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闇の救済者戦争⑩〜純血の狂茨

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争 #宿敵撃破

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#闇の救済者戦争
#宿敵撃破


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●求めるものは
 ――合わせ鏡の城。
 それは辺境の果てに建つ、内壁の全てが割れない鏡で作られた奇怪な迷宮城だ。
 鏡の壁は何処までも同じ景色を映し続けており、みだりに城へ踏み入った者を惑わせる。そのような城の中にひとつの人影が現れた。
 漆黒のドレスを身に纏った女の名はミカエラ。純血の黒薔薇とも呼ばれていたオブリビオンだ。
 彼女は鏡の中から出てきており、顔に落ちた影で表情は不明瞭になっている。しかし、その紫の瞳から向けられる視線は、誰かを探しているかのように彷徨っていた。
「何処なの? ねぇ、何処にいるの!?」
 ヒステリックに叫んだミカエラは鏡の城を歩き回り、声を荒げ続ける。
 おそらく発狂状態にあるのだろう。彼女の叫び声も、序のように放たれる闇の茨も城中に巡っている。ミカエラは己の能力で罪なき侍女達を召喚しながら、その娘達すらも茨で貫いた。
「ミカエラ様、おやめくださ――」
「黙りなさい」
「ひっ……! 助けてください、どうか命だけは……!」
「わたくしのドレスが汚れたじゃないの!」
 鏡には血が散り、黒いドレスの裾も赤黒く染まりゆく。汚したのは自分であるというのに、ミカエラはさも侍女が悪いかのような口振りで叫んだ。
 鏡の城には娘達の悲鳴と、まるで理性を失っているかのような彼女の金切り声が響き渡る。
 その惨劇はきっと、ミカエラが再び鏡の中に吸い込まれるまで続くのだろう。

●黒薔薇は孤独に咲く
 合わせ鏡の城に発狂状態にあるオブリビオンが現れた。
「――純血の黒薔薇・ミカエラさん。それが彼女の名前のようです」
 ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は、彼女は理性的な思考を奪われている状態だと語った。理性というストッパーを失っているミカエラは誰かを求めるように喚き散らし、鏡の城を歩き回っている。
 自分が召喚した侍女すら殺すという所業を行うだけではなく、自身の限界を超えた力で闇の茨を張り巡らせており、手がつけられない状況だ。
「僕が視た予知によると……鏡から現れたミカエラさんはしばらく城内で暴れ回った後、また鏡の中に吸い込まれるように消えてしまったんです」
 それがどういった意味なのかは分からないが、オブリビオンが現れている以上は放っておけない。
 ミカエラは猟兵を見つけた途端、執拗に強力な攻撃を連発してくるだろう。それのみならず、異常な頑丈さも有しているようだ。そのため、場合によっては無理に撃破を狙うよりも、ひたすら耐え凌いで敵が鏡に消えるのを待った方が得策かもしれない。
「だけど、不思議な予感がするんです。ミカエラさんは大切な誰かを探していて……もし鏡の中に戻っても、ミカエラさんはその人とずっと逢えないままになるんじゃないかって――」
 敵として立ち塞がる彼女は強敵だが、可能ならば討ち倒して欲しい。
 そうすれば狂乱の黒薔薇も美しく散れるのではないか。そう思うのだと語ったミカゲは、仲間達に深々と頭を下げる。どのように解決するかは向かった者次第であり、信念をもって挑めばどんな選択も正解に繋がる。
 思うままに戦って欲しいと願い、ミカゲは顔を上げた。
「では、転送をはじめますね。皆さんのご武運をお祈りしています……!」


犬塚ひなこ
 こちらは『闇の救済者戦争』のシナリオです。
 合わせ鏡の城にオブリビオンが現れました。彼女が去るまで耐久戦を行うか、完全に撃破するか。皆様の思うままに戦ってください。

●プレイングボーナス
『敵の超強力な攻撃を耐え凌ぐ』

 戦場となる城の鏡は絶対に割れることはありません。
 純血の黒薔薇・ミカエラはヒステリックな性格で、誰かを探しながら喚き散らしています。
 武器は闇魔法と実体を持つ闇の茨。護りも闇のオーラで行います。嘗て或る王国を手中にすることを目論むも、革命によって滅ぼされた過去を持つようです。

 ミカエラは限界を超えた力で執拗に強力な攻撃を連発してくるのみならず、異常に頑丈なので倒すのは至難の業です。防御に徹して敵が去るのを待ってもシナリオは成功となります。
 しかし、ミカエラを瀕死の状態まで追い詰めると……? 吉と出るか凶と出るか、先の展開は未知数です。
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第1章 ボス戦 『純血の黒薔薇・ミカエラ』

POW   :    囀るな。跪け。誰がおもてを上げて良いと言ったの
【視線や声】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    わたくしのドレスが汚れてしまったわ。役立たず!
戦闘力のない【一般人である侍女たち】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【吸血や生命力吸収をすること】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    ……待っていたのよ。我が騎士よ
自身が戦闘で瀕死になると【黒馬に跨る黒き鎧の騎士の亡霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:watakumo_yuge

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ラファエラ・エヴァンジェリスタです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

八上・偲
ヴァンパイアは嫌い。でも、大切な人か……。

『黒騎士を伴う残火の王女』を使って騎士のガイストくんを呼ぶよ。
ガイストくんに防御してもらいながら、わたしも危ないうちは回避や防御に専念するけど、
隙があれば炎の【属性攻撃】で攻めてみる。

誰かを待っているの?探しているの?
それは好きな人?大切な人?
でも、あなたは人を、人の大切な人を蔑ろにして傷つけてる。
……まあ、そんなあなたでもその騎士は守ってくれるんだろうけど。
騎士ってそういうものだもの。ねえ、ガイストくん。

わたしだってやることのすべてが正しいわけじゃない。それくらい分かってるの。
それでも進む人に寄り添うのが騎士。そうだよね。


◎アドリブ・絡み大歓迎です!


ハロ・シエラ
大切な誰かを探している、ですか。
相手は狂ったオブリビオンですし、その人物がここに現れるなんて奇跡もないでしょう。
どうであれ、私には戦う事しか出来ません。
今は敵の攻撃を凌がなければ。

あの威力です、【第六感】を駆使してでも回避したいですね。
出来なかった場合、魔法は【オーラ防御】で和らげるしかありませんが、茨の方は実体を持つなら【武器受け】や炎での【焼却】も可能かも知れません。
もしも隙があれば闇のオーラの護りをユーベルコードの【浄化】の炎を全て使ってでもこじ開け、その一瞬に【早業】でエッジ・オブ・サンクチュアリを【投擲】して攻撃します。

もし戦いの中で奇跡が起きるなら……その邪魔はしませんけどね。


塔・イフ
◎/WIZ

ひどいひとね、自分の次女まで殺すなんて
でも、ミカエラ。あなたは誰を待っているの?
わたしにあてさせて

ねえ、きっとそれはあなたの、あいするひとなのではないかしら?
愛する、戀をするってすてきなことよね
逢いたくて、会いたくて、たまらないのでしょう?
理性を失ってしまうほど!!


わたしは、ほかの方のサポートに徹するわ
『永劫回帰』を使用し、一緒に来た人たちの死に至るどんな攻撃も、耐えさせてみえる
――大丈夫よ、わたしには『幸せなきおく』がたくさんあるもの
仲間を死なせたりしない!
もし余裕があるようなら『スカイステッパー』で援護するわ



●黒薔薇は狂気と踊る
 闇の世界の支配者側に立つ存在、ヴァンパイア。
 鏡の城に現れた存在を思い、八上・偲(灰かぶり・f00203)は静かに頭を振った。
「ヴァンパイアは嫌い。でも……」
 狂気に侵された彼の者は、大切な人を探しているように見える。その行為が残虐なものであれ、大元を辿れば誰かを想っての行動なのだろう。
 罪なき者を殺める所業は許してはおけない。だが、慮る気持ちを捨てたいわけでもなかった。
 偲が鏡の領域を見据える傍ら、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)も敵影を捉える。ハロの裡に巡っている思いもまた、ヴァンパイアの探し人についてのことだ。
「大切な誰かを探している、ですか」
 純血の黒薔薇・ミカエラは狂ったオブリビオンだ。探している者が誰であるか、その名前や関係性の詳細を本人の口から聞き出すことは不可能だろう。
 それに、もし判明したとしても――その人物が此処に現れる奇跡など起こり難い。非情ではあるが、ハロは現実がそういうものだと知っている。
「どうであれ、私には戦う事しか出来ません」
 暴れ回る敵を見つめたハロは、今は敵の攻撃を凌ぐことが優先だと判断した。
 塔・イフ(ひかりあれ・f38268)は周囲に転がっている女性たちの亡骸を見下ろす。彼女らはきっと、ミカエラ自身が召喚した侍女だろう。
「ひどいひとね、自分の侍女まで殺すなんて。でも、ミカエラ」
 ――あなたは誰を待っているの?
 イフが問いかけた言葉はオブリビオンにも届いたはずだ。しかし、その問いに彼女が答えることはない。
「お前達もわたくしを邪魔するのね。消えて!」
 ヒステリックに叫んだミカエラは侍女を殺すことを止め、猟兵達を睨みつけた。
 偲とハロが身構える中、イフは相手の姿を瞳に映す。
「いいわ、わたしにあてさせて」
 その過去を知れずとも、不思議な親近感めいた感覚をイフはおぼえていた。狂気を孕んだ相手には話が通じないかもしれない。それでも、イフは識りたいと願った。
 そして、ミカエラは猟兵達への攻撃を始める。
「囀るな。跪け」
 その言葉は彼女が定めた絶対のルール。視線が向けられ、声が聞こえただけで巡る力だ。
 跪く選択などないがゆえ、一瞬で猟兵達に激しい痛みが齎される。狂化によって力が何倍にも膨れ上がっている今、それをまともに受ければひとたまりもない。
 だが、それを見越していたイフは永劫回帰の力を発動させる。戦場内の仲間を守護するべく、代償としてイフは己の心を捧げていく気概だ。
「あの威力です、無効化してくださったのがありがたいですね」
「攻め込むなら今のうちだね」
 ハロと偲はイフの援護に感謝を抱き、それぞれの攻勢と防御に入っていく。
 偲が発動させた力は黒騎士を伴う残火の王女。
 全身甲冑の騎士、ガイストを呼び出した偲はミカエラの動きに注視する。
 仲間の援護にも頼もしさを覚えているが、ハロは第六感を駆使してでも回避を狙った。もしそれが叶わずとも策は他にもある。オーラを巡らせたハロは衝撃を少しでも和らげるべく、素早く立ち回る。
「あの茨、どうやら実体を持っているようです」
 それならば対処の方法は増える。そのように判断したハロは的確に、武器で茨を受け止めた。威力は恐ろしいものだが、炎での焼却が可能なはずだ。
 ――発動、クロスファイアー。
「私の炎が、魔を払います! その狂気すらも――」
 ハロが宣言した刹那、聖なる力を帯びた白色の炎が戦場に迸った。鏡に幾つもの炎が映り込んだことでミカエラは一瞬だけ驚いた様子をみせる。
 偲はガイストに防御を担って貰いながら、次の攻撃への備えに入った。
 そして、隙を見出した偲はハロの炎に自分が繰り出した焔を重ねる。ふたつの炎に穿たれたミカエラは悲鳴をあげたが、その身体は全く傷付いていない。その頑丈さを脅威に感じながらも偲は問いかけていく。
「誰かを待っているの? 探しているの?」
「煩い、黙りなさい」
「それは好きな人? 大切な人?」
「何処なの? 何処に居るの!? 我が騎士……!!」
 偲が質問してもミカエラは喚き散らすのみ。元々分かっていたことだが、今のミカエラの様子は哀しいものに思えた。偲は彼女が更に叫ぶことを予想しながら、言葉を続ける。
「でも、あなたは人を、人の大切な人を蔑ろにして傷つけてる。……まあ、そんなあなたでもその騎士は守ってくれるんだろうけど」
 ミカエラの口から、騎士という言葉が聞こえたことで断片的な情報は得られた。其処から状況を分析した偲は、傍らで自分を護り続けてくれる甲冑騎士を見上げた。
「騎士ってそういうものだもの。ねえ、ガイストくん」
 そして、イフもミカエラに語りかける。
「ねえ、きっとそれはあなたの、あいするひとなのではないかしら?」
 記憶がひとつ、またひとつと零れ落ちていく。
 それでもイフは力を紡ぎ続けた。
「愛する、戀をするってすてきなことよね。逢いたくて、会いたくて、たまらないのでしょう?」
 その気持ちは痛いほどに分かる。
 だって、自分も。
「そう、理性を失ってしまうほど!!」
 イフは永劫に回帰する魂を削りながら、死に至る攻撃を防ぎ続けた。心の痛みと喪失に耐える懸命なイフの様子に気付き、偲とハロが心配の言葉を投げかける。
「平気?」
「どうか無理はしないでください」
「――大丈夫よ、わたしには『幸せなきおく』がたくさんあるもの」
 仲間を死なせたりしない。
 自らも敵を翻弄する形で、イフは鏡の狭間を駆ける。
 攻防が巡る中でハロも好機を見出し、闇のオーラの護りを浄化の炎で抉じ開けていく。
 その一瞬、早業で以てエッジ・オブ・サンクチュアリを投擲すれば僅かでも力を削れるはずだ。ハロの狙いは上手く巡り、ミカエラの戦う力が一気に削がれた。
 此処からも油断はしないとして、ハロは真っ直ぐに純血の黒薔薇を見つめる。
「もし戦いの中で奇跡が起きるなら……」
 その邪魔は決してしない。
 もしかすれば、起こるかもしれない唯一の希望。それが吉と出るのか、凶と転じるかは未だ分からないが――ハロは狂気の昇華とより良い未来を願い、鏡の戦場をしかと見据えた。
 イフと偲もやがて来るときを思い、それぞれに声を紡ぐ。
「どうか、あなたも幸せを思い出せますように」
「わたしだってやることのすべてが正しいわけじゃない。それくらい分かってるの」
 それでも――。
「進む人に寄り添うのが騎士。そうだよね」
 偲の傍にガイストがいるように。
 姫君を救いに訪れる騎士も、きっと。闇の中で幽かに輝く希望を思い、少女達は戦い続ける。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ!?ミカエラさんを倒すって、本気なんですか?アヒルさん。
でも、ミカエラさんはすごく頑丈で強いんですよ。
時間稼ぎをした方がいいですよ。
……ふえぇ、アヒルさんが珍しく聞き分けが良くてよかったです。
ガラスのラビリンスで時間稼ぎをすればいいんですね。
確かにこれだけ鏡が多いとガラスの壁と区別がつかないですよね。
ガラスの壁ばかりを攻撃されてガラスのラビリンスが解けてしまったら大変だから、ヒットアンドアウェイで攻撃ですか、なるほどです。
私もフォースフライパンで攻撃しましょう。

そろそろ時間なのにミカエラさんが帰らないのは何でですか?
ふえ?ガラスの壁が邪魔して鏡に戻れないって、
アヒルさん私を騙しましたね!


ヴェルンド・ラスリス
※アドリブ共闘歓迎

貴様が誰を探しているかなど、皆目見当もつかないが、倒さねばならないのならば、焼き払うのみだ。

闇の力で攻守ともに隙は無いか…
ならば強引にでも一手上回る必要があるな。

UC『炎巣』を発動。城内に獄炎の巣を張り巡らせ、足場とする。

攻撃、守備に劣るなら速度で勝って見せよう。
足場をバネのように利用して、立体的な軌道で移動し、大剣『黒焔』での連撃をしかけて見せよう


リーヴァルディ・カーライル
…放っておいても勝手に自滅するならば、無駄に相手をして消耗する必要もないと思うけど

…グリモア猟兵がああ言っているのなら、その直感に賭けてみるのも悪くはないかしら

研ぎ澄ました第六感が捉えた敵の殺気から次の行動を先読みして見切り、
積み重ねてきた戦闘知識から最小限の動作による早業で攻撃を受け流しながらUCを発動

召喚した690騎の黒騎士霊を大鎌に降霊して武器改造を施し騎士剣を錬成、
限界突破した蒼炎の魔力を溜めながら懐に切り込み怪力任せに剣をなぎ払い、
蒼炎のオーラが防御ごと敵
を絶ち切る闇属性攻撃を放つ

…来たれ、異端の血を啜る黒剣、神々を喰らう黒炎の鎧
我が手に宿りて、悪なる諸神を断ち斬る剣となれ



●鏡と硝子
 合わせ鏡の領域は悍ましい光景へと変わっている。
 狂気に落ちたヴァンパイア、純血の黒薔薇・ミカエラが召喚した侍女を次々と殺しているからだ。当のミカエラはずっと誰かを探し求め、同じ景色ばかりが続く鏡回廊を巡っている。
 ヴェルンド・ラスリス(獄炎の復讐鬼・f35125)は敵を強く見つめ、黒咎の十字架を握った。
「貴様が誰を探しているかなど、皆目見当もつかないが……」
「ああ、何処なの……」
 対するミカエラには此方の言葉が届いていないらしく、今もなお誰かを探して彷徨っている。彼女の事情も探す相手のことも、ヴェルンドには想像するしかないが、戦う理由はある。
「倒さねばならないのならば、焼き払うのみだ」
 相手がオブリビオンであるのならば、此処にいたとしても不幸や世界の崩壊が導かれるのみ。
 ヴェルンドの近くでは、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が訪れていた。この鏡の城に現れるオブリビオンは、いずれ鏡の中に戻るという。
「……放っておいても勝手に自滅するならば、無駄に相手をして消耗する必要もないと思うけど――」
 罪なき侍女が殺されることを止め、耐える。
 それだけでも構わないとリーヴァルディは思っていたのだが、ひとつ気になることがあった。それは此処に来る前に伝え聞いていたことだ。
「予感……不幸を回避できるかもしれない、直感に賭けてみるのも悪くはないかしら」
 リーヴァルディは静かに身構え、ミカエラの動きを注視していく。
 その間、フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)も相棒ガジェットのアヒルさんと一緒に鏡の城の光景を見ていた。
「ふええ!? ミカエラさんを倒すって……本気なんですか、アヒルさん」
 その際にアヒルさんから告げられたことに対し、フリルは戦々恐々としていた。ミカエラは狂化していることによって力が増幅させられているらしい。
 それならば鏡の中に逃がすことも正しい選択なのだが、アヒルさんはそうしたくないようだ。
「でも、ミカエラさんはすごく頑丈で強いんですよ」
「グワ!」
「アヒルさんも知っての通りですよね。ですから、頑張って時間稼ぎをした方がいいですよ」
「……グワ」
「ふえぇ、アヒルさんが珍しく聞き分けが良くてよかったです」
 いつもならば意見を譲らないアヒルさんだったが、今回はすぐに頷いてくれた。ほっとした様子のフリルは胸を撫で下ろし、耐久作戦に入ることを決める。
 さっと身構えたアヒルさんの瞳にちょっとした嘘が宿っていることには気付かず――。
 そうして此処から、戦いが始まっていく。
「退きなさい!」
 ミカエラは叫びながら闇の茨を解き放ってきた。彼女と相対したリーヴァルディは、研ぎ澄ました第六感でその動きを捉えた。
 敵から溢れ出る殺気が強いのは幸いだ。感情の揺れや、その動作から次の行動を先読みすれば、攻撃を見切っていくことも可能になる。
 これまで、幾度も闇の世界で戦ってきたリーヴァルディには積み重ねてきた戦闘知識があった。それゆえにリーヴァルディは最小限の動作による早業で以て、攻撃を受け流す。
 同様に、果敢に立ち回っていくヴェルンドも闇茨に対抗していた。
「闇の力で攻守共に隙は無いか……ならば!」
 半ば強引にでも、たとえ一手であっても、相手よりも上回る必要がある。そのように考えたヴェルンドはユーベルコードを強く発動した。
「捉えてみせる!」
 ――炎巣。
 全身から蜘蛛の巣状の地獄炎を放ったヴェルンドは、ミカエラの動きに合わせて行動していく。地獄の炎の巣は相手を絡め取るために迸る。
 それだけではなく、ヴェルンドは鏡の城内に獄炎の巣を張り巡らせていった。獄炎そのものを足場とすることで立体的な動きができるからだ。
 ミカエラはそれに対抗しようとしたのか、茨とオーラを巡らせた。
「邪魔よ! 消えて!」
「ふえぇ」
 激しい攻撃がフリルにも迫っている。急いで身を翻したフリルは鏡の回廊を駆けていく。
 そうして、隙を突いたフリルはガラスのラビリンスを発動する。
「これで時間稼ぎをすればいいんですね」
「グワッ!」
「確かにこれだけ鏡が多いとガラスの壁と区別がつかないですよね」
「グワ……!」
 フリルの傍ではアヒルさんが指示を出すように鳴いていた。その言葉を理解しているフリルは自分達が取っている作戦について語っていく。
「ガラスの壁ばかりを攻撃されてガラスのラビリンスが解けてしまったら大変だから、ヒットアンドアウェイで攻撃ですか、なるほどです」
「グワ!」
 その通り、というが如くアヒルさんが胸を張った。
 フリルはフォースフライパンを構え、耐え忍ぶための攻撃を重ねていく。そうして、仲間と共に連携していったリーヴァルディは好機を見出す。
 召喚していくの六百九十騎にも至るの黒騎士の霊達。それらを大鎌に降霊させて武器改造を施した騎士剣を錬成し、リーヴァルディは限界を突破する。
 そのまま蒼炎の魔力を溜めながら、リーヴァルディは敵の懐に切り込む。
 怪力を発揮したリーヴァルディは力任せに剣を薙ぎ払った。蒼炎のオーラがその防御ごと敵を絶ち切り、其処から更に闇属性の攻撃が放たれる。
「……来たれ、異端の血を啜る黒剣、神々を喰らう黒炎の鎧」
 ――我が手に宿りて、悪なる諸神を断ち斬る剣となれ。
 リーヴァルディは確実に敵を仕留めることを誓っている。何故なら、此処であの敵を倒しきることに意味があるはずなのだから。
 其処から更に攻撃を続けていくヴェルンド。
 彼は攻撃、守備に劣るならば速度で勝てばいいと判断していた。
 先程に巡らせた足場をバネのように利用しているヴェルンドの動きは素早い。立体的な軌道で動くことを実現したヴェルンドは、黒焔の名を冠する大剣で連撃を仕掛けてゆく。
 その猛攻は激しく、敵の力を着実に削っていた。
 そんな中、フリルは首を傾げる。
「そろそろ時間なのにミカエラさんが帰らないのは何でですか?」
 フリルの計算上、この辺りでオブリビオンが鏡に帰る時間のはずだった。だが、その気配は一向にない。はっとしたフリルは最初のアヒルさんの言葉を思い出す。
 そう、これはアヒルさんの作戦勝ちだ。
「ふえ? ガラスの壁が邪魔して鏡に戻れない状態に……ってアヒルさん、私を騙しましたね!」
 驚いたフリルだったが、それは結果的に良い結末に繋がるものとなっている。
 何故なら――。
 此処で戦う者は皆、ミカエラを倒すことで導かれる結末を願い、求めているのだから。
 フリルはラビリンスの維持に努め、ヴェルンドとリーヴァルディは全力を尽くす。
 そして、攻防は更に続いていった。
 本当の意味での終わりに向けて――猟兵達の思いはやがて、ひとつになっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
誰かを探している…
生前の大事な方…ということなのだろうが
この鏡の迷宮にいても見つからないだろう
合わせ鏡は永遠にも見える同じ像ばかり
もし相手も探していても辿り着くには難がありますよ、ご婦人

苛烈な茨の攻撃は…まともに喰らったら正直長く持たない
見切りや瓜江と共に残像使うフェイント使い
なるべく避けるがそれだけでは、この手数と勢いに対処できないだろう

鏡片を撒き、放つ光で視界に映る像の位置をずらし
自分や他の猟兵さんへの攻撃命中率を下げ攻撃仕掛ける機もつくれたら

斃した先で探し人と会えるかもなんて
一縷の望みに賭けてみるのも
踏み込み、破魔の力込めた薙ぎ払いで茨断ち

狂う程、誰か探す声が響くまま
幕を下すのは忍びない


ルーシー・ブルーベル
誰かに会いたいの
誰を探しているの

『ふたいろ芥子の怪火』

破魔と浄化を乗せた青芥子の火を以て
茨も黒薔薇を守る帳も祓いましょう
この身を襲うものは花菱草色の炎で結界を張り守る
ルーも手伝ってね
なお届くものは激痛耐性で凌ぐわ

去るまで耐えるのではなく、全力で
大切な何かを求める心は
昇華されてほしい、と
例え世界を害なす存在だったとしても願ってしまう
けれどそれはきっと
わたしが応える事はできないのでしょう

あなたが鏡に還るだけでも
明日にゆける事になったとしても
出来ることは、これだけ

わたしね
この常夜の世界が大切なの
憎しみも悲しみも虚しさも喜びも愛も
全てここで識ったわ
この極彩色に溢れた世界を
あかの一色に染めたりはさせない


リル・ルリ


黒薔薇だ

引裂かれるような声がする
怒っているの泣いてるみたいな
…ヨル、僕はね
彼女にだって救われて欲しいと思うんだよ
誰かに逢いたいなら、あわせてあげたい
それが、最期のときだったとしても
黒薔薇は僕にとって大切だもん
散らせるならば、悔いはなく──華麗にさ

白の魔法 「光祈」!
僕は信じる、彼女が逢いたいひとにあえるように
そうして……共に眠れるように
残酷かもしれないけどさ
壊れそうに痛いまま
狂うように荒れたまま
終わってなんて欲しくない

祈り、覚悟を決める
絶対に諦めない

白の魔法で攻撃を防いで
そうして同じく、弾き返すんだ
先を信じて、イメージ!
僕にだってできるよ!

どんな時だって、諦めない
立ち向かう
救うよ
その孤独から



●散る花の美
 黒薔薇が泣いている。
 狂気に陥ったオブリビオンを見たとき、どうしてかそのように感じた。
「誰かに会いたいの」
 あなたは、誰を探しているの。
 ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は鏡の城を彷徨う彼女――純血の黒薔薇・ミカエラに問いかける。されど、元よりその答えが返ってくるとは思っていない。
 ミカエラは強大な力と引き換えに理性を失い、衝動のままに動くだけのものに成り果てていた。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は胸がちくりと痛むような感覚を抱く。
「黒薔薇だ。引き裂かれるような声で怒っているの? ううん、泣いてるみたいな――」
 オブリビオンとなった者は世界を滅びに導く。
 苦しくて辛くて、泣きそうになっても、待っているのは破滅だけ。
 ふたりもそうだったのかな、と呟いたリルは自分の家族を思った。その隣では仔ペンギンのヨルが、きゅ、と哀しげに泣いていた。
「……ヨル、僕はね。彼女にだって救われて欲しいと思うんだよ」
 誰かに逢いたいなら、あわせてあげたい。たとえそれが、最期のときだったとしても。
 黒薔薇はリルにとっても大切な花。枯れかけても尚、無理矢理に生き永らせられているよりも、美しく散ることで次の未来を目指せる方がいい。
 散らせるならば、悔いはなく――華麗に。
 リルが終幕と救いの道を目指そうと決める中、冴島・類(公孫樹・f13398)もミカエラを慮っていた。
「誰かを探している……か」
 生前の大事な相手ということなのだろうが、此処は合わせ鏡の城。
 奇妙な鏡に映るのは同じ景色と自分ばかりであり、他の誰かと逢える場所ではない。迷宮にいても相手は見つからないだろう。
 永遠にも見える同じ像ばかりの中で、彼女が永遠に彷徨うだけだとしたら――。
「辿り着くには難がありますよ、ご婦人」
 ミカエラに呼び掛けた類は、瓜江と共に静かに身構えた。相手は狂気の最中にいるとはいえ、その力は決して侮ってはいけないものだ。
 類が声を掛けたことでミカエラは振り返り、実態を伴う闇茨を解き放ってきた。
「あの人を何処に隠したの」
 ミカエラから紡がれた茨に当たれば致命傷は避けられない。類は床を蹴り、身を翻した。彼に追撃が向かわないようにすかさずルーシーがユーベルコードを発動する。
 ふたいろ芥子の怪火が戦場に迸り、鏡に花菱草色と蒼芥子色が映り込んだ。それぞれの火に破魔と浄化を乗せたルーシーは、ミカエラの猛攻に耐える覚悟を決める。
 類や彼の傍にいる瓜江、リルに迫る茨を跳ね除け、黒薔薇を守る帳も祓う。ルーシーの身を襲うものに対しては、花菱草色の炎で結界を張って守ってゆく。
「ルーも手伝ってね」
 傍らの大切な存在を呼んだルーシーは、更なる思いを怪火に込めていった。時折、防ぐことも避けきることもできなかった茨もあった。それでもルーシーは激痛に耐え、倒れるまいとして凌いだ。
 大切な何かを求める心。
 それはどんな相手のものであっても大事にしたい。そして、できるならば昇華されてほしい、とルーシーは願っていた。たとえ世界を害なす存在だったとしても、心の在り方までは否定したくはない。
 茨を炎で防ぎ、退けながらルーシーは或ることを思った。
「けれど、それはきっと……わたしが応える事はできないのでしょう」
 哀しくもあるが、ルーシーひとりの思いだけでは足りない。しかし、ルーシーは別の予感も覚えている。此処に集っている仲間達の思いはきっと繋がっている。
 此処からどのような結末が導かれるのか。それは未だ誰も知らないが、最良を目指すことはできる。
 そして、其処へリルが紡いだ白の魔法が巡った。
「冀う想いに決意を重ねて――」
 希むは癒し、望むは救い。
 重ね織る奇跡に歌を捧げよ。白ははじまり、或いは終焉。これは、永遠の祈り。
 光祈の力は鏡の領域を照らし、望みを叶えるための力となっていく。
「僕は信じるよ、彼女が逢いたいひとにあえるように」
 そうして、共に眠れるように。
 終わりを望むことは残酷かもしれない。
 けれどもオブリビオンのままにしておくことで永遠の苦痛が繰り返されるのならば――。
「壊れそうに痛いまま、狂うように荒れたまま、終わってなんて欲しくないんだ」
 リルは更に祈りを捧げながら覚悟を決める。
 絶対に挫けたりしない、と。
 白の魔法で攻撃を防いでいくリルは闇の茨を弾き返した。魔法に大切なことは先を強くイメージしていくこと。即ち、信じることにも似ている。
「僕にだってできるよ! ううん、僕達にも!」
 先程に紡がれたルーシーの言葉への返答として、リルは未来を信じ続けることを示した。
 ただ斃すだけではなく、次に続ける。
 類も気持ちは同じだとして、苛烈な茨の攻撃を潜り抜けていった。頬を掠めた茨を払い除けた類は、相手が持つ力の威力を改めて知った。
 もしミカエラが正気を保っており、類の罅割れに気がついたとしたら――。
 ぞくりとした感覚が走る。急所に当たりでもしたら、正直を言って長くはもたないだろう。類は攻撃を見切ることを重視し、瓜江と共に残像を纏ってフェイントを入れていく。
 可能な限りは茨を避け、類は素早く立ち回っていった。手数と勢いの対処に慣れてきた頃、類は次の行動に映っていく。周囲に鏡片を撒き、放つ光で視界に映る像の位置をずらす。
 そうすることで仲間や自分への命中率を下げる狙いだ。
「――瓜江」
 攻撃を仕掛ける機が作れたと察した類は、瓜江を呼んだ。その声に応えるようにして瓜江が踏み出し、茨を蹴散らしながらミカエラを追い詰めていく。
 ルーシーも痛みと猛攻に耐え続け、炎を幾つも巡らせた。
「あなたが鏡に還るだけでも、明日にゆける事になったとしても」
 出来ることは、これだけ。
 ルーシーは今もヒステリックに叫んでいるミカエラをそっと見つめ、語ってゆく。
「わたしね、この常夜の世界が大切なの」
 誰かに向けたり、向けられる憎しみも、抗えない悲しみも。
 ときおり感じる虚しさも、心にずっと残っている幸いや喜びも。そして、愛も。
 少し歪んでいたとしても全てここで識った。
「だから……この極彩色に溢れた世界を、あかの一色に染めたりはさせないわ」
「どんな時だって諦めない。立ち向かって、救うよ」
 ――その、孤独から。
 ルーシーの言葉に続き、リルも想いを言の葉に変えた。光の祈りは闇を晴らすように巡り、ちいさな導きとなって路を繋げている。
 類もミカエラを鏡に還さぬよう立ち回り、近付く終幕を見据えた。
 斃した先で探し人と会えるかも、なんて。そんな一縷の望みに賭けてみるのもきっといい。類は瓜江と同時に前に踏み込み、破魔の力を込めた一閃で茨を薙ぎ払った。
「未だ、終わらないのなら」
 狂うほどに、誰か探す声が響くままにはしておけない。幕を下すのは忍びないから。
 戦いは続く。
 黒薔薇が見事に散りゆく、美しき最期を目指して。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント

ミカエラが召喚した侍女に向かうなら最優先で妨害
ユーベルコードを発動して行動速度を増大、横合いから攻撃して軌道を逸したり、間に割り込み庇う
戦う術を持たない者を巻き込みたくない
それに相手の強化を防ぐ為でもある

防戦を重視しつつ、少ない好機を狙った攻撃の手は休めない
茨を弾丸で逸し、隙間に追撃を差し込んでいく
戦闘を長引かせ疲労とダメージを蓄積させて討伐に繋げたい

逃げ回る方法もあると分かっている
しかし先の荊棘卿との交戦を思い返せば、それで終わらせる気にはなれず
大切な者の為に戦った荊棘卿のように、ミカエラにも彷徨う理由がある

ならその理由に可能な限り付き合おう
|この世界《同郷》で生きた者への、せめてもの餞だ


紫・藍
あや?
この方はもしや……。
となると、ええ。
大トリは藍ちゃんくんではないのでっす!
相応しい方が来ていらっしゃるかと!
そこまでの盛り上げはお任せなのでっす!
歌うのでっす。心を込めて歌うのでっす。
歌うのはかの騎士との戦いの歌。
お兄さんの心情などを藍ちゃんくんが歌ってしまうと無粋でっすのでー!
あくまでも藍ちゃんくん視点の歌にするのでっす!
藍ちゃんくんのライブはお姉さんの攻撃を弱体化させ、オーラ防御込みで時間稼ぎにも寄与しますがー。
それ以上に。
お姉さんの悪意を弱めるのでっす。
狂乱のうちではない本来の心で大切な方を想うことができるはずなのでっす!
藍ちゃんくんも祈ってるのでっす。
お二人がまた会えることを!


戒道・蔵乃祐
そういうことか。
これでは再会など、最初から土台無理な話だったというわけですね…

◆黒影剣
姿勢は低く、低く、地を這う蛇の如き体勢で闇に紛れる+切り込みで強襲
聞き耳+読心術で正確な位置を把握し、フェイント+早業で撹乱しながらクイックドロウで斬り付ける

生命力を奪い続けることで弱体化を狙い、奪った業を取り込むことで継戦能力を高めて時間切れまで粘ります

心眼で感情が流れ込んでくる
彼と彼女との間にどんな経緯があったのかは、推して知るべし…か

こんなことになってしまったのも、業深き故の報いが終わることは無いからなのでしょうか

しかし今は、自分に出来る最善を尽くすだけです。
この情念、相対して尚。決して容易くは無い…!



●騎士と主に捧ぐ歌
 悲鳴が響き渡り、血が散る。
 鏡に映った赤い軌跡が広がっていく様は凄惨だ。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は鏡の城を彷徨うミカエラを見据え、召喚された侍女を救いに向かった。彼女達に迫る茨を妨害することが最優先。
 普段は抑えている人狼の獣性を解放することで、シキは肉体のリミッターを外していた。
 そのスピードを活かしたシキは横合いからミカエラに攻撃を加えることで闇の茨の軌道を逸す。間に割り込んだことで防御が成され、自分が死ななかったことに驚いた侍女が声をあげた。
「きゃ……!」
「大丈夫だったか?」
「は、はい……ありがとうございます」
 シキは殺されそうだった侍女を瞬時に抱きかかえ、魔の手から救い出した。それによってミカエラの興味は猟兵達に向いた。シキは生き残っていた侍女達の前に立ち、早く逃げろ、と告げる。
 戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)も女性達の逃亡の手助けとなるべく、ミカエラの前に立った。その間に侍女達は鏡の領域から脱していく。
「何をしたの。邪魔をしないで。消えて!」
「……そういうことか」
 喚くミカエラを見て、蔵乃祐は納得する。同じくして紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)もミカエラに対しての既視感のような感覚をおぼえている。
「あや? この方はもしや……。となると、ええ」
「これでは再会など、最初から土台無理な話だったというわけですね……」
「そのようだな」
 藍と蔵乃祐だけではなく、シキも或ることに思い至っていた。この三人に共通しているのは同じ戦場に訪れたことがある、ということ。
 猟兵としての予感が告げている。
 彼女が探しているのは、楽園の地で戦った騎士――荊棘卿そのひとである、と。
「ならば大トリは藍ちゃんくんではないのでっす! 相応しい方が来ていらっしゃるかと! でしたら、そこまでの盛り上げはこの藍ちゃんくんにお任せなのでっす!」
 相応しい最期を迎えたであろう荊棘の騎士を思い、藍は高らかに語った。
 刹那、藍の力によって周囲がライブ会場と化す。
 これはライブをより素晴らしくするための行為や、行動の全てが強化されるフィールドだ。此度のライブは或る姫君と騎士が再会するためのもの。
 皆がその結末を望み、行動するのならば、すべてが上手くいくことが約束された。
 響いていく藍の歌声は美しい。
 その音色を聞きながら、シキは周囲をもう一度確かめた。逃げ遅れたものがいないか、或いはミカエラの超威力の攻撃を受けて危機に陥っている仲間がいないかの確認だ。
 戦う術を持たない者を巻き込みたくない。それに、これは相手の強化を防ぐ為でもあった。
「大丈夫なようだな」
 シキは周囲に猟兵とオブリビオンしか残っていないことを確認した。巻き込まれたとは言え侍女達もダークセイヴァーの住人だ。きっと上手く逃げ果せてくれるだろう。
 後はミカエラを倒すことに集中するのみ。シキは防戦を重視しつつ、好機を狙うことに決めた。
「嫌よ、嫌! あの人を探しているだけなのに!」
 ミカエラは叫び、がむしゃらに闇魔法を打ってくる。シキは攻撃の手は休めずに茨を弾丸で逸らした。その隙間に追撃としての一閃を差し込んでいく。
 その狙いは、戦闘を長引かせること。疲労とダメージを蓄積させて討伐に繋げるのがシキの目的だ。
 蔵乃祐もミカエラの高威力攻撃を受けないように立ち回っていた。姿勢は低く、低く――地を這う蛇の如き体勢で闇に紛れる。
(狂気に侵されているせいか、あまり周囲に気を配れないようですね)
 ミカエラの意識が自分に向いていないと察した次の瞬間、蔵乃祐は一気に攻勢に出た。
 切り放つのは黒影剣の一撃。
「――!?」
 強襲された形になったミカエラの身体が大きく揺らぎ、その体勢が崩れる。
 誰に攻撃されたのか分からなかったのか、ミカエラは周囲を見渡す。その間に蔵乃祐は身を翻し、聞き耳と読心術で以て相手の様子を把握していった。
「何処なの。憎き敵は……! 何処なのよ、あのひとは……!」
「そちらではありませんよ」
 蔵乃祐はミカエラに対し、フェイントからの早業で撹乱しながらクイックドロウで斬り付ける。蔵乃祐はその生命力を奪い続けることで弱体化を狙っていた。
 そして、奪った業を取り込むことで継戦能力を高める。時間切れか、或いはミカエラ討伐まで粘ることで光明が見えてくるはず。その際、蔵乃祐の中に感情が流れ込んでくる。ミカエラが抱いていた騎士への想いの断片を感じ取り、蔵乃祐はゆっくりと頭を振った。
「彼と彼女との間にどんな経緯があったのかは、推して知るべし……か」
 もしも、最良の形で逢えたなら。
 蔵乃祐が思いを巡らせていく中、藍は心を込めた歌を響かせ続けていた。
 紡ぐのは、かの騎士との戦いの歌。
「お兄さんの心情などを藍ちゃんくんが歌ってしまうと無粋でっすのでー! あくまでも藍ちゃんくん視点の歌にしてみましたのでっす!」
 荊棘卿と交わした視線や一撃。そして、言の葉。
 藍のライブはミカエラの攻撃を弱体化させるに足るものだ。それに加え、オーラ防御も込みで時間稼ぎにも寄与できる作戦でもある。しかし、それ以上に――。
「お姉さん、その悪意を弱めてさしあげるのでっす。そうしたらきっと、狂乱のうちではない本来の心で大切な方を想うことができるはずなのでっす!」
 居ない、居ない、と探しているだけのミカエラは狂気に侵されたまま。
 僅かでも、少しでもその狂化を食い止めて戻せたのなら、未来は変わる。
「あ――……ルシ、ウス……?」
 そのとき、藍の歌を聞いたミカエラが騎士の名を呟いた。
 それはきっと心が動いた証だ。
 藍は更に歌を奏で続け、シキも状況の好転を感じていた。倒すことを求めず、逃げ回る方法もあると分かっている。だが、先の荊棘卿との交戦を思い返せば、それで終わらせる気にはなれなかった。
「同じ場所へ向かわせるのが、せめてもの――」
 大切な者の為に戦った荊棘卿のように、ミカエラにも彷徨う理由があるはずだ。
 強い思いを抱いたシキは、その理由に可能な限り付き合おうと決める。たとえ相手が非道な行いをしたとしても、シキにも通すべき道理がある。
「|この世界《同郷》で生きた者への、せめてもの餞だ」
「藍ちゃんくんも祈ってるのでっす。お二人がまた会えることを!」
「こんなことになってしまったのも、業深き故の報いが終わることは無いからなのでしょうか」
 シキの言葉に続けて藍と蔵乃祐も其々の思いを声にした。
 この先にどのような結末が訪れるのかは誰も知らない。それでも今は、自分に出来る最善を尽くす。ミカエラが放った茨に備えて、蔵乃祐達は身構えた。
「この情念、相対して尚。決して容易くは無い……!」
 其処からの攻防は激しく、一瞬の油断も容赦もできないものとして巡った。
 されど猟兵達は既に見出している。
 この最悪の状況から導き出せる、最良の終幕への路を――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
【毒薔薇】
…ご機嫌麗しゅう、母上
…生前からヒステリックなお方ではあったが、何と言うか…限度というものがあるだろうに
私のことが解らぬならその方が幸せか

我が騎士よ、彼女の尊厳の為である
疾く安寧を奉れ
チェザは敵を足止めして我が騎士を援護せよ
私は出来ればこの場に居たくない
…正直言ってそのお方は今でも怖いし
不出来な娘の顔など彼女も見たくなかろうよ

おいチェザ、ふざけるな!何をしている!戦う相手が違う!
我が騎士よ、あいつから殺せ!
…ん?演技…か?
…嘘だろう

『黒薔薇忌』で怨霊を嗾けて微力ながら加勢と足止め
我が騎士にはオーラ防御での護りも
我が騎士よ、彼女を鏡の中に逃すな
…母上の探した相手、見当などついていたとも
しかしチェザめ、無責任なことを…!

…卿よ、僭越だろうが強いて言わせてくれ
母上の騎士であるならば主君の尊厳の為に介錯するのが筋であろう
我が騎士の刃に委ねることを貴公の誇りが許せるか?

…母上
不出来な娘であったことを心苦しく思っておりましたが、今は存在そのものをお詫び申し上げます
…どうか心安らかに


チェーザレ・ヴェネーノ
【毒薔薇】
会いたかったよ、仔猫ちゃん!
だいぶご機嫌斜めだねぇ、どうしたの?
俺のこと覚えてる?
無理かー、あいつにしか興味ないもんね

了解、ラファエラちゃんはせいぜい後ろで震えてたら?
こっちおいでよ、仔猫ちゃん
ちょっと良い子にしててくれない?
制圧射撃っぽく銃乱射してUCで残る金鎖で捕縛を試みる
え、なぁに?跪け?
良いよ、君の言うことなら幾らでも聞いたげる
ラファエラちゃんを殺せって?
うん、良いよ!
ご褒美考えといてね!

って見せかけて零距離射撃で騙し討ち
ごめんね、仔猫ちゃん
俺、演技は割と得意なんだよねぇ
まぁ九割以上は本気だったけど
そんな怒らないでよ、後でちゃんと殺しておくからさ

さて、そろそろ毒も効いてきた?
毒使いも俺の特技だ
しんどいよねぇ、あとちょっと我慢してね
…あぁ、お久しぶりです、荊棘卿
お前の顔だけは本気で見たくなかったね

ってことでラファエラちゃん、俺帰るから後は宜しく
帰って酒飲んで寝るから!後は頑張って!



●薔薇が散る刻
 合わせ鏡の城の最中。
 永遠に同じ光景を映し出す領域で彷徨うのは――。
 チェーザレ・ヴェネーノ(月に毒杯・f38414)もよく知った人物、純血の黒薔薇・ミカエラだ。
「会いたかったよ、仔猫ちゃん!」
 ミカエラを呼ぶ声に混じっているのは喜色。されど、その声の中には僅かな切なさも宿っていた。照れて名前すら呼べやしなかった過去を思えば、複雑な気持ちにもなる。
 だが、チェーザレは敢えて明るく振る舞う。
 お姫様を護る騎士が居ない今、彼女に手を差し伸べられるのは自分だけ。そんな状況であればどれだけ良かっただろうか。嘗て想いを向けていた彼女は今、何も覚えていない。
「……退きなさい」
「だいぶご機嫌斜めだねぇ、どうしたの? 俺のこと覚えてる?」
「――控えよ、無礼者!」
 生前に縁を紡いでいたチェーザレが問いかけても、ミカエラは特別な反応を返したりはしない。他の者と同じく、ある意味では平等に喚き声を響かせるだけだ。
 彼女の想いも記憶も、彼の騎士ただ一人に向けられたまま狂気に囚われたのだろう。
「無理かー、あいつにしか興味ないもんね」
 いつだってそうだった。
 だからこそ彼女がどのような反応をしようとも今更のこと。頭を振り、それでも、と小さな言葉を零したチェーザレは独り言ちる。
「あの日みたいに、笑っていて欲しかったな」
 荊棘卿・ルキウスだけを見つめるミカエラの横顔を思い返していた。彼女の特別にはなれないと思い知って、何も成せないと感じた記憶が胸裏に巡る。
 幼い頃の夢も、恋も、復讐も。
 だが、チェーザレはそのことをおくびにも出さない。渦巻くその心情は、チェーザレと共にこの場に訪れたラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)にも伝わっていないほど、完璧に隠されていた。
 笑みを浮かべるチェーザレの傍ら、ラファエラはミカエラを見つめている。
「……ご機嫌麗しゅう、母上」
 ヴェールの奥に潜めた眼差しと、挨拶の言葉に込めた意味は、彼女自身にしか分からない。
 ラファエラの記憶では、母は生前からヒステリックな人物だった。
「今と似た雰囲気の御方ではあったが、何と言うか……限度というものがあるだろうに」
 頭をゆっくりと横に振ったラファエラは、現状を確かめる。召喚された侍女達の血が鏡を赤く汚しており、ミカエラのドレスの裾も赤黒く染まっていた。
 それに加えて、ミカエラが完全に正気を失っている証拠がある。
「誰? お前もわたくしを邪魔する気?」
「私のことが解らぬか。ならば、その方が幸せか」
 ミカエラは実の娘を見ても、その態度を崩さなかった。明らかに自分のことを有象無象としか見ていないのだと知り、ラファエラはそっと肩を竦める。
 もしも母の意識が生前のままであるならば、もっと酷い言葉を投げかけられていただろう。
 或いはミカエラがラファエラの姿を見た瞬間に殺意の茨が襲いかかってきて貫かれたかもしれない。きっとこの状況は、以前よりも随分と楽なものだ。
「我が騎士よ、彼女の尊厳の為である」
 ――疾く安寧を奉れ。
 ラファエラは白銀の鎧を身に纏う騎士、パーシヴァルを喚んで命じる。続けてラファエラはチェーザレに視線を向け、其処に続くよう願った。
「チェザは敵を足止めして我が騎士を援護せよ」
「了解したよ」
「頼んだ。私は出来ればこの場に居たくない」
 チェーザレの返答を聞き、ラファエラは正直な思いを言葉にする。幼い頃から刻みつけられてきた経験のせいだろうか、ラファエラには母に対する恐怖心があった。
 そのことを察しているチェーザレは頷き、誂い混じりの言葉を向ける。
「ラファエラちゃんはせいぜい後ろで震えてたら?」
 厳しい返し方のように聞こえるが、それを意訳するならば――無理はしないで、という意味だ。
「ああ……それに、母上も不出来な娘の顔など彼女も見たくなかろうよ」
 落とされた呟きは闇の中に沈み、消えていった。
 主を護るパーシヴァルがミカエラへと向かっていく中、チェーザレは銃を構える。
「こっちおいでよ、仔猫ちゃん。ちょっと良い子にしててくれない?」
 制圧射撃を行うようにして銃弾を乱射した彼は、同時にユーベルコードを巡らせた。猛毒と呪詛を戦場に撒き散らす金鎖で以て、ミカエラの捕縛を試みるためだ。
 しかし、次に彼女から命令が下される。
「跪け。誰がおもてを上げて良いと言ったの」
「え、なぁに?」
 告げられた言葉に宿る魔力は相当なものだ。チェーザレは半ば反射的に膝を折り、恭しく礼をした。
 それによって与えられるはずだったダメージは巡らず、ミカエラは口元を緩める。これまで誰も自分に従わないと感じていたらしいミカエラは少し上機嫌になった。
「良い子ね、チェザといったかしら」
「今、俺の名前を呼んでくれた? 良いよ、君の言うことなら幾らでも聞いたげる」
 きっと記憶を思い出したわけではなく、先程のラファエラとの会話を聞いていたゆえにチェーザレを呼んだのだろう。だが、チェーザレはそれでも構わなかった。
 そして、次に命じられたのは――。
「その娘と騎士を仕留めなさい」
「つまりラファエラちゃんを殺せって? うん、良いよ!」
 チェーザレはミカエラから告げられたルールを守るため、ラファエラ達の方に向き直る。ミカエラに忠義を誓うことが自然であるように、チェーザレは銃口を向けた。
「仔猫ちゃん、ご褒美考えといてね!」
「おいチェザ、ふざけるな! 何をしている! 戦う相手が違う!」
 普通ならば有り得ない状況だが、彼の性質を知るラファエラは焦ってしまう。チェーザレならばやりかねないと考えてしまったからだ。
「我が騎士よ、あいつから殺せ!」
 これ以上、戦場が混沌とするならば同士討ちも致し方ない。向けられた銃に対してラファエラは身構えたが、パーシヴァルは動かなかった。その理由は――。
「なーんてね」
 刹那、銃弾と金鎖が零距離からミカエラに放たれる。
 ミカエラ側に付いたと思わせておいて、チェーザレは騙し討ちを行ったのだ。
「……なっ……!?」
「ごめんね、仔猫ちゃん。俺、演技は割と得意なんだよねぇ」
「この役立たず! 消えなさい!」
 チェーザレが裏切ったと知ったミカエラは感情のままに叫んだ。その隣から離れたチェーザレは、まぁ九割以上は本気だったけど、と口にする。
「そんな怒らないでよ、後でちゃんと殺しておくからさ」
 冗談とも本気ともつかない口調で、片目を瞑ったチェーザレは笑っていた。
 今はこれで十分だ。
 たった一瞬、一度きりでも良かった。荊棘の騎士がいたはずの位置に立ってみたかっただけ。チェーザレはそれすらも明るい演技で隠し、ラファエラの元に舞い戻った。
「……ん? 演技……か?」
「そう、ただの演技」
「嘘だろう」
 ラファエラはチェーザレの行動にそれ以上の言及はしなかった。聞くことでもなかろうと考えていたこともあるが、すぐさまミカエラが闇茨を解き放ってきたからだ。
「何故に皆、わたくしを置いていくの! どうして、どうして……! 我が騎士よ……何処に……!」
 狂乱するミカエラは闇の魔力を滅茶苦茶に放った。
 チェーザレとラファエラは直撃を受けないよう、攻撃の軌道を見極めながら立ち回る。ラファエラは母に対抗する形で黒薔薇忌から怨霊を嗾け、騎士の加勢と足止めを担った。
 先程に巡らせた鎖は断ち切られているが、チェーザレに焦りは見えない。
「さて、そろそろ毒も効いてきた?」
「な、に……?」
「しんどいよねぇ、あとちょっと我慢してね」
 チェーザレが語りかけた直後、ミカエラの身体が大きく傾いだ。どれほど猟兵からの攻撃を受けても外傷は刻まれなかった。だが、ダメージ自体は蓄積していたらしい。
 それに拍車をかけたのはチェーザレが与えた毒だ。
 その隙にラファエラはパーシヴァルへとオーラの防御を巡らせる。好機を察したラファエラは騎士に信頼を向け、終への一歩を刻むよう願った。
「我が騎士よ、彼女を鏡の中に逃すな」
 他の仲間が鏡を硝子で覆っているのでそう簡単には逃さないだろうが、万が一のこともある。それに、ラファエラには母を瀕死の状態にまで追い詰める理由があった。
 それは――此処で彼女を討ち倒すため。
 そして、この状況で来るであろう『彼』の魂を呼び起こすためでもある。
「ああ……あ……いや……! 我が騎士よ、どうか」

 ――ルキウス!

 窮地に追い込まれたミカエラは求めていた者の名前を叫んだ。
 そして、ミカエラの声に応えるように黒馬に跨る黒き鎧の騎士――荊棘卿が現れた。
「まぁ、予想はしてたけどね」
「……母上の探した相手、見当などついていたとも」
 チェーザレとラファエラは彼を見つめ、ミカエラにも視線を向ける。
 ルキウスは黒馬から降り、主を護るために立ち塞がった。
「我が主に害を成す者共は……そうか、お前達か」
「あぁ、ルキウス……!」
 痛みと苦しみに震え、叫んでいるだけだったミカエラがそのとき、初めて笑みを見せる。やはりあの笑顔は彼だけに向けるものだ。チェーザレは過去にも感じた気持ちを思い返しながら、一礼してみせた。
「お久しぶりです、荊棘卿」
「チェーザレか」
「お前の顔だけは本気で見たくなかったね」
 二人の騎士の間には因縁がある。
 だが、その件はこの場で話すべきことではない。チェーザレは身を弁えると同時にひらりと身を翻した。
 愛しの彼女が笑ってくれた。
 それだけでチェーザレの目的は達成されたようなものだ。
 たとえ、もう二度と彼女が自分のことを瞳に映さないとしても――これで、いい。
「ってことでラファエラちゃん、俺はもう帰るから後は宜しく」
「チェザ?」
「帰って酒でも飲んで寝るから! 後は頑張って!」
「おい、待て……といって待つわけがないか。チェザめ、無責任なことを……!」
 あっという間に戦場から去ってしまったチェーザレを追うことはせず、ラファエラは母を護る騎士に向き直った。先にオブリビオンとしての彼は倒したが、目の前の亡霊もまたルキウスそのものだ。
 ミカエラは荒い息を吐きながら、己の騎士に縋っている。その身を優しく、それでいて力強く支えるルキウスの眼差しは鋭かった。
 愛しき者の娘であれど、その出自を思えば許せるものではなかったのだろう。
 パーシヴァルを傍に控えさせながら、ラファエラは語りかけていく。
「……卿よ」
「母親を……彼女をその手で殺すか。呪われた娘め」
 ルキウスはラファエラへの恨みを募らせているようだ。己が斃されたことよりも、主を此処まで追い込んだことに怒りを抱いているらしい。敵意が消えないことは重々承知しつつも、ラファエラは続きを紡ぐ。
「僭越だろうが、強いて言わせてくれ」
「…………」
「母上の騎士であるならば主君の尊厳の為に介錯するのが筋であろう」
「何?」
 ラファエラが語ったことはつまり、ミカエラに最期を与える役目をルキウスに担わせるということだ。
 彼もそのことを悟ったのか、眉をひそめる。
「我が騎士の刃に委ねることを貴公の誇りが許せるか?」
 パーシヴァルを見遣ったラファエラは、いつでもその刃を振り下ろさせることが出来るのだと示した。ミカエラは立っていることもままならないらしく、毒に耐えながら唇を噛み締めている。
 即ち、後はルキウスに委ねられていた。
「ミカエラ……」
「いや、嫌よ……お願い、ルキウス。傍に……ルキウス……」
 騎士は主を見つめ、譫言のように繰り返される己の名を聞いている。そして、彼女が倒れないように肩を抱いたルキウスは、ラファエラを見据えた。
「断る」
「どうしてだ、卿」
 あの提案はラファエラの慈悲であり、母を想う娘として考えた相応しい終着点だった。
 だが、ルキウスは首を縦に振らない。
 先程までにラファエラへ向けていた憎悪は鎮まっている。その代わりに、主へ――否、|愛するひと《ミカエラ》に向ける想いだけを強めているようだ。
「主への忠誠を重んじれば、お前の言う通りにすべきなのだろうな。だが……」
「ルキウス……」
 彼は今、忠誠よりも愛情を重んじている。
 みなまで言われずとも、ラファエラにもそれがわかった。そして――ルキウスは静かに、懇願するかのような言葉を告げていく。
「俺に彼女を殺させないでくれ」
 ――俺ごと、貫け。
 ルキウスからラファエラに向けられたのは二つの意味を持つ眼差しだった。
 今の荊棘卿は騎士でありながらも、ひとりの男として、彼女を愛することに重きを置いている。きっとチェーザレはこうなることを見抜いた故に、ああして去ったのだろう。
 彼からすれば、こんな場面は見たくなかったはずだ。そのように予想したラファエラにも、彼の思いが或る意味で理解できる気がした。
「わかった」
 それだけを答えたラファエラはパーシヴァルに命じた。
 此処で母を討ち、その騎士の魂ごと葬れ。
 そして、今一度の終わりを。いつかどこかで、別の始まりを導くために。
 ラファエラの言葉と思いを受けた白銀の騎士は剣を振り上げた。ルキウスが傍にいることで狂気が薄れているのか、ミカエラは穏やかな眼差しで彼を見上げた。
「ミカエラ、共にいこう」
「えぇ」
 迫り来る剣を見せないよう、ルキウスはミカエラを抱き締め、その腕で包み込む。彼女の紫の瞳には今、ルキウスだけが映り込んでいた。
 庇う様に主君の身を抱き竦めるのは、あの夜と同じ。
 されどあの日と違うのは、終わらぬ負の連鎖に囚われた運命から解放されることだ。
 そして、次の瞬間。
 ラファエラの騎士によって、二人の身体に剣が突き立てられた。
 最期の瞬間、誓いの言葉を告げあった二人は瞼を閉じ、互いの熱を確かめ合うように強く抱き合う。そうして、純血の黒薔薇と荊棘卿の姿は闇に沈むかのように薄れ、消えてゆく。
 それが彼女達の終幕となった。
「……母上」
 ラファエラが出来たのは、最期を見届けることのみ。
 娘として、母として。普通と呼べる関わり方は最後まで叶わなかった。終わりの時が来るまでミカエラはラファエラを娘として見ることはなく、己の騎士だけに縋った。
 後悔や恨みを思い出さぬまま逝ったのは、やはり或る意味で幸せだっただろう。
 それ以上を求める気はなかった。しかし、ラファエラにも母を思う心がある。
「不出来な娘であったことを心苦しく思っておりましたが、今は存在そのものをお詫び申し上げます」
 ラファエラは己の騎士の隣で瞼を閉じた。
 そうして、月も沈む夜に祈る。

 どうか心安らかに――。


●薔薇と荊棘
 運命の闇に翻弄されたミカエラとルキウス。
 終わりの運命を受け入れた二人は最期に、誓いと言の葉を交わしていた。

「次は絶対にしくじらない。今度こそ、共に」
「いつか、どこかで。もしも生まれ変わっても……貴方とならば、何処までも」
「幾つもの夜を世を経ても、」

 二度と貴女を泣かすまい。
 貴方の傍がわたしの居場所。

 ――来世でこそ、共に夜明けを。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月10日
宿敵 『純血の黒薔薇・ミカエラ』 を撃破!


挿絵イラスト