闇の救済者戦争⑲〜オムネス・プロ・シール
●五卿六眼
悪と善とが存在するのだとして、人の心には良心という揺らぐ燈火がある。
どちらかに傾くことはれど、全て染まることはない。
完全なる悪性は確かに邪悪であったことだろう。
しかし、完全なる善性もまた完全なる悪性と変わらぬものである。
「力なき正義は無力。だが、意識無き力はただの悪だ」
五卿六眼『紋章つかい』は、一つの紋章を手にとって眺める。
それは寄生虫型オブリビオン。
これまでダークセイヴァー世界において確認された無数の紋章を生み出した存在である。
「意志の力だけが、人を『英雄』にする。だから俺は紋章を創る。正しき意志を持つ者に、相応しき力を与える為に!」
彼は昆虫めいた紋章の一つを己の手の甲に装着し、その輝きを見つめる。
力は満ちる。
だが、それに『紋章つかい』は満足していないようであった。
「まだまだ紋章は研究不足。人は未だ装着には耐えられない」
しかたないな、と新たに生み出された紋章を彼は無造作に放り投げた。彼が求めているのは人を『英雄』に変えうる力を持つ紋章である。
しかしながら、その力の負荷に耐えられる人間は顕れていない。
ならば、己が成すべきはさらなる研究である。
オブリビオンであるのならば、いくら滅びても過去より再び滲み出す。際限なく湧き上がり続ける研究材料というわけだ。
「まあ、オブリビオンからも『英雄』は現われるやもしれないからな」
うん、と『紋章つかい』はあっけらかんと再び紋章を生み出していく。彼にとって、紋章付きのオブリビオンがどうなるのだとしてもあまり興味はないようだった。
強大なオブリビオンである紋章つき。
彼らを野放しにした時点で、ダークセイヴァー世界における人間たちは脅威にさらされる。けれど、それは彼にとって重要ではない。
「まあ、いいだろう。将来的に紋章を装着できる人間が現れれば、紋章つきのオブリビオンなど容易く蹴散らすであろうからな」
『紋章つかい』は一つのびをして、また一つの紋章を生み出しては、これも違うと放り投げる。
「……さて。吸血鬼共に次の材料を集めさせよう。オブリビオン10体、魂人500人もあれば足りるかな……ん?」
『紋章つかい』は眉根を寄せる。
彼の隻眼たる眼には一つの輝きが写っていた。
それはこの場に転移してきた猟兵達の姿。
「なんと! 猟兵ではないか! ちょうどいい! 正義を知る彼らは喜んで検体になってくれるだろう。彼らも『英雄』たる人間が生まれることを望むだろう。なにせ、これは正義の研究だからな。うん、そうだ。頼めば彼らはきっと協力してくれるに違いない」
彼は目を輝かせる。
信じて疑っていない。
彼に宿るは善性。完全なる善性。一片の悪性無く、ただひたすらに己の正義を信じる善性を持つ。
故に、彼は己の行いが悪意なくとも人に害するものであったとしても、一片の疑念すら抱かない。
己が正義をなしていると、信じて疑わない。
だからこそ、このような行いができるのだ。完全なる善性は完全なる悪性と変わりない。
故に彼は諸手を挙げて猟兵たちを歓迎するのだった――。
●闇の救済者戦争
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。ダークセイヴァー世界を支配する五卿六眼の一柱、『紋章つかい』との戦端が開かれました。彼は寄生虫型オブリビオン『紋章』の生みの親でもあります」
彼女の言葉にこれまでダークセイヴァーにおいて戦ってきた紋章つきオブリビオンとの激闘を思い出した者もいただろう。
そう、『紋章』は装着者であるオブリビオンの力を高めるものである。
その生みの親『紋章つかい』は、『正しき意志の持ち主に紋章を私、英雄にする』という目的のために、これまで非人道的な実験を繰り返してきた。
正真正銘の鬼畜であると言える。
己の正しさを微塵も疑っていない。
そして、彼の恐るべきところにして唾棄すべき点は一つ。
「彼は皆さんが顕れても、皆さんが自分の目的に賛同してくれると信じて疑っていません。皆さんが紋章の検体になってくれるとさえ思っているのです」
それはあまりにも暴論が過ぎると思うだろう。
だが、『紋章つかい』は何も疑っていない。猟兵に正義があるのならば、そうするのが当然であると思っているのだ。それを正すことは意味をなさない。
どれだけ言葉を尽くしたとして、『紋章つかい』にあるのは善性のみ。
純粋な善意で悪逆無道たる行いをしているのだ。
「彼は彼の正義を認めぬ皆さんを正義と認めないでしょう。ずっと平行線が続くばかりです。彼の『欠落』は未だ健在ではありますが。しかし能力を紋章作成に特化しているため、無敵能力を有してはいません。滅ぼすことができるのです」
それは朗報であった。
しかし、彼の実力はシンプルであるがゆえに強大である。
「彼は紋章を体に複数埋め込み、『装着変身』によって紋章事態を各個撃破することができなくしてしまいます。この状態は、恐らく……『腐敗の王』や『ライトブリンガー』を凌ぐ程の強さを誇ることでしょう」
打つ手がない。
だがしかし、この戦場のあちこちには彼が生み出して無造作に放り投げた紋章が点在してる。
彼に対抗するためには、放置された『紋章の失敗作』を手に取り、猟兵達も『装着変身』するしかない。
「……それはとても危険を伴うでしょう。紋章を『装着変身』すれば、装甲の如き異形に変じ、『紋章つかい』に肉薄する力を得ることでしょう。これしか手段が無いとは言え、危険であることは……」
当然である、とナイアルテは躊躇う。
けれど、それで止まる猟兵はいないだろう。覚悟とは、すでに彼らの中に燈火を宿されるものである。故に、この暗闇の世界を進む唯一があるというのならば、猟兵達は躊躇うことなく紋章を『装着変身』して戦いに臨むであろう。
ナイアルテは己が言葉を挟むことではないと理解し、頭を下げて猟兵たちを見送るのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『闇の救済者戦争』の戦争シナリオとなります。
ダークセイヴァー世界を支配する五卿六眼の一柱『紋章つかい』との戦いになります。
彼はあくまで己が正義であると信じて疑っていません。
皆さんが正義であるからこそ、己の目的に賛同して協力してくれるとさえ思っています。
『欠落』は健在ではありますが、無敵能力はありません。制圧すれば滅ぼすことができます。
ですが、『紋章つかい』は複数の紋章を肉体に埋め込み『装着変身』に至っています。
この状態の彼に装着された紋章を各個撃破することはできません。
これに対抗するためには、戦場に無造作に残されている『紋章の失敗作』を手に取り、こちらも『装着変身』によって『紋章つかい』と同じ土俵に立つしかありません。
皆さんが紋章によって『装着変身』すると装甲に覆われた異形の如き姿に変身し、『紋章つかい』と同等のパワーを得ることができるはずです。
プレイングボーナス……「装着変身」を行い、敵と同等のパワーアップを得る。
それでは、『鮮血の洪水』を防ぎ、己の弱点をひた隠しにしようとする闇の種族を打倒する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『五卿六眼『紋章つかい』』
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POW : 紋章正拳
【「番犬の紋章」を拳に装着しての正拳突き】が命中した部位に【紋章つかいの正義】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 紋章連脚
【「不死の紋章」を脚裏に装着しての飛び蹴り】【「辺境伯の紋章」を膝に装着しての膝蹴り】【「殺戮者の紋章」を爪先に装着しての連蹴り】で攻撃し、ひとつでもダメージを与えれば再攻撃できる(何度でも可/対象変更も可)。
WIZ : 紋章断罪翼
自身が装備する【「月の眼の紋章」を両翼に装着した漆黒の翼】から【細胞破壊光線】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【肉体宝石化】の状態異常を与える。
イラスト:レインアルト
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
戒道・蔵乃祐
独善の化身よ
英雄は平和を導くひとつの手段であって目的ではありません
平和を望む意思によって人々は、自ずと英雄となる
単純な戦闘力だけが英雄を英雄足らしめるものではない
それに
オブリビオンから英雄が誕生したとして、それが破壊と殺戮を求める者だとしても
貴方は紋章を御する者ならば、『英雄』を肯定するのでしょうね
◆闘法黄金律
ならば僕は紋章の英雄として、貴方を否定しましょう
それが貴方の望みなのだから
【邪竜】の紋章を取り込み、竜鱗形態に変身!
心眼+見切り『竜眼』で連脚を捌くジャストガード、ダッシュ+空中戦『竜翼』でスピードを拮抗させる
怪力+重量攻撃のグラップルを荒れ狂う衝動のままに限界突破+乱れ撃ちで叩き付ける
五卿六眼の一柱『紋章つかい』は現れた猟兵達に対してにこやかな表情を浮かべていた。
彼に取って紋章の素材となるオブリビオンや魂人を集めるという行為は、煩雑そのものであったからだ。
別に取り立てて難しいわけではない。
ただ、面倒なだけだ。
そして、面倒というのは常々研究を遅らせる要因でしかない。ならば、己ではない他の誰かでも代理可能だというのならば、他にやらせて己は紋章の研究に専念すればいい。
だから、猟兵の到来は彼にとって歓迎すべきものであった。
「よく来た猟兵。君たちは無論、正義であろう。ならば、紋章の研究がどれだけ素晴らしいものか理解できるだろう。これは正義のための研究なんだ。君たちも喜んで検体となってくれるね?」
彼の言葉にしかして猟兵は否と応える。
「独善の化身よ。英雄は平和を導くひとつの手段であって目的ではありません」
戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)の言葉に『紋章つかい』は目をしばたかせた。彼の言葉に『紋章つかい』は首を傾げる。
「いや、違うよ。猟兵。手段ではないよ、英雄は。そうあれかしと呼ばれる者たちは、須らく、そうした力を持っている意志によって力が宿るからこそ英雄と呼ばれる名称でしかないはずだ」
「いいえ。平和を臨む意志によって人々は、自ずと英雄になる。単純な戦闘力だけが英雄たらしめるものではない」
問答を前に『紋章つかい』は眉根を寄せる。
彼にとって正義とはそういうものではないのだろう。
純粋な悪と純粋な善は表裏一体ではない。
なんら変わることのないものであるとさえ言えるだろう。だからこそ、意志が必要なのだ。どうしてそうするのかという意志が。
「君は正義ではないな。この研究に賛同できぬというのなら」
蔵乃祐の眼前に紋章が煌めく。
それは『紋章つかい』の膝にはめ込まれた紋章であった。膝蹴りの一撃。その一撃を蔵乃祐は拳で受け止める。
弾かれ、回し蹴りの一撃が彼の額を割る。
血が噴出ししながらも、蔵乃祐は手にあった『邪竜』の紋章を己の体に装着する。
「ああ、だめだ、猟兵。それは失敗作なんだよ。ただ外装を取り繕うだけの鱗でしかない。そんなつまらないものでは完成とは言えないんだ。あとで適当なオブリビオンに取り付けてデータ取りをしようと思っていたんだが」
振るわれる旋風のような蹴撃の応酬の最中、蔵乃祐は構わず『邪竜』の紋章を得て、その身を鱗のような装甲へと覆う。
「オブリビオンから英雄が誕生したとして、それが破壊と殺戮を求める者だとしても、貴方は紋章を御する者ならば、『英雄』を肯定するのでしょうね」
「わかっていないな。紋章を御することのできるものは正義さ。即ち、それはその行い自体が正義そのものなのだよ。だったら、それは逆説的であり、同時に不可逆たる意志であるとは思わないかい?」
蔵乃祐を覆う龍鱗の装甲が砕ける。
だが、その連撃たる蹴撃を彼は拳で受け止める。
「……いいえ。僕は紋章の英雄として、貴方を否定しましょう。それが貴方の望みなのだから」
「噛み合わないな、猟兵。紋章を用いてデータを与えてくれるのはありがたいが。だがしかし」
振るわれる拳と蹴撃の応酬。
吹き荒れるユーベルコードの煌めき。
蔵乃祐の背に龍鱗でできた翼が羽撃き、空にて龍顎龍尾龍撃乱舞が『紋章つかい』の蹴撃と撃ち合い続ける。
砕ける龍鱗。
されど、速度で勝るように互いの一手が激突し相殺され、そして更にスピードが上がっていく。蔵乃祐の連撃は『紋章つかい』の蹴撃よりさらに速度に勝るものであった。
砕けた龍鱗は一撃が軽いためだ。
けれど、蔵乃祐の瞳はユーベルコードに輝き続ける。
己が否定しなければならないものがなんであるのかを。
正義とは如何なるかを。
英雄とはどのような在り方であるのかを。
「僕は否定し続ける」
悪性と善性は、ただ其処にあるだけだ。もしも、『英雄』と呼ばれる者がいるのだとして、そこにあるのは完全なる悪性と善性ではない。
あるのは悪性と善性に引き裂かれるようにして揺らぐ良心。
故に蔵乃祐は龍鱗の欠片を撒き散らしながら、『紋章つかい』の連撃を凌ぎ、その頬を竜顎拳にて打ち据えるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎
むう、純粋善意の悪辣さというな…。検体になるわけなかろうが!
というか、やり方が気に食わんのよ!
失敗作を適当に掴んで…黒狼。慣れた姿よな!色は違うが!
※生前は橙色の狼キマイラだった。
そして、その拳に当たるわけにはいかぬからな、間合いは槍を保つとして。
薄く張った結界にて時間を多少稼いで見切り、さらに拳ではなく肘にUCつきの黒燭炎を当てるようにしよう。
このとき、突きからの薙ぎという二回攻撃の動作にする。…避けられた後の隙というのは、大きいものであるからな!
「これは参ったな。猟兵は研究に喜んでくれると思っていたんだが」
五卿六眼の一柱『紋章つかい』は打ち据えられた頬、そして砕かれた顎を紋章でもって復元しながら首の骨を鳴らす。
一撃に寄ってズレた骨を直すようであった。
「どうしてだい。君たち猟兵は正義を知っているだろう。オブリビオンに対抗して、世界を守るために戦う戦士だろう? なのに何故、検体になってくれない?」
彼の瞳に有るのは純粋たる善性であった。
正義のためにあらゆる悪逆無道を肯定する瞳。行き過ぎた正義が邪悪に変わるのと同じように、彼の中にある正義という名の善性は完璧であるがゆえに、むしろ悪性そのものと言って良いほどであった。
これほどまでに噛み合わぬ存在がいたであろうか。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『侵す者』は槍を構えながら、吠える。
「おう! 純粋善意の悪辣さを見せつけ、正義を宣うのならば! 検体になるわけがなかろうが!」
「わからないな。これが正義であるとわからないのか? それとも、君たちの正義とこちらの正義が違うとでもいいたいのか?」
「やり方が気に食わぬのよ!」
『侵す者』は転がる紋章の一つを手にとっていた。
それは『黒狼』の紋章。
失敗作の紋章であった。だから、『紋章つかい』はまた眉根を潜めた。
「残念だな。そういう失敗作ばかり手に取られてしまうのは。どうせ使うなら新しく作った紋章を試して欲しいのだが」
「問答無用!」
『侵す者』が装着した紋章の力が装甲となって身を包み込んでいく。黒狼を模した装甲。彼にとっては慣れた姿であった。
生前の姿。
橙たる焔を示すような毛並みの狼。
それが己の本来の姿。されど、今は違う。装甲の黒狼は、戦場を一直線に駆け抜け、『紋章つかい』へと肉薄する。
その槍の一撃をすり抜けるようにして『紋章つかい』の拳が結界を砕く。
「困ったな。猟兵。君たちは優秀な検体であると思えるのだが、どうにも正義がないように思える。喜んで検体になってくれるところではないか? オブリビオンや魂人を素材にするのは、どうにも頭打ちだと思っていたんだ」
振るわれる拳。
そのいずれもが必殺の一撃であることを『侵す者』は理解していた。
この天賦の才とも言うべき動き。
武の天才を上回るかのように、こちらの動きを即座に吸収し、さらに迫ってくる。
だが、如何に才能にあふれているのだとしても、経験則は得難きものである。
数多の戦場を駆け抜けてきたからこそ『侵す者』は武の天才と呼ばれるのだ。それは才能だけでは磨けぬもの。
汗と血潮、そして涙でもって練磨される原石があればこそ、今ここにその武は輝くのだ。
「どれだけ正義という名の元にそれを行うのだとしても」
振るう槍の柄が『紋章つかい』の肘を跳ね上げるようにして打ち上げられる。
だが、跳ね上がった腕は即座に斧のように『侵す者』の頭蓋覆う黒狼の装甲を叩き割るだろう。
破片が飛び散る最中、しかして、その瞳がユーベルコードに輝く。
「正義だけではふるえぬ力がある。人を英雄にしたいと願うのであれば、『紋章つかい』、悪性と善性との間に揺らめく良心というものを知るのだったな」
それは火のように(シンリャクスルコトヒノゴトク)に放たれる槍の一撃。
すでに一撃は放たれている。
槍の穂先。
これまで『紋章つかい』は『侵す者』の動きを吸収するように追いついてきた。だからこそ、最速最短で斧のように腕をふるったのだ。
確かに痛烈な一撃。
額が割れ、頭蓋が割れ、脳漿を吹き飛ばさんというような一撃であった。
だがしかし。
「その一撃は悪手であった。その一撃というのは、隙が大きくなるものであるからな!」
振るわれる拳の一撃が周囲を叩き割るような衝撃と共に『紋章つかい』を穿ち、その肉体を吹き飛ばしながら、彼の正義を否定するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
一つ疑問なのでっすがー。
どうして藍ちゃんくん達に英雄そのものになって欲しいと望まないのでっすかー?
猟兵でしたら紋章にも耐えれるかもでっすのにー。
未完成を理由にただただ研究だけに打ち込むようでははてさて完成する日は訪れるのでっしょうかねー?
それとも実は延々と研究し続けていたいということでっしょかー!
というわけでビビッときた紋章を拾っちゃおうなのでっす!
ろくでもない紋章つかいさんが失敗作としたからには逆に藍ちゃんくん達にとってはありな作品かもでっすしねー!
変身の掛け声はもちろん!
藍ちゃんくんでっすよー!
ギア藍ちゃんくんなのでっす!
やや、歌いながらでないと戦えない?
だから失敗作?
藍ちゃんくんにとってはいつものことなのでっす!
正拳突きはギアの力で発生させた歌障壁を藍ドルオーラに重ねて防御!
流し込まれる正義には藍ちゃんくんの歌を流し返して逆流させちゃうのでっす!
歌いながら戦うということは常時ライブ状態ですので!
稼いだ時間からの予算を使い切るかのごとくSDギア藍ちゃんくんズで圧倒しちゃいましょう!
穿たれた傷跡を埋めるように紋章が蠢き、五卿六眼の一柱『紋章つかい』の傷は塞がれた。
肉体に受けたダメージは確かに彼を消耗へと引きずり込んでいるが、しかし、それは未だ遠いと言わざるを得ないだろう。
「ふむ。やはり強いな。君たち猟兵は正義である、というのならば研究に喜んでくれると思ったんだが、どうやら違うようだ。ならば、君たちは正義ではないということになるのではないかな」
「一つ疑問なのでっすがー。どうして藍ちゃんくん達に英雄そのものになってほしいと望まないのでっすかー?」
彼の言葉に紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は質問で質問を返す。
無論、その疑問は尤もなことであっただろう。
紋章に未だ人間は耐えられない。
装着しても、その肉体自体が持たないのだろう。
そもそも、紋章の材料にオブリビオンや魂人を使っている、という時点でおおよそ人間が耐えられるものではないと知れるだろう。
「猟兵でしたら紋章にも耐えられるかもでっすのにー」
「確かにそうだな。でも君たちは正義ではないだろう? 研究に、紋章に対して嫌悪感を抱いている。正義である行いに対して相対しているというのならば、それは即ち悪であると言えるだろう?」
だからだ、と言うように振るわれる拳の一撃が藍に迫る。
吹き荒れるような破壊の力。
彼にとって正義とは己である。混じり気のない善性。完璧な善性。完全な善性であるからこそ、それは悪性と変わりないものである。
故にこの悪辣なる研究をも執り行うことができる。
紋章自体がオブリビオンと魂人を材料にしているという時点で、彼の言うところの正義とは決して相容れぬものであると知れるだろう。
だからこそ、藍は紋章を手に取る。
ろくでもない紋章。
されど、これは『紋章つかい』には失敗作だ。
「なんだかんだと言いながら、結局未完成を理由にただただ研究だけに打ち込むようでは、はてさて完成する日は訪れるのでっしょうかねー?」
手にした紋章より装甲が現われる。
身を覆う装甲は異形なる体躯へと藍を変え……ない。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
藍の瞳がユーベルコードに輝く。
それは己が手にしたマイクが、紋章が、SDたる藍へと変貌させる光。
拳の一撃を、その異形の装甲をまとったギアSD藍が受け止め、衝撃波荒ぶ中で歌声が響き渡る。
「ろくでもない『紋章つかい』さんでっすねー! でも、これで『紋章つかい』さん、あなたに並べることができたのでっす!」
「歌いながらユーベルコードの力を紋章でもって具現化するか。なるほど。紋章も君にとってはただの道具でしかないということだな。だから、そのような形になる」
目の前に現れたギアSD藍に『紋章つかい』は興味深げな視線を向ける。
撃ち込まれる拳を歌のオーラでもって重ねて防ぐ。
衝撃波が髪を揺らす。
それだけで身を打つ一撃は、オーラの防御を無意味にするだろう。流し込まれる正義。それは『紋章つかい』の純粋なる善性故であろう。
己たちを悪と断じるのは、『紋章つかい』の掲げる正義と相対しているからだ。
「やや、歌いながらでないと戦えない? この紋章ってば、そういうことなのでっすかー? でも、そんなの藍ちゃんくんにはいつものことでっしてー!」
歌う。
歌うことしかできない。
それは藍もギアSD藍も同様であったことだろう。けれど、構わない。それはむしろ、独壇場と言えるだろう。
そして、このオンステージには、二人の藍がいる。
つまりは、藍ちゃんくん✕藍ちゃんくん=藍ちゃんくん!!(フル・フル・フル・オブ・アイチャンクーンッ)という図式が成り立つということ。
あまりにも強引な論法である。
理路整然ともしていない。
けれど、理屈ではないのだ。歌が感情を揺さぶるものであるというのならば、そこに理屈は不要である。
理性もいらない。
あるのは、感情を受け止める心。
ならばこそ、藍は歌い続ける。
「その正義は、ただの一枚岩なのでっす。正義というのは、誰しもの心に宿っているのです。そして、いずれも形が違うものでっす! だから!、歌うのでっす。理解できぬものを理解するために。理解しようとする心があることを誰かに教えるために」
ふくれ上がる歌声が『紋章つかい』の拳を弾き飛ばす。
如何に紋章によって強化されているのだとしても、その歌声の圧力は、此処がライブ会場であると規定した藍が居る限り、打ち砕けるものではない。
「だから、二人の藍ちゃんくんで、歌うのでっす! 正義だ悪だなんて関係ないのでっす! 藍ちゃんくんの歌を聞くのでっすよー!!」
ただひたすらに歌声だけが響いていく。
煌めくユーベルコードも。
紋章も。
全てが歌の前には意味を成さないと示すように、『紋章つかい』の語る正義を藍は歌でもって押し戻し、その圧力で持って彼の体を吹き飛ばすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーフィ・バウム
貴方のような者を砕けるなら、此方が悪で構いませんよ
蛮勇を以てあなたを打ち砕きましょうか
装飾具や髪留めなどをパージしつつ
戦場の紋章を取り、『装着変身』!
同時に《四門「麒麟」》を発動し、決戦モードに変身です
紋章の力で腕などが麒麟の姿となっているでしょうか
その蹴りが正義なら私を打ち砕けますか。真向勝負っ!
勇気を全開にし見切り、避けきれなくても
オーラ防御全開で凌ぎますよ
そして、こちらのあらゆるものを砕く怪力の宿る拳で
足の粉砕を狙います!
一片の惑いない者
ゆえに貴方は酷く脆いのです――こんな風にっ!
押し込める機を掴み、力溜めた鎧砕きの拳を、蹴りを叩き込み
全力全開っ!グラップルを生かし組んで投げで仕留めます
五卿六眼の一柱『紋章つかい』は猟兵たちと相対し、そのユーベルコードによって身を穿たれる。
しかし、彼にとってそれは不理解の極みであった。
何故、猟兵たちは己の研究の検体になってはくれないのか。理解できなかった。何故なら、彼は正義の行いをしているつもりだからだ。
理解できようはずもない。
彼にとってオブリビオンと魂人を紋章の材料にどれだけ扱おうが、別段取り立てて心が痛むものではなかった。
何故なら、これは正義の御名の下に行われていることだからだ。
「なのに何故、理解しないのかな。これは正義の行いだ。だから、君たちならば、正義を知る君たちならば検体になってくれると信じて疑わなかったのだが」
『紋章つかい』の言葉にユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は応える。
「貴方のような者を砕けるなら、此方が悪で構いませんよ」
「君たちは悪か。なら仕方ない。理解できないというのも無理なからぬことだ。ならば」
「蛮勇を持って貴方を打ち砕きましょう」
互いの瞳に宿るはユーベルコード。
そして、煌めくは紋章の輝き。『紋章つかい』は肉体に埋め込まれた紋章を持って、その力を発露する。
五卿六眼の中にあって『シンプルな強さ』だけで推し量るのならば、彼が恐らく最も強大な存在であったことだろう。
嵐のように迫る無数の蹴撃。
それを前にユーフィは己の装飾具と髪留めを払い、戦場の紋章を掲げる。
「『装着変身』!」
「それは失敗作だよ、猟兵。それでどうするというんだい」
「四門「麒麟」(シモン・キリン)開門! 今獣類の長となりて、あなたを制しましょう!」
煌めくユーベルコードと共に麒麟のオーラを纏う決戦形態へと変身したユーフィの拳と『紋章つかい』の放つ蹴撃の嵐が激突する。
明滅する光の中、それは雷光のように戦場を埋め尽くす。
「その蹴りが真に正義であるというのならば、私を打ち砕けるはず! ですが!」
「砕けないか! だが君たちは正義ではない。なにせ、紋章の完成に協力してくれないのだからね」
撃ち合う拳と蹴撃が轟音を奏でる。
ユーフィの拳はあらゆるものを砕く怪力を宿している。それを持ってしてもなお、『紋章つかい』の肉体に埋め込まれた紋章は砕けない。
逆にユーフィの拳が割れる。
血潮が飛び散り、その痛みに彼女の顔は歪む――であろうと『紋章つかい』は思っただろう。
だが、違う。
ユーフィの顔は痛みに歪んでなど居ない。
彼女の瞳はユーベルコードに輝き、不撓不屈たる光を宿し続けている。
「あなたは己の正義に一片の惑いもない者」
人は悪性と善性とを持つ者である。ゆえに揺らぐ。揺らぐ両親を持つからこそ、時の流れという膨大な流れの中をかき分けて進むことができる。
だが『紋章つかい』は違う。
ただ一つの善性しか持たぬがゆえに。
「酷く脆いのです――こんな風に!」
拳を開き、ユーフィは『紋章つかい』の腕を掴む。
力を込めた一撃が彼の拳を砕き、蹴撃を叩き込む。さらにユーフィの力はふくれ上がる。理性など無い。あるのは本能。
ただめの前の敵を穿つというただ一つの目的のためだけにユーフィは、『紋章つかい』の体を掴み、投げ放つ。
大地に叩きつけた一撃が『紋章つかい』の体に大地という名の鉄槌を下すように失墜する。
それをユーフィは見下ろす。
「この蛮勇をもってあなたを打ち砕く。これを悪と呼ぶのならば、好きにするがいいでしょう! それでもわたしはあなたを打倒するのです――!」
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
意志の力が人を英雄にする、か。それ自体は幾らか同意できるところはある
意志を持つ者に力を与えるというのも必要な事だろう
だが、その「力」が最悪にも程がある
英雄の条件なんて色々あるだろうが、多分お前の求める「正しい意志を持つ」者は、紋章を否定するだろうよ
紋章を手に取り、装着変身。利剣を抜いて敵と相対
戦闘能力が強化されているとはいえ、これでようやく相手と対等。相手の攻撃をまともに食らうとまずいのは変わりない
刀と拳の間合い差を活かして立ち位置を調整して刀で防ぐかしながら、細かく斬撃を叩き込み
無理に踏み込んできた相手の正拳突きに対しては真正面から壱の型【飛燕:重】、一撃目で拳を跳ね上げて二撃目で斬り倒す
叩きつけられた大地から五卿六眼の一柱『紋章つかい』は立ち上がる。
「……やれやれ。猟兵は正義を知ると思ったが、見込み違いだったのか?」
彼はめの前の現実が受け入れられないようであった。
猟兵によって消耗させられているという現実にではない。猟兵が己の研究を理解していないということに対して酷くがっかりしているようだった。
「意志の力なくば、人は英雄にはなれない。そして、その意志ある者に力を授けること。それ自体が正義だと何故気が付かない」
その言葉に夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は一つ同意した。
「意志の力が人を英雄にする、か。それ自体は幾らか同意できるところはある」
「そうか! それは良いことだ。ならば、猟兵、君は紋章の検体になってくれるね?」
その言葉に鏡介は頭を振る。
そうではないのだ。
目の前の存在は致命的に間違えている。間違えているという自覚すらない。己が掲げる正義というものを信じ切っている。
『紋章つかい』にあるのは混じり気のない善性であった。
正義のために。
ただひたすらに己の持つ正義によって、行動している。その行動は正義のためであるから全てが肯定されるべきだと本気で思っているのだ。
「意志持つ者に力を与えるというのも必要なことだろう。だが、その『力』が最悪にも程がある」
「どうしてそう思うんだい。君、その力は与えられたものではないのかい? その力があるということは君にも正義の意志があるということだろう?」
どうして此方を否定するのだと『紋章つかい』は本当にわからない、というように肩をすくめている。これまで猟兵たちが撃ち込んだユーベルコードはいずれも軽くないものばかりであった。
目の前の『紋章つかい』、それ自体がシンプルな強さを持っているが故に、未だ己達の前に立っている。
「英雄の条件なんて色々だるだろうが、多分お前の求める『正しい意志を持つ』者は、紋章を否定するだろうよ」
鏡介は戦場に散らばる紋章の一つを掲げ、その力を開放する。
吹き荒れるように異形の装甲が飛び散り、集約するように鏡介の体を覆っていく。これで漸く敵と同じ土俵に立ったと言えるだろう。
「敵対と見て良いのだね、猟兵」
踏み込む『紋章つかい』の笑みが眼前にあった。
凄まじい踏み込みに鏡介は手にした宝貝の刀を振るい、その拳と撃ち合う。
火花が散り、その拳と刀が、その威力に負けて互い弾き返される。
「君の力は誰に与えられたものだい。君の力は本当に君自身の力であると言えるだろうか。君に意志があるからこそ、その力が宿っているとは思えないかい?」
「これは人が連綿と紡いできた業。お前の言うところの力とは異なるものだ」
「前にも似たようなことを言ったやつがいたな、それは。業であると。けれど、それは」
振るう拳が火花をちらしながら鏡介の頬をかすめる。
流れ込む『紋章つかい』の正義が鏡介の身をきしませる。だが、それでも鏡介の瞳にはユーベルコードが煌めく。
「意志宿した力の前には意味のないことだよ。正義の前に悪性は滅びる定めとなるのだから」
踏み込んだ『紋章つかい』の前に振り下ろした斬撃が地に墜ちる。
斬撃が大地を引き裂く。
外した、と思わせたことだろう。だが、鏡介のユーベルコードは此れでは終わらない。
下段からの斬り上げ。
されど、それさえも『紋章つかい』は躱す。紙一重、というところであった。
「いいや、人がいる限り人の心には悪性と善性に揺らぐ良心がある」
故にと鏡介の斬撃は上段に構えられる。
振り下ろす斬撃の一撃が『紋章つかい』の腕を一刀の下に切り裂く。
縦に走った拳が割れ、血潮が噴出する。
その血風の向こうに壱の型【飛燕:重】(イチノカタ・ヒエン・カサネ)は閃く。どれだけ人に与えようとする善性があるのだとしても。
それでも、人は『紋章つかい』の言うところの正義を否定するだろう。
それは正しき意志を持つがゆえに――。
大成功
🔵🔵🔵
メフィス・フェイスレス
【アドリブOK】
いるわよねこういう奴
私を造ったのもアレと似たようなのよ
苛つくから存在全無視してさっさと取りかかるわ
躰が『微塵』に砕けて『飢渇』に溶け散っていく
一部の『飢渇』が敵に喰らい付き爆ぜて足止めしている内に
『飢渇』達が『顎門』で散らばる紋章を『捕食』して取り込んでいく
粗悪だろうがあるというなら全部貰う
勉強になったなら次は片付けはしておく事ね
次なんて無いけど
躰がUCで『宵闇』を生やした人馬となる
さらに紋章の力で装甲を纏った、より凶悪な異形へと
これはいいわね、いつもより思考がクリアで、それでいて腹が減る
――アンタとアンタの紋章も、美味しそうよね
全てを【喰】らう、空間も地形も敵も手当たり次第に
斬撃が五卿六眼の一柱『紋章つかい』の拳を割る。
血潮が吹き荒れ、しかし、次の瞬間『紋章つかい』の割れた拳はぴたりと閉じるようにして閉じるのだ。
それが肉体に埋め込んだ紋章の力であることは言うまでもない。
それほどもまでに彼の力はシンプルに強大だった。
「なるほど。だがしかし、人は意志を持っている。虐げられて尚、輝きに手を伸ばそうとする善性があるだろう。ならば、それに力を与えることは正義であるとは思わないか?」
彼の言葉は混じり気のない善意そのものだった。
力なきものに意志あれど、それは悪そのものである。ヒトはどうしようもなく弱いものであると断じるからこその言葉。
そして、それを彼は微塵も疑っていなかった。
「いるわよねこういう奴」
メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は己を思う。
ヒトをより効率的な家畜に改良する研究により、死肉をつなぎ合わせて造られた屍の人型。それが己である。
胸に常にあるのは捕食の衝動。
だが、己がヒトであるためには、それを抑えなければならないものであるとメフィスは
知る。その在り方を見遣り、『紋章つかい』は手を叩いた。
「面白いな。その意志の力。衝動に身を任せれば楽になれようものであるのに」
「苛つくから黙ってくれない」
メフィスは問答するつもりなどなかった。
己の体は異形。
わかっている。だからこそ、己の戦いは此処より始まる。弾けるようにして己の体から滲み出す眷属たちが破片を撒き散らす。
影として弾け、爆ぜ、『紋章つかい』を足止めする。しかし、それは僅かな時間でしかなかった。紋章に寄って強化されている『紋章つかい』を止める手立てはない。
彼は踏み込み、その小節の一撃をメフィスに向けていた。
語る言葉など無い。
あるのは苛立ちだけだ。
己の正義を語る者。
それは押し付けに等しい。それが正しい正しくないに関わらず、メフィスは『鬱陶しい』と思ったのだ。問答するだけ無駄だと。意味のない時間を過ごすだけだと理解していたからこそ、瞬時に己の周囲から無数の紋章を捕食し、取り込みながら彼女の体へと集まる。
振るわれる拳の一撃が装甲に変じた紋章によって受け止められる。
「粗悪だろうが失敗だろうが、あるだけ貰う」
盾となった紋章の装甲が一瞬でメフィスの体へと溶けるようにして入り込んでいく。
「面白いな。その使い方は。複数取り込むことによって人型を捨てるのかい」
「ああ、どうしてこんなに――」
メフィスの瞳がユーベルコードに輝く。
己の衝動を抑えるためには、ヒトであるためには、捕食したいという命題の如き感情を抑えなければならない。
けれど、今や彼女は紋章の力によって醜態を曝す(シュウタイヲサラス)。
清々しいと思う。
異形たる人馬。
骨身たる翼を羽撃かせ、紋章の力の発露たる装甲を身に纏い『紋章つかい』へと駆け抜ける。
「思考がクリアなのかしら。それでいて腹が減る」
どうしようもない衝動があった。
目の前の動く者全てを捕食したいという願望があった。
問答はしないと決めていた。
だからこれは問答ではない。確認でもなければ、承認を求めるものでもなかった。
「――アンタとアンタの紋章も、美味しそうようね」
「これは参ったな。正義でも悪でもなく」
煌めく金色の瞳が迫る『紋章つかい』の拳にかぶりつく。腕を丸ごと一本奪うようにメフィスは捕食する。
「食欲によって稼働する骸か――」
其処からはもう手当たり次第だった。
空間も地形も敵も、紋章も。
全てが関係なかった。目につくもの全てを捕食する咆哮が轟き、メフィスはただひたすらにあらゆるものをかみくだく顎と共に『紋章つかい』を追い詰めるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
|集れ《たかれ、》、|争え《あらがえ》
ディスポーザブル!!
【肉体改造】『禍集・戦塵武踏』
【念動力】ディスポーザブル02群、そして一帯の紋章群を巻き込んで融合、
狂気も、紋章も、【闘争心】でねじ伏せ、支配し、
己を三眼六臂の破壊権現と化す!!
正義、それを論ずるに値しない。
自分も、お前も!|争え《あらそえ》!!
劫火の炎弾【弾幕】を放ち【焼却】
それだけが、己を通す方法だ!!!
三眼の【動体視力】【瞬間思考力】で紋章正拳を認識、
三腕に劫火・崩壊霊物質を纏い【武器受け】
【早業】正義を壊し、燃やしながら、その腕を掴み、懐へ入り、
残る三腕でカウンターアッパー!破壊の【呪詛】以て殴り返す!!
それが、戦争だ!!!
【エネルギー充填】闘争心に因って劫火を、呪詛を、奮い上げ、
劫火で【推力移動】己を飛ばし【追撃】
壊せ!壊せ!!壊し尽くせェエエエエエエエエッッ!!!!!
【怪力】劫火と呪詛の拳打弾幕を叩き込む!
【継戦能力】殴り返されようとなんだろうと、劫火を推力に、
破壊を奮い、奴の正義を壊し!その身、その生命を破壊する!!
異形たる六本腕のキャバリアが戦場を埋め尽くすようにして疾駆する。
その名は『ディスポーザブル02』。
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)の操るキャバリアである。
「|集まれ《たかれ》、|争え《あらがえ》ディスポーザブル!!」
瞳に輝くはユーベルコード。
己に理性はない。あるのは破壊への欲求めいた感情とユーベルコードだけだった。
「その姿、見たことがあるな」
五卿六眼の一柱『紋章つかい』は、ユーベルコードに寄って煌めき、己のキャバリア群諸共に放置された紋章を巻き込んで融合していく小枝子の姿を見遣りつぶやく。
三面六臂。
小枝子の超克の輝きの先にある姿。
あらゆる狂気を闘争心のみによってねじ伏せる破壊の権化。その権限を持って、禍集・戦塵武踏(デッドギヤ・ディスポーザブル)を戦場に響き渡らせる。
満ちるは破壊の呪詛と劫火。
「ああ、あれか。君もまた正義を執行しようというのだね。わかるよ。君の中にも正義があることを。だけど、残念だな。どうして検体になってはくれないのだろうか」
「正義、それを論ずるに値しない。自分も、お前も!|争え《あらそえ》!!」
小枝子は『紋章つかい』へと劫火を放つ。
それは弾幕のようにして膨れ上がり、片腕を喪った『紋章つかい』を追い詰めていく。
だが、それだけでは『紋章つかい』を追い詰めることはでないだろう。
三つの眼が走るようにして光を放つ。
踏み込まれた、と思った瞬間眼前に拳が迫っている。
「戦いの中でこそ英雄は生まれる。彼らは意志を持っている。確かに君は正義について論じるに値しないのだろうな。君にはまるで意志がない」
『紋章つかい』の拳が小枝子の顎を穿つ。
吹き飛ぶ顎。
血潮が吹き荒れた瞬間、小枝子の眼が、蠢き『紋章つかい』をにらみつける。呪詛が即座に小枝子の顎を復元し、頭部の振りかぶった一撃が『紋章つかい』の額へと叩きつけられ、割る。
戦場には血潮と焔が満ちていた。
「だったなんだというのだ。争うことだけが己を通す方法だ!!」
一瞬の閃きにも似た時間。
小枝子の叩きつける拳が霊物質を纏いながら『紋章つかい』の懐に踏み込み、三腕の一撃で呪詛を叩き込む。
それらの全てを『紋章つかい』は隻腕となりてもなお撃ち落とすように激突させる。
響き渡る轟音。
単純な力押しでは勝てない。
『紋章つかい』は恐らく五卿六眼の中で単純な強さで言えば随一である。
その彼と正面から撃ち合うことは自殺行為であったことだろう。だが、それでも小枝子は止めなかった。
己の六腕はなんのためにあるのだと叫ぶ心があった。
破壊することだけだ。
遍く全てに手を伸ばすのではない。争いをもたらす者を全て破壊するべく、この六腕はあるのだ。
だからこそ、小枝子は振るう。
破壊の呪詛を伴いながら『紋章つかい』へと拳を叩きつけ、その激突で砕けてなお、復元し打ち据える。
「それが、戦争だ!!!」
己の体に力が満ちる。
闘争心は己の中にある。燃え続ける。炉のようなものだ。そこにあるのは衝動や感情といったものではない。
ただひたすらに戦うことを。
破壊することを望む存在がある。
「壊せ! 壊せ!! 壊し尽くせェエエエエエエエエエエッッ!!!!!」
砕けた拳など必要ない。
砕けたのならば、己の呪詛で満たせば良い。弾け飛んだ腕部のままに『紋章つかい』へと小枝子は拳を叩きつけ続ける。
ただひたすらに。
それ以外の全てなど必要ないというように彼女は呪詛と劫火に満ちる拳を叩き込み続ける。
「破壊しかしらぬ意志宿らぬ力。だから悪性だというのだよ。ヒトに善性があるからこそ、正義は執行されるのだ。君は最初から間違えている」
『紋章つかい』の拳が己に正義を流し込む。
けれど、それを破壊する呪詛が小枝子の中には充満している。
破壊を持って、正義を壊す。
目の前に見満ちるは怒りだった。燃え上がる瞳のままに小枝子の六腕が『紋章つかい』をいい打ち据える。
劫火が己の拳を推し進める推力となる。
「どれだけ言ったとしても聞く耳は持たぬだろうが、検体としては申し分ないと言えるだろう。だから」
「その身、その生命を破壊する!!」
振るう一撃が『紋章つかい』を吹き飛ばす。
隻腕となっていたことが大きかった。
此れまで猟兵たちが消耗を強いたからこそ導けた結末がそこにあった。小枝子は、けれど、それさえも気に留めず、ただひたすらに己の呪詛を劫火へと変え、その拳を『紋章つかい』へと叩きつけ、その肉体を穿つのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
貴方の正義とやらのせいで大勢の人々が犠牲になりました
(紋章を掴み身を委ねると手足が甲虫のような錆色の殻に覆われる)
短慮な正義は害悪ということを
(口元がマスクのような殻に覆われスズメバチのように左右に開く)
ソノ身ト魂ニ刻ンデサシアゲマス
(翅が縮小すると替わりに三対の爪のような虫の足が生える)
コノ姿デ正気ヲ保テテ良カッタ
(救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばした後{晩秋の旋律}で『ダンス』を始める)
貴方ニ旋律ヲ捧ゲラレマスカラ
無知ユエ二滅ブ貴方ヘ捧ゲルコノ旋律ヲ
({蜂蜜色の陽炎}で作った『残像』を囮にして攻撃を回避するとUC【蠱の珠】を発動し敵を枯死の『呪詛』に満たされた結界に閉じ込める)
呪詛満ちる劫火の拳が五卿六眼の一柱『紋章つかい』の肉体へと叩き込まれ、その隻腕となったがゆえに防ぎきれぬ弾幕に吹き飛ばされる。
だがしかし、彼は立ち上がる。
「やれやれ。正義を執行するというのは思った以上に大変だ。研究は遅々として進まないし、検体となってくれそうな正義を知る猟兵はいない。思った以上にままならないな」
その言葉に播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は戦場に散らばる紋章を掴み上げながら、告げる。
「貴方の正義とやらのせいで大勢の人々が犠牲になりました」
クロリアは紋章を己の胸へと当てる。
瞬間、彼女の体は甲虫のような錆色の殻に覆われていく。
「仕方のないことだ。必要なことだったんだ。研究には常に犠牲がつきまとうものだ」
「短慮」
クロリアは短く告げる。
手にした紋章の力は『紋章つかい』と同等に渡り合うため。
シンプルな強さならば恐らく『紋章つかい』は五卿六眼の中で最も強い。さらに言えば、彼は隻腕と成り果てて尚、その力の強大さを示すようにクロリアへと一瞬で距離を詰めて来ていた。
「その正義は害悪ということ――ソノ身ト魂ニ刻ンデサシアゲマス」
甲虫の殻によりクロリアの口元が空に覆われ、スズメバチを思わせるように左右に開く。
翅が収縮し、三対の爪のような虫の脚が現われる。
見上げる。
天を見上げる。
救いを求めるようであった。
仰ぐ先にある天は、空ではなく、天井でしかないことを彼女は知っている。胸に響くは晩秋の旋律。
脚を打ち鳴らした瞬間、己に迫るのは嵐の如き蹴撃であった。
『紋章つかい』のはなった蹴撃。
流れるような連撃は錆色の装甲たる空を一瞬で砕くだろう。さらに息もつかせぬほどの連撃。
凄まじい衝撃が体を襲う。
痛みが走る。
けれど、それでもクロリアは良いと思った。
「コノ姿デ正気ヲ保テテ良カッタ」
痛みだけが己の正気を自覚させる。
目の前の存在。
『紋章つかい』の放つ蹴撃の嵐は確かに苛烈だった。
「貴方ニ旋律ヲ捧ゲラレマスアカラ」
「それはどんな旋律だい。それは研究に役立つだろうか。人の意志に応える力となるだろうか」
クロリアは呆れることはなかった。
蠱の珠(コノタマ)たるユーベルコードは、めの前の『紋章つかい』に捧げる旋律。旋律に沿うのは、呪詛。
これまで奪ってきた生命に対する贖罪。
想像すらできないほどの生命が徒に奪われてきただろう。弄ばれてきただろう。
それを思えば、クロリアの瞳はユーベルコードに輝き続ける。
煌めく残像と共に呪詛を持って『紋章つかい』を空間に閉じ込める。呪詛が『紋章つかい』の体を蝕む。
「無知ユエニ滅ブ貴方ヘ捧ゲルコノ旋律」
寂寥感と喪失感。
そして、何より退廃的な死を表現したリズムが、ただひたすらに『紋章つかい』の体を蝕み、その音を滅びの時まで響かせ続けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
空桐・清導
POW
アドリブや連携も大歓迎だ
「お前にはお前の正義があるんだろうが、オレはそいつを許せない。
ヒーローとして、これ以上お前に人の命を奪わせない!
そして!オレ個人としてお前は許せねえ!!超変身!!」
それに答えるように複数の紋章が飛来してブレイザインに宿る
紋章が輝くとそれらが黄金の装甲へと変貌した!
そして、UCを発動して炎の大剣を握りしめる
正拳突きを[オーラ防御]で受け流して大剣の一撃を叩き付ける
紋章つかいがダメージを負って動きが鈍くなったら[力を溜める]
「超必殺!インペリアル・ストレート・スラッシュ!!」
紋章の力を[限界突破]させて炎の大剣を一閃!
紋章つかいを横一文字にぶった切る!
正義という言葉を用いるのならば、それが悪に転じることを知らなければならない。
互いに相反する正義があるということは、一方に置いてはそれは悪であるということの証左にほかならない。
故に正義を語る『五卿六眼』の一柱『紋章つかい』の言葉に空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は頭を振る。
「お前にはお前の正義があるんだろうが、オレはそいつを許せない」
「何故だい。正義を知るのならば、この研究の意味がわかるだろう。意志なき力は悪でしかない。意志が宿るからこそ、力は正しく使われる。そうではないか?」
それは頷ける所もある。
もしも、力が悪しき意志によって用いられるのならば、もたらされるのは破滅であろう。
故に正しき意志でもって力は制御されなければならないのだ。
けれど、それでも。
「ヒーローとして、これ以上お前に人の生命は奪わせない!」
「ふむ。わからないな。ヒトの生命を奪わせないことになんの意味がある? 英雄が生まれ、英雄が扱う力がどんな力であろうと、意志があれば正しきことに使われるだろう。力の全てが清廉潔白であると君はいうのか」
迫る『紋章つかい』はすでに隻腕であった。
猟兵達の苛烈なるユーベルコードに寄って消耗していてなお、この踏み込みである。
凄まじいまでの速度。
五卿六眼の中でもシンプルな力の強さで言うのならば、彼が随一であったことだろう。
その拳が清導へと向けられる。
だが、その拳から守るように紋章が飛来し、彼の体を覆う。
黄金の機械鎧。
その装甲に変じた清導は叫ぶ。
「オレ個人としてお前は許せねえ!! それだけだ!!」
これが超変身だと言うように清導の腕部に収束した焔が剣へと変わる。ふくれ上がる熱量が衝撃を解き放つ『紋章つかい』の拳を受け止める。
しかし、振り抜かれる一撃が清導のオーラを砕き、さらに焔が収束した剣と激突する。
凄まじい力の奔流。
これまで猟兵たちと激闘を繰り広げて尚、この力。
隻腕であるということを差し引いたとしても、この力は異常だった。
「ならば、君は悪だ。この研究が正義であると理解しないのならば、それは真逆なことだからだ。意志に力が必要なのだよ。どれだけの犠牲があるのだとしても、最後に紋章が完成すれば、それも意味あることに変わる」
だから、と言うように振り抜かれた拳が焔を吹き飛ばす。
「それが御為ごかしだと何故わからない! お前の、そのエゴが! 正義が! 誰かを傷つけるというのならば! ブレイザイン・バーニングモード!!」
清導の瞳がユーベルコードに輝く。
その心は光よりも燃え上がるようにして熱量を溜め込んでいく。拳の一撃は『紋章つかい』の言うところの正義であった。
己の体を操ろうとする正義。
それが偽りであるとは言わない。『紋章つかい』の正義とは混じり気がない。ただひたすらに正しき行いをしようとしていることがわかるだろう。
「正しい行いのために、あらゆる非道が肯定されてなどなるものか!!」
清導は思う。
正義とは誰かの不正義でしかない。
心に悪性があるからこそ、それが理解できる。人の心は陰陽。黒と白。光と闇。
故に揺れ動く。
己にもある。良心という揺らぎが。
だからこそ、熱き思いが心の中に膨れ上がっていくのだ。
「超必殺! インペリアル・ストレート・スラッシュ!!」
限界を超えた心の雄叫びが、熱を伴ってかき消されたはずの焔を噴出させる。
それは巨大な焔の剣。
形作るは己の正義。他者の正義と相容れぬのだとしても。
それでも誰かのためにと思う心があるのならば、其処にあるのは善性であろう。そして、その善性は悪性があればこそ。
痛みを厭う心がある。苦しみを忌避する心がある。
他者よりも優れたるを求める心がある。自分だけが、と思う心がある。弱い心もあるだろう。
けれど、それがあるからこそ、己の中にある前世を信じることができるのだ。
「それを示すんだよ! 人の心があるっていうのなら!」
振るう一撃が『紋章つかい』を飲み込むようにして薙ぎ払われる――。
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
「紋章の作り主か。
今まで紋章には随分と世話になったんでね。
是非その作り手には会って見たいと思っていた。」
友好的とも思える風に話しかけ
落ちていた紋章を手に取り
「これは失敗作かい?」
「だけど。これだけが失敗という訳じゃないだろう。
紋章なんてものは全てが失敗だ。作る行為含めて全てね。
だから、此処で終わりにさせて貰う。」
装着変身を行い異形の黒鎧の如き装甲に包まれ
敵の動きを【見切り】向上した身体能力を武器に近づき接近戦を挑む。
細胞破壊光線を避け切れなければ急所を庇って腕に受け。
「肉体の変異、厄介だが。」
ファントムリキッドを発動
「肉体がなくなればどうかな。」
液体になって躱し攪乱し
水弾や水刃となって攻撃。
焔の剣の一撃が五卿六眼の一柱『紋章つかい』の体を吹き飛ばす。
薙ぎ払う焔の一閃は、隻腕と鳴った彼の体を燃やすように膨れ上がっていた。されど、彼は立ち上がる。
身を焦がす熱を持ってしても、彼は未だ健在であった。確かに消耗していると理解できて尚、それでも迫る重圧は凄まじいものだった。
「困ったものだ。どうして猟兵は検体となることを拒否するのだろうか」
焔を払うようにして『紋章つかい』は頭を振る。
そんな彼にフォルク・リア(黄泉への導・f05375)はフードの奥に表情を隠したまま告げる。
「紋章の作り主か。今まで紋章には随分と世話になったんでね」
「そうか、君はわかるか。紋章の素晴らしさが。だが、あれらは残念ながら未完成なんだ。わかるだろう。オブリビオンに装着させたが、どいつもこいつも負けてばかりだった。思うものにはなっていないんだ」
「ああ、わかるとも。紋章つきオブリビオン。幾度か遭遇したし、是非その作り手には会ってみたいと思っていた」
それは友好とも取れる言葉だっただろう。
戦場に落ちた紋章の一つをフォルクは手に取る。
「これも失敗作かい?」
「ああ、そうだ。どうしてもクリアできぬ問題があってね。意志なき力は悪であることは言うまでもないだろう。だが、どうしたってこれに人は耐えられないんだ。耐久性の問題だろうかと思ったが、力を上手に流すことができないようなんだ。だが、君たちが検体になってくれたのなら――」
その言葉を遮るようにしてフォルクはフードの奥から紋章を見やる。
掌で弄ぶようにして転がし、その煌めきを見る。
寄生虫型オブリビオン。
それが紋章の正体だ。これを創るためにどれだけの生命が弄ばれたことだろうか。
「だけど。これだけが失敗という訳じゃないだろう」
「そうだ。幾度も失敗した。だが、必ず成功させてみせるさ。いや、本当に君のような猟兵が居てよかった」
だが、その言葉は届かない。
弾くようにしてフォルクは紋章を跳ね上げた。くるり、くるりと宙に舞う紋章。その輝きが『紋章つかい』の瞳を染め上げた瞬間、フォルクは瞬時に『装着変身』を行う。
異形の黒き鎧に身を包み、一瞬で『紋章つかい』へと飛び込む。
「紋章なんてものは全てが失敗だ」
「な――」
何を言う、という言葉はまたもや遮られた。
振るう一撃。
いや、違う。
フォルクの瞳が黒鎧の向う側でユーベルコードに輝いている。
己の体は特殊な液体へと変じる。水霊を宿すことによって可能となった力。空中に拡散し、幻惑するように飛ぶ。
一瞬でフォルクは『紋章つかい』の視界から消える。
それはあまりにも一瞬であったために『紋章つかい』からは消えたように思えたことだろう。
例え、どれだけ『紋章つかい』がシンプルに強大な存在であったのだとしても。
「創る行為含めて全て失敗だ。だから、此処で終わりにさせて貰う」
己の体を返事たせた水弾が『紋章つかい』へと降り注ぎ、その体を貫く。
貫いた水弾丸はフォルクが変じた肉体そのものだ。貫く一撃が『紋章つかい』の体内から飛び出し、さらに刃となって振り下ろされる。
「何故、理解しない。紋章があれば、これまで生み出してきた紋章つきオブリビオンでさえ問題にはしないのだよ?」
「その間にある犠牲はどうする」
「そんなもの、結果英雄が生まれればなんとでもなるだろう」
「それだ。その一点において俺達とは相容れない。犠牲を強いるお前の何処に正義がある。あるのはお前の」
エゴだけだとフォルクは己の体を水刃に変え、断罪たる一閃を『紋章つかい』の体へと叩き込むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
キアラ・ドルチェ
朋友のシリルーンさん(f35374)と
正義とは相対的なものであると知ってはいますが、これほど吐き気を催すような「正義」もそうそうありませんでしょう…
「生命」を弄ぶ輩は速やかに滅すべし!
ふと、年経た老爺の声が聞こえた気がして、そちらに目をやると
エメラルド色のスカラベ型紋章が
手に取り「力を貸して頂けますか…?」と両手に抱え囁くように、祈るように問いかけると、「応」と答えた気が
「ならば…いざ、推して参るっ!」
掛け声とともに、全身を翠玉色の装甲と樹の表皮を模したパーツが覆い、異形へ
「シリルーンさん、はい、行きましょうっ」
「れっつ、ふるぼっこ!」
心は熱くとも、頭は冷静に…数多の森王の槍を束ねドリル型にし、紋章つかいのどてっぱらを貫く!
「紋章とされたもの達の痛みとくるしみ、万分の一なりとも味わうがいいっ!」
人の生命を弄ぶ事の下劣さと愚劣さよ…それを知らぬ貴様は、唾棄すべき邪悪であると断じようっ!
永遠の無に還れ、紋章つかい!
終わったら、空へ向かい紋章にされた方々へ鎮魂の祈りを…どうか安らかに
シリルーン・アーンスランド
親友のキアラさま(f11090)と
咎めても痛痒無き異類の徒であらば
此方もそれに倣い撃破を
「まずお力添え頂ける紋章を探したく…」
並び見ますとかすかに泣き声が
赤子を育てましたゆえこの手の声には敏感です
キアラさまに断り歩むと
紅い血雫の小さな紋章が…
惨さに顔が歪みますがわたくしは猟兵
暴虐を倒す為に此処に居るのです
「お力お貸し頂けましょうや…?」
涙声でお尋ねすると手に絡みつきました
「ありがとうございます…必ず敵を取りましょうね…?」
胸の中央へ導きキアラさまと合流を
瞳も視界も怒り嘆きと共に朱く
わたくしの真の姿と異形の姿が混ざりました
でも呑まれてはなりません
それは彼の者の思惑通りにて
故に何時もの口調でキアラさまに
「参りましょう」
とお声掛けし武器を構え
「いざ…れっつふるぼっこ!」
月の斬撃詠唱
速度も何十倍で幾らでも繰り出せます
足場もご提供できわたくしも駆け上がり
「絶対に認めませぬ!」
繰り返し幾度でもか細き声と共に出す斬撃が
彼の者の命刈り取りましょう
終りましたら鎮魂の祈りを
全ての犠牲者へと捧げたく存じます…
猟兵と五卿六眼の一柱『紋章つかい』との戦いは苛烈を極めた。
いくつものユーベルコードの輝きが戦場に満ちる。その最中、キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)とシリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は声を聞く。
それぞれに異なる声。
彼女たちにはわかっていた。
あの『紋章つかい』は確かに正義であると。ただし、混じり気のない善意より生まれた悪意にも勝る善意であった。
完全なる善性は悪性と変わりない。
あらゆる行動が、あらゆる悪逆無道が正義の名の下に肯定される。
正義とは相対的なもの。
誰かの正義は、誰かの不正義。
それを知っていたはずだ。多くの者にそれぞれの正義がある。故に人はぶつかり合う。そして、理解していく。
だが、それでもなおキアラは吐き気を催す、これ以上の正義を知らなかった。
「生命を弄ぶ輩は速やかに滅すべし!」
「ええ、咎めても痛痒無き異類の徒っであらば、此方もそれに倣い撃破せねばなりません」
彼女たちの手には紋章があった。
戦場に打ち捨てられた紋章。『紋章つかい』が失敗作だと打ち据えた紋章。
これ一つを作り上げるのにどれだけの生命が弄ばれたことだろうか。
耳に響くは老爺の声。キアラは確かにそう聞こえた気がしたのだ。
エメラルド色のスカラベを模した紋章。
対するは紅い雫の如き紋章。
「お力をお貸し頂けましょうや……?」
シリルーンのの瞳は涙に潤んでいた。その涙の訳を『紋章つかい』は理解できなかった。隻腕となり、猟兵達の打撃に寄って傷を追いながらも、首を傾げていた。
まるで場違いな者を見る瞳であった。
「よくわからないな。何故紋章に声があると思うんだい? そのような機能はないはずだが?」
その言葉にキアラとシリルーンは瞳を向ける。
此方を理解できないという視線がある。わかっている。これはあの者には届かぬ声であると。届かぬということは理解できないということ。
不理解だけが互いの溝の深さを知らしめるものであった。
だからこそ、キアラは、シリルーンは、両手で紋章を抱える。
「この赤子の如き、かすかな泣き声が聞こえぬというのならば」
「答えてくれた。この紋章は力を貸してくれると言った。ならば……いざ、推して参るっ!」
二人の紋章が煌めく。
だが、それよりも早く『紋章つかい』のユーベルコードが煌めく。
無数の蹴撃は嵐となって二人を襲うだろう。
隻腕となってもなお、その力に衰えはない。五卿六眼の中にあって、その力の強大さはシンプルであるがゆえに最大。
その蹴撃はただ振るうだけで旋風を巻き起こし、疾風のように二人を切り裂くだろう。
けれど、二人の体を包み込むは異形の装甲。
翠珠色の装甲に樹の表皮を模したかのようなパーツが覆われ、蹴撃の一撃を受け止める。更に振るわれる一撃を前に朱色の装甲が煌めくようにして割り込み、その一撃を打ち払う。
「シリルーンさん!」
「ええ、参りましょう。怒りは嘆きと共に」
もしも、紋章に犠牲となった者たちの嘆きがあるのならば、それをシリルーンは抱える。一つも取りこぼすことのないようにと胸に抱く。
そうすることでしか贖え無いものがあると知っているからだ。
そして、キアラは知っている。これはきっと怒りだと。
己達の生命を弄んだ者への罰を求める怒りであるとキアラは理解するからこそ、互いの視線交わることなく頷く。
「いざ……」
二人の言葉が重なる。
『れっつ、ふるぼっこ!』
重なる言葉と共に森王の槍(モリオウノヤリ)が衝角のように折り重なり、その一撃を持って『紋章つかい』の胴へと撃ち抜かれる。
それは貫く一撃。
「紋章とされた者達の痛みと苦しみ、万分の一なりとも味わうが良いっ!」
「わからないな。何故痛みを理解する必要がある。苦しみを解する必要がある。それは結局のところ現象であり、確定した結果でしかないだろう?」
「それを絶対に認めませぬ!」
月の斬撃(ツキノザンゲキ)が『紋章つかい』に迫る。
超音速で飛ぶ月光弾であれど『紋章つかい』は卓越した技量で持って躱し、さらなる蹴撃が二人を襲う。
嵐のような無数の攻撃を前に二人の装甲が弾けていく。
砕け、破片が散りながら二人はしかして、月光弾により生み出された三日月型の衝撃波の上を駆け上がっていく。
「人の生命を弄ぶことの下劣さと愚劣さよ……それを知らぬ貴様は、唾棄すべき邪悪であると断じようっ!」
「わからないな。生きるために他の生命を喰らうのが生命だろう。生命を維持するために他の生命を奪う。人間の英雄を生み出すために人間の生命でもって研究する。まあ、オブリビオンも使うが。それがなんら問題ないことだとは」
「思いませぬ。貴方は、犠牲を強いた人々の嘆きや哀しみに寄り添ってはいないのですから」
シリルーンは、鎮魂の思いを込めて弾丸を放つ。
きっと『紋章つかい』を打倒しても、紋章を作り出すために犠牲になった生命は戻ってはこない。
魂人となって尚、すり潰される生命がある。
暖かな記憶をトラウマへと変え、生き延びようとする魂人ですら、『紋章つかい』は躊躇わう研究のために費やすだろう。
許せるものではない。
例え、己の身が砕けたとしても。
「あえかなる月の光よ!」
放たれる月光の弾丸が迸り、『紋章つかい』の体を、その周囲を衝撃波でもって取り囲む。
「無駄だよ。どれだけ弾丸を打ち込もうが……」
そこへキアラが飛び込む。
「永遠の無に還れ、『紋章つかい』!」
「……! これは!」
キアラが頭上に掲げるは槍の如き威容を誇る植物。
生命は回帰しない。このダークセイヴァーにおいてはなおさらのことである。ただ一つでさえ、戻ってはこないのだ。
だからこそ、その生命の煌めきを無為にすりつぶす『紋章つかい』をキアラは討つ。
鎮魂の歌と祈りが彼女たちの力の源であると示すように、極大に煌めいたユーベルコードの輝きは、槍の切っ先を持って『紋章つかい』を穿ち、大地へと縫い留める。
「どうか安らかにと願う心があるのは、善性があるからじゃない」
「誰かを思うことは、誰かを厭う心があればこそ。ただ一つで存在する感情など無く。名を知らしめるからこそ」
「誰かのためにと祈り、歌うんだよっ」
だから、とキアラとシリルーンはユーベルコードの一撃をもって鎮魂たる楔とするのだった――。
大成功
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鳳凰院・ひりょ
まったく…人の命を何だと思ってるんだ!
そういえば書庫城の禁書を破壊する任務があったが…持ち主はこいつだったか
狂っている相手とまともな会話など望むべくもない、か
【召喚術】で猿を召喚、UC発動で合体
今回は猿のトリッキーな動きが勝利のカギになってくるかもしれない
それだけでは、ダメなんだな…仕方あるまい
紋章を手に装着変身、異形の存在へと姿を変える
敵の攻撃は猿ならではの身軽さ、【残像】で回避していく
万一被弾した時の為に、【呪詛耐性】の【オーラ防御】を身に纏っておく
咆哮して火力を高めつつ戦闘に挑む
敵攻撃を回避しつつ猿型の闘気弾を多数発射
【破魔】の力を付与した闘気弾が主力攻撃
懐に入り込めたら接近戦仕掛ける
紋章は寄生虫型オブリビオンである。
オブリビオンに装着されることによって強大な力をもたらす。けれど、それを生み出すために必要なものを鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は知り、その瞳を怒りに満たす。
猟兵の誰もが思いを同じくしただろう。
数多の生命がもてあそばれる。
それで尚、五卿六眼の一柱『紋章つかい』の目的は完遂されない。
月光煌めき弾丸の軌跡が織り成す檻の中に穿たれた植物の巨大な槍の一撃が彼を大地に縫い留める。
血反吐を吐き散らしながら、しかし、その傷を塞いでいく紋章。
彼は頭を振る。
隻腕が未だ復元されていない。それほどまでに猟兵達の攻勢は苛烈だったのだ。
「此れでは猟兵を検体にしての実験は、傷が癒えるまでお預けだな。その前に魂人たちでもって紋章を創るのが先か」
彼の言葉にひりょは目の前が赤く染まる思いであった。
「まったく……人の生命を何だと思っているんだ!」
「生命だが? ただ一個の生命だ。君と変わらぬ生命だ。ただ、強度が違うと云うだけの話だ。猟兵。わかるだろう? 生命の埒外」
その言葉にひりょは飛び込む。
怒りが満ちていた。
だが、同時に冷静でもあった。
あれは狂っている。完全なる善性であるがゆえに。悪性の一欠片とてもたぬがゆえに、狂っている。
だから、他者の生命も己の生命も当価値といいながら、他者に犠牲を強いているのだ。
「無駄だ」
振るわれるは細胞破壊光線。
翼より放たれる光線の一撃は見る見る間に戦場を埋め尽くしていく。
超獣化身(ビーストリンク)によって猿と合体したひりょは、警戒な動きで持って追いすがる光線から逃れていた。
けれど、それではだめだと理解する。
いずれ追いつかれる。
あの細胞破壊光線によって己の体は宝石へと変えられてしまうだろう。ならば、やはりと諦めにも似た気持ちでもってひりょは戦場より拾い上げた紋章を掲げる。
砕けるようにして紋章が破片のように飛び散る。
飛び散った紋章は装甲へと変貌し、その身を覆い、破壊光線を弾き返す。
だが、それはただの一度だけだった。
「紋章の力に耐えられたとて、やはりそれでは意味がない。君たちは紋章に耐えるだろうが、紋章が君たちの力には耐えられない」
それでは意味がないのだと言うように『紋章つかい』は光線を解き放つ。
「だったらどうだと言うんだ! 失敗だから、また生命を奪うのか!」
ひりょは残像を戦場に刻みながら疾駆する。
赦してはおけない。
あれは命を弄ぶ者。正義を騙り、正義のためならばあらゆる非道を肯定し、奪い続けるものだ。
許せない、という想いが咆哮となって迸り、闘気の弾丸を解き放つ。
光線をかいくぐり『紋章つかい』の体を打ち据える。だが、それで止まらない。だから、ひりょは『紋章つかい』の懐へと飛び込む。
その隻眼を見る。
あるのは、やはり完全なる善意のみ。
「正義を知らないのか、猟兵。あらゆる者に意志が宿り、力を振るう。そこに英雄が生まれるのなら、この紋章こそが力になる。これまでの悲劇を帳消しにしてくれるんだ」
「無意味だ。奪われた生命は戻ってくるのか! 戻ってこないだろう! だから、俺達は許せないんだ!」
ひりょは、猿の伸びやかなバネを使い跳躍し、己の闘気を弾丸に変えて『紋章つかい』へと叩き込む。
これまで無為に奪われた人々のために。
決して、それが報われないと知りながらも、けれど、それでもひりょはやめられない。これまでを決して贖うことはできないけれど。
けれど、それでも、これからを守るためにこそ彼は膨大な数の闘気の弾丸を打ち込み続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
メリー・スペルティナ
……貴方は、わたくしの敵ですわ
その在り方が、例え吸血鬼であろうとも下の者達に対するその態度が、
後ついでにその髪型が、何処までも気に入りませんのよ……!!
手近な紋章をひっつかんで装着……なんだか『ヒルフェ』(※慟哭みたいな音を立てるチェーンソー)が異様に似合う猟奇殺人鬼みたいな姿なのですけど、これを本気で「英雄」に渡す気でしたの……?
とにかく、変身しても良くて対等、なら……あの者を対象にUCを!
ヒト型である以上蹴りの動作もある程度決まってくる…剣を手に武器受け、集中し防戦に徹せばある程度は凌げますわ!
相手の攻撃精度が落ちてきたらそこが狙い目、唸る『ヒルフェ』で逃さずバッサリ二回攻撃ですわ!
闘気の弾丸が埋め尽くす戦場の中で爆風が吹き荒れる。
その中心にありし五卿六眼の一柱『紋章つかい』は打ちのめされながらも、未だ健在であった。
傷跡は塞がっていくが、しかし隻腕となった腕は復元していない。
どれだけ強大な力を持っているのだとしても、猟兵の攻勢の苛烈さを前に其処まで力が回らないのだろう。肉体に埋め込んだ紋章も力が追いついていないようだった。
「……貴方は、わたくしの敵ですわ」
メリー・スペルティナ(暗澹たる慈雨の淑女(自称)・f26478)は戦場を駆け抜けながら、手に紋章を掴む。
わかっている。
理解している。
メリーにとって、目の前の『紋章つかい』が吸血鬼であろうとも、その在り方がメリーに拒絶を生み出すのだ。
彼がこのダークセイヴァー世界において上位たる存在であることは言うまでもない。
力ある者だからだ。
けれど、力があるからといって何をしてもいいというわけがない。
人々を紋章の材料にすることを厭わない。当然だと思っている。その態度が気に食わないのだ。
「ついでにその髪型が、どこまでも気に入りませんのよ……!!」
「ひどい言い草だが。けれど、どうするつもりだい。その紋章だって君たちが忌避する人の生命を焚べて作ったものだ。それを使うということは、君たちだって生命を消費していることに他ならないのじゃないか?」
その言葉にメリーは頭を振る。
「上位たる者、下位たる者へと示さねばなりません。ヒトのあり方を。生命の在り方を。貴方はそれを何一つしていない」
メリーの手に掲げた紋章が煌めき、彼女の体を異形の装甲で覆っていく。
慟哭を奏でるようにしてチェーンソーたる『ヒルフェ』が唸る。
彼女の姿はどこか白面を思わせるものであった。
言ってしまえば、猟奇殺人鬼そのものであった。轟音が響く。
「これを本気で『英雄』にわたす気でしたの……?」
「無論、そうだが? 意志に力さえあれば、姿かたちなど意味を成さないだろう? これまで消費された生命も、英雄を生み出せば、全て帳消しだ」
だから、と言うように迫る『紋章つかい』の蹴撃の嵐。
メリーを襲う蹴撃は凄まじい勢いでチェーンソーと撃ち合う。火花をちらし、力の奔流が戦場に満ちていく。
紋章による装着変身を行って、さらに消耗させる。
それでも良くて対等。凄まじいと言わざるを得ないだろう。だからこそ、メリーの瞳はユーベルコードに輝く。
おのれのポンコツ度を他者に押し付ける力。
言ってしまえば、伝播する呪い(オマエモポンコツダ)。
「……なんだこれは?」
『紋章つかい』は訝しむ。己の蹴撃は確かにメリーの頭蓋を砕くべく放たれていた。だが、その一撃は足元の大地が滑るようにして己の重心を傾けさせることによって明後日の方角へとはたれていた。
軌道を修正するように回し蹴りを放っても、これまたメリーより大きくハズレる。
おかしい、と思った。
だが、理由がわからない。
「やはり人型である以上、その蹴撃の動作もある程度決まってくるものですわ!」
メリーは大きくハズレる蹴撃が満たす衝撃波の中をはさ居る。
敵の攻撃は明らかに己より外れていく。
それは己のぽんこつ度と同じくするものであった。つまり、目の前の『紋章つかい』は己のポンコツ度を共有しているのだ。
ならばこそ、メリーは踏み込む。
敵がどれだけポンコツ化したかなど今は問うまい。
今まさに『紋章つかい』は戸惑いの中にある。それが千載一遇の好機。
「このデタラメ具合……まさか、君か?」
「ち、ちがいますわ! わたくしのぽんこつ具合でどうたらするユーベルコードではありませんわ!」
ごまかすようにメリーのチェーンソーが『紋章つかい』の体を引き裂くように振るわれ、その血潮を撒き散らすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ニィナ・アンエノン
正義とか悪とか、難しくて良く分かんないけど……にぃなちゃん的には楽しければどっちでもおっけー!
でもその紋章の作り方とか実験の仕方、全然楽しくないからノーサンキュー!
そんな訳で、折角のお誘いだけどお断り☆
その辺の紋章で変身だ!
これは……セクシー小悪魔って感じかな?
どうどう?似合う?って【誘惑】しても無駄かな、とにかく蹴りを回避しよう。
まだ力不足なら強化フォームの出番!
骸魂と合体して、より強くよりセクシーになっちゃうぞ☆
【空中浮遊】で低空【スライディング】キックして【体勢を崩す】事が出来たらチャンス!
精神力が尽きるまで、有無を言わさず【グラップル】で色んな絞め技かけちゃうぞ☆
世の中は多くのことに分類される。
けど、時に物事を分かつことをしなければならないのなら、それは大きく分けて二つに分かたれることだろう。
即ち悪と善。
正義を掲げる五卿六眼の一柱『紋章つかい』は苛烈なる猟兵達の攻勢を前にして隻腕へと成り果てる。
だが、それでもまだ片腕しか奪えていないのは、彼の体に埋め込まれた紋章と彼自身の誇る単純な強さによるものだった。
「傷跡は復元んできいるが、しかし、これはまいったな。まるで攻撃の切れ目がない」
ゆっくり見を休めることもできはしないと、彼は心底参った風であった。
「これもまた正義のためか。しかたない。猟兵が検体になってくれないのはどうにも計算違いであったと言わざるを得ないが」
「うーん、正義とか悪とか、難しくてよくわかんないけど……にぃなちゃん的には楽しければどっちでもおっけー!」
ニィナ・アンエノン(スチームライダー・f03174)は物事を難しく考えることをやめていた。
世界が二分されるというのならば、それはとても単純なことであろう。
だから正義と悪とに別れるのが手っ取り早い。
楽しい、と思えることがあるのならば、戦うことだってやぶさかではないのだ。無論、その研究というものにたいしても。
けれど、ニィナは紋章が如何にして造られるのかを知っている。
数多の生命が犠牲になって生み出されることも。
だから、彼女は首をふる。
楽しくない。
その作り方や実験、そうしたもの全てがニィナにとっては忌避すべきものであったからだ。
「君は猟兵だろう。ならこの研究のすばらしさが分かるはずだ。なのに、どうしてだろうね、その顔を見ているとどうあっても首を縦に振ってはくれないだろうなとわかってしまうのは」
「そのとおり! お誘いはお断り☆ だから」
ここからは戦って決めるしかない。
どうしても己を検体にしたいというのならば、戦って負かす以外なというように彼女は紋章を掲げる。
その辺に転がっていたものだ。
煌めく紋章を装着した瞬間、異形の装甲がニィナの体を覆う。
それは黒の如き青の装甲。
身を覆う装甲は肌色のほうが多い気がする。それは気の所為ではなかった。彼女の姿は、瀝青の懲罰者(ディアボロ・マルボルジェ)にしてセクシー小悪魔。
「どうどう? 似合う?」
「その趣味、わからないでもないが!」
正義ではないのならば滅ぼすしかないと言うように『紋章つかい』の蹴撃の嵐がニィナへと迫る。
紋章に寄って強化された蹴撃は躱すことをさせぬような猛烈なる連打。
砕ける装甲。
破片が飛び散る最中、ニィナは紋章の力だけでも敵わないと理解する。
「なら、悪魔と一緒に、踊ってみよっか☆」
煌めくユーベルコード。
骸魂と合体を果たし、己の体を一時的にオブリビオン化する。砕けた装甲がさらに露出を多くするが、しかし『紋章つかい』は興味がないようだった。
「合体! マールブランシュ! さあ、いくよ!」
ニィナの体が駆ける。
敵が蹴撃でもって迫るというのならば、己は組技で仕掛けるのみ。
空を舞うようにしてニィナは『紋章つかい』の背を取り、羽交い締めにする。それを投げるように身を翻されるも、それでもニィナは掴みかかる。
隻腕であることが幸いしたとも言えるだろう。
敵の動きは嵐のように苛烈だったけれど、それでも追いきれないほどではない。だからこそ、ニィナは『紋章つかい』を疲弊させることに注力したのだ。
「どんなに強大な敵でもこれだけしつこく絞め技を狙われたら鬱陶しいでしょ☆」
「それはそうだが。だが、ならば付き合ってもらうとしようか!」
「望むところ☆」
ニィナは己の精神力が尽きるその時まで『紋章つかい』に掴みかかり、その力でもって彼の力を削ぎ落とし続ける。
ふらり、ふらりと足元がおぼつかない。
眠気が襲ってくるが、それでもニィナは見ただろう。『紋章つかい』を疲弊させ、さらに追い打ちをかける仲間のユールコードの煌めきを――。
大成功
🔵🔵🔵
ギヨーム・エペー
そうか。きみが、紋章を作っていたんだなー。ずいぶんと研究熱心だが、作った紋章からは何も得るものがないと言わんばかりに捨てるのは、怠慢だとおれは思うよ
きみは英雄を欲しているのか? 何を求めているんだ? おれには、わからないな。純粋なんだろうけども
おれは検体にはならないし、英雄でもない。きみの思う正義もおれにはないかな
じゃあ、何でここに立っているのかはー……その紋章が邪魔で、きみに、大人しくしてて欲しいから
捨てられた紋章を身につけよう。相手が蹴りなら、此方は拳で。受け流してカウンターを狙い、再攻撃は反射で凌ごう
……きみとは戦いたくないな。嘗ての紋章を身に付けていた彼らの方がまだ、心踊ることができた
猟兵の果敢なる攻勢によって五卿六眼の一柱『紋章つかい』は疲弊していた。
隻腕となり、復元しようとする端から叩き込まれるユーベルコードに己の力が吸い上げられているのも問題だった。
裂傷や打撃に対する傷は復元されど、隻腕の復元が遅々として進まないのだ。
「厄介だな。猟兵というのは。きっと正義を知っているから、紋章の研究に協力してくれるとばかり思っていたのだが」
「そうか。きみが、紋章を作っていたんだなー」
ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)は『紋章つかい』のことを研究熱心であると評した。
だが、それは褒められた研究ではない。
彼の研究には数多の生命が弄ばれている。オブリビオンだけではない。魂人が、人間が、多くの生命が無為にすり潰されてきたのだ。
それを知っているからこそ、ギヨームは彼が失敗作だと断じて戦場に放り捨てた紋章を一つ拾い上げ、傲慢だと言った。
「作ったのならば、活用しなければならない。得るものがない、と見限ったものにさえ、見るべきところはあるはずだぜ」
「金言だな。けれど、それはもう見たんだ。人間が装着できない。できたとて、それは存在を歪めてしまう。意志の力で正義を成す者をこそ求めているのだから」
歪んでしまっては意味がないと『紋章つかい』は肩をすくめる。
「いみは英雄を欲しているのか? 何を求めているんだ?」
「言ったとおりだよ。英雄さ。英雄がいるのならば、これまで喪われた生命にも意味がある。土台になったと思えば散って言った生命報われるとは思わないかい」
その言葉にギヨームはやはり、と思う。
わからない。
彼の言葉の一つ一つがわからない。
それよりも迫る嵐のような蹴撃の方がわりかしわかりやすいとも言えた。
「純粋な善。それが君だということはわかるよ。けれど、何故そうなる」
紋章を創ること。
命を弄ぶこと。
そのいずれもが正義であるというのならば肯定されるべきものではなかった。
「おれは検体にならないし、英雄でもない。きみの思う正義もおれにはないかな」
「じゃあ、どうしてここ?」
迫る蹴撃を受け止めながら、ギヨームに紋章煌めく装甲が覆っていく。
覆う端から砕かれていくが、それでもギヨームはまっすぐに『紋章つかい』を見据える。ここで瞳をそらしては必ず負けると理解しているからだ。
「……その紋章が邪魔で、きみに大人しくしててほしいから」
それは無理な相談だと言うように蹴撃がギヨームの頭部に振るわれる。砕けた装甲の破片が頬を切り裂き、赤い血潮が流れ落ちる最中、ギヨームの拳が『紋章つかい』を捉える。
「……きみとは戦いたくないな」
「なら、検体になってくれればいい。研究に協力してくれればいい」
そうすれば、互いに望むままに過ごすことができると告げられる。けれど、違うのだとギヨームは思う。
それはきっと思ってはならぬことであったけれど、
「嘗ての紋章を身につけていた彼らのほうが、まだ心踊ることができた」
君にはそれが感じられないのだとギヨームは装甲に覆われた拳で持って迫る蹴撃を迎え撃つ。
火花が散って、装甲が砕ける。
血潮が溢れるが、それよりはやく氷結晶の鱗が見を覆っていく。
「Je suis un rocher」
己は岩。
不動なることを示す力をユーベルコードによって発露しながら、ギヨームは『紋章つかい』と撃ち合い続ける。
これまで猟兵たちが刻みつけてきた傷跡を復元させぬために。
その力を示すために。ギヨームは踊らぬ心と共に、しかして迫る痛みを受けながら『紋章つかい』の体を打ち据え続けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・タタリクス
ふーむ
なかなかにやべー輩ですね紋章つかい
私のようなごくごく一般的なメイドには荷が重い気がしますが
誰か何か言いました??
ともあれ私は人間側ですのでこちらの一言が良心となります
「気に入らないので潰しますね」(笑顔)
押し通るために必要とあらばどのような姿とて厭いません
『装着変身』!!
あ、ポーズ必要ですか?
この姿、紋章の形となった虫みたいですね
『ニゲル・プラティヌム』を手に
【スクロペトゥム・フォルマ】で突撃
銃撃の弾幕からの近接戦で一気に畳みかけましょう
貴方の正義など知りませんし
正義も英雄も興味がありません
メイドの敵は主人様の邪魔になるものと決まっておりまして
つまり、主人様の平和のために、邪魔です貴方
猟兵と打ち合う五卿六眼の一柱『紋章つかい』。
その力の激突は苛烈なる光の明滅を戦場に満たす。その光は、地に転がる紋章の失敗作を照らし、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)に己の存在を知らしめるようであった。
拾い上げた一つ。
寄生虫型オブリビオン。
それが紋章である。宝石のような体をしてるのは、それが紋章と呼ばれる所以であったからだろうか。
これを生み出すために必要とされる犠牲は百を超える。
そして、戦場に散らばるそれを見やれば、これまでどれほど生命が弄ばれたかなど、問うまでもない。
「私のようなごくごく一般的なメイドには荷が重い気がしますが」
「ごくごく一般的なメイドが猟兵をやっている、なんていうことがあり得るのか?」
『紋章つかい』の疑問は尤もである。
どう考えた所で、普通のメイドが猟兵であるはずがない。
「なにか言いました?」
ステラはその言葉を聞かぬ振りをする。
己に迫る拳。その拳は紋章の力によって強化されている。いや、強化されていなくてもシンプルな強大な力そのものたる『紋章つかい』の一撃である。
受ければ、ごくごく一般的なメイドであるステラの体は粉砕されるだろう。
「ともあれ私は人間側ですのでこちらの一言が良心となります。そう端的に言いますね」
ステラ廃棄を吸い込みながら、紋章を掲げる。
迫る拳を受け止める紋章が火花を散らしながら、その姿を変じていく。
「気にいらないので潰しますね――『装着変身』!」
瞬間、装甲が砕けるようにしてステラの体へと装着される。
紋章の形となった甲虫の如き装甲がステラの体を覆う。異形たる姿。されど、ステラは構うことはなかった。
自分にとって大切なことは唯一つである。
「どうしてだろうな。猟兵の反応は画一的だ。誰も彼もがこの研究に対して忌避感を抱く。そんなにデザインが気に入らないのか?」
「そういうところですよ。己の行いが正義だと信じて疑わない……いえ、事実純粋な善意なのでしょう。混じり気のない。悪意の介在仕様のない善性。けれど、それは表裏一体。悪となんらかわらないのです」
二丁拳銃から弾丸が放たれる。
銃撃を躱す『紋章つかい』の体が動けば、それに追随するようにステラが踏み込み、体術でもって更に体制を崩す。
銃撃が放たれ、銃身そのものを打撃武器としてステラは『紋章つかい』へと肉薄していく。
「正義であれば、相対するものは悪だろう? ならば、君たちも悪だということになる。それは間違っていない。この研究がもたらすものを理解しないのならば」
振るわれる拳を二丁の銃身が受け止める。
火花が散り、装甲が砕ける。
それでもステラの瞳はユーベルコードに煌めいていた。
「貴方の正義など知りませんし、正義も英雄も興味ありません」
「なら、君は何のために戦うのだ」
「メイドの敵は『主人様』の邪魔になるものと決まっております」
つまり、とステラは銃撃と打撃を織りなして『紋章つかい』を追い詰める。
隻腕であることがステラを優位に運ばせる結果となった。
これまで猟兵たちが紡いできた戦いの軌跡。それこそが、此処に結実しつつあったのだ。
「『主人様』の平和のために、邪魔です貴方」
引き金を引く。
それは力の差を埋める一撃。
紋章に秘められた力が、彼女の体から剥離し、手にした銃の弾丸として変形し、撃ち放たれる。
その一撃は強烈な衝撃とユーベルコードの輝きを灯し、『紋章つかい』の体を穿つのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
クック・ルウ
紋章を喰って取り込む
異形の如き装甲は、黒々と硬い棘を持ち装着者を締め上げる
液状の体は流動的な動きを可能とする、どんな物も着こなしてやろう
手段を選べる相手ではない。この絶大な力、利用させてもらうぞ
私の思う英雄は弱きを虐げたりはしない
あなたが自分の正義を信じるならば
私は私の正義を貫くのみ
正拳突きをジャンプで飛び退け
狙いはカウンターからの捨て身の一撃
全力魔法を乗せて叩き込む
他人を検体としか思わないあなたは孤独なやつだ
どれほど理解を求めても報われない絶望を抱いて滅ぶのだな
戦場に落ちた紋章。
それは数多の生命を持って造られたものである。
どれほどの生命が必要だったのかはわからない。けれど、これまで猟兵たちが見てきた紋章の数以上のものが、この戦場には満ちていた。
それだけでわかるだろう。
五卿六眼の一柱『紋章つかい』が膨大な生命をすりつぶしてきたのかを。
その結実を失敗作だと彼は投げ捨てていた。
故にクック・ルウ(水音・f04137)は己のブラックタールたる体で持って紋章を取り込み続けた。
煌めく紋章の力は彼女の体を異形の如き装甲で包み込む。
「いただきます」
また一つ紋章を取り込む。
生命ではなくなったもの。紋章。けれど、クックにとって、それは関係のないことだった。有機物であろうと無機物であろうと、己が体内に取り込むのならば、生命を頂くことと何らかわりのないことであったからだ。
黒々とした棘が装甲より生える。
己の体を締め上げる装甲は、これまで無為に殺されてきた者たちの怨念であっただろうか。
けれど、クックは流動体たる液体の体を持つがゆえに、その締め付けを無意味なものとしていた。
「……手段を選べる相手ではない。だから、この力、利用させてもらうぞ」
流体となってクックは『紋章つかい』へと迫る。
彼は度重なる猟兵の攻勢によって疲弊していた。隻腕となり、その復元に時間と力を懸けるあまり、肉体に刻まれた傷を癒やす暇も与えられていないのだ。
当然である。
猟兵の戦いは紡ぐ戦い。常に己たちを上回る個体としての力を持つオブリビオンに対して、猟兵は繋ぐことで勝利を手繰り寄せてきたのだ。
「私の思う英雄は弱きを虐げたりはしない」
「そうだろうな。英雄とは強きをくじき、弱気を助けるものだ」
英雄というものに対する定義は互いに変わらず。
だが、英雄を生み出すという行為に対しては違う。彼のやっているとは悪逆無道そのものだ。非道そのもの。鬼畜の所業であると言えるだろう。
そして、彼は善意で此れを行っている。一片の悪意もない。故に正義を掲げ、その力を振るうこと、行いに対して何ら恥じることなく、その悪しきことを行い続けるのだ。
「正義。そのために研究を行っているんだ、猟兵。わかるだろう。この正義が」
クックは頭を振る。
それは正義であるかもしれないが『紋章つかい』の正義でしかない。
「あなたが自分の正義を信じるのならば、私は私の正義を貫くのみ」
溶けて混じれ(モグモグゴクン)とクックはつぶやく。
瞳に輝くユーベルコードがあった。
迫る拳の一撃を流体たる体は人外の動きでもって飛び退き躱し、さらにうねるように体を螺旋軌道に変えて飛び込んでいく。
カウンターの一撃。
確かに『紋章つかい』の拳は強大である。
ただの一撃であっても、己の紋章によって覆われた装甲すら打ち砕いて叩き込まれることだろう。
けれど、それでもクックは狙っていたのだ。
敵を穿ち貫くための一撃のタイミングを。
「他人を検体としか思わないあなたは孤独なやつだ」
クックの体が槍のように形状を変え、その身に宿した魔法の力をもって紋章の力を導く。強大な力。生命の束ねられた力は、クックの流体の体の中で暴れ狂うようにして溢れ、その切っ先より迸るようにして『紋章つかい』の体を貫く。
「君たちならば理解できるはずなんだ。正義だろう。君たちは。なのに、何故」
「どれほど理解を求めても、報われない絶望を抱いて滅ぶのだな」
クックは告げる。
どれだけ理解を求めるのだとしても、己の行いを省みぬ者に理解は訪れない。他者の理解を得たいのならば、まず己への理解をこそ得るべきだったのだと言うように、クックは己の体と紋章の力でもって、『紋章つかい』の体を貫き、その身に消えぬ傷跡を残すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
バーン・マーディ
…ああ…そうだ…それが正義だ…正義の在り方だ
…貴様を認めよう…一切の悪意なく…純然たる善意でのみ在るという事を
間違いなく貴様は正義である
だが…我は|悪《ヴィラン》
貴様の正義に叛逆せん
貴様が否定した…失敗と断じた紋章を以て貴様に叛逆を示さん
装着変身!漆黒の騎士へと変じて
【属性攻撃・オーラ防御】
炎のオーラを展開
UC発動
【武器受け・カウンター・怪力・二回攻撃・切断・鎧破壊・鎧無視攻撃】
敵の正拳に対し車輪剣で受け止め魔剣での膂力を生かした連続斬撃を叩き込む
当然鎧や紋章も可能な限り破壊を試みる
正義の極みにいる貴様にも教えよう
悪には悪の…正義があると!
貴様という正義という免罪符による暴力に対する叛逆が!
「仕方ないな。ああ、これは仕方のないことだ。猟兵は正義を知っていると思っていたのだが、これは認められない」
五卿六眼の一柱『紋章つかい』は残念がるでもなく、ただ一つの諦観を得ていた。
目の前に迫る猟兵は正義を知らない。正義ではない。
猟兵であるのならば、この研究がどれだけ尊いものであるのかを理解してくれるはずだと信じていたが、どうやらそうではないらしい。
彼らに正義はない。
「正義そのものならば、相対する君らは悪だな」
その瞳がユーベルコードに輝く。
煌めく力。
その掲げた隻腕たる拳は正義に満ちていた。
「……ああ……そうだ……それが正義だ……正義の在り方だ」
バーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)はその言葉に頷き一つ返して見据える。
己の前に存在する者。『紋章つかい』はたしかに正義であると彼は思った。
「……貴様を認めよう……一切の悪意なく……純然たる善意でのみあるということを」
そう、バーンは己の相対し、迫る拳の一撃を炎のオーラを噴出させながら受け止める。
「間違いなく貴様は正義である」
砕ける炎。
だが、それでもバーンは立ち止まることをしなかった。
足を踏み出し、手にした紋章を掲げる。
「だが……割れは|悪《ヴィラン》。貴様の正義に叛逆せんとする者。貴様が否定した……失敗と断じた紋章を以て」
掲げた紋章が砕けるようにしてバーンの炎と共に異形たる装甲へと変じる。
身にまとう鎧。
そのさらに上から装甲が被さり、バーンの体を覆っていく。
「装着変身!」
漆黒の騎士と変貌したバーンが踏み込む。
『紋章つかい』の振るった拳と剣が激突し、火花を散らす。
苛烈なる力の奔流が周囲に吹き荒れる。
凄まじい、というしか無い。その拳も一度や二度の激突ではなかった。無数に煌めく拳と剣の激突。
戦場を席巻するように旋風が吹き荒れ、周囲に在ったものを全て巻き上げていく。
膂力によって己の肉体が軋む音をバーンは知る。
だが、それがどうしたというのだ。
目の前にあるのは正義そのもの。ならば、悪と己を規定するバーンは剣を振るうことしかできないのだ。
「悪とされたる者達よ。正義という暴力に蹂躙されし者達よ。我はバーン・マーディ。我は今ここに宣言しよう。悪には悪の…正義があると!」
煌めくユーベルコード。
禍々しい紅きオーラを身にまとい、決して倒れぬ不屈の精神を以て剣戟の音を響かせる。
「悪には悪の正義? わからないな。その言葉は矛盾してはいないか?」
「正義の極みにいる貴様には理解し得ぬことであろう」
一片の悪性を持つ善性であるからこそ、悪を理解することができる。逆もまた然りだ。純粋な悪も、純粋な善も、なんらかわりなどない。
目の前の存在はただひたすらの己の善性でもってあらゆる悪逆無道を肯定するだけでしかない。ならばこそ、バーンはこれに叛逆する。
「正義を免罪符にするものよ。その暴力に対する叛逆を今、知れ」
振るう斬撃が拳を切り裂きながら『紋章つかい』の体を袈裟懸けに切り裂く。
噴出する血潮の最中、バーンは見たことだろう。
『紋章つかい』の怪訝な顔を。
理解の及ばぬ顔を。
わかっていたことだ。混じり気のない善意ほど救いようのないものはない。彼は正義という名をもって己の行いを肯定し続ける。
それは他者からの否定を常に受け続けることと同じ。
「故にこれは叛逆である」
振るう一撃は、その身に悪の正義を刻み込む――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
ふん、厄介な紋章職人のお出ましか
けどもまさか私達にまで紋章を使わせるとは…ある意味彼の探究者という事なのかな
ま、素材がとんでもないから同意は出来ないけどね
変身ヒーローは柄じゃないんだけどな…
ま、これもデータ取りだ
紋章の失敗作、使わせて貰うよ!
装着変身したら、《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
とはいえ、そっちの土俵に付きあうつもりは無いよ
【Ex.Code:A.P.D】起動
転身、プラズマドラグーン!
そっちがステゴロで来るなら、物理攻撃無効で躱させて貰う!
剣に雷鳴電撃を付与
『なぎ払い』、『串刺し』を絡めた剣戟で一気に攻め立てる!
しかし随分と肉体派じゃないか
ま、嫌いじゃないけどね
斬撃が血潮を噴出させる。
隻腕となった五卿六眼の一柱『紋章つかい』は、その赤き視界の外から迫る蒼い稲妻を見る。
それは月夜・玲(頂の探究者・f01605)が稲妻の龍と融合した姿。
Ex.Code:A.P.D(エクストラコード・アヴァタールプラズマドラグーン)によるユーベルコードの煌めき。
肉体を雷へと変え、今の彼女には物理攻撃が通用しない。
即ち、五体でもって強大な力を振るう『紋章つかい』の嵐の如き蹴撃の尽くを無効にするということであった。
「ふん、厄介な紋章職人のお出ましって思っていたけど……」
玲は稲妻ほとばしらせる姿のまま抜き払った模造神器の刀身を『紋章つかい』へと振るう。
その斬撃は、これまでの玲のそれとは比べ物にもならない一撃であった。
「紋章を使っているのか、猟兵。それでこの威力とは。なるほど、失敗作だと思っていたが、それは人に装着できないだけ、という点に目を瞑れば、充分に及第点……いや、違うな。論点がズレている」
あくまで『紋章つかい』が求めたのは英雄たる者。
意志によって力を御する者。
猟兵が失敗作の紋章を使って己と同じ土俵に入ってきたのだとしても、それは彼にとって喜ばしいというものではなかった。
「ある意味、探求者ってところにはさ、同意できるんだけど、素材がとんでもないって時点で同意ができなくなるんだよね」
とは言え、玲は『紋章つかい』の土俵には立たない。
彼の攻撃の起点は全てが五体より放たれるものであった。
警戒すべきは翼からの破壊光線。
しかし、それを使わせるより早く玲は踏み込んでいた。抜刀された模造神器の刀身が励起するように輝きを増していく。
紋章による『装着変身』。それによって玲の体を覆う異形の装甲が、模造神器の刀身に合わさり、斬撃と共に刃となって『紋章つかい』を襲うのだ。
「そういう使い方をするか。面白いな」
「こっちこそ意外って感じだよ。ステゴロって、まあ、随分と肉体派じゃないか」
「お嫌いかな」
「嫌いじゃないってことだけコメントしておくよ!」
振るう斬撃が戦場に蒼い残光を刻み込む。
装甲が刃へと次々と変じて『紋章つかい』を追い込んでいく。
稲妻と融合した玲の踏み込みは正しく光速。さらに『紋章つかい』からの攻撃の全てを彼女は無効化していた。
流れ込む正義はすでに体内に走る稲妻が焼き切っている。
「純粋な善意から、本気で英雄を生み出そうってしていることはわかるよ。けれどさー……」
玲は斬撃を打ち込み、迸る稲妻の向こうに『紋章つかい』を見る。
激突する力と力。
その火花の最中に彼女は言う。
「英雄なんていうのは、なろうとしている時点で、すでに出オチって感じするよね! だって、あれって担ぎ上げられているものなんだからさ!」
「しかし、その思惑すらも超えていく意志の力が人間にはあるだろう」
振るう拳が激突し、押し切るようにして正義が流し込まれていく。けれど、玲は構わなかった。それは意味がない。
どれだけ純粋なる善意があるのだとしても、混じり気のない善意は悪意と変わらない。見分けがつかない。そして、それを宣う者自身もまた理解できぬままに邪悪へと成り果てていくのだ。
「その意志の力でもって人は、英雄になるはずだ!」
蒼い斬撃の光が『紋章つかい』を切り裂く。
凄まじい熱量を持った稲妻の斬撃。
それは体内にありし血液すら沸騰させ、蒸発させながら癒えぬ傷跡を刻み込んでいく。
「意志ってのは大切だよ。だから、君の『英雄』を生み出したいという願望は、欲望は……」
振るう一撃が『紋章つかい』の体を切り裂く稲妻となって落ちる。
「叶わない――!」
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
んもー
たまにこういう子いるよねー
正義とか悪とかー
みんな好きに生きてるだけなのにね?
●変ッ身!
たまにはこういうのもいいよね!
相手に悪って言葉を使うときにあるのはごーまんさと、善を知るのは自分であるっていう憶断だよ
でも人はこうも言う
もろもろの価値に深く傾倒している人物は賞賛される
その強い信念、気遣い、何かをよしとする思いは自律と自由と創造性の発露である
その生き方は気楽さと正反対であり、規範がある
でもキミはそーいう風には見えないなーオブビリオンはそういうところが不合格だよねー
別にボクは正義の味方じゃない!
正義がボクの味方だから言えるのさ!
UC『神撃』で真っ向ドーーーンッ!!
雷鳴が戦場に轟いている。
それは斬撃が見せた轟雷。そして、ユーベルコードの煌めき。
正義がある。
純粋なる善意によって生み出された正義。しかし、それは純粋なる悪意と何ら変わりない。正義の名の下にあらゆる行動が肯定されるのならば、それは悪と変わりないことであった。
故に、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は呆れ果てるようにして息を吐き出す。
「んもーたまにこういう子いるよねー正義とかー悪とかー」
ロニにとって、それは意味のないことであった。
人間はみんな好きに生きているだけでいいのだと思っている。好き勝手に身勝手に、己の欲望のままに、それを叶えるために生きている姿こそが滑稽で愛らしいのだ。
だから、とロニは紋章を手に取る。
たまにはそういう流れに身を任せてみるのもいいだろうと掲げた紋章の輝きを見る。
「変ッ身!」
異形の装甲がロニの体を包み込む。
「相手に悪って言葉を使う時にあるのは、ごーまんさと、善を知るのは自分であるっていう億断だよ」
「猟兵、そのとおりだよ。正義を知るのならば、この研究が正しいとわかるだろう?」
その言葉にロニは首を傾げる。
そして、掌を向ける。
「でも人はこう言う」
ロニにとって『紋章つかい』の言葉は如何なるもの写っただろうか。
「もろもろの価値に深く傾倒している人物は賞賛される。その強い信念、気遣い、何かをよしとする思いは自律と自由と創造性の発露である。その生き方は気楽さと正反対であり、規範がある」
「正義の前には全て無意味だよ。どれだけの犠牲も、どれだけの血も。全て意味がなく。何故なら、これが正義だから」
そういうところだよ、とロニは装甲の中で笑う。
不合格、と彼は呟いた。
確かに『紋章つかい』の持つ正義は純粋そのものだ。混じり気がない。
本気で人間が英雄になることを臨んでいるし、その意志と力でもってオブリビオンを打倒することを臨んでいる。
なのに、そこにはロニが思う自律がない。
自由はあったのかもしれないが、自縄自縛になっているようにも思えるがゆえに、それは不自由と変わりない。
再現のない自由が不自由と変わりないのと同じである。
「人は己の中に箱を創る。柵を創ると言っても過言ではないだろう。それを取り払うためには、やはり意志の力が必要になるとは思わないかい」
「ほんとそーいうところだよ! 別にボクは正義の味方じゃない! 正義がボクの味方だから言えるのさ!」
不合格! とロニは飛び込む。
正義であるとか、悪であるとかは些細なことだ。
どうしたって人には人の正義がある。それこそ星の数ほどある。だからこそ、規範というのは必要なのだ。
己を縛るもの。
それはけれど、誰かに、己以外の誰かに寄って定められるものの規律である。
人はそうやって己の中の欲望を規定してきたのだ。
時に己の欲望を他ではなく、全のものにすり替えながら、突き進んできたのだ。だからこそ、愛おしい。愚かしくも、可愛らしいとロニは思うのだ。
「はい、ド――ンッ!!」
振るう拳の一撃は、神撃(ゴッドブロー)。
最早、語ることなど何一つ無い。此処に結論は出ている。
己の言葉は、既に誰かの言葉。故にロニは激突する互いの拳の明滅の最中に『紋章つかい』を見る。
論ずるに値せず。
そして、それは『紋章つかい』の正義を吹き飛ばす一撃として炸裂するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ゾーヤ・ヴィルコラカ
こんなの、馬鹿げてるわ。そんなの、あなたの馬鹿馬鹿しい野望のために、この世界のみんなをあんなに苦しめたっていうの? ……そんなの、もうたくさんよ。ここで止めるためにも、どうかわたしに力を貸してちょうだい!
〈覚悟〉を決めて装着する紋章は『月光』、何がどう失敗作なのかはきっと彼が勝手に解説するんじゃないかしら。月の光を纏って【UC:白魔顕現】(SPD)を発動よ。強化された氷の〈属性攻撃〉や〈怪力〉で、ひたすらに彼の紋章へ攻撃を放ち続けるわ。
紋章使い、あなたは間違っているわ。あなたが積み上げているものは、消耗品でも実験材料でもない、みんな生きている人間なの。それをこんな風に弄んで失敗作呼ばわりなんて、正義がどうのとか言う前に、絶対に許されないことだってことが、そんな単純なことがどうしてわからないの! さぁ咎人さん、骸の海に還りなさい!
(アドリブ等々大歓迎です)
激突した拳がユーベルコードの煌めきの中に吹き飛び、ずたずたに引き裂かれる。
すでに五卿六眼の一柱『紋章つかい』の体は満身創痍。
隻腕と成り果て、その拳を放った最後の一撃は両の腕を喪わせるに至った。シンプルに強大なる力を誇る存在。
されど、度重なる猟兵のユーベルコードに寄って、此処まで消耗させたのだ。
「どれだけ考えてもわからないな。君たち猟兵と相対すればするほどに君たちも正義を知っているように思える。なのに、何故だろう。この研究の価値を理解しないことが理解できない」
それは認めないということであった。
どこまでも純粋な善意。
『紋章つかい』の持つ正義とはそういうものだった。混じり気が無いがゆえに、純粋な悪と何ら変わりがない。
己がなしてきた悪逆無道たる行いの全てを省みることなく『紋章つかい』はただ、猟兵達の行動に疑念を抱くだけだったのだ。
「こんなの、馬鹿げてるわ」
その言葉にゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は、瞳に超克の輝きを宿しながらまっすぐに『紋章つかい』を睨めつける。
「そんなの、あなたの馬鹿馬鹿しい野望のために、この世界のみんなをあんなに苦しめたっていうの?」
「わかるだろう、猟兵。どんな事柄にも犠牲というのはある。何かを求めるのなら、何かを差し出さなければならない。どんなものだってそうだ。英雄を求めるのならば、英雄が必要になる状況が生み出されなければならない」
英雄は人を救う。
窮地を救う。
あらゆる負債を吹き飛ばす意志があるからこそ、力を振るうに値するのだ。
故に、それは必要な犠牲であると『紋章つかい』は告げる。
「……そんなの、もうたくさんよ」
ゾーヤの手にあるのは『月光』の紋章。
異形の装甲がゾーヤの体を包み込む。同時に彼女の身より冷気が迸る。
彼女の聖痕に宿った膨大な魔力が発露し、人狼たる姿をさらけ出す。強靭な肉体。意志宿る瞳は、『紋章つかい』を睨めつける。
「此処で止めるためにも、どうかわたしに力を貸してちょうだい!」
吹き荒れる冷気が迫る『紋章つかい』を吹き飛ばす。
ゾーヤの身より放たれる冷気は、それだけで氷の属性魔法となっていた。ただ、そこにあるだけで彼女はあらゆるものを凍結させていく。
『紋章つかい』も例外ではない。
月光によって引き出された膨大な魔力はゾーヤの体内で生み出さえたものだ。
聖痕。
それは己のためではなく、誰かのために。
誰かの痛みを引き受け、誰かの傷を癒やすもの。
雪の華咲く結晶は、ゾーヤの超克――オーバーロードを受けて明滅の刹那すら喪うほどに輝いていた。
踏み込む。
ただそれだけで『紋章つかい』の蹴撃を受け止めて尚、止まらぬことを示してみせた。
「仕方のないことだ。割り切ってもらえると思ったんだが。犠牲なくして得られるものなど何一つないだろう。生命は生命で贖うべきであるし、オブリビオンが人を虐げるのならば、その力で滅びるのもまた当然だ。なら、人はまず一旦、滅びに瀕するべきじゃないか?」
「あなたは間違っているわ」
ゾーヤは否定する。
これまで『紋章つかい』が積み上げてきたものを。
それは消耗品でもなければ実験材料でもない。完全なる善性は、それを忘れているのだ。
彼がこれまですりつぶしてきたものは、生命だ。
懸命に生きていた者をすりつぶしてきては、失敗だと放り捨ててきたのだ。
「みんな生きている人間なの」
「そうだな。生きている人間だ。だからこそ価値がるとは思わないか?」
「でもあなたはそれを弄んだ。失敗作呼ばわりなんて!」
「正義のためだよ。正義のためにはあらゆることが肯定される。みんな好きだろう、正義。正義のためならなんだってしていいと思えるだろう?」
「正義がどうのこうの言う前に!」
ゾーヤの突進が『紋章つかい』の蹴撃の嵐を吹き飛ばし、組み伏せ、大地に叩きつける。
衝撃が吹き荒び、穿たれた大地の上に『紋章つかい』は倒れ、見上げるだろう。
そこにある氷華の輝きを。
「絶対に許されないことだってことが、そんな単純なことがどうしてわからないの!」
煌めくユーベルコード。
白魔顕現(ブリザード・ウルフ)たる光は聖痕によって発露する。
満ちる力はゾーヤの身を覆っていた異形の装甲を砕きながら形を変貌させる。人狼の怪力に耐えるように。その力を十全に放つことができるようにとと、形を変えていく。
拳を形作る。
氷属性の魔法が、拳を更に縁取るように覆う。
「何に代えても、必ず――あなたを滅ぼす!」
振るう一撃は輝き解き放ちながら『紋章つかい』の体へと叩き込まれる。
純粋な善。
それは悪と変わりなく。
故にゾーヤは正義のためでもなければ、自分のためでもなく。
ただこれまですり潰されてきた生命と、これからを生きていく生命のためにこそ拳を振るう。
過去の化身は今に居てはならない。
過去は過去に。
「さぁ咎人さん、骸の海へ還りなさい!」
叩き込まれた一撃は『紋章つかい』を滅ぼし、その戦場に氷雪の華を舞い散らせた――。
大成功
🔵🔵🔵