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白刃必踏~血風に/ハナを散らすは/雪桜

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●サムライエンパイア
 はらはらと、早咲きの桜が夜風に散る。
 通りに軒を連ねる店々は、すべて戸を固く閉じていた。
 夜ならばさもありなん。だが呑処や宿の類もこれ総て、とは些か異様だ。
 宵の口である。本来ならば、往来を酔客どもが行き交う頃合い、風流を愛でる頃合い。
 寒々しき通りを征く影はあれど、それらは生者にあらず。
 否、人ですらない。
 刃を携えし物神たちが、桜吹雪の中をそぞろ歩いていた。

●グリモアベース
「てなわけで、オブリビオンを、倒すのだ」
 グリモア猟兵、ムルへルベル・アーキロギアはなぜか七五調で言った。
「……うむ! 俳句とは素晴らしい文化であるなあ。こんなものがあるとは。
 ああすまぬ、サムライエンパイアの文献を漁っていたらつい興味を惹かれてしまったのでな」
 さて、と気を取り直し、古びた書物を閉じた。
「オヌシらが向かう場所は『雪桜の里』と呼ばれる宿場街である。
 ワガハイが調べたところによると、ここは昔、合戦場であったそうな」
 数多くの武具が火花を散らし、屍とともに朽ち果てた。
 それから、この街ではそれはそれは見事な早咲きの桜が見られるようになったという。
「桜のたもとには死体が眠る……というわけではないが、まあそれも今は昔。
 この季節は花見客でさぞかし賑わうはず、なのであるがなあ」

 夜な夜な彷徨い歩く、刀を携えた若者たちの霊。
 実のところ、これは合戦で喪われた刀剣類の成れの果てなのだという。
「ゆえに数が多い。彼奴らはいまのところ、夜毎に通りを彷徨い歩くだけで済んでおる。
 が、いずれ犠牲者が出る上に、少々厄介な性質を持っておるようでな……」
 もとは合戦に用いられた武器である。
 戦いとなれば、通りに面した店や人々の被害を厭わず暴れまわることは必至。
 無論、猟兵が呼びかければ人々も避難に従うだろう。
 しかし土地まではそうもいかない。

「無遠慮に挑めば、この宿場街は合戦場の頃と同じ寂れた荒野に逆戻りである。
 だが彼奴らの性質を逆に利用すれば、この景観を守れるはずなのだ」
 理由は不明だが、この『模倣刀『偽村雨』』たちは一騎討ちを好む。
 面と向かって名乗りを上げれば、挑戦を受けた側は必ずそれに応える。
 そして、他の個体が勝負に横槍を入れることもない、というわけだ。
「無論、一網打尽にするよりも手強くはなろう。そこはオヌシらの腕の見せ所である」
 偽村雨どもを蹴散らせば、首魁であるオブリビオンも姿を現すはず。
 これを倒せば、ひとまず仕事は無事完了となる。

「現地では祭りの催しもあるという。無事に街を守れたなら、宴の一つも開くであろうよ。
 早咲きの桜を愛でるもよし、酒に飯にと遊び呆けるもよし。無礼講というやつである」
 大きな戦いを終え、来たる春に思いを馳せる者もいるだろう。
 戦いのあとの時間をどう過ごすかは各々次第だ。
「ワガハイも、花見でもしようと思っておるゆえな、ぜひ頑張ってもらいたい。
 いやワガハイが遊びたいわけではないぞ? これはれっきとした任務である!」
 などと言いつつ、最後にぽつりと。
「"初桜 折しも今日は よき日なり"。うむ、いい句である。
 皆にとってよき日を勝ち得ることができるよう、健闘を祈る」


唐揚げ
 真剣勝負と花見がやりたくて。竜田揚げです。
 OPいかがでした? エッ読んでない?
 こちらまとめになります。

●目的
 『模倣刀『偽村雨』』の殲滅(戦闘・1章)
 ???の殲滅(戦闘・2章)
 お花見(日常・3章)

●備考
 1章の集団戦は『集団のうち1体と真剣勝負を行う』というものになります。
(合同プレイングをご希望の場合、その人数と同じだけの敵が相手になります)
 他の個体は、真剣勝負中の同個体に手出しをしません。不意打ちとかもしません。
 ちなみに、範囲攻撃系のユーベルコードが禁止というわけではありません。
 真剣勝負中であればなんかこう、うまく周辺への被害を抑えられたとかになります。
 1章は宿場街の通りで、2章は場所を変えてボス戦という感じです。

 3章はお花見です! 遊ぶもよし静かに風雅を愛でるもよし!
 担当NPCのムルへルベル・アーキロギアは、お誘い下されば描写いたします。
 特になければ、多分ひとりで甘いもの食べて帰ったんだと思います。

 では、前置きはこのあたりにして。
 皆々様、どうぞよろしく、願います。
 ……字余り。
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第1章 集団戦 『模倣刀『偽村雨』』

POW   :    雹刃突
【呼び起こした寒気】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    怨呪流血斬
自身に【過去の被害者の怨念】をまとい、高速移動と【止血し難くなる呪い】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    氷輪布陣
【氷柱】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を凍らせて】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 夕暮れが、早咲きの桜を鮮やかに照らす逢魔が時。
 まるで猟兵たちの参着に呼応したかのごとく、それらは常より早く姿を見せた。
『死支度――』
 凛、とどこかで鈴が鳴った。
 それらは読経のように、はたまた死人の呻きめいて謳う。
『致せ致せと……桜哉』
 物神たちは謳う。それは屍とともに朽ちた刀剣たちの呪言か否か。
 人々は戸を閉じて、あるいは一時街を離れて安全を確保している。
 来たるは剣の徒、行くは猟兵、ならば吹くは血風なり。

 物淋しき故旧の刃たちに、今一度の終わりを齎す時だ。
数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】
【一騎討ち上等】

剣道三倍段、だったか。
おもしれぇ、つまりはその上で勝てば
アタシの実力を見せつけられるって訳だろ?
もちろんアタシは無手で挑む。
刀の手ほどきなんて受けちゃいないからねぇ。
しかしよぉ、くぐった喧嘩の場数なら負けないよ!

はっきり言って、勝負は一撃で決めに行くよ。
奴の刀の間合いはそら広い。普通なら、近付く前に刀の錆さ。
……そりゃ「普通の速さ」ならね。
って言ったところでアタシの速さはバイク頼み、
「ダッシュ」で間合いを詰めて打点をずらすのが関の山。
それでも十分さ!
「激痛耐性」と「覚悟」で踏み入り、
がら空きの懐に【漢女の徹し】をぶち込んでやるよ!
風穴、開けてやる!



●数宮・多喜~風の意の/行き渡るとき/糸桜
 ざり、と。
 化生どもの眼前に、怡然とした面持ちで立つ女。
「剣道三倍段……だったか。オブリビオン相手なら十倍ぐらいありそうだな」
 ぽきぽき指を鳴らし、腕組みまでして多喜曰く。
「つまりその上で勝てば、アタシの実力を見せつけられるってわけだろ?」
 無手である。暗器の類など仕込んでいない。
 そもそも多喜は搦め手を好まない。そういう性質でもない。
 正面から挑み、真っ向勝負でねじ伏せる。
 どこまでも、そう、風の如くに真っ直ぐな気性の持ち主だ。
「数宮・多喜。人呼んで疾走サイキックライダーたぁアタシのことだ!
 さあ、女が一人で立ち向かうってんだ。徒党を組むてんなら上等だよ」
 にやりと笑う。そぞろ歩く化生たちは立ち止まり……その中から一人が進み出た。
「いいね、話にゃ聞いてたが本当とは。悪くないじゃあないか」
 勝ち気な口調と裏腹に、頬を伝い首元へと落ちる輝きひとしずく。
 ――殺気。抜けば玉散る氷の刃とはまさにこのことか。
(刀の手ほどきなんて、受けちゃいないからねぇ)
 肩が震えた。
 恐怖? ……否、高揚である。武者震いとはよく言ったもの。
「しかしよぉ、くぐった喧嘩の場数なら負けないよ!」
 朗々たる宣言。じり、と対手が一歩を踏み出す。途端に空気が張り詰めた。

 ……その静寂は、破裂寸前の風船のようである。
 風もないのにカタカタと宿場の戸が揺れ、桜がほろほろと花弁を散らせた。
(今回ばかりは相棒の疾さも頼れやしない、この両の足で挑むだけだ)
 相対距離はおよそ三間(約5メートル弱)。徒手空拳には向かぬ間合いだ。
 対して敵は撃剣の輩、いやさ刀の物神。趨勢は一目瞭然と言える。
(いいね……喧嘩ってのはこうでなくちゃあいけないよ)
 ちりちりとうなじが痺れた。心の臓腑が早鐘を打つ。……善き哉。
 すり足で間合いを縮める。同じだけ敵は下がり、霞の構えを取る。
 敵の狙いは刺突。さもありなん。此方は近づかねば話にならぬのだ。
 飛び込んだところを、突く。眉であれ喉であれ鳩尾であれ、間を突けば事足りる。
 ……多喜は睨み合いの間、思索に思索を重ねた。
 脳裏で十度の立ち合いを描き、七度死んだ。残る三度は踏み込んだ上での死だ。
(避けて殺(ト)る、だなんて甘いこたぁ考えないさ)
 必要なのは覚悟である。腰を落とし、じりじりと間合いを詰める。
 ずり、とやや大きく詰める。敵はもはや下がらぬ。空気が張る。
 多喜のこめかみを新たな汗がひとしずく伝い、顎へと下って……。

 ――ぴちょん。

「おぉらァッ!!」
 爆ぜた。裂帛の気合とともに、踏み込んだ地面が抉れて爆ぜたのだ。
 さながら餓狼の如き様相である。対手は不動――否、鋒が霞む!
 多喜の思考が鋭敏化し、以て体感時間が鈍化する。
 踏みとどまることはできぬ。左に渡るか、さもなくば右か?
 ――どちらでもない。往くと決めたならば真っ直ぐに!!
「……っぐう!!」
 氷柱をねじ込まれたような寒気が、多喜の左半身を襲った。
 ぞっとするような凍気。敵の狙いは喉元やや下、鎖骨中央に注がれていた。
 だが見よ。その鋒、穿ったのは喉笛に非ず。左肩!
「もらったァ!!」
 相対距離一間。多喜は気合の後にすうっと呼気を呑み、覚悟を決めた。
 踏み込む。刃がさらに一寸突き刺さり、骨に届いてこれを抉った。
「が……ッ! ……練って、整えェ!」
 己を強いて叫ぶ。相対距離、今や一尺。頃合いなり。
「――ぶち込むッ!!」
 かくて武技は成った。溢れんばかりの気を以て、放たれたのは掌底。
 乙女の細腕、されど込められた力は巨漢の前蹴りですら比較にならぬ。
 がら空きの胴を打ち、捩じり、威力が……爆裂する!!

 ――ドウッ!!

「かは……っ、はあ、はあ、はあ……っ」
 多喜は膝を突いた。全身を脂汗が覆う。
 痛痒もあらばこそ、極度の集中と一撃に込めた全神経が疲弊していた。
 対手はどうだ? ……紙屑めいて吹き飛び、空中で四散し果てた。
「へ……見たか、これがをとめの一撃ってんだ」
 女は笑う。そのさまは獲物を捉えた獣に似た。

成功 🔵​🔵​🔴​

遠呂智・景明
大蛇切 遠呂智・景明だ。
さあ、死合おうか鈍共。

同じ刀剣として、きっちり終わらせてやるよ。

刀を鞘に入れたまま腰を落とし居合の姿勢を作る。だが、決して敵から視線を外すことはしない。

刀を抜くと共に、UC【風林火陰山雷番外 風・林】を発動。敵の首を目がけて不可視の斬撃を放つ。

が、それだけで落とせるとは思っちゃいねぇ。返す刀で【2回攻撃】だ。
多少の傷は【激痛耐性】で耐えつつ二本目の刀を抜きつつ連撃を放つ。

悪いな、同類。先に地獄で待ってろや。
俺もあとから行くからよ。



●遠呂智・景明~昔日の/春愁の場/木々伸びて
 全ての武具が、必ずしも使い手に愛されるとは限らない。
 いや、人の命を奪い護るための道具だからこそ、怨憎の類は友とすら言える。
「遠呂智・景明。人呼んで"大蛇切"――さあ、死合おうか。鈍(なまくら)ども」
 紅い襟巻を寒風に流し、飄々たる足取りで現れた色男は、やはり飄然と名乗った。
 これより真剣勝負を行おうというのに、その表情には欠片ほどの緊張も感じられない。
 応じた剣鬼の殺意が、景明の五体をきりきりと打った。
 常人ならば泡を吹いて昏倒しようというそれを前にして、しかし男は平然なまま。
「ずいぶんとおっかねえ敵意を浴びせるじゃあねえか」
 さながらそれは、激流の只中にあってなお不動たる巨岩めいた不遜。
 それでいて、脱力した四肢の運びは、微風に揺れる花のように優美にして儚い。
 彼は殺気を放たない。何故か?
 ……見るものが見れば解るだろう。いちいち意図して放つ必要がないのだ。 戦意殺気の類、これ心身に、時と共に染みついているゆえに。
「――同じ刀剣として、きっちり終わらせてやるよ」
 大蛇切。
 その銘は、ある一振りの妖刀に由来する。

 ――憐れなものだ。
 一世紀を閲し、自我を得たり男は想う。彼奴らの姿はなんと浅ましく、憐れなものかと。
 いかにも彼はヤドリガミである。彼奴らと種を同じくする物神の化身。
 魂魄の基の号もまた、大蛇切・景明。
 名の通り、人心を乱す邪悪なる大蛇を切り伏せた名刀である。
 ――何が名刀なものか。あいつらは俺を妖刀と呼んだ。
 薄氷に似た修羅場にありて、脳裏に蘇るは昔日の残影。
 噫、これもあの悪夢の残滓か。我が身我がこころの、なんと情けなや。
 腰だめに居合を構え、然と対手を捉えながらも、心中で己の不足を嘆く。

 両者の間合いはおよそ二間(約3メートル強)。互いに必殺の圏内である。
 火眼は対手より外れることなく、されど映すはかつての面影、担い手達の聲。
『呪われし妖刀よ、醜血に穢されし魔剣よ。何ゆえ貴様が未だ在るのか』
 沸々と怒りが湧く。かつての使い手達に? 己を痛罵せし過去どもに?
 ……否。それを忘れられず、さりとて割り切れもせぬ己に。
 同種達へ憐憫を……通して我が身を映す情念に、熾火のような怒りが滾る。
 ――憐れみなど、欲しくはなかろうによ。
 それと解っていてなお。景明は、彼らを憐れまずにはいられなかった。

 はたして両者が構えて、どれほどの刻が流れたか。
 十か? 二十か? はたまた一分(ぶ)に及ぶか? 定かならず。
 そも景明にとって、剣を構えた時点で全てどうでもよいことだ。
 今や彼の認識から森羅万象は削ぎ落とされ、ただ闇の中に己と対手が在る。
 心地よい静謐であった。昔日の怨恨も、憐れみも遠く消えていく。
 されどその身、未だ空に至らず。裡なる熾火がくろぐろと煮えていた。
 だが、これなる焔に頼ってはならぬ。それでは氷の刃には打ち勝てぬ。
 放つべきは神速不可視の斬撃ただ一つ。そうとも、あの男のような……。
 ……じくりと、己が身を貫かれた折の痛痒が蘇る。
 業腹だが、却ってそれが彼の心胆を整えた。そしてするりと刃が奔った。

 ――剣風一閃。
 大気を鳴らす残響すら無く、それは夕闇を切り裂いた。
 横薙ぎ、殺(と)った。対手の頸が刎ね跳び、桜花に呑まれる。
 だが手先は止まらず。納刀……鍔鳴りと二度目の口切りはほぼ同時。
 放たれた二振り目は闇の如くに黒い。ゆえにその銘を黒鉄と云った。
 剣風、二閃。……然り、二閃である。
 頸を断たれてなお、対手の四肢は動いていた。袈裟懸けを下ろしていた。
 覚悟の上である。
 黒鉄はその紙一重を舐め、以て肋から肩にかけてを断ち割った。

 ごとり、と残骸が地を転がる。刎ねた頸、腰元から両断された胴と半身。
「……ち」
 舌打ち。景明の上体、袈裟懸けは衣と肌をいくらか裂いていた。
 血が滴る。その痛みが、今の彼にはむしろ有難かった。
 対手の剣は一。景明の居合は二つ。……絶技である。
「風林火陰山雷、番外。神速を前にして不怖不臆、お前の剣は覚えておいてやる」
 納刀。ちん、と鍔が鳴り、かくて遺るは砕け散った刃の残滓のみ。
「……悪いな、同類。先に地獄で待ってろや」
 襟を正し、うっそりとした声で男は云う。
「俺も後から逝くから、よ」
 桜がひとひら、流れた血潮に浸りて染まった。

成功 🔵​🔵​🔴​

北条・優希斗
妖刀の供養、か
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我が名は北条・優希斗。我と戦わん事欲する者この地にあらじか。なれば、汝等を一掃せん」
 ……とこんな感じに挑発して1VS1に持ち込むよ
 折角だ敵の名も聞こう
 ……奴が俺にした様にね
 過去の被害者の怨念を纏う、か
 つくづく俺と似ているな
 敵の攻撃を見切り、オーラ防御しつつカウンター
 呪いの放射は残像と第六感で躱し、グラップル、フェイント、二回攻撃で攻める
 隙が出来たら早業で剣速を上げUCで一気にけりをつける
 もし、他の人達の助けになり且つ効果的ならば
 神技・剣王乱舞による騙し討ちで周囲の模倣刀『偽村雨』に痛打を与えるよ
 



●北条・優希斗~剣に病み/夢は枯野を/駆け廻る
 夢とは呪いに似る。
 届かず、叶わず、そして忘却も出来ぬのだから。
 殊に彼は、それを強く思う。己のものかも不確かな夢が、夜毎蘇るのだから。
 ただ罪の意識が遺り、募る。剣を振るうのは、それを断ち切るためなのか。
(いま考えることじゃあない、な)
 雑念を振り払い、優希斗は決然と前へ進み出た。そして朗々と言った。
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け。近くば寄って目にも見よ!
 我が名は北条・優希斗、我と戦わんこと欲す者、この場に非じか」
 古風な名乗りである。嘗ての合戦で朽ちた者らには、覿面と見えた。
「どうだ、臆したか。なれば我、汝らを一掃せん。さあ、如何に!」
 不遜である。
 だが彼の威風は、それが大言壮語でないことをまざまざ知らせる。
 ややあって、剣士がひとり、殺気立つ徒党の列からざしゃりと現れた。
「……これはこれは」
 彼は微笑んだ。なにせ、目の前の仕手は二刀を構えてみせたからだ。
 優希斗の流派とは四肢の置き場からして異なれど、得物は同一である。

 "その身のこなし。私を前にして慄かぬ胆力――"

 わずか数日前、鮮烈にして苦々しき記憶が蘇る。
 ゆるりと笑みすら浮かべ、我が身を貫いてみせた鬼の声音が。
「"……相応の覚悟を有していると見た。名を聞いておこうか"」
 彼はあえて、それをなぞらえた。屈辱を刻み込むように。
 大小を両手に構えた物神は、数瞬の間ののち応える。
「陽劒・字丸、陰劒・喰丸。併せて矩平(のりひら)作・字喰(あざはみ)也」
 不吉な銘である。号に応じ、きち、と双刀が呻いた。
 なにせ彼奴らの願いは、犠牲者の怨念を以て我が身を妖刀へ昇華すること。
 ゆえにオブリビオンとしての名を偽村雨という。模造に非ず、模倣の刃。
 息の詰まるような怨嗟が、対手を帳めいて覆い隠す。
「……つくづく、俺と似ているな」
 優希斗は独りごちた。彼もまた呪いを纏い、刃に載せる妖剣士である。
 おそらくは互いの剣筋も同様。威よりも速に重きを置いた連撃だろう。
 そも、字喰なる二刀は造りからして異様だ。
 通常の二刀流は、大小――本差・脇差の長短異なる打刀を用いる。
 西洋剣術におけるフェンシングと同じく、それぞれで攻防を担うためだ。
 だが字喰の刃渡に違いはない。常人が振るうには重く、長すぎる。
 片腕で撃つ剣は軽く、鈍い。二刀に増えたところでむしろ逆効果なのだ。

 そう、尋常の剣術ならば。
 此度に在るはいずれも常人ならぬ剣客、ゆえに理屈は意を成さぬ。
 ましてや敵は呪いを放つ。傷を腐らせ膿ます、忌まわしき呪詛だ。
 正道の剣術で乗り越えることは不可能。ならば求められるは魔道の術理。
 窮めるどころか、体得するだけでも心身を病み前途を狂わす昏き剣技。
 人はそれを、魔剣と呼ぶ。

 ――なら、俺にとっては最適だ。
 優希斗の自認を、余人が傲慢と謗ることは出来まい。
 彼の剣に込められた想い、呪い、そして慚愧はそれほどに重く、濃い。
 けれどもあえて、それが可能な者を挙げるならば……否。彼は雑念を再び祓う。
 "あれ"はもう居ない。だが彼奴の遺した呪いは、いまだ彼の裡に燻る。
 乗り越えねばならぬのだ。此度の真剣勝負、決して避け得ぬ試練であった。

 かくして先の先を得たのは字喰である。その姿が霞んだ。
(まず右から横一文字)
 ぎん。月下の華と字丸が打ち合い火花が咲いた。
(左が刺突。心臓狙いか)
 がきり。蒼き月と喰丸が絡み、ぎちぎちと牙を留める。
(そして呪詛を放つ――だろう?)
 怨(おん)と大気が揺らいだ。
 狂おしき呪いが、獣の顎めいて優希斗を呑む。だが、おお。見よ。
 黒靄が喰んだのは像である。仕手は一歩後ろに退いていた。
 ――機、得たり。
「踊るよ、蒼き月の舞を」
 口訣は剣風の後を追った。三、四、さらに五。無心の乱舞である。
 彼は必要ならば、神業を以て戦場を圧するつもりでいた。
 雑念である。とうに切り捨てた思索だ。半端な覚悟で臨める戦いではない。
(ただ斬る。お前を、そして……過去の俺を)
 ちらりと輝く刀身に、想起するには近すぎる敗北の像が浮かんだ。
 斬る。伐る。刄る――八、九、十。かくて無月の覇は対手を滅す。

 静寂。微塵に斬られた字喰は、砂粒めいて散って風へと消えた。
「……ふ、ぅ」
 吐息は熱く、か細い。遅れて、優希斗の頬に一筋の赤い軌跡がつ、と走る。
「――俺の記憶も、この銘も。喰わせてやることは出来ないんだ」
 滴るしずくを拭い、青年は残心した。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

神酒坂・恭二郎
「桜を見に来たってのに、無粋だねぇ」
着流しに片手を突っ込んで見やる。
大きい戦を終えて、噂の桜でも一目見に来たと言うのにこの始末だ。
さて。どうしたものか
考えていると、自分の相手が目の前にいた。
さて、どうしたものか。

思いながら、無造作に斬られに前に出る。
相手の斬り込みに両手を下げ、脱力して気を練るように「力を溜め」。
視線や簡単な筋肉の動き、呼吸を読んで、攻撃を外させる技を使う。
腕の立つ相手なら、ほんの僅か、半歩の歩みと身の傾きで成立することが出来る。
ちょいとばかし「覚悟」がないと出来ないが。

見事外させれば、相手の腕に手を添え「カウンター」で「グラップル」。自身の刀で自らを刺すように誘導したい。



●神酒坂・恭二郎、またの名を
 男が一人、逢魔が時の通りを悠々と歩く。
 着流しに片手を突っ込み、顎をさすってふと呟いた。
「桜を見に来たってのに、無粋だねぇ」
 見やるは朽刃どもの列。無言にして無明の兵どもは、いわば葬列か。
 雅やかな桜の吹雪も、こうなっては愛でるわけにもいくまい。
「さて、どうしたものか」
 男は呟いた。足取りは悠然と、なんら歩調を落とすことなく。
 ……そして立ち止まった。向こうに回すは物神ひとつ。
「さアて、どうしたものか」
 言の葉は同じなれど、思案の中身は先と異なる。
 "この始末をどう片付けるか"などではない。
 "眼の前の敵をいかにして斬るか"――である。

 風が吹いた。ぽっかりと、二人を中心に空白が生まれている。
 敵はなぜ加勢しない? たしかに一騎討ちを好むと云うが、はて。
 ……否である。加勢"出来ない"のだ。不可視の円蓋に、誰も踏み込めぬ。
 踏み込めば死ぬ。敵も味方もそれがわかっていた。ゆえの空白。
「――さて、どうしたものか」
 三度、同じ語句を呟く。口元には僅かながら笑みすら浮かべて。
 装束(なり)は剣客そのもの、立ち振る舞いもまた相応。
 だが。この男、何かが違う。エンパイアにひしめく侍とは何かが――。
 無言の裡に、敵がその違和を探ろうと感覚を尖らせた、まさにその時である。
『…………?』
 声なくして、相貌も明らかならず、されど誰もが彼奴の浮かべた色を理解した。

 困惑である。
 さもありなん。なにせ対手――つまり恭二郎は、言いながら一歩を踏み出したのだ。
 相対距離、およそ四間。剣客同士の立ち会いにはまだ広い。とはいえ。
 剣を抜かず、いや……それどころか、構えもせず。男はふらりと一歩進んだ。
「さて」
 さらに一歩。挙措のどこにも緊張警戒感じられず。
 散歩を征く風体そのままに、男は一歩一歩とざすざす間合いを踏み詰める。
 否、もはやそれは間合いを詰めると云うべきではない。
 斬られにいくような有り様である。およそ剣客の振る舞いとは思えぬ。
 鉄火場にありて気でも違ったか? はたまた度胸試しのつもりか?
 しかし妖刀の物神は、されど……斬らぬ。相対距離、三間に詰まっても剣を振るわぬ。

 ……振るえぬ、のだ。
 なぜ? この男のどこに警戒すべき要素がある?
 わからぬ。わからぬが、危うい。この状況、圧倒的に己が不利だ。
『…………!』
 ぎり、と柄を握る手元が鳴った。いらぬ力が入るほどの緊張感。
 剣を構え、生殺与奪を握っているのは偽村雨のほうであるにもかかわらず。
 男はただ、顎をさすりながら無造作に歩み寄っているだけにもかかわらず。
 追い詰められているのは明らかに、物神のほうなのだ。
 ……この男、実は神酒坂風桜子一刀流なる胡乱な我流を標榜する輩である。
「さて――」
 刀一本提げて歩けば東走れば西へ、人はおろか物も艦(ふね)すらたたっ斬る。
 見えぬ風桜子(ふぉーす)を読んで扱い幾星霜、くぐった鉄火場数知れず。
 誰が呼んだか風来坊、宇宙(そら)の涯てより来た男。
 剣の神を名乗るにゃ俗に過ぎ、剣鬼を気取るにゃ情が張る。
 ゆえに男は、そして男を知る者は彼をこう呼ぶ。すなわち――。
「どうするかい、お前さん。スペース剣豪は目の前だぜ」
 相対距離、一間。痺れを切らし、対手が動いた。
 疾い。怨恨憎悪を染み付かせ、奔る刃は修羅のそれ。
 聴くも視るも難き神速抜刀、不可視不可知とはこのことか。

 だが心せよ、この男――その程度とっくに越えている。
「疾いなあ。ああ、いい一撃だ。狙いもいい」
 まるで手品のようである。物神はたしかに渾身の一撃を放ったのだ。
 頸を刎ね殺(ト)る横薙ぎ一閃、呪詛を合わせりゃ二撃の太刀。
 必殺である。必殺であった。だが。
『…………!?』
 その鋒、たしかに斬ったは骨肉なれど、それは男のものに非ず。
 物神の剣は、物神自身の胴を割いていた。
「種を明かせば大蛤、蜃気楼とはこの事かねエ」
 神酒坂風桜子一刀流が無刀術、曲技・車螯(ワタリガイ)。
 敵の刃に己の命を預け、神速の間隙を"ちょい"を捻じ曲げる。
 剣を見ず敵の眼を見、手を読まず筋を読む。そして引き込む。
 かくて術理、成れり。預けた命は男の手元に翻った。

「劔から/桜に移るや/空っ風……てなもんか」
 男は振り返らぬまま通りを征く。斃れた骸は、風に揺られてふと消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御劔・姫子
【WIZ】
真剣勝負…剣士として、御劔の者として、そして猟兵として…受けて立たなあかん。

「うちは御劔が当主…御劔姫子。御劔の技、お見せしましょうかっ!」

相手が構えても、太刀は抜かへん。柄に手をかけたまま少し遠間の間合いで待つ。
そして…【先制攻撃】【秘技・不抜乃太刀】。
刀は斬るための道具やけど、存在価値はそれだけやない。この技はその現れや。
一撃で決めるつもりやけど、もし、反撃があるんやったら【見切り】【残像】【第六感】で身をかわして、【2回攻撃】で弐の太刀を浴びせるっ!

「こないな技ばっかり使うと、いつか剣のことすら忘れてしまいそうやなぁ…」

(※アドリブ等感激です)



●御劔・姫子~逢魔が時/春日乙女が/剣に舞う
 真剣勝負。
 剣客にとって、その言葉が持つ意味は余人が思う以上に重い。
 ましてやそれが天敵たるオブリビオン相手であればなおさらだ。
「剣士として、御劔の者として、そして猟兵として……受けて立たなあかん」
 姫子は、剛刀『巌太刀』をぐっと強く握りしめた。
 然様、これはもはや必然。もしも見て見ぬふりをすれば誹りは免れ得ない。
 いや、たとえ誰が謗らずとも……己が、己自身を許せないだろう。
「うちは御劔が当主、御劔・姫子。御劔の技、お見せしましょうかっ!」
 颯爽たる名乗り。直後、膨大なまでの殺気が姫子へと注がれた。
 彼女は努めて平然を保ち、これを受ける。すでに立ち合いは始まっているのだ。
「……さあ、うちは名乗ったで。誰が相手になってくれるんっ?」
 むしろ挑むように敵を睥睨する。びりびりと大気が震えた。
 ……ややあって、孤影がざり、と大地を踏みしめ、進み出た。
 奇しくも(あるいはそれを狙ってか)、対手が担う刃の刃渡りは、姫子が持つ宝剣とほぼ同じ。
「わざわざ合わせてくれたん? ……ええよ、相手に不足はあらへんね」
 すらりと対手が鞘走らせる。一方の姫子は……剣を、抜かない。
 太刀を納めたまま腰だめに構え、片手を鞘に。もう一方の手を柄に。
 半身をわずかにずらし、じっと相手を見据える――居合の構えである。
 相手は正眼の構えを取り、およそ三間の距離でどっしりと重心を落とした。

(……さすがはヤドリガミやね。どこにも隙がない……)
 脳裏で幾重にも立ち合いを思い描く。
 踏み込んでの胴狙いの抜き打ち。おそらく敵は後の先を得て大上段の打ち下ろしを放つ。
 では相手の踏み込みを待ち、こちらが後手を撃つのはどうだろうか?
 ……どちらのケースでも、おそらく相手のほうが早く刃を届かせる。
 即死、ということはないだろう。だが姫子も多少の、下手をすれば深手を負いかねぬ。
(ただ勝つだけならば、それでもええんやけど……)
 これはいわば、オブリビオンどもに自らの腕前を見せつける大きな意味合いを持つ。
 剣に青春を捧げた姫子にとって、至上となるのは無傷での勝利。
 真剣勝負とはそういうものだ。どちらかが死に、どちらかが生き残る。
 かろうじて勝てた、などというものは勝利とは言いがたい。いわば挟持の問題である。
(あれを使うしかあらへんね)
 心の中で呟き、ひとり頷く。そしてじり、とすり足で間合いを詰めた。
 敵は不動。薙ぎ・打ち・上げ・突き、その全てに対応できる構えを保つ。
 少しでも起こりを見せれば、その瞬間に対手は剣を振るっているだろう。
 先の先を得るには、神速をも凌駕する悪魔的な剣技が求められる。すなわち……。

 ……両者が構えてから、ゆうに一分(ぶ)=約180秒が経過した。
 桜たちすらその緊張感に息をつまらせ、花を散らすことを忘れている。
 張り詰めた剣気に堪えきれず、宿の戸が"ぎしり"と軋みを上げた、その瞬間!

 ――ざんっ!!

 それは春一番を告げる突風のように鮮やかで、軽やかな剣閃だった。
 通りに張り詰めた大気がごうごうとうなり、桜たちが一斉に花びらを散らす。
 決着はついた。敵の剣は大上段からの打ち下ろし、その半ばで止まっている。
 そして対手の胴体には、冴え渡るような逆袈裟の剣筋が傷を刻んでいた。
 ……だが妙だ。姫子の腕は伸びきり、さながら居合を抜き放ったような姿勢でいる。
 にもかかわらず、彼女の腰元――巌太刀は『抜かれていない』。
 鞘に納まったままなのだ。よもや隠し剣の類か?
 否、否、否! まっすぐと袈裟へ流れた姫子の手、それは空なり!
 此は如何に? 如何なる剣を彼女は振るったというのか?
「――……秘技・不抜乃太刀(ぬかずのたち)」
 朗々と、口訣がその技の銘を告げた。
「鞘から抜かへんでも斬れる……これが、剣術の深奥や」
 残心。己が討たれたことを思い出し、どさりと対手は斃れた。
 おお、なんと不可思議な太刀か。鞘から抜くことなく、されど斬撃は放たれた。
 不可視不可知を通り越し、そこにないはずの剣閃が確かに敵を斬ったのだ。
「……こないな技ばっかり使うと、いつか剣のことすら忘れてしまいそうやなぁ……」
 嘆息。姫子の面持ちは昏い。彼女にとっては左道の技である。
 その身その練技、いまだ空に届かず。されど勝利は、乙女の掌の上に輝く。

成功 🔵​🔵​🔴​

御狐・稲見之守
腕自慢の武芸者連中には負けるがワシとて薙刀の覚えくらいはある。ま、彼奴らの鎮魂(たましずめ)の役に不足はせんじゃろうて。たまには体動かさんとなァ。

UC巫覡載霊の舞、神霊体ーー仮初の真の姿となり氷柱を衝撃波で薙ぎ払い、薙刀の間合いに近付いてからはちゃんばらごっこと参ろう。

ほう、首を獲りに来るかーーしかし、ふふっ。変身解除、幼姿に戻りすんでのところで避け、神霊体へと戻る。そして狐に変身して彼奴の視界から消え、死角から神霊体に戻りつつ奇襲。

幼姿、大人姿、狐姿を織り交ぜ文字通り変幻自在の太刀筋で翻弄してやろう。

ふふっ御狐稲見流と言ったところか。こんな曲芸、誰も真似しないだろうが。



●御狐・稲見之守~面影の/遠くなりたる/桜かな
 神とは何か。
 ある道ではそれを森羅万象、八百万の尽くと説く。
 この世にありし天然自然、天地はおろか水の1滴、木々の一葉にまで神々はおわすと。
 すべては実であり、同時に非ざる虚でもある。
 それに名を付け呪いをかけて、意味を持たせたものが鬼神と云う。
 であれば彼女は、現人神という呪に縛られた鬼神そのものであろう。
 ゆえに。鉄火場に在りて、稲見之守は泰然と佇むのみ。
「たまには体を動かさんとなァ」
 などと、のんびり伸びをするほどだ。緊張感らしきものは見当たらない。
 とはいえ彼女の姿は幼く、背丈も小さい。そも、その性は陰陽師である。
 道術を以て敵を幻惑し、魔を討ち滅ぼす。すなわち術士のたぐいだ。
 敵と己を一対一の場に置き、しのぎを削るなど夢のまた夢。
「腕自慢の武芸者どもにはさすがに敗けるが、ワシとて手習いぐらいはしとる」
 ひとりごちながら、童女は符を払えばそれは薙刀に変化した。
 くるくるとそれを手繰り、ゆるやかに神楽を舞う。ひと、ふた、み――。

 すると、おお……見よ。よ、いつ、むつ……数えるたびにその姿は変化する。
 やがて背丈は一回り、いや二回りは大きくなり、眼光鋭き妖しの狐がそこにいた。
「巫覡載霊の舞――仮初めなれど、相対するならば"我"が刃にて仕ろう。
 物の怪神の御狐・稲見之守、ここにあり。さ、どの殿方がお相手くださるのだ?」
 口元に浮かぶは蠱惑の微笑み。男ならば誰もが蕩かされる色がある。
 されども化身達は一寸ほどの揺らぎも見せず、只中から一人が歩み出た。
「つれんなあ。剣で語るのみ、てか? 我はそういう無骨なのは好かぬぞ」
 すると幽鬼はうっそりと応えた。
『……魂呑の外道。神を騙り、我らを謗るとは見上げたものなり』
 怨み骨髄、生者これすべてを呪うかの如き虚ろな声音である。
 一方で女は、あるかなしかの笑みを浮かべて小首をかしげた。
「ほ。言うに言いたり、妖刀なんぞに成りたがるなまくらどもがよう吠える。
 "もどき"と外道、比べ合うならこれほど相応しい番はあるまいて」
 などと、自嘲とも皮肉ともつかぬ言の葉を吐き目を細めた。
 狐狸のたぐいは人を化かし、戯れでからかい遊ぶという。
 ならば稲見之守の振る舞いはいかにもそれらしい。剣鬼は不動、不惑。

 ――否、どうやら彼奴にも苛立ちという言葉は縁があったようだ。
 出し抜けに、前触れもなく剣が跳ねた。刃風が凍え、氷柱と化す。
 きん! 澄んだ音ひとつ。遅れて、ぱきり! と氷の破砕音。
 何が起きたのか? 稲見之守が薙刀を振るい、氷柱の雨を砕いてみせたのだ。
 ぱらぱらと散る氷の残滓が、夕焼けを浴びて不可思議な煌きを見せた。
「大道芸は性に合わん。そもお前ら、願いはちゃんばら"ごっこ"ではなかったか?」
 くすり。今度こそあからさまな嘲りの笑み。
「付き合ってやろうと云うに、これだから餓鬼は困る――」
 ――ごぉう! 大気を後に引き、猛然たる踏み込みで対手が迫る!
 逆巻くはつむじのごとき刃の一閃、二閃、さらに三撃! 神速の太刀筋!
「おう、おう。ちょいなと」
 がきん! がりりっ――きぃん!
 柄で受け、反らし、薙刀で凍刃を真正面から迎え撃つ。
 豪傑共には見劣りすると誰が嘯いたか、女の手捌きはまさに達人そのもの。
 神速の抜刀、はたまた氷柱を目くらましとした斬撃攻勢を稲見之守は見事に受け、いなす。
 極めて短く、されど一撃一撃が致命の攻防。時間にしてみればわずか数瞬である。
「ほう」
 そして稲見之守の目が細まった。金眼は敵の狙いを見透かしている。
 手首の捻りを活かした搦め手の軌道、大上段から斜めに降りる刃の行き先は、
「頸を、殺(ト)ろうてか。いじましきかな――」
 しかし、と狐は笑う。その笑みを、刈り取るような刃がかすめた。

 然り、かすめた。口惜しくも斬首は成らず。
 いかにして躱したか? 稲見之守はあえて己の神霊体を解いたのだ。
 幼子の姿で敵を見上げ、にこりと笑う。童女めいたあどけない微笑。
 まばたきすれば姿はふたたび神霊のそれへ。敵が反撃を警戒して構えれば、
『こーんこん、とな』
 居ない。いや違う、今度は狐の獣態に変じてみせたのだ。
 まさに変幻自在、獲物をかどわかしからかうような搦め手に次ぐ搦め手!
『おのれ、化け狐が……ッ!』
 化身が歯を剥く。振り向くも既に遅く、神霊体はその死角を取っていた。
「怨念化身のたぐいがよう言うた。ほれ、ごっこ遊びも終いぞ」

 ざう――っ!

 剣閃一条、ごとりと化身の頸が落ちる。
「ふ、ふ。御狐稲見流……と、云ったところか? 勝負あり、じゃな」
 仮初の姿を解き、薙刀を符へと戻しながら童女は笑う。
「ま、こんな曲芸誰も真似せんじゃろうがナ」
 ひらひらと。揺れる符に一輪桜の花弁が舞い落ちる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
一騎討ちですか。
なるほど、オブリビオン相手には余りこう言う戦い方はしないですね。
だからと言って遅れを取る訳にも参りません。
私と、この剣達がお相手致します!
一騎討ちとなれば、先ずは主にダガーによる【武器受け】【見切り】にて防御を。
高速移動には【第六感】で補助します。
なるべく防戦一方と言う形を作り、体勢を崩すと見せ掛ける【フェイント】を行い攻撃を誘いたいですね。
隙が出来ればそこでレイピアによる【二回攻撃】を。
サムライエンパイアでは二段突きと呼ぶそうですね。
しかし相手はオブリビオン、それだけで倒せるとは思いません。
ユーベルコードにて、その怨念ごと焼き払って見せましょう!



●ハロ・シエラ~毒蛇も/何時か一度は/我を識る
 猟兵とはまこと多彩であり、老若男女の別はない。
 ゆえに、斯様な童女が戦場に立つのも、けして珍しいことではない。
 ――とはいえ。
「…………」
 ハロは、僅かに気圧されていた。
 満ち満ちる剣圧、敵も味方も侮りがたし。ただ在るだけで息が詰まりそうだ。
(いけない)
 少女は頭を振り、己を鼓舞した。
 たとえその術理が見様見真似であれ、己は猟兵として敵を討つために居るのだ。
 ならば、臆してはいけない。さあ、名乗りを上げ、敵を求めろ。
「ハロ・シエラと我が剣達がお相手いたします! さあ、誰でもかかってきなさい!」
 葬列から、ぬるりと滲み出る影一つ。足取りは幽鬼のごとく。
「……あなたが私の相手ですね」
 ぐん、と大気が重みを増した。ハロは思わず呻きかけ、堪える。
 一対一。味方の助けは得られず、敵の支援もあり得ぬ純然たる真剣勝負。
 常の戦いならばありえないことである。
 ゆえに彼女は、その緊張感に軽く目眩を覚え、ぐ、と唇を噛んだ。
 戦術は既に構築している。対手の挙措から見て、勝算は十分にある。
 あるはず、だ。だが、己の判断を信用しきれない。本当に正しいのかと勘繰ってしまう。
(……東洋の武道は、精神修練の一環でもあると聞いたことがありますが)
 ごくり、と喉を鳴らした。己との戦いという言葉の意味を、彼女は初めて知った。
 不安。怯え。畏怖。驕慢。油断。
 どれ一つを見落としても命取りとなる。当然の理である。
 無論、これまで己は常に全力を尽くしてきた。
 ……ただ、この真剣勝負は、そうした戦いとまったく別種のものなのだ。
 深呼吸。慣れ親しんだ短剣と細剣を握り直し、じり、と間合いを詰める。
 彼女は冷静に己を鑑みた。機を探ろうとすればするほど、不利になると。
 機は待つのではない、作らねばならぬ。そのためには敵の手の内を――。

「な」
 その時、敵が消えた。否、そうと思えるほどの速度で動いたのだ。
 赤い瞳がぎらりと輝く。目で追うべからず、己の直感を信じるべし。
「――其処ッ!」
 ギンッ! 心地よい金鳴りが響いた。
 異形の毒刀は、背後より伸びた魔剣をたしかに捉え弾いたのだ。
(まだ来る。速い!)
 上段、返しての下段。ハロは反転し、続く二撃をすばやくいなす。
 対手は飛び退る――とみせて、脇を締めての刺突。狙いは眉間。
「くッ」
 レイピアでは受けきれぬ。ゆえに自らも刺突を繰り出し、鋒を反らした。
 ぬばたまの黒髪が一房断たれ、桜吹雪に混じって舞い散る。
 再び対手が消えた。――己から見て右。目で見ず肌で感じたそれを信じる。
 見事。敵の残影はその通りに流れ、短刀を置いた位置へと刃が伸びる。
 がきん。がき、がききき……二度の撃剣、敵は膂力で押し通らんとする。
「く、くうううう……ッ」
 140に満たぬ幼躯にありったけの力を込め、耐える。だが体格差は圧倒的。
 じりじりとハロは押し負け、膝を突きかける。致命的な隙である。
 にやりと、対手の口元に笑みが浮かんだ。
「う、ぅく……――くふ、ふ」
 そして少女もまた、笑んだ。
 ここまでは想定通り、敵は罠に――かかった。したり!

 いかにも、彼女の防戦はそれ自体が罠の群れである。
 敵の攻撃をかろうじていなし、防ぎ、攻勢を煽る。そして踏み込ませる。
 正面から張り合えば、威も速も敵が上。であれば隙を作らせればよい。
 機は待つものに非ず、作るもの。かくて敵は迂闊な上段を振り上げたのだ!
「甘いですよ、嘗めないでくださいッ!」
 片手が霞んだ。ひとつ、ふたつ――突き、再び鎌首をもたげるはまさに蛇めいて。
 であれば、突き込まれた二度の刺閃は、さながら猛蛇の毒牙だろうか。
『…………ッ!?』
 左、右。胸板を穿った敏捷たる刺突。だが浅い……いや、鋭すぎたのだ。
 敵は人外、物神の化身。であればこれでは殺(ト)れぬ。
 如何にして一手を埋める? 答えは瞭然、なぜならば彼女は!
「私は猟兵、あなた達を猟るもの。もはや逃げ場はありませんッ!」
 たたらを踏んだ敵が逆袈裟を打った。速い、だが悪手である。
「ッ……そこは、私の間合いですッ!」
 刃に肌を裂かれながら、あえて少女は踏み込んだ。胸部中央めがけた三度目の牙!
 蛇切の銘を頂く短剣が深々と突き刺さり、流れた毒は凄絶なる業火を喚ばう。
 ごう――対手を、そして二人を呑むほどの、艶やかな焔が咲き誇った。
「その怨念、刃もろとも焼き払いましょう。どうぞ安らかに還りなさい」
 それは最後通牒か、あるいは憐れなるモノへの哀悼か。
 束の間逢魔が時を焦がした焔は、少女が踵を返すとともに消え失せた。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
やぁ、こんばんは。
君達が何処に行くのか知らないけれど。
現世に非ざるモノの咎を止めに来たよ。

君達の中に罪を憂いるモノはいるかい?
僕が禊いであげよう。

海鳴りの咎人殺し。夷洞・みさき。参る。なんてね。

一騎打ちなら同胞は控えてもらおう。あっちも亡霊みたいなものだしね。

【SPD】
その纏う呪詛ごと潰し削ってあげるよ。あぁ、返したい人がいるなら手伝ってあげるよう。

呪いは傷口に釘を刺して【呪詛耐性】により流血を軽減。
怨念は攻撃に【呪詛】として奪い上乗せ。

武器に気を取らせ、UCによる噛みつき
己の形相で【恐怖を与える】
僕はそんなに行儀が良くなくてね。

潮騒と 耳惑わせる 桜風
風に乗って海に還ると良いよ

ア歓



●夷洞・みさき~海鳴りを/告げるひと亡し/藪椿
 通りに漂うのは、桜の蜜とかすかな血臭。そしてそれらを覆う剣の圧。
 だがふと、そこに磯の薫りが混ざった。無論、近くに海など無い。
「やあ、こんばんは」
 声音は潮騒のように細く、しかしはっきり届いた。
 薫りは女を中心に舞う。蒼白の肌に、どこか呆けるような面持ち。
 命なき化身達よりもなお、その痩身は幽鬼めいている。
「君達が何処に行くのかは知らないけれど」
 女の声音は、友や知己に語りかけるように軽やかで。
「現世に非ざるモノの咎を、止めに来たよ」
 されど厳然とした響きを孕んでいた。彼女は決して、己の意を覆すまい。
 咎人を討ち、その罪を贖わせるという強き意志……すなわち、戦意。
 敵を討つという、揺るぎなき決意と覚悟だ。

 そも、みさきという女に慈悲や容赦の類は無縁だ。
 咎人は子供であろうがその車輪で呑んで轢いて磨り潰し、これを贖いとする。
 そうしてきた。ゆえに、凶器の化身どもを前に退くことなどありえない。
「君達の中に、罪を憂いるモノはいるかい」
 これまでと同じように、相手が化身であろうと淡々と問いかける。
 無論、答えはない。彼女は小首をかしげ、やや間を置いてから続けた。
「いいだろう。海鳴りの咎人殺し、夷洞・みさき――君達の禊をしてあげよう」
 名乗り、というよりはまるで冗談めかすように、楽観の笑みが浮かぶ。
 するとどうだ、化身の海より音もなく進み出る影ひとつ。
 応じるかのように、ぎしぎしと背後の車輪が軋みを上げた。
「同胞よ、控えていてくれ。これはどうやら一騎討ちのようだから」
 人ならぬ指先が輪を撫で、童を諭すかのごとく言って聞かせた。
 軋みは止んだ。細まる瞳と浮かぶ僅かな微笑み、その意は如何なるものか。
 郷愁にも似た静謐は一瞬で過ぎ去り、死人めいた女は対手の許へと歩み寄った。

 女の足運びは、さながら波間に揺蕩う紙片のように頼りなさげだ。
 だが対手は踏み込まない。敵は、そこに隙を見出だせていない。
 結果、みさきの側が間合いを詰める形になる。一歩、二歩、三歩。
「怖いのかい。さもありなん、君は咎人なのだから――まあ、朽ちることになる」
 一歩。
「残念だけれど、怨念を引きずり妖刀に成るという望みは叶えられないんだ。
 いや、そもそも君達は在ってはならない。ここに居るだけで、それは罪なのさ」
 過去を消費し未来へ進む世界に、オブリビオンはあってはならぬ異物である。
 ましてや猟兵とオブリビオンは天敵同士、相容れることなき対称存在。
 とはいえ、みさきの言葉は、あまりにも端的で深い亀裂を感じさせた。
「そうでなければ、いけないんだ」
 あるいは、己に言い聞かせているのか。束の間、瞳に昔日の色が浮かぶ。
 敵はそれを隙とみなした。ひょうと大気が震え、澱み、穢された。
 呪詛である。おぞましいまでの呪詛が、地より立ち上り五体を包んだ。
「噫、それが君の咎、君の呪い、君のねがいの形か」
 じとりと、餓鬼の爪じみて呪詛の靄が伸びる。そして鋒がかき消える。
「……っ」
 剣風すら鳴らぬほどの太刀筋。みさきの肩が裂け、呪詛が傷を膿ませた。
 わずかに息を呑み、苦悶を抑えた気配がある。だが足取りは止まらない。
「いいだろう。その呪詛もろとも、潰し削り海に還そう」
 懐から取り出したるは八寸釘。あろうことかみさきはそれを己に突き刺した。
 こともあろうに、傷口にである。まともな振る舞いではない。血が飛沫を……否。
「見えるかい。僕はね、呪詛や怨恨のたぐいに縁があるんだ」
 肉を穿った釘は、不可思議にも血を堰き止めている。
 蒼白の相貌、影が濃さを増す。

 剣鬼が退いた。みさきは、さらに二歩近づく。
「刑罰には色々あるけれど、ここはやはり鞭打ちが最適だろうか」
 いつのまにやら、掌に乗るのはぞっとするほどの獰猛な七尾鞭。
 化身に恐れなどない。だが彼奴はさらに一歩退いた。
 漂う呪詛が……見よ、女へ惹かれ、その手を纏う。
「刀剣が怖気づくなんて妙な話だ。もう諦めたのかい?」
 くすりと女が嗤った。剣鬼はそれを断たんと再び霞み――いや待て。これは。
「……せっかくの真剣勝負、騙し討ちのような真似をしてすまないね」
 いつのまにか、みさきは触れられるほど近くにある。
 懐に、入り込んでいる。そして。
「だが僕は少々、いやかなり――行儀が、悪いんだ」
 獣が哂った。剣鬼は声ならぬ悲鳴をあげ、そして喰われた。
 如人変成・深海龍魚。片腕に浮かぶ貌(おもて)は女"ども"の本性なり。
 その変化、業に非ず術にも非ず。ただ装いを解き、思い切り噛み砕く。
 けだものの仕草であった。

 がり、
 ごり、
 ばつん。

「……潮騒と/耳惑わせる/桜風」
 寂々と女は謳う。それは潰れ削がれた咎人に代わる辞世の句か。
「さあ、海へお還り。君の禊は済んだのだから」
 さらさらと、きらめく刃粒が磯の臭いに混じった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アシェラ・ヘリオース
「桜を見に来たのだが、場所を譲ってはくれないか」
礼儀作法を持って願い奉る。
自身にとって必要な手順だ。
たとえ、返礼が寒気と殺意だったとしても。

それでも襲い来るなら、フォースを纏った外套を振って寒気をオーラ防御。
「花を楽しむ程の余裕があるなら、外道になぞ堕ちぬか」
少しだけ自嘲に口元を綻ばせる。
戦闘知識で相手の太刀筋を見極め、立てた人差し指にオーラ防御と念動力を纏わせフォースを集中、フォースソードと見立て、迫る切っ先を受け止めたい。

「花と散れ」
隙があれば懐に踏み込み、昇華の祈りと共に打ち上げの掌底。
螺旋を描く不可視の念動力に桜の花びらで彩り、空へと打ち上げよう。



●アシェラ・ヘリオース~夜桜に/物神の啼く/夜もあらん
「失礼を承知で申し上げる」
 出し抜けな言葉であった。
 通りをそぞろ歩く幽鬼どもを前に、あろうことか女は――頭を下げたのだ。
「私の、いや、我らの願いはあくまでも桜を観、愛でることだ。
 この街の人々も、その他の者達も、もはや戦を行うつもりはない」
 天下泰平である。刀剣達が活躍すべき時代は、とうに終わったのだ。
「どうか鎮まり、我らに風雅を愛でる時間と場所を譲ってはくれまいか」
 騎士の礼であった。あくまでも礼を尽くそうという信念と誠意を感じる。
 ……実のところ、アシェラはそれが通じるとは思っていない。
 無論、オブリビオンを相手に、それをもって不意を打とうというつもりもない。
 いわばこれは、儀式だ。己にとっての、そして相手にとっての儀礼である。
 誠意を礼を尽くし、"それでも"を互いに明確にする。以て剣を交わす。
 戦争とは、他にどうしようもないからこそ起こる外交手段なのだから。

「……そうか。貴殿らの返答は心得た」
 アシェラは厳かに面を上げる。底冷えするような殺気が辺りに満ち満ちていた。
「ならば名乗ろう。アシェラ・ヘリオース、いかなる挑戦でも受け付けると」
 ずるり、と背の高い影がひとつ、葬列から滲み出て彼女の前に立つ。
 間合いを読む、などという所作はなかった。無造作に歩みだし、さらに疾走へ。
「――花を楽しむほどの余裕があるなら、外道になぞ堕ちぬか」
 はたしてそれは敵へ向けた言葉か、あるいは己への自嘲か。
 奇妙な笑みを口元に薄く浮かべつつ、翻る刃へと外套を打ち振るう。

 ――ばちり!

 冷気を込めた刺突と外套がぶつかりあい、電撃と火花を生じて飛び離れた。
 この世ならぬ力……否、森羅万象に満ち満ちるフォースの賜である。
 あるいは誰かはそれを気と呼び、あるものはまた別の名で呼ぶのだろう。
 ともあれ、敵は再び剣を構え、疾駆。アシェラは防戦に努めこれをかわす。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。大振りだが、狙いはいずれも致命的である。
(さすがは合戦場で朽ち果てた刀剣だけはある。実戦的な太刀筋だ)
 アシェラは内心で感嘆した。儀礼的なものではない、敵を殺し屠るための剣。
 それはぞっとするほど無慈悲で、けれどどこか機構的な美しさを孕む。
 いつつ、むっつ、ななつ。かわしきれず、頬が裂かれ髪が一房舞う。
 アシェラはいまだ攻めぬ。致命傷を避けながら右へ左へ跳ぶさまは剣舞めく。

 ……だが彼女とて、いたずらに回避を行っているわけではない。
 一手また一手と敵が剣技を振るうたび、アシェラの目が、肌がそれを捉える。
 五感を以て敵の剣筋と仕草を知り、いかにして崩すかを思案する。
 必要なのはただ一撃、趨勢を変えうる一打。真剣勝負とはそういうものだ。
(否――剣すらもあるいは)
 女は目を細めた。じゅうと、やっつ。読みどおりの場所へ鋒が来た。

「――どうか、失礼と謗るのはご勘弁ねがいたい」
 見よ。鋭き氷刃を押し止めるのは剣に非ず。そも得物ですらない。
 ぴんと立てた人差し指、ただそれがぴたりと刃に立てられ止めていた。
 ばちばちと電気めいた音……然り、フォースの賜である。
「美しき景観の場ならば――せめて、花と散れ」
 騎士が踏み込んだ。流麗ですらある挙措からの掌底。恐ろしく鋭い。
 捩じりを加えたそれは敵手のみぞおちをしたたかに打ち据え、天へと吹き飛ばす。
 手品じみてふわりと浮かび上がった物神は、ばちばちと黒電に苛まれ――微塵に四散した。

 花びらが、勢いに煽られてびょうと散り、舞う。
「時代に取り残されたモノとは、実に憐れなものだな」
 きらきらと刃片が混じり合って降り落ちるなか、女はうっそりと呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

神元・眞白
【SPD】
桜咲く、夜更けに響く、賑やかさ。……うん、まずまず?
散りゆきて、桜吹雪に、思い馳せ。……中々難しい。
初めての世界だけどなんだか楽しいイベントがあるみたい。
観光しながらちゃんとやる事はやって参加してみよう。

一騎打ち。私より飛威が向いてるし、お任せに。頑張って。
私は私でセコンドに回ってサポート。…でもサポートはいらないかも?
私が戦いを教わるぐらいだから。フェイントが旨いし器用だし。
あの武器達、私達に似てる。ヤドリガミ?
だからしっかり終わりは打たないと。また生まれない様に。

……符雨?遊びたいなら勝手に。見なかったことにしておく。
ただ、相手が近寄ってくるなら不利になりそうな。…ガン=カタ?



●神元・眞白~雪ながら/霞もたつや/妖の君
「桜咲く/夜更けに響く/賑やかさ……」
 思案した様子で、令嬢めいた様相の人形がぽつぽつと呟く。
「ううん、まずまず? ……散りゆきて/桜吹雪に/思い馳せ……」
 句である。どうやら眞白は、この世界この景色を初めて観るらしい。
 見事な景観だ。風雅を愛でる、とはこういうことを云うのだろう。
 喜怒哀楽に乏しい彼女をして、慣れぬ歌を詠むくらいには心打たれるものがある。
 ゆえに彼女もまた、此度の戦いに馳せ参じた形だ。
 群れをなす幽鬼どもとの一対一。彼女にはあまり向かぬ仕事とはいえ。
「観光も大事だけれど、やることをやるのも大事だから」
 彼女はひとり呟き、こくりと頷いた。
 傍らに控える戦術器――からくり人形たちのことだ――も、心なしか笑みを見せている。
 その眼差しは、不思議と妹を見守る姉のように穏やかで暖かい。

「というわけで飛威、頑張って」
 そのわりにこれである。まあ、戦術的には正しいのかもしれないが。
 飛威――つまり近接戦闘を得意とする戦術器の一。
 溜息をつくような人間くさい仕草で頭を振った。
 ややあって、眞白は何かを思いついたようにぽんと手を打つ。
「ええと。……戦術器・妖、あらため神元・眞白。勝負を、申し込みます」
 それは真剣勝負を行う上での儀礼、命のやり取りをするための必須事項。
 たとえヤドリガミとミレナリィドール、ともに人に非ぬモノであれ。
 礼を失することは、ともすれば敗けることよりも恥なのだ。
 ……ややあって、幽鬼の列より一体の化身が彼女らの前に現れた。
「――」
 眞白は我知らず、息を呑んだ。さもありなん、それほどの剣圧、殺意である。
 ぞわり、と栗毛立つかのように、銀髪が風もなくたなびいた。
「……飛威。手助けは、ちゃんとするから」
 こくりと人形が頷く。そのとき敵はすでに間合いを詰めていた。
「疾――」
 ぎん! 振り下ろされた刃と、飛威の振るうナイフが噛み合う。
 わずかな拮抗、敵が退く。そしてその姿がかき消えた。
「符雨!」
 銃声は呼びかけとほぼ同時。遊びでは済まされないと理解していたゆえに。
 どうやら人形は"ひとり"に数えぬというのか、敵の加勢が来る様子はない。
「――上」
 敵の高速移動を、目端で察した感知能は見事と言えるだろう。
 然り、頭上である。夕闇を背負い、逆光の幽鬼が兜割りを構えた!
「……っ」
 飛び退く。直後、そこへ折り来る白刃。呪詛の残滓が眞白を苛んだ。
 しかし好機である。敵の背後には飛威がいる。双剣を構えて敵の胴を狙い――。

 ……がぎんっ!!

 相手はこれを読んでいたか。振り向かぬまま、逆手持ちで受け太刀。
 しかし敵の口元が訝しみに歪んだ。飛威は圧さず、すぐさま刃を引いたのだ。
 必然、相手は攻撃のために振り向く形になる――誘われたと気付いたのはその直後。
「さすが」
 眞白が感嘆した。直後、敵の頸が刎ね飛んだ。
「飛威は、フェイントが上手いものね」
 いかにも搦め手である。飛威は敵が身を翻すように誘ったのだ。
 そこへ狙いすました頸打ち。かくて決着はついた。
「私達に似ているヤドリガミ。……可哀想だけれど、だからこそ終わらせなきゃ」
 束の間、眞白の脳裏に過去の記憶が蘇る。瞑目は黙祷のように。
 造られたモノだからこそ、その慚愧は理解できる。痛いほどに感じられる。
 しかし"だからこそ"討たねばならぬ。……己のような、悲劇が繰り返されぬよう。
「私ももっと、しっかりしないとね」
 桜吹雪の下、銀髪の令嬢はしとやかに微笑んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンシェ・ローム
あっこういうの映画で見ましたわ。タイマンっていうんですわよね?
もしもし、わたくしと勝負ですわ!

わ、わぁー強そうな敵ですわねー……。
スタミナとかないし力負けしそうだし、わたくしは間合いを取って敵が防御できない隙をついて一気に攻撃するしかないですわね。
相手が攻撃するために近づいてきたら、高速詠唱でジャッジメントクルセイドを敵か敵の眼前に数発落とす。ユーベルコードでできた光の柱が当たるか目くらましになれば、殴れ(気絶攻撃)るチャンスができますわ!で、もうぼこぼこ殴るしかないですわ!

これしかない!えーいままよ~



●アンシェ・ローム~春風や/猫には猫の/通ひ道
 この場に集まったのはなにも剣客、剣士のたぐいばかりではない。
 そも、人ですらない者も少なからず居る。それが猟兵というものだ。
「わ、わぁ……」
 感嘆の声をあげ、猟兵たちの決闘を見守るおしゃまな乙女。
 背丈は50cmにも届かぬ小柄な白猫、アンシェなどはその好例だ。
「どれもこれも強そうな敵ですわねー……わたくし、勝てるかしら」
 若干の不安がある。術士にとって真剣勝負など不得手もいいところだ。
 とはいえ、ここで退けば女がすたる。花見の機会も実に待ち遠しい。
「こんなに綺麗な景色なのに、戦わなきゃいけないなんて少し心苦しいですけれど。
 あ、でもこういうの映画で見ましたわ! タイマンっていうんですわよね」
 ぽふ、と肉球を合わせて眼を輝かせた。ミーハーなのか、楽観的なのか。
 ともあれ軽やかな足取りで敵列の前に出、メイスを掲げて"んんっ"と咳払い。
「もしもし、わたくしと勝負ですわ! ええと……アンシェ・ローム、ですわー!」
 いささか緊張感に欠ける名乗りである。
 だが彼奴らはオブリビオン。骸の海より来たる過去、未来の簒奪者。
 ゆえにみな知っている。このおしゃまな白猫がいかなる存在かを。
 猟兵。過去の化身を狩るもの、オブリビオンを討つもの。世界の守護者。
 その関係はただ一言で言い表される――すなわち、天敵と。
「わひゃっ」
 ゆえに名乗りに応じ、一体の化身がずいと彼女の前に出た。
 相対距離はおよそ四間。途端、アンシェは尻尾を膨らませ毛を逆立てた。
「す、すごい殺気ですわ……! これがケンカクというものですのね?」
 実のところ、サムライエンパイアでの戦いはこれが初めてである。
 独特の文化を醸成した島国。目につく全てが猫にとっては珍しく美しい。
 ゆえに敵手の戦意も、彼女は"そういうもの"として受け止め笑った。

 ……が、その笑みもすぐ消える。ぞっとするような寒気に。
 ぱきぱきと、敵の足元が霜を張っていた。刃も同様である。
「氷の刃、ってそのままの意味ですの……? ううっ、せっかくあったかくなってきたのに」
 ぶるる、と体を寒気に震わせる。尻尾がたしたし地面を叩いた。
 油断は命取りと己を叱咤し、敵の一挙一動に意識を注ぐ。
 とはいえ、近づかれては終わりだ。さりとて遠間の差し合いも迂闊は許されぬ。
(隙を突いて、一気に攻め込む。相手に攻撃を許したら、終わりですわ」
 知らず息を呑む。敵がすり足で少しずつ間合いを縮めんとする。
 はじめの一歩は思わずたたらを踏んだ。続く二歩目……爪を立てて不退を示す。
「……ごくり」
 頭の毛、もといヒゲが太まる思いである。流れた静寂は一瞬か、数秒か。
 ――見えた。敵が腰を落とし、一気に踏み込まんとする起こりが!
「そこ! ですわーっ!」
 おもむろに指先、いや爪先を向ける。夕闇空から落ちる一条の光。
 それは敵そのものではなく、いくらか手前を狙って放ったものだ。
 さらに光条が地へ突き立つ。いわばそれは光り輝く鉄格子だろうか。
 敵を近づけず、一瞬でも釘付けにするための目くらましである。
 ……本来命中率の高いジャッジメント・クルセイドを、あえて牽制に用いたのは正解である。
 光柱を切り裂き、刃が虚空を薙いだ。剣の軌跡がぱきぱきと凍りつく。
 氷輪布陣! 人を殺めるには十分な鋭さ太さの氷柱が五つ生まれ、放たれた!
「わわわわわっ!?」
 したり。慌てながらもアンシェは地を駆ける。ここでケットシーの優位が働いた。
 腰どころか膝に届くかどうかの小さな体は、剣で斬るには低すぎるのだ。
 では足蹴にするか? 出来ぬ。いましがた牽制で足止めを喰らったのだから!
「えーい、ままよーっ!」
 かくしてアンシェは後の先を得、間合いを駆け抜けメイスを振りかざした。
 子供の癇癪じみた盲滅法の痛打の嵐、すねから始まり膝・腿・腹から胸へ。
「このこの、このぉっ!!」
 コミカルだが打撃は的確、痛烈である。敵はこれをまともに受けた。
 とどめの一撃がごかんと頭部を叩けば、化身は失せてバラバラの刀身が地面に散らばる。
「ぜ、ぜーぜー……あ、危ないところでしたわー」
 毛並みがいくらか凍りついていた。寒気を祓うようにぶるぶると全身を震わせる。
 紙一重の勝利。窮鼠猫を噛む、ならぬ窮猫刃を砕く、といったところか。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シーザー・ゴールドマン
【POW】
花見酒と洒落込むのも一興だね。
その前に無粋なオブリビオン退治と行こうか。

「シーザー・ゴールドマン。私の相手は誰がしてくれるのかな?」

オーラセイバーを振るい、ある程度は戦いを楽しみます。
ある程度、底が見えたら攻撃を[見切り]、回避と同時に[カウンター]で『ラハブの割断』を放って決めます。

決着後は「連戦も面白いが、出る幕はなさそうだね」と他の猟兵を見て、観戦モード
自身が最後の場合は「さて、首魁の登場かな?」



●シーザー・ゴールドマン~花の陰/謡に似たる/いくさ哉
 男にとって、すべては等しく娯楽である。
 風雅を愛でながら盃を傾けることも、剣を以て相対すことも同様なり。
 ゆえに敵影の前に立つシーザーの姿に、緊張というものは無縁だった。
「花見酒と洒落込むのも一興だ。が……君達の姿はその場にそぐわないな」
 超然とした態度で彼は云う。金の瞳が来たる幽鬼どもを睥睨した。
 あくまでも姿勢は傲岸に、しかし優雅で友好的。紳士であり、貴人めく。
「赤公爵、シーザー・ゴールドマン。私の相手は誰がしてくれるのかな?」
 薄い笑みすら浮かべ、彼は名乗った。ぶわり、と桜の花びらが足元から吹き上がる。
 目に見えぬ圧によって、巻き上げられたのだ。化身どもの衣服もばたばたと波打った。
 ……いくらかの静寂。そして、そのうちのひとりが彼の前へと来たる。
 シーザーはそれを、口元の笑みを深めることで出迎えた。
 胸元に手を置き会釈などすらしてみせれば、下ろした片手に握られる刃。
 魔力が渦を巻き、収束して剣と成る。ヴン、と大気の灼ける音が微かに響く。

「ほう」
 わずかな感嘆の声を、シーザーがあげた。
 同時に、彼の羽織るコートが、風もないのにばたばたとはためく。
 剣圧である。白々と映える月光のような、ぞくりと底冷えする冬の寒気のような。
「なるほど、これはこれは。存外――楽しめそうだ」
 男の声は弾んでいた。敵は思った以上に"できる"らしい。
 それは彼にとって警戒ではなく期待と愉快をもたらす。金眼がぎらりと瞬く。
 目に見えぬ殺気戦意がぶつかりあい、迫り、うねりながら大気を呑む。
 両者の間、何もない虚空がぐにゃりと歪み――どろどろと風景を溶かした。
 尋常ならぬ使い手同士の対峙は、しばしばこうして不可思議な幻視をもたらす。
 力量差が圧倒的であれば、あるいは一方が頸を刎ねられ自死するさますら視るだろう。
 男はいかに? ……あるかなしかの笑みからは読み取れない。
「君も楽しみたまえ。せっかく現世に甦ったのなら……いや、生じたのなら、かな?」
 などと冗談めかす。そこへ敵が、雪崩を打って飛び込んだ。

「人生とは楽しむことが肝要だ。人であれ化身であれなんであれ、そこは変わらない」
 悠然と語りながら、横薙ぎの刃を受けた。ばちり、電光が爆ぜる。
 弾かれた勢いを利用し反転、左からの巻き上げ。すでに刃は追いついていた。
 ばちり! びゅん、ばち! ばち、ばち……!
 オーラの刃と凍れる刃が打ち合うたび、逢魔が時の大気を稲妻が焦がす。
「食でもいい、風雅でもいい。運動、鑑賞、知識や芸術……楽しみ方はいくらでもある」
 はじめの五手はシーザーが受けた。返す刀で十を打ち込む。
 退き、進む。そしてまた受け太刀に回り、退きながらこれを凌ぐ。
 一進一退とはまさにこれ。けれども趨勢は明らかに一方が握っていた。
「無論、戦いでもね。余裕を持ち、あくまで人生を豊かにするためならばそれでいい。
 その点、君達はよろしくない。殺すために殺す、など何の楽しみもないだろう?」
 五手を受ける。十を撃つ。
 四手を凌ぐ。十と一つを圧す。
 三手をかわす。十と二つで退かせる。
 段々と、攻防はじわじわ色を変えていた。男の白肌が剣風で裂けることはあれど。
「ゆえに――そろそろ、頃合いだな」
 刃はけっして男に届かない。そして一手を弾き、十と四つの剣がさんざめいた。

 ――ごぉう!

 束の間の嵐めいた剣舞。ぱちちち、という静電気めいた音。
 その正体、敵の反撃を出がかりで潰したオーラセイバーの残滓である。
 では敵手は如何に? ――ばらり、と化身であったものが溢れ、散った。
「わが刃は全てを断ち斬る。哀れな武具よ、せめて安らかに眠りたまえ」
 刃が消失した。あとには何も遺らない。男はふう、と熱っぽい吐息を一つ。
「……さて、私の出る幕は終わりのようだ、
 猟兵諸君のお手並みを、拝見させてもらおうか?」
 口元の笑みは、たしかな充足を見せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
名乗りを上げ、『偽村正』へと一騎討ちを挑む

道具なれば、作りし者の望みを叶えてこそというものだが
人を殺すことを望まれたであろう汝に対し
人を導き、助けることを望まれし我は相容れぬ
せめて我が全霊をもって、汝を破壊してやろうぞ

先ずは巫覡載霊の舞を使用し光を纏う
地面を凍らせられても面倒だ
武器受け1とオーラ防御31を組み合わせ
敵の氷柱は全て受け止めてやるとしよう

攻撃を受け止めてできた敵の隙を突き
真朱神楽(武器:薙刀)にて敵の防御の隙間を貫くとしよう
(鎧無視攻撃1)

……模倣として、偽として作られし刀か
その境遇に思うところがないわけではないが
人に害をなすならば捨て置けぬ

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ歓迎



●天御鏡・百々~鏡中に/胸中映し/魔を祓う
「道具なれば、作り手の望みを叶えてこそ……というものだが」
 あどけなき風貌に、年輪ゆえの怜悧な知性を感じさせる声音。
 一見不釣り合いながらも、不思議とそれらが同居して神々しさを生む。
 いかにも彼女は神と称えられた鏡の化身であり、ゆえに百々は憂いを浮かべた。
「人を殺め、屠るために造られた汝らと、人を導く助く我は相容れぬであろう。
 矛盾とはよく言うたもの。ならば此度の戦において、我が退く道理はない」
 瞑目し、瞼を開けばそこには決然たる意志のみが残る。
 同族への憐憫、慚愧に対する悲哀は切り捨てた。そして名乗る。
「天御鏡・百々、神なる御鏡ここにあり。汝らに一騎討ちを挑もうぞ!」
 携えし薙刀、その銘を真朱神楽。担い手が舞うもまた然り。
 生気を感じさせぬ足取りで対手が歩み出た。きちきちと大気が凍える。
「っ……禍々しき怨念よ。そしてなんと冷たい殺気か」
 己を打つ敵意に、少女はほうと溜息をついた。やはり和合は不可能か。
 ならばせめて、全身全霊を以て相対し、これを打ち砕く。
 それこそが、愛され尊ばれてきた己に出来る唯一の報いと彼女は断じる。

 そしておもむろに、少女はす、と一歩を踏み出し、舞った。
 優美であり、しかし一分の隙もなき舞踏にして武闘である。
 この技、名を巫覡載霊の舞と呼ぶ。
 神と尊ばれたモノが、神を慰めるために舞う魂振りの御業。
 さながら陽を浴びて鏡面がしらじらと冴えるかのように、幼子は光を纏う。
 模倣刀はそれを忌む。光を退けようと、空を切り氷柱の礫を放つ。
 あわせて五条。これらはすべて、しゃんと奔る薙刀によって砕かれた。
「この天地、一縷すらも汝らの慚愧で穢させるわけにはゆかぬ。
 相手は我なり。小細工を弄する暇があるならばかかって参れ!」
 朗々たる挑発である。応、とばかりに敵が地を蹴った。
 斬撃は一度に三。狙いは頸、脚、そして胴。
「っく……!」
 薙刀は剣に絶対的な優位を持つ。リーチもさることながら最たるは足払いだろう。
 剣で敵の脚を削ぐというのはなかなか出来ることではない。
 薙刀ならばそれが出来る。出掛かりを潰せばいかな使い手とて、というわけだ。

 されどこれは尋常の立ち合いにあらず。
 物神同士、人には出来ぬ怨念と光輝を纏いて振るう超常の刃なり。
 だが百々も見事なもの、一ノ太刀を刃で受け、続く二・三を跳びくぐった。
「返礼仕る、受けてみよ!」
 そして宣言の通りに連撃。敵の剣は鋭く冷たく、そして酷薄な太刀筋である。
 彼女のそれは対称的。緩くまっすぐで、しかし油断ならぬ手捌きだった。
 安牌の足払いを右、左と二度。さらに蛇めいて地から跳ね上げての突き。
 疾い。だがまっとうに過ぎる。外道の剣の使い手には見え透いた手。
 ゆえに敵は三撃を凌ぎ、低く跳んで再び頸を打たんとした。
「――浅ましきかな」
 柳眉を顰め、少女は呟いた。然り、彼女はそれを読んでいた。
 怨念を撚り集め、自らを妖刀にせんと企む者である。
 振るう刃は必ず対手の命を求め、常に必殺の狙いをつけてくるだろうと確信していた。
 まず冷気が凝り、二条の氷柱となって彼女を襲った。
 柄をぐるりと一回転させ、これを弾く。間隙を縫うような剣閃――だが前のめりだ。
「我が鏡面、汝の隙を映したり。其処だ!」
 くるくると薙刀が少女の体を這い、背なを伝って逆手へ戻る。
 下から上へと流れる敵の剣に対し、薙刀は上から下へと降りた。
 そして今まさに己の首筋へ、刃を届けんとした肩を打つ――否、深く深く裂く。
「……御免っ」
 骨を割り半ばで留まった刃を、裂帛とともに深く押し込む。

 ごきり――ざくん。

 肉を裂くいやな手応えとともに、両断。敵は袈裟懸けに真っ二つ。
 凍れる刃は、首筋に赤い軌跡をひとすじ刻むに留まっていた。
「……模倣刀、偽村雨。汝らの境遇、我にも想うところはある」
 残心。少女は頭を振り、嘆息と共に吐き出した。
「だが人に害をなすならば、捨て置けはせぬのだ。……眠れ、同胞よ」
 はらはらとこぼれる桜が、砕け朽ちた刃を包み覆い隠した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紅呉・月都
へーぇ…人に害なす妖刀なぁ……うし、叩っ斬る
まぁ同じ刃物、護るべきモノを護っていたんだろうが…
スッパリ引導を渡してやる。それが俺の役割だ


古い刀なら歪みがどっかにあんだろ、一先ずはそこを探りながら【なぎ払い・2回攻撃・鎧無視攻撃】を活用して戦闘。
見つけたら【鎧砕き】の要領で【怪力】使って【傷口をえぐって】ぶった斬る。

何時までもグダグダ纏わり付いてんじゃねぇ
力の無い奴らに害をなすようなテメェらに先はねえよ
俺が…ここで終わらせる

回避は【残像・見切り・戦闘知識】を活用
回避できなきゃ【武器受け】で対応するぜ

アドリブは歓迎
一騎討ちも望むところだ



●紅呉・月都~紅の/刃が断つは/花一華
 ヤドリガミ――百年の時を閲し、自我を得た物神ども。
 同じ起源でありながら、通りをそぞろ歩く幽鬼どもと猟兵は対極に在る。
 過去と未来。生と死。陰と陽。殺すものと守るもの。
 ゆえに多くのヤドリガミ達は、その慚愧や怨嗟を憐れみ哀しんだ。
 ……が、彼の場合は、ただそう在るものと、自然の裡に受け入れたのだ。
「まあ同じ刃物、同じ刀剣だ。お前らも守るべきものを護っていたんだろうが……。
 化けて彷徨い出るってんなら、それをたたっ斬るのが俺達の仕事だ」
 名刀『紅華焔』を肩に担ぎ、いっそ清清しい物言いの月都。
「そして俺という牙の在り様、役割でもある。引導を渡してやるぜ」
 かちゃり、と紅い刃が幽鬼どもの列へと向けられた。
「銀藍の紅牙、紅呉・月都。一騎討ち上等、望むところだ!」
 燃えるような活力と戦意に溢れた、滾るような声音である。
 ……ならば列を抜け出た刃はまさに対極。
 万物を凍りつかせ、寒々と死の静謐へ至らしめる絶死の剣なり。

「っと、こりゃあ……」
 月都は呼気を短き吸い、吐いた。銀瞳がす、と細められる。
 ……出来る。一山いくらの雑魚どもと見ていたが、これはなかなか。
「それでも見境なしに暴れたりはしねえ、ってか。多少の挟持はあるらしいな。
 いいぜ、なら真っ向勝負でスッパリと終わらせる。どこからでもかかってこいよ」
 ぎちりと大気が張り詰め、破裂寸前の緊張が二者を包む。
 円形の見えない蓋がふたりを包み、そこへ舞い落ちた桜吹雪はぱちぱちと裂け割れた。
 相対距離はおよそ三……いや、二間。一流の剣客にとっては致死の間合い。
 互いに吸い寄せられるように踏み込みながら、しかし剣は動かない。
(――とはいえ、いつまでもじっくり待つのは性に合わねえな)
 この緊張、あの黒騎士を相手にした時を思えばそよ風のようなものか。
 同時に、苦い敗北の記憶が彼の胸の裡に蘇る。
(らしくもねえ。敵を前にして他の野郎を思い返すなんざよ、命取りだぜ)
 心中で自嘲し、皮肉の笑みを浮かべる。己らしさを取り戻すいい機会だ。
「来ないのかい……だったら、こっちから往くぜッ!」
 赤い風が駆ける。それが真剣勝負の始まりとなった。

 間合いを詰め、まずは牽制とばかりの横薙ぎ一閃。剣速はめくるめくほど。
 しかし敵も一筋縄ではいかぬ。飛び退ってこれを躱し――返す刀を構えたときには、すでに月都が空いた間合いを詰めている。
「おらァッ!!」
 刺突。狙いは胸部中央、敵はこれをかろうじて剣で受け反らした。
「どうしたどうしたッ、そんなもんかぁ!?」
 月都は手を緩めぬ。踏み込んでの袈裟懸け、弾かれれば再びの横薙ぎ。
 一撃ごとに火花が爆ぜ、剣風が桜を大地を削り砂埃を巻き上げる。
 もしも両者に不用意に近づくものあれば、即座に五体が裂け微塵に帰することだろう。
 嵐である。反撃を許さぬ、嵐の如き猛攻が敵を苛んだ。
 だが月都の狙いは、あくまで防御を抜けることではない。むしろ測っているのだ。
 古剣ならば相応の歪みがどこかにある。どこだ、どこにある。どこだ――ここか!
「もらったァ!」
 裂帛の気合! 一撃を加えると見せてあえて引き、満身の膂力を剣に込める。
 撃つか? 退くか? ……逡巡ののち、敵は撃剣を選んだ。
 威よりも速に重きを置いた巻き上げ。月都の胴をざくんと刃が裂く。
「っつぅ……けど、浅いなあ」
 鮫のごとき笑み。いかにも、刃ははらわたに届いていない。
 そして撥条仕掛けめいて、月都の上体がたわんだ。
 否、そう見えるほどの速度で捩じりを解き放ち、真一文字を叩きつけたのだ。
 恐ろしいまでの怪力を以てしての、鎧ごと敵を砕く凄絶な一撃。
「――剣刃一閃、悪鬼羅刹を叩き斬る……ってな」
 血を払い、残心――夕闇に燃えるような朱が踊る。
「なあご同輩、お前らにだって護りたいものがあったんだろう」
 彼はふと呟いた。
「それを忘れて、力もねえ奴らに害をなすってんなら……お前らはもう兇器ですらねえ。
 怨みを纏おうが先はねえのさ。だから、俺がここで終わらせてやるよ」
 納刀。直後、敵はへそを始点に真っ二つに断たれ、ずるりと上体が零れ落ちた。
 月都はその屍体を一瞥する。銀の瞳には、僅かながらの陰りがあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
アレンジアドリブ等大歓迎です

一対一での真剣勝負か。侍は粋な戦いを好むのだな
一礼し、戦いへと挑む
異国の守護者、ユーリ・ヴォルフ。いざ、参る!

炎霆(武器)を構え、召喚ドラゴンは控えて自身の腕だけで戦う
『オーラ防御』や『激痛耐性』で防御を固め
敵の攻撃を炎霆で受け流し隙を探す
槍はリーチがある分、距離を維持できれば有利ではあるが
懐に入られたら不利になる。その際は『吹き飛ばし』を兼ね蹴り飛ばす!

隙を見つけたら反撃だ
全ての力を炎に変えて、炎霆に乗せ
『属性攻撃』(炎)『串刺し』で一手に胸元を貫き
内側から炎の力を爆発させる
流石の腕前だったな。だが私も、ここで敗れるわけには行かないのだ



●ユーリ・ヴォルフ~風炎を/纏いて奔る/野紺菊
 アックスアンドウィザーズ出身の龍人にとって、この世界は何もかもが珍しい。
 独特の建築技術、島国にひしめく無数の大名国家、個性豊かな服装や芸術……。
 枚挙に暇がないが、ことさら彼の興味を惹くものといえばやはり一つしかない。
「一対一での真剣勝負、か。オブリビオンに堕してなお、一騎討ちを好むとは……。
 さすがはサムライ。化身であれ、戦いのさなかでも粋を忘れぬということだな」
 そう、世界の名にも冠される『サムライ』、ひいては彼らの重んずる士道である。
 貴人のもとで育てられ、守護者たらんとするユーリにとって、それはいわば学ぶべき教訓の宝庫だ。
 ……とはいえ、ここは鉄火場。己は猟兵であり、敵は過去の化身なり。
 いかに粋を愛し、一騎討ちを貴ぼうと、敵は敵。斃さねばならぬ宿命にある。
「私はあなた達の在り様に敬意を払おう。たとえ怨念を纏う幽鬼であれ」
 いや、だからこそか。ユーリは、真摯な面持ちで一礼をしてみせた。
「そして名乗ろう。異国の守護者、ユーリ・ヴォルフ。誰ぞ我と相見えるものは居るか!」
 あえて不意を打とうとする輩はいなかった。それは彼らなりの敬意の証か。
 はたまた、オブリビオンとしてそう在るからなのか。真実は定かならず。
 いずれにせよ、朗々たる名乗りと挑戦に応じ、大太刀を構える剣鬼が一人進み出る。
「こちらは槍にて仕る。銘を炎霆、失礼には当たるまい」
 虚空へ手を差し出せば、彼の翼から炎が逆巻き、やがて槍の形をなす。
 夕闇のなかにありてなお赤々と燃えるさまは、鍛えたばかりの武具のよう。
 だがその矛が秘めた熱は、いかなる刀剣よりも熱く、そして鋭い。
「あくまで我が腕のみでお相手しよう。さあ、いつでも参られよ」
 じとり、と空気が重く、粘ついたかのように両者を包み込む。
 互いの殺気と戦意がせめぎ合い、以て周囲の空気が凝り淀んだのだ。
 鬱屈とした怨念がそれをさらに覆い、常人には堪えきれぬ魔境を生む。

(ああ、やはり世界は広い)
 立ち合いの最中、ユーリは心の裡で清々しくこぼした。
 風景や文化もさることながら、戦士の在り様もまた多彩。
 たとえ天敵であれ、学ぶべき美点を評価し、敬意を示す。
 ユーリ・ヴォルフとは、そういう騎士である。まっすぐな男だった。
 ――そして先の先を得たのは対手である。炎をくすませるほどの寒気!
 これを纏いて二歩踏み込み、まず刺突。ユーリはこれをおおらかに受け止める。
(槍の間合いを一撃で詰めてきたか。それでこそ!)
 口元に笑みが浮かんでいることに、彼自身は気付いているかどうか。
 鋒が刃をそらし、それをくぐるようにして変則的な切り上げが奔った。
 受け流す――いや、敵が疾い。ユーリは炎の闘気を集中させ、被弾を防ぐ。
 オレンジ色のオーラを縫い、鋭き刃が彼の守りと肌を切り裂いた。
「ぐ……ッ!」
 呻いてはいられぬ。なにせ敵は、切り上げた剣を大上段からまっすぐ打ち下ろしてきたのだ。
 ことごとくが目もくらむほどに鋭く疾い。咄嗟に柄で受ける――がぎん!!
「重い……やはりこの間合は不利かッ!」
 御免、と呼気一つ。槍を引き戻しつつの、鳩尾めがけた蹴撃一閃。
 敵はこれを飛び退って回避。間合いが開いた、好機!
「そこだ、もらったッ!」
 闘気が収束した。防御を棄てた攻めの姿勢、捨て身とも言える起死回生の型である。
 集められた炎の元素は矛先を熱するばかりか、彼の背中を翼を覆い燃え上がる。
「おおおおおおッ!」
 さながらジェットエンジンのごとく、燃焼はさらなる加速をもたらす!
 敵はカウンターで頸を取らんとする。甘い。ユーリの赤い瞳がぎらりと燃えた!
「吼えよ炎霆、我が敵を焼き尽くせッ!」
 口訣に炎の化身武器が応じる。長槍の矛先が敵の胸部をぐさりと貫通。
 さながら炸裂弾のように、闘気が流れ込み――爆ぜた!
 業火は敵の体を真中から四散させ、その残骸すらも焼き尽くす。
 ごぉう、と大気を焦がした熱に、桜の花びらたちも燃えて消えた。
「……ふうっ」
 安堵のため息とともに、残心。熱は春風にさらわれ夕闇に溶ける。
「流石の腕前だ。だが私も、ここで敗れるわけにはいかないのだ」
 瞑目し、彼と彼らが纏う怨念の犠牲者たちへの哀悼を済ませる。
 瞼が開かれた時、守護者の双眸は次なる敵と勝利を見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皐月・灯
真っ向勝負仕掛けりゃ乗ってくるってか。
……おもしれーじゃねーか、上等だ。

オレの拳を受けたいヤツは前に出な。さあ、早いもん勝ちだぜ!

オレは拳、相手は刀。
鍔迫り合いができるとは言わねーよ。リーチだって向こうが上だ。
……けど、そんだけじゃオレは止められねーぜ。

《猛ル一角》でブッ飛ばす。

氷柱の技は受けた時点でダメージを受ける。
なら、紙一重で【見切り】つつ間合いを詰めるぜ。
……「オレが避けたら地形を凍らせる」んだろ?
狙い目はそこだ。

【スライディング】を使い、凍った【地形を利用】して、
ヤツの予想を超える速度で懐に滑り込んでやんのさ!

後は、【カウンター】で叩き込むって寸法だ。
オレのアザレア・プロトコルをな!



●皐月・灯~躑躅咲く/うしろや闇(くら)き/道半ば
 逢魔が時。夕闇に包まれた異界めく通りに、幻想的な輝きふたつ。
 すなわち橙と薄青。それは少年の眼がたたえる文字通りの異彩である。
「へえ……ほんとに襲いかかってこねーんだな」
 そぞろ歩く幽鬼の列を前に、灯はひとりごちた。
 ぎしり、と拳を握りしめる。肩にかけたの大気が陽炎をどよもした。
「真っ向勝負を仕掛けりゃ乗ってくる、ってか。……おもしれーじゃねーか」
 そして口元に笑みめいて意気が浮かび、異彩ふたつが鋭く引き締められた。
「上等だ。オレの拳を受けたいヤツは前に出な」
 挑むのはこちらではなく、お前たちだと彼は語る。
 ずしゃり、ずしゃりと無造作に踏み出し、なおも猛々しき声で叫んだ。
「さあどうした、早いモン勝ちだぜ! それともビビっちまったか?」
 いかにも若者らしい野卑な口調。やせ我慢というわけでもなし。
 彼はそういうモノなのだ。敵であれ友であれ、常に刺々しく接する。
 ことに相手が刃の化身となれば、獰猛さは牙のごとく。退くつもりもない。
「……へ、そうこなくっちゃあな」
 歩み出る影、ひとつ。拳をぱきりと鳴らし、少年は戦意を高めた。

 かたや相手が構えるのは、常の太刀よりも長い刃渡りの大太刀。
 かたや少年――灯に武器はない。己の精神と体に刻み込まれた印形がそれだ。
 刻印を以て五体に魔力を通し、四肢へ威力を流し込む。
 そして激情と意の赴くままに、拳を足を叩き込む。いわば徒手空拳も同然。
 遠間を穿つ技は数あれど、此度の戦いにあえてそれを用いるつもりもないらしい。
「チャンバラにゃあ使えねーが、悪く思うなよ」
 ばちり、と。彼の周囲の大気が、静電気のように微かに火花を散らした。
 口訣は必要なし。異形にして我流の魔術『幻釈顕理』はすでに起こっている。
 ばち、ばちばち――魔力が五体の回路をひた走り、リレイされた威力は拳指へ。
 いまや彼の周囲には電光めいた魔力と陽炎が渦を巻く。
 拳の周辺に至っては、ぐにゃりと粘土めいて景色を歪めている。
 抑えること無く放出された剥き出しの殺気は、敵のそれとぶつかりばさばさと周囲に風鳴りを起こした。
 目深にかぶったフードが煽られ、あどけない風貌が顕になる。
「……先手はやるよ。いつでも来な」
 その言葉、はたして対手に通ったか、はたまた敵は隙を見出したのか。
 約コンマ5秒後、敵の手元が霞んだ。――疾い。灯は息を呑む。
 わずかに……そう、わずかな感嘆すら得たほどの手捌きである。
(敵に感心してる場合じゃ、ねえッ!)
 彼は心中で己を律した。それが紙一重の見切りへとつながった。
 まず飛び退る。そこへ突き刺さる氷柱が三条。
 ぱきぱきと音を立てて地面が凍りつき、鏡めいた凍土を生み出した。
(――よし、狙い通りだ)
 腰を落とし、彼もまた風となる。廻りし魔力がそれを可能とする。
 ドウッ! と大気と土とが爆ぜ、灯という弾丸を敵へ放った。
 対手の剣が二度、虚空を薙いだ。生まれる氷柱は三か、四か。
 真正面から間合いを詰めんとする彼の先を得て、飛び込むであろう場所へ氷柱が奔る。

 ――だが。
「読めてんだよ、その手はなァッ!」
 ざりざりざりざり!
 彼は片足で地面を踏みしめ、荒っぽくブレーキを踏んだのだ!
 土煙が立ち上り、彼の姿を覆い隠す。そして獲物なき地面を貫く氷柱の群れ。
 ばきばきと音を立てて凍土が生まれ――そして、おお、見よ! あれは!
「――レディ、アザレア・プロトコル。1番……」
 灯である。だがその姿勢は飛び込みでも跳躍でもあらず。滑走!
 彼の狙いははじめからここにあった。敵が最適な地形を生み出すというなら重畳。
 減じた速度そのままに飛び込み、凍土を滑って再加速したのだ!
 なんたる判断能力、そして敵の威力すら利用する油断なき戦略眼か!
「征くぜ――《猛ル一角(ユニコーン・ドライブ)》ッ!!」
 かくて幻獣はここに顕現す。角に見立てられるは魔力を秘めた右拳。
 見えざる術式を込めた一撃が、全身を霞ませるほどの速度を伴い――敵を、貫く!!

「……あんた、いい筋してたぜ」
 土煙が絶え、少年の姿を映し出す。ばちり、と雷光の残滓が散った。
 夕闇を背に、桜の真下で異彩がふたつ輝く。幻想的な風景……。
「だがオレのほうが強かった、そんだけだ」
 バラバラに四散した刀の破片、すなわち化身だったモノに、彼は端的に言い捨てた。
 たったのそれだけ。勝負はそれで終わり、彼もまた踵を返し歩み去る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
一騎討ちを好むのは腕に自信がある証拠かな
いい腕試しの機会だと思っておくよ
そこの君、相手してくれる?
私はオルハ
全力でおいで!

得意な戦法でぶつかってみよう
仕掛けられた攻撃は可能な限り【見切り】を狙って
間に合わなければ【武器受け】
あ、でも空を飛んでの回避はやめようかな
フェアじゃないもの
受傷は最低限に留められるように
それでいて、卑怯な手は使わないように

君が攻撃に動いた直後、その隙を逃さない!
体勢を整えられる前に【早業】で【2回攻撃】
【カウンター】には少しだけ自信があるんだ

長期戦になりかけたら【力溜め】で火力を上げてどうにか切り抜けてみせるよ
悔しいけど体力面では劣ってると思うからね



●オルハ・オランシュ~星と星/指でなぞれば/明日が来る
 昨日より今日はきっといい日で、今日を楽しく過ごせたならそれでいい。
 少女の人生哲学は、端的に言えばたったそれだけ。
 ゆえにか、彼女にとって雑用も鉄火場もあまり変わらない。
 為すべきことがあるならそれを為す。敵が何者であれ。ただそれだけだ。
「ずいぶん腕に自信があるみたいだね。うぬぼれってわけでもなさそう」
 これまでの戦いを、なおそぞろ歩く幽鬼たちの剣圧を前に、溌剌とした一言。
 ことごとき修羅場を天地すらも恐れたか、いまや宿場街を抜ける風はなし。
 だが不思議と、少女の周囲には軽やかなそよ風がなびいていた。
 彼女は戦士ではない。戦士とは、ただ戦える者のことを指すのではないのだから。
 だから、彼女は名乗りの作法をあまり重んじず、それとなく目につく化身を指さした。
「ねえ、そこの君。……そう、君。私の相手をしてくれる?」
 化身は無言。やや間をおいてから、思い出したかのように彼女は言う。
「私はオルハ、オルハ・オランシュ。挑戦するよ、全力でおいで!」
 なんと勝ち気な言葉だろうか。剣鬼はそこではじめて鞘走った。
 途端、ぶわりと対手を中心に剣気の円が膨れ上がりオルハを呑む。
「ふうん、なるほど……ね」
 気圧されることはない。いやさ、むしろ緑眼は星のようにきらきら輝いて。
 その煌きは、敵が纏う重く鬱屈とした怨念とあまりに対称的である。
「腕試しのつもりだったけど、これは私も少し気合を入れないと、かな!」
 言葉とともに少女は跳んだ。それが勝負の合図となった。

 ガキィッ!!

「っ」
 三叉槍、銘をウェイカトリアイナとする得物が弾かれた。
 オルハが体勢を立て直した瞬間には、すでに剣が首元へ来ている。
「このっ!」
 石突で地面を弾き、受ける。再びの金属音が大気をたわませた。
 見切れていた。だが回避は間に合わなかった……迅雷のごとき剣閃である。
(空を飛ぶのはアンフェアだから封印するつもりでいたけど、そうじゃないな。
 これ、そんなことしてたら私のほうが滅多斬りにされちゃうよ)
 多くの場合、頭上を取るのは絶対的アドバンテージの掌握を意味する。
 だがそれは尋常の戦いでの話。一流の使い手は、空を舞う燕すら断ち切るのだから。
 両の足でしっかと地面を踏みしめ、全ての意識を敵へと向ける。
 それによってはじめて攻防が成立する。とはいえ……。
(こんなところで卑怯な手を使うのは、よくないもんね)
 少女なりに、正道を以て相対しようという意気はあるらしい。

 ガキ、ギギギギ……ギリリリ、キンッ!
 敵の打ち下ろしを三叉で防ぎ、鍔迫り。
 それを乗り越えての斬撃を払い、胴めがけ刺突を繰り出す。浅い、弾かれた。
「く、防御も中々……っ、このままだとちょっと、まずい、かな」
 わずかにだがオルハの息は上がり始めていた。懸念どおりである。
 彼女はそもそも、正面切って長々と打ち合うようなタイプの人間ではない。
 不意を打ち、使えるものを利用して敵を討つ。暗殺者と呼ぶのが相応しかろう。
 事実、そうした生業もこなしたことがある。条件からして不利なのだ。
(けど、だんだんと太刀筋は読めてきた。これなら……っ)
 一瞬。刹那でもいい、敵の守りを穿つ一分の隙さえあれば片はつく。
 どこだ。どこにある。駱駝がくぐるべき針の穴はどこにある!
「――っ」
 緑色の瞳に、横薙ぎの剣閃が煌めいた――否、幻視である。
 それはまだ放たれていない。だがこれから放たれるであろう一撃だ。
 頸狙いの、澱みも寸分のズレも無き神速の一閃。おそらく自分はそれで死ぬ。
 このままおとなしくそれを受ければ、だ。視えたならば、潜り抜けられる!
「は、ぁああああっ!」
 満身に気力をつぎ込み、地を蹴る。瞬間、そよ風は烈風へ姿を変えた。
 剣閃が薙いだのは虚空、少女が後に引いた風の残滓に過ぎぬ。
 その時オルハは敵の懐へ。緑眼が煌き、その輝きは三叉槍の矛へと流れた。
「――見切れるなんて、思わないでくれるッ?」
 ひとつ。ふたつ。突き、引き、再び突く。
 舌を巻くほどの、達人的な二連突きである。穿ったのは胸部と胴体。
 はらわたに届いた手応えがある。傷口から漏れ出すのは呪詛の残滓だ。
「悪いね。こういうやり方には、自信があるんだ」
 勝ち気な言葉と裏腹に、頬を一筋冷や汗が伝った。
 それが顎へ流れて落ちた時、化身もまたどうと斃れて消え去った。
「……ふう、やったー!」
 快哉。桜の花びらは、少女の勝利を祝すかのようにちらりと舞う。 

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡
◆アドリブ歓迎


……ふーん
正直、狙撃が一番面倒がないんだけど
それで下手に暴れられても面倒か

……まあいいや、一騎打ちね
いいぜ、たまには悪くない

動きも素早いし、あの攻撃は当たると拙そうだ
じゃあ、まあ解決策はシンプルだ
当たらなきゃいいんだろ

【確定予測】を発動して交戦を開始
敵の動きや呼吸、間合いの取り方の癖などを仔細に観察
相手の動きを常に二手、三手先まで予測しながら戦闘を運ぶ

最小限の動きで回避しながら距離を詰めて
至近距離から全弾ぶち込むよ
この距離なら外れないだろ?

呪いだとか怨念なんてものは、誰にも何の影響だって与えやしない
死んだならそこで終わりだ、迷い出てくるのはお門違いだぜ
還りな、介錯くらいはしてやる



●鳴宮・匡~凪時の/蒼海揺蕩う/春楓
 面倒くさい。意味がわからない。不合理だ。
 ……今回の件にまつわる予知を聴いた時、匡はそう思った。
 もしかすると、包み隠さず口に出していたかもしれない。少しは抑えたかもしれぬ。
 なんにせよ、敵を前に名乗りを上げて一騎討ちなど、馬鹿げた話である。
「正直、狙撃が一番面倒がないんだけどなあ」
 転送されてからもなお、そんなふうにひとりごちていた。
「ま、それで下手に暴れられても面倒か。宿場がどうとかは、どうでもいいが」
 ひとり、呟く。……独り言にしては、やけに理屈の筋道が立っているが。
 思案をまとめる、というふうでもない。どちらかというと言い聞かせるような色。
 もっとも、それをあえて指摘した者が居たとして、彼が頷くはずもない。
「……まあ、いいや。ああ。たまには悪くないさ」
 これは一種の気分転換、興が乗ったというやつだ。
 普段とは別のやり方で敵を倒すことは、却って普段の流儀を再認できるいい機会だと。
 彼はやはり、ひとりごちる。そして自らの言葉に納得した。
 凪の海は揺らがない。
 これもいつも通りだと、いつも通りの顔で云ってみせるだけ。

 ……ともあれ。
「ええと、あれか? こっちから名乗らないといけないのか。
 ……"凪の海"、鳴宮・匡。誰でもいいから、さっさとかかってきてくれ」
 愛銃を手に淡々と、緊張はおろか高揚もなくあっさりと名乗る。
 剣鬼達はすぐさま反応しなかった。彼は溜息をついて頭をかき……かけて。
「そうこないとな。こんなところで時間をかけたくないんだ」
 進み出た化身に対し、表情を変えぬまま頷いた。
 とはいえ、彼の懊悩・文句もむべなるかな。なにせ彼の得物は銃である。
 剣と銃。通常ならば、そもそも同じ土俵に上がることすら出来ぬ好例。
 なにせ銃は引き金を一度引けばいい。それで全てが終わる。
 だからいいのだと、彼も思う。そこに意志が介在する余地はない。
 それをわざわざ一対一、正面切っての決闘に用いる。さながら西部劇のようだ。
(ああ、やっぱり――思ったとおりだ)
 ラフなスタイルで銃を構えながら、匡は敵を見て内心で納得した。
 あれが纏う怨念、呪詛、剣気のたぐいはどうでもいい。感心も感嘆もない。
 冷静に、当たり前のように測り、その速度と威力を評価する。
 そこに"さすがだ"だの、"なんてやつだ"みたいなありきたりな台詞はない。
 ……どうでもいいからだ。
(あれは当たるとまずいな。けど、読めないほどじゃない)
 一瞬――炭の奥に熾火が滾るように、焦げ茶の瞳に蒼が混ざった。
 そして沈む。"そこまでする相手ではない"。いつもどおりで事足りる。
 引き金を引くこともない。ああいう出鱈目な輩は、当たり前のように銃弾を切り払ってみせることを彼はよく……ようく知っているからだ。
 むしろそれはこちらの隙を生む。確実に一撃を叩き込むには――まったく馬鹿げた上にくだらない話だが――こちらも然るべき間合いに踏み込まねばならない。
「じゃあ、行くぜ」
 ざしゃり。ざしゃり、ざしゃり……。
 無造作に歩み寄る。剣鬼ですら、幾分唖然としている気配があった。
 匡の歩みはきわめて自然体である。四肢は脱力し、足取りに澱みはない。
 相対距離五間。……四間、三間――二間。ここで敵が動いた。
「よっと」
 神速の抜き打ち。であったはずだ。
 おまけに呪詛の波を相手へ投げかけた、二段構えの剣技であった。
 ……はずだ。だのに彼はそれをあっさりとかいくぐっていた。
 銃を構え――敵はすでに飛び退っている。匡は嘆息する。
「逃げるなよ。ヤドリガミなんだろ? もっと斬ってくればいい」
 ざしゃり。ならば望み通り、とばかりに再びの剣閃、狙いは頸。
「まあ――」
 ひらり。回避、と呼ぶにはあまりにも緩やかすぎる動きで彼は身を屈めていた。
 剣が抜けた場所に頸はない。そう、そして敵は手首のスナップで太刀を返し、逆刃を己の背中に突き立てようとする。予想通り。
「それ全部、"視えて"んだけどな」
 然り。彼はなにか禁断の魔術だとか、恐ろしい装備を用いたわけではない。
 目で見、肌で感じ、耳で聴き、舌で転がし、鼻で利く。
 一挙一動から呼吸の取り方、目線、筋肉の動作、取りうる動きの癖――。
 ありとあらゆる情報を観察し、咀嚼し、予測という答えを導き出す。
 確率? 否である。凪の海が映した敵影は、確と定まった形にしか動かない。
 あとはただそれを避け、そして、こんなふうに。
「だからまあ、悪いな」
 BLAM――引き金を引けばいい。

 静寂に、キリキリと薬莢が転がる小さな音。
 倒れ伏す化身を見下ろし、匡は独り言めいて呟いた。
「呪いだとか怨念なんてのは、誰にも、何にも、少しも影響なんて与えない」
 死んだ者はそれで終わりだ。あとに遺るものなど何もない。
 誰であれ、なんであれ。生きた間に得、見せたものが全てだと彼は語る。
「お前らはもう朽ちたんだ。迷いでてくるのはお門違いだぜ」
 銃口が眉間へ向けられた。
「介錯ぐらいはしてやるよ。おとなしく還りな――もとの在処にな」
 銃声。……再びの静寂。
「…………」
 硝煙が立ち上り、桜の花びらがそれに舞う。
「ああ、そうさ。死んだらそれで、おしまいなんだ」
 青年はもう一度だけ、呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
明確な悪ならば滅ぼすのみですが、この依頼は少々毛色が違うようですね。
供養されずに朽ちた武器というのは何とも寂しい話です。
正々堂々と戦って供養します。

照覧式で夜闇を見通し街を巡ります。
偽村雨を見つけたら名乗りを。
「私は六波・サリカ。あなたを供養するものです。」
ポケットから出した右手を前につきだして、ヴァリュアブル・ウエポンを発動
右腕である侵攻式を攻撃回数重視の剣形状に変化させ勝負に臨みます。
「いざ!」
SPDと【ダッシュ】で素早く接近、【破魔】の力を宿した連続攻撃をさらに【2回攻撃】!

「武器は道具です、あなたに罪はない。
裁かれるべきは戦を引き起こした人の欲望です。
だからここで眠りなさい」



●六波・サリカ~月明の/陰へ陰へと/道は征く
「武器は道具。あなた達に罪はありません」
 現れるなり、サリカは模倣刀すべてを見渡し、そう言った。
「裁かれるべきは戦を引き起こした人であり、彼らは欲望のままに動いただけ。
 あなた達が彷徨い出て、怨みを集めようとする理由はどこにもないのです」
 説法であろうか。否、彼女はただ自分が感じたことを、そのままに述べているだけだ。
 それで敵を説き伏せようだとか、ましてや降伏させようなどとは思っていない。
 彼女はここへ来た。猟兵としていま、敵の前に立っている。
 戦うことは必定である。それが彼女の役目であり、そのための力があるのだから。
「模倣刀・偽村雨。それがあなた達の銘であり、それ以上でもそれ以下でもありません。
 私は六波・サリカ。あなた達オブリビオンを倒し、供養するものです」
 それが彼女なりの名乗りであった。決然たる……いや。
 決意表明と呼ぶべきではないだろう。いちいちそれを表する必要が彼女にはない。
 六道使いはただあるがままに敵を討つ。征く道から外れることは、ない。

「あなたが私の相手ですね」
 敵を前にして、金色の瞳はぴくりとも逸らさず対手を見据える。
 人ならざる無機質な輝き。さもありなん、その眼は天然自然のものではない。
 照覧式と呼ばれている。機械工学と陰陽術を掛け合わせた式神義眼である。
 その眼は暗闇をも照らして奥を見通し、隠れた悪を覧じてみせる。
 ゆえにサリカの視界には、呻き呪いを振りまく呪詛たちの様も視えていた。
「……いま、解き放ってさしあげます」
 雑念はそれで払われた。戦闘に思索や叙情を持ち込む理由もない。
 先手を打ったのはサリカである。おもむろに右手をポケットから出し、突き出す。
 するとどうだ。柔肌はぐにゃりと歪み、細腕は鋭い剣へと変化した。
 侵攻式。これもまた工学と術理の合わせ技、彼女を形作る鋼の弐。
「――いざ!」
 それを振るうことに躊躇はない。覚悟はとうに、終えている。

 かくて銀髪をなびかせ、色ある風となったサリカが間合いを詰める。
 ヴァリアブル・ウェポンは威・速・正のいずれかに重きを置くことが可能だ。
 彼女はなによりも速度を選んだ。ゆえに先手必勝、即座にかたをつける。
 狙いは頸部と腹部、破魔の輝きを宿した刃が霞んで消え――。
「っ!?」
 刺さる直前、彼女は咄嗟に飛び退いた。それが功を奏した。
 直後、サリカが潜ろうとしていた場所を剣がぞるりと薙ぐ。
「……迅い」
 理解した。あの呻き苦しみ続ける呪詛と怨念は、以て敵の刃に速度をもたらす。
 虚空にじとりと剣閃の軌跡が刻まれ、墨汁じみた呪いの残滓が零れ落ちた。
 サリカは眉根を顰める。あの呪いの在り様、まるで――。
「っ、く!」
 逡巡は致命を生みかけた。敵はすでに間合いを詰め刺突を放っている。
 髪を一房犠牲にかがみ、これを回避。腹部へ突き上げ――いや退く。
 もしも踏み込んでいれば、うなじを狙った突きおろしが彼女の喉を裂いていただろう。
 剣とともに滴る呪いを彼女が退けられているのは、ひとえに破魔の術式があらばこそ。
 紛れもなく悪だ。悪は討たねばならぬ。これまでも討ってきたのだから。
 だがあのさま、あの呪詛、そこに込められた無数の苦痛と怨嗟。
 あれは、あの妖しの剣筋は、まるで――まるで!
「……っ!!」
 サリカは一か八か、前方跳躍を打った。敵の横薙ぎを避けるために。
 これは正解。だが回避はほんの少しだけ遅れていた。足がわずかに裂けている。
「……絶縁式、展開」
 体内に組み込まれた守護の式神が、傷口を膿ませようとする呪詛を祓う。
 深呼吸。戦いのさなかで動揺するなどらしくない。まだまだ自分は未熟だ。
「あなたはただの道具。何の関係もない、朽ちた刃の成れの果てでしかありません。
 ……そうです、あなたはただの敵。重ねたのは私のほう」
 喪った絆、厄災を引き起こしたかつての姉と、それが振るう力。
 他者を苗床めいて引きずり込み呪詛を振りまく姿が、不思議とそれに重なったのだ。
 いつか相対する時が来るだろう。だがそれは今ではない。相手は無関係だ。
 逡巡や懊悩は不要。ただ使命を果たす。それこそが――!
「急ぎて律令の如く――去りなさい、亡霊よッ!」
 疾駆。敵の斬撃が待ち構える……心の奥の畏れを使命感でねじ伏せた。
 呪詛を厭わずまっすぐに突撃し、低く身をかがめてからの刺突二連。
 喉、そして腹部。傷を犠牲に、今度こそ式は悪を撃ち貫いた。

「……眠りなさい。あなたはもう、何も考えなくていいのです」
 苦しみも悩みも、執着すらも捨て去りただ朽ちよと少女は命じる。
 天地を動かす陰陽の術がその意を為し、化身は襤褸めいて崩れて消えた。
「…………何を考えているのでしょう、私は」
 少女の心の裡に、微かな微かな情動を遺して。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

隠・イド
なるほど、刀剣の成れ果てね
だったら同じ武器として負けちゃらんねぇなァ

質の良さそうな武器を見定め
なるべく鋭そうな、怨念に濡れた奴が良い
よし決めた、アンタにしよう

んで、名乗りをあげろつってたか

俺はイド――いや、違うな
銘は《オロチ》。降魔兵装《オロチ》
いざ尋常に勝負、ってなァ!

投擲&斬りつけのナイフ戦術をベースに
素早さとトリッキーさを軸に戦う
身体の一部を変化させては武器とし
斬られた部分も自己修復

いいね、悪くない

そんじゃぼちぼち本気を出そう
俺は元々『こういう武器』なんでな
悪く思うなよ

UC使用

名刀も
持ち手無ければ
虚仮威し
其の怨念も
我が糧となれ

俺がせいぜい有効活用してやるよ
ゴチソーサマでした、ってな



●隠・イド~はだれ野に/朽ちて転ぶは/金鳳花
 狂気は、時としてそれを上回るさらなる狂気を引き出す。
 光すら呑まれるほどの闇に抗うには、なお昏き闇を用いねばならぬ。
 それが人の心を狂わせるだけならばよい。だが現実は想像を凌駕するものだ。
 狂った者どもを喰らうため、狂った器物が生み出される。
 そういうことも、時として起こりうる。

 男がいた。
 背丈は180をゆうに越え、赤い瞳はぎらぎらと貪欲さを隠さずたたえる。
 浅黒の肌にかかった漆黒の髪は、野卑な笑みの奥に在る闇のように昏い。
「さて、どいつがいいかなァっと」
 まるで物見遊山のように、あちらへ、こちらへと頭を巡らせる。
 いや、それはどちらかといえば、獲物を物色する獣そのものか。
 見据える先はいずれも幽鬼のごとき化身たち。
 あれはどうか。いやダメだ。纏うものは薄すぎる。
 あちらは悪くないのでは? ……いやいや、なまくらは腹に貯まらない。
「――あア、いるじゃねェか」
 そしてふと、男はひとつ良さげな獲物を目に留め笑った。
 獰猛な笑みである。歯を剥き出しにし、獲物を震え上がらせる餓狼の笑みだ。
 だが狼ならばまだよかろう。男に与えられた号はその程度では済まぬのだから。
「決めた。アンタにしよう、アンタがいい」
 そしてずかずかと間合いを詰めて、はて、と思案する。
 名乗りをあげよとのお達しか。ならば従うのは道具の使命なり。
「俺はイド――いや、違うな」
 再びの思案。口元の笑みが……深まった。
「銘は《オロチ》。降魔兵装《オロチ》。アンタに勝負を申し込むぜ。
 さあ、いざ尋常に仕る――ってなァ!」
 狂気の果てに生み出された隠者は、快哉のように叫んだ。
 その声音は、呪詛を纏う化身どもより恐ろしくそして呪われていた。

 ……然様、男は人ではない。隠・イドと名乗る猟兵は人に非ず。
 ここにひしめく化身どもと同じく、自我を得たりヤドリガミこそが本性。
 問題はその"本体"だ。イド――正しくは銘をオロチとするモノ。
 それは狂気の化身を狂気によって下し、あまつさえ喰らうための器物。
 あってはならぬ同族殺しの呪われた道具。それがこのモノの成り立ちである。
「おらよォ!」
 草薙の模倣剣が虚空を薙いだ。短剣が奔る様はさながら光芒の如く。
 ギン、ギギンッ! 霜張る氷の刃はこれを切り払い防ぎ切る。
 しかしその時、すでにイド、否、降魔兵装オロチは姿を消している。
 ――背後。振り向きながらの逆手抜刀、間一髪で胴狙いの刺突を防いだ。
「ッハハハ、思ったより目がいいじゃねェか!」
 大蛇と名付けられた貪欲の魔は嗤う。なにせ獲物の喰いでは見立て通りなのだ。
 そうとも、オロチは降魔、すなわち魔を降し人界を護るために生まれたモノ。
 だがその起源、そして喰らうべき敵は狂気の産物、この世に在ってはならぬモノども。
 であれば、その器物が狂い猛らぬと誰が言い切れる? ……言い切れなかった。
「まだまだ行くぜェ、あっさり終わるなよォ!」
 草薙、併せて八つ。魔剣をぐるりと円状に回転させ弾く。
 敵が間合いを詰めてきた。正眼に構えた刃は霞じみた速度で上から下へ。
 腕を断つ。対手は飛び退る。……模倣刀の視線は敵ではなく足元の腕に注がれた。
 びくびくとそれは蠕動し、この世ならぬなにかに変化しようとしていた。穿つ。
「おやァ、置き土産はお気に召さなかったか? ハハッ!」
 ぞるぞる、と切断面がうごめいた。ぐちゃりと音を立てて新たな腕が再生修復。
 おぞましきかな。はたして魔はいずれか。討たれるべき天敵はいずれのほうか。
 ――あるいは、そのどちらもが人の敵か。喰らい合うは魔と魔の双宴か。
 否。いかに忌まわしき所作なれど、此度はいまだ器物と器物の鎬に過ぎぬ。
「やっぱアンタいいね、悪くない。だからよ――」
 ここまでは、まだ。
「ぼちぼち本気、出そうかね」
 ここからは魔の蹂躙である。只人よ、目を瞑り耳を塞げ。
 その邪悪を、その魔を見てはならぬ。痴れ狂いたくないのなら。

「ああ」
 恍惚があった。
「嗚呼――」
 愉悦があった。
「噫!」
 そして飢えていた。
「悪く思うなよ……俺は、もともと"こういう武器"なんでな」
 魔が哂った。かろうじて人であった口が裂け、ぞろりと体を割った。
 腕が変じ、足が変じ、瞳がぎらぎらと輝き……おお、おお。
 もはやそこに器物は居らぬ。これが人の生み出したものであってはならぬ。
 殺し、貪り、喰らうためのモノがそこにいた。それは紛うことなき魔であった。
『やっぱりアンタは、旨そうだ』
 おぞましきものが嗤った。そしてその姿がかき消えた。
 剣は空を切り、以て牙は化身を、その纏う怨念もろともぞぶりと喰む。
 ごり。がり、もぐ、ぐりゅ――ぶちり。
 がり。ぐり、ごり、じゅる――ばつん。
 逢魔が時は、魔に逢う時と書いてそう喚ばう。
 夕闇に、あってはならぬ魔が生まれ。そして思うままに怨を喰らう。
『……名刀も』
 怨念を滴らせ、けものが謳う。
『使い手亡くば/虚仮威し』
 其の怨念も/我が糧と成れ。

「俺がせいぜい有効活用してやるよ」
 凄惨たる有り様を見下ろし、人を騙るモノが笑った。
「ゴチソーサマでした、ってな」
 桜がせめてと、屍を覆い隠す。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルジャンテ・レラ
集団で襲いかかる方が効率が良いはずでしょう。
敢えて一騎打ちを望むとは、……理解に苦しみます。
まあ、こちらは構いません。
叶えて差し上げますよ。

小細工は得意ではありません。
必然的に真っ向勝負になるでしょうね。

血の通っていない体には呪いなど脅威に思えず。
ただ、怨念……というんですか。
気持ち悪い感情に掻き乱されてしまわぬうちに、終わらせます。
接近戦は私には不利。
一定の距離を保つよう心掛けなくては。

まず速さを重視した一矢。
相手が麻痺した隙に集中力を高め、
今度は攻撃精度を重視した一矢を。
急所を見抜けたら、正確に狙いを定めます。

これで満足ですか。

勝敗問わず、"ここ"が疼くのは何故だろう。
(胸元に手を添え)



●アルジャンテ・レラ~寂々と/銀の風鳴る/星月夜
 知識と知恵は違う。それを受け入れ理解するまで、人は多くの時間を要する。
 では人でなきものならばどうか。この世に生じた時よりそれを識るだろうか?
 答えは、ものによるとしか言えまい。天然自然の化身ならばあるいは。
 だが彼はヒトにより生み出された造物であり……そして、若かった。
「集団で徒党を組んでおきながら、一騎討ちを挑まれればそれに応じる。
 敵を不意打ちすることも、味方を支援することもない。……非合理的です」
 アルジャンテは端的に、いま一度改めて断じた。
 何度思案し考えてみても、同じ答えに行き着く。無理もない。
「オブリビオンならばそれらしく振る舞えばいいものを、理解に苦しみます。
 呪詛を重ね、怨恨を集めておいて、いまさら正道を気取るだなんて」
 嫌悪の色を隠しもせずに、冷たい声音で人形は言う。
 それでも、と二の句を継いで。
「こちらは構いません。それを願うなら、せめて叶えて差し上げましょう」
 そう言い切るさまは、しかし平易な声色ゆえに非人間的に映る。

「アルジャンテ・レラです。あなた達に勝負を申し込みます」
 人形の名乗りはやはりシンプルで、一切の無駄も粋もなかった。
 まあそもそも、怨念を纏う外道の剣身どもに正道を貫くというのが妙な話だ。
 彼の懸念、疑念、困惑はもっとも。それを受けて高ぶるほうがおかしい。
 だから化身たちもまた、無粋と柳眉を顰めることもなく、淡々と応じる。
 一体。闇めいて濃密な呪詛を纏う剣鬼が彼の前へと進み出た。
「申し訳ありませんが、私はあなた達のように剣で切った張ったはしません」
 矢を射掛け、愛用のロングボウを引く。ぎりぎりと弓弦が張り詰めた。
 敵が剣を構えようとした。その時既に少年は矢を放っている。
 しゅぴん、と一矢。不意打ちと謗る輩はいまい。だが無粋とのたまうものは居よう。
 仮に言われたとして、少年はおそらくこう答えるはずだ。
 "勝負を挑んだ時点で十分でしょう。それ以上はただの自殺行為です"、といったふうに。
 敵も無言のままにそれを受けた。疾き鏃は守りをかいくぐり胸部に突き立つ。
 麻痺毒を塗り込んだ一射である。わずかにだが敵の動きが軋んだ。
「――そこです」
 たっ、と地面を蹴り、さらに一射。続いたそれは眉間を貫通。
 剣を振るうことも呪詛も届かせることもなく、呆気なく化身は朽ちた。

 ……然様、あまりにもあっけなく立ち合いは終わった。
「これで満足……なの、でしょうか」
 困惑がある。そも、剣と弓とが争えばこうなるのは必然だ。
 敵は一山いくらのオブリビオン、猟兵と比べればおおかたこちらが勝つ。
 なのにどうしてあちらは徒党を組んでこちらへ来なかった。
 なぜ馬鹿正直に名乗りに応じ、剣を構えて攻撃しようとしていた。
 なぜ自分は――それを、まざまざと潰して勝利を得た。
「……だって、非合理的だ」
 彼はひとりごちた。知らず、己の胸元をぎゅうと握りしめる。
 かつてアルジャンテは、昏き絶望の世界で憎悪を識った。
 人を蝋人形に貶め、非道を働く鬼を討ったその時に。
 合理性を追求し、ただ敵を倒すべきように斃した。
 違う、そうではない。自分は――ああ、そうか。
「…………」
 片手で胸元をつかみ、残るもう一方の手のひらを見下ろす。
 シミひとつ無い白皙の肌は、かすかに……かすかに、震えていた。
「ああ、そうか」
 合理性がどうとかではない。それが最適だからというわけでもない。
 呪詛を厭い、剣を逃れて矢を放った。その理由は。
「――私は、怖かったのか」
 怨恨の呻きはもはやなし。
 ひらひらと、音もなく桜が舞い散るのみ。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋稲・霖
一騎討ちねぇ。面白そーじゃん!斬り合いなんてやったことねえけど、かかって来いよ!

名乗り上げて守れるもんはとことん守ってやるぜ!景色だろうと、な

さァて、あんたも一句整わせる準備は出来たか?…辞世の句ってヤツ?

へー、あんた氷使うんだ
そりゃ残念、相手が悪いとしか言いよう無いじゃん
…だって。流石にこんだけの炎に巻かれたら、地面凍らせようと溶けちゃうっしょ!

狐の火点しを発動
氷を次々溶かしにかかる

いっつも近付かないで…遠距離?的な感じでやってっけど、今回は特別
戦ってる時、追い込まれた時…どんな言葉が聞けるのか気になって。近くで戦うぜ!

弱った所に間合いを詰めて、零距離で狐火を全力でぶっ放す


※アドリブ歓迎です



●秋稲・霖~歌袋/花明かぬでも/嘆き無し
 恐れるとか、怖がるとか、そういう言葉は彼にとって無縁である。
 いや、恐いものはある。たしかにある。己が如何様にも出来ぬ"何か"は怖い。
 術理をもってしても除けぬものはさっさと逃げるに限る。三十六計なんとやらだ。
 それ以外? 何を恐れる必要がある?
 大抵のことは――歌えばなんとかなるものだろうに。

「へーぇ、ほんとに襲ってこないんだねぇ! こりゃ面白いや!」
 逢魔が時に快声が跳ねる。それをこぼす輩もまた跳るほどに明るい。
 なにせ彼は狐狸の類、妖狐である。ならば夕日に跳ねるのは道理だろう。
 たいていの動揺はそういう歌詞を謳う。実際跳びはねそうなテンションだ。
「ま、俺斬り合いだのちゃんばらなんてやったことねーけどさ!
 一対一で来るってんなら面白そーじゃん、秋稲・霖だぜ? かかってきな!」
 これまたあっさり名乗りを上げた。
 ひとりと言わず総出でかかってきてみせよ、とばかりに指をちょいちょいと。
 まあ実際に襲われたら、彼は悲鳴を上げて後ろへ下がるのだろうが。
 後先をあまり考えない、秋稲・霖という男はそういう気性を持っている。
「あっれぇ、どうしたのさ? 誰かかかってこないの? ビビってる系?
 まっ仕方ないよねぇ~! 俺ってばさぁ、やっぱにじみ出るものがうおっ危ねぇ!?」
 軽口は突然の斬撃に遮られた。剣鬼がひとり刃を向けて眼の前にいる。
 べらべらとのたまっている間に進み出て、では勝負始めと撃たれた形だ。
 しかし霖も一筋縄ではいかぬ。髪を軽く切られつつも屈んで回避。
 しゅたっ! と狐めいたしなやかな体捌きで飛び退り、深呼吸。
「っふぅ~、怖い怖い。さァて、んじゃ仕切り直しといこうじゃん?」
 にやりと不敵な笑み。敵はすり足で間合いを徐々に詰めていく。

「あんたも一句整わせる準備をしときなよ?
 あれだ、ほら。辞世の句ってやつをね!」
『――騒がしい餓鬼だ。その口、縫い止める』
 すでに剣は滑っていた。軌跡が青白く凍りつき、放たれる氷柱三つ!
「っとっとっとぉ!」
 後ろ、左、さらに後ろ。器用にぴょんぴょん跳ねてこれも回避。
 地面に突き立った氷柱を中心に、ぱきぱきと土が凍りつく。
『小賢しい。去ね……!』
 氷上を滑るように鬼が進む。剣が虚空を薙ぐたびに追撃の氷柱が放たれた。
 大気は冷えて澱み、呪詛の怨嗟も相まって夕闇を暗く昏く染め上げる。
「オイオイ、もう少し楽しもうぜ! せっかくの一騎討ちなんだろう?」
『貴様のようなすくたれものを相手に楽しむ趣味はない』
「こりゃ手厳しい。けどさァ――」
 ひゅぼっ、と。青年の掌の上に、妖しの狐火がひとつ。
 ひゅぼっ。ひゅぼっ。ひゅぼっ――生まれる火の玉およそ20とふたつ!
「こいつは化かしなんかじゃないぜ。さァ、どれが本物だろうなッ!」
 あるものはゆるりと、あるものはごうごうと緩急を混ぜ合わせ乱舞する。
 それは凍りついた地面を融かし、またあるものは剣閃に触れてこれを妨げた。
『どこまでも小賢しい、けだものがッ!』
「さすがは合戦場由来の刀剣サマ、言葉もいちいち手厳しい!」
 罵詈雑言を柳に風と受け流し、時に肉薄、時に大きく退いて翻弄する霖。
『術士風情が我らの一騎討ちを穢すか? 片腹痛し!』
「職業差別は良くないと思うけどなァ、そもそも当てれてねーし?」
『……こいつッ!!』

 氷柱が劈く。剣が奔る。呪詛が怨嗟を撒き散らす。
 融かし、化かし、かいくぐっては拳足がしたたかに相手を撃つ。
「刀みてーに鋭い言葉か、いかにもヤドリガミって感じだな!
 いや、どっちかってーと氷属性っぽさ? イメージって大事っしょ!」
 ちゃらけた口調で明るく、軽薄に笑い、炎をもって幻弄す。
 苛立った化身の刃が致命的な隙を生んだ。霖が見逃すはずもなし!
「俺がほんとにけだものか、その身で確かめさせてやるよッ!」
 懐に飛び込む。そして凝縮した狐火を、掌から敵手へと全力で放った。
 あやしの炎は業火に変じ、凍れる呪われた化身の五体を灼く!
「残念、こいつで決着だ。小賢しい術士が相手で悪かったね」
 肩をすくめて剽げてみせれば、しかし炎の裡から響いたのは。
『……く、く。いや……』
「ぁん?」
 片眉を釣り上げた。聞こえてきたのはたしかに笑い声だったからだ。
 声は云う。
『敗けた我が身があれこれ言えるはずもなし。見事だ、ああ実に……』
 ぱちぱちと、火の粉の爆ぜる音が末期を飲み込んだ。
「……らしくねーの。妖刀志望に堕ちといて、いまさらそれはないだろ」
 眼鏡をかけなおし、妖狐の青年はぽつりと言った。
「でも、ま。聞き届けたぜ、あんたの歌(ことば)」

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼灯・ほのか
「戦う相手を探しているんやろ?うちでよければお相手、したってもええんやけど…どないやろ?」

うちはとりあえず相手の出方を見とこか。「残像」を囮に敵の攻撃を躱してみよか。其れでだめなら、「第六感」で敵の攻撃を予測し「見切り」で回避。避け切れない攻撃には「武器受け」で防御してみよか
ある程度攻撃方法をみたらうちの「居合十六夜」で敵の攻撃を切り裂きつつ前進して、相手の懐に飛び込み「居合十六夜」で相手の技ごとたたっ切ってみよか。

まあ、桜舞い散る逢魔が時。ふふ…刀がうずいて斬りおうたくなるのもわからんでもないわ。せやけど、それはそれ。静かに桜を見つつお酒を楽しむ風流も身につけてもばちあたらんとちゃう?



●鬼灯・ほのか~三献の/盃鬼の/夜は更けぬ
 女がひとり、夕闇時の宿場街をふらりふらりとただ歩く。
 酩酊しているような、夢見心地のような、そういう足取りである。
 只人ではない。黒ずんだ角が一振り、額からぬっと生えている。
 羅刹。この世界では、彼女のようなモノをそう呼ばう。
「おばんどす――」
 ふと女は言った。向こうには幽鬼めいてそぞろ歩く化身どもの列。
 それを前にして、ほのかはくすりと微笑をたたえるのみ。
「あんたはんら、戦う相手を探しているんやろ?
 うちでよければお相手、したってもええんやけど……どないやろ?」
 艶やかな声音である。ともすればその手の客引きと見えなくもない。
 鮮血のように赤々とした装束を羽織れども、その下はほとんど半裸である。
 かすかに酒の薫りも漂えば、いよいよもって夜鷹の類に思えるだろう。
 ――彼女が、禍々しき妖刀を携えていなければ。
「なあ、うちはいつでも、誰が相手でもええんやけどねえ……」
 ぞくりとするような微笑。
 酒と色香に隠れているが、そこに煌くは歴然たる殺意がある。
 そして、死合を求める修羅の相である。羅刹。その名に相応しいだけの。
 ……剣鬼たちが、足を止めた。
「ああ、せやった……名乗らな、あかんのやったっけ?」
 などととぼけてみせれば、
「羅刹剣豪、鬼灯・ほのかと名乗っとるんよ――ひと勝負、お願いしよか」
 そしてずらりと妖刀を鞘走らせる。その銘、奇しくも"冬桜"。
 ……夕闇に映える刃は、橙の陽に照らされなお白く輝くあやしの鋼である。
 どうやらその魔性は、封じられて久しい様子。だが不吉な赤が鞘を染めていた。

 剣鬼達は不動――否、ひょうと虎鶫めいた音を立て、繰り出される剣戟あり。
「あは」
 女は嗤った。出し抜けの不意打ちに対し、剣を構えすらしない。
 ただのたりのたりと足を運んだだけ。にもかかわらず剣閃は逸れていた。
「ざあんねん。はずれ、はずれ」
 敵が狙いを誤ったか? 違う。
 ほのかの足運びは幻惑的である。緩く遅いように見えて、一瞬きわめて鋭くなる。
 さながら、狙いすました猛禽のような緩急である。敵が斬ったのは残像だ。
「ええね、ええねえ……容赦のない太刀筋。うち、そういう殿方好きどすえ?」
 その口を閉じよとばかりに、剣戟を撃った対手がさっと空を舞う。
 夕闇に孤影が陰り、空中で虚空を薙ぐ音、ふたつ。ひょう、ひょう……。
「おお、こわいこわい」
 ふわりと、風に流れる柳の葉のようにほのかが跳んだ。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。後を追うように突き立つ氷柱の雨。
「ほうらほら、当たらへんねえ。ようけ狙いや」
 くすくすと、鈴鳴りのような笑声。剣鬼はそれを追って地を駆ける。
 剣がざん、ざざん、と夕闇の大気を薙ぐ。ほのかの逃げ道を塞ぐように氷柱が穿たれた。
「あらぁ、いけずやね? 女を囲うて逃げ道断って……おお、こわい」
 けれども羅刹はあくまで余裕を見せる。それは驕慢かはたまた強がりか。
 四方八方が氷に囲まれ、もはや飛び退ることは出来ぬと見える。
 迅風のような勢いで剣鬼が飛び込み、頸を断つ凄絶な一撃を放つ。
 ――がぎ、ん!
「えらいおっかない太刀やねえ。お喋りは嫌いなん?」
 妖刀がそれを阻んでいた。所作の一つ一つの起こりが読みぬ。
 袈裟懸け、逆袈裟、横薙ぎ、兜割り。
 速く、重い太刀が一重二重と繰り出され、そのたびにぎん、がんと鉦叩が鳴る。
 はたして幾合撃ちあったか――ふと、出し抜けに女が呟いた。
「ええ技やねぇ。けどまあだいたい、こんなとこやろか」
 感嘆も驚愕もない、納得の声音である。
 そして剣鬼が氷柱を二条引きながら、必殺の刺突を、いや!

 ――ぱきんッ!

「……ああ、堪忍な。あんまりええ技やから、訊く前に斬ってもうた」
 剣が、そして氷柱が。いつのまにか抜かれた妖刀に、砕かれていた。
 幾合の剣戟を経て、あまつさえ太刀を砕いておきながら、冬桜は寒々しく白々と。
「愉しかったどすえ。ほんなら――そろそろ、お別れどすな」
 ふい、とほのかが懐に入り込む。そしてゆるゆると柄を握り……まただ。
 まるで抜け落ちたフィルムのように、次の瞬間には居合が放たれていた。
 ……一閃。ごとり、と剣鬼の頸が落ちて転がる。
「桜舞い散る逢魔が時。刀が疼いて斬り合うたくなるんもわかるんやけどね」
 ふふ、と。音を転がすような微笑を織り交ぜて。
「せやけどそれはそれ。どうせ現世に来はったなら、盃片手に風雅を愛でる……。
 そんな風流を身につけても、バチ当たらんとちゃう?」
 ぱちり、と納刀。女はまたゆるゆると通りを歩く。
「ああ、ほんまに――ええ桜やなあ」
 勝利という美酒を、舌の上で転がしながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
・アドリブ歓迎
いざ、一騎討ちと参りましょう

そちらが氷であればこちらは火といきましょう
悪しき怨念ごと熔け落ちてしまえ!
火の【属性攻撃】で【鎧砕き・なぎ払い・2回攻撃】を行います

敵からの攻撃は【見切り・野生の勘・残像】にて回避を試みます
もしくは【武器受け】で対処
また、事前に【歌唱】による【鼓舞】で【激痛・氷結・呪詛耐性】をつけておきましょう

戦闘は周囲に人々がいない場所で、宿場街に与える被害を最小限にすることを心掛けます。
私が壊してしまっては意味が無いですからねぇ



●橙樹・千織~山吹の/裡に煌く/八重桜
 常日頃から絶やさぬふわり、ほわほわとした笑みも今はなく。
 獣の耳と尾が特徴的な戦巫女は、凛とした面持ちで幽列に相対していた。
「いかに正道を好めど、オブリビオンはオブリビオン。
 あなた達の存在そのものが、この街と景観にとっての脅威となっているのです」
 きっぱりと言い切り、黒壇の柄を振るい黒鉄の刃を突きつけた。
「戦巫女、橙樹・千織。一騎討ちを申し込みます!」
 猟兵たちの立ち回りによって、剣の化身どもはその数を大きく減らしている。
 残る僅かな手勢のうち、奇妙に湾曲した刀を携えた影がゆらりと進み出た。
「……あなたが私の相手、ということですね?」
 頷く気配はない。代わりとばかりに鞘走る。
「いいでしょう。しからば……いざ、尋常に!」
 橙の瞳が夕凪を受け、戦意に煌めいた。かくて真剣勝負火蓋を切る!

 初撃にして先の先を得たのは千織である。
 名物・藍雷鳥がびょうと大気を切り裂き、黒鉄が夕陽を浴びてぎらりと煌く。
「その呪詛と怨嗟の冷気、もろともに溶け落ちてしまいなさいッ!」
 穂先の周囲が陽炎めいて揺らいだ。それは黒鉄に宿りし炎の証左!
 じりじりと寒風を焦がす炎刃が、ひとつ、ふたつ、みっつと弧を描く。
 敵もなかなかのもの、この属性攻撃の厄介さを一目で看破し慎重に飛び退る。
 両者の距離、およそ三間半。薙刀で払うにはわずかに遠く、踏み込むはなお難し。
「どうしました? 怖気づいて下がっていては私は討てませんよ!」
 朗々たる挑発にも揺らぐこと亡く、凍れる刃がきりりと円月をなぞった。
 すると月光のように軌跡が青白く凍りつき、ぱきぱきと霜を散らしながら氷柱を刻む!
「遠間からの搦め手とは、悪い手癖だこと……ッ」
 ぴんと耳が跳ね、獣じみた直感を千織にもたらす。狙いは弓なりに左から右へ。
 千織は己の見切りを信じた。ぐぐっとわずかに屈み、満身の力で跳躍!
 ひとつ、ふたつ。氷柱は読みどおりに弓なりに彼女を追う。
 だが曲がりが緩い! 一方、一か八かの跳躍を成した千織は敵の死角を取っている!
「――遅いッ!」
 烈風がさんざめいた。踏み込みが後方に像を残し、敵を幻惑する。
 最後の氷柱が明後日の方向に突き立った時、既に彼女は懐の裡にいる!
「これなるは、悪しきを消し融かす椿華。参ります!」
 漂う冷気を祓うかのように、じゅうと黒鉄が嘶いた。
 足払いをふたつ。敵はこれを避けるために大ぶりの回避をせざるを得ない。
 それを見越しての牽制である。着地点へ猛禽じみて飛び込み――。
「はァあッ!!」
 落下速度と黒壇の柄の重量をふんだんに載せた上での刃下ろし一閃!
 まずこれが敵の左半身を叩き割った。
 間髪入れず刃を返し、えぐるような斬り上げ。間隙なき連撃はまさに剣舞なり。
 右半身をざくりと削ぎ、切断面を高熱が灼く。
 一歩引き、くるりと一回転。翻る尾と和服の裾は椿めいた軌跡を描き――。
「……さようなら、哀れな化身よ。どうか二度と目覚めることのないよう」
 緩く、慈悲すら感じられる決断的な刺突が、敵の正中線をぐさりと貫いた。

 なによりも見事なのは、これほどの大立ち回りを繰り広げながら周囲に気を配っていたことだ。
 薙刀の間合いはもとより、敵が放った氷柱の着弾点すら、なにひとつ宿場街を脅かしていない。
 無論、立ち並ぶ桜も同様。遅れた剣風に、ざあっと鮮やかな吹雪が散る。
 溶け始めた霜が水となって立ち上り、混ざり合うさまは幻想的ですらあった。
「あなたにも立派な銘と、込められた正しき想いがあったでしょうに……。
 それを捻じ曲げるほどの怨念も、いまや消えました。せめて安らかに」
 調伏、仕る。かくて、怨念の刃はまた一つ雪花へと還ったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
桜降り、砕けて散るは、鉄の華…
ふふ、なんてね。私も一句、考えてみたんだけど…中々難しいね。

一騎打ち、かぁ…あんまり自信はないんだけど…
折角だから、挑戦してみようかな。
もし負けても…こんなに猟兵が来てるんだから、誰か助けてくれる…よね?


ユーベルコード…崑崙火。
そっちが氷なら、こっちは炎。
数を活かして弾幕を張って、なるべく近づけずに、遠距離戦を挑むよ。
氷の上に立たれて、能力を強化されるのも困るから…
凍った場所にも炎剣を撃ち込んで、溶かしちゃおうかな。

もしも近づかれたら…気を纏わせた尻尾で防御するよ。
ふふふ。丸腰だと思ったら大間違い。
並の刃なんて通さない。逆に、叩き折ってあげるよ。

【アドリブ歓迎】



●パーム・アンテルシオ~現し世に/陽仰ぎ咲きし/桃の華
「桜降り/砕けて散るは/鉄の華……ふふ、なあんてね」
 桃色の少女はふと句を諳んじると、照れ隠しにはにかんでみせた。
 さあ、と桜が舞えば、パームの姿を飲み込み覆い隠す。
 ……再び一陣の風。桜色の嵐から踏み出す少女の姿は、さながら美しき樹精のよう。
「綺麗だなあ……こんな景色を台無しにしちゃうだなんて、悪い子だね」
 見やる先には残り僅かな幽鬼どもの群れ。少女は背筋をぞくりと震わせた。
 ……なんと寒々しき、怨嗟と刃だろう。この寒気は、かつて住んでいたあの国のようで。
「……いけないいけないっ」
 パームは頭を振り、雑念を払った。戦を終えてなお、悪夢の残滓は少女を苛むか。
 過去を重ねて憂いている場合ではない。ここでは自分が戦わねばならないのだ。
「女将さんならきっと、いつも通りにあっさり勝っちゃうんだろうなあ」
 などとひとりごちた。桜の鮮烈さと薫りが、この場に非ぬ姿をよぎらせたのだろう。
 ないものねだりをしても致し方なし。すっと深呼吸し、少女は謳う。
「パーム・アンテルシオ、だよ。私と戦ってくれるのはだあれ?」
 こてん、と首を傾げて微笑を浮かべる。ゆるり、ゆらりと九つの尾が揺れた。
 ……そしてぴんと耳が立つ。
 滲み出るように現れた剣鬼の殺気、その凄絶さたるや。
 だがパームとてひとかどの猟兵である。これまで潜り抜けた修羅場は数知れず。
 恐れはない。恐れるべき過去など、霧も夢も踏み越えいまここにある。
「そっちが氷なら、こっちは炎だよ。その冷たい鋼を、融かし尽くしてあげる」
 瞳の裡に、桃色の炎がざっと灯った。戦いの始まりを告げる灯火である。

 まず敵が動いた。無造作に踏み込み、相対距離二間へ。
 抜き打ちにはやや遠いか。だが敵は鞘走り、白刃をざっ! と翻す。
「……来るっ」
 第六感が告げていた。凍れる矛、無より出でし氷柱の雨の襲来を。
 はたして現実が幻視に追いつく。剣閃をなぞりぱきぱきと氷柱が萌え芽吹く。
 だがそれらは、放たれ敵を、すなわち少女を穿つ前に融け崩れた。
 なにゆえに? 答えはパームの周囲を見れば一目瞭然である。
「陽の下、」
 燃えている。およそ百を超す雄々しき炎の剣が、ごうごうと燃えている。
「火の下――紅い戦を、繰り広げよう?」
 桜吹雪を焦がして遊ぶは、恐ろしき炎剣の乱舞なり。
 パームがついと指先と眼差しを向ければ、炎剣はそれに従い対手へ殺到す。
 疾い。続けざまの氷柱の尽くを融解焼灼せしめ、なおも百の剣が健在!
「燃えて、融けて、消えちゃえっ!」
 実に見事な攻勢であった。であればそれを返した敵も流石の一語。
 致命的な炎剣を即座に見切り、閃光じみた剣技でこれを叩き斬る。
 守りを潜り抜け、五体に突き立った剣はおよそ4つ。凍れる身体をじくじくと苛む。

 だが敵はまだ朽ちていない。そしてその姿が――かき消えた!
「崑崙火を耐えるなんて、やるね……っ!」
 冷や汗ひとしずく。敵の狙いはどこだ、少女の動体視力では追いきれぬ。
 ゆえに勘と読みがモノを言う。どこからくる、前か、後ろか?
 はたまた左右、否、炎剣の守りを恐れるならば敵が取る手は!
「真上っ!」
 然り。剣圧を以てフェイントを重ね、対手は大きく跳躍していた。
 沈みかけた夕陽が逆光となり、化身の相貌定かならず。
 届くのは剥き出しの殺意のみ。突き立てるように刃を構え、冷気が、降り来たる……!!

 その時少女はどうしたか。飛び退ったか、新たな剣を生み出したか?
 どちらも否。彼女はくるりと、遊び踊る童女そのものの様子で舞ったのだ。
 併せて九つ、桃色の毛並みが鮮やかな尾が刃を迎え撃ち――これは!
「丸腰だと思った? ふふ――大間違い」
 いかにも、パームの尾には尋常ならざる妖気が宿る。
 余人はその正体を知らぬ。そこに込められたもの、かつての命の在処を知らぬ。
 それを識り抱えて歩むは少女本人ただひとり。ゆえに。
「――そんななまくら刀なんかじゃ、通せやしないんだからっ!!」
 勢い任せに尾を打ち振り、妖刀を句の通りに砕いてみせた。
 化身が折れた剣を手に着地する。好機!
「紅い戦はこれで終わり。燃えて、融けて――お還り」
 再びの炎剣が、口訣とともに波濤を打った。
 ごうごうと、桜並木よりも高く鮮やかな炎の柱が屹立する。
「はあ、勝てた……よかったぁ」
 安堵のため息一つ。祝するように、桜吹雪が少女を再び呑み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

傀童・沙華
行動 POW

酒を片手にふらりと死合うのも一興じゃの
わらわは特に猟兵とやらの義務やら、民草のためやらに己を力を振るうのは興味がなくての?
望むのは元よりひとつ
血が滾り、身を焦がす甘美な死合を

酒を呑みながらふらふらと相手にゆっくりと歩み寄る
物言わぬ輩と死合いを興じるのは一興なれど、所詮真似事血が滾らぬ
わらわは元より徒手空拳
【怪力】のみでお相手致そう

攻撃は如何様にも
特に避けるつもりもないのじゃ
せめて、わらわ自身の血で酔わんとやってられん

初撃でわらわを倒せたら相手の勝ち
外したら……【怪力】を用してその頭ごと、地面にのめり込ませてやるのじゃ
人が以てこその刀じゃ
刀のみが死合いとわめき散らしても虚しいだけじゃ



●傀童・沙華~胡蝶花/哭々揺らす/紅き風
 鉄火場に、ふらり来たるは羅刹の孤影。
 されど纏う酒気は鼻が痛むほどに色濃く、とても戦いに臨む者とは思えない。
「ふうむ」
 ぱち、ぱちと燃えるような紅い瞳を瞬かせ、思案とおぼしき声ひとつ。
「なるほど。模倣刀とはまことよく言い表したものよの」
 くすくす、ふふ、と彼岸の鬼が笑う。嘲りの笑みである。
 群れなす幽鬼を前にして、沙華に警戒緊張欠片もなし。
 なにゆえに? ……ならば問い返そう、なにゆえ雑魚に気を張らねばならぬという?
 ここにおわすは酒呑にして獰猛たる荒ぶる鬼神。
 快楽(けらく)と愉悦を愛でる、人の形をした暴風なり。
 人呼んで鬼哭童子。それがかの羅刹を示す、もっとも相応しき名である。

 鬼は不羈奔放である。使命感や義憤など、彼女にとって意味はない。
 ではなぜこの場に在るのか。ひとえに興の赴くまま、これに尽きよう。
「刀剣風情が担い手なしに死合いだどうだとよう抜かしよる。
 どれ、この鬼哭童子が相手をしてやろうではないか。いつでも来るがよい」
 名乗りと呼ぶには無造作に過ぎる物言いで、ちょいちょいと人差し指を曲げてみせる。
 ……剣鬼とて挟持はあるのか、周囲の大気が張り詰めどろりと濁った。
「ん? どうしたのじゃ、来ないのかえ?」
 一方の鬼はただ艶然と笑うのみ。そもそも攻撃を防ぎ避けようという気配がない。
 その在り様は、戦うというより子供とじゃれる親のように泰然である。
 無論、得物らしい得物もなし。あまりにも不遜で、傲慢だ。
「真剣勝負を謳うのだ、初太刀にて決める腹積もりなのであろう?
 それが為せればお前さんの勝ち、そうでなければ……ま、それまでよな」
 あまつさえ『一撃で仕留めてみせろ』とまでのたまう。尋常の沙汰ではない。

 静寂。

 桜吹雪すらもぴたりと止むほどに殺気が満ち満ちた。
 はたして五秒か十秒か、痺れを切らした沙華が気楽な面持ちで間合いに踏み込む。
 そして剣が円弧を描いた。大上段からの打ち下ろし、怨呪流血斬!!

 ……再びの、静寂。

 見よ。沙華の左鎖骨から胸部にかけて、刀はざっくりと肉と骨を断ち割っている。
 致命傷である。……致命傷であるはず、なのだ。だが
「――残、念」
 己の血で半身を朱に染めながら、
「お前さんの、敗けじゃ」
 鬼は、嗤った。そして右腕をおもむろに、化身の頭部へと伸ばした。
 まるで幼子を"いい子いい子"するかのように……だが現実はさらに悲惨だ。
 ――めきり。みし、みしみし。
 音を立てて化身が『沈む』。鬼はただ右腕を頭に載せ、力を込めているだけだ。
 あまりにも強すぎる怪力は、化身をへし曲げ地面にめり込ませていく。
 めりめりと嫌な音が響き……抵抗むなしく、ヤドリガミは地面のシミとなった。
 災害じみた膂力である。沙華はやはり無造作に刀を引き抜く。
 呪詛が傷を苛んだ。それすらも心地よさげに鬼は自らの血を舐め取る。
「嗚呼……虚しいのう。魂もなき者との死合いなぞ、こんなものか」
 それは勝利とは呼べない。鬼はただあるがままに振る舞っただけだ。
 象が蟻を踏み殺したとして、象を勝者と称える者は居ない。
 天地が揺らぎ災厄をもたらしたとき、人はどうするか。
 畏れ、崇め、どうか鎮まりたまえと奉るのだ。それがあるべき姿だ。
 此度もまた同様。結果として身の程知らず弱者が散った、それだけだ。
 そして彼奴が唯一与えた呪詛も傷も、再生によって喪われていく。
「刀ならば使い手を見初めてから吼えよ。担い手なき道具なぞ、糞にも劣る」
 高揚はない。酸鼻なる血の香りは、沙華の渇きを癒やすには足りないと見える。

 おぞましきその姿に恐怖するかのように、夕陽が沈み闇が訪れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『闇刃阿修羅』

POW   :    六道輪廻撃
【六本の腕】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    救世塵殺
自身が装備する【武器】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    後光・偽
【全身】から【目映い光】を放ち、【相手を怯ませる】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は月凪・ハルマです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●業務連絡
 私事により、3/1~3あたりの執筆が難しい状況にあります。
 プレイングは、3/2 朝8:30以降をめどにご提出頂けると幸いです。
 それ以前のものは、一度ご返却の上再度お送りして頂くことになると思われます。
(一度お返しする場合、該当のお客様には別途個別のご連絡をいたします)

 猟兵達によって、模倣刀の葬列は駆逐された。
 だが見よ。砕かれた刃の破片が浮かび上がり飛んでいくのを。
 それらはまるで一点を目指すかのように高速で飛翔する。

 猟兵達は欠片の群れを追いかけ、宿場街の大広場に辿り着いた。
 集合した群れは、一同の目の前で寄り集まり一つの巨体をなす。
 すなわち此度の異変の元凶、仏を騙り偽りの救いを謳う邪鬼に。
 それの名を、『闇刃阿修羅』と呼ぶ。

『合戦は未だ終わらず。贄を蒐めよ、怨みを求めよ』
 寂々とした声音で、六臂の怪物は謳う。
『恨みを込めよ、鎬を削れ。合戦は未だ終わらず、血は不足なり』
 それは刀剣達の怨嗟であり、犠牲者達の怨念であり、闇そのもの。
『贄を求めよ、血を、怨恨を蒐めよ。我らの戦いはまだ続く。まだ続く――』
 永劫の修羅道を謳う偽りの救世主を、その鋼もろとも打ち砕け。
傀童・沙華
行動 POW

カカッ!
わらわにとっても、おあつらえ向きの相手じゃの
近距離同士で、共に死合おうぞ
【誘惑14】で相手を誘いながら、【殺気5】と【恐怖を与える10】を使用しながら、ゆっくりと相手へと歩みを進めて、口上を述べるのじゃ

打ち倒すべき敵に我が身を晒し、心に宿すは不退転。それが喧嘩の華である

そして天蓋抂乱を発動じゃ
喧嘩の流儀とは、相手の攻撃に身を晒し攻撃のみを行う
至近距離での殴り合いこそ、喧嘩の華というものじゃ
天蓋抂乱で上げた身体能力に、更に【オーラ防御10】で耐久度を上げて、【鎧無視攻撃10】【怪力6】で攻撃力を上げる

殺し殺される戦場こそ血が滾る
怨嗟や怨念といった下らんものは不要じゃ



●鬼哭啾々
「カカッ!」
 身の丈をゆうに超える巨影を前にして、文字通りの呵々大笑。
 いかにも、それは赤き髪の鬼、傀童・沙華のものである。
「血肉の通わぬなまくら刃どもも、寄り集まれば多少はマシか。
 わらわにとっても誂え向きの相手じゃ、よかろう!」
 ぎらぎらと火眼を輝かせ、すさまじい殺気とともに進み出る。
 誰かの声が彼女を止めようとした。鬼は意に介さない。
「戦術・戦略、まっこと笑止! 此はわらわと彼奴の喧嘩なれば」
 こうあれかしという規範をあざ笑い、鬼は間合いを詰める。
 敵もまた6つの刃を構え、必殺の闘気を纏って向かい合った。
「打ち倒すべき敵に我が身を晒し――」
 童女の唄のように、母の口ずさむ子守歌のように鬼は謳う。
 穏やかで優しく、しかしどうしようもなく血にまみれた詩を。
「心に宿すは不退転、それが……喧嘩の華である」
 敵を前に搦め手など不要。ただ真正面から進み、打ちのめす。
 なぜならばこれは喧嘩。避けるだの防ぐだのは惰弱な考えだ。
『汝、我らと鎬を削ることを求むるか』
「いまさらじゃのう。否と申せば見逃してくれるのかえ? 下らぬ。
 仮にお前さんが逃げ出したとて、わらわは見逃さぬ」
 敵は目の前に現れ、そして鬼の視界に入った。
 喧嘩の理由などそれで十分である。使命がどうだ、街がどうだ――
「まっことくだらん! さあ、わらわと死合えッ!!」
 鬼が両足で地面を踏みしめた。妖気が立ち上り髪をざわつかせる。
 びきびきと骨が筋肉が隆起し、羅刹の如き異相をあらわにする!
 天蓋抂乱(てんがいきょうらん)。不撓不屈、不羈奔放たる鬼哭童子の信念そのものが形を得たかの如きユーベルコード。
 沙華が喧嘩の流儀に則る限り、それはまさに狂乱をもたらすのだ!
「オオォッ!!」
 赤黒いオーラを纏い、弾丸めいて大地を蹴り疾走。
 すさまじい勢いで間合いが詰まり、まず右拳による一撃!

 ――ズンッ!!

『あなや』
「まだまだァ!」
 大きく拳型の凹みを穿つごとの拳骨である。
 巨体が揺らいだのを見計らい、さらに左拳、再びの右!
『汝に救いを齎さん。逝けよ、地獄道!』
 がきゃり、と音を立てて刃の鋒が煌めいた。
 鬼はそれを視界の端で捉え――ただ笑った。避けぬ。防がぬ。
 直後、当然のように肉を骨を臓物を六つの刃が抉り、刻む。
 血がほとばしる。鬼はなおも笑い、拳を叩き込む!

 ずん、ぐしゃり! ざぐん、ごしゃり!!
 ぞぶしゅ、がごんっ!! ごりゅう――どごぉっ!!

 剣と拳。読みは同じなれどその在り様はまったく異なる。
 だが見よ。女の姿をした鬼は、真っ向からそれを喰らい、喰らわせている。
「ぬぅんっ!!」
 艮(ごん)ッッッ!!
 とどめの一撃とばかりに、朱に染まった拳が正中線を貫いた。
 それを起点にびしびしと阿修羅の全身に罅が走る。勝負ありか。
「殺し殺される戦場にこそ血が滾る。怨嗟や怨恨なぞ――ッ!?」
 言いかけた血みどろの貌が、驚愕に――そして憤怒に歪んだ。
「貴様」
 しゅうしゅうと怒気が鳴る。阿修羅は砕け散る。
「貴様ァッ!!」
 砕け散る。無数の刃の破片へ砕け――そして!
「喧嘩を如何と心得るか、すくたれ者がぁっ!!」
 怒り狂う鬼の眼前に、再び阿修羅が……寄り集まった!?
『恨みが足らぬ。怨みが足らぬ。合戦は未だ、終らず』
 なんたることか。無数の怨念と物神の集合体なれば、その身を砕こうと不滅だというのか?
 鬼が怒り哭くのもむべなるかな。敵は――いまだ、健在!

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アシェラ・ヘリオース
「広場に出たか。安心した」

安堵の息を吐いて前に出る。
外套を翻し、赤光の光剣を出し挑む。
眩い光は外套で、浮遊する剣はオーラ防御と赤光の剣で打ち払い。
本体の攻撃は撃ち合い、自ら後ろに飛んで流してダメージを流し、戦闘知識を持って駆け引きし、広場の中央に誘い込む。

「先程はいささか窮屈だったのでな」

【黒騎招来】で展開した黒騎ユニットが、それぞれ赤光の槍を抱えて上空で待機している。その数115。
指で合図を送って緩急をつけた急降下をさせ、闇刃阿修羅に零距離射撃で赤光の槍を投擲させたい。威力は収束させ、周囲に影響しないよう計算する。

「この雪桜を、貴公の血風でそよがせるのは無粋ゆえな」

【アドリブや連携歓迎】


シーザー・ゴールドマン
【POW】
闇刃阿修羅か。戦闘神の名を騙るからにはそれなりの実力があるのだろう。
花見の前の余興だ。相手になろう。

戦術
オーラセイバーを振るって戦います。
通常の攻撃は[第六感][見切り]で回避あるいは受け流し。
六道輪廻撃に対しては
オド(オーラ防御)を活性化。普段より広範に展開して貫かれるまでの刹那を稼ぐ。
稼いだ刹那で[第六感][見切り][戦闘知識]を駆使して回避。
そのまま[カウンター]で『バベルの消失』の一撃を放ちます。
救世塵殺に対しては[見切り][先制攻撃][カウンター]の後の先の『ソドムの終焉』発動で全ての武器破壊を試みます。

「戦いは好きだが永劫の修羅道には興味はないね」


神元・眞白
【SPD/絡みは自由に】
夜の闇に、羅刹の気迫、映し出で、続く戦へ、いざ踊り出で。
単純に倒すだけなら人もかなりいるし、なんとかはなりそう。
ただ、武器達が集まってできているなら鎮めてあげないと。
お疲れ様と私、…私達の成長の為に、ありがとうを。

相手の方が大きい…なら体格差を意識して私は相手のリーチの少し外側に。
離れておけば相手の動きも見切りやすいし、マカブルを使いながら倒れたふりも。
単純な攻撃ならいいけど、光る時は……ん、変装用の眼鏡で守ろう。準備。
反射分は時間差で飛威か符雨から射出。怖いけど、大事なのは度量と決断力。

夜桜に、集う想いの、儚さに、夜闇に響く、兵の唄。……まだまだ精進



●有為転変
「安堵した矢先に、これか」
 敵の再生を目の当たりにし、アシェラ・ヘリオースは舌打ちした。
 被害を出すわけにはいかない為、通りでの戦いには苦労を強いられた。
 広場に出たならば多少は楽になろうと踏んでいたが――。
「戦闘神の名を騙るだけはある、というわけだね」
 その後ろから、金眼の紳士、シーザー・ゴールドマンが薄く笑う。
 だが、花見前の余興としては、斯様な不滅はいささか無粋である。
 ダークセイヴァーに由来する彼だからこそ、その在り様には不快感を覚えるのだろう。
 常と同じに見えど、揺らめくオーラは怒気を孕んでいた。
「夜(よ)の闇に/羅刹の気迫/映し出(い)で――続く戦へ、いざ踊り出ん。
 ……なんて。やっぱり、あの怨念達を鎮めてあげないといけないのかな」
 神元・眞白は、二体の戦術器の姉妹達とともに思案する。
 だとすればそれこそ気の遠くなるような話だ。あれは一体いくつの武具で構成されているというのだ?
「まずは私が、広場の中央へ誘い込もう。そこで釘付けにする」
 と、アシェラ。
「となると引きつけ役がもう一人必要だね。私が手伝おうか」
 シーザーの手元にオーラセイバーが顕れる。
「じゃあ、私達は間合いの外から。支援は任せて」
 眞白と彼女の姉達が後衛を請け負う。
 三人は互いに頷き合い、そして戦場へと飛び込んだ。

●苦心惨憺
 再生を遂げた敵の猛攻は、まさに阿修羅もかくやの如しだった。
 近付こうとする猟兵が居れば、六つの刃がこれを迎え撃つ。
 わけても危険なのは、『救世塵殺』と呼ばれる攻撃である。
 常ならばそれは、闇刃阿修羅の持つ六つの腕、正しくはそこに生えた刃を模倣し、周囲を舞わせるシンプルなものだ。
 だが此度の敵は、その全身が妖刀の集合体。つまり全身これ『武器』である。
 ではどういうことか? ……それは嵐、否、檻と言うべきか。
 闇刃阿修羅を構成する無数の妖刀、それが十重二十重に複製され、彼奴の意志のままに荒れ狂うのである。
 ひとつひとつはただの器物にあれど、数というのはわかりやすい脅威。
 ぐるりと刃が廻れば、近づくこと難き刃の檻が生まれるのだから。

「恨みがましい悪鬼よ、参るぞ!」
 そこへアシェラが切り込んだ。敵の双眸がこれを迎え撃つ。
 直後。月光が雲間から覗き――彼奴の全身が太陽のごとく輝いた!
「ちっ!」
 咄嗟に外套を翻し、これを防いだアシェラの機転は見事。
 だが続けざま、わっと虫の群れめいて現れた刃の雨が――。

「符雨、お願い!」
 ……降り注ぎ、同時に舞い上がった符の雨によって阻まれた。
 雨が舞い上がる。いささか奇妙な言い回しである。だが事実だ。
 それをなしたのは眞白――正しくは彼女の戦術器だが。
『あなや。彼岸より我らのいくさに手を出すこと、能わず』
 ぐりん、と呪われた阿修羅が眞白をにらみつける。
 びくりと身をすくめつつ、深呼吸して彼女は言い放つ。
「そう、私よ。憎らしいなら、私を斬ればいい」
 言葉に応じるかのように、空中を浮遊していた百近い刃が彼女へ殺到!
 同じ戦術器の『飛威』がこれを阻もうとし――しかし留まった。
 眞白が手を伸ばし、彼女を制したからだ。主は刃に貫かれる!

「――……なるほどな」
 それを一瞥し、シーザーはただそう呟いた。
 眞白がどさりと地面に斃れた瞬間、彼は紅い一陣の風と化している。
『鬼よ、堕ちよ!』
 六道輪廻の刃が迎え撃つ。向けられた鋒は六つ、殺意と怨みの総数は無量。
「戦いは好きだが、永劫の修羅道に興味はないのでねッ!」
 薄く笑いすらして、男は言った。神速の斬撃、これに対し――彼の体を覆う赤き魔力、すなわちオドが風船のように"わっ"と膨らみ、たわむ!
 凝縮した魔力を瞬間的に膨張させ、刃を防ぐ。あまりにも前のめり、失敗すれば串刺しの憂き目に遭う危険な賭けだ。
 だが彼はそれを勝ち得た。拮抗が破られた時、彼の姿はそこにない。
「消えたまえ」
 懐! 金色の瞳がぎらりと輝き、次いでオーラセイバーが煌めいた!
 魔力のほぼ全てを刃に注ぎ込み、光じみた速度の刺突を突き刺す。
 ドォン! という轟音すら伴う一撃。敵がたたらを踏む!

「よし、まずは誘い込むことは出来たか。……彼女のことは?」
「心配あるまいよ。だが奴は、もう少々踊ってあげる必要がありそうだ」
 ひび割れ砕け、しかし再び再生を果たした阿修羅を前に剣士達は言葉を交わす。
 そして刃が降り注いだ。銀と紅の風がこれをかいくぐり、撃ち合い、駆け引きし、光条が劈いて刃風を凌ぐ。
『我らの合戦はいまだ終らず。終らず。終らず!』
 渦の中心で、ぎらぎらと光を放ち阿修羅は謳う。
 シーザーとアシェラとて、いよいよ数に圧しきられかけた、その時。
 まるで鏡合わせのように、無数の妖刀が溢れ出て阿修羅に襲いかかったのだ!

 がきん! がきん、がきんがきん、がきんがきんがきんがきん――!!

 複製された刃と刃が噛み合わさり、砕けては吹雪めいて散る。
 これを放ったのは、斃れたはずの眞白。意外にもその体は無傷!
「……オペラツィオン・マカブルか!」
 アシェラの驚嘆と畏敬の声に、眞白は照れくさそうに頷いた。
「射出したのは、飛威からだけど。度量と決断力は、大事」
「そうこなくてはな。……まだあがくかね? 邪魔だなッ!」
 追い打ちとばかりに『ソドムの終焉』を発動させ、敵を封殺するシーザー。
 二人の視線がアシェラへと流れる。女騎士はこくりと頷いた。
 好機到来。おもむろに指を立てた片手を空へと掲げ――。
「この桜を、貴公の血風でそよがせるのはまこと無粋ゆえな。
 闇鋼騎士――赤光槍構え! 放てッ!!」
 おお! 頭上を仰げばいつのまにか、展開する無数の騎士たち!
 およそ百と十五の精鋭達が血のごとき槍を捧げ持ち、これを擲つ!
 放たれた槍は阿修羅を、そしてその周囲――すなわち、広場の外縁をガガガガガ! と穿ち、決闘場めいた槍柵を展開する。
『あなや。我らを逃すまいと檻を構築したか、笑止』
 彼奴はオブリビオン、不滅であるはずはない。
 なにせ猟兵達は、こことは異なる世界で恐るべき帝国の首魁どもを討ち果たしたのだ。
「その大道芸、いまだ手管は解らんが――まずは一手、封じたぞ」
 アシェラは決然と言い放つ。
「合戦がご所望ならば、君達が滅んで消え去るまで相手をしてあげよう」
 嗤笑を喉から漏らし、シーザーが云う。
「怖いけど、私は……私達は成長したから。だから、あなた達と戦う。
 その怨みと呪いが鎮まって、今度こそ眠れるようになるまで」
 祈るように、眞白は呟いた。

 敵は三人の連携に誘い込まれ、広場に釘付けとなった。
 これにより、少なくともやつが逃亡、あるいは宿場街を脅かすことはない。
 夜桜が散る。
 響くは怨み深き兵の唄――戦いはなおも続く!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鳴宮・匡
◆アドリブ/連携歓迎


……お前は一騎打ちなんて面倒なことは言わないよな?
今度はこっちの流儀に付き合ってもらうぜ

広場が確認できる高所へ位置を取り【目立たない】ように【迷彩】
派手に暴れる奴がどうせいるだろうしさ
いい隠れ蓑だ、なんて言ったらアイツ怒るだろうけど

こちらまで飛んでくる武具は撃ち落とすよ
殺気もあれば、風切り音だってある
捕捉するには困らない

息を殺して敵の動きを注視
その挙動を余すところなく、目で、耳で、肌で感じ取る
微かな揺らぎ、僅かな隙を見逃さず捉え
無防備になる一瞬を狙って【千篇万禍】を見舞う
一射で足りなければ連続で

そんなに争いが欲しいなら、骸の海でやればいい
死んだやつが、生を脅かすのは筋違いだ


夷洞・みさき
そこが君達の目指した所だったんだね。

争いはあるし、血も恨みも消える事は無いね。
でも、それは現世を生きる人の物なんだ。
過去が触れてはいけない物なんだ。

だから、僕が、僕達が君を禊いであげるよ。

同胞達さっきは我慢してくれたありがとう。
向こうも纏まっているからね。

さぁ、同胞達。ここに咎人が顕れた。

【WIZ】
【野生の勘】【聞き耳】、敵が纏う【呪詛】を追う事で位置を認識
光が多すぎても海底みたいに真暗でも見えないのは同じだしね。

それに、君が求める物はここにもあるしね。
僕等七人と咎人の呪詛と血がこもった車輪は良い餌になるんじゃないかな。

刺されてしまえば距離は気にしなくていいしね。
自身を囮にしつつ同胞で敵を狙う


ヴィクティム・ウィンターミュート
…ハッ!随分と物々しい救いを謳うもんだ。血だの戦だの死だの、そんなもんは必要ねぇ。平和に気楽に生きようぜ。

さて、今日も今日とて端役の出番だ。主役たちの膳立てをしてやろう。
完全にとち狂ってるから効くかは分からねえが…挑発してヘイトを稼ぐ。
奴の救世塵殺が飛んで来たら、【早業】でユーベルコードを準備、【見切り】、脱力で受ける。無効化、そして奴の強大な力を【盗み】、力に変えて全員にバフをばら撒く!

「救えるものなら救ってみろよ?紛い物」
「あぁ…悪いな。どうやらテメェに俺は救えないらしい。もっとも、救われるには俺はちょいと…悪さしすぎたがな」
「さーて主役ども!偽物から作った勇者の剣だ!受け取りなァ!!」


皐月・灯
この大広間……誰か狙ってやがんな。
……オレを隠れ蓑に使うとは、いい度胸してるぜ。

六本も腕があるわりにゃ、口の方が随分と回るじゃねーか。
贄を蒐めろだの恨みを求めろだの、てめーは何様のつもりだよ?

目眩ましってのは、不意を打つから効果を発揮するんだ。
来ると分かってりゃ対処法はある。

オレは正面から突っ込み、ヤツの発光の瞬間目を閉じるぜ。
足音、武器の風切り音、殺気を頼りに攻撃を捌くんだ。

そして《模倣ル幻石》でヤツの発光をコピーして、
ヤツの眼前に拳を突きつけ、発動。
動きを封じた瞬間に、【全力魔法】の一発をブチ込んでやる。

言ったろ? 『不意を打て』ってな。
てめーみてーな偽物野郎にゃ、このあたりが似合いだぜ!




 宿場街の大広場は、いまや赤い槍に囲まれた決戦場と化した。
 刃の檻、あるいは波濤が荒れ狂い、迫り来る猟兵を押し返し、防ぐ。
 六つの刃が奔り、敵を串刺しにしては切り裂く。
 強烈なる偽りの後光が、瞳を灼き心を折る。
 阿修羅とはまさにこれ、闇刃の偽神は砕かれては再帰す。
『我らの合戦は終らぬ。恨みを求めよ、怨みを蒐めよ』
 寂々と悪鬼は謳う。
『血を流せ。肉を削げ。これなるは救いなり、これこそ我らの役目なり』
 忘れられた物神達に、死した者達に偽りの救いを。
 怨念は不滅だというのか。
 呪詛は晴れぬというのか。

 否、と。
 そう叫ぶ者達がいる。
 あるいは――、
「六本も腕がある割にゃ、ずいぶんと口が回るじゃねーか」
 そのままに叫ばずとも、確かな決意を秘めて前へ進む者が。

●電光石火
「贄を纂めろだの怨みを求めろだの、てめーは何様のつもりだよ?」
 これなる少年、名を皐月・灯と云う。
 異色の双眸には、ぎらぎらと煮えたぎるような苛立ちがあった。
『我らは永劫に争い続けるもの。これこそ救いなり』
「くだらねーな」
 文字通りに吐き捨てる。彼には随分と気に入らない手合のようだ。
 ……いや。その不機嫌さは、どうやら敵の主張に留まらないらしい。
(――誰か、オレを隠れ蓑にして潜んでやがるな)
 よく気配を消している。灯をして微かにしか感じられぬほどだ。
 敵はどうか。この狂乱ぶり、気付いているか否かを問うまでもなかろう。
 この戦場に居るならば、確実に呑まれているはず。なおも潜んでいるのは――。
「いい度胸してるぜ」
 ただそう呟き、思考を切り替えた。
「そのぶんてめーに、付き合ってもらおうじゃねーか!」
 そして駆け出す。迫りくる刃への恐れはなし!

●無影無踪
 そんな彼の死闘を、遠く高みから見下ろす者あり。
 決戦場を乱舞する刃の残滓は、時折流れ弾めいて彼へと襲い来る。
 だが青年は、それを一瞥すらせずに消音器付きの拳銃で撃ち落とした。
「いい隠れ蓑だ、なんて言ったら怒るなアイツ。いや、もう怒ってるか」
 たいして気にしてない様子で二つ目の刃を撃ち落としつつ、鳴宮・匡は呟く。
 灯が微かに感づいたのは、実際のところこの男の気配だ。
 もっとも、灯ですら"誰かがいるらしい"という推測が限界である。
 戦場傭兵たる匡の隠密能力は、見知った猟兵ですら欺くというわけだ。
「一騎討ちなんて面倒なのはもうやめだ。今度はこっちの流儀に付き合ってもらう。
 ――厭だ、なんて言っても聞くつもりはないけどな」
 BLAM。鉄火場にあっては蚊の鳴くような、それ以下の微かな銃声。
 視線も聴覚も、迫る刃の残滓には向けられていない。彼はほとんどカンで迎撃している。
 ではその五感は何に向けられているのか? ……言わずもがな、敵だ。
 挙動を、目で、耳で、肌で、さらには味覚と嗅覚を用いて感じ取る。
 そうしなければ生きてこれない世界で、彼は生きてきた。
 隙を、揺らぎを捉えよ。偽りの不滅の謎を解け。その一瞬は必ず来る!

●仲連蹈海
「そこが――それが、君達の目指したところだったんだね」
 鉄火場に新たな女の影が現れた。その名、夷洞・みさき。
「争いはあるし、血も恨みも消えることはない。それはたしかだ」
 荒れ狂う竜巻の如き阿修羅を見上げ、海鳴りのような声は云う。
「でも、それは現世を生きるヒトの物なんだよ。過去が触れてはならない」
 だから、と。言葉を次げば――ごとり。ごろん。と来たるモノ。
 それは車輪だった。いびつで、禍々しく、呪われた咎人殺しの魔輪。
 ひと、ふた、み、よ、いつ、むを裁きて、七の咎を求めしもの。
「同胞達よ、ありがとう。けれどもう、我慢の必要はなさそうだ。
 向こうもまとまってくれている。なら僕らも同じようにすればいい」
 ぎしり。風も触れもせず、車輪は軋んだ。答えるように。
 咎人を禊にすべき車輪はここに。討つべきヒトはここに。ならば。
「さぁ、同胞達。――ここに、咎人が顕れた」
 刃の雨を前にして、みさきが退く理由などどこにもない。

●冬夏青青
 恨みを刻め。怨みを求めよ。血を流し、殺し、争い続けよ。
 我らの合戦は続く。殺せ、呪え、怨め、憎悪を蒐めよ――。
「……ハッ!」
 寂々とした、読経の如き偽りの救いの詩を、男は鼻で笑う。
 心からの嘲笑であった。彼は救いという言葉をことさらに嫌うのだから。
「ずいぶんと物々しい"救い"を謳うもんだ。血だの戦だの死だのと。
 そんなもんは必要ねえさ。平和に気楽に生きようぜ?」
 ヴィクティム・ウィンターミュート。口元には皮肉の笑み。
 男の姿は、このエンパイアにはいささかか不釣り合いだ。
 そんなことは関係ない。なぜならば。
「ここには綺麗な花があり、多分美味い飯だの酒だのがあるわけだ。
 そして――なによりも、テメェをぶっ殺そうっつー主役(ヒーロー)どもがいる!」
 然様、男は己を端役と断じ、英雄達をこそ主役と謳う。
 それは矜持であり卑下であり、また男にとってのよすがでもあり。
「だから端役(おれ)の出番だ。主役達のお膳立てをしてやらなきゃあな!」
 皮肉の笑みはそのまま、されど声音はどこか寒々しく。
 かくて役者は揃い踏み。死闘の第二幕が上がる。

●覆地翻天
 みさきとヴィクティムの乱入により、戦況はさらに激化した。
 これは匡にとって好ましい事態である。ゆえに彼は支援を行わない。
 ただその一瞬のため、全神経を注ぎ敵の一挙一動を感じ取る。
 刃が荒れる。剣が振るわれる。まさに刃鳴散る鉄火場なり。
「おい、邪魔すんじゃねぇ! 下がってろ!」
 一方、それを快く思わないのが灯である。
 彼のプランは、敵の不意打ちのさらに先を行くことで一網打尽にしようというものだ。
 状況が混迷し、敵の狙いが逸れるのは好ましからざる事態である。
「そうかい? 彼は心強い味方だと思うよ」
 青ざめた相貌に薄い笑みを浮かべ、見やる先には見知ったカウボーイ。
「お褒めいただくのは恐悦至極だねぇ! ま、お互い勝手にやろうじゃねえか!
 猟兵ってのはそういうもんだろ? チームワークってのはあとから来るもんだ!」
 灯は舌打ちした。なにせ、彼の物言いは実に理解できるし納得もする。
 むしろ賛同したいぐらいだ。いちいち作戦を立てるなど愚の骨頂!
「そーかよ、だったらこっちも勝手にやらせてもらうぜッ!」

 跳んだ。灯の双眸が二つの色の軌跡を描き、敵を見据える。
 阿修羅もまたそれを見返し、全身から偽りの後光を放つ――!
 軌跡は途切れていた。いかにも、灯の打った手は至極単純である。
 敵の目くらましが隙を生むなら、目を瞑ればいい。実際正しい理屈だ。
 まず一手。すでに幻釈顕理は励起し、彼が背いた光を拳の裡に孕んでいる。
 だが!
「……チッ、思ったより激しいじゃねーかッ!」
 暗闇に包まれた灯のヴィジョンを、呪われた刃の剣閃が無数に切り裂く。
 それは感じ取った殺気の渦だ。すなわち、救世鏖殺の軌道である。
 再び嵐が渦巻く。躱し、捌き、砕き避けるが、これは……!
「ほうら、言わんこっちゃねえッ!」
 ヴィクティムは叫び、駆け出した。敵の気配から危険を察したのだ。
 奴は目くらましに"対応されることを読んでいた"。灯もそれは覚悟の上だろう。
 だが救世鏖殺の密度は、知っての通り彼らの想像以上なのだ!
『あなや』
 阿修羅は言った。それは驚きか、はたまた呆れか?
「俺を救えるってんなら、救ってみろよ? 紛い物!」
 などと、足元に来たる男が言ってみせたからだ。
 ならば、と阿修羅は言い――そして、鏖殺の雨は彼へと向けられた。
 疾い。しかし"彼にとっては"遅い。なぜなら男は2秒先を行っている。
 刃に貫かれ、切り裂かれ、穿たれ、されどその身は無傷。
 四肢を脱力。瞬間的に自身の五体を電影化、攻撃を"すり抜けた"のだ。
「あぁ……悪いな、どうやらテメェに俺は救えないらしい」
 もっとも、そんなことは自認済みだが。などと、内心で独りごちて。
 それを主役達へと手向けようとした、だが敵はそれすら読んでいた。
『哀れなり。救われよ』
 ぐあっと巨体が向きを変え、六つの刃の鋒がヴィクティムを捉えている!

 しかし、振り下ろされた刃はぎゅん! と軌道を変え、真横に突き立った。
『……あなや』
 阿修羅は再び呻いた。今度こそは困惑と驚愕を伴って。
 見よ。車輪(どうほう)を伴とする女は、自らその身を晒して刃を誘ったのだ。
「澱んだ海の底より来たれ――」
 うろの如き声が謳う。
「身を裂け、魅よ咲け」
 だくだくと血が流れ、濁濁と渦のように声が響く。
「我ら七人の聲を、呪いを――怨みを、羨望を示そう」
 ゆえに阿修羅は惹かれた。咎人の呪詛と血、同胞達のそれが刻まれたモノへ。
「忘却した者達に、懇願の祈りを込めて。――忘却祈願」
 我は(しちにん)、我ら(みさき)なり。
 ぎしり。
 ぎしり、ぎしり、ぎしり――。
 血を流しうなだれるみさきの背後、車輪から滲み出るように顕れた影六つ。
 その相貌明らかならず。それらは……おお、おお! これが咎人殺しだと!?
 澱んだ昏き海底の冷気と、濁った海臭が血のそれを上書きする。
『あなや!』
 阿修羅は力を込め、串刺しにしたみさきをバラバラにせんとする!

「――いつまでも」
 がしりと。背かれたままの頭部を掴み、無理やり己の方へ向かせた男がいる。
 閉じられたままの瞼の向こう、されど確固たる怒りを燃やす瞳が視えた。
「余所見してんじゃあ――ねえッ!」
 握られたままの拳から光が迸る。体幹から末端へ、刻印めいた光の走査線。
 否、それは事実、彼の精神と肉体に刻まれた魔術回路の励"輝"光。
 アザレア・プロトコル。一・二・三・四を数えて五の搦め手!
「《模倣ル幻石(カーバンクル・ドライブ)》ッ!!」
『お、おおおオオ――!?』
 偽りの後光が、さながらスタングレネードめいて顔面/眼前で爆ぜたのだ!

 カッ――! と、戦場がすさまじい光に包まれ、誰もが目を眩ませた。
 その例外は四人と六つ。すなわち彼ら四人と、顕れた六つの霊に他ならず。
「ハッハァ! さあて、主役ども! これなるは偽物を討ちし勇者の剣だ! 受け取りなァ!」
 光に目を灼かれながらカウボーイは笑った。そして腕を伸ばす。
 高速威力変換された救世鏖殺のエネルギーが、電脳プログラムとなって放射。
 灯を、みさきと同胞達の力を増幅する。正しくはもう一人も含めて。

 ――そういうの、どうでもいいんだよな。
 そんな風に思いながらも、魔力の流れを感知した匡は、ちゃっかりとその恩恵を掠め取った。
 超絶の五感は、目に見えず聞こえもしない魔力・霊力・気力の脈すら感知・干渉する。
 彼らは気づくまい。だがおそらくヴィクティムは、己の存在を確信していることだろう。
(どうでも、いいさ)
 敵を殺す。ただそれだけだ。
 そして。
「もう視えた。――そこだな」
 光がかき消える刹那の一瞬、千篇万禍の弾丸が敵の真中を貫いた。
「――――」
 ごぼごぼと、血の泡混じりにみさきが何かを言った。
 それに従うかのように、強化された怨霊達が阿修羅の五体に組み付き、これを呪って引きちぎった。
「てめーみてーな偽物野郎にゃ、このあたりが似合いだぜ」
 がら空きの顔面に、叩き込まれる鉄の如き灯の拳骨ひとつ!
 無論、たっぷりと与えられた魔力のおまけつきだ。三者三様の同時攻撃――!

 光が止んだ。直後、無数の絶叫とひび割れる音、そして呪詛の爆ぜる風が荒れた。
 これで三度目か、はたまた四度目か? 闇刃阿修羅は砕け、崩れ、斃れた。

 ……そして猟兵達は視た。
 砕け零れた刃達のうち、少なからぬ数のモノどもが光の粒めいて解け消えるのを。
 いまなお残る刃どもは再び組み合わさり、阿修羅の形を作るが差は歴然。
 呪詛が減っている。怨みが削られている。その力が、喪われている!
 やはり奴は不滅などではないのだ。彼らの同時攻撃はその『核』というべきモノに、確かに拭えぬヒビを打ち込んだ。
 限界は見えた。ならばあとは――。

「死んだやつが、生を脅かすのは筋違いだ。殺してやるよ」
「君の咎を、呪いを。僕らが禊、殺そう」
「ブチ砕けて消えてなくなるまで、殺し尽くしてやる」
「――そうこなくっちゃな、チューマ」
 かくて、猟(か)りが始まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携歓迎】

痛っ…刀傷が骨身に響くねぇ。
奴らがそれだけ戦に飢えてるって事かい。
その願いはいただけないね、叶うなんてもってのほか。
どうせなら人を助ける為に包丁にでもなれってもんさ!

軽口はここまでにして、大技の仕掛けに入るかね。
サイキックの電撃を、複製されて飛び回る刀に当てて叩き落す。
その間に聖句を唱える訳だけど……
華のお江戸に英語はちょいと似合わないな。
あまり気の利いた口上とは言えないけど、
「盛者必衰、諸行無常。
狂い咲いたる刃名(はな)ならば、手折って黄泉路の伴とせん。
原一面に広がらば、織りてし籠に収めよう。
しからば介錯仕る、彼岸へ送れ【黄泉送る檻】!」
とでも諳んじてみようかねぇ?


アルジャンテ・レラ
戦に溺れ血に飢えた者の末路など、どの世界でも同じでしょう。
贄となるのは果たしてどちらか。
言うまでもないと思いますよ。

(弓握る手に強く力を籠めれば、
 このかすかな震えは、……疼きは、鎮まるだろうか)

他者との連携は未だ不慣れ。
とは言え、この状況下に於いては連携こそ利。
皆さんのお力となれるよう努めましょう。

どなたかに敵の刃が向いた時、
または、逆に攻撃を与えている時。
援護射撃で支援を。

痛覚のない体であろうと、破損は避けたい。
刀剣一本一本に注意を払わなくては。
腕を狙い、攻めの力を削げないか、試してみます。
麻痺毒も役立てましょう。

一体何が彼の者を奮い立たせていたのか……。
私には、わかりそうもありません。


ユーリ・ヴォルフ
アドリブ共闘大歓迎です

このオブリビオンは、呪いの塊とも思えるような怨嗟の塊なのだな
背筋が凍るようだ…だからこそ
我が炎で浄化し、焼き尽くしてくれる!

6本腕か…安易に飛び込めば厄介なことになりそうだ
ならば距離を詰められる前に、編み出した技を叩きつける!
【メギドフレイム】で炎の剣を生み、流星(火球)の如く闇刃阿修羅へと落とす

このまま他の猟兵へと『援護射撃』という形で攻撃を続けるのもいいだろう
自身が盾となる形が良さそうならば、炎霆(槍)を構え
棍(棒術)を操る様に攻防一体となり
受けるダメージは『オーラ防御』『激痛耐性』等で耐える
闇有れば炎で照らし導とする。それが俺の生き様だ!



●三位一体
 敵の再生には限界がある。
 歴然たるこの事実に対して、猟兵が採る手などひとつきりである。
 かつて星の世界でそうしたように――すなわち、滅ぼし尽くす。
「と、いきたいところだけどね……痛っ」
 いまだ塞がらぬ傷口をかばい、数宮・多喜か顔をしかめた。
 無理もない。一騎討ちはつい先程の出来事なのだ、猟兵の生命力を以てしても限界がある。
 だがこの大攻勢において、彼女は座して待つような人間ではない。
 そんなおとなしい人間では、ない。
「奴らがそれだけ戦に飢えてるってんなら、その願いは打ち砕くのが猟兵の仕事、ってね。
 どうせなら人を助ける包丁にでもなりゃいいもんを、まったく……」

 そこで身を崩しかけた多喜の体を、受け止める男がいる。
「その傷を圧して一人でヤツを仕留めるのは、さすがに厳しいだろう。
 盾が必要なはずだ。その役目、私に任せてはくれないだろうか」
 ユーリ・ヴォルフは、穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
 彼と多喜は、ともに戦場で肩を並べあった仲間同士である。
 いや仮にそうでなかったとしても、ひとり敵を前にした女を彼は見過ごすまい。
 彼女がそうであるように、守護者を自認する龍もまたそういう性根の持ち主なのだ。
「呪いの、怨嗟の塊というべきあの集合体……背筋が凍るようだ。
 だからこそ我が炎を以て、焼き尽くし浄化せねばなるまい」
 そして、その確固たる意志もまた同様である。

 ――そんな彼らの後ろ姿を見て、アルジャンテ・レラは弓を強く握った。
 それでもまだ手が震えることに、彼はまた名称不明の感情を覚える。
(いったい私は、どうしてしまったというのか)
 一騎討ちの時に感じたモノ。そしていま、この手を震わせるモノ。
 何もかもがわからない。どの書物の記憶を引き出しても理解できない。
 ただ。あの戦に溺れ血に飢えた者を、ここで見逃していいはずはない。
「……贄を求めるというのなら」
 ひび割れた感情回路の奥から、絞り出すような声。
「相応しい末路をたどるのははたしてどちらか。言うまでもないでしょう」
 そして振り向いた二人の隣に決然と歩み寄り、弓を構えた。
「申し訳ありません。連携は不慣れですが、私も手伝います」
 有無を言わさぬ声音である。
「手伝わせてください。……必ず、皆さんのお力となりますから」
 優しく、しかし揺るがぬ意志を秘めた瞳は、さながら鷹のように鋭い。

『おお、おお、おお――!』
 対する巨影が、吠えた。だがその裡より溢れし呪詛、怨念は目減りしている。
 だとしてもいまだ強大な圧だ。この地で繰り広げられた合戦はどれほどのものだというのか?
 決戦場を彩るように咲き誇る桜の鮮やかさは、いっそ恐ろしく見える。
 だがそれでも、今この地は争いのない場所。そうなったのだ。
『怨みを蒐めよ、贄を得よ、刃を振るいて命を散らせ!』
 彼奴の甘言、叶わせるわけにはいかぬ!
「こうなれば仕方あるまい。我が裡に眠りし、龍の焔よ!」
 まず最初に、ユーリが動いた。朗々たる口訣は龍の咆哮に似る。
 するとどうだ。彼の内側で燃える焔が、魔力となって吹きすさぶ。
 いまやユーリの五体と翼は、ごうごうと唸るような赤い焔に覆われていた。
「来たれ炎霆! そして焔よ、我が剣となりて――」
 ごぉうっ!! 龍の舌じみた豪炎が、まず彼の振るう魔槍に収束する。
 残るオーラは次々に禍々しき焔の剣へと姿を変え、彼の周囲を回遊した。
「――敵を穿ち、焼き尽くせ! メギドフレイムッ!!」
 穂先を向ければ、炎剣たちがそれに倣い――敵へ、殺到ッ!
「はぁああああああっ!!」
 それを追うように翼をはためかせ、ユーリもまた疾駆する!
 先手を打った炎の剣は敵の全身を、特に六つの刃を集中攻撃し押し止める。
 これにより、六刃による迎撃は防がれた。――だが!
 刃が産まれ、複製され、彼奴の周囲を荒れ狂う。救世鏖殺……!

 ユーリを飲み込まんとしたそれらは、しかし迅雷の如き矢に射抜かれた。
 弓弦が弾けるたび、その尾すら捉えきれぬ速度で鏃が夜闇を切り裂く。
「遅い。それに動きが直線的です。見切るのは、たやすい」
 アルジャンテは平易な声音でそう言い、次の矢を、次の次の矢をつがえる。
 ……虚勢である。無数の刃はどれを射抜くべきか、またどれがユーリや自分達を狙っているのか、視認し把握するだけでも困難を窮める。
 それでも彼は胸を張り、背筋を伸ばし、常通りの声音でそう言った。
 そうすれば、この疼きが鎮まる気がした。そうするべき気がしたから。
「一体何が、あなたを奮い立たせているのか。私には皆目見当もつきません」
 敵と敵の振るう刃を視界に捉え、見据えながら彼は云う。
「ですが、痛覚なきこの体であるからこそわかることが一つだけあります」
 鏃と刃がぶつかりあい、砕ける。貫いた鏃は次の刃を砕く。
「私は、貴方を許さない。ここで滅んでもらいます」
 それは敵への恐れでもあり――おそらく、悪鬼への純然たる怒りでもあった。
 猛攻をさらに凌ぐ、文字通りの千里眼による神業的な射撃。
 かそけき抵抗はやがて敵の猛威に拮抗する矢の雨となり、ついにはこれを凌駕する!
 その隙を逃すユーリではない。敵の間合いに飛び込み、炎霆一閃!
「闇あれば炎で照らし、導とする。それが俺の生き様だッ!」
「なら、その導を目指して矢を放つ。それが今の私の役目です」
 守護者と探求者。
 前衛と後衛。
 龍と人形。
 戦士と射手。
 種族も何もかも違えど、今この場において彼らの目的は一致している。

「盛者必衰、諸行無常――」
 口上が響く。女の両の手に、生まれたての宇宙のごとく渦巻くエネルギー。
 それは紫電となってほとばしり、バチバチと彼女の周囲を荒れ狂った。
 撃ち落としきれぬ刃は、これによって多喜の肉はおろか肌を裂くことすら出来ぬ。
「狂い咲いたる刃名(はな)ならば、手折って黄泉路の伴とせん」
 闇刃阿修羅が彼女をめがけ進もうとする。ユーリがこれを阻む。
「原一面に広がらば、織りてし籠に収めよう」
 ならばと救世の刃をさらに複製する。だがその端からアルジャンテが撃ち落とす。
「然(しか)らば、介錯仕る」
 かくて聖句は成れり。その言語、語彙は違えど狙いは同じく。
 ならば生まれる力もまた同様! サイキックエナジーが収束する!
「彼岸へ送れ、黄泉送る檻(サイキネティック・プリズン)ッ!!」
 増幅収束膨張した超常のエネルギーは、電撃を孕む檻となって敵を包む。
 その直前にユーリは退避。六刃がこれを追おうとし――電光に阻まれた。
『お、オオ! オオオオオオオオッ!!』
 闇刃阿修羅の全身がひび割れ、燃え、感電し、貫かれて砕けていく。
 再び呪詛が、怨念が夜闇に消え、桜に飲まれて還っていく。
「花のお江戸にゃおあつらえ向きの口上だろ?」
 にやりと女が笑った。
「もう一度、いえ、あと何度でも。私は矢を引きます」
 人形は、断固たる意思とともにそう告げた。
「我が炎は貴様を逃さん。ここで滅びてもらうぞ、亡霊よ!」
 再び偽りの神は四散する。あと一度か? 二度か? 何度だろうと同じこと。
 安寧を奪う悪鬼を砕ききるまで、猟兵達は戦いをやめはしない!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
嘘……私達が砕いた刃が!?
一対一でもきつかったのに、あれが融合なんてしちゃったら……
っ、駄目駄目
悪い方向になんて考えないでおかなきゃ
なんとかなるよ、絶対に大丈夫
だって、私達だって今度は一人じゃないもの!

しばらくは刃を交えて敵の攻撃や立ち回りをよく見ておこう
なるほど、
威力の高い一撃はまともに受けたら危険だね
攻撃したらすぐ退避して、射程圏内から離れるよ
でもあの力は使えそう!
スカー・クレヴォで[攻撃力]をちょっと拝借
君の力、借りておくね
返すつもりなんてないけど!

その上で【力溜め】
これで少しは互角に近付けたらいいな
全ての……ううん、それ以上の力を出さないときっと勝てない
【捨て身の一撃】に懸けるよ


ヨハン・グレイン
怨嗟に怨念。ある意味感心しますね。
よくぞそこまで怨めたものだ。

……桜に興味がありましてね。
戦う理由はそれだけ。花見を叶えるには目障りだということです。

指輪の先から闇を解き、幽々たる<呪詛>を食らわそう。
黒衣を纏い、<目立たない>よう距離を取る。
黒刃を這わせ、近距離から攻撃をする者がいればその援護を。

光に目が眩もうと、近付かれれば気配に気付けるでしょう。
懐に入られるほど距離を詰められたら、「影より出ずる者」で刺し穿つ。

流血した場合には、動けぬ敵へ小刀を射て、<生命力吸収>を。
流した血は返してもらおう。
――不本意極まりないのですけどね。

亡者は亡者らしく、とっととくたばれ。



●阿吽之息
 砕け、崩れ、それでもまだ阿修羅は再生輪廻を繰り返す。
 星の世界における強敵どもとは、また異なった不屈である。
 それは合戦の凄惨さが招いたものなのか、はたまたそれを為した何某かがいるのか?
 ……いずれにせよ、終わりには着実に進んでいる。それでも。
「嘘……合体して斃れたと思ったら、まだ立ち上がるの……!?」
 オルハ・オランシュを恐れ、戦かせるには、敵の妄執は十分すぎた。
 なにせ一騎討ちにおいては苦戦を強いられたのだ。それが集合し、衆合した。
 その上で二度、三度と倒してなお蘇る。普通ならば心折れる光景であろう。
 わずかな震えを押し殺し、ぶんぶんと首を振る。
「駄目駄目っ、悪い方向になんて考えないでおかなきゃ。なんとかなる。
 ……うん、絶対に大丈夫。だって、私達のほうこそ――」

「……一人じゃないから、だとか。そういう非論理的な理屈はどうかと思いますが」
 予想外の声音。オルハは目を見開き、しかし口元を歪めて振り返る。
 恐れに? 否。ならば畏怖に? それも否。歪みとは悪いことばかりではない。
 ひきつっていたはずの彼女の口元は、いまは笑みを浮かべている。
「ヨハン!」
 喜色満面といった様子の声に、藍色の髪の青年は嘆息した。
「桜に興味がありましてね。戦う理由は、まあそれだけです」
 いつものように、彼の言葉は端的で無愛想。だが少女にはそれで十分だ。
 一人じゃないと彼が証明してくれたのだから。
「それにしてもあの怨嗟に怨念、ある意味で感心しますよ。よくぞここまで怨めたものだ」
 す、と目が細まる。闇に向き合い、その力を得たモノは何を視るか。
 じとり――と、指輪から滲み出るものがあった。墨絵の如き闇が。
「あなたが前衛、俺は後衛。それでいいですね?」
「うん! ……頼りにしてるよ、ヨハンっ」
 少女は色のある風となった。それを見送り、少年はまた嘆息する。
「……闇よ、呪詛を薄めてはくれるなよ」
 万が一にもそんなことがないように、彼は己の裡なる暗黒を見据える。
 星の銘を頂く少女の背中は、彼にとっては眩しすぎたから。

『おお、おお、おお。汝、我が怨みの糧となれ。贄となれ』
「悪いけど、それは遠慮しておくよっ!」
 間合いに飛び込んだオルハは、しかし慎重にリーチを計測し攻防を重ねる。
 彼女は二腕、対するあちらは六臂。まともに打ち合えば勝ち目はない。
 ゆえにヒットアンドアウェイに徹し、遠間からでは見きれぬ敵の癖を読む。
(まず右の上腕、次に左の真ん中が来て――)
 翠眼が一挙一動を見据える。意識が雪崩を打ち、華奢な体を動かす。
 三撃目。喰らいかけたそれを凌ごうと、蠢く闇が間に入った。
 さらに四撃目、これを繰り出そうとした敵左下腕の付け根に突き刺さる黒刃七つ。
(さすがだね、ヨハン)
 心の中で笑み、彼女は頷いた。五、六が来る。退ける。だが退かぬ!
「君の力、借りておくね――返すつもりなんてないけどッ!」
 背中に回していた三又槍をぐるりと脇をくぐらせ、腰を落とした刺突。
 狙いは敵そのものではない、やはり敵の腰を越えての、地面に伸びる影である。
 そして一歩を踏み出す。追って、彼女の背中のすぐ後ろを五・六の刃がかすめた。
(よしっ)
 魔力が敵の威を削いだ。すぐさま敵の巨体を蹴り、バックステップを――。
「――包め!」
 それがヨハンの口訣だと気づいたのは、己の視界が黒に包まれてからである。
 何が起きたのか? ……敵は、オルハの目を眩ませようと偽りの後光を放ったのだ。
 遠間に居たヨハンはそれを察知した。そして咄嗟に闇に彼女をかばわせた。
 では彼自身はどうか。言うまでもなし、常より昏き瞳は真の意味で束の間光を喪った。
「……く」
 呻く。闇とはこれほどまでに黒黒としたものだったか。
『あなや。哀れなるものよ、救われよ』
 だが、嗚呼。この透き通るほどの闇は――。
「……随分と、心地いいな」
 彼にとっては、よく馴染む。
 ゆえに視界を奪われてなお、ヨハンは殺気を感知し敵の攻撃を避けた。
 救世の鏖殺が来るならばこれを魔力で防ぎ、六刃は飛び退って避ける。
 黒を纏い、闇を従える術士ならばこそ。光なき刹那に視えるものがある。
「――鳴け」
 口訣は端的に。彼の影が揺らぎ、そこから鴉の羽めいた黒刃が放たれる。
 数は無数。襲い来た複製妖刀を押しのけ、さらに敵の巨体をざくざくと刺し穿つ。
(これ以上は体力が保たない。血を流すのも不本意だ)
 彼は心の裡でそうひとりごちると、
「亡者は亡者らしく――とっととくたばれ」
 ただそう言った。敵はその意図を訝しんだ。
「――は、ぁああああっ!!」
 その真横から、死がやってきた。少女の形をした死が。
 傷つくことを厭わぬ捨て身の、全膂力を込めた決死の一撃。
 ヨハンが身を挺して生んだ隙を三又槍が穿ち……そして!
『お、お、お、ああああアアアあああ――!』
 己の魔力を載せた矛に貫かれ……嗚咽めいた残響とともに、罅割れ阿修羅は砕け散る。
 じきに再生を果たそう。だがまたしても、多くの呪詛と怨恨が夜闇に消えた。
「死人ならぬ死刃の集合体か――興味深いが、厄介な」
 視力が戻ったヨハンが頭を振る。
 そして息を切らしながらも、ピースなどをするオルハを見て。
「……やれやれ」
 と、三度溜息をついた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神酒坂・恭二郎
雪桜を見やり告げる。

「お前さんの気持ちは分らんでもない」

修羅に生き修羅に死するは剣者の定め。
鉄火場に好んで飛び込む、己のような馬鹿者に何が否定できよう。
目を閉じて、ゆるりと前に踏み出す。
救世塵殺の刃を潜って、間合いを詰め。
六道輪廻撃の死圏に、身を投げ出すと。

「だが、相容れない所が一つある」

迫る六本腕に対し、ひるまずに柄頭でその巨躯の胴を打って間を取る。
十寸。
すなわち30.303cm。
不可避の六の斬撃が相互に干渉し、唯一斬れない瞬間がそこにはある。
術理が叶えば、真の修羅の守護明神が偽神の技を封じるだろう。
剣刃一閃。
雪桜の中、静かに居合いを放ちたい。

「俺は野暮が嫌いなのさ」

【アドリブ、連携歓迎】



●生死壱剣
 台風の目というものがある。今こそまさに、死闘の『台風の目』か。
 敵味方ともに荒れ狂っていた力が失せ、阿修羅が再生を果たした時。
 目の前には、男が一人。視線ははらはらと散る桜へと。

「お前さんの気持ちは、わからんでもない」
 出し抜けに、男が言った。殺気も敵意もありはしない声音だった。
「修羅に生き、修羅に死するは剣者のさだめ……ってかね」
 瞑目し、ひとりごちて笑む。そこには自嘲の響きと色あり。
 さもありなん。男はこれまでの人生を、剣のためだけに生きてきた。
 無双の剣聖に叩頭して弟子入りし、百度二百度と打ちのめされても姉弟子に喰らいつき。
 理力の刃を振るい、その身一つで銀河を渡る。酔狂もいいところだ。
 鉄火場と聞けば馳せ参じ、視えず聞こえぬ刃を勘の一つで伐りもした。
 これを莫迦と言わずしてなんと言うか。さもなくば阿呆とでも呼ぶか。
 ならば、かの偽神の物言い――何一つとて否定することは出来ぬ。
 そのつもりすら、浮かばない。残念ながら彼はそういう手合だった。
『ならば汝、贄となれ。我らの怨みを刻みて呪え』
「厭ア、だねぇ」
 などと言いながら、男はゆるりと一歩を踏み出した。
 それを迎えて抱きしめるかのように荒れる、救世鏖殺の刃。
 男の歩みは止まらぬ。なにせ彼は、すでにその套路を読んでいる。
 いかにして歩み、いかにしてさすらい、いかにしてくぐればよいか。
 どのようにすれば無傷で間合いを詰められるか。それをとうに読んでいる。
 ゆえに刃は何一つ彼を傷つけること無く、彼もまた歩調を落とすことなく。
 男は、瞑目したまま懐に立っていた。
「俺はお前を否定しない。出来ない。しようとも思わない」
『あなや』
 ひょう、と風が鳴った。男はいまだ瞼を開こうとはしない。
 六道輪廻をもたらせし絶対の鋒、これすべて急所を狙えり。
 退かぬ。男はむしろ、飄々とそこへ身を投げだして。
「だがな、ひとつだけ相容れないところがあるのさ」
 雷鳴はその軌跡を空に描く。であれば男の挙措はもはや閃光か。
 江頭が阿修羅の鳩尾を突いていた。巨体が、数寸蹈鞴を踏む。
 合気の技である。だが刃はよどみ無く奔り――奔った。だが。
『あなや!』
 奔り、奔った。だがそれだけ。がちり、ぎちり、がきんと。
 刃と刃は撃ち合い、男の背なの皮一枚のすぐそばで拮抗している。
 いかにもこれぞ達人の智慧。柄に埋め込まれし覚者のもたらせし奇跡。
 十寸。精妙を越え、悪魔的なまでの調整と直感なくしてあり得ぬ"弱点"の露呈。
 隙が産まれた。そして死がもたらされる。

 ――剣が刃とともに一閃す。
 はらり、はらはらと桜が散る。阿修羅は身じろぎひとつせぬ。

「俺は――」
 男が目を開いた。
「野暮が、嫌いなのさ」
 ずるりと、真っ二つに断たれた阿修羅の上体が地面に堕ちた。
 かくて滅び、またひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
……闇、怨嗟、血を求める、か
その闇、浄化させて貰う
……何だ?目が熱い……(両目が蒼穹になり、同時に数秒先の未来が読める様に)!
これは、過去と向き合った結果なのか?
仲間との連携・声かけOK
剣王の瞳で敵の攻撃の軌道・動きを読みつつ、ダッシュ、先制攻撃で接近
防御は残像で目を眩ませつつ、周囲の地形、見切り、オーラ防御を軸に
更に鏡花水月で刀を受け流し夕顔でカウンター
得た情報が効果的なら仲間達と共有する
肉薄したらグラップルを混ぜてフェイント、二回攻撃で鎧破壊と傷口を抉る
連携と連撃で隙ができたら月桂樹で騙し討ちにして夢月蒼覇斬
「ある意味同族嫌悪になるのかな。少なくともお前の様な奴を俺は決して許さないよ」


遠呂智・景明
アドリブ、他の参加者との連携絡み歓迎

【SPD】
戦乱の時代は終わったんだよ、とうの昔にな。
俺たちが鎬を削り、血を啜った戦場はもうこの世界にはありはしねぇんだ。

敵のUCの発動に合わせて【風林火陰山雷番外 雷・火】を使う。
敵の呼び出した武器、及び敵の手足を指定し、斬撃を放つ。
手数には手数だ。
その腕、斬り落としてやる。

敵に近づかれたなら二本の刀で【2回攻撃】
を使った連撃で対処する。敵の攻撃を【見切り】つつ【フェイント】も用いる。


現在を必死に生きるヤツらに、俺たちの流儀を持ち込む必要なんてねぇ。
だから消えろ。


天御鏡・百々
この地の合戦などとうにおわっているわ
泰平の江戸の世に、合戦をもたらそうとする妖怪変化め
この我が討伐してくれようぞ

敵が後光・偽を放とうとしたところで
仲間の前に出て
我が本体たる鏡にてその光を反射してくれよう
(鏡像反攻儀を使用する)

光を返すなぞ、鏡にとって最も得意とするところだな

自らの光を返されて敵が怯んだら
「天鏡破魔光」による破魔の光をお見舞いしてやろう
これこそが怨念を浄化する、真なる救世の光なるぞ!

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎



●三諦円融
『お、お、お』
 幾度目の再生か。
 呪詛は削れ、怨恨は薄れ、鋼は削がれ。
 されど巨影健在、阿修羅は空を仰ぎ、
『おおおおおおおおおおおお――――ッッ!!』
 吠えた。吠えて、吠えて、吠え猛り……。
『おおおおおおお――贄を! 求めよッ!!』
 ぐおん、と背を戻し、おぞましいまでの枯刃を複製乱舞させる!
 だがこれを迎え撃つものあり。斬り、撃ち落とす者がいる。
 それはなんだ? 彼は何を使っている?
 銃か。はたまた魔杖か。嵐を産み炎を逆巻かせる超絶の魔術か?
 否なり。いずれも否。だが見よ、それを見よ。

 がきん。がきん、がきんがきんがぎんがぎがぎがぎぎぎぎぎぎぎ!!

 もはや悲鳴じみた激突と破砕の金属音。途切れぬ音の奔流。
 刃が生まれる。走る。応じるようにいくつもの閃光が生まれる。
 閃光? ではやはり魔術ではないか――否、否なのだ。
 見よ。来たる刃に抗うようにして、一歩また一歩と踏み出す男の姿を!
「風林火陰山雷・番外――」
 がぎ、がぎ、ぎぎぎぎぎ! ギギギギギギギンッ!!
「雷・火、最大火力だ」
 ギギギギ、ギンッ! ギャギ、ガギギギギッ!!
「闇刃阿修羅、お前の攻撃は届かねえ。お前は……いいや! 俺たちの時代は!」
 音を生み出し、包まれ、刃と刃の破片に頬を裂かれながら、遠呂智・景明は叫ぶ。
 血反吐を漏らすような声音だった。あまりにも悲痛で、そして哀切が籠もっていた。
「とっくのとうに、とうの昔に終わったんだよ! いい加減受け入れやがれッ!」
『おおお、おお、お・お・お!!」
 彼は独りである。そして携えるは、己の本体たる愛刀一振りのみ。
 一振りのみである! かれは抜き打ちの連斬で刃の雨を凌いでいるのだ!
 ありえぬ。
 目にも止まらぬ斬撃ならばわかろう、鋼をも断つ魔剣ならわかろう。
 だが霞み走り続ける両腕は、刃は、さながら結界じみて彼を護る!
 敵味方、有象無象の区別なく全てを切り刻むおよそ二百と五十の斬撃結界。
「俺たちが鎬を削り、血を吸った戦場は! もうこの世界にありはしねぇ!」
 涙を流せたならば、あるいは彼は哭きすらしたかもしれない。
 さもなくば、その叫びそのものが彼にとっての涙であり、慟哭か。
「だから俺はお前を討つ。何度でもだ。俺たちがな!!」
『否。否否否、否!! 我らのいくさは終らぬ、怨みを蒐めよ贄となれ!!』
 ぎらり。阿修羅の咆哮に応じるように、その全身が後光をにじませた。
 景明は舌打ちする。いかに無数の剣閃と言えど光は妨げられぬ。
 いっそ瞑目し、切り裂かれながら彼奴を切り刻んでくれようかとすら考え――。

「因果応報! 汝が力、我が身に映して返してやろうぞッ!」
 そこに割り込んだ童女の凛然たる声が、邪悪なる偽りの光をはねのけた。
 否、正しく記すならば"跳ね返した"だろう。
 光を、跳ね返す。そんな道理を可能とするのはこの世にただ一つの器物である。
「鏡像反攻儀。泰平の江戸の世を乱さんとする妖怪変化よ、これが汝の光ぞ!」
 天御鏡・百々は、呪われた妖刀と謗られた男を背に叫んだ。
「汝が救いをもたらすというならば、この輝きを畏れはすまい!
 苦しみ拒むというならば、それこそ汝の偽性の証左なり!」
『おおおおおおおおオオオオッ!!』
 六臂の怪物は悶え苦しみ、たたらを踏んで光から逃れようとした。
 百々の言葉を己で証明した形だ。
 我こそは怨み妬み憎む妖怪変化だと、己の光に曝け出したのだ!
「景明殿の言葉の通りよ。汝が生き、そして朽ちた合戦はとうに終わっておるわ。
 それを認めず、受け入れず、何が救いか! 何が永劫輪廻か!」
 神と崇められ、慈しまれてきたヤドリガミにとって、それは許しがたい暴挙。
 そして屈辱であり、裁かねばならぬ愚行だった。
「汝はただひとつの悪しき者なり。我が破魔の光を受けるがいい!」
 そして偽りの光を呑み、神鏡から放たれる真なる救世の輝き。
 天鏡破魔光。異界の黒騎士すら灼き払った、無双の後光!

「ありがとよお嬢ちゃん、助かったぜ!」
 景明は溌剌と言った。その言葉に百々はじとりと振り向く。
「我も景明殿も互いにヤドリガミであろうに。それをお嬢などと!」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。けどよ、ほら、あれだ。――ちょっと嬉しくてな」
 妖刀に成らんとした物神達の集合体、それはいわば彼らにとっての末路。
 あり得たかもしれぬイフの可能性。彼の慚愧も無理からぬものだ。
「ふん、まあよかろう。それよりも、だ」
 破魔の輝きに灼かれ、悶え苦しむ阿修羅を見やる。
 景明もまた表情を引き締め、頷いた。
「ああ、仕留めちまうとしようか。どうやら、助っ人はもう一人いるらしいしよ」
 剣客が月を仰いだ。その輝きが陰り、蒼き風が阿修羅を襲った。

 闇。
 怨嗟。
 血への渇望。
 なんと愚かな。なんと哀れな。これ全て、浄化し断ち切る他になし。
(――なのに、どうしてだ)
 北条・優希斗は、蒼穹に染まった瞳をわずかに訝しませるように伏せて、想った。
 義憤がある。はずなのに……頭は別の生き物のように冷たく澄んでいる。
(未来が視える。そのせいなのか? そしてこれは――俺が、過去と向き合ったから?)
 突然の変化は、いまだ飲み込みきれていない。
 たしかなのは、この『剣王の瞳』は、彼にとって大きな力であること。
 そして、彼はその使い方を知っているということ。
 ……ぞっとするほどに、顕れた未来視は彼の心身に馴染んだ。
 読み切った斬撃を回避し、残像を刻んでオーラと鋼糸でもって追撃を阻む。
 視界の端にヤドリガミ二人を捉えた。景明の赤い瞳と蒼穹が交錯する。
 二人は同時に頷いた。剣客たる彼らにはそれで十分だった。
「――躍るよ、蒼き月の舞を!」
「現在(いま)を必死で生きるヤツらに、俺たちの流儀を押し付ける必要なんてねぇ。
 だから――消えろ、闇刃阿修羅!」

 かたや、無心から放たれる目もくらむほどの連続斬撃。
 かたや、近づくものを無数に切り刻む不可避不可視の超連撃。
 流派も術理も何もかも異なれど、目指す先はひとつであり、求めるものもひとつ。
 ならばもたらされるのは阿吽の呼吸!
 敵は抗う。刃を振り上げ、その腕を大蛇切が断つ。
 刃が複製される。蒼き月の呪われた剣が、これを裂く。
 再び、偽りの光で目を眩ませようとする。神なる鏡はこれを許さない。
 刃が六臂を削ぎ、
 光が身を灼き、
 蒼穹が胴を抉り、そして――!
『……あなや』
 微塵に刻まれ、穿たれ、阿修羅は月を仰いで寂々と呻いた。
 前触れもなく、ぴしりと全身に罅が走り砕け散る。此は幾度目の滅びか。
 まだだ。まだ。合戦は終わらぬ――否、終わったのか?
 終わったならば、我らの役目もまた同様。呪詛が払われ消えていく。
 それでもと現世にしがみ続ける怨念が、再び阿修羅となりて立ち上がる。
「……哀れなものよ。かつては誇り高き剣であったろうに」
「だがそれでも、あの呪いと怨みを解き放たせるわけにはいかない」
 百々と優希斗の言葉に頷き、景明は再び剣を構えた。
「――そんなこたぁ、俺たちが一番わかってるさ」
 ただ、哀しみのみを瞳にたたえて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼灯・ほのか
「おやまあ、随分けったいな物が出はったねぇ。六刀流?を相手にすのは初めてやわ。あんさんに恨みはないんやけど、こうして会ったのもなにかの縁。あんさんの修羅道――少し付きおうたるで…ふふ」

さて、うちは「残像」と「見切り」を使い敵と距離を取りながら「新月」で攻撃。できれば念力で動かす武器も諸共壊しときたいどすな。
さらに欲を言えばあの腕も何本か斬り飛ばしたい所やね。後は「第六感」で後光を察知出来ればええな。察知できれば目を一瞬強く閉じ防御。でも敵にはひるんだと見せかけて、接近したところを「見切り」で回避しつつ避けざまに「カウンター」「二回攻撃」。腕やら足やらを攻撃し、機動力や手数を奪っとか。


パーム・アンテルシオ
幽鬼の…刀の、怨念。
砕いただけじゃ、消しきれなかった?
だったら…怨念。無念。戦に魅せられた、その意思まで。
全てを、骸に還す。今度こそ。

とはいえ…今度は、一人で戦わなくていいんだよね?
それなら…サポートに回ろうかな。
最大の攻撃は、つよーい猟兵さんにお任せ。なんてね。

さて、ユーベルコード…月歌美人。
ふふふ。こうして戦場で歌うのも、ちょっぴり久しぶりかな。

今日の歌は…どうしよう。
度々、迫力を出せる。声を張れる曲がいいよね。
光で怯んでなんて、いられないから。
歌を止めない。気迫で負けない。
気付け、なんて偉そうな事は言えないけど。
戦場に響く歌声は…戦場を支配する。
…そうなれたら、いいなって。そう思うから。



●杯酒解怨/歌舞優楽
 多くの猟兵が抗った。
 幾度も討たれ、なおも立ち上がる悪鬼を斬り、砕き、灼き、叩き潰した。
 されど阿修羅は立ち上がる。合戦は未だ終わらずと寂々謳う。
「……あれって、ほんとに怨念なのかな」
 それを見て、パーム・アンテルシオはふと呟いた。
 彼女の呟きを聞いたのは、どこか甘ったるい酒気めいた雰囲気を纏う女である。
「おやまあ。あないにけったいな物(もん)を見て、どないしてそう思うんやろか」
 鬼灯・ほのかは、陶然とした笑みを浮かべて問いかける。
 パーム自身も、無意識のうちに零したのだろう。わからない、と首を振り。
「ただ……怨んでいるっていうより、無念に想ってるのかな、って」
 魅入られた、というべきか。おそらく、あの刀剣達は魅入られているのだろう。
 戦の高揚。殺戮の快楽。己が武器として、その本分を遺憾無く発揮できる瞬間に。
 その形として怨念を求め、纏う。おそらくはそうなのだと彼女は結論付けた。
「そうやねえ、うちもあれの言うこと、ちょっとわかるかもしれへんし」
「……そうなの?」
 逆に問われれば、ほのかはやはり蕩けたような笑みを浮かべて。
「修羅道いうんも、少し付きおうたるなら悪くもないか、なあんてね。
 ふふ……まあ、うちは酒と気持ちええことがあれば、それでええんよ」
 その快楽こそ、彼女にとっては戦いであり、死闘であり、以てこの瞬間に他ならず。
 毒々しい朱の鞘から、妖刀を引き抜き。少女に微笑んだ。
「ご支援、あんじょうよろしゅう。ええよね?」
「あっ、うん! 私、そっちのほうが得意だから。サポートは任せて!」

 頷いて、少女は胸に手を当て、瞼を伏せた。
 あの阿修羅を名乗る偽の神も……よくよく思えば、一種の被害者のようなものか。
 であれば、先の通りにおける一騎討ちは、その高潔さの残滓というべきなのか?
(たとえ、そうだとしても――ううん、だからこそ)
 その慚愧、無念。戦に魅入られた意思の尽く。
 全てを無に還し、そして骸の海へと還さねばならぬ。……であれば。
 少女はあえて瞳を開けて、腹に力を込めて朗々と歌った。
『おお、おお、おお――!』
 偽りの後光がこれを染め、飲み込もうとする。パームの視界を灼く。
 白い闇に塗りつぶされ、しかしパームは未だ謳うことをやめはしない。
「陽の下、月の下、幻想を創りだそう。
 桜の下、華の下、未来を産みだそう!」
 思うがままに、溌剌たる声音を戦場に響かせる。久方ぶりの大舞台だ。
(敗けてられない……ううん、きっと、敗けちゃいけないんだ)
 その救いを受け入れ、怨みを与え、贄となることは敗北なのではない。
 彼らの慚愧を受け止めきれず、飲まれてしまうことこそが敗北なのだ。
 ゆえに彼女はたしかに、歌うことで彼奴の謡に抗っていた。
 その望み通り、荒れ狂い乱舞する鉄火場を、たしかに支配していたのだ。

「ふふ、ええね。うん――ええわ、こういうんも」
 それを背中に受け、耳朶で楽しみながら、ほのかはうっとりと言った。
 少女に謳われ、背中を圧されながら敵に向かう。実に洒落ている。
 彼女はそういう酔狂をこよなく愛する。
 世が世なら――否、どこの世でも風流人、自由人というべき性根の持ち主。
 どこまでも奔放で、ただ己の望むがままにふらりふらりと流れる女。
「なあ、あんさん。外の世界はねえ、こぉんなに面白いことがあるんやで?」
 言いながら、迫り来る救世鏖殺の刃を妖刀によって切り払う。
 少なからぬ刃が、パームを切り刻まんとしていた。彼女はそれを知っている。
 ゆえにある程度の距離を取り、さながら決死線めいて刃風を吹かせて敵の波濤を凌いでいた。
「合戦や贄やなんて、物騒なことばっか言っとらんで、花を愛でればええのになあ。
 うち、あんさんに怨みなんてあらへんのやけど。それでも聞かん坊や言うんなら――」
 きちり。封印されている"はず"の妖刀が、そのときたしかに呻いた。
「少ぉしだけ、付き合うたろか。六道輪廻、めぐりめぐりて此はいずこ……なあんてな?」
 そしてふらりと間合いに入る。びくりと六刃が反応した。
 だがその鋒が奔り、がちりと噛み合った時には――そこに、ほのかはいない。
「ああ、こわい、こわぁい」
 まるで風に舞い散る桜の花びらのように。間合いを詰め"再び戻った"のだ。
 変幻、自在の足取りである。流れるように剣が揺らいだ。
「うちの太刀筋、見切ってくれはると嬉しいどすなぁ?
 ――そのほうが、もっと気持ちよぅく楽しめるさかい」
 斬月。その銘に相応しき、光の疾さの剣閃一条。
 迸る衝撃波は、パームの歌が高潮を迎えるとともに薙ぎ払われ、以て阿修羅を断ち切った。
「腕を伐っても足を伐っても断つ云うんなら――いっそ大元を、ね?」
 ごとり。かくて再び、幾度目かの滅びはもたらされり。

「……ふふふっ。つよーい攻撃は、つよーい猟兵さんにお任せ、なんてね」
 それを見届け、歌い続けた少女もまた微笑んだ。
 歌声と舞い散る桜に乗り、また幾許かの呪詛と怨嗟が夜闇に消えていく――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

伍島・是清
合戦は、何かを成すためにするもんだろ
矜持が捨て置かれたままの合戦なんざ、続けるもんじゃねェ

続かねェよ、御前はここで終わるンだ

闇刃阿修羅を指差して
機械のからくり人形達を嗾ける
敵の攻撃の防御は、敵の腕を一本拝借
敵の腕を鋼糸で吊って盾にする

おいで、おいで、鬼さんこちら、手の鳴る方へ
攻撃は真正面から──とみせかけて
残念、それは”如何様”だ

プログラムジェノサイド『絲独楽』
死角から旋回、鋼糸で一気に切り刻む

全部海に返してやるよ
偽りの救世主、御前が集めた恨みごと、全部


※痛みに耐性があるので痛がりません。冷静。
※単独希望



●虚々実々
 幾度目かの再生を果たした闇刃阿修羅。
 その最中へ、ぞろぞろと駆け寄る――否、襲いかかるものどもあり。
 然り、もの"ども"である。命を持たぬからくり人形の群れ。
『あなや』
 阿修羅は六腕を無尽に振るい、これを迎撃した。

 ……奇怪な光景である。人形ではあるが、それらは生々しいほどに人間めいていた。
 ミレナリィドールのような、生きた人形達とは違う。
 それらは確かに亡骸であり、同時に人形であった。
 かつて生きていた者達。いまは命なきモノども。
 それを迎え撃つのが偽りの神、呪いを呻く刀剣どもの集合体ということもあって、人形と阿修羅の攻防はひどく奇怪で、不気味に映る。
「合戦ってのは、何かを成すためにするもんだろ」
 ではその人形を繰るのは何者か? それを知らせるように声がした。
 猛禽めいて鋭い左目。右の瞳は、モノクルのようなゴーグルで覆われている。
 声音も表情も、酷薄の一語に尽きる。だがそれ以上に、纏う気配が人並み外れていた。
 此処に集いし猟兵の一人、男の名を伍島・是清と云う。
「矜持が捨て置かれたままの合戦なんざ、続けるもんじゃねェ」
 骸と名付けた人形達をけしかけ、操りながら彼は言葉を続ける。
 阿修羅は群がる傀儡どもを煩わしげに刃で払い、少しずつ是清へと迫る。
 退かない。敵に対する恐れすら、顕になった左目には浮かばない。
 彼にあるのはただひとつ、
『否、否、否。我らの合戦は終わらず、永劫続く。続くのだ』
「続かねェよ」
 敵への、揺るぎなき殺意と決意のみ。
「御前はここで、終わるンだ」
 刃よりも鋭きそれは、言葉とともに夜闇を切り裂いた。
 ――糸である。人形の群れに紛れて仕掛けられた、巧妙な鋼糸の罠。
 はじめからそのためだったのだ。光の筋にしか見えぬそれは、ぷつん、と六腕のひとつを断ち切り、己めがけ振り下ろされた剣をがぎん! と弾く。
『あなや!』
 阿修羅はたたらを踏み、残る五つの腕を構えた。
 業腹である。己の武器を用いて刃を返されるなど、敵にとってあってはならぬこと。

「――おいで、おいで、鬼さんこちら」
 くるくると、切断された腕が夜の闇に舞う。手繰るのは無論是清。
 張り巡らされた鋼糸を用いた、あまりにも悪辣で挑発的な人形劇。
『貴様』
「手ェの鳴る方へ、ってか。返してほしけりゃかかってこいよ」
『貴様ッ!!』
 阿修羅が吠え、その闘気に呼応するかのように無数の複製刀剣が出現。
 一斉に鋒を是清へ向け、殺到! ――だが、切断された腕がこれを薙ぎ払う。
 さらにそれ自体を盾とし、巧みに操る。
 妖刀の群れに削られ、穿たれ、切り裂かれ、やがて残骸と化して散らばった。
「なァんだ、手前ェで手前ェの腕をブッ壊すなんざ、随分変わり者じゃねェか」
 冷静な声音にあからさまに込められた、嘲弄の色。
 それが阿修羅の神経を逆撫でする。この者、生かしておいてはならぬと。
『汝、我らの贄となれ。その肉、その血、怨みとともに切り刻まん!』
 たしかな憤怒を込め、阿修羅が五つの刃を構える。
 ならばと是清も、鋼糸を収束させ身構えた。
「いいぜ、だったら正面から切り刻んでやる」
 無謀だ。さながら荒波に己が身を投げ出すようなもの。
 だが彼は躊躇なく地を蹴立て、敵へと進んだ。六道輪廻をもたらす剣がこれをむごたらしく切り裂き――。

 ……否。
 たしかに五つの刃は、愚かにも真正面から飛び込んできた男を切り裂いた。
 だが見よ。刃に裂かれ舞い散るのは……これは、折り紙、か?
「残念」
 男の声がした。何処から? 阿修羅から見て右、やや後方。
 切断された腕もまた同じく。すなわち彼奴にとっての、死角!
「――それは、"如何様"だ」
『貴様ァッ!!』
「遅い」
 そして、言葉通りに彼は疾い。阿修羅が振り向いた時、そこに姿はない。
 "ぐるり"と体を廻(めぐ)らせれば、再び鋼糸が音も姿もなく戦場に張り巡らされる。
 プログラムジェノサイド。超高速の、それゆえに中断不可能の連続攻撃。
 避けられれば無駄。防がれても無駄。反撃されても無駄。
 だがこの時この瞬間、彼は不意を得ている。ゆえに。
『あな、や――!』
 阿修羅は、あっけないほどに鋼糸に捕らわれ、全身を切り刻まれた。
 "絲独楽"。彼は、この致命的な斬撃処刑をそのように名付けている。

 呪いが四散し、怨恨と怨嗟が空へと消えていく。
 だが戦場に臓物めいて散らばった刃の群れは、なおも悪あがきを続ける。
 ふわりと浮かび上がったそれらが、是清の前で阿修羅へと組み上がる。
「まだ現世にしがみつくか。だったら全部海に還してやるよ」
 きゅ、と小さく糸が鳴った。それは死神の鎌が張り詰める音。
「御前が蒐めた怨みごと、何もかも全部をな」
 彼は亡骸を傀儡に変える。だがこれなる偽りの救世主は彼の眼鏡に適わない。
 ならば骸が逝くべき処はただ一つ。過去の海の底以外にあり得ないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
そうでしょうとも。
武器として生まれたからには永遠に戦いたいのが当然です。
ですが、人からすればそう言う訳にも参りません。
勝手は承知ながら、眠ってもらいます。

相手の刃は六つ。
私はリトルフォックス一振りにてお相手を。
ただし、私も剣も真の姿となります。
刀が少なくとも侮らないで頂きましょう。
この局面では【第六感】だけでなく、【見切り】も重要になってくるでしょう。
攻撃を捌き、直撃だけは避け隙間を縫う様に刺突を。
食らってしまったら【激痛耐性】で我慢します。
丈夫そうなので先ずは腕から狙います。
【残像】が残る程の【早業】で【鎧無視攻撃】。
腕を減らせば与し易くなるでしょう。
あわよくばとどめと行きたいですけどね。



●勇猛果敢
 実のところ、少女は彼奴の主張に理解を示していた。
 器物に意志が宿るというのならば、彼らは何を求めるだろう?
 言うまでもない、道具の本懐とは使われること。
 目的を持って生み出されるのが器具であり、ならばそれらは自己の存在証明をこそ欲する。
 人を殺すために鍛え上げられた刃ならば、人を殺すこと。
 道理である。平和など、彼らに見合うはずがないのだ。
 ――だが。
「……人からすれば、そういうわけにも参りません」
 少女は、ハロ・シエラは、阿修羅を名乗る偽りの救世主を前にそう言った。
 決然たる声音である。まったき敵対を示す、そういう色がある。
 その決意に応じるようにして、左の瞳の輝きがぼんやりと揺らいだ。
 今やその紅眼は、白々と空に輝く満月の如き金の異相を帯びる。
 細剣を振るう。軌跡をあやしの炎が追い、剣気が黒髪をざわつかせた。
 軍服めいた服の裾から覗く、それと同じように黒黒とした尾。そして耳。
 彼女は人間である。だが猟兵でもあるのだ。
 生命の慮外、あらゆる法則を越えた例外存在。
 彼らは皆、真の姿と呼ばれるもうひとつの本性を持つ。ハロのそれは――。
「ハロ・シエラ。再びお相手いたしましょう」
 ひゅん、と虚空を裂き、そして鋒を突きつけ彼女は名乗った。
「あなたを討ちます。骸の海へと還り、ここから消えて失せるまで。
 ――勝手は承知。ですがそれが人の理です。眠りなさい」
 まるで母のように穏やかで、戦士そのものの怜悧なる声で、宣戦布告をなしたのだ。

『我らの合戦は終わらぬ! 怨みを求めよ、血を流せッ!!』
 阿修羅はそれを認めぬ。
 ゆえに再生を終えるなり、巨影は弾丸じみて地を蹴った。
 少女をその切り裂き糧にしてくれようと、六臂を身構える。
 そして鋼が、獲物を串刺す残虐なる刃が煌めいた。
 ……だが!
『――あなや』
 ずしん。重たい何かが地に転がり、轟音を響かせた。
 なんだ? 阿修羅は訝しみ、己の腕を見た。それが一つ減っている。
 そしていまさらのように、切り裂かれたはずの少女の姿を見た。
 ――居ない。捉えたはずの敵は何処に?
「ここですッ!」
 背後! 片腕を切り裂き、攻撃をかいくぐったハロはそこにいる!
『片腹痛し!!』
 阿修羅は大きく振り返り、その流れから三つ腕による横薙ぎを仕掛けた。
 リーチは長大。飛び退るには速く、重く、そして鋭い。
 では間合いを詰めればどうか。そこを狙い澄ますように、残る二腕が鋒を構えている。
 近づけば刺突で穿たれ、百舌の早贄と化すだろう。
 いわずもがな、上へと飛べば無数の妖刀複製がこれを狙い撃つ。
 死角などない。いかにしてハロは凌ぐか? まさか細剣で受けるとでも?
「――その攻撃、見切りました」
 彼女は静かにそう言った。そして退きも踏み込みもせず、躍るように身を翻した。
 するとどうだ。三つの刃の僅かな隙間、その間隙を黒き影が流れていく。
 一寸でもずれれば、胴体が両断され即死の憂き目に遭うだろう。
 まともな人間のやることではない。度胸試しにはあまりにも危険すぎる。
 だが彼女はそれに挑んだ。そして成し遂げた。言葉通り、斬影を見切っていたから。
 今の彼女ならば、それをくぐり抜けるだけの俊敏さをも持ち合わせている!
『莫迦な』
 阿修羅は呻いた。肉厚の刃三つが地をほじくる。
 ならばと残る二刃を突き出す。金色の瞳がちらりとそれを視界の端に捉えた。
 直後、銀閃が煌めいた。遅れて、ぎん、ぎきん、という金の音二つ。
 神速の受け太刀、西洋剣術でいうところのパリィングである。
 刺突は左右に弾かれ、ずしん! と鋒が地をえぐる。
『莫迦な!!』
「一振りだからと甘く見ましたか? ならば――その報いを受けなさい」
 再び黒影が消えた。
 いや、残像を刻むほどの速度で踏み込んだのだ。彼女はすでに懐に。
「吠え猛れ――シルバーフォックスッ!!」
 口訣とともに、細剣が担い手のいのちを吸い上げ解き放たれる。
 靄めいた霊力が吹き出し、迅雷の速度を得た剣閃は妖狐の炎を放つ!
「はあああっ!!」
 瞬き一つの間に、およそ四つの刺突と、七の横薙ぎ、そして一文字が二度。
 大気が裂かれ、妖焔に灼かれる音があとに続く。
 剣戟は阿修羅の全身を穿ち、刻まれ、そこからぼうっ!!と焔が燃え現れた。
「怨みや呪いでは辿り着けぬ剣の境地があること。その身に刻んで逝きなさい」
 踵を返す。背後で、燃え上がる巨影が砕けて散った。
 あやしの焔に送られて、多くの呪詛と怨嗟が空へと溶け消えていく――。

 かくて今一度の滅びは成れり。
 阿修羅は再び立てど、その身を構成する残滓は、もはや幾許かまで削られていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
泰平の世にあって未だ合戦を所望する哀れな戦鬼め。ふふ、そうさな。そうさなァ。人を殴ってなんぼの身には泰平の世はちぃと暇が過ぎる。血に渇き昂りに飢えてしまうものよな。さあて時代に忘れ去られんとする刃の修羅よ。行く末なき獣同士、仲良くやろうじゃァないか?

UC巫覡載霊の舞、今一度神霊体となり彼奴の攻撃を受けてやろう。ああ、剣で貫かれるのはいつ振りか。腕や脚……ふふ、顎をいかれるも悪くはない。然れば今度は此方の番よ、腕の一本二本はもらおうぞ。

ああそうだとも、そうだとも。とどのつまりは、こういうのが、愉しいのだ。そういうどうしようもない、ああどうしようもない獣ゆえに。


御劔・姫子
【POW】
確かに人の世には争いが絶えへん…御劔の家もそないな理由から生まれたんやけど…乱世で流された血のお陰で、今の泰平の世があるっ!  それを壊すんは許せへんよっ!

相手が六本腕やと、手数では負ける…まずは【武器受け】【見切り】【第六感】で守りと避けることに専念っ!

「くぅ…凌ぎきれへん…!?」

(<狐のお守り>による【式神使役】も使用、隙を作り出させます)

っ!? 攻め手が緩んだ…?
反撃【カウンター】するなら、今しかあらへん…【終乃太刀・都牟刈】っ!(大きく体を捻った構えからの、横への【なぎ払い】による一閃)

「今、この世界にはあんたの居場所はあらへんよっ!」

(※アドリブ等歓迎)



●人面獣心
 童女が一人、満身創痍の阿修羅へとゆったり歩み寄る。
 舞うような足取りを桜吹雪が包み込み、晴れればそこには女がいた。
「ふふ――そうさな、そうさなァ」
 真の姿をあらわにした御狐・稲見之守は、謳うように笑う。
 嘲笑だが、偽の神を笑ってはいない。
 愉快げだが、その瞳は深い哀切に染まる。
 彼女が笑うのは阿修羅ではなく己であり、哀しみを愉しんでいた。
「我らは所詮、泰平の世に染まりきれぬ愚かで行く末なきけだものよ。
 人を殺めるものと魂を喰らうもの、似た者同士仲良くやろうじゃアないか?」
『我らの合戦は、終わらぬ』
 偽りの光が女を灼いた。もとよりその瞳は敵を見ていない。
 眩偽のそれを切り裂き、六つの刃が獣を襲う。避けようとするはずもなし。
 ぞっとするような音が響き、盛大に血が飛沫いた。
「ぐ、ぁが……は」
 苦悶。だがそれも、やがて苦々、と煮え立つような笑い声に変わる。
「かは、は、は。噫、剣で貫かれるのは何時振りか。痛や、痛や――」
 自らさらに踏み込み、刃に己を抉らせる形で一歩前へ。
 再び剣が稲見之守を襲う。絶叫が響き――また、笑う。
「六道とはよく言うたものよな、なんたる苦痛、なんたる……が、ッ」
 ぞぶり。阿修羅は女の戯言を、囀りを楽しむような手合ではない。
 刃はさながら処刑鉈めいて振り上げられ、降ろされ、幾度と獣を切り刻む。
 だが。
「――く、ふふ。死ねぬよ。死ねぬのさ。お前も、我もな」
 いっそおぞましいまでの有り様で、悲しげに獣は啼いた。
 かたや忘却の過去、かたや生命の慮外にありしもの。
 真の意味での滅びは遠く、ゆえに両者は時代に取り残されながら在り続ける。
 在り続けて、しまう。金色の瞳に憐憫の情が浮かんだ。
『…………』
「さアどうした、同類よ。我はまだまだ――」
 肉を、臓物を、骨を抉られ断たれてなお、稲見之守は殉教めいた足取りを進めようとする。
 応じるように刃が振りかぶられ――。

●勇往邁進
 ……が、ぎぃんっ!!
 と。大きな、大きな衝突音が響き渡った。
「――たしかに、人の世には争いが絶えへん」
 女がいた。いや、少女というべき年頃の乙女である。
 剛刀『巌太刀』を細い両手で握りしめ、六つの刃をしかと受け止めている。
「御劔の家も、そないな理由から生まれた。せやけど……っ!」
 ぎんっ!! 満身の膂力を込め、撥条仕掛けめいて刃を払い、押し返す。
 阿修羅がたたらを踏んだ。痺れの残る両腕にあらん限りの力を送り込む。
「そんな乱世で流された……流れた血のおかげで、いまの泰平の世があるっ!」
 決然と、琥珀色の瞳が敵を見返す。
 御劔・姫子。人の身にありて、魔を断ち和を守らんとする護国の剣士。
 世に置いていかれた、哀れなる戦鬼ではない。
 漂う雲のように、在るために在り続ける獣でもない。
 己の意志でそこに立ち、己の意志で剣を執る人の子。
「その犠牲になったあんたが、いまの世を怨みよるんもわかる。
 ――それでも、ようやく得られたものを壊すんは、うちが許さへんよっ!」
 懊悩と矛盾を噛み締め、その苦渋と悲嘆をぎりりと味わいながら。
 それでもなお、否と叫ぶもの。女が、女の前に立っていた。
 迫りくる悪鬼と、六道の刃から彼女を護ってみせたのだ。
『片腹痛し!』
 猛然たる憤怒を以て阿修羅が迫る。再び振り下ろされ、薙ぎ払われる六刃。
 時に受け、時に払い、時に流しながら、姫子はそれでも退かない。
「く、ぅ……っ! あかん、凌ぎきれへん……っ!!」
 いまだ境地に至らぬ我が身を呪う。いや、いや。呪いでは呪詛に勝てはしない。
 打ち勝つのではなく打ち克つのだ。そのためには!
「御狐はん、力を貸して! あないに自分を傷つける戦い方、うちは厭や!」
 背なに支えた女の名を叫ぶ。
「うちと一緒に、あいつと……あの怨みと、戦って!」
 神を驕るものでも、時代に取り残されたけだものでもなく。
 ただ一人の戦友として、女は女を欲した。

●琴瑟調和
「く」
 求められた女は、
「く、く……は、は! はははっ!」
 笑った。心の底から愉快げに笑い、そして立ち上がった。
 自嘲でも哀切でもなく、爛々と、炯々と金の瞳を輝かせて高らかに笑う。
 悪鬼が迫る。襲い来る刃は、稲見之守が生み出したあやしの炎に阻まれた!
「ああ、ああ! そうだとも、そうだとも!」
 高らかに謳う。そこに澱みはない。
「とどのつもりは、こういうのが愉しいのだ。どうしようもないほどに!」
「って御狐はん、笑ろてる場合ちゃうんやないのっ!?」
 ごうっ!! 炎を切り裂き迫る、無数の複製妖刀!
 これを姫子の剣が切り払い、届かぬ死角は不可視の式神が請け負った。
「ならば我が道を作ろうぞ、姫子殿! 存分に征かれよっ!」
 ――我成す一切神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし。
 朗々たる祝詞が響けば、狐火どもがごう、と燃え盛りやがて逆巻く炎の渦となる。
 それは六つの刃に絡みつき、これを灼き、ついには彼奴の攻勢を――否。
 防御すらもこじ開けた! 好機ッ!
「攻め手が緩んだ! ……これならっ!!」
 疾駆する姫子を見やり、稲見之守はふっと破顔した。
 彼女が、己の手渡したお守りを大事に身につけているのがたしかに見て取れたからだ。
(……可笑しな話よな、姫子殿。狐神が御利益を賜って如何とするのか――)
 だが心地よい。少なくとも今はこれでよいと彼女はひとりごちた。
 荒魂の制御に全霊を込める。いまはこの手綱を手放してはならぬゆえに!
『あなや!』
 悪鬼は畏れた。その視界を剣豪が覆う。
「いま、この世界には――あんたの居場所は、あらへんよっ!!」
 剛刀、一閃。それは時空すらも断ち切る絶死の刃。
 終乃太刀・都牟刈、ここに完成す。斬影のあとに、音と光が続く――!

 神と人とが手を取り合い、共に力を合わせた一撃。
 偽りの神、阿修羅を名乗る愚か者がこれに抗えようはずもない。
 そしてまたひとつ、滅びが彼奴にもたらされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紅呉・月都
や、集まるとかセコくねぇか?
ったく、めんどくせえ。やるこた一緒だ、ぶった斬る
テメエとの戦いは此処で終わらせる

腕六本の相手なんかしてられるかよ
【怪力】の【鎧砕き・マヒ攻撃】で一本でも使えなく出来ればいいよな
【武器落とし】で持ってる武器すっ飛ばすのも試してみっか
あとは30㎝以上の距離を保ちながら焔鎖を使って腕を縛り上げんのもいいな
そうすりゃ味方は攻撃しやすくなるだろうし

敵の攻撃は【残像】で照準ずらしたり、【見切り】で回避
光るやつは…まぁ、見ねえに越したことはねえが見ちまったらその後しばらくは【野生の勘・戦闘知識】で回避を試みるぜ

無関係のやつを巻き込む合戦なんて必要ねえ
血を流す必要もねえ

アドリブ歓迎


橙樹・千織
・アドリブ歓迎
あらまぁ…ほんとに諦めが悪いのですねぇ
偽りを謳い、民に仇なす邪鬼は【破魔】にて祓ってしまいましょう

贄も血も怨恨も必要ありません
あなたはここでその長い合戦を終えるのですから

【戦闘知識】活かして相対しましょう
【高速詠唱】による【全力魔法】や【鎧砕き】を敵の武器に向けて発揮
少しでも敵の戦力を削り、私達猟兵側が優位に立てるよう試みます
勿論、隙があれば本体にも攻撃
ただ、30㎝以上の間合いは保つようにしますね

攻撃は敵の腕が六本あることにも注意しながら【見切り・残像・野生の勘】を用いて回避を
躱せないものは【オーラ防御・なぎ払い・武器受け】で対応します

どうか、彼らの負の念が昇華されますように…


六波・サリカ
六つも手があるなんて、まるでタコのようですね。
あの刀剣たち、魑魅魍魎となったのならば封じるのが陰陽師の役目です。
先の戦いではいらぬことを考えてしまいましたが、
少しばかり本気を出していきましょう。

戦いの常は先手必勝。
敵がこちらに攻撃をする前に【先制攻撃】の技能でプログラムド・ジェノサイドを仕掛けます。
「侵攻式、制圧式、全弾発射。殺戮指令!急急如律令!!」
侵攻式を機関銃形状に変形、召喚した制圧式と合わせて予めプログラムしていた【誘導弾】による連続射撃を行います。
念力で飛んでくる武器も纏めて排除できればなお良しですね。

正義を執行します。蜂の巣になりなさい。




 猟兵達による、絶え間ない攻撃。
 これによってさしもの闇刃阿修羅とて、いよいよその呪詛と怨嗟を尽くしつつあった。
 いやそもそも、本来この闇刃阿修羅というオブリビオンはそのような特性を持つ存在ではない。
 この場に顕現したそれは、偽村雨達の呪詛と怨嗟を利用し己を偽りの永劫不滅に留めようとした別の存在なのである。
 ゆえに――魔剣達の呪詛が晴れ、そこに残るのは唯一つの存在のみ。

『おお、おお……我らの合戦、いまだ終わらず、まだ――』
 それでもなお、偽りの救世主は救世を謳う。
 泰平に乱世を。
 血を流して命を散らし、怨みと憎悪が溢れる世を、と。
「ったく、セコい上にめんどくせえ。何を喚こうがやるこた一緒だ」
 ざり、と進み出る者が居た。赤の髪に銀の瞳。
 ならば肩に担いだ刀『紅華焔』にも、また紅い装飾が施されている。
 ヤドリガミ、紅呉・月都。彼はその鋒を敵に突きつける。
「ただぶった斬る。テメエとの戦いは――テメエの救世は、此処で終わりだ」
 然り。いまや、闇刃阿修羅は尋常のオブリビオンとなんら変わらぬ。
 伐れば終わるのだ。いずれその存在は別の過去をもとに滲み出るだろうが――。
 今此処にある者にもはや次はない。
『否なり! 贄を求めよ、怨みを――』

「あらまぁ」
 寂々とした声を遮り、ふんわりとした女の声が響いた。
 しなやかにして頑丈な黒壇の薙刀を、こともなげに携えた異相の美女である。
「ほんとに諦めが悪いのですねぇ。この期に及んで、まだ偽りを謳いますか」
 橙樹・千織はゆらりと尻尾を揺らし、ふ、と瞼を伏せた。
 獣じみた睥睨である。阿修羅とてその言葉を失わせる迫力があった。
「民に仇なす邪鬼よ。もはや問答は無用、ここで完全にその魔を払ってあげましょう」
 ひょう、と藍雷鳥が大気を切り裂き、啼く。
「もはや贄も、血も、怨恨も……いいえ、刃すら必要ありません。
 あなたはいまこの瞬間を以て、その長い合戦を終えるのですから」
 過去の忘却者の天敵たる、猟兵としての絶対的な敵意をみなぎらせた宣言。
 応じるように、凛と音を立てて、紅玉の耳飾りが揺れた。

 そして今一人、この場に立ち並ぶ者がある。
 背丈は150に届かず、その相貌も幼い――少女、いや童女というべき子。
 だが金色の瞳にたたえた、悪しき存在への敵対意思は誰よりも強い。
 陰のような気配を纏いながら、陽のごとき破魔の力を感じさせる猟兵である。
「六つ腕を振るい、何度滅ぼそうと立ち上がり……いよいよもってタコのようですね。
 ですがもはや、あなたが依り代としていた刀剣達も此処にはない」
 陰陽師たる六波・サリカは、闇刃阿修羅に後がないことを見抜いている。
 なぜならば彼女の全身はほぼこれ鋼にして式神の集合体。
 その眼差し、あらゆる魔を照らし真実を覧じむ。
「ありとあらゆる魑魅魍魎、これを封じ祓うのが陰陽師たる私の役目。
 ……先の戦いでは、少々いらぬ雑念を抱いてしまいましたが」
 それを振り払うように、サリカは瞑目し、そして再び瞼を見開いた。
 そこに迷いはない。
「手加減はしません。おとなしく滅びなさい、悪よ!」

『――……猟兵』
 此処に至り、闇刃阿修羅はようやく理解した。
 寂々とした声で、偽りの救いなぞを謳っている場合などではなかったのだ。
 ここは戦場であり、鉄火場であり、己は野望をなさんとする者であり。
 それを否と叫び、対峙する敵がいるならば、まずそれを見据えるべきだった。
『猟兵……』
 絶対的天敵者。相容れぬもの。合戦の相手にして打ち倒すべきものども。
『猟兵!』
 それを見ずして、相対せずして、何が永劫の合戦か。
 片腹痛し。憎きは天敵者、呪わしきは彼方にありしものども!
『猟兵、猟兵、猟兵ッ!! おお、汝らこそ我が合戦の宿敵なり!!』
 闇刃阿修羅は、ここに真なる意味で一体のオブリビオンとして立った。
 それが、最後の戦いの合図となった。

●白刃必踏
 ――そして、彼奴のいうとおりこれは決戦であり合戦である。
 偽村雨達が求めた、正々堂々とした一騎討ちなどではない。
 ならば。
「先手必勝――少しばかり本気を出しましょう」
 いちいちと敵の初動を待つ必要は、ない。
 サリカが右腕を敵へと伸ばせば、それは内側からばしゃりと花開く。
 いかにもこれもまた鋼にして式神。その銘、いまこそ叫ぶべし!
「侵攻式、制圧式、全弾発射! これなる悪を殺戮せしめん!」
 がしゃり。がしゃりがしゃりがしゃり――!
 おお、見よ。少女の裡より招来せし無数の砲塔。
 人の身が持つにはあまりにも破滅的すぎるその力。それはただ破魔のために。
「正義執行、蜂の巣になりなさい。……急々、如律令ッ!!」
 プログラム・ジェノサイド。そこに意思も思考も必要ではない。
 なぜなら術士は命令をくだした。式神どもはそれに応えるのみ。

 ――ガルルルルルルッ!!

 餓狼の咆哮めいて、全ての砲塔が弾丸を撃ち出した。
 圧倒的弾幕。機先を制したのはサリカ、妖刀複製を次々に撃墜破壊する!
『オオオオオオオオッ!?』
 それを不意打ちなどと誹りはすまい。そもそもそんな余裕もない。
 闇刃阿修羅は当惑し、混乱し、そして憎悪した。おのれ天敵、おのれ猟兵。

 ならばこの刃を以て、その骨その肉断ち穿つのみ。
 どっし、ずしんと巨体を揺らし、二つの足で弾雨の中を猛進する!
「ンなもんの相手なんざ、してられるかよッ!」
 ここで月都が奔った。サリカの弾幕は圧倒的、それゆえに彼女は身動きが取れぬ。
 であれば迫る刃を討ち、崩すことこそ牙たる己の使命だと。
 第一の刃が振り上げられた。彼はそれを見切っている!
「遅ェッ!!」
 刀剣の仔は紅い風と化した。残像が彼奴の狙いを惑わせる。
 第二、第三の刃がむなしく空を切る。そのごき、ごうと大気が焼け焦げた。
「此れなるは怨嗟に非ず、悪しきを喰らう焔の鎖、ってなァ!」
 燃えている。速度を喰らい、剣気を浴び、黒鉄の刃が燃えている。
「紅焔に喰われて、灰燼と化せ! おらァッ!!」
 ざん――!!
 炎刃は振り上げられた第四、第五の腕を諸共に切断、落着せしめた。
 さらに第六の刃と月都自身が、燃え上がる紅焔の鎖で繋ぎ止められる。
『あなや――あなや!』
 己を灼き責めさいなむ焔の苦痛に呻きながら、暴れ牛めいて狂う阿修羅。
 月都はしっかと両足を踏みしめ、これをいなし、抑える。

「お見事です、続きますッ!」
 そして千織が跳んだ。常より見せるは山猫の耳と尾のみなれど、彼女はそこに鳶と羊の異相を持つキマイラである。
 ゆえに猫の俊敏さと鳥のごとき軽やかさを併せ持ち、いまそれが発揮されたのだ。
 グラデーションのかかった鮮やかな黒髪がざんざんと風に舞う。
 桜吹雪がこれを迎え、たたえた。そして彼女が振り上げた薙刀がはらりと"散った"。
 誇張ではない、比喩でもない。黒壇の柄と黒鉄の刃が花びらに変じ始めたのだ。
 桜吹雪と混じり合い、混じるは櫻花と面影草。またの名を山吹。
 ひらひらと花びらは広がり、その幻想的なさまを守護巫女は切なげに見やる。
「血風に――刃鳴を散らすは、八重桜」
 乙女は、その只中を踊った。ともに己の魂を舞い散らすかのように。
 破魔の力を宿した裂帛のそれは、敵が偽りの救光を放つより速くその身を刻む。
 弾丸が、
 焔鎖が、
 そして花舞が。
 闇刃阿修羅の肉体を、存在を削り取り、燃やし、斬り祓う!
『我は、我は……!!』
 闇刃阿修羅は、なおも何かを謳おうとした。
 だがもはや、応える呪詛も怨嗟もありはしない。
『――我は、もはや、不要なのか』
 過去はそれを理解した。
 それが、彼奴にとっての終わりだった。

「……どうか、彼らの負の念が昇華されますように」
 地に降り立った巫女は、空を仰いで祈るように呟いた。
 彼女の言葉を、その哀切を覆い隠すように――ちらちらと、雪が舞い降りた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『桜色に染まる春の宴』

POW   :    桜咲く街を散策

SPD   :    飲食などの出店を巡る

WIZ   :    自ら余興や出し物を行う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜が明けて
 宿場街は大いに賑わった。
 これまでそぞろ歩く幽鬼の群れに、長く苦しめられてきたからだろう。
 人々は口々に猟兵に礼を言い、天下御免の札など関係なく彼らを讃えた。
 逢魔が時の死闘などもはや過去とばかりに、盛大な宴が宿場街を包んでいる。

 初春には少しばかり早く、冬と呼ぶにはいささか遅い頃である。
 まさにこの季節そのものが、夕闇のように刹那で一瞬の、儚い時であるかのように。
 舞い散る桜の花びらに混ざり、冷たくもどこか暖かい粉雪が降りだした。
 雪桜とはまさにこのことか。風雅な景観である。

 ここに泰平は取り戻された。
 宴の喧騒を楽しみながら、桜と雪の舞う景観を散策するもよし。
 ここぞとばかりに振る舞われる、美味芳醇な食べ物飲み物に舌鼓を打つもよし。
 踊り、歌唱、はたまたいっそ、猟兵同士の剣舞なども許されよう――。
 そうした出し物で人々を楽しませ、盛り上げるも一興。
 なぜならば無礼講である。冬と春の狭間、いいとこ取りの季節を楽しもうではないか。

 ただしはしゃぎすぎにはご用心。
 戦と同様、宴は何時かは終わるもの。
 酔いしれすぎて、『我らの宴は終わらぬ』などと謳うようでは、元の木阿弥ゆえ――。
●諸注意
 というわけで日常パートです。
 宿場街や周辺の景観(思いつくようなものはたいていあります)を楽しむもよし。
 出店(これもたいていありますし、宿場街なので団子屋とか飯屋も)を歩くもよし。
 何か出し物(歌でも踊りでも別のなんかでも)をしてもよし。
 ご自由に、お花見っぽいプレイングをお書きください。
(出し物は、模擬戦っぽいものもありじゃないでしょうか。
 その場合、勝敗とかはダイス振って奇数/偶数出たからこちらのお客様、
 とかそんな感じでだいぶ適当に決めます。プレで指定くださるのもOKです)

 プレイング締切は日曜夜~月曜お昼ごろを予定しています。
『合同じゃないけど誰かと絡むのは歓迎だよ』という方は、
 その旨を"絡み歓迎"などでプレイングにご記入頂けると幸いです。
(単独採用を希望の方も、同じくご記入頂けると助かります)
 判断に迷った場合は基本的に単独採用となります。
 合同でご参加の方は、やはりこちらもご明記お忘れないよう願います。
(担当NPCムルへルベルとの絡みをご希望の場合、適当に名前を書いといて頂ければ
 ありがたいなあ~、と思いつつそれっぽく描写いたします)

 ただしいうまでもなく、未成年の飲酒といった基本的ルールは有効です。
 あくまでも常識の範囲で、楽しい時間を過ごしましょう!
柊・雄鷹
ハレちゃん【f00145】と一緒に出店を巡るで
いやー、それにしても見事な桜やな
この淡いピンク色が可愛い
ん?おっ!ハレちゃん、唐揚げの屋台あるで!
とりあえずあの店から攻めて行こかっ!

サパイアで食べる竜田揚げめっちゃ美味い
はっ!?ハレちゃんが言うてたやん
サムライエンパイアは、サパイアって略す…って嘘なんかーい!
ハレちゃん、嘘つきは泥棒の始まり言うてな…って真面目に!聞け!

おっ、焼きそばもある!マヨ多めに宜しく!
ハレちゃん、ちゃんと食べよるかー?
桜を見つつ、美味しいもんを食べる
それが風流ってもんやで!遠慮せず食べるんや!
桜の花びらは…食べれるんちゃうん?
カツオ節みたいに、ひらひら踊って美味しそうやで


夏目・晴夜
ユタカさん【f00985】と出店を見て回ります
桜って本当に綺麗な色をしていますよね
思わず無心になってしまう程に――今なにか揚げ物の良い匂いがしませんでした?

サムライエンパイアの食べ物はどれもしみじみ美味しいです
は?サパイア?いや何ですか、そのバカ丸出しの略称は
私が言い始めた略称?そうでしたっけ?はは、いい年こいて何言っているんですか

焼きそばは私もマヨ多めでお願いします
なるほど、桜を見つつ美味しいものを食べるのが風流……
そういや食べるのに夢中で桜をちゃんと見ていませんでした
焼きそばにも降りかかりそうなくらいに降る桜吹雪の光景はなかなかに壮観ですが、
そういえば桜の花びらって食べられるのでしょうか?



●昼時の/風情に雪の/初桜
「いやー、それにしても見事な桜やなぁ!」
 昼時。大いに賑わう『雪桜の里』の通りに、これまた景気のいい声が響いた。
 見上げるような背丈の、翠眼が爽やかな美丈夫である。
 背負う黒灰の翼を見るに、どうやらオラトリオであるらしい。
 柊・雄鷹。この景観を楽しむため、サムライエンパイアへ来た猟兵の一人だ。
「雪も降ってほんまええ景色や! こう……あれやな、この淡いピンク色が可愛いな!」
 ……中身はだいぶ残念そうな感じだが。
「ええ、桜って本当に綺麗な色をしていますよね」
 雄鷹の素っ頓狂というか素朴というかな感想に、無表情で頷く青年。
 オラトリオに対し、こちらは蒼灰の髪に同じ毛並みの耳がぴんと目立っていた。
 人狼の夏目・晴夜――雄鷹とは、自他ともに認め合う相棒の関係にある。
「思わず無心になりそうです。まあ、だからといってそんな雑な感想は出ませんが」
「いやいきなり手厳しいな!? ワイ素直に思ったこと言ったまでなんやけど!?」
「ええ、だから言ったんですよ」
 ずびしっとツッコミを入れる雄鷹、無表情で毒を吐く晴夜。
 かなり息の合ったボケとツッコミだ。さすがは相棒、というところか。
 さて、そんな風に桜のたもとで漫才を繰り広げている二人。
 すると立ち並ぶ出店のひとつから、実に香ばしい匂いが漂ってきた。
 ひく、と雄鷹の鼻が動く。オラトリオにしてはだいぶ野性的だ。
 ちなみに、人狼である晴夜も、ぴくんと耳を揺らして反応していた。正直である。
 二人は顔を見合わせ、
「ハレちゃん、唐揚げの屋台あるで!」
「いま、揚げ物のいい匂いがしませんでした?」
 と、ほとんど同じ意味のことを同時に口にした。
 ……気まずい沈黙。そして再び口を開く。
「とりあえずあの店から攻めて行こかっ!」
「せっかくですし、あのお店から食べ歩きませんか?」
 …………気まずい沈黙。
「なんや初詣のこと思い出すなあ」
「なんだか初詣のことを思い出しますね」
 ………………二人は互いに互いをジト目で見つめる。
 ここまでくるとわざとやっていそうな感があるが、素でこうなるのがこの二人。
「……ほな、行こか」
「……そうですね」
 考えるのはやめることにした。いい匂いするし。

 そんなわけで揚げたての唐揚げを買い食いし、つまみながら歩く二人。
「いやー、サパイアで食べる竜田揚げめっちゃ美味い」
「……唐揚げですよね? ていうかなんですか、サパイアって」
 しみじみとその美味に舌鼓を打っていた晴夜が言うと、雄鷹は怪訝な顔をした。
「はっ!? ハレちゃんが言うてたやん!」
「何をですか」
「せやから、サパイアのこと。"サ"ムライエン"パイア"の略で……」
「いや、私言いませんよ。そんなバカ丸出しの略称なんて」
 雄鷹は愕然とした顔で彼を見返した。
 あまりに堂々としていたので、一瞬自分の記憶を疑ったほどである。
「いやいやいや、バーベキューんとき言うてたやん!? 他のとこも略しとったで!
 えーと……アックスアンドウィザーズがA&Wやったっけかな」
「それはまだわかりますね、頭文字ですし」
「なんで他人目線やねん。言い出したのハレちゃんやろ。
 ……ああせや、アルダワ魔法学園は"アル学"とか言うとった」
「安直すぎません? ユタカさんのセンスはやっぱり雑ですね」
 ボロクソである。
「なんでそないにワイのことディスるん!? 嘘はあかんで嘘は!
 嘘つきはなあ、泥棒の始まり言うて、そういうとこから人っちゅうんは……」
「はは、いい年こいて何言ってるんですか。私のせいにしないでください」
「ワイ今ええこと言ってんのやからせめて真面目に! 聞け!!」
 などというやりとりも、二人にとっては慣れたものだ。
 ちなみに、正解は雄鷹が正しい。真顔でしらばっくれる晴夜の胆力たるや。
「ワイな、ハレちゃんのそないなとこほんまどうかと思うで!」
「あ、焼きそば美味しそうですね。すみません、二ついただけますか?」
「って完全スルーかーい!! ……あ、おばちゃん、マヨ多めによろしく!」
 騒がしい二人組であった。

 そんなこんなで、あちらの出店、こちらの出店を練り歩く二人。
 そこでふと、晴夜が口元に手を当てて考え込んだ。
 雄鷹は焼きそばを豪快に啜りつつ、きょとんとした顔で相棒を見やる。
「サムライエンパイアには、"風流"という言葉があるそうですが……。
 実際、風流というのはどういった行動を指すのでしょう?」
 怜悧なように見えて感情豊富、飯はとりあえず肉が山盛りならオッケー。
 それがこの美青年の実態である。こっちもこっちでだいぶ残念だ。
 そんな彼に対し、雄鷹はなぜかドヤ顔になり、
「桜を見つつ、美味しいもんを食べる。それが風流ってもんやで!
 せやからそないな考え事しとらんで、冷めないうちに食べちゃおうや」
 あっけらかんとした、実に雑……もとい、シンプルな理屈だ。
「なるほど。桜を見つつ、美味しいものを……」
 はた、と我に返った晴夜は、箸を持ったまま空を仰ぐ。
 はらはらと散る桜の花弁と、粉雪が混じり合い美しい色合いを描いていた。
「食べるのに夢中で、桜のことを忘れていました。……本当に壮観ですね」
「せやなあ。こう舞ってると、あれやな、かつお節みたいな感じせえへん?」
「ああ、たしかに。そういえば桜の花びらって食べれるんでしょうか」
「食える食える! ……多分やけど。花なんやしいけるって!」
 などと、花より団子といった風情で語らう二人。
 平穏の楽しみ方は人それぞれ。文句を言う者も居はしない。
 彼らのそれも、立派な風流だと言えるだろう。
 雪桜は、ただこの場に居る人々のもとへ平等に降り散るのみである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
POW周辺を散策するを選択
※可能なら、ムルヘルベルさん同行希望
喧騒を抜けて少し人から離れた所でぼんやりと物思いに耽るよ
(舞散る桜の花弁を眺めながら)
……何時だったろう
誰かと一緒に夜桜を眺めて語り合ったのは(蒼月が淡く輝く)
時折夢に見る人々……
あの人がいなくなったのも、春時だったのかな……
(目を瞑って静かに黙祷を捧げる、けれどこの黙祷が誰に対しての者なのかは判然としない)
……確かにあいつの言う通り、俺は俺の記憶にない過去をどうしても捨てられない
捨ててしまえば……きっとそれは、俺が俺で無くなることなんじゃないかと思うから
(誰かに向けて)「皆は、過去についてどう思う?」
問い掛けたくなり口に出した


シーザー・ゴールドマン
のんびりと酒を飲みつつ出店、出し物や桜の観賞を楽しみます。
■絡み歓迎

ムルへルベルに会ったら
「君のお陰でなかなか面白い相手と戦えたし、見事な桜も見れた。お礼を言うよ」
と謝辞を。
「いける口かね?」
と好きなようならお酒を勧めます。

ほどほどに楽しんだらいつの間にか姿を消しています。



●さまざまの/こと思い出す/桜かな
「…………」
 活気ある通りからやや離れた、静かな一角。
 北条・優希斗は、悄然とした様子で物思いに耽っていた。
 舞い散る花弁と、それに重なる雪を見やる。
「おや、このようなところでどうしたのだ?」
「……あなたは」
 優希斗ははたと我に返り、声の主のほうへ視線を巡らせる。
 そこにはこの事件の解決を呼びかけた当人――すなわち、ムルへルベルが居た。
「いや失礼、なにか思索に耽っていたなら邪魔をしてしまったやもしれぬな。
 しかしどうにも優れぬ顔をしておったので、気になったのである」
 少年めいた見た目にそぐわぬ、理知的な語り口で彼は言う。
 優希斗はそれに曖昧に応え、再び空を見上げた。
「……何時かのことを思い出していたんです」
 優希斗は訥々と語る。
「誰かと一緒に、夜桜を眺めて語り合う、そんな風景を。
 ……そこにいた人達は、みな俺が夢に見る人々ばかりで」
 ふむ、と少年めいた賢者はこぼし、やや沈思黙考した。
「なるほど、なにやら色々と深い過去を背負っているように見える。
 とはいえ宴を楽しまぬのは損であろう、せっかくなら歩きながら話さぬか?」
「……そうですね」
 はかない微笑みを浮かべ、優希斗はその誘いに応じる。
 彼が腰に佩いた刀の鯉口から、淡い輝きが漏れ出し、そして消えた。

●通りにて/酒くむかげや/散る桜
 そんな二人が歩いていれば、不思議と知己に出くわすもので。
 赤いスーツを纏う紳士は、どこかの店の軒先に腰掛けゆるゆると盃を傾けていた。
「やあ、ムルへルベル君。珍しい取り合わせだね」
 隣に続く優希斗をちらりと見やり、目礼しながらも彼は言う。
「せっかくの宴ゆえな、こうして出くわすのも何かの縁であろう」
「さもありなん。いや、今回は実に楽しませてもらえたよ」
 くつくつと妖しげな笑みを浮かべ、金色の瞳を輝かせながらシーザーは礼を述べた。
「一騎討ちを求める剣の亡霊に、それが寄り集まった偽の救世主。
 おまけにこの見事な桜だ。やはり、人生は楽しんでこそ……君もそう思わないかね?」
 言葉尻が水を向けた先はムルへルベルであり、同時に優希斗でもあった。
 問われた彼は少し逡巡を見せたあと、応える。
「――少しばかり昔のことを思い出して。楽しむ気持ちにはなれませんね」
 そんな答えに対しては、ふむと紳士は思案し、
「では付き合いたまえ。浮かぬ顔でそぞろ歩いては、あれらと似た者同士だ」
 などと言って、二人に同席を勧めた。

 三人は空を仰ぐ。雪と桜の花弁が混じり合い、見事な風景を生み出していた。
「うむ、こうしていると時間の流れが遅くなったような気すらする」
 シーザーから享けた盃を傾けつつ、ムルへルベルは呟く。
 未成年である優希斗は、酒の代わりに茶などを時折口に運んでいた。
「ああ。風雅を愛で、その一瞬を楽しむ……これこそまさに、人の素晴らしさだよ」
 ダンピールは心底楽しげに呟き、くいと酒盃を煽った。
 優希斗はそんな二人の、時の経過を感じさせる言葉に耳を傾けつつも、
「あなた達は……過去のことを、振り返ったりはしないのですか?」
 と、問いかけた。
「あるとも。だが縛られるのは好まない。私の意思は私が決めるものだからね」
 紅き紳士は、どこか不遜な声音で答えた。
「ワガハイも、シーザーほどに割り切れれば楽なのであるがな。ま、そうはいかぬ」
 少年めいた賢者は、苦笑しつつも言った。
 とはいえ優希斗のように、迷い悩む若者には慣れたものなのだろう。
 二人の視線は穏やかなものである。彼の韜晦を待つように。
「……黒騎士との戦いからずっと、考え続けていたんです。
 俺は、過去を覚えていない。けれども記憶がなくとも、過去はたしかに存在している」
 そして瞑目する。それは誰に捧げる黙祷か。
「それを捨て去って、なかったものとして扱えば……俺が、俺でなくなってしまうように思えるから」
「なるほど。一理あるな」
 シーザーはあるかなしかの笑みを浮かべたまま、頷いた。
「だがそれで足を止め、悩み苦しんでいては損というものだ。
 君は生きている。私も生きている。ならば人生は、楽しまなければね」
「楽しむ……ですか」
 そうとも、とシーザーは応え、視線を桜へ向け盃を傾ける。
 彼の人生観は独特であり、優希斗がそれを飲み込むのは難しいだろう。
 だが共に、恐るべき呪剣士に立ち向かった者同士、言葉ならぬ共感がそこにあった。
「君は生き延びた。君と対峙してきた敵は滅びた。ひとまずは、それでいいのではないかね?」
「……そうかも、しれませんね」
 過去は消えない。消せはしない。捨て去ることなど出来はしない。
 それは辛く苦しく、悲しいものかもしれないが――だからこそ。
 生きている現在を楽しむ。それこそがきっと、最良の生き方なのだと紳士は語ったのだ。

「"どんな人も、彼自身が未来の建築家である"」
 賢者もまた、静かに言った。
「とある政治家の言葉だ。オヌシはまだ若い、悩み惑うこともあろうさ。
 だが変に達観するよりは、そうして足踏みをするのも経験ではないかな?」
 優希斗はいまだ迷いを抱えながらも、どこかすっきりしたように頷く。
 そしてこの一時に語らってくれたことを、彼らに礼を述べようと目を向け――。
「……あれ?」
 ざあ、と風が吹き抜ける空席を見やり、呆けた。
 紅き紳士はそこにいない。まるではじめから一夜の夢のように。
「次の"楽しみ"を探しに行ったのであろうよ。いやまったく――」
 最後の一杯を呷り、賢者は零した。
「水面に映る月のように、底の知れぬ男よなあ」
 風が吹き、雪が降り、桜が散る。
 過ぎ去りし時を想い、来たる未知を思う人々を慰めるかのように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーリ・ヴォルフ
アドリブ絡み歓迎!

人々の笑顔に、雪桜。暖かくも美しい光景
この平和を取り戻す一助となれたのなら誇らしく思う
ムルへルベル様。宜しければお付き合い願えますか?
こう見えても私よりも大先輩。背筋を伸ばさなければ!

桜が見える縁側で、抹茶と団子を摘まむという
「花見」をしてみたかったのだ
この世界ならではの美しい雅ですね
桜も団子も、私の故郷では目にしないもので新鮮です
刀も、そうですね。洋剣とは形状も用途も違う
任務を通じ世界を渡り、様々な文化に触れる…貴重な経験です
あ、団子のお代わりは如何ですか?
和菓子も洋菓子も、同じ甘い食べ物なのに味わいが全く異なるのですね
知識人である彼との会話は楽しい。興味津々に語り掛けよう


ハロ・シエラ
絡み歓迎
さて、どうやら終わったようです。
武器の気持ちを考えると手放しでは喜べませんが……人は救えました。
我々が言うのもなんですが、やはり平和が一番です。
次の任務も待っているでしょうが、少しくらいはこの平和を謳歌しても……許されますよね。

まずは戦いの汗を流したい所です。
もし温泉などあったらお湯を頂きたいですね。
桜と雪が見えるような所であればなお良いです。
次はしっかりと食事をして……名物とかあるんでしょうか?
お酒が名物であれば残念です、未成年なので。
その時は食後に何か甘いものでも頂きながらお花見をしましょうか。
いつかダークセイヴァーにも、こんな綺麗な花が咲き乱れればいいな。



●旅人の/鼻まだ寒し/初桜
「ふう……」
 喧騒からやや離れた、比較的静かな小通りを少女が往く。
 どうやら温泉でも楽しんだのか、さっぱりとした様子で頬が上気している。
「戦いのあとは、一汗流すのが一番ですね。それにしてもいい景色でした」
 雪桜舞う風情ある景観を思い出し、ハロ・シエラはほうと吐息を漏らす。
 まだ10とひとつの乙女である。こうなると腹が減ってくるものだ。
「なにか名物でもあればいいのですが――」
 などと一つ向こうの通りを覗き込み、ある店の軒先に目を奪われた。
「お団子……」
 くう、とお腹が鳴る。頬の朱を僅かに増しつつ、こほんと咳払い。
 湯上がりたまご肌の少女は、少しだけ浮ついた足取りで通りを歩いた。

●雪桜/こもる茶店の/煙かな
「いやあ、実に清々しい気分です。人々の笑顔に雪桜。暖かくも美しい光景だ」
 朗らかな笑みを浮かべ、ユーリ・ヴォルフはうんうんと頷いた。
 団子屋の縁側である。彼のそばには、抹茶と団子の皿が一つずつ。
 隣に腰掛けるのは、少年めいた様相の賢者。彼にも同じものが一つずつ。
「この平和を取り戻す一助となれたこと、誇らしく思います。
 ムルへルベル様の呼びかけあらばこそです。深い感謝を!」
 などと礼儀正しい様子に、賢者はぽりぽり頬をかいた。
「うむ、それは嬉しいのであるが……オヌシ、なんだかものすごくかしこまっておらぬか?」
「当然ですとも! なにせあなたは私よりも大先輩、背筋を伸ばさなければ!」
「そこまで意気込まずともよいのであるがなあ……」
 苦笑いしつつも、ムルへルベルは勧められたまま団子を楽しむ。

 ……と、そんな二人は、こちらを見つめる視線に気付いた。
「おや、彼女は?」
「ふむ……猟兵のはずであるなあ。おおい、オヌシだオヌシ」
 などと声をかけられると、視線の主――つまりハロはびくりと驚きつつ。
 なにやらこほんと咳払いをすると、落ち着き払った足取りでやってきた。
「ええ、そこまで言うならば仕方ありません」
「オヌシなにやらこっちを……へ?」
「私も同席いたします。こういった場で誘いを断るのは無粋ですから」
 などと言いながら、ちょこんと二人の間に腰掛けた。
 ムルへルベルとユーリは顔を見合わせ、肩をすくめて苦笑する。
「なるほど。ああ、ではどうぞお付き合いを、お嬢さん」
 年頃の少女の相手は慣れたものか、ユーリは紳士的に微笑む。
 そして彼女のぶんの茶と団子を注文し、お代をちゃりんと支払った。
「あの、さすがにお金は――」
「いやいや、大丈夫だとも。実際、私のわがままに付き合ってもらっているのだし」
 ハロはムルへルベルを見やる。賢者はうむと頷いた。彼もおごられたクチだ。

 そこでユーリは、桜散る空を見上げてぽつりぽつりと呟いた。
「桜が見える場所で、こうして誰かと座を共有し茶と団子をつまむ。
 この世界で言う"花見"というものを、一度してみたかったのだ」
 彼の故郷であるアックスアンドウィザーズに、そうした文化はない。
 ……少なくとも、彼が知る限りは。ゆえにこそ誰かと肩を並べたかったのだと。
「それが共に戦った猟兵と、大先輩であるムルへルベル様ならばこれ以上のことは――」
「ああ、ああ、わかったわかった。……落ち着かぬなあ」
 苦笑するムルへルベル。一方、ハロはしばらく黙り込んだあと、
「……そうですね。私の世界――ダークセイヴァーにも、こんな文化はありません」
 と、呟いた。
「こんな風に落ち着いて、誰かと花を見ながら時間を楽しむだなんて。
 ……いつか、あの世界にも、こんな花が咲き乱れればいいな」
 少女の呟きは、どこか祈るような響きを持っていた。
 一方でユーリは、そんな彼女の言葉に感じ入ったように頷く。
「それもまた、こうして他の世界の文化に親しみ、味わったからこそ言えること。
 任務を通じ世界を渡り、様々な文化に触れる……貴重な経験だと私も思う」
「……そうですね。そして私達が戦えば戦うだけ」
 その世界の誰かが、平和を取り戻す。
 言葉なく、ふたりはしばし同じように桜を見上げていた。
「オヌシらの気持ちはよくわかる。ワガハイも、元々はスペースシップワールドにおったのでな」
 運ばれてきたハロのぶんの団子と茶を店員から受け取り、差し出しつつ賢者は頷く。
「しかしワガハイとオヌシらでは、それを感じる場所が少し違うやもしれぬな。
 ほれ、オヌシらはどちらも、剣や槍を振るうタイプの者であろう?」
 ハロとユーリは互いを見やる。
 少女は流麗な細剣を帯び、青年は槍に変ずる小龍を従えていた。
「たしかにそうですね。刀というものは、私が知る刀剣類と形状も用途も違う」
「刀だけではないですよ。私のこの細剣は、この世界で鍛え上げたものですから」
「ほう、それは興味深い……」
 などと、白兵戦を嗜む猟兵同士のシンパシーにしばし浸る両名。
 バリバリの後衛タイプなムルへルベルは、団子をひとつぱくりと頬張り、
「もぐもぐ。……この菓子も同じよな。同じ甘味ながら、世界ごとに味わいが違う」
「まったくです。そうそう、甘味といえばこの間、チコ……友人に珍しいものを教わりまして。
 マシュマロというふわふわしたお菓子を、こうして火で炙る食べ方なのですが……」
「……ずいぶんアウトドアになりましたね。でも、美味しそうです」

 甘味を手に、三人は思い思いに語り合う。
 それぞれの世界のこと、これまで見て味わってきた経験のこと。
 そしてこれから何をなし、どんなことを実現したいのか……。
 それもまた、死闘を征し生き延びたからこその、平穏なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼灯・ほのか
「雪に桜とは風流やねぇ、落ちては解ける雪にはらはらと落ちる桜…どちらも儚いもの、これがもののあはれという奴やろね」

うちは宴に出るお料理や飲み物でも頂きながら静かに花見でも楽しもか。ああ、でも誰か出し物でも出しはるならそれを見るのも参加するのも一興やねぇ。(絡み歓迎)

…あの侍はん達も、こういう雅がわかりはれば化けて出来ることも無かったかもしれへんねぇ。まあ、もしもの話なんてしても栓ないことどす。うちも同じ穴の貉かもしれへんし。そう思はんへん?「冬桜」
まあ、一杯くらいはあのお侍さんたちに献杯しておこか、弔いというわけでもあらへんけど、ね。



●酔人の/理屈をかしき/桜かな
 喧騒から離れた静かな軒先に、女が一人いた。
 艶やかな灰色の髪からは、ぬっと剣呑な角が一対。
 そんな恐ろしげな風貌も、しかし憂いめいた伏せがちの相貌を見れば忘れてしまうことだろう。
 男はおろか、女ですら蠱惑しそうな、妖しい笑みを讃えた羅刹の剣士。
 名を、鬼灯・ほのかという。

「雪に桜とは風情やねぇ。里の名前はこういうことやったんやろか」
 ほろほろと振り散る桜の花弁が、女の傾けた盃にひらりとこぼれた。
 粉雪である。傍らに立てかけたおそろしの刀の朱鞘が、ほんのりと白く染まる。
「落ちては解ける雪に、はらはらと散る桜――どちらも儚いもの」
 くい、と酒杯をひとつ。潤んだ唇から、熱っぽい吐息が漏れる。
「これが、もののあはれというやつなんやろね」
 女の呟くさまは、景観もあいまって一つの画のように美しく……そして、儚い。
 まるでほのかは、その名のごとく仄かで、ふっと息を吹きかければ消えてしまいそうな……そんな気配を、纏っていたからだ。
 ふたつほど向こうの通りからは、騒がしい人々の声が聞こえてくる。
 女はしばし瞼を伏せ、帳を隔てたように近く遠い喧騒に耳を傾けた。
 傍らには、出店で仕入れた旬の肴がいくつか。静かな花見である。
「……あの侍はんらも、こういう雅がわかりはれば――」
 あのような形で幽鬼となってそぞろ歩くことも、なかっただろうか。
 そんな漠然とした、他愛もない思索を、女は最後まで言葉にはしない。
 "もしも"の話など、それこそ酒に酔って見た夢のように詮無きこと。
 彼らはああなった。それを己らは伐った。話はそれで終わりだ。
 ……だが彼女が彼らのことを想ったのには、理由がある。
「争いを求め、泰平の夜を呪い怨みながらそぞろ歩く……。
 かあいそなこと。けれど――ふふ、うちはその気持ち、よぅくわかるんよなぁ」
 酒を楽しみ、風雅を愛で、同じ面持ち同じ心持ちで鉄火場を彷徨う。
 女はそういう手合いであり、ゆえに彼女は羅刹と呼ばれる生まれにあった。
 一騎討ちの頃よりずっと、その心は"あちら側"に傾いて在るのだ。
「同じ穴の貉、なあんて言葉もあることやし――ねえ、そう思はんへん?」
 一人寂々とこぼす女の言葉は、傍らで眠る妖刀に語りかけるようでもあり。
 封じられ戒められた妖刀は、けしてそれに応えない……はず、である。
 だが、"かたり"とその朱鞘が軋んだように思えたのは、気のせいだろうか。

 ほのかはくすりとひとり微笑み、もう一つの盃を手に取る。
 とくとくと、透き通った清酒が注がれ、水面に桜と雪を映し出した。
「ま、一杯くらいはあのお侍はん達に献杯しておこか。
 ――弔い酒やなんて柄やないし、そういうつもりでもあらへんけど」
 たとえるならば、それは同胞……同類への手向けか。
 春には早く、冬には遅い頃の静謐のなか、女はただ盃を傾ける。
 戦いのあとの体を、酒の熱がほどよく慰め、風を心地よくさせていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神酒坂・恭二郎
【黒白】でアシェラさん(f13819)と。

夜明け前、一人桜の前に腰掛けている。
傍らには酒徳利一つ。
空が白み、朝の光が差し込む頃に一人来る者がいるだろう。
語る事もないので、相手が腰掛けるに任せ明け空を見やり。
朝日が昇る少し前に、杯に酒を注ぐ。
夜明けと共に、相手が一句読み上げたのでこちらも返す。

「杯に 雪と桜の 夜明け酒」

後はただ、しばらく杯を重ねた。
徳利の酒が尽きた頃に、通りかかったムルへルベルさんに一声。

「すまないが採点を頼む。点数をつける程に心得はなくてね」

なお俳句は師匠直伝だが、こればかりは勝っている。師匠の句才は残念だった。
剣聖心の一句 

『雪桜 ああ雪桜 雪桜』

【アドリブ歓迎】


アシェラ・ヘリオース
【黒白】で神酒坂さん(f09970)と

夜明け頃に桜を見に歩いていた。
ちょうど良い桜の下には先人がいた。
語る事もないので傍らに座る。
少しして、注がれた杯を掲げた頃に夜が明けた。
朝の日差しの中に粉雪が舞う。

「明け空に 光る粉雪 舞う桜」

一句詠んだ。
男が一句返した。
後はただ杯を重ね。
酒が尽きる頃に、ムルヘルベルさんが通りかかったので採点を求めた。
夜明けの雪桜の余興にしては、多少は風流だろう。
ふと亡き師の下手な俳句を思い出した。
しみじみと下手な句だった。
思い返し、久しぶりに笑みがこぼれた。

【アドリブ歓迎】



●黒と白
 時間軸は、盛大な宴が始まるその日の夜明け前へと遡る。
 すなわち――猟兵と闇刃阿修羅との死闘が終わって、いくらかした頃。
 まだ通りには無残な朽刃たちが転がり、血と汗が広場に染み付いていた時である。

 男が一人、ひときわ盛大な桜の樹の前に腰掛けていた。
 派手な着流しには、修羅場を越えたばかりの戦士が纏う火照りの残り香がある。
 男はおもむろに徳利などをば傾け、冬と春の狭間には心地よい人肌の酒を愉しんでいた。

 するとそこへ、女が一人現れた。
「やあ」
「おう」
 アシェラ・ヘリオースと神酒坂・恭二郎は、そのように言葉を交わした。
 言葉、というには短かったが……二人にはそれで十分である。
 女もまた、死闘を終えたばかりの戦士にふさわしいものを纏っていた。
 ……やがて、女は男の隣に腰掛ける。
 空はいまだ黎明を知らず、あたりは薄暗く朝靄が立ち込めている。
 春が近いとはいえ、些か冷える頃合いだ。女がふと、ぶるりと背筋を震わせた。
 ――と。
「ん」
「……ああ」
 いつのまにこしらえたのか、男が杯をひとつ、差し出す。
 徳利からほのかに湯気が立ち上る。清酒がとくとくと空を満たした。
「では、失礼」
「おう」
 やはり、交わす言葉はとても短い。二人にはそれで十分である。

 そしてアシェラが杯を掲げると――水面が淡く、輝いた。
 夜明けである。東の空、山間から朝日が顔を覗かせ、二人を照らしていた。
 ちらほらと降る粉雪が、きらきらとその輝きを反射する。
 ……男と女は、しばしその輝きを見つめる。
 杯を持ったまま呆けるさまは、はたから見れば酔いどれのようにも見えなくはない。
 だがそれを謗る者も、また嘲笑うものも居はすまい。
 彼らはともに死線を抜け、この一時の刹那を勝ち得た仲間同士なのだから。

「――明け空に」
 暁雲(ぎょううん)を見上げ、アシェラが口ずさんだ。
 恭二郎の目線が、ちらりとそちらを見やる。言葉はない。
 ……少々の沈黙ののち、女は下の句を続けた。
「光る粉雪/舞う桜」
 ほろりと。一句の完成を祝すかのように、酒の水面に桜が一輪舞い降りた。
 女はそれをしばし眺めたのち、ちらりと男に視線を返してから、それを呷る。
 ――なるほど。
 恭二郎は心の裡で得心した。これは風流人としては実に雅やかで、難しい間である。
 美しい朝焼けだ。これを前に、詩がひとつ唇から溢れるのも無理からぬもの。
 しかしここに酒があり、男と女がおり、そして今の目線があったならば。
 それはただ風雅を愛でる戯れではない――いわば、真剣勝負である。
 ここで『いい句だ』などと適当なおためごかしを言い、それらしい顔でいたとしよう。
 敗けである。粋を殺した、まさに無粋というやつだ。
 であれば受けて立つのも、またスペース剣豪たる己の宿業か……。
「くっ」
 ……などと、難しいことを考えて、男は一人笑う。
 他愛なき戯れである。いちいち剣に置き換えたがるのは悪い癖だ。
 ともあれ彼も男ならば、斯様な美女の前ではひとついいところも見せたいもの。
 師からの直伝である。剣の才はさておき、そこそこの自信があった。
 清酒が湯気を喪った頃、男はぽつりと句を詠んだ。
「杯に/雪と桜の/……夜明け酒」
 実直な句である。
 ともにまっすぐでシンプルな、清々しい詩といえよう。
「ふむ」
 アシェラはそんな吐息を漏らした。感心か、はたまた勝ち誇ったか?
 あれこれとした考えを、ぐいと飲み干した酒とともに流す。胃がかっと熱くなった。

「……おや」
 やがて暁闇が残らず失せ、二人の背なに影法師が身をもたげた頃。
 そこを通りがかり、酒宴を見咎める者がいた。少年めいた姿の賢者である。
「ずいぶんとまあ気の早い、その上ざるなことよなあ」
 ムルへルベルは呆れたような、感心したような声で言う。
 二人の回りには、空いた徳利が4、5本は転がっていた。
 男と女は共に吐く息白く、頬には明け空と異なる朱が差していた。
 ほろ酔い、というやつである。
「やあムルへルベルさん、お先に一杯やらせてもらっているよ」
 ようやく、男が言葉らしい言葉を吐いた。
「一杯どころではあるまいがな。気がついたらこうなっていた」
 女もまた、くすりと笑んでそう言った。
「剣の腕と酒の強さは比例するのであろうか? どれ、ワガハイにも一杯――」
 などと、見た目と異なり長齢を重ねた宝石人が杯に手を伸ばそうとする。
 ……そして片眉を釣り上げた。男が、待ったをかけている。
「ひとつ頼みを聞いてほしい」
「ほう」
「あまりにも朝焼けが綺麗だったのでね、一句詠んでみたのだ」
「ほほう」
 男と女はさらさらと、息の合った心地でそう言った。
 互いに浮かべた詩をどちらともなく諳んじてみせ、賢者を見やる。
「採点をお願いしたい。点数をつけるほどには、心得はなくてね」
「……我が師に比べれば、私達はだいぶマシなものだがな」
 ふっと、女はわずかな憂いと郷愁の笑みを浮かべて肩を揺らす。
 お前さんもか、と恭二郎は言った。どこまでも似た者同士のようだ。
「"雪桜/ああ雪桜/雪桜"とは。うむ、たしかに……実直に過ぎるものよな」
 剣聖と謳われた老人の句を聞き、賢者もまた苦笑いを浮かべる。
 ともあれ優劣を競えと言われれば、彼はしばし考え――。

「おお」
 ちちちち、と鳴きながら飛んでいく小鳥を見やった。
 どこからか、りりん、と鈴の音ひとつ。
「なるほど。決まったのである」
「ほう」
「ふむ」
 男と女は耳を傾けた。少年めいた姿の宝石は、意地の悪い笑みを浮かべてこう言った。
「騎士と、剣士と、それからワガハイ。
 みんな違って、みんないい――で、あるな」
 さる詩の引用である。やがて男と女は声を上げて笑った。
 朝のざわめきに、雪と桜が溢れて散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

雪桜か……珍しい物なんでしょうね
桜の時期は通常あたたかいと聞きますし
こんな、紡ぐ日々の中で見られる数瞬だけの情景は――少し苦手です
二度と会えないと、少し寂しいじゃないですか

まぁ、そんな感傷も吹き飛ばす人が隣にいる訳で
折角の花見だから別にいいとは思いますけど、
よく食べるな……

俺はお茶だけで結構。暖だけ取ります
あなたも体を冷やさないようにしてくださいよ

そういえば……、
散る花弁が地に着く前につかめたら、
願いが叶う――なんて何かで読みましたよ
あなたは何か願う事はありますか?

ある人、ね
誰かを聞くには躊躇う
そこまでの一歩は、俺には遠い

俺は
また桜が見られたら、それで十分だよ


オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

雪と桜が混ざり合って綺麗!
すごいね
これって絶対今しか見られない光景だよ

……ヨハンは別れという経験が怖いのかな
なんて思うけど口にも顔にも出さずに
数本目のみたらし団子をむしゃむしゃ
私が暢気にしてたら、
ヨハンもいつもみたいにお小言をくれるかもしれないしね

君も食べる?美味しいよ!
まぁ、君は食が細そうだものね
心配しないで
お茶も4杯は飲んで帰るつもりだから

つまり今こそ願いを叶えるチャンスってこと?
いいこと聞いちゃった
願い事ならあるよ
ある人に認めてほしいってずっと思っているの
花びらを掴めたら叶うかなぁ
君の願い事は?
そっか……なら、その願いは私が叶えてあげる
来年も君をここに連れてくるよ



●影昏く/空は星なり/雪桜
 昼頃の喧騒に、はらはら、ほろほろと雪と桜が舞い散る。
 里に名は冠すれど、斯様な光景を見れるのは滅多なことではない。
「桜の時期は、普通なら暖かいと聞きますし。珍しいものなんでしょうね」
 ヨハン・グレインは、常通りの仏頂面でそれを見上げて呟いた。
 なにも風情を厭うわけではない。ただ少々、眩しそうに目を細めて。
「連綿と紡がれる日々の中で見られる、数瞬だけの情景は――少し、苦手です」
 ぽつりと、零した。
「二度と会えないと、少し寂しいじゃないですか」
 ……言ってから、しまったと思う。いささか本音が過ぎたか。
 妙な横槍を入れられては困るな、と隣を見やり……嘆息した。

「もぐもぐ……」
 花より団子とはよく言ったもの。
 いや、彼女の場合は『花も団子も』というべきだろうか?
 オルハ・オランシュは三本目の団子をぱくぱく食べながら視線を返す。
 三色団子である。ただし三本目というのは"三色団子が"三本目という意味だ。
 白玉、黒ごま、粒餡漉し餡……串がぱらぱらと転がっている。
「ごくごく」
 何杯めかの茶を呷った。大きな獣の耳がぴこんと跳ねる。美味らしい。
「っぷはー! でも綺麗だよね。雪と桜が混じり合うなんて素敵だなあ」
 ようやく口が空いたかと思うと、少女はのんきな声でそう言った。
 ……実際、彼女なりに、彼の呟きに思うところがなかったわけではない。
 別れに対する嫌悪、いや恐怖? なにかありそうでは、ある。
 しかしそれを不用意にほじくるほど、オルハは無粋ではない。
 いかにも今は風流な一時だ。友人同士の語らいに、感傷は不要だろう。

 ……とはいえ。
「すみませーん、みたらし団子くださーい!」
「四本目じゃないですか。よく食べるな……」
 尽きぬオルハの食欲に、さしものヨハンも困惑気味だ。
 彼も彼で、彼女の天真爛漫さには助けられている。
 せっかくの花見、久方ぶりの平和を、己の陰気で混ぜっ返すのも気が引けるゆえに。
「えー? だって美味しいんだもん、団子がもちもちでねぇ!」
 などと明るい声でオルハは言う。注文を請けた、人の良さそうな老婆の笑みもひときわ明るい。
 おまけだよ、などと一本ばかし串の増えた団子を渡されれば、背中の羽をぱたぱた小さく揺らして喜んだ。
「あー……あ」
 そして勇んで団子を頬張ろうとしたところで、彼の視線に気付き、はたと動きを止める。
「……どうしました」
 口を開けたまま、映像の一時停止めいて此方を見たまま止まったオルハ。
 素っ頓狂な姿を見て、ヨハンは意図が解せぬと眉を顰めて問うた。
 しばしの間沈黙が流れる。……何事かとヨハンは彼女を見つめる。
 オルハはやがて食べかけた団子を皿に戻し、両手で持ったまま見つめて。
 かと思えば少年に目を戻し、うーん、むむ、と唸りながらそれを繰り返す。
「あの、なにか失礼をしたなら……」
 気付かぬうちに粗相をしていたか。詫びようとしたヨハンに対し、
「少しは食べたいよね、はいどうぞっ!」
「どこをどうしたらそうなるんですか」
 あっけらかんとした笑みに消えたという。

「……俺はお茶だけで結構。暖が取れればそれでいいです」
 後ろの方で、注文を待っていたおばあちゃんが少し悲しそうな顔をした。
 その気配を感じ、ヨハンはこほんと咳払いを一つ。
「美味しそうだとは思いますが、その」
「そっか、君は食が細そうだものね」
 などと、オルハがうまいこと相槌を入れる。おばあちゃんはニコニコした。
「……ええ、そうです。はい」
 一件落着。オルハは心なしか嬉しそうに団子をぱくついている。
「食べるのはいいですが、あなたも体を冷やさないようにしてくださいよ」
 などと、他愛もない慮りをかけてみれば、
「大丈夫、心配しないで! お茶もまだまだ飲んで帰るつもりだから」
 なぜかキリッとした顔で即答するオルハ。少年は溜息をついた。
 まあ、健啖なのはいいことである。清々しい食いっぷりは周囲も和ませるものだ。
 少年は少なからず、そんな一時に居心地の良さを感じていた。

「そういえば」
「んぅ?」
「……咀嚼しながらでいいですよ」
 白玉団子を頬張るオルハを見つつ、ヨハンは呟く。
「散る花弁を地に着く前に掴めたら、願いが叶う――なんて、何かで読みましたよ」
 ありがちな話だ。オルハはごくんと団子を飲み込むと、ぱっと微笑み。
「つまり、いまが願いを叶えるチャンスってこと? いいこと聞いちゃった!」
 さっそく、目の前を散っては落ちる桜の花びらと樹を見上げ、体を揺らす。
 そんな様子を横目に見やり、なんとなしにヨハンは問いかけた。
「……なにか、叶えたい願い事があるんですか?」
「ん? あるよ。……とある人にね、認めてほしいんだ」
 それと気付かぬ程度の、短い短い間があった。
 逡巡か、説明の面倒を避けたか? そこまでは読み取れぬ。
 いずれにせよ、ヨハンは"ある人"について深入りすることを避けた。
 興味が無いわけでは、ない。ただ――その一歩は、彼にとっては遠すぎる。
(俺みたいな輩に根掘り葉掘り問われても、癪だろう)
 そう心の中で完結し、空いた言葉の代わりに茶を啜る。
 そんな彼の沈思黙考を察してか否か、オルハが問い返す。
「君は? ヨハンには、なにか願い事はないの?」
「…………」
 藍色の瞳がわずかに遠くを見つめ、瞬いた。
「そうですね」
 雪と桜をレンズに映しながら、少年は答える。
 なにか難しい意図があったわけではない、するりと口から零れた言葉。
「俺は――また桜が見られたら、それで十分だよ」
 少女はきょとんとしたあと、ふっと微笑んで。
「まあ、いちいちジンクスに縋るほどでは――」
「ううん、なら私に任せて」
「はい?」
 虚を衝かれ、少年はきょとんと少女を見返す。
 そこでオルハは、にこっと歯を見せる満面の笑みを浮かべた。
「その願いは私が叶えてあげる。また来年も、君を此処に連れてこよう!」
「――……」
 ヨハンははたして、どんな表情を見せたか。
 オルハは少しだけ意地が悪そうに、大人びた仕草で流し目を送るだけ。
「それじゃあー……よっと!」
 そしてやおら、機敏な動作で目の前の空をひょいと手でかすめてみせる。
 少年の視線も自然と、握られたままの掌へと注がれた。
「さあ、どうかな――」
 少女の白い指先が、ゆっくりと開かれる。
 そのさまは、春に芽吹くみずみずしい花のようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
鳴宮・匡サン(f01612)と

桜吹雪に、綺麗な雪
すっごく幻想的な光景ダネ
儚い花デ、すぐに散っちゃうケド
今しか見れないカラこそ、綺麗だっていうヨネ
せっかくのお祝いにふさわしい景色ダモン
楽しんでこうネ

雪と桜の組合せは初めてカモ
本体であるランタンをゆらゆら揺らしながら、
買ってきたのは餡団子
その場所らしいもの、食べたくならナイ?
お茶も一緒に買ってきて、雪見桜見いただくヨ
甘いものは好きだっケ?と、串ごとちょっと差し出してみて
気に入ってもらえたら嬉しいナ
桜の花、綺麗?
そんなに魅入ってるの初めてみたカモ
私はもちろん楽しいヨ
鳴宮サンも、きっとそうダネ
また、みんなと行くのもいいカモネ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ


鳴宮・匡
◆レイラ(f00284)と
◆アドリブ歓迎

何か買ってくるらしいレイラを待ちながら
雪と桜の織り成す光景を、圧倒されたように見上げて

差し出された団子は殆ど無意識に一口齧る
うん、美味しいよ……って
……ごめん、つい

綺麗、っていうのかな
俺には……よくわからない
初めて見るからなんだろうか
胸の裡に湧き上がるものはあるのに、言葉にならない

……あのさ
レイラはちゃんと楽しめてる?
こういうのは同じ気持ちを共有するのがいいって聞いたから
レイラも楽しめてるんだったらいいなって
……それだけなんだけど

初めて名前を付ける「それ」には
まだ違和感があるけど
この間みたいにレイラがそれを喜んでくれるのは
悪くないとも思う
……変な感じだな



●しんとして/凪を揺らすや/雪桜
 彼のことを知る者がその様子を見れば、はて頭でも打ったかと思ったことだろう。
 事実"彼女"もそんな冗談を飛ばしたことがあるのだが――それはさておき。
「…………」
 鳴宮・匡は、ただ無言で空を見上げていた。
 降りしきる粉雪と、それを受け止めともに地へ舞う桜のワルツ。
 生死が紙よりも薄く重なった地獄に在りて、淡々と生き延びた男ですら圧倒されるか。
 待ち人がやってきて声をかけても、彼は呆けたようにそれを見ていた。
「――サン? 鳴宮サン?」
「ん、ああ」
 呼び声に応え、差し出されたものを確かめもせずに受け取る。
 そしてほとんど流れるようにそれを一口。甘い餡ともっちりとした生地の感触が、舌と歯を楽しませた。
「どうかナ、美味しいデショウ?」
「うん、美味しいよ――って」
 そこでようやく、匡は我に返った。
 己は団子を持っている。それを受け取りごくごく自然に齧っていたらしい。
 らしからぬ行いだ。自らの振る舞いに困惑したような視線がついと相手を見上げ――。
「桜吹雪に、綺麗な雪。すっごく幻想的な光景ダネ」
 その相手……レイラ・エインズワースは、彼のほうを見やり小首をかしげた。
 髪と同じ紫色の灯火を裡に秘めたカンテラが、からんと音を立てて傾ぐ。
「……ごめん、つい」
 匡はようやくそう答えた。所体なさげに、団子と彼女の顔とを交互に見る。
「ウウン、折角のお祝いデショウ? こういう場所らしいもの、食べたいと思ったカラ」
 ふんわりと微笑み、レイラは首を横に振る。
 むしろ彼に渡すつもりで買ってきたのだ、謝罪される理由はない。
「この間も言ったじゃナイ? "謝る必要はない"ッテ」
「そっか……そう、だったな」
 頬をかきつつ、匡はそれで納得した。

「それよりも、私は感想が聞きたいナ?」
「感想?」
「だから――ホラ」
 少女が空を見上げる。青年もそれに続いて、雪と桜の舞を見やった。
「儚い花デ、すぐに散っちゃうケド。今しか見れないカラこそ、綺麗だっていうヨネ」
 どこか他人行儀めいた物言い――さもありなん、彼女はヤドリガミだ。
 ゆえに見た目と裏腹に知らぬことも多く、彼女は楽しそうな雰囲気には率先して飛び込む。
 景観を楽しみ、それを共有する。いかにも風流な問いかけと言えよう。
 対する匡はしかし、
「……綺麗、っていうのかな。俺には、よくわからない」
 などとぽつぽつ答える。
「ふうン?」
 一方の少女は、あるかなしかの笑みを浮かべてそうこぼすだけ。
「初めて見るからかわからないけど、こう……なんだろうな」
「言葉にならナイ、みたいナ?」
 そう、それだと匡は頷く。――たしかに、何かが胸の裡には湧き上がっているのに。
 それがどんな名前で、あるいはどう呼ぶべきなのか。彼にはわからない。
「……あのさ」
 なあに? と小首を傾げるレイラに、匡はおずおずと問いかけた。
「レイラは、ちゃんと楽しめてるか?」
 少女の表情は、きょとんとしたものになった。青年は続ける。
「こういうのは同じ気持ちを共有するのがいい、って聞いたからさ。
 こんな答え方でいいのかな、っていうか……俺、わかんないんだよな」
 器物から生じたヤドリガミに、人であるはずの男が情緒を問う。
 いささか奇妙な光景である。だがさもあらんやりとりだ。
 少女はいたずら好きで、この世をあるがままに愉しんでいて。
 対する青年は、ヒトであることに何の意味も見出だせぬ戦場を生き延びた。
 幻燈の裡に燃える紫焔のように暖かく、豊富できらびやかな少女の心と。
 蒼く澄み渡った――底すら見通せぬ静謐の凪の海のような、青年の心と。
 対称的であることは、彼らの歩んできた道のりの結果である。

「私はもちろん楽しいヨ? 珍しいモノも見れてルシ」
「珍しいもの? 桜のことか?」
 ううん、と少女は首を振って、
「鳴宮サンのコト? あんな風に見入ってるなんて、初めて見たカモ」
「……そうかな。ああ、いや。そう、だな」
 彼らの付き合いは、数ある猟兵の中で言えばおそらく一二を争うほどに長い。
 冬空の下のティータイムに始まり、四季を楽しみ、共に戦場を駆け抜け……。
 匡が当たり前の情緒を持つ人間なら、友人……いや、親友と呼ぶべき間柄だ。
 それでもこうしていちいち問いかけてしまうあたり、それが彼らしくあり。
「だから、鳴宮サンもきっと楽しいんじゃないカナ?」
「――楽しい、か」
 この裡に生まれたものの名は、そう呼ぶべきなのだろうか。
 彼には確としたことは言えない。だが少女は続ける。
「また季節が巡ったラ、みんなと来るのもいいカモネ。アリスサンとか」
「え」
 それはちょっと、いや厭なわけではないがどうにも困る、と顔に書いてある。
 そんな匡を見て、レイラは今度こそおかしそうに、ころころと可愛らしく笑って。
「サ。お茶が冷めナイうちに、アッチでお花見でもしマショウ?」
「ああ、そうだな」
 うきうきとした足取りで歩みだすレイラの背中を見て、匡は想う。
 ――やっぱり、この"変な感じ"を名付けるのはまだ難しそうだ。
 けれど、彼女のあの姿を見て、その隣をゆったり歩むのは……。
「……悪くない、かな」
 そう呟いて、彼は少女の隣を共に歩いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

遠呂智・景明
アドリブ、他の参加者との連携絡み歓迎

今回の戦いじゃ色々疲れたし、店で団子を食いつつ桜と雪を楽しむとする。

色々と考えさせられることのあったあとだと、気が滅入って仕方ねぇ。

だからうまい飯を食って切り替える。酒は飲めねぇのが残念だがなぁ。

確かにかつて妖刀として扱われた。が、それだけじゃねぇことも覚えてる。
大切にしてくれたやつもいた。

だから、俺が阿修羅のようになるこたぁねぇ。

そんなことを考えつつ宴の喧騒を美味い団子に舌づつみを打ちつつ眺めていよう。


夷洞・みさき
戦は終わって陣幕は引いたんだ。
後は、水に流して宴に来ると良いよ。

この世界の歴史は詳しくないけど、君達が文字通り斬り開いた先の光景なんだろう?

【WIZ】
宴の前に戦場に残った残骸を探す。
残骸の刀剣は観客席や飾りに忍ばせ、
壊れていない刀が残っていたらそれを用いて
【UC六の同胞】と自身による少し道化染みた剣舞

「専門じゃない物でね、そこは目を瞑ってもらいたいかな。」

君達は僕の身を裂いた。なら次は君達の魅を咲かせよう。
忘れ去られない様、祈り願ってね。

この光景を良しと想うなら、いつか彼等が君達を忘れた時に、また来ると良い。
それがオブリビオンになった君達の業なのだから。

アドリブ絡み大歓迎


紅呉・月都
おーおー、楽しそうで何よりだな
街のやつら、無事で良かったんじゃねーの?

俺はそうだな…桜見ながら甘いもん食うかな
あんみつとかいいよな、桜か抹茶餡のとかねえか?
ちょっとはえーけど花見だ花見。

へぇ、雪と桜か
あったけー青空の桜の方が俺は好きだが…
ま、これはこれでありか

人々がそれぞれ宴を楽しんでいるなら、それでいいのだろう
桜と雪の舞う宴の風景を見て、ふっと無意識の笑み
任務完了ってな

ムルへルベルには世話になったし、何か甘いもんと飲みもんの差し入れしとくかな
お疲れさん、でもってありがとな!

アドリブ・絡み歓迎


橙樹・千織
・アドリブと絡み歓迎です

あらあら、ふふふ
宿場町も桜も、ここに住む皆さんも無事で良かったです。
皆さんとっても楽しそうですねぇ

桜や出店を楽しんだ後は今後の安寧を祈って舞をひとつ
剣舞でも舞唄でも皆さんの好みそうな方を舞いましょうかねぇ
街の皆さんにもっと楽しんでいただいて、活気づけばいいですねぇ

舞でちりん、と鳴る破魔の鈴音は街に残る僅かな淀みさえも祓ってくれることでしょう
皆さんに沢山の幸せが訪れますように

あ、舞が終わったらまた散策と出店巡りをしましょうかねぇ。
一曲舞うのは意外とおなかがすいてしまうのです。


ヴィクティム・ウィンターミュート
絡み歓迎

終わった終わった。パーッとやろうぜ、パーッと!腹が減ってしょうがねえ。飯をしこたま買って食いてーな。食べ歩いてもいいし、景色を見ながら食うのもいい。

戦いの苦労を分かち合いながら、食って駄弁って楽しむぜ。何なら、論理ディスプレイで何か映像流して楽しむのもアリかもな?ヘヘッ、エンパイアじゃちょいとオーバーテクノロジーかもしれんが…不思議なものに触れるのも、悪くはないだろ?

戦いや血が救いだの、アイツはのたまってたけど…こういう何気ない日常が、死地に向かう俺たちの心を救うんじゃね?仰々しい理屈なんざ必要ねーよ。思うがままに、楽しんでいこうぜ。なぁ?チューマ。



●夜明け前
 死闘が終わったばかりの、暁闇をそぞろ歩く影ひとつ。
 幽鬼の生き残りか? はたまた刀どもが彷徨い出たか?
 否である。夷洞・みさきが、砕け朽ちた刀剣の残骸を拾い集めているのだ。
「戦は終わって陣幕は引いた。あとは文字通り、水に流してしまえばいい」
 彼女はそうひとりごち、ひとつまたひとつと刃の欠片を拾い集める。
 それはまるで、終わらぬ途方もなき宿業に彷徨う旅人のようでもあり。
「君達は僕の身を裂いたんだ。なら次は――」
 ……やがて、夜が明ける。

●宴の席にて
「ぁん?」
 昼時。賑わいのなか、ふと遠呂智・景明は片眉を釣り上げた。
 通りのどこを見ても町人や旅人、はたまた猟兵で賑わっているのが今の宿場街だ。
 しかしなんだが、ことさらわいわいと喧騒猛き一角があるではないか。
「ふむ……」
 思案する。ふと足を止めると、どうにも気が暗い方へと傾いてしまう。
 よくないなと彼は頭を振り、なにかわからぬが騒ぎに乗じてみることにした。
「おばちゃん、団子をいくらかくれるかい。ちょいと多めにな」
 適当に見繕った出店に顔を覗かせ、豪気に金を払えば少しはすっきり。
 気が滅入るよりはやはり飯を喰って景観を楽しむ。これに尽きるのだ。
「酒が飲める体ならよかったんだがねぇ」
 残念そうに呟きつつも、ふらりふらりと伊達男は人垣へ入り込み――。

「……ありゃ邪魔しちゃ悪そうだな」
 紫髪の少女と連れ歩く見知った顔の背中を見送り、青年は呟いた。
 そして気持ちを切り替える。まずはざっと辺りを見渡し……そこへ見知った顔がまた一つ。
「おーおー、なんだか楽しそうじゃねえか。なんかやったんのか?」
 紅呉・月都があっけらかんとした声で言えば、よう、と青年が手を挙げる。
「出し物をやるんだとよ。やっぱこういうときはパーッと騒がないとな!」
 ヴィクティム・ウィンターミュートは大仰な仕草でそう答えた。
 いかにも、人垣の正体はなにやら舞台で演目があると聞いた野次馬である。
 色気より食い気の二人としては、騒がしいことであればとりあえず首をツッコミたくなるものだ。
「街の奴らも無事だったみたいだしなあ。あー、でもどうせなら甘いもんでも喰いてえな」
 などと月都が言うと、ヴィクティムは顎をさする。
「そういや買いそびれてたな。どうしたもんか……」

 ……なんて呟きに、いいタイミングでやってきたのが景明で。
「多めに買い込んどいて正解だったな。ようお二人さん」
 共に死線をくぐった者同士、もっと言えば同じ旅団に属する者同士。
 気さくに声をかければ、買い溜めた団子やらなにやらを掲げ見せる。
「腹を空かせた野郎がいるんじゃねえかと思ってよ」
「「ナイスタイミング!!」」
 健康優良不良サイボーグ&ヤドリガミは、声を揃えて快哉を上げた。
「そりゃなにより。……ところで一体何が始まるってんだ?」
 と景明が問いかけると、なぜかヴィクティムが自慢げな顔をする。
「いや何、舞を披露するって話なのさ。いかにもこの世界らしいよな」
 どうやら舞い手は猟兵らしい。なるほど、彼としては見ものということか。
 なにせ彼は、己を脇役と位置づけ、猟兵達を主役に誂えるひねくれものである。
 脚光を浴び人々を楽しませる。英雄らしい仕事を目の当たりに……、
「ちょっくら仕込みもしてあるからな!」
 ……ドローンやら立体映像やらを表示しながら言うあたり、茶々を入れるつもり満々だが。
「舞、ねえ。ま、せっかくだし見とくか」
 一方の月都はあっけらかんとそう言った。
 人々が、猟兵がみな楽しくこの時を過ごしてくれているなら、彼はそれでいい。
 一方で同じヤドリガミである景明はと言うと、
「はっはっは、茶のお供にゃちょうどいいな! 眺めさせてもらうぜ」
 と、愉快げに笑った。彼もまた、この喧騒を楽しんでいるのだ。
 すると町人が祭囃子などをばどんどこどんどんと鳴らし始める。
 耳目が一斉に舞台上へと向けられた。するとそこには女が二人――。

●舞台にて
「おや」
「あら」
 ばったりと。舞台袖で女達は出くわしていた。
 共にキマイラである。ただし祖とする生物は大きく異なるが。
 かたや人魚めいた水の相――古びた刀を佩いたみさき。
 かたや山猫の耳と尾の相――立派な黒鞘を佩いた橙樹・千織。
「誰か居るだろうとは思っていたけれど、これは奇遇だね」
「そうですねぇ。ところでそれって……もしかして?」
 千織の目線は、みさきが提げた刀の鞘へと向けられている。
 対するみさきは、ああ、と呟いて、
「そう、"彼ら"だよ。状態のいいのがあったからね」
「どうしてまたそんなものを?」
「――彼らの"魅"を、咲かせたくなったのさ」
 艶やかに微笑み、咎人殺しは答えた。
 戦巫女はきょとんと目を見開いたあと、その粋を汲んでふふ、と笑い、
「では、皆さんを満足させられるよう頑張らないといけないですねぇ」
「そうだね。もっとも僕は専門じゃないから、目を瞑ってもらいたいものだけど」
 などと軽口を叩き合いつつ、祭囃子に応じて舞台に上がる。

 さて実際に舞台に昇ってみれば、そこには予想以上の人だかり。
 よくよく見やれば、なにやら見知った顔が団子をつまんで騒いでいる。
「あらあら、うふふ」
「完全に面白がっているね、あれは」
 女達は顔を見合わせてかたや苦笑い、かたやふんわりと微笑み。
 そして頷いて肩を並べ一歩踏み出せば、しゃらんと二振りの刀が鞘走った。
 かたやくすんだ、しかし朽ちかけた鋼に見事な刃紋を描いた無名の一振り。
 かたや黒鉄の刀身に、藍色の装飾が施された見目麗しく『藍焔華』である。
 並び立つ女はいずれも髪長く、されどそれは深き蒼と金黒の色合いで相反す。
 温かみのある橙の瞳と、水面に映る冷たき月のような金の双眸。
 それらが伏せられ、絡み合い、人々を見やるたびに誰もが唸り感嘆した。
 ちりん、しゃりん。ちりん、かきん、はさり――。
 巫女が舞い、鈴を鳴らす。
 術士が踊り、刃を振るう。
 かすかな潮の匂いと山吹の香りが混じり、桜の色を彩りとして辺りを満たす。
 刃と刃はすれすれを交錯し、かと思えばしゃらんと打ち合い火花を散らす。
 とん、とんてん、とんつくとん。
 どん、どんどこ、どんとことん。
 祭り囃子の鼓の音が舞を助け、やがて誰ともなく生み出した旋律が奏でられる。
 すると女達の背後に、六つのこの世ならざるモノ達が表れ出た。
 咎人殺し達はくるくると花開くように回り躍る二人へ挑みかからんとし、慄きたたらを踏んだり。
 かと思えば、しゃなりと背中を合わせる二人のそばへ侍り、讃えるように手を伸ばす。
 まるで道化じみた振る舞いである。
 剣舞は戦を模すこともあれば、乙女の想いのように、か弱く緩い旋律に変わりもした。
 やがてその周囲には咎人殺し達だけでなく、逢魔時に消えた剣鬼達の姿も現れる。
 人々はどよめいた。だが、乙女達の舞がこれを蹴散らし祓う。
 凛と鈴が鳴り響けば、剣鬼達は剣士に戻って安らかに逝った。
 飄と魚が跳ねるたび、呪詛は消えて幽鬼は露と消えていく。
(――これも、あなたのユーベルコードなのですか?)
 舞いながら、千織は眼差しでそう問うた。
(いいや、違うよ。これは彼の仕業だね)
 みさきはくすりと笑って応えた。視線の先には誇らしげな電脳魔術士。
 宴はいよいよ盛り上がる。雪と桜が、ざん、ざざんと斬られ解けて舞い散った――。

●煌々と/なりて明るき/桜かな
 かくして即興の双演舞は、大いに人々を楽しませて幕を下ろした。
 ――皆さんとこの街に、たくさんの幸せが訪れますように。
 戦巫女の切なる祈り、たしかに人々の胸を打ったことだろう。
「よう、二人とも大したもんだったぜ!」
 舞台を降りたみさきと千織に、景明が溌剌とした様子でねぎらいをかける。
 差し出された竹筒を受け取ると、冷たい清水が二人の喉を潤した。
「ふう……ふふ、ありがとうございますねぇ」
 ふんわりとした笑みを浮かべ、千織は礼を述べる。
「骸の海に還った彼らのもとへも、この光景が届いているといいのだけれどね」
「だからってまた這い出てこられるのは勘弁だけどなあ」
 月都はそう言いつつ、すっかり騒がしくなった人だかりを見やってふと微笑む。
「俺はもっとあったけー青空と、そこに桜のほうが好きだけどさ。
 ま、これはこれでありだろ。任務完了、ってやつだ」
「違いない。うまい飯を喰って、いいものを見て、大いに騒ぐ!
 それが一番さ。あの阿修羅のように、合戦だ怨みだ騒ぐのは無粋てぇもんだ」
 景明はそう言いながらも、心の中でひとりごちた。

 ――たしかに俺ぁ、かつて妖刀として扱われもした。けれど、それだけじゃねえ。

 と。
 彼を比類なき名刀と讃え、担い手ともどもその戦いに感謝した人々がいる。
 彼を信頼し、相棒と見込んでともに生死を駆け抜けた者達がいる。
 その記憶がある限り、大切に想われ使われてきた思い出が残る限り……。
「俺は、あんな風になるこたねえさ」
「ならまた彼らが現れた時は? オブリビオンはそういう業を抱えているよ」
 みさきの言葉に、ヤドリガミ達が振り向き頼もしげに笑う。
「「そんときゃまた、たたっ斬るまでよ」」
 一言一句違わず応え、月都と景明は顔を見合わせ呵々大笑した。

「ああ、そうそう。そういえば、あの出し物のことなのですが――」
 千織はきょろきょろ回りを見渡した。はて、ヴィクティムはどこに?
 何も怒ろうというわけではない。見事だったと褒めちぎろうとしたまでなのだが。
「いやあ、それがよ……」
 月都は頭をかきつつ答えた。その言葉を新たな人影が継ぐ。
「あそこにおるのだ、ほれ」
「あら」
 声の主を誰何するより先に、一同が目を向けると。

「どうだい、すごいだろう? こいつはひとりでに動く……あーそうだな。
 あんた達なりの言い方をすりゃあ、からくり細工ってとこか? どうだい!」
 などと、自慢のガジェットを露天商めいて広げて騒ぐカウボーイ。
 サムライエンパイアの人々は、彼が見せる電脳魔術に目を白黒させている。
 特にきゃっきゃと騒いでいるのは子供達だ。ヴィクティムはそれを見下ろし、
「ようし坊主、手を出してみな」
 おとなしそうな子供の手に、至極単純な作りのドローンを載せてやる。
 武装もなんの機能もない、所有者の周囲をぱたぱた舞う程度の簡単なものだ。
 目を輝かせて喜ぶ様子に、皮肉さなど欠片もないすっきりした顔で彼は笑っていた。
「戦いだの救いだの、んなもんは平和な世の中にゃいらねえってもんだ!」
 高らかに叫び、こちらを見やる一同のほうへと大げさに手を伸ばし。
「そうだろチューマ? 何気ない日常ってやつが、俺達の心を救うんじゃねえか?
 思うがままに楽しんでいこうぜ。主役どもの活躍を俺らに見せてくれよ!」
 と、ひたすら上機嫌である。
「……てな具合に、テンションバリバリ高くなっててよぉ」
 やや呆れた様子の月都。
「場酔いでもしたか、思うところあったのであろうなあ。うむ」
 その隣でしたり顔をして頷くのは、此度の呼びかけを担ったグリモア猟兵だ。
「なるほどですねぇ。ふふ、いいんじゃないでしょうか?
 年頃の男の子らしくて、私は可愛らしいと思いますよぉ」
 千織はあくまでふんわり笑う。
「大人の余裕だね。僕にはないものだなあ」
「やべえ、ヴィクティムがちょっとうらやましいぜ俺……!」
 みさきと景明の反応はなんか妙だった。
「っとそうだ、ムルへルベルよ。世話んなったし、差し入れでもしようかと思ったんだが」
 思い出したように月都が言えば、少年めいた賢者は首を振る。
「とんでもない、むしろワガハイのほうが差し入れを持ってきたところである。
 まだまだ昼時だ、あれだけ動いたのではさぞかし――」
 ぐぅう、きゅるる。
「……空腹であろと思って、な」
 照れたように手を口元へやって眉をハの字にする千織。一同は朗らかに笑う。
「ようし坊主ども! お前ら集まれ、天下の猟兵様がうまいもんを配ってくれるってよ!」
 ヴィクティムはヴィクティムで、勝手に呼び込みなんぞをしている。
 ……この場の誰も知らぬことだが、彼の少年時代を思えば無理からぬこと。
 生きるために他者を踏みにじった男ならば、子供達に思うところもあるのだろう。
「まだまだパーッと騒ごうや、しこたま買って食って、景色を楽しみてえ!」
 と、ヴィクティム。
「それは大歓迎だけどよ、こうなったら俺らもいっちょ舞でもしてみるか?」
「げぇ、マジかよ? 俺、そういうの苦手なんだけどなあ」
 景明の誘いに、月都は困ったように頭をかく。
「いいですねぇ。せっかくだから私達も観る側に回りたいですし」
「どうせやるなら剣客に振るわれたほうが、彼らも嬉しいだろうしね」
 千織とみさきもはやしたてる。遠くからとん、とんとんと鼓の音。
「いやはや――平和であることよなあ」
 彼らの背中を見やりつつ、宝石賢者はのんびりと呟くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神元・眞白
【POW/絡みは自由に】
綺麗…。雪と桜、一緒に見られるなんてこの世界は凄い。
あの武器達もこれで鎮まってくれるといいんだけど。
そうそう、飛威達にはお休みあげないと。こんな機会だし、ね。

眺めがいい所なんてあるといいけど、高い所に…なりそう。
出し物出す人もいるみたいだし、一目で見続けられる所。
時間のある限りこういう時間が続けば、ずっと続けば……冗談


パーム・アンテルシオ
桜と一緒に、雪。
ふふ。なんだか…あの場所を思い浮かべる光景だね。
こんなに素敵な舞台、一曲歌いたくもなるけど…
…いや。たまには、それもいいかな。

ユーベルコード…茉莉歌。
まぁ、傷を治す必要のある人がいるかは疑問だけど…BGMは必要だよね。
今日の選曲は…うん、演歌かな。
春に似合う曲。お祭りに似合う曲。明るい曲にしよう。
ふふふ。コブシとか、独特の間とか。これでも、結構練習してるんだよ?
人を魅せたいのなら…相応の努力だって重ねないとね。

…人とヒトが入り混じり、平和に暮らす世界。
老若男女問わず、幸せを漏らす光景。
私の、みんなの希望。望み。
…宴は、いつか終わる。それが運命だから。
でも、願わくば…

【絡み歓迎】


数宮・多喜
【改変・絡み大歓迎】

いやぁ、良かった良かった。
恨みの深さは相当なもんだったけど、
それだけの犠牲を払った分、
この泰平の世ってのは大事なんだろうね。
……と、いけねいけね。
またあいつらを呼び寄せちゃいけねぇや。
湿っぽい話は花見の席にゃ無粋だね!

桜の綺麗さはUDCアースと同じ、か。
こっちもこっちで風情があるねぇ……
ま、見るのは桜だけじゃないんだけどな!
団子屋に入ってみたらしを頼み、
腰掛けながらのんびり頬張るよ。
見知った顔がいたら労をねぎらいつつ
ずずっと茶をすする。
そういやムルヘルベルさんもこっちに来てるのかねぇ……?
いたならいつもの礼もしときたいな。



●歌声の/まだ醒めやらぬ/櫻かな
 舞台が設けられれば、当然のようにそこに惹かれる人も現れる。
 なにやら演目があるなら、それを一目見ようと集まる野次馬。
 そこで一商売打とうと軒を並べる、出店や香具師のたぐい。
 あるいは少女のように、自ら舞台に昇って芸を見せようという粋な輩である。

「ふふ、なんだか――あの場所を思い浮かべる光景だね」
 舞台に上がり、そこから見える景色と雪桜を眺めて少女は言った。
 パーム・アンテルシオの脳裏によぎるのは、この世ならぬ桜の森の風景か。
 ……はたまた彼女の根底に横たわる、悲劇的な過去の記憶か。
 儚い少女の微笑みからは、いずれなのかを見出すことは出来ない。
 気がついたらこうして舞台に上がっていた。いまはただ、そうしたかった。
 寂々とした阿修羅の声を思い出すたび、パームの心の端に積もる者がある。
 あるいはそれは膿と呼ぶべき、いずれ積み上がって害をなすものなのかもしれない。
 オブリビオンを、ことにこの世界の妖怪とされるモノ達を討つたびに彼女は想う。
 ヒトでありたい。そのためにはヒトの理を守り、貫かねばならない。
 ヒトの世に彼らはあってはならない。であれば……滅ぼさねばならない。
 ゆえに彼ら……オブリビオンとパームの思いが交わることは、ない。
「って、駄目駄目。せっかく上がったんだから、気持ちを切り替えなきゃ」
 意識と視線を、舞台から見える聴衆へと引き戻す。
「みんなが楽しく、この一時を楽しんでくれればいいなって思うんだ。
 だから私の唄、聞いてほしいな。陽の下、花の下――みんな一緒に」
 とん、とん、とんとことん。
 とん、ととんとん、とんとんとことん……祭囃子が奏でられる。
 少女が歌うは茉莉歌。明るい声とともに、どこからか芳しい花の香りが立ち込め――。

 ……観客席。
 万雷の拍手が響き渡る中、立ち上がって大きく手を叩く女の姿あり。
 その隣では、おとなしげな令嬢と、その付き人達が拍手をしている。
「いやあよかったよかった、あんな渋い演歌で来るたぁねえ!」
「……かなりギャップだった。ちゃんとコブシとか効いてたし、すごい」
 数宮・多喜、そして神元・眞白。共に見知った猟兵同士である。
 なにやら演目が始まるということで互いに労いつつ腰を落としてみれば、舞台に上がったのは桃色の髪と尾が可愛らしい小さな少女。
 それがUDCアースの一流歌手もかくやという勢いで朗々と演歌を唄ったのだから、彼女らが驚き讃えたのも無理からぬものである。
「ねえ、あなた達は猟兵だよね? ふふっ、ありがとう。聴いてくれて」
 目立っていたこともあってか、舞台を降りたパームが二人のもとへやってきた。
 特に第一戦における一番槍を担った多喜のことは、強く印象に残っていたようだ。
「おうさ! 見事だったよ、アタシも芸のひとつでも出来たらねぇ」
 流石にバイク乗り回すわけにもね、と多喜いわく。
「それなら、私が――」
「いや、それはやめといたほうがいい。悪い予感しかしない」
 なにか言いかけた眞白をスパッと止める辺り、大惨事の経験があるようだ。
 ……いや実際彼女ははっちゃけるとものすごい。ほんとに。マジで。
「まあ、あの子達にもお休みをあげないとだから、いいけれど」
 言いつつ眞白は、空を仰いだ。
「雪と桜、一緒に見られるなんてこの世界はすごいのね。とても綺麗。
 この時間が、ずっと続けばいいのに……なんて」
 冗談だけど、と二の句を次げば、意外にもパームが首を横に振った。
「ううん。私は心からそう思うよ。人とヒトが入り混じり、平和に暮らす世界を」
 老いも若きも、男も女も、大人も子供も楽しげに騒ぎ立てる光景を見渡す。
「みんながああして、幸せを漏らす風景。それが私の、"みんな"の希望だから」
 はじめと後とで、"みんな"という言葉が示すモノは、もしかしたら違うのかもしれない。
 余人がそれを知ることはあるまい。おそらく、彼女がそれを明かすことも。
 確かなのは、
「宴は、楽しい時間はいつか終わっちゃう。それが運命だから。
 でも願わくば……ずっと続いてくれればいいのに、ってね」
 少女は心の底からそう思い、戦って戦って――彼女らと共に、勝利を掴んだということだ。
「なぁに、恥ずかしがることじゃあないと思うよアタシは。
 まあ、連中の怨みの深さは相当だったけどね。そんだけこの平和は大事なもんなのさ」
 多喜はからっとした様子で言い、いけねいけねと頭をかく。
「こんな話ばっかりしてると、折角斃したあいつらを呼び寄せちまいそうだねえ」
「……それはちょっと、勘弁して欲しい」
「ふふっ、そうだね。じゃあもっと楽しい話をする?」
 眞白とパームがそれぞれ頷けば、多喜は顎をさすり、
「桜も綺麗だけど、やっぱこういうときは団子にお茶が一番だよ!」
 かくして、三人娘は通りの店へと場を移すことにした。

 ……の、だが。
「おや」
「あらまぁ! こんなとこにいたのかい」
 のほほんと団子をつついていたムルヘルベルと、多喜らが出くわした。
「ワガハイこうみえて甘いものには目がなくてな、オヌシらもどうだ?」
 多喜は即答しかけ、思い出したように二人を見やった。
「もちろんっ、そのためにここまで来たんだもの」
「……奢りなら」
 なんだか食い意地の張った声があった気がするが、さておこう。
「そうそう、さっきの歌声はここまで届いていたのである。
 いやはや、歌というのは実に興味深いものであるなあ。見事なものであった」
 などとムルへルベルが褒めれば、パームは小悪魔めいた笑みで礼を述べ、
「コブシとか、間とか。これでも、結構練習してるんだよ?
 誰かを魅せたいなら、相応の努力だって重ねないとね」
 と、胸を張って答える。
「"進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む"であるな。いや実に見上げたもの」
「……それ、誰の言葉?」
「アタシ知ってるよ、たしかあの、えーと、お札に書いてある……」
 暖かいお茶と茶請けのおかげもあってか、一同はするすると歓談を楽しんだ。
 できたてのみたらし団子などをばつまみ元気に語らうさまは、実に若々しい。
 そんな彼女達だからこそ、怨みや殺戮を謳う阿修羅を打倒できたのだろう。
「たまにはあんなのも、なんて思っていたけれど……。
 こんなに喜んでもらえるなら、もっと唄ってみても、いいかな?」
 ふとしたパームの呟きに、一同は、
「いいと思う。私にはそういうことは出来ないけれど」
「歌ってのぁこういうハレの日にはぴったりだからねぇ!」
 と、爽やかに彼女の歌声を讃え、褒めちぎった。
 少女は少しだけ照れくさそうに、ふわふわした尾を揺らして目をそらす。
「せっかくこんなに綺麗な桜が咲いているんだもん、ね」
 散りゆく桜の花びらを見る。脳裏にはまた、あの時、あの場所の光景が甦った。
 けれどももう、少なくともいまこの場で、寂寥感が押し寄せることはない。
 美味しい甘味と、暖かなお茶。そして肩を並べた人々が居る限りは……。

「……ところで、やっぱり私もなにか」
「いややめとこう。眞白、あんたはダメだ」
「なぜそこまで言うのであるか……?」
「アルダワで豚を相手に、ちょっとね」
「「豚」」
「迷宮で実況したり、した」
「「実況」」
 ……いまが平和なのだし、特に問題はないはず……で、ある。多分、おそらく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

傀童・沙華
【POW】

ふむ
まぁわらわはこういうときは酒を呑んで、桜を愛でるぐらいしかせんから、静かにひっそりと杯に浮かぶ桜を楽しむとするかの

骸らの 終ぞ叶わぬ 夢の跡
さりとて桜花 春告げ巡る

夢の跡とはいえ、然りとて……そうであっても桜は春を告げて巡るのか
夢の跡が去りとて、桜が春を告げ巡るのか

どちらにせよ、戦場で死んだ骸はすでに過去のものじゃ
戦場で、如何様な夢を見て戦ったかはあずかり知らぬが、
世の泰平を願って武器を取った者達もおるはずじゃ

静かに今を生きる者達を祝福し、巡る季節を楽しもうではないか
のぅ?
今は亡き、骸達よ



●夜桜に/後ろの鬼の/在りてこそ
 祭りの楽しみ方は人それぞれ、人でなきモノならばなおさらに多様だ。
 通りの喧騒に紛れ、楽しく浮かれる人々の雰囲気を味わうもの。
 舞台に上がり耳目を集め、むしろ積極的に己から騒ぎを起こすもの。
 あるいは彼女のように、静かな一角で、ゆるゆると酒を楽しむものなどである。

 夕暮れのように真っ赤な赤い髪が特徴的な、羅刹のたおやかな美女である。
 しかしてその美貌と裏腹に、全身からは隠しようのない修羅の気配が放たれていた。
 暴力を人の形に凝り固めたような羅刹の名を、傀童・沙華と云う。
「ふむ」
 雪桜を見上げ、沙華は呆けたような、甘やかな吐息を漏らす。
 温い酒のせいか、細く艶やかな唇からは白く湯気めいたそれが溢れる。
「骸らの/終ぞ叶わぬ/夢の跡――」
 ふと思い出したように、女は一句を……いや、短歌を詠んだ。
 下の句はこうだ。
「……さりとて桜花(おうか)/春告げ巡る」
 寂々とした歌である。残響が夜の闇に溶けると、褒めそやすようにそよ風がひとつ。
 桜の花弁と粉雪が揺らぎ、女の傾ける杯にふわりと落ちた。
 沙華のような左道の者からすれば、むしろ心は彼奴らのほうに寄るか。
 怨みを、呪いを果たせぬまま砕け朽ちたモノどもへの……いや。
 彼女がむしろ想うは、それを振るっていくさに斃れたもののふ達だろう。
「ただ死合を求めて剣を執るものも居よう――わらわのようにな。
 然れども人はおのが営みを守り、時には己以外の何かのために命を賭ける」
 桜が、はらはらと花弁をこぼす。
「この里に骨を埋めたもの達の中には、そうして泰平を願っていた者もおるはずじゃ。
 なればこそ――こうして桜は咲き、春を告げた。四季は巡り草木は芽吹く」
 桜の役目が春の到来を告げることならば、この里の桜達はなんと哀れなことか。
 こうして冬と春の境目を彩り、それらはやがて花を散らすのだ。
 逢魔時を彷徨った、あの愚かで哀れな朽刃達のように。
 あるいは……泰平を願い、屍となった者どものように。
「如何様な願いを持とうと――死ねば骸。骸は過去でありこの世には亡い。
 はてさて、桜が春を告げるは夢の跡ならばこそか、あるいは別なのか……」
 くく、と喉を鳴らすようにして笑い、沙華は杯を呷る。
 ……女は血肉湧き躍る死合を楽しむと同時に、こうした雅やかな時をも愉しむ。
 悪鬼そのものの貌を血に染めて、喧嘩上等を謳い対手を滅殺することも。
 この静かで桜だけが在る夜のもと、酒を呑みながら歌を詠むのも同じことである。
 矛盾やもしれぬ。しかれど鬼哭童子と呼ばれるモノは、そういう在り方をしていた。
「どうあれ桜は咲き誇る。いずれ散るさだめを識りながらも、鮮やかに。
 であれば今は静かに、今を生きる者達を祝福しようではないか」
 はたしてそれは誰に語りかける言葉か。
 咲き誇る桜達への、慰みか。
 降りしきる雪と、去っていく冬への別れか。
 それともその両方か。女はくすりと笑む。艶然と、ぞくりとするような微笑を。
 そして告げた。
「季節は巡る。わらわはそれを愛し、四季を慈しみ、ただ思うがままに在ろう。
 それこそが泰平というもの――のぅ? いまは亡き、骸達よ」

 さあっ、と強く、一陣の夜風が吹き抜けた。
 酒杯を呷る鬼の姿を、目もくらむほどの桜吹雪が覆い隠し――。
 それが通り過ぎたあとには、そこには誰も居ない。
 まるで一夜の、夢のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
絡み歓迎

ふう、ようやく一息つけますね。
式神たちの補給も必要ですし小腹も空いてきました。
式神たちは電気を充電することでも補給が出来ますが、この世界にコンセントは無さそうですね。
仕方ないので私の食べた物からエネルギーの補給です。
何か食べ物を買うとしましょう。

おや、あそこに団子屋がありますね。
温かい緑茶と共に団子を頂ましょう。
折角ですから様々な種類の団子を食べます。
三色、みたらし、ごま、黒蜜、まだまだありますね。
ええ、全部食べきるまでは帰りませんとも。
表情にはあまり出ませんが、これでも美味しいと思っています。

納得の行くまで食べたら帰還します。



●胸うちを/桜で埋めて/次の夜(よ)へ
 多くの猟兵達は、里の人々と同じく穏やかな一時を過ごしている。
 始まったばかりの、終わりの見えぬ戦いだ。なにせ敵は過去そのもの。
 幾度滅ぼそうと、宿縁に結ばれぬ限り彼奴らは必ず海より来たる。
 途方もない戦いに敢然と挑むには、こうした安らぎの時は必要不可欠である。
「……ふう」
 悪を討ち正義を執行する者と、己を認識する六波・サリカにとってもまた同様。
 もっともその表情は、まるで鉄のように不動だが。
「ようやく一息つけますね……いい加減、式神達も補給が必要でしょうか」
 かつての戦いを見た者、あるいは彼女を知る者ならば意図を理解しよう。
 サリカの半身はほとんどが鋼によって構成され、その一つ一つが異なる役割と術式を与えられた式神なのである。
 星を読み運気を見、この世ならぬモノどもを御するための陰陽道。
 鋼を鍛え武具を打ち、世の理を活用して敵を滅ぼすための技術。
 この世の陰と陽に根ざす二つの道が交わった結果。
 これこそ、サリカという戦士を構成するほぼ全てと言っていい。
「それに……」
 しかしだ。彼女とて、うら若き18の乙女である。
 いやむしろ鋼に置換したその体は、もっと下の年齢で止まっているやもしれぬ。
 くぅ、と。控えめに、しかしたしかに――少女のお腹が不満を零した。
「……小腹も空きました、ね」
 生理現象は抑えようがない。サイボーグとて命ある人なのだから。
 ゆえに彼女は仕方がないと零しつつ通りを征く。
 その足取りがほんの少しだけ弾んでいるように見えるのは、気のせいだろうか。

「おや」
 するとほどなくして、彼女は一軒の団子屋を見つけた。
 これといって特徴のない、この世界ではありきたりな佇まいの店である。
 だが彼女にとっては琴線に触れる何かがあったらしく、
「すみません、お茶と団子を頂けますか?」
 と、迷わず軒先に顔を覗かせた。
 すると人の良さそうな老婆が、にこにことした様子で応対に出てくる。
「あら可愛らしいお嬢さんだねえ、いらっしゃい」
「……どうも」
 相変わらずの鉄面皮でぺこりと会釈し、品物一覧などをばしげしげ見やる。
「ずいぶんとたくさん種類があるのですね」
「そうでしょう、そうでしょう。どれでも好きなの、選んで頂戴ね」
「ふむ……」
 至極真剣な顔つきで、しばし一覧とにらめっこをする。
 三色、みたらし、ごまに黒蜜。他には白玉、漉し餡粒餡など様々だ。
 はてどれを選んだものか、かなり熟考している。
 にこにことそれを見守る老婆も気にせず、たっぷり数十秒は考え……。
「決まりました」
「はい、はい。どれにするかい?」
「全部で」

 間。

「……はい?」
「ここに書いてあるものを一つずつ、全部お願いします」
 至極真面目な鉄面皮であっさりと言う。……本気だ。
「そうかい? お嬢さんじゃあ食べきれないかもしれないけれど……」
「大丈夫です。お腹が空いていますので」
 いっそ自信すら満ちた受け答えだったという。
 老婆はぽかんとしつつも、ならばとしばし店奥に引っ込む。
 待っている間にと出された、渋めのお茶と串団子をぱくりと一口。
「これは、ふむ。なるほど」
 ぱくりぱくり。老婆が次の団子を持ってくる頃には食べ終えていた。
「あらぁ、ほんとにお腹空いてたんだねえ」
「いえ、それもありますが――」
 相変わらずの鉄面皮のまま、サリカは言った。
「とても美味しかったです。この店を選んで正解でした」
 表情も声音も平坦なままだが、心からの言葉である。
 次の団子をぱくつきながら、軒先をこぼれていく雪桜を見やる。
「……この一時を、私は忘れないでしょう」
 次の悪を討つために。次の次の悪を討つために。
 絆を喪った少女の歩みが止まることは、決してない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御劔・姫子
【POW】【御狐はん(f00307)とお花見】
はぁ…御狐はんったら、
無茶なことするんやから…うち、あまり得意やないけど【救助活動】【医術】で手当てしたるから、こっち来てな?

…これでよしっ♪ ほんなら、少し桜でも眺めながら散歩でもしよか?

うちね、好きなんよ…桜。
冬が終わって、春を知らせてくれるこの花が…
咲いた思ったら、一月も経たんうちに散ってしまうんも、何処か儚げな感じがして…

雪解けの 道に咲きしは 桜花 
のどけき春を 君と歩まん

…ふふっ、なんてなっ♪


御狐・稲見之守
【御劔姫子f06748と同行】

[POW]よっと…ッ…、さすがに手痛くやられてしまったナ。なぁに、しばらく休んでいればこの程度なら……ふふ、お前さんにあんな戦いはするなと言われては、このワシも形無しよ。

……ありがとうじゃよ。姫子。

そうさな、この世に桃源郷があるわけでもなく。春を謳い、咲いては散りいく…無常の色よ。ゆえに人は桜を儚み、そして愛ずる。時に人は己の生を桜に例えるが、この身には舞い散る桜の如き儚さなど叶わぬ。

獣啼く 路に逢えりし 姫桜
今ぞ盛りと 結びし花よ

ふふっ、歌は得手ではなくてなァ。



●夜明け前
「はぁ……御狐はんったら、ほんとにもうっ」
 阿修羅が斃れた直後、御劔・姫子は心底安堵した様子で溜息をついた。
 そして滂沱の血を流し、膝を突く御狐・稲見之守へと駆け寄る。
「無茶なことするんやから……斃れてもうたらどうするん?」
 小言を言いながらも助け起こしてやる。
「よっと……ッ、いやあ、さすがに手ひどくやられてしまったナ。
 なぁに、しばらく休んでおればこの程度……」
 言いかけた稲見之守は、しかしきょとんと言葉を失った。
 姫子がやおら自らの袖口をぴっと裂き、それを包帯代わりに傷口に巻き始めたからだ。
「待った待った、お前さん何をしておる? 一張羅じゃろうに」
「ええからじっとしといて? うち、あんまり得意やないけど手当はできるんよ」
 真剣な表情で言われれば、さしもの妖狐もへにゃりと耳を伏せ、
「……ううむ。こうなるとワシも形無しじゃな……」
 おとなしく、言われるがままに手当を受けたという。
 夜明け前に、しばし静謐が流れた。

●午前
 そしてしばしあと、日が昇ると共に始まった宴の通りにて。
 あちこちを手当された稲見之守と、姫子は並んで人並みを歩いている。
「うんうん、ばっちりやね♪ ……もう痛ないやろか?」
「大丈夫じゃよ、散歩であったろう? 行こうではないか」
 桜並木をしずしずと歩く、背丈のだいぶ違う乙女二人。
 そこらの者が見るなら、さしずめ姉妹かそれに近しい仲良し同士に見えることだろう。
 実際は、小さき者のほうがはるかに長命なのだが。
「うちね」
 そんな呑気な散歩の途中、ふとした時に姫子が口を開いた。
「好きなんよ、桜」
「ほう。一体なにゆえに?」
 二人の視線は、色鮮やかに咲き誇る大樹へと。
「寒い冬が終わって、暖かな春が始まったことを知らせてくれるとこやろか」
 けれども微笑みは失せ、わずかに寂しげな表情に変わる。
 散って舞う花弁の在り様に、思うところがあるらしく。
「咲いた思ったら、一月も経たんうちに散ってしまうんも、どこか儚げで……」
 寂寥感があらばこそ、その刹那の咲き誇る美しさを徳とする。
 風流、雅、そして粋に通じる、古式ゆかしい心持ちだ。
「そうさな――」
 一方の稲見之守は、しばし思案したのちにこう答える。
「聞けば、桃源郷なる場所には枯れぬ桜と桃の木が咲き誇り、ただ春が永劫続くという。
 ま、読んで字の如しじゃナ。古来より桃は神聖なものと崇められてきたゆえに」
 訥々と語ってみせれば、二つの異なる色をたたえる瞳を細めて、
「じゃがそれはこの世ならざる異郷の地。現世に永遠不変などあろうはずもなし。
 なればこそ、春を謳い咲いては散りゆく桜の色は――無常の彩りそのものよ」
 年経てなおあどけない相貌を残す妖狐には、無縁の在り方だ。
 風が吹き抜ければ、それはまるで稲見之守の頬を慰めるように撫でて去っていく。
「大河の如き時の流れより見れば、人の生も春の桜とまた同じ一瞬のもの。
 ゆえに人は桜を儚み、そして愛ずる。ワシはそれを好ましいものと思うゾ?」
 冗談めかした語尾で締めると、姫子はくすくすと微笑んだ。
「御狐はんは色んなことを知っとるんやね。それってつまり――」
 間をおいて、一言。
「そう考えるうちのことも、っちゅうことやろか?」
 お返しとばかりの、いたずらっぽい声音である。
 いつものようにおどけてみせると思っていたが、しかし妖狐はふふんと笑い、
「そうかもしれんのう」
 などと、気取った調子で応えた。

 ……風が吹き抜け、桜吹雪が二人の間を駆け抜ける。
 彼女の言葉を享けた時、はたして姫子はどんな面持ちだったのだろうか。
 きょとんとしていたのか。
 ほんとにもう、と笑っていたのか。
 はたまた予想だにない言葉に――頬を、赤らめていたのか。
 それは誰にもわからぬ。桜は束の間彼女達をそれぞれ覆い隠し、過ぎ去った。
 それはまるで、この世界に横たわる大河の如き時の流れそのもののようである。
「……御狐はんったら、ほんとにもう」
 ただ姫子はそう返したのみだ。
 そこで稲見之守は、まるで古い童謡を口ずさむかのように、歌を詠んだ。
「獣啼く/路に逢えりし/姫桜――今ぞ盛りと/結びし花よ」
 そしてふふっ、と笑う。
「歌は得手ではなくてなァ。いまいち慣れぬ」
「……そんなことないと思うけどな?」
 言ったのち、姫子も返しの歌を詠んだ。
「雪解けの/道に咲きしは/桜花……のどけき春を/君と歩まん。ふふ、なあんてなっ」
 そして二人して顔を見合わせ、くすくすと生娘めいて笑いあった。
 何がおかしいのか、やがて笑声は明るく響く呵々大笑へと移りゆく。
「らしくないのぅ、ワシも姫子も!」
「ええやん、せっかくの花見日和なんやから……って、え?」
 今度こそ桜が隠すことなく、きょとんとした姫子の顔が見やれた。
 それをまっすぐに見返しながら、妖狐は口ずさむ。
「ありがとうじゃよ、姫子」
 その声音に載せられた想いの色は、その銘は――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルジャンテ・レラ
【書架】
労いのお言葉をありがとうございます。
皆さんと古書堂外でお会いするのは初めてですね。
(不思議だ……言葉にはできないが、胸の辺りがあたたかい)

出店が豊富ですね。
一品ずつ購入し、分け合いましょうか。
私は手毬寿司を。
食べやすいサイズが決め手でしたが、見た目も華がありますよ。

玖珂さんはご配慮ありがとうございます。
此処ならば丁度よさそうです。

桜餅に苺大福とは、フィオリーナさんらしいですね。
ジナさんのお重と玖珂さんの杯は趣があります。
(下段には自然と口元綻ばせ)

桜に雪……。風情、というんでしたか。
この世界ならではの美しさですね。
移ろう他の季節も、皆さんと見られたら。
とても嬉しいと……そう、思います。


フィオリーナ・フォルトナータ
【書架】の皆様と
大勢で花を愛でることは久しいので、とても楽しみです
出店に並ぶ品々はどれも華やかに彩られて目移りしてしまいますけれど
わたくしはおやつに桜餅といちご大福を
…どちらも美味しそうで選べなかったので、両方です
玖珂様、素敵な場所を見つけて下さって有難うございます
手毬寿司の愛らしさは微笑ましく、稲荷寿司の香りにはついお腹の虫が起きでしまいそう
鶯餅の春の緑も宴には欠かせません
持ち寄りの品々で小腹を満たし、桜香る温かな白湯を頂いてほっと一息
目に映る桜と皆様の楽しげな声に自然と笑み溢れ
胸があたたかく感じるのは、きっとこの優しくも穏やかな時間のおかげでしょう
願わくはまたこのように皆様と過ごせますよう


玖・珂
【書架】
外で逢うとまた異なった趣があるものだな
新鮮だ

御飯物や甘味は足りておりそうだ
ならば私は ――店主よ、
……そうか、此の中で酒を呑めるのは私だけか
燗酒を一つ、それと白湯を三人分頼めるか

品を受け取りつつ
桜見に良い床几台を置いた場所は無いか尋ねてみよう
毛氈が掛けてあれば尚良なのだが

其々の杯に、別で買うておった桜の塩漬けを浮かべて渡すぞ
アルジャンテは先の戦いお疲れ様だ

手毬寿司に稲荷寿司、目移りしてしまうな
フィオリーナの甘味は花が咲いた様で愛らしい
ジナが持つお重の下段から出てきた鶯餅には
ここにも春が隠れていたのかと笑みが零れる

春を集めた馳走に景色、皆との会話を肴に杯を傾ければ
あたたかさが裡に沁みる


ジナ・ラクスパー
【書架】の皆様と
依頼の解決になんて相応しい花雪の宴
アルジャンテ様、お疲れ様でした
ゆっくり疲れを癒してくださいませね

お花見ってこんなに賑やかなのですね…!
あれこれ惹かれ気もそぞろ
ご飯屋さんで頼んだ小さなお重には
錦糸玉子に生姜と紫蘇の爽やかな稲荷寿司
下段には可愛らしい鶯餅を

手毬寿司の愛らしさに歓声上げて
アルジャンテ様の心遣いは見習うばかり
玖珂様の花茶とフィオリーナ様の桜餅の見目香りにはほっと一息
新しい桜の楽しみ方に、いちご大福の組み合わせの妙…
大変、また新しい幸せを知ってしまったのです…!

笑み交わすたび温もる心は雪も溶かせそう
季節が巡るたびどうか、こんなふうに
皆様と過ごす時間が増えていきますように



●昼前の宿場街にて
 模倣刀の群れ、そして闇刃阿修羅との戦いを勝ち抜いた猟兵達。
 思い思いの時間を過ごす彼らの中には、親しい相手を誘った者が少なくない。
 人形の射手、アルジャンテ・レラもその一人である。
 ……もっともいまこの里で目当ての者らを待つ彼の表情は無きに等しい。
 それは、どこか無愛想にも思える凍てついた相貌だ。
 とてもではないが、こんな余暇を楽しむようには見えない。
 だがそれは杞憂というものである。なぜならば――。
「! ……皆さん、ようこそ。と私が言うのも妙な話でしょうか。
 突然の誘いを快諾してくださって、ありがとうございます」
 三人の男女にうやうやしく挨拶するアルジャンテの胸には、仄かな暖かさがある。
 彼はただそれを知らないだけ。その名を、その意味を知らぬ幼子であり、
(不思議だ……言葉には出来ないが、どうしてこんなにも……)
 人よりも人らしくあろうとひたむきに努力する、不器用な少年なのである。

「まあ、なんて綺麗な景色なんでしょう!」
 藍色の髪をした少女は、やってくるなり金の瞳を輝かせた。
「戦いの終わりに相応しい、花雪の宴……と、いうところでしょうか。
 ふふっ、アルジャンテ様? 無事で何よりです、お疲れ様でした」
 しかして一転、ジナ・ラクスパーは淑やかな声音で彼をねぎらう。
 若き義憤のままに故郷の森を飛び出し、まだ見ぬ世界を好奇心の赴くままに楽しむ、何の変哲もないエルフの乙女である。
 そんな自由で明るい振る舞いは、多くの人々を癒やしていることだろう。

「そういえば、私達がこうして店の外で逢うのは初めてだな」
 また異なった趣があるものだ、とひとりごちる理知的な女性。
 しかしてその乳白色の髪の合間からは、黒曜石めいた角が顔を覗かせる。
 玖・珂――いや、本人は通して玖珂と名乗る、羅刹の騎士である。
「新鮮な心地だ。アルジャンテ、誘ってくれたこと嬉しく思う」
 ふ、と浮かべた微笑みには、隠しようもない気品が漂っている。
 どこか達観したような老成さも相まれば、とても若者とは信じがたい。
 降りしきる粉雪のように透き通った白肌が、この景観に実に似合う。

「ええ、そうですね。わたくしもこうして大勢で花を愛でるのは久しぶりです」
 ふんわりと微笑んだ空色の瞳の乙女が、二人の言葉に頷いた。
 これが人形であるなどと言われて、素直に受け止められる者はそう居まい。
 もっとも、それはとうのアルジャンテ自身もそうなのだが……。
 ともあれフィオリーナ・フォルトナータは、美しきミレナリィドールである。
「素晴らしいこの景観。楽しみにしていた甲斐がありました」
 これから過ごす一時に思いを馳せるたび、形のいい口元が笑みを浮かべる。
 彼女らは、そしてアルジャンテはさる古書堂を縁として集まった猟兵だ。
 一同がそれぞれに纏う静謐と落ち着きようは、まさにその所以といえる。

 つまり、一言で言えば上品なお嬢様と少年の集いである。
 桜に藍に銀と乳白。髪色も、纏う装いも四者四様で鮮やかな面持ちだ。
 そんな若者達が通りを練り歩けば、自然と余人の注目を浴びた。
「すごい人だかり、お花見ってこんなに賑やかなのですね……!」
 桜を見てはほうと吐息を漏らし、かと思えば人垣に目を輝かせる。
 さりとて次は立ち並ぶ出店の品々に……と、ジナは気もそぞろに言った。
 この賑やかで騒がしい雰囲気、それ自体がなによりも楽しくて仕方ないようだ。
「ジナは相変わらずだな……っと、迷い人はもう一人居たか」
 玖珂が苦笑いを浮かべたのも無理はない。
 彼女が目線を向けた先、フィオリーナも出店の品々に目移りしていたからだ。
 もっともフィオリーナの場合、物珍しさゆえというわけでもない・
「ううん、困りました。どれも華やかに彩られていて迷ってしまいますね……」
 桜をイメージした旬の甘味であるとか、はたまた色彩にこだわった弁当だとか。
 里の人々が贅を凝らした品々である。どれか一つを、とは決めづらいだろう。
「ではそうですね、ひとり一品ずつ購入し、分け合うというのはどうでしょうか」
 ここでアルジャンテが言った。まさに鶴の一声というやつだ。
 各々が品を持ち寄れば、種々様々な味を楽しめるだけでなく話の種にもなる。
「それ、とっても楽しそうです! さすがはアルジャンテ様ですねっ」
 などと、ジナは素直な面持ちで彼の名案を褒め称える。
「皆さんがどのような品をお持ちになるのか、考えながら歩くのも楽しそうです」
 フィオリ―ナもまた首肯し、さっそくめぼしい品々を見定め始めた。
「いえ……物の本に、そういうアイデアが書いてあったのを思い出しまして」
「書物から得た知識か。なるほど、書架に集いし私達には似合いの案だな」
 玖珂も気に入ったらしく、彼の言葉に感心しながら頷いてみせた。

「ではそうだな……ああ、そこな店主よ。注文と、一つ聞きたいことがある」
 玖珂が声をかけたのは、出店ではなく通りに軒を並べた酒屋の者だ。
 初老と思しき男がなんでございやしょう、と応じれば、
「まず燗酒を……っと。そうか、此の中で呑めるのは――」
 流れるように酒を注文しかけ、思い出したように一同を見やる玖珂。
 人形やエルフとはいえ未成年は未成年。つまりはそういうことだ。
「……仕方あるまい、燗酒は一つ。それを白湯を三人分頼もうか」
 指を立てて言いつつ、彼女はこのように問いかけた。
「桜見に良い……そうさな、床几台が置いてある場所を知りたい。
 毛氈などが掛けてあればなおよかろう。通りの店はどこも満席であろうしな」
 彼女らしい気遣いに溢れた質問であった。店主はいくつか目星を言い挙げる。
 そして品物が運ばれてくるのを待つ間、三人に振り返り、
「というわけだ。場所は私が取っておこう。各々好きに品定めするが良い」
 と、告げたのである。

●吹く風の/にわかに寒き/桜かな
 ややあって、通りからいくらか離れた広場の一角。
 赤の毛氈が敷かれた床几台にて、一同は再び顔を合わせた。
「素敵な場所ですね……玖珂様、お待たせいたしました」
 初めにやってきたフィオリーナの包みからは、甘やかな匂い。
「ここなら景色を楽しみながら舌鼓を打てそうです」
 次いで現れたアルジャンテの手には、上品な装いの小箱がある。
「どれも心惹かれて、選ぶのが大変でした……」
 最後に戻ってきたジナは、二段のお重を携えてきたようだ。

「ではまずは私から」
 アルジャンテは、自身が持ってきた小箱の封を紐解く。
 中から現れたのは、ちんまりとした大きさに丸まった手毬寿司である。
 一品一品丹精込めて握られた、色彩豊かな手作りの品々だ。
「彩りもさることながら、花見をしながらつまむには手頃な大きさかと」
「サムライエンパイアには、こんな可愛らしいお寿司まであるのですね!」
 見目麗しさもさることながら、実に食欲を刺激する香りがたちこめる。
 初めて見る職人の技に、ジナは食べるのが勿体無いとばかりに眉根を寄せた。
「……そういえば、お寿司というとジナ様のお重からもなにやら……」
 フィオリーナは皆まで言わず、ほんのり頬を染めて口に手をやる。
 昼飯時だ。彼女のような瀟洒な乙女が、お腹の虫に苦しめられるのも必定なり。
「ふふ、私もご飯屋さんに決めたのですけれど」
 言いつつジナが蓋を開くと、なるほどこぶりな稲荷寿司が並んでいる。
 生姜と紫蘇の芳香が色もなく起き上がれば、いよいよ一同の空腹をつっついた。
 下段には緑が目に鮮やかな鶯餅。食後の甘味も心得た至れり尽くせりのお重である。
「……これは」
 ふと呟き、アルジャンテははっと我に返る。
 なにやら一同が、自分の顔をまじまじ見つめていたからだ。
「すみません、何か失礼を……?」
「いいや」
 玖珂は笑いながら、桜の塩漬けを浮かべた白湯の杯を差し出す。
「アルジャンテがそんな顔をするのは、珍しいと思ってな」
 そこで彼は気付いた。……どうやら自然と、口元が綻んでいたらしいことに。
「ふふふふっ」
「そ、それよりも」
 にこにこ微笑むジナの眼差しにこらえきれず、アルジャンテは言う。
「フィオリーナさんは、その。どのような品を?」
「わたくしですか? せっかくですのでこのようなおやつを……」
 開いた包みの中身は、この日にぴったりの桜餅といちご大福。
 選べなかったので両方です、などといたずらっぽく微笑んで言ってみせた。
「なんだか、フィオリーナさんらしいですね」
「いやまったく。どれもこれも目移りしてしまうな」
 アルジャンテの言葉にうなずきながら、玖珂がくいと酒杯を傾ける。
「春を集めた馳走にこの景色。そして皆との語らい。肴には事欠かんよ。
 こうなってくると、追加の酒を頼んでくるか迷ってしまうくらいだ」
 そんな冗談に、一同は朗らかな笑い声を漏らした。
「またひとつ、新しい幸せを知ってしまったのです。どうしましょう!」
 大変、などと声をあげるジナの振る舞いに三人がまた笑い、
「では早速、頂くといたしましょうか」
「ええ、ではまずジナさんの稲荷寿司から……」
 フィオリーナの一声が、ささやかな宴の始まりを告げたのだった。

 四人はそれぞれに想う。
 うららかな冬と春の狭間の日、雪桜のもとで過ごす此の時間を。
 それがもたらしてくれた、胸の中のほのかな暖かさを。
「桜はいずれ散って、春は終わってしまいますが――」
 アルジャンテがふと呟いた。
「……移ろう四季を、これからも皆さんと見て、過ごせたら。
 とても嬉しいと、そう……思います」
 書では得られぬ"風情"というものを感じながらの、心からの言葉である。
 乙女たちはみな、にこりと笑って頷いた。
 粉雪と桜は、一同のもとへと降りしきり舞い続ける――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォーリー・セビキウス
【花の涯】で参加

食べ易く、見た目も華やかで一人一品…と考えた時、エリシャが寿司を作っているのを見て思い付いてね。
新キャベツやタマネギ、後はアスパラガスや菜の花なんかの春野菜を使ったサンドイッチを作って来たんだ。
更に花見らしく、桜チップで燻製したサーモンを挟んで桜のクリームチーズで味付けをな。(ドヤ顔で話す)
人数分以上あるから、遠慮なく食べてくれ。

ほう、桜の花の塩漬けか。良い趣向だ、手毬寿司の味も良い。
それは日本酒か?サンクス、有り難く頂くよ。
肴が団子というのも乙なものだ。

聞いた事はあったが、する機会は無かったからな…いや、成る程。花見か、存外悪くない。
こうして羽を伸ばすのも、偶には良いかもな。


神羽・リオン
【花の涯】で参加

奇鳥さんの三色団子に目を輝かせて
お団子、実は大好きなのよ。

エリシャさんの一品は手毬寿司ね!しかも桜の塩漬け?可愛い……!
見た目も楽しめる料理を選ぶのはさすがね。

ドヤ顔で話すセビキウスさんには思わずくすりと笑って。
サンドイッチに感嘆の声を。

一人一品……だったわね。これでも良かったかしら?
私は飲み物の差し入れ。
メイドに作ってもらった桜ソーダ。買ってきた桜色の日本酒を。
セビキウスさんはお酒が飲めると思ったから一応ね。
持参してきた可愛いグラスを皆に配り

「桜には神様が宿ると聞いたことがあるの。だからね、今日は特別よ。」
慣れない手つきだけれど皆に飲み物を注ぐわ。
神様が見ているかもしれないし


千桜・エリシャ
【花の涯】の皆さんとお花見へ

一人一品持ち寄るというお話でしたわね
私は手毬寿司を作ってきましたわ
ふふ、ただの手毬寿司ではありませんのよ?
なんと、どれも桜の花の塩漬けを乗せた桜手毬寿司ですの!(自ら命名)
お花見にぴったりでしょう?
さあ、召し上がれ

フォーリーさんはさすがうちの厨房担当ですわ!
細かなところまで手の行き届いたサンドイッチ…心して食さねば
カイトさんはお花見らしくお団子ですのね
食後にいただきましょう
リオンさんの桜ソーダはグラスも可愛らしくてあなたらしいですわね
では神様に乾杯してからいただきましょうか

宿ではいつでも桜が咲いておりますが、こうして春に見る桜もまた風流でいいものですわね…


奇鳥・カイト
【花の涯】4名
旅館のメンバーと共に早咲き桜の花見へ

花見をする理由は「花の下が丁度陽が差さない木陰になっているから偶々」である
偶々である(食べ物持ってきながら)

とりあえず俺は三色に彩られた団子を持っていく予定だ。自分じゃ作れねぇからな、買ってきたやつだ
別にいいだろ、春っぽいって店員も言ってたんだからよぉ
一応人数あんだから、とっとと食えよ

お、そっちのも美味そうだな──貰うぜ?
へぇ、どれも凝ってんな…ま、なかなかやるじゃねえか

お、飲みもんか。気ぃきくな、サンキュ
んだよ、適当に談笑しながら食えばいいだろ
──へっ、雪見に花見ってのも存外、悪いもんでもなかったな

…また来てもいいかもな

【アドリブ歓迎】




 花の涯、と呼ばれる旅館がある。
 そこでは四季に関わらず、いついかなる時でも満開の桜が咲いているとか。
 いやいや、季節外れの桜花こそがそこへと誘ってくれる、だとか。
 夢と現、此岸と彼岸の狭間に建つ不思議な宿なのである……だとか。
 語られるあれやこれやの真偽はさておき、ともあれそういう宿がある。
 宿であるからには主がいて、宿であるからには客がいる。
 此度に見目鮮やかで珍しい雪桜を観に足を運んだのは、そんな間柄の者達だ。

●昼
「たまたまだ」
 開口一番、ぶっきらぼうな調子で若き少年が言い放った。
 桜のたもとである。見上げれば実に見事に咲き誇る桜の枝々。
 この里の中でも、景観としては一二を争うような穴場だろう。
 確保するには相当の努力が要ったはずだ、だが少年はやはりこう云う。
「花の下なら、ほら。こうやって陰になって、陽が差さないだろ」
 男が一人、女が二人。そんな少年の周りに立ち、彼を無言で見つめている。
 無言である。特に艶やかな羅刹の女に至ってはにこにこ笑顔を隠しもしない。
『うんうんそうですわね、たまたまですわね。たまたまなら仕方ないですわ』
 とか、そんな感じのそうだねーかわいいねー的なワードが顔に書いてある。
 ……少年、もとい奇鳥・カイトはやはり言う。
「だから、たまたまなんだ。花見なんてことになったのは、たまたま」
「だいたいわかったから、早くご飯にしない?」
「身も蓋もないな、リオン……」
 妖狐の女の口ぶりに、ドラゴニアンの男が呆れ気味に呟くのだった。
 カイトのその後の台詞については、だいたいご想像どおりなので割愛とする。

 いかにも、この四人こそが不思議な温泉宿の関係者達である。
 まずはじめに、ものすごく暖かい笑顔で見守っていた羅刹の女が口を開く。
「まあまあ、それよりもリオンさんの仰る通り、そろそろお披露目いたしましょう?
 せっかく誘ってくれたのですし、カイトさんの品から見てみたいですわ」
 日に焼ける、という言葉を知らぬような、儚いほどの白い肌。
 伸びたぬばたまの髪はそれに良く映え、瞳はといえばまさに桜色。
 彼女の名を、千桜・エリシャと云う。
 さる宿の女将であり……実のところ、令嬢めいた柔らかな物腰と微笑みの裏に、この泰平に似つかわしからぬ狂熱を秘めた女である。

 されどこの場にあっては別の話、一同と並んで花見をするのが嬉しいらしく、
「厨房担当のフォーリーさんに、リオンさんが選ばれた品も楽しみですわ」
 などと、エリシャは弾んだ声で一同を見やった。
「ああ、今回は自信作だからね。ご期待に添えると思うよ」
 ドラゴニアンの男が、ふふんと得意げな面持ちで頷く。
 フォーリー・セビキウスという名の、眼光鋭き射手にして騎士である。
 戦場を求めさすらう修羅と呼ぶべき性根の持ち主だが、意外や意外。
 ご覧の通りでわかるように、こと料理に関しては興が乗る手合いらしい。
 その言葉に違わぬ腕前を誇るため、台所仕事を任せられている。
「といっても私、実は食べ物じゃなくて飲み物を持ってきたのよね」
 妖狐の女――神羽・リオンは、ほんの少し困った様子で呟いた。
 むしろどんな品物がでてくるのか、他の面々のそれに気がいって仕方ない様子だ。
 表情は怜悧で強気なものを保っているものの、一目瞭然である。
 何故かって? ……尻尾と、耳だ。妖狐なら誰もが持つその二つ。
 どちらもぴこぴこふりふりとせわしなく跳ねて揺れている。
 折しも太陽は中天に昇り、あちこちからは様々な出店の匂いが漂ってくる。
 こんな中では、いつまでも食事を待たすのは気の毒というものだろう。
 ……それはそれとして、彼女は少々食い気が張るのも確かなのだが。

 ともあれそうして一同が再び視線を巡らすと、カイトはおほんと咳払い。
 赤い瞳を瞼の下に隠し、努めてしかめっ面を保つ。
 ご多分に漏れず、この少年かなりの……いやだいぶ意地っ張りな男の子である。
「ま、まあそこまで言うなら、じゃあ俺から行くぜ」
 がさがさと袋の中から取り出したのは、折り目のきちんとした包みひとつ。
 どうやらどこぞの店で買ったものらしい。三人が何か言うより先に、
「べ、別にいいだろ! 春っぽいって店員も言ってたんだからよぉ!」
 などと、また言い訳――もとい、理由を並べ始めた。
 そこではたと我に返る。蓋を開ける前からあれこれ喚いてどうするのか。
「と、とにかく、これだっ」
 さて、中から出てきたのは……彩り豊かな三色団子だ。
 口ぶりとは裏腹に、四人でつまんでも十分な数を用意してあったらしい。
 ぷいと顔をそらしていた少年が、そろりと瞼を開いて横目に彼らの顔を伺うと……。
「お花見らしいですわね、食後にゆっくり頂きましょう!」
 にっこり笑ったエリシャの言葉に、ほっと胸をなでおろす。
 日頃の感謝を込めて選びに選んだ一品です、などとは言えるはずもない。
 それこそ口が裂けても言葉にすまい。彼はそういう少年である。
 ……そんな彼の心持ちを知ってか知らずか、ちらりと向いた眼差しに、
「っ、お、おう。数はあるから、食う時はさっさと食べちまってくれよ」
 カイトは、そっぽを向いたまま言うのだった。
「お団子、いいわね。実は大好きなのよ」
 一方、リオンもこれまたきらきら目を輝かせて感想を述べる。
 なんだったら食後と言わず、こいつからつまんでもいいとでも言いたげだ。
「うむ、実に乙なものだ。いまから食後が楽しみだな。
 ……ところで、エリシャはたしか寿司を作ってきたのだったかな?」
 フォーリーが水を向けると、女将はにこりと笑って頷いた。
 彼女が差し出したのは、手作りと思しき多種多様な手毬寿司である。
 特徴的なのは、それら一つ一つにちょこんと乗ったものだろう。
「まあ、これって桜の塩漬け? 可愛い……!」
 リオンの尻尾がぶんぶん速度を増した。大好評のようだ。
 いかにも手毬寿司には、桜花の塩漬けが添えられているのである。
「命名するなら、そうですわね――名付けて、桜手毬寿司、ですの!」
「見たまんまじゃねェか!」
 ビシッとカイトのツッコミが入った。
「うーむ、これまた良い趣向だ。だが私も負けてはいないのだよ」
 ここでようやく、フォーリーが自慢の品を取り出す。
 バスケットを開いてみせれば、どうやらサンドイッチのようだが……?
「おお、なんだこれ? いい匂いするぜ」
 顔を覗き込んだカイトが、すんすんと鼻を鳴らす。
 具材を見てみよう。新キャベツに玉ねぎ、アスパラガスに菜の花……。
「どれも春野菜ですわね? さすがフォーリーさん!」
 感心した様子のエリシャに声に、男はいよいよドヤ顔をキメた。
「それだけではない、花見ということなのでサーモンを燻製したのだがね。
 桜のチップを使って、味付けにも桜のクリームチーズを用いたんだ」
「そんなところから……すごいわね」
 彼の様子にくすくす笑っていたリオンも、そのこだわりぶりには感嘆した。
 そして自ら取り出したのは……なるほど、言った通り飲料である。
 瓶は二つ。どちらも桜色が目に鮮やかだが、そこでフォーリーがふむと声を漏らした。
「それは? どうやら香りからして日本酒のようだが」
「ええ。私達はともかく、セビキウスさんなら呑めると思って」
 年長者への気配りはさすが社長令嬢といったところか。
 サンクス、と感謝を述べるフォーリーも、嬉しげな面持ちだ。
「で、こっちはメイドに作ってもらった桜ソーダよ。
 グラスも持参してきたから、一人ずつ受け取ってくれるかしら」
「ふふ、可愛らしいグラスですわね。リオンさんらしい」
「気ぃ効くなあ、サンキュ! 喉乾いてたからちょうどいいぜ」
 エリシャとカイトも口々に感謝を述べながら杯を受け取る。

 一同の手にグラスが渡れば、リオンは慣れぬ手付きで一人また一人と器を満たす。
「っと、お酌までしてくれるとは。一体どんな気の巡りかね?」
 グラスに揺れる桜色の香りを楽しみながら、フォーリーが言う。
 普段のリオンなら、その立場も相まってこうした甲斐甲斐しい真似は中々しないものだ。
「桜には神様が宿ると聞いたことがあるの。だからね、今日は特別よ」
 言葉の調子は強気ながら、なかなかに見上げた心意気と言えよう。
「では、神様に乾杯してからいただきましょうか?」
 エリシャが小首をかしげて言い、しずしずと両手でグラスを掲げる。
 フォーリーもリオンも頷きそれにならう一方で、カイトはというと、
「んだよ、花見なんだから適当に談笑しながら食えばいいだろ。
 ま、みんながやるっつーなら俺も付き合ってやるけどさ」
 などとぶちぶち言いながら、まんざらでもなさそうにグラスをぶつけた。
 かちん、と小気味いい音が響き、いよいよ宴の幕開けとなる。

「……それにしても、聞いたことはあったが」
 舞い散る桜を見上げ、フォーリーはふと呟いた。
「いや、なるほど。これが花見か、存外悪くないものだ」
「そうね。美味しいものを食べながら、綺麗な景色を楽しむ。いいじゃない」
 手毬寿司に舌鼓を打ちつつ、リオンも素直な様子で首肯した。
「宿ではいつでも桜が咲いておりますが……。
 こうして皆さんで春に見に来る桜も、また風情でいいものですわね」
 艶やかに微笑んだエリシャは、色合いもあってまるで一枚の名画のように美しい。
「ま、雪降ってるけどな」
 などと減らず口を叩きつつ、ぱくりと寿司を一口。
 もぐもぐ咀嚼したのち、当の言い出しっぺのカイトも、
「……っても言う通りだ。存外、悪くないもんだぜ」
 また来てもいいかもな、などとは思いつつも口にはしない。
 意地を張ったから? いやいや、彼は皆の顔を見た上でそう思ったのだ。

 この場に集った誰もが、きっと同じことを思っていただろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月14日
宿敵 『闇刃阿修羅』 を撃破!


挿絵イラスト