闇の救済者戦争⑳〜褪せることなき想い、心の刃とならん
●闇の啜りし血の果てで
そこは常闇なる世界の奥。
夥しい鮮血に包まれた大地だった。
鮮やかなる赤はまるで風にそよぐ妖しき花畑のよう。
或いは、沢山の想いと涙と、大地にこぼれ落ちても消え去らぬ願いたちなのか。
おぞましさより、恐ろしさより。
何故だか畏敬めいた感情を掻き立てられるその場で。
『猟兵よ、よくぞ来た』
ふたつの少女の声が重なって響いた。
『この血は、この世界で流れたすべての血』
声の主は奇妙な双子。
容姿に相違点があるが、それは欠落。
故にこそふたつでひとつの存在なのだと気づかせる。
オブリビオン・フォーミュラ、祈りの双子の存在だった。
『わたしたちが操る生贄魔術――この無限の鮮血を贄として、お前達を討つ力としよう』
ああ、と。
小さく頷き合って、鮮血を刃に変えて手にとるふたり。
ひとりは片刃の長剣たるシンクレアに。
ひとりは双剣たる短剣へと変化させる。
誰かの血で、命で、願いで。果たされなかったものを贄と捧げ武器とする。
この世界が流れた悲劇で惨劇で、悲しみで苦しみを、武器として。
強さとして。
『お前達も、悲しみと苦しみを強さとするのだろう?」
いいや。
違うのだと周囲の血液さえもが、未だに宿る想いの熱で脈打つ気配を感じながら。
『この世界に相応しい、死力の戦いを始めよう』
祈りの双子が。
鮮血の花びらを纏いながら、ふたり同時に足を踏み出した。
●鮮血の記憶――赤い花と咲き――
私は僕は俺は、もはや自己の区別が付かないほどに混ざり合う。
もはや残るのは鮮血。
命失い、血液に残った記憶であり、想いでしかない存在なのだから。
それでもと。
消え去らず、褪せる事のない祈りばかりを抱いている。
それは私が抱いていたものなのか。
俺が誇っていたのか。
僕が掲げていたものなのかも分からない。
けれど共通するのはただひとつ。
愛していた、ということだけ。
誰を何をかは分からない。
それでも、愛があるから消え果てることのないこの記憶。
闇を切り裂こうとした、この願い。
出来ることならば誰かに受け継いで欲しくて、出来ることなら誰かの夢となりたくて、もしも今を生きるものに力を与えられるならばと。
死者たるもの、残滓の願いの私達は想うのだ。
私の願いで、記憶で、もしも常闇を切り裂く刃となれればと。
私達は失敗者、敗北者ではなく。
ともに|闇の救済者《ダークセイヴァー》たれるのだと、最後に胸を張れるのだから。
闇を切り裂く者に。
私達は最後の記憶を残し、燦めかせ。
そして赤い花びらのように舞い散らせる。
●グリモアベース
「いよいよ祈りの双子との決戦です」
それでも、何時もと変わることなく。
柔らかな声で告げるのは秋穂・沙織。
沢山の血と、沢山の想いと、そして沢山の命と悲しみの零れていった大地の果て。
まだ第一層の事は分からなくとも。
「勝利する他ありません。敵はオブリオン・フォーミュラなのですから」
決意を宿した眼で見つめた後、やはり、ふわりと微笑んでみせる。
気負いなどない。
目の前にいる猟兵たちならばと信頼の証として。
「祈りの双子は、この世界で流れた全ての鮮血を集め、それを贄として扱う相手……自らを最古にして最弱といいますが、彼女らにとって最強となれる鮮血の集う場では苦戦は免れないでしょう」
つまり。
この世界でオブリビオンによって苦しめられた者、全ての憎しみ、敵意を纏い、それを力として強化される祈りの双子。
死んでもなお手放さない。
お前達は私たちの玩具で贄なのだという傲慢めいた想い。
「故に勝機は、その鮮血たちに宿る記憶と思いにあるのです」
だが、血に想いが残っているというのならば。
猟兵たちが、光に相当するものを見出し、触れて、そこから力を得ればいい。
それこそ祈りの双子が鮮血を贄として力を引き出せない程に、強い記憶を目覚めさせ、宿すことが出来れば。
「きっと勝てます。必ずや。ひとの心は闇や苦しみだけではないのですから」
そうして秋穂が見つけた、中でも鮮やかなる記憶はひとつ。
「闇を切り裂く、救済者となりたい」
優しさであり勇気であり、愛であり、希望であり矜恃である。
それをもって闇を切り裂く救済者とあろうとした者たちの、命を落としても消え去らぬ記憶。
もちろん、その他にも見出そうとすれば幾らでも記憶は出るだろうが。
「ただ、それら血の記憶を見つけ出して力とした時、皆さんは真の姿を隠すことが出来ません。その真の姿を以て、戦うのです」
故に血の記憶と真の姿の力。そのふたつを以て相対し、ようやく五分に辿り着けるという祈りの双子。
「ええ、でも」
信頼を笑みとして、秋穂は微笑む。
「勝てますよね?」
まるで秋風のように透明な想いを以て。
このようにひとは繋がるのだから、想いは果てず、闇の刃に断たれず、生きていくのだと。
信じるように、秋穂は瞼を閉じた。
遙月
お世話になっています。
マスターの遙月です。
ダークセイヴァーでの祈りの双子との決戦シナリオを出させて頂きますね。
今回は戦争ペースということで、何時もの私のシナリオよりも文章量などは格段に落ちると思います。
加えて、先に出させて頂いたデスギガスの完結を優先させて頂きますこと、無理のないようにと運営させて頂く為、どうかご了承くださいませ。
そんな我が儘な上でも、それでもとこの戦いにと思われる方は、どうぞ宜しくお願い致します。
基本は、まだ戦いたい。
或いは、迷っているうちに終戦に辿り着いてしまって、戦いたかったというひと向けでしょうか。
シナリオの受付に関してはOP公開のあとに、調整して受付期間を出させて頂きます。
シナリオは『やや難』ですが、判定としては甘めです。
ただプレイングに応じたリプレイの内容、量となります。
決戦である、という認識の上で、プレイングボーナスや状況に対応してのご参加をお願い致します。
対応するプレイングボーナスは。
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プレイングボーナス:鮮血の中に満ちる人々の記憶の中から、自身を助けてくれる「血の記憶」を見つける。
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となっています。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『祈りの双子』』
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POW : 化身の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に、1〜12体の【血管獣】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
SPD : 鮮血の祈り
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ : 双刃の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に【血戦兵装】を創造する。[血戦兵装]の効果や威力は、代償により自身が負うリスクに比例する。
イラスト:ちゃろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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※補足※
見つけるべき記憶がない、或いは、思いつかない場合は『闇を切り裂こうとする者』の記憶を借りるという形で大丈夫です
ふんわりとして具体的にはなくとも、自分の胸にある勇気や矜恃、優しさや希望……そういった心情を記載して頂ければ、それに近い存在の記憶が力を貸してくれる筈です
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桜雨・カイ
この地に生きる人達は、きっとひとりでは無かった
誰かを思い、誰かと生きる為に戦った。
その思いを消し去る事はさせません。彼らの思いと共に戦いましょう
相手が、人々の苦しみ、憎しみ、敵意を纏うのなら
私は、人々の祈り、勇気、守りたいという思いを纏います。
【降祈化身法】を発動し、血に宿る思いで自分を強化し双子を攻撃します。
何度成功されてもそれを上回る願いを纏い、真の姿で攻撃をつづけます
受ける毒のダメージは「糸編符」で相殺
人の願いを叶える為に私(人形)はいます。
オブリオン・フォーミュラであろうとも、その信念はゆらぎません
常闇の奥底、赤き鮮血の大地。
漂うは昏き死の気配。
脈打ち続ける血液は生きていた誰かに流れていたものであり。
今は亡き者の生きた残滓だった。
決して闇に溶けて消え去らぬ思いであり、感情であり、命の欠片そのもの。
ああ、この大地、この世界。
絶望と苦しみ、終わらぬ悲劇と惨劇こそがダークセイヴァーという世界なのだろうけれど。
けれど、この鮮やかなる赤にあのは悲しみや憎しみ、怒りだけではないと思うのだ。
そう信じたいのだと、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は美しい青の眸を緩やかに細める。
そう、決して闇だけではない。
「この地に生きる人達は」
彼ら、彼女たちにはそれぞれの人生があった。
心と情動があり、誇りや信念、そういう大事なものがあって。
「きっとひとりでは無かった」
傍らには必ず大切なひとがいた。
だから消え去らぬ暗黒とも向き合い続けて、前へと歩き続けられたのだ。
例えそれが、願い叶わず儚く散った命だとしても。
「誰かを思い、誰かと生きる為に戦った」
決して絶望する為に心があるわけじゃない。
希望や夢を抱いて、前に進む為に傍にあるひとと戦い続けたのだ。
それを無意味になんてさせはしない。
鮮血の洪水に溺れさせて、全てを流していくだなんて。
絶対に許せる筈がないのだ。
「その思いを消し去る事はさせません」
カイの優しげな風貌に、鋭い決意が宿される。
故に、この地にあった彼らの思いと共に戦おう。
彼らのように独りで闇に挑むのではなく、数多の心という光と彩を伴って進むのだ。
故に恐れることなく鮮血の記憶を覗き込み、カイは記憶と思いを纏って真の姿を顕現させる。
『ほう。やはりそうするか、かつての猟兵たちのように』
そう語りかけるは祈りの双子。
血を流した人々の苦しみ、憎しみ、敵意を纏って力を増したオブリオン・フォーミュラがカイに刃を向けた。
『だが、私達は最古のフォーミュラ。かつてのように、幾度なく、また迎え撃つのみ』
凝縮された闇の力は身を越えて魂さえも侵蝕して震わすほど。
だが、そんなもので今のカイは止まらない。
一歩、一歩と大地を踏みしめるのは、かつてこの地を生きた彼らたちと同じように。
人々の祈りを、勇気を、傍らの大切な人を守りたいという想いを纏い、常闇を越える者として祈りの双子の前に立つ。
カイの心の奥底に触れる、人々の思い。
それはカイの力になるのだと、発動する降祈化身法と結びつく。
『踏みにじられていい思いなんてない。その思いを守る為に私は強くなります』
そう。何一つとて、踏みにじられていい心なんてありはしない。
ならばその守護者として、祈りを身に宿しカイは暗闇を裂いて、新たなる道を拓く光となるのだ。
ひゅるりと、闇を切り裂くは幾重もの光。
カイの指先から願いと希望を紡ぐ輝きとなった念糸が放たれ、祈りの双子の身を捉えんと走り征く。
『だが、この地に流れる血が尽きぬ限り』
それを避け続ける祈りの双子。
くるりと身を翻す姿は絶望の舞いの如く。
『お前は私たちに触れることさえ出来ない』
故に無限とも思える血が、ダークセイヴァーの災厄の元凶のあらゆる行動を成功させるのだ。
略奪し、蹂躙した血と思いがあれば、祈りの双子は無敵。
「いいや」
違うのだと。
祈りの双子が血に宿る思いを纏うように、カイもまた同じなのだから。
カイの胸にある想いは、例え呼吸が止まっても消え果てることなどないように。
この世界に満ちる想いも、また尽き果てることはない。
術の反動として身を蝕む毒を懐に忍ばせた糸編符で相殺しながら、幾らでも応じるのだと。
誠なる心、澄み渡る想いを以て糸を手繰るカイの指先は止まらない。
そう、決して負けないのだと闇が成す鮮血の祈りへと、人と在りし光の願いを以て抗い続けるのだ。
そんなカイの想いに呼応するように鮮血の大地が脈打ち、斜陽のような優しき赤い光が祈りの双子を捉える。
『何……?』
それは、この世界に懸命に生きたひとの想い。
誰かを守りたいという記憶と想いが、カイの心に触れて形を成したもの。
今はカイと共に進み、明日へと繋ぐのだと鮮血に埋もれていた勇気が脈打つ。
「人の願いを叶える為に|私《にんぎょう》はいます」
ならばこそ、操る念糸は幾重もの光刃と化して祈りの双子へと奔り抜けていく。
「例え貴方が最古のオブリオン・フォーミュラであろうとも、その信念はゆらぎません」
カイの言葉と共に流れる糸は、まるでか細くても綺麗な流星雨のよう。
繊細なる瞬きを以て、常闇の災厄を斬る。
それはこの世界に生きた誰かの心が繋がり続けて。
ひとりではないからと消え果てることのない希望と優しさが、闇夜を越えて。
世界の闇の深奥を切り裂くに至った瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵
春日・釉乃
魅夜(f03522)いや、お前も真の姿であるならばミアと共に
双子が鮮血を代償に多数の血管獣を呼び出すのならば、我らも鮮血を代償に数で応戦するのが道理だろう
目には目をと云うやつだな
闇を切り裂く、救済者として相応しいのはやはりミアの他に私は知らぬ
故、血の記憶で私が愛でるに値するは現在を生きるミア──魅夜だ
そも鮮血の海を好んで漂うなどダンピールのお前を置いて他はあるまい
祈りの接吻を血の記憶に施して魅夜を召喚
ミアが召喚するだろう現在を生きる釉乃(わたし)と手を繋いで共に【Танец с саблями】を発動
早業の鎧無視攻撃の幻影剣をカウンターで咄嗟に一斉発射
後はお前たちで決するがいい、我が最愛の姫達
黒城・魅夜
釉乃(f00006)と
ユノ様の言う通り
ダンピールたるこの私の前で血を糧にするなど身の程知らず
まして今の私はただの真の姿ではなく
最も大切なひとと共にいるのです
血に沈み引き出すのは
まさにそのひと、釉乃自身がこの地で戦った時の記憶です
何度も一緒に戦場を駆け巡りましたね
私の宿敵を倒したときでさえも貴女と一緒でした、釉乃
その何よりも強い絆と記憶が今血の中から甦ります
決着をつけてしまいましょう
私たち「4人」でね
範囲攻撃で鎖を舞わせ血管獣どもを撃破
UCを発動
記憶の私は周囲の血に呪詛を満たし双子の動きを束縛
言ったでしょう、血の中で私に勝てると思うなと
ユノ様と釉乃の攻撃でぐらついている双子どもへ
とどめの一撃です
鮮血が絡みつくように蠢き、流れて、そして渦巻く。
これほどに深く混ざり合えば、最早自分というものなど忘れてしまうだろう。
誰かの呼び声なければ、己を思い出すことさえ叶わぬだろう。
その上で悲しみと怒り、憎しみのみを呼び起こされて、忌むべき赤として夥しい血が渦巻く。
『さあ、始めよう猟兵たちよ。負ければ全てが血で洗い流され、勝てれば血の先へと進める。ただ、それだけのこと』
常闇の深奥ではそれに相応しき姿として、祈りの双子が深き闇を纏い佇んでいた。
手にする刃と従える血管獣は恐ろしきほどの力を滲ませている。
身を、肉を、骨を。
そして心と魂を断ち斬り、血と記憶と思いを貪るのだと殺意を放ち続けている。
けれど、春日・釉乃(蒼薔薇のPrince・f00006)の灰色の双眸が見つめるのは、この地に集まった無尽とも思える血だ。
傷口から溢れ出したるばかりのような鮮やかなる血液。
怜悧な視線は、その裡にある誰かに訴えかけるもの。
私の眼で、思いで。呼びかければ応じるでしょう。
ましてや祈りの接吻にて触れれば、必ずやと。
裏切られることなんてないわ。
だって貴女は私と供にあり続ける比翼の翼だもの。
そんな傲慢とも、或いは深き慕情とも付かぬものが、緋色の深淵より血の記憶を、『彼女』を呼び起こしていく。
同時に真の姿へと変貌し、深緋へと染まっていく春日の眸。
「目には目をと云うやつだな」
祈りの双子が鮮血を代償に数多の血管獣を呼び出すというのならば、春日たちも鮮血を代償に数で応戦するのが道理というもの。
ただし血を捧げて呼ぶのは悲憤や絶望ではなく、それよりもなお深き愛のみ。
闇を切り裂く、美しき救済者。
それに相応しい者を春日はミアの他に知らない。
例えこの世界の全てを知ったとしても春日は同じように応えるし、心に思い浮かばせるのはそのただひとり。
故、血の記憶に在りて愛でるに値するのは現在を生きるミア――魅夜だけ。
祈りの接吻に呼び起こされたように、鮮血の奥から浮かび上がるは黒き乙女。
しっとりとした慕情と敬意を込みて春日は口にする。
「そも、鮮血の海を好ん漂うなどダンピールのお前を置いて他はあるまい」
ああ、その通りと。
麗しき夜色の乙女が、柔らかな声を揺らす。
「ユノ様の仰る通り」
集いし鮮血の水面に秘やかに触れて、指先を潜らせて。
記憶を目覚めさせるように引き出ししながら、魅夜は囁く。
真の姿と化して漆黒の翼を広げながら、魅夜の指が掴むのはかつての姿。
まだ遠いとは云えぬ。
が、尊さにては他に比べるものなどない。
春日自身がこの地で祟った記憶。
「ああ」
歌うように感嘆の声を震わせ、魅夜は傍に佇む春日に囁く。
「何度も一緒に戦場を駆け巡りましたね」
己が宿敵を倒した時もやはり一緒だった。
いいや、貴女と供にない時などないのだと、瞼を閉じて魅夜は続ける。
「釉乃――何よりも強い絆と大切な記憶が今、血の中から蘇ります」
それはさながら、目覚めながら夢を見るように。
魅夜と春日は互いの過去の姿を呼び出し、お互いの手を握り絞める。
決して離れることはない。
過去も未来も、永劫に一緒。
消え去ることも、果てへと去ることもありはしないのだと。
真実の姿も、記憶の姿も、春日と魅夜は手を握りあう。
最愛は現実を越える祈りとなって、この世界に具現したのだ。
「決着をつけてしまいましょう」
二人ならばどんな闇をも泳ぐように進めるのならば。
「私たち『四人』でね」
四人となれば、どんな災厄とて退けてみせよう。
互いの間に何者も挟まる隙間も余地もないのだと。
過去から今へ、そして現在から未来へと久遠の絆を響かせるように。
「ああ、無論。互いの心という翼があれば、何処までも飛んでいこう」
そうして春日が放つは五百を越える幻影剣。
もはや夢幻か、それとも鏡合わせが見せる幻想かと思うような、幻影の剣が並び立つ姿。
何が現実で、何が夢なのか。
幻影である剣が風を切り裂く音色が微かに響くも、揺るぐことなく。
さながら無限に連なるが如き姿を一瞬だけ浮かばせた直後――速やかにして鋭き刃が祈りの双子と血管獣へと殺到する。
切り裂き、穿ち、縫い付け。
そして傷口を抉って、更に深く。
更には広範囲へと広がる108もの黒鎖『呪いと絆』が舞い踊るように広がり、敵対者を打ち据えていく。
そして、記憶の姿であるミアは周囲の血に呪詛を満たして祈り双子の動きを束縛していく。
「言ったでしょう、血の中で私に勝てると思うなと」
そう言い切る魅夜の傍で、やはり春日が手を伸ばす。
愛しき姫へと触れる為に、春日はそのか細い指先を伸ばして。
「さあ」
魅夜とミアの手を取り。
親愛の響きを乗せて、春日は囁く。
「後はお前たちで決するがいい、我が最愛の姫達」
そうして、熱い唇をふたりの手首へと落とすのだ。
愛情と欲望を示す接吻は、貴女の美しい姿が見たいという願望にして欲望。
ただ愛しい貴女たちが紡ぐ彩模様を、私だけに見せて欲しい。
傲慢かつ強欲であり、けれど、切なる思いを受けて魅了がその漆黒の翼をはためかせる。
「ええ、ええ。勿論――釉乃にはもっとも美しい姿を」
そう口にした魅夜は唇より紡けば。
根源より否定し引き裂く黒鎖がじゃらりと。
美しくも禍々しい音色を奏でる。
まるでレクイエムのような走るその音の先で。
「とどめの一撃です」
冷酷なる声の元、祈りの双子の深きを捉え、引き裂いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ウィルヘルム・スマラクトヴァルト
鮮血の中に潜るのもこれで幾度目か。
その度に、祈りの双子が言うように悲しみと苦しみを強さとしてきました。
ですが、今回は違う……?
ああ、そうなのですね。非業の最期は迎えたけれども、
誰かを慈しみ、愛し、護り、希望を抱き、不条理に立ち向かい。
闇の世界の中で、一筋の光明であった記憶。
ならば、その意志を受け継ぎましょう。
ならば、その記憶を力としましょう。
ともに、|闇の救済者《ダークセイヴァー》となりましょう!
私自身の意志に加え、記憶達の意志も込めて、UC発動。
『緑の斧槍』の穂先を真っ直ぐ祈りの双子に向けて、
マッハ10強で【ランスチャージ】を敢行します。
邪魔な血管獣は、振り払うなり諸共に貫くなりしましょう。
闇が啜り集めた鮮血たち。
それは心と思いより零れた涙でもあった。
生きる事を望み、願い、求めて戦い続けた果て。
或いは、無辜なる民としてただ夜の裡でせめてもの安寧を求めたひとびとの。
その残滓さえもが闇の首魁たる祈りの双子に弄ばれ、贄とされるなどなんという悪夢だろうか。
だからこそ、そんな暗鬱たる暗闇にひとの魂が墜ちぬようにと、エメラルドの騎士が進み出る。
穢れることなどないのだと。
ただ救済を願いて掲げるウィルヘルム・スマラクトヴァルト(緑の騎士・f15865)は己が信念を胸に秘めながら。
――鮮血の裡へと潜るのもこれで幾度目となるだろうか。
その度に祈りの双子が言うように、悲しみと苦しみ、怒りと憎しみを力として来た。
虐げられる人々を救うべく戦場に身を起き続けたウィルヘルムにとって、それは使命であり、必ずや災厄の元凶を討つという誓いだったのだろう。
誠実にして正しき心が願うのは、そんな思いではないから。
だからこそ、今回に出逢う血の記憶が今までと異なる事に、翠玉の双眸をゆっくりと細めた。
それが男性なのか女性なのか。
老いているのか幼いのかも区別は付かない。
そう、区別できない程に数多の思いが溶け合い、巡り会い、それでも喪われぬ光を歌っている。
私自身を忘れても、この思いと願いだけは闇に譲らないのだと。
矜恃に、信仰に、勇気と優しさで響かせ。
「ああ、そうなのですね」
たとえ非業の最期を迎えたのは確かだけれど。
心までを失ってはいないのだ。決してこの想いは奪わせないと、血の記憶が鮮やかなる彩を見せる。
誰かを慈しみ、愛し、傍に在り続けた。
他人の痛みを己のものとし、共に涙するからこそ幸福と笑顔さえも分かち合えた。
たったひとりではないから――。
希望を抱き、信念の儘に理不尽に立ち向かえたのだ。
そんな自分を誇っている。
もはや自分の名前さえ数多の血の記憶に溶け込んだとしても。
常闇の世界の中で一筋の光明であれたこと、その記憶と事実を誇らしく覚えているのだ。
ああ、願わくば触れているあなたよ。
この記憶と力を、想いを受け継いでくれとウィルヘルムへと希う。
まるで聖者のような清らかな光と。
騎士のような凜々しく強き眼差しと。
未来を夢みる幼子の無垢なる微笑みを向けられて、ウィルヘルムは『緑の斧槍』を掲げてみせる。
「ならば、その意思を受け継ぎましょう」
鮮血の裡より戻りし緑の騎士は、消して褪せることなき光を持つ。
「ならば、その記憶を力としましょう」
不朽なる刃として、この世界を進み続けて。
「ともに、|闇の救済者《ダークセイヴァー》となりましょう!」
宣誓の声をあげるウィルヘルム。
消え去らぬは闇ばかりではないのだと、周囲に漂う昏き思念を切り裂いて至るは真の姿。
『ほう』
その様子に、祈りの双子が僅かに表情を変えた。
『今度の猟兵たちは、今までと少し違うらしい』
故にとウィルヘルムへと向けられる刃から滲みだす、闇の力たち。
「いいえ、今までと同じです。過去も、今も、そして未来も。この願いは、ひとびとの祈りは変わらない」
だがウィルヘルムは微かにも怯むことなく、その力を発動させる。
数多の記憶たちの意思と願いも込めて、発動されるは守護の矛たるユーベルコード。
私が、私達が、この世界とそこに住まう人々を護るのだと。
エメラルド色に輝くオーラを纏えば、風と音を置き去りにして吶喊するウィルヘルム。
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐにと祈りの双子へと穂先を向けて。
その闇深き魂を穿つのだと、邪魔な血管獣たちを振り払い、眼にも止まらぬ神速で突き進む。
カウンターとして放たれる祈りの双子の技量、力はまさに見事。
だが、相対するウィルヘルムは己が傷を臆すような騎士ではないのだ。
例え身で刃を受けたとしても、それ以上の想いと威を穂先に込めて。
「貫き至れ、闇を越える者たちとして!」
この世界の災いの源たるオブリビオン・フォーミュラ。
祈りの双子へと突き刺さる斧槍が、戦の終わりを告げる鐘となる。
戦い続けた人々に。
抗い続けた想いたちに。
いまこそ安寧と平穏、そして幸福なる時をと、緑の騎士は世界へと清らかな風を巻き起こした。
大成功
🔵🔵🔵
ジゼル・サンドル
ミルナ(f34969)と
二人で最初に赴いたのもダークセイヴァーだったな。
あの時よりわたし達はずっと強くなったよな。
ミルナと【手をつなぎ】鮮血の中へ。
誰かを愛し守りたいと願った記憶…愛する気持ちは美しく尊いものだと、最近改めて実感したばかりだから強く心に響く。
わたしもいつか、そんな愛を知りたいと思うんだ。
外見は大人びて、灰色の髪は腰まで届く銀髪に。青いドレスを纏いガラスの靴を履いたプリンセスの姿に。
指定UC発動、周囲の鮮血すら蒸発させるほどの激情の炎をお見せしよう。
君達は焦がれるほどに誰かを愛したことがあるか?たとえ肉体は滅びても、愛した記憶は残るんだ。
【魂鎮めの歌】に乗せ語りかけるように歌う。
ミルナ・シャイン
ジゼル(f34967)と。
ええ、あの時もこれからも…わたくし達二人一緒なら何だってできるのですわ。
騎士としてお伴しますわ、参りましょうジゼル。
ジゼルと【手をつなぐ】。
救済者になりたい想いに共感。
わたくしのお母様はかつて、絶望を乗り越え希望の力で世界を救った偉大な騎士。その血を引くわたくしも、人々を守る盾でありたい!
ピンクのグラデーションの髪は水のようなセイレーンの髪に変化、人魚の尾ビレは人間の足に。マントを靡かせた王子様風の姿に変わる。
星霊グランスティード『パライバ』に【騎乗】、電光石火の速さで血管獣を躱し双子に肉薄、電光の【属性攻撃】を双子に叩きつける。
この雷光にて闇を切り裂いてみせますわ!
闇が深く募る世界だからこそ。
ひとの心は何処までも優しく、そして鮮やかに広がるのだ。
絶望に抗った希望であり、願いであり、祈りであり。
ひとと共に生きた記憶が、いま再び鮮やかに蘇る。
ふたりの少女の心の裡で。
そして澱んだ闇を払う為に、世界へと広がるのだ。
「二人で最初に赴いたのもダークセイヴァーだったな」
そう呟いた鮮血の海を見つめるのはジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)。
歌のような澄んだ声色は、何処までも響き渡る鳥の囀りのよう。
応じるは美しくも真っ直ぐ響く少女の声。
「ええ、あの時もこれからも……わたくし達二人一緒なら何だってできるのですわ」
青い色なれど、射し込む光の加減で緑とも見れる海色を揺らして。
ミルナ・シャイン(トロピカルラグーン・f34969)が一歩、前へと歩み出す。
何も怖がることはないの。
ずっと、ずっと、道は繋がっている筈だから。
暗闇の中で何も見えないなら、私の思いを信じてと。
鮮血という赤い暗がりにある記憶へとミルナは呼びかける。
「あの時よりわたし達はずっと強くなったよな」
そう声を重ねるジゼルもまた、恐れることなくただ前へ。
触れるべき血の記憶たちへと足を進めていく。
強さとは決して外敵を打ち倒すものではないのだ。
他者の心を拾い上げること、信じ続けて想いを守り抜くこと。
そして柔らかな日常を続けることだって、そうなのだ。
「騎士としてお伴しますわ、参りましょうジゼル」
ならば今までのように、そしてこれからを告げるように。
ジゼルと手を繋いだミルナは、凛とした貌を向けて、共に血の記憶たちへと触れるのだ。
そこに溢れる思いが、ふたりを迎えるように包み込む。
「ああ」
救済者となりたい。
その想いであり、願いへと共感するミルナは吐息を零しながら瞼を閉じた。
ミルナの母もかつては絶望を乗り越える希望の力で世界を救った偉大なる騎士。
凜然と、真っ直ぐに前を見つめるその美貌は決して忘れない。
その血を引き、想いを知り、そして道をも継ぐのだとミルナは想いを響かせる。
「わたくしも」
斯くありたい。
記憶だけとなったみんなもそうでしょうと。
その祈りを胸に掲げて、ミルナは声を繋ぐ。
「人々を守る盾でありたい!」
ミルナの声と想いに賛同し、共鳴するように護ることに命を捧げた者たちの記憶が血の記憶の奥深くから溢れ出す。
もう己の名も忘れてしまったけれど。
最後の最期まで、ミルナの願いと似たものを抱きしめていたのだと。
血の記憶と成り果てた今でも尚。
ミルナとジゼルを守る盾となれるのだろうと、問い掛けるようにざわめく赤い想いの残滓たち。
「ええ。ええ、成れますとも!」
そして道を、光を歩きましょうと頷くミルナ。
ならばこそジゼルへと集う記憶と思いも、またジゼルの心と響き合うものたち。
「誰かを愛し、守りたいと願った記憶」
焦がれなかった訳できない。
悔やんだことも、哀しんだことだってある。
けれど、そんな事で曇らないほどの愛する気持ちが鮮やかなる花のように揺れ続けている。
決して、決して、この想いは散ることはないのだと。
例えどれほどの涙と血が零れても、世界が滅び去ったとしても、この記憶は常に在り続けるのだと。
愛するという感情と記憶はあまりにも美しく、途方もなく尊いもの。
ジゼルは最近そう改めて実感したばかりだからこそ、強く心に響くのだ。
なんて美しい情念たちだろうかと、闇に啜られ、贄とされてよいものではないと強く抱きしめる。
ジゼルはまだ、これほどまでに綺麗な他者を想う気持ちを、心が奏でる愛という音色を知らないけれど。
いつかきっと、知りたいと思うのだ。
それがどれほどに切なく、痛みを伴うものだとしても――この胸で咲き誇らせたい。
喉が枯れるまで、愛というものを歌い続けたい。
願わくば血の記憶たちに届けと紡がれたジゼルの歌に共鳴するように、記憶と思いが伴う力が集まり出す。
そうして真の姿へと変わっていく。
ジゼルの外見が大人びて綺麗になくなっていく。
灰色の髪は腰まで伸びると共に、まるで月の輝きを宿したかのような銀色へと変わるのだ。
そうして青いドレスを纏い、硝子の靴を履いたプリセンセスの姿こそが、ジゼルの真の姿。
そうして手を繋ぐミルナをみれば、彼女の姿も変わっていた。
「さあ、行きましょう」
囁くは美麗なる王子様のような姿。
ピンクのグラデーションの髪は、水のようなセイレーンの髪となって柔らかく靡き。
人魚の尾びれは人間の足となって、大地を踏みしめ音を鳴らす。
「ええ、行くわ。何処までも」
闇の深奥を見つめて、なお恐れることなく。
足を踏み出すふたりを止めるものなどありはしない。
ジゼルが奏でるは|烈火激情の狂想曲《パッショーネ・カプリチオ》。
激情の炎が鮮烈なる赤き彩を渦巻かせ、周囲の鮮血を蒸発させていく。
かつて出逢った悪夢の激情。
天さえ焦がす程の愛に、憧憬を抱いたからこそ紡がれるジゼルの奇跡の御業。
「君達は焦がれるほどに誰かを愛したことがあるか?」
魂鎮めの歌に乗せ、語りかけるように紡ぎ上げていくジゼルの声色。
歌は世界に響き渡り、血の記憶たちは賛同する。
「たとえ肉体は滅びても、愛した記憶は残るんだ」
火葬を経て、例え灰となっても。
そうして風に吹かれて、世界中に散ったとしても。
記憶と思いは、魂というものは不滅として残り続ける。
ましてやそれが、尊くも美しき愛ならばなおのこと。
そした愛を理解出来ぬ憐れなる|災厄の元凶《オブリビオン・フォーミュラ》たる祈りの双子を焼き尽くすのだ。
「ええ、ジゼルの言う通り。……そして、不滅なるは愛の記憶だけではなく、人々の命もまた」
輝くように繋がり続けるのだと。
だって、私のような存在が、必ずや世界にはいるのだと。
青き燐光――守りたいという願いを抱いた記憶の力と共に、ミルナが呼び出すは星霊グランスティードの一柱たるパライバ。
誇り高く嘶く騎馬にミルナが騎乗すれば、海のように碧い雷光を伴い、勇猛なる旋律と共に一気に駆け抜けていく。
その姿はまさしく電光石火る
呼び出された血管獣を躱しながら祈りの双子に肉薄し、ミルナは己が意思に呼応して光輝く細身の剣を掲げてみせる。
刃に纏うは海の色彩を持つ雷光。
それを以てミルナが道を切り拓けば、ジゼルの激情の炎渦が続く。
祈りの双子がそのふたつを阻むことなど出来ず。
悲憤と憎悪を纏う祈りの双子へと振るわれる思いの力。
「この雷光にて、闇を切り裂いてみせますわ!」
悲しき過去を打ち払い、抗う今へと繋がり。
そして未来へと響く雷光と炎渦の音色が、祈りの双子という闇の災禍を祓う。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
金髪に紫の目の王子様
こっちになるの久々だな
血は良い媒介だけど、よくまあこれだけ集めたもんだよ
付き合いたい奴がいるなら誰でも受け入れるよ
血と魂の限り証明する気があるなら、来い
――「世界は愛と希望に満ちている」。そうだろ?
【故地】に平伏せよ
とは言っても今日の私は専守防衛
嵯泉と、嵯泉と私の記憶が呼び起こした奴も
全員傷一つだってつけさせないよ
ダメージはツケ払いだから私も最低限命を落とさないよう立ち回る
鱗と呪詛で防御しよう
幸いここには呪詛の源が沢山ある
嵯泉を泣かせるわけにもいかないし――なんてな
人を玩具にすると碌な末路がないんだって教わらなかったか?
ないなら、そうだな
私たちが教育してやるよ
鷲生・嵯泉
【相照】
(真の姿は赤瞳が金瞳へ)
ああ……あまり其の姿では会っていないな
しかし態々血を掻き集めておくとは、随分と手間の掛かった真似をするものだ
救済者たらんとした心……なればこそ私の声に応えるがいい
過去の残滓を討つ刃の光を、闇を焼き払う竜の息吹を目指せ
護るべきものと共に。「世界は愛と希望に満ちている」のだから
矢張り反動のある事を無視出来ん
我が竜の護りに不覚は無くとも、其の身に害及ばせるは伴の名折れ
刃雷風裂――至る前に落ちろ
引き上げた反射と感能力で攻撃個体の方向と速度を計り
四肢と首を重点的に狙い、斬り崩して隙を作る
呉れるは飛刃を全て束ねた全力の斬撃
ああ、確と身に刻み教えてやろう――此れが其の末路だ
命の赤、生命の色。
ああ、これは誰かの人生から零れ落ちたものなのだ。
流れ出した果て、行き付く先として闇深き地で鮮血が脈打ち続ける。
誰か、誰か。
この想いを汲んではくれないかと。
例え死という終止符が打たれて尚、褪せることき情念が渦巻いて巡りゆく。
例え猟兵であれども、これほどの想念を受ければ真の姿に変わらずにはいらなれないほど。
夥しい魂と情動の流れが此処にある。
「こっちになるの久々だな」
金色の髪に、紫の眸の麗しき王子様の姿となったニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)が小さく呟いた。
姿形、色まで変じたとしても中身は変わらない。
生きる者、死した者。両者の情念を編んで紡ぐ呪焔を操るもの。
そして幼さに似た臆病なる精神性を奥底、深き場所に隠すもの。
「ああ……あまり其の姿では会っていないな」
そして、常に傍にあるこの声があれば幾らでも立ち上がれるものがニルズヘッグだった。
横を眺めれば、石榴色の隻眼が陽光を弾くような金に染まり変わっている。
けれど、そこにあるのは護るが為に変わらぬ烈士にして侶なるもの。
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が雄々しくも凜々しく、その身を前へと向けていた。
一歩、一歩と鷲生が踏み出せば、ニルズヘッグもただ悠然と続くのみ。
日輪と月輪。ふたつが並べば、護れぬものはなく。
掴み取れぬ明日と未来などある筈がないのだ。
故に、血に宿った記憶が流れ込むこの大地に辿り着けば、するりと静かに眸を集まった鮮血たちへと向けた。
「血は良い媒介だけど、よくまあこれだけ集めたもんだよ」
これほどまでに。
ひとつの世界に流れ、大地に染みこんだ血液を一カ所に。
さながら深紅の海が佇むかのようで、或いは、深緋の煉獄が揺れているかのよう。
これを全て操り、贄とするのならば祈りの双子力は如何ほどのものとなるのか。
情念こそを力とするニルズヘッグも思案に至るように僅かに眉を潜めてみせた。
「しかし態々血を掻き集めておくとは、随分と手間の掛かった真似をするものだ」
逆に言えばこれとぼの手間をかけ、万全を期したということ。
それほどまでに祈りの双子は猟兵の力を驚異と見なし、全力を出さねばならぬと恐れたということ。
「ならば、その思惑も更に越えて暮れよう」
緩やかに、けれど周囲に響き渡るほどに強く声を響かせて鷲生は鮮血と向き合う。
そこに宿り、溶け込み、己の名さえ思い出せない記憶たちへと語りかけるが為に。
受け継いで欲しいというのならば、この言葉に自ら応じてみせよと鷲生は常闇を前にして不動たる武心を顕わにする。
「救済者たらんとした心……」
例え道半ばで果てたとしても。
願い叶わず、残滓となり果てたとしても。
それでもまだこの心、想いは赤き色彩の中で輝くならば。
お前達は敗れ去り、消え去ってなどいないのだ。
再び立ち上がり、私達と共に剣を執れ。
その勇気を、信仰を、矜恃を胸に血の奥底から立ち上がれる強さがあるならば。
「なればこそ私の声に応えるがいい」
そう呼びかけるはまさに義に生きる将の様。
かつてひとつの城を預かり持つ者であったという毅然たる強さが、果てた者たちに輝きを取り戻させる。
「過去の残滓を討つ刃の光を」
血の赤さのみではなくかつてあった己という色彩を伴って、鮮血の淵から立ち上がる。
「闇を焼き払う竜の息吹を目指せ」
滾る血は溶け込んだものではなく、己が者であると胸を張れ。
このダークセイヴァー最大の決戦の開幕を告げるは鞘走りて放たれる秋水の切っ先が奏でる澄んだ音色。
「護るべきものと共に。『世界は愛と希望に満ちている』のだから」
そう宣誓すれば、形を為せぬ者さえも鷲生の心身に記憶と力を託していく。
ああ、ならば善し。
これより為すべき事を成すのだと頷く鷲生の清冽なる剣客たる姿が、闇の気配を退ける。
そこに頼もしさを感じて微笑むは、ニルズヘッグの紫色の双眸。
日輪たる鷲生のような輝きを自らは持てずとも。
月輪たるニルズヘッグだから、響き合う記憶とてあるのだ。
「――付き合いたい奴がいるなら誰でも受け入れるよ」
影に潜み、夜に生きた。
決して胸を張れるような生き様ではなかったけれど。
胸の奥にある大切の為、それでも生き抜いたのだと昔日に在りし者たちの心が鮮血の奥底より蘇る。
誇り高き志なんて云えない。
でも、それでもよいのならばと立ち上がる情念へとニルズヘッグは指先ほを伸ばして、柔らかに微笑む。
「血と魂の限り証明する気があるなら、来い」
形を為せぬほどに朧であっても。
それは自分より大切なるものがあったから。
血を流し、魂に疵を負い。
それでもなおと諦めず、他者が魂の幸福を祈った影なる強さが響き渡る。
まさにニルズヘッグへと共鳴するが如く。
――ああ、やめてくれ。俺はそんなに素晴らしいものじゃない。
そう笑ってしまうが、他者がどう想うかはまた別物。
傍らの鷲生もそれでいいと頷いているのだから、きっとそれでいいのだとニルズヘッグも眦を決した。
誇れぬ己でも。
いっとう大切なる誰かの為に。
「――『世界は愛と希望に満ちている』。そうだろ?」
歌い上げたニルズヘッグの声に、静かなる喜びの気配が広がっていった。
ああ、故に。
此処までの光をみせつけられて、祈りの双子が動かぬ訳がない。
ふたつの唇から、昏き祈りの声が異口同音として流れ出した。
『いいや、世界は悲しみと絶望で満ちさせた』
この赤き血はその証拠と、夥しい血の記憶を贄として召喚されるは血管獣たち。
牙を以て吠える。
刃が殺意を宿す。
此処は残酷なる、私達の常闇の箱庭なのだと傲慢なほどのふたつの隻眼が爛々と輝いていた。
だが、そんな悪意に愛しき者を晒させなどしない。
「さあ、【故地】に平伏せよ」
告げられた詠唱はニルズヘッグの姿を更に変貌させる。
身を蝕む呪詛の裡に封じていた筈の白金の炎を纏う白竜と合体し、一時的にほぼ無敵となった身で前へと踊り出す。
「越えられるものかよ、この私を。これだけの呪詛の集まる場で」
とはいえど、今のニルズヘッグは専守防衛。
鷲生、そしてふたりが呼び出した記憶たちを傷つけさせないのだと襲いかかる血管獣たちへと向き合う。
襲いかかるは早く、恐ろしく強い獣の顎。
全ては無傷であっても、負傷やダメージがツケ払いとなっているだけだ。故に急所を庇いながら、鱗と呪詛で身を守る。
幸いな事に、此処は呪詛の源となる鮮血が使い切れない程に溢れているのだ。
故に牙は呪詛を纏った鱗を貫けず、例え削られたとしても血の海から更に力を引き寄せ、編みだし、身に纏い続けるニルズヘッグ。
言わばニルズヘッグと祈りの双子との鮮血が宿す情念、贄の奪い合い。
「嵯泉を泣かせるわけにもいかないし――なんてな」
そう戯けたように口にしてみせるが、決して戯れ言ではない。
真実、彼を哀しませない為に、傷ひとつ受けてやるものかと祈りの双子を、そして血管獣たちを睨み付ける。
そして、鷲生はそれを良しとただ眺める男などではない。
ニルズヘッグの無事と力を信じていない訳ではないが、彼の身に害を及ばせるなど伴の名折れ。
矢張り反動のある力を無視も軽視もできず、が、同等の信頼を置くが故に鷲生の至った結論はただひとつ。
一瞬の好機を逃さず、奔る烈刃にて終を刻め。
「刃雷風裂――至る前に落ちろ」
引き上げられた反射と感能力で、ニルズヘッグに攻め懸かる全ての血管獣たちを認識する。
例え死角にあっても戦場の熱で鍛錬された直感、常時研ぎ澄まされた第六感はまるで天が曳いた網のように悉くを、そしてその未来の動きさえ捉えてみせる。
そして駆け抜け様の一閃を以て、鷲生は伴を害しようとする頸の全てを斬り払っていくのだ。
瞬く白刃。
血霧を後方へと置き去りに、言葉も交わさずとも白炎と呪詛伴うニルズヘッグと祈りの双子へと一気に跳躍する。
迎え撃つ祈りの双子のふたつの切っ先。
深き闇を宿したそれは、断頭台の如き無慈悲な鋭さをみせて鷲生の頸元へと迫るが。
「人を玩具にすると碌な末路がないんだって教わらなかったか?」
それを阻むニルズヘッグの両腕。
鱗と呪詛を共に貫かれたが、無事である事には変わりない。
痛みが後から襲えど、また鷲生が握って撫でてくれるならば何ら疵として残る筈はないのだと。
いいや、この腕は護る為にもあれたのだと僅かに淡い誇らしさを感じて、瞼を閉じる。
残すは、ただ信頼のみ。
『知っているとも。私たちは、その末路を辿らず、故に、私達にその結末は無いと知っているだけだ』
傲然とした声を紡ぐ祈りの双子。
「ないなら、そうだな」
両腕を跳ね上げ、祈りの双子が操る刀身を弾き飛ばすニルズヘッグが告げる。
彼ならば、鷲生ならば全てを為してくると信じているから。
「私たちが教育してやるよ」
そうして祈りの双子の身に迫るは鷲生の手繰る秋水の鋭利なる刃。
災禍断ちて護るが為だけにある刀が、白露の如き光を帯び流れ過ぎていく。
全ての飛刃をその刀身にと束ねて纏い、鋼を断つ剛剣が龍の如く吠え猛る。
だが音速を遙かに超えた斬撃は、それを鳴らした時には全てを終えているのだ。
もはや全ては過去のこと。
最古の残滓ならば、やはり疾くと消えよ。
「ああ、確と身に刻み教えてやろう――」
ただ澱みとして残った闇よ。
光として残った記憶、熱を持つ想いにて斬り散らされよ。
「此れが其の末路だ」
世界を箱庭の如く弄んだ傲慢なる闇の魂がふたつ。
一振りの刃にて断たれて、自らも鮮血の海へと落ちていく。
無情なる世界の果てへと消えゆくかのように。
闇へと消えれば、どうなるか……それは祈りの双子たちがどうしてきたかという過去が因果応報と告げるだろう。
故にあとは、望む世界と未来へと手を伸ばすだけだと、優しげなふたりの視線が交差した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
高柳・零
【翠蝶】アド、共闘可
WIS
檪さん、怪我は大丈夫ですか?
その身体でも戦う理由があるなら、止めはしません。自分が守りますので、存分に戦ってください!
この戦場には裸足で行きます。
血の記憶からはレジスタンスだった方の記憶を見つけ、話しかけます。
「自分は人々の盾になる聖騎士です。あなたも大事な人を守るために戦ったんですね」
「この地では力及ばず救えなかった人々も沢山いました。ですが今、そんな時代を終わらせるチャンスです。力を合わせて戦いましょう」
そして真の姿…手足が生えた使い古されたノートになります。
自分は大丈夫です!
檪さん、行きますよ!
檪さんの想いのこもった「音」を受け、先ずはオーラ防御を自分と檪さんの周りに球状に張り、両手に盾を構え血戦兵器に備えます。
もし「音」で強化したオーラが破られたら、檪さんを庇いつつ盾で受け、激痛耐性で耐えます。
双子の攻撃を凌いだら空中浮遊で浮き、足の「指」を5本ずつ双子のそれぞれに向けて空から光を落とします!
このための裸足です。
「檪さんの正義は果たせましたか?」
檪・朱希
【翠蝶】
別の依頼で怪我を負ってしまって、少し覚束無いけれど、彼女達は倒さなきゃ。
だから、零が来てくれて助かった。ありがとう。
蝶が煌めくオーラ防御を纏う。これ以上のダメージを防ぐために。
血の記憶には『音』が沢山ある。
誰かが、呼んでる?
1人は、よく聞き慣れていた研究員の、お父さん代わりだった人の『音』。故郷の村で、血の中に沈んでしまった人。
「……大丈夫、いつも見守っているよ」
でも、あれ?もう1人? 女性のような『音』。イチイ、と呼ばれるけれど、底知れない恐ろしさがある。聞きたく、ない。
今記憶を辿るのは|研究員《お父さん》の方。そして、真の姿を解放!
いつもの、紫と橙の翅を広げて降り立つよ。
零は、大丈夫? 古いノート……それが零の真の姿なんだね。
ここに流れるのは、私と|研究員《お父さん》の温かな記憶も、確かにある!
想いを歌にUC発動。戦闘力を高めて、零の援護に回る。庇われたら、ごめんと呟いて、せめて【霞】で振るう斬撃波で双子を攻撃。
または、【暁】で射撃し貫通攻撃を!
私の正義、果たせた、のかな。
開いた傷口から、溢れ出す痛みと鮮血。
戦場で戦い、動けば動くほど。
理不尽に抗い、もがけばもがくほど。
止まることのない命の赤が零れ落ちては闇に染まっていく。
ああ。
それでも、それでも止まることはできないのだと。
高鳴るような、切ないような、そんな自らの鼓動の『音』を聞いて檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)は真っ直ぐに前を向いた。
黒と赤のオッドアイ。
そして艶やかな黒髪にも赤が混じるその姿。
かつては悪魔と呼ばれたとしても――今は闇と戦う、ひとつの光の姿に他ならない。
たとえ太陽や星のような煌めきを持っていなかったとしても、誰かに届く優しき旋律として。
だから別の戦場で負傷してなお、歩みを止めない櫟。
覚束ない足取りであっとしても心と気持ちは強く、ただあの祈りの双子を倒さなければいけないのだと決意を深く抱きしめて。
「檪さん、怪我は大丈夫ですか?」
そんな櫟の傍で歩き回るのはテレビウムの小さな身体。
けれどパラディンとして確かな守護と光の気配を纏う高柳・零(テレビウムのパラディン・f03921)だった。
「その身体でも戦う理由があるなら、止めはしません」
ぺたぺたと素足で大地を踏みしめる音を奏でながら。
痛みを堪え、先へと進もうとする櫟を応援する小さき聖なる騎士。
「自分が守りますので、存分に戦ってください!」
小さな、小さな身体に込められないほどの思いを、勇気を、優しさを。
声に滲ませ、手を振る零に櫟もゆっくりと頷く。
「零が来てくれて助かった。ありがとう」
いえ、とんでもない。
当然のことをしているだけですと頷き返す零に、櫟は小さく笑ってみせた。
ああ、この零の『音』も悪くない。
好きで、大事で、とてもよいものだと余韻に浸りながらも櫟はすぅと息を吸い込む。
そして静やかな吐息に合わせて櫟の周囲に舞うは、無数の蝶が煌めくオーラによる防御。
これ以上、傷つく訳にはいかないのだと。
それでも進み続けるのだと、右首筋にてうっすらと色彩を表す赤い蝶模様の刻印。
過去の跡であり、異能の力の源なれど。
今は未来へと背を押す優しい気配を滲ませていた。
そうしてふたりが辿り着く鮮血の海。
夥しい程に溢れかえる血の記憶からは櫟に沢山の『音』を届けていた。
感情。情動。思念。
消え去らぬ想いというべき、形なく音もない魂の囁きたち。
「誰かが、呼んでる?」
そう感じるのは櫟の体質のせいなのか、それとも、心のせいなのか。
瞼を閉じて耳を澄ませば、届くのは穏やかな男の声。
よく聞き慣れていた研究員の、父親代わりだったひとの『音』。
故郷の村で、こんな血の海へと沈んでしまったひとが、変わらぬ優しさで語りかける。
決して苦痛や悲劇なんてなかったように。
いいや、そんなものがあっても心は変わらず在り続けるのだと。
『……大丈夫、いつも見守っているよ』
そう子守歌のような旋律で告げる男性の声に、櫟は僅かに呼吸を詰まらせる。
嬉しくて、切なくて。
安らぎを覚えるけれど、胸に痛みさえ走るから。
ああ、けれど。
言い表す言葉が見つからなくて、より耳を澄ませばもうひとつの『音』が聞こえる。
女性のような『音』。
イチイ、と何度も呼びかけられるけれど、それは虚空から響き渡り、そして影へと消え去って行くような恐ろしさを感じてしまうのだ。
イチイ、と。
応じるまで何度でも、何度でも。
強まるそのおんなの『音』から逃げだす櫟。
――聞きたくない……!
なぜそんなに強烈な拒否感と恐怖が出るのか。
その正体を確かめることさえ怖くて、ただ今は櫟は|研究員《お父さん》の方へと記憶を巡らせ、潜っていく。
忘れ果てた訳ではないけれど。
きっとそのおんなの『音』は何処までも付いてくるけれど。
今はいいのだと、優しく頭を撫でるような男の『音』に身を任せて。
そうして瞼を開けば、真の姿へと変じる櫟。
いつもの紫と橙の翅を。
繊細にして美しく、夢のように儚くとも、悲劇と現実を越えていく為の蝶の翅を広げるのだ。
そうして、零もまた自らの道を以て血の記憶と向き合い、巡り会う。
探し当てたのは闇と抗い、戦い続けたレジスタンスだったひとの記憶、そして感情と魂。
もう自らの名も覚えていなくとも。
斯くあったという事を誇るのか、未だに盾を掲げるその姿に零はゆっくりと声をかける。
「自分は人々の盾になる聖騎士です。あなたも大事な人を守るために戦ったんですね」
するとゆるりと首を振るわれる。
戦ったのではなく、今もまだ戦い続けているのだと。
――諦めない限り、終わりではないだろう?
そう命を落とした筈の存在が零に呼びかけるから、零もまた小さく頷く。
「この地では力及ばず救えなかった人々も沢山いました」
その言葉に激痛を覚えたように、レジスタンスだった存在は表情を曇らせた。
ああ、そうだった。
護りたい、護りたい――救えなかった命は沢山あって。
それでもと救済を祈り続けたこの想いは、確かに未だにあるのだ。
そうして、零のような存在に受け継がれていることに、微かな希望と救いを血の記憶は見出し。
「ですが今、そんな時代を終わらせるチャンスです。力を合わせて戦いましょう」
そう呼びかけられれば。
もしもこれが悲劇と惨劇の終わりであればと。
奮い立つ、祈りの記憶。そして、そのひとりに応じるように、レジスタンスだった者たちの記憶が零の周囲に集まり出す。
想いは全てに先立つ力であり。
世界を巡って、またひとりひとりへと帰って行くのだと。
けっしてひとりきりで世界は成り立つのではないと、ぬくもりを感じる思いに包まれ、零もまた真の姿へと変わっていく。
それは手足のはえた使い古されたノート。
きっと沢山の想いと、願いと、夢が綴られ続けたもの。
そう信じさせるに足りる優しい想いが滲む一冊こそが零の真実の姿だった。
「零は、大丈夫?」
そう櫟が呼びかければ、ぱさりとノートが開く。
「古いノート……それが零の真の姿なんだね」
そう櫟が囁けば、唇も喉も声帯もなくとも、ただ想いを『音』にして零が語り出す。
「自分は大丈夫です!」
そうして前へと、闇の深き所へと。
「檪さん、行きますよ!」
祈りの双子へと戦う為に、零は臆することなく進むのだ。
ならば櫟も応じよう。
想いを歌にしていくのは、ただユーベルコードを紡ぐだけではない。
ここに流れるのは、自分と|研究員《おとうさん》の暖かな記憶も確かにあるのだから。
それを歌声に乗せて、力だけではなく想いと記憶を響かせて。
淡くも優しく、何処か切ない追憶のような希望の旋律を響かせるオルゴールの音色こと『旋律・朱彩の希望の調べ』。
戦闘力を高める旋律は、零の援護と成る為。
そうして力を増した零は球体上にオーラによる防御を張り巡らせ、両手に円形の盾である『天霧の盾』を構えて祈りの双子を迎え撃とうとする。
『ああ、希望か。よく聞いた音色だ。――そして、それが朽ちる音もまた、夥しい程に聞いた』
そう口にする祈りの双子の手元に形作られていくのは血戦兵器。
まるで巨大な槍がふたつ。
それぞれの手に握られ、穿つべしと零と櫟にその穂先を向ける。
『しかし、何故だろうな。希望の朽ちる音とは、飽きる事がない』
故に聞かせておくれよ。
なあ、その為の喉と唇だろう。
この血に溶けた者たちのように。
『それがお前達の存在意義だ』
傲然と、傲慢と。
そして他者を踏みにじる闇の波動と共に告げた祈りの双子の血槍が零へ櫟と放たれる。
強固なる守りを持つ筈のオーラ防御の結界と鬩ぎ合い、削り合い、そしてついには貫通して迫る二つの穂先。
けれど。
「櫟さんは傷つけさせません!」
いいや、櫟ではなくても。
他の誰であっても、自分の前では必ず守るのだと零が決意を込めて盾を掲げる。
激突する血戦兵器と盾。
人殺しの武器と、人護る為の盾。
どちらが勝るのか。存在すべきなのかと激突し、譲らぬ存在意義。
もしも――ひとりだったならば、零の盾は貫かれていただろう。
だが、櫟の援護と、彼女を護るという零の意思が、限界を越えた力となって盾を支え、ついに血槍が先端から砕け散る。
『ほう。諦めないのは流石は猟兵。今回はよりいっそうしぶといのか』
そう呟く祈りの双子は、けれど全力での攻撃の直後で隙を晒している。
ならばと空中へと跳ぶ零。
翼はなくとも空を飛ぶその姿に。
「ごめん……」
けれど、有り難う。
そう呟きながら、片手に蝶の翅の如く軽やかなる霊刀たる『霞』を。
そしてもう片方の手に拳銃【暁】を携え、屈むような姿勢で前へと出る。
橙の蝶たる守護霊【耀】の力により増した威力で穿ち、斬り払うべく踊るように前へ前へと跳ねる櫟。
そして空へと跳んだ零もまた足の指先を祈りの双子に向ければ、再生を封じる天からの光を放つのだ。
さながら大地の風と、天からの光明。
天と地から同時に放たれた攻撃に祈りの双子の身体が捉えられる。
霞を舞わせる斬撃は幾重にも切っ先を瞬かせ祈りの双子を斬り刻み、音なく射撃される拳銃の威力もまた神霊に至るほどのもの。
切っ先が蝶の翅のように瞬けば、終わりを告げるよう蝶のようにひっそりと弾丸がその身に止まるのだ。
そして、零が放った天より降り注ぐ光の柱は闇の元凶たる祈りの双子を捉え、まるで浄化するように灼き払っていく。
再生は許さない。認めない。
これが光と、そして虐げられて、痛めつけられて。
傷をおいながら前へ、前へと進み続けた者たちの望みであり、明日へと繋げる光なのだと。
「檪さんの正義は果たせましたか?」
そうして大地に降り立った零が櫟に聞けば、彼女は緩やかに微笑んだ。
「私の正義」
そう、正義というほどに正しく、立派なものなのか。
強くて誇らないものなのか。
そう強く信じることは出来ずとも、ただこれは自らの心と『音』に従ったことだと櫟は心の深い所で感じて、瞼を閉じる。
「……果たせた、のかな」
きっとそう。
正義ではなかったとしても。
これは優しき希望に繋がる道なのだと。
信じ抜いた想いが、いつか記憶と『音』となり、世界へと鳴り響いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
的外れも甚だしいわねオブリビオン
強さの源など千差万別だというのに
一つ教えてあげる。私の根源は“怒り”よ
敵UCは【虚実反証】の因果反転で打ち消す
魔神の魂の《封印を解く》事でオーバーロード
《略奪+ハッキング》、敵から支配権を奪う要領で鮮血に干渉し呼び掛けましょう
オブリビオンに立ち向かった騎士
世の安息を祈った聖者
理不尽に虐げられた人々
こんな世界ではどれも日常。
斃れた一人一人の無念がどれ程のものか、そんなの痛いほど思い知っているわ
此処に|その元凶《フォーミュラ》が居る
|過去《オブリビオン》を駆逐する為に研ぎ続けた牙が届く距離に居る
ならば。
死して鮮血となった貴方たち。
理不尽と戦った先達、護れなかった人々、その全ての叫びを背負い代わりに叩きつけてあげる
敵の動きは《戦闘知識+第六感》併せ《見切り》先読み対応
攻撃には|装備[第六神権]《世界に仇為すものを拒絶する破壊》の《神罰+属性攻撃》を纏わせ威力を底上げ
《空中戦》の機動力を活かし羽の《誘導弾+蹂躙+弾幕》
或いはダガーと蹴技の《早業+怪力》で殺し尽くす
深き闇の奥底、或いは夜天の果て。
どちらにせよ昏く澱みし気配は、邪悪さそのものとして漂う。
その中心は海の如く広がった夥し鮮血が形作る海。
ああ、その裡より苦しみと悲しみが聞こえる。
潰えた希望と願いが悲鳴となり、冷めることのない悲憤と怨嗟が今も唸っている。
心弱きものが踏み入れば、それだけで気が狂いそうになるほどの濃密なる禍々しさ。
ましてや、|災厄の元凶《オブリビオン・フォーミュラ》たる祈りの双子が待ち受けているのだ。
これより始まるのは常闇の世界をかけた決戦。
されど。
祈りの双子が放つ闇の気配を冷たく一蹴して、薄紅色の眸が瞬く。
「的外れも甚だしいわねオブリビオン」
胎動するような暗黒の波動に恐れることなく。
むしろ勘違い。ただ悲嘆に暮れるのは弱さであると告げるはカタリナ・エスペランサ(望暁のレコンキスタ・f21100)。
「強さの源など千差万別だというのに」
なにひとつ、心というものを理解していない。
だから最古でありながらも最弱の存在であるのだと、数多ある想いの強さを示すカタリナ。
その中でも、カタリナの裡でもっとも強く輝くのはこの鮮血たちよりもなお赫く燃え上がる情念。
「一つ教えてあげる。私の根源は“怒り”よ」
そう口にして鮮血の記憶に触れようとすれば、溜息に似た声色が祈りの双子から紡がれる。
『悲しみ、憎しみ。ああ、怒りもあったか。結局は私が廻して巡らせる惨劇の世界の端にいるだけに過ぎない』
そういって鮮血を操りながら続ける祈りの双子。
『お前の怒りも、元は悲しみであり、苦しみであり、何より心の闇が産んだ血なのだ』
まるで呪いのように語られる祈りの言葉。
これこそが鮮血の祈りとして示される闇の奇跡。
『故に、怒りに取り憑かれたお前の心を、私の言葉が壊す』
祈りの双子が紡ぐのはあらゆる行動に成功する、災厄の宣誓だった。
膨大な鮮血の海が広がる以上、代償の支払いに失敗する事など皆無。
世界の命の零した全てを掻き集められた以上、単独で世界そのものと向き合っても敗北しかないように、祈りの双子を越える事は出来ない。
ああ、そんな当然の因果だからこそ。
絶対とさえ云える事実だからこそ。
『絶対なんてものは“絶対に”存在し得ない――なんてね?』
気づけばカナリアの身が影法師へと変じている。
それは確定した因果を反転させ、無力化させる存在への変貌たる【虚実反証】。
これではただ互いに相殺するだけにかないユーベルコードの衝突だが、ほぼ無条件の必殺を回避できた事はカナリアにとって大きな事実。
何よりも掴むべき勝機だった。
故に己に宿る魔神の魂を解くことにより、至るのは存在としてのオーバーロード。
「怒り。そう、怒りだからこそーー真っ向から打倒してあげる」
そうそてカナリアは満ち溢れる魔力をもって周囲を浸食するように祈りの双子の領域と空間の支配権を奪っていく。
当然、それは贄としてある筈の鮮血への干渉力と支配力さえも。
捧げる代償と贄がなければ、鮮血の祈りは永遠に不発。加えて、カナリアが影響を奪い取った鮮血へと強く響かせるように呼びかけていく。
広く、そして深く。
何処までも広がっていく血の記憶という空間。
誰彼構わずこの世界で流れた生命と記憶、感情が集う場所。
その中ではオブリビオンに立ち向かった騎士がいた。
決して叶わないと知りながら、もはや砕け散った剣を振りかぶり、盾と鎧ごと心臓を穿たれる。
そうしてまた別の誰かがいた。
祈りを捧げる清貧なる聖女は、ただ最期の瞬間まで世の安寧ばかりを願っている。
そんな姿を嘲笑するように振り下ろされた鉄塊剣は無惨なほどに、原型を留めぬ肉へと変えてしまった。
祈ることさえ、この世では満足に出来ないというように。
理不尽に虐げられた人々は逃げだしていた。だが、その大地は灼熱に包まれ、足から火だるまと化していく。
いいや、大地に触れた足だけが燃えていくから、燃え盛る手足で走り続けるしかなく、苦痛に耐えかねて転んだら最後、全身が炎に包まれた。
そうして、全ての記憶の中で愉悦に満ちた嘲笑が響いている。
これら全て、全てがこの世界では当たり前の日常。
力なきは罪だと言わんばかりに、全てを壊していく惨劇はまるで闇色の嵐のよう。
狂乱と狂騒。そして闇のものたちの笑い声が響いていく。
そうして傷口溢れた血は大地へと染みこみ――此処へと集った。
「ああ」
解るとも。理解できるとも。
斃れた一人一人の無念がどれ程のものなのか。
そんなもの、カナリアは痛いほどに思い知っている。
それでもと続けて、繋いで、命と光を消さないようにと戦い、抗ったこの世界。
でも、僅かでも旗色が妖しくなれば、目の前の祈りの双子は全てを鮮血で洗い流すのだという。
そう、斃れた一人一人の痛みなど感じたくもないのだと。
笑いながら斃れた人々の死に様を見続けることこそ、私達の義務であり、特権なのだと。
「許せる訳がないわよね?」
繰り返し続けた闇の|元凶《フォーミュラ》がそこにいる。
それでもと戦い続けたからこそ、|過去《オブリビオン》を駆逐する為に研ぎ続けた牙が届く距離に相手は居るのだ。
ならば。
そう、ならばこそ。
「死して鮮血となった貴方たち」
静かながら、まるで熾火のような熱を込めた声色で。
ひっそりと憤激の歌を囁くカナリア。
理不尽と戦った先達よ。
護れなかった人々よ。
もはや影さえなく、血の記憶に溶け込んだ世界の涙よ。
「その全ての叫びを背負い代わりに叩きつけてあげる」
湧き上がる慟哭は怒りの一色。
この悲憤を晴らしてくれと、鮮血の記憶たちが湧き上がってカナリアを真の姿へと届けるのだ。
これは報復が為に闇を裂いて羽ばたく、赤き不死鳥の翼。
たとえフォーミュラの作った夜天の世界とて、必ずや打ち壊すのだと数多の魂がカナリアと共に怒りを叫んでいる。
故に、踏み込みは最初からトップスピード。
音を置き去りにする疾走は、残像さえも残さない。
「今が応報の時よ」
祈りの双子、その隻眼がされどとカナリアの姿を捉え、それぞれが持つ剣を向けるけれど。
無数の戦場を踏破し、そして惨劇を覆して来たカナリアの戦いの記憶、そしてそこで築き上げられた第六感を越えられない。
見切りて先読むのはまるで未来予知の如く。
翼をはためかせて自由自在に空を飛翔するカナリアに、祈りの双子が流れるような連携で斬撃を放てど、ただ切っ先は空を切るばかり。
故に、自らが振るう『|第六神権《世界に仇為すものを拒絶する破壊》』に神罰と属性攻撃を纏わせて威力を跳ね上げる。
放たれるは憤怒に染まる魔神の御業。
立体的な機動力と速度で虚を突いた上での、羽のひとつひとつに神権と神罰を纏わせた誘導弾を放っていく。
全ては周囲一帯を蹂躙し、破滅へと化すように。
いいや、このような鮮血の大地。祈りの双子と共に葬るべきだと叫ぶように。
空間ごと握りつぶすように壊し、崩し、そして深き闇を越える。
高速戦闘の達人であるカナリアに、ついぞ祈りの双子の反撃は届かず。
「言ったでしょう。私の力の源は、“怒り”だって」
そう囁いて祈りの双子の背後へと滑り込むカナリア。
ダガーとレガリアシューズによる斬撃と蹴撃を幾度となく瞬かせ、祈りの双子の存在自体を揺るがしていく。
魂さえも斬り裂いて、打ち壊し、殺し尽くすのだと。
「受け止めて、受け止めて。まだ怒りは続くわよ」
更に重ねて第六神権を放ちながら、カナリアは刃に怒りの歌を奏でさせる。
決して許さない。
|あなた《祈りの双子》という存在をと。
世界に巡る血が灼熱の祈りを捧げていた。
大成功
🔵🔵🔵
シホ・エーデルワイス
アドリブ歓迎
私を助けてくれる血の記憶…あるのかしら…
前世で瘴気の汚染拡大を阻止し街を守る為
大勢を殺め
群衆に憎まれ処刑された末路が脳裏を過る
鮮血に潜り
私を恨む記憶に蝕まれ絶望し意識を失いかけた時
「シホ
目を逸らすな
君は前世で彼らを殺めただけではないだろ?」
厳しくも温かな剣の師でもある養父の声が聞こえる
「確かに君は守るべき人々を殺めてしまった
だが
それで助かった人も大勢いた
それ以前も君は吸血鬼の軍勢と勇敢に戦い人々の盾となった
たった一つの失敗で
シホの功績を努力を苦悩を全否定してはいけないよ」
目を開けると【剣星】と前世で所属していた騎士団の皆がいる
「大丈夫
僕達はシホが一杯頑張って厳しい修行に耐え
人々の笑顔を守ろうと奮闘する勇姿を傍で見てきた
今も皆で見守っているよ
でも今回は少し手伝おう
僕自身五卿六眼と手合わせしたいというのもある」
お義父様
皆
ありがとう
師匠の鼓舞で勇気を奮い起こし
聖剣を手に立ち向かう
血管獣は騎士団の皆が
祈りの双子は私と師匠で相対
フェイントを交えて貫通攻撃
真の姿は手足と首に枷を付けた咎人
闇の奥深くで儚く揺れる少女の魂。
美しい青の眸には確かな意思が、この世界を救いたいとう願いが秘められているけれど。
それは決して変わることのない、不朽なる祈りではあるのだけれど。
惑いで、恐れで、不安で淡く揺れてしまうのだ。
自らが何をしてきたのか。
この命を宿してから、ただ救済が為に身を捧げてきたけれど。
――所詮、この魂は咎人のもの。
その想いと罪悪感が拭い去れず、鮮血の大地に来てなお想いは曇る。
けれど弱さではないのだ。
それは清廉なる少女の魂だからこそ。
自分を許すということが出来ない、誠実なる心だからこそ。
迷い、苦しみ、唇を微かに震わせながらも、このダークセイヴァーを救う為に、咎人のごとく聖者の歩みを続けるのはシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)。
エーデルワイスの花を宿す、月灯りのような銀髪を風に揺らして。
白い翼をはためかせ、物憂う影を宿す美貌にて囁くシホ。
「私を助けてくれる血の記憶……」
そんなものは果たして、この世界に。
いいや、この常闇の世界だからこそ。
「……あるのかしら」
切実なまでの重さを伴った声が、夜闇に響き渡る。
前世では瘴気の汚染拡大を阻止して押し留め、街を護る為とはいえ。
無辜の民である筈の存在を、護るべき人々を大勢殺めた。
集った鮮血よりもなお、シホの手は赤く汚れているのだと。
今までシホの歩んできた道と、その困難さを想えば誰しもが否定する言葉を胸に浮かばせる。
そして脳裏に走るのは群衆に恨まれ、処刑された前世の末路。
正しきことをしようと。
救い、護ることにどれだけ想いと身を捧げても、決して消えることのなき罪の終わり。
ああ、それでもと。
もしもこの身が世を救う一助となるのならば。
そんな我が身を捧げる聖者のように、シホは鮮血の海へと身を投じる。
『愚かな。怒りに、悲しみに、憎しみと痛みに自ら飛び込むなど』
「……っ」
祈りの双子が告げた通り、鮮血の記憶の裡で渦巻いているのは怨嗟。
怒り、悲しみ、憎しみ。
守れなかった慟哭であり、奪われたが故の悲憤。
死しても尽きることのないひとの闇が、赤き血の中で巡り続けている。
これを力にしているのならばこそ、|祈りの双子《オブリビオン・フォーミュラ》に勝てる筈がないのだと痛感してしまうほど。
けれど。
ああ、けれど、シホは祈ることを止められない。
自らを恨む血の記憶に心身を蝕まれ、絶望と共に意識を失いかけても。
儚く、繊細なる一筋の光は、必ず誰かが見ているのだから。
祈りに応えるは天だけはない。
地の底に眠りしひとの心が、シホの手を掴む。
「シホ、目を逸らすな」
いいや、声が。
或いは瞼を閉じていても解る、清らかな天の星のような感情の色彩が。
シホを包み、身を蝕み苦しめていた血の記憶たちを打ち払うのだ。
ひとは恨むこと、憎むことをやめられない。
だが、その一方で救う為に生きようとするものがいるように。
そう、シホの今の、そして昔からの生き様の導った存在が、今もう一度声をシホへと届ける。。
「君は前世で彼らを殺めただけではないだろ?」
厳しくも暖かなる男の声。
ああ、と蒼い眸に熱い涙が滲む。
そう貴方がいた。優しさを以て私を導いてくれたひと。
だが、必ずしもシホの思いが正しいと断じるのではない――そう、過ちは過ちとして糺すひとが。
故に、その声がただの優しさや欺瞞ではないのだと心の底から信じられる。
剣の師にして、育ての親でもある養父。
「確かに君は守るべき人々を殺めてしまった」
それは事実として穏やかながらも真っ直ぐな声で呼びかけられる。
「だが、それで助かった人も大勢いた」
それもまた事実だろうと告げるのだ。
「それ以前も君は吸血鬼の軍勢と勇敢に戦い人々の盾となった」
シホに護られ、救われた命は数多とある。
それこそ数えきれない夜天に輝く星たちのように。
「たった一つの失敗で、シホの功績を、努力を、苦悩を。……全てを否定してはいけないよ」
シホに救われ、護られ、今を生きる人々がいるのだから。
有り難うの言葉と共に向けられた微笑みまで、否定しては駄目なのだ。
思い出して。
あなたの周囲に、今ある人達を。
彼ら彼女らはシホを咎めるのではなく、笑って欲しいと願う筈る
今だって、そう。
目を開けば、シホの周囲を囲むように【剣聖】と前世で肩を並べていた騎士団のみんながいる。
誰一人、欠けることなく。
笑顔だけではなく、シホの悲痛な祈りに心配そうな顔を浮かべるひともいるけれど。
ああ。
もう、大丈夫。
みんながいてくれるのならば――。
「大丈夫。僕達はシホが一杯頑張って厳しい修行に耐え、人々の笑顔を守ろうと奮闘する勇姿を傍で見てきた」
けれどと。
「今も皆で見守っているよ――でも今回は少し手伝おう」
剣聖の顔で、養父は告げる。
「……僕自身五卿六眼と手合わせしたいというのもある」
それは微かに残った思いか、願いか。
自らの手であの災厄の元凶を斬りたいという、末期の先に残った祈りなのか。
「お義父様、皆……ありがとう」
知らず涙が溢れてくる。
罪咎故に乾ききったと思ったと思った涙が、尽きることなく零れていく。
それでいいのだよと優しく見守られれば、流れ続け涙はただ美しい軌跡を描いていく。
でも、このままではいられないから。
義父であり、師である男の鼓舞を受けて、いいや騎士団みんなの思いを受けて、シホは鮮血の裡より立ち上がる。
掻き集めた勇気を胸に、そして聖剣を手にと立ち上がるは真の姿。
手首と首に枷をつけられた咎人なれど、周囲に漂わせるは清らかなる星の如き光たち。
『喜びとて、悲しみの前奏曲に過ぎん』
だが、そう断じて血管獣たちをけしかける祈りの双子。
騎士団のみんなの思いがそれを遮り、押しとどめるがそう長い時間は稼げない。
牙で穿たれ、血で蝕まれ、食い千切られ。
それでもシホの為に、この世界の為にと騎士団の記憶たちが懸命に戦う中、シホと師匠は祈りの双子の前へと躍り出る。
祈りの双子から放たれる邪悪なる闇の胎動。
真っ向より受けても、今のシホは決して恐れも揺らぎもしない
「どんな時も諦めるな、ですね」
「その通りだよ、シホ」
そうして先んじて瞬間移動の踏み込みを以て、祈りの双子へと斬り懸かる剣聖。
だが。
『遅い』
まさに一蹴。祈りの双子の刃が翻った瞬間、剣聖の胸部に二つの切っ先が突き刺さる。
最弱といえど闇のフォーミュラ。
決して吸血鬼と戦える程度では、いいや、代償が軽すぎる召喚では再現される戦闘力など知れている。
いいや、だとしても。
戦闘力は底が知れる程度でも、想いの程はどうなのか。
「僕は諦めるなと、娘であり弟子に教え続けたものでね」
剣を捨て、祈りの双子の腕を掴み拘束する男。
貫通した刃が更に傷口を抉っていくものの、その顔は朗らかでさえあった。
むしろ身を貫かせたのはフェイント。これからの事は娘に託しているのだと、小さく笑っている。
「剣聖が剣を棄てる? ああ、そんな事はない。僕の剣は――娘が継いだのだから」
「――っ」
「だから、彼女が君たちを断てば、僕が君たちを、災いの元凶を断ったということ。自分の手と剣ではなく、想いで為したその事のほうが……とても大事なんだ」
例え命が潰えても。
受け継がれ、繋がれ、そして果てることなく続く光。
果敢に踏み込んだシホが、涙を堪えながら聖剣の切っ先を繰り出す。
それは一直線に祈りの双子を貫く軌跡。
左右にそれぞれ逃れようとするも、腕を掴んでそれを阻止する剣の師。
|俺という名と栄光《ジークフリート》は残らなくて構わない。
けれど、シホの幸福とこれからを、光ある世界を願うから。
流星のように流れて奔るシホの聖剣の切っ先。
祈りの双子の身体に、そして闇の魂を深く貫いた。
消え去るは闇。
罪咎の意識は消え去らずとも。
ただ救いが為にこの身をおき、人々の為に進み続けよう。
そうして、みんなを忘れない為にと、シホは最後の一滴を零した。
大成功
🔵🔵🔵
クロム・エルフェルト
アドリブ等◎
唯静かに沈む
水底へ、血の底へ
彼女等は『この世界で流れたすべての血』と言った
ならば、屹度応えて呉れる筈
いつか私の刃で葬送った者達
今も尚、此の地で苦しんでいるのなら
どうか、眠りの妨げを斬り祓う為
きみ達の遺した想いも持っていく故――
第五の貴族に弄ばれ肉塊となっていたヒトたち
そして、嗚呼
人喰いのオブリビオンでありながら
「魔女」と呼ばれた愛しヒトを
最後まで食まなかった、獣のきみ
また、私と共闘してくれるの?
――清濁併せ呑んで猶清き大河の如く
人間も骸の者も、等しく此の地より地獄を祓えと願うのならば
その|意念《おもい》、此の剣に籠めるよ
真の姿、外見が変わるのは初めて(ステシ参照)
装いこそ無煩の天なれど
想いは大事と、気付けたから
剣に籠めた願いを力に変えて、いざ参る
血管獣を▲陽動するよう戦い、双子を巻込み乱戦へ
無数の攻撃は▲早業で▲受け流しつつ
返す刀で▲カウンター
双子が間合いに入ったならば
刀身より▲焼却の炎を劫火と成し
UCの術理に▲斬撃波すらも生じる速度の▲居合を含ませ
二つの頚を斬り飛ばしたい
深き闇が澱む鮮血の大地。
祈りの双子が贄として溜めた血は、まるで海のように広がっている。
脈打つ赤は、未だに消え去れぬ零れた命と思いの証明か。
ならば、まだ其処に在るのだろう。
居るのだろう。
理不尽に人生を潰され、涙したものが。
悲劇に全てを奪われ、絶叫をあげたものが。
「ん。……ならばこそ」
ただ、ただ静かに。
恐れることも、惑うこともありはしないと。
藍色の眸をすぅ、と細めてクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は鮮血の裡へと入り込む。
辿り着くべきは血の記憶の水底へ。
恐ろしき程の深さであっても、必ずや血の底へ。
数多に溶けた込んだ人々の記憶と情動が揺らめく赤い水の中、クロムははっはりと信念を抱いている。
どんな暗闇に呑まれたとしても喪わぬ想いとして。
クロムがそうやって祈りにも似た心を喪わないのであれば、きっと他のひとびとも同じはず。
希望を、優しさを、矜恃を、そして願いを。
この血に在るのは苦しみや悲しみだけではなく、誰かが為に在ろうとする切なる想いとて。
だって彼女等は『この世界で流れたすべての血』と言ったのだ。
ならば必ずある筈と、黄泉への坂道を下っていくように。
屹度応えて呉れる筈なのだと、今は亡き者の想いをそれでもと手繰り寄せるように。
静かに、静かに。
ただ真っ直ぐにクロムは深紅の世界を歩き続ける。
いつかの昔、クロムの刃で葬送った者達よ。
今も尚、此の地で苦しんでいるのならば。
このまま利用され、贄となるを善しとせぬのならば。
どうか、きみ達の安寧の眠りを妨げるを斬り祓う為に――きみ達の遺した想いも持っていこう。
クロムの想いはまるで清らかな風のように周囲に伝わっていく。
この場所が鮮血の水底だという事を忘れてしまうほどの澄み切った気配。
まるで鈴の音色のように、響き渡る。
そして、応じる記憶と思いたち。
「嗚呼」
其処に居るのはきみ達かと。
クロムが指先を伸ばせば、第五の貴族に弄ばれ肉塊となったヒトたちがいる。
身体は壊れ果てても、心は魂はと今も誰かの為に、この世界で生き抜いていけるようにと願い続けている。
無辜の民を護る為に剣を奮うのだと、クロムに改めて強く思わせるその心。
決して清らかではなくても。
確かに、誰かと寄り添いながら生きようとするその生き様に、クロムは胸に湧き上がるものを感じる。
「そして……嗚呼」
きみもいたのかと。
ひと喰いのオブリビオンでありながら、『魔女』と呼ばれた愛しヒトを。
最後の最期まで食べなかった、獣のきみ。
優しさなのか。
それとも何か別の思いなのか。
血の記憶の奥底で揺れる淡い姿は、もはや自らを識別する事はできずとも。
「また、私と共闘してくれるの?」
クロムが尋ねれば、頷くように血の記憶を委ねていく。
力を、想いを、存在と自らの人生そのものを。
此処は死んだ全ての者が集まる黄泉のようなものだけれど。
死んだからといって、全ての心を踏みにじって、弄ぶなど黄泉の女神とて許されぬだろう。
故に、故に。
鮮血の記憶たちより、クロムがその姿を見せる。
数多の想いが身に集い、ひとりではないのだと先へと進ませるのだ。
「――清濁併せ呑んで猶清き大河の如く」
更なる先へ。真実の姿へ。
そう変貌しながらも、クロムの双眸に宿るは明瞭なる祈り。
「人間も骸の者も、等しく此の地より地獄を祓えと願うのならば」
そうして進むというのならば是非もなし。
この刃にて斬り拓いてくれようと刻祇刀・憑紅摸の柄に触れる。
「その|意念《おもい》、此の剣に籠めるよ」
そうして鞘より抜き放たれる刻祇刀。
切っ先は闇を切り裂いて越え、祈りの双子へと刃風を届ける。
祈りの双子の頬に走る、赤い線と血の雫。
『真の姿か。今回もそうなるか』
言葉の通り、今のクロムは真の姿となっている。
外見さえも変わったのは今回が初めて。
流れるような金髪はさながら、秋風に揺れる稲穂たちを思わせた。
表衣にと唐衣羽織る姿は風雅なれど、己が想いを剣を詠わせる風格がある。
美しき貌は何処までも凛と研ぎ澄まされた刃そのもの。
そう。これは未来において無煩天と成った者の姿。
己の心さえも含めた凡てを斬り散らし、何もない天の眺めを知った者の姿に他ならない。
けれど、その眸は空虚さで澄み切らず、けれど、また濁らず。
情動を許さぬ澄徹さも、無限の暗冥もありはしない。
双眸に宿るはただ明瞭なる祈りばかり。
こうなっては呉れるなと願われたように、無煩天とは異なる道と色を見せている。
装いこそ無煩の天のものなれど。
裡に秘める想いは、尊く大切なのだと気づけたのだから。
「さあ、血戦の|果て《おわり》を」
剣に籠めた願いを力に変えて、いざ参ろう。
昏き闇が消え去るまで、この切っ先に宿った光は果てぬとクロムが眦を決す。
「――今まで続いた闇を|始めよう《おわらせよう》」
故にいざ勝負。
「仙狐式抜刀術、クロム・エルフェルト――共にある血の記憶と共に、この闇の先へ至る為、いざ参らん」
一陣の風と成って真っ向より切り込むクロム。
その歩方はやはり無煩天のものではなく、流水紫電――仙狐式抜刀術のもの。
要たる歩方は紫電を纏いながら、足下に蒼い粒子を舞い踊らせ、クロムの果敢に斬り懸かる姿を飾るのだ。
いいや、その美麗さは見えるものが見たならば。
神速の如き速さは、まさに眼にも止まらぬ動きそのもの。
「――っ」
その動きと速さで血管獣を欺き、騙し、一気に祈りの双子をも含めた乱戦へともつれ込ませるクロム。
牙が虚空を噛み砕き、脈打つ血管が大地を撃つ。
その間隙で打ち鳴らされる刃金の響きのみが、澄んだ音色を空に届けていた。
『流石は猟兵。強いな』
感慨深そうに祈りの双子が告げると同時、再び噛み合う刃と刃。
『だが、勝つのは私たちだ。何時ものように、これまでのように』
祈りの双子が流れるような連携を以て無数の斬撃を放つが、早業で弧を描くクロムの切っ先が悉くを受け流す。
柔らかく受ければ、柳のごときしなやかさで威を逃し。
真っ向から捉えれば、身体の奥から気を発しながら弾き返す。
クロムが手繰るからこそ艶やかなさまで憶える刻祇刀の刀身。
闇を宿して胎動させる祈りの双子たちの剣とはまた別種の強さがそこには刻まれている。
剣戟に刃金が詠い、火花が舞う。
闇を払う斬刃の神楽が此処にある。
祈りと想いを込めた剣が、少しずつであれ闇を斬り祓っていくのだ。
出来た僅かながら空白、隙へと返す刃を放てば、双子ならではの連携で凌がれるものの、どちらが優勢かは語るまでもない。
進退自在の位を取りながら、まるで泳ぐように動き続けるクロム。
祈りの双子が放つ切っ先ではクロムを捉える事ができず、一歩、一歩と祈りの双子へと近づけていく。
血管獣が飛び込むも、身を翻しなが避ければ、クロムは更に一歩と祈りの双子へ。
深き水底に激しき気炎を秘めた湖面の如く。
静謐に、されど、熾烈なる想いを秘めた眸と剣刃が祈りの双子へと向けられる。
「問おう。血の一滴に、ひとひとらの命に。何を見出す?」
尋ねるクロムに、けれど祈りの双子は微かにも心を揺らさない。
他を想う情動あれば。
誰かを思う気持ちがあれば、反応する筈なのに。
あくまで贄は贄。此処に集った血と記憶は、全て自分の力なのだと傲慢さを込めて。
『知れたこと。全ては、世界だ。……ひとつあまさず、この世界なのだよ。なにひとつとて、この世界からは逃れられぬ』
故にと。
続いて欲しい言葉は、ただ苛烈なる斬撃のみとしてクロムに送られる。
ならば。
全てが世界ならば、ひとひらの思いと命とて、世界にとって大事なものであろうに。
『そして、この世界は私たちのものだ』
合い解ったと、そう呟けないクロム。
決して解ることも、道を共にする事もないのだ。
その隻眼は、他者を思う気持ちの欠如を示すのかと。
或いは全く別の生物、心を介さぬものなのだという真実に、悲しさを覚えながら。
決して怒りではなく、別の何かを覚悟に変えて。
クロムが手繰る刀身に纏わせるは劫火の威。
鮮血にも劣らぬ鮮やかなる赤を伴い、すぅ、と祈りの双子の懐まで踏み込んでいく。
ならば夜闇を変えよう。
世界の全てというのならば、世界を作るひとつとして。
内側から色を変えよう。
未来は定まったものではなく、不変なるものではないとかの無煩天が、今のクロムの姿が示している筈。
故に、クロムが抱く剣は透明なるものではなく。
まだ何へと変じるかも解らない、微かなる淡い色を滲ませるものなのだから。
それがクロムの心であり、魂であるのだから。
「|それ《、、》を、放つよ」
そうして間合いに祈りの双子を捉えた瞬間。
殺意も気配も完全に消失した、まるで夜花のような秘やかさでクロムが放つは居合一閃。
斬撃波さえ生じさせる速度で鞘走りて繰り出されたのは仙狐式抜刀術・椿。
慈悲を以て、速やかなる死をもたらす為の刃。
余計な痛みなど微かにもなく、終わりを告げる一刀。
それが祈りの双子の、ふたりの頸を同時に捉える。
舞い散る鮮血は、さながら落ちる赤き花びらのように。
所詮、剣は無情なるひと殺し――命奪うもの。
されど。
ああ、されど。
もしも斬る刃が、繋ぐことができるのであれば。
未来へと切り拓くだけではなく、誰かと想いを結ぶものとなれるのならば。
それこそが活人の剣という冴えを得るのかもしれない。
残心と共にふとクロムの胸を過ぎる思いは、決して迷いや惑いではない筈だから。
無念無想。それだけでは辿り着けないものがあるのだから。
刀身から放たれた劫火が、周囲へと放たれ。
闇を払い、さながら導の炎として天へと昇っていく。
大成功
🔵🔵🔵
月白・雪音
…然り。これ迄この身が受け、そして与えた痛苦もまた我が道程。
されど貴女を阻むが猟兵として立つこの身の務めなれば。
この地を満たすが民の血なれば、貴女がたに相対するはこの地の全て。
彼らが紡ぎ続けた今を以て、貴女を討たせて頂きます。
血より掬うは過去の残滓への憎悪に狂った者達の記憶
怨嗟、絶望、殺意、慟哭。今を生きるヒトすら罪と定める負の感情をその身に纏う
己が身もまた呼応しその姿は獣を晒し、苛まれるは獣の本能
武の至りにて律すそれは膨れ上がり確かな殺意の声を以て精神を蝕む
…彼らが抱くは確かに罪なれど、その想いはこの地で懸命に生き、或いは隣人を愛したが故に生じた闇。
故にその認められざる罪をこそ、私は闇を祓う刃と、光と為しましょう。
UC発動
無念無想ではまだ足りぬ。己の気配、音、魂、命の脈動。それら全て闇よりも、死よりも深く極限を越えて鎮め
本能も憎悪も等しく律し『無』の至りを以て獣と罪に武を乗せる
祈りが阻むも尚止まる事無く
…貴女が敗すは我らに非ず。
――死して尚折れぬ民の祈りによって、貴女がたは滅ぶのです。
果てることなき闇が横たわる。
鮮血の大地を、そして世界を包みしは残虐なる常闇。
情などあろうものか。
他者の痛みなど介するものか。
まるで全てが自らのモノの如く振る舞うは、まさに地獄そのもの。
この世の律さえ従える昏き闇が、更なる悲劇をと脈動する。
そんな中を、泡雪じみた白き少女の姿が歩いている。
何にも染まらず、だが、何色も持たない少女が歩いている。
悲しみと苦しみこそが強さと。
そう宣言した祈りの双子の傍へと歩み寄り。
「……然り」
そう告げる声色は、氷のように冷たく澄み渡っている。
何事もにも揺れて動くことのない透徹なる心が声を紡いでいる。
「これ迄この身が受け、そして与えた痛苦もまた我が道程」
全ての道は、歩んできたこれまでの一切を否定しない。
与えたものも、感じたものも。
今という刹那を形作るひとひらに他ならないのだから。
貴女の言う事も然り。否定はすまい。
祈りの双子の姿を氷鏡に映すように真っ直ぐに受け入れて、けれど静かなる戦意を身に宿すは月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
「されど」
ああ、されど。
そうして、今このように|災厄の元凶《オブリビオン・フォーミュラ》の前に雪音が立つのも、やはり全ては歩んできた今までに依るもの。
全ては闇を討てと、そう願われたが故に、この刻が訪れる。
「貴女を阻むが猟兵として立つこの身の務めになれば」
そうしてゆらりと。
紅い眸を揺らすように視線を向けるは、海のごとく集められた鮮血たちへ。
世界で流れた全てが集うという。
あまりにも夥しく、限りなどないように赤い色彩が渦巻いている。
「この地を満たすが民の血なれば、貴女がたに相対するはこの地の全て」
悲しみと苦しみ、痛みを以て力としてきたのならば。
それを饗宴の愉悦として啜ってきたのならば、今こそ応報の時が訪れるのだ。
そう。全て。
全ては、自らが歩んできた道のりが、どのようなひとと触れてきたかが、終わりというものを形作るのだから。
「彼らが紡ぎ続けた今を以て、貴女を討たせて頂きます」
ひとり、ひとりに人生があった。
夢や理想があり、愛と幸福と、友と家族がいた。
満ち足りた世界ではないけれど。
それでも懸命に生き抜いていた筈の彼らは、きっと尊い光を心に宿していたのだ。
ああ、でも。
それだけではない。ひとには光があるように影がある。
そうして、影だけを見ない事にするのは、少々道理というものが通らない。光だけを見て、それだけを傍におくなど傲慢に過ぎるだろう。
美しないからと影を――悲憤と憎悪を忘れてなかったことにしておくなど、雪音には出来はしない。
それもまた、この世界の道程にて確かに在った、生きた者たちの心なのだから。
「願わくば、それでも一度、私と供に在ることを」
そうして雪音が血より掬うは、|過去の残滓《オブリビオン》への憎悪に狂った者たちの記憶。
渦巻く怨嗟、狂奔する憎悪。
魂の欠落を埋めようと慟哭が迸り、血に塗れた殺意が狂気へと変じていく。
私は彼を愛していたのだと。
死地を突き進む女の止まらぬ涙はさながら塞がらぬ傷口。
そのままでは死ぬと理解してなお、闇の種族へと刃を向けた。
全てを返せと。
たった独り生き残った少年は、扱ったことのない武器を手に昏い瞳を空に向ける。
本当ならばただ泣き叫びたいのに、それさえ許してくれないから、同じような少年たちが集い、レジスタンスへと変わっていく。
そしてまたある血の記憶では、清らかだった聖者が絶望に呑まれていた。
生きているから悪いのだと。
これ以上、酷くなる前にと村の井戸に毒を注ぐのは、歪んだ慈悲と救いの心。
死ねば解放されるのか。
いいや、死んだその後も辛苦はいまだ血の記憶として残り、脈打っている。
どうして。どうしてと、理由もない殺戮へと鬼哭が沸き起こる。
「ああ。されど、されど――貴方達の心も、またあるのです」
醜いから。恐ろしいから。
何より勝利を光として満ちたしたいからと、この思いと記憶たちを無碍になどはしない。
この昏き血の記憶たちも、また勝利へと必要だったのだと示す為に。
今を生きるヒトすら罪と定める負の感情――死後の先を願う祈りさえも、雪音はその身に纏っていく。
雪のように白い肌は変わらない。
血のように鮮やかなる赤い眸もまた。
けれど、その身は血の慟哭たちに呼応して真の姿たる獣を晒し、心は獣の本能によって蝕まれていく。
武の至りに達するほどの明鏡止水をしても律せられないほどの殺戮衝動。
加えて、血の記憶を背負うことによって力を増したぶんだけ、悲憤に怨嗟、絶望と絶叫が雪音の裡で渦巻き、殺意と憎悪の声となって精神を蝕んでいく。
それでも。
ただ一歩。
どれほどの苦しみが雪音を襲おうとも、常と変わらぬように。
例え身が震えて、殺意と憤激で身が震え出しそうであっても。
ただ静かに、冷たくも真っ直ぐにと氷月のように佇み、そして歩んでいく。
その様に祈りの双子のほうが驚愕し、瞠目するほど。――猟兵とはこの様なモノもいるのかと。
怒りや絶望を力にし、狂奔する戦士はいるだろう。
死や無念を糧とし、怨霊と死霊を操る術士ならば数多といる。
だが、それらを自らのものとし、されど変わることなき透明なる精神性で歩き続けるなど。
『壊れているのか?』
「いいえ、ただ、生きているだけです。光も影も、合わせ持つがひとならばこそ」
あるいは雪音はそのように憧れているのか。
ひとは過酷な試練の果てに武心を得ずとも、自らが闇に打ち克つということを。
ある種の混沌と混濁。
けれど、その汚泥より咲き誇るは浄土に咲く蓮の花なれば。
優しき夢とて匂わせよう。
目指すべき未来と、示してくれよう。
「……彼らが抱くは確かに罪なれど」
そうして虎の因子を半ば暴走させながら、寸での所で制御し続ける雪音が深く一歩を踏みしめた。
はらはらと。
血の記憶が目の前を泳ぐ。
「その想いはこの地で懸命に生き、或いは隣人を愛したが故に生じた闇」
怨敵を討て。
復讐を果たすのだと。
もはや何をしても埋められぬ欠落へと慟哭をあげる血の記憶を確かに抱き続けながら。
いや、それもまたひとだと愛しむように。
静かなる慈悲たるものを向け、浄土へ導く氷花として雪音は紡ぐ。
「故にその認められざる罪をこそ、私は闇を祓う刃と、光と為しましょう」
罪なる魂をこそ、闇祓う光の刃へと。
何も見捨てない。現実を突き詰めたリアリスト。
理想は遙か高く、だが、地を這うようにして邁進する。
姿形は美しく――それだけでは意味がないのだと。
「我が戦の誠とは、今と未来に生きるものなれば」
斯くして発動する雪音の武の極致、|拳武《ヒトクナルイクサ》。
そして真白き矮躯を走らせる姿、まるで吹雪の如し。
ひらり、はらりと。
白き残像を残して走り抜け、祈りの双子を幻惑するが如き体捌き。
音はなく、姿は追えず。
されど、鮮血の祈りがその武を捉える。
『この剣は、お前の臓腑を抉る』
「――っ!」
それは祈りの双子のユーベルコード。
発動を許してしまえば、そして代償が払える限り、あらゆる行動を成功させる血色の闇が為す奇跡だ。
『ほう、この程度の代償でよいのならば』
双つの刃が雪音の腹部、そして臓器を捉えたのを見るや、傷口を抉りながら祈り双子は続ける。
『私たちは、お前を斬り刻み続ける』
その言霊は、つまり回避と防御不可能の攻撃が連続することを示す。
それも終わりの文言がないのだから、雪音という存在が潰えるまで続くのだろう。
血闇の奇跡を支えるのは、この世界で流れた全ての血液。それが消え果てることなどある筈もない。
故に、雪音の技を越えて届く刃は止まらない。
「っ」
負傷の程度は示していないのがせめてもの救いか。
ようは薄皮一枚でも斬られれば、それで血の祈りで求めた行動は成立するのだ。故に身を幾度となく翻し、半身を変え、滑るように進退を続けて避ける雪音。
常に身から鮮血が走るが、まだ致命傷には至っていない。
激痛など止水明鏡に至る武の精神が防いでいる。だが、それでも。
――凌げても拳が届かず
文字通り身を削られ、時間を稼ぎながらも超常どころか世の理さえ蝕む技に雪音は打つ手がない。
が、だからどうだというのだろう。
超常と相対するは初めてではなく、世の理さえ変える者とて幾らでも。
そして、そういった超常的な神秘と今まで戦って来たのは、雪音の技――ただの武術でしかないのだ。
故に、恐ろしき血闇の奇跡とて、決して覆せぬものではないのだと雪音は静かに息を吐く。
無念無想――相手の動き出す前に躯が気を放つという未発の像を読む武の極致でもまだ足りぬ。
己が念を澄み渡らせ、あらゆる動作と気の動きを明鏡の如く捉えること。或いは、自らの気をも水のように捉えがたくすることも、確かに効果はある。
故に生きていまだ戦えるのであれど。
奇跡を拳戦のみを以て越えるならば、まだ更に、深奥へと踏み込まねばならないのだ。
己の気配、視線や呼吸に始まり、肉体の裡で巡る血と気の流れ。
その音、周囲に溶け込み、或いは壊して迫る音の揺れ。
命の脈動、そして魂の深域へ。
全ては闇よりも、そして全てを呑み込み尽くす死よりも深く、深くと極限を超えて鎮めていく最中。
祈りの双子が首筋に切っ先が触れて鮮血を迸らせた瞬間――ついに雪音はその片鱗を見出す。
本能も憎悪も、命も心も等しく律せし『無』の至り。
それはさながら、ひとの魂と意識の最奥に棲まう神を見つめたが如く。
己が宿す獣の因子、血の記憶より背負いし罪なるもの。
全てを等しく『無』なる『武』へと乗せて放つその拳。
無拍子にして静謐。
唐突に起きた一撃は、さながら理不尽なる武神の一打。
ああ、或いは。
全てに平等が故に、全てに無関心な神が放った拳撃であろうか。
『……な、に』
ひとりの喉が拳撃で潰される。
続けて残る片割れの胸部へと抜き手が刺さる。
そして双子の頭蓋を砕いて巡る雪音の上段廻し蹴り。
全て起こりなるもの、動作も気も見えず。
先んじた回避や攻撃がそのまま、次なる技へと、死を招く冷たき一撃へと繋がっている。
そう、今までの全てが繋がり、斯く至ったかのように。
当然の報いとして、血の記憶ばかりが花びらのようにざわめく。
世界の全てが詠うように。
或いは、そのように今の雪音は、至ってしまった『無』にて捉えてしまう。
微かなる動きも情動も、念も気配も。
全てが明確な息づきとして、あまりにも強く迫り続けるから。
すぅ、と雪音は瞼を下ろした。
そこに万感の思いと、決して相容れぬ祈りを込めて。
「………貴女が敗すは我らに非ず」
とどめとして、優しく静かに一撃をおくるべく。
唇より紡ぐ、鎮魂の声。
それは祈りの双子にとってもであり、今に背負っている血の記憶たちへでもある。
美しい手向けの祈り唄であった。
「――死して尚折れぬ民の祈りによって、貴女がたは滅ぶのです」
死して終わりでないからこそ。
ひとは何処までも進んで往ける。
果てなどないと信じる祈りこそ、絶望という先を飛翔する思いこそ。
今はなき未来を呼び寄せ、そこで生きる力となるのだから。
力なき無辜が民が為に。
それでも思いは、強きも弱きもなく抱くのだから。
ならば、全てを抱いて、憶えて、されど氷の月の如く澄み渡り。
雪音は最期の一撃を振り下ろす。
ああ。
貴方たちも双子であれば。
大切なる誰かを思い馳せたでしょうに。
そんな思いを、胸に秘めたまま。
闇を葬る白き雪花が舞う。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
苦しみも悲しみも、鳥籠から抜け出すための糧にはなった
けど、あの鳥籠の中ですら
一番俺を支えていたのは
…もう一度、アレスに会いたい
ただそれだけだ
気が狂うような時間を支えてくれたその感情は
きっと言葉では足りないくらいの愛で
ソレだけの想いを抱ける土壌は他の愛に貰ったんだ
ああ、征こうぜアレス
ふたりで
鮮血に触れて
蘇る記憶は最期に見た母の首じゃない
勇ましく、騎士を鼓舞するように高らかに歌う声だ
その前に立つアレスの親父さんの背中だ
騎士の街…ユーリル
俺達の生まれ育った場所
優しい人たちばかりだった
彼らの背中が絶望のこの世界で愛を教えてくれた
彼らもみんな、守りたかっただろう
トンと、背中を押された気がした
だから、この血を、記憶を
お前たちの力になんかさせるかよ!
真の姿は崩壊の始まり、14歳の頃の姿
あの日の自分は救えなかった全てを、今度はアレスとふたりで救ってみせる
歌い上げるは【願いを叶える祝歌】
全力の魔力を剣に注ぐ
アレスが攻撃を凌いでくれる
だから、もっとでかく
ふたり分の光を叩き込む…【彗星剣】!
アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎
街の皆を、人々を守りたかった
…もう一度、大切な君に逢いたかった
その一心で哀しみも苦しみも力に変えて来られたのは…きっと
…征こう、セリオス
僕達ふたりで
鮮血の中の記憶
セリオスのお母さんの歌を力に
騎士剣赤星と盾を手に街を守る暁月騎士団団長…父様
僕達を見守り、支えてくれた…母様
記憶の皆は守ろうと散った姿ではない
守る想いと愛を以って
光と希望を教えてくれた姿
…父様が、僕達に託すように剣を差し出す
母様が、気をつけてと祈ってる
いってらっしゃい、と皆が背中を押してくれた気がした
…ああ
皆の想いは、祈りは
僕達が絶対守る!
父の剣を僕の剣に宿す
【天誓の極天星】
暁と朝空に夜空の光翼が増え
薄明纏う白き鎧と六枚光翼…更なる真の姿
…守れず救えなかったあの頃の僕も、背中を押してくれるようだ
ああ、今度はセリオスとふたりで…守ってみせる!
血管獣も双子の祈りも
剣から『光閃』を
翼から光を解き放ち
闇を斬り裂こう
翼を広げ、盾の『閃壁』と共に防ごう
暁月の光で彼の剣を支えよう
皆の想いと暁月の誇りにかけて
守ると誓ったんだ!
夜闇を見つめた続けて、願い続けたふたりの青き眸。
それがついに今、光へと変わる。
どれほどの時と苦しみがあっただろう。
どれほどの悲しみと痛みがあっただろう。
振り返ればきっと、この鮮血の大地に広がる赤色が応えになる。
夥しいほど、限りないほど。
泣いて、叫んで、それでも砕けなかった祈りが。
――朝日を呼ぶのだから。
そうだと。
祈りの双子の言葉を聞いて、瞼が閉じられる。
ふるりと長い睫毛が震えるのは、全てを否定することは出来ないから。
自分の罪咎を意識し、それから逃れるつもりもないから。
「苦しみも悲しみも、鳥籠から抜け出すための糧にはなった」
ないからこそ、その言葉を紡げるのだ。
儚げに憶えるほどに繊細で美しい貌は、それでも心より溢れる自信の光で曇ることはない。
セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は青き炎の一等星。
片割れの一等星が墜ちて消えるまで、その美しく気高い輝きが朽ちることはない。
ただ、あの時の全ては生き抜く為。
誰も彼も、ただ生きる為に懸命に抗う|常闇の世界《ダークセイヴァー》で、セリオスは切に思ったのだ。
「けど、あの鳥籠の中ですら」
セリオスを抱きかかえるように支えていてくれたのは、幼なじみの記憶と影。
縋り付く感情が思い出せる、彼の声だった。
ただもう一度、アレスに逢いたい。
そう思えば思うほど、まだ鼓動が脈打っているのだと。
血が滲むように痛みを憶える心が、まだひとのものだとセリオスは実感できたのだ。
ただアレスに逢いたい。
もう一度だけでいいから。
そんな切実な思いがセリオスの心と魂を、命を繋いでいる。
気が狂いそうな程の時間を闇に包まれてなお、支え続けてくれたその感情は、きっと言葉では足りないくらいの愛。
ただ純粋なる愛そのもの。
棘ある薔薇が愛の花言葉であるように。
痛みを以て、セリオスを闇の悪夢から幾度となく目覚めさせてくれた。
そんな思いの花を育てた大地は。
ソレだけの想いを抱ける土壌は。
他の愛に貰ったのだと、セリオスは故郷を思い起こさせる。
あそこに、美しき|思い《はな》は咲いていたのだと、自らが育った場所を、街を、思い出していた。
ならばこそ、傍らに騎士として控えるアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)もまた同じこと。
そう、あの街を、そこで生きる人々を護りたかった。
それは守れなかった後悔の裏返しでもあるけれど、同時に、その守護という願いは未だにアレクシスの胸で息づいている。
必ずや今度こそは守るのだと。
そうやって哀しみも苦しみも力に変えてきたのだ。
――……もう一度、大切な君に逢いたかった。
その願いに頷き、笑って送り出してくれたみんなのことは忘れない。
瞼の裏に焼き付いて、焼き付いて、決して離れない大切なる優しさとしてあれくしすの裡にあるから。
哀しみも苦しみも、力に変えて来られたのは、きっと。
|常闇の世界《ダークセイヴァー》に産まれ、あの街で育ち、愛に包まれて愛の何たるかを知っていたから。
もう一度、大切な君に逢う為に。
挫けることなく立ち向かい、歩け続けられたのは、最初に闇の裡にある淡くて尊い光を知れたから。
それは儚いものだとしても。
「……征こう、セリオス」
未来を照らす、朝暁を呼ぶものなのだから。
「ああ、征こうぜアレス」
夜闇の底、禍々しい鳥籠の裡にあっても心を忘れない導となるのだから。
「僕達ふたりで」
「ふたりで」
そう頷きあったセリオスとアレクシスが血の記憶へと、微かな怯みもなく触れることが出来たのは祈りの双子の言葉を否定したかったから。
だって、此処に世界の全てが集まるというのなら、当然、あの美しい街だってある筈。
セリオスという星花を。
アレクシスという暁花を。
育てた光のような想い溢れる街がきっとあると信じて、鮮血の記憶へと触れれば。
――するり、
とまるで無数の星たちが集い、ふたりを囲むように沢山の色彩が瞬きあう。
そう、セリオスへと蘇る記憶は最期に見た母の首ではない。
勇ましくも凜々しく、夜天から星まで響き渡れと騎士を鼓舞するように高らかに詠う声。
セリオスの母の歌声。その力を頼りに、溶けて消えてしまった血の記憶から、大切な一粒を探し出すアレシクス。
そう。
何時ものように。記憶の中で確かにある背がそこにあった。
戦乙女の加護と祝福を受けて前に立つはアレクシスの父。
騎士剣たる赤星と盾を手に、街を護る暁月騎士団断章たる。
「父様……」
あなたに恥じない息子であれたでしょうかと。
そう問い掛ける、子供としての自分をぐっと抑えてアレクシスは凛とした眼差しを向ける。
貴方の子である以上、泣いたりなどしないのだと。
厳しくも正しく、笑って欲しいのだと姿勢を正せば、遠くから歩み寄るは女性の姿。
ずっとアレクシスとセリオスを見守り、支えてくれたアレシクスの母なる姿。
そして、街にいるみんな。
笑顔を光だと信じて疑わない、騎士の街ユーリル。
セリオスとアレクシスが産まれ育ち、その心と情緒を育んでくれた場所が、大切な記憶の儘に広がっている。
アレクシスの目にも浮かぶ記憶のみんなは、守ろうとして絶望と戦い、散っていった姿ではない。
守る想いと、愛を以て。
光と希望を教えてくれた姿。
美しい花は、光射す場所でこそ育つのだ。
例えこの世界から太陽が奪われたとしても。
優しき月光と星灯りに寄り添うように。
或いは、ひとの笑顔にこそ報いるように。
正しき花は、凛と佇み綺麗に咲き誇る。
それがふたりの故郷、ユリールの街。
優しい人たちばかりだった。希望の何たるかを知っている人たちばかりだった。
誰かの為に笑って、涙さえこぼせる人たちばかりだった。
「ああ、そうだよな」
彼らの背中こそが、絶望のこの世界でこそセリオスとアレクシスに愛を教えてくれた。
彼らもみんな、守りたかったのだ。
この世界に生きる全ての人々が。
諦めるとなく希望を抱き、優しさと誇りを抱けば。
|闇の救済者《ダークセイヴァー》であるのだから。
どれほどに力ある闇のものが踏みにじろうと、変わることのない真実。
そうして、アレクシスの父がゆっくりと歩み寄り。
アレクシスへとその手の剣を、大切なるものを託すようにと剣を差し出す。
「――――」
声も言葉もない。
だが想いは痛いほどに伝わるから。
呼吸が出来ないほどの情動の動きに、アレクシスの言葉も詰まり、知らず熱い涙が溢れるから。
母だけがただ優しく、何時ものように笑って見送ってくれるのだ。
「いってしゃい。気をつけてね」
祈るようなそれは、別れの挨拶、
ああ、此処を、この血の記憶を離れればきっと二度と巡り会えない優しい追憶たち。
でも解っている。
アレクシスもセリオスも解っている。
過去に浸っているだけでは何も出来ない。
本当に望む、この世界に朝を取り戻す為に。
さあ。
過去から届いた記憶と、歌と、祈りと、剣を以て。
前に進もう。
とん、と優しくも力強く。
まるでセリオスとアレクシスが背中を押し出されたような気がした。
いいや、きっとそれは疑いようのない真実。
あの記憶の、ユリールの街のみんなならばと信じるからこそ。
「だから」
青き炎の一等星は、血の記憶より目覚めて燃え盛る。
「この血を、この記憶を」
諸手に構えた双星宵闇『青星』は、セリオスの激しく詠うような声色に応じて。
あるいはその意念に応じて、純白の輝きをその刀身に生み出す。
闇なる者、一切を切り裂く刃『光閃』の正しき真実の姿が此処に在る。
「お前たちの力になんかさせるかよ!」
そしてセリオスの真実の姿もまた、此処に花開く。
セリオスが今取る真の姿は容貌は崩壊の始まりたる十四歳の頃の姿。
あの日の自分は救えなかった全てを、今度はアレスとふたりで救ってみせると吐息を吸い込むセリオス。
そう、セリオスは激しく燃え盛る炎のように。
ならば、凪いだ湖面の如き双眸でアレクシスは闇の奥を見つめるのだ。
「……ああ。皆の想いは、祈りは」
父が差し出した剣。それは幻影などではなく、確かな重みと共にアレクシスの手にあった。
だから自らの双星暁光『赤星』へと父の剣を重ね、白銀の騎士剣はより強く輝きを放つ。
真実を越えた未来の輝きとして。
未だこの常闇の世界にはない、暁光の光輝として燦めく。
「僕達が絶対守る!」
漂うは暁と朝空に、夜空の光翼が増え。
薄明纏う白き鎧と六枚の光翼。
アレクシスの更なる真の姿が此処に結ばれ、朝焼けという概念をその身で顕す。
……守れず救えなかったあの頃の僕も、背中を押してくれるようだと、アレクシスは想いを噛みしめながら、ただ真っ直ぐを見つめた。
たとえ世界は知らなくとも。
数多の世界を駆け巡った僕達は知っているのだと。
そしてその何処であっても、父の教えは、母の優しさは、決して間違っていないのだと確信できたから。
「いこうぜ。アレス」
「ああ、今度はセリオスとふたりで……守ってみせる!」
そうして赤星と青星。
それぞれ別の意味、手段で光刃の色彩を増したふたつが、共にある事が更なる輝きを放っていく。
血管獣も、双子の鮮血の祈りも。
全ての闇を斬り裂こうとセリオスの騎士剣より放たれる『光閃』が瞬き走り抜ける。
更にははばたく翼もまた光明を放ち、一度斬り崩された血管獣たちを掃討していく。
そうして正面からぶつかるのは想いと想い。
セリオスが紡ぐ【|願いを叶える祝歌《アズ・アイ・ウィッシュ》】と、|闇の根源《フォーミュラ》が奏でる鮮血の祈り。
あらゆる行動に成功すると奇跡の体現とは根源の魔力といえど相性が悪くとも。
「全部だ、全力だ……!」
全身全霊、あらゆる魔力を剣へと注いでいくセリオス。
それを阻止する為に顕現するは鮮血の祈りが呼び出す、禍々しき黒血の螺旋槍。
『私たちの槍に穿たれたものは、枯れて死に果てる』
言葉と共に放たれるは必滅の運命宿す槍。
膨大な鮮血を代償にと叶えられたこれは、受ければ何であれ終わるのだと肌で感じながらも、セリオスは一切動じない。
なぜならば、この世でもっとも信頼する存在が、アレクシスが傍にいてくれるから。
全ての攻撃を凌いでくれると信じ抜くからこそ、心を深く剣と一体化させていくセリオス。
そんな彼に誓うように、アレシクスの翼が広がる。
「僕がいる限り、させるものか!」
六枚の光翼を広げ、更に盾の『閃壁』を共に重ねて防ぐのだ。
暁月の光で彼を、セリオスを支えよう。
みんなの重いと、暁月の誇りにかけて。
必滅の運命、黒き死の槍へと立ち塞がるセリオスはただ純粋な想いを以て叫ぶ。
「守ると誓ったんだ!」
故に衝突する暁月と必滅。
黒槍に貫かれた翼はまるで枯れ果てるように光を失い霧散し、ひとつ、ふたつと消え果てていく。
みっつ、よっつと。
アレクシスと、祈りの双子の思いが鬩ぎ合い、互いの光と闇が打ち消し逢う。
そしていつつ目の光翼が破れて消え去った瞬間――溢れんばかりの光が脈動する。
盾が放つ『閃壁』をも最後の一枚に重ね、抗い続けたアレクシスの力がついてに祈りの双子の起こした|奇跡《ユーベルコード》を打ち消したのだ。
全身へと染みこんでいく脱力感。全てを出し切った、いいや、それ以上だと意識を失いかける。
事実、自分ひとりだけでは無理だったと。
背を押し続けて助けてくれた血の記憶に、街のみんなと、父と母に感謝を捧げつつ。
「セリオス――!」
これ以上の好機などありはしない。
必滅という理を呼んだ祈りの双子も憔悴しているのだ。
この瞬間をおいて他にはないと、もっとも信頼する片割れの名を呼べば、彗星が如き輝きを伴って走るセリオスの姿がある。
これほどまでに信頼してくれたのだから。
命が尽きてもまだ助けてきれた街のみんながいるのだから。
もっと大きく、もっと輝きを以て。
今を生きるふたりぶんの。
そのふたりが背負った今までと、願うこれからの光を込めて。
「――さあ!」
黎明を鳴らす彗星の剣たれと、天より流れ来る輝きのように。
膨大なる光が為す刃を以て、祈りの双子を斬り裂くセリオス。
肉体を光で灼き斬り、散らし、そして闇たる魂までを浄化する光刃に、祈りの双子は声さえあげられず。
「ふたりぶん、だからな!」
切っ先翻し、十字を刻むが如く放ったセリオスの光刃が、世界を満たすほどの光を溢れさせる。
そうして至った先は、光が消えても闇などなく――。
絶望も苦悩もない、安寧の風が吹き抜けるはせかり。
朝焼けの優しい風に揺らされるように、美しい花がふわりと揺れた。
求め、願い、祈って手を伸ばした先に、必ずや幸福という花は在ると詠うように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
相見えたかったぜ
流れた血に宿るのが総て悲哀に満ちた残滓ばかりじゃねェと証明してヤる
愛ってモンは、結構厄介なンだよ
苦しくもあり
暖かくもある
(この戦いで、イイ加減俺も自分の凪愛(あい)をどうにかしたかったからなァ)
(心の奥の願望(ゆめ)は果たされた
が、俺はやはり”特別”を選べ続けなかった
彼女は別の倖せを見つけているだろう
俺が知る由も無い
完全に離別した
構わねェ
僅かでも共有出来て嬉しく思う
俺の弱さになってくれた、湖面に佇む桃の君(セイレーン)へ)
瞼の裏に焼き付いたネモフィラの海は深い海底へ沈ませ
前と未来を見据え世界と対峙
真の姿解放(黒髪長髪の方
…その愛は、決して無意味では
無駄ではなかった筈だ
使うぜ、その記憶
UC使用
風属性を魔剣に宿す
カマイタチの様に血管獣を素早く切り裂く
呪縛からの解放
本体へ一直線翔ける
敵の血刃から嘆きが聞こえる様で
共鳴しつつも嗤う
敵の攻撃をカウンター
剣戟で押し勝つ
覚悟はとうに
闇雲を晴らせ
赤って色は特別でよ
太陽をも意味する
それを操る時点で
視えてた気がするけどな、双子サンよ(双で一つ
常闇が世界の深淵、更なる底。
これこそがこの世界の真実と言わんばかりに、巡りて脈打つ血が溢れていく。
此処は祈りの双子が待ち受ける鮮血の大地。
祈りの双子が力とする全て。
支払える代償に制限はなく、果てなどないように力の振るえるこの場所で。
されど。
義に生きる想いと勇にも果てはないのだと、ひとりの漢が眦を決す。
「相見えたかったぜ」
唇より紡ぐは強き声と笑み。
赤夕と青浅葱、左右で違ういろを宿した眸なれど。
どちらにも秘めたるは、正しきを為すとい想いのいろ。
真っ直ぐに己を貫く信念と剣を以て示すのだ。
それこそが杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。決して闇に臆さず、ただ向き合いて破る漢なればこそだった。
流れた血に宿るのが総て、悲哀に満ちた残滓ばかりではないのだと。
未練と喪失、憎悪に燻るものが、ひとの心ではないのだと。
時にそれ一色に染まったとしても、そんなにひとの心は単純ではないのだから。
「愛ってモンは、結構厄介なンだよ」
大魔剣たる玄夜叉を肩に担ぐように構えながらゆっくりと祈りの双子に近づくクロウ。
「苦しくもあり」
そして僅かに頬を歪めて。
「暖かくもある」
クロウとて解っている。
そう告げる自分こそが、心と愛の複雑怪奇さを憶えているのだから。
さながらふたりで紡ぐ綾模様。どのような姿と色になるのかさえ解らず、ただ広がり続け、絡まり続ける。
(この戦いで、イイ加減俺も自分の|凪愛《あい》をどうにかしたかったからなァ)
それは凪いだる水面の如く穏やかなる愛。
激しく相手を求めてて啄みあい、絡み合うものではない。
けれど、それは胸の奥でずっと疼き続けるのだ。
このまま忘れ果ててよいのだろうかと。
もっと熱を持って触れなくてよいのだろうかと。
忘却は慈悲にならず、時間は苦悶と惑いを増やすばかり。
疵なき神鏡とて、自らのこころの未来ばかりは映せない。
だがと。
表情を決意の元に固めて、クロウは玄夜叉を構え直す。
(心の奥の|願望《ゆめ》は果たされた)
されど、それが全てではない。
もしもという可能性を広げる思考と感情が、欲望と後悔を後から後から湧き出させる。
(が、俺はやはり”特別”を選べ続けなかった)
ならばどうすればよかったのだろう。
いいや、今が正義であり、正しさであり、彼女の求めた世界の為にということ。ならばそう、”特別”などという欲望は棄てるべきだったのだろう。
そうして、僅かに視線を落とすクロス。
(彼女は別の倖せを見つけているだろう)
だが、クロウにそれを知る由も無い。
完全に縁を切り離すということはそういうことであり、他人の倖せを願うことさえ覚束ない。
絶対に届かないと。
叶わないと解ってしまう祈りだから。
――構わねェ
そう、ならばこそ。
構わないと痛みを堪えて笑うのがクロウであればこそ、微かなる思いでも救いとなるのだ。
僅かでも共有出来たことを嬉しく思うばかり。
全てに共感してくれなくても構わない。
同じ思いを映す鏡を抱きしめるなどまっぴらご免だ。
そんなものより、己にない|情念と慕情《いろ》をみせてくれとクロウは希う。
だから、今思うのは純粋なる感謝。
湖面に佇む|桃の君《セイレーン》よ。
ひとときであれ、己が弱さとなってくれたことに有り難う。
その弱さを越えてみせると、振り切るようにクロウは瞼を閉じる。
ああ。
それでも瞼を閉じても、瞳に焼き付くのは|瑠璃唐草《》ネフィモラの可憐にして淡い青。
あなたを許すと、小さく囁くように揺れる花びらたち。
花びらの海は深い海底へ、思考と記憶の奥深くに沈ませながら。
クロウは前を見据え、世界そのものと対峙するのだ。
この常闇の、残酷なる悲劇の世界を。
ああ、何時までも続く|恐怖劇《グランギョニル》に終止符をもたらすべく、クロウの姿が真の姿へと変貌する。
射干玉のような艶やかな黒髪は腰までと長く伸び。
悠然とした色艶を帯びた美貌にあるのは金銀妖瞳。赤夕と青浅葱の眸が、闇深き場所でもなお彩を褪せさせず在る。
「……その愛は」
小さく呟き、そして強く響かせる。
「決して無意味では、無駄ではなかった筈だ」
故に血の記憶からそのひとひらを掬い上げるように貌をあげて。
「使うぜ、その記憶」
そうして発動される|奇跡の欠片《ユーベルコード》。
誰がこれを罪深き刃と囁いたのか。自らを信じるという、正義に殉じる者の誓いを立てることで、クロウの力が更に増していく。
『よい』
一方で傲然と、或いは傲慢に。
祈りの双子は鮮血を贄にして血管獣たちを呼び出していく。
『猟兵とは、そういうものでなければならない』
「――――」
僅かに意味深な、或いは祈りに似た声にクロウは僅かに心を揺らすが。
だが、それが動揺などに至る筈はない。
情は情。されど戦は戦。
割り切れるほど器用ではなくとも、貫くべき場所とモノをクロウは違えないのだから。
故に魔剣に風を宿らせ、駆け抜け様に身体ごと振るう一閃。
吹き抜けるは無数の刃を孕んだ疾風だ。
疾なる刃風に晒され、血管獣たちが斬り裂かれていく。
のみならず、刃によって断ち斬るは祈りの双子による呪縛。
成る程とクロウの慧眼に頷くべき――この血管獣たちは、この世界の民の血液を贄として呼び出されているのだから、ある意味で祈りの双子たちに縛された式神とも云えよう。
全ての敵を打倒するのではない。
無闇に傷つけず、誠なる禍を討つべく神鏡なる漢は更に一直線へと翔けていく。
ああ、傍に寄らずとも、祈りの双子が手にする血刃より微かに聞こえるは嘆きの声。
どうして、このまま消え去れぬのか。
戦いなど嫌だと。
いいや、闇に操られ、希望と抗うことが本当の絶望として血の記憶たちに響いていく。
そう、クロウの心魂に共鳴するまで深く届きながら。
「はっ」
笑ってみせるがクロウという漢。
苦しみ、哀しみ、嘆くような貌を見せれば助かるのか。満足なのか。
ここに光がある。本当の救済が訪れたのだと、笑って示すが漢が道だとただ真っ直ぐに魔剣を掲げる。
破刃一閃――鳴り響くは澄んだ刃金の音色。
されど、それは今という闇を打破するモノの退魔の剣。
迷妄を祓い、三毒を消し、光明を射すべく剣戟が乱れ咲く。
舞い散る火花、刀身の欠片たち。
ひとつ、ふたつと重ねれば重ねるほど、血刃に縛られた魂たちが解放されていく。
剣戟をもって押し勝つ。そう定めた漢が、敵手の刃を弾いて、破じて、打ち砕かんと猛り続ける。
『成る程、真っ向勝負が好みか』
が、祈りの双子も伊達ではない。
最弱とはいえ『フォーミュラ』。そして、この鮮血の大地ならは最強となれるのだから。
ひとりがシンクレアでクロウの魔剣を受け止めた瞬間、もう独りがクロウの死角へ滑り込み強襲する。
流れるような連携はまさに双子。
だが、所詮は闇に澱むモノでもあった。
「覚悟なんざ、とうの昔にできてンだょォ!」
それは剛にして疾。
自らの刀身を拘束する祈りの双子を剣威のみで弾き飛ばすや否や、半身を翻して急所を狙った切っ先より逃れるクロウ。
首筋を削られ、盛大に鮮血が吹き出す。だが、だから何だ。
「多少、見栄えが激しいだけだろう」
命には届かない。直感で理解したが為に、手をあてる事もなくそのまま身躱しの勢いを乗せ、カウンターで叩き込む黒き剣閃。
祈りの双子を纏めて斬り裂き、鮮血と共に流転するいつつの色彩が燦めき舞う。
命に届かなくば同じこと。
されど、祈りの双子にとっては完全な隙。
「この世の、闇雲を晴らせ」
己へと誓うようなクロウの言葉を持って、血刃へと振り下ろされる漆黒の斬閃。
祈りの双子が手に持つ血刃を、まるで硝子のように割り砕くクロウの黒き耀き。
そうして解放される、血刃に宿った魂たちの奏でる安堵の声に、クロウは小さく笑った。
「赤って色は特別でよ」
それを示すように、本来の強さと色彩を見せつけるように。
彼岸花のように美しい赤焔を刀身に纏い、クロウは諸手が構えた。
基礎の基礎。青眼の構え。
されど、その基礎こそ、始まりの思いこそ、この闇を晴らすには大事なのだと。
初心より変わらぬ光を、この世界に。
「太陽をも意味する。それを操る時点で」
何処か誇らしげに微笑むクロウ。
赤光を纏い、そして周囲に広げながら、クロウは炎剣にて吠えるのだ。
「――視えてた気がするけどな、双子サンよ」
|災厄の元凶《フォーミュラ》の双つの身体を、ひとつの魔刃が斬り裂いていく。
舞い散る炎、花びらのごとし。
時と共に移ろい、刹那を囁く美は今、この世界にはなくとも。
いずれ、陽光射す場で、多彩なる花のいろが艶やかに咲き誇ろう。
ああ。
闇の黒のみの世界など。
最早不要。ひとの心が、綾なる彩を見出し、纏うことを漢は願った。
そして、それはきっと叶うのだ。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
武に穢れ無き、とは誰の言だったか。
ならば怖れずに鮮血へ。
もし召喚した獣を先行させるなら、二刀を抜き払っての斬撃波で牽制。
そうして刀を、全身を血に涵し、己の裡へ。
――貴殿らは、他者の嘆きを見て「痛い」と感じた事は御座ろうか。
私はある。
おかしいかな。
己が傷付き、痛がるなら解る。
しかし他者を見てそう感じるのは――愛あるからこそ。
曰く、武士道とは博愛の心でもあるという。
主君、民衆、そして祖国。
すべて愛するからこそ武士は戦える、と。
この血にて思い出しました。
高慢な吸血鬼に虐げられた者。
同族殺しと化しても復讐を果たさんとした男。
その憎悪も、元は奪われたものへの愛ゆえ。
そんな彼らを見て、私も胸を痛めた。
貴殿らが苦患を力とするなら、私はその愛で応じましょう。
無論、双子殿。貴殿らもその愛の例外ではなく。
そう言い切り、【鬼門行】にて刹鬼たる姿へ。
特に変化は無く、ただ斬る事への悦びが芽生えるだけ。
愛する故にその太刀筋も見える――躱し、斬り込み。
愛する故に断ち切る事も出来る――惑いなく、一閃。
愛ですよ、双子殿。
思いに、願いに、そして祈りに。
一切の正邪の境など存在しないように。
武心に穢れ無き。
そう言ったのは果たして誰の言だっだろうか。
少なくとも武門の生き様とは、己を捧ぐように進むということ。
傷は負おう。痛みもあろう。血と泥に塗れ、それでも戦に赴くのだ。
故に身体の汚れなど論になく。
その心身の澄み渡ることに重きを置くべし。
矜恃を鼓動として以て生きるのだと、志を以て光とするのだと。
「ならば恐れずに」
鮮血へと身を投じようとするは竜胆が色彩を纏う武者たる鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)。
鮮やかにして美しき青紫の色彩宿すは、義を以て勝利する花言葉なれば。
何を恐れることがあるのかと。
忌むべきものなど何があるのかと。
すぅ、細められた美しい眸に、曇りのひとつ浮かばせられない。
だからこそ、ぞくりとこの時、祈りの双子は確かに震えた。
この常闇の世界にあって異常にして異質。
精神性として必ず異なるものが血の記憶に触れようとする行為に、直感的に忌避と――そして隠しきれぬ恐怖を覚えたのだ。
『行け、獣よ』
故にと、自分たちの負傷を癒やす事も忘れて狂奔させる血管獣たち。
確かに、死ぬ事を厭わず、他者を想い、そして己を棄てても世界に言を成す武士たるや、闇の有無を問わぬ清廉なる強さなのだ。
故に、鞍馬は緩やかに。
されど、荒波が如き猛威を以て二刀を振るう。
「――――」
いつの間に抜刀されたのやら、誰もが掴めぬ無拍子は怜悧なる志あればこそ。
冷艶なる拵えにて風雅さを漂わせる濤景一文字も、脇差ながらに操剣に羅刹の怪力を要する鬼包丁さえも、まるで澄み渡る秋の織月が如く佇んでいる。
故、振るわれた剣威は既に敵手へと届いているのだ。
瞬きより早く抜き放っての斬撃波。その早業の前に、遅れて血管獣の躯から鮮血が吹き上がる。
ただの牽制。されど、容易に近づけば命を落とすという鋭刃の宣告に、血管獣さえ怯んで止まる。
そして、その一瞬さえあれば鞍馬には充分。
――とぷん、と
美麗なる刀を、そして竜胆の彩に染められた身体を、そして美しき怜悧なる貌と黒き髪を。
躊躇うことなく全身を血に涵し、己の裡の奥深くへ。
瞑想にも似た心境へは呼吸ひとつ、ふたつと重ねる間に到達するものの、鞍馬がそこで見るは剣を持ちながら、それを持つ自己というものを忘却し、他と溶け合わせてしまったもの。
嗚呼、此処は地獄か。
成る程、修羅にはむしろこういう場のほうが酷というものだろう。
己を忘れ、技を忘れ、ただそれでもと焦がれ続ける。
なんとも無慈悲なことか。
彼らもまた、光と希望を求めたものであるのに。
いいや、それ以前に。
――貴殿らは、他者の嘆きを見て『痛い』と感じた事は御座ろうか。
声なき想念として、血の記憶たちの心の底にと響かせる鞍馬。
そして反応を待たずして、まるで氷の刃のような鋭さで断じるのだ。
「私はある」
今度は確かに自らの喉を震わせて紡いだ声が、血の記憶たちの奥深くまで届いていく。
決して酔狂などではないのだと、ぐるりと周囲を見渡し、触れた血の記憶のひとりも見逃さないように、鞍馬は藍の双眸で捉えていく。
「おかしいかな」
いいや、それが当然。
斯くあるべしと、己に、いいや武門のひとりとしての生き様と捉える鞍馬は続けるのだ。
「己が傷付き、痛がるなら解る」
しかしながら、どうして傷も負っていないのに痛みを憶えるのか。
まるで幻覚じみたものであり、見ただけで傷が伝染するならばそれは呪いだ。
が、それが当然のことであるのだと鞍馬は告げる。
ああ、勿論、これを聞く全ての者にこの心を解って欲しいなど、傲慢に過ぎることは願えずとも。
「己が傷付き、痛がるなら解る」
頷きながら一歩、一歩と鞍馬は前へと進み出る。
周囲の者たちの反応は朧げ。
決して解らない訳ではない。だが、忘れ果ててしまっいてるのだ。
自分が痛みを憶える条件を。
生きていた頃、何より悲しいと、痛いと、そう憶えた瞬間のことを。
「しかし他者を見てそう感じるのは――愛あるからこそ」
静かなる声が、魂の深奥まで響いていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。されど、滲むように後から、後からと記憶と感情が、想いと信念がわき上がる。
そうだと、血の記憶たちがざわめく。
剣を執り、命を懸けて戦ったのは――愛した相手が傷つくのが嫌だったから。
傷ついて涙した時、自らの胸が張り裂けそうだったから。
身だけばなく心とてそうだった。見ているだけなど出来ないと、どれほどの驚異と理不尽があれど立ち向かうと決めたのだ。
何も色恋、情婦の話ではない。友であり、家族であり、愛という言葉が伝わる相手ならば誰でもそうだということ。
それを鞍馬という男は思い出せながら、なお澄んだ声色で紡ぐ。
「曰く、武士道とは博愛の心でもあるという」
その心魂というものは、異なる世界では伝わらぬものかもしれぬ。
されど、これが我が心であると大きく胸を開くように、記憶たちに自らが想いを曝け出して鞍馬は穏やかに続けるのだ。
「主君、民衆、そして祖国。すべて愛するからこそ武士は戦える、と」
忠であり、仁であり、義であって信でもある。
愛を軸として語れる徳は世が為でもあるが、同時に武士が迷わず死地へと赴く為。
ああ。つまりは、貴方が私と共に死んでも構わないと戦地に赴くには、相手と自分、そして住まい育った土地、そして周囲のひとびと。
全てを愛せてことなのだ。
故に、愛すること、愛されること。
それを強いることなく、出来る存在でなければいけない。
なんと難しきことか。
ただ独り、死ぬるのはなんと簡単なことか。
だが死ぬのではなく、生き続けるのであればこそ、愛する者は何よりの耀きとなる。
そう貴方たちが、己が名さえ忘れてもなお、愛していたということを憶えていたように。
ふ、と鞍馬の瞼が静かに落ちる。
「この血にて思い出しました」
それはかつての戦いのこと。
身に覚え、心に刻みし者たちのこと。
「高慢な吸血鬼に虐げられた者」
この常闇の世界では常だと云える筈がないだろう。
鞍馬は、他人の傷をみて『痛い』と憶えるのだから。
それが愛だというのだから。
「同族殺しと化しても復讐を果たさんとした男」
故に彼らの事が解らなくもないのだと、少しだけ悲しげに、いいや淋しげに鞍馬は口にした。
「その憎悪も、元は奪われたものへの愛ゆえ。……そんな彼らを見て、私も胸を痛めた」
悲しく、淋しく。
他に道はなかったのかと。
ならば助けたいと、手を伸ばす事、身を戦へと投げ出すこと。
それを嫌と言わぬことが愛であり強さなのだと、鞍馬は誓うように言葉を紡いだ。
「貴殿らが苦患を力とするなら、私はその愛で応じましょう」
ただ苦悩と怨嗟ばかりにてひとの心は為らず。
ここにまた血の記憶として在るものならば、向けられた愛にて再び形を成し、そして愛にて応じる筈と。
信じる鞍馬の藍色の双眸に、一点の曇りなし。
「無論、双子殿」
愛――他者を想う気持ち。
されど、まるで白刃を喉元に突きつけられたような驚異を鞍馬の声に感じて、祈りの双子は後ろへと跳ぶ。
此は何かが違う。
正しく、清らかで、光ではあろう。
だが、己が命など省みぬ猛勇さと、驕りを赦さぬ澄んだ熾烈さを宿している。
闇も光も供にあるもの。
中庸。どちらに傾くことなく、己が道を貫くという武の存在が、闇を払う刃と為る。
「貴殿らもその愛の例外ではなく」
そう言い切るや否や、鮮血より八艘飛びが如く跳躍した鞍馬が、祈りの双子へと剣を向ける。
姿は変わらずともその心魂が変貌するは鬼門行による剣の刹鬼。
鬼心に覚醒した鞍馬の眸がゆっくりと揺れるのは、愛と、そしてただ斬ることへの悦びが芽生える故に。
剣刃に光も闇もあるまい。
在るのは正邪の境なれど、斬り合う最中にそれは無粋。
「愛する、という証左が白刃に映り込めばそれでよし」
極端に言えば、鞍馬という刹鬼は生と死の狭間にいる。
光でもあって闇でもある。元より、全てを斬りて滅ぼす鬼に、常闇の禍々しさを説いても無駄であろう。
その所作に痛みを憶えて、愛と成す。
未だ太陽さえ出ぬこの世界にて、最も恐ろしき剣鬼が脈動するのみ。
死の気配を憶えた血管獣の、本能のみによる決死の吶喊。されど、荒波の如く剣意は冷たくも艶やかな剣光を瞬かせ、それを両断する。
恐ろしきはその鋭さ――鋭利なのではなく、まるで鉈で斬り断ったが如き断面。
戦場に鋭すぎる刀など要らぬ。
鉈程度あれば充分と、肉も筋肉も骨も易々と両断せしめる刹鬼の剣。
力と技、反射神経と速度ともに尋常ではなく。
「この獣たちにも、愛あればこそ」
十を数える間もなく、鮮血と肉の花びらと化した血管獣たち。
血が、肉が、斬り散らされて、舞い散りながらも未だ地に着かぬ儘。
その末路を見ることなく、祈りの双子へと真っ向から斬り懸かる鞍馬。
『……狂いがっ』
「然り、剣に狂った鬼に愛されたのです。そういう道を自ら辿ったのです、双子殿」
流麗と云えるほどの連携を見せ、光陰一寸の隙も見せずにふたり同時に斬り懸かる祈りの双子。
「なれば、相応の末路でしょう」
幾度なく剣戟に応じ、剣意で血刃を破じながら応える鞍馬。
成る程、同時攻めというのは恐ろしきもの。
なれど、ひとりが頭を狙えば、相打ちにならぬように別にしか攻め懸かれぬ。かの壬生の狼が恐れられたのはこの連携の裡に、ひとりめが斬られることを前提として斬り進んだからだ。
今の鞍馬に言わせれば、その壬生の狼たちも同胞、同門を愛し逢った――故に、痛みを共にして臆すことなく死へと躍り出られる。
それほどの透徹した戦意を、愛を、祈りの双子が持てる筈もなく。
鞍馬は愛する故に、その太刀筋も見えるのだ。
無駄に剣戟打ち合う事なく、相手を想うが故に動き捉え。
――秋風のように躱し、霜風の如く斬り込む。
『っ』
「片割れを斬られれば痛い。己ではなくとも。――それもまた、愛でしょう」
嗚呼、故にと刹鬼が眸に捉えられる双子の情動。
愛なる魂の脈動と息吹。
優美とさえ思える所作で濤景一文字に剣弧を巡らせて、踏み込むは蒼瞑の剣鬼。
情を知り、愛を理解し、光も闇をも合わせ持つこの鬼の斬刃からは逃れられぬ。
双子が違いの逃げ場を奪い合わぬようにと、連携という名の愛を見せて動けば、鞍馬の唇が微かに動いて声を告げる。
ああ、そのように愛を以て逃れようとせねば。
きっとこの一刀では諸共とはならずとも、と。
「――愛する故に断ち切る事も出来る」
陰陽を巡らせるが如き剣気は、鞍馬の雅なる切っ先にて双子の胴を捉える。
あ、と。
刺さった刃の向きが祈りの双子に伝えるのだ。
これは私の心臓に至るのだと。
己が身ではなく、片割れの身に刃を突き立てられた双子も同じく、無常を詠う刃の流れに呑まれるのだと。
その傷、痛もう。
ああ、解るとも、解るとも。痛いほどに。
故――惑いなく、一閃。
祈りの双子のふたつの心臓、共に白刃一閃を以て斬り断って見せる。
示すは武士という苛烈なる生き様と、恐ろしい程の愛。
戦場でなければ存在出来ぬ、刹鬼の姿であった。
「愛ですよ、双子殿」
そう、共に他の者へ。
例えば世界の為に、配下の為に、まるでこの|世界《くに》の君主であるように振る舞うのならば。
この地に流れ込んだ血のひとしずく、ひとしずく愛するべきだったのだ。
そうであれば、斯様な程の力の差などあり得ず。
「……介せぬのであれば、その傷と魂の瑕疵。私が痛みましょう」
それをもって常闇を断つ刃となる。
光にて闇を払うのみならず。
闇と光を制して、この魂と供にあるのだと。
死と生を、愛と刃で詠う鞍馬はひっそりと瞼を閉じた。
ああ、夜明けは遠い。
されど、愛を以て進むのならば。
その道、果てしなきものなどなるものか。
世に散りし義を集めれば、それはきっとひとが成すものと。
美酒に酔うようなしっとりとした熱孕む、斬殺への悦びがゆっくりと醒めていく中、鞍馬は眸に刻む。
これが終わり。
数多の命を弄んだものへの。
そして、常闇での決戦での。
|闇の救済者《ダークセイヴァー》たる刃たちの。
されど、彼らが触れなかった愛を以て葬るのだ。
もしも光射す朝焼けが来るのならば、人々は希望と祈りを口ずさむだろう。
それは己よりも大事な誰かの為。
誰かが痛むことを、哀しみ、共に涙する為。
長く続いた闇の裡でも愛は果てぬと、ヒトが示した戦の終わりだった。
大成功
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