だ。
血刃はカタリナの肌を斬り刻む直前に鮮血と戻り落ちた。
驚き目を見張る祈りの双子。一方で、足元を穢すぬるい液体に注ぐカタリナの眼差しは慈愛と受容に満ちている。贄とされた記憶達は、己を取り戻しカタリナへと懐くように擦り寄った。
「「……まさか、支配権の剥奪……」」
「支配ですらない。彼らは彼らの意志でここにいる、ただそれだけ」
それもわからぬお前達へ神の鉄槌を。
「――遂に。遂に
この世界の
牙を元凶に届かせる日が来たのだから」
そう、記憶は
探すまでもない。
誰であれ、この鮮血の海に漂う者であればカタリナは力とする。いいや、カタリナ
が力を貸す。
荘厳なる翼を広げる
カタリナを前にして、双子の深層ではますます畏れが上乗せされた。攻撃を阻む盾を作製したのがその証拠だ。
さしずめ何者も阻む盾とでも言う気か、片腹痛い。己のことしか考えられぬ祈りの双子なぞ相手にならない。
闇の救済者の
矜持に懸け、目に映る全て掬い上げてみせる。
“蒼の刃で薙ぎ払う”――カタリナの為したことは記せばただそれだけのこと。
だが胴体は絶たれ四肢を震わせ仰け反る様は、瀕死の様相阿鼻叫喚。絶対の防御を誇る筈の鮮血の衣はなんの役にも立たないと悪態がせいぜいだ。
「……」
カタリナは一端刃を下げると真っ直ぐに祈りの双子を見下ろした。だがすぐに両腕を広げ、意識は周囲へ。
鼓舞を。
「嘗て――怪物や吸血鬼に立ち向かった騎士が居た」
鼓舞を。
血の染みる地面を足裏で叩きリズムを刻む。
「世の安息を祈り続けた聖者が居た」
鼓舞を。
唇は嘔のように涼やかに。
「理不尽に踏み躙られた人が居た」
鼓舞を!
双眸には憤怒を灯らせる!
「ただ大切な相手の無事を願った人が居た」
再び翳し持つ刃は、双子が慌てて使い捨てる鮮血に触れて慰める。干渉し扇動する、あるべき儘への回帰を助け謳う。
(「
貴方たちが奪った、私が護れなかった、皆の幸福を。その罪の重さを。叫びを」)
斬り千切れる前に全て受け取り刃へ。全て預かり、束ね、編まれるその力の名は《神罰》という。
神は人を支配するのではなく、人に祈られ応えるもの――!
喰らえ、と、神は吼えた。
「「……きゃあああッ
!……」」
ガラスの割れる悲鳴のカノン、それは神罰の苛烈さを確りと裏付けている。
一歳の守護を失った祈りの双子は、叩きつけられる力の元に為す術もなく膝を折った。
大成功
🔵🔵🔵
双代・雅一
鮮血の中に身を投じ
血の匂い、嗅ぎ慣れたつもりじゃいたんだけどな
酸化したら黒ずむモノだけど目に刺さるこの赤は間違いなく人体から零れ落ちた色
その量から失われた命の数は容易に具体的に察し
何だろうな…俺の中の、この言葉に言い表せない感情は
死に逝く者の思いは皆同じ
生への執着、死に至る原因への恨み、旅立つ悲しみ
だが負の感情だけじゃなく
記憶の中に見るは、死に抗う強き意志
希望や勇気と言った心の炎は正(生)の感情
生きるを願い、生かすを願った感情…!
俺らの真の姿は二人で一人
傍らには一つになる前の惟人の姿
弟が側についてる限り、俺は俺の心に素直になれる
なぁ惟人…これって怒り、なのか?
「…だな。思い切り怒れ。力の制御は俺がする」
右手より青い炎が上がる
純粋に熱く燃える色は俺と、記憶の中の人々の怒り
憎しみだけじゃない…何かを変えたいと願う戦う意志
「そして人々の諦めぬ意志もまた」
冷静に左手で赤き冷気紡ぐ惟人
二人で彼女達の使う鮮血を沸騰させ凍らせ
もう一滴足りとも使わせはしない
そして二人で手を合わせ融華放ち
消し飛べ…永遠に
●
鮮血へ身を浸す青年の身体は一人だけ。
双代・雅一(氷鏡・f19412)には双子の弟がいた。
同じ瞳、同じ髪色、同じ肌……敢えて変えねば鏡映しとなってしまう一卵性双生児。けれど肉体の内側に包まれる魂は確かに違っていた。
嗅ぎ慣れた鉄臭さで鼻孔が塞がれる。振り仰げば止めどなく零れる赫が、命絶たれ堕ちた嘆きと悲しみを叫ぶ。
失われた命の数を辿りながらも言葉にならない。だから雅一の唇は閉ざされたまま。
――ああ、いつもそうだ。
雅一という人間は冷静沈着であり、人の情より現実的な理が先に立つ。上手く生きる為の処世術にも長けている。一方の双子の弟は、無愛想さから貧乏クジを引くことがしょっちゅうだ。
(「こんなにもわからないのにな……」)
わかっていたのは惟人の方だと思う。
自分は、今も失われた命の数を具体的に数えられるというのに情緒的なものが何処か遠い。
はは、と、乾いた笑いが唇の端を伝いおちた。
取り繕えない自嘲ではない。そんな浅薄なモノはこの血の群れからはあっさり見透かされるに違いないから。
――冷静なフリなんかしなくていい。
そう呟いたのは果たして己かそれとも弟か。
どちらでもいいか。
俺らの真の姿は二人で一人なのだから。
「……均されたように、死に逝く者の思いは皆同じだ」
生への執着、死に至る原因への恨み、旅立つ悲しみ――非常に妥当だ。だが負の感情だけではない。
澄んだ水の双眸で透かすと『血の記憶』は見せてくれる。
死に抗う強き意志を。
諦めずに足掻いた、
一端は投げ出したけれど最期の最期で奮起した、
助けがくると希望を捨てなかった、
……誰かの助けになりたいと願った。
等、雅一が見たのは炎のような
正の感情だ。
「「……生きるを願い、生かすを願った感情
……!」」
重なる声と共に傍らに良く似た熱情が灯り、自然と唇の端を持ちあがった。
「なぁ惟人……」
いつの間にか、いいや、いつでも傍らにいる瓜二つの弟は、眼鏡越しの瞳を瞬かせる。先を促すように頷かれ、雅一は一瞬だけ子供のように顔をくしゃりとさせた。
(「弟が側についてる限り、俺は俺の心に素直になれる」)
二人で一人。
けれど双人はそれぞれ別の精神性を宿している。だから双方に様々な影響を与え合えるのだ。
「……これって怒り、なのか?」
怖ず怖ずとした物言いである。
「……だな」
パリパリと頬を掻き惟人は断言した。
いつだって理知的に物事の先を見通す兄が、実はとても不安定な精神性を有していると
惟人は気づいている。
今も大方、答えに辿り着いたはいいが湧き出す感情の苛烈さに戸惑い怖がっているのだろう。
感情とは存外悪いものではないし、口にして不評を買った所でその時はその時――そんな惟人と
雅一は違う。
どちらが選りすぐれているかではない。強みになる場所が違うだけ。
(「……どうやら今は俺が強い、か」)
惟人は不器用に唇の端を持ちあげて兄の視線を絡め取る。
「思い切り怒れ。力の制御は俺がする」
大丈夫大丈夫、そう伝えるように惟人は微笑みを深めてみたけれど、上手くできた自信はない。どうにも自分は尊大に取られがちだ。
だが、雅一は晴れやかに破顔した。これもまた一瞬で、何時もの鉄面皮寄りの平静を容に流し込み、右手に青い炎を盛らせる。
じゅんすいできれいないろ――これは、俺と記憶の中の人々の怒り。
「憎しみだけじゃない……何かを変えたいと願う戦う意志」
「そこまでわかってるなら大丈夫じゃないか?」
俺の制御がなくてもとの言いぐさに兄は眉を潜める。だが右手に宿る氷点下の紅色を認めすぐに前を向いた。
素直に褒められない奴だなとは気が向いたら言うとしよう、なんて心に余裕すら抱いて、敵と対峙する。
「……そして人々の諦めぬ意志もまた」
双人は非常に冷静である。
「「……双子、ですか。けれど既にその姿は……」」
だから祈りの双子からの揶揄も、雅一と惟人は
それぞれのやり方で一笑に伏した。
直後、
雅一と
惟人の掌から相反する熱が合わさり光球として放たれる。光に撫でられた血の海は、沸き立つそばから凍てつき、オブリビオンへ抗いをみせる。
「「……ッ、血戦兵装が使えない
?……」」
「使わせるものか、もう一滴足りとも」
戦慄く双子の前で、雅一と惟人は内側の掌を握りしめ合う。
寄り添う唯一無二。
真の姿は二人で一人、決して失ってはならぬ魂の片割れ。
「……はやく、守護を用意しなければ……」
「……間に合わなッ……」
無防備な祈りの双子の前で、血を巻き上げ光の球の力となる。青炎が有り余る
怒りで揺らめき、紅氷は決して他を傷つけぬと強固に制御している。
「「消し飛べ……永遠に」」
その言葉の通り、光球は祈りの双子を苛烈な光で塗りつぶす。割れんばかりの二人の悲鳴が場を満たし、揺れる血の海は幾ばくか満足げに揺れた。
大成功
🔵🔵🔵
鳴北・誉人
真の姿
紺瞳の黒毛の大狼
体長はヒト型と一緒
狼の間は人語を話さない
血を流したってンなら、家族のあっても不思議じゃねえか
ねえさんとにいさんもいるンか…
俺がこの世界にいた期間って
短かったかもしれねえけど
俺を拾って育ててくれた人はこの世界の人じゃねえけど
まだ親がココで生きてンだわ
俺には未練があるからァ
探すのは家族の記憶
俺が子供のころ
先に逝ったねえさんとにいさん
ねえさんに抱っこしてもらってたン覚えてる
にいさんと遊んだンも覚えてンのォ
怖くて逃げてたけど
今まで生きてきたよ
ふたりの分もいっぱい
あはっ
俺の方が大きくなっちまったなァ
俺とは毛色の違うふたりを見下ろす
懐かしい名で呼んでくれた
嬉しい
けど
――いまは誉人だ
その名前の俺はもういねえけど
応援してよ
もっと頑張れるからァ
脇差は咥えUCの花弁を繰って血管獣に斬り込む
ふたりの応援を力にして
記憶に後押しされて
全部斃さんでも双子へ道が少しでも開けば
目標変え
俺の家族を巻き込んでンじゃねえ
負傷上等
全部の花弁を流し込んで
一太刀浴びせる
俺はもう
どこにいてたって
ひとりじゃねえ
●
見目を惹く藍色が血に沈む。
鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)にとって此処は産声をあげた世界。だからか赫い奔流の中では自然と家族の『記憶』を手繰ろうとしている。
(「血を流したってンなら、家族のあっても不思議じゃねえか」)
もう、この世にはいないねえさんとにいさん。
びゅおッと、耳元を血流が過ぎる。まるで、追い越したのは先に産まれたからだと言いたげに、視界の先にて血が姿をかたちどる。
これは、記憶だ。
実体は果たしてありやなしや。
どちらでもいいか――相まみえた幸いを今は享受しようじゃあないか。
ねえさんの膝の上で微睡んだ。下の弟を慈しみ、柔らかく抱きしめてくれた。
にいさんは、共に転げ回り何時までも何時までも遊んでくれた。たまに負けたフリをして調子に乗ったら結局はひっくり返されて、ねえさんが割って入ったり……。
ころころと一番小さな躰でぶつかって懐いた想い出。
「はは……懐かしいなァ。ねえさん、にいさん。どっちも覚えてンのォ」
元気だった? もし今があるなら姉はそんな風に問うてくれるに違いない。
「怖くて逃げてたけど、今まで生きてきたよ」
正直に話す弟を、にいさんは笑みだけで受け止めてくれンだろうか?
「ふたりの分もいっぱい」
生きてきた、大好きなふたりも胸に抱いて。
ふたりが見ることができない世界を、歩く。幸せも悲しみも全部全部糧にして、進む。
ああ、ああ、別の世界で拾ってくれた人のこと、梅印の相棒のこと、その他出会えた全ての縁を語って語って語り尽くしたい。
「ねえさん、にいさん……」
切れ長の目尻をすっとなぞり姉兄へと腕を伸べた。そんな誉人の姿が人から解けて獣になった。同時に線香がほろほろと灰に還るが如く獣の姉兄も現われる。
くるると誉人が喉を鳴らす。体躯は遙かに姉兄よりも大きいのに、声も頭をこつんと当てる仕草も幼く甘えるよう。
照れたようにすぐ離れ、ちょっと大人っぽいフリして笑ってみせた。
――もう大人の年齢なんだから、なんて胸で付け加え、毛色の違う二人を見下ろす。結び合う双眸、それぞれがそれぞれ愛おしげに窄まった。
『――』
あいた獣の口は、誉人の懐かしい名を呼んでくれた。
自然に、誉人の尾がはたりはたりと揺れる。嬉しさを見取って、兄と姉は嘗ての名を繰り返す。
(「嬉しい、けど……」)
今の己を標す“誉人”と啼いて、末弟は人が瞼を伏せるように首を傾ける。姉と兄は鼻先をつきあわすと、短く喉を鳴らした。
がんばれ、いけ、まえへ――。
駆け出す2匹の『記憶』が
大きな獣の隣に寄り添う。末弟は嬉しげに牙を見せると、瞳の色を宿した刀身を誇らしげに咥えた。
(「ああ、前にいくよ。だから見ててなァ」)
「「……なっ?! 何が起こったのか……」」
常に赫だけを見つめる、それで事足りた。そんな祈りの双子の視界を純白の欠片達が奪う。
「……雪?……」
いいや冷たくないと、人の双子の問いかけに獣の双子が頭を揺らす。ホワイトアウトした中では双方の顔が見えない。それが非道く不安を煽る。
「……お行きなさい……」
狼狽える必要はない。血管獣を無数に作り威力偵察に遣わせば良いこと。つないだ指を互いに握り、祈りの双子は同じ動きで前方を見据えた。
ぶぢ、ぶぢ……っ。
相変わらず白は白だ。しかしそこに血肉の破れる音と赤い飛沫が混ざり込む。双子からは見えぬ先では一体なにが起こっているのか……。
双子の前方、白い花を生み出す獣が、血色の獣に身を刻まれながらも強引に進んでいた。
蒼穹は花を育む、花は恵みに応え道を作る。
姉と兄に背を押され、記憶であれども二人を庇い
気高き獣は足を止めない。
力を貸りる、けれど奪うは違う。
心配するねえさんと、しょうがないやつめと激励をくれるにいさん――もし生きていてくれたなら、こうやって背中を押してくれる筈。
「「……やはり敵襲……」」
祈りの双子の声が、揃った。
そっくりの安堵で息をついた刹那、視界が
弾けた。
「!!」
「!!」
例えるならポップコーン、でも双子は知らないから、ただただ溢れかえる白。直後、左側の娘のみが夥しい血を吐きだした。
「……ッ!」
仰け反る片割れを支えんと伸びた腕は、四つ足獣の前足に踏まれてガチャリと折れ落ちた。
双子達は瞳に映す、黒々とした雄大な体躯の狼が鋭い紺の双眸で振り返るのを。咥えた絶花蒼天の刀身は獣の血で赫黒く黄昏色に変じていた。
真正面から獣は唸る。家族の安息を乱しこのような事態に巻き込んだこと、これは万死に値する。
「……猟兵、生きては帰さぬっ……」
ケンケンと嫌な咳き込み方をする片割れを支え、人の娘は血管獣を次から次へと作っては嗾けた。
雄々しい獣の牙が誉人の肩に胴体に食い込んでいく。尖らせた爪は目を狙う。だが彼は、少しだけ首をずらしたのみで疾走を止めない。
末弟の躰が破かれて姉と兄を潤すように血液が掛かる。それを受け、姉兄は剥き出しの牙で激励と鼓舞の咆吼を響かせる。
力を得て、誉人の体躯がぐんっと前へと伸びた。カチリと噛んだ柄が鳴った時、刃は敵の首筋の肉を深く抉り取るのだ!
祈りの双子は悲痛な声をあげて、バラバラの傷跡で膝をつく。
大成功
🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
《探す記憶は人の記憶。
お姉ちゃんが交通事故で死んだ記憶。
凄く辛くて悲しい記憶。
でも、今まで見かけ出逢ったアスリートアースとダークセイヴァーの人々が手を取り合って、みきに寄り添ってくれるの。
憎しみばかりじゃ、哀しいよね?
もっともっと輝いて――
――
大変身
現れる真の姿。
黒髪、真っ赤なドレスに深紅の硝子の靴、左目に真っ赤な太陽のマーク。
紅蓮の
焔ブレイズが燃えて姉を灼き続ける、正義のお姫様!
鮮血を可能な限り焼却しながら戦うの。
回避は瞬間思考力で双子の攻撃を見切る形でするの。
UCはBlazerの2つを使うの。
この姿の間お姉ちゃんはずっと灼けて痛いけれど、その苦しみも、人々の辛さも全部Rev.1で美希のもの!
そして二つ目のRev.2を全力魔法と限界突破込みで放って、双子を兵装ごと燃やしてとことん浄化なの!
勿論寿命は、ありったけ削るの!
お姉ちゃん凄く怒るけれど!
双子さんも、ちょっとは幸せになれるといいね。
こんな結末も素敵でしょ?》
●
血の奔流に落ちる刹那、ラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)は祈りの双子を掠め見た。
そっくり同じだけど違う顔、肉体が人格というパーツを得て見せる変異。
みきにだって双子の姉がいた。
シエルという名の太陽のように輝くお姉ちゃん。みきは静かに寄り添う月のようなお姫様。
いつでも双人で、幸せだった。
(「あなたたちは、いまはどうかな?」)
とぷり。
血に浸り、みきは今まで出逢った人々の記憶を手繰る。
……お姉ちゃんはいつだってここにいるもんって、胸に拳の形を作って押し当てる。けれどみきの眦は下がり容は翳るのだ。
『我慢しないで』
『泣いてもいいの』
『……返してって、思うわよね』
アスリートアートとダークセイヴァーで出逢った誰がが、そうやってみきの肩を抱き背中を撫でてくれる。
後押しされるように、みきの月色の瞳からぽろりと一粒の涙が零れた。
「お姉ちゃんが、交通事故で死んでしまった時……とてもとても哀しかった……」
双眸を掌で押さえて擦るみきへ、血の記憶達は穏やかに寄り添う。彼らは何も求めない、ただそこにいる。
「ごめん、ね……みんなだって辛い想いをしてる。それを癒やしたくって来たのに」
当時の辛さが心を灼く。
灼かれてしまったから、みきは――。
“輝きを身に宿し、燦然とあれる”
「お姉ちゃん……!」
姉を亡くした時に、絶望に膝を折らずに編み上げた魔法をもう一度。
みきとシエルは双子だ。
同じ器に違う魂。
だから、例え片側が器を失ってしまっても、二つ目の魂を受け入れられる。
(「お姉ちゃんだって、もしみきが死んじゃったら、なんとかして“こう”してくれたよね」)
――当たり前でしょう?
勝負師の鼓舞にみきは顔をあげる。そして寄り添ってくれた皆の手を改めて握り、ほんのりと微笑みかける。
「憎しみばかりじゃ、哀しいよね?」
辛さを知るから優しくなれるみんなを、みきはもっともっと輝かせたい! ううん共に輝こう!」
「We go, the evolution――」
彼女は己を定義する“
ラップトップ・アイヴァー”と。
――大変身Blaze。
柔肌は焔の如く艶やかなドレスに包まれて、足元は綺羅の硝子に飾られる。血の雫をハイヒールで踏みしめたなら、ぐんっとしなやかな跳躍、一気に祈りの双子の眼前へと踊り出た。
「
Hello――」
翳した左手の傍らの瞳には燦然と太陽が燃え盛る。ああ、我は天上に輝けり。暑く熱く、心に手厚く。
妹の力となりて、
姉はその血を焦す。
薔薇めいた煌びやかなドレスを裾を翻し、ラップトップは紅の切っ先で優美なる弧を描く。
「「……連なる無限の鮮血よ、我らへの護りを編め……」」
祈りの双子は翼のようにそれぞれの腕を広げ、咄嗟に血を吸いあげる。
「そうだよね。みんなみんな、悪じゃない」
だから、浄化ではない。そして悪であれ善であれ、殺しはしない。
傍らの姉が勢いよく灼き焦がれ、ブレイズ。
同時に爆発し、祈りの双子を庇う筈の兵装は血の海に帰った。有るべきままに、贄になどさせない!
「……ッ、行きなさい」
双子の内、獣である側の足が赫い水面を叩いた。手をつなぐ片割れは蹌踉けつんのめる。それも構わずに、獣の娘は血を纏った剣をラップトップへと叩き込む。
「――」
姉が、シエルが、何か叫んだ気がした。
同時にみきも「お姉ちゃん」と愛しく喉を震わせた。刻一刻と燃え落ちる姉の痛みも苦しみも、全て“美希”のものだから――。
「……?! ありがとう!」
援護する『血の記憶』たちが薄い幕で剣を退けた。直後、姉が情熱を奔らせ爆裂。
祈りの双子の悲鳴は不均等……だが、やがては揃う。両手で握りしめあって紅蓮の焔に融ける傷みを耐える。小さく動く唇は、それぞれを励ます言葉を紡ぐのか。
もう終わりにしよう。
双子で一緒にいられる内に幕を引こう。
美しき希望をもたらす姫君はライズリーを虚空に手放した。代わり、翳した掌に寿命を変換した魔力を集積する。
あぁ、あぁ、お姉ちゃん、そんなに怒らないでよ。
深紅の姫君の周辺温度が急速に上昇していく。空間自体が耐えきれずに撓み、足元の血は枯れ果てる勢いで沸騰、蒸発は天への帰還だ。
「これが、みきのありったけだよ
…………!」
圧巻の祭典。
あるもの全てが焔と化して溢れかえり祈りの双子を呑み込んだ。双人は我先にと互いを庇い合う。けれどそれが見えたのはほんの刹那の出来事。
どぉん……!
空間を重く低い衝撃が打ち据える。遅れることコンマ1秒程度、残された血だまりがそこかしこ揺れ、不均等なギザギザに波打った。
「「………………」」
姫君の焔があけたところに茫然自失の抱き合う双子が現われる。
「……ッはぁ」
削げ落ちた命を必死にかき集め、姫君は荒い呼吸の儘で口元を綻ばせる。
「双子さんも、ちょっとは幸せになれるといいね」
――こんな結末も素敵でしょ?
贄の血を打ち払われて残された祈りの双子は、改めて見つめ合い額を押し当てる。
大成功
🔵🔵🔵
御鏡・幸四郎
鮮血の中から浮かび上がる記憶は、
かつて失踪した貴種ヴァンパイアの友。
自分と同じように使役ゴーストの姉を連れ、
共に戦場を駆け、笑い合ったかけがえのない友人。
銀の雨降る世界の戦いが終結した後、
ずっと菓子修行の傍ら探し続けてきました。
まだ糸口すら見えてはいませんが……
鮮血の中から現れたのは、タキシードにシルクハットを被り、
マスカレードマスクで目元を隠した怪盗紳士。
「貴種ヴァンパイア、みたいですね」
初めて自覚する真の姿に笑みを溢すと、
マスコットの様に小さくなった骸骨の姉を肩にダッシュ!
射撃で牽制しながら血管獣を集め、
マントを翻しながら雑霊を凝集した刃を一閃。
貴種ヴァンパイアのアビリティ、
スラッシュロンドの様に切り裂きます。
同時に双子の周囲の鮮血を吹き飛ばして、
新たに血管獣を召喚出来ないようにします。
「ここまでです」
翻るマントを目眩ましに接近。
斬撃と零距離射撃で双子を仕留めます。
彼の下には、いつかきっと辿り着く。
そして何でもないかのように言いましょう。
お元気そうですね。お茶とお菓子はいかがですか。
●
彼はこの世界にいるのだろうか――。
御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)は、真っ赤に折り重なる中から『彼』を探す。
「…………」
傍らを姉のセーラー服のタイが漂った。既に年上となった弟へ注がれる眼窩は「本当に?」とでも言いたげだ。
「そうだね。確かに『彼』として此処に融けていて欲しくはないかな」
それは『彼』の死を意味する、だから見つからないのは行幸。
姉の細い指を取って、ならばと幸四郎は手繰り方を変えた。己の記憶の中の『彼』を強く強くイメージするのだ。
貴種ヴァンパイアでありながら控えめで人を立てる、おっとりとした微笑みを常に浮かべた人。
「――」
記憶が編まれる。
銀の雨降る世界にて、2人……いいや、4人で、少年から青年の掛け替えのない時を過ごした。
同じく使役ゴーストの姉を連れた『彼』と、笑い合い、支え合い、励まし合った。
「いま、どうしてるでしょうか……」
傍らの血は、心を強くしてくれた大切な大切な友達の姿を形作った。淡く、常にゆらめき、目を凝らさなければ『彼』だとはわからない。
けれど、幸四郎には充分である。
寂寞を微笑みで塗りつぶす。やはり破顔と言うには切なげな容になってしまうけれど。
「ずっと探していたんですよ」
菓子職人の修行の合閒にも、似た人がいたと聞いたら休みの合閒を縫って駆けつけた。彼への糸はつながらなくて歯がゆいばかりだった。
「これからだって探しますからね。私は諦めが悪いんです」
「……」
セーラー服の乙女は頷くように首を傾けて弟の傍らに立つ。
そうだ、姉さんだって「旦那様ができたのよ」とか『彼』の姉と話を咲かせたい筈。
……なんて気を揉んだら血流が翻り、更に『彼』らしきそばに髪の長い少女めいた存在が現れる。
――これは幸四郎の記憶だ、だから『彼』には伝わらない。けれども想いを抱き続けることが
自分にとっては大切だと揺るぎはない。
(「お人形遊びだなんて誹りは、霊媒士ならば言われ慣れてますからね」)
破顔が色濃くなったなら幸四郎の姿が足元から書き換わる。さぁ、浮上の時だ!
満身創痍の双方を支え合い、祈りの双子は血液の残る場所へ辿り着く。
「「……六番目の猟兵? 気配が複数ある……」」
備えてと、獣の娘が指先を掲げた。血管獣が生まれ四方八方に散った直後、さぁご覧あれ! と言わんばかりに、漆黒の紳士が颯爽と現われる!
「……ッ! お行きなさい……」
万華鏡めいた拡散を逆さま回し。襲い来る血管獣に対し幸四郎は優雅な一礼、後に白い術手袋の掌に剣を招聘する。
「あなた方をあるべき理へ、共は同類の友が致しましょう」
幸四郎がマントを翻しくるりと回れば、雑霊の細い刀身が血管獣を集めて天へと還す。
華麗に
斬り裂く、あくまで優雅な
円舞にて。
その見事な手腕に、肩口に腰掛けた小さな造作の姉が誇らしげ首を揺らした。
「貴種ヴァンパイア、みたいですね」
漆黒の高貴なタキシード、茶目っ気のシルクハット、招待は内緒のマスカレードマスク――足元の血の池に映る真の姿を前にして、幸四郎は身も心も羽根のように軽やかだ。
『彼』の記憶と共に目覚めたからか、それともこれが本質か――まぁ理屈はいいか、今は踊ろう。
「……討ちなさい、はやく!……」
「……討ちなさい、はやく!……」
足並み乱した双子の乱発する血管獣なんて、片時のダンスの相手にもならない。
「こちらから行きますよ」
まるで氷上を滑るように波紋と軌跡を残し血上をゆく。
「「……じっくり狙いなさい……」」
双子は両端の腕を差し伸べ目を凝らした。捲れる血の音を聞き、到達するであろう地点に血管獣を遣わせた。
「――」
幸四郎は、嘗ての友の動きを脳裏に浮かべる。優雅でそれでいて高慢さはなく、おきゃんな崩しも嗜んだ。
「さぁ、いらっしゃい」
こんな風に。
マントを指で引っかけて半身を覆う、ぷちりぷちりと血管獣が食い破ろうとするが言笑自若な心持ちを忘れずに。
くるり、ふわり。
マントを翻し払いのける。振り払われて膨らんだ所へ、雑霊の剣を下から上へ。霧散する血花を薔薇と咲かせて双子の御前へ。
「「……ッ……」」
歯がみの音を立てる前に、幸四郎はマスカレイドマスク越しの瞳で弧を描く。
ぶちりぶちりと足元からたちのぼる新たな獣は、片手の剣で流麗にくるりくるりと集めたら、さぁ“斬り裂き《スラッシュ》
円舞”
ゆるりとした動きなのに、遙か前方の祈りの双子の足元の血までが強烈な勢いで弾き飛ばされていく。
「「…………」」
飲まれた息も2つ。
おののく2人のの眼も2つ。
苛烈に吹き上げられた髪の上、三角の耳は怯みを顕わし垂れてしまう。
「ここまでです」
声に振り返った時には、遅い。
背後からの切っ先が獣の娘を貫いて、弾丸が人の娘後頭部を打ち抜いた。
「――」
その時点で幸四郎は双子からは意識を外し、何時か辿り着く未来へと思いを馳せる。
「お元気そうですね。お茶とお菓子はいかがですか」
そう、なんてことないように『彼』に微笑みかけたいなぁ、なんて。ささやかな願いが胸を焦す。
大成功
🔵🔵🔵
冴木・蜜
(真の姿:21/12/3納品全身参照)
とける
私が融ける 形が保てない 崩れてゆく
純然たる死毒 生命の敵
それが本当の私
理解しています
私は生命にとっては致命的で
本来この手は救いにはなり得ない
私に囁く記憶がある
「だからキミには誰も救えない」
そうかもしれません
……けれど
それは歩みを止める理由にならない
どんなに苦しくとも歩まねば
望む結果も得られないのだから
私は足掻き続けると決めたのです
嘗て私を蝕んだ貴方の言葉が
今の私にとっては薬となる
私は諦めません
この世界の生命の未来を
だからこそ 貴方がた二人を殺します
身体が融けるのに任せ
この大地に流れる鮮血に文字通り"融け込み"
死毒で汚染しましょう
私で汚染された血戦兵装を纏えば肉体が滅びるだけ
獣に食われても構わない
体内から彼らを融かし落とします
この大地には遍く血が巡っているのでしょう
ここに
死毒が融け込めば
儀式を司る貴方に効率的に死毒を届け『壊死』させることができます
綺麗な水を汚すには
毒がただ一滴あれば良い
さあ 此処で幕引きです
無様に融けて死んでください
●
「「…………ッ、ハッ……うぅ
…………」」
息も絶え絶えで、双子はまだ残る
水源を求めて流離った。
漸く見つけたそれが僅かに黒みを帯びていたなんて彼女らには些細すぎること。もはやリスクなぞ厭うてられぬ。
「「……守護を、
あなたへ……」」
小刻みに震える腕を差し伸べて、互いへの血戦兵装を編みはじめる。
●
――そもそも、この血の海に私などが融けて仕舞っても良いものか。
人の素振りを保ってきた冴木・蜜(天賦の薬・f15222)の思考はそこで一旦終わらざるを得なかった。
とける。
白衣に包まれた白い柔肌がじんわり滲む黒に塗り変わる。
ししどに降り注ぐのが涙であれば誰かの心を揺さぶれるだろうに、生憎と落ちていくのは“己”だ。
……私が融ける。
…………形が保てない。
崩れてゆく
………………。
すぐに初めの一粒が足元で跳ねた。
「……ッ」
――私は、純然たる死毒。
視界の中で赫がたゆたう。これはもう確実に黒ずんでしまった。
――私は、生命の敵。
もうどんなに水や血を注いでも、元の色には戻せない。
「…………」
加速度的に肌が垂れ下がった。コールタールの中に辛うじて埋め込まれたアメジストも輪郭を失いつつある。
血の中で黒く渦を巻けば、ふれあう側面からあらゆる『記憶』が刺し込んでくる。
畏れ。
嘆き。
必死に逃れようとするのは生存本能の現われだ。
致死性の毒たる蜜は、どうしたって彼らの救いにはなれぬ。この手は本来“救い”にはなり得ない。
夢を見たことがなかったとは言わないけれど。
「だからキミには誰も救えない」
もはや半分以上融解し減じた蜜へ、何時だって鮮やかな『記憶』が囁いてくる。やはり
記憶の赫にもいたか。
「そうかもしれません」
鉱石色の無機質アメジストは藤の瑞々しさへと僅かに揺らぐ。
融けて血を穢した黒は喚び戻されてもやはり黒だ。血の黒ずみは戻らぬというのに――そこを『記憶』は詳らかに宣った。いいや、これは蜜の中に常に在る自己否定か。
自己否定は膝を折らせようとする。
わかっている。
膝を折る即ち、この存在からして不遇な己を憂いわかってくれないと被害者に成り下がること。それはとてもとても楽ではあるのだ。
「……けれど」
“望み”じゃあない。
記憶の彼は人の姿を象った。蜜の脳裏に残る目鼻立ちを備えて、100人が100人、今の蜜と彼を見たならば後者を人だと言うだろう。
人ではない致命に至らしめる毒、それが冴木蜜。
「それは歩みを止める理由にならない」
――貴方は諦めてしまった。
「どんなに苦しくとも歩まねば、望む結果も得られないのだから」
――けれど私は足掻き続けると決めた。
泥のようにぬめる誓いはいつも傍らで絡みつく。
嘗ての彼の言葉は『毒』となり蜜の心を苛んだ。然れど今はどうだ、奮い立たせる『薬』ではないか。
再び蜜の溶解が進み出す、今度は意識的に融かして融け込む。
「……ッ」
突如
黒が撓った。
ミシミシと全身が引きはがされるような激痛に、掌だったものを口に押し込んで声を潰す。
もはや痛みと形容して良いのかすらわからぬ夥しい苦痛が蜜という存在を侵す。けれど、彼の心は不思議なほどに落ち着いてもいる。
――躰の組織が好き勝手に使われている。全ては想定通りだ。
「私は諦めません、この世界の生命の未来を……」
蜜の意識は傍らの『彼』から完全に離れ、祈りの双子へ向く。
「「……あなたは、まさかそのなりで猟兵
?……」」
血戦兵装は頑健なる兜と甲冑となりて双子を覆っていた。兵装は躰によく馴染む。これならば返り討ちに出来る筈! 勇ましく踏み出して血管獣を蜜へと嗾けた。
「……」
紫の光り物に牙が突き刺さる。だが覚悟を決めた蜜は悲鳴ひとつあげずに食い荒らされるが儘になる。もはや体中を血戦兵装にされているのだ、今更噛みつきぐらいなんだ。
祈りの双子は、血管獣に躍り食いされる黒の柱を前に油断せず、続けて獣を招聘する、が――。
「……あぁああ! ああぃぅぁぁぁああああ
……!!!!!」
ガクガクと痙攣をはじめたのは人の娘の方。獣の娘はその目に信じられないものを映してしまう。
――頭の傷を修復した筈の兜が、頭蓋を蝕み黒くその身を腐らせはじめている。
「……あ、ぁぁう、助け……」
「……うぅ、くっぁあ……」
防ぐ手立てもなく獣の娘は力なく首を振り、ぼとり、と肉の塊を口から吐いた。コレハナニ? ワタシタチノミニナニガオキテルノ?
「……?????……」
不可逆の死毒は、人の双子の意識と思考を粉々に破壊して腐りなから全身へと巡る。
致死の毒薬は、獣の双子の肉体と健康を散々に侵して神経から、やはり全身へと巡る。
「既に、私が融けていたのです」
綺麗な水を汚すには、毒がただ一滴あれば良い。
濁った水は、どんなに綺麗な水を足しても元に戻ることは決してない。
「……ッ、殺しぃッ……」
ひとごろし。
果たして祈りの双子が人かはわからぬけれど。
「私は諦めません、この世界の生命の未来を」
るりるりとほどけ、未だ血戦兵装として巻き込まれ続けながらも蜜は画然と宣言をする。どれだけ寿命を削ろうが、今の果たしたいことを為す、そう。
「だからこそ、貴方がた二人を殺します」
殺す毒。
薬になりたいと願った。
彼の言葉の毒が、自分の薬になった。
――ああ、また縋ってる。
蜜の思考は断末の悲鳴が途絶えた所で同じく一旦綴じる。
「さあ 此処で幕引きです。無様に融けて死んでください」
毒で禍々しく腐敗した双子は、それでも最後にそれぞれへと腕を伸ばし抱き合ったまま。全てが侵しきられる前にこの地を潤す最後の血液となり、霧散。
同時、ぴしゃりっと、黒の柱が弾けるように落ちた。血の器に黒が注がれるも、もう混ざり合うことはない。
ただこの身には、死毒に侵され嘆き悲しむ声が、またひとつふたつ……沢山と重ねられたのである。
-終-
大成功
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