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ゴーストタウン浄化作戦:茨城県笠間市ブラックマンション

#シルバーレイン #戦後 #ゴーストタウン #廃墟巡り

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●廃マンションは人を食う
 茨城県笠間市。
 閑静な住宅街の中に佇むのは、打ちっ放しにされたまま放置された、巨大なコンクリート製の城だった。
 そう、城だ。中世に生きていた者達が何も知らないままに見れば、それはまさしく石の城砦。もっとも、当然のことながら実際は城でもなんでもなく、単に放棄された建設途中のマンションというだけなのだが。
「……畜生! いったい、どうなってやがるんだよ、今夜に限って!!」
 そんな放棄されたマンションの廊下を、衣服を塗料で汚した青年が走っていた。スプレー缶を複数所持していることからして、彼はストリートでゲリラ的に作品を壁へ残して回る、グラフィティ・アーティストなのだろうが。
「……ったく、どこまで続くんだよ、この廊下は」
 ふと、ガラスのない窓から外を覗けば、そこに広がっているのは無明の闇。いつもであれば夜中でも廃墟の中を照らしてくれる、街灯や星の輝きはそこになく。
「しっかし……センスのねぇアートだな。誰が作りやがったんだ、これ?」
 途方に暮れて、暗闇の中で目を凝らせば、そこには単にペンキをブチ撒けたような、なんとも不可解なグラフィティが。
「……縺上?縺上??溘?? 縺上?縺上??」
 だが、次の瞬間、グラフィティだと思っていたものが、唐突に意味不明な音を発したかと思うと、壁から離れて動き始めたではないか! 否、それはグラフィティなどではない。決して見てはいけない、蠢く何かだ。漆黒の闇に覆われているはずの廃墟の中に届いていた光も、全てはこの物体が放つ光でしかなかったのだ。
「あ……あぁ……」
 腰が抜けた青年の顔から、だんだんと正気が失われて行く。蠢く光を眺める程に、彼の心からは人としての何かが消えて行き。
「……っ!? むぐっ!! あがっ!?」
 突然、暗闇の中から飛び出した骸骨の面が、青年の顔に付着した。同時に、床からも泥がせり上がり、徐々に青年の身体を覆って行く。やがて、その全身が泥と仮面に覆われてしまったところで……青年もまた、この異様な廃墟を根城とする存在の、眷族と成り果ててしまうのであった。

●ザ・ダーク・グラフィティ
「金沢での戦いが終わってしばらく経つけど、それとは関係なく、相変わらずゴーストタウンが発生しているみたいだね」
 そういうわけで、今回もゴーストタウンの浄化作戦に協力して欲しいと、穂村・耶子(甘党残念剣士・f35497)は猟兵達に告げた。場所は茨城県笠間市にある建設途中で放棄されたマンションの跡地。ブラックマンションの通称で呼ばれるその場所が、今回のゴーストタウンである。
「元々、このブラックマンションは、そこまで危険な廃墟ってわけじゃなかったんだよね。建設が途中で中止になったのも、単にお金がなかったからってだけみたいだし……」
 要するに、予期せぬ赤字から資金不足に陥って、建設を放棄せざるを得なかったということらしい。地元では心霊スポット扱いされていたが、別に曰くつきの場所というわけでもなかったので、いつしかそこはグラフィティ・アーティスト達の練習場所となっていた。
 そんなブラックマンションだったが、やはりというかゴーストタウン化したとなれば、もはやそこは従来の安全な廃墟ではない。アーティスト達の練習場は危険なゴースト達の跋扈する異界と化し、今もなお新たな犠牲者を求めて、ぽっかりと口を開けている。
「このゴーストタウンなんだけど……あまりに色々な都市伝説が多過ぎて、親玉の正体が僕でも掴めなかったんだよね。一応、中をうろついている低級なゴーストに関しては、正体っぽいものは分かっているんだけど……」
 どうにも歯切れが悪い耶子だが、それもそのはず。ブラックマンションの中を蠢くゴーストは不定形な存在で、おまけに見ているだけで正気を奪われる危険な相手。猟兵や能力者であれば、いきなり精神を破壊されることはないものの、一般人では一溜まりもない。
「このゴーストへの対処法はネットなんかで出回っているんだけど、全部間違いだからね! 世界結界が復活したせいで、一般人にはゴーストの正体とか存在が間違った形で伝わってるから……シルバーレインの世界でネットの噂を迂闊に信じたら危ないよ」
 加えて、この廃マンションをゴーストタウンに変えたオブリビオンゴーストの正体も未だ不明だ。泥や仮面に関係する敵のようだが、該当するゴーストは、銀誓館学園の記録にも残されていない。
「今回の敵は、ゴーストっていうよりも、UDCアースの神話生物だと思った方がいいかもね。狂気に耐性のない人は、くれぐれも気をつけてね」
 そう言って、耶子は猟兵達を、シルバーレイン世界の廃墟へと転送した。


雷紋寺音弥
 こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。

 茨城県笠間市で、ゴーストタウンの発生が確認されました。
 本来であれば根も葉もない噂であった都市伝説が具現化した結果、廃マンションが危険なゴーストの巣窟になっています。
 都市伝説の謎を追いつつ、早急に敵を排除してください。

●第一章(集団戦)
 ブラックマンションに集団で巣食っているゴーストとの戦いになります。
 都市伝説の『くねくね』がベースになったゴーストですが、ネットに氾濫している情報は全て嘘の情報なので、宛てにはできません。

●第三章(ボス戦)
 この廃墟をゴーストタウンに変えた存在との決戦になります。
 現時点で正体は判明していません。
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第1章 集団戦 『くねくね』

POW   :    事前くねくね
予め【くねくねしておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    くねくねウェーブ
レベルm半径内に【体をくねらせながら狂気の波動】を放ち、命中した敵から【理性】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ   :    くねくねゾーン
自身からレベルm半径内の無機物を【新たなくねくね】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マリク・フォーサイト
既に被害者が出ている辺り、これ以上被害が広がる前に対処したいところです

それにしても、揺り籠の君が倒れても、世界の亡びを止めても、この世界の戦いが終わるわけではないんですね
ある程度分かっていたとは言え、落胆する気持ちがないと言うと嘘になります

それでも、やるしかないんですね
「聞け、我は銀嶺の騎士、マリク・フォーサイト! リベレイション!」

「功夫」「グラップル」でUCによる連撃
動きが見切りやすいのなら、好機とばかりに連続攻撃を叩き込みます

攻撃に対しては、「功夫」「武器受け」で防御します
そんな大仰な攻撃、受けません
戦いに対する迷いで多少動きが鈍りそうなので、そこが隙になりダメージはもらいそうですが



●終わらない戦い
 廃墟の暗闇にて徘徊する、極彩色の奇怪な存在。ブラックマンションを訪れたマリク・フォーサイト(銀嶺の少年騎士・f37435)の前に現れたのは、くねくねと蠢く謎のゴーストだった。
 敵は人間の言葉や考えが及ばない存在。既に被害者が出ている故、これ以上の被害が出る前に食い止めねばならない。そう、頭では理解しているが、しかしマリクはどこか虚しさも覚えていた。
(「それにしても……揺り籠の君が倒れても、世界の亡びを止めても、この世界の戦いが終わるわけではないんですね」)
 世界結界がオブリビオンとして復活し、名だたる強大なゴーストや異形もまた復活していることからして、これからも戦いは続くのだろう。ある程度は理解していたつもりだったが、それでもどこか、やるせない気持ちにさせられるのも事実。
 もっとも、そんなマリクの事情など、目の前の存在は顧みてなどくれないだろう。だからこそ、ここで負けるわけにはいかない。巡礼士として、銀誓館学園として、そしてなにより猟兵として、目の前にオブリビオンがいるのであれば戦うだけだ。
「聞け、我は銀嶺の騎士、マリク・フォーサイト! リベレイション!」
 そっと眼鏡を外し、マリクは力を解放した。瞬間、彼の身体は銀嶺の鎧に覆われて、眩い光が周囲を照らす。
 能力者としてのイグニッションではなく、巡礼士が古来より伝えしリベレイション。英霊の魂を纏って戦うのは、かつての戦いで命を落とした、彼の両親に対する想いがさせるものだろうか。
 そんな彼の思いさえ意に介さず、くねくねと動く不気味なゴースト達は、一斉にマリクへと襲い掛かった。だが、どれだけ強力な攻撃であったとしても、当たらなければ意味はない。一見、不規則に蠢いているだけのように見える塊でも、法則性さえ見切ってしまえば。
「そんな大仰な攻撃、受けません」
 突如として伸びてきた敵の腕が横薙ぎに払われたが、マリクはそれをスウェイで難なく避けた。そのまま流れるような動きで一回転して蹴りを浴びせると、怯んだ相手をすかさず掴み、強烈な打撃を叩き込む。その隙を狙って別の敵が攻撃を仕掛けてきたが、それは白銀の盾で受け止めたが。
「……っ!?」
 凄まじい衝撃で、今度はマリクの方が吹き飛ばされる。盾で防いだものの、完全に威力を殺しきれなかったか。
 それは、ともすれば彼の心の中に、戦いへの迷いがあったからかもしれなかった。しかし、相手は人の言葉さえ理解できぬ異形の存在。ここで下手に隙を見せれば、それは即ち、死につながる。
 もう、悩んだり迷ったりしている場合ではなかった。一発でも攻撃を食らえば追い込まれかねない以上、ここは攻防一体の攻撃で、攻めて攻めて攻めまくるしかない!
「玄武の奥義、全てお見せします!」
 身体を丸めるような姿勢で体当たりを食らわせると、マリクは続けて周囲の敵を、円の軌跡を描く蹴りでなぎ倒した。そして、壁際に追い込んだ敵の中心に、必殺の掌底を叩き込む。
 外からではなく、気を以て内から破壊する一撃。いかに未知の存在とはいえ、さすがにこれには耐えられない。
「縺舌∞縺?∞縺!!」
 およそ、人の口では発することのできない悲鳴を上げ、くねくねとした正体不明のゴーストは、マリクの目の前で爆散した。極彩色の欠片は一瞬だけ周囲を虹のように照らし、闇の中へと消えて行く。
「さあ、次は誰が相手ですか?」
 拳を構え、マリクは闇の奥へと目をやった。敵を殲滅したと思ったのも束の間、奥からは新たな敵が、その身をくねらせながら姿を見せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

酒井森・興和
ゴーストタウン化した場所に人間達が入らなければ安心だけど
迷い込んでしまうのだねえ

しかし…面妖な奴だな
ヒトガタの様な屑の塊のような
意思疎通が出来ないどころか猟兵や来訪者でも狂気に堕ちるとか
…ここは弟妹と連携して早めに切り抜けよう
足下のコンクリート塊に触れUC行使
互いに背後を守り戦う
【暗視や気配感知】活かし遠距離敵へは飛斬帽を【投擲し切断】
近接敵へは呼んだ弟妹は爪と火、僕は三砂を【怪力】で撃ち振るい【なぎ払い、追撃で吹き飛ばし】直視の視界から外す

戦闘への【集中力を狂気耐性】とし【第六感】で敵UCの波動を躱したい
理性を奪われると力任せに牙で裂き三砂で撲ち壊したい衝動で暴れそうだ
この失態は避けたいねえ



●異質なる者達の洗礼
 ゴーストタウン化した廃墟に人が入り来み、そこに住まうゴーストに襲われ帰らぬ存在となってしまう。
 酒井森・興和(朱纏・f37018)にとって、それは銀誓館学園の学生だった頃から、変わらぬ日常の一部であった。もっとも、何らかの覚悟を以て死と隣り合わせの青春を選んだ能力者たちとは違い、真実を知らぬまま突如として非日常へ放り込まれた一般人からすれば、冗談では済まない事態なのもまた事実。
「縺上?縺上?? 縺上?縺上??」
 興和の前で踊り狂うのは、この廃マンションを住処とする謎の存在。全身をくねらせる極彩色の塊は、他のゴースト達と比べても、随分と異質な存在だった。
「しかし……面妖な奴だな。ヒトガタの様な屑の塊のような……」
 ゴーストの多くは残留思念が変化したものだが、それでは、目の前の化け物はどんな残留思念がベースになっているのだろう。見ているだけで能力者や来訪者でも狂気に陥るという時点で、もしかすると敵はゴーストというよりも、異形に近い存在なのかもしれない。
「八足呼請──不肖の兄を助けてくれるかな」
 とりあえず、ここは早々に切り抜けた方が良さそうだ。そう判断し、興和は足元に転がっていたコンクリート塊に、弟妹だった蜘蛛童を憑依させた。
 瞬間、それまではただの瓦礫に過ぎなかったコンクリート塊が、蜘蛛童となって興和を守る。彼らの武器は、発火性の鋭い爪と、鋼鉄よりも強靭な蜘蛛糸だ。
 背後の守りを蜘蛛童に任せ、興和は被っていた帽子を投げつけた。鍔の部分に鋭い刃を仕込んだそれは、まるでブーメランの如く回転しながら敵の身体を切り刻み、その度に極彩色の塊が暗闇の中に弾けて消える。その一方で、蜘蛛童もまた襲い掛かってきた敵を反対に蜘蛛糸で絡め取ると、その外見からは想像もできない怪力で、強引に引き寄せて焼き払う。
「ふむ……今のところは、こちらが有利に立ち回れているみたいだねえ」
 次々と倒れてゆく敵を前に、興和は苦笑しながら戻ってきた帽子を被り直した。一見して負ける要素はないに等しく思えるが、しかし敵が未だ切り札を見せていない以上、油断してはいけないこともまた分かっていた。
「縺上?縺上?? 縺上?縺上??」
 接近戦では敵わないと悟ったのだろう。極彩色の化け物たちは一転して興和から距離を取ると、全身を奇妙にくねらせ始める。それが合図となり、敵の身体からは狂気を齎す波動が放たれるが……不可視のはずの攻撃を、興和は身体を大きく反らすことで、軽々と回避してみせた。
「やはり、そう来たか。読み通りだったねえ」
 極限まで集中力を研ぎ澄ませれば、見えない攻撃とて避けられないわけではない。もっとも、そう何度もできる芸当ではないため、早々に片を付けなければ、こちらが不利になるのは否めないが。
「悪いけど……あまり、遊んでいる時間はないんだ。さっさと道を開けてくれないかねえ」
 力任せに三砂を振るい、興和は敵を闇の奥へと吹き飛ばすことで、強引に視界から排除した。
 敵の波動は、こちらの理性を奪うもの。理性を奪われたところで、本能に任せて暴れ回れば興和が勝つことに変わりはないが……全てを壊したいという破壊衝動に身を委ねるのは、やはり気持ちが良いものではない。
 圧倒的な興和の力を前にして、極彩色の化け物たちは、慌てて闇の奥へと逃げ出した。それを深追いすることなく、興和はマンションの奥へと続く廊下に目をやると、無明の闇に覆われた空間へと歩を進めて行くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・白亜
……無視できない感覚がしたので、訪れてみましたが。
オレが知らない間にそんなことがあったのですね。ならば、手伝いましょうか。

相手は、何でしょうかアレ。
とりあえず指定UCを行使しつつ肉体改造。戦いやすいスタイルになって、ゴースト共に破壊魔術の雨を降らせましょう。
理性を失う前提で戦えば問題ないな!……いやあるけど。


ティエル・ティエリエル
むむむー、いんたーねっとって難しいし、
嘘しか乗ってないなら調べなくても大丈夫だよね♪
とりあえず、現場に急行だー☆

わわわっ、すごいくねくねしてる!
こいつが噂のくねくねだな!

【ライオンライド】で呼び出したライオンくんに乗って一緒に戦うぞ!
ボクは以前キャンプに行った時に使ったランタンを掲げて周りを明るく照らしちゃうぞ!
ライオンくんはくねくねしてるのを噛みちぎったり、爪で引っかいたりしてやっつけていっちゃうね♪

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


鈴乃宮・影華
廃墟だからって落書きするな阿呆、と言いたいところですが
死刑になるような犯罪でもないですしね
能力者の務め、果たしに行きますか

まずは低級の掃除ですね
かつてはいなかったタイプ、一般に出回る対処法は出鱈目――それで?
「銀誓館学園は、例え初見の敵でもボコれる実体があるなら恐れませんよ」
くねくねを敵、
私と他の猟兵を味方と設定し指定UC起動
これで理性を奪われてもすぐに回復できます
後は『閃閃狂鋏』を飛ばしぶった斬って行きましょう


しかし暗いですね……
誰か【白燐光】か【光明呪言】を使って……持ってる人いないんでした
|黒燐蟲《皆》も光れないし……
『赫左』から(少しだけ)火炎を放射して明かりの代用とします



●暗闇を照らすもの
 世界結界の復活と、それに伴う未来の改変。そして、日本各地にゴーストタウンが出現したとの報を受け、九重・白亜
(今を歩む魔術師・f27782)は他の猟兵達と共に廃墟と化したマンション跡地へと急行した。
「……無視できない感覚がしたので、訪れてみましたが……オレが知らない間にそんなことがあったのですね」
 この世界には、まだ色々と分からないことが多過ぎる。おまけに、今回の敵は銀誓館学園のデータにもない存在。まったく新しい種類のゴースト相手となれば、油断できない相手には違いないのだが。
「廃墟だからって落書きするな阿呆、と言いたいところですが……死刑になるような犯罪でもないですしね。能力者の務め、果たしに行きますか」
 いつもと変わらぬ様子で、鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)が先んじて廃マンションへと足を踏み入れる。元能力者の彼女からすれば、このような戦いは日常茶飯事。相手の正体が不明だからといって、臆するような生き方はしていないとばかりに。
「あっ! 待ってよ!!」
 ライオンに跨ったティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が、慌てて後を追いかけて行く。漆黒の闇の中、足元に転がる瓦礫に気を付けながら進んで行くと、その先にあったのは壁いっぱいのスプレー缶アート。
「おお! なんか凄い絵が……って、これ絵じゃない! 全部、なんか変なのが集まってできてるよ!」
 絵の正体に気づいてティエルが叫ぶと同時に、アートだと思われた物体が奇怪な動きをしながら解れ始めた。それらは極彩色の人型になると、なにやら人間には発音不可能な声を発しながら、徐々にこちらへと近づいてくる。
「相手は、何でしょうかアレ?」
「わわわっ、すごいくねくねしてる! こいつが噂のくねくねだな!」
 首を傾げる白亜の隣でティエルが答えた。
 目の前のゴーストは、くねくねという名で呼ばれている存在に酷似している。だが、細部は随分と異なっており、話に聞いた存在と別物なのは明白。世界結界の影響もあり、インターネット上に誤った情報が拡散している今、ネットの噂をそのまま信じるのは危険が伴う。
「まずは低級の掃除ですね。かつてはいなかったタイプ、一般に出回る対処法は出鱈目……それで?」
 そんなくねくね相手に、まずは影華が挨拶代わりに火炎放射をブッ放した。敵はどうやら、周囲の闇を利用して力を増すようだ。ならば、早々に周囲を明るくしてしまえば、それだけで相手を弱体化させられると踏んで。
「銀誓館学園は、例え初見の敵でもボコれる実体があるなら恐れませんよ」
 一般人の間に幽霊や妖怪として伝わる存在だけでなく、時に宇宙からの侵略者とも戦ってきたのだ。そんな影華からすれば、正体不明なだけの相手など子ども騙し。光源を確保するついでに炎で敵を蹴散らしながら、彼女は周囲に黒燐蟲を散布して行く。
「縺セ縺カ縺励>? 縺セ縺カ縺励>?」
 炎に照らされて逃げ惑うくねくね達だが、やはりというか、炎の明るさだけでは彼らを排除することはできない。しかし、周りを照らすことによることは敵の放つ狂気の波動を弱めることにも繋がるため、くねくね達は奇妙な声をあげながら、あちこち身を隠す場所を探して逃げ回っているようだった。
「しかし暗いですね……。もう少し明るくできれば、有利に立ち回れると思うのですが……」
 誰か、そういった能力を持っている者はいないのかと呟く影華だったが、残念ながらこの場に適した能力を持っている者は存在しない。だが、そういうことなら任せておけとばかりに、ティエルが用意していたランタンで周囲を照らし始めた。
「じゃじゃーん! キミ達、これが苦手なんでしょ?」
「縺イ縺?▲?√??蜈会シ!」
 直接照らされては敵わないと、奥に逃げ出すくねくね達。その背後から、ティエルのライオンが襲い掛かり、的確に1体ずつ仕留めて行く。こうなれば、流れはこちらに向いたも同然。ならば、ここは一気に決めてやろうと、白亜も自らの姿を戦いやすい肉体へと改造する。
「さーて、戦いやすい衣装にチェンジ……って! これお姉ちゃんがくれたやつじゃねーか! や、やめろ見るなぁっ!!」
 もっとも、メイド服を脱いだ彼が変身したのは、ぴっちり全身タイツの白い騎士。暗闇の中、誰にも見られない状況ならまだしも、こうも周囲が明るくては、白亜の姿は赤裸々大公開である。
「くぅ……でも、理性を失う前提で戦えば問題ない……はず!」
 反動で理性を喪失することで、恥ずかしさをごまかせるのが唯一の強み。元から理性を失っているなら、敵の放つ波動も怖くない……はずなのだが、なぜか今日に限って頭の中が無駄にスッキリしているのは気のせいか。というか、いつまで経っても理性を喪失する感覚がなく、むしろ頭が冴え渡り、現状が物凄く見えている気が。
「ああ、敵の攻撃に関しては心配要りませんよ。私の黒燐蟲が、傷病を回復させますから」
 くねくねに閃閃狂鋏を投げつけつつ、影華が何気なく告げた。しかし、それは白亜にとって、ある意味では羞恥地獄の到来を意味する以外の何物でもなかった。
 傷病を回復させる効果により、ダメージだけではなく喪失するはずの理性まで維持されているのだ。これでは、恥ずかしさを誤魔化すことなどできず、ただ無駄に恥ずかしいだけである。
「えぇい! こうなったら、ガン見される前に、全部叩き潰してやる!!」
 今、少しでもこの時間を短くするべく、白亜は破壊魔術の雨を降らせた。周囲の地形諸共に破壊せんばかりの攻撃を受け、次々と霧散して行く敵の群れ。
 やがて、全てのくねくねを退治したところで、白亜はようやく羞恥地獄から解放された。だが、これはあくまで前哨戦。この奥に真の敵がいることを感じながら、猟兵達は更なる闇の奥へと歩を進めて行くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『トロルスレンダー』

POW   :    嘲笑
自分の体を【膨張させて破裂】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【虚無の泥が纏わりつき、感情の喪失】の状態異常を与える。
SPD   :    無の中
自身と武装を【虚無の泥】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[虚無の泥]に触れた敵からは【感情】を奪う。
WIZ   :    その先は嗤う者
指定した対象を【トロルスレンダーの仲間】にする。対象が[トロルスレンダーの仲間]でないならば、死角から【骸骨の面と虚無の泥】を召喚して対象に粘着させる。

イラスト:塒ひぷの

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠九重・白亜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●嘲笑う虚無
 暗闇に覆われた廃マンション。くねくねの群れを一掃し、更に奥へと歩を進めれば、そこには不思議な空間が広がっていた。
 マンションの廃墟だというのに、無駄に広い巨大な部屋。まるで、ホールか何かを思わせる作りだが、当然のことながら実際にこんな部屋があるわけではない。
 ゴーストタウンは、時に時空を歪めて存在することもあるという。恐らく、これもゴーストタウン化による異常現象のひとつなのだろう。
 そんな部屋の床や壁は、なんとも奇妙な泥で覆われていた。周囲の闇より更に暗く、そしてどこまでも黒い色をした泥土。まるで、床がそのまま底なし沼になったかのような場所だが……果たして、それはある意味では正しい表現だったのかもしれない。
「……ァァ……」
「……ォォォ……」
 泥の中から呻くような声と共に、何かがゆっくりと立ち上がった。それは、全身を泥で覆った……否、意思を持った泥そのものに、髑髏のような仮面をつけた奇怪なゴースト。その身体の一部から人間の衣服が覗いていることから、彼らは全て、この空間を支配する者によって眷属とされた犠牲者たちなのだろう。
「……ヒヒ……ヒヒヒヒ……」
 そんな中、薄気味悪い嘲笑を浮かべながら、新たな泥人間が起き上がる。猟兵達は直感した。この泥人間こそ、この空間を支配する、地縛霊化したオブリビオンゴーストであると。
 トロルスレンダー。様々な噂や都市伝説の断片が集まって形を成した、虚無の泥より生まれしゴースト。
 そこに意思は存在しない。そこに意味なども存在しない。彼の者が存在する理由は、ただ全てを虚無に引きずり込まんとする本能のみ。出所の怪しい噂が実体化したゴーストは、ただ己を存在させるためだけに、世界を虚無の泥で塗り潰さんとする。
 トロルスレンダーの笑い声に合わせて、眷属と化した犠牲者たちが一斉に襲い掛かってきた。彼らの姿はトロルスレンダーと瓜二つだが、しかし実力は雲泥の差なのか、軽く弾けば飛んで消える程に脆弱だ。
 だが、トロルスレンダーの本体は、そう簡単には倒せないだろう。虚無そのものともいえるトロルスレンダーは、仮に全身がバラバラになったとしても、すぐさまに再生できる泥の肉体を持っているのだから。
 一瞬でも気を抜けば、その瞬間に虚無に食われる。先の戦いに続け、いかにして気を強く保つかが、勝利の鍵となりそうだ。
九重・白亜
無視できない感覚を感じて来ましたが、そういうことですか。少なくとも、オレにはコイツと何か縁があったんだろうな。
けど、オレはそれを知らないし、アンタも多分、知らないだろう。
だから、ここでお前とは絶縁だ。トロルスレンダー!

泥に取り込まれないよう距離を置きつつ、全力魔法で指定UCを発動。眷属を生み出そうとする性質があるなら、それを焼く。
この混沌の炎は、そういったルールを破壊するものだ。
狙いは当然、本体。眷属に近づかれないよう落ち着いて周囲を観察して、集中して叩く!

仲間を作り上げようとするその在り方が、虚無であるものか。
……きっと何もないからこそ、全てを塗りたくってでも同胞を求めたんだろうな。


酒井森・興和
異様な面々とは長いこと対峙してきたけど
この敵も大概…

【暗視】で目を慣らせば戦場も敵も厭な感じだ
敵位置に確信が持てない分【悪路走破】を活かし自分の機動は鈍らせない
【第六感と集中力】で【逃亡阻止】兼ね【狩猟のように追跡】する気負い
UCを撃ち出し反応を感じた箇所へ【早業で追撃】三砂で叩き潰し【2回攻撃】としてUC火纏を再度叩き付ける
蒸発でも粉砕でもいい
再生速度より早く叩き少しでも弱らせる

眷族でも本体でもあの泥はろくなモノじゃ無かろうし気を付けよう
なり損ないといえ僕にも劣等感だの親愛だの情という物もある
虚無の体現のような奴らの仲間になるのは御免被りたい
もし、何も感じられなくなったら本能に従い撤退するよ


マリク・フォーサイト
これが呪いの源となったオブリビオンゴースト
こんな奴を解き放つわけにはいきません
何としてでも、ここで討伐しましょう

虚無の泥を「武器受け」「盾受け」で防御しつつ肉薄します

感情の喪失は「勇気」を持って、「狂気耐性」で耐えます
たしかに戦いが徒労に終わった失望も、未来への不安も僕の中にある
だけど、それは僕の感情だ
誰にも渡さない!

もうさっきのように気を抜いたりはしません
僕が倒れるということは、まだ戦う力を忘れた人々が傷つくということ
世界があるべき姿を取り戻すまで、僕は倒れるわけにいかない

「人々を守る、それが僕の使命です!」

「気合い」からの「破魔」の「ランスチャージ」でUCを叩き込みます


鈴乃宮・影華
成程、UDCアースの報告書を読んでて時折感じる悍ましさを
今なんとなく感じてます
……でもこの世界、昔からこんなのばっかりでしたよ?(※個人の感想)

さっきみたいに|黒燐蟲《皆》を突撃させたら、逆に飲み込まれるかも
ならここは姉さんの風に頼ろうかな
私と他の猟兵を味方、
トロルスレンダーと眷属を敵と設定し指定UC起動

「――くっふっふ~、この鈴乃宮・光華に怖い物などあんまり|無《にゃ》い!」
|お姉ちゃん《私》が|お姉ちゃん《演技》を続ける限り、お面も泥んこも吹き飛ばし続けるにゃ
吹き飛ばしても再生する?
「よろしい、ならば焼却にゃ」
『赫左』から火炎放射、敵を包む暴風に点・火☆
文明の光が闇を斬り裂くにゃ……!


ティエル・ティエリエル
わわっ、変なところに出ちゃったぞ!?
でも、見るからに怪しいアイツが事件の原因だなー!
よしっ、やっつけちゃうぞ☆

むっ、こっちの似たのはお前の犠牲者なのか!?
もう、絶対許さないぞ!
死角から襲い掛かってくる攻撃を「第六感」で感知して回避しつつ、【お姫様ペネトレイト】で突撃だ☆
どかーんと貫いちゃうぞ!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



●泥濘
 あらゆる場所を、全て漆黒の泥で覆われた奇妙な空間。そこはトロルスレンダーの巣窟であり、同時に体内と呼べる場所でもあった。
「わわっ、変なところに出ちゃったぞ!?」
「無視できない感覚を感じて来ましたが……そういうことですか」
 周りの異様な空気に飲まれそうになっているティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)の隣で、九重・白亜(今を歩む魔術師・f27782)が呟いた。
 自分と目の前の怪物に、果たしてどのような因縁があるのか。白亜自身は知りようもなかったが、それもそのはず。
 トロルスレンダーは、根拠のない様々な噂が基になり、それらが集結して誕生したオブリビオンゴースト。1つ1つは、本当に些細な噂なのかもしれない。しかし、今やそれらは全てが周囲に漂う泥として具現化し、その集合体こそがトロルスレンダーなのである。
 もはや、最初の噂が何だったのかは、トロルスレンダー自身も知らないだろう。あまりに雑多な噂が集まり過ぎて収集が付かず、故に混沌の中で彼の者の存在は虚無となった。
「……ァ……ァァァ……」
「ォォ……ゥゥゥ……」
 暗闇の中、トロルスレンダーと同じ姿をした者達が、一斉にこちらへと向かってきた。その正体を敏感に察し、酒井森・興和(朱纏・f37018)は思わず目を背けた。
「異様な面々とは長いこと対峙してきたけど、この敵も大概……」
 一切の感情を持たず、本能のままに全てを虚無で塗り潰さんとする存在。それはもはやゴーストというよりも、トロルスレンダーという『現象』と呼んで差し支えないものだ。
「成程、UDCアースの報告書を読んでて時折感じる悍ましさを、今なんとなく感じてます」
 数多のゴーストと対峙してきた鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)も、さすがに今回の相手へは嫌悪の色を隠せない。
 もっとも、彼女からすれば、この世界は最初からこんなやつも多かった。所謂『幽霊』や『妖怪』として巷に認知されている存在とは異なる、意思疎通が不可能なゴーストも、昔から存在はしていたわけで。
「これが呪いの源となったオブリビオンゴースト……。こんな奴を解き放つわけにはいきません。何としてでも、ここで討伐しましょう」
 どちらにせよ、世界を虚無の泥で塗り潰させるわけにはいかないと、マリク・フォーサイト(銀嶺の少年騎士・f37435)が槍を構える。
 敵は話し合いが通じるような相手ではない。どちらが生き残り、そしてどちらが滅ぼされるのか。泥濘に覆われた戦場にて、選択できるのは二つだけだ。

●虚無を焼く焔
 迫り来るトロルスレンダーの眷属達。その力は一般的なゴーストと比べても弱く、猟兵達からすれば、軽く払うだけで粉砕できてしまうほどに脆いもの。
 はっきり言って、足止めにもならない存在だった。しかし、彼らが砕かれ、その顔から仮面が吹き飛んだことで、中から現れた顔を見たティエルは怒りを覚えずにはいられなかった。
「むっ、こっちの似たのはお前の犠牲者なのか!? もう、絶対許さないぞ!」
 あらゆる感情を喪失し、果ては肉体さえも虚無の泥とされてしまった犠牲者達。彼らは全て、理不尽にその生を奪われた存在。そんな彼らを弾除けの道具として用いるようなトロルスレンダーには、やはり人の感情を理解するだけの心などないのだろう。
「それにしても、次から次へと……。いったい、どれだけの人間を飲み込んだんだか……」
「眷属には眷属を……と、言いたいところですが、迂闊に突撃させると、逆に飲み込まれるかもしれませんね」
 迫り来る眷属達を軽く薙ぎ払う興和や影華だったが、彼らもまた迂闊にトロルスレンダーには手を出せないでいる。視界も足場も最悪で、おまけに触れただけで飲み込まれる可能性もあるとあっては、下手な行動はそれだけで周囲にいる仲間全てを危険に晒す。
「ならば、全て燃やしてしまいましょう。この空間の法則性さえ破壊できれば……」
 そんな中、起死回生の一手を狙う白亜だったが、それよりも早くトロルスレンダーの本体が動いてきた。
「ヒヒ……ヒヒヒヒ……」
 不快な笑い声と共に、トロルスレンダーは自ら木っ端微塵になることで、周囲に泥を撒き散らした。空中に髑髏の仮面を被った頭部だけが残り、バラバラになった肉片は、全てが虚無の泥と化して、散弾の如く白亜へと襲い掛かる。
「……っ! 危ない!!」
 だが、それらが白亜に纏わりつかんとした瞬間、盾を構えて割り込んできたのはマリクだった。
「大丈……夫……です……か……?」
 白亜に背を向けたまま尋ねるも、その腕は微かに震えている。怖いのではない。盾を通してさえも感情を奪ってくる泥の力に、彼の身体が精一杯の抵抗を示している証だ。
 泥の中に塗り潰されるかの如く、深淵の中へ消えて行く感情。その中には、失望や不安といった、好ましくないものもある。
 このまま泥に身を任せてしまえば、あるいは楽になれるだろうか。いや、それはダメだ。なぜなら、不安や失望といったものを含め、それらは全て自分の大切な感情であるとマリクは知っていたから。
 それらを奪われることは、即ち自分を喪失するということ。そして、ここで自分が自分を喪失してしまえば、それは自ら使命を放棄したに等しくなる。
 もう、さっきのように気を抜くことはなかった。世界があるべき姿を取り戻すまで、自分は倒れるわけにはいかない。その一心だけで虚無の泥の力を振り払い、マリクは槍を構えて突撃する。
「人々を守る、それが僕の使命です!」
 虚無をも跳ね除ける強い信念。それに応えて降臨するのは、彼の始祖たる英霊達。
「英霊よ、照覧あれ! これが悪を討ち滅ぼす力です!」
 爆ぜた身体を再生させんとするトロルスレンダーに、光り輝くマリクの槍が深々と突き刺さった。再生途中では、さすがに避けようもなかったのだろう。おまけに、彼の槍は肉体ではなく魂を攻撃するものだ。泥の身体で物理的な衝撃を緩和しても、魂へのダメージは免れないわけで。
「ヒギャァァァァッ!!」
 今度は自分の意志に関係なく、トロルスレンダーは粉々に吹き飛んだ。仮面が泥の底に沈み、全てが闇に飲まれて行く。
「え? もしかして、やっつけたの?」
「いや、まだだろうねえ。そう簡単に、くたばるようなやつじゃないだろうよ」
 意外に呆気ない相手だったと驚くティエルに、興和が釘を刺した。敵はまだ完全に倒れてはいない。それを本能的に察知して、興和は拳に炎を宿し。
「……そこか!」
 死角から突如として姿を現したトロルスレンダーに、燃える拳の一撃をお見舞いする。泥に紛れての奇襲など、既に興和は予測済みだ。だからこそ、敢えて自ら敵を殴りに行くことなく、この瞬間を待っていた。
「なり損ないといえ、僕にも劣等感だの親愛だの情という物もある。虚無の体現のような奴らの仲間になるのは御免被りたいねえ」
 二発、三発と殴り続ける度に、周囲に炎が溢れ出し、トロルスレンダーの身体を焼いて行く。水分を奪われてしまえば、さすがに泥の身体も再生は難しいのか、トロルスレンダーから瞬く間に先ほどまでの勢いがなくなって行く。
「ヒィィィ……ヒギィィィィ!!」
 悲鳴を上げて逃げ惑いながら、それでもトロルスレンダーは最後の抵抗として、泥の海から新たな仮面を生み出した。これを猟兵達に被せることで、新たな仲間にしようというのだろう。
「……くっふっふ~、この鈴乃宮・光華に怖い物などあんまり|無《にゃ》い!」
 突然、影華の口調が変質し、彼女の周囲に凄まじい暴風が吹き荒れ始める。その力は彼女を含めた全ての者達から虚無の泥の効果を拭い去り、同時に迫り来る仮面をも吹き飛ばし、トロルスレンダーが攻撃することを許さない。
 彼女が姉を演じ続ける限り、無敵の風が止むことはなかった。万策尽きたトロルスレンダーは、その再生力を生かして強引に逃げようとするも、それもまた影華の知るところだった。
「吹き飛ばしても再生する? よろしい、ならば焼却にゃ」
 先程までの戦いで、敵の弱点が炎であることは承知している。
 左腕の籠手から火炎を放射すれば、それはトロルスレンダーの退路を奪い、そこへティエルが飛び込んで行く。
「そんな攻撃なんて効かないもんね♪ お返しに、このまま体当たりで貫いちゃうぞ☆」
 虚無の泥など、もはや恐れる必要もないと言わんばかりに。流星の如く闇を切り裂くティエルの一撃が、トロルスレンダーの身体をブチ抜き大穴を開けた。再生しようにも、焼かれて乾燥した身体では上手くいかないのか、明らかにトロルスレンダーの動きが鈍い。
「これで終わりですね。混沌には混沌を……全て焼き尽くしてしまいましょう。律や枷と共に……」
 最後は白亜が混沌の炎で、部屋の泥諸共にトロルスレンダーを焼き払う。もはや、敵に逃げ場はなし。眷属を生み出そうにも、虚無の泥を飛ばそうにも、それら全てのルールが破壊されてしまった今、トロルスレンダーは哀れな泥人形でしかなく。
「ヒィィィィギャァァァァァッ」
 最後は仮面だけの姿となって、その仮面さえも緑色の焔に飲み込まれた。そして、全てが焼かれ、白亜が炎を解除すれば、そこに広がっているのは何の変哲もない廃マンションの一室だった。
「……終わったのですか?」
「たぶん、そうだろうねえ。まったく、とんでもないやつだったよ」
 盾の構えを解いたマリクの横で、興和が肩を竦めながら苦笑する。ほんの些細な噂でさえも、こうして集まり怪異としての形を成すとは、まったくもって厄介なことだと。
「これでもう、あの泥のお化けは出ないのかな?」
「そうですね。少なくとも、私達が生きている間は……」
 再び新たなトロルスレンダーが生まれるのではないかというティエルの懸念を、影華が静かに首を振って否定する。そう、確かに彼女の言う通り、今回の戦いで闇は晴れた。このシルバーレインの世界において、トロルスレンダーが誕生することはないと、猟兵としての本能が告げている。
「……きっと何もないからこそ、全てを塗りたくってでも同胞を求めたんだろうな」
 ガラスのない窓から外の景色を眺めつつ、最後に白亜が呟いた。
 自分が何者であるか分からないからこそ仲間を求める。その結果、更なる虚無を広げることになったとしても。
 なぜなら、孤独というのは何者にとっても耐え難いものだから。感情のない、あの怪物にとっても、もしかするとそうであったのかもしれないと。
 真実は分からないが、なぜだか白亜には、そんな風に思えたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年04月08日
宿敵 『トロルスレンダー』 を撃破!


挿絵イラスト