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<奴隷解放戦線>哀哭の鳥籠

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●cage
 うつくしいもの。
 さえわたるもの。
 磨かれた愛らしさ。
 そういったものを手中に収める、歓び。

 うつくしかったもの。
 かがやいていたもの。
 嘗て栄華を誇ったなにもかも。
 そういったものが汚れていく様を、壊れていく貌を、濁っていく瞳を。
 どうかわたくしに、見せて頂戴?
 それこそが、それこそは、我が悦び。

●breaker
「仕事だ」
 キリ・ガルウィングが端的に言う。
 元より装飾語など皆無に等しい男が言うには、こうだ。
 ダークセイヴァーにおいて、それなりに規模の大きな奴隷市場が予知された。年に数回、とあるヴァンパイアが管理する豪奢な屋敷に各地から領主が大勢の奴隷を連れて集まり、人を募って取引が行われる。オブリビオンが主催の、しかもダークセイヴァーでの奴隷の扱いがどんなものかは想像に難くないだろう。
「彼奴らにとっちゃ金は遊び、命は玩具だ。下手すりゃ買い手が付いたその場で死ぬな」
 飾り気の無い言葉が刺すように吐かれる。煙管を口に、目付きの悪い顔立ちでゆっくりと周りを見た。
「同じ場所の予知をした奴が他にもいる。ただ、見た相手が違う。そこで手分けだ」
 集うオブリビオンたちはそれぞれに自らの奴隷を連れている。大体はその好みに則って集められた者たちで、彼らがいる『檻』には通称が付いている。
「市場の名をラ・カージュ。集う領主は通り名で呼ばれる。俺の担当はラ・カージュ・オ・レーヴル──囀女の檻」
 『囀女』の好みは美しいもの。煌びやかでも艶やかでも、何でもいい。それぞれが持つ美しさを引き出していればそれで構わない。
「言ってるこたァまともだが、単にキレイなモンを血で汚すのが趣味の女だ。まァお陰で乗り込みやすい、奴曰くの『キレイ』であればな」
 ちら、と自分の後ろの箱やら何やらに目を向けるキリ。三白眼がやや澱んでいる。
「つまり囮だ。『キレイ』の感覚は人それぞれだろうから好きにしな。華やかなのがいいなら、装飾やらドレスやら、そういった類は用意した。必要なら持ってけ、何かしらあんだろ。あァ男向けのもあるから心配すんな」
 グリモアの転送先は、ラ・カージュへ出発する前の奴隷たちが集められる天幕の傍。守衛はオブリビオンではなく、虐げられている領民たちだ。
「今から行きゃ他の奴隷たちに混じって出発できる。人数合わせは適当に守衛たちに話つけとくさ」
 それともうひとつ、と。煙を吐いた男が言う。
 囮の他にも人手が欲しいと。
 潜入した猟兵と、奴隷たちとを救出する役が欲しいと。
「囀女は既に市場にいる。他のオブリビオンも一緒にいるうちはこっちに分が悪い。そのうち別個に行動するし標的は表に出てくるが……囮や奴隷が死なれるのも困るが、途中で大騒ぎになって囀女に逃げられるのも癪だろ。飛び込むタイミングは任せる、中の様子を窺いながら上手いことやってくれ」
 では「そのうち」とはいつなのか。
 問えば男は鼻を鳴らす。
 囀女はわかりやすいものが好きだ。自分の価値も、ものの価値も。故にオークションという形式で、数字で価値を測りたがる。
 その後半、目玉商品でもある『お気に入り』達が売りに出される頃、囀女は表に出てくるのだという。
「屋敷の一階、大広間の半分を『檻』の展示に、もう半分をオークション参加者の立ち見席に使ってる。囀女が出てくるのは立ち見席の方だ。二階までの吹き抜け天井にステンドグラスの天窓付き、調度品は奴の好みそうな華美なものばかり、天井に並ぶシャンデリア。ぶっ壊したら気分よさそうじゃねぇか、なァ?」
 キリの口角が僅かに上がった。
 『檻』というのも囀女の趣味で、アンティークめいた鳥籠なのだという。ひとりにひとつ、フェアリーサイズであれば大型の鳥が入れるくらいのものだ。
 屋敷内部に潜伏するのは囮以外は難しい。故にそれ以外の猟兵は窓などから中を窺うことになる。ラ・カージュへ向かう道中は、囮と奴隷たちの乗る荷馬車を密かに追ってもらうか、屋敷に先回りして潜み待つ形になるだろう。その辺りは好みでいい。
「注意点があるとすりゃ……市場には囀女の『お得意様』がいてな。競売前に値段付けて買われる奴隷がいる。そいつらと、オークションの前半で売りに出されて買い手がついた奴隷は、時々買い手に奥の小部屋まで連れて行かれる。大広間から続く廊下の先の、幾つかある部屋だ。連れ込まれた奴がどうなるかは、──説明要らねェよな? 助けに入るならそっちを先にした方がいい」
 実力的に注意すべきは囀女のみ。他は猟兵達から見れば有象無象といったところだ、救出自体は難しくない。
「役割分担決めたら出発だ。……あとは頼むぜ」
 喋り終えたキリは、あとはただ煙を吸って吐くばかり。
 小刀を片手にくるくる回して、話し合いが終わるのを待っていた。


七宝
七宝です。
この度はダークセイヴァーのシリーズシナリオにご案内します。
よろしくお願いします。

=============
 このシナリオは「奴隷解放戦線」シリーズシナリオです。
 これらの事件は独立して発生します。同時参加されても時系列的矛盾はありません。

●舞台
 奴隷市場『ラ・カージュ』
 場所はとあるヴァンパイアが管理する豪奢なお屋敷。広い庭園に多数の座敷。地下牢も完備。ないものを探す方が難しい。
 年に数回、各地から集まった奴隷商人達が催すそれなりの規模の奴隷市場です。売り場は屋敷内に点在しています。

●参加MS(敬称略)
 驟雨、七宝、ヒガキミョウリ、龍眼智、くらげ屋、遠藤にんし
=============

1.【囮役の方メイン】市場へ潜入
2.【救出役の方メイン】かっこよく飛び込んで救出
3.ボス戦

だいたいこんな予定ですが、頂いたプレイングにより若干変更される事があります。
第1章プレ冒頭付近に『囮』『救出』の区別を記載いただけると助かります。

また、全員採用のお約束は出来ませんが、先着順でもございません。合わせプレイングなどご自由にかけてください。

▼第1章について▼
囮役の方々には綺麗になっていただきますが、手段はお任せします。フラグメントに拘らずご自由にどうぞ。
貸し出し衣装は各種族ごとに色々とバリエーションが揃っていると思ってプレイングをかけていただいて構いません。キリががんばりました。
奴隷が待機している天幕は男女別。お着替えスペースがありますのでそっと入ってそっと着替えてください。いつもの衣装が一番綺麗? それも結構です。お好きなように使ってください。

▼特殊▼
第1章プレイング内のわかりやすいところに数字をご記入いただくと、1章〜2章通して、度合いに応じ(全年齢対象程度に)手酷いことをされます。
0(無傷)〜5(酷)です。
無記入は0と見ます。お好みでご利用ください。
3章ボス戦では治癒を受ける・真の姿になる・やせ我慢等で問題なく戦闘に参加できるものとします。
この特殊ルールはプレイング採用率とは何ら関係ありません。
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第1章 冒険 『ドレスアップ・ビフォー・アフター』

POW   :    肉体や強靭な精神を引き立てて美しくなってみる

SPD   :    凝った装飾や軽やかな仕草で美しくなってみる

WIZ   :    ミステリアスさや神秘さを引き立てて美しくなってみる

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 いつもいつまでも昏き、その世界。
 降り立ったのは囀女の領地の端だった。
 荒地。申し訳程度に舗装された道は曲がりくねって何処へか続く。

 天幕は質素なもので、けれど大きさはそこそこにある。数は二つ。
 少し離れたところから馬の嘶きが聞こえる。
 天幕の陰から、ちらちらと視線が覗く。数人の守衛だ。
 話はついているのだろう、窺うだけのものだった。
 荷馬車が狭くても文句言うなよ、と。
 土産のように置かれたグリモア猟兵の声は、吐いた煙と一緒くたに消えた。
●出立前・天幕『夜風』『夕風』
 その中は思うより、悲哀に満ちてはいなかった。
 それそのものよりも根幹にある、この昏きにおいて普遍の感情が、より強く色濃く漂っていた。
 ──諦念。
 此処に来るよりずっと前からそれは巣食っていて、何も変わらずに在り続けて、今でさえより強く。
 強く。
 強く。
 上塗るものは、拭い去るものは、未だ皆無。

 その闇を払う者が目の前に居てさえも。
シャルロット・クリスティア
囮4~5

綺麗な服装、ですか。
やはり、色は血染めが映える純白。
肌が見えるように腕やふくらはぎ辺りは露出しているべきでしょうか。
ですが、破れる様も考えるとあまり布地が少ないのも考えようですね。アンティーク趣味なら、多少レースやフリルでゴシック気味の方がよさそうです。

……はぁ。
かわいい服は憧れますが、このような目的で着ることになるとは。

ですが……立ち向かわねば。
どれほど痛みと屈辱に塗れようとも……今までここの皆が受けてきた痛みに比べれば、安いものです。
これ以上、誰かがこんな痛みを強いられるのを止めるためにも……私の心は、ここで屈するわけにはいかないんです。


リーゼ・レイトフレーズ

5
囮役

綺麗なものは丁重に愛でて欲しいものだね
なんて、この世界のオブリビオンに言っても無駄か
これ以上被害者を出さないためにも頑張りますか

普通の女の子としては可愛い部類の容姿だとは思うけど
オシャレなんてしたこと無いからどう着飾ったものか
青い肩出しのドレスとか着ればどこかの令嬢っぽく見えるかな?
いつものヘッドホンは外してイヤリングをつけよう
これで外見だけは気品あるお嬢様に見えなくもない筈

演技とかは苦手だから
いつも通りの態度で振る舞おう
痛みに屈するヤワな乙女ではないからね
それで相手に気に入られるなら儲けものだ

あ、突入時、誰か私の武器持ってきてくれるとありがたいな
あのケースめっちゃ重いけど


ノワール・コルネイユ
【囮】【5】

この館の全てが嗜虐と背徳、傲慢に満ち足りている
実に吸血鬼らしい御遊びだ
悪くない。何処までも滅茶苦茶にしてやりたくなる

ひらひらとした服は好かんが
連中が好む華やかさに合わせてやろう
黒のワンピースドレスを纏い
血の様に紅い花をあしらった黒のヴェール
唇に引くルージュもまた、血の赤を

暫くは好みに合わせて大人しく
適度な頃合いを見て反抗心を剥き出し、睨みつけて気を惹いてやる
猟兵以外へ向く矛先が減るのであれば幾らでも傷は負ってやるさ
仕返しも楽しみになるしな

それなりには頑丈なつもりだが
傷めつけられるのを好む訳ではない
今は仲間を信じるしかない、というヤツだ

この格好で葬列行きなんて洒落にもならん
…頼むぞ


ヴェルベット・ガーディアナ
『囮』● 3
ボクが着飾ったところでどれだけ綺麗になれるかは分からないけれど…出来るだけ綺麗になれるよう頑張るよ。
綺麗…可愛い…ボクにとってのそう言うのってやっぱりシャルローザかな。お揃いみたいな白いドレスを着て髪を下ろして。お化粧?もするの?
あとはとりあえず【礼儀作法】でお淑やかに。

奴隷…か。この世界では今でも当たり前のようにあるんだね。ボクだって猟兵にならなきゃずっとそうだと思ってたかもしれない。ボクはこの世界から抜け出した…だからこの世界の為できることはなんでもする…なんでもできる…!


ミレニカ・ネセサリ
囮・4・●
鳥籠に美とは……以前いた場所が思い出されます
けれど、より美しいものを求め続けたあの野郎とは正反対ですのね
どちらにしても己のため美を消費するなど――虫酸が走りやがる

・POW
シンプルなドレスに袖を通します
元は「美しく」と製造された身ではありますが、
魅せたいのは外見ではなく心の強さ
勿論、体もスタイル維持のため常に鍛えておりますが!

【激痛耐性】の力を借りつつ、恫喝されようが殴られようが、
臆さず、毅然とした態度を崩しません
いつでも真っ直ぐに立って、前を、相手を見てやりますわ
はん、なんとまあ笑えますわね、その程度で折れるとでも?

【覚悟】なんて、籠から逃げたあの日から、いつだって決まっていますのよ



●天幕『夜風』
 啜り泣きのひとつも響かぬ夜が一層痛ましい。
 囮を引き受けた猟兵達の顔をちらと見る者、それすらもしない者、様々の娘たち。奴隷商人が領主の気に入るようにと着飾らせたけれど、それで明日が変わるわけもない。
 囚われたとて、生きていたとて、何方にせよ何一つ変わらぬ侭の。
 絶望と言うには生温い、永劫続くその支配の形がほんの少し変わるだけなのだ。彼らにとっては。
 申し訳程度の幕で区切られたその後ろに入って、ヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)は淡い溜息を吐いた。手には白いドレス。連れた人形『シャルローザ』──その真白の衣装が、ヴェルベットにとっては何よりも綺麗で可愛いものだと、似た服を選んだ。
「奴隷、隷属。この世界では、今でも当たり前なんだね」
「……綺麗なものは、もっと丁重に愛でてほしいんだけどな」
 リーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)が隅に身の丈よりも大きさのあるナイロン製のガンケースを置きながら呟く。それを目印にするように、周りに猟兵達の武具が置かれた。後ほど、市場へ出立する彼らを追いかけて装備品を持ち込む手筈だ。わかり良いに越したことはない。
「可愛い服には憧れていたんですが……こんな形で着る事になるなんて」
 なんとも切なげなシャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)の吐露。手にした純白のドレスはパフスリーブの膝丈、胸元と裾に幾重もフリルが重ねられ、レースブレードで襟や袖口に縁取りをしたややゴシック調のものだ。囀女のアンティーク趣味に合うかと選んだが、折角のお洒落なら自分や友人の好みで選びたかった。袖を通すと案外着心地が良かったのが、何故か悔しかった。
 リーゼが借りてきたのは青のドレス。肩口は淡く、裾へいくにつれ重ねた色になり、紺青を成す空と海の色。令嬢やそれっぽく見えるかと、肩を出すオフショルダーの大人びたものにした。いつも着けているヘッドフォンを外し、代わりに大振りのイヤリングを耳に飾っている間に、横合いから伸びた細い手がリーゼのまっすぐな銀髪を梳き金のピンをひとつ挿す。見れば、ミレニカ・ネセサリ(ひび割れドール・f02116)の柔らかな翡翠の双眸とかち合った。
「こうしたらもっと可愛らしいですわ」
 ──服を選ぶ時、少し困ってらしたでしょう?
 ミレニカが笑えば、見られていたかとリーゼが目を逸らす。お洒落というものは、した事がなかった。
 手馴れた風のミレニカは、既に着替えを終えている。フリルレースをあしらったシンプルなクリーム色のドレスは、緩く巻いた黒髪にも翡翠の瞳にもよく似合っていた。
 その後ろで、黒髪の少女が高くで結った髪を解く。銀糸刺繍の入った黒いレースヴェールで半顔を隠すようにし、血のように紅いコサージュで飾るノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は、小指の先に付けた血紅色のルージュを唇に引いた。常と異なる華やかな黒のドレスを纏っているのに、それはまるで戦化粧の様相だ。
「気合入ってるね、ノワールさん」
「ああ。敵地に乗り込むのだから、当然だ」
 背中のホックを留め、着心地を確かめるようにドレスの裾を翻したヴェルベットが三つ編みを解いたプラチナブロンドを揺らして言えば、赤眼を緩めもせずにノワールは頷く。
「こちら、付けてもよろしいかしら」
「あっすみません、ありがとうございます」
 次は白のドレスに身を包んだシャルロットの金髪にドレスと揃いのレースを使った髪飾りを添えて、ミレニカは少し満足げ。
 そうして先に身支度を整え終えたヴェルベットが幕の後ろから出て行き、次にドレスの裾を少し摘み上げたノワール、ミレニカ、ふわりと広がるスカートの裾に落ち着かないシャルロット、最後に雛のような足運びのリーゼが続く。
 その時ちょうど、天窓の出入り口から顔がひとつ覗いた。オブリビオンではない、人のもの。守衛の男のひとりだった。
 出立の時間が近いことを知らせる声。間も無く迎えの馬車が来る。とはいえ上等なものではない、荷を載せる為のものだ。馬車は全部で三台、分乗の人数は適当に頭割りをするようで、明確な名簿があるわけでもないらしい。少し人数が増えた、と伝える声が漏れ聞こえ、楽しげに応える商人の笑い声がそれに続いた。機嫌が良い。商品が増えるのは単に喜ばしい事のようだ。
 他の娘たちと同様に枷を嵌められながら、ひとを荷物扱いだなんてふざけてやがりますわ、とミレニカがそっと憤慨したことなどは、誰も知らぬことではある。


 荷馬車ががたごとと道を往き、只管に揺られたその先は、薔薇の香る庭園に囲まれた豪奢な屋敷。
 枷を嵌めたまま、身体検査を超えて中へ入れば、整った内装と調度品に出迎えられる。
 だというのに空気は澱む。
 花の香だけが噎せ返るよう。
 それが覆い隠し切れない程の、重苦しい匂いは──死臭。
 ああ、もうどこかでだれかが、死んでいる。
 叫声は、嗚咽は、虫の息の呼気は、きっと耳を澄ませば何処からでも聴こえてくるのだろう。

●鳥籠『銀鳥』
 籠の扉はリーゼを中へ置いて閉められる。
 鍵は大振り、古びた形をして、持ち手には紋章が彫られているのが見える。モチーフは鳥の翼や何か、そんなものだろうと遠目に見る。
(「囀女、だから? 好きだねえ」)
 オークションの舞台は大広間と聞いていたけれど、呆れる程の広さだった。一人が寝転がれるほどの大きさの『鳥籠』が幾つも置かれて尚余りある奴隷たちのスペースは、それでも広間の半分を占めるのみ。金の縁取りがされた臙脂の緞帳、その隙間にアンティークのランタンめいた照明。
 広間のもう半分は、客用の立ち見席。白いテーブルクロスの掛かった丸テーブルが規則正しく並べられている。
 見上げれば二階までの吹き抜け天井、本来なら二階窓が並ぶ位置に大仰なステンドグラス。きらきらと眩しいシャンデリアが三つ並んで視界が煩い。
 簡易な舞台のように周りから一段上に置かれた鳥籠の隙間、ちょうど立ち見席の真ん前、真中にはぽっかりとあいた空間がある。オークションが始まるとそこに競りの対象の籠を置くのだろう。
 傭兵でもあるスナイパーは、いつもの癖でそうやって現場を──ゆくゆく己の戦場になる場を把握する。戦うならば立つ位置を、守るのならばその対象を、そして逃げるのならその起点を。
 武器が無ければあまりに無力と知っているからこそ、情報の多きは武器のひとつ。幾らあっても無駄にはならない。
 人が動く。大広間の、ステンドグラスとは逆側の壁に両開きの扉がひとつある。それが開くのだ。
 二人の男が取手を持ち、ぎしりと音立てて引いていけば白に金模様の壁紙が見える。他の間へと続く廊下。
 疎らに入ってくる『客』たちは容姿も様々、人と同じ容の者から殆ど異形の者たちまで。その全てはオブリビオン。
 猟兵たちはいっそ慣れたものだが、奴隷たちにはそうではない。息を呑む者、籠の隅で震える者、何もかもの感情を放棄する者、様々に散見された。
 その中で、凪いだ空に似た青かかる緑の双眸で冷ややかに周りを見るリーゼの姿が一人の客の目に留まる。
(「おや、掛かってくれたかな」)
 演技は苦手と自負しているから平素通りと決めたものだけど、それで目を引けるなら儲けたものだ。
 目の前に立ったそれを、ただの標的としてしか見ない彼女の平静な目が見上げていた。

●鳥籠『黯』
 巫山戯たものだ、と思う。
 この館の全てが嗜虐と背徳、傲慢に満ち足りている。
 隣の鳥籠に入った俯きがちの娘に客の目が行くのを見て、今まで大人しきを演じていたノワールがその赤の双眸を上向かせる。元来の彼女の色は反抗。人の力の衰退した世界において、過去から浸み出す闇に抗う者。暗雲の先の未来を見つめるもの。
 その視線に気付いた客が、隣の娘からノワールへと眼差しを移して嗤う。囀女の部下らしき男と何やら話した後、対価を支払い、鍵を二つ受け取るのが見えた。客の連れていた下男の一人にはそのうちの、小さな方の鍵が渡される。
 立ち並ぶ鳥籠の間を小器用に擦り抜けて、鍵を持った下男が広間の奥へと駆けていく。そこには重厚な扉があり、下男が開けば絨毯敷きの廊下と幾つか並んだ似たような扉がちらりと覗く。
(「あれが……例の小部屋か」)
 ヴェールの向こうで様子を確認する仕草が、怯えたようにでも見えたろうか。
 男は下卑た笑みを浮かべた。袖がうぞうぞとあり得ない動きをする。ノワールへと伸びた黒い五指は瞬きの間に伸長し杭の如く、彼女の脚へと突き刺さった。
 呻き声さえ噛み殺して耐えるノワールに男がまた嗤う。気持ちの悪い笑い方だ、と思う。
 ドレスを着ているから脚がわかりにくいなぁ。
 黒いからきちんと傷付いているか、わかりにくいなぁ。
 そんな事を言いながら男が手に持った鍵を鳥籠の鍵穴に差す。
 ──ああ、何処までも滅茶苦茶にしてやる。返してやろう。
 俯いた口角が、男に見えないように上がる。
 この格好で葬列だなんて冗談ではないと、彼女は尚も不屈のまま。

●鳥籠『白金』
 その籠は直ぐに開いたが、なかなか出て行くことはなかった。
 彼女を気に入った女客が、檻の中で彼女のプラチナブロンドを丁寧に梳かしているからだ。
 髪を下ろしておいてよかった、のだろうか。
 昔に抜け出したこの世界に再び嵌まり込みながら、ヴェルベットは冷静に周りを見る。
 ああ、何でもする、何でもできる。この世界のためなら。
 櫛で髪を梳かすその手に安らぎは感じない。ただ、他の奴隷から目を離せていることを知ってほんの少し安堵するだけ。
「さあ、これでいいわ。とても愛らしい」
「そ……そうでしょうか」
 おずおずと礼を言うその喉に、後ろから、女の長い爪が伸びた。
 縊るには柔すぎる、遅すぎる、ゆるりとした力で皮膚をほんの少し押し込む。
「──だってこれから赤く染まる、綺麗な髪ですもの」
 まるで待ち切れない獣。
 同じように背中を押す人差し指の爪の先。
 引き裂こうか、貫こうか。
 やけに艶やかな己の唇を舐めた女が、歌うように言った。
 言葉が耳朶を撫で終えるより早く、背を押す爪が一から四に増え、服の皺を引っ掛け切り裂いた。女の爪には肉が残り、少女の背には獣の爪の傷が四本咲いていく。
「ああ──ああ、ごめんあそばせ。あまりに可愛らしかったものだから!」
 女が笑う。高らかに、愉悦に満ちて。
 裂かれたドレスと、薄く赤の傷が走る背。一度少女は目を伏せ、開けて、息を吐く。
 続きはお部屋でどうぞと、窘める囀女の部下の声。応える女客の声は未だ愉しげだった。

●鳥籠『佳人』
 あの男とは正反対だ、とミレニカは毒づく。
 あれは美を追い求めた。
 より美しいものを、より高潔なものを。
 美を消費するのは似ているが、この場所には先がない。此処で終わり、何もかもが続かぬまま絶える。
 常に己を磨く努力を重ね、鍛錬を重ね、武装すら己の手で作り上げるミレニカは、費やされる為の美しさを許容できない。元より『美しくあれ』と作り上げられた彼女自身のために、その願いのために。
 昔いた場所に似ているこの籠の中、何処か拗ねたように佇む彼女の姿に引かれたか、客が寄り付く。けれども彼女は靡かない。毅然とした眼で見据えてやれば、その真っ直ぐな美しさに客は笑った。それはそれは、それはもう、恍惚と。歪んで、澱んで、どうしようもないほど。
 押し殺すことも出来ない引き笑いが響いても、ミレニカの翡翠は冷えたままだ。
(「そう。そういう客ですの」)
 冷静に判じた。であれば、次の手はもう見えている。折れない意志を折ろうと、此方へ向かってくるのだろう。その無駄に盛った筋骨の腕で? 肉を裂くしか能のなさそうな牙で? がなり立てる以外に使い道のない割れた声で?
(「はん、なんとまあ──笑えますわね」)
 奪われぬように壊されぬようにと置いてきた同類、常は髪に飾るクラックダイヤを想う。あの日共に逃げ出した偶然の君。
 左頬からこめかみにかけての罅割れが疼いた。
 けれども覚悟は疾うに──あの檻を出たその時から。

●鳥籠『金藍』
 どれほど痛みと屈辱に塗れようとも、今までここの皆が受けてきた痛みに比べれば、安いもの。
 この場で売り渡され、襤褸のように捨てられた。
 喰い千切られ、喰い荒らされ、粉々になっただろう尊厳と命を思えば。
 だからこんなものは、安いのだ。シャルロットは目をひらく。
 敢えて晒した白の細腕が鈍い悲鳴をあげる。
 食い縛る歯の隙間から息が漏れる。
 ごつごつと骨張った手で腕を掴む男は笑っている。
 笑って、笑って、嗤って──耐え切れないように狂った笑い声を響かせる。
 ぎりぎりと骨が軋み、皮膚が裂ける。何処まで耐えられるかと問うように、男が手に込める力は少しずつ増していく。
 狂い笑う癖に一息に折ることはしない理性はあるらしい、厄介だ。
 けれどそれなら直ぐに殺すこともないのだろう、この男に限っては。
 真っ先に連れ込まれた小部屋の中。
 ご丁寧に施錠された扉。
 孤立無援。
 慣れたものだ。
 スナイパーは大概、一人でいるものなのだから。
 けれど今は、そう。
 未だ失われてはいない機会を──ひとまずは目の前のこの男に弾丸を撃ち込むその時を、待つ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ヴォルフガング・ディーツェ
【5(流血・損傷表現歓迎です)】
【囮役】
【SPD】

奴隷市場か…強欲商人の護衛としてなら来たことがあったけど、ね
…あの時の奴隷達は、きっと殆どが死んだろう
苦痛と絶望と憎悪の中で、何も報われず、救いもなく

見捨てたのは、俺だ
選んだのは、俺だ

俺が誇れるのは鍛えた体と手入れを欠かさない耳尻尾
それらを見せつけられる薄布に尾に巻く金の鎖
目尻と指には赤の戦化粧を引いて

演目は鞭の演舞
野生の狼の様にしなやかに跳ね、舞い、鞭を打ち鳴らそう

心を折るのならばやってみせろ
片割れを、友を、養い子達を
何度も、何度も何度も何度も…喪い、嘆き、化け物の体を呪ったあの夜以上の無情があるというのならば、ね

幕は上がった、滑稽に踊ろうか


ノトス・オルガノン
『囮』
アドリブ、絡み歓迎です

特殊:2

奴隷制度、か…
あまり見ていて気分がいいものではないな…
なるべく多くの命を救えるよう、微力ながら努めよう

【WIZ】
普段着である真白の聖職服で籠の中に納まる
穢すのが好みというのであれば、きっとこの姿は恰好の餌だろう

あとは物憂げな表情で、神への祈りを歌に乗せる
我を守りたまえ、掬いたまえと
さながら囚われた小鳥のように、歌を紡いでやろう
上手く目を奪えたらいいが…


セリオス・アリス
【囮】【5】
アドリブ歓迎

『キレイなものを集めて血で汚して
オマケに鳥籠に入れる』とはな
過去に自分を捕えたヴァンパイアを思い出すが
囀女ってんなら別の奴だろう
ただ―…それが黙ってられる理由にはならねえわな
絶対にぶっ潰してやる


派手に着飾ってもいいんだが
どれがいいとはわかりゃしねえ
ここはひとつシンプルに行くとするか
長い髪を丁寧に梳ってもらい
ほんのり体の線が透けるような薄布を纏う
それと足首に白銀の鎖を一つ
あとは背筋を正して凛としてればいい

もし連れていかれた先で誰かが酷い目にあっていたら
『存在感』をだして相手を『挑発・誘惑』する
「俺とも遊んでくれねえの?」
こっちとら10年耐えたんだ
多少のことで折れるかよ


ルフトゥ・カメリア
【5】
囮にでも。

膝裏近くまである長いみつあみはそのままに。解くとふわふわ広がって立ち回りには邪魔だ。
服は、正直他人任せにしたい。
と言ったら、ビスクドールのようにレースで飾られた挙句、身の丈すっぽり包む大きな黒い翼まで飾られた。
動きだけは邪魔しない作りなのが救いか。

元奴隷だからな、奴隷商の空気なんざ慣れてる。
とはいえ、血液の代わりに炎が巡る身体だからな、少し悩む。
血液も古傷痕もちらちら揺れる瑠璃唐草の炎。
炎封じの包帯で隠しちまえば外見的には見えねぇけど、傷付けられたらすぐバレるしな、これ。
……ま、ちょっと珍しい何かだと思って貰えりゃ良いさ。

最後に、遠目で表情を誤魔化すためのヴェールを被った。


オズ・ケストナー


わたしの髪も、服も
おとうさんがきれいに整えてくれていたから
わたしはこの、おとうさんがくれた服のまま、いくね

にこにこ笑顔で待つよ
見向きもされないなら声をかけるね
「今度はあなたが、わたしをあいしてくれるの?」
大好きなおとうさんに笑いかけるみたいに微笑んで

わたしの相手をしているうちは他の人を傷つけないだろうから
ながく、耐えなくちゃ
こころが折れる姿を見せなければ
きっとつなぎとめられる

もしわたしの相手に疲れてきたようなら
かなしかったことを思い出すね
思い出したら体が震える
これで、もう少しで壊せるかもって思ってくれるかな

体が粉々にならなければ、わたしはだいじょうぶだから
ごめんね…おとうさん

●5
涙は出ません


羅賀・乙来
『囮』役に加わる

奴隷市場、ね
どんな世界、どんな時代であっても非道徳的な娯楽と言うのは存在する
この世にオブリビオンが蔓延っている限りは、このような事は沢山あるのだろう
此処を潰した事で多少の抑止力にはなれば良いのだけどね

【3】
白を基調としたサムライエンパイアの和服
なければ民族的な物を、それからフェイスベールも頼むよ
装飾は耳飾りや腕輪、色は白と赤に統一
ダークセイヴァーの世界に合ったものも良いのかもしれないけど
異世界の装いというも目に留まり易いと思わないかい

自分の見た目が普通じゃない事くらいは理解しているさ
キマイラはそうだろうけど、僕みたいな真っ白なのもね
昔を思い出すよ、扱いは違うがお飾りだったよ


水衛・巽
(0~5お任せ)
【囮】

着飾れとのことだけど、着物はお好みに沿うかしら?
自前で用意できるし、キリさんにはご迷惑かけないわ。

そうね、市場に着くまではコミュ力使って
遠い異国から売られてきた奴隷を装いましょう。
大人しいけど絶対にプライドは捨てない、そんな風に。

何を聞かれても自分の事は喋らず名前も明かさない。
そういう相手の矜持を折るのが大好物でしょ?こういう手合いって。

可能なかぎり多くの客を煽って時間を稼いで値を釣り上げ、
高く買われるよう振る舞いましょう。
懐が寂しくなればそれだけ買われる奴隷は減るものね。
後は野となれ山となれってやつだわ。

式神には守衛を追わせ、逃走経路を把握するわ。



●二台目の荷馬車
 二つの天幕のうち、男性が使う方を『夕風』といった。女性側は『夜風』。
 誰が付けたかと思えばそれも、囀女の手の者によるのだという話を聞いた。好みそうな名称ではある。
「徹底している……というのかどうか」
 真白の聖職服を着たノトス・オルガノン(白百合の鎮魂歌・f03612)が静かに呟く。やけに着慣れたその服は、成る程普段着であるらしい。
「ふん。ぶっ潰してやるだけだ」
 体の線が薄らと見える薄地の白服を着たセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は足首の白銀鎖をしゃらと鳴らして足を組み替える。元来この荷台は人を運ぶためのものではなく、しかも道も良くはない。身体が痛まないように時折体勢を変え、受け流す。
 囀女と呼ばれるそのヴァンパイアは知らないが、けれども似ている。過去にセリオスを捕らえていた彼奴に。別人だということが、即ち黙っていられる理由になるかと言えば、答えは否だ。
 ルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)の長い三つ編みが床を這う。ビスクドールのようにレースをふんだんに使った服を着せられ、身を包める程の翼には鎖に繋いだ星飾りまで付けられた。邪魔にならないから別にいいか、とは他人任せにした本人の談。
 奴隷達の重苦しい諦めの空気も慣れたものだ。昔その中に混じっていた。混じって尚、熔けずに残った焔が彼だった。両手両足、翼の付け根、至る所から滲む瑠璃唐草の炎を包帯で隠してただ時を待つその顔を、薄いフェイスヴェールが隠す。
「おや。君の連れる式神は、察知されにくいのだね?」
「ええ。逃走経路の確保を試みようと思っているの」
 口元を布で隠し、白基調の和服に身を包む羅賀・乙来(天ノ雲・f01863)と、朱に黒花の咲く着物を纏った水衛・巽(鬼祓・f01428)が話す声が少しだけ賑やかさを醸す。
 会話は思考整理の為でもある。どういう状況になっているか、これからなるのか、そこでどう動くか。何もしないよりは準備運動代わりに何かしておいた方が良い。さらさらと心地よい衣摺れの音を立てながら。
 それぞれの声を片耳に聞き、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)とヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)は荷台の隙間から進行方向を窺っている。馭者は領地の人間だ。見張りのオブリビオンは四人、三台の荷馬車の前後を挟むように二手に分かれて、それぞれ単独で馬に乗っている。ちょうど真ん中、二台目を走るこの馬車の会話が聞こえることは流石にない。
 もうどれほど進んだろうか。ヴォルフガングの鋭い獣の鼻に、薔薇の匂いが届く。
 少し経って、屋敷が見えた。遠くからでも、空が暗くとも、それとわかる。厭な匂いがする。
「わぁ、おおきい!」
「見かけだけは立派だねぇ」
 素直に、けれども控えめに声を上げたオズとは真逆に、呆れた風に溜息を吐く黒狼は、「そろそろだよ」と後方にいる皆に声を掛ける。
 猟兵たちは直ぐに顔を上げたが、奴隷たちは虚ろなまま。どうせ死ぬのだと丸まった背中が語っている。
 哀しげに、オズが眉を下げた。

●『囀女』の檻
 時折鞭を床に打ち鳴らしながら、ヴォルフガングが舞うのは檻の外。大広間の、舞台も何もない床の上。
 戯れにどうかと言ってみたなら、酔狂な客がそれに応じた。
 見世物。それも結構。
 鍛えた体と、欠かさぬ手入れをしている黒い狼の耳尻尾。黒い薄布を巻いて、耳尻尾には金鎖を纏わせて、それらがしゃらりさらりと音を立てる。
 目尻と指に入れた赤の戦化粧が尾を引いた。
 客の目は幾らかヴォルフガングに向いている。それでも逸れる幾つかの目のひとつを、鳥籠の隙間からオズが裾引いた。
「今度はあなたが、わたしをあいしてくれるの?」
 おとうさんが整えてくれた金の髪で、おとうさんが見つめてくれた子猫色の瞳で、おとうさんが似合うと言ってくれたいつもの服で。
 大好きなおとうさんへ向ける微笑みで、オズはその男を見上げた。
 棘塗れのその顔が少し、笑ったように見えた。
 棘塗れの掌で掴まれた腕に、ぴしりと繊細な罅が入る。
 だけど粉々にならなければ、大丈夫。大丈夫。わたしは、だいじょうぶ。
 罅割れ、罅割れ、罅割れ。
 ──おとうさん。ごめんね。
 あなたが愛してくれたのに。

 もうひとつ、目を惹くのは歌。
 我を守りたまえ、掬いたまえと、怯える小鳥のように。
 物憂げな表情で紡がれるそれを、一人の客が掬い取る。その喉をゆるり、ゆるりと潰したなら、君はどんな顔をするだろうかと、檻越しの其れはノトスに言った。
 一通り歌って、たっぷりと間を取って、それからノトスはようやく客を見た。
「それは私を買ってから、試してみてくれませんか?」
 敬語で飾って試すように。
 客はくつりと喉の奥で笑って手を振り背を向ける。
 ──では、君を競り落とすまでに、その潰し方を考えておこう。

 はらり、落ちた包帯と、散りゆく花弁のような火の欠片。
 瑠璃唐草色のそれを見た男の口が厭な方向に歪んだ。
 ただ、何かを隠すようなその包帯が気になってナイフで裂いただけなのに、溢れ出したのが焔とは!
「赤い血じゃなく青い炎か。あのひとの好みじゃねえだろうが、俺は嫌いじゃあない」
「……あのひと?」
「この檻の主人さ。美しいものが好きで、それを汚すのが大好きで。火は燃え盛ったあとに消えちまって灰しか残らねぇからなあ、きっと好みはしねぇだろうさ」
 揺れる青紫に感化されたか、男の口は回る、回る。
 それにしても楽しげだ。その視線に晒されるルフトゥは楽しくも何ともないけれど。
「……で、どうすんの。あんたは買うのか、俺を」
「あァ? そうだなぁ──」
 ただの戯れか元の性根か、この男は奴隷という立場をまるで意に介さず会話をする。
 自分が買う側であるということだけは確固としてそこにある事実。だから男はこう言うのだ。
「俺よりも愉しく遊んでくれる奴が後から来るぜ。紹介してやるよ」
 ──その方が、青火が綺麗に咲くだろう。
 囁き落として男は踵を返した。籠の隙間を縫いながら獲物を探す瞳が次に見るのは誰なのか、それを止める術は今は無く、見送るばかり。

 さて、どう値をつり上げてやろうかしら。
 巽は視線だけで周りを見ながら、自分がどう見られているかを把握する。
 ダークセイヴァーでは珍しいだろう和服、何を問うても蠱惑的な笑みしか返さぬその仕草。
 好きな者は好くだろう、と誰しも思う。
 その口を割った時。相貌が崩れた時。得も言われぬ心地に襲われるだろう事が、最初から解っているから。
 一方で、五感を共有する式神からの情報も集積する。影を這う蛇の如くに潜む『彼』には、共に来た馭者の一人を追って貰った。囮の分だけ数の増えた奴隷達を歩かせるのに見張りに付いてきた四人のオブリビオンでは足りず、馭者が屋敷の中まで付いてきたのが巽にとっては僥倖だった。無闇に広いこの敷地の中、ほぼ確実に荷馬車まで戻る者を追跡できるなら、帰路の足は確保したに近くなる。
 あとはそこまで辿り着けるか、だが。
 その心配を今するのは早計というものだろう。
 まだ標的の姿を、一目も見てはいないのだから。
(「さあ、此方の準備は整ってきてるわよ、囀女」)
 まみえる時が楽しみだと、一層笑みを深めた巽は、またつんと何処か遠くを見ながら息を吐く。

 セリオスは気付かれないよう視線を巡らせる。
 隣の檻へ、通り過ぎる客たちへ、立ち見の席のテーブルへ。
 それから、何処かにいる囀女へ。
 そいつはあの天幕や奴隷達のいた村へは一度も来ていないらしい。着いたばかりの奴隷達を『お得意様』に案内し、『お気に入り』を見定めると言うのなら、今この時に何処かから見ているはずなのだ。
 見られていると思えば妙な真似は出来ない。此方からはわからないのがまた、むずむずと不快な心地にさせられる。
 だけど、だからと言って。
「あ、……あぁ、やめて、おねが、……」
「イイねぇ。もっと囀ってくれよ、なァ?」
 ──だからと言って、見過ごす理由になどしない。
「おい、そこの兄さん」
 開け放たれる寸前だった隣の鳥籠。それをセリオスの声が止めた。
「俺とは、遊んでくれねえの?」
 挑発的な笑みは見遣る、男の爪先からその双眸までをゆっくりと視線で辿る。
 真っ直ぐに射抜くような青と目が合えば、男の口角が更に上がった。
 面白い、と、そう言いたげに。

 白のキマイラは悠然と籠に座す。
 生える触覚は蚕。人に飼われなくては生きていくことのできないもの。
 まるでそういうもののように生きていた事がある。何もない、何もない、何もない、生。息をしているだけの。それさえ詰まってしまうほどの。
 此処はそれよりも騒然として、凄惨で。
 ああ、けれども。
 『お飾り』であるという一点においては、よく似ていた。
 だからだろうか。乙来は少し昔を思い出して目を伏せて。やがてその瞼を開けば、金の鱗粉めいた色の瞳が静かな感情を僅かに波立たせて其処に在る。
 不躾に彼を指差す者がいた。
 周りで幾つか言い争いが起こった。
 その籠の鍵は強引に奪われて、一人の客の手に渡った。
 そういったもの全てを眼に収めながらも揺れぬ金は、惺に、静かに、開くばかり。

 ──演舞が終わる。
 鞭を貸した酔狂な客に跪いてそれを返す。
 周囲の籠からの血の匂いは思うより少ない。成果はあった、というところだろう。
 奴隷の市場なら、ヴォルフガングは以前来たことがある。強欲な商人の護衛として、今とは立場を違えて。
 あの時見た奴隷達はきっと、苦痛と絶望の中で世界を呪いながら死んだだろう。放っておけば此処の皆も、遠からず似たような末路に至るのだろう。
 救いも、希望も、何一つその手に残らない侭。
 酔狂な客はひとつ笑うと、黒狼の首に革の輪を掛けた。かちゃりと金具が鳴る其れは、首輪だ。
 指先ひとつその隙間に入れ、顔を上向かせる。
 遠い夜に亡くした片割れを、友を、養い子達を思い出す。
 失い嘆いた、己の無力を思い出す。
 この身を呪った自分の、喉を掻き毟るような怨嗟を──思い出す。
 それ以上の無情でないのなら、この心を折ることなどできやしないのだと。ただそれだけはこの夜の救いだと、思えたかも知れなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
アドリブ・絡み歓迎

『囮』2~3辺りで

こういう酷い目に遭わせるのが好きな奴…嫌いだよ。
このお仕事はボクでも出来るかな?
絶対にやっつけてやりたいから立派な囮役になってみせる。

身だしなみは丁寧に、でも服装や慎ましやかで清楚な感じのを選ぶよ。
…血がよく映えるような、そんな服装を。

自分を飾り立てるのは楽しそうだけど実はあんまりよくわかんないし、壊されたり取られちゃったら嫌だからあんまりつけないよ。
でもお化粧とかはした方がいいのかな? やったことないかも(むぅ)

出来たらアーシェ(人形)も一緒に連れて行きたいな。
取られちゃいそうだから、顔とかお洋服を汚しておけば一緒に持って行けるかな?
うまく囮になれるかな…


マリアドール・シュシュ

囮5
楽しい事以外は忘れてしまう
華水晶は壊れても尚、輝き続ける
体が欠けると金の宝石が覗く

(美しいものは大好き
綺麗なものは大好き
あなたと一緒なのよ
けれど艶やかな紅い華を咲かせる必要はあるのかしら
それは本当に美しいと言えるのかしら
紅く染めることに悦びを覚える行為、わたしには理解出来ないのだわ)

蝶よ花よと愛でられた華水晶は笑う
花綻ぶ様な笑顔で
決して光は消えないのだと信じているから
穢れなき高貴な茉莉花が凛と咲き匂う

絹糸の髪を結う(髪型お任せ
銀河の如く眩い星々の戯れを宿す瑠璃色のカクテルドレスに茉莉花のコサージュ
怯えてたり泣く奴隷がいたら、祈りを込め優しく歌唱
屋敷の内部を見渡す
囀女を見つけれたらよく観察



●天幕『夜風』
 この世界に星が流れる夜はあるのだろうか。
 厚い雲の向こうに、それは煌いているのだろうか。
 マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)が身に纏ったのは瑠璃色のカクテルドレスに茉莉花のコサージュ。渦を巻く星屑が流れ漂うその様は銀河の如く。
 星が流れたなら願い事をしよう。そんな話はもしかしたら、この昏きにおいては夢のようなものなのかもしれない。だけれど、もしこの諦念に支配された子たちの瞳の中で、一条の流星のように希望をひとつ描けたとしたら。
 それはどんなにか、素敵なことだろう。
 絹糸のように繊細なマリアドールの銀髪は一掬い、耳の上で結われて揺れる。ドレスと揃いの瑠璃色リボンに、三日月飾りがしゃらりと鳴った。
 背中で揺れる柔らかな髪をふわりと舞わせて振り向く先には、瀬名・カデル(オラトリオの聖者・f14401)。折角楽しそうなお洒落だけれど、壊されたりしたら嫌だからとあまり飾り気を持ち込まなかった優しい子。清楚な白のブラウスに生成のハイウェストロングスカート、腰に大きなリボンがひらひらとたなびく。本当はこのスカートに似合う帽子もあったけれど、それはやめて、薄桃の髪を整えるだけにした。
 大事な人形、アーシェも連れて行きたくて、顔や服を汚そうとしたら、壊されてしまうかもしれないよと心配そうな声が掛かって彼女は悩んだ。大切なものを壊して悲しませるというのは、容易に考えられる事だった。悩んで、悩んで、だけれどやっぱり置いていけなくて。汚して古い人形を装った親友の象を抱きしめる。
 あらあら、といった表情で、マリアドールが手を伸ばす。唯一ブラウスを飾る首元のリボンが解けかけていたのを、嫋やかな指先で結び直した。
「……ねぇ。ボクでも、できると思う? このお仕事」
 カデルがつい零したのは、ほんの少しの不安。リボンを整えたマリアドールの指は手遊びのように彼女の髪を梳いた。
「あなたは、何かやりたい事があって、来たのよね?」
「うん。絶対にやっつけてやりたいんだ」
「それなら、できるかどうかじゃなくて。やるかどうかだと思うわ」
 ──マリアは、そう思っているの。光が消える事などあり得ないと信じ続ける華水晶の娘は、綻ぶように笑った。
「おまじないよ。とびきり可愛くて、美しいあなたに」
 白い指先が掬い取ったのは細かな星屑の粒子。それをカデルの瞼にすいと乗せて、流星の尾のように。ひとつふたつ、馴染ませるように瞬いたカデルは、鏡を覗いて光を纏う星の尾を見とめた後にありがとうと笑った。
 その時ちょうど、馬の蹄と車輪の音が遠くから聞こえ始めた。呼び声にしては些か可愛げがない。それでもカデルの双眸は真っ直ぐで、マリアドールの笑顔は揺るがなかった。

●鳥籠『絹星』
 怯え切った娘が泣いていた。
 天幕にいた時から泣きそうに歪んでいた顔は、馬車に揺られて更に沈んで、そうしてこの屋敷に着き鳥籠の扉を潜った時ついに溢れてしまった。
 それから終ぞ止まらずに。
 泣き腫らす娘の顔は、マリアドールの居る鳥籠からは見えない位置にある。少し離れていて、間には他の鳥籠と奴隷と、それらを眺める客達がいる。
 彼女に届けられるとしたら、マリアドールには歌しかなかった。
 この掌が撫でることも、指先が手を繋ぐこともできないのなら、祈りを込めた歌声を以って。

 ──Lala,la……

 伸びやかな声は罅割れた夜の隙間に沁みていくように、檻を超えて響いた。
 ざわめきが遠のき、客が足を止める。
 ほんの少しだけ。少しの間だけ暴が治まり、娘たちの震えが止まり、泣いた娘への咎める声が小さくなる。
 束の間、まるでそれが平穏であるように装って。

 ……ぱりん。

 割れる音がする刹那だけ歌が止まり、けれど淀みなくまた紡がれる音。まるで息継ぎをしただけの。
 罅割れたのはマリアドールの頬。
 白い肌にぱきぱきと侵食した割れ目には、溢れ出る蜂蜜のような蜜金色の煌きが覗いた。
 薄く研いだ針のような刃物を指先に閃かせて彼女の頬を割った男は微かに目を見開くと、宝石箱を覗き込むように笑った。

 から、から、からり。ころり。

 破片が飛び散り、蜜色の光が小さく舞う。
 歌は止まない。
 華水晶の娘の笑みは綻んだまま揺るがない。
 通り過ぎる客を、広間の中を見遣り、覚え、観察する瞳はただ柔らなだけ。
 囀女の姿は見えない、けれど視線は何処かから感じる。獲物を見る猛禽のような鋭さが肌を刺してくる。
 美しいもの、可愛らしいものを愛する娘は、凛と咲き匂う高貴な茉莉花。
 好きだと思う気持ちは同じ、だけれどそれを艶やかな紅い血花で汚すことは理解ができない。
 それは必要なことなのか。それは本当に美しいと言えるのか。それの何処に悦びを覚えるのか。何一つとて。

 ぱり、ん。

 一際大きな欠片が落ちて、けれども華水晶の笑みは毀れない。
 楽しい事しか抱えない、抱えられないその心。それ以外の事はやがて忘れてしまう蜜華の晶。
 男もまた笑っていた。
 壊すのは好きだ。この娘は血に汚れない晶だが──壊し甲斐のある、綺麗な石だと。

●鳥籠『ふたり鳥』
 人形をぎゅう、と抱きしめた。
 その様は怯えた少女に見えたのだろう、そういったものが好物の客がカデルを眺める。
 不躾で、下劣で、下卑た笑い。
 カデルにそういったものが理解できないことが、或いは救いであったかもしれない。
 それを理解するには彼女があまりに無垢で、世間知らず過ぎる。
 ──どうかどうか、アーシェが傷つきませんように。
 祈るように願う。
 その心に光差すように、歌が聞こえた。
 凛と響く鈴の音に似た柔らかな声。その身が宿る華水晶のように咲き誇る、花の香さえ漂うような花園めいたそれを聴く。
 マリアドールの歌だ。
 不安が拭われていくのを少し安堵した後に、あんなに目立つ事をして大丈夫なのだろうかと心配を抱く。優しい彼女が傷付かないかと不安げな眼が歌声の主を探すけれど、少し遠い。歌は聴こえるがそれ以外はわからない。
 どうしよう。どうしよう。どうなるんだろう。
 駆け巡る不安と押し寄せる心配に眉根を寄せる様は惑う迷子に似る。
 けれどその姿に誰かの手が伸びる前に──手を打つ音がふたつ鳴り響く。
 騒めきが波を引くように静まり、そこへ声が割り入った。

「──間も無く、お時間です」
 それは開幕を告げる音。
 若しくは──いのちの終わりを報せる笛の音か。
 何方にせよ冷酷に、平静を装ってその声は闇夜の端までも染み渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『籠の中の小鳥達は』

POW   :    正面突破で救出を試みる

SPD   :    潜入して救出を試みる

WIZ   :    捕虜の手当などをする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●-???-

「お客様方には楽しんでいただけたかしら」

 女は言った。楽しげに、その様子を見下ろしていた。
 吹き抜けの二階、天井近くに張られた臙脂の緞帳が硝子越しの彼女の姿を隠すけれど、視線に気付いた者も居るようだ。
「よろしいのですか? 何やら、不届者が紛れておりますが」
「そうね。けれど、人の子を守る為、なす術もないのね」
「……は。どうも、その様です」
 女は思案するように細指で顎に触れる。とは言え考えるまでもない、最初からそうと決まっているようなもの。
 当座とはいえ、抵抗の意思がないのなら。
「──今のうちに、牙を抜きましょう。爪も全てへし折って奪い去って、無力な肉としましょう。どれが『そう』かは、わかるわね?」
「は。畏まりました」
 傅く男が一旦下がり、外に出る。指示を出す声が扉越しに聞こえる。
 今宵ばかりは無粋な真似をしたくはない。楽しませながら、けれども排除は徹底的に。今日の客は女の趣味をよく知った者ばかりだ、お膳立てをすれば良いようにしてくれるだろう。
「守りたいのなら、そうさせてあげましょう。あなたがたも愉しんで?」
 口角を上げ歪ませて、女は再び眼帯で両眼を覆い隠した。


 ある者は未だ籠の中。
 ある者は扉隔てた小部屋の向こう。
 宵の果てにて転がる骸は、誰のものか。


 =+=+=+=+=+=+=+=

 フラグメントの内容に拘らず行動をご記載ください。

 第2章からの新規参加の方は、以下のお好きな方を選択してください。
 第1章からの継続参加の方は変更することができません。

 ▼『囮』
 着飾られ、大広間の鳥籠の中に入れられています。
 身体検査を超えて入り込んでいるため武装は持ち込んでいません。
 奴隷たちを庇うのは易いですが戦闘には難いです。
 損傷具合を数字で指定することができます。
 0(無傷)〜5(酷)、無記入は0と見ます。

 ▼『救出』
 章開始時には敷地内に潜んでいます。
 見回りのオブリビオンがうろついているため、派手に動くと見つかります。戦力は大した事がありませんが、見つかると増えるので対処に手間取ります。
 突入のタイミングはお任せします。
 尚、屋敷の中で待機するのは困難です。
 脱出の足には、荷馬車を既に確保しています。
 
突入後は細かな事は気にせずお好きな行動を取ってくださって構いませんが、
『囀女』との戦闘は次章になります。
大広間においては、戦闘行動に支障はありませんが奴隷達がまだ残っています。
オズ・ケストナー


足、うごくかな
どれくらい壊れているかわからない
声かけるとき、怖がらせないといいな

潜入で騒がしくなったら出て行ってくれるかな
なにが起こってるのと尋ねて
無理なら体当たり
反撃を【ミレナリオ・リフレクション】

囚われた人だけになったら
足にけがをしている人優先にハンカチで手当て
【Eine Welt für dich】
この中にいる間は安全だから
ブローチにさわって
ここから逃げよう

見かけた子に声をかけるね
騒ぎにならないよう声は抑えて貰って
こわかったね
もうだいじょうぶ
生きてここを出よう

わたしになにかあったら、絶対にブローチを持ち出してほしい
猟兵がいたならそうお願いするね

ううん、わたしもちゃんと
倒して、帰らなきゃ


ルフトゥ・カメリア
……紹介、ね。ろくなもんが来なさそうだな
まあ、奴隷を裂いて遊ぶようなクズが俺の方に回されんならそれでも構わねぇよ

テメェらちょっと目立たねぇように下がってろ
昔から、他の奴隷を庇っては傷が増えて行った。一度死んでも、性分は変えられそうにはない

はッ、反抗的な奴がお望みかよ。悪趣味め

随分拷問慣れも欠損慣れもしたけどな、そう何度も味わいてぇもんじゃねぇよ
炎は血液だ、不足すればするだけ貧血にはなる。痛みも激痛耐性があるとはいえ、それを超えれば痛いものは痛い
痛め付けられたとしても、噛み締めすぎてちりりと炎の滲む唇を舐めて、舌打ちを飲み込む
母譲りの声で鳴くかは手腕次第

そう簡単に折れちゃ面白くねぇんだろ?なぁ


唐草・魅華音
【FH】『救出』
目的、奴隷解放とシャルロットさんの救出。任務了解。……シャルロットさん救出、全力で速やかに実行するよ。

物陰に隠れ、アメリアさんが陽動を開始したら建物から出てくる見張りを観察し情報収集。
・装備状態
・強弱の違い
・出てくる人数
を確認し戦闘知識を照らし合わせて分析。厳重な場所が奴隷を囚えている場所と当たりをつけ、その場所をユーイさんへ知らせて突撃開始。
突撃後【機略縦横の流法】発動、攻撃回数中心に強化。ユーイさんの援護をしつつ奴隷を解放してシャルロットさんの情報を集めて囚われの部屋へ
ユーイさんが扉を破ったと同時に突入、刀で切り付け男を引き離し銃をシャルロットさんに投げ渡します

アドリブOK


ユーイ・コスモナッツ
【FH】
『救出』

物陰から周囲を観察
屋敷内に侵入するのに適した入口と、
そこへ至る道筋などを検討します

仲間同士でそれを確認したら、
シャルさん救出作戦開始です!
アメリア団長の陽動に警備が釣られたら、
速やかに入口へ向かいます

さて、シャルさんの居場所は……
唐草さん、見当がつきます?
さすが!

小部屋の扉の前に辿り付いたら、
「シャルさん、さがって! 危ないですよ!」
【流星の運動方程式】で、
扉を突き破って部屋の中へ

宇宙騎士ユーイ、
姫の危機にただいま見参っ!
すみません、遅くなりました!

その後は一般人の脱出を支援
【流星の運動方程式】の機動力を活かしたいところです
シャルさんの傷が痛むようなら、
ひょいっとお姫様抱っこ!


シャルロット・クリスティア
【FH】囮


救出の皆さんが来るまでは、ひたすら耐え続けるしかないですね……。
せいぜい楽しませてやる、くらいのつもりで行きます。
我慢比べです、そう簡単に力尽きると、思わないでください……!

外が騒がしくなったら、体当たりを仕掛けたりでもなんでも、こちらも大きく抵抗を始めます。
物音が起きれば、ここにいるというのも外に伝わりやすいでしょうし。

仲間と合流出来て銃を受け取れたら、後は他の皆さんの脱出支援。
奴隷に手を出そうとする敵を撃ち抜いていきます。
負傷もあって連射は利きそうにないですが……一発一発、しっかり保持して撃てば、どうにか……!

私は、大丈夫です……!早く、他の皆さんを……って何ですか姫って!?


アメリア・イアハッター
【FH】で行動
『救出』

さてと、シャルちゃんは囮として潜り込めたかな
無理してないかな、傷ついてないかな…
あー心配だ!
ユッコ、みねちゃん!
シャル姫と他の皆を、助けに行くわよ!

・方針
バレないように行動し突入に適した場所を探す
その後、私が陽動を行っている間に味方に突入してもらう
可能ならシャルロットの救出を優先

・行動
息を潜め身を隠し突入に適した場所を探す
例えば食堂の勝手口、窓など
味方の突入準備が整えば自分は陽動へ

突入地点から離れた場所であえてUCで空を跳び
焦って見つかったかの様に装いながら敵に発見される
そのまま派手に敵頭上を跳び回り注意を上に向ける

一般人脱出時も陽動続行
一般人が狙われたら勿論助けに行こう


ノワール・コルネイユ
●【囮】【5】

上手く入り込めはした
…だが。本番、狂宴はまだこれからだ

傷を刻まれるほどに、耐えるほどに
奴らの目論見、求める結末は遠ざかるはず
序でに無駄死にする者も減るだろうよ

小部屋に満ちた血の匂い
ここに連れ込まれた者達の結末は想像だに易い
幾人も、幾人も…誰にも看取られることなく
無惨に孤独に最後を迎えた訳だ

命に報いるなど綺麗ごとは言うまいよ
ただ、ひたすらに気に入らない
だからこの巫山戯た御遊びを終わらせてやる

【殺気】も敵意も隠さない
折れない方が貴様も長く愉しめるだろう

買い主の顔は絶対に忘れん
救援が来たなら傷めつけてくれた礼は必ずする
混血とはいえ吸血鬼に血を流させたんだ
流した分の血は取り返させて貰うぞ


有栖川・夏介

救出

人の命をなんだと思っている。……ああ、モノとしてしか見ていないのか。気持ち悪い
奴隷達の救出……いえ、捕らえられた人々の救出のため動きます。

敵に見つかっては厄介なので、なるべく目立たないように移動。
道中で邪魔な敵は背後から「懐の匕首」で暗殺。
「……悪く思わないでくださいね」
自分への攻撃があればUC【絶望の福音】にて回避し、増援を呼ばれないようすぐ反撃。

囮として潜入している他の猟兵もいるという話でしたし、救出そのものは彼らと連携を。
ただ、彼らも体力を消耗している可能性が高いので、もし攻撃を受けるようなことがあれば、割って入ってかばいましょう。間に合えば武器受けで、難しそうなら身を挺してでも。


浮世・綾華
嵐吾さん(f05366)と【救出】
*記載ない点は嵐吾さんに合わせる

まず黒猫道中を使い見っけた敵を追跡
猫と五感共有、嵐吾さんとも目配せし
見つからないよう慎重に鳥籠へ
解錠は千変万化ノ鍵と技能の鍵開けで

俺達だけで皆を助けられるわけじゃない
だから奴隷が騒がないよう敵を装い
『お前達を別の場所に移動させる』と子供から先に
苛立つ心を落ち着かせながら冷静に

奴隷・敵に怪しまれるようなことがあれば
『これは囀女様の命だ』と堂々と、臨機応変に

奴隷解放>戦闘
やむを得ない時は咎力封じで行動阻害
気絶狙いも

記憶鳥籠は気に入らなくも優しい世界だったように思う
苛立つ、気分が悪い
嗚呼、俺は――
こんな鳥籠を開けるために
生まれたのに




終夜・嵐吾
綾華君(f01194)と【救出】

綾華君が追跡している間は周囲の警戒を
近付く足音などあれば知らせ、対応を
やり過ごせる場所があれば隠れ、無用な戦闘は避ける
避けられないようであれば素早く仕留めよう

他の猟兵達が何か騒ぎを起こすならその機も上手く使い動こう
互いの邪魔せぬように

鳥籠の場所まで行けたなら
ああ、はよう助けたいと。そういう気持ちは、隠して冷たく接そう
ここで死にたく無ければ早く動け、と

助けるものを選ぶ、というのは互いに酷な事
向けられる視線のすべてを、忘れずにおりたい
再度ここに戻ってこれるかわからんのだから

綾華君、と呼んでその様子を見つつ
屋敷を出たら荷馬車まで抱えて
こんな所からは早く離れた方が良い


ヴォルフガング・ディーツェ
【囮・5】
(アドリブ歓迎、流血と怪我で意識は半ば朦朧としています)
酔狂にも値札を付けられたと思いきや…敵も阿呆ではない、か…
俺は良い、けれど奴隷たちは守らなきゃ…特に小さい子は、覆い被さってでも…

はは、こんなにぼろぼろにされたのは、久し振りだ、な
腕の骨に…肋骨、足、後はどこ、かな…随分と、丁寧に折ってくれちゃって…

ぐ…ぎ…ぃ!俺は靴置きじゃないっての、踏まれるのは仕事じゃ…え、いい加減、心が折れたか、って?
おあいにく様、首輪くらいで従順になるようなお育ちの良さは、持ち合わせていなくってね…

…なにを、する
止めろ、子ども達に手を出すな!
壊れてしまう、また、死んでしまう…駄目だ駄目だ駄目だぁぁ!!!


アレクシス・ミラ

『救出』
セリオス◆f09573と

必ず、迎えに行く。無事でいてくれ…セリオス

見回りから慎重に隠れながら進み、例えば使用人用の出入り口のような場所がないか探る

屋敷に入れても油断はできない
大広間はどこだ
…聴き慣れた歌声が聞こえる
声を頼りに進み、扉近くで時期を窺う
扉を開けると同時に【天星の剣】発動
迎えに来た者だ、と籠の鍵を持っている者に光「属性攻撃」の「衝撃波」をぶつけ、奪い、籠を開けに行く

セリオスには装備のマントを被らせる
これ以上、彼を奴隷商に見せたくない
そして、今の僕の事も
…騎士としてまだ未熟だな
今、自分がどんな表情をしてるのか分からない
【天星の剣】を立ち見席側の天井に向かって放つ

容赦は、しない


セリオス・アリス

アレクシス・ミラ
f14882と

『存在感』を出して囀女に目をつけて貰えば
こっちから探す手間が省けていいんだけどな
信頼できる相手が救出組にいるから
多少…どころじゃねえ無茶もできるってもんだ
時折笑みすら浮かべ
どれだけ痛めつけられても屈しない態度で
『誘惑・挑発』する様に相手を睨む
確かに痛みには反応するのに折れない心が
俺の価値だと知っているから
…意地で悲鳴だけは上げねえ

はっ…そんなに声が聴きたいなら聴かせてやるよ
時が来たら屋敷に響き渡る様に『歌唱』
【望みを叶える呪い歌】を
俺の声を
俺はここだとアレスに届かせる
同時に魔力で無理やり体を動かして
少しばかり抵抗してやろう

戦場だってのに
アレスの気配に少し安心した


月舘・夜彦
奴のやり方はまるで物を扱う……、いえ、物でさえそのようにはされませんか
汚す方が良い等とは思わないのでしょうからね
ましてや相手は生きているのだから
まだ残されている彼等の為にも、耐えてくださった猟兵の為にも
道を拓かねばなりません

奴隷達の救出に向かいます
敷地内を目立たないように忍び足で移動
他の味方も潜入しているはず、騒ぎに気付いて集まって来たら強襲

敵陣の中央に駆け足で向かい、先制攻撃で抜刀術『陣風』
2回攻撃を重視し、敵を一掃
敵からの攻撃は残像、見切りにて回避し、カウンター
敵の得物は武器落とし、避け切れない攻撃は武器受けにて対応
攻撃を受けようとも痛みで手が狂う事は無い
相手がオブリビオンならば容赦はせん


瀬名・カデル
【星鳥】
囮3●

これから何かが始まっちゃうのかな
ううん、本当はわかってる。きっと怖いことがボク達を待っているんだ。
どうか、ボクが痛い思いをするのは耐えられるから、アーシェだけは壊されないで。
開幕を告げる音に少し怯えるけど…

マリアドール…マリア、君に貰ったおまじないがボクに勇気をくれているよ。
また会うためにも、ボクもその間に出来る事をしなきゃ。

他の鳥籠のみんなも血の為に怪我を負わされちゃうのかもしれない。
そんな人達のために「生まれながらの光」で複数の人を癒やしたい。
でもそんな力を使ったら囮がばれちゃう。
これから救出に来るみんながいる、その混乱の時に使うようにするんだよ。
この籠から飛び立つ為にも…!


マリアドール・シュシュ
●【星鳥】
囮5

「ねぇ、楽しい?
こんな事をしてもわたしには意味がないと分かっているのに?」

(可哀想に
どんなに壊してもわたしの光を遮る事は出来ないのよ
わたしのこころに残るのは楽しい事だけ
歪んだ戯はお終い)

茉莉花の耳飾りを揺らし横たわる
コサージュも散る
自分を壊した男を星芒の雫に映し、蜜華の晶は笑みを絶やさず
天使の様な祈りの歌声はか細く

響け
届けと

救出組が潜入し騒ぎになるか救出のタイミングで【華水晶の宴】発動
鳥籠を中から突き破り23体を四方八方に走らせる
他の鳥籠も壊し奴隷を逃がす

「おまじない、効いたみたいね(抱きしめ不可なら寄り掛かる)
カデル。あなたは本当に強い子。
マリアにもどうか手伝わせて頂戴(微笑」



●敷地内部
 ととと、軽い足音が聞こえそうな足取りで黒い仔猫が走っていった。
 彼は見つかりづらく、隠密に向く。五感を共有する浮世・綾華(❂美しき晴天❂・f01194)は、仔猫の見聞きするものを余すことなく集積していく。
「大広間の奥側まで続く通風孔が一。その近くに裏口が一。裏口からは大広間をぐるっと囲む広い廊下へ出られる。大広間の廊下側に両開き扉が二、上手と下手に一ずつ……と、そんなところか」
「ふむ。とすると、こんな感じかの」
 終夜・嵐吾(灰青・f05366)が小枝を手に、地面へごりごりと簡易な見取り図を書く。
 窓から差す明かりでそれが照らされて、ちらと見た綾華が頷いた。
 屋敷の壁面沿い、大広間一階部分に並ぶ窓の下で、顔を突き合わせた猟兵達もまた地面の図を前に指を指して声を潜める。
 彼方此方から花の香りがする。薔薇の生垣が庭園の其処此処に区切りとして存在し、彼らの姿もそのひとつに隠れる形で収まっている。
「ここ見難いんだよねえ。カーテン開かないかな」
「見つかるよりは余程いいですよ」
 室内では例のオークションが既に始まっているようだった。客たるオブリビオン達は鳥籠から一様に離れ、立ち見席側に移っている。進行役らしき男が一人、鳥籠の側に残るのみ。
 広間の窓から動向を覗きながら後ろでぼやくアメリア・イアハッター(想空流・f01896)に、ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)が言い添える。壁面に窓は並んでいるが、どれもカーテンが閉まっている。合わせ目に隙間がある窓を見つけて、そこから室内の構造を確認すると、唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)が嵐吾の見取り図にがりがりと追記した。
「例の小部屋に続く扉は、廊下の方にはありませんか?」
「そーみてぇ。見つからなかったわ」
「じゃあやっぱり、あれがそうなんですね」
 魅華音が『あれ』と言ったのは、奴隷達のいる鳥籠の向こう。折り重なる緞帳と檻の所為でよくは見えないが、度々奴隷を連れた客がその向こうに消えていくのだ。今はちょうど、白の聖職服を纏った男が其処へと連れ出されるところ。がりがり、見取り図に更に追記。
 大広間は前情報通り、二階までの吹き抜け。高天井。下手半分は丸テーブルの並ぶ『立ち見席』、上手半分が奴隷の鳥籠が置かれた『壇上』。廊下側の壁面に、先程綾華の黒猫が見た扉が上手下手に一つずつ。小部屋は恐らく上手側、『壇上』の奥の壁際。扉か何かがあるはずだ。
「あとは……突入するとしたらもうひとつ、此処ですね」
 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)が親指で指し示すのが、今彼らが集まる壁面の窓。
 纏う黒衣の襟に口元を埋めて、少しの間黙っていた有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)がぽつりと言う。
「挟撃というのはどうです。此方の窓側と、廊下側から」
 否やはなかった。遅かれ早かれ騒ぎになるのなら、最大限に生かす手を取ればいいだけの事。
 囮として侵入した猟兵達の武具は纏めて持ってきてある。それらを分担して担ぎながら、夜彦が言った。
「優先したいものは様々あるでしょう。ですから侵入した後は各々自由に、という形でいかがですか」
「この場の皆を救出するという目的は同じくしている訳だからね。いいよ、それでいこう」
 うむ、と続いて頷いた嵐吾が視線を巡らせた先、窓から今も室内を睨み付けるように覗くアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)がいる。
「……のう。大丈夫かの」
「あ、……ああ。問題ない。僕は窓側から行く」
 きちんと聞いていた、と言外に告げるアレクシスに、見えないように嵐吾は肩を竦めた。大丈夫かと訊いたのは、そういう意味ではなかったのだが。
(「……今度こそ僕は、君を」)
 夜の帳を編む様に幾重にも重なるヴェールのマント。黒鳥の祈り。肩を覆うそれに口元を埋めて目を伏せる。
 ──歌が。歌が、まだ聞こえない。響かない。
 それだけがアレクシスの胸に焦燥を生んでいた。

●裏口
 黒猫が示したその扉は、普段あまり使われている形跡のないものだった。しっかりと鍵が掛かっていて、おまけのように堅牢で。
「ま、そうじゃろうな普通」
「『お祭り』、だもんなぁ」
 嵐吾が隣の綾華に目を遣る。其処に居るのは鍵のツクモガミ、開けられぬ鍵などは存在しない。
 呼び出された変幻の金古鍵。それを掌の上でふわり掻き消しながら広い廊下を歩いていく綾華の少し後ろを取って、嵐吾が周囲の警戒を担う。
 床は厚い絨毯が敷かれていて足音も薄い。
 お陰で、苛立ちが滲み出るその爪先を少し隠すことが出来る。
「……気楽に、とは。ゆかぬ仕事じゃな」
「そーネ。……でもさ、俺、鍵だから」
 記憶の鳥籠は暗く、狭く。
 此の鳥籠は明るく、広く。
 だというのに、気に入らないはずのあの鳥籠が、それでも随分と優しい世界だったように思えた。
 それ自体も苛立たしかった。
 けれど鍵は知っている。その扉を開ける事ができると。
 昔は無かったこの四肢が、今その願いを叶える事ができると。
「鍵だからさ。開けなきゃなんねーの」
 その先に自由があるのだと既に知っているから。そう、示したいから。
「嵐吾さん。手伝ってくんね?」
「応とも。今更じゃろうが」
 一瞬交わる視線に笑って、それから前に向き直る。
 上手側、鳥籠の側へと出る扉が、其処にあった。

●大広間
 ざわざわ、という音が一番似合うだろうか。
 広い部屋、高い天井、その全てが噎せ返る程の悪趣味な声音に充ちていた。
 口々に勝手な数字が飛び出してくる隙間に、厭に愉しげな声が混じる。
 130、200、470。
 奴らにとって金は遊びだと誰かが言った。
 正しく、そういう事なのだろう。
「いや、やだぁ……っ! わたし、わたし、まだ……っ」
 競り落とされた娘の鳥籠が開いた。
 死にたくない、と泣き叫びながら引き摺り出されたその娘の腕を、買い主が笑って掴む。
 慈しみも愛情もない、ただの暴力が娘の腕に痣を作る。好きでもないのに着飾られた服の飾りが毟り取られて散らばった。
 周りの鳥籠に入った奴隷たちの反応は半々だ。
 次は自分だと諦めた者と、次は他の誰かであるようにと怯える者と。
 手枷の鎖を鳴らして耳を塞いだ少年の檻に今度は手が掛かった。
 重苦しい音を立てて壇上の真ん中へと運ばれ、仰々しい仕草が鼻に掛かる男が声を張る。
「さぁ、次はこの鳥籠、『浮月』! 美しい月の銀髪、瞳は朝焼けの似合う薔薇の葉色。……おや? 瞳が見えない?」
 笑顔を顔に張り付けた男が短鞭の先を檻の隙間に差し入れて、俯く少年の顎を上向かせる。滲む涙に濡れる大きな緑の瞳を見て、男は口角を歪ませた。
「噫、失礼。朝露が似合う子ですね。いかがです!」
 沸いた声、それは吐き気がする程愉しげだった。
 少年の涙に色が篭る。恐怖と、憎しみと。
 そこへ一滴垂らされた絶望の色がじわりと染みて、滲んで、恐怖をも吞み込もうとした時。

 ──ぎぃ、

 扉が開いた。少年の視界にも僅かに入る、両開きのその扉は、未だ開く予定の時間には満たない筈だった。
「侵入者が発見された。早急に場所を移せとのご命令だ」
「何ですって?」
 競りが止まる。騒めきは伝播する。
 少年の目に、近寄ってくる黒髪の男が映った。
「既に移送の用意もある。……連れて行くぞ」
 後ろにもう一人の男を従え、その人は檻の間をすり抜けていく。
 周りを見渡して、ひとつの鳥籠の前に膝を突いて。
 鈍い金色の鍵を取り出した時、顎の下の鞭先がすいと引き抜かれた。

「……侵入者は、あなたがたの方でしょうに」
 こつりと鳴る靴の音。
 迫る其れと、屈む綾華の背を守る様に嵐吾の腕が短鞭の先を遮るのはほぼ同時だった。
「わかっていますよ。わかりますよ。あなたがたが『敵』だとね」
 オブリビオンは、猟兵を一目見た時にそう感じる。
 理屈も理由もない。ただ己の敵であると本能が告げる。
 だから男はひとつ、合図をする。
「──殺せ!!!」
 轟きに似た怒声がそれに応える。
 客達が目の色を変える。愉悦と欣幸が殺気と敵意に様変わりして、ぎらぎらと光を吸う。
 短鞭を捨て、代わりに己の腕を鞭の如くに伸ばししならせた男。その顎に昔の癖で掌底を叩き込んだ嵐吾が反射神経を呪う前に、一階の窓が一斉に開かれた。
 雪崩れ込んだ猟兵達の先駆けは夜彦。床を踏んだ時には既に、刀の柄に手を置いていた。壇上、真ん中に祀り上げられた少年の檻の前に躍り出て静かに、けれど音を斬る程の速さで抜かれた斬撃の嵐が押し寄せた群衆の先端を刈り取る。
 彼の隣の窓から飛び込んできたアメリアが空を踏み、澱んだ空気を軽々と駆け上がっていく。
 ひらりと中空で身を躍らせ──
「BANG!」
 放つ矢は幾つも、幾つにも。刈り取られた人影の波縁を狙って放たれたそれらが弾けて、群衆を更に押し退ける。
「ユッコ、みねちゃん!」
「はい」
「今行きます!」
 魅華音、ユーイがアメリアに続く。目指すは鳥籠を擦り抜けた奥。
 果たして其処には扉があった。重厚な鉄扉が。断末魔も嘆声も何もかもを途絶している無情の錆が。
「下がってください……!」
 銀の大盾が形を変える。先の尖った真直ぐな板となった盾に走り込んで飛び乗り、その勢いで鉄扉に突っ込んでいく。
 ユーイの小さな顔程の厚みがひしゃげて飛んで、片方はアメリアが蹴り落としもう片方は魅華音が野戦刀で受け流し床へと落とした。
 驚きに目を見開く鳥籠の中の奴隷に、おどかしてごめんね! と謝ったアメリアの赤茶の髪が視界を流れて壊れた扉の奥へと消えていく。
 光輝く剣を己の周囲に浮かべ、窓枠を飛び越えて広間を駆け抜けるアレクシスもまた、援護の光剣を下手側へと放ちながらその後に続く。
 荷を降ろした広間の真中で幾度か疾る斬撃は月の如く。
 横合いから刃の軌跡を擦り抜けて夜彦へ迫った痩せぎすの男の喉へと、真後ろからひたりと当たる匕首。
「……悪く思わないでくださいね」
 声ごと裂かれる喉笛と、飛び散る紅を意にも介さぬ黒衣、夏介は切っ先を振って血を落とすと視線だけを夜彦に向ける。
「援けは要りますか?」
「いいえ。それよりも、皆を頼みます」
 ひとつ頷きが返り、鳥籠の片隅に担いでいた武具を置く。その背中が小部屋の間へと走り去る。
 見送る視線は三対。
 それもすぐにそれぞれの目的へと向き直った。
 夜彦は背に負った守るべき者たちのため。
 綾華は理不尽の扉を開け放つため。
 そして嵐吾は──
「……綾華君。背中は気にせんでなぁ」
「っは、嵐吾さんがいんのに、なに気にする事あんの?」
「いやはや、大した信頼じゃな。応えねば廃るというものよ」
 携えた香は早咲きの桜。この世界には咲かぬであろう花。
 ひらりと舞わせた花弁は桜吹雪に似て、薄桃の花嵐が血の匂いを拭い去っていく。
 希うならそれが、少しでも怖れを祓うよう。


「シャルちゃん、無理してないかな、傷ついてないかな……」
 鉄扉の向こうは廊下になっていた。随分と奥まで続いている。
 そこを走り抜けながら呟くアメリア。
 不安だった。
 騒ぎを聞いて静まり返ったこの通路は、余計に血錆の匂いが強く感じる。

 腕が折れたかどうだか。
 わからないが、一先ず片腕は動かない。シャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)は握り潰された腕を押さえる。
 一本一本を潰していくつもりらしい巨躯の男は、シャルロットの左腕と右脚を潰した。骨張った岩のような腕は加減が下手なのか雑なのか、右脚はまだ辛うじて動く範疇だった。
 次は左脚にしようかな、と言いたげに、細い脹脛をわしりと掴む腕。シャルロットは唇を噛んで耐える心算をした。
 我慢比べなら負ける気はなかった。せいぜい楽しめばいいとも思った。
(「そう簡単に力尽きると、思わないでください……!」)
 まだ燃えるように光を宿す青眼が睨む。
 それを嗤う巨躯の男が無遠慮にシャルロットの白い脚を掴み上げた。
「──シャルさん、下がって! 危ないですよ!」
 声と共に扉が飛ぶ。鉄扉よりは大分抑えめに。
 半ば砕けた扉の破片と一緒に男の頭をユーイが乗った盾が蹴り飛ばし、そこへ滑り込んだ魅華音が男の足を斬りつけて崩す。
 魅華音の片手にはシャルロットの銃。それを投げ渡すところまでが一息の動作だった。
 片手でどうにか照準を合わせ、床に顔面を伏した男が立ち上がる前にその脳天へと一発。淡々としているようで、その弾には万感が篭っていたようにアメリアには感じられたけれど。
「……シャル姫! 助けに来たわ!」
「姫の危機にただいま見参っ! すみません、遅くなりました!」
「なんですか姫って!?」
「こういう時はお姫様を助けに行くっていうお約束があるじゃないですか」
「ちょうど今可愛い服を着ていますし」
「これはしししかたなくです! そういう囮ですから!」
 なんて、皆で騒ぐから、少しそれを忘れてしまう。
 さあさあ、なんてお姉さんめいて、アメリアはぱんと手を叩いた。
「お仕事の途中よ! いくわよみんなー!」
「はい! ……っと、シャルさん失礼しますねー」
「わ、わぁぁ!!」
 目敏くシャルロットの足の手形を見つけたユーイが軽々と彼女を横抱きにした。いわゆるお姫様抱っこ。
「……あ、でもこれいいかもですね」
 いっとき狼狽えたシャルロットは、けれどもユーイが走り出してから思い直した。
 ユーイの頭が、銃を持つ腕の置き場にちょうどいい。
「えっ台ですか? 私の頭は台ですか?」
「片手しか使えないので、照準固定が大変なんですよ」
 一発一発、それしか撃てないことに歯噛みしながら、それでもシャルロットは通路を走り抜ける間に小部屋の扉を破壊していく。
 そのひとつひとつが、自由への階だと信じて。


 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は笑っていた。
 ただ、意地でも声は上げなかった。
 右の掌にひとつ。左の腿にふたつ。そうして今、左の肩口にひとつ。
 壁に蝶の標本を留めるように、細いナイフの刃を一本ずつ埋め込まれながら。
 痛みはある筈だった。眉間の皺がきつく刻まれていて、脂汗を掻いてもいた。それでも口の端の笑みが消えないのを、新たなナイフを手にした男は訝しんだ。
「なんだ、愉しいのか?」
 愉しいわけがあるか。そう応えたのは視線だけだ。
 啼かないのは少しつまらないが、何処までなら折れないのかは興味があった。
「どうしたら啼いてくれるのかねェ」
 両脚の甲に更にひとつずつ、刃を埋めて、それから思い付いたようにそれを引き抜いた。
 血飛沫が鮮やかに散る。
 セリオスの食い縛った歯は開かれない。
(「ばぁか。俺の十年に、お前が敵うわけないだろ」)
 あの屈辱と無力感に塗れた日々に。
 絶望と言うには生温い程の痛みに。
 それでも折れなかったこの心を折ろうなどと、阿呆にも程がある。
 もうひとつ、血濡れた刃が埋まる肉を探しているその動きがふと止まる。
 広間の方が騒がしい。
 手を止めた男は小部屋の扉を見、セリオスは深く、深く笑った。
「──俺の声、そんなに聴きたい?」
「なに、」
「鳴いてやるよ。よぉく聴け」
 ひとつ息を吸い、吐き出されたのは歌。朗々と響き渡る歌声。
 そして、呼声だった。
 それに男が気付いたのは、背後の扉と自分の腹を一息に貫いた光剣を見て、意識が飛ぶまでの僅かな間。残り五秒。
 振り向く間はなかったが、セリオスの強気な笑みが安堵に綻ぶ一瞬だけは目に入って、それきりだった。
 男の首を炎の斬撃が切り裂いて頽れる間に、殆ど無理矢理蹴破る様に扉が開く。
「セリオス……!」
 飛び込んできたアレクシスは、セリオスの輝きを失していない青眼を見つけて詰めていた息を吐いた後に、直ぐに表情を失くした。
 マントを外して彼に掛け、その顔を隠してしまう様に頭から被せる。
「アレス? なんだよこれ、俺があげたやつじゃねぇか」
「そうだよ。少し黙ってくれる」
「……もういらねぇの?」
「そんな訳がないだろう……!」
 どんな言葉なら通じるのだろう。
 ああ、けれどきっと、理解しない。何故ならアレクシス自身も解っていない。今自分がどんな顔をしているかさえ。
 騎士失格だと嘆く隙さえこの心にはない。今は。
 ふわり耳に届くのは癒し歌。だれかが紡ぐ声。
 それがセリオスの傷を少しずつ癒していくのをつぶさに見ながら、アレクシスは意地を張るように彼を肩に担ぎ上げた。
「下ろせよ、歩けるってば! アレス!」
 何も言葉を返さない。
 反対の肩に担いできたセリオスの武具すら渡さない。
 来た道を戻り、広間の方へと向かいながら、アレクシスはただ自分が碌でもない顔をしているだろうとは思っていた。
(「……容赦は、しない」)
 そう胸中にだけ吐いた言葉すら、どろりと濡れた怒りの色をしていたような気がするから。


 マリアドール・シュシュ(無邪気な華水晶・f03102)はずるりと片脚だけで引き摺られた。もう片脚は鳥籠を引き摺り出された時に砕けてしまった。
 彼女の腕を掴む男は酷く上機嫌で、蜜色の晶を零す罅割れた宝石の少女を連れてこの小部屋の鍵を開けた。
 さてそれは何十分前の事だったか。
 マリアドールは床へと倒れた。髪飾りも茉莉花の耳飾りも散り、頰の罅割れは瞼にまで広がり、指や彼方此方が欠け飛んでいた。
 その顔にはけれども変わらず笑顔が残っている。
「ねぇ、楽しい? こんな事をしてもわたしには意味がないと分かっているのに?」
 彼女の心にはこの男の事など一切残りはしないのだろう。楽しい事だけを残すのが彼女なら。
 何処かその笑みには憐憫さえ宿った。
 ──可哀想に。と。
 消えぬ光が射すように、か細い歌声は途切れる事なく、止む事なく。
 そうしてその耳には、やがて騒がしい音が届くようになる。

 瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)は怯えた心を奮い立たせる。
 マリアドールがくれたおまじない。瞼に煌く星屑の尾。
 始まったオークションで、カデルは競り落とされた。買い主になった男は、進行役の男に何か耳打ちをされた後にそれまでよりも歪んだ顔で笑っていたのだけは見た。何を言われたのかはわからない。良いことではないのだけは、わかる。
(「アーシェ。アーシェは、壊させない」)
 放り込まれた小部屋の中、抱き締めた人形を庇うように男へ背を向ける。おまじないが、勇気をくれる。
 男は手に試験管めいた細瓶を持って、ゆらゆらと揺らしていた。
「こういうの、オレぁ好みじゃねえんだがよ」
 遊んでみろって言われたからさ。
 なんて、気の無い声がして、それはカデル目掛けて投げ付けられた。薄い硝子は容易く割れ、彼女の服を濡らして汚す。
 ──どろり。液体に触れた布が溶けた。その下にある皮膚までが焼けた。
「あ、あああぁぁ……ッ」
 赤く爛れた肩を震わせて、それでもアーシェを抱く腕は緩めない。
 その苦悶の声を聞いた男が、意外だと言いたそうに片眉を上げた。
「……へぇ。案外悪くねえもんだ」
 もう一本、と指が瓶を手繰る。けれどもそれは続かない。
 広間の方から物音がして、足音が此処まで響いてきた。
 有り得ない。
「一体何が、……っおい!」
 男の視線が扉へ逸れたその時に、カデルは駆け出す。
 殆ど同時に扉が破られた。破ったのは──宝石で出来た一角獣。
「マリアドール……マリア!」
 遣い主は蜜華の晶、間違いない。それなら彼女は、生きている。
 一角獣とすれ違う。彼は男の足元に纏わって足止めをし、カデルはその隙に廊下へ出た。
 転びそうになりながら人形を抱いてひた走る。彼女の体から溢れるのは淡い淡い、けれどけして途切れない光。生まれながらに持つ煌き。星のように尾を引いて、それは一角獣たちに破られた部屋の奴隷たちを癒しながら廊下を真っ直ぐ流れていく。
 一角獣たちが走り出してきた部屋は見えていたから、それを目指すだけだ。
「……マリア!」
 破られた扉の中。息を切らせて飛び込んだ。
 マリアドールは床に倒れていた。けれどその瞳はぱちりと瞬きをして、
「カデル」
 確かに、名を呼んでくれた。
 助け起こして抱き締めると、罅割れて欠けた腕が軋みながらも抱き返してくれた。
「あなたは本当に、強い子ね。カデル。痛かったでしょう?」
「マリアが、おまじないをしてくれたから。ボクは大丈夫」
「そう。効いたのね。……よかった」
 だけれどそれは、あなたが強いからよ。そんな風にマリアドールは言うのだけど。
 カデルの柔らかな光に癒されながら、混乱の最中でもどうしてか安らいで。マリアドールは少しの間、カデルの腕の中で目を伏せた。


 咲いた、咲いた。
 瑠璃唐草が一面に。
 それはゆらゆらと揺れる。けれど花弁ではない。
 焔だ。焔の血だ。
「──ひゃは」
 それを散らした奴が嗤う。
「ヒャハハハ、最ッ高! イイね、何だこの血! 燃えて燃えて燃え広がる。ああ、そんなところ見てみたいねェ。この色で燃える村とか、人とかさぁ」
 ネモフィラ畑に添えるには情緒が無さすぎる言の葉に、ルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)が片眉だけ蹙めた。
 紹介と言うからそんな事だろうと思ったが、あまりにも思った通りだから反吐が出る。
 ちりりと焔の燃える唇を舐めた。──噫、噫、絶対啼いてやるものか、クソッタレ。
 そのよく笑う男は獣のような四爪を持っていた。長く伸びたそれがどうもご自慢らしい。
 笑いながら裂いて、裂いては笑って、大仰に飛び散った焔の血が部屋一面に咲いたのが、今。
「……おんやぁ?」
 腕の足の裂けたルフトゥの服を獣爪が引っ掛ける。
 腕の付け根、手首、足の付け根、足首。翼の根元に首。
 焔がぽろぽろ溢れるのは、今付けた傷とは違う。元々のものだ。
「何だお前。達磨んなったことあんのか!」
「……は。だからなんだよ」
 折れぬ曲がらぬ黒翼の青年が口元を歪める。
「もう一回なってみるのはどォだ!!」
 獣爪が風を切った。
 その切っ先が抉り刺さったのは背後の柱。僅かに首に傷が出来る程度のところで首を傾けて避けたルフトゥは、瞼を半ば落として蔑視の眼を向ける。
「──へたくそ」
 遠く、小さく蹄の音。二足歩行の足音とは決定的に異なる、四足の並び音。
 それと微かにも足音のしない、気配だけのひとり。
 けたたましい物音で扉が破られた。反射で振り向く獣爪の男には、小柄な一角獣が見えたかどうか。
 それよりも夏介の正確無比な血色の匕首が喉を抉る方が早かっただろう。
「……だから言ったろ、へたくそだって」
 ふらりとふらつく足でルフトゥが立ち上がる。これだけ血を撒いたのだから、貧血にもなるが。けれどまだ仕事は終わっちゃいないと、その足は止まらない。
 すれ違い様、小さく礼だけ述べて小部屋を去るルフトゥの背中を少し見送ってから、瑠璃唐草色の焔が揺れるその部屋を眺める。
 男の声は通路に居ても聞こえた。下劣で、不快な言葉だった。
(「人の命をなんだと……ああ、モノとしてしか見ていないのか。気持ち悪い」)
 本当に、気持ち悪い。
 薄れ消えてゆく青紫の炎華から踵を返して、夏介は次の部屋へ向かう。
 救け出すいのちはまだ、残っている。


 随分と丁寧に折られたものだ。
 ヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)は何処か他人事のように自分の身体を確かめる。
 腕に、足に、肋骨。結構痛いんだよなぁ、鎖骨。指を順番に折られるのはやっぱりちょっと嫌だったなぁ。
 だけれどそんな風に他人事になっていられるのは、ぼろぼろになっているのが自分だけで済んだからだ。
 ヴォルフガングに首輪を掛けた酔狂な客は、他にも奴隷を買っていった。子供もいたし、大人もいた。ただ、良く鳴くからと子供を好むようだった。
 だからヴォルフガングはその好み通りに鳴いてやったし、特に子供を庇った。だから今、殆ど動く事も出来ずに床に転がっている。
 男は彼の腹を踏み付けて笑った。
「ぐッ……! 俺は足置きじゃ、ねぇっての……!」
 その掠れた呻き声に飽きたように、男はその身体を踏み越える。
「……ッが……!」
「そろそろ鳴き声も尽きたか。折れる頃合いか?」
「そんな、訳が。あるかよ。……おい」
「やせ我慢も程々がよいぞ」
「……やめろ、止まれ」
 男の足の向く先は。子供が一人。
 ヴォルフガングに向いた暴力に怯えて縮こまった、怯えきった目が男を見上げる。
「駄目だ」
 ああ、ああ、それは駄目だ。
 駄目なんだ。
 あの日と同じだ。
 みんな、みんな、また死んでしまう。
「駄目だ駄目だ駄目だぁぁ……!!!」
 吼えた。
 男が笑った。
 光が、過ぎった。
「……え……?」
 閉ざされた侭だった扉を抉じ開けたものがあった。
 華水晶の小さな一角獣。
 そしてそれが開けた隙間から光が溢れた。否、光を纏った誰かが走り抜けた。
 先刻までぴくりともしなかった、神経まで断絶された筈の腕が片方、指先まで感覚が戻る。その瞬間に、ヴォルフガングの頭の中で次にやる事がもう提示されていた。
 ──此奴を、
 ぐる、と喉奥で鳴らす獰猛な音。動く片腕を瞬く間に黒狼に変じ、膝を立てて、身体を起こす。
「……ばいばい」
 子供たちの目を塞いでいてくれる傍の女性に少しだけ感謝して。
 少しだけ申し訳なくも思って。
 けれど獣の爪は、容赦なくその男の喉笛を掻き切り抉って見送った。


 血の匂いがする。
 今漂っている真新しいものではなく、古い錆びた匂いがする。
(「幾人も、幾人も……誰にも看取られることなく無惨に孤独に最期を迎えた訳だ」)
 ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)の脳裏に過ぎる、会った事もない者たち。ただその血の匂いだけ、憶える。
 同じ末路を辿る気は毛頭なかった。
 耐えて、耐えて、耐えて、その先を見ていた。
 黒は何色にも染まらない。
 血の緋に呑まれたとて黒の侭。
 ドレスの裾はすっかり裂けて、スリットの様に腿を晒す。それは杭打たれた様な穴が幾つも空き、生々しい血液が埋めている。
 その孔の数だけ、傷付く者は減ったろう。
 耐えた時間だけ、死にゆく者は減ったろう。
 だからそれでいい。
 命に報いるなどと、綺麗ごとは言うまい。ただ、ひたすらに気に入らなかった。
 この巫山戯た御遊びを終わらせるその時を、待っていた。
 孔が増えた。
 穿たれる度痛みが増えた。
 その度に敵意と殺意が赤眼に上乗せされていくのを、触手めいた両腕を持つ其れが嘲った。
 両手に、両脚に、この指が貫いていて何を、と。
「逃れられるか。逃すものか。オレのエモノだ」
「……馬鹿を言うな。お前のものになどなったつもりはない」
 ──この騒がしきが聞こえないのか。
 笑うのはノワールの方だった。
 頃合いだ。
 広間から通路へ雪崩れ込む足音。鉄扉が開いたのだろう、彼方から戦闘音も響いてくる。
 その音律に乗せるように、ひとつ、詠唱。それは簡易で、だからこそ発動にも易い。
 生んだ炎を其奴の顔面にくれてやって、怯んだその合間に扉が破られる。
 雪崩れ込む黒衣。
 首を刈る匕首。
 その息の根が止まる前──
「受け取れ」
 ダンピールに血を流させた礼だと、黒いヒールで眉間を蹴り上げられたその首が、胴体から捥がれて天井を跳ねた。
 それでも無念には届くまいがと、ノワールは少しだけ溜飲を下げた。


 何かが、起きている。
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は緩く瞬いた。騒がしい。ざわざわする。
「なにが、起こってるの?」
 目の前の人に尋ねた。
 顔面まで棘に塗れたその人は、よく見えない表情でそれでも苛立たしげにオズを蹴飛ばす。
 からん、とまた破片が飛んだ。
 ぼろぼろになっちゃったなあ、とぼんやり思った。
 痛いけれど、涙は出ない。
 だってわたしは、人形だもの。
 それでも随分と気を引けたと思う。この騒がしさは、多分みんなだ。みんなが、来てくれた。
 それならもう──出て行っても、大丈夫。
 棘塗れのその人は後ろを向いた。扉を少し開けて様子を見ている。
 その膝裏に丸まった態勢で体当たりをすると、そのまま扉を全開にして前のめりに倒れた。
 よたよたと立ち上がる。足の関節がおかしい、罅が入った所為だろうか。中が割れでもしただろうか。それでも、歩けなくはなかった。
 足を引き摺り通路へ出たオズを引き倒そうとした男の手は、すれ違った華水晶の一角獣が踏み付けて止める。
「ありがとう、かわいい子」
 礼を言えば、大したことないのよ、と言いたげに男を足止めしてくれた。
 広間へ戻る途中、オズは何人もの奴隷たちに会った。怪我をしている子が殆どだった。中には歩けないような子も多く、扉が壊されていても上手く逃げることができない。救出に回る仲間たちも、一度に全員は運べはしなかった。
「こわかったね。もうだいじょうぶ」
 オズはその子たちに声を掛けて回った。彼の持つブローチが繋ぐ世界は、すきなもの、すてきなものをうんとたくさん集めた美術館。
「安全なところへ、つれていくからね。この中にいたら、あぶないことはなんにもないよ」
 ──すぐに迎えに行くから、待っていて。
 そう告げて、オズの世界へご招待。
 彼が客の気を引いてくれたことを覚えていた者もいたし、何より彼自身が虐げられ怪我をしていたから、抵抗する者は少なかった。
 そうやって、生きて出ようと掬い上げながら、長い通路を歩いたオズは漸く広間へと辿り着く。剣戟、銃声、羽搏きにも似た花弁の舞う音。戦場の音なのに、あの通路よりもっとずっと、安心した。
(「みんながいるって、わかるからかな」)
 ふう、と息を吐く。
 既に空になった鳥籠に寄りかかり、ずるずるとへたり込んだ。
 少し、転寝をするように目を閉じて──
「……オズ?」
 聞き覚えのある声に、目が開いた。
 視界を巡らせれば、金古の鍵。黒髪の、つり気味の目をしたヤドリガミ。
「アヤカ……!」
 少し遠くにいる綾華に駆け寄りたかったけれど、壊れた足が言う事を聞かない。代わりに綾華の方がオズに近付く。
 足音は絨毯に吸い込まれる。
「……アヤカ?」
 俯き加減のその顔は、表情がいつもと違って見える。笑ってはいない。怒っても、いない?
 あまり見た事のない顔だった。
 凪いだ海の向こうで光る、遠雷に似た。
「──オズ」
 足は近くで止まった。膝を突いて目線が合って、

 ──ぱちん。

 オズの仔猫色の双眸が二、三度瞬く。
 両の頬が、綾華の暖かい手に包まれている。
 そうしてごつんと音がするくらいに、綾華とオズの額がぶつかった。
 間近の綾華の瞳はきつく閉じられて、やっぱり見た事のない表情をしている。
「アヤカ、……いたい」
「痛くした」
 珍しい。笑わない。
 だけど包まれた頬も、触れている額もあったかくて、オズが笑って。
 少ししてから観念したように、綾華も笑った。
 二人を背に、早咲きの桜吹雪をひらひら舞わせる嵐吾もまた笑みを浮かべる。
「帰ったらさあ、飴か、鞭か」
 ──どちらかのう。なんて、楽しげに。嬉しげに。


 幾度斬られようと、穿たれようと、狙いが狂う事はない。
 何度目かの斬撃が三日月型に切り裂いて、それで漸く随分と数が減ったように思えた。
 夜彦が大広間の真ん中に立ち塞がる間、綾華が鳥籠の鍵を端から開けていき、嵐吾がその背を守りながら夜彦の援護をしていた。
 檻はもう皆空っぽで、一先ずは壇上の端、小部屋からも立ち見席からも遠い片隅に集まってもらっている。この広間から全員を連れ出すには、まだ安全が確保されていない。猟兵達が脱出する際に、共に連れ出すのが最善だろうと誰からともなく頷いた。
(「奴のやり方はまるで物を扱う……、いえ、物でさえそのようにはされませんか」)
 ましてや、生きている彼等を汚す方が良いなどと。
 物憂げに考え遣り、けれどもそれを意識的に止めて夜彦は刀を振るう。
 髪を留める竜胆の簪がひらり揺れる度冷静な思考を取り戻していく。
 目の前の輩の首を突き、返す刀で右前方の男を袈裟に斬る。
 そうして斬撃の嵐を見舞おうとして、気付く。
 下手の最奥に、女がいる。
 眼帯で両眼を覆い隠しているくせに、視線を感じる。
 一体いつから、そこにいたのか。
 動きを止めてしまったことに一瞬遅れで気付いて、けれども追撃は来なかった。
 同じように動きを止めた有象無象共が、引く波のように女の元へと退いていったからだ。
 女は笑んだ。いっそ妖艶なまでに。
「──随分と、お愉しみいただいたようね? 招かれざるお客様」
 それが『囀女』。ラ・カージュ・オ・レーヴル。
 やっと、と。
 誰かが吐息と共に囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『鮮血皇女』

POW   :    誤裁
【のしかかる十字架】【締め付けるオリーブ】【手足に突き刺さる釘】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    修行
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【経験な修道者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    試練
【裸眼を晒すこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【トラウマを呼び対象の罪を裁く大鎌と大剣】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は満月・双葉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●La Cage au Lèvre
 女は佇んでいた。
 白の衣は穢れない侭で、そこに立っている。
「ああ……そうね。お仕置きが必要かしら」
 眼帯に隠された瞳は見えずとも、その紅い唇が弧を描く。

 ──ずるり、べたり、

 斬り伏せられ、花弁に追われ、折り重なっていた死骸が──未だ骸の海へと消えていなかった其れが、起き上がった。
 首が無い、腕が無い、其れらがべたりと血濡れた足を引き摺った。
 足の無い亡骸は地を這い摺った。
 胎に穴を穿たれ腑を踏みながら迫る。
 床の絨毯が血の痕ばかりを吸ってどす黒く染まる。
 亡骸たちの波の向こうには、命ある有象無象が生垣となる。
 亡骸は五十。命ある者が二十余。その全てはオブリビオン。
 最奥で立つ女は笑うばかり。
 嗤うばかり。

 後ろには守るべき者たち。前には敵の群衆。
 ならばやる事などひとつきりだ。
 さあ、武器を取れ。
ヴァーリャ・スネシュコヴァ

【救出】

やっーと着いた…!ここで助っ人登場だ
この陰気くさい檻をぶち壊しにきたぞ!


敵が沢山いる上、こちらは怪我してる人もいれば守り抜かなければならない命もある
俺は怪我人の回復や囀女への攻撃を支援するため、露払いに徹するのだ!

敵が迫り来る瞬間、【先制攻撃】と氷の【属性攻撃】で、目の前の床を氷漬けに
足止めに成功したら、【ダッシュ】+【残像】
氷の上を素早く滑り、氷の床に足を取られた敵から一気に斬っていく
わざと派手な動きで

敵がたくさん押し寄せ、斬るだけでは対処できない場合
味方に攻撃が及ばない範囲までおびき寄せ、『霜の翁の怒り』で一気に凍らせる!


お前の城はこんなにも脆い
この城で『皇女』気取り、哀れだな!


月舘・夜彦
奴が此処の主
そして、この死臭は……
弔うのは後です、今は奴を

敵の群衆へは先に向かってきた者から対応
接近した瞬間に先制攻撃
攻撃は残像、見切りより回避、回避が困難なものは武器受け
2回攻撃はカウンター時に腕や武器斬り落として斬り返す
囀女の誤裁と試練は抜刀術『八重辻』、奴の隙を見切りよりタイミングを図る
トラウマはありましょう
私が人となったと共に迎えた我が主の死
数十年経とうとも、忘れ得ぬ全ての始まり
この先も決して消えない事を私自身も理解している
ですが……変えられましょうか、あの時に戻せましょうか
その答えも理解しているからこそ、この手には刃がある
今の私は、今を生きる者の為に……我が覚悟は決して変わらぬ


セリオス・アリス

アレクシス・ミラ◆f14882と

なんだよアレスもう治ってんだろ
抗議するも珍しく折れないアレスに
あ~くっそ今日だけだぞ!
その代わりマントはお前がちゃんとつけろ
後方から斬撃による『衝撃波』でアレスを援護

トラウマとして思い出すのは滅んだ故郷
壊れた街をみて
鳥籠の中、10年耐えてまで生きていて欲しいと思ったアレスも
もうこの世界にいないのだと思った
なら何の為に誰かを殺してまで生きたのか
目の前の敵が自分が殺した街の人とダブる

鈍る剣を引き戻したのは視界にうつるアレスの背中
ああ、そうだ
アイツは生きてた
なら、もう迷う道理はねえな
お前も目を閉じてんじゃねえよ!
【赤星の盟約】を故郷の歌を『歌い』
アレスを『鼓舞』する


アレクシス・ミラ

セリオス◆f09573と


漸く姿を現したね、囀女様?
セリオスの傷が大分治ってるのを確認し。セリオス、君は守勢に
僕が前に出る
彼の抗議の言葉も遮る
君にはもう無茶をさせたくない!…分かってくれないか
…いい子だ

隙を与えぬよう【天星の剣】で牽制

トラウマは目の前で攫われた幼きセリオスと空っぽの鳥籠の光景
助けたくても届かなかった手
故郷が滅びようとも耐え続けた果ての結末
守れなかった、救えなかったと…

現実に呼び戻したのはセリオスの歌
「見切り」「武器受け」で躱し耐える
今は、違う
僕達はまた出逢えた
悔恨に沈むのは後だ
やるべき事は…はっきり見えた!

全力で行くよ
【天星の剣】を全て叩き込む
我が剣と…彼の歌声に応えよ!!


ノワール・コルネイユ
傷は残しまま、痛みも悼みも抱えたまま●

一度空を舞った鳥は、自ら望んで墜ちはしない
喩え嵐に吹かれようと、その羽を捥がれようと
鳥は鳥で在り続ける。飛び続ける

だから私も…まだ、翔べる

こうして死を生み、穢れを生みながら
ただ一人、己だけは綺麗な儘
気に入らないんだ。お前の何もかもが

銀を両翼に構え攻撃力重視でUC発動
【範囲攻撃】で骸の海を切り拓き
聖女とは【見切り】と【二回攻撃】で対峙

足が縺れようとも、目が霞もうともこの手を届かせる
多くの者が全てを失った、この場所で
私は未だ何も失ってはいないから
だから、代わりに一発ぐらい殴り付けてやれる筈さ

此処が貴様の創り出した地獄だというのなら
更なる底の底まで、独りで沈め


唐草・魅華音
【FH】
わたしは皆さんが鮮血皇女にたどり着けるよう道を切り開きます。
みんなの準備が整ったら、真っ先に銃を乱射しながら駆け出し敵雑魚の群れに思いっきりジャンプして群れの真っただ中へ飛び込み、刀も抜いて【塵斥魅踏の流法】を起動。群れをガン=カタの要領で舞い踊るように片っ端から倒していきます。

まずはその場でスピンし、暴れ狂う竜巻のごとく敵を切り刻み銃弾の雨を周囲にばらまいて倒します。しばらくしたら鮮血皇女への道を切り開くため激流のごとく滑るように駆け抜け前に立つものをなぎ払い、時に背後を塞ぐ者へ銃弾の雨を浴びせて道を作ります。

仲間の道を塞ぐものは、全てわたしが塵にする。邪魔はさせない。
アドリブOK


アメリア・イアハッター
【FH】●
シャルちゃん無事でよかった!
治療は…わかったわ、後回しね
今はヤツに一撃を加えることだけ考えましょう
道を切り開くのはよろしくね、騎士様達

・方針
シャルロットの攻撃が皇女に届くように最大限のアシストを行う

・行動
シャルロットを宇宙バイクの後ろに乗せ共に行動
UCを使い宇宙バイクを変形させてシャルロットをしっかり支えられる2人乗りモードに
常に皇女を観察しつつ、皇女からは目立たぬように亡骸達の相手をする
そんなにボロボロじゃあ、エアハートにはついてこれないでしょう!

皇女が味方との戦闘に釘付けになる、または隙ができたのを見計らい、皇女の死角へと飛び込む
後は、シャルちゃんを信じるだけ

さぁ、いっちゃって!


シャルロット・クリスティア
【FH】●

ふぅ……助かりました。流石にあれ以上は厳しかったと思います。
もう一息……頑張りましょう!

とは言え、応急処置で固定したとはいえ、この手足では弾込めもままならないですね……複数相手は厳しいです。
一発必中、頭を潰しに行きましょう……アメリアさん、付き合っていただけますか?
目立たないように相手の死角に飛び込めば、後は私がどうにかします。
振り落としさえしなければ大丈夫です、存分にどうぞ!

位置取りさえできれば、すかさず取り巻きの間隙を見切った狙撃で、とっておきの邪毒弾をお見舞いします。
この一撃で戦局を変える……その非道、ここまでです……!

(目立たない、スナイパー、毒使い、マヒ攻撃、早業、視力)


ユーイ・コスモナッツ
【FH】●

お姫様抱っこしていたシャルさんを、
アメリア団長にそっと渡します

なぜかって?
それは、
これから、
最高速でのアクロバット走行および飛行をするからです!

唐草さんが敵の群れを引き付けてくださるので、
その間に群れの頭上を飛び越えるようにして
鮮血皇女に接近、即座に一撃!

生命を弄んで平然とする人非人!
鬼畜にも劣るその所業、
断じて許すわけにはいきませんっ!

先制攻撃で皇女の意識を私へ向けさせ、
シャルさん&アメリア団長による
本命の一撃を見舞うための隙を作り出すのが狙いです

前後左右頭上を高速で飛びまわり、
不意に斬りかかっては、
即座に間合いを離す
そんなふうにして撹乱します


瀬名・カデル
●【星鳥】

出てきたね。
ボクも戦うよ、これ以上誰も酷い目に遭わせたくないもん。

マリアが前に出るのは本当はいやなんだけど、ボクよりもマリアの方が強くて。
でも、背中をお願いっていわれてすごく嬉しくて。
まかせて、今度こそボクは友達を守ってみせるんだ。

そう、もう二度と友達をあんな風に嗤う奴に…!
アーシェ、頑張ろう…君に光を、ボクの祈りを!

後衛
君がための光を受けて、アーシェの力を増強させたら周囲に飛びかかってくるオブリビオン達をメインに攻撃。マリアを守りながらカウンター、2回攻撃などを行う。

【トラウマ】友人を目の前で殺されて助けられなかったこと
トラウマは、今生きている友人を助ける勇気で乗り越えてる。


マリアドール・シュシュ
●【星鳥】
6割回復
腕と片足は欠けてるが動ける

「会いたかったわ囀女さん(下品な笑みに眉顰め)
…そう。なら最期まであなたを貫きなさい(儚笑)
わたしも道理を通すのよ。尊き美しいものを守るために」

引き続き【華水晶の宴】使用
24体の一角獣召喚
10体で挟撃
7体合体させ角で攻撃
修道者へ7体を四方八方から攻撃
敢えて護衛無

「マリアも前へ往くわ。カデル、マリアの背中をお願い出来るかしら?
もしまた傷ついたら、再びあなたの腕の中で眠らせて(温もりを)
マリアはほんの少しだけ、カデルよりもこの世界を見てきたから。任せて頂戴」

前衛
茉莉花のマイク式耳飾りを媒体に力強く架空言語を歌唱・パフォーマンス
オーラ防御で敵の攻撃跳ね返す


ヴォルフガング・ディーツェ
【SPD】
そうか、あんたは多くの命を弄び、死を汚したか
男も女も…子どもすらも

…孤独と孤高の違いも分からぬカンパニュラ、耳障りに囀ずる花
あんたの命、ここで散らそう

【調律・墓標守の黒犬】で召喚
【騎乗】し接近
死人や配下には炎の【属性攻撃】を上乗せした鞭の【2回攻撃】【範囲攻撃】
…人殺しのオレにキミ達を救う資格はない
せめて、魂をその肉体から解き放とう

女王サマは切り刻まなければ飽き足らない
わんこと時機等ずらした連携攻撃を仕掛け、上記スキルを乗せた爪で血祭りに

体は痛い、繋いだ骨は完全ではないし、内臓も傷ついたか血の味がする

だが、あんたは子を殺したな?
なら…報いを受けさせねば気が済まない
首を、食い千切らねば


オズ・ケストナー
【軒玉】
安心してゆるみかけた心を冷やす光景
座ったままだと攻撃をよけられないから
踏みしめて立ち上がる
ランゴの光にはありがとうを

足が少しでも自由に動くようになれば
もうだいじょうぶだよと止め
ランゴが疲れないように

【ガジェットショータイム】で呼ぶのはスリングショット
後ろから
炎を縫って二人に近づく亡骸を撃つね
せめて早く終われるように
そして
ふたりのことも傷つけさせないよ

前に出られないもどかしさを
軋む体が押さえつける
わかってる

囀女に届くようになったら
【武器受け】鉛玉で相手の攻撃を弾いてみせるよ
前に出て間に入れなくても
方法はいくらでもある

傷ついた人たちを早く外につれていきたい
安心させたいから
ぜったいに、倒すよ


羅賀・乙来
あぁ、君が此処の……
お出ましとあらば、お遊びも此処でお仕舞だ
おかげで昔を少し思い出してね
少しばかり凶暴になってしまいそうだ
相手をしてくれるだろう?

早業と高速詠唱、全力魔法より妖魔降ろしより姿を白龍へ
破魔の力を付与した霊符と手裏剣を念動力で動かして2回攻撃
敵の手元を狙って武器を落としてしまおう
攻撃は基本オーラ防御で防ぎ、見切りで回避

この姿になったものの、生憎食べるつもりは無い
血生臭い物は大の苦手でね

僕の姿は人より神と呼ばれ、時に魔と呼ばれた
どちらにしても異質、僕を飼う口実には十分だった
あぁ、懐かしいね……なんて傲慢なんだろうね
人を飼い慣らせるなんて思っているのだから
君には僕が、何に見えるだろうね


有栖川・夏介


最奥の敵をじっと見据える。
「いつまでも、そうしていられると思うな」
笑う『囀女』にぼそりと、そう呟いて処刑人の剣を構える。
「……刑を執行します」
最奥の敵を倒すため、一歩ずつ歩を進めていきます。

敵の群衆が邪魔ですね。
骸の海に消えず、今なお動き続ける亡骸にはUC【何でもない今日に】で針を一斉に投擲して攻撃し無力化を狙います。
「骸の海へ……還りなさい」
自分や、他の猟兵が仕留め損ねた亡骸や命あるオブリビオンは、装備している処刑人の剣を振るって攻撃する。

敵は亡骸を操る術をもっているようですし、注意しなくては。
最奥にたどり着いても油断は禁物。
また起き上がってくる敵がいれば、傷口をえぐる攻撃で仕留める。


ルフトゥ・カメリア
執拗に裂かれた腕も、足も、激痛耐性があっても尚、痛みと熱を感じる。寒くて、指先の感覚が酷く遠かった。
感覚がなくなって行くのも、酷く寒くなって行くのも、手足を失って血を吸い尽くされて死んだあの日を思い出すから、忌々しい。

……ま、わざわざ傷裂く手間は省けんだけどよ。
【破魔】を込めた炎をバスターソードに纏わせ、【鎧砕き、2回攻撃、怪力、フェイント、だまし討ち】。
この程度で立ち止まれねぇだろ、まだぬるい。受けた仕打ちは叩き返してやる。

自分や周囲の猟兵への攻撃は【かばう、武器受け、オーラ防御、カウンター】で防ぎ、背面からの攻撃は翼の付け根から噴き出す炎で対応する。

死者は綺麗さっぱりあの世へ送ってやるよ。


ヴェルベット・ガーディアナ
せっかくシャルローザとお揃いみたいなドレスにしたのに破られちゃったな…でもボクより酷い扱いをされた人もいるみたいだし後で余裕が出来たらきちんと治療したいな。

まずは今回の黒幕をしっかり倒さないとね。

UC【戦乙女の審判】
乙女よ我が敵に審判を…!
英雄ではない明らかな罪人だからね遠慮なく倒しちゃって!
ボクへの攻撃は【第六感】で【見切ったり】避けられない場合は【オーラ防御】

後は【鼓舞】で他の猟兵さんを応援。

依頼がおわったら早くシャルローザに会いたいな…ずっと一緒だったからちょと不安。


終夜・嵐吾
【軒玉】
まぁ、ええ光景ではないわな。
ひとまずオズ君の足を動けるように治そう。
生まれながらの光をその足に。
他にも治癒必要な者がおればするが、ほどほどで。
わしが疲れ切って動けんなってしもうたら、それはそれで面倒じゃし。

余力を残しつつ、扱うのは狐火。
弔いには炎じゃろう。燃えて、全部を払うてみせよう。
死してなお動くものには少しの哀れみを。早う眠ってしまった方が、幸せじゃろう。

その向こうの、囀女には遠慮することないの。
出来うる限りの力を以て対するのみ。
綾華君が接する機を損なわぬ様、その周囲、障害となるものは焼き払おう。
ちと熱いかもしれんが、それを越えて行っておくれ。その助けならばいくらでもしよう。


リーゼ・レイトフレーズ

負傷度合い:無数の切り傷と打撲痕、流血

やれやれ、折角のオシャレもドレスも台無しだよ
君には痛めつけられる恐怖を身を以て教える必要がありそうだ

愛銃を受け取る時にヘッドフォンも受け取り
イヤリングを外して着用

鳥籠の中で予め目をつけていた高所の狙撃場所へと移動
他の味方へ向けた攻撃を見切り撃ち落とすように援護射撃
又、味方の攻撃に合わせて先制攻撃をして相手の行動を阻害する
少しは自由を奪われる苦しみが分かったかな?

今の私にトラウマは無い
あるのは他人の悪夢だ
愛する人のために世界に抗う悲しい少女のね
それを振り払うように狙撃場所から囀女の直上目掛けて飛び降り
すれ違いざまに囀女の目をPerseusで撃ち貫く


浮世・綾華
【軒玉】
全快まではいかない友人にも
無理するな等とは言わない
望む儘に行動すればいい
守るほど頼りないやつじゃない
耐えきって、前を向く姿をみれば瞭然だから

修行には鬼火を
――俺もやる、火はフツーに効果高そうだし
嵐吾さんの言う通りだと笑う
幾度目かの戦いを越え
彼に寄せる信頼もまた育ちはじめている

弄ばれる儘散った命を想う
歯痒くとも苛立ちを飲み込み
仲間が作ってくれた隙を狙って
巫覡載霊の舞で本体へ
前へ出るのは、信頼は寄せども
大切と想う彼らへの攻撃を請け負う為

攻撃はなぎ払い、フェイント
そしてカウンター
指を噛み切って零す紅
己の鳥籠の拷問具で傷口を抉る
あんたも味わうといいよ
小さく囁き冷笑

――赦して、やらねえから




ミレニカ・ネセサリ

やぁっとそのツラをぶん殴れますわね
御機嫌よう、顔面整形は如何?
きっと美人にしてみせますわ

損傷有り
痛みは【覚悟・激痛耐性】で耐えてやりますわ
【怪力】でガントレットの攻撃力を強化
亡骸はガントレットで殴り、爆風で纏めて【吹き飛ばし】てやります
仲間の道にもなりますかしら

あの女は【鎧砕き】も使ったAtk_Jubieeでブン殴る
外れてもいい、あなたもですがこの場所も気に入りませんのよ
あの城が思い出されやがる
瓦礫の下敷きにでもなりやがれ
【情報収集・学習力】で敵以外は崩落に巻き込まないように

真の姿を開放
左目と顔の左半分に罅が入る
けれど堂々と立つ
トラウマは城での友人の裏切り
顔の罅はその人に殺されかけた時のもの




「あぁ、君が此処の……」
 漸くお出ましかと、羅賀・乙来(天ノ雲・f01863)が息を吐く。
 随分なお遊びだったから、少し昔を思い出してしまって。常より微かに荒れた気配を周囲に巡らせた霊符で隠して、けれども隠し切れないそれを降ろした金角白龍の気が覆い包んでいく。
「いつまでも、そうしていられると思うな」
 有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)が見つめる先は、蠢く亡骸の更に奥。佇む女。
 匕首を懐へ仕舞い、切っ先の無い剣を取る。
 ──死臭がする。月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は微かに眉を顰める。
 ああ、けれども。弔うのは後で。
 幾度も振るった刀を握り直し、足を引いては中段に構える。
 ひらりと腥い空気を燃やす瑠璃唐草の焔はルフトゥ・カメリア(月哭カルヴァリー・f12649)のもの。金の十字を嵌め込んだような大振りの剣に焔の血を纏わせ、破魔の祈りを籠める。
 その指先の感覚は遠い。好き勝手に裂かれ執拗に流された血の所為で、酷く寒い。痛くて熱い。
 それさえも、膝を折る理由にはならない。
 身体を覆うほどの黒翼の先に引っ掛かる千切れた星屑の翼飾り、その最後の一片が床に転がり、ネモフィラ色に燃えた。
 その青紫の焔を揺らすのは光を降らす戦乙女。
「乙女よ、我が敵に審判を……!」
 ヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)が喚んだかの霊は、長槍を構えて前に出る。
 その後ろで気丈な表情を見せるヴェルベットは、けれども身体の彼方此方に傷を抱える。自らが操る人形、シャルローザと揃いめいたドレスを着ていたけれど、それも酷く破かれてしまった。
(「シャルローザ、早く会いたいな……きっとすぐに帰るからね」)
 同じように、会いたい人を、帰りたい場所を思うだろう皆と、此処を超えて行くために。
 酷い傷を負った人がいる。見える。終わらせたなら早く癒しをと願いながら、今はただその心に鼓舞を贈る。
「──刑を執行します」
 夏介の静かな声がした。
 足音、靴音、風切り音が揃って焔になる。
 思い思いに貫かれた襤褸の亡骸が五つ、先ずは床に伏した。

 一階部分と二階部分のちょうど合間、壁面のアルコーブは少し広めだった。人が一人ほど収まる程のそのスペースに予め目を付けていたリーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)が、壁角に身を隠しながらナイロンのガンケースを開け、溜息を吐く。
「やれやれ、折角のオシャレもドレスも台無しだよ」
 親切にも手伝ってもらったというのに髪飾りは小部屋で壊れてしまったし、切り傷に打撲痕は数え切れない。いつものヘッドフォンを耳に当て、代わりに外したイヤリングはガンケースに放り込む。
 破れたドレスの裾を腿の辺りで適当に結んで留めると、目に流れ込みそうだった額の流血を手の甲で拭った。
「……痛めつけられる恐怖を、身を以て教える必要がありそうだ」
 あの囀女にも、客達にも。
 矢を番えるように絞られる瞳孔に、一際濃さが増したような青が流れ込む。
 仲間へ向けられた鋭い爪に、異形の腕に、剥かれた牙に撃ち込む銃弾は的確に背中を押し、攻勢を助く。
 ひとつずつ刃を削り落とすそれは、囀女が猟兵達へ向けた仕打ちへの意趣返し。
「少しは自由を奪われる苦しみが分かるかな?」
 ──ああ、いやまだ、足りないか。
 表情の薄いその貌は静かに眼下を眺めて、次なる狙いを探す。

 心の冷える音を聞いた。そんな光景だった。
 瞼を一度、鎖しては開く。壊れてしまった足を癒す光を、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は笑顔で止める。
「もうだいじょうぶ。うごくよ。ありがとうランゴ」
「……む。そうかえ?」
 終夜・嵐吾(灰青・f05366)が心配そうに目を向ける先で、ゆっくりとオズが立ち上がったので。嵐吾はその後には何も言わず、生まれながらに持った聖光をそっと収める。
「ヴァーリャちゃん。外の様子どーだった?」
 皆から一拍遅れて窓から大広間にやってきたヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)に、浮世・綾華(❂美しき晴天❂・f01194)が尋ねる。
「うむ! 室内のやつらほど元気じゃないみたいだ、倒したのは動いてこなかったぞ!」
 先程まで外で巡回する見張り達を相手に立ち回っていたヴァーリャは、少し窓の外を気にしながらそう告げる。
「そっかそっか。じゃあこっちにだけ集中してりゃいーネ」
「そうだな! この陰気くさい檻をぶち壊してやろう!」
 深い夜色の刀身にちらちらと雪の舞う剣を振り抜いて、ヴァーリャの背中は軽快に駆けていく。
 それを見送り、黒鍵の薙刀の赤い飾り紐を揺らした綾華がひとつ息を吐く。
 傷が癒え切ってはいないオズを侮る訳ではない。思うまま、望むままやればいいと願う。守るほどには頼りないとも思わない。
 けれど今日ばかりは、一歩先をこの足が往くから。
 止めない代わりに、止めないでいて欲しかった。
「弔いには、炎じゃろうなあ」
「俺も、そー思うよ」
 嵐吾が炎を生む。ゆらり揺れる狐の火。幾つも、幾つも、それは陽炎の如くに浮かび上がって確かな熱を身籠る。
 綾華の薙刀が熔け落ちた鉄屑のようにばらばらと解けて溢れる。けれど床に触れる前にそれは玉の火となり、風もないのにその身を震わせる。
 狐火と鬼火。
 色の違うふたつの炎は交じらない。
 幾つもの戦を越えて生まれるその信頼を映すように、それぞれにそれぞれの獲物を捉えて。
 焔火は尾を引いて疾る。
「燃えて、燃やして、全てを払うてみせよう」
 そうして、死して尚動くものには少しの哀れみを。早く眠ってしまった方が幸せだろうと思うから、願いの先を示すような狐火は、劣える事も知らぬげにただ亡骸を灰燼へ帰していく。
 その燃え上がる焔火の隙間に飛び込む燻した銀の玉は後方からオズが放つスリングショットのもの。綾華と嵐吾を狙う腕を、牙を、撃ち貫いて。

 ヴァーリャの足音は軽い。
 その足痕は霜の色をして、絨毯を淡い氷で覆う。細やかな星の囁く音から、ぱきぱきと薄氷の育つ音に変わり、やがて逆さ氷柱が幾重にも連なり床を埋める。
 迫り来る亡骸の足ごと凍りつかせたその上を、二本の軌跡描いて足裏の氷のブレードが滑り踊って、雪舞う宵色の剣は冷ややかな侭で既に亡くなった命を尚も刈り取っていく。
 丁寧に、重ねた雪の重さが樹の枝を折る様に、それがやがて家をも潰す様に。
「やぁっとそのツラをぶん殴れますわね」
 拳を覆った布を取り、自分を買った客から奪い取ったぶかぶかの指輪を投げ捨てる。ここからは護身術ではなく使い慣れたガントレットの出番だ。
 ミレニカ・ネセサリ(ひび割れドール・f02116)が黒髪靡かせ駆け抜けた。罅割れ欠けてしまった腕に嵌るガントレットが鈍く輝き振り抜かれれば、凍り付いた脚の亡骸が幾つか纏めて吹き飛ばされる。反動の痛みを噛み殺してもう一撃。あの女へ続く道を、味方の通る道を。
 その先にあるものを、ミレニカは確と見つめる。

 渋々ながら武装を渡したのは、彼の自衛の為だった。
「セリオス、君は守勢に」
 アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)が、少し俯き加減に囁く。前髪で表情が見え難い。片眉を上げたセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)の事も、半分ほどしか見えないだろうに。
 傷は多少は癒えたようだが、完治に至るまで癒すには時間が足りない。
「僕が前に出る」
「なんだよアレス。もう大分治って……」
「そうだとしても! これ以上君に、無茶をさせたくはない。わかってくれないか」
 二歩三歩、前を歩くアレクシスは珍しく頑なだった。
「……あ~くっそ、今日だけだぞ!」
 セリオスがそんな彼を見て、言っても聞きそうにないから、という理由で諦めたのは伝わっているし、理解の仕方についてそういう問題ではないと思っても伝わらない事も知っている。
 セリオスの顔を見るまで胸に積り続けた焦燥が別の形に昇華されて、それを呆れる暇すらない。
「いい子だ」
 口元だけで笑う音も彼に背中を向けたままで。
 だからその頭に柔らかな黒が降ったのも──貸した侭だったマントが返ってきた事にも、気付くのが遅れた。
「でもその代わり、これはお前がちゃんと付けろよ」
 少しだけ振り向く。そうしなければセリオスの姿が見えなかった。
 彼がきちんと、アレクシスの背中から出ないように少し後ろを歩いていたから。それに気が付いたから。
 知らず口元が弧を描く。
「ああ。──ありがとう、セリオス」
「なんだよ、変な奴だな」
 首を傾げるセリオスに、わからなくていいよ、とアレクシスは笑った。

 鳥は一度羽搏いたら、その在り方を変える事はない。
 喩え嵐に吹かれようと、その羽を捥がれようと、自ら望んで墜ちるなど有り得ない。
「だから私も…まだ、翔べる」
 ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)の翼は未だ捥がれてもいなかった。それならば墜ちる道理はない、墜ちるつもりなど──更々、無い。
 抜いた銀刃は長短の一対。両手に持って広げたその翼は傷も流れ落ちる血すらも構わず戦場に舞い上がり、シャンデリアの煌きを反射する。
 黒のドレスが裂かれても、傷を悼みを抱えた侭でも、彼女の不屈は折れる事なく在り続けた。
 気に入らない。気に入らない、最奥で笑う女の何もかもが。
 こうして死を生み穢れを生みながら、ただ一人、己だけは綺麗な儘。
 この悍ましい光景が貴様の創り出した地獄だというのなら──

 ふと、気付いたのは夏介だった。
 かの女は亡骸を操って見せた。それならば、いくら生きたオブリビオンを倒しても、亡骸を薙ぎ倒しても──
「起き上がりますよ」
 短い警告に反応を返したのは夜彦とルフトゥ。
 胎を裂かれたものが。瑠璃唐草の焔に焼かれたものが。今程斃れ伏したそれらがずるりと音を立てて腑を撒き、彼等の背後から覆い被さるように襲い掛かろうとしているところだった。
「まだ動けんのか、よッ!」
 二閃が再度それらの頭を潰す。思案した様子の夜彦が、他の未だ倒れた侭の躯に警戒の眼を巡らせた。
「しぶとい……と言うよりは、無尽蔵でしょうか。動きは鈍るようですが、邪魔ですね」
「それならば」
 切っ先の無い剣が亡骸の腹を貫く。
 丁寧に傷をなぞり、広げて、やがて二つに。三つに。四つに。
「……こうする他ないでしょう」
 幾重にも裂けばいいと、淡々とした口調が言う。
「あぁ、それなら動いたところで害はねぇな。若しくは、焼き尽くすか」
「手間のかかる事です。けれど、最善でしょうね」

「──あら。勘付かれてしまったかしら」

 切り開かれた道の向こう、最奥からの声。
 それはそれは可笑しそうに笑って。
「頭の良い子は、嫌いではないわ」
 だからご褒美をあげなくてはね、と女は言った。佇みながら、長く尖った爪の指先で己の眼帯を引っ掛け、取り去る。両の眼が腥い空気に晒される。
 それは、光だった。
 白金の、この昏き空には昇ることのない陽の光によく似ていた。
 それが金の睫毛に彩られた瞼によって細められ、鋭い眼光を成すと、鷹が広げた羽の先のように鋭い刃が水平に幾つも並ぶ。右からは両刃の剣が、左からは大鎌が。
 相手を選ぶ仕草で女は首を傾げ、五つの刃で先ずは一角、空を裂いた。
 剣が三つ。大鎌が二つ。
 それらは夏介の腕を刺し、近くに立っていたヴェルベットを突き飛ばしたルフトゥを斬った。
 乙来の前に立っていた夜彦が向かい来る剣を纏めて弾き返し、それを見つめた女の双眸がぎらと生々しい光を宿す。
 視界がじわり、明滅した。

 ──ああ、折角。
 折角両手を手に入れたのに。声があるのに。
 共に想い人を待ち続けた日々は、人の形を手に入れた時に終わりを迎えた。
 己は、再会の約束であったのに。
 それを形にしたように、贈り主と同じ容姿を持って顕現したのに。
 どうしてあなたはこんなにも、冷たい軀をしているのでしょうか。
 あなたの願いは、叶ったのでしょうか。

 ──斬り落とされる。落とされる。堕とされる。
 羽を。足首を。手首を。
 脚を。腕を。
 仲間の姿は既に無い。もう亡い。
 目の前で絶え、肉になった。
 それは暖かな一巡りの季節だった。
 思い出す余韻を、屍肉の感触と臭いが塗り潰していく。
 喉を通る誰かの死を、もうそれが誰とも解らない悲しみで飲み下す。
 喰わされて、喰わされて、その喉すらも最期に、斬り落とされる。

 ──初めてだった。
 ぬくもりを奪った。
 君を奪った。
 あたたかさはつめたさになった。
 君の身体は抜けた魂の分だけ微かに軽くなった。
 それから幾つも、幾つも、幾つも殺した。
 奪った。
 手にした刃までも赤黒く染まって尚奪い続けた。
 それなのに、初めて亡くした君の事が、瞼の裏に残り続けた。

 何度か瞬きをした時に、その光景は拭い去られる。
 白昼夢のように記憶にだけ残り、背中が厭な汗を掻いていた。
「……悪趣味」
 斬られた脇腹を押さえ、吐き捨てるようにルフトゥが言う。
 亡骸の幾つかを変わらず淡々と残骸にしながら、夏介が前へと歩み出る。
 構えを解き刀の刃先を標的に向け直す夜彦の胸中は、それでも変わる事はない。
 全ての始まりは忘れ得ぬ別れ。それは幾年経とうとも変わらぬもの。
 時は戻らない、あの時が変わる事はもう二度とない。それを理解して、だからこそ刃を手にした。今を生きる者の為に──その先を切り開く為に己の身をこそ刃とした。
「奴には解らぬ事でしょう」
 一突。息を吐く間に正確に喉を貫き、生を亡骸へ変える。
 戦乙女の光の矢がその亡骸を穿って吹き飛ばし、床へと叩き付ける。
「遠慮なくやっちゃっていいからね」
 眉根を寄せながらも膝を折らないヴェルベットの声に応える乙女が槍を振り翳し、生垣の一角を崩していく。

 欠けた腕を、足を、抱えていても。マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)の微笑みは揺らがない。
 彼女が招く華水晶の一角獣が戦場を駆けていく。
 七つを重ね束ねて前へ。十を左右へ広げ、七つを蠢く亡骸へと向ける。
「マリアも前へ往くわ。カデル、マリアの背中をお願い出来るかしら?」
 笑顔で言われてしまっては、本当は嫌だなんて口に出来ない。瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)はほんの少し俯いてしまう。
「マリアはほんの少しだけ、カデルよりもこの世界を見てきたから。任せて頂戴」
「……うん」
「もしまた傷ついたら、あなたの腕の中で眠らせてね。さっきみたいに」
 そうして彼女は前を見る。その真っ直ぐな背中をカデルは見る。
 マリアドールが矢面に立つのは嫌だけれど、背中を預けられるのはとても、嬉しくて。だからカデルは、任せて、と彼女と同じ言葉で返した。今度こそ、友達を守ってみせると。
「アーシェ、頑張ろう……君に光を、ボクの祈りを!」
 亡き親友を形取る黒髪の人形、アーシェ。十指の糸で操る彼女を、自身の持つ聖なる光で包む。
 目の前で、彼女は命を奪われた。
 それを、助けられなかった。
 ずっと覚えている。ずっと忘れられない。
「そう、もう二度と友達をあんな風に嗤う奴に……!」
 奪わせたりなどするものか。
 この身の光が、今を生きる彼女をも包むと信じて。カデルは十指の糸を繰る。
「──会いたかったわ、囀女さん」
 その陽の光に似た瞳はけれども、マリアドールにはとても醜く見えて眉を顰める。
 翼の様に広げた刃が、仲間の心すらも抉り取っていく。
「そう。あなたは、あなたを曲げないのね。……わたしも道理を通すのよ。尊く美しいものを守るために」
 茉莉花が耳を彩る。それはマリアドールの歌を拡張する。
 それは響く。響く。
 夜の涯までも、まるでその身に纏った星屑のように瞬きながら。

 血の味が口内に押し寄せる。
 繋いだ骨も完全ではなく、体は軋んで痛む。
 一度鎖して開いた赤の瞳で、ヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)は空を睨んだ。
 朦朧としていた意識も少しはマシだ。まだ、痛みが分かる。
「……孤独と孤高の違いも分からぬカンパニュラ、耳障りに囀ずる花。あんたの命、ここで散らそう」
 男も女も、子供すらも。弄び、甚振り、その死を汚した女を、切り刻むまでは飽き足らない。それでさえ生温い。
 ヴォルフガングの足元の影がぽこりと息をするように揺れて、這い上がる黒は犬の形を取る。ブラックドッグ。
「行こう、わんこ」
 常より鈍った動きでその背に飛び乗ると、それを待って黒い獣の爪は一旦絨毯に深く沈んでから蹴り上げる。
 亡骸の群に飛び込む間際にぶわり、燃え上がる炎を纏う革の鞭が風を切った。仲間の宿した何色もの火を越え、剣戟の合間を潜り抜けて、無数の死を横切っていく。
(「……人殺しのオレにキミ達を救う資格はない。わかってる。だからせめて、魂をその肉体から解き放とう」)
 何度も、何度でも起き上がろうとする哀れな躯を打ち据えて焼いた。 それだけが己に出来る事だと唇を噛んだ。
 亡骸の指が薙がれて飛んで、床の上で蠢くのを黒犬の爪が踏み付ける。
 操られたとて無害なまでに無力化された有象無象は、立ち塞がる数を確実に減らしている。
 今なら道が見える。あの女へと繋がる一筋が。
 ひとつ指を鳴らせば整う、ヴォルフガングの爪は鈍い銀色の金属、五爪。
「あんたは、子を殺したな?」
 迫る疾駆は黒と黒。只管に、真っ直ぐに、まるで尾を引く流星めいて。
「なら……報いを受けさせねば気が済まない。その首を、食い千切らねば」
 殺された子の代わりにせめて、それくらいは。

 光に包まれる黄金の剣は、放たれては肉を断つ。
 斬撃の形をした風が別の方向から覆い被さろうとした影を切り裂く。
 歩みを阻む有象無象はけれども、まともに動ける数を半分程にまで減らしていた。
 足に纏わろうとする腕だけの屍肉を飛び越えて、アレクシスが疾る。
 その背に揺れる重ねのマントと、収まるように後に続くセリオスの姿は変わらない。
 女の姿を視界に収めるのが容易になった。
 アレクシスの、常より鋭く眇めた双眸がそれを見留めた。
 けれど此方から見えるという事は、相手からもまた彼らの姿が見えるという事に他ならない。
 ──目が合う。
 陽の色の瞳。この場にそぐわぬ、光を宿した眼。
 二人の姿を、虹彩が映す。
 脳の奥の奥まで一息に浸潤したそれが、アレクシスの瞼の裏に空っぽの絵を描いた。
 目の前で奪われた。攫われた。小さな頃から一緒だった、ずっと一緒にいると信じていた、半身のような君を。
 信じて、信じて、十年が経って、そうして見たものは空っぽの鳥籠。
 奪われた彼が消え失せた空の檻。
 助けたくて届かなくて、伸ばした腕に掴んだものは何もない。
 人々は少しずつ消えていき、故郷は滅んだ。耐え続けた先には何もなかった。
 守れず、救えず、この両手は終ぞ空のままだった。

 壊れた街を見た。
 笑っていたはずの隣人が、遊んでいたはずの街角が、欠片も残さず消え去った。
 耐え続けた十年の涯、抜け出した鳥籠の向こうにあったのは空虚だけだった。
 守る為に殺しさえしたのに。
 生き残る為に、いつかに笑い合った隣人さえこの手に掛けたのに。
 その先に光は無かった。光の様に心の隅で支えにしていた君さえ居なくなった。
 ──でも。
 それなら、今目の前で己を守るこの背中は誰のものか?
「……アレス!」
 凍り付いた喉を震わせるのは君の名と、故郷の歌。赤星の盟約《きみとのやくそく》。
「目ぇ閉じてんじゃねえよ!」
 ──俺を見ろ。
 ぐいとその肩を掴んで振り向かせる。
 虚ろな青の眼がひとつ瞬いて、その陰を振り払う。
「……セリオス」
 君の名を呼ぶ。
 歌の一節を、微かに共に歌う。今はもう喪い街の証。
 そう、この手はそうだ──空っぽなんかじゃなかった。
 長く靡く彼の黒を、セリオスの長い髪の一房を、アレクシスの指が掬って散らした。
 僕達は、また出逢えた。それだけでいい。悔恨に沈むのは後でも出来る。
「やるべき事はひとつ……そうだね?」
「ああ。わかってんじゃねぇか」
 不敵に笑うセリオスの歌を背に受けて、アレクシスは再び女と向き直る。
 迫り来る黒剣は、光を纏う己の天の剣で叩き落とした。
 十も、二十も。
 祈りの数だけ、切なる声の数だけ、生み出された剣は輝いてそこに生み出される。
「我が剣と……彼の歌声に応えよ!!」

 軋んだ足が亡骸を飛び越える。
 その目に映るのは囀る女ではなく、嘗て自分を裏切った友人の姿。
 豪奢な城で、ミレニカは心と身体が罅割れる音を聞いた。
 ──どうして。何で。
 そんな声は無意味だったろうか。
 あの日からずっと罅割れた侭の左頬が、ぴしりと音を立てる。
「良い夢を見せてくれやがる」
 瞼を瞬く度に女と裏切りの影が切り替わる。
 ころころ。ころころ。
 けれど、けれども。そこに居るのは変わらない。其処に其れが立っている事は、変わらない。
 それならばミレニカのやるべき事だって、何ひとつ変わらない侭だ。
 ──ぴしり。頬の亀裂が左眼にまで及ぶ。顔の半分を侵す。
 だとして、踏み締めた両足は揺るぎもしない。
「御機嫌よう、顔面整形は如何? きっと美人にしてみせますわ」
 艶やかな迄に笑って振りかぶるガントレットが陽の色をした眼光を跳ね返す。
 軽々と己の間合いに踏み込んで、ミレニカが女の横っ面を殴り飛ばした。
 同時に巻き起こった爆風でその軽い身体は紙の様に舞って、背面の壁に叩きつけられ蜘蛛の巣めいた罅を入れる。
 崩れ落ちかけた白亜の壁を、けれども女の黒い十字架が支え留めた。
「……瓦礫の下敷きにでもなりやがればよかったのに」
 心底残念そうに、ミレニカは嘆息を吐いた。

 炎を踏み越える。
 狐火は絨毯を燃やし、亡骸を燃やし、凍て付いた氷さえ飲み込んだ。
 熱風が頬を撫でる。
 歩む綾華を遮るものは、嵐吾の狐火が焼き払った。
 迫る黒剣は──頰を掠めた燻し銀の弾が弾き飛ばした。
 顔の半分だけで振り向いて笑った、その筈だったけれど、巧く出来たかどうか今日ばかりは自信がない。
 足音は殆どが剣戟に掻き消される。
 表情は前髪が隠す。
 からん、と揺れる金古の鍵は、いつも通り。
 弄ばれる儘散った命を想い、歯痒くとも飲み込んだ苛立ちは微かに爪先にだけ宿る。
 ぶつりと噛み切る指の先。滴る鮮血を、手に提げた鳥籠に押し付ける。檻は静かに其れを呑む。
 女の視線、陽の色をした双眸など、それがどうしたと笑い飛ばした。
 零度のそれを、自覚していたかどうか。
「あんたも味わうといいよ」
 鳥籠の影が床に落ちる。ぐるりとそれが蠢く。だってそれは、閉じ込めるだけの女の鳥籠とは違う。咎人殺しが扱う、拷問具だ。
 ──赦して、やらねえから。

「では、団長。お願いしますね!」
 ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)が傷に触らぬようそっと、横抱きにした少女を託す。
 アメリア・イアハッター(想空流・f01896)は彼女を抱え、思案深げに眉を寄せた。
「治療は……後回しなのね」
「複数相手は厳しいですが、頭を狙うのであれば問題ありません」
 片手と片脚を応急処置で固定しただけの傷を見下ろし、シャルロット・クリスティア(あの雲の向こう側へ・f00330)はそう算段を付ける。
 一発必中。この状況で彼女が出した結論だった。
「アメリアさん、手伝っていただけますか?」
「ええ、わかったわ。ヤツに一矢報いに行きましょう」
 アメリアの愛機、エアハート。宇宙バイクの機構を変形させ、シャルロットを後ろに載せられる二人乗りモードへ。屋内かつ内部に犇く亡骸と味方が分散している状態で、走行ルートも速度も限られる。一度きりのドライブになるだろう。
 風切羽のような尾翼が後輪の上に迫り出して、蒸すエンジンが軽く床を揺るがせた。
「それじゃあよろしくね、騎士様達」
「はい!」
「お任せを」
 銃と野戦刀を抜き、両手に構えた唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)が静かに頷き駆け出す。
 白いテーブルクロスが掛かったままの丸テーブルを蹴倒して、蠢く亡骸の真中に飛び降りたなら、ひとつふたつとその頭を撃ち抜いた。身を翻すその対の手で水平に滑らせる刃は、立ち並ぶそれらの胴体を上下に分けていく。
 その足が僅かに止まった隙、軽いユーイの爪先が野戦刀の峰を蹴って跳び上がった。その手に抱くは騎士の白銀、紋章刻んだ一振りの剣。幾つもの人を、モノと化した人を飛び越えて、降り立つは鳥籠の主人その目前。
 俊敏さを盾に剣を振るう少女と、数多に喚んだ黒剣で渡り合う女。
 蹴立てる一角獣の脚をオリーブで縛り、影の如くに聳え立つ十字架で押し潰し、その間隙で投げ付けた鉄杭の数本がユーイの腕を蝕んだ。
 その迫合いを遠くに見ながら、アメリアはトップギアでエアハートのアクセルを蒸す。傷の所為で不安定な姿勢になる後ろのシャルロットは、上着で背中に括り付けるようにして申し訳程度に固定されている。
「なんだか、子供みたいですね」
「振り落とされたくないでしょう?」
 片目を瞑って笑ってみせると、アメリアの瞳はただ前だけを見た。絨毯に食い込みながら車輪は回り、その疾駆は二人の髪を嬲って散らした。
 最高速で前輪を跳ね上げ、後輪だけで点在するテーブルの一つに乗り上げる。天板が割れ沈む前に放物線描いて更に高く、跳んで。
「──お邪魔するよ」
 そんなエアハートの尾翼にひとつ、狙い定めて舞い降りる足音。空と海の青色抱くドレスの端がシャルロットの視界の半分で揺らめく。ライフルを抱えて口の端を吊り上げたリーゼが、其処で不敵な目を煌めかせていた。
「行く先は同じ。なら少し乗せてってよ」
「……ふ、いいわよ。落ちないでね!」
 頂点から下る、下る、その先は。魅華音が作った道の上。
 援護射撃を背中に聞いて駆け抜けるエアハートは、速度を緩めず突き進む。ユーイが釘付けにするかの女の脇を擦り抜けるその数瞬は、一定に保った速度と真っ直ぐな軌跡。
 アメリアの背中で二人のスナイパーが得物を構える。
 一つは毒と呪詛を籠めたホローポイント弾。一つは火の精霊の魔力を限界に籠めた精霊弾。
 それぞれに女の両眼を捉えた銃口が、ちりちりと喉元を焦がす様に時を数える。
 リーゼの脳裏に去来するのは、愛する人の為に世界に抗う悲しい少女の悪夢。他人の夢。
 それはもう、自分ではない。今のリーゼに恐るものなど、何もないのだから。
 ──逃さない。

 白龍は悠然と。
 佇み、揺蕩い、其処に在る。
 舞わせるのは破魔の霊符と数多の手裏剣。
 亡骸を幾多も屠り、くつりと笑うだけ。
 なんと傲慢なことだと。
 人を飼い慣らせるなんて思っているのだから。
 人より時に神と呼ばれ、時に魔と呼ばれたその姿で、乙来は女を見る。
 蚕夜雀。金角白龍。白鵺。身に宿すその何れか。それもと何れもか。
 異質なそれは、人の興味を引いた。飼う口実には充分だった。この鳥籠はまるで、それそのものを見ているようだった。
「君には僕が、何に見えるだろうね」
 毒の代償を悟らせもしない穏やかな声。
 血生臭いのは大の苦手だ。この姿になったけれど、生憎食べるつもりは無いと囁く声を、亡骸の何れもが聴こえていなかったろうけれど。
 霊符が女を縛る。
 一角獣が蹴倒し、刀が剣が切り裂いて、焔が灼いて。
 獣の爪が引き裂き、殴り飛ばされ、鳥籠が其れを食んだ。
 それから両眼を、撃ち抜かれた。
 噫、それでもこの場の嘆きには遠かろう。
 染み付いた血の匂いには届くまい。
 両手に両翼に長短の銀剣を振り抜くノワールが、いつかの嘆きをその背に負って迫り来る。
 未だ何も失ってはいない自分なら、代わりに一発ぐらい殴り付けてやれる筈だと。
 ──此処が貴様の創り出した地獄だというのなら。
「更なる底の底まで、独りで沈め」
 銀閃が両腕を落とす。
 氷の道を伝って滑り舞うヴァーリャが、最後の亡骸を屠ったその軌跡で女の元へと疾駆する。
「お前の城はこんなにも脆い。この城で『皇女』気取り、哀れだな!」
 雪の舞う宵色の刀身でその胎を裂く。
 それから、鳥籠の形の拷問具──若しかしたら、静かな怒りを形にしたようなそれが、女を呑み込んだのが最後だった。
 操る力の源を無くした亡骸は、ざらざらと灰砂の様に流れ去る。
 跡形もない。戦の後の荒れ果てた部屋には何もない。
 残るのは血の匂い、荒い息遣い。
 けれども其処に立っている、いのちの凡て。


 静けさの中で息を吐く。
 全てが終わった訳ではない、それでも。
 広間の隅の数人と、オズのブローチの中に避難した数人。助けられた命の数は、重みは確かに其処にある。
 傷の手当てもそこそこに、彼らは立ち上がった。
 一先ずはこの場を出ようと誰かが言い、誰かは頷く。
 敷地の外の森に隠した、後発組が乗ってきた馬が数頭と、奴隷たちが此処に来るのに使った荷馬車が三台。帰りの足は充分だった。
 撤退の慌ただしさが彼らを間を駆け抜けるほんの少し前に、ずっと隅で震えていた奴隷の少女が顔を上げた。
「──ありがとう」
 その声は小さかったけれど、彼らの耳に確かに届いて。
 安堵が伝搬して奴隷たちに微かな笑みが宿っていったのを、見た。
 口の端に笑みを宿した誰かが柔らかく告げる。
「帰ろう」
 奴隷たち──否、村人たちはゆっくりと、頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月25日
宿敵 『鮮血皇女』 を撃破!


挿絵イラスト