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闇の救済者戦争⑤〜複翼に溺れて

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #闇の救済者戦争

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●翼に溺れる
『――』
 ふら、ふらとその森を征く魂人。
 そこにきたのは偶然で、しかし同じく色んな魂人がその森に消えていった。
 どれもが元オラトリオの魂人。神の御使いとも呼ばれる神秘の種族、だったものたちだ。
 その翼は――森へと踏み入った途端に質量を変えていく。
 背からではなく、体中から突然身を割いて現れる翼の群れ。
 首から、口から耳から、どこからでも。どの翼も体の中から飛び出して現れた。
 初めに発症したのは激痛。当然だろう、本来あり得ない場所から突然生えだしたのだから。
 続いて、痛みに溺れた魂人が見たのは"幻覚"。
 全てが"滅ぼすべき悪性"に思える――幻覚で現実が塗り替えられて、魂人は現実を認知できずにいる。
『どいて、行かなくちゃ……』
 体内から生えた羽で塞がれた喉は、あまり多くの言葉を吐き出せない。
 何をするにも関連するのは、痛み、痛み、痛み、痛み――。

●翼が己を食らうから
「『翼圧症』というのを知ってる?」
 狼姫・荒哉(吹雪謳う爪牙・f35761)が聞いた話は、第三層。
「無数の拷問器具が自生する森だそうだね、そこは。そして当然のように暗い森だ――そこに奇病を発症しても尚、歩みをやめない魂人がいるのだって。『翼圧症』はね、……想像し難い激痛を伴う奇病だよ。普通の人間だって気が狂いだしてしまう、発症したら痛みが止まらない病気なんだ。魂人は、その存在通り魂の存在とも言えるから……汚染されてしまったのだと思う。森を進む魂人が何を目指して、どこへ行こうというのかは判明しているそうだよ」
 禁獣ケルベロス・フェノメノン。禁獣領域から開放された存在の方向へ、向かっているらしい。
「『神殺しの獣』を殺さねばならない」……そう無意識化であり本能的部分で感じ取っているようでね。いや、それはどうしてかまでは……ううん、俺にもわからないよ。元オラトリオの魂人である事は重要なことなのかもねぇ」
 荒哉はずれ始めた話を戻すように務める。
「翼圧症疾患者達は激痛を常に感じていて、幻覚を見ているよ。君たちの救助や手を貸すという姿勢は妨害行為に映るかも。間違いなく襲ってくると思う。でも……彼らは当然のようにオブリビオンじゃない。手加減なんてしてくれないけど、殺すわけにはいかないんだ。彼らは、魂人だから『永劫回帰』ができてしまう……知ってるよね?」
 永劫回帰は魂人が持つ力。幸福な記憶ひとつを心的外傷に改変する力。
 倒したとしてもほぼ無限に復活できる反面、激痛に苦しむ彼らから一つずつ何かが奪われていくのだ。
「……幻覚に浮かされている彼らに説得は無意味だよ、だから、一時的に戦闘不能に持ち込む事が必要なんだと思うんだ」
 魂人の足の止めさせ方は、皆に任せるけど――とは荒哉は語る。
「可能なら、なるべく魂人に「永劫回帰」を使わせず、戦闘不能に追い込む方がね、いいんじゃないかな」
 君に、君たちに、優しさがあるのなら。
 どうか、痛みを感じ、幻覚を見ながら暴れる翼圧疾患者を止めてほしい。
「この作戦では、気絶させた魂人たちをどう気絶させるか、が重要だね」
 魂人がこれ以上何かを、失わないうちに。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 この依頼は【一章で完結する】戦争系のシナリオです。

●プレイングボーナス
 なるべく魂人に「永劫回帰」を使わせず、戦闘不能に追い込む。

●簡単な概要
 第三層の鉄と病の森。無数の拷問器具が自生する常夜の森の中。
 「翼圧症」によって激痛を感じ、同時に幻覚を見ている魂人を大人しくさせよう。
 間近でみたら、見るからに痛そうだ、と感じることでしょう。
 尚、魂人はオブリビオンではない為、扱いは気をつけなくてはなりません。
 彼らがどこに行くか、という点はこのシナリオでは重要ではなりません。痛みと幻覚で無作為に暴れまわる疾患者たちを止める(戦闘不能にする)、というのが趣旨です。

●その他
 断章などはありません。痛みと幻覚で説得などは届かない、あまり多くを語れない、と思って貰ったほうが無難です。……が、彼らがどんな幻覚を見て暴れているかは、やや自由に考えて貰っても、大丈夫です。特になければ『目的地にたどり着き戦っている』くらいのニュアンスでの反映を行います。場合により全採用が出来ないかもしれませんし、サポートさんを採用しての完結を目指す事もあるかもしれません。可能な範囲で頑張ります。ご留意いただけますと幸いです。
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第1章 集団戦 『翼圧症患者』

POW   :    おぞましく伸びる翼
【全身から伸びる翼】が命中した敵を【さらに伸びる翼】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[さらに伸びる翼]で受け止め[全身から伸びる翼]で反撃する。
SPD   :    痛苦の叫び
【体内に生えた羽で塞がれた喉】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【肉体の羽毛化】の状態異常を与える【痛苦の叫び】を放つ。
WIZ   :    時空凍結翼
【全身に生える翼】から【オーロラのような光】を放ち、【時を凍らせる現象】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レナータ・バルダーヌ
翼圧症の痛みは想像することしかできないとはいえ、わたしもオラトリオですから決して他人事とも思えません。
一刻も早く苦しみから解放してあげたいですけど、治療法はあるのでしょうか……。
とにかく今は、出来ることをやるしかありませんね。

なるべく傷つけずに気絶させる方法……初めてですけど試してみましょう。
【C:J.ディストラクション】を使いますが、今回は飛行速度の強化のみで歪曲力場は展開しません。
両翼の痕からロケットのように炎を噴射し、魂人さんを抱えて障害物のない上空へ飛翔します。
反撃されても【痛みくらい耐えて】みせます、魂人さんはもっと辛いでしょうから。
そのままスピードを上げ、加速度により気絶させます。



●high speed crisis

 奇病で全身から翼が生える。
 聞いた言葉ですら、想像するに及ばなかった。
『ア"、ァ……』
 暗い森の中で実際に翼圧症患者を目の前にして、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は顔をしかめる。今も尚生える、伸びるように成長を続ける翼は耳から。
 飛ぶためでも飾りでもない翼が、じわじわと数を冷やして生え続ける。
 そんな奇病がオラトリオにのみ発生するのだとしたらそれは一体何が原因か。
「……わたしもオラトリオですから他人事ではありません」
 吸血鬼が関わる事か、それとも――。
「いえ、とにかく今は出来ることを致しましょう」
 ――どうにか、一刻も早く、苦しみから解放してあげたいですけど。
 翼が生えるという現象を、治療する術はあるのだろうか。
 奇病にもし掛かったなら痛みは前提に欠損した翼でさえ、――生えてくる、のだろうか。
 疑問が浮かぶ。考え出せばキリがない。
『いたい、いたい、……やだ、いたい』
 拷問器具を踏みしめて、全身から生えた翼がワサワサ動く。
 めぎめぎと嫌な音を立てて急激に伸び始めて、翼圧疾患者の苦悶の声音を置き去りに翼は伸びてレナータを襲う!
 まるで意志を持った別の生き物のように、勝手に動いているようにさえ見えた。
「なるべく、傷つけずに気絶させる方法……でしたね」
 ――初めてですけど試してみましょう。
 C:J.ディストラクション(コンビネーション・ジェットディストラクション)――発動。
 自身の周囲、範囲内。
 今回は追いすがる翼の攻撃から逃げるために、レナータは歪曲力場の展開を排除。
 用途を絞り速攻でしかける。素早く両翼の痕からロケットのように炎を噴射し、ブレイズキャリバーは翼圧疾患者の攻撃など考慮に入れず懐に飛び込み、魂人を抱え込んで森から更に上空へと突き抜ける!
「この方法なら、あなたの攻撃を耐えるだけで……この場所より離れる事が出来るでしょう」
 常闇の森よりも障害物の無い三層の空に飛び出して、次に向かうべき場所を模索する。今は此処でなければ、どこでも――万全な防御力を誇る城が、戦闘開始拠点として今や猟兵たちが利用しているはず。
 影の城。そこまで飛べば、安全かもしれない。
 レナータをばしばしと、翼が身を叩く。拳に良く似た重さで叩き続ける。小さな嗚咽と、身を捩るような抵抗。全身から生えた攻撃に使う翼には芯があり、痛い。飛翔するレナータ相手におぞましい伸びる翼が絡みついてくる始末だ。翼であり、触手を思わせる――そんなはずは、ないのにも関わらず。
 ばたばたと、もがき暴れる魂人が幻覚で何を見ているかなど、レナータにはわからないが向かうべき場所は決まった。
「病院である方が適切なのでしょうが、此処ではない方が、あなたはきっと休める場所でしょう」
 暴れ続ける叩いてくる攻撃だって、耐えればいいのだと自身に言い聞かせてどんどんとスピードを上げ、飛翔する者でも失神する最速に到達した頃――魂人は突然動きを止めた。手の内で、力なくぐったりしている。魂人の意識が途絶えたなら、伸びる翼も活動が止まった。
 ぴくぴくと痙攣があるのは、確かに戦闘不能にした証でも在るだろう。
「……すみません。意識があると辛いでしょうから、せめてそのままで」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…オラトリオの魂人と神殺しの獣とやらの関係性も気になる処だけど、
今は苦しんでいる彼らを一刻も早く救い出すのが先決ね

UCを発動し自身の肉体を改造して吸血鬼の特性を付与し、
敵UCの攻撃を肉体を霧に変化する事で残像のようにすり抜けて受け流し、
両眼に血の魔力を溜め"魅了の魔眼"化させる事で呪詛を宿す視線を放ち、
魅了のオーラが防御を無視して対象の精神を捕縛し眠らせる精神属性攻撃を行う

"…リーヴァルディ・カーライルの名の下に命じる。眠りなさい、夢を見る事もなくね"

…心を操るなんて私の矜持に反する術、本当は使いたく無いんだけどね

…これで彼らを傷つけずに無力化できるならば、今は目を瞑る事にしましょう



●この声を聞き、直ちに墜ちよ

 ――…オラトリオの魂人と神殺しの獣とやらの関係性も気になる処だけど。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は頭を振って今考えるべき事に視点を当てる。
「今は苦しんでいる彼らを一刻も早く救い出すのが先決ね」
 さく、さくと森の中を歩く音すら覚束ない。
 しかし、突然くるりと振り向くや否や、翼圧疾患者は胸あたりを抑えて苦しみだす。
 胸の中央から背中に生えている元の翼と同等の翼が突然生えて来て、激痛に言葉が埋もれた。
「ああ、……深刻な状態というのは、そうね」
 言葉を交わす事、"敵"と持つ力をぶつけ合うこと。
 コレは普段のソレとは、違うのだ。
 自身の言葉は届かず、あれはそう。敵でさえない。
 ――限定開放。
 今此処に在るべきは、伝承に謳われる吸血鬼の力。
 血の変性、在り方を尖らせる。体は、吸血鬼の特性を得て、改造でも施したように替る。
 この世界は昏いが常なのだから、本質として弱点となる"強い光や太陽"など存在しない。
『いや、い”や”あ!!』
 喉を壊さんばかりの絶叫に乗せて、胸から生えた翼が際限なく伸び続けている。
 まるで寄生種のように、自分以外の存在へ向けて"翼は腕のように伸びて勝手に羽ばたく"。
 魂人は急激な動きにされるがままに引っ張られるが、当然、其の場所に普段翼など在るはずもない。
 ――誰かと戦闘中。それも苦戦……?
 ――いや、違う。これはきっと苦痛の中で見境のない攻撃ね。
 敵のユーベルコードの発動を、リーヴァルディは体を霧に変化することですり抜けて無力化する。
「其の翼は、私には届かないの」
 追撃も、反撃も。貴方の翼には似合わないのだから――。
 霧を凪いだ翼は虚空を欠いた。狙いの定まらない攻撃だ、其の目は虚ろ。
 やはり、リーヴァルディのことを認知しているわけでもなさそうである。
「届くとしたら、此方から」
 両眼に血の魔力を溜めて、瞳は魅力の力が巡りだす。
 それは視線で呪詛を宿す力。眼が合わずともいい。
 此方が見ていれば、魂人の無防備な魂は、自ずと"吸血鬼"に新たに染め上げ侵される。
 魅了のオーラがふわりと周囲を取り巻き、防御など無きに等しい"魂"へと語りかけるのだ。
 重たく、染み込むよう言い聞かせるように。
「"……リーヴァルディ・カーライルの名の下に命じる。眠りなさい、夢を見る事もなくね"」
 説得など聞く耳がない。確かにそういう話であったと思うのだ。
 だからこそ、心を直接支配する。
『……あ”?……あ、あ』
 呪詛を受けた魂人は、がくん、と突如力を失い羽毛は森の中で倒れ込む。
 はじめに見たときよりも伸びた翼もある。倒れ込んだ反動で痛みなどきっと発生したりしなかったはずだ。
 やや乱れは在るが、整っている方の呼吸音が聞こえる。
 意識を完全に落とした後、命じるままに眠りへと転がり混んでいる。
 ――そう、それでいい。
「……心を操るなんて私の矜持に反する術、本当は使いたく無いんだけどね」
 戦う手段は色々だが、体より先に、心を沈黙させることになるとは。
「でも、……これで彼らを傷つけずに無力化できるならば、今は目を瞑る事にしましょう」
 適材適所。今はコレが、――"最適解"。
 何処の誰かはわからない。だが、苦しむ声も、失われ続ける記憶と魂も。
 見過ごすことは、出来やしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

山咲楽・優枝
アドリブ連携歓迎
【WIZ】
死してなお苦痛と殺意に魂人さんたちが
苦しめられるなんて……ひどいデス。
僕に出来る限りの手を、尽くしマショウ。
『闇色隠密服』に着替えて森の中へ。
目立たないよう木陰の闇に紛れながら移動。
魂人さんたちを見つけたら、彼らの苦痛が癒されるように
祈りを込めてUC【桜の癒し】を発動します。

花吹雪が目くらましになることで相手に
更に見つかりにくくなって
UCを避けることができると良いのデスガ……

どうぞ、穏やかにおやすみください。
願わくば悪い幻覚(ユメ)など見マセンように……



●第三層で踊る癒やしの桜

 永劫回帰の中にいて、今や奇病に侵されて。
 熱に浮かされたように森を行く元オラトリオの魂人のが何をしたというのだろう。
「死してなお苦痛と殺意に魂人さんたちが苦しめられるなんて……ひどいデス」
 死んでも死にきれない状態である魂人たちは、桜の精にはそのように映る。
 此処がサクラミラージュなら、と想ってしまうのも幻朧桜の姿を探したくなるのも、仕方がないだろう。誰かの絶望が常に傍にあり、安らぎは程遠い。
 山咲楽・優枝(身魂鎮める桜の一枝・f22534)は、翼圧疾患者たちの敵対認知が行われるより早く、闇色隠密服に着替えて森の茂みに紛れ込むんだ。もとより此処は暗い森。
 ターゲットは幻覚に溺れ、激痛で他者の認知が恐ろしく低下している。
 故に、優枝は悟られる事無くことに運んでいける。
「(こうして、目立たないように木陰を進んでいけば、回り込むことさえ可能デショウ)」
 木々の中を縫うように行けば、歩く音を耳に聞く。
 重ねて羽音。誰が居るのかを、すぐに特定することは余裕であった。
『……う"う"』
 突然腕を振り上げて、何もいない場所に攻撃する仕草。
 かと思えば、振り向きざまに蹴る動作。周囲に近づくには、攻撃的な仕草が多く、優枝は 見失ったりしないように最低限の距離を保ちつつ少しずつ距離を詰める。息を殺して、近づいて……ふと、体を覆う翼がありえぬ不可思議な光を帯び始めていることに気がつく。
 ――力を溜め込んで……?
「もし、痛みに耐えられずなのでしたらでは、ドウカ……」
 ――アナタの痛みが、安らぎマスように。
 ――僕の祈りが、届きマスように。
 琥珀の瞳を伏して、手を組み桜の精は祈りを周囲に響き渡らせる。
 命は桜の花吹雪となって明るい色のなどほとんど見当たらない常闇の森に、"桜"は灯る。
 なるべく接近したからこそ、近くに存在する個体にだってきっと届く。
 ふわあ、と広がる"桜の癒やし"は優枝を起点に広がって、かすかに桜の匂いと春のような優しい暖かさで包み込む。
『……?』
 何故、攻撃姿勢でいようとしたのか。忘れたように。
 オーロラの色は一体、また一体と翼圧疾患者の翼は輝きを失った。再び攻撃姿勢を取るものは影で見ている限り存在しない。なにしろ、桜吹雪は目くらましとなり、さらに優枝を目立たなくさせていたからだ。
 完全に死角が生まれている中を好機とし癒やしの力に更に、願いを載せる。
 周囲には優しい空気が満ちて、誰かが攻撃することは無く、誰かを攻撃されることもなく。緊張感の糸が解れ、眠りに誘われるのもあっという間だ。

 翼圧疾患者視点ではいつの間にか、地に伏している現象が多発した。それは、眠りへ至る桜の精の呼びかけに"魂"が応えたに等しい。痛みを嘆くことに疲れ、休むことに同意したに等しい。速やかに眠りに下り、痛みも幻覚もその瞳に映さず眠っている。
「どうぞ、穏やかにおやすみください」
 祈りの中心で、優枝は願い続ける。癒やしを与えて、其の痛みが安らぐように。
 この清き願いが、彼らの救いとなるのなら――。
「――願わくば悪い|幻覚《ユメ》など見マセンように……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

有栖川・夏介
力でもって、一刻も早く止めます。
そのほうが彼らのためになるのであれば…。

UCが効くようであれば、眠らせて動きを封じたいところです。
眠らせることができなければ、殺してしまわないように【気絶攻撃】を意識しつつ剣で攻撃。
斬るというよりも叩くイメージで……とはいえ、斬ってしまったほうが痛みは少ないと思いますが……。
殺してしまわないようにするには、この方法しか思いつかない。

翼圧症、治療できたらよかったのですが、所詮私は処刑人。
こうして力で抑えつけることしかできない。歯痒いな……。



●処刑の術は生かすために

 姿を見つけ、襲撃を恐れずに目の前に立つ。
「何を見て、いるのですか」
 応答はない。
 羽音を鳴らし、草を踏み。翼圧疾患者の体から、じわじわと翼が"出てくる"。
 脇腹から、膝から。其の場所に”想像の翼”など生えないだろうに。
 ――これが奇病。感染、症の、類。
 目視による病状把握はそこまでが限界だった。
 投薬、または薬物による進行の停滞か痛みの緩和が出来たなら――。
 有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)はそこまで考えて、ため息を一つ浅く吐いた。
「一刻も早く止めます」
 ――そのほうが、彼らのためになるならば。
 どちらも即座に排除は不可能。
『……』
 翼に覆われていく体、覆われ始めた部位が起点に痛いのか、魂人は蹲り、大きく背中の翼を広げだした。
 唐突な動き、それを見つめる夏介の眼には確かにそれは見えていた。
 広げた翼、体に生えた翼はどれもオーロラが如き輝きを帯びていて威圧感さえ感じる。
 放たせるのは、良い事がない――それは処刑人の第六感、言い換えれば直感だろう。
「……どうかしました?」
 "お茶会セット"を比較的綺麗そうな拷問道具の上に置き、素早く取り出し、言葉と共に放つのは睡眠針。説得を聞く耳がない。事前に聞いた通り、魂人の耳からも小さな翼がうにょりと伸びている。
 ――あれでは周囲の音が上手く聞こえまい。
 ――周囲へあまりに無防備だ。
 翼が生える痛み、体がどんどん翼に覆われていく締め付けるような痛み。
 羽が柔らかそうなのだけが、救いだろうが――それは該当者以外が思うこと。
 激痛に幻覚。イイことなど、当事者に一つとしてありはしなかった。
『……あ』
 翼に貯まる力が光量を上げていく中で、しかし針は患者へ届いた手応え。
 とろんと瞳は眠たそうに溺れだし、輝きはすううと失われる。
『――』
 ぶつぶつと何かを話す言葉は喃語。到底聞き取れる言葉ではなかった。
「ああ、やはり――翼が邪魔をしましたか」
 動きが緩慢になった魂人に、夏介は気配を同一にして近づく。
 殺意はなく、哀れみを抑えて――ただし敵ではないと心を落ち着けて。恐怖を与えると同じ感覚。
 気配を押し付けて、動物とでも対峙したように接する。
「……眠りより、気絶の方がやはり得意なようで」
 剣を持もつとよぎるのは、斬った方が痛みは圧倒的に少ないだろう、という考え。
 当然だ。命が止まれば、彼らは永劫回帰で転生して戻る。
 感染したこの状態が、回復する可能性も――いや、死した時点を基軸に転生するなら、解決にはならない……?
「……殺さないようには、加減しますのでね」
 斬るというよりは叩くのイメージ。峰打ち。
 ただし、翼が多く、失神を一番招く場所――首の後ろ狙い、穿った。
 早く動く必要も、警戒する必要もなく――頸椎に適切な打撃を加えた夏介は、がくん、と魂人が意識を無くし倒れ伏したことに安堵する。
 手慣れた気絶の促し方。殺してしまわないようにするには、この方法くらいしか次の案は思いつけなかった。
「翼圧症、治療できたら良かったのですが、所詮私も処刑人」
 治すよりも、そちらの技術力のほうがやはり上。
 いつか夢見た技術では、到底完治の手段は知識の中から最適だろう単語を選んだだけ。
 真実、結果が出来るかはやってみなければ、わからないのだ。
「こうして力を抑えつけることしかできない。歯痒いな……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
やや、幻覚に浮かされている彼らに説得は無意味、でっすかー。
でしたらその幻覚にのってしまおうなのでっす!
藍ちゃんくん、ケルベロスステーッジ!
催眠機能付きのフェノメノンを模したステージを召喚すれば攻撃してくるのでは?
ちょうどスピーカーみたいなの背負ってましたし!
本能的なもので本体ではないと見分けるかもでっすが、その割には幻覚で藍ちゃんくん達を攻撃してきますからねー!
スルーされることはないかと!
予知で見たワンコさんの演技もしちゃいましょうなのです!
そのまま攻撃をステージの方に放ってくれれば願ったり叶ったり!
やられる演技をして幻覚内でも一瞬でも勝ったと思わせた隙に催眠術なお歌で眠らせてしまうのでっす!



●"地獄の番犬"オンステージ!

「ややっ?」
 幻覚に浮かされている彼らは聞く耳を持たないのだという。
 確かに、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が陽気に普段どおりに視界に入り込んでも無反応。
 ――これは、ほんとに説得は無意味、でっすかー。
「でしたらその幻覚にのってしまおうなのでっす!」
 藍ちゃんくん、スペシャルステージにご招待!
 ショータイム中の歓談は、どうか声を潜めてお願いします。
「ずばり、『藍ちゃんくん、ケルベロスステーッジ!』」
 カカッとスポットライトが点灯する!どこから現れたとか、聞いてはならない。
 よく目を凝らして欲しい。それらは|鉄の処女《アイアンメイデン》だ。
 棘だらけの内側より、"何故か"ライトが藍へと向けられているのである。
 なんで物騒で物々しい電飾だろう。
 聞き及びし禁獣ケルベロス・フェノメノンを模したステージはやはり地獄の様相である方が"らしい"と思う。ケルベロスはまるでスピーカーのようなものも背負っていた、ならばステージの華といっても過言ではないのでは!
『……!ああ!』
 聞き取れたのはそこまで。翼圧疾患者は何事かをぶつぶつと呟きだしたが、口の中それよりも中に生える翼が言葉を埋もれさせた。何かを詠唱している、と分かるやいなや、藍はニヤリと笑う。
「おっお、幻覚の中でもこのステージの良さがわかるでっすかー?」
 スルーされることはなかった。
 むしろ、集団は一斉にステージへと視線を向けている。
 少々意地悪かもしれないけれど、ケルベロスを模したステージに向けて攻撃を開始してくれるのは藍には丁度いい。
 彼らの視点でどう見えているかは、分からないがこのステージには催眠機能がついている!
 ――本能的なもので本体ではないと見分けるかもと器具もしたですっけど。
 ――思うに、横槍を入れてきた"敵"と認知しているように見えるでっすね。
「"我らが|惑星《ほし》には、何人たりとも近づかせぬ!例えその心に悪心の欠片が無かろうとも!"」
 予知で見かけたケルベロスの言い回しと言葉尻を真似て、演技で"居るぞ"と声を上げれば、ぶわああ、と一斉にステージ上が羽毛が生える!詠唱時間に応じた効果が発揮されたのだ。
 肉体ではないにせよ、翼圧疾患者は自身が感じるのよ同等の異常状態が"ステージへと"与えられて、自身は痛みに叫び続ける。範囲は不思議と限定されていた。ステージだけだ。
 そこに付属するものは翼に呑み込まれただけで、異常状態は浴びてないようにも散見できる。
 当然、口も感覚も得ていないステージは叫ばない。
 羽毛が唐突に映えたステージは、異様でありながら壮観であった。
「"が、あああ!"」
 藍の渾身の声真似と、羽毛の中へダイビングしながら"ワンコ"がやられるたような演技まで完ぺきにこなす。
 幻覚を見ている羽毛だらけの視界の中で、どさりと"なにものかが、倒れた"。
『…!!』
 己の力で打倒したと"錯覚した"魂人たちは、どことなく嬉しそうに拳だと思われる翼を振り上げる。
 "勝った"と周囲にでも伝えたいかのような、ボディーランゲージ。
 幻覚の中で勝利していたとして、現実の勝者は魂人たりえない。
 現実は、こそっと立ち上がった藍による、催眠効果のある歌がエンディング曲よろしく朗々と響き渡っている。
 説得ではない、耳が聞く必要はない。歌だぞ、魂で聞くが良い。
 催眠とは心へと働きかけることに意味がある――"一瞬の油断と隙"があれば魂など簡単に転がり堕ちるもの。
「はーい勝利の勝鬨こと藍ちゃんくんのお歌はどうでっすか、なぁんとなんと安心と安全のスヤァをお届けしてしまうのでっす!」
 突然のスヤァに配慮まで完璧のステージの傍には生えに生えた羽毛の上に倒れ込む魂人の数々。
 常にハイテンションな藍にかかれば、安全まで確保される!
 此処までが、そう。ミュージックビデオのような、臨場感だ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

小烏・安芸
少々勝手が違うけど、久々に咎人殺しらしいお仕事が回ってきたなぁ。
拷問で痛めつける知識があるいうことは、痛くないように拘束することもできるいうことや。上手い事実践したろ。

動きを封じるにしてもまずはあの声を何とかしたらんとな。というわけでちょいと荒いけど咎力封じでちょいと塞がせてもらおうか。
そのまま窒息させるにしても命に関わらん程度に加減してやらんとな。
仮に暴れられても呪詛の類なら耐えられるし自分が痛い分には問題にならん。何なら本体の器物さえ無事なら肉体の方は何とかなる!

しかし翼圧症やったか? 根本的にどうこうするんはお医者さんの出番になるかなこれ。一応手掛かりになりそうなもんがあれば持ち帰るか。



●"翼"という名の痛み

「少々普段との勝手こそ違うけど、久々に咎人殺しらしいお仕事が回ってきたなぁ」
 拷問器具が生える森のなかで、真っ白の羽毛は激しく目立った。
 見誤る事などまずあるまい。全身が羽毛の塊と化しているにも関わらず、薄っすらと透けている。
 小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)の見やる先にも定まらない視点で、ブツブツと何事かを呟きながら歩く姿が確認できた。森の木を見上げたと思えばそこから一気に羽が"花のように咲いた"。
 激痛と幻覚から、攻撃対象を見誤ったまま同じ"痛み"を与えて歩いているのだろう。
「あれ、自分と同じ目に遭わせとる時点で拷問やろ」
 ――痛いんやろ、だって。
 ――我慢出来ないんやろ、そうよなあ。
 拷問で痛めつける知識があるということは、痛くないように拘束することもできるこの証――ようは力の加減、腕の見せ所である。
「上手い事実践したろ」
 ばさばさと突然暴れ始める様は、人間大の鳥を相手にしている気分にもなるが蠢く翼は今も尚体を覆うように現在進行形で翼圧疾患者の体を覆っていく。体や顔、全体が全て覆われた時――どうなるかの想像は難くない。
 疾患者はいずれ声が、視界が、ナカが全て羽に埋もれて窒息する。
 ――とりあえず、止める方優先って事で!
「まずは声の方……やな!」
 動きが意外に身軽。安芸の方を認知している様子は見えないが、声が。声が聞こえるのだ。
 何かを囁いている。羽に埋め尽くされた喉で、何事かを呟き続けている。
 ギリギリ空気を吸えることで、同時に何かを詠唱し続けている。
 痛みに合わせて肉体の羽毛化など起こされては、巻き込まれてしまう――であれば。
「ちょいと手洗いけども!」
 動きを封じるのなら、咎力封じが丁度いい。
 手枷を嵌め、猿轡を噛ませ、拘束ロープで縛り上げる。
 まるで軽業、手慣れた技術力で手早く済ませる中で疾患者の羽の手触りを手で感じた。
 ――背中にあるのと同じ。でも、超成長する別の生き物みたいやな。
 小刻みな震え、更に増えていこうとする増加力。
 魂人が増えていく度に痛みに嗚咽を吐く様が、どうしても悪性のナノマシンでも望まぬうちに打ち込まれたかのような――。
「暴れると食い込むで?」
『――!!』
 そのまま窒息させて気絶に追い込むのも手。
 だが、命に関わらないようにする塩梅というのは、なかなか厳しい。
 痛みに溺れ、捕まったことに暴れ、じたばたともがき続けるこの有様では。
「いいから大人しく……っ」
 首周りにも覆い尽くすように翼が生えている事を確認して、ガッと加減した一撃を首に叩き込む。
 これが一番手っ取り早い。頸椎を狙う一撃は、拘束された状態では到底回避もできない。
 がくん、と倒れ込む魂人を捉えたものの、そこで感じたものは拘束ロープを握る自分の腕にある、違和感。視線を向ければ、じわじわと自分の腕に羽が生えてくるではないか、痛苦の叫びの根源が。
 阻止したはずだが、ああ、確かに初めに僅かに聞いている。
 小さな黒い翼が生えだした腕に感じる痛みだけでも強烈で、思わず安芸も顔を歪ませた。
「……翼圧症やったか?"烏"も翼があるやろ、って?」
 天使と烏では大違いだろう。疾患者のように感染したのではなく、聞いた分の異常を受けただけ。
「――ッ、根本的にどうこうするんはお医者さんの出番になるかなこれ」
 無力化に成功した魂人を連れて、後はこの場を離脱するのみ。
 ――手がかりになりそうなもの、は。
 疾患者のその声を聞くだけで"異常は伝染る"。
 身に味わった以上のものは見当たらなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
『神殺しの獣』というものが気にならないわけではないがまずはこの魂人達だな…

俺の技は基本的に戦闘に特化した物だからな彼らを傷つけることしできないだろうが…そうだな一つだけ『回復』ができる技はある。
奇病を治すことは出来ないだろうがその技ならあるいはその身を…その魂を癒せるのではないかと。
奇病にかかってからは痛みによって安らかな夜などないだろう少しでも癒しになれば眠れるーー気絶できるかもしれない。
なんにせよやってみなければ分からん。

我が使うは『不死鳥の息吹』
不死鳥の息吹がその魂を癒そう。



●神秘性を毒されたものたちへ

 一歩一歩着実に、向かいたい方向へ行くのかと思えば魂人たちの足は千鳥足。
 痛みと幻覚でまともに歩くことさえできなくなっているのだろう。
「『神殺しの獣』というものが気にならないわけではないがまずはこの魂人達だな…」
 グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は彼らの多くが向おうと惹かれている先が第三層・禁獣禁域である可能性を知っている。であれば、神殺しの獣とはなんたるかを、この者らとの関連を考察したいものだがあまつさえ、翼圧質感者たちにはあまり時間がないだろう。
「俺の技は基本的に戦闘に特化した物だからな」
 穏便に止める手段には明らかに不向き。
 傷つける事を前提としていたならば、男は全力を尽くしただろう。
「……だが……そうだな、一つだけ『回復』ができる技はある」
 奇病の根底を治すことは出来ない。翼圧症に汚染された原因が、|神殺しの獣《ケルベロス》にあるのなら大本が居るのなら、そう容易く治るまい。
「(何故、元オラトリオの魂人が存在を感じ取っただけで……)」
 聖なる力を殺す、神殺しの力が呪詛のように作用したのだろうか。
 正しく地獄のように人として殺していく所業だ。
「魂が癒せたのなら、あるいは」
 男は少なくとも、敵対の類を見せずに翼圧疾患者たちに相対する。目をそらすこと無く、其の動作を観察するが、何事かを呟く仕草が先程から見て取れる。体中を掻くような仕草も散見した。
 掻いた部位の翼がうごうご動く。
 そしてぐぐぐと体から更に大きく生えてくる様など異様の一言に尽きる。
 ――この者らが、何をした。
 ――ダークセイヴァーで死した者。
 ――死しても死ねぬ永劫回帰など、真実彼が欲したものでもあるまいに。
 ――魂人は、禁獣相手でもやはり"迫害"の対象ということか。
『痛い、痛い痛い痛い痛い』
『やだ、痛い”い”だい”!!』
 悲鳴。慟哭。叫び。
 大きな声もモゴモゴと翼に覆われ徐々に聞こえなくなっていく。
 口の奥から生える羽。嗚咽。詠唱などできなくなる個体もいた。
 嘆きの声さえ届かなくなる、痛みを叫ぶ口が怨嗟さえ吐けなくなる。
 どんなに恐怖であるか、どんなに心が死にそうな状態であるか。
 極地があの翼の輝きなのだろう。世界を照らし出す程の極彩色――オーロラの輝きを全ての翼に宿し、時を凍らせる現象をばら巻き始める。
 ――止めて欲しいのは、己だろう。
「奇病にかかってからは痛みによって安らかな夜などないだろう」
 ――少しでも、癒やしの力が届けばいいが。
「我が使うは"不死鳥の息吹"――その魂が、一時の安らぎを得られるよう」
 火炎と戦の神が与えるは、癒やしの炎。炎の鳥が戦場を羽ばたいて、"息吹"をもたらし分け与える。
 それは、癒やしの力。痛みを暖かな炎が、圧倒すれば、攻撃的に翼の色を染めていた魂人たちは呆け始める。
 幻覚によって暴れていたのは"激痛"故に、激痛を少しでも忘れた瞬間に――一斉にへたりこむ。
 大きな翼を生やした者たちは、其の重さに耐えきれず。
 疲労限界をあらわに、バタバタと眠るように倒れ込んでいくではないか。
 グラナトの疲労を代償に、倒れ込んでいく様は再びの異質さを森の中に呼び込んだが――「一応」の様子を確認してみれば。
 ああ、確かに――眠るように気絶している。突然起きる様子はまったくない。
 これならば、痛みを忘れ――しばらく地獄など感じる隙もない。
 暫く眠れ、痛みに嘆いた夜と叫び枯らした声の日々の分まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
痛いのも、幻覚に苛まれて自分を見失うのも
ツラいよね、苦しいよね
だから…助けるね

自分の足で走り続けるだけの体力は残念ながら無いので
翼の空中戦で機動力を確保
極力回避と、必要に応じて杖を盾代わりにしての防御を主軸に
攻撃を受け流す戦い方を

一瞬でも隙を見つけたら
高速詠唱で撃ち出す氷魔法の属性攻撃で凍結を狙い足止めの範囲攻撃

そのタイミングで指定UC発動
魔法属性を切り替え、風魔法で拡散
万一僕の動きが止められても、花弁はどうかな
甘い香りに乗せた催眠術の魔力で
強制的に眠らせるね

この眠りは癒しにもなる
翼圧症自体を治してあげられたらもっと良かったんだけど…
せめて少しの間でも
痛みから解放してあげられるように


城野・いばら
ごめんね
私はアリスの病気は詳しくないの…
完治させる程の癒しの力もないけれど
悪い企みは私達が止めてみせるから
どうか、今は穏やかな夢へと導けますよう

白バラの子守歌で眠れる香りをアリス達へ届けるわ
痛みは完全に取り除けないかもしれないけれど
幻なら、浄化と狂気耐性を籠めた香りできっと!
トロイメライで紡いだ魔法の風で
より広範囲に香りを送り、眠り速度も高め
アリスの動きを無力化し
傷つくコ達を減らせるよう頑張る

夢路もお手伝いよろしくね
香りが広く行きわたるよう羽搏いて、
瘴気を吹き飛ばす浄化の属性攻撃と
アリス達の視線をお誘いして時間稼ぎをお願い

光は受けないよう
不思議な薔薇の挿し木の蔓で、前方を覆い武器受けてかばうわ



●夢の中の花畑で待っていて

 ああ、悲しみが森を覆ってる。
 痛みへの想いが、重くて苦しい。
 苦しみに暴れる翼圧症候群の魂人をみていると、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はだんだん胸が苦しい思いがする。
 見てわかるからこそ、重症だ。取り返しのつかない速度で感染していると思うのだ。
「痛いのも、幻覚に苛まれて自分を見失うのも、ツラいよね、苦しいよね」
 この言葉とて彼らの耳には届かないのだろう。
 彼らに駆け巡る激痛は言葉や吐き出す音を羽に埋め、徐々に増える翼は体を覆う翼の筵として成長していく。
『あ、あ……』
「ああ、ごめんね」
 掛ける声は控えめに、おろおろするのは城野・いばら(白夜の魔女・f20406)。
「私も、アリスの病気に詳しくないの…」
 苦しむ声と、震える体。めぎめぎと、嫌な音を立てて異端な部位から生えてくる翼。
 健康な状態ではないとは分かるが解決の糸口はあまりにか細い。
「感知させる程の癒しの力もないけれど、悪い企みは私達が止めてみせるから」
 ――アリス。アリス。どうかそんなに叫ばないで。
「今は穏やかな夢へと導けますように」
「だから……助けるからね」
 澪には自分で走り続けるだけの体力が残念ながらない、当然自分でも理解がある。
 苦しむ魂人の前で、空中を戦場とするのは心が痛むが、森の中の拷問器具らはどうにも部が悪い。
 翼を広げ、空中に浮かび上がれば、翼圧疾患者たちは急激に大きく翼を広げだす。
 キラキラと、輝かしい色を称えた翼は力を貯めているとすぐに分かる"魂"の輝きで、痛みに溺れ、幻覚の中暴れる存在が引き起こす奇跡とは到底思えなかった。
「待って、アリス。それを撃っては、ダメよ」
 いばらは謳う。白バラの子守唄を、優しく。
 魔力い反応して成長する不思議な薔薇の挿し木が反応して、ふわ、ふわと白いバラがひとつ、咲き誇る。
 不思議な白いバラが、森の中に伝播するように咲き始め、周囲にはヒーリング効果のある香りが漂い出す。
「癒しの一時を、あなたに」
 ――私達は敵ではないのよ、アリス。
「翼で目が不自由、かも知れない。翼で耳が不自由、かも知れない。でも、香りは?分かるのではないかしら」
 幻を見る其の瞳。
 病魔が如く狂気に溺れた|あなた《アリス》。
 ――浄化と狂気耐性を籠めた優しい香りをたっぷりと感じとったなら、どうかしら。
 トロイメライを手に、温かな夢がみれますようにと、想い籠めて魔力で紡ぐは風だ。
 香りが広い範囲に行き渡るように風を起こし、優しい風は広がっていく。
 眠り速度を高めて、魂人の狂気的な行動を鎮める香りで無力化を狙ったのだ。
『……ぁ』
 唐突に訪れたバラの香りに誘われて、複数の個体が翼を輝かせるのを辞める。
 ウトウトと眠りに負けそうな子供のように微睡みはじめて居るではないか。
 癒しを浴びて、痛みと叫びから生じた疲れが彼らをどっと襲い出した――動きが、鈍る。
「|夢路《メロウ》もお手伝い、よろしくね」
 バラの香りを引き連れて、香りが広く行き渡るように夢先案内蝶は飛んでいく。
 ひらひら羽撃く翅に香りを乗せて、瘴気を吹き飛ばす浄化の属性を携えて。
 アリスたちの視線を釘付けに、彼らの間をひらひらと蝶は飛んでいく――。

 一方、睡眠効果に打ち勝った個体はオーロラの光を放ち、空中に居る澪を狙う。
 キラキラとした極光の砲撃を、澪は極力回避に努めて杖を盾代わりに弾く。
「今のでも、眠れない?そっか、じゃあ方法を変えないとだね」
 ――今、何と戦っているの?
 聞いても応えぬ彼らに問いたいが、其の瞳は虚空を映すばかり。
 攻撃を受け流し、時を凍らえる事象を身に浴びないよう極力努めた澪だが、光が速度を抑え、次の攻撃の為に魂人が息を整えているのを一瞬の隙として――動く。
 高速詠唱は慣れたもの、魂人の息が整うより早く空より氷属性を凍結を、彼らが足元にぶわわと生やして縫い留める!
 長く伸びた翼が絡め取られ、行動するのに制限がかかった。
「慌てなくて大丈夫、そのままでいて!」
 続けて放つユーベルコード、Berceau de fleurs(ベルソードゥフルール)。
 周囲に満ちたいばらの白いバラの香りに追加で乗せるように、眠らなかった個体へ向けて魔法属性を放つ。
 二人の風魔法が森の中を揺らす。
「もっともっと、明確に甘い香りはどうかな?」
 優しく甘い香りを放つ花吹雪が、吹き荒れる。
 常闇の森の中が、春の陽気を纏ったアリスラビリンスの国ほどに雰囲気を変えて花の匂いに包まれる。
「良い香りね」
「うん、匂いだけじゃなく花弁もどうかなって」
 笑い合う二人の子守唄と、花嵐。
 安らぎを深めるヒーリングの香り、そして催眠術の魔力で強制的に意識を落とす魔力の訪れ。
 ばたばたと、促された眠りに屈する魂人たちの姿がどんどん増える。
 すう、すうと整った眠りに落ちた寝顔を見れば、澪は安堵の表情を浮かべた。
「眠りは、癒しにもなる。翼圧症自体を治してあげられたらもっと良かったんだけど……」
「アリスたちが狂気の中に溺れていたら、言葉も届かないから……」
 いばらと澪、二人の癒しを受けて、眠る彼らに暴れ出すような様子は見えない。
「……うん。せめて、少しの間でも、痛みから開放してあげられたら、イイのだけど」

 さあ皆、安全なところでおやすみなさいだよ。
 アリス、大丈夫。安心しておやすみなさい?

 痛みと幻覚を今だけ忘れて、優しい香りの中で、良い夢を見るといいよ。
 この後の事は――猟兵が、引き受けるから。
 眠りに落ちた魂人を運び出してから、彼らが何処へ向かいたがったのか――そのうちに行く必要があるのだろう。ダークセイヴァーの我々が知らない要素は、まだまだ未だに多く、異端なほどに広がって、居るのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月08日


挿絵イラスト