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闇の救済者戦争②〜オムネス・プロ・アウアレディ

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #闇の救済者戦争

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#闇の救済者戦争


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●紋章の忌児神
 過去に良心というものが存在していたというのならば、それはきっとこんなことをしなかっただろう。
 しかし、完全に悪性そのものであったというのならば、このような力を得ることはできなかっただろう。
 無間の如き暗闇の中では、その暗闇の色さえ理解することができないからだ。
 光ありて初めて闇の深さを知るように、完全なる悪性にすら一欠片の善性が宿る。
 皮肉なことだが。

「私がそうであると言うのならば、私は何故このような行いをするのです」
 闇に問いかける声が響く。
『浸蝕迷宮城』――其の中でもとりわけ最大の書庫城に『慈悲亡き聖母』は問いかけた。
 如何なる存在に問いかけたのかなど誰も理解出来はしない。
 彼女の中に理性はなく。
 あるのは本性だけであった。
 しかし、その本性すら狂い果てていた。
「私は何故滅ぼすのです。私は何故存在しているのです。私が本当にしなければならないことはこのようなことだったのでしょうか」
 きしむように唇が動く。
 暗闇に閉ざされたような顔は表情も、その形もわからない。
 抱えるようにした十字架。
 其の光だけが書庫城の中を照らす。

「私は」
『慈悲亡き聖母』の脳裏に浮かぶのは救いを求める生命たちの悲痛なる表情だった。
 救う。
 そうだ。自分が本当にしなければならなかったのは、救うことだ。
 しかし、ならば何故己の頭蓋の奥、脳漿が見せる記憶にあるのは悲痛満ちるものばかりなのだろうか。
 わからない。
 間違えたのか。
 ぽつり、と己の中に湧き上がる一点の染みのような疑念。
「間違えていない。これが佳いことのはずだ。すべからく救っているのだから。生という苦しみと哀しみから私が救っているのだ。もう此れ異常苦しまなくて良い。悲しまなくて良い。そうだ、その通りのはずだ」
 狂気が満ちていく。

 救えなかったということが、救うということに固着しているのならば『慈悲亡き聖母』は己の行いの矛盾を解消できぬままに、その極光放つ力を持って書庫城の内部を満たしていく――。

●闇の救済者戦争
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。ついにダークセイヴァー世界の命運を掛けた戦いが始まりました。すでに皆さんはこの世界が常闇の世界ではなく積層世界であることをご存知かと思います」
 そう、太陽昇らぬ世界。
 暗闇に蠢くヴァンパイア支配盤石たる世界。だが、ヴァンパイア以上に強大な闇の種族と呼ばれる存在がいる。
 彼等は現時点の猟兵でも倒しきれる存在ではなかった。
 しかし、猟兵たちの奮闘によって遂に彼等の『弱点』を見出したのだ。
 それは自らの身体部位をえぐって作った『欠落』を破壊すること。
 その『欠落』を彼等は隠している。

「これにより闇の種族たちは『鮮血の洪水』によって第三層以下の生命……人間もオブリビオンをも全て絶滅させることによって『欠落』の謎に至る者を消し去ろうとしているのです」
 これを止めるためには『鮮血の洪水』を防ぎ、この『闇の救済者戦争』を引き起こした頂点『五卿六眼』を打倒するしかない。
 そして、今回猟兵たちが向かうのは『浸蝕迷宮城』の一つ、書庫城である。
 そこにはかつて『紋章つかい』と呼ばれる存在が築き上げた場所であり、蠢きながら今も巨大化続ける城の内部に闇の種族が存在している。

「名を『慈悲亡き聖母』。狂い果てた存在であり、『紋章つかい』の研究に利用された……と思わしき成れの果てです。彼女は狂気に冒され、強大な力を衝動のままに振るうことしかできないのです」
 広大な城内を徘徊し、ユーベルコードを乱発しているというのだ。
 其の力は強大そのものだ。
 間違いなく強敵であると言えるだろう。
 しかし、『慈悲亡き聖母』は砂粒程のほんの僅かな『過去の良心や後悔』が残っているようである。

「『慈悲亡き聖母』は救うことに執着しています。それが嘗て救えなかったことへの贖罪なのか、それともただ苦しみや哀しみから生を開放するという意味で人間や魂人を滅するユーベルコードを揮っているのかはわかりかねます……」
 だが、その『過去の良心や後悔』に訴え、働きかけることができたのならば。
 その狂気は僅かにゆるまることだろう。
 狂気がゆるまるということは即ち、『慈悲亡き聖母』の放つユーベルコードの力を減ずることになる。
 それが勝利の鍵であることは言うまでもない。

「どんな悪性にも一欠片でも善性が残っています。逆に善性にもわずかな悪性が宿るもの……ならば、『慈悲亡き聖母』が固執する救済、救うという行為と滅ぼすという行為の間にこそ、本質があるのかもしれません……」
 それは相対する猟兵達それぞれに異なるものだろう。
 だが、猟兵たちはオブリビオンや闇の種族とは異なり、問うことができるはずだ。己が生きてきた道全てが善きものばかりでなかったのならば、また全てが悪きものばかりであったことも道理。

 ナイアルテは猟兵たちを送り出す。
 ダークセイヴァー世界。
 闇の救済者という篝火は鮮血に飲み込まれるか、ここが分水嶺――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『闇の救済者戦争』の戦争シナリオとなります。

 かつて『紋章つかい』が築き上げたと言われる『浸蝕迷宮城』の中で最大の書庫城は今も巨大化し続けています。
 その内部に存在する『慈悲亡き聖母』との対決になります。
 言うまでもなく強敵です。
 その攻撃力は強烈ですが、『慈悲亡き聖母』に残っている僅かな『過去の良心や後悔』に訴えることができたのならば、それを減ずることができるでしょう。
 それが勝利の鍵となります。

 プレイングボーナス……敵の僅かな良心(または後悔)に働きかける。

 それでは、『鮮血の洪水』を防ぎ、己の弱点をひた隠しにしようとする闇の種族を打倒する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『慈悲亡き聖母』

POW   :    『神は天に在りて』
状態異常や行動制限を受けると自動的に【身に纏う極光の加護】が発動し、その効果を反射する。
SPD   :    『世は総て事もなし』
【信仰に身を委ね、影を操る怪物】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    『光あれ』
【万物を灼く光】を降らせる事で、戦場全体が【天地創造の地獄】と同じ環境に変化する。[天地創造の地獄]に適応した者の行動成功率が上昇する。

イラスト:100

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はゾーヤ・ヴィルコラカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月夜・玲
…自己矛盾しながらも、自らに課せられた役割を果たす為に止まれない
ちょっとだけ悲しいね

城内を探索して慈悲亡き聖母を探そう
発見し次第《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
【Code:C.S】起動
時間加速し一気に近接戦闘に移行しよう
『なぎ払い』や『串刺し』で攻撃し、攻撃を『オーラ防御』の盾や剣で『武器受け』しながら彼女に話しかけよう
例え狂気に陥ろうとも、君の心にはまだ残ってるものがあるんじゃない?
不条理に対する怒り、守れなかった者への後悔
少しでも心に引っ掛かる物があるのなら、きっと完全なる邪悪で終わる事は無いよ
もう君を助けるという事は出来ないけれど
その心は救われるはずだよ
思い出して



 それは狂気にも似ている。
 きっと『慈悲亡き聖母』は愛を持つ者であったのだろう。それゆえに人を救わねばならぬと光を放つ。
『浸蝕迷宮城』、その書庫城の内部は血肉によって膨れ上がるようにして肥大化していくようであった。
 延々と続くかのような回廊。
 そこに『慈悲亡き聖母』は彷徨い続けている。
『紋章つかい』の研究の最果て。
 それが彼女だ。
「私はどうして救わねばならぬでしょう。救われる術を誰もが持っているのに、他の誰でもない私がしなければならないのでしょう。私の光は本当に救うことなのでしょうか。生より開放されることが苦しみから逃れること。ならば、何故」
 己が光で滅した者たちは苦悶の表情を浮かべるのか。

 わからない。
「……自己矛盾しながらも、自らに課せられた役割を果たすために止まれない」
 二振りの模造神器の蒼い刀身が書庫城の迷宮の如き回廊の中に煌めく。
 抜刀された刀身は剣呑なる空気を纏う。
 どれだけ言葉で言い繕うのだとしても、『慈悲亡き聖母』がしてきたことはいたずらに死者を生み出すことだけだ。
 弱き者を救済というエゴによって殺してきただけにすぎないのだ。
 それにさえ気がつけぬほどに『慈悲亡き聖母』は狂気に歪んでいることを、月夜・玲(頂の探究者・f01605)は理解している。
「私は救う。私は滅する。苦しみを滅する。苦しみを亡くすためには、苦しみをぶつけるしかないのです。だから、私の光は――」
『慈悲亡き聖母』のうろの如き暗闇の無貌。
 煌めくユーベルコードが発露した瞬間、彼女は己が信奉する信仰の怪物へと成り果てる。

 苦しみを消すために苦しみを押し付ける。
 そうすれば相殺される。そうすることでしか救えぬ生命があると宣うように『慈悲亡き聖母」は己の影を手繰り、玲へと襲いかかる。
「止めようがないんだね。わあかるよ。だから、私はちょっとだけ悲しい」
 玲の赤い瞳が鮮烈に輝く。
 Code:C.S(コード・クロノシール)は模造神器の蒼き刀身に施された封印を解き放つ。
 それは時間加速の権能。
 疑似とは言え邪神の力を体現する玲の模造神器は、迫る影を縫うようにして『慈悲亡き聖母』へと踏み込む。

 一瞬にも満たぬ刹那。
 少なくとも『慈悲亡き聖母』にとってはそうであったことだろう。だが、関係ない。振るう影の怪物たる腕が如何に時間加速で持って迫る玲であったとしても捉えるのだ。
 振るわれた影の腕を模造神器で受け止めながら玲は告げる。
「例え狂気に陥ろうとも、君の心にはまだ残っているものがあるんじゃない?」
「私は私のまま以前と変わりなく。依然、救済しなければなりません」
 ぎりぎりと骨身がきしむ。
『慈悲亡き聖母』は強靭なる体躯をもって玲を押しつぶさんとしている。
 けれど、それでも玲は言葉を紡ぐ。

 敵と何をしているのだと思うかもしれない。
 けれど、玲は見据える。煌めくユーベルコードの輝きは、確かに強大なものだった。けれど、それ以上に見つめる物がある。
 邪悪の中にさえ一粒の善性が見えるように。
 暗闇の中でこそ、それはひときわ輝いてみえるのだ。
「不条理に対する怒り、守れなかったものへの後悔」
「そんなものは」
 ない、とは言い切れない。
 救えているのかという自問自答が彼女にはある。それは、己の行為に対する疑念。狂気に冒されていながら、されど『慈悲亡き聖母』は、一欠片も慈悲がなかったと言えるのだろうか。
 故に、ゆるまる影の腕。

 言い切れない。
 ないと、言い切れないのだ。
「もう君を助けるということはできないけれど」
 玲は模造神器を振り抜く。
 影の腕を切り裂き、蒼き刀身がひらめく。
「その心は救われるはずだよ。思い出して」
 どうして救済しようとしたのか。どうして人が苦しまなければならないのか。その光は、苦しむ者に向けられるのではなく。
「誰かのために其の光を齎す。その最初の一粒を」
 斬撃が影を切り裂き、玲の一撃が『慈悲亡き聖母』を傾がせる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
自分独りきりで世界を救おう等と、、傲慢。或いは独善以外の何物でもありません
しかしそれでも尚、醜く、辛く、地獄の様な世界で在りながら尚、美しいものを見てしまうと
自分もそう在りたい。相応しき存在で居たいと。そう願わずにはいられないのですね

どれ程の力を備えようとも、広げた掌をすり抜けてこぼれゆく尊い命が喪われていく
それがこの世界であり、此度の闇の救済者戦争
だからこそ、猟兵は戦う!貴女を救うことは叶わず、血に塗れることが悪だというのならそれも受け入れて往きます

いざ

◆邪氣虎牙紋
聖母の加護を喰い破る邪王の|顎《あぎと》
心眼+フェイントのフットワークで切り込み
早業+クイックドロウで撃ち貫く怪腕の抜き打ちを!



 蒼き刀身の斬撃が『慈悲亡き聖母』の肉体を袈裟懸けに切り裂く。
 明らかに緩んだ、と猟兵たちは理解しただろう。この『浸蝕迷宮城』、書庫城において回廊は常に肥大化するように膨れ上がって領域を拡大していっている。
 その中において徘徊するは狂気に落ちた『慈悲亡き聖母』である。
 彼女の光は救済の光。
 誰かを救うために、生に苦しむ者を殺す。
 生きているから苦しむ。
 苦しむために生まれてきたのならば、その苦しみの根源たる生命を殺す。
「それこそが救済。なのに、私は全てを救いたい。殺して救いたい。救うために殺したい」
 狂い果てる心は、矛盾を抱える。

 故に、彼女は対する猟兵たちに光を放つ。
 胸に抱える十字架より発せられたのは、万物を灼く光。
 天地創造の地獄。
 周囲を塗りつぶすユーベルコードの輝きの中、戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は走る。
「自分独りきりで世界を救おう等と……傲慢。或いは独善以外の何物でもありません」
 身を焼く光。
 強烈な光だ。蔵乃裕はしかして止まらない。
 止まってはならない。
 あの『慈悲亡き聖母』は、確かに『紋章つかい』の研究によって狂気に落ちたのだろう。
 しかし、あの行動の根底にあるものは、彼女自身が忘れさってしまったものである。己の狂気に覆い隠されてしまったものでもある。

 故に彼は思う。
 それでもなお、と。
「この世界が如何に醜く、辛く、地獄のような世界であるのだとしても。それでも美しいものを見てしまうと」
 光を食い破るように、蔵乃裕の瞳がユーベルコードに輝く。
「自分もそう在りたい。相応しき存在で居たいと。そう願わずにはいられないのですね」
「私は救う。あらゆる苦しみと哀しみから生命を救う。そのためにこそ、この光は存在しているのだから」
 万物を灼く光。
 それこそが狂気の産物であることを蔵乃裕は知る。だが、それは命を奪うだけの力でしかない。

 力とは奪うものに能わず。
 救うというのならば、開放されることが救いになることはない。
 いつだってそうだ。
 どれだけの力を得ようとも。生命の埒外と言われようとも、広げた掌をすり抜けてこぼれていく尊い生命がある。
「其の光によって喪われていくものがある」
 それこそがこの世界。
 常闇の世界にしてヴァンパイア支配盤石たる世界、ダークセイヴァー。その積層世界の在り方だ。
 ならば、蔵乃裕は、猟兵たちは戦うのだ。
「貴女を救うことは叶わず、血に塗れることが悪だというのなら、それも受け入れて往きます」

 踏み込む足が回廊の地面を文ワル。
 撃ち込む拳の一撃が『慈悲亡き聖母』の体へと触れた瞬間、それは白虎の文様となって広がっていく。
 しじまのような一撃。
 それは凄まじい衝撃波も、膨れ上がるような力の奔流も生み出すことはなかった。
 ただ、触れただけ。
「いざ」
 光が弱まることはない。
 けれど、救おうとする者がいて、救われぬということを嘆く者がいる。
 いずれにせよ、その救済への意志は人を殺すのならば。

「『太極絶招,物极必反,然而我在这里」
 生きる者は必ず滅びる。
 出会ったものは必ず別れる。
 だが、己のユーベルコードの輝きは、そこに在るのだ。ならば、己の拳は触れた者に刻み込まれるもの。
 文様が白虎そのものと成って『慈悲亡き聖母』の肉体を食い破る。
 鮮血がほとばしり、その白虎の如き文様を赤く染めていく。
 万物を灼く光は陰り、されど、しかして彼女の求める救済は訪れない。あるのは滅びのみ。故に蔵乃裕は、かつて在りし日の彼女の願いを背負うように、鮮血に沈む光景に背を向けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
(深緑色の影}を通して虫から『結界術』の『戦闘知識』を得るとオーラを使った結界を『早業』で構築し敵のUCに対して『オーラ防御』を行う)
…強い!
(「このままじゃ動けないわね…よし!アタシが攻撃しよう!」と頭の中の教導虫が提案する)
UC【蜂蜜色の奔流親】ですね!お気を付けください!
(「本体は黒影の脳内に居るから大丈夫!じゃいってくる!」)
(蜂蜜色に輝く長身の女性が話しかけながら敵に近づく)
死は救いでも安らぎでもない
ただの肉塊になるだけ
救いも安らぎも生きてこそ受け取れるのよ
貴女の救いは救われる機会を奪っただけ
第一誰かを救うことが
そんな短時間で簡単にできるわけがないでしょうが!
(思いきり殴りかかる)



 鮮血に沈む『慈悲亡き聖母』の体。
 しかし、その身に刻まれた文様は、彼女の信仰の輝きによって反射される。肉体を食い破る文様。
 それは炸裂するように戦場にほとばしり、『浸蝕迷宮城』の書庫城の内部を破壊する。
「私は救う。救わなければならない。救う為にこの光は在りて、我が神は光と共にあらんことを願われた。ならば、私は光をもって苦しみから、哀しみから人の生命を開放しなければならない」
 狂気満ちる言葉。
 救うために滅する。
 それが彼女のなしてきたことだった。
 人を救うという一念。ただそれだけのために彼女は力を振るう。

 例え、救済という言葉が正しいのだとしても。
 命を奪うことを肯定できるものではない。
「……まだ動く! 強い!」
 黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)は『慈悲亡き聖母』が内側から肉体を食い破られるように引き裂かれてなお鮮血とともに光を放つ光景を見やる。
 兵庫のもう一つの影からオーラが走り、まばゆい光を遮断する。
 敵のユーベルコードは己が受けた状態以上を反射するものであった。先行した猟兵のユーベルコードの一撃は確かに『慈悲亡き聖母』の肉体を引き裂いた。

 けれど、その身に刻まれた文様を弾き返すようにして炸裂した力を兵庫はオーラで受け止め、されど、オーラ自体が食い破られる様を見る。
『このままじゃ動けないわね……』
 兵庫の頭の中で教導虫が呻く。
 敵の攻撃は苛烈にして強烈。いずれも逃げ場はない。あの光が厄介すぎると判断したのだ。
『アタシが攻撃しよう!』
「わかりました! 俺がせんせーを信じる心は! あの闇の種族の信じる神よりも強いって俺が信じてますから!」
 兵庫の瞳がユーベルコードに輝く。
 蜂蜜色の奔流親(イエローハニー・オーラペアレント)。
 それは千変万化するオーラを纏う教導虫の抜け殻。

 彼の信じる彼女の形。
 兵庫にとって彼女は無敵そのものであった。何にも負けない。如何なる困難も乗り越えるためのアドバイスをもたらしてくれる存在。
 その大きさは、きっと彼の心の中にある彼女を反映するものであったことだろう。
 蜂蜜色に輝くオーラを混といて、長身の女性が歩む。
『死は救いでも安らぎでもない』
 事実でしかない。
 魂というものがある。確かに魂人はこのダークセイヴァー世界において第三層へと転生を果たすだろう。

 死は救済ではない。
 死した後も第三層にて闇の種族にもてあそばれるだけの運命が待ち受ける。
 肉塊になるだけならば、まだ良い。
 この美しき地獄はただひたすらに人の生命を弄ぶためだけに作られたとしか言いようがないのだ。
 だからこそ。
『救いもやすらぎも生きてこそ受け取れるのよ』
「開放するための救済。それこそが苦しみと哀しみに満ちた生から開放される唯一」
『いいえ、それを見出すのは人。貴女の言う所の救いは、結局……救われる機会を奪っただけ』
 踏み出す蜂蜜色のオーラを纏う長身の女性は拳を振るい上げる。

 それは怒りだったのかもしれない。
 生命を奪うことへの呵責なく。
 ただ、己の救済への意志のみを優先する者。それを許してはおけぬという義憤めいた気持ちが彼女を駆り立てる。
 生きてこそなのだ。
 生命の終着が確かに滅びること、死すことなのだとしても。
「人は懸命に今という一瞬を生きている! だから!」
 兵庫が叫ぶ。
 そのとおりだ。誰も彼もが今を懸命に生きてる。苦しみに満ちたものであっても、哀しみに満ちたものであっても。
 それでも其処に救いを見出すことができる。
 苦しみを得るからこそ楽しさがある。哀しみがあるから喜びがある。

 表裏一体たる感情を持つゆえに。
「死が救済だなんて、そんなことで誰かを救うことが!」
『簡単にできるわけがないでしょうが!』
 放つ一撃が兵庫と教導虫の思いだった。鉄槌のように振り下ろされた強烈な一撃は『慈悲亡き聖母』の体を吹き飛ばし、今を生きる懸命さを持って彼女の中にある良心を揺り動かすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風

…その救いは何のためにしようとしたのか。
矛盾しているような行動でも、過去に何があったのか。

漆黒風を投げつつも…ええ、その行為。救うためには、その行為を成し遂げるためには。破壊ができるほどの力を持たねばならない
こと、このダークセイヴァーにおいては…そのような力がないと、なせないことでしょう。
だからこそ、あなたは…その良心を善性を捨てきれずに残しているのではないでしょうか?

そこへ、UCを使った漆黒風の投擲を。
あなたがその一欠片を残したまま、いけますように。
変質しきるには、悲しすぎますからねー。



 救うために生命を奪う。
 その行いは矛盾に満ちているように思えただろう。
 誰もが生命を惜しむ。
 己の生命が脅かされることを厭う。当然だ。生きていたいからだ。例え、生命の終着が死であったのだとしても。
 それでも懸命に生きるからこそ、生命は生命たらしめる。
 如何に苦しみが身を襲うのだとしても。
 如何に哀しみが心を引き裂くのだとしても。

 それでも。

 唯一。
 その一言だけが生命にはあるのだ。
「……その救いは何のためにしようとしたのか」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』は問う。
 矛盾に満ちた『慈悲亡き聖母』の言葉。
「救うために死を齎す。私は救うためにそうするべきだと思ったからしたのです。私の救済は、死をもって完結する。生命の終わりが死であるのならば、苦しみ哀しみから開放することこそが、私の為すべきことだから、救うために殺すのです」
 其の言葉に『疾き者』は頭を振る。

 過去に何があったのかはわからない。
 知る由もない。
 放つ光は極光の如く。身に受けるあらゆる異常は跳ね返される。
 切り裂かれ、引き裂かれ、打ち据えられてなお『慈悲亡き聖母』は立つ理性は狂気に冒され果てている。
 だが、それでも強大な存在であることは変わりない。
 放たれた棒手裏剣を『慈悲亡き聖母』はかわそうともしない。意味がないからだ。ただの鉄の塊が己の生命を奪うとは理解していないのだ。

「……ええ、その行為。救うためには、その行為を成し遂げるためには。破壊できるほどの力を持たねばならない」
 この積層世界。
 常闇続く世界。
 慈悲などなく。絶望だけが横たわる世界に在りてなお、希望は紡がれていくのだ。己達猟兵がいなくても、人は生きる。
 生きることをやめない。
 それを愚かだと呼ぶ者だっているだろう。嘆かわしい存在だと言う者だっているだろう。
 死こそが救済であると嘯き、生命を奪う『慈悲亡き聖母』の如き存在だっている。
 ダークセイヴァーにおいて力とは絶対だ。
 なくてはならず。
 そして、どれだけあっても足りることはないのだ。
「私の救済は完全のはず、揺らぐことなどないはず。だというのに」
 何故、と問う言葉に『疾き者』は応える。

「あなたは……その良心を、善性を」
 四悪霊・風(シアクリョウガヒトリ・トノムラヨシツナ)の一撃が『慈悲亡き聖母』の胴を穿つ。
 破けたローブの奥にあるのは伽藍堂たる虚だった。
 何もない。
『紋章つかい』によって研究の材料にされた果てがこれだ。形骸化した肉体。宿る精神も狂い、嘗ての影はどこにもない。
「それを捨てきれずに残しているのではないでしょうか?」
 揺らぐ心があるのならば、狂気の中心にそれがあるはずだ。

 狂う原因。
 矛盾の起点。故に『疾き者』は願う。
「あなたがその一欠片を残したまま、いけますように。その思いは」
 人を救いたいという願いが、如何に歪な形なのだとしても、悲しいと思う。こんな哀しみだけがこの常闇の世界に広がっている。
 ならば、その一欠片に願う。
 どうか、その善性が完全に喪われることのないようにと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
これが救いであるものか!

自らの|【闘争心】《破壊衝動》と同調させた火尖鎗型抗体兵器から、
【呪詛】の炎吹き上げ、光を【受け流し】、聖母の元へ奔る。
破壊と創造は表裏一体という。ならば己は、破壊現象と化し、この創造の世界に適応するまで!

この苦しみも哀しみも全て!自分のものだ!!
奪われて堪るものか!!!

『ディスポーザブル』発動
【念動力】が霊障、崩壊霊物質を奮い破壊を強め、
ユーベルコードを、光を壊しその身へ鎗を突き立てる!

戦い壊す事こと我が望み。救いたいと思うのなら奪うな!
まず貴様が|救われろ《壊れろ》!!オブリビオン!!!

突き立てた鎗から内部へ、炎を流し込み、【焼却】
万物を壊し、焼き尽くせ。



 穿たれたローブの奥にある体は虚そのものだった。
 何もない。
『紋章つかい』の為した研究の果て。
 それが『慈悲亡き聖母』の体であった。形骸化した願いと思い。救済しなければと説きながら、生命を奪うことをやめられない狂気。
 あるのは悪性。
 どうしようもない邪悪。
 しかし、暗闇を認識するために光が必要であるように、彼女の中にも一粒の良心と後悔が内在している。
 猟兵たちの言葉は、確かに届いている。
 己たちに迫る極光の如き光は、徐々に力を弱めている。

「私の救済を拒むのは、生命の果てを拒むことと同義。救われたいのならば、死するべきです。私は奪います。生命を奪います。救うために奪います。奪って、殺して、そして」
 彼女の脳裏に浮かぶのは一体なんであっただろうか。
 揺らぐ頭の中で答えはでない。
 いや、確かに救っているのだ。生命を奪うことによって。だが、それを否定する声が響き渡る。
「これが救いであるものか!」
 朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は人口魔眼を燃やすように輝かせながら『慈悲亡き聖母』を見据える。
 己の中にある闘争心という名の破壊衝動を胸にくべる。
 手にした槍が炎を噴き上がらせる。
 呪詛の炎。
 生命を弄ぶ者へと向ける怒りと憎悪。
 迫る光を切り裂くようにしながら小枝子は走る。迸る呪詛を持って、あらゆるものを切り裂く。

 破壊の化身。
 それが己である。それしかできない。
 破壊と創造は表裏一体である。破壊があるから創造が生まれる。創造があるから破壊が在る。
 終わりなき輪廻そのもの。
 永劫に続くというのならば、己は。
「自分は破壊現象そのもの! この地獄を創造する世界を壊して適応するまで!」
「この光の中で滅びぬ生命など。生命ではない。生命ではない。救われぬ生命などあってはならない」
『慈悲亡き聖母』の闇を溶かしたかのような伺い知れぬ無貌が小枝子を見据えている。

 そう、小枝子は生命ではない。
 生命の埒外。
 猟兵にして悪霊。
 すでに生命はなく。形骸化したというのならば『慈悲亡き聖母』と同じであったのだろう。けれど、決定的に違うことがある。
「世界には哀しみが、苦しみが満ちている。どうしようもないものばかりで、人は嘆く。それを救済するためには死しかありえない。なのに」
「この苦しみも悲しみも全て! 自分のものだ!! 奪われて堪るものか!!!」
 小枝子の瞳がユーベルコードに輝く。
 この生命が壊れても、と叫ぶ声がある。
 それは呪詛そのものだった。

 霊障が迸る。
 念動力が崩壊霊物質を奮い、彼女の体を狂霊へと変貌させる。闘争心は炉に焚べられた。後は燃やすだけだ。
 すべてを燃やし尽くしてなお、尽きぬ炎があると知らしめるのだ。
 手にした槍が創造の地獄を打ち砕く。
 ひび割れ、砕ける世界の最中を小枝子は飛ぶようにして走る。
「戦い壊す事こそ我が望み。救いたいと思うなら奪うな!」
「私は救うために命を奪う」
「あくまでそういうのならば、まず貴様が|救われろ《壊れろ》!! オブリビオン!!!」
 放つ槍の一撃が『慈悲亡き聖母』の胸を穿つ。
 虚の如き胸。そこに吹き荒れる炎が万物を破壊するかのように迸る。煌めく輝きは、『浸蝕迷宮城』の壁面を吹き飛ばし、命なきものにさえ、その輝きが宿ることを示す――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
歌うのでっす。
祈りを込めて歌うのでっす。
笑顔とともに歌うのでっす。
藍ちゃんくんを救えるのは究極的には藍ちゃんくんだけなのでっす。
お姉さんもそうなのでしょう。
お姉さんが救われるには、苦しみだと哀しみだと思っている生を、ほんのひととき、一瞬でも、良かったと、生きてて良かったと思えねばならないのでっす。
ですのでええ。歌と笑顔を贈るのでっす。
悲痛ではないのでっす。
この歌はお姉さんに異常を与えるものでもなければ、動きを縛るものでもないのでっす。
心をほんの僅かでも、哀しみより解き放つ歌なのでっす!
お姉さん。
お姉さんの光はとても綺麗なのでっす。
極光、それでも、どこか暖かい光で。
藍ちゃんくんは笑顔なのでっす!



『浸蝕迷宮城』の壁面を吹き飛ばす炎があった。
 吹き荒れているのは『慈悲亡き聖母』の内部より炸裂するユーベルコードの輝き。
 炎の奔流の坩堝にありて、なお彼女の無貌は歪むことなく。
 されど、彼女は炎を極光によって吹き飛ばす。
「私の救済を。私がなすべきことを。私が奪うものは――」
 生命。
 人の死をもって開放と為す。
 それだけが、この常闇の世界にあって救済足り得るのだと言うように。

 だが、戦場に歌が響く。
 場違いなほどの歌声であったことだろう。
 この常闇の世界。ダークセイヴァーにおいて、歌は響かない。鎮魂歌すら響かない。人々は虐げられ続ける。
 奪われ続ける。
 歌を歌う余裕すらない。
 歌という概念すらあるのかさえ、怪しい。けれど、それでも紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は歌う。
 高らかに歌う。

 祈りを込める者がいないのならば、祈りを込めて。
 笑顔の意味すら忘れた者がいるのならば、それを思い出させるように笑顔と共に歌う。
 己があるがままの祈り、願い、心。
 その全てを込めた理屈も条理も超越した穏やかで優しい歌。
「音が響いている。私には聞こえない音が私の虚の如き体躯を揺らす」
「あなたに届け。藍ちゃんくんは、自分だけが自分を救えると知っているのでっす。そして、お姉さんもそうなのでしょう」
 歌う。
 歌うことだけが藍だった。

 そこにあるのは祈りと願い。
 しかし、人の生において、そればかりでないことも知っている。善性があるから悪性があるように。
 哀しみがあって、喜びがある。
 苦しみがあって、楽しさがある。
 怒りがあって、優しさがある。
 そうして人は生きて行くのだ。故に、藍は告げる。
「お姉さん自身も救われたいと思っているから、その救済を行なうのでっす。でも!」
 藍はまっすぐに瞳を向ける。
 目をそらしてはならない。あの無貌たる暗闇を直視しなければ、己は歌えないと思ったのだ。そうしなければならないと思ったのだ。

「苦しみだと哀しみだと思っている生を、ほんのひととき、一瞬でも良かったと、生きててよかったと思えねばならないのでっす」
「そんなものはない。生命には苦しみと哀しみだけが満ちている」
「いいえ、だから人は歌と笑顔を贈るのでっす。こうやって」
 悲痛な叫びも。
 哀しみと恐怖を癒やす歌声。

 おやすみ、と誰かに囁くように藍は歌う。
 肉体を縛ることも、傷つけることもない。心の中にあるほんの僅かな良心。『慈悲亡き聖母』をしばり続ける哀しみ解き放つ歌。
「お姉さん。お姉さんの光はとても綺麗なのでっす」
 極光。
 数多の命を奪ってきた光。

 だというのに、それを藍は綺麗だと言った。まばゆく。元は穏やかな光であったはずだと藍は告げ、歌う。
 いつからだろう。
 この光が誰かの生命を奪うようになったのは。
『慈悲亡き聖母』はわからなくなっていた。
 記憶は摩耗して消えていく。
 だからこそ、藍は示す。
「これがいつかの誰かの笑顔ではなく、今の藍ちゃんくんの笑顔なのでっす! 最後の一粒しか残っていないというのなら、この笑顔を手向けとするのでっす!」
 歌って、歌って、謳い続けて、得られる未来があると知るがゆえに、藍は高らかに歌うのだ。
 その一粒をどうかと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
POW
アドリブや連携大歓迎だ

「救えなかった苦しみはよく分かるよ。
けどな!殺すことが苦しみからの解放ってのは違うはずだ!
それから守る為にかつてのアンタも戦ったはずだろ!
思い出すんだ聖母さん!」
力一杯叫びながら攻撃を[気合い]で捌き、[オーラで防御]する

勢いが弱まったなら、UCを発動
どこからともなく降り注ぐ陽光を全身で吸収して燃え上がる
「アンタにもう一度みせてやる!
コレがかつてアンタが成してきた救いで、救われた人の意志だ!」
かつて助けられた人達の意志が
こもった炎を握りしめて、
聖母に一撃を叩き込む
それと同時に伝える

「アンタが成したいことは俺が継ぐ。
だから、もう眠りな。」
最後にキックを叩き込んで決着だ



 空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は諦めない。
 どんな状況にも、敵にも。
 諦めとは足を止めることだ。絶望にも勝る敵であることを彼は知っているからこそ、誰かを守るために、助けるためにこそ駆け出す。
 赤い鎧は心まで守ってはくれない。
 けれど、己の心に燃える炎は、己の心を傷つけるものを退ける。
 其の源を彼は知っているからこそ、叫ぶのだ。
「救えなかった苦しみはよく分かるよ。けどな!」
『浸蝕迷宮城』の壁面を吹き飛ばす程の激しい戦い。

 その最中に『慈悲亡き聖母』は無貌をブレイザインへと向ける。
「殺すことが苦しみからの開放ってのは違うはずだ! それらから守るためにかつてのアンタも戦ったはずだろ!」
 思い出せと叫ぶ。
 その叫びは届かない。
 わかっていたことだ。どうしたってあの『慈悲亡き聖母』は狂い果てている。
 終わりなき救済の行く末を知らず彷徨い続け、生命を奪い続けてきたのだ。そこに彼女の自身の救済はない。

 あるのは、滅びの末路だけである。
 けれど、それでもと清導は思う。ブレイザインでもなく、猟兵でもなく、人間である己が思うのだ。
「思い出すんだ!」
「私の救済は終わらない。思い出すことなどない。私の救済はただ最初の一粒」
 ぎしり、と動きが止まる。
 最初の一粒。
 良心の、一欠片の、それを彼女は思い出せない。
 思い出せないけれど。
「アンタにもう一度見せてやる!」
 清導の瞳がユーベルコードに輝く。
 
 積層世界において存在しない太陽の光。その熱と光を吸収して増大した炎を纏ったブレイザインが『慈悲亡き聖母』と真っ向から激突する。
 迸る炎と光。
『慈悲亡き聖母』の体を吹き飛ばし、押さえつけながら突進し続ける。
「コレがアンタが為してきた救いで、救われた人の意志だ!」
 握りしめた拳は、怨嗟でも呪詛でもない。
 清導がこれまで救ってきた者たちの願いと声援であった。共に戦う者たちもいた。誰もが懸命だった。
 生命を擲つことも。生命を捨てることも。
 何もかも等しいとは言えない。言えるわけがない。全ての生命が平等だとも言えない。そもそも生命という目に見えぬものを重さで語る事自体がナンセンスなのだ。

 けれど、思う。
 人の命を思う。それが尊いものだと、不当に奪われてはならないものだと心から思うからこそ、人は誰かを思うことができるのだ。
「それが!」
 優しさだというのならば、強い力だけに意味はない。
 己のユーベルコードは誰かの優しさでできている。膨れ上がる炎が拳から発露し、『慈悲亡き聖母』を打ち据える。
 砕けるようにして『浸蝕迷宮城』の地面を跳ねるようにして吹き飛ぶ『慈悲亡き聖母』は見上げる。
 そこにあったのは炎を纏うブレイザインの姿だった。
「アンタが成したいことは俺が継ぐ。アンタが奪うのなら、俺は与えるために、誰かが安心して眠れる夜のためには!」
 空に飛ぶブレイザインが急降下と共に蹴撃を放つ。

 それは『慈悲亡き聖母』の齎す救済を否定し、嘗てありしひと粒の良心をこそ引き継ぐようにして、彼女の体を砕く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…オブリビオンとなった時点で、元となった存在から歪められている

…だから、かつてのお前がどんな存在だったのか知らないし興味も無い

…それでも真に救済を願うならば、胸裏に刻まれた"何か"があるのならば応えてみせなさい

…私はリーヴァルディ。人類に今一度の繁栄を、そしてこの世界の救済を誓う者

…お前は何を望む?その狂いに狂ったその心に何を願う?

研ぎ澄ました第六感で捉えた敵の殺気から動きを先読みして見切り、
最小限の動作による早業で攻撃を受け流しながら問いを投げ掛けUCを発動
吸血鬼化した自身の生命力を吸収し限界突破して血の魔力を溜めた血晶剣で切り込み、
超威力の斬撃のオーラが防御ごと敵を破壊する闇属性攻撃を行う



 炎の蹴撃が、砕けた『浸蝕迷宮城』の地面を吹き飛ばしながら『慈悲亡き聖母』へと叩き込まれる。
 すでに壁面は吹き飛んでいる。
 戦場と呼ぶにはあまりにも破壊が進む。しかし、『浸蝕迷宮城』は蠢くようにして膨れ上がっていく。
 崩れた壁面すら修復するように。
 そして、『慈悲亡き聖母』は立つ。
 虚の如きローブの下の体躯をさらし、無貌の如き顔を猟兵たちに向ける。
「私の救済を阻む者たち。私が齎す救済を待つ者たちがいるのならば、私は」
『慈悲亡き聖母』のユーベルコードが輝く。

 極光が戦場を照らす。
 あまりにも強烈な輝き。
 それはあらゆる異常を反射する力。搦手など意味をなさぬと言わんばかりの力に猟兵たちはたじろぐかもしれない。
 否である。
 たじろぐことも、ためらうこともない。
 ただ前に突き進む。
 眼の前の存在はオブリビオンになった時点で歪められている。過去という体積はあらゆる存在を歪めるほどの重さを持っているのならば、それも当然であろう。
「……かつてのお前がどんな存在だったのか知らないし興味もない」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は告げる。
 研ぎ澄ました感覚が教える。

 敵は確かに強大であるが、しかして猟兵たちの攻勢を前にして消耗している。そして、揺らいでいることもわかる。
 明らかに敵の攻撃力が低下している。
「……それでも真に救済を願うならば、脳裏に刻まれた“何か”があるのならば応えて見せなさい」
 リーヴァルディは息を吸い込む。
 輝く瞳を持って見据える。己の生命力を血晶の十字剣へと変換し、その鋒を向ける。ただそれだけでいい。
 己もまた救済を齎すために戦う者。
 ならばこそ、この戦いには意味がある。

「私は救いたいだけです。生命の持つ苦しみ哀しみから開放したいだけなのです。そうすることしか私には残されていない。死は救済。生命がなくなるのならば、苦しみも悲しも広がることはない。世界を満たすことはない。だから」
「……だから奪うというのね。生命を。救済と言うのね、それを……」
 リーヴァルディは踏み込む。
 己に迫る影の斬撃さえも、火花ちらしながら鮮血の十字剣でもって切り払う。

 己の吸血鬼の血に宿る無限大の生命力は尽きることはない。
「……私はリーヴァルディ」
 告げる名は、救済を誓う者の名。
 人類に今一度の反映を願う者。
 その願いと願いとが激突する戦場にありて、彼女は十字剣を振るう。目にも留まらぬ斬撃は、ただの剣の斬撃ではなかった。
 単純な膂力の差ではない。
 ユーベルコードの輝き。

 彼女の身に宿る吸血鬼の力の開放。
 限定解放・血の皇剣(リミテッド・ブラッドキャリバー)は『慈悲亡き聖母』が纏う加護すら断ち切る。
 いや、完全に破壊してみせるのだ。
「……お前は何を望む? その狂いに狂った心に何を願う」
「私は」
 狂っている。
 ひと目見て分かる。あれは歪み果てた上に狂い果てている。
 自身でそうなったわけではないのだろう。一粒の良心が残るからこそ、あのようにどうしようもなく狂い果てたことをりーヴァルディは知る。
 そこに彼女は感情を抱かない。

 それが意味のないことであると知っているからだ。
「救済を! 全ての生命に哀しみと苦しみから逃れるための死を!」
「……お前の前には私が立つ。そして、私の前には過去は立たせない。ならば……灰は灰に。塵は塵に」
 来たれよ、とユーベルコードの輝き解き放ちリーヴァルディの振るう十字剣が瞬く間に『慈悲亡き聖母』の虚の如き躯体に鮮烈なる十字斬撃を見舞う――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塔・イフ
アドリブ連携歓迎


苦痛に満ちた記憶
それは本当に、『救い』であるのかしら?

いいえ、そんなわけないわよね

だって、わたしたちは……魂人は、死ねないのだもの
死んでもなお、生を望んでいるのだもの
生を望んでいる存在を殺し続ける、それは永劫の苦痛
救いなんかじゃないわ

思い出して
心から、苦しむ人を救いたいと願っていた、その頃を
あなたを微笑みに満ちて見つめる、
笑顔を浮かべて花を差し出してくれる、そんな存在がいたはず
どうか、|誰かを苦しめ続ける存在《わたしみたい》に、ならないで

『La Sylphide』で花を舞わせ、少しでもその情景を思い出せるように
そして鋭い蹴りを食らわせるわ



 吹き荒れる戦いの風があった。
 炎と衝撃と、血潮。
 いずれも哀しみと苦しみだけが広げる惨禍と言っても良い。
『慈悲亡き聖母』が叫んでいる。
 引き裂かれたローブの下は虚の如き体。無貌の顔に表情はない。
 けれど、それでも苦痛に満ちた記憶を想起させるには充分であったように、塔・イフ(ひかりあれ・f38268)は思えた。

 救いたいと願う心は歪み果てた。
 狂気が歪めたのか。それとも歪んだからこその狂気か。
「いいえ、どちらも違うのね。それが救済であると本当に思っているのね。けれど……それはほんとに、『救い』であるのかしら?」
 問いかける言葉に『慈悲亡き聖母』はユーベルコードの煌めきを持って応える。
 極光。
 全てを飲み込む光。
 あらゆるものを塗りつぶすかのような輝きは、戦場を満たす。膨れ上がる『浸蝕迷宮城』は吹き飛ばした壁面や地面を覆うようにして浸蝕していく。

 その最中をイフは『慈悲亡き聖母』へと、瞳を向ける。
 輝くはユーベルコード。
「いいえ、そんなわけないわよね」
 彼女は舞うよに踊る風と共に空へと飛び立つ。見下ろす瞳にあるのは侮りや嘲りではなかった。 
 ただひたすらに哀しみだけがあった。
『慈悲亡き聖母』は死こそが救済だと言った。
 死ぬことによって苦しみ悲しみから逃れられる、開放されるといった。
 けれど、それが誤ちであることイフは、魂人たちは身を以て知っているのだ。

 死すら救済ではない。

「わたしたちは……魂人は、死ねないのだもの」
『永劫回帰』――それは己の暖かな記憶を心的外傷に変えて運命を否定する力。
 死ぬことはない。
 死ねない。
 己の中に暖かなものがわずかでも残る限り、生きることをやめない。
「死んでもなお、生を望んでいるのだもの」
「ならば、その望むものを断ち切るまでです。生命は終わらなければならない。終わらぬ生命など生命ではない。だから私は救済の光を」
「あなたが与えたのは救済ではないわ。生を望んでいる存在を殺し続ける、それは永劫の苦痛……ええ、そうよ。あなたのしたことは」
 誤ちである。

 彼女のユーベルコードは風を持って高く、高く飛翔する。己の周囲に集まる風が告げている。
 生きていたいのだと。
 暖かな記憶を磨り減らしてでも、生きることをやめられない。魂人という存在は、あまりにも苦難と苦痛に塗れた存在であるだろう。
 そうまでしてでも生きなければならない世界が、この美しき地獄であるというのならば。
「思い出して」
 イフは願う。
 何故、『慈悲亡き聖母』に一粒の良心が残っているのかを。
 何故、歪んだのかを。
 その一粒はきっと心からの願い。『慈悲亡き聖母』のかつての願い。苦しむ人を救いたいと願っていた、あの頃があるはずなのだ。
 忘れ去っても、擦り切れても、なお、輝くものをとイフは風の刃纏う蹴撃でもって『慈悲亡き聖母』へと迫る。

 纏うは風。
 そして、花びら。
「あなたをほほえみに満ちて見つめる、笑顔を浮かべて花を差し出してくれる、そんな存在がいたはず」
 どうかと願う。
 それは届かないのかもしれない。どうあっても『慈悲亡き聖母』は擦り切れている。あれがもしかしたのならば、己の終着の幻視であったのかもしれない。
 ああ、それでも願わずにはいられないのだ。
 イフは願う。

「どうか、|誰かを苦しめ続ける存在《わたしみたい》に、ならないで」
 風と花纏う一撃が『慈悲亡き聖母』を切り裂く。
 鮮血は舞うことはなく。
 ただ花びらだけが彼女に降り注ぐ。
 La Sylphide(ラ・シルフィード)は、そよ風のように『慈悲亡き聖母』の頬を撫でる。いつかの誰かがそうしたように。
 そうであってほしいというイフの願いでしかなかったのかもしれないけれど。
「これが救いだなんて言わないわ。だから」
 許さなくて良い。
 ただ、己のようにならないでという願いを込めて。もう誰かを殺さないで済むようにと、祈りながらイフは風と花と共に彼女を切り裂いた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブ

忌まわしい光ね
狂って自分の願いを見失うなんて、全く……
腹が立つほど似ているようだね、僕たちは
僕の願いはこの世界を救うことだ
痛みと苦しみの世界で、それでも生きたいという想いで、あらゆる不条理を受けたり時には与えたりする、この世界の住人たちを

お前はどうだい、苦しむなら死んで楽にしてやろうってことかい?
でも永遠に死ねない人もいるし、未来に希望を抱いた人もいたはずだろうに、それらを全部消して、心の底から満足したかい?

いいや、答えはいい
行動で示しなよ、聖母
僕はもう、決して迷わない
お前が躊躇っても迷っても、遠慮なくぶち込ませてもらう



 風と花が吹き荒れるように刃となって『慈悲亡き聖母』の虚の如き体を切り裂く。無貌たる顔に苦悶なく。さりとて憎悪も憤怒もない。
 あるのは虚空の如き暗闇だけだった。
 どうしようもなく狂い果てていた。
 何もかもが擦り切れていた。過去の記憶も。何故救済と嘯きながら人を殺すのかも。何もかも理由さえも、失せていた。
「あるのは救済の願いのみ。私は救う。苦しみ哀しみに満ちた生を送る者を死の救済でもって救うために」
 ただ救うために。
 それだけのために狂気満ちてなお、『慈悲亡き聖母』は光を齎す。

 極光。
 それはあらゆるものを塗りつぶす。
「忌まわしい光ね」
 肆陸・ミサキ(黒白を弁ぜず・f00415)は『浸蝕迷宮城』の膨れ上がる地面を蹴って走る。
 まばゆさに瞳を細める。
『慈悲亡き聖母』の願いは他者を破滅させる。殺す。皆殺しにしてしまう。救済と言いながら、やっていることは矛盾そのものだった。
 死さえ救済ではない。
 それがダークセイヴァーという世界だ。第四層で生きた者たちは、第三層に転生し、闇の種族たちにもてあそばれる。
 何処まで行っても救いはない。
 苦しみと悲しみだけが続いている。だから、なのかもしれない。

「狂って自分の願いを見失うなんて、全く……腹が立つほど似ているようだね、僕たちは」

 ミサキは赤と金の瞳でもって『慈悲亡き聖母』の無貌を見据える。
 アレが己の行く末なのかもしれない。
 手を伸ばすものを見失って、なお、それでも手を伸ばし続けずにはいられない。
「僕の願いはこの世界を救うことだ」
「ならば死こそが救うことになるのです。救わねばなりません。死をもって救済しなければなりません」
 満ちる極光の中をミサキは、己の血潮を振るう大鎌の斬撃を『慈悲亡き聖母』へと振るう。
「この世界はあらゆる不条理に満ちている。だから、僕は願う。この世界で生きる住人たちを救いたい。世界まるごと救いたい」
 火花散る影の腕と大鎌の刃の激突。
 打ち合う度にミサキの腕が軋む。

 痛みが、苦しみが襲う。
 けれど、ミサキは躊躇わなかった。己の躯体はどうなってもいい。
「お前はどうだい。苦しむなら死んで楽にしてやろうってことかい? でもね、永遠に死ねない人もいるし、未来に希望をいだいた人もいたはずだろう」
 ミサキは思う。
 この世界の人々を思う。
 それは詮無きことであったかもしれない。無意味であったかもしれない。ただのエゴでしかないのかもしれない。
 けれど。
 ああ、けれど。懸命に生きる人々の声をミサキは知っている。どれだけの絶望不条理無念に満ちたのだとしても、彼等は。

「生きていたんだよ、彼等は。それらを全部消して、お前は心の底から満足したかい?」
「私は」
「いいや、答えはいい」
 ミサキの瞳がユーベルコードに輝く。
 己の利き腕を振るう。大鎌は影の斬撃によって弾かれた。宙を舞うそれに手を伸ばす暇はない。そんな暇があるのならば、ミサキは迷うことなく己の拳を叩き込む。
 もう迷うことはないのだ。
 ためらいなど意味がないことを嫌というほど知った。そのためらいの最中に掌からこぼれ落ちていく生命があると知っている。

「行動で示しなよ、聖母。お前がためらっても迷っても」
 くれてやる、と彼女のユーベルコードは彼女の腕を赫灼たる絶焼(カクシャクタルゼッショウ)へと変える。
 拳の一撃。
 ただの拳。されど、それは彼女のこれまでの道程を示すものであった。
 焼き焦がすほどの光を放つ一撃は『慈悲亡き聖母』へと叩き込まれる。迷い、失い、倒れ伏してなお立ち上がってきた道が今ミサキの足を支える。
 後悔も怒りも悲哀も何もかもが彼女の背を押すのだ。
「遠慮なくぶち込ませてもらう」
 振るう拳が『慈悲亡き聖母』の無貌へと叩き込まれ、焼き焦がすほどの光を戦場に明滅させた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・スペルティナ
ふふーん、痛みや苦痛は慣れっこですのよ!『ブルートヴァッフェ』で切り結びますわ。
でも焼かれ続けるのは御免なのでUC【告死呪装:血の底に澱む冥呪】を!
後は周囲の負の感情…怒りも、嘆きも、悲しみも、奪い貪り取り込みながら、
UCによる回復任せでの打ち合いですわ!

……時に生きる辛さから「死」に逃げたくなっても、
ヒトは「何かを成し遂げられないまま終わる」事を恐れるものですわ
だから死者達の無念や未練の“声”がこの世界には溢れているのだし……

なにより、貴女自身が「何かを成し遂げられぬまま消える」事を恐れているからこそ、
今も怒りや嘆き、悲しみの感情を冥呪に食われ失いながらも抵抗を続けてるんじゃありませんの?



 万物を灼く光が降り注いでいる。
 それは猟兵のユーベルコードに撃ち抜かれた虚の如き体躯より発せられるものであり、無貌たる顔からも噴き出すものであった。
 炸裂した光は、それが『慈悲亡き聖母』の元より持っていた一粒の良心の発露であることを知るだろう。
 人を救わなければならないという心。
 其の手段は誤ちに満ちていたことだが、しかして、その一粒の良心だけは本物であったのだろう。そう思わなければ報われぬものである。
 だからこそ、メリー・スペルティナ(暗澹たる慈雨の淑女(自称)・f26478)は己の血を呪法によって武装として固定した剣を振るう。
「痛みや苦痛は慣れっこですのよ!」
「その苦しみ、痛み、哀しみ、あらゆる感情が人の生命を脅かす。だからこそ、私は救うのです。死によって救済するのです。そうすると決めたのです」
 吹き荒ぶ光。
『慈悲亡き聖母』より放たれる光は容赦なくメリーへと襲いかかる。

 だが、メリーの瞳がユーベルコードに輝く。
 確かに万物を灼く光は強烈であったことだろう。耐え難い苦痛が身を襲うだろう。けれど、メリーは告死呪装:血の底に澱む冥呪(ニーズヘグ)を持って、これを切り裂く。
 周囲に満ちる呪詛。
 負の感情。
 それは『慈悲亡き聖母』を取り巻くものであった。
「……時に生きる辛さから『死』に逃げたく成っても、ヒトは『何かを成し遂げられないまま終わる』ことを恐れるものですわ」
 名を成さしめることなく死することを憂うように。
 後世に何も残せぬままに死ぬことを恐れるように。
 繋ぐことのできぬままに徒に生命を消費すること。それは生命の至上命題であるとも言えるだろう。そうしなければならないという原初の命令じみた、それに突き動かされてヒトは生きる。
 それをメリーは実感している。

「だから死者達の無念や未練の“声”がこの世界にはあふれているのだし……」
「だから私が救おうというのです。この世界に満ちる全ての苦しみと哀しみから私が『死』をもって救済しようというのです」
 その言葉をメリーは聞き、見据える。
 無貌より放たれる光。
 明滅するユーベルコード。
 ああ、とメリーは息を吐き出す。周囲に満ちる呪詛や負の感情は『慈悲亡き聖母』に殺された者たちの嘆きではない。
 眼の前の『慈悲亡き聖母』より放たれるものである。
 それを己の呪血の竜鎧が食らう。

「貴女自身が『何かを成し遂げられぬまま消える』事を恐れているのですね」
 メリーは無貌を見つめる。
 そこからは何の感情も読み取れない。けれど、彼女のユーベルコード、己の身を覆う竜鎧が砕く感情は理解できる。
 負の感情と呪詛のみを取り込む鎧。
 そして、この場にあるのは『慈悲亡き聖母』の感情のみ。
 この世界を呪う声。
 これが、人の末路。誰かを憎まずにはいられず、傷つけずにはいられず。さりとて、それを拒みながらも飲まれていく。

 そうして繋がれていくのだ。
 怨嗟に。
「ならば、わたくしは死者の想いを貪り、そして終末の刻までその呪いを背負う者」
 振るう呪血の剣が『慈悲亡き聖母』の体を切り裂く。
「今も怒りや嘆き、哀しみの感情を発露するものよ。抵抗するのは、何故なのか。あなたが恐れるからこそ、それは答えとしてわたくしの中に入り込んでくる」
 メリーの振るう一撃が虚のごとき体躯を切り裂く。
 一粒残った良心。
 それが最初の未練であったというのならば、弄ぶものがいる。そうあるようにと狂気に捕らえた者がいる。
「ならば、あなたの良心もまたわたくしが繋いでゆきましょう――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

董・白
ここがダークセイバーですか…。
話には聞いていましたが、死すら安息を生まぬ世界とは…なんと悲しいことか…。
僵尸の私が言えた義理もない突っ込むもありそうですけど…。

どんなに貴方に同情しても、私たちにはあなたを止めることしか救えません。故に…。往きます!!
『環境耐性』の術式を組んだ『道術』の『オーラ防御』を展開します。
天地創造の地獄がどんな地獄でも…私たちは歩みを止めません。
宝貝「太極符印」を発動させます。
『破魔』効果を込めた『属性攻撃』による炎と雷の津波であなたの罪を洗い流します。

狂気にとらえられるほどのあなたの良心は私たちが受け継ぎました…
今は…せめて祈ろう…汝の魂に安らぎアレ…。



 常闇の世界ダークセイヴァー。
 ヴァンパイア支配盤石たる世界であり、また積層世界でもある。人々が地上だと思っていた陽光灯らぬ世界は第四層。
 虐げられ、絶望に沈む生命は死を救済とするだろう。
 死こそが苦しみ哀しみからの開放であり、最後の手段でしかなかった。しかし、彼等にとっての地獄は此処から始まるのだ。
 死した後、彼等は第三層へと転生を果たす。
 美しき光景。
 されど、それは地獄でしかないことを彼等は知るだろう。魂人となりて死の運命を否定する『永劫回帰』の力を持つがゆえに彼等は死ぬことを許されない。
 暖かな記憶を磨り減らし、摩耗し、一片残らず潰されてもなお、闇の種族の玩具となる。
「故に『死』こそが救済。救わねばならないのです」
『慈悲亡き聖母』の言葉が響く。

 猟兵たちより受けたユーベルコードによってローブの下の虚の如き体躯から光が噴出している。
 無貌の如き顔は、何も浮かべず。されど、亀裂走るそこからは光が漏れ出す。
「……なんと悲しいことか……」
 僵尸たる董・白(尸解仙・f33242)は嘆くことしかできなかった。
 死すら安息を生まぬ世界。
 己が死した後に蘇生したことは、生への執着故である。
 生きたいという願いは、正しいことだ。生命として当然のことである。誰に咎められることもないはずだ。
 だが、『慈悲亡き聖母』はそれを是としない。
「生命あるからこそ嘆き苦しまねばならないのです。生命さえなければ、そんな苦しみも、哀しみも、ないはずだというのに」
 万物を灼く光が噴出する。

 炸裂するユーベルコードのかがやきを前に白は彼女に対して同情めいた感情を抱くものであったことだろう。
「どんなに貴方に同情しても、私達にはあなたを止めることでしか救えません」
 一欠片の、一粒の良心があるかぎり『慈悲亡き聖母』は狂い続ける。
 拭っても拭っても拭いきれぬ良心。
 それが在るがゆえに『慈悲亡き聖母』は狂ったのだ。
 どうしようもないことだ。完全なる邪悪などなく。また完全なる善性もまたないのである。
 故に、狂う。
 その狂おしいまでの一点こそが猟兵たちにとって『慈悲亡き聖母』に付け入る隙でもあったことは皮肉であるとしかいいようがない。
 けれど、白は思う。

 どんな狂気が目の前にあるのだとしても。
「それでも私は生きていたい」
 だから、と彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
 宝貝「太極符印」(パオペエタイキョクフイン)が展開する。目の前にあるのは天地創造の地獄。
 あらゆるものを灼く光。
 それを前にしても白は歩みを止めない。
 進む先が地獄であったとしても、白は生きることをやめない。どこまでも続く地獄であっても、それでも彼女は生きる。生きて、生きて、生きて生き続ける。それこそが己が僵尸となった原初にしてたった1つのことだなのだ。
 誰にもコレは否定させはしない。

「破魔たる力を炎と雷によってあなたの罪を洗い流しましょう」
 吹き荒れる雷と炎。
 それが大波のようになって『慈悲亡き聖母』へと迫る。
 すでに『浸蝕迷宮城』は半壊している。だが、未だ蠢くように膨れ上がって、その威容を保とうとしている。それを白の放つ炎と雷の大波が吹き飛ばしながら『慈悲亡き聖母』へと殺到する。
「私の罪? 救済を行なう私に罪在りと!」
「ええ。あなたのそれが救済ではないと否定することが私の生きること。故に」
 それは狂気。
 囚われた良心は一粒。されど、ただ一つのこと。故に白は、それを受け取るように祈る。制御難しきユーベルコードは、祈りを発露させる。
「汝の魂に安らぎあれ……」
 せめて、と思う。
 その心は、きっと生きるという執着と同じものであった。生きることは死に進むこと。ならば、その先にあるのがやすらぎであって欲しい。
 例え、目の前の存在が敵であっても。
 それでも一粒の良心を垣間見たのならば、白はそう祈らずにはいられないのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・タタリクス
|善性《青》とか|悪性《赤》とか聞きますと
どうにも見過ごせない性分になってしまいました
これも|エイル様《主人様》の影響ですね
いずれ責任を取って頂かないと(くねくね)

それでは
ステラ、参ります!

今が『慈悲亡き』ならば、貴女にも亡くす前があった
そして|慈悲《善性》と|滅び《悪性》の間を揺らぐならば
その揺らぎこそが貴女の|祈り《願い》
どのような形であっても目の前の存在を救いたいのですね
ですが本当は何を救いたいのですか、貴女は?
いえ、もしかして…救われたいのですか?
であるなら
僭越ながら私が慈悲を与えましょう
【トニトゥルス・ルークス・グラディウス】
その揺らぎこそが生命の本質
貴女もまた生きたかったのですね?



 半壊した『浸蝕迷宮城』の中、『慈悲亡き聖母』はユーベルコードの輝きに飲まれる。
 吹き荒れる力は、彼女の一粒の良心によって増幅されるように虚の如き体躯の中で膨れ上がって内部より彼女を傷つけるだろう。
 良心。
 それは揺れ動くもの。
 人に悪性と善性があるがゆえに、生まれるもの。
 総量は関係ない。例え、永遠に続くかのような暗闇の如き悪性が横たわるのだとしても。一点の染みの如き善性があるのならば、それは生まれるものであるからだ。
「|善性《青》とか|悪性《赤》とか聞きますと、どうにも見過ごせない性分になってしまいした」
 ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は思う。
 人の心にあるもの。
 内在するものの割合は変えることができる。それは良心というものが宿っているからだ。故に人は、その心の有り様を持って悪性にも善性にもなり得る。
 それを良心と呼ぶのならば、なんたる愚かさでろうか。
 いずれ、このような哀しみが広がっていく。だが、同時に優しさもまた存在するのだ。強いだけの力に意味はない。
 優しさこそが必要なのだ。

 故に、とステラは叫ぶ。
「ステラ、参ります!」
 己に影響を与えた者がいるように。『慈悲亡き聖母』を狂気に落とした者もまた存在するのである。
「今が『慈悲亡き』ならば、貴女にも亡くす前があった」
「私刃すくい続けてきた。多くを救ってきた。救済の光は此処に在りて」
 満ちる極光。
 それが戦場の全てをあまねく照らす。
 皮肉なことだ。この常闇の世界にあって、極光は目を焼くほどに眩しいものだった。強烈すぎる光は、人を焼く。生命を灼く。
「|慈悲《善性》と|滅び《悪性》の間に揺らぐ。その揺らぎこそが貴女の|祈り《願い》」
 ステラの瞳がユーベルコードに輝く。
 灼熱の光が降り注ぐ中、己の心臓たる天使核に接続されたるは、雷光の剣。
 迸るユーベルコードの輝きは、己の心臓より放たれる無尽蔵のエネルギー。

 誰もが救われたいと思っている。
 報われたいと思っている。
 そうであってほしいと願うだろう。誰もが求めるだろう。けれど、世界は無慈悲だ。そこに慈悲というものはない。
 世界はただ在るだけだ。人に何かをしてくれることはない。だから、『慈悲亡き聖母』は救済をもたらそうとしている。その方法があまりにも狂気に落ちているのだとしても、それを認めてはならないのだ。
「私の願いは救済のみ。苦しみ哀しみからの救済。即ち『死』のみ」
「どのような形であっても、目の前の存在をすくたいのですね。ですが本当は何を救いたいのですか、貴女は?」
「生命を! 苦しみに塗れる生命を! 哀しみにくれる生命を!」
 それら全てをと叫ぶ声が光に応えるようにして広がっていく。

 感情の吐露と言っても良い。
「いえ、もしかして……救われたいのですか?」
 満ちる呪詛も。怨嗟も。世界を呪うような狂気も。全て自分を救いたいからこそ、誰かを救うのだとしたのならば。
「『慈悲亡き』というのならば、僭越ながら私が慈悲を与えましょう」
 満ちる輝きは、トニトゥルス・ルークス・グラディウス――雷光迸る剣を構えたステラが斬撃を振るう。
 極光を切り裂く雷光の一撃。
 それは一点を見据える。

「良心。揺らいだそれこそが生命の本質。貴女も」
 そう、生きていたかった。
 誰かの隣にあること。誰かの前に立つことではなく。共に歩むことを望むからこそ、救済という手段を求め、そして狂い果てた。
 その末路を否定はできない。
 肯定もできない。
 だからこそ、終わらせねばならぬのだというようにステラの斬撃は『慈悲亡き聖母』の一粒の良心目掛けて振り落とされるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
「欠落」を突けば闇の種族を滅ぼす事ができる。我等の悲願にも近付くでしょう

我等が悲願、我等が怨念、死して尚消える事なく
死が救済になるならば我等はここに存在しない

何故ただ生きる事すら許されない
何故我等は死して尚戦わねばならない

我等が生への渇望を以て否定する
死は救済ではない
己も信じているならば、そのような姿にはなってはいまい
救えなかったからこそ死に縋り、信じきれずに苦しむのだ

【行動】POW
五感+第六感と野生の勘で敵の攻撃を見切り、致命傷を避ける
受けたダメージは各耐性で抑え込む
その分滾る殺意と怨念で強化したUCの速度を乗せ、加護の反射を貫く串刺し、武器伝いに怨念の炎を流し込み傷口を抉る



 闇の種族は第三層を支配する存在。
 そして、猟兵達をもってしても完全に滅ぼすことのできぬ存在でもある。しかし、ついに見つけたのだ。
『闇の種族』の弱点。
 それは『欠落』。
 彼らの強大さは、己の肉体の欠けたる部分を生み出し、えぐり抜いた部位を隠すことによって成り立っている。
 猟兵たちの歩みは確かに強大な敵を追い詰めるに至ったのだ。
「『欠落』を突けば闇の種族を滅ぼすことができる。我等の悲願にも近づくでしょう」
 西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は赤い瞳を輝かせる。
 オブリビオンを駆ることを至上とする者。
 己と犠牲者の血潮と怨念宿る炎を持って武器となし、狩るべき敵を求め戦場を渡り歩く。

 たとえ、目の前の『慈悲亡き聖母』に良心という暗闇の中でまばゆく思える光があるのだとしても。
 それでも彼のなかんいある殺意と狂気は薄まることなく渦巻いていた。
「我等が悲願、我等が怨念、死して尚消えることなく」
「その苦しみ、その哀しみ、その呪詛。それが生命を曇らせる。生命を苛むもの。ならば、私は救うのです。死をもって!」
『慈悲亡き聖母』の光が迸る。
 猟兵たちのユーベルコードの一撃を数多身に受け止めて尚、滅びは遠く。
 ひび割れた虚の如き体躯より漏れ出す光は、一層強くなっていくことだろう。
 その光を前にしても織久は言う。
「死が救済になるならば、我等は此処に存在しない」
 怨念こそが己の中にある全て。
 狂気満ちる意志も、殺意も、全て死が救済でないことの証左に他ならない。

「何故ただ生きることすら許されない。何故我等は資して尚戦わねばならない」
 その問いかけに『慈悲亡き聖母』が応えられるわけがないと知っている。
 彼女はただ死という救済を行いたいだけなのだ。
 元より存在していた良心は一粒しか残っていない。されど、その一粒を暗闇が覆い隠すことはできないのだ。
「死は救済ではない。己を信じているのならば、お前はそのような姿になってはいまい。救えなかったからこそ、死に縋り、信じきれずに苦しむのだ」
「私が苦しんでいると?」
「然り。だが、怨敵であるお前と語る言葉は最早無い」
 きらめくユーベルコード。

 確かに極光の光は織久の体を灼くだろう。どうしようもないほどの強烈であり、攻撃の範囲は広く、光であるがゆえに早い。
 しかし、織久は己の腕で致命傷を避ける。
 己の身を灼く光よりもたらされる痛みは、すでに抑え込んでいる。
 死より苦痛はない。
 死した後にさえ続く苦しみがあると知っているからこそ、今の痛みは織久を止めるに値しないのである。
 滾る殺意。
 それこそが彼の足を止めさせぬ唯一。

「我等が血に潜む竜よ、天地を遍く狩る竜翼と化せ」
 己の身に宿る竜の力。
 己の殺意と怨念とが肉体を超常の領域まで押し上げる。
 怨竜顕現(エンリュウケンゲン)たる力は、今こそ振るわれる時である。飛翔する織久の構えた大鎌の一撃が投げ放たれる。
 反射も、防護も意味をなさぬ一撃。
「私の救済を受け入れぬのだとしても、否定するのだとしても、死こそが終着であることは覆せぬ。そのためにこそ、私は」
 光を振るうのだと『慈悲亡き聖母』は言う。
 だが、織久は答えない。
 応える意味を見いだせない。眼の前に居るのは敵だ。己が殺すべき敵だ。

 どれだけ良心によって、その悪性と善性を揺らがせるのだとしても。
 眼の前の『慈悲亡き聖母』は致命的に間違えたのだ。狂気に落ち、その力を持ってただ生きることを許さなかった者。苦しみと哀しみとから開放するためと言いながら、しかしてそれを押し付けることをしたのだ。
「許せぬ」
 ただそれだけだ。
 振るう一撃が『慈悲亡き聖母』を切り裂く。身に宿す竜のちからが迸り、膨れ上がる極光をも切り裂いた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

ひっこうりつてき~!(非効率的)
でも欠落を隠そうだなんてかわいいところがあるもんだね!

●シンプルな
生きることは苦しみ!死こそ救い!
死を恐れよ!生こそ光!
どっちもまちがっちゃいないかな~?
でもそれは…そう!ケースバイケース!
いやちょっと違うかな……うーん……そうだ!
それはそれ!!これはこれ!!
うんうんこれこれ

物事を個別じゃなくて全体でじゅっぱ一唐揚げ(十把一絡げ)で考えるからこんがらがるのさ
助けたいと思ったときには助けて、そうでなければ助けない
そんなものでいいのさ!
ボクはそうしてる!

相手UCの効果が発動しないシンプルなUC『神撃』でドーーンッ!!



 己の強大さを齎すために『欠落』を生み出す。
 それが『闇の種族』が得た力の起点である。己の肉体を抉り出し、隠す。そうすることによって彼等は弱点を生み出し、またひた隠しにすることによって猟兵であっても滅ぼしきれぬ力を得た。
「ひっこうりつてき~!」
 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は『闇の種族』の為したことを非効率的だと言った。
 だが、同時に欠落を隠そうとするところもまた可愛いところなのかもしれないと彼は思ったのだ。
「わかるよ。生きるとは苦しみ! 死こそ救い! 死を恐れよ! 生こそ光!」
「故に救済を齎すのです。苦しみと哀しみしか生み出さぬ生を終わらせるのです」
「どっちもまちがっちゃいないかな~?」
 ロニはひび割れた伽藍堂の、虚の如き体躯を引きずる『慈悲亡き聖母』を見やる。

 猟兵たちの攻勢によって消耗した彼女の言葉は変わらない。
 狂気に落ち、狂い果てた彼女にとって、一粒の良心は内在すれど理解できぬものであったことだろう。
 それほどまでに擦り切れているのだ。
 彼女の最初も。
 何もかも。
 それが『紋章つかい』と呼ばれる者達による研究の果てによるものであったのかはわからない。
 けれど、ロニは頭を振る。
「でも、それは……そう! ケースバイケース! いやちょっと違うかな……うーん……そうだ! それはそれ!! これはこれ!! うんうんこれこれ」
 ロニは一人で納得していた。

『慈悲亡き聖母』の一粒の良心。
 それに訴えかけることによって猟兵たちは『慈悲亡き聖母』の力をそいできた。虚のごとき体躯に走る亀裂はユーベルコードによるものであったが、彼女の力の源を減じているのは、彼等の言葉であった。
「私の救済は終わらない。生きる者が存在するかぎり」
「物事を個別で考えていないからそういうことになるのさ。全体でじゅっぱーからあげで考えるからこんがらがるのさ」
 十把一絡げではないのだ、ヒトは。生命は。
 あらゆるものを一括りにしてしまうから、それぞれ異なるヒトの意志を理解できない。
 そして、それは『慈悲亡き聖母』にも当てはまることだろう。
 己が救いたいと思ったこと。

 その一粒の良心は、すべての人に向けられたものであった。
 そして、ただの一粒しか持たぬからこそ、彼女は誤ちを冒す。どうしようもなく間違えてしまう。
 狂気に落ちたことも。
 何もかもが、そのたった一粒しか持たぬがゆえであったのなら。
「助けたいと思ったときには助けて、そうでなければ助けない。そんなものでいいのさ!」
 煌めくユーベルコードがあった。
 拳満ちる力。
 神撃(ゴッドブロー)の輝きを見上げる『慈悲亡き聖母』は何を、そこに見ただろうか。
 信心無き者にさえ神々しさを感じさせる拳の一撃。

 だが、信仰の光を持つ『慈悲亡き聖母』にとっては、如何なる光景となっただろうか。
 それは理解できないことかもしれない。
 理解したいという思いと。理解できないという思いが交錯する中、ロニはそんなことしったことではないとばかりに拳を振るう。
 炸裂する一撃は単純に重たいものであった。
「ボクはそうしてる!」
 それくらいシンプルでいいのだと言うように『浸蝕迷宮城』の膨れ上がる地面すら砕いて『慈悲亡き聖母』を吹き飛ばすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
救うことに執着する、か。そうすることで自分も救われたかったとおれは思うよ。誰だって報われたいだろうし、慈愛あるきみなら尚のこと、己の矛盾に苦しんだだろう
救いたかったという気持ちは善いことだ。その方法が悪性と言われ、それをきみは受け入れても気持ちを切り替える事はしなかった。それは良心だ

きみの光は燃ゆる太陽みたいだな。射線は命を刺し殺しただろう、白光は命を焼き尽くしただろう。けども、命に熱を与えたかっただろう。いいなそれって。おれもこの世界には光あって欲しいんだ!
だが、誇ることなく悔いるならば。慈悲に疑念を持つならば、その狂気を洗い流そう。天地万物に水は常に在り、光と共に生命を生かすからな

彼女の攻撃には怪力と貫通攻撃で対処を。天地創造の地獄には、激痛・火炎耐性で凌ぎたいかな! それと……なあ、その光。おれたちが受け継いじゃ駄目か? そうやってきみの意志は生命に行き届き、救われる。きっとな!



「私は救済する。生からすくい上げる。苦しみと哀しみとが満ちる生に意味はない。生に意味は無いからこそ『死』によって意味を成すことになる。私は」
 そうすることでしか救済できない、と『慈悲亡き聖母』は砕けた地面から立ち上がる。
 虚の如き体躯はひび割れ、光が漏れ出す。
 無貌の顔にもまた亀裂が走り、その奥にあるであろう表情を覆い隠す。
 執着するのは救済。
 その手段が致命的に間違っているのだとしても、最早彼女に止まる術はない。
 あるのはどこでも続く無間の闇。
 光をもたらし、されど死を齎す者。彼女はそうして今までも、これからも、人の生命を奪い続ける。

 それが救済であると信じているからに他ならない。
「救うことに執着する、か。そうすることで自分も救われたかったのだろうな。誰だって報われたいだろう」
 ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)は『慈悲亡き聖母』の前に立つ。
 彼女の無貌は表情を浮かべない。
 だから慮ることしかできない。
 慈愛持ち、慈悲持ち、そして亡くした者。
 ならばこそ、彼女は矛盾に狂い果てた。
 もしも、一粒の良心さえも持っていなかったのならば、『慈悲亡き聖母』を打倒する術はなかっただろう。
 
 たった一粒の良心がユーベルコードでもなければ、刃でもなく、彼女を切り裂いているのだ。
「救いたかったという気持ちは善いことだ。その方法が悪性と謂れ、それを君は受け入れても気持ちを切り替える事はしなかった。それは善い心だ」
 ギヨームは言う。
 それは偽りの無い本心だった。
 しかし、偽り無き心、言葉であっても「慈悲亡き聖母』の狂い果てた心には届かない。唯一届いたのは一粒の良心にのみ。
 それでいい。
 わかっていたことだ。

 炸裂する極光。
 それは万物を灼く光。あらゆるものを傷つけ、命を奪う光。この常闇の世界にあって、光を手繰る力でもって人の命を奪うことは皮肉でしか無い。
 人が求めたもので、焦がれたもので殺す。
 これ以上の最悪はないだろう。誰もが求めるからこそ、縋る。
「きみの光は燃ゆる太陽みたいだな」
 ギヨームは己の肌を貫く光に呻く。
 痛みが走る。白光は生命を焼き尽くさんとばかりに彼に襲いかかり、しかし熱を帯びる。
 ギヨームにはわかっていた。

 この光は与えたかったものであると。
「熱を与えたかったんだろうな。この常闇の世界に、光があることを示したかったんだろう。時にそれは篝火のようにも思えただろうし、寒さを紛らわすための熱でもあったのだろう。ああ、まるで君はプロメテウスのようだ」
 だが、致命的に間違えている。
 その光は生命奪う光。
 暖かさを与えるつもりで殺してしまっている。多くを。無辜なるを。
 罪と呼ぶのならばそうだろう。
 けれど、いいな、とギヨームは思ったのだ。痛みに喘ぎながら。それでも、ギヨームは、その熱を善いことだと思ったのだ。

 だって、この世界は常闇だ。
 何処まで行っても空はなく。あるのは天上ばかり。月光浮かべど、それは熱を放つことはない。
 だから。
「おれもこの世界には光あって欲しいんだ!」
 ギヨームの瞳がユーベルコードに輝く。
 手にした銀の装飾煌めくレイピアが、火を灯す。熱を帯びた大気がギヨームの頬を撫でる。笑う。笑ってしまう。戦いに際しての高揚ではない。
 この熱を、この暖かさを知っているからこそ、焦がれるのだ。
「私の光は救済そのもの。何かを温めるものではない。この世界には、闇ばかりが広がっている。暗闇は哀しみと苦しみを呼び込むもの」
 だから、と『慈悲亡き聖母』は光を手繰り、その熱でもって生命を焼き切らんとする。
「私は私の中にある良心をこそ焼き切るべきだった」
「それを悔いているというのなら! 慈悲に疑念を持つならば、その狂気を洗い流そう」

 ギヨームの言葉ともに噴出するは、高圧力によって打ち出される熱湯。圧力は熱を生み出す。摩擦と言っても良い。
 放たれる熱。
 それは天地万物に満ちる水を介して、光と共に生命をう活かすものである。
 されど、その熱は『慈悲亡き聖母』にとっては、強烈な一撃となって彼女の体を吹き飛ばす。
 体が動かない。
 己が怯んでいることを彼女は知っただろう。
 何に。
「私は」
「……なあ、その光」
 ギヨームに、『慈悲亡き聖母』は怯む。
 あれだけの光を受けて尚、己の前に立つ者。立ちふさがる者。
「私は、私は、私は!」
「おれたちが受け継いじゃ駄目か?」
「これは私の救済。私の光。私がしなければならないこと。私が生命を救済する」
 迸る光。
 狂気の果に縋る者。されど、ギヨームは受け止める。光を受け止め、炎宿す刀身の鋒を向ける。

 熱が迸る。
「何もかも一人ではなできないことなんだよ。人であるのならば、なおさら。けれど、君の意志は広がっていく。誰かを救いたいという気持ちは、誰にも否定できないものだ。だから」
 だから、とギヨームは刀身の鋒をもって『慈悲亡き聖母』を貫く。
「君の意志は生命に行き届くだろう。その狂気に落ちた思いも、救われる」
 どれだけ望んでも得られなかったものがある。
 救済。
 誰かを救いたかったという報われぬ良心。その一粒に多くの猟兵たちが手を伸ばした、差し伸べた。
 そうすることが人の善性であるというように。
 悪性宿し、拭えぬそれがあれど。
 しかして、善く在りたいと願う心があるのは悪性あればと知るがゆえに。
「きっとな!」
 だから、とギヨームは受け継ぐ。誰もが心に良心を宿せるように。
 誰かのためになりますようにと願う心が途絶えぬように。

 この美しき地獄に在りて尚、輝くものは極光ではなく。
 人の良心であると示すように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月04日


挿絵イラスト